ガンダムビルドダイバーズ リバイブフレンズ (二葉ベス)
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資料
キャラ設定


リバイブフレンズのキャラ設定です。
良識の範囲内であれば、
ハーメルン内のガンダムビルドダイバーズ系二次創作での使用を許可しております。
確認のため、使用する際はDMでご報告をお願いいたします。

【注意!】
第3章:溢れる海。沈んだ過去は浮上する。の第33話までのネタバレを含みます。


◇キユリ / キズナ・ミユリ(心繋美百合)

・リアルネーム:キズナ・ミユリ(心繋美百合)

・ダイバーネーム:キユリ

・ダイバーランク:33話時点ではC

・身長:158cm(ダイバー時/リアル時共通)

・年齢:21歳

・胸囲:F相当

・ダイバールック:

見た目は青髪ロングで、カチューシャを頭につけている。髪はさらさら

頬っぺたに赤い丸のフェイスペイントがついている。

 

・設定:

フォース『アストロ・ブルー』のリーダー。

控えめで何事も周りの様子をうかがっている大学生。

一応大学には行っているものの、友達は出来ず、常に独りぼっちである。

かつての親友であるOC(オーシャンクール)を探すためにGBNに再開する。

4年前に言わなければいけなかったことを言うために。

責められると声が小さくなる。

 

・一人称:わたし

・二人称:あなた、○○さん、しーちゃん

 

・サンプルボイス

「わたしの名前はキユリって言います」

「いや、まぁ。確かにわたしは独りぼっちですけど……」

「行こう、エイノン。しーちゃんに伝えに行くんだ!」

 

◇ガンダムノチウ

キユリが作り出した自身の腕前に合わせて汎用性を高めたガンプラ。

名前の由来はアイヌ語で星を意味する「ノチウ」から。

ガンダムMk-IIをベースにし、バックパックにはルナゲイザーガンダムのヴォワチュールリュミエールを採用。

狙撃中の防衛機構の他、近接戦闘での有効手段の一つとして使用している。

また、単体での飛行能力も確保されており、空中戦も可能となっている。

 

・武装:

バルカン・ポッド・システム

ビーム・ライフル

ビーム・サーベル

シールド(ジェガン)

・2連装ミサイル・ランチャー

狙撃用ライフル(75mmスナイパー・ライフル)

ロングレンジ・ビーム・ライフル

 

・特殊機能:

ヴォワチュール・リュミエール

マルチプル・ディスチャージャー

 

◇ガンダムノチウフルバーニアン

フォース結成に合わせて、近距離戦に注力を置いたガンプラ。

原型のガンダムノチウとは全くの別物となっており、装甲が一部変化している。

ガンダムMk-IIのGディフェンサーから着想を受け、バックパックを取り外し、

SFSのようでありながら、合体も可能とさせるNDS(ノチウドッキングシステム)を採用している。

 

ノチウブースターはライトニングガンダムとステイメン、ゼフィランサスを参考に、とにかく機動性を重視した試作機である。

こちらはルミミの意見からミサイル兵器を採用している。

 

・武装:

バルカン・ポッド・システム

ビーム・ライフル

ビーム・サーベル

シールド(ジェガン)

・2連装ミサイル・ランチャー

ミサイルポッド

レールキャノン

 

・特殊機能:

マルチプル・ディスチャージャー

 

・必殺技

ナイトロスター・ドライブ

疑似的にナイトロシステムを搭載する必殺技。身体強化と状況把握に極振りすることのできる。

しかし、その代償としてガンプラの耐久力を徐々に減少させていくため、諸刃の剣と言えよう。

 

◇ガンダムアシウン・エイノン

名前の由来はアイヌ語で『青い炎』と『祈りを捧げる』の造語

コウサカ・ユウマのが作り上げたライトニングZガンダムをより自分好みに改良。

元々はHi-νのバックパックを使っていたが、

対ツヴァイズ戦のためにまるまるガンダムデルタカイのものへ移植した。

 

ナイトロを利用するガンダムデルタカイのフィン・ファンネルを2基搭載。

F91の排熱機構を利用し、ナイトロの青い炎をFX-バーストのように変換する。

 

フィン・ファンネルはシステム起動時にのみしか使用できないという制約をつけているため、使い勝手は悪い。

理由としては、ナイトロード・フルシンクロ使用時のニュータイプサポートを使わなければ、扱いきれないため。

 

・武装:

バルカン

ビームライフルファンネル

ビームサーベル / トンファー

シールドファンネル

・メガ粒子砲

フィン・ファンネル

 

・特殊システム:

サイコフレーム

 

ナイトロード・フルシンクロ:

ナイトロシステムと必殺技のリジェネ効果を改造したキユリなりに合わせたオリジナルのシステム。

その性能は青い炎の演出の他、フィールドの空間解析情報をダイバーにフィードバック。

反応時間の短縮を促す疑似的なニュータイプ機能が付与される。

 

一種の時限強化でもあり、ビット系の性能向上もナイトロード・フルシンクロに含まれるため、キユリはシステム起動時にのみフィン・ファンネルが使用できるように調整している。

 

ナイトロシステムの自壊効果を必殺技の『リバイブフレンズ』によって、

機体が損傷した先から再生するため、ほぼ永久機関と化している

 

AN-バースト(アシウン・ナイトロ・バースト):

AGE-FXの「FX-バースト」から着想。

全身の排熱口からナイトロシステムの青い炎を放出。

その際にビームの当たり判定を加えることによって、一種のビームサーベルのように変換させる。

やっていることはFX-バーストなのだが、空間解析能力やサイコフレームも相まって、FX-バーストよりも上回る性能となっている。

 

曰く、その輝きは流星のようにも見えたと言う。

 

・必殺技

リバイブフレンズ

ガンダムアシウン・エイノンの、キユリの友だちとの仲を直したい。という想いから生まれた必殺技。

DG細胞の再現スキルとなっており、徐々にであるが機体の耐久値が回復していくというもの。ただし、失われた武装や装甲は再生できない。

 

 ◇

 

◇シーハート / ムトウ・コウミ(武藤心海)

・リアルネーム:ムトウ・コウミ(武藤心海)

・ダイバーネーム:シーハート / OC(オーシャンクール)

・ダイバーランク:33話時点ではD

・身長:151cm(ダイバー時/リアル時共通)

・年齢:16歳

・胸囲:A相当

・ダイバールック:

ダイバールックはピンク髪のツインテール。右横上に1本水色のメッシュが生えている。

目元はぱっちり、色は海のような澄んだ水色。肌はほぼ美白。

衣装はアイドル衣装のようなフリフリがいたるところにある(まど○ギのま○かっぽい)

 

・設定:

明るい雰囲気を身にまとった元気な幼い子

過去を語ることはほぼなく、ただただ今だけを生きている。

キユリの親友であり、マスダイバー《ラストワン》。

4年前、周りの強さにあてられて、ブレイクデカールに手を染めてしまう。

それ以来キユリとは疎遠であったが、第1話で偶然にも再会した。

 

・一人称:しーちゃん / 私

・二人称:あなた、◯◯くん、◯◯ちゃん / きーちゃん(キユリ)

 

・サンプルボイス

「しーちゃんの名前はシーハート! 気軽にしーちゃんって呼んでね!」

「しーちゃんはしーちゃんだよ! なんも、変わらない」

「相変わらず、変わってないよ。私もきーちゃんも」

 

◇ウォー・ツヴァイナー

ツヴァイズガンダムの皮。

ブレイクデカールとスローネドライの力を加えて、GBNに機体を誤認させていた。

 

GNファングで相手をけん制。隙あらばオルトロスで撃墜。というのがこの機体のコンセプト。

他にもGNドライヴの余剰要素として、脚部からは少量のGNステルスフィールドを展開できる。

得てして、スローネシリーズの武装を全部を載せたようなザクウォーリアとなった。

 

・武装

GNビームトマホーク

GNビーム突撃銃

GNハンドグレネード

GNオルトロス 高エネルギー長射程ビーム砲

GNファング

対ビームシールド

 

・特殊システム

GNステルスフィールド

 

◇ツヴァイズガンダム

海のように真っ青な1.5ガンダムであり、リアスカートにファングコンテナを積んでいる以外は一般的な1.5ガンダムと同じ装備。

ウォー・ツヴァイナーの中身であり、スローネドライの特性とブレイクデカールの力でウォー・ツヴァイナーに偽装していた。

ブレイクデカールのおかげか、関節以外の部分は装甲が硬くなっており、ダメージをあまり通さない。もちろんブレイクブーストによっては関節も硬くできるが、その分機動性も減るという欠点も持つ。

 

名前の由来は永遠の二番手。

 

・武装

GNバスターライフル

GNビームサーベル

バインダーライフル

アルヴァアロンキャノン

GNシールド

GNファング

 

・特殊システム

変形

・フライトモード

・ハイスピードモード

・スタンバイモード

・アタックモード

・ディフェンスモード

・アルヴァアロンキャノンモード

ブレイクブースト・アイン/ツヴァイ/ドライ

ムトウ製ブレイクデカールによる3段階のブレイクブースト

数字が大きくなるごとにその力を増していき、ドライを使えば、単体でGBNの大きなバグとなる。しかしそのバックファイアによって、自身のガンプラが暴走する。

 

 ◇

 

◇サイカ / ウタイ・サイカ(詩衣才華)

・リアルネーム:ウタイ・サイカ(詩衣才華)

・ダイバーネーム:サイカ

・ダイバーランク:33話時点ではA

・身長:166cm(ダイバー時/リアル時共通)

・年齢:25歳

・胸囲:C相当(リアルより削っている)

・ダイバールック:

ダイバールックは黒髪のショートボブで、左右のこめかみにハネっ毛が生えている。

目元は常に糸目。目の色も赤だが、めったに見せることはない。肌は少し焦げている

剣道の道場にいるような白い剣道着と袴を身に着け、懐には竹刀が収まっている。

・二つ名:サムライオーガ

 

・設定:

サムライオーガの異名を持つサムライ系ダイバー。

性格は礼儀正しく、冷静沈着。強者ムーブをするのがとても好き。

そして隙あらばおやじギャグをつぶやくやべぇ女。

ウタイ道場の若き師範代であり、ウタイ流の資格を持つ。

二つ名とガンプラが原因でオーガとドージのことを意識している。

 

・一人称:わたくし

・二人称:貴殿、○○殿

 

・サンプルボイス

「わたくしの名前はサイカ、貴殿の刀です」

「サイカに再会……ふふ」

「飛ばしますよ、ムラサメ!」

 

◇ムラサメ刃-X

ジンクスⅣをベースに「タンク努める」ということを主に置いた蒼いジンクス。

増加粒子タンクに大型のGNシールドが増設されており、背中部分は少し大型化している。

フォルムは逆三角形型。スマートに仕上がっており、パワーというよりもスピードタイプ

奇しくもオーガ刃-Xとコンセプトが似通ってしまった。

 

ジンクスⅣの肩に大型GNシールドを2枚。

リアフロントにマウント可能なGNサムライソードを装備した機体。

GNサムライソードは棟の部分からGNドスという武器に分裂することができ、

疑似的に二刀流も可能な機体となっている。

 

・武装

GNバルカン

GNビームサーベル

大型GNシールド

・GNシュツルム・ファウスト

GNサムライソード

・GNドス

 

・特殊システム

GNパニッシュ

GNフィールド

サムライ・トランザム

自爆

 

 ◇

 

◇ルミミ

・ダイバーネーム:ルミミ

・ダイバーランク:33話時点ではD

・身長:152cm(ダイバー時)

・年齢:0歳

・胸囲:C相当

・ダイバールック:

白い軍服のような衣服にチェックのミニスカートが目立つ。

ニーソックスを着用しており、絶対領域が光る。ちょっとソックスに肉が乗ってる

胸はCぐらいで、胸よりも足に肉が行っているイメージ。

髪の毛は鮮烈に輝くオレンジ色のミディアムパーマ。

・二つ名:ミサイルパーティガール

 

・設定:

「ミサイルをこよなく愛する」という感情から生まれたELダイバー。

ルミミを初めて見つけ後見人となったのはキユリである。

性格はギャルそのものであり、ノリだけで生きているようなパーティガール。

反面、女の子の趣味とは遠く離れたミサイルをこよなく愛する子。

 

・一人称:ウチ

・二人称:キミ、○○くん、○○ちゃん

 

・サンプルボイス

「ウチの名前はルミミ! よろよろ~!」

「ミサイルしかなくなくなくなーい?」

「ド派手な花火を咲かせるよ! ミサイル・パーティ!」

 

◇モビルドールルミミDF(ダンシング・フラワー)

キユリがミサイル好きのルミミのために作り上げた弾幕上等ガンプラ。

陸戦型ガンダムをベースにバックパックのウェポンコンテナをミサイルコンテナに変更。

主兵装をガトリングバスターとすることで、弾幕を意図的に展開する制圧戦の機体として仕上がっている

 

全体的に白色が基調でGBNでのダイバールックとだいたい同じ。

要所要所でガンプラらしいフェイスマスクやアイカメラをしている。

 

・武装

頭部バルカン砲

大型ガトリングバスター

ビーム・サーベル

100mmマシンガン

ビームライフル

ミサイルコンテナ

増設多目的ランチャ

 

・特殊システム

プラネットコーティング

ヘアセンサー

マルチプル・ディスチャージャー

 

 ◇

 

◇アリサ

・ダイバーネーム:アリサ

・ダイバーランク:33話時点ではS

・身長:152cm(ダイバー時)

・年齢:16歳

・ダイバールック:

格闘家のような見た目をしており、両手は包帯でぐるぐる巻きにしている。

栗毛のポニーテールで、拳を振るう度に髪の毛が揺れる。

紅い瞳で常に闘志に燃えている。

・二つ名:バーニングファイター

 

・設定:

フォース『AtoZ』のフォースリーダーであり、個人ランク913位の英傑。

強さに貪欲。チカラであれば、どんなものでも拳を交えたくなるほど。

ブレイクデカールですら、どんな力があるか楽しみと思えるほどの狂犬である。

 

悪いやつではない。だが関わり合いになりたくないレベルで強さに貪欲。

夢はGPD時代の次元覇王流と同じチカラを手に入れることである。

自分だけの道で自分だけの強さを見出す。それがアリサの最終目標である。

 

・一人称:自分

・二人称:あなた、○○さん

 

・サンプルボイス

「自分はアリサでっす! よろしくでっす!」

「この拳は誰にも止められないでっすよ!」

「響けサイコフレーム! 轟けエイハブウェーブ! ブレストフィンガー!」

 

◇マジンガンダム

アリサが作り上げた超近距離戦に特化させたガンプラ。

名前の由来はゴッドガンダムとバルバトスルプスレクスをモチーフにしたため。

ゴッドガンダムを主体にツインエイハブリアクターの搭載。

ルプスレクスをミキシング、内臓フレームにサイコフレームを採用しており、

モビルトレースシステムとサイコフレームで極限まで自分の感覚を研ぎ澄ましている。

 

・特殊システム

カイザーモード

ゴッドガンダムのハイパーモードと、ルプスレクスのリミッター解除を複合させ、

サイコシャードを発現させたマジンガンダム専用の超強化形態。

背部のフィンが展開し、カイザーシャードが現れ、目から灼熱の眼光が零れる。

 

・武装

バルカン砲

マシンキャノン

ビームソード

 

・技・必殺技

マジンネイル

マジンガンダムのクロー攻撃

 

ビームカッター

ビームソードにエネルギーを溜めて放つビーム斬撃波。飛ぶ斬撃

 

カイザーシャード

本来のサイコシャードは「操縦者が望む脳内イメージや想念を実現・具現化できてしまう」

という魔法のようなシステムであるが、GBN内では武装の破壊までに及んでいる。

カイザーシャード下では、すべての遠距離武器が破壊され、近距離戦を強制させる

 

ブレストフィンガー

カイザーモード中に放つことのできる必殺技であり、要するにゴッドフィンガー

口上は「響けサイコフレーム! 轟けエイハブウェーブ! ブレストフィンガー!」

 

 ◇

 

◇ザフカ

・ダイバーネーム:ザフカ

・ダイバーランク:33話時点ではA

・身長:161cm(ダイバー時)

・年齢:23歳

・ダイバールック:

巨大な二つの栗毛ツインテール。

真っ二つに割れたピエロの仮面を顔につけており、トロワリスペクトを欠かさない

バッ○マン作中のハーレ○クインのような服装をしている。だいたいCカップ

 

・設定:

フォース『AtoZ』のメンバーであり、派手好きでアリサ好き。

アリサをとことん引き立たせるために、ガンプラをチューンしたぐらいにはアリサが好きなイカレた女である。

 

性格はアリサ中心主義。アリサが目立てればそれでいいと思っているぐらいには好き。

だが、それだけではいけないと、自分自身も派手であろうと考え、ピエロになっている。

根っからの悪いやつとかではなく、単純にアリサが好きすぎて周りが見えてないだけ。

 

・一人称:あたし

・二人称:あんた、呼び捨て

 

・サンプルボイス

「あたしの名前はザフカ。アリサの右腕よ」

「アリサのためなら、あたしはなんでもできるわ」

「ミサイルだけの女と一緒にしないで」

 

◇ガンダムサイコアイズ

ザフカが作り上げたアリサのマジンガンダムを引き立てるための中遠距離ガンプラ。

名前の由来は『サイコ』フレームとアリサだけを見ている『アイズ』

ヘビーアームズを素体に、マジンガンダムを引き立てる強化するためにミサイルによるかく乱、その中に隠したバグによる通信の遮断。サイコフレームのばら撒きを行うことに特化している。

 

単体で戦うことができないかと言わればそうではない。

腕には2連装ビーム砲やアーミーナイフなどを詰めており、

いわば全身武器庫のような風貌である。

 

・武装

バルカン

マシンキャノン

ミサイルランチャー×2

本機の主兵装で、両腕に装備しているミサイル群

その中身は通常のミサイルとは一風変わったバグとサイコフレームであり、

直接的にダメージを与えるものではない。1基につき4発ずつ

・ミサイルバグ

 通信遮断を行うためのバグ。爆発に乗じてフィールド上にばらまく。

 その性質上、爆発には強い耐性を得ている

・ミサイルサイコフレーム

 ガンダムNTのミシェルの特攻を参考に、

 サイコフレームをフィールド上にばらまくミサイル。

 これによって、マジンガンダムのサイコフレームを極限まで強化する。

 また、バグ展開中の味方との通信手段としても使用している。

ホーミングミサイル

ガトリング

マイクロミサイル

アーミーナイフ

2連装ビーム砲

 

・特殊システム

自爆装置

トロワリスペクト。真の奥の手




随時更新予定


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第1章:星と海。過去を求めて
第1話:「ここももう4年ぶりか」


懲りずに始めました。
今度こそ不定期更新になるはず


 鬱屈した感情は、人を堕落させていく。

 そして、希望に満ちた言葉は、人を勇気づけてくれる。

 

 誰が言い出したかは分からない言葉だけれども、それはわたしにとって意味あるものにたった今変わった。

 

『ずっと言い出せなくて。もどかしくて。それでも、わたくしは口にします』

 

 恐怖。そんな感情が画面の向こう側から伝わってくる。

 それは何かを伝えたいという想い。何かを愛おしいという心。

 

『私ね、好きな人ができたんです。強くてかっこよくて。でも可愛くて、嘘が嫌いな女の子』

『えぇ、知っていますわ』

 

 それは、選ばないという答え。

 事情は知らないけれど、2人から言い寄られて結局1人しか選ぶことのできなかった行為。

 でもどことなく告白した相手はすっきりしていて。どことなく、清々しくて。

 

「いいなぁ。わたしもこんな人ほしいよ」

 

 何度も再生したアウトロー戦役の動画を作業用BGMにしながら、わたしは自分のガンプラの最終調整をしていた。

 ログインはこのガンプラと一緒じゃないと個人的に気に入らない。

 そう考えて、これはおおよそ1か月ぐらいになるだろうか。少なくとも昔のガンプラを使う気にはなれなかった。

 

「どうしてるんだろう、おーちゃん」

 

 かつての親友の名前を呼ぶ。

 もうどこにいるのかも分からない、ネットだけのふわっとした関係性の。

 それでも、大切なあの人。わたしの、たった1人の親友。

 

「あとは乾燥させて。ひとまず完成かなー!」

 

 ぐぐーっと指を組み合わせて身体全体を伸ばす。

 胸の余計な脂肪がなければ、この疲れはなかったかもしれないのに。

 それとも単純に完徹中だから眠くて仕方ないのだろうか。左側に置かれているエナジードリンクの空をゴミ箱に捨てて、時計を見た。

 

「寝よ」

 

 大丈夫。講義の時間まではまだたっぷりある。

 乾燥させて、講義までに起きて、それから帰りにGBNへログインする。完璧だ。

 11月の寒い空気を部屋の中に取り入れて、わたしは布団にイン。おやすみぐんない。

 

 ちゅんちゅんと、スズメが響く朝が、わたしにとっての運命の朝であった。

 

 ◇

 

「危なかった」

 

 講義が終わって、大学をあとにする。

 あと1分でも起きるのが遅かったら、電車がわたしを置いていき、そのまま遅刻になるところだった。危ない危ない。

 遅刻するのはまだいい。だけど作ったガンプラであるガンダムノチウを急いで持ち出したのだ。もしもアンテナがへし折れたりでもしたら、今日1日寝込むまであったから無事で安心だ。

 

「……ここももう4年ぶりか」

 

 ノースシーサイドベース。等身大のフォースインパルスガンダムが建てられたこのレンガ倉庫にはガンダムベースと呼ばれる一種のプラモデル屋みたいなものがある。

 プラモデル屋とは言っても、薄暗くてプラモデルがずらっと並んでいるわけではなく……。

 いや、プラモデルはずらっと並んでるか。ガンプラに限りだけども。

 ともかく、店内は比較的明るく、そして綺麗に整えている。

 久々の店内も一欠けらほどの埃はなく、ちゃんと丁寧に仕上げられているのだと言うことが分かった。

 

「お、ミユリちゃんかい?」

「マシナさん、お久しぶりです」

「4年ぶりだよね? 元気してたかい?!」

 

 このコレステロール値が高そうな見た目と、無精ひげがずらっと並んでいる顔には見覚えがある。

 マシナ・ギアロウさん。4年前はいつもお世話になっていたこのノースシーサイドベースの店長だ。

 

「4年前って言ったらもう大学生かい?」

「はい、サボりがちですけどね」

「分かるよ。僕もそうだったからね」

 

 あはは、と笑っていたマシナさんだったが、次の瞬間には真剣な顔になる。

 

「で、今日はどうしたんだい?」

「あー、まぁ。ダイバーギアのアップデートとGBNにログインできないかなーと」

 

 G-tubeへの簡易ログインは時々やっていたものの、GBNにログインする際のアップデートはなされていない状態だ。

 不安要素はそこではなかったりするのだが。

 

「そうか、ミユリちゃんが……」

「まぁ、気まぐれに」

「そうかそうか」

 

 マシナさんはそう言ってひと区切り。そして……。

 

「おーちゃんに会えるといいね」

「そう、ですね」

 

 わたしの親友の名前。いつ刻んでも、いつも心がどこか疼く。

 違う。わたしは今からその親友を探しに行くんだから、暗い顔をしてはいけない。

 

「アップデートはログイン時に同時に行われるから、先に通すよ」

「ありがとうございます」

 

 挨拶もそこそこに、寒い手をさすりながらわたしはGBNへとログインの準備を開始する。

 カバンから緩衝材入りのタッパーを開いて、ガンダムMk-IIとルナゲイザーガンダムをミキシングさせたガンダムノチウをダイバーギアの上に置く。

 しばらく惚れ惚れする。やっぱりかっこいいな、わたしのガンプラ。

 Zガンダムもいいけど、個人的にはガンダムMk-IIの少しスタイリッシュになった78っぽさがミリタリックで好きなんだよね。正統進化というべきだろう。

 世の中には、ARガンプラバトルの地区大会において、78が優勝したと言う話も聞く。それだけシンプルなガンダムほど可能性に満ち満ちているということだろう。

 

「準備、終わったかな」

 

 ガンプラのデータとアップデートが完了したという画面が表示される。

 よし、行こう。手を震わせながらも、その手をぎゅっと握って恐怖に打ち勝つ。

 

 ――大丈夫。もう、マスダイバーはいない。

 

『GPEX SYSTEM START UP──』

 

 ◇

 

 目の前に広がるセントラルロビー。感触は以前より過敏になっている。

 手を握ったり開いたり。すごい、リアルと同じみたいだ。

 窓ガラスに反射する自分の姿を見て、ここに戻ってきたんだなと、安心することができた。

 

「すーはー。よし、まずは格納庫エリアに行って、自分のガンプラ確認して。それからどこのエリアにいるか的を絞って……。いや、まずは聞き込みかな……」

 

 指を折りながらぼそぼそとやることを数えていく。

 そもそもこの広大なディメンションでいったいどれだけ探せばいいのだろうか。赤色ツインテールの女の子なんて、それこそ星の数ほどいるのではないだろうか。

 いや、あのガンプラだったら見つかるはずだ。変えてるかもしれないけど。うむむ……。

 

 その時だった。額と何かがぶつかり合う衝撃。

 あいたっ! という声を上げてわたしは尻餅をついてしまった。

 

「す、すみません。考え事をしていて」

「ご、ごめーん! こっちも取込中で――」

 

「「え?」」

 

 今、知り合いの声が聞こえた気がした。

 額をさすりながら見上げたその先には……。

 

「あ。あはは、ごめんね、人違いだったっぽい!」

「そ、そうですね。わたしも、その。人違いだったかもしれません……」

 

 赤色のツインテール、ではなく、ピンク髪のツインテールに水色のメッシュが1本右横髪に通っているだけであった。

 人違いならぬダイバー違いだ。あー、やってしまった。謝ってここから立ち去らねば。

 

「おい、嬢ちゃんたちよぉ。俺たちに黙って何イチャコラしちゃってるわけ?」

「へ?」

「あー、なんか運が悪かったね」

 

 ピンク髪の子の向こう側。そこにはいかにもな怖い人たちがいた。

 黒いサングラスにアロハシャツのガタイのいい男たち3人。こ、こわっ!

 

「あっ……。えっと。その……」

「声が聞こえねぇよ! このちっちゃい嬢ちゃんがウチの若いもんを潰した落とし前っつーのを付けなきゃいけねぇんじゃねぇか?!」

「その、わたしは関係な――」

「関係ないじゃねぇ―んだわ! 居合わせたからにはてめぇも同罪だ!」

 

 ひえええええ!!!

 なんでわたしも怒られてるの……?

 巻き添え受けているのは分かるけど、それ以前に桃髪の女の子もなんでこんなのに怒られてるの?

 

「ごめんね、しーちゃんがヴァルガで稼いでいた下っ端を嬲っちゃったらしくて」

「えぇ……」

 

 本当に巻き添えじゃないですか。

 いきなりこんなことが起こるなんて、なんという不運なんだろうか……。

 

「つーことはよぉ! これはもう身体で払ってもらうしかねぇよなぁ!」

「か、身体?!」

 

 で、でも。このゲーム全年齢対象のゲームでは……?!

 

「さっさと出しな! てめぇらのガンプラをよぉ!」

「……え、ガンプラ?」

「あー、この人たち何かにつけてガンプラバトルしたいだけのヤクザさんだから」

 

 ガンプラヤクザ、ってこと? いやいや、そんなのあります?!

 こんな怖い顔をして?!

 

「俺はメッサー1!」

「俺はメッサー2!」

「俺はメッサー3!」

 

「「「さぁ、てめぇらのガンプラは何色だァ?!」」」

 

 なんでそんなにもノリノリなんですかぁ!!!!

 

 そうして始まったのは、わたし。キズナ・ミユリ。ダイバーネーム:キユリが親友を探し出す物語。

 とは言っても、その1歩目はいきなりガンプラヤクザとのガンプラバトルだし。

 隣のピンク髪の女の子はずっとニッコニコだし、幸先が、悪すぎる……。




◇キユリ / キズナ・ミユリ(心繋美百合)
本作主人公。21歳大学生。
控えめな性格で、周りをうかがう少女は他人には対応できるものの怯えると声が小さくなる。
一応大学には行っているものの、友達は出来ず、常に独りぼっちである。

昔は少し違っていたようだが……?


◇アウトロー戦役(ガンダムビルドダイバーズ リレーションシップより)
とある主人公が、ある人を助けるために巻き起こした大規模なフォース戦。
ちなみにある人は主人公に告って振られて吹っ切れた。


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第2話:「Mk-IIベースなんだー! しぶーい!」

『メッサァアアアアアアアアアビィイイイイイイイイム!!!!!』

 

 メッサ―1から発射される腹部ビームが地上を焼き、地面を融解していく。

 あっぶなぁ。なんとかなったけど、アレに当たったら堪ったものではない。

 

「きーちゃん、右から!」

「っ!」

 

『メッサ―ドリルゥウウウウウウウ!!!!』

 

 地面から高速で噴き出すのは銀色のドリル。

 メッサ―の右腕をドリルに変えたメッサ―2がわたしを貫かんがために襲い掛かるものの、これもなんとか回避。

 

「今度は上から!」

『メッサァァァアアアアアアア!!!! ミサイルゥウウウウウウウ!!!!!』

「さっきから、なんでわたしばっかり狙うんですかぁ!」

 

 上空から現れた無数のミサイルをビームライフルとバルカンで迎撃していく。

 だが流石に数が多く、いくつかがわたしのノチウに被弾してしまう。

 空中にいたわたしはその爆風から地面へと叩きつけられてしまった。

 

 先ほど反応がいいとは言ったものの、ダメージによるフィードバックも反応がいいらしい。衝撃が電撃のように身体を貫く。

 

『そいつはしょうがねぇよなぁ!』

『なぜなら』

『スナイパーは草の根分けて殺せって評判だからよぉ!』

 

 何とか守り抜いた狙撃用ライフルを手に持ち、地面に座り体勢を立て直した。

 どうする。そんなことを考えながら、思いだすのは数分前の記憶であった。

 

 ◇

 

「へー! キユリちゃんのガンプラってMk-IIベースなんだー! しぶーい!」

「あ、あはは。ありがとうございます」

 

 何故このピンク髪の女の子と一緒にいるかは、前回の話を参照してもらうことにしよう。

 彼女、シーハートというダイバーは、初心者狩りを行っていた彼らの手下をさらに上から狩る形でコテンパンにやっつけてしまったらしい。

 故に因縁を付けられて、今に至る。というわけだ。

 

「シーハートさんは――」

「しーちゃん」

「へ?」

「しーちゃんって呼んで! しーちゃんはしーちゃんだから!」

「えぇ……」

 

 あまり人にちゃん付けしたくないんだけどなぁ……。

 でもなぜだろう。彼女ならちゃん付けをしてもいいかもしれない、と考えてしまっているのは。

 

「し、しーーーーーーー……ちゃん」

「声が小さい!」

「初対面の人にちゃん付けはちょっと……」

「ダメだよ! ヤクザの人待たせちゃってるし」

「うぅ……うぅうううううう!!!!」

 

 決意と覚悟を決めるしかない。

 すーっと息を吸って、吐き出して。そして一言。

 

「……しーちゃん」

「小さい」

「わたし、声が小さいんです」

「それは仕方ない。まぁよしとしようじゃないか!」

 

 やけに馴れ馴れしいというか、妙に知り合いみたいな気持ちになる。初対面のはずなのに。

 

「じゃあキユリちゃんはきーちゃんね!」

「きーちゃん……。久々に言われた気がします」

「そうなの? じゃあしーちゃんは久々をいただきましたー!」

 

 衣装もアイドルみたいな彼女だ。どことなく彼女の元気が昔の彼女に似ていて。

 なんか、見ていて安心する。これもアイドルみたいに元気だからなのかな。

 

「しーちゃんは、ザクウォーリアなんですね」

 

 しーちゃんのザクウォーリアはとにかく異質だった。

 ガナーザクウォーリアのオルトロスウィザードにGNドライヴだろうか。が搭載されており、スカートにはスローネツヴァイのファングコンテナ。そして足は少し太くなっている。ホバーかな。

 でも全体的にはまとまっており、これがザクウォーリアだったと分かるような造形であった。

 

「そそ! 名付けてウォー・ツヴァイナー! ザクウォーリアのウィザードシステムを弄ってたら、スローネ系が入っちゃったんだよ!」

「あー、なんかありますよね。何も考えてないと」

「でも3機の力を結集させた感じ、めっちゃよくない?!」

「いいですいいです! 3つの力が1つに重なってーみたいな!」

「でしょう?! ふっふーん、これがウォー・ツヴァイナーなんだよー!」

 

 スローネドライ要素はいったい?

 そんなことを考えていると、隣の方から声が聞こえてくる。あぁ、流石にガンプラヤクザさんたちをイラつかせてしまったらしい。

 

「じゃ、先に行ってるね!」

「はい。今日は、よろしくお願いします」

「ん! よろー!」

 

 先にカタパルトから発進したウォー・ツヴァイナー。

 わたしも続けてガンダムノチウに乗り込んで、カタパルトへと入港する。

 

「SHOUT NOWって、そういう表示されるんだ」

 

 なんだか恥ずかしいけれど、やろう。ガンダムの醍醐味の1つだし。

 勇気を胸に秘めて、わたしは出来る限りのシャウトでコンソールを前に突き出した。

 

「ダイバーキユリ。ガンダムノチウ、行きます!」

 

 発進してすぐだ。あのメッサ―ビームを受けたのは。

 

 ◇

 

『てめぇはよぉ、見たところスナイパーだろぉ?! 手に持ってるそいつはジム・スナイパーが使うタイプの無反動砲だぁ! てぇことはよぉ! そいつを撃たせなけりゃ、俺たちメッサ―チームに勝てるわけねぇってことだ!』

「……っ!」

 

 メッサー1。もとい、黒い悪魔のような翼を背負ったメッサ―がザクが持つようなヒートアックスを手に、こちらの方へと近づいてくる。

 この人、どっからどう見てもあの作品のパロだ。

 

『メッサァアアアアアアア!!! トマホーク!!!!!』

「だけど!」

 

 近づいてきたのなら、こちらのキルラインも近いと言うこと。

 頭部のバルカンポッドを起動させれば、目くらましをするのはメッサー1の頭部。目の前で花火が巻き起ったような衝撃をその身に受け止めたメッサー1はその場で霧払いを行う。

 

『クソッ! なんだって――』

「わたしがただのスナイパーだなんて、思わないでください!」

 

 続いてシールドの先端を向けると、そこから飛び出すミサイルランチャー。

 発射された2門のミサイルも寸分たがわずメッサー1の元へと襲い掛かる。

 対戦相手のHPが減っていくのを感じる。

 

 バルカンとミサイルの爆風はわたしを隠すにはちょうどいいぐらいには大きく、巨大なものとなっていた。

 4年ぶりだけれど、勘は鈍ってない。むしろ感覚が洗練されているから、操作しやすいまである。これなら……!

 

『こうなったら、メッサァアアアアアアアアア!!!!』

「そこっ!」

 

 爆風の中、光る腹部を見ればそれは一筋の勝利への道しるべ。

 百式から拝借したリアスカートからビームサーベルを1本取り出し、フェンシングの突きの要領で刃を前に突き出す。

 道しるべとなったメッサービームは腹部からエネルギーが逆流し、メッサー自身の身体を蝕んでいく。

 

『メッサー線が! 光が逆流して……!』

 

 刹那。光となった魂がデータの破片となって消えていく。

 残ったのはノチウだけだ。

 

「あとはしーちゃんの方かな」

 

 残りはきっと2人だ。だったら向こうに行っているはず。早く行かなきゃ。

 その時だった。赤色の閃光が上空に解き放たれたのは。

 あれは、オルトロスとGNメガランチャーが合わさったような光? てことは、しーちゃんのウォー・ツヴァイナーか!

 

 狙撃用ライフルのスコープを覗きこんで調整してみれば、そこには焼け焦げた地面と半身が欠けたメッサー2。そして0と1の屑へと変わる、メッサー3の姿であった。

 ならこっちも便乗させてもらう。狙いを定めて、引き金を、引く。

 

 弾丸が宙を駆け抜けていき、残ったメッサー2の胴体に炸裂する。

 リロードのため、焼けた薬莢をライフルから吐き出すと、そこには【BATTLE END】と表示された画面だけであった。

 

 ◇

 

「いやぁ、完敗だったぜ! なぁ兄弟!」

「間違いねぇ! まさか両刀使いだったとはなぁ! はっはっは!」

 

 調子のいい人たち。次に思った感想はそんなものだった。

 ガンプラヤクザとは名ばかり。ただただケンカを吹っかけてはガンプラバトルがしたいいい大人たちが、彼らの正体であった。

 

「つってもリューマコテンパンにやられて笑えるぜ!」

「んだと?! ムサシだってオルトロスに溶かされてるじゃねぇか!」

「あ、あはは……」

 

 なんというか、さっきまでの恐怖を返してほしいものだ。

 とはいえ、楽しくなかったか、と言われたら嘘なわけで。

 久々のガンプラバトル、楽しかったな。

 

「なぁ姉ちゃん! 俺たちとフレンドになってくれねぇか?」

「えっ。でも……」

「それはしーちゃんが許しません!」

「なんでだよ嬢ちゃん」

「それは……」

 

 それは? ごくりとわたしを含めた4人がごくりと喉を鳴らす。

 

「しーちゃんが最初にフレンドになるからでーす!」

「ははは! こいつは敵わねぇな。勝者の特権っつーことでいいぜ!」

「ありがとー!」

 

 わたしを置いて話が進んでいくわけで。

 フレンドか。最初のフレンドはおーちゃんだったけど、そのおーちゃんは今フレンドにいない。

 理由は分かっている。けれどいつか会えるといいな。

 

「いいですよ、復帰して初めての、フレンドに」

「じゃーきーちゃんの初めていっただきー!」

「へ?!」

 

 抱きしめると一緒にフレンド申請を飛ばすしーちゃんは少し体温が高い気がした。

 これが人のぬくもりか。なんて思いながらも、わたしはその"初めて"をいただかれることになった。




◇シーハート
使用機体:ウォー・ツヴァイナー
明るい雰囲気を身にまとった元気な女の子。16歳
過去を語ることはほぼなく、ただただ今だけを生きている。

◇メッサーチーム
自称ガンプラヤクザ。
コワモテで有名だが、実際話してみるとそこまで悪い人たちではない。
メッサー1は悪魔のような翼と腹部からのメッサービームが特徴的
メッサー2は左腕のドリルが特徴的
メッサー3はとにかくミサイルポッドと腕が伸びる


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第3話:「サイカに再会……ふふ」

「ふーん、なるへそー!」

 

 全然分かってないような顔をする目の前の桃色ツインテはいったい誰なのか。

 その答えはただ1つだ。先ほどフレンドになったしーちゃんこと、シーハートというダイバーだった。

 どことなくおーちゃんにも似た見た目と声であるが、実際は性格があまりにも似通っていないから、多分別人だ。

 

「本当に分かってます?」

「分かってる分かってる! あれだよね、こー。親友見つける感じで!」

「…………」

 

 親友を見つける、だけならそこまで心配することはなかったのに、どうしてだろう。めちゃくちゃ不安だ。

 とはいえ先輩ダイバーがいてくれるのであれば、心強い。

 あとはわたしのフレンドにも頼って、それでわたしを含めて3人か。1人よりはマシか。

 

「でもGBNってめっちゃ広いじゃん?」

「そうですね」

「その中から親友ちゃんを見つけるって、めっちゃムズくない?」

「……そこにお気づきになりましたか」

 

 きっとわたしのフレンドも協力はしてくれるだろう。

 だけどその子も口を揃えて言うだろう。

 

「そもそもしーちゃん、今日で6日目だからわかんないや」

「……え、あの動きで6日目ですか?」

「うんうん。めっちゃ練習したよー」

 

 この人、実は逸材なんじゃないだろうか。

 

 というのも、このゲームに置いてオールレンジ攻撃は凄まじくピーキーな代物だ。

 オート追跡機能であれば、何もすることはないのだけど、反面として恐ろしく動きが単調なのだ。

 動きが単調であれば、その導線が読まれやすいのは必定。

 つまるところ、オールレンジ攻撃系は数や単体の性能で殴るか、もしくはひとつひとつ手作業で殴るってこと。

 

 しーちゃんは実際手足のような動きで相手の動きを釘付けにし、GNオルトロスで一網打尽した、というのが先ほどの試合の事の顛末だ。

 あれが6日目って、元々Dランクだったわたしの立つ瀬がないのですが。

 

「どうしたの?」

「い、いえ。なんでもないですよ」

 

 右こめかみを痒くもないのに掻きながら、当該ダイバーの情報を彼女に渡す。

 

「この子?」

「そうです。名前をOC。オーシャンクールって名前です」

「へー、かっこいー!」

「文字通りクールでしたよ」

 

 しーちゃんとおーちゃんの決定的に違うところとしては、やっぱりこの性格の差と言っても過言ではない。

 仮にこの子がおーちゃんだったとして、解釈違いもいいところだ。

 だからこの子だけはありえない。似てるけど、違う子だ。

 

「でもやっぱりどこにいるか分かりませんよね……」

「まー、そだねー。となると、あの人に相談じゃない?」

「あの人って……あー」

 

 今、フレンドを入れて3人と言っただろうが、実は4人目もいたことを思い出す。

 あまりにも有名で、あまりにも忙しそうで、声をかけるスキもなさそうなあの人に。

 

「でもマギーさんって忙しそうじゃないですか?」

「みたいだよねー。今もアウトロー戦役の事後処理に追われてるって話だし」

 

 そうでなくても忙しそうだと言うのに。

 

 ――アウトロー戦役。

 今や一躍有名フォースとなったケーキヴァイキングと悪名高い元フォース粛正委員会とその他関係を結んだアライアンスが大激突した大規模フォース戦だ。

 事情を深くは知らないが、その途中でノイヤーというダイバーがユーカリというダイバーに対して告白し、こっぴどく振られたというのが伝説に残っている。

 わたしもネットの海に眠っている情報を拾っていただけだから、事の顛末は知らないけれど、ある意味劇的なラブロマンスだったと言ってもいい。実際彼女たちを題材にした創作まで生まれ始めているという話だ。世界は広い。

 

「しーちゃんもフォースとか組んでみたいよー」

「フォース。って、今ダイバーランクは?」

「Fだよー」

「まずはそこからでしょうかね」

 

 ハの字笑顔で笑う彼女はなんとも可愛らしく、妹っぽい。

 愛嬌があると言うべきなのかも。こういう顔をされたら許してしまうのが夜の男性諸君なのだろうが、わたしは違う。

 明らかにため息を交えて、ガッカリポーズを交わせばしーちゃんはピクリと肩を揺らす。

 

「な、なんかまずいこと言った?」

「いえ……。なんでもありません」

 

 練習してたらEランクぐらいには上がってるはずじゃないかな。

 とか言おうとはしたけど、流石にやめた。そこまで無作法じゃない。

 

「どする? とりあえず行ってみる?」

「……今はやめておきましょう。フレンドはもう1人いますし」

「というか、きーちゃんも何者なのさ。ライフル持ってたと思ったら、狙撃以外で相手1体沈めちゃうし」

「まぁ、昔から器用だったので」

 

 よく言えば万能。でもどちらかと言えば器用貧乏と言ったほうが近いだろう。

 たまたま目がよくて、VR適性もよくて、どちらも使いこなすことできた。たったそれだけだ。

 

「それに復帰勢だし」

「おー、だからか!」

「はい。今日が初めてですけどね」

「ふーん。じゃあ今のGBNではしーちゃんが先輩ってことか!」

 

 ふっふっんとその少しだけ大きな胸をそらす。

 まぁ、そういうことになるけど……。

 

「たかが5日じゃないですか」

「む! よく言うでしょ、男子3日会わざれば刮目して見よって! じゃあ女子は1晩会わなかったら変わるんだよ!」

 

 そういう問題だろうか。

 

「とにかく! 早くあと1人にも連絡しちゃいなよ!」

「そうしてみます。覚えてるといいんですけどね」

 

 オンライン状態の彼女に対して1通メッセージを送る。

 返事が来るまで、とりあえず何をしようかとしーちゃんと話していたところ、その返事は速攻でやってきた。

 

 内容を噛み砕いて説明すると、以下の通りである。

 

『そういう話であれば、わたくしも協力させていただきます。強力な助っ人になると思いますよ』

「ですって」

「……ごめん、もう1回言って」

「分かってます。あの人はそういう人なので……」

 

 わたしがやめる前からのフレンド同士で、おーちゃんの次には仲が良かった、お姉さんのようなポジションの人だ。

 昔からあの人の剣戟を見切れなくて、よくなます切りにされていたっけ。

 

「で、その人なんていうダイバーなの?」

「サイカって名前なのですけど、多分通り名の方が有名かもしれません」

「え? それってどういう……」

 

 曰く、そのダイバーは剣士であった。

 彼女は強くなるためにこのGBNへとやってきて、度重なるダイバーたちに辻デュエルを挑んでは勝ったり負けたりしていた。

 

 曰く、その剣士はジンクス使いであった。

 彼女は守りを重視している剣士であるため、自身のガンプラにもGNフィールドを搭載でき、かつ接近戦を行えるジンクスⅣを素材にしていた。

 

 曰く、そのジンクスはサムライであり青色である。

 それが自分のテーマカラーとして、そして"赤鬼をも斬れるように"と、対である青色を身に着けた。

 

「鬼、ジンクス使い。そして強さを求める……」

「わたしでも知ってます。その人の名前は」

 

 人呼んで、そのダイバーはこう名付けられていた。

 

「サムライオーガ。奇しくも獄炎のオーガと比べられてしまったダイバーです」

 

 ◇

 

「サイカに再会……ふふ」

「……えっと、サイカちゃん?」

「サイカでございます。貴殿はキユリ殿が言っていたシーハート殿でしたか」

「しーちゃんだよ! しーちゃんって呼んでね!」

「しーちゃん殿ですね」

「お、おう……」

 

 しばらくして、出会ったのはJAPANディメンションの茶屋である。

 ここでならば誰の目にも気にする必要はないということではない。この人はただただ団子を食べたかったようで、お茶を丁寧に口にしながらみたらし団子を口にしている。

 

 黒髪でショートボブ。左右のこめかみのハネっ毛と常時糸目の女性だ。

 糸目っていったいどこから見えているのだろか。とたまに考えることはあるけれど、多分アバターでの設定上、そうしているに違いない。

 剣道着と懐には竹刀を収めているためか、見た目は本当にサムライ、もしくは剣道の上手い人みたいでかっこいい佇まいだ。

 口から出てくるオヤジギャグを除いて。

 

「キユリ殿の帰還のめでたいですね。鯛での頼みますか?」

「そこまで固執しなくていいので……」

「失礼いたしました」

 

 この人はスキあらばダジャレを言ってくる。それも滑るタイプの。

 布団が吹っ飛んだは平気で言うし、今だって。

 

「しーちゃん。ワンチャン。何かいいギャグはありませんか?」

「人の名前で無理やり遊ばないでくださいって……」

「失礼いたしました。つれいわ」

「だーかーらー!」

「アハハハ!!!」

 

 しーちゃんが笑ってるからいいけど、なんか釈然としないなぁ、もう。

 

「冗談はさておき、今日は情報共有ということで解散なされてはいかがでしょうか?」

「そう、ですか?」

「キユリ殿も今日が久々のログイン。おそらく体も心も気を張って疲れているでしょう。ですから急速な休息も大事ですよ」

 

 今のダジャレはさておき、確かに心が少し参ってるのは分かる気がする。

 胸の奥が少し重たい。

 

「だね! じゃー、お疲れつか疲れって感じで!」

「どういうこと?」

「そーいうこと! んじゃ、またあした!」

 

 ひょっとして、彼女はわたしのことをねぎらってくれたのだろうか。

 先ほどからいい人だとは思っていたけれど、本当にいい人だ。

 初対面で抱きしめられたりもしたが。

 

「…………」

「どうしたんですか?」

「いえ、なんでもありません」

 

 サイカさんが彼女が去った後を見つめて、視線を醤油団子へと移す。

 

「わたくしは嬉しいですよ、また帰ってきてくれて」

「まぁ、いろいろありましたからね」

 

 サイカさんは知っている。わたしが何故GBNをやめたのか。

 わたしは知っている。サイカさんがサムライオーガと呼ばれてどう思っているか。

 でもそれを踏み出すことは、お互いになくて。

 

「このぜんざい美味しいですね」

「でしょう?」

 

 それでも、今のGBNは優しさに満ちているって、なんとなく分かることができた。

 だったら、それでいいんじゃないかな。

 

 わたしはごちそうさまを、1つ口にして、その場からログアウトした。




◇サイカ
サムライオーガという二つ名を欲しいままにしているサムライ系ダイバー。オヤジギャグがとてつもなく滑る


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第4話:「チャイナだねー」

「さっそくなんだけど、サボっちゃわない?」

「え、なんでですか」

 

 翌日。セントラルロビーに集まった3人であったが、しーちゃんの発言で場が凍り付いた。

 

「えーっと。ほら! 味方の戦力を知れば百戦危うからず! って言葉があるでしょ?!」

「いやありますけど」

「であるからして、まずは3人の実力を確かめよーってことよ」

「なるほど。戦い方を知ってまずはお互いの仲をなかなかに深めようと、そういうことですね」

「…………」

 

 今度はサイカさんの言葉で凍り付いたけれど、それは置いておくとする。

 つまるところしーちゃんが言うには、まずはそれぞれのガンプラであるガンダムノチウ、ウォー・ツヴァイナー、そしてムラサメ刃-Xについて一目会わせておくべきだと考えたのだ。

 その発想は間違いないけれど、わたしは親友に会いたいというだけなのにな。

 

「それにキユリ殿はOC殿と再会して何を言うつもりなんですか?」

「え……っと。それは」

 

 考えていないことはない。だけどそれをここで口に出すのは少し違う。

 事情を知っているサイカさんはともかく、しーちゃんの前では。

 

「そのような小さな声では本人を前にしても、声もかけられないでしょう。であるならば、多少自分の腕前と自信を取り戻すという意味で、ミッションはどうでしょうか?」

 

 妥協しながらひねり出した言葉は、サイカさんに届いたようだ。

 ガンダムノチウ自体は、前のガンプラと同様の仕様にしている。つまるところ近接戦闘もできるスナイパー。

 もちろんそれだけではないのだが、基本的な運用はこんなところにとどめている。

 

「そーそれ! しーちゃん言いたかったことそれだよ!」

「自分が賢すぎて、かしこまってしまいますね」

「…………」

 

 サイカさんのギャグはさておきとして、確かに実力を見て回るというのは重要だ。

 いつ見つけてもいいように、実力をつけるのもいい。自信もそれに準ずるところ。サイカさんやしーちゃんの提案はこれからGBNで動くわたしにとってもよい方向に進むだろう。

 

「分かりました。皆さんがよければ」

「よっしー! じゃあ受付をー!」

「おっと、ここで面白い情報があるんですよ」

「へ?」

 

 不思議そうに首を傾けながら、しーちゃんはサイカの言葉に反応する。

 予想もしてなかったように見られる。その反応の良さに、口元を緩めると、サイカは話を始めた。

 

「野良ミッションというべきでしょうか。ある条件を満たすと、ミッションが発令。クリアすると普段手に入らないパーツデータやプラグインなどを獲得できるという噂です。まさに確実に得をする。確得ですね」

「うはー! 面白そう―!」

 

 サイカのおやじギャグを全スルー。やるようになりましたねしーちゃん。

 それはともかく。確かに野良ミッションなら実力と発想力も含めて、鍛えられる絶好のミッションだ。

 

「それにフォースのメンバーも見つかっちゃうかもだしねー!」

「フォース? 2人はフォースを組んでいるのですか?」

「いえ、組んでません。……その、しーちゃんのランクが」

「Fだからね!」

 

 胸を張ってふんぞり返らなくても。

 そのFどういうFなんですか。その大きさならDぐらいなんじゃないんですか。

 

「なるほど、Fだけに、えふえふ胸を反っていると」

「そういうことー!」

「どういうことですか?!」

 

 えふえふ胸を反ってるって、日本語のかけらを感じさせない頭の悪さだ。

 こっちまで頭痛に苛まれてしまう。

 

「ま、それはさておき」

「いや、置かないでくださいよ」

「なんですか、もっと聞きたいんですか?」

「いえ……」

 

 墓穴を掘ったからここまでにしておこう。

 相変わらずというか、一旦隙を見せればどこまでも自由奔放におやじギャグを繰り出してくる。なんて恐ろしい人なんだろう。

 

 雑なやり取りはここまでとして、3人は格納庫へと転送してくる。

 そこに並んでいるのはノチウとツヴァイナー。そしてムラサメ刃-Xだ。

 両肩には増加粒子タンク。そして大型のGNフィールドと全体的に水泳選手のような逆三角形のようなフォルムとなっている。

 その割には武器は潔く腰に構えたGNサムライソードが1本。

 蒼く仕上がったジンクスは奇しくもオーガと似通ったコンセプトで作られていた。

 

「ほー、これがサイカちゃんのガンプラなんだ!」

「ムラサメ刃-X。通称ムラサメですね」

「やっぱりオーガと……むぐっ!」

 

 それはサイカさんには禁句なんだよ!

 ほーら、また表情を暗くしたー! 最近では弟のドージと色も似てしまって立つ瀬がないというのに。

 

「だ、大丈夫ですよ。わたくしは元気ですから」

「元気なんですか?」

「それはもう現金なほど」

 

 それは聞きたくなかった、安直だから。

 

「それでは行きましょう。エリアはどうしますか?」

「うーん、サイコロで」

「それ楽しそう!」

 

 これだけのエリア数だ。もちろん行き先に迷うことだってあるだろう。

 そんなときはこのサイコロガンダムだ。

 適当に振るだけで出た目に別に応じていないランダムな行き先を案内してくれる。

 GBN初期ごろに実装されており、あまりにも偏るランダム要素であったが、最近ではそれも改善されたとのことだ。

 

「しーちゃん振っていい?」

「どーぞ」

「よし、じゃーダイスロール!」

 

 両手で持ち上げたサイコロガンダムを勢いよく地面に転がす。

 もちろんガンダムの頭がついているサイコロガンダムだ。頭を上にして着地した。

 

「え?」

 

 そしてアムロ・レイの声で一言。

 

『エスタニアエリア』

 

 周囲に沈黙が流れる。

 そうだった。サイコロガンダムって転がらないんだった。

 

「なんか、ごめん」

「それもまた一興」

 

 サイカのフォローの言葉がここまで刺さるとは。多分しーちゃんも思っていなかっただろう。

 

「うぅうううううう!!!! 恥ずかしさは恥ずかしさで上塗りする!」

 

 そう言ってしーちゃんはツヴァイナーへと乗り込むと発進シークエンスへと移行する。

 目標はアジアンサーバー。狙いを付けたしーちゃんは勢いよくコンソールを振りぬいた!

 

「しーちゃん! ウォー・ツヴァイナー、いっくよー!」

 

 GNドライヴ搭載のザク・ウォーリアは当然飛べる。

 そのままアジアンサーバーへの入口に入っていく。わたしたちは唖然だ。

 

「後を追いましょうか」

「そうですね」

 

 わたしとサイカもガンプラに乗り込む。

 

「キユリ、ガンダムノチウ。行きます!」

「サイカ、ムラサメ刃-X。いざ参らん!」

 

 ツヴァイナーの粒子を追うようにして、わたしたちもエスタニアエリアへと向かうのだった。

 

 ◇

 

「チャイナだねー」

「チャイナですね」

「ごこ、居心地が悪いです」

 

 エスタニアエリアは簡単に説明するのであれば中華風のエリア。

 赤と黄色。そして岩肌が視界を支配している。

 出店や屋台も立ち並んでおり、一度興味を惹かれれば、おそらく1時間は抜け出すことができないショッピングエリアも完備している。

 要するに、こういうところにこそミッションというものは潜んでいるのだ。

 

「どこにミッションが……」

「一応前情報だとこの辺りって話ですけど」

「見て見て! 空飛ぶ空芯菜炒め!」

 

 あれって台湾だったか香港だったかの名物だったっけ。

 こんなところまで再現しているんだ、すごいGBN。

 

「こっちは串焼きだ! おじさん、1本頂戴!」

「しーちゃん殿」

「え、なんか悪いことした?」

「1本ではなく3本ですよ」

「サイカさん?!」

 

 糸目の奥で不敵に笑いながら、サイカさんは懐からがま口のお財布を取り出す。

 その体の見た目はありえないほど膨らんでいた。

 

「親交を深めるというのも目的です。GBN歴6年のサイカさんに任せなさいか」

「わーい! サイカちゃん好き―!」

「いいんですか?」

「もちろん。このぐらい安いものです」

 

 しーちゃんのところまで行って串焼きを3本ではなく、その倍6本買ってくると彼女は笑う。

 間違いない、この人本気だ。

 

「そこの席に座って食べよ!」

「……そうですね」

 

 1人2本ずつ手に持ったわたしたちはそのままいただきます。

 この串焼きは意外となのか中華特有の口よりも大きな一口サイズ。

 全身を使うようにお肉を口にする。噛み千切るにはチカラがいるけれど、それ以上に旨味まで再現されていて。

 

「んっ! 美味しいです!」

「でしょ! やっぱしーちゃんの見立てに間違いはなかったなー」

「肉の味ですね」

 

 仮にも美少女美女が3人串焼きを食べる姿はまさしく肉食系女子。

 そういう肉食ではないと思うけれど、食べるごとに、味わうごとにお肉の味が染み出てくるんだからがつがつ行ってしまうのは当然なことなわけで。

 

 気づけばくしが6本並んでいた。おぉ、食べきっちゃったか。

 

「ふぅ、美味しかったー!」

「満足度が高いです。満足満足」

 

 お腹がいっぱいになっても、太らないって最高だなぁ。

 味も再現。食べて満足。胃にたまって太らない。三拍子そろった無敵のGBNコンボ。最近のVR技術はすごいなぁ。

 

 ……あれ、なんか忘れてる気がする。

 

「あ、あの……食べ物……」

「ん?」

 

 満足しているところ、ちらりと横を見れば、そこにいるのはぼろ布を身にまとった女の子。

 何かを求めるように、懇願するように目線が求めている。

 まぁ仕方ないか。ちょっと待っていてくださいと一言つぶやき、パタパタと串焼き屋に行って1本購入。その足で女の子に串焼きを渡した。

 

「あっ……えっと……」

 

 少女はお礼と言わんばかりに頭を下げてから、無言で立ち去って行った。

 なんだったんだろう、このイベント。多分あの子NPDだよね。

 

「なんかありそうだったけど、なんだったんだろーね」

「そうですね。こういうものは基本的にイベントの始まりですから」

 

 よくは分からないけれど、今度は中華まんでも食べるとしよう。

 そう考えて、その場をあとにするのだった。



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第5話:「両断せしめるは、目の前の無粋な蛮族」

 食べ物を食べるだけ食べて満足したわたしたちも、流石に役目を忘れるなんてことはしていない。ホントですよ。

 エスタニア・エリアを突き進むわたしたちだったが、やはり隠しミッションの類は存在しない。噂は嘘で、本当はなかったのかもしれない。あるいは誰かがもうすでにクリア済みだったか。

 どちらにせよNPDと話をしながら、周囲を探していれば、そこは路地裏につながっていた。

 

「んー、ヤバいね」

「どうしたんですか?」

「迷ったね」

「あらまぁ」

 

 あらまぁ、って落ち着いている場合じゃないんですけども。

 ガンプラを召喚すれば速攻で解決するんじゃないか? というあなた。現在は街中でガンプラの召喚は禁止されていた。だから自力、もしくはもう1つの方法で脱出することができるのだけど……。

 

「流石に緊急脱出機能は使いたくありませんね」

「急に緊急脱出、と言われても急だっ! ってなりますからね」

「アハハ! 今の面白い!」

「ありがとうございます」

 

 そんなことしてる場合じゃないんですけど。

 

 緊急脱出機能とは、この広大なディメンションで迷子にならないようにと、運営が実装したシステムの1つ。使えば瞬く間に最後にログインしたセントラルロビーへとワープすることができる。

 もちろんその代価はBC。要するにお金だ。お金がなければワープすることもできない。

 一応あるけれど、使いたくない。そんなところ。

 

「存外、こういったところに隠しミッションというのはあるものではありませんか?」

「そうですけど……ちょっと不安になってきました」

「きーちゃんの声が小さくなってるし、そういうことだよね」

 

 ポンポンと背中を叩かれる。安心はするけれど、あなたも心配するところですよ。とツッコミたくなるのは何故でしょうか。

 

 そんな事を不安に思っていると、タッタッタッとどこからともなく、女の子がやってきた。さっきの彼女だ。

 

「た、たすけて!」

「へ?」

 

 そう声が出た瞬間だ。ミッションウィンドウが表示されたのは。

 

「お、ミッションだ!」

「やはり、さっきのが開放の鍵でしたか」

 

 中身を見てみれば、女の子『メイナン』はMSを取り扱う一味に追われているらしい。

 倒してミッションクリア、だそうだ。ちなみに選択肢はない。つまり……。

 

「来ましたね」

 

 一陣の風と鉄の匂い。それはダイバーならよく知る熱だ。

 

『その子供を渡しな!』

「そうなりますよね……」

 

 ジェニスが数機、こちらにマシンガンの銃口を向けている。

 これは明確な脅し。巻き添えを与えるのはこちらだという絶対服従の刃。

 

「どうしますか? クエスト主はキユリ殿です」

 

 隠れている機体は恐らくいるだろう。だけど、こちらは3人。市街地戦に向いてないと思われるウォー・ツヴァイナーもいる。何よりこっちにはサイカさんがいるんだ。

 

「嫌がっている女の子は、放っておけません」

「きーちゃん!」

「貴殿ならそういうと思ってましたよ。来なさい、ムラサメ!」

 

 その言葉を合図にイベント戦闘というところでガンプラ召喚制限を解除されたわたしたち3人は臨戦態勢へと移行する。

 ノチウへと乗り込んだメイナンとわたしはそのまま後方へと移動を始める。

 幸いここには、前衛手のサイカさんがいるんだ。

 

『待てこのアマ!!』

 

 放たれる無数の弾丸。だがそのマシンガンの弾がわたしのノチウに当たることはなかった。

 蒼い色をしたGNフィールドがわたしたちの壁となって、マシンガンを受け止めたのだ。

 

「好調ですね、ムラサメ」

 

 ムラサメ刃-Xの真骨頂。

 それは両肩に装備された2枚の大型GNシールドである。

 それぞれが通常のGNシールドよりも巨大化されており、GNフィールドも通常のフィールドよりも大きく、強固に生成することができる。

 増加GN粒子タンクも含めて、その頑丈な壁を貫くとすれば、それこそ大型ビーム兵器による飽和、もしくは実体剣での両断しかありえない。

 

 そしてその実体剣での両断はサイカさんの最も得意とするレンジだ。

 

「さぁさ、取り出したるはこのGNサムライソード。両断せしめるは、目の前の無粋な蛮族。いざいざ行かん、わたくしの花道へ。キユリ殿、しーちゃん殿、後ろは任せました」

「任された!」

 

 事前に収納されていたGNビームトマホークを手に、ウォー・ツヴァイナーも戦線維持を始める。

 大概しーちゃんもオールラウンダーみたいなところありそう。

 

「だ、だいじょうぶ……?」

「大丈夫ですよ、お姉さんたちは強いですから」

 

 未知数なしーちゃんはともかく、サイカさんは間違いなく。

 

『くそっ、ハリー! ケーン! 逃げる奴は任せた! 俺はこの蒼いやつ!』

 

 ビームサーベルを手にブーストするジェニス。

 切り下ろされた刃がやはりムラサメに届くことはなかった。

 GNフィールドだ。

 

「街の景観を壊すのはイカンですからね。周囲180度、さぁ行きましょうか!」

 

 GNドライヴが唸りを上げ始めると、GNフィールドのGN粒子濃度が更に濃くなっていく。

 縮こまったチカラはゴムのように弾け飛ぶ。そう、このムラサメ刃-Xの、サイカさんの本領はここからだ。

 

「GNパニッシュ!」

 

 瞬間。エネルギーが拡散し、町の外へと全ジェニスが弾き出される。

 

「何が起きたの?!」

「ちょっとした手品です」

 

 GNパニッシュ。それは大型のGNフィールドを収縮、圧迫し、それ一気に開放するプラグインだ。

 これによって接近してきたものを空の彼方へと弾き飛ばし、そして……。

 

「斬り捨て、御免ッ!!!」

 

 真っ二つにされたのは先ほどのジェニス。

 いつ見ても見事な瞬歩だとしか思えない。防御力、敏捷性を兼ね備えたムラサメは、攻撃的である煉獄のオーガとは対象的に、守りとカウンターに特化した機体。

 故に、オーガとは似て非なるものなんだけど、みんなは見た目しか考えてない。

 

「外に出たんならー! ファング!!」

 

 続いて飛び交うのはウォー・ツヴァイナーから射出されたGNファング。

 赤い流線型の光線を描きながら、残り3機のジェニスたちを一箇所に集めていく。

 

『くそ、ちょこざいな!』

『1基ずつ落とせそうすれば――』

「どーなると思う?」

 

 そう、このファングは攻撃するものではなく、『誘導する』もの。

 放たれた弾丸は見事にコックピットへと命中し、爆発四散する。

 

「おねえちゃん、すごい……!」

「あと2機」

 

 ガチャコンとボルトアクションを起動させて弾を装填。

 空の薬莢が乾いた地面を焦がしていく。

 

 しーちゃんとは初めての連携なのに、何も違和感を感じさせない。

 むしろしっくり来ると言ってもいい。何故だろう。分からないけれど、今は予測通り残り4発の弾で仕留めきる。

 

『スナイパーか!』

 

 もはや混乱状態である2機とは、別にこちらへと向かってくる2機。

 あのファングに囚われた2機はじきオルトロスで沈む。なら最初はこっちか。

 

「ヴォワチュール・リュミエール、展開」

 

 ルナゲイザーガンダムから拝借したバックパックを円形に接続。すると、このガンダムノチウの真骨頂が発動する。

 眼前から放たれているビームライフルの線をわたしは円形のヴォワチュール・リュミエールで相殺する。

 

『バカな、ビームが!』

「2つ」

 

 スキを見せた相手には天誅を。

 2射目の弾丸はビームライフルを持つ腕に命中し、爆発する。

 薬莢を吐き出し、3射目。今度はもう1機の右脚部を捉えて、バランスを崩す。

 

『く、くそっ!』

『だが、俺の左腕はーっ!』

「斬ッ!」

 

 GNサムライソードからは逃れられない。

 音もなく忍び寄ったサムライの刀によってジェニス1機を唐竹割り。

 続けて横薙ぎ一閃。円形を描いたムラサメの一撃はもう1機のジェニスを胴体から真っ二つ。その場でジェネレーターが爆破するのだった。

 

【MISSION SUCCES!】

 

 結果として出来上がったのは、目の前で立ち上るオルトロスの赤い光と、ムラサメがオイルを払う構図であった。

 

 ◇

 

「ありがとう、おねえちゃんたち!」

「やはり感謝はいくらされても、よいものですね」

「ほーら、きーちゃん照れない照れない!」

「よかったね、メイナンちゃん」

 

 それからメイナンちゃんを街まで届けたわたしたちは、感謝という報酬をもらうこととなった。

 本当にこれだけなのだから、隠しミッションとは名ばかりで割りに合わない。

 こういうのも、まぁ悪くないのだけど。

 

「それにしてもすごいねー、サイカちゃんは。めっちゃ前衛って感じ!」

「盾役も突撃もこなす。それが前衛手の努めですから」

「加えてきーちゃんの狙撃テクもホントすんごい!」

「あれはしーちゃんが惹きつけてくれたからですよ」

「いやいや、しーちゃんなんてなーんもしてないって!」

 

 何を謙遜する必要がある。

 最も盤面をかき乱したのはウォー・ツヴァイナーのしーちゃんだと言っても過言ではない。

 器用なファングの制圧は誰しもができる芸当ではないのだ。

 

「そんなことありません。あなただからできたことなんですよ」

「あ、あはは、なーんか照れますなー!」

 

 頬を赤くして頭の後ろをわざとらしく掻く彼女は可愛らしい。

 サイカさんと顔を合わせて、少し笑う。

 確かにミッションに得はなかったかもしれない。

 けれど得たものがあったとすれば、それは3人の確かな絆だと、間違いなく言える。間違いなく、ね。



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第6話:「スラッシュザクファントム、かっこいいですよね」

なんか大変なことになっちゃったので初投稿です。


「ふあぁ……」

 

 欠けた壁。捲られている床。箱の角が潰れたプラモ箱。

 どれもこれもが『懐かしい』だったり『古めかしい』と言った印象を覚える。

 それでも埃だけは綺麗に取り除かれており、見た目以上に汚いという場所ではなかった。

 

 インコ模型店。可愛らしい名前とは裏腹に、創業何十年も続いている由緒正しきプラモデル屋。そのアルバイトであるのがわたし、ミユリだった。

 

「結構穴場だと思うんですけどね」

 

 こういう模型店は基本的に売れ筋の商品だったとしても売れ残ってることがある。

 例えばガンダムXディバイダ―のHG。例えば10年ほど前に発売されたSEED系列のプラモデルなど。

 ディバイダ―はたまーにちょこちょこと売れることがある。ほとんど同じ人だけど。

 確かこの前2個ぐらい買って行ったから、ディバイダ―の両面装備とかをしたい人が買っているんだと思う。

 そんなだから、ここは穴場。

 ガンダムベースにも、家電量販店にもないガンプラが置かれているのだ。

 

 でも暇なものは暇だ。

 バイトの日は埃を叩いて、新発売のガンプラを棚の上に積んで、そして店番。

 こうしていればお金が手に入るのだから、このバイトはなんともちょろいものである。

 

 それでも手を抜かない。いや、抜けないのはわたしの真面目な性分が邪魔をしているのかもしれない。

 今日もボーっと天井のシミを数えていると、カランカランとドアのベルが鳴る。お客さんだろう。

 

「いらっしゃいませ」

 

 女の子は学生だろう。焦げた赤色のブレザーにチェックのスカート。いいとこのお嬢様かもしれない。わたしもそんな日があった。昔と言ってもだいたい2,3年ほど前の話なんだけど。

 ため息が出るほど美しいストレートのツインテールと黒くて艶やかな髪色。どこを見てもかわいらしい女の子だろう。羨ましい。

 

 少女のことを観察していると、SEEDエリアで足が止まる。

 そうすると、顎に手を置きマジマジと地面から天井まで連なっているガンプラの山を眺めていた。

 SEED系って確か、HGCEとかで新しくなって復刻されていたはずなんだけど、それには目もくれずに旧キットの方に目を向けるとは、なかなかに通な人なのかもしれない。

 そうして考えながら、思いついたガンプラがあったのか1つ選んで地面近くのガンプラを引き抜こうとする。重たそうだ。あのままだとあの子が巻き込まれかねない。

 

「手伝いましょうか?」

「え?」

 

 落ちてきそうなガンプラを手で押さえながら、声をかける。

 そんなに意外そうな声だっただろうか。店員なんだからこのぐらいのことはする。

 

「あ、ありがとうございます……」

「とりあえずこっちに上のガンプラを置きますね」

「お願いします」

 

 せっせと商品のガンプラを取り出してはそばの台に置いて行く。

 そして目当てのガンプラが目に見えたのか、取り出した。

 

「スラッシュザクファントムですか?」

「あ、はい。コレクションシリーズにしか、スラッシュウィザードはないので」

 

 そういえばそうだったっけ。

 あとから調べてみたら、どうやら値段として4000円越え。

 確かに見つけたら欲しくなるのはガンプラマニアの性かもしれない。というかそんなのあったんですね、わたしも欲しい。

 

「スラッシュザクファントム、かっこいいですよね」

「そうですね、昔からザクウォーリア系が好きで……って変な話ですよね」

「いえ、大丈夫ですよ。知り合いも多分そうなので」

 

 しーちゃんも恐らくその類だ。

 そもそもGBNでザクウォーリア系を使う人を見たことがない。

 わたしが見た中でもしーちゃんぐらいなもの。他の人はもっと少ないと思う。

 

「だから気にする必要はありません。お買い上げでよろしいですか?」

「はい!」

 

 わたしにもこんな可愛い妹がいたらよかったのに。

 一人っ子だから実際にいる人の気持ちはわからないけれど、いなくて寂しいより、いて騒がしいほうが数段マシだと思っている。

 

「……あの」

「なんですか?」

「その、またここに遊びに来てもいいですか?」

 

 なんだ、そんなことか。パッケージの角が潰れているとかそんなクレームだと思ったが違ったようだ。

 常連客になる人だ、そんな無粋に突っ返すわけがない。

 

「いいですよ。ここにあまり人は来ませんから」

「よかった。ありがとうございます」

「また会いましょう」

 

 カランカランと、ドアが閉じる。

 また会えるといいな。あの感じなら数日後、とかかな。なんて。

 それにしてもどこかで聞いたことのある声だった。んー、誰だったのかな。分からないや。

 

 ◇

 

「ってことがあったんです」

「スラッシュザクファントムですか、確かにファンであるトムは多そうですね」

「ファンはいますけど、トムって誰ですか」

 

 バイト上がりのGBN。

 とりあえず今日もおーちゃん探しにと、サイカさんとしーちゃんと待ち合わせだ。

 とは言ったものの、しーちゃんはまだオフライン。時間的にはそろそろだけど、それまではサイカさんと喋っているところ。

 

「冗談はさておき、キユリ殿のバイト先はプラモデル店ですか」

「場末ですけどね」

「いえ。プラモデル店とは得てしてレア物が手に入る場所です。今度その場所をお聞きしても?」

「身バレするので嫌です」

「それもそうでしたね」

 

 と、サイカさんが懐に差してある竹刀を撫でる。

 サイカさんの実家はウタイ流を脈々と受け継いでいる剣道の道場である。

 宣伝がてら、試合に勝っても負けても宣伝しているので、実はサイカというダイバーで調べると、同時にウタイ道場も出てくるという寸法だ。

 道場の師範代をしているという話も聞くので、実はとってもすごい人だ。

 

「身バレ、嫌です。特に思いつきませんね」

「あはは……」

 

 こういうところを除けば。

 

「はーい、しーちゃんさんじょー!」

「お疲れさまです」

「こんちゃー!」

 

 ともすればアイドル衣装を身にまとったピンク色のツインテールがこちらにダイビングしてくる。

 受け止めきれなかったわたしはそのまま尻餅をつく。痛いし重たい。

 

「あー、ごめんごめんー!」

「大丈夫ですよ」

 

 先に立ち上がったしーちゃんが手を差し伸べるので、そのまま掴んで引っ張り上げてもらう。

 

「ありがとうございます」

「どーいたしましてー!」

 

 ご挨拶が済んだところで、今回はどこへ行こうか。

 というところで先んじて次の支度を整えていたのだろう。おずおずとサイカさんが手を挙げる。

 

「いいでしょうか?」

「なになに、サイカちゃん! 何か妙案?」

「まぁそんな感じです。皆さん、ELダイバーというのはご存知ですか?」

 

 ELダイバー。聞いたことがある気がする。

 確かわたしがGBNをやめた後ぐらいに勃発した第二次有志連合戦に置いて、その生存を勝ち取ることができた新たな電子生命体。

 今や100を超えて数えるのもやめた程度には増えた命たちは、GBNをGBNたらしめる要因の1つとなっているとかないとか。

 

「そのELダイバーの中でも一際人脈づくりが上手いダイバーが1人いるんです」

「人脈づくりが……?」

「あー、フレンちゃん?!」

「そうです。フレンドのフレン。フレンドリーのフレン。それから……」

「もういいです分かりました」

 

 マギーさんが忙しい代わりにそのフレンさん、という方を頼るんですね。

 ……で。

 

「フレンさんってどなたですか?」

「「え?」」

 

 ◇

 

 フレン。その人を一言で例えるならば、それはギャルである。

 ギャルはフレンドリーに相手に接し、フレンドを作ってその後も交流していく。

 尋常ならざるその人脈の広さは、まさしくELダイバー版マギーと評されるほどだ。

 

「っよーし、フレンド登録完了ー!」

「ありがとうございます」

「まさかフレンちゃんとフレンドじゃない古参ダイバーがいたなんて」

「ふ、復帰勢ですから……」

 

 というかしーちゃんもフレンドだったんですか。初めて数日だって言うのに、なんだろうこの敗北感は。

 

「さーて、おーちゃんってどなたな感じ?」

「OCってダイバーです。オーシャンクールで」

「……うーん、アタシも聞いたことないなー」

 

 フレンド数推定8000人超えのフレンさんがダメなら、もう事情知ったるマギーさんぐらいしかいないんだけど……。

 

「マギーちゃんもそろそろ手空きになりそーなんだけどなー」

「仕方ないですね。あの人もお忙しそうですし」

「ん、ゴメンねー! かーわーりーに! アタシが手伝ったげる!」

 

 え? 今なんと言った?!

 

「とりまフォー面に連絡付けてー」

 

 え? フォー面ってなに?

 

「うん、みんな来るってさー」

「うわー、てばやーい」

「手早くて手羽焼きができそうですね」

 

 と、というか。このフレンさんって『あの』ケーキヴァイキングのフレンさんですよね。

 ってことはこれから出てくるのって……。

 

「なによ、唐突に」

「本当ですわ。これだからギャルは……。フォースワープをオフにしておけばよかったですわ」

 

 バードハンターのエンリ、混沌の蒼龍のムスビ。そして……。

 

「まぁいいじゃないですか! フレンさんどうかしましたか?」

 

 ばっどがーりゅのユーカリだ……!




◇フレン
(出典:ガンダムビルドダイバーズ リレーションシップ)
交友関係マジヤバなギャルELダイバー。
その強さも一貫して強いが、上の下ほど。
ただ彼女自身楽しむものはガンプラバトルよりも色恋沙汰なわけで……。


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第7話:「手、つなぐ?」

 ケーキヴァイキング。それは今をときめく実力派フォースの1つである。

 先にも説明したアウトロー戦役。これを引き起こしたのも他でもないケーキヴァイキングだと言ってもいい。

 

 曰く『アウトローを名乗っている割に初心者に優しいばっどがーりゅは草』

 曰く『めちゃくちゃ怖いけど、対戦してみたら結構礼儀正しいバードハンター』

 曰く『悪役令嬢だと思ったら、それ以上に機体が化け物の混沌の蒼龍』

 曰く『ギャル以上に、人にフレンドリー過ぎて勘違いさせるELダイバー』

 

 どれも個性揃いなのは間違いないのだけど、アウトローのそれではないな。

 というのが彼女たちの本質である。

 

「げっ、サムライオーガ」

「そういう貴殿はバードハンターじゃないですか。バーどーも」

「ウケる~!」

 

 初対面でサイカさんに対して嫌な顔をする黒髪ツインテールの女性は確かエンリさんでしたっけ。この人、ちょっと怖そうに見えるんですけど。

 

「し、知り合いですか、サイカさん」

「何度か剣を交えたことがあるのです。それはもう腱鞘炎ができそうなほど」

「剣だけに~!」

「そうです。さすがはフレンさんですね」

「あざーっす!」

 

 はぁ、とわたしと白銀の髪を揺らすドラ娘。ムスビさんって言ったっけ。

 

「フレンさん、それくらいにしてくださいませ。ユーカリさんが喋れません」

「あー、タイミング見計らってたのにそういう事言うんですか?!」

「これぐらい、クラスメイト特権、ということで!」

 

 エンリさんが明らかに不機嫌そうな顔をする。

 え、いったいどういう関係なんですか?!

 確かあの戦役の時はムスビさんがこっぴどく振られた時だ。あの後にどんなドラマがあったか、それを知るにはまだまだわたしたちは親しい間柄ではない。むしろこれが初対面である。

 

「とーいうことで、こほん。はじめまして。わたしたちはケーキヴァイキングというフォースで、私がリーダーのユーカリです」

 

 わたしたちはとりあえずそれぞれに自己紹介。

 しーちゃんはいつもどおりしーちゃん呼びを強要しているけれど、ユーカリさんにはしーちゃんさんと言われてしまって、少ししょんぼりめになっている。なんで。

 

「で、そのおーちゃんさんという方をお探しで?」

「はい。その、勝手なお願いで申し訳ないのですが……」

「もっと声を張りなさいませ! 人にお願いする態度ではありませんわ!」

「うぅ……」

 

 それを言われてしまったらそうなんですけど、エンリさんもムスビさんも、なんというか雰囲気が怖いんです……。

 尻込みしてしまって、そのまま声が小さくなってしまうのはごく自然なことではないのでしょうか。

 

「ムスビさん!」

「失礼いたしましたわ。でしたらワールドワイドなモミジさんに声をかければよろしかったのに」

「絶対イヤよ。モミジはともかく、釣られてナツキまで出てくるじゃない!」

「どんだけ嫌なんですか……」

 

 ……人数が多くなればそれは必然的に話の脱線の確率が増えるわけで。

 珍しくつまらなさそうに一団の端の方にいるしーちゃんを一瞥する。これは早めに話を終わらせないとダメみたいだ。

 サイカさんと目を合わせてアイコンタクト。うん、意図は伝わったみたいだ。

 

「ここは知り合った縁です。フレンさんのフレンドシップに感謝という形で、一帯を探しましょう」

「そうですね。二手に分かれたほうがいいしょうか」

「広大なディメンションだもの。流石に手分けしたほうがいいわ。ユーカリ、あれを」

 

 そうしてユーカリさんが取り出したのは小さな箱。手がすっぽり入れられそうな入り口があり、中身は見えないようになっている。

 

「この抽選箱で決めましょう!」

 

 ◇

 

「……で、なんでこうなるんでしょうか」

「あはは、流石にしーちゃんも予想外かな」

「もっと安定した操作はできないの、ムスビ」

「ヴァイキングギアはじゃじゃ馬なんですわ! 無茶言わないでくださいまし!」

 

 引き当てたのはよりにもよって、エンリさんとムスビさん。

 しーちゃんがいたのはよかった。でなければ2人の圧力に負かされて萎縮しきってしまうところだった。

 

「そっちはどうですの?」

「特にないよー。きーちゃんは?」

「こっちも反応皆無です」

 

 目の前に広がるのは広大な森。樹海と言っても差し支えないそれはアマゾンのようなもの。よくカッカッカッという謎の鳥の声を耳にしながら、わたしたちは上空を飛び回る。

 

「とはいえ、索敵機はフレンにしかないんだから、わたしたちが出る幕はないんじゃないかしら?」

「それもそうですわねー」

 

 一応このノチウも一般のガンプラよりは索敵範囲が広い。だから精一杯広げて探知しているけれど、森の中にも空にも、特におーちゃんらしく反応が見当たらないのだ。

 

「そもそもGBNをやっているのかも怪しいわね」

「…………」

「キユリ、って言ったかしら? そのOCという人物がまだGBNをやっている検討はついているの?」

「それは……」

 

 人を探す、探さないに限らず、この広いGBNの中、まずはログインしているかしていないか。その2つに限ってくる。

 もしかしたら、ひょっとしたら。やっているかもしれない。その「もしも」に賭けてわたしは今日もGBNにログインしているのだけど、果たしておーちゃんも同じかどうかは、分からなかった。

 

「もしや、その確証すらなく探し回っていると?」

「…………」

「いるかいないかも分からない相手を探している、というのね」

「……ごめんなさい」

 

 これは責められること。だから謝らなければいけない。

 それでも、探したかった。わたしにとって重要なことだから。過去と決別するために大事なことだったから。

 呆れ返ったムスビさんが声を荒げようとしたその時だった。

 

「いるよ」

「え?」

 

 カランとした声がわたしたちの耳に届く。

 それは軽くて、それでありながら確実という重さが詰まった言葉。

 

「おーちゃんはいるよ。だって信じてるんでしょ、きーちゃん?」

「……しーちゃん」

 

 その声の主であるしーちゃんはわたしの方を向いて微かに笑った気がした。

 

「ごめんなさい、わたしも責めるつもりじゃなかったの」

「エンリさん、それってどういう……?」

「わたしも別の理由だけど、人を探してたことがあるのよ。大切な理由でね。信じる、とは違うけれど、同じガンプラ好きならきっと会えるわ」

 

 わたしは、少し誤解していたのかもしれない。

 エンリさんは怖い人。そう思っていたけれど、違った。彼女は彼女なりに人のことを思って考えて、それで答えを導き出すことができた人。わたしのことをバカにせず信じてくれた恩人。

 

「ありがとうございます。わたし、エンリさんのことを少し分かった気がします」

「エンリさん、怖いですわよね」

「なっ、ムスビ?!」

「ぃや、そういう、わけでは……」

「でも実際エンリちゃんって顔怖いよねー、眉間にシワが寄ってて」

「言われてますわよ、エンリさん?」

「……後で覚えておきなさいよ、ムスビ」

 

 ムスビさんも、思ってたよりもいい人だ。多分だけど、わたしのことを気遣ってこんなことを言ってくれたのだろう。

 失礼ながら控えめに笑う。しーちゃんは大爆笑してるし、なんというかもう、なんというかだ。

 少しだけ距離が縮まった。そう感じたのだ。

 

 心を通わせた、その時だっただろう。流れ星が1つ地上に落ちていくのが見えたのは。

 

「なんでしょう、あれは?」

「機体が大気圏から落ちてくるエフェクト? それにしては小さい気もするわね」

「行ってみる?」

 

 全員が同意の意見を出すと、目的なく漂っていたわたしたちは一同樹海の先に落ちたと思われる場所へと急行することとなった。

 

 ◇

 

「ここは、遺跡でしょうか?」

「イベント? それとも、何かまた別の……」

 

 ノチウの索敵には遺跡の奥には正体不明のアンノウンが1人いるということが分かった。

 分かったのだけど、何故アンノウン? これはNPD判定とかそういうのではなく?

 他の3人に伝えると、首をかしげた。少なくとも、こんな事象はわたしたちにとって初めてだった。

 

「2人で見てきてくれる? わたしたちなら、外側の襲撃にも対処できるから」

「索敵とか、大丈夫ですか?」

「問題ないですわ。これでも出たとこ勝負は得意でしてよ」

 

 ふふんと胸を張るムスビさんに少し笑いながら、言われた通り、ノチウ、ツヴァイナーを降りて、問題のあった遺跡の中へと入っていく。

 中は思ったよりも明るい。というよりも、ろうそくがチラホラと点いており、まるでわたしたちを出迎えているようにも見えた。

 

「なんか、怖いね」

「不気味……」

 

 自然としーちゃんと手の甲がぶつかる。

 ピタリ、という感覚に内心ドッキリしながらも、顔を見合わせて少しだけ吹き出した。

 

「手、つなぐ?」

「だと嬉しいです」

 

 お互いが怖くないように、離れないようにと、握手するように手を結ぶ。

 心臓は早鐘を打っているけれど、これは間違いなく恐怖からくるものだ。だって今さっき鼓動が少し和らいだし。

 

「怖くないね」

「そうですね」

 

 慎重に、一歩ずつ。そうしてたどり着いたのはまるで生贄の祭壇のようにも見えた。

 でもわたしたちはそんなことよりも驚くことがあった。待機しているノチウからの信号。アンノウンの正体が、目の前にいる白い軍服の少女だったのだから。




◇ケーキヴァイキング
(出典:ガンダムビルドダイバーズ リレーションシップ)
自称アウトロー集団の4人組ガールズフォース。
それぞれ、
ばっどがーりゅのユーカリ
バードハンターのエンリ
混沌の蒼龍、ムスビ
ギャルダイバーのフレン
が所属している。全員もれなく強い


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第8話:「このガンプラ、ミサイルとかないの?!」

「……あなたは?」

 

 声をかけた相手は紛れもなく白い軍服の少女。

 少女は左右に首を振り、自分以外に誰もいないことを確認すると、自分のことを指差すのであった。

 

「ウチ?」

「そーだよ! 名前! 名前なんてーの?」

「ウチ。ウチの名前……なんだろ?」

「はい?」

 

 自分の名前がわからないダイバーなんているだろうか。

 でも少なくともマップには未だにアンノウンと表記された文章が1つだけ。名前は確かに記載されていない。

 いや、そもそもこのGBN内で名前がないなんてことがあるの? 設定していない。ただただ空白にしているバグ。はたまた荒手のNPD。うーん……。

 

「あなたって、ELダイバー?」

「える……なんですかそれ?」

「知らない? 最近発見された新しい電子生命体!」

「……知らないです」

 

 しょんぼりといつもどおり声を小さくする。

 あんまりニュースとか見ないし、ここ数年はずっとガンプラ雑誌ばっか買ってて、外の情報には疎かったのを思い出す。強いて言えば受験の時に答えたっきりだ。

 遡ってみれば、そういえばと言うところでピンときた。

 

 ――ELダイバー。

 

 それはGBN内から生まれた電子生命体であり、曰く、ガンプラを愛する心から生まれた、というのが通説だ。

 今は権利問題とか、物なのか人なのか問題で日々大学で話題になっていた気がする。

 

「えるだいばー?」

「名前の付いてないELダイバー。てことは、今生まれたばっかりだったり?!」

「そうなるのかなー。ねね、キミたちは?」

 

 座っていた遺跡のお墓? みたいなのから飛び降りると、今度はわたしたちの方へと質問が始まる。

 結構グイグイ来るなこの子は。

 

「しーちゃんはシーハートっていうの! しーちゃんって呼んで!」

「いえーい、しーちゃーん!」

「いえーい!」

 

 ぱちんと手のひらでハイタッチ。うーん、ウェイ系。

 

「そっちのキミは?」

「あっ。えっと、キユリです」

「キユリちゃんねー。よろしくー!」

「う、うぇーい」

「テンションひっく!」

「きーちゃんだからねー」

 

 慣れないことはしない方がベストらしい。

 それはさておき、こういうのって運営に言えば対処してくれるのだろうか。

 とりあえず運営のお問い合わせに連絡してー……。

 

「きーちゃんはこの子の名前なにがいいとかってある?」

「え?」

「なーまーえ! 今なら名付け親だよ?」

 

 名付け親って。まぁいいですけど。

 名前名前……。うーん、そう言われてもパッと出てくるようなものでもない。

 えーっと、あかさたなはまやらわ。ら行がいいかな。ウェイ系っぽい。

 らりるー、る? るー、るー……。

 

「ルミミ」

「え?」

「えっと、聞こえなかったですか?」

「そういうわけじゃないって! なにそのルミミってー!」

 

 いや、思いついたのがルミミなんですけど。

 失礼してしまう。人に名前を考えさせてそれはないだろう。

 

「ルミミ、ルミミ……。うん、気に入った!」

「え~~~?!」

「ウチの名前はルミミ! よし、けってーい!」

「決まっちゃいましたね」

「決まっちゃったね……」

 

 名前入力画面からルミミと入力すれば、彼女はアンノウンからルミミという名持ちに変化する。うーん、まぁ。よかったのかな。

 さて、あとは運営に問い合わせして……。

 

 その瞬間だった。遺跡の外側からなにかの爆発音が鳴り響いたのは。

 

「え?! なになに?!」

「外で何かあったのかな?」

 

 しーちゃんがのんきにそんな事を言っていると、エンリさんから伝令が届く。

 NPDの奇襲イベントらしい。質はそこまででもないが、数が多いから手伝って欲しい、ということだった。

 

「よし、じゃあ行きますか! ルミミちゃんはきーちゃんに任せた!」

「わたしですか?!」

「よろしく!」

 

 と言って、颯爽と駆け抜けるピンク髪。

 残されたのはわたしとルミミの2人だけだった。

 

「戦闘?! ってことは、ミサイルとかこう、バーっと!」

「え、ミサイル? ……確かそんな感じの装備はなかった気が」

「ぶえー、残念」

 

 何が残念だのだろう。見かけが白い軍服のチェックスカートだし、戦闘というものに心惹かれるものがあるのだろうか。

 とりあえずわたしは彼女の手を引いて、ノチウが待つ戦場へと向かうのだった。

 

 ◇

 

「おまたせしました!」

「おー、これが戦場……!」

「その子は誰ですの?」

「ルミミだよー! よろよろ~!」

「あー、その感じ。フレンのご同輩ですか」

 

 ウェイ系と言えばいわゆるギャルに相当する。

 つまりフレンさんとこのルミミさんはある意味姉妹ということになるだろうか。

 いや、ELダイバーだから、みんな兄弟関係にあるんだろうけど、ギャルが2人だと結構圧がすごそう。

 

「作戦を説明しますわ。今、エンリさんとしーちゃんさんで敵を一直線に追い詰めていますの。キユリさんもそれに加勢してください」

「ムスビさんは?」

「まとまったところを、一網打尽にしますわ!」

 

 ヴェイガンギア・シド自体には確か殲滅機能のようなものは広範囲攻撃ぐらいしかなかった気がする。それなのに、直線に敵を固めてほしいって、いったいどんな仕掛けが……。

 

「このガンプラ、ミサイルとかないの?!」

「えっと、確かシールドに……」

「撃っちゃお!」

「え?!」

 

 操縦桿を奪ったルミミさんは、そのままキーからミサイルを選択して、的にめがけてミサイルを発射させる。

 その速度はいつもどおりであるものの、狙いが甘い。

 敵のNPDに避けられて、地面を爆発させるに至った。

 

 だが、ルミミさんの様子は違った。

 ワクワクで止まらない、ゲーム始めたての子供みたいなテンションで、爆発した先を指差していた。

 

「見た? 見た?! やーっぱミサイルなんだよねー!」

「……あの、ごめんなさい」

「いいですわ。多分その子、ミサイル好きの気持ちから生まれたELダイバーですわ」

「ミサイル、いいよねー」

「ミサイルギャル、ありなんですか?!」

「ELダイバーって、そんなものなんですのよ」

 

 というか、いつまでも操縦桿握られてるとスナイプできない……。

 

「ルミミさん、いい?」

「もうない感じ?」

「まぁ、リキャスト待ちですね」

「じゃあ返すよ」

 

 最初からそういう風にしてくれればよかったのに。

 まぁいいか。再度手に持った操縦桿を握りしめて、75mmスナイパー・ライフルから狙いを済ませる。

 確か真ん中に引き寄せればいいんだっけ。なら……。

 

 狙いを定めたのはNPDリーオーの側面。およそ避けられるであろう位置にまず一打。

 空気を切り裂いて飛ぶその弾丸は、リーオーの側面を狙う。

 もちろんこれに対応して中央の方へと避ける。うん、それでいい。何も撃墜だけがスナイパーの仕事じゃない。

 敵の誘導。それもスナイパーの仕事だ。

 

「ビューティフルですわ」

「ありがとうございます」

「そうですわよね、スナイパーってそういうものですわよね……」

「どうかしました?」

「いえ、何もありません……」

 

 少しヴァイキングギアが震えたようにも見えたけど、多分気のせいだろう。

 弾丸を数弾撃っていると、敵はもれなく中央の一列へと誘導されていた。

 ムスビさんが不敵な笑みでふふ、と笑えば、その蒼い巨星が蠢き始める。

 

 蒼白く光る閃光。無数に光りし死の線は見事に正面以外を通過していく。

 怪獣と思しきその見た目から放たれる咆哮という名の起動音は、シドとヴァイキングギアの頭部を接続し、蒼きビックバンとして光り輝き始める。

 

「射線上から退避してください! シグマシスバーストを使いますわ!」

「な、何が起こるの?!」

「鏖殺よ」

 

 見るもの全てを死の恐怖へと叩き落とす。

 それを見たら最後、生きては帰ってこれない。その名は。

 

『混沌のシグマシスバーストッ!!!』

 

 怪獣はその口から巨大なる光を放つ。

 滅亡の光。絶滅の炎。星の雷。

 真正面に飛ぶその怒りを受け止めるのは全NPDリーオー。

 蒸発し、溶け、データの破片へと消えていくその哀れな人形たちは無数の光へと散っていった。

 通り過ぎた炎は跡形もなくその場にいた者を溶かし尽くし、全滅へと追いやったのだ。

 

「す、すごい……」

「ふぅ、ざっとこんなもんですわね」

 

 ざっとって、そんなことできるのムスビさん以外に何人できるか……。

 でもこれでミッションクリア、という形だろうか。安心して、1つ安堵の息をこぼす。

 

「さて、次はELバースセンターですわね」

「え、なんですかそれは」

 

 今度はため息を1つこぼされた。



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第9話:「で、どっちがELダイバーなんだ?」

 ――ELバースセンター。

 

 ELダイバーたちはGBNに生れ落ち、発見された後まず最初に行く場所がここである。

 GBNに存在するだけではGBNに認知されているとは言い難い。

 最悪随時行われるアップデートによってELダイバーが誰にも発見されずにこの世を去るパターンというのも存在するとのことだ。

 そのため、この世に落ちた生命を保護する目的で、登録を行う必要があるのだ。

 

「それがELバースセンターってわけ。ユーカリたちには先に行くように指示しているから、あなたたちはどちらが引き取り手になるか考えることね」

「引き取り手、ってなんですか?」

「いわゆる親よ。後見人という名前だけども、要するに保護者。ELダイバーの全責任を担うみたいなものよ」

「へー、たいへんそー」

 

 いきなり人1人の命を受け取るって、それ結構準備が必要なことなんじゃないだろうか。

 1人で物を思いにふけっていると、ムスビさんが通信をかけてくる。

 

「ある程度の知識はありますが、常識はまた別ですの。それを教えてあげるのが、後見人の務めですわ」

「だってさー」

 

 ルミミさん、空け抜けと言ってのけるけど、あなたがその常識を教えられる側なんですけど。

 

「まー、きーちゃんが適任かな」

「え?!」

 

 いきなりしーちゃんからの御指名に声が裏返る。

 どうしていきなりわたしに声がかかったんですか?!

 

「だって、しーちゃん一人暮らしじゃないし」

「そういうことなんですか?」

「こういうことじゃないの?」

 

 2つの疑問がぶつかり合う。お互いにHATENAである。

 

「まぁ、両親の問題は複雑ですからね」

「フレンはなんだかんだしっかりしてるものね」

 

 いがみ合う、というほどではないが、どうしてそんなこと言うの? という疑問符をこれでもかというぐらい見つめ合う。

 まるでこれは小宇宙。空を飛んでいるはずなのに、どこか宇宙で宙ぶらりんになっているかのような曖昧さが感じて取れた。

 それに割って入るようにして、足を地面に引きずり落としたのは紛れもなく、ルミミさんだった。

 

「ウチはキユリちゃんの方がいいけどなー」

「おっとー? 言われてますぞ、きーちゃんどのー?」

「とりあえず、どうしてか聞いてもいいですか?」

 

 コックピットスペースの後ろで指を顎に当てながら、うーんと少しばかり悩ませる。

 しばらく練り上げて、考えがまとまったのであろう。にたーっとルミミさんが笑うと、それにつられてわたしも引きつった笑顔を見せる。

 

「ミサイル持ってたからだよ!」

「ミサイルかー」

 

 本当にたったそれだけかー。名付けよう。今から彼女はミサイルガールだということを。

 

 ◇

 

「ルミミさん、キユリさん、どうぞ」

「あ、はい」

 

 ELバースセンターの待合室。

 カウンターに白い椅子。そして白い壁とか白い床とか。

 まるで病院みたいな印象を受け取れる。

 その様子が珍しいのか、ルミミさんもきょろきょろと周りを見てはいろんなところに興味を見せていた。

 

「ルミミさん、待たせたらまずいですよ」

「あー、うん! ちょっと待ってて―」

 

 小さな子供を見つけたのか、少し会話してバイバイと手を振ってこちらへ戻ってくる。

 あの子もELダイバーなのだろうか。ほっぺたにELとかついてないと、実際には人間と変わりない。

 だから人権問題とかに発展するのだろうけども。

 

 そうこうしている内に診察室のドアの前まで。

 こんなところまで病院っぽいんだなーと思えば、目の前の自動ドアがウィンと右側へ退場していく。

 目の前には画面とかベッドとか大きな椅子とか。

 誰かいるのかな。わたしもきょろきょろすれば、椅子がくるっと回る。そこには黒くて目つきの悪い手足が生えたハロが我が物顔で鎮座していた。

 

「で、どっちがELダイバーなんだ? 陰キャか? 軍服か?」

「陰キャ……」

「軍服って、ウチのこと?」

 

 わたしもELダイバーに見えていたらしい。まぁいいけど。けど陰キャは許せない。陰キャだけも。

 

「えるだいばー? ウチのことっぽいよー!」

「まー、そっちだろうな」

 

 なんであえて挑発したんだこの人。喧嘩売ってるのかな。

 

「おい陰キャ、この程度でへこんでたらこれからどうなっても知らねぇからな」

「え、それってどういう」

「オレはさっさと仕事終わらせてぇから、早くこっち座れ」

「ぁ、はい……」

 

 こわ。このハロ怖くないですか。

 なんでこんなに初対面で威圧されなきゃいけないんだろう。致命的なまでにソリが合わないタイプの人だ。怖すぎる。

 

「はぁ……遅かったか」

 

 ウィンともう一度ドアが開けば、今度はエルフ耳でメガネの長身男性がそこにいた。

 まるで看護師みたいな疲労の仕方だけど、大丈夫なんだろうかと少し心配になる。

 

「ごめんね、ツカサが」

「こんなんいつも通りだろうが」

「わたしは初対面なんですけど」

「なんか言ったか?!」

「ぃぇ……」

 

 白髪エルフの男性があせあせとツカサと呼ばれる黒ハロサイドに回ると、今度こそ診察もとい自己紹介が始まった。

 

「すみません。僕がサポートのコーイチで、こっちが担当のツカ……アンシュです」

「ふんっ」

「ど、どうも……」

 

 こっちの優しそうなコーイチさんじゃなくて、チンピラハロのアンシュさんが担当って、すごく嫌な予感しかしない。

 ……って待って。コーイチ? いまコーイチさんって言った?

 

「もしかして時々HOBBY HOBBYで参考キットを載せていらっしゃるコーイチさんですか……?」

「あはは、一応ね」

「やっぱり! ファンなんです!」

「ありがとう、そう言ってくれると嬉しいです」

 

 控えめに少し頬を赤らめながら反応するコーイチさんはなんだか初々しいというか、慣れていないように見える。

 

「お前、未だに慣れてねぇのかよ」

「仕方ないだろ、作品を本に出してもらうなんて滅多にないんだから!」

「つってももう1年も経ってるだろ、ビルドダイバーズのコーイチ様よぉ」

「いいじゃないか、僕のことは……」

 

 はぁ……。と露骨にため息をついてみせるコーイチさんは、地続きのままウィンドウを見せながらELダイバーの概要を教えてくれた。

 かみ砕いて説明するのならば、アップデートや日々の生活において必ずリアルの世界に身体を移さなくてはいけないらしい。

 そのためにはルミミさんのデータをビルドデカールに移動させ、意識が完全に保護された状態にならなくてはいけない。そのビルドデカール、活動するための身体を用意するのがわたしというわけらしい。

 

「なるへそへそー」

「君の姿に合わせたモビルドールはこちらで用意できるから、安心してね」

「それってミサイル付いちゃう?!」

「えっと、この子ミサイルが好きみたいで……」

 

 アンシュさんがしばらく考える素振りをすると、何を思ったのかカタカタとキーボードを鳴らし始めた。

 気になることでもあったのだろうか。

 

「ふーん」

「ツカ……アンシュ、どうしたの?」

「こいつがミサイル大好きの、頭ミサイル女だっつーのは分かったが、陰キャの方を調べたくてな」

「え?」

「お前、第一次有志連合戦の前にログインやめてるだろ」

 

 心臓が飛び跳ねる錯覚がした。

 自分の心に刃を突き立てられているような感覚。まるで、今からお前を刺す。そんな鋭い殺意が込められている気がした。

 

「……ふん。なるほどな。そんで最近復帰したと」

「は、はい……」

 

 画面から目を離し、わたしと視線を交わす。

 鋭い目つきに、胸倉をつかまれたような感覚。思わずごくりと喉を鳴らす。

 それでも目線を逸らせなかったのは、鋭さの中に内包された何か別の気持ちがあったからだろうか。

 目線というのは、顔というのは見えなくても雰囲気は伝わるとVRMMOの都市伝説がある。

 内包された何かは分からないけれど、決して表には出さない気持ちなのだろうと察することができた。

 

 そうして幾万秒もの数秒を経過したところ、はぁ。とため息をついた。

 

「データとランナーは追って郵送する。あとは好きにしろ」

「え?」

「お前が作ったモビルドールを再度受け取って、そいつにビルドデカールをくっつけて返送する。それでモビルドールルミミの完成だ」

「認めて、くれるんですか?」

「勘違いするな」

 

 一頭身の身体で腕を組むと、こちらには目を合わせずにこう告げる。

 

「お前の昔のガンプラには自分が入っている。俺はそれで十分なだけだ」

「……見たんですね」

「今の情けないガンプラと違ってな」

 

 情けない、か。これでも本気で作ったのに、昔の愛機には遠く及ばないということ、か。

 

「なになにー? 何の話?!」

「なんでもない。説明は以上だ。ルミミにはあとで身体検査をする。それからはしばらくこっち預かりだ」

「ぶえー! ウチはもっとキユリちゃんと仲良くしたーい!」

「しばらく我慢してね。完成したらきっと気に入ると思うから」

「キユリちゃんとしーちゃんが作ったガンプラなら、ウチはいーもん!」

 

 そして1つ振り返って、にっこり笑う。

 

「頑張ってね、キユリちゃん!」

 

 その気持ちにほっこりとした気持ちが出て、煙みたいに心に充満する。

 サイカさんとしーちゃんにも相談しよう。

 ルミミさんのモビルドール作り。彼女のためにも、親として頑張らないと。

 

 ◇

 

「……言ったか?」

「ツカサが言いよどむなんて珍しいね」

「別に、なんでもねぇよ。……ただ」

「ただ、なんだい?」

「自分のケツぐらいは、自分で拭くしかないってな」

 

 画面に映るνカラーのZガンダムのカスタマイズ機と海のように真っ青なカラーリングのアイズガンダムの戦闘記録を目にして、ツカサはそう言うのだった。



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第10話:「なら足に車輪を付けましょう!」

「んーーーーーー、確かにデータとランナーは届いたけど……」

 

 まさか成型色まんまとは思わなかった。

 この辺は日々生まれるELダイバーに対応して、射出機でランナーを抽出しているんだろうけど……。

 

「わたしの家に本格的なエアスプレーとかないんですよね」

 

 実家ならいざ知らず、今の家は最低限必要なものしか持ってきていない。

 だから色を塗るときも筆かバイト先の設備をお借りしての代物だ。

 アンシュさんに情けないガンプラと言われたノチウも結論から言えば、バイト先の設備を利用して、塗装をしていた。

 

「ガンダムベースでもいいけど、うーん」

 

 マシナさんはあっさりOKしてくれることだろう。それが商売だし。

 でもあそこ遠いんですよね。海岸線だから、結構寒いし。もうちょっと利便性がいいところに作ろうとは思わなかったんだろうか。例えば街中とか……。

 

「いや、街中にフォースインパルスが立ってたら嫌だな」

 

 それはもうまさしく、侵略とか侵攻とかそういうタイプにしか見えないと思うんですけど。

 まぁいいか。流石にお金もかかるし、アルバイト先で塗るとしよう。

 

 ◇

 

「ふーん、ミユリちゃんにも家族かい」

「違いますよ……。同居人、みたいなものでしょうか」

 

 バイト先に行けば必ずいるのは店主なわけで。

 クギア・レムコ。『インコ模型店』の店主であり、御年61歳。

 もう老後の個人経営のお店があるとは腰を抜かすけれど、これは大会の商品で手に入れたらしい。

 彼女はいわゆるガンプラの民ではなく、ミニ四駆のレーサーである。

 スピード狂であり、ミニ四駆を走らせれば世界一と言わしめるだけの実力がある、らしい?

 実際は……。

 

「あー! またコースアウトしたじゃないかい! またスピードを上げるしかないねぇ!」

 

 いつもお店の端の方で走らせているけれど、毎回コースアウトする。

 100回やれば、99回ぐらいコースアウトする。店番をするときは、たいていわたしの耳に聞こえるのはコースアウト音である。

 お給料もいいし、シフトの融通も効かせてくれるし、すごくいい人なのは間違いないんだけどね。

 

「今度ELダイバーの、るみみちゃんだっけ? 連れてきなよ。歓迎してあげる」

「ありがとうございます」

 

 もしかしたらマスコットみたいな立ち位置にしようとしているのだろうか。

 まぁこんな古びたお店を盛り上げるつもりなら、きっとルミミさんを利用することだろう。

 

「ランナーからの切り離しは?」

「とりあえず一通り。あとは追加オプションですね」

「ならロケットエンジンを積みな! 爆発的なエンジンは空を飛ぶにも大事だろう?」

「あはは、考えておきます」

 

 多分積まない。ロケットなら積むかもしれないけれど。

 ささっと塗装を終わらせて、乾燥時間に店番と追加オプションを考えながら待つ。

 現状、モビルドールルミミには最低限の装備しか持たせていない。

 頭部のバルカン、ビームサーベル、ビームライフル。あとシールド。この程度。

 78でもやらないようなシンプルisシンプルな装備である。

 

 とはいえ、わたしはあんまり装備を考えるのとか苦手なんですよね。常識にとらわれてしまうというか、宇宙世紀も大概トンデモ兵器が詰まっているけれど、初代の時点ではそこまでなかった、はずだ。

 

「やっぱりロケットエンジン……、いやいやそれこそルミミさんらしくない」

 

 彼女らしさと言えばミサイルだろう。

 けれど、ミサイルとは言ってもいろんなものがある。

 ただのミサイルに誘導弾。それからファンネルミサイル。ビームかく乱弾や煙幕もその類だろう。

 ミサイルと言ってもその多様性は幅広い。だからこそ、それを積むコンテナは積載量に従って肥大化していく。

 要するに、外付けで備え付けようとしても自立せずに倒れてしまうのだ。

 

「さて、どうしたものか」

 

 メッサー3を扱っていたムサシさんにでも聞いてみようか。

 でもあれはずんぐりむっくりすぎて、ルミミさんには似合わない。

 想定しているミサイルコンテナはあるものの、それでは大きすぎて後ろに倒れてしまう。

 難しいところだ。

 

「なに、してるんですか?」

「うわっ!」

 

 久々に声を荒げてしまった。こんなにも変な声が出たのは6年ほど前以来だろう。

 見れば何度見ても美しいツインテールと艶やかな黒い髪がお嬢様制服を着飾っているかのスラッシュザクファントムを買っていった少女であった。

 

「モビルドールの、設計ですか?」

「えっ。あー、そうですね。近々ELダイバーがうちにくるので」

「ELダイバーですか。珍しいですね」

「まぁ、ほぼほぼ偶然なんですけどね」

 

 設計図を見せると、スラッシュザクファントムの少女は目を丸々とする。

 

「えっ?」

「どうかしました?」

「あっ。いえ、その子なんて名前なんですか?」

「ルミミって言うんです。ミサイルが好きらしくて、積載するコンテナをどうしようかと……」

 

 彼女は何故か目を逸らした。何故。

 そんなに気になるガンプラでもあったのだろうか。

 

「……こんなことって、…………」

「えっと、お客さん?」

「あっ! いえ、なんでもないですよ! えぇなんでもないですとも」

 

 なんでもありそうな顔しているんですけども。

 何かを誤魔化す為か、目線の先にあったシステムウェポンシリーズのビームガトリング砲を取ってわたしの前に差し出す。

 

「こ、これください!」

「あ、はい……」

 

 何かあったのだろうけど、いったい何が。

 まぁいいですけど。ビームガトリングなら値段も安いし。やすい、し……。

 

 瞬間。わたしの中で弾けるのはインスピレーションの炎。

 まるでこれが正解だと言わんばかりのベストマッチに、思わずわたしはペンを走らせていた。

 

「え、どうしました?」

「これです。これですよ。大型のガトリングバスター砲。これで前後の重量バランスは均等に保たれるはず。あとは脚部にバンカーだったり固定するものを加えたら……」

 

 正直言って、この時のわたしは狂気に堕ちていたかもしれない。

 けれど、発想は必ずしも降りてくるものじゃない。その時の最善手はこれだとわたしのゴーストガンダムがささやいていたんだ。

 これにはアストナージもびっくりの発想に違いない。本気でその時は思っていた。

 

「え、でもこれ。逆に動けないんじゃ」

「なら足に車輪を付けましょう! ランドスピナーです!」

「えぇ……」

 

 その時のお客さんもドン引きしていた顔は今でも覚えている。

 

 ◇

 

 翌日。冷静になったわたしが見た設計図は、酷かった。殴り書きもいいところ。そして、実用性はピーキーすぎることだろう。

 

「もうちょっと足を太くして……。いやそれじゃあルミミさんらしく、あの人結構足太かったっけ」

 

 などと思いながら、先日の設計図の修正をしていく。

 とはいえ基礎プランは間違いではなかった。大型のガトリングバスターを持たせて背中の陸戦型ガンダムから拝借したランドセルをミサイルコンテナとして装備。左右に増設多目的ランチャーユニットを装着。

 これによって2基のランチャーユニットから様々なミサイルを発射することができる。

 重量が下半身に来るんだけど、ここを太くするか、それともランドスピナーのように接地部分を広くしながら、高速移動を可能にするか。まぁ迷いますよね。

 

「GNドライヴを装備させるほど自由性はないですよね」

「そうなんですよね。やるとしても粒子貯蔵タンクですけど、それだと全体がさらに肥大化する」

 

 外付けならGN粒子貯蔵タンクしかない。けれど、それをどこに? それにミサイルにGN粒子を纏わせることでタンクからはマッハでGN粒子が消えていく。間違いなく悪手だった。

 

 ということで今日もスラッシュザクファントムのお客さんがいる。

 気に入ったのか、気になっているのか。それはさておき、こうして2人で考える分には思考の交換ができるからわたしとしても嬉しかった。

 

「やっぱりランドスピナーかな」

「ですかね。下駄みたいなのを履かせれば高速移動も可能かと」

「過去のわたし、ひょっとしたら天才かもしれない」

「あはは……」

 

 バカと天才は紙一重。ならば、天才はバカみたい発想から生まれるのだろう。

 細かい修正と共に、少しばかり足を太くして脚部スラスターを装備することで、この問題を解決した。再度言うけれど、ルミミさんはニーソックスにお肉が乗る程度には足が太いので。

 

「これで一段落でしょうか」

「ですね。よかったです、完成して」

「まだ設計図の段階ですけどね。お手伝いしてくださってありがとうございます」

 

 多分このお客さんがいなかったら、成立しなかったアイディアだっただろう。

 お客様は神様というが、この場合は本当らしい。アイディアの神様だ。

 

「お客さんがいてくれたから――」

「コウミです」

「え?」

「コウミって言います。また来ますね」

「あっ」

 

 お客さん、もといコウミさんはハの字の笑みを浮かべながら、その場を去ろうとする。

 それにわたしは……。

 

「ま、またのご来店、お待ちしてます。コウミさん!」

「……っ! はい!」

 

 モビルドールルミミの発想をくださった神様、本名コウミさんはその場を去っていくのであった。

 

「さて、わたしも頑張りますか」

 

 コースアウトの音を耳にしながら、わたしは目的を遂行するためにクギアさんに設計図を持っていくのだった。




・クギア・レムコ
『インコ模型店』の店主。おばさん
スピード狂で、ミニ四駆を走らせれば世界一と知らしめている。
実際はスピードを出しすぎてコースアウトしているので、直線以外は弱い。


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第11話:「そんなミサイルパーティガール知らんぞ」

掲示板ネタ注意です


「そういうことなら、バトロワでしょうね」

「ほー!」

 

 狂気の産物、もといモビルドールルミミが完成して数日。

 無事ビルドデカールによる適合が完了して、GBNへの再ログインを果たしたルミミさんを待っていたのは、しーちゃんとサイカさんの2人であった。

 

「なんの話ですか?」

「なに、感嘆な話ですよ。簡単な話ですから」

「?」

 

 今のはさらっと投げられたおやじギャグの話ではなく、どういう話か聞くため。

 ルミミさんもハテナマークを浮かべながら、今か今かとサイカさんの話を聞こうとする。

 こほん、と喉を叩けば、彼女は一言口にする。

 

「己を知りたければ戦場の中に身を投じよ。わたくしの格言ではありますが、ルミミ殿の実力を知るにはやはりこれが一番だということです」

「なるほど……」

「ウチもミサイルぶっぱなしたいから賛成!」

「しーちゃんもいいよー。やっぱりストレス発散させたいし!」

 

 意外にもしーちゃんも内に秘めているものがあるのかもしれない。

 普段めちゃくちゃ元気そうだから、大して気にも留めてなかったけれど、人間そういうことが多々あるということだ。

 人間と言えば、ELダイバーであるルミミさんにはガンプラバトルのマナーをすでに教えている。

 こういうPVPバトルでは、相手へのリスペクトなくして清々しいバトルはできない。

 何かしら邪念がこもってしまえば、そこに入ってくるのは遺恨だ。最終的にはその傷が世界を壊すことだってあるかもしれない。バタフライエフェクト的に。

 ということでわたしには珍しく少し口調きつめに教えていれば、ルミミさんはすんなり自分の中に溶かしていった。

 

「戦いはリスペクト、だよね! キユリちゃん!」

「そうですね」

「それはわたくしの受け売りですよ」

「そうなの?!」

「あはは、まぁ……」

 

 まぁ元々武人ではない、ゲーマーであるわたしだ。その辺の詳しいリスペクト精神はサイカさんから教わった賜物である。

 大丈夫。我が物顔では言ってない。ちょっとアレンジ加えたし。主にギャグ関連。

 

「リスとリスペクトは謙虚さが大事、だっけ!」

「ちょ、ルミミさん?!」

「きーちゃん……?」

「やっ、違うんですよ。ただなんとなく、頭によぎって」

「サイカちゃんのギャグ、恐ろしい……」

 

 当の本人は話を聞いていなかったのか、どのバトロワ部屋に入ろうか思案しているだけであった。

 なんともまぁ、自由人らしい。

 

「とゆうか、せっかく4人になったんだし、フォースとか作りたいよねー」

「……フォース、ですか?」

「うんうん! チームで野営するとか、それはそれでありかなーって」

 

 フォース。このGBNにおける要素の1つであり、これに所属しているだけでやれることの幅がぐんと広がる、いわゆるチームに似ている。

 フォースバトルや、フォースネスト、あとはフォース限定のフェスなどなど。

 やれることはたくさんあれど、条件となるのは友だち。

 

 大学内にも友だちがいないのに、GBNにいるのかと言われたら、難しいところだ。

 サイカさんやしーちゃんを果たして友だちと呼んでもよいのだろうか、という葛藤があったりする。もしかしたら向こうは友だちではなく、知り合い程度に考えているとか、そんなありふれた理由だ。

 けど、不安なものは不安である。

 確かめるのだって、普通に「わたしたち友だちだよね?」なんて言ったら、メンヘラっぽくなるし、ホントは違うよ。と言われたらその日はきっと泣くと思う。

 

 そんなわけで、しーちゃんのその提案は有難かったりした。

 

「いいんじゃないですか。委員長、もといフォースリーダーを決めねばなりませんが」

「今のはいいんじゃないと、委員長を掛けた感じの?!」

「やめてください、ギャグの説明をされるのは流石に堪えます」

 

 あははと無邪気に笑うルミミさんをよそに、そういえばとわたしは言葉にする。

 

「しーちゃん、ダイバーランクは?」

「Eだったかなー」

「じゃあまずはDにあげないと。ルミミさんもそうだった」

「ではバトロワで名をあげるとしましょうか」

「ですね!」

 

 そうしてわたしたちはフォース結成のために、ルミミさんを戦闘に慣らすため、バトルロワイヤルミッションへと足を運ぶのだった。

 

 ◇

 

【魔境】バトルロワイヤルミッションについて語るスレpart***【闇鍋】

 

1:以下名無しのダイバーがお送りします。

ここはガンプラバトル・ネクサスオンライン通称『GBN』のミッションの1つ

バトルロワイヤルミッションについて語るスレです。

 

ビルドの相談はそれぞれ専用スレッドでお願いします。

 

Q.バトルロワイヤルミッションってどんなミッション?

A.最後の1人になるまで戦うバトルロワイヤル形式のPVPミッションです。

 

Q.生き残る秘訣は?

A.誰にも見つからないように隠れ続けること。

 生き残った時間だけランクポイントは高くなります。

 

Q.なんか2VS1になったんだけど?!

A.フォースメンバー同士の参加も認められています。

 遭遇したら、諦めろ

 

 ◇

 

20:以下名無しのダイバーがお送りします。

まーたやられたー!

 

21:以下名無しのダイバーがお送りします。

何に?

 

22:以下名無しのダイバーがお送りします。

ドージ

 

23:以下名無しのダイバーがお送りします。

あー

 

24:以下名無しのダイバーがお送りします。

あいつも普通に強くなったからなー

 

25:以下名無しのダイバーがお送りします。

最初は初心者狩りしてたくせにな

 

26:以下名無しのダイバーがお送りします。

お兄ちゃんが鬼いちゃんだから

 

27:以下名無しのダイバーがお送りします。

まぁ、教育は大事よな

 

28:以下名無しのダイバーがお送りします。

ちょまって! うわーーー!!!!

 

29:以下名無しのダイバーがお送りします。

どうした

 

30:以下名無しのダイバーがお送りします。

またドージにやられたか

 

31:以下名無しのダイバーがお送りします。

なんか、ミサイルの雨が降ってきただが

 

32:以下名無しのダイバーがお送りします。

俺は銃弾の雨

 

33:以下名無しのダイバーがお送りします。

こっちはサムライオーガが

 

34:以下名無しのダイバーがお送りします。

オルトロスもだ!

 

35:以下名無しのダイバーがお送りします。

75mmライフル弾もだぞ

 

36:以下名無しのダイバーがお送りします。

何が起こったし

 

37:以下名無しのダイバーがお送りします。

なんでそんなヴァルガみたいなこと起っとるん

 

38:以下名無しのダイバーがお送りします。

あー、これか

 

39:以下名無しのダイバーがお送りします。

エリア3で行われてるバトルロワイヤルがかなりカオス

 

40:以下名無しのダイバーがお送りします。

いるのはこれ、スナイパーと砲撃手と、サムライオーガとELダイバーか

 

41:以下名無しのダイバーがお送りします。

まーたELダイバーか

 

42:以下名無しのダイバーがお送りします。

ELダイバーイコールやべぇやつらの総称は草

 

43:以下名無しのダイバーがお送りします。

今度はなんだ?

 

44:以下名無しのダイバーがお送りします。

んー、ミサイルだな

 

45:以下名無しのダイバーがお送りします。

これあれやん。陸戦型ガンダムのランドセルの中に大量のミサイルを抱えてる

 

46:以下名無しのダイバーがお送りします。

加えて大型のガトリング砲かな。多分実弾。

機動性はランドスピナー使って上げてるから、まー重装備系ELダイバーだな

 

47:以下名無しのダイバーがお送りします。

聞いたことないけど

 

48:以下名無しのダイバーがお送りします。

そんなミサイルパーティガール知らんぞ

 

49:以下名無しのダイバーがお送りします。

ミサイルパーティガールwwwww

 

50:以下名無しのダイバーがお送りします。

ダイバーネーム分からないのに、あだ名が決まったwww

 

51:以下名無しのダイバーがお送りします。

 

52:以下名無しのダイバーがお送りします。

分かった。

 

ダイバーネーム:ルミミ

 

ELダイバー通の俺も知らんから、多分新しく生まれた子だな

 

53:以下名無しのダイバーがお送りします。

ELダイバー通ってなに。キモ

 

54:以下名無しのダイバーがお送りします。

通は多くを語らない

ELダイバー すこ

 

55:以下名無しのダイバーがお送りします。

せっちゃんの再来かな

 

56:以下名無しのダイバーがお送りします。

頭ハモニカの次は頭ミサイルかよ

 

57:以下名無しのダイバーがお送りします。

その内頭鈍器も出そう

 

58:以下名無しのダイバーがお送りします。

サムライオーガも出たみたいだし、こりゃ注目だわな

 

 ◇

 

「レッツ、ミサイルパーティイイイイイイ!!!!!」

 

 蒼天を焦がす総計120のミサイル群は山なりに空中を闊歩すると、そのまま地上へと落下していく。

 それを一つ一つ斬り落とすサムライオーガこと、サイカさんは流石だ。

 こっちだってヴォワチュール・リュミエールを展開しないといけない物量。当たれば爆風によるダメージが襲うし、視界も真っ赤になるからこそ、あのモビルドールルミミという怪物は生かしておくわけにはいかに訳で。

 

『そこか!』

「わわわわーー!!!!」

 

 ランドスピナーを展開して、地上を高速で進もうとするも、ここは森の中。車輪特有の思うように動けないこのエリアはルミミさんにとっては悪条件だろう。

 手元のガトリング砲をギラ・ズールに向けるものの、それだけでひるみはしないのが歴戦のダイバーである。

 あっさりとモビルドールルミミのガトリング砲が両断。爆発に生じてミサイルコンテナの方へと尻餅をついてしまう。あれではギラ・ズールの格好の的だ。

 

「っ!」

 

 胴体をビーム・ホークで斬られ、モビルドールルミミはゲームアウトしてしまった。

 

「あーあ、派手にやっちゃうから」

 

 油断した時こそ一番の狩り時。後ろから迫るオルトロスに気づかず、ギラ・ズールはあえなく蒸発。次にしーちゃんに襲い掛かるグシオンもGNファングで貫かれて、こちらも爆散してしまった。

 

「予想以上に展開が早いですね」

「ほぼほぼルミミさんがやっちゃいましたから」

「ミサイルパーティ、恐ろしいお祭りです」

「わたしとしては、サイカさんに出会った方が恐ろしいですけど」

 

 目の前にいるのはサイカさんのムラサメ刃-X。

 遠距離にも、近距離にも対応できるが、尖ったところがないわたしにとって、近接特化型であるサイカさんと出会うことはできるだけ避けたかった。

 

「出会ったからには、未来のフォースメンバーだとしても容赦は、致しません!」

 

 素早くバックパックからビームサーベルを抜き取ると同時に交じり合う刃と刃。

 火花が散った後に、バックステップで距離を取るサイカさんは明らかに余裕そうに見えた。

 

「さぁさ、ここに取り出したるはGNサムライソード。眼前に見据える我が友に刃を突き立て、いざいざ行かん、わたくしの花道へ! キユリ殿、一切の容赦は、致せません!」

「……望むところです」

 

 いま、対峙するのはサムライオーガと謳われたわたしの友だち。

 肝が冷えるほどの殺気だけど、行くしかない。リスペクトを込めて、わたしは自分の獲物を強く握った。



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第12話:「アストロ・ブルー。で、どうでしょうか?」

 相手は確実に格上の存在。

 蒼いGN粒子から放たれる殺意とプレッシャー。

 明らかに敵を倒す。その意図を感じさせる、熱。

 

「いざっ!」

 

 GNパニッシュを後方に展開し、自身への推進力に変換させるムラサメ刃-X。

 手に持ったビームサーベルを構えれば、サムライソードと相互反発して火花を散らす。

 刀が、重たいッ!

 

「力押しでは勝てないというのは分かっています。貴殿もまた強者なのですから!」

「わたしが……?」

「手を抜くことは、許されません!」

 

 呆けているわたしのノチウから衝撃が走る。

 強引に距離を開けるために腹部への蹴りが炸裂する。GNパニッシュではない。あれがムラサメ刃-Xのチカラ。

 

 左右に機敏に揺れながら、わたしの胴元である命を刈り取ろうとする。

 そうだ。今は戦いに集中しなくちゃ。

 左手のライフルはおおよそこのタイミングでは使い物にならない。ならばさっさと捨てるが吉だ。

 右手のビームサーベルでライフルを焼いてしまえば、その場にしててバックステップ。擬似的な地雷として、即座に爆発する。

 

 爆炎は相当。けれど、身を隠すほどではない。サムライソードが煙を斬る前に次の手を考えなくては。

 シールドのミサイル・ランチャー? いや。ここは突撃だ。

 

 ルナゲイザーのバックパックを起動させ、ちょうど円を形取るように包み込む。

 行きますよ、ノチウ。あなたの本気、あの人に見せてあげてください。

 

「ヴォワチュール・リュミエール、展開!」

 

 それはほうき星だろうか。

 ノチウの装甲部分から発行される緑色の光。それらが円状のビームサーベルとして展開される。

 

 ――ヴォワチュール・リュミエール。

 

 ガンダムノチウの切り札にして、本来防衛機能として使用されていた装備を今攻撃に転用する。

 

 光のリングに指向性を乗せて、前方へ楕円形の輪を射出する。

 ある意味ではビームリング。だがその威力は、範囲はビームライフル以上の攻撃力を持つ。いわゆる飛ぶ斬撃。それこそがノチウの武装の1つであった。

 

「ですがっ!」

 

 だが相手の大型GNシールドは更にその上を行く。

 展開されたフィールドには何人も蒼き侍への攻撃を通さない。

 故にあの盾は、厄介極まりないのである。

 

 ビームリングを射出しながらも、距離を取ろうとするノチウに対して、真正面からムラサメ刃-Xが迫ってくる。

 

「飛ぶ城壁ッ!」

「一撃、もらいます!」

 

 シールドの影に隠れたGNシュツルム・ファウストが構えられる。

 そんな隠し兵器まで。発射されたそれをビームリングで斬るが、爆発するのは当然だ。逆に目くらましにされた。これじゃあ視覚的にはムラサメを捉えられない。

 そうだ、センサーだ。センサーで、ってこの位置は……っ!

 

「ウタイ流壱の型、昇り天竜」

 

 懐に潜った刃が輝く。下から上への迷いなき斬撃がノチウの右足を真っ二つに両断する。

 それだけでは終わらず、コックピット部分をかすめ頭部まで一直線に刀が昇る。

 

「このっ!」

 

 バルカンを起動させ、いくらかのダメージが入るけれど、それを察してムラサメが一旦距離を取る。

 第一ラウンドは完全にしてやられた。右足はすでに使いものにならないほど。装甲の隙間からフレームが見え隠れし、そのフレームでさえも中身のコードがバチバチと火花を散らしている。

 胴体部分は身体を反らすことでなんとかなった、が。

 

(これは、まずい)

 

 足をやられたということは地上に降り立てないこと。

 空中にいることがアドバンテージであるのならば、恐らく木に機体を隠すことだって出来たのも地上のアドバンテージだ。

 だが、それは機動力という面で足を失う困難となった。

 

 何度でも言う。彼女はサムライオーガと比べられているものの、強者であると。

 

「ヴォワチュール・リュミエールを使っているのに……」

「兵器に頼っている貴殿ではなかったはずです。キユリ殿は今までどうやって戦ってきましたか?」

「それは……」

 

 わたしの持ち味。それが分かれば苦労はしない。

 それが分かっていたら、おーちゃんとは……。

 

「分かりません。わたしには……」

「4年前の貴殿はもっとギラついていました。それを、わたくしが引き出させていただきます!」

 

 たちまち距離を詰められたムラサメに対して、シールドからミサイル・ランチャーを炸裂。

 だがその1つ1つが斬り落とされ、ムラサメの背後で演出のように爆発する。

 ダメだ。これじゃあ足りない。もっと。もっと何かできることは。

 再度ヴォワチュール・リュミエールを展開するも、これをGNフィールドで中和する。

 もっと、出力を上げれば……っ!

 

 ――違う。

 

 違う? 何が?

 ……いや、そうだ。力技だけでは、小手先だけでは通用しなうのがサイカさんだ。

 だったら、使えるものを使う。まずは、こちらとの距離を詰めさせる。

 ヴォワチュール・リュミエールを解除し、超至近距離へと突入。サムライソードのキルレンジだけど、構うものか。

 斜め下から襲いかかるその斬撃を受け止めれば、指の付け根部分からトリモチランチャーを選択。思いっきりムラサメ刃-Xのモニターに付着させた。

 

「マルチプル・ディスチャージャー?! ですが!」

 

 右腕のビームサーベルが力負けをして切断される。

 だけど、まだ左腕と頭は残っている。

 バルカン・ポッド・システムを起動させ、首の付け根部分を強襲。爆散させる。

 そのまま左足で蹴り飛ばし、距離を取る。

 

「メインモニターが……っ!」

「次」

 

 左手のマルチプル・ディスチャージャーを起動させ、デコイバルーンを2体放出する。

 メインモニターがやられたなら、センサーで感じ取るしかない。だけど、そのセンサーはデコイバルーンが阻害電波を出す。形勢は、逆転した。

 

「なるほど。大胆でありながら、知的に相手を混乱させ勝率を引き上げる。キユリ殿の得意としていた戦術です」

「ありがとうございます。でも――」

「わたくしには届かない。GNパニッシュ!」

 

 今回の敗因はGNシールドを破壊しなかったこと。

 城壁の監視役を倒したところで、その城壁は未だに健在なのだから。

 

 パニッシュで吹き飛ばされたデコイバルーンがふわりと宙を舞う。

 

「そこですね!」

 

 ミサイル・ランチャーもGNフィールドには届かない。

 接近する最短距離の一撃にビームサーベルを用意する時間がない。

 であるならば……。

 

「強いですね、サイカさんは」

「えぇ、これでも4年間鍛錬を丹念に繰り返していましたから!」

 

 ――一刀両断。

 

 ノチウの身体が2つに引き裂かれる。

 上には上がいる。そうだった。そうだったよね、おーちゃん。

 

 ◇

 

「いやぁ、白熱してしまいました」

「今日はルミミさんの試運転だったのに」

「ウチはめっちゃ楽しかったよ! ミサイル打てて!」

「しーちゃん、なーんも活躍できなかったー。慰めてー、きーちゃーん!」

「うわぁ!」

 

 首元に巻き付くように抱きつくしーちゃんを今度は受け止める。

 ともすればズルズルと体重を重ねてきて、今回もぺたんと尻餅をついてしまった。

 

「しーちゃん、おも……」

「重くない! きーちゃんが貧弱なだけ!」

「誰だって体重をかけられば、そうもなりますよ……」

「声ちっちゃいから聞こえなーい!」

「重いって、言ってるんです!」

「あーあー!」

 

 この女……。

 クスクスと笑うサイカさんの顔も目に入る。すごく楽しそうだった。

 

「ウチも混ぜてー!」

「ぐにゃー!」

「ルミミさんまで……。つ、潰れる……」

 

 ルミミさんは見ての通り。

 わたしは今こんなところにいてもいいのだろうか、という気持ちにもなった。

 けれど、楽しいというのも事実で。

 そうだ。そうでしたよね。GBNってこういう楽しいを共有する世界でしたよね。

 

「さて、フォースの殿を決めトップ」

「決めトップってー! 強引すぎ!」

「これはすいまソーリー」

「おじさんみたいだね、サイカちゃん!」

「おじ……」

 

 流石に傷ついたサイカさんを笑う。ほーら、言わんこっちゃない。

 

「しーちゃんはきーちゃんにいっぴょー!」

「ウチもー!」

「僭越ながら、わたくしも」

「なんでですか?!」

 

 驚く顔を見せながら、それでも多数決主義には逆らえないわけでして。

 まぁいいですが、リーダーって気質でもないと思うんですけど。

 

「フォース名はなんにする?」

「サムライソード組」

「ミサイルパーティズ!」

「却下で」

 

 じゃあ何にするかと言われたら悩むわけで。

 星と、海と、侍と、弾頭と。

 驚くほどの種類千差万別。だけど、自然とまとまった。このチームに。

 

「アストロ・ブルー。で、どうでしょうか?」

 

 小惑星の海。可能性たちの船。そういう意味で。

 

「いいんじゃない?」

「わたくしも異論はありません」

「かっこいいし好き!」

「……それでは、ダイバーポイント稼ぎましょうか」

「だね!」

 

 未練がないわけではない。わたしの親友もここに呼べたら。

 それでも、今は探すしかない。探して、そして……。

 

 ――あのときの理由を、聞きたい。



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第2章:海の幸。今は居心地がいい。
第13話:「親友みたいなものでしょうか」


いざ、2章へ


「そのような些末な回避では、相手をしている甲斐もなくなってしまいますよ!」

「分かってるけどさー!」

「なんで3人がかりで勝てないんですか?!」

 

 フォースを結成して数日。

 しーちゃんは置いておくとして、せめてルミミさんの戦闘経験値を上げておきたい、というサイカさんの提案から毎日3対1の変則バトルで腕前を鍛えているのだけど、それはもう強い強い。

 サイカさんは元々サムライオーガという異名を持つ程度には有名なダイバーだ。

 そんなダイバーがこんなところでくすぶっていることの方がおかしい。S級ダイバーとは言わないでもダイバーランクAの凄腕なのだから、強いのは当然なのである。

 だからって3対1で圧倒している方がおかしいのだけど。

 

 試しに持ち替えたロングレンジ・ビーム・ライフルを照射しても、あのGNフィールドを突破することができない。

 飽和させようにも、ルミミさんのミサイル群はムラサメに届くことがない。サムライソードで阻まれるのだ。

 であればGNファングは? としーちゃんがオールレンジ攻撃を展開するけれど、これも敵わない。大出力であるGNオルトロスぐらいしか彼女のガードを超えることができないのだ。もっとも、そのGNオルトロスも回避されて、攻撃が届くことはないのだけど。

 

 まぁ俗に言う、詰みというやつだ。

 接近戦でサイカさんと打ち合っても、専門職には届かない。

 味方としては頼もしいけれど、敵にするとこれほど厄介な相手はいないだろうなー、と漠然と考えながら、横一閃で胴体から真っ二つになった。

 

「もうちょっと手加減してくれませんか?」

「これでも加減は下限値までしているのですが」

「あれで手を抜いてるって、マジー?!」

「サイカちゃん、マージやば」

 

 初期の狭くて密閉感のあるフォースネストの机でぐでーっと横たわりながら、これからのプランを考える。

 フォース『アストロ・ブルー』は特にやることのない、とりあえず集まったチームだ。

 まぁ友達感覚で集まるぐらいのフォースが気軽でいいけれど、それはそれとして目標があった方がミッションにも力が入るというものだ。

 最終目標であるおーちゃんの探索は置いておいて、ゲーム内での目標を決めるべき。何故かフォースリーダーに指名されたわたしはそう感じたのだ。

 

「やはりフォース戦でしょうか。フォースに入ったなら一度は高みを目指したいものです」

「しーちゃんはふつーにフェスとか行きたいんだけど」

「ウチはまずGBNを知りたいねー」

 

 千差万別。とりあえずやりたいことをとにかくやりたい。そんな意志を感じられる。まぁそれがバラバラなんですけど。

 

「GBNを知りたいのであればやはりバトルでしょう。バトルはGBNの花形。ルミミ殿が強くなれば、わたくしも"はながた"かい」

「サイカちゃんのギャグ、たまによく分からないんだよねー」

「うぐっ! さ、左様で」

 

 しーちゃん、今のはちくちく言葉ですよ。サイカさんが胸を押さえて倒れましたし。

 

「目標と言われてもー。やっぱりフェスじゃないかな?」

「ねぇねぇしーちゃん、フェスって?」

「ふふふ、聞きたいかねルミミちゃぁん」

 

 しーちゃんが調子に乗っておられる。そんなに頼られるのがいいのかな。

 わたしも今度何かを頼ってみようか。

 

「フェスって言うのは、運営が用意するイベントみたいなもの! 月1ぐらいでその季節に合ったようなイベントをしてくれるんだー! バトルが絡んで来ないことが多いし、コスプレしたりで結構楽しいよ!」

「うへー、すごい」

 

 目をキラキラと輝かせているルミミさんを見て、子供もこういう感じの反応しますよねー。とどうでもいいことを考える。実際まだ0歳児相当だし、子供と言っても差し支えない。

 

「直近だったらクリスマスフェスかな。あの辺りイベントが重なりすぎてて、頭痛くなっちゃうんだよね」

「クリスマス。クリスマスって、あのサンタさんがいい子にしていたらプレゼントをくれるっていうあれ?!」

「そうですね。さて、ルミミ殿はよい子でいられるかな?」

「子供扱いしないで! ウチはちゃんといい子だし!」

 

 0歳児とは思えない発育のいい身体を反らしてフンスと胸を張る。

 ルミミさんって、全体的に肉付きがいいというか、きっと男性ダイバーから見られる視線もなかなか痛いだろう。

 

「きーちゃんもなかなかのもの持ってるんだよ?」

「な、何がですか?!」

「ルミミちゃんを見てる目がちょっとエッチだったよ」

 

 いや、そんなことはない。ないよね?

 

「その癖に、なんだよこの胸は! しーちゃんへの当てつけかー!」

「ちょっ! 下から持ち上げないでください……」

「恥ずかしがってるきょちちはこれか! これかー!」

「し、しーちゃんもそこそこあるじゃないですか……!」

「そこそこじゃダメなんだよー!」

 

 掬い上げられるように持ち上げられた胸を上下左右といじられる。

 下からのチカラに思わず足がもつれてしまって、バランスを崩して地面へと倒れ込んでしまう。

 いたた、しーちゃん大丈夫かな。ちらりと胸元を見て見ると、馬乗りになるようにわたしの腰に座り込んでいた。もう逃れられない模様。

 

「サ、サイカさん、助けてください……!」

「…………」

「サイカちゃん、なんでウチの目を隠してんの」

「2人とも、あまり教育に悪いものを見せてはいけませんよ」

 

 わ、わたしの存在が破廉恥だとでも言いたいんですか。

 ガンダムヴァーチェとは言わないけれど、わたしもそこそこというか、脂肪が多い方だと思うけれど……。って、元はと言えばこのしーちゃんのせいじゃないですか。

 

「ぶえー、サイカちゃんに言われたなら仕方ないなぁ……」

「わたしがダメって言っても言うこと聞かなかったのに……」

「え、聞こえなーい?」

「わざとやってますよね」

「やってないよー! 事故事故~」

 

 何故だろう。日に日にしーちゃんのスキンシップ、もといわたしいじりが過激になっているのは。まぁそれだけ仲良くなっているということでいいのかもしれないけれど、やっぱり度が過ぎている気がする。身体のスキンシップは苦手なんだけど。

 

「てな感じで、最初はクリスマスフェスを目標に頑張るって感じでいい?」

「問題ありません」

「御意」

「りょーかーい」

 

 何故かしーちゃんが締めることとなった。本当にこういうのはしーちゃんが適任だと思うのにな。

 

 ◇

 

「ふぅ……」

 

 翌日。早速GBNにログイン、というわけでもなく『インコ模型店』でのアルバイト。

 やっぱり1人は気が楽だ。相変わらずコースアウトする店主を聞きながら、ルミミさんの機体強化案を考える。

 本人がミサイルがいいと隣で言っているからその通りにはするのだけど、それだとどうしても接近戦よりも砲撃戦向きになる。

 もちろんそれでもいい。けれどフォースとしては今度はサイカさんの負担が大きくなってしまう。彼女の役目はアタッカー+タンク。攻撃と防御を一手に担う最終防衛線だ。

 だから万能手であるわたしが前に出るべきなんだろうか。別にスナイパーにこだわっているわけではない。いざとなれば前に出て戦うことも想定している。

 

「やっぱりノチウをなんとかした方がいいのかな」

「どーしてそうなるの?」

 

 全長15cmの小さな友達がカチャリと言いながら首をかしげる。

 わたしは人差し指で頭をトントンと優しく触れて、その理由を答える。

 

「ルミミさんのガンプラ、モビルドールルミミDF(ダンシングフラワー)はピーキーすぎるけれど、慣れればルミミさんの強力な切り札になると思うんです。それに比べてわたしのノチウは万能性には長けてるものの、突破力がないので」

「つまり、攻撃力?」

「そういうことですね」

 

 例えばしーちゃんのGNオルトロス。あれは絶大な火力を生み出す一本槍。恐らく当たればどんな敵でも蒸発させることは可能だろう。サイカさんのGNフィールドだって飽和させることもできる。

 ルミミさんのミサイルパーティだって飽和攻撃としては十分な火力。サイカさんがおかしいだけで、接近されなければどんなところからも攻撃できる。

 そのサイカさんも太刀筋が鋭すぎる。いざとなればGNフィールドでの突撃もできるんだから接近戦においての優位性は確実に彼女にあった。

 

 だがわたしは、と言われれば索敵寄りにビルドした狙撃とバックパックのヴォワチュール・リュミエールのみ。

 万能機とは言えるものの、派手な決め手はない。狙撃、もしくは特殊装備に特化した方がいい。要するに器用貧乏だ。

 

「しーちゃんとウチが後方支援なら、ミユリちゃんは前に出てもいいんじゃないの?」

「そうですよねぇ」

 

 全部ひとりでやろうと思っていたから、このビルドになったわけで。

 関係性が固まった今なら、また新たなビルドを考えるのがいいのかもしれない。

 とは言っても接近戦優位の機体をあまり考えていなかった。どんなものがあるだろうか。

 

「こんにちは。今日もビルドの考え中ですか?」

「あ、コウミさん。こんにちは」

 

 ともすればいつものお嬢様学校の制服を身にまとったコウミさんが現れた。

 わたしのメモ帳を見るなり、微妙に歪んだ表情を見せる。

 

「どうかしました?」

「いえ、ルミミさんのビルドを考えながら、自分のビルドを考えるって器用だなーって」

「あれ、しーちゃん?」

 

 え、しーちゃん? 目の前のコウミさんを見る。

 はてなと首を曲げて、誰のことだろうと疑問符を頭の上に描く。

 ルミミさんもはてなと首を曲げる。

 

「あれ、おかしいなぁ。しーちゃんだと思ったんだけど」

「しーちゃんがここにいるわけないじゃないですか」

「ど、どなたなんですか?」

 

 コウミさんがやや興味津々さを隠しながら、わたしにしーちゃんのことについて尋ねてくる。

 そんなに『しーちゃん』という存在に興味を抱くものだろうか。まぁいいか。

 

「しーちゃんはわたしの……親友みたいなものでしょうか。ちょっとセクハラが多いですけど」

「し、親友ですか?」

「はい、第2のですけど」

 

 コウミさんはそれ以上は聞かなかったけれど、何故だか上機嫌だった。

 ひたすら首をかしげているルミミさんをさておき、コウミさんはノチウの改良案を考えるべく一緒に頭を捻ってくれた。



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第14話:「ま、間に合いました……!」

「ミユリさんは、結局どのように強化したいんでしたっけ」

 

 目の前のコウミさんが店内のものを物色しつつ聞いてくる。

 それが今ないから困っている。より近接戦に近づけた万能機。それが今回のコンセプトと言えばコンセプトなんだけど、どこからパーツを持ってきて、どこに装備させるかが今一つまとめきれていない。

 

「じゃあ、ノチウってどういう機体に育てたかったんですか?」

「うーん。強いて言えばRX78-2みたいな万能機です。だから好きだったMk-IIを使ってますし、ルナゲイザーのバックパックで空も飛べるようにしてます」

「空、かぁ」

 

 ノチウの特徴はなんと言ってもバックパックのルナゲイザーガンダムのヴォワチュール・リュミエールと言っても過言ではない。

 防御リソースをそれに割きながら、狙撃という攻撃リソースに変換する。

 

「最低限、地上ならSFSでもいいですよねー」

「SFS……。確かにある種それでも……」

 

 付け替えるとすれば後ろのバックパックだ。

 ルナゲイザーに変わる何か。近接戦に寄せるべき機能とすれば、機動性?

 機動性なら今のノチウでもそこそこ高いものの、突破力という面で言えば弱く感じてしまう。目標であるムラサメ刃-Xの守りを突破することなんだけど、それは機動力だけを突き詰めれば難しい。

 昔のガンプラなら、きっと突破することはできただろうけれど。

 

「ねぇねぇ。こんなのとかはどうなの?」

「どんなの、って。あぁライトニングガンダムですか」

 

 目を離した隙にルミミさんがスマホでライトニングガンダムのページを開いていた。

 ライトニングガンダムといえば、GPD時代にとある有名ビルダーが作成した射撃戦と機動力を兼ね備えた名機である。レプリカ版としてB社から発売されているぐらいには有名だし、その性能もシンプルながら使いやすいと評判だ。

 むしろこのライトニングガンダムを参考にノチウや昔のガンプラが作られており、間接的には2つの兄弟機でもあった。

 

「……これじゃないんですか?」

「これって?」

「フルバーニアンに近づけばバックパックだけの飛行も可能ですし、装備すれば機動力も上がりますよ!」

「……これですね」

「これでしょう?!」

 

 こうしてガンダムノチウの強化案『フルバーニアン装備』の開発が始まった。

 

 ◇

 

「ま、間に合いました……!」

 

 製作は困難を極めた、というわけではなかった。

 オリジナル武装はあれど、基本的にはライトニングガンダムフルバーニアンのバックパックを使用した改造機。SFSを追加しつつ、ミサイルポッドやレールガンを装備。それから塗装して、調整して、を繰り返していれば、時間はクリスマスフェスまでなだれ込んでいた。

 

「ウチもひやひやしたよー」

「クリスマスフェス最終日。GBNのダイバーはもうフェスに興味をなくして日課を過ごしていますからね。まさにまーにっかー。みたいな」

「サイカちゃんのギャグはさておき、早くやろう! 攻略法はちゃんと頭に入れてるから!」

「そうですね。さっそく行きましょう」

 

 今回のクリスマスフェスは時期が決まっており、12月の24日までとなっていた。

 翌日からはゆく年くる年キャンペーンだったか、フェスだったかをやる予定。

 ちなみに今日は24日で、クリスマスフェス最終日。結構ギリギリに駆け込んだものだ。

 

 内容はと言えば赤いモビルスーツ3種類を斬って殴って撃って。3機とも撃破すれば豪華アバターパーツが手に入る、という寸法だった。

 もちろん難易度の設定も可能。初心者にも上級者にも手広いサポートをするのがGBNだ。ここが神ゲーと言われる所以でもある。

 

「じゃあ最上級難易度で!」

「ルミミさんだったら多分速攻で溶けますよ」

「ぶー。じゃあ上級ー!」

 

 ルミミさんが慣れた手つきでウィンドウを選択し、OKボタンを押す。これで準備は完了だ。

 各々準備をするべく格納庫へと向かう。わたしも行けば、並び立つアストロ・ブルーの機体の中にわたしのガンプラもあった。

 

「ほう、これがキユリ殿のガンプラですか」

「はい。ガンダムノチウフルバーニアン。わたしの新しい装備です」

 

 νガンダムのようなモノトーンカラーリングでまとまったMk-IIの改造機を見つめて、うっとりとする。

 やっぱり自分のガンプラはかっこいい。

 強かろうが弱かろうが、使い勝手がどういったものかは分からない。けれど、見た目9割という言葉もある通り、外観がかっこよければそれでいいのだ。

 

「背中のブースターがSFSになっていて、地上ではMk-II同様の行動が。決め手の時に合体して、機動力を高めるっていうスピード特化の機体ですね」

「なるほど。……下部にあるのはレールガンですか」

 

 接近戦だからと言って射撃が通らないかと言われればそうではない。

 不意打ち用のレールガンに前腕部のミサイルポッド。今度は絶対にサイカさんに勝つという決意も密かに込められた隠しウェポンだ。

 サイカさんにもその意図が伝わったのだろう。少しだけニヤリと細い口元を鋭くさせる。

 

「楽しみにしていますよ」

 

 わたしの目標は今も昔も変わらないのかもしれない。

 強い人に勝ちたい。その一心で、わたしはこのGBNをやっていたのかな。でも、今は。

 

「かっこいいね、きーちゃん」

「そうでしょう? わたしの自慢のガンプラですから」

 

 ピンク髪の女の子が言うには、おーちゃんはこの世界にいるという。

 まずはその子にわたしは問わなければならない。目を背けずに、ちゃんと真っ直ぐ向いて。

 

「なんかウチだけハブられてる気がする」

「そんなことないですよ。SFSだって、わたしだけのものではありませんから」

「へ?」

 

 にっこり笑ってわたしは答える。

 ノチウブースターにあるもう1つの用途はルミミさんの移動力強化。

 ランドスピナーだけでは移動力が乏しい。故にルミミさんの足としても動けるように調整をしていたのだ。これが一番難しかったかもしれない。

 

「じゃあ行きましょう。アバターパーツを手に入れるために!」

「おう」「えぇ」「おっけい!」

 

 ガンプラに乗り込めば、そのままカタパルトへと移動する。

 さぁ、フルバーニアン。最初の初陣はかっこよく決めたいですよね。

 操縦桿をぎゅっと握りしめて、わたしは叫んだ。

 

「ダイバー:キユリ。ガンダムノチウフルバーニアン、行きます!」

 

 サブフライトシステムと共に飛び立ったノチウはイベント用のゲートをくぐる。

 予想以上の加速力。ノチウの時よりもさらに正確な操作が求められることだろう。まずは慣れることから始めよう。と言っても早速初戦が始まったのだけど。

 

 敵機は3体。赤いガンダムとストライクルージュ。そしてユニコーンとどれもサンタさんカラーに染め上げられている。

 あいさつ代わりというべきか、こちらを視界に入れたユニコーンガンダムがこちらへとビームマグナムの銃口を向ける。

 

「いきなり?!」

「わたくしが前に出ます!」

 

 避けきれない速度。ならば受け止めればいい。

 サイカさんのムラサメ刃-Xが前に出てGNフィールドを展開する。

 瞬間、襲い掛かるのはビームライフル4本分にも相当する超高火力のビーム。周囲にも絶大な余力を発揮する弾丸を、GNフィールドが受け止める。

 GN粒子が沸き立つような感覚。肉を切らされているような音。広がる熱。

 その全てを受け止めたムラサメ刃-XはGNフィールドを解除すると、発熱した余剰エネルギーを外へと放出する。

 あれは、紛れもなく危険だ。

 

「ルミミ殿、しーちゃん殿!」

「りょーかい! ミサイルパーティレッツゴー!」

「おっけいよー! ファングいってらー!」

 

 まずはここでかく乱させてもらう。

 ルミミさんのランドセルのようなバックパックからは全120門のミサイルが一斉発射。加えてしーちゃんのGNファングもこの機に乗じて射出される。

 山なりに飛んでいったミサイルの目標は紛れもなく3機のクリスマスカラーNPDだった。

 着弾と同時にすさまじい爆発。地面を焦がし、抉るほどの威力を誇るミサイルの雨はわたしたちの視界を消すには十分な目くらましだ。

 クリスマスだからこその市街地戦。故にランドスピナーの移動力はいかんなく発揮できる。

 地上に降りたルミミさんはガトリングバスターを手に持ち、敵の索敵を開始。わたしも上空から散開した3機を追う。

 

 しーちゃんはファングを戻しつつ高所から待機。サイカさんも街中を警戒しながら細道を駆け抜けていく。

 

「気を付けてください。ビームマグナムであれば、わたくしはともかく他の3人は当たれば即死でしょう」

「だよねー。弾数は」

「おおよそ14発残っているかと」

「サイカちゃんも、そんなに受け止めたくないよねー」

「わたくしのムラサメでも残り2発が限度でしょうね」

「ではいの一番にユニコーンを探さなくては」

 

 ノチウのセンサーでも場を混乱させたミサイルの雨に引っ張られてあまり機能していない。

 ビームライフルを手に、やみくもに攻撃しても反撃を受けてしまう。ならどうやって索敵をする?

 ……待って。反撃するなら攻撃元はそこにいるってことじゃないんですか?

 なら――。

 

「ちょっ! きーちゃん何やってるの?!」

「索敵です。危機的状況に陥ればNPDです、攻撃してきます」

「それはそうだけどー!」

 

 煙漂う街中をむやみやたらにビームを撃つ。

 もちろんこれは一度撃った場所には攻撃しない。だから索敵の範囲もおのずと狭まってくる。

 爆煙を切り裂くようにビームライフルを撃っていれば、向こう側から光る何かが見えた。あれは……。

 SFSを強引に横に旋回すると、わたしのいた場所にビームが横切る。この赤いビームは……!

 

「この位置! ここにストライクルージュ!」

「むちゃくちゃだなぁ、きーちゃんはぁ!」

 

 それでも即座に手元のGNオルトロスを展開する辺り、しーちゃんもなかなか無茶に対応していると言える。

 GNファングと共に放たれた赤き閃光は建物や家々を焼き払いながら、最短距離でストライクルージュのいる場所を貫いていく。

 

 晴れた先にいるのは、寸前のところで回避した片足がもがれたストライクルージュだった。

 

「ビンゴ!」

「しーちゃん、任せました!」

「りょーかい!」

 

 続いて……ッ!

 

「キユリ殿、4時方向!」

「大丈夫です!」

 

 SFSからジャンプすると、間を通るように灼熱の4倍ビームが飛んでくる。思わずとんだものの、余熱によって脚部の一部が溶かされてしまう。これが、ビームマグナム……っ!

 

「こっちも見つけた! 78!」

 

 ルミミさんも見つけたようで、ガトリングバスターを連射させながら78を追っていく。

 3機は見つけたものの、そのどれもが厄介にも別れていた。例え1機倒しても、もう2機の増援には行けそうになかった。

 

「サイカさんはルミミさんのサポートをお願いします」

「キユリ殿は!」

「ユニコーンは、わたしが狩ります」

 

 背中にSFSであるノチウブースターを装着すると、わたしたちは作戦遂行のために一夜の戦場を駆け巡るのだった。



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第15話:「クリスマスって恋人と過ごすイベントだよね?」

 ――ユニコーンガンダム。

 

 白き可能性の獣であり、機動戦士ガンダムシリーズの看板を背負った主人公機でもある。

 その驚異的な部分はいくらでもあるが、筆頭とされるのは2つ。

 

 1つは全15発と呼ばれているエネルギーを圧縮したカートリッジを引き換えに放たれる銃弾、ビームマグナムだ。

 ハイパーメガランチャーやメガバズーカランチャーと同等の威力を持ちながら小回りがあまりにも効きやすい。

 GBNにおいていくらか弱体化を受けた武装の1つでもあるはずなのに、使用率が未だに高いのはきっとその強力な性能ゆえだろう。

 

「だから……!」

 

 マルチプル・ディスチャージャーから数基デコイを射出すると、そのまま各地に分散させる。こうでもしないとビームマグナムから逃れることができない。

 ノチウの焼けたつま先を見ながら言うのだ。間違いはない。

 

 案の定、デコイの1基がビームマグナムに撃ち抜かれて爆発した。

 今使ったので、確かカートリッジは3つ目。だからあと2回撃たせるしかない。

 そして失礼ながらNPDがそこまで賢いとは思えない。故に!

 

「あと1発」

 

 上空のデコイが破壊される。

 聞こえる。耳には聞こえなくても、カートリッジがリロードする感覚を。

 これはアニメを見たからこそわかる感覚。残り1発だ。リロードの隙を狙って接近。撃滅するしかない。

 

 しばらくの静寂。ごくりと、思わず喉を鳴らしてしまう。

 だけど、デコイはあと2つ。こちらが狙われることなんて……。

 

 その瞬間だった。目の前に熱源反応がやってきたのは。

 

「ッ!」

 

 とっさに左に旋回したことがよかったのだろう。ノチウブースター右側のレールキャノンの銃身が焼けただれる。直ちに分離して、爆発の衝撃に備える。

 もしかして、こっちを察知してきた? いや、NPDがそんなことするわけ……。

 

「この78……つっよ!」

「ルージュ軌道おかしいって!」

 

 いや、舐めていたのはわたしたちかもしれない。

 各個撃破なら当然始末できると思ったけれど、敵NPDもそこまでバカではないということか。

 事実、後から調べるとわたしがGBNを再開する前に大型アップデートによってNPDの挙動が著しく変わったという報告もある。

 

 リロードの時間も与えてしまったし、接近は出来ずじまい。

 こちらは最低限のダメージで済んでるけど、いつビームマグナムの直撃を受けるとも限らない。5発も避けられる自信はシャアの再来と呼ばれたフルフロンタルでもない限り、流石にない。

 わたしにできること。それは……。

 

「サイカさん、接近戦の極意って何ですか?」

「突然教えを乞われるとは。わたくしとしては全然問題ございまぜん!」

「結構余裕そうですね!」

「そう見えるのでしたら、結構結構コケッコッコー」

「サイカちゃん、そんなことを悠長に話してる場合じゃないでしょ」

 

 超性能の78に対してビームサーベルとGNサムライソードで斬り結ぶムラサメ刃-Xの調子は良さそうだ。とはいえ、ルミミさんのサポートがないと、結構きつそうだけど。

 

「前に出ることを躊躇わない。傷つくことを厭わない。そして、死なない、です!」

「ありがとうございます!」

「えぇ、今のでいいんだ」

 

 いろんなことを考えている間に状況は変化する。

 だから躊躇わない、厭わない、死なない。この3つの『ない』で生き残るしかない。

 ブースターのエンジンを着火すると、わたしは螺旋を描くようにして、ユニコーンへと接敵を始める。

 もちろんこれに対抗しないNPDもいない。ビームマグナムを3発連射するが、その攻撃は螺旋状の動きで拡散できる。続けてこれももってけ、ミサイル!

 

 ユニット部分から発射される無数のミサイルがユニコーンをめがけて飛んでいく。

 1発じゃ大したことないけど、何発も正確に発射すれば、そこを退避せざるを得ない。

 バックステップでかわすと出てくるのは空中。バーニアを使って空を飛んでるようだけど、ユニコーンに単体の飛行能力は備わっていない。空中ならば、こちらの方が有利だ!

 

「そこっ……!」

 

 器用貧乏とはいえ、元はと言えばスナイパーだ。狙った的に当てるのは得意。

 狙ったのは右手に装備しているビームマグナム。数発発射したビームはミサイルの黒煙を突き抜け、ビームマグナムを手放すことに成功させる。

 これで厄介な1つ目がクリアできた。だけど、問題は2つ目だ。

 

「しーちゃん! ファングをしまって、NT-Dがくる!」

「これだからオールレンジはぁー!」

 

 しまうのも面倒だったのか、全弾をGNオルトロスで着火させて爆発させる。

 それが一番の最適解かもしれないけど、しーちゃんの武器が1つ死んだということ。まぁ、盗られるよりはマシ、ですか。

 

 NT-D。ニュータイプ・デストロイヤーと名付けられたその機能はGBN内では2つの意味を示す。

 1つはオールレンジ攻撃、ビットやファンネルの自律兵器の奪取。いわゆるサイコミュ・ジャックと呼ばれる代物。

 だがこれはしーちゃんがファングを破壊したおかげで難を逃れた。もう1つが問題なんだけど。

 

 時限による性能の強化。トランザムシステム同様にその扱いは非常に難しいのだが、それを

NPDがどこまで使うことができるのだろうか。分からない。分からないけれど、やるしかない。

 フレームの隙間が徐々に開いていく。赤いフレームからは緑色のクリスマスツリーにも似た色合いのサイコフレームが輝いており、存在そのものがメリークリスマスというべきか。わたしとしてはユニコーンの緑は相当怖いと警告を鳴らしている。

 どこからともなくやってきたシールドファンネルたちが備え付けられたビームガトリングをこちらに向ける。

 ユニコーンが手降ろせば、銃弾の雨は放たれた。

 

 すぐさま回避ムーブを取って難を逃れようとするけれど、その攻撃は自由自在。わたしが逃げれば逃げるほど、その弾丸はついてくる。

 ビームマグナム相当じゃないにせよ、あれを連発で受け止めてしまえば、ノチウは空中分解するだろう。

 接近戦の極意は3つの『ない』。

 だったら、わたしは迷わず前に突っ切る!

 

「相変わらずタフな精神を持っていますね」

「昔のキユリちゃんも気になるけど、今は目の前の78!」

「いや、もうすぐ終わります」

 

 ジグザグに攻め立てながら、レールキャノンとミサイルを射出。

 これももってけ。マルチプル・チャージャーによるデコイを発射して、これも牽制にする。どうあがいてもNT-Dと戦わなくちゃならないのなら、わたしは少しでも有利になるようにことを進める。

 

 ビームガトリングは射線上にいるユニコーンを友軍とみなしているのか、攻撃してこない。ならついて離れなければ、シールドファンネル群は襲ってこない。今が、チャンスだ。

 通常よりも出力を上げたビームサーベルを手に持ち、ユニコーンへと斬りかかる。だが、ビームトンファーによってそれが阻まれる。分かってる。それぐらいは予想の範疇だ。

 

「レールキャノン!」

 

 腰の隙間から銃身が前に出る。わたしは囮。本命はこっちを叩きこむんです!

 叩き込まれたレールキャノンは耐久値を減らすことには成功するものの、それでも足りない。お返しと言わんばかりに頭部のバルカンから発射される弾丸を全身に受け止める。

 ここは引くしかないか? いやダメだ。厭わない。傷ついても、ここは前に出る!

 

 バルカンが発射されている頭部に向かって、シールドの先端をパンチの要領で叩きこむ。何度も何度も何度も!

 もちろん相手だって恐れを知らない。3度目の攻撃の後に左腕のシールドを掴まれ、蹴りと共に強引に引きちぎられる。距離を取るつもりだ。距離を取ってシールドファンネルでハチの巣にする気だ。だけど、そうはさせない。

 ノチウブースターを全面展開して、その隙を見逃さない。進行方向にデコイを発生させた後、容赦なくデコイを腹部を貫く。ユニコーンの腹部も含めて!

 

「貫いてくださいッ!」

 

 地面を滑る感覚。強引に叩き落した聖獣の腹部は確実に貫いていて。

 ユニコーンガンダムはその機能を終了し、データの破片へと消えていった。

 

 ◇

 

「とまぁ、そんな感じですよ。わたしのクリスマスイブは」

「よかったじゃないですか、無事アバターパーツを手に入れて」

「まぁそうですけど」

 

 翌日。世間はクリスマスだってのに働き者はいるものだ。

 いや、むしろクリスマスだからかき入れ時かもしれない。いつもよりも少しばかり多いお客さんと、いつものコウミさん。

 

「クリスマスって恋人と過ごすイベントだよね?」

「……ルミミさん、どうしてそれを」

「えー、だってしーちゃんが教えてくれたよ? クリスマスは恋人と一緒に過ごす大切でかけがえのないイベントだー。って」

「し、しーちゃんさんも結構大胆なことを言いますね」

「今年も独り身ですよ」

 

 まぁガンプラ好きと大学ぼっちみたいなところがあるわたしにとって、ここが最後のオアシス、楽園だ。だから働くことに苦はないけれど、そういう話をされて悲しくならない方がおかしい。悲しいね、バナージ。

 

「でも今年は私がいますよ」

「え?」

「なんですか、その意外そうな顔は」

「いえ。ありがとうございます」

 

 ぷっくりと膨れた頬はまだまだあどけなさが残っていて。かわいいなぁ。妹にしたいぐらいだ。

 そうだ。アルバイトが終わったら一緒にご飯でもどうだろうか?

 一店員が、お客さんを特別視するのはいかがなものかと思うけれど、こんな小さな個人経営のお店だ。これぐらい許されても問題ないだろう。

 

「どうですか?」

「……あ、あはは。お誘いは嬉しいのですけど、家のことがあるから」

 

 そうだったか。やっぱりというべきか。結構なお金持ちの家なのかもしれない。

 だってお嬢様学校の制服だし。お財布も結構高級そうなものを使っていた覚えがある。

 

「で、でもですよ! 気持ちは嬉しいです! クリスマスに気軽に誘ってくれるのって、ミユリさんしかいませんから!」

「……ありがとうございます」

「あはは、なんか照れくさいですね」

 

 眉毛をハの字にしながら、彼女は笑う。

 そんな無理したように笑わなくてもいいのに。……きっとわたしにはどうしようできないんだろうな。

 

「あ、これクリスマスプレゼントです」

「……なんですか、これは?」

「開けてみてからのお楽しみです!」

 

 手乗りサイズの丁寧にラッピングされた袋のリボンを解いて、中身を見る。

 何か水色の球体が中には詰まっていた。取り出してみるとそれは、ハロだった。

 

「おぉ、かわいい」

「なにそれー?」

「ハロっていうガンダムのマスコットみたいなのです」

「かわいー! 触ってもいい?」

「いいですよ」

 

 だいたい身長と同じぐらいなのだろう。

 手に取ったルミミさんがハロを転がして遊んでいる。

 

「ありがとうございます。おまけで何か1品ガンプラをプレゼントしましょうか?」

「いいですよそんなの。日頃のお礼ですから」

「ねー、コウミちゃん! ウチにはないの?」

「ルミミさんにはこのドールサイズのマフラーです!」

「ふおー! もこもこだー!」

 

 モビルドールに感覚はあるのだろうか、という無粋な考えは置いておく。

 今はコウミさんに感謝しなくちゃいけないんだから。

 

「ルミミさんにまで。本当にありがとうございます」

「ありがとー!」

「なんか私まで嬉しくなっちゃう」

 

 深々と降り注ぐ粉雪はない。

 けれど、積み重なっていくキズナのようなものがあった。

 溶けていくことのない縁。それが、いつまでも続いたらいいな。そう思うクリスマスであった。



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第16話:『おぉー! これがGBNなんだ!』

 クリスマスが終われば、何が始まるか。

 お正月なんだけど、その前にある5日間にわたしはガンプラの山を見ながら、ぼんやりと予定を考えていた。

 

 今年ならGBN三昧でもいいのだけど、それでも大学に行っていた時間が暇だ。

 アルバイトを入れてもいい。インコ模型店なら、と思ってみたもののの、流石個人経営。30日からは休日を出されてしまっていた。だから暇。暇is暇なのだ。

 

「ミユリちゃんは実家ってところに行かないの?」

「んー、今年はいいかなーと」

 

 私、キズナ・ミユリは今年で21歳だ。

 つまり来年は就職活動をしなくてはならない。大学院に行くほど頭はよくないし、かといってやりたいこともない。

 だから家帰って、就職の相談をされるのは何となく嫌だ。

 子供心と、やらなくてはいけない期限に苛まれながら、漠然と時間が過ぎるのを感じ取る。この時間がどうしようもなく好きだけど、どうしようもないほど嫌い。

 

「せめておーちゃんさえ見つかればなぁ」

「そういえば、おーちゃんってどんな子なの? ウチ、名前だけしか知らないから」

「話してませんでしたっけ」

 

 おーちゃんを知る人間はわたしとサイカさんしかいない。

 ルミミさんぐらいにならそろそろ言ってもいいだろう。大切なフォースのメンバーなんだから。

 

「うん、聞いたことなーい!」

「じゃあまぁ。どんなことから話しましょうか」

「出会いのお話とか?」

「劇的なものじゃありませんけどね」

 

 4年前。わたしがGBNを始めることとなった日のことをおぼろげながら思いだす。

 思い出は霧のように白いもやがかかって、隅っこは見えないけれど、それでもその時の出来事は思いだせた。

 

 ◇

 

『おぉー! これがGBNなんだ!』

 

 当時、花の女子高生。17歳だった何も知らないわたしは明るい性格をしていた。

 少なくとも今みたいに暗く陰気な雰囲気は漂わせていなかったし、敬語だってタメか年下には使っていなかった。

 

 確か、あの時はSNSで知り合った友達と一緒にGBNを始めようと言いだしたのがきっかけだったっけ。

 ガンダムはこの時知ったし、ガンプラだって触るのは初めてだった。

 最初は強いガンプラがいいだろうと、Hi-νガンダムを手にしたのは我ながらいいセンスだと言わざるを得なかった。もっとも、作るのには相当手間を要したが。

 

『なにそれ、なんか雑』

『そっちこそ! てか、なんてガンダム?』

『知らないの? Oガンダムって言うんだって。数字で0じゃないよ』

『シンプルー!』

『GNふぇざー? ってエフェクトが綺麗だったからつい』

 

 灰色のOガンダムを手元で見せびらかしながら、ビデオ通話する彼女の姿は本当に楽しそうだった。

 おーちゃんは普段から冷静沈着でクールな面もありながら、反面まだ物事を覚えきっていないのか、時々抜けているところが多いおちゃめな人間だった。

 実際ビデオ通話で見せていた手の形はだいぶ幼かったし、実際年齢はわたしの方が上だったんだと思う。

 だからわたしとおーちゃんは姉と妹のような関係だった。それに満足していたし、姉妹ができたと1人で嬉しくなった覚えがある。

 

 それからしばらくして、ダイバーギアも手に入れ、親からの許可も取ってGBNへとログインすることとなった。

 

『確か赤いツインテールの女の子ーって、そんなのどこにでもいるよ!』

 

 まぁ時間まで待っていたら誰かやってくるだろうと、思った矢先だった。

 

『お嬢ちゃん、暇なんか?』

『へ?』

『お兄さんたちとやんない? ガ・ン・プ・ラ・バ・ト・ル』

 

 ナンパだ。金髪短髪のチャラ男とボウル頭のメガネ男子。

 なかなかに個性的な組み合わせだなぁと思いながらも、待ち人がいるというところで拒否したところ……。

 

『大丈夫、その子も一緒に遊ぼうぜぇ!』

 

 と、一蹴されてしまった。

 困った。男性とかそこまで得意じゃないのに。そんなときだ。

 

『きーちゃん?』

『あ、おーちゃん!』

 

 赤いツインテールがしなやかに腰まで伸びる。

 制服は、リボンズ・アルマークの私服だろう。胸元は流石に空いてなかったけど、開いててもそこまで違和感がないと思う。それにしても幼かった。小学校高学年ぐらいの身長だった。

 

『……きーちゃんを困らせてるの?』

『いやだなぁ、一緒に遊ぼうって誘ってたんだよ! ね?』

『い、嫌……』

『ね、ねぇ。もうやめようよ……、みんなこっち見てるよ……?』

『バカ野郎! こんなところぐらいでしか出会いがないんだから! お前のためにも、な?!』

『で、でもぉ……』

 

 ボウル頭の青年は恐らく気弱で自分から声をかけられないのだろう。

 金髪の人が声をかけて、友だちにしたい、そんなところだったのかもしれない。今になっては確かめるすべもないのだけど。

 

『きーちゃんは私と遊ぶんです。お兄さんたちはどっか行ってください』

『そんなこと言わずに、君も一緒に……』

 

 金髪の男性がおーちゃんの肩へと触れようとした瞬間だった。

 おーちゃんが男性の手首をつかむと、どこで習ったのかも分からない護身術で手首をスナップさせて男の手首をねじる。

 この時にはもう痛覚というデータがあって、それが捻じれた手首に襲い掛かるフィードバックは当然襲い掛かってくる。

 

『いだだだだ!!!』

『レディの身体に触らないこと! これは紳士の必要最低限のことですよ』

『はぁ、言わんこっちゃない……』

 

 瞬間の芸当だった。達人の技、とはいかないまでもスムーズな護身術であると拍手して褒めてしまいたいぐらいだった。

 確かあの時周りの人たちは拍手してた気がする。

 

『行くよ、アツシ。本当にすみませんでした』

『あはは』『しっしっ』

 

 金髪の男の肩を貸して、ボウル頭の青年がその場を去っていった。

 代わりにやってきたのは強烈な色の男性? だった。

 

『出る幕なかったわね、素敵だったわよお嬢ちゃん』

『……っ! あなたも――』

『アタシはお節介な、お姉さんよ!』

『おねえ』『さん?』

 

 トレードマークはその頬に煌めくピンクの星と、胸元がガッパリ空いた大胆なライダースーツ!

 紫色のしっかり決めた乙女の髪の毛に、濃い肌の色。男性であるはずなのに、その魅惑的なボディライン。日々二の腕を気にするわたしが嫉妬してしまうぐらいの美貌であった。

 

『アタシはマギー。ここで初心者にGBNのいろはを教えているのよ!』

『は、はぁ……』

『か、かっこいい……!』

『きーちゃん?!』

 

 ハッキリ言おう。完全に見とれていた。

 おーちゃんにミゾウチを突かれるまで、完全に。

 

『あ。あー、こほん。ありがとうございます、気にかけてくださって』

『いえ、いいのよ。それより、あなたたち見ない顔ね。今日始めたて?』

『はい! わたしはキユリでこっちがおーちゃん!』

『オーシャンクールと書いてOCです』

『あらやだ素敵な名前! おーちゃんと、きーちゃんね?』

『そうですよー!』

『……いきなり距離近いですね』

 

 おーちゃんが悪態をつきながら、やはりまだ疑いの目があるのだろう。じっとりと半目でマギーさんを見ている。多分この人そんなに悪い人じゃないと思うよ。見た目は怪しい人だけど。

 

『あ、そーだ! 親睦も兼ねて、初心者向けミッションを一緒に回らないかしら?』

『ミッション?』

『そう! あなたたちガンプラは?』

『ありますよ!』

『じゃー問題ないわね!』

 

 早速、と言わんばかりに広大なGBNを飛び回る、というだけのミッションを選択したマギーさんはここでの操作方法を教えてくれた。

 最初は怪しんでいたおーちゃんも、次第に口数が増えていき、格納庫に行くときには警戒心を完全に解いていた。今さらながら思うけど、流石マギーさんというべきだろう。

 

『この出撃シーンは、各々が感じる最高のシャウトを口に出すの。いい?』

『は、はい!』『分かりました』

『最初に見本を見せてあげる!』

 

 濃いピンク色のストライクフリーダムベースの改造機は出撃シークエンスを挟むと、ぐっと腰を溜めこむ。

 

『マギー、ガンダムラヴファントム、出撃するわ!』

 

 おおー、そんな感じなんだ。こちらを振り返って、マギーさんはわたしたちを待つ。

 

『じゃあ私から言ってもいい?』

『どーぞ!』

 

 こほんと喉を鳴らして、出撃シークエンスへと進む。

 腰を中腰になるように落として、前を見据えて、Oガンダムは飛び立つ。

 

『OC、Oガンダム。行きます!』

 

 射出と共に打ち出されたOガンダムが空中を滑空する。

 GBNのメインエリア上空を飛び回って、飛行の感覚を確かめているのだろうか。ちょっとよろつきながらも、徐々に乱れていたGN粒子が正常になっていく。

 

『すごい。すごいよ、きーちゃん!』

『うん、今そっちに行く』

 

 Hi-νガンダムも発射シークエンスへと移行する。

 先ほどから胸のドキドキが止まらない。今から羽ばたくのだという不安と、今から飛び立つのだという未来への期待が相まって、心臓の高鳴りへと変わっていく。

 GBNはいったいどこまで人間というものを再現しているのだろうか。

 この手汗も、震えも、心臓の鼓動も。その全てが本物みたいな感覚で……!

 

 Hi-νが腰を溜めて、こちらの発射指示を待っている。行こう、わたしの空へ!

 

『キユリ、Hi-νガンダム。行きます!』

 

 カタパルトによる急激な加速はわたしの身体に重力を与える。

 けれど苦痛なものではなく、それも含めてすべてが楽しいのだ。

 身体に受けるGも、ふわりと空中に打ち出される浮遊感も、それから味わう操作感も。その全てが初めてのもので。

 

『すごい、飛んでる! 飛んでるよ、おーちゃん!』

『うん、私も!』

『えへへ! 楽しいね!』

『あっ……。そ、そうだね』

 

 今さら自分のキャラを思い出したのか、コホンと喉を鳴らす彼女は可愛らしい。

 これがマギーさんとの付き添いで初めて空を、GBNを体験した出会いの話だ。

 

 ◇

 

「いーなー! ウチも空飛びたーい! ウィングユニットとかないのー?」

「ノチウブースターで勘弁して」

「じゃー今度乗らせてー!」

「もちろん」

 

 あの頃は楽しかったな。そう思いながら、ペットボトルに入ったお水を一口。

 お客さんはボチボチいる。多分年末年始にかけてガンプラを作って過ごすような物好きたちだろう。わたしもその1人になるつもりだけど。

 昔はよかった。今が決して悪いわけではない。けれど、思い出すたびにあの日の出来事がフラッシュバックして、胸の奥が少しだけキュッと締め付けられる。何を間違えたのだろう。どこで道を踏み外したのだろうか。わたしとおーちゃんの手は、どこで離れてしまったのだろうか。

 

「どうしたの?」

「え? あー、そうだった。そろそろお店閉めなきゃ」

「今日、GBNは?」

「もちろん行きますよ」

「やったー!」

 

 今日もおーちゃんを探す。

 どこかで必ずやっていると、そう願うしかない。



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第17話:「きーちゃんの必殺技予想選手権」

「キユリさん、ダイバーランクがCになってませんか?」

 

 このGBNにおいてダイバーランクがCになったことはある種の初心者卒業と言ってもいい代物だ。

 何故か。その理由を一言で言うのであれば『必殺技』である。

 

 全ダイバーはダイバーランクがCに到達すると、自分のガンプラに応じた必殺技を手に入れることができる。

 必殺技とは所謂ユニークスキルに近い立ち位置で、かの有名なワールドランキング1位のクジョウ・キョウヤであれば、巨大な質量を剣としてぶつける必殺技。かの英雄であるリクはエネルギーを剣や弓のようにして、攻撃すると、種類に応じて様々である。

 攻略班としては、検証殺しだとか毎秒新しい効果が出るから、書き記すのはやめにした、とか散々な評価だけれど、それはそれで面白い要素の1つとなっていた。

 

「必殺技って強いの?」

「えぇ。状況によっては戦況を覆すほどの切り札ですね」

「ほえー!」

 

 そんなわたしの必殺技はプレイスタイルから決まるのだけど、実際のところわたしのプレイスタイルは雑多だ。オールラウンダーと聞こえはいいが、要するに器用貧乏である。故に、個人の尖った才能などは持っていなかった。

 

「きーちゃんの必殺技」

「はい」

「予想選手権!」

「はい?」

 

 しーちゃんがまた変なことを言い始めた。

 

「さて始まりましたキーちゃんの必殺技予想選手権。実況と解説はこの私、しーちゃんがお送りいたします」

「おー、バライティ番組だ!」

「わたくしは好きですよ。特にバカ◯ンポのリズム系とかは」

「なにそれ」

「え?」

 

 しーちゃんとサイカさんの間にあるものはいったいなんなのか。

 確かちょっと前にサイカさんは自分が25歳ぐらいだと言っていた記憶がある。対してしーちゃんは確か女子高生だった覚え。少なくとも身振り手振り言動から言ってしまえばだいたいそんなところだろう。

 だからその年齢の差は約8年ほど。時は過ぎれば過ぎるほど残酷であり、わたしもかろうじて覚えている程度。であれば、年の差が8年もあるしーちゃんにとって。いや、サイカさんにとって致命傷になり得る一撃だった。

 

 サイカさんは頭を抑えて膝をつく。わたしが接していて、初めての光景だった。

 

「不覚。この傷は不覚にも深くて不快なモノ。いわばシャークパニック系の映画でガブガブ食べられるやられ役の、それです……!」

「え、えーっと。ごめん?」

 

 ここはエントランスロビー。なので周りからは……。

 

『サムライオーガが膝をついたぞ』

『おいおい、あのギャグオーガに膝をつかせたやつはどいつだ?!』

『あのピンクの子かな?』

『これが若さか……』

 

 など、言われたい放題である。

 このフォース、結構サイカさんの評判は有名だからなぁ。あとミサイルパーティガールの噂とか。

 

「いえ。いえいえいえいえ。この程度で動揺するような柔な精神を誠心誠意受け止めているわけでは」

「サイカさん、それ以上は確実にやけどしますよ」

「へー、バ◯テンポって2000年代なんだ! 2000年代っていつぐらい?」

「やめましょう、ルミミさん……」

 

 この後、サイカさんの傷心を癒すため、わたしたちがJAPANディメンションへと赴き、ぜんざいを奢ったことは言うまでもなかった。

 

 ◇

 

「それにしても必殺技、かぁ……」

「オールラウンダーと言えば王道の時限強化系ですが、ノチウにはそれらしい強化はありませんよね?」

「まぁ……。サイコフレームでも入れれば変わったんでしょうけどね」

 

 お茶をすすりながら、行きつけの茶屋でゆっくりとするわたしたちは、やはりわたしの必殺技について考えていた。

 考えても始まらないというのは百も承知だが、ヴォワチュール・リュミエールが装備されていたノチウならさておき、今はフルバーニアン。特にらしいものは見当たらない。

 

「カミーユがやってたみたいにキックとか?」

「普通すぎません?」

「じゃーミサイルだ!」

「それはルミミさんだけです」

「むぅー」

 

 ステイメンのチカラを使ってデンドロビウムを呼び出すという芸当も、GBNなら可能なのだけど、それをやるなら最初からデンドロビウムを使うよ、となるわけで。

 でも支援射撃とかだったら確かに面白いかも。

 

「キユリ殿のエイノンなら話は早かったのですがね」

「サイカさん!」

「……すまない」

「エイノンって?」

 

 ルミミさんが小さく首を傾ける。あーあ、やっぱり興味持っちゃったか。ルミミさんにも隠したいものだったのに。

 

「しーちゃんも気になるなー、それ」

「やっぱり、そうなりますよね」

「失言でした」

 

 謝らないでほしいけど、エイノンの名前を出してこういう空気になるのは分かっていた。はぁ、言うしかないか。

 

「エイノン。正式名称ガンダムアシウン・エイノンはわたしの……最高の機体です」

 

 アイヌ語で青い火に祈りを捧げるという意味を込めたZガンダムをベースに作ったわたしのガンプラ。ただのガンプラではない。わたしの、最高のガンプラだった。

 

「まぁ、今は実家においてきてホコリ被ってるとおもいますけどね」

「最高なのに、なんで今は?」

「あはは、曰く付きなので」

 

 火とは一度燃えれば、後は尽きるもの。

 同じとは言わないけれど、あの時のわたしは今とは比べ物にならないぐらいストイックだった。だからそれを忘れるために、タッパーの中にしまってガムテープを巻いた。あの時のわたしを二度と解き放たないように。

 

「わたくしからもお願いします。今のは忘れていただければ」

「うー。2人が言うならしょうがないか。ね、しーちゃん!」

「え?! う、うん。そうだね」

 

 早々と折れてくれてわたしとしては嬉しかった。

 何しろこれはわたしの過去に直結する話だったから。わたしの黒歴史でもあるから。

 

「人間、掘り返したくない記憶ってあるよねー」

「そうです。しーちゃんの言う通りです」

「ウチはそういうのないから!」

「赤ちゃんめ……」

「ばぶー!」

 

 サイカさんにもわたしにもあって、そしてしーちゃんにもある。

 しーちゃんはたまによく見ないと分からないぐらい隠れたところで暗い表情をする。例えば今のエイノンの話をしたときもそうだ。まるで何か触れちゃいけないものに触れているような感覚に陥る。

 でもなんでエイノンの話で、しーちゃんが傷つくことになるのだろうか。

 エイノンの話を知っているのはサイカさんとマギーさんの他にはおーちゃんしかいない。しーちゃんが、もしもおーちゃんの関係者であるのなら、その話を聞き及んでいてもおかしくはないけれど、その線も薄い気がする。

 しーちゃんはおーちゃんに似ている。これは間違いない。見た目も声も。でも性格が全然一致しない。性格ぐらい変えられるとは思うけれど、そう簡単に行かないのも確かだ。4年で人は変わるかもしれない。でも4年で? その時しーちゃんは恐らく小学生ぐらいで……。

 

「……ーっ!」

「きーちゃん、どうしたの?!」

「すみません、ちょっと頭痛がして」

 

 何かイケないものに触れようとした気がする。

 思い出さなきゃいけないけれど、思い出したくない。柔肌にナイフを滑らせるような痛々しい感覚。絶対に思い付いてはいけない、最後の扉。

 

「でも見てみたいなー、そのエイノンってガンプラ! キユリちゃんのノチウ同様に、きっと愛されたガンプラなんだろうなーって」

「……そんなこと、ないかもしれませんよ」

 

 あまり、いい思い出はありませんでしたから。あの機体には。

 

「そんなことないと思うなー。少なくともノチウは元気そうだよ?」

「当然です。あれは丹精込めて作り上げた最高傑作ですから」

「でもアンシュくんには情けないガンプラだーって、言われたって愚痴ってなかった?」

「あの人の見る目がないだけです。原型となったMk-Ⅱは第一次ネオ・ジオン抗争まで戦い抜いた由緒あるガンダムですから」

「きーちゃんって、結構宇宙世紀派の人間だよね」

 

 そうとも言います。

 あの兵器として進化していく様子はまるで生態系の進化のようにも見えますしね。

 特にνガンダム。あの機体デザインは天才のそれです。誰が書いたってフィン・ファンネルは普通両方につけるのが普通でしょう。ですが、νガンダムは伊達じゃない。片方に6基つけるという前代未聞のセンス。それであのまとまり方ですからやはりデザインの勝利とも言えましょう。もちろんHi-νガンダムも好きですけどね。

 

「サイカちゃんはどうしてジンクスに?」

「わたくしのジンクスには大したジンクスはありません。守れて剣を使えて、性能が良ければそれで」

「でも、それならジンクスでなくてもナドレとか、エクシアとかを改造すれば」

「それもよかったのですが、所謂1つの抗いとも言えますね」

 

 サイカさんのジンクスⅣにした理由をわたしは聞いたことがなかった。気になる。

 

「それ、わたしも気になります」

「ウチも!」

「これも大した理由ではないのですがね……」

 

 そう言うと、サイカさんは懐に携えていた竹刀の柄をそっと撫でる。

 まるで自分の子供を慈しむような、そんな心を。それでも何か奥に隠れた薄暗くて、諦めにも似た、そんな闇を。

 

「凡人が努力した先を見たかったのです。ジンクスという量産機でできること、それを目指して」

「サイカさん……」

「必ず凡人よりも天才が上回ることは必然のようなものでしたがね」

 

 それは、あの煉獄のオーガのことを言っているのだろうか。

 ドージ刃-Xと今は名前を変えているらしいけれど、元々はジンクス使いと言えば西に煉獄のオーガがあれば、東にサムライオーガがいる、とも言われていたほどだ。そのプレッシャーはきっと計り知れないだろう。

 

「そんなことよりも、年明けのイベントはいかがいたしますか?」

 

 サイカさんにも昔はある。わたしからしたら4年前も大人だったと思うけれど、きっと自分では違うと考えているのだろう。今更掘り返すことでもない、そう考えたんだ。

 でもわたしは違う。いつか埋めたはずの墓を掘り返す日が来る。

 それが1ヶ月後か10年後かは分からない。けれど、その時が来たら、おーちゃんと会える日が来たら、わたしはどんな顔をして彼女と会えばいいのだろう。

 

「もちろん参加するよ! ねー、キユリちゃん! しーちゃん!」

「もちろん! なんとしてでも参加する!」

「はい、わたしも」

 

 必殺技は昔を振り切れるような演出がいい。

 サイカさんとエイノンの話をして、なんとなくそう感じたのだった。



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第18話:「ノチウの《ナイトロスター・ドライブ》」

 お正月です。1月1日です。

 そんな日に、わたしたちは何故GBNにログインするのか。

 実家に帰省するつもりがない。1人だけだし暇だし。そんな理由が多々あるだろう。

 だけど当のGBNダイバーたちにはそんなことは一切関係ない。あるのはたった1つ。イベントである。

 

 ――ニューイヤーフェス。

 

 それは年が明けて数週間行われるGBN内で行われるイベントである。

 もちろん初詣や羽根つき大会。それから屋台回りなど、とにかくいろんなお正月を1つにまとめたTHE・日本のお正月である。

 無論、そんなイベントにはレイドボスが付き物だ。それが今回はこちらだという話。

 

『またこいつかよ!』

『あたし、これめっちゃ嫌い!!!』

『GBNのくそげー要素』

『世界の歪み』

 

 ボロクソに言われているこのレイドボスはこんな見た目をしていた。

 身体は鏡餅のように丸っこく、頭はと言えばみかんがちょこんと乗っていて、ユニークな見た目を感じさせる。

 だがそこからは腕とキャタピラ、そして肩には2門の門松が刺さっている。

 大きさはだいたいMGかそれ以上。恐らく1/60サイズの巨大な大きさで、他の追随を許すことはない。

 

 その名は元旦ク。ガンタンクの改造機であり、その性能は実にクソい。

 

 腕の砲塔からはガトリングガンのようにトリモチが発射され、被弾したものはその性質から速度は低下。それからスタン状態にもなってしまい、空中にいるガンプラはもれなく地上へと叩き落されてしまう。

 対策にはビーム兵器でトリモチを焼くことなのだけれど、もちろん自分のガンプラを傷つける行為。非常に心苦しい一面もありながら、元旦クはその隙をも見逃さない。

 2門の門松からは超高火力のお年弾というなの鉛玉が降ってくる。

 これに当たればほぼ即死。どんなガンプラでも致命傷は避けられないだろう。

 

 超高頻度で飛んでくるトリモチランチャーとお年弾を掻い潜りながら、なんとかして本体にダメージを入れていく。それこそがこの元旦クの正体である。

 ダイバーたちには、大不評であった。

 

「ミサイルの雨だーい!」

「しーちゃん、いっつも後方支援で面白くなーい」

「ルミミさんはともかく、しーちゃんがいてくれないと戦線瓦解するんですよ」

「そーれーでーもー! 今日はファングなしだもんなー」

 

 そんなクソボス、もといモチボスと戦っているのはわたしたちフォース『アストロ・ブルー』であった。

 せっかくだから、という理由で参加したレイドボスだけれど、少なくともわたしは今後このボスとは二度と戦いたくないと思っている。

 ただでさえ参加数の少ないレイドボスに加えて、高頻度トリモチランチャー。

 空を飛ぶのがこのガンプラの強みなのに、その全てが避けることに直結しなくちゃならない。現在のわたしはいわゆる回避盾。トリモチランチャーを避けて避けて避けて。参加しているダイバーたちに本体を殴らせているのだ。

 

『助かるぜ、Mk-II!』

「それほどでも」

「誰のおかげだと、思ってるのさー!」

『ガナーザクのお嬢ちゃんもさんくすな!』

 

 しーちゃんはと言えば、わたしに襲い掛かるトリモチをGNオルトロスで焼き尽くしている。

 疑似とはいえ、GN粒子というほぼ無尽蔵に生成されるエネルギーを連続で射出できるのはGNオルトロスのいいところでもある。

 

『サムライオーガに続くぞ!』

「わたくしはただトリモチを打ち消しているだけなのですが」

 

 両腕のもう片方はムラサメ刃-XのGNフィールドによってトリモチを打ち消している。

 いわば、わたしとしーちゃんが右手を、サイカさんが左手を封じていることで、疑似的にトリモチを封じていることになっていた。縁の下の力持ちとはこういうことだ。

 残りのお年弾だって、そこまで高頻度じゃない。やられるダイバーは何人かいても、全員じゃない。

 

『この勝負、もらったな!』

 

 でもそれだけではない気もしていた。

 

「……きーちゃん、悪い知らせともっと悪い知らせ、どっちが聞きたい?」

「え?」

 

 それはしーちゃんからのSOSであった。

 慌てて、ウォー・ツヴァイナーの耐久値を確認する。今のところは大丈夫そうに見えるんだけど。ひょっとして……。

 

「一つ目の悪い知らせ。GN粒子が尽きそう」

 

 先ほどからGNオルトロスは威力を下げており、飛んでくるトリモチの数が増えているのは何となく察していた。

 

「やっぱりですか」

「それだけならいいんだけど、もう1つ。しーちゃんちょっとヘイト稼ぎすぎちゃったっぽい」

 

 突如通信から割り込んでくる鉛玉の数々。

 後ろから後方支援をしているGNオルトロスがまばらだ。しーちゃん、どうしたんだろう。そう振り返ると、お年弾の雨あられがウォー・ツヴァイナーに降り注いでいくのが見えた。NPDはまず最初にトリモチランチャーを焼却できるしーちゃんを狙い始めたんだ。

 

『まずいぞ、トリモチの数が!』

『くそこんなところで……っ!』

『イヤーッ! トリモチィ!!!』

 

 同じく回避盾をかってでていたガーベラ・テトラが大型のトリモチに掴まれて地上に落ちていく。まるで蜘蛛の巣に掴まった蝶だ。もがけどもがけど、そこから動くことはない。

 キュルキュルと近づいてくるキャタピラが、質量の暴力がガーベラ・テトラへと近づいてくる。

 

『嫌! こんなところで死にたくない!』

『アズサ!』

 

 足掻くガーベラ・テトラ。それでも元旦クは無情にも赤い足をメリメリとキャタピラで機体を巻き込みながら、アズサを下敷きにしていく。

 

『嫌よ、嫌ぁ!!! だから、元旦クはくそボスなのよーーーー!!!!』

 

 まるで地雷を踏んだかのように足元が爆発した元旦クは何もなかったかのように進行方向をウォー・ツヴァイナーに変えながら、その巨体をキュルキュルと動かしていく。

 

「やっば」

「しーちゃん逃げて!」

「分かってるよー!」

 

 ついにヘイトを向けていたはずのトリモチランチャーまでもがウォー・ツヴァイナーに照準を合わせ始める。それだけは、させてたまるか!

 ノチウブースターを背中にドッキングさせて、ミサイルの雨を発射を始める。

 

「ルミミさん、しーちゃんを守るようにミサイル出せますか?」

「もちのろん! 頑張る!」

 

 無軌道ミサイルでも雨のようにカーテンになることはできる。ウォー・ツヴァイナーと元旦クの壁になるようにミサイルが降り注いでくる。その隙間を通ってくるトリモチはガトリングバスターによって阻む。

 

『今のうちだ! 片腕を落とすぞ!』

『「了解!」』

 

 今度は光の柱が無数に元旦クの右腕に集中したと思えば命中。

 耐久値は高いものの、今はウォー・ツヴァイナーというヘイト対象がいる。なら突っ込んだって、なんの問題もない!

 

「ノチウ、行きますよ!」

 

 スラスターとバーニアをフルに起動させて、ノチウフルバーニアンの最高速度がこちらにフィードバックされる。重たい。Gが、とんでもなく身体に張り付く。だけど、このままだとしーちゃんがバトルアウトしてしまう。それをさせるぐらいなら、わたしの身体なんて……!

 リアスカートからビームサーベルを取り出し、正面に刀身をかざす。特攻の構えだけど、そんなの撃墜させてしまえば問題ない!

 

 勢いよく突き刺さったビームサーベルは巨大な体躯である元旦クですらよろけさせる。

 このままビームサーベルを押し付ければ、右腕が破損して大幅なダメージが出るはずだ!

 嫌がった元旦クは腕を振り回すものの、その程度で離れてやるほどお人よしじゃない。ビームサーベルの出力を上げて、HG1個分もあるであろう腕を引きちぎっていく。

 

『とんでもねぇぜ、Mk-II!』

『便乗するぞ! 俺たちもカチドキを上げる!』

 

 最高速度で突撃したガンプラたちが右腕に集中すると、その度にバランスを崩していく。キャタピラであるはずの元旦クが徐々に押し倒されていく。

 

『行けっ!』

『行け!!』

『このギャンは伊達ではない!』

『アグニカ魂を見せろ、バエルッ!!』

 

「もっと……もっと……ッ!」

 

 ノチウは星を意味する。このフルバーニアンなら星をも動かす、そんな胆力だってあるはず!

 ノチウ、もっと。もっとです! もっとパワーを!!

 

《FINAL MODE 01》

 

「もっとぉおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

 わたしの心に呼応するように、関節部分からバーニアからスラスターから、青い炎が漏れ始める。炎が噴き出るたびにパワーが上がっていく。エネルギーが強まっていく……っ!

 傾き始めた元旦クの片輪が浮かび上がり始める。必死の抵抗をする元旦クだったが、次第に角度は急に横向きに倒れていく。

 ノチウが上から重力に従ってビームサーベルを突き刺している頃には、元旦クは横転していた。

 

「きーちゃん、それは……!」

「《必殺技》ですか」

「あれが、キユリちゃんの……」

 

「……ノチウの《ナイトロスター・ドライブ》」

 

【MISSION SUCCESS!】

 

 吹きあがる炎が鎮火していくと、その機械的な音声が機体内に流れ出ていった。

 湧き上がる歓声と、称号獲得のメッセージ。そして、急に膝をつき始めるノチウ。

 

「わっ!」

「きーちゃん!」

 

 ウォー・ツヴァイナーはオルトロスをその場で捨ててから、ガナーザクとは思えないほどの速度で元旦クから落ちてくるノチウに接近、大胆にキャッチしてみせる。

 

「大丈夫?! なんかノチウめっちゃボロボロだけど」

「それだけ無茶したのかな。でもHPは結構保ってたはずなのに」

 

 そう。今回はトリモチランチャーの回避に専念していた。攻撃もお年弾程度で、大した痛手は受けていない。

 では何故か。関節を曲げるたびにレッドコーションが鳴り響くコックピット内で、HPが尋常ではないほど削れていることに気づいた。

 

「もしかして……」

「とりあえずきーちゃん、休も!」

「……ですね」

 

 考えるのは後だ。

 わたしが想像しているよりも《ナイトロスター・ドライブ》は危険な必殺技なのかもしれない。そんなことを考えながら、わたしは身体をウォー・ツヴァイナーに、しーちゃんに預けるのだった。



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第19話:「ノチウ、痛がってる」

掲示板形式あり。注意です


「《ナイトロスター・ドライブ》。ナイトロの効果を身体強化と状況把握に極振りすることのできるガンダムノチウだけの。いえ、キユリさんだけの必殺技と言えましょう」

「みたいですね」

「ただし、その代価は自身の耐久力の減少。要するに自傷必殺技……」

 

 サイカさんがデータとしてまとめてくれた内容は実際にそのとおりだった。

 その回の最大貢献ダイバーとなったわたしはそんなことよりもノチウの状況が大事だった。

 結論から言えば酷いものだ。関節の回路は焼き切れているし、装甲も内側から溶けている。

 元々のナイトロシステムというものはオールドタイプを強制的に強化人間とするシステムだ。悪趣味にもその副作用として人の人格を変えてしまうという恐ろしいものである。

 ただGBNにそんな人権侵害機能があるとするかと言われたら、NOである。

 GBNはあくまでも一般人が健全に遊べるVRMMO。故にログアウトできなくなったり、脳の神経を焼き切るほどの高圧電流が流れたりはしない。

 そういう面では安心ではあるものの、必殺技という観点で言えばトランザムなんかよりも厄介だ。

 

「どーいうこと?」

「使用時間中はガンプラの耐久値が減っていく。チカラを手にする代わりに自分の身を削るという使いづらい技ですね」

「ガンプラが可哀想だよ!」

「そうかも知れませんね」

 

 見上げたノチウの傷跡が激しい。

 元旦クと戦った後にすぐさま修理という形で格納庫へとやってきたアストロ・ブルーは4機のガンプラが並ぶ前で、今後の対策を考えていた。

 

「ノチウ、痛がってる」

「……痛々しいですからね」

「じゃなくて、言ってるの! そうやって!」

 

 ルミミさんの世迷い言に首をはてなと曲げる。

 ガンプラはそんなこと言わないと思うんだけど。

 

「あー、聞いたことあるよ! ELダイバーは、ガンプラの声が聞こえるんだって話」

「ありましたねそんな話。眉唾ものだと思っていましたが」

「言ってるよ! ムラサメくんも一緒に心配してる!」

 

 後から調べた話ではあるが、ELダイバーというのはガンプラの声が聞こえるらしい。いったいどういう原理なのかはさておき、ノチウは今痛がっているとのことだ。多分《ナイトロスター・ドライブ》の影響で。

 

「……ルミミちゃん、ツヴァイナーはなんて言ってるの?」

「…………ごめん、わかんないや。ツヴァイナーくんだけはなんか聞こえてこないんだよねー、不思議ー」

「あはは、そうだよねー」

 

 やっぱり使用を禁ずるべきだろう。ここぞと言うべきタイミングで。

 いやでも、これはゲームの中。いくらガンプラを酷使しても関係ないと思う。もちろん雑に扱ったりはしない。そんなことをしたら対戦相手にも失礼だし、何より勝てない。切り札はチャンスに切らなければその効力を発揮しない。《ナイトロスター・ドライブ》のような時限強化系は特にそうだ。

 

「あーあ、せっかく必殺技予想選手権やろーって思ったのにー」

「残念でしたね。無念ですねん」

「何その語尾は?!」

「念には念を入れたねん」

「あはは! サイカちゃんかわいいー!」

「左様で」

 

 考え事をしている間にしーちゃんとルミミさんがお腹を抑えて転げ回っている。何故。

 

「えっと、この状況は……」

「気にしないでください。わたくしの勝ちですので」

「え?」

「負けてませんー! しーちゃんのツボにたまたまハマっただけですしー!」

「あはは! しーちゃん負けず嫌いー!」

「……え?」

 

 それから10分ぐらい、本当に2人が笑っているだけでサイカさんが何故か勝ち誇ったような顔で椅子に座っているのだった。

 だから、なんでですか?

 

 ◇

 

「さて。この後はなにか用事はあるかい、3人とも!」

「わたくしは用事は済ませましたので」

「わたしとルミミさんもですね」

「じゃー、ニューイヤーフェス第2戦目ってことでー……。屋台回ろう!」

 

 ノチウの修理待ちも兼ねて。という言葉も加えたしーちゃん。

 その場でくるりと回転すると、一瞬だけ身体が0と1のデータ状態になったかと思えば、重装甲の桃色の晴れ着へと着替えていた。上から下までしっかりとお正月だ。

 

「しーちゃん、いつの間にそんなアバターパーツ手に入れてたんですか」

「んー? さっきドロップしたよ」

「そういえば元旦クのクリア報酬はアバターパーツ一式の引換券でしたか。BCでも買えますが、引換券ならそれだけお得に買い物できますからね」

 

 確かに。今確認したらアバターパーツの引換券がアイテム欄に入っている。

 これと晴れ着を交換してくれと言っているようにも見える。やらしい戦略だ。こうやってアバターパーツを集めさせて、課金を誘導させるのだろう。

 こんな事を考えてしまうぐらいには、わたしも汚れてしまったということか。

 

「キユリちゃん、仕立ててー!」

「分かりましたよ。早速ショップに行きましょうか」

「……こういうのってサイカちゃんの方が適任なのでは?」

「わたくしは武術に生きた人間です。衣装術は死んでいます」

「あー、追加でサイカちゃんも、かな」

 

 次々と格納庫から移動していく3人。

 わたしも続かなくちゃとは思いながらも、ふとノチウを見上げる。

 ナイトロにはもう1つ特徴がある。それは何かを燃やしているように青い炎が関節部から吹き出るということである。

 まるで、わたしという燃料から何かを振り切っているようにも見えて。

 

「ノチウ、あなたもわたしのこと心配しているの?」

 

 物言わぬガンプラは何も答えない。

 GBNの必殺技はGBNでのすべてのデータを反映して、その場で構築していると聞く。であるなら、わたしの過去を燃料にナイトロを使っているのだろうか。そんな忌々しい記憶はいらないと、あなたはそう言い聞かせているの?

 

「大丈夫だよ。わたしは、わたしのこの炎は……」

 

 手のひらをギュッと握って、そこに確かにあったはずのものを確認する。

 大丈夫。そのときに言いたいことは整えているつもりだ。だから、いつ出会っても、いつ話しても。あの時の疑問を言えるって、そう思っている。

 待たせてはいけない。わたしもアバターパーツショップへと行こう。フレンドワープから、わたしはしーちゃんたちの元へと向かった。

 

 ◇

 

GBN総合スレpart***

 

1:以下名無しのダイバーがお送りします。

ここはガンプラバトル・ネクサスオンライン通称『GBN』に関して雑談するスレッドです。

 

各種ミッションについての情報はまとめwikiに載っています。

 

ビルドの相談、フォース勧誘、ミッション攻略の情報交換などはそれぞれ専用スレッドでお願いします。

 

【GBNまとめwiki】(http://・・・

【ビルド相談スレ】(http://・・・

【フォースメンバー募集スレ】(http://・・・

【ミッション攻略スレ】(http://・・・

 

【前スレ:GBN総合スレpart***】(http://・・・

 

 ◇

 

333:以下名無しのダイバーがお送りします。

クソボス乙!!!!!!!!!!!!

 

334:以下名無しのダイバーがお送りします。

対ありィ!!!!!!!!

 

335:以下名無しのダイバーがお送りします。

中指立ててる

 

336:以下名無しのダイバーがお送りします。

お、今回分の元旦ク終わったか

 

337:以下名無しのダイバーがお送りします。

あれ参加してるの、初心者かアバター狂いしかいない説

 

338:以下名無しのダイバーがお送りします。

なんたって引換券だからな

 

339:以下名無しのダイバーがお送りします。

もらえるものはもらっとかんと

 

340:以下名無しのダイバーがお送りします。

1年に数回しかもらえないし

 

341:以下名無しのダイバーがお送りします。

てか何だあのMk-Ⅱは

 

342:以下名無しのダイバーがお送りします。

あれか、最後の

 

343:以下名無しのダイバーがお送りします。

Mk-Ⅱ使いがまさかいるとは

 

344:以下名無しのダイバーがお送りします。

何の話だ?

 

345:以下名無しのダイバーがお送りします。

実況見ろ

 

346:以下名無しのダイバーがお送りします。

サムライオーガが参加してた回だろ?

 

347:以下名無しのダイバーがお送りします。

あのミサイルパーティガールもいるぞ

 

348:以下名無しのダイバーがお送りします。

Mk-Ⅱにゼフィランサスとかステイメンのブースターを付けたダイバーだな。

最後そいつがフィニッシャーになってたはず

 

349:以下名無しのダイバーがお送りします。

何そのロマン武装

 

350:以下名無しのダイバーがお送りします。

Gやばそう

 

351:以下名無しのダイバーがお送りします。

Mk-Ⅱでよーやるわ

 

352:以下名無しのダイバーがお送りします。

この前バトロワで話題になってた奴らか

 

353:以下名無しのダイバーがお送りします。

これかな。

 

フォース:アストロ・ブルー

メンバー:キユリ、シーハート、サイカ、ルミミ

 

354:以下名無しのダイバーがお送りします。

サイカってどっかで聞いたことある

 

355:以下名無しのダイバーがお送りします。

サムライオーガのダイバー名。これマメな

 

356:以下名無しのダイバーがお送りします。

ダイバーネームぐらい覚えてろ

 

357:以下名無しのダイバーがお送りします。

へー、かわええやん

 

358:以下名無しのダイバーがお送りします。

俺、シーハートが好み

 

359:以下名無しのダイバーがお送りします。

馬鹿野郎、おまえはロリコンか???

 

360:以下名無しのダイバーがお送りします。

俺はおっぱい担当

 

361:以下名無しのダイバーがお送りします。

分かってないなお前ら。ふとももだろ

 

362:以下名無しのダイバーがお送りします。

ナマモノだから気をつけような

 

363:以下名無しのダイバーがお送りします。

Mk-Ⅱの最後の炎、何?

 

364:以下名無しのダイバーがお送りします。

ナイトロかバーニングバーストシステムかな

 

365:以下名無しのダイバーがお送りします。

BBSはないやろ。……ないよな?

 

366:以下名無しのダイバーがお送りします。

過去にはバーニングバーストシステムを氷に転用させたバードハンターがおるで

 

367:以下名無しのダイバーがお送りします。

エンリがおるわ

 

368:以下名無しのダイバーがお送りします。

必殺技か内蔵技かはさておき、身体強化系っぽい

あれ発動してから出力上がったし

 

369:以下名無しのダイバーがお送りします。

アストロ・ブルー、今後に期待

 

 ◇



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第20話:「きーちゃん、人生舐めすぎ」

「でっかい鳥居ーー!!!!」

 

「でっかい神社ーーーーー!!!!」

 

「うぉおおおおおおおおお!!!!!」

 

「しーちゃん、はしゃぎすぎです」

「だって、初詣なんて久々なんだもん!」

 

 1月1日とは何か。まぁ、元旦である。

 そりゃさっきまで元旦クと戦っていたし、朝テレビを付けたら『あけましておめでとうございます』と連呼されたのだ。年が明けて1日目なのだろう。

 なんで『だろう』なのか、って。そりゃあ大掃除してさて疲れた、とガンプラを弄っていたら朝だ。年をまたいだ感覚なんてものは特にない。良くも悪くも、わたしはご時世には無頓着なのかもしれない。こりゃぼっちなわけだ。

 

「ねぇねぇ、初詣ってなに?」

「ほほー? 知りたいかねルミミ君」

「うん、知りたーい! 教えてしーちゃんせんせー!」

「ではだね……」

 

 初詣とは、年が明けて初めて神社や寺院に参拝しにいく行為。

 一年の感謝をささげたり、新年の無事と平安を祈願したり。それはそれは徳が高い行事なのだけど、最近は普通に行事化している。まぁ仕方ないよね。現代社会に堅苦しいのとかいらないし。堅苦しいのはテストの問題だけで十分だ。

 

「ほへー」

「ルミミさんは本当になにも知らないですよね」

「そうですね。最近生まれたばかりですし」

「まさに、無知でムチムチとはこのこと」

「……サイカさん」

「はいなんでしょう」

「世の中には言っていいギャグと悪いギャグがあると思うのですが」

「失礼いたしました」

 

 無知でムチムチの太ももをしているとは思うけれど、親としてはそのネタに触れるのはどうかと思う。少なくともわたしの目の黒い間はルミミさんからそう言った性的ネタからは遠ざけることにしよう。

 だがサイカさんは悪びれもせず、ルミミさんを見てこう言うのだ。

 

「ルミミさんも一種の生命体です。ELダイバーがどういう繁殖の仕方をするかは存じませんが、そういった相手ができないとも限りません。その時に知識がないのはいかがなものかと」

「……それらしいことを言いますね」

 

 サイカさんはたまに的を得たことを言ってくる。

 根が真面目だからなのか、武人だからなのか。そうでなくても、25歳とわたしたちの中では最年長のお姉さんで大人。子供に子供を任せることに何か思うところがあるのかもしれない。

 

「それに、知識を得ることで恥じらいを持つようになり、自分からはその行動をしないようにするという社会常識も手に入れられます」

「恥じらいが自衛になるってことですか?」

「世の中にはあまり好ましくない人物がいるのも然りです。VRゲームなどそれの最たるもの。そんな中で恥じらいを持つことで、ある一定の距離感を持つことも、大事だと思うのです」

 

 GBNは昔はどうであれ、今はガードフレームがいるなどして、結構平穏なゲームだ。だからそう言ったトラブルも少ないとは聞く。

 けれど獣はどこにでもいる。体格だけはやたら肉付きがいいルミミさんが、無知のままそんな人たちについていったりしたら。そう思うだけでぞっとする。

 サイカさんの言う通りかもしれない。性的知識を入れる入れないだけで、自衛力が高まるのであれば。

 

「ELダイバーも生命体。入れておいて損はないでしょう?」

「そうかもですけど」

「けど?」

「無知とムチムチを合わせたギャグだけはスルーできません」

「それはソーナンス」

 

 この人、ギャグをギャグで受け流したぞ。

 

「きーちゃーん! 早く行こ―!」

「サイカちゃんも早く早く―!」

 

 着替えた晴れ着の袖をブンブン振りまわしながら、手を振る2人の姿はまるで双子ができたみたいだ。この年で親心を学ぶこととなるとは。

 

「行きましょうか。せっかくの晴れ着アバターです」

「はい!」

 

 教育はまた今度にするとしよう。今は初詣を楽しむ。それでいいじゃないか。

 カランカランと、下駄を鳴らしながらわたしたちは双子の元へと向かうのであった。

 

 ◇

 

「きーちゃんって、青系好きなの?」

「え、なんですか突然」

「だって、今日も青系だし」

 

 そんなことはないけれど、自然と青が色鮮やかな晴れ着を着ていたことを思い出す。

 髪の色も青系だし、わたしは意外と青が好きなのかもしれない。

 漠然と青い背景を思い描きながら、からあげ棒を口にするしーちゃんを目にする。今日もピンクい。

 

「しーちゃんもピンク系好きですよね」

「そう? えへへ、しーちゃん暖色系が好みです故」

「普段着もアイドル系のフリフリですしね」

「女の子は着飾ってなんぼなんだよ!」

 

 そんなものなのだろう。わたしの自分への無頓着っぷりは見ての通りだ。

 今日もルミミちゃんに選んでもらって、最終的にどれがいいと聞かれたので、とりあえず今着ている青系のアジサイ柄晴れ着にしたのだ。きっと彼女の方が女子力としては高いだろう。0歳のくせに。

 

「だからね、しーちゃん。デフォルトの連邦軍制服よりもっとアバターパーツ凝ってよ!」

「別にこれでいいじゃないですか? BCももったいないですし」

「それで使った試し、あるの?!」

「……ないですけど」

「じゃあもっと自分にお金使わなきゃ!」

 

 力説するピンクのツインテールがぴょこぴょこと揺れる。

 そんなものだろうか。わたしになびく男なんていないと思うし。

 何も言わずともわたしの目で察したのか、彼女は顔と胸を指さす。

 

「きーちゃん、人生舐めすぎ」

「え?」

「その顔とおっぱいでなびく男がいないとか、そんなのありえない!」

「えぇ。でも……」

「まぁ、性格は陰キャだと思うけど……」

 

 やっぱりしーちゃんもそう思ってたんじゃないですか。

 

「きーちゃん、見た目は絶対男受けするんだよ! もっと自信もって!」

「しーちゃんはわたしのなんなんですか」

「友達として警告してるんですー」

 

 どうした急に。

 しーちゃんがそう言ったことに敏感そうだなーとは思っていたけれど、まさか唐突についばまれるだなんて思ってもみなかった。

 

「だいたい。しーちゃん、わたしのリアル知りませんよね? リアルはそこまでかもしれませんし……」

「あー、また声小さくしちゃって! その顔、リアル投影じゃないと出てこないアバターなんだよ」

「……え、ホントですか」

「ホントホント。その顔のパーツないし」

 

 慌ててアイテム欄から鏡を取り出して確認する。

 た、確かにわたしはかつて面倒くさいなと思ってアバターの初期生成をリアルからのインポートにした覚えがある。アバターなんだからどの顔でも問題ないだろうと思っていたけれど、そうではなかったらしい。4年越しの真実だ。

 

「それに身体だってリアルと差異が出れば、少なからず違和感が出るものなの」

「と、言いますと?」

「前におっぱい触った時、本物を感じた」

「破廉恥ですよ?!」

 

 珍しく大きな声を上げると、周りから少し奇怪な目で見られる。

 あ、あはは、と軽く笑いながら、わたしはその場から立ち去って、さらにツッコミを入れる。

 

「なんで感触覚えているんですか!」

「Fカップってあんなに柔らかいもんなんだなーと、今でも忘れられないよ」

「忘れてください!」

 

 わたしにだって恥じらいはある。同性であっても胸を揉まれて馬乗りにされれば、嫌でも覚えているというもの。しーちゃん、そういう人だったりする?

 

「いやいや、きーちゃんのは宝だよ。私の目から見て、羨ま妬ましい」

 

 あ、これ。純粋に"ない"者の僻みだ。

 しーちゃんって、幼児体系というか身長が150前後で小さいし、胸もそこまで発達していない。もっと言ってしまえば肉付きもそこまでよくないから、もしかしたら小学生と言い張っても通りそうなほどである。

 

「なんか、ごめんなさい……」

「じゃー何か奢って!」

「それが狙いですか」

「あはは、最近BCが厳しくって」

「始めたてが調子に乗るからですよ」

 

 はぁ、と1つため息をつく。目を開けばしーちゃんと目が合う。

 しばらく見つめ合って、そうしたらなんだかバカらしくなって笑い始めてしまった。

 

「あはは! なんか変なの!」

「何かは分かりませんけどね」

「あー、ホント。きーちゃんといるの、楽しいなぁ!」

「わたしもです」

 

 奇妙な出会いだったかもしれないけれど、今はサイカさんやルミミさんよりも心近しい存在になっていた気がする。

 何故だろう。この子を見ていると、コウミさんやおーちゃんを他人事だと思えないのは。

 

「じゃあきーちゃん、敬語やめない?」

「どうしてですか?」

「だって、その方が友達っぽいし!」

「まぁ、仕方ありませんね」

「ありませんね?」

「……ないね」

「よろしー!」

 

 胸を張ってふんぞり返るしーちゃんを見て、また一笑い。

 

「今年の初笑いはしーちゃんかもしれないですね」

「ですね?」

「……しーちゃんかも」

「慣れてない感じがかわいいー」

 

 まったく。そんなこと言ってもBCは増やしてはあげませんからね。

 悪い気持ちなんてものはなく、ただただ旧友と分かりえたかのような気持ちになるのはなぜだろう。

 もし、こんな気持ちをおーちゃんと分かち合うことが出来たら、昔のことなんて水に流すことができたなら。

 

「よっし! 次は甘酒ね!」

「……仕方ないなぁ」

 

 蒼天の冬空が遠く吹き抜ける。

 物語の本筋に戻るように、わたしたちは2人だけの寄り道から参道へと戻っていった。



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第3章:溢れる海。沈んだ過去は浮上する。
第21話:フォース戦。海は波打つ


3章突入。ギアを入れます
※掲示板ネタ注意です!


GBNフォース戦スレpart***

 

1:以下名無しのダイバーがお送りします。

ここはガンプラバトル・ネクサスオンライン通称『GBN』のコンテンツ『フォース戦』に関して雑談するスレッドです。

 

各種ミッションについての情報はまとめwikiに載っています。

 

ビルドの相談、フォース勧誘、ミッション攻略の情報交換などはそれぞれ専用スレッドでお願いします。

 

【GBNまとめwiki】(http://・・・

【GBN総合スレ】(http://・・・

【ビルド相談スレ】(http://・・・

【フォースメンバー募集スレ】(http://・・・

【ミッション攻略スレ】(http://・・・

 

【前スレ:GBNフォース戦スレpart***】(http://・・・

 

 ◇

 

630:以下名無しのダイバーがお送りします。

最近強いフォース増えすぎ問題

 

631:以下名無しのダイバーがお送りします。

それな

 

632:以下名無しのダイバーがお送りします。

そうでもなくね?

 

633:以下名無しのダイバーがお送りします。

実際そうでもない。

トップ10がほぼ固定だし

 

634:以下名無しのダイバーがお送りします。

言ってもその下が激しいからな

 

635:以下名無しのダイバーがお送りします。

春夏秋冬とケーキヴァイキング、あとちのinワンダーランドがしのぎ削ってる

 

636:以下名無しのダイバーがお送りします。

タイルドローも忘れんなよ

 

637:以下名無しのダイバーがお送りします。

タイルドローはタイル単体があかんし

 

638:以下名無しのダイバーがお送りします。

いうてちのワンもお嬢が抜きん出てヤバい

 

639:以下名無しのダイバーがお送りします。

あのランカー揃いの春夏秋冬でもちのちゃん相手に2人は割かないといけないからな

 

640:以下名無しのダイバーがお送りします。

ケーキヴァイキングのエンリ辺りもな

 

641:以下名無しのダイバーがお送りします。

アイツらも単体がヤバい連中だからな

 

642:以下名無しのダイバーがお送りします。

技術力のユーカリ

突破力のエンリ

破壊力のムスビ

かく乱のフレン

 

うんやばい

 

643:以下名無しのダイバーがお送りします。

最近名前が出てきたのに、もう春夏秋冬と同じ域だもんな

 

644:以下名無しのダイバーがお送りします。

最近といえば、新人フォース発掘してたんだけど、興味深いのがチラホラと

 

645:以下名無しのダイバーがお送りします。

ほう

 

646:以下名無しのダイバーがお送りします。

まずはフォース『クインテットマジカルズ』

5人ガールズフォースで世にも珍しい魔法使い風のガンプラで固めてる

 

次は2人フォースの『AtoZ』

これはわかりやすいな。ランカーのアリサとサポーターのザフカのフォース

アリサのガンプラで一点突破する連中

 

最後はフォース『アストロ・ブルー』

こいつらはちょこちょこ話題になってるな

 

647:以下名無しのダイバーがお送りします。

あー、ミサイルの

 

648:以下名無しのダイバーがお送りします。

サムライオーガね

 

649:以下名無しのダイバーがお送りします。

ナイトロMk-Ⅱか

 

650:以下名無しのダイバーがお送りします。

ぶっちゃけサムライオーガがフォースはいるとは思ってなかった

 

651:以下名無しのダイバーがお送りします。

あの人、ずっとソロだったもんな

 

652:以下名無しのダイバーがお送りします。

昔、フォースに入ってたって噂だけどな

 

653:以下名無しのダイバーがお送りします。

あれ、蹴ったんじゃなかったっけ?

 

654:以下名無しのダイバーがお送りします。

正確には4人フォースを組んでたはずなんだけど、いつの間にか空中分解してた

 

655:以下名無しのダイバーがお送りします。

それ4年ぐらい前じゃねぇか

 

656:以下名無しのダイバーがお送りします。

もう誰も知らんだろそれ

 

657:以下名無しのダイバーがお送りします。

流石にランク外のフォースは分からんな

 

658:以下名無しのダイバーがお送りします。

サムライオーガ、戦法が普通にフォース戦向きだしな

 

659:以下名無しのダイバーがお送りします。

タンクにいてほしい

 

660:以下名無しのダイバーがお送りします。

それ is それ

 

661:以下名無しのダイバーがお送りします。

この前元旦クと戦ったときに一緒になったけど、メイン盾あざっす! って感じ

 

662:以下名無しのダイバーがお送りします。

ミサイルパーティガールは、まぁあの子生まれたてだし

 

663:以下名無しのダイバーがお送りします。

それなー。戦術がなってない

 

664:以下名無しのダイバーがお送りします。

ミサイルとガトリング撃ってるだけだしな

 

665:以下名無しのダイバーがお送りします。

そういう面では、もう1人の子が結構的確にフォローしてるな

 

666:以下名無しのダイバーがお送りします。

シーハートちゃんだっけ。GNザクの

 

667:以下名無しのダイバーがお送りします。

ザクウォーリアな

 

668:以下名無しのダイバーがお送りします。

シーハートちゃんは、なんかパッとしないよな

 

669:以下名無しのダイバーがお送りします。

他が味濃いんよ。Mk-Ⅱ然り

 

670:以下名無しのダイバーがお送りします。

あの子も大概薄いけどな

 

671:以下名無しのダイバーがお送りします。

まぁユニーク持ちっぽいからな。

ナイトロ使いってあんまいないし

 

672:以下名無しのダイバーがお送りします。

元のイメージと自傷ダメージなー

 

673:以下名無しのダイバーがお送りします。

かっこいいけどめっちゃ扱いづらいんよ

 

674:以下名無しのダイバーがお送りします。

お、そんなこと言ってたら今『アストロ・ブルー』と『クインテットマジカルズ』がバトってるっぽい

 

675:以下名無しのダイバーがお送りします。

マジィ???

 

676:以下名無しのダイバーがお送りします。

ほれ、ライブ配信

【URL】

 

 ◇

 

『私はーーーーー彗星の魔女なのよーーーーーーー!!!!』

 

 高速で飛翔する飛行物体をわたしはノチウブースターの出力を上げる。

 相手はキュリオスを魔法使いのように改造した高機動機体だ。GNミサイルの代わりにGNホーミングレーザーという、それ魔法使いでいいの? という攻撃で撃ってくる。だけど、そのレーザーはわたしのノチウフルバーニアンよりも遅い!

 

「きーちゃん、エクシアとフラッグはサイカちゃんが釘付けにしてる。こっちもルミミちゃんと2人でナドレとデュナメスを足止めするから、キュリオスはお願い!」

「大丈夫だよ、もうすぐ決着がつく」

『トランザム時間が……ッ!』

 

 かのライトニングガンダムフルバーニアンはトランザムにも追いつくガンプラを作成したことで有名だ。

 わたしもそれを目指したものの、流石にアーティスティックガンプラグランプリの優勝者と一般人のわたしでは作成難易度が桁外れに違う。だからわたしは考えた。勝つのではなく『消耗させる』戦い方にすると。

 

「その瞬間を待ってた」

 

 幸いにも《ナイトロスター・ドライブ》の数少ない利点は、複数回の使用が可能なことにある。

 右腕限定で必殺技の出力を限定する。

 瞬間。関節部から青い炎が吹き上がれば、ビームライフルを青く灯しながらデブリ群の中をかき分けていく。

 それが4本。牽制の2発は置いておいて、この4本のビームをトランザムアウトしたキュリオスが突破できるわけがない。

 

『キャーーーーー!!!!』

『ユリス!』

 

 GNホーミングレーザーが程なくして消えれば、マジシャンキュリオスは鮮やかな緑色の粒子を撒き散らしながら、宇宙空間へと消えていった。

 

「サイカさん、今向かいます!」

「いえ結構。ここはわたくしだけで十分です」

『舐めちゃって!』

『グリピア、冷静にッ!』

 

 モニターを見れば、二人がかりでも突破できない牙城なるGNフィールドを前にエクシアとGNフラッグが悪戦苦闘していた。

 だが、あっちももうすぐ終わることだろう。ならばしーちゃんのところに行こう。

 

「GNパニッシュ!」

『なっ?!』『魔法?!』

「まぁ、ほうですねっ!」

 

 GNサムライソードが2機のガンプラをお刺身を切るようにVの字に一閃。

 それだけで、2機は悲鳴を上げながら爆散していった。

 

『くそっ、格上がすぎる!』

『GN粒子、もうすぐ尽きそう!』

『物量が圧倒的過ぎる!』

 

 デュナメスとナドレはと言えば、ミサイルの雨にGNフィールドの展開を余儀なくされていた。

 それも爆風が続いて熱源レーダーは役に立たない。止めどないミサイルにはもはや対抗策がなく、GNオルトロスによる一点射によってGNフィールドは限界を迎えた。その後は、もう分かりきってしまう結果なわけで。

 

【BATTLE END】

【WINNER アストロ・ブルー】

 

 ◇

 

「いやー負けた負けた! 強かったわ!」

「ユリスも頑張ったのにね」

「まぁ相手が悪かったってことで」

 

 その後フォースと『クインテットマジカルズ』と意気投合。近くのファミレスでその後の感想戦を行うこととなった。

 

「ルミミちゃんのミサイル連打、マージやばかった」

「えへへ、でしょー? やっぱ弾幕はパワーなんだよ!」

 

「あれがサムライパニッシュ……!」

「まぁ、ほうですね」

「それなんなんですか?」

 

「まさか私のトランザムに付いてこれるなんて」

「まぁ、そういう風に立ち回ったので」

 

 隠し味は《ナイトロスター・ドライブ》にある。

 必殺技が何回でも使用できる点を利用して、当たる瞬間に出力を上げてホーミングレーザーを躱していた。もちろん機体へのダメージはあるけれど、最小限にとどめているつもりだ。ノチウがなんて言っているかは分からないけど。

 

 クインテットマジカルズの褒め言葉を受け止めていると、ふとしーちゃんの元気が少しないように見えた。

 

「しーちゃん、どうしたの?」

「え?! う、ううん。なんでもないよー!」

 

 にへらと笑う彼女の顔にはやはり元気がない。

 どうしたのだろうか。でも、しーちゃんが大丈夫だって言うなら、大丈夫、なのかな?

 

「それより次はどうするの? やっぱ打倒AVALONみたいな?」

「流石にそれはないかな。でも、また上を目指したいなって」

「……ふーん。どうして?」

 

 それは。その言葉を口に出そうとしてしーちゃんの顔を見る。

 やはり元気がなかった。それもただ元気がないだけならいい。深刻そうに、思いつめたように。けれどそれを自身の元気で隠すような、そんな不安定な輝き。今すぐにでも消えてしまいそうな儚い灯火だった。

 

「しーちゃん、やっぱり――」

「ここでっすか?!」

「もっちよ! ほらいた」

 

 心配の声をかけようとした瞬間だった。ファミレスのドアが開いたと思えば、ずんずんとわたしたちの元にやってくる女性たちが2人。

 1人は大きな栗毛のツインテールを着飾ったピエロであった。縦半分に割れたピエロの仮面はガンダムWのトロワを豊富とさせた。

 もう1人は武術をしているのか、格闘着を身につけた栗毛のポニーテールの女の子。何よりも印象強いのは激しい炎のように燃え盛る紅蓮の瞳であった。

 

「アストロ・ブルー、であってまっすよね?」

「は、はい……。えっと、あなた方は?」

「うっす! フォース『AtoZ』のアリサっす! アストロ・ブルーにフォース戦を挑みにきたっすよ!」

 

 今にもこちらに身すら焼き殺さんとする瞳がわたしを見る。

 

 これが、フォース『アストロ・ブルー』と『AtoZ』の因果と、後に語られるラストワン事変の始まりであった。



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第22話:揺らぐ海。狼煙は見えず

 このゲームには世界ランキングというものがある。

 どんなゲームにも存在するダイバーの格付け。上に行けば行くほど、強いという証明だ。

 アクティブユーザー約2000万人のトップ。それがクジョウ・キョウヤである。であればランキング2桁や3桁のダイバーは? と言えば当然強いわけで。

 

 個人ランキング913位。バーニングファイターの異名を持ち、フォース『AtoZ』のリーダーも務めている英傑。それこそがアリサというダイバーである。

 

 生粋のインファイター。魔神が遣いし狂犬。暴力の化身。

 などと、様々な異名が刻まれているが、そのどれもが凶悪な性質を持つ者であった。

 

「彼女が使う『マジンガンダム』はとにかく超至近距離での戦闘を目的としたガンプラです。近づかれたら最後、強さをむしゃぶりつくして、破壊する。それがバーニングファイターですね」

「そうは見えなかったですけど……」

 

 初対面の彼女はそれは礼儀正しかった。ちょっと体育会系が入っているぐらいで、相手をリスペクトしたようなダイバーだと感じた。だけどその異名はきっと間違いではない。

 

「それで油断したダイバーがことごとく負けていったみたいだね」

「加えてもう1人のザフカというダイバーはとにかくアリサさんを引き立てに行きます」

 

 掲示板情報ではヘビーアームズの改造機を使っているらしいけれど、その本質はマジンガンダムのサポート。通信障害を起こすバグと遠距離からの支援。

 単体の性能も含めて、タッグフォースとして頭角を現している。

 

「はっきり言って強敵です。彼女たちの胸を借りるつもりで戦った方がいいですね」

「勝ちたくないの?」

「格上だと言っているのです。正直、わたくしですら苦戦するレベルの」

 

 狭いフォースネストが一層暗くなっていく。

 空気が重たい。何故そんな相手に目を付けられたのかが分からなかった。でも叩きつけられた挑戦状は受け取るしかない。だから戦うのだ。

 

「……私、嫌だな」

 

 そんなことをぼそりと、聞き取れないような音量で誰かが口にする。

 どうしてだろう。わずかに聞こえた声が頭の中で反響する。わたしの中の閉じていたはずの扉が開きかかる。いったいどこの……?

 

「きーちゃん?」

「え? なに、しーちゃん」

「なんか不安そうだなーって」

 

 心配したのかわたしに声をかけてきたしーちゃんであったが、彼女もまた声が震えていた。

 何故か過去の出来事がフラッシュバックする。おーちゃんも、やめる前はずっとこんなだった気がする。

 震える手。GBNはこんなところまでも再現するんだ。そんなどうでもいいことを考えつつ、しーちゃんの不安を手のひらに収めた。

 

「大丈夫だよ。わたしもそれなりに場数は踏んでるし」

「あ、あはは。そうだよね。……うん、そうだよね」

 

 気持ちが、伝わってこない。

 分からない。今のしーちゃんが、わたしには分からない。

 こうして手を重ねているのに、しーちゃんは自分のことを言わない。

 出会った時からそうだった。しーちゃんは、自分のことをあまり語らない。後ろめたいものがあるみたいに、笑顔を張り付けて隠したいものを後ろに回して、決して覗かれないように。

 

「しーちゃんは、大丈夫?」

「え?! なーんもないよ! あはは!」

 

 ほら今も。彼女は、何かを隠している。特にわたしに対して。

 

「さて、行きましょうか。そろそろ時間です」

「うん、行こ―!」

 

 両手を上げるルミミさんと、立ち上がるサイカさん。

 わたしと手を繋いでいたしーちゃんの手がするりと抜ける。

 

「じゃ、行こっか」

「う、うん」

 

 言い知れぬ恐怖と、不安と。

 分からない。なんでそんなことを感じるのか。嫌な予感が的中しなければいい。わたしはそう思うばかりだった。

 

 ◇

 

 出撃したわたしたちは会敵をする前に、作戦の概要をサイカさんが改めて告げる。

 

「敵機は2機です。マジンガンダムはわたくしが止めて、キユリ殿が最高速でピエロを、2人でかく乱をお願いします」

「「「りょうかい!」」」

 

 エリアは地上の山岳地帯だ。隠れる場所も多ければ、足場も悪い。ルミミさんは足を止めてミサイルパーティの準備。しーちゃんも同じく砲撃ポイントに待機して、マジンガンダムをあわよくば狙撃。

 わたしはと言えば、索敵にエネルギーを割きながら周囲を全力警戒していた。

 

 敵機は2機だけ。この広い戦場でたった2機だ。片方でも倒せば戦術が瓦解するはず。だけど、見つけるには至難の技がいる。

 モニターには異常なし。各種センサーにも反応はない。

 まるで狩人だ。見つからないように爪を隠して、こっそりと襲う。敵ながらアッパレと言わざるを得ない。だけど、こちらは4人。全員で索敵をすれば、きっと……。

 

 その瞬間だった。熱源反応が1つ。大きなエネルギーがまさに口を開いた。

 

「データリンク! エリア63に高熱源反応! これは……」

「ミサイルだー!」

 

 山岳部中腹から姿を現したのは原本であるガンダムヘビーアームズと同様の色をしたガンプラ。ガンダムサイコアイズだった。

 その両手にはミサイルランチャーが各4門。両肩のミサイルポッドが開放。両脚部のコンテナも含めて、全38門のまさにガンプラ武器庫。

 

『行っちゃいなよ、あたしらの勝利のために!』

「ルミミさん!」

「分かってるよー! ミサイルパーティ、射出!!」

 

 山を1つ超えるような形で双方のミサイルが開戦の火蓋を切る。

 計38門のミサイルと、120発のミサイル。こんなのは数の暴力で勝てるはず。そう思っていたがそう簡単には戦いは傾かない。

 

『そんな散漫な攻撃は、通らないってね!』

 

 両手に装備したミサイルランチャーから発射された計8発のミサイルがルミミさんのミサイルと衝突。爆発をするが、爆風に紛れて煌めく何かが無数に飛び散るのが見えた気がした。

 あれが何なのかは分からないけれど、こっちはこっちで危機だ。

 何せあの中にはホーミングミサイルが備わっていて、こちらをロックオンしているのだから。

 ブースターを全力で展開して、ホーミングミサイルの射程から離れようとしているが、向こうのミサイルの速度も速い。かつてのホーミングレーザー同様に、振り切れない。

 

「くっ!」

『ほれほれ、踊れ踊れー!』

 

 ビームライフルで1つ1つ打ち落としていくものの、数は6発。流石に時間がかかる。

 

「行っちゃえ、ファング!」

 

 ウォー・ツヴァイナーからの援護ファングがホーミングミサイルの背中を追う。

 速度はファングの方が上。ファングが貫いたミサイルはそのまま爆散。事なきを得たけれど、これで熱源センサーは……。あれ?

 

「皆さん、通信は?!」

「……っ! マジ……ガンダ…………」

「…………ちゃん! これ、バグ……?!」

「どー……よ!? なんにも…………」

「いつの間にバグを展開されたの」

 

 今のミサイル一発で戦況がすべて瓦解した。

 まずい。味方との通信が途絶。聞き取れる範囲だと、サイカさんのいた場所にマジンガンダムと思しき名前。ファングは統制を取れずに帰還。ミサイルの雨は止む。

 完全に向こうの作戦勝ちだ。だけど……っ!

 

「せめてヘビーアームズだけは!」

『まー、こっち来るよねー』

 

 接敵したのは変わりない。ビーム砲とガトリング砲を両方展開しながら、ランドスピナーで左右に展開する。

 ちょこまかと。ビームライフルだけでは他の木々が空中から焼ききれない。だったら、こっちのミサイルで!

 コンテナを開いて、マイクロミサイルを照射。サイコアイズを追い込む形で周囲の木々を燃やす。

 

『やっばー。雑過ぎない?』

「そちらには言われたくないです!」

 

 元々の機体であるヘビーアームズの接近戦武装はアーミーナイフだけ。その射程距離はたかが知れている。

 地面が露出した場所に誘導したわたしはスロットルを《FINAL MODE 01》に引き抜く。

 

「《ナイトロスター・ドライブ》!」

 

 青い炎を関節部から吹き出しながら、通常の3倍のスピードで接敵する。

 Gがすさまじいけど、そんなの斬れば関係ない!

 襲い掛かる弾幕を避けながら、ビームサーベルを手に取り、サイコアイズと目と鼻の先まで接敵する。アーミーナイフで応戦し、つばぜり合いとなった。

 

『あはは! 面白いぐらいうまく行くね!』

「何がですか」

『作戦通りうまく行くってのは心地いいってこと!』

 

 作戦通り? 今はサイコアイズが追いつめられている状態だ。

 タッグフォースなら片方がやられればもう片方をやるにはそう難しくない。

 なのに彼女の余裕はいったい何? まるで、そう仕向けたかのようにわたしが動いているみたいに……。

 

『個々の性能は悪くない。けど、絶対的な1であるアリサにサポートを付けたらどうなると思う?』

「……っ! まさか!」

『バグによる通信障害はアリサにタイマンさせるため。そしてバラまいたサイコフレームはアリサのチカラを増幅させる!』

「ッ!」

 

 感情に応じて膨れ上がったパワーが、ガンプラごとアーミーナイフを切り裂きサイコアイズを再起不能にさせる。だけど、これが意図していることだとしたら。

 

 この戦いが アリサさんのワンマンショー なら!

 

『踊りなよ。あたしのアリサとさぁ!』

 

 爆発が2つ。1つは目の前で。もう1つは山岳部の向こう側から巻き起こった。

 

「サイカさん?!」

 

 パーティ表示の1つ。サイカさんのステータスバーが脱落を意味する赤い色に塗り替わっていた。

 サイカさんが、やられた?

 アリサさんは確か超近接特化型。後方火力支援の2人では懐に入られたら、為すすべなく崩壊する。

 なら。だけど。どっちだ。アリサさんが向かうとしたらしーちゃん、それともルミミさん?

 

 冷静になれ。冷静に。ルミミさんはミサイルの雨が止んだ後、移動しているか?

 しーちゃんなら砲撃ポイントから動くだろうか?

 

 ……否。どちらが厄介かと言えば、多少なりとも経験があるしーちゃんを潰すはずだ。なら、しーちゃんが危ない!

 バーニアを点火して、しーちゃんの狙撃ポイントまで移動する。お願い、生きてて……!



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第23話:真実の海。私は悪い子

 私は不器用だ。

 大抵のことは何でもできる。できるけれど、それ以上は上達しない。

 自分だけのチカラでは、何も成し遂げることができず、何も才能がなく消えていく。

 

 それでどれだけの人を失望させただろう。

 親に、先生に、友だちに。

 

 4年前だってそうだ。私は悪い子だから、やっちゃいけないことに手を染めた。

 だから彼女は私の姿を見て、目を背けた。失望した。

 

 今度こそやり直せる。

 今度こそ、私たちは仲良くやれる。そう思っていたのに。

 

 ――私は、悪い子だ。

 

 ◇

 

「通信障害?! ってことはバグか!」

 

 1つ、また1つと味方の反応が途絶する。

 サイカちゃんなら大丈夫だろう。例えランカー相手でもきっと何とかする。ルミミちゃんは逃げているだろうか。それがいい。生き残るためにはそれがベストなんだから。

 ……きーちゃんは、無事だろうか。

 きーちゃんは私なんかと違って、出来の悪い子じゃない。器用貧乏のその上、万能だ。

 だから私がいなくても、何とかなる。なんとか、なるんだ。

 

「ファング? どうして……あ、そっか」

 

 ファングがコンテナに帰ってくる。そうか普通ファングは目的を見失えば、元あった場所に戻ってくる。つまり私のガンプラのコンテナに。

 ファングは使えずセンサー類はバグによって遮断されている。辺り一帯は山岳地帯。木々が多いから周りも見えない。GNオルトロスで焼き払おうか。懐に入られれば、刈り取られるのは私の方だ。その判断は正しいかもしれない。

 だがそれは1発だけ。1発で狙撃しなければ、マジンガンダムが接近、私に拳を向けるだろう。

 怖い。私なんかの腕で、何もない私なんかにその1発が撃てるかどうか。

 判断に迷っているその時だった。2か所から爆発が起こったのは。

 1つは山の向こう側。もう1つはサイカちゃんの戦闘域。そして気づいた。サイカちゃんが脱落したことについて。

 

「やられた?! あっちは、確かきーちゃんがいた場所?」

 

 どうする。どうする? 撃つ? 撃たない?

 幸いにもサイカちゃんの爆風に乗じて、オルトロスをぶっ放せばある程度のダメージが入るかもしれない。

 けれど、防がれたら。避けられたら。

 私は出来の悪い子だ。そんなことができれば人生はもっと順風満帆だ。

 だったら。どうしたら……。

 

 その時だった。"GNバスターライフル"と"バインダーライフル"が爆発したのは。

 

「きゃあ!!!」

 

 どういうこと?! 武器が勝手に爆発するなんてことあるわけ……。

 いや、ガンダムの作中にはある。それだけの行為ができるトンデモトンチキ兵器が。

 でもどうして、それだけのサイコフレーム、どこから調達したって言うの?!

 

『どうして、サイコシャードが。あなたはそう思ってるっすよね?』

 

 目を開けば、そこにはゴッドガンダムとバルバトスルプスレクスがミキシングされた、マジンが立っていた。

 どういうこと?! いや、よく見たらゴッドガンダムのフィンを展開した光の輪っか。それが細かくサイコフレームに置き換わっている。

 

『カイザーシャード。効果範囲内の遠距離武器をすべて破壊する、自分専用の兵器っすよ』

 

 遠距離武器。そうか。だからGNバスターライフルもバインダーライフルも破壊された。

 残っているのはファングとビームサーベルだけ。いや、ファングも展開すればその隙に爆発されるかもしれない。

 

『でもおかしいっすねぇ。ザクウォーリアならハンドグレネードやら、ビーム機関銃も一緒に爆発されるはずっすのに』

 

 それよりもまずいことがある。そんな兵器があるのなら、このウォー・ツヴァイナーの、正体がバレる!

 それだけは。絶対にそれだけは阻止しなければならない。

 私はビームトマホークに"模倣"させた、ビームサーベルを取り出す。

 やるしかない。

 

『でもそうでなきゃっすよねぇ。やっぱり、ガンプラバトルはこうでなきゃ!』

 

 バルバトス由来の脚力か。速い。けれど対応できないほどじゃない。

 突き出す拳に合わせて、サイドキック。横を通り過ぎた瞬間に切り裂く。

 振り下ろした先にはマジンガンダムの破片の1つが落ちている。そのはずだった。

 

『異常な反応速度。ますますいいっすねぇ!』

 

 足を軸にして、回転。振り下ろしたビームサーベルが空を切り、その隙間を叩きこむようにして横っ腹に鋭い蹴りが襲い掛かる。

 

「っ!」

『……見た目以上に硬いっすねぇ』

 

 あえて受け止めた足を掴み上げて、その足を再起不能にすべく握りつぶそうとする。

 だけど、それすら予想通りだったのか、鋭利に伸びたマジンガンダムのクロー攻撃が左腕の関節部分を襲う。

 あっさりと貫かれ、チカラが抜けたのを確認し、ツヴァイズの胴体を足場に一度距離を取るべく蹴る。

 この攻防だけで、左腕が持っていかれた。

 

『……おかしいっすねぇ。装甲はやたらめったら硬い。反応もそこそこ。だけど関節部分はそれほどでもない。いや、それどころか……』

 

 ――相手をしていて、まったく手ごたえがない。

 

『もっと関節を破壊した時のエフェクトがあっていいはずなのに、それがない。叩き込んだ蹴りも、それほどダメージがないように見える。まるで異質っす』

「……あなたがあんまり強くないって線は?」

『ありえないっすね。これでも数えるのが億劫になるほど組み手をして、この手に壊したガンプラの感覚はいくらでもあるんすよ。でも、あなたからはそれを感じない』

 

 ゾクリ。いや、私の中身を見られているような感覚。

 見据えているのは見た目のハリボテではなく、もっと本質的な、正体。

 

『あなた、何か"使ってる"っすね?』

「っ!」

 

 これ以上。これ以上この人にしゃべらせてはいけない。

 正体がバレる。その前に始末する!

 

 ハイスピードモードに展開したバインダーからGN粒子を全力展開して、一気に距離を詰める。

 

『残念ながらザクウォーリアにそんな速度はないっすよ!』

「私のは特別製なんですよ!」

 

 斬撃は遠く及ばない。身を横にして最低限の動きでかわしたマジンガンダムは左手でビームサーベルを持つ手首を持つともう一つの手で肩の根元を掴む。

 

『やみくもな攻撃は逆効果っすよ。関節が弱いなら、こんなこともできるんすから!』

 

 内側のガンダムフレームが光ったかと思えば、手首と肩の根元が両断される。いや、引きちぎられた?!

 このガンプラ、どこまでもバケモノじみている。

 続く衝撃は腹部。蹴り飛ばされた私とガンプラは地面にこすりつける。

 

『この感覚。……噂には聞いたことがある』

「やめて」

『まるで霧とやっているような感覚だ。だけどダメージを与え続けていればきっとその"変わり身"は消えると思っていた。その通りだったっすね』

 

「しーちゃん!」

 

 あぁ、スローネドライの効果が切れていく。GN粒子のフェイクが解けていく。

 どうして、このタイミングでしーちゃんって、呼ぶ声が聞こえてしまったのだろう。私に対しての罰なの?

 私の正体が。本当がバレてしまう、この時なの?

 

「……え?」

 

 ザクウォーリアの装甲が、文字通り解けていく。

 足も、胸も。頭も。溶けていった先に何が残っているだろうか。

 分かっている。それは私の罪と罰。本当の自分を隠すための、仮初がなくなっていく。

 

 海のように真っ青な翼に、Vの字アンテナに、体躯。

 その全てが何を彷彿とさせるか。きーちゃんなら絶対に分かる。

 

 そのアイズガンダムが何を語っているのか。それが彼女には分かる。

 

「……おーちゃん?」

 

 ◇

 

『どうして、おーちゃん?』

『…………私、やったよ。頑張りましたよ!』

 

 焼きつく戦場。燃えたぎる炎。尻餅をつくわたしのエイノンと禍々しく黒いオーラに包まれた海のような真っ青なおーちゃんのツヴァイズガンダムの目がこちらを向く。

 

『やったんです……! 私、倒せなかった敵を倒せたんです! どう? 認めてくれますよね。ね?』

『どうして、そんな……』

『過程なんてどうだっていいんだ……。私は勝った! 私はちゃんと役に立てたんですよ!』

『どうして、ブレイクデカールを……?!』

 

 ◇

 

「おーちゃん、どういうことなの?! どうして!!」

 

 いつの間にか声を荒げていた。

 どうして、なんで。あの時のツヴァイズガンダムがここにいるの?

 そうだ、ウォー・ツヴァイナーは?! どこに! まだ撃墜判定は下ってない! だって、おーちゃんがこんなところにいるわけがない。おーちゃんが、しーちゃんだなんてこと……。

 

「……ごめんね」

「ご、めんじゃ、ないよ。なんで?!」

 

 動揺していた。

 もう混乱してまともな言葉が紡げない。

 しーちゃんが、シーハートがオーシャンハートで、おーちゃんがウォー・ツヴァイナーで。

 

『なるほどっすね。どおりで手ごたえがないわけっす』

 

 空気を読まない。そんな幼い声が1つ。

 それまでウォー・ツヴァイナーを圧倒していたマジンガンダム。アリサであった。

 

『ブレイクデカール。4年前の異物が、まさかこんなところで生きてるだなんて思わないじゃないっすかっ!』

「しーちゃんは関係ない! 戦いたいなら――」

『関係ないっすよ。自分は強さだけを求めているっす。それが例え善でも悪でも。それがチカラなら自分は構わないッ!』

「しーちゃん!!!」

 

 焦り。それはもはや機体を動かすこともままならないほどの恐怖だ。

 アリサに、マジンガンダムに対する?

 違う。しーちゃんが、探していたはずの相手で。今もブレイクデカールを使っていることに対して。

 

「……《ブレイクブースト・アイズ》」

 

 禍々しく、大地を震わせる。いや、GBNを震わせる炎がツヴァイズガンダムに宿る。

 軋み始めるのは世界でも、機体でもなく、紛れもなくその絆であった。



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第24話:沈む海。ラストワンは止まれない

 ――ブレイクデカール。

 

 それは4年前に流行したチートツールの1つである。

 GBN内のデータを強引にクラッキングして、自分の都合のいいガンプラへと書き換えることができる夢のようなツール。

 その特性であるデータに残らない、という『足がつかない』点も含めて、初心者や悪人たちに広く使われていた。

 そして使用者は『マスダイバー』と蔑まれ、屈辱と後悔と共に、英雄の活躍によってGBNの闇に消えていったはずだった。

 

 それが今。わたしを引退に追いやったブレイクデカールが。

 おーちゃんが使っていたそれが、なんで目の前にあるの……?!

 

 ツヴァイズガンダムのなくなった両肩から赤い粒子のようなものが腕のようにまとわりつくと、元々そこにあったものと同じ腕が生えてきた。

 ブレイクデカールによる、ブーストスキルの1つ。その自己再生だ。

 

『噂には聞いていたっすけど、まさか本当に壊しても再生するなんて』

 

 あまりにも幼く。それでいて強さだけを求めた芯のある声にハッと気づく。

 そうだ。今、しーちゃんを止められるのはわたししかいない。こんな不毛でGBNにも負荷がかかるような真似、わたしが止めなくちゃ。

 ノチウブースターを最大出力で点火して、ビームサーベルを引き抜く。

 だが、その全力の特攻もありえない速度で懐に入ってきたマジンガンダムによって防がれてしまった。

 ミゾウチを強く押し出されたわたしは攻撃による衝撃と共に戦闘エリアからはじき出されてしまう。

 

「どうして?!」

『自分は"アレ"とやりたいんすよ。邪魔しないでくれるっすか?』

「GBNが壊れてもいいんですか?!」

『それはあなたの建前っすよね?』

 

 心臓を釣り針で抉られるような痛みが、言葉が突き刺さる。

 建前? そんなことない。だって、ブレイクデカールは悪いもので、それを使っているしーちゃんも……。いや、しーちゃんは悪い子じゃない。騙されて、仕方なく使っているんだ。だって、そうでもなきゃあんなインチキをしーちゃんがするはずない。

 

 だが、それとは裏腹に目の前のツヴァイズガンダムは自分の剣ともいえるビームサーベルを引き抜く。

 

『お、やる気っすね』

「しーちゃん!!」

「ごめん。私は。しーちゃんは悪い子だから」

 

 バインダーのブーストを点火して、マジンガンダムと接敵。

 アリサもこれに対応して、ビームソードを取り出して剣戟を行う。

 ブレイクブーストはその心を反映すると後ほどの研究で明かされている。同時期に現れたELダイバーが心を受け取るのであれば、ブレイクデカールは心を発散させる。

 負の感情はそれだけ強力なブレイクブーストを呼ぶ。サイカさんを一方的に倒したマジンガンダムが出力負けしているこの状況を、わたしはなんと言えばいいの?

 

『単純なパワーでは勝てない。これならどうっすか!』

 

 両肩部に搭載されているマシンキャノンが炸裂を始める。

 バルカンよりも威力の高いキャノン砲。当たれば装甲の薄いガンプラはすぐさまハチの巣になってしまうレベル。相手がマスダイバーでなければ。

 

「そんなの無駄だよ」

『装甲はやっぱり高い。というかむしろさっきよりも堅くなってるっすねぇ!』

「押しつぶす!」

 

 出力を上げたツヴァイズガンダムにマジンガンダムの立っている地面がへこむ。

 それだけのチカラをかけられているにも関わらず、マジンガンダムの関節が壊れないことにも驚きだが、それ以上に考えていたのはしーちゃんのブレイクデカールのこと。

 ブレイクデカールは第一次有志連合戦後にアップデートが行われ、対策が講じられたはず。あの頃と同じブレイクブーストが使えるはずがない。

 

『力だけじゃ、勝てないっすよ!』

 

 水のようにビームソードを地面に受け流し、ツヴァイズガンダムのビームサーベルが地面を壊す。寄りかかったチカラがバランスを崩したと思えば、マジンガンダムの追撃が始まる。

 身体を回転させて、右足でツヴァイズの胴体を捉えると、そのまま空中に打ちあがる。いつの間にか捨てていたビームソードの代わりに、バルバトス由来の鋭い手刀がツヴァイズガンダムに連続してダメージを与えていく。

 まさにラッシュ攻撃。完全に囚われたしーちゃんは何も言わずにその攻撃を受ける。

 そして最後。両手を組み合わせて、両手の拳ハンマーとしたマジンガンダムが裁きを下す。

 通常のガンプラであれば、一連のラッシュだけでゲームアウトせざるを得ないほどの威力。だがブレイクブーストを得た彼女のガンプラはそれすら耐える。

 地面にたたきつけた土煙から光るのはビームの光。ビームサーベルがマジンガンダムの脚部を狙うが、それすら易々と避けて、距離を取った。

 

『あれで壊さないとか、自分自信なくすっすねぇ』

「飄々としてるのも、今のうち!」

 

 今度はビームサーベルの連続突き。だけどそれは見切ったと言わんばかりに、一撃目から手首を掴まれて、握るように破壊する。先ほども見た通りの芸当だ。破壊した手から零れ落ちるビームサーベルを受け取れば、今度はツヴァイズガンダムの肩を両断する。今度は容易い。バターを斬るように腕が落ちていった。

 

『なるほど。ブレイクデカール機の武器なら同じく強化されている。製作者もそこまで細かく対応はしてないんすね』

 

 粒子が腕を作り上げる。このままでは不毛だが、ブレイクデカールにも弱点はある。

 

『最強の矛と盾の話みたいっすね。このままこのサーベルとそっちの装甲。どっちが勝つか、試してみるっすか?』

 

 どうすればいいの。このままだとしーちゃんが負ける。

 いや、それどころかもうわたしの前に現れてくれるかどうか。

 

『……ち、ん! キユリちゃん!』

「っ! ルミミさん?! 通信回復したんですか?!」

『わかんない。でもなんか気持ち悪い感じがした後に治ったから』

「……ブレイクデカールの影響」

 

 ブレイクデカールにはGBNをバグらせるチカラがある。バグによってバラまいた通信障害バグを跳ね除けたってことか。

 不幸中の幸いというべきだろう。多少は頭が回るようになった思考で何をすればいいか考える。

 ガンプラは、動かない。先ほどの衝撃と《ナイトロスター・ドライブ》の影響が関節部分に来てるんだ。

 通信は回復した。ルミミさんの遠距離支援? いや、しーちゃんを巻き込んじゃう。

 あとは……。あとは……!

 

 ビームサーベルをもう1本手にしたツヴァイズガンダムと、マジンガンダムがにらみ合う。

 まるで決闘だ。逃げることが許されない……。そっか!

 

『行くっすよ!』

「うぉおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

 

 メニュー画面からウィンドウを展開して、降参を選択。もちろん、YES!

 

【BATTLE END】

【WINNER AtoZ】

 

『……ま、そうなるっすよね』

「どうして……?」

 

 刃が交差するよりも先に、わたしは降参を選択した。

 ブレイクデカールはその性質上、機体が壊されるのと同時にデカールの内部データが破壊される。

 負けても、自己申告でなければブレイクデカールの正体がつかめなかった原因がこれだった。チームの勝利なんて関係ない。今はただ、しーちゃんのことを問いただしたかった。

 

 ◇

 

「ありがとうございますっす。まさかあんな結果になるとは思わなかったっすけど」

「すみません、ご迷惑をおかけして」

 

 わたしたちはAtoZの2人も含めて、自分たちの狭いフォースネストにやってきた。

 誰にもこのことを聞かれたくなかったから。

 

「そーだよ! アリサと戦ってるのにチートなんか使っちゃって!」

「っ!」

 

 しーちゃんは隅っこの方でわたしたちとは関わらないように距離を置いている。

 吠えるザフカさんを制止するように手で抑えると、アリサさんは口にする。

 

「確かに残念だったっすけど。自分的にはブレイクデカールのチカラを知れて何よりっす」

「……とことん強さに貪欲なのですね、アリサ殿は」

「サムライオーガも面白い相手だったっすけどね。初見だったから行けたものの、次は対峙したくないっすね」

「それは褒め言葉として受け取っておきます」

 

 それからしばらくの沈黙。言葉を割くように、アリサさんが告げる。

 

「これ、フレンドコードっす」

「え?」

「自分はあの場で飛び出したキユリさんにも敬意を表してるんすよ。あの時は、ああしたかったから邪魔したんすけど」

 

 照れ照れと、首元を抑える彼女は年相応に見えた。多分学生さんなのだろう。

 その様子に、後ろのピエロガールも悶えている。

 

「あー、アリサかーわーいーいー! おいあんた!」

「は、はい……」

 

 ちょっと怒ってます? 仮面の半分から見えるこちらを貫く瞳に恐れおののく。

 半歩下がったわたしを追いつめるように、手を取って一言。

 

「今度は負けんから」

「は、はい……」

「行くっすよ、ザフカさん」

「ういー! そんじゃまた今度ー」

 

 そう言って2人はフォースネストを出ていった。残ったのは、アストロ・ブルーのメンバーだけだった。

 沈黙が横たわるフォースネスト。主張するのはわたしの何故。

 

「しーちゃんが、おーちゃんだったの?」

 

 彼女はこくりと首を縦に振るだけ。それだけだった。

 

「しーちゃん。わたし、会いたかったんだよ? ずっと。この4年間ずっと……」

「……私は、会いたくなかった」

「しーちゃん! キユリちゃんがこう言ってるのに……!」

「ルミミ殿、ちょっと外に出ましょうか」

「けど!」

「貴殿も体調が悪いはずです。快調にことを進めるにはまずはご飯かと」

「……キユリちゃん」

 

 わたしは静かにうなずいた。

 それでルミミさんは納得したのか、フォースネストから2人が出ていく。

 わたしと、シーハート。いえ、OCだけがここに残る。

 何を口にしていいか分からない。4年前の"何故"を聞きにこのGBNにやってきたのに。その"何故"が口にできない。どうしていいか、分からない。

 迷っていると、しーちゃんは言葉を口にする。

 

「明日の17時。インコ模型店で待ってて」

「しーちゃん……? どうしてそこを」

「待ってて」

 

 それで彼女はログアウトする。

 たった1人のフォースネストは、狭いはずなのに。広くて、息苦しいものだった。



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第25話:過去の航海。絶望は水底へ

 彼女は、シーハートは『インコ模型店』に来てほしいと言っていた。

 何故その場所を知っているのか。

 何故わたしにそれを伝えたのか。

 

 その答えが、目の前にあった。

 

「……おーちゃん、なの?」

「はい。ずっと、ミユリさんがきーちゃんということは知ってました」

 

 ため息が出るほど美しいストレートのツインテールが、蛍光灯に反射して艶やかに光る。

 焦げた赤色のブレザーにチェック柄の入ったスカート。OCにも、シーハートにも似ているその目元。そうだ、よく見ればちゃんとヒントは残っていた。なのに、わたしは……。

 

「どうしてなんですか、コウミさん」

「分かりますよね、この意味が」

 

 目の前に置かれた海のように真っ青なアイズガンダム。その名をツヴァイズガンダムがコウミさんの手からわたしに手渡されたのだ。

 その意味が、自分のガンプラを誰かにあげるということは、つまり……。

 

「いりません」

「受け取ってください」

「いりませんよ! そんなことできるわけないじゃないですか!!」

 

 視界の端でわたしたちの様子を覗くクギアさんとルミミさんが、不安そうにこちらを見ているのが分かる。

 分かっている。わたしらしくないってことぐらい。

 でもこんなのはあんまりすぎる。

 

「受け取ってください。私は悪い子なので」

「なんですか、悪い子って」

「出来が悪い子。都合が悪い子。それから頭が悪い子」

「違います。違いますよ! しーちゃんは……。おーちゃんはそんなこと言いません」

 

 だからそんな悲しそうな顔しないでください。今にも泣きそうで、端から崩れていきそうな顔をしないでください。わたしは、そんなあなたを見たいわけじゃない。もっと楽しく笑って、嬉しくなって、それで……。

 

「では」

「コウミさん!!」

「もう、会うことはないと思います。ですから……」

 

 ――さようなら。

 

 そんなこと言わないでよ。言わないでくださいよ。

 わたしが悪かったですから。わたしが、ランキング戦なんかやらなければ。

 

「そっか、しーちゃんの態度って……」

 

 AtoZと戦う前、どうしてあんなにも震えていたのか、恐怖していたのか。不安だったのか。その理由がようやくわかった。

 

「……ミユリちゃん」

「訳、わかりませんよね、ルミミさんは」

 

 0歳のルミミさんに見せるのは酷すぎる。だからわたしはこれで終わりにするしかない。わたしが親友と別れて、それぞれの道を歩んで。それで……。それで……っ!

 

「泣かないでよ。ウチだって、悲しくなるじゃん」

 

 震えそうな声に思い知らされた。

 ぺたんとレジの上で座る小さい子供の姿に。カタカタと震える身体からは、どこまでも悲しみだけが聞こえて。

 

「今日は店じまいだ」

「クギアさん……」

「話してやりな。ミユリちゃんもルミミちゃんも、整理の時間は必要だろう?」

 

 ELダイバーは、モビルドールは涙を流さない。でもここがGBNなら、絶対に泣いている。そんな顔だ。

 話すしかないみたいだ、わたしの。ううん、わたしたちの過去を。

 

 ◇

 

「いいですよね、サイカさん」

「えぇ。もっとも、良い話とは思えませんが」

 

 それからGBNにログインした。

 どうしても話したいことがあると、サイカさんにも話して。

 彼女のことにも関わることだ。だから3人で話すべきだとわたしは判断した。

 

「……どこから話したらいいでしょうか」

「しーちゃんは、どうしてマスダイバーになったの?」

 

 その答えを、わたしは持ち合わせていない。

 ただ"なった"という結果だけが残っているのが今だ。

 けど、そうなった原因と思われることはあった。サイカさんと目を合わせて、アイコンタクトを受け取る。

 

「あれは、4年前の出来事です」

 

 ◇

 

 わたしとしーちゃん。おーちゃんが一緒にGBNを初めて数ヶ月が経過したときのことです。

 その頃から交流があったサイカさんともう1人、ロトリアさんというダイバーと一緒にフォースを立てた頃でした。

 

『サイカさん、やっぱり強いですね』

『えぇ。これでもリアルでは剣術を教えてますから』

『すごいですね、きーちゃん!』

 

 最年少ということを除けば、おーちゃんはフォース内のムードメーカーでした。

 わたしもサイカさんも、ロトリアさんも彼女のことを妹のように扱って可愛がっていたんです。

 その頃にはわたしとおーちゃんも初心者を脱却して、自分のガンプラを持っていました。

 わたしはガンダムアシウン・エイノン。そしておーちゃんはツヴァイズガンダムを。

 

『勝った……。勝ったよ! あたしらやったよ!!』

『さすがきーちゃんですね』

『いやいや、それを言うならおーちゃんもだよ!』

『ここは全員の勝利ということで。しょうへいに』

『相変わらず何言ってるか分かんないですよ、サイカさん!』

 

 フォース戦だって積極的にプレイしていましたし、割と勝利を収めていました。

 サイカさんの名前が売れ始めたのもこの辺りでしたし、わたしも巷では少しは有名なダイバーだったのを覚えています。

 だからでしょうか、おーちゃんが次第に笑顔を消えていったのは。

 

 わたしと一緒に始めたのだから、上達するのだって同じぐらい。

 そんなイメージが強かったんだと思います。でもわたしとおーちゃんの間には、努力だけで埋めるにはあまりにも深い溝がありました。

 自覚はしています、わたしはなんでもできるダイバーであることを。だから狙撃と格闘戦の両方ができました。出来てしまいました。いわゆる器用貧乏なのではなく、万能といったところなんだと思います。

 

『おーちゃん、そこは右に旋回して、サイドキックでビームサーベルを振り抜くんだよ!』

『分かってる、けどっ!』

 

 今なら分かります。おーちゃんにはガンプラバトルの才能がなかった。

 ガンプラの出来もわたしの方が上であれば、バトルの腕も上。そんな相手に劣等感を抱かない方がどうにかしています。

 

 次第におーちゃんが原因で負ける試合が多くなりました。

 ロトリアさんも必死にフォローはしましたが、おーちゃんは追い詰められていって……。

 

『放っといてください。私はしばらく1人で修行します』

『だからわたしも一緒に――』

『放っといてくださいって、言いませんでしたか?』

 

 その時の顔は覚えています。苦悩と悲壮に満ちた今に崩れ落ちてしまいそうな表情でした。

 ……嫌な予感は、していました。

 

『またマスダイバー事件ですか』

『みたいだね、今度はベアッガイフェスだなんて』

 

 おーちゃんがフォースネストに顔を出さなくなってからしばらくして、マスダイバーの、ブレイクデカールの事件が浮かび上がってきます。

 チャンプやマギーさんがブレイクデカールの情報を求めていました。怖いなーなんて思いながら、心のどこかではわたしとは無関係な出来事なんだと思っていたんです。

 でも、嫌な予感というのは的中するんです。

 

『おーちゃん! いったいどこに行ってたの?!』

『そんなことはいいから、ちょっとミッションに行かないですか?』

 

 それは願ってもないチャンスでした。気まずくなった空気を解決できると、仲直りできるってずっと思ってました。

 ウキウキワクワク。そんな感情をこぼしながら、エイノンに乗ってA級ミッションに行きます。おーちゃん、こんなに強くなったんだ! わたしの教え方がイケなかったのかな。ノーテンキで考えながら、それが間違いであることを改めます。

 

『アハハ! 何だ簡単じゃないですか! 最初からこうすればよかった! みんながしているみたいに、ブレイクデカールを使って強くなればよかったんですよ!』

 

 それは地獄でした。

 初撃のアルアヴァロンキャノンで周囲の敵を殲滅。それでも燃費を失わなかったツヴァイズガンダムが黒く燃えたぎっていきます。

 バスターライフルで焼き払って、透明なファングで敵を後ろから貫いて。それからバインダーライフルに、ビームサーベルに。それはもうやりたい放題でした。

 

 焼きつく戦場。燃えたぎる炎。わたしは、エイノンは思わず腰を抜かしました。

 わたしと一緒に楽しんできたはずの、わたしの。わたしの親友が、違法なブレイクデカールに手を出してしまったことを。

 他の誰でもない。わたしと一緒に初めて、フォースのみんなと仲良くやって。それで――。

 

『どうして、おーちゃん?』

『…………私、やったよ。頑張りましたよ!』

 

 頑張ってなんかいない。それはチートツールで。人様に迷惑を掛けるもので。

 禍々しく燃えたぎる黒いオーラは海のように真っ青なおーちゃんのツヴァイズガンダムの瞳を赤く灯す。

 恐怖より、不安より。どこまでも悲しみが深かった。

 

『やったんです……! 私、倒せなかった敵を倒せたんです! どう? 認めてくれますよね。ね?』

『どうして、そんな……』

 

 おーちゃんは笑う。不器用に。

 

『過程なんてどうだっていいんだ……。私は勝った! 私はちゃんと役に立てたんですよ!』

『どうして、ブレイクデカールを……?!』

 

 そんなこと、本能ではわかっているはずなのに。

 目の前の出来事がどうしても飲み込めない。真実を受け入れられない。

 

 ――わたしの親友が、マスダイバーになった。だなんてこと。

 

『すごいでしょ、A級ミッションを1人で! 1人でだよ! 最初からこうすればよかったんだ。こうすればフォースのみんなに迷惑をかけずに済む!』

 

 そうじゃない。そんなことをしてほしいわけじゃない。

 わたしはただ、あなたと一緒に遊びたかっただけなのに。

 

『……なんで、泣いてるんですか?』

『わた、し。は……っ!』

 

 どこまでも。どこまでも。どこまでも。

 わたしは彼女を傷つけていたのだろうか。わたしにはおーちゃんが分からない。そこまでのことをしなくても、わたしは絶対見捨てなかったのに。なのに……っ!

 

 静かにエイノンの首を下ろす。

 彼女が燃やすオーラに、ブレイクデカールのチカラに溺れる親友の姿に、

 

 ――わたしは思わず目を背けた。



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第26話:星の真実。ご注文は決闘で

「その後はわたしもGBNをやめて、フォースも空中分解。おーちゃんも、多分やめました」

 

 情けない話だ。あの時おーちゃんにかけてあげる言葉があったはずなんだ。共感したり、叱ったり。でもそんなことはできなかった。わたしとおーちゃんの間にあったのは拒絶と後悔。

 せめて、わたしが真っ直ぐ目を向けていればよかったのかもしれない。

 でも、事実はあまりの惨状に目を背けることだけだった。

 

「ロトリア殿も恐らくやめました。少なくともわたしたち2人のフレンド欄からは消えていましたから」

 

 おーちゃんのブレイクデカールは文字通りわたしたちのフォースを破壊した。

 それはどうしようもない事実で。同時に悪い子と言われてもおかしくはない出来事だった。

 

「そんなの……! 過去は過去だよ! 今は! ……いまは」

「過去は人に縋ってくるんですよ。どうしようもなく寂しがり屋で、この上なく迷惑」

 

 どうして今もしーちゃんがブレイクデカールを使えているのかは分からない。

 GBNのアップデートでブレイクデカールを含めて、チートツールには厳しくなった。それなのにしーちゃんのツヴァイズが常軌を逸した行為を行えていた。

 そんなどうでもいい事ばかり考えたくなるぐらいには、今の事実に目を向けたくはなかった。

 

「……キユリちゃんは、どうなの?」

「え?」

「キユリちゃんはしーちゃんと仲良くなりたかったんだよね?!」

「それは……」

 

 もう簡単に答えられない。

 わたしだってしーちゃんとはもっと仲良くなりたいって思ってた。フォースのみんなでサマーフェスで水着を着たり、スプリングフェスでお花見をしたり。ウィンターフェスのガンプラスキーとかもやりたい。しーちゃんと、一緒にやりたいことがたくさんあった。あったのに……。

 

「答えられません」

「キユリちゃん!」

 

 ルミミさんに両肩を抑えられる。今にも苦しくて、今にも壊れてしまいそうなほど悲しみに満ちた顔で。

 

「キユリちゃんはいつもしーちゃんを気にかけてた! ウチやサイカちゃんよりもずっと! しーちゃんを知っているのは誰よりもキユリちゃんだけなんだよ?!」

「それで、何ができたって言うんですか」

 

 ふつふつと湧き上がる負の沼。気泡が破裂するたびに怒りや、苦しみが沸き立ってきて。

 

「わたしは一度目を背けた。しーちゃんにはそれだけで十分だったんですよ。わたしなんかよりもブレイクデカールを取った。それでいいじゃないですか」

「よくない! しーちゃんは親友なんじゃないの!? 自分で言ってたじゃん」

「それは、わたしが一方的に思ってただけで」

 

 止まらない。止まれない。

 

「そもそもわたしとしーちゃんは不釣り合いなんですよ。元気でムードメーカーで、とっても愛されキャラクターじゃないですか。わたしなんかと違って」

「なんかとか言わないで!」

 

 どんどん落ちていく。沼に突っ込んだ足が、じわりじわり。太ももを、腰を、胴体を沈めていく。

 おーちゃんはどれだけ苦しんだのだろうか。自分の実力のなさを察して、ブレイクデカールなんかに手を出して。それで褒められると思った矢先に裏切られて。

 しーちゃんはどれだけ苦しんだのだろうか。わたしと再会して、自分の真実を隠し続けて。それでもガンプラバトルへと向かうわたしたちを止められずに、最後はブレイクデカールを使って。

 

 こんなの焼きまわしだ。わたしは、2回も彼女を裏切った。

 ヒントはあったはずなのに、答えまでたどり着けたはずなのに。

 わたしは。わたしは……っ!

 

「しーちゃんは一緒に遊びたかったんだよ!」

「……え?」

 

 ルミミさんがそれまで黒く塗りつぶしていた表情を必死に拭って、芯を見せる。

 

「しーちゃんはキユリちゃんと一緒に遊びたかったの! 分かんないけど、きっと!」

「そんな……。そんな根拠があるんですか?!」

 

 涙が溢れても、鼻声でも、震える唇でもルミミさんは止まらない。

 真っ直ぐわたしを見据えて、しーちゃんを見つめて、こう言うんだ。

 

「再会した時、フレンドになんかならなかったら、こんなことになってなかったんだよ? しーちゃんは自分の意志でキユリちゃんと遊びたいって、思ったんだ!」

「そんな、都合のいい事……」

 

 許されるはずがない。愛されていいはずがない。

 だってわたしはあの時、目を背けたんだ。真っ直ぐ見ずに、おーちゃんを見れずに。

 

「よくていいじゃん! 少なくともウチは思ってる。しーちゃんは今でもキユリちゃんのことが好きなんだって!」

 

 しーちゃんがわたしのことが好きだったから、再会しても一緒に遊んでくれて。

 そしてサイカさんと、ルミミさんと。みんなと一緒にフォースを作って、笑ってくれて。

 都合がいいことは分かっている。勝手なのは分かっている。けれど。わたしは……!

 

「キユリちゃんは、しーちゃんのことが好きなの?」

 

 ――そんなの、決まってる。

 

「好きに決まってるじゃないですか……。4年間ずっと引きずってる相手ですよ。再会できたことは嬉しいですし、何も変わってなくて安心しました」

 

 始まりは偶然だったかもしれない。

 けれど、交流を重ねて、リアルでもたまたま出会っていて。

 サイカさんと再会して、ルミミさんを見つけて。

 

 頑張って倒したミッションも、レイドボスも。それから屋台を見て回って。それから……っ!

 

「足りないですよ、全然! もっとしーちゃんと一緒に遊びたい。もっと仲良くなりたい! だってそれが親友なんですよ?! わたしの、たった1人の親友なんですよ……っ!」

「……キユリちゃん、やっと本音を見せてくれた」

 

 ずっと言いたかった。ずっと言えなかった。けれど口から吐き出して、想いをようやく口にできて胸の奥がスッと晴れたんだ。

 

「こう見えて面倒なリーダーでしたから」

「サイカさん!」

「泣き顔で綺麗な顔が台無きですよ」

「ならだいなきで、大泣き、みたいな?」

「2人とも!」

 

 そうだ。そうだった。

 わたしはしーちゃんと親友だ。親友を泣かせたのなら、ごめんなさいって謝るのが普通だ。

 どうしてそんな簡単なことに気づけなかったんだろう。でもしーちゃんの場合はそれよりもやらなきゃいけないことがある。ごめんなさいを言うのは、わたしだけじゃない。

 

「これからどーするの、キユリちゃん!」

「わたくしたちは貴殿についていきますよ」

 

 決まってる。涙を拭って、決意を手に取る。

 次に泣くときはしーちゃんと仲直りした時だ。だからそのために。

 

「しーちゃんを全力で叱る!」

 

 ◇

 

 と、決心したはいいものの、手元にあるツヴァイズガンダムをどうするか考えなくてはならない。

 自分のガンプラを誰かに渡すということは、それすなわちGBNをやめた。ということと同義だ。

 それにこのブレイクデカールはわたしたちの手に負える代物ではない。だから助力を頼むべきだと思った。

 

「ってことで、俺か」

「ビルドデカールの前身がブレイクデカールだったって噂話を聞いたことがありましたので」

「そりゃご苦労なことで」

 

 黒い目つきの悪いチンピラハロ。ツカサ、とコーイチさんには呼ばれているアンシュさんの元へとやってきていた。

 餅は餅屋。ビルドデカールの出どころであるELバースセンターのアンシュさんなら、きっと何かを知っていると思ったからだ。

 

「微量ながらバグが検出されたってことはこっちでも確認してる。まさかブレイクデカールっつー骨董品が今でも生きてるとは思わなかったが。くくっ、面白れぇ」

「面白くないです」

「俺にとっては初見の逆シャアぐらい面白れぇってことだよ。それで? そのツヴァイズガンダムをどうしたいんだ? ブレイクデカールの回収を手伝ってくれるのか?」

 

 そこが問題だった。わたしにはブレイクデカールをどうすることもできない。

 だから頼みたかったことはここにある。

 

「わたしはこのツヴァイズガンダムと、ブレイクデカールと決着を付けたいと思っています」

「へぇ」

 

 風のうわさで聞いたことがある。

 ブレイクデカールは1度機体が破壊されてしまえば、二度と同じブレイクデカールを使用できなくなることを。

 

「わたしがしーちゃんにツヴァイズガンダムを渡して、決闘します。その間、誰にも邪魔が入らないようにしてほしいんです」

「随分と都合のいい作戦だな」

「自分でもわかってます。でも、こうしないとわたしたちは前に進めないんです。わたしたちを翻弄したブレイクデカールは、自分の手で始末したいんです」

 

 概要はいたってシンプルだ。わたしとしーちゃんがガンプラバトルをして、わたしが勝ってブレイクデカールをこの世からなくす。

 もちろんその時にわたしの気持ちを伝えて、叱って、仲直りする。それが理想だ。

 

「つまり、運営に邪魔をさせず、お前たち自身の手でこの問題を解決したいと」

「そうです」

 

 クックックと不気味なほど愉快そうに笑いながら、チェアを回転させる。

 何がおかしいのだろうか。そう考えていると、ハロの口がにたりと歪む。

 

「俺はこれでもちっとは運営に横槍できる程度の地位にはいる。おめぇが勝たなければいけないという仮定を除けば、十分成し遂げられるだろうな」

「なら!」

「まだ足りねぇな。それじゃあ運営の修正の方が遥かに早ぇ。キユリ、お前は戦争が好きか?」

「え? ……どういうことですか?」

 

 分からねぇなら教えてやるよ。そうハロはつぶやくと、カタカタとキーボードでウィンドウに入力していく。

 

「ダイバーとマスダイバーの間で起こった抗争。第一次有志連合戦を再現する」

「それって」

「ここのダイバーってのはお祭り事が大好物だからな。ちょっと噂を流せばすぐに噛みつく」

「……内容は?」

「イベント『ラストワンを探せ』だ」

 

 でかでかと表示されている企画書を彼は楽しげに嗤いながら、わたしに見せてくる。

 この人、やっぱりヤバい人だ。このイベントなら、確かに運営の注意は引ける。その間にマスダイバー『ラストワン』と戦う。なんて都合のいいシナリオなんだろう。

 何か企んでいる。そんな雰囲気さえ漂わせていなければね。

 

 ◇

 

「腕が鳴るぜ……っ!」

「ツカサ、またろくでもない事企んでるでしょ」

「いいや、今回は慈善事業だ。ブレイクデカールはビルドデカールの前身。どこまでいってもELダイバーの進化にはブレイクデカールの技術やデータが必要になる」

「それでシーハートのブレイクデカール。いや、今は『ラストワン』を狙ってるってわけか」

 

 ブレイクデカールが複数あるなら話は変わる。だが、たった1枚だけでは微量のバグしか引き起こせない。

 何よりあの運営さまが困る顔が見れるんだ、これほど心沸き立つことはない。

 

「起動しないはずのブレイクデカール最後の1枚、どんな改悪をしてるか。楽しみにしてるぜ、ムトウコーポレーションさんよぉ」

 

 ◇

 

【急募】ラストワンの情報【求む】

 

1:以下名無しのダイバーがお送りします。

頼む! ラストワンについて教えてくれ!



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第27話:再星。キユリのリターンマッチ

「なるほど。それでわたしたちね」

「お願いします」

 

 アストロ・ブルーは今、目的のために分散している。

 ルミミさんはアンシュさんと一緒に掲示板でデマの流布。とにかくIDを書き換えなければならないため、人手がとにかく足りないらしい。

 サイカさんは知り合いのダイバーたちを集めて、デマにそれらしい理由付けをするために行動。自分の仕事ではないとぼやいて吐いたが、仲間のためだ。それは致し方ないと言える。

 

 そしてわたしはと言えば、目の前のエンリさんを説得するためにカフェへとやってきていた。

 

「つまりわたしたちは、あんたの……、いや。シーハートとの正面対決のために片棒をかつげ、と」

「……そういうことになります」

 

 奢った2つのコーヒーカップがカチャン、と鳴く。

 反応は、芳しくない。

 

「状況は分かったわ。シーハートがブレイクデカールを使っていて、2人が笑顔になるために正面対決をしたい。そういうことよね?」

「はい……」

 

 顔つきが鋭い。テーブルに肘をついて、わたしの奥底を見るようにじっとりと見ている。

 思わず目をそらすけれど、そんなんじゃわたしの真意が伝わらない気がして。

 勇気とやる気を込めて、真っ直ぐにエンリさんを見る。

 

「確かにわたしたちのフォースがいれば、お世辞抜きにしてもフィールドをかき乱せるわ。ムスビの火力。フレンのかく乱。それからわたしとユーカリがいれば、大抵のことは対応できる」

 

 コーヒーカップを手にとって、中の黒を飲む。

 エンリさんが悪い人ではないというのは知っている。だけど、いい人でもない。試しているんだわたしを。

 

「教えて。あんたは、シーハートとどんな関係になりたいの?」

「どんな関係って、親友ですけど」

 

 それ以上に答えることはない。だってしーちゃんは親友だし。

 

「あー、分かった分かった。聞いたわたしがバカだった」

 

 ため息がてらもう一度コーヒーを手にする。

 え、なに。わたしなんか言ってしまいましたか?

 それ以上の関係って……。確かに望まないわけではないけれど、しーちゃんは親友以外の何者でもない。だから特別な関係と言われたら……。どうなんだろう。

 

「いて、当然な存在ってことでいいわね?」

「それはもちろん。4年間、ずっと考えていたんです」

 

 わたしが何故しーちゃんがやめた後に、後追いでやめてしまったのか。

 もちろん彼女がブレイクデカールを使っていたのもある。衝撃的な出来事で、わたしのトラウマと言っても過言ではない。

 けれど、それだけじゃない。大切なあの人が、しーちゃんがやめてしまったから。だからわたしはGBNをやめた。

 親しい人がゲームを辞めてしまったら、悲しくなってやめるのは当然だ。

 

「わたしには、しーちゃんがいいって」

 

 わたしは聞きたかった。どうしてブレイクデカールを使ったのか。

 わたしは知りたかった。どうしてそこまでしたかったのか。

 それでも、わたしは遊びたかった。どうしても2人で一緒に。

 

「…………」

「意外でしたか?」

「いえ。シーハートのことを愛しているのねと」

「なっ?!」

 

 違います違います。そう首を振るが、エンリさんは鼻で笑っている。

 な、なんですか。愛してるとかいないとか。そういうのじゃないんですって本当に。

 

「ほら」

 

 1通のメッセージがわたしの通知音を鳴らす。

 なんだろう、流石に今は話し中だし……。

 

「ほらって?」

「メッセージが届いてるでしょ?」

 

 失礼して。通知からメッセージ画面に行けば1通。

 それはわたしにとっての吉報だった。アライアンスの申請。そのメッセージ。

 

「これ……」

「特別に権限を渡されてるのよ。どうするの?」

 

 肘をついていても、今度はニヤリと笑った顔。

 

「お、お願いします!」

 

 思わず礼を言って頭を下げる。

 勢いよく行ってしまって、コーヒーカップが頭を掠めてしまった。

 イケないイケない。

 

「あれ、エンリちゃん? 何やってるの?」

「……この声」

 

 ん? 誰だろう。ちらりと顔を上げてエンリさんの視線の先を見る。

 ピンク色のショートボブに眠そうな目の子。

 それと青髪ストレートの元気ハツラツそうな女の子が、エンリさんに話しかけていた。

 

「げっ、ナツキ……」

「げっ、って何さー! ホント毎回酷いよ。ね、ハル」

「正直わたしでも同じことは思うよ」

「えー、ひどー」

 

 ハルと、ナツキ……。あれ、どっかで聞いたことがあるような。

 こう、個人だか、フォースランキングとかで見たような……。

 

「この子に、キユリにちょっとした作戦に誘われただけよ」

「へぇ……」

 

 2人の目線がこちらを見る。正直、超気まずい。

 

「私はフォース『春夏秋冬』のリーダー、ナツキね! こっちはハル」

「よろしく」

「キユリです……」

 

 こういう陽キャに絡まれるとちょっと気が引けてしまうのは悪い癖だ。

 分かっているけれど、その圧倒的な光に気持ちが臆して、声が小さくなってしまう。

 

「……この子」

「ハル?」

「キユリ、だっけ。1つ聞いてもいい?」

 

 なんだろう。軽くうなずくと、彼女の目がわたしを見る。

 

「GBNは何のためにやってるの?」

 

 何のため? そんな質問を初見でされるとは思っていなかった。

 でもルミミさんとの問答で、もうしっかりと見定めている。

 わたしは、その紅桜のように赤い瞳を見て、口にする。

 

「楽しむためです」

 

 一陣の風が流れた気がした。声にせずとも、目と目が通じ合う感覚。何かがつながった気持ちが不思議だった。

 

「そっか。……エンリ、ちょっと作戦ってやつ、わたしたちも乗っかろうと思うんだけど」

「唐突ね。まぁ、そこの青空バカが参加しないのであれば」

「ひっど。これでもエンリちゃんをボコボコにしたのになー」

「だから嫌なのよ。空から見下すようにして」

「そっちこそ、僻むようにこっち見ちゃってさ!」

 

 何故か口喧嘩が始まってしまった。

 あれ、エンリさんってあんなに生き生きとした表情したっけ。

 

「あっちは2人に任せよ。ほら、アライアンス」

「あ、はい」

「周りが陽キャだと疲れるんだよ。作戦の話、聞かせて」

「ありがとうございます……」

 

 目の前の出来事はいいんだろうか、ハルさんは。

 まぁ、口喧嘩するぐらい丁度いいってことで、いいか。

 

 ◇

 

『これがムトウコーポレーションの実家だ。幸いにもお前の家と近かったな』

 

 その翌日。着々と『ラストワン』の噂を耳にしながら、わたしはと言えばリアルで1軒の豪華な家へとやってきた。

 家は普通だ。だけど、周りから滲み出る高級住宅街の香りがこちらにも伝わってくるのだ。

 本名「ムトウ・コウミ」もまた、お嬢様なのだろう。多分本人はそれを嫌っているレベルの。

 

「本当にインターホン鳴らしていいんだよね?」

 

 思わず口にしてしまう。わたし結構貧乏だし。一人暮らしになってから大学と家とアルバイト先とガンダムベースを行き来する生活だし。結構行き来してるかも。

 ゴクリと、喉を鳴らして覚悟を決める。

 

 ピンポーンと虚しく響く音から、ガチャリとドアが開く音。

 そこには執事服にも似た見た目を着飾った初老の男性が現れた。

 

「……どちら様ですか?」

「え、えっと。わたしは……」

 

 勇気を出せ。わたしはこれを渡すためにここにやってきたんだから。

 タッパーに入ったガンプラと手紙を柵越しに執事さんへ手渡す。

 

「コウミさんの、忘れ物を渡しに来ました!」

「…………。ガンプラ、ですか。しかもこれは……」

「中には手紙が入ってます。絶対にコウミさんに読ませてください! それでは!!」

 

 ダダダッ! と脱兎のごとく逃げていくわたし。

 あぁ、なんて情けない。けれどこれでいい。今、コウミさんに合わせる顔なんてないんだから。

 会うのはGBNの中だけでいい。それも『ラストワン事変』当日だけで。

 

 2月の寒空の下。わたしの頬を刺す冷たい風は確実に明日へと向かって走っているのだと、実感できた。



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第28話:星を巡って。その名は『祈り』

「お嬢様、こちらを」

「……これは」

 

 長年仕えてもらっているコムラから手渡されたのは普通のタッパーだ。どこにでもあるような普通の。

 問題はその中身。緩衝材が丁寧に入ったその中身は嫌になるほど海色の1.5ガンダム、通称ツヴァイズガンダムと1通の古めかしい手紙が入っていた。

 丸っこい手書きの文字で、『コウミさんへ』と書かれたよく知った仲からの手紙。

 

「安全のため中身を確認させていただきましたが、手放した時と同じものでした」

「…………」

 

 きーちゃん、いや。ミユリさんだ。どうやってここの住所を突き止めたのかは分からない。けれどそこにはGBNに戻ってきてほしいという気持ちが籠っているのかもしれない。

 

「言伝を預かっています」

「なんですか?」

「絶対に読んでください、とのことでした」

 

 ミユリさんは何を考えているのだろうか。私はもう戻りたくない。GBNにじゃない。きーちゃんに、サイカさんに、ルミミさんに迷惑をかけたくないから。

 ツヴァイズガンダムが返ってきたということは、戻ってきてほしいという証だと思う。でも、私は……。

 

「お読みになられては?」

「……嫌です」

 

 私に戻る権利はない。

 このブレイクデカールだって、本来使うつもりはなかったんだ。

 これはすべてを壊す。文字通り機体も、絆も。私はノセられるまま、為すがままツヴァイズガンダムで駆けていた。全ては父のムトウコーポレーションのために。

 けれどもうたくさんだ。私は悪い子。この世にいらない子なんだ。

 

「……タクロウ様は、コウミ様の父はGBNの技術をブレイクデカールを介して手に入れてきました。それが悪いことだと私もコウミ様も存じております。そちらのガンプラはいわばその送信機。これがなくてはムトウコーポレーションは成り立っていません」

「だから、私にこれを使えと」

「いえ。全ては、あなたが決めることです」

 

 そうやって投げっぱなしにするから、私は何も決めれないんだ。

 何もかも自分でやっているようで、本当は自分で決められた試しはない。お父さんの言うことを聞いて、お母さんの指示をもらって。それが私という人形なんだから。

 

 ですが。コムラはそう言って1つ言葉を置く。

 

「想われている、というのは存外悪い事ではありませんよ」

 

 どういうこと? そう聞く前にコムラは1つお辞儀をして部屋の奥へと消えていく。

 ばたんと閉じた扉は私がたった1人だということが分かる。この手紙はそれだけ重大なものだと言うのだろうか。

 

 沈黙は私に重たくのしかかる。もはや空気でさえ私にこの手紙を読めと言っているような気がして。

 ダイヤマークの封を開けて、封筒から手紙を取り出す。

 丁寧に折られた手紙を開く。丸っこく書かれた文字が私の目に入ってくる。

 

 ◇

 

 ――コウミさんへ。

 

 お日柄はよいでしょうか? この手紙を読んでいるということは、きっとコウミさんはツヴァイズガンダムを手にしたと言うことになると思います。

 わたしはこの4年間ずっと悩んでいました。マスダイバーに堕ちたコウミさんを止められず、目をそらしたことを。本当はもっとあなたのことを見て、相談に乗らなきゃいけなかったんじゃないかって、ずっと。

 あなたを思う度にずっと心を痛めてきたし、あなたのことを考えるたびに悲しい気持ちにもなりました。

 でも再び出会って、正体を知るまでの間、私はずっと楽しかった。

 この時間がもっと続いてほしいと。この時間が永遠のものになればいいと、そう考えるほどに。

 

 だから○月×日 ◇時にヴァルガに来てください。

 そこで、4年前の過去に決着を付けましょう。

 

 ミユリより

 

 ◇

 

「なにこれ。こんなの果たし状じゃないですか」

 

 私が原因で、4年間ずっとミユリさんは悩み続けてきた。どうしても、きっとどうしようもなく彼女のささくれとして私がいたんだ。

 引きずって引きずって、引きずり続けた結果がしーちゃんという偽りで。

 あれは私がきーちゃんをイメージして作り出した幻影、幻。きーちゃんが暗くなっていたのはびっくりしたけど、それでも変わりない姿に思わず安心したんだ。

 

「私だって楽しかった。ずっと、ずっと続いてほしいって、思ってた」

 

 ツヴァイズガンダムを手放したのは自分への罰のつもりだった。

 これを手放すことで、私がもうそこに戻ることはないって。私のいない場所で、楽しくやってほしいという願いのつもりだったんだ。だから、この結果は予想外のもので。

 

「どうして、そんなに向き合いたがるの?」

 

 私にはない強さ。私がまた持ってないものを、彼女が持っている。

 そこにどうしても悲しくなる。嫉妬を抱いてしまう。憎んでしまう。

 

「ミユリさんは、また私の持ってないものを。才能を持っている」

 

 ちらりと蒼く染まったツヴァイズガンダムを目にする。

 もう、いいか。GBNなんて壊れても。もっと、絆を全て壊して、何もかも終わりにしよう。この子にはその力がある。3段階あるリミッターのすべてを使えば、必ず。

 

「ツヴァイズ、行こう」

 

 想われてる? 違う。私は同情されているんだ。

 可哀想で、悪い子として。

 

 ◇

 

「おかえり、エイノン」

 

 冷静に考えると、わたしのノチウではあのツヴァイズガンダムには勝てない。

 それは一緒に戦っていた私が1番よく分かっているはずだし、実際にブレイクデカールを使っているのを見て確信を得た。

 

 ノチウはわたしの最新作だ。Mk-Ⅱを主体にしたガンプラに愛がないかと言われれば嘘である。

 けれど、彼には限界がある。《ナイトロスター・ドライブ》で薄々感じていたことだ。

 自分の力が毒のように身体を蝕む。だったらより強力なワンオフ機体の方がいい。そう、『ナイトロシステムを前提にしたガンプラ』の方が。

 

「だからごめん、ノチウ。絶対乗ってあげるからね」

 

 情けないガンプラと言われて腹が立ったよね。わたしだって立ったんだもん、当たり前だ。わたしの力不足で……。

 

「その分応援してて。わたしと、新たなエイノンの初陣を」

 

 買ってきたキットを開封して、必要な部分だけ切り取る。

 うん、思ったよりも相性がいい。フィン・ファンネル6基という破格のHi-νのバックパックもいいのだけど、それではわたしが操るだけの力量に及ばない。

 よくも悪くもフィン・ファンネルの数を減らさなければ、わたしが対応できないのだ。

 

「だからってナイトロシステムの原型から持ってこなくてもよかったかな、なんて」

 

 ガンダムデルタカイのバックパックを加工して、装備させる。

 GBNはその機体のミキシングとプラグインによって特殊システムが変わる。

 例えば太陽炉を装備すればトランザムを、フリーダムガンダムの胸部を身につければマルチロックオンができるようになったりとか。

 その他取り入れたい要素があればGBN内のプラグインと呼ばれる機能で補うことができる。

 

 要するに今、デルタカイのバックパックを身に着けたことで、必殺技に頼ることなくナイトロシステムを使用することができるわけだ。

 ファンネルはその瞬間しか使えないけれど、上手いこといけば半永久的にナイトロシステムを使うことができる。GBNだからこそできる仕様によって。

 

 その他の箇所もビックリドッキリメカは仕掛けておく。

 元々の原型であるガンダムアシウン・エイノンとは程遠いかもしれない。けれど核と呼べるZの鼓動があれば、わたしは何度でもこういう。

 彼女は、ガンダムアシウン・エイノンだと。

 

『きーちゃん、このアシウン・エイノンってどういう意味なの?』

 

 昔、しーちゃんがそんな事を言ってきたっけ。

 その時も答えた気がする。アシウンは青い炎の造語。そして、エイノンは……。

 

「アイヌ語で『祈り』。必ず勝てるようにっていう、神に捧げる、祈り」

 

 この世界に神がいるのだとしたら、それは驕りだ。

 なら何故神は平等な世界をもたらさなかったのか。しーちゃんに、コウミさんにあんな理不尽を強いてしまったのか。

 だから神はいない。わたしが祈るのは、たった1人。

 

「しーちゃんを、絶対に説得する」

 

 そして一緒に遊ぶんだ。祈りはたったそれだけでいい。

 だって、いま必要なのはそれだけだから。

 

 時間は残り少ない。わたしはエイノンの完成度を上げるべく、更に手を加えるのだった。



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第29話:春の海。その慟哭が鳴り響く

3章が終わったぐらいで、設定公開したい所存


「なに、これ……」

 

 指定されたディメンション、ヴァルガへとログインした私を待ち受けていたのは無数の殺戮者であった。

 

 ハードコアディメンション:ヴァルガ。

 PK上等、着地狩り上等、不意打ち上等。初心者狩りだってなんでもござれ。

 いろんな非道悪行を窯の中で煮込んでボーボーに炎上させたGBNチンパンジーたちのラストエデン。世紀末GBNだの、GBN幼稚園だの、動物園だの。とにかく悪名高いディメンションは、破壊と殺戮、それから自分のガンプラの試運転などダイバーたちが腕試しの場、というのは表向き。

 もちろん表には裏がある。運営のゴミ捨て場でもある。負荷実験などもここで行われているらしいと言う噂すら聞いたことがある。ビームやミサイルの豪雨、声を荒げて突撃してくる蛮族たちを見たら、まぁそうなのかも。

 

 もちろん私、シーハートはヴァルガなんてところに来たことがない。

 ブレイクデカールを使う以外は、一般的なダイバーなのだ。大した腕もない、を付け加えるのを忘れていた。

 だからこの惨状が、ある意味では新鮮だった。

 

 バインダーをディフェンスモードに対応させていたおかげで、着地狩りの一撃を怪しまれずに受けることができた。これも前情報のおかげだ。

 

「パンターさんさん、確かに1度撃ったら追ってこない」

 

 ヴァルガ迷ダイバー図鑑の掲示板に載っているダイバーは予め予習済みだ。

 ビームの豪雨が飛んでこなければ。そう思っていた矢先に飛んでくるのがヴァルガである。

 

 数は……。数は、76本?!

 もはや神の天罰だ。元より荒廃していた岩肌が76連装ビームによって焼き払われる。

 文字通り、溶けている。赤熱しすぎてどろどろと。どんな火力なんだ。周りにいたダイバーがマグマに溶けて沈んでいった。

 

「きーちゃん、思ったよりも酷いところに呼び出しましたね……」

 

 しーちゃんとしての口調は捨てた。

 今の私はマスダイバーシーハート、それ以上でも以下でもないのだ。

 

 バインダーをフライトモードに移行させ、目的地へと移動する。

 地上では土臭い地上戦や、硝煙匂う爆発などが起こっている。本当にとんでもないところだ。どこもかしこも戦争したい人しかいなくて、嫌になる。負けるのが怖くないのだろうか。天才がいるのが悔しくないのだろうか。

 私は時々分からなくなる。上を見ても下を見てもライバルしかいない。そんな相手をずっと見続けることはストレスだ。だから私は逃げた。ブレイクデカールに、チートに。

 

 頭部のVアンテナが熱源を検知する。あの桜色の粒子。確実に力を溜めこんだ暴力。解き放てば必ずここを焦土に変える。そのレベルの粒子量だ。

 すぐさまバインダーをハイスピードモードにし、脱出を試みようとするが、それに待ったをかけるべく、戦闘機のようなMAが横を踊る。

 

『へーい! 俺と踊ってかない?』

『いや俺と踊ろう』

『俺たちとシャルウィダンス?』

 

 暢気なものだ。殺戮の波動が見えないのか彼らは。

 だけどガンプラは見事なもの。確かガンダムXのガディールだろう。それぞれ戦闘機のような色合いに灰色や迷彩色。それから真っ黒に塗り替わっていた。

 そもそもガディールのガンプラはないはずだ。フルスクラッチか、ビルダーか。どちらにせよ完成度は高い。

 

「あいにく、予定があるんです。失礼いたします」

『おいおいおい』

『俺たちと踊ろうってのか?』

『そう簡単に逃げれると思うなよ!』

 

 こんなところでGN粒子を使いたくないのに。

 だけど、相手は空戦専用MA。なら全力で挑まなきゃガディールを巻けない。

 

 グリップを握って、大きく展開したバインダーを後ろに向けて、全速力で飛行を開始する。

 向こうも同じく、ブーストを利かせて空中にコントレイルを敷いている。

 空中を彩るビームライフルの光が戦場でダンスする。速い。間違いなく、ツヴァイズの素の速度よりも、確実に。

 

『そんな速度じゃ』

『俺たちは』

『逃げ切れないぜ!』

 

 なら。リアスカートのファングコンテナを起動。そのまま粒子を点火する。

 

「行ってください、ファング!」

『へぇー!』

『おもしれ―じゃん』

『社交界は盛り上がるぜ!』

 

 ファングが戦闘機を追う。白い煙と、赤い粒子が入り混じる。まさにサーカスだ。踊って踊らされて、劇の演目。だけど、ピエロは私。明らかにファングが踊らされている。ハイスピードモード+ファングの操作はどうやったって不備が出る。マルチタスクが苦手なうえに、このファングの数じゃ頼りにならないのだ。3対8では、追いつめきれない。

 

『いいねいいねいいね!』

『空戦はこうでなきゃなぁ!』

『だけど、へばってねぇか?!』

 

 フライトモードに移行すれば、安定飛行だ、幾分かファングに思考を割ける。

 けれど、スピードのリーチは向こうにある。緩めた瞬間に一方的にやられるのではないだろうか。怖い。スピードを落とすのが……。

 

 ちらりとモニターに入った桜色の粒子砲が目に映る。そうか。あっちに誘導すればいい。イチかバチかの賭け。だけど、約束は守りたい。

 

『どこへ行く?』

『何を考えていやがる?!』

『俺たちと踊れー!』

 

 ガディールのビームの雨をくぐりながら、私は全速力で桜色の粒子砲の前を通る。

 その瞬間だ。一度収縮したと思えば、細長い糸が射線を通る。違う、あれは……!

 

『GN直列ハイパーメガカノン、ファイア!』

 

 糸が太くなっていく。膨大に膨れ上がって、エネルギーの暴力となってヴァルガの暗雲を切り裂く。これも神の雷だ。当たれば確実に死ぬ。裁きが下ったダイバーはすべからく存在を消滅させていく。

 例外はたった1人。私だけで、後ろのガディール3機は光に呑まれてデータの破片へと消えていった。

 

「私を助けた? いや、そんなこと」

 

 桜色のサバーニャがこちらにメインカメラを向ける。

 ひょっとして、手にしているGNソードVでこちらに斬りかかろうと……!

 

 …………。いくら待ってもこちらには飛んでこない。

 いつの間にか他所に行ったガンプラを見ながら、不可解さを感じた。

 

「見逃された」

 

 私が弱いから? 分からない。分からないけれど、これは好機ってことにする。

 フライトモードに展開した翼で、私は目的地へと向かうのだった。

 

 ◇

 

「ハル、ナイスアシスト!」

「たまたまそこにいただけだよ」

 

 役目を終えたのか、空色のガンダムアストレイ、オーバースカイがこちらに降りてくる。

 

 なるほど、あれがキユリが言ってたツヴァイズガンダム、か。

 動きはそう悪くはなかった。少なくともあれは元々のガンプラスペックが低い。その割にはファングのキレは鋭かった。実際ガディール3機を追いつめるには足りなかったけど、もう3基あれば制圧できていただろう。

 

「セツは?」

「みんながいるって、クアドラプルぶっ放してる」

「あー、セツならやりかねない」

 

 今のヴァルガはハッキリ言って異常である。

 普段はこんなにモビルスーツはいないし、盛大にビームやミサイルは飛んでない。理由はたった一つだ。

 

 ――今日、この時間に『ラストワン』が出るという噂。

 

 ラストワンがマスダイバーであるという噂は流れている。

 運営の対応批判をしながらも、彼らもダイバーであり、善なるものだ。そんな噂があれば我先に倒せばちょっとした英雄になれる。

 そんな『誘導』にまんまと引っかかったダイバーたちが嬉々としてマスダイバーを駆逐しようとする。偽善が混乱を生み、混乱が戦争を生み出す。今回の作戦は、そんなフィールドでシーハートを安全にキユリの元へと送り出すことだった。

 

「ナツキもお疲れさん。周りのダイバーは?」

「もちろんなます切り!」

「そうでございましたね」

 

 これだけのガンプラがいれば、誰がどのガンプラを落としたか、なんて分からないものだ。GBNにもキルログはあるけど、そんなものをヴァルガで見る奇怪な人はいない。

 ナツキはシーハートの周りにいるガンプラを斬って落とした。だから最終的にガディールやその辺のシグーしかいなかったのだ。

 

「でもやっぱつまんないなー。ねぇハル、エンリちゃん奇襲してきていい?」

「ダメでしょ。なんでそんなに嬉々としてるのさ」

「だって、最近一番熱かったのあの試合だしー!」

「それはそれで、妬けるんですけど」

 

 小声でぼそり。何年付き合っていても、慣れないものは慣れない。

 こういう本音を見せるタイミングは、やっぱり恥ずかしい。

 

「分かったからー! 拗ねない拗ねない! 溜まってるんでしょ?」

「んなわけないでしょ!」

「またまた~!」

 

 確かにバトルもシモも溜まってはいる。でも声に出すほど愚かではないのだ。

 

 だがそのバトルの餓えはすぐに潤うこととなるみたいだ。熱源センサーに巨大なビーム攻撃。ブースターを点火させて、すぐにその場を離脱する。ナツキも一緒だ。

 不意打ち。いや、今のは明らかにこちらを避けさせる警告射撃。それにあの攻撃、見たことがある。かつて? いや、今もなおビルダーとして名を馳せているGBNナンバーワンビルダーのガンプラ。

 そして襲い掛かる拳法による攻撃。とっさに死の線を感じ取り、GNソードで応対する。

 この拳、わたしは覚えている。2年前に教わった拳。わたしに戦いのイロハを教えてくれた、大事な師匠のその拳を、顔を忘れるわけがない。

 

『久しぶりだな、ハル!』

「タイガさん、こちらこそお久しぶりです……ッ!」

『噂はかねがね、ってな!』

 

 挨拶代わりの拳をぶつけてきたと思えば、バックステップ。

 そしてジーエンアルトロン。タイガーウルフその人。そしてバックステップの先にいるのはこれまた一緒にいるともっぱらの評判の人だった。

 

「お久しぶりです、シャフリさん」

『オーバースカイを見せにきてくれた時以来かな』

 

 セラヴィーガンダムシェヘラザード。今もなお色あせないセラヴィーガンダムの高純度改造機。そして、ナツキのガンプラの師匠もやっていたという話も聞いたことがある。

 

「……師弟対決、ってやつですか」

『不本意ながらね。こんな奴と一緒にはいたくなかった』

『んだと?! こっちこそ願い下げだ!!』

「相変わらずですね……」

 

 喧嘩するほど仲がいいとはいうが、ホントに仲がいいの? と聞くと絶対にNOというのがタイガさんとシャフリさんだ。

 

『話は聞いている。けどな、俺たちも時代遅れのマスダイバーを放っておくほど愚かじゃない』

「つまり、あなたたちが……」

『そう、君たちの敵にあたる』

 

 ゾクリとする緊張感。今にも怖気が走る殺意に、思わず口元が歪む。

 あぁ、これみたいだ。私もこの数年でだいぶ性格が変わってしまったらしい。元々は流されやすく、熱がないのが特徴みたいな質だったのに。人とは、変わるものだ。

 

『行くぜ、ハル!』

「こちらこそ!!」

 

 しばらくそっちには行けそうにないけど、あなたならきっとできるよ、シーハート。

 なんたって、あんなに想ってくれているキユリがいるんだからさ。



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第30話:縁と星。もっとワガママになっていい

 わたしには昔から何でもできてしまう質だった。

 かけっこはだいたい2位だし、勉学も常に上の中を取れるぐらいには優秀と言ってもいいのかもしれない。

 だから手先だって器用だし、ガンプラバトルの腕前もそこそこは出来ていた。

 

「キユリさん、前!」

「っ!」

 

 エイノンから前方に急ブレーキをかけてから、上空に飛び立つ。わたしがいた進行方向の先にはメガ粒子砲が通り過ぎる。百式のダイバーがオープンチャットで舌打ちを投げつけた。

 

「行ってください、シールドファンネル!」

『バレたがぁ!』

 

 ハイパー・メガ・ランチャーをブースターのように射出すると、シールドファンネルを爆発の巻き添えにせんと、ビームライフルを乱射する。

 負けじとシールドファンネルに備わっているガトリング砲が連射。結果としてはユーカリさんのガンダムAGE-2シェムハザからは距離を離して爆発することになった。

 

『だが俺には、このスーパー・メガ・ブラスターが……っ!』

『すーぱーなんちゃらーがなんだってぇ!?』

 

 何かを呼び出そうと、百式が手を挙げたその瞬間だった。

 背後から襲ってきた獅電が太刀を持って、コックピットを突き刺す。完全にスキを突いた一撃。背後から忍び寄るのはまさに忍者のようにも見えるが、忍者にあらず。ガンプラである。

 

「不意打ちなんて、ロクでもないことするんですね」

『これも戦場で生き抜く知恵ってな』

 

 黒い獅電はそう語る。忍者とは言わないが、首元にマフラーを巻き付け、腰には太刀。それからクナイの収納ポーチだろうかが装備されている。

 

『あんたら、この先に用があるんだろう?』

「戦いたいんですか?」

『とんでもない。あんたたちのガンプラを見てたらわかる。特別製だ、身の毛もよだつほどのな』

 

 獅電の男はそう語ると、メニュー画面から臨時のパーティ申請が行われる。

 名前はオービス。シノビのようなアバターを身に着けた20代の男性だった。

 

『俺は強いやつに付く。だから安心しな、これでも義理堅い方だ』

「……頼もしい限りですね」

『そりゃどーも』

 

 YESを押下すると、わたし、ユーカリ、そしてオービスの3人で目的地まで進行することとなった。

 シェムハザとわたしのエイノンで正面のガンプラを切り開き、近づく敵はオービスの忍電で切り裂く。これなら効率はいいかもしれないが、少しだけ怖くもあった。殿を任せているからこそ裏切りが一番怖いことを。

 

 辺りは渓谷へと姿を変えていく。一本道になっている谷を縫うようにわたしたちはヴァルガを駆け抜けていく。

 静かだ。限りなく、不安が満ちている。

 

「なぁ、キユリとか言ったか?」

「なんでしょうか?」

「あんた、4年前にちょっと話題になってなかったか?」

 

 それは、ブレイクデカールのことだろうか。それとも……。

 

「才能があるダイバースレ、みたいなので紹介されてたんだよ」

「あぁ、そっちですか」

「才能って、すごいですね!」

 

 たまたまそのスレは見たことがあった。ミーハーのロトリアさんが掲示板を見て興奮してたっけ。

 期待の新人ダイバー。そんな名前が付けられたことがあった。わたしは知る由もないし、まだまだ上には上がいると思っているけれど、そうは思わなかったのがしーちゃんだ。

 

「あんたもラストワン狩りか」

「まぁ、そんなところですね」

 

 ラストワン。今、しーちゃんはそのように呼ばれている。

 ブレイクデカール最後の1枚。そういう風にアンシュさんが広めていたのだからしょうがない。ちなみにしーちゃんとラストワンが一致することはないようにしているらしい。知るのはわたしたちのような張本人と、ごくわずかに知る有名人だけだ。

 だからこのオービスさんは真実を知る由もない。

 

「マスダイバー、未だにいたとはな」

 

 それに答えられるものは多分いない。

 だって、わたしの親友が、探している相手こそがラストワンなのだから。

 

「オービスさんは……」

「なんだよ。名前呼んで黙るのはなしだろ」

 

 躊躇する。今から、マスダイバーはどんな気持ちでブレイクデカールを使ったのか、だなんて聞けるはずがない。

 でも口にしてしまったなら言わなくてはならない。わたしのバカ。

 

「マスダイバーのこと、どう思いますか?」

「…………」

 

 地面を蹴る音と、空中を飛ぶ音。それだけが広がる沈黙。谷底まで落ちた精神のように重苦しい。

 わたしの答えは出来ている。でも、しーちゃんの真実が違うかもしれない。もっと悪い理由でマスダイバーになったのだとしたら……。あくまでもわたしのは推察で、正解ではない。答えは彼女にしかないから。

 

「俺さぁ、昔はマスダイバーだったんだよ」

「え?」

 

 懺悔するようにシノビの獅電は声を漏らす。驚くほど澄んでいた。

 

「4年前の話だ。思うようにバトルに勝てなくてな。苛立って、手を付けちまった。驚くほど勝ててさ。それで足も付かねぇ、誰にも何も言われねぇ。すごく気持ちがよかったよ」

 

 でも。オービスさんはそう言葉にしてから、一呼吸置いた。

 

「負けた時は、その反動が来たぐらいに惨めだったよ。こんなことをしても勝てねぇのかって。それで俺が負けた相手に聞いたんだ。どうしてそんなに強いんだって。簡単だったよ、絶え間ない努力で、無限の『諦めない』で勝ちをもぎ取ったんだと」

 

 無限の『諦めない』。わたしには、しーちゃんにも無縁な言葉だった。

 あの時諦めないを選んでいれば、こんなことにはならなかった。もしかしたら今も一緒にGBNで遊んでいたのかもしれない。後悔は、尽きない。

 

「オービスさんは、後悔しなかったんですか?」

 

 自然とそんなことを口にしていた。

 ブレイクデカールに手を染めたこと。負けたこと。言い負かされたこと全てに。

 

 彼は何が面白かったのか、少し鼻で笑う。

 

「悔しかったさ。だけどそれ以上に、自分の足りないものを見つけた。努力を、諦めないを。そして勝つために手段を択ばないを。人間躓いてもどうにかなるもんだからな」

「いいですね、それ!」

「だろう? もっと褒めてくれもいいぞ?」

「嫌です。エンリの分は残しておきます」

「エンリって……。あぁそうか。お前、ケーキヴァイキングのユーカリか」

 

 躓いてもどうにかなる。なら、しーちゃんはどうなんだろう。まだ敗北の味を知らない。挫折を知って、また前に進めるだろうか。

 迷っちゃだめだ。わたしが導かなきゃいけないのに。

 

「キユリさんにいいことを教えてあげます」

「……ユーカリさん?」

「『後悔のない選択なんてない。どんな答えでも、納得するしかない』って」

 

 でも。わたしが考える素振りを見せる前に続けざまに言葉を口にする。

 

「だから『もっとワガママになっていい』ってことです。私がもらった受け売りなんですけどね」

 

 えへへ、と少し目を細めながらつぶやく彼女の目は真っ直ぐと前を見据えていた。

 きっとこれが『選択した人の目』なんだろう。ワガママに。わたしは言うのが苦手だけども、しーちゃんに伝えたい。わたしは一緒に遊びたいだけなんだと。わたしと一緒にこれからも遊んでほしいと。

 

「言わなきゃ、なんですよね」

「言葉は魔法なんですよ!」

「なんだそりゃ」

「どっかのラノベの決め台詞です!」

 

 交流を深め合った、その時だった。岩が上から落ちてくる。

 すぐさま3機は落ちてくる場所から退避すると、壁に張り付いている氷の魔人がはるか上空の戦士を見つめていた。

 

「エンリ?!」

「って、おい。あれは……」

 

 忍電が指をさす先。それは勇者だった。

 藍色に光るボディ。クリアパーツは水色に反射して、マントが揺らめく。

 それはまさしく覇王の覇気。並みいる強豪の一番頂点に君臨する、唯一無二、絶対服従のキング。そいつは手に持ったトライドッズライフルが確実にこちらの4機を捉えていた。

 

 その名はチャンプ。クジョウ・キョウヤのガンダムTRYAGEマグナムであった。

 

『やぁ、ユーカリくんにキユリくん。そしてオービスくんかな?』

「その節はどーも」

 

 ごくりと生唾を呑む。FOEクラスの絶対防衛線。正面に立てば最後、自分が立っていられる保証など、どこにもない。

 オービスさんの様子を見る限り、おそらく彼がマスダイバー時代のオービスさんを下した相手なのだろう。どことなく、緊張感が走っていた。

 

『キユリくんは目的地に行かせろ、という話だったね』

「一応はGBNの危機よ? 手は抜くわよね?」

『もちろんキユリくんは行かせるつもりだ。だが、残りの3人を、このまま生かして返すわけにはいかない』

「そういう闘志むき出しなところ、相変わらずだな、チャンプさんよぉ」

 

 ギラつく視線は間違いなく殺意。とてつもない脅威が目の前に存在しているのだ。

 

「キユリさん、行ってください。私たちもできれば加勢に行きます」

「どういうわけか分からんが、お前は先に行け」

「…………分かりました」

 

 スラスターを展開して、渓谷から抜け出していく。

 文字通りチャンプは崖下の3機だけしか見てなかった。あまりにもわたしへの関心はなく、ただただ目の前の闘争だけを求めている。

 

「行ってきます!」

 

『あぁ』

「必ず取り戻すんですよ!」

「あんたならやれるわ」

 

 そんな心強い言葉を背中に受け取りながら、わたしはその場を離脱した。

 

 ◇

 

「ユーカリさんよぉ、俺はとんでもないパーティを組んだみたいだな」

「普通に裏切ると思ってたんですけど」

「ふっ。俺は義理堅いんだよ」

 

 見据えるのは上空の勇者。AGEシステムが生み出した最強のガンダム。英雄。

 前にチャンプと戦ったことがあった。けれど結果は惨敗。上には上がいるんだと、改めて知る結果となった。

 今もそうかもしれない。けれど、あの時よりも確実に強い自分だ。

 それはわたしもユーカリも、そこの黒い獅電も。

 

 大丈夫よ、キユリ。あんたは間違いなく過去の自分より成長している。逃げていた4年前なんかとは比べ物にならないほどに。

 

「行くわよ、クジョウ・キョウヤ!」

『あぁ。迎え撃とう、エンリくんッ!』

 

 わたしだって、どこまでもチャレンジャーだ。

 強いやつはいくらでもいる。だから本気になれる。戦争ではなく、ガンプラバトルだから!



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第31話:星と海。ラストワンは終わらせたい

 私は昔から何もできない質だった。

 かけっこは常に最下位、勉学もこれと言っていい点数を取ったことはない。

 だから手先だって不器用だし、ガンプラバトルの腕前も……。

 

 そんなだから憧れた。親友の存在に。

 そんなだから憎かった。親友の存在が。

 

 どうして同じ時代に生まれてしまったのだろうか。

 あの時、どうして出会ってしまったのだろうか。

 あの時、どうして私はブレイクデカールを使ってしまったのだろうか。

 

 どうしてはいつも尽きない。どうしては、いつまでも終わらない。

 4年間ずっと。私は……。

 

 ◇

 

「目的地に到着しました、っと」

 

 チャットからサイカさん、ルミミさんに対して連絡を投げる。

 想定では3人ともバラバラに入って、ここに集合。そこでしーちゃんと決着をつける。そのプランだった。実際は、わたしがたった1人で荒野の上に立っているだけなんだけど。

 

「殺風景ですね」

 

 まるでわたしとしーちゃんの関係のようだ。

 何もない荒野はどこまでも続いている。むき出しになった岩肌。乾燥した土。そしてどんよりとした暗雲。そのどれもが、薄暗くて、沈んでいて。深海のようだ。こんなところじゃ天井の星なんて見えるわけがない。

 だから晴らしに来た。この分厚い雲を突き抜けて、空までやってきて。それで宇宙へ。それから星へ。

 

『……どういうつもりなんですか』

 

 空を見上げていれば、やってくる機影が1体。

 どこまでも真っ青で、深海のごとく深い色合い。どことなく一人ぼっちで、どこにも行けない面持ちで。

 

「聞きに来たの、しーちゃん」

 

 だから。そんな顔だから手を差し伸べたくなった。

 あの時は目を背けた。けれど、それが間違いなんだって思い知らされた。

 彼女に必要なのは、拒絶なんかじゃなくて、友だち。一人ぼっちじゃ生きていけないから。だから他人に求めた。わたしに求めた。そばにいてくれる人を。

 

『聞きに? 何を』

「4年前の真相を」

 

 今度は目を背けない。絶対に。

 エイノンのメインカメラがツヴァイズを捉える。

 

 怖さがなくなったわけじゃない。今も向き合うのが怖い。

 でもしーちゃんだって怖いはずだ。わたしに一度は拒絶されたんだから。

 

『真相も何も、私がブレイクデカールを使ってマスダイバーになった。ただそれだけですよ』

「違うよ。わたしが聞きたいのは、どうして使ったのか。しーちゃんはそんな子じゃなかった」

 

 交差する視線。どこまでも伸びる沈黙は、いつまで経っても平行線。

 宇宙で迷子になった子供のようだ。行き先も分からず、帰り道も分からない。

 ただただ浮遊して、揺蕩って、それでも彼女は一度前を向いた。帰り道を見つけ出した。

 

「わたしと再会した時、その場で逃げることだってできた。でもしーちゃんはわたしと向き合ってくれた。わたしと――」

『それは思い過ごしですよ』

 

 なのに彼女は拒絶した。分からなかった。本音も建前も。

 

『私は……。利用したかったんです、きーちゃんを。何でもうまくできるあなたを』

「それこそ思い過ごしだよ。わたしは何でもはできない」

『できます。それは、一番そばで見てきた私が言うんですから』

 

 GNバスターライフルを静かに照準を向ける。

 

『気づけば上に行く。その感覚を味わってから、戯言は言ってください!!』

 

 引き金を引けば、深海色の粒子が弾け飛ぶ。

 やっぱり、こうするしかないの? スラスターを点火して、その場を即座に離脱する。

 通り過ぎるのは青いビーム。破壊の衝動と、拒絶の光。

 

「戯言なんかじゃない! わたしは本当の理由が――」

『黙ってください! 本当も何も。これが本当の私ですよ!!』

 

 飛び交うGNファング。襲い掛かる牙を避けて。それでも避けきれない攻撃は大きく回避する。

 やっぱり上手い。これだけのファング操作ができるダイバーはそうそういるわけがない。

 少なくともここだけはわたしよりも秀でたポイントだ。

 

『惨めで、弱くて、情けなくて! それでも必死に周りに合わせてきた。人並みに努力しても、天才はさらにその上を行く。走っても、勉強しても。手先だって不器用ですよ。だから何個も何個も作って、時間を費やして! それでもわたしの上を平気で通り過ぎていく! そんな。そんなきーちゃんが昔から大嫌いだった!!』

「大嫌いだったら、なんでわたしたちと一緒にいたの?! そんなに嫌いだったら逃げればいいじゃん!」

 

 でも、わたしだってGBNのダイバーだ。このぐらいの対応はできる。

 追ってくる影は5つ。さんざん計算してきた。あのファングを撃ち落とすには腕だけではなく、性能が必要になると。

 ノチウだったらできないかもしれない。だけど、エイノンなら!

 

 エイノンを横に半回転して、シールドの先端をファングに向ける。せめてこれで落ちてくれるなら、苦労はしないけれど。

 放出されるのはメガ粒子砲。エイノンは元々はライトニングZガンダムの意匠を受け取って作られている。本来の芸術性は欠けてしまったけれど、全体の出力は上げた。だから、この粒子砲は限りなく攻撃力が高い。

 

 射線を予見して、各ファングたちが散開する。もちろんそれぐらい想定済みだ。だからこちらも1つ切り札を切る。

 

「行って、フィン・ファンネル!」

 

 バックパックに搭載された2基のフィン・ファンネルを離脱。オートモードに切り替えてから敵機への攻撃を開始する。

 ライトニングZガンダムは本来ファンネル搭載機じゃない。サイコフレームだって後付けした機体だ。元々はHi-νガンダムのバックパックを搭載していたけれど、それではダイバーへのファンネル管理の負担が大きかった。

 だからあえて2基に減らした。ナイトロシステムと共に併用すれば、その刃は限りなく強力なものへとなるんだ。

 

 鋭角に変化しながら、追跡するフィン・ファンネルはファングを捉える。

 フィン・ファングじゃない以上、動きは緩慢。だから偏差撃ちだってされる。

 1基、2基と数を減らすファングたち。エイノン自身もビームライフルで応戦しながら、バスターライフルを避けていく。

 

『それですよ。その動きが、私を惨めにさせる!』

「しーちゃんにだってできるよ! だから――」

『だからなんですか。きーちゃんの特訓をやったからって私の腕前が上がることはなかった』

「それはガンプラの出来を上げたら」

『じゃあ、性能を上げるしかないじゃないですか! 《ブレイクブースト・アイズ》!』

 

 その瞬間だ。ファングたちが一斉に深海のような暗いオーラに包まれる。

 急に速くなったファングの1基がこちらに迫る。ビームライフルの射線を読むように外側へ回り込む。まさか、これほどまでに鋭利になるなんて。

 

『まずはその盾!』

 

 完全に死角に入ったファングがシールド部分を抉り取る。

 はじき出されたシールドが空中を回転しながら、荒野の地面に突き刺さった。

 同じくビームライフルも右手首をもぎ取られて落下する。

 

 油断していたわけじゃない。けれど、しーちゃんがあまりにも機体に感情を乗せている。

 プレッシャーがすごい。これはもはやニュータイプのそれではないのか?!

 

「それでもっ!」

 

 まだフィン・ファンネルはついていける。

 遅れながらもファングを全機撃ち落とし、わたしはビームサーベルを引き抜く。

 

「これでファングは全基落とした」

『そう思ってるなら、きーちゃんは意外とバカなんですね』

「え?」

 

 その言葉に動揺し、センサーから目を離していた。

 3基の飛行物体がフィン・ファンネルを捉えると、地上へと叩き落すようにビームサーベル形態で突き刺す。

 そうだった。GNファングの元となったガンダムスローネツヴァイのファング所持数は8基。つまりまだ3基残されている。

 

『これで、おしまい!!』

 

 バスターライフルがこちらに照準を向ける。

 トリガーを引かれれば、撃ち抜かれるのはわたしのエイノン。

 やらせない。わたしはまだ伝えきれてない言葉があるんだから。

 

「だよね、エイノン!」

 

 暗雲を突き抜けた一筋の閃光がヴァルガの空を焼く。

 けれどね、しーちゃん。そんなんじゃはるか上空に輝く蒼い流星は止まらないんだよ。

 

 瞬間。バスターライフルの銃身が焼かれる。

 何が起こったか分からないしーちゃんは、そのまま棒立ちになることだろう。

 だからその間に、ファングコンテナを掻き切る!

 

 バツ印を描きながら、背面スカートにあるファングコンテナを破壊し離脱。

 空中を散歩していたファングたちが送信機を失って、落ちていく。

 

『何が……。そっか、エイノンのッ!』

「そう。《ナイトロード・フルシンクロ》だよ」

 

 ナイトロシステムと必殺技である《リバイブフレンズ》のリジェネ効果を組み合わせたわたしの、エイノンだけのシステム。

 空間解析情報をこちらにフィードバックしながら、ニュータイプ並みの反応速度を実現する。

 もちろんナイトロシステムの自壊効果はあるけど、《リバイブフレンズ》の効果はDG細胞による自己再生。機体が損傷した先から再生するため、ほぼ永久機関のようにナイトロシステムを使うことができる。

 

『また私の上を行く……ッ! だったら!《ブレイクブースト・ツヴァイ》!!』

 

 さらに大きく黒いオーラがツヴァイズに宿る。

 これは、もしかして段階的にブレイクブーストを使う強化スキルか。

 せり上がる海にわたしはビームサーベルを手に突撃を敢行する。

 あれはヤバい。わたしに伝わってくるフィードバックが、確実にレッドシグナルを放っている。放っておいたら、このGBNすら保たない!

 

「しーちゃん、そのブレイクデカールは危険だよ!」

『だからどうだっていうんですか! 私はもう終わらせるしかないんですよ!』

 

 交差する青い炎と海。いつの間にか再生したファングコンテナからは先ほどよりも確実に多いファングがわたしの命を狙っている。

 数が多すぎる。いくらナイトロシステムのフィードバックがあっても、捌ききれるだけの頭はしてない。

 だけど、こんなところで終わらせてたまるかっ!

 

『この関係を! このGBNを!』

「終わらせない。わたしたちの関係と、このGBNを!」

 

「『絶対に!!!』」



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第32話:通じる海。再会の炎は止めどなく

「『うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』」

 

 大地が震える。空が割れる。

 けれど、そんなことどうでもいい。この目の前の、分からず屋を止めさえすれば!

 

「本当のことを言ってよ! どうしてわたしと一緒に来たの!」

『本当のことですよ! 私はきーちゃんを利用してただけ!』

「この……ッ!」

『だから……ッ!』

 

「嘘つき!」

『消えて!』

 

 先ほどまでとは打って変わった接近戦。

 蒼いコントレイルを描きながら、わたしたちはその都度交錯する。

 その度に伝わってくる。憎い。怖い。楽しい。辛い。苦しい。泣きたい。助けて。って!

 ブレイクデカールが伝えてくる。感情をダイレクトにフィードバックする。これがナイトロシステムとGBNのバグの影響なのだとしたら、こんなにも辛い思いを4年間も抱えていたの?

 

「しーちゃんはいいの?! わたしと別れて!」

『いいですよ! 私を見捨てたあなたなんていらない!』

「それは……っ」

 

 緩んだ力は油断を招く。もはや津波のごとく叩きつけられたビームサーベルの衝撃はエイノンを空中から地面に落とすには十分だった。

 噴き出す蒼い炎が弱まっている。まるでわたしの感情に揺さぶられてるかのようだ。

 だったらっ!

 

『これでっ!!』

 

 押す波に引く波。引き金を引いたバスターライフルが地面を焦がし、テクスチャを割っていく。

 スラスターを最大展開して、その場を離脱したが、こんなの何発も食らってたら多分持たない。

 

『きーちゃんはあの時私を救えたはずなんですよ! でもきーちゃんは私から目をそらした! それが何よりもの証拠! きーちゃんは、私のことなんか……っ』

「そんなことない! わたしは……」

 

 目を背けた4年前。

 顔をうつむけた4年間。

 それでも。わたしは伝えたかった。

 

 4年という決して短くも長くもない時間。わたしはずっと。ずっと。ずっと後悔してきた。

 あの時声をかけるべき言葉を。わたしが言うべき言葉を。伝えなきゃならなかった言葉は、これなんだって!

 

「わたしは、それでも(・・・・)しーちゃんが好き! 今も昔も! わたしはずっとそばにいたかった!!」

 

 そして訪れるのは沈黙。静かな凪に、ぽちゃんと小さな波が起こる。

 

『……うそ。嘘ですよ。だって、あの時…………』

「だから謝りたかった。ちゃんとごめんって言いたかった。ずっとこの言葉を言いたくて探してた」

 

 ポタリ。ポタリと落ちてくるのは水滴。

 凪いだ海に、波紋が広がっていく。

 

 そうだ。そうなんだ。わたしの伝えたかったことは、あまりにも簡単で。それでいてとても難しかった。でも、言えたんだ。わたしはちゃんと、言えた。

 

「しーちゃん。あなたの、本当を聞かせて」

『私は。わた、し、は……っ!』

 

 もはや先ほどまでの迫力はない。ビームサーベルも落としてコリジョンの彼方に消えていった。

 

『……私は、きーちゃんと一緒に遊びたかった。泣いても、笑って。悲しくても、笑って。どんなことがあってもそばにいる親友になりたかった。なりたかったんです! だからブレイクデカールにも手を染めて、これで一緒にいれる! って。お互いにつり合った関係になれるって、思ったんです…………』

「ごめん。ごめんね、わたしが鈍感だったから。怖がったから」

 

 だからあの時すごく嬉しそうだったんだ。わたしは気付けなかった。

 

『だから再会した時すごく嬉しかった。今度は! って思ってたんだ』

「しーちゃん……」

 

 あの時の意外そうで、マヌケな顔は忘れない。

 尻餅をついて、額をさすりながら見た先の表情を。本当に、本当に嬉しそうな顔を。

 

「やり直そうよ、再会を。もう一度! わたしとしーちゃんの始まりを!」

『……いいんですか?』

「だって、お互い様でしょ? わたしが一方的に裏切って、しーちゃんも同じく。だからわたし怒ってるんだよ?」

『…………でも私、つり合うような人間じゃ……』

「つり合うとかつり合わないとか、そんなの関係ない。大事なのは――」

 

 複雑な問題だと思ってたのに、最後はこんな答えだったなんて思わなかった。

 変に考えすぎて、迷って、沈んでいって。

 それでもわたしはこう答えればよかったんだ。

 

 わたしたちの最終解答は……。

 

「一緒にいたいって想う、気持ちだよ」

『私も一緒にいたい。きーちゃんと一緒に遊びたい!』

「うん、わたしも!」

 

 今、わたしは無性に彼女の手を取りたくなった。一緒にいたかったから。そばにいたかったから。

 だから近づく。心の距離をお互いに縮めるように。

 

 だけど、最後の関門はそう簡単に開いてくれなかった。

 

『ツヴァイズ……?』

「しーちゃん、どうしたの?」

『ツヴァイズが、言うことを聞かない!』

 

 モニター越しにガチャガチャと動かすコンソール。だけど機体はちっとも動かない。

 どういうこと? ブレイクデカールは確かに無力化してないけど、でもしーちゃんが解除できれば……!

 

「暴走、ですね」

「サイカさん! それからルミミさんも」

「すごく、気持ち悪いけど。でもしーちゃんのためだもん!」

 

 地上にはランドスピナーで滑走するモビルドールルミミDF。隣にはサイカさんのムラサメ刃-Xがいる。

 

「暴走って、どういうことですか?!」

「第一次有志連合戦では、主人の言うことを聞かなくなったガンプラがいたそうです。そのどれもがブレイクデカールの作用によるもの。であるなら」

「しーちゃんも……?」

 

 次第に奇怪でぐぎぎと音を鳴らすように首が、関節がねじ曲がりだす。

 もはや、戦闘機械。戦うためだけに生み出された、悪しきチカラ。

 

『止められない。《ブレイクブースト・ドライ》が発動しちゃう!』

「それは……?」

『このブレイクデカールは3段階のリミッターを施してるの。ドライは最後のリミッター。それが暴走したら……』

「GBNは、崩壊を開始する」

 

 ナイトロのフィードバックがレッドアラートを鳴り響かせている。

 もはやアラートを、ツヴァイズを止めるには……!

 エイノンは、ビームトンファーを発振させた。

 

『コックピットを直接叩くしかないです。その判定で、ツヴァイズを救って!』

「……うん。分かった!」

 

 モビルドールルミミDFがバックパックを展開してガトリングバスターを手に取る。

 ムラサメ刃-XがGNサムライソードを握る。

 そしてエイノンは、構える。

 

「絶対に、助けるッ!」

 

 強い決心と共にわたしの胸の炎と、ナイトロの青い炎が燃え盛り始めた。

 

 ◇

 

「セイヤァ!!」

 

 全力のサムライソードでの一撃がGNフィールドによって阻まれる。

 実体剣であるにも関わらず、そのGNフィールドは破られることはなかった。

 

「ファングがすごいぃいいいいい!!!」

 

 ランドスピナーで割れた地面を避けながら、ミサイルを打ち鳴らす。

 相手は無限に潰えることのないファング。地面に突き刺さればその一帯をビームサーベルで焼き尽くし、テクスチャを捲っていく。

 

「刃が通らないとは、やばいですね」

「こんな時にギャグ言ってる場合じゃないですよ!」

「言いたくなるぐらいには厳しい状況なんです」

 

 そしてGN粒子を触手のように転用した実体刃。ビームにミサイルに。それはもう酷い状態だった。

 これがバグまみれの戦場。ブレイクデカールの被害……っ!

 空が割れ、竜巻は発生し、水のないところに津波。まさしく天災だ。

 

「せめてあのなんでも粒子を止めなくてはいけないのに」

「攻めさせてくれませんね」

 

 そんな困っている時だった。助けの手というのは飛んでくるわけで。文字通りサイコフレームの破片と共に。

 降り注ぐのは無数のミサイル。GNフィールドの盾にぶつかり、中身が飛散する。

 

「アリサ、今!!」

「おっけぇっす!!!!」

 

 それは明星。サイコシャードが輝くフィンを展開しながら、その星は落ちてくる。

 手先とGNフィールドをバチバチと震わせる。辺りに巻き起こる爆発。それは『遠距離武器だけを破壊する』フィールド。カイザーシャードであった。

 

 弾かれたマジンは地面へと降り立つと、遠距離武器判定を受けたファングたちがことごとく散っていった。

 

「アリサさん?!」

「どうしてここに……いえ、疑問は愚問ですね」

「そうっすよ。今はあれと戦うのが先っす!」

「とかなんとか言っちゃって、ホントはマスダイバーと戦いたいだけっしょ」

「そうとも言うっす!」

 

 悪びれず返事をするのは人か悪魔か。否、アリサさんのマジンガンダム。それとガンダムサイコアイズのザフカさんだった。

 ルミミさんも合流すると、今をときめく新人2大フォースが揃い踏みになったわけで。

 

「これがゲームである以上、攻略法はあるはずなんすけど」

「あのGNフィールドの粒子量。無尽蔵ですね」

 

 どこまで行ってもあの粒子の壁をどうにかしなくては、ツヴァイズガンダムに攻撃は届かない。そしてそれは今、そりたつ壁のようにそびえ立っているのだ。

 

「タイムアウトはGBNの崩壊まで。負荷に強いヴァルガでも、長時間耐えられるわけがない」

「超攻撃力を叩きつけて、その隙に自分とキユリさん、サイカさんで突撃。これしかないっすね」

「超攻撃力って……。なんでみんなしてウチのこと見てるの?」

 

 そりゃあ、そうでしょう。

 背中に持たせたミサイルは何のためにあると思ってるんですか。

 それに付け替えた多目的ミサイルランチャーには、とあるミサイルを積んでいる。

 

「なるほどっすね。それなら突破できるかもしれないっす」

「なんでウチにそんな物持たせたの?!」

「決戦用に、と」

「時々キユリ殿が分からなくなりますね」

 

 とはいえ、だ。これ以上に破壊力に適した武器もない。だから今はこれに賭けるしかない。

 

「分かったよー。ウチ、がんばる」

 

 向きなおればそれはバケモノに身を堕としたツヴァイズガンダム。

 最後のミッションはあれを倒すこと。

 GBNのためでもある。でも、それ以上にわたしの親友を、ここまで愚弄することは許せなかった。

 さんざん悩んだ。4年間苦しんで、その先も歯を食いしばった。

 その結果に居場所がなくなるなんてこと、絶対したくない。

 

 わたしのために、しーちゃんのために、武器を手に取る。

 

「フォース、アストロ・ブルー!」「フォース、AtoZ!」

「行きます!」

「行くっすよ!」

 

 最後の戦いだ。これに勝って、わたしは欲しかったものを手にする!!




次回、決着!


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第33話:星海の再会。終わらない物語へ

『まるで、なんてもんじゃねぇ』

『ブレイクデカール事件。その悪夢が、また現実のものになるとはね』

 

 空は割れ、地面は捲り上がり。もはや地獄だ。

 わたしはこの光景を見たことがない。言伝で知ったことだけど、それでも酷すぎる惨状だった。

 世界の終わり。その言葉がふさわしいほど。

 

 だけど、そんな中でもわたしには仕事がある。動かない左腕を切断して、腰に据えたロングビームサーベル「サクラ」を構える。

 

「行けるよね、ナツキ」

「当然……っ!」

 

 翼の先が折れても、肩パーツがもはやなくなっていたとしても、ナツキは刀を持つことをやめない。

 当たり前。だって、わたしが愛した自慢の恋人だ。

 

『行かせるつもりはねぇんだな』

「はい。わたしはキユリに託しました」

『それもまた愛だね』

 

 シャフリさんはそう言って構える。それまで本気ではなかったかのように。

 タイガさんも応える。ジリジリと焼きつくようなプレッシャーに圧倒されそうだけど、それでも通さないと決めたんだ。ここに有名ダイバーたちを釘付けする。それがわたしたちに課された仕事だ。

 

『だが勝算はあるのかい? 負ければGBNは崩壊する』

「あります。それだけの覚悟を見ました」

『……なるほど。覚悟、か』

 

 巻き起こる竜巻。津波に雷に。それでもここは通さない。

 

「だいたい、エンリちゃんより先に倒れるわけには行かない!」

『いいだろう。とことん付き合ってやるよッ!!!』

「ハル」「うん!」

 

「「トランザム・コネクティブ!!」」

 

 ◇

 

『想像してた以上に。いや、想像以上に酷いな。これがラストワンの力か』

 

 状況確認。チャンプは地上から元凶を見据えている。

 わたしたちはと言えば、オーガスとか言う奴は両腕の切断。ユーカリはシールドをすべて破損。そのうえで右腕がない。

 わたしはと言えば五体満足とは行かない。蓄積したダメージが許容量を超えて、レッドアラートを鳴らしている。

 だけど、託されたんだ。わたしたちがあの怪物を止めなきゃいけないって。

 

「待ちなさいよ、逃げる気?」

「エンリ……」

『私としては状況の把握をしなくちゃならない。それが個人ランキングトップの責務だと思っているからね』

 

 だが。

 その純粋なる闘志をこちらに向ける。どこまでも白で、光で、それでどす黒い殺意。

 

『僕としては、君たちとのバトルの方が価値あるものだと思うね』

「ありがとうございます……。だけど」

『だからこそ、ここで終わりにしよう。私はGBNのチャンプだから!』

 

 突き抜ける暗雲。黄金の刃が、その伝説上の聖剣の名を持つ切り札が見下ろす。

 明らかに直線コース。当たれば確実に死を見るだろう。

 キユリと交わした言葉は数少ない。でも、これだけは分かる。あの子は過去をちゃんと整理しようとしている。その目は前を見ている。わたしとは真逆だった。だったから、応援したくなったんだ!

 

「ユーカリ!」

「はい、絶対ここは通しません!」

 

 同じく桃色の刃が伸びていく。出力を上げて、ユーカリのシェムハザに刃を宿す。

 それをサポートするように手を添える。その熱を、その愛を零度の心火に変えて。

 

『EX……』

「オーバーフリーズ……」

「スーパーパイロット……っ!」

 

 黄金の刃が、零度の心火が、今ぶつかりあう。

 

『カリバーッ!!!!』

「クライシスッ!!!!」

「プライドォオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 ◇

 

 状況はこちらが押されている。

 ルミミさんの決戦兵器に対して打った手段は、こちらに注意をひくこと。

 実体剣でも通らないGNフィールド。サイコフレームをばらまいた環境下でも出力が間に合わない。わたしのエイノンも、アリサさんのマジンガンダムも性能は上がっているはずなのに、届かない。

 

「くっそぉおお! 何だよこのGNフィールドとか、触手みたいな槍とかぁああああ!!」

「ゴタゴタ言わないっす!」

「そうですよ。硬いなら、より強力な力で斬るしかありません」

「サイカさんも大概っすね?!」

 

 カイザーシャードのチカラでファングは消滅。遠距離武器はGN粒子の槍しかない。

 その槍を斬り落とさなくちゃ、行けないほどに濃密な攻撃なんですけど……!

 各自槍を叩き切り、ルミミさんの決戦兵器を待つ。

 

「うぅううううう!!! 怖い! これ怖い!!」

「ルミミさん、いつもミサイル取り扱ってるじゃないですか!」

「だってぇ~~~!!!!」

 

 いそいそと準備する中、一陣の風が通り過ぎる。

 否。あれはGN粒子でできた槍。その矛先は紛れもなくモビルドールルミミ。

 脳の限界を超えた攻撃。回避不能の一撃に反応することすら叶わない。確実にコックピットを狙った矛が、気づかないルミミさんに襲いかかる。

 

「危ないっ!」

「え?」

 

 ルミミさんの困惑とともに一陣のGN粒子が舞う。

 それは青い機体。青い粒子。それから巨大な、盾。GNフィールドで釘付けにしながらこれ以上動かさないように、GN粒子の槍を抑える。

 彼女をかばうために凶刃を文字通り身体で受け止めたのは、サイカさんのムラサメ刃-Xだった。

 

「サイカちゃん!」

「……っ。大丈夫ですか?」

「でも……」

 

 身体は串刺し。コックピットの判定はギリギリ回避できたものの、左腕の関節、腰、頭部を貫かれたムラサメ刃-Xはもはや原型を留めていなかった。

 

「ですが、好きなようにスキはできました……っ! ルミミ殿、手筈は?」

「……出来た、けど…………っ!」

「なら上々。キユリ殿、アリサ殿……ッ!」

 

 そんな身体でできること。納得はできないけど、分かっている。

 操縦桿を握って、前を見据える。わたしがやらなきゃいけないことだ。わたしがそれでもと口にするワガママだ

 

「わたくしの影になるようにその弾頭を放ってください。命にかけて、守ります」

「でもっ!」

「大丈夫です。死にやしません。ここは遊び場なんですから」

 

 ないはずの左腕でルミミさんの頬を撫でるようにGN粒子が舞う。

 痛々しくとも、辛くとも。それでも前へと歩むサムライの姿はまさしく英傑。サムライオーガの名を欲しいままにした、勇者だ。

 

「うん……っ! 一緒に!」

 

 ムラサメ刃-Xはサムライソードを最後の力で握る。

 瞬間。粒子が剣先に集中していく。GBNを守るため。友だちを救うため。

 

「さぁさ、たった今は大一番! 怪物化け物怪異に物の怪。払いましょう、この命を。祓いましょう、眼前の悪霊を! いざいざいざいざ! 決死の特攻、わたくしの勝利の道へ!《サムライ・トランザム》!!!」

 

 漏れ出す粒子。蒼天のように溢れ出る想いを盾に、刃に乗せる。

 あのGNフィールドを破るべく、通常のトランザムの出力とは思えないほどの速度で突撃を始めた。

 

「行って、核弾頭ミサイル、ファイア!!」

 

 その後ろから決戦兵器である核ミサイルの弾頭が飛ぶ。

 チャンスは一度っきり。サイカさんも覚悟を決めた。ルミミさんも答えてくれた。ならわたしだって、エイノンだって全力の全力マックスパワーで、挑むしかない!

 

「キユリさん!」

「分かってます! エイノン、行くよ。《AN(アシウン・ナイトロ)-バースト》

 

 全身の排熱口からナイトロシステムの青い炎が吹き荒れる。

 思いの丈。溢れ出るしーちゃんの想い。わたしの想い。わたしの熱がナイトロの炎に伝播して触れれば溶けてしまいそうなほどの灼熱で燃え盛る。

 交錯する様々な祈りをすべて手繰り寄せ、1つの星が爆誕した。

 

 その名はガンダムアシウン・エイノン AN-バーストモード。

 一緒に遊びたい。その一心を纏った願いの流れ星。

 

「行きますよ、ムラサメ。GBNの、2人の未来のためにッ!!」

 

 想いの刃が最大出力を超えたオーバーパワーでその身を光へと変える。

 総合攻撃ですら突破できなかったGNフィールドに小さな穴が開く。サイカさんの特攻攻撃によって出来たチャンス。その隙間から核弾頭が着弾する。

 青白い光。2つの魂が炸裂し、強固だったGNフィールドをこじ開ける。

 

 その隙間だ。このむき出しになった核を待っていた!

 

「響けサイコフレーム! 轟けエイハブウェーブ!」

「エイノン……っ!」

 

 訪れるのは2つの流星。青と赤が入り混じり、全てを終わらせんがために、空を駆ける。

 

「きーちゃん!」

「うん、いま。助ける!!」

 

 待ってて。限界を超えたエイノンのAN-バーストはその身体にも負担がかかっている。

 軋み、悲鳴を上げるガンプラだが、それでも。わたしの想いに応えて、エイノンッ!!!

 

「激焼!!!!! ブレストォオオオオオ、フィンガァアアアアアアアアア!!!!」

「貫いてっ!!!!!!」

 

 赤熱したマジンガンダムの手刀。

 蒼き炎のエイノンによるビームトンファー。

 

 交わった二撃が真っ直ぐにコックピットを撃ち抜く。

 その傷跡から光が溢れ出る。想いを、粒子に乗せて。

 

「しーちゃん……」

「はい、ありがとう、ございました……っ!」

 

 ――大好き。

 

 そんな言葉が、GBNの空を突き抜けて、暗雲が晴れていく。

 空が、大地が、海が、星が。すべてが何事もなかったかのように元に戻っていく。

 あぁ、終わったんだ。全身から力が抜けて、ガタンと膝をつく。

 寄り添うように毒気が抜けたツヴァイズガンダムももたれかかってきた。

 

 わたしたちの仲も、こんな風に寄りかかれるような関係になれたら。

 

 うん。もっと親しい仲になりたい。

 穏やかに流れる涙と微笑む笑顔に、わたしはそう願うのだった。

 

 ◇

 

「えーっと、あはは。改めまして、久しぶり、ですか?」

「ふふ。なんですか、それは」

 

 それから数日。事後処理やなんやらがいろいろあったけれど、とりあえず一段落したので、落ち着いて2人で会うことにした。

 いろいろあったらしいけれど、わたしの知るところではないため、考えることはその辺に放り投げておく。

 

 なんというか。今更こっ恥ずかしいことを言ってしまったなぁと、照れ隠すように目の前の海を見る。

 静まり返った凪が風に揺れる。

 

「きーちゃん、ごめんなさい。私、ずっと謝りたかった。謝るべきだったんです」

「気にしてないですよ」

「嘘です。絶対気にしてます」

「やっぱり、しーちゃんには分かっちゃいますよね」

 

 どこまでも広い海に笑い声が溶けていく。

 悩みなんて、本当はちっぽけだったかのように。静かに、ゆっくり溶けていく。

 

 言いたかったことは全部言えたと思う。

 思ってるだけで、実際はまだまだ言えてないことは多いかもしれない。

 だけどね、わたしはいつか考えていけばいいことかなって思うんだ。

 

「また遊びましょうね、きーちゃん!」

「うん。もちろんですよ、しーちゃん」

 

 だって、これからも楽しく遊ぶ予定なんだから、後回しにしたって、誰も起こったりはしないはずだ。

 

「「改めて、よろしくお願いします」」

 

 顔を合わせてまた笑う。

 夜天に輝く星空。見下ろした先には光を反射した海原が広がっている。

 わたしたちの未来は、きっとこんなにも輝いているのかな。そう考えたら、こっ恥ずかしくても、ちゃんと言えてよかった。

 星と海。いつの日か、2人で星海旅行なんて、できたらいいなぁ。

 もちろん、GBNの中でですよ?

 

 それで言うんだ。「あなたに会えてよかった」って。



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第4章:星と海。わたしたちは親友。
第34話:「さて、荷造りしなきゃ」


【世紀末】ハードコアディメンション-ヴァルガについて語るスレ【猿山】

 

1:以下名無しのモヒカンがお送りします。

 

ここは超上級者向けのハードコアディメンション「ヴァルガ」について語るスレです。

 

Q.ハードコアディメンション・ヴァルガって?

A.フリーバトル上等の猿山。動物園。いや、動物園の方が治安いいわ。

そのぐらい不意打ち、横殴り、モンスタートレイン上等のやべぇ場所。

修行にはいいぞ

 

Q.ぐえー、不意打ちでやられたんごー!

A.判断が遅い。ここは不意打ち闇討ちハメ殺し漁夫の利なんでもありの世紀末バトルフィールドだ。

 

Q.広範囲攻撃に巻き込まれてやられたんだが。

A.よくあることです。

 

【GBNまとめwiki】(http://・・・

【ヴァルガミッション攻略相談】(http://・・・

【ヴァルガ探索・採掘護衛依頼】(http://・・・

 

 ◇

 

44:以下名無しのモヒカンがお送りします。

なんか、さっきのやばくなかった?

 

45:以下名無しのモヒカンがお送りします。

なんか、っていうか普通にBDだわ

 

46:以下名無しのモヒカンがお送りします。

ラストワンがブレイクデカールって話だったけど、1枚でああなるんのなー

 

47:以下名無しのモヒカンがお送りします。

やば

 

48:以下名無しのモヒカンがお送りします。

チャンプとかシャフリ、タイガがその辺闊歩するヴァルガ、控えめに言ってヤバいだろ

 

49:以下名無しのモヒカンがお送りします。

あいつらなんでおったや

 

50:以下名無しのモヒカンがお送りします。

休日にはバカンスなんだろ

 

51:以下名無しのモヒカンがお送りします。

ヴァルガはベガスだった?!

 

52:以下名無しのモヒカンがお送りします。

チャンプならベガスでバカンスに行ってるー

 

53:以下名無しのモヒカンがお送りします。

ベガスでも一波乱起こしそう

 

54:以下名無しのモヒカンがお送りします。

人類災害扱いで笑う

 

55:以下名無しのモヒカンがお送りします。

嵐を呼ぶ男、クジョウ・キョウヤ

 

56:以下名無しのモヒカンがお送りします。

失礼すぎて笑っちゃうwww

 

57:以下名無しのモヒカンがお送りします。

あ、バグ治った

 

58:以下名無しのモヒカンがお送りします。

なんだったんだろうな

 

59:以下名無しのモヒカンがお送りします。

普通にラストワンが死んだんやろ

 

60:以下名無しのモヒカンがお送りします。

それしかないかー。俺も最後のマスダイバー見たかったなー!

 

61:以下名無しのモヒカンがお送りします。

結局ラストワンってなんだったの?

肝心のダイバーネームわからんかったし

 

62:以下名無しのモヒカンがお送りします。

俺も知らん。何なんあの噂は

 

63:以下名無しのモヒカンがお送りします。

ヴァルガにいたってことぐらいしか分からんのよな。

誰がやってたかとかまでは、特定つかなかったんよ

 

64:以下名無しのモヒカンがお送りします。

不思議な事件だったな。

 

65:以下名無しのモヒカンがお送りします。

確実にGBNの危機っぽかったのに、運営は何も動かんし

 

66:以下名無しのモヒカンがお送りします。

4年前もそんなんやったぞ。今はちょっとまともになったけど

 

67:以下名無しのモヒカンがお送りします。

そもそもヴァルガ民が言えるか?

 

68:以下名無しのモヒカンがお送りします。

運営、ヴァルガ民に気を取られてラストワンの対応が遅れる!

 

69:以下名無しのモヒカンがお送りします。

マジ勘弁してくれ

 

70:以下名無しのモヒカンがお送りします。

俺らのせいにしないでクレメンス

 

 ◇

 

 まず最初に。事の顛末から書き記そうと思う。

 ラストワンであり、最後のマスダイバーである私が始末書を書くの、すごーーーく嫌なんだけど、それで問題をチャラにしてくれるっていうんだからツカサさんのご尽力の賜物と言えるだろう。

 

 結果として、お父さんが倒産しました。

 

 というのもラストワンを改造していた理由は2つあった。

 1つはGBNの技術を根こそぎ奪って、第二のGBNを自分たちの手で始めようっていう魂胆。

 要するにお金儲けがしたかったらしい。ムサシコーポレーションの社長である私の父はそんなにも浅ましい人間だった。ただそれだけのこと。

 蔑ろにされてきたし、本来受けるはずの愛をGBNへの斥候という形で満たしていた私にとっては正直どっちでもよかった。

 

 しかしながらただ倒産したわけではない。

 ブレイクデカールを改造した技術者たちは根こそぎツカサさんの管理下に置かれるとのことだ。

 あのスパゲティコードをわずかでも解読できた評価を買って、とのこと。

 これで家族のことは水に流そう。ということだった。

 だから高校卒業までは私は今の生活を謳歌できる。問題は学校での立ち位置だけど。

 元々ハブられていたし、いじめに発展しなければいいかなと思っている程度だ。

 

 2つ目は当のGBNを崩壊させるためだった。

 データを取った絞りカスに用はないと言うことなんだろう。

 これにはさすがの私も怒った。ELダイバーがどうなってもいいのかって。

 でも父は言った。また生み出せばいいだろう、と。父は、何も分かっていなかった。

 打算まみれで、お金のことしか考えていないお父さんが、ELダイバーという1つの命を替えがきくAIだと思っている時点で、彼に未来はない。

 少なくとも私はどちらとも言えない、って立ち位置だったけどルミミさんを見て思ったんだ。命は存在するだけで美しいってことを。

 

 そんなわけでムトウコーポレーションは事実上の崩壊。

 私たちの家族は観察処分。学校での扱いはぼっち。そんな状況に落ち着いた。

 

 あれからも『インコ模型店』には通っている。

 ツヴァイズガンダムのブレイクデカールはもう使えなくなっている。けれどこのガンプラでログインしようと思えるほど、私の心は豪胆ではない。

 だから新しいガンプラが必要だと思って、日夜ミユリさんと一緒に相談してはいるんだけど、彼女の癖が宇宙世紀よりで、私はCEとか西暦の平成寄りなこともあって、難航していた。

 

「大艦巨砲主義と言えばヅダですね。なんと言っても対艦ライフルはこれでもかと言うほど素晴らしい破壊力を持っていますから」

「あの……」

「ともすればZZもいいですね。火力という面では主人公機の追随を許さないほどの実力です」

「…………」

 

 という具合だ。インパルスガンダムの箱を見せても、反応がない辺り完全に自分の世界に酔っている。いや、どっちかと言うと宇宙世紀に酔っているって言った方がいいかな。

 そんななので、しばらくは私のガンプラ作成のお手伝いが目下の目標だ。

 でも、この模型店。結構色んなものが置いてあるけど、ガンプラ以外もあるから目移りしてしまう。モデルガンとかミニ四駆とか。FAガールもあったっけ。

 

「で、コウミさんのガンプラはどうしましょうか」

「あ、その話続いてたんですね」

「当たり前じゃないですか! 親友の機体なんですよ? わたしが勝手に決めるわけには行きません!」

 

 そうやって平然と『親友』と言われるとお尻がむず痒くなってしまう。

 

 私たちの性格は本来間逆なものだ。私は元気系ではなく、ダウナー系やらクール系。

 ミユリさんは陰キャだけど、元気な方だった。今みたいにおとなしくない。

 多分、ミユリさんは自分が失敗したことを気にして落ち込んでいたんだと思う。それで失敗を繰り返さないようにおとなしくなろう、って思ったんだ。無意味だと思うけどな。

 陰キャなのは肯定するし、声が小さいというのも頷ける。だけど、彼女自体の本心は炎のように燃えている。少し前まではくすぶっていた炎が、今燃え盛っているだけ。たったそれだけなんだ。

 

 そういえば思い出したことがある。ミユリさんも誘っておこう。

 

「話は変わるんですけど、今度東京に行きませんか?」

「え? 旅行?」

「はい。ツヴァイズをELバースセンターに持っていかないといけなくて。そのために付添人ありで運営持ちだそうです」

「……行きましょうか!」

「そういうと思ってました」

 

 詳しい予定と日程を決めて。それからルミミさんの頭をちょんちょんと叩いて帰る。

 そっか。そっか! ミユリさんと旅行なんですよね。なんか、心の奥底がポカポカとして、嬉しさが溢れ出しそうだ。

 

「さて、荷造りしなきゃ」

 

 もうすぐ雪が溶けそうな気温だ。

 道のスミではちょろちょろと水たまりが小川を作りながら、排水溝へと落ちていく。

 春だなぁ。私の心もこんな風に溶かされたんだ。じゃあミユリさんは私の春告鳥なのかもしれない。

 

「ポエマーですか、私は」

 

 すぐにロマンチックな考えを消してから、歩き始めた。

 よし、帰ったら宿題しよっと。そんなことを考えながら、1日を過ごすのだった。



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第35話:『恋人よりも親友が一番幸せそうですね』

「ほう、東京ですか。ホットなスポットでほっとしますね」

「こういう方はほっときましょう」

「……しーちゃんもなかなかに言うようになったではありませんか」

 

 最近は家のごたごたによってGBNにあまりログインができていなかったが、久々に入ることができた。一応ガンプラなしでのログインも可能であるため、しーちゃんの愛機をまだ決めることなくGBNのカフェエリアできーちゃんたちとだべっていた。

 

「というかー。今さら敬語ってのもなんか違和感あるよねー」

「それはそうですね。敬語と言えばわたくしでしょうから」

「いえ、それはわたしでは?」

「いやいや、しーちゃんですし」

 

 きーちゃんとサイカの視線がしーちゃんの視線にぶつかる。

 キャラ性というものは唯一無二である。私はちゃんと敬語系後輩アイドルというれっきした属性がある。そう、しーちゃんは唯一無二なのですよ。

 それがなんですか。2人には何か濃い属性がありますか? サイカちゃんはともかくとして、きーちゃんはそれこそキャラ性が薄いようにも見える。

 

「いや、ここは元々タメ口だったきーちゃんが元に戻すべきですよ」

「言うようになりましたね、しーちゃんは。私は大人になったのでこれぐらいに敬語は普通です」

「敬語を稽古するのはわたくしです。皆さん、わたくしを見習ってください」

「「サイカちゃん(さん)にだけは言われたくないです!」」

 

 ハウリングした2つのボイスが罵声として重なる。ルミミちゃんがお腹を抱えながら笑って、当の本人は清々しい顔で緑茶を湯呑から飲んでいた。大した器だこと、流石ウタイ流の師範代だ。

 

「ということでオフ会でもしましょうか」

「え?」

「どういうことですか?」

 

 その涼しい顔から言い放たれたのは、オフ会をしよう、という提案であった。

 何がどうしてそういう結論に至るのかは分からない。だが、オフ会というのであればしーちゃんときーちゃん、ついでにルミミちゃんとはリアルの知り合いだ。サイカちゃんの正体は知らないものの、調べれば一発で顔と名前が出てくるだろう。なんたって師範代だし。

 

 ……あれ、ウタイ流の師範代? その道場って確か東京にあったような。

 

「わたくしのリアルは東京にいますから」

「……マジ?」

「マジです。ルミミさんは軽くウタイ流について調べてみてください」

 

 あぁ、そういえばそうだった気もする。

 前に若かりし至りにて、サイカちゃんの身元を調べようとしたら、速攻で顔と名前がヒットしたのを思い出した。

 本名を確か《ウタイ・サイカ》。文字通り同じ苗字にダイバーネームだったはずだ。

 見た目はほとんどそのまんま。だけど胸だけはダイバールックより大きかった覚えがある。この人は敵だ。自分の胸を『脂肪だから、こんなの』と言って邪魔だと言ってしまう系の敵。

 こういう女たちはすべからく分からせなければならない。自分の胸の価値というものを。

 そう、しーちゃんのつるつるすとーんなクリフを視界にとらえて、くっ、と拳を握る。殴りたい。この女たちを全員。

 

「そっかー。じゃあしーちゃんのガンプラもそこで見つけちゃう?」

「それもいいですね。個人的には00系からは卒業したいなぁ、と思ってます」

「00系特有のトランザムは基本的に完成度が持続時間に比例しますからね」

 

 偉そうに言っているわけではないだろうが、同じ00系ガンプラ使いのサイカちゃんが言うにはそうなのだろう。

 元々ツヴァイズガンダムはしーちゃんの最高傑作であったものの、私自体は出来の悪い子。つまるところ手先も器用ではなかった。みんな器用なのに。劣等感と焦りから完成した作品がうまいわけでもなく。

 実際エイノンの完成度を見て、きーちゃんの才能に嫉妬したし、ムラサメ刃-Xを見てもそうだった。

 同レベルだったロトリアちゃんは操縦の腕前で補っていたし、足を引っ張っているのは私なんだなって、あの時幼い心ながら思ったっけ。

 

 だから今度は1人だけではなくきーちゃんにも頼ろうと思っている。

 私だけではダメでも、しーちゃんとして、きーちゃんと一緒に作り上げたい。ツヴァイズとエイノンを見比べてそう考えていた。

 

「00系列というとやはりシャフリさんのガンプラや、手短なところで言えばハルさん、ナツキさんのガンプラでしょうか」

「煉獄のオーガや弟のドージも同じくですね。彼らもまたトランザムの使い手として鍛錬をしていましたから」

 

 サイカちゃんから吐き出されたオーガとドージという言葉の端々からは間違いなく意識を感じる。同じジンクス使いでサムライオーガという汚名を着せられたサイカちゃんには思うところがある。大人だから、言わないだけで。

 流れを変えよう。ちょっと、息苦しい。

 

「ハルちゃんのファイルムと、ナツキちゃんのオーバースカイは本当にすごい完成度ですよね。オーバースカイの動画はG-tubeに落ちてたけど、やばかったです」

「セッちゃんのとこ2人は異次元だからねー。ウチからしたらセッちゃんとモミジちゃんも含めて、あそこは強い人しかいないけど」

「フォース『春夏秋冬』。ここ最近活動を復帰し始めた強豪フォースの一角でしたね」

 

 ハル、ナツキ、モミジ、セツ。この4人だけのガールズフォース『春夏秋冬』はとんでもない強さを誇っている。

 ハルちゃんとナツキちゃんのトランザムによるコンビネーションはタッグフォースバーサスイベントでは有名だし、出場するたびに全勝を勝ち取っている強者。

 モミジちゃんに関しては2年前の抗争で13km先のハシュマルの頭部を撃ち抜いたという嘘か誠か分からないような伝説が残されている。

 セッちゃんもELダイバーでありながら、ランカーでもある。ワールドランキング104位のちのを後見人としながら、自身もそのランカーを寸前のところまで追いつめたことがある。ELダイバーリゼと共に今、期待値が高いELダイバーとして有名な1人だ。

 

 そんな4人のフォースの連携がないかと言われたらそうではないわけで。

 近づけば斬られ、遠ざかれば撃ち抜かれ。まとまれば拡散砲。アタッカーとして隙が無いのだ。

 もちろん絡めてやメタを張られて負けたことはあっても、初見で攻略できたフォースは数少ないという。

 

「まぁ、わたくしたちがそのくらいのレベルを求めているかと言えば、そうではないわけですが」

「ねー! ウチはもっとゆっくりまったりしたいもん」

「そうですね。わたしにはしーちゃんがいてくれるだけで嬉しいですから」

 

 隣に座っていたきーちゃんの手がそっと触れる。

 その手が、表情が優しくて、しーちゃんも思わず顔を緩めてしまう。そうだよね、あの戦いで一番証明したかったのは、一緒に遊ぶこと、だもんね。

 

「…………」

「サイカさん、どうかしましたか?」

「いえ。……いや、気になってしまう。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ、と言われてしまいかねませんが、もう我慢できません!」

 

 バンッと手のひらをテーブルに荒々しく叩きつけたサイカちゃんは、しーちゃんときーちゃんの顔を交互に見る。しーちゃんたちも思わずその視線を追うようにきーちゃんの顔を見てしまう。

 その顔は驚くほどキョトンとしていた。

 

「伺います! 2人はお付き合いなさっているのですか?!」

「つきあ……?」

「わぁ!」

「へ?」

 

 やや頬を桃色に染めた様子の大の大人が、ピンク色にまとった雰囲気を年下の学生身分にぶつけてくる。これは馬に蹴られても仕方がない。

 

「付き合ってるってアレだよね! 男の人と女の人が手を繋いでキャッキャする!」

「ルミミさんは、どこからその情報を手に入れたんですか!」

「フレンちゃんからー」

「色ボケギャルダイバー、覚えておいてくださいよ……」

 

 きーちゃんもきーちゃんで、過保護な親バカみたいなことを言ってるし。

 性教育をどうやって行うかはELダイバー同士で伝えていけばいいのだろうか。でもELダイバーって女性8割ぐらいに対して、男性が2割ぐらいの印象だ。その差はいったいどこから来るかは分からないけれど、いずれはELダイバー同士で結婚、となった時に独り身のELダイバーが増えてしまわないか心配になる。

 独身ELダイバー。つまりDSELダイバーか、ちょっとカッコイイ。

 

 じゃなくって!

 

「サイカちゃん、意外とそういう話が気になるんですね」

「いや、誰だって思いますよ。目の前で見てるならもちろんのこと」

 

 え? そんなことしてたかな。

 

「友達にしては距離が近すぎます。肩寄せ合うのは勝手ですが、もうべったりくっついてるじゃないですか。ソファーの余白は十分余ってますよ」

「なんか落ち着かないし」

「あー、分かります。この方が何となく落ち着きますね」

 

 だって4年間触れ合えなかったんだから、こうやって肩と肩を寄せ合うぐらいのことはするでしょ。

 

「友達は普通、お互いのコーヒーの飲み比べなんてしません」

「だってお金ないし。これでもしーちゃん初心者なんだよ?」

「まぁ、しーちゃんが言うなら仕方がないかなと」

 

 大げさな。コーヒーの飲み比べは珍しいかもしれないけれど、わざわざストローを持ってくるの面倒くさいし、きーちゃんのコーヒーカップを直接口にするぐらいしても許されるでしょ。

 

「それから手が触れた時の反応ですよ。恋人同士のそれじゃないですか!」

「だから違うってば。しーちゃんときーちゃんはただの親友だよ」

「ですね。わたしに恋人なんて夢のまた夢です」

「ねー! しーちゃんはー、もっと誠実でゆとりを持っていて、過去のことに執着しない人がいいんだよ」

「なんですかそれは。わたしが不誠実でゆとりもなく、過去に執着する醜い女だとでも?」

「そーだよ! 少なくとも必死で過去に未練たらたら女じゃん!」

「それを言うならしーちゃんこそ、劣等感マシマシで、この世全てがわたしに厳しいだなんて思ってるけど、本当の自分を見てほしいとか言ってるかまってちゃんじゃないですか」

 

 その瞬間。目の前のコーヒーが瞬間的に沸騰したのを感じた。

 いま、なんと言ったこの女は。

 確かに全部図星だ。図星だけど、世の中には言っていい事と悪いことがあるとその無駄な胸のぜい肉と一緒に育った頭では分からないとでもいうのか?

 

「ほー、自分のことを棚に上げておいて口にする女がいるみたいだねぇ!」

「そっちこそ、図星突かれたからって必死になってるお子様がいたものです」

「何を?!」「やるんですか?!」

 

「やめてください、わたくしが悪かったですからこんなところで口喧嘩なんてしないでください!」

「そーだよ! みんな見てる!」

 

「「静かにしていてください! 今は取り込み中です!」」

 

 それから十数分。カフェテリアのNPDに追い出されるまでの間、口喧嘩が止まることはなかった。

 サイカちゃんから最後に聞いたのは一言。

 

『恋人よりも親友が一番幸せそうですね』

 

 それは同情なのだろうか。しーちゃんだってこれを恋人にするぐらいなら親友という気の置ける仲の方がいい。

 けど、まぁ。一緒に暮らすのならきっと一番はきーちゃんから超えることはないだろうなぁ、とは考えるわけで。

 それに、恋人って言うほどわたしたちは想い合ってない。

 恋人って言うのはもっとこう、お互いを尊重し合って、くじけそうなときは支え合う。そんな仲だ。……同じようなもんじゃないかって? うるさい。わたしときーちゃんは違うもん!




喧嘩するほど仲がいい


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第36話:「コズミック・イラがいいです! SEEDの!!」

 暑い。春先なのにも関わらず、地元と比べて太陽が近いように思えて、照らす太陽を思わず手で遮る。

 ガラガラとキャリーバッグを手に、2人と1機が着陸したのだ、東京に!

 

「着いた!」

「着きましたね」

「着きましたよ! トレンドの最先端、東京に!」

 

 0歳のルミミさんよりも興奮した様子で、かわいらしく着飾った春服をふわりと揺らすのはコウミさんだ。

 あーあ、あんなに張り切っちゃってまぁ。なんだかんだ黙っていればかわいい部類の子。これで中身がメンヘラなんだから天は二物以上は与えてくれないらしい。

 

「どこ行きますか? 渋谷? 原宿! それとも秋葉原!」

「まずはELバースセンターですよね」

「あ、そうでした」

「コウミちゃん、めっちゃウケるー!」

 

 むくりと頬を膨らませるコウミさん。東京に着てから早速浮かれているご様子だ。

 だがここは羽田空港。浮かれるには何もなさすぎる。

 

 わたしたちは春休みを使って、ツヴァイズガンダムに付いたブレイクデカールを手渡しで返すべく東京へとやってきていた。

 わたしは郵送の方がコスパもいいし、効率的だという話をしたのにツカサ(アンシュ)さんが直接渡しに来い、と強引に航空券を郵送してきた。ご丁寧に往復券。これには向こうがどれだけお怒りなのかが手に取るようにわかってしまった。

 怒られるのかぁ。いやだなぁ。というのが半分。サイカさんとオフ会で少しウキウキというのが半分。それから余剰分としてコウミさんとお台場やら、シーサイドベースなどに行けると言うのも含めたら、まぁ損はない旅だろう。

 

 タクシーを呼んでから、場所を指定。ELバースセンターへと早速向かうこととなった。

 ルミミさん的には里帰りというべきなんだろうか。製造場所へと向かうんだから、多分間違いはないと思う。

 

「お嬢さん、ELダイバーってやつだろう?」

「そーだよー! ルミミって言うの!」

「そうかそうか! タクシー運転手をしていると、面白い客によく出会うもんだ」

 

 かっかっかっと快活に笑う運転手さん。なんだか子供を連れ添った親の気分になったみたいで、気恥ずかしくなってしまう。

 

「うちの娘もGBNつーのをやっててさぁ。これがまぁドはまりして自宅でやれるゲーム機も買ったみたいでな?」

「へー、すごいですね」

「あれ高いですからねー」

「それで聞いたんだけど。最近すげぇバグ? って言うのがあってな」

 

 あ、それ隣の子がやらかしたバグです。

 当の本人は気まずそうに外を眺め始めて。分かりやすい女め。

 

「でも同じタイミングで蒼い流星が流れたとか言いながら興奮気味に言ってたんだよなぁ。何言ってるかちっともわからんかったけど」

 

 蒼い流星。それはラストワン事変において、あるダイバーが掲示板で呼称した二つ名であった。

 

 絶望のどん底に陥れられたGBNに一筋の蒼い流星が流れた。

 絶望のどん底へと落ちていくと、その瞬間GBNには平和が訪れた。らしい。

 

 絶望がツヴァイズガンダムのフェーズドライだったとすると、蒼い流星は恐らくAN-バースト状態のエイノン。つまりはわたしのことだ。

 掲示板でまことしやかに囁かれているその噂は、噂の域を出ないものの目撃した人はいくらかいるらしい。エンリさんが笑いをこらえながら口にしていたのだから、その通りだろう。

 

 私も一躍時のダイバーとなってしまい、最近はあまりバトルをすることもなかった。

 そりゃ蒼い流星と言われたら、引っ込み思案のわたしが引っ込むのは当然なことで。あの後フレンドになったオービスさんも目の前の運転手みたいにケラケラ笑っていたな。

 

「あはは、なんかすごかったらしいですね」

「みたいだなー。新聞の一面に載ってたぐらいだから」

 

 原因不明の大型不具合。とデカデカと載ったあの新聞は忘れない。

 間接的にはわたしもコウミさんも、まさかの紙面デビューをしてしまったのだから。

 考えるだけで胃が痛い。わたしはもっと平和に過ごしたいというのに。

 

 平和。そう平和にだ。このツヴァイズガンダムをツカサさんに投げて、コウミさんの新しいガンプラを作って。それから……。何をしよう。

 ゆっくりだらだらとGBNをするのもいいけれど、ある程度目標がないとだらけていくのも必定だ。全ミッションクリアやランキング上位。でもコウミさんは絶対に望まない。彼女が望んでいるのは、わたしたちと一緒にいる時間なのだから。

 

「……コウミさん?」

「なんですか」

 

 しばらくの沈黙の後、外を眺めていた彼女に声をかける。

 コウミさんはいったい何がしたいのだろうか。一緒にいる時間は用意する。でもその時間でいったい何をしたいのかが問題であった。

 

「コウミさん、今後GBNで何がしたいですか?」

「変なこと聞きますね」

「だっていろいろありましたし」

「まぁ、そうなんですけどもー」

 

 依然として過ぎ行く空と道路を眺めながら、窓際に肘を付ける。

 絵になるな。かわいいアイドルみたいな子がアンニュイに物思いに耽る。今のコウミさんは、まさしくそれだった。

 

「どうしましょうね。家のことも一段落つきましたけど、まだ終わりじゃない。ガンプラだって私の腕前じゃどうしようもないから、ミユリさんに手伝ってもらおうとしている」

 

 一拍言葉を置いた彼女は、次にわたしの顔を見る。

 コウミさんの顔は不安とは言い難いけれど、憂いに満ちていて、これから何をすればいいか分からない子供のようであった。

 

「私、恩返しがしたいんです。ミユリさんに、サイカさん。ルミミさんに。こんな私と一緒にいたいって思ってくれたの、本当にミユリさんたちが初めてだったから。私なりに恩返しできることなら何でもしたいんです」

 

 なんともまぁ重たい響きだ。お腹の奥底に鉄球が落ちてきたようにずどんとのしかかる。

 そんなもの、コウミさんが一緒にいてくれるだけでいいのになぁ。そう考えてしまうわけでして。

 

「それにアリサさんやザフカさんたちにもご迷惑をおかけしましたし」

「いや、あの人たちはいいかと」

「え、そうですか?」

「あの2人は、戦闘狂だし」

 

 お礼をするというのならば、今すぐバトれと言われることナンバーワンのフォースだ。この前の決着だって、2人はまだ納得してない。だから決着をつけるために、それとエイノンと戦うために白い手袋を彼女たちは叩きつける。

 だから嫌なんだよ、あの2人は。

 

「まぁ、まずはガンプラを作るところから、かな。アイディアは?」

「何もないです」

「ならMk-Ⅱですね。いえ、ここは78でもいいですし、ユニコーンでも。やはり宇宙世紀の兵器と言えば最後のV2でもいいですし、この際クロスボーンでも……」

「コズミック・イラがいいです! SEEDの!!」

「ふぅん……」

 

 お礼というなら、まずはわたしのアイディアをくみ取ってほしいところだ。

 とはいえ、コズミック・イラ。つまりSEED系列のガンプラか。それこそたくさんあるから悩んでしまうし、比較的古めのキットもあるから一概にこれがいい、とは言えない。

 

「やっぱりザクウォーリア系?」

「そうでなくてもいいかなと。ストライクやインパルスも魅力的だなぁ、って」

「主人公機、ですか。ならストフリもコウミさんの適性に合ってると思いますね」

「……ストフリがですか?」

 

 あれ、なんで意外そうな顔してるんだろう。

 

「え、だってビット系使うならドラグーンでしょ?」

「なんで、ビット前提なんですか?」

 

 意見噛みあってない? むしろ何故使うのか分かってないような顔。

 もしかして……。

 

「コウミさん、自分にオールレンジ適性があるって分かってないんですか?」

「え?」

 

 これまた大きなキョトン。はてなが10個ぐらい並んでいるみたいだ。

 何故。そんな疑問が天を突き抜けて宇宙まで伸びていきそうなほど。

 

 GBNには大なり小なりVR適性というものが存在する。

 細分化していくと、格闘適性やら射撃適性やら。と自分と相性のいい戦い方、というものを模索して自分のガンプラをビルドしていくのが、GBNでの一般的な攻略法だと言ってもいい。

 わたしはオールレンジ以外の格闘と射撃に才能があったため、ノチウのようなむちゃくちゃなプランでも成り立っていたのだ。

 

 そして見た感じ、わたしになくてコウミさんにある才能が、件のオールレンジ攻撃への適性だ。

 あのGNファングの追い込み方は一朝一夕で成り立つような動き方ではない。

 明確なヴィジョンが頭の中であって、それをGBNに伝えて操縦しているのだから、オールレンジに関して言えば、わたしよりもコウミさんに軍配が上がる。

 

「という感じなんですけど」

「……なんですかそれ」

 

 わたしに聞かれても。あなたの才能よ、それは。

 キョトンとした顔が徐々に歪んでいく。嬉しそうに、心躍る無邪気な子供みたいに。

 

「そう、なんですね。私にも才能が、あったんだ……!」

「そうですよ。少なくともわたしよりは、ですけど」

「十分。いえ、十二分です! これで、足手まといなんて思わなくて済むんですね」

 

 思えばブレイクデカールを使った元々の理由はそこにあった。

 ……どうしてわたしはこんな些細なことを伝えていなかったんだろう。バカなわたし。4年も抱えておくなんて、もったいなかった。

 ポケットの中からハンカチを取り出して、コウミさんの顔を伝うそれを拭う。

 

「ごめんなさい、伝え忘れてて」

「……いいんですよ。今知れたんですから」

 

 感情が目から零れていく。これは悲しくて出てくる涙じゃない。

 もっと、もっと暖かい感情だ。

 

「コウミちゃん、ダイジョーブ?」

「むしろ、元気です。無敵ですよ!」

 

 泣きながらでも、笑顔満点で振舞う彼女の姿は今日のMVPだったと言っても、過言ではなかった。



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第37話:「ツヴァイズのおかげだよ。ありがとう」

「さて、お前たちにここまで来てもらったのは他でもねぇ……」

 

 ごくりと思わず生唾を呑んでしまう。緊迫した空気。今から怒られると思われる圧力。そして目つきの悪いチンピラ。

 アンシュさんのリアル。シバ・ツカサさんはあのチンピラハロ同様に人相が悪い。

 焦げた赤色の髪が寝ぐせのように跳ねており、まともに髪の手入れをしていないようにも見える。服装だってヨレヨレのまま。もうちょっといい服を買って、容姿を整えればその層には人気なこわもてなんだろう。けれど今はただのプログラマー。そこまで気は回さないらしい。

 

「ツヴァイズガンダムのデータ。その全てを寄こせ」

 

 回転チェアを左右に振りながら、足を組んで座る悪い男が一言。

 

「そ、それならツヴァイズガンダムだけ送れば……」

「ダイバーギアが必要なんだよ! ムトウ製の改悪ブレイクデカールはダイバーギアにデータが残ってるかもしれねぇんだ。俺はそのデータさえ拝借できれば、それでいいってわけだ」

 

 ムトウ製改悪ブレイクデカール。通称ラストワンは1機だけでもGBNに甚大な被害をもたらした。だが改悪ブレイクデカールと呼ばれているとおり、本家よりもデータの隠ぺい力は低く設定されていた。ここが劣化している部分だとツカサさんは言ってたっけ。

 

 チカラを追い求めすぎるあまり、ブレイクデカール一番の利点である隠ぺい力が損なわれていたことがツカサさんに付け込まれて、最後はムトウ・コーポレーション倒産にまで発展した。

 

「さっさとてめぇのダイバーギアを寄こしな」

「むぅ、ツカサくんすごく感じ悪い!」

「うるせぇ! 俺はいつもこんなだ」

 

 ぐりぐりと首が取れるんじゃないかというぐらいルミミさんの頭を撫でまわし、くらくらと倒れ込む彼女をほくそ笑む。

 あぁ、この人本当に悪い人だなぁ。その割にはELダイバーの扱いはそれなり以上に分かっている。流石はELバースセンターの職員というべきなんだろうけど……。

 

「……なんか信用できないです」

「あー、めんどくせぇ」

 

 鋭い目つきがコウミさんを襲う。突き刺さる視線はコウミさんの気まずさを加速させるし、止める人がいないとこの人は本当に傍若無人に動く。コーイチさんって、すごいんだなぁ……。

 

「ツカサ……。気になって来てみたらやっぱりだったよ……」

「んだよ、こっちの方が効率がいいだろ」

「効率の問題じゃないよ! まったく……」

 

 頭を抱えながら、やはりこちらも自分に頓着がない跳ねた寝ぐせを揺らす。

 

「ごめんね、僕はナナセ・コウイチ。コウミさんは初めましてかな。一応ELバースセンターの職員だよ」

「これはご丁寧にありがとうございます。私はムトウ・コウミです」

 

 そういえば2人とも初見だったっけ。ある程度言葉を交わしてから、コウミさんはコウイチさんにダイバーギアを渡した。

 

「んなっ?! おめぇ、俺には渋ったくせにコウイチにはいいのかよ!!」

「だってシバさん怖いですし」

「このガキッ!」

「ツカサの悪いところだよ……」

 

 はぁ。とわざとらしくため息を口にしたコウイチさんは役目を終えたのか、ツヴァイズガンダムとダイバーギアを手に部屋から出ていこうとする。

 

「あとで2つとも返すからね」

「……そのことなんですけど。ツヴァイズは差し上げます」

「え?」

「んぁ?」

 

 以前、コウミさんから聞いていたことがあった。

 それはツヴァイズガンダムの処理をどうするかというものであった。自分のガンプラを『処理』だなんて言い方をするなんて。とは思いながら質問を返してみたところ、答えはこんな感じだった。

 

 まずムトウ製ブレイクデカールは一度くっ付けば取れない。

 ガンプラとブレイクデカールの結びつきを強化するべく、張り付けてしまえば二度と取れないような仕組みになっていた。

 取り除くにはそれこそ壊すか捨てるかしかない。それほど危険なデカールだったんだと今さらながら肝を冷やしたものだ。

 

 そしてコウミさん自身が、これをあまり使いたくない。ということだった。

 元はと言えば自分が作ったガンプラに、ブレイクデカールを張り付けたコウミさん自身の罪の象徴でもあった。

 見たくもない、というのが事実なんだと思う。けれど彼女は埋葬という言葉を選んだ。

 あの時、あの瞬間。わたしとアリサさんの一撃で、ツヴァイズは死んだ。そういう解釈なんだ。

 

「コウミちゃんは、いいの?」

「いいですよ。元々新しいガンプラを作りたかったですし」

 

 言葉と気持ちは裏腹である。ひっくり返った表情は今にも崩れてしまいそうな壁のようで。

 張り付いた仮面がすぐにも落ちてしまいそうなぐらい、悲壮感に満ち溢れていた。

 

「……コウミちゃん、ツヴァイズはそれでいいって言ってるよ」

「え?」

 

 わたしの胸ポケットに移動していたルミミさんが一言そう告げる。

 そういえば前にELダイバーにはガンプラの声が聞こえるって言ってたっけ。前は聞けなかったツヴァイズの言葉だったけど、ブレイクデカールがなくなったことで聞こえるようになった。そんなところだろう。

 

「ツヴァイズはね、ずっとコウミちゃんを見てきたの。苦しい時も悲しい時も。ずっと暗い顔だったから、最近のコウミちゃんを見て、すっごく嬉しかったんだよって」

「ツヴァイズ……」

 

 コウミさんはゆっくりとコウイチさんの方へと足を踏み出していた。

 それが分かっていたコウイチさんも近づいてきたコウミさんへ、抱きかかえていたツヴァイズガンダムを渡す。これが、最後の別れなんだ。

 全長15cm前後の相棒をそっと胸元に抱きかかえる。この4年間、きっと触ることはなかったのかもしれない。もしかしたらブレイクデカールの実験台として酷使されていたのかもしれない。

 それでもツヴァイズは忠義心をコウミさんだけに向けていた。

 たった1人の相棒であり、主人でもあるコウミさんだけに。

 

「ありがとう、ツヴァイズ……」

 

 ――一緒にいてくれて。

 

 頬を伝って零れる感情をツヴァイズが受け止める。

 もっと一緒にいたかったのかもしれないし、贖罪の機会を求めていたのかもしれない。

 でも決めたのはコウミさんだ。ツヴァイズはその忠義心に従って、旅立つ。

 わたしはただ見守るだけ。満足するまで、今生の別れを待つだけ。

 

「いろんなことがあったね、ツヴァイズ。だけど最後はうまく行った。ツヴァイズのおかげだよ。ありがとう」

 

 胸ポケットにいるルミミさんがわたしを見つめる。

 

「なに?」

「ツヴァイズ、別れちゃうのに悲しいって気持ちを押し殺して元気でねって言ってるの、なんでだろうなーって」

「……単純なことだよ」

 

 相棒の、一緒に連れ添ったバディの幸せを一番に祈るのは、他でもない相方の務めだから。

 

「ツヴァイズは嬉しいんだよ、コウミさんが幸せな日々を送れるようになって」

「……そっか。複雑なんだね」

「そうかもね」

 

 本当はツヴァイズも一緒に強くなりたかったんだと思う。

 けれど、それを選べなかったのは相方の弱さだった。それでもと心に誓って、ツヴァイズは痛いのも苦しいのも我慢した。本当に、いい子だよ。

 

「じゃあね、ツヴァイズ」

 

 コウイチさんにツヴァイズを手渡してから、その足で診察室から出ていった。

 

「ま、あの様子じゃ未練たらたらだろうがな」

「ツカサ!」

「それでいーんだよ! そのぐらいの未練もなきゃ、そいつのガンプラも報われねぇ」

「……そうですよ。自分の好きなガンプラで作ったんですもん」

「行ってあげてよ、ウチはここでメンテナンスあるし!」

 

 てちてちと胸ポケットで叩くルミミさんが今日は身長以上に頼もしく見えた。

 そうだね。うん、そうしよう。ルミミさんの頭を撫でてから机の上に彼女を着地させる。

 それからコウミさんを追うような形で部屋を飛び出していった。

 

「青春だねぇ」

「青くせぇだけだろ」

「よく言うよ、自分が事の発端だってちょっとは悪気を感じているんでしょ」

「あれはGBNが悪い」

「そこも変わんないね」

 

 ◇

 

 涙は心の骨折。それは誰かが言った言葉だったはずだ。

 けれど、この涙はきっとそんな物なんかじゃない。

 止めどなく溢れてくる涙を1人で流している。トイレなのは他人に見られたくないから。水道を流しているのは声を聴かれたくないから。鏡を見ながらなのは、私が泣いている姿を自分で見なければいけないと思ったから。

 鏡を見て、自分が少しだけ笑っていたことに気づけたから正解だった。

 

 そうだ。これは未来への第一歩なんだ。過去から決別するための儀式のようなもの。

 未練がないかと言われたら嘘になる。未練なんて腐るほど垂らしている。

 でも、心は清々しくて、涙が出るたびに黒いヘドロが出てくるような感覚を味わう。ありがとう。その言葉が私の中に浮かび上がる。

 

 私の言いたかったこと。それが言えた。私の口から。

 よかった。本当によかった。私が私でいられて。気持ちを素直に言葉に出せて。

 

「……ここにいたんですか」

「ぐすっ……ミユリさん……」

 

 当然のように見つけてくれた彼女が私の肩をそっと抱き寄せる。

 鏡の中には2人の顔。笑顔のミユリさんと、泣いてる私。

 

「ルミミさんのメンテナンスが終わるまでの間なら、このままでいますよ」

「……お姉さん面しないでください」

「4歳上ですし?」

「……もう」

 

 どうしてこの人は私のことを見つけてくれるんだろう。

 こんなところにいたのに、どうして。

 

 まぁいっか。今はこのぬくもりが嬉しい。

 暖かさが伝わってくる。優しさが伝わってくる。気遣いが伝わってくる。

 その無駄に豊満な身体に埋もれ、静かに泣く。そっか、こんな風に泣ければ誰にもバレないんだ。

 まるでミユリさんも私の一部みたいだ。ひとつになっている。心が、身体が。

 

 ひとしきり泣いて。ひとしきり胸の内で感情を吐き出して。

 そして顔を上げる。きっと目の下は真っ赤に充血していることだろう。

 

「……終わったら、一緒にガンダムベース行きましょうか」

「はい……!」

 

 ゆっくりと時計の針は時を刻み始める。

 私の、ミユリさんの止まっていた時間が、ゆっくりと。

 ここから始めよう。私たちの親友物語を。そう思いますよね、あなたも。



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第38話:「写真撮るの下手くそですか?」

 大きい。

 

「わぁ……」

 

 大きい。

 

「おぉ……」

 

 ガンダムベースと言えば、思いつくのはお台場の方だ。

 でも今回はエンリさんからの紹介からこのシーサイドベースにへとやってきたのだ。

 

 目を引くのは赤レンガの倉庫と、なんと言っても等身大エールストライクガンダム。

 潮風に乗って戦いの記憶まで香ってきそうなスケールに21歳の女子大生が興奮している。

 隣を見ればコウミさんが目をキラキラと輝かせながら、手にはスマホを持ってカシャカシャと音を鳴らしている。

 考えてみれば、自分のガンプラ案をどうしようかと考えた時にとっさにコズミック・イラなんて単語は出てこない。それだけSEEDの世界観が好きということに他ならない。

 7cm小さく、ベストポジションを探すべく細やかに動き回る姿はどことなくハムスターを思わせていた。黙っていればかわいいんだよなぁ。

 

「ミユリさん! 写真撮りますよ!」

「はいはい」

 

 隣に興奮している人を乗せていると、逆に冷静になるという現象があるらしい。わたしは今その状態に陥っている。

 目の前で小さい身体をジャンプしつつ、ピースポーズをとる彼女を見ていたら、冷静にもなるだろう。みんなだってそのはずだ。

 

 エールストライクを背景にコウミさんをパシャリ。うーん、もうちょっと上かな。ストライクの顔が見切れてしまった。

 

「どうしたんですか?」

「どうしてもストライクが見切れるから」

「ミユリさん、写真撮るの下手くそですか?」

 

 なにを!

 確かにガンプラを撮る時、ちょっと手振れが酷かったり、写真全体がぼけたりはするけれど、そんな面と向かって下手くそというのはどうかと思う。

 とはいえ、手元のスマホにあるのはストライクの胴体から上が見切れて、コウミさんの指の数が4つぐらいになった写真だ。どうしてこうなった。

 

「仕方ないですね。貸してください」

「あ、ちょっと」

 

 そう言ってコウミさんはエールストライクを背景にわたしの身体にくっついた。肩を寄せ合い、胸を近づける。同時にコウミさんのシャンプーの匂いが鼻孔をくすぐる。あー、美少女の匂い。もうちょっと性格がよければモテるだろうに。

 

 スマホのカメラを下から上へと見上げる形でセッティングする。

 

「ミユリさん、ハイチーズ!」

「ちょっ!」

 

 わたしが呆けている間にスマホのシャッターが切られる。フラッシュは出ないものの、そこにあったのは完全にキメキメの笑顔でかわいく画像に写るコウミさんの姿と、明らかに動揺しており、どうしてそうなったと言わんばかりに目を丸く見開き、口がぽっかりと開いたわたしがコウミさんを見ている姿だった。

 

「消しましょう」

「消しません! この隙にLINEに送信ー」

「あぁ!」

 

 わたしのマヌケな顔がコウミさんとのメッセージ欄に出没する。

 

「えへへ」

「コウミさん!」

「まぁまぁ、今度はちゃんと撮ってあげますから」

 

 肩を叩かれても、コウミさんがあの写真を保存した事実は変わらないわけでして。

 はぁ、まぁいいや。気を取り直して写真を撮ろう。2枚目の写真をとりあえず何事もなかったので安心だ。

 

 それから店内へと進むと、立ち並ぶのはガンプラの箱の山々。綺麗に作られたガンプラも作例として展示されている。

 まさにガンプラ専門のおもちゃ屋さん。うちの【インコ模型店】とは文字通り格が違っていた。

 

「おぉ、すごー!」

「ルミミさんもそう思います?」

「そうだよー! ウチのこと忘れてイチャついてて、ものすごく悲しかったんだから」

「ごめんごめん!」

 

 全長15cmのELダイバーに謝罪する大の女子2人が情けなさすぎて、店内でも少しざわついた。

 そんなに珍しいものだろうか。2年前と比べたらそこそこELダイバーの存在も認知されるようになったと思うんだけど。

 

「エンリちゃんたちはここで待ち合わせ?」

「ですね。ただしばらく時間があるし、ちょっと見ていきましょうか」

「はい!」

 

 今回はフォース「ケーキヴァイキング」とのオフ会、という名目もありながら、コウミさんのガンプラ案を見るためにシーサイドベースまでやってきていた。

 サイカさんは今日も稽古があるらしく、明日会う予定なので今日は来ていない。

 休めばいいとは思ったものの、流石に社会人ならそう簡単にはいかないだろう。

 

 わたしたちはルミミさんを胸ポケットに入れながら、コズミック・イラのエリア。俗に言うSEEDエリアへとやってきていた。

 目につくはフリーダムとフォースインパルスのガンプラ。

 フォースインパルスがフリーダムの胸部にエクスカリバーを突き刺すようなジオラマが展示されていた。名シーンの再現である。

 当初無敵と思われていたフリーダムを駆けるキラ・ヤマトを、完全にメタを張るという形ではあるものの、懐にある勝利をもぎ取ったシン・アスカは執念の鬼。復讐の使途と言っても過言ではない。

 

「やっぱりインパルスはかっこいいですね」

「この、インパルスガンダムにはミサイルはあるの?」

「ありますよー! ブラストシルエットというバックパックを身に着けたブラストインパルスには4連装のミサイルランチャーがありまして」

「120門には敵わないね」

「それはルミミさんの武装が異常すぎるだけです」

 

 作っていた身としては頭が痛い。

 ルミミさんの武装もある程度変更した方がいいだろうか。目標とも言える地点を考えると、どうしても打倒フォース『AtoZ』になりかねない。

 そうでなくてもサイカさんのフォース『百鬼』への感情もあるだろうし、それを踏まえて調整した方がいいかもしれない。

 

 でもまずはコウミさんの機体からだ。フリーダムを見ながら頭の中でカスタム案を浮かべては消していく。

 オールレンジ攻撃を使うのであれば、ストフリにレジェンド、それからプロヴィデンスやドレットノートもある。その中から取捨選択していくのは難しい。

 

「やはり王道のストフリ。でも空を飛ぶって言うのはなんとなくコウミさんらしくないっていうか」

「じゃあアビス?」

「それもいいんですけど……。コウミさんは何にしたいですか?」

 

 うーん、と額に指を押し当てて悩ましい声を放つ。

 これはひょっとして……。

 

「何も考えてませんね?」

「そ、そんなことないですし! インパルスもいいかなーって思ってるけど、オールレンジ攻撃なんて一切持ってないしなーって」

 

 確かにインパルスにはオールレンジ攻撃を持ったシルエットは存在していない。

 フォースとソードとブラスト。それからデスティニー。どれをとってもオールラウンドに活躍できるエース機体だ。

 それをオールレンジのようなサポート機体にするとなると……。

 

「新しいシルエットや武装を考えるなんて、どうかしら?」

「「うわっ!!」」

 

 その考えたちは突如現れた黒髪ツインテールの女性に阻まれた。

 って、よく見れば面影がある。そう、エンリさんの。

 

「エンリ、そういうドッキリのさせ方はどうかと思いますよ」

「あまりに悩んでるから、つい。ね」

 

 気づけばコウミさんよりも小さな――だが胸は大きな女の子がエンリさんの隣に立っていた。見覚えがあった。というかラストワン事変の時にお世話になった人の1人だ。

 

「私はイチノセ・ユカリ。ダイバーネームはユーカリですね。こっちがホシモリ・エンリです」

 

 ぺこりとお辞儀する彼女はなんというか、犬だ。小型犬のタイプ。

 わたしたちも自己紹介してからお辞儀をする。

 

「あれ、ムスビさんたちは……?」

「あー、ムスビはフレンの付きそいでELバースセンターよ。ラストワン事変の影響を確認したいらしいわ」

「すみません……」

 

 コウミさんが謝るけれど、それは違うとユカリさん。

 元々定期検診をサボっていたツケがこの日に回っていただけらしい。なんともまぁ皮肉なことだ。

 

「ベースはインパルスかしら?」

「えっと、それすら決まってなくて……」

 

 かくかくしかじかと、コウミさんの新たなガンプラ機体案を話すと、一緒に頭を悩ませる。どうやら彼女たちも一緒にコウミさんのガンプラ案を模索するみたいだった。

 

「私、SEED系は疎くて……」

「まぁ、わたしもなのだけど」

 

 早速頼りにならなさそうなんですけど。

 わたしたち5人はどんなものが相応しいかと、ガンプラの箱を眺めながら考えに耽っていくのだった。




この作品は拙作レンズインスカイへのアンチテーゼである(嘘)


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第39話:「言ってる自覚ありますから!」

 ガンプラを作る人。俗に言うモデラーにはいくつか種類がある。

 

 例えば完成度重視で飾って愛でるためのガンプラを作る人。

 例えばギミックに力を入れて、自慢のガンプラを動画に映す人など。

 十人十色。千差万別。10人モデラーがいれば、10人とも違う創作論が存在する。

 それは「ガンプラは自由だ」という言葉をダイレクトに表現している。

 

 ……まぁ、つまり。その。

 何が言いたいかと申しますと、GBNにログインしている人はきっと漏れなくそうなんだと思う。

 

「だーかーら! ビット系と言えばファンネル以外にありえません! テイルブレードなんて実質有線装備じゃないですか!」

「そんなことないわよ! だいたいビットが何故無線兵器だけと思ったのかしら? インコムだってあるでしょう?!」

「だからってテイルブレードを採用しようって、どんだけ頭バルバトスなんですか!!」

 

 作成室の机を挟んで、目の前で愛する人同士が喧嘩している。

 意見の不一致。方向性の違い。きっかけはコウミさんのガンプラのビット兵器をどうするか、という問題であった。

 

 インパルスガンダムにすると決定したがいいものの、SEEDに出てくるビット兵器は基本的にバックパックを装備するタイプ。個人的には気に入らないと言わんばかりにストフリもレジェンドも、それからドレットノートでさえも却下したコウミさんに痺れを切らしたエンリさんとユカリさんの2人はそれぞれのビット兵器を提案。

 ところがテイルブレードは有線武器でビット兵器ではないと、ユカリさんが一蹴。そこで今のような言い争いになった、というわけだ。

 

 事の発端であるコウミさんはアワアワしながら見ている。あなたがやらかしたことですからね。

 

「あ、頭バルバトスって。人を暴力マシーンみたいに言わないで!」

「暴力マシーンじゃないですか! ナツキさんの件だって、延々悩んで最終的にはバトルですもん! あれには私だってびっくりですよ!」

「あれはナツキが悪いに決まってるじゃない! だいたいあいつが地方大会決勝で手を抜かなければこんなことにならなかったんでしょ?!」

「エンリ、すぐナツキさんのせいにするじゃないですか! もう19なんですからいい加減4年前の出来事ぐらい振り切ってくださいよ!」

「……あんた、言うようになったわね」

「私だって溜まってるんです!」

 

 この人たちも4年前らしい。どんだけ4年前が特異点になっているのだろうか。

 などと考えながら、21の私はスマホを弄ってビット兵器の検索をかけていた。

 

「ミユリさん、こんなところでスマホを弄ってたら怒られますって」

「だって、効率的じゃないでしょう?」

「効率って……。ミユリさん今の状況が不合理だと」

「そうですよ。ビット兵器なんて最終的な性能はガンプラの完成度ですし」

「…………」

 

 ドラグーンがダメなら、ファンネル系。でもファンネルはサイコフレームを組み込まなくてはいけない。ドラグーンならプラグインだけでもなんとかなるけれど、ファンネルは特殊な加工を施さなくちゃならない。

 かといって誰でも使えるビット兵器なんて、ハロを搭載したサバーニャのビットなりファング、有線のインコムぐらい。有線の攻撃端末をビットと呼んでもいいかは分からないけれど、インコムほど制御が難しい兵器を見たことがない。

 雑に扱えば線が絡まったり、最悪行動不能にもなりかねない兵器。さすがのコウミさんもそこまでのことはできないはずだ。

 なら無線兵器で自由にやらせたい。けれど、何かあるかな。

 

「一応ビームブーメランも簡易的なドラグーンとしても働くようだけど……」

「……ねぇ、ルミミさん」

「なーに?」

「まともなのってわたしだけなのかな」

「ウチはコウミちゃんがまともとかそういうの思ったことないよ?」

「まだルミミさんには早いか」

 

 そう言って机の上にいるルミミさんに話しかけるコウミさん。

 悲しきかな。誰にも相手にされていないようだ。

 指先で撫でながら、次第に口喧嘩の決着がつきそうな2人を見て、少し苦笑いする。

 

「うぅ……だから……」

「だからなんですか? テイルブレード、もといテイルシザーはいつもすっごく助けられてますし、頼りにはしていますけど、それでもビットじゃないです」

「いや。あの……」

「あのテイルシザーの捌き方は動きをダイレクトに伝えられる有線にしかできませんし、エンリだからこそできる芸当だと思いますが」

「分かった。分かったから!」

 

 褒め殺しにつぐ褒め殺し。何故かエンリさんを褒めまくるという手に出たユカリさんに対して、エンリさんは色白だった顔を真っ赤にして恋人の頭を撫でまわす。しっぽがついていたらちぎれんばかりに振り回しかねなさそう雰囲気であったが、一応怒っている身だ。ぐっと嬉しそうな顔をこらえて、じっとりと彼女を目にしている。

 

「そ、そんなことで誤魔化そうったってそうはいきませんよ!」

「そうじゃないわよ。……その、3人の前だから」

「関係ありません! むしろエンリのすごさを知らしめましょう!」

「それが嫌なんじゃないのよ!!」

 

 溜まっていたマグマが爆発するように、エンリさんが噴火した。否、憤死した。顔は真っ赤で、触ったら恐らくやけどしそうなほどに熱いのだろう。

 そんな解説をしているわたしであったが、いくらかの候補は見つけていた。

 

「ビットを使うなら本体は硬い方がいいですね。やっぱりフルアーマープラント化も悪くない」

「フルアーマー、つまりグランサですか!」

「いえ、それを言うならグシオンでしょ」

「効率が悪いですから、そのくらいにしてください」

「「あっ、はい……」」

 

 まったく。

 それよりフルアーマーにして、ビット兵器で主な攻撃をする。その手法はいつも使われていること。悪くはないはずだ。

 

「……ミユリさん、怖い」

「ミユリちゃんは集中してるといつもこんなだよ?」

「ルミミとコウミはあんたよく一緒にいれるわね」

「あはは、恐縮です」

 

 となると、グランサのような貫通力のあるドッズライフル系?

 でもコウミさんは射撃技術はそうでもない。なら連射力を高めた、マシンガンなんかはどうだろうか。ドッズマシンガン。悪くないかもしれない。

 それから前腕部に隠し装備を入れて火力の支援。地上戦がメインになるけれど、ルミミさんのサポートもしやすいはず。空はわたしとサイカさん。陸上はコウミさんとルミミさんに任せれば……。

 

「……なんか思いついた顔ですね」

「フルアーマー化でドッズマシンガンを2丁持ち。それから前腕部に武装を隠せば、フルアーマーインパルスの完成です!」

 

 ドヤ顔してアイディアの発表会をして、そのままシュンと縮こまっていく。

 あぁ、もしかしてその顔。やらかしちゃいましたか?

 

「見事にアイディアがビット以外に逸れたわね」

「ウチの時もそうだけど、ミユリちゃんって変なところで思い切りがいいよねー」

「うぅ……すみません……」

 

 フルアーマー、とつぶやきながらエンリさんが文字に起こした武装案を眺めている。

 

「ミユリ、フェイズシフトは物理限定よ。ビーム兵器はどうする?」

「……それは」

「GBNはビーム有利の環境。それに対するメタがナノラミネートアーマーだと考えているわ。当たることを前提としているのであれば、ビームの対策を練らなきゃいけない」

 

 エンリさん、この一瞬の間でフルアーマーインパルスの弱点をすぐに見抜いただなんて。

 確かにこの機体はビーム兵器に弱い。当たればほぼ確実にアーマーが捲られる。かといってナノラミネート装甲まで行けば、プラグインの許容量を超えてしまう可能性がある。どうすれば……。

 

「ABCマントよ」

「あっ! そうですよ! ABCマントならビーム兵器を一時的に無力化できる!」

「……なるほど」

 

 でもそうなるとビット兵器の出撃を阻害する可能性が……。

 

「そっか。ABCマントを装備したドラグーンを作ればいいんだ」

 

 瞬間。雷が落ちたかのような衝撃がわたしの脊髄に伝わる。

 そうか。そうすればいいんだ。

 取り出したスケッチブックにインパルスの見た目とそれを覆うフルアーマーを切り取っていく。胸に腕に足に。そして肩。両肩をドラグーンコンテナにして、ドラグーンにABCマントを装備させれば……!

 

「ABCドラグーン。肩は肥大化するけど、これなら6基収納出来ます!」

「……いいじゃない!」

 

 ちらりと横にいるコウミさんを見る。

 これならばビーム、実弾をブロックしながらドラグーンやドッズマシンガンでの連射が可能となる。

 つまるところ、歩く城塞。フルアーマーインパルスガンダムの方針が固まった瞬間だ。

 

「うん、いいかもしれません。それに、ミユリさんが考えてくれたガンプラですし!」

「嬉しいことを、言ってくれますね」

「言ってる自覚ありますから!」

 

 にへらと頬を緩める彼女を見て、心が軽くなる。

 考えてよかった。少し不安だったけれど、コウミさんが納得してくれてよかった。

 

「じゃー! インパルスを作っちゃお!」

「そうですね」

「5人で作れば、サクッと仕上がりますね!」

「ユカリ、流石にルミミに手伝わせるわけにはいかないでしょう?」

「じゃあ応援してるね!」

 

 フフッと4人とも噴き出すと、周囲に笑顔の花が咲く。

 なんだよぅ、とむくれるルミミさんだったけれど、それもまた悪くない。

 だってみんなで仲良くやっていることが1番だと思うから。

 

 では作ろう。まずは素体から!




インパルス→フルアーマーインパルス→???インパルス


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第40話:「大人だけど、大人になっちゃったみたいな」

「ここがあの女のハウスなんだね!」

「ルミミさん、その言葉を教えた相手を詳しく教えてください」

 

 フレンちゃんだけど、と言われた途端納得した。あぁ、あの人なら言いかねない。

 所も時間も変わって、インパルスガンダムを入手してから翌日。わたしたちは1軒の屋敷へとやってきていた。

 屋敷、というよりもどちらかというと道場と言った方がいいかもしれない。

 雪を下ろす為ではなく、雨粒を落とす為の三角屋根。木星の壁はこの道場の歴史を感じさせてくれる。窓には子供たちが映り込んでいて、大きな大人と一緒に稽古に励んでいる姿が見受けられた。

 そしてその大人には見覚えがある。

 

「ホントにサイカちゃんって大人だったんだねー」

「あ、それは私も思いました」

「2人ともサイカさんのことを何だと思っているんですか」

 

 ウタイ・サイカ。

 自分の苗字の名前を持つウタイ流という剣技を継承するウタイ道場の若き師範代。

 ウタイ流がいったいどういう剣術なのかは分からないものの、きっと流派を名乗る程度にはすごいものなんだろうと考えるわけで。

 その癖本人はおやじギャグが好きな女だという。ハッキリ言って残念な大人だ。

 

「すみませーん……」

 

 タイミングを見計らって、扉の方から道場へと入っていくと、すぐさまわたしたちに気づいたサイカさんが少し微笑む。

 

「おぉ、貴殿たちか。すみません、この子たちの稽古が終わるまで家の方で待っていてはくれませんか?」

「えー! ウチ、サイカちゃんの仕事姿見たーい!」

 

 胸ポケットから声を上げると、指導を受けていた子供たちが一斉に振り向く。

 なんだか、わたしが見られているようで少し怖かったけれど、本命はわたしの胸にいるELダイバーの方だ。

 

「え?! お人形さんが喋った!」

「バーカ、これはプラモデルって言うんだぜ!」

「違いますね。これはELダイバーという新しく発見された生命体の1つで――」

「「メガネの話は聞いてない!」」

「そ、そうですか……」

 

 しょんぼりとするメガネが可哀想だなと思いながら、目線の先にあるELダイバーを胸ポケットから取り出す。

 このままだとずっと無駄に増えたぜい肉に視線が行ってしまい、痛いのだ。心と恥が。

 

「ウチはルミミ! よろしくー!」

「よろしくね!」

「こーら。皆さんは稽古が途中でしょう?」

「「はーい……」」

 

 師範代の一声で子供たちが道場の中へと散っていった。これでも師範代ということだろう。

 

「すみません、子供たちはELダイバーが珍しいみたいで」

「いいんです。それよりも見学してもいいですか?」

「これも謝罪ということで、そこにソーリーと座ってください」

「え?」

 

 これにはコウミさんも困惑の顔を示してしまう。まぁ、わたしもなんだけど。

 サイカさんは本当にリアルとGBNでは何も変わらないということが分かってしまった。どうしようもなく、しょうもないギャグで分からされた。

 

「こほん。ではそちらに」

「あっはい」

 

 道場の隅に座って子供たちとサイカさんの稽古を見る。

 板の地面だから少しお尻が痛いけれど、まぁ立ってみるよりはマシ、かな。

 

 それにしても、目の前で剣の稽古を見るという体験はなかなかない。

 上から下への素振りでさえも、わたしにとっては新鮮味を感じさせた。聞けばARガンプラバトルでは実際に身体を動かすタイプの操縦方法があるらしい。それでRX-78を優勝に導いたというのだから、ポテンシャルが高いように思える。

 それとは別にARガンプラバトルなんて、もう時代遅れだとも感じるわけで。GBNがある以上自由度はGBNが上だ。

 でも物好きはいる。未だにGPDを求める人だっているわけで。わたしには分からないけれど、いつかはやってみたい。それもまた経験だから。

 

「すごいですね」

「だよねー。真剣なサイカちゃん、すごく楽しそう!」

「そういえば真面目なサイカさんはラストワン事変の時以来ですか」

 

 思い返してみても、そんな真面目なサイカさんを見たのは特攻を仕掛けた時しかなかった。

 きっとわたしたちからはそう見えるだけで、いつも真剣だったのかもしれない。けれど、本当の本気になったのは、あの時を除いたら見たことがなかった。

 

「サイカさんって、どこか一歩引いてる印象があるんですよね」

「それ分かる! 大人だけど、大人になっちゃったみたいな」

「なんですかそれ」

「分かんないよ! でもそんな感じがするの!」

 

 大人だけど、大人になっちゃった。

 わたしたちはサイカさんのことをあまり知らない。もちろん名前とか何をしているか、とかは知っている。

 けれどそうじゃない。知りたいのは本人のこと。マジンガンダムに負けても特に何も言わなかった。状況が状況だったけれど、あの時まで無敗だった【アストロ・ブルーのサイカ】が死んだのだ。どれだけ悔しかったのだろうとか、感情が見えてこなかった。

 サイカさんは、何を考えて生きているんだろう。

 

 それからわたしたちはずっと無言だった。

 サイカさんの真剣な姿を目に焼き付けるために。彼女が考えていることを学ぶために。

 でもやはり中身が一切伝わってこなかった。

 

 ◇

 

「ふぅ……。おまたせしました」

「足が……っ!」

「お尻痛い……」

 

 そんなこんなで1時間弱。ずーーーーーーっと冷たい床板に座っていたコウミさんは足がしびれて悶えている。はっはっは、バカな奴め。だからわたしは足を伸ばして座っていたのだ。

 その甲斐あって、今ではお尻が痛い。立ってみればよかった。この発想をもう1時間前に考え付くべきだったのだ。

 

「皆さん鍛錬が足りませんね」

「「だってぇ!」」

「家に参りますよ。わたくしが支えますから」

「うぅ……」

 

 それから15分ほどかけて、体重をかけるたびに悶え苦しむコウミさんを微笑ましく思いながらサイカさんの家へとやってきた。

 武家屋敷というものだろう。入ってきたときは気付かなかったけど、サイカさんもまたいいとこのお嬢様なのかもしれない。そんな雰囲気は微塵もないのに。

 

「あぁ畳ぃ……」

「ありがとうございます」

「大丈夫ですよ。いま、お茶と菓子を持っていきますね」

「あはは、お構いなく……」

 

 タッパーに入れたノチウフルバーニアンとエイノンを机の上に立たせる。

 ガンプラを介したオフ会ではこれが鉄板だと聞く。

 

「久しぶりー、ノチウくん!」

「そんなフランキーではなくても」

「ノンノン! ノチウくんは久々のシャバの空気に震えているんだよ!」

「シャバって……」

 

 確かにノチウは最近出していなかったけど。

 2つのガンプラを置いて分かることだけど、やはりノチウは完成度が高い。それは間違いのない事実だ。けれど、わたしが使っていて最も扱いやすいと思ったのはエイノンの方だ。

 ガンプラとしての完成度は決して高くはない。でも、わたしがわたし専用で操作するために膨大な時間をかけて調整した傑作だ。わたし専用のガンプラ。それがエイノンだ。

 ならノチウもその領域までたどり着ければ……。

 

「また使ってあげるからね、ノチウ」

 

 優しく倒れないように頭を撫でる。わたしの好きを詰めた作品でもあるノチウだ。きっと、いや必ずノチウを完成させよう。

 

 しばらくしてサイカさんがお茶請けとお茶をセットで持ってきて、机の上に乗せる。もちろんガンプラもセットである。

 

「おー! ムラサメくん!」

「ルミミどのはこのようになっているのですね」

「ふふん、どうー?」

「…………」

 

 手を顎に添えてじろりと見るサイカさん。まじまじと見て、穴が開くぐらい見て、一言。

 

「あまり変わりませんね」

「ガクッ! ひどーい!」

「いつものように現金なほど元気なだけです」

「もう! お金欲しくて元気じゃないもん!」

「ルミミさん、いつものですよ」

「むぅ!」

 

 3機のガンプラを前にうつぶせになるガンプラが1機いるらしい。

 白い軍服のような見た目とは裏腹に、だらけた姿を見せるルミミさんは子供かペット可と言われたら、小動物というべきだろうと心の中で考えておく。

 わたし個人としては手のかかる子供そのものだけども。

 

「さて、じゃあ始めましょうか!」

「ですね」

「はい!」

「ウチも!」

 

 タブレットの中にわざわざ用意した画像を表示させて、机の上に置く。

 

「第1回、アストロ・ブルーオフ会の始まりです!」

 

 わーわー、どんどんパフパフ。

 グッズはないので声だけで盛り上がる。むなしいけれど、それもまたよし。

 わたしたちは困難を乗り越えて、ここにオフ会を開くことができたのだ。



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第41話:「どうしてGBNを始めたんですか?」

 何事においても、人と人が出会った時に最初にやることとは何だろうか。

 相手を知って、自分も知る。その機会を得るには、やはりここしかない。

 

「えっと。キズナ・ミユリ、です。僭越ながらフォースリーダーさせていただいてます。よろしくお願いします」

 

 自己紹介、やっぱり慣れない。ほっぺたが赤く染まってむずがゆくなってしまう。

 盛り上げる3人に比べて、わたしのテンションは少し低い。恥ずかしいからですよ、言わせないでください。

 

「やはりここはキユリさんあってこそですね」

「え、なんでですか?」

「前のフォースの時はわたくしがリーダーでしたが、あまりいいことはできませんでしたから」

「……ごめんなさい」

 

 しょんぼりと顔をうつむかせるコウミさんに対して、サイカさんは違います、と彼女の頭に手を乗せた。

 

「このフォースもあのフォースも、しーちゃんがいて初めて成り立っていたフォースです。ですからあまり深く考えすぎないように」

「……サイカさん」

「考えすぎると、思考がしこーっと固まってしまいますから」

「今のは1点」

「手厳しい」

 

 そういうことを言っているサイカさんこそ、フォースにいるべき存在だ。

 いつも寡黙なのに、人のことはちゃんと見ていて。励ますときは粗雑なおやじギャグと共に励ましてくれる。それが嬉しかった。逆に不安でもあった。その笑顔の裏側には何を隠しているのだろうって。

 

「次はしーちゃんだよ!」

「そうですね。私はダイバーネーム:シーハートのムトウ・コウミと言います」

 

 パチパチと手のひらを鳴らして拍手。コウミさんは慣れていると思っていたけれど、思いのほか歓迎されることに慣れていないように見えた。お嬢様め、1つ弱点を得たり。

 

「で、しーちゃんはいつになったらタメ口に戻るの?」

「え?! 必要ですかそれ!」

「わたしもそう思います」

「ミユリさんはダメ。その意見は却下です」

「えー」

 

 もうルミミさん、わたしにまで言われているんだからタメ口にしたっていいだろうに。誰も文句は言わないと思う。そんなに昔の口調に求めているわけでもない。それに。

 

「わたしは今までのタメ口が好きだったんですけど」

 

 しーちゃんというキャラクター性から、タメ口の方がいい。これはわたしの好みの問題だけど、ルミミさんだってサイカさんだって同じことを思うはずだ。

 

「どうですか?」

 

 机に肘をついて、試すような顔で少しだけ首を傾ける。

 コウミさんはやや口を開けてから、何かを言葉にするようにもごもごと口の中でつぶやく。もちろん聞き取れるわけがないので、言葉をせかすわけでもなく静かに待つ。

 それから数十秒。肩の力を抜くように鼻から息が抜けていき、うつむきがちの顔から視線を感じる。その瞳は、少しだけ潤んでいた。

 

「いいんですか?」

 

 なんだ、そんなこと。

 

「いいも何も、その方が友達らしいでしょう?」

「……ですけど」

 

 だいたいわたしには言ったじゃないですか。タメ口がいいって

 わたしがタメ口は使ってないというか、あれからいろいろありすぎて忘れていたんだ。

 だから忘れているであろうコウミさんに対しては黙っておく。

 

 とはいえ、しーちゃんとしてコウミさんはタメ口がいい。変に遠慮されても対応に困るのは大抵わたしなわけでして。

 

「……迷惑、じゃないんですよね?」

「もちろん」

「嫌じゃないですよね」

「当たり前じゃないですか」

 

 ふるふると震える唇をきゅっと結んで。それから一拍。

 

「…………私、ラストワン事変から少し怖かったんです。あれだけ親友だって思ってくれたのに、もしかしたら、って思うことがあって。でも勘違いなんですもんね」

「最近の態度から見たらそうですよ」

「……それもそうですね、うん。そうだね、ミユリ」

 

 にっこりと晴れた海のように清々しい顔は見るものすべてを癒す。

 やっぱりコウミさんはこうでなくちゃ。サイカさんもルミミさんだって、そう考えているはずだ。

 

「ところで、ミユリは私のことタメ口しないの?」

「……ちっ」

 

 覚えてましたか、この女。

 

 ◇

 

「というか、今日ここに泊まるんですか?」

「えぇそうですよ。旅館じゃあかんですか?」

「なんか疲れそう」

 

 前に慣れてきたとは言っていたけれど、だからって辛辣になる必要はないのでは。

 心の中でそう考えてしまうものの、それはそれとしてサイカさんのギャグはつまらないからしょうがない。

 わたしたちは翌朝には家を出て、少し旅行をしてから飛行機に乗るつもりだ。なので東京での夜はこの日が最後であった。

 サイカさんはそれならば、と快く自宅を貸してくれた。広い部屋がいくつもあって使ってない部屋があるから、とのことだったが……。

 

「それよりも、何故皆さんわたくしのお部屋に」

「だって1人じゃ寂しいし」

「わたしは別にそうでもないですが」

「そんなこと言ってー、寂しいんでしょ?」

「わたしにはルミミさんがいます」

「いまーす!」

 

 そう言ったらぐぬぬとほっぺたを丸くしてジト目で睨まれた。独り身にELダイバー。これは鉄則でしてよ奥さま。おほほ。

 冗談はともかく。サイカさんのお部屋にやってきた理由なんて特にない。失礼だけれど、強いて理由をあげるならそれはやはり寂しかったからに他ならない。

 

 部屋の中は整理されている。大人の部屋、とまでは行かないにしろ、掃除は行き届いているし、ガンプラの箱が放棄されているというわけでもない。茶色い棚に茶色い木の机。その上にはきっといつも書かれているのであろう日記が置かれていた。

 それから白いベッドと床に2つ並んだお布団。これが意味する答えは1つだ。

 

「寝る気満々ですね」

「もちろんです」

「よかったねー、サイカちゃん!」

「ちゃぶ台がそこでひっくり返ってますよ」

 

 旅館でよく寝るときに見かける机が縦に置かれているやつだ。見るのは久々。

 パジャマに着替えたわたしとコウミさんは布団の上で文字通り転がっているルミミさんを尻目に話を続ける。

 

「いいじゃん! 古い仲ってことで!」

「まぁ、いいですが」

「やった!」

「あまりもてなしはできませんよ?」

「これがおもてなしみたいな所あるし」

 

 いいことを言うなぁ、コウミさんは。

 布団の上に座ってルミミさんをキャッチすると、彼女がプラスチックの身体をジタバタと動かす。かわいい。

 

「じゃあ暴露大会とかする?」

「何の流れですか、それは」

「修学旅行、4人。寝る前。ときたらそういうものだと」

「若いっていいですね」

「成人女性が言うと違いますね」

 

 暴露と言っても、何が言いたいかと問われれば悩むわけで。

 暴露って、何を? 恋愛? わたしは恋愛経験はないですけど。

 

「じゃあ大人の2人に聞きたいんですけど、彼氏がいたことは?」

「ないです」「ないですね」

「えぇ……」

 

 なにその残念そうな顔は。大学ではボッチになってるわたしに何を言っても無駄ですよ。

 

「まぁ、ウタイ流を継承したいという方はいらっしゃいますがね」

「え?! それってどこ流?!!」

 

 初耳だ。つまりお見合いということだろうか。25歳といえば、そろそろ結婚はしないのか? と親によっては問われてしまう時期。サイカさんもそうお誘いを受ける頃合いなんだろう。

 でもサイカさんが誰かを好きになるって、あんまり考えられない。

 

「流派は関係ありません。わたくしより強ければそれで」

「おぉう、ブシドースタイル」

 

 サイカさんは本当に何を考えているかわからない。

 わたしたちのことを信用しているのは分かる。けれど、それ以上に自分のことを話してくれないから、少し困ってしまう時がある。

 その優しさは、信頼はどこから来ているのだろうか、と。

 

「……サイカさんって、どうしてGBNを始めたんですか?」

 

 だからだろう。そんなことを急に口走ってしまったのは。

 コウミさんもそれに乗っかるような形でうんうんと首を縦に振る。胸ポケットにいるルミミさんも右に同じくであった。

 サイカさんは深くは考えていなかったような顔で、ふと上を見上げる。

 

「何故でしょうね」

「分からないの?!」

「いえ、まぁ。さして面白い話でもないですし、話す理由はないかと」

 

 サイカさんは、本当につまらなさそうな顔だった。心底どうでもいい。自分のことよりもみんなのことを知りたい。そういう冷めた顔。

 冷水を浴びたけれど、それでもわたしは聞きたかった。サイカさんのことを。友達のことを。

 

「そんなことないです。わたしはサイカさんのことが知りたいから」

「うん! 私も」

「ウチも!」

 

 困った。そんな顔だ。眉根をハの字に寄せて、少しだけ糸目が崩れた顔。

 でも口元は少し緩んでいて。

 

「分かりました。そう大した話ではありませんが」

 

 語ってくれた内容は本当に普通だった。

 強さを求めて、ムラサメ刃-Xの元となったジンクスⅣを連れて、GBN世界にやってきた。そこには様々な強敵がいて。それを見ているだけでも十二分な刺激を受けたのだという。

 外注して、ムラサメ刃-Xという機体を手に、公式戦で名を挙げていくにつれて、1つの異名が飾られたのだ。

 

「サムライオーガ。わたくしの、少しだけ嫌いな名前です」

 

 静かに語った彼女の目は1本線入っただけに見えたけれど、その奥には柔らかな悲しみがにじみ出ていた。




サムライオーガ。それは宿命の名


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第42話:「あと……。わたしが寂しくありません」

 サムライオーガ。それは獄炎のオーガと共に鬼の名前を冠する通り名。

 オーガという余計なところを除けば、立派に胸を張れる内容なのだろう。オーガ、という名前を除けば。

 

「わたくしは、1度オーガ殿と戦ったことがありました」

 

 意外だった。どちらかと言えば、オーガさん戦うこと自体はそこまで乗り気ではないように見えたからだ。戦ったとしても数年前のことだろう。それかわたしが隠居していたタイミングなのか。

 お茶をいただきながら、彼女は静かに語った。

 

「強かったです。わたくしが完敗するほどに」

「サイカさんが?!」

「えぇ。何も、手出しができなかった」

 

 聞けば、3年前のことだ。第二次有志連合戦が終わってしばらくしてからの話。

 彼女はオーガさんに対してフリーバトルの申請を投げたという。片方は有志連合戦の英雄。もう片方はと言えば、フォースが解散してしばらくの間、やさぐれたように戦いに明け暮れていた偽物。どちらが勝つかは、早々に分かっていたはずだった。

 でもオーガさんは剣を取った。強さを味わうグルメ家特有の何かを感じたからかもしれない。

 

 けれど、剣が届くことはなかった。

 軽く流されて、自慢の剣技なんてものは通用しなくて。ただただそこにいた壁と戦っているだけ。

 

『お前の剣には、旨味がねぇ。味のねぇガムだ』

 

 その壁に、バッサリと斬られた。身も心も。

 

「それからです。全てがどうでもよくなったのは」

「……サイカさん」

「取るに足らない話です。わたくしの剣は、オーガ殿に届くことはなかった。ただ、それだけ。ですからこのお話はこれで終わりです。わたくしはもっと皆さんの楽しい話が聞きたいですから」

 

 諦め。そう感じざるを得なかった。

 どこまで戦っても、勝てない相手に彼女は屈した。膝をついて、静かに剣を置いた。ただそれだけの話。どこまでもそれだけじゃない話。

 わたしには、何か声をかけられるだろうか。かけたところで救えるとは思えない。

 こんもりと持った土のお墓を埋めるものはない。もう埋め立てられているのだから、埋まるところがない。本当に自己解決しただけのお墓。

 

「サイカちゃんは、それでいいの?」

 

 自分たちでは解決できないことだと思っていたのに、ルミミさんはそれを遮らずに口にする。

 そんなことを言っても、無駄だと思うのに。

 

「もういいんです」

「でもサイカちゃん、全然諦めきれてないよね?」

「……え?」

 

 真っ直ぐと見つめるルミミさんの瞳はサイカさんの顔を貫いていた。

 心を見透かすように、内側を覗き見るように。

 

「サイカちゃん、悔しいはずだよ! なのになんで諦めようってしてるの?」

「ルミミさん、もういいですから」

「よくないよ! サイカちゃんは自分から諦めてるんだよ!」

 

 サイカさんは布団のシーツのしわを撫でながら、そっと。それでいてしっかりと口にする。「そうですね」と。

 

「わたくしのことはいいですから、ね?」

「でも……!」

「楽しいオフ会です。その話はまた今度にしましょう」

 

 ルミミさんが少し前に「大人だけど、大人になっちゃった」という発言を思いだす。

 そうか。彼女が言っていた違和感みたいなのはこういうことだったんだ。サイカさんは自分の気持ちを押し殺している。何故なのかは分からない。けれどそこには自分の道を諦めるという決意が籠っていて。どうしようもなく、心の壁が堅い。

 

 それからぎこちないながらも4人のオフ会は滞りなく進んだ。

 寝る時間になって、サイカさんのお部屋で寝ることになったけれど、どことなく居心地が悪くてトイレに行くふりをして寄り道しようと部屋を出た。

 

 外は風で揺れる草木のこすれる音や何かの虫の音が聞こえてくるだけで、それ以外はしーんと音が闇夜に溶けていくような感覚だった。

 冷たい縁側の廊下をぺたぺたと歩きながら、月はどこだろう。星は見えるかな。などと空を見る。晴天だけど星の明かりが見えない。見えているはずなのに、見えない。まるでサイカさんだ。

 用を足した後、わたしは縁側で足を外に出して腰を落とす。

 夜の闇が、今は涼しくて、心地よかった。

 

「はぁ……」

 

 ため息が夜の静けさという海に沈んでいく。

 考えることはサイカさんのこと。わたしには何ができるだろうとかじゃない。サイカさんが自分で改めることなんだ。

 けれど。

 

「何かできないかな」

 

 フォースの仲間を放っておくなんてことが出来なくて。

 もっと知りたい、サイカさんのことを。もっと知りたい。サイカさんの感情を。

 お節介かもしれないけれど、友達ならそのぐらい当然のはずだ。そう、友達だから困っていることは助けてあげたいんだ。

 

「でも……」

 

 実際に助けを求めているわけではない。でなければ、助けてあげたいだなんてのは偽善そのものなのかもしれない。

 

「偽善、かぁ」

 

 わたしは、サイカさんに何をしてあげられるだろうか。

 

「あ、やっぱりいた」

 

 ふと声がかかる。明るくて少しだけ礼儀正しい声。

 海の凪みたいに澄み渡った静かで通る声。

 

「コウミさんも抜け出してきたんですか?」

「酷い言い方するなぁ。まぁその通りなんだけど」

 

 彼女はわたしの隣にやってくると、体育座りでその場に腰を落ち着かせる。

 ちんまりとした姿が、なんともかわいらしかった。

 

「また悩み事?」

「またってなんですか」

「だって私の時とか」

「それはあなたが悪い」

「ひどー」

 

 くすくすと笑った声は宵闇の歌みたいにあたりに響く。

 わたしがサイカさんのことで少し思い悩ませていると告白すれば、コウミさんも身を縮こませて、こちらを下から見上げる。

 

「ミユリって、いい人だよね」

「なんですか突然」

「だって、面倒だって思った関係はすぐ切っちゃうでしょ?」

 

 それは、そうかもしれないけれど。

 コウミさんだって友達だったからだし、サイカさんも然り。ルミミさんを含めても、面倒だと思ったことは一度もない。わたしの友だちが数少ないからかもしれない。

 

「わたしだって選びますよ」

「へー、そうなの?」

「じゃなかったら、コウミさんと一緒にいませんし」

「私のこと面倒だって思ってるじゃん!」

「そうですよ」

「ひどいー!」

 

 頭をこすりつけるようにわたしの肩をぐりぐりと押し出す彼女はきっと恥ずかしがっているのかもしれない。なんて見当違いなことを考える。

 彼氏彼女ってこういう関係のことを言うのだろうか。ユカリさんとエンリさんのことを考えていると、そう思うわけで。別にこの子は恋愛感情として好きではない。けれど、人としては好きだ。だって大切な親友なんだから。

 

「私はミユリのこと好きなのにー」

「それは親友としてでしょ」

「そうそう。恋愛とか、ちょっと疲れちゃいそうだし」

「そうかもですねぇ」

 

 漠然とコウミさんと2人で暮らす生活を想像する。

 お小言はきっと多いと思うけれど、それはそれで面白いのかなと思うわけで。

 

「……コウミさん、今はホテルでしたっけ」

「うん、そろそろ出ていかなきゃだけど」

「これから、どうするんですか?」

「どうしようかな。少なくとも高校は中退かもだし。遠くの親戚に預けられるかも」

 

 寂しそうにそういうもんだから、わたしもバカなことを考える。

 親にはたくさん謝らなくちゃならないかな。もう一人分の生活費をねだることになるのだから。

 

「わたしと一緒に暮らします?」

「へ……?」

 

 それは意外な言葉だっただろうか。

 でもこれで1つ懸念事項が消えるなら、わたしは喜んでこの身をささげる。

 だって親友なわけだし。わたしの大切な人なわけだし。

 

「わたしと一緒にいればガンプラもGBNも教えられますし、交通費もかからないから効率もいいです」

「……それ、どんな誘い文句なの」

「あと……。わたしが寂しくありません」

 

 どんなにそばにELダイバーがいようと、どんなに友達に恵まれていても。わたしにはコウミさんが必要なんだ。1人で生きていくとか思ってたけど、そんなの思い上がりだ。1人は、寂しい。

 コウミさんはぽっかりと口を開いて、それから笑い声が込み上げ来るように口元がにやけていく。

 

「そっか。そっかぁ、寂しいかぁ!」

「なんでそこだけ切り抜くんですか!」

「しょうがないなーってこと! このまま恋人とかになっちゃいます?」

「なりません。そもそもあなたなら別で作れるでしょ」

「分からんぞよー? 最後にはミユリがいいってなっちゃうかも」

 

 それも悪くないか、と思ってしまう程度には、今日のわたしはどうにかしているみたいだ。

 心が少しだけ軽くなる。考えていたことが1つ実現したような、そんな感覚。夢が叶ったような、そんな気持ちよさ。

 

「じゃあ、これから大変になっちゃうね」

「かもしれません。サイカさんのこと、家のこと」

「それもまたよしってことで!」

 

 縁側に投げていた足を戻して立ち上がる。一歩。それでも大きな一歩だ。

 サイカさんともこのぐらいの一歩を歩みたい。友達だから、仲間だから。

 

「じゃあ戻りましょうか」

「だね!」

 

 さすがに春の風はまだまだ冷たい。

 けれど心の中は少しホカホカしていて。こんな気持ちをサイカさんにも味わってほしい。そう切に願う春の夜更けだった。



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第43話:「……ウチは、絶対諦めないから」

4章の締めどころを失いそうになりながら初投稿


 一晩明けた翌日。わたしたちはサイカさんのお家から空港へと行くことになっていた。

 オフ会は確かに楽しかった。色んな話を聞けたし、リアルのサイカさんの胸が意外と大きくて、動きづらいからって理由でGBNでは削っていたんだなと思うと、ややコウミさんに申し訳ない気持ちが浮かび上がってくる。何故だろう。答えはわかってるから言わない。

 

「それではまたGBNで」

「うん……」

 

 気にかかるのはやはりオーガさんとの過去の話。

 あまりにも相手にされず、ただただ斬り伏せられた。プライドがどんなになかろうが、その一撃は重たい。文字通り人の心を壊すほどに。

 

 なんと声をかけることができるだろうか。

 「頑張ったね」とか「よくやった」なんて仮初で優しいようで傷つけてしまう言葉ではない。

 サイカさんは自分の強さを証明するために、自分の汚名を払拭するために戦い、負けた。そこに努力や褒美はない。ただ虚無があるだけ。

 それがサイカさんの胸の炎を覆い隠しているのであれば、彼女は息苦しいはずだ。

 大人だけど大人になってしまった。子供になりきれず、大人として立ち振る舞わなくてはいけない。重荷となってサイカさんの心の炎を抑えてしまっている。

 

 いくら悩んでも答えが出ない。

 サイカさんがすでに答えを出してしまったことに、わたしたちがなにか言えることはあるのだろうか。

 気持ちを押し殺すことで、サイカさんは今を保っている。過去を見ずに。ただ今に佇む。

 

 ――それでも。

 

「サイカちゃん……」

「なんですか?」

「……ウチは、絶対諦めないから」

「また、その話ですか」

 

 終わったこと。そう言いたげな凍てつく視線だった。

 でもルミミさんは屈することはない。幼いから。逆だ。幼いから、純粋な気持ちは埋もれてなんかいない。

 

「サイカちゃんは強いよ! オーガに勝つぐらいに!」

「諦めてください。わたくしは――」

「ウチのこと守ってくれたんだもん! ぜったい強いよ!」

 

 ピクリと、こめかみの辺りが動いた気がした。

 

「あの時はあれが最善だっただけです。それよりも飛行機の時間は大丈夫ですか?」

「サイカちゃん、話を逸らそうとしても――」

「行きましょう、ルミミさん。もう、時間です」

「でも……っ!」

「行こ、ね?」

 

 胸ポケットから飛びかからんとするルミミさんを軽く押さえてサイカさんに一礼する。

 

「ありがとうございました。また来ますね」

「はい、歓迎してます」

「それじゃあね!」

 

 いろいろなことを口走ってしまいそうな胸ポケットの子供の口を抑え、キャリーケースをガラガラと引いていく。

 

 タクシーに乗ってからわたしは軽くため息をつく

 

「なんで止めたの?!」

「あれでは口喧嘩になりかねませんでしたし。サイカさんは簡単には動きませんよ」

「でも……。でも! あの時のサイカちゃんはぜったい本気だったもん! コウミちゃんもそう思うよね!?」

「まぁ、そうだけど。私も言いたいことは同じだったしね」

 

 それはわたしもだ。

 ルミミさんが口にしていたことは、だいたいわたしたちと考えていることは同じだ。

 だけど今じゃない。いま口にしてしまうのは違う気がして。

 

「コウミさん。わたし、今やりたいことが出来ました」

「うん、私も」

 

 目と目を合わせてアイコンタクト。

 分かっている。わたしだって救いたいって気持ちは一緒だ。

 救いたい? いや違う。わたしたちにできるのは心の整理をするまでの手助けだけ。

 

「くすぶった炎は、燃え尽きるか燃やし尽くすしかない。サイカさんの心に火をつけましょう」

「うん! 心の整理はつけなきゃだよね!」

「え、ウチもー!」

「もちろんですよ」

 

 くすりと笑って、胸ポケットの友達を撫でる。

 方法は決めてない。けれど、目的はちゃんと据えた。ならばそこに突き進むだけどだ。

 

 飛び上がる飛行機の窓から澄み渡る空を眺めながら、どんな事をしようかと思考を巡らせるのだった。

 

 ◇

 

 で、数日後。ガンダムベースにやってきたコウミさんの手にはインパルスガンダム。

 そう、今日はコウミさんのガンプラを作りに来たのだ。

 

「頑張ったけど、やっぱり難しい……」

 

 机に寝そべるコウミさんとインパルスガンダムを見て、思わず情けないと思ってしまうわけで。

 実際完成度はツヴァイズガンダムのそれを遥かに凌駕している。

 ちゃんとゲート処理もされているし、合わせ目消しも丁寧に処理が施されている。

 関節の動きだってなめらか。これを数日でやっていたのだから、意外と器用な方なのでは? と親友の贔屓目抜きでも思うわけで。

 

「よく出来てるじゃないですか」

「好きだから頑張ったんですー! 分離機能はオミットでいいんだよね?」

「はい。そもそもフルアーマーとの兼ね合い上、そこまで相性がいいとは思えませんので」

 

 今回作るフルアーマーインパルスガンダム。正式名称《フルABCインパルス》にはインパルスガンダムとしての機能をオミットする部分が多い。

 これはGBNへのスキャンのときのコスト削減のための裏技と接続部分の強化。それから操作の単純化も図っている。

 代わりにフルアーマーの要素とABCドラグーンの要素。バックパックによる飛行効果も付与するので、痩せた部分にいろいろ詰め込んで機能面で使いやすくするためにオミットしていた。

 

 だからフルアーマー部分は特に硬い。普通に戦っても実弾兵器は無傷と言っても過言ではないほどの強度。ビームはABCマントによって防御する。攻めあぐねた相手はすかさずドラグーンで始末。

 わたしたちの間で歩く戦艦と呼ばれるぐらいの防御性能を誇っている。

 

 ……もちろん空論で、ですが。

 

「さ、作っていきますよ」

「うぇー」

 

 それもこれも、全てガンプラの完成度によって左右される。

 なので今から頑張る他ないのだ。わたしも頑張るので、コウミさんもファイトですよ。

 

「ねぇ、ウチはー?」

「今日はあまり構えませんから、そのへんでブラブラしてるとよいかと」

「えー」

 

 まぁいっか。という言葉とともに、ガンダムベースからGBNへとログインする方向へとカジを切ったルミミさん。

 まぁのっぴきならないことにはならないだろうと、彼女を見届けつつわたしたちはフルABCインパルスの制作を始めるのであった。

 

 ◇

 

「暇だ」

 

 行き交う人ダイバーたち。

 話し合うダイバーたち。

 それからバトルしあうダイバーたち。

 

「ひま!」

 

 思えば一緒に行動しているキユリちゃんとしーちゃんはリアルでガンプラ作成。サイカちゃんはよく分からないけど、今はウチと会いたくないみたいでログインの情報だけが浮かんでいる。

 こういうときは無理して会わないのが大人というものだ。ウチは大人なんです。

 

 が、友だちはいないのです。およよ。

 

 エントランスロビーから出て、ショッピングエリアへと移動するも特にウチのセンスに合うものは発見できず。

 もうちょっと、こう。白い軍服に黒いラインでズバっと決まった格好がいいと思うんだけどなぁ。

 

「ん? ルミミちゃん?」

「およ、その声は、フレンちゃーん!」

「いぇーい!」

 

 ハイタッチ1つ。

 ノリが近いからか手のひらをパチンとした時になぜだか心が躍る。

 これが、友だち!

 

「フレンドのフレンちゃんはここで何してるの?」

「もち! デートよ」

「デート?」

 

 キメ顔でそう言ったフレンちゃんの隣には、一回りフレンちゃんよりも小さい身長の女の子がGBN内でも買えるガンプラを紙袋に入れて持っていた。

 茶髪碧眼ツーサイドアップ。可愛らしいパチッとした目元に柔らかそうなほっぺた。

 白を基調にした雪のような制服の佇まいは、まるで妖精さんを思わせる風貌だった。

 

「キミは?」

「セツはセツだよー!」

 

 ガシャッと紙袋を鳴らしながら彼女は右手を上げる。

 か、かわいい! この子、うちに帰って頭をなでながらミサイルの話題で花を咲かせたい!

 

 そしてすぐに感じ取る。ELダイバー特有の同じ匂いを。

 なんとなく故郷や趣向が近い感覚。

 

「アタシの彼ピッピだよ」

「そんなこと言っていーの? ムスビちゃんに言っちゃうよ?」

「ごめんごめん! 改めて、春夏秋冬のセツ。アタシたちと一緒のELダイバーだよ」

「へー! ウチはルミミ! 以後よろしく~!」

 

 セツちゃんはペコリとお辞儀をして、ウチを出迎えてくれた。

 かわいい。こんな子を妹にしたい。した暁には……何すればいいんだろ? やっぱりミサイル談義?

 

「ちな、セッちゃんはルミミちゃんより年上だからよろ」

「マジで?!」

「うん、マジー!」

 

 つまり、年上妹ってこと?!

 いやそんなのは変かな。でもお姉ちゃんか。フレンちゃんからは何故か友だちという感覚しかしないから、姉という感覚は初めて。

 

「でもどうしてこんなところで? ウチ結構気ままに歩いてたんだけど」

「セツたちもだよ! あと、フォースネストに帰ってガンプラ作ろうかなーって」

 

 なるほど。帰宅の途中だった、というわけなのね。

 なるほどなるほど。…………そっかぁ。

 

「ひまだし、ウチも付き合っていい?」

「いーよー!」

「やったぁ!」

 

 もしかしたらセツちゃんとは波長が合うのかもしれない。

 すぐに馴染めそうな感覚がする。でも心のどこかでは何故かこの女とは反りが合わないという感覚を感じ取る。どうしてかはわからない。

 ま、わからないならわからないでいいか!

 

「じゃーしゅっぱつしんこー!」

「おー!」

「おーー!」

 

 金と茶。そしてオレンジ色のウチたちは暇つぶしも兼ねて春夏秋冬のフォースネストへと向かうのだったー!



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第44話:「強くなりたいんじゃないの?」

「ほへー、ガンプラってこういう風に作るんだー」

 

 春夏秋冬のフォースネスト。喫茶店を模した店内で、ウチたちはセッちゃんのガンプラ作成を手伝っていた。

 GBNとは元々ガンプラを作って遊ぶ、ということに重点を置いたVRゲームだって聞いてた。でもそういうのってだいたいはゲーム内ではガンプラを作れなかったりすると思っていたんだけど、そうでもなかったみたいだ。

 目の前でガンダムXディバイダ―を作っているセッちゃんの様子を見ていると、そう感じた。

 

「ふぅー、やっぱ難しい」

「頑張って!」

「んーフレンちゃん、なんか作ってー」

「作るって何を?」

「どうしよう。コーラとか?」

 

 買ってきた方が早いんじゃないかな、それ。

 冷蔵庫の中を見ながら、コーラ本体はないだろうかと眺めて、扉を閉じた。

 

「ないっぽいから買ってくるわ!」

「うん、いってらー」

「ごめんね! いってらっしゃい!」

 

 バタバタとスカートをはためかせながら、彼女は喫茶店から飛び出していった。

 そして対峙するのはググっと背伸びをしているセッちゃんと、それを興味津々にみているウチだった。

 

「つかれたー! お姉ちゃんたち、ずっとこれやってて頭痛くならないのかなぁ」

「分かる! ウチも見ててそう思うもん!」

 

 特に今やっているであろう作業は、フルアーマーパーツを合わせる作業だったはず。いちいち削って合わせての繰り返しの作業は、きっと疲れるんだろうなーって、素人ながら思ってしまう。

 だからセッちゃんがやっているような素組みと呼ばれる作り方の方が、メジャーなんだろうなーって。GBNやっている人はみんな器用だなーって深々と思う。

 

「…………ねぇ、ルミミちゃん」

「ん? なぁに?」

 

 カウンターの上にあるディバイダーを天井の灯りに照らしながら、セッちゃんは言う。

 

「セツね、ルミミちゃんのことずっと気になってたんだー」

「へー。ってウチと接点合ったっけ?」

「ううん、ないよー。だから一度話してみたかったんだ!」

 

 ことっとディバイダーを置いてから、ウチの方を強く見つめる。

 これでもウチも他のELダイバーを見てきた。流石に画面越しで一方的にだけど。だからセッちゃんがいつも元気そうで、笑顔を振りまくかわいい妹分だってことは知っている。

 けれど、いまウチのことを見ている目はそんなものではなかった。

 ライバルを見つけた。今から戦うのが仕方がない、そんなバルバトスの戦い方のように獲物を見つけた肉食獣のような、眼光だ。

 

「セツのディバイダーとルミミちゃんのミサイル。どっちが強いのかなって、一回試してみたかったんだよね」

「……セッちゃん?」

「フレンちゃんが帰ってきたら、ちょっと息抜きしよ!」

 

 獲物を見つけた狩人は、どうやらウチのことを逃がしてはくれなさそうだった。

 

 ◇

 

「え、マジですんの?」

「マジだよー。いっぱいいっぱい戦おうね、ルミミちゃん!」

「う、うん」

 

 正直、戦うのは苦手だ。

 いつも誰かの足を引っ張っている気がして。この前もサイカちゃんが守ってくれなかったら、あのままゲームオーバーになっていたことだろう。

 ミサイルを撃っている間はそれを少しだけ忘れられるからいいけど、苦手なことには変わりない。

 ぎゅっとガトリングバスター砲を握りしめて、長距離に位置するセッちゃんの駆けるガンダムイクスリベイクをセンサーにとらえる。

 まずはミサイルをバラまいて。それから。近づいてガトリングバスター砲でハチの巣にする。とりあえずこれで行こう。

 けれど、相手はランカーだ。そんな攻撃が通用するかどうか。そこがいまいちわからなかった。

 

(でも……)

 

 やってみるだけやってみよう。

 目の前のモニターに現れたカウントダウンにごくりと喉を鳴らす。

 

 これに勝ったらキユリちゃんやしーちゃんは褒めてくれるだろうか。サイカちゃんは、褒めてくれるだろうか。強くなりましたね、って頭を撫でてくれたりして。

 ……ウチ、きっとサイカちゃんにとんでもないことを言ったんだ。傷つくようなことを言って。でもあれはサイカちゃんだって悪い。あんなに拒まなくなったっていいのに。ウチらはもう友達だと思ってたのにな。

 

 そう考えを散らしている間にカウントダウンが0を示す。

 そうだ。今はバトルに集中しなくちゃ。切り替えて操縦桿を握りしめた瞬間だった。

 

 ――流星だ。

 

 空を割くような一筋の飛行機雲がこちらへと迫ってくる。

 ボーっとしていたことを後悔した。あれは、イクスリベイクだ。

 

「っ!!」

 

 とっさにランドスピナーを展開しながら進行方向にガトリングバスター砲を乱射する。

 だがその攻撃は予測していたのかもしれない。両腕に装備されているディバイダーがシールドモードへと変形すると、そのことごとくの攻撃がディバイダーに弾かれて無効化されてしまう。

 逃げなきゃ。ランドスピナーをフル起動させて荒野を煙を立てて走っていく。

 あとは、ミサイルもバラまいてかく乱させれば、しばらくの間は見つからないはず。だからその瞬間を狙うしかない。あの牙城の盾を崩すには!

 

 バックパックから点火された120連のミサイルが空中に打ちあがる。

 頂点へと達したミサイルたちは山なりに矛先を下に向けると、荒野の地面へと視点を変える。

 

『へー! こんなにもいっぱい打てるんだ!』

 

 だがミサイル群がイクスリベイクを捉えることはなかった。

 手に持ったビームマシンガンで自分に襲い掛かるミサイルだけを的確に狙い撃つ。

 緻密な作業。だけど外すことはない。それがセッちゃんの実力だからだろう。でも今はかく乱だけ。直接本体を狙う理由なんてないんだ。

 

 想定通りミサイルでかく乱した後、岩場の陰に隠れて、ガトリングバスター砲をイクスリベイクに向ける。意表を突くなら、ここから乱射すればある程度ダメージは入るはず。そのはずなんだ。

 でも何故だろう。ウチの第六感がすぐここから逃げろと言っている。

 分からない。謎のレッドアラートが頭の中で鳴り響く。

 

『じゃあ、こっちもお返し!』

 

 後悔した。センサーに輝く地獄の扉。

 エネルギーの塊が、76門のビーム砲群が、4枚のディバイダーがこちらに向かって牙を向ける。

 思わず目を見開いた。どうしてこちらを見ているか。そんなことはどうでもよくて、先ほどのレッドアラートの正体がアレであると理解ができたからだ。

 逃げなきゃ。でもどこに。あの効果範囲はきっと広い。いや、可能な限り逃げなきゃ。

 

 ミサイルとガトリングバスター砲を点火し、ランドスピナーを全力で吹かす。

 やばい。やばいやばいやばい。アレに当たったら間違いなくゲームオーバーだ……っ!

 

『チャージ完了!』

 

 皮肉にもミサイルは役目を果たすことはなかった。

 何故なら桃色のカーテンが、すべてを飲み込んだのだから。

 

『クアドラプルハモニカ砲、はっしゃー!!』

 

 扇状に広がっていく76門のハモニカ砲は陸上のこと如くを粉砕する。

 岩や地面。着弾したミサイルも、煙も、ガトリングバスター砲も。そしてウチ自身も。

 

 貫かれたウチのモビルドールはみるみる内に耐久値を減らしていく。

 幸いにもコックピットだけは外したが、まだ撃ち抜かれた方がよかったのかもしれない。

 遠慮なんて知らないHPの減少がイエローゾーン、レッドゾーンへと溶けていき、最後は0と表示され、コックピット全体が暗くなってしまった。

 

 ◇

 

 自信があったわけではない。けれど、上には上がいるんだって思った。

 

「ん~! やっぱりハモニカ砲気持ちいいー!!!」

「セッちゃん相変わらずだねー」

 

 そっか。ひょっとしたらサイカちゃんもこんな気持ちだったのかもしれない。

 負けた時はいつも何がいけなかったのか考えるけれど、完膚なきまでに自分の好きを叩きのめされた怖さがすべてを否定してくる。

 ミサイルではディバイダーには勝てない。圧倒的な実力差で見ているものが、好きだったものがすべて偽物だったんじゃないかって考えてしまう。

 

 だから。こんな気持ちから逃げたかったから、サイカちゃんはくすぶった心を隠したんだ。自分の信じていたものを守るために。

 

「……ルミミちゃん、落ち込んでる?」

「へ?! い、いや、そんなことないよ!」

 

 今なら分かってしまう。サイカちゃんの気持ちが。

 全部自分だけで解決しようって思ってしまう考えが。

 

 かりそめの笑顔の仮面を張り付けて、ウチはその場をやり過ごす。

 だって、その方が傷つかないから。

 

「……セツの勝ちだよ」

 

 でもセッちゃんはそれを許してはくれない。

 ウチの顔を真正面に見据えて、しっかりと現実を言葉にする。

 自分が勝ったということを。

 

「わ、分かってるよ、もう!」

「セツも、昔はそんな気持ちだったから分かるよ」

「っ!」

 

 セッちゃんがウチではなく、ウチの心に話しかける。

 

「セツも昔は全然強くなかったの。でも1人じゃなくて、みんなと一緒に強くなれた! セツがいまランカーなのは、みんなのおかげなの」

「……そ、それとこれと、何の関係が」

 

 ウチはセッちゃんを知らない。逆も然り。

 だから言えることなんてないと思っている。けれど、彼女はしっかりと、ゆっくりと口にする。

 

「大丈夫。ルミミちゃんはちゃんと強くなれる! 好きを突き詰めていけば、もっともっと!」

「好き、を……?」

 

 こくりとうなずく。

 よく、分からない。セッちゃんが強いのは、元々素質があったから強かったんじゃないの?

 分からない。好きを突き詰めるって。好きなままじゃダメなの?

 

「ルミミちゃんは、強くなりたいんじゃないの?」

「ウチ、は……」

 

 初めてそんなことを言われた。

 ウチはミサイルを撃てればそれでいいと思ってた。それがあれば、他はいらないと思っていた。

 フォース戦の時もそうだった。撃てば、あとは何とかなるのかなって。

 でも感じた。AtoZと戦った時、圧倒的なぐらい力不足を感じた。ラストワン事変の時だってそうだ。

 内に秘める熱が、ウチをじわじわと焦がす。こんなところでくすぶっている場合ではない。もっと強くなりたい。と。焦らしてくる。今のままじゃダメだって。

 心の中では強く思う。でも脳裏にはブレイクデカールがチラつく。

 

「ちがう」

「え?」

「ウチは、そんな……違う!」

 

 強くなりたいと願ったら、しーちゃんと同じになっちゃう。

 違う。しーちゃんは強くなりたくてマスダイバーになったんだ! ウチは。でもどうすれば。強くなりたいって思ったらきっとワガママになっちゃう。周りに迷惑をかけてしまう。ウチは……。

 

「コーラ、飲む?」

「……うん」

 

 上を目指せば、どこまでもワガママになる。

 でもキユリちゃんはワガママじゃない。じゃあ強くなるって、どういうことなの?

 

 敗北の味は、シュワシュワとした炭酸が口の中を痛めつける、甘ったるい味だった。



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第45話:「ウチにガンプラバトルを教えて!」

「好きって、好きなままじゃいられないんだね」

 

 セッちゃんとフレンちゃんの2人から別れて、ウチは路地裏の段ボール箱の上で静かにコーラを飲む。

 これまで疑いもしなかった。好きは好きであるだけで素晴らしいし、好きってだけで強くなれるんだって。セッちゃんもそうだと思ってたし、他のみんなだって。

 事はそう単純ではないってことを、そのセッちゃんから教えてもらったのだけども。

 

 ハモニカ砲を極めた先に寸分たがわない精密性と、どこに逃げるかという計算を合わせてあのビーム群を撃っている。本人が感覚でやっていることと、フレンちゃんが言っていたが、それは好きだからできたことなんだと思う。

 でもセッちゃんも言う。自分は弱かったと。

 

「信じられないなぁ」

 

 ビルの隙間から見えるGBNの空を見上げながら、ポツリと思う。

 もうそろそろ春かぁ。春の空ってイメージがない。実際に見たこともないし、だから見上げたところで風情も何も分からないんだ。

 そう、分からないことだらけ。ウチは、生まれて間もない子供。好きしか知らない赤ん坊。

 

 セッちゃんの昔の記録を漁ってみたけれど、確かにハモニカ砲の使い方が今よりも粗雑だった。

 とりあえず撃てればいい。当たらなくても、撃つことが楽しいんだから。そんな気持ちであふれている。

 まるで今のウチと同じだ。ミサイルを撃っている瞬間が楽しくて、いつも撃てないかって、うずうずしている。けれどその限界を知った。壁を知った。雲の向こう側を知った。

 

「強く。強くなりたい」

 

 強くなるにはどうしたらいいんだろう。

 ブレイクデカールが頭にチラついたけど、絶対に違う。それは昔の記録やキユリちゃんの反応から明らかだ。

 強くなる。だとしたら、どこから探せばいいんだろう。

 

「はぁ~、わっかんないや」

 

 空になったコーラのペットボトルが仰け反った拍子に宙を舞う。

 弧を描いたペットボトルがコンクリートの地面に当たって大きな音を立てる。何回かバウンドして、それからコロコロとウチの足元へと転がってくる。

 サイカちゃんなら知っているんだろうか。強くなりたいと願った彼女なら、分かるはずだ。

 問題は、ちょっと。そうほんのちょっと気まずいだけ。あぁ言った手前、ウチも同じじゃないかって言われるのが嫌なだけ。

 

「人間関係も、ガンプラバトルも難しい」

 

 どちらも一筋縄ではいかない。あーあ、ホントにどうすればいいんだか。

 

「……何をしているんですか?」

「へ?」

 

 砂利がこすれる音が聞こえた。

 振り返ってみると、黒いショートボブで常の細い目はどこを見ているか分からない剣道着の女性が立っていた。

 

「……サイカちゃん、どうして」

「おふたりがログインしてないのに、ルミミどのだけログインしているのが気になりまして」

「…………2人はガンプラ作り中」

 

 細い路地だ。壁に背を向けて寄りかかれば、そこは2人だけの向かい合わせの空間になる。

 ウチ、結構なこと言ったつもりなのに。それでも会いに来てくれたんだ。

 

「ありがとう」

「いえ」

 

 目を閉じた彼女はただひたすら地面を見つめる。

 気まずい。気まずくて、会話が一切生まれてこない。

 言いたいことはたくさんあるのに、口にしてしまえばブーメランのように罵倒が突き刺さるかもしれないと思うと怖いんだ。

 

「……ふたりきりは、初めてではないですね」

「そうだね。オフ会以来かな」

「あの時も会話が皆無だったのを覚えています」

「そうだったね。あはは、いつもキユリちゃんとかしーちゃんがいるから」

 

 基本的には2人の付き添いみたいなのがウチとサイカちゃんの関係だ。

 だから2人がいなかったら自然と会話がなくなってしまうのは、どうしようもないのかも。

 ウチ自身は、もうちょっとサイカちゃんと仲良くなりたいんだけどな。

 

「…………別に、嫌っているわけではないですよね?」

「へ?!」

「あまりいい印象は持たれていないのかと」

「そ、そんなことないし!」

 

 持ってなかったらあんなこと言わない。サイカちゃんが強いってことを知っているんだもん。悪く思われてるのはむしろウチの方だ。

 

「サイカちゃん、強いしかっこいいし。ちょっとギャグが残念だと思うけど、それでもウチのソンケーの人だもん!」

「ソンケー、ですか」

「そう! ソンケーだよ! ゾンド・ゲーじゃないよ!」

 

 なんか言ってて恥ずかしくなった。

 印象の話ではなくて、どっちかというと似てるギャグの方。

 こんなに恥ずかしいのに、サイカちゃんはよく平然と言えるなぁ。

 

「ははは。20点ですね」

「ひどーい! サイカちゃんならどうするの?!」

「そうですね。尊敬だけでは損ですけい」

「……10点」

「手痛いですね」

 

 考えたら、クスリと胸の奥がくすぐったくなる。

 なんか変。気まずいけど、暖かい気持ちがこそばゆくて、むずがゆい。別の意味でそわそわしてしまう。

 

「ルミミどの。わたくしは1つ嘘をつきました」

「え、なに急に」

「先ほどのルミミどのとセツどののガンプラバトルを見ていたのです」

「……そういうことなんだ」

 

 心配して見に来てくれたってことなのかな。

 ……待って。どうして心配する必要があるの? ウチはそんな素振りしてなかった気がするのに。

 

「どうですか、圧倒的な力で負けた気分は」

「っ! ……それは」

 

 悔しかった。もどかしかった。息苦しかった。

 ウチにはまだまだ遠い相手なんだって思って、空を見上げることしかできなかった。

 

「……惨め、っていうのかな。なんか、辛かった」

「でしょうね」

 

 まるで経験済みだと言わんばかりに、両腕を胸の前で組む。

 

「経験を重ねていないルミミどのですらそれなのですから、研鑽を積んできたわたくしはどんな気持ちだったと思いますか?」

「…………」

 

 でも、それは卑怯だ。

 誰だって、そんなことを言われたら何も言葉にできなくなってしまう。

 サイカちゃんは空をスーッと見上げる。何もない空には、高い青だけが広がっていた。

 

「強さというのは空です。どこまで上がっても、次にあるのは宇宙というステージ。果てがないんです。途中の成層圏という困難も重力を振り切れないから、やがて飛ぶのに疲れてしまう。わたくしはそんな鳥ですよ」

 

 サイカちゃんはこの前の話をこんな惨めな気持ちで聞いていたのかもしれない。

 飛べない鳥は地面を見るしかない。どこかの木に停まって、ゆっくり休憩しなければならない。

 けれどその間にも多くの鳥が上へ飛ぼうと必死に羽ばたく。自分の焦りが、やがて諦めへと変わる。

 

「だからわたくしは諦めました。サムライオーガという重りを、わたくしは背負って生きていく。それだけです」

 

 でも、そんなのは悲しすぎる。

 鬱屈した感情の中に自分を埋めているだけなんだ。気持ちよくなれない。

 ウチは、なんて声をかければいいんだろう。頑張ったね、なんて言えない。よくやった、なんて口が裂けても。

 自分の手のひらを見て、自分があまりにも重ねてきてないことを知る。

 薄っぺらで、生まれたてで、まだ何も持っていない。持っていないから、ウチは言ってしまったんだ。

 

「……ごめん」

「よいのですよ。もうずいぶんと言われていたことですか」

 

 これが聞きたかったのかな、サイカちゃんは。

 何か違う気がする。サイカちゃんの求めているものが分からない。強さはもう無くした。なら飛べない身体を支えているものはなんだ。

 サムライオーガという重荷が飛べなくしているのなら、ウチは……。

 

「……ウチ、強くなりたいって思ってるの。フォースの足を引っ張らないように。ミサイルを撃っているだけのウチから、もっと強いウチになりたい」

「それは……」

「ごめん、サイカちゃんは諦めているのに。……でも! ウチは強くなりたいの! もっとガンプラバトルが上手になって、いつかサイカちゃんやみんながウチを強くしてくれたって言ってもらえるように、強く!」

 

 きっとサイカちゃんはいい顔はしないだろう。

 だけど恩返しがしたかった。罪滅ぼしがしたかった。サイカちゃんのおかげでって箔を付けたかった。

 そしたらオーガだってもう一度見てくれるかもしれない。それが再戦の合図。ウチの友だちが強いって証明できる瞬間。

 

「ウチにガンプラバトルを教えて! ぜったい絶対! 強くなるから!」

 

 それはないものねだり。だけどないものをねだって何が悪い。

 ウチが欲しいのは強さと証明。ウチの友だちが強いってことの証明だ。

 

「……わたくしで、よいのですか?」

「もちろん! だってフォースで一番強いの、サイカちゃんだもん!」

 

 もう吹っ切れた。ウチはなんてちっぽけなことで悩んでいたんだろう。

 そうだ。そうだよ! これならみんな笑顔になれる。ウチも、サイカちゃんも!

 

「ですから、わたくしは強くなんか……」

「聞いてませんー!」

「はぁ……。分かりました、微力ながらお手伝いしましょう」

「やった!」

 

 ガッツポーズを両手でポージングしていると、サイカちゃんの手がウチの頭を撫でる。

 

「まったく、あなたはじゃじゃ馬ですね」

「サイカちゃんほど諦めてないもん!」

 

 撫でていた手が、こつんと拳に変わる。いた、くない。

 

「ではわたくしを後悔させてください。諦めた自分がもったいないと思わせるぐらい」

「えへへ、頑張る!」

 

 路地裏で微笑む2人。ちょっとだけ寒々しいけど、胸の奥が暖かいから寒くなんて全然ない。

 ウチは、ちゃんと強くなる。だから待ってろよ、セッちゃん!

 今度はウチの好きで、セッちゃんを倒してやる!

 

 ◇

 

「たっだいまー! ってミユリちゃん、コウミちゃん?」

 

 あれから数時間が経っていた。

 まぁ疲れるほどの作業をしていたのか、眠くなって机に突っ伏している2人がいた。

 

「2人ともだらしないなぁ」

 

 ぺちぺちと頬っぺたを叩いて、くぐもった声でフフッと笑う。

 そういえばガンプラはどうなったんだろう。と、コウミちゃんの手を見て驚く。

 

「……これが《フルABCインパルス》」

 

 伝わってくる気持ち。愛情。友情。それから未来。

 ガンプラの声はどれもが明るくて。この子なら必ずツヴァイズも背中を押してくれることだろう。

 だからウチは挨拶する。ぺこりとお辞儀して。そして。

 

「みんなと一緒に、頑張ろうね!」

 

 インパルスは静かにうなずいた。気がした。




2人の、新たな門出。

4章はこの辺でおしまいです


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第5章:鳥と弾。飛び立つための鎮魂歌
第46話:ガンプラの腕と部屋の綺麗さは比例する


あけましておめでとうございます。
今年もボチボチ書いていきます


 世間ではあけましておめでとうございます。の季節らしい。

 って言っても、俺たちにとっては4月の出来事であるため、いったいどこの世間なのかは分からない。

 俺は今、ヴァルガの空をウィングガンダムで飛んでいる。

 理由? もちろんダイバーポイント稼ぎに決まっているだろう? 上からバスターライフルで急襲してボバーンとダイバーポイントをゲット。離脱もウィングガンダムだからバード形態になって飛んでいける。うーん、クール。まさしく卑劣極まりないヴァルガ民っていう感じ(褒め言葉)

 

 さて、今日のバスターライフルの残弾は残り3つ。

 ボチボチ今日の周回を終わりにして、優雅にバーでカクテルを嗜むのもいい。それこそができるヴァルガ民の休日とも言えよう。

 だがもう1機は行けるはずだ。ともすれば見つかったのはあのずんぐりむっくりなインパルスもどきだろう。

 あんな動きでは大した機動性もない。ちょっとアーマーが付いていて、マントのようなぼろきれの布もくっついているが、遠距離武器もない。仕留めきれなくても、十分に逃げ切れるはずだ。

 

「あばよ、俺のダイバーポイントになりやがれ!」

 

 モビルスーツ形態から放たれるバスターライフルの光は実にビューティフル。

 やはり持つべきものは女とバスターライフルだ。大艦巨砲主義最高。やはり質量兵器は神だ。

 光に吞み込まれたインパルスガンダムの消息は不明。まぁ、あれだけの直撃を受けたのなら死んでるだろうな。だが俺は抜かりない男。その場で立ち止まって、ダイバーポイントの変動を確認する。

 

 ……いつまで経っても加算されない。あれ? どういうことだ? 完全に消滅させたはずなのに。

 

 ――その瞬間だった。光に呑まれたはずの煙の中から一筋の閃光が輝く。

 

「っ!」

 

 急いで操縦桿を倒して、その場からの退避をする。

 俺のいた場所に1本のビームが通り過ぎていく。

 何故?! 俺は確かにやったはず。直撃したはずだ。なのに武器は? あのマシンガンみたいな奴だろう? だったらこんな高精度な射撃なんてできるわけが……!

 

 続けて襲い掛かるのは桃色の閃光。それがおおよそ10以上。的確に俺を狙おうと乱射している。

 くそっ! こんなところでダイバーポイントを失ってたまるか!

 バード形態となって飛び立とうとするが、流石に弾幕が厚い。いくつかビームが機体を掠める。ドッズ加工がされてやがる。少し掠めただけで耐久力が通常の1.2倍ほど持っていかれた。

 

「どうなってやがる!」

 

 混乱はしていたが、だからこそ俺自身のレッドアラートには素直だった。

 ここは逃げた方がいい。残弾だって残り2。撤退するにもエネルギーはいる。だからこのまま撤退して、ログアウトだ。マギーさんのカクテルが待ってるんだから!

 

 瞬間。ロックオン機能が反応する。これはこちらを捉えているってことか?!

 どこから……。

 ちらりと画面の端に影が見えた気がした。そこか!

 マシンキャノンで迎撃するが、それは俺をおちょくるように画面から消えていく。

 再びロックオン。次は、こっちか! また黒い影。

 今度も。まるで妖精が踊るように周囲を回る。違う。あれは妖精なんてかわいいものじゃない。

 

「亡霊がァ!」

 

 ビームサーベルを引き抜いて、周囲をやみくもに切り裂く。

 ここまで来たら俺はもう周りが見えていなかったんだと思う。

 ロックオンが6つ。全てこちらに銃口が向いていた。

 

 黒い影。亡霊。6つのビットがこちらに砲門を向けて、細長いビームをこちらのコックピットを確実にとらえて貫通する。

 

「ば、バカなぁ!!」

 

 あぁ、そうか。さっきの黒い影はビットだったのか。

 それでも後の祭り。爆散した俺のダイバーポイントはインパルスガンダムの元へと流れていくのであった。

 

 ◇

 

「ふー、これで3つ目かな」

 

 ToDoリストにチェックを入れて、機体の調子を確かめる。

 使いやすすぎる。攻撃を受け止め、その頑丈さによる混乱に乗じてドラグーンとドッズマシンガンで追いつめ、撃墜する。

 今回はバスターライフルのような高出力ビームに対しての実験だったけど、難なく耐えることができた。ABCマントの性能はなかなかに高いように見えた。

 でも、耐久値も減るからやっぱり初撃でぶっ放してくるような相手じゃないと、高出力ビームに対する耐久はできないかな。

 

 感想という名の改良案を書きなぐって、私はヴァルガからログアウトする。

 

「お、戻ってきたー!」

「どうでした、フルABCインパルスの所感は?」

「こんな感じかな! めっちゃ使いやすい!」

 

 ということで今日やっていたのは私こと、しーちゃんのフルABCインパルスの試運転だった。

 ToDoリストで仮想敵の戦闘を記録して、その感想をチャットで送信。

 これだけ手厚いサポートをされてしまえば、しーちゃんだってマジにならざるを得ない。

 物理攻撃には確実に強い。こっちまで襲い掛かるはずのバルバトス全力のメイス攻撃の衝撃のフィードバックすら容易いものだった。

 完全に受け止めてから、装甲の隙間に銃口をねじ込んでドッズマシンガン。予想以上に頑丈なガンプラが出来上がってしまったと、やや自惚れてしまう。

 さすがはしーちゃんときーちゃんだぜぇ。

 

「ふんふん。やはりビーム攻撃への回答がABCしかないのは心もとないですね」

「でもあんな高出力のビームって普通受け止めないじゃん。タンク役だってサイカちゃんがいるんだから」

「できればナノラミネートも付けられればよかったんですがね」

「フェイズシフトとナノラミネートが共存できないように設定されていますからね」

 

 物理にもビームにも強い機体があれば、それはみんな作っている。

 GBN側としてはそんな無敵に機体を作ることはゲームバランスの崩壊を招くとして、このように共存できない設定のパッシブ効果や装備などが存在している。

 フェイズシフト装甲とナノラミネートアーマーの関係性はまさしくそれであった。

 

「もうちょっと調整は要しますが、これでいったんは完成ですかね」

「やったー!」

 

 フルABCインパルス。まさしくアストロ・ブルーの城壁となるようなガンプラになったことだろう。

 ま、タンク役はサイカちゃんがいるから、しーちゃんはあくまでもサポートなんだけどさ。

 

「頼もしい仲間がまた増えましたね。仲まで深まって」

「そうかなー? どう思う、きーちゃん?」

「あんまり思いませんけどね」

「……あれ?! 今のギャグじゃなかったの?!」

 

 ギャグの要素あったかな。…………。仲間と仲まで。ってこと?

 

「くっ! ギャグを気付いてもらえないことがこんなにも痛手になるとは。痛いでー」

「ご、ごめん……。あとそれ4点ぐらい」

「ぐふっ!」

 

 そんなことを言いながら、床に倒れ伏すサイカちゃん。こういうところがなければ普通に美人さんなのに、もったいない。

 そしてけろっとした顔で立ち上がったサイカちゃんは、私ときーちゃんの顔を見比べて質問してきた。

 

「そういえば同棲の件はどうなったんですか?」

「同棲?!」

「違います。居候です」

「随分なこと言うねぇ、きーちゃん!」

 

 いや、間違いではないんだけど。

 もうちょっとルームシェアとかそういう言い方はなかったわけですか、きーちゃんどの。

 

「家事は任せました。その方が効率がいい」

「しーちゃん、これでもお嬢様だったんだけど」

「お嬢様にだって、掃除ぐらいはできるでしょう?」

「……程度による」

 

 一度きーちゃんの家に行ったことはあるけれど、なんというか。こう……悲惨だった。

 ガンプラの破片が何故か電子レンジの上に乗っかっていたし、服はベッドの上に放置は普通。机の上はガンプラとニッパー。それからやすりにペンキが付いたカッターマット。

 決して女子大学生の部屋とは言えなかった。どっちかというと20代後半のガンプラ趣味の

OLみたいな部屋。

 

「なら大丈夫そうですね」

「たまにきーちゃんが分からなくなるよ」

 

 1,2年の仲でそれなんだ。効率がいいからって理由でその辺に食パンを置くというのも違う。

 

「まー、キユリちゃんのお部屋って汚いよねー」

「そんなにですか? 機能性にあふれた効率の良いお部屋だと思うんですけど」

「汚部屋だよ、あれは」

 

 はぁ、最初は綺麗なお姉さんだと思っていたのに。

 友情に熱くて、手先が器用で、とっても優しいけれど、私生活がボロボロすぎる。この人料理とかどうしてるんだろう。カップ麺とかで済ませていないよね、もしかして。

 

「しーちゃん、料理の勉強しようと思う」

「料理なんてしなくても、ドライフルーツでよくないですか?」

 

 予想以上にダメだった。

 

「よくない! 分かった。しーちゃんがきーちゃんのこと管理する! 頑張って料理のお勉強する!」

「まぁ、期待してますよ」

 

 その反応。「まーたこの人は適当なことを言っている」みたいな顔だ。

 見てろよ。後悔させてやる。しーちゃんが立派な料理が出来ることを証明してやるんだから! まずは料理本を買ってくるところから頑張らなきゃなぁ。

 

 フルABCインパルスと共に、決意を新たにした私はどんな本がいいかネットで探し始めるのだった。



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第47話:はじめてのおかえり

 フルABCインパルスは完成した。

 まだ微調整は必要だけど、これを基本としてもいい完成度に我ながら惚れ惚れとする。

 使う相手のことを思いながら、手足をやすりがけするのは緊張したけれど、悪くないものだと目の前のインパルスを見て考えていた。

 

 今日はコウミさんへのフルABCインパルスのお渡し会とわたしの家に住む記念のパーティである。

 もちろんこの日のために慣れないお片付けもしたし、料理だって……。レンジでチンした。

 テーブルにはチキンにポテチ。それからカルピスやコーラなどの後で脂肪に来そうな食べ物たち。でもいいんです。だってこれパーティですし。

 椅子に座って、今か今かと待つ。

 思えばいろいろなことがありすぎた。コウミさんと、しーちゃんと再会して、バチバチに殴り合って。それから仲直りして。

 まだ数か月なはずだ。なのに、なんだか数年単位の出来事のように濃い日々だった。

 

 4年の月日を取り戻すため? いいや違う。これからの4年間を過ごすために。

 それが終わったらまた4年。それが終わったらさらに。さらに。

 

「そんな日々であればいいな」

「なにがー?」

「なんでもないですよ」

 

 小さい隣人もいるんだった。これから2人が3人に変わるだけ。子供が1人増えるだけだ、なんの苦労はないはず。

 

「なんか失礼なこと考えてない?」

「なんでもないですよ」

「ホントーかなー?」

 

 本当はルミミさんはわたしの心を読めるのではないだろうかと感じる瞬間がいくつかある。

 まぁ数か月も顔を突き合わせていれば、分かる時も来るか。

 

 彼女の頭をくにくにと動かして誤魔化していると、ピンポーンという音が鳴った。彼女がやってきたんだ。

 胸ポケットにルミミさんを入れてから、わたわたと部屋の中を駆けってガチャリとドアを開ける。

 

「……来ちゃった」

「第一声がそれですか」

「それっぽいかなーって!」

 

 大きなリュックサックを背負った小さいキミ――ムトウ・コウミが小さく会釈してから、玄関の門をくぐる。

 彼女の様子は、誰の目から見てもそわそわしていた。

 

「大丈夫ですか?」

「あ、あはは。なんか緊張しちゃって」

「別に緊張する必要ありませんよ。これからコウミさんの家になるんですから」

 

 それに料理冷めちゃうし。はやく中に入って……。ってなんで目を丸くしてるんですか。

 

「……私の家」

「そうですよ。あなたの家です」

 

 ここは気の利いた一言でも言おうかな。せっかくの初帰宅。ならば……。

 

「お風呂にしますか? ご飯にしますか? ……それとも」

「ミユリさんも無理してるのが分かって何より」

「悪かったですね。ほら、ご飯用意してるんですよ」

「……うん。ありがとね」

 

 その言葉の裏に何があるかは知らない。

 想像でしかないけれど、親と子供で仲が悪そうだし一緒にご飯を取ることがなかったのかも。それとも誰かにただいまと言われることがなかったのかもしれない。

 些細なことだ。だって今日からはその全てをわたしがあげるんだから。

 

「コウミさん」

「なに?」

「おかえり」

「……。うん、ただいま!」

 

 とりあえず荷物を置いて着席。そのままおててを合わせていただきます!

 食べて食べて食べて。ジュースも飲んで飲んで飲んで。それで、お腹がいっぱいになった。

 

「はー! こんなジャンクな夕飯、初めてかも」

「うちにいたら毎晩食べれますよ」

「それは食生活が心配です」

 

 別に食べられれば心配はないと思う。昨日だって面倒だからマックでハンバーガーを買ってきて、調べ事の片手間に食べていたっけ。

 これが2人になってから、顔を突き合わせてハンバーガーを食べることになるだろう。というのをコウミさんは阻止したいようだった。

 

「でもコウミさん、ご飯作れるんですか?」

「……これから学びます」

「しばらくはコンビニ飯でいいかもしれませんね」

「美味しくします―! 料理のコツはレシピ通りに作ること!」

「それは大前提ですよ」

 

 そもそも大学生というのは大変なのだ。課題にガンプラにバイトに私生活と。

 だから部屋が汚くなったって仕方ない。そう、仕方のない事。

 

 ってそうじゃない。食器だらけだった机の上をいったん全部シンクに叩きこんでから、改めてフルABCインパルスを立たせる。

 

「では贈呈式です」

「うん」

「まぁ渡すだけなんですけど」

「えっ?! なんかないんですか?!」

 

 なんにもないですけど。

 

「だってコウミさんなら丁寧に使ってくれるでしょうし」

「……ツヴァイズの件があるんだよ?」

「ルミミさんが言ってたじゃないですか、嬉しかったって。つまり丁寧に扱っていたんじゃないんですか?」

「それは……」

 

 机の上でインパルスに並ぶようにルミミさんも立つ。

 コウミさんは物を大切にする人だ。ラストワンを使っていたとしても、その人の本質がなくなってしまうわけではない。

 実際捨ててもよかったはずのツヴァイズを最終的にツカサさんに渡すまでに至ったのだ。ガンプラだって満足げだった。

 であるなら、このフルABCインパルスだってコウミさんは幸せにするだろう。確信めいた自信だ。

 

「だいじょーぶだよ! コウミちゃんなら絶対!」

「……ありがと」

 

 両手で優しくインパルスを持ち上げる。

 まるで我が子を送り出すような感覚だ。子供なんていた覚えないのに。

 だけど、胸元に持ってきて大切に抱きかかえる姿を見て、わたしの確信が間違いではないことを理解する。

 

「よろしくね、インパルス」

 

 だって、こんなにも慈愛に満ち溢れた天使のような笑みを浮かべるんなら、間違いないですよ。

 

 ◇

 

 最近ルミミさんが夜遅くまでGBNに潜っていることが多い。

 何のためかと聞いてみると、それは強くなるため、なんだとか。

 

「強くなるため、かぁ」

「ルミミちゃん頑張ってるみたいだもんね」

 

 コウミさんが住み始めてから1週間。

 はやくも我が家のキッチンマスターとなった彼女の作った第5号料理は、カレーだった。

 ここに来てから早2回目である。

 

「今はCランクだったっけな。はー、抜かされちゃった」

「コウミさんもさっさとCランクになって必殺技を手に入れてくださいな」

「て言ってもなー」

 

 カレーで汚れた食器を2人で分担しながら洗う。

 何かまた変なネガティブワードを言おうとしているな、この子は。

 

「毎日コツコツデイリー。これが一番効率がいいです」

「えー、もっと割のいい方法とかないの?」

「ヴァルガ籠りとか、それこそ巨大MA撃破周回とか。あれとかいいですよ、サイコガンダム周回」

「うえー」

 

 サイコガンダム周回はたまにやることがあるけど、ビーム兵器への高い耐性があるから別のMA周回の方がいいという意見も聞く。

 極論言ってしまえば、どれも厄介極まりない性能をしている機体が多いからどれも変わりはないと思う。とはいえハシュマルやガデラーザなどの数でモノを言わせてくるステージは二度とやりたくない。フルバーニアンで振り切れたとしても、絶対にだ。

 

「あとはひたすらミッションの周回だったり。今ならキャンペーンミッションでひたすら周回ですかね」

「…………」

 

 うわぁ、相当グロッキーな顔をしている。まぁそうだろう。わたしだって同じミッションをハムスターのように周回はしたくない。

 ソシャゲならともかく、オート機能のないGBNでそれは致命的な時間のロス。ならコツコツデイリーが一番効率がいいというのが、わたしの見解だ。

 

「というか、ルミミさんはどうしてあんなにも強くなりたいんでしょうか。焦る必要なんてないと思うのに」

「それはミユリさんには分からないことだよ」

 

 けろっと言ってのける彼女に少しだけ堪忍袋の緒にひびが入ったけど、まぁよしとしよう。多分今のはわたしが悪かったんだ。

 ここは話を変えるべきだ。何か話題。Cランク。そっか、Cランクか。

 

「ルミミさん、バトルカイ出るんでしょうか」

「そういえばそろそろだっけ?」

 

 Cランクから参戦可能となるガンプラバトルのトーナメント戦。それがメガ粒子杯バトルカイ。

 一応コウミさん以外は出場の権利はあるけれど、わたしは出場するつもりも理由もないので多分スルー。サイカさんはまだ分からない。

 

「サイカさんも最近ルミミさんに付きっきりですし、何かあったんでしょうか」

「さぁねー。でもあんなに仲悪そうにしてたのに、打って変わって特訓とか」

「人生って分からないものです」

 

 春先の少しだけ冷たい水道水を締めてから、タオルで残りの食器を拭く。

 なんか、この生活も当たり前になりつつあるわたし怖いな。これじゃあ迂闊に効率のいい配置にできない。

 

「案外、サイカちゃんも出るのかも」

「まさかぁ」

「ルミミちゃんに付き添いで、みたいな?」

「まぁ、それなら」

 

 サイカさんもあまり表舞台に出るイメージはない。

 自分でも勝つことを諦めたって言ってたけど。もしかしたら彼女自身も変わろうとしているのかもしれない。なんて、流石に妄想しすぎか。

 

「本気のサイカさん、見てみたいですね」

「ね! 私たちも応援しなきゃなわけだし!」

「出るとは決まってないんですけどねー」

「それはそう! あはは!」

 

 すべては冗談だよ冗談。

 さすがに0から1に切り替わるみたいに簡単に人が変われるとは思っていない。

 だから本気のサイカさんはきっともっと先のことだろう。

 

「ということで、わたくしとルミミ殿はバトルカイに出ますので」

「「へ?!」」

 

 ――そう思っていた時期が、わたしたちにもありました。



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第48話:ウチたち、わたくしたちは、バトルカイに出ます!

 ――メガ粒子杯バトルカイ。

 

 新人たちの登竜門として、もっとも層の厚いCランクから参加可能な運営が主催しているトーナメントカップである。

 G-tuberミスターMSの実況に、様々なゲストを交えた解説を連日配信するというGBNの中でもかなり本腰を入れた大会の1つだ。

 

 ELダイバーリゼや他の名だたる有名ダイバーたちを排出したこの大会はまさしく、有名になるための第一歩。

 

「そんな大会に2人とも参加するんですか?! ルミミさんはともかく、サイカさんも!」

「以外にも意外ですか?」

「ギャグ言ってる場合じゃないってー! マジで言ってるの?!」

 

 ルミミさんがCランクになったことで参加するかもねー、みたいな冗談はしーちゃんと話してはいた。もしかしたらサイカさんもー、とか。

 サイカさんのことだ。何かと難癖をつけてやる気はないから遠目で弟子の成長でも見ますか。と後方師匠面をすると思っていたのに。

 その結果がこれであった。

 

「本気ですよ。あ、本気というのは出場するのが本気というだけで、本気を出すかはさておきとして」

「いやいやいや、そんなことよりだよ! あのサイカさんが出場するだなんて……」

 

 上へ上がることへのやる気のなさはしーちゃんとどっこいどっこいか、それ以上だと思っていたけれど。いったいどんな心境の変化があったのだろうか。

 

「そーだよ! ウチと一緒に参加するんだー!」

「どうしましょう。今日やることが全部吹っ飛んでいきました」

「そんなに?!」

 

 それだけの衝撃だったということである。分かってくださいルミミさん!

 

「でもなんで2人で?」

「……知りたいですか?」

「知りたいです……!」

「そうですか。……これにはこんなんにも困難で何回も難解な思考を試行して、ですね」

 

 サイカさんが生き生きとしながらギャグを言っている。多分言いたくないんだこれ。

 

「ウチが出ようよーってねだったら出てくれたよ!」

「あっ、ルミミ殿!」

「へぇ……ルミミさんが」

 

 片手で頭を押さえて顔を伏せるサイカさん。

 確かにこの内容だったら、わたしも同じような反応をしたかも。

 例えるなら「わたし、しーちゃんと一緒に大会に出ることにしたんです! だってぇ、しーちゃんがあ・ん・ま・りにも激しかったから……きゃ!」とか口に出した日には、恥で腹を切りたくなってしまうほどだ。今のルミミさんはそのぐらい刺しに行ってた。

 というか、今の想像上のわたしはいったい何者だ。いくらしーちゃんから懇願されたからと言っても、出てくる返答は「頭大丈夫ですか?」だ。

 

「別にいーじゃん! ウチがいっぱいお願いしたら、分かりました。って言って目の前で申請出してくれたでしょー?」

「うっ……」

「サイカちゃん、いつの間にルミミちゃんと仲良くなったのー? しーちゃん気になっちゃうなー!」

 

 このちんまい女は弄るネタができたと言わんばかりにねちねちと口にし始めた。

 目配りだっていやらしすぎる。チラッチラッて。わたしだったら殴るとは言わないけれど、無言でガンプラバトルの挑戦状を叩きつけてしまうかもしれない。

 でもサイカさんだって大人だ。このぐらいの困難はこんなんにも簡単に……。

 

「ちょっと表に出ましょう。GNサムライソードが血を求めています」

「いや?! ちょっと言っただけじゃん!!」

「大丈夫です。フルABCインパルスがどの程度の強度か確かめるだけ」

「その獲物、大抵の物を真っ二つじゃないですか!!」

 

 サイカさんの逆鱗に触れたらしい。南無、しーちゃん。

 草葉の陰に死体は投げておきますね。

 

「それで、ルミミさんはどんな搦め手でサイカさんを篭絡したんですか?」

「人聞き悪いなー。ちゃーんとお願いだけですー!」

 

 ほわんほわんほわん。とどこで習ったのか分からない回想音を口で発しながら、ルミミさんは当時の記憶をわたしたちに教えてくれた。

 

 ◇

 

『まだまだ誤差があります。それでは相手を予測した場所に誘導することはできませんよ』

『むぅ!! じゃあこっち!』

 

 ウチがミサイルの扱い方をしこたま勉強させられていた時だった。

 というか、ミサイルにも制御システムみたいなのがあって、大まかにこの辺に飛ばすという機能があるらしい。本当の本当に誤差についてはちゃんとゲーム内のシステムが管理してる。

 とはいえ、最終的にはそれを戦闘しながら計算して撃つのがミサイラー(ウチ命名)の腕の見せ所というところ。

 

(やっぱり120門ミサイルランチャーはやりすぎかなー)

 

 いくらミサイルが好きとは言え、これだけのミサイルを発射してしまうと狙いが付けづらい。

 せめて半分。60門でも相当の制度が必要だろうか。全部弾道ミサイルだから、山なりに飛んでいくから読まれやすいのかなぁ。などと考えていた。

 このガトリングバスター砲だって、ただただ重たい。

 強力ではあるものの、当たらなければハチの巣にはならない。前方はガトリング、上からはミサイルというのは理にかなっているけれど、いわばそれだけ。奇を狙うことができない。

 

『だから接近されるのです』

『あはは、がんばる』

 

 根本的な改良が必要だ。もちろんウチ好みの再チューニングを。

 

『というか、サイカちゃん厳しすぎ!』

『そんなことはありません。ルミミさんはもっとできるのですから』

『だからってー! ミサイル撃ち尽くした後のこととか考える?!』

『120門もあるからという油断は死に直結します。1発1発を丁寧にしてほしいんです』

 

 それはそうなんですけどもー!

 バックパックを外して、近接戦闘でのガトリング砲の取り回しは特にきつい。

 手持ちの火器は重たいのに、向こうからは鋭く速い斬撃が襲い掛かる。応急キットがなければ100回は死んでいる。いや、多分それ以上かも。

 

『まぁそろそろ頃合いでしょうし、大会に出て自分の力を試してみるのも悪くありませんかもね』

『大会?! 大会ってなに?』

『文字通りトーナメント形式のガンプラバトルの大会です。直近だとバトルカイがありますし、そこにエントリーしましょうか』

 

 軽く調べてみると、バトルカイというのは運営が主催している大会の1つらしい。

 確かに面白そう! ちょちょいっとエントリーを完了させて、過去の大会を漁ってみる。

 

『このイフリート改とかすごーい! 火器ばっかだぁ!』

『その試合ならELダイバーが勝利を納めていましたね』

『ELダイバーって、この小さいガンプラ?』

 

 ビームロッドが相殺し合えば、イフリート改からはもう1本のビームロッドが放たれる。

 顔面を掠めた小さいガンプラが力を抜いた先に持ち上げられてしまう。

 

『あ!』

『ここからです』

 

 動かない影。おかしい。何故影が動かないのか。

 その答えは至極単純なものだった。

 

『影が動いたー?!』

 

 正体はサポートメカ。

 自立で動く人型のガンプラが隙を生み出した後に、イフリート改へ全力射撃。そのままゲームセットとなった。

 

『はー、すごい』

『自由な発想によって相手の奇を突く。それこそが柔軟な対応ができるコアガンダムの真骨頂と言えましょう』

 

 ELダイバーリゼ。この人はきっと多くの経験をしたのだと思う。

 経験するだけじゃない。考えて、形にして、実践している。

 ウチも数は少ないけれど、経験はした。でも考える間もなくひたすらにミサイルを撃ち込むだけ。彼は、ウチが目指すべきダイバーの1人なのかもしれない。

 

 勉強になる。他にも何か動画はないのかと漁ってみたところ、それは見つかった。

 

『……これは』

『ムラサメ刃-X?』

 

 いや、青く塗られているけれど違う。

 肩は盾ではなくスパイクのように肥大化している。

 しっぽだって生えているし、体格が全体的にマッシブだ。ムラサメではない。

 

『ドージ刃-X。オーガ殿の刃-Xを受け継いだ弟殿が乗っていると聞いています』

 

 その戦い方は圧倒的だった。

 確実に相手の恐怖というウィークポイントを突き、絶体絶命の展開へと持ち込み、斬撃。

 恐ろしいぐらいにスマートだ。洗練された綺麗な暴力。向けられた刃は相手にとってはたまったものではないだろう。

 

 同時に思った。思ってしまった。弟くんだというのなら、サイカさんとは。サムライオーガとはどちらが強いのだろうか、と。

 

『……恐らく、彼の方が強いでしょうね。今は百鬼の中核を担っていると聞きます』

 

 淡々と寂しさが滲む声色だった。

 顔なんて見なくても分かる。すごく暗いんだろうな……。

 

『所詮、わたくしはまがい物です。彼がどうしようが、勝手なのです』

 

 絶対、そんなことないはずなのに。

 サイカちゃんは本物だ。そこに嘘やホントなんてものはない。ただの事実だ。

 でも強さだけが人を区別する方法だとしたら、ウチはサイカちゃんには本物になってほしい。

 だって、こんなにも強いんだから。自分の師匠に本物になってほしいのは当然のことだから。

 

『……サイカちゃんも、バトルカイに出ないの?』

『…………』

『ドージくんだって出るかもだよ?! それにサイカちゃんだって強いんだから優勝だってできちゃうかも!』

『そんなのは妄想ですよ』

『でも!』

 

 気づけば口にしていた。

 ウチは勝って称賛を浴びるサイカちゃんが見たい。

 強くてかっこいいサイカちゃんに、明るく元気でいてほしい。本物でいてほしい。

 

『ウチは、サイカちゃんが一番強いって、信じてる!』

 

 本気の輝きを見た。あの時の輝きは、紛れもなく最強だった。

 困難を切り開く絶対の矛。ウチらを勝利に導いた、最強の刃。

 

『……少しだけ、考えさせてください』

『サイカちゃん!』

『では』

 

 彼女はそう言ってウチの目の前から消えていった。

 大丈夫。あの時の輝きは、間違いなく本物だったから。

 待ってるよ。



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第49話:未練も、後悔も。これっきりに

 わたくしは考えないようにしてきた。

 皆さん、わたくしのことを買いかぶりすぎている、ということについて。

 

 最近は特に考えさせてくる。わたくしはすごい、と。

 そんなことないはずなのに。

 

 最初は考えるふりをして断るつもりだった。

 だってそうだろう。興味もないし、今さら振り返ることなどないのだから。

 『サムライオーガ』という異名はいわば呪い。彼の偽物としてわたくしは演じさせられているのだから。そこには本物なのではなく、まがい物としてのまずい味だけしかない。

 

『ドージ殿を倒せば、確かに名は売れる。オーガ殿とのリベンジマッチも夢ではない』

 

 ――ですが。

 

 それがどうしたというのだろうか。名が売れた。リベンジマッチができた。

 だからと言って自分の剣が彼に通用するとは思えない。

 あの日、オーガの剣を受け止めようとして交えた刃は、心は折れてしまった。それ以来わたくしには自信というものがなくなった。

 そんなものはいらないと。ただひたすら剣を教えられればいい。それでいいと。

 

『これでいいの?』

『え?!』

 

 小さい少年がわたくしのことを下から見上げてくる。

 あぁ、そっか。今は稽古の途中だった。

 

『えぇ。心を込めて、1本1本大切に打っていけば、自ずと剣は答えてくれますよ』

『はい! ありがとう!』

 

 この子たちはみんな眩しい。

 夢を真っ直ぐに見据え、心を折らずに歩を進めていける。

 子供の強さとは、愚直すぎるほど、危うすぎるほど真っ直ぐに進めるところだ。

 途中に困難があろうとも、歩んだことが真実であるように。

 

 わたくしはどうだろうか。

 歩んだこと、進んだことは正しかっただろうか。

 

 進んだ先に遭った事故は必然だった。人によっては負けるもんか、と思うことはあるだろう。勝つんだって奮起する強さを持っていれば、子供の強さを持っていれば……。

 もう、子供の強さは持ち合わせていない。大人になってしまったから。

 

 大人はいろんな責任がある。だから心を折らなければ進めない場所だってある。

 わたくしはその方が都合がいいと。そう信じこむしかなかった。

 

 自分の言ったことを反芻する。剣は答えてくれなかった。だから頑張ることを諦めた。何万本、何億本とも剣を打ってきて、それは分かってしまったから。

 

『自分が守れなかったことを教えるなんて、笑えますね』

 

 自分のギャグにではない。

 日誌を書いてから、そのページを閉じる。

 

『わたくしが一番強い、ですか』

 

 子供らしい、勇気づけ方だ。

 一番はすでにクジョウ・キョウヤという男がいるだろうに。

 

『…………何故でしょうね』

 

 胸の奥深くでぽぉっとろうそくほどの炎が灯る。

 分かっている。よく、分かっている。その炎は意味のないものだと。

 今まで見ないふりをしてきた炎にフーっと息を吹きかける。

 

 炎は揺らぐ。

 そのまま消えればいいのに。大人のわたくしが口を出す。

 

 炎は消えない。

 それどころか周囲に火の粉を撒き散らし、炎が拡散する。

 何もしなければ、何も言われなければ、こんな気持ちにはならなかったのに。

 

『ウチは、サイカちゃんが一番強いって、信じてる!』

 

 炎は大きくなる。

 くすぶる魂を囲むように心が炎に侵食されていく。

 違う。これは意味のないことだ。こんなことをしても、絶対に報われない。わたくしは強くなんかない。

 

『ウチのこと守ってくれたんだもん! ぜったい強いよ!』

 

 この世に絶対なんて言葉はない。あるとすれば諦めの二文字。

 この世に絶対なんて言葉はない。あるならやれる。という三文字だけ。

 

 2つの相反する感情論。

 絶対。絶対なんてない。限界なんてない。

 そんな言葉は嫌というほど聞いてきた。けれど絶対に存在する。奴らは限界の天井が宇宙まで設定されているんだ。その、はずなんだ。

 もし、わたくしの限界はもっと先まであるのなら。

 

 知っている。それはいばらの道。そこから先へと進んでしまえば、もう一度折れた後にどこまで落ちるか分からない。もしかしたら再起不能になるまで。

 大人になると臆病になる。失敗したらどうなるか分かっているからだ。分かっているから挑まないという道を取る。動かないで過ぎ去るのを待つ道を取る。

 

『わたくしは……』

 

 あの最強という頂に行きたい。わたくしだって出来ると夢を現実にしたい。

 もう一度剣を取るには遅すぎるかもしれない。だってわたくしはもう25だ。そろそろ結婚だって考えてもいいはずだ。

 けれど、そんなことを全て忘れて剣を振っている瞬間が一番楽しかったんだ。

 幼い頃、日が暮れても、友達との約束をすっぽかしても、なりふり構わず剣を振って悩みも全部吹き飛ばしていた。

 そのことを思いだして、わたくしは竹刀を取り、立ち上がる。

 

 竹刀を振るう。ブゥンと悩みが1つ消える音がする。

 もう一度。また1つ消えた気がした。もう一度。また一度。

 

 悩んでいてもいいことはない。わたくしにも、それは言えたのかもしれない。

 あと一度だけ。それで終わりにする。

 

『未練も、後悔も。これっきりに』

 

 10回振っただけなのに、わたくしの中からすっと何かが抜けていく感覚がした。

 

 ◇

 

『バトルカイに出ます』

『サイカちゃん!』

 

 翌日。

 ルミミ殿に答えを提示すると、彼女は無邪気な明るい笑顔をわたくしに向けてくれた。

 この子にもたくさん迷惑をかけたし、かけられた。だからだろう、この特訓にも親身に動くことができたのは。

 

『でもどうして急に? サイカちゃんだったらダメかなーって思ってたのに』

『……それは、あなたのせいですよ』

『ほへ?!』

 

 具体的には言わない。

 だってまた心が折れるのは目に見えているのだから。

 ルミミ殿のせいです。わたくしのくすぶっていた炎がまた吹き上がったのは、あなたのせい。

 

『さぁ、まずはガトリングバスター砲の素振り100回ですよ!』

『ちょっと! なんでか聞かせてよー!』

『わたくしもサムライソードの素振りをしますので。ほらいーち!』

『い、いーち……!』

 

 ◇

 

「って感じで、なんでかは教えてくれなかったんだよねー」

「そういうことですか」

 

 なんというか、このELダイバーは結構な人たらしなのかもしれない。

 いや、どっちかというと子供の純粋さがそうさせたのだろうか。どちらにせよ、本気のサイカさんが見れそうで、わたしとしては嬉しかった。

 

「で、キユリちゃんに折り入って相談したいことがあるんだけど……」

「なんですか? わたしにできることであれば何でも」

 

 ん? 今なんでもって?

 そんな顔が見え隠れしたが気のせいだろう。

 何故ならわたしがそう答えた途端ぱーっと輝いた彼女の表情にそんな邪悪なものなんて存在しないのだから。

 

「モビルドールの調整がしたいの!」

「調整」

「そそ! 具体的に言うと、武装の調整とかー、あとは追加とか削除とかー」

「待ってください。それって……またわたしにガンプラを作れと?」

「そうだよー!」

 

 ……ガンプラ製作休憩期間は1週間。

 どうやら今日からはルミミさんの武装の調整をしなければならないようだった。

 なんでもやると言った手前、断ることもできない。元より断るつもりなんてはなからなかったのだけど。

 

「バトルカイの予選は確か1か月後ですよね。なら今からでもプランは練らないと」

「そう思って今回はサイカちゃんと一緒に考えてきましたー!」

 

 当の本人はしーちゃんとじゃれついているのだが。

 主にサムライソードを抜いたムラサメ刃-XがフルABCインパルスをなます切りにせんがために走り回っている。あー、平和平和。

 

「どんなものですか?」

「ウチ、気付いちゃったんだよね。このモビルドールルミミDFの拡張性について」

 

 あぁ、やっとそのことに気づいたんですか。

 

「コンテナの脇についてる多目的ミサイルキャニスターっていろんなミサイルを仕込むことができるんだよね」

「そうですね。デコイからトマホーク、それから閃光弾にビームかく乱弾と。とにかく幅が広いです」

 

 モビルドールルミミDFには120門のミサイルコンテナとは別に2基の増設多目的ミサイルキャニスターが実装されている。

 先ほど言った通り、多目的という名前に相応しく様々なミサイルを装填することができる。

 例えばザフカさんのような通信遮断用のバグを仕込んだミサイルに、サイコフレーム弾。

 それからビームをかく乱できる弾から、機雷を仕込むミサイルだって可能だろう。

 

 もちろんこれはすべてわたしが手作業で入れなければいけないから、追加作業として今までちまちまと作っていた。どうやらそれは日の目を見そうで何よりだ。

 

「えっと、こういうことってできる?」

「……なるほど。確かにこれは可能ですね。であれば武装もガトリングバスター砲からグレネードランチャーに変えて……」

 

 日々というのはあっという間に過ぎる。

 わたしとしーちゃんも加わったフォース『アストロ・ブルー』の特訓は苛烈を極めた。

 このGBN人生において、こんなにも熱心にガンプラを動かしたのは初めてかもしれない。

 サイカさんとルミミさんのためという名目なら働くことができた競争嫌いのしーちゃんも、なんだかんだで楽しそうにやっていた。

 

 そんな感じで1か月は過ぎ去り、メガ粒子杯バトルカイの予選当日となっていた。

 

「びえー、こんなに人がいるんだ」

「予選は例年と違ってバトルロワイヤルですからね。ま、よせんわたくしの敵ではありませんが」

「そういうなら所詮、だよ?」

「失敬。今のはギャグです」

「毎回わかりづらいんだよ!」

 

 しーちゃんに脇腹を突かれるサイカさんはお返しと言わんばかりにチョップでしーちゃんの頭を叩く。ここも相変わらずそうで何よりだ。

 

「キユリちゃん、予選クリアしたらご褒美!」

「何にしましょう」

「あれしたい! ミサイルバーッてする兵器!」

「あー、まぁ。その時になったら」

「やったーい!」

 

 なんとなく意味は分かってしまった辺り、わたしも毒されているのかもしれない。

 でもまぁ、ルミミさんの後見人を名乗っているんだし、それぐらいは当然か。

 時間がやってきた。ロビーに集まった彼女たちから光の塵が溢れてくる。

 

「じゃあ、いってきます!」

「いってきますね」

 

「「いってらっしゃい」」

 

 目指せ本戦。必勝祈願を胸の奥でしながら、わたしたちはサイカさんとルミミさんの勝利を願うのだった。



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第50話:バトルカイ予選、開始!

 例年通りのバトルカイであれば、予選は1対1のトーナメント形式だったと記憶している。

 上位8名が本戦に進出することができ、熾烈極まる熱いガンプラバトルが繰り広げられることだろう。

 

 だが今回はどういうことか、予選はバトルロワイヤル形式のランダムマッチとなっていた。

 これはひとえに例年のバトルカイへの参加人数の増加が原因とされている。

 

「一昨年のリゼ殿がすさまじい活躍をしているから、でしょうね」

 

 ELダイバーリゼ。その名を知らないダイバーはいない。というにはいささか誇張表現が過ぎるかもしれないが、それだけ有名なダイバーであることに間違いはない。

 コアガンダムを操る彼は日々学び、進化する。

 負けた理由を自分の中で落としこみ、考え、そして昇華させる。

 並のファイターではできないことを、努力し勝ち取る。それが彼の戦い方だ。

 

 わたくしもまだ学ぶべきことが多い。高みを目指すのであれば、迷いは捨てろ。

 己の剣を力の糧として、ただ斬り伏せるのみ。

 

『あんた、サムライオーガとか呼ばれて浮かれてるダイバーだろぉ? こんなところで正座だなんて育ちがいいなぁ!』

「…………」

 

 前から1機。後ろからももう1機か。手を組んで挟撃と言ったところだろう。

 ガンダムエピオンとジム・ストライカーのように見える。どちらも近接型でこちらとしては運がいい。

 

『どうしたぉ? ビビッて動けねぇってかぁ?!』

「…………」

『……チッ、マグロかよ。さっさと始末させてもらうぜぇ!』

 

 襲い掛かるビームソードとツインビームスピア。

 連携は……欠片ほども見当たらない。キユリ殿のエイノンの方が、その殺意は鋭かったですよ。

 一瞬だけGNフィールドを展開し、はじけさせる。

 

『弾かれた?!』

『お、おい! さっきまでそこにいたサムライオーガがいないぞ!』

『なにっ?!』

 

 気づいたころにはもう遅い。

 ジム・ストライカーの胸部から生えてくる1本の刃。

 急所を的確に突かせていただきました。敵の核を突く。的確に。うーん100点満点。

 

『嘘、だろ……?!』

『くそっ! ゼロシステム!』

 

 ジム・ストライカーを始末した後で、爆風に乗じてエピオンの懐に潜り込もうとするが、システムアシストだろうか。とっさに回避したエピオンのいた場所に、刃の線が浮かび上がる。

 

『あ、あぶねぇ……!』

 

 なるほど。相手の必殺技というべきか。

 確かゼロシステムの必殺技には2種類あったはず。1つは攻撃の線を見せる予測。もう1つはシステムが自動的に回避行動を行うオートムーブだったか。

 あのダイバーの反応からして、おそらく後者の方だろう。今の不意打ちでとどめを刺せなかったのは少々面倒ですね。

 

『へへっ! これで叩きのめしてやるぜぇ!』

 

 バランスを整えた後に横薙ぎのビームソード。だが1ステップ遅い。

 ビームソードに向かって斜面のごとく刃を向けて、受け止める。力をそのまま水のように流す。サムライソードの刀身で滑らせるようにビームの刃が弧を描かせて、わたくしの上を通り過ぎさせる。

 

「ウタイ流伍の型。移し波」

『どうなって……っ?!』

「しゃべりすぎですよ」

 

 地面に叩きつけたビームソードは必ず隙を生む。刃先を滑らせながら、一刀両断。

 コックピットごと真っ二つに切り裂いたサムライソードがダメージ判定を行う。結果、即死。

 データの破片となって散ったエピオンが恨めしそうにこちらを見ていた。

 わたくしはサムライソードに付いた油を地面に払ってから、リアスカートに矛を収めた。

 

「さて。残りは17機ですか。先は長そうですね」

 

 その中にわたくしの弟子が入らないことを祈りながら、その場をあとにする。

 だがまぁ、彼女ならきっと大丈夫だろう。装備も整え、あれだけの特訓を重ねたのだ。

 

「子供の成長は著しい、と言いますしね」

 

 子供は飲み込みが早い。まるでスポンジのように教えたことを自分の力に吸収していく。

 それは何も知らないから。空っぽの器の中に、固定概念というフィルターがないからどんどん器の中に入っていくのだ。

 羨ましいとは思う。それだけ学ぶことができれば、今が一番楽しいのだろうから。

 

「子供になりたいですね」

 

 もっと学びたいことはあった。わたくしは大人だ。学ぼうにも固定概念が邪魔をする。

 固定概念はフィルター。凝り固まっていれば、それだけフィルターは何も通さない。こうして古い考えが生まれて、周りに迷惑を与えるのだと思うと、なかなかに恐ろしいことだ。

 

「しがらみがなくなれば、彼女みたいにわたくしも強くなれるのでしょうかね」

 

 分からない。分からないなりに、悩みを振り切って刀を振るう。

 今はそれしかできない。知らない。大人としてではない。ただのわたくしとしてこの問題に立ち向かっていこう。

 

「……2機のガンプラ? いや、1機になった」

 

 センサーに反応がある。片方がもう片方を撃破したということだろう。

 飛行していた身体を一回地上に下ろす。

 周りは鬱蒼とした竹林だ。緑だけがこのエリアを支配している。

 

 その緑だけのエリアに、一際大きな青がいた。

 その青は熱が籠った刃を取り出すと、こちらへ襲い掛かかる。

 

『お前、兄ちゃんの偽物だろ?』

「……そういうあなたは、かのオーガの弟君。通りでその機体に見覚えがあるはずです」

『なら分かってるんだろ? 俺とお前が出会ったなら!』

「語る刃は1つだけ。いざいざいざ、尋常にッ!」

 

 オーガ刃-X改め、ドージ刃-X。ここでわたくしの復讐の糧となっていただきます!!

 

 ◇

 

 宇宙。それは全生命体が息をすることができない空間である。

 って、語っても誰に伝わるかも分かんないよね。

 ウチは今、宇宙空間に放り投げだされていた。

 理由はバトルカイのランダムスタートで、宇宙空間からスタートしたからだ。

 よかったー。改良前じゃ宇宙適正Bぐらいだったもんなー。キユリちゃんに言われて練習してたけど、無重力に慣れておいてホント正解だった。

 

「さてっと、今のうちにバラまいちゃうか」

 

 ミサイルコンテナに備え付けているミサイルキャニスターをそこら辺のデブリに設置。

 それからミサイル発射からのサーチドローンも展開して……。よし、この辺一帯のマッピングは完璧だ。

 周囲には点在しているガンプラが5機かな。結構いるなー。

 

「それじゃ、行きますか!」

 

 ケンプファーアメイジングから拝借したバックパックをミサイルコンテナに改造したんだ!

 40発だけだけど、それでも十分って分かったもんね!

 

「モビルドールルミミBC(バトルコート)、ゴーファイ!」

 

 発射されるのは40発のミサイル弾頭。それぞれ5機のガンプラへと向かって走り始める。

 んー、宇宙に伸びるミサイルの弾道は美しいなぁ。ってやってる場合じゃない。

 ミサイルを撃ったらこのまま行動開始。まずはあの1機からだ!

 

『ミサイル?! だけどあたくしのガンダムグシオンの前には効かないわー!』

 

 グシオンってあのカエルみたいなのだよね?

 いきなり面倒な相手が出てきちゃったな。だったらグレネードはこっちのものにして……。

 

『見つけたわよ! これがーグシオンハンマーよぉおおおおおお!!!!』

「うわあ! こっわ!!」

 

 即座に脚部のブーストを展開して、緊急回避を試みる。

 斜め後ろにバックステップしたウチの目の前にグシオンハンマーの攻撃がすれすれ通り過ぎる。うひー、こわい! けれど、隙を見せたなー!

 

「グレラン喰らえ!」

 

 ポンッ! という心地いい音と共に相手を確実に死へと至らしめる弾丸が発射される。

 重装甲のグシオン相手に爆発弾では破壊できない、というのがウチの予想だった。

 だから考えた結果編み出して、キユリちゃんが作ってくれた弾が役に立つ!

 予想通り肩で球を受け止めた彼(彼女)は大きく後ろへと吹き飛ばされる。

 

『ノックバック?! いや違うわ。装甲にダメージが』

「もう一発!」

 

 撃ち放ったのは徹甲弾。読んで字のごとく敵の装甲を貫通する砲弾だ。

 運動エネルギーで敵の装甲を破壊し撃ち抜く。頑丈なナノラミネートアーマーに対する答えの1つ。それが鉛玉だ!

 ノックバックした身動きの取れないグシオンに対して放たれた徹甲弾は先ほど命中した肩に着弾。肩の装甲を破壊して、さらに後方のデブリ群へと叩きつけた。

 

『きゃああああ!!!』

「これなら、ミサイルも通るよね?!」

 

 新しく着飾ったバトルコートの左袖を相手に突き出す。

 

「袖ミサイル。いっけー!」

 

 片腕9門のミサイルポッドが火を噴いて、グシオンのむき出しになったガンダムフレームへと続々と着弾していく。

 立ち上る爆煙。心地いい炸裂音。んー、さいこう。

 

 テクスチャの塵になった彼(彼女)見て、一安心する。

 

「あっちのトラップも起動するタイミングかな」

 

 そう言った瞬間、宇宙空間に爆発が1つ生まれ、同タイミングに参加者が1人減ったアナウンスが出る。

 どうやらミサイルキャニスターが起動して、近くにいた相手をハチの巣にしたらしい。近くで見たかったなー。

 

「……あとは3機。よし、がんばるぞ!」

 

 失ったグレネードランチャーの弾薬を補充して、ウチは次のバトルへと向かうのだった。



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第51話:サムライオーガとオーガの弟

 バトルカイは運営が主催する大会の1つだ。

 だからエントランスロビーやセントラルエリアでも実況や中継を見ることができた。

 わたしとしーちゃんは買い忘れて未だに狭い初期フォースネストの中で、サイカさんとルミミさんが参加している予選の中継を見ていた。

 

『流石はサムライオーガやね。近接特化型のエピオンをここまで軽々いなすなんて思わんかったわ』

 

「まー、サイカちゃんだしー!」

「それはそうですよ。サイカさんですし」

 

 実況のミスターMSがそんな当たり前なことを言うのだから、思わずわたしたちの鼻も高くなってしまう。

 ふふん、やはり才色兼備で糸目の強キャラ。サイカさんは最強だ。

 

『しかしなー、ギャグのセンスはイマイチなんよなぁ』

 

「うん、まぁ……」

「やっぱ関西人から見てもサイカちゃんのギャグってないんだ……」

 

 ギャグを言うだけでマイナス10億点ぐらいされてそうだ。

 そういうところがなければ、もっと舐められずに済むのではないだろうか。

 

『同じサムライとしてどう思いますか、蒼翼のサムライさん』

『もうやめてくださいよ! 勝手にそう呼ばれているだけですし!』

 

 解説には青い髪がしなやかに伸びる美女がいた。訂正。ダイバーネームを『ナツキ』と呼ぶ女性だ。

 本人はG-tuberとしての活動だけではなく、モデルもやっているらしい。しかもワールドランカーで、現在は8414位。属性モリモリの化け物みたいな人だ。神様は才能というものを3つも4つも与えるらしい。

 

「この人雑誌で見たよ! うわー、ホントに綺麗だなー」

 

 「そうなんだ」という感想しか抱かない。一応フレンドだけどあまり話したこともなく、興味もみんなほど関心があるかと言われたらそうでもない。

 それにわたし、ファッション雑誌とかあまり見ないし。雑誌を見るとしたらだいたいガンプラのホビー雑誌。この前のケーイチさんの作例すごかったなぁ。とかガンプラの技術もここまで進化したかぁ。流石はHOBBYHOBBYだなぁ。とかそういうかなりオタク目線でしか見ないのだ。

 ……でも思う。あぁいう胸も大きくて、手足がすらっとした女性と目の前のつるぺたちんちくりんの女の子とでは着る服も違うのではないだろうか。

 少なくとも、モデルが着ているような服をしーちゃんが着るという想像があまりできない。

 

「なんか失礼なこと考えてない?」

「ないですよ」

「むぅ……絶対邪な覇気を感じたんだけどなー」

 

 それは正解だよ。その覇気をそのまま戦闘にも生かしていただきたいものだ。

 

『で、今や3桁にも近いランカー殿から見て、サムライオーガはどう思いまっか?』

 

 今聞きたいのはそういうことだ。ナイスだミスターMSさん。

 

「流石に気になるよね」

「うん」

 

 ナツキさんは顎下に手を添えてから、しばらく考えて晴れやかな夏のような笑顔を向ける。

 

『私は独学だから分からないけど、一度手合わせ願いたいなーとは思いますよ。学ぶことが多そうだし』

『おぉー、それは挑戦状ちゅーことで?!』

『いつかはですよ。それに、他の女の事を口にしたらハルから怒られそうですし』

『そっちが本音かいな!』

『あははは!! そうですよ! ハルを怒らせたら怖いですしー!』

 

 そういえばハルさんとお付き合いしてるって話してたっけ。

 女性同士で、今は珍しくとも何ともないのかもだけど。エンリさんも確かユーカリさんと付き合ってるって言ってた気がするし。

 わたしもいつかは誰かと付き合いたいとは思うけれど、今のところ候補は見当たらないので、おとなしくガンプラを作っていることにする。

 あー、わたしの愛しのガンダムMk-IIよ。今日もかっこいいねぇ。

 

 と、そういう話ではない。

 

「しーちゃんも鼻が高いよ!」

「あなたは何もやってないでしょ」

「そんなきーちゃんもちょっと鼻高くなってるよー?」

「……ホントですか?」

「うんうん、マジマジ」

 

 鏡を見た。確かに鼻が高くなっていた。

 そっか、サイカさんはちゃんと実力あるんだ、よかった。

 

『そんなサイカちゃんは現在ドージとバトル中やね。サムライオーガとオーガの弟、これは注目やな!』

『本戦でも見たかったなぁ、このバトル!』

『それは分からんで? ところ変わって渓谷エリアはこんな感じや!』

 

 画面が切り替わって崖が連なっている渓谷エリアが映り込む。

 爆発や銃弾と鉛玉の多い戦場の中心には1機のガンプラがいた。わたしたちも見覚えがあるガンプラであった。

 

「サイコアイズ?!」

「ザフカちゃん?!」

 

 ガンダムヘビーアームズを自分色に染め上げたガンプラがミサイルやらガトリングガンなどを的確にバラまいている。

 弾幕に為すすべなく破壊されるズゴックに、弾幕をすり抜けてもアーミーナイフで切断されるムラサメと、その様子はまさしく破壊神。ルミミさんと似たような性質を持っているとは思っていたけれど、まさかこんなにも強いだなんて思わなかった。

 

『フォースAtoZの後方支援担当ザフカちゃん! まさかのバトルカイ参戦は驚いたわー』

『彼女のガンダムサイコアイズはアリサちゃんの支援機ですからねぇ。ひょっとしてこのために調整したのかな』

『せやろな! 元々ヘビーアームズは制圧戦に特化した性能や、こんなフィールドもお手の物ってことやろ』

 

 崖下に降りると、追いかけてくるガンプラを岩の下敷きに。

 うわー、あれはエグい。あんなところで戦いたくはないなー。

 

「ザフカちゃんだけなんだねー」

「まぁ、さすがにアリサさんはバトルカイに出れなさそうですし」

 

 わたしは知らないけれど参加するための上限設定も存在するはずだ。

 アリサさんはただでさえランカーだし、ランクも高い。上限に引っ掛かりそうな要素しかなかった。

 

『どうやら参加者は渓谷エリアに集中してるっぽいやね。せやから、予選もあと1機撃破されれば終わりっちゅーことや』

『それって……』

『それまでにオーガ対決の決着がつかなければ、本戦に持ち込みってことやね』

 

 ◇

 

 交じり合い、斬り結ばれる刃と刃。

 どこまでも続くと思われた剣戟は一度距離を置くことで休戦状態となった。

 

『お前、なかなかやるなぁ!』

「そちらこそ。弟殿と見くびっていたことを謝罪しましょう」

 

 おおよそ10分間は斬り合っている。

 向こうはガンプラの機体自体のパワーが高い。伊達にオーガ刃-Xの後継機は名乗っていない。

 こちらのムラサメ刃-Xもスピードでは劣っていないと思っていたが、問題はパワーだ。どうにも流しきれない力が機体の関節部分へのダメージとなって襲い掛かる。

 長期戦は不利。ならばスピード勝負で行こうかと言おうにも、この竹林が邪魔をする。

 地の利も向こうにあり、パワー勝負でも負けている。であるならばあとは防御力に賭けるしかない。それで10分もの斬り合いだ。持久戦の持っていき、処理するという戦法を取っていたが、なかなかどうして。ドージ殿もまたスタミナがどーじようにもあるみたいだ。

 

 さて、どうするか。

 ここまで来ると、ムラサメ刃-Xの関節部分も悲鳴を上げ始めていた。

 不意打ちを狙えるほどの相手ではない。ここはいったん引くか? いや、逃がしてくれそうにはない。

 予選の残り人数は1人。なら、このまま立ち向かうしかないか。

 チキンレースか。

 

 ――ならば。

 

 柄を強く握る。目は鋭く、相手を見るために。

 心は硬く、自分に負けないために。

 頭は冷たく。冷静に、事を終わらせるために。

 

「GNフィールド、展開!」

『それは俺には効かない!』

 

 ブースターで距離を詰める。

 確かにGNフィールドはドージ刃-Xには効かない。何故なら実体剣があるからだ。

 だが、剣があるからとはいえ、本体まではフィールドを貫通することはできない。

 このタイミング。わたくしとドージ殿のクロスレンジ。ここでわたくしは……っ!

 

「GNパニッシュ!」

 

 GNサムライソードでGNオーガソードを受け止めつつ、機体自体を押し出す。

 もちろん斬れたフィールドは元には戻らない。でもそれ以外の箇所ならば!

 

『くそっ!』

 

 予想通り押し出した。ならばこのまま全速力で叩き切る。最後の脱落者は、あなただ!

 地面を踏み出した瞬間、違和感が全身を襲う。明らかに踏み込みが重たすぎる。まるで、関節が悲鳴を上げて、踏ん張ることができないような違和感。いや、まるでじゃない、その通りだ。

 

「このタイミングでっ?!」

 

 蓄積していたダメージがここに来て?!

 土に足を取られてその場でバランスを崩す。この隙をあのドージ殿が見逃すわけがない。

 

『貰ったァ!』

「……っ!」

 

 竹の反発力を利用したドージ刃-Xの刃が襲い掛かる。

 ゆっくりと。ゆっくりと、死ぬ間際をスローモーションで映しながら。

 

 あぁ、ここまでか。結構頑張ったと思ったのですが、よもや最後はガンプラ自身の腕前とは。調整を見誤ったわたくし自身の過ち、とでもいうべきか。

 これではルミミさんに笑われますね。どんな顔をして彼女を見ればいいのだか。

 せめて、彼女の前では最強でありたかった。強い自分でありたかった。そう言い聞かされている内が、一番楽しかったのに。

 

 だが、その矛先がわたくしの胴元を貫くことはなかった。

 

【MISSION SUCCESS】

 

「え……?」

 

 剣先を目の前に思わず目が見開いてしまう。

 思考が一時停止する。いま、何が起こって……。

 

 ハッとなって予選の生存人数を確認する。

 8人。つまり、わたくしは首の皮一枚つながったってことですか。

 

『……命拾いしたな』

「えぇ、とてもじゃありませんが、生きた心地はしませんね」

『次に会うときは絶対倒す!』

「こちらこそ」

 

 目の前でドージさんがエリアアウトしたのを確認して、わたくしは腰を下ろした。

 危なかった。あと数秒でも早く刃が届いていたら……。

 

 やめよう、もしもの話は。今勝ち取ったんだ、バトルカイ本戦へのチケットを。

 

『サイカちゃん! サイカちゃん! ウチ、本戦行けたよ!』

「本戦に行けて、ホッとせん。ですかね」

『5点!』

「これはまた手痛い」

 

 まぁ、こういう運も実力の内ということにしましょう。

 腰の抜けた格好をいつまでも見せないように、わたくしは一度伸びをしてから立ち上がる。

 さて、本番は、これからですね。



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幕間1:フォース『アストロ・ブルー』について語るスレ その1

【期待の】アストロ・ブルーについて語るスレpart1【星海】

 

1:以下名無しのダイバーがお送りします。

ここは新鋭フォース『アストロ・ブルー』について語るスレです。

ルールを守って楽しく語りましょう。

アストロ・ブルー以外のフォースについては、別スレで語るようお願いします。

 

Q.アストロ・ブルーってなに?

A.最近売り出し中の4人組のガールズフォースです

 

アストロ・ブルーのメンバーは4人で、全員女の子です。

以下メンバーの簡単な紹介

 

キユリ:アストロ・ブルーのリーダー。特徴がないのが特徴。声が小さいかわいい

シーハート:しーちゃんと言えばこの子。この子と言えばしーちゃんの元気っ子。こちらへの距離が近い

サイカ:サムライオーガで有名な糸目ブシドーの女性。ギャグが致命的に寒い

ルミミ:見た目はJK。心は子供のELダイバー。ミサイルパーティガール

 

アストロ・ブルーのFAはこちらから!

【URL】

 

 ◇

 

13:以下名無しのダイバーがお送りします。

スレ立ておつー

 

14:以下名無しのダイバーがお送りします。

ついにアストロも専スレか。俺も鼻が高いよ

 

15:以下名無しのダイバーがお送りします。

お前は何もしてない定期

 

16:以下名無しのダイバーがお送りします。

いうて同時期のAtoZほどの話題性はないがな

 

17:以下名無しのダイバーがお送りします。

AtoZはアリサが強すぎる定期

 

18:以下名無しのダイバーがお送りします。

そういえば一度こことAtoZがぶつかってなかったっけ?

 

19:以下名無しのダイバーがお送りします。

データ的にはな。でも記録が何故かないんよな

 

20:以下名無しのダイバーがお送りします。

あー、それな。非公開にしてるんやろ

 

21:以下名無しのダイバーがお送りします。

まぁアリサ相手だったらな

 

22:以下名無しのダイバーがお送りします。

913位でカイザーなマジンのアリサさんやしな

 

23:以下名無しのダイバーがお送りします。

それ以上はスレチな

 

24:以下名無しのダイバーがお送りします。

話題って言ったら、何故か戦闘データ全部が非公開になってるラストワン事変か

 

25:以下名無しのダイバーがお送りします。

あれもよくわからん

 

26:以下名無しのダイバーがお送りします。

風のうわさでアストロ・ブルーが関わってたらしいって話は聞くけど、なんだったんだろうな、あの騒動

 

27:以下名無しのダイバーがお送りします。

4年前のBD並みの被害が出たとか聞いたけど

 

28:以下名無しのダイバーがお送りします。

ブレイクデカール?! 死んだはずじゃあ?!

 

29:以下名無しのダイバーがお送りします。

残念だったな。トリックだよ

 

30:以下名無しのダイバーがお送りします。

残念だったな、トリックだ

 

31:以下名無しのダイバーがお送りします。

トリックだよ

 

32:以下名無しのダイバーがお送りします。

※なおこのトリックは最後まで解き明かされません

 

33:以下名無しのダイバーがお送りします。

参加したヴァルガの連中、みんな口閉ざしてるし、よくわかんないよなぁ

 

34:以下名無しのダイバーがお送りします。

ある意味疑惑のフォースでもある

 

35:以下名無しのダイバーがお送りします。

でもしーちゃんかわいくない?

 

36:以下名無しのダイバーがお送りします。

わかる

 

37:以下名無しのダイバーがお送りします。

しーちゃんちんまいかわいい

 

38:以下名無しのダイバーがお送りします。

しーちゃんはアイドルだからな

 

39:以下名無しのダイバーがお送りします。

どこに行ったらライブ見れますか?

 

40:以下名無しのダイバーがお送りします。

しーちゃんのライブ、見てぇ……。

 

41:以下名無しのダイバーがお送りします。

もうアストロ・ブルーてユニットで売り出せ

 

42:以下名無しのダイバーがお送りします。

気弱で声が小さいきーちゃん

ギャグが致命的に寒いさーちゃん

ミサイルのことしか頭にないるーちゃん

 

そしてセンターの人を勘違いさせることに特化させたしーちゃん

 

43:以下名無しのダイバーがお送りします。

あの子は、なんというか人を惹きつける

 

44:以下名無しのダイバーがお送りします。

元気がある子がいると、周りがポジティブになるし当たり前

 

45:以下名無しのダイバーがお送りします。

お前ら、もっと別の子のことを話せ

 

46:以下名無しのダイバーがお送りします。

しーちゃんを売り出せ

 

47:以下名無しのダイバーがお送りします。

しーちゃんはなぁ、俺なんかのために優しくしてくれたんだ。

「だいじょーぶ?」ってヴァルガで声かけてくれてさ。

その時片足被弾してて、もう駄目だーって思ってた時に助けてもらったから、もう好きになったよね。

 

その後肩貸してもらってログアウトしたんだけど、そんなヒーローがこんなにも小さいんだなって思ったら、なんというかこう。胸の奥にドロッとしたものが流れ込んでくるというか。

このまま誘拐したら、しーちゃんと俺とのランデブーなんじゃないかって……

 

思わず手を伸ばしたけど、いやダメだろってことでやめた。

はぁ……はぁ……しーちゃんかわいいよぉ

 

48:以下名無しのダイバーがお送りします。

通報しました

 

49:以下名無しのダイバーがお送りします。

もしもしガーフレ

 

50:以下名無しのダイバーがお送りします。

思ったより重傷者いて笑えん

 

51:以下名無しのダイバーがお送りします。

その程度でしーちゃんの心を奪ったと思うなよ

俺なんか目と目が合ったらにこって彼女が笑ってくれるんだ

これはもう通じ合ってる以外ありえない。しーちゃんは俺が好き

 

52:以下名無しのダイバーがお送りします。

それ、アイドルがたまたま視線あったから、笑っただけだぞ

 

53:以下名無しのダイバーがお送りします。

重傷者多すぎ笑えん

 

54:以下名無しのダイバーがお送りします。

まぁきーちゃんが本妻やし

 

55:以下名無しのダイバーがお送りします。

なんかラストワン事変の後から妙にきーちゃんとしーちゃんの距離が近い気がする

 

56:以下名無しのダイバーがお送りします。

付き合ってるのかな

 

57:以下名無しのダイバーがお送りします。

付き合ってろ

 

58:以下名無しのダイバーがお送りします。

何故か2人はそんなヴィジョンが見えないんだよな

 

59:以下名無しのダイバーがお送りします。

そんなもんじゃない?

 

60:以下名無しのダイバーがお送りします。

ナツハルとかユーエンレベルでくっつくのがおかしいだけで、これが普通だぞ

 

61:以下名無しのダイバーがお送りします。

見てて微笑ましいのは間違いない

 

62:以下名無しのダイバーがお送りします。

きーちゃんのおっぱいを下からわしづかみしていたしーちゃんならこの前見たぞ

 

63:以下名無しのダイバーがお送りします。

オッホ

 

64:以下名無しのダイバーがお送りします。

キマシタワー

 

65:以下名無しのダイバーがお送りします。

もっとサイカさんやルミミちゃんのことを話せ

 

66:以下名無しのダイバーがお送りします。

ギャグが寒い

 

67:以下名無しのダイバーがお送りします。

ミサイルが飛ぶ

 

68:以下名無しのダイバーがお送りします。

さっきドージにやられかけてた

 

69:以下名無しのダイバーがお送りします。

尻餅ついてるサイカさんかわいい

 

70:以下名無しのダイバーがお送りします。

あー、そういえばバトルカイさっきまでやってたんだっけ

 

71:以下名無しのダイバーがお送りします。

ドージくっそ強いからな

 

72:以下名無しのダイバーがお送りします。

そりゃドージ相手だし

 

73:以下名無しのダイバーがお送りします。

ドージもオーガの血筋はちゃんと受け継いでるんだなって

 

74:以下名無しのダイバーがお送りします。

4年前は情けなかったのにな

 

75:以下名無しのダイバーがお送りします。

あいつは2年ぐらいで変わってから、エース街道まっしぐらよ

 

76:以下名無しのダイバーがお送りします。

そういうところを見ると、サイカさんはパッとしないよな

 

77:以下名無しのダイバーがお送りします。

あの人もくっそ強いのにな

 

78:以下名無しのダイバーがお送りします。

一度手合わせお願いしたけど、一太刀も入れられなかったからなぁ

 

79:以下名無しのダイバーがお送りします。

マジか、サイカさんがボコボコにしてくれたんか

 

80:以下名無しのダイバーがお送りします。

糸目の強キャラにボコボコにされるフェチをお持ちで

 

81:以下名無しのダイバーがお送りします。

サイカさんも美人だからな

 

82:以下名無しのダイバーがお送りします。

あれ、多分アバターほとんど弄ってないで

 

83:以下名無しのダイバーがお送りします。

確かに、あのタイプのアバターパーツ見ないもんな

 

84:以下名無しのダイバーがお送りします。

てことは、リアルも糸目の強キャラ……?!

 

85:以下名無しのダイバーがお送りします。

調べたら速攻で出てくるぞ

 

86:以下名無しのダイバーがお送りします。

普通に社会人で道場の師範代だから、その辺のスキルが反映されてるんだろうな

 

87:以下名無しのダイバーがお送りします。

SHIHANDAI こわ

 

88:以下名無しのダイバーがお送りします。

ルミミちゃんもめっきり強くなっちゃって

 

89:以下名無しのダイバーがお送りします。

かわいいですね、ルミミ

 

90:以下名無しのダイバーがお送りします。

むちむちの太ももなのに、性格が子供っぽいからマジで頭痛くなる

 

91:以下名無しのダイバーがお送りします。

無知無知ELダイバー

 

92:以下名無しのダイバーがお送りします。

ぶっちゃけスケベ

 

93:以下名無しのダイバーがお送りします。

軍服なのもセンスいいな。ミニスカなのも

 

94:以下名無しのダイバーがお送りします。

生まれた時からあの格好だとしたら、生み出した創造主さまはとんでもないフェチ持ちだ

 

95:以下名無しのダイバーがお送りします。

えっちですね

 

96:以下名無しのダイバーがお送りします。

そんな彼女も本戦進出ですよ

 

97:以下名無しのダイバーがお送りします。

え。マジで?!

 

98:以下名無しのダイバーがお送りします。

やったやん

 

99:以下名無しのダイバーがお送りします。

普通に嬉しい

 

100:以下名無しのダイバーがお送りします。

俺も鼻が高いよ

 

101:以下名無しのダイバーがお送りします。

お前何もしてない定期

 

102:以下名無しのダイバーがお送りします。

やっぱりアストロ・ブルーも普通に強いよなぁ

 

103:以下名無しのダイバーがお送りします。

かわいいは最強

 

104:以下名無しのダイバーがお送りします。

本戦も楽しみだな

 

105:以下名無しのダイバーがお送りします。

ザフカにドージ。サイカとルミミかぁ。

いろいろと因縁混じりすぎなんだよな

 

106:以下名無しのダイバーがお送りします。

弾幕使いのザフカとルミミ、

因縁のドージとサイカ。

この辺意図してぶつけてきそう

 

107:以下名無しのダイバーがお送りします。

わかるー

 

108:以下名無しのダイバーがお送りします。

ルミミがサイカにバトル教えてもらってるって話も聞くし、

ワンチャン師弟対決もあるのか

 

109:以下名無しのダイバーがお送りします。

熱いな

 

110:以下名無しのダイバーがお送りします。

夢を見せてくれ、ルミミちゃん!

 

 ◇



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第52話:迷いは人のためならず!

 無事に8人の一席にわたくしの名前があり、ホッと不安だったものを胸から下ろす。

 今回の本戦の進出者はどれも強豪というべき相手だ。

 初めて間もないにもかかわらず頭角を現しだしたメルセデス殿。

 長年予選でくすぶっていたが、今回悲願の本戦に駒を進めたエッセンス鈴木殿。

 それから常連とも思わせる顔ぶりだが、実際は初めての進出となるプレジデント=ゴンザレスメルル殿。

 

 それから、というかこの辺は明らかになっていたが、わたくしと弟子であるルミミ殿。オーガの弟、ドージ殿とAtoZのザフカ殿。

 問題は最後の一枠。

 

「なんでユーカリさんがいるんでしょう」

「ホント、なんでだろーねー」

 

 片手にフォースネストのカタログを持ちつつ、もう片方の手でバトルカイの入賞者についての記事を見ている。

 うーん、知り合いに自分の記事を見られるというのはかなり恥ずかしいものがある。

 昔、小学生の頃だっただろう。ウタイ流の道場が雑誌に載った時だ。

 1人だけ一切興味を示さずに両手で顔を覆い、どんなことにもブンブンと顔を振っていた少女がいるとするならば、それはきっとわたくしだ。

 自分が比較的有名であることは知っていたが、まさかこんなところで冷やかされる日が来るとは思ってもみなかった。

 

「ユーカリといえば、先のアウトロー戦役の英雄でしょー? どーしてそんな人が」

「さぁ。力試しとかじゃないですか?」

「えー、それならよそでやってほしいんだけどなー」

 

 そうそう。そうやってユーカリ殿の話題を口に出し続けて、わたくしのことは放っておくのです。

 

「ここはサイカちゃんの舞台だもんねー!」

「そーそー。サイカちゃんが、ズバッとドージを斬って優勝!」

「そしたらウチらで祝勝!」

「最後は感傷に浸って、終わりですね」

「……70点です」

「やったね!」

 

 今のギャグのセンスは見習うところがある。わたくしも勉強したいところだ。

 というわけもなく、今は平然を装っているものの、とてつもなく緊張している。

 こんなに評価されることはないのだ。ダメ出しやら、否定などを自分の中で繰り返してきた日々。そんな自分が大舞台でこんなにも注目をひかれる存在になるとは思ってもみなかった。

 例えばほら、そこのカフェテリアにいる2人だって、

 

『おー、あれがサムライオーガと名高い!』

『俺も一つ手合わせしてもらいたいなー』

 

 例えばそこのロビーにいる3人組とか!

 

『あれがサムライオーガかー』

『なんというか、風貌すげー』

『強者ムーブってやつだな。すげー!』

 

 うぅ、プレッシャーで死んでしまいそうです。

 

「みんな話題になってるねー」

「うんうん! やっぱりサイカちゃんは有名じゃなきゃ! 強いんだもん!」

「そう言われましても。わたくしなどまだまだ強さの果てには程遠いですよ」

「ちーがーう! サイカちゃんは強いの!」

 

 いやいや、オーガ殿やリク殿と比べた際に、強いも何もないと思うのですが。

 そもそもチャンプを倒さねば強いとは言い切れない。こんなことをしているよりも、やはり努力を重ねていた方が大事なのではないだろうか。

 特にムラサメ刃-Xの補強もしなければいけない状況。関節部分を強化したし、調整という名目でさらに戦闘も重ねなければ。

 考えたら身体が先に動いていた。ステータス画面を見て……。ってあれ、わたくしのムラサメ刃-Xは?

 

「サイカさん、ムラサメは乾燥のために一回バラしてるって言ってませんでしたっけ?」

 

 その仕草はキユリさんにはバレていたらしい。

 素直にウィンドウ画面を閉じて、腕を組む。いかんいかん、冷静にならなくては。

 

「緊張してるの?」

 

 何も知らないような瞳でまた彼女はわたくしのことを見てくる。

 どうやらキユリさんだけではなく、他の3人にはバレバレなようだった。

 

「まぁ、そうですね」

「サイカちゃんも緊張することあるんだねー」

「もちろんです。剣道の大会など教え子の勝敗が気になって仕方がありません」

 

 むしろ緊張しない試合などないものです。

 

「サイカちゃんもそーなんだ」

「わたくしはルミミ殿の方が心配ですけどね」

「ウチぃ~? まぁ間違いない」

「あはは! それは言えてる!」

「ルミミさん、こんな大きな大会は初めてですからね」

 

 そういえば自分のことばかりですっかり忘れていた。

 ルミミ殿もまた初めての大会なのだ。ELダイバーとしてではなく、ファイターとしてこの大会に立っている。珍しがる人もいないわけではない。

 わたくしなんかより、もっと緊張しているのではないだろうか。

 

「まーねぇ。でも思ったより強張ってないかも」

「そーなの?」

 

 ルミミ殿はこくりとうなずくと、わたくしの方を真っ直ぐな瞳で見つめてくる。

 

「だってサイカちゃんが教えてくれたんだもん! 負けるはずないし!」

 

 わたくしは彼女のこの目が苦手だった。

 真っ直ぐにわたくしを見る目。隠しているものを真正面から見ようとする目。疑うことを知らない光り輝く目。

 教え子たちもみんなそんな目をしていたのに、どうしてこの子だけなんだろう。こんなにもわたくしを動揺させるのは。

 だから少しだけひねくれたことを言うことにした。

 

「いいですか、負けるわけがないというのはいわゆる慢心を生みます。慢心とは傲慢と偏見か重なった結果、本来の実力を出すことのないまま散っていく憐れな心のことです。なので、ルミミ殿にはその言葉を断ち切ってもらい……」

「分かった分かった! 分かったかーら! ウチはちゃんと慢心せずに勝ちまっす!」

「それでいいのです」

 

 まったく、何故こんなことになったのやら。

 眩しい人を見るのは疲れる。けれど、自分の教え子だからこそもっとその上へと行ってほしいとも思っている。

 

 わたくしは、彼女の思っているような人間になれているだろうか。

 尊敬に値する人間となっているのだろうか。

 

 わたくしには、ちゃんと人を導くだけの態度は示せているだろうか。

 

「ウチはサイカちゃんの方が心配だけどね!」

「わたくしですか?」

 

 そそ。ルミミ殿はそのような言葉を口にした後、びしっと指をさして一言。

 

「迷いは人のためならず!」

「…………なんですかそれ」

 

 唐突に変なことを言った。

 

「あれ?! なんかそんなことわざがあるって聞いたんだけど!」

「それを言うなら、情けは人のためならず、じゃないですか?」

「そうそれ!」

 

 全然違うじゃないですか。

 

「ちなみに、意味は他人のための情けではなく、いずれは自分にも返ってくるから人には優しくしよう、って意味です」

「おぉー、きーちゃんかしこ!」

「誰が勉強教えていると思っているんですか」

「きーちゃん、たまに変なこと言うから、本当に頭いいのかなーって」

「お静かに」

「痛っ!」

 

 軽いチョップをしーちゃんにぶつけたところで、こほんとルミミ殿が喉を鳴らす。

 何か言いたげなようだ。恥ずかしげもなく、また的外れなことを言うのではないだろうか。

 

「迷ってても剣が鈍るだけってこと!」

「……じゃあそういえばいいじゃないですか」

「なんかかっこつけたくなったのー!」

 

 頬を染めても、決して目を背けずに反論してくる辺り本当に子供らしい。

 身体が先に動いてから、頭で思考を始める。子供がいたら、こんな気持ちなのでしょうか。

 

「わっふ……」

「わぁ、サイカちゃんが人の頭撫でてるー!」

「それもかなり幸せそうな顔ですね」

「え?」

 

 自分の右腕を見る。腕を組んでいたはずの手は、指示に従うことはなくルミミ殿のオレンジ色のミディアムヘアを撫でている。

 くすぐったいらしいのか、少し息をこぼしながら引いた手を掴んで、頭を撫でさせてくる。

 

「あ、すみません」

「むぅ! もっと! もっと褒めて!」

「えぇ……」

 

 引っ込んだ手を再度伸ばして、頭のてっぺんから頬を沿うように側面へ。それから毛先の方へとゆっくり落ちていく。

 「もっと」と言われるので、その度に撫でる。度々雅な声を上げながらも、くすぐったいだけだろうと、くすぐっている本人は考えることにした。

 

「えへへ~、サイカちゃんのこれ、すきぃ!」

「……そうですか」

「もっとー!」

「はいはい」

 

 なんだろう。子供をあやしているはずなのにまったく別の感情が浮かび上がりそうになってくる。

 内側から上がってくるような何かの感情。嬉しいやら恥ずかしいやら。悪くはない感情のはず。はずなんだけど、個人的には否定したくもなった得体のしれないモノだ。

 

「んへへ~」

「……きーちゃん、サイカちゃんってそんなに中毒性高めのナデナデできるのかなぁ」

「いや、わたしに言われても」

「サイカちゃん、しーちゃんにもしてー!」

「ダメー! これはウチのだけですー!」

「…………」

 

 自分の右手が恐ろしい。

 こんなにも人をダメにするとは……。って言ってる場合か。

 はぁ、あとでしーちゃんにもしてあげることにしよう。もちろんルミミ殿には見せないように。

 

「キユリさんにもしてあげますからね」

「いや、わたしはいいですから……」

「キユリちゃんもされよう!」

「なんでしーちゃんはダメなの!」

「ダメなものはダメですー!」

「なんでぇ?!」

 

 こんなことで本戦までの数日を無駄にしてもよいのだろうか。

 漠然と時間が流れていく。焦りと緊張。それをほぐしているというのであれば、この3人には頭が上がらないところではあるが……。

 

「むしろキユリちゃんにしてもらいなよ!」

「それいいかも!」

「えぇ……」

 

 そんなことは微塵も考えてなさそうだ。

 いつまでも熱々の緑茶を口に含む。あぁ、平和だなぁ。



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