ウマ娘に憧れたヒト (べるぬい)
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1.憧れの景色

別シリーズを放置して再び書きたいことを書きたいと思います。稚拙な文章ですが、よろしくお願いします。


『ウマ娘として産んであげられなくて、ごめんね』

 

 

 

 私がウマ娘のレースを見て、いつか私もあのターフの上で走りたいと言う度に、母は辛い顔をしていた。

 私は知らなかったのだ、声援の中、ターフの上を瞬く間に駆け抜けるその姿にヒトはなれないということを。

 

 

 私には耳も尻尾も……そして脚も無い。あるのはごく普通のヒトの肉体のみ。ウマ娘は私の憧れだ。速く美しく、何よりかっこいいのだ。

 

 

 私も速く走りたい。ステージの上で輝きたい。己の存在を認め合うライバルと高め合いたい。誰もが心を奪われる走りを私も魅せたい。

 

 

 

 そして何よりも、怪我をして引退してしまった母の夢を叶えたい。幼い頃からの夢を叶える為に私は――――――

 

 

 

 

 

 ◆❖◇◇❖◆

 

 

 

 

 

「よ〜!今日もトレーニングに励んでんな」

 

「あーん?オメー今日も暇してんのかよ。オルフェーヴルとかほっといてもいいのか?」

 

「アイツら俺いなくても強いもん。好きにやらせた方がいい」

 

「うちのトレーナーに用か?」

 

「ま、そんなところだ」

 

「今呼んでくるぜ〜」

 

 

 

 白銀の髪と尻尾を揺らして小さくなっていく背中を見送る。チームシリウスに所属してるウマ娘、ゴールドシップ。昨年の皐月賞でワープしたかのように先頭に立ったあのレースは凄かったな。

 

 

 

「や、神鳴沢。僕になんか用だって?」

 

「よ。新入生についてだよ」

 

「あぁ。新入生ね。素質ある子でもいた?」

 

「素質…というより異質な子なら」

 

「へぇ。どんな感じだったの?」

 

「顔を隠してるんだ。ダンボールでな」

 

「え?ダンボール?」

 

 

 

 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。誰だってそういう反応はするだろうな。エルコンドルパサーやオルフェーヴルみたいにマスクをしたりするウマ娘はいるが、なんせダンボールで顔全体を隠してやがる。耳もだ。

 

 

 

「その子、面白そうだね」

 

「そうなんだよ。スカウトしようかなって」

 

「へぇ!君がかい?」

 

「何だよその含みのある言い方は?」

 

「だって、チームに所属してるウマ娘のスネかじりって言われてるじゃないか。この間の週刊誌でも君ボロくそに言われてたぞ」

 

「泣いた」

 

 

 

 うちのチームは三冠ウマ娘が2人いる。1人は無敗の三冠ウマ娘、もう1人は無敗では無いけれど、最強の三冠ウマ娘と名高い。故にウマ娘自身の実力であり、トレーナーである俺は無能だと言われている。悲しい。

 

 

 

 ちなみにもう1人うちのチームに所属してるウマ娘がいるのだが、現在海外留学中だ。

 

 

 

「そういうお前は天皇賞連覇して、三冠も取ったし順調そうだな」

 

「まぁね。君も今確か彼女が留学中だろ?」

 

「そうだな。着いていこうとしたんだが、拒否された」

 

「嫌われてるね」

 

「泣いた」

 

 

 

 まぁそれはさておき、選抜レースが1週間後にある。気になるあの子以外にもいい素材がいるといいが。




読んでいただきありがとうございます。次回更新をお待ちください。


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2.選抜レース

遅くなってすみませーんぬ。動画編集とかリアルが忙しくてほっぽってましたん。スマソ


まさか選抜レースでチーム、もしくはトレーナーにスカウトされないとレースに出走登録できないとは……。いや、事前に調べて知ってはいたけど…知ってはいたのだけれども…。

 

 あまり自分に自信はない。従来のヒトよりは丈夫な体だが……まだ私は1度もウマ娘と全力で走ったことがない。走れるのか?私は……いや、夢を叶えるんだ。私は。

 

「ねぇねぇ!君、ハリボテエレジーちゃんだっけ!」

「え?まぁ…そうだけど」

「私隣のクラスのコントレイル!よろしく!こっちはデコリングちゃん!」

「ちょっとその呼び名やめてくれない?私はデアリングタクト。よろしくね」

「え?あ、よろしく…」

 

 2人とも隣のクラスのウマ娘だ。きっとライバルになるだろう存在。2人は特にオーラが違うように見える。ところで入学してから1ヶ月経ったけど、なぜ今頃話しかけてきたのだろうか。

 

「…えと。何か用?先生に呼ばれたとか?」

「ううん!お昼の時間だし一緒に学食に行かない!?と思ってさ!」

「学食…ね」

「えぇ。エレジーさん、お昼になるとどこかに行かれてしまいますから誘うのもなかなか難しくて」

 

 なるほど。となるとまさか約1ヶ月も私に声を掛けようとしてくれていたのだろうか。何だか申し訳ない気持ちになる。けれどお誘いに乗ることも出来ない。

 

「誘ってくれてありがとう。でも私、お昼は一人で食べたいの。ごめんね」

 

 私は購買で買った昼食を持ち、逃げるように席から離れる。

 

「ほら。ダメだったでしょ」

「うーん。エレジーちゃんの顔が気になるんだよなぁ」

「他人には見せたくない怪我とかがあるのかもしれないじゃない。空気読みなさいよ」

「そっかー。そだよねー……。先生たちも何も言ってないし…公認なわけだよね。あの不思議な被り物」

 

 

 ◆❖◇◇❖◆

 

 

 …ふぅ。ここは他の生徒はほぼ来ないから安心してご飯が食べれる。ウマ娘のみんなは学食を使用するからね。屋上なんて誰も来やしない。屋上へと続く扉を開けると、暖かい風が頬を撫でる。

 

「本当に入学したんだな……私」

 

 そう実感すると拳に力が入る。選抜レースは今日である。ヘマは出来ない。着順はどうあれ、スカウトされるような走りが出来ればいいんだけど。

 

「……さて、ご飯食べましょうかね」

 

 購買で買ったパンやおにぎりを頬張る。本当は学食に行って、私も皆と色んなものを食べてみたいのだが、正体がバレる恐れがある為、学食には行けてない。それにこの被り物を気味悪がって友達すらできない。

 

 コントレイルさんとデアリングタクトさん。こんな私な話しかけてくれて……きっといい人なんだろな。

 

「んがっ……んぁ…?あ、お前」

「は?」

 

 屋上の入口の上にある貯水タンクがある所から声がした。そちらに向くと髪が長くボサボサで、如何にも身だしなみを気にしてない風貌の男がいた。

 

「お前。新入生だろ?名前はなんだ?」

「……ハリボテエレジー」

「ハリボテエレジー…か。……覚えた」

「え?」

「お前、今日選抜レースだろ?」

「え?あ、あぁはい」

「頑張れよ」

 

 そう言うと男は身軽なのか高めであるにも関わらず、屋根から飛び降りドアを開けて校内へと消えていった。何だったんだあの男は。ふと、先程の男が着地したとこに何かが落ちてるのを見つける。

 

「これって…トレーナーバッジ…!?あの男トレーナーだったのか…」

 

 こんな所で昼寝でもしてたのか。あの男は。と、トレーナーバッジを少し眺め、ポケットにいれ時計に視線をやった時には、昼休みが終わる1分前だった。

 

 

 ◆❖◇◇❖◆

 

 

 トレセン学園にあるレース場に大勢の人が集まっている。私もそのうちの一人だ。トレーナー、教師、多くのウマ娘が集まっている。

 

 ちなみに私はレース用の体操着である。選抜レースに出るからだ。深呼吸して緊張を抑えようとする。足が震える。けどそれ以上に高揚感が高まる。

 

 

「エレジーちゃん!同じレースだね」

「あ、コントレイルさん」

「もー!さんなんて付けないでいいよ!コンちゃんって呼んでくれてもいいんだよ」

「ははは…善処するよ」

 

 随分と余裕そうな雰囲気を醸し出してる。実際コントレイルさんは今年かなり注目されてるウマ娘だ、かと言って諦めるつもりも負けるつもりも無いけど。

 

 

「……」

「あ、私たちの番だね。行こ。エレジーちゃん。デコちゃんも同じだからさ。負けないからね」

「うん」

 

 私は私が一番分かってる最大の弱点がある。ウマ娘とヒトの決定的な差なんだと思う。やはり脚の作りが違うんだろうか。不安な気持ちを抑えるようにゲートへ入る、

 

 ドンッ

 

『さぁそれぞれのウマ娘が綺麗にスタートしました!』

 

 実況の声が耳に入ってくる。良かった。出遅れはしなかった。今回中距離の2200m。きっと長いようで短い。気は抜けない。

 

『現在、注目されてるコントレイルは五番手にいるぞ。それを追うようにハリボテエレジー!』

 

 

 ◆❖◇◇❖◆

 

 

 

「始まったな」

「ほんとだ。かなかなの言う通りじゃん」

「かなかな言うのやめろ」

 

 同僚の間で言われるあだ名を否定しつつ見るのは、新人の選抜レース。現在走ってる中で異彩を放つのはコントレイル、そしてハリボテエレジー。

 

 アイツはコーナーを綺麗に曲がれない。思った通りだ。

 

『あぁーっと!ハリボテエレジー!コーナーで外に広がってくぞ!?』

 

 

 ……どうしようないな。あれは。…スカウトしてみようと思ったがあれじゃぁな。いくら面白いと言っても…な。

 

「期待外れだったか」

「そんなこと言って。最後まで見なよ。彼女の顔はウマ娘のそれだよ」

「被り物で見えねぇのに何言ってんだ」

 

 コーナーを曲がり終え、自ら大きく外にズレてった結果、1番後ろに付いてやがる。さぁここからどうする?

 

 

 ◆❖◇◇❖◆

 

 

 クソ!!やっぱりコーナーをあの速度で曲がるのはヒトの肉体じゃ限界がある。これじゃあ一着はおろか入着すら怪しい…!

 

 コントレイルさんはもう見えない。追いつけるのか?私は。これからやってけるのか?私は夢ばかり見ていて現実を見ていなかったのでは?

 

 

『母さんもね。走ってたんだよ。昔。ダービー制覇、してみたかったなぁ』

 

 

「…母さん」

 

 母さんはダービー制覇が夢だった。ダービーウマ娘になるのが何よりの夢だった。けれど母さんはダービー出走直前で、幼いウマ娘を庇い、事故で怪我をした。勿論ダービー出走は出来なかった。

 

『ダービーで勝てなくても…せめてG1レースで勝ちたかったねぇ』

 

 …諦めるな。私は今ヒトじゃない。ウマ娘だ。実質を伴わない哀歌(ハリボテエレジー)だ!!

 

『さぁ!最後の直線だ!先頭はコントレイル、そのすぐ後ろをデアリングタクトが走っているぞ!!そして大外からハリボテエレジーが上がってきた!!………え!?ハリボテエレジーが上がってきた!!?』

 

 

 負けない!諦めない!まだ始まったばかりじゃないか!!母さんの代わりに私がG1を制覇するんだ!!

 

『残り200m!まだコントレイルが先頭だ!!デアリングタクト、そしてとんでもない大外からハリボテエレジーが食い下がる!コントレイルか!?デアリングタクトか!?ハリボテエレジーか!?僅かにコントレイルかー!!!』

 

 

「…ッハァハァ……負けた……」

「…驚いたよ。エレジーちゃん、コーナー曲がるの苦手なんだね」

「…うん。私の欠点」

「でもそれを補えるほどのあの直線の伸び。もしコーナーを綺麗に曲がれていたら、と考えたら私たちは確実に圧勝されて負けてました」

「デアリングタクトさん」

 

 

 私が綺麗に曲がれていたら勝てた…だって?二人の走りを見ていたらそうは思えない。圧勝は流石に有り得ないだろう。

 

 しかし選抜レースで3着…か。スカウト来るのかなぁ。間違いなくコントレイルさんとデアリングタクトさんはスカウト来るだろうなぁ。

 

 と、2人と少し話していたらスカウト目的だろうトレーナーらしき人物がゾロゾロと囲むように集まってきた。え、これ私バレない?大丈夫かな?

 

「はいはいはいはいはい通りマース!そして3人とも貰ってきまーす!」

「うえっ」

「あわわっ」

「ひっ」

 

 え、誰この人。私たち誘拐される?え??えー??




読んでくれてありがとうございます!次回も是非よろしくお願いします!


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