ポケットモンスター:エキスパンションレポート (224番道路)
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序:とある大学にて
とある大学教授の講義の録画映像


 

20XX/5/10 録画時間01:29:21

 

 

 

 

 ―――を見るに、宇宙には、何かしらの『指向性』が存在している可能性があるのです。

 

 

 たとえば、この惑星には多くの大陸が存在しますが、それらは元々、1つの大陸だったと考えられております。

 その1つの大陸が、地底深くのプレートの活動により、いくつもの断片に分かれ、それがまたプレートの動きに伴って離れ離れとなり、現在の各地方の位置関係が形成されたと。

 

 これは1940年頃ですね、当時、惑星科学の権威でありましたツワブキ先生が提唱した、プレートテクトニクスという考え方ですね。

 地表で起こる現象は、地底深くのプレートの運動によって引き起こされる、という理論です。

 

 この理論において、プレートとは『レール』のような役割を果たします。

「こういう方向に大陸が動きやすい」、あるいは「こういう場所で地震が起きやすい」「ここに火山が生まれやすい」というように、物理的事象の『指向性』が、プレートという『レール』よって決まるのですね。

 

 

 これと同様の事が、宇宙にも言える可能性があるのです。

 

 

 我々が住んでいるこの惑星は、多くの微惑星が衝突・合体を繰り返した事で形成されたと言われていますが、ここで注目すべきは、「何故そうまで微惑星が都合よく集まったのか」という点にあります。

 

 当然、「偶然である」という結論も否定はできません。

 惑星は長ーい時間をかけて形成されましたので、その分『偶然』の確率も上がります。

 長い時間をかけ、偶然同じ地点を通過した惑星がぶつかり、この惑星が形成されたと。

 さらには、万有引力の法則もあります。質量が増えれば増えるほど物体を集めやすくなる。そうした様々な要因により、この惑星は形成されたと考える事もできます。

 

 が、ある時ですね……もう10年前になるでしょうか、当時の私の研究室のある学生がですね、面白い仮説を立てたのですね。

 すごく優秀な学生さんでした。彼は当時……16か7だったかな? 飛び級でこの大学にやって来た子でして。

 

 

 

 彼はですね、「地球におけるプレートのように、宇宙にも目に見えない『レール』のようなものがあり、それに沿って宇宙空間の物体は動いている」と唱えたのです。

 

 つまり、「微惑星が特定の一ヵ所に集まったのも、この惑星が形成されたのも、現在の太陽系・銀河系が形成されたのも、全てはこのレールに沿った『必然的な事象』である」と言うんです。

 

 

 

 当時は私も、「随分と妄想が得意な子だ」と思ったものですが、どうもその仮説がずっと頭から離れなかったものでして。

 そこで……1年半前、ホウエン地方のトクサネから、宇宙探索ロケットが発射されましたのを覚えていますか? ええ、最近帰って来たでしょう。

 実はその乗組員にですね、宇宙の『水素原子』の濃度調査を依頼していたのです。

 

 

 そして、その結果が半年前に届いたのですが……これが本当に驚きました。

 この惑星の周囲だけでも、明らかに水素原子の濃度勾配があったのです。

 要するに、宇宙空間の物質は、宇宙全体に均一に広がっているのではなく、座標によって濃度の偏りがあるのです。

 

 観測可能な水素原子ですら、濃度の偏りが見られました。

 おそらく宇宙の大部分を占めるダークエネルギーやダークマターも同じように、それぞれの座標で偏った濃度を示すのではないかと考えられます。

 

 

 ……あるいはこれが、当時彼が言っていた『レール』ではないだろうかと考えています。

 物質やエネルギーの濃度の偏りが、「こういう方向に物体は動きやすい」という、川の流れ、プレートの動きのような『指向性』を生み、微惑星がその流れに沿って動いたため、都合よく特定の場所に集まり、数多の惑星が誕生したのではないかと。

 

 

 いや凄まじいものです。

 今回明らかになった事実もそうですが、何より当時の彼です。あの時すでに、彼はこの事実に気付いていたんです。

 もっと真面目に話を聞いていればと、後悔するばかりです。

 

 ……彼ですか? さあ、それがまったく……。

 私も気付かないうちに、彼はいつの間にか大学をやめていて……その後はどこで何をしているのやら。

 

 

 しかし、研究者としてのセンスがズバ抜けた子でしたから、どこか別の所でも、きっと宇宙を研究していますよ。

 案外、今頃とっくに、宇宙の真実に近付いているじゃないですかね。

 

 

 

 

 

 

 



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1:シンオウ地方にて
とある考古学者のボイスレコーダー①


 

 

20XX/8/21 15:31 録音時間00:04:31

 

 

 

 8月21日、15時31分、記録者シロナ。

 

 信じられないものを発見したわ。今日から音声記録をつける。

 これから何か進展があるたびに、記録を残そうと思う。

 日付と時間はリアルタイム。進展があったその日その時間を指す。

 音声データは、あとで文書の方にもまとめておく。

 

 

 

 ……本題に入る。

 カンナギタウンの洞窟の中にある壁画の奥から、もう一つ、まったく別の壁画が出て来た。

 

 もともと壁画には崩れないように舗装を施していたけど、四日前の大きな地震で、舗装もろとも崩れちゃったみたい。

 その崩れた壁の奥から、見た事もない壁画が出た。

 ……どうなってるのかしらこれ。洞窟の壁が二重になってる。

 あたし達が今まで見ていたのは、外側の壁。その奥にも壁があって、そこにも絵が描かれてる。

 写真を撮ったわ。画像データは、あとで文書の方にも貼り付けとく。

 

 

 

 ……洞窟の壁は、粘土でしっかり塗り固められてた。

 だからこの内側の壁画は、初めから後世の人に見せるつもりがなかった絵よ。

 あるいは……一度壁画を描いたけれど、何か見せられない理由ができて、壁画の上にもう一枚壁を無理やり作って、この壁画を覆い隠した。

 ……何のために?

 分からない。

 

 …………。

 

 今から調査を続ける。

 考察は、今日の夜にでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX/8/21 20:03 録音時間00:05:53

 

 

 

 8月21日、20時3分、記録者シロナ。

 

 15時半頃から18時まで調査を続けたけど、それ以上の発見は無かった。

 壁画も、写真に収めたものが全て。

 それ以外、何も出て来なかった。

 

 ……この絵は何なのかしら。

 もともと洞窟の壁画には、ユクシー・アグノム・エムリットと思われる三匹のポケモンが描かれていたけど、内側から出て来た壁画には、その三匹は描かれていなかった。

 描かれていたのは全く別のものよ。

 ……これは何なの?

 全然分からない。

 描いたのが大昔の人だからって、ここまで特徴が掴めない事ってある?

 

 

 巨大な『球体』よ。

 壁の中央に、何か……とにかく大きな『球体』が描かれてる。

 ボールっていうよりも、『ボール型に凝集した謎のエネルギー体』みたいなイメージ。

 その『球体』の下に、おそらく『球体』を崇める人達の絵がズラッと並んでる。

 

 

 ……あれに似てる。雨乞いの……。

 学生の頃、ミチーナという町を訪れた事がある。古代の遺跡が数多く残っている町よ。かつてそこに訪れた際、案内役の女の子が見せてくれた。

 太陽に向かって手を合わせて、頭を地面につけて、必死に雨が降るよう祈る農民達の絵。

 あれに似てる。

 

 ……でも、多分この『球体』は太陽じゃない。

 なんとなく雰囲気が禍々しい。

 祈る対象なら、もっと神聖なものとして描くはず。

 ……崇めてるわけじゃない?

 

 今まで色んな壁画や絵巻物、昔の人が描いた絵を見てきたけど、人が頭を地面に向けている絵って基本的に、『崇拝』『祈祷』『嘆願』を意味してる場合が多かった。

 あとは……。

 

 

 …………。

 ……あまり先入観をもつのはよくないかも。

 

 

 続きはまた今度。

 進展があれば、記録を残す。

 

 

 

 

 

 

 

 



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とある考古学者のボイスレコーダー②

 

20XX/8/24 10:17 録音時間00:03:19

 

 

 

 8月24日、10時17分、記録者シロナ。

 

 今、業者の人達が洞窟の解体工事を進めてる。

 カンナギの洞窟の壁は、内と外の二重構造になっている。先日の地震で外側の壁の一部が壊れたのだけど、変に残していてもまた崩れる危険性があるから、外側の壁は、もう全部壊してしまおうという話になった。

 ちょっと名残惜しいけれど……仕方ないわね。元々あった壁画も壊れちゃったし。

 

 業者の人達には、「くれぐれも内側の壁画には傷を付けないで」と念を押しておいた。

 元シンオウチャンピオンとしての力とコネも見せつけて来たから、しっかり言う事を聞いてくれるとは思う。

 壊しやがったらどうしてくれようかしら。

 

 

 

 ……昨日からずっと考えていたけど、やっぱり壁画の意味は分からないままだった。

 何のために何を描いたのか。あの変な『球体』は何を表していたのか。

 そして、なぜ隠さなければならなかったのか。

 わざわざ覆い隠すように壁を作るくらいよ。よっぽど見られたくなかったのか。

 

 ……でも……だったら普通、「壁を作って隠す」んじゃなくて、「壁画そのものを壊してしまおう」って思わないかしら。

 壊さなかった。でも隠さなくちゃいけなかった。

 あるいは、壊せなかったから隠すしかなかった。

 

 ……やっぱり全然分からない。

 進展がある事を願う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX/8/24 11:10 録音時間00:01:44

 

 

 

 同日11時、シロナ。

 急いで記録してる。洞窟の中よ。何これ……。

 外側の壁は全部壊したけど、その内側からまた壁画が出て来た。

 っていうよりこれ……。

 

 洞窟の外周全体が絵になってる。

 全部よ。余すところなく全部。

 洞窟の中をぐるっと壁画が取り囲んでる。

 

『球体』だけじゃなかった。もっと細かく色んなものが……一応全部写真に撮ったから、後で文書データにも載せておく。

 ……これは、ポケモン? 人間?

 ……違う、何か変。

 ポケモンにも人間にも思えない『何か』の絵がある。

 生き物だと思うけど……。

 

 …………。

 一旦切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX/8/24 18:00 録音時間00:05:56

 

 

 

 8月24日、18時00分、記録者シロナ。

 

 今回の発見を、簡単にまとめておくわ。

 

 一つ目、洞窟内の壁画。

 洞窟の外周をぐるっと取り囲むように現れた壁画は、あれで1枚の大きな絵だった。

 真ん中に、あの謎の『球体』。

 そしてその真下に、『球体』に向かって首を垂れる人達の図。

 さらに衝撃的だったのは、その左右に広がる絵よ。

 ……あれはどう解釈したらいいのか、未だに分からない。

 

『球体』の真下で拝む人間達。

 それを左右から挟むように描かれていたのは、間違いない……これはディアルガとパルキアよ。

 しかも一体ずつじゃない。

 壁画には六体ずつ、計十二体のディアルガとパルキアが描かれていた。

 

 加えて、ディアルガとパルキアの絵は一体一体が微妙に違う。

 似ているけれど、全く同じ外見の個体じゃない。

 それぞれ別個体的な特徴をもったディアルガとパルキアが描かれてる。

 ……これが何を表現しているかは分からないけど、考察は後にする。

 

 

 

 二つ目、壁画の中に古代文字を発見した。

 書かれている内容はまだ分からない。あたしが見た事のない文字よ。

 過去に読んだどの文献にも載ってなかった。

 

 ……シンオウ大学に、古代文明を研究してるヒオウ先生がいた。

 明日、連絡してみようと思う。

 

 

 

 三つ目、これが最も大きな発見かもしれない。

 壁画には、おそらく当時の人々が暮らしていた町の景色が、少しだけ描かれていた。

 けれどこれは……信じられない。

 でもすごく「似てる」。

 これはあたしだけの所感じゃない。今回の調査に協力してくれた研究員たちも、みんな同じ感想を口にしていた。

 

 

 

 壁画に描かれた、古代の町の風景。

 でもこれ、多分だけど……。

 

 背の高いビルがいくつも並んだ、大都市の風景……。

 

 ……だと思うわ。

 ……本当に、多分だけど。

 

 

 

 

 

 

 



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とある考古学者のボイスレコーダー③

 

20XX/8/25 21:54 録音時間00:06:09

 

 

 

 8月25日、21時54分、記録者シロナ。

 

 ヒオウ先生に会って、話をしてきた。

 カンナギの壁画の話をしたら、自分の仕事を後回しにして会いに来てくれた。ありがたいわ。

 一つ発見があったから、ここに記録しておく。

 

 

 どうやらあの壁画に書かれていた文字は、過去に一度、別の場所で発見された事があるらしい。

 全く同じ形の文字があったから間違いないって、ヒオウ先生もおっしゃっていた。

 

 

 あの文字は古い学者の間で『始祖の文字』と呼ばれていて、一時期すごく話題になったそうよ。

 最初に発見されたのは四十年くらい前。

 ホウエン地方の流星の滝の一ヵ所に、古びた壁画と一緒に書かれていたって。

 壁画の劣化具合から、これまで発見されてきたどの古代文字よりも古いのではないかと考えられた……だから、『始祖の文字』。

 

 でも、誰もそれを研究する事ができなかったらしい。

 流星の滝の壁画は経年劣化が激しくて、ほとんど解析不能。加えて『始祖の文字』もその一ヵ所でしか発見されていなかったからサンプル不足で、研究を断念せざるを得なかったとか。

 

 

 ますますカンナギの壁画の重要度が上がってきたわ。

 もしかしたら、今までにないレベルの発見かも。

『始祖の文字』の解読は、ヒオウ先生が請け負ってくれる事になった。あたしはあたしで、別の角度から壁画を解明しようと思う。

 何か参考になる資料、持ってるかしら。……はああぁぁ……その前に部屋を片付けないと。

 

 

 ……あの壁画、本物のディアルガとパルキアに見せたら、何か分かったりするのかしら。

 ヒカリちゃん、今どこにいるんだろう。

 どうせまた会えるからって、連絡先を交換しなかったのが惜しいわ。

 ……リーグの人なら誰か分かるかしら。

 

 …………。

 

 ……あ。

 今日はもう終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX/8/26 16:18 録音時間00:06:56

 

 

 

 8月26日、16時18分、記録者シロナ。

 

 探してみたけれど、あたしの部屋に参考になりそうなものは見つからなかった。

 探したの忘れて、また部屋を散らかす羽目になるのも面倒だから、一応記録しておくわね。

 ……前にヒカリちゃんに片付け手伝ってもらったのに、また散らかしちゃった……。

 どうしよう……。

 

 

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 ……隠されていた壁画。

 あれ、描いた本人が隠したのかしら?

 

 どういう理由で壁画を描いたにしても、やっぱり隠そうとする意味が分からない。

 描いた壁画に納得がいかなかった、または誰にも見せたくなかっただけなら、やっぱり壁を削るなりして、壁画を消した方が絶対に早い。

 壁画そのものは残したかった。

 でも、誰にも見られたくなかった。

 ……見て欲しくなかった? 他の人に発見されたくなかったとか?

 

 

 …………。

 ……壁画を隠したの、描いた本人じゃなくて、他の人の可能性もある?

 

 

 あたし達よりも前に、あの壁画を発見した人達。

 その人達が、後世の人達にあの壁画を発見されたくなくて。

 でも、壁画そのものは自分達のものにしたかった。

 だからわざわざ壁を作って、壁画そのものは残したまま、存在をこの世から抹消した。

 

 ……何のために?

 はあぁ……結局おんなじ疑問……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX/8/26 20:09 録音時間00:03:25

 

 

 

 8月26日、20時9分、記録者シロナ。

 

 散らかしちゃった本の中に、シンオウ神話の歴史がまとめられた本があった。

 その中に、宗教闘争の話が載ってたわ。

 昔、信じる神様の違いや、同じ神様でも教義の解釈の違いとかで、かなり頻繁に争いが起こってたみたい。

 

 何か関連があるかもしれないから、記録しておく。

 

 

 

 

 

 

 



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とある考古学者のボイスレコーダー④

 

20XX/8/28 13:18 録音時間00:07:17

 

 

 

 8月28日、13時18分、記録者シロナ。

 

 まだ進展はないけれど、気になった事があったから記録しておく。

 

 そう言えばあの壁画にも、ギラティナとアルセウスは描かれてなかった。

 やはりあの二体は、シンオウ神話の中でも少しだけ特殊な立ち位置にいるのかも。

 これまで色んな神話を調べてきたけど、その中でアルセウスとギラティナの名前が明確に出て来たのは、ミチーナで聞いた神話以外になかった。

 ミチーナはカンナギ以上に神話と関わりの深い町だから、そこにしか記録がないのかも……。

 

 …………。

 

 今日の記録は、とにかく気になる事を言っていくだけにするわ。

 事実も妄想も関係なくね。

 

 

 

 

 

 歴史や神話を学び始めてから、ずっと疑問に思っていた事がある。

 

「神様はなぜ、人の前に現れるのか」。

 

 神様……ここではディアルガとパルキアに限定しておく。彼らはなんで人間の前に姿を現すのかしら。

 そもそも現れていいものなの?

 時間と空間を司る、ひいては世界創造と深く関わるほどの存在が、人間の世界に干渉する事なんてあり得るの?

 

 その疑問は、ギンガ団の一件でさらに膨れ上がった。

 神様が、一時的とは言えアカギに……人間の手で制御されそうになった。

 それどころか、最終的にはモンスターボールの中に収まり、一人のポケモントレーナーと共に道を歩む事になった。

 

 ヒカリちゃんの持ってるディアルガとパルキア、彼らの力は本物だわ。この目で見たから間違いない。

 時間と空間を操る力……。

 でも、本当にあれが神様なの?

 世界を創った神様が、人間と肩を並べるなんてあり得るの?

 

 

 …………。

 ここからは、本当にただの、あたしの妄想。

 

 

 人間の前に現れるディアルガ、パルキア……そしてギラティナとアルセウスも。

 彼らは実は、「本体じゃない」のかもしれない。

 ……って、ずっと前から疑ってる。

 

 彼らは神様本体じゃなくて、『神様が人間界に干渉するために使う、アバター、分身、あるいは幻影のようなもの』じゃないかと思ってる。

 

 神様そのものは、ずっと天の上にいて。

 人間と接触する必要に駆られたら、そういう『対人間用の自分の代わり』を用意して、地上に降ろしてるだけなんじゃないかって。

 それが、神話の中で語られるディアルガ、パルキア、ギラティナ、アルセウスの正体で。

 今、ヒカリちゃんのモンスターボールの中にいるものの正体なんじゃないかって。

 

 

 …………。

 あの『球体』。

 壁画に描かれてた、謎の『球体』。

 まさか……あれが……?

 ディアルガも、パルキアも、ギラティナも、アルセウスも、あたしたちが見てる姿は全部『ただの分身の姿』だとしたら。

 

 

『本物の神様』の姿って。

 もしかして……。

 

 

 ……はあああああああぁぁぁぁ……。

 ……これは本当に、ただの妄想。

 聞くなら、参考程度に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX/9/1 09:00 録音時間00:01:25

 

 

 

 9月1日、9時00分、記録者シロナ。

 

 今からテンガン山を登って、槍の柱に向かうわ。

 なんだかずっと落ち着かなかったの。この間からずっと。

 今、行かなければならないような気がする。あの場所に。

 カンナギタウンであの壁画が見つかって、『始祖の文字』の話も聞いて……何かが掴めそうな気がするの。

 あとちょっとで、何かが。

 

 槍の柱に行ったからって、何か新しい発見があるわけじゃないと思うけど。

 でも、どうしてももう一度、あの場所を見なくちゃいけないような気がする。神様が現れたあの場所を。

 ……ヒオウ先生からの連絡は、まだない。

 古代文字の解読なんてそう簡単な事じゃないから、当然だけど。

 

 

 何かの転換点になる事を期待するわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX/9/19 11:11 録音時間01:17:31

 

 

 

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………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 

                ッ

 

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 

           ヂ

 

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 

    った

 

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

                 

 

            な   こ

 

……………………………………

 

ちが

 

              れが、ほん

 

 

……………………………………………………………………………………………………………………………………

                               たしの……キ

は多分、た

 

 

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 

 

………………………………………………………………………いじゃなかった! これ! ずっ………たん

 

……………………の場所だっ

 

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 

                  る

 

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

 

        ガブ

 

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 まだ動いてる? 

 

 ……海が見える

 

 ……すごく広くて……ずっと……黒い……

 

 

 

 

 

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 誰?

 

 

 

 

 

 

 



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とある一本の動画

 

 

 

 

 ……初めましての者が多いだろう。私はナナカマドという。

 ある目的のために、こうしてインターネット上に動画を載せる事にした。

 

 

 すでにニュースになっていると思うが、9月20日、私の教え子であり元シンオウチャンピオンであるシロナくんが、テンガン山で行方不明になった事が明らかになった。

 それまで報道はされていなかったが、実は5日時点で、すでに彼女の関係者から救助要請が出されていた。

 9月1日にテンガン山へ登ったシロナくんが、一向に帰って来る気配がないと。

 

 

 しかし、それが昨日20日、『遭難』から『行方不明』へと捜索隊の判断が変わった。

 理由は主に三つ。

 

 

 一つは、テンガン山の登山はさして厳しいものではない事。

 もとよりテンガン山は登山に向いた山だ、初心者であっても山頂まで1日もかからない。最近では、山頂まで比較的安全に登り切れる登山道も整備され始めた。「山頂を目指す」という目的だけで登るなら、遭難する事はまずないだろう。

 

 加えて、シロナくんはこれまで幾度も研究の一環として、テンガン山の山頂に訪れている。テンガン山の登り方なら、誰よりも心得ている。

 彼女のポケモンたちも、長い間シンオウ最強を保ってきた強者たちだ。野生のポケモンに襲われたという事も考えづらい。

 

 

 二つ目、彼女のボイスレコーダーが発見された。

 9月18日、とある登山家がテンガン山を登山中、山頂付近で見つけたものらしい。

 そこには9月1日から登山を開始したシロナくんの音声が記録されていたが……途中、何やら『得体の知れない現象』に遭遇した彼女の声が残っていた。

 これは単なる遭難ではない、というのが、捜索隊の判断だそうだ。

 

 

 ……最後に三つ目。

 実はもう一人、最近になって行方を眩ませた者がいる。

 現シンオウチャンピオン、ヒカリくんだ。

 彼女は、まだシロナくんの行方不明が報道される前の17日、突然「シロナくんを助けに行く」と私に連絡を残し、それから行方が分からなくなった。

 

 おそらく彼女達は『何か』に遭遇し、巻き込まれた。

 それが『何か』は、全く分からないが。

 

 ……不自然な状況が続いている。

 これを重く見た地方警察が、捜査を『遭難』から『行方不明』に切り替えた。

 今もなお、捜査と捜索は続いている。

 

 

 …………。

 

 

 これを見ている皆に、協力を仰ぎたい。

 9月1日以降、シロナくんやヒカリくんの姿を目撃した者、あるいは、彼女達が姿を消した理由に心当たりのある者私に一報を入れて欲しい。

 

 

 ……情報を求む。

 

 

 

 

 

 



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とある考古学者のボイスレコーダー⑤

 

 

20XX/11/10 11:23 録音時間00:00:28

 

 

 

 ……11月10日、11時23分。

 

 記録者シロナ。

 

 ……戻って来た。

 ……何から話せばいいのか、全然頭の整理が追い付かない。

 

 とにかく、戻って来た。

 ……気付いたら、病院のベッドの上。

 ヒカリちゃんが連れ戻してくれたらしい。

 

 ……まだ頭がふらつく。

 細かい話は、明日、まとめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX/11/11 13:00 録音時間00:01:17

 

 

 

 11月11日、13時、記録者シロナ。

 

 まずは槍の柱で何が起きたのかを話すわ。

 けど正直なところ、あまり覚えていない。

 

 何かに襲われたというわけじゃないのは、ハッキリ分かる。

 襲われたんじゃなくて……あれは……なんて言えばいいのかしら。

 ……誘われた。

 多分、そう言った方が正しいと思う。

 

 槍の柱に着いた途端、あたしは何かに誘われた。

 こっちに来いって命令される感じじゃなくて……あたしが自分から足を踏み入れた。

 まるで、好奇心を無理やり刺激させられてるような感じ。

 

 だからあたしは、あそこに……。

 ……どこに……。

 どこ、だったかしら……。

 ……分からない……。

 何か……黒い……。

 

 ……はぁ。

 ダメ、また切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX/11/13 10:56 録音時間00:08:31

 

 

 

 11月13日、10時56分、記録者シロナ。

 

 ヒカリちゃんから、すごく興味深い話を聞いたわ。

 あたしの話より、彼女の話をまとめた方が良い情報になる。

 これから話すのは全部、ヒカリちゃんが体験した話。

 

 

 あたしが槍の柱で『何か』に呑み込まれた直後、ヒカリちゃんのディアルガとパルキアが、今まで見せた事もない大きな反応を示したらしいわ。

 彼女は、「2人が何かを察して、自分をどこかへ導こうとしている」と言っていた。

 そしてそれが……なぜかは分からないけれど、「あたしを助けるため」だと本能が理解したのだと言う。

 すぐにナナカマド博士に連絡を入れて、彼女はディアルガ達の導きに身を委ねたそうよ。

 

 その後の事は、ヒカリちゃんもあまり覚えていないらしい。

 自分がどうやって『あの場所』へ行ったのか。

 いつの間に自分が『あの場所』に立っていたのか。

 瞬きをした瞬間には、『あの場所』に、彼女は立っていたらしい。

 

 

 そこは、全部が黒い空間だって言ってた。

 右も左も、前も後ろも、上も下も……そもそもそういう方角や空間があるのかも分からない、『謎の場所』だったって。

 

 

 でも、自分がどこへ向かえばいいのかは自然に分かったらしい。

「ディアルガとパルキアが導いてくれた」って。

 まるで迷路の中を、決められた順序、決められたルートを歩くみたいに進んでいって。

 

 そして、辿り着いた先に、あたしが倒れてた。

 ……らしい。

 

 その後は、やっぱり『謎の場所』に来た時と同じ、どうやって戻って来たのか全然分からなかったって。

 ただ、気付いた時にはヒカリちゃんはあたしを抱いて、コトブキシティのど真ん中に座り込んでたらしいわ。

 

 

 

 

 …………。

 この話を聞いて、あたしも少し、思い出した事がある。

 あの場所……『謎の場所』に落ちた後の事。

 

 ……あの感覚を、どんな風に言葉にすればいいのか分からない。

 だから、少し曖昧な表現になる。

 もし今後、あたしか誰かがこの記録を聞く事があるのなら……まあ、ただの妄想の一種とでも思っておいて。

 

 変な事を言うかもしれないけど、あの場所には、全てがあった。

 四方八方が黒一色なのに、なぜかこの世全ての場所に立っているような気がしたの。

 一歩歩けばコトブキシティにいて、さらに一歩歩けばキッサキシティにいて、さらに一歩進めば海のど真ん中にいて、さらに一歩踏み出せば、見た事もない洞窟の中にいる気がした。

 たった数歩で、シンオウ地方の全てを……どころか、世界の全てを見渡せたような気がした。

 真っ暗で、何も見えなかったはずなのに。

 なぜか、全部を感じてた。

 

 

 

 …………。

 ……………………。

 ……もうこの際だから遠慮しないわね。

 変な思想に取り憑かれたと思われてもいい。

 でも、この直感はけっこう真実に近いんじゃないかって……少なくとも今のあたしは思ってる。

 

 

 

 

 本当は、あの真っ黒な『謎の場所』が、世界の『始まりの場所』だったんじゃないかしら。

 

 この世界はアルセウスという、一体の神が創造したらしい。

 今ではビッグバンと呼ばれてる現象。

 でもビッグバン……アルセウスが現れる前、宇宙がどうなっていたのかは全然分かってない。

「何もない空間だった」と唱える学者もいる。

 それは少し違うと、あたしは思う。

 

 多分ビッグバン以前の世界は、『森羅万象がたった一ヵ所に凝縮された世界』だったんじゃないかって思う。

 宇宙の端から端まで、過去現在未来、時間も空間も関係なく、とにかくあらゆる全部が、たった一ヵ所に小さくまとまってるだけの、点の世界。

 その一ヵ所にさえいれば、全部を味わえる。

 そんな世界。

 

 

 そこにアルセウスが「やって来た」。

 色んなものが小さい箱の中にぎゅうぎゅうに収まってるのに、そこに無理やり外から押し入ろうとした。

 

 

 だから、箱が弾けて中身が飛び出した。

 ビッグバンが起きた。

 

 一ヵ所にまとまっていた森羅万象は、その爆発で四方八方に散らばって宇宙になり、場所や空間という概念が生まれた。

 ビッグバンって名前は、そういう意味では正解だったんじゃないかと思う。

 本当に爆発だったから。

 色んなものを全方位に撒き散らす、爆発。

 

 

 ……とか、どうかしら。

 ……え、ダメ?

 

 

 ふふ、ダメみたい。

 じゃあ今のは無しにしましょう。

 聞かなかった事にして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX/11/20 11:21 録音時間00:00:28

 

 

 

 11月20日、11時21分、記録者シロナ。

 

 退院したわ。もう異常無し。

 色んな人に心配と迷惑をかけた。これから謝りに回らなくちゃ。

 

 それと、ヒカリちゃんと一緒にカロス旅行に行く事になっちゃった。

 あたしもあたしで、本当は色々やる事があるけど……命の恩人だものね。断れないわ。

 

 ……この記録、何の役に立つかは分からないけど。

 でも。

 いつかどこかで、私でも、私以外の誰かでもいいけど、何かの形で役に立てれば嬉しいわ。

 

 そのためには、もっともっと色々調べないとね。

 ……それじゃあ。

 今日の記録は、これで終わり。

 

 

 

 

 

 

 



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とある一通の手紙

 

 

 シロナくんへ

 

 

 こんにちは、ヒオウです。

 ご退院、おめでとうございます。私もそうですが、ナナカマド博士や、カンナギタウンの壁画調査に協力していた研究員たちも、きみの無事をとても喜んでいます。

 しばらくは友人と一緒に旅行へ出かけると聞きました。

 心行くまで、楽しんできてください。

 

 

 話は変わり、壁画の件です。

 大変な目に遭って早々このような報告をするのも失礼かと思いましたが、しかし、誰よりも熱心に真実を追い求めるきみには、これが一番の退院祝いになると思って、この手紙を書きました。

 

 

『始祖の文字』の解読、ある程度完了しました。

 実は意外と簡単な方式で成り立った文字で、現時点で半分以上の解読ができています。

 完全解読までそう時間は要さないと思います。

 しかし、地方各地に見られるアンノーン文字、ホウエン地方に見られる点字などとは類似点が少なく、もしかしたらこの文字は、あらゆる文字の源流ではなく、独自の文化を遂げた別種の文語体系である可能性も出て来ました。

 

 以下、壁画に記された文章の一部を、現代語訳したものです。

 

 

 

 

 

『彼がそれを望むなら、我々もまた、それに応じよう

 彼がそれを望まぬなら、我々もまた、それを拒もう

 

 彼がそれを望むなら、我々は喜んで、新たな世界の神となろう

 彼がそれを望まぬなら、我々は喜んで、世界から暗闇を取り除こう

 

 彼が我々に与えてくれた、この御使いは

 我々を導き、彼の意思を伝えてくれる

 

 我々が、彼の望みを成そう

 我々が、世界を創ろう

 我々が内側に立ち、外側を広げ、暗闇を除き、全てを支えよう

 

 時は、金剛の御使いに

 空は、白玉の御使いに

 そして、世界の柱と陰影は、我らが役を担いましょう

 

 すべて、彼の御心のままに

 

 国と、力と、栄とは

 限りなく、汝のもの、なればなり

 

 ****』

 

 

 

 

 

 おそらく、壁画に描かれた『球体』の下で頭を垂れる人々の心情を表している文章だと考えられます。

 金剛の御使いがディアルガ、白玉の御使いがパルキアと推測できます。

 が、この文章に登場する『彼』というのが、具体的に何を表しているのかは最後まで分かりませんでした。壁画の様子からすると、おそらく『球体』を指している可能性が高そうですが、明確な証拠はありません。

 

 

 なお、最後の文字は翻訳する事ができなかったため、伏せています。

 仮に現代語に無理やり翻訳するなら、「あるぁれん」「るあえん」「あーめん」「たーらーめ」等となりますが、その意味は全く分からず、おそらく古代人の間で使われた、何かしらの合言葉のようなものではないかと思われます。

 

 

 

 残された謎は多いですが、ここからが正念場だと思います。

 協力できる事があれば、なんでも言ってください。

 誠心誠意、協力したいと思います。

 

 

 

 これからも共に、真実を求めて参りましょう。

 

 

 

 

 



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2:とある町にて
とある男の記録①


 

レポートNo.108

 

 

 

 四回目の実験が失敗した。

 あと一回だ。

 どれだけ多くとも五回まで。それがコイツとの契約だ。

 

 何より、四回目の実験では死者すら出してしまった。

 あってはならない事だ。

 罪のない命を奪ってしまったばかりか、さらに彼を追い詰めてしまった。

 

 全て俺の責任だ。この罪は背負う。地獄にも堕ちよう。どんな罰も受けよう。

 だがその代わり、次は絶対に成功させる。

 奪ってしまった命を無駄にするわけにはいかない。

 

 我が一族の名に懸けて、必ず彼を救ってみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンオウ大学 文学部 人獣科学科 歴史学専攻コース

修士論文

【200年前のシンオウ地方の伝承と風俗に見る、……の社会的な意味と役割】

 

 

 

 ―――――

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 ―――――――

 ―――等の理由から、当時の人々は、……と共存していた事が伺える。

 

 古くからシンオウ地方では、「全てのものには意味があり、役割がある」という思想が深く根付いており(現代においても、その傾向は他の地方より強い)、それゆえ、……にも大きな意味があると考えていた当時の人々は、……をその日の暮らしに取り入れ、常に変化のある生活を送っていたと推測される。

 

 その生活様式が著しく変化したのは、今から約200年前、……………がシンオウ地方に侵入した時期であると考えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2限目 131教室

【神経生理学】

 

 

 

 ――――このように、これまで多くの研究がされてきたわけですが、未だにその正体を掴めるには至っておりません。

 最近では人ではなく、ポケモンを使った研究も進んでいるとの事ですが、それでも根本的な解明に至っていないというのが現状であります。

 

 ですので、未だにこの話題を話す時には、『古代からある信仰者の理解』、『近年の心理学者の理解』、『現代の神経生理学者の理解』の三つの分野に分けて話をしなければならないのです。

 確かうちの大学にも、これについて文化的な視点から研究してる研究室ありましたが……どこだっけな、忘れてしまいましたが。

 

 

 さて、ここまで色々と話してきたものの、結局のところ未だに原理が全く分かっていない、というのが最終的にまとめになってしまいます。

 先程紹介した話も、全ては仮説に過ぎません。

 これほど謎に包まれ、手掛かりの一つも掴めないにも関わらず、それでも多くの研究者がこの内容を研究し続けているのには、実は大きな理由があるのです。

 もちろん、科学者としての興味や知的好奇心というのもありますが、もっと差し迫った理由があります。

 

 

 なぜならこの話は、人の命にも直結するからなのです。

 特にここ、シンオウ地方では。

 

 

 

 

 



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とある男の記録②

 

レポートNo.109

 

 

 もう失敗は許されない。

 彼を地獄に追い込んでしまった我が一族だからこそ、なんとしてでも成功させなければならない。

 この世にいらないものなどない。

 存在する全てに意味があり、価値があり、役割があるのだ。

 しかし、その理を歪めてしまったのは、俺の一族だ。

 これは、一族の末裔である俺が果たすべき責任だ。

 

 このレポートを読んだら、五回目の実験の準備を頼む。

 必要なものはすでに、もう一つのノートに全てまとめている。

 あと一回だけ、俺のわがままに付き合って欲しい。

 これが最後だ。

 絶対に彼を救ってみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミステリー特集『家族を襲った悲劇 ……の正体とは』

 

 

 

記者 ―――その時の気持ちをお聞かせいただく事はできますか?

 

「『なんでもっと』って、本当にそれだけです」

 

記者 ―――なんで、というのは。

 

「なんでもっと、傍にいてやらなかったのだろうって。娘が何を望んでいたのか、ずっと分かっているつもりで……」

 

 テスラ(仮名)さんの目に涙が浮かんだところで、それ以上の質問をやめた。

 真実を知りたいと思うばかり、相手が『家族の死を経験している人』であるという事を、私はその一瞬、失念してしまった。

 謝罪をする私に、テスラ(仮)さんはしかし、「ありがとうございます」と感謝の言葉を述べた。

 

「ずっと誰かに言いたかったんです。言わないと踏ん切りがつかなくて。

 どこかでこの思いを断ち切らないと、ずっと彼女を縛り付けてしまう気がして」

 

 そう語る彼の目からは、やはり涙が流れる。

 テスラ(仮)さんは未だに、かつての自分の選択を、後悔しているという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ポケモンニュース】きとうし・イタコ・サイキッカー オカルト座談会

 

 

 8月に入り夏も本番。日に日に暑さが増してくるこの時期。毎年恒例となったオカルト座談会が今年も開かれた。

 

 先日8月3日、シオンタウン中央公民館に集まったのは、カントー中のオカルトマニアたち。開演30分前にもかかわず、すでに長蛇の列が公民館の外にまで連なる事態に(写真左)。

 収容人数1000人のホールは一瞬で埋まり、入れなかった来客者からは落胆の声と共に、延長講演を望む声も。

 

「昨年の来客者数が700人ほどだったので、それを鑑みてシオンタウンの公民館ホールに決めました。今年はまさかこんなに集まるなんて思ってもみませんでした」

 

 どうやら、昨年のオカルト座談会の感想がSNSに多数投稿された事により、興味を持った人が爆発的に増えたようだ。

 オカルト座談会運営は、ネットによるチケット販売を行い、その売り上げに応じて会場と延長回数を決めるという。

 

 

 

 



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とある男の記録③

 

レポートNo.110

 

 

 

 次の被験者を見つけた。

 医者を装い、血液採取も済ませた。

 あの子で最後だ。今度こそ実験を成功させる。

 脳波、脈拍、血液の循環、すべて遠隔から把握できるよう機材は整えた。

 

 何度も言う。失敗は許されない。これが最後だ。

 今までの実験のデータを再検討し、確実に成功させるよう全力を尽くす。

 もう後がない。時間は前にしか進まない。

 我が一族の誇りと共に、俺も全てを懸ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある大学教授の許に届いた留守番電話

 

 

 

 こんにちは、シロナです。

 

 先日、先生がおっしゃった文献の件ですが、あたしの知り合いの……ホウエン地方の化石マニアなんですけど、その彼が持っているみたいでした。

 かなり昔の論文だからか、ネットやジャーナルには掲載されていないようで、現物が数点だけで回っていたそうです。

 今の彼には不要の代物だったようなので、あたしが譲り受けました。

 後で先生に送っておきます。

 

 先生が受け持つ学生さん、そろそろ論文が大詰めに入っている頃と思います。先生もお忙しいと思いますが、たまには息を抜いてくださいね。

 それでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ポケモンニュース】きとうし・イタコ・サイキッカー オカルト座談会

 

 

 

 例年からは想像もできないほどの大盛況となったオカルト座談会。今回のゲストは、毎年恒例となった『イタコ』のサワコ氏、『きとうし』のムネ氏、そして今年は『サイキッカー』のリュウゾウ氏も加わり、計3名での講演となった。

 

「最初は数名のみで楽しんでいた集会が、気付けばここまで大きなものになってしまった。嬉しいような恥ずかしいような、不思議な気持ちです」

 

 ムネ氏はそう語る。

 こうして満員御礼の中始まったオカルト座談会。まずはお決まりとなった「本当にあった怖い話」を始め、3名それぞれが、特殊な職業ならではの面白い話を語るなどし、例年とは少し雰囲気が変わり、会場が笑いに包まれる場面も。

 

 そんな中、『イタコ』サワコ氏の語った内容が興味深い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レポートNo.111

 

 

 

 私には、あなたがそこまで必死になる理由が全く分かりかねますがね。

 自分が犯した罪というのなら納得できますが、一族の罪、すなわち他人の罪ではありませんか。

 そもそもあなたの話を聞いていると、果たしてそれが本当に罪と言えるのか、判然といたしません。

 仕方のない事だと思いますがね。

 時代や世間、あるいは社会の流れとも言えましょう。

 そして、そうした大きな流れに対し、人はあまりに無力です。

 それに流されてしまうのを罪と断ずるのは、あまり好ましくはありませんね。

 

 かと言って、別段この実験を拒否する理由も、私にはございません。

 あなたの望むままに、どこまでも付き合いましょう。

 私は、迷える皆様の味方ですので。

 

 

 

 

 



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とある男の記録④

 

レポートNo.112

 

 

 

 本日、被験体が無事、実験可能段階に入りました。

 後は出て来る結果次第となります。

 どうか良き結末に至りますよう、わたくし、誠心誠意お祈り申し上げております。

 

 

 

追伸

 

 あなたに体を預ける前に、一つだけ忠告です。

 すでに死んだ人間に忠告というのもおかしな話ですが、しかし、長年多くの悩みや未練を抱える霊をこの身に降ろし、成仏のお手伝いをさせていただいている『イタコ』の私からの忠告です。

 あまり、己を責めないことです。

 この世に縛られ続ける霊の多くは、己で己を縛っています。

 あなたが解放されるとするなら、それはあなたがあなた自身を許した時、ただその時だけです。

 

 ご健闘、お祈り申し上げております。

 

 

 

 

 

 

 お前には感謝している。

 ハクタイの森で彷徨っていた俺を見つけてくれた事にも、そんな俺に協力してくれた事にも。

 だがこれは、俺の責任だ。

 俺の一族の責任であるのと同時に、俺の責任でもある。

 だからこれは、やはり俺が償うべき罪だ。

 

 お前の言いたい事は分かっている。

 心から気遣ってくれているのも、お前の体を通してよく分かる。

 だがこれは、俺の責務だ。

 彼を救わなくてはならぬのだ。

 必ず成功させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある船乗りたちの会話

 

 

 

「……長いな」

 

「しゃーねえ、シンオウじゃ時々ある」

 

「本当だったんだな、あの噂。ただの言い伝えだと思ってた」

 

「俺もだ。……医者もお手上げって話だろ?」

 

「そうらしい。可哀想になあ、一人息子だってのに」

 

「過去には死んだ奴もいるらしい。マズいよな」

 

「マズくたって、俺らにゃ何もできねえ。祈るしかねえ。あの子が悪夢から覚めるのを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レポートNo.113

 

 

 

 五回目の実験、今のところは順調だ。

 被験者に選んだ子供は、悪夢を見ているが、体は正常に機能している。

 現在俺は、医者に成りすまし、子供に特定の薬品を投与している。

 このまま上手い具合に悪夢が体に慣れていけば、本格的に悪夢ワクチンが完成する。

 

 前回の実験、イッシュ地方に住む少女には、悪い事をしたと今でも思う。

 薬品の中に含まれていた成分の中に、より深く眠りに落ちる性質のものが多量に含まれていた。そのせいでより深く彼の力を受け、死なせてしまった。

 この罪も、俺が背負おう。

 永遠の地獄にも堕ちよう。

 だからそのために、この実験はなんとしてでも成功させなければならない。

 

 悪夢ワクチンが完成し、これをシンオウ地方を初めとした全ての人とポケモンに接種できれば。

 そうすれば、悪夢を見はすれど、必要以上に苦しむ者も、死ぬ者も出なくなる。

 世界中の生き物が、彼の力への抵抗力を身につけさえすれば。

 そうすれば、もう一度、彼が受け入れられる。

 もう二度と、彼は苦しまずに済む。

 新月島に、閉じこもらずに済む。

 

 

 

 



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とある現象に関する記録

 

【200年前のシンオウ地方の伝承と風俗に見る、悪夢の社会的な意味と役割】

 

 

 

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 ―――等の理由から、当時の人々は、悪夢と共存していた事が伺える。

 

 古くからシンオウ地方では、「全てのものには意味があり、役割がある」という思想が深く根付いており(現代においても、その傾向は他の地方より強い)、それゆえ、悪夢にも大きな意味があると考えていた当時の人々は、悪夢をその日の暮らしに取り入れ、常に変化のある生活を送っていたと推測される。

 

 その生活様式が著しく変化したのは、今から約200年前、クレセリアがシンオウ地方に侵入した時期であると考えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2限目 131教室

【神経生理学】

 

 

 

 ……このように、未だに完全に理解するには至っていない『夢』ですが、ここは神経生理学の講義ですので、ひとまず神経生理学的な見解を述べておこうと思います。

 

 睡眠中に脳は、過去に見聞きした情報をジャンルごとに整理します。ジャンルというのは例えば、『友達』『家族』『ポケモン』『恋愛』といったものから、『学生時代』『トレーナー時代』と言ったような過去の記憶まで、様々ですね。

 このようにジャンル分けされた記憶の倉庫から、色んな情報を引き出したり、まとめたりする作業を、脳が睡眠中におこなっているのです。その過程を脳内で再生している状態が、いわゆる『夢』であると、神経生理学的には定義づけています。

 

 したがって、睡眠環境から取り込まれた刺激以外は、体験した事や実際に目にしたものが断片的に組み合わされ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミステリー特集『家族を襲った悲劇 悪夢の正体とは』

 

 

 

「遠いシンオウ地方に伝承があったのを発見したんです。クレセリアというポケモンから得られる『三日月の羽』というアイテムがあれば、悪夢から覚める事ができると」

 

記者 ―――だから、クレセリアを探したと。

 

「はい。シンオウ地方を始め、あちこち。しかし私は間違えていました。娘を助けるために娘の許から離れるのではなく、私はずっと娘の傍にいて、娘に寄り添うべきでした。『三日月の羽』は結局、間に合いませんでしたから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

古い論文の一部

 

 

 

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 ――――となる事は必然と言える。

 

 特筆すべきは200年前、現在ではクレセリアと名付けられたポケモンが、シンオウ地方に住み付き、ほどなくして“クレセリア信仰”と呼ばれる思想宗教が、民衆の間に広まった事である。

 

 クレセリアは生来より、吉夢を見せる力を持っていた。しかし問題であったのは、本ポケモンを信仰する思想が民衆に広がり、それまで何かしらの意味や役割があると考えられていた悪夢、および悪夢を見せる力をもつポケモン(名称不明)が、排除される傾向が著しく強まった事にある。

 

 それまで悪夢は、未来に起こる厄災、身内を襲う不幸など、災いを回避するための予知夢、あるいは占術等としての価値を与えられていたが、クレセリア信仰(悪夢の対照として、吉夢信仰とでも呼ぶべき思想)の台頭と共に、悪夢は文字通り“悪”として、排斥されたのだ。

 

 ポケモンの渡来が、人間の文化や風俗に大きな影響を与える例として、非常に興味深い歴史と言える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるトレーナーの許に送られた留守番電話

 

 

 

 シロナくん、この前送った論文、何かの役に立ったかな。

 昔、鉱石がその土地でどう扱われてたのか、歴史を調べる際に一緒に手に入れてしまったものでね。あまり自分の興味と一致はしなかったけど、面白そうだから持ってたんだ。

 誰か、本当の役に立つ人の許に渡ったのなら嬉しいよ。

 

 

 

 

 

 

 



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とある二人の会話

 

友達とのかくれんぼの最中、とある宿の裏に身を隠してしまった子供が偶然耳にした、宿の中で言い争う二人の声

 

 

 

「お前、分かってたな! 最初から!」

 

「はい、その通りです。おそらく今回の実験も失敗するだろうと」

 

「約束と違う! お前は俺に協力する! そういう約束だろう!」

 

「協力はしているじゃありませんか。魂だけの存在であるあなたに体を貸し、あまつさえ実験が成功するための準備や整備も私がしているのですから。しかし、契約内容でもありました通り、最大協力回数の5回を、あなたはすでに消費しています。これ以上、私は関われません。これは私の個人的な取り決めではなく、『イタコ』としての能力の限界の問題です。それに……成功してもおそらく、意味はないでしょうから」

 

「どういう意味だ!」

 

「時代は変わりません。世間は変わりません。たとえ実験が成功しても、しなくても、生物が悪夢への耐性をもったところで、それで悪夢への恐怖がなくなるわけではありません。これからも悪夢は、悪夢を呼び寄せる存在は、恐れられ続ける」

 

「なぜそれを言わなかった!?」

 

「言ったところであなたは納得をしなかった。それに私は申し上げました。あなたが現世の呪縛から解き放たれるには、あなたが自分自身を許すしかないと。あなたの実験が成功をしても、あなたの本当の望みは叶わない。もうこの時代の、この世界の、風潮は、潮流は、絶対に消えません」

 

「ならなんだ! この先ずっと何年も何十年も! もうすでに百年以上も苦しんでいるのに! ここからさらに何百年も! 彼は! ダークライは! 悪の親玉として祭り上げられるのか! 蔑まれるのか! 恐れられるのか! 近寄るなと煙たがられるのか! あり得てたまるか! そんなことが!」

 

「それを私に言われましても。それに、そういう世界にしたのは、あなたがた『クレセリア信仰』の一族ではありませんか。しかしそれも仕方がありません。誰が悪いというわけではありません。そうなってしまったのは、時代の流れとして、致し方ない事と私は思いますがね」

 

「…………」

 

「とはいえ時間は戻りません。時代はやり直せません。あなたは自分を許すしかありません。少なくとも……あなたの望みは、後世の者に託すしかありません」

 

「……俺は初めから、何もできなかったのか」

 

「いいえ。何もできなかったのではなく、誰かに託すべきでした。自分だけが、自分だけがと閉じこもらずに、誰かと共に歩むべきでした。あなたはそれをしなかった」

 

「……そうか。……なら、分かった。……最後にひとつ、頼みたい事がある」

 

「すでに契約は切れていますが……いいでしょう、私も全力を尽くしてサービスいたします。

 私は、迷える皆様の味方ですので。

 ……ひひひ」

 

 

 

 



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とある男の手紙

 

 

 ここに書かれているのは、死んだ人間の懺悔だ。

 もしこれを読む者がいるなら、そのつもりで読んで欲しい。

 

 

 俺の一族は昔、吉夢を見せるポケモン、クレセリアを信仰対象として崇める一族だった。

 この信仰は、俺の時代では“クレセリア信仰”と呼ばれていた。

 

 

 それまでこのシンオウ地方では、悪夢を日常に取り入れる風習があった。

 悪い夢は、未来で起こる厄災や、身内に起こる不幸を、あらかじめ教えてくれているのだという思想が根付いていた。悪夢を見る事で、人は安心を得て、日々の生活に全力を注げていた。

 そしてそれこそが悪夢を見せるポケモン、ダークライが存在する意味であり、役割だった。

 

 

 そんなある日、このシンオウ地方に、クレセリアがやって来た。

 クレセリアはダークライとは対照的に、心地の良い夢を見せる力を持っていた。

 それ自体は悪い事じゃない。ポケモンが生来持っていた力を恨む事などできない。

 だから悪かったのは、俺の一族だ。

 あろうことか俺の一族は、「クレセリアが見せてくれる吉夢こそが幸せの象徴であり、悪夢は人を怯えさせる不幸の象徴」だと勝手に解釈し、その思想を言い広め、一つの信仰にまで築き上げた。

 

 

 その後の事は、言うまでもない。

 人々は悪夢を恐れ、それを見せるダークライを全力で迫害するようになった。

 そして、それが現代のシンオウ地方を襲う、悪夢災害の始まりだった。

 

 

 当時、この地に住み付いていた多くのダークライは、突然自分たちを迫害し始めた人間に恨みを込めて、あるポケモンを生み出す事にした。

 自分たちの持つ悪夢を見せる力と、人間への憎しみと、そして己の生命エネルギーを全て注いで、ある意味人工的に、一匹のポケモンを生み出したのだ。

 

 

 それが、現代の君たちがダークライと呼ぶポケモンだ。

 彼は、俺の時代のダークライたちが、自分の命を材料にして作ったポケモンだ。

 

 

 彼は生まれた瞬間から、従来のダークライとは比にならない力を持っていた。

 本来ダークライの見せる悪夢なんて、単なる夢以上の意味を持たなかった。しかし常軌を逸した彼の力は、もはや悪夢で生物を殺せるほどに進化していた。

 

 

 彼はこの世に誕生してから、瞬く間に近くにいる人間、ポケモン、全ての生き物を眠りにつかせ、悪夢を見せ、そして殺していった。

 何より悲惨だったのは、彼自身はひどく温厚で、争いを好まない性格だった事だ。

 未だに覚えている。多くの人間たちの死体の中で、ただひたすら己の力が暴走するのを見ている事しかできない、幼い彼の絶望した姿を。

 

 

 俺たちクレセリア信仰の一族は、代々よりクレセリアから三日月の羽を受け取り、その一部を摂取する習慣があった。だから彼の力で死ぬ事はなかった。

 だが、俺の住む町の住人全員が死んだその日、クレセリアは人々の前から姿を消した。

 おそらく、自分の存在が人間たちに利用されている事に気付いたんだろう。

 そして、気付けばダークライもどこかへ消えていた。

 

 

 それから俺は固く誓った。一族の罪と贖罪は、俺が背負うと。

 なんとしてでも、ダークライをこの地獄から救い出すのだと。

 死んで魂だけの存在となっても、絶対にこの罪を償うのだと。

 

 

 俺は数百年も魂となって彷徨い続け、ようやくダークライの居場所を突き止めた。

 そして、降霊術を嗜むある男の体を借り、実験を開始した。

 

 

 俺は、ダークライが悪夢を見せていると思われる者の許へ医者を騙って訪れ、ある薬品を投与し続けた。

 この手紙と共に、その薬品の調合法も記載しておく。

 それは、人間が悪夢から目覚めやすくなる薬、今で言うワクチンのようなものだと思ってくれていい。

 

 

 俺は肉体が死ぬまでの間、漢方の調合師として働いていた。

 死ぬ少し前に、眠りから覚めやすくなる薬の調合法を見つけた。それを応用し、作ろうとしていたのが悪夢ワクチンだ。

 

 

 過去、五回に渡って実験を行った。

 全国各地を回り、ダークライの悪夢にうなされている者を見つけ、試作ワクチンを投与し、記録をつけ、データを蓄積してワクチンを完成させるつもりだった。

 

 

 だが、それも全て失敗に終わってしまった。

 あまつさえ、俺のせいで死者まで出してしまった。

 いいや、そもそも最初から成功なんてできなかったのだ。

 こういう世界に、俺たちがしてしまったから。

 

 

 ダークライは、もう二度とこの世界に希望を持たないだろう。

 というより、最初から持っていなかったのだろう。

 生まれた時からずっと、彼に希望など無かったのだ。

 結果はまさにその通りだった。

 俺は彼に希望を見せてやる事も、絶望から救ってやる事もできなかった。

 俺にはどうする事もできなかった。何もできなかった。

 俺に、許される資格など初めからなかったのだ。

 

 

 もしも、この手紙を読んでいる者の中に、ダークライを救える者がいるとしたら、後の事はお前に託す。

 どうか彼を、救って欲しい。

 

 

 俺は、地獄で罪を償う事にする。

 

 

 

 

 



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とあるポケモントレーナーの記録

 

とある民家を訪れたポケモントレーナーの記録

 

 

 

おとこのこが

くるしそうに うなされている

 

なにか ねごとを いっている……

 

 

「だー……

 だーく……が こっちを みて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか うちの こが

 あくむの とりこに なるだなんて」

 

「ミオにはね むかしっから……

 あくむに はまりこんで……

 めを さまさなくなるって

 じけんが あったんだよ……」

 

「まんげつじまで みつかる

 みかづきのはねが あれば

 めを さますらしい ってきいて

 だんなが まんげつじま まで

 ふねで いったけど

 なんにも みつからなくてさ……」

 

「トレーナーじゃないと だめなのかね

 こういうのって くやしいよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある船乗りを訪れたポケモントレーナーの記録

 

 

 

「あんたが……

 まんげつじまに いってくれるのか?

 

 

▶はい

 いいえ

 

 

「ありがとうな!

 おれの むすこを

 あくむから めざめさせるには

 まんげつじまで てにはいる

 みかづきのはねが ひつよう なんだ!」

 

「だけど おれが いっても

 なんにも みつからなくてよ……」

 

「じゃ いくぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるアイテムを手に入れたポケモントレーナーの記録

 

 

 

「いま あんたが であったのは

 みかづきの ポケモン……

 シンオウかくちを とびまわる……

 そんなはなしをきいたことがある」

 

「おお! その きらめき……

 それが みかづきのはね か!」

 

「よかった……

 むすこも あくむから さめる……」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

男の子を目覚めさせたポケモントレーナーの記録

 

 

 

おとこのこが

くるしそうに うなされている

 

じぶんの もっている

みかづきのはねが かがやきだした……

 

おとこのこの ねがおが

やさしい ひょうじょうに なった!

 

おとこのこは めを さました!

 

 

 

「おお! おきたか!」

 

「よかった……

 ほんとうに よかったぞ……」

 

「ほんとうに ありがとうな!

 あんたのこと いっしょう わすれない」

 

「おまえの げんきな かお みたら

 おれも げんきが でてきた!」

 

「ふなのりの ちが さわぐ!

 おまえら あとで のりにこいよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか みてた……」

 

「こわい ゆめ……

 まっくらな ばしょで

 まっくろの ポケモンがいる ゆめ……」

 

「だけど……

 とうちゃんと かあちゃんの

 こえは きこえていたよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

あるポケモントレーナーの記録

 

 

 

「こんにちは

 プレゼントを おあずかり しています

 こちらを どうぞ!

 

 

メンバーズカードを うけとった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

波止場の宿の訪れたポケモントレーナーの記録

 

 

 

「……いらっしゃい ませ」

 

「…… …… ……

 …… …… ひひひ」

 

「ずっと おまち しておりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるポケモンを捕まえたポケモントレーナーの記録

 

 

 

……どこからか

こえが きこえてくる……

 

 

 

「ダークライ……

 きみの ちからは つよい」

 

「きみが のぞまなくても

 まわりの ひとに ポケモンに

 おそろしい ゆめを みせてしまう」

 

「だから ここに きた……」

 

「しんげつじま…… ここには

 きみいがい だれもいない」

 

「おそろしい ゆめを

 みる ものは いない」

 

「みたとしても すぐ そばに

 まんげつじまが ある……」

 

「…… …… ……

 …… …… ……」

 

 

 

 

 

 

 

 



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いつかどこかで

 

【ポケモンニュース】きとうし・イタコ・サイキッカー オカルト座談会

 

 

 

 こうして満員御礼の中始まったオカルト座談会。まずはお決まりとなった「本当にあった怖い話」を始め、3名それぞれが、特殊な職業ならではの面白い話を語るなどし、例年とは少し雰囲気が変わり、会場が笑いに包まれる場面も。

 そんな中、『イタコ』サワコ氏の語った内容が興味深い。

 

「イタコは、いなくなった方がいいと思っています」

 

 その発言には、リュウゾウ氏はもちろん、長年サワコ氏と連れ添ったムネ氏も驚いていた。

 

「イタコは、死んだ魂と繋がる仕事です。わたしの仕事がなくならないという事は、死者への未練を断ち切れない生者、あるいは、現世への未練を断ち切れない死者が、多くいるという事です。これは、少し寂しい事です」

 

 老若男女問わず、少数の素質ある者達で構成された降霊術師・イタコ。

 そんなイタコに誇りをもちつつも、己の存在意義にはずっと疑問を抱いていたと、サワコ氏は言う。

 

「成仏した霊、彷徨っている霊、色んな霊を降ろしてきましたが、皆、どこか寂しそうです。成仏した方々は、自分を呼んだ生者に対して、『あなたはあなたの人生を歩んで、後ろばかり振り向かないで』といつも言っています。成仏できない方々は、『まだ何もやってない、できていない』と己を責め、悔やんでいます」

 

 イタコの中には、死者や生者の未練の解消を生業としている者もいるようだが、望んだ結果を得られた事は少ないらしい。

 生と死を繋ぐ架け橋であるイタコ。しかしその架け橋は、本当に必要な物なのか。

 あるいはその架け橋とは、未練・後悔・執着の象徴ではないのかと、最後にサワコ氏は観客たちに問いかけた。

 

 己の職業が、死者と生者の未練や後悔で成り立っているというサワコ氏の苦悩は、我々には計り知れないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつかどこかで

 

 

 

 おや?

 あなた、初めてお会いしますね

 どうやらあなたも、この世に未練があるようだ。

 

 どうでしょう?

 私の体、お貸ししますよ。

 何を隠そうこの私、霊を降ろせる体を持っておりますので。

 

 いえいえ、見返りは求めません。

 褒美もいりません。

 私はあなたのような、現世に迷える方々の助けになる事を、至上の喜びとしておりますので。

 

 ……ええ、本当ですとも。

 あなたの現世への未練を断ち切るために、どんな協力も惜しまない事を、固く約束いたしましょう。

 

 その前に、一つだけ忠告させていただきます。

 現世に未練を残した方というのは往々にして、自分で自分を縛り付けています。

 やりたい事がやれなかった、何か大きな遺恨を残してしまった、あらゆる理由があるかと思われます。

 しかしそれらは、最終的には『どうしようもなかった』事が大半です。

 

 現世を去れる一番の方法は、自分を認め、自分を許し、自分で付けた枷を外す事です。

 これは、私が長年に渡り、この役割を請け負っている中で得た結論です。

 それでもあなたは、私の手を取りますか?

 

 ……なるほど。

 それもまた、一つの選択です。

 そうと決まれば私は、全力を尽くして、あなたの未練を断ち切ってみせましょう。

 

 

 私は、迷える皆様の味方ですので。

 ……ひひひ。

 

 

 

 

 



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3:カントー地方にて
とある助手の日記①


 

6月19日

 

 

 マサキ先生がまたポケモンと合体してしまった。

 今回でかれこれ五度目になる。

 今日はゾロアと合体したみたい。

 わざわざイッシュ地方の知り合いに連絡して、野生のゾロアを連れて来てもらったらしい。

 

 本人は「ただの事故だ」なんて笑ってたけど、それは絶対に嘘。明らかにわざと。

 あれってポケモンの虐待になるんじゃない?

 バレたら大変ですよって伝えても、本人は「大丈夫」としか言わない。何も大丈夫じゃない。

 私、ヤバい人の助手になっちゃったのかも。

 もし先生がこれからも一線を超えるようなら、私が止めるしかない。

 必要とあらば、この日記を証拠として警察に提出して、逮捕してもらうしかなくなる。

 そうならない事を祈る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6月20日

 

 

 マサキ先生の助手になって一年が経つけど、未だに彼が何の研究をしてるのか全然分からない。

 ちょっと前までは、ポケモン預かりシステム技術開発の現役トップだったみたいだけど、今では相談役という立場に落ち着いて、開発に直接関わる事はなくなったらしい。

 

 でも研究業から身を引いたのかと思えばそういうわけでもないようで、現在、彼は預かりシステム開発に使っていた実験装置で、別の何かを研究している。

 でも、何を研究してるのかは全く教えてくれない。

「その時が来れば教える」なんていつも言ってるけど、その時がどの時なのかも教えてくれない。

 

 普段はすごくフランクな雰囲気なのに、頑固なくらい秘密主義者。

 研究データの入ったパソコンのログインパスワードも、毎日変えているらしい。

 イーブイ好きのクセに。

 カワイイもの好きの秘密主義者なんて怖過ぎる。あの人は一体なんなの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6月21日

 

 

 今日のマサキ先生。ずっとパソコンを『にらみつける』。

 最近、妙に研究機材の調子が悪いのは、彼がにらみつけ過ぎて防御力が下がったせいだと思う。

 メンテナンスや修理をするのは私なのに。本当に勘弁して。

 今日に至ってはイーブイの世話まで押し付けて来た。

 イーブイはカワイイからいいけど、自分の研究時間が減るのは嫌だ。

 そもそも私は先生の召使いじゃない。

 

 とはいえ、マサキ先生の集中力にはいつもびっくりする。

 今日の先生は朝の8時から夜の7時まで、ぶっ通しでパソコンと睨めっこ。

 何かをメモしては消し、メモしては消しをずっとくり返してた。休んでる姿を全く見てない。

 

 私だけ先に帰ってきちゃったけど、今も先生は、ラボでパソコンを睨み付けているのだろうか。

 何をメモしてたんだろう。

 というか彼は何を研究してるの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6月22日

 

 

 ラボの仲間に、ゾロアが加わった。

 以前、マサキ先生が合体したゾロアだ。

 カワイイ。信じられない。この世のものとは思えないくらい尊い。

 あんな訳分かんない人に無理やり合体させられたのに、全然人間に警戒心を持ってなかった。むしろ人懐っこい。

 

 ポケモン図鑑を見た。ゾロアも進化するらしい。進化した名前はゾロアークだそうだ。

 ゾロアークもカワイイ。大きな毛がフワフワしててとてもいい。あそこに顔を埋めたい。あの毛で全身を包みたい。

 

 話は変わり、今日のマサキ先生。

 今日の先生は『はねやすめ』。昨日頑張り過ぎて疲れたから、今日は一日寝るらしい。

 研究所にいるポケモンは、みんな先生の手持ちだから、今日のラボには私一人。

 ゾロアくらいは私が引き取ればよかった。

 

 先生の使ってる机の上に、昨日先生が色々書いてたメモ用紙が残ってた。

 先生の研究内容を覗いちゃおうと思って読んでみたけど、何を書いてるのか全然読めなかった。数式の意味も分からなかったし、書かれた文字も分からなかった。

 字が下手過ぎる。いくらメモでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6月23日

 

 

 研究がまったく上手くいかない。

 モンスターボールの機能改善をテーマにしてあれこれ頑張ってるけど、未だに何の成果もない。

 ていうか、ポケモンの縮小現象や電子化現象の段階から覚えなきゃいけない事が多過ぎて頭がパンクする。

 修論、後一年じゃ絶対に足りない。

 どうしたらいいんだろうってマサキ先生に相談しても、「楽しもうや」としか言ってくれない。

 ポケモンと合体するのがそんなに楽しいの?

 変態だ。気を付けよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6月25日

 

 

 ラボに入る直前、マサキ先生が誰かと電話してる声を聞いた。

 オーキド先生って言ってたから、多分オーキド博士。ポケモンを研究してるすごい博士。

 結局何を話してたのかは全然聞こえなかったけど、あまりいい雰囲気じゃなかった。

 電話が終わったのを見計らってラボに入ったけど、先生もちょっと元気なかった。

 あの人も落ち込むらしい。新鮮。

 ポケモンと合体したがる変態だと思ってたけど、すごい博士と知り合いだったりするし、余計に訳が分からない。

 ちょっとキモい。

 

 

 



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とある助手の日記②

 

7月13日

 

 

 今日、お客さんが来た。幼い女の子だ。

 マサキ先生に『治療』を頼みたいらしい。

 実は私が知らなかっただけで、以前から先生は、その子と何度か連絡を取り合っていたようだ。

 そうして近々、タマムシ病院と手を組んで、いよいよその『治療』が始まるらしい。

 私、何も聞いてない。そういう大事なことは早く言って欲しい。

 治療をするのはその女の子じゃなく、その子のお母さんだった。

 とある財団に所属してる、アローラ地方の人らしい。

 

 話を聞くと、なんとその患者さんは、「異世界からやって来たポケモンと融合して、その影響で肉体が衰弱してる状態」だと言う。

 より具体的には、そのポケモンから生成される『神経毒のようなもの』が、患者さんの体に悪影響を与えてるんだとか。

 でも未知の神経毒には医者もお手上げで、他に頼る人がなくなった娘さんは、「ポケモンと融合した事がある」って共通点から、マサキ先生を頼る事にしたようだ。

 まだ若いのにすごい行動力。

 

 本格的に人体に関わるのは初めてだから、マサキ先生も珍しく緊張してた。

 いつもポケモンと合体してるような変態だけど、今回ばかりは先生の事を信頼しようと思う。

 お母さんを助けたいっていう女の子のためにも、私も全力を尽くそうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月14日

 

 

 今日からはこの日記は、経過観察の記録としても使おうと思う。

 

 患者の女性がラボに運び込まれた。患者の名前はルザミーネさん。

 とても綺麗な人だけど、なんとなく全身が痩せている。手首も変に細い。肌色も明らかに悪い。「衰弱してる」って表現が、この上なく合っている。

 その状態になってから、すでに一ヶ月が経過しているそうだ。

 

 意識はある。こちらの声も届いてる。でも体を動かすのが辛いらしい。

 息が細い。割と喋れる。でも時々、呂律が回らなくなる。

 発汗や痙攣はない。息切れもない。病というより、極限まで体力が落ちた高齢者に雰囲気が近い。

 このままだと心臓の運動も停止する可能性がある、というのが医者の見立て。

 

 今日はルザミーネさんの体の診断と、医者と計画のすり合わせがメイン。

 明日から本格的な治療に移る。

 まずはポケモン転送装置を使い、ルザミーネさんの体内にある神経毒を『ポケモンの一部』として設定し、体外に摘出できないかを試すようだ。

 

 マサキ先生が話している間、娘さんとお話をした。リーリエちゃんと言うらしい。

 話せば話すほど、彼女の人の好さが伝わって来る。

 母親想いの良い子だった。

 彼女のためにも、ルザミーネさんは絶対に治したい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月27日

 

 

 いつかこの日記と観察記録を見返す際は、当時のカルテも一緒に見る事をおすすめする。

 

 結果から言えば、ルザミーネさんは呆気ないほど簡単に治った。

 彼女の体から神経毒が抜けたからじゃない。

 絶対に自慢はできないけど、私が転送装置の操作をミスしちゃった事が、むしろ彼女の体の治療に繋がったらしい。

 反省もこめて、ここに記す。

 

 

 

 私は17日、ルザミーネさんを転送装置に入れた状態で、『ポケモンのみの転送』を行うつもりだった。

 人体のみが入っている装置に『ポケモンのみの転送』を行って、彼女の体内の神経毒だけを抽出できないか、という試みだった。

 でも、初めて外部の人間に装置を使う緊張感で、私は間違えて『装置内の全生物の転送』の操作をしてしまった。

 

 正直、このミス自体に実質的な被害はない。物体が装置から別の装置に転送されるだけだから。

 だけど、生物の体を扱う者として、こういう小さなミスこそあってはならない事だ。

 猛省しなくちゃいけない。

 

 

 

 話は変わって、ルザミーネさん。

 私のミスで装置から装置へ転送されたルザミーネさんは、どういうわけかその瞬間から、体の調子が元に戻ってしまったのだ。

 彼女の体を蝕んでいたダルさや、筋肉の機能不全など、その他数点の症状が、唐突に治ってしまったのだ。

 

 回復の原因は今でも不明。私もマサキ先生も色々調べてみたけど、一体何が起きたのか全然分からなかった。

 

 一方のルザミーネさんは、17日を境にどんどん回復して、一週間後の24日にはタマムシ病院で検査入院&筋力回復のためのリハビリをする事になった。

 と言っても、ルザミーネさんはもう入院する必要もないくらいに元気を取り戻しているようで、彼女は27日現在、車椅子で病院内を爆走しているらしい。

 

 けど、治ったから良しというわけにもいかない。

 そもそも本当に治っているのかもまだ分からない。なにせ全部が原因不明なんだから。

 彼女が元気になった原因が分かるまで、油断はできない。

 けど、あれからずっとルザミーネさんが回復した原因を調べても、全く何も分からない。

 あの日、私は何をしてしまったんだろう。

 

 

 

 それを言うなら、ポケモン転送装置って一体なんなの?

 マサキ先生が言うには、そもそもポケモンの転送技術自体、偶然の産物らしい。

「原理は不明だけど、これをすれば確実にこうなる」って現象を、技術として応用したのがポケモンの預かりシステムだと言う。

 そんなものを他人の治療に使ってたのかって怖さもあるけど、先生は全く気にしてなかった。

「世の中なんて元から訳の分からんものでいっぱい」だそうだ。それとこれとは話が違う。

 

 

 

 これは邪推になるかもしれないけど。

 多分、先生はとっくに、何かに気付いてるんじゃないかって思う。

 ルザミーネさんが治った理由にも、ポケモン転送技術の原理にも。

 回復したルザミーネさんの体を診てた時、先生の目が見た事ないくらいキラキラしてた。

 あれは研究してる時の目じゃない。何かを発見した時の目だ。

 尋ねてみたら、何か教えてくれるかな。

 やっぱり私には、何も教えてくれないのかな。

 いつもみたいに「その時が来れば」って言わそうな気がする。

 いつよ。その時。

 

 

 



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とある助手の日記③

 

7月30日

 

 

 6月25日にマサキ先生が電話をしていた相手は、やっぱりオーキド博士だった。

 ラボに留守電が入ってた。

「話したい事があるから会えないか」ってメッセージ。

 あんなすごい博士から会いたがられるんだ。

 最初は、私の研究と関係ありそうな設備と実験室を探してたら偶然出会った人だったけど、もしかしたらマサキ先生って、本当にすごい人なのかもしれない。

 

 今日は、ラボにもう一匹ゾロアが加わった。

 まさかまた先生がイッシュ地方から連れて来たのかと思ったけど、先生は頑として「違う」って言ってた。

 じゃあどこから来たのかって訊いても、全然答えてくれなかった。

 でもゾロアは、この辺だとイッシュ地方にしかいないポケモンだし。

 野生のポケモンの場合、地方を越える時は色々手続きが必要のはずだけど。

 まさか密入?

 私はそろそろ、あの人を通報しなくちゃいけないかもしれない。

 

 新しいゾロアは、先輩ゾロアと仲が悪い。

 どうしたら仲良くなってくれるのかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月3日

 

 

 リーリエちゃんがラボに来た。

 どうやら数週間後、アローラ地方に帰るらしい。

 お母さんの体は、もう何の心配もないくらい元に戻ったようで、彼女もとっても嬉しそうだった。

 

 今日、正直に打ち明けて、謝った。

 あの日、本当は装置の操作を失敗してしまった事。お母さんが治ったのは結果論だった事。

 それでもリーリエちゃんは、ありがとうって言ってくれた。

 とても嬉しかった。

 もっとしっかりしようと思う。まだまだ研究者としても人間としても未熟だ。

 私も頑張る。

 

 

 

 一つ心残りがあるとすれば、ルザミーネさんが回復した理由が未だに分からない事。

 回復したルザミーネさんは、お礼かつ研究支援として、すごい額のお金を振り込んでいってらしい。

 なんちゃら財団の所属って本当だった。ルザミーネさんもすごい人だった。

 その支援金を使って、研究設備をもっと改良する予定だとマサキ先生は言っていた。

 今までの設備じゃできなかった事もできるようになるらしい。

 これでルザミーネさんが治った原因が分かればいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月4日

 

 

 最近、本当に機材の調子が悪い。6月が始まったあたりからずっと。

 なんなの。

 マサキ先生は全然機材の調整してくれないし。私ばかり機材のメンテをしてる。

 私には私の研究があるのに、時間がどんどん別の事に割かれてく。

 新しい機材を発注したら、色々と楽になるのかな。

 

 そして今日になってもまだ、二匹のゾロアが全然仲良くしてくれない。

 何が原因なんだろう。

 私はポケモンにあまり詳しくないから、少し困ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【速報】停電情報

 

 8月20日午後10時15分頃、カントー地方一部で大規模な停電が発生し、翌日1時に復旧した。

 カントー電力によると、とある研究施設にて、想定外の電力消費があったとの事。

 詳細は現在も調査中。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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とある助手の日記④

8月25日

 

 

 

 まだ頭の整理がつかない。

 まとめるためにここに書く。

 

 8月20日、マサキ先生が消えた。

 どこに行ったのか全然分からない。

 その日の夜、マサキ先生はすごい出力でポケモン転送装置を使った。何が原因なのか、カントー全体の電力が転送装置に吸われていったらしい。

 普通の転送じゃ絶対にそんな事起きない。

 マサキ先生が何かした。でも何をしたのかは分からない。

 関係あるかは分からないけど、ゾロアも1匹消えた。

 どこに行ったのか分からない。

 

 

 警察も来た。

 警察は、停電を起こした責任追及に恐れて逃げたって言ってたけど、絶対違う。先生は転送装置を使って消えた。

 パソコンが起動してた。転送装置の制御画面だった。

 

 他にも色んな資料を勝手に覗いてみたけど、やっぱり何が書かれてるのかさっぱりだった。

 資料にまとめられてる内容も、私じゃ理解できなかった。

 パスワードで開かないようになってるフォルダもいっぱいあった。

 先生が何をしたのか、何をしようとしてたのか、本当に分からない。

 

 

 オーキド博士とその助手たちも来てくれた。

 オーキド博士も、マサキ先生は転送装置のせいで消えたって言ってた。

 博士はマサキ先生が何の研究をしていたのか知ってるみたいだった。

 でも、教えてくれなかった。今は駄目らしい。

 私だけ何も教えてもらえない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8月26日

 

 

 

 転送装置が原因なのは間違いないらしい。

 でもどこに転送したのかは分からない。

 マサキ先生は自分自身をどこかに転送した。

 事故の可能性もある。

 

 消えたゾロアの話をオーキド博士にした。

 何か関係あると言っていた。

 でもそれ以上はオーキド博士も分からないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

9月1日

 

 

 

 頭がおかしくなりそう。

 誰に何を言ってもスッキリしない。

 多分、ここに何を書いてもスッキリしない。

 でもどこかに吐き出さないと、もっと訳が分からなくなる。

 

 

 

 最初から間違えてたのかもしれないと思い始めた。私がマサキ先生に関わったところから。

 私が先生に関わったせいで今回の事件が起きたんじゃないかとすら思う。

 多分違う。私のせいじゃない。マサキ先生が勝手にやった事だと思う。

 でも私のせいじゃないかって、変な焦りばかり募って来る。

 

 本当は私なんか、先生の助手をする権利もなかった。

 卒論なんて適当にやってたら大学で最優秀賞をとっちゃって、調子に乗ってた。

 院に行こうと思ったのだって、就活が面倒だっただけ。

 院試だってほとんど儀式的なものだった。ちょっとプレゼンをすれば合格できた。何の努力もしてない。

 

 院に進んだら、周りの人達が凄すぎた。

 院に進む人って、誰も彼も就活が面倒で楽をしてるだけの人だと思ってた。全然違った。

 卒論の時から特に勉強してなかったら、院の人達と比べればほとんど無知なようなものだった。

 

 何も知らない状態で、専門家たちの場所に放り込まれて、不安でどうしようか悩んで、よく分からずモンスターボールの機能についてを題材にしちゃうし、でもこれといった専門知識もないから、それっぽい人を探してたまたまマサキ先生を見つけて。ポケモン預かりシステムの関係でモンスターボールも少し齧ってるからって、そのまま彼のラボを借りて研究の真似事して。

 

 

 最初から全部間違ったような気がする。

 私が関わったせいで、なんかよく分かんないけど因果みたいなのがグルグル巡って、今回の事件が起きちゃったんじゃないかって。

 オーキド博士たちは、そんな事ないって言ってくれたけど、もう全然分からなくなる。

 

 書いても全然スッキリしない やめる

 

 

 

 



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とある助手の日記⑤

 

9月30日

 

 

 

 日記をつけてて本当に良かったと思う。

 私の日記がちょっとだけ役に立った。

 

 昨日、マサキ先生が帰って来た。

 ポケモン転送装置から突然現れた。

 

 日記を読み返していて、そういえばかなり前から転送装置も含めた研究機材がやたらと不具合を起こしやすくなってた事を思い出した。

 なんでそれをオーキド博士に言ったのかは覚えてない。

 何の手掛かりもなくて焦ってたから、何でもいいから言ってみようと思ったのか。

 でもそのおかげでオーキド博士は何かに気付いて、ポケモン転送装置を常時ずっと起動し続ける事を思い付いたらしい。

 これが一週間前。

 

 そして昨日、マサキ先生が転送装置から現れた。

 私は何が起きたのか分からなかったけど、マサキ先生とオーキド博士は、何か知ってるみたいだった。

 マサキ先生からありがとうと言われた。私が命の恩人なんだって。

 あの人からお礼を言われるの、初めてかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10月4日

 

 

 

 今日判明した事がある。

 どうやら私は自分が知らないうちに、とんでもなくヤバい事をしでかしていたらしい。

 私はルザミーネさんに、思ったよりひどい事をしていたみたい。

 

 

 マサキ先生が教えてくれた。

 私は転送装置の操作をミスして、彼女を装置から装置へ転送しただけだと思ってたけど、実際は違っていた。

 私はあの時、『装置内の全生物の転送』と『ポケモンのみの転送』を同時に行っていたのだ。

 この二つは似ているようだけど、全く違うシステムが働いてる。同時に行おうとすれば致命的なエラーが出る。

 で、実際にエラーが出た。その結果、ルザミーネさんの体が治ったのだ。

 正確には治ったわけではないけど。

 

 

 転送装置は物体を転送させる時、まずは物体を「物体の情報を保持した粒子」に分解して、それを電波通信を利用して遠距離に送り、送った先で粒子を元の形に再構築するのだという。

 これは人間だろうがポケモンだろうが同じらしい。

 問題はこの再構築の際に、私の操作ミスのせいで大きなバグが起きてしまった事だ。

 ルザミーネさんの体が再構築される時、どうやら『ポケモンの毒も肉体の一部』と装置が認識してしまったらしく、彼女の肉体は『毒に侵された病体』ではなく、『毒も含めた状態がデフォルト』として再構築されてしまった。

 

 

 ルザミーネさんが元気を取り戻したのはそれが原因だった。彼女の肉体は今、「体内に特定のポケモンの神経毒を含んでいる状態が最適になる」よう、組成そのものが変化してしまっている。

 毒が肉体の一部になった事で、毒が体を攻撃する事も、そして体が毒への拒絶反応を起こす事もなくなった。

 

 

 私は、とんでもない事をしていたらしい。

 肉体組成の再構成なんて、私はあまり生物に詳しくないから何が何やらで実感が湧かないけど、でも多分、すごくダメな事をしてしまったという確信がある。

 人がやっていい事の範疇を越えてる。

 それに伴って、もう一度ルザミーネさんをアローラ地方から呼んで来て、検査をする羽目になった。

 どう謝ったらいいのか、全然思いつかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10月7日

 

 

 

 タマムシ病院でルザミーネさんの体を検査したけど、異常は見られなかったらしい。

 彼女に事の次第を全て説明した。私がしてしまった事も全部。

 それでもルザミーネさんは、怒るどころかさらなる研究支援をしようと言ってくれた。

 

 どうやら彼女の所属する財団は、傷付いたポケモンの保護を一番の目的にしているらしく、今回私がやってしまった「肉体再構成による病や傷の治癒」を、良い方向に応用できないかという狙いらしかった。

 

 本当に申し訳ないけど、お断りするしかなかった。

 体が治ったのは結果論だ。逆にもっとひどい事になっていた可能性もある。

 この現象を研究する事自体が危ない。

 

 

 とりあえず、彼女の体に異変がないのだけが不幸中の幸いだった。

 これからも定期的に検診する必要はあるみたいだが、そんなに難しい検査は必要ないから、地元のアローラでの医療施設でも構わないらしい。

 

 話は変わってしまうけれど。

 今度、色んな事が落ち着いたら、マサキ先生から全部教えてくれる事になった。

 先生が何を研究してたのかも。

 そしてあの日、なんで消えちゃったのかも。

 あんなに聞きたいと思っていた話が聞けるのに、今はちょっとだけ、聞くのが怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

10月18日

 

 

 

 ラボにある研究機材のほとんどを、他の地方のシステム管理会社に受け渡す事が決まった。

 決めたのはマサキ先生本人。しばらく研究業から身を引きたいそうだ。

 今回の件で、先生は完全に懲りたらしい。少しの間、頭を冷やすと言ってた。

 何に懲りたのかは分からない。そもそも私は、彼が何の研究をしていたのかすら知らない。

 

 

 先生は自分の研究を諦める代わりに、私の研究の手伝いをしてくれる事になった。

 立場が反対になった。これから先生が私の助手になる。

 あまり喜べない。

 研究を続ける覚悟が自分には足りないって気付いてしまった。

 それになにより、私はルザミーネさんやリーリエちゃんに、何かひどい事をしてしまったような気がして、完全に自信を失ってしまった。

 

 でも、やってしまった事は戻らない。

 私ができる事と言えば、ルザミーネさんが振り込んでくれた支援金を、どうにか何かの役に立つような使い方をするしかない。

 それが、彼女の気持ちを裏切らない方法だから。

 もっと研究を続けなきゃ。でも自信が湧かない。

 研究を続けるためにも、しばらく私も休学する事も考えたい。

 

 

 

 日記には書かなかったけど、実は昨日、先生は私に全てを話そうとしてくれた。

 自分の研究の事。あの日の失踪事件の事。そしてその他にも、私に言わなきゃいけない事もあるらしかった。

 

 でも、私の方から断った。それを聞くのは早過ぎると思った。

 正直に怖いと思った。

 彼が何を研究していて、その結果何を見たのか。それを知った時、なんだか先生を見る目が変わってしまうような気がして。

 

 なんとなく直感している。先生と私は多分、踏み込んじゃいけない所に踏み込んだ。

 研究者であろうとなかろうと、絶対に入ってはいけない領域に。

 私はまだ未熟だから、それを知ったら多分、彼も自分も許せなくなるかもしれない。

 だから、先生から話を聞くのは、もっと成長してからにしようと思う。

 

 

 この日記を読み返している自分が、どんな事実でも受け入れられるほど成長している事を願う。

 まだページは余ってるけど、切り替えの意味も込めて、これからは新しく買ったノートに日記を書く。

 余ったページは、計算用紙にでも使おう。

 

 

 

 

 



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とある開発者の手紙

 

 

オーキド先生へ

 

 

 マサキです。

 本当はしっかりお会いして話をしたいのですが、僕の方が色々な用事が重り、しばらく直接お会いする事ができなくなりました。

 手紙という形になってしまう事を、ご容赦ください。

 

 

 改めて謝罪します。本当に申し訳ございませんでした。

 あの時の自分は、どうかしていたとしか思えません。完全に常軌を逸していました。

 研究者として、人間として、越えてはいけない一線を何度も越えました。

 

 助手の子にも大きな迷惑をかけました。

 しばらく研究からは手を引きます。あるいは、助手の研究の手伝いが終わったら、そのまま研究業を引退しようと思っています。

 償いや反省以前に、僕の性根が、開発者や研究者としての道徳から大きく外れてしまったように感じています。このままでは同じ事を繰り返すかもしれません。

 これからどうするか、模索していくつもりです。

 

 

 まずは巻き込んでしまった責任として、なぜ今回の事件が起きたのか、そのあらましをお伝えします。

 オーキド先生にも以前、電話でお話しましたね。あなたを怒らせてしまったあの研究内容です。

 より詳細にお伝えしようと思います。

 

 

 

 

 

 

 僕が研究していたのは、ご存知の通り『ポケモンの増殖技術』です。

 昔、オダマキ先生が語ってくれた話、覚えていますか?

 

 ホウエン地方のポケモン預かりシステムが何らかの不具合を起こし、ボックス内でポケモンが何匹も複製されてしまった『ポケモン増殖事件』の話です。

 あの事件の収拾には、僕も関わっていました。

 そして関わっていく中で、預かりシステムによってポケモンがコピーされる現象に、徐々に興味をもち始めました。

 本格的に増殖現象を研究し始めたのは、ここ二、三年です。

 

 

 最初は正義感でした。

 この増殖現象を応用すれば、近い将来訪れる食料難や、資源不足による貧困なども解消できるんじゃないかと。

 しかし研究すればするほど、興味は加速し、当初の目的も忘れてしまいました。

 この一年はもっぱら、人間とポケモンを体を使った動物実験ばかりを繰り返していました。

 そして数ヶ月前、増殖現象の再現をついに成功させました。

 

 

 僕のラボにいたゾロア、覚えていますか?

 あの子、実は一時期、二匹に増えていたんです。

 ゾロアを使い、増殖実験を行いました。ホウエン地方で起きた事件の再現です。

 結果は成功です。どんな操作をすればポケモンが完全にコピーされるのか、全てデータに残しました。

 増殖のみならず、増殖したポケモンを再び一匹に戻す実験も成功していました。

 ラボにいた一匹のゾロアは、二匹に増殖した後、元の一匹に戻った個体です。

 

 

 増殖実験成功のきっかけは、僕の助手でした。

 ルザミーネさんの治療中、彼女が転送装置の操作を誤り、それによってルザミーネさんの肉体組成が変化してしまったのが、大きな手掛かりでした。

 

 俗な言い方をすれば、『バグ』でしょうか。

 転送装置の、ではありません。この世界そのもののバグです。

 

 本来、転送装置の操作をミスしたからと言って、人間の肉体組成が変化するなんて現象が、この世の物理法則上、起こるはずがないんです。

 しかし、僕の助手はそれを成し遂げてみせた。

 この世界の法則には抜け穴があると、僕はあの日、初めて気付いたんです。

 

 

 

 それからは、転送装置にあえてエラーを起こし、どんなバグが発生するかばかりを研究しました。

 その中で、決まった手順を踏むと物体が増殖する事に気付きました。

 初めは植物で実験していました。

 あのゾロアが、初めての動物実験の成功例です。

 

 先生が怒るのも無理はありません。

 明らかに、僕のした実験は生命の冒涜であり、この世の理を超えた行為でした。

 

 

 

 

 

 しかし、僕の好奇心はその実験を境に、さらに暴走しました。

 動物や植物までも自由に増殖・組成変化・合体できるなら、この世界そのものを自由に改変できるんじゃないかと、悪魔のような事を思い付いてしまいました。

 

『世界シミュレーション仮説』をご存知ですか?

 この世界はコンピューター上のシステムが作り出した仮想世界である、という仮説です。

 

 当初は眉唾ものと思っていましたが、増殖実験を繰り返すうちに、あの仮説が真実ではないかと思い始めていました。

 そして、所詮はシステムなら絶対に介入し、干渉できる。そんな夢のような妄想に取り憑かれる事となりました。

 それと同時期です。

 僕は実験中、不可解な現象と遭遇しました。

 

 

 

 ある手順に従って転送装置を起動すると、転送したはずの物体が、忽然と姿を消すのです。

 データ上では明らかに転送が完了しているのに、転送先に指定した場所に、いつまでも転送物が現れないのです。

 物体が完全に消滅するのです。

 

 普通はあり得ません。この世は常に、エネルギーにも質量にも保存法則が働いています。

 しかし、それを無視して物体が、質量が、エネルギーが消滅する。

 まるでこの世界の抜け穴を通って、『向こう側』へ行ってしまったみたいに。

 今にしてみれば、馬鹿げた妄想です。

 しかし、その頃の僕は自分の妄想を止める事もできなくなっていました。

 

 

 それが、僕が一ヶ月以上に渡って姿を消した原因です。

 物体消滅実験を、自分の体で試しました。

 その際、なぜか町中が停電になったと聞きましたが、そればかりは本当に原因が不明です。

 あの時の出力は、決して停電するほどの電力を使うような強度ではなかったはずです。

 

 

 

 

 

 

 ともかく僕は、一度消滅しました。

 その後の事をどのように語ればいいのか、まだ分かりません。

 不思議な体験でした。まるで夢を見ているみたいに支離滅裂で、意味不明な感覚です。

 

 

 僕は全てにいました。

 意味が分からないと思うでしょうが、感覚的にはそう表現するしかありません。

 とにかく全てです。

 全ての大陸、全ての地方、全ての森、全ての海。そして全ての平行世界。

 こことは違うポケモンの進化形態が存在する世界。

 あるいは、この世界とひどく似通っているが、何かが少し違う世界。

 たとえば、ルザミーネさんが異世界のポケモンと融合しなかった世界。

 そういう全てを、一瞬で感じ取れる。そしてその一瞬が永遠に続く。そんな『どこか』を、僕は漂っていました。

 

 

 帰りたいと思っていました。

 でも、まるで壁に弾かれるように僕は「その場所」から出る事ができませんでした。

 多分、扉が閉じていたからです。

 ここでいう扉は、おそらく転送装置です。

 オーキド先生が転送装置を常時起動させ続ける事で、扉を開きっぱなしにしてくれなければ、僕は帰って来れなかったでしょう。

 

 助手が書いていた日記が手掛かりだと聞きました。彼女にも、頭が上がりません。

 本当は、彼女にもこの話をするべきなのですが、彼女の方から聞く事を断られました。

 

 

 

 

 

 

 最後に一つだけ、オーキド先生に報告したい事があります。

 これも、助手の書いていた日記が手掛かりでした。

 

 

 実は6月初め頃から、僕のラボにある実験機材が、妙に不具合を起こすようになっていました。

 ただ機材が古くなっただけと思っていたのですが、どうも違うようです。

 データを調べてみてようやく気付きました。

 

 

 どうやら一年前から、ポケモン転送装置が僕の知らない時間に何度も起動していたようでした。

 実験時間は必ず別の文書資料にメモを取るようにしているので、その時間と照らし合わせてみましたが、どう考えても合致しません。

 あの転送装置は、僕らがいない時間も独りでに起動し、『何か』をコチラへ転送し続けていたんです。

 

 

 それが何かは全く分かりません。

 そして、転送されて来た『何か』は一体どこへ行ってしまったのか、それも不明です。

 分かった事は一つ。転送装置が僕らの想定を超えて何度も起動していたために急激な負荷がかかり、不具合を起こしやすくなっていた、という事だけです。

 

 

 

 

 

 

 言い訳のように思うかもしれませんが、自分が自分じゃなくなったような感覚です。

 好奇心のタガが完全に外れていました。

 この一年、僕は見えない何かにずっと甘い言葉を囁かれているような、夢見心地な気分でした。

 

 

 あるいはそれこそが、転送装置から送られ続けた『何か』の正体だったのかもしれません。

 扉の向こうから、誰かが僕に向かって、ずっとそれを転送し続けて来たのかもしれません。

「やってみたいだろう」「試してみたいだろう」「見てみたいだろう」「知りたいだろう」という際限のない欲求。

 世界の抜け穴を知って、普通ではできない事をしてみたいという欲求。

 つまり、好奇心です。

 

 

 覚えがあります。

 昔やってたゲームで、バグを利用した裏技を知って、とっても興奮した時の事。

 あれと全く同じ感覚でした。

 

 

 

 

 

 

 すみません。まだ妄想癖が抜けていないようです。

 諸々の事情が片付き次第、すぐに先生の許へ伺います。

 そして、直接謝罪させてください。

 

 

 此度の一件、本当に申し訳ございませんでした。

 そして助けてくださり、ありがとうございました。

 助手の子には、彼女の研究を精一杯手伝うという形で償おうと思います。

 責任を、しっかり果たします。

 

 

 

 

 

マサキ

 

 

 

 

 

 



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Re:シンオウ地方にて
とある考古学者のボイスレコーダーⅠ


 

20XX/8/21 15:31 録音時間00:04:31

 

 

 

 8月21日、15時31分、記録者シロナ。

 

 信じられないものを発見したわ。今日から音声記録をつける。

 これから何か進展があるたびに、記録を残そうと思う。

 日付と時間はリアルタイム。進展があったその日その時間を指す。

 音声データは、あとで文書の方にもまとめておく。

 

 

 ……本題に入る。

 カンナギタウンの洞窟の中にある壁画の奥から、もう一つ、全く別の壁画が出て来た。

 

 もともと壁画には崩れないように舗装を施していたけど、四日前の大きな地震で、舗装もろとも崩れちゃったみたい。

 その崩れた壁の奥から、見た事もない壁画が出て来た。

 ……どうなってるのかしらこれ。洞窟の壁が二重になってる。

 あたし達が今まで見ていたのは、外側の壁。その奥にも壁があって、そこにも絵が描かれてる。

 写真を撮ったわ。画像データは、あとで文書の方にも貼り付けとく。

 

 

 ……壁はしっかり作られてた。そう簡単に壊れないようにしっかりと。

 だからこの外側の壁は、内側の壁を完璧に覆い隠すつもりで作られたものだわ。

 そして内側の壁画は、初めから後世の人に見せるつもりがなかったもの。

 あるいは、一度壁画を描いたけれど、何か見せられない理由ができて、壁画の上にもう1枚壁を無理やり作って、この壁画を覆い隠した。

 ……何のために?

 分からない。

 

 …………。

 今から調査を続ける。

 考察は、今夜にでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX/8/21 20:03 録音時間00:07:53

 

 

 8月21日、20時3分、記録者シロナ。

 

 15時半頃か18時まで調査を続けたけど、それ以上の発見は無かった。

 壁画も、写真に収めたものが全て。それ以外は何も出て来なかった。

 

 ……この絵は何なのかしら。

 もともと洞窟の壁画には、3匹の謎のポケモンが描かれていたけど、内側から出て来た壁画には、その3匹は描かれていなかった。

 描かれていたのは全く別のものよ。

 ……これは何なの? 全然分からない。

 描いたのが大昔の人だからって、ここまで特徴が掴めない事ってある?

 

 

 巨大な『球体』よ。

 壁の中央に、何か……とにかく大きな『球体』が描かれてる。

 ボールっていうよりも、『ボール型に凝集した謎のエネルギー体』みたいなイメージ。

 その『球体』の下に、人が立ってる。

 二人だけ。

 

 

 ……何を表してるの? この壁画。

 一つの『球体』と、二人の人間を描いた絵……。

似たような壁画ならいくつか見た事がある。当時の王様と王妃が描かれたものとか、邪悪な何かに立ち向かう勇者達の英雄譚を絵にしたものとか。

 そういうのを絵に表した壁画ならよく見るの。

 一つの何かと、少数の人間、みたいな構図。

 

 

 ……でも、多分この壁画は違う。当時の記録とか英雄譚とかとは、絶対イメージが合わない。

 そもそも『球体』が何を表してるのか全く分からない。

 邪悪な雰囲気もあるし、神聖な何かって感じもする。

 こういう壁画って分かりやすく描く事に意味があるのに、これだけすごく抽象的。

 

 ……いいえ、これだけじゃないわ。下の2人の人間もすっごくあやふや。

 人型のシルエットだけしか描かれていないから、男か女か、年寄りか若者か、どういう立場の人間なのかもさっぱり分からない。

 

 この『球体』に立ち向かってるようにも見えるし、『球体』を崇めてるようにも見える。

 ぼんやり見てるとただの集合写真みたいにも見える。それくらい無個性っていうか……ただ描いただけって感じの壁画。

 それにしたってこれ、誰が何をしている瞬間を描いたものなの?

 

 本当に起きた出来事を描いてるにしては曖昧過ぎる。

 大昔の芸術家が好きで描いただけの作品にしても、モチーフもコンセプトも見えないし。

 

 …………。

 ……訳が分からなくなってきた。

 

 続きはまた今度。

 進展があれば、記録を残す。

 

 

 



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とある考古学者のボイスレコーダーⅡ

 

20XX/8/24 10:17 録音時間00:01:19

 

 

 

 8月24日、10時17分、記録者シロナ。

 

 今、業者の人達が洞窟の解体工事を進めてる。

 カンナギの洞窟の壁は、内と外の二重構造になっている。先日の地震で外側の壁の一部が壊れたのだけど、変に残していてもまた崩れる危険性があるから、外側の壁は、もう全部壊してしまおうという話になった。

 ちょっと名残惜しいけれど……仕方ないわね。元々あった壁画も壊れちゃったし。

 

 業者の人達には、「くれぐれも内側の壁画には傷を付けないで」と念を押しておいた。

 元シンオウチャンピオンとしての力とコネも見せつけて来たから、しっかり言う事を聞いてくれるとは思う。

 壊しやがったらどうしてくれようかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX/8/24 11:10 録音時間00:01:44

 

 

 

 同日11時、シロナ。

 急いで記録してる。洞窟の中よ。何これ……。

 外側の壁は全部壊したけど、その内側からまた壁画が出て来た。

 っていうよりこれ……。

 

 洞窟の外周全体が絵になってる。

 全部よ。余すところなく全部。

 洞窟の中をぐるっと壁画が取り囲んでる。

『球体』だけじゃなかった。もっと細かく色んなものが……一応全部写真に撮ったから、後で文書データにも載せておく。

 

 …………。

 一旦切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX/8/24 18:00 録音時間00:05:56

 

 

 

 8月24日、18時、記録者シロナ。

 

 今回の発見を、簡単にまとめておくわ。

 

 一つ目、洞窟内の壁画。

 洞窟の外周をぐるっと取り囲むように現れた壁画は、あれで一枚の大きな絵だった。

 真ん中に、あの謎の『球体』。

 そしてその真下に、二人の人間。

 さらに衝撃的だったのは、その左右に広がる絵よ。

 これはどう解釈したらいいのか、未だに分からない。

 

 

『球体』の真下に立つ人間。

 その二人を挟むように描かれているのは、間違いない……ディアルガとパルキアよ。

 左右に一体ずつ。

 それだけじゃない。

 ディアルガとパルキアからさらに左右に広がるように、正体の分からない『何か』の絵がズラッと並んでる。

 ……ユクシー・アグノム・エムリットじゃない。ていうか数が多い。

 ……十二匹の『何か』の絵。

 

 二人の人間、その左右にディアルガとパルキア、さらにその左右に正体不明の『何か』の絵。

 それらが横一列に描かれてて、その真上に謎の『球体』。

 ……これが何を表現しているかは分からないけど、考察は後にする。

 

 

 

 二つ目、壁画の中に古代文字を発見した。

 書かれている内容はまだ分からない。あたしが見た事のない文字よ。

 過去に読んだどの文献にも載ってなかった。

 ……シンオウ大学に、古代文明を研究してるヒオウ先生がいた。

 明日、連絡してみようと思う。

 

 

 

 そして三つ目だけど……。

 壁画には、おそらく当時の人々が暮らしていた町の景色が、少しだけ描かれていた。

 けれどこれは……ありえるのかしら。

 壁画に描かれた古代の町の風景。

 でもこれ、多分だけど……。

 背の高いビルがいくつも並んだ、大都市の風景……だと思うわ。

 ……本当に、多分だけど。

 

 

 …………。

 ……この壁画……。

 

 

 ……一応、忘れないためのメモ代わりに。

 後ででいいから、過去に見た遺跡の写真やデータを、もう一度精査しましょう。

 似たような壁画の写真が、確かどこかにあったはず。

 

 



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とある考古学者のボイスレコーダーⅢ

 

20XX/8/25 21:54 録音時間00:06:09

 

 

 

 8月25日、21時54分、記録者シロナ。

 

 ヒオウ先生に会って、話をしてきた。

 カンナギの壁画の話をしたら、自分の仕事を後回しにして会いに来てくれた。ありがたいわ。

 一つ発見があったから、ここに記録しておく。

 

 

 どうやらあの壁画に書かれていた文字は、過去に一度、別の場所で発見された事があるらしい。

 全く同じ形の文字があったから間違いないって、ヒオウ先生もおっしゃっていた。

 

 

 あの文字は古い学者の間で『始祖の文字』と呼ばれていて、一時期すごく話題になったそうよ。

 最初に発見されたのは四十年くらい前。

 ホウエン地方の流星の滝の一ヵ所に、古びた壁画と一緒に書かれていたって。

 壁画の劣化具合から、これまで発見されてきたどの古代文字よりも古いのではないかと考えられた……だから、『始祖の文字』。

 

 でも、誰もそれを研究する事ができなかったらしい。

 流星の滝の壁画は経年劣化が激しくて、ほとんど解析不能。加えて『始祖の文字』もその一ヵ所でしか発見されていなかったからサンプル不足で、研究を断念せざるを得なかったとか。

 

 

 ますますカンナギの壁画の重要度が上がってきたわ。

 もしかしたら、今までにないレベルの発見かも。

『始祖の文字』の解読は、ヒオウ先生が請け負ってくれる事になった。あたしはあたしで、別の角度から壁画を解明しようと思う。

 何か参考になる資料、持ってるかしら。……はああぁぁ……その前に部屋を片付けないと。

 

 

 ……あの壁画、本物のディアルガに見せたら、何か分かったりするのかしら。

 ヒカリちゃん、今どこにいるんだろう。

 呼んだら来てくれるかしら。

 忙しくなければいいけど。

 

 …………。

 

 ……あ。

 今日はもう終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX/8/26 16:18 録音時間00:06:56

 

 

 

 8月26日、16時18分、記録者シロナ。

 

 探してみたけれど、あたしの部屋に参考になりそうなものは見つからなかった。

 探したの忘れて、また部屋を散らかす羽目になるのも面倒だから、一応記録しておくわね。

 ……前にヒカリちゃんに片付け手伝ってもらったのに、また散らかしちゃった……。

 どうしよう……。

 

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 

 ……違和感とか、疑問とか、直感とか、そういうのを忘れないためにこの記録をつけてるから。

 だから一応、この変な感覚も記録しておくわね。

 

 

 

 あたし、あの壁画、どこかで見た気がする。

 でもどこで見たのか全然思い出せない。

 二日前くらいからずっと、変な既視感があったの。

 ぼんやりと、これって見た事あるような気がするって思ってたの。

 ……いつ?

 

 壁画……。壁の奥にも壁があって、そこに壁画が描かれてて……。

 壁画っていうより、このシチュエーションというか、いつだったか同じような事を調べてた気がするの。

 ……いつだったっけ。

 ただのデジャヴ?

 ……全く同じってわけじゃないけど。

 同じようで同じじゃない、似たような事を体験した感じ……。

 

 ダメ、分かんなくなる。

 今日はもうやめ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX/8/28 13:18 録音時間00:07:17

 

 

 

 8月28日、13時18分、記録者シロナ。

 

 まだ進展はないけれど、気になった事があったから記録しておく。

 

 そう言えばあの壁画にも、ギラティナとアルセウスは描かれてなかった。

 やはりあの二体は、シンオウ神話の中でも少しだけ特殊な立ち位置にいるのかも。

 これまで色んな神話を調べてきたけど、その中でアルセウスとギラティナの名前が明確に出て来たのは、ミチーナで聞いた神話以外になかった。

 ミチーナはカンナギ以上に神話と関わりの深い町だから、そこにしか記録がないのかも……。

 

 …………。

 

 今日の記録は、とにかく気になる事を言っていくだけにするわ。

 事実も妄想も関係なくね。

 

 

 

 

 

 歴史や神話を学び始めてから、ずっと疑問に思っていた事がある。

 

「神様はなぜ、人の前に現れるのか」。

 

 神様……ここではディアルガとパルキアに限定しておく。

 彼らはなぜ人間の前に姿を現すのかしら。

 そもそも現れていいものなの?

 時間と空間を司る、ひいては世界創造と深く関わるほどの存在が、人間の世界に干渉する事なんてあり得るの?

 

 その疑問は、ギンガ団の一件でさらに膨れ上がった。

 神様が、一時的とは言えアカギに……人間の手で制御されそうになった。

 それどころか、最終的にはモンスターボールの中に収まり、一人のポケモントレーナーと共に道を歩む事になった。

 

 ヒカリちゃんの持ってるディアルガ、彼の力は本物だわ。この目で見たから間違いない。

 時間を操る力……。

 でも、本当にあれが神様なの?

 世界を創った神様が、人間と肩を並べるなんてあり得るの?

 

 

 …………。

 ここからは、本当にただの、あたしの妄想。

 

 

 人間の前に現れるディアルガ、パルキア……そしてギラティナとアルセウスも。

 彼らは実は、「本体じゃない」のかもしれない。

 ……って、ずっと前から疑ってる。

 

 彼らは神様本体じゃなくて、『神様が人間界に干渉するために使う、アバター、分身、あるいは幻影のようなもの』じゃないかと思ってる。

 

 神様そのものは、ずっと天の上にいて。

 人間と接触する必要に駆られたら、そういう『対人間用の自分の代わり』を用意して、地上に降ろしてるだけなんじゃないかって。

 それが、神話の中で語られるディアルガ、パルキア、ギラティナ、アルセウスの正体で。

 今、ヒカリちゃんのモンスターボールの中にいるものの正体なんじゃないかって。

 

 

…………。

 

 

あたし……。

あたし前も似たような事言わなかったっけ。

……え?

 

 

 

 



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とある考古学者の記憶①

 

20XX/8/29 19:09 録音時間00:04:21

 

 

 

 8月29日、19時9分、記録者シロナ。

 

 文章じゃ無理だった。声で残すわね、記録。

 でも言葉にすればするほど記憶があやふやになるの。

 だからってずっと黙ってると、それはそれで、この感覚が自然に消えていっちゃう。

 ……正直、もう自分でも何を言ってるのか分かんなくなってきてるけど。

 

 あたしはこの壁画を知ってる。気がする。

 同じような事を、いつかどこかで体験した。

 既視感とかじゃない。すごいリアルな感覚でそれが分かる。

 あたし前も何かを調べて、レコーダーに録音して……。

 そこから先は思い出せないけど、でも、同じような事をしていた覚えはある。

 

 カンナギの壁画が崩れたか壊れたかして、あたしが見て、そしたら何かを発見して、録音して、色々考えて……解読……そう、確かその時もヒオウ先生に。

 いつ?

 ……いつの話? これ。

 

 絶対思い出さなきゃいけない気がするの。でも全然思い出せない。

 ちょっとずつ思い出してる感覚はするんだけど、後ちょっとのところで消えちゃう。

 はああああぁぁぁ……。

 どうしたらいいのかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX/9/1 09:00 録音時間00:01:25

 

 

 

 9月1日、9時、記録者シロナ。

 

 今からテンガン山を登って、槍の柱に向かうわ。

 なんだかずっと落ち着かなかったの。この間からずっと。

 今、行かなければならないような気がする。あの場所に。

 

 日を経るごとに既視感がハッキリしてきた。あたしはあの壁画を絶対に知ってる。

 いつどこで見たのかは全く思い出せないけど、でもあたしは、以前も似たような壁画を見て、似たような事を調べてた。

 後ちょっとで思い出せそうなの。喉の奥まで出て来てるの。

 

 その時も多分、行ったんだと思う。槍の柱に。

 何のために行ったのかは全然思い出せないけど、さっきからずっと頭の中にあの場所が浮かんで来るの。

 ディアルガが現れたという、あの槍の柱。

 

 だから行って来る。

 あそこに行けば何か掴める。

 何が掴めるかは分からないけど、何かが分かるはずだって確信があるの。

 なんでかは分からないけど。

 

 

 

 この既視感を絶対忘れないで。忘れないために記録してる。

 忘れそうになったらこの記録を聞いて。

 あとちょっとで手が届きそうな気がするの。もう一度あの時の感覚を思い出せそう。

 

 ……あの時?

 ……いつ……?

 …………。

 何か、黒い……。

 何かが……。

 

 ……懐かしい感じがする。

 やっぱりあたしはどこかで同じ経験をしてる。絶対何かを思い出せる。

 

 行って来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緊急警戒速報が出ました。

 コトブキシティ、ミオシティ、マサゴタウン、フタバタウンに異常現象が発生しています。

 強い地震や異常気象、その他の現象に注意してください。

 くり返します。コトブキシティ、ミオシティ、マサゴタウン、フタバタウンに異常現象が発生しています。

 地震、異常気象等に注意をしてください。

 

 怪我をしないように身を守ってください。

 可能な限り物やポケモンとの距離を取り、その場に留まってください。

 異常現象が収まるまで、落ち着いて、その場から動かないでください。

 

 

 

 先程、緊急警戒速報が出ました。

 コトブキシティ、ミオシティ、マサゴタウン、フタバタウンに異常現象が発生しています。

 異常現象に注意してください。

 

 怪我をしないよう身を―――――――

 

 

 

 

 

 



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とある考古学者の記憶②

 

 

ヒオウ先生

 

 

 お久しぶりです。シロナです。

 シンオウ地方では未だに電波障害が続いています。

 地方外との電話やメールはまだ難しいとの事なので、手紙で失礼します。

 

 

 ニュース等でご存知の事と思いますが、シンオウ地方では9月1日より、例を見ない異常現象が多発していました。

 

 急な地震や雷雨といった異常気象はもちろん、ポケモンが唐突に増殖してしまったり、唐突に人が消えたり、別の場所に現れたり、壁と一体化してしまったり、森林一帯が1日で更地になるなど、正体不明の現象が立て続けに発生し、あたしを含めたリーグ関係者は、現在もその対応に追われています。

 

 しかし、そんな異常現象も9月7日から発生件数が急激に減少し、11日現在、シンオウ地方を襲った異常現象はほとんどゼロとなりました。

 それどころか、異常現象によって負傷した者や、壊れた街なども、いつの間にか復元しているほどです。

 電波障害など未だに尾を引く影響も残ってはいますが、それもすぐに復旧するでしょう。

 

 

 幸運にも、あたしは無事です。ご心配おかけしました。

 ヒオウ先生は8月末から、現地調査の出張でジョウト地方を訪れていると聞き、とても安心しました。

 ただ、シンオウ地方への地方間移動を許可するには、まだまだ時間を必要とするようです。

 

 これらの異常現象に関して専門家が調査を進めていますが、一切の実情が分からないらしく、異常現象が再発する可能性も考慮し、まだ地方間移動は許可できないとの事です。

 もうしばらく不便をおかけします。申し訳ありません。

 

 

 あたしを含めたリーグ関係者一同、一刻も早く事態を収拾できるよう、頑張ります。

 今しばらく、お待ちください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX/11/08 11:22 録音時間00:17:31

 

 

 

 11月8日、11時22分、記録者シロナ。

 

 今の記憶も忘れないうちに、ここに録音しておく。

 もしこの録音を聞いてるあなたが、今日の録音の事も忘れちゃってるなら、8月21日からの録音をもう一度聞き直して。

 それでも何も思い出せないようなら……もう諦めて。

 

 …………。

 聞いた?

 なら話すわ。

 

 

 

 

 何も思い出せなくなっちゃった。

 壁画に関する話、全部。

 正直、今も全然思い出せてない。

 シンオウ地方を襲った異常現象が収まって、それの後始末も色々終わらせて……それが10月半ばぐらいの事。

 でも、その頃には壁画の事、全部記憶からなくなってた。

 

 

 つい昨日よ。散らかってた部屋の片付けをしてたら、このボイスレコーダーを見つけたの。

 何が録音されてるんだろうって聞いてみたら……全く記憶にない録音が入ってた。

 カンナギタウンから、新しい壁画が出て来たって。

 そこに、伝説のポケモンと、よく分からない人と、変な『球体』の絵があったって。

 

 でも、そんな事が起きた記憶、全くない。

 今カンナギの洞窟にいるんだけど……やっぱり今まで通りの壁画よ。三匹のポケモンが三角形を描く位置に並んでる壁画。

 謎の『球体』も、人間も、伝説のポケモンも、どこにもいない。

 でも、レコーダーに録音されてたのは、確かにあたしの声。

 録音によれば文書資料もあるらしいけど、そんな資料、どの端末にも入ってなかった。

 

 

 これだけよ。このボイスレコーダーだけ。

 これにだけ、記憶にない出来事の記録が入ってる。

 

 

 …………。

 唯一ぼんやり覚えてるのは、9月1日、テンガン山に登ろうとしたって記録だけ。

 その時の記憶だけはうっすら覚えてる。

 確かあたしはその日、テンガン山に行こうとしてた。テンガン山っていうか、槍の柱に。

 なんで行こうと思ったのかは全然思い出せない。

 録音を聞いてみても、「何かが分かりそう」とか曖昧な事しか言ってなくて要領を得ないし。

 

 でも結局、行かなかったのよね。

 行かなくて、午後まで部屋でゆっくりしてたら、突然シンオウ地方各地で異常現象が起きて……で、その日のうちから対応に追われた記憶があるから。

 ……なんで行かなかったんだっけ。

 

 …………。

 

 そういえば……誰かに……。

 誰かに止められたのよ。テンガン山には行かない方がいいって。

 ……誰にだっけ。

 知り合いだったのは確かで、その人に行かない方がいいって……危ないからって。

 行っちゃダメだって。

 止められた……止められたって記憶だけはあるのに……。

 

 

 …………。

 ……………………誰?

 ……ヒカリちゃんだっけ?

 

 

 



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とある考古学者の記憶③

 

20XX/11/11 14:45 録音時間00:09:36

 

 

 

 11月11日。

 今は……14時45分。

 記録者シロナ。

 

 ……なんで起動したんだっけ。

 意味ないのよね、これ、録音しても。

 どうせ忘れてるもの。

 …………。

 まあいいわ。ただの儀式みたいなものだし。

 

 

 

 何も思い出せなくなった。

 そもそも覚えていないから、本当に「思い出せない」のかも分からないけど。

 三日前の録音で、「テンガン山に行こうとしてた記憶はある」って言ってたけど、今、それすら思い出せなくなっちゃった。

 ……病気かしら、あたし。

 アルツハイマー? この歳で?

 

 でも録音した事だけは覚えてるのよ。

 ただ、9月1日にテンガン山に行こうとしてたらしい記憶が、全く思い出せない。

 じゃあ9月1日は実際には何をしてたのか思い出そうとしても、それも思い出せない。

 記憶が丸ごと、何かに食べられたみたいにポッカリ穴が開いてる。

 ……まあ二ヶ月以上前の出来事なんて、あたしじゃなくたって普通に忘れるかもしれないけど。

 

 残った手掛かりはヒカリちゃんと、研究に協力してくださってたらしいヒオウ先生だったけど、二人も何も覚えてないって言ってたし。

 これで完全に手掛かりゼロ。

 このボイスレコーダーを除いて。

 

 

 

 …………。

 研究者として、探究者として、こういうの悔し過ぎるけど。

 もう諦める。

 カンナギタウンの壁画の件、もう考えるのはやめる。

 

 そもそもこのボイスレコーダー以外の記録がどこにも残っていないもの。

 写真データも文書データもない。実物の壁画もいつも通りだし。これ以上探りようがない。

 だから……本当は嫌だけど、諦める。

 切り上げる時はスパッと切り上げないと、未練がいつまでも続く。

 新しいものに向かっていけなくなるから。

 

 

 

 8月からの音声記録、このボイスレコーダーからは消すわ。変な未練が生まれないように。

 データ自体はパソコンにでも移して保管しておく。

 もし何かを思い出せたら、またすぐに調査できるようにはしておく。

 

 ……それでも何も思い出せなくて。

 何も思い出せないまま、いつか未来、数ヶ月後とか数年後、何かの拍子にこの音声記録を見つけて。8月から続く壁画の話を聞いたとしたら。

 そして、聞いてもやっぱり何も思い出せなかったら。

 

 その時は……まあ……うん。

 ゾロアにでもつままされた、ちょっと不思議な出来事だと思ってちょうだい。

 

 

 

 そういうわけだから。

 今日は11月11日、今は14時58分、記録者シロナ。

 今日で音声記録を終わりにします。

 おつかれさま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX/11/19 11:15 録音時間00:07:44

 

 

 

 11月19日、11時15分、記録者シロナ。

 

 すごいものを見つけたわ。

 まあ見つけたのはあたしじゃなくて、とある遺跡マニアなんだけど。

 

 何かとんでもないものが見つかるかもしれないから、一応音声記録を残すわね。

 日付と時間はリアルタイム。進展があったその日その時間を指す。

 音声データは、あとで文書の方にもまとめておく。

 

 

 

 本題に入る。

 ズイの遺跡に、今まで発見されなかった新しい部屋を見つけたの。

 

 発見したのはさっきも言ったけど、とある遺跡マニアの人。

 穴掘りとか洞窟掘りが好きっていうちょっと変わった人なんだけど、214番道路から岩山を掘り進んでたら、なんとズイの遺跡の一室に繋がったのよ。

 

 でもこの部屋、ズイタウンからはどうやっても入れない構造なの。

 出入口が一つもない部屋。

 遺跡マニアの人がピッケルで壁をぶち抜くまで、ここは完全な密室だった。

 どうしてそんな部屋を作ったのかしら……。

 

 

 実は、ここを発見したのは相当前らしいわ。

 遺跡マニアの人は、8月末だって言ってた。

 だけど、この部屋を発見したのはあくまで個人の趣味だった事。加えて、そのすぐ後にシンオウ地方で異常現象が多発して、遺跡どころじゃなくなったから、特に公表はしなかったそうよ。

 

 発見者本人曰く、とあるトレーナーと競争してたって。

 アンノーンを全種類捕まえるのが先か、岩山を向こう側まで掘り抜くのが先かって。

 しかもその競争相手、アンノーンを全種類捕まえたらしいわ。

 

 

 本当はそのトレーナーとも会ってみたいのよねー。

 アンノーンは28種の形状が発見されてるけど、その全部を揃えたトレーナーなんて聞いた事もないわ。

 ……会いたい。ぜひ。

 でも遺跡マニアの人、トレーナーの名前を聞いてなかったから分からないって言うし。

 

 

 

 ……いやー、会いたいわー。

 遺跡の新しい部屋も発見したし。

 まだまだ見た事ない冒険が待ってる気がする。

 

 なんだかワクワクしてくるわね!

 

 

 

 

 



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あの思い出をもう一度

 

 

シロナくんへ

 

 

 こんにちは、ヒオウです。

 突然ですがシロナくん、数日前に私に電話した時の事、覚えていますか?

 カンナギタウンから見た事もない壁画が現れたという、記憶にない音声データの話です。

 

 あの時、私は何も覚えていないと言いましたね。

 それはそれとして事実なのですが、実は最近、少し気になるものを見つけました。

 

 

 私が普段から使っているバッグの奥に、とあるメモ用紙が入っていました。

 そこには「壁画・解読」という文字と、『何か』を解読した翻訳文が書かれていました。

 どちらも私の筆跡です。おそらく私が書いたものです。

 しかし不思議な事に、私がいつ、どんな古代文字を見てそれを書いたのか、全く覚えていないのです。

 

 何より奇妙なのが、その原文がどこにも見当たらないのです。

 解読文がある以上、その元となる古代文字がなければ辻褄が合わないのですが、その資料がどこを探しても見当たりませんでした。

 

 

 壁画の件を追う事はもうできないかもしれませんが、念のため、確かに存在する一つの証拠として、この解読文もシロナくんに送ります。

 ただ、おそらくは原文の全てではなく、一部だけしか解読されていません。

 物足りないかもしれませんが、ご容赦ください。

 

 以下、翻訳文です。

 

 

 

 

『あなたの犠牲を、決して忘れぬよう

 あなたの想いを、決して忘れぬよう

 あなたの姿形を、決して忘れぬよう

 

 そして、己の使命を、決して忘れぬよう

 私はここに、記録を残す

 

 いつかあなたを、』

 

 

 

 

 翻訳文はこれだけです。

 書き方を見るに、おそらくこの後もしばらく文は続いていたのでしょうが、翻訳し切れていませんでした。

 

 そしてメモ書きの最後に、謎の一文が残されていました。

 シロナくんも知っていると思います。

 ズイの遺跡で発見された、有名なアンノーン文字の文章です。

 

 

 

 

『FRIEND

 すべてのいのちは べつのいのちとであい なにかをうみだす』

 

 

 

 

 これを書いていた時、私は一体何を翻訳していたのか、そして何を思ってこの一文を書いたのか、全く思い出せません。

 これから先も、思い出せるかどうか分かりません。

 しかし、こういう小さい記録の積み重ねが、いずれ何か大きな発見に繋がる事を、我々は知っています。

 あまりに小さい手掛かりですが、この記録も残しておいてくれると幸いです。

 

 

 また新しい発見をしたと聞きました。

 協力できる事があるなら、遠慮なく言ってください。

 誠心誠意、お手伝いさせていただきたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●アンノーン シンボルポケモン

 

 こだいぶんめいの もじに にている。

 もじが さきか アンノーンが さきか せかいの 7ふしぎの ひとつ。

 

 テレパシーを つかい なかまどうしで いしそつうを しているらしい。

 いつも かべに はりついている。

 

 1ぴきで いても なにも おきないが 2ひき いじょうで ならぶと なにかの ちからが めばえるという。

 

 

 

 



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4:ヒスイ地方にて
とあるポケモン博士の依頼①


 

 

 ハーイ! そこの元気なお嬢さん!

 そ、あなたよあなた。

 ……ふふ、一目見ただけで気付いたわ。

 あなたがこのムラで噂になってる『スゴウデ調査隊』でしょ!

 

 そのとおり!

▶人違いでは?

 

 あれ、違うの? 謙遜しなくてもいいわよ?

 これでも私、人を見る目には自信があるの。

 遠くからあなたの姿が見えた時、一瞬でビビッと来たんだから。

 ……ほらやっぱり。近くで見るとよく分かる。

 ポケモン達に愛されてるオーラがビンビン伝わって来る!

 

 

 

 あらごめんなさい、そういえば自己紹介がまだだったわね。

 

 はじめまして、私の名前はアララギと言います。

 ちょっとだけ遠い地方から来たの。

 私、ポケモンについて結構詳しいのよ。

 だから故郷の地方では、『ポケモン博士』なんて呼ばれていたわ。

 

 

 

 ……ね、スゴウデ調査隊のお嬢さん。

 質問します。あなたはポケモンが好き?

 

▶好き

 もちろん

 

 良い返事! その答えが聞きたかったの!

 では、ポケモン大好きなあなたに、1つ頼みたい事があります!

 

 ダイケンキってポケモンを知ってるかしら?

 大きな角が特徴の、とーってもかっこいい水タイプのポケモンよ。

 実はダイケンキ、私の故郷にも生息してるんだけど……。

 なぜかこの地方のダイケンキは、私の故郷のダイケンキと、ちょっとだけ違う姿をしているの。

 同じポケモンのはずなのに。

 

 

 

 ね、不思議だと思わない?

 同じ生き物なのに、住む場所が違うと、姿も変わっちゃうなんて。

 

 そこで、あなたに【依頼】よ。

 もしダイケンキについて色んな事が分かったら、私にも教えて欲しいの。

 私も色々調べてるんだけど、1人だけだと限界があって……。

 だから、あなたにも調査のお手伝いを頼みたいの!

 

 

 

 ……どうかしら。

 この【依頼】、引き受けてくれる?

 

▶はい

 まかせて

 

 そうこなくっちゃ!

 それじゃあ、ダイケンキの調査、お願いするわね!

 私も、あなたとは違う角度からダイケンキについて調べてみるわ。

 調査が一通り終わったら、お互いに報告し合いましょう!

 

 

 

     

サブ任務

【ダイケンキを知り尽くそう】

             

+ガイドする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーイ! スゴウデちゃん!

 どう? ダイケンキの調査は順調?

 

▶順調!

 スゴウデちゃん……?

 

 良い返事! やっぱりあなた、スゴウデ調査隊なのね!

 それじゃあ、あなたがダイケンキについて調べた事、ぜひ教えて欲しいわ。

 どれどれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……へえ。

 

 ……そうなんだ。

 

 ……ふむふむ。

 

 ……え、そんな事ができるの?

 

 ……なるほど~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ありがとう、スゴウデちゃん! これで私の調査もはかどるわ!

 それじゃあ約束通り、私が調べた事も教えるわね。

 あなたが頑張ってる間に、私も頑張って色々調べてきたんだから。

 これ、私が書いた調査報告書の写しよ。

 あなたにもあげちゃう。

 

 

『アララギ博士の調査報告書』を 受け取った

『アララギ博士の調査報告書』を ポケモン図鑑に 括り付けた

 

 

 もしかしたら、またポケモンの調査を頼むかもしれないわ。

 その時はよろしくね! スゴウデちゃん!

 

 

 

     

サブ任務

【ダイケンキを知り尽くそう】

             

達成

 

 

 



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とあるポケモン博士の依頼②

 

 

 ハーイ、スゴウデちゃん! 久しぶり!

 元気にしてた?

 

 元気!

▶……大丈夫ですか?

 

 え? そりゃあもう見ての通りよ!

 ……死にそう……。

 ぶるぶるぶるぶるぶる……す、すごく助かったわ……。

 あなたが来てくれなかったらと思うと……ぶるぶるぶるぶるぶる……。

 

 

 

 じじじじじじ実はね……昨日からウォーグルについて調べていたの。

 以前、私の故郷にもダイケンキがいるって話、したでしょう?

 実はこの地方のウォーグルも、私の故郷にいるウォーグルと、ちょっとだけ姿が違うのよ。

 だから、野生のウォーグルを追い駆けてたんだけど……。

 

 まさか連れ去られて、こんな雪山の頂上に置いていかれるなんて……。

 ぶるぶるぶるぶる……。

 この地方のポケモンって、ちょっとだけ怖い事をするわよね……。

 ところでスゴウデちゃん、そんな服装で平気なの?

 ……すごいわ。これが若さ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふう、助かったぁ……。

 ありがとうスゴウデちゃん! まさに命の恩人よ!

 それに、珍しいポケモンも見せてもらっちゃったわ! オオニューラ!

 

 ニューラって言うくらいだから、ニューラの進化した姿なのよね?

 でも、この地方にもマニューラは生息している……。

 ニューラが2種類いるって事なのかしら。

 マニューラに進化するニューラと、オオニューラに進化するニューラ……。

 

 うん! すごーく興味深いわ!

 やっぱり好奇心って抑えられないわね!

 

 

 

 …………。

 ね、スゴウデちゃん。

 いま、私、何を言おうとしてるか分かる?

 

▶調査の手伝い?

 わからない

 

 その通り!

 というわけで、また調査を手伝って欲しいの!

 今回はウォーグルとオオニューラ! この2匹のポケモンについて知りたいわ!

 もちろん、タダとは言わないわ。お礼はしっかりする。

 だから、どう?

 この【依頼】、引き受けてくれる?

 

 受けます

▶もちろん

 

 エクセレント! やっぱりそうでなくっちゃ!

 それじゃあ、よろしくお願いするわね! スゴウデちゃん!

 

 

 

     

サブ任務

【ウォーグルを知り尽くそう】

              

+ガイドする

 

 

 

サブ任務

【オオニューラを知り尽くそう】

              

+ガイドする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなところで会うなんて、奇遇だな。

 オレの秘密の場所だったんだが……ヒスイ中を調査するあんたにとっちゃ、庭も同然か?

 ま、知られたのがあんただったら、悪い気はしないけどな。

 

 

 

 自分だけの場所、自分だけの空間。……一人になれる場所。

 そういう場所があってもいいんじゃないかって、カイの奴から教わった。

 最初は疑ってたんだが……うん、悪くない。

 少し寂しいが、その分、考えごとに専念できる。

 

▶考えごと?

 悩みごと?

 

 ああ、あんたのことを考えてた。

 あんたのことと、時間のことをな。

 

 

 

 

 あんた、遠い未来から来たんだってな。

 すげえ話だぜ。

 オレたちの今が、ずっとずっと続いて、遥か先の未来になる。

 今を生きるオレたちが、過去になって消えちまう。

 そう考えるだけで、『時間』ってものの壮大さに、頭がクラクラしそうになっちまう。

 

 

 

 ……なあ。

 あんたは今、未来の人間なのか? それとも過去の人間なのか?

 

 うーん……

▶どういうこと?

 

 あんたは未来からやって来た。でも今、あんたは過去にいる。

 いや、あんたから見たら過去だが、オレたちからしたら今なのか?

 …………。

 あー! また分かんなくなっちまった!

 

 

 

 ……てな具合によ、時間について色々考えてたら、なんだか分かんなくなっちまってさ。

 

 だってよ、あんたは未来から来たわけじゃねーか。

 本来、この時代にはいないはずの人間だ。

 だけど、あんたはこの時代に来て、色んな問題を解決したり、世界に影響を残した。

 だったらよ、この先に訪れる未来は、あんたの知ってる未来と、ちょっとだけ変わっちまうんじゃねえかって思ってさ。

 

 ……いや、案外なにも変わんねえのかも。

 あんたが変えた未来こそ、あんたが住んでた未来ってこともあるのか。

 ……じゃあここにいるあんたは何なんだよ。

 

 

 

 …………。

 うわー! また分かんなくなっちまった!

 ただまあ、そんだけ訳分かんねえもんを司ってるディアルガ様は、そんだけスゲーってことだよな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーイ! スゴウデちゃん!

 今日も絶好の調査日和ね!

 なんて言いつつ、私は絶賛休憩中だけど……。

 

 色んな所に行って、ちょっと疲れちゃったわ。

 これでもフィールドワークはお手の物だったはずなのに……。

 森も、草原も、山も、洞窟も、私の知ってるものとは段違いに険しくて。

 やっぱり私の知ってる自然って、結構人の手が加わっちゃってたのね……。

 ま、それも世界の営みなのかも。

 

 

 

 ……んー! イモモチおいしー!

 故郷に持って帰りたーい!

 もぐもぐ。

 

▶……調査は?

 ……じーっ

 

 ん!? も、もちろん調査もしっかりやってるわ! ……もぐもぐ。

 これでも私、ポケモン博士なんだから! ……もぐもぐ。

 ウォーグルとオオニューラについて、私もしーっかり調べて来ました。

 互いに教え合いましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ふむふむ。

 

 

 ……そういう違いがあるのね。

 

 

 ……なるほど~。

 

 

 ……すごい、そんな技も使えるんだ。

 

 

 ……かっこいい。

 

 

 ……もぐもぐ。

 

 

 

 

 

 

 ありがとう、スゴウデちゃん! おかげで好奇心がどんどん湧いて来る!

 うん、やっぱりポケモンって素敵ね!

 謎が多くて神秘的。かっこよさも、かわいさも、怖いところも含めて、全てが愛おしく感じるわ。

 スゴウデちゃんはどう?

 

▶自分もそう思う!

 でもやっぱり怖いかも

 

 うんうん、それでこそスゴウデ調査隊よ!

 あなたのその気持ち、その心、ポケモンへの愛は、必ず未来に繋がっていくわ!

 そうだ、しっかりお礼をしないとね。

 私だって、イモモチを食べてるだけじゃないのよ?

 はい、これは私が書いた調査報告書の写し。あなたにもあげちゃう。

 

 

『アララギ博士の調査報告書』を 受け取った

『アララギ博士の調査報告書』を ポケモン図鑑に 括り付けた

 

 

 もしかしたら、またポケモンの調査を頼むかもしれないわ。

 その時はよろしくね! スゴウデちゃん!

 

 

 

サブ任務

【ウォーグルを知り尽くそう】

             

達成

 

 

 

サブ任務

【オオニューラを知り尽くそう】

             

達成

 

 

 

 



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とあるポケモン博士の依頼③

 

 

 そなたも物好きじゃのう。ここには何も無いというのに。

 ……ラブトロスは元気にしておるか。

 

▶はい

 元気いっぱいです

 

 そうか。それは良い。

 ラブトロスが元気であるという事は、今はそなたの隣が心地良いのじゃな。

 やはりそなたに預けて正解じゃった。

 ……して? なにゆえ物憂げな顔をしておる

 

▶実は……

 ちょっと聞きたいことが

 

 時間について……? 

 コンゴウ団の長とやらも、なかなかどうしてキレ者じゃのう。

 時空の迷い人であるそなたならまだしも、この時代、そしてあの若さで、その思考に行き着くか。

 それとも、『時間』という概念そのものと相性が良いのか。

 

 

 

 …………。

 こんな話がある。

 

 

 

 過去、現在、未来。

 時間は大きく分けて、この3つに分類される。

 そして時間は、過去から現在、現在から未来へと流れる。そう言われとった。

 

 しかし、ある者がその考えに異を唱えた。

『哲学者』とでもいうべき者じゃ。

 

 そやつは、「時間は、過去も現在も未来も全て、同時に存在する」とした。

 過去があって未来があるのではなく。

 過去も未来も同時に生まれ、同時に存在し、同時に変化していくと。

 

 同時に? 

▶どういうこと?

 

 さてのぅ。

 わしにも小難しい事はよう分からん。

 

 

 

 ……が、言わんとしている事は分からんでもない。

 時間の流れは過去・現在・未来の順と言ったが、しかし、捉え方が違うのじゃ。

 我らは常に『現在』に存在しておる。

 そして、『現在』は過去になっていく。

 それと同時に、『現在』は未来に向かっておる。

 

 過去が現在になり、現在が未来になるのではない。

 現在が過去になり、そして現在は未来に向かう。

 ……言いたい事は分かるか? 

 つまりあやつは、『現在』という中心点が、過去と未来、二つの進行方向に分かれているに過ぎないと主張した。

 

 

 

 現在の行動が、過去と未来を同時に変える。

 そこにはもはや順序や道筋など存在せず、ただ中心点となる現在と、それに伴って変化し続ける2方向の時間があるのみ。

 すなわち、「時間は、過去も現在も未来も全て、同時に存在する」、じゃ。

 

 ……わしからすればこんなもの、単なる言葉遊びのような気もするがのう。

 しかし、1つの知見でもある。

 

 悩めるそなたの、何かの助けになれば幸いじゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 …………。

 …………。

 

 あら? スゴウデちゃんじゃない。

 ごめんなさい、全然気づかなかったわ。ちょっと考え事をしてて。

 …………。

 ね、スゴウデちゃん。

 ポケモンって、どうやって生まれたと思う? 

 

▶どうやって? 

 わからない

 

 色んな種類のポケモンが、色んな場所で、色んな暮らし方をしてるでしょ? 

 色んな能力をもっていて、色んな特徴があって、色んな体をもってる。

 じゃあ、その始まりは? 

 今もこうして世界中に溢れるポケモンは、どこからどうやって誕生したの? どうやって姿形を変えて、今に至るの? どうやって生きて来たの? 

 ……私は、その起源が知りたい。

 

 

 

 だからこうして、色んなポケモンの調査をしてるの。

 ここにいるポケモンは、どうやって今の姿になったのか。どうやって今の能力を手に入れたのか。どうやって進化してきたのか。

 過程をどんどん遡って、ポケモンの『始まり』を知りたいの。

 

 

 

 過去を振り返ってるだけじゃないわ。

 たとえばだけど……「ポケモンがどう変わってきたのか」が分かれば、「これからポケモンがどう変わっていくか」も予想できると思わない? 

 そう! 過去を知る事で、未来を予測する事もできちゃうの! 

 

 過去から未来に、だけじゃない。

 こうやって知識を増やして、色んな現象の法則性を見つけていけば……大昔では『祟り』や『運命』って言われていた物事も、しっかりとした法則で説明できるようになる。

 未来から過去を解明する事だってできちゃうの。

 

 過去から未来を予想して。

 未来から過去を紐解いて。

 

 ……そう考えると、過去も未来も、実は意外と同じなのかもね。

 ただ進む方向が違うだけで。

 

 

 

 …………。

 あらら、なんだか難しい話をしちゃった。私ってこういうキャラじゃないのに。

 ……あなたといると、なんだか色んな事をお話したくなっちゃうの。

 ポケモンだけじゃなくて、人にも愛される才能があるのね。

 さすがスゴウデちゃん! 

 

 ……と、いうわけで。

 せっかくこんな所で会ったんだから、このままお別れするのももったいないじゃない? 

 だから……

 

▶調査の手伝い? 

 だから……?

 

 エクセレント! 過去から未来を予想できてる! 

 あなたの言う通り、またもやまたもや、調査の手伝いをお願いしちゃいます! 

 

 

 

 いま気になってるポケモンはドレディアよ! 知ってる? 

 すっごく優雅で、かわいくもかっこいい草ポケモン。そんなドレディアの調査に協力して欲しいの。

 どうかしら? 

 この【依頼】、引き受けてくれる? 

 

 おまかせあれ! 

▶やります! 

 

 さっすがスゴウデ調査隊! 頼りになるわ! 

 それじゃあ、よろしくお願いするわね! 

 

 

 

 

     

サブ任務

【ドレディアを知り尽くそう】

      

+ガイドする

 

 

 

 

 それにしても、テンガン山ってこのムラからも見えるのね。

 すごく高いし大きいし険しそうだし……でも、神秘的にも見えちゃうのよね。

 やっぱり不思議な場所だわ、シンオウ地方って。

 

 ……あ。

 ヒスイ地方だっけ。

 

 



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とあるポケモン博士の依頼④

 

 

 急に呼び出してすまないが、緊急事態だ。

 ……と言いうほど急を要するわけではないが、しかし不穏な事態である事に変わりはない。

 

 

 

 時空の歪みは知っているだろう。

 各エリアで時折発生する、限定空間内に珍しいポケモンやアイテムが出現する現象だ。

 それが現在、ヒスイ各地で同時多発的に、これまで類を見ない頻度で発生しているとの報告が入った。

 

 原因は分からない。

 そもそも時空の歪み自体、正確な原因が明らかになっていない現象だったが、ここにきてさらに不可解な事になった。

 時空の歪みは、時間経過と共に消滅する。今回もその可能性が高い。

 が、それはそれとして、無視をするわけにもいかない。

 

 

 

 命令する。

 時空の歪みの大量発生を、調査せよ!

 

 

サブ任務

【時空の歪みを調査せよ】

      

+ガイドする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっと待ちな!

 あんた、うちの事に気付かず素通りとか! そんなんで調査なんてできんのかい!?

 ……なんで無視すんの!

 ねえ! ちょっと! ほんとに!

 

 ええい! ここで会ったが百年目!

 野盗三姉妹が次女、オタケの恐ろしさ! 思い知りな!

 

 

 

 

 

    

***

 

 

 

 

 

 ……また負けた。

 何度負ければ気が済むんだうちは!?

 今日は何なんだよ!

 よく分かんないのに巻き込まれたかと思えば、見た事ないポケモンたちに襲われるわ、うちにそっくりの偽物に会うわ!

 

 ……つかれた。

 ……次は負けないからね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱりあんたかい。来ると思ってたよ。

 異常事態が起こる場所には、必ずあんたが来てくれるからね。

 

 ……ま、見ての通りさ。

 見渡す限り、時空の歪みだよ。

 しかもどこに発生するかも不規則だ。今まで規則的だったわけじゃないけど、こうもいっぱい起きるとねえ。

 ゴンべもあちこち歩き回るから、避けて歩くのが大変だよ。

 もうちょっと落ち着いてくれると助かるんだけど。

 

 …………。

 

 ねえ。

 あんたにだったら話してもいいかって思うから、話す。

 変な事を言ってるって思うかもしれないけど、本当の事。

 

 

 

 ……さっき、一度だけ、時空の歪みに巻き込まれたんだ。

 歪みの中には強いポケモンがいっぱい出るからね。逃げるのに手一杯だった。

 歪みから抜け出す直前だったかな。

 

 ……いたんだ。人が。あれは確かに人間だった。

 時空の歪みに巻き込まれた人じゃない。

 時空の歪みと同時、ポケモンと一緒に現れたんだ。

 その人が助けてくれたのさ。歪みの中のポケモンたちを引き受けてくれてね。

 

 

 

 ……なんだか、あたしに似た人だったな。

 あたしが言うのもなんだけどさ。

 ……いや、雰囲気とかっていうのとも違うんだ。

 何が似てるかって……。なんていうか……。

 全部が……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お、通りすがりのギンガ団のあんた。

 ちょうどよかった。

 調査中で大変だと思うけど、これを渡したくてさ。

 

 俺、コンゴウ団との交流会の帰りに、ちょうど時空の歪みに巻き込まれちゃって……。

 大変だったよ。強いポケモンがわんさかいるんだもんな。

 それでこれ、ちょうど歪みの中で拾ったものなんだけど……。

 

 ほら、多分モンスターボールだろ?

 俺達はまだモンスターボールを使う気はねえから、まあ、ギンガ団に渡しておくのが正解だと思って。

 

 

 

 ……でもこれ、なんか変じゃねえか?

 俺が見せてもらったモンスターボールとはちょっと違うような……。

 なんつーか……すごいツルツルしてるな。

 何で出来てるんだ? これ。

 

 木……じゃねえよな。

 ギンガ団はこんな不思議な素材まで調達してるのか?

 すげえな。

 

 

 



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とあるポケモン博士の依頼⑤

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サブ任務

【時空の歪みを調査せよ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 …………。

 …………。

 …………。

 

 

 

 ……ごめんなさい。最初に謝っておくわ。

 あなた達に迷惑をかけるつもりはなかったの。本当よ。信じて欲しい。

 

▶やっぱり……

 本当に?

 

 ええ。あなたの思ってる通り。

 今、あちこちで、ちょっと大変な事になってるでしょう?

 原因は私ね。

 私が『ここ』に来ちゃったから。

 本来いるはずのない時代の人間が、突然この時代に割って入っちゃったから。

 

 私、スゴウデちゃんみたいに、呼ばれて来たわけじゃないの。

 ちょっとだけ、ズルをしちゃった。

 だから時空が怒ってるのよ。早く出ていけーって。

 ……やっぱり悪い事ってできないわね。好奇心にも限度があるわ。

 

 スゴウデちゃんなら、原因は私だって、すぐに分かっちゃうだろうなって思ってた。いくらなんでも早過ぎたけど、でも、だからこそスゴウデちゃんなのよね。

 スゴウデ調査隊だもの。

 その名に恥じない、素晴らしい推理でした!

 

 

 

 あーでも、悔しいなあ。

 もうちょっとだったのに。

 もうちょっとで、テンガン山、頂上まで行けたのに。

 

 

 

 ずっと登ってみたかったのよ、テンガン山。この時代に来た時から。

 ……いいえ、本当は元の時代にいた時から。

 シンオウ地方のテンガン山。

 

 登って、頂上まで昇って。

 テンガン山にしかいないポケモンを、いっぱい見て、いっぱい調査して、いーっぱい研究して。

 しかも、ここは大昔のテンガン山よ!

 私の知らないポケモンが、知らない景色が、知らない情報がいーっぱい眠ってる!

 

 それを心行くまで調べて、研究して。

 そうすれば、本当に未練なく、満足できたのに。

 

 ……いえ、そんな事ないわね。

 どんなに深く調べても、きっと満足なんてしなかった。

「もっと、もっと」って、まだまだ調べたくなってたに決まってるわ。

 好奇心に際限なんてないもの。

 

 

 

 でも……。

 あと、もう少しだったのに。

 …………。

 

 

 

 ……。

 ……え?

 

 ……ええ!? 嘘! ほんとに!?

 私、まだ半分も登ってないの!?

 待って、ここって何合目くらい? ……3合目!?

 嘘でしょう!? じゃあ頂上はどこ?

 

 ……うそ! え、あれ? あれなの!?

 すっごく細く見えたから、あそこだけやたら尖った地形なんだとか、勝手に思ってた。

 あれが頂上なの……? えー……?

 ……あまりに遠過ぎて、遠近感が変になっちゃってたんだ、私……。

 全然もう少しじゃない……。

 

 

 

 ……あははははははは!

 ……はあ……。

 ……はい。

 

 

 

 ごめんなさい。

 全部、私の好奇心のせい。

 今はまだ、時空の歪みが発生しているだけでしょう?

 だったら……うん、今なら十分間に合うかも。

 

 

 分かりました。大人しく元の時代に帰ります。

 ……本当は分かっていたの。同じ時代に長居しちゃうと、こういう風に歪みが起きて、大変な事になっちゃうって。すぐに立ち去ればなんとか誤魔化せるんだけど。

 問題が起こる前に、別の時代に渡る『約束』だったの。

 

 でも、ちょーっと同じ時代に長く居過ぎちゃった。

 残念だけど、仕方ないわよね。

 自分のせいだもの。

 自分の好奇心のせい。

 

 ……もうちょっとあなたとお話していたかったけど、でも早く帰らなくちゃ。

 ありがとう、スゴウデちゃん。

 あなたと調査の報告をし合うの、すっごく楽しかったわ。

 

 

 まだです

▶忘れ物です

 

 

 え、なに?

 …………。

 ……あ!

 ドレディアの調査、してくれたの!?

 

 

 スゴウデちゃんなので

▶スゴウデ調査隊なので

 

 

 ふふ。そうね、そうだったわ。

 さすがはスゴウデ調査隊ね。

 どんな時でも、ポケモンを知ろうとする心を捨てない。

 私よりも、ずっとずっとポケモン博士に向いてるわ。

 

 それじゃあ、時間も無いし、さっそく読ませてもらうわね。

 どれどれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ふむふむ。

 

 ……あれってそうなってるんだ。

 

 ……すごい。

 

 ……奥が深いわね~。

 

 ……私の知ってるドレディアとちょっと違うわね。

 

 ……へ~。

 

 ……すごいわ。本当にすごい。

 

 ……そうよね。

 

 ポケモンって、やっぱりすごいのよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ありがとう、スゴウデちゃん。これで私の好奇心はお腹いっぱいです!

 忘れないうちに、はい、お礼よ。

 

 

『アララギ博士の調査報告書』を 受け取った

『アララギ博士の調査報告書』を ポケモン図鑑に 括り付けた

 

 

 えーっと……。

 改めて、言いたい事、全部言っておくわね。本当に時間が無さそうだし。

 

 迷惑をかけちゃって、ごめんなさい。

 でも、一緒にポケモンを調べてくれて、ありがとう。

 おかげで私、とっても充実した時間旅行を送れたわ。

 

 ……あーあ、ずっと覚えてたいのに。

 これが終わったら、ユクシーに旅行中の記憶、消してもらう約束もしちゃってるし。

 ま、自業自得ね。

 他人を巻き込む好奇心なんて、毒にしかならないもの。

 そんな毒なら、消えた方がまだマシだわ。

 

 

 あの……

▶質問してもいいですか?

 

 

 ……?

 どうしたの?

 

 

 あなたは何者?

▶あなたの目的は?

 

 

 …………。

 ……うーん……。

 ポケモンの起源を探る事……っていう意味じゃないわよね。

 私がここに来た理由の方よね。

 …………。

 

 

 

 しいて言うなら、好奇心よ。

 好奇心が止められなくなって、ここまで来ちゃったの。

 

 ……どうしたの? そんなに難しい顔をして。

 好奇心、嫌い?

 でも、あなただって持ってるものよ。

 こんなにポケモンの事を調べてるんだもの。それだって立派な好奇心じゃない。

 未来を切り開くのは、いつだって人の好奇心と、それに伴う発見と開発よ。

 ……まあ、私みたいに、ちょっと暴走しちゃうと駄目なんだけど。

 

 でも、あなたなら使いこなせる。

 愛に溢れた好奇心は、必ず世界をより良くするわ。

 あなたにはその才能がある。

 

 

 

 ……そうね。こんなに才能に溢れた人材がいるんだもの。

 あなただけじゃないわ。

 この時代にも、私がいた時代にも、どこにだって、いっぱいいるんだもの。

 うん。もう大丈夫。

 

 

 

 ありがとう。

 協力してくれて、すっごく感謝ね!

 

 最後になっちゃうけど。

 出会った証というか、友好の証として、これを受け取って欲しいの。

 あなたに、受け取って欲しいの。

 

 

 

 

 謎の小瓶 を 受け取った

 

 

 

 

 その瓶に入ってるのは、『ゆめのけむり』。

 私が住んでる地方に、ムンナとムシャーナってポケモンがいてね。その子が時々、体から不思議な煙を出すの。

 私の友達いわく、『夢を具現化させる煙』らしいわ。

 時間旅行が始まる前に、友達から貰ったものがそのままポケットに入ってたの。

 でも、これも何かの縁だわ。

 だからあなたに渡して……

 

 

 …………。

 …………。

 …………。

 …………。

 

 

 ……ああ、そういう事なのね。

 今、ようやく納得したわ。

 そういう事だったのね。

 

 

 

 

 ここで私が、あなたにそれを渡す。

 そしてあなたを通じて、『ゆめのけむり』を知り、夢を食べるポケモンの存在を知る。

 だからダークライは、イッシュに来たのね。

 夢を食べるムンナやムシャーナがいるイッシュなら……自分の力を消してくれるんじゃないかと考えて。

 心穏やかに、誰かを傷付ける心配をせず、生きていけるんじゃないかと信じて。

 

 

 

 ……なんだ。

 最初から、過去も未来も無かったんだわ。

 

 

 

 過去が未来を形作り。

 逆に、未来から過去の辻褄を合わせて。

 そうやって成り立ってきたんだ、この世界って。

 過去も未来も、現在も、最初から混ざり合ってたんだわ。

 

 じゃあ案外、私の知りたかったポケモンの起源って。

 遥か昔の過去じゃなくて。

 これから先の、未来の方にあったのかも。

 

 ……それに気付かせようとしてくれたのかしら、あの子。

 だから私に、時間旅行をさせたの?

 

 

 

 …………。

 もっと色々お話したかったけど、私、もう行くわね。

 本当はイッシュに連れて帰りたい人もいるんだけど……彼はもう少し、役割があるようだから。

 

 ……うん。大丈夫。

 未来は明るいわ!

 

 

 

 じゃあね、スゴウデちゃん!

 またどこかで会う事があったら……。

 その時は調査の協力、よろしくね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サブ任務

【時空の歪みを調査せよ】

達成

 

 

 

 

サブ任務

【ドレディアを知り尽くそう】

達成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ポケモンニュース】速報 アララギ博士を発見

 

 

 

 1月28日より行方不明となっていたアララギ博士を保護した。

 目立った外傷はないものの、記憶障害に陥っている様子を見せているとの事。

 

 クダリ氏の行方は依然として知れず、今回のアララギ博士の失踪と関連があるかは不明。

 

 続報が待たれる。

 

 

 

 



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5:とあるおとぎ話にて
とあるおとぎ話


 

 

 

 むかしむかし あるところに

 とてもしんせつな わかものが おりました。

 

 わかものは きずついた ポケモンを みかけると

 かならず たすけ きずの てあてをし

 なかまの もとへ かえしたり と

 とても ポケモンおもいの やさしいわかもの でした。

 

 

 

 あるひ の こと

 わかものが ちかくのまち から かえってくると

 いえ の ちかくに

 1ぴきの ポケモンが たおれているのを みつけました。

 

 ふしぎな ふしぎな ポケモンでした

 からだは まっくろで

 かわった かたちを しており

 からだの まんなかに おっきな めが あります。

 そのポケモンは からだじゅうが きずだらけで

 とっても くるしそうに ふるえています。

 

 

「これは たいへんだ」

 

 

 わかものは いそいで そのポケモンを いえに つれかえると

 ちりょうを してあげました。

 

 わかものは いままで たくさんの ポケモンを

 ちりょう してきた ので

 きずついた ポケモンを たすけるのは

 だいの とくいです。

 

 

 

 とくべつなくすり を ぬりぬり。

 ほうたい を やさしく まきまき。

 さいごに

 ふかふかの ふとんに ねかせて すやすや。

 

 くるしそうだった ポケモンは

 すっかり いたみが なくなったのか

 とても きもちよさそう に ねむりました。

 

 

 

 つぎのひ わかものが め を さますと

 そのポケモンは げんきそうに

 いえのなか を はねまわって いました。

 

 よかった よかった げんきに なったんだな。

 わかものは うんうん と うなずきました。

 そのポケモンも わかものを みて

 うんうん と うなずく まねを しました。

 

 しかし そのポケモン の からだには

 まだまだ きずが たくさん のこっています。

 なので わかものは

 そのポケモンの きずが すっかり なくなるまで

 いえに すませる ことに しました。

 

 わかものは そのポケモン を

『まっくろ』と よびました。

 

 

 

 まっくろ は とっても よわく

 1ぴきでは ムックル にも まけそうでした。

 だから わかものは

 まっくろ が また きずだらけに ならないよう

 ずーっと やさしく めんどうを みて あげました。

 

 そして なんにちか たったころです。

 わかもの の いえに たくさんの ポケモンが やってきました。

 その ポケモンたちは

 まっくろ と とっても にた かたちを していました。

 

 

 わかものは おもいました。

 まっくろ の なかまが むかえに きたんだ。

 

 

 わかもの が おもったとおり でした。

 いえ から とびだしてきた まっくろ は

 なかまたち の おむかえに おおよろこび。

 ぴょんぴょん と げんきに はねまわりました。

 

 ちょうど まっくろ の からだの きずも

 なおってきた ころです。

 なので わかものは まっくろ を

 なかまの もとに かえすこと に しました。

 

 

 

「じゃあな まっくろ げんきでな

 こんど は なかまと はぐれるんじゃ ないぞ」

 

 

 わかものは えがおで まっくろ を みおくりました。

 

 しかし どうしてでしょう。

 まっくろ と そのなかまたち は

 なぜか かえろうと しません。

 

 どうしたんだろう と わかものが おもっていると

 まっくろ が まっすぐ

 わかもの の まえ まで くると

 なんと ことばを しゃべりだしたのです。

 

 

「わたしを たすけてくれて ありがとう

 わたしを たすけてくれた あなたに

 おんがえしが したいのです」

 

 

 わかものは びっくり しました。

 けど すぐに おちつくと

 こう ききかえしました。

 

 

「おんがえし なんて いらないよ

 きずついた ものが いたら

 たすけるのは あたりまえ じゃないか」

 

 

 すると まっくろ は いいました。

 

 

「あなたは とても すてきな にんげんです。

 ポケモンを あいして

 ポケモンと いっしょに いきることが できる。

 そんな あなただから

 わたしは おんがえし が したいのです」

 

 

 わかものは しつもんを しました。

 

 

「おんがえしって いったい

 どんなこと を するんだい」

 

 

 まっくろ は こたえました。

 

 

「あなたに わたしたちの 『ことば』を あげます。

 それは ポケモンの 『ことば』です。

 ポケモンの 『ことば』を つかえば

 あなたは ポケモンと じゆうに おしゃべりが

 できるように なります。

 

 その ちからを つかえば

 あなたは もっともっと ポケモンと なかよくなり

 ポケモンを たすけ

 そして ポケモンから たすけられる。

 

 どうか ポケモンの 『ことば』を

 うけとって くれませんか」

 

 

 まっくろ は とても やさしい まなざしで そう いいました。

 わかものは うーん と なやみました。

 そして いいました。

 

 

「おんがえし を したいと おもってくれて ありがとう。

 とっても うれしいよ。

 けれど やっぱり ぼくは うけとれない」

 

 

 まっくろ は 「どうしてですか」 と きくと

 わかものは こたえました。

 

 

「たしかに ポケモンと おしゃべりが できれば

 とっても たのしいだろう。

 これから もっともっと おおくの ポケモンを

 たすけること が できるかも しれない。

 

 けれど 『ことば』が わかってしまうと

 こんど は 『こころのこえ』が きこえなくなって しまう。

 このポケモン は なにを おもって いるのだろう。

 なにを かんがえて いるのだろう。

 そういうこと が わからなくなって しまうんだ。

 

 『ことば』も だいじ だけれど

 ぼくは 『こころのこえ』を もっと だいじに したい。

 だから ポケモンの 『ことば』は

 うけとれないんだ」

 

 

 わかものが そう いうと

 まっくろ は あのひ の わかもの の ように

 うんうん と おおきく うなずきました。

 

 

「やっぱり あなたは とても やさしい にんげんです。

 おんがえし が できないのは ざんねん だけど

 あなたの ような やさしい にんげんと であえて

 わたしは とっても しあわせです。

 わたしを たすけてくれて どうも ありがとう」

 

 

 そう いうと まっくろ と そのなかまたち は

 ぐるぐる と おおきく うずをまいて

 そらの むこうへと とんで いきました。

 

 

「これから あなたの じんせいには

 こうふくが おとずれるでしょう。

 どうか おげんきで。

 さようなら ありがとう」

 

 

「こちらこそ であってくれて ありがとう。

 たっしゃでな」

 

 

 わかものは そう いって

 とんでいく まっくろ たちを

 てをふって みおくりました。

 

 

 

 そのひ から わかものは

 いままで よりも がんばって

 ポケモンを たすけるように なり

 いつしか 『ポケモン の おいしゃさん』 と

 よばれるように なりました。

 

 ポケモン の おいしゃさん の まわりには

 いつも げんきな ポケモンたち が

 あつまりました。

 

 おいしゃさん は いろんな ポケモンを たすけながら

 やさしい こころをもった ポケモンたち と

 いつまでも いつまでも しあわせに くらしましたとさ。

 

 

 

 めでたし めでたし。

 

 

 

 



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とある大学での遠隔授業

 

 

●REC  01:05:12

 

 

 

 

 それではですね、まあ前回の授業の続きになるのですが。

 

 私の方も、こういったカメラを介しての遠隔授業というのは慣れていないので、まあ何かしらね、不手際があるかもしれませんが。

 まあそこら辺はね、ちょっとご容赦願いたいところでございます。

 感染症対策ですので、仕方がないのですけれども。

 

 

 それでは前回の続きからになります。

 ポケモン言語学概論1回目の授業……まあ前回ですね。そちらの方でも語ったとは思うのですが。

 

 

 ポケモンは、種それぞれが、種それぞれの鳴き声、鳴き方をしておりまして。

 同種のポケモンならばいざ知らず、他種のポケモンともコミュニケーションが可能というのは、はてどういう事なのだろうと。

 まあ、前回はそういう話で終わったわけです。

 

 

 でー、まずはこの図を見てもらいたいわけですけれども。

 これはですね、ポケモンの鳴き声の……えー、人間で言うところの『イントネーション』ですか。

 それを表した図になります。

 

 上から順にですね、コダック、ピカチュウ、ゾロアーク、ガブリアス、ケムッソ、トゲチックのですね。

 これは、威嚇している時のものですね。

 そして注目して欲しいのはコチラですね。

 

 ここのあたりを見てみると、なんとですね。

 それぞれのポケモンの鳴き声で周波数などは異なっているのですけれど、声の響きが強くなる部分と、緩やかになる部分は、割と共通しているのですね。

 

 

 これはポケモン進化学の権威でります、ナナカマド博士がですね。

 進化する前と後で、ポケモン同士のコミュニケーションにどんな変化があるのかを調べていたところ判明した事実なのです。

 

 このように、長らく謎であったポケモンのコミュニケーション能力について。

 最近ですね、まあ、どんどんと分かってきている、そういうわけであります。

 

 

 

 

 もう1つ興味深い研究を挙げてみますとですね。

 ……これは、まあ少し不思議な話になってしまうのですけれども。

 

 実はポケモンたちの間にはすでにですね、明確に、我々と同等の『言語的概念』が存在しているのではないか、といった仮説がございます。

 

 

 

 

 コチラは割と最近の研究ですね。

 地球科学の講義を受けた方なら知っているかもしれませんが。

 あのツワブキ・ダイゴさんとですね、シンオウ地方元チャンピオンのシロナさん、彼らの共同研究なのですが。

 

 実は現在、数種のポケモンは、『アンノーン文字を理解できているのではないか』という結果が出ております。

 実験に協力してもらったポケモンに、アンノーンの形を模したオモチャを与えますとですね。

 なんとそれを、特定の順番に並べようとするのですね。

 しかも、その並び順には一定の規則性が見受けられると。

 

 

 

 おそらくは、自分達の鳴き声を、はっきりとした『言葉』として認識し、それを表現しようとしている。

 そういうわけであります。

 

 実はこれが、さらにアララギ博士が提唱しました、『言語を介したポケモンの生態的種分化』にも繋がりまして――――――

 

 

 



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