速すぎて見えなかった? (二十口)
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速すぎる男。

うーむ、まじこいの二次創作が増えたらいいのに。でもよく考えれば発売されてからこんなに経っているのかと思っています。


 俺が人より速くなったのはいつからだろうか。

 

 あれは確か、小学生の頃か。リレーでアンカーを務めた時、俺のチームは最初の人から大幅に遅れていた。そこから勝つのは不可能だと誰もが思っていたが、俺は諦めるつもりは毛頭なかった。

 

 負けることは嫌いだし、負けたら泣きそうになる、そんな姿を晒したくはなかった。だから半周遅れほどしていたところからバトンを渡された時に、我武者羅に走り抜けた。

 

 すると俺の前には誰もいなくなり、ついには半周遅れにもかかわらず俺が一位でゴールテープを切っていた。その時は学校中の人たちが誰も口を開かなかった。

 

 だけど、俺の中では誰も追いつけない速度で走り抜けたことに対してとてつもない喜びがあふれてきた。

 

 その時から、俺は周りよりも速くなった。覚醒と言っても良いだろうか。

 

 まぁ、その後に色々とあってイジメられたりして俺はこの力を見せないようにすることにした。何より、周りは俺が速すぎて見えないから問題ないところではある。

 

「ふわぁ……」

 

 臨時で全校生徒が集められている中で、俺は大きなあくびをしながら立ってでも寝ていられる眠気と戦いながら学長が立っている方を向いている。

 

「皆も今朝の騒ぎで知っているじゃろう、武士道プラン」

「……武士道、プラン」

 

 何だよ、それ。他の生徒たちは知っているような顔をしているけど、武士道? プラン? 武士道なんざ古臭くてこっちまで恥ずかしくなるわ! 西洋にかぶれていればいいんだよ!

 

「この川神学園に、転入生が六人入ることになったぞい」

 

 ほぉ、この川神学園に転入生が。……正直どうでも良いからどうでもいい。そもそも武士道プランの説明をしてほしい。してくれたら笑ってやるから。

 

「武士道プランについての説明は、新聞でも見るんじゃ」

 

 言ってくれればいいのに、あのエロジジイ。知らずにここに集められる俺の身にもなってほしいものだ。……今から見に行くか。

 

 俺がそう思うと、周りはほぼ動かなくなり俺はその中を歩き始める。新聞がいつもある場所と言えばコンビニだから俺は近くのコンビニに行くことにした。

 

「失礼」

 

 コンビニに入ろうとしている人よりも先にコンビニに入り、入り口近くに十以上の新聞が差し込まれている棚の前に来る。

 

「これで良いか」

 

 スポーツ新聞ではない新聞紙を取り、大きな見出しで武士道プランについて書かれている新聞に目を通していく。

 

 見たところによると、偉人達のクローンで、現代の人材不足を解消させる事が計画の目的ということらしい。見たところで正直俺には興味がなかった。どんなクローンだろうが、誰のクローンだろうが、クローンを問題視されているかとか、俺には関係ない。

 

「無駄骨だったな」

 

 俺は新聞を元あった場所に戻してコンビニから出て行く。そして川神学園に戻り、並んでいた場所に戻った。そこで周りの時間は元に戻る。

 

「重要なのは学友が増えるということ。仲良くするんじゃ。……競い相手としても最上級じゃぞい、なにせ英雄」

 

 バカか、このジジイは。過去から来た、というのなら分かるが、結局そいつらはクローンに過ぎない。オリジナルをまねることができても、オリジナルになることができない半端者だ。

 

 それに、俺の競い相手がいるとでも思われているのなら、心外だな。まぁ、この力を誰にも見せたことがないし、誰にも見られたことがない。一応、この川神学園で全員の前に現れたが、誰一人として俺の存在に気が付く人はいなかったと思う。それなのに競い相手と言われても、ねぇ?

 

「武士道プランの申し子たちは全部で四人じゃ。残り二人は関係者。まず三年生――」

 

 もうこの話がどうでも良くなったし、正直聞くのもしんどいから頭を空っぽにして青空を見ることにした。おそらく今の俺の顔はとてもバカみたいな顔をしているだろう。

 

 それでも話を聞くよりかはマシだ。話を聞かないで良いならバカみたいな顔をしていると思われても、俺は構わない。周りがいくら騒ごうが、俺は頑なに話を聞かない。絶対に脳に情報を入れさせない。絶対にだ!

 

 しばらくは聞かずに済んでいたけど、すげぇ耳に入ってくる曲が流れてくる。しかも人の気配も増えてきたし。この雰囲気の感じからしても、絶対に九鬼の人間だよなぁ。

 

「我、顕現である」

 

 どうして九鬼ってあんな感じなんだろうな。もう前を向いてしまったから見るけど、あの幼女は何だよ。そして後ろにいる金髪のジジイは誰だよ。まぁ、どうでもいいけど。

 

 それにしても九鬼か。特に良い感情も悪い感情もないからどうでもいいというのが本音だな。そもそも俺にとってどうでもよくない相手がいないからな。

 

 そう思っていると、金髪のジジイは川神百代の背後に立った。その一連の流れを川神百代ですら見えていなかったようだ。俺はもちろん見えていた。ていうかあの金髪のジジイと目が合った気がしたが、気のせいだろう。

 

「はぁ……」

 

 川神学園に入学したのは失敗だったのではないかと、入学して二ヶ月くらいで思う今日このころである。




あー、まじこいとかもう忘れてしまいましたよぉ!


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速すぎる男と最強の男。

 俺の名前は速水銀。川神学園一年C組に所属する高校生だ。川神学園に入学してきたのは、ただ単に家が近くだったからという理由だから、今更ながら後悔している。まぁ、先に来るものは後悔じゃないから仕方がないよな。

 

「というわけで、ワタシが貴方たちの担任になりましター。カラカル・ゲイルデース。よろしく、お願いしまーす。悩み多き、ボーイアンドガール」

 

 今は臨時の全校集会が終わってHRの時間で、新しい担任であるゲイル先生が自己紹介をしてくれている。何か、この人デカいけど、何かしていた人なんだろうか。川神学園ではルー先生とか、そういう先生もいるからあり得る。

 

 ていうか、俺の後ろの黛とかいう女子生徒はいつになったら黙ってくれるんだろうか。お人形遊びは良いが、聞こえないくらいでしてほしい。

 

「お友達になるのは無理ですかねいや諦めてはダメです」

「オラたちにDANDAN心向いてくれるようにしようぜー」

 

 こいつはあれか、ボッチ過ぎてこういう感じになっちゃった痛い子なんだろう。友達ほしいのは独り言で分かるけど、それが拍車をかけていることに気が付いてほしい。

 

 周りの人たちが引いていることに気が付ければ、……どうにもならないな。そもそもボッチの片隅にも置けない奴だ。俺なんかもう友達という友達はいないんだぞ? それなのにちゃんと人間強度が高い。人間強度が高い人種がボッチというワンランク上の人間になれるんだよ。

 

 しかし、武士道プランとか新しい風とか面倒なことこの上ない。この川神学園に入ってきたのだから、それは仕方がないことだが、このせいで俺に飛び火でもしてくれば腹は立つ。でも何もしないのが俺。

 

 何だか早速色々なところから大きな音やら声やら転入生たちに色めき立っている。幸い、この一年C組にはゲイル先生だったからクラス内での変化はそこまでない。

 

 だけど学園の雰囲気に当てられて変化する生徒たちが一定数いることは十分に考えられる。そんな空気を想像するだけでも暗い気持ちになる。

 

「はぁ……」

 

 今日何度目か分からないため息を吐いてしまう俺だった。

 

「前の席の方、何かお悩み事でしょうか? 先ほどから何度もため息をはいていますが……」

「悩みに乗ってあげなよ。オラたちが華麗に解決してあげようぜ」

 

 この席、超嫌だ。

 

 

 

 速すぎる男であるこの俺でも、帰る時とか登校する時くらいしか速く移動することはない。放課後になって何だか色々な生徒たちがクローンたちのいる教室に行っているようだが、俺なら一瞬で見てきて一瞬で帰ってくることができる。

 

 だけどそもそも興味がないからすることはない。一瞬で帰って宿題を一瞬で終わらせてゲームでもしよ。俺のこの訳の分からない能力は宿題すらも一瞬で終わらせることができる。

 

 夏休みともなれば、宿題を即座に終わらせて誰よりも長く夏休みを満喫できる、最高の能力だ。ただ、川神百代とか化け物みたいな人間は〝気〟とかいう力を使っているみたいだが、俺にそれを使えるかは謎だ。この能力が気によるものかを分からない。

 

「ま、どうでも良いか」

 

 俺にとってはこの能力は切っても切れない能力で、どんなものであろうともどうでもいいものだ。俺の心の中の口癖ってどうでもいいだよな。くだらねぇ。

 

 この瞬間、誰の視線も受けていないことを察知して、俺は〝超加速思考領域〟へと移行する。周りの人間はほんの少しずつしか動いておらず、俺はその中をカバンを持って至って普通に歩いて帰る。

 

 歩いている途中で一年S組の前を通る。一年S組と言えば、あの九鬼の幼女が転入してきたところで、あの金髪のジジイも一緒にいるクラスだ。誰も俺のことを見えていないが、早めに通り過ぎよう。

 

 そう思いながらもチラリとSクラスの教室内を見ると、どういうわけか金髪のジジイと目が合ってしまった。

 

「ッ⁉」

 

 本当に目が合っている。錯覚とかではなく、俺がここに居ると理解してこちらを見ている。それだけで俺は金髪のジジイのヤバさを感じてしまった。元々ヤバいと思っていたけど、それでもこの加速している中で俺のことを見られる奴なんて初めて見た。

 

「おいおいおい、嘘だろ……⁉」

 

 そしてあろうことか金髪のジジイはこちらに向かってきている。足の速さはおそらく現実では目にもとまらぬ速さなのだろうが、俺が見ている光景では俺が歩いているよりも遅いくらいの速度で来ている。その顔をみているだけでものすごく恐怖を感じる。

 

「やべぇな! あのクソジジイ!」

 

 俺はすぐにそいつから逃げるために走り始めた。こうして俺が走っている中で誰かにぶつかるとそれだけで大きな怪我に繋がりかねないから、誰にもぶつからずに走り抜けていく。

 

 後を振り返るとどんどんと俺と金髪ジジイの距離は開いていっている。どうやら速さだけで言えば俺の方が圧倒的に速いようだ。

 

「足が速くて良かった~。まぁ、足が速くなかったらこんなことにならなかったんだけど」

 

 ついにはあの金髪ジジイから逃げ切ることができた。あの顔から逃げられるとは思ってもみなかったが、どうやら俺が速すぎるのは証明されたようだな。

 

「……学校辞めてぇ」

 

 証明されたのは良いけど、明日学校に行ったらあいつがいるんだよな? 何も言ってこないよな? 自意識過剰なだけか? 来たらどうするんだよ。

 

 放課後ならまだいい。だけど昼休みとか逃げ場が学校の中しかないじゃないか。それでも移動し続ければ逃げられると思うけど、さすがにそれはしんどい。

 

「はぁ……、どうするかなぁ……」

 

 俺は明日からのことを考えて憂鬱になりながらも、嫌な奴に目を付けられたなと思った。俺の平穏な日常が明日で変化していなければ、もう文句はないけど。




あー、これから書ける気がしねぇ……。


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最強との邂逅。

あー、ヒュームの感じが分からん! こんな感じで合っているのか⁉


「ッッッッッ⁉⁉⁉」

 

 俺は訳の分からない気配を突如として感じて気持ちよく寝ているところを叩き起こされた。飛び起きて腕を見るとものすごく鳥肌が立っている。

 

「……クソがッ」

 

 明日から大丈夫かな? 大丈夫だよな? でも大丈夫という保障はないし、でも大丈夫じゃないという保障もないしと考えてたら寝るのが遅くなって、ようやく寝つけたと思ったらこの感覚。

 

「ふざけやがって……どこのどいつだよ。ここは日本だぞ」

 

 いつもより早い時間に起きてしまったが、もう眠れる気がしない。いつもならギリギリの時間に起きて五秒くらいで朝の身支度を済ませて三秒くらいで登校できるから一分前に起きれば問題なく学校にたどり着ける。

 

「はぁぁぁぁぁぁ……」

 

 重い体で立ち上がり、朝の身支度を普通にしていく。家の中で気にする必要はないが、外では極力速く移動しないようにしよう。昨日みたいに目を付けられる、付けられた? ……付けられるかもしれない。

 

「あら、おはよう。今日は早いのね」

「おはよう。まぁ、そういう気分だったから」

 

一階に降りて母親に珍しそうな顔をされるが、俺もそう思っているからその認識で間違いない。久しぶりにいつもの速度でご飯を食べたり身支度を済ませたりしている気がする。

 

「いつもこれくらいに起きて来ればいいのに……。そうしたら余裕を持って学校に行けるでしょ? 走って学校に行くって、それで授業を受けるってしんどくない?」

「ま、まぁ、自身を追い込んでいるからこそ発揮できる能力もあるから」

 

 我ながら意味が分からないことを言っているが、母さんは武術がからっきりだし武術の学園だからこういう適当なことを言っていれば納得してくれる。

 

 そして母さんのこの発言の通り、俺は母さんに誰よりも速く移動ができることを言っていない。この能力が覚醒したであろう小学生の時のことを母さんは見ていたが、火事場のバカ力と思っている。そう思っていてくれた方が俺としては俺の中で留めておけるから良いと思っている。

 

 この能力については誰にも言っていないから、俺からしかバレることはないと思っている。まぁ、昨日のあれがあったのは本当に想定外だが。

 

「それじゃあ行ってくる」

「行ってらっしゃい、気を付けてね」

「うん」

 

 俺は朝の身支度を済ませて家から出る。この時間で普通の速度で歩くのは逆に新鮮で良いなと思ってくる。

 

「行きたくねぇなぁ……」

 

 まぁでも学園に行きたくないのは事実。目を付けられていなければ、自意識過剰で終わるわけだが、そうでなければと思ってしまう。これでも最速を自負しているから、目を付けられる要因はあると思う。川神だからな。

 

 一日くらいサボっても良いと思う。小学、中学じゃないんだから自分の立場は分かっている。休んだらどうなるかも分かっているし、一日くらいならどうということはない。

 

「……はぁ、行くか」

 

 だが、何だかそれでサボるのはあの金髪ジジイに屈しているようで何か嫌な気分になる。だから行くことにした。

 

「引っ越し、真面目に考えよ……」

 

 寮とか、一人暮らしとかしてみるのもアリだなと思って、本格的に引っ越しを考えながら学校へと向かった。

 

「……よし」

 

 学校にたどり着き、超人的速度を出さなくても、超人的思考で周りを一瞬で把握して俺の平穏を脅かす人物がいないことを確認しながら一年C組の教室にたどり着いた。

 

「ふぅぅぅ……」

 

 席についてようやく落ち着けると思ったが、勝負はこれからだと心の中では分かっている。だけど、これが一日中続くとなれば、俺の精神が追いやられるのは分かり切っていることだ。

 

「チッ……」

 

 あれこれ考えてイライラするくらいなら来なければ良かった。それか早々に目を付けている、とか目を付けていないとか言ってくれればいいんだ。それなら俺の行動が決まってくる。

 

 ただ、来るとしても朝か昼休みか放課後のどれかだから休めるのは休み時間くらいか。こればかりは俺の不注意と、俺の動きについて来れなくても目で追うことができるあんな化け物に出会ったことが原因だ。それに過ぎたことをどうこう言うつもりはない。

 

「今日は長い一日になりそうだ……」

 

 俺がいくら速すぎる男とは言え、一日は速くならない。目を付けられていないことを祈りながら、今日という一日を過ごすことにした。

 

 

 

「んんんんっ」

 

 お昼休みになり、俺は体を伸ばした。お昼休みになりさえすれば、今日一日はもう終わったもの同然だ。今のところ俺の周りで変化はないから、このまま変化がないまま日常を過ごしたいなと思いながらカバンの中から弁当箱を取り出す。

 

 もちろん母さんが作ってくれたもので、男子高校生に見合った量の弁当だ。学食を食べに行ったり教室で食べているクラスメイトたちを視界の端で見ながら俺は弁当を食べ始める。

 

 黙々と食べ進め、俺の食べれるものしか入っていないとても素晴らしいお母さまを持っているとしみじみと感じながら食べ終わる。

 

「……うーむ」

 

 量的に言えば決して少なくない。だが、年を重ねていくにつれて満足する量がかなり多くなっている気がしてならない。男子高校生なら当たり前で、弁当も多いと思える。それでもこれだけでは腹五分くらいだ。

 

 このままでは午後を乗り切れないと思い、どこかに買いに行こうかと思ったが、迂闊に外に出るのもあれかと思ったからこのまま乗り切ろうかと、そう思った。

 

「ッ⁉ ……まじ?」

 

 直後、この教室に近づいて来ようとする大きな気配の持ち主に気が付いた。間違いなく、あの金髪ジジイだと理解した。どういうわけか、俺は気配を探るのが得意だからこういう変化も気が付ける。

 

 俺は周りに誰も見ていないことを確認してから超高速移動をしているから、それでこの気配察知を身に着けたのかもしれないが、それよりも今はこの状況をどう解決するかを超加速思考領域で考える。

 

 プランA、この場から誰彼構わず全速力で逃げる。

 

 プランB、金髪ジジイを待ち構える。

 

 プランC、金髪ジジイを暗殺する。

 

 とりあえずプランCは無理だ。俺は速いだけで戦い方は素人、超高速で攻撃を打ち込めても相手が化け物であればきくことはないと思っている。

 

 プランAは、悩みどころだ。今、俺の能力に気が付いているのはおそらく金髪ジジイだけ。それを周りに知らせるようなことをして良いものか。金髪ジジイが気が付いていないかもしれない、いや、もう現実逃避はやめよう。昨日、あいつは俺のことに気が付いていた。あれは俺からしたら恐怖映像だ。ホラーが嫌いな俺にはやめてほしい。

 

 となれば消去法でプランBになるが、これもこれで俺としてはあり得ない考えだ。どうすれば良いのか、どうしたらこの場を解決できるのか……。

 

「あっ、メンド」

 

 俺は考えていたのに、考え過ぎて思考を放棄してしまった。むしろここで金髪ジジイを待ち受けていたら、あいつが俺のことをどう思っているのかを分かる。

 

 加速していた思考を止め、俺は目を閉じて金髪ジジイがどう行動するかを待つことにした。するとすぐに俺の真横にあの金髪ジジイが立っていることに気が付いて心臓が飛び出しそうになる。まさかここまで速く来るとは思わなかった。

 

 いや、俺より速い奴なんかいない。だから俺が速いという言葉を相手に使っちゃいけない。

 

「……フン、お前はそれほどまでの才能を持っておきながら、腐らせているのか?」

「は、はい?」

 

 俺は突然金髪ジジイに話しかけられたが、何も分からないような感じで接することにした。さすがにこれを言われたら俺の能力に気が付いているのは理解した。

 

「昨日見たお前の速さはこの俺を凌ぐものだった。しかも才能を無駄にしているその体で、だ」

「あの、えっと、何を、言っているんですか? 俺にはさっぱり何のことだか分かりませんね」

 

 ここまで来たら、とことんとぼけることにした。とぼけるしか道はないし。ていうかみんなめっちゃこっちを見てるぅ。本当にやめてほしいよこの金髪ジジイ。

 

「とぼけるか、まあいい。せいぜいその才能を腐らせないことだな」

 

 そう言うと金髪ジジイは教室から出て行った。

 

「……えっ? あれだけ?」

 

 まぁよくよく考えれば何をされるわけではない。俺はただ速く歩いていただけなんだから。それを考えれば、当然と言えば当然なのか。

 

 てっきり何か言われて戦わせることになるかと思ったが、一般人に手を出す奴はいないか。俺に戦う意思がないのだから。

 

「ふぅぅぅぅ……」

 

 何だか拍子抜けだ。だがこれで俺が気を張ることは全くなくなったということになる。これで引越しを考えなくて済んだ。これからは平穏な学生生活に元通りだ。




作者としてはヒュームと戦わせたかったのですが、戦わせれなかった。


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出会い。

与一、こんなので合っているのかな?
それに、まじこいの時系列が分かんねぇ。


 あの金髪ジジイの呪縛から解放された俺の気分はいつも以上に最高だった。だから最近はあまりしていなかった夜のランニングに出ることにした。

 

 夜のランニングと言っても、俺のランニングは他と少し違う。ただ走るんじゃなく、超加速思考領域を展開して超加速身体領域で街中を走るから、一瞬でランニングは終わる。

 

 中学一年生くらいまでは毎日やっていたが、川神が化け物の巣窟ということを知って少し控えるようにした。だけど認識できるあの金髪ジジイに何も言われなかったから、嬉しさで走ることにした。

 

「ふうううううぅっ!」

 

 こうやって言っていても誰にも聞こえないからこう言いながら超加速空間で走り抜ける。夜道を歩いている誰も彼もが動いているかどうかも分からないくらいの速さで動いている中で、走る。

 

 俺はそこそこ走るのが好きだからこうして走る時はかなりのハイテンションになる。まぁ、川神百代や川神鉄心がいる場所に近づかないようにしながら走っているが。

 

「ふぅ」

 

 川神周辺を走り回って一瞬で自室に戻ってきた。自室に戻る時に取っていたタオルで汗を拭きながら俺は椅子に座る。本当にこういう誰にも迷惑をかけずに自身のペースで色々なことができるのはこの能力の良いところだ。絶対に武道なんかやらねぇ。

 

「……フン、何が才能だ。才能、才能、うるせぇな」

 

 俺は運動したことですっきりとした頭で金髪ジジイが言っていた言葉を思い出していた。何だよ、あの上から目線、今思い返したら超うぜぇ。

 

「あんなの負け惜しみだろ。今の俺の状態で付いてこれなかったくせに」

 

 何も変わらない日常を望んでいる俺だが、今よりレベルを上げることに興味がないわけではなかった。誰も付いてこなかったからこれ以上必要ないと思っていた。今は金髪ジジイが辛うじてついて来れるくらいだが。

 

 それでも自分がどれくらいまで走れるようになるのか気になってはいるが、いかんせん素人だからこれ以上どうしたらいいのか見当がつかない。俺にできることはせいぜい走ることだけだ。

 

「……クソっ」

 

 俺が速さに加えて攻撃力があればあのむかつく金髪ジジイを黙らせることだってできるが、俺に攻撃力はない。できるのは加速をつけた攻撃だけだ。

 

「あぁっ……、腹立つぅ」

 

言われたままだとかなり腹が立つ。ただまぁ、俺の平穏は守られているからこれ以上考えているだけでも無駄だ。だけど俺が平穏を求めるのは、周りからとやかく言われるのが嫌だからだ。

 

「……うーん」

 

 よく考えれば、それだと俺が周りの人間を気にしていることになる。俺は周りの人間なんて気にすることなくただ俺の道を歩んでいると思っていた。これだと矛盾が発生している。

 

 俺が何も行動しなければ周りから俺に注目されることはない。だがそう考えている時点でダメなのではないかと思って俺は頭を横に振る。

 

「どうでもいい」

 

 こんなどうでもいいことを考えるだけ無駄だと思って考えるのをやめた。でも、もし俺が誰かの元で修行を行えるのであれば興味がある。果たして、この状態が頭打ちなのか、金髪ジジイが言った通りまだまだ伸びるのか。気になるところだ。

 

 

 

 昨日金髪ジジイに言われた言葉を考えていたら頭から離れなくなった。あんなことを言われて腹を立てているのか、それとも才能があると言われて嬉しく思っているのか。はたまたただ金髪ジジイの印象が強かっただけか。

 

「はぁ……」

 

 放課後の屋上で俺は夕焼けを見ながらため息を吐く。こうして夕焼けを見ていると心が落ち着くからたまに屋上に来ている。

 

 夕焼けに心洗われている時に屋上に来ているそこそこ強い気配を感じ取った。俺が知っている気配は、金髪ジジイ、川神百代、川神鉄心、それから後ろの席の黛だけで、前三人でなければ何もすることはない。

 

「先客がいたか。まさか組織の人間か⁉」

 

 何やら変なことを言っているイケメンが屋上に入ってきた。だけど今の俺はそれが面倒だからどこかに行くという気力がなかった。

 

「心配ないですよ、とりあえず俺は少なくとも組織の人間じゃありませんから」

「フン、誰しもが自身は悪魔ではないと言い張るものだ」

 

 この人絶対にメンドクサイ人だと思ったが、別に嫌悪を感じるわけではない。あの後ろの席の黛とかいう女子生徒みたいに。ただ、こういうノリに乗るのも気分転換としてアリだと思った。

 

「あなたは俺を組織の人間だと思うのですか? それほどまでに目が腐っているんですか? 冗談なら面白くないですよ」

「……そうだな、お前は組織の人間ではないな。疑ってすまなかった」

「分かってもらえたのなら何よりです。俺はここで夕焼けを見て気持ちを落ち着けていたところです」

「確かにここは良い。この汚れ切った世界でも、これほどまでに美しい景色を見れば、俺のすべきことを教えてくれる」

 

 この人、悪い人ではなさそうだけど、こうなってしまって友達とかいない残念イケメンになった感じだな。だけど俺はこの人と友達になろうとは思わない。ていうかボッチの俺に友達とか笑える冗談だ。そんなこと言えるわけがない。

 

 俺とイケメンは会話がなく並んで夕陽を見て黄昏ていた。こうしていれば落ち着けると思ったが、一向に金髪ジジイの言葉が頭から離れることはなかった。

 

「はぁ……」

「この景色を見ているのにもかかわらずため息とは、余程大きなカルマを与えられているようだな」

「……まぁ、そんなところです。人と関わっても良いことはないと思っていたんですけど、人から言われた言葉が頭の中に残っていて、腹立たしさがある反面、今の自分を変えるべきかどうかを悩んでいるんです」

「はっ! たかだか他人から言われた言葉で変えれるような自分は最初から自分ではないだろ」

「そうですね……。でも、変わらない強さも必要ですけど、変わる強さも、やっぱり必要だと思います。周りが変わっていく中で自分だけ変わらずに置いて行かれる。結局は、俺たちは世界に組み込まれている一部ということですから、変化を求められると思います」

「……そうだな、俺たちは神の手のひらで踊らされているピエロだ。だからこそ、俺たちはそんな舞台から飛び降りなければならない」

「そうなると、変化しないといけないわけですね。……ありがとうございます、少し心が軽くなりました」

 

 適当に話していると、何だか本当に心が楽になった。このまま何もしないという選択肢はなくなった。

 

「ふっ、構わない。人とこうして話すのも悪くない」

「俺は一年C組の速水銀です。あなたは?」

「俺の名前を聞くのはやめておけ。お前も組織に狙われることになるぞ」

「今更ですよ。それに俺は十分に組織に狙われる理由がありますから」

「なに? お前も特異点だったのか⁉」

「特異点……? ま、まぁ、そうですね。俺は神すらも追い抜くことができる速さを持っていますから、組織から狙われる可能性があります」

 

 流れで俺の秘密を話してしまったが、面白いから良いかなって思った。母親にも言っていないのに。まあでも何よりこの人は誰にも言わなさそうな感じがするから良いか。

 

 俺は試しに加速領域に入ってイケメンから少し離れた場所に立ってから加速領域を解除する。

 

「ッ⁉ いつの間に……⁉」

「これが神すらも追い抜くことができる速さです。どうですか?」

「……確かに、組織もそんな能力があると知れば狙うことは間違いない。……それに、もう敵に俺と接触しているところを見られたようだな」

 

 イケメンに近づいていく中でイケメンが羽ばたくカラスを見てそんなことを言っている。とりあえず痛いことだけは分かったけど、悪い人ではない。うん、悪い人ではない。

 

「俺は那須与一だ。特異点同士、よろしく頼む」

「那須与一……?」

 

 そう言えば、最近武士道プランでクローンが入ってきたのを思い出した。それで那須与一と聞けば、武士道プランのクローンだと理解した。

 

「もしかして武士道プランのクローンですか?」

「そうだ。俺は那須与一のクローンだから組織から狙われている存在だ」

「へぇ、そうなんですね。まぁ、クローンだからと言って何か変わるわけでもありませんからどうでも良いですけど。これからよろしくお願いします、那須先輩」

「与一で構わない」

「それじゃあ……、与一先輩と呼ばせてもらいます」

「ふっ、今日の俺はついている。まさか同じ特異点が現れるとは思ってもみなかったからな。それとも、これもシュタインズ・ゲートの選択か……!」

「シュタゲやったことがあるんですね。俺も好きですよ」

 

 変な人だけど、いい人ではあると思う。何気にこうして一対一で自己紹介をしたのは初めてだなと思いながら、与一先輩と連絡先を交換した。




アンケート、こんなにモモ先輩が強いんですか? それとも一番上だから? かなり驚いています。でもまぁ、モモ先輩はかなり接点が作りやすいキャラなので書きやすいと言えば書きやすいですね。


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