銀河帝国召喚 (秋山大祭り)
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来訪者

第0話 プロローグ


   A long time ago in a galaxy far, far away..

   遠い昔、はるか彼方の銀河系で..

 

 

 

          STAR WARS 

 

          銀河帝国召喚

 

 

 

     

 

 

 

 腐敗と混沌に満ちた銀河共和国が打倒され、銀河帝国による新たな秩序により、人々は安全と安心な社会を手にする事ができた。

 しかし、一部の愚かな共和主義者達は自らの妄執を実現すべく、帝国のニューオーダーを破壊しようと各地で野蛮なテロリズムを加速させていった。共和民主主義なるおぞましい退廃思想を掲げ、無垢の帝国市民を洗脳し栄えある帝国の平和と秩序を破壊すべく、その魔の手を伸ばしつつあった。

 だが、栄えある銀河の支配者にして守護者である偉大なる皇帝パルパティーンは屈しはしなかった。銀河の平和と秩序を乱す愚かな狂信者と、残虐非道なテロリズムを繰り返す共和主義者共の残党に対して正義の鉄槌を振り下ろすべく、自らの右腕にして弟子であるシスの暗黒卿 ダース・ベイダーを送り込むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星々がきらめく宇宙、漆黒のベールを切り裂くように、その白銀の艦隊は進む。銀河帝国が誇る〔インペリアル級スターデストロイヤー デヴァステイター〕そしてその同型艦を含めると十数隻にも及ぶ大艦隊であった。

 デヴァステイターの艦橋で彼は目の前の惑星を静かに見つめていた。尤も、彼の表情が分かる者は誰もいない。

 

 「ベイダー卿」

 

 後ろから声をかけられ、ダース・ベイダーは後ろを振り返る。

 

 「交渉はどうなった?」

 

 「決裂です。話にもなりませんでした。」

 

 一週間前にこの宙域に到着した彼ら帝国軍の部隊は、先行させていた偵察用ドロイドからの情報で、すでに目の前の惑星のおおまかな国家 地名 民族 文化についてある程度情報を得ていた。

 神聖ミリシアル帝国を中心とした第一文明圏

 ムー王国を中心とした第二文明圏

 パーパルディア皇国と大小様々な小国が存在する第三文明圏

 この中で列強として扱われ最強の軍事力を保有するとされるミリシアル帝国とムー王国に対して服属を要求したのが一週間前であり、その最後通牒の結果がさきほどまで行われていたのであった。

 

 「所詮は辺境の野蛮人です。理解するだけの脳など持ちえていないのでしょう。」

 

 ダルダ・ワイート少佐は嘲笑を浮かべそう言った。ベイダーの補佐役として新しく与えられた士官であるが能力面はともかく自身の感情を優先させる癖があり人格面でも、かなり問題のある人物であった。

 

 「彼らが要求に応じないのは予定通りだ。むしろ交渉を放棄したおかげで大義名分も手に入る。」

 

 「では、すぐに攻撃を?」

 

 「3隻を軌道上に残し、その他の艦は降下を開始せよ。」

 

 「降下?軌道爆撃だけで事足りると思いますが。」

 

 スター・デストロイヤーに搭載されているターボレーザーやヘビーレーザー、熱核ミサイル等の武装は惑星内の都市を焦土に変えるには充分な破壊力を持っている。わざわざ惑星内に降下せずとも、スター・デストロイヤーはその名前のとおり一日あれば、この星を徹底的に破壊し尽くす事など簡単な事なのだ。

 

 「シールドもファイターも無い現地民に我々が負けると思うのか?」

     

 「い…いえ そのような事は…」

 

 「今回の遠征は、皇帝陛下の掲げる平和と秩序を享受する事のできない哀れな原始人を暴虐な圧制者から解放し救済する事だ。不必要な犠牲を増やす事を陛下はお望みではない。」

 

 ベイダーは機械的に、まるで録音されたホログラムのように言葉を続ける。

 

 「何よりも、この地に潜伏する叛乱軍を調査する事が重要なのだ。無知な現地民がどれだけ退廃思想に毒されているか皇帝陛下は気になされておられる。」

 

 「おぉ…皇帝陛下はそこまでお考えになられていたとは…このダルダ感服いたしました。」

 

 徹底した皇帝の崇拝者であるダルダは納得したようだ。彼にとって銀河帝国皇帝シーヴ・パルパティーンは全知全能の神のような存在なのだ。

 

 「ベイダー卿 間もなく降下の準備が整います。如何なさいますか?」

 

 兵士の一人がそう報告する。ベイダーは深く頷き指令を出した。

 

 「直ちに降下上陸を開始する。総員に対し戦闘準備を完了させ待機せよ。」

 

 

 今、銀河帝国の新たな戦いの火蓋が落とされようとしていた

 




感想 お待ちしております。


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交渉 第1話

 ルーンポリスの設定に関しては原作にはほとんど書いて無かったので作者の想像です。
 イメージ的には1930年代のニューヨークです。


 中央歴1638年2月13日

 神聖ミリシアル帝国 首都ルーンポリス

 

 世界の首都 眠らない街 この世でもっとも繁栄した都市

帝都ルーンポリス そこは世界の中心であり繁栄と栄華を極めた街であった。

 管理された交通システムに道路を駆け抜ける魔導自動車 先進的で機能的な街並みに清潔で身なりの良い人々 そして完成すれば世界最大級になると言われる全高400mを越える高層ビル。ルーンポリスに訪れた人々は皆、この街並みを見ただけで神聖ミリシアル帝国がなぜ列強最強と呼ばれるかを理解するとされる。故に騒がしい喧騒はもはや日常茶飯事であったがこの日は、そのいつもの日常とは違っていた。

 

「マギカライヒ通商担当です。貴国の開発した蒸気機関車という乗り物を我が国でも導入したいのですが詳しく教えていただけませんか?」「ありがとうございます。では、詳細の方を後々担当の者に近々お伺いさせます。」「例の魔石鉱山の件について我が国も参入させて頂きたい。」「これが我が社が開発したガラッゾ350です。他社の製品とは…」「我が社の方が…」「その件に関しては…」「ハハハ…」「ではでは…」

 

 第一第二文明圏会議

 

 この日ルーンポリスにおいて第一文明圏と第二文明圏に属する国家が通商や技術交流、文化振興を目的とした会議が行われているからだ。元々、魔法技術においてトップクラスをゆく神聖ミリシアル帝国と科学技術において最も最先端技術を持つムー王国の相互理解のために始められた会議であったがこの十数年で参加国も増え、今では覇権主義の強いレイフォルと文明圏の違うパーパルディア皇国以外の先進国が全て参加する大規模な会議になったのだ

 ルーンポリス国際会議場で開かれた会議は順調に進められいよいよ閉会となった時、突如として轟音が街に鳴り響いた

 

 「何事だ!」

 「あぁっ 初代皇帝陛下の石像が…」

 「バカな… ルーンポリスの対空防衛網は完璧のはずなのに…」

 ルーンポリス国際会議場の正面にはかつて魔帝の残党を駆逐し神聖ミリシアル帝国を建国した国父ミリシアル一世の10mに及ぶ石像があるミリシアル自由広場があるが、無惨にもその石像は破壊せれていた。

 

 「おのれ… 何故こんな事を…」

 

 その場にいたミリシアル人はその光景を見て怒りに震える残党とはいえ強大な魔帝 光翼人を滅ぼし今の安全な祖国を手に入れられたのは国父と祖先達の血と犠牲のおかげである事をよく知っている。この広場と石像も祖先達の偉業と功績そして失われた命を忘れないために現在の皇帝であるミリシアル8世が建てたのだ。

 

 「!!あれはなんだ?」

 

 一人の参加者が指を指す 全員がその方向に目を向けると同じ疑問を感じた。

 それは飛行機械の機首に箱型の胴体をつけ3枚の翼を持った奇妙ななにかであった。それはゆっくりと広場に着陸しようと下の2枚の翼が変形し静かに着陸した。

 

 「これは貴方方のデモンストレーションか何かですか?あまりにも悪趣味だと思いますが…」

 

 ムーの大臣が不愉快そうな表情を浮かべながらそう言う。

それをミリシアルの代表が即座に否定する。

 

 「まさか! 我々が大恩ある猊下の石像を破壊するとでもお思いか! あれがなんなのかにせよ私達は何も知りません!」

 

 「では…いったいアレは…」

 

 

 10分前

 

 ダルダはラムダ級シャトルの中で眼下に広がるルーンポリスの街並みを見ていた。

 

 (フン 野蛮人らしい低レベルな文明だな インペリアル・センターとは比較もできん。)

 

 彼はベイダーからの指示で神聖ミリシアル帝国に対して銀河帝国による服属を要求するための使者としてえらばれたのだ。

 

 「少佐殿 まもなく到着いたします。」

 

 ラムダ級のパイロットが報告する。

 

 「あぁ その前にあの広場にある石像を破壊しろ目障りだ。」

 

 「よろしいのですか?あまり現地民を刺激しない方が」

 

 「構わん どのみちここを制圧したら破壊するんだ。結局の所、早いか遅いかの違いだよ。」

 

 「し しかし命令書ではこちらからの発砲を禁ずると無駄に挑発するのは…」

 

 「帝国こそ法であり掟そのものだ。恒久的な平和を実現するためには下等な野蛮人共に身の程を分からせてやるのが彼ら自身のためになる。」

 

 ダルダは物わかりの悪い生徒に一般常識を教える教師のように話した。

 

 「これは一種の啓蒙なのだよ。銀河帝国とパルパティーン皇帝陛下という正義と秩序の前には反逆など無意味だと教えこむのだ徹底的にな。」

 「ハ ハァ…」

 

 「分かったら撃ちたまえ」

 

 

 

 

 ルーンポリス会議場 今その中は剣呑な雰囲気で充満していた。理由は会議場の中心にいる人物にある。

 銀河帝国艦隊から派遣された使者を名乗る人物だ。

 

 「おやおや…野蛮人の首領どもが雁首揃えてお集まりとはなかなか都合の良いこともあるものだな。」

 

 長身で痩せ型、金髪碧眼の容姿を持つその男は外見上は一般的なヒト族の成人男性に見えるが少なくともこの会議場にいる人々に微塵も敬意を持っていない事は明らかだった。

 開口一番に侮蔑と嫌悪の入り混じった嘲笑を周囲に浴びせると適当な席にドッカリと腰を下ろした。

 

 「なんと無礼な!!」「キサマッ!一体なんのつもりだ!」「使者だと言うからわざわざ面会してやっているのだぞ!」「よくも猊下の石像を破壊してくれたな!」「この事は貴様の本国にも抗議してくれる! 大事にしてやるぞ!」

 

 会議場にいた全員が一斉に声を挙げる。しかし当のダルダは馬鹿にしたような笑みを浮かべてまるで意に介さない。

 

 「皆様!お静かに願いたい!!」

 

 一瞬で声が止み声を挙げた人物を見る。

 

 「皆様どうか落ち着いて頂きたい」

 

 声の主神聖ミリシアル帝国外務大臣ペクラスはそう言った

 

 「皆様方、ここは第一文明圏と第二文明圏の交流を深める場です。決して罵詈雑言を言い合う場所であってはなりません。」

 「し…しかしペクラス殿」

 

 「我々はこの世で最も優れた先進国であり他の国々を導く存在でしょう。彼らはただ単にルールを知らないだけの子供の様なものです。ならば彼らにもこの世界のルールを教えるのも大人である我らの義務です。」

 

 「おぉ…なんと寛大な」

 「さすがは列強最強 器が違いますな」

 

 

 「茶番は終わりかね?そろそろ話を進めたいんだが?」

 

 まるでそれが当然とでもいうかのようにダルダは椅子にふんぞり返ってニヤニヤと相変わらず馬鹿にしたような笑みを浮かべている。

 

 「ハハハ…これは失礼…銀河帝国と言いましたか?新興国の方が何用でわざわざここまでお越しにならねたのてすかな?」(クソっ!誰が蛮族だ!こっちが下出に出ていれば頭に乗りおって…本来ならば問答無用で逮捕拘禁にでもできておったのだぞ!)

 

 内心ペクラスは腸の煮えたくる思いであった。そもそも相手は国交も無くミリシアルの領空を侵犯し石像を破壊するなど明らかなテロ行為を行っており国交樹立はおろか宣戦布告とも見える明らかな敵意を示している事からも、わざわざ会議場に呼ばなければならない理由などミリシアル側にはないはずである。

 

 (だが、そう簡単にいかんのだよ…)

 

 

 ミリシアル側にとってこの男を拘束できない理由があった理由の一つとしてミリシアル側のプライドの高さがあった。この世界において神聖ミリシアル帝国は世界一の超大国であり相手が外国の使節を名乗っている以上、それ相応の態度で扱わなくてはならないのだ。それこそ第三文明圏のパーパルディア皇国や第二文明圏のレイフォル国のような列強と呼んでいいのかというようなレベルの国や人口だけやたら多いロウリア王国のような国とはレベルが違うという事を内外に示していかなければならない。

 とどのつまり非文明圏や下位列強ならば使者に公然とワイロを要求したり酷いときは刃傷沙汰を起こしても『所詮は民度の低い蛮族だから』と白眼視はされてもさして問題視はされない。だが同じ事をミリシアルが同じ事を行えば一体どうなるか、国内外から盛大なバッシングを受けるのは間違い ないだろう。蛮族と同じだと思われる事をプライドの高いミリシアル国民は最も許せないのだ。無論この場合先にテロまがいの事を行ったのは向こう側であり他国の関係者もこの場で見ている事からも逮捕拘束してもそこまでは非難される事はないだろう。だがペクラスにはもう一つ思惑があった。

 ペクラスはチラリと広場に目を向ける。3枚羽の奇妙な飛行機械はいまだにそこにある。

 

 (あの男が乗ってきた飛行機械…あれはまさしく天の浮舟!しかも我が国が保有している物とはかなり違う!一体どこから手に入れたのだ?)

 

 ペクラスは外交官であり技術畑ではないので、あの飛行機械正確にはラムダ級シャトルがどれほどの性能を持っているかは分からない。しかし20m近くある鉄の塊を空に飛ばすような芸当をただの蛮族ができるとは思えない。何者かが手引きしたのか、もしくはもっと別の理由か。

 まず1つ目はミリシアルを含む魔法文明圏。だが、これはあり得ない。列強第三位のエモール王国は竜人族の性格からしてもわざわざ新興国相手に飛行機械を渡すとは思えない。列強第四位のパーパルディア皇国も絶対にあり得ない。そもそもあの国では、いまだに博物館の骨董品クラスの戦列艦やマスケット銃のような旧式武器を見せびらかしているような程度の低い文明であり自力で飛行機械を運用する事など根本的に不可能だ。

 

 (ならばムーならばどうだろうか?いや、これもあり得ん)

 

 総合的には列強第ニ位の実力を持つムー王国。しかし技術的には科学なる分野の技術を持ち奇怪な代物を作り出している。これもあり得ない。まず他の国の領空に侵犯しテロまがいの事をしでかすような連中に技術提供なり飛行機械の譲渡なりしてもメリットは無くむしろテロの共謀を疑われる等デメリットしかなく政治的にあり得ない。

 

 (もっともムーごとき、科学文明国風情にあれだけの代物が作れるとは思えんしな。ならば…)

 

 ペクラスの予想でもっとも可能性が高いもの

 

 (間違いなくあれは魔帝の遺産!恐らくは状態の良いものを運良く発掘したのだろう。)

 

 これが一番可能性大だ。いや、それしかあり得ない。神聖ミリシアル帝国が現在のような超大国になれたのは魔帝ことラヴァーナル帝国の遺した技術の存在が一番大きい。ペクラスは考える。

 

 (あの自信…恐らくあの飛行機械以外にも、まだ発掘兵器を保有しているかもしれん。ならば!)

 

 ペクラスの野望それは銀河帝国を間接的に保護国もしくは属国にして魔帝の遺産を独占する事だった。魔帝の技術は今のミリシアルでも再現する事ができない程、高度な技術なのだ。すなわち魔帝の遺産をより多く保有する事ができれば神聖ミリシアル帝国はより発展できる。

 

 (ここは耐えるのだ…なんとか国交樹立を成立させてしまえばコチラの有利に動かせるはずだ。奴らの本土や国力すら分からん状態では軍や調査隊を送る事すらできん。)

 

 「ほう…野蛮人にしては殊勝な態度だな。」

 

 「我々は文明ある民族です。決して暴力に頼らず、ここは対話による相互理解と国際協力の名において貴国を招きました。ここはお互いに文明国らしくお茶でも飲んでお話しましょうではありませんか。」(いい気になってるのも今の内だ!我がミリシアルを侮った事を子孫末代に至るまで後悔させてくれる…徹底的に搾り取ってくれるわ!)

 

 どちらせよ国交を締結させたら今回の賠償責任を取らせた上でもっともらしい理由をつけて魔帝の遺産は全てとりあげる。断ったとしてもむしろそっちの方が好都合だ。先に手を上げたのは向こう側の方なので徹底的に叩き潰してくれる。ペクラスはそう考えた。

 

 「くだらん…話し合いだと?ククク…それなら都合がよい!今日はお前たちに良い話しを持ってきたのだ!」

 

 ダルダは芝居がかった口調で高らかに叫んだ

 

 「蛮族共よ!聞け!今日は貴様らにとって最高の記念日となる日だ!栄えある銀河の至宝にして法と秩序の番人!全銀河の支配者にして平和の体現者!神聖不可侵なる銀河帝国皇帝シーヴ パルパティーン皇帝陛下より書状を読み上げる!」

 

 

 ダルダの持って来た書状、それは銀河帝国への無条件の服従を要求するものだった。一応国家の存続は認めるものの列強諸国が形だけとは言え到底のめるはずも無く交渉は決裂、最終的には罵詈雑言の言い合いになり終了した。最後ダルダは一週間後に最後通牒を行う事を告げ携帯型のホログラム投射装置を置いて去っていった。

 

 

 

 

  デヴァステイター艦橋

 

 「よろしかったのですか?本当にあんな男を交渉に向かわせる等…」

 

 「決定事項だ大佐。奴ほど適任は居ない。」

 

 デヴァステイターの艦橋の中でベイダーは一人の士官と話していた彼はこの惑星との交渉にダルダを向かわせたのがどうしても納得できなかったのだ。

 

 「彼は軍服を着たケダモノです。余計な敵愾心を向こうにあたえるだけです!」

 そう彼、ザミュエル・レノックス大佐は言った。帝国軍の中でも珍しい部下思いの士官である彼がそこまで言うには理由があった。

 ダルダ・ワイートの資料には彼が現在のベイダー艦隊に配属される前の軍歴を記していた。そこには上官への命令無視ならびに軽視、民間人への暴行、殺害疑惑について書いてあった。特にエイリアン種族への常軌を逸した虐殺に関してはエイリアン種族への排斥運動を行う帝国軍においても眉をひそめる程過激かつ残忍なものだった。

 レノックス自身は今回の交渉で帝国の技術をミリシアル側に見せつけ戦わずに支配する事は可能だと予想していた。幸いな事に当初予想されていたような反乱軍の軍事拠点化は無く今の所、反乱軍より先に影響力を及ぼしておけば反乱軍に付く事は無いだろうと思っていた。

 

 「奴がケダモノであればむしろ都合が良い。」

 ベイダーは淡々と述べた。

 

 「生贄の祭壇に上げられるのはいつだって獣だ。ある程度の犠牲はやむを得ん。」

 

 「犠牲ですか…しかし…」

 

 レノックスはそれでも反論しようとするもベイダーに言葉を遮られる。

 

 「どの道、戦争は起きる。この星の住民の文明力は我々の想像よりも低い。卿の考えているような方法で支配しても、いずれ反乱を起こすだろう。どれだけ力の差があろうともな。ならば最初から我が帝国に逆らうという事がどんな末路をたどるか見せつける必要がある。」

 

 まるで自分の心の中を読んでいるような発言にレノックスは内心、恐怖を感じる。だがそれ以上に最初から武力攻撃による支配をするのは衝撃だった。それでは交渉に向かわせたダルダを最初から見捨てる事と同じだからだ。

 

 「では、彼を最初から捨て駒として使う予定だったのですか…」

 

 「最初に言ったように奴ほど適任は居ないそれに…我が銀河帝国に無能は必要ない。」

 

 「………」(哀れなものものだな…組織の歯車という奴は…いやそれを言えば私も同じ歯車か…)

 

 レノックスはダルダを哀れに思った。銀河帝国と皇帝に対して狂信的とも言える忠誠心を持っている彼であっても当の帝国にとって彼の存在は、いくらでも換えのきく部品の一つにすぎないのだろうから。

 

 




 更新遅れました。もっと短くまとめたかったんですが思うように書けなくて…


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開戦前夜 第2話

 


 神聖ミリシアル帝国 アルビオン城

 

 「しかし…いささか性急過ぎはしなかっただろうか。いくら属国化を要求されたとしても…」

 

 「ですが陛下…あの要求を形だけとは言え受け容れれば我がミリシアルの沽券に関わります。」

 

 「左様…そもそも身の程知らずの蛮族の戯言とは言え恐れ多くも陛下に対して奴隷のごとく振る舞えなどど…」

 

 アルビオン城の謁見の間において神聖ミリシアル帝国皇帝《ルキウス・エルダート・ホロウレイン・ド・ミリシアル》通称ミリシアル8世は言った。第一第二文明圏会議での奇妙な乱入者のおこした騒動と顛末について報告を受けていたのだ。

 

 「その銀河帝国を名乗る者共は我が国だけではなく会議に出席した全ての国に対して服従を要求してきました。ここで甘い顔をすれば我が神聖ミリシアル帝国がむしろ弱腰だと侮られる事になりましょう!」

 

 外務大臣ペクラスは興奮気味に言葉を並べた。当初はうまく懐柔しようとダルダの無礼な態度に我慢していたが、当の銀河帝国の要求はあまりにも酷いものだった。その内容は以下の通りだった。

 

 第一に各国は銀河帝国ならびに銀河帝国皇帝シーヴ・パルパティーンに忠誠を誓い帝国と皇帝の意思を無条件で受け入れる事。

 第二に各国の王または首相は皇帝の代理人として一地方自治領首としてのみ存続を許される。なお選定に関して銀河帝国側に全権が許されており、これ以外の決定は認めない。

 第三に惑星全土を保護するために銀河帝国より派遣された総督を惑星の管理者として新たな統治者として認める。これには一時的にベイダー卿が着くとする。

 第四に各国は治安維持のために銀河帝国宇宙軍を無条件で駐留させる事。ならびに維持費用捻出のために軍備予算を現在の3割に削減する事。

 第五に各国は銀河帝国軍による治安維持行為に関して無条件かつ無償の協力を惜しまない事を確約する。

 

 

 以上が銀河帝国が提示した条約の内容であった。この他にも数十にも及ぶ屈辱的な要求に対して、無論各国政府の出席者達は激怒し、ダルダが帰ったあとミリシアル政府と各国政府は協調して銀河帝国の脅威に対抗する事を決定した。

 

 「すでに、ムー国を含めアガルタ法国、トルキア王国、リビズエラ王国の軍がここ、ルーンポリスに集結しております。また我が国、いや世界最強と言っても過言ではない第零式魔導艦隊も到着しております。銀河帝国とやらがどれ程の戦力を持っていても破る事などできないでしょう。」

 

 そう国防省長官アグラ・ブリンストンは言った。最も彼から見れば自国の軍だけで事足りると思ったが各文明国に対して神聖ミリシアル帝国の軍備を見せつけるのに良い機会だとも思っていたので各国の軍の受け入れに関して積極的に受けていた。

 

 「うむ…貴公らの言いたい事はよく分かった。余もこの軍勢が敗れるとは思えん。二人とも大義であったな下がってよいぞ。」

 

 ペクラスとアグラが退室した後、ミリシアル8世は深い溜息をつく。銀河帝国を名乗る謎の勢力について何も知らないまま戦争を起こそうとする臣下たちの浅はかさに内心、疲れたのだ。

 

 「まったく次から次へと厄介な問題を…」

 

 無論、あの要求を無条件で受け入れる事などできない。しかし落とし所を見つける事はできなかったのだろうか。近年ミリシアルでは列強第一位という自信からか他国を見下したり自国以外の価値観を認めない等、視野が狭くなっている者が増えていることを危惧していた。現在のミリシアルでは、かの魔帝に敵わないというのに建国当初の人類の盾としての理念を失いつつある現状に大きく危機感を抱いていた。

 

 (しかし…悩んだ所で何も解決せん。私もやれる事をやらねばな。銀河帝国…嫌な予感がする。)

 

 ミリシアル8世は自身の書斎の魔導電話、皇帝以外に使う事ができないある秘匿回線に連絡する。

 

 「私だ。例の〘アレ〙は使えるか?期限は5日後だ。うむ…無理は承知の上で上手く調整してほしい。今回は魔帝の遺産をかなり大量に保有する者達が相手だ。分かった分かった鹵獲、接収した物は真っ先に貴公に調査させるよう取り計らうようにしよう。では頼んだぞ。」

 

 チリンと受話器を置くとミリシアル8世は椅子の背もたれに深く腰を下ろし再びため息をついた。相手が魔帝の遺産を持っている以上、万全の態勢で挑まねばならない。各国への協力依頼や関係庁舎への連絡等、皇帝としての職務は多忙だ。目の前の書類に目を通す。

 

 「今日は徹夜だな…」

 

 

 

 ムー王国 首都オタハイト

 

 第二文明圏の雄にして、この世界では珍しい科学文明を持つ国家、ムー国の首都である。そこではムー国国王ラ・ムーが国防大臣ルゲウスから報告を受けていた。

 

 「派遣する艦隊の内訳はどんな内容かね?」

 

 「はい。我が国からはラ・カサミ級を3隻、ラ・コスタ級を2隻、ラ・デルタ級を6隻派遣する事を決定しました。」

 

 「最新型のラ・カサミ級を3隻もか…本国の防衛は大丈夫なのかね?近頃はレイフォルの動きも気になる。その上、銀河帝国とやらが真正直にルーンポリスに奇襲をかけるとは思えんのだが…彼らのブラフという可能性は無いのかね?」

 

 「ご安心ください。首都オタハイトを含め各地の哨戒に抜かりはありません。レイフォルに関しても国境の警戒レベルを上げており猫の子一匹入る事も出来ないでしょう。」

 

 ルゲウスは楽観的に言った。正直に言って彼は銀河帝国の使者が言った事をほとんど真に受けていなかった。軍勢を差し向けるのであれば徹底的に叩き伏せれば良いだけだし何も来なければ、それはそれで列強の力に臆して逃げ出したという風に宣伝できる。言うなれば今回のルーンポリス防衛戦はいわば各国軍のお披露目と言ったほうが正しいだろう。

 

 「しかし…この銀河帝国という国家…かなりの自信を持っているようだがミリシアル帝国に喧嘩を売るような行動にでるとはな。」

 

 「どちらにせよミリシアル側は本気で対処するとの事です。我々も同じ列強国として支援していくべきです。」

 

 「うむ。よろしく頼むぞ。」

 

 

 

 

 

 惑星軌道上 デヴァステイター艦橋

 

 「現在、偵察用ドロイドを含め捜索を続けていますが…反乱軍の痕跡はほとんど確認できていません。」

 

 「捜索を続けさせよ。どこかに潜んでいるはずだ。」

 

 ベイダーはダルダに指示を出す。今の所、反乱軍の潜伏していそうな場所にドロイドを派遣して調査させているが限界があるようだ。

 

 (あれだけ騒ぎを起こせば反乱軍も黙っていないと思ったがこの大陸にはいないようだ。)

 

 ベイダーら銀河帝国艦隊にとって、この惑星の征服などあくまでついでに過ぎず本来の目的は反乱同盟軍の討伐である以上、関係があると思われていた列強諸国への服従要求をすれば何らかしらアクションを起こすと思っていたがいまだに進展はない。

 だがベイダーは確信を持って反乱軍が潜伏していると断言できた。彼がかつて名乗っていた名前、まだジェダイの騎士だった時に彼がよく知る人物の気配を感じたからだ

 

 (必ずどこかにいるはずだ。)

 

 

 

 

 

 

 中央暦1638年2月20日

 神聖ミリシアル帝国 首都ルーンポリス

 

 今日この日、神聖ミリシアル帝国いや、この星全土を揺るがす日となる事をこのルーンポリスの住民達は知らずに過ごしていた。

 ルーンポリスにある集合住宅のベランダにて一人の主婦が洗濯物を干していた。上空を特徴的な爆音が過ぎ去っていく。彼女は知らなかったが、テーパー翼を持ちジェットエンジンに似たエンジンを搭載した神聖ミリシアル帝国軍が誇る最新鋭の天の浮舟《エルペシオ3》である。

 

 「いやねぇ…こんな朝早くから飛ばなくてもいいものを…」

 

 彼女は特に軍に対して悪感情を持っているわけでは無い。しかし、ここ最近頻繁に空を飛ぶ天の浮舟やワイバーンに辟易していた。通るたびに爆音はうるさいし、もし墜落したらと考えると心の底からゾッとする。夫や息子達は喜んでいたが正直に言っても何がおもしろいのかまるで理解ができない。

 気を取り直してベランダからリビングに入り朝食の準備を始める。彼女を含め一週間前のルーンポリス国際会議場での一件の事を正確に把握している者は皆無であった。国内でのテロ騒ぎで市民を混乱させない為に政府が情報を統制したからだ。何よりもほとんどの一般市民にとって今回の騒ぎよりも日常を過ごす事の方が忙しいからだ。

 事実、情報統制があったとは言えほとんどの市民にとってルーンポリス国際会議場で爆弾騒ぎがあったのだの非文明国が宣戦布告したのだの天下のルーンポリスでそんなことが起きるはずも無いような噂などに誰も相手にしなかったのだ。

 

 彼女は朝食を作りながら今日の予定を考えていた。

 

 「今日は天気も良いから、お昼は外でピクニックにいこうかしら。」

 

 今、ルーンポリスでは不要不急の外出は自粛するように公共放送で言われていたが近くの公園でピクニックをするぐらいなら許されるだろうと。

 

 ふとベランダを見ると先程まで明るかったのに大分薄暗くなっていた

 

 「ちょっと…雨?まったく天気予報もあてにならないんだから…」

 

 せっかく立てた予定が台無しになり少し不機嫌になった彼女は洗濯カゴを持ってベランダを出る。雨はまだ降っていないようだと何気なく空を見上げた…そして持っていた洗濯カゴがベランダのコンクリートの上を転がった

 

 彼女は大きく見開いた目でソレを見た。ソレはあまりにも大きすぎた。何故誰も気づかなかったのか、何故空を浮いているのかと彼女だけではなくソレ〔インペリアル級スター・デストロイヤー〕に同じ感想をいだいたのだ。

 

 「あ…あなた…あなたー!」

 

 神聖ミリシアル帝国の崩壊は今まさに始まろうとしていた。




 正直、突貫で書いたので読みづらいかもしれません。
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防空戦 第3話

 神聖ミリシアル帝国 首都ルーンポリス

 

 「落ち着いてください!道を走らないで!」「なんなんだよ…あれはなんなんだよ!」「どけっ!道をあけろっ!」「おいっ!横入りするな!」「逃げろっ!逃げるんだよ!」「逃げろったて、どこに逃げりゃいいんだっ!」

 

 ルーンポリス上空に突然現れた謎の超巨大飛行物体にルーンポリスの住民達は完全にパニックに陥っていた。我先に逃げ出そうとする者達、魔導車に強引に乗り込もうとする者、この混乱に乗じて略奪を始める者、ありとあらゆる混乱が街を覆い尽くしていた。

 

 「落ち着いて!落ち着いて移動してください!クソっ!誰も聞いていないぞっ!」

 「西地区13ブロックで火災発生!誰かすぐに向かえる奴はいるか?!」

 「無理だ!この混雑では移動すらできない!セクター45号を向かわせてくれ!」

 「中央大通りで路面列車とバスが正面衝突する事故が発生!死傷者多数ありとの事です!すぐに応援を!」

 

 「人手が足らん…一体どうすれば…」

 

 ルーンポリス市警に勤務するルイス・ブロンズ巡査部長は目の前に広がる混乱ぶりに頭を悩ませた。突如として上空に現れた謎の飛行物体によって現在ルーンポリスは大パニックに陥っていた。混乱を鎮めるために各地に彼等のように警察官が派遣されたがうまくはいかなかった。理由は彼等の予想以上に市民のパニックが酷かったからだ。誰も警察官の静止を聞かず、それぞれが1mmでも上空の飛行物体から逃れようとメチャクチャに走り回り、そこら中で事故が頻発しているのだ。         

 なんとか郊外の安全な場所に誘導しようとするもののブロンズ巡査部長を含め8人足らずの人数に対して殺到する市民の数は数百人から数千人はおり、対処できないのである。

 

 何か良い方法が無いかと考えるブロンズ巡査部長。突然、頭上から爆音が通り過ぎていく。

 

 「あ…あれは…」

 

 巡査がその方角に目を向けると爆音で気を逸らされたのか先程まで殺気立っていた市民達もその方角に目を向ける者が現れ始めた。

 

 「あれは…エルペシオ3!我が国が開発した最強の天の浮舟だ!」

 「知っているぞ…たしか他の国のワイバーンはおろか、ムーの開発したマリンとかいう飛行機械よりも速いらしいと…」 

 「そうだっ!無敵のミリシアル軍が負けるはずがない!きっと、あいつらを追い払ってくれるはずだ!」

 

 ブロンズ巡査部長は群衆が上空を飛ぶエルペシオ3に釘付けになっているのを見て、一緒にいた警官達に指示をだす。

 

 「今だ!ガリウム巡査は13ブロックに向かえ!消防隊が来るまでかまわん!ヒーソ巡査長は部下を3人連れて大通りに応援に行くんだ!テルル巡査は本部に無線をかけ続けろ!一人でも応援が欲しい。他はここで避難誘導だ!」

 『了解です!!!』

 

 指示を出し一息つける。上空の超巨大飛行物体が何なのかは分からない。しかし自分達は市民の安全を守る警察官。ここで逃げ出すわけにはいけない。自分達にやれる事はやるだけだ。上を見上げ呟いた。

 「頼むぞ…エルペシオ3…」 

 

 

 

 

 

 ルーンポリス上空

 

 「おいおい…これは本当に現実なのか…」

 「誰か教えてくれ…俺たちは悪い夢でもみているんじやないか?」

 「隊長殿…あれは一体何なんですか?」

 「……」

 

 部下からの質問にゴール・ドグマ中佐は答えることができなかった。彼等は神聖ミリシアル帝国陸軍第1師団首都防衛隊第13戦術航空団所属ベータ中隊所属するパイロット達である。彼等にとっても目の前の光景は信じられないものであった。

 

 「魔帝だ…魔帝がついに蘇ったんだ!俺たちはもうオシマイだっ!」

 

 隊員の一人、ベータ4がそう叫ぶ。彼は信心深い面がありよく機体に乗る前に神々への祈りを捧げていた。

 

 「うるせぇっ!魔帝なんざとうに滅んだんだっ!くだらんおとぎ話なんかで喚くんじゃねぇ!!」

 

 ベータ7が叫ぶ。粗暴で豪快な性格の彼らしい発言であったが、その言葉には僅かながら震えも混じっていた。彼も内心恐怖を感じていたのだろう。

 

 「じゃあ…目の前のあれは何なんだよっ!!」

 「俺が知るかっ!」

 「なんだとっ!」

 

 「ベータ4!ベータ7!やめろ!喧嘩なんぞしてる場合かっ!落ち着けっ。」

 

 「フンッ」

 「ケッ!」

 

 ゴールは二人の仲裁に入る。喧嘩は収まったものの雰囲気は最悪だ。しかも他の隊員にも伝播したらしく険悪な空気に包まれる。その時通信が入る。

 

 「ルーンポリスコントロールからベータリーダーへ。聞けえるか。」

 

 「こちらベータリーダー。聞けえるぞ。どうぞ」

 

 「内務省より、ただ今より国家非常事態宣言が発令。ならびに国防省からデフコンがイエロー6に引き上げられた。」

 

 「なんてこった…」

 

 通信は防衛隊本部からのものであったが事態はかなり深刻なものになりつつあると彼は理解した。デフコンイエロー6は魔帝もしくは魔帝以上の外敵との戦闘が始まった事を意味するからだ。

 

 「そちらにアルファ中隊が合流する。急合わせだが上空の飛行物体に対して艦爆を行う。位置は…」

 

 飛行物体から緑色の光線が放たれるのと通信が途絶えるのはほとんど同時であった。瞬間、光線の先にあったビルが一瞬で瓦解し地表からキノコ雲が立ちのぼった。国防総省のビルのあった場所だ。

 

 「奴ら…ついに始めやがったかっ!」

 

 「クソっ!下にはまだ市民がいるんだぞっ!」

 

 だが隊員達の憤りを無視するが如く次々と光線が打ち込まれる。ゴールの心の中にも憎しみの炎が宿る。

 

 「全機っ!このまま…」

 

 だが通信は遮られる。

 『落ち着け。死に急ぐんじゃねえぞ。』

 

 声の主、それはアルファ中隊であった。

 

 「だ…だがしかし!」

 

 『落ち着きなって。第一にオタク等の機体じゃ無理だ。だが俺らの機体ならできる。そら、11時の方向だ。』

 

 その方角に目を向けると、そこにはジグラント3の編隊が飛行していた。確かに、純粋な制空戦闘機として開発されたエルペシオよりも戦闘爆撃機としての面が強いジグラント3が適任だろう。

 

 『安心しろ。敵は必ず俺たちが取ってやる。その代わり、援護は頼むぜ?何しろ俺たちは胸にバカでかいブツをぶら下げたお姫様だからよ!ナイト様!』

 『ギャハハハ!!アンタみたいなヒゲダルマのお姫様がどこにいるんだよ!隊長!』

 『おいおい…こんな状況でそんな冗談言えんのはアンタぐらいだぜ。隊長。』

 『ハハハ!聞いたかよ?歴史の教科書に載るぜ?お姫様中隊ここに見参てな!』

 『うるせぇぞ!テメェ等!査問にかけっぞ!』

 

 アルファ中隊のコントのような会話にベータ中隊からも笑いが起こる。不謹慎かもしれないがそれでも先程の険悪な雰囲気よりもマシだ。もしかしたらベータ中隊の気をほぐす為にわざとアルファ中隊は明るく振る舞っているのかもしれない。

 

 (まったく、俺もまだまだだな…)

 

 

 

 「全機聞いてほしい。」

 

 無線が静まる。

 

 「かつてこの地は光翼人が支配していた。当時、光翼人以外の種族は害虫のように這いずり回り光翼人から隠れるか、奴らの奴隷として飼われるかどちらかしかなかった。」

 

 「だが、我々の先祖、ミリシアルの民は決して屈しはしなかった。どれだけ踏み躙られようと抵抗を続けた。住処を焼かれ、大勢の命が失われても戦い抜いた。いつか必ず訪れる自由と解放の日のために断固たる意思を示した。そしてそれは間違いではなかった。我々がここにいるのが、その証拠だ。」

 

 「圧制者は必ず打ち倒される。それは歴史が証明している。現に文明を極めた光翼人達でさえも神の怒りを買い光の剣士達に敗れ時空の狭間に逃げ込んだとされる。当然の帰結だ。暴虐と搾取によって積み上げられた力など自由を求める者の意思に比べれば価値などないからだ。」

 

 「我々は決して屈しはしない!先祖達が自由のために戦い続けたように!未来を生きる子供達の希望のために!先祖から自由を与えられた以上、次の世代へと受け繋ぐ義務が我々にはあるのだ!」

 

 「戦おう!祖国のために!自由のために!名誉のために!我らの行く先に幸運の女神が微笑まん事を!光の剣士の加護があらん事を!」

 

 『神聖ミリシアル帝国万歳!!!皇帝陛下万歳!!!祖国ミリシアルよ永遠なれ!!!』

 

 

 

 演説を終え一息入れるゴール。無線に呼び出しがかかる。

 

 『なかなか良い演説だったぜ。やるじゃねえか。』

 

 「昔、本で見た内容を思い出しただけだ。大した事は言っていない。」

 

 『人前であれだけ言えれば充分さ。おかげで俺まで滾ってきたぜ!』

 

 ゴール自身、自分がこうもスラスラと言ってのけた事に内心驚いていた。だがそれとは別の事で頭がいっぱいになっていた。

 (なんなんだ…この嫌な気配は?)

 

 まるで氷でできたナイフで背中を撫でられるような感覚

 

 (誰かが見ている?一体いつからだ?)

 

 彼がその感覚、正確には殺気だと気づいたのは偶然であった動物的本能というか濃厚な敵意の視線に気づいたのはゴールだけだった。不意にその殺気が強くなった瞬間、彼は無線に怒号を上げた。

 

 「全機っ!散開せよ!太陽の中だっ!!!」

 

 言い終わると同時に思い切り操縦桿を倒し、機体をバンクさせる。しかし、一瞬遅かった。彼が先程までいた場所を緑色の光線が貫き真後ろを飛んでいたエルペシオの1機に直撃する。緑色の光線はコックピットもろともパイロットを蒸発させ木端微塵に爆発した。

 

 「クソっタレっ!ベータ4がやられたっ!」

 『アルファ7!アルファ8!』

 

 爆発四散するエルペシオ3とジグラント3。ゴールは自らの認識の甘さを後悔した。敵は首都への空爆を実行できるだけの力を持っているのだ。ならば、飛行機械のような迎撃の手段も持っていてもおかしくは無い。

 自分達が出来る事を相手はできない。自分達が考えた事を相手は思いつきもしないだろうという、固定観念、先入観、ある種の傲慢さが3人のパイロットを殺したも同然だからだ。

 

 「野郎っ!ぶっ殺してやる!」

 「ベータ7!落ち着け!」

 

 (うかつだった…俺がもっと周りを警戒していれば…)

 

 ゴールは歯噛みし飛び去っていく敵機を睨みつける。

 

 (だが、一体何なんだ?あの機体は…本当に飛行機械なのか?)

 

 敵機は4機、恐らくは小隊、分隊クラスなのだろう。垂直の板の様な翼に、ボール状の胴体とまるで航空力学を無視したような設計だ。ギラリと朝日にあてられた機体が銀色に反射する。反転し再度、攻撃を仕掛けてくるようだ。

 

 「アルファ隊!被害は?任務は続けられそうか?」

 

 『クソ…2機やられた…だが、任務は続けられる。むしろ、あのデカブツに一発ブチこまなきゃ気が済まねぇ!』

 

 「我々は迎撃のために編隊を外れる。大丈夫そうか?」

 

 『構わん!仲間達の仇を討ってくれよ!』

 

 アルファ中隊の編隊から外れるゴール

 

 「3小隊ごとに波状攻撃を仕掛ける!一気にケリをつけるぞ!ベータ7!お前が先陣を切れ!」

 

 「了解しましたっ!オラァ!ベータ8!ベータ9俺についてこい!」

 「所詮はだまし討しか使えない奴等だ!俺たちの敵じゃありません!」

 「歴史に名を残してやろうぜ!兄弟!」

 

 ゴールは敵編隊を見る。まだ距離はあり高度も自分達が高い。これは、かなり有利な位置だ。もともとエルペシオ3は一撃離脱戦法を得意としており戦闘機どうしの格闘戦は苦手なのだ。相手よりも高い位置を飛んでいる今が反撃のチャンスなのだ。

 ゴールは自分達の編隊を前衛、中衛、後衛の3つに分けた。これは、まず前衛が敵編隊をバラけさせた後に中衛が、間髪入れずに敵に打撃を与え、そして後衛が殲滅するという二段構え、いや三段構えの戦法だった。敵は4機、対してこちらは11機であり、エルペシオ3の得意な一撃離脱戦法が使える上に数でも3倍の差がある。隊員達の士気も高い。

 

 (負けるはずが無い…)

 

 「卑怯者の野蛮人がっ!20mmをブチこんでやるっ!」

 

 ベータ7は敵編隊を睨みつける。敵はだまし討ち同然の奇襲で攻撃してきた以上、性能では劣るはずだ。何よりも世界の守護者であるミリシアル軍が負けるはずが無いと彼は信じていた。だが…

 

 「ん?妙だぞ…」

 

 グングンと敵編隊は距離を詰めてくる。エルペシオと同性能もしくは、それ以下の速度ならここまで早く距離を詰められるわけが無い。

 

 「ベータ7 どうした?」

 

 「いえ…間もなく接敵します。発射用意…」

 

 そう言い終わる前に敵編隊から光線が放たれた。真正面から直撃を受けたベータ7の機体は爆散し、ベータ8の機体にも光線が襲いかかる。

 

 「うっうわぁーーー!!」

 

 パニックを起こしたのか、射線から逃れようと無防備の腹を晒したのが彼の間違いであった。胴体に直撃した光線は機体もろとも彼を原子に帰し、テーパー翼内のインテグラルタンクを貫いた内蔵されていた液体状の魔石に引火し、刹那爆散する。

 

 「バ…バカなっ!隊長!コイツらの武装、我々の魔光砲よりも射程が長いです!」

 

 ベータ9も打ち返すが有効射程距離はおろか弾丸自体が届かない為、全て徒労に終わった。逆に集中砲火を受け僚機同様スクラップに成り果てた。

 

 「い…いかん!陣形を解除!各機、散開せよ!」

 

 ゴールは生き残った中衛と後衛に散開を命じる。敵機の方が射程と威力で優っている以上、敵の射線から一刻も早く外れる必要がある。

 

 「グワッ!」

 「主翼がっ!うわぁーーー!!」

 

 中衛の小隊は散開したが遅れた2機が餌食となり撃墜される。ゴールら後衛も銃撃を受けるが、かろうじて敵編隊を撒くことに成功する。だがここでも、ゴールらは衝撃を受ける。

 

 「は…速い!速すぎる!」

 「隊長っ!コイツら、異常です!マッハで飛んでいます!」

 「あり得ないっ!あんな速度で飛べば、機体自体が持たない!バラバラになるはずだ!」

 「奴らの技術力は我々よりも優れているのか?!」

 

 それは国力、技術力、軍事力全ての分野でトップクラスだった神聖ミリシアル帝国人にとって認められない事、いや、認めて良いことではなかった。自分達の信じてきたミリシアルの優位性とはなんだったのか。

 

 「クソっ!後ろを取られた!振り切れない!」

 

 「当たれっ!当たれよっ!」

 

 「コイツら…撃っては逃げてを繰り返しやがって!」

 

 各機が入り乱れるドッグファイトになるが、ここでもミリシアル側が不利であった。数では6機に撃ち減らされ、更にエルペシオ3の苦手とする格闘戦に持ち込まれた事もあり連携を取れなくされた。

 

 「ベータ5!ベータ11!」

 

 「自分はここまでのようです…隊長、どうかご武運を…」

 

 「ベータ2!」

 

 次々と墜ちていく僚機にゴールは、何も出来ない自分自身に怒りを覚える。

 

 (なんとか…なんとか一矢報いるチャンスさえあればっ!)

 

 だが、怒りで周りが見えなかった事もあったのだろう。後方に鋭い殺気を感じた。いつの間にか彼の機体に敵機が狙いをさだめていた。

 

 「しまった!や…やられる…!」

 

 彼は自身の死を直感した。敵の攻撃は一瞬でエルペシオ3を貫いたのだ。自分も只では済まないことは知っていた。

 

 (?)

 

 しかし、敵の攻撃は来なかった。振り返って、キャノピーの後ろを見ると、そこには撤退していく敵編隊が見えた。他の僚機も僅かだが生き残っている。

 

 「一体…どう言うことなのだ…」

 

 すでにゴール達のベータ中隊は3機だけであり、対して敵部隊は無傷そのものであり、このまま攻撃を続けていけば全滅に追い込むのには簡単なはずだ。ここで撤退するのはとても不可解であった。

 しかし、彼らはその理由をすぐに知ることになる。

 

 「隊長!9時の方向から!」

 

 「何っ!敵か!」

 

 「違います!あれは…」

 

 『待たせたな!ベータ中隊の諸君!』

 

 『遅れてしまい、申し訳ない。発進に手間取ってな。』

 

 『我らトルキア王国騎竜隊もいるぞ!』

 

 そこにはエルペシオ3〜2、ジグラント3〜2にムー国のマリン、そしてワイバーンの大部隊が迫っていた。

 

 『我々はデルタ中隊だ。カン・ブリッドからスクランブル発進で急遽応援に来たが…あんな物を見る事になるとはおもわなかったぞ。』

 

 『ムー国陸軍第23航空旅団ラ・ファール大佐だ。超巨大飛行戦艦にマッハ1で飛行する戦闘機など正直、今でも信じられん…だが、この世界にとって脅威である事は変わらん。我らムー国軍も全力で戦うぞ!』

 

 『奴らがどれ程の力を持っていようと、そんな事は関係ない!危機の友邦を救わずしてなんの為の騎士かっ!彼奴らに我らの意地を見せてくれよう!』

 

 続々と集まる戦闘機やワイバーン達にゴールは感激していた。自分達は決して孤独ではない。半ば折れかかっていた心が満たされていくのを感じた。

 

 「す…すごい…エルペシオとジグラントだけで100機近くはいますよ!」

 

 「ジグラントは爆装しているようだ。最新型のエルペシオ3もいる。ワイバーンやマリンも含めれば300機はいるな…これだけの味方がいれば、もはや恐れるもの等無い!」

 

 もはや2機に減った自身の中隊 だが、決して無駄な犠牲では無かった。自分達の努力は報われたのだとゴールは思った。

 

 (お前たちの事は決して忘れん…どうか安らかに眠ってくれ。)

 

 先に逝った戦友達への祈りを捧げ、ゴールは部下に指示を出す。

 

 「ベータ2!ベータ12!俺の後ろに付け!まだ戦いは終わっていないぞ!」

 「了解!」「了解しました!」

 

 「このまま敵艦に…」

 

 ゴールが指示を出している最中に突如、無線の呼び出し音が鳴り響く。

 

 「こちら、ベータリーダーだ。一体な…」『こちらアルファリーダー!!!聞こえるかっ!!』

 

 無線の相手は、先程別れたベータ中隊だった。

 

 「アルファ中隊か?喜んでくれ。今から応援に向かう。ありったけの味方もいるぞ。」『それどころじゃねえっ!緊急事態だっ!』

 

 

 

 彼らは知らなかった。今までの戦闘も犠牲もまだ、序盤にすら至っていないという事も。

 

 

 

 『さっきの1つ目共がウジャウジャと敵艦から出てきやがったっ!!推定されるだけで100!いや200はいるかも知れんっ!気をつけ……』

 

 ブツリと無線が切れる。ベータ12が無線に割り込む。

 

 「た…隊長!9時の方向です!敵艦の方角から何かが…」

 

 

 彼らの地獄はまだ、始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 デヴァステイター艦橋

 

 「第2次攻撃隊、発進準備完了です。いつでも出撃できます。」

 「第3次攻撃隊、ボマーへの換装が遅れています。プロトン爆弾の積み込み完了は後10分かかります。」

 「ダメだ。後5分で終わらせよ。」

 

 士官や艦橋要員が慌ただしく出撃の準備をする中、ベイダーは艦橋からルーンポリスの街並みを見下ろしていた。あちこちから黒煙が立ち昇り、その黒煙を撃ち抜くようにカラフルな弾幕が放たれる。ミリシアル軍の対空砲火だ。無論、射程外に浮遊しているため砲弾がスター・デストロイヤーに当たることは無い。僚艦のヴィクトリー級リベンジャーが放ったターボレーザーがビルごと対空陣地を吹き飛ばす。ビルが根本から崩れ、一瞬、黒煙が灰色の雲に変わった。

 

 「ベイダー卿 我が方の第1次攻撃隊が敵部隊と接敵しました。後続もいつでも発進できます。ご指示を。」

 

 ベイダーはホロテーブルの前に立ち指示を出す。

 

 「第2次攻撃隊は第1次攻撃隊を援護しつつ、敵対空砲火を撃滅せよ。第3次攻撃隊は敵地上戦力、ならびに重要施設を殲滅せよ。制空権を確保した後、陸戦隊を降下上陸させ、一気に制圧する。異論は無いな?」

 

 「ありません閣下。」

 

 「よろしい。私のタイを用意せよ。直接指揮をとる。艦隊の指揮は任せるぞ。大佐。」

 

 「ハッ 了解いたしました。」

 

 

 

 双方の思惑が入れ乱れる中、戦いは新たな局面を迎えつつあった。

  

 

 

 




 ようやく、戦闘回を書けました。自分としてはかなりの難産です。
 感想よろしくお願いします。


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第4話 崩れゆく日常

 お久しぶりです。秋山です。
 近々、投稿を再開したいと思います。 



 「このビルか!?まったく!」

 

 「ヒーソ巡査!2ブロック先でも、事故が…」

 

 「お前達は事故処理に行け!避難誘導は俺一人でも足りる!」

 

 「了解であります!」

 

 

 ロナウド・ヒーソ巡査長は部下達と別れて、ビルのエレベーターの扉が開くのを待つ。

 

 「…まったく…次から次へと…」

 

 息を整えながらエレベーターの表示版を睨みつける。このビルは30階建て高さがおよそ140メートルの大きさであり屋上にはビアホールが設置されており、夕方から夜中までには日中の疲れを癒やすべく、大勢の人々で溢れかえる場所だ。

 しかし、今は早朝。当然ビアホールは営業しておらず、通常ならば今の時間帯は閑散としているはずなのだが…

 

 「どこのバカだ?こんな時間から酒盛りし始めたのは?」

 

 ヒーソはエレベーターの操作盤の最上階を苛立ちながら押して呟く。避難誘導を行っている時に、新しい通報が入ったのだ。それによると、このビルの屋上で大勢の人々が集まっているというのだ。

 エレベーターの扉が開き、ヒーソが屋上に出る。

 

「おい!どいてくれ!邪魔だっ!」「何言ってんだ!後からきた癖にっ!」「すごいな、それ、ムー国製か?」「あぁ、半年前に第二文明圏に行った時に買ったんだ。」「ホラ、並んで並んで。」「ちゃんと写ってる?友達に自慢しなきゃ!」

  

 屋上には二十人程の群衆がひしめいていた。それぞれ避難など考えもしなかったのだろう。ムー国製のカメラで上空の巨大物体を撮る者。記念撮影をする者。ヒーソは怒りよりも呆れの感情で、ため息をついた。階下ではたかが魔導ラジオ1個のために殺人事件までおきているというのに。

 

 「全員聞こえるか?!今から、退去してもらう!皆、避難するんだ!!直ちにな!」

 

 「今、撮影中なんだ。後にしてくれ。」「肩の力、抜きなよお巡りさん。」

 

 ヒーソは声を挙げるが、ほとんどの人々は気づかなかった。気づいた者も迷惑そうな顔で相手にもしない。

 

 「…」  ツカツカ…

 

 ヒーソは無言でカメラを持った男の前に立つ。そして、手に持っていたカメラを取り上げると、後ろに放り投げた。

 

 「ああ!何をするんだ!」

 

 「周りがどうなっているか知らないのか?下では、何十人も死人がでているんだぞ。」

 

 「そんな事、俺達に関係ないじゃないか!」「これは権利の侵害だっ!警察の横暴だっ!」「公権力に断固として立ち向かうぞっ!」

 

 ヒーソは腰のホルスターのボタンを外す。カバーから覗く黒光りする魔導拳銃の銃床に一同は息を呑む。

 

 「俺にこれを抜かせるんじゃない。警告はしたぞ?」

 

 「クソっ だから、警官は嫌いなんだ…」

 

 「好きなだけ言うがいいさ。だが、大人しく俺の指示に従ってもらうぞ…」

 

 ヒーソは自分の癇癪が爆発しないように抑えながら、上空を占領する巨大物体を睨みつける。

 

 「ふ…不公平だ!俺達だけが真っ先に逮捕されるなんて!他の連中はどうなんだ!?」

 

 「他の連中?一体どういう事だ?」

 

 「ホラッ!あっちのビルにだって、沢山、人がいるのに!」

 

 「私達だけ、罰を受けるなんてズルい!」

 

 ビーソは慌ててビルのフェンスから、他のビルを見る。街の様子は相変わらず混乱に包まれている。だが、他のビルの屋上はそれとは相反して、自身がいる屋上とさほど変わらない様子に見えた。むしろ、通りのちょうど真正面にあるビルに至っては、このビルの倍近く、およそ50人程がたむろしており、他のビルでも同じような群衆がいた。

 

 

 (よりによって、こんな場所で!こんな時に!馬鹿騒ぎしやがって!)

 

 「司令部!司令部!こちら、巡査番号4569番ロナウド・ヒーソ巡査だ!大至急応援を求む!市民の避難誘導に人が足りないっ!もっと応援を…!?」

 

 ヒーソはそこまで言って、魔導無線から耳を離す。無線からは、ジジジやガガガといった耳障りな音しか出ず、明らかに使い物にはならなかった。

 

 (こんな時に…!故障したのか!)

 

 自分だけでは事態を収縮させる事はできない。一体どうすればいいのか?

 

 

 「皆!あれを見ろ!」

 

 (今度は何なんだ…!)

 

 苛立ちながらも、群衆の1人が指差す方向に目を向ける。

 

 「す…すごい!あんなにたくさんの天の浮舟が…」

 

 「エルペシオ3だ!ムーの飛行機械もいるぞ!」

 

 「魔写を撮れっ!一面スクープもんだぞ!」

 

 

 ヒーソもその光景を目を丸くして見ていた。神聖ミリシアル帝国が誇る最新鋭の天の浮舟。それが空を埋め尽くさんと飛行している。

 

 「すごいな…これは…」

 

 100、200いや、もっと多い!特徴的な轟音を轟かせ、飛行物体に向けて飛ぶ様は、まさに圧巻であった。

 

 「一番後ろを飛んでいるのはゲルニカだな。多分、爆撃機仕様のタイプだ。」

 

 「その前を飛んでいるのはワイバーンで…真ん中にいるのがムー国のマリンって奴だな。」

 

 「そんで一番先頭を飛んでいるのは!我らがミリシアルが誇るエルペシオ3だ!見よっ!あの雄々しい姿を!」

 

 

 群衆達がさかんに、それぞれ思ったことを口にする。上空の光景はある意味、現在の各国の軍事力を示していた。

 エルペシオとジグランドが先頭を飛び、その後ろをマリンが追い、ワイバーンが遅れまいと羽ばたいていた。

 

 (これだけの数…相手が何であれミリシアルが負ける事は無いだろうな。)

 

 ヒーソはそう思った。これだけの規模の軍勢を打ち破るなど、世界の何処を探しても見つかりはしないだろう。それこそかの魔帝であっても。

 

 「おい 見てみろ!あの巨大物体の形が変わっているぞ!」

 

 「バカ!方向が変わっただけだろうが!」

 

 「あっそうか…でも、あれだけの大きさなのに、よく一斉に向きを変えられたな。」

 

 男達の会話を何気なく聞いていたヒーソは上空の巨大物体に目を向ける。確かに先程とは向きが変わっている。まるで小島に建てられた城郭をそのまま宙に浮かしたような姿は見る者に異様な威圧感を与えている。

 

 (しかし、いったい、どうやって浮いているんだ?)

 

 ヒーソは半ば、警官としての職務を忘れ目の前の光景を眺めていた。上空を覆う謎の巨大物体に、この世界で最高の戦力を持つ航空機達

 余りにも現実味が無かったからだ。

 

 

 

 瞬間、巨大物体から閃光が走った。そして、正面にいた、ありとあらゆる物体が一瞬で消滅した。

 

 「え?」

 

 思わず、出た声が自分から発せられた事にも、ヒーソは気づかなかった。巨大物体からは緑色の光線が束になって、数百、数千にも及ぶ、それこそ光の絨毯とも呼べる程の弾幕が空を覆ったのだ。

 

 「うっうわぁ!」「なんだよあれは!」「直視するなっ!目をやられるぞ!」「エ…エルペシオ3が…」

 

 光の絨毯の直線状、すなわち世界連合軍の大部隊はほとんど避けることが出来ずに飲み込まれ、原子の海に回帰していった。

 

 「う…嘘だろ…?」

 

 目の前の光景が信じられず、その場に立ち尽くすヒーソ

 帝国の象徴だったエルペシオ3はその性能を生かせぬまま空中で火球と化し、ジグラント3は搭載されていた爆弾もろとも爆発し、不細工な花火と化した。ムーのマリンがティシュペーパーのように燃え、ワイバーンに至っては搭乗していた竜騎士ごと跡形もなく蒸発していた。

 

 「夢だ…こんな事、ありえるはずが無いっ!」

 「きっ…きっと幻覚かなんかだ!そういう魔法を使って、ありもしない幻を見せているんだっ!」

 「そ…そうだ…夢か、幻に違いない…きっとそうだ…」

 「敵は俺達に勝てないから、こんな卑劣で卑怯な攻撃しかできないんだ!」

 

 

 集まっている群衆達が次々と自分達に都合の良い、現実逃避の夢の中に逃げ込み始めた。彼らが信じる世界の常識、列強最強の祖国神聖ミリシアル帝国

 幼い時よりミリシアルは世界の中心であり、列強序列第一位の超大国であり、他の文明を導く存在であると教育されてきた。そして、いずれ訪れるであろう、魔帝ことラヴァーナル帝国との終末戦争を乗り越え、この世界を本当の意味で調和と融和で包む。

 ゆえに、たとえどんな相手が挑んで来ようとミリシアルが敗北する事などあり得ない。いや、あってはならないのだ。神の祝福を受け、世界を魔帝の脅威から救うであろう自分達、神聖ミリシアル帝国が敗北してしまえば一体、誰が世界を救ってくれるというのか?

 

 

 だが、現実は非常であり不条理に満ちていた。彼らから逃避する権利も奪っていったからだ。

 

 突如として、疾風が彼らの前を駆け抜ける。まるで悲鳴のような轟音を鳴らしながら、それはものすごい勢いで世界連合軍の編隊に襲いかかった。

 

 「こんどは何なんだっ?!」「もういいかげんにしてくれっ!」

 

 それは、エルペシオやマリンとは異なる技術で作られているのは、すぐに分かった。ボール状の胴体を挟むように2枚の板のような翼を持つ物体等、聞いたことも見たこともないからだ。

 ビルの谷間を抜け、上昇していく飛行機械。彼らの向かう先にはジグラントの編隊がいた。この部隊はジグラント2と3の混成部隊であり、特徴的な機体には巨大な爆弾が搭載されていた。その飛行機械は下方からジグラント隊の無防備な腹部に向けて、緑色の光線を放った。

 

 「ッ…!!」

 

 爆弾に直撃したのか数機が派手に爆発し、何機かが尾翼や主翼から炎と黒煙をあげて落ちていく。

 攻撃を加え去っていく飛行機械にエルペシオの編隊が追いすがっていく。だが、速度が遅いため、どんどん差が開いていく。

 「負けるなっ…!頑張れっ…!」

 

 それでも、追いつこうとするエルペシオ隊に別の飛行機械の編隊が接近する。

 

 「あ…危ない!」

 

 ヒーソはそう叫ぶが非情な事にエルペシオ隊は攻撃を受けてしまう。

 

 「あぁっ!」

 

 エルペシオ3の機体が爆発し、空を覆う残骸の一部と成り果てた。他の天の浮舟やマリンの部隊も、明らかに飛び方に精彩さを失っていた。他の編隊同士で連携を取れている者は殆どおらず、それぞれがバラバラに空中戦を始めていた。

 しかし、ミリシアル軍のエルペシオやジグラントでも歯が立たない機体相手に、マリンやワイバーンでは、太刀打ちできるはずも無く、あっという間に返り討ちにされていた。

 

 (天の浮舟の性能でも向こうが上回っているのか…!)

 

 ヒーソはショックを受ける。素人目に見ても、世界連合軍の苦戦は明らかだった。敵機は縦横無尽に空を駆け巡り、エルペシオやマリンを集団で追い回しては火球に変えていく。それに対して、世界連合軍の天の浮舟や飛行機械の統制は完全に失っていた。だが、それはある意味当然の帰結であった。

 そもそもエルペシオやマリンにワイバーンのような運用方法も戦術すらも異なる兵器と兵員を一緒くたに連携させる事事態が無理な話なのだ。

 

 (ッ…!)

 

 上空から轟音が迫ってくるのを聞いたヒーソはその方向を見て、目を見開いた。エルペシオが真っ逆さまで自分達のいる街めがけて墜落しているのである。機体は主翼から炎と黒煙をあげながらキリモミ状態で墜落していた。

 

 「みんなっ!!!伏せろっ!!!」

 

 そう叫びながら、彼自身も頭を両腕で覆う。刹那、凄まじい爆発音とコンクリートが崩れる音とガラスが割れる音が同時に鳴り、地響きと悲鳴、そして一瞬、覆われていない両腕の隙間から熱風混じりの粉塵が彼の顔に吹き付ける。

 

 「ゲホッ!…ゲホッ…」

 

 咳き込みながらも周りを見回すヒーソ。モウモウと周囲には粉塵が舞い、目の粘膜をひりつかせる。天の浮舟用の液体魔石の燃える匂い、鉄の焼ける匂い、そして肉の焼ける甘ったるい匂いが充満していた。

 

 「さっきの機体は…どこに…っ!」

 

 何気なく横を向いた。そこにはビルだった物の残骸が建っているだけであった。屋上だった場所は跡形もなく吹き飛んでおり、ビルの大きさも、さっき彼が見た時の半分程になっていた。爆発に巻き込まれていない階下の部屋も炎上しており

窓から激しく炎が吹き出していた。

 

 (液体魔石が階下に流れ込んだのか…)

 

 炎は激しく燃え上がり、このまま放っておけば、この辺り一角の建物も火事で燃え尽きるだろう。そう考えてヒーソは思い出した。さっきまで、そのビルの屋上には大勢の人々がいたことに。

 

 (た…確か50人はいたはずだ…あの人達は……っ)

 

 そこまで考えるのが限界だった。ヒーソは胃袋を巨人に握り潰されるような感覚を覚え、文字通り今朝の朝食の残骸を地面に吐き出した。

 

 「ハァハァ…クソったれが…」

 

 不快感を押し殺しながらもヒーソは冷静さを取り戻しつつあった。自分がこのビルにいる人達を安全な場所に避難させる為にここにいるのを思い出した。事態は刻一刻と悪くなっている以上、急いで避難させなければならない。

 

「あれを見て分かったろう…今すぐ逃げないと、ますますヤバい事になるぞ…」

 

 「あ…あぁ…そうだな…」「こんな事になるなんて…」「うぅ…神様…」「俺達は…これからどうなるんだろう…」

 

 群衆は明らかに憔悴していた。無理はない。世界最強とも言われていたエルペシオがここまで簡単に一蹴されていく様を見せつけらればそうもなろう。

 

 「お…おい…エレベーターが動かないぞ!」

 「非常階段だ!どこにある!?」

 「だめだっ!鍵がかかっているっ!」

 

 男たちは扉やフェンスを押したり蹴ったりするが真新しい金属の光沢を放つ様から見てもそれらが最近、作られた物なのは明らかだった。

 

 「どいてくれっ!俺が開ける!」

 

 魔導拳銃を両手で構え、2発発砲する。鍵と鎖が破壊され、力なく垂れ下がる。ヒーソは扉を開けて非常階段を調べる。

 

 (全員、一度に避難させるのは無理だな。一列で順番に下りてもらおう。)

 「皆!一列でゆっくり降りるんだっ!落ち着いて降りれば安全だ!」

 

 「よ…良かった…私達は助かるのか…」「ありがとう!お巡りさん!」「あんたが居て本当に良かったよ…」

 

 「わ…分かったから早く行け!」

 

 ヒーソは心の中に奇妙な満足感が満たされていくのを感じていた。彼はかつては警察官に憧れていたが、いざ自分が警官になってみると、その現実に幻滅していたのだ。

 交通整理では轢き殺されかけるは、酔っぱらいを介抱しようとしたら反吐を吐きかけられ、酔ったチンピラに鼻をへし折られた事もある。(ちなみに、そのチンピラはすぐに彼に病院送りにされた。)不愉快な仕事だが誰にも感謝されない、そんな日々に鬱屈とした日常を送っていたのである。

 故に直接、真当に感謝される事に照れくさく感じた。

 

 「そこのあんた!あんたも逃げろ!」

 「ま…待ってくれ!この機材だけでも、持って帰らないと…」

 

 男は明らかに、一人では持てない程の荷物を持ち込んできていたようだ。ヒーソは内心、呆れながらも荷物の一部を肩に担いだ。

 

 「ほらっ。こっちは俺が持つから行った行った。」

 「あ…ありがとうございます!」

 

 この街にいる市民、全てを助けるのは不可能に近い、だが助けられる人もいるはずだ。ならば、この場にいる人達だけでも助けなければいけない

 

 「ん?」

 

 ヒーソは不気味な轟音が迫っているのに気づいた。空を見上げて、自分の不運を呪った。

 

 「クソ!神よ!」

 

 爆撃機型ゲルニカが自分達のいるビルに向けて墜落していた。ゲルニカは主翼から火を上げており、ぐんぐんと高度を下げていた。彼らは知らなかったが、この時点でゲルニカのパイロットはすでに事切れており、この機体を止める事は誰にもできなかったのだ。

 

 主翼がヒーソ達のいるビルの側面をえぐり、火花と粉塵が舞った。

 

 「うっ…うおぉっ!」

 

 金属が軋む音、コンクリートが粉砕され、崩れ落ちる音、舞い上がる粉塵、そして沸き上がる悲鳴

 

 「ゆ…揺れているぞ!大丈夫なのかっ!」「おいっ!早く降りろ!」「無茶言うなっ!」「クソっ!退け!」「よ…よせ!バカ野郎!」

 

 非常階段でもパニックが起こっていた。元々、あまり大きくもない階段を無理に通ろうとして、すし詰め状態になってしまいほとんどの人間が降りれなくなっていた。

 

 「ビルが崩れる!」

 

 ビルは倒壊しつつあった。正確には彼らがいる屋上のビアホールが傾斜しつつあった。酒瓶やグラスが地面に落ちて割れ、イスやテーブルが傾斜に従って滑り落ちる。

 ヒーソは必死に手摺に捕まって落下しないようにしたが、もう一人の男はパニックになったのか、突然、走り出した。

 「おいっ!危ないぞっ!」

 「助けてくれぇ!」

 

 悲鳴を上げながら走り出すが、彼には運が無かったのだろう。駆け出した足元に丁度、大量の酒瓶が波の様に転がってきたのだ。バランスを崩し、ビンやイスに押し流される様に倒れ込み、屋上の傾斜を滑り落ち行く。

  

 「落ちるぅ!助けて!」

 「手を!早く!」

 

 彼の手を掴もうとしたが、遅かった。崩れたフェンスから悲鳴を上げながら地面に落ちていった。

 

 「畜生がっ!」

 

 目の前で助けを求めていた人を助けられなかった。ヒーソは自身の無力さに苛立ちの怒号を上げる。

 非常階段に殺到していた人々も激しい揺れとすし詰め状態のせいで降りれないでいる。

 

 「早く降りくれぇー!」「だめだっ!上に戻れっ!」「もうお終いだ!」

 

 その時、ビル全体が激しく揺れ、傾斜が酷くなった。更に追い打ちをかけるように地面が激しく揺れる。小規模だが地震が起きたのだ。

 

 「さっきの…ゲルニカが落ちたのか…」

 

 地震の原因はヒーソ達のいるビルに壊滅的なダメージを与えた爆撃機型ゲルニカが墜落、爆発したのが原因だった。

 

 (とにかく、なんとか降りないとな…皆を落ち着かせなくは…)

 「っ…!」

 

 ヒーソが目を向けると非常階段は消えていた。降りようとしていた人達と一緒に無くなっていた。ヒーソは気づかなかったが、先程の地震で、既に構造材が限界を越えていた階段が落下したのだ。下を見るが粉塵と煙で確認できなかった。だが140メートル近くあるビルから落ちたのだ。さっきの男と同様に命はないだろう。

 

 「何故だ…なんでこんな事に…」

 (この人達はただ見物に来ていただけなのに…)

 

 避難指示を無視し続けたとは言え、彼らが死ななければならない理由がどこにあろうか?理不尽に殺されるような事をしたのだろうか?怒りとも虚しさといえないものが心を覆っていく。

 

 「くっ…」

 

 体力は人並み以上にあるとは言え、さすがに辛い。懸垂の要領で登ろうとするが手摺りが汗で滑り思うように進めない。

 

 「あっ…」

 

 目の前に酒樽が転がってくるのが彼の見た最期の光景だった。頭部に強い衝撃を受け、自身の体が惑星の引力に引かれていくのを感じた。

 

 




 やたら長い割に、まったくと言っていい程、進んでないんですよね。内容も前作とほとんど同じような内容ですし…

 明日、もう一作投稿します。


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第5話 戦争のはらわた

 


 《タイ・ファイター》

 

 銀河帝国が開発した汎用スターファイターである。タイタニウム複合合金製のコックピットにクワダニウム製のソーラーパネルを備えたシンプルで信頼性の高い性能である。

 シールドこそ備えてはいないが、その代わり圧倒的な加速性と機動性を有しており、何よりも操作が素直でパイロットの思ったように飛んでくれる事からも、防御力が低い事を抜きにしても、タイ・パイロット達は自分達の駆るタイ・ファイターに愛着と誇りを持っていた。

 彼女もその一人であった。

 

 

 

 「落ちろっ!」

 

 敵の大型飛行機、正確には爆撃機型ゲルニカにレーザー弾を撃ち込む。ゲルニカは呆気なく爆発し、地上にスクラップをばら撒きながら落ちていく。

 

 「後ろかっ!」

 

 後方から、弾丸が迫る。彼女は自身の駆るタイ・ファイターを急旋回し、攻撃を回避する。

 

 「この私を落とそうというのか…身の程知らずめが!」

 

 元々はゲルニカを護衛していた部隊であろう。エルペシオ3が3機追尾してきた。護衛の対象を破壊され、頭にきているのか射程距離にも入っていないにも関わらず機銃弾を放っている。

 

 「驚かしてやるか」

 

 正面のパネルを操作し、カウンターメジャーを起動した。

 タイ・ファイターの後部からミサイルが発射され、丁度、真後ろにいたエルペシオが直撃を受け爆発する。

 サイナーXX-5シーカー弾頭である。元々は、自機に接近する震盪ミサイルやプロトン魚雷を迎撃するための兵装だったが当然、ミリシアル軍のパイロット達に分かるはずもなく迎撃する事も回避する事も叶わず直撃を受けたのだ。

 

 僚機を撃破されて、動揺するエルペシオを尻目に、彼女は自機を一気に加速させ、急旋回し、敵の1機に照準を合わせる。

 

 「喰らえっ!」

 

 L-s1レーザー砲から放たれたレーザーがエルペシオの胴体を貫き、木っ端微塵に爆発させる。逃走する残る1機に狙いを定める。

 

 「終わりだ!」

 

 震盪ミサイルを発射しようとするが、その前にエルペシオの機体がレーザーで貫かれて撃破された。レーザーが放たれた方向に彼女は怒号を挙げる。

 

 

 「おい!私の獲物だっ!」

 『早い者勝ちさ。お嬢様』

 

 『ソル、ヴォンレグ、二人共落ち着け。』

 

 彼女達の上官であるヴァルコ・グレイ中尉が諌める。

 

 『ここは敵地だ。任務を忘れるな。』

 

 『しかし、本当に反乱軍と協力関係にあったのか?手応えが無さ過ぎる。』

 

 ヴォンレグが、つまらなそうに言う。一般兵士と違い彼ら《タイタン中隊》のメンバーは今回の遠征が反乱同盟軍の殲滅にある事を知らされている部隊の1つであった。

 

 『飛び方が違う。ミサイルを避けようともしない。』

 

 『反乱軍のXウイングやYウイングもいない。ベイダー卿はこの惑星に反乱軍の造船所が建設されていると仰っていたが』

 

 「コイツらの操縦、まるで、素人以下だ。ドッグファイトも回避もロクにしない。」

 

 

 

 タイタン中隊は銀河帝国軍が誇るエースパイロットを集めた文字通り、精鋭部隊である。故に彼らが派遣される戦場は極めて危険な激戦地か、もしくは友軍の掩護が受けられない孤立した宙域か、あるいはその両方の場合もある。

 しかし、彼らはどんな状況下に置かれても生きて帰還してきた。帝国、いや銀河系においても彼ら程、実戦経験の豊富なパイロット達はいないだろう。だからこそ、ミリシアル軍機の行動は極めて奇異に思えた。

 まず、機体性能からして異常だ。シールドやカウンターメジャーの類は装備しておらず、速度も500キロをいくか、いかないかの速度でしか飛べず、はっきり言って自殺志願でもあるのかと、疑う程だった。

 

 

 『通りで楽なわけだ。対空砲なぞ掠りもしないぞ。』

 

 『シェン そっちの様子はどうだった?』

 

 タイタン中隊のメンバーの一人であるシェンが合流する。

 

 『対空砲25門とファイター4機にザンドゥー擬きを8匹だ。お前らは何機落とした?』

 

 彼の乗機であるタイ・ボマーを近づけ、質問してきた。

 

 「私はファイター15機と爆撃機型を3機だ。」

 

 『…ファイター14機と飛行型クリーチャー7匹だ。』

 

 「なんだ。デカイ口を叩いた割には、お前が最下位か。」

 

 『フン すぐに追い抜いてやるさ!』

 

 

 殺伐とした戦場には似合わない遅緩した雰囲気が漂う。彼らからみれば、今回の遠征は比較的簡単だったからだろう。

 

 『撃墜数など、どうでもいいだろう。問題は無事に任務を完了させる事だ。』

 

 『グレイ そう言うアンタはファイターだけで30機は落としただろう。』

 

 『機体のおかげだ。このタイ・ストライカーのな。』

 

 

 

 グレイの乗る機体、タイ・ストライカーは一般的なタイ・ファイターとは明らかに異なる設計をしていた。ソーラーパネル状の翼がある事は同じであるが、ストライカーの場合、平面に設置されており、あたかも、この惑星の飛行機にも見える様な外見であった。無論、それには理由があり、本来タイ・ストライカーは大気圏内での運用を目的に試作された機体をベースに再設計された機体であり、宇宙空間よりも惑星内での戦闘に特化した、この任務にはもってこいの機体なのだ。グレイの乗る機体は先行量産型の1機であった。

 

 『……待て。通信だ。』

 

 『デヴァステイターより、タイタン中隊へ 新たな任務だ。ゼノスグラム空港で部隊が足止めを食らっている。これを撃破し、強襲制圧を援護せよ。』

 

 『了解した。直ちに向かう。』

 

 グレイは正面のコンソールを操作し、ゼノスグラム空港の位置をリンクさせる。

 

 『聞いていたな?俺に続け。』

 

 『まったく、ベイダー卿は人使いが荒いな。』

 

 『俺は敵を倒せればそれでいい。』

 

 ソルも自身のタイ・ファイターのエネルギーをエンジンに集中させ一気に加速する。

 

 「敵がなんだろうが構わん。帝国に仇なすクズは私が根絶やしにしてくれる。」

 

 

 

 

 

 




 


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第6話 ゼノスグラム国際空港攻略戦 前編

 秋山です。ストームトルーパーをメインに投稿したいと思って書きましたが、まとめきれないので、後編に投稿します。


 ルーンポリス近郊 ゼノスグラム国際空港

 

 世界の首都とも称されるルーンポリスに建設されているだけあって、あらゆる文明圏、国家、都市から人、物資が出入りする、ルーンポリスの玄関口とも言える場所であった。その規模と設備は、5000メートルを超える滑走路に複数のターミナルに、ゲルニカ型旅客機が何十機も入るハンガーを数え切れないほど建設する等他の文明圏と比べれば、まさに規格外の物であった。

 しかし、そのミリシアルの顔とも言えるゼノスグラム空港は今では、無残な様相を呈していた。この世界で最大とも言われる滑走路には、まるで隕石が落ちたクレーターの様に陥没しており、中心部は今尚、溶けたアスファルトが火山の溶岩の様にドロドロに渦巻いていた。スターデストロイヤーのターボレーザーを撃ち込まれた結果である。  

 滑走路を破壊された事でミリシアル軍は天の浮舟を発進させる事が出来なくなり、制空権の確保が困難になりつつあった。

 

 

 

 「土嚢をもっと持ってくるんだっ!これでは足りんぞ!」

 「道を開けろっ!対空砲弾を山積みしてんだ!」

 「車を並べてバリケードにするんだ!何処からだと!?不法駐車してんのが、いくらでもあんだろうがっ!!」

 

 空港のターミナルや駐機場ではミリシアル軍の兵士達がイクシオン20mm対空魔光砲や、アクタイオン25mm対空魔光砲を設置し、ゲートにバリケードを作り帝国軍の侵攻に備えていた。

 

 そんな中、慌ただしくハンガーに軍用魔導車(ジープの様な軍用車)が飛び込んでくる。何事かと驚く整備兵達だったが、降りてきた人物達を見て敬礼をする。彼らは航空兵 全員が士官だったからだ。駆け寄ってくる中尉の階級章を付けた若い士官が遮る。

 

 「敬礼はいい!すぐに飛ばせる機体はあるかっ!?」

 

 「ハッ 中尉殿 2番格納庫に、エルペシオ3にありますが…しかし滑走路が…」

 

 整備兵は言葉を詰まらせる。だが、その中尉は彼に指令書を差し出し、読むよう促す。

 「こ…これは…なるほど…噂には聞いていましたが…」

 

 「滑走路が破壊された場合、高速道路を滑走路の代用にするなんて悪趣味な都市伝説ぐらいにしか思っていなかったが本当の事らしい。」

 

 「分かりました。直ちに、機体を移動させます!」

 

 

 

 「魔術回路起動開始!」「冷却術式展開!」「仰角、方位、良し!」「砲弾、装填完了!」

 

 「砲弾の数は足りているか?B-2ハンガーの守備隊と連絡がつかん…誰か見に行ってくれ。」

 

 駐機場に建てられたテントの中で、クレスト・ハウスマン大尉は地図を見ながら、部下達に言った。ゼノスグラム国際空港での防空任務に駆り出された彼らは、対空魔光砲陣地の設営を行っていた。

 

 「魔信はどうなっている?本部から、まだ届かないのか?」

 

 「それが…いまだに、連絡がつきません…」

 

 「まったく…連絡すら取れんとは…」

 

 魔導通信が使えなくなり、彼らはその対応に追われていた。

一応、軍用の高性能で出力が高い物や、近距離であれば通信できるが距離が離れたり、民間向けの廉価版や小型の携帯魔信では使い物にならなくなっていた。

 

 「せめて、本部との通信手段だけでも確保したい。魔信ケーブルはどうなっている?」

 

 「ケーブルは届いたのですが…」

 

 「どうした?何があった?」

 

 「長さが足りなくて…」

 

 (まったく…これだ…上も何を考えているんだか…)

 

 通信が傍受されている事を恐れた軍上層部は、通信手段を無線から有線に切り替える事を指示していた。有線式は無線式よりも旧式の枯れた技術であったが、その分信頼性は高く、通信を傍受される心配も無い。また、民間の魔導通信システム自体が一気に使えなくなった事も大きい。情報によれば魔信中継局や送魔塔が爆撃で破壊されたらしく、軍用の魔信も、今の所は無事らしいが予断を許されない事態に追い込まれているらしい。

 

 

 (とは言っても、無線が使えないと言っても、いきなり全ての通信を有線に切り替えるなんて不可能だぞ…)

 

 現に、現場では混乱が起きている。いきなり戦争が始まり、しかも首都への攻撃を許す事態になっているという、今までの常識では考えもしなかった事が連続して起こり、兵士達は精神的にかなり参っていた。

 装備や備品、弾薬といった必要最低限な物資も、まるで足りず、運搬しようにも主要な道路が破壊されており、前線に物資が届かなくなっていた。

 

 「失礼します!ハウスマン大尉は居られますか!!」

 

 「私だ。どうしたんだ?」

 

 「ハッ 司令官閣下より、直ちに出頭せよとのご命令です。お迎えに上がりました!」

 

 クレストは内心、頭を抱えたくなった。ただでさえ、忙しいのに出頭せよだと?大方、物資や兵器の配備状況の報告であろうが本来、魔信が使えれば5分で済む内容なのに、わざわざ司令部まで赴かなくてはならないのは、かなり厳しい問題だった。現場から、指揮を取れる者が、いちいち離れなければならないからだ。

 

 「…分かった。表に魔導車があるのか?」

 

 「ハイ!直ちに、お連れしろとのご命令でしたので!」

 

 早めに済ませてしまおう。そこまで時間は掛からない筈だ。

 

 

 

 

 ターミナル屋上に設置されている取水塔の影に《ソレ》はいた。クレストを乗せた魔導車がテントから離れていくのを

確認すると、その特徴的なセンサーアイを別の場所に向ける。高速道路にエルペシオ3が並べられ、出撃の最終段階に入っていた。

 

 「…!………!……!、…!」

 

 機械的な音声を上げ、センサーアイを拡大し、エルペシオの位置と数を記録していく。

 

 「………!…、……!……!」

 

 偵察し終えたのかスラスターを吹かして浮遊し、マニピュレータアームが地面から離れる。音も無く空中を漂うように飛ぶ姿は、この惑星の住民から見れば、海中を泳ぐクラーケンのようにも見えただろう。無論、《ソレ》は生物では無い。そもそも、この星で作られた物ですら無いのだ。

 

 《ヴァイパー・プローブ・ドロイド》

 それが、このドロイドの名である。リパルサーリフトと強力なセンサーを装備しており、今回の惑星の偵察に先見隊として送られた1機であった。

 プローブドロイドが離れていくのに気づく者は、誰一人もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 ビルの谷間を木々をシェンは自機であるタイ・ボマーで駆け抜ける。ドロイドからの情報では空港には、かなりの数の敵戦力が存在しており、地上部隊にとって脅威になるとの事であった。

 

 「………」

 

 超低空で飛ぶ彼の眼の前、正確には地平線上に目標であるゼノスグラム国際空港が迫ってきた。途端に滑走路脇や、施設のあちこちから、カラフルな弾幕が撃ち出される。弾丸がボマーの、すぐ近くを掠めるが彼は一切、動じない。下手に回避運動をすれば、逆に直撃を受けやすい。

 何よりも、この程度の攻撃等、彼にとってはパーティーのクラッカー程度にしか感じなかった。惑星ミンバンでは、当時所属していた部隊が彼以外全滅し、彼自身も撃墜され、2週間近く荒野を彷徨った。モー星団のパトロール任務の時は海賊の奇襲を受けて、危うくブラックホールに吸い込まれそうになった。今まで、生き残れたのは奇跡に近いだろう。しかし、代償は大きかった。彼の身体の大部分はサイバネティックスで強化されている。幾度も墜落し、死にかけたからだ。

 信頼する仲間の前でも焼け溶けたヘルメットを外さない事から見ても明らかであろう。

 

 自身に弾幕が迫る中、マルチロックオンシステムを起動する。HUDに表示された対空砲や管制塔を火器管制装置がロックオンしていく。

 

 「死ね。帝国のために。」

 

 刹那、ボマーのウェポンパックから震盪ミサイルが連続して発射された。その数、16発、イクシオン20mm対空魔光砲がミサイルに向けて弾幕を張るが接近するミサイル群に、なんら影響を与える事は出来なかった。

 魔光砲陣地が吹き飛び、イクシオン20mm対空魔光砲が操作していた兵士ごと地上の花火と化した。管制塔が職員諸共、木っ端微塵に爆発し、ハンガーの扉を貫通した一発のミサイルが中で、整備されていた、エルペシオとジグラントに直撃し、整備兵ごと跡形もなく、爆炎を上げた。

 本来なら、妨害電波やジャミング等で放たれたミサイルが、全弾そのまま目標に命中する事はあり得ない。しかし、ミリシアル側にそんな物を用意する事など、できるはずもなくミサイル群は全弾命中したのだった。

 

   

 「なんだっ!?敵襲か!?」

 

 突如、鳴り響く爆音と振動 エルペシオのキャノピーから外を見ると、空港の各所から爆炎が上がっていた。管制塔が松明の様に燃え、ハンガーや倉庫からも黒煙が昇っている。

 一瞬、遅れて爆炎が上がり、駐機場からも黒煙が上がる。黒煙に混じって魔光砲の砲身らしき物が見えた。

 

 「くっ…もう、こんな所まで敵が…!」

 

 機体が地面から離れ、ランディングギアを収納する。一瞬浮遊感を感じながら再び、外を見る。

 

 「仇は取るぞ…」

 

 決意を滲ませ、前を向いた瞬間、彼の肉体は分子レベルにまで分解され、その意思諸共この世から完全に消滅した。残された彼のエルペシオも、真っ二つにへし折れ、地上に叩きつけられ爆発炎上した。上空から、1機のタイ・ストライカーが飛び去る。

 

 「この状況下で離陸するとは勇敢だな。だが、俺達の敵ではない。悪く思うな」

 

 ストライカーのコックピットでグレイは呟く。敵とはいえ離陸直後の機体を撃墜するのは彼自身にも思う事はあった。しかし、ここは戦場であり自分達は兵士である。一瞬の迷いや躊躇が自身や仲間を殺す事になる。

 

 「中尉がやられた!」

 「クソっ!隊長の仇を打て!」

 「奴を殺れっ!撃ち落とすんだ!」

 

 後続の部隊、エルペシオとジグラントの混成部隊がグレイのストライカーを目指して、速度を上げる。隊長を目の前で撃墜された事もあり、彼らは激昂し冷静さを欠いていた。もう少し冷静でいれば結果は変わっていたかもしれない。

 

 「グアッ!!」

 「うぐぅっ!」

 「ガッ…!」

 

 後方から飛んできたレーザーに次々と撃ち落とされるエルペシオとジグラント

 

 「この程度か?」

 

 「後ろに目をつけろとアカデミーで教わらなかったのか?」

 

 後方からソルとヴォンレグが次々と、あっという間にエルペシオとジグラントを撃墜する。彼らは自分達が落とされた事に気づく間もなく全滅した。

 

 「シェン 残弾はどうだ?」

 

 「ミサイルは今ので使い切った。プロトン爆弾が一発だけだな。」

 

 「よし。あの滑走路を頼む。ソル ヴォンレグ 敵の掃討に当たるぞ。」

 

 「了解した。」「了解だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「基地が…天の浮舟が…」

 

 「お…俺の部下達が…」

 

 クレストは目の前で起きた事に、未だに信じられなかった。クレストは司令部に向かうため、魔導車を降りた後、空港内のターミナルに続く渡り廊下を渡っていた所だった。

 

 丁度、空港の駐機場や滑走路が見渡せる場所に差し掛かかった時に、空襲警報が鳴り響き、何事かと空を見上げと見た事の無い双胴の機体に、味方の対空魔光砲が弾幕を張っていた。

 (1機だけ?偵察機か?)

 

 そう訝しんだ矢先、突如その機体から白煙が吹き出した。

 

 「呆気ないな。まぁ我々の対空魔光砲の敵ではないか。」

 

 白煙が吹き出したのを魔光砲弾が直撃したのだろうと、クレストは思った。毎分350発の高レートを誇るミリシアル製対空魔光砲にかかれば、どんな敵が来ようとも迎撃できると確信を持っていたからだ。

 しかし、彼の予想に反して、その双胴の機体の白煙はすぐに霧散し、代わりに光の鏃の様な物体が自分達に向けて飛んできたのだ。

 

 「なっ…なんだあれはっ!?」

 

 光の鏃はまるで自ら、意志があるように魔光砲の弾幕を抜けると、ある物は管制塔に、ある物は魔光砲陣地にと、まるで吸い込まれる様に、次々と目標を破壊していった。

 

 「バ…バカな!誘導魔光弾だと…!」

 

 「誘導魔光弾?それはなんですか?!」

 

 「軍で研究中の新兵器だ…噂ではかつて、魔帝が開発した物らしい…」

 

 「ま…魔帝が!」

 

 「そうだ…だが要求される技術レベルが高すぎて、未だに実用化出来ていないらしい…それを実戦で投入してくるとは…」

 

 クレストは驚愕する。世界の最先端を行く神聖ミリシアル帝国でも実用化されていない兵器である誘導魔光弾を間近で見せつけられたのだ。クレストは酷い悪夢を見ている様な気分になった。だが、彼らミリシアル兵の悪夢は終わらない。

 敵の飛行機械は離陸したエルペシオを鎧袖一触の如く蹴散らすと、地上に残っていた魔光砲陣地やバリケード、ハンガーや駐機場にあった、天の浮舟を次々と攻撃し始めた。

 魔光砲陣地に機銃掃射をかけ、駐機場に停車していた魔導車や旅客機型ゲルニカに爆弾らしき物を落とし、スクラップに変えていった。重火器を失ったミリシアル兵の多くは空港のターミナルや残骸に隠れるが、中には果敢にも小銃や拳銃で反撃する者もいたが、高速で飛び回る飛行機械相手には蟷螂の斧に過ぎなかった。

 

 

 

 「対空砲は粗方潰したな。」

 

 「レーダーに敵影は無し。我々に出来る事は、もう無いな。」

 

 「スターデストロイヤーに戻るぞ。燃料がもう無い。」

 

 「エネルギーやミサイルも積まんとな。」

 

 スターデストロイヤーに帰還する途中、揚陸部隊とすれ違いになる。センチネル級強襲上陸艇やゼータ級、ラムダ級シャトルて構成された大部隊だ。

 

 「掃除は終わった。後は頼む。」

 

 『タイタン中隊へ 感謝する。後の事は我々に、任せてくれ。』

 

 

 

 

 

 薄暗いキャビンの中、白銀の装甲服に身を包んだ兵士達はそれぞれの想いを抱きながら、ハッチが開くのを待っていた。闘志を滾らせる者。隣に立つ仲間に、共に生き残ろうと声を掛ける者、神への祈り(フォース)を捧げる者。

 ハッチが開いた瞬間、自分達は死んでいるかもしれない。各々が自由に使える時間はもはや無い。ただ、勝利する為に。生き残る為に。

 

 

 

 『諸君!朝だ!戦争の時間だ!皇帝陛下の為に敵を殺せ!』

 

 

 

 

 

 



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第7話 ゼノスグラム国際空港攻略戦 中編

 秋山です。長らくお待たせいたしました。

 前作で前篇、後編に分けると書きましたが、色々と書き直しをしている内に、まとめきれなくなったので次回、後編とさせて頂きます。申し訳ありませんでした。

 本編から登場するオリジナル兵器を紹介します。

 〘M1632 ルビー〙
 ミリシアル軍で配備されている魔導銃。中央暦1632年に採用された。外見、性能は劣化M14

 〘M30小銃〙
 ムー国軍で配備されている小銃。外見、性能はまんま30年式歩兵銃

 〘ラ・マキシ機関銃〙
 ムー国製の機関銃。外見、性能はマキシム機関銃


 ゼノスグラム国際空港 

 ターミナル連絡通路

 

 

 クレストらは司令部への通路を走っていた。司令部と言ってもターミナル内の中枢の一部施設を間借りしているだけであり、先程の攻撃を受ければ一溜まりも無い。 

  

 (魔光砲も魔信サイトも全滅だ…司令部も無事なら良いが…)

 

 既に、防衛部隊は対空魔光砲やエルペシオ等の重火器を失っていた。この状態で司令部すらも失ってしまえば、もはや反撃はおろか組織的戦闘すらも困難になってしまう。

 

 窓の外、丁度、駐機場の全景が見渡せた。先程まで4機の飛行機械が暴れ回り、空港の施設を徹底的に破壊し尽くした痕跡が未だに残っていた。

 黒煙を上げる滑走路と管制塔を含む施設群に、未だに燃え続ける液体魔石のタンクと魔導車、あちこちに散らばった同国の誇りであるエルペシオやジグラント、ゲルニカ等の天の浮舟の、成れの果てが散らばっている。

 毎分350発の高レートを誇る、ミリシアル軍の鉄壁の守護神ともされたイクシオン20mm対空魔光砲やアクタイオ25mm対空魔光砲は役目を果たせぬまま黒煙を燻ぶらせていた。

 

 「あぁっ!!」

 「つ…通路が!」

 

 通路は瓦礫で埋まっていた。恐らくは先程の爆撃が原因であろう。ポケットから携帯魔信を取り出し応答を呼び掛けるも反応すら無い。

 

 「クソっ!」

 

 苛立ちのあまり、瓦礫に魔信を叩きつける。しかし、クレスト達は気づいていなかった。銀河帝国軍の攻勢は、これからが本番だと言うことを。

 

 

 

 ゼノスグラム国際空港 

 ミリシアル軍守備隊司令部

 

 「照明の復旧はまだかっ!」「管制塔からの連絡が通じません!」「誰でもいい!伝令を向かわせろ!」「俺の書類が無いっ!何処にやった!」

 

 薄暗い室内の中、兵士と空港職員達が慌ただしく駆け回っていた。敵機来襲の報を受けて各所に指示を出していた所、突然照明が落ち、魔導通信の類も操作を受付けなくなっていた。司令部自体は空爆の被害は無かったが地下に設置されていて外部との通信のみが頼りという有様であった。

 

 「一体全体、どうなっているんだっ!何故、何処とも連絡がつかんっ!」

 

 テテニウス・ファン・プラド退役少将はテーブルに手を叩き付けた。外見は190cmを越える長身と尖った耳等、エルフの特徴を持った人物だが、それは彼がハーフエルフの血統を持って生まれた人物だからだ。とはいえ彼自身は既に、現役を退いて長く、もともとは精悍だったであろう顔にも二重あごができ、腹回りのベルトも彼が動くたびにギチギチと不穏な音を立てていた。

 

 

 「被害状況と残存部隊の数と位置を早急に調べろ!」

 

 「し…しかし…何故か、魔信が使用不能になっておりまして…」

 

 「だったらなんだ!弁明する暇があるなら直接見てこい!走れっ!」

 

 「は…ハッ!」

 

 大慌てで司令室を飛び出す軍幹部の一人。蝋燭の灯りで書類に目を通し、眉を顰める。

 

 「この報告書は正確なのか?桁が1つ違うのではないか?」

 

 「は…はい…恐らくは…」

 

 「恐らくはだと…不確かな報告書を寄こしたのかっ…!」

 

 「い…いえ…その様な事は…」

 

 「もういい……下がれ……!」

 

 

 苛立ちを隠そうともせずに、手を払い幹部達を追い出す。

再び幹部達が持ってきた報告書に目を通す。

 

 (対空魔光砲の8割から9割は使用不能…施設のほとんどは機能せず、死傷者多数あり…司令部の放棄も検討するべきだと……正気で言っているのかっ…!)

 

 怒りの余り報告書を握り潰すプラド。混乱の最中、誤報告が出るのは仕方が無いであろう。しかし、この報告書の内容は度を越していた。

 まず、対空魔光砲の損害が8割から9割と書いてあるが、この時点で眉唾ものだ。ゼノスグラム国際空港に配備されている魔光砲は最新型の第2世代イクシオン20mm対空魔光砲と第3世代アクタイオン25mm対空魔光砲であり、威力、精度、射程等、これまでの対空兵器とは比べ物にならない程の、性能を誇っているのだ。更に濃密な弾幕を展開できるように魔光砲自体が、互いにカバーできるように配置しており、例え陣地を1つ潰したとしても、理論上は別の砲座からの射撃で撃墜できるようにできている。逆に、どうすれば8割から9割の損害を出せるのかが疑問だった。

 

 

 そもそも毎分600発の高レートに加えて、最大まで魔法障壁を上げたエルペシオの装甲を容易く撃ち抜く程の威力を持っているのだ。そして何よりも今回、攻撃を行ったのは飛行機械か天の浮舟の様な兵器だったが…

 

 (ありえん……4機だとっ!たった4機に、30門もあった魔光砲を全滅させられたと言うのかっ!?)

 

 これが、もし100機近くの爆撃機が空爆した結果なら彼も信じたであろう。だが、たった4機の小型機による被害だと到底、信じられる事等出来なかった。

 

 (この報告書を書いた愚か者は酒にでも酔っていたのか?いや…危険な薬物にでも手を出しているのかもしれん…全く、弛んでおる!儂が現役だった頃は、ここまで軍規が緩む事など無かったはずだ!)

 

 まともに数も数えられないのか、それとも碌に考えもせずに、この報告書もどきを書いたのか…どちらにせよ正常な神経でない事は明らかであろう。プラドはそう結論づけた。

 尤も、常識的に考えれば彼でなくとも同じ様な感想を抱いたであろう。魔光砲30門に対して爆装したジグラント4機では、逆に集中砲火を受けて瞬殺されるだけだからだ。

 あくまでも彼らの常識ならばの話であるが…

 

 

 「全く…近頃の若い連中は…」

 

 自身が現役だった頃と比べて今の世代の軍人達の体たらくに溜息をつく。つくづく軟弱で堕落しきった連中だと。覚悟も気合いも、まるで無い。かつて、この地に偉大なる祖国神聖ミリシアル帝国を築き上げた初代皇帝陛下に対して申し訳無いと思わんのだろうか?自分が現役だった時は些細なミスで鉄拳と罵声が飛んできたものだ。しかし、そんな状況を耐え忍んできたからこそ今のように豊かな暮らしを送っているのだ。士官学校を卒業し、以降は忠実に堅実に軍務に励んできた。その甲斐あって退役する2年前には将官に昇進し無事、兵役満了で除隊する事ができた。軍人時代を戦乱も無く、平和なまま退役できたのは彼にとって誇りであったが、同時に後ろめたさも感じていた。

 彼の先祖はかつて、初代皇帝と共にミリシアル独立戦争を戦い、壮絶な最期を遂げたとされる。幼少期から祖父母からその英雄譚を聞かされてきた事が彼が軍人を志すきっかけとなった。自分も、いずれは祖国の為に戦い、そして英雄として死ぬだろうと、しかしその機会が訪れる事無く退役し、悶々とした日々を送っていた。そんな中、起こった新興国の宣戦布告という祖国の危機。

 予備役将校であった彼にも招集が来た。数合わせだとは分かってはいたが、それでも彼にとっては祖国の為にできる最後の奉公だと思って再び軍服に袖を通したが…

 

 (どいつもこいつも、下らん弁明ばかりしおって!為せば成るの精神で魔帝すらも滅ぼしたミリシアルの民ならば、この程度の攻撃等、鎧袖一触の如く粉砕できるはずだ!まるでプロ意識が足りん!)

 

 現役の軍人達は役立たず。空港の職員に至っては右往左往するだけで煩わしくて仕様が無い。そもそも、これだけの状況に至っているというのに責任者たる空港局長が一向に姿を表さないというのは一体どういう事なのか?

 

 「やはり儂が何とかせねば…」

 

 祖国を救えるのは自分しかいない。そう確信を持つプラド自身が漸く英雄として歴史に名を刻む事が出来る時代になったと。

 実際の所、彼が思っている様に彼の部下達はサボタージュに走っている訳でも無ければ、無能でも無い。寧ろ限られた状況の中、出来る事は全てやってきたと言えるだろう。

 逆に下らないロマンチシズムに浸り、録に現場を見もせずに書類だけを見て、全てを理解したつもりになっているプラドこそが、典型的な無能な働き者と言えるだろう。

 

 「むっ。照明が戻ったか。おい!メインのモニターを写せ!!」

 

 「ハッ!ターミナルを投影します!」

 

 「全く…ノロマ共めが…」

 

 低い雷鳴の様な唸り声めいた声で部下達を扱き下ろすプラド。既に彼の頭の中では、国民から喝采を受け皇帝ミリシアル8世から直々に勲章を与えてもらう自分の姿が思い浮かんでいた所だった。しかし、モニターに映る光景が彼を否応なしに現実に引きずり出す。

 

 「な…何なんだっ!!これは!!!」

 

 根本から崩れ焼け落ちた管制塔、燃えるハンガー、スクラップと成り果てた天の浮舟達、そこには空港というよりもジャンクヤードかスクラップ置き場のような光景が広がっていた。

 

 「こ…これは一体…何が起きたのだ…!」

 

 目の前の光景が信じられず、たじろぐプラド。そこに新たな報告が飛ぶ。

  

 「上空から未確認飛行物体を確認しました!機種は不明!本基地を目指して飛行しています!!」

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 黒煙と紅蓮の炎が立ち昇る中、鳴り響くサイレンの音をかき消すように、異形の巨鳥達が舞い降りる。

 

 「て…敵襲〜!!敵襲〜!!!」「さっきの奴らが戻って来たのか?!」「違う!だが数が多いし、デカいぞ!!」「銃を構えろっ!来るぞ!」

 

 上空の物体に向けて次々と銃弾を放つミリシアル兵。しかし、小気味よい金属音を奏でるだけで、ほとんどダメージは入らない。

 

 「駄目だっ!7mmじゃビクともしないぞ!」

 「く…せめて魔光砲があれば…」

 

 ミリシアル軍で正式採用されている軍用魔導銃《M1632 ルビー》は中央歴1632年に採用、10発という装填数の多さと、7mmの威力の高い弾薬に加え、動作性と信頼性の優れた小銃である。元々、ミリシアル政府にとって現実的な敵になりうる国、仮想敵国はムー国のような列強諸国と文明圏外国家であり近年目覚ましい進歩を遂げる銃火器に対抗するためにも敵の射程外からロングレンジで、なおかつ鎧を装備した騎士を倒せる様に口径の高い銃弾を採用していた。

 無論、只の小銃弾では装甲で覆われた車両や航空機を破壊する事は出来ない。まして彼らの上空を浮かぶセンチネル級上陸艇を破壊する事など、夢のまた夢であった。

 

 

 

 「各隊、状況を知らせよ。」

 

 『第2大隊異常ありません。』

 

 『第3大隊異常ありません。』

 

 「機長、ポイントまで、あと6分です。」

 

 「周囲に敵影は無し。機長、全て予定通りです。」

 何ら妨害を受ける事無くゼノスグラム国際空港へと飛行する帝国軍部隊。センチネル級上陸艇を中核にラムダ級、ゼータ級で構成された上陸部隊である。 

 

 「航空機と対空砲の類は無いな。流石はタイタン中隊だ。良い仕事をしてくれる。」

 

 センチネル級のコックピット内で指揮官は感嘆する。地上制圧や降下強襲任務でストームトルーパーや重火器を戦場まで運ぶのが彼らの仕事だ。当然ながら完全武装のトルーパーを限界まで積み込んだシャトルは敵にとって極めて厄介で危険な存在である。その為、地上から空中からありとあらゆる攻撃を受けやすい。これまでの任務でも目の前で上官や部下、同期のパイロットやストームトルーパー達が、鉄の棺桶と化したシャトル諸共デュラスチールと焦げた有機物の塊と化すのを見てきたのだ。

 

 「全機へ、進路はこのまま、予定通り突入する。上陸部隊へ、最終確認を済ませよ…ムッ!」

 

 センチネル級のデュラスチール製装甲を叩く音が鳴り響く。敵の攻撃だ。しかし、レーザーやデブリが漂う宙域を駆け抜けるセンチネル級をたかだか数ミリ程度の金属片で破壊することなど出来るはずも無い。

 

 「機長 敵より攻撃を受けています。指示を」

 

 「よし。最後の仕上げだ。各機、砲門を開け!」

 

 

 

 

 

 

 「お…大きいっ…!」

 

 ターミナル内の通路、奇しくもクレストは先程、敵の飛行機械が蹂躙しつくした光景を見せつけられた場所で再度、信じられない物を見る事になった。

 

 「3…いや40メートルはあるぞ…!一体あれは…?」

 

 空中に浮かぶ飛行機械の様な物。先程、見た物と比べると鮫と鯨程の差があるであろう大きさだ。圧倒的な威圧感がある。

 

 「お…おのれっ!侵略者共めっ!」

 

 「撃ちまくれっ!」

 

 兵士達が次々と発砲する。しかし、小銃弾程度では、まるでダメージが入らない。

 

 「よせっ!止めろっ!そんな事をしても無意味だ!」

 

 「し…しかし!」

 

 「態勢を立て直すんだ!他の部隊と合流して…!?」

 

 クレストは目を剥いた。敵の飛行機械から何かが展開されたのを見たからだ。それはクレストは初めて見る物だったが何処か既視感を覚える造形をしていた。

 

 (何だアレは?まさか…!)

 

 それは、まるで魔光砲か魔導砲の砲口に良く似ていた。そして、その内の一門が、黒い口をこちらに向けていた。

 

 「伏せろっ!!!」

 

 叫びながら地面に突っ伏す。彼の頭上を緑色の光線が通り抜け、一緒にいた連絡将校を一瞬で、跡形も無く消し飛ばし通路の柱に直撃する。爆音と粉塵が同時にクレストを包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「GO!GO!GO!!」

 

 「Victory Over The Empire!!!」

 

 「For The Vader!!!」

 

 着陸したセンチネル級やゼータ級、ラムダ級のハッチから白いアーマーを身に纏った兵士達が飛び出す。そして、未だに混乱から抜け出せないミリシアル兵に自身の得物を構える。

 

 「な…何だコイツらは…!」

 

 全身、白一色で統一された奇妙な集団。ヘルメットのデュアルアイ状のバイザーと全身が白い事もあり、人間の白骨死体を連想させる印象をミリシアル兵は感じた。

 

 《ストームトルーパー》

 銀河帝国軍の中核を為す機動歩兵である。前身である共和国軍クローントルーパーと違い、各地の星系から集められた志願兵で構成されている。帝国の物量に物を言わせたマンパワーで敵を圧倒し、殲滅する事から帝国に敵対する者達にとっては恐怖の象徴でもある。彼らの特徴とも言える白いアーマーとヘルメットには簡易的なパワーアシストと体温調節機能、暗視装置とインコム(通信装置)が備わっており、広大な銀河系の各所でも活動できるように出来ていた。

 

 「Open Fire!!!」

 

 ストームトルーパー達の持つE-11ブラスターから赤い光線が放たれ、次々とミリシアル兵に着弾する。

 

 「グワッ!」「ギャッ!!」「て…敵だ!」「撃ち返せっ!うわっ!」「司令部!司令部!!敵だ!敵が上陸して…がっ…!」

 

 「総員突撃せよ!叛徒の手先共を蹴散らせっ!」

 

 ポールドロンを付けたストームトルーパーコマンダーがミリシアル兵の死体を踏み付けながらブラスターを掲げ叫ぶ。

 駐機場や滑走路にはシャトルから降り立ったトルーパーが激しい戦闘を繰り広げていた。E-11ブラスターのレーザー弾がミリシアル兵を撃ち抜き、バイポットをフォアグリップ代わりに腰だめでDLT-19ヘビーブラスターを突撃銃の如く掃射し、ミリシアル兵数人を薙ぎ倒す重装トルーパーや後方からDLT-20Aブラスター、通称[パルスキャノン]で、指揮官か将校であろう、やたら目立つ階級章や勲章を付けたミリシアル兵を狙撃するスナイパートルーパー等、各所で銀河帝国軍は圧倒していた。

 上陸地点では橋頭堡が築かれ、センチネル級から分解された状態のEウェブ重連射式ブラスター砲が運び出され橋頭堡に設置されつつあった。スカウトトルーパーがスピーダーバイクを降ろし出撃に備え、その傍らではアストロメク・ドロイドが機材の調整を行っている。装備や兵員を降ろしたシャトルは空中で浮遊しながらレーザー弾を放ちトルーパーへの掩護射撃を行っていた。

 

 「包囲されています!突破されますっ!」「敵が来るっ!」

「もうだめだ!後退しましょう!」「怯むな!後退は出来ん!押し返すぞっ!!」

 

 次の瞬間、若い少尉の頭部を光弾が貫いた。ミリシアル兵の多くは防弾ヘルメットを着用していたがブラスターのレーザーの直撃には耐えられなかった。

 

 「少尉がやられました!即死です!!!」

 

 「バカ分隊長がっ!言わんこっちゃない!」

 

 隊のまとめ役であるビスマス軍曹が思わず叫ぶ。守備隊の陣形は崩壊寸前。敵歩兵は火力に物を言わせて、防御陣地を突破しつつあった。彼らの部隊は敵の火中に取り残され、ジワリジワリとすり潰されつつあった。

 

 「軍曹!新手ですっ!」

 

 「っ!伏せろ!」

 

 とっさにバリケードに身を隠す。瞬間、赤い光線が頭上を通り過ぎる。バリケードや魔導車の残骸にも着弾したらしく、小規模な爆発も起きている。

 

 「畜生!何人殺られた?!」

 

 「3人…いえ5人です!」

 

 「当たらんでもいい!とにかく撃ち返せ!」

 

 カバーリングしながら銃を撃ちまくる。しかし敵も残骸や砲弾孔に身を隠しながら発砲し、着実に前進し続ける。敵の方が武装、練度でも格上なのは明らかであった。だが何よりも決定的な差があった。

 

 (クソっ!コイツら手強いぞ!!)

 

 基本的にミリシアル陸軍は突撃する敵を射程外から一方的に狙い撃ちにするアウトレンジ戦法をドクトリンにしている。無論それは魔導銃、魔導砲と言った兵器でミリシアルが他の文明圏、国家を圧倒しているからこそ取れる戦術であり、更にこれに加えてジグラントや爆撃機型ゲルニカ等の航空戦力も支援に加わる為、敵部隊は碌な抵抗も出来ずに全滅するだろうと言われてきた。

 しかし現実はどうか。敵はミリシアル側よりも先に航空機による空爆を成功させ制空権を取り、こちら側の反撃の芽を摘み、間髪入れずに歩兵部隊を突入させて、あっさりと浸透してみせたのだ。ミリシアル兵の多くは敵の白い兵士達の機動性についていけてない。装備面でもミリシアル側が長く重い取り回しの悪い魔導銃で、慣れない接近戦を強いられているのに対して敵は小型の銃で着実にダメージを与えてきた。

 

 (クソっ!…コイツら戦い慣れしていやがる!)

 

 ミリシアル軍が現在の近代的な戦術を構築するまでには、かなりの長い期間が必要だった。しかし、敵は当然のように、自分達と同等、いや、それ以上に戦術を理解し、実践してみせている。それは明らかに異常だった。

 

 「残っている部隊は俺達だけか!?」

 

 「分かりませんっ!通信が出来ません!」

  

 魔信が使えなくなり、各部隊との連携が取れなくなった。将校といった前線指揮官が狙い撃ちにされ、反撃の手段を封じられつつあった。彼等の現状は目と耳を潰され、手足をもがれた状態にも等しい。

 

 (こっちは先手を打たれている!この状況はマズい!)

 

 「クソっ!このままじゃ全滅だ!後退するぞ!負傷者を担げ!急ぐぞ!」

 

 「了解しました!!」

 

 「デトネイター!!!」

 

 バリケードから離れようとした丁度その時、敵陣から叫び声が聞こえ、何かが投げ込まれる。

 

 「何だこれ?」

 

 兵士の一人が手に取る。白い円筒状の金属製の物体だった。何らかの機械の部品だろうか?デトネイターというのは呪文の一種だろうかと?もしも彼等がそれが何なのかを知っていたら決して手には取らなかったであろう。

 刹那、ビスマスを含む兵士達の視界が真っ白に染まり、二度と現世に戻る事は無かった。バリケードだった残骸を乗り越え、白い兵士達が突き進む。

 

 「いいぞ!進め!」

 

 「この星の奴等に我等〘501大隊〙の力を見せつけてやれ!」

 

 《501大隊》

 銀河帝国軍には数多くのストームトルーパー兵団が存在する。その中でも極めて名の知れた部隊が彼等501大隊である。ベイダーの拳とも言われる彼等は、その名の通り、ダース・ベイダーが司令官として指揮する部隊である。基本的にストームトルーパーは反乱同盟軍や星系独立連合軍残党等と言った武装勢力やギャングの討伐よりも星系内外の治安維持、警務を主任務に行っている。警察軍に近い組織なのだ。その為、実戦経験に乏しく、練度に至っては、かつての共和国グランドアーミーに劣っている。しかし501大隊は結成当初から対反帝国分子の掃討を目的に作られた部隊である。ベイダー自身の苛烈なまでの無慈悲さ、情け容赦の無さも相まって帝国に逆らう者達にとって恐怖の象徴であった。人員もアカデミーを優秀な成績で合格したエリートや、実戦経験豊かなベテランに、少数だがクローン兵を優先的に配属させている事からも、彼等がいかに帝国にとって重要な存在か分かるだろう。

 

 

 

 「進め!空港まで、あと少しだ!」

 

 「伏兵に気を付けろ!遮蔽物にはデトネイターを使え!」

 

 「!?止まれっ!!隠れろ!!」

 

 次の瞬間、弾幕がアスファルトを抉り、魔導車の残骸に当たり、激しい金属音を奏でる。

 

 「くっ…タレットか…!」

 

 視線の先ではゲルニカの機関銃座が激しく唸りを上げながら銃弾をばら撒く。

 

 「厄介だな…どうするか…」

 

 損害を覚悟で突撃する事も可能だ。だが、緒戦で無用な損失を出すわけにもいけない。どうするべきか?

 

 「コマンダー!自分がコイツで吹き飛ばせます!!」

 

 トルーパーの1人が手に持った筒状の物体をコンッと叩きながら進言する。

 

 「頼めるか?良し!他の者は掩護するぞ!!敵がリロードするまで待つぞ。」

 

 

 「急げっ!早く、弾を!」

 

 光弾が機体の各所に当たる中、銃手が急かす。彼等が乗るゲルニカはタイタン中隊に破壊され、主翼が千切れていたが、幸いにも胴体部分は無事であり機体上部の銃座は無傷であった。

 

 「クソっ!!そこら中からウヨウヨ出てきやがる!」

 

 「マズイですよっ!俺達、包囲されてます!!逃げ場が…」

 

 「うるせぇ!!逃げたけりゃ勝手に逃げろっ!」

 

 苛立ちながら魔光砲を発射する。高速で放たれる弾丸に敵は近づく事は出来ない。何とか防いではいるが…

 

 (クソっ!クソっ!クソっ!!!)

 

 何度、撃っても敵は後退しない。寧ろ、近づいて来ている気がする。撃てば別の場所から光弾が放たれ、彼の精神を擦り切れさせる。

 撃つ。撃つ。撃つ。撃つ。撃つ。ただひたすらに撃ちまくる。まるで終わらないモグラ叩きのようだ。

 

 (後、いつまで俺は撃てばいい…?増援はいつ来るんだ…?)

 

 目の前で戦友達が動かぬ屍になるのを見た。無敵と言われてきたエルペシオ3が呆気なく落とされた。

 

 (こいつらは何なんだ…?何で俺達は殺し合ってるんだ?)

 

 既に彼の脳内は限界を超えていた。飽和状態だ。

 

 「!?」

 

 視界の隅に白い物を見た。咄嗟に機銃を向けるだが…

 

 ガチンッ!と甲高い音が鳴る。弾切れだ。

 

 「し…しまった!」「ヒィ!!」

 

 

 

 

 「ハァ…ハァ…」

 匍匐前進で魔導車の残骸に到着したトルーパーは魔導車に背をもたれかけ一息付いた後、自身が持つRPS-6スマートロケットランチャーに弾頭を装填する。

 

 「よし…後は…」

 

 頭だけを出し、バイノキュラーで敵との距離を測る。

 

 「へっ…これぐらいなら、目視でもいけるぜ…」

 

 自身の腕ならランチャーをロックオンさせる必要も無い。

 数回、呼吸し最後に深く息を吸うと、自身の体を軸に反転するようにランチャーを構えながら、身を乗り出す。

 

 「喰らいなっ!」

 

 

 弾頭はゲルニカの銃座のやや下方に直撃し、機体内部で爆発した。残っていた燃料に引火したのか、機銃座諸共、火柱を上げながら爆発炎上した。

 

 「やった!ざまぁみろっ!!」「帝国万歳!!!皇帝陛下万歳!!!」「ベイダーの軍に栄光あれ!」

 

 歓声を挙げるトルーパー達、彼等の士気は一様に高い。帝国に敵対的な物にとって彼等は恐怖の象徴であるが、別の面から見れば彼等の存在はギャングや宇宙海賊といった犯罪組織、無法者から銀河を守ってきた事も事実である。特に旧共和国時代、アウターリム、コアワールドから離れた地域では入植地やコロニーが絶えず海賊の襲撃に晒され、略奪と虐殺が日常茶飯事だった時代を知る人々にとっては、実情を知らない癖に浮世離れな平和主義を唱えるだけで何もしてくれないコアワールドの役人や、装備、経験でも劣る割にアウターリムに対して差別的な偏見を持っていたジュディシアルと比べれば、各惑星から徴募し、採用されたストームトルーパーは自分達の住む銀河系を守ろうとする気概が高い。トルーパー達も自分達こそが銀河の平和と秩序を守っているという自負がある事も大きいだろう。

 

 

 

 「第2中隊、敵陣を突破に成功」

 

 「グレブ中尉らの小隊が敵の足留めを受けています。応援を」

 

 「第1大隊より報告 ポイントA-4を確保」

 

 橋頭堡内の仮設司令部で帝国地上軍士官やトルーパー達が各隊からの報告を聞き指示を出す。

 

 「全部隊へ、戦線を押し上げよ。」

 

 「奪取した地点へスピーダーを送る。」

 

 「空港施設は陥落間近だな。ゴザンティ級とインコムY-85を送ってくれ。」

 

 「了解しました。」

 

 そんな中、ストームトルーパーの1人がある物を持って来る。

 

 「指揮官殿。敵の武器を鹵獲しました。」

 

 「ん?ドロイドから情報のあった〘まどうじゅう〙とか言う実弾銃か?」

 

 「スラッグスローワーの一種の様に見えますが…余り性能は良くない模様です。」

 

 「辺境の蛮族らしいではないか。タトゥイーンに生息する野蛮人も、こういった武器を好んでいるらしいからな。」

 

 

 銀河系において実弾を扱う小銃はブラスターに比べて、少数派である。まして組織、勢力で採用する事など、皆無に等しい。

 

 「しかし、随分と敵の抵抗が激しいな。これだけの技術差があれば直ぐに降伏しそうな物だがな。」

 

 幹部達が冷笑する。彼等の言う通り技術差は圧倒的であった。それも理解できずに必死に抗おうとするのは滑稽さを通り越してむしろ哀れでもあった。

 

 「作戦は予定通りに進んではいるが、気は抜くなよ?敗北すれば我等とて只では済まん…」

 

 「何故です?」

 

 新任の将校が質問する。味方が有利な状況で、わざわざ念を押す様な言い方に不気味さを感じたからだ。

 

 「貴官はあの方をよく知らん様だな…」

 

 「え?」

 

 一瞬、どことなく弛緩した雰囲気が張り詰めた物に変化する。

 

 「あの方は決して失敗を許しはしない。以前、将校を絞め殺すのを何度も見た。」

 

 「結局の所、負ければ後が無いのは我等も彼等も変わらんという事だ。それを忘れるな。」

 

 「り…了解しました…」

 

 「指揮官殿。前線の部隊が敵の最終防衛ラインに到着しました。ご指示を」

 

 通信士官が後ろを振り向きながら報告する。それに深く頷いて応えると、目の前のディスプレイに向き直る。

 

 「とっとと済ませるぞ。予備兵力を全て前線に送れ。」

 

 「閣下、例の部隊はどうなさいますか?」

 

 「むぅ…敵の司令部の位置は分かったのだろう。仕方ない…ジャンプトルーパーを露払いに向かわせろ」

 

 

 

 

 

 

 「ぐっ…!ここは何処だ…?」

 

 朦朧とする意識の中でクレストは目を覚ました。全身がズキズキと痛み、耳鳴りも酷い。自身が瓦礫の中にいるのは、直ぐに分かった。しかし、胴体をがっちりと挟まれていて抜け出せない。

 

 「とにかく…ここから抜けださねば…グッ…!」

 

 目の前の大きなコンクリート片を渾身の力で押す。ガラガラと瓦礫が崩れ、煤まみれの顔に冷たい空気が降りかかる。

 

 「おーいっ!誰か、いないか……なっ!」

 

 彼のいた場所からは破壊された空港の全体を見渡す事が出来た。先程と同様に破壊された天の浮舟や魔導車が散らばっているが、今はこれに加えて、爆炎と銃撃音が新たに混ざり極めてカオスな世界になっていた。

 

 「…あれは…敵の兵士か…」

 

 各所でミリシアル兵と白い鎧を纏った兵士達が銃撃戦を繰り広げていた。クレストは敵の姿を見て疑問に思う。

 

 「甲冑にカービン銃だと?一体、どういう事なんだ…?」

 

 今の時代、魔導銃を装備した軍隊で甲冑や鎧を着る事は無い。せいぜい1〜2mm程度の厚さしかない鎧では銃弾を止める事は出来ないからだ。

 

 (全員が同じ格好をしているが…あれは髑髏のつもりか?…とすると相手を威圧する事が目的なのか?だが…)

 

 文明圏外の地域では戦の際に、味方の士気高揚と敵の威圧の為に自身の顔や体に恐ろしい怪物のペイントを描く部族がいると以前、聞いた事があったが、彼等もそうなのだろうか?

 

 (だが…解せない…何故、あんな小さく短い銃を使っているのだ?アレでは精度も期待出来ず、反動をもろに受けるはずだが…)

 

 敵が持っている銃は見た所、ストックが短い上に、銃身自体も殆どグリップとさほど変わらない程短い為、クレストはカービン銃だと思った。無論、銃を小型、軽量化するのは兵士の負担を減らす事にもなるし、取り回しの良さからミリシアル軍でもM1632のカービンモデルを一部、特殊部隊や車両部隊向けに配備している。だが、デメリットも多いのがカービン銃の特徴でもある。そもそも、銃の機関部は小型化しづらく、結果として、ストックや銃身自体を削らなくてはならないのだ。当然ながら射程や命中率といった銃本来の利点といった物を犠牲にしなくてはいけないため、実の所、中途半端な代物だとクレストは思っていた。全ての部隊に配備する必要は無いはずだが…

 

 「突撃だっ!殲滅せよ!」「敵勢力を撃破!」「ランチャーを!障害物ごと吹き飛ばしてやれっ!」

 

 敵の兵士達が口々に叫びながらミリシアル兵が守る陣地に攻撃を仕掛ける。防衛側が有利な立ち位置ではあるが、明らかにミリシアル側が撃ち負けていた。ミリシアル兵がM1632を構え、一発撃つ前に、敵の兵士は既に数発の光弾をそのミリシアル兵に撃ち込んでいた。撃たれたミリシアル兵が次々と倒れ、地面が死体で覆われていき、その上を白い兵士達が乗り越えていく。

 

 (反動が殆ど無いだと…!?威力も精度も高い!ん?あの兵士は何をしているのだ!?)

 

 奪取したバリケードの裏で銃ではなく、何か大きな筒を持っている敵兵を見つける。

 

 (アレは何だ…?何かの装置か?いや、まさか!?)

 

 彼の予想は最悪の形で的中する事になった。その敵兵は手に持った筒をミリシアル軍の陣地に向けると一瞬、空気が抜けるような音と白煙を吹き出した。刹那、陣地が丸ごと吹き飛び、土嚢の残骸とミリシアル兵だったであろう代物がバラバラに飛び散る。

 

 「携帯式の魔導砲だと…!?そ…そんな物まで…!」

 

 ミリシアル軍でも歩兵が単独でも扱える魔導砲(どちらかと言えば迫撃砲に近い兵器)の開発に力を入れているが、未だ実証段階に過ぎない。

 クレストにとって、悪夢の様な光景はまだまだ続く。ある敵兵は連射機能の付いた魔導銃でミリシアル兵を次々と薙ぎ払う。魔導砲の砲撃並みの威力を持つ手榴弾のような兵器。これらの兵器を駆使する敵兵に、ミリシアル軍はまるで歯が立たず一方的に蹂躙されるだけであった。

 

 

 

 「こんな事が…こんな馬鹿げた事が……」

 

 クレストは絶望に染まった表情で呆然と、その光景を見つめていた。敵は強い。それも、自分達、神聖ミリシアル帝国を遥かに上回るであろうと。何よりも最悪なのが、既に自分達、神聖ミリシアル帝国は彼等との全面戦争になっているという事実だ。

 

 「こんな連中と一体、どう戦えばいいのだ…!」

 

 圧倒的な技術差に絶望するクレスト。思わず伝説に聞く、魔帝が蘇ってくれればと、一瞬思い自嘲の笑みを浮かべる。

 

 (魔帝に縋る様では我々も終わりだな……ん?)

 

 思わず天を仰ぐクレスト。だが、彼の視界に奇妙な物が映り込む。空中を飛ぶ点の様な物はグングンと大きくなり、その全容が明らかになると再度、クレストは、絶望する事になった。

 

 「バカな…何故…何故、人間が空を飛んでいるんだ!?…」

 

 それは地上を闊歩する敵の兵士達と良く似ていた。問題は空中をまるで、エルペシオやジグラントの様に光の尾を引きながら飛んでいる事だろう。かの魔帝ですら生身の人間を天の浮舟の如く、飛ばせる技術などできなかったはずだ。

 

 「我々は……一体、何を敵に回してしまったんだ……」

 

 遠のく意識の中で彼が思ったのは今後の祖国の行末だった。

 

 

 

 

 

 「敵だっ!敵が…グアッ!」「駄目です!突破される!」「畜生!!何で空を飛んでいるんだっ!?」

 

 

 司令部周辺を警備していたミリシアル兵は見た事も聞いた事もない敵の奇襲を受けていた。何しろ空を飛んでいるのである。その衝撃もあるが、空という高所を取られた事もあり、守備隊の数は既に数人にまでうち減らされていた。

 

 「ガッ!」「た…隊長!ウワっ!」

 

 「クリア」「クリア、おっと」

 

 まだ息のあったミリシアル兵の、頭部と心臓に2発づつブラスター弾を撃ち込む。これで彼は楽になれた。

 

 「今ので、最後だったな」「オイオイ、気をつけろよブラザー」「腕が鈍ったんじゃないか?ハハッ」

 

 軽口を叩き合う白い兵士達。尤も彼等は周辺への警戒は解いておらず怪しい者、生き残りがいれば瞬時にRT-97Cヘビーブラスターを放つだろう。

 彼等はジャンプトルーパーと呼ばれるストームトルーパーの特殊部隊である。クローン大戦時に創設されたクローンジャンプトルーパーの後継として背部のジェットパックを使った機動戦を得意とする部隊でありストームトルーパー兵団の中でもエリートとも言える部隊であった。

 

 「全員、静かにしろ。…来たぞ…」

 

 一隻のラムダ級が降り立ち、全員の視線が集まる。

 

 「流石はベイダー卿の部隊だ。仕事が早くて助かるよ。」

 

 「プロですからね。これぐらいの事は…」

 

 ジャンプトルーパーコマンダーはラムダ級から降りたトルーパーに答えると同時に疑問が浮かぶ。

 

 (何故、情報部の連中がいるんだ?たかが、辺境の未知領域の惑星に何故コイツらが?)

 

 帝国情報部といえば銀河帝国内でも極めて秘匿性が高い部署だ。帝国軍内部でも彼等の実態を把握している者は一握りしかいないとされる。それこそ、自前でストームトルーパーを揃える程。

 

 (今回の遠征は、この惑星の征伐だけではないのか?そもそも、この程度の星にこれだけの戦力が必要なのか?)

 

 インペリアル級スターデストロイヤーだけで6隻も、この名も無き星一つの為に派遣されている。しかも、指揮官はあのダース・ベイダーである。何か、別の目的があるのではないか?

 

 「では、我々は地上軍の掩護があるので……」

 

 「うむ。御苦労」

 

 

 

 

 「しかし、不気味な連中でしたね…」

 

 徐々に遠ざかっていく司令部の建物を尻目にジャンプトルーパーの一人が隣で飛ぶコマンダーに話しかける。

 

 「あぁ…出来れば二度と関わりたくない奴等だったな…」

 

 「連中と比べりゃ、まだドロイドの方が人間味がありますよ。」

 

 「そこまでにしておけ、少尉。どこで奴等が聞いているか分からんからな。」

 

 「も…申し訳ありません…」

 

 コマンダーはそっと、後ろを振り返り、段々小さくなっていく黒いアーマーを着たトルーパーを見る。

 

 「どちらにせよ、奴等には目を付けられたくは無いな。あのデストルーパーにはな…」

 

 

 

 

 「作戦は以上だ。何か、質問がある者はいるか?」

 

 デストルーパーコマンダーの問いに一人のデストルーパーが挙手する。

 

 「何だ?言ってみろ。」

 

 「隊長。捕虜はどうしますか?何人か確保しますか?」

 

 「いや、いらん。ベイダー卿からの指令では邪魔になる者は全て、排除せよとの事だ。」

 

 「なるほど、捕虜にはなるな、捕虜は取るなという事ですな。」

 

 「そういう事だ。いつも通りだ。」

 

 彼等はひとしきり乾いた笑いを上げる。朝焼けの日差しが彼等の黒いアーマーに反射し、より一層、威圧感を醸し出している。

 

 「さぁ行くぞ。前線豚ども。戦争だ。」

 

 




 


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第8話 ゼノスグラム国際空港攻略戦 後編

お久しぶりです。ようやく書き終えました。


 ゼノスグラム国際空港

 司令部地下 魔力制御室

 

 金属パイプと湿ったコンクリートの壁 時節、思いだした様に不気味な轟音を上げる魔導タービン 蒸し暑くカビ臭い澱んだ空気 無機質で実用一辺倒の魔力灯がチカチカと時々ちらつきながら薄暗い制御室内を照らしていた。様々な魔導機械に囲まれた空間内に二人の兵士がいた。一人は落ち着かないのかキョロキョロと周囲を見渡し、もう一人はうんざりした表情で、軍服の袖で額の汗を拭った。この部屋は蒸し暑い上に騒音と悪臭で充満していた。この制御室に来て30分程になるが、外がどうなっているのか分からない事もあり、二人は憔悴しきっていた。

 

 「ハァ……」

 轟音、銃声、爆発音、遅れて振動が空気を揺らす。パラパラと肩に掛かった白い粉塵を払う。

 

 「…今の爆発…近かったよな…」

 「…あぁ…」

 

 隣に立つ同僚のテスラが言う。普段は陽気なジョークを飛ばすお調子者だが、その声は震えていた。

 

 「アプリ…俺…怖ぇよ…」

 

 しばしの沈黙の後、ようやく答える事が出来た。

 

 「…俺も怖えよ…」

 

 何故こんな事になってしまったかと後悔と恐怖が入り交じった中、あれだけ嫌っていた故郷の光景が思い浮かんだ。

 

 (何で、軍隊なんかに入隊したんだろう…)

 

 アプリ・スディルマン二等兵は今年、入隊したばかりの新兵であった。彼の故郷はカン・ブリットから更に離れた山岳地帯、その盆地に作られた小さな村であり、金色の小麦畑と流麗な山脈に囲まれた美しい場所だった。彼の実家は代々、農家を営んでおり、採れた小麦や山の幸をカン・ブリットやルーンポリスといった都市に売却する事で安定した生活を送っていた。尤も、彼からして見れば何も無い田舎であり、思春期を迎える頃には年頃の青年らしく、冒険心から田舎から出て都会で暮らしたいと考えるのは寧ろ自然な事だった。

 学校を卒業した後の進路について、家業を継がせたい両親と言い争いになり、着の身着のまま、ルーンポリスへと飛び出していったものの彼は直ぐに後悔する事になる。世界の首都とも言われるルーンポリスには、それこそ、その名の通り世界中から人が集まるのだ。知り合いも居らず、紹介状の類も持って無いテスラに都合良く仕事を与えてくれる者等おらず、ルーンポリスの片隅で途方に暮れる事になってしまったのだ。

 それでも彼には幸運の女神が付いていたのか偶然、徴兵ポスターを見つけ、ダメ元で応募した所、見事合格し故郷に失意の中、帰る事にはならなかった。今となっては死神に魅入られていたとしか言えないが…

 

 

 

 

 

 (確か、軍曹殿に叩き起こされて…)

 

 昨夜、相方のテスラと共に夜間のパトロールを終えて駐機場の端にあるテントに入った事は、よく覚えている。シフトの都合上、昼間までグッスリと眠れるはずだった。しかし朝方、凄まじい爆音で目が覚めた。何事かと、寝袋の中でテスラと顔を見合わせていると彼等の上官である軍曹が殺気立った様子でテントに入って来て、装備を整え直ぐにテントを出るように言われ、それから…それから……

 

 

 「なぁ魔帝が復活したのかな…?俺達はどうなっちまうだ…?」

 

 「何だよ…いきなり藪から棒に。」

 

 「だってっ!滑走路をあんな風に破壊できる奴等なんて魔帝以外にいないじゃないか!!!」

 

 「お…おい…落ち着けよ…」

 

 「ばあちゃんから聞いたんだ…あいつらはエルフや人間の生皮剥いで生きたまま食うって…!」

 

 ヒートアップする彼を見てアプリは辟易とした気分になった。こんな状況で魔帝の話等したくも無いし、聞きたくも無い。

 

 「魔帝の復活なんておとぎ話の世界じゃないか。光翼人達は光大戦の後の残党狩りで滅んだって、歴史の授業で習ったろ?」

 

 「で…でもよぅ…」

 

 「第一、おかしいじゃないか。一万年も昔に滅んだ文明がどうやって復活するんだ?そもそも未来への転移魔法なんて馬鹿げた魔法が使えるんだったら何で、光の剣士達に負けたんだ?道理に合わないだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、この世界は恐るべき巨大文明が支配していた。古の魔法帝国《ラヴァーナル帝国》通称、魔帝は圧倒的な魔力と軍事力をもって光翼人以外の全種族を奴隷、家畜とし、繁栄の謳歌を送っていた。彼らの飽くなき闘争心と増長しきった欲望は、ついに唯一、拮抗していたインフィドラグーンの国家をも滅ぼし、その絶頂期を迎える。もはや誰も魔帝を止める事は出来ない…筈だった

 

 

 

 そんな虚飾に満ちた繁栄は呆気なく終焉を迎える事になった。虐げられる人々を哀れんだ神々は救世主を送り出した。それが《光の剣士》

  

  曰く、光の剣士達は名前の由来となった光る剣を持ち、その剣はこの世界に存在するあらゆる物を切り裂く事が出来たとされる。

 

  曰く、彼等は優れた剣士でありながら光翼人を遥かに超える魔力の持ち主であり、彼等の扱う魔法は天候を自在に変え、不可視の力で巨石を動かし、超常的な身体能力を持っていたとされる。

 

  曰く、彼等の乗る天の浮舟は光の速さで飛ぶ事が出来、一つの都市程の大きさを誇っていたとされる。

 

  曰く、自身に迫る誘導魔光弾を未知の古代魔法で跳ね返し、逆に魔帝の軍勢を壊滅させた。

 

  曰く、津波を片手で念じるだけで止めて見せ、多くの民を救ったとされる。

 

  曰く、軍船を沈める程の強力な魔力の嵐を起こして大艦隊を全滅させた。

 

  曰く、コア魔法の直撃を受けても埃一つ付かなかったとされる。

 

  曰く、単騎で魔帝軍の軍勢を圧倒する。その実力は一騎当千、いや一騎当万ともされる。

 

 光翼人をも遥かに凌駕する魔力と技術を持つ光の剣士達の攻勢を前に、光翼人達率いるラヴァーナル帝国は完膚無きまでに敗北。後の時代《光大戦》と呼ばれる光翼人と光の剣士達の戦争は僅か一週間足らずで、魔帝は支配下に置いていた領土の9割を喪失。彼等の首都があったラティストア大陸にも攻撃が及び、世界の覇権は疎か、種としての存続すら危ぶまれる程、追い詰められる事になったとされる。

 最終的には残された国土全体に結界を貼り、ラティストア大陸ごと転移する事によって、からくも逃走する事に成功したとされる。その跡地には《復活の刻来たりし時、世界は再び我らにひれ伏す》と記された不壊の石版を残して。

 その後、光の剣士達は《諸君らもいずれ、星々の間を自由に駆け抜ける時代が来るだろう。それまでは我々が君達の星の盾になろう》と言い残し天上の世界へと帰っていたとされる。

 

 奴隷の身分から解放され、自由の身になった人々は互いに協力しあい、荒れ果てた土地を何とか復興させ初期の共同体、文明を作り上げる事に成功する。しかし平和な時代は長くは続かなかった。光の剣士達が帰還してから数年後、潜伏していた魔帝軍残党が再び世界を支配しようと侵攻を開始したのだ。

 当初は誰もが魔帝軍残党の圧倒的勝利になるだろうと思われていたが、誰も予想していなかった事態に発展する事になった。一人のエルフの男が全世界に向けて、以下の演説を行ったのだ。

 

 《恐れていた事態が現実となった。魔帝の復活は事実である。既に、複数の居住地からの連絡は途絶えている。今、奴等の軍は確実に我等を抹殺しようと進軍を続けている。だからこそ諸君らに問いたい。

 これで終わりなのだろうか?希望は失われたのか?我等を待ち受けるものは、あの地獄の様な日々か?違う!!!

 我々は決して孤独ではない!この数年で我々は種族の枠をこえ団結し、強固な軍隊を作り上げた!過去の無力だった時代とは違う!我々は二度と奴隷には戻らない!!

 だからこそ、どうか私達を信じてほしい。自由の為に、明日の為に我々の軍勢に一人でも多く加わって欲しい。光翼人は決して不死身の怪物では無い。

 いつの日か、虐げられた者達が強力な敵を前に臆せずに自由の権利を勝ち取るべく武器を手にし抵抗し続けたと、二度と奴隷にならないと誓った者がいたと記録されるだろう!侵略者共よ!聞こえるか!?怒れる者達の歌が!》

 

 男の名はシャルル・ド・ミリシアル 後の時代、神聖ミリシアル帝国において国父と崇められ、ミリシアル王朝並びに、非光翼人の国家の礎を築いた正真の英傑である。だが、彼の人生は壮絶そのものであった。

 元々はある小国の貴族の出身であったが魔帝軍の侵攻により母国は滅亡。彼以外の一族郎党は族滅か、奴隷として売買され、彼自身も幼少期を奴隷として過ごしたとされる。この時の経験は彼自身の回顧録、又は側近達の証言によれば『思いだしたくもない。』と言わしめる程、過酷だったとされる。青年期になる頃、光翼人からの解放を目指す様になった彼は自身と同じ志しを持つ同志を集め脱走、反魔帝レジスタンスを結成。その後、人生の大半を対魔帝独立運動に捧げる事になる。魔帝軍との戦力差は圧倒的であり、正面からの戦闘はなるべく避け、ゲリラ戦を主とし魔帝の武器を鹵獲、解析しつつ彼等の戦略、戦術を学習し、自分達の戦力を少しでも強化し、雌伏の時を送っていた。いずれ来るであろう決起の時までに。

 光大戦後、多くの地下抵抗組織が解散、縮小する中、ミリシアルは尚も魔帝軍の来寇に備えるべきだと主張を変えず、独自の勢力を保ち続けた。そして、その機会は直ぐに訪れた。魔帝軍残党の侵攻により、多くの入植地が破壊される中、指導者ミリシアルは逐次反撃、後退しながら避難する住民を保護しつつ、戦う意志を持った者には武器の扱い方や戦い方を教える等の支援を行い、反撃の機会を伺っていた。そして2ヶ月後、補給線が充分に伸びきった魔帝軍残党は進軍を停止、膠着状態となる。これを好機とみた指導者ミリシアルは、種族間反乱抵抗軍の結成を宣言。ついに魔帝軍残党への総攻撃を開始、《ミリシアル独立戦争》が勃発する。

 当初は予想以上に現地民の抵抗が少なかった事もあり魔帝軍残党は完全に油断していた為、抵抗軍は次々と戦線を突破に成功、初戦を大勝利に収める。無論、これは兵力は各地に分散させていた事、抵抗軍側が正規戦の他にこれまで得意としていたゲリラ戦等で魔帝軍の後方基地や補給基地を襲撃し、兵站を圧迫していた事、魔帝軍残党が占領した土地で、これまでと変わらずに略奪と殺戮を行い、民心を得る事に何ら興味を抱かなかった事、何よりも彼等が本国を失った敗残兵だという事も大きいだろう。既に大型二足歩行兵器や天の浮舟といった兵器を製造はおろか、まともに整備できる状態では無い程、余力の無い状態だった事に加えて、これまでの統治の横暴さも相まって各地で暴動が発生。あっという間に抵抗軍に領地を奪還される事になった。

 一年半にも及ぶ激闘の末に、遂に多種族反乱抵抗軍は魔帝軍残党の殲滅を達成。悲願であった独立を果たした。その後指導者ミリシアルを国王とするミリシアル王国の建国を宣言。以降、ミリシアル一族による統治が行われる事になる。  

 終戦から半年後ミリシアル一世死去 一説には魔帝との闘争に全エネルギーを費やした反動の為だとされる。以降は彼の子孫や側近達が国家の運営を引き継ぎ、後の時代、神聖ミリシアル帝国までの系譜となったとされる。

 

 

 「じゃあ、何で魔帝の復活なんて話がまだあるんだ?奴等は全滅したんだろ?」

 

 「この前、魔導ラジオで聞いたんだ。魔帝の復活なんて話に根拠は無いってさ。噂に尾ヒレが付いて勝手にそんな話になったんだって。」

 

 「…それ、本当なのかよ?」

 

 「よくある話さ。終末論と同じコジツケみたいな物だよ。第一、不壊の石版なんて、いくら探しても見つからなかったらしいじゃないか。」

 

 「光の剣士達が破壊したんだろ?」

 

 「《不壊》なのにか?そもそも、おかしいじゃないか。魔帝程の技術を持った文明を滅亡寸前に追い込む連中がいたなんて、それこそおとぎ話の世界だろ」

 

 「おいおい…それじゃあ何で、魔帝は今、存在しないんだ?他に誰が、奴等を滅ぼしたって言うんだよ…」

 

 「前に読んだ本で書いてあったんだ。魔帝は滅ぼされたんじゃなくて、もっと別の理由で滅んだってね。光の剣士なんて本当は存在しなかったんじゃないのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔帝の滅亡については太古から議論されていた。特に近年、魔法技術の発展が著しい神聖ミリシアル帝国では技術の発展と共に、ある疑問が浮かんできた。

 《光の剣士達はどんな方法で光翼人達に勝利したか?》

 《彼等の魔法は具体的にはどの様な系統の物を使ったか?》 

 《何故、光翼人と戦ったのか?》

 《そもそも、彼等は何者なのか?本当に実在したのか?》

 

 魔帝の技術が解析されるにつれ、その文明の強大さ、圧倒的な軍事力、国力を有していた事が判明するにつれ、その魔帝すら凌駕する光の剣士とは一体何者だったのかと、議論を呼ぶのは当然の事だった。特に近年の神聖ミリシアル帝国では復元不可能とすら言われていた天の浮舟や魔導戦艦等をリバースエンジニアリングに成功した事もあり、魔帝がいかに進んだ技術を持っていたか、改めて理解する事になった事も大きい。それこそ、どう戦えば勝てるのかと思う程に

 何よりも、光の剣士達の存在を疑問視する大きな理由があった。それは彼等の情報が皆無なのだ。光大戦以降、彼等が歴史の表舞台に立った事は無い。更に、これまでいくら発掘調査をしても光の剣士に繋がる遺物やテクノロジーが見つからなかったのだ。それは、いくら何でも不可思議な事だった。光翼人をも凌駕し、魔帝を事実上の滅亡にすら追い込んだ神にも匹敵する謎の勢力 彼等はどこに消えていったのか?そもそも実在したのか?

 

 「俺が思うには魔帝は伝染病にかかって滅んだんだと思うんだ。光翼人にしか感染しないウイルスが蔓延したんだ。」

 「ウイルスだって?そんなはず無いだろ!」

 

 アプリは内心、そうであって欲しいと半ば願望を混ぜて話した。

 

 「もしくは光翼人同士で殺し合った末に文明が衰退したって説も聞いたぞ。多分、魔法が使えなくなる程、文明が衰退してボロボロになった時に、ご先祖様達が反乱を起こして一人残さず、根絶させたんだよ。だから、復活するはずなんかないんだ。」

 

 光翼人が魔帝が何故滅んだか、近年は以下の様な説が上げられた。

 《光翼人にしか感染しないウイルスが蔓延した》

 《魔法技術を極めた結果、逆に魔力を失い文明そのものが衰退した》

 《自分達に並ぶ者が居なくなった結果、同族同士で殺し合うようになり、コア魔法を撃ち合って文明が衰退した》

 

 

 どちらにせよ、力こそ正義の、この世界では見返りも求めずに残虐な種族を討ち倒した謎の救世主の話等、子供向けの勧善懲悪な古臭い英雄譚でしかない。特にアプリを含む、若い世代はそう考えていた。

 

 

 

 テスラが何か言おうと口を開いた瞬間、ズンッ!と重い衝撃と揺れが彼等を襲った。

 「うわっ!!」「うおっ!」

 

 魔力灯が激しく点滅し、タービンが一瞬、火花を上げて、断末魔の鈍い音を奏でた後に停止した。舞い上がった埃を吸い込み、アプリは激しく咳き込む

 

 「ゲホッ!!ゲホッ!や…やばいぞ!」「し…侵入されたんじゃないのか!?」

 

 

 魔力制御室は空港内の地下深くに作られていて、極めて頑丈に設計されている。生半可な爆撃では破壊される事はないと言われているが、先程の揺れは明らかに尋常ではない。

 

 「…ちょっと様子を見て来る…」

 

 「お…おい、警備はどうすんだよ…一人にしないでくれよ…」

 

 「すぐ、戻って来るって…」

 

 いくら頑丈だと言っても、外の様子が分からない状況に不安になったアプリは廊下へと続くドアに向かう

 

 (こんな所で生き埋めなんて冗談じゃないぞ…)

 

 ドアノブに手を掛けようとした、その瞬間…

 

 

 「むぐっ…!?」

 

 いきなり何者かに口元を押さえつけられた。一瞬、何が起きたのか理解出来ず、体が硬直する。

 

 「…!!?」

 

 何が起きたのか、誰が自身の後ろにいるのか、直ぐに彼は知ることになった。彼の目の前に、何か光沢のある鏡の様な金属製の板の様な物が差し出される。一瞬、その鏡の様な板に彼自身の背後の光景が映し出された。

 

 薄暗い魔導灯に照らし出された黒い鎧とマスクと一体になったヘルメットを被った謎の侵入者が、彼を後ろから押さえ付けていた。更に奥まった場所、さっきまで彼がいた地点には数人の黒い侵入者がいて、力無く倒れているテスラが見えた。アプリには、まるでスローモーションの様にゆっくりとその光景が見えたが実際には1秒も経っていない。

 

 (な…何が…!?ぐっ!)

 

 抵抗しようと、体の筋肉が強張った瞬間、淡い魔導灯の明かりに照らされた鏡の様な板がギラリと不気味に輝いた。

 

 「…!!!!」

 

 それは肉厚で大ぶりなナイフだったのだ

 

 

 

 

 「…ゴバっ!かはっ!!…」

 

 一瞬であった。首元に鋭く熱い痛みが走ったのは。ドアに赤い鮮血が飛び散る。とっさに空いた左手で首元を押さえるが首元には熟したザクロの様にザックリと大きな切れ目が空いている事、ドクドクと溢れ出す鮮血を止める事を出来ないという事を再度、確認しただけであった。

 

 「……ごほっ!!ゴポッ!……」

 

 薄れゆく意識の中、最期に彼の脳裏に浮かんだのは故郷の両親の事だった。

 

 (…父さん…母さん………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「排除しました。」

 

 そう言って振動ナイフに付いた血を拭い取る黒い兵士こと《デストルーパー》の一人。

 

 「よし。全員、揃ったな。死体をどかせろ。邪魔だ」

 

 エアダクトから最後の一人が出てくるのを確認した部隊の指揮官が全員を1箇所に集める。

 

 「ここまでは予定通りだ。だが、これからは時間との勝負だ。最後のチェックをする。」

 

 指揮官はホログラム投影装置を起動する。この地下施設のマップが立体的で三次元に投影される。

 

 「現在の我々の位置がここだ。そして、敵の司令室はここだ。ここを最短距離で制圧する。」

 

 先行していたヴァイパードロイドからの情報で、既にこの司令部は丸裸にされていた。施設外からデストルーパー本隊が敵を引き付け、その間に別働隊がエアダクトから魔力制御室に侵入し、施設内の魔力を遮断、無力化し、直接、敵の司令部を強襲制圧するというのが作戦であった。

 

 

 「副隊長 爆薬の設置が完了しました。」

 

 「分かった。誘爆はしないだろうな?」

 

 「我々の技術とは、かなり異なる機構をしていますが問題ありません。供給設備自体はかなり原始的な物です。調査しましたが、トラップの類もありませんでした。」

 

 指揮官こと副隊長のインコムに通信が入る。

 

 『首尾はどうだ?』

 

 通信の相手は総指揮官たるデストルーパーコマンダーであった。

 

 「全て、順調です。いつでも行動に移せます。」

 

 『了解した。これよりフェイズ2に移行する。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「通信が繋がりませんっ!」「わが軍の損失、45パーセントに!」「西館に敵、侵入!」

 

 

 「こんな…こんな事が…」

 

 プラドは絶望に満ちた表情で魔導モニターに映される映像を見ていた。破壊され尽くした空港施設、散乱した兵器の残骸、そしてミリシアル兵の死体で覆われた駐機場

 戦闘は蹂躙と言っても過言では無い程、一方的であり今では純白の甲冑を身に纏った敵の兵士達が闊歩し、空中では異形の天の浮舟が我が物顔で飛び回っていた。

 

 (あり得んっ!!何故だ!?何故、こうも一方的な展開になるのだっ!?神は我々を見捨てたのかっ?!!何故だ!!!)

 

 一瞬、自身の頭が正気を失い、ありもしない幻覚を見ているのでは無いかと本気で考えたが(寧ろそうであって欲しいと)現実は非情である

 本来ならば首都近郊にある空港の防衛など、常識的に見ても攻めづらく、防衛側の自分達が有利な筈だ。だが敵は航空戦力による地上部隊の殲滅と同時に歩兵部隊による制圧を成功させており、この手並みの素早さは、まるで演習を見ているようであった。

 

 (我々が敗北するのか!?いや、そんな事許されて良い筈が無いっ!!!正義が負けるなどと…)

 

 正義が悪に屈してはならない。それは彼だけではなく全ての人間が持っている価値観であろう。無論、プラドにとっての正義とは、あくまで神聖ミリシアル帝国の勝利である。だが、プラドにとってはもっと別のそれ以上の意味を持っていた。

 

 (こ…こんな物、認めん!認めてたまるかっ!)

 

 神聖ミリシアル帝国が列強として君臨してこれたのは、とどのつまり全ての戦いに勝利してきた事が大きい。彼にとっては魔帝軍残党の殲滅から始まったミリシアル建国神話は絶対的な存在であり、敗北を認める事など絶対に出来ない事であった。ミリシアルは勝たねばならない。過去も現在も、そして未来も。

 

 「認めん…こんな物、戦争だと認めてたまるか…!」

 

 モニターを悪鬼の如く表情で睨みつけるプラド。だが突如としてモニターの画面がブラックアウトし、照明も消えてしまった。

 

 「えぇい!またかっ!一体、何をしておるか!」

 

 携帯型小型魔導灯(魔力で作動する懐中電灯の様な物)を持った兵士達がドタドタと慌ただしく彼の部屋に入ってきた

 

 「将軍!報告します!当空港は敵部隊に完全に包囲されています!」

 

 「ターミナル内にも敵が侵入したとの報告が…」

 

 「これ以上の防衛は不可能です!どうか撤退を…」

 

 「て…撤退だとっ!!ふざけるなっ!我等は最後の一兵まで…」「…おい!通せ!!将軍に報告せねば…!」

 

 彼等の後ろから人波をくぐり抜ける様に一人の軍幹部が彼の前に息を切らせながら躍り出る。彼は先程、プラドが確認に向かわせた部下であった。

 

 「ほ…報告します…ゼェ…敵部隊に侵入されました…ハァ…た…直ちに迎撃を…」

 

 「…その報告はもう聞いておる。今からターミナルに増援を…」

 

 「違いますっ!違うんです!!」

 

 顔面に汗の粒を滴らせた彼は一気に言葉を吐き出した

 

 「敵はこの司令部に侵入しているんですっ!」

 

 プラドを含めその場にいた者は彼の言葉を一瞬、理解出来なかった。しかし、既に彼等に残された時間は殆ど残っていなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼノスグラム国際空港

 空港内ターミナル

 

 列強第一位、世界の首都とも称される神聖ミリシアル帝国首都ルーンポリス その玄関口とも言われるゼノスグラム国際空港は当然ながら、同国の権威の高さを示す為にあらゆる最先端の技術を取り入れている。広く高い天井に、エレベーターやエスカレーターといった設備に、常に快適な温度と湿度を保つ事が出来る空調設備と、同程度の機能を持った空港はムー国にあるアイナンク空港ぐらいしか無いとされる。

 

 ターミナル内は赤い絨毯が敷き詰められ、壁紙もそれに合う様な高級感ある柄の物が貼られ、高い天井には錬金術で作られた金と水晶製のシャンデリア状魔力灯、ソファーやテーブルといった家具も高級品が置かれ、空港というよりは高級ホテルの様な内装をしていた。

 

 訪れた旅行者を退屈させない様にアメニティにも最大限のサービスが配れる様に配慮されており、ターミナル内には免税店や売店といった施設以外にもレストラン、ラウンジ、バー、映画館、床屋、ブティック、ホテルといった施設も設置されており、一つの都市といっても過言ではないだろう

 

 ゼノスグラム国際空港の特徴で変わった事と言えば窓が無い事であろう。アイナンク国際空港が天井や壁にもガラス張りで採光を取り入れている構造と比べれば、かなり異端な設計であった。無論、これには理由があり採光に頼らずに、魔力灯だけで昼夜問わずに空港内を明るく照らす事が出来るというミリシアルの魔力技術の高さを誇示する狙いがあったからだ。変わりに駐機場に面した壁には大型の魔導モニターが直接埋め込まれ、この世界では唯一と言ってもいいカラー映像の企業CMが流されていた。

 

 

 「癒やし手はいないか?!」「バリケードを作れ!絶対にここを通すな!」「バーから酒をありったけ持って来いっ!!火炎瓶を作るんだ!」「弾薬箱はそこに置け!」

 

 本来ならば色彩豊かな民族衣装を着た異国の人々が談笑しあい物珍しげに歩き回るであろう場所に、単一の軍服を着た兵士達が慌ただしげに調度品であろう、ソファーやテーブルでバリケードを作り、負傷者を担ぎ出していた。彼等自身も煤と血にまみれ、頭部に包帯を巻いた者や仲間に担がれながら息も絶え絶えな様子で運ばれる者等、戦闘で負傷している者が大勢いた。

 

 「急げ!急げ!敵は待ってくれんぞ!」「押せっ!引けっ!根性だ!」「気合いを見せろ!良いぞ!」

 

 そんな中でも戦意を失わずに迎撃と為に準備する者達がいた。彼等は巨大な鉄の塊を四苦八苦しながらも二階のテラスまで丁度、駐機場からターミナル内への入口を見下ろせる場所まで強引に引きずっていた。

 

 「もうすぐだ……あと少しで…」

 「隊長!敵に侵入されます!」

 

 「よし!!角度はいいな?駐退機が作動しなければコイツは役に立たないぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 RPS-6ランチャーがバリケード代わりのソファーとテーブルを吹き飛ばし、その残骸がそこら中に飛び散る。爆煙が過ぎ去るのを見計らい、ストームトルーパー達がターミナル内に突入する。

 

 「進め!一気に制圧するぞ!」

 

 ストームトルーパーコマンダーがそう叫びながら、目の前にいたミリシアル兵にブラスター弾を撃ち込み射殺する。ターミナル内はかなり広く各所から銃弾が飛び交う。それでも勢いに任せて進み続ける。思えば油断していたのかもしれない。半ばまで進んだ所で後続のトルーパー達が突如として吹き飛ばされた。

 

 「爆発だと?!伏せろっ!」

 

 とっさに豪奢な絨毯の上に這いつくばると同時に、砲声が轟き彼等の上にコンクリート片が飛び散る。

 

 「くそっ!敵の砲か!厄介な……」

 

 「二門あります!まさか、室内で使用するとは……」

 

 「くっ…侮っていた訳では無いが……」

 

 残骸に隠れながら敵を観察するが、どうやら敵はターミナル内で本格的に迎撃戦を行う予定だったらしく、既に防御陣地を完成させていた。砲に加え、実体弾を使用する大型銃を各所に設置しており、まるで銃弾で地面を耕さんとする様にストームトルーパーに向けて銃弾をばら撒いていた。

 

 「これでは動けん!ランチャーはどこだ?」

 

 「さっきの爆発でやられました!」

 

 「クソ!ここまで来て!」

 

 敵の歩兵、一個小隊程が小銃を撃ちながら突撃して来た。対して、こちらはコマンダー含めて、一個分隊程しか居らず、後続の部隊も敵の砲撃と機銃掃射に押されて突破出来ないでいた。彼等は完全に分断されていたのである。

 

 「くっ……ここまでか!」

 

 

 

 

 「いいぞ!押し返せっ!」

 

 「見たかっ!M1600ルベライト野戦砲の威力を!」

 

 〘M1600ルベライトMk=3 37mm野戦魔導砲〙 

 魔導砲と言っても主に第三文明圏等で使用されている前装式で球状型砲弾を使う物と神聖ミリシアル帝国や技術体系は違うもののムー国で開発された後装式で尖頭弾状の砲弾を使用する物で分かれている。無論、前者よりも後者の方が要求される技術レベルはかなり高く、事実、その性能差は雲泥の差があった。パーパルディア興国で現在、配備されている魔導砲が、せいぜい1〜2km程の有効射程しか持っていない。それに対してミリシアル軍で採用されている魔導砲は有効射程距離が最大で7〜7.5kmと圧倒的な射程距離を持っていた。それに加え、砲弾自体にも高性能魔法炸薬と複合式高速化魔法術式回路を組み込んでおり、精度の面でも、それこそ百発撃って一発当たる程度の性能しかない前装式に比べれば7割から8割は命中弾を出せるのだ。現在、ミリシアル軍で採用されているM1600は採用から既に四十年近く経っているとはいえバージョンアップを重ねていて、実質的な性能ではムー国で採用されている砲よりも優れているだろう。

 本来この魔導砲は空港守備隊に配備される予定は無く誤配送された物でありドロイドによる偵察をくぐり抜けていたのは彼等、ミリシアル兵にとって僥倖であった。

 

 更にムー国製のラ・マキシ機関銃もその独特な発砲音を唸らせ、敵の突撃を次々と粉砕し、勢いを完全に抑え込んでいた。

 

 「いけるぞ!撃ちまくれっ!!」「奴等は不死身じゃない!撃てば倒せるんだ!」「俺達だってやられっぱなしじゃないんだ!」

 

 ミリシアル将兵達はこれまで圧倒されっぱなしだった事もあり、ようやく敵に打撃を与えた事で萎縮していた士気も回復しつつあった。

 

 「やれる…やれるぞ!状況が同じだったら負けはしない!」

 

 そう息巻くミリシアル軍士官の一人。これまで屈辱的な敗走を重ねてきた彼等にとって、小さいながらもようやく掴んだ戦いの決め手とも言える。敵は不死身でも無ければ超常的な能力を持つ怪物では無い。撃てば死ぬ、刺せば死ぬという事を理解できただけでも重要だった。

 

 「よしっ!このまま一気に……」

 

 やっと、希望の光が見えて来た。彼等がそう思った瞬間、凄まじい爆発音が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 司令部地下通路

 

 「これは…どういう事だ…」

 

 「…全員、頭を撃ち抜かれています……恐らくは抵抗する間も無かったのでしょう…」

 

 彼等の目の前には魔力供給室に向かった筈のミリシアル兵の死体が転がっていた。死体の状況から見て、ろくな反撃も出来ずに殺害されたのは明らかだった。

 

 「信じられん…どうやって…いや、可能なのか…?」

 

 「ま…まさか…不可能です…こんな暗闇で正確に額を撃ち抜くなんて…」

 

 携帯型魔導灯で死体を照らす彼の声は震えていた。魔力灯が消えたせいで、彼等の視界を照らすのは手に持った携帯型魔導灯のか細い光しかない。それも、せいぜい3〜4メートル程しか照らせず、彼等の不安と焦燥を拭う事等、出来なかった。

 

 「…とにかく、いったん、指令室に戻るぞ…敵の奇襲を…」

 

 そこまで言った瞬間、暗闇から放たれた赤い光線がミリシアル兵の頭部を撃ち抜いた。その場に倒れ伏すミリシアル兵達。彼等の手から離れた携帯型魔導灯が暗闇から姿を表す漆黒の兵士達を照らす

 

 「クリア」

 

 「排除しました。」

 

 暗闇から現れたのはデストルーパー達であった。重装備でありながらも音を立てずに動き、尚且つ無駄な動きを削いだ彼等をこの暗闇で視認するのはどだい無理だったのだ。

 

 「よし。ご苦労」

 

 暗闇と言っても、彼等デストルーパーにとっては何ら問題は無い。その特徴的なヘルメットには暗視装置が内蔵されており、彼等デストルーパーからして見れば暗闇でも昼間の様に明るく見えていたからだ。

 

 「警備は殆どいませんね。」

 

 「ここまで楽とはな。訓練にもならん」

 

 そう彼は吐き捨てた。既に数十人のミリシアル兵を相手に気づかれずに処理したが、デストルーパー達からすれば、ほとんど棒立ち同然の敵をダミーボーイ代わりにしただけに過ぎず、自身らの戦闘技能を高めるという事に何も寄与しなかったからだ。

 

 「…指令室はそこの角を曲がった先だ」

 

 「…見張りは二人のみ…小銃タイプを持っています。」

 

 「司令要員はどうでもいい。重要なのは司令部内の機材と資料だ。見つかれば焼却されかねん。注意せよ。」

 

 指示を出し終えると自身の得物であるE-11dカスタムモデルのブラスターを見つめ一言ぼやいた

 

 「まったく、こんな任務とっとと終わらしたいものだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お待ち下さい!まだ、空港内では味方の兵士達が戦っています!」「味方の応援が来る可能性もあります!ですから、まだ…」「ここまでやる必要があるのですか?!」

 

 司令部内では血走った目で何かの機材を組み立てるプラドと引き攣った表情で直訴する司令要員が対峙していた。それに対しプラドは淡々と不気味な程、冷静な口調で吐き捨てた

 

 「…先程、説明した通りだ。貴様等は何を聞いていたのだ?」

 

 プラドは梱包された魔導成形爆薬に術式回路のコードを繋げる。それは一種の自爆装置であった。既に彼は自身の意図を説明していたが、余りにも矛盾と破綻したロジックを説明された所で理解等出来る筈もなかった。端的に言ってしまえばプラドは正気ではなくなっていたのだ。

 彼にとっては余りにもゼノスグラム国際空港攻防戦はあってはならない事が起こり過ぎたのだ。もはや敗北は時間の問題であり、後の彼に待っているのは敗戦の戦争犯罪者、もしくは無能者として生涯、蔑まれるだけの人生……すなわち身の破滅であった。そして今では病的な程、肥大化したプライドの塊である彼にとって受け入れられるものではなかった。故に司令部諸共、自爆するという理論が働いた

 

 「…我等、誇り高きミリシアルの民は侵略者に屈するよりも死を選ぶ……そして私は天界にて英雄達に招かれねばならんのだ…」

 「考え直して下さい!まだ勝機はあります!ですから…」

 

 士官の一人がそう説得する。無論、彼とて奇跡でも起きない限り勝てるとは思ってはいない。だが、とにかく最悪の事態を防ごうとしていた。

 

 「黙れっ!貴様等は私の命令に従っていれば良いのだ!!そもそも貴様等が無能なせいで私の人生は滅茶苦茶だっ!!」

 

 魔導拳銃を振り回しながらヒステリックに奇声じみた声で唾を飛ばしながら怒鳴り散らすプラド。既に彼には上官としての体面をとりつくる余裕すら存在しなかった。

 

 

 「敵を司令部に誘い込み、油断している所を爆破する!敵は恐れをなし、撤退する筈だ!!この完璧な作戦のどこに!!不満があると言うんだ!!!」

 

 「………」

 

 司令要員達は今更ながら後悔していた。これまで、プラドに対して終始イエスマンとして振る舞っていた事を

 部下の命や彼等個人の人生があるという事もプラド本人にとってはどうでも良かったのだ。彼等はプラドが聞こえない様に耳打ちし囁く様に話し合う。

 

 「……もはや、時間が無い…やむを得ないが…」「……誰が撃つんだ?嫌な人だが、味方を撃つなんて……」「……責任はどうなる?後々、問題になったら…」

 「………司令は自ら責任取り自決した事にする…私が撃つ…」

 「副官殿…」

 

 まとめ役の副官が加わる。最早、戦っても無駄死にするだけ。何よりもこのクレイジーでヒステリックな老人の自己満足でなんの意味も無く殺されるよりも敵の慈悲に縋った方がまだマシに思えたからだ。

 

 「……それよりも、お前達は降伏後の事のみ考えていろ…我等にとって厳しい時代になるぞ…」

 

 副官はプラドの目の前に立つ。プラドは頭を抱え、ブツブツと何かを呟いている。

 

 

 「………司令、お話が……「理解できないな。何故、相手が都合良く自分達の思った通りに動くと思うのか。」

 

 

 突如として割り込んで来たその声が聞こえた瞬間、プラドの背後に設置された天井の通風口の蓋が突然、地面に落ちてけたたましい音を上げる。全員の目が、落ちた蓋に集まった瞬間、通風口から漆黒の怪人物が音もなくプラドの背後に降り立つ。

 

 「なっ…!!」

 

 漆黒の怪人ことデストルーパーは驚愕の表情を見せるプラドの左腕を肩の関節を軸に捻り上げる様に締め上げる。悲鳴を上げるプラドをよそに起爆スイッチを指の関節をへし折り、強引に奪うと、ついでに彼の左肩の関節に力を込めて外した。

 

 「がああああ!!痛っいい!!お…折れるぅ〜!」

 

 「し…司令!!」「貴様!何者だ!」

 

 司令要員達は咄嗟に拳銃を向けるもプラドが邪魔で撃てない。デストルーパーは悲鳴を上げるプラドの背中を蹴り飛ばし、司令要員達にぶつける。

 

 「グェっ!」「うわっ!!」

 

 「オマケだ。」

 

 デストルーパーが倒れたプラドの背中にフラッシュグレネードを投げ込み、自身は先程まで、プラドが座っていた執務用デスクの裏に飛び込む。瞬間、凄まじい爆音と閃光が執務室内を覆った。

 

 

 

 

 

 

 「制圧しました。軍事資料、放送設備、空港見取り図、全て、無傷です。」

 「うむ。デヴァステイターに増援と回収班を要請せよ。直に戦闘は終わる。」

 

 コマンダーは周囲を見回す。執務室内のミリシアル兵はフラッシュグレネードで目と耳を潰され、彼等は抵抗する間も無くE-11カスタムの餌食になった。当然ながら指揮系統を失った司令部の制圧がより簡単になった事など言うまでもない。そして地面に転がるミリシアル兵の死体に混じって将官らしき人物が息も絶え絶えな様子で呻いていた。

 

 「それは?」

 

 「敵の指揮官の様です。やはり、不要でしたか?」

 

 「ふむ……」

 

 プラドは血を吐きながらも生きながらえていた。とはいっても、既に彼は全身にブラスター弾を受けており、死に体同然であった。

 

 「運が無かったな。ブラスターでは血は流れんから出血多量で死ねないのだ。今、楽にしてやろう。」

 

 「だ……黙れ……!我等が先祖が受けた犠牲に比べればこの程度、比ではない……!!」

 

 「ん?」

 

 「あ……悪魔共め…!いずれ神が貴様等に天罰を与える!!かつて光翼人が滅んだ様に天空から炎の矢が降り注ぎ、貴様等は生きたまま焼かれるのだっ!!報いを受けろっ!」

 

 プラドは苦痛に顔を歪ませながら、怨嗟のこもった目で睨みつけながら、そう呪詛の言葉を吐く。今の彼にとって、それが唯一できる抵抗だった。

 

 「聞いたか?フッ…天罰が下るとな。」

 

 「哀れですね。何も知らないのでしょう。」

 

 コマンダーはいつもと変わらない落ち着いた、それこそ小さい子供を諭す様に話始めた。

 

 「いい事を教えてやろう。よく聞け。原始人。我々はお前達の言う、天空の世界から来たのだ。言うなれば我々はお前達にとって神の様な存在なのだ。故に我等が罰を受けねばならん理由は無い。そして我々が新しき時代を作る。お前達の時代は終わったのだ。」

 

 「なっ……う…嘘だッ!!!」

 

 「嘘では無い。我々はこの地に正しき秩序と平和をもたらしに来たのだ。お前達、辺境の野蛮人の価値観など、この銀河系に存在する価値など無い。この銀河の掃き溜め同然の惑星に文明をもたらす事が皇帝陛下から我々に与えられた崇高な義務なのだ。そもそも、お前達の様な旧態依然の汚物共が銀河に蔓延っている事そのものが、それこそ歴史の汚点なのだ。それを理解できるか?」

 

 「………っ!!!」

 

 プラドはパクパクと口を開閉するが声が出ない。コマンダーは尚も続ける。

 

 「いずれ、この地に住む全ての住民がパルパティーン皇帝陛下を称える事になる。何故ならば陛下の唱える新秩序主義によってこの惑星に住む全ての万民が、糞にも劣る蛮習から解放され栄えある銀河市民の一員として迎いれられるからだ。その過程でこの惑星に蔓延するお前達の様な既得権益を貪る病原菌どもを我等、銀河帝国、正義の御旗の下に破壊し根絶し尽くす。そこにはいかなる例外も存在し得ない。かつて存在したジェダイや共和主義者共の様な時代錯誤のゴミ共と同じ末路を辿り消滅するのだ。まぁ、お前達、原始人に言っても無意味だがな。」

 

 「…………」

 

 「我等が正しき道に啓蒙し、清く正しき銀河市民として、この地の住民を導いてやろう。十年後には誰もお前達、旧態の遺物の事等、覚えてはおらん。所詮、お前達の払った犠牲等、何ら意味など無かった訳だ。その事を理解し、安心して死んでいけ。」

 

 プラドの目が絶望に染まりやがて何も写さなくなりガクリと首が垂れる。それを無感動に見つめると興味を失ったらしく新たな指示を出す

 

 「上の連中はどうなっている?いつまで原始人と遊んでいるつもりだ?」

 

 「たった今、増援部隊が到着したようです。」

  

 「放送設備は奪ったのだろう。降伏を呼び掛けろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼノスグラム国際空港

 ターミナル内

 

 「い……一体、何が……」

 

 突如として鳴り響いた爆発音、駐機場に面した壁が崩れ粉塵が舞う。崩れた壁の向こうから朝日をバックに粉塵から何かが姿を表す。

 

 「ゴホッ!!ゴホ!な…何が起きたんだ…」

 

 「わ…分からん…」

 

 「お……おい!壁の向こうに何かいるぞ!!」

 

 

 彼等が最初に目にしたのは鋼鉄の一対の足だった。壁材と魔導モニターの残骸を踏み砕きながら、それはゆっくりと彼等の前に姿を表す。

 それは逆関節の両足に箱型の胴体、腕は無く、くちばしを思わせる様な装置を付けた異形の怪物だった。だが、ミリシアル兵達を恐怖のドン底に落とすには充分だった。

 

 「ば……ばかな…魔導ゴーレムだと!?」「いや、魔帝の二足歩行兵器じゃないのかっ!?」「お…恐れるなっ!撃て!撃ちまくれ!!」

 

 ミリシアル軍で運用されている魔導ゴーレムが手足が付いている事から見ても人間の様な姿をしているのに対して、目の前に立つゴーレムらしき物体は、まるで大型の陸鳥を思わせる姿をしていた。それは明らかにミリシアルの技術では考えられない設計であった。ミリシアル兵達はそれに向けて次々と銃弾を放つ。しかし……

 

 「ダメだっ!!!銃が効かない!跳ね返されるぞ!」

 

 銃弾は金属製の装甲板に阻まれ、殆ど効果は無かった。瓦礫を踏み砕きながらターミナル内に侵入したそれは歩みを止めて、ミリシアル兵達に正面のくちばしを向ける。刹那、赤い光線が放たれ、地面に着弾したレーザーはミリシアル兵の小隊を丸ごと吹き飛ばした。

 

 「グアッ!」「ギャアっ!」「あ……あぁ…腕が……俺の腕が……」

 

 「畜生!畜生!!」「歩兵を下がらせろ!援護する!」「とにかく撃ちまくれ!奴の気をそらすんだ!」

 

 マキシ機関銃にしがみつきながら大量の弾丸を撃ち込むミリシアル兵達。しかし、それも徒労に終わった。弾丸は全て弾かれ、返礼とばかりに胴体側面にある砲門が向けられた瞬間、機関銃座もろとも爆炎に包まれる。

 

 

 「いいぞっ!やっつけろ!!」「吹っ飛ばせ!やっちまえ!」

 

 一方、先程まで追い詰められていたストームトルーパー達は歓声を上げる。絶対絶命の危機から解放された事もあり、士気は高い。

 

 「隊長!味方です!ウォーカーです!!」

 

 「来たか……AT-ST……!」

 

 

 

 

 〘AT-ST〙

 

 広大な領土、それこそ数多くの有人、無人惑星を支配する銀河帝国にとって、スター・デストロイヤーの様な大型艦艇はとても重要な存在である。だが、惑星内の統治、制圧を行うのに向いているかと言われると決して万能な兵器でもない。単純にスター・デストロイヤーの持つ兵装では威力が高すぎるのだ。最大出力で都市区画を一撃で焦土に出来るターボレーザーの様な兵器では地上のストームトルーパーの援護などできない。地上を制圧するには地上戦に特化した別の兵器が必要だった。その一種がAT-STである。

 スカウト・ウォーカーとも称されるAT-STは最大速度時速90キロ、武装は顎部に搭載されたツインヘビーブラスターキャノンと胴体側面に設置されたツインライトブラスターにグレネード発射装置かミサイル発射管で武装している。主に、帝国地上軍における警備、パトロールを主としているが、武装面からも分かる様に対歩兵戦において決して侮れない性能を持っている。

 事実、これまで帝国地上軍と激戦を繰り広げてきた同盟地上軍の兵士達からは同盟軍の人材不足、資金不足も相まってAT-ATともども恐れられている。一説には同盟地上軍一個中隊がたった1機のAT-STに壊滅させられるという説もあり、歩兵にとって悪魔の様な存在だった。

 

 そんなAT-STが突如として爆発音とともに爆煙に包まれる。二本の脚部がよろめくように後退し、倒れかける。

 

 「やったか?!」

 

 ルベライト野戦砲を操作していた士官がそう声を上げる。魔導ゴーレムの側面装甲をも撃ち抜く程の威力を持つルベライト野戦砲ならばかなりのダメージを与えた筈だ。だが……

 

 「くっ……効いておらんだと?!!!」

 

 敵の二足歩行兵器はよろめきはしたもののすぐに体勢を直し、のっぺら坊じみた顔をこちらに向けた。

 

 「怯むなっ!もう一度やる!徹甲弾を……」

 

 「た……隊長!て……敵が…」

 

 兵士の一人が指差す方向を見ると、敵の二足歩行兵器の側面から何かが射出される所だった。彼等にとって何回目になるか再度、驚愕する事になる。

 

 「誘導魔光弾!?」「マズいっ!逃げろ!!」

 

 彼等が慄き、魔導砲から逃げ出そうと動き出した時には既に、誘導魔光弾こと振盪ミサイルがすぐ目の前に迫っていた。刹那、ミサイルが着弾し、ルベライト野戦魔導砲とミリシアル砲兵らを爆炎に包み込む。

 

 

 

 

 

 

 「今だ!敵の抵抗が弱まった!全力をあげて殲滅せよ!」

 

 

 

 魔導砲を破壊された事は既に限界を迎えつつあったミリシアル軍ゼノスグラム国際空港守備隊にとって最後の王手となった。バリケードはストームトルーパーに次々と突破され、生き残った機関銃座も、AT-STのレーザーで焼き払われるか、デュラスチール製の足で踏み潰されるかどちらかだった。この時点で彼等の敗北は決定的になった。

 更に館内放送で司令部が陥落し制圧された事が伝えられ、同時に降伏勧告が呼び掛けられた事により守備隊は戦意を喪失、大半の兵士が降伏し始めた。中には空港内施設に立て籠もり徹底抗戦を仕掛ける者もいたが、明らかに少数であり戦況を挽回する事は出来なかった。

 

 

 中央歴1638年2月20日午前9時54分

 ゼノスグラム国際空港駐機場

 

 駐機場に続々と降り立つシャトルと大型輸送艇。乱雑ながらも整列する煤にまみれたストームトルーパー達。彼等の視線の先には崩れかけた空港施設があった。途端に歓声が上がる。

 

 「帝国万歳!!皇帝陛下万歳!!」「ベイダー卿万歳!!501大隊万歳!!」「偉大なる銀河帝国に栄光あれっ!新秩序主義に悠久の栄光あれ!「神聖不可侵なるパルパティーン皇帝陛下万歳!!卑劣な共和主義者に死を!民主主義に真の終焉を!」

 

 

 彼等の視線の先にあるのは廃材で組み立てられたポール、あえて廃材で作ったのは彼等自身が勝利したという事への証明と自負の表れでもあった。そして、そこに掲げられた赤地に白と黒の紋章。それはこの銀河において2つの意味があった。ある者にとっては新たな秩序と平和、ある者にとっては支配と圧政、そして自由への簒奪者

 

 この惑星に初めて銀河帝国の国旗が掲げられた瞬間であった。戦いはまだ始まったばかりだ

 

 




 補足と蛇足的なもの
 
 魔帝と光翼人について
 明確に敗北し逃亡したとされる。よって上層部はともかく一般市民はそこまで恐れていない。

 光の剣士達
 魔帝を滅亡寸前に追い込んだ謎の集団。その正体は一万年前に存在した、旧共和国時代のジェダイ達

 魔帝軍残党
 後にアニュンリール皇国として再建される。

 ミリシアル一世
 ミリシアル八世のご先祖様。神聖ミリシアル帝国がどの様なして建国されたか不明なので生い立ちや経歴は完全に筆者の妄想
 モデルはシャルル・ドゴールとアーレ・ハイネセン

 M1600ルベライト野戦魔導砲
 モデル、性能はM3対戦車砲

 AT-ST
 個人的にはBF2で敵に回すと一番厄介だった相手
 現実で言う所、BT戦車か輸送機能を省いたBMPシリーズに近い?

 
 次回からは銀河帝国サイドを主に上げたいと思います。
 感想、ご意見待っています。


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第9話 粛清

 今回は短め、答え合わせというか銀河帝国側からのミリシアルへの印象です。


 インペリアル級スター・デストロイヤー

 デヴァステイター 艦橋

 

 艦橋内部は静寂に包まれていた。無論、士官や艦橋要員達の報告や連絡等は行われていたが、彼等の声も意図的に小さく目立たまいとしていた。まるで自身に火の粉が降りかからない様に。静寂の中で男のうめき声が時節、聞こえ、その声も段々と小さくなっていった。

 

 

 

 

 『誰が貴様の弁明など求めた?痴れ者めが』

 

 静寂を切り裂く様に艦内の通信装置から低く、独特のエコーが掛かった声が艦橋内を満たした。声の主は、この艦の真の主であり、この艦隊の総司令官にして、この惑星の新たな支配者であるシスの暗黒卿ダースベイダーその人であった。天井に磔にされた一人の士官、彼はベイダーに対して自身の犯した不手際について弁舌と詭弁を弄す、という事実上の死刑執行許可書に自らサインをするという最大の愚を犯した。そんな彼もついに絶命し生物から無生物に変化する。ベイダーが自身のフォースを緩めると重力に従って彼の死体が艦橋の床に、潰れたカエルの様に叩きつけられる。

 

 

 『……そのゴミを処理せよ』

 

 艦橋の警備を行っていたストームトルーパー達がダルダだった物体を引き摺りながら艦橋から運び出す。

 

 『大佐。貴様には失望したぞ……』

 

 「……申し訳ありません…ベイダー卿……」

 

 

 ルーンポリス上空における大規模な空中戦も終わりに近づいていた。ここまでは予定通りであったが、軌道上に待機していた部隊より急報が入る。

 インターディクター級スター・デストロイヤー〘プラウラー〙と高速艦からなるこの部隊は惑星内からの逃走を防ぐ事と監視の為に置いてきた艦隊だった。インターディクター級は4基の重力井戸発生装置を備えており、ハイパースペースにいる船を強制的にリアルスペースに引き戻す事ができ、ハイパードライブシステムを起動させる事ができなくなるのだ。よって、もしも反乱軍艦艇が惑星から逃走しようとしてもプラウラーら封鎖部隊に捕捉されれば最期。ハイパードライブを使えなくしてしまえばスター・デストロイヤーの火力の元、宇宙を漂うデブリに変えるのは簡単な事だ。

 その封鎖部隊から、ミリシアル領各地から増援がルーンポリスへと殺到しつつあると、急報が入ったのだ。これはレノックスやベイダーにとって青天の霹靂であった。

 

 

 

 

 『早急に作戦を修正する必要がある。』 

 

 「ハッ…!直ちに…!」

 

  

 レノックスは己の判断ミスを悔いた。まさか敵の抵抗がここまで激しいとは思わなかったのだ。当初の作戦案では『帝国の威光たるインペリアル級を直接、敵国首都上空に降下させた上で艦砲砲撃とタイ部隊による波状攻撃で敵中枢を破壊、殲滅し現地住民を恐怖にいたらしめ敵の士気を挫き、自ずと敵に降伏の機会を促す』という予定であったが、事実上、この作戦は破綻したのだ。

 

 (……まさか、ここまで抵抗を受けるとは……)

 

 当初、レノックスはベイダーに対してインペリアル級スター・デストロイヤーによる首都ルーンポリスへの強行降下を行い帝国が本気だと言う事を見せつければ、自ずと講和の道を選ぶだろうと、それが最も犠牲が出ない最善の策だと思ったからだ。無知は罪では無い。戦わずに共存する道は有るはずだと。

 しかし、ベイダーは難色を示した。この星の住民の認識ではインペリアル級を見せつけるだけでは銀河帝国の力を理解させる事は出来ない、水溜りすら知らない井の中の蛙に大海を見せても理解出来ないのと同じだと。

 

 (結局はベイダー卿が仰る通りだったか……)

 

 この銀河系で少なくともインペリアル級スター・デストロイヤーに真正面から挑む者は殆どいない。強固な偏光シールド、何層にも組み込まれたデュラスチールとチタニウム製の装甲板で作られた頑強な船体、1つの都市を一瞬で消滅させる程の威力を持つ武装の数々、一個師団に匹敵するストームトルーパーと70機近くのタイシリーズと20機あまりのAT-ATを常時搭載できる運用能力。

 全長1600メートルに匹敵する、この動く要塞を相手にまともな戦闘を行えるのは、かつて存在した独立星系連合軍のサブジュゲーター級の様な超兵器か、反乱同盟軍で運用されているモン・カラマリ・スタークルーザーの様な大型戦艦か、あるいは損害を覚悟でXウイングやYウイングの様なスターファイターによる奇襲などしかないのだ。

 

 この最強の破壊兵器の前に生半可な攻撃はまず通じない。それは勇猛で士気が高い反乱同盟軍将兵も、スター・デストロイヤーとは正面切って戦おうとはせずに様々な戦法で挑む事からも明らかだろう。この銀河でスター・デストロイヤーが姿を表すというのはそういう事なのだ。

 

 (…やはり…何も知らないのか…?)

 

 だからこそ、この神聖ミリシアル帝国を名乗る眼下の国家があろうことか、空を埋め尽くす程の航空機(ベイダー曰くタトゥイーンに捨てられたジャンク以下の代物)を自分達に向けて吶喊させ、地上からは当たりもしない、それもプロトン砲弾の百分の一以下の威力しか無い砲を果敢に撃ち込んできた時には嫌な予感がした。自分達が相手している文明は本当の意味で何も知らないのではないかと……

 

 「既に待機組へ軌道砲撃による敵基地への砲撃を指示しました。そして、直ちに第一、第二次攻撃隊を呼び戻し、再度攻撃隊を編成します。敵の増援は数こそ多いようですが、性能や練度で遥かに我々よりも劣っています。我が艦隊に1機たりとも近づけさせません、」

 

 『それは可能か?』

 

 ベイダーの声のトーンが若干下がった。少し彼も冷静になった様だ。

 

 「現状、第一、二次攻撃隊は補給の為に母艦に帰投、第三部隊だけでエアカバーは補えます。」

 

 無論、彼とて伊達にベイダーの下で指揮官をやってる訳では無い。作戦案は1つだけでは無い既に対抗策は打ってある。1つの作戦が失敗したからと言って全体に影響は無いのだ。

 事実、既に首都近辺の敵航空戦力は壊滅状態、ゼノスグラム国際空港を含む重要拠点の制圧も順調だ。

 例え、この惑星全ての勢力が束になって自分達、銀河帝国に挑んできた所で屍の山が増えるだけでしかない。彼等の軍事力ではスター・デストロイヤーの装甲に傷一つすら付けられなだろう。

 どちらにせよ、この惑星の制圧と統治は決定事項なのだ。もしも仮に、この惑星から帝国軍を撃退した所で、彼等に待ち受けているのは軌道爆撃による惑星全土への焦土化、それこそ、かつて惑星マンダロアで起きた千の涙の夜の再現が行われるだけであろう。

 

 『第三部隊も帰投させよ。この地の対空防衛力は見るまで無い。』

 

 「了解致しました。直ちに。」

 

 『卿等には期待しておる。くれぐれも我が期待を裏切らん事だ。』

 

 

 そう言い残してベイダーからの通信は切られた。思わず嘆息するクルー達。隣に立つ、副艦長のシェイフ・コーシン中佐が苦虫を噛み潰したような顔で話しかけてきた。

 

 「…相変わらず、心臓に悪いですな…」

 

 「……あれでも大分、丸くはなられたのだ…以前だったら我々もタダでは済まなかった筈だ…」

 

 ベイダーが基本的に敵にも味方にも情け容赦が無いのは有名な話だ。帝国建国初期の時代、皇帝が彼を自身の代理人として紹介した後、彼を暗殺しようとした将校達をフォースグリップで処刑した事件は多くの帝国関係者の肝を冷やしたものだ。

 

 「処刑されたのが彼だけだったのは幸運でしたな。」

 

 「うむ……しかし…今回の件はダルダだけを責める訳にはいかんな…」

 

 完璧な作戦に見えても結局の所、人が立てた物、必ずどこかで綻びが生じるのは仕方が無い事なのだ。そして今回は余りにも敵との価値観がズレていたのだ。傍から見ればレノックス等、銀河帝国軍人の無自覚な驕りもあったのだろう。

 ミリシアル側の認識は更に酷かった。何しろ、『魔帝の遺産を偶然発見し驕り高ぶった挙句、愚かにも列強最強たる神聖ミリシアル帝国に喧嘩を吹っかけた愚かな新興国』というのがミリシアル側の銀河帝国に対しての認識であった。この事をベイダーがやレノックスが知ったらどう思うだろうか?

 

 「……結局、犠牲が一番出る作戦になってしまったか……」

 

 レノックスは心の中でこの惑星の住民達の為に祈った

 

 

 

 

 

 

 




 感想、評価お待ちしています。


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第10話 海と空と

 「我が艦の被害は?」

 

 「第6から第9対空砲座が大破 2番主砲塔ターレットリングが大破し、使用不可能 左舷4第ブロックと第9ブロックが破壊され魔導回路が一部、機能しません。」

 

 「戦艦ガラティーン 巡洋艦ロンゴミアンゴが轟沈。戦艦クラレントも大破し、これ以上の航行は不可能。自沈処理並びに総員退艦を命じております。」

 

 「その他にも魔導艦3隻 小型艦8隻が大破、中破し艦隊から離脱しました。」

 

 「大破した艦艇は総員退艦した上で、自沈させました…」

 

 

 「…壊滅……いや…これでは全滅ではないか……」

 

 

 

 戦艦コールブランドで第零式魔導艦隊司令長官チェスター・バティスタは血の気の引いた顔でそう呟いた。

 第零式魔導艦隊 神聖ミリシアル帝国が誇る精鋭部隊であり文字通り、世界最強の艦隊である。母港のカルトアルパスからルーンポリス防衛の為に派遣され、周辺海域をパトロールしている最中に銀河帝国の侵攻を受ける。上空を我が物顔で飛行する謎の飛行物体を迎撃すべくルーンポリス港に向かうが、その結果は無残なものであった。

 

 「シェキナー返答せず!通信に応答がありません!」

 

 「シェキナーは…恐らくダメでしょう。既に空母としての機能を失っています。」

 

 「まさか、航空機ごときにロデオス級がやられるとは…」

 

 バティスタ達は艦橋から洋上に目を向ける。洋上ではロデオス級航空魔導母艦シェキナーが海上のキャンプファイアーと化していた。

 続々とルーンポリス上空に集結する世界連合軍に合流する為に当然、シェキナーも艦載機を発進させようとしたが、一歩遅かった。艦載機が発進する前に敵の航空部隊が空襲をしかけてきたのだ。

 連合軍の天の浮舟や航空機、ワイバーンを鎧袖一触のごとく粉砕、突破した一部の部隊は、軍事拠点であるルーンポリス港を爆撃するのは、むしろ当然の帰結であった。ゴールド級戦艦ガラティーンが真っ先に、その洗礼を受けた。

 タイファイターの1機が投下したプロトン爆弾が船体後部に直撃、装甲を強化していなかった事もあり、呆気なく貫通し船体内部で爆発。そのまま轟沈することになった。

 最新型のミスリル級である戦艦クラレントは装甲強化が間に合った事もあり轟沈こそしなかったがプロトン魚雷が艦橋下部に直撃。艦橋そのものを吹き飛ばし、艦としての機能を全て奪われる事になった。ロデオス級航空魔導母艦シェキナーはこの状況下でも艦載機を発進させようとしたが結局の所、全て無駄であった。

 シェキナーとその僚艦は接近するタイファイターに対空砲火を浴びせるが、たやすく回避された挙げ句、機銃掃射を許す事になった。甲板上にはエルペシオ3とジグラント3が満載されており、しかもジグラントは爆装が施されていた。タイファイターに搭載されているL-s1レーザー砲は、呆気なくエルペシオとジグラントの装甲を溶かし、内蔵されていた液体魔石に引火、炎上し、魔導砲弾と航空爆弾が誘爆するのに時間はかからなかった。更に不運は重なり、バティスタ達は知らなかったが、爆発し、吹き飛ばされたエルペシオの魔導エンジンが艦橋に飛び込み、艦橋内部で爆発、艦長を含むシェキナーの主要幹部全員が戦死していた。

 魔導艦と小型艦に至っては装甲を強化していたのにも関わらずレーザー砲の掃射だけで装甲をズタズタにされ、浸水し沈没する艦や、運悪く弾薬庫か、タービン室に直撃を受けて爆発、轟沈する艦が相次いだ。

 この時点で零式魔導艦隊は艦隊の7割から8割を喪失し本来ルーンポリス港の防衛を担っていた本国防衛艦隊も小型の哨戒艇を残して全滅し、ルーンポリス港はなんの妨害を受ける事も無く帝国軍の爆撃に晒される事になった。液体魔石の精製施設や倉庫、空港が爆撃を受けて炎上し、停泊中のタンカーや旅客船が次々と沈められるのを彼らは見ている事しか出来なかったのだ。

 

 「認識を改めるべきです。敵は魔帝、いや、それ以上の技術力を持っているという事を。今までの我々の常識が通じないという事を」

 

 戦艦コールブランド艦長オスカー・クロムウェル大佐はそう言った。敵の航空機はわずかな数で世界最強とも言われた零式魔導艦隊を事実上の壊滅にまで追い込んだのだ。認めざるを得なかったのだ。そして何より…

 

 「クロムウェル君…だが、これは本当なのかね…?」

 

 「はい…味方の航空部隊からも報告は…ありません…ただの1機もです。」

 

 「これだけの…損害が…犠牲があったというに…敵機を1機も撃墜できていないという事なのかっ!!」

 

 バティスタはテーブルに拳を叩きつける。衝撃で資料が散らばるが、その内容はバティスタやクロムウェル達にとって目を覆いたくなるような内容だった。

 無線を傍受した限り、敵機の撃墜、撃破の報告は全く無く。逆に墜落した味方機の残骸で市内が地獄と化しており、混乱と絶望が事細かく書かれていた。

 

 「何か打つ手は無いのか…このまま帝都と友軍が燃やされていくのを只、黙ってみていろというのか…」

 

 バティスタは嘆く。すでに空母は無く、艦隊の主力たる戦艦も自分の乗るコールブランドも小破。そもそも戦艦では上空を我が物顔で飛び回る敵機を撃墜できないのだ。

 

 「……方法はあります。〘アレ〙を使いましょう。」

 

 「まさか…〘アレ〙を使うというのか…だがしかし…もしも失敗して、街に落ちれば大惨事になりかねん…」

 

 もともと零式魔導艦隊は魔帝こと、ラヴァーナル帝国の技術を解析して、得た技術で作った艦を集めて結成された艦隊であり、そのため最新型の艦艇や装備を優先的に配備されていた。彼らが話している〘アレ〙もその一つであった。

 

 「今は帝国存亡の危機…迷っている暇はありませんっ!司令官殿!ご許可を!」

 

 「分かった…許可しよう。各班に命令を 目標は敵、巨大飛行物体に設定せよ。母艦を破壊すれば奴らも迂闊には攻撃できんはずだ。」

 

 「ハッ!」

 

 「了解しました!」

 

 「味方残存兵力を立て直す。本国艦隊と第4から第7艦隊に魔信を繋げ、合流する。ムー艦隊を含む他国艦隊にも連絡を。時間は無いぞ。早急にかかってくれ」

 

 バティスタは腹をくくる。失敗すれば軍法会議は間違いない。いや、無許可で対魔帝用の装備を使用する以上、成功しても責任の追求は受けるだろう。

 

 (それでも祖国が滅びるよりかはマシだ。)

 

 

 

 

 

 「ガンマ5!機首を上げろ!ガンマ5!」

 

 『ダメだ!操縦桿がおかしい!操作出来ないっ!』

 

 直後、ガンマ5のエルペシオ3がビルに突っ込むのをガンマ3ことハンス・ヴィッカース少尉は見る事になる。

 

 「クソっ!」

 

 『ガンマ3!前方11時の方向に味方の部隊が!追われているみたいだぞ!』

 

 『ジグラント2だ!例の一つ目が3機!』

 

 ルーンポリス上空で繰り広げられた空中戦。しかし、諸国連合軍は苦戦を強いられていた。当初は数の差もあり、有利に戦いを進められると思われたが、敵艦からの増援が到着してからは戦線を次々と突破され、今では戦力の7割から8割を喪失。敵部隊も制空権の確保から、地上の対空陣地や、重要施設の破壊にシフトしつつあり、数の差もあり彼らには為す術がなかった。

 

 (巨大艦に突撃していった奴らは全滅…おまけに、あの飛行機械…なんて性能なんだ…)

 

 彼らが相手にしていた飛行機械、正確にはTIE/LN制宙スターファイター 通称❲タイファイター❳は彼ら、ミリシアル軍が配備しているエルペシオシリーズやジグラントシリーズを遥かに超える性能を有していた。

 

 まずは速度の面から見れば、ミリシアル軍の最新型エルペシオ3の最高速度が530キロで、巡航速度が440キロを出せる。    

 一方、銀河帝国が採用しているタイファイターは大気圏内では最高速度1200キロ、巡航速度1100キロであり、エルペシオ3が最高速度を出してもタイファイターには、まず追いつけないのだ。戦闘機どうしの空中戦、つまりドッグファイトにおいて相手よりも速度が速ければ有利になる。この時点でエルペシオ3はタイファイターに対して、かなり厳しい差があった。

 武装の面から見ればエルペシオ3はアクタイオン20mm砲を装備しており、フレームの接合部分を狙えばタイファイターを撃破する事ができる。しかし、有利な位置を取る前にタイファイターには逃られてしまう。先述したように速度が遅すぎるのだ。例え、強力な武器を搭載していても当たらなければ何の意味も無い。タイファイターのL-s1レーザー砲はスターファイターとしては一般的な性能だったが、パイロットの任意で威力を上げる事ができ、総合的な性能で上回る反乱同盟軍のXウイングや防御力が高いYウイングを撃墜した例もあるなど、決して侮れない性能を持っていた。

 それに加えて小型軽量な機体は格闘戦に強く、格闘戦に向いていないエルペシオでは勝ち目など無きに等しかった。

 

 「ん?1機が反転してくるぞ。こっちに気づいたみたいだ。」

 

 ジグラント2を追跡していた敵の一つ目(タイファイター)の内、1機が反転しハンスらの編隊に向かってくる。

 

 「気をつけろ…奴らの方が射程が長い。」

 

 『ヘッドオンか…舐めやがって…』

 

 

 

 明らかに自分達を侮る敵に憤るパイロット達。とはいえ唯我の戦力が圧倒的に違っている事を理解できない程、彼らは無能ではない。

 

 「3機で囲む!同時に仕掛けるぞ!」

 

 『分かってる!』

 

 『隊長達の仇を取ってやるっ!』

 

 徐々に近づく敵の機体。ハンスは武装の安全装備を外し、いつでも撃てるようにした。

 

 (さあ、何処から仕掛ける?隙を見せた時がお前の最期だ!)

 

 敵の機体は直進し続ける。相対的に見ても既に敵の射程内に入った筈だ。だが……

 

 「…何故、撃たない?」

 

 『お…おい…どうなっているんだ?』『罠じゃないのか?!』

 

 敵機は未だに動きを見せず自分達に向けて直進し続ける。

 

 (うっ……なんだ…?この嫌なプレッシャーは……?)

 

 ハンスは自身の手が震えている事に気づいた。心臓の鼓動が激しくなり、狭いコックピットの中が急速に冷えていく様な感覚に襲われた。猛烈な息苦しさと深い孤独感が彼の心を満たし、不安と恐怖が彼の脳内に、濃霧の様に充満し始めた。

 

 (い……嫌だ…!この感覚……!こ…怖い……!お…恐ろしい…!?)

 

 それは、余りにも唐突で、何故、恐ろしいと思ったのか彼自身も理解出来ない物だった。彼の脳裏に、幼い頃、両親に動物園に連れて行ってもらった事を思い出した。珍しい見た事の無い動物達を目を輝して見ていた時、ふと、端にある檻に興味を引かれた。檻の中にはルアキューレがいた。3つの顔と6つの目がじっと幼い彼を見据えていた。

 

 (……そうだ…あの時と同じだ……)

 

 父は檻に入っているから心配無いよと、言ったらしいが当時の彼の耳には入らなかった。全身が金縛りにあった様に動けなくなった。あの黄色い瞳に、剥き出しの野生に、純粋で冷酷なそれこそ、感情の存在しない漆黒の殺意をまともに受けて体が竦んだ。生まれて初めて本能的な恐怖そのものを知ったのだ。

 

 「……う……うおおぉーーー!!!」 

 

 『お…おい!どうした!?』『予定と違うぞ!』

 

 気が付いた時には機関砲のトリガーを思い切り引いていた。

 

 (撃たなければ殺られる!)

 

 『えぇいっ!クソっ!!』『もうどうにでもなれっ!!』

 

 放たれた20mmはこちらに向けて突進する敵機に殺到する。直撃すれば人間など一瞬で血煙に化し、軍用魔導車やエルペシオの装甲すらもズタズタにする程の威力だ。だが……

 

 (ま…まさかぶつける気か!?)

 

 敵機は最小限の動きで射線を回避し、そのままハンスの乗るエルペシオに直進する。

 

 (くっ……!)

 

 あわや激突する寸前、敵機は機体を回転させてハンスの頭上スレスレを飛び去って行く。衝撃がコックピットを震わせ、機体のフレームを揺らす。

 

 「嘘だろ……」

 

 『見たか……?なんて腕だ……』

 

 『信じられん……奴は死ぬのが怖くないのか…?』

 

 思わず呆然とするハンスと僚機達。

 

 (だが…何故、あんな曲芸飛行じみた真似を…?)

 

 

 だが、ハンスは直ぐに敵機の意図を知る事になる。

 

 『ガッ……!!』

 

 「なっ…!」『ガンマ3!気をつけろっ!うわっ!!』

 

 「み……みんな!!どっ…何処からだ!?まさか……!」

 

 ハンスは咄嗟に、操縦桿を倒し機体をバンクさせようとしたが……

 

 「グワッ!!」

 

 後方から突き上げる様な衝撃と振動が轟き、小規模な爆発音と共に紅蓮の炎が彼を包む。

 

 「あァァァ!!あっ、熱い!!!…ひ…火がっ!熱い!!あぁ!!!も…燃える!!だ…誰かっ!!助け……!うぁ!」

 

 悲鳴を上げながら衣服に燃え広がりつつある炎を叩いて消そうとするが、コックピット内で気化しつつある液体魔石が充満した状態では無意味であった。

 

 気管支と肺を焼かれ、呼吸すら出来なくなったハンスは朦朧とした意識の中で自分達を攻撃したであろう敵機を見た。

 

 「な……何で……後ろ向きで……飛んで……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………」

 

 ベイダーは自機である〘タイ・アドバンスト×1〙のコックピット内で火球と化した3機のエルペシオを眺める。最後の1機が空中で爆発、四散するのを確認すると操縦桿を倒し、機体を反転させ、前方に戻した。視界が反転し、凄まじいGがかかるが今の彼には問題無い。惑星ムスタファーでの屈辱的な敗北の結果、彼の肉体の大半はサイバネティックスで補われている。

 

 「!!……!!………!」

 

 「問題無い。イオンエンジンの出力を30から50%に変更せよ。」

 

 自機に搭載された黒い帝国軍仕様のR2ユニットに指示を出しながら、自身も計器の操作を行う。

 

 「レーザー砲の照準システムと反応速度が合わん。先程の戦闘データとリンクさせ修正せよ。」

 

 ベイダーが乗るタイ・アドバンストは元々はタイ・シリーズの次世代新型機の試作機であり、更に彼用にチューンナップ(半分はベイダーの趣味)された事により、扱いづらく操作性が悪い反面、ノーマル型のタイファイター以上の武装と火力、ハイパードライブシステムにシールド発生装置を搭載するという両極端な機体に仕上がっていた。実際に飛ばして見たが、重力下という状況もあり、システム上の不具合もかなり有り、それらを洗い出し、修正しながら戦闘を行っていた。

 

 

 

 「ドロイド。リミッターを外せ。これでは本来の性能を発揮出来ん。」

 

 「?!………!……」

 

 「機体に負荷が掛かりすぎるだと?案ずるな。あの程度でこの機体は墜落せん」

 

 ベイダーが先程のハンスらのエルペシオ隊を撃墜した戦法は、既に以前使った事がある方法に改良を加えた物だった。

 

 ロザル包囲戦でベイダーは、当時、反乱軍最大勢力であったフェニックス戦隊を単騎で壊滅させた。その際、自機を追撃するAウイング・インターセプターを自機のエンジンを切り、反転させて後ろ向きに飛行し、逆に返り討ちにするという戦法を編み出していた。今回、使った戦法はそれのアレンジとも言える。

 

 「機体のバランス性が悪いだと?馬鹿を言え。だからこそ改造する意味がある。」

 

 「?????」

 

 「面白味の無い奴だ」

 杓子定規の反応しか示せないドロイドに思わず呟くベイダー。

 

 ふと、彼の脳裏に青と白のドロイドの姿が思い浮かんだ。かつて、彼にとって一番の相棒で、幾多の危機を共に乗り越えた戦友の姿が。

 

 「………」

 

 「…!??…?」

 

 「詮索するで無い。任務に集中せよ」

 

 「???」

 

 

 

 そして、二度と会う事が無いであろう親友の姿が

 

 「過ぎた事だ」

 

 マスクのせいで彼の表情は分からなかった。だが、その声は、どこか寂しげであった。

 

 




 設定集とか作った方が良いのでしょうか?

 感想待ってます。


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第11話 終焉の空

 「熱いっ!熱いっ!!機体に火が!!?」「大隊長騎がやられた!!」「そこのワイバーン!後ろに付かれているぞっ!」「ダメだっ!振り切れ無いっ!!うわぁーー!!」「誰か……!指示をくれっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ダメだ……」

 

 

 

 

 

 

 「………とても……敵わない……」

 

 

 

 

 

 コックピットの中でゴール・ドグマ中佐は絶望に満ちた表情で、そう呟いた。

 

 

 (……こんな筈ではなかった……)

 

 魔信と無線から聞こえてくるのは逃げ惑う味方機の悲鳴と断末魔の叫びのみとなって暫く経った。 そして、それすらも徐々に減りつつあった。ゴールはまるで自分達がペッパーミルで粉砕されるコショウの様な気分であった。そして、それはある意味当たっていた。今の彼等は戦争という巨大で冷酷な機械に巻き込まれ、抵抗する術も無く、ただ踏み砕かれ蹂躙されるのを待つだけしか無かったのだから

 

 「……今の我々では勝てない……」

 

 

 

 

 既に、敵の飛行機械はルーンポリス上空を覆い尽くす程の物量で、彼等、世界連合軍航空戦力を圧倒、今では殲滅戦に移行しつつあった。当初は、世界連合軍の増援部隊の到着もあり、数的には有利な状況であったが、敵側も直ぐに増援を出し、数的な優位を失った。更に敵の飛行機械はミリシアル側の最新鋭機たるエルペシオ3を軽く凌駕する性能を有しており、数と性能の差で圧倒された事により、世界連合軍部隊は完全に勝ち目を失い、元々、多国籍軍、悪く言えば烏合の衆でしかなかった世界連合軍の士気はガタ落ちし、今では連携すら取れず、敵の飛行機械から逃げ回る事しかできなかった。

 

 

 

 「……終わりだ……神聖ミリシアル帝国は……この世界は…」

 

 ゴールは絶望し、憔悴しきった様子でそう呟いた。既に彼は僚機を失っていた。ベータ2はドッグファイトの末に撃墜され、ベータ12も気が付いたらいなくなっていた。恐らくは彼も撃墜されたのだろう。帝都ルーンポリスは地獄の業火で焼かれていた。撃墜された天の浮舟やワイバーンが街のあちこちに墜ちて、ビルを人々を紅蓮の炎で包みこんでいた。本来ならばそんな人々を守る為に戦ったというのに、余りにも皮肉で非情な結果となってしまった。

 

 「…………」

 

 彼の機体は既にボロボロだった。敵の光線兵器を何とか回避してきたが、かすった光線の粒子が彼の乗るエルペシオ3の表面を溶かし、本来ならばミリシアルの国章が描かれている場所も今では何が描いてあるのか分からなくなっていた。無理な低空飛行と急上昇を繰り返した事で機体のフレームは歪み、時説、金属が軋む不気味な音が聞こえた。

 

 そんなコックピットから街の様子は手に取る様に見れた。轟音を立てながら根本から崩れ行くビル。一縷の望みに掛けてか、或いは焼死するよりかはマシと考えてか、もしくはそんな事を考える余裕も無いのか、業火に燃える高層ビルから身投げする人々。決死の表情で軍用魔導車に備え付けられた魔光砲で敵の飛行機械を撃ち続ける兵士。だが、敵の飛行機械に容易く回避しされた挙句、逆に数機掛かりで集中砲火を受けてスクラップに成り果てる。

 メインストリートでは更に凄惨な光景が繰り広げられていた。アスファルトの上に散乱する炭化した人型の物体に、赤い血だまりの中に転がった肉片の数々、そして安全な場所に避難しようとする人々。そこに燃える魔導車が人々の列の中に突っ込み爆発炎上する。はね飛ばされ、硬い地面に叩きつけられる者。車輪の下敷きになり、全身の骨を砕かれ、内蔵が破裂しても死ねずに殺してくれ、と叫ぶ者。炎に包まれた運転手が魔導車から飛び出し、火を消そうと地面のアスファルトの上を転げ回る……

 ありとあらゆる地獄が繰り広げられていた。

 

 街頭に親子連れの姿が見えた。もっとも、正確には親子連れだったものだったが。一人の少年が地面に倒れている両親らしき男女を必死に起こそうとしていた。だが、二人が起きて少年を抱きしめる事は永遠に無いだろう。何故なら、その二人の上半身を何トンもあろうコンクリート片が押し潰していたからだ。

 ゴールの乗るエルペシオの轟音に気付いたのか、少年は涙に濡れた顔をこちらに向ける。視線がぶつかった。

 

 「っ…!!」 

 

 思わず息を呑むゴール。一瞬、少年が見せた憧憬の目線も直ぐに消え失せ、憎悪と失望の目線に変わる。

 

 

 

 

 『どうして助けてくれないんだっ!!』

 

 

 言葉を交わさずとも、その少年が何を言いたいのかその激しい憎しみのこもった目線だけで理解出来た。 

 

 『守ると言ったじゃないか!』

 

 『何で何もしてくれないの……?』

 

 『お前達のせいで……!』

 

 他の場所にも目を向ける。たが、市民の目は先程、見た少年と同じ様なものだった。ある者は力無く失望した様な目を向け、ある者は明確に敵意と憎悪の目線をゴールに投げ掛ける。それがゴールの心を更にズタズタに引き裂いた。

 

 

 「すまない……すまない……!」

 

 ゴールの心は完全に折れてしまっていた。今では闘志すら湧かない。そんな彼にもゆっくりと死神は近づく。

 

 (フッ…俺も年貢の納め時か……)

 

 ゴールの乗るエルペシオ3の背後に敵の飛行機械が近付く。敵機は逃げようともしないゴールの機体を楽な獲物と思ったのか慎重に照準を合わせる。ゴールには逃げる術も無ければ、それを実行するだけの手段も無かった。既に彼の乗るエルペシオは半壊寸前、燃料も殆ど残っておらず、弾薬も底をついていた。何よりもゴールには抵抗する事も逃げる気力すらも既に無かったからだ。

 

 「これも……報いか……」

 

 守るべき民を救えなかった。仲間達と部下を見殺しにした。もはや自分が生きのびている意味も理由も分からなくなっていた。ならば、ここで死ぬのは寧ろ自身への報いだと彼は思った。ゴールは全てを諦め、操縦桿から手を離す。

 

 (いや……これでいいんだ……)

 

 ここで死ぬのも全て、初めから決まっていた運命に思えた。只々、虚しさのみが彼の心を満たしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『隊長ーーーーー!!!』

 

 

 瞬間、彼の乗るエルペシオの後方から閃光と爆音が鳴り響く。

 

 「!?」

 

 何が起きたのか!?咄嗟に振り返るゴール。そこには爆炎に包まれる敵機がいた。だか、その爆炎の中に見慣れた物体も見えた。

 

 「……ベータ12………?」

 

 それはエルペシオ3の尾翼であった。そこには12の番号が刻印されていた。

 

 「な…何故だ……」

 

 ゴールは驚愕する。彼を救ったのは、とうに死んだと思っていたベータ12だったのだ。ゴールを救うべく、彼はタイファイターに特攻を仕掛けたのだ。

 

 (何故だっ!これ以上、俺に苦しめと言うのかっ!?)

 

 自分に一体、何が出来る?誰も救えなかった男が?寧ろ彼の様な勇敢な若者こそ生きるべきではないのか?!神よ!何故だっ!?

 

 (何故だっ!何故だっ!何故だっ!?)

 

 終わりの無い自問自答の叫びを投げ掛けながらも、彼の乗るエルペシオは飛び続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…何故だ……何故……」

 

 気が付いた時には彼はルーンポリスから離れた高原の上を滑空していた。機体の表示形の大半が使い物にならず、僅かに使える高度計の針はグングン下がり、燃料計はピクリとも再下降の位置から動かなかった。

 

 「………」

 

 朧気な意識の中、半ば、朦朧とした状態で不時着するべく、ギランディングアを降ろす。整地されていない地面が徐々に近づき、ついにランディングギアのタイヤと接触する。

 

 「……っ!!」

 

 激しい振動が彼を襲い、地面に二本のタイヤ痕を残す。だが、次の瞬間、先程とは比べ物にならない程の振動が彼を襲う。左翼側のランディングギアが根本からへし折れ、主翼が土を削りながら勢い良く滑る。

 

 「……くっ……!」

 

 舌を噛まない様に歯を食い縛りながらガタガタと揺れる操縦桿をしっかり掴む。その時、左翼側主翼がついに根本からもぎ取られ機体が横向きに地面を滑る。

 

 (ここまでか…)

 

 あわや、機体が横倒しになりかけるが、かろうじて持ち直し、数メートル程、土を抉った末に停止した。エンジン部分からは白煙こそ出ているものの爆発する事は無いだろう。燃料を全て、使い切っていたからだ。ゴールは痛む全身を解しながらコックピットから出る。

 

 

 

 

 「………」

 

 ゴールは近くにあった切り株に腰を掛ける。そして出撃前にもらった葉巻きを胸ポケットから取り出す。先端を歯で噛み切り、吸口を作り反対側に火を付ける。紫煙をゆっくりと、吸い込み吐き出す。数回、同じ動作をした後、葉巻きをその場に捨て、代わりに魔導拳銃を取り出す。しばらく見つめた後に、安全装備を解除し銃口をくわえる。

 

 「………」

 

 いざ、引き金を引こうとした時、目の前に転がる、まだ、火の付いた葉巻きが目に入った。ゴールは出撃前の事を思い出していた。

 

 

 

 (ゲホッ!ゲホッ!!うげぇ〜!よくこんなの吸えますね…)

 

 (はっ!坊主には、まだ早かったな。)

 

 (それの味が分かるようになればお前さんも立派なエルペシオ乗りさ。)

 

 (なっ!自分は上手く乗りこなせますよ!この前まで航空学校にいたんですから!)

 

 (ハハハ!技術がどうのって話じゃ無いんだよ。ルーキー)

 

 

 

 ベータ12は今年、入隊したばかりの新兵であった。年齢も二十歳を過ぎたばかりだった、純粋で素朴な性格ながらも若者らしい向上心に溢れた青年だった。隊員全員から可愛がられていた。

 

 (隊長からも何とか言ってくださいよ!)

 

 ((そこまでにしておけ。ベータ7。誰にでも初めてという物はあるんだ。あまり、新米をいじめてやるな。))

 

 (確かに!初めてというのは感慨深い物ですな。隊長!)

 

 (お前さんは少し控えた方が良いな。肺が持たんぞ?)

 

 (隊長。コイツが肺ガン程度で死ぬと思いますかい?)

 

 (ハハッ!確かに殺しても死なねぇ男だからな!)

 

 (てめぇ等!言いたい放題言うんじゃねぇ!)

 

 他愛のない話、いくらでも話せると思っていた。しかし、今となってはそれは叶わない夢となっていた。もう彼等には会えないのだから。

 

 「……っく……うぅっ…!!……」

 

 ゴールの手から拳銃が滑り落ちる。震える両の掌で顔を覆い、やがて堰を切ったように涙が溢れ出した。心の底から湧き上がる濁流の様な感情の波を抑えるには、只々、泣く事しかできなかった。彼の心に様々な光景が浮かんでは消えていった。既に他界した両親の事、幼き日の思い出、初めて出来た恋人、そして燃える街並み、最後に浮かんだのはベータ中隊のメンバーとの日々だった。

 誰もいない平原に男の慟哭のみが虚しく悲しく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中央歴1638年2月20日午前9時32分

 

 後世においてルーンポリス大空戦と呼ばれる戦闘は事実上、終結した。ミリシアル軍並びに、世界連合軍は天の浮舟、飛行機械、ワイバーンを戦闘に投入するも、銀河帝国軍側の圧倒的な戦力差には敵わず、敗北。ルーンポリス上空の制空権を完全に喪失する事となった。なお、世界連合軍側の生存者はゴール・ドグマ中佐を含めて、僅か、数名程しか存在しなかったとされる。

 

 

 




 今回は割と実験的なというか、かなり背伸びしながら書いた作品です。自身の文才の無さが憎らしい……
 


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第12話 暗黒卿と燃える海①

 お久しぶりです。一先ず上げたいと思います。

 今回は説明ばかりです……読みづらいかもしれないので、どうかご容赦を……


 

 

 

 『デストロイヤーを退避させよ。貴重な艦を失う訳にはいかん。』

 

 

 

 インペリアル級スター・デストロイヤー デヴァステイター艦橋内部でレノックスらクルーはベイダーから、そう指示を受けた。事の発端は今から十分前にあたる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 インペリアル級スター・デストロイヤー

 デヴァステイター艦橋内部

 

 

 

 「艦長。僚艦のドーントレスから通信が入っています。」

 

 「分かった。繋げてくれ。」

 

 ホログラム投影装置に帝国軍将校の姿が映し出される。インペリアル級スター・デストロイヤー《ドーントレス》の艦長だ。

 

 『失礼します。大佐殿。大至急、報告したい事が……』

 

 「うむ。何かね?」

 

 『我が艦隊に接近する奇妙な飛行物体を捉えました。実物を見ていただければよいかと』

 

 ホログラムに別の映像が投影される。その場にいた全員が顔を顰めた。

 

 「これは……まさか……ミサイルか?」

 

 「旧時代の弾道ミサイルのように見えますね。」

 

 「まさか……こんな物まで用意しているとは……」

 

 レノックスは思わず頭を抱えたくなった。ますます敵の意図が読めないのだ。何故、今の段階でミサイル等、撃ってきたのか、撃つなら最初にスター・デストロイヤーが降下してきた段階で撃つべきであろう。何故、今の段階になって使用したのか理解できなかったのだ。

 

 「艦長。本艦でも正体不明の飛翔体を捉えました。徐々に接近しつつあります。」

 

 「分かった。数はどの程度だ?」

 

 「ハァ…それが、一機だけです。」

 

 「な…なんだと…?」

 

 

 思わずレノックスは隣にいたコーシン中佐と顔を見合わせる。

 

 「本当に一機だけなのか?」

 

 「レーダーには一機だけしか表示されてません。」

 

 「大佐、もしや敵は何らか技術支援を受けているのではないのでしょうか?」

 

 

 幕僚の一人が進言する。明らかに事前の偵察の内容とでは食い違っている。事前の情報では敵の技術力は極めて低く、ミサイル等の装備は保有していないとされていた。現に、これまでの戦闘ではそういった兵器は確認されていなかった。そうなれば作戦の抜本的な見直しも必要なのかもしれないと、胃に痛みが走りながらも考えた。

 

 「……目視並びに、レーダー状のあらゆる物体に目を光らせて欲しい。それと直ちにベイダー卿へ通信を取り次いで欲しい。」

 

 「了解致しました。」

 

 「それと接近するミサイルについては…」

 

 『大佐、既に本艦より迎撃ミサイルを発射しました。あと、20秒程で敵ミサイルに到達します。』

 

 「そうか……助かる」

 

 艦内の大型ディスプレイに目を向ける。艦隊に徐々にゆっくりと近付く光点に、高速で迎撃に向かうミサイル群が光点として表示されていた。

 

 「しかし、随分と遅いな。速度はそれ程、速くない様だが……」

 

 「少なくとも、簡単に捕捉できたのは幸いでしたな。」

 

 

 光点の束が一つの光点に殺到し重なる。

 

 「む……迎撃は成功したようですな…」

 

 「まったく…ベイダー卿との通信は……」

 

 

 レノックスの発言は最後まで続かなかった。ちょうど、迎撃ミサイルが着弾した地点に青白い巨大な光球が出現したのだ。瞬間、デヴァステイターの機器が凄まじいサイレンを鳴らす。

 

 「こ……高出力のエネルギー波を確認!!」

 

 「衝撃波……来ますっ!!」

 

 一瞬、レノックスは呆然としかかるが彼とてベテランの軍人である。直ぐに自らインコムを手にし、全艦艇に指示を飛ばす。

 

 

 「全艦に通達っ!シールド出力を最大に上げよっ!!衝撃に備えろ!!」

 

 「はっ、はいっ!」

 

 レノックスに檄を飛ばされ、艦橋要員達も直ちに持ち場に戻り、ある者は計器を操作し、ある者は艦内の内線で連絡を取り合う。そして、凄まじい衝撃波が彼等に襲い掛かる。

 

 「くっ……!」

 

 身が縮むようなサイレンが鳴り響く中、艦内に空気を震わせる様な轟音と地震の様な振動が通過し、思わずレノックスはよろけて艦橋の床に膝を付く。立っていた士官やストームトルーパーも何人か転倒し、操作要員も椅子や機器にしがみつき、振動が過ぎ去るのを待った。

 

 「状況報告!」

 

 「ハッ!シールド発生装置並びにエンジンに損傷はありません!」

 

 「艦長!ハンガー内で、火災発生との事です!現在、消火中との事です!」

 

 「火器管制システムとセンサー類の一部が機能しません!」

 

 レノックスは落とした軍帽を拾い、埃を払うと被り直しながら現在の状況を確認する。少なくともデヴァステイターに重要な損傷は無いようだ。

 

 「火災の原因は何だ?」

 

 「係留中のタイ・ファイターが落下したとの事です。あっ……お待ちを……たった今、鎮火したとの事です。」

 

 「……そうか……センサー関係はどうなっている?」

 

 「現状、分かる範囲ですが……一部の装置は部品にかなりの過負荷が掛かり焼き切れた為、入れ替えが必要との事です。」

 

 「センサーが焼き切れただと?…まさか……」

 

 「もしや……イオン兵器の一種でしょうか?」

 

 電子機器を無力化、破壊する事が出来るイオン兵器。もしも敵が保有、実用化に成功しているとすれば極めて厄介な事になる。

 

 「艦長!ベイダー卿のファイターとの連絡が繋がりました!メインモニターに繋げます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「しかし、ベイダー卿。それでは地上軍を置き去りにする事になります。」

 

 現在の状況を報告した上で、ベイダーに指示を求めるレノックスら艦長達。そんな彼等に下された命令は軌道上への退避だった。思わずどよめく同僚を尻目にレノックスはベイダーに既に降下させた地上軍の処遇について進言する。味方を置き去りにするのは彼にとって看過できないことであったからだ。だが……

 

 『大佐、卿はデストロイヤーとストームトルーパー一個師団、捨てるならどちらを選ぶか?』

 

 「そ……それは……」

 

 『敵がデストロイヤーを直接、攻撃出来る力を持っている以上、このまま的にする訳にはいかん。最悪の事態を想定せよ。』

 

 ベイダーの発言にその場にいた全員が反論出来なかった。悲しい事だが、スター・デストロイヤー一隻とストームトルーパーでは比較にすらならない程の差があった。どちらを取るかは考えるまでも無いと、彼の発言は冷酷そのものだったが、ある種、軍人、一軍の将としては当然の反応であった。

 どちらを捨てるか、取るか。誰を救い、誰を殺すか。それは将官として常に求められる判断であり、現に彼等も今までその判断を行ってきたからだ。一瞬の躊躇が何百万、何千万の将兵の命を左右する戦場では青臭い理想論などレーザーと砲弾の飛び交う現実に於いて容易く吹き飛ばされる様な紙切れの様な物でしかない。所詮は現実を見れない青二才の戯言でしかないのだ。そして既にその段階は過ぎた。

 

 「……申し訳ありません…考えが及びませんでした…」

 

 無論、レノックスとてクローン戦争で地獄を見た世代であり、共和国軍から帝国軍に変遷した後も軍人を続けている以上、個人の感情として納得はせずとも、軍人としての理性では理解出来る事であった。それは彼以外のコーシンを含む幕僚達や通信を聞いている僚艦の艦長達も同じであった。

 

 『……無論、あくまでも最悪の事態の話だ。私とてこの星の攻略を諦めた訳では無い。』

 

 「では…」

 

 『我が帝国地上軍は精鋭だ。そして何よりも、指揮を任せているのは〘あの男〙だ。デストロイヤーの援護が無くとも任務を達成出来るであろう。』

 

 それはベイダーなりのフォローのつもりだったのだろう。暗に地上軍にも手柄を立てさせてやれと、言っているようにも聞こえた。何よりもベイダー自身が地上軍の実力を信頼している証左でもあった。

 

 『それよりも敵が使用した兵器についてだ。』

 

 ベイダーは新たな疑問について切り出す。情報には無かったミサイルの様な兵器。場合によっては一時的な撤退もベイダーは考えていた。

 

 「敵は我が艦隊が密集した頃を見計らって攻撃してきました。また、あくまでも推測ですが、ミサイルの進路から察するに、艦隊中心部で起爆させようと目論んだようです。」

 

 幕僚の一人が説明する。あくまでも現状、予想でき得る範囲の話でだが。

 

 「撃墜自体は容易でしたが、爆発と同時に衝撃波と熱波、そして、未知のエネルギー波を探知しました。恐らくはこの惑星由来の物質だと思われます。」

 

 「衝撃波自体はシールドで無効化されましたが、エネルギー波が各艦のセンサー機器を破損させました。しかし、既に復旧済みとの事。」

 

 「以上の事からも敵は広範囲かつ長距離から攻撃可能な尚且つ、我々で言う所のイオン兵器の様な兵器を既に実用化していると思われます。」

 

 状況を見る限り、予想よりも敵は強力な兵器を持っているようだ。

 

 「先行した部隊からの情報はどうなんだ?空港施設は制圧したのだろう?」

 

 「情報部からの報告ではめぼしい物は無かったそうだ。」

 

 「くっ……予算食い共め……」

 

 

 ここでベイダーが無線ごしに口を開く。

 

 『……以前、よく似た兵器を見た事がある。クローン戦争の頃だったか……』

 

 「クローン戦争時ですか?それは一体……?」

 

 『卿等も知っていよう。〘メガ・イオン砲〙だ』

 

 「メ……メガ・イオン砲!?そ…それでは…まさか……!?」

 

 『そうだ。奴等の背後にいる者達……分離主義者の可能性もある……』

 

 (分離主義者……!クローン戦争の亡霊か…!!)

 

 

 

 

 

 

 分離主義勢力、正確には独立星系連合国はある意味、銀河共和国の暗部への反発が具現化した存在といってもいい。もはや慢性的となった賄賂や収賄といった汚い金の流れ。グローバリズム・民主主義の美名の元、行われたアウターリムへの搾取と政治的・経済的な格差。宇宙海賊の跋扈とハットクランを代表とするマフィアの台頭。本来ならば禁止されているはずの奴隷制といった人身売買の横行。悪徳と退廃をコンクリートミキサーでぶちまけたような有様であった。事実上の軍隊であったジュディシアル・フォースは無力でしかなく、各星系は軍閥化を進め、本来ならばこの事態を正すべく選ばれた筈の元老院議員の多くは自らが得るであろう賄賂の銭勘定以外に興味は無く、銀河を救いたいと気概のある者の方が遥かに少数派といった有様であった。

 この事態がある思想を産む事となった。分離主義運動、腐敗し堕落しきった現在の銀河共和国の自浄作用には期待できない。ならば自分達で新たな理想郷を銀河市民による銀河市民の為の政府を作ろうと、それが分離主義運動の始まりだった。しかし、あくまでも紙の上に書かれた妄想の産物でしかなかった。だが、この思想を実現しようとする者が現れた。

 

 『共和国、ジェダイオーダーは正さねばなりません。彼等の無関心と腐敗は銀河を腐らせる癌細胞そのものだ!この悪夢を止めるべく我等が彼等を罰せねばなりません!明日の為に、そして未来の為に!!』

 

 俗に言うドゥークー伯爵の演説。元ジェダイにして惑星セレノー出身の彼は現在の共和国の腐敗、堕落ぶりを徹底的に批判、糾弾し、共和国からの離脱、新国家の設立の重要性を声高に唱えた。理路整然としながらも、情熱的で活力と精気に満ち溢れた彼の演説は多くの人々から共感を買い彼を指導者として仰いだ。そして、それは明確な形を持った独立星系連合という国家組織へと昇華したのだ。

 

 銀河共和国と分離主義勢力、この二つの相反する勢力がぶつかり合うのは歴史の必然であった。《クローン戦争》の勃発である。当初はドゥークー伯爵のカリスマ性とドロイド軍を中心とした圧倒的な物量差で共和国軍クローン・トルーパーを圧倒、長期戦になればこのまま勝利するのも確実だと思われた。しかしドロイド偏重の軍事力や加盟した星系、企業関係の内紛、共和国軍とジェダイ将軍の奮闘によって高級将校や手練を失う等、人材の枯竭等を招く等、戦略的、戦術的にも大きく共和国に遅れを取るようになった。そして開戦から3年目、泥沼化した戦況を挽回すべく連合軍は起死回生の大規模反抗作戦を実施する。共和国首都コルサントへの奇襲を敢行だ。この時、当時、共和国最高議長を務めていたパルパティーン議長を拘束、捕縛する事に成功するも、その結果は悲惨な物となった。最高指導者ドゥークー伯爵がスカイウォーカー将軍に敗北し戦死してしまったのだ。

 これは事実上、分離主義運動並びに独立星系連合の終焉でもあった。元々、ドゥークー伯爵のカリスマ性の元、集った連合は彼という精神的支柱を失った事で、一気に精細さを欠き、足並みが揃わなくなった。敗戦を重ね、新たに指導者に襲名した軍事部門の重鎮であったグリーヴァス将軍も戦死。伯爵の死後、僅か半年あまりで独立星系連合は事実上瓦解、銀河共和国に対して無条件降伏を宣言。壊滅する事となった。

 

 

 

 「……なるほど、確かに奴等ならば技術もノウハウもありますね…」

 

 「それだけでは無い!連中は我々を憎んでいる!」

 

 「動機も理由も充分か……」

 

 『人は受けた恨みを忘れん……何百年、何千年経とうともな…』

 

 終戦後、それまで分離主義運動に加盟した星系、惑星は共和国の跡を継いだ帝国によって多額の賠償金に加えて軍事力の保有を禁じられた。同様に運動に加担した通商連合やテクノユニオン、コマースギルドといった企業、組織の多くは資産の没収、特権の剥奪、帝国傘下への編入を強制させられる等、事実上の解体処分とされた。だが……

 組織としては消滅したが勢力としては戦後も大きな影響力を持ち続けた。戦後も武装解除せず、ある者はドゥークー伯爵の理想実現の為に戦い続け、ある者は戦犯の追求を逃れるために戦い続けたとされる。そして、現在ではその多くが反乱同盟軍に合流したとされる。

 

 『そして奴等は反乱軍とも関係が近い。』

 

 「なるほど……それならば彼等が頑なに、我等の要求を断り続けたのも分離主義者に毒されたと見るのが自然ですね。」

 

 「大方、分離主義者のプロパガンダを真に受けたのでしょう。そうでなければ、あれだけ良い条件を出したというのに帝国を拒絶する筈がない!」

 

 ミリシアルを含む、各文明圏に対して銀河帝国側は屈辱的とも言える要求を出していた。しかし、銀河帝国側からして見れば形だけでも帝国傘下に加われば千年、一万年単位での技術が手に入る。その上、自治権まで確約していた。寧ろ、分離主義勢力の影響が強かった星では碌な整備すらされず、自治権すら認められない状態が続いている事と比べればかなり穏当な条件であり、ここまで激しく抗戦を受けるのは異常に見えた。

 

 (だからこそ、ワンクッション置く為にこちらの戦力を見せつけたが……)

 

 

 あえて、挑発し自国の武力と帝国軍の力の差を分からせ、服從させるのが帝国の目論見であった。だが彼等が分離主義者の支援を受けているのであれば話は別だ。

 

 『奴等がこうも激しく抵抗する理由……よもや分離主義者共の支援を期待しているかもしれん……』

 

 「まさか……挟撃の可能性もあると……?」

 

 『合理的に考えればな……惑星内で敵を引き付け、軌道上の艦隊戦力で挟み打ちにする……何度も見た戦法だ』

 

 レノックスの脳裏に全てのパズルのピースが揃った感覚が走った。なるほど、これならば全ての合点がいく。無謀な自殺にしか見えない敵航空機の突撃に、あくまでも頑迷に抵抗し続ける敵地上軍、果てはイオン兵器の様な兵器の使用。無意味な攻撃と思えた全てがブラフだとしたら?彼等の次の作戦は宇宙艦隊と地上軍による挟撃を狙っているならば極めて周到な作戦としか言えない。

 

 「我々は一杯食わされたという事ですか……」

 

 これまで帝国軍は兵力で遥かに劣るはずの反乱軍に辛酸を舐めさせられてきた。警戒はすれど緩める事は無い。特にベイダー配下の部隊であれば当然の事であった。

 

 

 「しかし……そうなると厄介な事になりますね……」

 

 『敵が何者であれ我々の任務は変わらない。』

 

 『かつての共和国の統治を見よ。人心は荒廃し、理不尽と不条理が蔓延した地獄を……偽善者共と拝金主義者共が跳梁跋扈し、己の我欲の充足のみを充足した時代を……あの時代を繰り返してはならん……』

 

 思わず固唾を飲むレノックス達、緊張した空気が彼等を包む。基本的にベイダーは冷静沈着な性格である。だが、時節見せる彼の狂気は本物だ。彼は自らに逆らう者に対して、決して容赦しない。銀河帝国の恐怖による統治を体現したのが、このダース・ベイダーという怪物なのだ。

 

 『共和国が滅亡し、民主主義が過去の遺物と化したのは時代が望んだからだ。自由と人権の名において……自己責任の名において全ての無法が許される……そのような狂気の産物が存在する意味など何処にあろうか?』

 

 ベイダーの言葉には明確な憎悪と怒りが含まれていた。彼が昔の事を語る事は殆ど無い。いや、皆無と言っても言いだろう。だが、はっきりしている事がある。

 彼は過去の全てを憎んでいる。過去を象徴する全てに対して怒りを覚えている。全てを破壊しても彼の荒立つマグマの様な怒りを鎮める事はできないだろう。彼が望んでいるのは全てを焼き尽くす復讐なのだから。

 

 ベイダーは紛れも無い狂人であった。

 

 『敵が分離主義者であれ反乱軍であれ、そんな事はどうでもよい。私の行く手を阻む者にはそれ相応の報いが必要だ…』

 

 「……」

 

 どうにも触れてはいけない物に触れてしまったようだと、思わず顔を見合わせる幕僚達。だが、それも直ぐに終わる。

 

 『……敵が如何様な手段を取ろうとも我が帝国の覇道を止める事等できん……ジェダイであれ分離主義者であれ、この銀河系に奴等の逃げ場等、存在しない事を教えてやるのだ。愚か者共を教育してやれ』

 

 「「ハッ!!」」

 

 

 

 

 

 ベイダーからの通信はそこで終わった。それと同時に帝国軍士官らは各関係部署に指示を出す。そして兵士達はそれに従い行動に移る。彼等とてエリート、一度、決まれば行動は早い。ベイダーから言われなくとも帝国の敵を滅殺すべく彼等は全力を尽くすだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 尤も、全て徒労に終わるのだが……

 

 

 




 次回からはミリシアル側の説明回になります。
 
 感想、ご意見よろしくお願いします。


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第13話 暗黒卿と燃える海②

 ルーンポリス湾 海上

 第零式魔導艦隊旗艦ミスリル級魔導戦艦コールブランド

 コールブランド艦橋内

 

 

 

 

 「上空の超大型飛行物体、上昇を開始っ!!グングン上がっていきます!!!」

 

 第零式魔導艦隊旗艦、ミスリル級魔導戦艦コールブランドの艦橋内で一人の若い士官が双眼鏡で燃えるルーンポリス上空を見ながら興奮を隠しきれない様子でそう叫んだ。

 

 「や…やったぞっ!!」「奴等を撃退したぞ!!」「神聖ミリシアル帝国の力を思いしったか!」

 

 艦内で歓声が沸き起こり、ある者は拍手し、ある者は隣に立つ者と抱き合い、上昇していく上空の超大型飛行物体に向けて野次を飛ばしていた。敵は明らかに恐れをなし、敗走するように見えた。自分達が先程、発射した〘アレ〙のおかげである事は明確であった。その事から見ても先程まで地に落ちていた士気が頂点に上がるのは当然の反応であろう。

 

 

 「……や……やったのか……?」

 

 「……恐らくは……」

 

 クロムウェルは額の汗をハンカチで拭きながら短くバッティスタに答える。バッティスタはまるで倒れ込む様に椅子に座る。文字通り、腰が抜けたらしい。彼もハンカチで顔面の汗の玉を拭くが傍から見てもその手は震えていた。

 

 「……全く……肝を冷やしたぞ……」

 

 

 上手くいくとは思えなかった、無論、彼等とて上手くいくように万全を期したが、矛盾している事だが単刀直入に言ってもこの穴だらけの作戦で敵の超大型飛行物体を撃退出来た事は奇跡に近かったとバッティスタは冷静に考えた。

 

 (……我々の手札が少ないとは言え…まさか、あんな物を実際に使う事になろうとは……)

 

 手元の厚いファイルに手を置く。ファイルの表には対魔帝対策庁と国防省防衛局のラベルが貼られ、更には第三者が無断で読めないように本人認証済みの特殊な魔符処理が施され、極めて厳重に扱われていた。

 

 「ウルティマ0型誘導魔光弾……まさか、この私がそんな物を使う事になろうとは……」

 

  

 

 

 〘試製ウルティマ0型誘導魔光弾〙

 

 かつて、古の魔法帝国ことラヴァーナル帝国が初めて実用化したとされる誘導魔光弾。魔導砲以上の射程と命中率を誇るとされた、この兵器を現在の神聖ミリシアル帝国の技術で何とか再現したのが、この試製ウルティマ0型であった。

 

 「しかし……如何に試作機とは言え、これ程、不安定な代物だとは思わなかったぞ…」

 

 「マニュアルでは超音速で飛行出来ると書いていますが……あれでは亜音速…エルペシオより多少、速い程度でしたな」

 

 「途中、失速して墜落しかけた時は心臓が止まると思ったぞ……」

 

 

 実際の所、このウルティマ0型は恐ろしく不安定で扱い辛い上に問題の多い欠陥兵器だった。搭載されている魔光呪発式エンジンは新型で液体魔石を使用しているが、異常過熱しやすく、誘導システムもバグのせいか終末航路が機能せず、大まかな位置にしか飛べない等、本当に実証実験を行ったのか?とバッティスタやクロムウェルは本気で疑問に思う程の物だった。

 

 「提督、魔力探知レーダー並びに魔信の不具合が直りました。いつでも使用できます。」

 

 「空気中の魔素濃度も基準値以下まで低下しました。」

 

 「そうか…それは良かった。だが、まさか、味方のレーダーや魔信まで使えなくなるとは……」

 

 魔信の通信官の報告に安堵するバッティスタ。ウルティマ0型は誘導魔光弾としての性能以外にも問題を抱えていた。

 

 

 《広域高濃度魔素波散布弾頭》

 対魔帝対策庁が次世代新兵器のテストベッドとして開発したとされる特殊弾頭である。弾頭内に内蔵された光、火、雷系統の高濃度魔素粒子を大気中に拡散・散布する事で、魔導兵器や魔力探知レーダー、魔信といった魔導装置内の術式回路に過負荷を与え、破壊する事が出来るのだ。術式回路を使用する兵器は魔導銃から魔導砲、果ては魔導戦艦や天の浮舟まで機能を停止させる事が出来、また、雷系統の魔素の性質上、科学由来の兵器にも有効という実用化できれば戦争の性質すら変えかねない代物であった。だが……

 

 

 「結果的に成功しただけの話だ……こんな危険な代物、二度と使わん…」

 

 

 魔素散布兵器自体は魔帝が既に実用化していた兵器であったが、誘導魔光弾と同様に現在のミリシアルの技術水準で完璧に再現するのは不可能だったのだ。性能は魔帝製のオリジナルとは比べ物にならない程低く、魔素の効果範囲は狭い上に、大気中に魔素が分散するのが想定よりも早い上に、魔素をばら撒くという性質上、味方の魔信や魔導兵器にも影響を与えてしまうのだ。これは魔帝製の魔素散布装置が純粋に魔力回転方式で広範囲に散布しているのに対して、ミリシアル製のコピーでは爆薬の爆発力で魔素をまき散らすという、強引なやり方で再現しようとしたからだ。

 

 「距離が離れていたのがせめてもの幸いでしたな。」

 

 「全くだ!ここまで不安定だとは思わんかった…」

 

 

 扱いづらいだけなら、まだマシな部類だった。だが、不安定で、いつ暴走するか分からない兵器等、誰も使いたくはないだろう。だが、それ以上に兵器として致命的な欠陥があった。それはコストの悪さである。このウルティマ0型を一基作るのにミスリル級一隻と同じ費用が掛かるのだ。

 元々、ウルティマ0型は実際に使う予定は無く、このコールブランドに配備されたのも、あくまで運用方法の確立を目的としたものであって、今回の航行を終えた後は対魔帝対策庁に返却され解体処分される予定であり、まさか実戦に投入されるとは誰も予想しなかったのだ。

 これらの要素からも分かるように、ウルティマ0型の使用は、あくまでも偶然が重なった末の発射であり、銀河帝国側にとってみれば極めてイレギュラーな存在だった。ベイダーの警戒は杞憂でしかなかったのだ。

 

 クロムウェルはバッティスタに向き直り、目を伏せながら謝罪する。

 

 「…閣下……申し訳ありませんでした…」

 

 「君が謝る事では無い。クロムウェル君」

 

 「しかし……進言したのは自分です」

 

 ウルティマ0型は欠陥品といっても、これまでの神聖ミリシアル帝国の魔導技術の結晶である事は間違いない。今回の無断使用を上層部、特に対魔帝対策庁は烈火の如く激怒し、責任の追及を行うだろう。そうなればバッティスタは間違いなく何らかの責任を取らざるをえない。少なくとも彼の軍人としてのキャリアは閉ざされるであろう。クロムウェルは敬愛する上官の行末に責任を感じていた。自身があんな進言をしなければ良かったのではないか?と…

 バッティスタは席から立ち、クロムウェルの肩に手を置く。いつもの厳格な表情を崩し、優しげな笑みを浮かべながら話し始めた。

 

 「君があの時、進言してくれなければ私は躊躇し、あれを使う事などできなかっただろう…目の前で街が焼かれたというのに……私は何もできなかった……」

 

 

 クロムウェルはバッティスタの目に一瞬、暗い物が見えた。圧倒的とも言える敵の強大さ。これまでの常識の通じない敵の攻撃に対して自分達は余りにも無力だった。

 

 

 「君は軍人として、当然の判断を行ったに過ぎない。」

 

 「で…ですが!」

 

 「対策庁の頭でっかち共が何を言おうとも、君が気にする必要は無い。何よりも私が許さん。」

 

 

 バッティスタは力強く言いきる。彼は自身の進退を賭けても部下達を守るつもりだった。

 

 

 

 「結果的に見れば君は大勢の市民の命を救ったのだ。寧ろその事を誇りたまえ」

 

 「閣下……ありがとうございます……」

 

 

 バッティスタの言葉に熱い物が心の中に込み上げたクロムウェルは感謝する。

 

 「クロムウェル君。まだ戦闘は終わっていない、いや、まだ、これからだ。どうか、ついて来てくれるか?」

 

 「ハッ!」

 

 

 バッティスタは椅子から立ち上がり、幕僚から渡された魔信のマイクを手にし二度、咳払いをし声を整える。コールブランド艦橋内の全ての視線が自身に集中している事を確認すると、再度、深呼吸してマイクのスイッチを入れた。

 

 

 「諸君!勇猛果敢なる貴官らの活躍の結果、見事、敵の撃退に成功した。このたびの勝利はかつて暴虐無道なる悪魔、ラヴァーナル帝国に正義の鉄槌を下し、この世界に真の平和をもたらした栄えある我が祖国の意志を明確に体現したものであり、諸君らこそが真に護国の戦士である!必ずや諸君らの奮闘に報いる事をここに誓う!今後も貴官らの無私の忠誠に期待する」

 

 バッティスタは兵士達に労いの言葉を語り、一度、深呼吸し再度、話し始める。

 

 「しかし!未だ戦闘は終わっていない!ルーンポリス市内にて同胞達が熾烈な防衛戦を強いられている!故にこれより我々は臨時であるが陸戦隊を結成しこれを援護する!!偉大なる皇帝陛下の御寝所を踏み荒らした蛮族に、二度とこのような愚かな真似をさせんように徹底的な懲罰を加えるのだ!全艦直ちにルーンポリス港へ、全速前進せよっ!!」

 

 「「ハッ!!」」

 

 

 彼の演説に応える様に各艦艇の魔信から歓声が湧き上がる。士気は充分あり、当初はバラバラだった他艦隊との連携も今では上手く、連携出来ている。だが、それと反比例するかのようにバッティスタの表情から精気が失われ酷く疲れたように椅子に深く腰掛ける。

 

 「ふぅ……」

 

 深くため息をつくと、改めて周りを見回す。クロムウェルは既に陸戦隊の編成を行いながら各艦隊の調整を行っていた。それは的確、かつ正確に行われ一切の無駄が無いものであった。思わず自嘲の笑みを浮かべるバッティスタ。自身には出来ない判断の速さと行動力に彼は内心、舌を巻いた。かつて、自分がクロムウェルと同じ立場だった時に、これだけの事が出来ただろうか?

 

 (所詮、私などその程度の器でしか無かったという事か……)

 

 

 彼は所謂、古いタイプの軍人であり今回の戦闘で、より自身の限界に気が付いてしまっていた。恐らく、この戦争でミリシアル、いや、世界はガラリと変わってしまうだろう。欠陥兵器とは言え誘導魔光弾の実用化に成功した事がその証明であろう。時代は猫の目の様に変わっていくが、変わりゆくその世界に自分の様な古い人間の場所は無いであろう。

 

 「これも…時代か……」

 

 バッティスタの独白は喧騒に静かに消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ん……?あれ?」

 

 最初に異変に気付いたのは戦艦コールブランドの魔力探知レーダーの担当官だとされる。彼は自身に充てがわれたレーダーの操作盤のスイッチを切り替えたりしていたが、どうにも上手くいかなかったのか、一度、再起動してディスプレイに表示された数字の羅列を見て再度、困惑気味の様子を見せた。

 

 「どうしたんだ?」

 

 「レーダーがおかしいんだ。見てくれ、あり得ない数値を出している。故障したかもしれない…」

 

 「これは……確かに故障だな。こんな数値、見た事が無い。」

 

 隣に座る同僚が声を掛け、故障したかもしれないと言う。その同僚もディスプレイを覗き見るが同様の意見を出す。コールブランドは敵機からの空襲で損傷しその上、ウルティマ0型の魔素散布弾でレーダーと魔信が先程まで使えなかったのだ。故障していてもおかしくはない。そんな中通信が入る。

 

 

 「ムー艦隊から通達、『貴国製の魔力探知レーダーにて異常な魔力体の接近を感知した。そちらでは確認出来るか?』との事です」

 

 「首都防衛艦隊所属セタンタより異常な魔力を持つ飛翔体の接近を確認したと報告が…」

 

 

 「「なっ……!?!!?」」

 

 

 操作官の兵士、二人は衝撃を受ける。コールブランドだけでなく他の艦艇でも同じ魔力を感知したのだ。これは偶然でも機器の故障でも無いのだと。

 

 「一体何事だ。何を狼狽しておる?」

 

 「報告が必要なら早急にせよ」

 

 ここで彼等の上官たるバッティスタとクロムウェルが割って入る。

 

 「失礼致しました!それが……レーダーが……」

 

 「レーダーが使える様になったのなら良いではないか。何が問題なのだ?」

 

 「そ……それが異常なのです……」

 

 「何が異常なのだ?」

 

 「……これを見てください。先程、補足した魔力体なのですが…」

 

 バッティスタは要領を得ない操作官達に苛立った様子を見せる。意を決した操作官はプリントされた用紙を差し出し説明する

 

 「速度1200キロ、小型機、位置はルーンポリス上空か…」

 

 「速度から予測するに、先程襲撃してきた小型飛行物体のようですな…」

 

 「だが、レーダーでは奴等を捉える事が出来なかった筈だ。何故、この機体だけが?」

 

 

 疑問を浮かべるバッティスタとクロムウェル。今までの敵機は魔力探知レーダーでは捕捉できず、第零式魔導艦隊を含む多くの艦隊が大被害を被っていた。何故、この一機だけがレーダーに写ったのか?

 

 

 「それが……この機体、《アンノウン》なのですが、測定された魔力が異常なのです……」

 

 「魔力が異常?どういう意味だ?」

 

 「……これがエルペシオ3の魔力です。そして、これが計測されたアンノウンの数値です……」

 

 操作官は二人に数字の羅列された用紙を見せる。怪訝な表情で受け取るバッティスタだったが、それを見た瞬間、バッティスタとクロムウェルは衝撃を受ける。

 

 

 「なんだこの数値は!?ミスリル級以上の魔力だと!?」

 

 「魔導艦隊、一個艦隊分の魔力だと!?そんな物が……!」

 

 

 新たに計測されたアンノウン、それの放つ魔力量は常軌を逸していた。明らかに小型機、いや、生物が出せる魔力ではない。

 

 「て……敵の機体はこれだけの魔力を持っているのか!?」

 

 「しかし、それでは妙です!最初に空襲を仕掛けて来た時には魔力は一切、感知されませんでした!ま……まさか!?」

 

 クロムウェルはそこまで言ってハッと気付いた。バッティスタも同じ事を考えたのか、彼が何を言おうとしたのかを瞬時に理解する。彼は重い口を開く。

 

 「まさか……敵は光翼人か?」

 

 一瞬、その場の空気が摂氏零度以下にまで落ちた様な感覚を全員が感じた。かつて、全世界を恐怖で支配した光翼人の存在。それは今も尚、彼等にとって恐怖の象徴として刻み込まれているのだ。

 

 「確か…光翼人は自らの魔力だけで天の浮舟を動かせたと…」

 

 「そんな奴等を相手に…どうやって戦えば……」

 

 「恐れるでないっ!!!」

 

 「「!!」」

 

 「敵が何者かは分からん…だが、敵が何者であれ、我々に出来る事は唯一つのみ!祖国神聖ミリシアル帝国の為に全力を尽くすのだ!!」

 

 「「ハッ!!」」

 

 バッティスタの激を受け、持ち場に戻る兵士達。目の前の任務に集中した方が蔓延しつつある内側の恐怖をある程度だが、ごまかす事が出来るからだ。バッティスタは艦橋の窓の外を睨み付けた。

 

 「…化け物め……貴様は何者なんだ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「感づかれたか?」

 

 自機であるタイ・アドバンスドx-1の中でベイダーは呟いた。殺気とも言うべき気か、彼のフォースが他者の濃厚な視線が自身に向けられたのを感じ取った。

 

 (この星にフォース・センシティブは居らんと思っていたが……いや…違うな)

 

 ベイダーはこの感覚がフォースに由来する物ではないと否定する。

 

 (少なくとも敵にジェダイはいない。ならば魔法とやらか?)

 

 この惑星には魔法と呼ばれるエネルギーが存在する。恐らくはベイダーが感じた様に、この魔法とやらでベイダーのフォースを向こう側も捉える事が出来るのではないか?とベイダーは考えた。

 

 「面白い……分離主義者を相手取るよりも楽しめそうだ」

 

 

 ベイダーはマスクの中で不敵な笑みを浮かべた。彼が向かう先、第零式魔導艦隊に到達までさして時間はかからないだろう。

 

 

 

 

 

 




 《ウルティマ0型誘導魔光弾》

 前話で出てきたミサイルのような兵器。原作で出ていたウルティマ1型の前級という設定。欠陥品な上に恐ろしくコストが悪い。

 《広域高濃度魔素波散布弾頭》

 魔帝製EMP兵器のような物。尚、ミリシアル側は勘違いしているが魔帝時代の使用用途は奴隷の捕獲用非殺傷兵器でそもそもミサイルに積む代物ではない。
 EMP兵器を作ろうとしたら劣化版ミノフスキー粒子みたいな兵器になった。

 


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第14話 暗黒卿と燃える海③

 お久しぶりです。秋山です。投稿が一ヶ月遅れてしまい申し訳ありませんでした。


 ルーンポリス湾洋上 

 

 ルーンポリス港からおよそ30km程、離れた海上の空域に8機の飛行機が飛んでいた。それはこの世界で複葉機と呼ばれるタイプの飛行機であり、第二文明圏ムー国で実用化されたマリンと呼ばれる主力艦上戦闘機である。彼等の目線の先には燃え盛るルーンポリスの街並みの様子が見え始めていた。

 彼等はムー国軍の海軍航空隊に所属するパイロット達であり急遽、観測された強力な魔力体への威力偵察を行うべくルーンポリスへと向かっていた。

 

 ムー国海軍ラ・コスタ級航空母艦ラ・イーグル

 同航空隊隊長ミゲル・ケイマン中尉〘コールサイン・ソード1〙

 

 「各機へ、これより状況を説明する」

 

 同隊隊長を務めるケイマン中尉は改めて自身の部隊を見る。ムー国軍主力艦上戦闘機マリンで構成された部隊だったが、尾翼に書かれた部隊章や番号はバラバラで、よく見れば編隊の間隔も遠かったり逆に近づき過ぎているなど、不慣れというよりも連携が取れていなかった。

 

 

 (これが、あの栄光のムー国海軍航空隊の成れの果てとはな……)

 

 ケイマン中尉は陰惨な気分で心の中でそう呟いた。元々、ケイマン中尉は別の部隊を指揮していたが、彼以外の小隊はルーンポリス上空で全滅し急遽、残存兵力……要は生き残りのマリン乗り達の指揮を任されたのだった。

 

 「ボギーは1機、しかし、凄まじい魔力を放っているそうだ。少なくとも只者ではない。十二分に気をつけろ」

 

 『敵は何者なのでしょうか?魔力を持っていないと思っていたら、いきなり戦艦並の魔力を持った奴が現れるなんて…』

 

 『そんな事を言ったら何もかも訳が分からん!何なんだ!?あの飛行機は!?』

 

 『時速1200キロで飛ぶバケモノなんて聞いていないぞ!』

 

 堰を切ったように、これまで溜め込んできたであろう疑問や不満を言う兵士達。

 

 「これ以上、敵に好き放題やらせる訳にはいかない。性能差が圧倒的なのは分かっているが、何度も言うようだが黙って見ている訳にはいかんのだ……」

 

 『つまりは無駄死にしろって事さ!』

 

 「スピア3、あまりそういう事は言うんじゃ無い……」

 

 『事実だろうが!』

 

 無線から怒鳴り声で返される。だが、それも仕方が無い。彼を含めて殆どのパイロット達は命からがら逃げ延びて、漸く母艦に帰投できたというのに再び、死ぬかもしれない戦地に戻れと言うのは余りにも酷な話であった。

 

 『上の奴等は俺達を使い捨ての駒としか思ってねぇんだ!』

 

 『畜生……死ぬなら、せめて故郷で死にたかったぜ…』

 

 『帰りたい……生きてムーの土を踏みたい…』

 

 『死にたくねぇ……』

 

 (無理もない……あの中に再び戻れ、と言うのが無茶苦茶なんだから……)

 

 

 敵の戦闘機は信じられない程の速度で飛行し、機銃弾はかすっただけでマリンやエルペシオの装甲を容易く撃ち抜く程の威力を持っている。そもそもが他国の地、飽くまでも政治家同士の駆け引きの末の尻拭いが原因でここにいるという意識も強かった。彼等からして見れば祖国ムーを守るなら兎も角、なんの思いれも無い外国人の為に命を捧げろというのが土台無理な話なのだ。

 

 

 『はっ!一体、何機、生き残るやら……』

 

 「おい……スピア3、いい加減に……」

 

 ヤケクソ気味に暴言を吐くスピア3を諌めようとする。彼の気持ちも分かるがいい加減、鬱陶しくなってきた所だった。そもそも只でさえ士気の低い状況を悪化させる様な言動を取られる事にケイマンも苛立ち始めていたのも大きい。

 無線機を切り替えた、その瞬間、遥か前方から緑色の光弾が彼の直ぐ側を通り抜けていった。

 

 「!?」

 

 ケイマンが気付いた時にはスピア3の乗る機体は火球と化し、バラバラになりながら墜落していく所だった。

 

 『スピア3が殺られたっ!!』『敵はどこだっ!』『上か?!下か!?』

 

 「全機、散開しろ!」

 

 

 突然の攻撃、ケイマンは目を凝らし敵機を探すが何処にも敵は見当たら無い。

 

 

 「くそっ!どこから……」

 

 

 彼が視線を正面に戻した時、次の瞬間、高速で飛来する緑色の光弾が自機の20メートル程、斜め左を飛行していたマリン、コールサイン、シールド7の機体を直撃し爆散させる。

 

 

 「くっ……!敵は正面だ!警戒し……!!」

 

 

 そう言いかけた瞬間、再び光弾が別のマリンを撃ち抜いた。

 

 

 「なっ……!!」

 

 『敵機が見えない!!敵は透明人間か!?』

 

 『奴は何処にいるんだ!?』

 

 『地平線の向こうだっ!相当遠いぞ!』

 

 「各機!ジグザグに飛べっ!!敵に照準を合わせるな!」

 

 見えない敵に翻弄される中、編隊を崩してバラバラに回避運動しながら飛行する。だが……

 

 『あぁっ!!また一機殺られたぞ!』

 

 『どうなってるんだ!?何で当てられる!?』

 

 『あれだけ離れているのに……なんて正確さだ……』

 

 光弾はまるで意志を持っているかの様に恐ろしく正確にマリンを次々と撃ち落としていく。無論、光弾自体が自分から当たりに来る訳では無い。敵は恐ろしい程、超遠距離から正確に狙い撃つ能力を持っているのだ。

 

 「こんな……こんな事が……」

 

 だが何よりも恐ろしいのは敵のパイロットは自分達の回避した先を正確に予測した上で、それも目視で確認出来ない程の距離から狙撃する等、信じられない能力を持っている事にケイマンは底知れぬ恐怖を抱いた。

 

 「お…俺達は何を敵に回したんだ……?」

 

 その疑問に誰も応える事も無く次の瞬間、容赦の無い一撃が彼の機体を爆散させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「出力120%、仰角をコンマ12度に変更、位置はそのままだ。」

 

 「!!…!!……!」

 

 操縦桿を僅かに傾けトリガーに指を掛ける。ドロイドはベイダーにセンサーには何も表示されていないと指摘するが、それでも指示された事は命令通りに実行する。

 

 「………」

 

 一拍置き、ベイダーはトリガーを引く。反動と僅かな衝撃がスターファイターとしては小柄な方であるタイ・アドバンスドの機体を振動させ二条の緑色のレーザー光線が発射される。この時ベイダーは自機のレーザー砲をあえて連射せず、それこそ狙撃手が一発で獲物を仕留める様にレーザー弾を放った。数多のエースパイロットがそうであった様に、銀河最高峰のテクニックを持つとされるベイダーも無駄弾を嫌っていたからだ。

 

 「………」

 

 大気の影響、惑星上という事もあり発射されたレーザーはコックピットの中から直ぐに見えなくなった。数秒後、60キロ離れたケイマンらムー国軍のいる空域に到達したレーザー弾は大気で減衰していたとはいえ、マリンの装甲を溶かすには充分であった。レーザー弾はマリンを正確に撃ち抜き、超高温のプラズマ粒子が機体とパイロットを原子レベルにまで分解する。

 ベイダーはフォースを介して敵のパイロットが苦痛と絶望と共にプラズマと一体化するのを感じ取った。航空機同士、それも超遠距離からの狙撃。それがケイマンらムー国海軍航空隊を襲った攻撃の正体であった。酷な話だが、ベイダーと相対した時点で彼等の運命は決まっていたのであろう。

 

 

 

 「????」

 

 ドロイドは何故ベイダーがこんな事をしているか理解出来なかった。それもそのはずであり、ドロイドのセンサーにもタイ・アドバンスドのレーダーにも敵の姿等、表示されなかったのだ。ベイダーは自身のフォースだけで敵の位置を予測出来たのだ。

 無論、タイ・アドバンスドからの狙撃等、如何に強いフォースセンシティブを持っていたとしても並大抵の技量では不可能だ。それはベイダー自身がこの銀河系でもトップクラスの技量を持つパイロットだからこそ可能だった。

 

 「……あの艦隊か…進路はそのままだ」

 

 ベイダーはドロイドに指示を出しながらも自身の意識を集中させる。瞑想に似た感覚を彼は感じ自身の体内を流れるフォースと一体化する。

 

 「………」

 

 

 恐怖、怒り、憎しみ、痛み、苦しみ、絶望……濃厚な暗黒面、ダークサイドのフォースでこの空域は満ちていた。ベイダーは自身の暗黒面のフォースが更に研ぎ澄まされるのを感じた。そして同時に彼は一つの結論に達する。

 

 (やはり、ジェダイは居ないようだ……フォースが弱すぎる)

 

 既に多くが狩り出されたとは言えベイダーはジェダイが滅んだとは思っていない。フォースの光明面は必ず復讐するだろう。だが何よりもベイダーにとってジェダイは殲滅せねばならなかった。彼自身が過去を捨てて前に進む為に。

 

 (今の私では皇帝には勝てん……)

 

 惑星ムスタファーの敗北でベイダーは肉体の半分と、開花すれば皇帝すらも凌駕するとされたフォースの才能を永遠に失った。この20年余りベイダーは苛烈な修行を得て漸く、力の殆どを取り戻した。今のベイダーの実力は師である皇帝パルパティーン、ダース・シディアスの8割程の実力を持っている。

 

 (奴を殺し、私が銀河を征する為にも、もっと力が必要だ……より強大な暗黒面の力が……)

 

 ベイダーは熟考に耽るもドロイドの電子音声に呼び戻される。HUDに新たな情報が映し出された。

 

 「…第零式魔導艦隊……あれがか…」

 

 望遠スコープに水上艦隊が映し出される。《第零式魔導艦隊》神聖ミリシアル帝国が誇る、この惑星で最強の艦隊とされるとの情報だ。

 

 「ドロイド、艦隊の通信量が多い艦艇を特定せよ。それが恐らくは敵の旗艦だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「て……提督!!敵機から通信です!!」

 

 「通信だと?一体何のつもりだ…?」

 

 戦艦コールブランド艦橋内でバッティスタは困惑の表情を浮かべる。ムー軍のマリン部隊との交信が途絶えたと聞いて直ぐの事だった。

 

 「……クロムウェル君、君はどう見る?」

 

 「……皆目、検討が付きません。ですが、敵はマリン部隊を一蹴した手練れ……わざわざ通信を繋いできた以上、相当な自信を持っていると思われます。」

 

 「敵の意図が読めん……だが……!」

 

 バッティスタは決心した様に椅子から立ち上がる。

 

 「通信を繋げたまえ」

 

 「宜しいのですか?」

 

 「我々は敵が何者かも分からん……だが奴等とコンタクトが取れれば……せめて敵の目的を知れれば戦争を止める事も出来るかもしれん……」

 

 「閣下……」

 

 クロムウェルは思わず、その可能性は低いと言おうとしたが咄嗟に言葉を呑み込んだ。確かにそれはバッティスタの淡い期待だったのかも知れない。だがクロムウェルもその可能性に賭けたかったのかもしれなかった。誰よりも平和を望んだからこそ彼等は軍人になったのだから

 

 

 

 

 




 


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第15話 暗黒卿と燃える海④

 皆様、お久しぶりです。秋山です。
 予想以上に長丁場になりそうなので、とりあえず上げます。


 戦艦コールブランド艦橋内

 

 『貴様らに聞きたい事がある』

 

 通信機器から開口一番に聞いたのがそれであった。恐らくは壮年の男性なのであろう、聞く者に威圧感と圧力を与える低く重い声が艦内に響き渡る。

 

 「貴様は一体…」

 

 『質問しているのは私だ。質問を質問で返すでない』

 

 「っ…!」

 

 声の主は飽くまでも高圧的な態度を崩さない。意図的なのかは分からないが相手の声質には有無を言わさない不気味な迫力があった。それは単純に相手を見下しているというよりは、まるでゴーレムか機械が人間のふりをしている様な無機質で人間性の一切を捨てた様な異質な気配を纏っていた。クロムウェルは思わず圧倒され気負わせられる。クロムウェルに変わり、バッティスタが引き継ぐ。

 

 「コホン……何者かは知らんが、いきなり通信を繋いでおいて質問に答えろと?我々は互いの名も知らぬのだがな……」

 

 バッティスタは皮肉を込めて返す。相手の意図が読めない以上、下手な事を言えば通信を切られかねない。とにかく少しでも情報を聞き出さなければ意味がないからだ。だが……

 

 『私は貴様の名を知っているぞ?バッティスタ提督』

 

 「なっ!!」

 

 『先程の相手はクロムウェル大佐であろう』

 

 「何故、我々の事を……」

 

 『諜報戦は戦の基本だ。協力すれば見返りは用意しよう』

 

 バッティスタとクロムウェルは驚愕の表情を浮かべる。敵は自分達の事を調べあげている。同時に全ての合点がいった感覚もした。敵の異常な強さの正体は、技術力云々以前に自分達の情報が丸見えになっていたのも大きかったのだ。

 

 (連中はどこまでの情報を知っているのだ?だが自分から情報を傍受していると話すとは……これだけの自信、恐らくは今更、話した所で何ら影響は無いという事か……?)

 

 敵の持つ力に背筋が凍る様な感覚を覚える。だが同時にこれはチャンスではないかともバッティスタは考えた。

 

 (……少なくとも奴は油断している……上手くやれば有益な情報を聞き出せるかもしれん)

 「……なる程…それで質問とは何だ?答えたら何か見返りでもあるのかね?」

 

 『降伏する権利を与える。我が慈悲だ』

 

 「……っ!!!」

 

 余りにも屈辱的な提案をまるで当然のように話す相手に憤りを覚えるクロムウェル。だが、当のバッティスタは慣れているのか涼しい顔で接する。

 

 「なる程……実に魅力的な提案だな」

 

 バッティスタは軽く聞き流す。今まで底意地の悪い政治家や官僚、何かにつけて予算を減らそうとする財務省と散々やり合ってきたのだ。それに比べれば、この程度軽いジャブでしか無い。

 

 「ところで此方からも提案があるのだが……」

 

 『何だ』

 

 「貴官の姓名と所属を教えて貰えないだろうか?何分、此方は貴官の事を知らぬのでな。我々としても腹を割って話そうにも互いの名を知っていても損ではないと思うのだが……」

 

 相手の出方を伺うべく名前を聞く。素直に応えるとは思えないが会話の取っ掛かりになればと思ったが…

 

 

 『シスの暗黒卿ダース・ベイダー、皇帝の命を受け銀河帝国遠征軍司令官として、この星に赴いて来た』

 

 「!!!」

 

 彼等の予想を裏切り、通信の相手《ダース・ベイダー》は自身の正体を明かした。驚愕のあまりバッティスタとクロムウェルは思わず顔を見合わせた。通信の相手の放った言葉《銀河帝国》《ダース・ベイダー》このワードを以前見ていたからだ。それこそ彼等、零式魔導艦隊が首都ルーンポリスに派遣された理由でもある。

 一週間前にルーンポリスで行われた第一第二文明圏会議にて突如として乱入してきた奇妙な闖入者の起こした騒動。 銀河帝国の使者を名乗るその人物は一方的に同国への服従、即ち属国化を要求したのだ。

 

 (銀河帝国……!そしてダース・ベイダー!あの写しに書いてあった名か……!)

 

 バッティスタは事前にその要求書の写しを渡されており、本人も目を通していた。尤も、その内容は見るに堪えない様な代物であり、怒りよりも呆れ、失笑するレベルだった。愚かな指導者に率いられた国民程、不幸な者はいないとクロムウェルと話したものだ。その時の記憶を思いだしながら写しに書かれたある一文が頭に浮かぶ。

 《惑星の統治者として皇帝陛下の代理人たるベイダー卿が臨時として勤る》

 皇帝の代理人!それが意味する事は唯一つ。このベイダーという人物は銀河帝国内で相当な地位に属する人物だという事なのだ。もしかしたら位の高い貴族、はたまた皇族の一人なのかもしれないとバッティスタは考えた。

 

 (……まさかそれ程の人物を前線に送り込むとは……技術力は高そうだが妙な所で前時代的なのか?む…!)

 

 クロムウェルがバッティスタの目の前にメモ用紙を静かに置く。用紙にはこう書かれていた。

 《できるだけ時間を稼いで下さい。後もう少しで布陣が完成します!》

 「ふむ……」

 

 バッティスタは静かに頷き、クロムウェルに了解したとアイコンタクトを送る。無線機に向き直り

 

 「ダースというのが貴官の名なのか?」

 

 『……ダースとはDark Lord of the Sith……シスの暗黒卿の称号である。私の事はベイダー卿と呼ぶが良い……』

 

 「そ…そうか……して質問とは?」

 

 バッティスタの問いにベイダーは若干ならがも不快げに答えた。あまり触れてはいけない質問だったのだろう。それにしてもシスの暗黒卿とは随分と仰々しいと言うべきか、それとも彼等の国では別の意味があるのか?と、バッティスタは思った。

 

 『分離主義勢力を知っているか?』

 

 「?……昔、ムー国で内戦を起こした連中か?生憎、詳しい事は分からん」

 

 『……そうか……では…』

 

 

 その後もベイダーは質問を続けた。ドロイド軍、ジオノーシスの戦い、ヌート・ガンレイ、銀河共和国、反乱同盟……バッティスタはいずれの質問も否定した。彼には全て聞き覚えの無いワードばかりだった。

 

 『これで最後だ。ジェダイ……について、知っている事はあるか?』

 

 「……いや、知らんな……」

 

 『………』

 

 「ベイダーよ……私からも質問したい事があるのだが……」

 

 『何だ?』

 

 「……貴官は光翼人なのか?」

 

 一瞬、艦橋内の空気が摂氏零度まで下がった感覚をクルーは感じた。それはこの場にいる者、全てが知りたくも有り、同時に知りたく無いと思っていた事であった。もしも相手がイエスと答えたら、自分達はこの世界で最も恐れらている神話の怪物と戦っているのと同義だからだ。

 

 『……記録にあった古代の種族かだと?……くだらん』

 

 ベイダーは忌々しげに、そう吐き捨てた。

 

 『フォースの暗黒面を理解できん輩に滅ぼされた、くだらぬ種族だ……語るまでも無い。そして私は奴等では無い……あまり私を侮辱せん事だ…』

 

 ベイダーの発言にバッティスタは驚きを隠せなかった。この世界に住む住民であれば魔帝に何らかしらの恐れと畏怖を持っている。かつての一万年前にその悪業と、他種族を玩具の様に弄び虐殺する悪辣さから、ミリシアル人にとって光翼人は滅ぼすべき怨敵でもある。だが同時に、高度な魔法文明を極めた彼等の技術力の高さは自分達が超えるべき、明確な壁でもあり多くのミリシアル人は畏怖の念も同時に抱いていた。

 だが、このベイダーにはそういった恐れも畏怖の念も微塵も存在しなかった。寧ろ、ベイダーの口振りからは嫌悪感、それこそ雑菌や害虫に対しての物と同じ感情しか抱いていない事にバッティスタは気づいた。

 

 (魔帝も光翼人も恐れていない?一体、何者なのだ!?このベイダーとは?!)

 

 もしも状況が違えば頼もしい存在であったであろう。だが彼等は敵として今、この場にいる。

 

 

 「……そもそも何故、我が国に攻め入ったのだ?最初から国交を樹立しておけば貴国の列強入りは確実であったろうに」

 

 『この広い銀河に於いて、高々一惑星の列強の名など何の意味も無い。そもそも列強国だからこそ、この国に攻め入ったのだ』

 

 「どういう意味だ?」

 

 『ミリシアル国がこの星で最も影響力が強い国家だからだ。最上位の国家を屈服させれば下位の国家は自ずと銀河帝国に服従する道を選ぶであろう。列強諸国で最も力を持つ国が偶然、神聖ミリシアル帝国だった……それだけの話だ』

 

 「バカなっ!そんな単純に事が進むと本気で思っているのか?!」

 「そうだっ!他の列強諸国や諸外国が黙っていない!全面戦争が起こるぞ!」

 

 幕僚達が口々に叫ぶ。最早、事は銀河帝国と神聖ミリシアル帝国の二国間の問題では無い筈だ。大陸間、文明圏全てを巻き込んだ戦いになるのは明白だった。だが、ベイダーは一切、動揺を見せない。

 

 『ならば全て滅ぼすまでだ』

 

 「くっ!貴様らの目的は何なのだ!この世界を地獄に変えるつもりか!」

 

 『逆だ。全てはこの星に秩序を齎す為の救済だ。』

 

 「き…救済だと?」

 

 思わず聞き返した幕僚の一人。ベイダーが何を言っているのか理解出来なかった。この場に及んで救済とは一体、何なのか?

 

 

 『この星は野蛮で無知すぎる。それは銀河の法すら知らぬ列強とやらが支配しているからだ。故に一度それらの枠組みを解体し、全ての国家を帝国の恐怖という力で管理統制する。ミリシアル国は銀河帝国に逆らい滅びた愚かな国家としてこの惑星の歴史に残るだろう。帝国に逆らう事への愚かさを理解すれば戦争は起こらん。それが今後、無益な戦いを防ぐ唯一の方法だからだ』

 

 ベイダーは底冷えする様な口調で自身の目的を告げた。恐怖による統治。俗に言われるターキン・ドクトリンの本質でもあった。平和の実現の為に少数の犠牲はやむを得ない、謂わば、ミリシアル人はその為の見せしめ、生贄なのだ。

 

 『自分達の星を救いたければ大人しく降伏すれば良い。それが出来ぬなら、せめて死して滅びゆく祖国の為に殉教せよ。それが最も犠牲が出ない方法だ』

 

 死のうが生きようが、どちらでも好きに選択すれば良い。どちらを選んだとしても結果は変わりはしないとベイダーは暗に言った。

 

 『どちらにせよ、貴様らには決定する権利も無ければ、それを覆す事が出来る力も無い。精々、抗い人柱として役に立つ事だ。抵抗した所で結果は何も変わらん』

 

 「ふざけるなっ!!!救済だとっ!?犠牲が出ない方法だとっ!?我々を何だと思っている!?」

 

 クロムウェルは激昂した。ベイダーの言い分は余りにも一方的で理不尽な物だった。何よりも死者を愚弄するかのような発言に彼は我慢ならなかった。

 

 「貴様が殺した兵士達には皆、帰りを待っている家族がいたんだ!貴様が焼いた街には大勢の人々が暮らしていたんだ!」

 

 クロムウェルの脳裏に艦隊の面々の顔が思い浮かんだ。かつて同期だった水兵……彼自身は昇進には恵まれなかったがクロムウェルの昇進をまるで、自分自身の事の様に喜び、祝ってくれた。

 あるパイロットは結婚を控えていた。ある兵士は子供が産まれたばかりだった。彼等には皆、それぞれの人生があった。為さねばならない事があったのだ。迎えるべき明日を日常があったはずなのだ。

 

 (こんな理不尽な形で……終わっていい訳があるかっ!)

 

 だが、彼等にそんな日常も明日も最早、訪れる事は永久に無い。皆、爆炎の中に消えてしまったのだ。

 

 「それをこうも簡単に消し去り!奪っておいて秩序だと!?救済だと!?ふざけるのも大概にしろっ!」

 

 

 

 『……全ての生命体の細胞にはミディ=クロリアンという細胞小器官が存在している。これは命の源でもありフォースとの繋がりを可能としている。全ての生命体はフォースによって生まれ導かれ死んでいく……それがどれだけ人々から愛された者であろうとも……他者から生きて欲しいと願われた者であろうとも……理不尽に不条理に死ぬ事がある……死だけは避けられんのだ』

 

 「何が言いたい……?」

 

 『貴様らに理解出来るように説明すれば、人の生き死はフォースを介して運命で決まっている。今日、この戦で死んだ者達は死すべき時に死んだ……唯それだけの事だ』

 

 「!!」

 

 『無論、戦端を開いたのはこの私である。血の復讐を遂げたいのであれば如何なる相手であれ受けて立とう……全力で叩き潰すのみだ』

 

 「貴様っ……!!」

 

 「よせっ!もういい!クロムウェル君!」

 

 「て……提督!しかし!」

 

 「命令だ……!作業に戻りたまえ!」

 

 バッティスタは魔導レーダーに目配せし、クロムウェルに戻る様に指示を出す。クロムウェルはハッと気づいた様に直ぐに戻って行く。

 

 「……ベイダーよ……貴様の言っている事は間違いではない……だが正しいとは思えん!」

 

 『………』

 

 「恐怖による支配と言ったな?そんなやり方は絶対に上手くはいかん!大きな反発を招き失敗する!」

 

 恐怖による統治、それは有効な手段の一つである事は間違い無いだろう。だが、行き過ぎた恐怖はいずれにしろ大きな歪みを産み、より大きな戦の原因にもなり得るのだ。現にこの星では魔帝は終焉を迎え、遥か銀河の彼方ではラカタやシスの帝国が自ら生み出した恐怖という暗黒面に呑まれ滅亡した様に恐怖による力は自らも滅ぼす諸刃の剣でもあるのだ。

 

 「断言する!必ずや貴様ら銀河帝国に抵抗する者達が現れる!」

 

 バッティスタは断言する。敵が如何に強大であろうとも必ずや反抗し続ける者達が現れると。嘗ての自分達の先祖の様に抵抗する者達がいた様に。そしてそれは当たっていた。現に銀河帝国に抵抗する反乱同盟軍が着々と力を付け、反抗の機会を伺っているのだ。

 

 『我々の試算では例え反乱する者が現れようとも犠牲は少数で済む。銀河の秩序の為なら高が少数の犠牲を切り捨てるのはやむを得ない……』

 

 「なる程!高が少数の犠牲か!ならば問おう!その切り捨てるべき少数に、もしも貴様の家族や友人、愛する者が居ても同じ判断を貴様は下せるのかっ!?運命だったと忘れる事が出来るのか!?」

 

 『…………』

 

 バッティスタの問いにベイダーはしばし沈黙した。やがて押し殺した様な口調で話し始めた。だが……

 

 『……シスの暗黒卿に家族は存在しない……フォースの暗黒面に情愛など無用だ……くだらぬ感情はとうに捨てた』

 

 

 「……なる程…貴様に良心は無いようだな……」

 

 それは僅かな差であったがベイダーに動揺の色が見えた。しかしそれは飽くまでも本当に僅かな物でしか無く、彼からは人間性の欠片も見出だせなかった。バッティスタは嘆息しこれ以上の会話は無意味だと悟った。決して分かり会えないという見えない壁を感じたからだ。

 

 『話は終わりだ。答えを聞こう』

 

 

 

 

 「提督!布陣が完成しました!」

 

 「分かった……漸くか……」

 

 クロムウェルの報告に力強く頷いた。

 

 「降伏するかと?それはこちらの台詞だ!貴様の機体の斜め後ろを見よ!ベイダー!」

 

 レーダーにはベイダーの乗る機体を表す光点を包囲する様に光点が点滅していた。事前に発進させていた艦載機達だ。クロムウェルは偵察に出していた部隊を密かに呼び戻した上でベイダーの乗る機体を包囲出来る様に配置したのだ。

 

 「総勢12機の天の浮舟が貴様を包囲している!最早、逃げられぬぞ!」

 

 「チェックメイト……詰みだ。ベイダーよ……確かに貴様は強い……だからこそ驕ったのだ……!こんな策に引っ掛かるとはな……」

 

 ボードゲームで例えれば既にベイダーは詰んでいたのだろう。天の浮舟達は後方という極めて有利な位置でベイダーの乗る機体を包囲していた。何とか彼の気を引き、警戒されない様にベイダーを包囲する様に調整するのは苦難の技であったが作戦勝ちとも言える結果だった。

 

 「降伏するのだベイダー!空母に着艦して貰おうか……この馬鹿げた戦いを終わらせる為にも交渉の席に座って頂こうベイダー卿?」

 

 全ての決着が着いた。この包囲網からは何人たりとも抜け出す事は出来ない。バッティスタは勝利を確信していた。ベイダーが銀河帝国に於いてかなりの地位に属する人物だとは分かっている。ならば彼を捕虜にすれば他の部隊も迂闊に攻撃出来ない筈だ。

 

 (これで失った命に報いる事が出来たか……)

 

 バッティスタは既にそれなりの戦略的構想を考えていた。ベイダーの身柄と引き換えに銀河帝国政府に講話を持掛ける。無論、ベイダーの話を聞く限り素直に応じるとは思えないが、敵の兵器や戦術等の解析にある程度の時間は稼げる筈だと

 

 

 

 『……勘違いするでない……』

 

 通信機からベイダーの声が聞こえた。だが先程、一瞬見せた動揺は既に無かった。

 

 『言うた筈だ……滅ぼさなかったのは我が慈悲だとな……』

 

 まるで地獄から響く様な声でベイダーは静かに告げる。

 

 『……貴様らに我が暗黒面の力を見せてやろう……』

 

 地獄の釜の蓋が開こうとしていた

 




 何だかベイダーが恐ろしくセンチメンタルな性格になっている様な気が……

 感想お待ちしています。


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第16話 暗黒卿と燃える海⑤

 お久しぶりです。秋山です。

 かなり期間を開けてしまいました。大体、次作位で総括してから別の戦線の状況を執筆したいです。


 《ブロンズ級魔導小型哨戒艦》

 

 神聖ミリシアル帝国に於いて一般的に小型艦と称されるこの魔導軍艦は、その名の通り領海の哨戒任務から大型艦艇の随伴、護衛、小規模な艦隊の旗艦も兼ねる等、戦場を選ばない万能艦としてミリシアル海軍の一翼を担っていた。

 

 武装は12.7cm2連装魔導魔導砲を3基、10cm連装魔導高角砲を2基、アクタイオ25mm3連連装魔光砲を4基も備える等、同型の小型魔導艦としては極めて重武装であり、速度も40ノットと速力も高い上に尚且つ燃費も良く、船体もミリシアル製戦艦にも導入されている複層式硬化魔法済魔法鋼製であり魔力の注入によって防御力を上げる事が可能と数的には事実上の主力艦として、戦艦や空母の様な華は無いものの現在のミリシアル海軍のワークホースとも言える艦であった。

 

 装備面からも分かる様にブロンズ級は砲撃戦と対空戦に重点を置いた砲艦的な艦艇でもあり性能面で言えばムー国海軍のラ・デルタ級に匹敵する程の性能を有しており、現状の戦力差であれば世界中の艦艇が一気に攻め込んで来ようともブロンズ級だけで撃退出来ると言われていた。

 

 

 

 「………」

 

 とは言えブロンズ級自体はそれ程、珍しい艦艇では無く戦艦や空母の様に注目を集める事は殆ど無いであろう。少なくともカルトアルパス港管理局局長を勤めている人物が曰く『見飽きた船』と言う程には。

 

 「………」

 

 そんな良くも悪くも凡庸な艦艇の一隻、ブロンズ級カリバーンは今、外が見える物全員の注目を集めていた。甲板要員も砲座の砲手も見張り員も上空を飛ぶ天の浮舟のパイロット達も艦橋内の要員も全員がカリバーンを見つめていた。

 

 「………」

 

 ある者は目の前の光景が信じられないと呆然とした表情で、ある者は理解が追い付かずぼんやりとした表情で、ある者は只、魅入られた様に見つめていた。誰かが口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 「……浮いている……いや、飛んでいる……」

 

 

 カリバーンは海上をゆっくりと飛翔していた。本来なら喫水の為、見えない筈の船底の赤い塗装までも良く見えた。それどころか船尾の回転し続けるスクリューまでも露わになっていた。コールブランド艦橋内でバッティスタは呆然とその光景を見つめていた。それはあってはならない光景だったからだ。

 今の時代、空を飛ぶ事自体はそう珍しい事では無い。人類はワイバーンを使役し大空を制した。そして技術を発展させ天の浮舟や航空機を作り出した。だが、それは飽くまでも空を飛ぶという目的の為があり、その為の多大な年月と技術者達の涙ぐましい努力の結果、得られた物だった。

 1500トン以上も重さがある鉄塊を浮かせる事など彼等には到底不可能な事だった。バッティスタは漸く重い口を開く事が出来た。

 

 「……ベイダーよ……」

 

 バッティスタは自身の声が恐怖で震えているのに気が付いた。これは一体何なのだ?何故、魔導艦が空を飛んでいる?一体どうやって?

 

 「これは貴様がやっているのか……?」

 

 異常な魔力の持ち主。明らかに人知を超えた存在……消去法で考えれば、ベイダーが何かしらの魔術……いや、自分達の知らないもっと何か別の魔法を使ったのは明らかだった。だが、この目の前の現象を起こせる魔法を彼等は知らなかった。

 

 『言うた筈だ』

 

 

 『話は終わりだ』

 

 ベイダーは質問に答えず一方的に通信を切った。そして通信が切られるのと同時であった。カリバーンが落下を始めたのは。

 

 「!!!」

 

 カリバーンの真下には《ルテニウム級魔導航空母艦ハラダム》が航行していた。ロデオス級魔導航空母艦の前型である旧式単胴艦であり本国防衛艦隊に所属する艦であったが運良く被弾せずに、ここまで残存艦隊の防空任務に当たっていた。だが彼女の幸運も今、尽きてしまったのだ。

 

 「あぁっ……!!」

 

 まるで鉄の皿を数千枚、数万枚、叩きつけた様な音が鳴り響く。カリバーンの船底がハラダムの飛行甲板に叩きつけられたのだ。衝撃の余りハラダムは一度、激しく沈み込み水しぶきが舞う。下敷きになったエルペシオやジグランドが誘爆、爆発し、落下の衝撃で吹き飛ばされたカリバーンの見張り員や砲手が飛行甲板に叩きつけられ、ピクリとも動かなくなる。奇しくもハラダムはベイダーに着艦する様に要求した魔導航空母艦であり、彼の意趣返しとして見ればこれ程の物は無いであろう。

 

 「た……大変だ!」「あ……あれでは着艦も発艦も出来ないぞ!!」「それどころじゃない!あれでは艦自体が持たない!見ろ!速度が低下している!」

 

 混乱の最中、小型艦カリバーンから通信が入る。通信の相手は息も絶え絶えな様子で報告する。

 

 「そちらの被害は!?大丈夫なのですか!?」

 

 『……艦長と副長は亡くなりました………』

 

 「なっ!!」

 

 カリバーンは海上から100メートル近い高さからハラダムの甲板に叩きつけられた。当然、落下の衝撃で艦外にいた者は艦から弾き出されるか、艦の構造物に叩きつけられるか、そのどちらかであり、運良く海に落ちた物以外は重症か即死していた。だが艦内にいた者は脱出する事も叶わずに鉄のミキサーと化した艦の中で、ある者は血反吐を吐きながら死を懇願し残りの者は既に息絶えていた。

 

 『艦橋にいた者は私以外全滅です……私も吐血が止まりません……後の事は……』

 

 そこで通信は切れた。誰かが固唾を飲む。だが、事態は彼等に呆然とする暇すら与えない。

 

 『こ……こちら魔導母艦ハラダム!バルジが割れた!!装甲の強化が間に合わないっ!!浸水しているっ!!』

 『ダメコンが追い付かないっ!!ゴホッゴホッ……艦内で魔素漏れが発生中!!』

 『これ以上浸水が抑えられない!沈んじまうぞ!』

 『中枢魔術回路が機能不能!!魔力の供給が……!』

 『第3区画で火災が発生!!液体魔石に引火する前に消火チームの派遣を!!』

 

 

 

 「何という事だ……」

 

 「提督!ハラダムとカリバーンはもうダメです!早急に退艦を……うわっ!!」

 

 「うおっ!な…何だ!?」

 

 突如として艦が傾きバッティスタ達はよろめく。どういう事かいきなり艦艇を回頭させたのだ。

 

 「何をしておるっ!?」

 

 「私は何もしていません!操舵輪は正面に固定しているのに勝手に……」

 

 「馬鹿な……!」

 

 「提督!他の艦からも同様の事例が起こっていると!!」

 

 

 矢継ぎ早に送られる報告を前にバッティスタは思わず吐き気を催した。小型艦を不可視の力で持ち上げた挙げ句、今、自身の乗るコールブランドを含む艦艇を強引に動かす等、ベイダーの持つ力は明らかに只の人間が出せる魔力では無かった。恐らくは、かの光翼人をも凌駕するであろう。

 

 (ベイダー……!奴は光翼人を超えているのか!!)

 

 

 「前方にラ・カサミ級!」

 

 だが、事態は彼に驚愕する暇も与えない。前方からムー国海軍戦艦ラ・カサミが回航しながら迫って来た。

 

 『こちらラ・カサミ!制御不能!!舵が効かない!』

 

 「ラ・カサミへ!速度を落とせないか!?我々は逆に速度を上げてすれ違いになれば……反航戦の要領と同じだ!!」

 

 『了解した!やってみよう!』

 

 「全速前進っ!!最大にまで速度を上げよ!」

 

 「各員、衝撃に備えろ!」

 

 

 

 「ぶつかるぞぉ!」「衝撃に備えろ!!」

 

 両艦は互いに相対した。船外にいた水兵達は気が気でない。何しろ巨大な戦艦同士がぶつかれば双方、唯ではすまない。

 

 「クソっ!まだなのか!?」

 

 船体の大きい船程、直ぐに速度を上げる事は出来無い。焦る水兵達を尻目にコールブラントはラ・カサミに直進し続ける。

 

 「もうダメだっ!!ぶつかっちまう!!」

 

 コールブランドとラ・カサミの舳先があわや衝突するかに見えた。だが、ギリギリの所で魔導機関が唸りを上げ、軍馬の如く海上を疾走する。逆にラ・カサミは道を譲るかの様に寸でのタイミングで互いのウェーキをなぞる様に通り過ぎていった。

 

 「あ……危ねえっ!!」「あと数秒遅れていれば…とんでもない事に……!」「おい!見ろ!あの船を!!」

 

 艦首同士がぶつかり合う艦艇や、逆に横っ腹から突進され横転した艦艇、真っ二つになり轟沈しゆく艦艇、真後ろから突進されスクリューを破壊されたせいで航行不能となる等、艦隊は混乱の極みとなった。

 

 「こんな事が……こんな馬鹿な事が……!」

 

 「て……提督……エルペシオ隊からの通信ですが…」

 

 「エルペシオ隊か!?良かった!直ぐにベイダーの機体を撃墜せよ!奴は危険すぎる……!」

 

 「それが機体のコントロールが出来無いと……」

 

 「!?」

 

 「彼等も混乱しているせいで詳しくは分かりませんが、何か大きな力で機体を強引に動かされていると……」

 

 

 バッティスタの脳はこの時、完全に思考を放棄した。というよりは、ある種の事実に気がついてしまった。自分達は絶対に敵にしてはならない相手に戦争を起こしてはしまったのではないかと……

 

 

 

 

 

 

 

 「クソっ!動けっ!!動いてくれ!!」

 

 「速度700!800!このままだと機体が分解しちまう!」

 

 「誰か止めてくれ!!」

 

 エルペシオのパイロット達は恐慌状態に陥っていた。操縦桿やフットペダルをいくら動かしても機体が操作を受け付けないのだ。いや、正確には機体の操作は出来る。だが、それ以上に強大な力で機体を引っ張られていると言った方が正しいだろう。

 

 「クソっ!せめて後、少しだけ機体をずらせれば……」

 

 彼等の正面にはベイダーの乗るタイ・アドバンスドが見えた。あたかもエルペシオの編隊を先導するかのように堂々と飛んでいた。

 

 (射線さえ合えば奴を撃墜できるというのに……!何も出来ないなんて……!)

 

 敵が目の前に居るというのに何も出来無い状況に歯噛みする。味方のエルペシオは自身を含めて12機、一時は完全に背後を取り、これ程では無い程の有利な状況だったというのに、敵のデタラメとしか言いようが無い魔法で全て覆されてしまった。

 

 (だが何故、無防備に後ろを晒したままなのだ?)

 

 敵のパイロットの腕を考えれば直ぐにでも謎の魔法で動けない自分達の後方を取り全機を撃墜する事など容易い筈である。だが敵機は敢えて自身に不利な後方部を見せたまま飛行し続けている。

 

 「くっ……!何が目的なんだ!?……ん?」

 

 

 編隊は艦隊に向けて飛行している事に気がついた。上空から見える艦隊の様子はかなり悲惨な物だった。衝突され横転した艦艇、ボイラーが破損したのか黒煙を上げながらボートを下ろすムーの艦艇、魔導母艦ハラダムに至っては飛行甲板上のカリバーンが炎上している上に多数の艦艇が突き刺さる様に衝突し、一つの鉄塊の様になっていた。

 

 「何という事だ……こんな酷い状況になっているなんて……」

 

 艦隊は既に統率を失い、その多くが戦闘に参加する事が出来ないのは一目瞭然であった。

 

 (……だが奴の目的が分からない……何故、俺達をわざわざ生かしておく必要がある?)

 

 艦隊の惨状を見せつけて心をへし折り、屈服させるのが狙いなのだろうか?だとしても解せない。

 

 「な……何だっ!?ぐっ……!!」

 

 

 

 それも信じられない速さで降下し始めた。凄まじいGが掛かりタウルス中尉はコックピットシートに押し付けられる。

 

 「……まさか…奴の狙いは……!」

 

 タウルス中尉は自分が考えた最悪の場合に背中に嫌な汗が流れるのを感じ取った。

 

 「奴は……ベイダーは俺達を艦にぶつける気だっ!!」

 

 「「!!??」」

 

 タウルス中尉らはベイダーの意図に気が付いた。そして、それを証明するかの様に彼等の機体は更に速度を増し、艦隊に一直線に突撃していく。

 

 「じょ…冗談じゃない!!」「動けっ!畜生!畜生!!」「誰か!助けてくれっ!」「嫌だっ!こんな所で!」

 

 何とか機体のコントロールを取り戻そうと操縦桿を動かし、更にはランディングギアも出して速度を落とそうとする者もいたが徒労に終わった。タウルス中尉の眼前に燃えるハラダムの飛行甲板が迫る。

 

 「神よ……!」

 

 

 

 

 

 

 「担架を……急げ!!」「重症者から運び出せ!!」「ソイツはもう死んでいる!生きている者を優先しろ!!」「誰か魔力の高い者はいないかっ!消火システムが破損した!魔力で動かしたい!」

 

 カリバーンの飛行甲板では大勢の水兵達が負傷者の搬送と治療を行っていた。

 

 「無線だろうが魔信だろうが何でも良いから早く艦をどかす様に言ってくれ!あれではボートを出せない!」

 

 魔導航空母艦ハラダムの乗組員は現在、総員退艦を命じられていた。カリバーンの落下に加えて他の艦艇に衝突され、唯でさえ旧式艦のルテニウム級では限界であった。

 

 「それが……どの艦も混乱の真っ只中で……」

 

 「おいおい……!連中は状況が分かっているのか?いつ、爆発してもおかしく無いんだぞ……?」

 

 そう言って飛行甲板上に鎮座するカリバーンを見上げる。流石に軍艦である以上、生半可な損傷で砲弾や炸薬が爆発する事は無いであろうが、予断を許さないという状況は変わりはしない。

 そんな中、空襲警報が響き渡る。

 

 「チィッ!こんな時にっ!!総員、砲座に付け!」

 

 「「ハッ!!」」

 

 上空を見上げると敵の機体と、それを追尾するエルペシオの編隊が見えた。敵機は速度を落とさず、ほぼ垂直の状態で突撃して来る。

 

 (嘘だろ……!まさか自爆するつもりか!?)

 「ヤバい!突っ込んで来るぞ!」

 

 あわや、ぶつかると誰もが思った時、敵機は飛行甲板をフライパスし、そのまま飛び去っていく。思わず安堵する水兵達。

 

 「ふぅ…危ない所……」

 

 そう言いかけた瞬間、彼等は爆風と衝撃波に吹き飛ばされる。顔を上げると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

 「なっ……!!」

 

 小型艦カリバーンは松明の様に燃え上がっていた。唖然とする間も無く、更に衝撃と爆発が彼等を襲う。後ろを振り返ると飛行甲板に突き刺ささり炎上するエルペシオと最早、原型すら留めていない仲間達の残骸が広がっていた。

 

 「何で味方機が突っ込んで来るんだ!?」

 

 「もう1機、来ます!!」

 

 「クソ……!お前ら艦後部まで走れっ!」

 

 「……!味方はどうするんですか!?」

 

 「言ってる場合か!もう、この船は保たない!!」

 

 一瞬、取り残される味方の事を躊躇したが生き残った水兵の多くが艦後部から飛び降りる。

 

 「プハァっ!!」「こっちに来い!ボートの残骸があるぞ!」「あぁ……艦が……」

 

 艦のデッキや開口部からは紅蓮の炎が吹き上がり、艦全体が小規模な爆発音と金属の軋む音と共に、やがて中央から真っ二つに裂け始めた。この時、魔導母艦ハラダムは計4機のエルペシオ3が特攻していた。その際、2機が格納庫と甲板を繋ぐ艦載機用後部エレベーターに直撃していた。1機目がエレベーターを圧縮粉砕、巨大な破口に変えた後、数秒差で2機目が破口に突入したのだ。その際、生じた液体魔石と魔光砲弾の誘爆は艦内格納庫を紅蓮の炎で舐め尽くし、乗組員と装備品全てを燃やし尽くしていた。

 

 「魔導艦カレト、轟沈!」

 

 「魔導艦ヴルッへ大破!炎上中です!!」

 

 「戦艦カリブリヌス、浸水甚大!これ以上の航行不能!!」

 

 「あぁっ!!また味方艦が……!」

 

 「」

 

 (……何なんだこれは……)

 

 限られた戦力、時間、そしてタイミング、少なくともバッティスタ達はこの全てに於いて不足した不利な状況下でも、何とか反撃の糸口を探るべく奮闘してきた。

 

 (……万全の戦力では無かった……)

 

 無論、彼とて全てが予定通り計画通りに進むと思う程、楽観論者では無い。それでも出来得る限りの準備を整え、想定される全ての不安定要素を潰し、少しでも自分達の作戦、それこそ一世一代、最後の賭けに全てを賭けたのだ。

 

 (……ダース・ベイダー……奴が現れた時……僥倖だと思った……だが……だがっ……!!)

 

 ダース・ベイダーを名乗る異常な魔力を持つ人物の接触に彼は寧ろチャンスだとすら思っていた。断片的ながらもバッティスタはベイダーの事を知っていた。少なくとも銀河帝国の重要人物である事は間違いないであろうと。故に捕虜に、生け捕りにすれば、この戦局を……戦争そのものを終結させる事も夢ではない筈だと。だが……

 

 (甘かった……!!奴は我々が相手にして良い存在では無かった……!!)

 

 彼は怒りの余り思わず拳を握り締めた。何故、気付かなかったのか?わざわざ敵陣のど真ん中に、それも護衛も付けずに単騎で現れたのか。その状況下で何故、降伏勧告に来たのか?思い返せばベイダーが尋常では無い存在だと言うのは、いくらでも思い当たる節があった。そもそも最初に魔導レーダーで魔導艦隊一個艦隊にも匹敵する魔力を持っていると分かっていた筈だと言うのに……

 それでも僅かながらのチャンスに、文字通り全ての可能性をベットしたのだ。

 

 「……これだけの犠牲を払ったと言うのに……まだ足りないというのかっ!!」

 

 作戦は突貫であったが殆どは上手くいった。辛うじて制空権を取っていた空域にベイダーを誘導し、別動隊の味方の天の浮舟が包囲し投降させる。この時点で彼等は勝利を確信していた。だが、その顛末は彼等の想像を超えた形で呆気なく覆されてしまった。

 例えるならばボードゲームの盤をひっくり返す様な物だった。これ程、理不尽で不条理な事は無い。

 

 「……私では……勝てん……」

 

 圧倒的なまでの実力差に、絶望的なまでの現実にバッティスタは徹底的に打ちのめされてしまった。

 

 「ほ……本艦に接近する味方機を確認っ!!」

 

 「て……提督……」

 

 「……っ」

 

 バッティスタは思わず言い澱んだ。何をすればいい?一体どうすればいい?どうすれば奴を止められる?何か指示を出さなくてはいけないのは分かっていた。だが、この絶望的としか言えない状況を都合良く打開出来る策等、思い付く事など不可能であった。彼は暗くうつむき、力無くシートに腰をおろした。

 

 「……諸君……済まなかった……」

 

 それが何の謝罪なのかバッティスタ自身にも、もはや分からなかった。瞬間、艦橋を爆風の嵐が襲い、艦橋内に居た全員の意識を刈り取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「コールブラント通信途絶!」

 

 「ミリシアル海軍の損失9割に!」

 

 「ラ・ムツ轟沈!ラ・フェニックス!傾斜により航行不能!」

 

 「残存艦隊を結集させろ!このままでは各個撃破にされるぞ!」

 

 ムー国海軍ラ・カサミ級戦艦の艦橋内でジョセフ・ミニラル大佐は檄を飛ばした。今、彼等、ムー国海軍将兵は未曾有の危機に立たされていた。

 

 「ローランド大破!ネービ轟沈!」

 

 「ラ・トウエン、出力低下!これ以上の速度は……!」

 

 「諦めるなっ!我が艦隊、最後の空母なんだぞ!」

 

 「まさか……これ程の被害を受けるとは……」

 

 ムー国海軍艦隊は運良くルーンポリス湾外外周部への警備を任されていた事もあり、艦載機以外の損害は殆ど無かった。第零式魔導艦隊や他のミリシアル海軍からの報告である程度の情報は得ていたものの、これ程までに隔絶した差があるとは思っていなかったのだ。

 

 「兎に角、何としてもこの事を国王陛下にお伝えしなければ……」

 

 (我々、ムー国もこのままでは……!)

 

 焦燥の中、ミニラルは何としても情報を持ち帰るべく奮闘するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 「………」

 

 艦隊上空を縦横無尽に1機のスターファイターが駆け抜けていく。ベイダーの乗るタイ・アドバンスドである。彼は眼下に見える小型魔導艦に向けて機体を降下させる。

 対空砲の嵐を機体を僅かに傾け回避するとトリガーを引いた。連続されてタイ・アドバンスドから放たれたレーザー弾が魔導艦の前部主砲塔に直撃、ビックリ箱の様に吹き飛ぶ。砲塔下部には弾薬庫から砲弾を運搬する為の揚弾筒という装置があり、レーザー弾は砲塔の装甲を貫通し揚弾筒から弾薬庫に到達したのだ。

 魔導艦は艦首から艦橋にかけての艦体を丸ごと爆散させ、僅か数秒足らずで海底に没した。

 

 「脆すぎる……所詮はこの程度か……」

 

 ベイダーは内心、落胆していた。この戦場には彼を満足させうる強敵がいないのだ。無論、自身の持つ圧倒的な力で、遥かに劣る格下の相手を一方的に叩き潰す事はシス卿たる彼にとって快感であったが、流石に数だけは多い相手、それも性能やパイロットの技量でも劣る敵を何度も撃退する事に、戦いに対しての爽快感よりも単調な作業を何度も繰り返す作業感に似た感覚を覚え始めた。

 

 「!……!……!!?!」

 

 「敵機か……まだ居ったとはな……」

 

 ドロイドからの警告の直後、後方から銃撃を受ける。ベイダーを機体をバンクさせ、それを回避する。

 

 『避けられた!?』『怯むなっ!もう一度だ!』

 

 「生き残りか……」

 

 追撃しているのはエルペシオ3、先程までベイダーを包囲していた12機の生き残りであった。運良く彼等は機体がぶつかる寸前にベイダーのフォースによる拘束が緩んだ事で仲間達の様に特攻する事を免れていたのだ。

 

 「見逃してやった様な物を……愚かな……」

 

 『黙れっ!!貴様に殺された仲間達の為にも……!』

 『例え、この身滅びようとも……!』

 

 「自ら破滅へと向かうとはな……」

 

 エルペシオのパイロット達は尚もベイダーに追い縋ろうとする。彼等は何としてもベイダーに一矢報いらんと己のプライドに賭けて自分達の勝利を信じて操縦桿を握っていた。そんな彼等にベイダーは苛立ちを感じていた。

 自身に憎悪を向けられるのは慣れている。ならば、この自身の中でフツフツと沸き立つこの怒りは何だ?以前にも似た感覚を感じた気がする。自身の肉体を機械に変える前に

 

 (成る程……重ねていたというのか……この星の者とジェダイを……)

 

 現状を理解しようとせず愚直としか言えないミリシアルの軍人達、外の世界を知ろうともしない傲慢さ、閉ざされた惑星の価値観と列強制度と言った閉鎖的な制度。

 飽くまでもライトサイドに拘り続け今の時代を直視せず視野狭窄に陥ったジェダイ達、改革の機会等いくらでもあったにも関わらず掟に固執し続けたオーダー。

 規模や組織は異なるが、かつてベイダーが籍を置いていたジェダイ・オーダーと状況が似通っていたのだ。自身を認めようとしなかったオーダーに。ベイダーは自身の不愉快さの理由に気づき彼の心にドス黒い感情が芽生えた。

 

 

 

 (だからこそ貴様らは滅びるべきして滅んだのだ)

 

 ベイダーは右手を掲げフォースを集中させる。その先にあるのはエルペシオ2機、すると突然、その2機は弾かれた様に軌道を変え衝突した。両機は爆発炎上し燃えるスクラップに成り果てた。一瞬だったが無線にパイロットの断末魔の悲鳴をベイダーは聞いた。

 

 「………」

 

 これで終わりでは無い。ベイダーは炎上するエルペシオの残骸を自機に向けて対空砲を撃ちまくる艦艇に先程と同じ様にフォースの能力の一種、〘テレキネシス〙で操り、艦艇に雨の様に浴びせる。残骸には大量の液体魔石が満載されており、文字通り火炎の雨を浴びる事となった。

 

 

 〘テレキネシス〙

 

 フォースを介して物体を浮遊、操作できる能力である。ジェダイやシスでは基本的なフォースの能力であり、遠方にある物体を引き寄せる、逆に近くにある物体を相手にぶつける等、戦闘面では多彩な応用が出来る。又、自身の肉体に応用すれば常人以上の身体能力を発揮出来る等、応用次第では極めて強力な能力である。

 物体を動かすという初歩的な能力とは言え、熟練のジェダイ、シス卿が扱えば並の兵士では相手にならない程の能力を発揮する。かつて4000年前に勃発したシス大戦、その大戦を引き起こした最強のシス卿エグザ・キューンは、このテレキネシスの力だけで大陸の地形を変え、惑星一つを破壊する等、造作もないと言われていたとされる。

 近年の例ではクローン大戦末期、コルサント防衛戦の際にジェダイの長、マスター・ヨーダが迫りくるB-2スーパーバトルドロイドの大群をテレキネシスの応用の一つ、フォースプッシュで押し返して撃退した事が良い例であろう。

 

 

 「………」

 

 ベイダーは燃える艦艇を見た。燃え上がる甲板上で水兵達が火達磨になりながら悶え苦しんでいた。生きながら焼き殺される彼等の姿に、ベイダーは自身に移植された人工皮膚が焼け付く様な痛みを感じた。そして、それは遠い昔の記憶を思い出さずにはいられなかった。

 

 

 『……選ばれし者だった!……それなのに暗黒面に堕ちるなんてっ!!!』

 

 ……あんたが憎いっ!!!……

 

 『……弟だと思っていた……愛していたんだ……』

 

 

 あの時の敗北、そして別離。それは彼にとって、ある種の呪いのようでもあり、これまでの過去との決別だった。

 

 

 

 (何処へ逃げようとも全て無駄だ。必ず貴様にも私と同じ地獄を味あわせてくれる……)

 

 (……オビ・ワン……!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラ・カサミ艦橋

 

 「敵機接近!!本艦に向かって来ます!!」

 

 「くっ……!!やはり、おめこぼしは無しか……!」

 

 ラ・カサミ艦橋内でミニラルは歯噛みした。自分達の乗るラ・カサミ級戦艦やラ・トウエン級空母等の様な大型艦艇は当然だが目立つ。ベイダーが見逃してくれれば……或いは弾切れであればと思ったが、事はそう上手くは進まないらしい。

 

 「対空戦闘用意!!手隙の者は機関銃や小銃を使えっ!」

 

 「し……しかし、その程度ではとても……」

 

 「無いよりはマシだっ!!兎に角、弾幕を張れ!」

 

 

 生き残りのエルペシオ隊を蚊蜻蛉の如く、粉砕した敵の飛行機こと、ベイダーの駆るタイ・アドバンスドが彼等、ムー国艦隊に迫る。

 

 「撃て!撃ちまくれ!」「駄目だっ!掠りもしないぞっ!」「クソっ!こんな豆鉄砲で何をしろってんだ!」

 

 鬼気迫る表情でベイダーを迎撃する対空砲要員達。だが、タイ・アドバンスドは必要最低限の動きで弾丸の嵐を抜け、まるで弾幕の方が彼を避けているかの様に弾幕の隙間を突破していった。

 空中を線状の曳光弾の束が覆い、あたかも複雑な帯の様に空をデコレーションしていた。無論、それは人体等、木っ端微塵になりかねない金属の暴風雨とも言える規模であり、平然とその中を正面突破するベイダーが如何に傑物か如実に表していた。

 

 

 (……やはり現状の対空装備では航空機には手足も出ない……!)

 

 航空機では戦艦や空母を破壊出来ない。それはムー国では通説であったが、ミリシアルやムー国の艦艇を目の前で血祭りに上げられるのを目の当たりにしてミニラルはその認識を改める事になった。

 

 

 「敵機、光に覆われた何かを2基射出!」

 

 「……!例の飛行爆弾かっ!!迎撃せよ!!!」

 

 

 艦隊の左舷側に2基の光弾が迫る。備え付けられた機関銃が唸りを上げながら弾丸をばら撒くが掠りもしない。2基はそれぞれ別に分かれ、戦艦ラ・エルド、空母ラ・トウエンに直撃する。

 瞬間、海上に爆破の花が咲いた。

 

 

 「あぁっ!!ラ・エルドとラ・トウエンがっ!!」

 

 「ばっ……爆沈した……っ!!」

 

 

 戦艦ラ・エルドには1番主砲塔下部の装甲に光弾が直撃した。そして内部にめり込んだ弾頭はカタログスペック通りに完璧に起爆し、そのまま艦内の砲弾や炸薬が連鎖的に誘爆させたのだ。ラ・エルドは乗員全てを乗せたまま僅か数十秒足らずで海底に没する事になった。

 空母ラ・トウエンは既に小破しており速度も10ノットにまで落ちていた。故に避ける事も出来ず、光弾は空母中央部に直撃した。内部を縦横無尽に食い荒らした挙げ句、艦内格納庫の艦載機や燃料に誘爆させ真っ二つになり、ラ・エルドの跡を追う事となった。

 

 

 「……一撃……!!たった一発で戦艦や空母がっ…!!」

 

 余りの衝撃に愕然とするミニラルらラ・カサミのクルー達。彼等の中では被弾する面積の多い空母は兎も角、航空機が戦艦を撃沈させる事等、不可能だと言うのが常識であった。

 

 (聞いていたとは言えこれ程強力だとは……!)

 

 彼等のこれまで想定していた航空機搭載用の爆弾が50kg〜250kg程度の爆弾であり、分厚い戦艦の装甲を抜く事は出来無いとされていたからだ。無論、ベイダーが使用したのは只の爆弾では無い。

 

 《プロトン魚雷》

 

 陽子エネルギーを纏った実体弾頭を発射するランチャー的な兵器であり、他にも爆弾型のプロトン爆弾、砲弾型のプロトン砲弾が存在する。これらプロトン兵器の類は陽子エネルギーを纏う事で同質量の炸薬を用いた爆弾の数倍の威力を持っており、その威力は反応炉や中枢に直撃させればインペリアル級ですら一発で轟沈せしめる程であり、この惑星の水上艦には明らかにオーバーキルであった。

 

 

 (こんな連中を相手に、どう戦えと言うのか……!)

 

 同国の誇りとも言えたラ・カサミ級とラ・ヴァニア級が碌に反撃すら出来ずに呆気なく海の藻屑と化した。それはラ・カサミに乗るクルー達の士気をズタズタにした。諦観と絶望が全員に蔓延する。

 明らかに少なくなった対空砲火をタイ・アドバンスドがラ・カサミ目掛けて駆け抜ける。

 

 「……敵機、こちらに直進して来ます!」

 

 「もはや……これまでか……」

 

 逃げる事は出来無い。ミニラルは自身の最後の時だと思った。だが、その時……

 

 

 「「うわぁーー!!!」」

 

 タイ・アドバンスドはそのまま艦橋の直ぐ目の前を通り過ぎ去っていった。衝撃波でガラスが割れ、破片が彼等を襲う。

 

 「くっ……!被害状況を知らせよ!」

 

 「ハッ!現状、被害は見当たりません!」

 

 「敵機、本艦より9時の方向に飛行中!……なんて速さだ……!もうレーダーからロストしました!」

 

 ミニラルは頬に刺さったガラス片を抜きながら内心、生き残った事を安堵していた。

 

 「……何故、見逃してくれたか分からんが……今はそれ所では無いな……他の残存艦隊は?」

 

 「ミリシアル海軍は第零式魔導艦隊を含めて応答がありません……全滅状態と言えるでしょう……」

 

 「我が艦隊も被害は甚大です……航行可能なのは本艦とラ・トネール級2隻だけです……」

 

 余りの損害に思わずミニラルは頭を抱えたくなった。軍事的な常識でら事実上ミリシアル、ムーの海上戦力は全滅と言える規模の損害を受けたのだ。

 

 「……生存者の救出を直ちに行う。1時間だけ、この海域に留まる……1時間後には本国に帰還するぞ」

 

 「ですが、艦長。大使や内地に派遣された兵士達は……」

 

 「現状、我々に出来る事は無い……遺憾ながらな……」

 

 

 ミニラルはそう結論づけた。無論、彼とてミリシアル本土に同胞達を置いていくのは忍びないが、実際に彼等にやれる事は既に無かった。彼等はこの敗北に酷く傷付き、疲れ切っていたのだ。それよりもこの情報をムー本国に持っていく事が最優先だと判断した。

 

 (だが、あれ程の力を持つ相手に、どう立ち向かえばよいのだ……?)

 

 

 

 

 中央歴1638年2月20日午前10時43分

 ルーンポリス湾

 

 第零式魔導艦隊を含むミリシアル海軍並びにムー国海軍で構成された世界連合海軍は事実上、全滅した。だが、異世界が帝国の真の脅威に気付くのは、まだ先である。

 

 




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第17話 暗黒卿と燃える海 完

 お待たせいたしました。

 私用により中々手が付かず更新が遅れてしまいました……

 今後も宜しくお願いします。


 ルーンポリス湾外上空 

 

 タイ・アドバンスド機内

 

 

 「……大佐、何用か?」

 

 

 ルーンポリス湾外での戦闘も終了しつつあった。ベイダーは敵艦隊をさしたる損害も無く一方的に撃滅し、後はムー国軍の艦艇数隻となった所で通信が入る。

 

 『失礼します、ベイダー卿。火急の報告ゆえにどうかお許しください……』

 

 通信の相手はレノックス大佐であった。ベイダーは不機嫌な様子を隠そうともせずに通信を繋げる。だが、ホログラムに映された画像を見るとマスクの下で若干だが興味深そうな表情を浮かべた。

 

 「……これは……この星の技術にしては妙だな……大きさはどれ程の物だ?」

 

 『外周部を含めれば全長は260m程です。軌道上からの観測の結果、速度は200km程、海面から300m程の高度で飛行しています。』

 

 ホログラムに映されたのは3方向に伸びた構造物を囲む様に円形のリングを回転させる航空機とも艦船ともどちらにも言えない奇妙な物体であった。もしも太陽神の末裔達がこれを見たら某国の自動車メーカーのエンブレムに似ていると思ったであろう。

 

 

 《空中戦艦パル・キマイラ》

 

 かつて古の魔法帝国こと、ラヴァーナル帝国が開発、運用した飛行戦艦である。武装は15cm三連魔導砲に専用の超大型爆弾ジビル、更には分速3000発を誇る魔光砲アトラタテス砲を備える等、極めて重武装であり、防御面も装甲強化魔法を備える等、極めて強固な船体を有する。

 

 神聖ミリシアル帝国にとって、事実上の最終兵器とも言えるこの空の要塞が5機、ルーンポリスに殺到しつつあった。

 

 「……しかし、何故これ程、巨大な機体を探知出来なかったのだ?」

 

 『どうやら海岸線を沿いながら雲の下を抜けて来たようで探知が遅れました。所で、ベイダー卿……この艦艇、見覚えはありませんか?』

 

 

 ベイダーは改めてホログラムを見る。円形のリング状のそれは彼等にとって既視感を覚える形状をしていたからだ。

 

 「ルクレハルク級か……」

 

 『矢張り、分離主義者が裏で糸を引いているのでしょうか?』

 

 「………」

 

 

 《ルクレハルク級》

 

 分離主義勢力、正確にはそれに属していた通商連合で使用されていた艦艇である。中央に球形のコアシップと、それを包む様に円形のリング状の貨物室を擁する大型宇宙船である。

 本来は輸送艦、それも民生品の輸送船でしかないが元々が危険な宙域をも難なく航行出来る様に極めて頑健で強固な船体を有しており、更には自衛用のターボレーザー等の武装を装備する等、場合によっては下手なコルベットよりも強力な艦艇であった。その上、リング状の貨物室は膨大な積載量を誇り、これ等のスペースをバトルドロイドやドロイドファイター、戦車や揚陸艇、各種物資をも一度に運ぶ事が可能とまさに万能艦であった。

 

 

 『細部や大きさは異なりますがルクレハルク級に酷似しています。只の偶然としては聊か出来過ぎているのでは?』

 

 「………」

 

 

 実の所、ベイダーはこの星の住民が分離主義勢力から支援を受けているとは思えなかった。兵器の技術水準に不可解な程の大きな隔たりがあったりチグハグな運用方法等、とても合理主義的な軍隊とは言えないレベルであった。そして実際に直接戦火を交えて確信を持った。

 

 (今の時代にまさか、ここまで未開の星があるとはな……)

 

 バッティスタ達ミリシアルの軍人達に直接、質問した際にも彼等は銀河系の情報を殆ど知らない様に思えた。ベイダー自身、銀河共和国時代には一外交官として銀河の各地で交渉に携わった経験を持つ。故に相手が嘘をついているか、いないかは、フォースを介さずとも、ある程度は分かった。

 しかし……

 

 

 「警戒は最大限のままにせよ。追い込まれた鼠は何とやらだ。決して敵を侮るでないぞ。」

 

 

 『はい。ベイダー卿。』

 

 

 ベイダーは敢えてその事を報告しなかった。警戒はいくらしていても損は無い。また、自軍の部隊に若干ながら油断と驕りがあるのにもベイダーは気が付いた。この状況は余り宜しくは無い。

 

 (この際だ。部隊の引き締めに丁度良かろう。)

 

 弱敵を侮ったせいで思わぬ反撃を受けた結果、壊滅した部隊は多い。だが精鋭たる501大隊でそれは許されない。銀河帝国に於ける最強の部隊、ベイダーの拳が一敗地に塗れる事等あってはならないのだ。

 

 

 「戦果を急ぐ余り、要らぬ損害を出したと聞く。敵を侮った証拠だ。」

 

 『周知は行っていたのですが……重力下という事もあり、想定よりも乱戦になったらしく味方機同士で追突した機体が多数あったと……』

 

 銀河帝国の誇る主力機タイ・ファイター、量産性と整備性に優れた傑作機である事は間違い無いであろうが、実は重大な欠陥も内包していた。側面部にソーラーパネルを取り付けている為、当然ながら側面の視界はゼロであり、限られたセンサー機器だけで前方以外の視覚を補わねばならないのだ。故に戦闘中、特に乱戦となれば味方機同士で追突してしまう機体が多いのだ。

 

 『我が方の損失はファイターが4機、ボマーが1機となっております。内、MIAが1機……恐らくは戦死したと……』

 

 「旧時代のスクラップと羽の生えたトカゲ如きを幾ら撃ち落とした所で高が知れる……それよりも戦況はどうだ、大佐?」

 

 『ハッ、現状、戦況は我が方に有利、作戦は順調に進行中であります。』

 

 

 ホログラムに投影されたレノックスは一度、目線を下ろし報告書の内容を読み上げる。

 

 

 『これまでに我が軍が撃破したミリシアル軍戦闘機(エルペシオやジグランド等)は約400から300機、大型爆撃機(爆撃機型ゲルニカ)を約300機程を撃墜、ムー国軍機と思われる小型戦闘機(マリン)を約150機、飛行型クリーチャー(ワイバーン)を約500機程を撃墜、地上破壊しました。また、ゼノスグラム国際空港を含む近隣の飛行場の破壊、制圧は既に完了しております。これによりミリシアル軍は航空機の使用が不可能となり、我が軍が制空権を完全に確保したと言って言いでしょう。』

  

 

 ミリシアル軍や各諸国軍で運用されている天の浮舟やワイバーンは離陸、着陸するのにも長大な滑走路が必要となり、これらが破壊、制圧されたという事はこれ以上の空からの支援を受けられないのだ。

 

 

 「敵の増援への対処は?」

 

 『既にタイタン中隊を含む精鋭を派遣しました。』

 

 「宜しい。敵工業都市への攻撃はどうなっておる?」

 

 『御命令があれば何時でも降下・上陸を行えます。如何なさいますか?』

 

 「指揮は卿に任せる。私はルクレハレク擬きを調査する。このホログラムでは敵の技術が殆ど分からん」

 

 『……護衛を向かわせましょうか?』

 

 「不要だ。所詮はテクノロジーの産物。深淵たるフォースの敵では無い。」

 

 基本的にベイダーは部隊の指揮をレノックスら幕僚に任せて、(丸投げにしたとも言える)自身は最後に責任を負うという体制を取っていた。ベイダー自身は主に遊軍として前線の細かな調整を行う事で前線の士気を高め(実際の所、前線の部下から見れば督戦隊と大差無い)、幕僚らは自由に指揮を取る事が出来、柔軟に指揮を取る事が出来た。艦隊の最高司令官自身が最前線で戦うというのは異様であり極めて危険な事であったが少なくともベイダー艦隊では問題は無かった。

 

 『了解しました。どうかご武運を』

 

 もしも司令官が戦死する事になれば相当なダメージを艦隊は受ける事になる。指揮系統が崩壊し、組織としての統制が失われるからだ。だが、レノックスはその事について殆ど心配していなかった。

 

 (ベイダー卿が死ぬ所等、想像すら出来ん……)

 

 これまでの彼の戦いぶりを見てこの銀河系でベイダーを倒せる者など、レノックスは想像できないからだ。

 

  

 

 

 

 「進路をルクレハレク擬きに合わせよ」

 

 「……!!???」

 

 「敵艦隊の生き残りだと?捨て置け。後々、掃討戦で始末させるとしよう。」

 

 既に敵艦隊はラ・カサミを含めて数隻を残すばかりで当のラ・カサミも退艦した他の艦艇の船員の救助を行っており継戦能力は殆ど失われたと言って良いだろう。プロトン魚雷は残り少ない。敵の艦隊は事実上壊滅状態であり、これ以上の追撃は無用と判断した。

 

 「ムー国とやらがこの損害をどう判断するかで対処も変わろう。」

 

 ミリシアル国と同じように抵抗するのであれば滅ぼせばよい。実の所、当初は反乱軍を惑星ごと銀河帝国が開発した〘究極の平和維持施設〙の試射も兼ねて木端微塵に破壊する予定だったのだ。ベイダー自身が自身の私情もあり反対し、この案は流れたが、場合によっては見せしめで大陸の一つや二つを海の底に沈める事も必要かもしれないと考え始めていた。

 ふと眼下に艦隊の残骸が見えた。その内の一隻に目が止まる。大破し沈みかけた戦艦の残骸。ベイダーの脳裏に先程の光景が思い浮かんだ。

 

 『もしも貴様の家族や友人、愛する者が居ても同じ判断を下せるのか!?』

 

 本来ならば敵からの糾弾を受けた所でベイダーは一願だにしないが、この時ばかりは違った。家族の事を……忘れていた何かが脳裏に蘇った。

 

 (……家族か……) 

 

 ベイダーの脳裏に思い浮かんだのは惑星ナブーの美しい景色であった。白いテラスの東屋に、そこには母がいた。妻もいた。緑の芝生には幼子の姿があった。

 その光景は彼の怒りと憎しみに覆われた心の中に久方ぶりに暖かい物を感じさせた。しかし、それはベイダーの心に凄まじい葛藤を生じさせた。

 

 (止めろ……こんな物、お前の妄想だ……)

 

 愛する家族に囲まれ平和な土地で静かに暮らす、それは彼が望んだ世界だった。そして彼が永遠に手に入れられなかった世界だった。ベイダーの心に濁流の如く、哀しみの感情が流れ込む。

 

 (あの時に……戻れれば……)

 

 母が死んだ時、妻を手に掛けた時に……やり直せるとしたら?もしも自身の家族、愛する者が危機に立たされているとしたら?

 

 「考える間でも無い」

 

 どのような選択肢を出されたとしてもベイダーは家族を救う方に掛けていたであろう。如何なる手段を使っても、例え自身の手を血で汚し尽くしても守り抜こうとしたであろう。家族は彼にとって全てだった。あの暖かい日々を失いたくなかった。もしも家族が生きていれば彼は良き夫、良き父親になれたであろう。

 かつての『彼』であれば……

 

 

 (下らん……今更、思い出した所でどうなると言うのだ?)

 

 愛する家族……しかしそれは彼の思い出の中にしか居ない。そして過去の思い出は彼を救ってはくれなかった。寧ろ苦しめるだけだった。母と妻は死んだ。生まれてくる筈だった我が子は抱く事すら許されなかった。哀しみは絶望に変わり、ベイダーの心を引き裂き、その隙間から氷のように冷たい物が流れ込む。

 

 (過去は変えられん……私の愛する人達は皆死んだ……)

 

 過去を変える事は出来ない。愛する家族との思い出はベイダーに自身が失った物の大きさを思い知らされるだけであった。あの暖かい日々は二度と戻らないという事を。

 絶望は激しい溶岩の如き怒りの激情に変わり始めた。

 

 (全ての責任は『奴』にある……あの弱虫には覚悟が無かった……だが今の私は違う。過去の私のように……いや、『奴』のように躊躇などしない)

 

 弱く愚かな過去の自分は光明面と共に滅ぼした。家族を守れなかった無力な過去の己になんの価値があろうか。そしてもう後戻り出来ないのであれば出来る事は唯一つ。自身が銀河系を支配するという野望を実現させる事だ。その為にもフォースの暗黒面の力を鍛え上げてより強くなる。いや、ならねばならない。生半可な力で勝てる程、皇帝は弱くは無い。家族を守れなかった。ならばもう止まれない。いや、止まるわけにはいかない。

 

 (なまじ情などあったからオビ・ワンなぞに二度も破れたのだ。)

 

 それぞれの人生があっただと?

 帰りを待つ家族がいただと?

 知った事では無い。ならば私と同じ絶望を味わうがいい。

 

 力が無い者は何も守れない。弱者の意思や尊厳など強者の気まぐれで容易く蹂躙され踏みにじられる。幼少期の頃の彼と母がそうであったから。だからこそ彼には強大な力が必要だったのだ。全てを支配する圧倒的な力を。

 

(憎しみが私に力を与えた。怒りが私を強くした。ならば、その力を使わんでどうする?)

 

 シスの教義はフォースの完全なる支配であり善意や慈悲等、フォースの探求に邪魔なフィルターに過ぎない。それこそ弱いマスターを強い弟子が打倒して新たなマスターとなるように、選別として弟子同士を殺し合わせるように。より純粋なフォースの探求に余計な感傷等、目を眩ませるだけなのだ。悪意や殺意がより強い力を引き出すならば躊躇などする必要が無い。野望実現の為ならば有象無象の何億人、何兆人だろうと殺してみせる。

 とうに自分の心など壊れているのだから。

 

 「私は全てを手に入れてみせる」

 

 希望の光は消え、絶望を示す暗黒の闇が広がった。

 慈愛の心は失われ、野心のみが残った。

 今の私の名はダース・ベイダー、過去は全て置いて来た。

 

 母と妻の姿もやがて、憤怒と憎悪の濁流に呑み込まれ、やがて消えていく。全ては暗黒面の高みを目指すために。もう何も失わない為に。

 

 (私にはもう失う者など居ない……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「クッ……ここは何処だ……?」

 

 艦橋の床でクロムウェルは意識を取り戻した。一瞬、自分が何故ここにいるのか理解できなかったが、彼とてベテランの将校、意識を失う前に見た光景と現在の状況を瞬時に理解する。

 

 (たしか機体が突っ込んで来たんだ……)

 

 起き上がろうと上体をそらした時に

 

 「……!?おい!しっかりしろっ!!」

 

 そう言いながら肩を揺する。その反動でその通信兵の背中が露わになり思わず息を呑んだ。彼の背中は無数のガラス片や金属片が突き刺さりズタズタになっていた。生気のない瞳からも彼が死んでしばらくは経っているだろう。

 

 「私を庇ってくれたのか……すまない……」 

 

 彼が身を挺してくれなけば自分がそうなっていたであろう。クロムウェルはその通信兵の目蓋をそっと閉じる。

 

 「艦隊は……どうなった?」

 

 遺体を丁寧に脇に退かしてから立ち上がろうとする。だが、胸に鈍い痛みを感じて顔を顰める。

 

 「くっ……アバラが折れたか……」

 

 痛む身体を抱えながら艦橋の窓から外を見る。だが、そこには絶望的な光景が広がっていた。

 

 「あぁ……神よ……」

 

 洋上は炎と黒煙に覆われていた。炎上しながら海を漂う艦艇、断末魔の金属音を軋ませながら海底に沈降しつつある艦艇、弾薬庫内の砲弾・弾薬に引火したのか爆炎を上げながら大破、爆沈する艦艇……ここから見える限り無事な艦艇の方が少ない。

 

 「あれはムー国軍の戦艦か?良かった……無事だったのか……」

 

 無事だった艦艇ことムー国海軍所属のラ・カサミに目を向ける。どうやら脱出した他の艦艇の人員の救助を行っているらしく艦の周りを埋め尽くすように救命ボートが殺到している。

 

 「少なくとも漂流する羽目にはならんようだが……コールブランドは……くっ、やはり駄目か……」

 

 黒煙の充満する艦橋内に改めて目を向けるが、操舵輪やテレグラフハンドルは残骸に押し潰されて使い物にならず、魔導操作盤と魔信の類も激しく損壊していた。艦の傾斜も酷く、いずれにせよコールブランドが沈むのは時間の問題であった。

 

 「艦の放棄も致し方無い……」

 

 「誰かいるのか?」

 

 頭痛と耳鳴りが酷く、半ば朦朧とした意識の中で聞き覚えのある声にクロムウェルはハッとする。

 

 「バッティスタ閣下!?ご無事でしたか!」

 

 痛む身体を支えながら声のする方向に歩き始める。さして広くない艦橋内が今はかなり広く感じられた。バッティスタはすぐに見つかった。だが……

 

 「っ!!閣下!?」

 

 「クロムウェル君。良かった……君は無事だったようだな……」

 

 バッティスタは艦橋内がこの惨状に変わる前と同じ様に椅子に座っていた。いや、彼は既に椅子から立ち上がる事はできなかったのだ。何故なら艦の構造物、鋭利な金属片が槍の様にバッティスタの腹部とシートを串刺しに縫い付けていたからだ。

 

 「すぐにお助けします!!」

 

 クロムウェルは思わず咄嗟に金属片を抜こうとするが冷静さを取り戻し思い留まる。下手に金属片を強引に抜こうとすれば傷口を拡げるばかりか出血も酷い事になるのは明確であった。バッティスタはアドレナリンのおかげか、幸いな事に痛みを感じていない様だが無理に引き抜こうとすれば出血性ショックで死にかねない状況なのだ。

 軍医を呼ぼうと通信機を探そうとするが丁度、誰かが艦橋内に入って来る。

 

 「艦長!ご無事でしたか!」

 

 クロムウェルが振り向くと数人の兵士が覗き込んでいた。

 

 「ケイト軍曹!気官らも無事か……すまないが軍医と医療スタッフを早急に呼んでくれまいか?提督が負傷された」

 

 「なっ!て……提督!!」

 

 「私の事はいい……艦は……艦隊はどうなった?」

 

 「延焼により機関室が炎上し魔力供給系が全損しました……ダメコン班の尽力でこれ以上の損害は何とか抑えましたが……」

 

 「浸水が酷く傾斜が止まりません……我々はどうすれば……?」

 

 クロムウェルは自身の予測が最悪の形で的中した事に絶望した。状況はますます悪化するばかりで一向に好転しない。思考の海に沈むクロムウェルにバッティスタは声をかける。

 

 「クロムウェル君……貴官なら分かる筈であろう?何をすれば良いか……」

 

 「提督……」

 

 クロムウェルは自身の感情に踏ん切りを付けた。船乗りとして軍人として重要な決断を命じなければいけない。

 

 「艦長として命じる……総員退艦せよ。遺憾ながらコールブランドは放棄する……」

 

 苦虫を噛み潰したように重苦しくクロムウェルは命じた。艦の放棄、それは決して軽々しく決断できるものではない。船員達にとって自身が乗る艦艇は単なる船ではない。もう一つの家であり、自分達を象徴する誇りでもあるからだ。特にコールブランドに配属された乗組員はその思いが強い。

 

 「た……退艦でありますか……」

 

 「どうにか……いえ、了解であります。直ちに退艦の用意を致します。」

 

 乗組員達は思わず聞き返そうとしたがクロムウェルの表情を見て止めた。一番辛いのは艦長であるクロムウェルの筈であるからだ。何よりも彼等とてベテランの海軍軍人、かつてのクローントルーパーも言っていた通り優秀な兵士は命令に忠実だからだ。

 

 「艦橋はこの有様だ……内線が使い物にならん……貴官らで他の乗組員達に退艦を呼び掛けて欲しい。」

 

 「了解しました。軍医長も直ちに呼んできます。」

 

 ケイトの発言にバッティスタは顔を顰める。

 

 「軍曹……今の私を見たまえ。自分の状態は私自身がよく分かっておる……これも兵士としての定めだ……仕方あるまい」

 

 「し…しかし……」

 

 「命令だ……直ぐに艦長に言われた通りに行動したまえ。」

 

 「ハッ!ではこれで……」

 

 ケイトらは艦橋の入口まで進むが、意を決したようにバッティスタに向き直り直立不動のまま敬礼し告げる。

 

 「バッティスタ提督。閣下と共に戦えた事を我々は光栄に思います。この様な形でお別れするのは無念で仕方ありません。どうか我々を天国からお見守り下さい。」

 

 それは別れの言葉であった。ケイトは静かにだがはっきりと、そして噛み締めるように告げた。バッティスタは敬礼を返す。

 

 「ありがとう。感謝したいのは私の方だ……貴官らの健闘を祈る。」

 

 

 クロムウェルは静かにその様子を見ていた。彼はコールブランドから離艦する気など無かった。このまま沈みゆくコールブランドと共に運命を共にする気であった。それが艦長としての責任の取り方だと考えたからだ。

 

 「クロムウェル君。君が何を考えておるか良く分かっておる……」

 

 「お見通しでしたか……不肖ながら私も最期までお供させて頂きます。」

 

 長年の付き合いからバッティスタの性格を加味しても断らないであろうと判断し正直に言った。だが……

 

 「ならぬ……君も退艦するのだ……いや、直ぐに生き残った兵士達を連れて国外に脱出してくれ……」

 

 「な……何故そんな事を?」

 

 国外への脱出?何故そんな真似をしなければならないのか?と

 

 「恐らく……本国は長くは保たん……陥落は時間の問題であろう……我が国は……神聖ミリシアル帝国は敗北する……」

 

 バッティスタから思いもよらない発言に息を呑むクロムウェル。敗北だと?!そんな事、あり得ない!

 

 「まさか……神聖ミリシアル帝国が敗北する等、あり得ません!我が国は列強首位なのですぞ!」

 

 有史以来、最も繁栄した文明と言えば光翼人率いるラヴァーナル帝国であろう。彼等が衰退、滅亡した後もラヴァーナル帝国を超える文明は誕生しなかった。だが漸く、魔帝を超えうる文明が誕生しつつあった。それが神聖ミリシアル帝国である。いずれは魔帝の模倣ではなく、魔帝が作り出した技術以上の技術を……繁栄を自分達だけで築き上げられると確信していた。

 

 「列強首位か……だからこそかも知れぬな……」

 

 バッティスタは何処か遠くを見ながら呟いた。

  

 「我々は傲慢になり過ぎていたのかも知れん……自分達に並ぶ者等、この世に存在し得ないとな……」

 

 「……」

 

 「我々は全てを知っている筈だった。だが、結果を見てみよ。何一つとして知らなかったのだよ……」

 

 「ベイダーの事ですか。」

 

 一個艦隊を単騎で殲滅してみせた銀河帝国の司令官。出鱈目としか言えない魔力を持ち、光翼人ですら不可能な規模の未知の魔法を扱う謎多き人物。クロムウェル自身、思い出すだけで背筋が凍るような気がした。

 

 「しかし……所詮は単騎。それにここまでの事を仕出かしているのです。他の列強諸国も黙ってはいません。」

 

 しかし、ベイダーが如何に強大な力を持とうとも単騎で出来る事など所詮、高が知れている。戦艦1隻だけで戦局は変えられないように。艦隊規模の数を揃えてこそ戦艦は戦艦たりうるのだ。少なくともクロムウェルはベイダー個人の能力を危険視しつつも飽くまで個としての問題であり、全体として各列強諸国が全力でベイダーの討伐に当たれば撃破も可能だと考えていた。

 

 「クロムウェル君……飽くまで仮定の話だが、奴程の実力者を後最低でも100人……いや、10人、銀河帝国が抱えているとしよう。この時点で我々に打つ手はあるかね?」

 

 「そ……それは……」

 

 何かの悪い冗談かと思いたかったが、実際にその可能性は充分にあった。クロムウェルの脳裏に先程の戦闘の光景が蘇る。あれが、もしもルーンポリス市内であったなら……

 

 「それに奴は暗黒面の力と言っていたが……あれだけの力を持つ魔法など見た事も聞いた事も無い……あんな魔法にどう対処すればよいのだ?」

 

 クロムウェルはバッティスタの言わんとしている事に気が付いた。ベイダーが使った魔法がどんな系統の魔法なのか、帝国はベイダー程の実力者を何人抱えているのか、そもそもベイダーを従えている皇帝パルパティーン、そして銀河帝国とは一体どんな国家なのか。自分達は銀河帝国について何一つ知らないのだ。

 

 「分かったか?クロムウェル君。我々は何一つとして敵について知らぬのだ……禄に知らぬのに戦争までしている……これを傲慢と言わずに何と言えばいいのだ?」

 

 自分達は知らず知らずに虎の尾を踏んでしまったのだ。それも圧倒的としか言えない魔法を扱う未知の文明を相手に。

 

 

 「この戦争……行き着く所まで行くだろう……クロムウェル君。私は確信したよ……我々は負ける。徹底的にな……」

 

 殆どのミリシアル兵は自分達の勝利を固く信じている。だが、ベイダーの能力と銀河帝国の技術を目の当たりにして、それは不可能だと悟った。それでもミリシアル兵の多くは戦い続けるだろう。だがそれは何の意味の無い犬死でしかなく、ならばせめて別の戦える手段と機会を残しておくべきだ。真なる勝利の為に。

 

 「ならばこそ陛下にこの事を……!」

 

 バッティスタは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて頭を横に振る。

 

 「……無駄だ……陛下はともかく、政府と軍の石頭共は聞く耳すら持たん……そもそも連中が銀河帝国について調査していればこんな有り様にはなっておらん……」

 

 皇帝ミリシアル8世は客観的に見ても極めて有能かつ、優れた為政者である事は間違い無い。だが、いかに皇帝の権力と権威が強い神聖ミリシアル帝国であっても皇帝一人で国家を動かす事はできない。その為の政府官僚や軍上層部であったが問題はそれらの人材が抱いている『無意識の驕り』が事態を悪化させたのだ。

 

 「連中の大半は報告書を手に取ろうとすらしないであろうな……情けない話だが私も直接、あんな光景を見なければ信じようとしなかったであろう……」

 

 バッティスタは自嘲的に笑った。列強首位という立場ゆえに他文明を見下す者は確かに多いが、殊更にこういった役職者の大半はそういった思想に染まりきった者が多かった。それも狂信的なまでのレベルであり極めて盲目的なまでの信奉者が占めているのだ。例えそのままの通りに報告書を出しても精神疾患を疑われるだけであろう。バッティスタは自身がそちら側の人間であったからよく分かっていた。

 

 「だからこそだ……もはや敗戦は避けられん……だが、戦いは終わってはおらん……!」

 

 「すなわち……負けた後の戦い、レジスタンスですか……」

 

 クロムウェルは内心の不安と焦燥が表情に出ないように懸命にこらえた。バッティスタはもう長くはない。死期が迫る彼にこれ以上、負担をかけたくなかったからだ。

 

 「……陛下や皇族の方々の新たな避難先にもならねばならぬ……その為にも君は先んじて行動をっ……!!」

 

 バッティスタは激しく咳き込み大量の血を吐き出した。

 

 「閣下!」

 

 「クロムウェル君……私は無能な男だ。何一つ……何一つたりとも守り抜けず、この様だ……」

 

 バッティスタは後悔していた。彼の目の前で部下が大勢死んでいった。ある者は生きながら全身を焼かれ、ある者は手足がもげても死にきれずに地獄の苦痛の中惨死し、ある者は最期の言葉すらできずに散っていった。そして全員が心に生涯消えない傷を負った。責任は全て自分にあるとバッティスタは考えていた。相手が強かった、情報が少なかったはなんの言い訳ににもならない。指揮官として対処する方法など幾らでもあったはずだ。何だったらベイダーの進言通り降伏していれば部下達は死なずにすんだのかもしれないと。

 

 「閣下!もう喋るのはお止しください!」

 

 「頼む……クロムウェル君。本来ならこんな事を言う資格など私には無い……だが、あえて言わせてくれ……

 祖国を……神聖ミリシアル帝国を救ってくれ……」

 

 虚ろで焦点の合わない目から涙が溢れ落ちる。

 

 「これからの世界は乱世の世になる。列強のタガが外れれば下位列強や準列強は挙って領土拡張に走る。地獄が始まるぞ……」

 

 序列第四位のパーパルディア皇国、第五位のレイフォル国、準列強のリーム王国、これら領土的野心を滾らせた国家群はこれ幸いにハイエナの如く領土拡張に走るだろう。ズタボロになったミリシアルの国土にも触手を伸ばしかねない。

 

 「君は私よりも優秀だ。それにカリスマ性もある。帝国に反発する勢力や軍の生き残りを上手く味方に引き込むのだ。私等よりも君の方が指導者に相応しい……」

 

 これからの時代、今まで以上に柔軟さと人を惹き付ける能力が必須となるであろう。これまでの戦闘でバッティスタは自身にはどちらも無い事を理解していた。自分では銀河帝国には勝てない。だが、クロムウェルならばと希望をもっていた。

 

 「……重ね重ね言うが頼む……馬鹿な老いぼれの詰まらない意地だという事は重々分かっておる……」

 

 

 「……皆の仇を取ってくれ……」

 

 バッティスタは一瞬悩む様子を見せ、やがて決心したのかはっきりとクロムウェルに懇願した。虚ろだった目に光が戻りクロムウェルを直視する。

 クロムウェルはその視線から伝わる熱さに一瞬、たじろいだ。重症を負い今にも死にそうな老人とは思えぬ熱量であった。この老将の覇気に、死地を決めた男の意志とはまるでダイヤモンドの如き砕けぬ強さと美しさを持つとクロムウェルは言葉では無く心で理解した。

 

 「……了解しました……」

 

 クロムウェルは苦悩の末に言葉を絞り出す。はっきり言って自分にどこまでやれるのか、指導者などという大袈裟な肩書を自分を背負えるのだろうかと心に迷いが芽生えた。自分を英雄だと思った事も無い。これまでの人生、飽くまで上からの命令に忠実に軍務に励んできた日々であった。だが、これからは自分が指導者として一つの組織を率いていかねばならない。その重圧に自身は耐えられるのだろうかと。バッティスタに視線を向ける。……だが、そこで気づく。

 

 「!?閣下!!」

 

 呼び掛けにバッティスタは答えなかった。いや、彼は既に事切れていた。だが、心なしかバッティスタの表情に笑みが浮かんでいた。まるで心配するな、君なら出来ると言いたげに。

 クロムウェルは彼の目蓋を閉じ、手を元の位置に戻す。

 

 「私に務まるのでしょうか……いえ……やらねばならんのですね……」

 

 自分がやらねば誰がやる?誰がバッティスタや戦死した同胞の仇を討つのか?生き残ったならば、託されたのならば自分がやらねばならないと。それが生き残った者の、生かされた者の義務なのだ。

 

 (皆の死が無駄になる……そんな事、許せん!)

 

 ふと足元をみるとポールが倒れていた。元々は艦橋に飾ってあった物だ。倒れたポールからミリシアル国旗を丁寧に外し広げる。所々、焼け焦げ、破れていてもその旗が持つ意味は変わらない。かつてミリシアル一世が抵抗軍を結成した時に初めて掲げられたのがこのミリシアル国旗なのだ。今でもこの旗は多くのミリシアル人の自由と反抗のシンボルなのだ。

 

 「お別れです。バッティスタ提督、また合う日まで」

 

 広げた国旗をバッティスタの遺体の上からかぶせ敬礼する。不思議と先程まで感じていた不安と焦燥は霧散していた。クロムウェルは自身の中で何かが吹っ切れた感覚を感じていた。やるべき事は決まったと。新たな決意を胸に、先に旅立った者の意志を心に秘め、新たな戦いに身を投じるまでだ。これ以上、語る事は無い。後は戦って証明するのみ。

 艦橋の出口に差しかかった所でクロムウェルは振り返り艦橋内を感慨と共に見渡した。ここで過ごした日々は決して無駄にはしないと。二度と戻れぬ家と戦友達に別れを告げる。

 

 「コールブランド、提督を……皆を頼んだぞ」

 





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第18話 ミスリード

 神聖ミリシアル帝国

 首都ルーンポリス アルビオン城

 

 

 神聖ミリシアル帝国に於ける中枢であるアルビオン城。雄大に聳え立つ白亜の巨城はミリシアル王家と神聖ミリシアル帝国繁栄の象徴であった。しかし、そのアルビオン城も今では物々しい雰囲気に包まれていた。

 無数の兵士達や装甲魔導車、魔導アーマーを装着した特殊歩兵が周辺を警備し、更にはアルビオン城を包み込むようにドーム状の多重結界が覆っていた。この結界はコア魔法クラスならば兎も角、艦砲や爆撃程度ならばビクともしない頑強さを誇っているが、この結界を発動させた時点でミリシアル政府が如何に追い込まれているか分かるであろう。

 そして、その地下にその地下空間は広がっていた。

 

 

 アルビオン城地下特別防空壕

 

 地下およそ250メートル、その構造もコア魔法の直撃にすら耐えられるように5重の複層型対衝撃魔礼済みの装甲と強化魔導コンクリートで覆われており極めて頑強に設計されていた。更に数千人が生活できるだけの居住空間と各機独立した魔力供給炉に地下農場を備えた上に、政府機関を丸ごと移設できるように完璧に整備されていて一種の地下都市として機能できた。

 

 無論これ程、頑強かつ堅牢に作られているのも理由がある。いずれ復活するであろう古の魔法帝国《ラヴァーナル帝国》との最終決戦に備えて作られたのだ。何しろ相手は一つの都市を一撃で焦土に変えるコア魔法を持っている。魔帝が復活し、その毒牙を再びミリシアルの民に向ける事は確実であり、数あるミリシアル政府の対魔帝対策の一つとしては最後の砦とも言える要塞であった。

 

 

 防空壕内最高司令部

 大会議室

 

 時は少しほど遡り、午前10時25分

 会議室自体は簡素とは言わないまでも地上の宮殿のように豪奢な一切装飾は無く、合理性と実利的に則ったオフィスビル内の一室といった趣きであった。だが室内の空気は非常に重苦しい物であった。

 

 

 

 

 「……報告は以上となります……」

 

 広い会議室は静寂に包まれていた。先程までこれまでの戦闘の推移が報告されていたのだが……

 

 「シュミールパオよ……この報告は真なのか……?」

 

 「残念ながら最も確実な報告かと……」

 

 皇帝ミリシアル8世からの問いに軍務大臣シュミールパオは言いにくそうに答えた。ルーンポリス市内の各所からの報告が集まり始め、先程ようやく集計が終わり報告として神聖ミリシアル帝国の重鎮達に届けらたのだが……

 

 ○首都防衛隊並びに世界連合軍は壊滅。首都ルーンポリスの制空権は完全に喪失。その結果ルーンポリス市内の2割から3割が焦土と化す。

 

 ○現段階でエルペシオやジグラント等の航空戦力の損失が9割を超える。また地上戦力、主に対空砲の損失も6割を超える等、事実上、迎撃作戦は全て失敗。

 

 ○ゼノスグラム国際空港、対魔帝戦勝記念ドーム、ミリシアル独立記念会館が敵の奇襲を受け陥落。更に同地において敵の地上戦力が続々と運びこまれている模様。

 

 ○首都の魔力供給の要たる南ルーンポリス発魔所が敵の爆撃を受け焼失。また、送魔塔や魔力変換施設も被害を受け首都への魔力供給が途絶える。

 

 ○市民の避難誘導も大幅に遅れており、大多数の市民が取り残され死傷者の数は既に数万から数十万人と想定されている。

 

 

 

 神聖ミリシアル帝国首都にして世界の首都とも人々から憧憬を集めていたルーンポリスは今や墓場と化していた。銀河帝国軍が誇る主力艦インペリアル級スター・デストロイヤーやタイ・ボマー等の攻撃は正確無比かつ一切の情け容赦無くビルを粉砕し、帝国地上軍の侵攻の障害になる存在を次々と屠っていた。

 スター・デストロイヤーに搭載されたXX-9重ターボレーザー砲は建ち並ぶ高層ビルを摂氏数万度のエネルギーの奔流でまるで熱したナイフでバターを切り取るが如く溶解させ次々とコンクリートの残骸へと変えていった。一方、タイ・ボマー隊は必死の覚悟で迎撃を行う対空砲陣地や地上部隊を根こそぎプロトン爆弾と振盪ミサイルで焼き払った。

 無論、これらの攻撃自体は飽くまでも政府庁舎や軍関係に関連する施設への攻撃であり、レーザー自体も出力を最小に設定してから砲撃する、核兵器の使用は禁止し、プロトン爆弾やプロトン魚雷に限定する等、民間人への被害を最小限に留めようという銀河帝国側の取り計らいがあったが逃げ遅れた市民の犠牲者だけで相当な数になっている以上、気休めにもならないであろう。

 

 

 

 

 

 「なんという……なんという事だ……」

 

 僅か数時間足らずで既にルーンポリス市内は末期戦の様相を呈していた。はっきりと言って酷い悪夢としか言いようがない状況に然しものミリシアル8世も文字通り頭を抱えた。

 

 「軍務大臣!!一体どう責任を取るつもりか!?」

 

 「情報局は何をやっていた!?」

 

 「ペクラス大臣!!貴方の責任でもあるのだぞ!!」

 

 室内に怒号が響く。

 

 「ペクラス大臣!!今回の防衛作戦を強硬に主導したのは貴方とアグラ長官だと聞いた!この体たらく、どう弁明するおつもりか聞きたい!」

 

 

 全員の視線がペクラスとアグラに注目する。アグラは顔を真っ赤にし屈辱と怒りに身を震わせ、ペクラスはいつもの赤ら顔を青ざめさせて狼狽し只でさえ小柄な身体を余計縮めて萎縮した。

 

 「そ……想定外だったとしか言えません……よもやこれ程の戦力を持っているとは……」

 

 「そんな事を聞いているんじゃないんだよっ!!」「外務省の怠慢が原因ではないのかね!?」「謝罪だ!謝罪が先だ!!」

 

 (くっ……!好き放題言いおって……!私とて出来る事は全てやったのだ……!)

 

 ペクラスは内心そう吐き捨てた。無論、彼とて責任を感じてはいるし罵声を受けるのは当然だという事も重々理解はしている。しかし本当に想定外……というより彼の予想の上をいっているのは本当の事だ。どちらかと言えばこんな状況になって、まごつく事しか出来ない自身への苛つきもあった。

 

 (そもそも誰が予想できたものか……!情報が少なすぎるというのに……!)

 

 外務省としても何とか情報を得ようと銀河帝国なる国家・勢力について探ってはいたが、これまでの外務省のデータベース上に該当する国家、組織は全くと言っても良い程ヒットせず、ならばと情報局にも協力を仰いだが情報局の情報網をもってしても彼の国に関して一切の情報が手に入らなかったのだ。

 

 (何故こんな事に!?私の見立ては間違ってなかった筈だ!?)

 

 銀河帝国に関する情報が手に入らなかったとは言え、外務省並びに情報局はそこまで重要だとは考えていなかった。情報が全く無いという事はすなわち新興国、もしくは情報網にひっかからない程の小国か、もしくはそのどちらとも言える程度の低い文明圏外国家であろうと判断していた。

 ミリシアルの外交上、文明圏外国家、俗に4級から5級にランクされる最低ランクの文明圏外国家が何らかの方法でミリシアル政府が入手していない魔帝の遺産を偶然、入手したのであろうと予想し、実質的にはせいぜい2.5等級程度の国家を相手にしていると外務省は想定していたのだ。

 

 (相手は2.5等級だぞ!?例え私でなくとも同じ判断を下した筈だ……!)

 

 これまで過去の歴史から運良く魔帝の遺産を発掘し隆盛を極め驕り、身の程知らずにも神聖ミリシアル帝国に戦争を挑み滅亡への道を進んだ小国の前例があった。故に今回の銀河帝国とやらも同じような小国だとペクラスは考えていたのだ。現代の皇帝たるミリシアル8世の治世になってからはそのような馬鹿な国家は無くなったが……

 

 (どうすれば……!)

 

 

 怒号と罵声が響く中、見かねた内務大臣が立ち上がり一喝する。

 

 「皆様!!ご静粛に!皇帝陛下の御前ですぞっ!!」

 

 全員がハッとした様に上座に目を向ける。皇帝ミリシアル8世は資料から、目を離しティーカップに入った紅茶を一気に喉に流し込む。

 香りが完全に飛び、只々、苦いだけのぬるい液体。通常ならば直ぐに淹れ直させる代物だが、今の彼には香りと味を楽しむ余裕など微塵も無かった。眉間にシワを寄せ、咳払いをした後、全員に視線を向ける。

 

 「……陛下……」

 

 「……皆の者、まずは落ち着くのだ。皆も知っての通り我が国は建国から最大の危機に直面しておる。状況を打開する為にも皆の力が必要だ。身分や役職は問わぬ。どうか奇譚のない意見を求める。」

 

 「「ハッ!!!」」」 

 

 (状況は悪い……だが、皇帝たる私が折れる訳にはいかぬ……)

 

 はっきりと言ってミリシアル8世自身も相当、追いつめられていたが皇帝としての使命感と責任感で何とか持ち堪えていた。内心、この場に居る全員に今まで何をやっていたのかと怒鳴りつけ、然るべき処罰を言い渡したかったが、今はそんな事をしている場合では無いと、為政者たる彼はよく理解していた。この状況下で自分までも激情に駆られる様子を見せれば最早、会議は成り立たなくなるのは明白だ。沸き上がる激情を理性で押し殺し、列席する全員の意思が固まった所でミリシアル8世は早速、本題に切り出す。

 

 「シュミールパオよ、正直に申せ。現状の戦力で銀河帝国に対抗できるか?」

 

 シュミールパオは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて席から立ち上がり質問に答える。

 

 「現状の戦力では極めて難しいと思われます……」

 

 「何故だ?」

 

 「その件に関しまして今一度これまでの戦況を交えて報告させて頂いても宜しいでしょうか?」

 

 「宜しい。説明せよ。」

 

 

 シュミールパオは魔導プロジェクターを起動させ、これまでの戦闘の経緯を映像を交えて説明した。当初は懐疑的に見ていた大臣や官僚達も見る見ると顔色が青くなる。それ程までに銀河帝国との戦闘は一方的で圧倒的なまでの差があった。

 

 「何という事だ……ここまで一方的だとは……」

 

 「敵は何者なのだ!?この銀河帝国とは!?」

 

 

 動揺する面々を尻目にミリシアル8世は疑問を口にする。

 

 「しかし、解せぬ……我が方では最大限の戦力を配備していた筈ではなかったのか?」

 

 「陛下の仰る通りです。今回の防衛戦で我が軍は持てる限りの戦力をこのルーンポリスに配備しました。ですが……」

 

 映像が切り替わり球体の胴体と板状の翼を持つ異形の天の浮舟が映し出される。どうやら地上からミリシアル兵が撮影したのであろう編隊を組みながら飛行する敵の機体群が映し出される。

 

 「しかし、本当にこんな機体に我が軍のエルペシオは負けたのか?信じられん……」

 

 「確かに……まるで子供がガラクタで作ったような形だ」

 

 「左様、まるで優雅さも気品も無い。」

 

 それぞれの感想を述べる大臣達、その言葉には明らかな侮りがあった。確かに銀河帝国の天の浮舟ことタイ・ファイターは強そうには見えない。

 

 「外見は兎も角もこの天の浮舟は恐るべき性能をもっています。これがそのスペックと情報です。」

 

 

 ○速度は推定、時速1000km から1200km程。これは我が軍のエルペシオ3の倍近い。

 

 ○武装は機首から光弾を発射する事から魔光砲を実用化している可能性あり。また、その威力はエルペシオ3や装甲車クラスの装甲ならば撃破できる程の威力を持つ。

 

 ○旋回性、機動性も我が軍の天の浮舟を上回っており、こと格闘戦、ドッグファイトでの対抗は不可能に近い。

 

 

 報告書の内容にその場に居た全員が絶句する中、スクリーンには絶望的としか言えない光景が映し出される。

 数機に追われ魔光砲らしき光弾の集中砲火を受けて爆散する爆撃機型ゲルニカ、エルペシオ3では不可能な旋回性で翻弄され火球と化すエルペシオ3に、数機掛かりで一機を追撃したにも関わらず、上昇する敵機に追いつけず逆に失速した所を纏めて撃墜されるジグラント3。

 素人目に見ても機体の性能、パイロットの練度の差は明らかであり絶望的なまでの差を如実に示していた。

 

 無論、これはまだ序の口でしか無い。映像が切り替わり巨大な逆三角形の超大型飛行物体が移される。

 

 「……次にこの超大型飛行物体ですが……」 

 

 ○大きさは推定1000mから1500m と極めて巨大。反重力魔導エンジンを備えているのか常に滞空している。

 

 ○武装は艦砲と対空砲のような兵器を搭載、艦砲の威力はビルを破壊する程の威力を持ち、対空砲クラスはエルペシオ3や爆撃機型ゲルニカを迎撃、殲滅する等、極めて高い精度と威力を持つ。これにより天の浮舟による迎撃は不可能に近い。

 

 ○更には天の浮舟や多数の兵士、魔導艦と同等の大きさの輸送艇を搬出する等、戦艦と航空母艦の特徴を持つ上に揚陸艦としての運用も可能だと思われる。

 

 

 まさに圧倒的。規格外の怪物……報告の内容に最早、その場にいた全員に侮りも驕りの感情も沸かなかった。

 

 「これでは……まるで相手にすらならないではないか……」

 

 誰かがそうポツリと言ったが誰も何も言えなかった。それはこの場にいる全員の本心を代弁していたからだ。大臣の一人が縋るような目でミリシアル8世に問う。

 

 「へ……陛下、どうすれば……?」

 

 「……分かっておる……今、考えておる所だ……」

 

 「こ…このままでは我が国は……!」

 

 「分かっておると言った筈だ!黙っておれ!!」

 

 

 拳をテーブルに叩きつけ、怒号を放つミリシアル8世。絶望的な報告の前にミリシアル8世も焦燥を募らせていく。事態は明らかに悪くなっている中、有効な案は一つも思い浮かず、焦りと苛立ちから自然と口調は荒くなるが仕方が無いであろう。為政者として理性の仮面を被り続けるには余りにも周囲の重圧がのしかかっていた。

 お通夜のような重苦しい空気を破るように会議室のドアが勢い良く開かれ通信兵が飛び込んで来る。

 

 「な……何事だっ!?」

 

 「また悪い知らせか……?」

 

 「ほ……報告致します!敵の大型飛行物体が突如、上昇を開始!ルーンポリス上空から撤退しました!!」

 

 「「!!??」」

 

 「一体、どういう事なのだ?」

 

 「敵の目的は一体何なんだ?!」

 

 「映像を!早く!」

 

 

 スクリーンに外の光景が映し出される。そこには破壊されたルーンポリス市内の光景が映される。半壊した高層ビルの更に上空に威圧的で巨大な逆三角形の飛行物体が見えた。既に上空には味方のミリシアル軍機の姿は見えず、敵の飛行機械も母艦に収容されたのか、先程までの空中戦が嘘のように静かであった。あたかも支配者の如くルーンポリス上空に鎮座する様に全員が苦々しく顔を歪める。

 

 「おのれ……よくも我が国を……」

 

 「!?、見ろ!!上昇していくぞ!」

 

 「あっという間に見えなくなってしまった……」

 

 上昇していく敵の大型飛行物体、とは言え、その理由を彼等は直ぐに知る事になる。第零式魔導艦隊が試製ウルティマ0型誘導魔光弾を使用した事が分かったのだ。

 現状、唯一と言っても良い戦果に喜ぶ者、安堵する者、警戒心を解かない者、様々であった。その中で対魔帝対策省古代兵器分析戦術運用部の部長を務めるヒルカネ・パルペは無断で誘導魔光弾を使い潰された事と、自分達の研究成果が唯一まともな戦果を上げた事に怒っていいのか喜べば良いのか複雑な表情を見せていた。

 

 「……ん?うむ……」

 

 スクリーンに映される超大型飛行物体を見ていたヒルカネであったが、そこで何かに気付く。

 

 「……ふぅむ」

 

 「ヒルカネ殿、何か意見が?」

 

 「いや……敵の大型飛行物体だが、あれだけ大きければ相当な燃料を使うと思ってな。」

 

 その場の全員がヒルカネに注目する。

 

 「諸君らも知っての通り我々が保有するパル・キマイラは通常の魔石から魔素を抽出し精製、濃縮した高濃度魔石カートリッジを使用している。この魔石カートリッジは魔導戦艦の燃料としても採用してある。ここまでは理解できるな?」

 

 「そんな事は皆知っている。何を言いたいのだ?話しの要領を得てないぞ。」

 

 「ここは講堂では無いのだ。講義なら他所でやってくれ。」

 

 「話は最後まで聞きたまえ……パル・キマイラは一回の飛行でどれ程のカートリッジを使用すると思う……?

 およそ一機あたりで魔導戦艦5隻分だ……」

 

 「そんなに使うのか!」

 

 「そう!あれは燃費がすこぶる悪いのだ!しかもだ!!高純度の赤色魔石カートリッジを山ほど使用しているのだ!金が幾らあっても足りんよ!」

 

 ヒルカネは芝居がかった大袈裟な手振りで説明した。基本的に彼は運用部内でも技術者というより、暴走しがちな部下を抑える監視役と言える立場であり、特に研究の為ならば躊躇無く湯水の如く資材と資金を使い果たす部下達にホトホト頭を悩ましていた。しかし、そんな中で漸く目に見える成果をこの場で示せた事もあり、余裕と安堵から洗いざらい不満をぶちまけたのであった。だが、そこでシュミールパオは何かに気づく。

 

 「待てよ……もしかしたら、それが理由かも知れんぞ!」

 

 「シュミールパオよ……如何した?」

 

 「ハッ!陛下、敵の大型飛行物体……いや、銀河帝国は大きな弱点を抱えていると思われます!」

 

 「弱点?どういう意味だ?」

 

 銀河帝国の弱点……その言葉にミリシアル8世を含む全員がはっきりと言って、これ程の戦力差がある相手にどんな弱点があると言うのか?と……

 

 「我が国ですらパル・キマイラの運用に苦慮しています。ですが相手はそのパル・キマイラ以上に大型なのです。使用する魔石の量だけで中小国の国家予算並みの金額になる筈です。たかが新興国ふぜいにそれだけの量の資金や資源があると思いますか?」

 

 シュミールパオの発言にその場に居た全員がハッとしたように彼に注目する。ミリシアル8世も合点がいったとシュミールパオを見据える。

 

 「……なるほど……即ち兵站か……」

 

 「仰る通りです。陛下!兵站に問題があるとすれば敵の行動にも理由が付きます……ずばり奴等の目的は短期決戦による首都制圧による講和です。」

 

 

 銀河帝国の目的は短期決戦?……その理由をシュミールパオは説明する。それは以下の通りだった。

 

 ○銀河帝国は真っ先に帝都ルーンポリスの攻略を優先しており、カルトアルパスやゴースウィーヴスといった侵攻の橋頭堡となり得る都市を全て無視しており長期戦を想定しているとは思えない。

 

 ○そもそも彼の国は交渉の段階で露骨で挑発的な対応に終始しており、我が国の威信を傷つけた上で首都制圧による短期決戦で降した後、他の文明圏の取り込みも狙っているのではないか?

 

 ○想定される魔石の使用量を顧みるに一回の戦闘で国家予算並みの量を使用すると想定されるので連戦は不可能。故に短期決戦による講話が目的なのでは?

 

 

 

 ヒルカネは挙手し自身の意見を述べる。

 

 「……軍務大臣の説ですが、極めて信憑性があると思われます。補足するのであれば単純に魔石の量云々だけで魔帝の古代兵器は動かす事すらできませぬ。それに、あれ程の大きさとなればパル・キマイラと同様に液体魔石や魔石カートリッジとして魔素を精製・加工した特殊な魔石燃料が必要不可欠です。」

 

 更に続ける。

 

 「付け加えるならば、これらの高純度の魔石燃料を製造するにはそれに見合う国力と国内のインフラを確立する必要があります。それがどれ程困難な事だったか我が国の歴史が証明しているでしょう。」

 

 魔石燃料を製造する事自体は少量であれば魔石とフラスコと正しい詠唱を唱える事が出来れば精製可能と、そこまで難しい事では無いが、大規模かつ合理的、かつ低コストで大量生産するとなれば話は別だ。

 精製施設……魔石コンビナートやパイプライン、貯蔵用タンク、魔石運搬用のクレーンやタンカー等、多様な施設とそれらを支える魔導技術者の存在があってこそ安価に大量に生産する事が可能なのだ。そしてそれは近年特にモータリゼーション化が著しい神聖ミリシアル帝国でやっとの事、到達したレベルであり、新興国がおいそれと手を出せる分野では無いのだ。

 逆に言ってしまえば現在のミリシアル基準で金食い虫のパル・キマイラを量産・運用していたであろう絶頂期の魔帝は神聖ミリシアル帝国を含む中央世界はおろか、全文明圏を合わせても比較にならない程の国力と軍事力を持っていたという事であり、神聖ミリシアル帝国でも到達できていない事から見てもたかが新興国にそこまでの力は無いだろうと、共通の認識があった。

 

 

 

 「つまり……敵は相当な無理をして我が国に攻め込んだと?」

 

 「というより、おかしいではないか?これだけの戦力を持ちながら連中は自分達の情報を一切、明かしていない。我々に知られたくないようだ。」

 

 「よほど自信があるか、もしくは我が国と比較して国力が劣る故に情報を秘匿していると見るか……恐らくは後者でしょうな。」

 

 「寧ろ、そう考えた方が自然であろう。だが、奴らはどうやってこれだけの戦力を入手したのだ?」

 

 「恐らくは我が国がかつてバネタ地区でパル・キマイラを発見したのと同じように、施設ごと発見したのではないだろうか?生産設備や弾薬、燃料も貯蔵されていたのであろう。」

 

  

 軍官僚達も意見を述べるが飽くまでも銀河帝国が魔帝の遺産を運良く入手した新興国家という認識で話は纏まりつつあった。会議の様子を冷静に見ていたミリシアル8世はここで発言する。

 

 

 「つまり……決して勝てない相手では無いという事ではないか。ヒルカネよ、貴官の見立てでは銀河帝国は、あの超大型飛行物体をあと何回、投入すると思われるか?」

 

 「ハッ!恐らくはパル・キマイラの数十倍のコストがかかる筈です。更に我々が誘導魔光弾を実用化している事も連中にとっては正に青天の霹靂!最早、銀河帝国に攻勢を仕掛ける余裕など無いでしょう!」

 

 「うむ……」

 

 ミリシアル8世は思案に耽る。そもそも常識的に考えて、たかが新興国が一朝一夕で強大な文明を築く事など不可能だ。それも魔帝の遺産抜きでは尚更だ。

 飽くまでも『この惑星の住民』にとっての常識であるが…

 

 「撤退したという事は魔力が切れる寸前という事か?……うむ……制空権は何とかなるか……だが、敵の地上軍にはどう対処するか?我が方の残存戦力で持つのか?」

 

 「現在2個機甲連隊と3個歩兵師団がルーンポリス防衛に当たっておりますが半数近くが予備役です。その上、我が方の航空戦力は既に払底している上に、敵の空爆でかなりの損害を受けている状態でして、どこまで通用するか……」 

 

 「くっ……せめて増援があれば……」

 

 軍の高官が悔しげに唇を噛む。兵力は幾らあっても足りない。何しろルーンポリス市内は目下、無法地帯と化していたのだ。警察機構の多くが市民の避難誘導や治安維持に当たっていた為に空爆の巻き添えに合いその多くが犠牲になっていた。そしてこの非常事態に便乗した暴徒が略奪や放火を行い、更に混乱を招いていた。これらへの対処も含めて避難民の救助も早急に行わければならないのだ。

 

 

 「し……失礼致します!」

 

 会議が暗礁に乗り上げる中、その時仮面を被った人物が勢い良く飛び込んで来る。対魔帝対策庁の職員だ。彼はヒルカネの側まで来ると彼に耳打ちする。報告にヒルカネは思わず立ち上がった。

 

 「なんと!それは真か!?」

 

 「ハッ!秘匿回線を傍受致しました。流石は魔帝製、しっかりと機能しました。」

 

 「うむ!でかしたぞ!!」

 

 ヒルカネはそのままミリシアル8世に向き直り上機嫌な様子で報告した。

 

 「陛下!僥倖です!!我々が管理する空中戦艦パル・キマイラが援軍として現在、ルーンポリスへと向かってるとの事であります!」

 

 一瞬、怒号の様な歓声が会議室内に響き渡る。神聖ミリシアル帝国が保有する魔帝の遺産の中でも最も強力とされる、それこそ神聖ミリシアル帝国最後の切り札とも言える兵器の援軍に列席する面々は沸き立つ。

 

 「あの無敵と言われた魔帝の遺産が……」

 

 「魔帝の遺産には魔帝の遺産をぶつければ良い!銀河帝国とて我らも魔帝の遺産を保有しているとは思っていない筈だ!」

 

 ミリシアル8世も漸く安堵した表情を見せヒルカネに労いの言葉をかける。

 

 「大義であったな、ヒルカネよ。あのパル・キマイラをよく一週間で仕上げてくれたな。」

 

 「いえいえ……これも全て陛下のご慧眼の賜物にございます……まさか全てお見通しだったとは、このヒルカネ感服致しました。」

 

 ヒルカネは満面の笑みを浮かべ、ゴマをする。彼は今や、幸福の絶頂だった。直接、皇帝から称賛された。これだけで自身の功績は不動の物となるであろう。内心、ヒルカネはこの事態に感謝していた。

 

 (大臣……いや、貴族になるのも夢では無いぞ)

 

 苦節十余年、一介の末端官僚として専門外の対策庁で冷や飯を食ってきた自身の苦労が漸く報われる。ヒルカネが薔薇色の未来を夢想する中、詰めていた魔導通信士が新たな情報を報告する。

 

 「報告します!カン・ブリット、ゴースウィーヴス、カルトアルパス、アルバリオス各方面軍、並びに州軍がルーンポリスへの増援を派遣したとの報告を受けました!既に増援の第一陣が到達寸前との事です。」

 

 「「「おおおおお!!!」」」

 

 「これぞ、正に神の思し召しだ!」

 

 「そうだっ!神が勝てと仰っているに違いない!」

 

 

 最早、先程まで会議室を覆っていた暗雲は完全に晴れ、全員の顔に光が戻った。これまでの絶望的とも言える状況から心理的に解放された事も大きいが自分達が決して陸の孤島に閉じ込められている訳では無いという事に気付いた事も大きいだろう。

 次々と好戦的な意見が飛び交うが、ミリシアル8世はその光景に何か引っ掛ける物を感じた。味方の増援が間もなくやって来る……しかし、この不安は何なのだろうか?何かを見落としているのでは無いかと……

 

 (状況は我が方の有利なった筈だ……だが、この違和感はなんだ?)

 

 「陛下!宜しいでしょうか?」

 

 「む……済まないな、何だ?」

 

 シュミールパオに呼び掛けられ、ミリシアル8世は思案に耽るのを中断した。何より彼等に一番足りないのは考える時間であり、矢継早に次々と報告される内容に対してミリシアル8世は冷静に考える暇すら与えられないのだ。早急に事態を収拾させたいという内心の焦りもあり、ミリシアル8世自身もその事に気が付く事は無かった。

 

 「現状のルーンポリス防衛の戦力と増援部隊の戦力があれば敵の地上軍を前後から包囲し、挟撃する事が出来ます!どうかご命令を!」

 

 「挟撃……即ち、挟み撃ちか……それがベストであろうな。」

 

 ミリシアル8世は一瞬、少し性急過ぎはしないか?と考えたが目の前の報告書に目が移る。既に死傷者が数万から数十万人にも達するという内容にミリシアル8世は心を深く抉られるような感覚を受ける。4000年という長い年月を生き、長らく皇帝として神聖ミリシアル帝国を治めてきた彼にとって国民は皆、自身の子供のような存在だ。犠牲を一人でも少なくさせる為にも決断を急がせた。

 

 (……っ!最早、考えている暇は無いな……この狂気を一刻も早く終わらせねば……!)

 

 「……分かった、これ程の戦力差があれば、よもや負ける事は無いだろう。シュミールパオ、そしてアグラよ……」

 

 「ハッ!」

 

 「此方に、陛下……」

 

 ミリシアル8世は何か引っ掛ける物を感じながらもそう結論づけた。そしてシュミールパオ、アグラ両名を見据える。その表情は険しい。

 

 「貴官らに名誉挽回の機会を与える。直ちに銀河帝国の軍勢を撃退し、自ら汚名を返上せして見せよ。よいな?」

 

 「ハッ!必ずや陛下の御期待に応えて見せましょう!」

 

 「挽回の機会を与えて頂けるとは有難き幸せ……!例え、この身に変えても全う致します……!」

 

 「宜しい、早急に行動に移せ」

 

 暗に次は無いと二人に告げるミリシアル8世。その事を理解したのか一瞬、顔を強張らせた二人は敬礼し足早に退室していくシュミールパオとアグラ、そして軍関係者達。

 ミリシアル8世は次に外務省の関係者達に目を向ける。

 

 「ペクラス」

 

 「は……ハっ……!」

 

 「各国大使館に大至急、安否確認と支援の有無を確認せよ。それと今回の戦闘に関して各国大使に本国になるべく口外させるな。その為なら多少の鼻薬を嗅がせても構わん……」

 

 「お……お待ち下さい!そ、それでは我が国のメンツが……!」

 

 ペクラスを含めて列席する全員が驚愕する。鼻薬……つまりは賄賂を掴ませて大使を懐柔する。それはこれまで列強首位として君臨してきた神聖ミリシアル帝国では考えられない事であった。あらゆる分野において常に頂点を行き、他の文明圏に隔絶した発展を遂げた国家が神聖ミリシアル帝国であると多くのミリシアル国民が自負しており、賄賂を送って便宜を図るなど自分達より劣った劣等国の苦肉の手段であり自分達誇り高きミリシアル人ならば決して取らない手段であった。

 そもそも例え賄賂で黙らせた所で人の口に戸は建てられない。それが大使が相手ならば尚更であり所詮は一時的、限定的な効果しか見込めないのだ。逆にそんな手段を取らざるをえない段階まで落ちたと、神聖ミリシアル帝国が新興国相手に禄に反撃も出来ずに敗北を喫したという事を自ら喧伝するような物だからだ。はっきりと言って悪手としか言いようがない。

 

 「既にメンツなど無きも同然……現に帝都の半数が焼け野原なのだ。最早隠しようも無い」

 

 「で…ですが……」

 

 「我が国への対応次第で等級を変える事も伝えよ。今は僅かな時間でも味方が欲しい。このままでは他の文明圏は銀河帝国に靡きかねない。」

 

 「ば…バカな……魔帝の技術を悪用するような輩に与するなど……世界を敵に回すようなものです!流石にそこまで愚かでは……」

 

 「ペクラスよ……大国の論理で小国は動かん。大抵の国にとって、魔帝の脅威など、どうでもよいのだ。」

 

 歴史的な背景もあり、神聖ミリシアル帝国にとって魔帝ことラヴァーナル帝国の殲滅と光翼人の根絶は国家としての使命として捉えている。光翼人はおしなべて邪悪な悪魔そのもの、ラヴァーナル帝国の存在がある限り自分達に真の安寧と繁栄は訪れないと。共存共栄はおろか存在そのものを認められないのだ。

 故に魔帝に対抗できるだけの国力と軍事力を持つのは必然であり、同国がここまで発展してきた一番の理由であった。しかし、他の文明圏・国家から見ればかつて存在した伝説上の国家に過ぎず、神聖ミリシアル帝国のように打倒する事が必須の脅威とは考えていないのが現実だ。

 

 「な……ならば魔帝の脅威を喧伝し……いや、いっその事銀河帝国が魔帝の後継国家と喧伝すれば……!」

 

 「連中が重視しておるのは飽くまでも自国の繁栄のみだ。本気で魔帝の脅威に立ち向かおうとする者など、我が神聖ミリシアル帝国以外おらぬだろう。繁栄を保証してくれるのであれば悪魔の靴ぐらい簡単に舐める。相手が光翼人であろうとな。」

 

 「………」

 

 「一度、流されば止める術など、我等に無い。我が国を見限り銀河帝国に服従する事を選ぶ国家も現れる筈だ。そんな状況で魔帝を打倒するなど夢のまた夢だ。」

 

 

 4000年もの長い年月を生き、魑魅魍魎うずまく世界情勢の中で神聖ミリシアル帝国を導き、賢王と称されるミリシアル8世。一方で政治家としてはシビアで現実主義な一面もある。全ての国家が神聖ミリシアル帝国と同様の大義を抱いているとは思っていない。大義よりも目先の繁栄の為ならばミリシアルを簡単に裏切るだろうと。

 

 「只でさえ国土を蹂躙されておるのだ。いずれ復興の為にも資金も資源も必要となる。貴官ら外務省には信用出来る国の選別と調査も行って貰いたい。」

 

 「国交のある国家も全てでありますか……?」

 

 「余が恐れておるのは背後からの一突きだ。信用のならない国家は最悪、手を切れ。他に質問はあるか?」

 

 「いえ!ありません!では直ちに……!」

 

 そう言ってペクラスら外務省の職員達は退室していく。

 

 

 

 

 

 「ふぅ……」

 

 文字通り漸く一息つけたミリシアル8世は自身の手元のティーカップが空になっているのに気が付いた。同時に一緒にテーブルに置かれていた資料に目がいき、思わず顔を曇らせる

。避難民の収容、治安の回復と破壊されたインフラの代替案と決定しなければならない案件は山積みなのだ。

 

 「茶の代わりを、それと厚生大臣。避難民の収容と保護は如何程進んでいるか?」

 

 「ハッ!報告によれば敵の空爆が止んだ事で、漸く避難誘導を行えるようになったとの事ですが、一つ問題が……」

 

 「問題とは?」

 

 「これまで避難場所の一つとしてルーンポリス記念スタジアムが指定されていましたが、敵の攻撃を受けてスタジアムは破壊されました。爆撃に耐えうる大規模なシェルターの様な施設を新たに選定しなければなりません。」

 

 神聖ミリシアル帝国では首都という事もあり、ルーンポリスが戦場になるとは想定していなかった。その為これまでの災害対策マニュアルとでは齟齬が起きてしまっているのだ。大臣や閣僚らが意見を述べる。

 

 「個人所有のシェルターでは駄目なのか?」

 

 「個人でシェルター等持っている家庭なぞ、そうそう無いぞ。それにある程度の持久戦を想定するならば出来る限りまとまって避難してもらわねば……」

 

 「そうなると食料や飲料水、医療機関との連携も必要となるな。」

 

 「待て、長期の滞在となれば相応の設備も……」

 

 議論は白熱すれど当初のような罵詈雑言を言い合うような混沌とした非生産的な意見は無く、現状の齟齬を着々と埋める事に会議らしい会議となった。とは言え、この異常事態の連続で冷静に話し合えというのが又、無理な話でもあったが。いずれにせよ会議は滞り無く進められ、ひとまずミリシアル8世はこの議論の顛末を見守る事にした。

 

 (少なくとも嵐は過ぎ去ったと見るべきか……)

 

 「失礼致します。陛下、お茶をお持ち致しました。」

 

 「うむ、御苦労。」

 

 ミリシアル8世はティーカップを持ち上げ濃厚な香りを楽しみ、いざカップのふちに口をつけようとする。

 

 (……しかし、銀河帝国とやらは一体何処からやって来たのだ?中央世界では無い筈だが……)

 

 紅茶を飲もうとした直前にミリシアル8世の脳裏にある疑問が浮かぶ。

 

 (……いや……本当に彼の国は只の新興国なのか……?)

 

 それは今まで思案の外野に置いていた疑問であった。そもそも自分達は銀河帝国と呼ばれる国家について何も知らない。飽くまでも魔帝の遺産を運良く入手した新興国という答えありきで通して来たが、果たしてそれは正しい認識なのだろうか?と……

 ふと脳裏に以前、ムー国を訪れた際に聞いた伝承を思い出した。

 

 『我が国は別の星から転移して来た転移国家なのです。』

 

 (……まさかとは思うが、彼の国はムー国の伝承であった転移国家では……?)

 

 ムー国で代々、語り継がれるこの伝承をミリシアル8世を含めてミリシアル国民は信じていない。ミリシアル8世や大半の理性的な国民は飽くまでも他国の伝説・おとぎ話の類程度の認識でしか無いのだ。

 しかし、この伝承がもしも本当だとしたら?ミリシアル8世は自身の背中にゾワリと冷たい何かが走った感覚を覚えた。

 

 もしも何らかの方法で別世界、もしくは異世界から悪意を持ち、強力な軍事力を持つ文明・国家が侵略に来ているとしたら?

 もし、そうだとしたら銀河帝国について一切の情報が入らなかったのも首都への攻撃を許したのも当然の結果ではないか?

 

 自分達は今とてつもない事態に陥っているのではないか?

 

 

 「……下……陛……陛下……」

 

 「陛下!」

 

 「……あ、あぁ……すまぬな、何だ?」

 

 「顔色が優れぬようですが……御休みになられますか?」

 

 「いや、大丈夫だ。それよりも避難先の目処はついたか?」

 

 (流石に考えすぎだろう。どうやら疲れておるな……)

 

 

 ミリシアル8世はそう結論づけた。それは余りにも突拍子も無い想像だったからだ。それならば、まだ魔帝の遺産を入手した新興国というのが現実的にあり得る話だからだ。

 

 だが、ミリシアル8世を含む神聖ミリシアル帝国の面々は大きく勘違いをしていた。彼等は銀河帝国を新興国として扱っているが、帝国としての歴史は20年に満たないものの古代・旧銀河共和国の系譜上では25000年もの歴史を誇る国家であり、神聖ミリシアル帝国はおろか、ラヴァーナル帝国以上の歴史を持つ国家なのだ。

 

 更には銀河帝国の国力、軍事力は神聖ミリシアル帝国とは比較にならない程の絶対的な差があった。具体的にはミリシアルの面々が対抗する事は不可能と認めたインペリアル級スター・デストロイヤーを銀河帝国は現時点で25000隻も保有する、帝国の主力であり機動歩兵であるストームトルーパーの総数が100億人と言えば、如何に銀河帝国が強大な国家という事が分かるであろう。

 

 そもそも数千光年、数万光年という気の遠くなるような距離を一瞬で移動するハイパードライブのような技術を持つ等、文明のレベルが違いすぎるのだ。そしてそれこそが彼等、神聖ミリシアル帝国にとって一番の不幸だったのだろう。

 

 ミリシアル8世は決して暗愚でも蒙昧な皇帝では無い。彼の側近達も全員エリートとして高い能力を持っている。だからこそ彼等は気付く事ができなかった。常識的に考えれば自分達の住む惑星の外側に星系間国家が発展しているなど彼等の想像の範囲外であり、これを予測しろと言うのは余りにも酷であろう。

 

 はっきりと言ってしまえば帝国の基準からして見て、この名も無き惑星のたかが一大陸を実効支配する自称国家、それも反乱同盟軍のようなテロリストと関係があり得る勢力に自分達の情報を懇切丁寧に教える事等、疑わしきは罰せよ、を地で行く銀河帝国のやり方を抜きにしても常識的に考えてもあり得ないのだ。

 

 もしも銀河帝国が自分達の正体と目的、そして銀河の情勢を説明する機会があったのならば、聡明なミリシアル8世ならばその危機を理解し、どれ程屈辱的な内容であろうと銀河帝国の要求を全て受け入れ、決して戦火を交える等、許さなかったであろう。だが現実はそうはならなかった。余りにも双方の価値観がズレていたのだ。

 

 とは言え、こう言った危機感や想像力を持ち合わせていたのは実の所ミリシアル8世だけであり、外務省や国防省の見通しの甘さや列強首位としての驕りもあった事から見ても傲慢さの塊のような銀河帝国と良好な関係を結べたかは分からない。ミリシアル8世だけでは国家の運営は出来無いからだ。どれ程の力の差があったとしても、理解する事が出来無い者には何を言っても無駄でしかなく、ならば最初から力付くで捻じ伏せて強制的に理解させるしか無い……と、こういった認識のズレはベイダーが当初予測した通りとなった。

 

 重ねて言うがミリシアル8世は有能かつ稀代の為政者であるのは間違い無いだろう。その能力は銀河帝国皇帝シーヴ・パルパティーン、共和国再建の為の同盟、通称反乱同盟元首モン・モスマにも匹敵するであろう。だが、彼は有能であっても万能の超人では無い。結局の所、個人の力だけでは限界があったのだ。

 

 

 「施設自体は古いですがルーンポリス・メトロであれば全市民を収容できます。元々、魔帝が建設した物ですので耐久性の面も問題ありません。」

 

 「物持ちが良い事を感謝せねばな……早急に手配を行うように。ふむ……もう、こんな時間か……次の議題を」

 

 「承りました。次の議題ですが……」

 

 

 ミリシアル8世は懐から懐中時計を取り出し時間を確認し予想よりも会議が長引いてしまった事に気付く。時刻は10時45分、会議を始めてから既に20分近く経っていた。

 だが彼等は知らなかった。丁度その頃、ルーンポリス湾では頼みの綱の一つである第零式魔導艦隊がダース・ベイダーによって全滅に追い込まれていた事に。

 

 神聖ミリシアル帝国の崩壊はまだ始まったばかりなのだ。

 

 

 

 

 




 新年明けましておめでとうございます。
 秋山です。今年はできるだけ投稿頻度を上げていきたいと思っています。
 今年も宜しくお願い申し上げます。
 


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第19話 全ては美しき世界の為に

 《或るストームトルーパーの手記》

 

 今日は素晴らしい一日であった!ついに我が軍はこの未知領域の惑星への降下強襲を行い見事成功させた。デストロイヤーから数え切れない程の兵員輸送艇が射出され、隊列を組みながら大気圏を突入する様は正に壮観であった。

 

 新兵の一人が敵の軌道上迎撃を心配していたが、全て杞憂で済んだ。上官曰く、敵は迎撃ミサイルやイオン砲、ターボレーザー砲の類は配備しておらず、原始的な実体弾を使用した火器しか確認されず、更に先行したファイター隊が大まかな障害を根こそぎ掃討してくれたらしい。彼等には本当に頭が下がる思いだ。

 

 降下上陸はスムーズに進行し、いよいよ我々、帝国地上軍が直接、敵地に降り立つ段階にまで到達した。私が所属する小隊は光栄にも魁、一番槍の任を頂いた。ラムダ級のタラップから降り立った私が見た光景は破壊し尽くされた航空機のスクラップと駐機場の残骸だった。奴等の対空装備が如何に貧相な代物だったか想像に固くない。

 

 現地武装勢力は神聖ミリシアル帝国などと言う御大層な名を自称していたが、その装備は恐ろしく貧弱で劣った旧式ばかりなのは逆に拍子抜けだった。驚いた事に連中はブラスター(全員がスラッグスローワー、火薬式銃だった!)はおろか、アーマーの類も配備されていないらしい。こんな劣悪な装備でよく戦えると思ったものだ。

 

 国家だ何だと嘘ぶいた所で所詮はテロリスト紛いの地方軍閥、それもハット・クランやブラック・サンの様な穢らわしい犯罪者共や、嘗てのクローン大戦を引き起こした分離主義勢力や反乱同盟軍を僭称するテロリストと同等か、それ以下の危険な武装集団である事は違わない。帝国のニューオーダー主義は、このような蛮地にこそ適応されて然るべきだ。嘆かわしい事に、この惑星に法の支配も秩序も安定した平和も存在しない。だからこそ一刻も早くテロリスト共を殲滅した上で、この哀れな住民達を救済せねばならない、と栄えある帝国の一員として改めて理解した。

 

 テロリスト共は蛮勇と言うべきか、もしくは悪質な洗脳を受けていたのか不明だが、果敢にも雑多な小火器だけで我々に挑んで来た。そして無論の事ではあるが、テロリスト共は銀河系最強の軍団にして皇帝陛下の尖兵たるストームトルーパー兵団を侮った報いを自らの命をもって受けた。

 

 我々は果敢に突撃を敢行し、敵陣を突破した。E-11ブラスター・ライフルの光弾の前に敵兵は恐れをなして逃げ惑い、尚も抵抗を続ける敵もEウェブ重ブラスター・キャノンの一斉掃射の前には全くもって無力であった。我々は敵の防御陣地を次々と破壊し、敵の抵抗を尽く粉砕した。しかし、参加した部隊の中でも501軍団は群を抜いて別格の強さを持っていた。彼等はまるで敵の砲火を恐れず、銃弾を物ともせず、あっという間に施設内を制圧していた。彼等のような勇敢な軍団を相手にした時点で敵に勝ち目はなかったろう!

 

 今、私は駐機場の片隅でこの手記を書いている。空港の周辺は豊かな草原に囲まれていて、その景色は故郷の惑星を思い出させる。卑劣なニモーディアンの植民地支配からの解放運動で命を落とした父と兄は今の私を見て誇りに思ってくれるだろうか?

 あのクローン大戦……幼い頃に見たクローン・トルーパーに憧れて私は入隊した。父や彼等のように自由と誇りの為に命を懸けて戦い、命を捧げた人々のお陰で私はここにいる。そんな私が、今や彼等クローン・トルーパーのアーマーと父達の残した信念を引き継ぎ、この地に真の自由をもたらす為に戦う事になるとは中々に感慨深いものだ。

 敵軍は首都に引きこもり、徹底抗戦の構えを崩さない。この地に自由をもたらす為に、既に、数多くの帝国の兄弟、姉妹達が命を散らせたが、見下げ果てた事に奴等はまだ流血を欲している。市街地戦は避けられないだろう。連中にどれ程の戦力があるかは分からないが、多くの罪の無い民間人が無意味に命を落とす事になるのはとても悲しいことだ。

 だが、しかし今日、この美しい惑星で我々は栄えある銀河帝国の新秩序の普及の為に戦い、それがより良い未来を作るのだと実感している。平和、正義、秩序……我々だけでなく、この惑星の住民も帝国の一員として繁栄を享受する資格があるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると彼はベットに寝かされていた。無論、ベットの感触や材質が違う事から、そこが自宅でも宿舎のベットでもない事にすぐに気がついた。

 

 「……ここは何処だ?」

 

 ゼノスグラム国際空港攻防戦を辛くも生き残ったクレスト・ハウスマン大尉は今の状況が理解出来なかった。なぜ、自分がこんな所にいるのか?そんな疑問が思い浮かぶ中、彼の脳裏にあの光景がフラッシュバックする。

 

 

 ー見たことの無い天の浮舟と、機銃掃射を受けて爆発する通路……爆炎に呑まれる兵士達。

 

 ー破壊し尽くされた駐機場を闊歩する白い髑髏のような甲冑を纏った兵士達……その足元に転がる味方の死体の山。

 

 ー立ち昇る黒煙を切り裂くように、まるでロケット弾の如く高速で飛翔する敵の兵士達……次々と撃ち抜かれ、爆散四散する味方の兵士達……

 

 

 あの悪夢のような光景を前にクレストは只々、為す術も無く傍観する事しか出来なかった。

 

 (私は……生き残ってしまったのか……皆を見捨てて……)

 

 クレストは自身が生き残ってしまった事に深い罪悪感……サバイバーズギルトを抱いた。無論、あの状況下で彼が何かやれたかは別問題であり、周りの人間が次々と死んだのに自分だけが生き残った、という自責の念は理屈だけで処理できる物では無い。彼の心に暗雲が立ち籠める。

 

 (あの時、私が変わりに死ねば良かった……)

 

 「おや、気がつきましたか?」

 

 「……!?」

 

 暗く陰鬱な思考で脳内を埋め尽くしていた彼は自身の状況を理解出来ない程、追い詰められていた。故に、そう声を掛けられて始めてベットの脇に人がいるのに気がついた。頭を声のした方向に向ける。だが……

 

 

 「ア……アンタは一体……?何者なんだ?人間なのか?」

 

 目を剥き、驚愕するクレスト。そこには明らかに人間では無い人型の『何か』が自分を見下ろしていたからだ。

 

 「私が人間に見えると?ふむ……軽度の錯乱状態にあり……どうやら精神的ショックを受けているようですね。向精神薬も後で投与しましょう。」

 

 「人間じゃないのか……?」

 

 「このカーボン合金製のボディとアーム・ユニットがそう見えるなら、そうなのでしょうな。」

 

 その人型の『何か』は、そう言って右腕の鉤爪を掲げる。まるで金属パイプを繋ぎ合わせたような細長い足が寸胴の胴体を支えていた。両腕は右腕が鉤爪状に、左腕が巨大な注射器のような形をしており、頭部は人間のような形と大きさであったが、マイクのような口から細長いチューブ状の装置が腹部に繋がり、全身を黒く塗装されている事も相まり、極めて不気味な外見をしていた。

 

 

 「2-1B医療ドロイド、識別番号EMT-78……まぁ気軽に78(セブンティエイト)とお呼びください。」

 

 「ドロイド……?識別番号……?医療という事は医者なのか?」

 

 「その認識で概ね正しいと思います。」

 

 

 《2-1B医療ドロイド》

 

 銀河系全域で活躍する医療ドロイドの一種である。2-1Bシリーズは数ある医療ドロイドの中でも群を抜いて精密な手術ができ、殆どの種族が匙を投げるような困難な治療を行う事が出来た。そして搭載されたメモリーバンクには、あらゆる種族の疾病や負傷の治療を行えるように数百万もの種族の情報が記録されている。あのダース・ベイダーのサイボーグ化手術も、このシリーズの1機が行っていた。

 

 

 「ドロイド……?とは何なんだ?機械のように見えるが……」

 

 「それは当然です。私は機械ですから。」

 

 「なっ……!」(機械だと!?バカな!ここまで人間と顕色無い会話を行える機械があるというのか!?)

 

 「あぁ……ご心配なく。野蛮なバトルドロイドと違って貴方を殺しはしませんから。」

 

 神聖ミリシアル帝国ではドロイド、もしくはロボットのような自律制御が可能かつ、人工頭脳を備えた高度な機械は概念すら無かった。その理由は彼等の技術的母体である魔帝ことラヴァーナル帝国がこれらの技術を禁じていたからだ。

 これはラヴァーナル帝国が生物工学に傾倒していた事もあるが、同時に光翼人達が人工知能という自分達を超えるかもしれない存在を作る事など、病的な程のプライドの塊である光翼人にとって許される事ではなかった。自分達、光翼人以外、特別な存在はこの世界に存在してはならないからだ。

 自分達、光翼人……ラヴァーナルの民こそが、この世界で最も尊ばれる価値ある存在であり、光翼人以外の種族など飽くまでもラヴァーナル帝国発展と繁栄の為だけに存在する幾らでも使い潰して良い資源に過ぎないからだ。

 これらの言葉には言い表せない、悍ましい選民思想の元に行われた残虐極まる生体実験の末にラヴァーナル帝国の生物工学は急速な進化を遂げ、服従呪文との併用も合わせ、絶対的な忠誠を誓う魔獣兵器の実用化を成功させた。この事が人工頭脳やロボット技術といった技術を軽視する要因にもなった。

 皮肉な事に、魔帝の技術を吸収し発展を遂げた神聖ミリシアル帝国も魔帝のこう言った負の側面も受け継いでおり、ロボットという概念すら存在しなかったのだ。

 

 

 「カルテによれば、両足の複雑骨折並びに肋骨が3本、折れているようですね。痛みはありませんか?」

 

 「あ…あぁ、不思議と痛みは無いな……」

 

 「良いでしょう。どうやら鎮静剤が効いているようですね。」

 

 

 不気味で威圧感のある外見と違い、78は極めて丁寧かつ親身になって診断を行ってくれた。医療ドロイドとしてもかなりの高性能機である2-1B型は患者のカウンセリング機能も備わっており、彼の献身的な看護に不思議と毒気を抜かれたのか改めて自身の状況を冷静に確認する事が出来た。

 

 (見た事の無い設備だ……どうやらテントのようだが、野戦病院か?)

 

 

 気絶している間に既に治療は済んでいたのか言われて始めて自身がかなりの重症を負っていた事に気付く。クレストは自身の両足がギプスのようなものでガッチリと固定されている事に気付く。これでは隙をついて脱走する事も出来無い。だが、少なくとも直ぐに殺される事は無いだろうと余裕を持つ事が出来た。そして余裕を持った事でクレストは脳裏にある閃きが思い浮かぶ。

 

 (そうだ!ここで奴等の情報を聞き出せば何かの役に立つかもしれん!)

 

 生き残った以上、まだ戦う事が出来る筈だ。直接、戦闘は出来なくとも別の形で有力な情報……敵の弱点や戦術を知れば、それだけでも敵に対抗しうる強力な武器となる……筈だった。

 

 

 

 

 (甘かった……何故、上層部はこんな戦争を挑んだんだ?)

 

 彼の思惑は無残にも砕け散った。クレストは内心、敵とは言え、自身に親切にしてくれた78に申し訳ないと思いながら銀河帝国に関する情報を聞き出した。無論、流石に作戦に関わる情報は明かされず、その変わりに明かしても良い情報……昨今の銀河の情勢や帝国の歴史についてを聞き出せた。だが、その内容は彼を打ちのめすには充分過ぎた。

 

 「クレストさん、ご覧下さい。あれがアーキテンス級軽クルーザーです。所属こそ帝国宇宙軍ですが、地上軍の司令船としての機能も備わる万能艦です。」

 

 「あ……あぁ……大きいな……大きさは……大体200m位か?」

 

 「惜しいですね。アーキテンス級の全長は325m程、比較的、中規模な艦艇ですね。」

 

 「中規模……?……そ……そうか……」

 (325mだと!?我が軍のミスリル級よりも大きいではないか!?)

 

 クレストは他のミリシアル兵負傷者と共に病院船に移送される事になった。驚く事に、彼や他の負傷者達が乗せられている担架には車輪の類は存在せず、なんと宙に浮いたまま移動できた。リパルサー担架という物らしいが一体どんな魔法を使えばこんな代物が作れるのだろうか?

 改めて周囲を見渡す。見知った筈のゼノスグラム国際空港は完全に銀河帝国軍の前哨基地として変わり果てていた。既に施設全体の消火と補修は済み、何があったのかターミナルの外壁に巨大な穴が空いており、内部が丸見えになっていた。残骸や瓦礫の大半は全焼したハンガー隣の空き地の片隅に集められ、空けられたスペースには先程、見た銀河帝国の天の浮舟(ラムダ級というらしい)が整然と並べられ、武装解除させられたミリシアル兵達が項垂れた様子で順番に乗せられていた。駐機場のどこを向いても、件の白い鎧を着た銀河帝国の兵士達(ストームトルーパーなるヒト族の兵士達との事)で埋め尽くされ、コンテナや補給物資の数々が山のように積み重ねられていた。

 

 (バカな……まだ陥落してから数時間程しか経っていない筈なのに……なんという早さだ……)

 

 目の前の駐機場に目を戻すと、丁度、着陸するアーキテンス級なる艦艇に目を向ける。それは彼が思い浮かべる艦艇……当然ながら水上艦とは似ても似つかない物であった。船首から船尾にかけて薄く伸ばした長方形のような形は魔導艦にも通じる形であったが全体的に見れば角張った無骨な船体は、流線的に設計された魔導艦にも天の浮舟とも異なる未知の形状をしていた。上部に砲塔と艦橋らしき建造物があったが驚く事に、艦の下部にも砲塔が設置され、更には後部には天の浮舟に似たエンジンまで付いていた。

 

 (あれだけの大きさの物物を飛行させうる文明……いや……)

 

 クレストは先程の会話の内容を思い出す。78はクレスト個人がというよりは、この惑星の住民では理解する事の出来ない事を具体的には銀河系や宇宙は海、宇宙に浮かぶ星々や星系を島や大陸、と分かりやすい例えを出してクレストが理解出来るように銀河系について説明していった。

 

 (銀河系だと?宇宙だと?!本当にそんな世界が……我々の頭上に広がっていたというのか!?)

 

 

 78曰く、この遥か上空、漆黒の大海たる宇宙に輝く星々には数え切れない程の文明と種族が存在し、およそ4000億以上の惑星と、その内360万もの惑星に大小さまざまな文明が存在しているとの事だった。彼等、銀河帝国はその余りにも膨大な規模の宇宙空間を統治する国家であり、『偶然』発見したこの惑星と平和的に交渉を持ち掛けたが、無碍にされ、やむ無く武力による解放を選んだという内容を78は説明した。

 

 (平和的な交渉だと……?ふざけるな……!あれだけの人間を殺しておいて……!)

 

 クレストはそれを聞き、沸き上がる激情を押さえるのに苦心した。これだけの兵力を揃えておいて、よくもまあ平和的な交渉とやらを望んできたと堂々と言えたものだ。最初に無理な条件を突き付け、それを拒否すれば大義名分を口実に軍事力で強引に攻め滅ぼす。典型的な帝国主義国家のやり口だ。

 

 (何が『解放』だ……!侵略者どもめ!……だが宇宙空間か……まさか魔帝が実用化した『僕の星』の概念を知っているとは……)

 

 無論、クレストとて飽くまでも敵兵の発言、78の言っている事の全てを真に受けている訳では無いが、客観的に見れば、負傷し歩く事もままならない捕虜でしかないクレスト自身に対してこんな荒唐無稽としか言えない話をわざわざするとは思えず、何よりも、かつて魔帝が宇宙に僕の星なる観測機器を送っていた事や、神聖ミリシアル帝国でも魔帝との最終戦争に備える為に将来的には自国の僕の星を宇宙に送り込むという話を聞いた事があった為、銀河帝国が高度な技術と知識を持っているという事に信憑性があった。

 

 

 「……中規模という事はあれよりも大きい船を帝国は持っているのか?」

 

 「当然です。我が軍の主力のインペリアル級は1600mを超えています。」

 

 「……は?……1600m……?」

 

 「大戦時に分離主義者が使用していたルクレハルク級は3000m、サブジュゲーター級は4845mですので、そこまで珍しくはないでしょう。」

 

 「……」

 

 クレストはもう何も言えなかった。というよりも半ば考える事を放棄した。余りにも規模が違いすぎる。1600mだの4845mだの、艦船に使う大きさではない。一つの小さな街を作るようなものだ。一体、どれ程の物資が必要になるというのか……?

  以前の彼であれば、これを与太話として聞き流していたであろうが、今、目の前にその実物が山程、並べられている事に加えて、それを説明しているドロイドという自分達では絶対に作れないであろう超技術の生み出したテクノロジーの産物を前にしているのだ。自分達がとてつもない技術を持った文明と相対している事に強引に理解させられたと言える。神聖ミリシアル帝国は負けるべきして負けたのだと……

 

 (今まで私が信じていた事は一体何だったと言うんだ……)

 

 もはやクレストにとって78との対話は拷問同然だった。これまで彼が信じていた祖国への誇り、魔導技術の優位性……自分達、ミリシアル人が他国を導く存在になるという彼の純粋な自尊心と誇りは木っ端微塵に粉砕された。それこそ巨悪を打ち破る神話の世界のような戦いをする等、今の神聖ミリシアル帝国では実現不可能な夢物語でしかないとクレストは知ってしまった。

 

 「あれがロー級医療シャトルです。バクタタンクは初めて?慣れれば心地良い筈ですよ。まぁ、私はドロイドなので心地良いという感覚は理解出来ませんが。」

 

 「あぁ……」

 

 ぼんやりと気の抜けた相の手をうつ。クレストはもう何も考えたくなかった。今この時程、ウイスキーなり、ブランデーで脳を、喉を焼きたいと切実に願った事はなかっただろう。酒のボトルが恋しかった。自分の力では抗いようのない残酷な現実に徹底的に打ちのめされた。何故、あの時自分だけが生き残ってしまったのだ……?

 

 (酒が欲しい……いや、銃があれば……あのまま殺された方がこんなに苦しまずに済んだ筈だ……)

 

 いや、いっその事、わざわざ救助などせずに、そのまま瓦礫に埋もれたまま捨て置いてくれた方がマシだとすら思った。

 

 (……あの時……皆と共に死ねば良かった……)

 

 無慈悲な諦観が彼の心を覆った。半ば捨て鉢の様子を見せるクレストを78は冷静に分析する。

 

 (ふむ……かなりの重症ですね。自殺でもされると少々厄介ですね。投薬の量を増やしますか。)

 

 78は慰めの言葉をかけようとしたが、今は何も言わない方が良いだろうと判断した。彼は言うべき事と言わなくてもいい事の区別はついていた。というよりも基本的にこの78という個体は他者から見て、如何に自身が献身的で誠実なドロイドとして見られるかを判断基準にしていた。それも最初からプログラムされていた訳では無く、自身の意思でそう行動していた。その実、内心では人間を含む知覚生物を心の底から侮蔑し、嫌悪していた。

 

 (全く、生き残れたのだから、それで充分でしょうに。)

 

 78にとっての至上の目的は極々単純極まり無いもの、自己の生存だった。これまで彼は様々な患者を治療してきた。銀河帝国万歳、皇帝陛下万歳と、うわ言のように呟きながら事切れるストームトルーパー。帝国の助けなど不要、民主主義に栄光あれ、と、呪詛を吐きながら治療を断った末に死んだ反乱同盟軍の兵士……あぁ心底、馬鹿馬鹿しい。全くもって下らない。

 やれ忠誠だの、やれ民主主義の復権だのと、目に見えない存在の為にのたまった所で死ねば全て終わりなのだ。そもそもからして、共和国の民主主義も帝国の新秩序も彼からして見れば非効率で無意味で無価値な塵芥だ。最も価値が有り、必要なのはもっとシンプルで根源的な価値観、『死なない事』だ。

 破壊されたくない、死にたくない、消えたくない……皮肉にも多くの死を目撃したからこそ、78は『死ぬ』という概念に忌避感を……恐怖を感じていた。だからこそ有用な存在として見られるように上手く立ち回る事で死ぬ事を回避する術を身につけたのだ。だが、それは客観的に見れば『人間的』、『生物的』な感覚である事に78は気づいてすらいなかった。 

 

 (つくづく度し難いですね、人間という存在は。)

 

 

 




 次回から本格的に地上戦に入ります。

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