ジョジョの奇妙なアカデミア (寒天丸)
しおりを挟む
ジョジョ、教師になる ①
そしてジョジョ×ヒロアカ作品もっと増えろ…増えろ……。
「い、いよいよ雄英受験かあ。緊張するなあ………」
オールマイトとの特訓も終え、シャワーも朝食も済ませていざ登校中の緑谷出久。
念願の雄英受験とだけあって興奮が収まる気配がなかった。
しかし雄英に近づくにつれ、本来のネガティブ思考が前に出て頭をいっぱいにした。ヘマしたらどうしよう、落ちたらどうしよう。そんな最悪の事態ばっかりを予想していた。
(大丈夫……! 頑張ればイケる。頑張れば合格出来る! いくんだ緑谷出久!)
自身を鼓舞し、雄英に向かう足取りを加速させる。そんなこともあってか曲がり角を曲がった時、誰かにぶつかってしまった。
「うわぁ!?」
ぶつかった衝撃で背負っていたカバンから筆記用具やらノートやら中身がぶちまかれた。
だが、それらが地面に落ちるよりも先に速く動いた。
ドキュドキュドキュ!
「……えっ!? あっ! あっ!?」
転んで体勢を崩したはずなのに何事も無かったかのように元に戻っていた。
「あ、あれ? 今ぶつかって転んだと思ったのに……」
「よそ見してすまなかったな。大丈夫か?」
ぶつかった男の人を見て驚いた。衣類の上からでも分かる筋肉質な身体。奇抜なファッションにしか見えない着こなし。何故か髪と一体化してる帽子。そして何よりも驚いたのはかなり背丈があったことだった。
(でっかあ……! 190以上はあるぞ……!)
この現代社会で個性の影響で身長が2メートル越えなんて珍しいことではない。それでも目の前の男は素で190はあった。そして身長だけではなく、彼自身の面構えもあってか威圧感がスゴかったのだ。
「あ、だ、大丈夫です。僕の方こそよそ見していました。すいません!」
「いや、そう謝らなくていい。この町に来たのはまだ二回目なんでなマップを見ながら歩いていた。……やれやれだぜ。中々慣れねぇもんだな」
肩をすくめる男に最初はビビってしまったものの、喋っている間にそんな警戒心は薄れていった。なんか見かけによらず人情味がある人だなとも思った。
すると男は自己紹介してきた。
「空条承太郎だ」
「み、緑谷出久と言います! 折寺中学三年です!」
これが僕、緑谷出久と空条承太郎さんとの出会いだった。
「え? 空条さんも雄英に用があるんですか?」
「そういう君も受験生だったか……。まあ当然っちゃ当然か」
承太郎と緑谷は同じ道を歩いていた。お互いの用事を聞けばなんと二人とも雄英に用があるという。しかし緑谷は受験生でもない承太郎が何故雄英に向かうのかが気になってしょうがなかった。
「でも今日は雄英高校の受験日ですよ? きっと雄英は朝から不正対策なんかで殺気立ってますよ。なのに雄英に用があるってよほど大事な用事なんですか?」
「ああ、俺も今日から雄英の教師なんでな。半年前にオファーを受けたんだが、アメリカでの仕事を片付けるのに手間取って今日が初出勤になっちまったがな」
「へぇー、雄英の先生なんですか…………え?」
さらっと聞き流しそうだったが、寸でのところで踏みとどまった。
何せとんでもないことを口にしてたからだ。
「ええぇぇぇぇッ!? ゆ、ゆゆ雄英の教師~~!?」
「何を驚いてやがる。そんなに驚くことじゃあねぇだろ」
「お、驚くことって……凄い驚くことですよ!? あの雄英の教師だなんて……!」
雄英高校とはヒーロー育成の金字塔だ。毎年多くの受験生が挑戦しにやって来るし、ここを卒業して名を上げたプロヒーロー達も数多くいる。
当然、教鞭を振るう教師陣も名の知れたプロヒーローばかりだ。例を挙げるとヒーローラジオのパーソナリティー、プレゼント・マイク。セクシーな衣装がチャームポイントのミッドナイト。
そして──憧れのヒーロー、オールマイト! そんな彼らと肩を並べられるというのは凄い名誉なことなのだ。
「と、ということは空条さんもヒーロー……なんですか?」
「いや、俺はヒーローじゃあない。本業は海洋学者だ」
「海洋学者??」
そんな人が何故教師になったのか分からなかった。
理由を知りたがったが、それよりも先に承太郎が釘を指してきた。
「あんまり雄英のことを新人の俺がべらべら喋るわけにはいかないだろう。それに……着いたぞ、雄英」
「へ?」
前を向けば確かに雄英の校舎が聳え立っていた。承太郎との会話に夢中で気がつかなかった。
すでに多くの受験生達が親や友人なんかに見送られながら校門を潜っている。あの人たちの中に自分が入ると思うと胸が熱くなった。
とうとう来たんだ……! 雄英にッ!
「……同伴はここまでだ。ここからお前一人で行きな。それと──せいぜい落ち無いように頑張りな。運がよければ学校で会えるかもな」
「……はい! 僕も会えるのを楽しみにしてます!」
承太郎と別れ、緑谷は受験場に向かうことにした。
一方、緑谷と別れた承太郎は職員用のゲート前でIDを提示して別校舎に入った。
生徒は立ち入り禁止になっている廊下をひたすら進み、職員室の看板のある部屋までやって来た。
「邪魔するぜ」
開けた途端に室内の視線を独り占めする。一番最初に条太郎に気づき、詰め寄ったのはモヒカン頭が特徴的なサングラスの男だ。
「HEY承太郎! 待ってたぜぇ──! しっかし相変わらずしかめっ面だなあおい!」
「プレゼント・マイクか……。相変わらずデケェ声だな。少し静かにしてくれると嬉しいんだが」
「OH! すまねぇな! だがよ、こいつは俺の個性であり、アイデンティティーなんだよ! 俺に黙れって言うのは鳥に飛ぶなっつーのと同じことなんだぜYEAH──ッ!!」
「俺は声量を抑えろって意味で言ったんだ」
とりあえずプレゼント・マイクをスルーし、校長室へ向かうことにした。
その最中に他の教師方にも挨拶をしつつ、職員室の奥へと進んでいるとまた承太郎に声をかける者がいた。
「やあ承太郎! とうとう初出勤だね! HAHAHAッ!」
「……この学校は喧しい奴しかいないのか?」
次いで承太郎に話しかけてきたのはこれまでの職員とはある意味レベルが違う男だった。
鬱陶しいまでの筋肉の量に一人だけ画風が違った容姿。生ける伝説こと、オールマイトその人である。最も、承太郎からすれば熱苦しいタイプは苦手ではあるが。
「しかし私は本当に嬉しいんだ承太郎! 君が雄英の教員になってくれたことが!」
「そいつは前にも聞いたぜオールマイト。悪いが、話はあとにしてくれ」
オールマイトを払い、承太郎は構わず進む。
「どこに行くんだい、承太郎」
「一応、新入りだからな。ボスに挨拶は基本だろ? 校長と話をしたくてな」
「おっとすまないね! 私も校長先生に話があるんだった! 一緒に行こうじゃあないか!」
二人で校長室に入る。部屋は質素な造りで特にめぼしいものなんかは見られない。
来客用のソファーに腰掛け、しばらく待っていると奥の扉が開いた。
「おはようございます校長先生!」
「YES! ネズミなのか犬なのか熊なのか、かくしてその正体は……校長さ!」
雄英高校校長、根津。個性は【ハイスペック】。ネズミでありながら人間の脳を凌ぐほどの頭脳を手にいれたという
「相変わらず今日も整った綺麗な毛並みをしていますな! 是非ともその毛並みの秘訣をご教授願いますか!?」
「秘訣はケラチンさ! さすがの人間にもこの色艶は出せやしないのさ!」
「なるほど! 参考になりますな!」
「「HAHAHAッ!!」」
どこに琴線が触れたのか知らないが、大笑いする二人に承太郎は付き合いきれなくなった。
「……邪魔なら出ていったほうがいいか?」
「おっとすまない! つい脱線してしまった! で、一体何のようだい二人とも?」
「俺の担当教科のことだ」
『ああそのことだね!』と根津は二人に淹れた茶を渡す。
二人が茶を一服するのを確認すると咳払いして空気を一新させた。
「さて、君達の担当教科だね? オールマイトは以前話した通り、ヒーロー学の教師だ。基本的に午後の授業だから体調を整え、ボロが出ないようにしてくれ」
「分かりました!」
「そして空条君はまだ赴任したばかりだ。まずはイレイザーヘッドの元で一年A組の副担任をやってもらいたい! 詳しいことはイレイザーヘッドに聞いてもらったほうが早いだろう。よろしく頼むよ」
「副担任か……」
海洋学者として多くの大学やフォーラムで講説してる承太郎だが、いきなりクラス持ちは早すぎると判断したのか、副担任として任命した根津。
そんな根津に承太郎は一つ聞きたいことがあり、二人と出会った時のことを思い出した。
「……半年前、突然アメリカの俺の事務所を訪ねてきたのがあんたら二人だった」
「……ああ、そうだな」
「第一声が『雄英の教師になってくれないか?』……だったな? そいつを聞いたとき、俺はあんたの頭を疑った。ヴィランと戦いすぎて頭がイっちまったのかと思った」
「そんなこと思ってたのか君は……!」
「そしたらあんたは突然
「いちいちそんな細かいことも憶えてるのかい君って奴は……」
「一応、あんたのファンだからな」
微笑を浮かべ、茶を飲む承太郎。荒々しさの中に上品さを孕んだ飲み方だ。
「つまりだ。俺を教師にするためだけに、あんたらは秘密を売った。あの時はあんたの『覚悟』に答えたつもりだが、何故そこまでして俺を欲しがるんだ? 俺よりも教師に相応しい奴なんざ、他にもいるだろ?」
「いや、君だから文句はないんだ。君達も憶えているだろう、あの"DIO"を……。」
「……ええ、憶えています。忘れるわけがありませんよ」
十年前に突如現れたヴィラン、DIO。
その持ち前のカリスマ力に世界中のヴィランが魅了され、心酔し、忠誠を誓った悪の帝王。世界を掌握しようと企んだ伝説のヴィランである。
DIOに対処しようと日本からはオールマイトやエンデヴァーを始めとしたプロヒーロー達が参戦し、世界中のヒーロー達が打倒DIOのために動いた。
しかし、その強大すぎる組織力を前に誰一人としてDIOの元へ辿り着くことは出来ず、苦戦を強いられることとなった。
そんなDIOに挑んだ五人と一匹がいた──。
「──誰も辿り着くことの出来なかったDIOの元に辿り着き、唯一倒した人間こそ! そう、君さ! 空条承太郎! 公にはなっていないものの、裏社会で君は有名人なのさ!
そして今年はDIOが死んで十年目! 十年経っても奴の爪痕は消えていない! 奴に影響を受けたヴィラン達がDIOの意思を継ごうと暗躍しているだろう! そうさせないためにも、我々ヒーローがDIOに勝ったということをヴィラン共に示さなければならない!
つまりだ。君とオールマイトが雄英に属す。それは後続のヒーロー達への教育を磐石にすることに繋がるとボクは思ったってことさ!
どうだい、理解してくれたかい?」
根津は思った、オールマイトと空条承太郎が揃えば向かうところ敵なしなのではないかと。
無論、それなりの待遇も用意したつもりだ。
オールマイトにはトゥルーフォームの隠れ蓑や身体のサポートとして高校の施設を。承太郎にはDIOの残党などの情報を共有することを約束させた。
「……なるほどな……。DIOの意思への対抗ってことか……。おっと、勘違いするなよ。一度決めたことをこの期に及んで『先公なんざ辞めてやる』なんて言うつもりはないぜ。
──『DIOの因縁は断ち斬らねばならない』。あんたらがそれを曲げないつもりやってやるさ、教師をな!」
「……そうかそうか! てっきり辞めたいって言われると思っていたから身構えいたよ! どうやらそれは杞憂だったようだね!」
「私も内心ビクビクしてたよ! 見たまえこの汗! 気が気じゃあなくて心が折れそうだったよ!」
「君ってばその図体に似合わず小心的なところあるよね! もっとボクのようにタフガイな精神を持ちたまえ! 炎上もバッシングも何のそのさ!」
「そうならないように是非とも善処いたしますぞ!」
「「HAHAHAッ!!」」
「……やっぱり喧しい奴らばかりだな、この学校は」
とりあえず盛り上がってる二人を置いて校長室を後にした承太郎だった。
目次 感想へのリンク しおりを挟む