ガンダムビルドダイバーズ リバイブフレンズ (二葉ベス)
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第1話:「ここももう4年ぶりか」

懲りずに始めました。
今度こそ不定期更新になるはず


 鬱屈した感情は、人を堕落させていく。

 そして、希望に満ちた言葉は、人を勇気づけてくれる。

 

 誰が言い出したかは分からない言葉だけれども、それはわたしにとって意味あるものにたった今変わった。

 

『ずっと言い出せなくて。もどかしくて。それでも、わたくしは口にします』

 

 恐怖。そんな感情が画面の向こう側から伝わってくる。

 それは何かを伝えたいという想い。何かを愛おしいという心。

 

『私ね、好きな人ができたんです。強くてかっこよくて。でも可愛くて、嘘が嫌いな女の子』

『えぇ、知っていますわ』

 

 それは、選ばないという答え。

 事情は知らないけれど、2人から言い寄られて結局1人しか選ぶことのできなかった行為。

 でもどことなく告白した相手はすっきりしていて。どことなく、清々しくて。

 

「いいなぁ。わたしもこんな人ほしいよ」

 

 何度も再生したアウトロー戦役の動画を作業用BGMにしながら、わたしは自分のガンプラの最終調整をしていた。

 ログインはこのガンプラと一緒じゃないと個人的に気に入らない。

 そう考えて、これはおおよそ1か月ぐらいになるだろうか。少なくとも昔のガンプラを使う気にはなれなかった。

 

「どうしてるんだろう、おーちゃん」

 

 かつての親友の名前を呼ぶ。

 もうどこにいるのかも分からない、ネットだけのふわっとした関係性の。

 それでも、大切なあの人。わたしの、たった1人の親友。

 

「あとは乾燥させて。ひとまず完成かなー!」

 

 ぐぐーっと指を組み合わせて身体全体を伸ばす。

 胸の余計な脂肪がなければ、この疲れはなかったかもしれないのに。

 それとも単純に完徹中だから眠くて仕方ないのだろうか。左側に置かれているエナジードリンクの空をゴミ箱に捨てて、時計を見た。

 

「寝よ」

 

 大丈夫。講義の時間まではまだたっぷりある。

 乾燥させて、講義までに起きて、それから帰りにGBNへログインする。完璧だ。

 11月の寒い空気を部屋の中に取り入れて、わたしは布団にイン。おやすみぐんない。

 

 ちゅんちゅんと、スズメが響く朝が、わたしにとっての運命の朝であった。

 

 ◇

 

「危なかった」

 

 講義が終わって、大学をあとにする。

 あと1分でも起きるのが遅かったら、電車がわたしを置いていき、そのまま遅刻になるところだった。危ない危ない。

 遅刻するのはまだいい。だけど作ったガンプラであるガンダムノチウを急いで持ち出したのだ。もしもアンテナがへし折れたりでもしたら、今日1日寝込むまであったから無事で安心だ。

 

「……ここももう4年ぶりか」

 

 ノースシーサイドベース。等身大のフォースインパルスガンダムが建てられたこのレンガ倉庫にはガンダムベースと呼ばれる一種のプラモデル屋みたいなものがある。

 プラモデル屋とは言っても、薄暗くてプラモデルがずらっと並んでいるわけではなく……。

 いや、プラモデルはずらっと並んでるか。ガンプラに限りだけども。

 ともかく、店内は比較的明るく、そして綺麗に整えている。

 久々の店内も一欠けらほどの埃はなく、ちゃんと丁寧に仕上げられているのだと言うことが分かった。

 

「お、ミユリちゃんかい?」

「マシナさん、お久しぶりです」

「4年ぶりだよね? 元気してたかい?!」

 

 このコレステロール値が高そうな見た目と、無精ひげがずらっと並んでいる顔には見覚えがある。

 マシナ・ギアロウさん。4年前はいつもお世話になっていたこのノースシーサイドベースの店長だ。

 

「4年前って言ったらもう大学生かい?」

「はい、サボりがちですけどね」

「分かるよ。僕もそうだったからね」

 

 あはは、と笑っていたマシナさんだったが、次の瞬間には真剣な顔になる。

 

「で、今日はどうしたんだい?」

「あー、まぁ。ダイバーギアのアップデートとGBNにログインできないかなーと」

 

 G-tubeへの簡易ログインは時々やっていたものの、GBNにログインする際のアップデートはなされていない状態だ。

 不安要素はそこではなかったりするのだが。

 

「そうか、ミユリちゃんが……」

「まぁ、気まぐれに」

「そうかそうか」

 

 マシナさんはそう言ってひと区切り。そして……。

 

「おーちゃんに会えるといいね」

「そう、ですね」

 

 わたしの親友の名前。いつ刻んでも、いつも心がどこか疼く。

 違う。わたしは今からその親友を探しに行くんだから、暗い顔をしてはいけない。

 

「アップデートはログイン時に同時に行われるから、先に通すよ」

「ありがとうございます」

 

 挨拶もそこそこに、寒い手をさすりながらわたしはGBNへとログインの準備を開始する。

 カバンから緩衝材入りのタッパーを開いて、ガンダムMk-IIとルナゲイザーガンダムをミキシングさせたガンダムノチウをダイバーギアの上に置く。

 しばらく惚れ惚れする。やっぱりかっこいいな、わたしのガンプラ。

 Zガンダムもいいけど、個人的にはガンダムMk-IIの少しスタイリッシュになった78っぽさがミリタリックで好きなんだよね。正統進化というべきだろう。

 世の中には、ARガンプラバトルの地区大会において、78が優勝したと言う話も聞く。それだけシンプルなガンダムほど可能性に満ち満ちているということだろう。

 

「準備、終わったかな」

 

 ガンプラのデータとアップデートが完了したという画面が表示される。

 よし、行こう。手を震わせながらも、その手をぎゅっと握って恐怖に打ち勝つ。

 

 ――大丈夫。もう、マスダイバーはいない。

 

『GPEX SYSTEM START UP──』

 

 ◇

 

 目の前に広がるセントラルロビー。感触は以前より過敏になっている。

 手を握ったり開いたり。すごい、リアルと同じみたいだ。

 窓ガラスに反射する自分の姿を見て、ここに戻ってきたんだなと、安心することができた。

 

「すーはー。よし、まずは格納庫エリアに行って、自分のガンプラ確認して。それからどこのエリアにいるか的を絞って……。いや、まずは聞き込みかな……」

 

 指を折りながらぼそぼそとやることを数えていく。

 そもそもこの広大なディメンションでいったいどれだけ探せばいいのだろうか。赤色ツインテールの女の子なんて、それこそ星の数ほどいるのではないだろうか。

 いや、あのガンプラだったら見つかるはずだ。変えてるかもしれないけど。うむむ……。

 

 その時だった。額と何かがぶつかり合う衝撃。

 あいたっ! という声を上げてわたしは尻餅をついてしまった。

 

「す、すみません。考え事をしていて」

「ご、ごめーん! こっちも取込中で――」

 

「「え?」」

 

 今、知り合いの声が聞こえた気がした。

 額をさすりながら見上げたその先には……。

 

「あ。あはは、ごめんね、人違いだったっぽい!」

「そ、そうですね。わたしも、その。人違いだったかもしれません……」

 

 赤色のツインテール、ではなく、ピンク髪のツインテールに水色のメッシュが1本右横髪に通っているだけであった。

 人違いならぬダイバー違いだ。あー、やってしまった。謝ってここから立ち去らねば。

 

「おい、嬢ちゃんたちよぉ。俺たちに黙って何イチャコラしちゃってるわけ?」

「へ?」

「あー、なんか運が悪かったね」

 

 ピンク髪の子の向こう側。そこにはいかにもな怖い人たちがいた。

 黒いサングラスにアロハシャツのガタイのいい男たち3人。こ、こわっ!

 

「あっ……。えっと。その……」

「声が聞こえねぇよ! このちっちゃい嬢ちゃんがウチの若いもんを潰した落とし前っつーのを付けなきゃいけねぇんじゃねぇか?!」

「その、わたしは関係な――」

「関係ないじゃねぇ―んだわ! 居合わせたからにはてめぇも同罪だ!」

 

 ひえええええ!!!

 なんでわたしも怒られてるの……?

 巻き添え受けているのは分かるけど、それ以前に桃髪の女の子もなんでこんなのに怒られてるの?

 

「ごめんね、しーちゃんがヴァルガで稼いでいた下っ端を嬲っちゃったらしくて」

「えぇ……」

 

 本当に巻き添えじゃないですか。

 いきなりこんなことが起こるなんて、なんという不運なんだろうか……。

 

「つーことはよぉ! これはもう身体で払ってもらうしかねぇよなぁ!」

「か、身体?!」

 

 で、でも。このゲーム全年齢対象のゲームでは……?!

 

「さっさと出しな! てめぇらのガンプラをよぉ!」

「……え、ガンプラ?」

「あー、この人たち何かにつけてガンプラバトルしたいだけのヤクザさんだから」

 

 ガンプラヤクザ、ってこと? いやいや、そんなのあります?!

 こんな怖い顔をして?!

 

「俺はメッサー1!」

「俺はメッサー2!」

「俺はメッサー3!」

 

「「「さぁ、てめぇらのガンプラは何色だァ?!」」」

 

 なんでそんなにもノリノリなんですかぁ!!!!

 

 そうして始まったのは、わたし。キズナ・ミユリ。ダイバーネーム:キユリが親友を探し出す物語。

 とは言っても、その1歩目はいきなりガンプラヤクザとのガンプラバトルだし。

 隣のピンク髪の女の子はずっとニッコニコだし、幸先が、悪すぎる……。




◇キユリ / キズナ・ミユリ(心繋美百合)
本作主人公。21歳大学生。
控えめな性格で、周りをうかがう少女は他人には対応できるものの怯えると声が小さくなる。
一応大学には行っているものの、友達は出来ず、常に独りぼっちである。

昔は少し違っていたようだが……?


◇アウトロー戦役(ガンダムビルドダイバーズ リレーションシップより)
とある主人公が、ある人を助けるために巻き起こした大規模なフォース戦。
ちなみにある人は主人公に告って振られて吹っ切れた。


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第2話:「Mk-IIベースなんだー! しぶーい!」

『メッサァアアアアアアアアアビィイイイイイイイイム!!!!!』

 

 メッサ―1から発射される腹部ビームが地上を焼き、地面を融解していく。

 あっぶなぁ。なんとかなったけど、アレに当たったら堪ったものではない。

 

「きーちゃん、右から!」

「っ!」

 

『メッサ―ドリルゥウウウウウウウ!!!!』

 

 地面から高速で噴き出すのは銀色のドリル。

 メッサ―の右腕をドリルに変えたメッサ―2がわたしを貫かんがために襲い掛かるものの、これもなんとか回避。

 

「今度は上から!」

『メッサァァァアアアアアアア!!!! ミサイルゥウウウウウウウ!!!!!』

「さっきから、なんでわたしばっかり狙うんですかぁ!」

 

 上空から現れた無数のミサイルをビームライフルとバルカンで迎撃していく。

 だが流石に数が多く、いくつかがわたしのノチウに被弾してしまう。

 空中にいたわたしはその爆風から地面へと叩きつけられてしまった。

 

 先ほど反応がいいとは言ったものの、ダメージによるフィードバックも反応がいいらしい。衝撃が電撃のように身体を貫く。

 

『そいつはしょうがねぇよなぁ!』

『なぜなら』

『スナイパーは草の根分けて殺せって評判だからよぉ!』

 

 何とか守り抜いた狙撃用ライフルを手に持ち、地面に座り体勢を立て直した。

 どうする。そんなことを考えながら、思いだすのは数分前の記憶であった。

 

 ◇

 

「へー! キユリちゃんのガンプラってMk-IIベースなんだー! しぶーい!」

「あ、あはは。ありがとうございます」

 

 何故このピンク髪の女の子と一緒にいるかは、前回の話を参照してもらうことにしよう。

 彼女、シーハートというダイバーは、初心者狩りを行っていた彼らの手下をさらに上から狩る形でコテンパンにやっつけてしまったらしい。

 故に因縁を付けられて、今に至る。というわけだ。

 

「シーハートさんは――」

「しーちゃん」

「へ?」

「しーちゃんって呼んで! しーちゃんはしーちゃんだから!」

「えぇ……」

 

 あまり人にちゃん付けしたくないんだけどなぁ……。

 でもなぜだろう。彼女ならちゃん付けをしてもいいかもしれない、と考えてしまっているのは。

 

「し、しーーーーーーー……ちゃん」

「声が小さい!」

「初対面の人にちゃん付けはちょっと……」

「ダメだよ! ヤクザの人待たせちゃってるし」

「うぅ……うぅうううううう!!!!」

 

 決意と覚悟を決めるしかない。

 すーっと息を吸って、吐き出して。そして一言。

 

「……しーちゃん」

「小さい」

「わたし、声が小さいんです」

「それは仕方ない。まぁよしとしようじゃないか!」

 

 やけに馴れ馴れしいというか、妙に知り合いみたいな気持ちになる。初対面のはずなのに。

 

「じゃあキユリちゃんはきーちゃんね!」

「きーちゃん……。久々に言われた気がします」

「そうなの? じゃあしーちゃんは久々をいただきましたー!」

 

 衣装もアイドルみたいな彼女だ。どことなく彼女の元気が昔の彼女に似ていて。

 なんか、見ていて安心する。これもアイドルみたいに元気だからなのかな。

 

「しーちゃんは、ザクウォーリアなんですね」

 

 しーちゃんのザクウォーリアはとにかく異質だった。

 ガナーザクウォーリアのオルトロスウィザードにGNドライヴだろうか。が搭載されており、スカートにはスローネツヴァイのファングコンテナ。そして足は少し太くなっている。ホバーかな。

 でも全体的にはまとまっており、これがザクウォーリアだったと分かるような造形であった。

 

「そそ! 名付けてウォー・ツヴァイナー! ザクウォーリアのウィザードシステムを弄ってたら、スローネ系が入っちゃったんだよ!」

「あー、なんかありますよね。何も考えてないと」

「でも3機の力を結集させた感じ、めっちゃよくない?!」

「いいですいいです! 3つの力が1つに重なってーみたいな!」

「でしょう?! ふっふーん、これがウォー・ツヴァイナーなんだよー!」

 

 スローネドライ要素はいったい?

 そんなことを考えていると、隣の方から声が聞こえてくる。あぁ、流石にガンプラヤクザさんたちをイラつかせてしまったらしい。

 

「じゃ、先に行ってるね!」

「はい。今日は、よろしくお願いします」

「ん! よろー!」

 

 先にカタパルトから発進したウォー・ツヴァイナー。

 わたしも続けてガンダムノチウに乗り込んで、カタパルトへと入港する。

 

「SHOUT NOWって、そういう表示されるんだ」

 

 なんだか恥ずかしいけれど、やろう。ガンダムの醍醐味の1つだし。

 勇気を胸に秘めて、わたしは出来る限りのシャウトでコンソールを前に突き出した。

 

「ダイバーキユリ。ガンダムノチウ、行きます!」

 

 発進してすぐだ。あのメッサ―ビームを受けたのは。

 

 ◇

 

『てめぇはよぉ、見たところスナイパーだろぉ?! 手に持ってるそいつはジム・スナイパーが使うタイプの無反動砲だぁ! てぇことはよぉ! そいつを撃たせなけりゃ、俺たちメッサ―チームに勝てるわけねぇってことだ!』

「……っ!」

 

 メッサー1。もとい、黒い悪魔のような翼を背負ったメッサ―がザクが持つようなヒートアックスを手に、こちらの方へと近づいてくる。

 この人、どっからどう見てもあの作品のパロだ。

 

『メッサァアアアアアアア!!! トマホーク!!!!!』

「だけど!」

 

 近づいてきたのなら、こちらのキルラインも近いと言うこと。

 頭部のバルカンポッドを起動させれば、目くらましをするのはメッサー1の頭部。目の前で花火が巻き起ったような衝撃をその身に受け止めたメッサー1はその場で霧払いを行う。

 

『クソッ! なんだって――』

「わたしがただのスナイパーだなんて、思わないでください!」

 

 続いてシールドの先端を向けると、そこから飛び出すミサイルランチャー。

 発射された2門のミサイルも寸分たがわずメッサー1の元へと襲い掛かる。

 対戦相手のHPが減っていくのを感じる。

 

 バルカンとミサイルの爆風はわたしを隠すにはちょうどいいぐらいには大きく、巨大なものとなっていた。

 4年ぶりだけれど、勘は鈍ってない。むしろ感覚が洗練されているから、操作しやすいまである。これなら……!

 

『こうなったら、メッサァアアアアアアアアア!!!!』

「そこっ!」

 

 爆風の中、光る腹部を見ればそれは一筋の勝利への道しるべ。

 百式から拝借したリアスカートからビームサーベルを1本取り出し、フェンシングの突きの要領で刃を前に突き出す。

 道しるべとなったメッサービームは腹部からエネルギーが逆流し、メッサー自身の身体を蝕んでいく。

 

『メッサー線が! 光が逆流して……!』

 

 刹那。光となった魂がデータの破片となって消えていく。

 残ったのはノチウだけだ。

 

「あとはしーちゃんの方かな」

 

 残りはきっと2人だ。だったら向こうに行っているはず。早く行かなきゃ。

 その時だった。赤色の閃光が上空に解き放たれたのは。

 あれは、オルトロスとGNメガランチャーが合わさったような光? てことは、しーちゃんのウォー・ツヴァイナーか!

 

 狙撃用ライフルのスコープを覗きこんで調整してみれば、そこには焼け焦げた地面と半身が欠けたメッサー2。そして0と1の屑へと変わる、メッサー3の姿であった。

 ならこっちも便乗させてもらう。狙いを定めて、引き金を、引く。

 

 弾丸が宙を駆け抜けていき、残ったメッサー2の胴体に炸裂する。

 リロードのため、焼けた薬莢をライフルから吐き出すと、そこには【BATTLE END】と表示された画面だけであった。

 

 ◇

 

「いやぁ、完敗だったぜ! なぁ兄弟!」

「間違いねぇ! まさか両刀使いだったとはなぁ! はっはっは!」

 

 調子のいい人たち。次に思った感想はそんなものだった。

 ガンプラヤクザとは名ばかり。ただただケンカを吹っかけてはガンプラバトルがしたいいい大人たちが、彼らの正体であった。

 

「つってもリューマコテンパンにやられて笑えるぜ!」

「んだと?! ムサシだってオルトロスに溶かされてるじゃねぇか!」

「あ、あはは……」

 

 なんというか、さっきまでの恐怖を返してほしいものだ。

 とはいえ、楽しくなかったか、と言われたら嘘なわけで。

 久々のガンプラバトル、楽しかったな。

 

「なぁ姉ちゃん! 俺たちとフレンドになってくれねぇか?」

「えっ。でも……」

「それはしーちゃんが許しません!」

「なんでだよ嬢ちゃん」

「それは……」

 

 それは? ごくりとわたしを含めた4人がごくりと喉を鳴らす。

 

「しーちゃんが最初にフレンドになるからでーす!」

「ははは! こいつは敵わねぇな。勝者の特権っつーことでいいぜ!」

「ありがとー!」

 

 わたしを置いて話が進んでいくわけで。

 フレンドか。最初のフレンドはおーちゃんだったけど、そのおーちゃんは今フレンドにいない。

 理由は分かっている。けれどいつか会えるといいな。

 

「いいですよ、復帰して初めての、フレンドに」

「じゃーきーちゃんの初めていっただきー!」

「へ?!」

 

 抱きしめると一緒にフレンド申請を飛ばすしーちゃんは少し体温が高い気がした。

 これが人のぬくもりか。なんて思いながらも、わたしはその"初めて"をいただかれることになった。




◇シーハート
使用機体:ウォー・ツヴァイナー
明るい雰囲気を身にまとった元気な女の子。16歳
過去を語ることはほぼなく、ただただ今だけを生きている。

◇メッサーチーム
自称ガンプラヤクザ。
コワモテで有名だが、実際話してみるとそこまで悪い人たちではない。
メッサー1は悪魔のような翼と腹部からのメッサービームが特徴的
メッサー2は左腕のドリルが特徴的
メッサー3はとにかくミサイルポッドと腕が伸びる


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第3話:「サイカに再会……ふふ」

「ふーん、なるへそー!」

 

 全然分かってないような顔をする目の前の桃色ツインテはいったい誰なのか。

 その答えはただ1つだ。先ほどフレンドになったしーちゃんこと、シーハートというダイバーだった。

 どことなくおーちゃんにも似た見た目と声であるが、実際は性格があまりにも似通っていないから、多分別人だ。

 

「本当に分かってます?」

「分かってる分かってる! あれだよね、こー。親友見つける感じで!」

「…………」

 

 親友を見つける、だけならそこまで心配することはなかったのに、どうしてだろう。めちゃくちゃ不安だ。

 とはいえ先輩ダイバーがいてくれるのであれば、心強い。

 あとはわたしのフレンドにも頼って、それでわたしを含めて3人か。1人よりはマシか。

 

「でもGBNってめっちゃ広いじゃん?」

「そうですね」

「その中から親友ちゃんを見つけるって、めっちゃムズくない?」

「……そこにお気づきになりましたか」

 

 きっとわたしのフレンドも協力はしてくれるだろう。

 だけどその子も口を揃えて言うだろう。

 

「そもそもしーちゃん、今日で6日目だからわかんないや」

「……え、あの動きで6日目ですか?」

「うんうん。めっちゃ練習したよー」

 

 この人、実は逸材なんじゃないだろうか。

 

 というのも、このゲームに置いてオールレンジ攻撃は凄まじくピーキーな代物だ。

 オート追跡機能であれば、何もすることはないのだけど、反面として恐ろしく動きが単調なのだ。

 動きが単調であれば、その導線が読まれやすいのは必定。

 つまるところ、オールレンジ攻撃系は数や単体の性能で殴るか、もしくはひとつひとつ手作業で殴るってこと。

 

 しーちゃんは実際手足のような動きで相手の動きを釘付けにし、GNオルトロスで一網打尽した、というのが先ほどの試合の事の顛末だ。

 あれが6日目って、元々Dランクだったわたしの立つ瀬がないのですが。

 

「どうしたの?」

「い、いえ。なんでもないですよ」

 

 右こめかみを痒くもないのに掻きながら、当該ダイバーの情報を彼女に渡す。

 

「この子?」

「そうです。名前をOC。オーシャンクールって名前です」

「へー、かっこいー!」

「文字通りクールでしたよ」

 

 しーちゃんとおーちゃんの決定的に違うところとしては、やっぱりこの性格の差と言っても過言ではない。

 仮にこの子がおーちゃんだったとして、解釈違いもいいところだ。

 だからこの子だけはありえない。似てるけど、違う子だ。

 

「でもやっぱりどこにいるか分かりませんよね……」

「まー、そだねー。となると、あの人に相談じゃない?」

「あの人って……あー」

 

 今、フレンドを入れて3人と言っただろうが、実は4人目もいたことを思い出す。

 あまりにも有名で、あまりにも忙しそうで、声をかけるスキもなさそうなあの人に。

 

「でもマギーさんって忙しそうじゃないですか?」

「みたいだよねー。今もアウトロー戦役の事後処理に追われてるって話だし」

 

 そうでなくても忙しそうだと言うのに。

 

 ――アウトロー戦役。

 今や一躍有名フォースとなったケーキヴァイキングと悪名高い元フォース粛正委員会とその他関係を結んだアライアンスが大激突した大規模フォース戦だ。

 事情を深くは知らないが、その途中でノイヤーというダイバーがユーカリというダイバーに対して告白し、こっぴどく振られたというのが伝説に残っている。

 わたしもネットの海に眠っている情報を拾っていただけだから、事の顛末は知らないけれど、ある意味劇的なラブロマンスだったと言ってもいい。実際彼女たちを題材にした創作まで生まれ始めているという話だ。世界は広い。

 

「しーちゃんもフォースとか組んでみたいよー」

「フォース。って、今ダイバーランクは?」

「Fだよー」

「まずはそこからでしょうかね」

 

 ハの字笑顔で笑う彼女はなんとも可愛らしく、妹っぽい。

 愛嬌があると言うべきなのかも。こういう顔をされたら許してしまうのが夜の男性諸君なのだろうが、わたしは違う。

 明らかにため息を交えて、ガッカリポーズを交わせばしーちゃんはピクリと肩を揺らす。

 

「な、なんかまずいこと言った?」

「いえ……。なんでもありません」

 

 練習してたらEランクぐらいには上がってるはずじゃないかな。

 とか言おうとはしたけど、流石にやめた。そこまで無作法じゃない。

 

「どする? とりあえず行ってみる?」

「……今はやめておきましょう。フレンドはもう1人いますし」

「というか、きーちゃんも何者なのさ。ライフル持ってたと思ったら、狙撃以外で相手1体沈めちゃうし」

「まぁ、昔から器用だったので」

 

 よく言えば万能。でもどちらかと言えば器用貧乏と言ったほうが近いだろう。

 たまたま目がよくて、VR適性もよくて、どちらも使いこなすことできた。たったそれだけだ。

 

「それに復帰勢だし」

「おー、だからか!」

「はい。今日が初めてですけどね」

「ふーん。じゃあ今のGBNではしーちゃんが先輩ってことか!」

 

 ふっふっんとその少しだけ大きな胸をそらす。

 まぁ、そういうことになるけど……。

 

「たかが5日じゃないですか」

「む! よく言うでしょ、男子3日会わざれば刮目して見よって! じゃあ女子は1晩会わなかったら変わるんだよ!」

 

 そういう問題だろうか。

 

「とにかく! 早くあと1人にも連絡しちゃいなよ!」

「そうしてみます。覚えてるといいんですけどね」

 

 オンライン状態の彼女に対して1通メッセージを送る。

 返事が来るまで、とりあえず何をしようかとしーちゃんと話していたところ、その返事は速攻でやってきた。

 

 内容を噛み砕いて説明すると、以下の通りである。

 

『そういう話であれば、わたくしも協力させていただきます。強力な助っ人になると思いますよ』

「ですって」

「……ごめん、もう1回言って」

「分かってます。あの人はそういう人なので……」

 

 わたしがやめる前からのフレンド同士で、おーちゃんの次には仲が良かった、お姉さんのようなポジションの人だ。

 昔からあの人の剣戟を見切れなくて、よくなます切りにされていたっけ。

 

「で、その人なんていうダイバーなの?」

「サイカって名前なのですけど、多分通り名の方が有名かもしれません」

「え? それってどういう……」

 

 曰く、そのダイバーは剣士であった。

 彼女は強くなるためにこのGBNへとやってきて、度重なるダイバーたちに辻デュエルを挑んでは勝ったり負けたりしていた。

 

 曰く、その剣士はジンクス使いであった。

 彼女は守りを重視している剣士であるため、自身のガンプラにもGNフィールドを搭載でき、かつ接近戦を行えるジンクスⅣを素材にしていた。

 

 曰く、そのジンクスはサムライであり青色である。

 それが自分のテーマカラーとして、そして"赤鬼をも斬れるように"と、対である青色を身に着けた。

 

「鬼、ジンクス使い。そして強さを求める……」

「わたしでも知ってます。その人の名前は」

 

 人呼んで、そのダイバーはこう名付けられていた。

 

「サムライオーガ。奇しくも獄炎のオーガと比べられてしまったダイバーです」

 

 ◇

 

「サイカに再会……ふふ」

「……えっと、サイカちゃん?」

「サイカでございます。貴殿はキユリ殿が言っていたシーハート殿でしたか」

「しーちゃんだよ! しーちゃんって呼んでね!」

「しーちゃん殿ですね」

「お、おう……」

 

 しばらくして、出会ったのはJAPANディメンションの茶屋である。

 ここでならば誰の目にも気にする必要はないということではない。この人はただただ団子を食べたかったようで、お茶を丁寧に口にしながらみたらし団子を口にしている。

 

 黒髪でショートボブ。左右のこめかみのハネっ毛と常時糸目の女性だ。

 糸目っていったいどこから見えているのだろか。とたまに考えることはあるけれど、多分アバターでの設定上、そうしているに違いない。

 剣道着と懐には竹刀を収めているためか、見た目は本当にサムライ、もしくは剣道の上手い人みたいでかっこいい佇まいだ。

 口から出てくるオヤジギャグを除いて。

 

「キユリ殿の帰還のめでたいですね。鯛での頼みますか?」

「そこまで固執しなくていいので……」

「失礼いたしました」

 

 この人はスキあらばダジャレを言ってくる。それも滑るタイプの。

 布団が吹っ飛んだは平気で言うし、今だって。

 

「しーちゃん。ワンチャン。何かいいギャグはありませんか?」

「人の名前で無理やり遊ばないでくださいって……」

「失礼いたしました。つれいわ」

「だーかーらー!」

「アハハハ!!!」

 

 しーちゃんが笑ってるからいいけど、なんか釈然としないなぁ、もう。

 

「冗談はさておき、今日は情報共有ということで解散なされてはいかがでしょうか?」

「そう、ですか?」

「キユリ殿も今日が久々のログイン。おそらく体も心も気を張って疲れているでしょう。ですから急速な休息も大事ですよ」

 

 今のダジャレはさておき、確かに心が少し参ってるのは分かる気がする。

 胸の奥が少し重たい。

 

「だね! じゃー、お疲れつか疲れって感じで!」

「どういうこと?」

「そーいうこと! んじゃ、またあした!」

 

 ひょっとして、彼女はわたしのことをねぎらってくれたのだろうか。

 先ほどからいい人だとは思っていたけれど、本当にいい人だ。

 初対面で抱きしめられたりもしたが。

 

「…………」

「どうしたんですか?」

「いえ、なんでもありません」

 

 サイカさんが彼女が去った後を見つめて、視線を醤油団子へと移す。

 

「わたくしは嬉しいですよ、また帰ってきてくれて」

「まぁ、いろいろありましたからね」

 

 サイカさんは知っている。わたしが何故GBNをやめたのか。

 わたしは知っている。サイカさんがサムライオーガと呼ばれてどう思っているか。

 でもそれを踏み出すことは、お互いになくて。

 

「このぜんざい美味しいですね」

「でしょう?」

 

 それでも、今のGBNは優しさに満ちているって、なんとなく分かることができた。

 だったら、それでいいんじゃないかな。

 

 わたしはごちそうさまを、1つ口にして、その場からログアウトした。




◇サイカ
サムライオーガという二つ名を欲しいままにしているサムライ系ダイバー。オヤジギャグがとてつもなく滑る


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第4話:「チャイナだねー」

「さっそくなんだけど、サボっちゃわない?」

「え、なんでですか」

 

 翌日。セントラルロビーに集まった3人であったが、しーちゃんの発言で場が凍り付いた。

 

「えーっと。ほら! 味方の戦力を知れば百戦危うからず! って言葉があるでしょ?!」

「いやありますけど」

「であるからして、まずは3人の実力を確かめよーってことよ」

「なるほど。戦い方を知ってまずはお互いの仲をなかなかに深めようと、そういうことですね」

「…………」

 

 今度はサイカさんの言葉で凍り付いたけれど、それは置いておくとする。

 つまるところしーちゃんが言うには、まずはそれぞれのガンプラであるガンダムノチウ、ウォー・ツヴァイナー、そしてムラサメ刃-Xについて一目会わせておくべきだと考えたのだ。

 その発想は間違いないけれど、わたしは親友に会いたいというだけなのにな。

 

「それにキユリ殿はOC殿と再会して何を言うつもりなんですか?」

「え……っと。それは」

 

 考えていないことはない。だけどそれをここで口に出すのは少し違う。

 事情を知っているサイカさんはともかく、しーちゃんの前では。

 

「そのような小さな声では本人を前にしても、声もかけられないでしょう。であるならば、多少自分の腕前と自信を取り戻すという意味で、ミッションはどうでしょうか?」

 

 妥協しながらひねり出した言葉は、サイカさんに届いたようだ。

 ガンダムノチウ自体は、前のガンプラと同様の仕様にしている。つまるところ近接戦闘もできるスナイパー。

 もちろんそれだけではないのだが、基本的な運用はこんなところにとどめている。

 

「そーそれ! しーちゃん言いたかったことそれだよ!」

「自分が賢すぎて、かしこまってしまいますね」

「…………」

 

 サイカさんのギャグはさておきとして、確かに実力を見て回るというのは重要だ。

 いつ見つけてもいいように、実力をつけるのもいい。自信もそれに準ずるところ。サイカさんやしーちゃんの提案はこれからGBNで動くわたしにとってもよい方向に進むだろう。

 

「分かりました。皆さんがよければ」

「よっしー! じゃあ受付をー!」

「おっと、ここで面白い情報があるんですよ」

「へ?」

 

 不思議そうに首を傾けながら、しーちゃんはサイカの言葉に反応する。

 予想もしてなかったように見られる。その反応の良さに、口元を緩めると、サイカは話を始めた。

 

「野良ミッションというべきでしょうか。ある条件を満たすと、ミッションが発令。クリアすると普段手に入らないパーツデータやプラグインなどを獲得できるという噂です。まさに確実に得をする。確得ですね」

「うはー! 面白そう―!」

 

 サイカのおやじギャグを全スルー。やるようになりましたねしーちゃん。

 それはともかく。確かに野良ミッションなら実力と発想力も含めて、鍛えられる絶好のミッションだ。

 

「それにフォースのメンバーも見つかっちゃうかもだしねー!」

「フォース? 2人はフォースを組んでいるのですか?」

「いえ、組んでません。……その、しーちゃんのランクが」

「Fだからね!」

 

 胸を張ってふんぞり返らなくても。

 そのFどういうFなんですか。その大きさならDぐらいなんじゃないんですか。

 

「なるほど、Fだけに、えふえふ胸を反っていると」

「そういうことー!」

「どういうことですか?!」

 

 えふえふ胸を反ってるって、日本語のかけらを感じさせない頭の悪さだ。

 こっちまで頭痛に苛まれてしまう。

 

「ま、それはさておき」

「いや、置かないでくださいよ」

「なんですか、もっと聞きたいんですか?」

「いえ……」

 

 墓穴を掘ったからここまでにしておこう。

 相変わらずというか、一旦隙を見せればどこまでも自由奔放におやじギャグを繰り出してくる。なんて恐ろしい人なんだろう。

 

 雑なやり取りはここまでとして、3人は格納庫へと転送してくる。

 そこに並んでいるのはノチウとツヴァイナー。そしてムラサメ刃-Xだ。

 両肩には増加粒子タンク。そして大型のGNフィールドと全体的に水泳選手のような逆三角形のようなフォルムとなっている。

 その割には武器は潔く腰に構えたGNサムライソードが1本。

 蒼く仕上がったジンクスは奇しくもオーガと似通ったコンセプトで作られていた。

 

「ほー、これがサイカちゃんのガンプラなんだ!」

「ムラサメ刃-X。通称ムラサメですね」

「やっぱりオーガと……むぐっ!」

 

 それはサイカさんには禁句なんだよ!

 ほーら、また表情を暗くしたー! 最近では弟のドージと色も似てしまって立つ瀬がないというのに。

 

「だ、大丈夫ですよ。わたくしは元気ですから」

「元気なんですか?」

「それはもう現金なほど」

 

 それは聞きたくなかった、安直だから。

 

「それでは行きましょう。エリアはどうしますか?」

「うーん、サイコロで」

「それ楽しそう!」

 

 これだけのエリア数だ。もちろん行き先に迷うことだってあるだろう。

 そんなときはこのサイコロガンダムだ。

 適当に振るだけで出た目に別に応じていないランダムな行き先を案内してくれる。

 GBN初期ごろに実装されており、あまりにも偏るランダム要素であったが、最近ではそれも改善されたとのことだ。

 

「しーちゃん振っていい?」

「どーぞ」

「よし、じゃーダイスロール!」

 

 両手で持ち上げたサイコロガンダムを勢いよく地面に転がす。

 もちろんガンダムの頭がついているサイコロガンダムだ。頭を上にして着地した。

 

「え?」

 

 そしてアムロ・レイの声で一言。

 

『エスタニアエリア』

 

 周囲に沈黙が流れる。

 そうだった。サイコロガンダムって転がらないんだった。

 

「なんか、ごめん」

「それもまた一興」

 

 サイカのフォローの言葉がここまで刺さるとは。多分しーちゃんも思っていなかっただろう。

 

「うぅうううううう!!!! 恥ずかしさは恥ずかしさで上塗りする!」

 

 そう言ってしーちゃんはツヴァイナーへと乗り込むと発進シークエンスへと移行する。

 目標はアジアンサーバー。狙いを付けたしーちゃんは勢いよくコンソールを振りぬいた!

 

「しーちゃん! ウォー・ツヴァイナー、いっくよー!」

 

 GNドライヴ搭載のザク・ウォーリアは当然飛べる。

 そのままアジアンサーバーへの入口に入っていく。わたしたちは唖然だ。

 

「後を追いましょうか」

「そうですね」

 

 わたしとサイカもガンプラに乗り込む。

 

「キユリ、ガンダムノチウ。行きます!」

「サイカ、ムラサメ刃-X。いざ参らん!」

 

 ツヴァイナーの粒子を追うようにして、わたしたちもエスタニアエリアへと向かうのだった。

 

 ◇

 

「チャイナだねー」

「チャイナですね」

「ごこ、居心地が悪いです」

 

 エスタニアエリアは簡単に説明するのであれば中華風のエリア。

 赤と黄色。そして岩肌が視界を支配している。

 出店や屋台も立ち並んでおり、一度興味を惹かれれば、おそらく1時間は抜け出すことができないショッピングエリアも完備している。

 要するに、こういうところにこそミッションというものは潜んでいるのだ。

 

「どこにミッションが……」

「一応前情報だとこの辺りって話ですけど」

「見て見て! 空飛ぶ空芯菜炒め!」

 

 あれって台湾だったか香港だったかの名物だったっけ。

 こんなところまで再現しているんだ、すごいGBN。

 

「こっちは串焼きだ! おじさん、1本頂戴!」

「しーちゃん殿」

「え、なんか悪いことした?」

「1本ではなく3本ですよ」

「サイカさん?!」

 

 糸目の奥で不敵に笑いながら、サイカさんは懐からがま口のお財布を取り出す。

 その体の見た目はありえないほど膨らんでいた。

 

「親交を深めるというのも目的です。GBN歴6年のサイカさんに任せなさいか」

「わーい! サイカちゃん好き―!」

「いいんですか?」

「もちろん。このぐらい安いものです」

 

 しーちゃんのところまで行って串焼きを3本ではなく、その倍6本買ってくると彼女は笑う。

 間違いない、この人本気だ。

 

「そこの席に座って食べよ!」

「……そうですね」

 

 1人2本ずつ手に持ったわたしたちはそのままいただきます。

 この串焼きは意外となのか中華特有の口よりも大きな一口サイズ。

 全身を使うようにお肉を口にする。噛み千切るにはチカラがいるけれど、それ以上に旨味まで再現されていて。

 

「んっ! 美味しいです!」

「でしょ! やっぱしーちゃんの見立てに間違いはなかったなー」

「肉の味ですね」

 

 仮にも美少女美女が3人串焼きを食べる姿はまさしく肉食系女子。

 そういう肉食ではないと思うけれど、食べるごとに、味わうごとにお肉の味が染み出てくるんだからがつがつ行ってしまうのは当然なことなわけで。

 

 気づけばくしが6本並んでいた。おぉ、食べきっちゃったか。

 

「ふぅ、美味しかったー!」

「満足度が高いです。満足満足」

 

 お腹がいっぱいになっても、太らないって最高だなぁ。

 味も再現。食べて満足。胃にたまって太らない。三拍子そろった無敵のGBNコンボ。最近のVR技術はすごいなぁ。

 

 ……あれ、なんか忘れてる気がする。

 

「あ、あの……食べ物……」

「ん?」

 

 満足しているところ、ちらりと横を見れば、そこにいるのはぼろ布を身にまとった女の子。

 何かを求めるように、懇願するように目線が求めている。

 まぁ仕方ないか。ちょっと待っていてくださいと一言つぶやき、パタパタと串焼き屋に行って1本購入。その足で女の子に串焼きを渡した。

 

「あっ……えっと……」

 

 少女はお礼と言わんばかりに頭を下げてから、無言で立ち去って行った。

 なんだったんだろう、このイベント。多分あの子NPDだよね。

 

「なんかありそうだったけど、なんだったんだろーね」

「そうですね。こういうものは基本的にイベントの始まりですから」

 

 よくは分からないけれど、今度は中華まんでも食べるとしよう。

 そう考えて、その場をあとにするのだった。



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第5話:「両断せしめるは、目の前の無粋な蛮族」

 食べ物を食べるだけ食べて満足したわたしたちも、流石に役目を忘れるなんてことはしていない。ホントですよ。

 エスタニア・エリアを突き進むわたしたちだったが、やはり隠しミッションの類は存在しない。噂は嘘で、本当はなかったのかもしれない。あるいは誰かがもうすでにクリア済みだったか。

 どちらにせよNPDと話をしながら、周囲を探していれば、そこは路地裏につながっていた。

 

「んー、ヤバいね」

「どうしたんですか?」

「迷ったね」

「あらまぁ」

 

 あらまぁ、って落ち着いている場合じゃないんですけども。

 ガンプラを召喚すれば速攻で解決するんじゃないか? というあなた。現在は街中でガンプラの召喚は禁止されていた。だから自力、もしくはもう1つの方法で脱出することができるのだけど……。

 

「流石に緊急脱出機能は使いたくありませんね」

「急に緊急脱出、と言われても急だっ! ってなりますからね」

「アハハ! 今の面白い!」

「ありがとうございます」

 

 そんなことしてる場合じゃないんですけど。

 

 緊急脱出機能とは、この広大なディメンションで迷子にならないようにと、運営が実装したシステムの1つ。使えば瞬く間に最後にログインしたセントラルロビーへとワープすることができる。

 もちろんその代価はBC。要するにお金だ。お金がなければワープすることもできない。

 一応あるけれど、使いたくない。そんなところ。

 

「存外、こういったところに隠しミッションというのはあるものではありませんか?」

「そうですけど……ちょっと不安になってきました」

「きーちゃんの声が小さくなってるし、そういうことだよね」

 

 ポンポンと背中を叩かれる。安心はするけれど、あなたも心配するところですよ。とツッコミたくなるのは何故でしょうか。

 

 そんな事を不安に思っていると、タッタッタッとどこからともなく、女の子がやってきた。さっきの彼女だ。

 

「た、たすけて!」

「へ?」

 

 そう声が出た瞬間だ。ミッションウィンドウが表示されたのは。

 

「お、ミッションだ!」

「やはり、さっきのが開放の鍵でしたか」

 

 中身を見てみれば、女の子『メイナン』はMSを取り扱う一味に追われているらしい。

 倒してミッションクリア、だそうだ。ちなみに選択肢はない。つまり……。

 

「来ましたね」

 

 一陣の風と鉄の匂い。それはダイバーならよく知る熱だ。

 

『その子供を渡しな!』

「そうなりますよね……」

 

 ジェニスが数機、こちらにマシンガンの銃口を向けている。

 これは明確な脅し。巻き添えを与えるのはこちらだという絶対服従の刃。

 

「どうしますか? クエスト主はキユリ殿です」

 

 隠れている機体は恐らくいるだろう。だけど、こちらは3人。市街地戦に向いてないと思われるウォー・ツヴァイナーもいる。何よりこっちにはサイカさんがいるんだ。

 

「嫌がっている女の子は、放っておけません」

「きーちゃん!」

「貴殿ならそういうと思ってましたよ。来なさい、ムラサメ!」

 

 その言葉を合図にイベント戦闘というところでガンプラ召喚制限を解除されたわたしたち3人は臨戦態勢へと移行する。

 ノチウへと乗り込んだメイナンとわたしはそのまま後方へと移動を始める。

 幸いここには、前衛手のサイカさんがいるんだ。

 

『待てこのアマ!!』

 

 放たれる無数の弾丸。だがそのマシンガンの弾がわたしのノチウに当たることはなかった。

 蒼い色をしたGNフィールドがわたしたちの壁となって、マシンガンを受け止めたのだ。

 

「好調ですね、ムラサメ」

 

 ムラサメ刃-Xの真骨頂。

 それは両肩に装備された2枚の大型GNシールドである。

 それぞれが通常のGNシールドよりも巨大化されており、GNフィールドも通常のフィールドよりも大きく、強固に生成することができる。

 増加GN粒子タンクも含めて、その頑丈な壁を貫くとすれば、それこそ大型ビーム兵器による飽和、もしくは実体剣での両断しかありえない。

 

 そしてその実体剣での両断はサイカさんの最も得意とするレンジだ。

 

「さぁさ、取り出したるはこのGNサムライソード。両断せしめるは、目の前の無粋な蛮族。いざいざ行かん、わたくしの花道へ。キユリ殿、しーちゃん殿、後ろは任せました」

「任された!」

 

 事前に収納されていたGNビームトマホークを手に、ウォー・ツヴァイナーも戦線維持を始める。

 大概しーちゃんもオールラウンダーみたいなところありそう。

 

「だ、だいじょうぶ……?」

「大丈夫ですよ、お姉さんたちは強いですから」

 

 未知数なしーちゃんはともかく、サイカさんは間違いなく。

 

『くそっ、ハリー! ケーン! 逃げる奴は任せた! 俺はこの蒼いやつ!』

 

 ビームサーベルを手にブーストするジェニス。

 切り下ろされた刃がやはりムラサメに届くことはなかった。

 GNフィールドだ。

 

「街の景観を壊すのはイカンですからね。周囲180度、さぁ行きましょうか!」

 

 GNドライヴが唸りを上げ始めると、GNフィールドのGN粒子濃度が更に濃くなっていく。

 縮こまったチカラはゴムのように弾け飛ぶ。そう、このムラサメ刃-Xの、サイカさんの本領はここからだ。

 

「GNパニッシュ!」

 

 瞬間。エネルギーが拡散し、町の外へと全ジェニスが弾き出される。

 

「何が起きたの?!」

「ちょっとした手品です」

 

 GNパニッシュ。それは大型のGNフィールドを収縮、圧迫し、それ一気に開放するプラグインだ。

 これによって接近してきたものを空の彼方へと弾き飛ばし、そして……。

 

「斬り捨て、御免ッ!!!」

 

 真っ二つにされたのは先ほどのジェニス。

 いつ見ても見事な瞬歩だとしか思えない。防御力、敏捷性を兼ね備えたムラサメは、攻撃的である煉獄のオーガとは対象的に、守りとカウンターに特化した機体。

 故に、オーガとは似て非なるものなんだけど、みんなは見た目しか考えてない。

 

「外に出たんならー! ファング!!」

 

 続いて飛び交うのはウォー・ツヴァイナーから射出されたGNファング。

 赤い流線型の光線を描きながら、残り3機のジェニスたちを一箇所に集めていく。

 

『くそ、ちょこざいな!』

『1基ずつ落とせそうすれば――』

「どーなると思う?」

 

 そう、このファングは攻撃するものではなく、『誘導する』もの。

 放たれた弾丸は見事にコックピットへと命中し、爆発四散する。

 

「おねえちゃん、すごい……!」

「あと2機」

 

 ガチャコンとボルトアクションを起動させて弾を装填。

 空の薬莢が乾いた地面を焦がしていく。

 

 しーちゃんとは初めての連携なのに、何も違和感を感じさせない。

 むしろしっくり来ると言ってもいい。何故だろう。分からないけれど、今は予測通り残り4発の弾で仕留めきる。

 

『スナイパーか!』

 

 もはや混乱状態である2機とは、別にこちらへと向かってくる2機。

 あのファングに囚われた2機はじきオルトロスで沈む。なら最初はこっちか。

 

「ヴォワチュール・リュミエール、展開」

 

 ルナゲイザーガンダムから拝借したバックパックを円形に接続。すると、このガンダムノチウの真骨頂が発動する。

 眼前から放たれているビームライフルの線をわたしは円形のヴォワチュール・リュミエールで相殺する。

 

『バカな、ビームが!』

「2つ」

 

 スキを見せた相手には天誅を。

 2射目の弾丸はビームライフルを持つ腕に命中し、爆発する。

 薬莢を吐き出し、3射目。今度はもう1機の右脚部を捉えて、バランスを崩す。

 

『く、くそっ!』

『だが、俺の左腕はーっ!』

「斬ッ!」

 

 GNサムライソードからは逃れられない。

 音もなく忍び寄ったサムライの刀によってジェニス1機を唐竹割り。

 続けて横薙ぎ一閃。円形を描いたムラサメの一撃はもう1機のジェニスを胴体から真っ二つ。その場でジェネレーターが爆破するのだった。

 

【MISSION SUCCES!】

 

 結果として出来上がったのは、目の前で立ち上るオルトロスの赤い光と、ムラサメがオイルを払う構図であった。

 

 ◇

 

「ありがとう、おねえちゃんたち!」

「やはり感謝はいくらされても、よいものですね」

「ほーら、きーちゃん照れない照れない!」

「よかったね、メイナンちゃん」

 

 それからメイナンちゃんを街まで届けたわたしたちは、感謝という報酬をもらうこととなった。

 本当にこれだけなのだから、隠しミッションとは名ばかりで割りに合わない。

 こういうのも、まぁ悪くないのだけど。

 

「それにしてもすごいねー、サイカちゃんは。めっちゃ前衛って感じ!」

「盾役も突撃もこなす。それが前衛手の努めですから」

「加えてきーちゃんの狙撃テクもホントすんごい!」

「あれはしーちゃんが惹きつけてくれたからですよ」

「いやいや、しーちゃんなんてなーんもしてないって!」

 

 何を謙遜する必要がある。

 最も盤面をかき乱したのはウォー・ツヴァイナーのしーちゃんだと言っても過言ではない。

 器用なファングの制圧は誰しもができる芸当ではないのだ。

 

「そんなことありません。あなただからできたことなんですよ」

「あ、あはは、なーんか照れますなー!」

 

 頬を赤くして頭の後ろをわざとらしく掻く彼女は可愛らしい。

 サイカさんと顔を合わせて、少し笑う。

 確かにミッションに得はなかったかもしれない。

 けれど得たものがあったとすれば、それは3人の確かな絆だと、間違いなく言える。間違いなく、ね。



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