魔法学園の優等生 (Brahma)
しおりを挟む

マリア・キャンベル編
第1話 魔力の発動


わたしの名前はマリア・キャンベル。魔法学園の一年生で、今生徒会で王子様たちや国でも最高位の貴族のご令息ご令嬢の皆さんと友人関係となり、楽しく学園生活を過ごせている。

思えば5歳のころ一緒に遊んでいたお友達がけがをしたのがきっかけだった。

それは今の幸せにつながるとは思えない悲しい出来事のはじまりだった。

わたしがみたとき、そのお友達は足を盛大にすりむいていてすごく痛そうだった。

「大丈夫?」

と声をかける。何とかしたいと思って彼女の足に手をかざした。けがが治れと強く願うと、なんと、手から光が湧き出して輝いた。彼女のけがをみるみる治していく。

お友達は青くなった。

「きゃあああ」

とお礼を言うよりも驚いて逃げて行った。

お母さんがわたしを探しに来たので

「お母さん」と話しかける。

「どうしたの?マリア?」

「お友達がけがをしたので、けがが治れと強く願うと、手から光がでてきてけがが治ってしまったの。お友達は驚いて帰っちゃった」

「わかったわ。」とお母さんはいい、

「町役場へ行きましょう」と話してくれ、町役場の窓口で事情を話した。

「なるほど...。」

町役場のお兄さんは

「これに状況を書いてください。」

と書類を出してきた。表題には魔力認定申請書と書いてある。

お母さんに起こったことをそのまま話して、お母さんが書き込む。

「ありがとうございます。それでは魔法省に提出します。一週間ほどで通知が来るとおもいます。」

一週間後国の審査で光の魔力保持者の認定通知が交付されたが、申請した当日のうちに、町ではわたしのうわさが広がっていた。奇異な視線で見つめられる。ぼそぼそと貴族の隠し子ではと噂しているようだった。

友達も付き合ってくれなくなった。

「マリアちゃんは貴族の隠し子なんでしょう。本当のお父さんを探してもらったら?」

「貴族とは身分が違うから遊べないよ。困るでしょう。」

 

お父さんは最初

「マリアは正真正銘わたしの子どもだ。 魔力を持ってるとか関係ない。光の魔力は貴族でも数が少ないんだろう。大丈夫だ。」

と言ってくれたが、一か月もうわさがやむことはなく家へもどってこなくなった。

 

お母さんともあまり会話をしなくなった。

やがてわたしは、初等科を卒業し、中等女学校に入った。ソルシェでは初等科を卒業すると男子は中学校、女子は中等女学校に入る。貴族は15歳になるまで学校に行かず、優秀な家庭教師にならう。後に魔法学園で知ったのだが子爵以下の家庭教師を雇えない貴族のための学校はあるそうだが。光の魔力を発動した私は、15歳になる前にここを卒業すれば魔法学園への入学が約束されている。魔法学園に入って優秀な成績を修めれば魔法省に就職できるとのことだったが、わたしはこの時点ではそこまで考えられず実家へ戻ってほそぼそと治療院でも営もうか考えていた。それよりも目の前のクラスで友人をつくることだと考えていた。

 

「マリアさん、すばらしいですね。100点です。」

先生は褒めてくれたが、クラスメイト達はよろこばない。

「マリアさんは特別だし。」

「光の魔力持ってるから。」

ぼそぼそと声が聞こえる。

 

「ジェーンちゃんすごいね。90点とったんだ。」

「まあ、だれかさんにはかなわないけどね。」

「キャサリンちゃんもすごーい。92点って。」

「ええ。」といってちらっと私の方をみる。わたしは作り笑いをしてしまう。

ぷいと顔をそむけ

「あの子にはかなわないけど上出来だと思うわ。」

わたしはいじめられることはなかった。しかしどう考えても避けられていた。

わたしは短距離走でも長距離走でも5位前後、体操もほめられた。男子は祭りをやる都合上笛と太鼓を習うのだが、女子は、教会で演奏するのでオルガンとピアノを習うのだがわたしもそれなりに弾けたので上位に評価された。

「マリアさんのように弾きなさい。」

と先生は言う。

「あの子は特別。」

「練習しなくても弾けるんじゃない。魔力で。」

「いいよね。才能ある人は」

 

「マリアさんは、なんでもできるんですね。素晴らしい。」

「あなたは特別な子です。魔法学園に入らなければならないので、貴族の方々と上手くやっていけるよう礼儀作法を学んだほうがいいですね。」

「あなたは特別ですから魔法学園に行って、将来は魔法省ですかね。勉強をしっかりやった方がいいですね。それから魔法学園で貴族の方々と結ばれる可能性もあるから礼儀作法をしっかりやったほうがいいですね。」

「先生、ありがとうございます。」

 

「何やってるんですか!マリアさんを見習いなさい!」

「マリアさんのように努力すればいいでしょう!」

「光の魔力なんてまねできません。」

「貴族の隠し子だから裏でずるしてるんじゃないですか?」

「わたしはそんなことしていません。」

「魔力をつかってごまかしてるんじゃないですか?」

「魔力持ってる人はいいなあ」

 

ある日のことクラスメートがお菓子をお昼休みにつくってきた。

「お菓子作ってきたの」

「へえ、すごいね。キャサリンちゃん!」

「おいしそう。」

「食べていい?」

「ええ。どうぞどうぞ。」

彼女は友人たちに囲まれ笑顔だ。

「わたしもいい?」

彼女に話しかける。

「ええ。どうぞ。」

そっけない顔だ。

「おいしい。」

「ありがと。でもさ、光の魔力持ってるあなたは特別だからもっとおいしいもの食べてるんじゃない?むりしておいしいといわなくてもいいんだけど。」

「そんなことないです。ほんとにおいしかったんです」

「あなたは、わたしたちと違って魔法学園に行くんでしょ。わたしたちと仲良くしてもあまり得にならないんじゃない?」

 

わたしはいじめられなかった。ただし中途半端に冷たくされる。それはそうだろう、美人で光の魔力を持ち成績優秀、ピアノもオルガンもできる。イジメようとしても先生方がかばうし、貴族がバックにいると思うからひどいことはされないのだ。先ほどのようにお菓子はわけてもらえる。声をかければ授業に限ってはグループには入れてもらえる。しかし本当の友達にはなってくれない。だから仲良くなろうとしてキャサリンちゃんにならってお菓子をつくってみた。何回も練習して上手くできたものを学校へもっていった。

 

「私、お菓子作ってきたの」

「ふ~ん。おいしそうだね。」

「きれいに焼けてるね。」

「貴族のお父さんに食べてもらったら。」

「そうだね。わたしたちが食べちゃったらまずいから持って帰った方がいいんじゃない。」

「もったいなくて食べられないよ。」

「これだけうまく作れるなら売った方がいいんじゃない?」

中途半端に褒められる。心のこもっていない褒め言葉。しかし誰も食べてくれない。

 

わたしはお菓子を持って帰った。目から涙がこぼれ、帰り道自分で食べる。

「マリア、お帰り。」

「ただいま。食べてもらえなかった。」

「そうなの?」

「うん」

「食べてあげる。」

「ありがとう。」

お母さんは食べてくれたがもう二度と人のために作ることはないだろうと思った。それでも自分が食べたいときはたまに作ってはお母さんも食べてくれた。ただし最低限の会話しかしない。早く魔法学園に入りたいとおもった。魔法学園に入れば魔力をもつ人が普通にいる。もっと気楽に過ごせるのではないかと思った。

中等女学校を卒業した。卒業生あいさつは首席になった自分がやった。在校生から送辞がくる。あまり感動もなく卒業した。さて4月からは魔法学園だ。ここなら生徒たちはみな魔力をもっている。普通に過ごせるだろうと期待して入学した。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 生徒会室にて

入学式のあいさつで登壇したのは赤毛のやさしい感じの生徒会長だった。シリウス・ディークと名乗った生徒会長は、あいさつを充実した学園生活を過ごされることをお祈りします、と締めくくると拍手が起こった。わたしも拍手した。

 

さて最初のHRで自己紹介をする。

「次マリア・キャンベルさん」

指名された自己紹介で爵位がないことを話さなければならず、わたしは刺すような視線にさらされた。

授業が終わって休み時間になると、貴族令嬢たちに、目ざわりだ、平民のくせに生意気だとからまれるようになった。そのためはちあわせないように気をつけて魔法学園の敷地を歩き回るようになり、時々自分がどこにいるのかわからなくなって、木登りして確認するようになった。

 

そんなある日、寮へ帰ろうとして木に登ると

「あの、どうして木に登ってるのですか?」

という若い男性の声が聞こえた。みると金髪で青い瞳の好青年に話しかけられている。

わたしは、焦って木から降りる。

「実は、寮に帰ろうと思ったのですが、道に迷ってどこに自分がいるのか高い場所から確かめようとおもったのです。」と話すと、

「レディが木登りなどして下着が見えでもしたら大変です。僕がよろしければお送りしましょうか?どちらですか?」

「はい。ありがとうございます。子爵から平民の女子寮です。」

わたしはぺこりと頭を下げた。青年は笑顔を浮かべて

「こちらです。」

と案内してくれた。

「ありがとうございます。わたしはマリア・キャンベルといいます。あの...お名前をお伺いしても...。」

「ああ、僕ですか。ジオルド・スチュアートっていいます。」

「え?もしかしてジオルド殿下でいらっしゃいますか?」

「はい。でもここでは同じ生徒ですからジオルドさんでいいですよ。」

「いえ、殿下に「さん」ではまずいです。アラン様も入学されているのでスチュアート様ではまずいのでせめてジオルド様とお呼びいたします。」

「いいですよ。マリアさん。それではよろしくお願いします。」

「こちらこそお願いします。」

これがジオルド様との出会いだった。

 

ある日のこと、いい匂いがしたので厨房へ行ってみた。

「ん、どうしたんだい。」

「いいえ、いい匂いがしたので。食堂で売っているお菓子はおいしいですね。」

「そうかい。ありがとう。」

「実は私もお菓子をつくるのですが、あの香りと焼き加減はどうするんですか?」

厨房の人は丁寧に教えてくれた。

「今日は材料が余っているからつくってみるかい?」

「はい、ありがとうございます。」

わたしはお菓子をつくると厨房の人に試食してもらった。

「おおお、おいしいね。こないだ教えたことを吸収してこんなにうまく作るとは。いつでもきていいよ。そうだ、君の作ったものも売店にならべようか。」

「いえ、わたしは平民なので、わたしがつくったということがわかったら...。」

「そんなの関係ないよ。われわれだって平民だ。メイドや侍従になれなくて料理が得意だからここで働いている。それにだれが作ったとか名前は出さないよ。」

「ありがとうございます。」

こうしてわたしは厨房をお借りしてお菓子を作ることができるようになった。わたしの作ったお菓子も食堂の売店に時々並ぶようになった。

 

さて生徒会入りが決まる学力テストの時期になった。わたしはがんばったかいがあって、アラン様を抑えて学年2位になった。

(ジオルド様は1位か...さすがにすごいなあ...。)

メアリ様、ソフィア様、キース様が優秀な成績で生徒会に来ることになった。

「はじめまして。マリアさん。わたしはメアリ・ハントですわ。」

「マリアさん、はじめまして。わたしは、ソフィア・アスカルトです。」

「学年2位とかすばらしいですわ。平民でいらっしゃるなら家庭教師無しってことでしょう。かなり努力なされたのでしょう。心から尊敬いたしますわ」

「はい。」

「この赤い髪の毛は平民だったお母さまからうけついだものです。わたしだけ母親が違っていたのです。ですから身分の賤しさを表しているとか言われてきましたわ。でも今は努力をして社交界の華とまで呼んでくださっている方もいます。マリアさんもたいへんご苦労されたのでしょう。お察しします。生徒会に入るのは実力が全てですから。」

「わたしは、この白い毛が老人のよう、赤い瞳は血のようだと言われてきましたが、ある人は、絹のような髪、ルビーのような瞳とおっしゃってくださってその方のおかげで何事にも前向きに取り組めるようになったのです。マリアさんにもそのような方が現れるといいですね。」

「その話はカタリナ様のことではなくて?」

「そうです。メアリ様。」

「そういえば、カタリナは生徒会に入れなかったんですよね。」

「私たちの幼なじみで大切な友人ですのに...。」

「う~ん、教師に相談してみましょう。生徒会室には相談事があれば一般生徒も入れます。カタリナは私たちの大切な友人ですし。わたしの婚約者で貴族の最高位の公爵令嬢ですから出入りしても問題ないでしょう。」

かなり強引なことを言ってるなと感じたが、さすがは王子様。先生方に、相談事があれば生徒会室に一般生徒も入れる、ジオルド王子の婚約者であって、何かあった時は手伝ってもらっても問題ない、メアリ様やソフィア様のアドヴァイザーとしても来てほしい、また生徒会室以外に放置すると何をしでかすかわからない、それに余裕のある時は勉強を見ることができるというキース様の意見もあって、むしろ生徒会室でその行動を管理できた方が生徒会としても助かるという論法で、カタリナ・クラエス様については、生徒会室に出入り自由ということになった。

さて生徒会室には、差し入れでお菓子が届けられることがある。その日は、わたしは自分の仕事を終え、手がすいていた。カタリナ・クラエス様が勉強していた。

「クラエス様、休憩なさってはいかがですか?こちらにお菓子があります。」

「あ、はい...ありがとう。」

クラエス様はお菓子をお召し上がりになった。

「おいし~い。」

満足そうな笑みをうかべ歓喜の声をあげられる。

「生徒会への差し入れでいただいたものです。高級店のものでおいしいですよね。」

「ほんとね。えっと、ところでキャンベルさんはお菓子をつくってこないの?」

わたしは驚いた。わたしがお菓子を作るのが当たり前かのような、作っていることを知っているかのような口ぶりだったからだ。

「どうして、クラエス様は、わたしがお菓子を作ることをご存じなのですか?」

するとクラエス様は、申し訳ないような、考え込むような複雑な表情をされた。

後でお聞きしたところ、マリアちゃんを脅しているように思われたら申し訳ないかとおもって一瞬言葉につまったんだということだったが、

「食堂の料理人さんに聞いた....のよ。ほら、魔法学園の食堂って、ティータイム用のお菓子もおいしいでしょう。」と詰まりながらお答えになられた。

「確かにそうですね。わたし、実は料理人さんと仲良くなって空き時間に厨房の施設をお借りすることがあるんです。お菓子が香りのつけ方や味の引き出し方を上手く感じたので何かコツがあるのかお聞きしたら親切に教えてくださったので、試作品を作ったら喜んでいただけたのがきっかけで...。ただ売り物のようにお出しできるようなものでは...」

実は出しているのだが公然の秘密だ。確かに生徒会室で本当のことを話しても大丈夫かもしれないが、どういう形で漏れるかどうかわからない。意地の悪い貴族令嬢たちにつたわろうものなら....その警戒心が決して無駄ではなかったことが意外な線から明らかになるがそれは後の話になるからとりあえず置いておく。クラエス様がお話をつづけられた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 お菓子作り

クラエス様がおっしゃるには

「わたし、決まった味を安定して出す高級店のお菓子も好きだけど個性的な味わいの手作りのお菓子もとても好きなの。屋敷のメイド長がお菓子作りが趣味で、正規の食事以外でも時々分けてもらっていたの。キャンベルさんがいやでなければ作っていただけたらうれしいのだけれど。材料費がかかるならだすわ。」と上目遣いに懇願される。わたしもそんなクラエス様に対して

「とんでもないです。余った材料を使わせていただいているだけなので。それに材料を買ってきたとしてもわたしの趣味の範囲ですから。でもそのようにおっしゃってくださりうれしいです。お口に合うかわかりませんが近いうちに作ってきますね。」とお話しして笑顔でお答えする。

するとクラエス様は

「ありがとう。」と笑みを浮かべてお返事してくださった。

わたしのお菓子を食べてくださる。家族以外で私のお菓子を食べたいとおっしゃってくださったのは初めてだ。しかも公爵令嬢だ。わたしは、もううきうきして仕方なかった。わたしは寮の食堂の調理場をお借りして、さっそくマフィンをつくった。そして翌日授業が終わった放課後に少しでもおいしく召し上がっていただこうと温めなおして生徒会室へ向かおうとした。

そのとききらびやかなドレスをまとった4~5人の貴族令嬢たちに出くわしてしまった。生徒会室に早くいきたいからと調理場から生け垣をいくつかショートカットして最短距離を歩いていった結果だった。

そのうち一人は縦ロールを下げてきつい目つきをしている。令嬢たちは口元をゆがめて吊り上がった目でわたしをにらみつけてきた。そして

「話があるのだけれど...。なんで平民風情のあなたがなぜ高貴な者だけが集まる学び舎にはいってくるの?」

「ゴキブリでも金色だったら魔法学園に入れるとかありえないんだけど...。」

「どう不正をしたら生徒会にはいれるんですの?光の魔力ってあらゆるところをカンニングできるということかしら?」

「見たことないわね。髪の毛でも輝くのかしらね。」

「非常にめざわり。そこにはいつくばっていなさい。」

わたしは逃げようとしたが先回りされた。

「それは何を持ってるのよ。」

「あ...これは、生徒会の皆さんに召し上がっていただこうと作ったお菓子で...。」

と正直に答えてしまった。令嬢たちの顔色がさっきよりも朱を注いだようになった。嫉妬を含んだ激しい怒りの表情だ。令嬢はバスケットを殴りつけるようにわたしの手から叩き落した。バスケットからマフィンがこぼれるように芝生にころがる。

「あるかどうかわからない魔力を持ってるからといってちやほやされて。なんであなたが生徒会にはいれるの?それにあなたのような賤しい身分の者がつくったこんな貧相なもの生徒会の皆様に食べさせようとか何を考えているの?分をわきまえなさい。」

そう叫ぶとその令嬢はマフィンを踏みつけようとした。

その時だった。生け垣からガサっと音が聞こえたかと思うと見慣れたドレスを着た令嬢がわたしをかばうように、背をさらして立ちはだかる。

「何してるの!」

凛とした響く声。青と白を基調としたドレスの背に流れる茶色の美しい髪。

「カ...カタリナ・クラエス様....。」

わたしをいじめ、マフィンを踏みつけようとした令嬢が呆然とつぶやく。

わたしも驚いたが、くだんの令嬢たちは、もっと驚いていたようだった。

「キャンベルさんのバスケットを叩き落としたんでしょう。心を込めて焼いてくれたものを!そんなことゆるされると思ってるの!」厳しい声。ふだんのカタリナ様とは違っている。

令嬢たちは青くなった。公爵令嬢で第三王子の婚約者。いじめなどという不祥事が王子の耳に入るならただではすまない。

「申し訳ありませんでした。」

令嬢たちはスカートのすそをつまんでそそくさと走り去っていった。

わたしはしばらく呆然と立ち尽くしていたが、そういえば生徒会室へ行かなければと思いだした。

ふとみるとクラエス様がマフィンを拾ってくださっている。

「クラエス様、落ちたものを拾われるなんて恐れ多いです。」

「気にしないで」

とわたしにほほえみかけ、そのうち一つを口にパクリと口に入れた。

クラエス様は次の瞬間、満面の笑みをうかべる。

「おいし~いい」

ほおを手で支えるようにして、幸せそうに顔をふるわせた。

クラエス様は、次から次へとマフィンを拾うごとに口に入れて、そのたびに満面の笑みをうかべ、おいしいおいしいとおっしゃっている。

そしてついに完食してしまった。

わたしは、目を見開いてただただクラエス様をみつめてしまった。

クラエス様の水色の瞳がわたしの顔を上目遣いにのぞきこむ。

顔色が、やってしまった~という困り顔に変化していく。

「あ~あの、つい調子に乗って...ごめんなさい。」

突然こくりと頭を下げられた。

「いえ、食べていただこうと用意していたので、それは構わないのですが...地面に落ちてしまったので...。」

わたしの顔は戸惑ったっているんだろう。それに対してクラエス様はなぜかドヤ顔だ。

「落ちたのは幸いなことに芝生の上だったからほとんど汚れていなかったわ。だから問題なし。」

「そ、そうですか(タハハ)....」

わたしは苦笑するしかなかった。

「それにしても、キャンベルさんはお菓子作りが上手なのね。本当においしかった。香ばしい香りに、ふんわり広がる食感。甘すぎない絶妙な口当たり。すばらしいわ。プロの菓子職人にも負けないんじゃないかしら。」

クラエス様は感動して熱っぽく語ってくださり、わたしはうれしさと気恥ずかしさでほおがほてってしまった。

「ありがとうございます。」と返事するのがやっとだった。

そこへ若い男性の声がした。

「あの...ようやく見つけました。キャンベルさん、もう会議がはじまりますが...どうしましたか?あれカタリナ?なんでここに?」金髪の青年が尋ね顔でたっている。ジオルド様だ。

わたしは、「偶然クラエス様にお会いしたのでお話しさせていただいていたのです。」と答えた。クラエス様のおかげで嫌がらせが中断して助かった以上ご心配をおかけしたくなかったのだ。

「キャンベルさんに会ったのでお話ししていたのです。キャンベルさん、とてもおいしかったわ。また作ってきて。」

「はい、ありがとうございます。」

「そうですか。お菓子をたべていたんですね。キャンベルさん、さあ急いで会議にいきましょう。カタリナも会議の後お茶やお菓子もありますが...。」

「いえ、わたしは「花壇」に肥料をやらなければならないので...。」

「そうですか。じゃあ急ぎますので。また明日来てください。」

ジオルド様に連れられている間もうれしさと気恥ずかしさで顔のほてりがひいていないようだった。

「キャンベルさん、顔が赤いようですが...。」

「あの...先日お話ししたお菓子を召し上がってくださっておいしい、おいしいとおっしゃってくださってうれしくて...。」

「そうですか...カタリナは男女構わず本気でほめてくるので、みんなたらしこまれてしまって、ライバルが増えてわたしも困っているのです。キャンベルさんも気を付けてください。」

ジオルド様は少々困り顔で苦笑しながらおっしゃった。

それから毎日のお菓子を生徒会室へもっていくようになった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 再び生徒会室にて

今日も私は生徒会室へお菓子を持っていく。

「マリアのお菓子ですか。おおおいしいですね。疲れが吹き飛びます。」

まずジオルド様。その笑顔普通の女の子なら陥落してしまうだろう。

「マリアさん、素晴らしいです。この口当たりにこおばしさ。シリウス会長の入れてくださった紅茶の味にもぴったりで、わたしが書いているロマンス小説のお茶会の場面に生かしたいです。」

「おいしいですわね。この口当たり、香ばしさ、絶妙な甘さ加減、うちの菓子職人にも習わせたいです。」

「マリアさん、義姉さんのためにすみません。でも本当においしいですよ。また持ってきてください。」

「ああ、普通にうまいな。また作ってきてくれ。楽しみにしている。カタリナに食べられないよう俺の分とりわけておいてくれ。」

「アラン様、何を失礼なこと言っているんですか。」

「だってほんとうだろ。やめられない~止まらない~マリアのお菓子♪とか歌って全部食べちゃったのはどこのどいつだよ。」

皆さん苦笑している。メアリ様などは笑いをこらえている。

後で聞いた話だがカタリナ様の前世で、デイスプレイとかテレビといった魔法道具のような板にお菓子の広告が動画で映っていたらしい。

生徒会室は明るい話題が絶えず、また忙しいときは皆さん熱心に仕事をされているのでいずれにしてもわたしにとって落ち着ける安らぎの場であったが、授業の合間の休み時間や昼休みはそうではない。

学園の食堂は貴族の皆さんが利用するだけあっておしゃれなレストランのようだ。寮の食堂は分かれているので気兼ねなく利用できるが、学園の食堂を利用するのは気兼ねしてしまう。だからわたしは、お弁当をつくって、中庭のベンチで食べていたのだが、ある日、中庭でさあ食事といったときにいつのまにか見知らぬ貴族の令嬢たちに取り囲まれていた。

「平民のくせに少しばかり光の魔力をもっているからってつけあがってるんじゃないわよ。」

「どうせ特別扱いされて学力テストもひいきされたに違いないわ。家庭教師もいないのにどうやってあんな成績をとれるのかしら。」

「仕方なくあなたの相手をさせられている生徒会の皆さんはお気の毒ですこと。すこしくらい遠慮ってものはないの?。」

わたしはひたすらうつむいて嵐の過ぎ去るのを待った。

「その被害者面が気に食わないのよ。あなたの立場を思い知らせてあげるわ。」

嘲笑するように腕を振り上げた令嬢の手からは炎が浮かび上がった。そのときだった。

「あなたたち、何をしているの?」という凛とした声が響く。

次の瞬間、黒い服の令嬢が悲鳴をあげてあおむけにひっくり返った。足元には高さ5~10cmくらいお饅頭状に土が盛り上がっている。

「マリアちゃんが光の魔力を持っているからってひいきされてるなんて言いがかりもいいところだわ。この学園は完全な実力主義、ひいきなんて存在しないわ。もしそうなら恥ずかしいけどわたしが80位ってことはないはずよ。マリアちゃんは必死に努力しているの。教科書やノートにはぎっしり書き込みがある。だからテストはその努力の結果なの。」

気が付くとカタリナ様がわたしをかばうように令嬢たちの前に立ちふさがっていた。

ああ、カタリナ様はわたしの努力を認めてくださっている。

「それに生徒会の皆もわたしもマリアちゃんが光の魔力を持っているからひいきしたり、つきあっているわけじゃないわ。努力家で何についても一生懸命なマリアちゃんが好きだから一緒にいるのよ。」

わたしは目じりとほおがほてってきた。うれし涙が頬を伝ってくる。光の魔力をもってこのかた本気でわたしのことを理解してくれようとした人はいなかった。

「あなたたち、こんな事続けているといつか破滅するわよ。」

カタリナ様は令嬢たちをにらみつけ、令嬢たちは、青くなり

「す、すみません...」

と言いながら一目散に走り去っていった。

カタリナ様は、光の魔力を持っている特別な子だからではなく、マリア・キャンベルを好きだと、一緒にいたいと言ってくれた。

わたしはうれしくて涙がとめどなく流れてしまう。わたしをわかってくれる人、その人は

明朗な人柄で公爵令嬢で第三王子の婚約者。身分も人柄も最高を極めた方。カタリナ様は

驚いたように

「ま、マリアちゃん!」

と呼んでくださり、わたしの背中をなでるように手を置いてくださる。

その手のぬくもりを感じつつも思わずお聞きしてしまう。

「クラエス様、わたしの名前...。」

カタリナ様は、はっと何かに気が付いたようにバツの悪い顔になり、

「あ...あの、そうだね。ごめんね。いきなりなれなれしく呼んでしまって...。」

わたしは首を大きく横に振った。ファーストネームで呼ばれるのが嫌なのではない。

「いえ、全然かまいません。あの...むしろ「ちゃん」づけではなく、わたしのことはマリアと呼んでください。」

カタリナ様は満面に広がる笑顔で

「ありがとう。マリア」

とお返事してくださった。あとから聞いた話だが、カタリナ様は、頭にきたので心の中の声がそのまま出てしまったそうだ。ほほえましい。

さてわたしも勇気を振り絞る。

「あの...その....もしよろしければ、生徒会の皆様のように私も『カタリナ様』と呼ばせていただくをお許しいただけませんでしょうか?」

カタリナ様は、一瞬きょとんとした顔をされる。何をいまさらといった感じだ。

「そうね。いままで気が付かなかったけどわたしたちもうとっくに友達なのだから苗字で呼ぶのおかしいわね。好きなように呼んでもらっていいわよ。あ~様付けもいらないかも。」

わたしはむしろ青くなった。

「いえそんなわけにはまいりません。平民の分際でカタリナ様を呼び捨てとかありえません。」「あ~そうか。またマリアがいじめにあうきっかけになってしまうわね。めんどくさいなぁ。じゃあそれでいいわ。」

カタリナ様は微笑まれる。

「ありがとうございます。カタリナ様」

わたしも笑顔で返し、カタリナ様とずっと距離が近くなった感じだ。

「さあマリア行きましょう」

カタリナ様が差し出された手をとったところキース様がやってきた。

「あれ?義姉さんここにいたの?」

「ああ、キースどうしたの?」

「探したんだよ。マリアさんも昼食は?」

「これからです。」

「じゃあいっしょにいきましょう。」

キース様は笑顔をむけられた。

「さあ義姉さん、行くよ。?マリアさんはなんで顔が赤いの?」

無言な私をみて

「!まさか...また...またか...いったいどれだけタラシこんだら気が済むんだ...。」

とキース様がぼそぼそとつぶやかれた。

 

昼食の後次の時間割はたまたま授業がなかったので生徒会室へ行くと

「あの、今日ね、マリアを貴族令嬢たちが火の魔法でいたぶろうとしていたの」

「「なんですって、とんでもない話です。マリアさん大丈夫でしたか?」」

ソフィア様とメアリ様は怒りの表情から心配顔になる。

「またですか。あきれた話です。生徒会としても捨て置けません。おなじようないじめが男爵家や地方出身者、母親の身分が低い者におこなわれていないか調査する必要がありますね。」とシリウス会長。

「そんなことがあったのか。いくら成績で負けたからってありえないだろ。」とアラン様。

「ソルシェの貴族ともあろうものが高貴なる者の義務を果たさず、平民いじめとは困ったものです。マリアさん、すみません。王族として責任を感じます。」

「高貴なる者の義務」なる言葉が出るところはさすがジオルド様だ。

「そうだな。マリアには何の落ち度もない。ただ、順位のことはさほど気にしないとは言ってもくやしくないわけじゃないからな。次回は負けないぞ。」

アラン様は明るく歯を見せて、こぶしを作っていたずらっ子のような笑顔をされる。

「アラン様...。」

わたしは苦笑してしまう。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 貴族令息たちのプロポーズ

ニコル様が

「ソルシェ貴族としての誇りはどこにあるんだろうな。その令嬢たちは。平民いじめとは恥ずかしい。だれの税金で食っていけてるのか自覚がないようだな。」とコメントする。冷静に見えるが静かな怒りを含んでいる。財政の話が出てくるところ、さすが宰相アスカルト様のご令息らしいと感じた。

「マリア、これからは僕たちと行動するようにしましょう。」

ジオルド様が提案してくださった。

皆さんはこの提案に一斉にうなづいてくださる。

「そうですわ。マリアさんお昼は私たちと一緒にお食事しましょう。」

「一緒にたべたほうがおいしいですし、そんな人たちにからまれないですみますわ。そうしましょう。」

「メアリとソフィアがいるなら安心です。」

「?ジオルド様ぁ。わたしの名前は?わたしもマリアと食事したいんですけど?」

「カタリナはわたしの婚約者ですからわたしといっしょに行動するということです。」

「ジオルド様。義姉はあなたのものではありません。」

「そうですわ。カタリナ様はあなたのものではありません。」

「カタリナ様は誰のものでもありません。そうだ、お兄様も一緒にお食事しませんか。」

「ああ、そうだな。」

「あの、今はマリアさんの話をしているのでは?」

「もちろんですわ。マリアさん、カタリナ様とも一緒に召し上がりたいですわよね?」

「は、はい...。」

「そうおっしゃってますわ。」

ジオルド様は苦笑いする。

「皆様のお心遣い感謝します。ジオルド様も」

わたしはペコリと頭を下げる。

「いいや、そんなことは当然です。一緒に学園を盛り立てる仲間同士なのですから。」

生徒会室のこの話し合いで生徒会の皆さんのうち少なくとも2~3名が必ず私と行動するようになった。同学年全員そろって行動することも多いが、メアリ様、ソフィア様とわたし、そこにカタリナ様とキース様が加わったり、カタリナ様、キース様とわたしの組み合わせが最小単位となった。そのため令嬢たちの刺すような視線は感じなくなってきたが、そのかわり男性の視線は感じるようになった。自分で言うのもおこがましいが特にメアリ様、ソフィア様と一緒にいるときはそのまま美少女の集団だ。男性の視線を引かないはずがない。ただその視線の性格もだんだん変わってきて、明らかにメアリ様目当て、ソフィア様目当て、わたし目当てと変わってきているのが分かるが、3人一緒にいるときは声をかけられることはないのでふだんは実害はない。これまでも何度か令息たちに声をかけられ、丁寧にお断りしたつもりだったがうわさが伝わって貴族令嬢たちの嫌がらせのネタにされたが、彼らは、ひまつぶしに嫌がらせををする貴族令嬢たちと異なり家を継ぐという目的があり、魔法学園は出会いの場でもあるのだ。

そのため、わたしは、ひとりになったわずかの時間を狙ったように貴族の令息たちから声をかけられる。最初はとある子爵家の令息だった。

「マリアさん、あなたは、ひまわりのように美しい。しかもあなたの光の魔力はすばらしい。どうかわが領地へきていただけないでしょうか?」

わたしは、せっかくのおさそいに考え込んだが、なぜか真っ先に頭に思い浮かんだのはカタリナ様の笑顔だった。わたしはカタリナ様ともっと一緒に過ごしたい。

「ありがとうございます。実はわたしにはお慕いしている方がいるのです。お声がけしていただいてありがとうございます。」と頭を下げ丁寧にお断りした。

「マリアさん、あなたの髪は黄金のよう、太陽の輝きのようだ。わたしの実家は伯爵家です。何不自由なく暮らしていけますよ。」

「マリアさん、あなたは美しいだけでなく優秀でいらっしゃる。どうか私を助けてください。光の魔力も素晴らしい。離散したというご家族もご面倒みますよ。わたしの実家は侯爵家ですから。」

「お誘いうれしく思います。ですが申し訳ありません。わたしにはお慕いしている方がいるのです。」

「その方はジオルド王子ですか?」

「申し訳ありません。その方にご迷惑がかかるといけないのでお許しください。」

その侯爵家のご令息は、何を思ったのか数日後にジオルド王子に剣術の相手を申し込んだという。そこそこ善戦してマリアのことを好きなのかと聞かれて、王子が動揺して剣を飛ばすことができたものの、王子は素早く剣を拾い上げてからの反撃で最後にはあっけなく打ち負かされたと風のうわさで聞いた。なにしろジオルド王子の剣技は、騎士団員とも互角にやりあうこともあるくらいで、王族貴族含めて騎士団長と騎士団の剣術師範以外勝てる者はいないという話なのだから。

「マリアさん、あなたはほかの貴族令嬢たちとは異なり謙遜で心遣いのできる方だ。わが男爵家はにはあなたのような方をむかえたいのだが。」

わたしの脳裏にはカタリナ様の姿が浮かんだ。

「こら、マリアに手を出さないで」

「....。クラエス公爵令嬢...。」

「申し訳ありません。」わたしが頭を上げてお断りすると、男爵家の令息は逃げるように立ち去った。助かったという感想だった。わたしの人格を褒められるというのはかなりピンチだった。しかもあまり容姿のいい方でなかったから逆に同情心がわいてしまって、この方はわたしのように苦労人だからやさしいのではないかと思ってしまった。

「?なにかまずかった?」

カタリナ様は聞きかえしてくる。

「いえ大丈夫です。」

「あんなキャラはゲームには出てこなかったのに...」

とカタリナ様は不思議なことをつぶやかれた。

「マリアちゃんはやさしいし、無欲だから逆に子爵家や男爵家のブサ面系のほうが要警戒だとは...これはうかつだったわ。」

わたしには理解不能なことをおっしゃる。わたしは無欲じゃないですよ、カタリナ様。あなたのおそばにいたいと考えているのですからと考えつつ、気になることだけを口に出した。

 

「カタリナ様。ちゃん付けになってます。」

「あ、ごめんねマリア。」

「いいえ、親しみをおもちなのはうれしいのですが、わたし自身が子どもになった感覚になるので...」

そんなこともあってわたしの時間は無事にすぎていった。数か月たち寒さを感じる季節になった。ある日の昼休み前連絡が入る。

「えっと、そうですか?」

「ジオルド様?」

「土魔法科の材料が足りないということです。キース君いってくれませんか?」

「わかりました。用意します。」

「水魔法科の教材ですか?どの教室へもっていけばいいのでしょうか?」

「こちらだそうです。メアリ嬢、よろしくお願いします。」

「風魔法科のリハーサルにニコル様とソフィア様に来てほしい?わかりました。」

「緊急の書類です。」

「ずいぶん多いですね。」

その時書類を持ってきたのは何か見たことのある令嬢たちだった。カタリナ様をにらみつけて嫌味を言っていたきつい目をした令嬢やわたしに意地悪した人もいる。

「昼休み直前だというのにいやにいそがしいな。」

「アラン様、この楽器の調子をみてほしいのですが....。午後の授業に使うので」

「わかった。行く。」

「マリアさん、この書類を届けてください。それから午後のダンスの授業の衣装が足りないので確認してほしいそうです。」

「わかりました。」

 

事件はこの直後の昼休みに起こった。

わたしたちは何とか仕事を終えて生徒会室にもどってきた。

「メアリ様どうですか?」

「こっちはおわったわ。」

「私も終わりました。」ソフィア様もいらっしゃる。

ニコル様もうなずいている。

「俺も終わったぞ。」

「じゃあ昼食にしましょうか」

「何か忙しかったですね。」

「こんなことはそんなにないのだが...。」

 

ようやく食堂へ向かった時だった。なにやら食堂の反対側の入り口付近で、書類を生徒会室に持ち込んだ令嬢たちがカタリナ様をにらみつけている。

食堂全体が不穏な雰囲気になっていて、カタリナ様は分厚い書類を持たされ呆然としていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 カタリナ様、危機一髪です。

ジオルド様が令嬢たちに近づき、

「これはいったい何事ですか?」

とたずねると令嬢たちは、ドヤ顔になり

「カタリナ・クラエスが公爵令嬢とジオルド様の婚約者という地位を利用し、平民であるマリア・キャンベルに犯罪まがいのいやがらせをしてきた証拠をつきつけているのです。」

と得意げに語る。

書類は生徒会役員たちにわたされた。

わたしは驚いた。確かにわたしが受けた嫌がらせが書かれているのだが、その犯人もしくは首謀者がカタリナ様になっている。わたしは胸が張り裂けそうな怒りがこみあげてきた。わたしの大切なカタリナ様になんてことをするのか。赦せない!わたしは生涯で感じたことのない激しい怒りで、つかつかと令嬢たちの前に来て信じられないことに彼女たちをにらみつけていた。

「この話はまったくのでたらめです。わたしはカタリナ様にこのようなことをされたことは一度もありません。それどころかカタリナ様はわたしを何度もかばってくださいました。このようなでたらめな話でわたしの大切な方を侮辱しないでください。」

わたしは叫んでいた。

令嬢たちは、しばらくだまっていたものの思い出したように

「何を言ってるの?マリア・キャンベル。わたしたちは、あなたのためにカタリナ・クラエスの悪事を暴いてあげたのよ。」

「そうよ。でたらめなんかじゃないわ。このように証拠も証人もそろっている。あなたの方こそ、この悪女の公爵令嬢の権力におどされているんじゃないの?」

「そうですわ。こんな悪女にだまされてかわいそうに。わたしたちはあなたの味方なのよ。」

しばらく黙って書類を読んでいたジオルド様だったが

「こんな状況証拠だけをもってきて、れっきとした証拠とは笑ってしまいますね。しかもカタリナが生徒会室にいた時間やあきらかにカタリナとマリアが一緒にいない時間がいくつも書かれています。」

笑ってしまうと言いながらジオルド様は信じられないくらい冷たい無表情だ。生徒会室ではみたことがない。

「そもそもこんな手の込んだ緻密な嫌がらせなんて単純な義姉さんにはできるわけがないよ。だいたい僕は義姉さんと一緒に過ごすことが多いけど、この時間帯にマリアさんに嫌がらせできるとはとても思えないし、証人と名乗る彼女たちには一度もあったことがないけど本当に義姉さんがこんな嫌がらせをしているところを見たの?」

キース様も信じられないくらい冷たい笑みを浮かべている。もちろんこんな冷たい表情のキース様をみたことがない。

「キース様のおっしゃるとおりですわ。カタリナ様はとても単純な方です。嫌がらせをするためにこんな緻密な計画を立てるなんて考えられません。何かの間違いではないですか?」

「そうだ、その通りだ。このバカは単純だからこんな手の込んだ嫌がらせなんかするわけがない。しかもジオルドの言う通りどう考えてもカタリナとマリアが一緒にいない時間があるぞ。」

この書類には確かに嫌がらせを受けた時間、詳しい状況が書かれていたが、正確すぎるためにカタリナ様の行動との矛盾がいくつもあった。

「カタリナ様がマリアさんをいじめたことなど一度もないし、そもそもカタリナ様がいじめをするために裏で動くとかそんな器用なことできませんわ。カタリナ様は、お菓子と畑とロマンス小説のことで頭いっぱいですから。」

「その通りだ。」

ソフィア様もニコル様も同意される。カタリナ様のクラスメイト達も声を上げる。

「そうよ。カタリナ様がそんなことをするはずがないわ。」「カタリナ様がいやがらせをなさるなんてありえないですわ。食べ物や「花壇」のことばかりお考えですから。」「そうよ。そうよ。何かの間違いじゃないの?」

クラスメイトに加えメアリ様、ソフィア様の同好会の皆さんも同意する。

「皆さんもそうおっしゃるようにわたしはカタリナ様から全く嫌がらせを受けたこともないし、それどころか何度もかばっていただいています。マリアちゃんが大好きだとも言ってくださいました。わたしはたしかにこの書類に書かれている嫌がらせを受けたことがありますがそれをしたのはカタリナ様ではありません。この書類に書かれた嫌がらせをした人たちをわたしはしっかり覚えています。何でしたらどなただったか申し上げてもいいのですが。」

わたしはきっぱりと話した。

食堂の中での空気がピリリと緊張を帯びる。何人かの令嬢が表情を変えたり、顔をふせたりし、そそくさと立ち去る姿も見られる。カタリナ様を糾弾していた令嬢たちも二の句を告げなくなっていた。それもそうだ。発言したのはわたしをスルーというか、歯牙にかけずにカタリナ様を目の敵にしていたジオルド様の元婚約者と噂される方など数人で、わたしに多少のいやがらせや罵声を浴びせた令嬢たちもいたのだから。

さすがに自分たちの立場が危ういことを悟ったのだろう。顔色を変えて背を向けるとそそくさと小走りに立ち去っていく。

わたしはその時に黒い煙かかすみのようなものが彼女たちにまとっているのを感じた。

闇の魔力だ。誰か学園に闇の魔力を持っている人物がいる。

だれだろうか...まさか、たま~に生徒会室で感じた冷たい視線。あの令嬢たち...。

 

カタリナ様は何が起きたかわからず言葉を失ってふらふらしながら突っ立ているといった感じだ。

「大丈夫ですか?カタリナ様?」

わたしは心配になってカタリナ様の顔を覗き込むようにして話しかけるとカタリナ様の顔に生気が戻る。

カタリナ様は笑顔でうなづき

「大丈夫よ。マリア、みんなありがとう。」

「いえ、むしろすぐに助けに来られなくてすみませんでした。」

「遅くなってごめんね。義姉さん。」

ジオルド様とキース様がカタリナ様の肩に手をおかけになってお支えになる。

そのときカタリナ様のおなかが『ぐ~~』となった。

皆さん苦笑して、

「さあ、早く食事にしましょう。」

とジオルド様が言うと皆さんうなづいてさっそく厨房に注文を入れた。

 

生徒会の皆さんとわたしは食堂での円卓を囲む。

おだやかな日差しが気持ちがいい。

「まさかあの令嬢たちがカタリナを呼び出すとは...ちょっと思いもよりませんでした。」

「たしかに少し異様でしたね。義姉さんを目の敵にはしていましたがここまでのことをするとは...。」

「こんなのでも一応公爵家の令嬢だからな。」

「アラン様、うぐうぐ...こんなのとか、一応とか余計です。」

と反論しつつもカタリナ様は食事に夢中だ。

「おまえなぁ。お前は公爵家の令嬢だ。娘がいわれのない侮辱を受けたのならいくら温厚で人格者のクラエス公爵でもだまっていないだろう。」

「この証拠書類...あんまりにもしっかり作られすぎていて...マリアさん、凄く正確に書かれているとおっしゃってましたね。」

「はい。メアリ様。だからこそ、ジオルド様、アラン様、キース様のおっしゃるとおり矛盾がところどころにあるんです。」

「メアリ様とマリアさんがおっしゃるようにあの令嬢たちがこんなしっかりした書類を作れるとはとても思えません。男性の貴族の方々のように領地や裁判の仕事をしてきたとはとても思えませんし。」

「そうだな。たまに息子がいなくてあととりのために領地や裁判の事務に係る令嬢もいるがそういう感じじゃなくてカタリナを目の敵にしてただけだったからな。おい、聞いてるのか?」

アラン様がカタリナ様をかるくこづく。

「なんですか、アラン様、おなかすいてるんです。」

「もうかなり食べたじゃないか。」

「アラン、そこまでにしてください。」

「いや、肝心の本人が...。」

「カタリナは婚約者の僕が守りますから。こんなふうに笑顔で食事しているカタリナも愛らしいです。」

アラン様は両手の平を外へ向けて呆れた感じだ。

そんな会話が聞こえるもののわたしは闇の魔力のことが気になって笑う気になれななかった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 幽閉と救出

「俺たちが全員あれこれとやたらに用事で呼び出されていたのもおかしい。こんなに重なることはなかったのに...。」

とニコル様がおっしゃれば

「そうですわね...確かに違和感を感じました。まるでカタリナ様を呼び出すためのような...。」

とメアリ様が同意する。皆さんはそういったことをおっしゃりながらも食事を終える。

わたしも闇の魔力が気になりながらも食事を終えた。そして次の教室へ向かう時だった。中庭から生徒会室へ闇の霞が動いていくのを見てしまった。

「あの...皆さん、少しだけ寄っておきたいところがあるので先に教室へ行っていただけないでしょうか?」

「あの、あんなことが起こったばかりですから一緒に行きませんか?」

「マリア、一人で行かない方がいいわ。今回はわたしが標的だったけど、あなたはわたしをかばったから仕返しされたりとか...。」

生徒会の皆さんは心配してくださる。

わたしは笑顔で

「いいえ、大丈夫です。大した用事じゃないですし、令嬢たちに会わないで済みますから。」

「それなら...授業までそんなに時間はないから早めにもどってきてね。」

「はい。」

再び笑顔を作って生徒会室へ行く。

生徒会室には、シリウス会長がいた。

「マリアさん、どうしたんだい。」

わたしは当たってほしくない予感が当たって背筋が寒くなった。会長のまわりには、あの闇の魔力のかすみがただよっている。

「以前、カタリナ様への冷たい視線を感じて...そのときは気のせいかと思ったのですが...会長の周りには黒いかすみのようなものがただよっているのですが...」

「黒いかすみって何を言ってるんだい...。」

そう言いつつもシリウス会長の顔色が変わる。犯罪が判明した人物が焦るような独特の顔。

「そうか...さすがに光の魔力保持者なんだね。わかってしまったのなら仕方がない。そうだよ。僕が仕組んだんだ。あのいまいましい女、カタリナ・クラエス。復讐の邪魔になりそうな女、決意を鈍らせる女を消してさっぱりするためにね。」

「復讐?」

「でも、そんなことは君が知らなくていいことだから。」

会長が歩み寄ってきて、わたしの肩に手をかける。

なにかどす黒い力を一瞬感じたが身体からそれを跳ね返す力がわきでてくる。

「さあマリアさん、もう授業が始まってしまうよ。早くいかなきゃ」

「何をおっしゃっているのですか?まだ話は終わっていません。」

わたしは答える。

会長は一瞬怪訝な顔をした。また一瞬どす黒い力を感じるものの、身体からそれを跳ね返す力がわきでてきてそれを跳ね返す。

「先ほどから何をなさっているのですか?会長、どうしてそこまでカタリナ様を目の敵に...。」

会長は今度はわたしを羽交い絞めにして、カプセルのようなものを取り出し、そこから煙のようなものが出てきた。わたしは強烈な眠気に襲われ、意識を失っていった。

 

わたしは気が付くと埃っぽい薄暗い部屋にいた。天井に小さな窓が付いているだけの狭い部屋でベッドのみがある。部屋からは脱出できないように足には鎖のついた鋼鉄の足環がつけられていた。

「マリアさん、夕食の時間だ。もってきたよ。気分はどうかな。」

「会長、なぜこんなことをなさるのですか?」

会長はわたしの肩に手を置く。どす黒い力を一瞬感じたが身体からそれを跳ね返す力がわきでてきてそれを跳ね返しているのを感じる。

会長がため息をつく。

「マリアさん、僕は早く闇の魔力のことを忘れてほしいんだ。そうじゃないとここを出すわけにはいかないから。」

「わたしがいなくなれば生徒会の皆さんたちが探すと思います。」

「ふふん。それは大丈夫だよ。見つけられるわけがない。これはディーク公爵家が何十年も前に立てた倉庫だけど人が使わない廃屋にしか見えないし、実際使われていないからね。

さらにここは床で出入口をふさいだ秘密の地下室だ。見つけられるわけがない。」

食事は、朝昼晩、きちんと運ばれてきた。昼間は会長は、学園に行かなければならないため、昼食は同じ召使いの人が運んできた。会長は朝夕わたしの肩に手を置こうとする。

わたしはその意味がわかって避けようとするが足に鎖がついていてどうしても部屋から出られない。会長は闇の魔力を発動するについても紳士であることに徹底していた。乳房などには絶対触れない。触れるとしたら肩や背中などだ。4日目になった。昼間だったが会長がやってきた。後で知ったのだが自習時間だったので昼間でも動けたらしい。青い顔をして刃物を一瞬わたしに向けようとしたが、思い直して床に落として拾って片付けていた。

会長の心の中には葛藤があるに違いなかった。復讐のためにじゃまなわたしやカタリナ様を殺してしまえという気持ちとそれを拒否する気持ちだ。夕方会長がやってきた。

「マリアさん、カタリナさんに魔法をかけたよ。永久に眠り続ける魔法だ。あとは君が闇の魔力のことを忘れてくれればいいだけなんだ。そうすればカタリナさんの魔法を解いてあげられる。どうかな。」

「なんてことをなさるのですか...。」

「僕の復讐の邪魔をするな。人殺しなどしたくないからこうしているんだ。わかってくれ。ね、マリアさん、きれいな心を持っている君なら僕の気持ちがわかるだろう。」

「会長が悲しい気持ちを持っていることはよくわかります。どうして、だれに復讐したいんですか?話してくれませんか?」

会長はいらだちはじめた。

「君には関係ない。君は知らなくていいことだ。」

それから二日たった。一週間わたしは閉じ込められていたことになる。しかしその間食事は運ばれた。カタリナ様に眠りの魔法をかけたという日から三日たった。

なにやらどやどや物音が聞こえる。人が入ってくる気配がする。

「本当にあった!」という声が聞こえた。

それから複数の足音が近づいてきて、入り口の扉ががらりとあけられた。剣をかまえるジオルド様とアラン様、カタリナ様、ソフィア様、メアリ様、キース様...

生徒会の皆さんだ。

「マリア!」といいながらカタリナ様わたしにかけよってくる。

「....カタリナさま....」

わたしはまだ目の前のできごとが信じられなかった。あれほど見つかるはずがないといわれていたのに皆さんは来てくれた。

「マリア、遅くなってごめんなさい。」

カタリナ様に力強く抱きしめられた。かすかな香水の香りがかおってくる。

「私こそ、皆さまにご心配をおかけして申し訳ありませんでした...。」

安心感で緊張で身体に入っていた力が抜けていき、からだが軽くなっていくのを感じた。

「そうじゃないわ。マリアはわたしのために動いてくれていたのでしょう?」

カタリナ様はわかってくださっている。わたしは恥ずかしいやらうれしいやらいろんな気持ちがないまぜになっていたが、小さくうなづいていた。

「ありがとう、マリア」

わたしは、ほおがほてるのを感じつつ、カタリナ様や皆さんが来てくださったうれしさで笑みが自然にもれる。カタリナ様はキリリと表情をひきしめ

「マリア、会長は、シリウス会長は、まだこの近くにいるの?」

「はい。会長はまだここにいます。この部屋の外の廊下の突き当り、あの黒い扉の先に」

カタリナ様も皆さんもディーク家のことをはじめとして何かに気が付いているようだ。でなければここに来ることはできないし、この一言でわたしの救出だけが目的ではないことは明白だった。わたしは思い切って

「カタリナ様は、会長が何を目的でこのようなことをされたのかご存じなのですか?」

と聞いてみることにした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 明かされる闇の魔力(前編)

カタリナ様がお答えになった。

「それが分からないことが多いのよ。わたしにはどうしても彼が根っからの悪人には思えなくて...だからもう一度ちゃんと話がしたいのよ。」

「義姉さん、危機感がなさすぎでは?」

「カタリナ、君は死ぬかもしれなかったのですよ。」

「ほんとお前はおひとよしだな」

キース様、ジオルド様、アラン様がおっしゃり、口には出さないがメアリ様とソフィア様は心配顔だ。

「そうですか...実はわたしも足を鎖でつながれている以外は特にひどいことをされてはいません。それどころか決まった時間にきちんとした食事まで運んでくれました。おっしゃるように本当の悪人ではないとわたしも思います。ただ会長は闇の魔力と思われる特別な魔力を持っていてそれに引っ張りまわされているように思えるのです。」

「やっぱりマリアには彼の特殊な魔力がわかるのね。」

とたずねられる。

「カタリナ様にもわかるのですか?」

「話には聞いているけどわたしにはわからないの。でもマリアにはわかるのね。」

わたしはしっかりうなづいてみせる。

「あのお昼休みの時に令嬢たちにもあの日の会長にも黒いかすみのようなものがかかっているのが見えました。そして今も会長の周りには黒いかすみがむしろ以前よりもどす黒い感じでまとわりついているように見えるのです。」

カタリナ様も皆様もジオルド様を除いてなにやらとまどった表情だ。

「以前よりもどす黒い感じでまとわりついている?」

「はい。内側からあふれ出るような感じなのです。会長をとりこもうとしているようにすら見えます。」

溜息が聞こえる。本当はカタリナを止めたいけどしかたがない、という雰囲気だ。

わたしは、生徒会の皆さんのあきらめの雰囲気に便乗させてもらうことにした。こういうときこそ光の魔力を持つ者として皆さんの役に立たねばならない。

「私も行きます。」

「マリアは、ずっと閉じ込められていたんでしょう。学園に戻って体調を診てもらわないと。」

「いいえ、わたしが行かなければ会長の不思議な魔力を見極められないんですよね?」

皆さんは、うなづかざるを得ないという気持ちとここまできて引き返せない、仕方がないという空気になっている。

「ですので、わたしも行きます。ダメだと言われても意地でもついていきます。」

「マリアさん、わかりました。光の魔力をもつあなたでなければここは突破できないでしょう。ぜひお願いします。」

いつもはカタリナ様を止める側が多いはずのジオルド様なのに、これは何かご存じだなと感じた。

すぐ行けると思ったが、地下へ続く階段があり、細くて暗い廊下が続く。

「暗いですね。明かりをつけましょう。」

ジオルド様は手を前にだしてその手に小さな炎ができる。

「こうみると「かいちゅうでんとう」のようですね。」

とカタリナ様が口にする。

「カタリナ様の前世物語ですね。」

ソフィア様が応じて、

「そうなの...。」と苦笑するカタリナ様。

「ここにきてもロマンス小説の話か...のんきだな。でもそれくらいでないとな。」

アラン様が苦笑する。

数分ほど歩くと再び扉がある。

「ここですね。」

ニコル様が目配せする。

ジオルド様とアラン様はうなづき剣をとる。

「開けるぞ。」

不気味さと対照的とさえいえるキイと軽い音で扉が開くと、部屋の中には鍾乳石のようにろうそくが林立していた。薄暗い部屋の壁には闇の魔力の呪文だろうか、まがまがしい文字のようなものがぎっしりと書かれているのがろうそくの明かりで浮かび上がって見える。

部屋の中央には会長がいた。疲れきったような顔をしている。

「どうしてお前がここにいる?」

それはカタリナ様に向けられた言葉のようでふだんの会長とは思えないドスの効いた声だった。それに対しカタリナ様は

「眠りづつける魔法が解けたので」

とあっけらかんとお答えになる。

「そうじゃない。魔法が解けたのはわかっている。あんな目にまであってまで、どうして僕の前にわざわざ姿を現したんだ?」

「なんだ、そう意味ですか?それほどひどい目にあわされたとは思っていないので。」

「お前、自分がされたことがわかっているのか?」

「はい。闇の魔法で眠らされたんでしょう。」

「そのとおりだ。それで僕はお前の命を奪うつもりだったんだ。」

「う~ん、それは嘘ですね。」

「?....嘘だと....。」

「そうです。あそこでは誰も見ていなかった。犯人を悟らせないだけだったらそこで殺してしまってもよかったはずです。変死でかたづけられますから。」

会長はだまってしまった。そうだ。眠らせるだけだったら足がつくかもしれない。彼の良心が許さなかったに違いないのだ。

「わたしがここに来たのは会長ともう一度ちゃんと話をしたかったからです。」

「....はなし...?」

「そうです。人一人殺そうとする人が、あんな苦しそうな悲しい顔で泣いたりしないでしょう。だからもう一度話を聞かせてほしかったんです。」

すると会長の顔が大きくゆがむ。わたしがやさしい言葉をかけた時とそっくり同じ反応。

「この偽善者め!それでほかのやつらのように僕をすくってくれるとでもいうのか聖女カタリナ・クラエス!」

「聖女?わたしがですか?それは無理です。わたしはただの「あくやくれいじょう」でしかないから人を救うなんてできないわ。マリアならともかく。」

「カタリナ様!///」

「あ、ごめん。」

さすがにこんな状況でわたしにのろけないでほしいと感じた。一方で、会長は口をぽかんとあけて言葉が出ない様子だ。

 

「なあ、「あくやくれいじょう」ってなんだ?」

アラン様が聞く。

「ソフィア様どうですか?」とメアリ様。

「ロマンス小説にたまにでてくる吊り目の女性で、主人公を貶めるずるがしこい登場人物ですがカタリナ様とは対極です。」とソフィア様が答えている。

 

カタリナ様はつづける。

「ええと、わたしは、聖女じゃないから人は救えないけど....そばにいることはできる。苦しいとき、悲しいとき、つらいときには話をきいて元気が出るまでずっとそばにいるわ。」

これはけっこう重みのある言葉だと感じる。わたしと違った意味で努力を重ねてきた人でないと言えない言葉。さらにカタリナ様は会長に近づいて驚くべき言葉を告げる。

「だから一人で泣かないで、ラファエル」

会長の目からは涙が堰を切ったかのように流れる。

わたしはこれが会長の本来の名前、何かの復讐を誓うために変える前の本当の名前だということを悟る。カタリナ様が会長に手を伸ばす。そのときだった。わたしの脳裏に会長の心の中の葛藤の声が聞こえてくる。

『何をしている。こんな奴の言うことなんか聞くな。むしろ油断して近いづいてきているから人質にして逃げるんだ。』

『そんなことはしない。僕はもう復讐なんてしない。』

『何だと。』

『それから、お前は誰だ?』

しばらく時間がたち、

『気づいたか....』との低いつぶやきが聞こえる。

そうして会長の影からむくむくと黒々とした人影が現れる。わたしは瞳孔が広がるのを感じた。

その人影は黒いローブをまとった男だった。その男は口元をゆがめて会長を見下ろしている。

『ずっと僕のふりをしていいようにあやつっていたんだな。お前こそ実行犯じゃないか』

『お前の望みをかなえるために手を貸してやっていただけだ。』

『確かに僕もあいつらをひどく憎んだ。でも僕が生き残ったのは復讐のためなんかじゃない。』

後で、会長に聞いた。お母さんの最後の言葉は「生きて幸せになって。愛しているわ。ラファエル」だったと。

『幸せになるために生き残ったんだ。』

会長の手が伸びる。カタリナ様がその手を両手で包み込むようにして微笑んで会長に言い聞かせるように話している。

「もう大丈夫だから。」

と聞こえてきた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 明かされる闇の魔力(後編)、四元素戦(四科戦)(その1)

会長の心の声も脳裏に聞こえる。

『復讐は終わりだ。お前の存在はいらない。』

『なんだと...お前の存在をここまで導いてやったのに...裏切り者があああああ...』

わたしは耳を思わず抑えてしまったが、黒い男の絶叫は脳裏に響いているので関係なかった。わたしは男の姿と部屋全体に充満していたどす黒い霧がみるみる晴れていくのを感じた。

「黒いかすみが消えていく.....。」

わたしは思わずつぶやいていた。

 

ラファエル様が正気に戻り生徒会室で皆に一部始終を話すことになった。

「皆さん、すみません。僕はこの学園を去らなければなりませんが、どうかこのようになったいきさつだけはわかっていただきたいのです。」

自分と自分の母親がある日突然さらわれ、自分が闇の魔法でシリウスの器にされそうになった話の段になると、王族であるジオルド様とアラン様の空気が変わった。

「闇の魔力は先代の王位継承争いでも使われたようですが、ディーク家にも伝わったのですか?」

「どうやらそのようです。それによって僕の罪が晴れるわけではありませんが」

ラファエル様は続ける。母親が殺され、シリウスの記憶が自分に移され、シリウスを名乗って生き残るしかなかったこと。母親の敵であるディーク公爵夫人に「おかあさま」というしかなかったこと。わたしは息が詰まりそうだった。わたしもつらかったが会長のつらさはどうだろう。母の敵に対して「お母様」と言い続けなければならない。

「あの黒い男が復讐を言い続け、僕もディーク公爵家憎さにいつか夫人もとろも仇を一掃してディーク公爵家を奪ってやると考えて努力してきました。しかし心の中で全て納得してきたわけではありません。特に生徒会でカタリナさんをとおしてニコルやマリアさんに生き生きした笑顔が見られるようになって、僕の中の心の中で葛藤が大きくなっていきました。復讐してやるという気持ちとそんなことはやめるんだという気持ちがせめぎあって...復讐の邪魔だという気持ちが大きくなるとカタリナさんを思わずにらみつけてしまった。

カタリナさんが邪魔だというあの黒い男に従って僕はあの令嬢たちを使うことにしました。その後は皆さんはどうなったかご存じのとおりです。そのあとは光の魔力をもつマリアさんを閉じ込めて、カタリナさんを永久に眠らせた。僕にはお二人を殺すなどとはとても考えられず、復讐の邪魔をしないでほしいというだけだった。しかしもうすべてが明らかになった今、操られたとはいえ自分の口で一部始終を話すために魔法省に出頭しようと思います。」

一部始終を話したラファエル様に役人に突き出してやろうという気持ちが皆さんのなかで消えていくのを感じた。闇の魔力の話を聞いたときにジオルド様とアラン様の荒い鼻息がが溜息に変わり、母親殺しの話を聞いたときなどメアリ様とソフィア様はすすり泣いたほどだ。わたしは、ラファエル様にされたことに対して一切不問にすることにした。しかもご自分から自首すると言っている。むしろディーク公爵家の罪が明らかになって胸くその悪い話が解決に向かえばと願った。

ラファエル様は、事情が事情だけに退学になった。しかし闇魔法の案件であるがゆえに伏せられて、表向きの名目は体調不良による療養。

「ディーク公爵家に、魔法省の査察がはいったようですよ。ディーク公爵夫人やその配下が魔法省に逮捕、収れんされたようです。」

「闇の魔法やほかの魔法で抵抗されなかったのですか?」

「魔法省の役人には魔法が絡む犯罪への警察権があって、捜査に行く職員は、全員事前に無属性魔法のサイレンスを習得させられます。複数名で逮捕に行き、一人が発動できなくても必ず誰かがサイレンスを発動できる体制をとります。貴族は領主であるうえに魔法持ちが多いですから、領地の警察には任せられませんからね。」

 

この時の話をわたしは魔法省入省後に、ラファエル様と魔法省の魔法道具研究室部署長のラーナ様から聞くことができた。

ラーナ様はジェフリー王子とともに現国王オーウェン・スチュアート陛下即位前の王位継承争いで闇魔法が貴族たちに知れ渡った経路について追っていたが、ディーク公爵家にも知れ渡ったらしいことをおさえていた。しかし裏付けがとれず動けなかったところに、ラファエル様の告白があり、ディーク公爵家とその所有不動産にガサ入れにはいったところ、まず闇魔法道具が発見され、いくつもの隠密施設で闇の魔力のための儀式を行う建物が発見された。また子どもを闇魔法のために養成する施設も発見されたが子どもたちは発見されず殺されたり、逃亡したりしたことが明らかになった。こうして一か月近くの捜査ののち、本丸のディーク公爵家に令状をもった魔法省の役人がやってきた。

「魔法省のラーナ・スミスだ。ディーク公爵夫人、闇魔法使用とキャサリン・ウォルト殺害の容疑で逮捕する。」

「なにを...あのガキはシリウスでなかった。わたしをだました。何で逮捕されないの?」

「その前にお前は闇魔法を得るためにキャサリン・ウォルトを殺害した。また闇魔法を使った男を口封じのために殺している。お前の配下が罪を軽くするために自白したぞ。」

「なにを..わたしは自分の息子をつがせるため、当然の権利を行使したまで。公爵夫人に逆らうとは...。お前たち、こんな小役人やっておしまい。」

配下たちが詠唱しようとする。

「まだわかっていないようだな。サイレンスだ。」

役人たちがサイレンスを素早く詠唱する。

「うう、公爵夫人、魔法が発動できません。」

「観念するんだな。公爵夫人。ああ、言っておくがお前の罪はジェフリー王子も知っているぞ。つれていけ」

こうして魔法省の役人たちはディーク公爵夫人とその配下をあわせて20数名逮捕し、魔法省に連行したという。

 

さて魔法学園では、文化祭(学園祭)と魔法競技祭が1年ごとに交互に行われる。

期末試験の実技試験であるダンジョン探索の訓練も兼ねた競技祭で土魔法、火魔法、風魔法、水魔法の四科対抗戦であるため四元素戦、四科戦とも呼ばれる。

火魔法クラスの人数が少ないのでそれに合わせて競技が行われる。

種目は下記の通りだ。全ての競技で火属性魔法の効果はやけどしないように20分の1に弱くし、最高体感温度は55度までにされているが(つまりやけどはしないが暑さによる退場者を出せれば勝利条件)、エフェクトは通常通りで、ダメージ判定は実際に受けたダメージの20倍に計算される(つまり裏を返せば強力な魔法を気兼ねなく使えるという恐ろしい仕様で5%ダメージの一撃が競技では致命傷になるという)ことになっている。四科戦では、次の五種の競技が行われる。

1.ワンダルングコリダー

ダンジョンに設けられた2kmの通路をいかに早く通過するかを競う競技である。ダンジョンの通路に罠を設け、石を転がしたり、水や火を浴びせたり、風で吹き飛ばしたりなど様々な方法で相手個人や相手グループを妨害して早く出口までたどり着いた方が勝ちという競技だ。

2.クロスカナル  

最大1時間以内でモササウルスのいる水路をいかに安全に早くわたるかを競う競技だ。ただし、相手を水路に落としたら死ぬかもしれないことから失格となる。相手に水路を渡らせないようにする工夫が必要な競技だ。ほとんどが40分程度で勝負がつくが接戦になると1時間で終わらない場合もあり、その場合は引き分けになる。なお万一競技者が落ちそうになった場合、中級冒険者パーティが救出とモササウルス討伐に介入する。彼らにとって決まった収入や経験値稼ぎになるため人気が高く抽選で行われるが、安全第一で2パーティが選ばれる。事故が起こらなければ6割、事故で学生を救出した場合は満額が支払われる。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 四元素戦(四科戦)(その2)

3 カルナックブレイク

自分の陣地の列石を守りつつ、相手の陣地の列石を砕く競技だ。メネクステージ、ケルマリオステージがそれぞれ1時間づつで自陣に550の列石がある。時間内にそれぞれの列石を多く砕くか倒した方がステージ勝者となるが、第三ステージのケルレスカンは、600本の列石を30分でどれだけたくさん倒すかで競って、メネク、ケルマリオの点数に加算する。なお、メネク、ケルマリオで相手の列石を相手より早くすべて倒すか破壊した場合、また相手チームのすべてを倒した場合は、ケルマリオステージで勝者が決まる。ケルレスカンステージのみは、相手を倒したらペナルティになるので、プレイヤーを倒すのはメネク、ケルマリオでしなければならないが、敵プレイヤーは自陣の列石を倒しているので攻撃しにくいため、結果的に相手側の列石を倒すか破壊する数での勝負になる傾向に落ち着く。

4 フォーリングデイスク

20分で魔法をぶつけ合ってお互いの背後にある12枚の円盤を早く全て落とす。落とせなかった場合は多く落とした方が勝者となる。自陣の円盤を相手の攻撃から守ってもよい。

5 フライングステッキ

30分以内で魔法の杖でたくさんの空中に浮かぶ球体、円盤などを魔法又は物理攻撃で破壊する。女性のみ。空中を舞う都合上ドレス着用だが中身は光線の加減で見えないようになっている。

 

土魔法科からは、キース様、水魔法科からはメアリ様とアラン様、火魔法科からは、ジオルド様、風魔法科からは、ニコル様とソフィア様の出場が決まっている。

 

フォーリングディスクの決勝はメアリ様とわたしをいたぶろうとしたあの黒いワンピースの令嬢だ。

「あら、あなたは、マリアさんをハンドフレイムでいたぶろうとしたネグラ伯爵令嬢ではありませんか。」

「メアリ様、令嬢の中の令嬢と呼ばれるあなたを泣き顔にしてみせますわ。」

「これよりフォーリングデイスクの決勝を行います。」とアナウンスがなされ、

サインの光がポッ、ポッ、ポッと軽快な音をたてて5,4,3,2,1秒と上に上がって

「競技開始」

と合図がなされる。メアリ様のウォーターアロー、アイスアローとウォーターボールはネグラ伯爵令嬢のディスクを次々に落としていく。ネグラ伯爵令嬢のファイアーアロウは、ウオーターボールに消されてなかなか当たらない。ネグラ令嬢は、ほくそえむ。メアリ様の集中力をそぐために、メアリ様をかすめるようにファイアーアローを連射で放ったのだ。

わたしは審判に「反則では?」と言ったが、本人に直接当てない限り反則でないという。

メアリ様がひるむと、そのすきにメアリ様のディスクを一枚、二枚。三枚、四枚と落としていく。しかし彼女の反撃もそこまでだった。メアリ様は一発ウォーターボールを彼女の肩越しに投げつけて、ネグラ伯爵令嬢が一瞬ひるむとみごとなアイスボールの連発であっという間に5枚落として、12枚全て落とした。

「勝者メアリ・ハント嬢」

メアリ様は手を振り、満場の拍手がなされる。

さてクロスカナルだ。

準決勝第一試合は、アラン様の水魔法科チームと火魔法科チームの対戦だった。

「コールド・ウエーブ!」

水魔法チームは運河を凍らせようとする。

「バーニング・ファイアー!」

一方で火魔法チームは溶かしてわたらせないようにする。

勝負がなかなかつかない。

「グラシエール!」

水魔法科チーム最強の凍結魔法の一つがついに発動される。

火魔法チームは、魔法をぶつけるが分厚い氷河は解ける様子を見せない。

「わたれ!わたれえ!」

水魔法チームはようやく辛勝した。

決勝第二試合は土魔法科と風魔法科の対戦だ。土魔法チームは、橋や柱で渡ろうとするが風魔法チームは、それを邪魔して水を真っ二つにして通路を作ってわたろうとする。

「へえ、モーゼが紅海をわたるようにして水をわけるのね。」

「カタリナ様、そのお話は?」

「ああ、前世でそういう物語を読んだのよ。」

(カタリナ様の前世って不思議...魔法がないのに魔法みたいな話がおおいんだ...)

キース様が手を挙げるとゴーレムが現れる。

「見えないぞ」風魔法チームが叫ぶ。

「アーセンブリッジ!」

橋ができる。

「さあ、わたれえ!」

「勝者土魔法科K!」

 

さて決勝は、土魔法科のエース、キース様と水魔法科のエース、アラン様の率いるチームだ。

「アラン様」

「キースか」

生徒会ではそれなりに仲の良い二人だが四科戦となれば話は別だ。

「水魔法科Kと土魔法科Aの決勝を行います。」とアナウンスが流れる。

サインの光がポッ、ポッ、ポッと軽快な音をたてて5,4,3,2,1秒と上に上がって

「競技開始」

と合図がなされる。

水魔法科と土魔法科の決勝はすさまじいものになった。

「コールドウェーブ!」

水魔法科が凍らせようとする。

「アーセン・ピラー!」柱で氷が破壊される。

「アーセン・ブリッジ!」「フロッド!」

橋を作ると、洪水で決壊させる。

橋が横に縦に何回も作られては壊される。氷も何回も割られる。

「アーセンゴーレム!」

「トルネード!」

ゴーレムをつくったらトルネードでそれを倒す。

しかしトルネードの威力が強すぎて水中のモササウルスが空中に飛ばされてしまった。体長10mはある獰猛な動物だ。シャチやサメすら食べているという。カタリナ様の前世では6000万年前に絶滅したと「きょうりゅうずかん」に書いてあったという。

冒険者たちが動き出す。

「バインド!」「パラライズ!」「アイスウォール!」「フロート!」

モササウルスの動きが止められ、会場外にゆっくりおろされる。

水魔法チームはトルネードを使えなくなった。

「トーレント!」「ボア!」

激しい水流でゴーレムを倒そうとするが次々にゴーレムが現れる。

「アラン様。すみませんがゴーレム研究会の成果をお見せします。」

ダムのように壁が作られ、ゴーレムを守る。ゴーレム同士も何体も作られてだんだん橋も出来上がっていく。水魔法チームも橋を崩そうとするが、ついに対岸まで橋がつながった。氷の橋も出来上がりつつあるがそのたびに壊される。

「あと1分だ。みんな渡れ!」

「トーレント!」「ボア!」

水魔法科の詠唱。激流が橋を襲う。

「ていうか、キース様壊されて渡れないです。」

橋が壊されて島状になる。

「あと1mで対岸だ。それなら飛び越えられるだろう」

「はい!」

二人飛び越えたところで、終了の合図のアラームが鳴る。運河の水とモササウルスがじわじわひいていく。

「勝者土魔法科K!」

「やった~」

「お疲れ様でした。」

「キース、おめでとう。さすがだな。」

「アラン様、すごい試合でした。お疲れ様でした。」

土魔法科、水魔法科の猛者たちはその場にへたりこんだ。

フライングステッキは会場には入れるのは女子のみで、男子生徒は画面で見るしかない。

メアリ様とソフィア様が優雅に勝ち残っている。決勝は5人になっている。

サインの光がポッ、ポッ、ポッと軽快な音をたてて5,4,3,2,1秒と上に上がって

「競技開始」

と合図がなされる。

ソフィア様が風魔法で20mくらい飛び上がり、ウィンドカッター、ウィンドバレットと優雅に踊るように次々に標的を落としていく。白い衣装と絹のような白い髪が妖精のようだ。メアリ様も負けていない。赤い髪とオレンジ色のドレスをなびかせながらアイスボール、アイスアロー、ウォーターボールで次々に標的を落としていく。近い標的は、ステッキで叩いて落とす。

「ソフィア様、ウィンドカッター五連発です。」

「メアリも凄いわね。七連発のアイスアロー、同時だわ。」

カタリナ様とわたしは攻撃魔法が弱いので観戦組だ。

素晴らしい戦いぶりだったが、じわじわと差が開いていく。

競技終了の合図が鳴る。

得点板に示される。メアリ・ハント100点、ソフィア・アスカルト90点

やはりメアリ様のほうが手数が多い感じがした。その差が出たようだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 四元素戦(四科戦)(その3、双子王子の対決前編)

「お二人ともお疲れ様です。メアリ様、優勝おめでとうございます。」

「ありがとう。」

「う~ん、わたしお兄様ほどは魔法は得意でないので...空中を飛んで稼ごうとしたのですが...やっぱり手数の差がでましたね。」

「それでも準優勝です。すばらしいです。」

「メアリ様、期末試験は負けません。」

「わたしもですわ。マリアさんもひとごとじゃあないですわ。

期末試験はライバルですのよ。」

メアリ様は笑顔でわたしをみる。

「はい、わたしも負けません。」

わたしも笑顔で返す。

 

わたしは攻撃魔法が使えないので基本的には選手になれないはずだが、光属性の生徒が競技に出れるようにヒーラー選抜枠が今年は設けられることになった。不公平だという抗議もあったらしいが、学園としては、光属性は極めて少なく、攻撃魔法が使えないと光属性の生徒が全く競技に参加できなくなってしまう前例が出来てしまうから実験的措置だという方針が通達された。わたしがヒールすれば被害点が消える代わりにわたしにダメージが入れば失点になるということで使いどころが難しいらしく、わたしを守らなければペナルティがはいるということで、結局生徒会の皆さんのいるチームばかりからお誘いがあった。最初はアラン様の水魔法科のワンダリングコリダーのチームだ。アラン様とジオルド様とニコル様のチームはシードされていて予選ではあたらないようになっている。

相手は火属性チームだ。ジオルド様のチームに比べれば火力は弱い。しかし壁に隠れてフレイム、ファイアーアロー、ファイアボルテックスを打ってくるのを避ける。こちらはウオーターボールで火属性魔法を消しながら戦うが、相手は相手でスキをねらってくる。

「あそこの壁は隠れてそうだな」

皆うなづきあい、壁から一瞬顔を出して魔法を放ちあう。

「アイスアロー!」

「ファイアボルテックス!」

「くらったな...」

みなさんのHPが50%ほどになって黄色く表示される。わたしはヒールをかける。

「マリアさん、ありがとう。」

「いえ、わたしが狙われたら失点になりますからあまり前へ出れなくてすみません。」

「気にするなって。レディを守るのが務めだから」

「てか、リッチモンドさんは、ジオルド様に試合申し込んで負けたんだっけ?」

「それいうなよ。」

「まあ、ジオルドに勝てるのは結局俺でも音楽だけだし、剣技であいつに勝てるのは騎士団長位だから、気にしても仕方ない。まあそれよりも相手に勝たなきゃな。」

「マリアさんのヒール分以外は失点が累積されるし、なにしろ思いっきり打ってくるし、くらったら20倍だからな。」

「予選だからファイアーメテオやボルケーノ持ちはいないようだからな。」

「いやに静かだな...。」

「天井見ろ!」

「火の粉だ!」

「フォーリン・スパークス...。」

「トーレント!」

「消えたぞ」

「やばかったな。」

「地図をみると右、左、右、右、左...あと出口まで七回曲がるのか...」

「うしろだ。」

「ファイアボルテックスくるぞ。」

「トーレント!」

出口が近くなると魔法のぶつけ合いが激しくなる。

「あと2回曲がれば...。」

「敵だ!」

敵チームが思いっきり魔法を打ってくる。

「ファイアボルテクス!」

すかさず避ける

「アイスウォール!」

「トーレント!」

「一人でも先に出ろ!」

「わかった。」

一人出口まで走り出た。

「水魔法科の勝利!」

「勝った」

「危なかったな。」

 

一方、カルナックブレイクはジオルド様の火魔法チームが危なげなく勝ち進んでいる。

準決勝第一試合。風魔法チームとの対決。

「タイフーン!」

「おお一挙に200本倒したぁ」

火魔法チームの攻撃。大技が出る。

「アスピーテ!」

溶岩流が一斉に流れて列石を倒す。

「ボルケーノ!」

ドッガーーン...

「火魔法チームも大技が来ました!」

溶岩流に火山が爆発しあっというまに550本を倒した。

すべて倒したチームがそのステージの勝者となり、220p与えられるが相手は0pとなる。そのため僅差であれば大技で全部倒した方が有利になる。

「メネクステージ、火魔法科Gの勝利!」

「ギャオ!」

次は強力な割れ目噴火だ。一挙に330本倒す。

「ウィンド・ブリザード!」

水魔法科のブリザードよりも風が強いだけあってやはり一挙に200本倒す。

「バーニング・コロナ!」

灼熱で一挙に石柱が解けて消えた。

「ケルマリオステージ、勝者、火魔法科G!よって火魔法科Gの勝利!」

「お疲れ様でした。」

「ニコル様、勝たしてもらいました。」

「大技出しすぎだろう。」

ニコル様は憮然とする。

「いえ、一挙に200本倒すので油断なりませんから。速攻勝負です。」

ジオルド様はほくそえむ。その通りで2回魔法発動されたら立場が逆転していた。

 

準決勝第二試合。

「アラン様...」

「キースか。今度は負けん」

「トーレント!」

「ワンリー!」

レンガの壁がそびえたつ。万里の長城だ。土魔法科の陣地を守る。

「ツナミ!」

水魔法科の上級魔法だ。津波が一挙に250本を押し流す。土魔法科も負けていない。

「プレート・アースクエイクM9!」

「土魔法科、最上級きました。すごい揺れだ、550本倒したあ!」

「メネクステージ、土魔法科の勝利!」

「トーレント!」

「ボア!」

「トルネード!」

「ツナミ!」

激しい激流が列石を押し流す。

「フラクチャー!」

「アップリフト!」

「アースクエイク!」

断層と隆起で次々に列石が倒れていく。また5体のゴーレムが両手を振るって列石を倒していく。

一ステージを奪ったとはいえ土魔法科は大技をつかったのでデイレイが発生しこまめに倒さなければならない。

「ケルマリオステージ、水魔法科A435、土魔法科K255で水魔法科の勝利。勝負は最後のケルレスカンステージに持ち越されました!」

ケルレスカンステージの特徴は、陣地がないため大規模魔法が使えないし、相手プレイヤーを攻撃できない。また前の二つのステージの時間の半分だ。

「トーレント!」

「ボア!」

「ツナミ!」

水魔法科は、力を絞って列石を流していく。

「フラクチャー!」

「アップリフト!」

土魔法科も負けじと中規模魔法を使う。またアーセンゴーレムが必死に列石を倒していく。

「あと5分です。」

「5,4,3,2,1終了。」

「ケルレスカン・ステージ、水魔法科325、土魔法科275、ステージ勝者は水魔法科Aです。

総合点の集計。水魔法科A760点、土魔法科K750点、よって水魔法科Aの勝利!」

「アラン様、決勝進出おめでとうございます。」

「ああ、キースお疲れ様、また僅差の戦いだったな。」

「決勝頑張ってください。」

「ああ。」

「アラン、決勝に出てきましたか。」

「ジオルド、火は水に弱い理だ。」

「さあ、それはわかりませんよ。」

サインの光がポッ、ポッ、ポッと軽快な音をたてて5,4,3,2,1秒と上に上がって

「競技開始」

と合図がなされる。

水魔法科の攻撃だ。

「レイニング・サイクロン!」

「フロッド!」

「トーレント!」

「エターナル・スノー・ブリザード!」

洪水と吹雪が火魔法科陣地の列石を倒していく。

一方、火魔法科も負けていない。

「エヴァポレーション!」

「ドロート!」

水魔法科の水を蒸発させる。

「アスピーテ!」

赤々とした溶岩が噴き出して列石を押し倒していく。

「パーマフロスト!」

「フローズン・オール・アース!」

水魔法科があっという間に溶岩を凍らせる。

「ギャオ!」

「ヴォルケーノ!」

「ベニローテ!」

割れ目噴火で溶岩が一列に噴き出す。そして火山の爆発。溶岩ドームがぐぐと隆起して持ち上げられ、凍らせたはずの溶岩を突き破り、水魔法陣地の列石が山崩れのように倒れていく。

「あと5分です。」

残り時間のアナウンスがなされた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 四元素戦(四科戦)(その4、双子王子の対決後編)

(バーニング・コロナを使わないのか、ジオルド、僅差だぞ^^)

(その手には乗りませんよ。アラン)

「5,4,3,2、1終了。メネクステージ集計します。」

「水魔法チームA 545、火魔法チームG 510、したがってメネクステージ勝者は、水魔法チームAとなります。」

サインの光がポッ、ポッ、ポッと軽快な音をたてて5,4,3,2,1秒と上に上がってiいく。「ケルマリオステージ、開始します。」

アナウンスがなされたとたん、

「ギャオ!」

割れ目噴火が起こった。

「この輝きはなんだ?」

アナウンスがなされて数秒後だった。

「ヴァーニング・コロナ!」

あっという間に水魔法チームの列石550が消えた。

「ケルマリオステージ終了です。瞬殺です。水魔法チームA 0、火魔法チームG 220、ケルマリオステージ勝者は、火魔法チームGです。」

「ジオルドォ....。」

アラン様はしかめつらだ...さすがジオルド様というべきでしょうか...さすがにわたしも言葉がありません。

「アラン、一ステージを圧勝すれば残りは僅差で負けても勝てますよ。」

にやにやとジオルド様は笑顔を浮かべている。やはりこの方にカタリナ様を渡したくないとわたしは思ってしまった。水魔法チームは最後のステージに望みをかけて気合いを入れる。

「みんな、がんばるぞ。」

「はい。アラン様。金髪イケメン腹黒王子の鼻を明かしてやります。」

「そこのみなさん、腹黒が余計です。僕が王になったら...。」

「ジオルド、お前王にならないんだろ。それから王になったら能力にふさわしいものを要求されるぞ。お前は期待されてるから。俺は音楽に生きることにしてるから。ジェフリー兄さんはならないって公言しているから、イアン兄さんかお前だな。いやあソルシェ始まって以来の腹黒イケメン王は確実だが、可能なら名君になってくれないとなぁ。」

「アラン~」

「それでは、ケルレスカンステージ開始します。」

水魔法科は威力のある中規模魔法を巧みに使って列石を倒していく。

このステージは、火魔法チームはプレイヤーにダメージを与えそうなバーニング・コロナはもちろんアスピーテ、ギャオなどの大技を使えない。水魔法プレイヤーは中規模魔法を的を絞って詠唱する。

「レイニング・サイクロン!」80撃破。

水魔法プレイヤーは相手が大規模魔法を使えない有利を生かし、必死になって火魔法チームの詠唱を邪魔する。

「このステージはプレイヤーダメージはペナルティだぞ。どうする?」

「くつ、ジオルド様」

「向こうには誰もいません。打ってください、。」

「ドロート!」60撃破

 

「フロッド!」累計160撃破

「トーレント!」累計220撃破

大波、洪水が列石を次々倒していく。

「よし、いいぞ、この調子だ。みんな。」

「アラン様、がんばるぞ」

 

「くそ、(魔法が)打てない。」

「大丈夫です。リードは、185あったんです。局地魔法でいきましょう。」

「ベニローテ!」

地面が隆起して赤々とした溶岩ドームがせり上がり、列石がガラガラと倒れていく。累計170撃破だ。

水魔法チームは、巧みな妨害と的確な攻撃を行う。

「ボア!」

局地な大波魔法だ。カタリナ様によると前世生活した国から海をへだてた「ちゅうごく」という国で起こる現象らしいということだ。おもしろい名前なのでお兄さんに何のことか聞いたらしい。累計290撃破。

さらに水魔法チームの応酬。「ツナミ!」累計360撃破。

「よし、リード奪ったぞ。もう少しだ。」

水魔法チームが905点。火魔法チームが900点。僅差だが実は総合点が逆転した。

さすがのジオルド様の顔も一瞬ひきつったように見える。しかしさすがは優秀な王子様だ。

気持ちを切り替える。

(僕は王にならなくても指揮官にはされるだろう。ひるんではいられない。)

「皆さん。今までは追われる立場でしたが、今度は追う立場です。逆転されたとはいえ僅差です。ひっくり返せます。」

「はい。ジオルド様」

火魔法チームに気合いが入る。

しかし、もはや列石の数も少ない。一本一本倒す息詰まる展開だ。

お互いに相手の攻撃を邪魔するのでなかなかいっぺんに列石が倒れない。

「残り3分です。」

ケルレスカンステージ水魔法チームA368本、総合913本、火魔法チームGステージ178、総合908本、僅差だが差が縮まらない。あと54本がどうなるかで勝負が決まる。

相手プレイヤーを攻撃できないという息詰まる展開の中、残りの列石は、一か所にまとまる傾向となった。ジオルド様が一瞬笑みを浮かべると、火魔法科プレイヤーは、

「ヴォルケーノ!」

と詠唱し、たちまち地面が激しく持ち上がる。

「うつ、あれは...」

「くそ、間に合わない...。」

残り時間1分、火山が噴火し、残りの列石50本を全て吹き飛ばす。累計230撃破だ。

残り1分での劇的な展開で列石が全て倒れた。

「すべての列石の倒壊を確認しました。ケルレスカンステージ終了します。ステージ勝者は、水魔法科A370、火魔法科G230でステージ勝者水魔法科Aですが、総合点を集計します。」

「水魔法科A915、火魔法科G960、よって火魔法科Gの勝利及び優勝です。おめてとうございます。」

「「ジオルド様、おめでとうございます。アラン様惜しかったですね。」」

「カタリナ、マリア、ありがとう。」

「ああ、ありがとうな。」

「素晴らしい試合でしたわ。(一発くらい魔法打ち込めばよかったのに)」

メアリ様が少々ひきつった笑顔でアラン様の脇腹をこつく。

アラン様は苦笑する。

「お兄様、残念でした。ジオルド様、あの勝ち方はずるいです。」

「ソフィア、まともに戦っていたら負けていたかもしれないのですよ。仕方ないでしょう。」

「まあ、今回は仕方ない。作戦負けだ。あの魔法を打たせないようにするしかない。」

「そうですね。お兄様の実力が素晴らしいからジオルド様が脅威に感じたということで納得します。」

ソフィア様らしい兄びいきだ。ニコル様の実力がすばらしいからこそソフィア様の兄びいきはほほえましい。

こうして全種目終了した。

全種目の点数は下記の通りとなった。個人競技入賞は3位まで。

メアリ様が総なめだ。

 

フォーリングディスク 水4 火3 風2    MVPメアリ・ハント

フライングステッキ  水4 風3 火2    MVPメアリ・ハント

クロスカナル     土4 水3 風2 火1 MVPキース・クラエス

ワンダリングコリダー 水4 火3 風2 土1 MVPアラン・スチュアート  

カルナックブレイク  火4 水3 土2 風1 MVPジオルド・スチュアート

「総合点を計算します。水魔法科18点、火魔法科13、風魔法科10、土魔法科7で水魔法科優勝です。」

メアリ様、キース様、アラン様、ジオルド様がそれぞれの種目で表彰台に上がってメダルを受けていた。

 

こうして魔法競技祭、四元素戦は終わった。四元素戦の後は社交ダンスの時間があり、それぞれの恋人たちが踊る。わたしは、カタリナ様のほか気心知れた生徒会の皆さまと踊った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 期末試験はダンジョン探索

さて、一週間後は期末試験だ。実技試験はダンジョン探索で、大魔法使いがトラップを仕掛けたダンジョンで魔法の石を持ち帰る課題が課せられた。

わたしは、アラン様、メアリ様と組むことになった。

「カタリナ様、だいじょうぶかしら。」

メアリ様は心配顔だ。

「ジオルドもいるし、大丈夫だろう。」

「それが心配なのですわ。」

わたしは、苦笑するしかない。

「さて二人とも行こう。」

「「はい。」」

ところどころ明かりが設けられているとはいえ薄暗い通路だ。四科戦のワンダリングコリダーに雰囲気はよく似ているが、無人でどこに罠があるかがわからないのが大きな違いだ。

「あら?」

メアリ様が石のようなものに躓いた。

「どうした?」

「なにかつまづいたようで...」

とメアリ様がいいかけたとき、ごろごろと石が転がってくるような音。

「!!」

「近づいてくるぞ!」

通路の奥がだんだん黒ずんでおおきくなっていくとともに岩が転がる音が近づいてくる。

「アラン様!メアリ様!こっちに通路があります。」

岩は、わたしたちが避難した通路の前を6~7秒後に横切って転がっていった。

「ふう、助かりましたわ。」

「間一髪だったな。」

わたしたちはしばらく歩いていく。

前のほうの通路がいやに明るく光っている。近づくにつれて熱くなってくる。

「なんだ?」

「火が燃えさかっています。」

「これを通れってことか」

「そのようですわね。」

「メアリ、行くぞ」

アラン様が呼び掛けてメアリ様がうなづく。

「フロッド!」

洪水が火を吹き消す。

しかし、消した火の中から1mくらいの小型の真っ赤なドラゴンのようなワニのような生き物が4匹現れ、威嚇してきて火を吐いてくる。サラマンダー・インファントというらしい。

「フロッド!トーレント!」

サラマンダー・インファントは洪水にもまれて死ぬものの、水はじわじわと引いていき、その遺体はたちまち炎に包まれる。

「トーレント!」

「ブリザード!」

「アイス・ヴォルテックス!」

通路が凍らされ白っぽくなって冷やされた感じだが、壁が濡れてきて、黒ずんでくる。天井からはぬるま湯の雫がしたたり落ちはじめた。また熱くなりそうな気配だ。

「今のうちに通るぞ」

「「はい。」」

わたしたちは、燃え盛る通路だった場所を安全に通過することができた。

「!!」

しばらく歩いていく。数分後たまたまアラン様が触れた壁がへこんだような気がしたと思ったら10数本はあろうか、ひゅうひゅうと音をたてて火矢が飛んでくる。

「「ウォーター・ボール!」」

アラン様とメアリ様が火矢を消していく。

わたしたちはまたしばらく歩いていく。

通路の先の右の壁の一部からぼんやりと光が漏れている感じだ。近づいていくと通路か部屋が分岐しているように思われた。

わたしは、その部屋をみるとなんと机のような台の上に小さな燭台に雫状の赤い宝石があるのが見えた。

「メアリ様、アラン様、あれは?」

「魔力を宿す石ですわ」

「これで持ち帰れば合格ですね。」

メアリ様が燭台から「宝石」を取り上げた瞬間、「宝石」はたちまちくすんだかと思うと砂のように崩れ、床が少しづつ揺れ始める。アラン様が異変に気付き、

「二人とも走れ」

と叫んだかと思うと揺れはますます激しくなって床が崩れ始める。

やや遅れたメアリ様が床にうずまりそうになるのをアラン様が飛び出して救い上げる。

「わたしとしたことが...。」

メアリ様がおっしゃる。

「すみませんでした。わたしが...。」

「いいえ、あれはだれがどう見てもそう感じますわ。」

「そうだ、気にするな」

「しかし、ほんとうに危険なテストなんですね。」

「ああ、パーティを組ませるとか上級生に見張らせるとか安全はある程度は考えているんだろうが油断ならないな。訓練の意味があるとはいえこんな危険な場所に学生を放り込むとは...。さて歩くぞ」「??」

 

しばらくいくと行き先に何人か集まっているようだ。

近づくにつれてそれが見知った顔であるのに気が付く。

「何か集まってるな...。」

「ニコル様ですね。」

「ジオルド様たちのパーティですわ。」

ニコル様とジオルド様のパーティが何やら話し合っている。

「何かあったのか?」

「火矢などの罠に対処していたらカタリナが行方不明になってしまって、ニコルにあったので出会っていないかきいていたのです。」

「俺もあってはいない。」

「義姉さん、どこへいってしまったんだろう。」

「私、すごく嫌な予感がするのです。今朝の悲しい夢に関係あるような..内容はほとんど覚えていないのですがカタリナ様がいなくなるような夢なんです。」

「どこに行ってしまわれたのですか...カタリナ様あ~~~」

メアリ様が叫び、ダンジョンの廊下に声が響く。

はっとニコル様が気が付く。

「そうか...カタリナの声を拾う。」

「どうするのですか?」

「!風の魔力か」

「そうだ。風の魔力で音を拾うことができる。どの方向にいるかわかるはずだ。」

ニコル様が両腕を開き、目を閉じ小声で詠唱をはじめる。

竜巻のような風が起こる。ホィール・ウィンドだ。

「私も手伝います。」

ソフィア様も静かに詠唱をすると二人分のホィール・ウィンドが大きくなる。

そのときだった。ニコル様が何かに気が付いたようだ。ソフィア様も一斉に同じ単語をつぶやく。

「「キノコ」」

「キノコってなんだ?」

「義姉さん、まさかキノコを...」

「確かにカタリナの声だ。方角もわかった。むこうだ。」

わたしたちは、ダンジョンを下の方へ下っていく。

最初にカタリナ様を見つけたのはソフィア様のようで、二人がダンジョン中央の円形広間最下層にいた。カタリナ様が落ちそうになっているところを助けようとしたらつむじ風が起こって上層から陥落しないですんだのだという。

「とにかく無事でよかったな。」

「今年はこんなに危険な目にあったんだからちょっと試験内容を見直すよう教師方に話そうか?」

わたしは、光るものにきがついた。

「あの...光るものはなんですか?」

「あ、あれこそ魔力を宿す石ですわ」

「発見できたのか?どうしてこんなところに」

「ああ、あれはキノコをとろうとおもってナイフ代わりに使ったのよ。結局これしか採れなかったけど...」

ドレスから取り出して見せたそれは紫色の毒々しいものだった。

「義姉さん...。」

「お前なあ...。」

アラン様が笑い出す。

「カタリナ様らしいですわ。」

メアリ様もほほえむ。

「カタリナらしいですね。」

ジオルド様も笑みを浮かべた。

わたしも皆さんに合わせて苦笑が浮かぶ。とにかくカタリナ様とソフィア様が無事でよかった。

ちなみにメアリ様は庭師に、カタリナ様も庭師のトムさんに件のキノコについて聞いたところ二人とも口をそろえて「毒じゃ。死にはせんが、1個食ったら当日は下痢で、たくさん食ったら3日くらい寝込むぞ」

と言ったという。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 卒業パーティ用ドレス・ショッピング

さて一方は、期末の学科試験、学力テストだ。またジオルド様が1位だ。しかも今度は満点だ。

「ジオルド様、すごいですわ。今度も一位、しかも満点じゃないですか」

「手を抜く必要を感じませんでしたから。」

さらっというが、ちらりとわたしを見る。

カタリナ様がにやりと笑う。

「ほんとはどうなんですか?」

「ほんとってなんのことですか?」

「手を抜かなかったんじゃなくて、手を抜けなかったんじゃないかってことです。」

後で聞いた話だが、こういう時のカタリナって鋭いですと溜息をついてジオルド様が話してくれた。確かにカタリナ様は、わたしの気持ちも見破っていたこともこの話の直後に知ることになる。

「それは、ジェフリー兄さんもスザンナ様に中間試験でトップを取られた時は期末で取り返して生徒会長になったし、イアン兄さんも一位でしたから、僕だけがトップでなくなるのは王族としてもまずいとおもったからです。」

「「王族としてもまずい」ですか?「王族として」?」

カタリナ様の目がきらりと光った。

「わかりました。ここで僕が負けたらマリアさんがまた嫉妬の対象になるからということも考えなくはなくて、手を抜けなかったんです。彼女は努力家で皆の大切な友人で、カタリナの大切な友人ですから。」

「マリアは単純にジオルド様はすごい、わたしも負けないようにしなければって努力してたんでしょう?二人とも中間試験よりも点数が高いうえに肉薄してるもの」

「はい、そうです。」

わたしは、顔を赤くしてもじもじとしてしまった。

カタリナ様の前世では、この試験結果も「ふぉーちゅん・らばー」という世界で、わたしとジオルド様がむすばれる「いべんと」の一つらしい。

 

期末試験が終わったら一週間後にニコル様の卒業式。わたしは、大変な悩みがあった。卒業パーティに着ていくドレスがないのだ。せっかく生徒会の皆様と仲良くさせていただいているのに行けないのはつらかったが皆様に恥をかかせるわけにいかない。

三日前、カタリナ様、メアリ様、ソフィア様と食堂で昼食をいただいているとき思わずため息がでてしまった。

「マリア、どうしたの?」

「マリアさん、元気がないですわね」

「心配事でもあるのですか?」

「実は、卒業パーティに出たいのですが出れないのです。恥ずかしながら着ていくドレスが...。」

皆さんは、顔を一瞬見合わせ、数秒後にうなずくと

「今度ドレスを皆で買いに行きましょうか?」とカタリナ様が口火を切った。

「よろしいですわね。わたしもアクセサリーを欲しいと思っていましたし。」

「私も、最近読んだロマンス小説の令嬢のようなドレスを選びたいと思っていたところです。」

「マリア~、予定決めるからみんなと一緒に行こう。」

カタリナ様と、メアリ様、ソフィア様は、だいじょうぶだ、一緒に行こうとうなづいている。カタリナ様の顔が迫ってくる。

「カタリナ様、近いです。」

「ごめん、ごめん」

カタリナ様は笑顔で謝ってきた。

 

後で聞いたのだがあのあと、キース様、アラン様、ニコル様、ジオルド様に相談したようだ。二コル様は、「平民が魔法学園に入学することはまずないから、奨学金制度はあるが、卒業パーティのドレスまでは予算で出すわけにいかないなぁ。しかしそのくらいの配慮があってもいいなぁ。人数多いわけじゃないし。」とぼやいたそうだ。

「ただそれだと貴族令嬢たちに嫉妬を買うからなくても仕方ないと思いますわ。お兄様。それよりもみんなでプレゼントするほうがたのしいです。」

「ソフィアの言うように、マリアの学園での思い出になるようにみんなで出し合った方がいいと思うの。みんなのプレゼントということであれば負担を感じないで受け取ることができると思う。」

「賛成ですわ。だからこうしてマリアさんのいない時間で相談しているのですから。」

「王族として責任感じますね。わたしが全額だしましょうか。」

「おれとジオルドで折半するか?」

「それだとマリアさんがジオルド様とアラン様に負担を感じてしまいますわ。この場合

特定の方に恩を感じるのではなくて、学園での思い出のプレゼントと感じられることが重要なのですわ。」

「そうだな、これは金額の問題じゃなくて気持ちの問題だからマリアが気兼ねなく受け取れる工夫が大事だな。」

「わかりました。皆さんこの金額にしましょう。これなら彼女にふさわしい最高のドレスが買えるはずです。」

 

翌日の放課後、

「マリア~、ドレス選びに行くわよ。」

皆さんに連れられて行ったのは、リーゼロッテ商会というお店だ。

「いらっしゃいませ」

店員さんから上品にお声がけいただく。

「ここよ、ここ、買い物してみたいと思っていたのよね。」

「品揃え豊富ですわね。わたしでも目うつりします。」

「こんなにドレスそろっているところはじめてみました。」

「マリアなら何着ても似合うと思うけど、やっぱり品ぞろえ豊富なところで選ぶのが楽しいかなって」

「乙女心がくすぐられます。」

「さすがカタリナ様です。マリアさん、さっそく選びましょう。」

「ありがとうございます。カタリナ様、生徒会の皆さん。」

一瞬皆さんの肩が震えた気がした。バレテーラっていう感じの反応。「マリアのドレスを選び隊」を結成していてくれていたのだろう。大親友のカタリナ様、メアリ様、ソフィア様はいわば実行部隊だ。

「マリアさんに学園生活でのいい思い出をつくってほしいからですわ。」

メアリ様がドヤ顔でいいつくろうけれど、これほど真心と誠意のこもったドヤ顔はないだろう。

「ねえねえ、このお菓子の家の文様のドレスとかどうかしら。マリアはお菓子作りが得意だし。」

「カタリナ様がそうおっしゃるのなら...。」

メアリ様はため息をつかれた。その視線がカタリナ様とわたしを見比べてちょっぴりあきれたようなものになる。

(だめだこの子は...)という感じ。

「カタリナ様、卒業パーティは、フォーマルな場です。場違いなドレスでは、マリアさんが悪目立ちしてしまいますわ。」(カタリナ様、思い出してください。)

「わたしも、そう思います。おもしろいとは思いますがロマンス小説的にも、ここはフォーマルなかんじのものがいいです。」

「う~ん、それじゃあ、この花柄のドレスはどうかしら。」

赤いバラや黄色いひまわりや様々な色の花が咲き誇っている感じのドレス。

「悪くはないと思いますが、マリアさんの髪は美しい金髪ですので、色合いがけんかしている感じが余計目立つ感じがします。もっと控えめな色がいいかもしれません。」

「そうですね。」(またしょうもない令嬢たちの標的にされても)

「確かに...わたしには派手かもしれませんし、あまり目立つと...。」

カタリナ様は、「そうね。いわれてみればそうかも。」(めんどくさ~)

「よく見ると「しょうわじだいのまほうびん」のようね。ほかのにしましょうか」

何の暗号だろう...

 

「この白とピンクのドレスはどうでしょうか?色が淡くて、上品で、かわいい花がアクセントになってます。清楚かつひかえめで主張しないところがマリアさんに似合うと思うのですが」

「ほんとそうね。上品ですてきだわ。どう、マリア?試着してみる?」

「そうですね。わたしも、とっても気に入りました。試着してみます。」

試着室からでてきたわたしをみて、メアリ様、カタリナ様、ソフィア様の顔が輝き、うっとりする。

「すてきですわ。」

「よく似合ってます。」

「ほんとここまで似合ってるなんて。」

「控えめで、すずらんのように清楚です。」

ソフィア様が顔を赤らめている。

「ソフィア、ロマンス小説のお姫様をおもいうかべてるんでしょう?」

「そうです。でもカタリナ様やメアリ様だって...」

「えっと、わたしたちは、ねえ...」

「確かに好きですが、ソフィア様のように具体的なタイトルが浮かぶわけではないですから。でもマリアさんほんとに素敵ですわ。よく似合ってます。今日来てよかったですわ。」

「ということで、生徒会のみんなとわたしからのプレゼント。みんなからの感謝の気持ちよ、マリア。」

「ありがとうございます。うれしくて...。」

わたしは涙がこぼれた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 ニコル様の卒業式と卒業パーティ

ドレスを選んで二日後、上級生を送る卒業式だ。ニコル様が卒業生代表のあいさつをされる。老若男女問わず顔を赤らめ、ため息が漏れる。カタリナ様がおっしゃるように、魔性の魅力が発揮されているというところだろう。どうやらわたしは、カタリナ様のいうところの「いけめん」耐性があるようで、わたしはニコル様の魅力よりも、あいさつの内容が在校生への思いやりや激励、これから宰相の息子として精進する決意が朗々と語られるのに聞きほれた。さすがニコル様と思ってお聞きしていた。ニコル様がわたしを必要とされるなら結婚してもいいくらいには素敵な方だとは思うがそれだけだ。それは在校生代表のジオルド様にも言える。わたしを守るために一位をとったという話には、正直心を動かされた。しかしジオルド様はカタリナ様がお好きだし、わたしもカタリナ様をお慕いしているのでどうも恋愛、結婚を考える相手には考えにくい。そんなことを考えているうちにジオルド様のあいさつが始まった。たくさんの女の子がほおを赤らめてためいきをついている。ジオルド様のあいさつも卒業生へ敬意や感謝、これから学園の生徒たちを引っ張っていく決意や学問、魔法、武道へ一層精進する決意が語られた。すばらしいあいさつだった。

式は終了して、学園の敷地内でもパーティ可能な大きな中庭で、立食形式の卒業パーティになる。

「マリア~」とカタリナ様が声をかけてくださる。「はい。いきましょう。」

最初にニコル様の所へ向かう。あいさつは短めにしてください、との学園事務の方の呼びかけで人だかりがあるものの、それほど待たずにお会いすることができた。すでにわきにある台の上までたくさんの花束。さすが人気者だ。わたしは、用意してきた花束をわたす。わたしを象徴するのがかすみ草やすずらんだという話なのでそれは必ず入っている。カタリナ様は、ほれぼれするようにコメントする。

「素敵ね~マリアらしい。すばらしい花束だわ。」

「ニコル様、在校生への激励、将来への決意、あいさつ素晴らしかったです。」

「ありがとう。マリアさんにほめられてほっとしたよ。」

「「え?どうしてですか?」」カタリナ様と、ハモった。

「あいさつしているのに、なぜかため息ついたり、ほおを赤らめたりしている人が多かったから。内容をしっかり聞いている人にほめられたからね。」

カタリナ様は、確かに~と言って苦笑し、

「ニコル様、これはわたしからです。」

となにやら束をお渡しになった。これは、丹精込めて作った野菜だ。カタリナ様らしいと感じた。ニコル様はかたまってしまった。ああ、そうか、卒業パーティに渡すものとしてはまずかったんだな、と私は感じた。カタリナ様の心がこもっているのは間違いないのに...

そこへアラン様が来た。ニコル様の手元をみて

「なんだ、これは?草か?」

その声を聴いてジオルド様やキース様もよってくる。

「失礼な!草じゃありません。野菜です。」

「野菜?」

アラン様がニコル様の手元にあるたばをいぶかしげな目で見ると、ニコル様は、手元のたばを確認する。

「花束ばかりもらっても困ると思って畑で取れた野菜を包んだのです。花は飾っても時間がたてばしおれるので捨てるしかないですが、これなら捨てずに食べることができますから。」

「って、どう見ても草だろこれ....っていうか野菜束って...。」

アラン様は爆笑した。

ニコル様はほほえんだ。

「カタリナが丹精込めて作った野菜なんだな。ありがとう。大切に食べるよ。」

「新鮮でおいしそうです。」

ジオルド様は、うつむいて肩を震わせている。どう考えても笑いをこらえているそれだ。

キース様からは、義姉さん...といいたげなあきれた視線がみてとれた。

 

「さて、ジオルド行くぞ」

「例の演奏ですね。」

「ああ」

舞台へアラン様とジオルド様が上がる。

「ここで卒業する先輩方へのサプライズで、俺たちが演奏します。」

お二人はバイオリンデュオを始めた。

「この曲って、先日二人に聞かれたわ。どんな曲が聞きたいかって」

なるほど、皆さんカタリナ様に夢中だからな。

「わたしも今日はずっとカタリナ様と一緒でうれしいです。」

と話すが、なにやらカタリナ様は焦れている様子だ。

何をお考えなんだろう。

「ねえ、マリア、あなたは好きな人はいないの?」

とお聞きになる。わたしは驚いてしまった。わたしの好きな方はきまっている。

ほおがほてっている。

「わたしは、カタリナ様をお慕いしております。」

と答えるのだが、カタリナ様は、納得できないと言いたげな表情だ。

「あの、マリア、それはそれでうれしいんだけど、気になったり、お付き合いしたいと思うような男性はいないの?」

と聞き返された。

「気になったり、お付き合いしたいと思うような...男性...ですか....。」

わたしは考え込んでしまう。生徒会でお会いした男性の方々は身分、人格、能力、容姿、財力どれをとってもソルシェでは最高位の方々ばかりだ。しかしだからといって積極的に気になったり、お付き合いしたいとは思わない。

「...う~ん...いないですね。」

「へ?」

カタリナ様が奇妙な声をされる。

「わたしには、気になったり、お付き合いしたいと思うような男性はいません。わたしが気になるののも、お慕いしているのもカタリナ様なのです。」

わたしは、カタリナ様の手を取った。

「ですからこれからもカタリナ様のそばにいさせてください。」

というや否やどこからともなくメアリ様がとんできた。

「マリアさん、ぬけがけはいけませんわ。わたしもカタリナ様とずっといっしょですわ。」

わたしからカタリナ様の手を抜き取って微笑まれる、

「私もです、私も。カタリナ様、ずっとずっとそばにいさせてください。」

今度はソフィア様がカタリナ様の手にご自分の手をのせられる。ソフィア様のそばにはもちろんニコル様がいらっしゃって「ならば俺も許される限りともに」とつぶやかれる。キース様に、演奏を終えたジオルド様、アラン様もいらっしゃる。ジオルド様がカタリナは僕の婚約者だと言えば、義姉に王妃はつとまらないし、わたなさい、とキース様はおっしゃる。

「卒業パーティをこれにて終了します。」

学園事務の方のアナウンスがなされ、生徒たちは、帰宅する者、別れを惜しんで場所を移す者さまざまに散会していった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 ニコル様のお別れお茶会、学園祭(その1,キャンベル菓子店の企画書)

「生徒会室へ行きましょう。」

ジオルド様がおっしゃり、わたしたちは生徒会室へ移動する。

ニコル様とのささやかなお別れお茶会だ。

「今年は会長のシリウスがやむにやまれぬ事情で学園をやめることになったが、皆が生徒会をささえてくれてここまで来れた。感謝している。新会長のジオルド、副会長のキャンベル嬢とともに生徒会を、学園をもりたてていってほしい。」

「ニコル様、2年間お疲れさまでした。」「お疲れさまでした。」

「皆さん、召し上がりましょう。」

「カタリナ様、こちらもどうぞ召し上がってください。」

お母さんと考えた新レシピのお菓子だ。ふわふわのスポンジケーキの上にシロップをかけている。甘さも納得いくまで調整した自信作だ。

「うわあ、今日のも一段とおいしそうね。初めて見るお菓子だけどこれもマリアの手作り?」

「はい、新しく考えたのです。母と一緒に」

「まぁ、お母さまと?」

「はい。カタリナ様が私の作ったお菓子を喜んで召し上がってくださると話したら、カタリナ様は貴族令嬢だからおいしいものをたくさん召し上がっているはず、いつのおなじものだとあきてしまわれるのではないかと、一緒に新しいレシピを考えたのです。」

「そうなんだ。マリアのお菓子に飽きる日が来るとは絶対ないと思うけど、それでもうれしいわ。ありがとう。お母さまにもぜひお礼を言っておいて」

「はい、母にも伝えておきます。」

「なんか普段よりも少ない気がするわね。」

「義姉さん、ニコル様のお疲れ様会なんだよ。ただでさえ卒業パーティの時も結構食べていたでしょう。」

「カタリナ、そんなに一気に食べるとおなか壊しますよ。」

「お前はあるだけ食べちゃうからな。」

カタリナ様が食べ過ぎないように、わたしのお菓子をすこしでもほかのメンバーが食べれるようにとりわけ分を隠しているのは公然の秘密だ。カタリナ様、ごめんなさい、あなたが食べ過ぎないためなのです。

 

「カタリナ様、こちらのお茶もどうぞ」

メアリ様が差し出す。ナイスフォローです、メアリ様。

カタリナ様は、口にお茶をふくんだとたん何かに気が付いたようだ。

「このお茶...。」

そう、ラファエル前会長が入れた紅茶。

「メアリ、いつの間に会長のお茶の淹れ方を習得したの?」

「いえ、その淹れ方はおいそれと習得できるものではありませんわ。」

「お入りください。」

ジオルド様が声をかけると赤毛でグレーの瞳の好青年が入ってくる。

「かいちょう!」

「お前を驚かせるためにだまっておいた。」

アラン様が茶目っ気気味にカタリナ様に話しかける。

「もう生徒会長ではありませんが、僕をこうして呼んでくださってありがとうございます。」

「いえ、あんな不幸なことがあっただけなので...お疲れ様でした。これは私たちの気持ちです。」メアリ様をはじめ生徒会メンバーは花束をラファエル様に渡す。

「これはわたしからです。」

カタリナ様は、野菜束をわたし、ラファエル様も一瞬固まっていた。

「丹精込めた野菜です。」

と付け加える。

「ありがとう。もう一杯召し上がりますか?」

「ぜひ」

「わかりました。どうぞ、カタリナさん」

「いつものようにやさしい味ですね。ありがとうございます。」

紅茶を飲み終わるタイミングでソフィア様がカタリナ様に話しかける。

ニコル様のお疲れ様会のはずなのに「カタリナ様の食べ過ぎ防止し隊」になっている。

「カタリナ様、最近新しい小説のシリーズを買いましたの。とってもいいお話なのでぜひまた一緒に読みましょう。」

ソフィア様の小説のお話を聞いているとわたしもメアリ様も読みたくなって貸してもらうことになった。

「カタリナ、卒業したらまたしばらく会えなくなるが、妹を頼む。」

「こちらこそよろしくお願いします。」

「お兄様、いつでも訪ねてきてください。また1年も蚊帳の外では他の方に後れを取りますから」

お兄様大好きなソフィア様だ。

「カタリナ様、次の春は、畑では何を育てる予定ですか。」

メアリ様、絶妙なフォローです。カタリナ様の頭は畑のことでいっぱいになるでしょう。

「そうね~何を育てましょうか。ナス、トマト、にんじん、かぼちゃ、つくったしなぁ」

「今年もお手伝いしますよ。そのままデザートにできるメロン、キウイとか、そのまま食べられるキュウリとか....このあいだキャベツとかハクサイとかノザワナとかおっしゃっていましたね。」

「そうよそうよ、「ツケモノ」おいしいんだから。」

「「ツケモノ」?」

「あ~、そうか、この世界は「よーろっぱ」っぽいから、「にほん」の味はだめなのかな...。」

「その「ツケモノ」とやらいただいてみたいのですが?」

「わたしもです。カタリナ様」

メアリ様に続いてソフィア様も目を輝かせる。

「塩味、酸っぱさ、辛みが絶妙なのよ。」

「そうなんですか?わたしもいただいてみたいです。」

「じゃあみんなで育てましょう。メアリ、よろしくね。」

「はい、カタリナ様。たのしみですわ。」

「お前、畑もいいが、その頭の被り物なんとかならないか?農民のおばちゃんだぞ」

「花柄がいいかもしれないですわ、カタリナ様」

「わたしもそう思います。」

わたしたちは、もうすぐ2年生で上級生になる。ジオルド様が新生徒会長で、わたしが副会長だ。来年度も楽しみだし、どんな後輩がはいってくるのか楽しみだ。

 

さて、新学期になって2年に一度の大きな行事学園祭がある。新体制の生徒会初めての大仕事だ。グループごとに出しものの企画を持っていく。カタリナ様は野菜を売ろうとしたが、メイドのアンさんやジオルド様、キース様におもいとどまるよう止められていた。

困っていたカタリナ様に私は声をかける。

「カタリナ様、お野菜のことですか?」

「そうなの。この機会に食べてもらおうと思ったのに。」

「そのお野菜、わたしのお菓子に使わせてもらえませんか?」

にんじんは、キャロットクッキー、キャロットマフィンに使える。カボチャは、パンプキンパイやパンプキンタルトにできる。

「ありがとう、マリア。やさしいのね。」

「そうとなれば、カタリナ様、企画書です。これをちゃんと書かないと通りませんよ。」

わたしは、カタリナ様の希望を文書にまとめる。受け入れられにくいと思った考え方は、こう直しますのでとカタリナ様と話し合って企画書を練り上げる。

 

「ジオルド様、企画書です。」

「クラエス花壇の野菜を使ったパティスリー・キャンベルお菓子店?」

「はい。」

「う~ん、この学園は貴族が多いのでこういったものを売るのは...。」

「ジオルド様、マリアのお菓子はふだん召し上がってどうですか...。」

「確かにおいしいです。」

「生徒会のみんなも認めているじゃないですか。」

カタリナ様はここぞと力説する。

「そうですね...。」

わたしは、カタリナ様といっしょにジオルド様をみつめる。半泣き落とし作戦だ。

ジオルド様もついに折れた。

「マリアのお菓子はおいしいですし、どの家の菓子職人にも負けないと思います。それに野菜そのものを売るわけではないですからいいことにしましょう。それからこの企画書、表題を「パティスリー・キャンベル菓子店」ということで直してください。あくまでもマリアさんのお菓子だということを強調します。」

それでは、カタリナ様の名前が消えてしまう。

「せめて「クラエス家御用達パティスリー・キャンベル菓子店」ということにしてください。」

「わかりました。」

「「ありがとうございます。」」

しかし実はこれからが苦闘のはじまりだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話 学園祭(その2、お菓子店と生徒会劇の準備)

「パテイスリー・キャンベル菓子店」を開くために思わぬ関門があった。

カタリナ様は木登りが得意とか普通の公爵令嬢にはない特技を持っている方だが、やはり直接厨房に立ったことはないのは、普通の公爵令嬢と同じだ。当たり前と言えば当たり前だが、料理に慣れていらっしゃらない。クッキーを焼こうとしたら火の加減を強くしすぎてしまう。私が昔やった失敗だ。また長い時間焼きすぎたり、充分でない時間で取り出してしまったり。

わたしが、お母さんに頼らずに昔学校へもっていくお菓子を作って失敗した時のようだ。その苦労が分かる私は、「初めてだから仕方ないですね。」とおなぐさめするしかない。しかし、厨房の方はコンロなど器具を傷めることにつながるので、「クラエス嬢をどなたかひきとってください。」ということになってカタリナ様は厨房にはいれなくなり、わたしが全て作ることになった。

今度は、カタリナ様は包装しようとするが、公爵令嬢がふだん包装なんてやらないので何回もやりなおしをされる。袋が破れることもある。わたしも慣れるまで包装の仕方には苦労した。「初めてだから仕方ないですね。」とおなぐさめするしかない。カタリナ様は、「マリアはやさしいのね。」とおっしゃるが、わたし自身苦労してきたし、慣れないことをされているので仕方ないと本気で思っているのだ。でも見かねたジオルド様から「材料を無駄にしてきたし、包装袋が無駄になるからカタリナは別の仕事をしてください。」と注意を受け、カタリナ様はそれでは試食をということになった。しかし、いやな予感が的中する。カタリナ様はわたしのお菓子が大好きなのだ。おいしい、おいしいと食べまくってしまう。やめられない~止まらない~マリアのお菓子♪とか歌いだし始めるに及び、アラン様が蒼くなり、「お前全部食べちゃう気か!それじゃあ開店できなくなってマリアが困るじゃないか!」とお菓子を取り上げた。調理や包装の失敗は無駄にはなるが同情の余地はある。しかしさすがに試食のはずがやめられない止まらないで開店できなくなるのは困る。見かねたキース様が、「義姉さんは、マリアさんのお菓子がおいしいことをよく知ってるんだからお店の宣伝をしたら」と言ってくださった。

さすがに試食で食べきってしまわれたらお店が開店できない。わたしが申し上げる前に気が付いてくださったアラン様とキース様にお礼を言った。

「平民であるマリアが、公爵令嬢のカタリナに抗議したとか変な風に伝わったらまたマリアがいじめられるネタになるからな。」王族でいらっしゃるがゆえのご配慮だ。

「義姉さんが迷惑かけてごめんね。」こちらは家族としての謝罪だ。

「クラエス家御用達パティスリー・キャンベル菓子店」は、カタリナ様がチラシをつくって宣伝し、試食用を置いて満足いただけたら買っていただくことにしたら、口コミで伝わってどんどん売れるようになった。

さて一方で、この学園祭では、わたしは、菓子店のほかに大事な出しものの担当というか配役になっている。

生徒会メンバーは、美男美女の集まりなので人気があるのだ。ジオルド様が人寄せのために分散配置の指示をしたが、そのほかに生徒会劇をやってほしいとの要望が多く寄せられたため、ジオルド様が「これは無視できないですね」といってソフィア様が

「それではわたしがシナリオを作ります。」と手を挙げた。

世紀のラブロマンスをつくるんだと、かなり試行錯誤してつくったのは、子どももよく知っている童話を上手に膨らませた素晴らしいシナリオだった。

はじめはメアリ様、ソフィア様と一緒にカタリナ様にも声をかけたが、「木や石の役ならやります」「力仕事ならやります」「生徒会メンバーではないし」と断られた。

「一夜限りのプリンセス」と題された劇の配役は、ジオルド様が王子様になったのは順当だった。さて主人公だ。

「主人公はだれにしましょうか?」

「わたしは、マリアさんがいいとおもいますわ。」

とメアリ様。するとソフィア様もほほえんで

「実は、わたしはマリアさんを想定してこのシナリオを書いたのです。」

「え?どうしてですか?」

「この主人公って、末娘で、だれにでも優しくて努力家で苦労して苦労して王子様とむすばれるじゃないですか。平民から魔法学園で努力して生徒会にはいったマリアさんにだぶるんです。」

「わたしもそう考えて...。」

「なるほど....でも農作業好きなのはカタリナとだぶる気が...。」

「今はカタリナ様のことは考えないことにしていますから。」

なにかメアリ様とソフィア様が怖いオーラを出している。

後で聞いたのだが、(劇とはいえ、ジオルド様にカタリナ様を近づけるわけにはいかないわ。)ということらしい。まあそんなことだろうと予想はしていたが。

「あの、それでは、植物を育てることが上手なメアリ様がいいのではないでしょうか?主人公の名前もマリアンヌでメアリ様のお名前と語源的に近縁な名前ですし、無理にわたしにしなくても...わたしと違って侯爵令嬢で、末っ子ですし...。」

するとジオルド様とメアリ様のあいだに黒い雰囲気がたちこめる。

いくら劇でもこの相手とは無理だ、と二人の空気が語っている。

わたしはしまったと感じる。

「し、失礼しました。」

「マリアさん、納得いただけましたか。いちばんマリアさんがやるのがまるくおさまるのです。」

「令嬢たちのいじめもへってきたろ。なにかあったら俺たちが守るから。」

アラン様がそうおっしゃってメアリ様もうなづく。

「わかりました。引き受けます。」

生徒会の皆さんのおかげで令嬢たちに絡まれるのはなくなったかわりにわたしの素性が学園内に伝わってわたしに好意的な方々もじわじわ増えてきていた。生徒会の皆さんのおかげもあってわたしやカタリナ様に対して悪意を向ける方々があの食堂の事件以来肩身を狭くしてわたしやカタリナ様に対してはスルーするようになってきていたので、目立つ役でも大丈夫だろうと引き受けた。村人はキース様、継母役はメアリ様になった。伴奏の担当はアラン様、ニコル様は魅力的過ぎて観劇者がメロメロになる可能性があるということで外された。そのため、生徒会メンバーでは足りなくなるので、義姉役は、わたしとカタリナ様のお知り合いから特別にシェナ・ネルソン様に来ていただいた。シェナ様は、以前ほかの令嬢たちとわたしを中傷したこともあるお方だが、カタリナ様とお話したり、わたしと図書館で出くわして課題を一緒にやる機会などあって、わたしのことを認めてくださった方だ。

「う~ん、劇とはいえまたマリアさんをイジメる役はトラウマなのですが...。」とおっしゃっていたが、ほかにお願いできそうな方に心当たりがなかったので、生徒会ぐるみでお願いした。

お菓子店の準備に生徒会の仕事、劇の練習と忙しい日々が続く。

ジオルド様とペアで演技することもあった。

学園祭の前日までに練習は一通り終わって仕上げることができた。あとは本番を待つだけだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話 学園祭(その3 キャンベル菓子店の店番)

さて学園祭が始まると、昼間は「クラエス家御用達パティスリー・キャンベル菓子店」の店番だ。ソフィア様、カタリナ様、メアリ様、わたしのクラスメートや愛好会の皆さま、わたしに声をかけてくださった貴族の令息の方々などが買われていって、みるみる棚の菓子の包みがなくなっていく。大繁盛だった。

「マリアさん。」

と店頭で声をかけられ、ふとみると赤い髪に灰色の瞳の見覚えのある好青年がいる。

元生徒会長のラファエル様だった。

「ラファエル様、お久しぶりです。」

「売れているかな。マリアさんのお菓子は折り紙付きだからね。」

「はい。ありがたいことに多くの方に買ってくださって残り少ないです。」

「じゃあ、職場の分として7個いただこうかな。」

「はい。こちらになります。」

代金をいただく。あと2個になった。

「ラファエル様は、今日はどうなさったんですか?」

「一番下っ端だからね。魔法省勧誘の出店さ。生徒会メンバーは推薦で入れるけど、いつも入省してくれるとは限らないから優秀な人材が受験してくれるよう宣伝。」

「そうなんですか。」

「マリアさん、生徒会副会長で、光の魔力保持者という時点で推薦で魔法省にはいれるけどどうする?」

「早速勧誘ですか。そうですね~わたし、最初は、自分の街へ帰って静かに過ごそうかと考えていましたが、魔法学園で大切な方々と出会えたので、都に残って働きたい、貴族の方々と気兼ねなくお付き合いできる立場が欲しいと考えてきましたので入省したいと思います。それに光の魔力保持者ですからその意味でも先輩方が入省を期待してくださってると思いますので。」

「そうか、ありがとう。」

そんなところにカタリナ様がやってきた。

「マリア~ !?」

カタリナ様の表情がいぶかしげになる。ラファエル様に気が付いたようだ。

「ラファエル、お久しぶり。」

「お久しぶりです。カタリナ様」

「来てくれたんだ。」

「魔法省の出店ですよ。一番下っ端なものですから。」

ラファエル様が話している間にカタリナ様分をとりだす。

「カタリナ様、召し上がりたいだろうと思って取り分けておきました。」

「ありがとう。」

「わたしの作ったお菓子なんて売れるのかな...と思いましたがあと2つです。」

「おお、すごいわね。」

「カタリナ様が宣伝してくださったおかげです。」

「わたしが提案したんだから当り前よ。ほんとはもっと手伝いたかったんだけど....。」

「いえいえとんでもないです。」

「わたしは確かに宣伝はしたけど、宣伝しただけではこれほどの売り上げにはならなかったわ。マリアのお菓子が本当においしいから売れたのよ。」

「ありがとうございます。これまで試食という考え方がなかったのでそれがよかったんだと思います。」

「そういえば、マリアさんは魔法省への入省を決めたんだよね。」

「そうなの?マリア?」

「はい。学園を卒業した後、入省することに決めました。」

「でも、マリア、卒業したら家に帰って静かに暮らしたいと前言ってなかった?」

「確かに入学してからしばらくはそう思っていましたが、それではカタリナ様のそばにはいられませんから。」

「?」

「卒業式にもお話ししましたが、わたしは、カタリナ様のおそばにいたいのです。でもわたしはただの平民ですから公爵令嬢でいらっしゃるカタリナ様のおそばにいるにはそれなりの地位が必要です。幸いにもわたしは光の魔力保持者で、魔法学園生徒会メンバーという魔法省推薦枠にいますから、魔法省に入ることにしました。」

わたしは、カタリナ様と見つめあってしまう。

「二人の世界をつくっているところ申し訳ないのですが僕もいるんですけど...」

ラファエル様の声で我にかえってしまう。

「二人の世界だなんて...。」

カタリナ様とわたしは苦笑してしまう。

「しかし、マリアさんは光の魔力保持者で魔法学園生徒会メンバーだから希望しさえすれば入省できるとはいえ、皆の憧れの職場への入職動機がカタリナ様のそばにいたいからというのは、さすがというしかないね。」

ラファエル様が苦笑される。

「不純な動機だとはわかっていますが、入職するからには全力で職務を全うするつもりですのでよろしくお願いいたします。」

「うん、大切な人のそばにいたいというのは、それはそれでいいんじゃないかな。ただカタリナ様がジオルド様と結婚してお城に入ってしまったら、せっかく魔法省に入職しても会えなくなってしまうんじゃないかな。」

わたしは蒼くなってしまった。形ばかりの婚約だと聞いていたので、ないもののようにしか意識していなかったが...「そういえばカタリナ様は、ジオルド様の婚約者でしたね。」とつぶやいてしまう。

なぜかカタリナ様も蒼くなっている。

「なぜカタリナ様まで蒼くなってるのですか?」

ラファエル様がお尋ねになる。

「婚約しているから学園を卒業したらすぐに結婚...公爵令嬢さえせいいっぱいなのに王族だなんて...。」

「お城に入られてしまったら会えなくなってしまいますね。それはいやだわ。」

「それなら、カタリナ様も魔法省に入ってしまいますか?」

「えつ、そんなことできるの?魔法省に入れば結婚しなくていいの?」

「結婚がなしになることはありませんが、魔法省は貴族に対する逮捕権を持つなど国王に次ぐ権限を持つ機関です。それなりの地位を持った方が入省の根拠となる事実を持って推薦するなら入省が可能です。入省すれば無理にお城へ引っ張っていくようなことはなくなるでしょう。」

カタリナ様の目と顔が打算でくるくる変化している。

メアリ様が王族は大変だと吹き込んでいるようだから結婚は避けたいんだろう。ジオルド様にはかわいそうだがわたしもカタリナ様にはさっさと結婚してほしくないというのが本音だ。カタリナ様はわたしを認めてくださった大切な友人だ。

しかししばらくしてカタリナ様ははっと何かに気が付くとたちまち顔が曇った。

「あの、ラファエル、でも私の魔力って土ボコくらいしかつくれないし...。」

「ああ、たしかに魔力や魔法が強い人が多いですが、そうでない人もいるんですよ。入省試験に優秀な成績を収めるか、魔力が弱くても魔法学園で生徒会に入れる学力のある場合とか、そのほか魔力や魔法に強い興味関心があれば入れる場合もすくなくないですから。」

「やった!」

とカタリナ様は一瞬おっしゃるものの再び不安顔になる。

「とはいったものの、知り合いはラファエルだけだし、うちの両親はなんと言うか...。」

「大丈夫ですよ。推薦状は僕の上司が書いてくれます、カタリナ様は、僕の闇の魔力を解呪したでしょう。だから僕の上司が注目しているんですよ。」

「えっ...わたしを知っているの?」

「ええ、そのうち学園にもあいさつにいらっしゃるのではないでしょうか。」

わたしはこぶしをにぎりしめた。お二人に話しかける。

「あの...」

「マリア、どうしたの?」

「その方の推薦状がいただけたら、わたしたちは一緒に魔法省に入れるということですよね?」

「そういうことになるね。」

「カタリナ様、一緒に魔法省にはいりましょう。私にできることなら何でも協力します。」

「僕も協力するよ。」

「みんなで頑張りましょう。」

3人でこぶしをふりあげる。

「カタリナ様」

ふと見ると、わたしたちの次くらいにカタリナ様とと親しいクラスメイトの方々がいらっしゃった。

「こちらにいらしたのですね。いっしょにまわりませんか?」

「さっきはお菓子をお買い上げいただきありがとうございました。」

「いいえ、野菜の臭みが消えていてとてもおいしかったですわ。」

「かぼちゃ嫌いのわたくしのフィアンセが驚いていました。」

「よろしければ後日レシピをおしえてくださいませ。わたしの所の菓子職人にも作らせます。」

「じゃあ、マリアあとでね。」

「はい。」

お褒めの言葉を言い残してカタリナ様と連れ添って行かれた。




第19話投稿時に末尾を加筆修正しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話 学園祭(その4 生徒会劇『一夜限りのプリンセス』)

「へえ、たしかに生徒会で食べたマリアさんのお菓子はおいしかったけど、すごい評判だね。」

「ラファエル様もいかがですか?」

カボチャのお菓子をめしあがる。

「...!!」

「カボチャの臭みが消えていてさつまいものようだね。おいしい。」

「はい。あの臭みは好き嫌いがあるので、甘みを引き出せるよう工夫しました。」

「うん、これならカボチャ嫌いの子どもでも嫌がらずに食べられるね。」

「あの、これください。」

お客さんがきた。

「はいただいま。」

そうこうしているうちに完売。

「もうあと1時間ぐらいで生徒会劇の時間じゃないかな。」

「そうですね。完売できてよかったです。」

「お店たたむの手伝うよ。」

「ありがとうございます。」

 

生徒会劇の舞台袖に行くと大騒ぎになっている。配役でいじわるな義姉の役をやるシェナ様が少々の体調不良くらいでと出演しようとしたら、つまづいてねんざしてしまい、舞台に立てなくなってしまったのだ。

「シェナは舞台に立てないですね。どうしましようか?」

しばし沈黙が流れた。

「カタリナ様がいいと思います。」

「カタリナ様なら納得すると思います。」

「カタリナ様が舞台に立つのを見たいです」

との声が出た。カタリナ様のファンの令嬢たちだ。

ジオルド様がほほえんで、

「カタリナ、セリフはそれほど多くありませんからなんとかなるんじゃないですか?」

台本をカタリナ様に渡す。

「わたしもカタリナ様にお願いしたいと思いました。ぜひお願いできませんか?」

舞台監督のソフィア様。

「カタリナ様、一緒に思い出をつくりましょう。」

わたしの頭の中はカタリナ様と舞台に立てるうれしさで頭がいっぱいで思わず叫んでいた。

カタリナ様は落ち込んでいた。たしかに突然の交代で大変かとは思うが、メアリ様やソフィア様もいる。試験の時も平均点をとっていらっしゃった。劇ぐらいはなんとかなるんではないか、試験じゃないんだからセリフのメモをもっていたっていいんだし。

と考えていたらセリフのメモを用意されているようだった。

「カタリナ様、いかがですか?」

「マリアはどう?主役はたいへんよね...」

「確かに楽とは言えませんが、練習は十分やってきましたから、あとは本番で頑張るだけです。」

「さすがマリアね。頼もしいわ。」

「カタリナ様と舞台に立てるなんて本当にうれしいです。片身のお品もお借りできましたし。」

「わたしのお古で申し訳ないわ。」

「カタリナ様、何かありましたらわたくしが全力でサポートいたしますわ。」

「ありがとう。メアリ」

 

いよいよ舞台がはじまった。

幕が上がる。

主人公マリアンヌ畑で作業をしている。

お城をながめて、

「ああ今日もお城が美しい。いつかいってみたいものだわ。」

「マリアンヌ、今日も元気だね。」

「いつもありがとう。これ採れたばっかりな新鮮野菜よ。」

どっさり農民の青年キース(様)にわたす。

「こんなにたくさん。ありがとう。」

 

「ああ、いそがしい、いそがしい」

畑仕事が終わると今度は家の掃除だ、

「マリアンヌ、ここにまだ汚れがあるじゃない。何やってもダメな子ね。やりなおしなさい。」

「はいお継母(かあ)様」

継母メザリンドがわたしの掃除をけなす。

「あら、舞踏会の招待状だわ。一週間後だそうじゃない。キャザリーナ、キャザリーナはどこにいるの?」

いそいそとカタリナ様ふんする義姉キャザリーナが現れる。なんだかカタリナ様はきょろきょろされた。メアリ様とわたしは気がつく。

セリフを書いた紙がどこかへいってしまったのだ。

メアリ様が発見してカタリナ様に目配せする。

(あれを取るんですね。踊りながら近づきましょう)

メアリ様の目が語っている。

「キャザリーナ、舞踏会の練習をしましょう。」

「はい、お母様」

アラン様に比較的近い場所に落ちていたため、合図をするのだが、場面に合わせてワルツに変曲したのはいいが、かんじんのセリフのメモをについては、ご理解いただけないようだ。メアリ様とカタリナ様は踊りながらだんだん近づいていく。しかし、もう少しというところで、ひらりと紙が遠くへ行ってしまう。

メアリ様とカタリナ様の表情はくやしそうだ。メアリ様は、舞台袖に入るとソフィア様にセリフの紙がなくてピンチであることを伝える。

急遽幕を下ろすか相談し始めているようだ。そのときなぜかカタリナ様の顔は何か決心したような表情になった。

「そうじひとつできないで、あなたどうしてこの家にいるの?本当に身の程しらずですこと。」

セリフが全然違っているが場面には合っている。わたしは、カタリナ様がアドリブで切り抜けようとしているのを悟る。

「お義姉(ねえ)様、そうじが終わったら、わたしも舞踏会へ行かせてもらえないでしょうか。」

「何言っているの?舞踏会にふさわしいのは、わたしのような完璧な令嬢のみ。あなたなんか床にはいつくばっているのがお似合いよ。」

と桶をけとばす。

「ひどいです...。」

継母メザリンドと義姉キャザリーナはさっそうと馬車で舞踏会へ行く。

マリアンヌは一人留守番だ。しかし、農家の青年がドレスをもってくる。

「マリアンヌ、このドレスなんかいいじゃない、みんなで出し合ったんだ。」

「ありがとう。」

「あれ??靴がないね。困ったね。どうしよう。」

農作業用の長靴しかない。

「気にしないで。ドレスの裾に隠れるから問題ないわよ。」

「馬車を借りてきたんだ、これでお城へ行けるね。」

「ありがとう。」

お城の近くまで来るが農家の青年はお城に近づけない。

「この馬車の料金は、10時までしか借りられなかった。村に戻るためには9時に迎えに行かないと間に合わない。それまでにこの場所でね。」

「わかったわ。ありがとう。」

幕がおりて、再び幕が上がる。

お城の舞踏会の場面だ。

令嬢たちが踊っている。

義母と義姉は、マリアンヌの美しさに全く別人だと思い込んで気が付かない。

いよいよ王子役のジオルド様が手を取られる。

「なんとすんだ瞳、美しい髪、あなたの名は?」

「わたしは、一夜限りのプリンセスです。ノーサ(※NSA No strings attached一晩限りの、その時だけの略)とお呼びください。」

「美しいだけではなく、面白い人ですね。」

「いえ、とんでもないです。」

その時、9時の鐘が鳴った。

「王子様、わたしはもう行かなければなりません。魔法が切れるようです。またお会いできることをお祈りしています。」

ノーサことマリアンヌは、巧みに王子との手を放して走り去る。その時にあわてて長靴が脱げるが、構わず馬車に乗り込んだ。

そして義姉と義母のいじめを受ける普段の生活に戻る。しかし、王子は舞踏会で出会ったノーサという娘を探しているとお触れを出した。そしてノーサの落とした長靴を履ける女性を探しているということで長靴が回されてきた。

役人が長靴を履くように義母と義姉にすすめる。

「はいらないわね。そもそもなんでこんな長靴が舞踏会に落ちていたのかしら。」

義母と義姉には合わないことが明らかになり、役人は

「この家にもう女性はいないのですか?」

「いえ、末娘はいますが...」

義母と義姉は、意地悪して舞踏会に行かせていないことがばれたら役人の心証が悪くなると考えて口ごもる。

「つれてきてください。」

「さあ、マリアンヌ。」

内心の不承不承をなんとかかくしながらマリアンヌをつれてくる。

マリアンヌが長靴をはくとそれはぴったりだったのだ。

「王子様がお探しですので。お乗りください」

マリアンヌは王家の馬車に乗せられお城へ連れていかれる。

「そう、ノーサとはマリアンヌでしたか。あなたこそわたしのさがしていた娘だ。」

「王子様、わたしもお慕いしておりました。」

「私の妃として迎えたいのだがよろしいでしょうか。」

「喜んでおうけいたします。」

こうして幕が下り無事に生徒会劇は終わった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話 カタリナ様誘拐事件

「なんとか、終わった...。」

カタリナ様はほっと息をついている。

「カタリナ様お疲れ様でした。」

「おもしろかったですよ。楽しませていただきました。」

とラファエル様。

「主人公をいじめる演技すばらしかったですわ。」

1年生のフレイさん。

「あまりにも迫真の演技で、劇であることを忘れそうになりました。」

カタリナ様の演技は、真に迫っていて、これ本当に演技?と思うほどだった。

「まるで別人のようでしたわ。」

「カタリナ様は演技の才能もおありになるのですね。」

「みんな、ありがとう。それほどでもと思うけど、そういってもらえるとうれしいわ。」

さて、劇が終わると1時間後に舞踏会だ。

カタリナ様が出てこないので控室へ行ってみる。

「ありがとう。後で行くから。」

どうやら劇をやった安堵感でぼうっとしておられるように見えた。確かにいきなりの配役だったし、無理もないかなとその時は思った。

「後片付けをしている子もいるようですからいっしょにいらしてくださいね。」

「わかった~、ありがとう。」

 

舞踏会の会場についても、話題はカタリナ様の演技のことだ。

「さっきの義姉さんの演技には驚かされたよ。」

「そうですわね。いつものお優しい雰囲気とは全く別人でした。」

「あいつにあんな才能があるとはなあ...」

「カタリナ様は多才な方ですわ。」

「それにしても、ちょっと遅すぎる気がするのですが...。」

異変に気づき始めたのはジオルド様だった。

「確かにそうですね。」

「後片付けの子と一緒に来るようお話ししておいたのですが...。」

わたしの心に悪い予感がシミのように生まれ、じわじわ広がり始める。

その晩は、舞踏会もそこそこに、カタリナ様の目撃証言を集めた。

何かあいまいなものが多く、わたしの心の悪い予感がますます大きくなっていった。ついに、カタリナ様の行方がわからないまま、一晩明けた。

そして翌日、ジオルド様に、脅迫状が届いた。

「カタリナ・クラエスの身柄はあづかった。無事に返してほしくば、王位継承権を放棄せよ」

という内容だった。当然差出人の名前はない。表向き王位継承権を放棄する旨内外に公式に発表すれば、手放すということだ。しかし本当に手放すかどうかそんな保証はない。その日の生徒会室は重苦しい空気につつまれていた。

「つまり、カタリナ様は誘拐されたと...。」

「そういうことになります。身代金ではなく、僕の王位継承権の放棄が条件ですから、下手人はある程度は絞られますが...。僕が彼女に執心していたことがこのように利用されるとは...」

「まあ、こう名指しで書かれたら気に病むのも無理はないが、メアリが誘拐されて俺に脅迫状が届く可能性だってあったわけだからな...。」

「それでジオルド様はどうなさるのですか?」

「カタリナが戻ってくるなら、王位継承権などいくらでも放棄しますよ。でもそれには時間がかかりますし、ほかにも懸念があるのです。」

「これだけ強引なことをする相手だからその間にカタリナの身に何かあるかもしれない、またジオルドが王位継承権を放棄したとしても無事にカタリナが戻ってくる保証はない。」

「要するにそういうことです。本当の相手の狙いもわからない。」

「どういうことですか?お兄様」

「犯人の姿をカタリナが見ているなら、口封じに殺される可能性もあるということだ。」

「そんな...勝手にさらっておいて姿を見られたからと言って殺すなんて...。理不尽ではありませんか。」

「理不尽も何も、そういう可能性もないとは言えないということだ。犯人がイニシアチブをもっているわけだからな。」

「犯人は、自分の優位を最大限に生かして王位継承権の放棄の手続きに時間がかかっている間に、さらに身代金だなんだと第二、第三の要求をだして身の安全を確保してトンズラするか、顔を見られているから口封じにカタリナを殺すか、いずれにしてもジオルドが要求をのんだからと言って解決する話とは思えない。それよりもあいつの居場所をさがしたほうがいい。」

「アラン様、たまにはいいことをおっしゃいますね。」

「たまにはが余計だ。」

「ふふ...失礼しました。そうなると怪しい人物や屋敷を片端からあらうことになりますか...」

メアリ様の笑みなんとなく黒くなっている。

「いや、手あたり次第は、ちょっと時間がかかるのでは」

[あの...事件には、闇も魔力がかかわっているように思えるのですが...。」

「はい、僕もそうではないかと思い始めています。」

「カタリナ様の目撃証言がかなりあいまいなものが多く、昨年の事件によく似ているように思えます。もし、本当に闇の魔力が使われたのならわたしが怪しい人をみていけば見分けられるのではと思うのですが...」

それまでしずんでいたアンさんの顔が明るくなったような気がした。

「なるほど...しかし、闇の魔力が見分けられるのは、使っているときとその直後1時間程度ですよね,,,、」

「はい...。」

「くやしいことですが、もう半日以上たっています。たとえ当人が通ってもわからないのではないですか...」

「そう...ですね...。」

「やはり片端から調べるしかないようですね,,,」

「ちょっとどこへ行くメアリ!落ち着け!」

その時ドアをたたく音がした。そして赤毛に灰色の瞳を持つ好青年が姿を現す。

「ラファエル様!」

「メアリ様ではないですか?そんなに急いでどちらへ向かわれるのですか?」

「わたしは、カタリナ様を探しに行きたいのです。」

「どうなさるおつもりですか?」

「とりあえず怪しいと思える人物や屋敷をつぶしていくつもりです。」

「それは、無謀すぎですよ。」

「じゃあどうしろとおっしゃるのですか?こうしている間にもカタリナ様に危険が及んでいるかもしれないのですよ。」

「安心してください。カタリナ様に危険が及ぼことはまずありません。」

「??それはどういうことですか?」

「カタリナ様には、最強の護衛がついています。ソルシェでも一線級の魔法師です。ですから危険が及ぶことはありません。」

「ですので皆さん、もう少しお待ちください。敵は必ずスキを見せます。その際一挙に敵を叩き、カタリナ様を助け出します。」

とおっしゃられた。

 

そうしてカタリナ様が戻ってきたのは2日後だった。

「みんな心配させてごめんね。魔法省の捜査が入って解放されたわ。」

「おかえりなさい、カタリナ様」

「ご無事で何よりでした。」

捜査の経過についてラファエル様からお話がなされた。

主犯は、デイビッド・メイスンというジェフリー派の貴族で、当然ながら王位に即くつもりのないジェフリー様の意向と関係なく、闇の魔力を持つ執事ルーファス・ブロードを使ってセリーナ様を洗脳し、カタリナ様をさらうことで、その罪をセリーナ様とイアン様に着せるとともに、ジオルド様に王位継承権を放棄させようとして仕組んだものだった。しかし闇の魔力を捜査していた魔法省の網にかかって、メイスンが逮捕され、逮捕された以上実行犯のルーファス・ブロードの存在も明らかになったというわけだった。弟たちを溺愛するジェフリー王子がデイビッド・メイスンを簡単に赦すわけがないのは自明だった。

そんなことを考えていると、アンさんが

「カタリナ様、お客様です。」

と部屋に招いて入ってらっしゃったのは、イアン様とセリーナ様だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話 カタリナ様を見守り隊

「失礼する。ひとことカタリナ嬢にお礼とあいさつがしたくておうかがいした。」このようにあいさつされたのはイアン様だ。

「先日は多大なご迷惑をおかけし誠に申し訳けありませんでした。」

セリーナ様が目を伏せ、首を垂れて謝罪される。

「二人は何も悪くないわ。わたしはこの通り元気だし、ご心配なさらないでください。」

あまりにもあけっぴろげで貴族としてはどうかと思うカタリナ様の態度だがほほえましい。しかし、イアン様とセリーナ様はぴったりとくっついておられる。

「わたしは、カタリナ様がおっしゃられた通り、イアン様のお気持ちをおうかがいしたのです。そうしたら...」

「セリーナ!君への気持ちは本物だが婚姻まではしていないのだから人前では...」

あの冷静なイアン様がほおを紅く染めて取り乱しておられる。

「すみません、カタリナ様にきちんとご報告したくて」

ラファエル様のおっしゃる二人の世界とはこういうことなのか...聞いている私まで顔が赤くなりそうだ。

「では、失礼する」とイアン様とセリーナ様は出ていかれた。

 

中断していた、ラファエル様のお話が再開される。

「この間、最強の護衛と言ったのはラーナ様のことです。ラーナ様は変装の名人で、わたしも魔法省の捜査の仕事のためにも変装の技術を身に着けるように指導されています。」

「ラーナ様、考えてみれば、助けていただいただけでなく、身の回りのお世話までしていただいて...」

「いや、ラファエルの闇の魔力を解呪したというカタリナ嬢とは話をしてみたいと思っていたからちょうどよかったよ。楽しかったな。」

「学園祭で話していた上司とは、この方です。」

「私を気に入っているとおっしゃっていましたが、いつかお会いしたことがあったのでしょうか?」

「この姿で会うのは、あの屋敷からだからわからないのも仕方ないな。」

「君は、ほんとうにかわいいね。」

なんと抱きつかれた。メアリ様も私も突然のことで驚いてしまう。

逆の意味で冷静だったのは、女性すら自分の恋敵の可能性があると考えるようになったジオルド様だ。

ラーナ様の肩を持ったかとおもうとラーナ様をカタリナ様からひきはがす。

「カタリナ、大丈夫ですか?」

「?わたしは、なんとも...」

「なにかいやに顔色がいいし、肌につやがありますね。誘拐されて疲れ切っていたのかと思いましたが...。」

「セリーナ様がメイドになったラーナ様を通して三度の食事をきちんと運んでくださったし、メイドのラーナ様がお菓子が欲しいと言われればすぐさま、小説が読みたいと言えばすぐさまもってきてくださったので、誘拐されたとは思えないほど快適だったので...。」

しかし、執事のルーファスさんに押し倒され、眠りの魔法をかけられそうになったところをラーナ様に助けられた、というお話をされたら顔色を変えられた。

「もう待つのはやめました。こんなことだと気が付いたら奪われているかもしれませんね。」

カタリナ様のあごをもったかと思うとキスをされる。私まで顔が赤くなった。もう周囲に動揺が広がっている。わたしまで「カタリナ様ー」と叫んでしまった。もうこれは捨て置けないと思った。仲のいい生徒会がカタリナ様をめぐっては、真っ二つになった瞬間だった。わたしは、メアリ様、ソフィア様と顔をみあわせてうなづく。アラン様、キース様も同調され、そばにいたニコル様も

うなづく。「カタリナ様を見守り隊」が結成された瞬間だ。

授業が終わるとカタリナ様の所へ行く。カタリナ様は過保護だとおっしゃるが、

あんな「危ない」状況に置くわけにはいかない。

生徒会室にいらっしゃっるときはむしろ安心で、見張り役を誰かが担当して、仕事をさっさと終わらせて、お菓子やお茶、ロマンス小説で引き止める。

お茶とお菓子で引き留めていると、カタリナ様が不安になるようで、見張り役にカタリナ様がおたずねになる。見張り役の比率は、お菓子作りがとくいなわたしが2日,みなさんが1日づつだ。わたしが忙しくなったらソフィア様がその分をフォローする。わたしは本当は仕事をしていたいと思う方なのだが、わたしのお菓子はカタリナ様を引き止める武器なので、皆さんから

「マリアさんは2日分」

「そうだな。」

「マリアさん、義姉さんを守ってください。」

「マリアさんが忙しいときはわたしが小説で引き留めますから」

と皆さんによってたかっていわれたらうけるしかない。

皆さんは、魔法学園トップクラスの優等生だから聡明でいらっしゃるので引継ぎも完璧だ。

「マリア、生徒会の仕事は終わったの?」

「もう片付けましたから、大丈夫ですよ。今日のお菓子です。また一工夫してきました。」

「マリアのお菓子はおいしいわね。」

「ソフィア、生徒会の仕事は?」

「大丈夫です。カタリナ様それよりもこの小説はおすすめですよ。」

「この主人公かっこいいわね。」

「そうですね、この盗賊も、実は味方の○○が変装しているのですが...かっこいいです。」

この時期になると1年生にも仕事を引き継いでいってるので、2年生の皆さんの負担も少なくなっているのも確かだ。カタリナ様が宿題でなやんでいると1年主席のタッカーさんが教えている風景も時々見かけるようになった。

最近気になるのは、ジオルド様が、ご自分の仕事以外に生徒会室にいないことだ。あの腹黒王子(メアリ様談)のことだからスキをねらっているのだという話だった。あるときカタリナ様の姿が見えない。

「カタリナ様はどこへいったのでしょうか?」

キース様とメアリ様が顔を見合わせる。お菓子作りと小説が好きなわたしとソフィア様のアンテナにはない感覚だ。

「きっと「花壇」ですわ。」

「花壇」こと、畑へ向かうとカタリナ様の腕をつかんでジオルド様が顔を近づけていらっしゃるのが見えて、メアリ様とキース様を先頭に皆さん一斉に駆け出す。

「ジオルド様、これ以上義姉さんに近づかないでいただけますか?」

キース様が駆け出しながら叫ぶ。

「キース様、バケツが転がっています。」

「キース様、おどきになってください。ここは私が魔法で...」

「メアリ様、ここはわたしが...」

メアリ様とソフィア様が両手のひらをジオルド様に向け、光りはじめる。

確かに捨て置ける状況ではない。

「ソフィア様まで...せめて私の魔法で治る程度になさってください。」

(ジオルド様、治癒はしますがちょっとやりすぎです。ちょっとおしおきが必要です。)

後で言われたのだが、

「マリアさんってふだんはお優しいですが、怖いですね」

と言われた。わたしは苦笑するしかなかった。

 

さて、わたしは、図書館でラーナ様につかまることもあって、魔法省にときどき職場見学にいくようになっている。

今日は魔法道具研究室で先輩方やラーナ様と話している。

「光の魔力と言ってもいまは治癒魔法が主ですね。」

「ふむ、闇の魔力を察知できることはあっても、解呪できないのか。」

「そうです。何か方法があるのかもしれませんが、今のところは...。」

「失われた魔法か....それにしても魔力の少ないカタリナ嬢が解呪したのは驚いたな。」

「はい。またラファエル様のお名前もご存じでしたし。」

「光の魔力も、闇の魔力も謎が多いんだ。まあ、知ってそうな人物に心当たりがないわけではないが...今度機会があったらカタリナ嬢も連れてきてくれないか?ラファエルの解呪の件とか、話が聞きたい。」

「わかりました。」

そしてこのラーナ様の願いは、後日皮肉な形でかなうことになる。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話 キース様誘拐事件(その1)

翌朝、わたしは、生徒会の皆さんやカタリナ様と同じ授業に出席することになっている。

「マリア~」

「はいここです。」

カタリナ様、ジオルド様、メアリ様、アラン様、

「うう...眠いです...。」

とおっしゃるのは、眠い目をこすっておられるソフィア様。どうやら昨晩読んでいたロマンス小説がおもしろくて朝が明けてしまったらしい。

「へえ~そうなんだ、おもしろそう(です)ね。」

「おすすめですわ。」

「眠れなくなったら困るからすこしづつにするわ。」

そんな話をしながら教室に入り、授業が終わるとわたしはカタリナ様に話しかける。

「昨日、魔法省でラーナ様と話す機会があって、光の魔力の謎や限界、それからカタリナ様がラファエル様の闇魔法を解呪できた理由を知りたいから一緒に来てくれたらうれしいというお話がありました。」

「う~ん、と言ってもあれは夢のお告げのおかげだし...具体的にどのように闇の魔力が解呪できたのか具体的なことが何一つわからないのよね...。相変わらずわたし土ボコしか使えないし...。」

カタリナ様は不安顔だ。さらにジオルド様の猛アタックにも戸惑っている感じだった。

 

それから一週間後の休みあけ、キース様がいなくなるという事件があった。

カタリナ様が、「キースがわたしの世話につかれたみたいで行方不明なの」と話してくれたが、わたしは、カタリナ様の周囲に悪意のようなまなざしがあるのを時々感じていたので内心でそれはないだろうと思っていた。そこで、ラーナ様にそれを話すと、

「ああ、わたしも気になっていた。カタリナをめぐる事件には、闇の魔力のかかわる案件が多い。最初のラファエルの件からはじまって、本人がさらわれ、今度は義弟だ。マリア、ソラ、特にマリアは入省前で申し訳ないが、闇魔力案件かもしれないから来てくれないか。」

「わかりました。」

「何かあった時のためにも僕がついていきます。婚約者を守るのが僕の務めなので」とジオルド様も一緒に行くことになったが、当然ひと悶着あるし、いくつか難題があった。まず生徒会メンバーでだれがいくかということだ。まずメアリ様とソフィア様はいきたがった。ジオルド様を見張る意味もあるだろうが、メアリ様はアラン様が引き止め、ソフィア様はニコル様が引き止める。メアリ様は当然、「こんな忙しいときに何で生徒会長が抜けるんですか?」

とおっしゃる。ジオルド様は、

「僕の仕事については、ほぼ終わらせましたし、次期会長のフレイにも引き継ぎました。それに、何かあったらニコルにも手伝ってもらうよう話してありますので万全です。」と涼しい顔だ。わたしは、副会長なので

「こんな忙しいときにすみません。」

と申し上げると、

「マリアさんは、今後の仕事にも関わりますし、代われる方がいないのですから。」

「闇の魔力案件が濃厚だしな。生徒会には申し訳ないが。」

ラーナ様もフォローする。

後の難題の一つは、カタリナ様の身の回りの世話だ。アンさんが「お嬢様一人では心配です。」とかなり渋っておられた。カタリナ様の「ちゃんとやるから」があてにならないとおっしゃられて、確かにそうだろうなとは思ったが、今回は闇の魔力がかかわる案件だ。キース様の行方不明はおおっぴらにされていないし、するわけにはいかない。そこで人数を絞っている。わたしは、「アンさん、わたしがカタリナ様の身の回りの世話をいたします。」とお伝えした。「マリア様がそうおっしゃるのなら...もうしわけありません。」

と謝られたが、わたしは、大好きなカタリナ様のお役に立てるのだから何の不満もない。もう一つの難題は行き先だ。どうやってキース様をさがすのかだが、これもラーナ様が人探しの道具だというクマのぬいぐるみを持ってきてくださり、解決した。まずクラエス家の使用人さんからキース様のお宝の品の入った小箱をあずかった。幼いころ、カタリナ様がキース様にあげたプレゼントなどが入っている。そのうちハンカチにクマのぬいぐるみに「におい」をかがせた。実際には、モノに込められた記憶と魔力を読み取るらしい。キース様をお探しする馬車の中で、わたしはラーナ様に、4つの属性の関連性や連続性、光と闇の魔力でわかっていること、カタリナ様が経験された闇の魔力の解除条件としてどのようなことが考えられるのか、魔法道具の魔力付与についてなどの質問をして、ラーナ様は熱心に答えてくださったが、わかっていないことが多く、忘れられた魔法がある可能性があるとおっしゃっていた。ジオルド様もあいづちを打ってくださり、ラーナ様は熱心にお話しされた。魔法学園での復習ではすまず、魔法大学院があればそこで習うだろう高度な知識でなんとかついていくのがやっとだった。

カタリナ様はお疲れのようでうたたねしている。

「最初の町についたからそろそろ起こすか」

ラーナ様がカタリナ様の寝顔をみながらポツリとおっしゃり、大き目な声でカタリナ様に話かける。

「カタリナ、とりあえず一つ目の町についたぞ」

「ゆっくりでいいから降りてくれ。足元に注意するんだぞ。」

「はい...。」

カタリナ様は眠そうに眼をこすりながら馬車を降りる。

「では、キースについての聞き込みを行う。これが地図と似顔絵だ。絵の上手い職員に描かせた。」

「この街はそれなりに広い。大人数だと目立ってしまう。わたしとカタリナ、ジオルドとマリア、ソラの3組に分かれて聞き込みをする。2時間後に馬車の場所に集合する。これが馬車の場所だ。」ラーナ様は地図の一点を指で指し示す。

「僕は可能ならばカタリナと行きたいのですが...。」

「ジオルド王子、これは魔法省の正式な業務だ。ジオルド王子とマリアは美男美女なので慣れていなくても聞き込みが効率的にできると考えた。王子といえども従ってもらう。」

ラーナ様のおっしゃる通り、わたしは、男性の視線、ジオルド様は女性の視線をひきつけるようで、かなり効率的に聞き込みを行うことができたがキース様の行方の手掛かりになりそうな情報は得られなかった。

「マリア、そろそろ時間ですね。」

ジオルド様はなんやかんや言っても紳士だった。危ない場面はとりたててなかったが上手くエスコートされているのは感じられた。

馬車の近くへ来るとカタリナ様、ラーナ様、ソラさんの姿が見える。

カタリナ様は途中でお菓子を買ったようだ。

わたしはおもわず「わあ、おいしそぅですね。」と口に出た。それぞれの街にそれぞれ個性のある料理やお菓子が作られているから旅の楽しみでもある。

よせばいいのにジオルド様は、「お菓子ばかり食べていたのではないですか?」

とおっしゃったせいで、ご自分の分は減らされて、カタリナ様はその分わたしにお渡しになった。再び馬車の中でお菓子を食べながら次の町へ行く。

「そうか、前世の記憶の可能性のある夢のお告げか...興味深いな。ソフィア・アスカルト嬢もカタリナを目覚めさせるために祈って窓をみたら異世界と思われるような見慣れないの少女の姿を見たと言っていたな。異世界とか夢とか闇の魔力が効果をあらわさない場所というか精神的な「空間」のようなものがあると考えるのが妥当なんだろうな。なるほど闇の魔力を無効化するひとつの条件についてはわかった。しかし光の魔力が闇の魔力を無効化する事象があってもいいはずだが謎も深まったな。」

そんなことを話しながら二番目の町についたときには、日が傾いて空が夕焼けになっていた。

「わあ~おおきな町ですね。」

「ああ、ここはお昼におとずれた町の倍以上の規模で、この周辺では最大の町だ。日もだいぶ傾いているようだから今日はここで泊まろう。ソラ、宿の手配を頼む。」

「わかりました。」ソラさんが返事をして宿探しが始まった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話 キース様誘拐事件(その2)

わたしとラーナ様は話しながら、ソラさんは宿を探しながら歩く。

しばらくしてラーナ様が、宿泊施設らしい大きな建物の前で止まる。

「ここなら規模が大きいから泊まれるんじゃないか?」

「そうですね。交渉してみます。」

しばらくして受付からソラさんが戻る。

「とりあえず男女に分かれて止まるよう二部屋とりました。」

「あれ?ジオルド様とカタリナ様がいらっしゃいませんね。」

「そうだな。」

ラーナ様は少し顔をしかめ、ソラさんは軽く舌打ちする。

「なんとなく心当たりがあるので見てきます。」

6~7分ほどたっただろうか。ソラさんがジオルド様とカタリナ様を連れてくる。

 

何やらジオルド様は不機嫌そうだ。

「部屋の空きが少なくてすみません。男女分かれるのが限界で、一人部屋までは無理でした。」

ソラさんの説明で、わたし、ラーナ様、カタリナ様の女子とジオルド様、ソラさんの組み合わせで泊まる。カタリナ様はウキウキされている。

「このベッドでいいですか?」とおっしゃり、わたしとラーナ様の間のベッドを選ばれる。前世の学校で名所旧跡巡りをして夜はクラスの友人たちと泊まる「しゅうがくりょこう」のようでウキウキされるのだそうだ。その「しゅうがくりょこう」では、枕投げなる遊びがはじまるのだという。

「う~ん、メアリやソフィアにも来てもらいたかったな。パジャマパーティや枕投げができたのに...。」

と言い出す。さすがにラーナ様が

「カタリナ嬢、遊びにきたんじゃないぞ。キースを連れて帰らないといけないんだろう。」

とおっしゃり、

「そうでした。すみません。」とおっしゃる。わたしは、

「キース様が行方不明になられて不安をまぎらわしたいんですよね。」

と申し上げると

「マリア、ありがとう。」

と少々涙ぐんでおっしゃる。ラーナ様は苦笑してそれ以上何もおっしゃらなかった。

夕食になり、楽しく会話をしながら召し上がるが、カタリナ様のテンションは高い。

「あれもおいしそう、これもおいしそう。」

といろいろ手を出される。

ジオルド様が苦笑しながら

「そんなに食べたらおなか壊しますよ」

と忠告されるのだが、食べ物のスイッチが入ったカタリナ様は止まらない。

ついにはおなかパンパンなようなご様子であるくのがやっとの状態だ。

ジオルド様が、だからいったのにという顔をされる。

部屋に戻ってしばらくすると、ラーナ様が

「用があるのでちょっと出かけてくる。」とおっしゃって外へ出られた。カード状の風の魔法道具をお持ちになられていたから魔法省と連絡を取るのかもしれない。カタリナ様は満腹なようで、しばらくしてから寝てしまった。

日が落ちて暗くなっていたので、カタリナ様の顔のほうに光がいかない場所を選んでランプをつけた。

わたしは、膝の上で魔法道具であるクマさんのぬいぐるみの毛づくろいをしていた。このクマさん名前があるようでアレクサンダー君というそうだ。

1時間ほどたっただろうか、視線を感じたのでそちらを見たらカタリナ様が目を覚まされていた。横になりながらも、なにかわたしに見とれているように思われたが気のせいだろう。

「お目覚めになられたのですね。おなかの調子はだいじょうぶなんですか?」

と尋ねる。カタリナ様は目を輝かせ、勢いよく起き上がり、

「もう大丈夫。全快よ。」

と微笑みながらおっしゃる。

「よかったです。」

明日からも忙しいし、元気になられてよかったとわたしも自然に笑顔になった。

アレクサンダー君は気持ちよさそうだ。

「?マリアは何をしているの?」

「あ~この子のお手入れを少し...。」

「この子とってもかわいいですよね」

カタリナ様は無言でアレクサンダー君をじっと見ている。

もしかしてさわりたいのだろうか

「あ、カタリナ様も触りたいですよね、どうぞ」とわたしはアレクサンダー君をカタリナ様に渡す。しかし、なぜかカタリナ様は無表情であまりうれしそうに感じられない。

なぜなのか私にはわからず、しばらくしてトイレに行きたくなったので、

「あ、お花摘みに行ってきます」と言って部屋を出た。

お手洗いから帰ってくるとアレクサンダー君とカタリナ様はベッドの上でずいぶん離れた位置にいた。

「あれ?カタリナ様、この子はいいんですか。」

「ええ、もう十分だわ。」

「じゃあ、今日はわたしが抱っこして寝ちゃおうかな」

やがてカタリナ様もパジャマに着替えてご自分のベッドにはいった。

わたしは楽しくておもわず笑みがもれてしまう。

「どうしたの?マリア」

どうやら含み笑いが聞こえたようだ。

「私、なんだかとてもうれしいんです。」

「うれしい?」

「ええ、前もお話ししましたが、わたし、魔力が発現してからお友達がいなかったのです。だからこうして身内以外の誰かとお泊りできるのがとてもうれしくて...カタリナ様がいつかおっしゃっていた「しゅうがくりょこう」ですか?お友達とお泊りするの」

かたかったカタリナ様の表情がなんとなく柔らかくなるのを感じたもののだまっておられる。

「あ、キース様がいなくなって大変な時に不謹慎なことを申し上げました。すみません。」

「ん、そんなことないわ。わたしもマリアとお泊りできるの楽しいなと思ってたから。今度は、メアリやソフィアも誘って出かけてみんなでお泊りしよう。」

「はい。」

わたしは即答だ。大親友のメアリ様、ソフィア様と4人でパジャマパーティでガールズトーク。考えたただけでわくわくする。キース様を見つけたら今度こそ、心おきなく楽しめるだろう。

「カタリナ様」

「なあにマリア?」

「わたし、ベッドに入るたびに寂しい想いをして、泣いていたこともあるんです。でも学園に入ってカタリナ様にお会いしてからは、とても楽しくうれしい気持ちで眠ることができるんです。」

「だからわたしがごうしていられるのは、カタリナ様のおかげなのです。」

「何言ってるの、マリア、あなたは本当に努力してきたじゃない。わたしはそれをよく知ってるわ。今のマリアがあるのは、マリア自身が頑張ってきたからでわたしはなにもしていないわ。」

ああ、この方はいつもそうなのだ。わたしを認めてくださるだけでなく、決して誇らず恩を着せてやろうとは全く考えない。わたしは目頭が熱くなり、ほおがほのかにほてってくる。それからうれし涙がにじんでしまう。

「カタリナ様、ずっとおそばにいさせてください。」

「....はい」

そのお返事は、裏返ったような声に聞こえた。なぜかカタリナ様のお顔もほてって紅くなっているように見える。しばらくしてわたしは心地よい眠気につつまれて意識が消えていった。

翌朝、わたしは目を覚ますと、カタリナ様はまだお休みになっておられた。しばらく起こさないようにしていたが、いつまでもぐっすり眠っておられて起きる様子がないので、「カタリナ様、そろそろ起きないと本当に寝坊してしまいます。」と声をおかけする。わたしは身支度をすると、今度はカタリナ様の身支度をお手伝いする。たしかに貴族令嬢は、平民の私と違って身支度に手間がかかるようだ。

宿のロビーへ行くと、ラーナ様が紅茶を召し上がっていた。ジオルド様もいらっしゃっている。

「ソラは?」

とカタリナ様がおききすると、

「ああ、聞き込みに行っている。じきに戻ってくるはずだ。」

とおっしゃる。

「お待たせしました。」

「どうだ?」

ソラさんは横に首をふる。

「手掛かりはつかめませんでした。」

「じゃあ次の街へ行こう」

わたしたちは馬車に乗り込んだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話 キース様誘拐事件(その3)

「ラーナ様」

「なんだ?」

「二つも町を聞き込みしたのに、何の成果もない。ほんとうにこのクマはあてになるんですか?」

とカタリナ様がおっしゃる。

「実験済みだ。うちの魔法道具研究室にはすぐ迷子になる職員がいる。本人の名誉のために名前は伏せるが、迷子になるたびに発見しているんだ。」

ソラさんが笑いをこらえたように思えた。

アレクサンダー君は気持ちよさそうだ。ほんとうにかわいい。しかし、カタリナ様の方に顔がむいたときに、表情をしかめるように見えるのはきっと気のせいだろう。途中で2つほどの町に到着し、聞き込みをおこなうが手掛かりはない。三つ目の町で、夕方になった。町というより村という感じ。市場もなく、閑散としている。道には、雑草がところどころ顔を出している。

町はずれの馬車置き場に馬車をを置き宿を探すことにする。

道端にかなり草が生えている。

カタリナ様が、

「あ、この実、見覚えがある」とおっしゃられた。

楕円形をしていてひげのようなものが全体についている。一見虫のように見える。

「なんですか?それは?」

「やたらに服にくっついてくる実だよ。知らない?」

「初めて見ます。」

この町のようにかなり田舎に行かないとみられないものなのかもしれない。

「ほら」

カタリナ様はわたしの服に1個くっつけた。

「本当ですね。なんていう植物なんですか?」

カタリナ様は、しばらく考え込んだ後、

「う~んと...ごめん、名前はわからない。」

とお答えになった。

「そうですか。何て名前なんでしょうね。」

アレクサンダー君とカタリナ様がにらみ合っているようにも思えるけど、聖女と呼ばれるくらいの人格者のカタリナ様とかわいいアレクサンダー君だ。きっとわたしの考えすぎだろう。

 

ソラさんが宿を見つけてくださり、夕食をいただく。この町特有の料理。素朴でありながら味付けが上手くとてもおいしい。

「カタリナ、マリア、先に部屋へ行ってくれ。わたしは魔法省に連絡を入れないといけない。」

「どうやって連絡をとるんですか?」

そうするとラーナ様は、カード状の道具をとりだし、

「この音を運ぶ風の魔法道具で話をする。」

「へええ、スマホみたいですね。」

「「すまほ」とは何だ?」

「すみません。わたしの前世で遠くにいる人と話す道具です。絵が表示されたり、文字でやりとりもできます。」

「ほお、おもしろいな。カタリナ嬢の前世は、魔法の代わりに、「かがくぎじゅつ」が進んでいたらしいが、それも「かがくぎじゅつ」なのか?」

「そうです。」

「そうか、どこでも話ができるようになったらこの魔法道具は「スマホ」という名前にするか。うん、シンプルでいい名前だ。じゃあな」

わたしとカタリナ様は部屋へ向かう。

カタリナ様とわたしは、今日おとづれた町のことや学園でのことなどとりとめのないお話をした。

「今日の夕食もおいしかったけど、昼間の町のランチもおいしかったわね。」

「はい、あのスープは絶妙でした。レシピをお聞きしたので作ってみようと思います。」

しばらくお話しした後、わたしはお手洗いに行きたくなったので、

「お花摘みに行ってきますね。」

と言い残して部屋を出る。戻ってきた後、なんとアレクサンダー君が例の草の実だらけになっている。カタリナ様がひっくり返してしまったそうだ。そそっかしい方だなあと思いつつ、ひとつひとつ実をとってあげる。

「この実捨てましょう。」とアレクサンダー君に話しかけたが、なぜか首を横に振った。

翌朝、朝食のために食堂へ行くと、カタリナ様の頭にあの草の実がついていたとのことで、アレクサンダー君が捨てようとしてひっくり返したとかわいい身振り手振りで教えてくれた。

翌日、馬車を走らせる。もうすぐルサーブルとの国境に近いちいさな町へ近づいている。カタリナ様は、

「やはりあのクマの言うことが本当に正しいのでしょうか?家出でこんなところまで来るとは思えません。」というが、ラーナ様が

「魔法省では、家出でない可能性も含めて捜査している。カタリナ嬢はアレクサンダーとなにかあったのか?」とお聞きすると、カタリナ様はだまってしまった。ルサーブルとの国境に近い小さな街へつくと、ソラさんが聞き込みをしたいと言い出した。カタリナ様が「ソラと組んだことがないので一緒に聞き込みをしたい。」とおっしゃられた。するとジオルド様が「僕もカタリナといきたいのですが」とおっしゃる。するとソラさんとジオルド様が言い合いになる。どちらが紳士なのかという言い合いになるに及び、ラーナ様が

「こういう危険な場所の捜査は、ソラのほうが慣れている。カタリナ嬢が行きたいならソラと行ってもらう。」

「わたしは国でも熟練した剣技をもっています。カタリナを十分守れます。」

「ジオルド王子、敵がいるとしたら剣技では戦ってこない。気配を消して、しかもその剣技の裏を突いて攻撃してくる。二人とも生きて帰ってこれない可能性もある。大切な王子の身をあづかる者として承諾できないな。」

ジオルド様は、ソラさんに「わかっていると思いますがカタリナは僕の婚約者です」と言い、カタリナ様に「くれぐれも気を付けてください」とおっしゃる。

わたしは、数多くの美点をおもちなのに正直残念な方だなあと思った。

「わかっています。聞き込みの邪魔になることはしませんし、迷子にならないよう気を付けます。」とカタリナ様が語気を荒げる。ジオルド様は遠い目をされた。悔しいのだろうが、やはりここで粘るのはあまり利点があるとは思えない。二人が捜査へ行ったのを、待っている間気持ちがざわつくのを感じる。

ソラさんとカタリナ様が馬車に戻ってきた。特に手掛かりはなかったそうだ。これから行くのは、ルサーブルとの国境の街ノワールだ。治安が悪い街で、人身売買も行われている可能性があるという。ノワールには夕方についた。

一見賑やかだが、雰囲気の悪い人物も散見される。ある程度聞き込みを行ったら宿に入ろうということになった。

わたしの気持ちのざわつきは、この町に着いてから今までになく続いている。薄気味悪さもなんとなく感じる。わたしは、横をむいたとき見てしまって固まってしまった。闇の魔力としか思えない強い雰囲気をばらまくように放っている人物が路地を歩いて通り過ぎたのだ。皆さんもわたしの様子がおかしいのに気が付き立ち止まる。

「マリア、どうしたの?」

とカタリナ様の声がして我に返る。

「あ、いえ、一瞬見えたような気がして...」

とお答えする。

「何が見えたの?」

「えっと...その...あの奥の路地に闇の魔力を放っている人が通り過ぎたように見えたのです。おかしいですよね。闇の魔力は、もう取りしまわれてもう誰も使えないはずなのに...。」

するとラーナ様の表情が一気に険しくなった。

「それはどのあたりだ、マリア」

と聞き返される。

「気のせいなんじゃないかとおもうのですが...。」

「いいから話してくれ。」

「あの路地の奥に、黒いフードをかぶった人が通り過ぎていきました。」

「闇の魔力の強度はどのくらいに感じた?」

「体の周囲に漂っている感じで、それほど強いようには思えなかったのですが、非常に不気味な感じでした。」

「わかった、マリア、ありがとう。君を連れてきて正解だった。」

「みんな宿へ行こう。これからどんな危険があるかわからない。」

今度の宿もソラさんが手配してくれた。一番安全な宿だという。

ラーナ様は

「わたしはやることがあるから、皆は宿で休んでいてくれ。戻ってきたらちゃんと話す。」

とおっしゃられた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話 キース様誘拐事件(その4)

ラーナ様の先ほどの表情からしてどうやら深刻な状況なようだ。この分だとまだ闇の魔力を使っている人物がいる可能性をお話しされるかもしれない。わたしはカタリナ様と一緒に女子グループの部屋へ行った。今日はあんな出来事があったのでお話しする気になれない。カタリナ様も同じようで、ほとんどお話しせずにちびりちびりとお茶をすする。この町の特産だというお菓子をカタリナ様はおいしいとおっしゃられて、

「おいしいわよ、食べてみない」とおすすめされるものの、

「今はちょっと...食欲がないのです。」

とお答えする。カタリナ様も一、二枚召し上がっただけで、手が止まる。

「わたしもあまり食べる気がしないわ。」とぼそりと話される。

「マリア、大丈夫?」

わたしは、正直まさかと思った闇の魔力とまたかかわることになったのがショックだった。きっとその表情は青ざめているのだろう。

「大丈夫です...」とお答えするのがやっとだった。ちっとも大丈夫じゃないと言っているのと同じだが今の私にはそうするしかない。

「マリア、どうしてそんなにおびえているの?そんなに恐ろしいものが見えたの?」

とお尋ねになる。わたしは、恐ろしいという気持ち、話すべきかどうかを含めいろんな考えが頭の中をぐるぐる巡って言葉が出てこない。

「一人でかかえこまないでわたしに話して。話せば少しは楽になるんじゃないかしら。」

とカタリナ様はおっしゃる。わたしはその優しい言葉に勇気をもらって笑みがこぼれた。

「そうですね...あの闇の魔力の気配は、本当に恐ろしくおどろおどろしい感じで、その不気味さ、気持ちの悪さが頭から離れないのです。」

するとカタリナ様はわたしを強く抱きしめた。

わたしは驚いて、自分の瞳孔が大きくなるのを感じたくらいだった。

「こうしてもらえば落ち着かない?」

カタリナ様がやさしく微笑まれる。安心感が体中に広がって行くのを感じる。

わたしは「はい...。」

とはにかむようにお返事をする。

ラーナ様がようやく宿に戻ってきて、皆を部屋に集める。

「大事な話がある。ここでちゃんと皆に話しておかなければならない。今回キースが家出をしたということで捜索をしたのだが、これがそもそも家出ではないことが分かった。」

ソラさん以外は、言葉が出ないほど驚いている。

「クラエス公爵からも捜索依頼が魔法省にだされていたが、今回のキースの失踪はほぼ誘拐だろうという結論に達した。」

「誘拐...ですか...。」

カタリナ様はかなりショックなようだ。

「ああ、キース・クラエスは誘拐されたのだ。」

「キースがいなくなった日、彼は実の母親に出会い声をかけられている。その母親についていって、何者かに引き渡されたのだ。母親は闇の魔力をかけられていて誰に引き渡したのか全く覚えていなかった。」

「それで、その闇の魔法を使ったのが何者か特定できたのですか?」

ジオルド様が質問される。

「先ほど何者かと言ったように、特定できていない。敵はかなり狡猾でなかなか尻尾をつかませてくれない。」

ラーナ様は悔しそうに表情をゆがめる。

「では、キースは結局どこにいるんですか?どこにいるか全くわからないんですか?」

カタリナ様の質問を聞いて、ラーナ様は思案顔になり、重い口を開く感じでお話になる。

「全くわからないわけじゃない。いちおう可能性のある場所の目星はつけている。」

「それはどこですか?キースはどこにいるの?」

カタリナ様は身を乗り出すような感じだ。

「皆に宿へ行ってくれと話した後、わたしはアレクサンダーを使ってキースの居場所をさがした。マリアが闇の魔力を持つ者をみたと証言しただろう。その黒いフードの人物が歩いて行った方向に一致したのだ。先ほどキースの誘拐に闇の魔力が使われた話をしただろう。闇の魔力は漏れたとはいえ厳重に取り締まられているから使える人物は限られている。だからアレクサンダーの示した方向とマリアの証言した闇の魔力の人物とが全く無関係とは思えなかった。皆も知っているように、マリアが闇の魔力の気配を感じることのできる時間はそう長くはない。そう考えてアレクサンダーにキースのいそうな場所を探させたのだ。」

「それで...わかったのですか?」

「ああ、アレクサンダーはある屋敷を特定してキースはここにいると示した。」

カタリナ様はすっくと立ちあがり、

「場所を教えてください。すぐに行きます。」

とおっしゃるが、すぐにジオルド様に肩をつかまれて

「こんな夜更けにですか?危険すぎます。カタリナ、落ち着いてください。」

強制的に着席させられる。

「ところで、ラーナ様、その魔法道具は正規の仕事に使うのは初めてなんですよね?それが指し示したからといってどこまで信用できるものなのですか?」

「確かに正規の仕事に使うのは初めてだが、魔法省内で実験している。ただ迷子になった職員とキースの場合と何らかの要因で違ってくるという可能性までは否定できない。しかしキース誘拐事件については闇の魔力がかかわっていることが明らかになったわけだから、彼の軟禁先に闇の魔力がとりついているということであれば、アレクサンダーの性能についてある程度の裏付けにはなるのではないか?」

「闇の魔力の気配をマリアに確認してもらうということですか。」

「そうだ。今回はマリアだけでなく、闇の魔力について経験のあるソラにも来てもらっている。なにか手掛かりをつかめるはずだ。」

「ラーナ様、もしかしてそれを見越してこの二人を....」

「高く評価していただいてありがたいが、ジオルド王子、それは買いかぶりというものだ。しかしわたし自身、ある程度は予想していたが、ここまではっきりと闇の魔力がこの事件にかかわっていたことが明らかになったことには正直驚いている。」

カタリナ様が行きましょうと言いながら再び乗り出そうとしたので、ラーナ様がとめる。

「カタリナ嬢、場所は町のはずれでここからかなり距離がある。今動くのはあまりにも危険すぎる。夜が明けてからだ。」

とおっしゃれた。

翌朝、黙々と朝食を食べ、アレクサンダー君が示したというキース様の軟禁されていらっしゃるという屋敷へ向かう。

馬車はかなりおんぼろなものを使う。治安の悪い場所を通るので、安全のためにあまり良い馬車を使うわけにはいかないらしい。しかも現場から一定の距離をおいた場所に馬車を置いてそこからは歩くということだった。

ゴミやがれきの山、ボロボロで破れた布のような汚い衣服を着た人々がたむろしたり、寝転がったり、死んだ魚のようなうつろな目をしている。

「目があったら付きまとわれる恐れもある。外を見るな。」

馬車を降りたらラーナ様から配られた薄汚れたマントをはおる。

そうしてラーナ様に案内され、10分ほど歩いたときだった。

「ほら、あそこだ。」

と指さされた場所には、これまでのがれきとゴミの山がとぎれて御殿ともいうべきか立派な屋敷が立っていた。中庭などもあるのだろう、かなり広い範囲を壁で囲んでいる。

「なんでこんなところに立派な屋敷が...。」

「立派というより、成金趣味といったところだろう。この町の元締めか何かの屋敷で、ろくな奴がすんでいるとは思えない。みろ警備も異様に厳重だ。」

がたいのいい筋肉隆々と言った屈強そうな男たちが鋭い目つきで周囲を警戒している。

「マリア、ソラ何かわかるか?何も感じないようならもっと近づくしかないが...。」

ラーナ様がわたしとソラさんにお尋ねになられた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話 キース様誘拐事件(その5)

「いいえ、ここからでも充分です。」

「具体的には何か見えるのか?それとも見えないのか?」

「闇の魔力が充満しています。先日の人物とよく似ています。」

「僕も、マリアさんほどはっきりはしませんが、あの独特な気配をなんとなく感じますね。」

「ここにキースがいるのね。助けに行かなくちゃ」

「こんな警備が厳重な場所に無策で突っ込んでいくつもりですか?カタリナ、落ち着いてください。」

ジオルド様の表情は怒っていて、カタリナ様を強く引き留めた。

「す、すみません」

 

「ラーナ様、確かにこの屋敷にキースがとらわれている可能性は高いと思います。乗り込みますか?」ジオルド様がお尋ねになる。

「う~む」

ラーナ様は考え込む。

戦闘になったらラーナ様の風魔法、ジオルド様の剣技、ソラさんの護身術兼格闘術で切り抜けることになる。ただわたしは、ぞわぞわする闇の魔力にあてられそうだ。皆さんにどんな危険があるかわからない。

「あ、あの...。」

「どうしたマリア、顔色が悪いぞ。体調がすぐれないなら宿にもどるか?」

「いいえ、大丈夫です。それよりもあの屋敷にまとわりつく闇の気配は強烈でおどろおどろしいのでどんな危険が待ち構えているかわかりません。何しろ屋敷全体が闇に呑み込まれているような感じなのです。」

「僕もマリアさんのように完全にはわかりませんが、あの屋敷は、薄気味悪く感じます。ここにいるだけでも背筋がぞわぞわする感じで 、警備を潜り抜けてもその先を想像するだけでも不気味です。」

「そうか、それほどまでに危険な場所にただのりこむのは得策ではないな。それでは魔法省に連絡をとってみよう。」

ラーナ様は近くにある高い建物に登って行った。

しばらく皆さん黙っていたが、ジオルド様が話しかけてくる。

「マリア、話すのが嫌でなけければ教えてほしいのですが、あの屋敷の闇の魔力は前のものとどのように違うのですか?」

「はい、上手く言えなくて申し訳ないのですが、闇の濃さのような違いでしょうか?」

「闇の濃さですか...。」

「はい。わたしには、闇の魔力が黒いかすみか煙のように見えるのですが、これまで濃いと感じた闇の魔力は、ラファエルさんにとりついていたもので単純な復讐心ヵらくるもので濃いとは言ってもある意味あっさりしたかんじのものでしたが、今回のものは,なんというか汚水というか粘液というかどろどろとした濃さでぞわぞわするのです。」

「僕もぞわぞわします。近づいたら取り込まれそうなそんな不気味な感じです。」

「そうですか...。」

ラーナ様が戻ってきた。

「だいぶ危険な場所ということで魔法省に応援を頼むことにした。従って今日は宿に戻り、魔法省の応援を待つことにする。」

カタリナ様が叫ぶように話す。

「??それではいつ屋敷に向かうことになるのですか?」

ラーナ様は少し困り顔になって答えた。

「特急で応援を頼んでいる。しかしわれわれもここまで馬車で3日かかっている。応援が到着してからだから明日以降になるだろう。」

「明日以降ですか...。」

「あの、ラーナ様」

「どうしたカタリナ」

「わたし、待てません。」

「何を言う、非常に危険な場所だ。もしかしたらカタリナ嬢自身もとりこまれてしまうかもしれないのだぞ。」

「危険な場所だということはよくわかりました。それほど危険なら、キースが明日まで無事である保障はないというこよですよね?」

「今こうしている間にもキースに何かあったらと思うのにこのまま待機して待つなんてわたしにはできません。」

「カタリナ嬢、はっきり言おう。キースは無事な可能性がが高い。なぜならこのアレクサンダーは魔力の高い人間をさがせるのだが、魔力のない人間の人探しには向かないのだ。まあ、そこは試作品の試作品たるゆえんでもともとジェフリーの依頼でつくったわけだからな。また死者になっていたら魔力のない人間と同じになるから反応しない。縁起でもない話になるが」

「そうであってもこれからキースに危害が加えられたりするかもしれません。身代金やら何か条件があれば、わたしのときのように犯人から条件がだされるのに、全くそういうことがない。このまま待機するなんて考えられません。どうかわたしだけでもいいのであの屋敷に行かせてもらえませんか?」

わたしもソラさんも驚いたが、カタリナ様としてはいてもたってもいられないのだろう。

「ラーナ様、僕からもお願いします。」

「「え...ジオルド様」」

わたしとカタリナ様は驚いてジオルド様を見る。

ジオルド様は困ったような笑みを浮かべてカタリナ様をみるとラーナ様に向き合って

「僕がついていきます。カタリナだけにはしません。ですから許可していただけないでしょうか?」

「ジオルド王子、本気か?」

ラーナ様はいぶかしげな表情だ。

「もちろんです。」

「こういう顔をした時のカタリナは止まりません。止めたところで一人でも乗り込んでいくでしょう。その方が目が届かない分はるかに危険です。」

カタリナ様がひるんでいる。ジオルド様はカタリナ様に微笑みかける。

「あなたの考えそうなことはわかりますよ。」

ぼそりとカタリナ様にお話しされる。

「う~む」ラーナ様はしばらく考え込んでいたが、

「そうだな、相手は何の条件を示していないなら、キースに危害を加えることが目的な可能性もあるし、危険な場所だからこそ早めに助けなければならないのも確かだ。ただし、単独行動が最も困るから君たちだけというのは許可できない。」

「ラーナ様...。」

「わからないか?いっそこのメンツで乗り込むかということだ。」

「ありがとうございます。ラーナ様」

「ただ、正面から入れてくれと言って素直に入れてくれるわけじゃないのはわかるだろう。入れそうな場所や手薄な場所をさがすしかない。おそらく具体的な侵入者を想定していないだろうから罠の可能性は薄いだろう。」

ラーナ様は、たよりがいのある部下を見つめて

「ソラ、頼めるか」

「そういうことなら任せてください。そうときまったら全力を尽くしますよ」

ソラさんは、にやりと笑みを浮かべた。

「一人で大丈夫なの?」

カタリナ様がおたずねになるが

「わたしはスラムや治安の悪い場所で育ってきましたからこういう場所を探るのは得意なのですよ。しかも一人のほうが動きやすいので任せてください。」

ソラさんはいたずらっ子のような笑みを浮かべて答える。

わたしたちは屋敷から離れた場所でソラさんを待つことにする。

カタリナ様はジオルド様にお礼を言っていた。

ジオルド様は困ったような笑顔で、

「あの顔をした時のカタリナはとまりませんからね。」

「あの顔ってどんな顔ですか?」

「こうと決めた時の顔ですよ。僕らは8歳のころからつきあっているんですよ。それに...。」

「それに?」

「すぐに助けに行くと言うだろうと思っていましたよ。助けを求める人がいたらあたりまえのように走って助けようとする。それがカタリナですから。」

カタリナ様は目を白黒させている。

「怒っているわけではないのですよ。むしろカタリナのそういうところを僕は好ましくも思っているのですよ。だって君は、とらわれているのがキースではなく僕であっても駆けつけてくれるでしょう。」

「はい。そのとおりです。」

それまで戸惑っていたカタリナ様はこの質問に関しては即答だった。そうだ、そういう人なのだ。カタリナ様は。平民であるわたしをかばって悪口を言われているのを何度も聞いている。損得や社交界でどうあつかわれるかとか考えない。

「君のそういうところが好きですよ。」

とジオルド様はカタリナ様の頭をなでる。

「だからこの事件が解決したら覚悟してください。」

とつぶやいた気がした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話 キース様誘拐事件(その6)

いよいよ屋敷にのりこもうとしたとき、わたしには、無理についてこなくてもいいという話がされたが、いくら恐ろしいとは言っても闇の魔力を目の前にして光の魔力保持者がひるんでいるわけにはいかない。

「カタリナ様たちだけをあの屋敷にいかせるわけにはいきません。わたしは光の魔力保持者ですから何かお役に立てるかもしれません。そう考えたら怯えているわけにはいきません。」

そしてわたしは大好きな方の手をしっかりにぎる。

「わたしは、カタリナ様がそばにいてくだされば、どんなことも平気なのです。こうしてカタリナ様といられればどんな敵にも向かっていけます。」

カタリナ様は手を握り返してくださる。

「マリア、ありがとう。よろしくお願いします。」

 

屋敷には警備の多い表門より、裏門から入ることに決めた。しかし屈強な男たちが3人も見張っている。

「こここらどうするの?」

「ちょっとまっていてください。」

ソラさんがにやりとほほえむ。

ボン、ボンと中庭で鈍い音がしたかと思うと火の手も上がる。

「火事だ。中庭のほうだ。」

3人のうち2人が中庭のほうへ行く。

「どうしたのですか?」

「まあ、ちょっと細工をしたんですよ。さあ、今のうちに行きましょう。」

残った一人にラーナ様が微笑みかける。

何だ、この女はと相手がいぶかっていると風の魔力で男を持ち上げて激しく回転させた。男はのびてしまった。

「これでいっちょあがりだ。」

 

屋敷の中は御殿という感じで贅沢なつくりだった。

ラーナ様が成金屋敷とおっしゃっていたがそんな感じだ。

わたしたちは迷路のような成金屋敷の廊下を見張りを避けながらジグザグ進むがやはり全員を避けるのは無理で何度か出くわしてしまう。

しかし、ソラさんが鋭い動きで相手の急所を打って声もあげさせず気絶させる。あるときはラーナ様が風魔法で相手を叩きのめしてしまう。

ジオルド様も、剣のみねうちをつかって相手を叩きのめす。

しかし相手も用心棒をまかされてるだけあって、かすり傷を負うこともある。

ジオルド様、ラーナ様の順にかすり傷があるのでわたしが治癒する。

ソラさんはこういう戦い方にはなれているようで相手を巧みに倒していく。

屋敷の奥に行くに従い調度品もますます贅沢なものになる。

たまたまドアが開いて「なんだおまえたちは!」

と叫んだ人物は、ラーナ様やカタリナ様曰く「成金おっさん」といった風体の小太りで、キンキラの派手な服をきていた。「成金おっさん」は背後にいた護衛の屈強そうな男たちに「侵入者だ!捕らえろ!」

と叫ぶ。しかし、ラーナ様、ジオルド様、ソラさんにあっという間にのされてしまった。ソラさんが素早くナイフを取り出し、首筋にあて、

「お前がここの主か?」

とたずねると、「成金おっさん」は、コクコクとうなずく。

「なら、キース・クラエスの居場所も知っているな?」

「キース・クラエスだと?そんな奴は知らん。」

男は青ざめた顔で必死に首を横に振っているように思えた。

「おい、隠し立てしてもなんのいいこともないぞ。吐け!」

ソラさんがナイフの先を首にあて今にも突き刺しそうな感じだ。

「本当に知らん。知らないんだ。」

男の額から冷汗が流れ、恐怖に震えて必死に首を振るだけだった。

「ちょっといいか、カタリナたちはここで待っていてくれ。」

ラーナ様は、ソラさんに男をひきづらせて、男の出てきた部屋に入る。

部屋の中にはキース様はいらっしゃらないようだった。

「どうやら本当に知らないようだ。それにこいつも闇の魔力で操られていたような痕跡がある。」

「??こいつが首謀者じゃないんですか?」

「屋敷の主であるのは確かなようだ。ただキースの誘拐に直接かかわってはいないようだ。むしろ闇の魔力で操られて屋敷を使われていたのではないか?どうだ、マリア?」

「おっしゃる通りかと思います。この男には闇の魔力を使われた気配を感じます。」

「アレクサンダーはキースの居場所はこの先だと指さしている。マリアはどうだ?」

「はい、闇の魔力の濃度は進めば進むほど、ますます濃くなっている感じです。この先に何かあるのでしょう。」

「成金おっさん」の部屋を過ぎるとだんだん調度品は質素になっていく感じだ。廊下自体も暗い感じがする。

「少し吐き気がして背筋が寒くなる感じです。闇の魔力の濃度が強くて圧力のようなものを感じます。」

わたしはおもわず口を押える。口へ入ってくるんじゃないかと思うような不気味さだ。

「これは本当にいや~な感じというか不気味な感じというか、やヴァい感じです。しかし....どれだけの魔力量なんだ。際限がないな。」

「魔力量って?」

「そのままの意味です。皆さんも魔力量も限度があってたくさん使えばなくなるでしょう。」

「だけど時間がたてば回復するけど...。」

「闇の魔力に限っては、使えば使うほどなくなります。回復することはありません。このことは元闇の魔力保持者のラファエルさんにも確認しているので間違いないです。だからこんなに多くの人に使えるというのはかなり恐ろしいことなんです。」

「じゃあここにいる闇の魔力使いは相当凄いやつってこと?」

「わかりません。ただ一人にしては、あまりにも濃すぎる。複数人いるかもしれません。進んでみなければわかりませんが。」

すすんでいくと、行き先が鋼鉄の扉になっている。

アレクサンダー君がここだここだと指をさす。

吐き気がするほどの重圧感を感じる闇の魔力の気配がする。カタリナ様がラーナ様の顔をご覧になると、ラーナ様がうなづいて「マリア、ソラどうだ?」

とわたしたちにおききになった。

「すさまじいばかりの闇の魔力です。重圧感と吐き気がするくらいです。」

「僕もおどろおどろしい力を感じますね。マリアさんのいうとおり重圧感を感じます。」

ラーナ様はジオルド様と顔をみあわせうなづくとジオルド様は剣を抜き、ラーナ様はかまえた。ソラさんとわたしが扉を開ける。

開けてみると普通の客間のように見えるが、おどろおどろしい雰囲気がただよう。奥の方から闇の魔力が漏れているようだ。

部屋の中央には机があり、椅子が並んでいる。部屋に入ってしばらくすると

「ひやあ」とカタリナ様が叫ぶ。入り口から死角の位置に小太りの男が倒れていた。ソラさんが

「おい?」

と声をかけると起き上がり、ぼさぼさの髪、顔には吹き出物が目立つ。殴られたような顔だ。男は、

「うおおおお」とうなり、服が破れ、緑色の皮膚に変わって、牙をはやす。

いつのまにか身長3mの怪物になっている。RPGのオークのボスのようだ。いつのまにか斧をもっている。

ジオルド様が斬りつけるがそのたびに斧で防がれる。それを10数回繰り返す。

それどころかオークの斧の振り方が的確になっていき、ジオルド様の髪が一部切られて飛び散る。肩のほうを斧がすり抜け、次は横腹をすり抜ける。

かろうじてよけているが、切り込まれたら終わりだ。

ジオルド様の額に汗が流れる。剣を飛ばされたら終わりだ。

そのときだった。

ラーナ様が風魔法でオークのボスを竜巻で噴き上げたかと思うと、次の瞬間には地面にたたきつけている。そこをジオルド様が深々とつき刺して倒すとなぜか元の男の姿にもどった。

「キース・クラエスの居場所を知らないか?」

とソラさんが尋ねると

「キースか...あの娼婦の子、化け物め、奴がくたばるところを見てやるんだ。」

とぶつぶつとつぶやく。そして壁際のタンスにふれると、タンスが動いて、扉が現れた。ジオルド様が起き上がろうとする男を剣のつかで強く叩きのめした。

「おそらくキースはこの先にいるんだろう。しかも危険な状態である可能性が高い。みんな突入するぞ。」

ラーナ様が扉を魔法で開ける。ソラさんとジオルド様は武器を構える。

ギイイと音を立てて扉が開いた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話 キース様誘拐事件(その7)

その部屋はきれいに片づけた物置のような部屋だった。床が無機質な冷たい感じ。しかしものすごい濃い闇の魔力が部屋いっぱいに充満している。

奥の方に人が倒れていた。その人物はひどく汚れていて服もところどころ敗れている。かなり痛めつけられた様子がうかがわれる。髪の色からキース様の可能性もあるように思われた。しかし、カタリナ様にはそれが間違いなくキース様だとわかったのだろう。

「キース!」

と呼びかけるように叫びかけよっていく。

「危険かもしれないから近寄らないでください。」

とジオルド様が叫ぶが全く耳に入らないようだ。

「キース!大丈夫?しっかりして!」

カタリナ様がキース様を抱き起こす。

凄まじいばかりのどんよりとした闇の魔力がキース様を包むようにして充満している。キース様に体には細かい傷やあざがあるように思われた。血の気が引いて蒼白になっているので余計に目立って見える。

カタリナ様はキース様の口元に耳をあてる。

「生きてる!キースが生きてるわ!」

「そうか、よかった。」

ジオルド様がつぶやく。

「カタリナ様、その霞に触れても大丈夫なのですか?」

カタリナ様は、

「えつ???なにこれ?」

キース様をしばるように身体中にへびのようにどす黒いものが巻ついていてそこから闇の魔力の気配が放たれている。

「マリア、これは何なの?」

「よくわかりませんが、闇の魔力の元です。凄い威圧感を感じます。」

「だから、カタリナ、「危険かもしれないから近寄らないでください。」と言ったのに少しも言うことを聞こうとしないのですから。って言っても触れても大丈夫そうですね。」

「触れても大丈夫みたいだな。マリア、ソラ大丈夫か?」

「大丈夫です。でもちょっと近寄るのは無理です。」

「僕もです。凄い重圧感で近れよれません。」

わたしも吐き気をもよおしているが、ソラさんの額にも汗がにじみだしている。

「キースに強力な闇魔法がかけられているということだな。」

ラーナ様が確認するようにおききになる。

「そういうことです。どす黒い威圧感を感じます。」

わたしは、顔から血の気がひいているのを自覚するくらいだった。

「あの、わたし自力で眠りの魔法を解きました。もしかしたらキースにわたしの声が届いたら、キースが魔法に打ち勝つかもしれません。」

「わかった。確かに試す価値はあるな。」

「キース、キース、起きて!わたしよ、カタリナよ!迎えにきたわよ!」

カタリナ様はキース様の身体をゆさぶり、手を握って叫ぶように話しかける。

「探して迎えにきたわよ。目を覚まして!キース!」

カタリナ様の様子からキース様の反応は鈍いようだ。

「キース様、起きてください。」

「キース、起きてください。カタリナを奪ってもいいのですか?」

「キース様、起きてください。」

「キース、起きろ、ジオルド王子が義姉をうばってもいいのか?」

「ラーナ様?」

「なんだ、ジオルド王子」

「わたし自身が言うのはかまいませんが、そうやって言われるのは抵抗があります。」

「そうか、一番効果があると思ってな。ほら大事なことは二度繰り返さないとって最近の流行だろう。」

ジオルド様は何やら憮然とする。

「なんか手が冷たくなっているような気が...キース目を覚まして!」

カタリナ様の声に悲壮感が加わる。

「どうしてダメなの?なんで?ねえキース」

カタリナ様の目から涙がこぼれる。

わたしは、必死になって光の魔法をかけるが好転するようすがない。

「もしかして闇の魔法が強すぎて自力で解けないのかもしれません。」

わたしの声も悲しみでうわずる。

その時だった。力強いアルトの声が耳に入ってくる。

「それなら闇の魔法をかけた者をさがすしかあるまい。」

ラーナ様だった。

「これだけ魔力を使って何人も操ってきたんだ。何か目的があるに違いない。おそらく敵は近くにいるはずだ。わたし、マリア、ソラで探す。ジオルド王子とカタリナ嬢はキースについてやってくれ。」

ラーナ様は、微笑んでカタリナ様の頭をなでる。

カタリナ様は多少元気になられた感じで

「わかりました。お願いします。」

とおっしゃられた。

「ではジオルド王子、カタリナとキースをたのむぞ。」

ジオルド様がうなづいたのを確認すると、ラーナ様も軽くうなづいて、

「マリア、ソラ行くぞ」

とおっしゃられた。

 

わたしたちは、屋敷のあちこちをさがしたが、闇の魔力の使い手はみつからなかった。「ここにもいないな...。」

6か所か7か所目の部屋を確認した時だった。いきなりキース様のいた部屋の方向から強烈な闇の気配がするのを感じた。

「ラーナ様、さっきのキース様のいらしゃった場所の方向に強い闇の力を感じます。」

「僕もです。カタリナ様とジオルド様が危ないかもしれません。」

「わかった。戻るぞ。」

 

部屋に戻ると、ワンワンと犬の鳴き声が聞こえる。カタリナ様とジオルド様は無事だった。吠えているのはカタリナ様に抱かれた黒い子犬だった。カタリナ様のおもちになった「鏡」が熱くなってキース様を縛っていた闇の魔力のヘビを「ちぎり殺す」ことができたところ、キース様に魔法をかけた闇の魔力の使い手の少女が現れたのだという。黒い子犬はその少女が使おうと考えていた闇の使い魔だったが、カタリナ様になついているため、その少女は姿を消したのだという話だった。

 

「なるほど、この子犬は闇の使い魔か。まあ詳しい話は後で聞くとしよう。キースにかかった闇の魔法も解けたことだし、ここに長居は不要だ。」

黒い子犬はカタリナ様にすっかりなついてとことことついてくる。

「この子犬、つれていっていいでしょうか?」

「ふむ。実に興味深いし、どうやらすぐに害があるわけでもなさそうだし、いいだろう。魔法省にも連れて行ってラファエルの意見もききたいしな。」

「ありがとうございます。」

しかし、もっと難題なのは、ボロボロに疲れ切っているキース様をだれが運ぶのかということだ。わたしがある程度治癒したので大きな傷こそなくなったが、鞭うたれ、闇の魔法もかけられて精魂尽き果てた様子でお休みになられて動かない。

「ああ、そうだな。こうするか。」

ラーナ様は、

「ソラ、荷物の中を開けるぞ」

とおっしゃり、食事の際の敷き布をとりだした。

「キースを載せてくれ。」

とおっしゃり、ジオルド様とソラさんが、キース様を布の上に横たえると、ぼそぼそと呪文をとなえられた。

すると布が宙に浮いた。

「おお」

「すごいですね。」

「うむ。風魔法の応用なんだ。遊び半分でやってたことが役に立つとはな。」

「あの、ラーナ様」

「なんだ?カタリナ嬢」

「私の前世の記憶で、人や物を載せて高く素早く飛ぶ「魔法のじゅうたん」という道具の話があるんです。」

「そうか、高く上げて、早く飛んでいくのか。おもしろそうだな。しかし、カタリナ嬢の前世って、魔法の代わりに「かがくぎじゅつ」が使われているんだろう。なのに魔法の話が多いんだな。行くことが出来たらおもしろいな。」

「はい。」

「とにかくその「魔法のじゅうたん」は、面白いし、すごく便利だな。うん、わかった。魔法省で考えてみよう。」

「といってラーナ様、夢中になりすぎて書類仕事のほうをおろそかになさらないでくださいよ。ラファエル様だから魔法道具研究室の仕事がなんとかなってるんですから。」ソラさんがくぎをさす。

「わかった、わかった、書類の決裁はもどったらすすめるよ。」

キース様を載せた「じゅうたん」をもう一台の馬車にのせて、わたしたちは2台の馬車に乗って帰ることにした。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話 わたしたちの卒業式と卒業パーティ(前編)

さて、アレクサンダー君だが、ジェフリー様に引き渡す予定がわたしから離れたがらないということで、わたしの「ペット」になることになった。人の居場所を探すのに大活躍するだろう。

一方、闇の使い魔の黒い子犬は、ポチちゃんと名付けられた。かわいいお名前だ。いろいろ取り調べようとしたが、カタリナ様から離れるのをかたくなにいやがり、逃げるときには、黒いかすみになったり、ついにカタリナ様の影にもぐることを覚えて、引き離せなくなった。

「こうなったらカタリナに面倒をみてもらうしかないな。」

とラーナ様はつぶやくが、あまり残念そうに見えない。

結論として、カタリナ様になつききっているのは、キース様からエネルギーを吸収していたからで、カタリナ様が「子犬のようになってくれたら」という願いに反応したからということで、害はないだろうという結論になった。

またラーナ様があまり残念そうでなかったのは、ラーナ様が個人的に気に入っていたカタリナ様を「闇の魔力を解呪した実績があり、現在は闇の使い魔の使い手である」として魔法省へ入省させることが公式に認められることになったからだった。

 

さて数日後、キース様が目を覚ましたという情報が生徒会室にもたらされ、みんなで快気祝いにとクラエス家にいくことになった。

キース様の寝室の隣の部屋まで案内されたが、カタリナ様とキース様の話し声が聞こえてきた。

「カタリナが一人の女性として好きなんだ。」という声が扉越しに聞こえるに及んで耐えられなくなったジオルド様が扉を開ける。

「そこまでです。キース。カタリナは婚約者である僕のものです。」

「何をおっしゃってるんですか?ジオルド様。カタリナ様はあなたのものではありません。」

「そのとおりだ。カタリナはお前のものではない。」

「そうです。カタリナ様は誰のものでもありません。そうですわ、カタリナ様、おすすめの小説を持ってきました。」

「ソフィア、具合を悪くしているのはカタリナではなくキースだぞ。お見舞いの品がおかしくないか?」

皆さんのお話をききながら

「私は、お菓子をつくってきました。皆さんで召し上がりましょう。アレクサンダーもいます。」

ジオルド様がカタリナ様をさっとだきしめて

「カタリナは僕のものです。」

と耳元でささやいている。

しかし、キース様が引き寄せて

「だめです。ジオルド様にわたしたくありません。」

「いうようになりましたね。キース」

二人はにらみ合っている。

カタリナ様は、どうしていいかわからずに突っ立っている状態だったので声をおかけする。

「カタリナ様。こちらにお菓子を用意してあります。お茶にしましょう。」

「あ、そうなの、マリア、ありがとう。」

クラエス家の使用人の皆さんは素早く動いてお茶会の準備がたちまちととのった。お茶会になって、二人のにらみあいはうやむやになった。

 

キース様が療養を終えてから数日後、いよいよわたしたちの卒業式だ。ジオルド様が卒業生代表、生徒会長としてあいさつをしている。7割近くの女生徒たちは、頬を染めて見つめている。

卒業式はわりとあっさりだったが、例によって卒業パーティの盛り上がりはすごい。ジオルド様なんかどこにいるかわからない感じだ。アラン様も同じだがその周囲から漏れてくる話の内容はその演奏をたたえる声が多く聞こえてくるのが大きな違いだ。メアリ様、ソフィア様の周りのにも多くの生徒たちが取り囲んで卒業を名残惜しむ会話が聞こえてくる。

メアリ様の周りからは社交界の華と称えられるメアリ様の立ち居振る舞いを称える話題、ソフィア様の周囲は趣味の小説の話や、その教養をたたえる話題が聞こえてくる。そんなときにどうやらカタリナ様と次期会長のフレイさんと副会長のジンジャーさんが話している。ジンジャーにフレイのドレスが本人のプロポーションが良すぎて着れないとかいう会話の後、

「わたしのドレスをかしてあげるわよ。」

という声が耳に飛び込んできた。

「え~カタリナ様の??」

「ジンジャーなら私のサイズで問題なく入りそうだし...。」

「パーティが終わったらドレスを合わせましよう。」

どこから聞きつけたのかメアリ様が3人のもとへ息を切らしながら

「カタリナ様、今ドレスを貸すという話が聞こえたのですが...。」

走っていく。

「わたしにも、わたしにもドレスを貸してくださいませ。」

「メアリ様ばかりずるいですわ。わたしもお借りしたいです。」

とおっしゃるのが聞こえてくる。するとほかの女生徒たちも

わたしもわたしもと言い出しパニック状態になっている。

それを見たのかキース様、ジオルド様、アラン様、ニコル様がいらっしゃる。後輩のフレイ嬢もいて、カタリナ様の周囲にあつまった女性たちをなだめていた。

 

私の周りにも多くの後輩やクラスメートがあつまってきていて会話を楽しんでいた。後輩の男の子や女の子に尊敬のまなざしで見つめられて気恥ずかしい感じだ。

「平民のご出身と聞いていますが、家庭教師無しで生徒会にお入りになられたんですね。」

「すごいですね。我々は、頑張ってもあの成績は取れません。」

「どこかの令嬢と勘違いされて辛い思いをされたようですが、むしろマリア先輩はどこ行っても通用します。」

「魔法省に入られるそうですね。凄いです。」

同級生はそれとなく、後輩の男の子は上気した目で口説いてくる人さえいた。やっぱり優秀な夫人がほしいということのようで、領地経営の話を持ち掛けてくる人もいた。私が答えるとその答えに満足したようで、魔法省をやめてもらえないかと口説いてくる人が増えて、逆に困ってしまった。それをみた後輩の女の子たちが

「マリア先輩が困ってるじゃない」

同級生の女の子たちは、

「カタリナ様がいないならわたしたちがみはってるんだから」

みんな私よりも身分の高い貴族の令嬢なのにかばってくださる。

「いいだろう。優秀な妻がいれば助かるんだから。」

「マリア先輩のお気持ちがだいじじゃないですか。」

「ごめんなさい。」

わたしは丁重に謝った。ちなみにわたしを嫌っていた令嬢たちにはスルーしていたのでその意味でもホッとできる卒業パーティだった。もっともわたしに好意的な同級生や後輩の環が彼女たちを近づけなかったという面もある。

卒業パーティが終わると今度はお城でジオルド様とアラン様の卒業パーティだ。

アラン様とメアリ様が

「マリア、うちの馬車に乗ってくれ。」

「マリアさん、一緒に行きましょう。」

と誘ってくださる。後で聞いた話だが、アスカルト家は、誰も私を乗せる馬車がなかったら乗せてくださるおつもりだったが、アラン王子がわたしをまねいたので遠慮したらしい。ジンジャーさんは、ドレス合わせしてからクラエス家の馬車でお城にやってきた。

お城のパーティにきてからが大変だった。エスコートがいらない会と思って油断していたのがたいへんなことになった。

令嬢たちの意地悪がなくなった半面、わたしは、あっというまに男性たちに声をかけられた。わたしの容姿をほめるだけでなく、いかに優秀かということで口説いてくる。ダンスにも誘われた。ドレスの贈り物もいただいた。断ろうとしても断り切れずに受け取らざるを得なかった。わたしはメアリ様をはじめ友人になってくださった皆さんから貴族の礼節を込めた態度で丁重にお断りし続け、くたくたになった。

 

なかには、人柄まで褒められてことわるのがまずいのではないかとさえ思い始めて、それを見かねた同級生やフレイさん、ジンジャーさんがわたしを見つけて引き離してくれた。

ドレスのサイズは半分はピッタリなものでどうやって計ったのか気持ち悪く感じた。

「男性たちに囲まれていたマリア先輩をお連れしました。」

「疲れました。」

「すまなかったマリア。こういう事態は予測できたな。エスコート役をみつくろっておけばよかったな。」

ニコル様が謝られる。

「いいえ、次々にお誘いいただいて知らない方ばっかりだったので、お断りしてしまいました。どなたかにお願いすればよかったのです。」

「今日のドレスはどうしたの?」

カタリナ様がおたずねになる。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話 わたしたちの卒業式と卒業パーティ(後編)

マリア・キャンベル編完結です。


「あ、これは魔法省からレンタルしたものです。ジンジャーさんから聞きました。ジンジャーさんのドレスはカタリナ様からお借りしたもののようですね。わたしもお借りすればよかったです。」

「マリアさんのいうとおりでわたしもカタリナ様からドレスをお借りしたかったです。」

「メアリ様は、ご自分のドレスをたくさんお持ちではないですか。義姉さんのを借りてもサイズがあわないかもしれないでしょう?」

「それはそれ、これはこれですわ。」

「そんなに堂々と宣言されても...。」

「さっきパニックになったろ。その話はやめろ。」

「義姉さん、義姉さんてば...あ~これはこっちの話聞いてないやつだ。」

「カタリナ様は、何か周りを威嚇されているようで、こちらの話はお耳に入っていないようです。」

「義姉さん....わかりやすい状況把握ありがとう、ジンジャー。」

「いいえ、マリア先輩のことが心配なのでしょう。なにしろどうやってサイズぴったりのドレスを贈ることができたのか...」

「あつ...。」

カタリナ様がテーブルの上のソースチューリンにぶつかってひっくり返してしまったようで、ドレスにべっとりソースがついている。

「キース、ごめん、マリアのこと頼んだわ。くれぐれもしっかり守ってあげて」

「それはいいけど義姉さん、汚れを落としたらすぐに戻ってきてね。」

「わかった、わかったわ。」

しかし、いつまでもキース様と一緒にいるわけにもいかず、彼は令嬢たちに声をかけられたら踊らなければならないし、カタリナ様ももどってきたらジオルド様につかまって踊っている。踊り終わるとキース様に「あちらで令嬢たちがお待ちです」と伝えられて踊り始めていた。わたしも多くの男性に声をかけられるが、見知らぬ人ばかりで、しかもしっかり踊れる自信がなかったので丁重にお断りし続けた。声をかけてきたのに、なぜか途中であきらめたようにわたしから離れる男性がいると思ったら、カタリナ様がにらんでいるようだった。

そうこうしていくうちに皆さん一通りダンスを終えたようで残りの食事を始める方もちらほら姿が見える。

「マリア、こっちこっち」

カタリナ様が手招きしてくれる。

メアリ様とソフィア様もいらっしゃって、ダンスを終えて残った食事を食べ始めようとしていたところだった。しばらく食事した後

「これにてジオルド殿下アラン殿下卒業記念パーティは閉会いたします。気を付けてお帰りください。お泊りの方はそれぞれのお部屋をご案内いたします。」

司会者の宣言でパーティは終了した。メアリ様のお部屋で女子会、パジャマパーティをすることになっている。カタリナ様、ソフィア様ともご一緒で、実は今日一番の楽しみだ。

メアリ様の部屋に集合したが、カタリナ様がいらしていない。

「カタリナ様がおそいですね。」

「様子をみてきますね。」

なにもなければよいのだがと思っていると間もなくカタリナ様もメアリ様に連れられて現れた。パジャマの上にガウンをお召しになっている。

「カタリナ様、お疲れのようですが大丈夫ですか?」

「お菓子ならこちらに。どうぞ。」

「お茶もジュースもあるので、召し上がってください。」

「ありがとう。」

カタリナ様は、もぐもぐごくごくお召し上がりになる。

「うん、おいしい。みんなの顔見て、お菓子食べたら元気出たわ。」

「ほんとに今日は、予定びっしりで疲れましたね。」

「学園の卒業パーティのあとにお城でパーティでしたからへとへとです。」

「ああ、そういえばマリアは学園以外のパーティははじめてだったものね。」

「はい。皆さんにおしえていただいたようにふるまったつもりですが、たくさんミスしていたのではと心配でした。」

「いえ、だいじょうぶでしたわ。初めてとは思えないほど完璧でしたわ。」

「そういっていただけると嬉しいです。たくさんの方にお声がけいただいたので、せいいっぱいで粗相がなかったかと心配で。」

「本当にすごい人数にお誘い受けてましたものね。」

「でもマリアさん、どの方のお誘いもお受けにならなかったんですよね。」

「えつ?そうなの?マリア」

「はい。ちゃんと踊れる自信がなかったので。」

「わたしもダンスは苦手だけど、みんなが上手くリードしてくれるからそれなりになるけど...。」

「カタリナ様の場合は、ジオルド様やキース様なので上手さが特別ですので。でも男性のリードに委ねれば寄れなりに踊れますし、マリアさんも学園のダンスレッスンの授業は受けているでしょう。」

「はい。ですが、見知らぬ男性に身をあづけるのはちょっと気が引けます。」

「それもそうですわね。わたしも面識のない方はお断りしてますから。」

「でも素敵な方なら踊ってみてもよかったのではないでしょうか?そういう方はいらっしゃらなかったのですか?」

ソフィア様の目はキラキラしている。

「素敵な方ですか....。」

素敵な方といえば生徒会メンバーの男性たちだ。身分、容姿、財力、人柄、能力全て最高峰の方々だ。そんな皆さんに見慣れているわたしからすると素敵な方と言った場合思い当たらない。

「マリアはどんな方が好みなの?」

「好みの方ですか....。」

どうしてもカタリナ様の顔が浮かんでしまうが、カタリナ様のどういうところがいいのかというと...

「いつも笑顔で明るい方がいいですね。あと私のお菓子をおいしい、おいしいと召し上がってくださる方がいいです。」

「わたしも明るくて元気な方がいいです。髪が茶色で、瞳が水色な方がいいです。」

とおっしゃるメアリ様。アラン様は銀髪で瞳が黒い。誰のことをおっしゃっているんだろう?もしかしてカタリナ様?

「カタリナ様はどのような方がいいんですか?」

「わたしは...う~ん、思い当たらないなぁ。ソフィアはどうなの?」

ソフィア様は、ロマンス小説の主人公の王子、騎士、将軍、軍師、魔法使い、盗賊やヒロインの相手、主人公の味方の軍師、盗賊、騎士や魔法使いの名前が挙がる。

「ソフィア、それって小説...。」

カタリナ様が苦笑しながらもお聞きになっている。わたしやメアリ様もロマンス小説はきらいではないので苦笑しながらも聞いている。

「そうだ、最近うしわれし国の王子様の物語の新刊が出たんです。どうですか?」

「ダッタ国に滅ぼされたミング国のユーロー王子が有志を集めて立ち上がる?おもしろそうね。」

「はい。こちらのハクト国のビング王子のお話もおもしろいです。」

カタリナ様、メアリ様、わたしもそれぞれソフィア様から貸していただくことになった。

「そういえば、最近ブレーモン通りにプランタンというお菓子屋さんが開店したんです。味付けが上品なのでおすすめです。」

「そうなの?」

「心当たりがあるので私もためしてみたいです。」

「学園の食堂に出すの?」

学園の食堂に出していることは親友である皆さんだけ話してある。はじめはわたしのものだと平民のものなんかと避けられるから話してなかったのだが、2年生になってからはわたしのものだとばれると、逆にわたしのものだけが売れてほかのお菓子の売り上げが下がりかねないので秘密になっている。皆さんはわたしのものを選んで買ってくださる。

「う~ん、皆さんも卒業ですから、学園で召し上がることはもうないですもんね。」

「魔法省で副業が認められればクラエス家で援助するわよ。」

「ハント家もパトロンになりますわ」

「アスカルト家もです。」

「ありがとうございます。」

「最近コリンナ商会の髪留めでこんなのがあったんです。」

「そうなの?色合いがすてきね。」

「この櫛もカキやアワビの貝殻の内側を使うとこんな感じに」

「角度を変えると色合いがかわるのね。」

「この腕輪も」「ネックレスがすてきで」

えんえんと楽しくお話が続いた。

話しつかれてふらふらになり自分の寝室にもどる。辛いこともあったが、終わってみたら楽しく思い出の多い学園生活だった。週間の春休みが終わったらいよいよカタリナ様と一緒の魔法省の入省式だ。メアリ様やソフィア様と会う機会が少なくなるのは残念だが、新たな出会いもあるだろう。楽しみだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フレイ・ランドール編
第1話 異母姉スザンナ様とわたしの生い立ち


わたしは、フレイ・ランドール。ランドール侯爵の側室の娘として生まれた。父ランドール侯爵は、たくさん女性をめとって生まれた子どもを政略結婚に利用しようと考えるような人物で、正室の次女であった義理の姉、スザンナ様は、魔法書を夢中になって読む以外とりたてて父に逆らわずにおとなしくしていたうえに、幼少のころから優秀で、学年主席が当たり前の方だったことから、15歳の時に第一王子ジェフリー様の婚約者にあてがわれた。お二人がであったとき、ジェフリー様は王位に就くつもりもない、弟たちがかわいいだけだと言い、スザンナ様は、わたしは魔法にしか興味がないとおっしゃったそうだ。

スザンナ様は魔法学園の1年時にはジェフリー様を抑えて学年主席をとって以来、そんな父を嫌う態度をはっきり見せるようになった。魔法学園の先生方とジェフリー様がそんなスザンナ様をかばうし、周囲もあんなに優秀な娘をという意見が多く逆にスザンナ様を庇うことでランドール侯爵の足下を崩そうとする動きすらあって侯爵は歯軋りするばかりのようだ。ちなみに2年次は異例の同点1位だった。

「スザンナ、手を抜いたか」

「生徒会長とかめんどくさいからな」

「でも同点1位だぞ」

スザンナ様は髪をかきわけ

「そうだな。学園からはくじ引きで決めてくれという話だった。」

とつぶやいたそうだ。

「しかたない。職員室へ行くか」

二人は職員室へいき、先生方の前でくじびきをおこなったところジェフリー様にあたったという。

「おめでとう。」

「なんか複雑だな。」

「副会長としてたすけてやるから。」

「優秀な副会長に感謝する。仕事ほっぽり出して魔法に夢中になりそうなのがこわいけどね。」

「ちゃんと自分の分はやるし、手伝うから」

本当にスザンナ様がそのようにしたがどうかあやしい。というのはどこにいるのかわからなかったという話も耳にはいっているからだ。聞くところによると魔法省OBの老人の家に入り浸っていたといううわさも聞く。それでも当時の生徒会もそれなりに上手く運用されていたらしい。

スザンナ様は、ジェフリー様の婚約者なのにパーティ以外でお見けるすることが少ない。そのパーティにも仕事とかで出席しないこともある。ランドール侯爵の魔手を逃れる仕事をしているらしいが何の仕事だろうか、謎すぎる。わたしも貴族令嬢としての立ち居振る舞いをみっちり教育される一方で、ランドール家ですこしでも有利な立場になるように魔法も学問も頑張っていて、魔法学園入学前の貴族の学校では主席を維持していた。15歳の時、魔法学園に入学することになった。

 

入学式のあいさつは、学園長、生徒会長と続き、ジオルド様だった。女生徒の大多数がため息をつきながらみとれているが、わたし自身は話の内容以外は興味はない。

 

さて、最初の中間試験の成績が発表された。なんとわたしは久しぶりに2位になってしまった。1位は、ジンジャー・タッカーという男爵家の側室の娘だという。わたしは驚いた。ジンジャーってどんな娘なんだろうと興味がわいた。生徒会室にいくと小柄でツインの三つ編みで地味目の少女がいた。男爵家の側室ってことは、ほとんど平民と変わらない、まともなドレスなどもってないだろうと予想した通りだった。ジンジャーは、田舎の学校で常に主席だったという。魔法学園に来る数年前は、タッカー家の離れで暮らしていて、することがないから勉強ばかりしていたという。側室の娘で貴族しての立ち居振る舞いがそれほど身につかない状態で、魔法学園に入ってきて、歯に衣を着せないではっきりものをいうので軋轢がたえないようだった。2年の先輩方は、双子の王子様をはじめ、公爵家の跡取りの貴公子、令嬢の中の令嬢で社交界の華、知識の女神で白銀の妖精、選ばれし光の聖女、そして生徒会役員ではないが、慈悲の聖女と呼ばれる方も生徒会室に出入りしている。これら先輩方は分け隔てなく接してくれる方々だが、1年生どうしではそうではない。

「あのジンジャー・タッカーって少しばかり頭がいいからと言って態度が悪いですわよね?」

と同意を求められ、

「ごめんなさい。わたしはあんまり気にならないの」

と返事をし、不思議そうな顔をされた。

 

また、こういうこともあった。

「あなたランドール家のフレイよね。わたしたちのお茶会に来ていただけないかしら。」

マリア先輩をいたぶろうとしたネグラ伯爵令嬢とその仲間の令嬢たちだ。

「すみません。生徒会の仕事が忙しいので。それに、ほらわたしあのジンジャータッカーに負けて2位になってしまったでしょう。次回は負けるわけにはいかないのです。」

と断った。徒党にわたしをいれようというのだろうが、こういった貴族独特の優越意識というか父親を見てきたからくだらないと思うようになっていた。母親の身分が高かろうと娘を政略結婚の駒くらいにしか考えていない、すごくバカらしい。好きでもない人と結婚させられて何が楽しいのだろうか、わたしには理解できない。それにくらべてジンジャーは自分で道を切り開こうとしていて、話していて飽きない。また光の魔力を持ち、生徒会副会長になったマリア先輩は平民だ。家庭教師無しに実力で、学年2位を取り、生徒会の皆さんからも尊敬され、わたしも心から尊敬している。マリア先輩は魔法省へ入ろうと考えているらしい。

ジンジャーが「わたしもマリア先輩のような自立して何でもできる女性になりたい。」

と言っていたがわたしも同感だ。

 

生徒会室には、ジオルド様の婚約者であるカタリナ様が出入り自由になっている。花壇だと言って畑を作っていらっしゃる方だ。貴族令嬢でいるのではなく、いつ国外追放されてもいいように畑を作っているのだという。すばらしいことだ。

「カタリナ様の畑で野菜をいただいたの。」

「どうだった?」

「新鮮でおいしかった。まあメアリ様の指導もはいっているんでしょうし。」

「でも、おいしかったんでしょう。」

「うん。でもカタリナ様って、確かに人を見下さないけど、魔法も得意じゃないし、成績も平均点で、なにも考えていないからだと思う。」

「へえ。そうなの」

しかし、わたしは知っている。

「うなっていてうるさいから」と言っていたが、うなっていないときも勉強を見てあげていることを。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 文化祭(前編 マリア先輩の菓子店と生徒会劇)

ある日学園の中庭。

「なんでジオルド様はあんな女がいいのかしら。」

「そうね。魔力もないし、成績も平均点で、こないだ80位だったじゃない。」

「あんな成績で公爵家はなにもおっしゃらないのかしら。」

「マナーだって中途半端だし、ちっともエレガントじゃない。」

「スザンナ様やメアリ様はお美しくて優秀な方だし、セリーナ様も品があってかわいらしい方だけど、あの女は吊り目でおバカでどう見ても王子の婚約者につりあわないわ。」

「そうよそうよ。あんな女身分だけじゃない。すてられればいいのに。」

「しかもどろんこがすきみたいだし。賤しいどろんこがあの女にふさわしいわ。」

そんなうわさ話が聞こえてきた。わたしも誰の話かわかったが、陰で隠れているジンジャーもわかっていたみたいだった。

次の瞬間突風が吹いてきて、令嬢たちの髪の毛をぐちゃぐちゃにし、ドレスをまくり上げた。

「なに、なんなの??」

何やら満足顔のジンジャーがなんの偶然かわたしのいるほうにあるいてきた。ジンジャーはむやみやたらに学園内で魔法を使わないようにといわれているが、カタリナ様の悪口に納得がいかずにこっそり魔法を使ったに違いなかった。わたしは、思わず笑顔になってしまう。そしてジンジャーに

「ここまでしているのに自覚ないんだ?」

「何の話?」

「やっぱりジンジャーもカタリナ様のこと大好きだってこと。」

ジンジャーは、ほおを膨らませ、顔を赤らめつつもわたしをにらみつけてきた。

 

さて今年は文化祭の年だ。

魔法学園の文化祭は食の祭典とも呼ばれ、様々な飲食店の出店が並び、新作を発表する場でもある。今年は、料理サークル以外でもマリア先輩がジオルド様に企画書を提出して認められたので、菓子店を出すことになっている。

「フレイ、マリア先輩の「パティスリー・キャンベル菓子店が向こうにあったけど。」

「え、それはどこ?」

「向こうのブース列の三つ目」

「行きましょう。」

看板に「クラエス家御用達パティスリー・キャンベル菓子店」と書いてある。

「「なぜわざわざクラエス家御用達」と書いたのかしら。」

「カタリナ様の「花壇」の野菜を使ったってことはあるんでしょうけど..」

わたしとジンジャーは話しながらマリア先輩のお店に着く。

「いらっしゃいませ、あ、ジンジャーさんにフレイさん。」

「こんにちは。マリア先輩。えっとおすすめは...。」

「在庫があと半分しかないんですね。」

ジンジャーがつぶやくように言う。

「おかげさまで皆さんに好評で...試食したらおいしいおいしいと皆さんおっしゃられて...」

「たしかマリア先輩のお菓子は学園の食堂にこっそり出されているんですよね。」

「ええ、1/3くらいはそうですね。昨年度は、平民の作ったものなどという感じでしたが、この売上だと、今年度は生徒会副会長のマリア・キャンベルお手製ということで逆にわたしのお菓子しか売れなくなりそうで、厨房の方に迷惑がかからないか心配です。」

わたしとジンジャーは苦笑するしかない。

マリア先輩は何か気付いたように

「えっとおすすめでしたね。いままで生徒会にも出したクッキーやマフィンもありますが、カタリナ様の野菜をつかったキャロットタルトやパンプキンパイ、パンプキンタルトもあるので...難しいですね。ただカボチャ嫌いな人にも抵抗なく食べられるようにした点は自信作です。」

「試食してみていいですか?」

「どうぞ。こちらに小さく切ったものがあります。一通り味わえるようにしました。」

「「うん、おいしいです。さすがです。」」

わたしもジンジャーもハモってしまった。

「キャロットタルト、パンプキンタルトとレーズン入りマフィン、チョコチップクッキーください。」

「わたしも同じものでお願いします。」

わたしとジンジャーはほくほく顔だ。

「早めに行ってよかったわね。あの調子だと売り切れも時間の問題かも。」

「うん。食堂の売店でも売り切れないうちに買うようにしないと。」

「カタリナ様とメアリ様、ソフィア様が買っていく分を見込んで作るからすぐには売り切れないでしょうけど...。」

「お菓子の名前しか値札には書かれないけど、わたしたちにとってはバレバレだね。」

「ある意味生徒会役員の隠れた特権かも。」

そんなことを言いながら生徒会室へ行く。仕事の後の楽しみだ。

 

さて、生徒会の上級生の皆さんは美男美女ぞろいで人気がある。ジオルド様が人寄せのために分散配置の指示をしたが、そのほかに生徒会劇をやってほしいとの要望が多く寄せられたため、ジオルド様が「これは無視できないですね」とおっしゃる。

ソフィア様が「それではわたしがシナリオを作りますわ。」と手を挙げた。

世紀のラブロマンスをつくるんだと、かなり試行錯誤してつくったのは、子どももよく知っている童話を上手に膨らませた素晴らしいシナリオだった。

はじめはメアリ様、ソフィア様がマリア先輩と一緒にカタリナ様にも声をかけたが、「木や石の役ならやります」「力仕事ならやります」「生徒会メンバーではないし」とお断りになった。「一夜限りのプリンセス」と題された劇の配役は、ジオルド様が王子様になり、マリアさんがヒロインの「プリンセス」になった。ヒロインの配役は美しいマリアンヌという末娘で、最初マリア先輩が貴族令嬢たちの嫉妬を恐れてメアリ様を推薦したが、その時にジオルド様とメアリ様の周りに漂ったどす黒い雰囲気は一生忘れないだろうと思うくらい恐ろしいものだった。マリア先輩が蒼くなって即答でヒロイン役をやりますと言い出したくらいで、たとえ劇であってもカップルとしては絶対あり得ないと万人が再認識させられた。村人はキース様、継母役はメアリ様になった。伴奏役はアラン様、ニコル様は魅力的過ぎて観劇者がメロメロになる可能性があるということで外された。そのため、生徒会メンバーでは足りなくなるので、義姉役は、生徒会ぐるみでシェナ・ネルソン様にお願いしたものの、当日になってけがをされて出演できなくなった。

「ジオルド様、シェナ様がけがをされて舞台にあがれないそうです。どうしましょうか?」

1年生の気弱そうな男子生徒がジオルド様に伝える。生徒会室に重苦しい空気が流れる。皆さん顔を見合わせている。

皆さん顔を見合わせる。

この代役は1年生がやるわけにはいかないし、さすがにマリア先輩をイジメてきた令嬢たちに無理やり頼むわけにはいかない。要は演技をしてもらえればいいんだし、テストじゃないんだからセリフのメモをこっそりみるのもありだ。それに誰もが納得がいく人であればいい。緊急の代役なら皆さんが気心が知れていてフォローできる人がいい。

「わたしはカタリナ様がいいと思います。」

「何を言うのよ。フレイ」

「わたしもカタリナ様がいいと思います。カタリナ様なら誰もが納得すると思います。」

「ジンジャーまで...。」

 

ジオルド様が笑みを浮かべ、

「カタリナ、セリフもそれほど多くないんだから大丈夫ですよ。お願いします。」

「わたしもカタリナ様にお願いしたいと思いました。ぜひお願いできませんか?」

舞台監督のソフィア様。

「カタリナ様、一緒に思い出をつくりましょう。」

マリア先輩はほんとうにカタリナ様のことが大好きなんだなあと感じられた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 文化祭(後編 生徒会劇、刺繍展示)

さて劇が始まると、マリア先輩の演技は完璧でメアリ様もいじわるな継母そのものだった。しかし、カタリナ様は戸惑う場面があり、メアリ様が一緒におどって舞台袖まで行く場面があった。あんな場面なかったのにとおもって後でお聞きすると、カタリナ様がセリフを書いた紙を落としたのを拾おうとしたらしい。結局それはうまくいかずカタリナ様は何か決心した顔つきになられた。強い口調で,カタリナ様演じる義姉キャザリーナはマリアンヌをののしる。

「そうじひとつできないで、あなたどうしてこの家にいるの?本当に身の程しらずですこと。」

セリフが全然違っているが場面には合っている。さすがマリア先輩はカタリナ様がアドリブで切り抜けようとしているのを悟る。

「義姉様、そうじが終わったら、わたしも舞踏会へ行かせてもらえないでしょうか。」

「何言っているの?舞踏会にふさわしいのは、わたしのような完璧な令嬢のみ。あなたなんか床にはいつくばっているのがお似合いよ。」

と桶をけとばす。

「ひどいです...。」

ここで幕が閉じるが、ソフィア様が創作意欲とブラコンが同時に刺激されたようで、当初なかったニコル様扮する黒仮面の騎士を登場させ、王子と黒仮面の騎士と農家の青年がヒロインをめぐって争う場面になるはずだが、なぜか義姉キャザリーナをめぐって争っているように見える。

舞台の天井裏に控えるわたしはジンジャーに話しかける。

「ジンジャー、やっかいなことになったわね、」

「先輩方は素晴らしい方々だけど、カタリナ様のことになるとムキになるから...。」

「確かに...。」

ソフィア様が予想しなかった展開にひきつっている。

そのときだった。カタリナ様が決心したように私たちをみて指を鳴らした。

わたしたちは、魔法省から備品として預かった火の魔法道具である「すぽっとらいと」をつけて、カタリナ様を照らした。

「黒仮面の騎士はわたしの仲間なの。どこの馬の骨ともわからぬ娘に王子をゆずらせないために呼んだのよ。」

と高らかに叫ぶカタリナ様。無事に幕が閉じてわたしたちは胸をなでおろした。カタリナ様もほっとしたようだった。

その後は生徒会劇は特にトラブルもなく無事に終わった。

 

さて、舞台を照らした「すぽっとらいと」だが演劇をする舞台を効率よく照らす道具があればということで、魔法省で5~6年前にラーナ様によって開発されたものだ。ボタンを押すと魔法の火打石と火打金がこすれて100%の確率で発火する。筒は魔法の金属でできていて熱くならないし溶けない。消すときはまたボタンを押すと筒の中が酸欠になる消火の魔法が働いて消える仕組みだ。

カタリナ様の前世には「でんき」というものがあったようで、まるで劇場の「すぽっとらいと」のようね、ということで「すぽっとらいと」という名前になった。また通信用に開発されたカード状の風の魔法道具は、カタリナ様の提案で「すまほ」という名前になった。

「すまほ」とは、「すまーとふぉん」の略で「ふぉん」というのが遠くでも話ができるという意味合いがあるそうだ。ラーナ様は、カタリナ様の前世の「すまほ」のように画像も送信できるようにしたいらしい。

 

さて文化祭でだいじなもののひとつに、授業の成果の発表がある。ジオルド様たちの魔法応用の発表は、水魔法で虹を作ったり、しゃぼん玉をつくったりと優雅なものであったが、魔法や学問以外にも魔法学園には科目があり、男性も受講可能なものの、女性必修なものとして刺繍の授業がある。

講師がいかにも偉そうでかつ頑迷そうな老婦人で、わたしも刺繍の授業はできれば手を抜きたかったが、厳しい人なので手を抜けない。どっちが学園長なのか区別がつかないかもといった風貌をしている。生徒たちには通称「刺繍ババア」と呼ばれている。

今年は力作が多いと喜んでいたという話の通り、最優秀賞は1点だが優秀賞は5点、佳作は12点、入選17点だった。確かに優秀賞と佳作がふだんの倍だ。

カタリナ様の作品が佳作になっていた。

「猫かしら?かわいいわね。」

目から上が朱色になっている。顔の部分は、鼻から口周りが白、黄色い腹巻のようなものをつけ、尻尾が二つあってその先端は、水色の炎のように見える。

ネグラ伯爵令嬢は佳作だった。有名な画家の花卉絵をそのまま刺繍にしたらしい。令嬢の中の令嬢といわれるメアリ様は、さすがだ。優秀賞。ご自分でご自宅のお庭の花をスケッチして刺繍にしたらしい。マリア先輩は、青を基調としたドレスをきた背の高い女性がうれしそうに走っているデザインで、優秀賞。カタリナ様が恥ずかしがっていたからモデルはカタリナ様だろう。

「なんなの、この動物だかよくわからないデザインは」

「公爵令嬢だと下手でもひいきされて佳作になるのね。この程度で何で私と同じ賞なのかしら。」

「こっちもそうだわ。光の魔力をもっているからってひいきされすぎじゃないの?」

ふだん言えない分こういう場になると嫌味が出るらしい。

カツカツカツと杖を着く音がする。

刺繍ババ...講師の先生だ。細面で、白髪、頑迷そうな眼付き。

「展示室では静かにしなさい。」

「先生、ご質問させていただいてもいいでしょうか?」

「サビーネ・ネグラ伯爵令嬢ですね。質問を許します。」

「受賞の基準は何なのでしょうか。こんな走っている女の刺繍、しかもちっとも美しくない。それに同じ花の絵をデザインしたのにわたしのものは佳作でなぜこちらは優秀賞なのでしょうか?」

「マリア・キャンベルの作品、とある公爵令嬢をあらわしたもののようですが、服の細かいデザインまで高度で丁寧な刺繍がなされています。それにテーマに選んだ人物の表情や躍動感が上手く表現されている。あなたが同じ花の絵のデザインと言ったメアリ・ハントの作品は、本人が丹精込めて育てた庭に咲く花を図案化して刺繍にしたようで、デザインの独創性や花への愛情が感じられる作品です。あなたの花卉絵の作品ももともとの画家の花卉絵を忠実に表現しようと努めた。そのこと自体は称賛に値するものですが、マリア・キャンベルやメアリ・ハントの独創性に及ぶものではない。」

へえ、結構まともなこと言うじゃない、と聞いていた。

「では、このカタリナ・クラエスの作品と私の作品がどうしてわたしと同じ佳作なのですか?」

「カタリナ・クラエスのこの作品は、かわいい妖精でしょうか?猫でしょうか?「じ〇にゃ×」と読めますが、独創性があります。デザイン自体はかわいらしくすばらしい。しかし、残念ながら技術は今一歩というところです。あなたの作品は、たしかに一定の技術はあるし、それはすばらしいのですが、残念ですがそこどまりです。だからあなたの作品もカタリナ・クラエスの作品も優秀賞のレベルではない点では同じです。」

「そんな、こんなものといっしょだなんて。」

「じゃああなたにメアリ・ハント、マリア・キャンベル、カタリナ・クラエスのような発想は生まれたのですか?」

「それはそれ、これはこれですわ。わたしの作品はもっと評価されるべきです。」

「私は、今回の展示で、技術のみだけでなく独創的で意欲的な作品を評価させていただきました。それぞれ自分のもてるものをもてるだけ発揮している。素直に感動し、素直に評価したということです。あなたがマリア・キャンベルより身分が上ということで評価はしないように、カタリナが公爵令嬢だからといって評価していない。それはわかるでしょう。」

会場内に共感の空気がひろがっていった。ネグラ伯爵令嬢もその空気を感じたらしく二の句がつげなくなっていた。(きびしいだけじゃないのね)、とわたしは刺繍ババア、もとい刺繍の先生に好感をもった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 ニコル様とのお見合い

さて文化祭が終わって日常の日々が戻ってきた。

わたしにまたまたお見合いの話が来た。何度目だろうか。

「あと1時間か....。」

「先日話していたお見合い?」

「ええ、お見合いはしないって言っているのにお父様はいつになったらあきらめるのかしら。」

「高位の貴族令嬢ならではのなやみね。」

「わたしは、あなたといっしょに魔法省で働きたいのよ。そしてラーナ・スミス様のようになるの。」

「二人とも~なにか手伝うことある?」

カタリナ様が声をかけられる。

「大丈夫です。これはわたしたちの仕事ですので」

即答でジンジャーが断る。

「そう。じゃあこのごみはかたづけておくわね。」

「カタリナ様、ありがとうございます。」

「どういたしまして~お菓子食べてばっかだしこのくらいはしないと。」

時計を見る。

「しかたない。わたしは帰ります。」

「フレイ、お疲れ様。」

その日、わたしは、ニコル様とお見合いをすることになっている。

ニコル様もお見合いに乗り気に見えない。

これはチャンスだとばかりにニコル様に「先制攻撃」をする。

いやこの場合「先制援護」といったほうが正確なのかもしれない。

「わたしは、婚約するつもりはないのでご安心ください。」

ニコル様は驚いたようだ。

わたしは出されたお茶に口をつけながら、ニコル様の言葉を待つ。

「このお見合いがあなたの本意ではないことはわかりましたが、なぜ安心してください、なのですか?」

「だって、アスカルト様もお見合いに乗り気ではないのではありませんか?」

ニコル様は再び固まってしまった。

「もしかしてご自覚なさっていませんでしたか?」

「ああ、俺はちゃんとお見合いするつもりでいたんだが...。」

「そうですか。あえて言わせていただくと女性は鋭いですから相手が乗り気かどうかくらいはわかるものです。」

するとニコル様は安心なさったように

「....このままでは、俺は婚約者を作ることはできない。」

と言った後で、一見ポーカーフェイスに見えるその顔に「しまった」という気持ちがにじみ出ていた。これはわたしに心を開いたなと思った。

「それはどうしてですか?」

とたずねる。

「小さいころから片思いの女性がいるんだ。妹の友人なのだが彼女には婚約者がいる。だから想いを断ち切って別の人を見つけて婚姻しなければと考えている。」

「よくわからないのですが、アスカルト様はなぜその想いを断ち切らなければならないんですか?婚約者がいるだけのことですよね?それとも二人は愛し合っているんですか?」

「彼女の婚約者は、彼女のことを愛している。」

「相手の女性本人はどうなのですか?」

「今はまだそうではないようだが...。」

「それなら問題ないじゃないですか。アスカルト様が彼女の心を射止めて奪ってしまえばいいと思いますが...。」

「その婚約者は俺の友人でもあって親しくしている。常識的に考えて婚約者から奪うなんてありえないことだ。」

わたしは、ニコル様にとどめを刺すことにした。あとはいかにニコル様のプライドを傷つけずに自覚させることだ。わたしは全て知っている。ニコル様の想い人は間違いなくカタリナ様で、妹のソフィア様がさかんに兄であるニコル様とカタリナ様が結ばれるようニコル様の魅力をしつこく語って聞かせているのを毎日のように見ているのだから。

わたしはクスクス笑みをうかべて

「ニコル様は、すごい色気をお持ちで、その色気をまき散らされて、その色気にあてられる方は、老若男女数が知れないのです。心当たりがありませんか?」

「妹がそう言っていたし、見も知らない者においまわされたこともある。」

「それなのに常識的にって、おうわさに聞いた通りまじめな方なのですね。」

「なんでそんなに俺のことを知っているんだ?」

「アスカルト様のことは生徒会の先輩たちがよくお話しされているのです。特にソフィア様はよくお話しされているので。」

「君は魔法学園の生徒会に入っているのか?」

ニコル様の口調に焦りが混じったのを感じた。

「え、お見合いの資料に書いてあったと思うのですが...やはり、ほとんど目を通されていないか字面を追っているだけなのですね。」

ニコル様は押し黙ってしまった。必死に頭を回転させているのだろうがわたしはお構いなしに話を続ける。

「いろいろお話を伺っていたので一度お会いしたいとは思っていたのです。ところでソフィア様は今回のお見合いの件は何もおっしゃってなかったのですか?もしかしてご存じないとか...」

「ああ、妹には話していない。」

「そうでしょうね。アスカルト様がお見合いなさると聞いたら、ソフィア様が大反対なさるでしょうから。」

「君は、どうしてそこまでわかるんだ?」

「ソフィア様には、アスカルト様と結ばれてほしい方がいらっしゃるようなので。はっきり申し上げるとカタリナ・クラエス様に頻繁にアスカルト様のすばらしさをお話しされています。」

ニコル様は、頭を抱えている。

「ソフィア様は、カタリナ様を慕っておいでなので、カタリナ様がお兄様のお嫁になってほしいとお考えなのでしょう。よく小説のお話をお二人で楽しそうに話しておられますから。」

ニコル様は観念したという雰囲気をただよわせたが、気を取り直して話題を変えてきた。

「君は、先ほど誰とも婚約するつもりはないと言っていたな。それはどうしてなんだ?君は美人で優秀だし、さらに言えば侯爵家の令嬢だ。引く手あまただろう」

「それは、わたしが自分の力で生きていきたいからです。」

「それと婚約しないことと関係があるのか?」

「あります。どこかの貴族と結婚したらその家の奥様になってしまうじゃないですか」

「なぜ貴族の奥様ではだめなんだ?」

「嫁いだ家のために尽くすのも立派なことだとは思います。しかしその家に縛られてしまいます。わたしは家に縛られずに、外でバリバリと働きたいのです。」

「外でバリバリ働くとは、男性のように働くということか?」

「はい。貴族の奥方として嫁ぎ先に縛られるのではなく、男性のように外で働きたいのです。」

「ただ貴族の間では、難しいと思うが...。」

「はい。親にも反対され、早く結婚するようせかされていますし、難しいことなのはわかっています。」

「なのにどうして...」

「あこがれている人がいます。ラーナ・スミス様でしょうか、魔法省で女性であるながら部署長にまでなりました。カタリナ様誘拐事件でも、キース様誘拐事件も解決されました。最近は、公爵令嬢であるカタリナ様が、魔法省に入られるというお話があり、希望の光が見えてきました。」

「カタリナのことだが、あれは、表ざたにはされていないが、ラファエルにかけられた闇の魔力を解呪したこと、あと闇の使い魔の「ポチ」の世話役ということで、特例的なもので、婚姻までの期限付きなのだが」

「わかっています。でも諦められないからやれるだけやってみるつもりです。」

と言ってから、わたしは笑みを浮かべ話をもどす。

「だからアスカルト様もあきらめずにカタリナ様にあたってみたらどうでしょうか?やれるだけやらないとなにもかわりませんよ。それにキース様もメアリ様もあきらめる様子がないではないですか。アスカルト様だけが無理にあきらめるなんてもったいないですよ。」

わたしは微笑む。ニコル様は観念したという感じだが、

「もう自分は、学生じゃない。伯爵家を存続させていく責任がある。」

「社会に出たからといって全ての方が婚姻しているわけではないと思いますが...。」

私は、ニコル様にそのようにお応えした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 フレイ次期会長の最初の仕事(文学青年たちの願い)

「確かにすべての人が婚姻しているわけじゃない。ただ貴族社会では家のために婚姻しないわけにいかないだろう。」

とニコル様はお応えになる。

「確かに私も家のために婚姻するものと言われて育ちました。しかし、それってよく考えるとおかしいです。本人たちの気持ちはどうなるんですか?」

「気持ちだけではどうにもならないだろう。」

「無理やり婚姻を結んで不幸になる方も少なくないはずです。現にラファエル様の事件の発端は、愛されなかったデイーク侯爵夫人が闇の魔力に手を出したわけですし。」

「....。」

「アスカルト様も無理に婚姻なさる必要はないです。何よりほかの方を想っているあなたと結婚する女性がかわいそうです。」

ニコル様ははっとして

「そうか。俺は自分のことばかりで相手のことを考えていなかった。君のおかげでそれに気づけた。ありがとう。」

ニコル様は嬉しそうに笑みをうかべた。わたしはちょっと申し訳なく思った。ニコル様はまじめなだけで悪意はない。

「わかってもらえてうれしいです。だけどアスカルト様も家のためをお考えでお見合いをなさってきたのでしょう?」

ニコル様はしばらく考えているようだったが

「やはり俺のためだ。早く家族を安心させたい、喜ぶ顔が見たいと思ってしていることなのだから。」

わたしはため息をついた。

「本当に噂通りまじめな方ですね。でもそのようにアスカルト様があせって結婚相手を探すことをご家族はのぞんでいらつしゃるのでしょうか。」

ニコル様はまたしばらく考えこんで

「....正直それはわからないな...。」

「そこは、確認した方がいいとおもいますよ。」

「ところで去年の生徒会ってどんな感じでしたか?」

「ああ、なぜか俺とラファエルだけになってしまったが、ジオルドたちが来てくれて安心した。ジオルドたちの世代は本当に仲がいい。カタリナの人柄や平民であるマリアがいるせいか分け隔てない感じだった。当初はカタリナが生徒会室出入り自由にしないと職を辞しかねない勢いだったからあせったが先生方が譲ってくれて安心した。カタリナの破天荒さは魔法学園にもうわさで入ってきてたからカタリナを「管理」する意味で先生方もやむをえないと考えたらしい。去年はラファエルの紅茶とマリアのお菓子の両方があったからティータイムは歴代でも最高だったんじゃないか。おいしいおいしいといいながらももっとこうしたらと話していってマリアのお菓子がますます絶品になっていったから。」

「たしかに差し入れのお菓子のほうが高級店のものなのに見劣りする感じです。マリア先輩のお菓子はほんとにおいしいですから。かぼちゃの苦手な弟に食べさせてかぼちゃが入っていると言ったらおどろいてましたから。」

「ああ、うまくあの臭みを消してるからな。俺も驚いた。ところで、君も今年は、文化祭でいろいろやってもらったみたいだけど、来年は魔法競技祭、通称四科戦がある。去年は生徒会の1年生が上位を独占したからな。ジオルドとアランのチームのカルナックブレイクはすごかったぞ。」

そんな感じで生徒会や学園の思い出話やわたしたちの世代の学園の様子などとりとめのないお話をした。お互いに分かれる際に私はニコル様に

「アスカルト様は、お好きな方については内密にされてるんですよね。もしこまったことがあったらわたしが相談に乗りますよ」

わたしは、ニカッとほほえむ。いたずらっ子のような笑みに見えたかもしれないがそうだとしたら上手くいったということだ。わたしとニコル様はそれぞれ挨拶をして馬車に乗り込んでその日のお見合いもどきは終わった。

 

さて期末試験、わたしは1位になり、次期生徒会長になった。ジンジャーが2位で副会長ということになる。これからの生徒会はわたしがまとめていかなければならない。ジンジャーとほかのメンバーが融和できるように。ジオルド様からは事務の引継ぎを受けていく。王族の方々は皆聡明でだれが王位を継いでも安心だなと思う一方、不毛な継承争いが起こらないようジェフリー様が取り計らっているようだ。現国王が即位する前の王位継承争いは、殺し合いや闇魔法が使われるなどいろいろ大変だったから前車の轍を踏むまいとのことだろう。

それはともかくわたしとジンジャーは、生徒会劇の時にジオルド様に相談していた1年生のアルフレット・ヴァレリー君から相談を受けた。先輩方がやってきたこのような仕事が次期役員がきまると引継ぎの意味で任されていく。ヴァレリー君はソフィア様のファンで、生徒会劇の配役のことでいろいろ動いたこともある。シェナ様のことをジオルド様に伝えたのも彼だが文学青年である彼は、ソフィア様の愛好会(ファンクラブ)正式名称「文学を楽しむ集い」に入りたいと思っているが女子ばかりで半ば男子禁制なため困っているということだった。

 

問題なのは、「文学を楽しむ集い」に入りたがっているのは彼だけではなく、そろいもそろって文学青年である上にソフィア様に恋愛感情を持っているということだ。そのためソフィア様の気を引こうとして「集い」が荒れてしまう可能性があるということだった。

「う~ん、出会いの場としてソフィア様以外の令嬢と仲良くなればいいんでしょうけど、ソフィア様の存在感は大きいですから。」

ジンジャーがぼやくようにつぶやく。

読書サークルを兼ねる「集い」は、熱心な文学少女の集まりで結束が固く男子の入る余地がないが、逆に言えば、出会いの可能性を自ら狭めている女子たちと言える。

「でも「文学青年」たちは、カタリナ様やメアリ様、マリア先輩には無関心なんですよね。御三方ともソフィア様の影響でロマンス小説はお好きだけど...。」

「そういえば今度カタリナ様のお宅でメアリ様、ソフィア様、マリア先輩を誘ってお茶会があるって聞いたけど...。」

ジンジャーは(わたしには関係ないけど情報提供)という口ぶりだ。

「規模を大きくして「文学青年」たちとソフィア様のサークルメンバーを誘えないか聞いてみようかしら」

「どうしてそう考えたの?」

「クラエス家のお茶会ならカタリナ様がホステスだからソフィア様に「文学青年」たちはやたらに接近できないはずでしょ。それに親友四人でロマンス小説を楽しむ会なのは見え見えだし」

「さすがフレイね。」

「上級貴族でよかったと思うのはこういう駆け引きを覚えられたってことね。」

「なんか会長にならなくてよかったとおもっちゃった。」

「ジンジャー、そんなこといわないでよ。まさか会長になるのをさけたいから試験の手を抜いたんじゃないでしょうね。」

わたしはジンジャーを軽くにらむ。

「そんなに私が器用じゃないことはフレイが知ってるでしょ。」

わたしたちは、男性陣がたまたまいないときをみはからってカタリナ様に「文学青年」たちの名簿を見せながら、相談を持ち掛けた。

「2週間後のお茶会ですけど、規模を大きくしてソフィア様のサークルメンバーとこの男子生徒たちを招いていただけないでしょうか?」

「う~ん、どうしよう。男の子を招くとなると...。」

「ジオルド様ですね。」

「うん...。」

「いつもそういう時はアラン様は参加しないんですけどね。あの腹黒王子は...」

メアリ様のつぶやきにわたしは苦笑する。

「それについてはなんとかします。それよりも、カタリナ様、この青年たちは文学好きで、ソフィア様のサークルに入りたいと考えているようですが、そのまま入っていただくと困るのはご存じかと思います。なので、クラエス家のお茶会ならソフィア様に簡単に近づくことができないのですが、内容的には文学や詩の話ができる。それにソフィア様以外の令嬢たちと彼らが話す機会、つまり出会いの場をつくることができるのではないかと考えたのです。」

「それはすてきですねえ~」

ソフィア様が目を細め、顔をあからめてつづける。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 憧れのあの方との出会い

「カタリナ様、実はあのひとたちは文学や詩が大好きなのはわかるのですが、わたしたちのサークルに入れると混乱するのが目に見えていたので困っていたのです。カタリナ様のお宅ならやたらなことをしないで文学や詩の話を楽しめるのではないかと思うのです。」

ソフィア様、ナイスフォローです。

「カタリナ様、出会いの場です。」

わたしは強調する。

「それはすばらしいわね。この人たちソフィアのファンであたりさわりなくするのにかなり大変だったからほかの令嬢たちと出会ってもらえればお互いにいいかもしれないわね。うん、じゃあ考えてみる。」

カタリナ様とキース様が出会いの場だとミリディアナ様に強調してクラエス家の2週間後のお茶会は、「小説と詩を楽しむ会」として行うことになった。

さて男性たちがクラエス家に来るのを気にしたジオルド様対策だ。

自分も行くとおっしゃるジオルド様に

「ロマンス小説はお好きですか?」

と尋ねてジオルド様をまず逡巡させる。

「メアリ様の婚約者であるアラン様も来ませんが?」

「アランは、アラン、僕は僕です。」とくいさがるものの

「皆さん、ソフィア様のファンでカタリナ様には関心ないのですが?」

ととどめを刺してシャットアウトできた。

 

2週間後のクラエス家のお茶会は盛況だった。カタリナ様が調理場の見習いがチェリーのシロップ漬けと果実酒用のチェリーを誤って使ったチェリーケーキをたべて酔っぱらって木に登ってしまった以外は。

ソフィア様の読書サークルの令嬢たちと文学好きの令息たちのカップルも何組か生まれた。いままでソフィア様ばかり見ていた文学青年たちがほかに出会いをさがせたのはよかった。

その後ソフィア様の読書サークルは、メンバーの恋人、婚約者に限ってある程度出入り自由になったがテーマによっては女子同士で楽しみたい場合もあるようでそういう場合はこっそり集まっているようだ。

 

ジオルド様にこの案件については、まず、カタリナ様に近づく男子はいなかったことを強調して、出会いの場として上手くいったと報告した。

 

さて、上級生の皆さんの卒業式だ。卒業生代表のジオルド様のあいさつがある。これまでの思い出、卒業後の決意、在校生への励ましが述べられる。例によって大多数の女子生徒たちはほおを赤らめて、上気した表情でジオルド様を見つめている。わたしとジンジャー、上級生の生徒会メンバーは極めて冷静だ。

「最後に、卒業後は、それぞれ、魔法省、役人としてそれぞれの御父上の補佐、跡継ぎとして領地経営、夫人として領地経営の補佐や園遊会の運営などそれぞれ道は異なることになりますが、学園で学んだことをいかしていっそう励む決意ですと申し上げ、結びのことばといたします。ありがとうございました。」

一斉に拍手が起こった。

「それでは、在校生代表フレイ・ランドールさん、卒業生へ贈る言葉をお願いいたします。」

「はい。」

わたしは立ち上がって壇上に昇る。

「在校生代表フレイ・ランドールです。」

わたしも先輩方の思い出や敬意、在校生として勉学や魔法、男性は武術、女性は、いっそうたしなみを向上させること、また職業婦人としての道を歩む場合は研鑽することを述べた。

「先輩方からは、いざというときの決断力を学びました。思い出深いのは上級生の皆さんの生徒会劇「一夜限りのプリンセス」です。この劇は、実はハプニングが多かったのですが、ジオルド様は迅速な決断をされ、それを受けたカタリナ様はセリフを忘れかけても動ぜず、ご自分の役割をどのように果たすかお考えになって見事に義姉の役を演じられました。それを受けたメアリ様やマリア様の対応見事だったことも皆さんよく覚えていらっしゃることと思います。こういった不測な事態は領地経営に起こるものです。領地経営にも突然の日照りや大雨、洪水、火災、その際にどうするのかと言ったことが起こります。魔法学園では、魔法の技術以外に、それに対処するための知識を学問を通じて学びますが、そういった知識を生かす勇気と決断力を先輩の皆さんから学びました。・・・・先輩方の今後の活躍を祈念しつつ贈る言葉といたします。」

拍手が起こった。わたしは一礼して講壇から降りる。

「フレイ、お疲れ様。わたしじゃ口下手であんなあいさつできなかったし、拍手もおこらなかったかも」

ジンジャーがにやにやする。生徒会長になってからこればっかだ。

「ジンジャー、ほんとに手抜きしてないわよね。」

わたしは、ジンジャーをかるくにらむ。

「そんなに私が器用じゃないことはフレイも知ってるでしょ。」

わたしは反論できなくてため息をつく。でもなんかおかしい。なんでわたしは納得しているんだろう。

 

さて新学期になり、わたしは図書館で調べ物をしているとき、魔法省のあこがれの人ラーナ・スミス様に出会った。

「おっと君はこの本を使うのか?」

「はい、学園の課題で…ってあなたはもしかして?」

「ああ、魔法省に勤務しているラーナ・スミスだ。魔法学園の図書室は、魔法省と

共用だし、魔法省にない本もあるからな。時々来ているんだ。」

「魔力制御とラーナ様の今のお仕事と何か関係があるのですか?」

「ああ、魔力制御は、単純に魔力を制御するだけでなく。どのように魔力を使うかという問題もかかわってくるんだ。魔法道具をつくるうえで重要な要素となる。道具に魔力を吸収させて道具として生かすのは基本だからな。だだその使い方がいろいろあるからどの方法がいいか確かめに来ているんだ。君はもしかして生徒会長のフレイ・ランドール嬢かな?」

「はい。」

「そうか。風のうわさで魔法省志望と聞いているが?」

「そうです。」

「君のような人材を欲しいとは思っているが、一面、君は優秀だからあちこちから話があるんじゃないか?それにお見合い話もたくさん持ち込まれるだろう」

「はい、その通りで困っているのです。わたしはその気はないと言っているのに父はあきらめずに縁談をもってくるのです。」

「そうか。わたしは、そいつとはたもとを分かったんだ。」

「どういうことですか?」

「ここだけの話、わたしの父と君の父は同一人物ということだよ」

「えっ…。」

わたしは一瞬言葉が出なかった。

「私は幼いころ父の友人から紹介された魔法の本を読んだことがきかっけで魔法に夢中になった。魔法学園でジェフリーとトップ争いをした女子生徒の話は聞いているだろう。」

「はい。」

「わたしは、魔法にかかわる仕事をしたかった。強い風の魔力を持ち魔法学園で生徒会に入れる学力があったおかげで魔法省に入れた。ジェフリーと婚約したとき彼は弟以外興味がないから私を自由にすると話してくれた。それ以来仕事上のパートナーだ。ジェフリーは「僕を王位につけるために弟たちに手を出す不届者を始末するんだ。やつらはろくな連中じゃないからね」と言っていたし、実際そうだからな。楽しく協力させてもらっている。」

「そういうことですか。」

「今度うちの職場見学に来るといい。しかし、私が推薦状を書くとランドール家の家系のものということがばれたときまずいからな。うちの部署とマリアの部署を見学に来るといい。知っている人間がいたほうがいいだろう。」

「わかりました。ありがとうございます。あの友人もつれてきていいですか、ジンジャー・タッカーといいますが」

「ああ、大歓迎だ。彼女のことは魔法省で引き抜きたいと思っていたからな。ほかの役所にとられないうちにつばつけて、うん、ちょっと下品か。青田買いしたいとおもっていたからな。」

ラーナ様は微笑んだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 魔法省職場見学(その1)

わたしとジンジャーは授業や生徒会の仕事が手すきなときに魔法省へやってきた。

「あら、フレイじゃない。ジンジャーも。お久しぶり」

「カタリナ様、お久しぶりです。その荷物は?」

「魔法生物研究室へもっていく資材よ。あそこはサルやら叫ぶ花やら大変なんだから。」

「叫ぶ花ですか?」

「そうなのよ。サルがちょっかい出して、わたしが医務室に運ばれるくらい花がすさまじい叫び声上げたんだから」

「そうですか…」

「あっといけない。そんなこんなで、いろいろ生き物が暴れて壊れる資材があるからたいへんなのよ。」

「そうなんですか?」

「でもフレイとジンジャーは頭がいいからこういう雑用はやらなくて済むから安心して」

どうやら不安そうな顔になっていたようだ。

「最初はわたしとソラのいる魔法道具研究室ね。こっちよ。」

案内された部屋に来ると、

「こんにちは?魔法学園の学生さんかな?」

「はい。そうです。」

そこで出会った男性は、キザな感じの方でわたしはめんくらった。服装がきらひらひらひらしていて金ボタンやかざりがつけられていて「どこの王子様?」という感じ。前髪の片側が長く伸びて片目が隠れている。

カタリナ様やラーナ様をみていて(制服があるはずなのに)とおもったがよく見たら制服を改造しているのがわかる。

「ああ、ぼくはニックス・コーニッシュだよ。今日は職場見学かな?ようこそ。」

「あんまり学生さんを驚かせたらだめじゃない。ああ、わたしは、リサ・ノーマンよ。」

とノーマン先輩の片手のあらいぐまのぬいぐるみがしゃべる。

コーニッシュ先輩のように片目を青みがかった髪で隠しているが、キザさは全く感じず、ミステリアスな雰囲気の青年が自己紹介する。

「僕は、ソラ・スミスです。」

しばらくするとラーナ様が現れた。

「ああ、よく来たな。フレイ、ジンジャー。」

ラーナ様に続き、赤い髪の好青年が声をかけてくれる。

「こんにちは。副部署長のラファエル・ウォルトです。」

「あの…生徒会にいらっしゃったと聞きましたが…。」

「事件があって、学園を卒業できなかったけれど、ラーナ様に引き取っていただいたんだ。」

「わたしは優秀な人材はのがさないんだ。うちの文書事務を中心的に担ってくれている。この魔法道具研究室では、書類事務と魔法道具の製作を行っている。いま作っているのは、「すまほ」の完全版と人探し用のぬいぐるみだ。」

見せられたのは青い犬型のぬいぐるみ。

「かわいいだろう。スキピオっていうんだ。名前もかっこいいだろう」

「青い犬狼の紋章を持つ軍勢を率いた昔の英雄、テーチス海をかこむ沿岸周辺を征服した2千年前の伝説の国ドゥーマ帝国の将軍の名前だ。」

「犬型にしたのは、あらゆる嗅覚に優れた犬の形にすることによって嗅覚という魔法の属性や力が強化されるからだ。」

「なぜ人探しの魔法道具が必要なんですか?」

「昨年キース・クラエス卿が誘拐されたのは二人とも知ってるだろう。」

「はい。」

「そのときにクマ型のぬいぐるみの魔法道具をつくったのだが….クラエス卿を探している段階で、マリアになついてしまって本来の依頼主に引き渡すことができなくなってしまったのだ。」

「その依頼主ってだれですか?」

「弟好きの変態だ。その部屋には弟たちの巨大な絵がカーテンに隠されている。」

「巨大な絵をカーテンに隠せる方って大貴族なんですか?」

「彼の弟たちの名は、イアン、ジオルド、アランという。」

「わかりました。」

わたしたちは苦笑する。

「そのクマのぬいぐるみは、古代マケドラキア帝国の大王アレクサンダーの名前をとっていたので、ラーナ様は気を使われてマケドラキアにまさるとも劣らない大帝国ドゥーマの立役者の一人スキピオにしたというわけなんだ。」

「そうですか。ところで「すまほ」の完全版というのは?」

「ここに小さい穴の開いた箱があるだろう。覗いてくれ。」

「?向こう側の風景が逆さに見えます。」

「これをハイド爺とマリアの光の魔力の協力で紙に画像を写し取れる箱にしたんだ。ここから紙をいれてみてくれ。」

わたしは、紙をいれてみた。そしたらラーナ様がボタンを押す。

カシャっという音がして、紙が出てくる。

「風景が写し取れました。この箱は上下逆だったのに風景通りです。」

「この箱には、鏡が入っていて上下逆を反転させるんだ。わたしは、この箱をフォト・オブスクーラと名付けたが、このボタンについては、カタリナ嬢が「しゃったーみたい」といったので「しゃったー」と名付けることにした。とりあえずこの「フォト・オブスクーラ」と「すまほ」をつなげて音を送る風の魔力の応用で信号にして画像を送ることには成功したんだが、受け手は「すまほ」にフォト・オブスクーラをつなげないと画像が印刷できないんだ。わたしは、これを「すまほ」単体で、フォト・オブスクーラを兼ねることができないか考えている。紙は大きさがあるから仕方ないが、フォト・オブクスラのような大きな箱は持ち運びが不便だからな。」

「面白そうですね。」

「ああ、それから魔法省には貴族がらみの魔法に関連した犯罪の捜査案件が持ち込まれてくる。魔法がからむ犯罪は、貴族がらみだったり、領地をまたぐものが多いから各領地の警察・保安機関では手に負えないんだ。これもおもしろいぞ。」

「ラーナ様は捜査になると夢中になって出張にいってしまうか魔法道具の開発にも夢中になってラボにこもりっきりになるから決裁案件がたまってしまうのです。まあ、道具の開発のほうがまだましなのでいろんな道具のアイディアや依頼を募集してすこしでも省内にいてもらおうとしているのです。」

「人聞きが悪いな。捜査も魔法道具の開発も大事な仕事だぞ。」

「そのとおりですけど、もうちょつと文書事務をやってくれないと新人さんが耐えられなくなってやめてしまいます。第一去年の入省者でここに配属された人はかろ…」

「まあ、うちの部署ではこういう仕事をしているということだ。さて、次はサイラスのところへ行ってみるか?魔力・魔法研究室だ。ジンジャーはともかく、フレイは推薦状を書いてもらわなければならないからな。マリアにも会えるぞ。」

「はい。」

 

廊下に魔力・魔法研究室の札が出ている。

「サイラス、魔法省志望の学園の2年生だ。」

「フレイ・ランドールと申します。」

「ジンジャー・タッカーです。」

「ああ、よく来てくれた。今は、光の契約の書のありかや手がかりについて調査中なのだ。」

「フレイさん、ジンジャーさんお久し振りです。」

「マリア先輩、お久し振りです。結構難しそうなもの読んでいらっしゃるんですね。」

「はい。古字で書かれているものや学術的に深く追及しているもの、理論書などがあって結構大変です。ただ学園で学んだことが直接生かせるのでそれはよかったと思っています。」

「そうですね。光の魔力は、治癒魔法だけではなく、光を使って画像を何らかの媒体に写すこともできるんですね。」

「はい。画家の方が模写用に使うフォト・オブスクラについても書かれています。」

「あ、さっき魔法道具研究室で見てきました。」

「ラーナ様が紙に画像を写せるよう改造したものをお作りになっています。」

「わたしが手伝うように言われたので協力しました。実際に本に書かれているものを作れたので楽しかったです。」

「ああ、フォト・オブスクラならここにもある。」

マリア先輩が楽しげにお話になり、サイラス様がお応えになった。

わたしは、

「あ~おっしゃるとおりですね。」

とお二人への同意の気持ちをお伝えした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 20~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。