農家「あなたは農業好きですか?yesか農家で答えてください」 (寝た奴が悪い)
しおりを挟む

第1話 始まりは1本の電話から

ある月曜日の昼12時過ぎ、1台の軽トラックが海の見える田舎の外れからさらに奥まった場所にある木造の屋敷に入って行った。どうやら畑から帰ってきたようで、軽トラックの足周りは赤土で汚れている。

 

運転席から降りて来たのは咥え煙草をした、頭にタオルを巻いている作業服を着た男だ。

 

この男の頭に巻いている[谷沢農機具店]と店名の書かれた元々白いタオルであったそれは長年使ったがゆえに汚れており、タオルと同じく作業服と足袋も同じく汚れている。

 

この男身長160cmくらいで一般的成人男性として身長が小さい。しかし体格はガッシリしており、無精髭と日焼けした浅黒い体、畑の汚れも相まって熊みたいな見た目である。

 

「ふぅ~まずは昼飯でも食べるか~、、、その前に手ぇ洗うか~」

 

 

男は屋敷の隣に建っているプレハブ小屋に戻る途中に大きな独り言を呟き、服と足袋の赤土を落とし手を洗いそのプレハブ小屋に向かう。

 

プレハブ小屋に[野澤農産事務所]と相撲文字で書かれている。

事務所の鍵を玄関前に置いてある鉢植えの下から引っ張り出し、鍵を開け事務所に入っていく。

窓を開け、部屋の空気を外に出していく。

それが終わると、冷蔵庫から弁当と冷えた麦茶をだし、弁当をレンジで温める。

ふと自分の体を見ると室内という事もあり、やはり汚れが目立つ。

 

 

「それにしてもやっぱり汚いな~俺。新しい作業服とか買うかな」

 

男は畑から帰って来て作業着と足袋に付いた土を落とし、手洗いもしたが赤土の汚れは頑固でありしっかりとは落ちきらない。

 

しばらくすると洗った時の水分は乾き、やがて皮膚にうっすら赤土の膜が現れる。

 

見慣れない人からすれば不衛生な格好である。

男が温まった弁当を食べていると

 

~!~!~!

今ではあまり聞かれない黒電話の音が携帯電話から鳴った。

男は急いで口腔内の昼食を麦茶で一気に飲み込むと電話にでた。

 

「もしもし野澤農産です。えっ!!トレセン学園さんですか!!はい、、、、農業体験ですかそれは職員の方ですか?、、、ウマ娘!?組合に確認しないとウチからは何も、、、あっ。確認はそちらで済ませた?ただウチはニンジン農家ではないですけど大丈夫でしょうか?ええ、わかりました。それでは一度打ち合わせをしたいのですが、、、はい。わかりました。それでは明日の10時にそちらに向かわせていただきます。はい、失礼します。」

 

男は電話を切りポツリと呟く。

 

「なんでトレセン学園がニンジン農家でもないウチに農業体験なんて来るんだろうか?」

 

そう言うと男は煙草に火を着け少しでも落ち着こうとするのであった。煙草を吸い終えると再びポツリと呟く。

「、、、不思議なもんで俺と言うか、ウチの家はウマ娘と縁があるな。、、、あっ昼飯食うの忘れる所だった」

~♪~♪~♪

再び昼食を再開すると、屋敷から来客を知らせるベルが鳴る。

「こんなに飯を食わせて貰えないのも久しぶりだな」

男はため息をつき来客の対応に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 来客と姉妹

男は事務所から出ると屋敷に向かう。

玄関前には組合の職員が少し大きめの封筒を2つ持ち立っていた。職員は男に気がつくと頭を下げた。

「こんにちは野澤さん。すいませんね~昼時に渡したい物がありまして。」

「いぇいぇ。こちらも直ぐに対応できなくて申し訳ないです。自分も少し話したい事がありまして、組合に顔出しに行こうかとしていたので。」

そんな挨拶と会話をしていく。

「コレ先週の会合の資料です。会議室に忘れていたので届けにきました。話したい事とは農業体験の事ですか?」

そう言って1つ目の封筒を男に渡す。忘れた事も忘れていた会合の資料を受けとる。仕事の資料なのにいい大人が恥ずかしい。と男は思った

「そうです。先ほどトレセン学園から電話が来まして。学園職員でなくてウマ娘が来るとの事だったので、先方は組合に話はしたと言っていましたが、その確認と組合に提出する農業体験に関係する書類を受取に行こうと思ってたんですよ」

そう言いながら男は職員が持っているもう1つの封筒に目線をやる。男はこの後にやらなければならない書類の事を考えるとそれだけで頭が重くなって来た。明らかに今までの書類より多いのである。

男の目線と心の叫びに気づいたのか職員は苦笑いをしながら封筒を渡す。

「組合としてもトレセン学園とは初めてのやり取りになりますし、今後も付き合いを続けて行きたいので新規活動報告書も提出して欲しいので多めになっています。あとは学生でもありトップアスリートでもあるウマ娘に対する書類ですね。新しい書類はここまでで、あとはいつものような報告書と経費精算書ですね。本当に大変だと思いますがよろしくお願いします。」

職員が頭を下げる。

「はは。まぁウチとしても協力できる事はやりますよ。こういう活動から農業に少しでも興味を持ってもらって就農者を見つけないといけませんから。自分みたいに他職種から農業に入る人はこういう活動から来ますしね。」

 

職員はその後少し世間話をして帰って行った。男は食べそびれていた食事を済ませ午後2時頃軽トラックに乗り再び畑に向かう。

 

 

その日の夜8時頃男は屋敷の自室で書類作成をしていた。

書類作成とはいってもまだ活動はしていないので、会社名と男の名前を書くぐらいだ

「とりあえずこんな感じか~書類多いから大変だな。トレセン学園が組合に提出する書類は既に送ってあると職員が言ってたから大丈夫だな」

男は書類を封筒に入れ引き出しにしまうと、本棚から1冊の写真アルバムを引っ張り出す。そして煙草を咥え火を着ける。肺に入れた紫煙を吐き出しす。アルバムをめくりながら男は10年ほど前の事を思い出していた。

「あの2人に会うのも久しぶりだな。もっとも明日会えるかもわからないし、ウチに来れるかもわからない、それに自分にも気がつかないだろうけど、、、」

男が見ている1枚の写真。

そこには農業を始める前の色白な肥満体型の男とピンク色の眼鏡を掛けた白い髪の少女と鼻にテープを張った黒い髪の少女が写っている。

現在のトレセン学園でもかなりの実力をもち知らない者はいない最強の姉妹

無敵の姉ビワハヤヒデと怪物ナリタブライアンである。




とりあえずウマ娘の名前だけは出しました
次か次の次位には登場予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 ご機嫌な朝食 再開

朝5時男は目を覚ました。

外はうっすらと明るくなって来ており、鶏小屋から夜明けを告げる鳴き声が聞こえる。

「ちと早く起きたな。、、、たまには贅沢な朝飯にしよう」

男は敷地内にある家庭菜園に向かいナス、ネギ、大根

次に屋敷裏で育てている原木椎茸を収穫した

最後に鶏小屋から卵を回収し台所に向かい朝食の準備をする。

 

 

30分ほどすると、台所にはナス、ネギ、大根の味噌汁、焼き椎茸、卵焼き、男が少し前に釣ったカレイの煮付け、白米が並んでいた。

「いただきます」

そう言うと黙々と食事を開始する。

 

 

「ごちそうさまでした」

男は食器と調理器具を洗い、身だしなみを整え、洗車したばかりの軽箱に乗り、トレセン学園に向かう。

時刻は9時30分男はトレセン学園に到着した。

「いや~ちょっと早く着きすぎたとは思ったけど、大丈夫だな。トレセン学園ってこんなにデカくて広いとは思わなかったよ。下手に動き回ると迷子になるかも知れないし、、、とりあえず来客者のタグは駐車場で貰ったから事務所に向かうかな」

男は駐車場横に設置してある案内看板を頼りに事務所に向かう。

 

その頃校舎内では校内放送が流れていた。

[生徒の呼び出しをします。シンボリルドルフさん、エアグルーヴさんナリタブライアンさん、ビワハヤヒデさん。以上4名は至急理事長室に来てください。繰り返します、、、]

 

 

男は事務所に到着すると、来客名簿に記入を済ませ理事長室に案内された。

理事長室には1人の女性と1人の少女がいた。

「歓迎!!我がトレセン学園によく来てくれた。我々は君を歓迎する。」

、、、本当に子供が理事長やってるよ。大丈夫かなこの学園

男は心のなかでツッコミをいれた。

 

「初めまして、野澤農産の野澤と申します。」

と男は名刺を理事長に渡す。そしてなぜか理事長は名刺ではなく、名刺のように文字が書いてある扇子を渡してきた。

、、、これは本当に大丈夫じゃないかもしれない。

男は不安で潰れそうになる。

その後秘書の女性(たづなさんと呼ばれていた)に促され応接テーブルの椅子に腰をおろす。

するとたづなさんが理事長には色的にニンジンジュース自分には紅茶を用意してくれた。

「感激!!忙しい中、遠路はるばるトレセン学園への来園感謝するそれで本日君を呼んだ理由は~~、、、」

、、、扇子の文字が変わってるけど、どんなマジックしているんだろうか。気になる。マズイ!!そんな事考えていたら、話聞いてなかったよ。

「返答!!君はやってくれるかね?」

男は話を聞いていなくて返答ができない。理事長にはその姿が踏ん切りがつかないように見えたのかもう一度男に聞く

「懇願!!ウマ娘が卒業後に安定して生活できるように仕事とは、農業とはどんなものかを教えてやってはくれないか。君だけではなく他の職種にも声をかけたり、実際に実習生として受け入れもしている会社もある。我々はすべてのウマ娘に幸福であって欲しいのだ。だから頼まれてはくれないか。」

最後は涙声になりながらも男に思いの丈をぶつけた。

それほどにまでウマ娘を思っているなら、愛しているなら答えは1つだ

「秋山理事長の考え、ウマ娘への思いよくわかりました。この件は~」

男が返答をする前に理事長室の扉をノックする音で遮られた

「遅くなり申し訳ありません。生徒会3名及びビワハヤヒデ到着しました。入室してもよろしいでしょうか」

たづなさんが生徒の対応に向かい、秋山理事長はハンカチで涙を拭いた。その後不安な表情で男を見ている

扉が開くと、4名のウマ娘が入室する。

皇帝シンボリルドルフ

女帝エアグルーヴ

そして、、、

怪物ナリタブライアン

無敵の姉ビワハヤヒデ

男が4名の方を向き頭をさげる。

「ア、、、兄貴!!」

「に、、、兄さん!?」

黒鹿毛と芦毛の少女は同時に男を見て言った。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 誤解 返答

リアル収穫が1週間後に迫って来ました。
がんばれ。オレ。


たったの一言。しかしその一言で一瞬だが理事長室に静寂が訪れ、時が止まった。

兄と呼ぶ2人のウマ娘

兄と呼ばれた男

それを見る4名

 

静寂を破り、再び時を刻ませたのは男だった

「久しぶりだね。ビワハヤヒデさん。ナリタブライアンさん。トレセン学園入学よりずいぶん前にウチに来ましたね。自分が畑いじり始める前だったから10年程前でしょうか?よく自分だとわかりましたね。

後、自分は兄ではないので皆さん誤解のないように」

 

 

「質問!!詳しい話を聞かせてくれないか。」

理事長の発言にて彼女達と自分の関係を答える

 

男が色々とあり前職を退職し実家に寄生(俗に言うコドオジ)していた時に2人はジュニアスクールの職業体験で1週間程ウチに来ていたのだ。

その時は先代(親父)に実家に居るなら仕事をしろ。

との命を受け直売に卸す商品の袋詰めや商品運搬などの裏方の仕事をしていた。

恥ずかしながら当時は収穫や積込などできる状態ではなかった(太りぎみ、体力不足)

そんな時にたまたま2人が裏方仕事に回ってきたのだ。

その時ブライアンが野菜嫌いだとハヤヒデから聞き

、野菜(少し甘めの大玉トマト)を渡したところ、始めは嫌々と言っていたが観念したのか一口食べる。その後は美味しいと言って一玉丸々食べてしまった。

それから体験が終わるまで男の事をトマトの兄ちゃんと呼んでいたのであった。

(後日ブライアンが野菜を少しづつだが食べれるようになったと手書が来た。)

 

 

 

「2人との関係はこんな感じですね。まさか10年もぶりに再会して、自分だとわかって兄と呼ばれたのには驚きました。」

 

ハヤヒデが先ほどの男の疑問に答える。

 

「わかったのはキミの臭いだ。

、、、あ~勘違いしないで欲しいのだが、悪い意味ではない。あの畑の匂いと野菜の匂い。

その、、私たちは鼻も良く利くので。」

 

続けてブライアンが答える。

「少し昔を思いだしただけだ。兄貴なんて呼んですまなかった。」

 

2人とも失言をしたと感じており耳が下がっている。

(ビワハヤヒデのやる気が下がった、ナリタブライアンのやる気が下がった)

「気にしないでください。そうか匂いか。

フフッ、、、ガハハ~加齢臭とか汗の臭いじゃなくて良かったよ。

デリカシーのない大人だと思われたじゃないか。

それに自分の事は名前でも兄貴でも兄さんでも好きに呼べばいいさ。

いきなり兄と呼ばれたから驚いたけどね。ガハハ~」

 

男は豪快に笑った。それこそ理事長室の全員が若干ひく位には

(秋川理事長のやる気が下がった不調、駿川たづなのやる気が下がった不調、シンボリルドルフのやる気が下がった不調、エアグルーヴのやる気が下がった不調、ナリタブライアンのやる気が下がった絶不調、ビワハヤヒデのやる気が下がった絶不調)

 

「な、、、納得!!2人との関係はわかった。

それで先ほどの回答を今一度聞きたい。

我がトレセン学園の生徒を職業体験として受け入れてくれないか?」

 

 

「もちろんウチは大歓迎です。何時から来て貰っても構いません。」

男は立ち上がり宣言でもするように答える

「野澤農産代表野澤一雄。全身全霊を持ってトレセン学園の生徒を受け入れてさせて頂きます。」

 

 

 




男改め野澤のヒミツ

名前
野澤一雄(ノザワ カズオ)

仕事
野澤農産現代表

身長
155cm
体重
75kg
低身長だか筋肉質で小型の熊のような見た目をしている。
農業開始前は体を動かす事や運動もロクにしておらず、脂肪にまみれた90kg(常時太りぎみ)
前職は色々とあり5年程で退職する。

あだ名 「ノザワ、カズ、クマ、社長」
本人は好きに呼べばいいと思っている

趣味
釣り(海水、淡水問わず釣りが好き。)
船も所有している位釣りがすき。

好き
麦茶(昔から好き。一年中大量生産状態)
ラーメン(昔から好き。特に仕事終わりと釣りの終わりに食べるコッテリ系が好き)
野菜(就農してから好きになった。)

嫌い
アルコール(下戸である。付き合いで呑むと開始10分で別世界へ)
紅茶(香りと後味が苦手。全く飲めない訳ではないので、紅茶が出された場合には飲む。おかわりはしない。)












目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 条件 欠損

注意
話の終わりに身体欠損表現があります。


、、、しかし条件があると男が続ける。

その一言で再び沈黙する面々

男のだした条件は、、、

 

1つ

競争競技とは違う動きをするため、日々の体調管理を徹底する事

2つ

作業前後に体調不良があった時には連絡してすぐに休む事

3つ

危険も伴うので、周囲に注意する事

4つ

作物を愛し、自然に感謝する事

 

「以上がウチに来る条件だよ。

まず、君達は学生であるがアスリートだ。体調管理は大丈夫だろうが、体が慣れるまでは無理しない事。

つぎは、今言った事と重複するけど何かあってからでは遅いからね。

あと、作業中ら大型トラクターや様々な機械を動かすから、本当に注意する事

最後に、僕達は周りに支えられながら生活できている。それは人だけでなく、大地や海なんかの自然も含まれる。だから感謝しないといけないよ。

そんな気持ちで仕事をするんだから、作っている作物には最大級の愛を込めて作るんだ。」

ここまで言うと男は口を閉じた。

「なに。難しく考える事はないよ。

君達だって同じさ。レース本番に向けて体調確認しながら練習して、疲労が溜まればやすみ、ファンのため全力で本番に挑む。

って言う事さ。難しく考える事はないよ。」

 

条件と言うにはハードルが低く感じる、というか男の言った事は生活していく上での基本ではないのだろうか?

話を聞いている側からしたらそのように感じてしまう。

「理解!!そちらの条件はわかった。ではこちらの条件も伝えよう。」

理事長が発言をするとたづなさんから書類が渡される。

 

1つ

研修に向かうにあたり、レース、取材などは予め外しているが緊急の場合は学園に帰す事。

1つ

学生2人以上で研修を行う事。(以下グループとする)

1つ

1グループあたりの研修期間はおおむね1週間から10日とする事。

1つ

研修期間中はそちらで宿泊設備、食事を用意する事。(費用は学園に請求可)

1つ

学生であり、アスリートである生徒に大人とした対応をする事。

 

男が確認する。

そこから詳しく打ち合わせなどを行った。

研修は1ヶ月程でじゃがいもの収穫が始まるため、そこからスタートしていくように双方調整をしていくことで決まった。

あとは準備をし当日が来るのを待つだけだ。

 

打ち合わせも終わると、男は真剣な表情で最後に申し訳ないといい、静かに口を開いた

 

「、、、僕が始めに言った事を絶対に疎かにしたりしない事。守れないとこうなっちゃうからね。だから、絶対に守って欲しい。命に関わるからさ。」

 

そういうと男は自分の左第2指と3指を外した。

男は指がなかったのである。

目を伏せるもの、目を見開き驚愕するもの、表情が抜け落ちるもの、反応は様々である。

男は静かに続ける。

 

「ちょっとした不注意で、こうなったんだ。まだ指を切断した位と言うのはおかしいけど、場所が悪ければ死んでいたかも知れない。

もちろんこうはならないような研修をする。それは約束する。

僕から皆に伝える事はこれ位かな。

、、、気分悪くしたら申し訳ない。どうしても伝えておきたかったんだ。」

話を終えると指を戻し頭をさげた。

「いゃ~。重いよね?ごめんね?お礼に野菜ジュースあげるから許してね?」

男なりの気遣いなのか

バックから自家製缶ジュースを取り出し皆に配る。

その後しばらく雑談をして男は学園を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




実際に指を機械に巻かれだけでも尋常じゃない痛みと恐怖に支配されます。
疲労、不眠、慢心は事故の元です。
皆さん気をつけましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 選定

※作中での時間は4月前半。研修に行くのはGW付近です。
ちょうど春ジャガの収穫がスタートする頃ですね。



男が帰った後、理事長室では誰を1回目の研修に向かわせるかと大まかな研修予定を検討していた。

しかし研修が始まるのは1ヶ月後の5月初旬。

春のG1戦線真っ只中のためほとんどの生徒が研修から除外されていく。

 

「現在、研修に向かえそうな生徒達のリストです。」

 

駿川たづなが作成したリストを全員に配る。

 

「やはり大分人数は少なくなるな。誰を向かわせるか。」

 

「そうですね。やはり初めが重要ですから私が行きましょうか。」

 

「この週はシンボリルドルフさんの地方講演がありますので、エアグルーヴさんには生徒会長代理をお願いする予定です。」

 

「難題!!レースならば胸を張り送り出せるが、これはなかなか難しい。」

 

人数、レース、講演会など予定もあり意見がなかなか纏まらない。皆沈黙する。

 

「なら。私が行こうか。ちょうど予定も空いているし、研修の情報は随時此方に送るようにする。それと、兄さん、、、いや野澤さんとも面識もある。一応研修に向かう相手も考えているのだか、、、どうだろうか私に任せては貰えないか?」

 

ビワハヤヒデがその沈黙を破る。

 

彼女の生活態度はもちろんの事、彼女のレースにも現れる分析力と思考力は後々の研修の為にも最適である。しかも共に研修に向かう相手も考えているなら尚更である。

 

「そう言ってくれると非常に助かるよビワハヤヒデ。確かに君なら安心して向かわせれる。それで一緒に向かう相手と言うのは誰なんだい?」

 

シンボリルドルフの問いにビワハヤヒデは視線を動かす。その視線の先には、、、

彼女の妹。ナリタブライアンがいた。

 

「?いや姉貴、なんでコッチを見るんだ。私は行かないぞ。

皆もコッチを見るな。そんな風に見ても行かないからな。」

 

行く気はないと口では言うが彼女の耳と尻尾はせわしなく動いている。体は正直である。

 

「そうか。残念だな。昔はあんなに(野菜のお兄さん好きー)とか(大きくなったら野菜のお兄さんの所で仕事するのー)なんて言っていたのにな。いゃ~非常に残念だ。

あぁそうだ他にも、、、」

 

「ま、まて姉貴。

わ、わかった、わかったから、一緒に行くからこれ以上は勘弁してくれ。」

 

怪物と言えど、無敵の姉貴にはどうやらかなわなかったようだ。

 

「そ、そうだな。2人とも面識もある。

それにビワハヤヒデなら、コチラが必要な情報はしっかりと送ってくれるだろう。

ブライアンも生徒会副会長だ。安心できる、、、はずだ。」

 

「ブライアン。生徒会副会長として恥ずかしくない仕事をしてきてくれ。

絶対にサボるんじゃないぞ。」

 

シンボリルドルフ、エアグルーヴの2人から激励?を貰いビワハヤヒデとナリタブライアンは研修1号として男の元に向かう事が決定した。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 業務

現在14時過ぎ

トレセン学園から帰って来た男は遅い昼食を食べた後消毒の準備をしていた。

トラックの荷台に乗せられた2本の1000Lタンクの中は乳白色の薬液で満たされており、独特の匂いをはなっている。

 

「消毒の時に毎回思うけど、なんとかならんのかね~この匂いと目への刺激。マスクとゴーグルしててもキツイよ。」

 

そんな事を呟きながら準備を終えるとトラックに乗り、畑へ向かう。

 

畑に到着するとまだまだ成長途中の為青々としたジャガイモは畝と畦を覆っている。

 

タンクの蓋を開け、動噴エンジンの吸水口、余水口、撹拌機をタンクに入れる。燃料コックを開き、エンジンスイッチをON、そしてスターターロープを引く。

 

ギュルルル・・・ギュルル・・・ギュル・・ンボボボボボ!!!

 

エンジンが始動する。そして付属のリモコンを操作し消毒ホースを伸ばしていく。ある程度ホースを伸ばすと散布竿のコックを開く。

 

チョロチョロ・・シュー・・・ブッシャァァァ・・・!!!

 

竿先から勢いよく薬液が出てくる。30秒程待ち、ホース内の古い薬液を出しきるとコーナーガイドの刺してある畦に入っていく。

 

左右に竿を振りながら畦を進み、薬液を散布していく。

 

畦を抜けると次のコーナーガイドの刺してある畦に入り先ほどと同じように薬液を散布していく。

 

3往復で散布も終わると竿のコックを閉め、消毒ホースを回収しながらトラックへと戻る。

 

動噴エンジンを切り、トラックに乗り次の畑へ向かう。

 

2時間程で消毒を終え屋敷に戻って来るとトラックを車庫に入れ、隣の農機具倉庫から耕起パーツを装着したトラクターを出してくる。次にフォークリフトに乗り、農機具倉庫から掘取パーツと工具を出してきた。

 

現在トラクターに装着している耕起パーツを掘取パーツに交換していく。

10分程で交換は終わらせると駆動部にオイルを塗布し、試運転をしてみる

掘取パーツのコンベアも問題なく回っている。

 

動作も問題ないため再び農機具倉庫にしまう。

 

「1ヶ月後には収穫か・・・。今年は去年より忙しくなりそうだ。準備も含めて。」

 

俺は事務所に戻り、煙草を吸いながら物思いに耽っている。

トレセン学園の生徒が1週間泊まりで研修に来る。

必然的に生徒の部屋を用意しないといけないのだ。

 

「ハヤヒデとブライアンには本宅を使って貰って、2人がいる間は事務所で寝泊まりすれば・・・まてよ、俺も本宅にいた方がいいのか?一応防犯設備はしっかりとしてるけど、何かあった時にすぐ対応できないか・・・食事の準備とかあるから事務所だと効率悪くなるし・・・はぁ~。トレセン行った時に確認しとけばよかったよ。」

 

男は自分の要領の悪さを痛感しながら屋敷へと戻って行った。

 




用語解説

畝 (うね)
農作物が植えてある土を盛っている部分。
水捌けがよくなる。

畦 (あぜ)
畝と畝の間。
人が通る通路。

耕起パーツ (こうき)
畑を耕すパーツ
土を入れ替え、混ぜ合わせる。


掘取パーツ (ほりとりき)
土中の収穫用パーツ。
収穫するものによって形はさまざま。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 雨

日曜日から一気に寒くなりましたね。
外仕事は寒くて辛い時期になりました。

※今回の話は最後に少し重めで終わっております。


朝6時。男が目を覚まし外を見ると黒い雲が空全域に広がり雨を降らしていた。

 

「天気予報だとしばらくは降らない予報だったんだけどな~・・・まぁ予報は予報か。」

 

男の畑は路地栽培しか行っていないため雨が降ると畑に入れないのだ。一時はハウスも建てる事も考えたが、見積りを出してもらったところ非常に高額になってしまったため諦めた。

 

「今日は畑は休みにして、屋敷の片付けと物品補充でもしとくかな。」

 

朝の一服をしながら、昨夜の電話の内容を思い出す。

昨夜トレセン学園から連絡があり、研修中は生徒と男は屋敷で生活する事が決定した。

もちろん防犯目的や相談目的のためであり、部屋は別だ。

それと食事について。

一般的にウマ娘は食事量が多い傾向にあるが、ビワハヤヒデ、ナリタブライアン共にそこまでは食べないとの事だった。

(それでも人に比べればいくらか食べる量は多いが・・・)

 

「なんだか寮の管理人みたいな感じになりそうだ。まぁ前職と違って夜勤じゃないからずっと起きている必要もないしいいかな。」

 

その後男は着替えと朝食を済ませ、書類作成や在庫確認等を行った。

 

すべての在庫確認か終わったのは13時を回った頃だった。

男は愛車の軽箱に乗り作成した購入物品のリストを持って行きつけの農機具屋に向かった。

 

「こんちは~。たくっつぁん居るけ~。」

 

「居るよ~。待っとって~。」

 

しばらくすると店主が出てくる。

 

「なんだ~カズかよ。だったらもうちょい待たせとけゃ良かったな。」

 

そんな事を言う店主は、普通に日焼けした普通体型の男だ。

普通では無いところは身長が190cmを超える大男だ。

 

「そんな事言うなよ~たくっつぁん~。俺とお前の仲だろ~?これ、購入リストだで頼むわ。」

 

男から購入リストを受け取ると確認していく。

 

「農具と農薬は全部あるからまとめとくよ。ん?なんだいこのウマ娘用の作業着って。女装でもするのか?カズ・・・お前・・・変態かよ」

 

男はこの2日間の出来事を店主に話す。

 

「カズお前すげぇな。トレセンからの依頼かよ。んで誰が来るんだ?教えてくれよ~チョットダケ、サキッチョダケデイイカラサ」

 

「いゃ・・・絶対に教えない。それと最後のは先っちょじゃ終わらなくて、全部突っ込むやつじゃねぇか。」

 

しばらく問答が続くと店長が折れた。

 

「わかったよ。諦めるわ~。話元に戻すけど、このウマ娘用のは今ウチに無いで取り寄せになるからな~。早けりゃ今週、遅くて来週には届くで~それでもいいか?」

 

「連休前に届くならそれでいいよ。他のやつもその時で大丈夫だで。頼むわ。」

 

男が店を出ようとする時に店主が待ったをかけた。

男が振り返ると店主は先程とは違い、不安な表情をしていた。

 

「カズ・・・お前、大丈夫なのか?その・・・ウマ娘関係はお前には・・・」

 

「別に俺は大丈夫だよ。それにあの事に関して本当の被害者はウマ娘だと思っているし。」

 

俺は無表情で答えると煙草を取り出し火を灯した。

 

「金が絡むといつだって加害者は・・・汚い人間だ・・・アイツにとってウマ娘は金を生み出す道具としか思ってないだろうな。」

 

自分にしか見えないナニかを睨み付け紫煙を吐き出す。

 

「そうか・・・悪いな変な事聞いちまって。・・・カズ最後に一言だけ言わせてくれ。ウチの店は禁煙だ!!」

 

店主は激怒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




店主のヒミツ

名前
谷沢匠 (やざわたくみ)

仕事
谷沢農機具店店主

身長
195cm

体重
65kg

身長以外は普通の人。
下らない事を言っては話の腰を折る事に定評がある。

あだ名
(店主、谷沢さん、たくっつぁん)

男とは同級生で昔から仲がよかった。
たくっつぁんのあだ名も男が命名。

好き
自分の店
(代々受け継いでいる店たがら)

嫌い
煙草
(商品がヤニで汚れるから)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 男の過去

作品の感想書かれている方
ありがとうございます。励みになります。
誤字脱字報告書かれている片
申し訳ありません。随時修正して行きます。

前回に引き続き少し重めな話となっております。






「・・・やっちまったよ。まぁ店ん中で煙草吸った俺が悪いから何も反論できないからね。」

 

男はたくっつぁんから店内で喫煙したことでしこたま怒られたのである。(約4時間)

解放された時には時間も遅かったため、近所のスーパーで夕食のみ購入し屋敷に帰って来たのだ。

 

「まぁたくっつぁんも俺の事心配するのも分かるわ。俺自身よくあの状態から復活できたと思うもん。」

 

夕食を食べ終え煙草に火を灯した。紫煙を吐き出しながら、部屋のカレンダーに目を向ける。来週末の日付は赤い丸が書き込まれている。

 

「・・・あれから6年か。月日が流れるのは早いよ。・・・社会から忘れさられるのも。」

 

その言葉は震えていた。

いつもの男ではないように。

 

夜。

男は夢を見ていた。

それは農業をする前、介護施設で働いていた時の夢。

 

専門学校を卒業し介護施設に入社した。

入社後には色々とあった

一連の介護業務を覚える事

仕事上の様々な成功と失敗

他部署との対立と協力

何故か任された花壇と農園の整備

勉強会への参加

職員との出会いと別れ

そして利用者との出会いと別れ

入社年数を重ね出世もした、4年目になると介護長となっていた。

 

介護長に任命された次の日

1人の老人が入所して来た。

事前に渡されていた個人カルテにはウマ娘のレース場で職員として働いていたと書かれていた。

かなりの名物職員だったようで、ウマ娘と観客双方から人気だったみたいで現役時代には時々テレビにも出演していたみたいだ。

本当に皆から人気だった様で連日のようにファンや現役、引退問わずウマ娘が面会に来ていた。

 

男はその老人に何故か可愛がられた。

あくまでも仕事のため依存されない程度に、業務に支障が出ない程度に付き合いをした。

・・・立場上一線は引いていたつもりだった。

 

入所からしばらくして老人は予兆もなく安らかに逝った。

 

しかし老人の死後、男の生活は一変した。

なんと老人は遺書に遺産は全て男に相続すると書いていたらしい。

困惑する男

怒る老人の身内

男はすぐに遺産相続拒否をした。

そしてこの問題を知ったマスコミは男を非難した。そして男は老人を騙し遺産を取り上げた悪の介護士として世間に認知された。

連日マスコミや老人のファンが男の自宅や施設に殺到し罵詈雑言を浴びせた。

事態を終息させるため施設側は男を解雇し、介護士の資格も協会により剥奪された。

施設も企業のためそして協会もキズがつくため男を見捨てたのだ。

その後男は実家に戻り稼業を継いだのだ。

 

ハっと男が目を覚ました。

時間は夜中2時。外では朝からの雨は降り続いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※作中の男の過去には一応元ネタはあります。脚色はしておりますが。


最近の作者その1

昨日の作者「唯一大根を抜きにでて並ぶもの無し」ドャアァァァ・・・
今日の作者「大根には勝てなかったよ・・・」
作者は(腱鞘炎)になった。やる気が絶不調になった
皆さんも体は大事にしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 雨のち晴

賛否あると思いますが今回オリジナルウマ娘が登場します。


悪夢から目覚めた男はその後再び眠りにつく事ができず朝を迎えた。外では昨日からの雨が降り続いており、今日も畑へは入れない。

「・・・あぁ~しんどい・・・雨か畑入れんな・・・機械のメンテナンスでもやるか・・・先に書類片付けて昨日行けんかった買い物行くか。」

ノソノソと布団から這い出て洗面所に向かう。鏡を見るとそこにはくっきりと隈のできた精気のない青白い顔が映っていた。いつもの男からは想像もできない顔だ。

「久々に見たなこの顔。・・・ヘイ色男。調子は最高みたいだなぁ~良いことあったんかい?・・・無理にテンションあげるのはやめとこ疲れる。」

食欲も湧かないため、インスタントのブラックコーヒーを体内に流し入れ書類仕事を始める。

 

書類仕事が終わったのは昼14時頃だった。元々書類仕事が苦手であり、更にメンタルと体調も不調なら仕方ない。

「・・・終わった。やっと終わったぞ。」

両腕を天井に向かい突き出し、後ろに倒れる。そのまま畳の上でゴロゴロと寝転がっていると来客を知らせるチャイムが鳴った。玄関には1人のウマ娘が立っていた。

「こんにちは~。・・・ってカズちゃんどうしたの!?いつもより酷い顔して・・・」

「ちょい待って。いつもより酷い顔ってどういう意味だい?この色男に向かってさぁ~ランさんちょっと詳しくお兄さんに聞かせてくれるかな?」

そんなやり取りの後男は(ラン)と呼ばれたウマ娘を客間に通す。

男はランと呼ぶウマ娘にオリジナル野菜ジュースを渡すとテーブルを挟み、ランの反対に座った。男は本日何杯目かわからないブラックコーヒーを持っていた。

「ありがとね~弟よ。優しい弟はランお姉ちゃん大好きです。・・・でも今のカズちゃんの顔は嫌いだなぁ~・・・またアノ事思い出しちゃった?」

「誰が弟じゃい。何がお姉ちゃんじゃい。残念ながらウチの身内にはウマ娘は1人もおりませんので。・・・ランさんの想像通りだよ。少し思い出しちゃってさ・・・」

飲み物を飲みながら少しずつ口を開いていく男。その話を聞くラン。

 

 

「あっ忘れるとこだった。カズちゃんこれ食べて。それで感想教えて欲しいなー。お店の新作メニューになる予定だから。」

2時間程経過した時ランは思い出したかのようにタッパーを男に渡した。

「ありがとうランさん。じゃあ今日の晩にでも食べるよ。」

男は立ち上がり台所に向かう。

その時男はランに後ろから抱きしめられた。

「カズちゃんあんまり無理しちゃダメだよ。誰でも1人じゃ生きて行けないんだから。カズちゃんの周りは頼れる人が沢山いるんだから。私ならいつでも頼って良いんだからね。」

涙声で最後は辛うじて聞き取れる位のか細い声だった。

「ランさん・・・心配かけてごめんね。俺は大丈夫だから。あと腕離してくれるかい?ちょっと恥ずかしい。」

ランは腕を男の体から解いた。男は振りかえる

「ありがとうランさん。でも今みたいにすぐに抱きしめるのは止めましょう。男の人はすぐに勘違いするからね?わかった?」

ランはわかったと頷く。

男はランの頭を撫でた。

窓の外では雨は止み、厚い雲の間から太陽が出ていた。

まるで男の心を表しているようだった。

 

 

 

 




ブラックランディー(オリジナルウマ娘)
身長
170cm
体重
新作メニュー開発のため微増

真っ黒で肩が隠れる位のセミロング
尻尾
邪魔にならないようにあまり動かさないようにしている。
仕事
惣菜屋を経営
昼間はランチも提供している。
現役時代
元地方トレセン学園所属。現役時代は歴代最強とも言われていた。中央移籍の話もあったが、移籍直前に故障をしてしまい引退した。得意距離は中~長距離。脚質は差し
勝負服は黒を基本とした侍風の服だった。
あだ名
黒い侍
特技
現役時代から料理が得意で、ファン感謝祭の時には長蛇の列が出来ていた。

元ネタ
ブラックランディーは作者が中学の時に職業体験で5日間お世話になった乗馬クラブにいた馬です。
黒王とか松風みたいな真っ黒のカッコいい馬でした。
ブラックランディーが作者をどう思っていたのかはわかりませんが、作者を見つけるとすぐにこっちに来ようとしたり、鼻を押し付けて来たり、服を甘噛みしたり、他の馬の世話をしていると、他の馬をメチャクチャ威嚇してましたね。
スタッフの人もこんなになるのは初めてみたいな事を言ってたのを覚えてます。
他の同級生の担当馬はそんな事一切なかったんですが・・・。
最終日には明日から来ないのが分かっていたのかブラックランディーの嘶きが止まらなかったなぁ・・・
ちなみにブラックランディーという名前は乗馬クラブでの名前で、現役の名前は違うとスタッフの方から聞かされたような。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 買い物

夕方18時頃、男は近くの商店街に来ていた。1人ではなくウマ娘と共に

 

「カズちゃん。お姉ちゃんは本当に心配です。冷蔵庫の中身がブラックコーヒーと麦茶と野菜ジュースしかないんだもん。」

「だから昨日買い物ほとんどできなかったんだって。」

「それはカズちゃんが匠君のお店で煙草吸ったのがいけないんでしょ?体に悪いから煙草は止めなさいってお姉ちゃんいつも言ってるでしょ」

「へいへい肝に命じておきますよっと」

男はランを送って行くと言ったのだが、その時に食糧がほとんどないとも言ってしまったのである。

惣菜屋を営む彼女には、男が現在食糧難のように聞こえてしまったのである。

問答の末、男は彼女の店で夕食を食べる事になったのだ。

ここで男は昼間から気になっていた事をランに聞いてみる。

「ところでランさん?その(お姉ちゃん)って何さ?昼間からずっと気にはなってたんだけど。」

「・・・別にいいでしょ。私の方が年上なんだから。カズちゃんの事昔から知ってるし。」

ランはふんっと顔を反らす。耳を後ろに寝かしておりご機嫌斜めのようだ。

日用品の買い物を終えると2人は商店街を進んで行く。

しばらく進むと彼女の自宅兼店舗(惣菜屋ウマウマ)が見えてきた。夕方という事もあり大混雑だ。

「毎度思うけど凄い人だな~。ランさんここにいても大丈夫なの?」

「ちゃんと仕事ができるウマ娘に任せてあるし、配達専属のウマ娘もいるから大丈夫だよ。それに私は今日はお休みなので。」

彼女は男に向かい親指を立てをグッと見せつける。耳と尻尾もブンブンと揺れている。

「配達って言うとあれ?ウーマーイーツだっけ?」

「そうそう。少しでも引退後のウマ娘の助けになればと思って始めてみたんだけれどコレが大正解でね。リピートも凄いんだから。」

彼女は得意気に話す。

彼女自身レース引退後、就職には苦労したため引退後のウマ娘の助けになればとウマ娘をメインに採用していた。

2人は裏口から自宅に上がる。

「テレビでも見てゆっくりしててね。すぐに作っちゃうから」

彼女は台所に消えて行った。しばらくすると台所から食欲をそそる香りがしてくる。1日まともな食事を取っていない男にとっては堪らない香りだ。

少しでも落ち着こうとテレビをつけると、ちょうどビワハヤヒデとナリタブライアンの特集が放映されていた。

テレビに釘付けになっていると食事ができたと呼ばれたため台所に向かう。

白米、味噌汁、豚の生姜焼、サラダ

最高の食事である。2人揃って食べ始める。

夕食を食べ終わり、2人が話しているとランが男に尋ねる。

「カズちゃんのところ来月ウマ娘来るって聞いたけど本当?」

「ランさんでも言いづらいけど・・・来るよ。でも誰にも言わないでね?彼女達に何かあったらいけないから。」

「そっか・・・本当なんだね・・・私イヤだなぁ。カズちゃんを誰にも、とくにウマ娘なんかに渡したくない」

「いやいやランさん。自分も仕事ですので。・・・渡したくないって・・・もしかして昼間の(お姉ちゃん)っていうのは・・・」

男は言葉を止めた。目の前のウマ娘の耳があり得ない位後ろに寝ており、雰囲気も変わっていた。

「あの・・・ランさんどうしたの?何かワタクシ粗相でも致しましたでしょうか・・・」

2人は目を合わせたまま沈黙が流れる。ランはフッと後ろに引っ張られたウマ耳を元に戻した。

「・・・はぁ~カズちゃん。あなたは鈍いというか図太いというか。ここまで来ると呆れちゃうよ。そうだ。カズちゃん明日もあるんだから、早めに帰りなさい。」

そして男は半ば強制的に帰っていった。頭にハテナを浮かべながら。

 

 

 

 

 

 




ウーマーイーツ
絶対に誰でも考えているであろう何番煎じというか出涸らしのようなネタを出してしまいました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11.5話 男の休日 前編(船釣り編)

※今回は今まで以上にウマ娘要素、農業要素がありません。
作者が腱鞘炎で釣りに行けないから作中で男に釣りさせます。(意味不明)




日曜日の朝5時。男は自宅近くのマリーナから船を出していた。季節的に少し早いが、イサキの白子と太刀魚を食べたくなったからだ。

「収穫になると釣りにも行けないからな~、今のうちに来たけど海の状態良さそうだ。絶対に釣れる!」

30分程船を走らせるとポイントの漁礁に到着する。

魚探を見ると水深35~40mに反応がある。

まずはボウズ逃れのために、コマセ仕掛けを投入する。(カウンター搭載リールのため、目的の水深までしっかりと仕掛けを投入できる。)水深まで落とすとコマセを振り撒くため、竿を上下に振る。

フリフリ…フリフリ…グッググン!!

「来た…けどイサキの引きじゃないな…アジっぽいな」

男は魚のヒキを堪能しながらリールを巻く。

上がってきたのは35cm程のマアジが3匹。ボウズ逃れこれにて成功。釣り上げたアジの血抜きをしてクーラーボックスに入れる。

再び仕掛けを投入する。

投入するがアジばかり。20匹程釣りポイントを移動する。

次のポイントの反応は40~45mコマセ仕掛けから吹き流し仕掛けに変更し、針にオキアミを刺し投入する。

フワフワ…フワフワ…グッグーン!

「きたきた。白子だ!!逃がすか!!」

上がってきたのは白子もとい40cm程のイサキだ産卵前で丸々としている。

「よっしゃあー白子ゲット。まだまだ白子を狩るぞー」

絶好調で再び仕掛けを落とす。

結局1時間で15匹のイサキを釣り上げた。

「ボウズ逃れも成功。白子も確保した。次はラストミッション太刀魚行きますか。」

太刀魚のポイントまでは約1時間で到着した。

太刀魚は餌釣りでもできるが、今日はルアー(メタルジグ)で釣ることにした。

「水深はっと…70~100m満遍なくって感じか。」

パープルゼブラグローのジグを落としシャクリを入れる

ブンッ…ブンッ…ブンブン…ブッ!ギューンギュギュギューン!!

「ヤバっ!!おっ…重い!!いきなりドラゴンかよ!」

 

強く激しいヒキと男は闘う。

 

逃げれれば生を。釣られれば死を。釣りとは命を懸けた生存本能剥き出しの野生との闘いなのだ。

 

「なんじゃこりゃあ!!こんなの見たことないぞ!!ドラゴンを超えたドラゴンだ!!」

上がってきたのは全長150cm超え、指10本超えの見事なドラゴン太刀魚だった。

「とりあえず写真撮っておこう。」

比較対象がないためとりあえず写真に納めておく。

(下船後計った結果160cm指11本だった)

その後はドラゴン太刀魚は釣れなかったが、120cm前後の太刀魚を8本釣りあげた。

「さ~て。今夜は魚パーティーだねぇ~」

昼前に男は大満足でマリーナに向けて舵を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




用語解説
コマセ
集魚材の一種で、プランクトンや魚のミンチなどを使う
リールの種類
手動と電動があり。手動はカウンター付きで1万円位から。電動は本体5万位から。別売のバッテリーがないと動かないため、バッテリーは1万円位から
カウンター付きリール
主に船釣りで使用する。スイッチを入れると、糸がどれだけ出ているかがわかる。(誤差は多少ある。釣りガチ勢は誤差を極限までなくすため、色分けされた糸を使い、糸の色で水深を合わせる)電源はボタン電池。
オキアミ
エビに似たプランクトン。嗜好性が高く大体の魚で使用できる。
メタルジグ
名前の通り金属製のルアー鉛、亜鉛、タングステンなどが原料。
パープルゼブラグロー
ルアーの色。紫が地の色でグロー(蓄光、夜光)の塗料で縞模様になっている。パープルゼブラグローは太刀魚釣りの鉄板と言われる程のルアーカラー。
シャクリ
ルアーの動かし方のうちの1つ。竿を上下に動かす。
太刀魚
タチウオ。魚体は細長く身切れしやすい。歯が鋭く、擦れただけで皮どころか、肉も切れる。生きているウチは魚挟みで取り扱う。
船釣りじゃなくても、陸からでも釣れる。
ドラゴン
大型の太刀魚の通称。ドラゴンの定義は指の本数だったり、全長だったり様々。
指◯本
主に太刀魚の測定で使われる。太刀魚の腹部に指を置きその本数で太さを表す。(人により指のサイズが違うため、誤差は大きい。)
全長
タチウオは身切れしやすく共食いもするため、よく欠損状態で釣れる事がおおい。

※作者の場合、太刀魚釣りでは200gのジグを100m前後に落とし使います。手動リールが好きなので手動でやりますが、次の日は腕がパンパンになります。
※釣り人の性でどれだけ他人より大きいか競いたがりますが、釣った本人が大物と言えばそれが大物でいいと作者は思っています。(釣り下手作者の言い訳)




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11.5話 男の休日 後編(調理編)

男の休日後編です。
太刀魚釣りを刀狩って言う人はどのくらいいるんでしょうかね?


男は屋敷に帰ってきた。クーラーボックスの中身は魚でパンパンだ。

水で使った釣竿などを洗い立て掛けると早速調理に入る。

「先ずはアジから捌くかな。塩焼き用、フライ用、刺身用・・・刺身用はアニサキス狩りをしないといけないしね~。イサキは白子ぽん酢、身は刺身と酒蒸し、最後に太刀魚は煮付け用、天ぷら用、刺身用に捌こう。」

なれた手付きで捌かれて、バットに乗せられる魚達。先ずはアジから・・・

「アニサキスはそんなに内臓から身に移動していないから駆除が楽でいいね。油断できないけど。」

刺身用のアジの身に毛抜きを使い。小骨を抜くようにアニサキスを駆逐していく。

次はイサキだ。小ぶりなイサキは酒蒸しにするため、鰓と内臓のみはずしていく。最後に身にばってん印の切れ込みを入れて完成。

「さてと。本命の白子ちゃんはどうですかっと・・・おほぉ~白子祭り開催決定だ。痛風まったなし」

イサキから見事に発達した白子がたくさん出てきた。量にすると、ラーメンどんぶり1杯分である。

白子調査が終わったイサキはアジのように三枚におろされた後、刺身用のサクになっていた。

最後に太刀魚。塩焼き用は内臓を抜き筒切りに。天ぷら用は三枚に、刺身用はサクにおろされた。

「たまには太刀結びで煮付けを作るかな」

男は太刀魚を三枚におろし、頭側から折り畳み、最後に尻尾側で結ぶ。太刀結びにすると煮崩れしにくくなるのだ。

・・・捌き始めて1時間程で台所のテーブルは魚料理で埋め尽くされた。

アジの塩焼き。フライ。刺身。なめろう。

イサキの白子ぽん酢。刺身(生と炙り)

太刀魚の塩焼き。煮付け。刺身(生と炙り)

贅沢海鮮定食の完成である。

男が箸をつけようとした瞬間、来訪者を知らせるチャイムの音がした。対応に向かうと、谷沢匠が玄関にいた。

「おっす~カズ。この前の注文品届けに来たけど

、どこに置いとくだ?」

「ありがとねたくっつぁん。あ~玄関でいいよ。今から暇か?今日船出したんだけど大漁だったもんで食ってくか?」

「食う食う。今日は配達ここだけだからな。船って事は白子狩と刀狩か?」

男はたくっつぁんを台所に招き入れた。

「カズ。お前やっぱ凄いわ。全部自分でやったんだろ?でも量がバグってるわ。」

「食べるまでが釣りの醍醐味だと俺は思ってるからね。まぁ量は少し反省してるかな。作り過ぎた。」

「飯が綺麗に盛り付けされてるし味もいい。ただ、量が残念・・・カズらしいわ。あ~。酒呑めないのが残念だよ。」

「家まで送って行く呑んでけばいいさ。」

「車置いてったら明日の朝一の配達行けなくなるじゃんかよ」

「たくっつぁんの車で送って行くでいいよ。帰りは食後の運動替わりに歩いて行くで。」

「・・・神はいる。そう思った。」

「バ鹿な事言ってないで・・・ホラ呑めよ。」

他愛もない話をしながら、箸を進めていく2人。

・・・完全に出来上がった匠を送り届けた男は自宅を目指し夜道を歩いていた。釣りを楽しみ、料理を楽しみ、友人と他愛もない会話をし、最高の休日を過ごせたなと満足げな男であった。

 

 

 




先日友人がアカムツ(ノドグロ)を釣って来ました。
炙り刺が旨かったです。(小学生的な感想)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 収穫の始まり

今回久々に男が農作業します。


とある大安の日。朝8時

カシュッ…ググッ。カシュッ…ググッ。

雲一つない青空の下でうっすら汗を浮かべながら男は畝を鍬で掘っていた。

収穫時にはトラクターを使用するのだが、畑のギリギリまでジャガイモを植えているためトラクターが旋回できる用に3~5m分の畝や横に作られた畝は全て鍬で掘り起こさなければならないのだ。(通称枕掘り)

鍬を入れると、黄金色のジャガイモが姿を現す。

男が育てて入るのはバ鈴薯である。

名前の由来としては、昔むかし、農業を生業としていたウマ娘達が身につけていた鈴に似ているため。といわれている。

掘り起こされたバ鈴薯を優しく持ち、しばらく乾燥させる。周りの土が乾いてくるとササっと払い丁寧に出荷籠に入れていく。

堀りたてのバ鈴薯は皮が薄く、剥けやすい。勿論皮が剥ければ初物といえど、商品価値は低下する。

しかも組合に出荷するため、組合の商品評価や組合内での男の評価も悪くなる。・・・つまり収益に直結するのだ。

「今年も調子いいね。立派に育ってくれてありがとね。」

そんな事を呟きながら収穫を進めて行く。

初物から流通初期は比較的高値で取引されるため量が大切だ。

そのため男の場合この枕堀りだけで5t近い収穫量となる。

「さて、次の畑に移ろうか。」

トラックの荷台にバ鈴薯を乗せ、上に寒冷紗を掛けると次の畑に向かう。

 

畑に到着すると、掘り起こす分のジャガイモの幹を鎌で切り落とし、マルチを捲り、鍬を入れバ鈴薯を堀起こし、出荷籠に入れる。

「ん。形が悪いな。こっちは小さすぎだ。」

B品は自宅で選別するため、出荷籠とは別の籠にいれる。

・・・

昼食のため屋敷に戻るとトラックからリフトに乗り換え、トラックの荷台から出荷用とB品のバ鈴薯を冷蔵室に移す。

冷蔵室といってもジャガイモの場合は冷やす目的ではなく冷暗所に保管するのと、乾燥が目的のため現在は送風状態にしている。

冷蔵室というだけあり、規模は巨大で横25m奥行き10m高さ5mもある。

保管が済むと昼食を食べ、休憩後再び畑に向かう。

・・・

夕方17時畑から帰ってくると、バ鈴薯を冷蔵室に保管し、個人出荷の準備をしていく。

男はB品のバ鈴薯は自宅で選別し自宅販売のスタイルをとっているため、出荷用段ボールを作っていく。

カチッ

機械の電源を入れる

…キュルルルルルル…ガチャガチャガチャン…ブチッ…ザァー…

段ボールを組み立て、機械の高さを調節し、逆さまに段ボールを機械に流していくと、底面にテープが貼られ、機械の出口からレールをつたって段ボールが出てくる。

男は100箱段ボールを作り、本日の業務を終了とした。

 

 

 

 

 

 




用語解説
大安(たいあん)
六曜にて縁起が良い日にちといわれている。
現代でも収穫初日等は験を担ぐ事が多い。
枕掘り(マクラほり)
縦に作られた畝を布団。横に作られた畝を枕に見立て、横の畝を掘り起こすこと。
主に鍬を使い手作業で堀りおこす。
(作者のところでは、トラクターの旋回スペースを堀ることも枕と言う)
寒冷紗(かんれいしゃ)
ジャガイモは日光に当たると、緑化や発芽が促進されるため日除けとして使用する。
マルチ
畝に被せるビニールシート。
地温調節や、乾燥防止、防水、肥料流失防止、雑草成長防止などで使われる。


※馬鈴薯について

名前の通り、馬の首に着けていた鈴のような形をしているため。と言われております。

皮の色は栽培地域により様々で黄金色~グレーっぽい色まで沢山あります。土壌や成熟具合により異なります。

馬鈴薯の場合掘り起こしから1週間程で皮が強くなります。大体のスーパーに出回るのは掘り起こし後1週間~2週間って所でしょうかね。

掘り起こし→出荷→出荷先で選別→競り→スーパー等で販売
または
掘り起こし→農家で選別→個人販売または道の駅等に出荷
大雑把に説明するとこのようになります。

※作者の場合のため、全てがこのようになっている訳ではありません。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 姉と弟(仮)

面白くもない作品を立て続けに投稿してしまい、申し訳ありませんでした。



男は屋敷に帰ると風呂に向かった。

汗と土の不快感から早く解放されたいため風呂に入りたかったのだ。

「いやぁ~風呂は命の洗濯っとホントだわ~。チョ~キモチイイ!!」

風呂から上がった男は上機嫌で台所に向かい冷蔵庫からキンキンに冷えた麦茶を飲む。熱い体が中から冷やされていく。

「・・・風呂入ったからかな。ちょっと眠い。今日は早めに寝ようかな・・・駄目だ目を開けてられな・・・」

1日日光に晒されたためか、はたまた風呂に入り血行が促進されたためか。眠気が襲ってきた。男は眠気になす術なく意識を手放した。

 

携帯の着信に気づく事もできなかった。

 

男が眠気に負けてから1時間程すると屋敷に来訪者が1人。男の姉(自称)のウマ娘ランである。

「まったく。何回掛けても繋がらないんだから。車はあるからお家に居るとは思うんだけどな~。カズちゃ~ん。ランお姉ちゃんだよ~。居るんでしょ~」

何度チャイムを鳴らしても、何度男を呼んでも返事はなかった。

「玄関の鍵は空いてるか。だったら入っても大丈夫だよね?・・・カズちゃん入るよ~」

玄関を開け屋敷の中に入っていくと台所で寝ている男を見つける。

「まったく。台所なんかで寝ちゃって・・・カズちゃん。ランお姉ちゃんが来ましたよ~寝るならお布団で寝なさいよ~」

ランは男を起こそうとするがまったく起きる様子がない。しまいにはウニャウニャと寝言を言い出す始末である。

「・・・ハァー仕方ないなぁ~。強制的にお布団に連れて行こ。」

ランはため息をついた後、寝室に向かい布団の用意をする。そして台所に戻り男を抱き上げる

「カズちゃんお布団行くよ~って重いっ!!身長のわりにガタイは良いって思ってたけど、重すぎる。どんだけ筋肉質なんだよ~。まぁウマ娘的には軽いけどね~」

ブツブツと言いながら男を抱き寝室に向かい布団に寝かした。

男は相変わらず爆睡し続けている。

「まったく。いい大人がだらしないな~台所なんかで寝ちゃってさ。・・・でも仕方ないか。1人だと大変だもんね。」

しばらく寝ている男を見ていると男は急に涙を流し、寝言を言った。

「・・・ん・・・ラン・・・・お姉ちゃん。・・・行かないでよ。一緒にいて・・・よ。」

「はいはい。お姉ちゃんはここに居ますよ。どこにも行かないからね。」

ランは男の頭を撫でながら優しい声で答える。そして、男が泣きながら自分を呼ぶ記憶を思いだしていた。

「私がトレセンに入学する時の夢を見てるのかな?あの時はカズちゃん大泣きで落ち着かせるの大変だったっけ。昔はお姉ちゃんって呼んでくれたのに今じゃ全然呼んでくれなくなっちゃって残念だな。」

しばらく頭を撫でていると、ランはあるイタズラを思いついた。

「最近は不満も溜まっているし、カズちゃんを少し困らせてみようかな。」

ニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら、男の布団に入っていく。

「作戦名は(顔面蒼白の朝チュン)にしよう。ふふふ。明日のカズちゃんの顔と態度が楽しみだな~。少し強引だけど、私にも我慢の限界があるんだよ~。」

ランはそう言うと部屋の電気を消し、男を抱きしめ眠りについた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 朝チュン

早朝雀のチュンチュンという鳴き声で男は眠りから目を覚ました。さて、今日も仕事頑張ろうと布団から起き上がろうとした。

しかし完全に覚醒しきってはいないが強烈な違和感を感じた。

「布団?確か昨日は台所で寝ていたような・・・」

何故自分は布団で寝ているのか?昨日は台所で寝てしまったような・・・

なぜか起き上がろうにも体が動かない。がっちり体をホールドされている感じだ。

そして何故かいい香りがする。心が落ち着く香りだ。

胴体は動かせないが頭は動かせるため周囲を確認する。

天井は多分自室で間違えないだろう。

夜中に起きて部屋に戻っただけか、と男は安堵した。

右を向く。自室の壁が見える。

だけど、体が動かせないのは病気的なものだろうか、と今度は不安になる。

左を向く。自室の壁が見える。

見えるが本来あり得ないモノが見えた。

布団から黒髪とウマ耳が見えたのだ。つまり布団に何者かがいる。一夜を共にしていたのだ。

「は!?何事!?誰!?何者!?オヌシナニモノ!?」

思考が追い付かない男。

男の声に反応するようにウマ耳がピクピクと動く。その後モゾモゾと布団が動き、ウマ耳の持ち主の顔が見えた。

「・・・おはようカズちゃん。よく眠れたかな?」

なんとランが布団で寝ていたのだ。

「・・・お、おはようございますランさん。あの・・・何があったのでしょうか?」

「何がねぇ~。…えへへ。」

ランはイタズラっぽく笑うと頬を少し染めて男の耳元で囁く

「カズちゃん。昨晩はお楽しみでしたね。お姉ちゃんは大満足だったよ」

「おっお楽しみ・・・大満足・・・はっ!?」

ランからの衝撃の言葉に男は再び意識を手放した。ショックのあまり気絶したのだ。

 

 

その後

「も~。カズちゃんをからかっただけだから。何もしてないし、何もなかったんだって。だから土下座なんて止めてよ。」

気絶から復活した男はすぐに土下座をした。

男の意地か、はたまた女性関係の無さがそうさせたのか。理由はわからない。しかしその土下座の姿勢はそれはそれは見事な姿だった。

「何もなかったとしても、ランさんと一夜を同じ布団で過ごした事実は変わりません。どうか許しを。」

「そんなに重く受け止めなくても。後恥ずかしいから同じ布団とか言わないで」

「いえ。重くなどありません。なんでもしますので、どうか許しを。」

男は気づかなかったのか、この状況でハイリスクノーリターンの言葉を口にする。

そしてその言葉を聞き、ランの表情はとても悪い考えをしていた。耳はピンピンに立ち、尻尾は千切れるのではないか心配になるレベルでブンブンに振っている。

「へ~。(なんでも)ね~。カズちゃん本当に(なんでも)してくれるの?」

「はい。許しをもらえるなら、なんでも致します。」

「・・・わかりました。お姉ちゃん今日の夕方18時にまた来るから、その時にお話しましょう。」

「ありがとうございます。ただこの事はだれにも言わないで下さい。お願いします。」

「わかりました。お姉ちゃんは誰にも言いません。じゃあまた後で」

そう言うとランは部屋を出て行った。

最後まで悪い表情は崩さず、尻尾はブンブンに振っていた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 答え

お久しぶりです。
色々ありまして休んでいました。


男の屋敷からの帰り道ランは自分の行動に自問自答していた。

流石にやり過ぎか・・・

いや、あそこまでやっても私のキモチはわからないんじゃないか。

何を焦っているの?

焦ってない。焦ってないけど・・・

卑しいウマ娘と思われたかもね・・・

・・・・・・・

「はぁ~・・・強がってみるものじゃないよね。」

今さら考えても時間が戻る訳でもなく。モヤモヤした心も静まる事はなく。自宅兼職場にたどり着いた。

 

男は考えていた。

(何でもする)とは言ったものの、自分でも謝罪について考えなければならないと。

「う~ん・・・謝罪。スジとケジメ。責任。反省。」

様々な答えが浮かんでは消えていく

「男の責任か・・・」

男は立ち上がると車に乗りとある場所に向かった。

 

 

時刻は夕方

ランは再び男の屋敷にやって来た。

玄関前には男が待っており、ランに気がつくと玄関を開け2人で屋敷に入って行った。

客間に入り先に口を開いたのは男だった。

「ランさん。朝は本当に申し訳なかった。すみませんでした。」

深く頭を下げながら男は謝罪をする。

「いや。カズちゃんは悪くないよ。私が悪かったんだよ。あんな事までして。」

ランも頭を下げ謝罪する

「・・・朝ランさんに何でもすると言ったけど、自分のできる最大のできる事。男の責任の取り方がこれしか思い浮かばなかった。」

男は1つの封筒をランに手渡した。

ランが封筒の中身を確認する。入っていたのは1枚の書類

「これって・・・なんで?どういう意味?」

書類を見た瞬間フリーズするラン。

入っていたのは婚約届だった。

「自分頭回らないからさ・・・男の責任の取り方はこれしかないと思って。」

「・・・ちょっと・・・待ってよ・・・カズちゃん」

ランは少しづつ話し続ける

「昨日の夜は一緒にお布団で寝たよ。何でもするってカズちゃんが言ったよ。カズちゃん頭回らないのも少しはわかるよ。だけど・・・だけど・・・」

ここで言葉が詰まった。

しかし

「ふざけるのもいい加減にしてよね!!」

次にランからでてきたのは怒りの言葉だった

「私カズちゃんの事大好きだよ。大好きで大好きで本当に大好きだよ。だけどカズちゃんは私のキモチに気づいてくれない。だから昨日あんな事したんだよ。それでも気付かないって本当に何なの!!」

「・・・私帰るから。・・・カズちゃんの事なんてもう知らない・・・」

自身の怒りを男にぶつけると、ランは立ち上がり客間を出で行く。

男は残された客間で目元を押さえながら呟く

「・・・やっぱり最低だな、俺は。ランさんの気持ちに何1つ気づいていないや。」

「これだとあの頃と同じだよ」

男の声は震えていた。

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。