魔法科高校の劣等生 end of deterrence (嘆きのラジオ)
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序章

荒野の中、一人の青年が倒れていた

周囲には魑魅魍魎の怪物の死体が転がっており

それらの積み重ねられた死体の上に青年はいた

 

彼がもつ神器と呼ばれる武器は刀身が折れており、返り血であろうものがベッタリと付いていた

 

「あー死ぬかな」

薄れゆく意識の中、青年は自分の死が近いことを感じとる

視界は既に暗く、手や足の感覚も既にない、風の音も聞こえずまるで水の中に潜っているような、、、そんな感じだ

 

後悔はある、もっと自分が強ければこんな結末にはならなかった、、、

 

「それでも、、、精一杯頑張ったよな」

殺して殺して殺し尽くした、、

特尉に任命され、ただ一人きりで禁忌指定の怪物を狩りつづけた

命ぜられるがままに・・・

その結果が、人生の終わりがこの荒野だ

自分以外に生きるものはなく

誰にも看取られることなく、独りで死んでいく

そんなバッドエンドの三流物語

 

他人を助けるために無我夢中で、傲慢にも走り続けた男の終着点

沢山の人を助け、その代償に全てを失った

 

地鳴りが響く

この戦いの元凶にして、全てを奪った怪物が現れる

その姿は醜悪な怪物と比べて意気を飲むほどに美しい

純白の神

 

「まだ死ねない・・・」

限界の身体に鞭を打ち、失った片足をもう片方の足を使い神器を杖の代わりにし無理やり立ち上がる

もう何も感じないがそれが眼前にいることは理解した

 

「お前だけは・・・必ず殺す」

全ての元凶に対し、言葉をはく

それには恨みも怒りもない

 

両腕に嵌められた腕輪を外す、自身に埋め込まれた神の細胞が自分を喰らい始める

内側から喰われる痛みが身体を襲う

 

「レイジバースト」

神の細胞を暴走させそのエネルギーを制御し神の力を肉体へと強化する

といっても数秒が限界だが

それ以上は肉体が崩壊し、喰われ続ける

 

そんなことはどうでもいい

こいつさえ、殺せれば

 

拘束フレームを全て解除し制御できる許容を遥かに越える

周囲の空間を侵食、解析

その現象に必要な条件を満たす

 

肉体は既に変質していた、喰らいつくされ、禍々しい怪物になっていた

本来ならば人としての意志も失われ完全な獣になっていたが、青年の執念が、それを許さない

 

彼を中心に膨大なエネルギーが放出される、それは怪物を飲み込み、大地を空を、星を侵食し続ける

侵食したものは解析分析され自身へ貯蓄

膨大な星の情報は小さな自分へと取り込まれる

 

人間には許容範囲外の情報量に身体が破裂しそうになる

だが、青年はやめない

いつ死んでもおかしくないその身体で

 

身体の崩壊が始まる、足から菓子のように崩れ始める

 

「必要最低限の条件達成」

青年の口から、コンピューターのような口調で、

崩れゆく右腕で空を、空間を喰らい、

その現象、終末の装置を起動させる

 

「終末捕食」

その声とともに大地が盛り上がる、それは激流のことく青年と怪物ごと大地を丸ごと飲み込んだ

それは瞬く間にに広がり大陸を、海を、星を、飲み込んだ

失われゆく意識のなか青年は感じとる

全てを喰らい尽くし、それらを糧にし星が再生していくのを

 

「あぁ・・」

その呟きとともに意識は闇へと堕ちた

 

 



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純白の怪物

「・・・」

身体が、肉体がなくなる

視覚、嗅覚、聴覚がなくなる

何も聞こえない

何もみえない

何も、何も

感じない

 

深海にいるような真っ暗な闇

しかし、何故か意識だけがらはっきりしている

ない、頭で鮮明に

 

(もう疲れた・・・休んでいいんだよな・・・)

 

≪やり直したいですか?≫

誰かの声が聞こえる

聞こえるはずのない、こんな何もないばしょで

ない瞼を開き、ない首で周囲を見渡す

なにもない、辺り一体暗闇

気のせいだろうか・・・?

 

≪やり直したいですか?≫

同じ声、同じ問いが聞こえる

いや、直接脳内に語りかけているような

そんな感じだ

 

後悔はある、だが疲れてしまった

それにあの結末は変えられない、

それがわかるからこそ僕は首をふった

 

(もういい)と

 

≪そうですか、確かにあらゆる分岐点、それら全てが最終的にはあの結末になっていたでしょう≫

そうだ、その通り、

あれは運命のようなもの、世界が決めた定めだ

先延ばしには出来ても結果は同じだ

 

≪それならまた、新しく始めますか?≫

?何をいってるんだ?

新しく始める?

もう終わったんだ何を始めるんだ

 

≪こことは違う世界、そこに貴方を飛ばしましょう≫

≪それが貴方への褒美です≫

違う世界?褒美?何を言ってるんだ?

そもそもお前は誰なんだ?

この問答のなか意識がだんだんと覚醒していく

視覚に色がつき

なくなった腕に感覚が戻る

 

そこは闇ではなかった、それは白、見渡す限り真っ白な空間

声は響く

 

≪では行きましょう・・・≫

不意に何ものかに腕を引っ張られる

その、力は弱い、だが金縛りにあったかのように動けない

何がなんなのかわからない、

 

突然目の前に黒い空間が現れる

それに光は届かない、

無限の暗闇が続いていた

 

≪こちらです、一緒に行きましょう≫

あそこに?冗談じゃない

抵抗しようにも身体が動かない

なんなんだ?

ゆっくりと、確実に黒い空間に近づいていく

残り10m

残り5m

残り1mへと・・・

空間の目の前に差しかかり

何かが喋る

≪そういえば私が何者か?でしたね≫

捕まれた腕から徐々にそれの全体が浮かびあがる

それは白い着物を着た若い女だった

女は微笑みながら続ける

 

≪私は◼️◼️◼️◼️◼️≫

何を言ってるのかわからない

知らない言語、聞き取れない言葉

だが、何故かわかる理解できるはずがないのに

わかってしまう

 

「お前は・・・」

動かなかった身体が動く、その正体は

空間に入り、腕のみとなった女は純白の怪物だ

「貴方が感じた通りですよ」

手を振りほどこうと、力を込める

だがその細腕からは信じられないような力で

黒い空間に引きずりこまれた



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転生

目が覚めた

 

見知らぬ天井

欠損した腕と脚がある

フカフカの洗剤の香りがするベットで青年は横になっていた

 

(ベットで寝るなんていつぶりだろうか?)

窓から暖かな太陽の光が射し込むなか青年は驚きよりも感動で涙ぐんでいた

こんなにも穏やかな朝を迎えたのは何年ぶりだろうか

思えばあの頃は常に気を張っていて真面に休まるなどということはなかった

死が常に隣にあり、おちおち休んでなどいられない

なんでもない普通の生活に青年は憧れていた

 

「もう少し寝よ・・・」

ここがどこかはわからないがもう少しだけ、この心地好さに甘えてもバチは当たらないだろう

そんな青年の願いはドアを蹴破る音ともに終わりを迎えるのだった

 

「いつまで寝てるの兄さん!!!」

「早くしないと入学式が・・・泣いてるの?」

乱暴に入ってきた見たことのない制服を着た金髪の少女

は僕をみて驚いていた

僕は少女をみて呆然としていた、それはそうだろう、彼女は戦争で死んだ僕の妹なのだから

 

目の前に死んだ妹がいた、それだけで動きだすには十分な理由だった

「ちょっ、兄さん!?」

思わず妹に抱きしめていた

確かに妹だった、今でも鮮明に思いだす

家族の記憶、そして彼女の死を

 

最初こそ驚いていた妹だったが、僕の様子をみて本気だということがわかり心配したような顔をする

「ねぇ・・・どうしたの?」

「なんでもない・・・なんでもないんだ」

涙を拭きながら青年は答える

わかっている、彼女は死んだ妹ではない

本当のことを言っても信じては貰えないだろう

だがそれでも、例え他人の空似だったとしても

生きていてくれて嬉しかったのだ

 

~妹に慰められる形で何があるのか聞いた

正直かなり驚いた

平和な街並み、外敵に怯えずに過ごす人々、美味しいご飯、

自分にとっての当たり前がこの世界にはなかった

その中でも魔法という存在には驚いたものだ

 

「てっ!そんなことより入学式に遅れるってば!!」

妹が机をおもっきり叩く

椅子に座り、関心深く頷く僕に焦ったように妹は言う

時計をみれば7時50分、式は確か、8時だったな

「さっさと着替えろー!!!」

僕は叩き出されるように部屋に戻り着替える

なんだか新鮮な感じに思わずクスリと笑ってしまった

クローゼットを開けたら何とも立派な制服が入っていた

(学校か・・・)

 

適正を見いだされてから戦闘訓練や戦争という慌ただし毎日を送っていたため学校など行ったことがなかった

 

初めての学園生活、期待に胸を膨らませながら

妹に急かされ国立魔法大学付属第一高校に走るのだった

 







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入学式

「間に合ったぁ~」

息を切らし大量の汗をかきながら指定された席に青年は座る

 

自分は二科生で妹は一科生らしく途中で別れることになったが

自分と同じように息を切らして手を膝についている女性が目についた、きっと妹だろう

走ったせいか髪が少し乱れているがしょうがない

妹も間に合ったことに安堵しながな呼吸を整える

 

「あの・・・大丈夫ですか?」

「初日が遅刻とは君なかなかの挑戦者(チャレンジャー)だねー」

不意に声をかけられる、隣には活発で元気そうな赤髪の女性といかにも大人しそうな眼鏡をかけた女性だ

そして、二人は気づいていないのか、並々ならぬ雰囲気をまとった黒髪の男性がいた

 

「あは、あはは、」

二人の言葉に笑って誤魔化す

とても朝の出来事を話すことなど出来ないからだ

 

「私は柴田美月と言います」

「私は千葉エリカ」

二人の女性は名乗る、これから学友となるのだ名前を覚えるのは苦手だが出来るだけ早く覚えよう、

 

「僕は神威ヒロです、よろしくお願いします」

「俺は司波達也だ、逹也でいい」

「なら僕もヒロで大丈夫です」

(司波達也か・・・)

それはヒロがよく知る、戦場に身を置いたもの特有の気配とでもいうのか・・・

やはり平和な世界でもこのような輩はいるのか

ある種の安堵と、男に対しての警戒が高まる

(警戒しておく必要があるな・・・)

 

「それではこれより国立魔法大学入学式を執り行います」

進行役の声のもと入学式が始まる、

「新入生総代、司葉深雪」

 

(あれが一科生の主席か・・・)

一人の女性があがる

長い黒髪に清廉さを感じさせる容姿

絹のような白い肌は高貴さを思わせるほどに美しい

彼女を見つめる生徒たちが見惚れるような声をあげる

 

(達也と同じ感じがする)

ヒロは、ちがった

達也ほどではないが、彼女もまたただの学生ではないそんな直感にもにたものを感じた

 

「なんか達也に似てるね」

「そうか?」

「あぁ、なんていうんだろうね雰囲気とか」

「私もそう思います、」

つい口に出てしまった

僕の言葉に賛同するような柴田さんが頷いた

「はい、お二人のオーラがピンとした面差しがよく似ているので」

オーラ?

僕の認識ではだがオーラとはわかりやすく言えば闘気、その人間を現す陽炎のようなもの

当然、普通は目視など出来ない

 

それがみえるということは

 

この世界にもあるのか?魔眼が・・・

「魔眼」

オラクル細胞を取り込んだ人間同士の子供が稀に特異な力を持った瞳を持って産まれることがある

その瞳には世界の法則を超越した能力が宿ることもあり、元の世界でも実験という形で行われていた

 

(その成功例が僕とレイなんだけどね)

殆んどが失敗に終わったが、数少なくはあるが自分を含め30人が魔眼を、もって作りだされた

能力には様々なものがある、発火、念動力といったサイキック系、予知や過去詠みといった観測系などといったもの、

 

だが強力であれはあるほどその代償は大きかった

最高傑作と言われた魔眼、「全知全能」を持った子供はたった一度の力の解放でオラクル細胞が暴走し死んでしまった

 

(いや、荒神が存在しない以上はありえないか)

それなら生まれつきのものか?

様々な憶測が頭を巡り考えこむ

思わず柴田さんをマジマジと見てしまう(主に瞳を)

「あ、あの、」

「す、すいません!」

柴田さんがうつむきながら、恥ずかしそうに言う

その言葉に我に帰った僕は柴田さんに謝った

かなり気まずい

 

始業式が終わる

「ねぇねぇ、司葉君、神威君、よかったら一緒にHRに行かない?」

「悪いですが、妹を待たせているので」

「司波深雪さんですね」

「お兄様お待たせ致しました!」

透き通る程に綺麗声が廊下に響いた



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魔法

深雪さんが怖かったので足早に教室に戻ったヒロ

初めての授業、教師に教わり学校という形で勉学に励み生徒たちと競いあう

ヒロにとっては全てが新鮮であり楽しかった

問題なのは魔法というのがあまりにも科学的だったことだ

もうちょっとファンタジー的なものを期待していた分、ちょっとショックだった

 

初めて学ぶ常識・・・ヒロの頭には疑問符で埋め尽くされ理解にはまだ時間がかかりそうだった

「魔法について理解することが今後の課題だなぁ」

放課後になりヒロは図書館で魔法について調べていた

机には本が積み重なっいた

初日ということもあり図書館は空だったため集中できたのだか・・・

 

チャイムがなり下校時間になる

時間は待ってはくれないようだった

 

本を急いで片付け、早々に図書館を後にする

正門まであと少しという所で何やらイキりたったような声が聞こえた

 

「深雪さんは僕達といるべきなんだ!」

(ん?なんだ?)

近くのもの陰に隠れながら様子を伺う

そこには入学式にあった司葉兄弟、千葉さん、柴田さんと一科生の生徒たちが何やらいい争っていた

一触即発しそうな雰囲気だ、何を言っているのか、ここからではよく聞こえないが

どうみても交遊というわけではないだろう

 

不意に茶髪の目つきの悪い男が銃型のCADを抜き、術式を展開した

(まじか!?)

話では自衛手段以外での魔法の行使は違法だった筈だ

 

ガタイのよい男が止めようと突っ込む

だが遅いだろう、既に術式の展開は始まっている

あのままではもろに一撃を貰ってしまう

 

体内を巡るオラクルを瞳へと集中させる

僕は瞳の力を解放、するよりも早く銃が空にまった

 

バキッ!という音と共に銃型のCADが空を舞った

弾き飛ばした張本人であろう千葉さんは

警棒のようなものを森崎に向ける

 

(いい動きだな)

思わず感心してしまうほどの鮮やかで流れるような身のこなし、一科生の実力がどれほどかはわからないが、少なくとも接近戦においてあの場で彼女に勝てるものなどいないだろう

一部を除いて、、、ではあるが

 

周りほそれに激昂したように魔法を起動する

「舐めるなよ」

「二科生の分際で」

「ッ!」

各々が手持ちのCADを取りだし術式を展開しようとする

だがそれが行われることはない

 

「「「ッ!!!?」」」

五人の動きがとまる

展開された術式は、フリーズした機械のように停止

5人も同様に金縛りにあったかのように動かない

 

瞳の能力は空間の固定、それは物体のみならず、アストラル体などの実体のないものにも作用する

当然、デメリットは存在する

対象を増やせば、その分だけ一人に対する時間は短くなる、「空間の固定」という情報処理で脳には大きな負担がかかるため連続で行使することは出来ない

その上、瞳自体にもダメージはある(転生前に何度も使用したため慣れたものではあるが)

 

短い間であれば疲労や目眩、充血で済むのだが

長く固定しようとすれば出血、視神経が切れ最悪の場合、視力を失ってしまう

 

瞳そのものが高濃度のオラクルで構築されているため、大きく欠損しない限りは再生は可能ではあるが

オラクル細胞が暴走してしまえばそれだけでは済まない

使わないに越したことはないのだ

(とはいえ、僕では術式の構築に時間がかかりすぎるからなぁ)

魔法の適正がないのが恨めしい

 

「そこまでだ」

緊迫した雰囲気に

凛とした女性の声が響く

生徒会長、そして風紀委員長がCADを構えながらやってきた

僕はそれを確認し瞳を閉じる、

金縛りから解放されたのか一科生の生徒はたじろぐように動いた

 

(ふぅどうやらなんとかなったようだ)

一時はどうなるかと思ったがあとはあの二人がなんとかしてくれるだろう

下校しようとらしたらタイミングの悪いことに鉢合わせてしまったトラブルが解決しヒロは息をついた

もう大丈夫だろう・・・そう考え帰ろうとした

「おっと、何を勝手に帰ろうとしてるのかな君は?」

 

え?

 

不意に声をかけられる、隠れていると油断していたため反応がおくれる

らんぷりしてこの場を去ろうとした矢先

僕は屈強そうな男たちに囲まれた

「悪いが連行させて貰うぞ?」

 

何でですかー?!

そんな叫びもむなしく漢たちが僕の両腕をがっちりとホールドする

抵抗など出来るはずもなくヒロは大人しく連行されるのだった



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最悪の初日

「ふぅーーー」

大変だった・・・

風紀委員に連行され、魔法を使ったのではないか、何故あそこにいたのかなど、事情聴取を受けてしまった

僕が使ったのは魔法ではないため、痕跡などはないが

彼らは納得していないようだった、

 

「絶対目をつけられたよなぁ・・・」

最悪の、1日である、別に悪いことをしていないのに

警察に捕まったような気分だ

周囲は既に暗い、それなりに長く聴取をされたようだ

肩が重く感じ初日なのにも関わらずかなり疲れている

 

重い足どりで何とか家路についた

既に妹は帰ってきたようで灯りが窓から漏れている

ヒロはドアノブを回し、扉を開けた

 

その瞬間にまるで弾丸のような拳が飛んできた・・・

 

「ッ!!!危なッ!!!?」

なんとか顔スレスレで鉄拳を避ける

肌に触れる拳が巻き起こした風が、冗談じゃなく本気の一撃だと感じさせた

運良く避けることが出来たからいいが当たったら昏倒モノだろう

 

「よく避けたじゃない兄さん?」

「それで?こんな遅くまで何してたの?」

狂気の行動をとったであろう犯人、妹の顔をみる

よく避けた、じゃねーよ、思わず滑りそうになった口をつぐむ

 

 

妹が恐ろしく感じるほどの満面の笑みを浮かべていたからだ、

 

一見笑っているように見えるが、口元がピクピクとひきつっている、

間違いなく怒っている・・・

 

「いや・・・これはその・・・」

言い訳を考えるが思いつかない

本当のことを言おうにも風紀委員に事情聴取されてましたなどとは

そんなことを言ったら・・・殺される

あまりの恐ろしい剣幕に言葉が上手くでない

 

「ふ~~ん?話す気はないんだ?」

僕の態度が勘に触ったのだろうか、妹が拳を鳴らす

細い腕からは信じられないような物騒な音が響く

我が妹ながら怖い、前世でもそうだったが、劣らないどころかそれ以上に怖い

 

達也の妹と違ってこっちは分かりやすく怖い

 

「その・・・ちょっと調べものをしてて・・・」

「こんな時間まで?」

嘘は言っていない、実際放課後は風紀委員に捕まるまでは図書館にいたのだ

そう屁理屈を思いこむこむことで嘘をつく際におきる僅かな挙動の不審を起こないようにした

妹が今にも殴りかからんとしながら僕の顔を凝視している

あまりの緊張に冷や汗をかく

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

お互いに沈黙する、僕は緊張から、妹は真偽を探るように覗きこんでいるため

神にも祈る思いで真剣に妹をみる、明らかに疑っている

兄を信頼しているという気持ちが感じられない

僕ってこんなにも信用されてなかったのか?

 

ちょっと悲しくなってきたそんな事を考え始めたあたりで妹は口を開いた

「はぁ~まぁいいわ」

溜め息をつき、諦めたように構えを解いた

疑ってはいるのだろうが・・・これ以上は無駄だと判断したためだろう

安堵のあまり、息をついた

 

「しょうがないから、何があったのかは兄さんの体から聞くことにする」

「え?」

安堵したのも束の間、妹はまたもや物騒なことを言った

コキコキ!と指を慣らし

僕の腕を掴みながら、それを執行するに適するであろう場所に僕を連行しようとする

普通にこわい、わからないから体に聞くって・・・脳筋過ぎないかな?

 

「えっと・・・どこにでしょうか?」

「もちろん道場に決まってるでしょ?」

思わず敬語口調で恐る恐る尋ねる僕に、妹は満面の笑みで答える

恐ろしいほど可愛らしい笑み、今はただただ恐怖でしかない

 

不味い、ボコボコにされるそう思うが腕に力が入らない

抵抗しようにも物理的な力関係は妹の方が上のようで万力のような妹の腕を振りほどくことは出来ない

 

「ほら、抵抗しない・・・早くいくよ兄さん?」

そう、いうと妹は力をこめ強引に

僕を引きずりは道場へと向かうのだった

 

(死んだわ・・・僕)

そのときのヒロは死刑執行を待った罪人のように諦めたような顔をしていたのだった

 

本当に最悪の1日だ・・・




あともうちょっとで主人公の見せ場が・・・
頑張るしかねーー

レイ(妹)と主人公の武術は「領域武道」です(笑)
オラクル細胞による疑似変異能力と武道を融合した武術
現段階ではオラクル細胞を併用した武術をレイは使えません・・・

主人公は短期決戦では最強です
領域武道を使えば十文字家でも相手になりません
司波達也とは相性が悪い

一応設定は決まってるのですがピーキーな能力過ぎて使う場面があまりない

主人公はバワー極降り型
妹はバランス型
みたいな感じです


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部活動

次の日の、朝顔に絆創膏を張り周囲から「何があった?」という視線に晒されながら登校した

妹に稽古と称してボコボコにされ、技の実験台にされ

疲れた体に鞭をうち、眠い瞼をあげての学校、

正直しんどい、

授業などあまりの眠気で半分以上理解出来なかった、休み時間も爆睡してたためクラスの皆との親交を深めることも出来ず、無味な時間を過ごすことになった

 

しかし放課後、ヒロの意識は覚醒することになった

早めに授業が終わり、学校の施設を回ろうと外にでた瞬間

 

今まで最悪な気分に陥っていたヒロは

目の前の光景にモノクロだった世界に色がついた、そんな大袈裟な表現をしたくなるほど歓喜した

 

生徒逹が和気あいあいと新入生に対して宣伝をおこなっている

部活というのか?サッカー部やテニス部、剣道部など正門前には

才気ある新入生を勧誘しようと

先輩方がある種の争いを繰り広げていた

 

「これが学校・・・」

呆然と立ち尽くした

なんて、素晴らしいのか

サッカー、野球、話には聞いていたが実際にしたことはなかった、思わず勧誘のチラシを何十枚も受け取ってしまった

手が震えている、それは任務に赴く前の緊張と似たようなものを感じた

いや、これは戦いなのだ

 

「どれがいいか」

じっくりと配られたチラシをみる

これからの人生を大きく決める分岐点

慎重に選ばねば、、、

チラシの内容に釘つけになっていると聞き覚えのある声がした

声のもとをみると、そこには上級生に囲まれた千葉さんがいた

 

人気なことに彼女の周りを囲むように先輩方が集まっている

だが勧誘があまりにも過激だ、どうみても嫌がっている彼女のことなどおかまいなしなのか、彼女の手や服を引っ張ったりと乱暴なことだ

 

(放ってはおけないよな)

人混みの中を掻い潜り、千葉さんの手を掴む

それと同時に瞳の力を解放する

数秒の間、周囲の動きが止まる

「ちょ、ちょっと!」

あまり長くはない、

そのため千葉さんの静止を無視し腕を引っ張りこの場を後にした・・・

後ろ髪ひかれる思いではあったのだが

仕方ない、

 

「ぜぇぜぇ、ここまで来れば大丈夫かな?」

かなり走った気がする

息が切れるまで走った理由は正門以外でも勧誘が行われていたからだ

上級生逹は僕達をみるやいなや(主に千葉さんめがけてだが)、目を輝かせてよってきたためだ

 

「そうね、でもちょっと無理矢理過ぎない?」

「ごめん、困っていたようだったからつい」

息を切らしながら、からかうように僕をみる千葉さん

多少強引だと思うが、しょうがないと思う

一応謝ってはおくけど・・・

 

「ふーん、でも今度からは女の子にはもっと優しくするように!」

「はい」

千葉さんはニヤニヤしながら僕に指をさし注意する、

綺麗な指が僕の目線につきささる、なんか楽しそうだった

僕は全然楽しくないんだけど・・・

 

「まっ!でも助かったよありがとヒロ君」

「ーーー」

千葉さんが僕に眩しい笑顔を向ける

彼女は僕の目からみてもかなり美人だ

正直かなりドキッとしてしまった

思わず顔を反らしてしまった、なんか顔が熱いし

 

「?そうだヒロ君、よかったらちょっと付き合ってよ、お礼もしたいからさ!」

「え、いや遠慮し・・・・」

「さぁいくよ!」

僕の言葉を無視して腕を引っ張る、

部活・・・まだ全部みてないんだけど・・・

彼女はそんな思いなどおかまいなしなのだろうか

雲行きが怪しくなってきた、、

 

 

~体育館~

何故か僕は体育館にいた

そこでは剣道部の練習が行われており、竹刀が打ち合う音が響いていた

正直あまり魅力は感じない

 

何度も実践を経験しているヒロにとって剣道は物足りなさを感じさせるからだ

 

戦場を知るものにとってはとくに

 

綺麗な面打ちが決まる

「つまらそうだねヒロ君」

「そうだね・・・」

千葉さんも同じなようで、あまり楽しそうには見えなかった

予定された綺麗な一本、

演舞ということもあるのだろうが

 

武術の真剣勝負、命の奪いあいに身を投じていた身としては退屈であった

 

所詮はリハーサル、競技であり実戦を想定したものではないのだ退屈に感じてしまっても仕方ないだろう

 

「ん?」

同じような竹刀を持った集団が現れたと思えば

何やらいい争っているようだった

「女のほうは壬生清香、一昨日の全国大会2位よ、そして男のほうは桐原武内こっちは中等部剣術大会チャンピオン」

全国二位と関東優勝者か、あの程度でなれるなら随分と甘い世界のようだ

学生ならこんなものなのか?

 

いい争いがヒートアップしたのかこちらにまで声が響いており

両者が竹刀を構える

「面白くなってきたね」

千葉さんが先ほどとはうって変わって楽しそうに試合を見守る

何が楽しいのか・・・こういうものは大抵ろくな終わり方をしないと決まっているというのに

両者が踏み込み竹刀が交錯する

勝負は一瞬 だった、一見すると互いの腕に竹刀が当たってはいる、試合なら引き分けだろうが、実戦なら壬生先輩の勝ちである

 

流石全国二位ということだろうか、見事な一撃だ壬生先輩の竹刀は骨まで到達しており、実戦なら腕を切り落としていただろう

いい勝負だったこのまま終われば話ではあるが

 

「壬生、お前真剣勝負が望みか?なら真剣で相手をしてやる」

男がいきなりCADを取り出し、術式を展開した

竹刀は赤みを帯び、どうみても試合で使っていいものではないと直感した

(やっぱりこうなったか)

 

踏み込み、桐原先輩は切りつける、間一髪のところで壬生先輩は避けたようだがカスったのだろう竹刀ではあり得ない斬り傷が胴についていた

 

「これが真剣だ」

再度男は踏み込もうとする

竹刀を上段から振り下ろし壬生先輩に凶器と化した竹刀が迫る

だがそれが届くことはない

 

「何をやったのか、わかってるんですか?」

「ッ!!!?」

魔法によって強化された竹刀をヒロは素手で受け流し

壬生先輩を庇うように立ちはだかる僕に桐原先輩は驚いているようだった

 

「うるせぇ、お前には関係な・・・」

こうなれば先輩など関係ない、桐原先輩が話終わる前に側頭部に強烈な蹴りを見舞った

 

無防備に蹴りを受けたためが桐原先輩の体が浮かび上がり、重力に従うように地面に激突した

一撃で意識を失ったのか立ち上がる雰囲気はない

一応手加減はしたので死んではいないだろうが

 

「先輩怪我はありませんか?」

僕は振り向きポカンと口を開ける壬生先輩に安否を問う

周りも同じようで、誰も声をあげず僕をじっとみていた

一つ遅れて周囲がざわめきだした

「あいつ二科生じゃねぇか」「身の程知らずだな」驚きと侮蔑が混じったような声と視線を感じる

剣術部の取り巻きも同じようで、僕に明らかな敵意をむき出しにしてきた

 

「テメェ!なんのつもりだ」

「魔法の使用、それも殺傷性の高い術式、彼女の身が危ないと思ったため仕方なく制圧しただけです」

「それなら剣道部の壬生だって同罪じゃねーか!!!」

「聞いてましたか?魔法の使用っていいましたよね?」

「ふざけんなよ!!!二科生の分際で」

二科生、二科生とうるさいな

激昂した取り巻き共は僕に罵倒をとばし殴りかかってくる

ぶっ飛ばしてやりたいが、そういう訳にもいかない

「はぁ~」

迫る拳を難なく避け、溜め息をつく

単調でどこを狙っているのか丸分かりである

避けるのは容易い、男の息が上がってきたあたりでヒロを囲むように二人の男が近づいてくる

 

一人では拉致があかないと判断したのか更に二人が襲いかかってきた

さすがに囲まれれば避け続けるのは無理があるので振り下ろされた拳を手ノ甲で拳の勢いを殺さないように受け流し、捌く

 

(剣術部なんだから竹刀使えよ、竹刀を)

熱くなっているのはわかるが己の得意とする武器を使わないなど

 

魔法を使ってくれればなおよしだ

歯痒い思いに刈られ、周りをみる

術式を展開する取り巻きDとEがいた

(よーしこれで心置きなく・・・)

魔法が使われたためやむ無く制圧しました、風紀委員に捕まっても言い訳できる

思わず笑みが溢れてしまう、

 

やっと反撃できると歓喜していると急に術式が弾けとぶ

どうやら時間切れのようだ、構えを解き出入口に立った術式を弾きとばした風紀委員をみた、

(あれ?)

どこか見覚えのある風貌に、学生とは思えない雰囲気

「達也か?」

「ヒロ・・・お前、なにやってるんだ?」

呆れるように眉をしかめCADを構える達也に僕は慌ててことの事情を簡潔に説明した

納得してくれたようで、僕に向けていたCADを降ろしてくれた

 

「だがなヒロ、どうやら他にも話を聞かなければいけないものがいるようでな、手伝ってくれるか?」

「勿論だよ達也」

というか達也はいつの間に風紀委員になったのだろうか?

疑問と共にヒロは剣術部を制圧していく

 

因みに正当防衛とはいえ剣術部を負傷させたとしてヒロも連行されたのだった



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風紀委員

風紀指導室に呼ばれたヒロは風紀委員の上級生に囲まれながら風紀委員長から直々と指導を受けていた

 

「なるほど、桐原が魔法を使用し、生徒の身に危険が生じたために仕方なく反撃したのはわかる」

「だが、剣術部を全員ぶちのめしたのはやり過ぎじゃないか?いくら正当防衛といっても限度があるだろう、彼等は大会を控える身だ」

「一応、手加減したので大丈夫だと・・・」

やり過ぎたヒロは委員長に苦しい言い訳をするが

そういう問題ではないだろう?と呆れられていた

 

「委員長、確かにヒロはやり過ぎではありましたが、先輩方は術式を展開していましたし、あれだけの人数を相手に無傷で捕縛というのも難しいでしょう」

「全員、気絶させてはな、それに君がいたならもっと上手くことを納められたのではないか?」

達也は説明するが風紀委員長はジロリと疑うような視線を向ける

どうやら本当に達也は何かしたようだ

信頼が厚い

 

「先輩は自分を過大評価しすぎです、自分は二科生です一科生の先輩方の複数人の相手などできるわけがありません・・・それに援助を依頼したのは自分です、ヒロに責任を追及するなら要請した自分にも責任を負うのが道理でしょう」

もっともらしい達也の言い分に渡辺先輩は形のよい眉をしかめた

理には叶っているのだろうか?

腕を組み数度唸るような独り言を呟いた後に諦めるように溜め息をついた

 

「はぁ~達也君、君は本当にいい性格をしているな?」

「お褒めに預かり光栄です」

(褒めてないと思う)

 

「だかな達也君、いくらなんでもおとがめなしという訳にはいかない、剣術部も納得しないだろう」

「はいわかっています」

話の流れが変わった、先輩のその言葉と共に達也の能面のような表情が笑みに変わった

その光景に何やら非常に嫌な予感がした

思わずに背筋に寒気を感じる程に

 

「それでだヒロ君、君には罰として風紀委員として働いて貰うことにする、何か異論はあるかな?」

「待って下さい!僕は二科生ですよ?!風紀委員は普通は一科生の実力のある生徒が行うべきなのでは」

何が「それでだ」、なのだろうか?

僕は反射的に立ち上がり先輩に抗議していた

想定内なのか?それとも似たようなことがあったのか?

先輩は驚くこともなく冷静に説明し始めた

 

「それについては問題ない、何しろ達也君をみればわかると思うが、うちは実力主義でな、二科生、一科生というのはあまり関係ないんだ」

達也を、周囲の上級生の風紀委員を見渡し、「そうだろう?」という視線を向ける

上級生はそれに賛同するかのように頷くもの、笑みを浮かべるものが殆んどであり反対の意を示すものはいなかった

いくらなんでも脳筋過ぎないだろうか?

それても目の前にいる姉御的な女性の尻に敷かれているのか?

 

「反対意見のあるものはいるか?」

「反たッ!!!」

「諦めろヒロ」

反対しようと挙手しようとするが、達也に止められた

もう決定事項とでも言わんばかりにその声には憐れみが含まれていたような気がした

いや、勝手に決められても困るんですけど?!

動揺するヒロを余所に僕を品定めするような目でみていた先輩方が何やら話し混んでいる

「期待の新入生」「今期は」などと歓迎するような言葉が聞こえる・・・

僕は風紀委員に所属するとは言っていない

 

「だそうだヒロ君?今回の騒動で君の実力は保証された。風紀委員は君を歓迎するぞ?」

「あの僕は部活に・・・」

「言っておくが今回の騒動、君にも多少の非はある、それを風紀委員に所属することでなくそうと言うのだ?安いものだろ?」

それでもなお現状が認められないヒロは反論しようとするが、それを遮るようにニヤニヤしながら渡辺先輩は言った

それは脅しでは?というかなんかヤクザみたいなこと言いだしたのだがこの風紀委員長は?

だがそう言われてはぐうの音も出ない、

 

「それでは手続きを始めるとしよう」

ヒロをみて諦めたと悟ったのだろうか

渡辺先輩は予め用意していたと言わんばかりに

懐から書類をヒロの目の前に置いたのだった

部活・・・部活動・・・

夢にまでみたものが遠く・・・視界が暗くなっていくのを感じた

 

その様子に達也はやれやれと首を竦めるのだった




主人公の武器(登場予定は今のところは未定)
第一世代神器のように銃身がついておらず盾も装備されていない、
刀のような刀身のみの特殊な神器
偏食因子の増殖と分解を行うことができ、刀身の伸縮が可能、1m~3mまで
プレデタースタイルの使用は可能
この神器は捕食した対象の能力の保存が可能であり武器を捕食した場合その武器の元々の持ち主の能力を擬似的にではあるが使用可能「剣術や特殊技術」(刀の神器なので保存出きるのは剣だけ)
使用は出来るがその技術の使用に適正のない肉体である場合には相応の負荷若しくは使用が出来ない
尚保存出来る武器は3つである
①なし
②???
③菊一文字
また剣以外にもアラガミバレットのように捕食した対象の弾丸を射出する代わりに刀身に能力を付与できる
炎・・・刀身に炎を纏う
大地・・・身の丈ほどの土を操れる
魔術師・・・そのものが得意とする魔法の行使が可能(使用回数に制限あり)
捕食した部位によって回数も変わる、人間だと一回が限界、捕食の部位が少なすぎれば使用不可
①なし
②???
③???


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今日から風紀委員

なりゆきで風紀委員役員に任命され、気分は最早任務に赴くような緊張感とやるせなさに板挟みをされたような気分で1日をヒロは過ごすことになった

 

「はぁーー」

いつも何もかわらない登校のはずだった

昨日と変わらなく、普通に学園の門を潜る

 

周囲の目線が集まる、二科生のみならず一科生の生徒たちが道をあける

ザワザワと懐疑的な視線と嫉妬の視線がヒロを刺す

その原因である右肩にブツに重さすら錯覚してしまう

風紀委員役員であるという証である腕章に視線が集まる

 

(うぜぇ、、)

物珍しさで集まる野次馬も蔑み嫉妬するような目をむける優等生も不快だった

こそこそと自分には聞こえない声で話してはいるが、大抵本人に聞かれたら困る話を本人の居る場でするなど良い内容であることは殆どない

 

そもそもヒロ自身、風紀委員には全く興味などなかった

それどころか楽しみにしていた青春の代名詞であると聞いていた部活を没収され半ば拗ねている

 

「おはようヒロ、」

「おはようございますヒロさん」

背後から諸悪の根元といえる男の爽やかな声が聞こえた

振り向けばそこには風紀委員の同僚兼クラスメイトの司馬達也がいた

 

「おはよう、、、どうした朝から、」

ひきつったような笑みで何とか挨拶をする

ただの挨拶のはずなのだが何故か勘繰ってしまう

 

隣に女神のような笑顔で挨拶する深雪さんがいなければ殴るまではいかないまでも怨み言の一つは言っていただろう、

 

「あぁ委員長が昼に生徒会室に来てほしいそうだ」

「え、?嫌だけど?」

「はい?」

「え?」

思わず、ほぼ反射的に答えてしまった

達也は予想通りだったようで顔色を変えずやっぱりか、というように肩を竦めていたが

隣に立つ深雪さんは予想外だったのか笑顔のまま、抜けた声を出し、その意外な返しに思わずヒロも疑問符を返してしまった

それでもなお女神は笑顔を崩さない

それが更に恐怖を加速させた

 

一瞬の静寂、時間が停まったような錯覚に陥る

周囲の視線と深雪さんの圧がしんどい

「来なかったら此方から出向くらしいぞ」

「もしかして委員長は暇なの?」

「・・・」

「今のは聞かなかったことにしておくぞ、とりあえず昼に生徒会室だ、忘れるなよ?」

念を押すように言うと達也達はこの場を後にした

最後まで笑顔がだった深雪さんが怖すぎであった

 

周囲の生徒達も二人が去ったことで興味を失ったのか足早に校舎にはいる

 

チャイムがなり

停止していたヒロの時間が動きだし、教室へ急ぐ

走りながら校舎へ向かうヒロは思うのだった

(バックレよう、、、)と

 

~その後の廊下にて

「お兄様、もしかしなくてもヒロさんは、、、」

「あぁ間違いなく逃げるだろうな」

ヒロの考えなどお見通しなのかのように達也は妹の疑問に答えた

その言葉は諦めが含まれているかのように呆れたように感じられた

兄がこんな顔をするのは珍しいのか、妹は少し可笑しそうにクスリと笑った

 

「フフ」

「どうした?深雪?」

「いえ、なんでもありません」

「仕方ない、授業が始まる前に渡辺先輩に報告しておくか、」



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バックれ

チャイムがなり授業終了すりは、生徒達が合図されたかのように立ち上がり一斉に外へでる

閑散とした教室の中、一人ヒロはポツンと椅子に鎮座していた

考えこむように額に手を当て一点をみつめ苦い表情を浮かべる

 

「・・・・」

時間にして一分も立たない静寂の中、彼はおもむろに立ち上がる

ガタンと椅子を乱暴にひく音が静まり返った教室の中に木霊する

 

彼は悩んでいた

 

今日の昼は何を食べるべきか、、、と

学食のメニューはカレーにラーメン、そしてシークレットメニュー

元の時代ではヒロの食生活はレーションやジャンボトウモロコシにジャンボトウモロコシといった感じのものだった

食料など育つ地域でも無かったのも理由のひとつではあるが、戦争中に食に意識を向ける余裕などない

故に食事などよく煮詰められてない煮込み鍋に、ジャンボトウモロコシにジャンボトウモロコシをのせ寿司

カチカチのパンや缶詰めなどが腹にたまればいいだろう程度の考えだった

野菜の嗜好品のようなものだ、作るにも土地が必要であり、機械化と荒神の影響で野菜を作ることなど困難に近い

 

そもそもじゃがいもやニンジンなどの存在は知ってはいたがだれも育て方など知らなかった

当然、そのような環境の影響で必然的に食の質は落ちる

まぁ連戦からの連戦で気の休む暇がなく心身ともに疲弊していたあのときは味覚などなかったが

 

今なら思う飯が旨いとは素晴らしい!と

 

(いつもなら安定択をとる、、)

普段なら、、だ

だがこれでも幾度の戦場を勝ち抜いてきた実力派エリート、時には賭けに出ざる終えない状況に陥ったこともあり命の危機に瀕したことも多々あった、ここで挑まずして何がエリートか!

食堂に飾られた本物そっくりの食品サンプルを確認する、当然そこにはシークレットメニューはない

 

その未知の強敵にいっそうヒロの好奇心を刺激する

 

釣られた魚のように食堂に入る、

「おー!ヒロじゃねえか!」

食堂に入った瞬間、体育会計よろしく!といった爽やかではあるが食堂全体に響くような大きな声がした

 

音の元にはブンブンとこちらに大きく手を振る男が居た

身長は180cm程の大柄で骨太な体格、ゲルマン系で彫りの深い顔立ちをしていた

「西条レオンハルト」干渉系の硬化魔法であり、身体能力が非常に高く、ヒロ的な第一印象は頼りがいのある野性味溢れる無頼漢といった感じだった

 

無骨な遠慮を知らない男かと思えば意外なところで気を聞かせる紳士的な人柄なあたり個人的にはポイントが高い

 

「あぁレオ、、、、か?」

呼ばれた方に顔を向けるとそこにはリスのように飯を頬張る姿のレオと茶碗から溢れんばかりのカツ丼と半分ほど減ったカレーがあった

茶碗の大きさも規格外であり軽く10人前以上はあるだろうと思った

あまりにも意味不明な光景に疑問系で答えてしまったくらい困惑していた

明らかに一般人のキャパシティを越えてる

 

あまりにも非日常(笑)の光景に思わず口元を抑える

先程まで鳴っていた腹は止み、胃液が何もない胃に渦巻く不快感がなくなっていた

 

明らかに食欲が減衰しているのがわかる

見ているだけで腹が一杯になるというのはこの事なのだろうか、、

よく見ればレオの周りの席が空いている、というより彼を中心に円のような空白がある

明らかに避けられてる、

 

「ん、、どしたヒロ?」

「いや、別にてか何?それ?」

「これか?シークレットメニューらしいぞ、なんと食いきったらタダらしいぜ」

「へ、へぇ、シークレットメニュー、なんだ、、」

「?」

良かったぁ頼まなくて

思わず胸を撫で卸す、内心レオにグッチョブ、と親指をたてる

そんな、ヒロの心情などわからないレオは盛られた飯を掻き込む、かなりのハイペースで飯が消えていく

 

いくらなんでもあの量はヒロでもキツイ

 

「食わねえのか?」

「あぁそうだった」

レオの大食いを思わず凝視してると不思議に思ったのかレオから声をかけられた

あんまりに今のレオとは一緒にいたくはないが、彼に悪気はないだろうし、

食券を渡しレオの正面に座る

まぁレオには聞きたいこともあるし飯ができるまでは彼のことについて聞くことにしよう

 

~生徒会室

生徒会職員、風紀委員長、

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「遅い!!!」

「遅いですね、、」

「お兄様、、これは」

「あぁ逃げたな」

「ほぉ、一年坊が随分舐めた真似をしてくれたものだな」

「ま、まぁまぁマリちゃん、」

生徒会室では殺伐とした空気を放っていたことをヒロは知るよしもなかった



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