CVのせいで二回目の人生に集中できねぇ! (柳カエル)
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CVのせいで二回目の人生に集中できねぇ!
子供のころは良かった。
声変わり前はみんな、似たり寄ったりで変に意識することもなかったからな。
コンクリートが木造に変わり、豆腐の
だから、転生者でも
異世界に転生したところでたいしたことはないと自分に言い聞かせる。
しかし、これはどういうことだ。キャパシティが足りない。
「ちょっとー! 私のこと、忘れていないでしょうねっ!」
く、くくくくくくく──くぎゅう!? 久しぶりに再会した幼なじみが釘〇理恵だと!? ピンクブロンドでツインテールの幼なじみから発される声が〇宮!? なぜ!?
確かに、ヒロインのような容姿だと常々、思っていたが。
「なに、ぼーっとしてんのよ? もしかして……私に惚れちゃった?」
田舎の凡人でも通える学園の教室を背景に、腕組みで見下ろす幼なじみ。ちなみに、見下ろしているのはこちらの方だ。
「なにか話しなさいよー! あ! 私よりちょっと、身長が高いからって、調子に乗らないでよね!」
20cmぐらいの差はちょっとだろうか? 唐突なCV発表に俺は驚きを隠せない。昔は性格がツンデレなだけで、声までツンデレに成長するとは思わなかった。
ついでに、俺の名前はケント・アルマーニで現代日本から転生した者だ。男、男と二回目の人生も引き続き男だ。
前世は隠し切れないオタク。声オタで、声優の声を聞けばビビっと分かってしまう。とはいえ、声優の子供時代を知らない俺に、声の才能を見抜けというのは酷な話。
声オタの俺が、大御所声優と同じ声の人物に関わってしまうとは──
幼なじみのことを変な目で見ちゃうじゃないか! 具体的にはこれから一生、変なバイアスが頭の中にまとわりつくぞ!
もし、他にも似たようなケース、人物がいたらどうするべきか……。
「……もしかして、私が誰なのか本気で分からないの!? 嘘でしょ!? ねぇ、ケント! いい加減にしなさいよ! さもないと……」
「ごめん。ちょっと考えごとをしてたんだ。だから、燃やすのはやめてくれる? メル……? 許してくれ、頼む!」
「んふふふ……しょうがないから、許してあげるわ! 私は器が大きいのよ。久しぶりに会ったけど、ケントってば、相変わらずね」
彼女の本名はメルセデス・シュプリーム。メルとは、彼女のあだ名だ。メルが言う『相変わらず』というのは、俺の考え込む癖のことを指しているらしい。
前世からずっと、考えながら喋ることが苦手で、俺が黙っている時は考えごとだというのが、幼なじみたちの間にある共通認識だ。
なんだかんだ懐の深い幼なじみたちにコミュ障の俺は助けられている……みたい?
俺が火だるまになる末路は避けられたようだ……。
──燃やすと言ったが、それはメルの能力に関することだ。単純にメルは魔法の力が強く、才能に溢れている。多種多様な魔法の中でもメルは、火の魔法が得意で手当たり次第、燃やし尽くす危険人物。
俺は男友達というより、
分かりやすいツンデレだったから、オタク知識が役立ったのかもしれない。
幼なじみといえば、もう一人──
「うわあ、久しぶりだね。懐かしいな」
爽やかな男の子が、がががががが──
「やぁ、メル。ケント。これから、同じ学園の仲間として一緒に頑張っていこうね」
「ふふん。仲間じゃなくて、ライバルよ。分かったかしら?」
いいいいいいいい、い、石〇ァ! 彰ァ!? う、裏切りませんよね!? ただの爽やかキャラですよね! そうですよね!?
髪、
いやいやいや、原作とはなんも関係ないんだ。きっとそう。そうであって欲しい。
「……コイツ、さっきからおかしいのよ」
「ははは、ケントらしいね。別にいつものことだから、大丈夫だよ」
「それもそうよね! 心配して損したわ!」
ライリー・シャトー。お前もか。
お前も、成長したら大御所声優になるのか。そうかそうかそういう奴なんだな。
って、成長したら石〇彰になってたまるかぁ!!
努力の末にあの声が生まれたはずなのにっ! あの演技力がっ!
声優は好きだが、決して会いたい訳ではない。声優本人が好きな訳ではなく、声優の仕事ぶりが好きなのだ。
お仕事頑張ってください。そう、心の声をそっと添えるだけ。
そんな俺のオタ活は置いといて、ライリーのポテンシャル──ステータスは魔法剣士といった感じだ。風の魔法が得意で、剣術の腕も磨いている。
そんな男がカッコよくないはずがない。子供のときは、俺が主人公でメルはヒロインだと信じていたが案外、ライリーが主人公でメルとくっつくかもしれないな。
「あ! なんか今、カチンと来たかも! コイツ、燃やしていいかしら? いいわよね、ライリー?」
「いや、駄目だよ。というか、幼なじみが幼なじみに燃やされてる姿なんて見たくないよ。あぁ……ケント、早く考えごとから戻って来て……」
おっと、いけない。ライリーの言う通り、考えごとはほどほどにしておかないとな。
クラスで顔合わせをしたら、入学式だ。ここで名前と顔を覚えておけば、後は楽なんだ。
さて、教師はどんな人だろうな──
「──騒がしい。静かにしろ、ひよっこ共。俺がこのクラスの担任だ」
す、す、杉〇ァ!? どう見てもクール系の教師なんですけど! なのに、銀〇が
幅広く演じてらっしゃるから、意外と思うのはおかしいけれども──
「俺の名前はジーク。ジーク・ヴォルトだ。俺は一度しか説明しないから、よく聞けよ。……俺に迷惑はかけるな。分かったか?」
きょ、教師が職務を放棄してらっしゃる! おい、〇田ァ! 仕事しろォ! ツッコミ役、呼んで来てェ!
「なによ、あの教師! 燃やしてやろうかしら?」
「まぁまぁ……落ち着いて、ケントは大人しくしてるじゃないか……」
「アホ
「……ううん……」
あ、ライリーにもアホ面だと思われてる。いやー、ついつい考えごとに没頭してしまった。でも、これ──仕方がないよね?
あー、これからこの学園生活……どうなるのかなぁ。
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CVのせいで入学式に集中できねぇ!
俺の心のメモ。
どんな風になっているかというと──
ケント・アルマーニは俺。
異世界転生者、田舎者、凡人、以上。
メルセデス・シュプリームは幼なじみ。
息抜きのため、俺が生まれた村に遊びに来たお嬢様。あだ名はメル。ピンクブロンドのツインテール。かわいい。
魔法の天才、火属性、ツンデレ、暴力的、美少女。
最近、判明したがCV釘宮〇恵。
ライリー・シャトーは幼なじみ、その二。
謎の理由で村に滞在していたが、いつの間にかいなくなった謎の少年。茶髪青目。
魔法剣士、風属性、イケメン、優しい、大人しい、爽やか、謎が多い。
以下同文、CV石田〇。
ジーク・ヴォルトはクラスの担任。
見た目はクールで、中身は大雑把な教師。黒髪赤目で杉〇のくせに、ちょっと恐い。
あんまり分からん。剣とか、使いそう。
以下、CV杉〇智和。
──こんなもんだ。俺にしてはよくまとまったメモだろう。
メルが杉──ヴォルト先生に突っかかったいざこざはあったが、今はすっかり大人しくなっている。入学式が普通に始まりそうだ。普通って、最高だよな!
「あーあ、あそこに立っているのが私じゃないなんて、納得できない……!」
あそこというのは、壇上のことだ。立派な垂れ幕がかかっている。
「無茶……言うなよ」
「ケントの言葉には、一理あるね」
どうやら、入学式の席は名前順ではなく、ある程度自由に座っていいようだった。周囲は同じ学年で、あるいは俺たちのように知り合い同士で固まった。
右にメル、左にライリーで幼なじみに挟まれている。右に……釘〇、左に〇田……。いやいや、余計なことは考えるな!
「おっ、あれが生徒会長か……」
「ふうん、
「お前、何様だよ……」
「二人とも、静かに……!」
どこに待機していたのか、現れた生徒会長が壇上に登る姿に誰もが目を奪われている。
サラサラの金髪に緑色の瞳。まるで王子のようだ。きっと、中身も完璧に違いない、そう考えを巡らせていると──
「皆さん、初めまして。僕は生徒会長の──」
た、炭〇郎!? じゃないっ! 花〇夏樹さんだッ! 鬼〇の刃が大ヒットして一般人の注目を集めただけで、花〇さんは以前から大活躍なさっていた。
その実績と実力があったからこそ、鬼〇の刃にふさわしい声優として選ばれたのだ。その名声は決して、鬼〇の刃効果だけではない。
声優の待遇が良くなるなら、どうぞどうぞ〇滅の刃ブームをじゃんじゃん利用しちゃってください! たった一つの声しか出せないのは、気になるんですけども──
そんな俺の魂の叫びは置いといて、あああアアアア゛ア゛! 声優が分かったせいで、余計なバイアスがかかってしまう! 許してください、生徒会長さん!
前世の記憶が邪魔をするんです! くっ、前世の知識が全く、役に立ってないじゃないか! むしろ、逆効果では!?
両親とか、健康に生きてらっしゃる!? ああ、気になる! 知りたい! CV花〇さんの家族事情を知りたい! 誰か、教えてェェェ! 生徒会長に詳しい人ォォォ!
頼む……俺を……安心させて、くれ……。
「本当に今日は様子がおかしいわね……」
「……なにか悩みごとがあるのかもしれないね……」
あ、やべ。生徒会長の名前、聞き逃した。でも、大丈夫だろ。俺には幼なじみがいるし。幼なじみに聞けばいいんだ。
「……ねぇ、ケント。もし、体調が悪いなら保健室、行こうか? 僕、付き添うよ」
「えっと……大丈夫。なんでもない」
「……そっか、辛くなったら我慢せず、すぐ言うんだよ」
うう……なんて、優しい幼なじみなんだ。メルとは大違い──げっ、メルがこっちを見ている。あの目は危険だ。気をつけないと。燃やされる。
ハァー、声が石〇だからって、疑った俺が馬鹿だった。優しいCV石〇は癒される……最高だァ……。
「……コイツ、キモ……!」
「うーん……僕でも、庇いきれないかな」
落ち込んだ表情から一転、ニヤケ始めた俺に対して二人がドン引きしている。うん。俺でも俺がキモイと思うわ。ごめんね、オタクで。
俺がオタクでも、入学式は続く。そりゃそうだ。学園に関係ないもんな。俺の事情なんて──
「私は学園長の──」
「──ぐっ……! ふぅぅ……!」
シャアやないかい! 学園長、シャアやないかい! 濃すぎぃ! この学園、キャラ濃すぎィ! 池〇秀一と言われたら、ピンと来ないけど、シャアと言われたらくっきりはっきり分かる人だ!
どんな作品でも、シャアみたいな役柄が求められてる人だ! デモンエ〇スマキナにもいた! アムロとセットでいた!
手で口を押さえて、なんとか耐えたけど……。
「……ちょっと、ケント……うそぉ……どうしちゃったのよぅ……!」
「……本当に保健室に行こうか? 自覚がないだけで、熱があるのかもしれないよ」
メルは涙目で、ライリーは本当に俺を心配してくれている。俺、下手したら不登校になるかもしれない。だって、こんな学園──俺は耐えられないよ。
俺の不安をよそに、教師がそれぞれ自己紹介をする番が回ってきた。当然、俺のクラスの担任、ヴォルト先生は無愛想で一言のみ。
他の教師を見習えってんだ──
「どうも〜。音楽担当のナンシーよ。よろしくね」
みゆきちいいいいいいい!! 七色の声を持つ沢〇みゆきさんだ! ニュースを読み上げてくれて、セクシーな峰〇二子やボーイッシュな役もこなす、〇城みゆきさんだ! なんかどこにでもいるから、段々その声を好きになってしまうのは不可抗力だと思う。
声が色っぽいナンシー先生は長い金髪を巻いていて、まつ毛も長い。青い瞳がとてもきれいで、スタイル抜群。胸も……でっけぇ……。
でかいおっぱい最高! おっぱい、おっぱい!
「どこ見てんのよ……! バカケント! スケベ! 変態!」
「……あはは。
その声で
「むう……反省してるなら、いいけど。次はないんだから!」
「さっ、二人とも。ちゃんと前を向いて、先生の話を聞かないといけないよ?」
「はーい……」
俺たち二人が改まって正面を向くと壇上には、小柄な少年が立っていた。天才少年とか、そういうやつか。
途端に周囲もざわめきだす。オタクの俺にはよく見慣れた展開だったが、ほぼ同年代に見える少年が教師とは信じがたいのだろう。
「なにあれ……迷子かしら?」
「……そんなはずはないよ。きっと首席とかじゃないかな?」
横にいる幼なじみも微妙に勘違いしている。こういうときは俺のオタク知識の方が正しいんだ。見てろよ、見てろよ──
「
レンズ越しにキッとこちらの席をにらみつける。どうやら、かなりの地獄耳のようだ。って──
この声、梶〇貴! ショタの声から元気な青年まで──明るくてエネルギッシュなキャラクターを演じていることが多い声優さんだ。
へー、眼鏡キャラでショタかー。髪の色は明るい水色、つり目がちな赤い瞳。どこか
花〇夏樹にシャア、沢〇みゆき、梶〇貴──なんなんだ、この学園は!? 声オタに厳しすぎないか!? このままでは悶え
はぁ……なんか、呼吸困難になってきた。
「ヒュ……ヒュッ……」
「……このままじゃ、ケントが死んじゃう! や、やだぁ!!」
「すみません! ケントが、僕の幼なじみが……体調がすぐれないようなので、途中退席させてください。僕も付き添います」
俺の異変を感じ取ったライリーが素早く、手を挙げて大人たちを呼び寄せる。お前……注目されるのが苦手なはずなのに、そこまでして俺のために……。
「ゲホッ……大げさだよ……俺は、大丈夫……心配かけてごめん」
「ケ、ケントぉ……! しっかりしなさいよ! バカ!」
「謝る必要はないよ。ゆっくり、深呼吸して……落ち着いて、大丈夫、大丈夫。僕たちがついてるから」
俺がオタクという不治の病に苦しんでいる
「おい、なにがあった。説明しろ」
ぶっきらぼうな杉──ヴォルト先生が、駆けつけて来てくれた。不器用なりに、教師として責務を果たそうとしているのだろう。
でも、なにげにヴォルト先生のポージングが首痛めた系男子なことに気付いた。そのポーズはなんですか、先生。気になって仕方がない。
「いや、なんでもないんです」
「なんでもない、ということはないだろう。俺を呼んでおいて──」
「黙りなさい、ケント! ケントの言うことは信用しないで、先生!」
「おっ、おう……?」
釘〇にたじたじな杉〇。なんだ、いつものことか。後は、ツッコミ役がいれば……じゃねーや。
「でも、本当に大丈夫──いだだだだ」
意地を張っていると思われたのか、メルにほっぺたをぎゅいっと掴まれているし、ライリーに足を踏まれている。
「その、なんだ……まずは、三人の名前を教えてもらえるか? まだ、顔と名前が一致してなくてな……悪いが、お前の対応はそれからだ。少し、我慢してくれ」
えぇ……無能。さっき挨拶したやろ。事前にクラス全員分の情報を頭に叩き込んでおけばいいのに。
でも、この世界の写真技術と個人情報の扱いがどれぐらいの物か知らないからな。田舎から出たことないし。というか、俺の体調はどうでもいいから、この場面をどうにか切り抜けたい。
めちゃくちゃ、目立ってしまっている。恥ずかしいな……。
「私の名前は、メルセデス・シュプリームですわ。以後、お見知りおきを」
「僕はライリー・シャトーです。先生……彼を早く……」
「ああ……そうしたいが──お前の名前は?」
「ケント……ケント・アルマーニです……」
意外と素直な幼なじみたちが手短に挨拶を済ませると、ヴォルト先生の視線は当然、俺の方を向く。見ないでくれ、
「おい、ジーク。さっきから手間取っているが、どうしたんだ?」
「ああ、それがな──」
子〇ウウウウウウウウ!! 某吸血鬼だったりと、顔の彫りが深い男性を演じがちなことで有名な〇安さんだ! 体格的に体育教師っぽいな。銀髪のロングで髪を一つに結んでいるが、絶妙に似合っている。
右に釘〇。左に石〇。正面に杉〇と子〇。これってつまり──
俺、終わったな。
「……ッ、先生……! 俺を保健室に連れてってください……!」
「だっ、大丈夫か? 分かった。連れていく。ちゃんと俺の肩に掴まれ。二人もこいつが心配だったら、ついてきてもいい」
大きな音をたてて、俺は椅子から転げ落ちた。一応、クラスの担任であるヴォルト先生にしがみつく。助けて、ヴォルト先生──!
「本当に体調が悪そうだな。ジーク、ここは俺が説明しておくから、貴様は先に体調不良の生徒を連れて保健室に行け」
「ああ、助かる。最初から、そのつもりだったがな」
「ううっ……ケント……私を置いて死ぬなんて、許さないんだからっ……!」
「大丈夫だよ、メル。きっと、ケントは大丈夫だよ」
なんて、カオスで豪華なCV……。
その
「とりあえず、終わったな」
「そうね、終わったわね」
「うん……? 入学式のことだよね? 二人とも?」
時々、ライリーは皮肉じみた言い回しをする。こういうところは天然で腹黒だよな。しかも、怒れない。周りがCV声優だらけで、オタクの俺は色んな意味で学園生活が終わった、ってか? ああん?
「ケント、
「そうよ! 今日のアンタ、なんか変よ!! アンタ、なんか……変な物でも食べたんじゃないの? 腹でも叩けば少しはマシになるかもしれないわね! ふんっ!」
同じ幼なじみでこの差……。まあ、心配してくれてる気持ちはちゃんと伝わってるんですが、言えないよなぁ。
俺のオタク転生事情なんて……。声オタとか、どう説明すればええねん。
──俺たちの学園生活はこれからだ! いや、どうせ声優まみれでしょ。声優学校に変更したら? まぁ、アニメなんてこの世界にはないんですけどね!
ってことは、だ。俺はこの秘密を一生、抱えて生きていく訳だ。
はは……俺の人生、詰んだわ。ドンマイ……☆
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CVのせいで言い訳に集中できねぇ!
心のメモに追加だ。
生徒会長。名前は聞き逃した。聞く機会も絶たれた。きっと、知らぬ存ぜぬが俺のため。
金髪
文武両道、多分。
CV花〇夏樹。
学園長。名前は不明。
全く学園長の話を聞いてなかった。でも、話が短かったことに好感が持てる。
CV池〇秀一。
ナンシーは音楽の先生。名字は不明。
俺の偏見だとクソビッチ。ボンキュッボンで長い金髪を巻いている。目の色は青。
巨乳。
CV沢〇みゆき。
謎の天才少年。名前は不明。
地雷が多そうで扱いが面倒そうな教師。殺気が強いので今のところ、一番関わりたくない。頭髪は明るい水色。目の色は赤。目のクマがやばい。
眼鏡キャラ、ショタ、秀才。
CV梶〇貴
謎の先生。名前は不明。
ヴォルト先生と親しげ。ライバル関係か? 長い銀髪を下の方で結んでいる。鼻が高い。
CV子〇武人。
なんだ、この声優遭遇率は。エンカウント狂っとる。
本当に知恵熱が出てもおかしくないくらい、濃い一日だ。といっても、学園生活はまだ始まったばかり。げっそりするし、ゾッともするが、俺だって声優メモをまとめていただけではなかった。
とりあえず、入学式が終わるまでの
「ハァ? 役者と声が似てるから、我を忘れた? 頭、大丈夫? アンタの村に劇団なんて、来るはずないじゃない」
「うーん……僕たちはずっと、村にいた訳じゃないから……そうとも言いきれないよ?」
さっそく、CV釘〇が論点をズラしにきた。別にクソ田舎に劇団が来てもいいでしょうが。それはともかく、今ならまだ上手く誤魔化せる。
「いや、村を出て劇を見に行ったんだよ……なんだ、その目は。俺を疑うのか?」
「当たり前じゃない! 面倒くさがりのアンタがわざわざ、村を抜け出して劇を見に行くなんて……ありえないっ!」
「それは、僕も同感だよ」
くっ、生まれ変わってもインドア派なのが裏目に出たな。いいじゃん。見栄を張って、劇を見に行った設定があってもいいじゃん。それすらも許されないの?
「劇を見に行くなら、私も誘いなさいよ! このバカ!!」
「そうだよ、一人で見に行くなんて水臭いよ」
「……それか! 本題はそれか! 分かりづらいって……」
それなら、最初からそう言って欲しかった。でも、この世界……連絡手段がカスなんだよな。手紙とか、アナログにもほどがある。携帯が恋しい。
魔法はあっても、そういう便利な魔法は金持ちや権力者にだけ行き渡り、庶民の手には届かないらしい。困ったもんだ。
それに、メルの家は知っていても
随分、誘い
「メルの家はでかいし、ライリーの家は知らないし……仕方がないだろ。お前らの方から誘えよなー。俺、ずっと家にいるし……」
「んもう、怪しさ満点だけど……私、とっても優しいから今回は見逃してあげる。感謝することね!」
「……うん、僕も。ケントのことだから、きっと理由があるんだよね。信じてるよ……ケントのこと」
「それ結果的に信じてないよね? 俺の言ってることを『嘘』だと断じてるよね。おーい」
顔を左右にそらすな、二人とも。やっぱり、俺って嘘が下手すぎ? 見逃してくれるということなので、お言葉に甘えて今は、見逃してもらおう。
「じゃあ、この話終わりな。不毛すぎる」
「はいはい……まーでも、アンタが役者好きなんて意外よね」
「俺の話、聞いてた?」
「確かにね。それなら、三人で一緒に見に行きたい劇があるんだけど──」
俺の味方はどうやら、この場にはいないらしい。畜生ッッッ!!
「ふうん。じゃあ、それ──三人で見に行くしかないわね」
「うんうん。日にちは、いつにしようか? メルの都合のいい日は?」
あれ? 俺には聞かないの? 視線だけで俺の思いが伝わったのか、石──ライリーが俺の方に振り返る。
「ケントは毎日、予定が
「畜生! 他にもっとマシな言い方はなかったのか!」
「アハハッ、『暇人』でどうかしら?」
もっとひどいです。
はー、ひどい目には
逃げ込んだ先に、声優がいなくて良かった──
「ん? 先客がいたのか、いや生徒か。ケガをしている訳でもない、風邪でもなさそうだ。君の症状を教えてもらっても?」
ああ、なんだ。ちゃんと保健医がいたのか。タイミングが悪かったな──って、アァ!?
この声は──下〇紘だ! うっかり聞き逃すところだった。
鬼〇の刃効果で一般人には
ただし、気絶すると強くなるなど、なろう系主人公に近い一面を持つため、一般視聴者は戸惑う。
更に、善〇希望だった花〇夏樹さんと
「……私の質問に答えられないのか? それとも、答えたくないのか。どちらかな……」
引き続き、下〇紘の声に耳を傾ける──
この低い声のトーンは──ブラック〇ーズサスペクツのレオ・アビントンの声優を担当していたときに似ているな。下〇紘当人もクール兼中二病なイケメン役でオファーされるとは思っていなかったと、コメントを残している。
ブラ〇スと言えば、謎のウサギ男からマダオの声がして、ビックリしたんだよなぁ。おっと、いけない。脱線した。
「……自己紹介が遅れたな。警戒しなくていい、私はこの学園の保健室を担当している者だ。君が倒れたときは丁度、別のところにいてね……悪く思わないでほしい、
そうそう、こんな風に
悪い意味で白衣が似合っている。
でも、これ──下〇紘だから。警戒するだけ無駄だな。
「ふふ……どうして、私が君の名前を知っているかって、知りたいかい?」
「いや……別に。誰かに俺のことで呼ばれたから、保健室に来たんですよね? 先生はさっき、なにも知らないフリをしてましたけど……」
そりゃ知ってるでしょ。と思って、言い返したらムッとされた。大人げないな。ん?
「あのう、先生……ケントは入学式で疲れてしまっただけのようなので、大丈夫だと思います。僕たちに任せてください」
「それを決めるのは、私だが……?」
「私たちがいるので大丈夫です! 心配は無用です!」
幼なじみ二人が下〇紘先生から、俺を庇っている? なんのために……? それは下〇紘だぞ? 警戒しなくていいって。
「はぁ。なんもしないというのに……。ちょっと、新しい薬を試そうとしただけだ。全く、最近の子供は礼儀がなっていないな」
いや、駄目じゃん。幼なじみグッジョブ! こいつ、ガチのマッドサイエンティストかよ。
職務放棄、すなー! もしかして、この学園でストライキですか? 職務放棄ブーム到来ですか?
学園長、人望ないし、人選ミスだな。ワンチャン、声で教師を決めてたりしない? 声優学校か。
「君たち二人だけでも、入学式に戻ったらどうだ? 今ならまだ、間に合うぞ」
「すみませんが、幼なじみのそばにいたいので……僕をここにいさせてください」
「私も、私も!」
「はぁ……好きにすればいい……」
そう言って、CV下〇紘の保健医は去っていった。
えっ、どこに? お前、保健医だろ……。本当にお前は保健医か? 廊下に出て、どこいくねん。保健室にいろ。
まぁ、このままマッド教師が居座っていたら、俺の身が危なかったけど……。
「……なんか、変な先生だったね。新しい薬を試すとか、不穏な言葉を言っていたし、本当に保健医かどうか怪しいよ」
「そうよ! これ以上、ケントに変な真似をするようなら燃やすつもりだったんだから! 命拾いしたわね、エセ保健医!」
「あ……ありがとう」
俺の感謝に対して間違いなく、百点満点の笑顔を返してくれた幼なじみたち。
持つべきものは幼なじみだな。
頼れる存在にしみじみしながら、和気あいあいと保健室を過ごしていた──
予定だった。
「あっ、あの……入学式で……倒れていた……人だよね? 大丈夫だった……? あ、私……カリンと申します。よ、よろしくね……?」
入学式もそろそろ終わるだろうというところで、人がやって来た。保健室の扉を盾にして、隠れている。パステルイエローの頭だけがひょっこり出ているが……CVは隠せない。
これは、悠〇碧いいいい──!? 鹿〇まどかちゃんのような、消え入りそうなか
「私たち……く、クラスメイトだよね……? 気になって、会いに来たんだけど……迷惑、だった……かな?」
「ううん、そんなことはないよ。カリンさん。入学式の途中で倒れたケント、僕の幼なじみを心配して保健室にまで来てくれたんだろう? 迷惑なわけ、ないさ」
「ほっ……よ、良かったぁ……」
俺とライリーは、カリンの様子をほっこりと見守っているが……一方、メルは、カリンのオドオドとした姿に苛立っている。
「なによ、アンタ?」
「な、なにって……えっ……? なにか、シュプリームさんの嫌がることをしちゃったかな……? ご、ごめん……」
「──もう! なんで謝るのよ! バカ! なんで、ケントの見舞いにわざわざ来たのか、って聞いてるのよ!」
「……ごめんなさい、ごめんなさい……!」
「うぐぐ……」
どうやら、メルとカリンの相性は最悪らしい。なにか、
「僕は遠慮しておくよ。半分は、
「はぁ……?」
俺が鈍い……だと? むしろ、ビンビンだと思うが。さっきから、声優ばっかりで神経がピリピリしてるよ。
「カリン……ちゃんは謝る必要はないし、メルもそんなに怒る必要はないだろう。ちゃんと会話しろ、二人とも」
「……ごめんなさい」
「ほら! コイツが謝るからよ! 私は悪くないわ! カリンが悪いの!」
カリンは蜂蜜色の瞳にうっすらと涙を浮かべている。メルの顔は
むしろ、苦手なくらいだ──ど、
「えっと……私、本当に……シュプリームさんの嫌がることをしてたら、教えて欲しいな……あっ、分からない私が悪いんだけど……ごめ──」
「謝らないで! その、いきなり怒った私も悪かったわよ。ごめん……なさい。ただ……こんなバカを見に来るなんて、どんなバカなのかと思ったの」
バカバカ言いすぎじゃない? ともかく、和解したようだ。こういうときは、下手に男が口を出さない方がいいよな。
「ケントってば……これで気付かないのかい? 本当に鈍いな……」
「俺、まだなんも言ってねーだろ……!」
アイコンタクトしかしてない。やれやれするな。
「私のことは、メルでいいわよ。カリン。特別ね」
「えぇ……!? えっと、ありがとう。うん、これから……その……メルさんって呼ぶね。えへへ……」
カリンちゃん、声も
「ちょっと!? ケント、デレデレしないで! 灰にするわよ!」
「幼なじみを灰にするとか、ヤンデレ通り越して病んでんぞ! 正気に戻れ!」
万が一、メルが幼なじみの俺に好意を持っていたとしても、普通──灰にしますか? 燃やしますか? 死をお前にプレゼントですか?
俺はもっとまともなプレゼントを女の子から貰いたいぞ。俺、おかしなこと言ってないよな? そうだよな。
「ケント……ガンバ!」
ガンバ! じゃねぇよ、石〇ァ! どうして、メルの殺意がお前にだけ行かないんだ!? CV石〇だからか? ズルいぞ!
「で、入学式……終わったのか?」
「……わ、私に言ってるの? うん、入学式はもう終わったよ。残念だったね……」
「いや、俺は大丈夫……でも、二人は?」
俺に振り回されることに慣れてる二人なら大丈夫だろうと思っているが、気にしすぎなクラスメイトがいる手前──聞いておこう。まあ、大丈夫だろう。
「……アンタのせいで最悪よ」
「……僕は、なんとも言えないや……」
アレ!? 想像してたよりも冷めてるなぁ! どうしてかなぁ!? やめて、そんなジト目で見ないで!
「そんなことは置いといて、さっきの話に戻ろう。色々あったけど、劇の話だよ」
「劇……? そ、それって……私も混ざっていい話……?」
「うん、もちろん」
くっ、ライリーの野郎……。勝手にカリンちゃんと仲良く話しやがって……羨まけし──燃やさないでください。メル様?
「……フン。油断も隙もないんだから!」
こんなに物騒なのに、どうしてライリーもカリンちゃんも微笑ましげにこちらを見ているの? 微笑ましい要素一つもないからね?
「……おい、もしかしてカリン……ちゃんも劇に誘うのか?」
「当然じゃない。なんでそんなこと聞くのよ!」
「いや、カリンちゃんの方はどうかな……って」
「……私?」
自然と視線がカリンちゃんの方に集まるのは不可抗力というものだが、注目を浴びている本人は非常にビビって小さくなっている。
「……そうね。コイツ人見知りだし、人間嫌いだし、臭いし、ブサイクだし……本当はケントのことが嫌だけど、カリンだから断れないだけなのかも──」
「言いすぎだろーッ!!」
「え!? そんなことないよ! って、あれ? えっと……あ……冗談……? 冗談なの……?」
俺もカリンちゃんも、すっかりメルのオモチャになってしまっている。恐るべし……CV釘〇。その声のせいで、理不尽への
「ケント、ざまぁ! アハハッ!」
俺はまだ婚約破棄どころか、婚約もしてないぞ! 仲間追放もしていない! ライリーもなんか言ってやれ! その声で!
「えっ……あぁ、僕の話を聞いてくれない人たちなんて、どうでもいいよ……」
こっちはこっちで、
と思ったら、俺抜きでスケジュール調整を始めやがって、その結果。学校が休みの日──四人全員の都合が合う日に遊びに行くことになった。
俺? ほぼ毎日ヒマだよ?
劇場も見る『劇』の内容も、劇団選びもライリーに任せてしまったから俺はあんまり……よく分かっていない。でも、なんとかなるだろ。
そう──俺はのんきに構えていた。
まさか、劇場が事件現場になるとは思わなかったんだ!
次回、『俺、死地に
俺の心臓! 俺の鼓膜! オタクの魂、百まで。
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