日曜朝の爽やかアニメの世界に転生してしまった (龍姫の琴音)
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原作介入前
第一話転生先の不幸
それは一瞬の出来事でした
いつものように新作アニメをチェックするために定時で仕事を終えた私はルンルン気分で夜道を1人で歩いていた。すると前の方から車が物凄い勢いで突っ込んできた。ヤバい!と思った頃にはもう手遅れで、車と正面衝突すると私の体は宙に放り出され硬いコンクリートの上に叩きつけられた。普通なら強烈な痛みが来るはずなのに全く痛みが無い。思考が完全に止まり視界が霞んでいく
(まだ、アニメを見て、いたいのに・・・)
最後までアニメの事を思い、後悔しながら私の人生は25年で終了してしまった
※※※※※
後悔ばかりの人生が終わり嘆いているとふと声が聞こえた。聞き覚えの無い男女の声だ。私はゆっくりと目を開けるとそこには見知らぬ大人の男女がこちらを見降ろし、涙を流していた
「見てヤマト、コトネが起きたわよ!」
「そんなに大きな声を出すなナデシコ。コトネが起きてしまうだろう。だけど、よく生まれてきてくれた。ありがとうコトネ」
(え・・・どういう事?私はさっき人生が終了したはず。それなのにどうして生きているの?それにこの人達は誰?)
現在、自分の目の前で起きている事が分からずにキョトンとする。冷静になりながらも必死に記憶を手繰り寄せえる
(まず、私はアニメを見るために帰路を歩いていた。そしたら前方から来た車に轢かれた。でも、私は生きている・・・まさか!)
恐る恐る腕を上げ視界に入れると、自分の腕はまるで赤ん坊のように小さい。前後に動かすと思い通りに動き、この赤ん坊のような腕が自分の腕である事を確認する
(これってつまり・・・アニメでよくある異世界転生ってやつね。はぁ・・・そう言う事は妄想はしていたけどまさか本当にそんな常識を大きく外れた現象が自分に起こるとわ・・・というかアニメでも当たり前のように異世界転生が題材にしているから妙に冷静になってしまうのはどうなのだろうか・・・)
今の自分の状況を冷静に理解してしまうオタクとは恐ろしい者だ。こうなる事が実現する事なんて絶対にないのに、オタクはそれを妄想し主人公になりきろうとする
(とりあえず自分が異世界転生したのは確か。だけどこの世界がどういった世界なのだろうか。目の前にいる男女は黒髪に黒目と日本人とほとんど変わらない
今、自分が見ている天井は日本というよりは海外の感じで例えるなら剣と魔法が舞台になる事が多い中世ヨーロッパとかその辺りだろうか。後はこの世界が完全にオリジナルの世界か、もしくは何かのアニメや漫画が舞台となる世界なのか。出来れば危険のない比較的安全な世界だといいけどな~)
「ナデシコ、これから先、何があろうと俺は家族を守るからな」
「私もヤマトを支えられるように陰ながら頑張るから」
(おいおいこの両親は赤ん坊(中身は25歳)の前でいちゃつき始めないでほしんだけど。私なんて彼氏いない=年齢だったんだぞ。まぁ、好きなのは同性だったから別に悔しくはなかったけどね。それよりも守るってあれだよね。仕事してお金を稼いで安泰な生活をさせるほうの守るだよね。戦争とかそう言う事が日常茶飯事で起こる世界じゃないよね)
コトネは必死に戦いがない方にしてくれと願うが、その願いは父親の発した言葉で崩れ去った
「ジーモットの連中なんて返り討ちにしてやるさ」
「あうぅぅぅ!(ジーモット!)」
赤ん坊であるため上手く発言できなかったが、ジーモットという言葉に驚き声を上げてしまった。驚いた両親はコトネをあやすが、コトネは両親の言葉が一切入ってこない
(待ってよ・・・ジーモットってまさか、あれじゃないよね。日曜朝の爽やかアニメじゃないよね。転生先があのアニメだったら・・・もし、本当にあのアニメの世界だったらこの世界は死に満ち溢れた世界って事になる!)
転生を喜んでいたのも束の間、コトネは一気に絶望のどん底へと突き落とされた
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第二話状況整理
夜になり両親はコトネを真ん中において川の字で安らかな顔でスヤスヤと眠っている。だが、コトネは呑気に寝る事なんて出来ずに絶望の中にいた
(あぁ~・・・どうしよう。どうして私の二度目の人生はこんな死に溢れる世界に転生しなきゃいけないんだ。父親が言っていたジーモットがもしも昔見ていたアニメに登場する国の名前だったら、この世界は本当にヤバい。もしも・・・もしもこの世界が牙ーKIBAーの世界だったら本当にヤバいんだよ
日曜の朝にやっていたアニメなのに非常に重くシリアスな展開が多いハードなアニメだから今でもよく覚えている
味方は裏切るし、敵も味方も関係なく毎回のように死ぬし、新キャラが登場したと思ったら3分後に死亡して物語から退場したり様々な困難が待ち受けている。この世界は死に溢れていて、例え主人公の傍にいたとしても安全という保証もない。つまりこの世界で絶対に安全といえる場所が何処にもないという訳だ。人生スタートしてから人生が詰んでいるって不幸過ぎる)
もしもこの世界がコトネが予想下通りの世界だったとしたら、この世界は何処にいても危険で常に命の危険と隣り合わせになるという事になる
勿論、解決策はあるがそれは死なないように強くなるという単純な手段だが、ちょっと強い程度ではなく最強を名乗れる程度まで強くなってようやく命の危険が無くなるかもしれないというレベルだし、その境地に至るまでにはどれだけ修行すればいいかも分からない
(あぁ~!ウダウダシしていてもしょうがない。生を受けてしまった以上は最後まで生き抜かなければ。アニメの記憶はあんまりないけど私には転生特典として前世の記憶がある。この特典をフルに活用して少しでも生存率を上げなける事が出来る。今の自分の持てるものを全て利用しなければ生き残れない)
とりあえず今後の方針を決め、次にもう一つの可能性について考える
(だけど時系列によっては安全かもしれない。もしかしたら名前が同じだけで実際は違う世界って言う可能性もまだ残っているから、まずは状況を整理してこの世界について考えよう
まず、この世界がアニメ牙の世界だった場合、原作終了後の世界なら安全だけど、父親がジーモットから守るって発言している以上、この世界は原作前もしくは原作の最中であると考えるのが妥当ね。そうなるとこの世界に安全な場所は無い
だけど、まだそうじゃない可能性も残っている。牙の世界はシャードと呼ばれる魔力のような力を人間達は持っていて、シャードを扱える者はシャードキャスターと呼ばれる。そして、シャードキャスターは体のどこかにシャードキャスターの紋章のようなものがある。だけど両親の体には見た限りその紋章が何処にもない。という事は国の名前が同じだけという可能性も存在するが、正直言って可能性がゼロでない以上は安心できない・・・ならば私がこれからする事は一つ。ここが牙の世界であると仮定した上で生き残るために修行する!絶対に生きてやる。今度こそ悔いのない人生を送ってやる!)
その夜、コトネは大きな決意をした。世界の運命に流されないように自分の命を守るために強くなる事を決め第二の人生をスタートさせた
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第三話この世界は死に満ち溢れているようだ
家の屋根の上にコトネは大の字で寝っ転がり空を流れる雲を眺める
「もう5年も経ったんだ・・・」
コトネはが二度目の生を受けてから五年の月日が流れた
この5年間の間にコトネは毎日のように生き残るための修行を続けた。ベッドの上では可能な限り体を動かし、体力が尽きたら眠り、起きたら再び動き疲れたら寝る。この行動を毎日のように繰り返した
ベッドから出れるようになってからは床の上を高速で動き回り運動会を繰り広げた。初めの内はすぐに両親に捕まっていたが、毎日のようにやっている内に両親が2人がかりでも捕まえるのに一苦労させるぐらいまで高速に動く事が可能となり、スタミナと速度を手に入れた
二本の脚で立てるようになってからは外で体力が尽きるまで走ったり跳んだりした。そのおかげで五歳にしてステータスが通常の子供よりも数倍は高い。両親からは落ち着きのないじゃじゃ馬の女の子に育ったことを嬉しいように感じる一方で、もう少し落ち着きがあって欲しいと思っている
だが、コトネには時間が無い。いつ、ジーモットが侵略してきて平和な生活が終わるとも限らない以上は備えておいて損はない。でも、この五年の間に国が攻撃されたという話を聞かない。この国はかなりの小国で人もおそらく百人も満たないぐらいしかいない。それに、国民全員がシャードキャスターの証である紋章を誰一人として持っていない。ここまでくると本当に牙とは全く関係のない世界なのかもしれないと疑問に思う
「琴音~お勉強の時間よ!」
「は~い」
下の方から母親の呼ぶ声が聞こえ、コトネは屋根の上から飛び降り家の中に入るとテーブルの上には分厚い本が何冊も置かれている
「今日は地理についての勉強よ。サボらずにしっかりとやるのよ」
「はいは~い」
「はいは一回」
「は~い」
「よろしい」
コトネは椅子に座り、母親はコトネの正面に座る。この国には学校のような施設は無く親が子を教育するのが普通らしい。国の中には図書館のようなものもなく教えられるのは文字の読み書き、単純な計算ぐらいなので生前に比べればかなり楽だ
計算は生前でも使っているから余裕で出来たが、文字の読み書きは苦戦した。なんせこの世界の文字は一切知らないので一から教わり何とか覚える事が出来た
「じゃあまずはこの地図を見て」
母親が地図を広げると一か所を黒で小さな丸で囲む
「この小さい丸で囲まれた所が私達が住んでいるオウカ。他は私達より大きな国が五つあるの」
そう言って地図に大きな丸を五つ付けるとオウカから最も近い国を指さす
「私達の国から一番近いこの国は力が全てという思想の絶対主義国家のジーモット」
「うん?」
五年ぶりに聞いたジーモットという言葉にコトネの表情は強張る
(落ち着け、落ち着くのよ私。今回の勉強でもしかしたらこの世界の事について知れるかもしれないんだから、聞き逃しが無いようにしっかりと聞きましょう)
正直に言えば聞きたくないというのが本音だが、これから先、自分がどうやって生きていくかを決めるためにも聞かなければならない。そう決心してコトネは母親の言葉に耳を傾ける
「次に住む人達全員に肩に角がある特徴を持ち、腕が四本あったり全身に毛が生えている獣人と呼ばれる種族が共生している軍事国家タスク」
(・・・全然覚えてない)
「博愛と調和の精神の下に共和制を取り、緑豊かな平和の国テンプラー」
(そこは知っている。主人公のゼッドが最初に訪れる国)
「テンプラーと同盟を結んでいる同盟国で、『絶対規律』の名のもとに厳しい戒律に縛られた封建国家ネオトピア」
(確か少しでも規律を破ったら即死刑っていうめちゃくちゃ宗教的にヤバい国だったはず)
「そして最後にネオトピアを追われた技術者達が集まって造られた科学大国ウルバークス」
(この国も全く記憶にない。けどこれで確定ね。この世界は間違いなく牙の世界。多分だけど原作が始まる前の時間軸にいる。ゼッドは世界を救う主人公ならその英雄の名前を出さない事はないはず)
今、自分の置かれている状況を知れて安堵すると同時にこれから先に過酷な戦いがある事が確定した事に恐怖を感じる
母親が全ての国のについての説明を終え、質問がないかを尋ねる
「お母さん、私達の国って小っちゃいけど他の国から攻撃はされないの?」
「えっ!?」
不審に思われる質問だろうがコトネにとっては絶対にしなければならない質問だ。この小さな国がジーモットから攻撃を受けないのは何か秘密があるはず。そうでなければ五年前に父親がジーモットから守るなんて言うはずがない
母親は少し考え込むと不意に立ち上がり箪笥から弓の弦が張られていない弓を取り出す。何の変哲の無い弓だが弓の部分に水色の玉が填め込まれている
「これがこの国が他国から攻められない理由よ」
母親は水色の玉に触れると水色の弦が弓に張られた
「この世界にはシャードと呼ばれる力があって、その力を扱える者をシャードキャスターと呼ばれている。でも、私達の国の人達はシャードキャスターとしての素質が全くない
だけどこの国で生まれた者は10歳の時に森の奥にある祭壇の前で祈りを捧げるとスピリットと呼ばれる精霊と契約をかわす事で自分専用のスピリットとなり、そのスピリットから武器を授かる事が出来るから、この国は他国と対抗できる力を得られるというわけ」
「じゃあ、私もあと五年したらスピリットが貰えるの?」
「そうよ。しかも私達が授かるスピリットは通常のスピリットとは比較にならない程の強いスピリットなの。でも、強力な反面、危険な事もあるの
シャードキャスターが使うスピリットは所有者が変わる事があるけど、私達の持つスピリットは自分以外には使う事が出来ない
スピリットと意識が繋がっているから念じるだけでスピリットを思うがままに動かせる反面、スピリットが受けた痛みは所有者にも伝わる。所有者、もしくはスピリットのどちらか片方が死ぬともう片方も死ぬという運命共同体となる。だからお母さんからすれば諸刃の剣となる危険な力だと思っている」
「そうなんだ・・・」
この時、コトネは特になんとも思わないような感じで返すが、頭の中ではかなり焦っていた
(待って待って。これだとどう足掻いても私はあと五年は丸腰状態って事よね。五年後には超強力なスピリットが手に入るけど、それまでにもしも侵略が始まったらどうなるの?10歳にならないで祈りを捧げたら応えてくれるのかな?主人公なら主人公補正で大丈夫だけど私は主人公ではない。ゼッドが主人公である以上は私に危険が及ぶ可能性の方が高い。神様が私にこの国に転生させた事に意味がるのだとしたら、後5年は大丈夫だろうけどもしもランダムによる転生だったら猶予があるとも限らない。これから私はどうすればいいんだろう・・・)
あと五年という長いようで短い日数を突きつけられコトネは再び絶望の淵へと叩き落された
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第四話ジーモットの襲撃
あれから更に五年の月日が流れコトネは十歳となり遂にスピリットが貰える年齢になった
この日まで毎日のように襲撃が来ないかとビクビクしながら生活を続けてきたがなんとかこの日を無事に迎える事が出来た
今日は朝から両親が忙しく動いている。父親は外で儀式の準備を進めており母親はコトネに儀式用の正装を着せている
「お母さん。この服、大きくない?」
腕は袖の中にすっぽりと入ってしまい萌え袖を通り越してしまっている。スカートも床についてしまい歩きにくい
「貴女が普通に比べて背が低いの。普通ならぴったりサイズのはずなのにコトネが毎日のように元気に走り回っているから身長に行くはずの栄養が消費されちゃったのかもね」
「う・・・」
遠回しにもう少しお淑やかにしなさいと注意され少し心苦しい気もする。着せられている服は日本の大正時代の服装の一つである大正浪漫のような袴でコトネの背が小さいため袴がブカブカになっているので裾を折って調整している
「やっぱりもう少しは大人しくした方が良かった?」
コトネにはこの先の未来のために体を鍛えているが親としては女の子らしくお淑やかに生きて欲しいと思うのが普通だろうしこの年になるまで毎日のように落ち着きを持てと怒られる
「女の子ならね。でも、それだけ元気に育ってくれたならお母さんとしては幸せよ。これから先もコトネはそのままで伸び伸びと育って欲しいわ」
「お母さん・・・」
生前は親孝行な事なんて何一つ出来ずに親よりも先に死んでしまった親不孝な自分に今の両親に何か恩返しをすることが出来るだろうか
「とりあえず今日の儀式の間だけはこれで我慢してね」
考えているい間に母親は袴の調整を終え、タイミングよく父親が帰宅する
「おぉ、なかなか似合ってるなコトネ」
「お父さん、儀式の準備は出来たの?」
「あぁ、お前が準備できたならすぐに出来るぞ」
「そうなんだ。私はもう準備万端だよ」
今すぐにやろうと言わんばかりにコトネは腕を上下にブンブンと振る
「お前は本当に儀式を楽しみにしているな。数日前から落ち着きがなくてそわそわしてたからな」
「やっぱり自分専用のスピリットっていうのが楽しみ。私にはどんなスピリットがパートナーになってくれるのかなって考えるとワクワクする」
本当はこの死に溢れた世界を生き抜くためだが言った所で信じてもらえるわけもないのでとりあえずそれっぽい理由で誤魔化す
「普通は訳分からん力を無理矢理授かるのが嫌だって言うのが本来の反応何だがな・・・」
父親は溜め息を吐くがコトネからすれば今日という日が来るのは待ち遠しかった
なんせこれから先の未来で主人公が異世界から来る事で世界が大きく動く。その激動の流れに流されないためにも力は絶対に必要になるからすぐにでも欲しい
「私は別に何とも思わないけどね。それよりも早く儀式の場所に行こう」
父親をせかしながらコトネは両親と共に外に出ると国の裏側に広がる森の入り口に着く
「コトネ、この森の奥に大きな湖がある。その湖に橋が架かっていてその橋は湖の中心にまで伸びている。中心まで行ったらどんな力が欲しいかを強く念じるんだ。祈りが通じればお前だけのスピリットと武器が与えられる。理解したか?」
「うん。じゃあ、行ってきます」
「気を付けてね」
両親に見送られ森の中に入ると木々が天高くまで伸びているせいで日光を遮り昼間なのに森の中は薄暗く不気味に感じる
普通の子供なら怖いだろうがコトネの精神は25歳にこの世界に生まれて10年が加算され35歳だ。肝も座っており何よりこれから先の未来で死ぬかもしれないと考えるとこの程度の事で怖がっていられない
森の奥へと進むと開けた場所に出ると目の前には大きな湖が広がっており松明が湖を囲うように明りが灯っている
「これが儀式の湖・・・」
近くで見ると厳格な雰囲気に圧倒されるがコトネは意を決して一歩を踏み出す。橋の真ん中辺りまで進んだ時、森の外からドォォォン!と大きな爆発のような音が響いた
「ば、爆発!?」
あまりの大きさにその場に膝をつき周辺を警戒する
「このタイミングで襲撃があったとか言わないでよ・・・」
こういった儀式を行うタイミングで敵襲を受けるというのはストーリー展開ではよくある事だ。だが、こういった時のイベントの結末は主人公が助けに来たりするのが定石
「となるとゼッドは既にこの世界に来ているって事?」
だけどオウカは何処にも属さない独立国家のためテンプラーとの交流は無く、そもそもオウカという国もアニメの中には存在しない。偶然近くを通りかかったという理由でもあるかもしれないが最強のスピリットを持っているゼッドが来るのであれば問題ない
「コトネ!」
考える事に意識を集中していたせいで母親の声で我に返り声がした方を見ると母親が血相変えた顔で走って来た。コトネの元に駆け寄ると強く抱きしめる
「良かった・・・無事だった」
「お、お母さん、どうしたの?」
いまいち状況を飲み込めないコトネは母親に状況を尋ねる
「ジーモットが本格的にこの国を侵略しに来たの。今はお父さん達が兵士達の侵攻を食い止めているから私達も急いで逃げましょう」
「う、うん・・・」
本当なら今すぐに儀式を行ってスピリットを手に入れて加勢したいが素人の自分が上手く立ち回れるか分からないしゼッドが来てくれるだろうからここは母親の指示に従う
母親は腰に携帯している弓を取り出すと水色の玉が填め込まれている場所に触れると中からゴルフボールサイズの玉を取り出し空に向かって投げるとゴルフボールは苦衷で球体から円状のゲートのような形に変わり中から長い尾を持つ水色の大きな鳥が出現した
「さぁ、行くよ」
母親に急かされながらもスピリットの背中に乗り空へと飛び上がる
「これでもう安心よ」
母親が一安心していると突如、下から炎が上がりスピリットの右翼に当たる
「あぁぁぁぁ!」
「お母さん!」
スピリットと契約者は運命共同体。スピリットの右翼に受けるダメージが母親の右腕に走りあまりの痛みに右腕を抑えうずくまる
痛みを堪えながら母親とコトネは下を見ると湖の近くにジーモット兵が3人おりこちらに向かってスペル・シャードによる攻撃を行っている
(相手は兵士だけ。それなら私だけで対処できる)
周囲にスピリットが居ない事を確認すると母親は攻撃に転じる判断をする
「コトネ。しっかりと掴まってて!」
スピリットは翼を大きくはためかせジーモット兵に向かって突撃する。確かにこの世界でシャードキャスターががスピリットに勝てる人なんていない。だけどコトネはジーモット兵の行動を不審に思う。いくら数の有利が取れているとはいえオウカのスピリットは通常のスピリットよりも強い。それをスピリットを持たないジーモット兵が真正面から来るだろうか
何かがおかしいと思い辺りを見渡すと攻撃を仕掛けて来たジーモット兵は落ち着いた様子でゆっくりと後退している。まるで、何かのタイミングを計るかのように
「まさか!?」
森の方に視線を向けると3体のスピリットが木々の間に隠れていた
「お母さん駄目!」
「っ!」
コトネが警告するがスピリットは突進をすでに行っており急には止まれず木々の間から蠍の尻尾のような先に針の付いたものが飛び出しスピリットの体を貫通し背中に乗っていた母親の体に突き刺さった
「お母さん!」
悲鳴に似た声を上げるが母親からの返事がない。身体から血が止まる事無く流れ出していく。次から次に起こる事に頭の中はパニックになりコトネはひたすらにお母さんと呼び続ける
母親のスピリットに一撃を与えたスピリットが木々の間から現れ、そのスピリットは蠍のような針の付いた尻尾を持ち、口元にはクワガタのようなハサミが生えているスピリットが3体も姿を現した
「ズイキュー!そのまま投げ飛ばせ!」
ジーモット兵の指示によりスピリットは尻尾を大きく振って湖の方に投げ飛ばす。投げ飛ばされたスピリットは湖に落ち背中に乗っていたコトネと母親も湖に放り込まれる
湖に落ちたコトネはゆっくりと湖の底へと沈んでいく
(あぁ・・・私はなんて勘違いしていたんだろう。この世界では例え子供でも死ぬ。常に予想の斜め上の展開が起こり安全な場所なんて何処にもない。それなのに・・・どうして私はあの時、お母さんの言葉に従ってしまったんだ。あの時、反抗してでも力を貰うべきだった。そうしたら私は、お母さんを死なさずに済んだはずなのに・・・)
自分の判断の甘さ、10年間も平和な生活を送り続けて来たせいでこの世界がどんな世界なのかを忘れていた事に後悔と悔しさが溢れ出す
『汝、力を求めるか?』
不意に声が聞こえた。その声が何なのか分からないがコトネはその言葉に素直に答えた
(欲しい。この理不尽な世界を生き抜く力が、全てを奪ったジーモットに復讐する力が欲しい!)
『その願い、聞き届けた』
コトネの体が光に包まれると湖の底から一気に地上へと戻り橋の上に着地する。コトネの右腰には銀色に輝く鞘を差している
コトネは鞘に填め込まれている赤い玉に触れると中からスピリット・シャードを取り出し空に向かって投げ名を叫ぶ
「ランボス!」
中から現れたのは赤紫の長髪をした男の姿をした鳥人のスピリットがコトネの前に現れた。コトネは再び鞘に填め込まれている赤い玉に触れ左手で鞘から抜刀される
峰の部分は銀色の物質になっており刀身側は火属性の刀身になっている
「この世界は強くなければ生き残れない。だったら・・・私は誰よりも強くなる!」
新たな力を手にしたコトネは自ら戦いの中心へと飛び込んだ
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第一章運命の風
第五話運命の風に導かれて
目を覚ますとコトネは不快な気持ちになる。それに反して空は自分の気持ちとは正反対でどこまでも青空が広がる清々しい
「昔の、夢・・・」
この世界で二度目の人生を授かり10歳の時に家族も、国も全てを失ったコトネはオウカを出て旅をしている。国が滅んでからおそらくだが5年ぐらいの月日が流れたと思う。かつてはぶかぶかだった袴も今では体に丁度いい大きさになり昔に比べてかなり動きやすくなった
「今更昔の夢を見るなんて何かの前触れかしら」
もしそうだとしたらろくな事ではないのは確かだから外れて欲しいと願いながらコトネは起き上がり軽く体を動かすろ風が吹き木々が揺れる
「・・・風が気持ちい」
暫く風の心地よさに浸っていると突然、空に円状のゲートが開かれるとそこから風が竜巻のようになって地面へと伸び、地面にぶつかると同時に風が周囲に広がり周囲に生えていた草木をなぎ倒す
「な、何!?」
姿勢を低くして踏ん張る事で何とか吹き飛ばされずに済んだが突然の出来事に警戒していると風が止みゲートが閉じると竜巻がぶつかった場所に誰かが倒れていた
「人・・・?」
一応は警戒しながら近づくとその人物はコトネと同じ15歳ぐらいの少年で銀色に近い白髪に左側に袖の無い赤いコートを着ており左腕にはシャードキャスターの証である紋章がある
これだけの特徴に合致する人間をコトネは知っている。それは出会うべきでもあれば出会わない方がいいとも思える存在
「主人公のゼッドに出会うとは・・・」
アニメ牙の主人公であるゼッドだ。最強のスピリットを持ち、どんな時も挫けずに立ち向かう事からアニメの爽やかな部分である主人公のゼッドに出会ってしまった
「どういう事?ゼッドは確か、テンプラーでヒロインのロイアとその師匠である龍のお爺さんと最初に出会うはずなのにどうして私が最初に出会っちゃうのかな」
本来のアニメの展開とは全く違う事に困惑しながらも納得できる理由がコトネにはある
「まぁ、本来ゼッドがジーモットで手に入れるはずのランボスを私が持っているからこの世界はアニメをベースにして違う歴史を辿る世界というわけだからゼッドの転移する地点がズレるのも納得。とりあえずこのまま放置したらジーモット兵に捕まるからさっさと移動しないと」
先程の凄まじい風を調査しようとジーモット兵が来る可能性もあるためコトネは荷物を手早くまとめるとゼッドを背中に背負いその場から離れた
ゼッドを背負ってコトネは暫く森の中を走り続けていくと開けた場所に出た。そこには湖があり近くには休むのに丁度いい木陰がありコトネは木陰にゼッドを寝かせると荷物からタオルを取り出し湖の水をタオルに染み込ませゼッドの額にタオルを乗せる
「とりあえずはこれでいいかな。それにしても私の国に似た場所ね。といっても湖なんてどこにもあるから意識し過ぎだよね」
過去の夢を見た直後に同じような光景の場所に来てしまったせいで心が妙にざわついてしまい何とか平静を取り戻そうと独り言を呟いているとゼッドが目を覚まし起きあがる
「あ、起きた?」
「ここは・・・」
現状を理解できていないようなのでコトネはゼッドの目の前に座り説明する
「ここはジーモッドの領土内よ」
「ジーモッド?」
知らないのは当たり前だがコトネは初対面であるかのように装い話を続ける
「見慣れない格好しているけどどこから来たの?」
「・・・カーム」
「聞いた事ない国ね。う~ん・・・ちょっと聞きたいんだけどテンプラー、ネオトピア、ジーモッド、タスク。この名前に聞き覚えは?」
「いや、全くない」
「なるほどね。どうやら君は・・・そういえば名前を聞いてなかったわね。私はコトネ。あなたは?」
「ゼッドだ」
「よろしくゼッド。さっきの話だけどゼッドはこことは違う異世界から来たみたいね」
「異世界?」
「そう。左腕にシャードキャスターとしての証があるからどこかの国のシャードキャスターであるはずなのに国の名前を知らないなんてありえないからね」
「シャードキャスターの証・・・」
ゼッドは左腕に視線を落とし左腕に浮かぶ証をまじまじと眺める
「それで、ゼッドはこれからどうするの?元の世界に帰るの?」
「いや、俺はもうあそこには戻らないって決めている。俺がここに導かれたのならこの世界で生きていく」
(アニメ通りにどんな状況でも前向きだな。なら、テンプラーのシャードキャスターになる前に私が色々と先に仕込めばこの先のストーリー展開が変わって面白い事になるかもしれないわね)
「だったら相当な覚悟がいるよ。この世界は戦乱の世の中にあるから生き抜きたいならそれ相応の力が必要となる。雑魚のシャードキャスター程度の実力じゃこの世界では生き残れない。それほどにまで過酷な世界よ」
「関係ねぇ。俺はこの世界で生きると決めたんだ。俺にもシャードキャスターとしての力があるなら俺にシャードキャスターとしての戦い方を教えてくれ」
(真っ直ぐな瞳。これが主人公の風格ってやつなのかな)
本物の主人公としてのゼッドの姿を見てコトネはオタクだった頃の前世の記憶を思い出す。どんな時でも負けずに前だけを見る主人公に憧れていた。その主人公が目の前にいる。そう思うだけで胸が高鳴り口元から笑みがこぼれる
「いいわ。だったら教えてあげる。この世界での生き抜き方を」
こうしてコトネはゼッドの師となりアニメとは全く違う未知なるストーリーへと足を進めた
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第六話シャードの力
師となったコトネは早速ゼッドにシャードキャスターについてのレクチャーを始める
「まず、この世界にはシャードという力があって、シャードキャスターになる者は初めにシャードを扱えるように修行を行い、力が扱えるようになったら体のどこかにその証が必ず浮かび上がる。ゼッドの場合は左腕ね」
「そういえばコトネもシャードキャスターなんだよな。お前は何処にあるんだ?」
「私は生まれた土地柄の影響でシャードキャスターの証は武器にあるの」
そう言って右腰に差している刀を抜きゼッドに見せる。鞘の部分にゼッドの左腕にあるのと同じ証が刻まれている
「まぁ、ゼッドの場合は既に証があるから基礎的な修行は飛ばすね。だからは最初にゼッドがするのはこれね」
コトネは荷物の中からビー玉サイズの赤い玉を取り出しゼッドに渡す
「それを左手の紋章の上にかざしてみて」
「こうか?」
言われた通りにかざすと赤い玉は紋章の中へと吸い込まれていった
「うわ!どうなってんだ!?」
急に吸い込まれてゼッドは驚きの声を上げる
「これが修行の第一段階が終了。さっきの赤い玉はスペル・シャードっていう技の一種よ。スペル・シャードは様々な場面で使用するからよく見ててね」
コトネはその場から立ち上がり湖の前に立ちゼッドもコトネの後に続き隣に立つ
「まず、スペル・シャードにはいくつか使い方と応用法がいくつかある。まずはさっきのように手を紋章の上にかざす」
紋章が刻まれた鞘の上に手をかざすと赤い光と共に紋章の中から先程のビー玉サイズの赤い玉を取り出す
「まずは基本的な使い方。取り出したこの赤い玉にはシャードが込められていて、これを投擲する」
湖に向かって投げると赤い玉は炎に変わり湖に着弾すると湖の水を少しだけ蒸発する
「これが基礎よ。やってみて」
「あぁ」
ゼッドは言われた通り左腕に右手をかざしスペル・シャードを取り出し同じように投擲すると炎へと変わり湖に着弾する
「こんな感じか?」
「上出来よ。次はさっきの応用の技を見せるわ。やり方は簡単でさっきより長めにかざすだけ」
鞘に手を数秒ほど当てからスペル・シャードを取り出し先程と同じように投擲すると最初に投擲した時よりも大きな炎となり湖に着弾すると広範囲の水が蒸発する
「力を溜め込むイメージでかざすと高威力になるってわけ。威力は低いけど連射が可能な使い方、威力は絶大だけど力を溜めるのに時間がかかる使い方。この2つを戦況によっ使い分けるのが重要になって来るけどそれは経験を積めば自然と出来ると思うわ」
「なぁコトネ。俺はカームで一度だけシャードキャスター同士の戦い方を見た事があるんだが剣みたいな武器を使っていた奴がいた。俺にも出来るか?」
(そういえばゼッドはカームで母親とシャードキャスターの戦闘を見ていたんだっけ)
過去の記憶を引っ張り出してそんなシーンがあった事を思い出しコトネは荷物の中からテンプラーで造られた武器を取り出しゼッドに渡す
「これはスペル・シャードのもう1つの使い方。武具に使用する事よ。その武器に3つの穴があるでしょう。そこにスペル・シャードを填め込んでみて」
言われた通りにスペル・シャードを填め込むと赤い刀身が出現し剣へと変わった
「似てるが俺が見たのは刀身がもっと細かったぞ」
「それは単純に武器の造りが違うだけ。基本的にはそういった形でシャードキャスターによっては武器の設定をいじる人もいるから。私も普通の武器とは違うから」
鞘に埋め込まれている赤い玉を触り鞘から刀を抜きゼッドに見せる
「この武器とは随分と違うんだな」
「刀身の赤い部分は斬る、峰の部分は打つ、そして切っ先で突く。3つの攻撃方法を持った有能な武器だと私は思ってるけどね」
刀にそっくりなこの武器は使用用途も刀と同じで斬、打、突の3つの攻撃方法を持ち状況によって使い分ける事が可能。しかも普通の刀とは違いシャードの力で刀身を形成しているため鞘の中でシャードの量を調整すればナイフから大剣まで様々な形や長さに変える事が出来る
「じゃあ最後にシャードキャスターの取っておきの技を見せてあげる」
そう言うとコトネは振り返り湖に背を向ける。木々の間から武装した兵がぞろぞろと現れた
「やっと探したぞコトネ」
「お前を仕留めればたんまりと報酬が貰えるからな覚悟しろよ」
「コトネ、こいつらは何だ?」
「ジーモットって国の雑魚兵よ。私はジーモットに喧嘩売っているから私を狙っている連中は多いのよ」
敵に囲まれているというのにコトネは動揺したそぶりを見せずにゼッドの質問に淡々と答える
「行くぞお前ら!」
ジーモットの兵が合図を出すと数人が紋章からゴルフボールサイズの玉を取り出し空へと投げると玉は大きな円へと変わり中から様々な怪物が姿を現した
「な、なんなんだこいつらは・・・!?」
突然の怪物の出現にゼッドは驚き尻餅をつく
「これがシャードキャスターの中でも習得が難しい技『スピリット・シャード』自然界に存在するスピリットを使役する技。シャードキャスターの精神力が強ければ強い程に強力なスピリットを使役する事が出来る技」
「スピリット・・・コトネも持っているのか?」
「当然よ。国に喧嘩を吹っ掛けているんだがらね」
鞘に手を当ててゴルフボールサイズの玉を取り出し空に向かって投げる
「これが私の持つ最強のスピリット。ランボス!」
現れたスピリットは召喚されるとすぐさま攻撃に転じ敵のスピリットに蹴りを叩き込むと一撃でスピリットは消え去った
「スピリットの倒し方は2つ。1つはスピリット自体を倒す。そしてもう1つは・・・」
コトネは走り出し敵の中に突っ込み刀を振り一番近くにいたジーモット兵を斬り裂くと召喚されたスピリットの1体が何もしていないのに消えた
「スピリットを召喚したシャードキャスター本体を倒す事。さぁ、死にたい奴からかかってきなさい」
いきなり仲間を倒されジーモット兵の中に動揺が広がる
「うろたえるな!数ではこっちが有利だ。スピリットを駆使してコトネだけを狙えばこちらにも勝機がある!」
「おう!!!!」
ターゲットをコトネに絞りジーモット兵は攻撃を開始する
そこから先に起きた光景にゼッドは呆気を取られていた。それは戦いというよりも一方的な殺戮だった
コトネ1人にジーモッド兵は数で攻めて来た。だが、コトネは敵陣の中をまるで躍るかのように動き回り敵の攻撃をかわしていき隙を見つけて的確に1人ずつ倒していった
スピリットも攻撃に加わるがコトネは自分よりも大きな存在であるスピリットに臆することなくスペル・シャードを使いスピリットをかく乱しランボスがスピリットに止めを刺すという完璧な連携を見せジーモット兵はあっという間に壊滅し地面に転がり立っているのはコトネとパートナーのランボスだけになった
「お疲れランボス」
激励の言葉をかけるとランボスはゴルフボールサイズの玉に戻り紋章の中へと収納され刀を納刀するとゼッドに近寄る
「これがこの世界での戦い方よ。どう?真似できそう?」
「出来る出来ないじゃねぇ。できなきゃ死ぬんだろう」
これから先、コトネと行動を共にするという事はこういった事が日常茶飯事で起こると考えると生き残るには琴音がやった事をマスターしなければ自分の身も護る事も出来ないと理解できた
「状況をよく理解できたみたいね。じゃあ、これから強くなるための地獄の特訓を始めましょうか」
「上等だ」
気合を入れてコトネとゼッドの修行の日々が始まった
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第七話博愛と調和の国テンプラー
コトネとゼッドは共に旅をしながら草原や川辺といった様々な状況での戦闘を考慮した修行を行い、現在は森の中での修行を行っていた
「ほらほらもうギブアップ?」
「まだだ!」
ゼッドは剣を振り回すが、コトネは木から木へとジャンプしたりその場にあるものを利用してゼッドの攻撃をかわしていく
「そんなに剣を振り回したら、すぐに体力が尽きるよ」
「うるせぇ!」
コトネの忠告を聞かずにゼッドは剣を振り回していくが、次第に息が上がっていき遂に体力の限界を迎え膝をつき剣を地面に突き刺す
「今日はここまでね」
「はぁ・・・はぁ・・・くそっ!」
コトネに攻撃がかすりもしない事に苛立ちながら武器をしまい休憩に入る
「少しは力の加減を考えて振らないとあっという間に殺されちゃうよ」
荷物から飲み物を取り出しゼッドに投げ渡し、向かいに座る
「その前に倒せば問題ねぇだろう。それに最初に見たお前とジーモットの戦い方だってそうだったじゃねぇか」
「それは相手が私より弱いから。雑魚程度ならゼッドの戦い方でも十分に通用する。でも、私みたいな強者になれば通用しなくなる。その場の環境、スピリット、スペル・シャードといった全ての要素を100%以上に利用しないと勝てなくなる。世の中ってのは常に自分より上の奴がいるって思わないと」
「なら、お前を越えれば平気だな」
「まぁ、私は最強だからね。さて、そろそろ出発するよ。今日中にはテンプラーに到着したいからゼッドは荷物を持ってさっさと出発するよ」
休憩を終え、ゼッドは荷物を背負い琴音の後に続く
(私が最強とは言ったけど、ゼッドには最強のキースピリットであるアミル・ガウルがいるから私よりは強いけど、アミル・ガウルを完璧に制御できない物語の序盤はアミル・ガウルを少しの間しか召喚出来ないし、召喚後は気絶する。それに加えて本来のパートナーであるランボスを持っていないから、そこが唯一の心配なところなんだよね・・・)
アミル・ガウルはスピリットの中でも別格の強さを持っており最強と言われているが、使役するのは相当な力を必要とされる。アニメ内でも最初の頃はゼッドがアミル・ガウルを召喚して気絶するのが当たり前で、完璧に制御出来るようになったのは中盤の頃だったため、今の内にある程度はアミル・ガウルを制御できるための強靭な精神が必要になって来る可能性もある
「これから行く国ってのは強い奴がいるのか?」
「この世界にある国の中で最弱の国よ。他国と同盟を組む事で生き長らえているだけで、強い奴もたったの数人いるだけの国。だけど他の国からすれば比較的に友好だから、そこしか行けないっていう理由もあるんだけどね」
各国はスパイなどを警戒しているためコトネのような国に所属していない放浪人は警戒される。ジーモットは論外だが、タスクは聞く耳持たずで領内に入れば襲われる。ネオトピアは様々な申請を通さないと入れないし、ルールを破れば即死刑という面倒くさい国で結局は消去法的にテンプラーのみになってしまう
「そのテンプラーにはいつになったら着くんだ?」
「もうすぐよ。ほら、あそこに見える大きな風車がある所がそうよ」
コトネが指差した方向には大きな縦形の風車が回っている。森を抜け、つり橋を渡りテンプラーの国内へと繋がる城門の前にまでたどり着く。城門の前には兵士が2人おり、手には槍型の武器を装備している
コトネ達が城門の前まで行くと兵士達はコトネ達を警戒し2人の前に立ち塞がる
「お前達、見ない顔だが何者だ?」
「ただの旅人よ。7賢人のジーコ、もしくはセバスチャンへの謁見を求めます」
「余所者に我が国の賢人方を合わせる訳にはいかない」
「どの国の者かも証明できない以上は入れる事は出来ない」
「だったら、その2人から事実確認を取ればいいでしょう。彼らは私の事を知っている。それなら平気でしょう?」
「駄目だ駄目だ」
「さっさと帰れ!」
取り付く島もない状態で追い返され、コトネは振り返りゼッドから荷物を全部ひったくり背負う
「ゼッド、今から自分の実力を知る機会をあげる。ここからスタートしてあの大きな風車の下まで相手をあまり怪我させずにゴールする。いいね」
「おい待て。一体何をするつもりだ!?」
嫌な予感がしたゼッドはコトネを制止しようとするが、コトネは再び城門の方を向き鞘に触れスペル・シャードを取り出す
「はいスタート!」
スペル・シャードを投げつけ兵士の足元で爆発し砂煙が大きく巻き上がり、コトネは砂煙の中を突っ切りテンプラーへと侵入する
「侵入者だ!」
「あいつも侵入者の仲間だ、捕まえろ!」
「マジかよ・・・」
頭を抱えたゼッドも覚悟を決め、ぞろぞろとやって来る兵士の間を潜り抜けコトネを追ってテンプラーへと侵入した
テンプラーに入るとコトネの姿は既になく何十人もの兵士達がゼッドを取り囲む
「大人しくしろ侵入者!」
「やるしなねぇか・・・」
ゼッドが武器を取り出しスペル・シャードを填め込み剣を作る
「その武器はテンプラーの物!貴様、それをどこで手に入れた!?」
激高した兵士が突っ込むが、ゼッドはそれを軽々とかわし背中を蹴飛ばした。ゼッドの蹴りで勢いがついてしまい止まる事が出来ずに仲間に突っ込んでしまい同士討ちが起こり包囲網に穴が空き、ゼッドはそこから突破する
「逃がすな!」
「追え!追え!」
兵士に追われながらゼッドは周囲を見渡しコトネの姿を探すと、コトネは遥か前を行っており小さく見える
「あの荷物を持ってなんて速さだ」
荷物を持っているコトネに対してゼッドは武器以外は何も持っていないというのにコトネとの差は大きく開いており、差を縮めるどころか次第に差が開き始めている
「くそっ!」
一緒に旅をする中で毎日のようにコトネに修行を付けてもらって少しは強くなったと思っていたが、コトネには遠く及ばないという現実を突きつけられた事に苛立ちながらもゼッドは遠くなっていくコトネの背中を追い続けた
それから兵士の相手をしながらなんとか指定の風車の前に辿り着くが、そこにコトネの姿は無い
「どこに行ったんだアイツ・・・」
周囲を見渡すと風車の陰から屈強な体つきをした男が姿を現した
「好き勝手暴れて何が目的だ」
「俺はなにもしてねぇ。お前達が勝手に騒いでいるだけだ!」
剣を取り男に接近し剣を振り下ろす
「甘い!」
男は左手に持ったスペル・シャードを盾に変形させてゼッドの斬撃を受け止め空いている右腕でゼッドの顔にめがけてアッパーを繰り出す
「っ!」
咄嗟に後ろに下がり攻撃をかわし、距離を取る
「咄嗟に躱したか」
(危なかったがコトネよりは遅い。なら・・・)
相手の攻撃に対処できると理解したゼッドは再び攻撃を仕掛けようと走り出そうとした時、風車の上からコトネがゼッド達の間に割って入り戦いを止める
「そこまでよゼッド」
「コトネ、いつから隠れていやがった」
「まぁ、細かいことは気にしないの。それよりも久しぶりねデュマス」
「コトネ、お前の仕業か」
この一連の騒ぎがコトネが原因だという事が分かるとデュマスは大きく溜め息をつく
「・・・どういう事か説明してもらおうか」
「その前にジーコとセバスチャンを呼んで兵士達を止めてくれない?入国を拒否されたから無理矢理入らせてもらったから、大騒ぎになっているから」
自分のせいで騒ぎになっているというのにコトネは他人事のように言い放ち、デュマスは再び溜め息を吐きながら連絡を取り始めた
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第八話取引
それから暫くしてコトネとゼッドはデュマスに連れられ城のような大きな建物に案内された
コトネ達に用意された部屋に入るとそこには白髪で白髭を生やした杖を持った小柄な老人ジーコと大柄の中年の男性のセバスチャンの2人が待っていた
「久しぶりねジーコ、セバスチャン」
「ほっほっほ。久しぶりじゃなコトネ」
「お前は厄介事を毎回のように持ってくるな」
コトネの来訪に歓迎するジーコとコトネが起こした騒ぎに小言を呟きあまり歓迎をしていないセバスチャンと両極端な歓迎を受ける
「紹介するね。異世界からやって来たシャードキャスターのゼッドよ」
「ほぉ、異世界から・・・お主はまたとんでもない事を持ち込んだの~」
「呑気にしている場合かジーコ。騒ぎを起こした以上は審議会が黙ってはいない。どうするつもりだ」
厄介事の種を持ち込んできた事に警戒するセバスチャンをコトネがなだめる
「まぁ、この世界の事に関しては私が基礎的な情報は教えてあるから大丈夫よ
それよりもジーコ、ゼッドはシャードキャスターになってから日が浅いけど私がシャードキャスターとしての基礎的な知識と戦い方は教えたから後は実戦とちゃんとした師のもとで修行すれば強くなれる素質もある。その師匠としての役目をデュマスに託したいのが私の希望」
「デュマスってさっきの奴だよな。強いのか?」
コトネの言葉の中に出て来たデュマスという言葉にゼッドが反応する
「私に比べれば弱いけどこのテンプラーではシャードチャンピオンと呼ばれるぐらいの強さを持っている。もしもゼッドが私のように強くなりたいと望むのならデュマスの所に行く方がいいわ」
「ちょっと待て。コトネより弱いならコトネに修行を付けてもらっていた方が強くなれるんじゃねぇのか?」
「確かに強い奴の下で修行するのは強くなる上では重要だけど私は強さを求めてかなりの近道をしたせいで人に教える事が出来ないの」
「近道?」
「そう。私はジーモットに家族も国も全てを奪われた。それからは毎日のようにジーモッド兵に追われ、常に生死と隣り合わせの戦いをを続け、殺し合いの中で私は成長する事で生き長らえて来た。簡単に言えば修行という過程を全部すっ飛ばして戦いの中で成長したって事
だから私は正しい修行法というのを知らないし修行と言えば戦って覚えろという脳筋的な感じでしか教える事しか出来ない
でも、デュマスは違う。修行という過程をしっかりと行い実戦経験を積んで確実に強くなって今ではテンプラーのシャードチャンピオンになった実力がある。だから、私に修行を付けてもらいたいならまずはデュマスの下で身体と心の2つをきっちりと鍛え上げた上で私の修行を行えばゼッドは私以上に強くなるかもしれないって事」
「それで強くなれるなら俺はそうする」
「決まりね。扉の前で聞き耳立ててる人、入ってきたらどう?」
扉がゆっくりと開きコトネとゼッドと同じぐらいの年の女の子が入って来た
「あはは~気づいてたのコトネ」
「当然よ。久しぶりねロイア」
「久しぶりねコトネ」
「再会だけどさっき話した通りゼッドをデュマスの所まで案内してくれない?」
「了解。私はロイアよ」
「・・・ゼッドだ」
「よろしくねゼッド。じゃあ、行きましょう」
ゼッドとロイアが部屋から出ていき残ったコトネはジーコ達に向かい合う
「さて、セバスチャン。今回は私との取引をお願いしたいの」
「お主が取引だと?今までは物資の補給のみだったのにどういう風の吹きまわしだ?」
コトネの取引という音場に疑問を覚え、セバスチャンは警戒する
「簡単な理由よ。こちらでは対処しきれない問題が発生する可能性が出て来たのよ」
そう言ってコトネは今までに倒したジーモット兵から奪った武器やスピリットを並べる
「ジーモットは今まで私を抹殺するために部隊を統率する部隊長クラスの奴と強力なスピリットを送り込んできた。でも、最近は新兵クラスの弱い奴らを数十人送り込むという数で押す戦法に変わった
最初は疑問に思わなかったけど、ジーモットが妙な動きをしているという噂を聞いて、ジーモット兵に問いただしたら大きな計画が進んでいるという噂程度の情報しか手に入らなかった
でも、ジーモットの不穏な動き、そのタイミングでゼッドという異世界からの来訪者。この2つがもしも偶然でないのだとしたらこの先、世界は大きく変化する可能性があると私は考えている」
「また厄介事か」
「厄介事よ。しかも、世界を巻き込むほどの大きな厄介事をジーモットは起こそうとしている
ジーモットが総力を挙げて何かを企むとなれば私だけで対処する事は出来ない。だからテンプラーとの取引を考えたって訳」
「とりあえず話は聞くが取引を行うかどうかはお前の提示する条件次第だ」
「まずは私を戦力としてテンプラーに提供する。私がこの国にいればゼッドもここに滞在するようになるからゼッドも戦力として利用する事が出来る
それに対してテンプラーからは私とゼッドの衣食住と行動の自由、後は物資の供給を保障して欲しい
簡単に言えば私は戦力を提供、テンプラーは私達を支援。どうかしら?」
セバスチャンはこの取引を良いものだと考えている。コトネの実力は目の前に並べられたジーモット兵の武器と回収したスピリットの数をみれば分かる
しかし、セバスチャンには心配な点がある。ゼッドは異世界からの訪問者のためどんな問題を起こすかが分からない。コトネは既にジーモットから追われている身のため、テンプラーに住むという事はジーモットからの攻撃を受ける可能性もあるという事だ
「・・・コトネ、悪いがその取引に応じるには審議会で話し合う必要がある。少しだけ時間をくれ」
「了解。決まるまでは国の中にいるから決まったら教えてね」
そう言うってコトネは部屋から出ていく
「さて、儂は報告に行くがジーコ、お前はどうする?」
取引の間、ジーコは一言も喋らないでいた
「お前に任せるよ」
全てをセバスチャンに丸投げし、窓からコトネの後姿を眺める
「異世界からの来訪者にジーモットの襲撃から逃れた唯一の生き残り。世界が大きく動こうとしているのかもしれんの」
これから起こるかもしれない事を案じながらジーコはコトネの後姿を見送った
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