変態レズ団長と花騎士達 (イッチー団長)
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ごあいさつ

新連載始めました。
本作の主人公、アクア団長は他の作品の脇役として出そうかなと思っていたキャラなのですが、あまりにもキャラが濃かったため主役として活躍?してもらうことにしました。

こちらは短編集の方よりも自由に、メタネタ下ネタ満載でやっていこうと思います。
よろしくお願いします。


 ソヨゴちゃんは天使だ。笑った顔も困った顔も、泣きそうな顔も怒った顔も。全てがこの世のものとは思えない、至上の愛らしさを誇る。ウィンターローズで一番……いや、春庭で一番の美少女なのだ。

 

 そしてそんな天使は、何を隠そう私のお嫁さんなのです!

「ち、違いますよ!」

「おぉ、珍しく大きな声。でもそんな所も可愛いですよ」

 ソヨゴちゃんが顔を真っ赤にしている。可愛い、かわいい。食べちゃいたいくらいに。

 

 

 

 私、アクアはウィンターローズ所属の騎士団長。騎士団長というのは、花騎士達を率いて害虫から人々を守る、誉れ高きお仕事です。

 勿論危険な仕事ではありますが、やりがいはありますよ。一番は人々の笑顔ですね。害虫から守り抜いた時の笑顔は格別で、それだけでこの仕事をしていて良かったと思わされます。

 

 ……可愛い花騎士と合法的に触れ合えるから、というのは関係ないですよ。多分。

 

 

 

「いやぁ、それにしてもソヨゴちゃんは可愛いですねぇ。キスしたい。してもいいですか。しましょう。むしろするべきです」

「や、やめて下さい……」

 恥ずかしがるソヨゴちゃんを膝の上に乗せてお腹を撫でる。あぁ、やっぱり良いな。こんな可愛い花騎士と合法的に触れ合えるなんて、理想的な職場です。天職ですわ。

 

「あの~、団長さん……」

 気付くと、白い着物姿の女の子が困り顔でこちらを見ていた。

「……ハツユキソウちゃん!? いつの間に!」

 ハツユキソウちゃん。バナナオーシャンから派遣されてきた花騎士。この頃流行りの女の子。お尻の大きな女の子。ソヨゴちゃんとも仲が良いし、彼女もとても可愛らしい花騎士です。

 

「すみません……ドアはノックしたし、何度も話し掛けてたんですけど……」

 ソヨゴちゃんのお腹に魅了されて、気配を感じ取ることが出来なかった。魅惑のお腹だ。撫で始めたら止められない、止まらない。

「お、お腹撫でるの止めて下さい……」

 

 

 

 惜しみながらもソヨゴちゃんを手放し、ハツユキソウちゃんと向かい合う。

「団長さん、あんまりソヨゴさんを困らせちゃ駄目ですよ」

「困ってないですよね、ソヨゴちゃん?」

「……」

「返事して!」

 

「と、ところで、ハツユキソウちゃんは何か用事があったんですか?」

「はい。実は大手新聞社の記者の方が、うちの騎士団をPRしたいらしいです」

「取材に来るんですか……嫌だなぁ……」

 『レズビアン団長の悲しき過去!』みたいな見出し付けられないかなぁ……私普通のレズなのに。

 

「ちなみに、オリビア大佐は『受けろ』とのことでした」

「げっ! オリビア大佐が!?」

 オリビア大佐。私の直属の上司で、出世街道まっしぐらのエリートさんです。いずれ将官になる予定とか……。

 

「団長さんって、本当にオリビア大佐苦手ですよねぇ」

「苦手ではないんです……新人の頃からお世話になってますし、ずっと尊敬してます。スバラシイジョウシデスヨ」

「すっごい棒読み……カンペでも読んでるんですか?」

 

 尊敬してるのは本当です。でも凄く厳しい人ですし、色々とトラウマがあるのです。色々と……。

 

「それじゃあお受けしますかね……気は乗りませんが……」

「えっ……」

 ソヨゴちゃんは一瞬こちらを向いて、その後俯いてしまった。

 

「ソヨゴちゃん、取材嫌ですか?」

「い、いえそんな……」

 明らかに困った顔になっている。でもソヨゴちゃんは空気を読む子だし、私達が決めたことに意見出来ないんだろうな。

 

「ソヨゴちゃん、嫌なことを嫌と言うことも大切ですよ。大丈夫、私は貴方の味方ですし、貴方に嫌な思いなんてさせませんから」

 そう言うと、ソヨゴちゃんは数秒の沈黙の後、ポツリポツリと語り出した。

 

「わたし、緊張して上手く受け答え出来るか分からなくて。折角団長さんが副団長に選んでくれたんだし、騎士団の顔として頑張らなくっちゃとは思っているんですけど、新聞の取材は……」

「ふむ……そうですよね。ソヨゴちゃんみたいな天使が新聞に載ったら、きっとアイドル会社からオファーが止まらなくなりますよ! これはまずい」

「ふぇっ!? て、天使!? そんな……わたしは……」

「いえ、いいんですよ、ソヨゴちゃん! 私が大佐と記者さんに直談判して、お断りしてきますから。我が騎士団のアイドルを他所にやれるかっての!」

「て、天使でもアイドルでもないですよぉ……」

 

「ところで団長さん、大佐に意見出来るんですか……?」

 執務室のドアを開けようとしたところ、ハツユキソウちゃんに背中から話し掛けられた。

 ……私だって騎士団長のはしくれ。愛する花騎士のためなら、上司と衝突することも致し方なし。

「ダイジョ-ブデスヨ……」

(駄目そう……)

 

「だ、団長さん! わたしやります! 団長さんのためにも、騎士団の皆のためにも、頑張ります!」

「ソヨゴちゃん……」

 キリッと眉を吊り上げるソヨゴちゃん。珍しい表情で、これはこれで可愛いな。

 

「そうですか……それなら一緒に頑張りましょう」

「はい!」

「まずは可愛い服を用意せねば。ソヨゴちゃんに似合う、天使のような……ぐへ、ぐへへ……」

「……」

 

 

 


 取材当日。新聞記者のおじさんがやってきた。誰もおっさんには興味ないと思うので、彼の説明やセリフは割愛します。

 

「彼女が副団長のソヨゴちゃんです」

「よ、よろしくお願いします!」

 ガチガチに緊張しているソヨゴちゃんの背中をそっと叩く。

 

「副団長に選んだ理由? そりゃあ可愛いからですよ!」

「そうなんですか!?」

「見なさい、このお顔を。身体を、声を。こんな美少女、春庭の歴史上存在しましたか!?」

「やめて下さいぃ……」

 

 

 

「ハツユキソウちゃんです」

「ど、どうも!」

「バナナオーシャン出身の花騎士さんです。意外ですか? 意外と言えば、この子お尻が凄く大きいんですよ」

「や、やめて下さい! 何言ってるんですか!?」

 

 

 

「ブロッサムヒルから来たヤドリギちゃんです」

「よろしくッス!」

「彼女の作るケーキは絶品なんです。ついつい食べ過ぎちゃうんですよ~」

「えへへ、嬉しいッス。でも団長、花騎士なんだからケーキ意外のことも紹介して欲しいッス」

「うーん……あっ、おでこが可愛い!」

「そこッスか!?」

 

 

 

「ツキトジちゃんです……って、ツキトジちゃん、おねむ?」

「眠いし……取材があるから起きてたけど、もうそろそろ限界だし……団長、おやすみ……zzz」

「以上、とっても眠たがりなツキトジちゃんでした」

(後で夜這いしに行こう……)

 

 

 

「ベルガモットバレーのガンライコウちゃん。春庭一の発明家です」

「……」

「あぁ、集中しちゃってますね。今ならスカートをめくっても……ぎゃあぁぁぁ!!」

「……ん? あっ、団長さん……またセクハラしようとしたのね。やっぱりこの騎士団では迎撃用のからくりは必要不可欠ね」

「あっ……あ……」

 痴漢撃退用からくり『遠雷』。触ってきた相手を超高電圧で気絶させます。今なら二つセットで2万9800ゴールド。是非お求めを。

 

 

 

「以上、我が騎士団のイカれたメンバーでした。……おっと、一人忘れてましたね」

 

「騎士団長のアクアです。至って普通のレズビアンです」

(普通……?)

「微力ではありますが、人々を守るために頑張っていきます。どうぞ宜しくお願い致します!」

 

 その後、記事を読んだ大佐から死ぬ程怒られました。

 

 

 


≪次回予告≫

「緊急連絡! 主力花騎士を率い、至急ナイドホグル雪原に向かって下さい!」

 

「私、この戦いが終わったら結婚するんです……ソヨゴちゃんと」

「えっ……? お断りします……」

 

「死ぬぅ……死んじゃいます……」

 

「……私には、どうしても許せないことがあるんです」

 

 

 

「ちょっと待って! これギャグものですよね!? 何で2話から早々にバトル展開になってるんですか!」

 

「そして、何で私予告で振られてるの!? 嫌だぁ! 次回出たくない! お休みするぅ!」

 

 

 


≪おまけ・アクア団長プロフィール≫

年齢:24歳

身長:161cm

体重:秘密♡

外見:青髪の長いストレート、瞳の色は赤。一見スラッとした美人。中身を知らない男性からはそこそこモテるとか

 

戦闘力:並みの花騎士より強く、害虫とも渡り合える

頭脳:地頭は悪くないが、セクハラのことばかり考えているため脳の空き容量が非常に狭い。つまりバカ

腕力:花騎士を捕まえる時の腕力は、ゴリラ並みになるぞ!

脚力:100mを12秒で走れる。なお、ソヨゴを追いかける時は5秒代になる




一話は割と真面目な感じです。
次回以降から色々と不条理なギャグを入れていきたいと思いますので、よろしくお願いします

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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騎士団長として

今回はシリアス混じりの回。
まだギャグのエンジンが掛かりきってない感じです。
いつになったら掛かるのかは分かりませんが……


「はぁ~……平和ですね~……」

「ですね~」

 ソヨゴちゃん、ハツユキソウちゃんとこたつでまったりと過ごす。任務が無い日は部屋の中で過ごすことが多い。お外は寒いですからね。

 

「……あっ、団長さん、さりげなく脚を触らないで下さい」

 ソヨゴちゃんの細い脚とハツユキソウちゃんのモチモチした脚。うーむ、これは甲乙付けがたい。

 

「しかし、こんなにのんびりしていいんですかね~?」

「騎士団は暇なくらいが丁度いいんです。それだけ世が平和ってことですからね」

 と、そんなことを話していた時だった。

 

「団長! 団長~!」

 執務室のドアがドンドンと叩かれた。

 

「何奴っ!?」

「ヤドリギッス。緊急伝令が届いてるッス」

 ソヨゴちゃん、ハツユキソウちゃんと目を合わせる。噂をすれば何とやらか……。

 

 ドアを開けてヤドリギちゃんが入ってきた。相変わらず綺麗なおでこだ。

「これを」

 ヤドリギちゃんから手渡された封筒には、やたらと達筆で「アクア団長殿」と書かれている。この字は忘れもしない。直属の上司、オリビア大佐の字だ。

 

「うわぁ~、嫌だなぁ~……よし、見なかったことにして破っちまえ!」

「ちなみに、『これを破った場合、貴様も八つ裂きにする』っていう伝言を貰ってるッス」

「は、はは……冗談ですよ~、ヤだなぁ~……」

 

 

『アクア団長殿

 貴殿におかれましては益々ご清栄のこととお喜び申し上げます。

 さて、誠に不躾なお願いとは存じますが、先日ナイドホグル雪原にて「長い。ソヨゴちゃん、読んで~」

「まだ三行しか読んでませんよ!?」

 あの人の文は無駄に長いのです。私がずぼらなの知ってるんだし、もう少し簡潔に書いてくれてもいいのに……。

 

「……それじゃあ読みますね。先日ナイドホグル雪原にて調査を行っていた花騎士達が」

 あぁ~、やっぱりソヨゴちゃんの声可愛いな。マジ天使。きっとお歌とか歌っても可愛いんだろうなぁ~。ヴァシュティ・バニヤンもビックリの天使の歌声を披露してくれそう。

 

「何卒宜しくお願い致します。敬具」

 ケーグって何だろう。拘束具のお友達かな?

「読み終わりましたよ、団長さん」

「ありがとうございました。取り敢えず、ソヨゴちゃんの声が可愛いってことは分かりました」

「そ、そんなことは……」

 顔を真っ赤にするソヨゴちゃん。そのリンゴみたいに染まったほっぺたをペロペロしたい。犬のように舐め回したい。

 

「で、結局何が書いてあったんですか?」

「団長さん!」

 

 

 

「要は極限級害虫が出現したので討伐と調査隊の保護をお願いしますってことですね」

 ハツユキソウちゃんが要約してくれた。極限級か、それは確かに由々しき事態。

 

「早速支度をしましょう。ヤドリギちゃんは花騎士達への周知をお願いします」

「了解ッス」

 

「ソヨゴちゃん、寒さ対策は念入りにしましょう。何たって極寒の地ですからね」

「は、はい!」

(団長さん、テキパキ指示を出してる……こういう時は普通に大人っぽくて格好いいかも)

「あっ、お着換えの時は言って下さい。私が手伝いますから。デュフフ……」

「……」

 

 

 


「死ぬ……死んじゃいます……さよなら、花騎士達……」

「団長さん、眠らないで下さい! 本当に死んじゃいますよ!」

 ハツユキソウちゃんのちっちゃなお手手がペチペチと頬に当たる。いつもはヒンヤリしてる彼女の手も、この寒さの中では温かく感じる。

 

 ナイドホグル雪原も今日はいつも以上に天気が荒れている。この中での討伐任務は危険だし、一旦引き返した方がいいかも知れない。しかし、調査隊が行方不明になっているらしいし、早く救助しなければ手遅れになりかねない。

 自分の騎士団の花騎士と、他の花騎士、一般人。騎士団長という職業は、時に命を天秤にかけなければならないこともある。

 

「むにゃ……」

「ツキトジさんも!」

「んっ、あれは他の騎士団の花騎士だし?」

「えっ! あっ、本当です! しかもロリじゃねえか! うっひょー!!」

(突然元気になったな……)

 

「大丈夫ですか、お嬢ちゃん達!? 少し引き返せば私達の拠点がありますから、そこまで歩けますか? なぁに、少し休憩するだけですよ。何もしませんから。ぐへへ……」

「わ、私達はまだ軽症です。それより、逃げ遅れた花騎士が奥にいるはずです。彼女を助けてあげて……」

 

「……ヤドリギちゃん、彼女達を拠点まで案内してあげて下さい」

「は、はいッス!」

 

「団長さん?」

「ソヨゴちゃん、私にはどうしても許せないことがあるんです。それは、花騎士の命が失われること」

 命は平等ではない。花騎士は人々を守るために命を懸けて戦っている。戦いの中で、全ての命は天秤にかけられる。それならば、その中で一番軽いのは私の命だ。

「花騎士の命を守るために、私は戦っていますから」

「団長さん……」

 

「だからソヨゴちゃん、この戦いが終わったら結婚して下さい」

「えっ……? お断りします……」

「何で!? 今了承する流れだったでしょ!? 『団長さん格好いいなぁ』って思ったでしょ!?」

「ちょっと思いましたけど……いきなり結婚は……」

「そ、それなら結婚を前提としたお付き合いならどうです!?」

 ソヨゴちゃんがもじもじし始める。これはもしや……。

 

「……そ、そうですね……それなら……私で良ければ、お願いします」

「ひゃっほぉぉぉ! ソヨゴちゃんと恋人同士だぁぁぁ!」

「団長さん、声おっきいですよ」

「しっ、何かが近付いて来てるし」

 

 

 

 吹雪のせいで視認が出来ない。しかしあのシルエット、体長5m以上は優に超える。目標の極限級害虫に違いない。

「ツキトジちゃん、害虫の種類は分かりますか?」

「羽音がするし。飛翔性だと思う」

「うん、それだけ分かれば充分です。って、うぉぉっ!?」

 速い! 100m以上は距離があっただろうけど、一瞬で詰めてきた。

 

(この速さの相手にこの悪天候。これはまずいかも知れません)

「ツキトジちゃん! 今の攻撃、感知できた?」

「一瞬、羽音が大きくなった気がするし」

「それじゃあ、次の攻撃が来そうだったら方角を教えて下さい」

「了解だし」

 

「ハツユキソウちゃんはツキトジちゃんの合図した方向に氷の壁を作って」

「一瞬だと薄いのしか作れないと思いますが」

「大丈夫です。それとソヨゴちゃん」

「はい!」

「応援をお願いします」

「えっ……? 団長さん、頑張れ!」

「うっひょぉぉぉ!!」

 

 説明しよう。アクアは美少女の応援によって、体内にレズパワーを作り出すことが出来る。レズパワーとは彼女の力の源、これがあれば彼女の力は倍増するのだ。つまり変態である。

 

 

 

「……来たし! 10時の方向!」

「はっ!」

 ハツユキソウちゃんの魔力で、人間大の氷の壁が作られる。

 害虫は超音波のようなもので敵の位置を測っているんだと思う。それなら、あの氷を囮にすれば多少は隙が出来るんじゃないか。

 

(……来た!)

 アブ型の害虫だ。思った通り氷の壁を突き破ってきた。

 狙うは羽根。いくら強固な骨格を持っていても、ここだけは脆い。私の攻撃でも充分に壊せる。

 

「とりゃあぁぁ!」

 最短距離で槍を振るう。手応えがあった。害虫が落ちる……!

 

「ソヨゴちゃん!」

「一気に決めますっ!」

 ソヨゴちゃんの鬼火十文字斬りが決まり、害虫の身体はバラバラに刻まれていった。

 

「ふぅ……」

 ほっと一息付く。凄まじい緊張感だった。一つ間違えれば死んでいた。

 しかし、まだ終わりじゃない。

 

「大丈夫ですか?」

 洞穴に花騎士の姿を見つけた。必死でここまで逃げ延びたのだろう。

「あ、ありがとうございます……」

「お礼なら身体で「早く連れて帰りましょう!」

 

 

 


「し、失礼します……」

 重厚なドアをギギっと開く。

 今日は事後報告に来ていた。そう、上司のオリビア大佐に。

 

「うむ、全員生存か。やはり君に頼んで良かった」

 キリッと吊り上がった黒い瞳が私を見つめる。怖いなぁ……早く解放してくれないかな……。

 

「やはり君は『水』だな」

「水?」

「花にとって水が必要なように、花騎士にとってはアクアという『水』が必要なんだ。名前の通りじゃないか」

「いや、作者さんそこまで深く考えてないと思いますよ」

 

「では私はこれで……」

 そそくさと部屋を出ようとした私に、オリビア大佐の鋭い声が背中から突き刺さった。

 

「アクア、ここ最近女性職員からセクハラの相談を受けるんだが、何か知らないか?」

「いえ、全く存じませぬ……さよなら!」

「待ていっ!」

 一瞬で回り込まれてしまった! まずい!

「今日という今日は逃がさんぞ。洗いざらい吐いてもらおうか?」

「わ、私は功労者ですよ~!」

「それとこれとは別だ! 貴様には教育が足らんかったようだ、いい機会だから再教育させて貰う!」

「嫌ぁぁぁ~! ソヨゴちゃん助けて~!」

 

 

 


≪次回予告≫

「ふぅ~……何かやる気出ないです~……」

 

「え? 病院に? 確かにお腹が痛いような……」

 

「私病気なんですか……死ぬの……?」

 

「何か……出来ることはあるはずです。例え余命幾ばくも無くても……」

 

 

 

次回、「ゴンドラの唄」お楽しみに

 

「ちょっと待って! 私死ぬの!? まだ3話なのに!? 全然楽しみじゃないんですけど!」




ギャグって難しいですね
何書いていいのか分からないです……
こういうのを定期連載出来る人もいるんですから、凄いですよねぇ……

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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ゴンドラの唄

今回は例によってパロディ全開の回。
黒澤明監督の「生きる」。大好きな映画です。
名作を汚してしまい申し訳ない……


 今皆さんにご覧頂いているのがアクア団長の脳です。どうです? 煩悩煩悩に次ぐ煩悩。他は何も詰まっておりません。いっそ潔いくらいでしょう。

 彼女はこれで生きてると言えるのか。花騎士にセクハラするだけの人生で、本当に満足なのか。今回のお話はそんなことを考えながらご覧頂ければと思います。

 

 

 


「あ~、やる気出ないです~……ソヨゴちゃんも遠征に行っちゃってるし……っと、もうお昼か」

 花騎士にセクハラする以外の楽しみは、やっぱりお昼御飯ですかね。うちの騎士団の食堂はメニューが豊富なんです。

 最近は肉そばにはまっていますね。甘い肉汁がそばの汁に溶け込んで、それはもう絶品なんですよ。汁まで残さず飲めちゃいます。

 

「おばちゃんっ! いつもの!」

「はいよ」

 いつもの、で通じるくらいには毎回頼んでますね、肉そば。

 

「んっ……団長さん、奇遇ね」

 席を探しているとガンライコウちゃんがお蕎麦をすすっていました。

「ガンライコウちゃんは普通のお蕎麦ですか。物足りなくないですか?」

「最近は難しい討伐任務もなくて部屋に籠りきりだし、このくらいで充分なのよ。花騎士なら健康にも気を使わないとね」

「そういうもんですかね。確かにガンライコウちゃん、最近一層太ももがムチムチしてきましたからね。むふふ……ぎゃっ!?」

 太ももを触ろうとした瞬間、カラクリ鳥『ザンセツ伍号機』に頭をつつかれる。

 

「まったく……セクハラも程々にしなさい。それに、食事の方もね」

「食事?」

「毎回汁まで飲み干すのは感心しないわ。それに野菜も無いし。騎士団長なら健康にも気を使わないと」

「大丈夫! 食べたい物を食べるのが私の健康法ですから!」

(本当に大丈夫かしら……)

 

 

 

「あ~、いたたた……お腹痛い……」

 

「な~んか、最近お通じが悪い気がするんですよね~……」

(誰に喋ってるんだろ、私……)

 ちなみに、どんなに可愛い花騎士だってトイレはします。そう、つまりソヨゴちゃんもこの便器を使ったことがあるということ。そう思うと何だか便器すら愛おしく感じてきますね。まあ、頬ずりする程ではありませんが……。

 

 それにしても痛い。痛いのに出が悪い。何だろうこれは。

「ちょっとお医者さん行ってみようかな……」

 

 

 

 街のそこそこ大きなお医者さんにやって来た。待合室にいるのはほとんど老人。この人達毎日通ってるのかな……。

 

「そこの方、もしかして腸の悩みですかな?」

 げっそりとやせ細ったおじさんが話しかけてきた。何だろう、新手のナンパかな。

「まあそんなところです」

「まずいですなぁ……。私の友達も腸の病気なのですが、もう余命は幾ばくも無いそうです」

「え……?」

 

「もう手遅れと判断した場合、医者はこう言います。『軽い炎症ですね。すぐに治りますよ』と。そりゃあそうだ。先の短い患者をわざわざ不安がらせる必要はない」

 ごくりと唾を飲む。

「そして、『消化に悪い物でなければ、何を召し上がっても結構です。特に気を付けることもありません』と言われます。こう言われたら終わりです。くれぐれもお気を付け下さい」

 それだけ言うと、おじさんは離れた席に座ってしまった。最初は普通の小汚いおっさんに見えた彼が、今では死神のように見えます。

 

(ま、まさかね……私まだ二十代だし……)

 そう思いながらも心臓の鼓動は止みませんでした。

 

 

 

「先生、どうですか……」

 眼鏡のお医者さんを前に、私はからからの喉を絞り出して声を出しました。そして、

「軽い炎症ですね。すぐに治りますよ」

 

(あぁぁぁ! い、いやまだ確定してない。まだフィフティフィフティ!)

「な、何か気を付けた方がいいこととか……食べちゃダメなものとかないですか!?」

「消化に悪い物でなければ、何を召し上がっても結構です。特に気を付けることもありません」

(あ”あ”ぁ”ぁ”ぁ”!! 終わった! 私死ぬんだ!)

 

「あ、ありがとうございました……」

 

「今の患者さん、凄くしょんぼりしてましたね……」

「そうだな……別に普通の炎症なのにな。まあ若い人だし、病気に慣れてないんだろう」

 

 

 

「そっか……私死ぬんだ……短い人生でした……」

 公園のベンチに座る。今は花騎士達と顔を合わせる気になれない。

 

(あっ、あの幼女可愛いな……スカート短くてパンツ見えそう……デュフフ……)

 その時、私の中に黒い考えがよぎった。

(どうせ死ぬのなら、あの幼女さらってもいいのでは……? いや、しかしそれは……)

『おいおい、お前は死ぬんだぞ。今更他人を気遣ってどうする?』

 私の中の天使と悪魔がせめぎ合っている。今の所悪魔が優勢だ。というか、天使の姿が見えない。本当にいるの? 私の中の天使。

 

(いや、駄目です! 私が死んでも、妻のソヨゴちゃんは生き続けるしかない。私が悪に手を染めれば、彼女が悲しむ!)

「というわけで、死んで貰います! 悪魔め!」

『ぐわぁぁぁ! だが忘れるな、お前の中に俺はいつも潜んでいるぞ!』

 

 そうだ。セクハラなんてしている場合じゃない。もっと意味のあることをしなければ。誰かに喜んで貰えることをしなければ。それでなければ『生きてる』と言えない!

 

 私は駆け出した。人生なんて長いものだと思っていたのに、今では一分一秒が惜しい。

「やるぞ! 私は絶対成し遂げてみせるぞ!」

 

「あのお姉さん、一人で何やってるんだろ……関わらないようにしよ……」

 

 

 


「遊園地を作る?」

「はい! 害虫がはびこる世の中ですし、子供達が楽しく遊べる場所が欲しいんです」

 最初に相談に来たのはガンライコウちゃん。技術的なことは彼女に聞けば大丈夫だろう。

「また何か企んで……るって顔でもないわね。了解したわ」

「ありがとうございます!」

 

「では不動産屋と話を付けてきます。それと業者さんも見繕ってきます」

「今から? 急ぎすぎじゃない?」

「急がないといけないんです……今日は任務はないですが、緊急の用事がある場合は呼んで下さい。では」

 

 

 

 それから色々なことがあった。

 

「ここはうちの土地じゃけぇのぉ! 嬢ちゃんには売れんのよ!」

「どけ、チンピラ!」

「あぁん! 痛い目見たいんか、てめぇ!」

「……ふふ……ふふふ……死ぬより痛いことってあるんですかね……」

(何笑ってんだこいつ……危ない奴だな……あんまり関わらない方がいいか……?)

 

 

 

「アクア団長が遊園地を……? 一体何を企んでいる!? 白状しろ!」

「誤解です~!」

 

 

 

「団長さん、大丈夫ですか? 最近疲れてるみたいだし、お休み取ったらどうですか?」

「大丈夫ですよ、ソヨゴちゃん……それに、今やらないと後悔してしまいますから……」

(団長さん、いつになく真剣な目。何かに取り憑かれてるような……)

 

 

 

「あっ、夕日です。夕日がこんなに美しかったなんて……今まで何度も見てきたはずなのに……」

 涙が溢れて止まらなかった。それでも、私は進むしかない。止まっているわけにはいかない。

 

 

 

 そして一年後。

 

「出来た……ついに出来た……」

 遊園地は完成した。運営にはもう少し時間が掛かるらしいけれど、それまで私の命はもたないだろう……。だけど瞼を閉じれば浮かんでくる、この遊園地で楽しそうに遊ぶ子供達の姿が。

 

 頬が暖かい。これは……涙だろうか。

 私はこの一年、人生で初めて『生きた』。花騎士へのセクハラもたまにしかやらず、一生懸命頑張った。もう、何も思い残すことはない……。

 

 試運転しているゴンドラを眺めながら、冷たいベンチに腰を掛けた。頬に冷たいものがちらりと当たる。雪が降り始めた。

 寒い。それでもゴンドラから目が離せなかった。そして私の口が、懐かしい唄を口ずさみ始める。

 

いのち短し 恋せよおとめ

朱き唇 褪せぬ間に

熱き血潮の 冷えぬ間に

明日の月日は ないものを

 

…………

………

……

 


「団長さん……」

 花騎士達が発見したもの。それはベンチで冷たくなったアクアの姿だった。

 

「団長さんはもしかして、自分が死ぬのが分かっていたのかも。だから急いで遊園地を作ろうとした」

「団長さん、まるで何かに取り憑かれたようでした。自分の死が分かっていたのなら、その説明が付きます」

 

「団長さぁん……どうして死んじゃったんですか~! 目を開けて、またセクハラして下さいよ!」

 ソヨゴの涙が他の花騎士達の涙を誘う。その場の全員が大号泣し始めた、その時だった。

 

「……はっくしょん!!」

「へ?」

「さっむ! 何で私生きてるの!?」

 

「だ、団長さん……団長さん!」

「うわっ、ソヨゴちゃん!? ……何だか知らんがとにかくよし!」

 抱き着いてきたソヨゴをそっと抱き寄せるアクアだった。

 

 

 


 その後、検査してみたら大したことない病気でした。(ゝω・) テヘペロ

 

「何はともあれ良かったですよ~」

「あっ、ソヨゴちゃん。あの時、セクハラして下さいって言いましたよね。証拠は押さえてあるんで」

「っ!?」

 

 余談ですが、アクア遊園地は大盛況でした。しかし、たまに幼女を見つめている不審人物が現れるそうです。許せませんね。見つけ次第注意しなければ。

 

 

 


≪次回予告≫

 

「最強の花騎士、バニラちゃんが来ましたよ~!」

 

「あたしが来たからには他の花騎士は必要なし!」

 

「あんのメスガキ~! 絶対分からせてやる!」

 

「死ね……死ねぇ!!」

 

「バニラちゃん! ここは退かないとまずいし!」

 

次回、「最強の花騎士」お楽しみに




次回予告は毎回続けなきゃいけないか……割とこれ即興で考えてるんですよね……。
まあ、無理だと思ったら止めますw

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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最強の花騎士

今回はバニラちゃん加入回。
彼女も可愛いんですよね。キャラクエやらないとどんなキャラか掴めないので、中々ダイマがしづらいですが。しかも限定ですし……


 今日は花騎士全員を集めての会議だ。議題は、

「我が騎士団には武闘派が足りないと思うんです」

「今更ね……」

「私のお気に入りばかり集めたから、戦闘特化の花騎士がいないんですよ~。このままだと強力な害虫に対抗出来ません~」

 

「そこはほら、全員でカバーし合えばいいんじゃないですか? 今まで通り」

「そうですけど~……やはり新戦力が欲しいんです。そこで!」

 机の上に一枚の紙を置く。

「限定ガ……団長会議の結果、この花騎士を獲得することにしました」

 

「バニラ……プロフィール、最強の花騎士?」

「そう! 最強ですよ、最強! 最も強いと書いて最強! 絶対強いじゃないですか!」

(中学生かな?)

「それに見た目も可愛いし、文句無しです」

(嫌な予感しかしない……)

 

 

 

「新しい花騎士さんが来るなら、ちゃんとおもてなししないと。お茶とお菓子を用意して……」

 ソヨゴちゃんは優しくて可愛いなぁ。まるでお母さんみたい。ソヨゴママか……それもありだな。

 

「ケーキならあたしが作るッスよ」

「ヤドリギさん、ありがとうございます」

 

「バニラさん、早く来ないかな」

 ソヨゴちゃんの、ルビーのような赤い瞳が窓の外を見つめる。

「人見知りしないんですか?」

「ちょっと緊張しますけど……でも楽しみの方が大きいです」

 

 ソヨゴちゃんは極度の人見知りだ。しかしそれでいて人懐こい面もある。人間をよく観察しているから、二度目に会う人とはちゃんと話せるらしい。可愛いな。

 

 

 

 今日はバニラちゃんが騎士団に来る日だ。騎士団長としての威厳を保てるように、キリリと眉を吊り上げて待っていると、

「こんにちは~! 最強の花騎士、バニラちゃんが来ましたよ!」

 扉がババンと勢いよく開かれた。面食らったものの、何とか再び表情を作り直して挨拶する。

 

「初めまして。ここの騎士団長のアクアです」

「お~、団長さん! バニラちゃんが来たからにはもう安心、大船に乗ったつもりで任せて下さい」

「ふふ、それは頼もしいですね」

 元気で自由奔放な子みたいだ。今の騎士団にはいないタイプだから新鮮だな。これはこれでセクハラしがいがありそう。

 

「ところで団長さん、一つバニラちゃんからありがたい意見があるのですが」

「何です?」

 来て早々意見が言えるとは……この物怖じしない性格はソヨゴちゃんとは真逆ですね。

 

「バニラちゃんがいるんなら他の花騎士はいらないですよね? 解散しちゃいましょう!」

「……は?」

「だから解散ですよ、解散! 何たって最強の花騎士がいるんですから。他の花騎士は必要なし!」

(……何言ってんだこの子)

 

「バニラちゃん、討伐でも調査でも、一人で出来ることは限られているんですよ。花騎士は戦闘能力が高ければ良いというわけではないんです」

「ぶぅ~……そんなこと言っても、戦闘では足手まといになるだけですよ~」

(こんのメスガキがぁ……)

 

 そう言えば、団長会議の時……。

 

「アクア君。戦闘特化の花騎士を探しているんだろう? 良い花騎士を紹介するよ」

 と同じくウィンターローズ所属のおじさん団長に言われた。普段は嫌味の多い糞ジジイだけど、その日はやけに優しかった気がした。なるほど、裏があったわけだ。

(押し付けやがったな……)

 

 バニラちゃん、とにかく生意気な子だけれど、不快感は無い。むしろ、この生意気なメスガキを屈服させたいというサディスティックな感情がめらめらと湧いてくる。

 感謝しますよ、糞ジジイ。私にこんな可愛い子を押し付けてくれて。ふふふ……。

 

「まあそう言わずに。歓迎会も催してくれてますし」

「歓迎会~? ま、そりゃあバニラちゃんをお迎えするんなら必須ですよね。早く案内して下さい」

(絶対屈服させてやる……ふふ……)

 

 

 

「は、初めまして。副団長のソヨゴです」

「初めまして。ふ~ん、こんな弱そうな花騎士が副団長なんて、やっぱりこの騎士団も大した……うっ!? な、何でもないです……」

「?」

 

(ソヨゴちゃんを馬鹿にしたら〇すからな……)

 ありったけの殺気を込めてバニラちゃんを睨め付ける。今の私なら害虫も眼力で殺せるんじゃないだろうか。リリィウッドの伝説の花騎士のように。

 

(団長さんの目付き怖過ぎっ! このバニラちゃんが怯えるなんて……何だろう、この感覚……昔感じたことがあるような……)

 

「あっ、バニラさんのためにケーキと紅茶を用意したんですよ」

「ケーキ!? ど、どんなやつですか!?」

「え、えっと……苺のホールケーキをヤドリギさんが」

「持って来たッス!」

 

「おぉ~……おぉぉ!」

 ケーキを見ただけで目をキラキラさせるバニラちゃん。こういう所は普通の女の子なんだな。

「ヤドリギさんは必要! 仲良くしましょう!」

「は、はいッス……?」

 

 

 

「花騎士兼技術者のガンライコウよ。武器の修理なんかも出来るけど……何これ? バニラアイス型の鈍器……? 興味深いけど、どうやって直せば……」

 

「ツキトジだし。寝るのが好きだし。バニラちゃんも、疲れた時は眠るといいし……むにゃ……」

 

「ハツユキソウです。バニラさんって最強の花騎士なんですよね? 凄いですねぇ~、今度是非ご一緒させて下さい!」

 

「な、何か個性的な人達ですね……」

「でしょ! バニラちゃんも一緒に戦いたくなりましたよね?」

「ふ、ふんっ、まあバニラの邪魔にならないようなら……」

(素直じゃないなぁ……)

 

 

 


 そして遂にやってきたバニラちゃんとの初任務。あの子、ちゃんと協調性を持って戦えるのかな。

 

「むっ、近くに害虫の反応……結構数が多いし」

「報告通り、巣が出来ちゃってるのかも知れませんね。まずは慎重に「よっし、バニラちゃんが先陣を切ります! 皆さんはバニラの邪魔にならないように!」

 

 私の言葉を遮り、バニラちゃんは害虫に向かって行ってしまった。

「独断専行は危険ですよ! ……まったく、皆、追いましょう」

 

 

 

「おりゃぁぁぁ! 死ね! 死ねぇ!」

 最強の花騎士を自称するだけあり、その戦闘力は今まで私が見てきたどの花騎士よりも高い。しかし、害虫の群れが相手だと単体の戦闘力はそこまで重要じゃない。チームでの連携が必要になるんだ。

 

「害虫は一匹残らず殺す!」

 それに、今の彼女は冷静さを欠いている。このままでは……。

 

「ぐっ、うぅ……!」

「案の定押され始めた! ソヨゴちゃん!」

「り、了解しました!」

 

 ソヨゴちゃんと共に武器を構えて害虫の群れに突っ込んでいく。

「今の彼女は冷静さを失っています、あまり近付き過ぎないように。私達は害虫を倒したら直ぐ離れて、後はツキトジちゃん、ハツユキソウちゃんに任せましょう」

「了解です」

「それと……これってもしかして夫婦の共同作業じゃないですか?」

「……」

 

 

 

「とぉっ! 害虫め、散れ!」

「バニラさん、大丈夫ですか!?」

 キリッと凛々しいソヨゴちゃんも、これはこれで可愛らしい。たまには攻守逆転も有りかも知れない。

 

「団長さん、ソヨゴさん……」

 その時、ハツユキソウちゃんとツキトジちゃんの魔法攻撃が害虫に炸裂した。攻撃が当たった害虫は崩れ去り、群れも散り散りになっていく。

「今のうちに離れましょう!」

 

 

 

「バニラさん、大丈夫ッスか? バニラさんの好きなケーキを作ってきたんで、食べて落ち着いて欲しいッス」

「ヤドリギさん……ありがとうございます……」

 

「何か……雰囲気変わってません? 今まではメスガ……強気な感じだったじゃないですか?」

「あたし、思い出しちゃって……」

 虚ろな目のバニラちゃんは、ケーキを一口食べると昔のことを語り始めた。

 ここら辺の詳細はキャラクエを見て下さい。

 

「……なるほど、そんなことがあったんですね」

「ごめんなさい……あたし、花騎士辞めます。こんなに皆さんに迷惑掛けて、あたしなんてモゴゴ!?」

「バニラちゃん、大丈夫ですよ」

 彼女の小さく華奢な身体をそっと抱き締める。

 

(甘い香り、仄かに女の子らしさを感じさせる身体の凹凸……むふふ……)

「だ、団長さん、ありがとうございます。おかげで落ち着きました」

「むふふ……はっ!? 大丈夫ですよ、バニラちゃん。うちの騎士団にあなたを嫌う子は一人もいません」

 口元から垂れるよだれを拭ってそう言った。

 

「そうッスよ! ケーキが好きな人に悪い人はいないッス!」

「バニラさんのこと、もっと知りたいです。だから辞めるなんて言わないで下さい」

「皆さん……あたし、あたしぃ……」

 バニラちゃんは泣きじゃくった。まるで子供のように。

 

(屈服させるような子じゃなかったけど、これはこれで私好みの可愛い子ですね)

「これからも(色々と)よろしくお願いしますね、バニラちゃん」

「はいっ!」

 

 

 


「ふむ、あのバニラを手懐けたか。流石アクア団長だ」

「い、いえそんな……」

 再びオリビア大佐に呼ばれた。どうやらバニラちゃんの件は彼女が裏から手を回したらしい。

 

「バニラは才能溢れる花騎士だからな。このまま潰れるのは勿体無いと思ったんだ」

「全ての花騎士は宝……それが大佐の信念ですもんね」

「そうだ」

 

 オリビア大佐はそう言うと席を立ち、窓に差す夕日にその黒髪を晒した。

「もしバニラが花騎士を辞めていたら、その先には何があったと思う?」

「……」

 

「全ての花騎士を守ること。それが我々の使命だ」

「だからオリビア先輩は団長を辞めて大佐に、そして将官になっていくわけですか」

「うむ。勿論君のような現場レベルの優秀な指揮官が居ることが前提だが」

「まあ……それ程でもありますね~。花騎士達は私にとって大切な存在。必ず守りますから、安心して任せて下さい!」

「そうか、頼もしいな」

 

 オリビア大佐の笑顔も見られたし、今回は何かいい感じに終われそうじゃないですか。早く帰ってソヨゴちゃんとイチャイチャしたいな~。

「ところでアクア団長、まさか守るべき花騎士達に手を出したりしていないだろうな?」

「……失礼しました!」

「き、貴様という奴はっ! 来い! 再教育してやる!」

「嫌ぁ~! ソヨゴちゃ~ん!」

 

 

 


≪次回予告≫

 

「さて、今日も花騎士にセクハラをぬおぉぉぉ!?」

 

「何ですか、今の爆発音は!?」

 

「宇宙からの侵略者だ。全戦力を持ってこれを排除せよ」

 

「何この急展開は……」

 

次回、「宇宙からの侵略者」お楽しみに。




オリビア大佐も(一応)アクア団長も、花騎士を守るという信念は同じですからね。
何だかんだで良いコンビなのかも知れません。

春庭で宇宙という概念が一般化してるのか、ちょっと自信がありませんが、次回は頭のネジを5,6本外して書こうと思いますw

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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宇宙からの侵略者

何だこの回は……。
ちょっと色々アレですので、話半分で読んでください……。


 普段は害虫との戦いに身を投じているアクア団長達も、今日は静かで平和な日を過ごしていた。だが、彼女達は知らない。春庭に最大の脅威が迫っていることを。

 

「……なんてナレーションがありましたが、大丈夫ですよね? さて、今日も花騎士達にセクハラをぬおぉぉぉ!?」

 謎の爆発音と揺れに思わず身体が転げ、壁に顔面を強打してしまった。

 

「ガンライコウちゃん!」

 やって来たのはガンライコウちゃんの研究室。何か分からないことがあれば彼女に聞けばいいのです。万能な花騎士さんです。

 

「今の爆発音は一体……?」

「どうやら、宇宙で何か起きたらしいわ」

「ざっくり! もっと詳しく説明して下さい!」

「と言っても、あたしにも何が何だか……」

 その時、

「団長さん! オリビア大佐から緊急の招集命令です!」

 

 

 

「大佐、何があったんですか?」

「宇宙から謎の物体が迫ってきている。大きさはおおよそ直径100km」

「でかっ! それは一体……」

「それは……っ!?」

 

 凄まじい爆風が突如吹き荒れた。身体を持っていかれないよう踏ん張っていると、上空はいつの間にか光る巨大な円盤のようなもので埋め尽くされていることに気付いた。

「見て、団長! 何か降りてくるし!」

 ツキトジちゃんが指さす方向を見ると、確かに人型の何かが光を纏いながら地上に降り立とうとしている。目を凝らすとそれは……。

 

「あーりゃーえーんやこらさーっと。あーあぁーあ~♪」

(???????)

「っと、到着だぁ。ここが春庭ね。花騎士達がうじゃうじゃいるわよ↑。まったくご苦労さんなこったね」

(??? ……ちょっと待って、脳の理解が追い付かない)

 

 円盤から降りてきた人物? それはシルエットは人間そのものですが、肌の色は真っ赤。外見ははげたおっさん。半裸に白いパンツ一丁。そして甲高い声にオネエ口調と独特過ぎる訛り。

「属性盛り過ぎじゃあ!」

「何ようるさい女ね。あんまりキンキン喋るんじゃないわよ。耳痛くなっちゃうじゃない」

(何だこいつ……何だこいつ……)

 

「アクア、一旦退け。私はオリビア大佐。君の名前と目的は何だ?」

「聞かれたからには教えてやろうじゃない。減るもんじゃあんめぇしね。あたしはシンリャークっちゅう宇宙人なわけ。この春庭を征服してあたしのもんにしてやろうってぇことよ」

「宇宙人……征服!? 総員、戦闘態勢だ!」

 

 正直こんな気持ち悪い生物に触りたくもないけれど、春庭を侵略するということなら戦う他無い。まあこんなナリだし、大した戦闘力は無さそうだけど。

 

「何よ、やる気なの? いいわよ、そんじゃやったろうじゃない。ま、あんた達花騎士なんてあたしにとっちゃ子供みたいなもんよ。コテンパンのパンパンにしてやるから覚悟するがいいよ。ほらいくどー、イヤァァ!!」

(うるせぇ……集中できねぇ……)

 

 何はともあれこちらに向かってくる宇宙人。武器は何も無さそうだ。

「バニラが先陣を切ります! とりゃあぁぁ!」

 バニラちゃんの鈍器が巨大化する。必殺技の「ポッピン・ヴァニラ」だ。

 

「ぐっ、流石の威力。これなら宇宙人も一撃で……えっ?」

 地面には巨大なクレーターが出来ていたが、シンリャークの死骸はどこにも見当たらなかった。

「ど、どこに……?」

「ここよ、ここ!」

「っ!? きゃぁっ!」

 突然バニラちゃんの後ろから現れたシンリャークは、手から光線のようなものを出してバニラちゃんを吹き飛ばした。

 

「何だし今の……姿だけじゃなくて気配も完全に消えてたし……」

「ツキトジちゃんにも感知できないなんて……一体どんな能力を……」

「なぁに、あんたら。あたしの能力に興味あるわけ? あるんなら聞かせてやるわよ。まあ話すと長くなるんだけどね」

 一瞬で背後に回ってきたシンリャークは、何故かその場に腰掛けてやたらとフレンドリーに話し始めた。

 

 

 

「あれは千年位前のこと。あたしは惑星カタストロフの研究員だったわ。ある日300光年離れた惑星の調査に同行したのだけど、そこで宇宙砂塵に巻き込まれたわけ。そりゃもう大惨事よ、大惨事☆ 他の研究員は皆死んでしまったけど、あたしはそこで宇宙エネルギーの超常的な力を得たことで命が助かったのよ。いやぁ、大変だったわ~↑」

(全然話が入ってこない……)

 

「そしてあたしは今の力を得たわけよ。この『異次元転移』の力をね」

「異次元転移!?」

「知ってるんですか、ガンライコウちゃん?」

「ええ。話せば長くなるけれど」

(また長セリフか……)

 

「……うんぬんかんぬん。というわけで、彼?彼女?はあたし達より高位の次元を移動できるんだと思うわ」

「へぇ~……」(良く分からなかった)

 

「とにかく厄介な相手ということですね。どうしましょ」

「あんたらがあたしに勝てるわけないわよ。大人しく降参して頂戴よ。はーいさいさい!」

 謎の掛け声と共に乱反射したレーザーが襲い掛かる。

 

「くっそー! あんな変な奴なのにやたらと強い!」

 花騎士達も私も避け切ることは出来なかった。まるで骨の髄まで染みるような痛みが全身に走る。

 

「わ、私達の春庭を侵略してどうするつもりですか……?」

「それはねぇ、あたしがフラワーナイトガールの主役になることよ! そして全世界にあたしの美しさを知らしめるの!」

「……は?」

 

「と言うわけで、これから三次元世界に行ってYourGamesに直訴してくるわ。あんた達を人質にしてね」

「やめろぉ! それはマジでやめろぉ!」

「さよならbaby☆」

 行ってしまった……。

 

「これは本当にまずいことになりましたね……」

「YourGamesって何ですか?」

「何だろう……この世界を造った人達?」

「つまり神様ですか」

「ちょっと違うような……そうとも言うような……」

 

 

 

「とにかく、あいつが主役になったら終わりです! あんなハゲのオカマが主役になったら……」

「なったら?」

「即サービス終了ですよ! ハゲのオカマでガチャが回るはずがないでしょう!」

 

「どないしよ……どないしよ……」

「落ち着きなさい。一つだけ手はあるわ。あたし達も三次元世界に行ってあいつを倒すことよ」

「えぇ……」

 

 

 

「……出来た。このゲートを潜れば異次元に行けるわ」

「はやっ!」

「世界花の加護の応用ね」

「世界花ってスゲー!」

 

「それじゃあ行きますよ、皆! あの野郎をぶっ殺しに!」

 我々の身体を虹色の光が包む。ゲートを抜けるとそこはビル街だった。

 

 

 


「ここがYourGamesのあるビルね。早速あたしのアピールを「おら死ねぇぇぇ!」

 

「ぬぉぉ~……おぉ……!」

 跳び蹴りが後頭部に直撃すると、流石のシンリャークも頭を抱えて悶え苦しんでいるようだ。ざまあみろ。

 

「あ、あんた達一体どうしてここに……」

「花騎士を救うためなら、地の果てまで追いかけます。ガンライコウちゃん!」

 彼女に合図をすると、異次元転移ゲートが我々とシンリャークの上に広がる。

 

「強制送還してやる! 来いっ!」

「くっ、この! もう少しだったのに!」

 

 

 

 次元の狭間。自分達の存在すら曖昧になるこの場所なら、シンリャークの異次元転移の力も使えないはず。決着を付けるなら今だ!

 

「喰らえ! アクアパンチ!」

 まずは鼻をへし折る。どうやら血は我々と同じ色らしい。

「ぐっ……! 生意気な女!」

 

「団長さん! うかうかしてると閉じ込められるわ!」

(閉じ込め……そうか!)

「必殺! アクアキーック!」

「ぐぅ……こんなの効かな……えっ!?」

「さよなら~」

 

 キックで怯んだ隙にゲートを閉じる。

「えっ……えぇぇぇ! ちょっと! 置いてかないでぇ~! イヤァァァ!!」

「ふん……いい気味ですね」

 奴は恐らく、気の遠くなるような年月をあの何もない空間で過ごすことでしょう。南無阿弥陀仏……。

 

 

 


「アクア! 無事か! 奴は?」

「異次元の狭間に閉じ込めました!」

「そうか、良くやったぞ!」

 

 最大の脅威を退けた春庭。しかし、何時また未知の脅威が襲ってくるかは分からない。

 来るべきその日のために、戦え、アクア団長!

「いや、あんな奴はもうこりごりですよ!」

 

 

 


≪おまけ≫もしも春庭がシンリャークに侵略されていたら

 

♪♪♪~(2021新PV)

(ドアップにされるシンリャークのパンツともっこり)

「キャッ///」

 

 その日、FANZA GAMESから一つのゲームが消滅した。




すみません、次回からはもう少し真面目に書きます(多分)

しかし、今回の敵は変な奴なのにチート能力持ちですからね。軽々と次元を飛び越えるという……

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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秋と温泉と

前回よりは真面目に書いたはず……いや、やっぱり真面目ではないか……

秋のお話ですが、今年はあまり秋らしい日がありませんでしたね。


 年々、月日が過ぎるのが早く感じる。少し前までお正月気分だったのに、もう10月。今年ももう終盤戦か……。

 

「ふぅ~……秋も深まってきましたねぇ~」

 窓を開けてみる。窓の外には秋らしい紅葉が……

「無いっ!? しかも寒い!」

「ウィンターローズですから、そりゃそうですよ……」

 

 そうだった。ここは常冬の国、ウィンターローズ。秋なんてないのだ。

「ここでは性欲の秋も無縁なんですね……」

「その秋はどこの国にも無いですよ!」

 

 

 

 資料集めのために図書館に立ち寄ると、そこには見知った天使がいた。

「ソヨゴちゃ~ん!」

「団長さん、図書館ではお静かに」

「すみません……ソヨゴちゃんは何を読んでるんですか?」

 本に見入っているソヨゴちゃんも可愛いな。文学少女って感じ。

 こういう真面目な子が偶然えっちな本を読んでしまい、発情してしまうのは鉄板ですよね。大人しい子は性欲が強いですから(断言)。

 ……ハツユキソウちゃんから借りた『ウィンターローズのHなウソ・ホント』を、後でこっそりソヨゴちゃんの部屋に置いておこう。

 

「じゅるり……」

「? 団長さん?」

「あっ! い、いえ! え~と、そう、本の話ですね!」

 

「ベルガモットバレーのことを調べていたんです。この時期は行楽シーズンで、特に紅葉は素晴らしいって」

「ベルガモットバレーですか。行きたいですねぇ~」

 とは言え、そう都合良く休みは取れない。騎士団長という職業は大変忙しいのだ。討伐任務は勿論、花騎士達のトレーニング(セクハラ)、体調管理(セクハラ)など、やるべきことは枚挙に暇がない。

 

「害虫を殲滅したらその時には、ですね」

 

 

 


「え……? ベルガモットバレーにですか?」

「そうだ。君が適任だと思ってな」

 噂をすれば何とやらで、ベルガモットバレーへの出張が決まりました。

 目的としては、あちらの新人団長さんに、もうすぐ来る冬での戦い方を教えて欲しいとのこと。なるほど、それならウィンターローズの団長である私は適していますね。

 

「花騎士を誰か一人連れて行ってくれ」

「花騎士を……一人!」

(それはつまり二人きりということでは……やりたい放題ということでは……?)

 

「飽くまで職務の一環ということを忘れるなよ。絶対忘れるなよ」

「そ、そこまで念を押さなくても……」

 

 

 

「というわけで、ソヨゴちゃんを連れてベルガモットバレーまで行ってきます。ハツユキソウちゃん、半月程度ですが留守を頼みます」

「二人旅ですか……心配ですね(ソヨゴさんが)」

「ソヨゴちゃんと二人きりとか、最高に興奮してきた! わっきゅうぅぅぅ!(大丈夫ですよ、心配しないで下さい)」

「……」

 

 

 

「護衛用のからくり造った方がいいかしら?」

「何かあったら逃げた方がいいし」

「襲われたら大声で助けを呼ぶんスよ」

「熊が嫌がる匂いの香水があるんですけど、付けていきますか?」

 

「酷い言われようだな! というか私熊扱いなの!?」

「今まで自分がやってきたことを、胸に手を当てて考えてみなさい」

「ん……?」

 そう言われて胸に手を当てる。ソヨゴちゃんの胸に。小さく可愛らしい胸に。

「……至高」

「だ、団長さん……」

「そういうとこですよ!」

 

「み、皆さん!」

 ソヨゴちゃんが声を張り上げた。

「団長さんはその……変なことは言いますけど、根は優しい人ですし、わたし達の嫌がることはしないと思います」

 

「……まあそれは分かってるけど」

「団長さん、何だかんだで他の騎士団長より優しいですよね。あたしのことも受け入れてくれましたし」

「皆……」

 思わず涙腺が緩む。何だかんだ言って、皆私のことを信用してくれているんだ。特にソヨゴちゃんは本質を見抜いている。流石だ。

 

「それじゃあ行ってきます!」

 皆の期待に応えなければ。これからも彼女達にとって良い団長でなければ。そう思いながら風谷の地へ足を運ぶのでした。あと、風谷って字面的に風俗と似てない?

 

 

 


「わぁ~、見て下さい団長さん。紅葉が凄く綺麗ですよ」

 紅葉と共にソヨゴちゃんの白い髪も風に舞う。

「そんな君の方が綺麗だよ」なんて言葉が喉まで出かかったが、流石にそんなきざな台詞言えるわけない。

「そ、そんな……綺麗なんて……」

「あれ? 口に出してた!?」

 

「可愛いじゃなくて綺麗ってことは……わたしも少しは大人っぽくなれているんでしょうか?」

「え、えぇそうですね……」

(正直、ソヨゴちゃんはまだ可愛い系だけど……)

 

 いや、そもそもソヨゴちゃんはこれが完成形なのだ。わざわざ綺麗系にチェンジする必要はない。ありのままでいいのだ。レリビー、レリビー!

「ソヨゴちゃん、レリビーですよ」

「?」

 

 

 

「いらっしゃ~い」

 宿泊地とする温泉宿を訪ねると、黒髪の少女が出迎えてくれた。身長はソヨゴちゃんと同じくらいだろうか。もの凄く可愛い。セクハラしたい。

「あたしはここの女将のヘチマ。花騎士もやってるんだよ」

「おっと、花騎士さんでしたか。私は騎士団長のアクア。そしてこちらは……あれ?」

 ソヨゴちゃんの姿が見えなくなったと思ったら、扉の影に隠れてしまっている。

 

「ソヨゴです……」

「人見知りの子なんです。人は好きなんですけどね」

「ありゃぁ~、そうなんだ。ま、ゆっくり慣れていけばいいのさ」

「は、はい……」

 

(そんな恥ずかしがり屋な子の素っ裸を覗くのは格別だからねぇ……)

(……この子、私と同じ匂いを感じる!)

 

 

 

「こちらがお部屋になりま~す♪ 窓から紅葉が見えるんだよ。綺麗でしょ?」

「うわぁ~……凄いですね……」

 うっとりと窓の外を見つめるソヨゴちゃん。そんな彼女をねっとりと見つめる私。

 

「そして何と何と! 露天風呂まであるんですよ! こりゃあ入るしかないよね!」

「そ、そうですね……ソヨゴちゃん、後で行きましょうか?」

「楽しみですね!」

 あぁ、珍しくはしゃぐ彼女も可愛いぃ!

 

 

 

 お風呂に入りに行こうとしたその時、

「アクアちゃん、ちょっと」

 ヘチマちゃんから呼び止められた。

「何でしょう……? 行ってきますから、ソヨゴちゃんは先に入っていて下さい」

 

「何ですか?」

「アクアちゃんはあたしと同じ匂いがするから、とっておきの場所を教えてあげようと思って」

 そう言われて付いていくと、そこはお風呂場の裏側のようだ。硫黄の匂いが漂っている。

 

「この穴から……ほら、中が見える」

「ほ、本当だ! しかしこれはマズイのでは?」

「そりゃあ、バレたらお終いさ。つまり君とあたしは一蓮托生」

「……」

 

 ダメだ。犯罪に手を染めるわけにはいかない。私には愛する花騎士達がいる。彼女達のためにも……

『我を開放せよ』

(だ、誰です!? 私の心に話し掛けているのは!)

『俺だよ。お前の中に潜む悪魔だよ』

(あぁ、3話に出てきた……作者覚えてたんですね)

 

『ここから覗けばソヨゴの裸が拝めるんだぜ。何を迷うことがある?』

(悪魔の囁きになんて乗らない! 絶対乗らない!)

「ちなみに、今日は他の花騎士も来てるよ。それに親子連れのお客さんもいるから、ちっちゃな女の子も」

「~~!!」

 

「さあ行こう、アクアちゃん!」

『我と共に、世界の秘密を解き明かすのだ!』

「ダメだ……私はぁ!」

 

「へぇ~、本当に良く見えますね~」

 まあバレなきゃいいんですよ、バレなきゃ。

 

「おっ、あそこにいる黒髪ロングの花騎士さんも可愛いですね」

「あの子はブリオニアちゃん。あたしの親友なんだ」

「へぇ~」

(何か今日は倍の視線を感じる……)

 

 

 

「おぉっ! ソヨゴちゃんが入ってきた!」

「綺麗な肌~……」

「でしょう! ソヨゴちゃんは春庭一の天使ですから!」

「ホントだね~」

 

「あぁ、でもブリオニアちゃんと微妙な距離感が……」

「ブリオニアちゃんも人見知りだからな~」

「でも頑張って話し掛けに行ってる! ソヨゴちゃん、偉い!」

 

 

 

「そっか、ウィンターローズから」

「はい。ベルガモットバレーは初めてなので、色々驚かされることが多いです」

「ふむ、例えばこの文化はウィンターローズでは……」

「えぇ、これはこうで……それでベルガモットバレーはこうですよね?」

「うん、結構詳しいね」

「本を見て色々勉強したので。でも実際に来てみないと、いまいち分からないことも沢山ありました」

 

(何だろう……初対面なのに凄く話しやすい……)

(この子、凄く気が合う)

((もしかして友達に……))

 

 

 

「尊いですねぇ~」

「ねぇ~」

 あぁ、ベルガモットバレーに来て良かった。眼福眼福。

 

「さて、私もお風呂に入ってきますかね。あまり長居すると怪しまれるでしょうし」

「そうだね……っと、アクアちゃん! 今親子連れが入ってきたよ。ちっちゃい子も」

「何!? ロリですか!? どこ……どこ!?」

 

 私が覗き見た世界。そこには生まれたままの姿の幼女がいて。つるつるの……。

 

「流石子供だけあって綺麗な肌だね、アクアちゃん」

むは……むは……

「ん……っ!? まずい! アクアちゃんのロリコンメーターが振り切れてる! 爆発する!」

むっはー!!

 

 

 

「っ!? 何の音でしょう……?」

「爆発音みたいな……取り敢えず行ってみよう」

 

 二人が見たもの。それは口から煙を吐き出しながらプスプスと燃えるアクアの姿だった。

「団長さん……一体何が……」

 

 

 

 アクアの爆発によって、温泉宿は半壊。幸いけが人が出なかったが、この事故に警察が調査に入ったことで今までの覗きの数々が露呈。ヘチマ、アクアの身柄は拘束されることとなった。

 

「アクア団長、署までご同行願います」

「はい……」

「団長さん……」

 

 

 

さあ眠りなさい

疲れ切った身体を投げ出して

青いそのまぶたを 唇でそっとふさぎましょう

 

ああ出来るのなら

生まれ変わり あなたの母になって

私のいのちさえ差し出して

あなたを守りたいのです

 

 

 

 警察に連れられトボトボと歩くアクアの後ろ姿を見て、ソヨゴは一体何を思うのか。続く。

「続くの!? この作品一話完結じゃなかったの!?」




ノリで書きましたが、何だ爆発って……まあアクア団長ならいけるか

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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I Shall Be Released

前回覗きの罪で捕まったアクア団長。
さてさて、どうなることやら。


「34番、釈放だ」

「はい……お世話になりました」

 

 数ヶ月ぶりの青空だ。光が東から西へと広がっていく。私の光だ。私もこんな風に自由になったんだ……。

 

 前回、覗きで捕まった私は獄中で過ごすことになった。そして刑期を終えて、こうしてシャバに出てこられたというわけだ。

 

「……皆に合わせる顔が無いです……」

 

 

 


 その頃、ウィンターローズの大地を二人の花騎士が歩いていた。

「スキラ、今日もボロ負けだったね」

「う、うるさいわね! わざわざ言わなくていいの」

 旅行に来ていたスキラとカゲツだった。

 

「しかし、折角ウィンターローズに旅行に来たのに、やることがギャンブルって……」

「カジノを見ちゃうと血が騒ぐのよ、ギャンブラーのね」

「そう……」

 

「そろそろお昼ね。近くにお店あるかしら?」

「ちょっと探してみようか~」

 

 

 

 レストランを見つけたので、そこで昼食を取ることにした。

「メニュー色々あるのね」

「スキラはお子様ランチ?」

「こ、子供扱いしないでよ!」

(少し食べてみたいけど……)

 

 二人が談笑しながら食事を楽しんでいるところに、一人の女性が姿を見せた。

 長身の美人だが、どこかやつれた印象がある。

 彼女は虚ろな目で店員を見つめると、

「ラーメンとカツ丼、それとビールをお願いします」

 と注文して、スキラ達の隣の席に腰かけた。

 

(ロリがいる……いや、いかん。罪を重ねるわけには……)

(随分と雰囲気のあるお姉さんね……)

 

 

 

「お待たせ致しました」

 料理が運ばれてくると、女性はその湯気を思い切り吸い込み、やがて犬のようにがっつき始めた。

 

「はふ……はぐ……んぐっ」

(行儀悪っ! いや、余程お腹が空いてるのかしら……)

 

「んっ……んん!? ごほっ、ごほっ!」

「だ、大丈夫!? ほら、水飲んで」

 むせた女性に自分のお冷やを差し出すスキラ。

「あ、ありがとうございます……」

 

 

 


「へぇ~、お姉さん、騎士団長だったのね」

「はい……少し前までは……」

 成り行きで二人の少女と仲良くなった。スキラちゃんとカゲツちゃん、二人とも花騎士らしい。

 スキラちゃんは八重歯が可愛いロリで、カゲツちゃんはおっぱいがぷるんぷるん。あぁ、久しぶりにセクハラしたい……。

 

「辞めちゃったの?」

「色々ありまして……」

 

(深刻そうな顔……他人に言えない深い事情がありそうね……)

(覗きで捕まったなんて言えない……)

 

「アクアさん、これから予定あるの?」

「ありませんね……当て所もなくふらつくくらいしか……」

「それなら、わたし達と一緒に旅行しない? 地元の人がいた方が楽しいだろうし」

「お、お邪魔じゃなければ」

 ナンパ!? ナンパじゃないか! まさか二人の美少女からナンパされるなんて、人生まだまだ捨てたもんじゃないなぁ。

 

 

 

「ウィンターローズはじゃがいもが美味しいんですよ。こんな風にバターを付けて」

「へぇ~」

 

「ここがかの有名な時計台ですね」

「ふむふむ」

 

「温泉も有名なんですよ。ベルガモットバレーの温泉とは一味違うでしょう?」

「ホントね」

 

 

 

「ふぁ~……今回の旅行は凄く楽しめたわね~」

 浴衣姿で背伸びをするスキラちゃん。あぁ、生足。舐めたい。

 

「アクアさんのおかげだね。ありがとう」

「いえいえ、そんな! 私の方こそ楽しかったですよ」

 

「ねぇ、アクア。あなたさえ良ければ、ブロッサムヒルに来ない? うちの団長に紹介してあげるわよ」

「スキラも気に入ってるみたいだし、私もアクアさんが来てくれれば嬉しいな~」

 

「……嬉しい申し出ですが、私には妻がおりまして……彼女の意見も聞かなければ」

「そう……奥さんが……」

「と言っても、今も妻で居てくれているか分かりませんが……」

 

 

 


≪回想≫

 

「団長さん!」

 冷たい手錠がかけられ、警察に連れて行かれる時、ソヨゴちゃんの声が背中から聞こえました。

 

「わたし待ってますから! 何年経とうと、あの騎士団で」

「ソヨゴちゃん……あなたみたいな良い子は私には勿体ない。もっとまともな人と所帯を持って、幸せになって欲しいんです」

「そんなこと……」

「でも……もし独り身のまま私を待っていてくれるんなら、鯉のぼりの竿に黄色いハンカチを付けておいて下さい。騎士団に帰った時、ハンカチがなかったら諦めますから……」

「団長さん……」

 

 

 


「私は不器用ですから、彼女をちゃんと幸せにすることなんて出来なかったんです……きっともう、ソヨゴちゃんは私を待ってはいないでしょう」

 私の話を聞いていた二人が俯く。流石に行きずりの二人に話すにしては重すぎたか……。

 

「……それなら、早く騎士団に行きましょう! 奥さんが待ってるかどうか、確認しないと!」

「だ、だからもう奥さんじゃ……」

「万が一待ってたら可哀想だよ~。駄目で元々って感じで行ってみようよ」

 

 二人から唆され、私も段々とその気になってきた。

「え~い、ままよ!」

 駄目で元々。当たって砕けろです!

 

 

 

「うぅ~、やっぱり怖い~……」

 騎士団はもう目の前なんだけど、どうしてもこれ以上進むことが出来ない。足が拒否している。

 

「コラ、アクア! しゃきっとしなさい!」

「だって~、現実を見たくないんですもん! ソヨゴちゃんが私を見捨てるなんて、そんな!」

「まだ見捨てたって決まったわけじゃないでしょ」

「いや、絶対無理ですよ~! こんな犯罪者なんて~! ソヨゴちゃんはきっと……」

 

≪妄想≫

「あっ、団長さん、帰ってきたんですか? でもごめんなさい。わたし、このお姉さんのお嫁さんになります♡」

「えっ……あっ、え……」

 あまりの衝撃に言葉が出ない。ソヨゴちゃんの隣にいるのは、明らかに遊んでそうな浅黒い肌の金髪女性だった。

 

「ほら、見て下さい、わたしのお腹を。この人の赤ちゃん出来ちゃってるんですよ♡」

「あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”~~!!」

≪妄想終わり≫

 

「ぎゃあぁぁぁ! ソヨゴちゃん~~!」

「ひゃぁっ!? ど、どうしたのよ、いきなり奇声あげて」

「すみません、取り乱しました……」

 

 でもどうしても踏ん切りがつかない。ソヨゴちゃんが他の人と幸せになってるんならそれでいいのに、それを許せない自分もいる。私はわがままなのかも知れない。

「でも寝取られる感覚って気持ちいいな……癖になりそう……ぐへへ……」

「?」

 

 

 

「え~い、つべこべ言わずに行ってきなさい! そらぁ!」

「ぎゃっ!」

 尻を蹴っ飛ばされた。転んだ先では騎士団の城内が見えて……

「あっ……」

 

 ハンカチだ。黄色いハンカチがはためいている。

「うぅ……ソヨゴちゃん……」

 涙がとめどなく溢れた。

 まさかソヨゴちゃんが待っていてくれるなんて……。

 

「あっ、スキラちゃん、カゲツちゃん……」

「ほら、奥さんが待ってるわよ。行ってあげなさい」

「……はい!」

 

「アクアさん、また会えるといいね~」

「そうね。今度は一緒にパルファン・ノッテにも行きたいし」

 

 

 


「ソヨゴちゃん、皆~! ただいま~!」

「……」

「あれ~、随分静かですね~。愛しの団長が帰ってきたんですよ~」

 その時、私は初めて気付いた。自分の両腕が拘束されていることに。いつの間に……。

 

「丁度いい時に帰ってきたわね、団長さん。新作のからくりが出来たから実験体になって欲しいのよ」

「えっ、え……? ガンライコウちゃん、冗談……ですよね?」

 いや、目がガチだ!

 

「わぁ~、ガンライコウさんの新作楽しみだなぁ~」

「何でも、今回は電流で痴漢を撃退するだけではなく、廃人にしちゃうらしいですよ」

「便利ッスね~」

「思いっ切りぶっ放すし」

「ちょっ、皆、待っ「スイッチ、オン」

「ぎえぁぁぁぁ!」

 

 

 

「皆さん、団長さんが帰ってきたって本当ですか?」

「ええ、今ここに」

 ソヨゴが見たもの、それは黒焦げになったアクアの姿だった。

「……げほっ」

「団長さん!?」

 

 

 

「もう、皆酷いですよ~!」

「これでも出力抑えたのよ」

「皆の信頼を裏切った団長の方が酷いッスよ」

「うっ! そ、そう言われると何も言い返せませんが……」

 

「で、でも刑務所で罪を償ってきたわけですし、もういいじゃないですか。ね、皆さん」

 あぁ、こんな状況でも頑張って庇ってくれるソヨゴちゃん、マジ天使。

 

「まあ、副団長のソヨゴさんがそう言うなら……」

「次はないし」

「はい……肝に銘じます……」

 

 

 

 というわけで、色々ありましたがアクア騎士団、これにて復活致します。これからも春庭のために精一杯頑張りますよ~。

「待て、アクア! いい話風に終わろうとするな! これから貴様を再教育する!」

「た、大佐! 勘弁を~!」

「ならん!」

 

「うぅ~、もう覗きはこりごりです~……」




というわけで、やたらとパロディの多い今作。
ちなみに私は「幸福の黄色いハンカチ」より「遥かなる山の呼び声」の方が好きだったりします(どうでもいい情報)

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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悪の科学者現る!

新キャラ(準レギュラー予定)が登場
やっぱり害虫以外の悪役がいた方が、話の幅が広がりますよね


「ふっふっふ……」

 紫色の液体が釜の中でぐつぐつと煮えたぎっている。それを見て妖しげな笑みを浮かべているのは、黒いローブを被った少女。

「見ていろアクア……余を辱しめた罪、何倍にもして返してやろう!」

 

 少女の笑い声が、真っ暗な部屋の中に響き渡った。

「はっはっは~! あ~はっはっはあ”っ!? いだっ、顎、外れ……あ”ぁ”ぁ”ぁ”」

 

 

 


「はぁ~、平和ですねぇ~」

「お尻触らないで下さい……」

 相変わらずのまったりとした空気の中、温かなココアに口を付けたその時だった。

 

「アクア団長に告ぐ。アクア団長に告ぐ」

 突然目の前に透明な壁が現れたと思ったら、そこにローブを被った人物が映し出された。

 

「ぶーっ!?」

「だ、団長さん、床が汚れちゃいますよ」

「おっと。失礼しました」

 まさか突然人が出てくるとは思わないでしょう。

 しかしどうやら実体は無いようです。姿と声を投影する装置なのかな? ガンライコウちゃんなら分かりそうだけど。

 

 いや、そんなことよりも、

「誰です! ソヨゴちゃんと私の愛の巣に無断で入り込んできたのは!」

「余は……カマボコ。悪の科学者、カマボコ博士!」

「ぶーっ!」

「団長さん、また……」

「だってぇ……」

 まさか名前が魚のすり身だなんて思わないでしょう。親は何を考えてるんですか。

 それに自ら悪を名乗る人初めて見ました。

 

「……で、そのちくわ博士が何の用ですか?」

「カマボコだ! この小娘が!」

 彼女がローブを脱ぐ。そこには……。

 

「かっ……かっ……」

「団長さん?」

「可愛い~~~!」

 どうしよう、めっちゃタイプだ。

 黒髪ツインテールにジトっとした目。何より幼い顔立ち、ロリ体型! ソヨゴちゃんとタイプは(体型以外)真逆だけれど、これはこれでどストライクなのだ。

 

「か、可愛くなどないわ! そうやって余を動揺させようとしても無駄だぞ! 小娘! おバカ! あんぽんたん!」

 顔を真っ赤にしてプンスコ怒っている。でも全く迫力が無い。それに語彙力も無い。可愛い。

 

「やはり貴様は許せん! 余の手で葬り去ってくれる!」

「あらあらそうですか~。頑張って下さいね~」

「ふふ、余裕でいられるのも今のうちだ。足元を見よ」

「そんな安い手には……みぎゃぁっ!」

「団長さん!?」

 

 突然視界が真っ暗になった。そして身体が軽くなったのを感じる。もしかして私は今飛んでる……? いや、落ちているんだ!

 

「いやぁぁぁぁ……!」

「団長さ~ん!」

 ソヨゴちゃんの声が闇の中に反響している。その声はだんだんと遠くなっていき、聞こえなくなっていった。

 

 

 


「というわけなんです! どうしましょう、ガンライコウさん!」

「まぁ落ち着いて。カマボコ博士……確か去年、F物質というものを発見してニャーベル賞を受賞した天才科学者ね。それと同時に悪い噂も絶えないわ。世界を征服しようとしているとか、人を悪魔に変える研究をしているとか」

「そ、そんな凄い人が相手なんて……ど、どうしましょう!」

 動揺が隠せないソヨゴの頭を、ガンライコウの手は優しく撫でた。

 

「大丈夫よ、ソヨゴさん。団長さんは必ず助け出しましょう」

「でもどうやって「話は聞かせてもらったッス!」

 ソヨゴが振り返ると、そこには完全武装した花騎士達の姿があった。

 

「み、皆さん……」

「敵の隠れ家にカチコミかけるッスよ!」

「何だかんだで団長さんは大切ですからねぇ」

 

「でも、どうやって団長さんを見つけましょう?」

「あたしに任せて。団長さんの溢れ出るロリコンエネルギーを探知出来る装置を急ピッチで作るわ」

「大まかな場所が分かれば、後は私が感知するし」

 

 そのやり取りを一歩引いた位置から眺めていたハツユキソウは、こう思った。

(いや、いくら何でも都合良過ぎるでしょ。そしてロリコンエネルギーって何だろう? って、団長さんがいればツッコむだろうなぁ……)

 そしてハツユキソウは考えるのを止めた。

 

 

 


「……うっ、ここは……」

 気を失ってたのだろうか。気が付くと真っ暗な部屋の中で、椅子に縛り付けられていた。

 

「ふふ、気が付いたか」

 カツンカツンと足音が響き、先程の黒髪の少女が現れた。

「あなたは……はんぺん博士!」

「カマボコ博士だ!」

 

「何処です、ここは!? 何が目的ですか!?」

「ここは余の秘密の研究所。ここで貴様は「まさかエッチな拷問を……」

「違わい!」

 

「貴様はやはり癪に触る。あの時から変わっていないな」

「あの時? 知り合いでしたっけ?」

「忘れたとは言わさんぞ! あれは20年程前の話だ……」

 

 

…………

………

……

 

 余と貴様が初めて出会ったのは、ウィンターローズ王城だったな。二人ともまだ幼かったが、余は科学の、貴様は戦闘や戦術の天才児として、当時のウィンターローズ女王に謁見した時のことだった。

 

 

 

「わたしはアクア。あなたは?」

「私は……カマボコ」

 人見知りだった余にとって、同年代の子がいたことは何より心強かった。貴様も積極的に話し掛けてきたしな。

 

「そっか、可愛いねカマボコちゃん。ホント可愛いね~」

「?」

 少し変な子だなとは思ったが、当時子供だった余には分からなかった。貴様の変態性が。

 

「ねぇカマボコちゃん。まだ女王様へのお目通りまで時間があるし、一緒に遊びませんか?」

「いいけど、部屋の外には出ちゃダメだよ」

「大丈夫大丈夫。わたしが良い遊びを知ってます」

 

「どんな遊び……ひゃあっ!?」

 余の服の中に突然アクアの手が入ってきた。

「な、なんでそんなとこ触……」

「ふふ、ここをくすぐると気持ちいいんですよ。ほらほら」

「にゃっ……やめ……あっ」

「あぁっ、ペタンペタンのお胸最高……エクスタシー!」

 まだ性の知識の無かった余を、貴様は何度も何度も弄くり回してきた。余の腰が立たなくなるまで。

 

 

 

「ふぅ~……ふぅぅ♡」

「あぁ、カマボコちゃん最高! 結婚しよ、結婚!」

「結婚!? だ、ダメだよぉ、私達まだ子供だから」

「愛に年齢と性別は関係ないんですよ!」

「ふぇぇ……」

 

「ただまぁ、色々と都合もありますから、大人になったらにしましょうか」

「ほ、本当に結婚するの……?」

「当然! 美少女ハーレムを作るのがわたしの夢だから、いつかカマボコちゃんも入れてあげるね」

「う、うん……?」

 余はつい頷いてしまった。当時の余は友達も少なかったから、スキンシップ過多の貴様のことが少し好きになってしまったのも事実だ。

 

 それから余は貴様を待っていたが、結局貴様が迎えに来ることは無かった。そして最近になって、貴様が花騎士と婚約したというニュースが流れてきた。

 

 そして余は知ったのだ。貴様は所詮口から出任せを言ったのだと

 

……

………

…………

 

(そう言えば、当時は可愛い子皆に結婚を迫っていたような……)

 

「そしてとうとう貴様と再会することが出来た。嬉しいぞ」

「ということは……私のお嫁さんになりに来たんですね! カマボコちゃ~ん!」

「シャラップ!」

「ぶべっ!?」

 小さなお手々でビンタされてしまった。

 

「誰が貴様なんかと結婚するか! 余の目的は貴様への復讐、そのために余は悪の道を進んできたのだ!」

「そ、そんなぁ……」

 

 

 

「さぁて、それでは復讐の時間だ。まずは指を一本ずつ切り落としていく」

「結構ガチのやつ! 感度3000倍とか、そんなのじゃないんですか!?」

「両腕を馬に縛り付け、そのまま両側から引っ張る、というのもあるぞ。どっちがいい?」

「どっちも嫌です~。助けて花騎士達~」

(ん? 花騎士達……?)

 

「そう言えば、私が連れてこられてから何時間経ちました?」

「5時間程だが、それがどうした?」

「それだけあれば充分ですね」

「何を言って……ぬぉっ!?」

 爆発音が聞こえてきた。計算通り。

 

「くっ……花騎士め、もうここを見つけおったか……だが問題ない。返り討ちにしてくれる!」

「どうですかね? うちの花騎士は優秀ですよ」

 

 

 

≪10分後≫

「すみません、捕まりました……」

「えぇ……」

「この基地、世界花の加護を無力化するバリアを張ってるみたいね」

「加えてロボット兵が強いのなんの……」

 

 あれ? これ割りと絶対絶命では? もしかして最終回なの?

 

「ふふふ、では花騎士を先に処刑するか。貴様らに恨みはないが仕方ない。恨むのなら団長を恨むのだな」

「くっ……」

 まずい。これはホントにまずい。花騎士達を死なせるわけには……まだセクハラしたいことが山程あるのに!

 

「処刑用ロボット、入れ」

 カマボコ博士が指をパチンと鳴らすと、10m程の大戸がギギギと開いた。しかし、

 

「……ん? どうした?」

 何度指を鳴らしてもロボットが入ってくる気配が無い。

「故障か?」

 カマボコ博士がそう呟いた瞬間だった。

 

「探しているのはこのガラクタかね?」

「っ!? 何者だ!?」

 一人の女性が部屋に入ってきて、バラバラになったロボットのパーツを放り投げてきた。

 

 

 

(だ、誰です……? 光が強くて見えない……)

 

「くっ、戦闘用ロボット! 全機出撃!」

 十体程の巨大ロボットが彼女を取り囲む。

 

「まずい! あたし達でも勝てなかったロボットよ! 普通の人が勝てるわけ無いわ!」

 八方からバルカンが掃射される。硝煙の臭いが部屋いっぱいに広がった。

 

「ふっふっふ! これでは蜂の巣だな……え?」

 カマボコ博士は言葉を失った。一瞬にして全てのロボット兵がバラバラに分解されてしまったのだ。

 

「な……な……!」

(少しずつ姿が見えるようになってきた……それにあの身のこなし……まさか……)

「オリビア大佐!」

 

「世界花の加護が発揮出来ないとは言え、こんなガラクタに手こずるとは……まだまだ訓練が足りんぞ、花騎士達」デェェェェン

 やっぱりオリビア大佐だ。しかも防弾チョッキにライフル二丁と、背中に刀。完全武装した彼女を見るのは久しぶりだ。

 

「オリビア……まさかあの『戦場の悪魔』か!?」

 戦場の悪魔……現役時代の大佐の二つ名。世界花の加護もなく極限級害虫を葬り去っていた様子を見て、恐れおののいた人々からそう言われるようになった。

 

 

 

「カマボコ博士、ついに尻尾を見せたな。貴様の身柄を拘束させて貰う」

「ふん! 出来るものならやってみろ!」

 オリビア大佐が彼女に近付いたその時、ジェット機のが彼女の真上に現れた。そしてそれは人型のロボットに変形し、彼女を抱えて飛び去ってしまった。

 

「アクア! 貴様との決着、次は必ずつける! 精々怯えながら待っているが良い! ふっはっはっあ”っ! 舌噛ん……いだぁぁぁっ!」

 

 

 


「オリビア大佐、助けて頂きありがとうございました」

「……」

「大佐?」

 

「今回でお前達の弱点が分かっただろう。花騎士は世界花の加護に頼りすぎている。基礎の基礎からやり直しだ。まずは100kmダッシュ!」

「ぎえぇぇぇ!」

 

(皆、大変そうだな~)

「アクア、お前もだ! 行ってこい!」

「わ、私もですか!? ひぇぇぇ!」

 

 走り去るアクア達の姿を、オリビアは真剣な眼差しで見つめていた。

(強くなれアクア、花騎士達。どんな強敵が来ようと、絶対に負けるな……死ぬな)

 この眼差しは厳しくも優しい、慈愛に満ちたものだった。




特殊能力もなく、ただひたすらに強いキャラが好きだったりします(通りすがりのサラリーマンとか)
オリビア大佐も異常に強いという設定はあったのですが、やっと戦闘描写にこぎ着けましたね。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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特別編 Your Gamesへ愛を込めて

短いですが、これが私のYour Games様への想いになります。
少し恥ずかしいですが……


「わっせ、わっせ」

「団長さん、忙しそうですけど、どうかしたんですか?」

 肌寒い執務室。ストーブの灯りが、ソヨゴちゃんの白い肌をぼんやりと照らした。

 

「春庭の運営体制が変わるので、その準備をしてるんですよ」

「運営体制……?」

「運営会社がYour GamesからKMSに変わるんですって」

「ゆあ……あぁ、前に言ってた、この世界を作った神様ですね」

「はい。でも、神様なんて偉大な存在じゃなくて……もっとちっぽけなものですよ。私達のように」

「?」

 

 フラワーナイトガール。2015年よりサービスを開始した人気ゲーム。それを当初より運営していたのは株式会社Your Gamesだが、11/26の協議会により株式会社KMSに運営が移管されることが発表された(詳しくは動画を見てね!)。

 

「え? いきなり何を解説してるんですか……?」

「まぁ色々ありまして……」

 

 

 

「きっと、私とソヨゴちゃんが出会ったのは偶然で、その偶然は運営を始めとした色々な人が関わってくれた結果だと思うんです」

「偶然……ですか。確かに、わたしが他の団長さんの所に行ってた可能性もありますしね」

「駄目ぇ! ソヨゴちゃんは私だけのものなんだから!」

「ひぇっ!?」

 

「……こほん。それに私達だけじゃありませんよ。たくさんの人が、自分にとってかけがえのない存在と出会ってきました。今団長をやっている人、団長を辞めてしまった人、そしてこれから団長になる人もきっと」

「そっか。一つ一つの出会いは偶然の積み重ねなんですね」

「そうです。でも、その小さな出会いが誰かの人生を変えることもある。誰かを救うこともある。ソヨゴちゃん」

 

 ソヨゴちゃんの赤い瞳を見つめる。いつもはふざけてる私だけれど、今だけは真剣にならなければいけないと思う。

「私はあなたに出会えて良かった。もしあなたと出会わなかったら、私の人生は全く違うものになっていたと思うんです」

「え……あの……」

 指をもじもじとさせるソヨゴちゃん。あぁ~、可愛いなぁ~。イタズラしたい……はっ! いけない、今は真剣にならなければ。

 

 

 

「運営が変わっても、そうした団長と花騎士の出会いは変わりませんよ」

 そう、小さな出会いで私が救われたように、これからも少なくない人が救われていく。

 でもそれは神様のおかげじゃない。もっとちっぽけな存在が起こす、偶然であり奇跡なんだ。

 そして、私達のような小さな存在でも誰かを救えるということを、彼らは教えてくれた。

 

「ソヨゴちゃん、これからもよろしくお願いしますね」

「は、はい! こちらこそよろしくお願いします!」

 

 ありがとう。この歓びを。出会いを。奇跡を。

 あなた達が作り上げてきたものを、私達は受け継いでいきます。

 

 そしていつか、また逢えたら……。

 

 

 


「それはそれとして、この新規ロリ可愛いな~。ヒナソウちゃんの太もももエッチぃ……早く寝室連れ込みたいなぁ~」

「……」




(アクア団長、当たり前のように上位次元のこと知ってるんだな……)

花騎士を始めて、色々な団長さんと交友出来て、SS執筆まで始めてしまいました。
それもこれも、きっかけを作ってくれたのはYour Games様です。彼らの作った「フラワーナイトガール」というゲームがなければ、私の人生は全く違うものになっていた。
本当に、感謝の言葉しかありません。

運営体制が変わること、不安が無いわけではありませんが、私としてはこれからも花騎士を応援していきたいです。
勿論、SSも今まで通り頑張って書いていきますので、今後も読んで頂ければ幸いです。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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強敵!? 人造花騎士!

またもや新たな敵が登場。
敵キャラはこの子とカマボコ博士の二人体制がしばらく続きそうですねぇ。

今回も例によりCHARAT DRESSUP様にてイメージ画像を作らせて頂きました
カマボコ博士
【挿絵表示】
アーティ
【挿絵表示】



「皆さん、バナナオーシャンの知り合いからココナッツが送られてきましたよ」

「わぁい。ココナッツミルク好きなんですよね~」

 わらわらと集まって来る花騎士達。彼女達の笑顔を見るだけで心が癒される。可愛いな~、なんて思っていると、

 

「じゃあ早速」

 バキっと鈍い音が響いた。

 見ると花騎士達は素手でココナッツを割っていた。

 

 ちょっと待って。ココナッツって素手で割れるものだっけ……?

「あれ? 団長さん、どうしたんですか?」

「もしかして割れないッスか? しょうがないッスね~」

 ヤドリギちゃんが私の代わりにココナッツを割ってくれた。勿論素手で。当たり前のように。

「あ、ありがとうございます……」

 

 この間のカマボコ博士との戦いで、花騎士達は自分の力の無さに気付かされた。そしてオリビア大佐に徹底的に鍛えられたわけだけれど……

(いや、鍛えすぎでしょ!)

 このままでは全員ムキムキのゴリラになってしまう。ゴリラーナイトガールに! そんなの嫌だぁ~!

 

「皆さん、今日は訓練無しにして、ゆっくり休みませんか?」

「そうですね。それじゃあ日課の指立て伏せ500回と腹筋、背筋1000回を終わらせたら休みますね」

「筋肉もたまには休ませないとね。特製プロテイン、ココナッツ味も作っておくわね」

「」

 

 

 

 そんな花騎士達の姿を、蚊型監視カメラを通して見ている者がいた。

 


 

「花騎士達め、新たな力を付けおったか」

 余は悪の科学者、カマボコ博士。

 余の目的は二つ。アクアへの復讐。そして、この世界を支配し、新たな法と秩序を与えること。

 だが……

 

(このままでは花騎士には勝てん。この前の戦いでも、世界花の加護を無効化し、ようやく勝てたというのに……)

 しかし諦めるわけにはいかない。余はこの世界の帝王となる者。この程度の壁など生温いわ!

 

 

 

「……だがやはり戦力差が厳しい。『アレ』が正常に働いてくれれば問題ないのだが……」

「よう、ご主人。いつも以上に暗~い顔してんなぁ~」

「!?」

 

 いつの間にか余の背後には少女が立っていた。炎のように赤い髪、キリリと鋭い瞳。そう、彼女こそは……

「アーティ!」

 姿形は人間のように見えるが、彼女は余の作りだしたアンドロイドだ。それもただのアンドロイドではない、人造花騎士「アーティ」だ。

 

 

 

 余は水面下で花騎士の研究を続けてきた。何故彼女達に加護が宿るのか、その仕組みを。そうして辿り着いたのが、このアーティだ。

 

 身体は機械のみで構成されているが、その心臓部にF物質という特殊な物質を埋め込んである。これによって世界花はアーティを花騎士だと誤認し、加護の力を与える。

 しかしF物質の生成は難航し、結局10年以上を費やしても完成したのは一つだけだった。つまりこのアンドロイド、アーティこそが余の最後にして最大の兵器ということになる。

 なるのだが……。

 

「おっ、プリンあるじゃん。頂き~」

「貴様っ! 冷蔵庫を勝手に開けるな! それにそれは余のプリンだ! フタに余の名前が書いてあるだろ!」

「おっと、ごめんごめん。次からは気を付けるわ~」

「ぐぬぬ……」

 

 人工知能を与えたのが間違いだった。訳の分からん知識ばかり覚えてくる……。これなら制御可能な思考回路にしておけば良かった……。

 

 

 

「おっ、花騎士の映像見てんの? あたいも見る~」

 子供のようにモニターに釘付けになるアーティ。身体の大きさも余と同じくらいだし、見た目相応と言ったところか。

 

「アーティよ、この花騎士達はお前の倒すべき敵だぞ」

「え~、面倒臭~」

「貴様という奴は……産みの親である余のために働こうとは思わんのか!」

「うわぁ~、何その古臭い考え~」

 けらけらと笑う奴を見て、流石の余も堪忍袋の緒が切れた。

 

「ふふ……そういうことなら無理矢理にも従わせてやろう。これを見よ!」

「およ? 何それ?」

「これは貴様の中に埋め込まれている爆弾を起動させるためのスイッチだ。余がこれをペタっと押せば、貴様は木端微塵になるのだ!」

 

「え~、でもご主人、あたいが死んだらご主人が困るんじゃない?」

「今回は片腕だけにしてやる。だが貴様には痛覚もあるから、痛みと恐怖で余に服従することになるだろう!」

「へ~」

 興味無さげにモニターに視線を移す。どうやら余を見くびっているようだな。

 

「アーティよ、覚悟!」

 遂にスイッチを押した。押してしまった。これで奴の右腕は破壊されるはず。……はず?

 

「む? 何故爆発しない? ……ぬぉっ!?」

 その時、秘密基地内で爆発音がした。方角的には余の寝室の辺りだが……。

 

「き、貴様、まさか自分で爆弾を外したのか!?」

「何か邪魔だったんで……」

「何てことを……お馬鹿!」

「馬鹿って言う方が馬鹿なんだからね!」

「何をぉ!」

 

 もうこうなれば容赦はせん! 余が直々に教育してくれる!

「おらぁ!」

「ぶべっ!?」

 余の鉄拳がアーティの頭に直撃する。流石に鋼鉄製だけあって、殴った手も凄まじく痛いが、余の威厳を保つためにも止めるわけにはいかんのだ。

 

「や、やるじゃん、ご主人……」

「ふんっ、伊達に悪の道を進んではおらんわ!」

「よっしゃ、喧嘩だ! 来い、ご主人!」

「覚悟~! キェェェェェ!」

 

 砂埃が舞う。基地が壊れそうな程の勢いで二つのパワーがぶつかり合う。そして最後に立っていたのは……。

 

「ふにゅ~……」

「甘いな~、ご主人。あたいに勝つなんて100年早いよ」

 アーティはそう言うと、余の背中に尻を降ろしてきた。

 

「ふぅ~……ま、あたいもそろそろ戦いたいと思ってたし、倒してこようか? 花騎士を」

「早く行ってこい……」

「あれ~? それがお願いする態度なのかな~?」

 アーティの挑発的な瞳が余に向けられる。

 ……仕方ない。世界を手にするためなら、余はこのプライドを捨てる!

 

「……お、お願いします……」

「聞こえないな~。行くの止めよっかな~」

 くそ! こいつはどこまで余をこけにすれば気が済むんだ!

 

「お願いします! 花騎士を倒してきて下さい!」

「ま、そこまで言うのなら仕方ないよね~。首を長くして待っててよ」

 

 アーティの背中に機械の羽根が展開する。ジェットブースターが点火し、その飛行速度は音速を超える。

「行ってきま~す!」

 

「……あやつめ、天井を吹き飛ばして行きおって……」

 

 

 


 

 今日はヤドリギちゃんとバニラちゃんと、平野部の討伐任務に来ている。報告によると極限級の可能性もあるということで、気を引き締めていかなければ。

 

「おっ、害虫発見ッス!」

「あの巨体、やはり極限級ですね。気を付けて「ふんっ!」

 私が言い終わる前に、ヤドリギちゃんは害虫の脚を引きちぎってしまった。

 

「ギェァァァ!!」

「よし、止めを差します! たぁぁぁ!」

 悶え苦しむ害虫に、バニラちゃんのポッピン・ヴァニラが決ま……決ま……

「ぬぉぉっ!?」

 とんでもない衝撃波に吹き飛ばされてしまう。見ると直径数100mの巨大なクレーターが出来ていた。

 

「あちゃぁ~……やり過ぎちゃいました」

 何かもう……何かもう……。

 

 

 

「いやぁ~、仕事終わりのケーキは格別ですね~」

「ここの味、参考に出来そうッス」

 予定よりかなり早く討伐が終わったので、二人を連れてケーキ屋に。

 あんなとんでもパワーを見せても、やっぱり女の子なんだなぁ。甘いものを食べている時の満面の笑みは、それだけで全てを許せるような破壊力を持っていた。

 

「見つけたぞ花騎士達!」

「ん? どうしました、お嬢さん?」

 いつの間にか目の前には、ソヨゴちゃんと同じ位の女の子が立っていた。

 赤い髪と瞳に八重歯。活発そうな見た目なのにふりふりドレスを着ているのがギャップ萌えを誘う。

 

「あたいは人造花騎士、アーティ。お前達を倒すために……あぁ!? ケーキ食べてる!」

「お嬢ちゃんも食べたいッスか?」

「食べたい!」

 

 

 

「もぐもぐ……美味ぁ……」

 口一杯にケーキを頬張るアーティちゃん。可愛いなぁ……。ケーキも奢ってあげたし、寝室連れ込めないかなぁ……。

 

「アーティちゃんは何処から来たんですか?」

「ん~? ご主人の……カマボコ博士の所から来たの。花騎士を倒すために」

「……カマボコ博士!?」

 

『ふふふ……アクアよ、アーティの恐ろしさを思い知……って、何やっとるかぁ~~~!』

「その声はカマボコ博士!?」

 辺りを見渡すが、声はすれど姿は見えず。

 

「どこにいるんですか! 姿を見せなさい!」

『ここだ、ここ。貴様の近くを飛んでいる蚊をよく見てみろ』

「蚊? ……なるほど、蚊型ロボットにカメラとマイクを付けているわけですね」

 

 

 

『そんなことよりアーティ! 貴様、花騎士を倒すと言っておきながら、何を仲良くケーキ何か食っておるのだ!』

「えぇ~、だってケーキ食べる方が大事だし……」

『貴様と言う奴は~!』

 

 そんなやりとりを花騎士達と眺めていると、カマボコ博士が不憫に感じてくる。

「……何か大変そうですね」

 

「団長さん、隙だらけですけど、どうしますか?」

 バニラちゃんが鈍器を構えている。

「……よし」

 

 

 

『花騎士を倒して来んとおやつ抜きだぞ!』

「えぇっ!? それは嫌だ!」

『なら戦ってこい!』

「よ~し、花騎士達! あたいと戦……ぐぇぇぇぇ!」

『アーティ!?』

 バニラちゃんにホームランされ、アーティちゃんは空を飛んで行った。何だこの呆気ない結末は……。

 

『く、くそ……不意打ちとは卑怯な……』

「どの口が言いますか」

『仕方ない。今日の所は退き下がるが、今に見ておれよ!』

 そんな捨て台詞を吐いて、カマボコ博士(蚊)は退散しようとしている。しかしどうせなら……

 

「えいっ」

『あぁっ!? 貴様、蚊型ロボットをザザザ』

 こんなロボットがあったら今後も監視されてしまうし、潰しておくのが得策だろう。

 

 

 

「ふぅ……手強い敵でしたね……」

 バニラちゃんが額の汗を拭った。

 

「……え? そうでしたか!?」

「見て下さい。鈍器に銃弾の痕が……アーティさんは、あの一瞬で反撃しようとしてきたんです。恐ろしい反応スピードでした……真正面からだと、バニラちゃんでも勝てるかどうか……」

「なるほど……それは確かに手強いですね……」

 

「……って、いやいや! 無理矢理フォロー入れようとしてません!?」

 

 

 


「ごめんね~、ご主人。負けちゃった☆」

「……」

「そんな怖い顔しないでさ~。ほら、御意見五両堪忍十両って言うじゃん?」

 

「……き、貴様は一週間おやつ抜きだ~~~!」

「いやぁぁぁぁ!」




アーティ、初登場なのに散々な結果に……
一応実力は本物のはずです。アホですが

この二人の敵が加わったことで、お話にもバリエーションが……! 増えればいいなぁ……

ここまで読んで頂き、ありがとうございました


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性なる日に

ちょっと早いですがクリスマス回です。
しかしこの世界、やたらとレズビアンが多いな……


 赤青黄色のイルミネーションが街を彩っている。今日は12月24日、クリスマス。性なる日……。

 

「ふぅ……やっぱり今日はカップルばかりですね……」

 浮わついた空気が苛立ちを誘う。右を見ても左を見ても恋人だらけ。腕を組んだり、頭を相手の肩に預けたり。ちくしょうめ……。

 

「しかしこちらにもソヨゴちゃんとハツユキソウちゃんがいますからね!」

 彼女達の冷たくなった頬に頬ずりをする。

「団長さん、恥ずかしいですよ……」

 

 

 

 毎年、クリスマスは騎士団でパーティーを開くのが恒例だったのですが……

 

「団長、今年はパーティー出られないッス」

「何なに? 何かあったんですか?」

「それはちょっと……ね?」

 ヤドリギちゃんがバニラちゃんにウィンクすると、彼女は笑顔を返してきた。

「え……そこでカップル成立したの!? マジ!?」

 

「あたしはゼンマイさん達の所に呼ばれてるから」

「私はウサギノオちゃん達と過ごすし」

 

 ……というわけで、我々三人は見事に余ってしまったというわけです。

「悲しいですねぇ……」

「そういうこと言わないで下さい……三人で楽しみましょうよ……」

 

 

 

「やっぱりクリスマスになると、イルミネーションが綺麗ですねぇ」

 ソヨゴちゃんの目もキラキラと光り出す。そんな彼女を見つめる私の眼光も、鋭く光り始めた。

 

「さて、それじゃあどこに行きますか、団長さん?」

「そうですねぇ……それじゃあまずはラブホから!」

「まだお昼ですよ! ……いや、夜になっても行く気はありませんけど!」

 ハツユキソウちゃんが袖をパタパタさせ、真っ赤になって抗議する。

 しかし私は知っているのだ。彼女が誰よりもエッチだということを。「ウィンターローズのHなウソ・ホント」なんて読んでるんだし、中々のむっつりスケベさんだろう。

 

「ラブホ……って何ですか?」

「ぎゃぁぁぁ! ソヨゴさんは聞いちゃダメです!」

「とっても楽しい所ですよ。三人で行きましょう」

「コラ、団長さん! コラぁ!」

 

 

 


 そんな三人の様子を、蚊型監視カメラで見ている者がいた。悪の科学者、カマボコ博士だ。

「チッ、今日はカップル共が蠢いておるわ。アクア達も何だかんだ楽しそうにしおって……」

 

「あれ~、ご主人。もしかしてカップルに嫉妬してるの? 自分が恋人居たことないからって」

 カマボコの作ったアンドロイド、アーティは八重歯を見せながらケラケラ笑った。

 

「だ、誰が嫉妬などするか! そもそも愚民どもの中に余と釣り合う者などおらんわ!」

「そんなこと言って~。ホントは彼女の一人二人欲しいくせに~」

「黙りゃ! ……ふん、だがバカップル共のエネルギーは利用させて貰うとしよう」

 カマボコが指をパチンと鳴らすと、研究室の中に巨大なクモ型のロボットが入ってきた。

 

「おぉっ! 今週のビックリドッキリメカ!」

「人造害虫セイヨークよ! 街中のカップルから性欲エネルギーを吸い取ってくるのだ!」

「セイヨーク!」

 

 

 


 ハツユキソウちゃんに猛反対されたので、まずは喫茶店で優雅なティータイムを満喫した。ラブホは夜になってからかな……。

 

「ここの喫茶店、味も雰囲気も凄く良かったです。覚えておかないと」

 店名をメモするソヨゴちゃんをにやにやしながら見つめていると、街中のある異変に気付いた。

 

「……あれ? こんなにガラガラでしたっけ?」

 喫茶店に入る前、街は若いカップルで賑わっていたはず。それはもう掃いて捨てる程に。

 それが今ではくたびれた中年くらいしか居なくなってしまった。

「まさか……皆さんもうお楽しみタイムですか?」

「まだお昼ですよ!」

「お楽しみタイム?」

 

 そんな時だった。

「セイヨーク!」

 建物の上の方から声が聞こえた。そちらを振り返って見ると、

「っ!? あれは……害虫?」

 

 そこに居たのは体長5m程のクモ型害虫?だった。しかし様子がおかしい。

 普通のクモ害虫ならば糸を吐くはずだが、この害虫は逆に何かを吸っている。そして、

「ふははは!」

 害虫の背中に乗ってバカ笑いをする少女が一人。

「カマボコ博士!」

 

「ふふ、これはアクア団長殿。クリスマスを満喫しているようで何よりだ」

「あなたこそ、素敵な恋人を連れているようですね」

「ふん、その減らず口もすぐ聞けなくなるぞ。人造害虫セイヨークの力で、クリスマスは悪夢に変わる!」

 

 カマボコ博士の黒いローブがはためく。

「見よ!」

 彼女が公園のベンチに座っている二人の女性を指差すと、害虫の視線は二人に注がれた。

 

「何をするつもりですか!?」

「見ておれ、今からあの恋人達の性欲を吸い取る!」

「セイヨーク!」

 

 性欲を……吸い取る!? そんなことが可能なのか。疑問に思いながらカップルを見つめる。

 

「それでさ~(あ~、ラブホ行きたい)」

「そうなんだ、あはは~(下らねぇ話はいいから、さっさとヤらせろよ)」

 楽しそうに話す二人の女の子。そんな彼女達の頭上に白い糸が現れ、害虫の口元に吸い取られていった。すると、

 

「あ~、何か冷めたわ……」

「あたしも。何であんたなんかとクリスマス過ごそうと思ったか分かんないわ」

 そして二人は別れていった。

 

 

 

「そ、そんな……あんなに楽しそうに話してたのに……」

「ふははは、見たか! 所詮恋人共など、性欲を吐き出すことしか考えていない、下賤な者共なのだ!」

「そんなことありません! 人間の愛は性欲だけではないはずです!」

(団長さんがそれを言うんだ……)

 

「ならばこの状況をどう説明する? 性欲を吸い取ったら誰も居なくなってしまったぞ?」

「ぐぅ……」

 信じたくない。人が性欲のみに動かされてるなんて。

 ……しかし、良く考えたら、性欲を吸い取られた人達は本当なら今頃ラブホでシッポリしてた人達なんだよね。

「何か……別に擁護しなくてもいい気がしてきた……」

 

「だ、団長さん! しっかりして下さい! もしこの人造害虫が動き続けたら、マズイことになりますよ!」

「察しがいいな、ハツユキソウよ。その通り。このセイヨークを量産すれば、春庭を滅亡させることも可能なのだ!」

 滅亡……性欲……まさか!

 

「全人類から性欲が失くなれば……人口が増えずに人類は滅亡する!?」

「そうだ! つまり春庭は余が掌握したようなもの!」

 そんな恐ろしい機械だなんて……性欲って侮れないな……。

 

 

 

「そんなことはさせません! はぁっ!」

 ハツユキソウちゃんの氷柱が害虫へ向かう。しかし、

「とぉっ! ご主人の邪魔はさせないよ!」

「アーティちゃん!」

 

 人造花騎士のアーティちゃんによって氷柱は弾かれた。

「良いぞアーティ! 勝ったらクリスマスケーキを食べさせてやるからな」

「やったー! ご主人大好き! 天才科学者、悪のカリスマ!」

「ふふ、そう褒めるでない」

 

 マズイ。害虫とアーティちゃん、両方を相手にするには戦力が足りない。

「くっ……」

 ハツユキソウちゃんもソヨゴちゃんも段々と押されている。

 

「アーティよ、花騎士を足止めしろ。その隙に奴らの性欲も吸い取ってやる」

「OK!」

 アーティちゃんと交戦していたソヨゴちゃんの頭上に白い糸が現れた。

「ソヨゴちゃん、避けてぇ!」

「もう遅いわ! セイヨーク!」

「セイヨーク!」

 

「性欲たったの5か……ゴミめ」

 ソヨゴちゃんから吸い取られた性欲を計測し、カマボコ博士はそう呟いた。何の数値なんだろう……。

 

「次いでにハツユキソウの性欲も奪ってやれ!」

「セイヨーク!」

「ぎゃあぁぁぁ! 止めて下さい~!」

 問答無用で吸い取られる性欲。そして……

「性欲……8000以上だと! ふふ、大人しそうな顔をして中々……」

「うぅ……」

 顔を真っ赤にするハツユキソウちゃん。

 許せない。女の子を辱しめるなんて(ちょっと興奮してきたけど)。

 

 

 

「セイヨーク! 次は私の性欲を吸ってみなさい!」

「セイヨーク!」

「ふふふ、遂に観念したか」

 

 私の頭上に白い糸が現れ、セイヨークに吸い取られていく。何か、意外とスッキリして気持ちいいかも……。

「流石アクアだ。性欲が簡単に1万を越えおった」

 

「……ん? 10万……20万……ま、まだ上がるだと……」

 次第にカマボコ博士の声色に余裕が無くなっていく。

 

「セイ……ヨーク」

「もう止めろセイヨーク! このままではオーバーヒートする!」

「セイ……ヨ……アァァァ!」

「セイヨーク!」

 断末魔をあげながら、セイヨークの身体は激しく爆発する。爆風によってカマボコ博士とアーティちゃんは吹き飛ばされた。

 

「私の無限の性欲を吸い取れると思いましたか?」

「くそ……覚えておれよ!」

 現れたジェット機に回収され、カマボコ博士たちは撤退していった。

 

「ふぅ……何とかクリスマスを守れましたね」

 

 

 


 その日、セイヨークが吸い取ろうとしたアクアの性欲の一部は、白い結晶となってウィンターローズ全土に降り注いだ。

 

「わぁっ! ママ、お外に白いものが降ってるよ!」

「あら、本当ね。雪とは少し違うけど、凄く綺麗……」

 うっとりと窓の外を見つめる母親。その脳裏に浮かんできたのは、若かりし日の自分の姿。

「思い出すわね……あなたを身籠った日のこと……今日と同じホワイトクリスマスだった。あの日ママとママは……」

 

 

 

「ね、ねぇ◯◯ちゃん。私、何だか身体がムズムズしてるんだけど……」

「うん、私もだよ。あの白いのに触ったからかな?」

「……ねぇ、この後私の家に来ない? 今日はママもママもいないから……」

 

 

 

「婆さんや、今日は何だか元気がみなぎっておるぞ」

「偶然じゃな、婆さんや。儂もじゃよ。……どうせだから、久々に……」

 

 

 

 その翌年、ウィンターローズは空前のベビーブームに見舞われたのは想像に難しくない。




アクア団長の性欲はブラックホール並。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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母、襲来

明けましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします

しかし新年早々変な回で申し訳ない……


「団長さ~ん、年賀状が届いてますよ」

 ソヨゴちゃんが長いおさげを揺らしながら駆け寄って来る。天使だ……新年から天使が舞い降りた……。

 

「はぁ……はぁ……ソヨゴちゃん……私と新年の羽根突き(意味深)しませんか……」

「駄目ですよ、今はお仕事中ですし……。というか団長さん、顔赤いですけど大丈夫ですか……?」

 

 

 

 気を取り直して、年賀状を読んでいくことにしましょう。しかし、それぞれ返事を書かなければいけないのが面倒です。どうせ同じような文面なんだから、毎年送ってこなくてもいいのに……。

 

「ふむふむ、これはオリビア大佐のですね。相変わらず文面が硬い……。こっちはヘチマちゃんで、こっちはスキラちゃん達からですね」

 何だかんだ、仲の良い人達の年賀状を微笑ましく見ていると、『ある人物』からのものを発見してしまった。

 

「これは……カマボコ博士!?」

 

『謹賀新年

旧年中はお世話になりました

今年こそ春庭を余の手中に収めてみせましょう

寒い日が続きますのでご自愛下さい

カマボコ』

 

「律儀ですね……」

 

 

 

「そう言えば団長さん、実家には帰らないんですか?」

「実家……実家はちょっと……母様と色々あって……」

 別に親が嫌いというわけではない。だからと言って帰りたくはない。特にソヨゴちゃんを連れて行くわけには……。

 

「ま、まぁ色々ありますよね……」

 ソヨゴちゃんに気を使われてしまった。

 しかし恋人同士なわけだし、いつかは母様達に紹介する時が来る。あんなケダモノ達に……。

 

 と、その時だった。

「ごめん下さ~い」

 

 

 


 突然空気が張り詰める。そこに居る人物に、私は目を疑った。

 

 そ、そんな……何故彼女がここに……

「母様!?」

「あら、アクア。久しぶりね」

 

 その一見清楚な着物姿も、優しく見える微笑みも忘れはしない。あれこそが私の母、人は彼女を『雪中の聖母(Angel In the Snow)』と呼ぶ。(本名は誰も知らない。家族ですらも)

 

 

 

「この人が団長さんのお母さんですか……?」

「そうです……」

「あ、あの……わたしソヨゴって言います。アクアさんの恋人で……」

「ソヨゴちゃん、あんまり近付いちゃダメぇっ!」

 母様にお辞儀をするソヨゴちゃんを無理矢理引き離した。

 

「ふぇっ!? だ、団長さん、どうしたんですか?」

「母様は危険です。彼女の手の届く場所に行ってしまうとセクハラされますよ」

「そ、そんな。優しそうな人じゃないですか」

「見た目に騙されちゃダメです。アレは天使の顔をした悪魔ですよ!」

 

 そう、その立ち姿は正に清楚誠実。そしてあの優しい笑顔、初見の人は必ず騙される。

 しかし彼女はその界隈では伝説と呼ばれた人物。一般人が近付いたら、下手すると命を落とす危険もある。

 

「あらあら、アクアったら、母をアレ呼ばわりはあんまりじゃない?」

「ひぃぃぃぃ!」

(団長さんがあっという間に後ろを取られた……!)

 

「馬鹿ねぇ。いくら私でも、娘の恋人を奪うような節操なしじゃないわよ」

「どうだか……貴方の経歴を知っていると、全く信用出来ませんね」

 ソヨゴちゃんを守るように抱き締める。この天使を悪魔の手に渡すわけにはいかない。

 

「団長さんのお母さんの経歴って何ですか?」

「彼女には妻が100人以上居ます。そしてその妻達に授けた娘の数は……最早測定不能です。500人は下らないと言われていますが……」

「え……? 本当に人間なんですか……?」

「まぁ、分類上は……」

 

 しかも今の話は飽くまで『判明しているだけで』の話だ。実際はその数倍……いや、数十倍ではないかと予測されている。

 中には実の娘や孫と交わるという、禁忌を犯したケースもあるとか。純真なソヨゴちゃんにそんな話は出来ないけれど。

 

 

 

「団長さんのお母さんって(色んな意味で)凄い人だったんですね……」

「まぁ、後付けの設定ですが……ちなみに私は35番目の妻の三女だそうです」

「いやねぇ、貴方のお母さんは37番目の妻よ」

「ひぃっ!」

 またもや背後を取られてしまった。何だこの人は……気配が全く無い……。

 

「貴方と似た、美しく可憐な女性だったわ。貴方と同じで、右のお尻にホクロがあるのよ」

「凄い記憶力ですね……」

「当然よ。だって愛した人ですもの。ちゃんと全員覚えているわよ。声も肌の質感も、『味』もね」

 優しい声色で発せられたそれらの言葉に、私は背筋が凍るような恐ろしさを覚えた。

 

 

 

「ところでアクア、結婚はまだなの? 子供は何人作る予定?」

「こ、子供って……」

 ソヨゴちゃんが顔を赤らめる。あ、子供の作り方は分かるんだ。

 

「今はまだお付き合いしてる段階です。口を挟まないで頂きたい」

「あら、随分と慎重ね。まぁ、アクアは姉妹の中では控えめだったし、仕方ないわね」

「控えめ……? 団長さんが……?」

「姉妹は皆あんな感じなんです……」

「うわぁ……」

 

 

 

「と、とにかくもう帰って下さい! ソヨゴちゃんに悪影響でしょうが!」

「あらあら釣れないわねぇ。反抗期かしら?」

 母の背中を押して、強引に扉の向こうへ押し出そうとする。しかしその時、

『緊急連絡、緊急連絡。市街地付近に害虫の目撃情報あり。花騎士は至急現場に向かって下さい』

 

「……と、出撃要請です。行きますよ、ソヨゴちゃん」

「はい!」

「私も付いていくわね。授業参観みたいで面白そう」

「来るな!」

 

 

 


 普通に付いてきてしまった……。

 しかしこの母、我々の全力疾走に余裕で付いてきたな。しかも歩いて。化け物じゃないだろうか。

「化け物とは失礼ね。この程度、縮地法を使えば簡単よ」

「当たり前のように地の文に返答しないで! それに縮地法って何ですか!?」

 

「簡単に言えば、自分が動くのではなくて空間を圧縮する感じね。これによって行きたい場所に瞬時に辿り着くことが出来るわ」

「あ~、はい。良く分からなくなりそうなのでスルーしますね」

 

 

 

「いいですか? 母様は大人しくしていて下さい。私の許可なく動かないように!」

「はいはい、分かってるわよ」

 

「よっこらセッ○ス。ほらアクア、頑張りなさい」

 下品な掛け声と共に、母様は椅子に腰掛けた。

 ……ん? 椅子……? 何故そんなものが外に?

 

「しかし座り心地の悪い椅子ね」

「お母さん、下! 下です!」

「下? ……あぁなるほど。やけに硬いと思ったら、害虫だったわけね」

「キシャァァァ!」

 

「団長さん、まずいですよ! 害虫がお母さんを襲おうとしてます!」

「まぁ大丈夫でしょう……」

 

「全く五月蝿い害虫ね」

 母様は立ち上がると……

「ふんっ!」

「ギェァァァ!?」

 害虫の脚を引っこ抜いてしまった。

 

「もぐもぐ……味は悪くないわね」

「害虫を……食べてる!?」

「もう何があっても驚きませんよ……」

 

 

 


 その後、討伐任務は何事もなく終了した。

 

「じゃあ、また来るわね」

「もう来ないで下さい!」

「ふふ、可愛い子ね。ソヨゴさんにもよろしく……って、よろしくするのは貴方か」

「下ネタ止めんか!」

 

 母を追い出し、力強く扉を閉めた。

「……ふぅ」

 波乱の年明けでしたが、これでやっと平和な日常が戻ってきました。

 

 私はあんなケダモノにはならない。母様を反面教師にして生きよう。そう誓って、ソヨゴちゃんとよろしくするために彼女の部屋へ向かうのでした。

 

「そう言えば、帰り際に何か渡されたな。これは……マムシドリンク!?」

 

 

 


≪余談≫

『ある学者の手記』

 

 私は今、ある人物を調べている。

雪中の聖母(Angel In the Snow)』。春庭を裏から動かしているハーレム女王。

 

 彼女の娘達は春庭各地に点在し、各国の重要な役職に就いている。最早春庭は彼女の一族が牛耳っていると言っても過言ではない、正に華麗なる一族。

 

 だがその出自は謎に包まれている。いつどこで生まれたのか、親が誰なのか、そして名前すらも誰も知らない。

 

 しかし近年出土した遺物、遺跡、また古代文献などを解読していて、私は『ある仮説』を立てた。

 

 

 

 現在の人間は女性同士での生殖が可能だが、そもそもこれは本来の人間という生物の機能では無い。春庭でも太古の昔には男性と女性で生殖を行っていたという記録が残っている。

 

 それなら何故、現代人は女性のみでの生殖が可能になったのか。ターニングポイントは一万年前とされている。

 

 一万年前、『始まりの女』が春庭に降り立った。彼女は選ばれし10人の女性に自らの子を宿した。その娘や娘の娘達には、女性を妊娠させる機能が生まれながら備わっていたという。

 そして、現代人の殆どは彼女達の血を受け継いでいる。だから女性同士の妊娠が可能なのだ。

 

 こういった神話や昔話が各地で残されている。飽くまで作り話だと思われていたが、近年の考古学者には『始まりの女』は実在していた、とする者も多い。

 遺跡や文献にそれらしき爪痕が多く残されているからだ。

 

 

 

 そして私は、その『始まりの女』こそ『雪中の聖母(Angel In the Snow)』なのではないかと考えている。

 

 聖母が世に認知され始めたのはおおよそ50年前。その間に彼女はハーレムを作り、その娘達を各国に散らばらせた。

 

 しかし、同じようなハーレム女王の話は数千年前から幾度となく存在している。しかもその全員が、聖母と酷似した容姿の特徴を持っている。

 

 実際、私の曾祖母が幼少期に、聖母と良く似た女性を(ここから何故か筆跡が変わっている)見たことはないらしいですよ。うふふ……。




何か壮大な話が始まりそうですが、作者の頭では無理(笑)
アクア母は何でもありなキャラとして書いています

ここまで読んで頂き、ありがとうございました


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二人のアクア

今回は初代トランスフォーマーの「二人のコンボイ」という話のパロディだったりします。パロディ元は滅茶苦茶面白いので機会があれば是非ご覧ください。


「喰らえ、ポッピンヴァニラ!」

「ガァァァ!」

 バニラちゃんの必殺技によって地面は抉れ、害虫は粉々に砕け散った。

「これにて任務終了!」

 

 今日はバニラちゃんとヤドリギちゃんを連れて、山岳地帯の討伐任務に赴いていた。しかしバニラちゃんが強過ぎたため、特に苦戦もなくあっさりと終わってしまった。

「二人とも、帰ったらケーキ奢りますからね」

「わぁい、ケーキ!」

 

 そうして帰り支度をしている時だった。

「……っ!?」

 何処からか放たれたレーザー光線が、バニラちゃんを襲おうとしていた。気付くと同時に身体は動いていた。

 

「ぎゃぁぁぁ!」

「団長さん!」

 痛い! 死ぬ程痛い! 骨の髄まで焼け焦がされるような痛さだ。しかし倒れるわけにはいかない。説明は省いていたけれど、足元は崖なのだ!

 

「お、落ちるわけには……落ちるわけには……」

 あっ、バニラちゃんパンツ見えてる。

「あぁぁぁ……!」

「団長さ~~~ん!」

 

 

 


 その様子を蚊型監視カメラを通して見ている者がいた。悪の科学者、カマボコ博士だ。

 その研究室のモニターには、

『うっ……痛た……』

 辛うじて生き長らえたアクアの姿があった。

 

「いいぞ、もっと色々な角度からアクアを映すのだ~!」

「真昼間から盗撮とか……いい趣味してるね、ご主人……」

 目をジトっと細め、ドン引きした様子のアーティが背後から話し掛けた。

 

「愚か者め! これは趣味ではなく、騎士団を壊滅させるための作戦なのだ!」

「作戦?」

「左様。こうして集めたアクアのデータを、製作ロボット『ツクールくん』に読み取らせることで……」

 

 チンッ、と電子レンジの用な音がして、ツクールくんが作ったソレがカマボコ博士達の前に現れた。

「お、お前はアクア団長!? どうしてここに!?」

「ふははは! 落ち着けアーティ。あれは偽のアクアだ」

「偽……? つまりあれはご主人の作ったロボットってこと?」

「そうだ。余の脳波を読み取り、自由に操作出来る」

 

 カマボコ博士が右手を上げると偽アクアも右手を上げ、ターンするとその動きに追従した。

「面白そ~。ご主人、あたいにもやらせて!」

「ダメだ! この偽アクアは騎士団に潜入させるのだ!」

 

「ふふ……見ていろ花騎士達。お前達がアクアを慕う心が仇となり、」

 そこまで言うと、カマボコ博士はポケットからマイクを取り出した。彼女がそれに向かって発声すると、偽アクアの口はそれに合わせて動く。

「『騎士団は内部から崩壊する』」

 

 

 


「だ、団長さん……ヤドリギさん、どうしましょう!?」

「落ち着くッス! この崖はそんなに深くないし、団長なら大丈夫ッスよ。救助に行くッス」

 

 

 

 二人が谷底へ辿り着くと、そこには……

「団長!」

「無事だったんですね! 良かったです~!」

 アクア?に抱きつく二人。しかしそれはカマボコ博士の仕向けた偽アクアだった!

 

「心配性ですね、二人とも。では帰りましょうか」

「はい!」

(……?)

 首を傾げるヤドリギ。

(団長……花騎士に抱き付かれたのに興奮しないなんて、珍しいッスね……)

 

 疑問を残しながらも、ヤドリギは二人と共に騎士団への帰路に就いた。

 その背後の崖に、一つの手が伸びてくる。

 

「はぁ……し、死ぬかと思った……」

 こちらは本物のアクアだった。傷だらけになりながらも、自力で這い上がってきたのだ。

 

「……あれ? ヤドリギちゃ~ん、バニラちゃ~ん、何処行ったんですか~~~!」

 取り残されたアクアの叫びが、山岳地帯に虚しく響いた。

 

 

 


「団長さん、お帰りなさい。ご無事で何よりです」

 副団長のソヨゴが白銀の髪をパタつかせながら駆け寄ってくる。

 

「無事じゃないんですよ~。あたしが油断した隙に敵の攻撃を受けちゃって……」

「大丈夫ですよ。私は何ともありません」

「大丈夫じゃないッス! 早く医務室に行くッスよ!」

「本当に大丈夫ですから……」

(こいつらしつこいな……ここは話題を変えるか)

 

「それよりハツユキソウちゃん、調べ物をしたいので資料室に案内してくれませんか?」

 その言葉に花騎士達は固まってしまった。何故なら、その場にハツユキソウは居なかったからだ。

 

「? どうしました、ハツユキソウちゃん?」

 その目線の先に居た少女、ソヨゴが恐る恐る口を開いた。

「あの……わたしですか?」

「あなた以外に誰がいるんですか?」

「でも……わたしはソヨゴで、ハツユキソウさんじゃないです……」

「」

 

 

 

≪その頃、カマボコ研究室では≫

「あぁっ! 何やってんだよご主人! 滅茶苦茶疑われてるじゃんか!」

「仕方ないだろう! 余は他人の名前を覚えるのが苦手なのだ!」

 

 

 

「ど、どうしたんですか団長さん……花騎士の名前を間違えるなんて……」

「え……いや、その……」

「いや、そもそもバニラさんに抱き付かれた時に全然興奮してなかったのもおかしいッス。団長、どうしちゃったんスか?」

「あ、頭を打ったからかも知れませんね……」

 と、その時だった。

 

「もう、ヤドリギちゃんもバニラちゃんも先に帰っちゃうなんて酷いですよ~~~!」

「!?」

 本物のアクアがプンプンと怒りながら帰還する。それによって花騎士達は騒然とし始めた。

 

「団長さんが二人……」

「え? 何ですかこれ……ドッキリ?」

「こいつは驚きました。まさか私の偽物が入り込むなんて」

 わざとらしく驚くのは偽アクア。カマボコ博士は演技を楽しみ始めていた。

 

「恐らくこれはカマボコ博士が私達を陥れるための罠でしょう。皆さん、殺っちゃって下さい!」

「ち、ちょっと待って下さい。どっちが本物だか分かるまで、慎重に行動しましょう。その間はわたしが指揮を取ります」

「ソヨゴちゃ~ん、リーダーシップが身に付いてきましたね。感心感心」

「ひゃぁっ! いきなり抱き締めないで下さい……」

 

(むっ……アクアはこういう場合、花騎士に抱き付くのか。よし、余も)

「ふぇ? ご主人、何いきなり抱き付いてんの?」

「あっ、すまん。間違えた」

 

 

 

「しかしどうやって本物を見分けましょう」

「う~ん……」

 花騎士達が首を傾けて悩んでいると、

「あれ……団長が二人いるし。夢だし?」

「ツキトジさん! 夢じゃないんですよ。実は……」

 

「……なるほどだし。それじゃあ私が見分けてみるし。むむぅ……」

(ツキトジの超感覚か。厄介だが、余が対策していないとでも思ったか?)

「……分かったし。どっちも団長だし」

「えぇ~~~!?」

 

(ふふ、予めジャミングを掛けておいたのだ。例えツキトジであっても、偽アクアを本物と誤認してしまうだろう)

 

「ど、どうすればいいんでしょう……」

 その時、執務室の扉が勢い良く開かれた。

「話は聞かせて貰ったわ!」

「ガンライコウさん!」

 

「どちらが本物の団長さんか分からないなら……戦って決めればいいわ! 本物のアクアを決める『アクア・バトル』で!」

「っ!? その手がありましたか!」

「えぇ……」

 ガンライコウは連日徹夜続きで、謎のテンションになっているのだった。

 

 

 


「ルールは簡単。射出されるターゲットを槍で何個突き落とせるかを競うわ。槍の名手、団長さんなら簡単でしょ?」

「「勿論です」」

 

「では始めるわよ。位置について」

「お先にどうぞ」

 本物アクアが偽アクアに順番を譲った。

 

「ふっ……はぁっ!」

「凄い! 全部突き落とした!」

(ふふ、アクアの身体能力もコピーしているのだから容易い)

 

「あのくらいなら私だって! たりゃぁ!」

「こっちの団長さんも凄いですよ! これはどっちが本物か、益々分からなくなりました!」

 

 その時、冷たい山風が花騎士達の間を通り抜けた。そしてそれは彼女達のスカートを捲り……

「ぶっ!」

「あれ……? この団長さんは一つ打ち漏らしましたね」

「しまった……」

 

 

 

「結果……100対99でアクア団長さんの勝ちね」

「ふふ、当然の結果です」

「くっ、アクアに負けた! ……って、やってる場合じゃないです!」

 

「ソヨゴちゃん、皆~……私が本物なんですよぉ……」

 すがりつくように花騎士達の袖を掴むアクア。

「でも勝負に負けましたし……ん?」

 そこで花騎士達は何かに気付いた。

((((何で勝負に勝った方が本物ってことになったんだろ……))))

 

 

 


「ふふふ……動揺しておるな、花騎士ども。あと一押しで完全に堕ちるだろう」

「何か作戦があるの?」

「うむ。それは……偽のアクアが余の手下を倒すことだ!」

「なるほど! 確かにご主人の作ったロボットを倒せば、皆信用しそうだね!」

「そうだろ、そうだろう。ところでアーティ、倒させるロボットはどんなものがいいと思う?」

「そりゃあ小物より大物だよね」

「同感だ」

 

「そうなれば適任は一人しかいないな。アーティ、お前だ」

「あたい!? じ、冗談だよね、ご主人……?」

「ふふふ……」

「何その不敵な笑み!? あたいの何が気に入らないの? ご主人のへそくりを勝手に使ったこと? それともロボットを勝手に弄って壊したこと?」

「全部貴様の仕業だったのか!?」

「ひぇぇぇ! 死にたくない~!」

 

 翼を展開し飛んで逃げようとするアーティ。しかし、

「ぎぇっ!」

 天井から巨大なハエ叩きが出現し、彼女を叩き落した。

「二度も天井を壊されてたまるか!」

 

 

 

「話は最後まで聞け! 余の作戦は、『ツクールくん』で複製した偽のアーティを偽アクアに倒させるというものだ!」

「偽の……な~んだ! そりゃあそうだよね~。ご主人の最高傑作であるあたいを見捨てるはずないもんね~」

(ホントに破壊したろか、こいつ……)

 

 トンテンカンと数分間音がして、

「出来たぞ、偽アーティだ」

「凄い美少女が現れたと思ったらあたいだった」

「馬鹿なこと言ってないで早く行け!」

「「はぁ~い。それじゃ行ってきま~す」」

 

 

 


「これで振り出しに戻りましたね……」

(勝負の意味って……)

 その時、上空からジェット音が鳴り響き、一人の少女が降り立った。

 

「アーティちゃん!」

「おりゃおりゃぁ! 今日が花騎士達の最期だ~!」

「くっ!」

 アーティの放つガトリングとレーザーの一斉照射に、花騎士達は抵抗すら困難だった。

 

「やはり罠だったようね。あたし達をここにおびき寄せるための」

「皆、物陰に隠れて下さい! なるべく散らばって!」

 隠れる本物アクアに対し、偽物は……

「あっ、あっちの団長は向かって行ったし!」

 

「アクア団長か、面白い! 一対一の勝負だ!」

「望むところです! とりゃあぁぁぁ!」

 

 ぶつかり合う二人。その凄まじいエネルギーに、花騎士や本物アクアも気圧されていく。と、その時だった。

「皆さん、何やってるんですか! 任務から帰ってきたら誰もいなくて、心配しましたよ!」

「ハツユキソウさん……そう言えば今回出番ありませんでしたね……」

 

「ハツユキソウちゃん、危ない! 今もう一人の私とアーティちゃんが戦ってて……」

「えっ? 何で団長さんが二人……ぐぅっ!」

「ハツユキソウちゃん!」

 

 流れ弾に当たったハツユキソウに、本物アクアは駆け寄っていく。凄まじい弾幕の中を。

「団長! 危ないッス!」

「花騎士を見捨てるわけにはいきません!」

 

 そこで花騎士達は気付いた。アクアをアクアと定義するもの。それは強さではなく、花騎士を思いやる優しさに違いない。

 そして二人のアクアを見比べてみる。片方はハツユキソウの被弾に気付きながらも戦いを止める気配がない。

「なるほど……やっと分かりました……」

 

 

 

≪カマボコ研究室≫

「ふっ、はっ! 中々やるな、アーティ!」

「ご主人もね。とぉっ!」

 脳波で分身体を操る二人は、端からみるとテレビゲームで遊ぶ姉妹のようにも見えた。

 

「だがそろそろ終わらせなければ。アーティよ、覚悟ぉ!」

 

 

 

「ぎゃあぁぁぁ!」

 槍で心臓部を貫かれ、偽アーティの身体は大爆発を起こした。

 

「よし! アーティちゃんを倒しましたよ、皆!」

 しかし花騎士達は特に反応することもなく、偽アクアにジリジリと近寄った。手に武器を構えて。

 

「あ、あれ……皆どうしたんです? 大手柄ですよ、私」

「お黙りなさい! 団長さんは仲間を見捨てるような人じゃないんですよ、この偽物め!」

 

「ちょっ……まっ……待たんか!」

「問答無用! とぁぁぁ!」

 

 

 

 花騎士達にリンチされる偽アクアを見て、本物アクアは軽く引いていた。

(流石に同じ顔の人間が惨殺されるのは後味悪いですね……あと、花騎士達皆、やけに気合い入ってない?)

 

「オラぁ! 普段のセクハラの恨みだし!」

「死ぬがいいッス!」

「ぐぁっ……それ、余に関係な……がぁぁ!」

(……)

 

「ぎゃぁぁぁ!」

 断末魔をあげて偽アクアの身体は爆発した。

「団長さん、片付いたわ」

「あ、はい……お疲れ様です……」

 釈然としない思いを抱えながら、アクアは帰路に就くのだった。




花騎士達……色々溜まってるんだろうなぁ……。
セクハラが無い分、カマボコ博士側の方がホワイトなんじゃ……

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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命を懸けた戦い(人気投票)

いや~、今年も人気投票の時期が近付いてきましたね。
他の団長さん程ガチではありませんが、私もソヨゴちゃんのために頑張りますよ。

というわけで、今回はソヨゴちゃん入賞のために奔走するアクア団長達のお話です。


「南無妙法蓮華経……南無妙法蓮華経……」

 岩を叩き壊すような勢いで、私の頭上に激流が打ち付けられる。しかし精神を集中させれば痛みも冷たさも感じなくなる。滝行を始めたころは毎回死にそうになっていたのが嘘のようだ。

 

「……そこまで。アクア団長、良い顔になりましたね」

「お師匠様……恐悦至極に存じます」

 滝から上がり、白装束からいつもの騎士団制服に着替える。

 透き通るような心地好さを感じる。滝行は私の精神と肉体を至高の状態まで高めてくれた。

 

「あなたは最初は煩悩の塊のような人でしたが、ここで修行をして煩悩が消え去ったようですね」

「はい……」

 

 これから戦争が始まるのだ。人気投票という名の戦争が。ソヨゴちゃんを入賞させるため、私はこのお寺で修行をすることにした。

 修行は想像を絶する厳しさだった。何度も脱走しようと思った。それでも私は最後までやり遂げた。全ては愛する妻のため……。

 

「人気投票?頑張って下さいね。応援していますよ」

「ありがとうございます。死力を尽くして参ります」

 

 辛く厳しい修行によって、精神も肉体も極限まで高められたのだ。他の団長に負ける気がしない。

 そしてソヨゴちゃんの新衣装を……動く寝室を……むふ、むふふ……。

 

 

 


 数週間後、いよいよ人気投票が始まった。

「アクア騎士団、行きますよ! 全てはソヨゴちゃんのために。ワン・フォア・ソヨゴ、オール・フォア・ソヨゴ!」

「行くッスよ、うちの副団長を入賞させるッス!」

「皆さん……ありがとうございます!」

「ソヨゴさんにも入賞の喜びを知って貰いたいですからねぇ。入賞は良いですよ~」

(ハツユキソウちゃん、いつになくドヤ顔……)

 

 

 

 人気投票のルールはとてもシンプル。害虫を討伐するごとに投票券を貰え、それでお気に入りの花騎士に投票出来るのだ。(それじゃあ単純な人気は測れないだろう、というツッコミは無しで)

 中には複数の花騎士に分けて投票する人もいるけれど、私は嫁に全ぶっぱと決めている。何たって入賞報酬は別衣装だ。動く寝室だ。命を懸けてでも手に入れたい!

 

「死にさらせぇぇぇ!」

「グワァァァ!!」

 害虫達が木っ端微塵に吹き飛んでいく。人々の生活を脅かす邪悪な存在、生かしてはおけない。ついでに投票券も頂く。

 

「数km先に害虫の群れがあるし!」

「よし! 皆殺しにしましょう!」

 

 既に千体以上の害虫を滅した。恐らくかなり上位のペースだろう。だからと言って油断は出来ない。どの騎士団長も自分の推しのため、死に物狂いで戦っているはずだ。

「おらぁぉ!」

「ギャァァァ!」

「タスケテェェェ!」

 

「向こうにも巣があるし! しかもかなり大規模の!」

「よし! ガンライコウちゃん、ダークデス砲用意!」

「了解したわ!」

 

 ガンライコウちゃんの用意した大砲にエネルギーが充填されていく。

 ダークデス砲。単純な殺傷能力は普通の兵器に劣るけれど、その最大の特徴は「生態系自体を腐らせる力」だ。その個体だけではなく住処すら腐らせ、二度とその場所に巣を作れないようにする、最大最凶の兵器。

 

「害虫達が炙り出されてきたわ!」

「うわぁ……あの数はちょっと気持ち悪いですねぇ……」

 数百体といったところか。

 恐らく各騎士団に追い込まれた害虫の残党が溜まっていたのだろう。

 

「皆さん、ここは私が先陣を切ります!」

「団長さん、流石に一人じゃ無茶ですよ」

「大丈夫……今こそ修行の成果を見せる時!」

 修行によって精神を自在にコントロールすることが出来るようになった。今の私なら『アレ』を使えるはず……。

 

「ふぅ……ふぅぅ……!」

 全神経を集中し、心拍数を急上昇させる。血管がビキビキと音を立てて浮き上がってくる。

 

「だ、団長さんの身体の周りに黒いオーラが!?」

「あれは……まさか!」

「ガンライコウさん、知ってるんですか?」

「えぇ……あれは恐らく第八の意識『阿頼耶識』!」

「あらやしき?」

 

「人間には七つの表層意識がある。眼識・耳識・鼻識・舌識・身識・意識・末那識。その奥にある深層意識が、あの阿頼耶識よ」

 

「はぁっ!」

「ぶ、分身したし!」

 

「グワァァァ!!」

「凄いっ! 一瞬で十体以上の害虫が吹き飛んだ!」

「団長さんは今、無意識下で攻撃を行っている……」

 

 

 

「問答無用!」

 逃げ惑う害虫を、分身体で包囲しながら攻撃を加えていく。一匹も逃しはしない。

 

「十体の分身が全て別々の動きをしてる!?」

「同時に複数の攻撃パターンを……あれが阿頼耶識……!?」

「そ、そんなの人間業じゃないッス! 無茶苦茶ッスよ!」

「普段のイメージのせいで忘れがちだけど、団長さんは戦闘の天才よ。生まれ持ったしなやかで強靭な肉体、奇想天外な発想力、そしてここ一番での集中力……それらは花騎士すら凌駕する」

「そんな天才だからこそ、無意識でもあらゆる攻撃を行えるんですね」

 

 

 


≪その頃、害虫陣営は≫

「くそ……花騎士どもめ、仲間を大勢殺しやがって……」

 巣を破壊された者達が、薄暗い洞窟の中に身を隠していた。

「何でも俺達を殺した数で競ってるらしい」

「狂ってやがる……」

 

「おいっ、大変だ! 防衛線が突破された! 花騎士達がこっちに来る!」

 その一報に、害虫達は騒然とし始めた。逃亡の準備をする者、不安に絶望する者、発狂する者。最早抵抗の意思を見せる者はいなかった。一体を除いて。

 

「や、やってやる……害虫の意地ってやつを見せてやる!」

 若い蜘蛛型の害虫だった。家族や仲間を殺された激しい怒りは、彼に死の恐怖すら忘れさせた。そう、この時だけは……。

 

「どこだ、花騎士! 俺が相手になってやる!」

 複眼に映った一人の女性。それを見た害虫は、戦いを挑んだことを心の底から後悔した。

 

「投票券は貰います……」

「うぁ……あぁ……」

 それは人の形をした殺戮兵器。自分の上位捕食者。

 害虫は蛇に睨まれた蛙のように、抵抗どころか逃げる意思すらも喪失してしまった。

(駄目だ……殺される……)

 

「ぎゃぁぁぁ!」

 断末魔がウィンターローズの地にこだまする。次の瞬間、害虫の身体は四方八方に飛び散っていった。

 

 

 


「はぁ……はぁ……」

「だ、団長さん……大丈夫ですか?」

 正直全く大丈夫じゃない。

 阿頼耶識は体力も精神力も根こそぎ奪っていく禁断の技。人間の限界を超えた動きのせいか、既に血管が何本か破裂し、血が吹き出し始めている。

 このままでは再起不能になる可能性もある。それでも……。

 

「私はこの戦いに命を懸ける!」

「団長さん……」

 ソヨゴちゃんの頬に涙が伝う。そうだ、私はこの子を入賞させなければならない。彼女の動く寝室を見るまで、立ち止まるわけにはいかない!

 

 

 

「団長さん、他の騎士団長さん達の中間結果が届きました!」

 ハツユキソウちゃんが持って来た一枚の紙に目を通す。

「……なるほど」

 喜びも悲しみも必要ない。そこには事実があるだけだ。そして私は後半戦も命を懸けて戦う、それだけだ。

 

「皆さん、団長さんを援護します!」

「害虫を蹴散らすわよ!」

 

「行きますよ皆、私達の戦いはこれからです!」

 

 各団長の命懸けの戦いはまだ始まったばかりだ。その結末は……あなた自身の目で確かめて欲しい!




皆さんは命は懸けないで下さいね。飽くまで自分の出来る範囲内で頑張りましょう。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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真夏の海のナンパ対決

今回はバナナオーシャンでのお話
季節感が現実と真逆で申し訳ない……


 夏だ、海だ、水着ギャルだ!

 というわけで、長期休暇を使用して我々は常夏の国、バナナオーシャンへやって来た。ウィンターローズとは真逆の気候に最初は戸惑ったけれど、このカラっとした暑さは中々好きだ。

 それに何より、そこら辺の女の子が皆半裸で歩いている。これは本当に最高だ!

 

「はぁ……はぁ……あっちのロリっ子も、こっちの少女も良いですね……。むっはー!」

「だ、団長さん、鼻血出てますよ」

「はっ! いかんいかん……」

 この調子では身体が持たない。干からびてミイラになってしまう。どこかに逃げなければ……。

 

「団長、もうすぐ海に着くッスよ」

「海っ!? ひゃっほぉぉぉい!!」

 こんなに幸せなら、干からびてしまってもいいか。そう思う今日この頃だった。

 

 

 

「ふふ……ビックウェーブが私を待っている!」

「……ハツユキソウさん、何してるんですか?」

「わぁっ!? ソヨゴさん、それに皆さんも!」

 

 地元民のハツユキソウちゃんは先に着いて準備をしてくれていたようだけど……

「ハツユキソウちゃん、何ですかその格好は?」

 サーフボードにサングラス、そして何故かサンタ服。どう考えても季節感がおかしい。

 

「冬と夏の融合ですよ。最近流行りなんです」

「そう……なんですね」

 ハツユキソウちゃんが言うのなら、そういうことにしておこう。

 

「でもハツユキソウちゃんはサーフィン出来るんですね。何だか意外です」

「勿論です。何たってバナナっ子ですからね!」

 江戸っ子的なニュアンスなのかな?

 

「それに、サーフィンが上手ければ女の子からキャーキャー言われますよ」

「何ですと!? ハツユキソウちゃん、私にサーフィンを教えて下さい!」

 わいわいと真夏の海を満喫している、その時だった。

 

「むっ……!」

「あっ……」

 明らかにその場に不釣り合いな恰好の二人がいた。一人は黒いローブ、もう一人はロリータファッション。小柄なのにめっちゃ目立っとる……。

 

「カマボコ博士!?」

「アクア! 何故こんな所に……」

「それはこっちのセリフですよ。せっかくバカンスを楽しんでいる時に……」

「バカンスだと! 奇遇だな、余もバカンスなのだ。世界征服は体力を使うからなぁ。しかし休暇中であっても相手が貴様とあらば関係ない。今ここで決着を「ご主人、アクア団長もういなくなってるよ」

 砂浜の上に南風が一筋通り過ぎた。

 

 

 


「ふぅ……休みの日まで彼女達に構っていられませんよ……」

「コラァ! スルーするでない!」

「げっ……!?」

 砂埃を巻き上げながら、アーティちゃん達が滑空して接近してきた。観光客の目が痛い……知り合いだと思われたくない……。

 

「いや、ホント……今日はプライベートなのでお互い関わらないようにしません?」

「ダメだ! 貴様と余は永遠の宿敵、そこに休暇など存在しない。アーティ、やってしまえ!」

 こちらも迎撃体勢を取ったが、攻撃が始まることはなかった。

 

「むっ、どうしたアーティ? ……んんっ!?」

「ねぇねぇそこの彼女~、あたいとお茶しない~?」

 カマボコ博士が見たもの、それは水着ギャルをナンパするアーティちゃんの姿だった。

 

「何やっとるかぁ~!」

「だってぇ~……折角海に来たんだし、水着ギャルと遊ばないと勿体無くない?」

「この愚か者めが~!」

 

「……何か揉めてるみたいだし、今の内に逃げましょうか」

 花騎士達に耳打ちし、抜き足差し足でその場を後にしようとする。しかし、

「待てぃ!」

「ひゃんっ!?」

 逃げようとした我々の足元に銃弾が撃ち込まれた。

 

「むぅ~……余はお前達を倒したい、アーティは遊びたい……ならば仕方ない」

 カマボコちゃんが黒いローブを脱ぎ捨てると、ピンク色のワンピース水着が露になった。

「ここは間を取って、ナンパ対決を行うぞ!」

「はぁぁ~!?」

 

 やたらとドヤ顔のカマボコ博士。ギャグだと思ったら大真面目に言っているらしい。

「いやいや、何故そこで間を取るんですか!?」

「この大胆で柔軟な発想こそ、余を天才たらしめる所以なのだ」

 

 

 

「いや、だからと言って何故ナンパ対決なんて……」

「え~、何々~? アクア団長逃げるの~?」

 アーティちゃんが口元に手を当てて、流し目で私を見つめてくる。

 うん? 逃げる? 誰が……?

 

「そう煽るでない、アーティ。誰だって負けると分かっている戦はしたくないのだ。特に騎士団長などと偉そうに名乗っているお方だ、プライドだけは一人前だろうからな」

「ふふふ……それで挑発してるつもりですか?」

 だとすれば甘すぎる。私は花騎士を束ねる騎士団長。この程度のことがスルー出来なくてどうする。

 

「ふぅ~……ふぅ~……!」

「だ、団長! あんな安い挑発に乗っちゃダメッス!」

「の、乗ってませんけど? 全然平気ですけど!?」

(駄目そう……)

 

「それに女性経験も少なそうだしな。ナンパなんて夢のまた夢だろう」

 その言葉に何かがプッツンと切れるのを感じた。

「誰が童貞だ! やってやろうじゃないですか、ナンパ対決!」

 

(そこまでは言ってないのだが……)

(というか、女性経験はご主人も他人のこと言えないんじゃ……)

 

 

 


 そんなこんなで、真夏のビーチを舞台に、騎士団とカマボコ博士のナンパ対決が始まった。

「ルールは簡単。両陣営が連れてこられた女共の人数を競う」

「でもこっちは七人、そちらは二人ですよ。大丈夫ですか?」

 私の発言にカマボコ博士は高らかに笑い始めた。

 

「まさか対戦相手を気遣うとは。童貞女の癖に随分と余裕だな?」

「童貞じゃねぇし! フェアな勝負じゃないと、後々いちゃもんが付くかもと思っただけです」

 

「その点は問題ない。余のチームには最強の助っ人がいるのだから」

「助っ人?」

「出でよ、ナンパロボット『アバンチュール』よ!」

「ナンパロボット……アバンチュール!?」

 何だそのネーミング。というか、ナンパロボットって何だ……何の目的で造ったんだ……。

 

「って、来ないですね……」

「まったく何をやって……ん?」

 カマボコ博士の目線を追っていくと、そこには背の高く日焼けしたブロンドガールが女の子三人組に声を掛けていた。

 

「オジョウサンタチ、ワタシトアソビマセンカ?」

「おぉっ! 既にナンパしているとは、気の早い奴だ。というわけで、ナンパ対決スタート!」

「えぇ……」

 

 

 

「皆さ~ん、ヤドリギのケーキッスよ~!」

「物で釣るのはありですか……?」

「勝てばいいんスよ、勝てば。女の子は皆甘い物が好きだし、これは勝ったも同然ッス」

 

 しかし寄ってくる女の子はほとんどいなかった。

「海に来てまでケーキっ気分じゃないんだよね~」

「ね~」

「」

 

 ヤドリギちゃん、戦意喪失。

 

 

 

「ふっふっふ~♪」

 いつの間にかバニラちゃんが鼻歌交じりにハーレムを築いていた。

 

「バニラちゃんは好調みたいですね」

「えぇ。ヤドリギさんの仇は討ちましたよ」

 

「……うん? 何だこの匂い……身体が熱く……」

「あぁ、それはバニラちゃん特性の香水ですね。嗅ぐと快楽物質が頭の中を満たして、この世のものとは思えない極上の幸福感を味わえるんです」

「大丈夫なの、それ!?」

 

 バニラちゃん、失格。

 

 

 

「ん~……むにゃ……」

「なるほど、この機械の構造は……」

「ガンライコウちゃんとツキトジちゃんはもっとやる気出して!」

 

「……ふぅ」

 背後からため息が聞こえてきた。振り返るとそこには……

「皆動きが悪過ぎますよ」

「は、ハツユキソウちゃん……って、何でそんな偉そうなんですか?」

 

「見ていて下さい。王者のナンパ術を見せてあげますよ」

「聞いてねぇな?」

 私の言葉は無視し、大きなお尻を振りながら女の子の群れへ歩いていくハツユキソウちゃん。

(今日はやたらと調子に乗ってますね……地元だからか?)

 

「Hey お嬢さん達! 私と危険な火遊びを楽しみませんか!」

 しかし女の子達は誰一人振り返ることはなかった。そりゃあ、海でサンタ服なんて着てるイカれた女の子だし当然か。

 

「Hey! Hey!」

 そんな彼女の肩をポンと叩く。

「もう止めましょう、ハツユキソウちゃん。心折れてますよ」

「」

 

 

 

「み、皆さん脱落してしまいました……どうしましょう、団長さん」

 瞳をうるうるさせて、上目遣いでこちらを見つめてくるソヨゴちゃん。

 可愛い。このままソヨゴちゃんだけを奪い去りたい程に。

 

「二人だけでどうにかするしかありませんね。ま、ソヨゴちゃんの可愛さがあれば、ビーチ中の女の子は虜になっちゃうと思いますが」

「そんなこと……」

 と、その時だった。

「Hey、そこのAngel。あたしと遊ばな~い?」

 

 声を掛けてきたのは明らかに遊んでいそうな金髪女性だった。

「え、エンジェルって……」

「ふふ、そうやって照れた顔も素敵だよ。どうだい? このままあたしとひと夏の恋をがぁぁぁ!!」

「っ!?」

 

「殺”じでやる……!」

「団長さん! 一般の人相手に本気出しちゃダメです!」

 

 

 


「はっはっはっ! やはり貴様らなど相手にならんなぁ!」

「クチホドニモアリマセンデシタネ」

「くぅ~……」

 カマボコ博士側には既に女の子がわらわらと群がっていた。

 強い。アーティちゃんもナンパロボットも圧倒的にモテ過ぎる。

 

「……まだです」

「む?」

「カマボコ博士、あなたは一人もナンパしてないじゃないですか。ご主人として恥ずかしくないんですか?」

「ふふ……何を言うかと思えば。アーティもアバンチュールも余が造ったもの。つまり余の成果も同然なのだ!」

 

「どうですかね~。もしかして女の子を扱う自信が無いんじゃないですか?」

「何だと!?」

 よし、上手く乗っかってきた。

 

「ご主人、抑えて抑えて……」

 どーどーとご主人をなだめるアーティちゃん。しかしカマボコ博士の鼻息は確実に荒くなっている。

「ドウテイドウシノアラソイハミニクイデスヨ」

「っ~~~! ならばやってやる! アクアよ、一対一の大将戦をやるぞ!」

 測らずも勝負に漕ぎ着けた。この勝負に勝てれば一発逆転、今までの負けは帳消しになる。

 

 

 

「今回は早い者勝ちだ。先に女を連れてきた方の勝ちとする」

「いいでしょう」

 

 スタートと同時に走り出すが、二人がナンパしまくったせいか、フリーの女の子の姿があまり見えない。

「くっ……女の子がいないんじゃどうしようも……」

「ふん、だから貴様は凡人なのだ。見ておれ、天才の発想力を」

 

 カマボコ博士が自信満々に向かっていった先、そこには……

「いやいや、カップルはダメですよ!」

 そんなことは関係ないとばかりに、カマボコ博士は片方の女の子の手を引き、

「この女は貰っていくぞ」

「Noooo!」

 無理矢理連れ去ろうとしていた。

 

「待ちな。あたしの女に何しようってんだい?」

(良く見たら片割れは滅茶苦茶ガラが悪いですね……タトゥーとか入ってるし)

 そして懐から何か黒い物を取り出した。あれはまさか……

「拳銃!? カマボコちゃん、逃げて! マフィアですよ!」

 

 しかしカマボコ博士は余裕にも見える笑みを浮かべる。

「やれるものならやってみよ」

「な、なに~! このガキがぁ!」

 乾いた音と火薬の匂い。撃ち放たれた銃弾は一直線にカマボコ博士に……届かなかった。

 

「ふん、この水着には自動防衛システムが組み込まれているのだ。余を殺したければミサイルでも持ってこい!」

「「「姉御~、どうしたんですか~!?」」」

「って、仲間がいっぱい来ちゃいましたよ!」

 

「面白い。余の支配する世界に貴様らなど必要ない。今ここで叩き潰してくれるわ! 行くぞ、アーティ、アバンチュール!」

「よっしゃー! 暴れるぞー!」

「カワイイコイガイハミナゴロシニシテヤリマス」

 

 

 

「……」

 カマボコ博士達は去っていった。まるで嵐のように。

「何だったんだ全く……」

 

 翌日、バナナオーシャンを拠点とするマフィアが壊滅したというニュースが駆け巡ったのは言うまでもない。




ナンパロボットって何だよ……
多分今後も出番はないと思います(笑)

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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ソヨゴちゃんの一日

資源が切れたのでSSを書き始めてしまいました。
しかしやはり100位の壁は厚い……


 静まり返った執務室。私とソヨゴちゃんが見つめ合っている。その穏やかな空気を私の一言が切り裂いた。

 

「……どうしてソヨゴちゃんが100位以内に入ってないんじゃぁ~~~!」

「ひゃぁっ!? ど、どうしたんですか団長さん?」

「失礼……ちょっと鬱憤が溜まってしまって……」

 

 人気投票途中経過。そこで私は信じられぬものを見た。100位以内の花騎士の名前が連ねられるのだけれど、そこにソヨゴちゃんの名前が無かったのだ。

 

「仕方ないですよ。花騎士さんは素敵な人が多いですし、お尻もお胸も小さいわたしじゃ……」

「そんなことない!」

「ひゃぅ!?」

「あっ、すみません……」

 今日はやたらとソヨゴちゃんを驚かせてしまっているな。反省しなければ。

 

「いいですか、ソヨゴちゃん。貴方はそのままでいいんです。その小さな身体こそが最も完成されたフォルムなのです」

「……?」

「自分で分からないのなら、私がソヨゴちゃんのPRをしてあげましょう。題して『ソヨゴちゃん入賞大作戦』!」

 

 

 


 ソヨゴちゃんの朝は早い。

「ん~、気持ちいい朝です」

 しんしんと冷えきった空気の中、ソヨゴちゃんはその小さな腕を目一杯広げた。可愛い。

 

「あっ、鳥さんおはようございます」

 鳥に挨拶をするソヨゴちゃん。可愛い。

 

「あ、あの……団長さん……」

 困惑するソヨゴちゃん。可愛い。

「えっと……あまり解説されると恥ずかしいです……」

「恥ずかしがってるの可愛い。もう全部が可愛い!」

 

 

 

「皆さん、ここは部隊を二つに分けましょう。ハツユキソウさん達は後方支援をお願いします」

 戦闘で指揮を取るソヨゴちゃん。最近は副団長としてリーダーシップも身に付いてきた。

 キリッとした彼女も可愛い。そして美しい。

 

「むへへ……」

「団長さん、危ないっ!」

 ハツユキソウちゃんの声が聞こえてきたけれど、時既に遅しだった。

 

「ぎゃっ!?」

「団長さんに流れ弾が!」

「団長さ~~~ん!」

 

「ふ、不覚……」

 頭から血が噴き出し、視界がぼやけ始める。

(軽い貧血みたいですね……しばらく休めば回復しそうですが)

 自分の頑丈さを再確認しながらも、私は大袈裟に倒れ込んだ。そして予想通り、ソヨゴちゃんが駆け寄ってくる。

 

「大丈夫ですか!?」

 本気で心配してくれるソヨゴちゃん。優しい。この優しさもソヨゴちゃんの魅力の一つなのだ。

「うぅ……ダメかも……ソヨゴちゃん、人工呼吸して……」

 唇を尖らせる。ソヨゴちゃんの柔らかい唇がもうすぐここに……。

 

「よし、分かったわ」

「え……ガンライコウちゃん……」

「この心臓マッサージ用カラクリ、『悪魔のように エグく ドッカーン』(略称:AED)を使いましょう」

「何その無理やりな名前!? ちょっと待「スイッチ・オン」

「ぎゃぁぁぁ!」

 

「どう? 蘇生した?」

「一瞬あの世が見えましたが……」

 

 

 

「団長さん、今日はどうしてわたしに張り付いてるんですか?」

「人気投票期間ですからねぇ。ソヨゴちゃんの可愛さをアピールしなければ」

「それはありがとうございます……でも……」

 

「トイレには付いてこないで下さい!」

 必死にドアを閉めようとするソヨゴちゃん。だがこちらも負けるわけにはいかない。

「嫌です! ソヨゴちゃんのお花摘み見せて! 何なら手伝いますから!」

「手伝わなくていいですから! いやぁぁぁ!」

 

「くっ……ソヨゴちゃん力強……流石花騎士ですね……しかし!」

 全身の筋肉が音を立てて暴れ始める。血管がピキピキと浮き出ていく。これが修行で身に付けた力、阿頼耶識。人間の限界を超えた力を発揮出来るのだ。

「ぬぉぉぉぉ!」

「ひぃっ!」

 

「ふふ、遂に突破しましたよ……さぁ、ソヨゴちゃんの秘密の花園をがぁぁぁ!!」

「痴漢撃退用カラクリ、『遠雷』」

「ガンライコウちゃん……またしても……」

 

 

 

「全く……ソヨゴさんを困らせるのは止めなさい」

「ちょっとした遊びですよぅ。震えるような甘く罪深き遊びですよ~」

「罪深過ぎるわね……」

 

「団長さんがわたしのために頑張ってくれてるのは分かるんですが……トイレは止めて欲しかったです……」

「あっ、ホントすみません……」

 

 

 


「しかし何でソヨゴちゃんが圏外なんですかねぇ……こんなに可愛いのに」

「可愛いって……他の花騎士さんの方が可愛いですよ……」

「そんなことないですって。ソヨゴちゃんは宇宙一ですよ」

 

「これはアレですね。作者がこんなSS書いてサボってるからですね」

「作者さん?」

「もっと死ぬ気で頑張れよ作者! ソヨゴちゃんのためにじゃんじゃん課金しろ!」

「課金?」

 

「というわけで、皆さんソヨゴちゃんに投票しましょうね!」

 

 

 

「ソヨゴちゃんを愛でる会」会員募集中

入会条件:ソヨゴちゃんを心から愛すること 人気投票でソヨゴちゃんに1万票以上投票すること

特典:光るソヨゴちゃんストラップ ソヨゴちゃん直筆サイン入り生写真 ハツユキソウちゃんのお尻マウスパッド

 

ウィンターローズ 〇〇番地 アクア騎士団までご連絡下さい




皆さんソヨゴちゃんに投票をお願い致します。ホントに。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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セクハラー・プライド

今回は色々おかしなお話(毎回言ってる)

スカシユリちゃんが可愛かったので前イベ中に書き上げたかったのですが、少し遅れてしまいました。


「よ、ようこそパルファン・ノッテへ……」

 扉を開けると別世界が広がっていた。そしてそこに紛れ込んだ一匹の子兎。

 

「おぉ……ロリバニーや!」

「お、大声出さないで! 好きでこんな格好してるわけじゃないんだから!」

 バニーガールとは良い文化だ。突起が見えそうな程緩い胸元、小さなお尻が可愛らしいハイレグ。そしてうさみみ。

 そんなエッチな服に身を包んでいるのは、パルファン・ノッテの大ファンだというスキラちゃん。負け続けた結果負債が溜まり、こうしてお店で働かされることになったらしい。

 

「うぅ、恥ずかしい……」

「いやいや、良いと思いますよ。エロい!」

「嬉しくないわよ!」

 

 

 

 移動型カジノ、パルファン・ノッテ。スキラちゃんに誘われて来てみたが、確かに彼女がハマるのも分かるくらい楽しげな空気に満ちている。正にエンターテイメントの世界。

 特にバニーガールは良い!

 

 しかしこんなエッチな服を着た店員が汗水を流して働いているんだ。これはセクハラー(セクハラのプロ)の血が騒ぐ。早速近くにいるバニーガールに痴漢を仕掛けていく。しかし……

「こらっ! 痴漢はご法度だぞ!」

 

 いつの間にか視界は真っ逆さまになっていた。視界を上に持っていくと、そこには金髪の少女がぷんすかと可愛らしく怒っていた。

 彼女に投げ飛ばされたのだろうか。しかし私が反応出来ないとは……。

「あなたはもしかして花騎士ですか?」

「あぁ。花騎士でここの用心棒もやっているスカシユリだ」

 

 しかしスカシユリちゃん、先程からずっと白いパンツが見えている。本人は気付いてないようなので見放題だ。これは眼福……

「反省したか?」

「え……あ、はい。反省しました。むふふ……」

「? まぁ分かればいいのだ。マナーを守って楽しく遊んで欲しい」

「そうですよ団長さん。公共の場なんですからマナーはわきまえましょう」

「はい。すみません……」

 

 

 

「ふふ……喰らいなさい、わたしのスリーカードを!」

「あっ、ごめんなさい。フルハウスです」

「ぐわぁぁぁ!」

 またスキラちゃんが負けてる……。表情に出過ぎなんじゃないかな……。

 それとは対照的に、ソヨゴちゃんはかなり調子が良い。彼女は人を観察するのが得意だから、ポーカーのようなゲームには滅法強いのだろう。

 

「こんにちは、ソヨゴさん」

 意気消沈したスキラちゃんの代わりに席に着いたのは黒髪の美少女。どこかで見たことがあるような……。

 

「あっ、ブリオニアさん。お久しぶりです」

 思い出した。ヘチマちゃんの温泉(黒歴史)に居た子だ。

「今度は私が相手をするよ」

「本当ですか? 宜しくお願いします」

 クールそうなブリオニアちゃんがニコリと微笑む。二人とも人見知りだから波長が合うのかも知れない。

 

「ゲームはいいよね。擬似的な対人戦を楽しめる。ソヨゴさんだから話すけど、私は人と人の戦いに興味があるから」

「そうなんですか?」

「うん。だからこのポーカーも手を抜かないからね」

(ブリオニアさん、表情が読めない……スキラさんと全然違う……)

 

 

 


 ソヨゴちゃん達がゲームに夢中なので暇になってしまった。私も何か参加しようかと見回っていると、しょぼくれたスキラちゃんの姿を見つけた。心なしかロップイヤーも垂れ下がっているように見える。

 

 しかしロリバニーとはいいものだ。小さいが形の良いお尻が無防備に晒されている。これは痴漢しなければセクハラーの名が泣く。

(むっ……!)

 気付くと先程の用心棒、スカシユリちゃんと目が合っていた。

 

(また痴漢しようとしているのか……?)

(完全にマークされていますね……)

 

 完全な膠着状態が続く。先に動いた方が負ける。そして私が負ければ再びブタ箱行きだ。前科一犯だし、また捕まるのは流石にまずいだろう。

 しかしだからと言って諦めるのか……否!

 

 戦えば負けるかも知れない。しかし戦わないのは負けるのと同じだ!

 

「スカシユリちゃん、あなたに勝ち負けの本当の意味を教えてあげましょう!」

「むっ?」

「ふぅ……ふぅぅ……!」

 心臓が音を立てて暴れ、筋肉が膨れ上がっていく。

 

(何だこの威圧感は……っ!?)

 そう、要はバレなければいいのだ。スカシユリちゃんが反応出来ない速度で痴漢をすれば……!

 

(ぶ、分身しただと……しかも全てが別々の動きをしている……!)

(狙うはスキラちゃんのお尻のみ!)

 

「ひゃぁっ!?」

「うん? どうしました、スキラちゃん?」

「な、何かがお尻に……」

「おやおや、痴漢ですか。許せませんね~」

 敢えてスカシユリちゃんに挑発的な笑みを向ける。

 

(くそ……この私が反応出来ないなんて……だが!)

「まだだ……まだ負けてないぞ!」

 その言葉に観客達の視線がこちらに釘付けになった。

 

「アクア団長さん、あなたに勝負を申し込む!」

「ほう……スカシユリちゃんは中々熱い女みたいですね」

「ふふ、それはあなたも同じだろう?」

 

 

 


「何だ? 何が始まるんだ?」

「決闘だってよ」

 ざわざわとギャラリーが集まり始める。その真ん中に佇むのは三人の女性。

 

「ではセクハラ対決のルールを説明するね」

 ブリオニアちゃんがレフェリーとして私とスカシユリちゃんの間に入っている。対決をすると言ったら嬉々として協力してくれた。

 

「スキラさんにアクア団長さんが痴漢を仕掛ける。それを阻止出来ればスカシユリさんの勝ち。出来なければアクアさんの勝ち。5回勝負で先に3回勝った方の勝ち。これでいいね?」

「ちょっ、良くな「はい。異存はありません」「私もそれで大丈夫だ」

 

「では位置について……始め!」

「ふぅぅ……!」

 血管が浮かび上がり、筋肉がほとばしる。

「あれは……!」

 

「阿 頼 耶 識 !」

「いきなり奥義……団長さん、本気ね」

 

(また分身した……だが私の動体視力を持ってすれば、どんな動きだって見極められないはずはない!)

(ほう……先程より目が慣れているようですね……)

 

(1……2……3……くっ、三体までしか見えないか!)

「ひゃんっ!?」

「アクアさん、1ポイント」

「そう簡単には勝たせませんよ」

「くっ……」

(何でわたし痴漢されてるの……?)

 

 

 

「第二ラウンド、始め!」

「はぁぁぁ!」

(このスカシユリ、次は必ず見極める)

 

(集中しろ……1……2……3……4……)

(……っ! 目の動きが段々と付いてきている……!)

 

「ひゃぁ!?」

「アクアさん、2ポイント」

「凄い! 早々に王手ッス!」

「……でも、どうして団長さんの方が追い込まれているように見えるんでしょう?」

 

(……今反応していましたね。もう見極められるとは……)

「ふふ、アクアさん、この勝負私の勝ちだ。もう私にその技は通用しない」

「どうですかね? やってみないと分かりませんよ」

 

 

 

「第三ラウンド……開始!」

(1……2……3……4……5!)

(完全に見切られている!? 更に……更に速度を……!)

「甘い!」

「くっ……!」

 

 スカシユリちゃんの小さな手に掴まれ、スキラちゃんへの痴漢は失敗に終わった。

「スカシユリさん、1ポイント」

「よしっっっっ!!」

(阿頼耶識は攻略されたみたいだね……どうする、アクア団長さん?)

 

「これで2-1……点数の上では勝っていても、団長さんは絶対絶命です……」

「それだけじゃないし。団長の身体、汗が尋常じゃないし……」

「はぁ……はぁ……」

 

(くそ……視界がぼやけてきた……限界を超え過ぎましたか……)

 インターバルタイム。休憩用の椅子に倒れるように座り込んだ。

「団長さん!」

「団長!」

 

「団長さん、もう無茶です。棄権して下さい。じゃないと、全てを失ってしまいます」

「ソヨゴちゃん……皆……」

 確かに辛い。苦しい。それでも……

「火のついた(ハート)は誰にも止められませんよ」

 

 

 


「第四ラウンド……開始!」

「うぉぉぉぉ!」

「無駄だ! どんな動きだろうと、私の動体視力から逃れることは出来ない!」

 

 アクアとスカシユリ、両名の気迫によってギャラリーはいつの間にか静まり返っていた。その中を二人の心臓音だけが鳴り響く。

 

「す、凄いです二人とも……」

「団長さんは限界を超えた動きを続け、スカシユリさんは極限まで集中力を高める。どちらかが折れるまで続く、まさに意地と意地のぶつかり合いね」

 

 二人の攻防は既に1時間を超えていた。その時、ソヨゴが何かに気が付いた。

「団長さんの靴の色……赤でしたっけ?」

「……血の匂い! あれは靴の色じゃなくて、靴が団長の血で赤く染まってるんだし!」

「そんな! 団長さん、もう無理です! 止めて下さい!」

 

(ダメだ……負けられない。私にはセクハラのプロとしてのプライドがある……!)

「無駄だ! 例え5人に分身しようと「5人なら、ですよね?」

「っ!?」

 スカシユリが目を凝らす。そこには……

 

「6体いる!?」

 

「ひゃぁん!? ちょっ、服の中は止めてぇ!」

「アクアさん、3ポイント。勝者……アクアさん!」

 

 勝負が終わると同時にアクアは床に倒れ込んだ。

「お、終わったんですか……?」

「……あぁ。あなたの勝ちだ」

 

「か、勝った……勝ちましたよ、団長さぁん!」

 アクアに駆け寄っていく花騎士達。彼女達の表情を見回し、アクアは満足そうに瞳を閉じた。

 

 

 


「アクアさん、強かったな……まさか最後の最後に6体に増えるとは……」

「あの攻防戦は全て、分身は5体までだとスカシユリさんに思い込ませるための布石だったのかもね」

「ふせき?」

「いや、分からないならいいんだ……でも一つだけ言えることは……」

(彼女はきっと良いセクハラーになる)

 

(……いや、セクハラーって何!?)

 セルフツッコミをするブリオニアだった。

 

 

 

 その後、アクア団長がパルファン・ノッテを出禁になったのは言うまでもない。




分かる人も多いと思いまずが、今回のお話は新テニスの王子様の亜久津VSアマデウスのパロディだったりします。
阿頼耶識もテニプリの必殺技から取ってますからねぇ
いつかテニス回もやりたい……

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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魔法少女ソヨゴ、悪に堕ちる

コラボ先が発表され、何か突発的に思いついたネタです
魔法少女と言えば悪堕ちですよねぇ
今回は至って健全なお話ですが、いつかエロい悪堕ちも書いてみたいです


「マジカルパワー解放☆ メタモルフォーゼ!」

 少女の身体が光に包まれる。やがてピンク色のリボンやフリフリのドレスが装着されていく。

「魔法少女カマボコ、ただいま推参☆」

 悪の科学者カマボコ博士は一晩考えた渾身の決めポーズを取り、鏡の前で細かいフォームをチェックしていた。

 

「エクスティアコラボに乗じて作ってみたが……なるほど、これは中々良いものだ」

「ご主人様可愛いぴょん。似合ってるぴょん」

 白いウサギのぬいぐるみが跳び跳ねている。カマボコ博士が人工知能を入れた、魔法少女用のマスコットなのだった。

 

「ふふ、そうだろうそうだろう。やはり世界の支配者には可憐さも必要なの……だ……」

 そこまで言って、カマボコ博士はある視線と鏡越しに目が合ったのに気付いた。

「あ、アーティ! 貴様いつからそこにいた!?」

「マジカルパワー解放☆の所からかな?」

「最初からじゃないか!」

 

 カマボコ博士の顔が真っ赤に染まり、そんな彼女をアーティはニヤニヤと見つめていた。

「ご主人ったら~、意外と可愛いのが好きなんだね~。魔法少女カマボコ☆なんてね」

「貴様~~~!」

 アーティの頬を引っ張るカマボコ博士。

「いだだだだ! ご主人めっちゃ力強くなってる!」

「余が形だけの変身機能など造ると思うか? メタモルフォーゼによって力も魔力も百倍以上に引き上げられているのだ!」

「そんな~!」

 

「来い、アーティ! 今から緊急メンテで貴様の記憶を消去する!」

「いやぁ~~~! 許してご主人~!」

 そんな二人の姿を見て、ウサギのマスコットは若干引いていた。

 

(大丈夫かなこの人達……)

 そして目に付いたのは魔法少女カマボコが手に持っているマジカルステッキ。

(他に良いご主人様がいるかも知れないぴょん!)

 

「アーティ! 絶対に許さ……ん……? 何だ? 変身が解けていく……」

 その時、アーティが何かに気付いた。

「あぁっ! ウサギがステッキ咥えて出ていった!」

「何だと! コラ待てぴょん吉!」

「カエルみたいな名前!」

 

「待てないぴょん。僕は他のご主人様を見つけにいくんだぴょん!」

 ぴょん吉の尻からジェットブースターが点火。その飛行速度は音速を超える。

「あのウサギ畜生めが……アーティ、追うぞ!」

「あ、うん……」

(何であの位置にジェットブースター付けたんだろ……)

 

 

 


「ふんふん~♪」

 上機嫌な鼻歌がバスルームにこだまする。花騎士のソヨゴは白く華奢な身体を湯舟に沈め、戦いの疲れを存分に癒していた。

(ぐへへ、ソヨゴちゃんのお風呂……)

 そしてそれを鋭く見つめる眼光。騎士団長のアクアが窓の外からソヨゴの入浴姿を覗いていた。ちなみに浴室は宿舎の3階にある。

 

「綺麗な星空です……」

(おっと、身を隠さなくては……)

「ん? あれは流れ星……?」

 迫り来る白い光。それは星などではなく、ウサギ型マスコットのぴょん吉に他ならなかった。

 

「どんどん近付いて……こっちに来てます!」

「……ん? ぐぉぉぉ!!」

 そしてアクア団長の後頭部にそれは直撃する。音速以上のスピードで飛ぶ物体の突進をもろに受け、アクアの身体は壁を突き破って浴室の中に入り込んでしまった。

 

「えぇっ! 団長さん!? それに……ウサギさん?」

「やぁ。突然だけど僕と契約して魔法少女にならないぴょん?」

 

 

 


 翌日。

「えぇっ、ソヨゴさんが魔法少女に!?」

「そうぴょん。ソヨゴさんは僕と契約したんだぴょん」

「何か成り行きで……」

 

「変身とか出来るんスか?」

「えっと……えぃっ!」

 ソヨゴの身体を光が包む。光の中から魔法少女のコスチュームを纏ったソヨゴが現れる。

 

「可愛いですよ、ソヨゴさん!」

「は、恥ずかしいです……でもこの衣装を着ると力が湧いてくるんです。これがあればたくさんの人達を守れますね」

「ソヨゴちゃんは花騎士の鑑だし」

「そ、そんなことは……」

 顔を赤くするソヨゴ。その時だった。

 

「このウサギ野郎……昨日は良くもやってくれましたね……」

 頭に包帯をぐるぐるに巻いたアクアが現れた。

 

「チッ、まだ生きてたぴょんか……」

「私を殺しかけた上にソヨゴちゃんをたぶらかすとは……万死に値します!」

 槍を持って突撃するアクア。しかし、

「ぐぇぇぇぇ!」

「団長さん!?」

 窓を突き破ってきた何かに吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

「こんな所にいたよ、ご主人!」

「やっと見つけたぞ、ぴょん吉!」

「うぅ……か、カマボコ博士?」

 よろよろと起き上がるアクア。そんな彼女を見て、カマボコ達はようやくこの場所が何処なのか理解したようだった。

 

「何だ、アクア騎士団に潜り込んでいたのか。悪いがぴょん吉は返して貰うぞ」

「嫌ぴょん」

「何……?」

 

「僕は既にソヨゴさんという新しいご主人様を見つけたぴょん。アンタなんかより百倍は可愛い、正統派の魔法少女の素質があるぴょん」

「何だと!? 余が花騎士より可愛くないだと!」

「ご主人、張り合う所そこじゃないよ……」

「そうだそうだ~。ソヨゴちゃんは世界一可愛いんです~」

「団長さんも、事態をややこしくしないで下さい!」

 

「ソヨゴさん、こんな奴らぶっ殺すぴょん!」

「て、手荒なことはダメですよ……取り敢えず落ち着きましょう」

「ぴょん吉、貴様~!」

「カマボコ博士も落ち着いて下さい!」

 ぴょん吉に襲い掛かろうとするカマボコの首根っこを掴み、ソヨゴは軽々と彼女を持ち上げてしまった。

 

(しまった……元から強い花騎士が魔法少女化したら、最早手が付けられなくなってしまう……)

「……仕方ない、最終手段だ。アーティ、あれを出せ!」

「あれか……まぁ仕方ないよね」

 アーティがポケットから取り出したのは赤いスイッチ。テプラで『非常停止ボタン』と貼ってある。

 

「貴様はこれでおしまいだ。余の敵に回るものには死あるのみ!」

 ペタっとスイッチが押される。しかし、ぴょん吉から鳴り響いた音声は、カマボコ達の想定とは全く異なるものだった。

 

「悪堕ちシステム起動……悪堕ちシステム起動……」

「なっ……!? ぴょん吉ぃ! 貴様まさか、自分のプログラムを書き換えたのか!?」

「ふふ、僕に人工知能を与えたのが仇となったぴょんね。悪堕ちソヨゴさんの力で、この世界を僕が支配するぴょん」

 

「悪堕ち? 説明して下さい、カマボコ博士」

「……元はジョークのつもりで入れた機能だったのだ。変身者の悪の心を増幅させる形態。ついでに衣装も露出の高いものに変わる」

「何ですって!? そんなのをソヨゴちゃんに……」

(正直凄く見てみたい……)

 

 

 


「ダークメタモルフォーゼだぴょん!」

「こ、これは……わたしの中に何かが入り込んで……!?」

 ソヨゴの身体が黒いオーラに包まれていく。そして現れたのは黒いハイレグ姿になった魔法少女ソヨゴだった。へそが丸出しになっていて、露出されたイカ腹にはピンク色の淫紋が刻まれている。

(あぁ~~~! エッチ過ぎる! 今日のオカズ決まったわ!)

 

「魔法少女ダークソヨゴ、ただいま見参★」

 アクアやカマボコを見回し、ソヨゴは挑発的な笑みを浮かべた。普段の彼女からは考えられないその妖艶な姿に、アクアは若干股を濡らしている。

 

「へへ……どうしたんですか、皆さん? 揃いも揃ってマヌケな顔してますね」

「あっ、ソヨゴちゃん……あっ、あっ」ビュルッ

「おいっ、今何を出した!?」

 

「あぁ~、何か悪いことしたくなってきましたね~……」

「い、一体どんな悪いことをするつもり……?」

 

「♪♪♪」

 突然誇らしげな顔になるソヨゴ。そんな彼女を見て、花騎士達は首をかしげた。

「? 何か変わりましたか?」

「……あっ、見るし! 靴のかかとを踏んでるし!」

(あぁ、かかとを踏むなんて靴屋さんへの冒涜行為……今わたし凄い悪いことしてる……サイコー……)

 

「よぉし、他にも色々悪いことしちゃいま~す!」

「部屋の外に出たぞ! 追いかけろ!」

 

 

 

「廊下走っちゃダメですよ~!」

 

「あっ、階段の手すりの上を滑ってるッス!」

 

「会議室のホワイトボードに落書きしてるわ」

 

 

 

「へっへー、次は~」

「今度は自分の部屋に入っていったッスね」

「何か袋を持って来ましたね」

 

「ご飯前だけどお菓子食べちゃいます!」

「あぁっ、ポテチを食べ始めたッス!」

「しかもギトギトになった手を服で拭いたし」

 

「あぁ~……悪いことサイコー!」

(何だぴょんこの人……悪さの次元が小学生以下だぴょん……)

 

「あの……ソヨゴさん……もっと悪いことしませんぴょん?」

「もっと悪いこと……? あっ、食堂のお塩をこっそり砂糖にすり替えておくとかですか?」

「いや、ほらさ……街の破壊とか殺人とか……」

「え~、そんな悪いことしたらダメですよ~」

「お前は悪の魔法少女じゃろが!」

「ひぃっ!」

 

「さっきから見てりゃあ何じゃこの体たらくは! 力があるんだからもっと大きなこと成し遂げろよ! 志を大きく持てよ!」

「何かキャラ変わってません?」

「うるせぇ!」

 

 

 

 そんな二人の様子を見て、花騎士達は困惑していた。

「何ですかあれ……仲間割れ?」

「分からんが、攻めるなら今だな」

「どうすればソヨゴちゃんを元に戻せますか?」

「アクア……」

(急に冷静になったな。賢者タイムか……?)

 

「簡単だ。ぴょん吉を破壊すればいい。だがそれを守るは普段の百倍パワーアップしたソヨゴ。迂闊に近寄れば死ぬぞ」

「大丈夫。ソヨゴちゃんの方は私に任せて下さい。あなたはウサギ野郎の破壊を」

「……よし、分かった」

(団長さんとカマボコ博士が手を組んだ……!)

 

 

 

「行くぞ、アーティ!」

「おぉっ!」

「私達も!」

 一気に攻めに向かう花騎士・カマボコ連合軍。

「き、来たぴょん! 僕を守るぴょん!」

「わ、分かりまし「ソヨゴちゃん」

「っ!?」

 

(いつの間に目の前に……!)

 アクアはただ速く動こうとしただけだった。だが無意識に使っていたのだ。自分の母が使うワープ走法『縮地法』を。

 

「戦うつもりですか、団長さん? あなたみたいな雑魚じゃ、わたしには勝てませんよ?」

(ソヨゴちゃんが雑魚って言った……はぁ……はぁ……!)

「戦いませんよ。ソヨゴちゃんに槍を向けるなんて出来ませんから」

 

「だから……」

 アクアは両腕を大きく広げ、ソヨゴの華奢な身体を抱き締めた。

「っ!? な、何してるんですか!?」

「時間稼ぎです。ソヨゴちゃんがその気なら、私は一瞬で死にます。でも……ソヨゴちゃんみたいな優しい子にそんなことは出来ないって、信じてますから」

「団長……さん……」

 ソヨゴの脳裏にはアクアとの思い出の日々が浮かんできた。

 

『団長さん、わたしの下着がなくなってるんですが、何か知りませんか?』

『……』

『……団長さん?』

『すみませんでした!』

 

『団長さんが爆発するわ! 離れて!』

『ほわぁぁぁ!』

『団長さ~ん!』

 

『ん? ソヨゴちゃん今セクハラしていいって言いましたよね?』

 

「って、碌な思い出が無い!」

 

 

 

「アクアが時間を稼いでいる! 一気に決めるぞ!」

「そうはいかないぴょん~。僕はすばしっこいから、アンタ達ノロマには捕まらないぴょん」

 ぴょん吉の尻にジェットブースターが点火する。あの小さな身体で音速以上で動かれれば、いかに花騎士達でも捕まえることなど不可能。絶望かと思われたその時!

「いだぁぁぁ!! 何これ、尻が痛いぃ!」

 

 悶え始めるぴょん吉。花騎士やアーティが困惑する中、カマボコだけが高らかに笑っていた。

「はっはっはっ! 無様だな、ぴょん吉よ!」

「ご主人、あれは一体……?」

「痔だ」

「「「「「「……痔!?」」」」」」

 予想外の言葉に、その場の全員が声を揃える。

 

「余は人工知能付きのロボットには痛覚を付けるようにしている。痛みで恐怖を与え、余に逆らえなくするためだ。そして奴のジェットブースターは尻から出る」

「……っ!?」

 言葉の意味が分かった途端、花騎士達は尻を押さえ、身を震わせた。

 

「奴の尻の状況を見て、そろそろかと思っていたのだ。尻が焼け焦げ、もうジェットブースターは使えまい」

「ご主人……恐ろしい人……」

 

「さぁどうするぴょん吉? まだ抵抗するか?」

「あの……その……許してぴょん♪」

 ぴょん吉は可愛らしくお腹を見せて反省の意を示した。

「……」

 そんな彼をカマボコは蔑んだ目で見下ろす。

「いや、あの……ホントすみませんでした。靴でも何でもお舐めします」

「そうか……では解体と行こうか」

「いやぁぁぁ!!」

 

「改めて、あの人は敵に回したくないなぁ……」

 無残に解体されていくぴょん吉を見て、顔色がどんどん青ざめていくアーティだった。

 

 

 


「……あれ? わたしは一体何を……」

 変身が解け、ダークソヨゴは普通のソヨゴの姿に戻った。

「大丈夫ですか、ソヨゴちゃん?」

「はい。でも記憶が……っ~~~~!?」

 突然ソヨゴが床に仰向けになって脚をバタつかせ始めた。その顔はリンゴのように真っ赤に染まっている。

 

「あれ!? もしかして思い出しちゃった!?」

「はい~~~! すみません、皆さんに迷惑掛けちゃって……!」

「そんなことないですよ、ソヨゴさん」

 

 ソヨゴが顔を上げると、そこには彼女を見て微笑む花騎士達の姿があった。

「いつも真面目すぎるくらい真面目なんですから、たまにはあのくらいはっちゃけて下さいよ!」

「ポテチもたくさん食べればいいし」

「うぅ~、皆さんありがとうございます~」

 

 

 

「一件落着、といったところか」

「みたいだね~」

 カマボコ達はそれを遠目で見守り、やがて背を向けた。その背中にアクアの声が届く。

 

「カマボコ博士!」

「何だ? 文句なら聞かんぞ? ぴょん吉が入り込んだのは、元はと言えば貴様らのセキュリティの甘さが「ありがとうございました」

「……え?」

 

「だ、団長さんがカマボコ博士に頭を下げてる……」

 

「ソヨゴちゃんを元に戻せたのはあなたのおかげです。本当にありがとうございました」

「……ふん。帰るぞ、アーティ」

「あっ、待ってよご主人!」

 

 アーティがカマボコの代わりとばかりに手を振り、そのまま二人は空へ飛び立っていった。そのカマボコの顔が赤らんでいたのを、アクア達が知ることは無かった。

 

「一時的とは言え、あのカマボコ博士と協力するとは……」

「……あの子は根は悪い子じゃありませんからね。いつか分かり合える日がくればいいな、なんて思うんです」

「大丈夫です。きっとそんな日が来ますよ!」

「……はい!」

 

 カマボコ達の姿が夕暮れの向こうに消えていく。彼女達を見送り、アクア騎士団はまた普段の日常に戻るのだった。




やっぱりソヨゴちゃんに悪いことは無理そうですねw

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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開幕! 春庭テニス大会(前編)

書いてみたかったテニス編、遂に始まりました
ただ、私はテニス未経験者なので色々ツッコミどころがあると思いますが、まぁそこは愛嬌ということで……


「ついにこの日が来ましたか……」

 最近春庭で流行の兆しを見せている球技、テニス。ラケットを使ってボールを打ち合うシンプルな競技だが、その中にも深い戦略・戦術が存在し、見る者を虜にする魅力がある。

 そして騎士団でもその流行を取り入れ、騎士団対抗テニス大会が開催されることとなった。

 

「思い出しますね、血の滲むような特訓の日々を……」

「団長さん、春庭中を周って各地の猛者達と戦ってましたからね。まるで海賊みたいに」

「えぇ。それでこの異次元の力を手に入れました……負ける気がしません」

(仕事しましょうよ……)

 

「狙うは勿論優勝! そして優勝賞品の……」

「温泉旅行が狙いかね?」

「!?」

 背後から聞こえてきた声に驚いて振り向く。そこに居たのは予想通りの人物だった。

 

「オリビア大佐……そのジャージ、やはりあなたも出場するんですね」

「そうだ。お前が温泉旅行とか、物凄い嫌な予感がするんでな。全力で阻止することにした」

 ちなみにスポンサーの一つがヘチマちゃんの旅館だ。この前(私のせいで)半壊してしまったのを修復したらしい。

 

「やるからには大佐であろうと全力を出しますよ」

「望むところだ。死力を尽くせ」

 

 

 


 そんなこんなで大会が始まりました。

「喰らえっ! ソヨゴ・スマッシュ!」ソヨゴ

「ぐぁぁっ!」

『ゲーム&マッチ ウォンバイ アクア騎士団』

 

「わあっ! 凄いです団長さん!」

(でも打球音が恥ずかしいような……)

 

 ストレートで勝利した。幸先の良いスタートだ。

 

 

 

 この大会はシングルス2つ、ダブルス1つの計4人で戦う。その中に騎士団長枠があるので、花騎士のみでチームを組むことは出来ない。身体能力で花騎士に劣る(一部除く)団長をどう使うかが勝負の分かれ道だろう。

 

 

 

「オリビア大佐の試合は隣の会場ですか……っ!?」

 自分の試合が終わり、大佐の偵察で来たのだけれど、そこには驚愕の光景が広がっていた。

 

「何スかあれ……花騎士が手も足も出ずに負けてる……」

 ボロボロになってうずくまる花騎士。スコアボードには『5-0』という数字が刻まれている。一方的な試合だ。大佐が強いのは知っていたが、これ程とは……。

 

「ま、まだです……」

「止めておけ。怪我をするぞ」

「くっ……はぁっ!」

 花騎士が何とかサーブを打つ。しかし、オリビア大佐のリターンは……

「何ですかあれ……ボールが渦を巻いてる!?」

 

 渦巻きが花騎士の手元に到達する。花騎士もそれを何とか打ち返そうとしたが、

「ぐぅっ!」

 ラケットが弾き飛ばされてしまった。

 

『ゲーム&マッチ ウォンバイ チームオリビア』

 

「ボールに掛かった強烈な縦回転が、手首からラケットを弾いてしまうんです。あれを打ち返すのは手首の構造上不可能でしょう……」

「そんな……どうやって勝てばいいんですか……」

「……」

 

 

 


 そして遂に決勝戦。相手は勿論オリビア大佐のチーム。死闘になることは間違いないでしょう。

「大佐のチーム、今まで一つのゲームも落としてないらしいッス」

「大佐は勿論、彼女が集めたチームメイトも恐ろしい程強いですからね……」

「『暗殺者』の異名を持つスイカズラちゃん。脅威の身体能力と動体視力を持つスカシユリちゃん。そして参謀として招かれたブリオニアちゃん」

「か、勝てるんでしょうか……」

「あっ、相手チームが入場してきました!」

 花騎士も大佐も凄い威圧感だ。流石優勝候補筆頭。ソヨゴちゃん達も冷や汗をかいて怯えている。

 

『では第一試合、シングルス2の試合を始めます。チームオリビアからは……』

 そのアナウンスと共に観客が湧く。

「暗殺者だ! チームオリビア、暗殺者スイカズラをいきなり出してきた!」

 

「流石ですね、大佐。初戦の重要さを熟知している……ですが!」

 コートに降り立つ純白の花騎士。長いツインテールが風に揺れると、バニラの芳醇な香りが鼻をかすめた。

「こちらも最強の花騎士で挑ませて貰います!」

 

 

 

「が、頑張って下さい、バニラさん……」

「大丈夫ですよ、皆さん。バニラは負けませんから!」

 その力強い笑顔に、花騎士達の動揺も和らいでいく。やっぱりバニラちゃんを初戦にして良かった。

 

「バニラ……少しは楽しめそうかな?」

「ふふ、余裕でいられるのも今のうちですよ」

 

 

 

『ザ ベストオブワンセットマッチ バニラ サービス トゥプレイ』

「さぁ……行きますよ! はぁっ!」

「す、凄い速さです!」

 バニラちゃんの跳躍力、そして類いまれなるパワーから繰り出されるサーブだ。普通の選手なら返すどころか反応すら儘ならないだろう。

「だがスイカズラなら」

「……ふっ!」

「軽々と返したっ!」

 

「たぁっ!」バニラ

「ふんっ!」シター

「い、いきなり凄い打ち合いです……」

(でもなんで打球音が自分の名前なんだろう……)

 

(確かに凄い。力任せじゃなくて、ちゃんとコートの奥深くに打ち込んでくる……なるほど、口だけじゃないみたいだね)

「それなら!」

「スイカズラさんが前へ! 攻めに転じた!」

「いや、見るッス! バニラさんのあの構えは!」

 

「ジャックナイフ!」

 ジャンプをして高い打点から打つバックハンドの大技、それがジャックナイフ。

「バニラさん、スイカズラさんが前に出るのを読んでたんスね」

「ネット際では、バニラちゃんのあのパワーショットは受け切れない」

「それはどうかな?」

 

(スイカズラは極限級害虫を数多く葬ってきた屈指の花騎士。例えバニラが相手だろうと、力負けすることはあり得ない!)

「はっ!」シターー!

 強烈なボレーがバニラちゃんに襲い掛かる。

 

「そ、そんな……バニラさんのラケットが弾き飛ばされた……」

「いや、見て下さい! ボールはまだ死んでない!」

 トップスピンのかかったボールが相手コートの奥、ライン上に……

『15-0』

 

「中々やるね」

「まだまだ、こんなものじゃないですよ」

 

 

 

「ポッピン・ヴァニラ!」

「くっ!」

 辛うじて返すスイカズラちゃんだったが、

「チャンスボールです!」

「はぁっ!」バニラ!

『ゲーム アクア騎士団 1-0』

 

「よしっ! まずはサービスキープです!」

「凄いッスねバニラさん。このまま決めちゃって下さい」

「勿論です!」

 

「バニラ! バニラ!」

 バニラちゃんの健闘に観客席の雰囲気も徐々に彼女に傾いていく。

 

 

 

「たぁっ!」

「リターンゲームもバニラさん優位ッス!」

『ゲーム アクア騎士団 0-2』

 

「そんな……あのスイカズラさんが防戦一方なんて……」

 ベンチでチームメイトを心配するスカシユリに、ブリオニアが至って冷静に話し掛けた。

「いや、彼女を良く見て。スイカズラさん、今凄く楽しそうだよ」

 

「本当に強いね……バニラ」

『強敵と戦いたい? それなら騎士団対抗のテニス大会に出てみろ』

『テニス大会……そこに私の求める敵がいるの?』

『あぁ。必ずな』

 

「大佐の言ってたこと、本当だったみたいだね」

 

 

 


「ポッピン・ヴァニラ!」

「はっ!」

「もういっちょ!」

「ふっ!」

 

「攻めに攻めてますね、バニラちゃん」

「それに比べてスイカズラさんは、暗殺者って呼ばれてる割りに地味なプレースタイルじゃないッスか?」

「まぁ確かに……」

(でも何でだろう。凄く嫌な予感がする)

 

『ゲーム アクア騎士団 3-0』

「よし、行けますよバニラさん!」

「はぁ……はぁ……」

「……バニラちゃん?」

 おかしい。あのバニラちゃんが試合中盤に息切れなんて。

「一体何が……」

 

 

 

「さぁ……もっと楽しませてよ、バニラ!」

「くっ……!」

 

「スイカズラさん、ここに来て盛り返して来たのだ」

「いや、あれこそが彼女本来のプレースタイル。遂に始まるぞ、スイカズラ……シターの『暗殺テニス』」

 

『ゲーム チームオリビア 1-3』

「スイカズラさんの動きが急にキレ始めた……」

「それだけじゃありません。バニラちゃんの動きも……」

 

 

 

『ゲーム チームオリビア 3-2』

「暗殺テニス……?」

「スイカズラさんは暗殺者の家系らしいよ。だからそのノウハウをテニスにも生かしてるんだって」

 

(テニスも暗殺と同じ。相手の一瞬の隙を付いて……一気に制す!)

『ゲーム チームオリビア 3-3』

「お、追い付かれた……」

 

「序盤は防御に徹して相手のスタミナを削ぎ、中盤にギアを上げてゲームを取りに行く。これが『体の暗殺』」

 

「ぐぅ……!」

「バニラちゃんの攻めがどんどん消極的になっている……?」

『ゲーム チームオリビア 3-4』

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

(またあのイメージが……必殺技が返されるイメージが……)

 

「そして第二の暗殺、『技の暗殺』」

「相手のどんな技も返球していくことで、相手は技を返されるイメージが脳内にこびりつき、そして自分のテニスを失っていく。所謂イップスだね」

 

「はっ!」

『ゲーム チームオリビア 5-3』

 

「次はバニラちゃんのサービスゲームですが……これを落とせばバニラちゃんは負ける……」

「ば、バニラさん……」

 

 

 


(追い詰められた……このサービスゲームは絶対に落とせない)

 その時、バニラとスイカズラの目が合った。

「ふふ……」

(わ、笑ってる……余裕の現れってことですか……)

 

「はぁっ!」

『フォルト』

「そんな……バニラちゃんがサーブミスを……!?」

 

「あれこそが最後の暗殺、『精神の暗殺』。技を封じられ、身体もボロボロになった相手に自分の余裕を見せつけることで、相手はプレッシャーを増幅されていく」

「心技体、全てを暗殺されてコートに立っていた選手はいない。残念だけど彼女は……」

 

(結構楽しめたよ、バニラ。でももう終わりみたいだね)

「私は……」

 

 

 

『またバニラが問題を起こしたのか……』

『そう言えばアクア団長が戦力が欲しいと言っていましたね』

『丁度良い。あの小娘に押し付けよう』

 

『ごめんなさい団長さん……あたしもう花騎士辞めます……』

『大丈夫ですよ、バニラちゃん。この騎士団にあなたを嫌う人は誰もいませんから』

 

 

 

 ボールがバニラちゃんの頭上に上がる。そして放たれたサーブは……

「っ!?」

(速いっ!)

 

「ダブルファースト!? ミスの許されない場面で何て強気な選択を!」

(いや、私を出し抜くために敢えて最初のサーブをミスした……!?)

 

 何とかリターンしたスイカズラちゃんだったが、彼女が体勢を崩したのを、バニラちゃんが見逃すはずがなかった。

『15-0』

「よぉし!」

 

 

 

「バニラちゃんを見くびりましたね。彼女は最後の一瞬まで、決して諦めることはない」

 

(どうして……? 理解出来ない……。そんなボロボロなのに、どうして諦めないの?)

『ゲーム アクア騎士団 4-5』

「行ける……行けますよ、バニラちゃん!」

 

 

 

(……このサービスゲームをキープするだけで私の勝利が確定する。それでも……)

 スイカズラの瞳にバニラの姿が映る。汗まみれ、傷だらけになりながらも、彼女の眼差しは未だに鋭さを保っていた。

 

(いいよ、バニラ。その諦めない心も私が暗殺してあげる)

 

 そして始まったラリー。スイカズラはバニラの隙を付きドロップショットをネット際に落とした。何とか拾うバニラだったが、

「今度はロブ!?」

 

(人の心なんて、前後に揺さぶることで簡単に砕けるんだよ)

「はぁ……はぁ……」

 それでもバニラはボールを追うことを諦めなかった。

 

(そんな……どうして……)

「あたしが諦めるわけにはいかないんですよ!」

 

『15-0』

「……」

 

 

 

 何とか食らい付いたバニラだったが、スコアボードは40-15。無情にもスイカズラのマッチポイントを告げていた。

 

「最後まで諦めないで下さい……バニラちゃん」

「団長さん……あたし今、花騎士を辞めるって言った時のことを思い出してました」

 

『わたし、もっとバニラさんのこと知りたいです』

『バニラさん、これからもよろしくッス』

『バニラちゃん』

『皆さん……えへへ……』

 

「あの時、諦めないで良かった」

 

 

 

「たぁっ!」

「ここに来てバニラさんの反撃ッス!」

 

「……ふっ!」

「ロブを上げた!」

「でもあれだとアウトになるし!」

(くっ……力み過ぎた……私としたことが……)

 

 その時、アクア団長が頬に当たる『ソレ』を感じた。

「そんな……風が……」

 無情な向かい風によってボールが押し戻されていく。バニラも必死に追うが、スタミナの尽きた脚で追いつける距離では無かった。最早勝負は天に委ねられたと言ってもいいだろう。

 

「そうだ……入れ……入れぇ!」

 そしてボールはバニラ側コートのライン上に……落ちた。

 

『ゲーム&マッチ ウォンバイ チームオリビア』

 

 

 


「はぁ……はぁ……皆さん、すみません。負けちゃいました……」

「バニラさん、凄かったですよ!」

「バニラちゃん、ナイスファイト」

「団長さん……皆さん……えへへ」

 

 

 

「どうだ、スイカズラ。楽しめたか?」

「……最悪だよ。大佐、この埋め合わせは必ずしてよね」

 

(まさか私が運頼りになるなんて……バニラ、次は必ず決着を付けないとね)

 

 

 

「アクア騎士団はまだ生き生きしているな。面白い。それなら次は『コレ』でどうだ」

 

『続いて第二試合、ダブルスを開始します。チームオリビアからはブリオニア・スカシユリペア』

「今大会最強と言われるペアだ!」

「流石チームオリビア。層の厚さが半端じゃないわね!」

 

『対するアクア騎士団は……』

「行きましょう、ソヨゴさん」

「はい、ハツユキソウさん!」

 

≪続く≫




この感じだと3話にまたがりそうだな……

ちなみにスイカズラは大佐がテニスで勝って仲間にしたという過去があるとかないとか

ここまで読んで頂き、ありがとうございました


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開幕! 春庭テニス大会(中編)

引き続きテニス編
1試合だけなのにやたらと長くなってしまいました……
ダブルスは四人書かなきゃいけないのが難しいですね


『チームオリビアからはブリオニア・スカシユリペア。そしてアクア騎士団からは……ソヨゴ・ハツユキソウペア』

「頑張って下さい、二人とも!」

「はい。必ず勝って団長さんに繋げます」

 

 試合開始前、選手同士が握手を交わす。

「まさかソヨゴさんと戦うことになるなんてね。今日は良い試合をしよう」

「はい! よろしくお願いします、ブリオニアさん」

「アクア騎士団か……この前はアクアさんに負けてしまったからな。リベンジさせて貰う」

「えへへ……まぁお手柔らかに」

 

 顔見知りだからか、和やかな雰囲気が両チームの選手を包む。しかしスカシユリちゃんがサーブモーションに入った途端、その空気は緊張感のあるものに変わっていった。

 

 

 

『ザ ベストオブワンセットマッチ スカシユリ サービストゥプレイ』

「行くのだ……はぁっ!」パワー

「打球音からしてパワーがありそうなサーブッス……」

「スカシユリさん、サーブを打ってすぐ前に詰めましたね。流石の攻めの速さです」

 

「……ふっ!」キュート

「ソヨゴちゃん、相手のパワーに押されず、冷静にパッシングを沈めた! 凄い! 可愛い!」

 

「させない!」クール

「しかしブリオニアはそれを読んでいた。戦術なら彼女に敵う者はいない」

 

「まだまだ! 粘りますよ!」コモノ

「いきなり凄いラリーだし……」

 

「スカシユリさん、次クロスに来る。ポーチに出て!」

「了解したのだ! たりゃぁっ!」

『15-0』

 

「まずいですね……読み合いではどうしてもブリオニアちゃんが何枚も上手です……」

「流石に一筋縄ではいきませんね……」

 

「ふっ……」

「ドロップショット! ソヨゴちゃんも拾ってロブを上げたけど……」

「甘いのだ!」

『30-0』

 

「流石ブリオニア。隙が無いな」

「それにスカシユリの反応速度も驚異的。大佐、よくこの二人を組ませようと思ったね」

「ふふ……以前パルファン・ノッテで二人に会ってな。私の直感がヒビッと来たんだ」

 

『私達がテニスでダブルスを!?』

『そんな即席ペアで大丈夫? 私とスカシユリさんはあまり共通点が無いし、そもそも話したことも少ないんだよ?』

『だからだよ』

『?』

 

『お前達が正反対だからこそ組ませるんだ。普通のペアなら足し算な所を、お前達ならかけ算にすることが出来る。ダブルスには無限の可能性があるんだからな』

『おぉ! よく分からんが凄いのだ!』

『スカシユリさんは単純だね……でも、私も興味が出てきた。ダブルスの無限の可能性に』

 

 

 

『ゲーム チームオリビア 1-0』

(少しは見えてきたかな? ダブルスの無限の可能性って奴が)

「油断せずに行こう、スカシユリさん」

「あぁ!」

 

 

 

 そしてハツユキソウちゃんのサービスゲームに移った。彼女は速いサーブを打つも、ブリオニアちゃんは難なく返球。ソヨゴちゃんが後衛に下がって、後衛同士の激しいラリーが始まった。

 

「はっ!」

(このままじゃまずいです。流れを変えないと……)

「ソヨゴさん!」

(ハツユキソウさん……そうだ、まだ『あの技』がありますね!)

 

「……今です、ハツユキソウさん!」

 ハツユキソウちゃんがポーチに出る。しかしそれを読んでブリオニアちゃんは前へ詰めてきている。これを決めるのは難しいだろう。

 

「フリギッド・ショット!」

 そんな中ハツユキソウちゃんが放った打球は……

「? 何だ、普通の……って、うわぁぁぁ!」

『15-0』

 

「今何が起こって……」

「ハツユキソウちゃんが打った打球が氷を纏って……スカシユリちゃんのガットを貫いた……!」

 

 

 

「フリギッド・ショット!」

「ぐぅ~!」

『30-0』

 

「ガットを破るなんて反則なのだ!」

「そんなルールは無いよ……それにあんまりハツユキソウさんを警戒し過ぎると……」

 

「……はっ!」

『40-0』

「上手い! 今度はソヨゴちゃんのスマッシュが決まった!」

 

(ソヨゴさんもハツユキソウさんも、テニスプレーヤーとして本当に優秀……手強いけど、面白い……)

『ゲーム アクア騎士団 1-1』

「よぉし! こちらもキープです!」

 

 

 

「まさか決勝戦まであんな技を隠していたなんて……能ある鷹は何とやらだね」

「?」

「いや、分からないんならいいんだ……それより次のゲームだけど……」

 

「さぁ、ブリオニアちゃんのサービスゲーム。ここをブレイクすれば勝機が見えてきますよ」

「……はっ!」

 

 ブリオニアちゃんとソヨゴちゃん、後衛同士が再び打ち合う。そして、

「ハツユキソウちゃん、決めちゃえ!」

「フリギッド・ショット!」

 

 氷魔法を纏った打球がスカシユリちゃんを襲う。しかし彼女はそれをスルー、その背後から……

「ブリオニアちゃん!」

「何スかあの構え……ラケットを逆手に持ってる?」

 

「ふんっ!」

「グリップで返した!?」

「そんなんアリですか~!」

 

(こんな変則的な打ち方何回も出来るわけないけど……『返せる』ってことを提示しておくだけで、相手の選択肢を狭められる)

(そんな簡単に返されたら凹むんですけど……)

 

 必殺ショットは返され、角度を付けてクロス側へ。しかしその打球は、

「……たぁっ!」

「ソヨゴちゃん追いついた! 流石!」

『0-15』

 

「凄いね、ソヨゴさん。1ゲーム目から動きっぱなしなのに」

(まだまだ、ソヨゴちゃんの凄い所はこれからですよ)

 

「はっ!」

『0-30』

「ふっ!」

『0-40』

 

「ソヨゴさん凄い! 全くパフォーマンスが落ちないッス!」

「ソヨゴちゃんは私と一緒に武者修行してましたからね。このくらいで疲れたりしませんよ」

 

『ゲーム アクア騎士団 1-2』

「よし、こっちが最初のブレイクです!」

 

「ハツユキソウさんの技にばかり気が向いていたが、本当に厄介なのはソヨゴさんだったか」

「あの守備の粘りは凄いね……」

 

 

 

 ソヨゴちゃんのサービスゲーム。ラリーは更に激しさも増していく。

(そろそろ出ますよ、ソヨゴちゃんの能力が)

「ハツユキソウさん、次にストレートが来ます!」

「はい! りゃぁ!」

『15-0』

 

(戦略が読まれた……?)

「あれこそがソヨゴちゃんの『空気を読む能力』。ソヨゴちゃんの優れた観察眼から相手の動きや癖を読み取り、次の一手を予測することが出来る」

 

『ゲーム アクア騎士団 3-1』

 

 

 


(なるほど、空気を読む能力か。それなら私の戦術とどちらが上か、真っ向勝負だね)

 

「さぁ、スカシユリちゃんのサーブです」

「スカシユリさん、1ゲーム目はサーブを打ったら直ぐに前衛に上がってきましたよね?」

「あの攻撃力ですからね。それに司令塔のブリオニアちゃんも後衛の方がいいでしょうし」

「い、いやっ、見るし!」

 

「っ! 今度はスカシユリちゃんが後衛を守ってる!」

 

「ふっ!」

「どういうことでしょう? 確かにスカシユリちゃん後衛なら守備力は上がりますが……」

「あの攻撃力を捨てるのは勿体無いッスよね?」

 

『ゲーム アクア騎士団 1-4』

 デュースまでもつれた末、何とか競り勝った。しかし何か腑に落ちない。このゲーム差なのに、ブリオニアちゃん達は余裕そうな笑みを浮かべている。

 

 

 

「さて、このサービスをキープすれば王手です」

「一気に決めるし!」

 

 ハツユキソウちゃんのサーブがブリオニアちゃん目掛けて飛んでいく。かなりの速さだ。これはエースもあるかも知れない。

「やっぱり『このコース』で来たね」

「か、返した!?」

「ブリオニアちゃん、ハツユキソウちゃんが打つ前から動き出してましたね」

 

「次、クロスに来る確率90%」

「よしっ!」

『0-15』

 

「ふふ、データは取れたようだな」

「おかげさまでね」

 手を叩き合う二人。

「こ、これは……まさか!」

 

「ロブが来る確率85%」

「甘いのだ!」

『ゲーム チームオリビア 4-2』

 

「スカシユリちゃんに守備を任せることで、ブリオニアちゃんはデータを集めてたんだ! このままじゃまずいです!」

 

 

 


『ゲーム チームオリビア 3-4』

「か、完全に流れを持っていかれてしまいました……」

(それならわたしの『空気を読む能力』で……!)

 

(次はスカシユリさんがポーチに出る。その逆を読んでストレートに「ストレートに打つ確率95%」

 ポーチに出る構えを取っていたスカシユリちゃんが方向転換し、ストレートの打球を強打した。

『15-0』

「っ!? そ、そんな……」

 

「あの場面ではスカシユリさんは必ずポーチに出てたからね。少なくとも試合序盤では」

 

「そうか……序盤の試合展開は飽くまで後半に点を取るための布石……」

「完全にブリオニアさん達が一枚上手だったわね……」

「これが軍師ブリオニアさん……」

 

『ゲーム チームオリビア 4-4』

「遂に追い付かれた! 万事休すです!」

 

 

 

「これまでなんでしょうか……」

「ハツユキソウさん……」

 

『私はテニス修行の旅に出ます』

『団長さん……わ、わたしもご一緒します!』

『ソヨゴちゃん……よぉし、それじゃあ帆を上げましょう! まだ見ぬ強敵を求め、まずは常夏の国バナナオーシャンへ』

『何だか海賊みたいですね……』

 

『ハツユキソウさん、わたしとダブルスを組んでくれませんか?』

『わ、私ですか!?』

『はい! わたしとハツユキソウさんで勝って、この騎士団を優勝させましょう!』

 

『はっ! ふっ!』

『ソヨゴさん……絶対勝ちましょうね!』

『はぁ……はぁ……勿論です!』

 

 

 

「……負けたくありませんよね。あんなに練習したんですから」

 覚悟を決めた様子でリターンに臨む二人。大丈夫、二人はまだ諦めていない。

 

「強いね、二人とも」

「だが状況は変わらない。あと2ゲームで私達の勝利だ」

 

 

 

「再びスカシユリちゃんのサーブ……」

「はぁっ!」パワー

「今度はサーブと共に前衛へ!」

「止めを刺すつもりです!」

 

 ネット際に打ち上げられた球に、スカシユリちゃんがボレーの体勢に入っている。

「ソヨゴちゃん! ハツユキソウちゃん!」

 決められる……そう思って目を瞑った時のことだった。

『0-15』

 

 騒然とし始める場内。スカシユリちゃんが完璧に捉えたと思われた打球は、何故か彼女の背後に転がっていた。

「今、一体何が……」

 スカシユリちゃんもブリオニアちゃんも何が起こったのか把握出来ない様子だ。

 

 

 

「はぁっ!」

 ハツユキソウちゃんのリターン。ブリオニアちゃんが返球の体勢に入るも、

「っ!?」

『0-30』

 やはりボールはいつの間にか彼女の背後にあった。

 

(ボールが……消えた!?)

 

「あれはまさか……能力共鳴(ハウリング)!?」

「能力共鳴?」

 

 

 

「ど、どういうことだ!? またボールが消えたぞ!」

『0-40』

 

「ハツユキソウの氷魔法とソヨゴの空気を読む能力が共鳴し、新たな能力を目覚めさせたのだ」

『ゲーム アクア騎士団 4-5』

 

「空気を凍らせ絶対死角を作り出す……名付けて『氷雪世界』」

 

 

 

「凄い……二人とも本当に凄いですよ!」

「ハツユキソウさん……このまま決めましょう!」

「はい!」

 

 ハツユキソウちゃんのサーブがデュースコートでバウンドし、ブリオニアちゃんの手元へ。そしてまた、

「いきなり消える打球です!」

 

「どうするの、大佐? このままじゃ負けるよ?」

「まぁ見ていろ。私が選んだ最強ダブルスを」

 

(この打球は一人じゃ対処出来ないな、ブリオニアさん?)

(うん。それでも二人なら……!)

 

「……ふっ!」

「返した!?」

『0-15』

 

 ボールが消えてから再び出現する所を狙われた。しかしあの反応……今までのブリオニアちゃんとまるで違う。まるで動体視力が急に上がったような……

「ま、まさか彼女達も!」

 

「あの二人も能力共鳴を起こす。スカシユリの動体視力を共有し、ブリオニアの頭脳がそれを分析する。この能力の前に返せない打球など存在しない!」

 

 

 

「たぁっ!」

『15-15』

「ソヨゴちゃん達も負けじと返した!」

 

『15-30』

『30-30』

「お互い一歩も引きません……」

 

 そしてゲームはデュースにもつれ込む。格上相手に何とか気迫で対抗する二人。

『アドバンテージ サーバー』

 遂にマッチポイントに。しかし、

「はぁ……はぁ……」

 

「点数的には勝ってますけど、追い詰められたのはソヨゴさん達ですね……」

「ブリオニアちゃん達は完全に消える打球を攻略したようです」

(次で決められなければ負ける……!)

 

 運命の一球。ハツユキソウちゃんは高くトスを上げ、アドコートのライン際一杯にサーブを打ち込んだ。

「あれは……スライス回転が掛かってます!」

 予想外のサーブにスカシユリちゃんは体勢を崩される。

 

(この場面まで手を隠していたとは……敵ながら見事だ! だが……!)

「私達は負けない!」スカシユリ!

 

「あの体勢から強打!?」

「何て強気なんスか……」

 

 鋭い打球はネットの白帯に当たり、ネットの上を転がり出した。

(入れ……入れ!)

 そしてボールはソヨゴちゃん達のコート、誰もいないネット際へ……

 

(やった……)

 勝利を確信するスカシユリちゃん。しかし打球は思いもよらない動きをした。

 

「っ!?」

 ソヨゴちゃん側に入ったと思われたボールは、強烈なスマッシュとしてブリオニアちゃんとスカシユリちゃんの間を打ち抜いていった。

「そんな! あそこには誰も……!?」

 そして何もない空間から、突如彼女が現れる。

 

「はぁ……はぁ……やりました……!」

「ソヨゴちゃん!!」

 

 

 


「……なるほど、消せるのはボールだけじゃなかったのね」

「自分の存在感を極限まで消すことで、相手の認識から外れることが出来たんだし……」

「でも、あの局面でしか決まらなかったかも知れませんね」

 

『ゲーム&マッチ ウォンバイ アクア騎士団』

 

「楽しかったよ。また試合しよう」

「はい! またやりましょう!」

「次は負けないのだ!」

 

 

 

「ナイスゲーム! ソヨゴちゃん、ハツユキソウちゃん!」

「……団長さん、ここまで来たら勝ちましょう!」

「そのつもりです!」

 

 

 

『間もなく第3試合、シングルス1を開始します。両チームの選手はコートへ』

 

 しんと静まり返った空気の中、最強のテニス選手が遂にコートに降り立った。

「アクア……()るぞ」

「大佐……望むところです」

 だが私も負けるわけにはいかない。私を信じてくれた花騎士達のためにも、例え相手が最強だろうと勝って見せる。この命を引き換えにしても。

 

 そして、後に伝説として語り継がれることとなる『命の()り合い』が始まった。




元ネタ通り、スカシユリが巨大化して大ピンチ!な展開を書こうと思っていたのですが、流石に非現実的過ぎたので却下しました(笑)

ここまで読んで頂き、ありがとうございました


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開幕! 春庭テニス大会(後編)

テニス編、遂に完結……!
しかし思った以上に元ネタそのまんまだったりします


『ザ ベストオブワンセットマッチ オリビア サービストゥプレイ』

「行くぞアクア……はっ!」タイサ

「たぁっ!」ソヨゴ

 

 人智を超えたパワー。凄まじい打球の応酬に、コートは土煙に包まれていく。

「す、凄い……」

「これがあの二人の本気……」

 

「中々やるなアクア。ならばこれでどうだ……!」

(土煙が渦を巻き始めた……来る!)

「大佐の渦巻き打球! ラケットを弾かれるッス!」

 

 凄まじい威圧感を持った打球が私に迫ってくる。この縦回転は手首の構造上耐えることが出来ない。だが私なら!

「ふんっ!」

「返した!?」

 

「団長さんの握力は300kg超えのゴリラ並み。鍛え過ぎましたね」

「バケモノですか……」

 

 

 

「ほぅ、渦巻きを破るとは……っ!?」

 すかさずネット際に張り付いた。このまま一気に畳み掛ける!

「過酷な修行の日々が私に世界の技を授けてくれました……まずは挨拶代わりです! 我が国ウィンターローズの技……」

 

「エンジェル・イン・ザ・ウィンター!」ソヨゴ

 冷気を纏った打球がオリビア大佐を襲う。

「くっ……!」

 返されたが体勢を崩した。

「次です! レジェンド・オブ・リリィウッド!」サントリナ

「ギャンブラー?・オブ・ブロッサム!」スキラ

 

『ゲーム アクア騎士団 1-1』

「す、凄い……互角の戦いです……」

「ここからは一つのミスが生死を分ける……」

 

 

 

「やるようになったな、アクア」

「大佐こそ、全く衰えてませんね」

「「ここで決着を着ける……!」」

 

「ふんっ!」ソヨゴ

「はっ!」タイサ

「とぁっ!」

 攻める。兎に角攻める。大佐を崩すのなら速攻が最も有効だ。

 

「まずは挨拶代わりです! 我が国ウィンターローズの技……」

(……あれ?)

 

「エンジェル・イン・ザ・ウィンター!」ソヨゴ

「甘いっ!」

『15-0』

 

「ならば……レジェンド・オブ・リリィウッド!」サントリナ

「ふんっ!」

「ダメです団長さん! その技は既に見切られてます!」

 

「これならどうだぁ! ハーレムクイーン・オブ・スプリングガーデン!」アクア

 無数に分裂した球が大佐目掛けて飛んで行く。しかし、

『30-0』

「だ、ダメです……団長さんの技は全て見切られてしまった……」

「大佐の鉄壁の守備とカウンターの餌食ッス……」

(一気にギアを上げたね、大佐……)

 

「はぁ……はぁ……まずは挨拶代わりです! 我が国ウィンターローズの技!」

「っ!? や、やっぱりおかしいです!」

 

「エンジェル・イン・ザ・ウィンター!」ソヨゴ

『ゲーム チームオリビア 2-1』

(そんな……この技が完璧に返されるなんて……)

 

 

 

「どうやらアクアさんは大佐の洗礼にハマってしまったみたいだね」

「あれか……私も昔対戦した時、あの洗礼を破れずに負けたんだよね……」

「何だ? 洗礼って何なのだ?」

 

「人間は強い衝撃を受けると、脳を保護しようと一時的に記憶をシャットアウトすることがある」

「アクア団長は今まで自分が磨いてきた技を軽々と返されてる。彼女はその現実を受け入れられないんだよ」

「何人たりともこの洗礼から抜け出すことは出来ない」

 

「大佐の強さはタイムループを引き起こす」

 

 

 


「団長さん、さっきのゲーム、まるでタイムループみたいに効かない技を繰り返してましたよ……」

 ソヨゴちゃんのその言葉に全身が凍り付く。

 私が効かない技を繰り返していたなんて……全く記憶にない……。

(ならば挨拶代わりに我がウィンターローズの技を……)

「……いけない!」

 

 不安を抱えながらも再びコートへ。ネットを挟んで向かい合った大佐は汗一つかいていない。正直、戦況はこちらが圧倒的に不利だ。それでも私は負けるわけにはいかない!

 

「まずは挨拶代わりです! エンジェル・イン・ザ……」

「ウィンターかね?」バレタ

『0-15』

 

「ぐ……あぁ……!」

「だ、団長さぁん!」

『0-30』

 

 駄目だ。全て見透かされている。

『0-40』

 どんな技も通用しない。まさか大佐がここまで強いなんて……

 

『ゲーム チームオリビア 1-3』

「はぁ……はぁ……」

「弱過ぎるぞアクア……立て!」

 

 何とかベンチへ戻ってきたけれど、最早なす術が無い。タイムループを起こす化け物に、一瞬でも勝てると思った私が馬鹿だったんだ……。

(くそ……私は何て叶わぬ夢を……)

 

「団長さん、もう棄権しましょう。このままでは全てを失ってしまう……わたしはまだ団長さんとテニスがしたいです」

 不安そうに私を見つめるソヨゴちゃんの肩をそっと叩いた。

「……ソヨゴちゃん。見ていて下さい、私の不器用な死に様を……!」

 

 

 

「うぉぉぉ!」

 そうだ。どんなに絶望的でも諦めるわけにはいかない。私は……

「無駄なあがきは止めろ」

『15-0』

 

「まだ……まだです!」

「だ、団長さぁん!」

『30-0』

 

 私は約束したんだ。ソヨゴちゃんに、花騎士達に。

『40-0』

「も、もうダメッス……」

 

 必ず……優勝するって!

『40-15』

「……え?」

 煙を上げたボールが大佐の後ろに転がる。その様子に、観客達が騒然とし始めた。

 

「あの大佐から完璧なリターンエースを!?」

「なるほど、遂に覚醒したか」

「本番はここからですよ、大佐」

 

 

 

(タイムループから自力で抜け出すとは……見事だ、アクア。だが!)

「ふんっ!」

「と、とんでもない速さッス!」

 

「ぐぅ!!」

 球威に押され、打球は大佐のチャンスボールに。

「力量差はそう簡単に埋まるものではない。この試合は勝たせて貰う!」

 

 強烈なスマッシュが襲い掛かる。何とかコースには追い付いたけれど体勢が崩されてしまった。

「ならば! ハーレムクイーン・オブ・スプリングガーデン!」アクア

 ボールが無数に分裂する技だ。しかも、

「数が更に増えてるし!」

 

「技を更に進化させてきたか……だが甘いわ!」

「大佐も分身した!?」

 

「「「ふんっ!」」」

「ぶ、分裂する打球を一瞬で全て返した……」

 だがその一瞬さえあれば充分だ。

 

「とぁっ!」

『40-30』

 

「い、今のは……」

「体勢が崩されたアクアさんは、ボールを分裂させることで返球までのタイムラグを作った。その隙にネットに張り付いて攻撃に転じたってわけだね」

「恐ろしい判断力と身体能力だな……」

 

「流石だな、アクア……」

「ようやく汗かきましたね、大佐」

 

 

 

「でも団長、復活してから急に動きが良くなったッスね」

「えぇ。団長さんは序盤、敢えて精神レベルを下げてメンタルを折られることで覚醒したんです」

「そんな! 一つ間違えば再起不能じゃないですか!」

「自分の精神の強さを信じたんです。何度でも甦る強さを」

『デュース』

 

「死んで甦る度に強くなる……まるで不死鳥のように」

「まるでサ◯ヤ人ッスね……」

 

『ゲーム アクア騎士団 3-2』

「ブレイク! これで振り出しに戻りました!」

 

 

 


 それからは互いにサービスキープが続いた。静まり返った会場内には、二人の心臓音すら聞こえてくるようだった。

 

『ゲーム チームオリビア 5-5』

「「はぁ……はぁ……」」

「ま、まさに死闘……生命の()り合いッス……」

「いや……団長さんにはまだあの技があります!」

 

 全身の筋肉が暴れだす。これこそが私の究極奥義。

「阿 頼 耶 識」

 

「来たか、阿頼耶識……!」

「第八の意識、阿頼耶識。無意識下で無限の攻撃パターンの中から最良の一手を導き出す」

「大佐……」

 

 

 

「うぉぉお!!」

『15-0』

 

「駄目だ! 流石の大佐も阿頼耶識には対応出来ない!」

『30-0』

 

「行ける……行けるし!」

『40-0』

 

(流石だ、アクア。このままでは私は負ける。だが……)

 

 

 

『テニス大会? まさかアクアも出場するのか?』

 

『……そうか。アクアは、アクア騎士団は強い。だがまだまだ未熟。私が壁となり、彼女達を成長させなければ』

 

 

 

「私はそう易々と負けるわけにはいかんのだ!」

 頬に風が当たるのを感じた。それはどんどんと強くなり、やがて立っているのも困難な程の強風に変わっていった。

「こ、これは……!」

 

「まさか大佐……渦巻きを進化させたの……?」

「何だこれは! まるで竜巻だぞ!」

 スカシユリちゃん達もベンチにしがみついている。

 

「……行くぞ、アクア」

「の、望むところです」

 身体が震え始める。それは恐れではなく、武者震い。これから始まる生と死を懸けた闘いに、私は心の底では期待していた。

 

 

 

「ふんっ!」

 私側のコートに発生した竜巻に巻き込まれ、打球はその威力を増していく。最早テニスボールは凶器と化した。だが怯むわけにはいかない!

「うぉぉぉ!」

 全力を尽くして打球を捉える。ガットがキリキリと音を立てて軋み、そして……

 

「ぬわぁぁぁぁ!」

 私の身体は宙を舞った。

「団長さぁぁぁん!」

『40-15』

 

 

 

「はぁ……はぁ……相変わらず化け物ですね、大佐」

「この竜巻、破れるものなら破ってみろ」

「いいでしょう……それなら!」

 

「阿頼耶識!」

「竜巻に巻き込まれる前に捉えた!」

 だが、

『アウト 40-30』

 

「そ、そんな……竜巻に吸い込まれて、団長さんの打球がアウトにされた……」

「反則ッスよ、こんなの……」

 

「がはっ……!」

 吐血……阿頼耶識の自傷ダメージに加えて、竜巻に吹き飛ばされたことで身体は既に限界を迎えようとしている。

 

「ふふ……」

 それでも私は微笑む。

「これぞまさしく異次元のテニス……私と大佐、どちらかが滅びるまで()り合うしかありませんね」

 

 

 


 荒れ狂う波、吹き荒れる嵐。その中を進む一隻の海賊船、それが私だ。

「ぐっ……!」

 嵐は船を滅茶苦茶に叩きのめしていく。舵を切って何とか対抗するも、自然の脅威の前で私はちっぽけな存在に過ぎなかった。

 

「くっ、船底に穴が……このままじゃ沈没します!」

 絶望しかけたその時、

「大丈夫、このくらいならすぐ直せるわ」

「ガンライコウちゃん……!」

 

「団長、手を貸すッス!」

「あたしがいれば百人力ですよ!」

「ヤドリギちゃん、バニラちゃん……」

 

「3時の方向に嵐の切れ目が見えるし」

「あと一息ですよ、団長さん」

「ツキトジちゃん、ハツユキソウちゃん……」

 

「団長さん……行きましょう!」

「ソヨゴちゃん……!」

 

 そうだ。阿頼耶識とは生命の根源を流れる川のようなもの。ここには皆の意識も眠っているんだ。

「皆、力を貸して下さい!」

「「「「「「はいっ!」」」」」」

 

 大砲に砲弾を充填、そして、

「撃てぇぇぇぇ!」

 嵐の中心に向かって希望の大砲を撃ち放った……!

 

 

 


「団長さんの打球が竜巻を打ち破った!」

 

 アクアの放った友情の一撃はオリビアの竜巻を消し去り、希望の航路を切り開いたのだ!

 

「花騎士との絆の力で竜巻を破るとは……見事だアクア……!」

「「「大佐ぁ!」」」

 その打球を必死に追うオリビア。

 

(問題について考えるな……解決策を模索しろ……オリビアよ!)

「我らの勝利のために!」

 辛うじて打ち返した打球はネットに引っ掛かる。しかし、

 

「そんな……だ、打球がネットを昇ってきてる……!?」

「でも団長さんはネットに……え?」

 そこで花騎士達は気付いた。ネット際で大量の血を流して倒れているアクアに。

「「「「「「団長さぁぁぁん!」」」」」」

 

 そしてボールはネットを越え、アクア側のコートへ落ちようとしていた。

「あ、あぁ……止めて……」

 

 花騎士達が絶望しかけたその時だった。アクアの腕は無意識に動き、ボールをオリビア側のコートへ返す。同時に審判のコールが会場に響き渡った。

『ゲーム&マッチ ウォンバイ……アクア騎士団!』

 

 

 

 沸き上がる会場の中、花騎士達がボロボロのアクアへ駆け寄る。

「み、皆……終わったんですか……?」

「はい……聞こえますか? 優勝ですよ!」

 涙を流すソヨゴを見て、アクアは満足そうに微笑み、ゆっくりと瞼を閉じた。

 

「よくやった。アクア、そしてアクア騎士団」

 大佐やブリオニア達も彼女達に賛辞の拍手を送る。これにて騎士団対抗テニス大会は、アクア騎士団の優勝という形で幕を閉じた。

 アクア達の血と汗の死闘は、春庭テニスの歴史に永遠に刻まれることになるのだった……。




次回、温泉編

ここまで読んで頂き、ありがとうございました


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浴衣のきみは尾花の簪

今回はテニスの優勝賞品である温泉旅行のお話
カマボコ博士達も久しぶりに出演します


浴衣のきみは 尾花の簪

熱燗徳利の首つまんで

もう一杯いかがなんて

妙に色っぽいね

 

「ではアクア騎士団の優勝を祝って……かんぱ~い!」

 グラスがからんと音を立て、花騎士達の楽しそうな声が部屋を満たす。

 アクア騎士団のテニス大会優勝の祝賀会は、優勝賞品であるヘチマの温泉旅館内で行われていた。

 

「バニラさんの粘り凄かったッス!」

「それを言うなら、ハツユキソウさんとソヨゴさんのコンビネーションも見事でしたよ」

 話に花を咲かせるアクア騎士団の面々。誰もが楽しそうだ。ただ一人を覗いて……

「団長さんは……残念でしたね……」

 

 

 


 その頃、アクア騎士団領。

「うぅ……どうして私はソヨゴちゃん達と一緒に温泉に行けないんですか~!」

「お前は絶対安静だ」

 

 包帯ぐるぐる巻きでベッドに横たわるアクアと、それを看病するオリビア。

 テニス大会で瀕死の重症を負ったアクアは、直ぐに病院に運び込まれ、医者から絶対安静の指示が出ていたのだ。

「あと少しで死ぬところだったんだぞ。まったく……」

「あぁ~……ソヨゴちゃん……浴衣のソヨゴちゃん……」

「おとなしくしていろ!」

 

 

 


「お土産買っていかないとね」

「はい!」

 

 そんなこんなで祝賀会はアクア抜きで盛り上がりを見せていた。そして皆で温泉へ行こうと宴会部屋を出た時だった。

「むっ?」

「え……?」

 二人の浴衣姿の少女と出くわした。一人は片目が隠れる程長い黒髪の少女、もう一人は派手な赤髪ツインテールの少女だった。

 

「カマボコ博士とアーティさん!?」

「アクア騎士団!?」

 

 仰天したソヨゴ達だったが、すぐに体勢を整えて距離を取った。

「た、戦う気ッスか……」

「休暇中だったが仕方ない。貴様らがその気なら受けて立とう」

 

「か、カマボコ博士! 団長さんはいなくても、副団長のソヨゴがあなたの好きにはさせません!」

 その言葉にカマボコは目を丸くした。

「何!? アクアがいないのか!? そうか……」

 そしてしょんぼりと俯いてしまった。

 

「ご主人、アクア団長がいないとやる気失くすもんね」

「そうではない! ……だが奴がいなければ花騎士と戦う理由が無いのも事実。今日は大目に見てやるから、各々休暇を楽しむのだな……」

 そう言って自分の部屋に帰ろうとしたカマボコの手を、ソヨゴの小さな手がぎゅっと握りしめる。

 

「ソヨゴ……? これはどういうことだ?」

「カマボコ博士……今日はご一緒しませんか? 折角同じ温泉宿に泊まってるんですし」

 

「そ、ソヨゴさん大胆ですね!」

「ソヨゴさんはたまに誰よりも積極的になるのよね……」

 

 ソヨゴの言葉を受け、カマボコは首をひねって考え込んでいた。そんな彼女にアーティは八重歯を見せて笑いかける。

「折角だから一緒に楽しめばいいじゃん、ご主人」

「馬鹿な! 我々は敵同士だぞ。共に旅行を楽しむなど……そんなことは……」

 言葉とは裏腹に顔がにやけ始めるカマボコだった。

 

「……いいだろう、花騎士達。特別に余が休暇を貴様らと共に過ごしてやる。ありがたく思え」

 

 

 


「まったく……何でカマボコ博士なんか呼んだんですか……」

 脱衣所。花騎士達は服を脱ぎ、その白い肌と控えめなボディラインを晒していた。

 

「すみません……でも仲良くなるチャンスだと思って……」

「ま、そう言うお人好しな所がソヨゴさんの良い所ですけどねぇ」

 バニラは明るい笑顔を見せ、先に温泉へ入っていく。ソヨゴもはにかみながらその後を追うのだった。

 

 

 

≪その頃、アクア騎士団≫

「……はっ! ソヨゴちゃんが温泉に入ってる気がする! 行かねば!」

 そう言って飛び起きたアクアの腹に、オリビアの鉄拳がめり込んだ。

「がはっ……!」

「病人は大人しくしていろ!」

「病人の扱いじゃない……」

 

 

 

「凄いわね。アーティさんの肌、こんなに近くで見ても人間の肌と見分けがつかない……」

 湯に浸かりながら、ガンライコウはアーティを舐めるように観察していた。

 

「ふふ、余の科学力を思い知ったか!」

(その科学力を他に生かせばいいのに……)

 

「でもご主人~、どうしてお胸をぺったんこにしたの? どうせならバインバインのバルーンバインにしてくれても良かったのに」

「作者の趣味だ。文句なら作者に言え」

「あのヤロー!」

 

 

 

 一時間後。

「ぷはー! やっぱりお風呂上がりは苺ミルクですね~」

 浴衣に着替えた花騎士達。火照った身体からはポカポカと湯気が立っている。

 そこでアーティが何かに気付いた。

「あれは……卓球台? よぉし、誰か勝負しよ~!」

「ふふん、そう言うことならバニラちゃんが」

「いや待って下さい。どうせならダブルスをしませんか?」

 ソヨゴの目線はカマボコへ向いていた。

 

「ほぅ、余に勝負を挑むとは命知らずめ。良かろう、返り討ちにしてくれるわ!」

(ご主人、いつになく楽しそう)

 

 

 

『それじゃあバニラさん・ソヨゴさんペアVSカマボコ博士・アーティさんの試合を始めるッス!』

「よっしゃー、行くよ!」

「吹っ飛ばせ、アーティ!」

 

 アーティのサーブはソヨゴの真正面へ。

(返しにくい所に打ってきますね……でも!)

「はっ!」

「ナイスリターン!」

『0-1』

 

「くぅ~、やるね! それなら奥の手だ!」

「ふふん、どんな奥の手……が……」

 目の前で起こった超常現象に、茫然と立ちすくむ二人。彼女達の前には、

「「デカ過ぎるでしょ……」」

 体長15m程の巨人が立っていた。

 

「ふふ、これが新機能の巨大化だ!」

「でもデカくなったら逆にやりにくいんだけど!」スカッ

「アーティぃぃぃ!」

 

「こら~! 誰だ巨大化してるのは! 床が抜けちゃうでしょうがぁ~!」

「げっ、ヘチマさん! すみませ~ん!」

 

 

 


「ふふ、花騎士達よ。田舎者の貴様らは知らんだろうが、今都会ではこんなものが流行っているのだぞ?」

 再び宴会場に着くや否や、カマボコはドヤ顔で黒い箱のようなものを見せびらかしてきた。

 

「何スかこれ?」

「カラオケだ」

「?」

 

「空のオーケストラの略でね。この装置に電気を送ることで、」

 アーティがプラグを差すと、部屋の中に美しいメロディが響き渡った。

「こんな感じで伴奏が流れるの。これをバックに歌えば、誰でも皆プロの歌手になったような気分になれるってわけ」

 

「余が発明したのだが、これが一大ヒット商品になってな。儲かり過ぎて笑いが止まらんわい!」

(そう言う発明もするのね……)

 

 

 

「そう言うわけで、勝負だ花騎士達!」

「勝負?」

「この機械は歌の採点機能も付いている。点数で勝った方が今日一日何でも言うことを聞く、ということでどうだ?」

「えぇっ!?」

「と言うわけで勝負開始!」

 半ば強引に勝負が始まってしまった。

 

「ではまず余から行くぞ! 余の美声に酔いしれるがいい!」

 流れる三拍子のメロディと共にカマボコがマイクを構える。

 

I'll fake it through the day with some help from Johnny Walker red

Send the poisoned rain down the drain to put bad thoughts in my head

 

(何語ッスか……?)

 

Do you miss me miss misery

Like you say you do?

 

「わぁ~~~!」

 曲が終わると花騎士達の拍手とタンバリンの音が鳴り響いた。

(正直、つっかえつっかえだったけど……)

 

「さぁ、点数は!?」

『アナタノ テンスウハ 55点 デス ウマクモナク ヘタデモナク ビミョウデス』

「何だと貴様ぁ!」

「ご主人、自分の作った機械に怒らないで。慣れない言葉の曲選んだのが悪いんだし」

「だってぇ~、英語で歌いたかったんだもん! 格好良い所見せたかったんだもん!」

「キャラ崩壊!?」

 

 

 

「ではこちらは歌姫ソヨゴちゃんを出すし!」

「えぇっ!? わたしですか!」

 驚くソヨゴの肩を、ツキトジは優しく叩いた。

 

「大丈夫。私の耳を信じるし」

「うぅ……ツキトジさんが言うなら……」

「して選曲は!?」

「じゃあ……団長さんが好きな曲で……!」

 

いつだって僕は道間違って 見当外れの場所に辿り着く

恋の終列車 駅を過ぎて

窓の外から夏が 囁きかける

何となく会いたくなって 風の便り あの娘へと

 

 

 

≪その頃、アクア騎士団≫

「何となく会いたくなったので、温泉行ってきていいですか?」

「風の便りでも出しておけ」

 

 

 

「ソヨゴさん、綺麗な歌声でした!」

「くっ、採点は!?」

『アナタノ テンスウハ 98点 デス モハヤ プロレベル』

「何ぃぃぃ!」

 

 負けと分かるや否や、カマボコは畳に寝転んで無抵抗の意を表した。

「煮るなり焼くなり好きにしろ……」

「そんなことしませんよ……」

「負けたのに態度はデカいッス……」

 

 そんなカマボコに、ソヨゴはゆっくりと近付き、優しく微笑んだ。

「それじゃあカマボコ博士、それにアーティさんも……お友達になってくれませんか?」

 面喰ったのはカマボコやアーティだけではなかった。

 

「ど、どういうことですかソヨゴさん!?」

「あっ、いや……折角こんな楽しく遊べてるんだから、お友達になれるかなと思ったんですけど……」

 

「……いいだろう。勝者の命令ならば、今日一日だけはお前達の友達になってやる」

「勿論あたいも文句なし!」

 

「よ~し、そうと決まれば今日は遊んで食べて飲み明かしましょう! カマボコさん、アーティさん!」

「……そうだな、花騎士達よ。ふふ……」

(ご主人が笑った……!?)

 

 

 

 花騎士達とカマボコ一向のどんちゃん騒ぎは暫く続いた。

 そして夜、カマボコは浴衣姿でベランダに出て、夜風に当たっていた。その横にソヨゴが腰掛ける。

「カマボコ博士、今日はお陰で凄く楽しめました。ありがとうございます」

「ふん……」

 その頬が赤く染まっているのは、温泉の熱さのせいだけではないだろう。

 

「油断するなよ、ソヨゴ。明日になれば我々は敵同士だ」

「どうしても団長さんとは仲良く出来そうにありませんか?」

「……」

 

(別にアクアに対しての個人的な恨みはどうでもいい。だが余が春庭を理想の世界に作り替える場合、最も大きな壁になるのはやはりアクア……我々は戦わなければならぬ)

「無理だな」

「そうですか……」

 暫しの沈黙。それを破ったのはカマボコの方だった。

 

「だが……今日はお前達とは友達だ。それは紛れもない事実。だから……」

 カマボコが合図をすると、黒いコンドルのような鳥が彼女の腕に止まった。

「わぁ~、可愛い鳥さんです」

「ふふ、だがこれは鳥型ロボットなのだ。そして」

 コンドルの背中にあるスイッチを押す。するとコンドルはガシャガシャと変形し始め、やがてカマボコの手に収まるくらいの四角形の箱になった。

 

「それは……カメラですか」

「左様。カメラに変形するコンドルロボットなのだ」

「す、凄い技術ですね……」

 

「今日という日はすぐ終わってしまうが、記録に残しておくことは出来る。というわけでその……一枚どうだ?」

 照れながらカメラを向けるカマボコに、ソヨゴは微笑みながら頷いた。と同時に、

「何スかカマボコ博士~、やっと素直になったんスか~?」

「もう、ご主人ったら~」

 ベランダに花騎士達とアーティが姿を現した。

 

「き、貴様ら見ておったのか……!」

「写真ですよね。それじゃあ一緒に取りましょう」

「ぐ、ぐぬぬ~……」

 

 

 

「よ~し、それじゃあ行くよ。はいチーズ」

 撮影が終わると、カメラの底から現像された写真が取り出される。それを見てカマボコは、

「ふふ……」

 他の者にバレないよう、小さく微笑んだのだった。

 

 

 


 翌日、アクア騎士団。

「ふぅ~、ソヨゴちゃん達も帰路に就いてるみたいですし、もう少しで会えますね」

 アクアが窓の外を見つめて微笑んだ、その時だった。

『ふふ、ごきげんようアクア団長。体調はどうだね?』

 

「その声は……カマボコ博士! また蚊型ロボですか?」

『左様。貴様が怪我をしたと聞いて見舞いに来てやったのだ』

「それはお気遣いありがとうございます……でもそれだけが目的じゃないんでしょ?」

『そう勘ぐるな。本当に今日は見舞いだ。見舞いの品も持ってきてやったから、今壁に投影してやるぞ』

「え? 投影……?」

 

 そうして白い壁に映し出されたのは、カマボコとアーティ、そして花騎士達が映った写真だった。

「え……これは一体……?」

『ふふ、昨日花騎士達と色々あってな……全員余の僕となったのだ! もうお前の元へは帰らないと言っているぞ』

「そ、そんな……嘘だ……ぎゃあ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!

 

 その後花騎士達が帰って来るまで、アクアの誤解は解けることがなかった。




今回はちょっとしんみりしてましたかね?
カマボコ博士を掘り下げると少しシリアスになる気がするので、ここから先彼女をどう扱うかは重要ですね……

まぁ取り敢えず次回は普通にギャグ回やります(笑)

ここまで読んで頂き、ありがとうございました


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花騎士狩りの女

今回もこれまた変なお話(笑)

今回二人のゲストキャラが出てきますが、今後は別に出番は無いでしょう


 さて、今回のレズ団長は、ウィンターローズの奥深き雪山から物語を始めよう。

 

「キシャァァァ」

 吹雪の中に一匹の害虫の姿が。しかしその頭上から、

「キシャ? ギャァァァ!」

「ふふん、これで一丁上がりだ!」

 

 電磁ネットに捕らえられ苦しむ害虫。その目の前に二人の女が現れた。

「お見事です、ツナマヨ卿」

「あぁ。だがこうも簡単だと張り合いが無いな」

 

 長い赤髪で気の強そうな女性はツナマヨ卿。その隣の眼鏡を掛けた巻き毛の女性はその執事、ササミだ。

 彼女らはあらゆる生物を生け捕りにし、自分の屋敷に飾ることを生き甲斐としていた。

 

 

 

 所変わり、ここはウィンターローズにあるツナマヨ卿の屋敷。赤絨毯の敷かれた荘厳な廊下には、ライオンや熊のような獰猛な動物、そして害虫の頭が剥製されて飾られている。

「これでまた一つコレクションが増えましたな」

「うむ。しかし我輩は更なる獲物が欲しい」

「というと?」

「ふふ……害虫と渡り合える力を持った者……花騎士をコレクションに加えるのだ!」

 

 

 

「やぁツナマヨ卿。相も変わらず素敵な趣の屋敷だな」

「これはこれは、カマボコ博士」

 二人は握手し客間へ向かう。

 

「戦闘用ロボット10体に光線銃2丁、更に様々なトラップ……占めて200億ゴールドだ」

「あぁ。いつも世話になる」

 ササミ執事からゴールドの入ったトランクが受け渡される。カマボコはその中身を確認し、不敵な笑みを見せた。

 

「確かに。しかしここまでの装備……まさか戦争でも起こすつもりか?」

「戦争? そんな下らんことはせんよ。我輩がやろうとしているのはもっと美しく芸術的なことだ」

「そうか……」

「ふふ……ふははは!」

 狂気的な笑顔を見せるツナマヨにドン引きしながら、カマボコはその場を後にした。

 

 

 

「ご主人、お疲れ様~」

「アーティ、出迎えご苦労」

 屋敷の前でカマボコを待っていたアーティが、フリフリのドレスを揺らして駆け寄ってきた。

 

「それにしても、あたいあのツナマヨって奴苦手~。何考えてるのか分かんないもん」

「同感だ。だが金払いは良いからな。無下には出来んのだ」

(あの狂人、次は何をしようとしているのだ……)

 

 

 


 ツナマヨの野望は動き始めようとしていた。

 ここは最新の技術で作られたカラクリの展示会場。花騎士であり発明家のガンライコウは、この展示会にゲストとして呼ばれていた。

 

「ふむ……どれも良いわね……」

 大好きなカラクリをじっとりと見つめるガンライコウ。彼女があるカラクリに近付くと、赤髪のサングラスの女性が近寄ってきた。

 

「これはこれはガンライコウ様。私のカラクリはどうザマスか?」

(何この変な人……)

「これは何のカラクリなの?」

「これはですね……」

 

 女性がスイッチを押すとカラクリからアームが現れ、ガンライコウの身体をガッチリと拘束してしまった。

「なっ!? こ、これはどう言うことなの!」

「ふふっ、これはお前を捕まえるためのカラクリだよ、ガンライコウ!」

 女性がサングラスを外すと鋭い目付きが光る。先程の女、ツナマヨ卿だ。

 

「これで一丁上がりだ~!」

「た、助けて~!」

 

 

 


「ふぅ~、今日は良い天気ですね~」

 昼間の公園を散歩している少女、花騎士のバニラだ。そこに、

「そこのお嬢さん」

 アイスクリーム屋の店員が声を掛けてきた。

 

「現在新商品の試食が可能ですが、如何ですか?」

「アイスですか!? 食べます食べます!」

 甘党のバニラは直ぐに食い付いた。だがそれはツナマヨ達の罠だった。

 

「あれ……何だか眠く……」

 その場に座り込んでしまうバニラ。店員は彼女を抱き抱え、やって来た車の後部座席に乗せてしまった。

 

「面白い程簡単に引っ掛かりましたな、ツナマヨ卿」

「いやぁ簡単簡単。バナナオーシャンのライオンの方がまだ張り合いがあるわい」

 

 

 


「ガンライコウさんとバニラさんが行方不明!?」

 連絡を受けたハツユキソウは街中を捜索していた。そこに、

「タスケテー! タスケテー!」

「あれは!?」

 火の燃え広がる家と、助けを求める少女の声。ハツユキソウはすぐさま救助に向かう。

 

「大丈夫ですかお嬢さん! かがんで、煙を吸わないようにして下さい!」

「タスケテー! タスケテー!」

「聞こえないんですか!」

 不審に思ったハツユキソウは少女に駆け寄る。そして少女を抱き抱えると、

「はっ! あなたは……!」

 

 少女の身体は脆く崩れ、内部から電線がはみ出している。明らかに人間ではなかった。

「ロボットだったんですか……ということはこれは!」

「今更気付いても遅いわ!」

 

 ハツユキソウの足元から触手が伸び、彼女をきつく拘束してしまった。

「これで三人目だ!」

「た、助けて下さぁい! 団長さぁぁぁん!」

 

 

 


 そしてアクア騎士団。アクア団長と花騎士達が緊急会議を行っていた。

 

「ガンライコウちゃん、バニラちゃん、ハツユキソウちゃんが立て続けに行方不明に……一体何が起こってるんです……」

「どうせまたカマボコ博士じゃないッスか?」

「いや……これは私の勘ですが、今回はカマボコ博士は関係ないと思います」

 その時、

 

『やぁアクア団長。ご機嫌いかがかな?』

 会議室の壁に映像が映し出された。そこに映るのは二人の女、ツナマヨ卿とササミだ。

 

「あなた達は何者です!?」

『我輩はツナマヨ卿。ハンティングが生き甲斐』

「ハンティングですって! まさかハツユキソウちゃん達はあなたが……」

『察しがいいな。まぁこの映像を見てくれ』

 

 画面が切り替わる。そこには花騎士達が拷問を受けている様子が映されていた。

『はぁ……はぁ……』

 回転するコンベア、その後ろには針山。走り続けなければ串刺しになってしまうのだ。

 

『ぜぇ……ぜぇ……!』

「ハツユキソウちゃんとバニラちゃんはまだ余裕がありそうですが、ガンライコウちゃんは限界が近いですね」

「酷いッス……」

 

「ツナマヨ卿! 一体何が目的ですか!」

『我輩の目的はただ一つ、強い生物を捕まえてコレクションすること。害虫さえ凌ぐ強さを誇る貴様らが欲しいのだ』

「そんな身勝手な理由で……皆を解放しなさい!」

『いいだろう。ならばアクア団長、貴様一人で我が屋敷に来い。そこで花騎士を見つけることが出来れば、仲間は解放してやろう』

 

「団長さん、これは罠です!」

「ですが今はこれしか方法が無い……いいでしょうツナマヨ卿。その挑戦、受けて立ちます!」

『いやぁお見事! 流石勇敢な戦士、アクア団長だ。狩りの楽しみが増えたわい』

 そこで通信はぷっつりと切れた。

 

「団長、こうなったら騎士団全員で乗り込むッスよ!」

「いや、約束通り私一人で行きます。このままでは騎士団も花騎士も舐められっぱなし……我々の恐ろしさを思い知らせてやります!」

 

 

 


「ツナマヨ卿! 約束通り一人で来ましたよ! 花騎士はどこです!?」

『ふふ、この屋敷のどこかにおるわ。精々頑張って捜すんだな』

「しかしその前にあなたを見つけたら……ただでは済ましませんからね……」

 

 ツナマヨの屋敷は騎士団の王城と遜色ない……いや、それ以上の大きさを誇る。更に地下室等もあるため、その中から花騎士三人を見つけ出すのは至難の業だ。それに、

「ガルルル……」

「……はっ!」

 何かの気配に気付いたアクアは回し蹴りをお見舞いする。

「ギャッ! ギャウゥゥゥ!」

 アクアの蹴りに驚き、『それ』は逃げ去って行った。

 

「い、今のは……虎ですか……」

『おっと、言い忘れたがこの敷地内には獰猛な獣達がうようよしているからな。気を付けてくれたまえ』

「ご忠告どうも。しかし……」

 アクアは背後から襲い掛かってきたライオンの牙を掴み、

「ふんっ!」

 へし折ってしまった。

 

「キャン! キャン!」

「この程度で騎士団長が倒せると思ったら大間違いですよ」

 

 

 

 その頃、ツナマヨ卿のモニタールーム。

「素晴らしい! あんな強い生物は見たことがない!」

『どうしました、ツナマヨ卿? これで終わりですか? だとしたら、あなたの命もそう長くはありませんね』

 

「アクアめ、言ってくれるわ。なら次は『アレ』を出せ!」

 

 

 

 アクアが建物に入ると、数10mサイズの巨大な鉄格子が開かれる。そこから出てきたものは……

「ギャオォォォ!」

「な、何じゃこりゃあ!?」

 

 そこにいたのは、アクアが今まで目にしたこともない巨大生物だった。

『見たか! これがベルガモットバレーの密林で捕まえた伝説の生物、恐竜だぁ!』

 

「うぉっ!」

 辛うじて恐竜の踏みつけを避けるアクア。彼女が元いた場所には、人間よりも遥かに大きなクレーターが作られていた。

 

(あんなの喰らったらひとたまりもありませんよ……)

『どうしたアクア! 避けることしか出来んのか!』

(それなら!)

 

 恐竜の攻撃を素早く避け、アクアは恐竜の背後に回り込んだ。

「おらぁっ!」

 そしてその尻尾を掴み、全身の力を込め始める。

 

『馬鹿め! その体重差で持ち上げられるわけが……何!?』

「ぬぉぉぉぉ!!」

 少しずつ恐竜の巨体が浮き始める。そして、

「おるぁぁぁぁ!」

 アクアのジャイアントスイングが決まり、恐竜は建物の壁を突き破って彼方まで吹き飛ばされていった。

 

 

 

「まさかあの恐竜を倒すとは! 信じられん!」

「折角3日もかけて捕まえたのに、残念ですなぁご主人様?」

「そんなことはどうでもいいわい! それより我輩は余計アクアが欲しくなったぞ! 次のトラップを発動させろ!」

 

 

 

「はぁ……はぁ……これが切り札だと言うなら面白いジョークです。騎士団に喧嘩を売ったこと、必ず後悔させてやりますから、首を長くして待うぉぉぉ!?」

 アクアの頭上からネットが降り掛かる。しかもただのネットではない。電気を帯びたトラップ用のネットなのだ。

 

「ぐぁ……くそ、こんな罠に……がぁぁ!」

『ふふ、流石のアクアも電磁ネットには手も足も出せんか』

 

「くっ、この……」

 アクアはネットに手を掛け、

「うらぁぁぁ!」

 素手で引きちぎってしまった。

 

『何だと!? 化け物か貴様!』

「こんな所でモタモタしてる暇はないんですよ!」

 

 

 


 その頃、拷問を掛けられている花騎士達は。

 

「この騒音……きっと団長さんが助けに来たんですよ!」

「ぜぇ……ぜぇ……も、もう、限界……」

「ガンライコウさん! もうちょっとの辛抱ですよ!」

 何とかガンライコウを励ますバニラとハツユキソウ。しかし直接助けることは出来ない。最早気休め程度の励まししか出来ないのだ。

 

「……いや、風向きが変わりました。この香水を使えば団長さんが気付いてくれるかも」

「それは?」

「ソヨゴさんの匂いを凝縮した香水です」

「……」

 

 

 


「はぁ……はぁ……三人とも、一体どこに……むっ!?」

 アクアが嗅ぎつけた匂い、それは、

「ソヨゴちゃんの匂い! ……って、ソヨゴちゃんがこんな場所にいるはずがない。ということはバニラちゃんの香水かも知れませんね」

 匂いを辿るアクア。彼女が花騎士達へ近付いて行くことに、ツナマヨは焦りを見せていた。

 

「まずい……ならば最後のトラップを作動させるのだ!」

 そのトラップとは、

 

「うぇ~ん……うぇ~ん……」

「うん? あなたは……」

 アクアの前に現れたもの、それは鎖に繋がれ号泣している幼い少女の姿だった。

 

「どうしたんですか、お嬢さん? まさかツナマヨにあんなことやこんなことを……?」

「うぇ~~~ん!」

「困りましたね……」

 

 少女をじっとりと舐めるように見回すアクア。特に短いスカートから覗く太ももには視線を奪われていた。

(ふふふ、アクアは子供好きだと聞く。ならばその少女は放っておけんだろう。しかしその少女型ロボットに触れた瞬間、毒の霧が発生し貴様はお陀仏となるのだ)

「むふふ……ん?」

 

 その時、アクアは何かに気付いた。

(何か肌の質感が若干おかしいような……しかしこの質感、どこかで……あっ、アーティちゃんだ。ということは、この子はロボット……?)

 ロリコンのアクアは子供の肌には人一倍敏感なのだ。どんなに精巧に作られていても、彼女の目を欺くことは不可能だ。

 

「見え透いていますよ、ツナマヨ。見え透いている」

「くっ、素通りしおった!」

「まずいですよご主人様! このままでは花騎士達が!」

 

 

 


 そして遂に、

「ぜはぁ……ぜはぁ……た、助かったわ、団長さん……」

 

「花騎士を奪還したからにはもうこちらのものです! 奴に痛い目見せてやりましょう!」

「そうですよ! あんなふざけた奴には、アクア騎士団の恐ろしさを分からせてあげないと!」

「行きましょう、団長さん!」

(あ、あたしはいち早く休みたいんだけど……)

 

『花騎士を取り戻したようだな、アクア。約束通り彼女達は解放するが……生きて返すとは言っておらんぞ! ここが貴様らの墓場となるのだ!』

「生きて帰れないのはどちらでしょうね、ツナマヨ卿!」

 

 次々と現れるカマボコ製戦闘ロボット。だが、花騎士を救出し足枷の無くなったアクアには、その程度は物の数ではなかった。

「はぁぁ……とりゃぁぁぁ!」

 アクアの拳がツナマヨ卿の屋敷を崩壊させてゆく。その衝撃は彼女らのいるモニタールームにも。

 

「な、何だこの揺れは……ぬぉぉぉぉ!?」

 吹き飛ぶ鋼鉄の壁。その向こうから現れたのは……

「あ、アクア!」

「ツナマヨ卿! これが最後です!」

 

「に、逃げろぉぉぉ!」

「待てササミ! 我輩を置いていくな!」

 

 

 

 最早廃墟と化したツナマヨの屋敷。その瓦礫の中に、ツナマヨは辛うじて身を隠していた。なお、執事のササミは先にどこかへ逃げてしまった。

 

「出てこいツナマヨ! はらわたを引きずり出してやる!」

(ひぃぃぃ!)

 花騎士達を傷付けられ、普段穏やかなアクアも怒り狂っていた。その姿、まるで鬼神の如し。

 

(頼む! こっちに来ないでくれ!)

 形勢は逆転した。それまで狩る側だったツナマヨが、今度はアクア達から狩られる側となった。背筋を震え上がらせる程の恐怖の中で、ツナマヨは騎士団に手を出したことを心の底から後悔していた。

 

「どこへ逃げても無駄だ! 必ず貴様を見つけ出し、手足バラバラにしてショーウィンドウに飾ってやる!」

(頼む頼む頼む! 早くどこかへ行ってくれぇ!)

「……ここにはいないようですね。他の場所を探しますか」

 

 瓦礫に耳を当てアクアの様子を伺うツナマヨ。

(……い、行ったようだな)

 足音が遠くなったことを確認し、安堵の表情を浮かべた。

 

(は、早くこの場から逃げなければ! 捕まったら死ぬ!)

 そう思って瓦礫を取り除いた時だった。

「ごきげんよう、ツナマヨ卿」

「えっ……」

 そこに居たのは紛れもなくアクア団長だった。

 

「死ぬ覚悟は出来たようですね」

 にっこりと微笑むアクア。しかしその瞳は笑ってはいない。氷のように冷たい笑顔だ。

 

「あ、アクアよ……我輩が悪かった! 頼む、命だけは助けてくれぇ!」

「……」

 土下座するツナマヨを無視し、アクアは無言で槍を構え始める。

 

「ホントにすまなかった! もう花騎士には二度と手を出さない! だから許してくれぇ!」

「……」

「何なら我輩の地位も権力も財産も全てお前に譲る!」

「……」

「これからは世のため人のために生きますからぁ……だからぁ……」

 鼻水まで垂らして泣きじゃくるツナマヨ。それでもアクアの表情はピクリとも変わることは無かった。

 

「……言いたいことはそれだけですか?」

「う……あぁ……」

 

「あぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 


≪翌日≫

「聖女様、宅配です」

「あら?」

 某所にある巨大な城。ここには雪中の聖女、すなわちアクアの母がハーレムを築いていた。

 

「随分と大きな荷物ねぇ……あらあら」

 その中身を見て、聖女は微笑む。

 

「んむぅ! んんぅ!!」

 そこには両手足を縛られ、口をガムテープで塞がれたツナマヨが包装されていた。

 

「あら、メッセージカード付きみたいね」

 

『母様へ。少し早いけれどお中元です。ご自由にお使い下さい』

「あの子ったら……では遠慮なく使わせて貰いましょう」

「んむっ! んぅぅ!!」

 怯えるツナマヨに、聖女の魔の手が差し掛かる。そして、

「んんんぅぅぅぅ!!」

 

 その悲痛な叫びは三日三晩鳴り止むことは無かった。




アクア団長、ブチ切れモードw
何だかんだ花騎士思いの団長だから、彼女達が危険に晒されたら怒り狂いますよね

ここまで読んで頂き、ありがとうございました


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花騎士、緊急来日(前編)

今回も色々とカオスな回
しかしこの子達、当たり前のように三次元に来るな……


 ウィンターローズのとある雪山の中に、巨大戦闘用ロボットが所狭しと格納されている。ここは悪の天才科学者、カマボコ博士の秘密基地。アクア騎士団を始めとする花騎士達を一網打尽にし、春庭を征服するための拠点である。

 しかし当のカマボコは、司令室でうんうんと首を捻っていた。

 

(アクアに対抗するため、もっと戦力を増やしたいが……開発・製造するために莫大なエネルギーが必要となる。最早春庭の施設だけでは賄えん……)

「う~む……」

 

「よぅご主人! 何悩んでんの~?」

 首をもたげて悩むカマボコの元へ、人造花騎士アーティが元気よく扉を開けてやってきた。

「うぅ~~~む……」

「……今の内にご主人のプリン頂いちゃえ!」

 

 アーティが冷蔵庫のドアを開けたその時だった。

「それだ!」

「ひゃぅっ!?」

「春庭のエネルギーで足りないのなら、他から頂けばいいのだ!」

 

 

 

「というわけで、見つけたぞ『アーティファクト』」

「わぁ~!」

 アーティファクト。春庭と異世界の境界の中で、一部空間が歪み不安定になっている箇所がある。それが次元の狭間、アーティファクトなのだ。

 

「いざ行かん!」

 次元の狭間に吸い込まれていく二人。果たしてその先には一体何があるのか。

 

 

 


「ここは……」

「何だかゴミゴミした所だね」

「あぁ。だが文明は中々進んでいるようだな」

 カマボコは辺りを走る車や電車、そして高々とそびえる高層ビルを感心したように見つめる。

 

「おい、そこの男!」

「は、はいっ!」

(ん? この子達可愛いな。でゅふふ……)

 カマボコはしがないサラリーマンに声を掛けた。彼の名はイッチー(仮名)。小児性愛者の変態クズ野郎であった。

 

「余の質問に答えるか死ぬか選べ。ここは何と言う国だ?」

「は、はい! ここは日本です!」

 そう、カマボコ達は三次元世界の日本、東京の大都会へ飛ばされていたのだ。

 

「日本か。ではこの国の王はどこにいる?」

「王……総理大臣なら国会議事堂にいますよ。何なら私が案内しましょうか?」

(幼女に優しくして好感度アップ……でゅふふ……)

 

「あ、あぁ……では案内致せ」

(気味の悪い男だな……)

 

 

 


 その頃、春庭。

「高エネルギー反応があるから来てみれば……やはりここはアーティファクトね」

「凄い……空間が歪んでるみたいです」

 不審なエネルギー反応を調査しに来た花騎士達とアクア団長だった。

 

「しかもこのアーティファクト、何者かが使用した跡があるわ」

「そんな大それたことをするのは一人しかいませんね……カマボコ博士です」

「ではわたし達も追いますか?」

「そうですね。嫌な予感がしますし、早い方が良いです」

 

「え~、でもちゃんと帰ってこれるんですか~?」

 慎重派のハツユキソウはぶつくさと文句を言っている。そんな彼女だが足元の石に躓き、

「あっ……」

 アーティファクトの方へ吸い寄せられていった。

 

「いやぁぁぁ!」

「ハツユキソウちゃんが先陣を切りました! 我々も続きましょう!」

 

 

 


 そしてアクア達も日本へやって来た。だがそこは、我々の知っている日本とは全く異なるものに変わっていた。

「な、何ですかこの超文明は……」

 摩天楼がまるで要塞のような威圧感を放っている。その上空は翼の生えた車が埋め尽くす。そして監視カメラロボットがアクア達の姿を捉えた。

 

『そこの一行、止まりなさい』

「うん? 私達ですか?」

『ロリ反応がありました。そこの三人をロリ保護施設に預けなさい。早急に』

「ロリ……? まさかソヨゴちゃんとバニラちゃんとツキトジちゃんのことですか? そんなこと出来るわけないじゃないですか!」

『抵抗しますか? それなら……』

 

 監視カメラロボットは人型へ変形し、ガトリングやシールドで完全武装した。

「やる気ですか? それなら……」

 槍を構えたアクアをバニラが手で制す。

「団長さん、ここはバニラちゃんにやらせて下さい。ここまで馬鹿にされて黙っていられませんから」

 バニラはロリ扱いに腹を立てていた。

 

 

 

「おい、どうしたんだ一体」

「監視ロボットが喧嘩だってよ」

 騒ぎを聞き付けたギャラリー達が集まり始めていた。

 

「だがアイツ下手な兵器より強いだろ。人間じゃ勝てないんじゃないか……」

「理不尽なことばっかり言われるから、一発ぶっ飛ばして貰いたいがね……」

 

「……」

『……』

 睨み合う両者。ギャラリーが固唾を飲んで見守る中、一筋の風が通り過ぎた。そして、

「はぁっ!」

『ギ……!』

 

 バニラの武器がロボットの身体を吹き飛ばした。

『ギギギ……ピー!』

 ロボットは爆発。バニラはその爆風を背で受けていた。

 

 

 

「うおぉぉぉ! すげぇ!」

「ふふん。まぁそれ程でもありますね」

「あんた達一体何者だ!? もしかしたらこの国を救えるんじゃ……」

 

 ギャラリーが盛り上がった時だった。

「何の騒ぎだ?」

「な……!」

 明らかに場違いな、世紀末ファッションに身を包んだ大男が立ち塞がった。男が足を踏み込んだだけで、足元のコンクリートはいとも簡単に壊れてしまう。

 

「何ですかあいつ!?」

「ま、まずい……『ロリコン党』の幹部だ!」

「ロリコン党!?」

 

「ロリコン党……元々この国に多く存在した団体だが、現総理大臣のカマボコが彼らに戦力を与えたことで、今では実質日本を支配している最強の一団。幼女をこよなく愛する変態どもだ」

「何ですかその変態集団は!」

(団長さんも大して変わらないと思う……)

 

「……って、カマボコ総理大臣!?」

「あれが政治のトップはまずいッスよ!」

「む……貴様ら、同志カマボコ様を愚弄したな? 罰を与える! ついでにロリは貰っていく!」

「この変態野郎! 返り討ちにしてくれます!」

 

「とりゃぁっ!」

 アクアの槍が男の頭部目掛けて襲い掛かる。しかし、

「ふんっ!」

「ぬぉっ!?」

 男が手で軽く振り払っただけで、アクアの身体は宙を舞っていた。

 

「そ、そんな……団長さんが力負けするなんて!」

「単純な体格差の問題じゃないわね……あれはおそらく……」

 

「ふん、カマボコ様に改造して頂いた身体だ。貴様ら如き敵ではないわ!」

「やはりサイボーグ……これはかなり分が悪いわね……」

「取り敢えず退きますか……」

「いや、団長さん! わたしにいい考えがあります」

 ソヨゴがアクアの耳元に囁きかけた。

 

「わたし達が捕まったふりをして、内部を探ります」

「いや、そんな危険なことさせられませんよ」

 アクアはソヨゴの声に股を濡らしながらも、その意見だけはきっぱりと否定した。

 

「大丈夫です。わたし、団長さんを信じてますから。団長さんもわたしを信じて下さい」

「ソヨゴちゃん……」

 ソヨゴの赤い瞳がアクアをじっと見つめる。そして、

「……危なくなったら何が何でも逃げて下さい。必ず助けに行きますからね」

「はい!」

 

 

 

「ぐへへへ、上等なロリが三人! これは我らがリーダーもお喜びになるだろう!」

「あ~れ~!」

 こうしてソヨゴ、バニラ、ツキトジの三人は彼らの本拠地へ連れ去られていった。

 

「……さて、ではこちらも作戦を立てましょう」

「お待ち下さい! その作戦、我らも協力しましょう」

「あ、あなた達は!」

 

 

 


 一方、ここはカマボコに占拠された国会議事堂。

「大臣よ、各地方の発電所開発の方は順調か?」

「はい。特にロリコン軍団の活躍は目覚ましく、全労働力の8割を賄っております」

「ふふ、奴らはロリを与えておけば不眠不休でも働ける者達だ」

「虐げられてきたロリコンを味方に付けたのは成功でしたな。奴らは貴方の容姿と貴方への恩義でいくらでも働く」

「そういう大臣、貴様もだろう。今日は新たなロリを与えてやるから、今後も富国強兵を進めるのだ」

「うっひょぉぉぉ!」

 

「ふふ……」

 カマボコは満足げな様子で総理の椅子に腰掛け、置いてあった新聞に目を通した。

 

『カマボコ首相、支持率8割越えも国際社会からの批判止まらず』

『幼女の性的消費と環境破壊! 最大最悪の独裁者を許すな!』

 

「うわぁ……ボロクソ言われてるね、ご主人……」

「ふんっ、言わせておけ。どうせアメリカも中国もヨーロッパ諸国も余のものとなる。力こそ全てなのだ」

 カマボコはそう言うと、部屋にあった地球儀を手に取り、指の上でくるくると回し始めた。

 

 

 

「カマボコ総理!」

「何だ騒々しい!」

「先程捕まえたロリが、『カマボコ博士に会わせろ』と聞かなくて……花騎士だと言えば分かると言われたのですが……」

「何!? 花騎士だと!?」

 

 そしてカマボコの前に三人の花騎士が連行されてきた。

「ソヨゴ達か。ふふ、まさか三次元世界まで追ってくるとはな」

 言葉とは裏腹に嬉しそうな表情のカマボコ。

 

「カマボコ博士! もうこんなことは止めて春庭に帰りましょう」

「勿論帰るさ。エネルギーをたっぷり頂いた後にな……おい」

「はっ!」

「この者達を貴様らのリーダーの元へ連れて行け」

 

「ロリコン党のリーダー……」

「ふふ、最強のロリコンだぞ。精々可愛がって貰うのだな」

「……」

 

 

 


 その頃、アクア達は。

「あ、あなた達は……」

「我々はレジスタンス。ロリコン党に虐げられし者達」

 

 

 

「……なるほど。政府はそんな強硬政策を……」

「はい。奴らはエロ漫画やAVに巨乳女性を出すことを禁じたのです……それはもう酷いもんでした」

「それであなた達は戦力を整え、レジスタンスを結成したのですね?」

「目には目を歯には歯を。巨乳派の人権を取り戻すには、こちらも力で対抗するしか無いのです」

 

 その時、一人の男性が近付いてきた。その佇まいから、只者ではない雰囲気を醸し出している。

「あなた達が花騎士ですか。私はレジスタンスのリーダーで……日本国の元総理です」

「元総理!?」

 

 元総理は拳を強く握りながら語った。

「カマボコ総理の政策は許せん……これでは日本は国際社会から白い目で見られてしまう……!」

「お気持ちお察しします」

「それに巨乳エロ漫画を無くすなど……巨乳を!」

(元総理は巨乳派なんですね……)

 

「アクア団長、共に戦ってくれますか? あなた達がいれば百人力です」

「勿論。必ずカマボコ政権を倒し、彼女達を春庭に連れて帰ります」

 

 

 


「ここが国会議事堂……」

 最早要塞と化した国会議事堂。その門の前に立ち、アクア達は武器を構えた。

 

 吹き荒ぶ不穏な風。ばさっ、ばさっと旗が揺れる。その旗には、カマボコ総理の顔写真がプリントされていた。

「クソカマボコめ……日本を征服して、国会議事堂にクソみてェな旗立てやがって……」

 

「行くぞ、皆の者!」

「うぉぉぉぉ!」

 

 

 

「カマボコ総理! 反乱軍が一の砦を突破しました!」

「あの守りを突破しただと!? 映像を映せ!」

 モニターに映されるレジスタンスの面々。それを率いていたのは、

「アクア……ふははは! いいだろう! この世界で貴様との決着を付けてやる!」

 

「カマボコ様、私めにお任せ下さい。必ずやアクアの首を取って参りましょう」

「貴様はロリコン党のリーダー……いいだろう。もしアクアを倒すことが出来れば、貴様にはロリハーレムを与える」

「有り難き幸せ!」

 

 

 


「はぁ……はぁ……何スかこの戦力!」

「倒しても倒してもキリがないわね……」

 それもそのはず。日本中のロリコン戦士とカマボコ製戦闘用ロボットがここに集結しているのだ。

 

「阿頼耶識……はぁぁぁ!」

 アクアのフルパワーの一撃が周囲数kmを吹き飛ばす。散り散りになる兵士達。だがその攻撃に全く動じていない戦士が一人立っていた。

 

(彼、只者ではありませんね……)

 身の丈2mを優に越える大男。醸し出す威圧感は一般兵の比ではない。

 

「何者ですか、あなたは」

「俺はイッチー(仮名)。ロリコン党のリーダーでありカマボコ様の右腕」

「作者ぁ!」

 

「カマボコ様は蔑まれてきた我らロリコンを救ってくださった……この恩を返すためにも、そして俺のロリハーレムのためにも、貴様を殺す!」

(割りと欲望まみれだな……)

 

「死ねぃ、アクア団長!」

「ぐっ……!」

 イッチーの拳を何とかガードしたアクアだが、その風圧だけでレジスタンス軍は吹き飛んでいく。

 

「中々やるな……では!」

「……っ!? 彼の右腕に高エネルギー反応!」

「(ロリ以外は)滅びよ……」

 イッチーの右手に凝縮されたエネルギー弾が放たれる。何とか避けたアクア達だったが、

「はぁ……はぁ……っ!?」

 

 アクアは驚愕した。背後の景色が一変していたからだ。鋼鉄の砦は跡形もなく消し飛び、巨大なクレーターがあるのみだった。

「これがカマボコ様の与えてくれた力だ」

「くっ……!」

「もう一発来るッス!」

 

「滅びよ……」

(……今だ!)

 一瞬の隙にアクアが懐に入り込んだ。そして、

「おらぁっ!」

「頭突き!?」

 

「ぐっ……何て硬い頭だ!」

 よろけるイッチー。すかさずアクアは背後に回り込む。

「あなたは間違っている……全ての女性は等しく美しい! そこに優劣などありません!」

「黙れ! 貴様のようなババアに何が分かる!」

「分かりますとも! だって……私もロリコンですから!」

「何だと!?」

 

「あなたのようなロリコンの面汚しは……」

 アクアが腕に力を込めると、イッチーの身体は少しずつ浮いていく。

「馬鹿な! イッチーリーダーの体重は、機械部分含めて300kg を超えるんだぞ!」

 

「ぐぬぉぉぉ!」

 やがてイッチーの身体は完全に逆さになる。

「あれはまさか……プロレスの大技、ブレンバスター!」

 

「うぉりゃぁぁぁ!!」

「がはっ……!」

 頭から地面に叩き付けられるイッチー。ズシンと鈍い音を響かせ、その巨体が大の字に倒れ込んだ。

 

 

 

「はぁ……はぁ……これが真のロリコンの力です……!」

 汗まみれで荒い息を吐くアクア。

 

「み、見事だアクア団長……」

 イッチーはのそりと起き上がる。脳が揺れているのか、その焦点は定かではないようだ。

 

「俺は目が覚めた……ロリコンでも非ロリを否定してはいけない……何故なら、世の女性は皆ロリだったのだから……」

(別にそういうことを言ったんじゃないですけど……)

 

「アクア団長! 俺も共に戦おう! この狂った国を元に戻すのだ!」

「イッチーさん……同じロリコン同士、力を合わせましょう!」

 こうして二人のロリコンは手と手を取り合った。敵はただ一人、悪の総理大臣カマボコのみ。

 

 

 


「あ、ところでソヨゴちゃん達がどこにいるか知りません?」

「あぁ、あの極上のロリか。彼女達なら俺の部屋にいる」

「ぬわにぃ!? 貴様! ソヨゴちゃんに何をした!」

「ふふ……至福の時間だった……一緒に映画を見て食事をして、そして……」

「そ、そして……?」

 固唾を飲むアクア。

 

「耳かきをしてもらったのだ。ふふ……」

 イッチーは童貞だった。

「そんなの、私は毎日してもらってますよ?」

「何だと!? やはり貴様と俺は敵同士だ!」

 

 

 


「チッ、イッチーが裏切ったか……だが奴らは所詮前座。本当の戦いはこれからだぞ、アクアよ!」

 

 カマボコ総理との戦いは更に激しさを増していく。日本と春庭の未来のため、戦え! 我らがアクア団長!




あまりにも長くなりそうだったので前後編に分けました
これでも結構端折ったと思うんですが……

ここまで読んで頂き、ありがとうございました


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花騎士、緊急来日(後編)

ちょっと期間が開いてしまいましたが、無事今回の話も完成しました
……完成? ……これで完成でいいんでしょうか……


「おらぁぁぁ!」

 アクア率いるレジスタンス軍の進撃は続いていた。既に二の砦を突破し三の砦へ。それを突破すれば遂に国会議事堂本丸だ。

 

 

 

 そしてロリコン党リーダー、イッチーの部屋。ここにはソヨゴ、バニラ、ツキトジの三人が軟禁されていた。

「この音は……きっと団長達だし!」

 ツキトジがいち早く物音に反応した。

「よぉ~し、それじゃああたし達も暴れますか!」

 

 

 

「よしっ! 三の砦も突破!」

「この城門を潜れば本丸、カマボコ内閣の総本部だ!」

 人が豆粒に見える程巨大で禍々しい威圧感を放つ城門。通称「バビロンの城門」。それは国家最高権力を守ると共に、その力を国民に誇示する役割を担っていた。

 

「よぉし……突入です!」

「いや待て!」

 勇み足のアクアをイッチーが引き留めた。

 

「何ですか?」

「この城門を開けると自動迎撃システムが作動する。流石のお前達でも蜂の巣だぞ」

「しかしここ以外で入れる所はありませんよ」

 アクアの言う通り、本丸は四方を堀で囲まれ、そこに人工の川が作られている。仮にそれを突破出来たとしても、その先には数百mの塀がそびえ立つ。人間が登るのは物理的に不可能だった。

 

「……俺が先陣を切る」

「っ!? でもそれじゃあイッチーさんが!」

 

「……俺は今まで、数多くの罪を犯してきた。華麗石欲しさに興味のないお姉さん花騎士の寝室を見たり、彼女達をキャラクエも見ずに放置したり……」

(そんな大した罪じゃないような……)

 

「これは俺の償いなのだ。さぁ、用意はいいか? 俺が突破口を開くから、お前達はカマボコ総理の本拠地へ急げ!」

「イッチー君……」

 彼の肩に優しく手を置いたのは、日本国の元総理大臣だった。

 

「私は今までロリコンを蔑んでいた。だが君を見て考えが変わったよ。『カラスは黒い』という命題を覆す一羽の白いカラス、それは君のことだったんだ」

「いえ、白いカラスとはロリ達のことです。俺達はその白い翼を守りたいだけ。それがロリコンという生き物なのです」

「イッチー君、君のような国民を持てて、日本国の代表として誇りに思う」

 イッチーは無言で頷いた。この世の全てを許したような、誇らしげな笑顔だった。

 

 

 

「さぁ……行くぞぉ!」

 イッチーはその巨体で城門を押し開いていく。そして自動迎撃システムが作動、標的をイッチーに定めた。

『侵入者、排除……排除……』

「来い……!」

 

 そしてイッチー目掛けて一斉射撃が放たれた。

「ぐあぁぁぁ!」

「い、イッチーさぁぁぁん!」

 

「くっ……ほ、滅びよ……!」

 同時にイッチーの高エネルギー波によって砲撃システムは破壊される。

「今だ、アクア団長! 俺の屍を越えていけぇ!」

「イッチーさん……あなたの死は無駄にはしません!」

 

 攻め込んでいったアクア達の背中を見送りながら、イッチーは満足げに微笑み、地面にバタリと倒れ込んだ。

(アクア団長……頼んだぞ。ロリコンの未来を……!)

 

 

 


「ぐぉぉぉぉ!」

 アクア達の攻撃によって吹き飛ばされていく兵士達。

「出てきなさい! カマボコ博士!」

「騒々しい! 余は逃げも隠れもせんわ!」

 

 その声は遥か上空から響いてきた。アクア達が見上げると、そこには空飛ぶ総理の椅子に座るカマボコの姿があった。

 

「カマボコ博士! これ以上日本の人達に迷惑を掛けるのは止めなさい!」

「なら力ずくで止めてみろ! 国会議事堂ロボ、発進!」

「国会議事堂ロボ!?」

 

 地鳴りを響かせながら国会議事堂が変形する。そして人型の超巨大ロボが姿を現した。

「うわぁぁぁ!」

『どうだ、これが我が最高傑作、国会議事堂ロボだ!』

 

『行くぞ! 衆議院パンチ!』

「ぐぉぉっ!」

 パンチ一発で地面は数百m抉れ、衝撃波でレジスタンス軍が吹き飛んでいく。

 

「こ、こんなの相手にどう戦えばいいんですか!」

『諦めるんだな』

『諦めろ~!』

 

 アクア達が絶望する中、元総理が重々しく口を開いた。

「……こうなれば最終手段だ。我が日本に伝わる最終兵器を起動させる」

「最終兵器!? それは一体……」

 

 

 


 その頃、捕らえられていた花騎士達は。

「うわぁっ! な、何か地面が揺れてますよ!」

「地下で何かが動いてるし! これは……」

 

 地鳴りを響かせ、地面が二つに割れる。その中から現れたものは……

「これは……ジェット機……でしょうか?」

 

 三機のジェット機?はソヨゴ達の前に停まり、迎え入れるようにハッチを開いた。

「……わたし達を呼んでる……!?」

 

 

 


「最終兵器、バットマシン出動!」

「バットマシン!?」

 

 困惑するアクア達の前に現れたのは、三機のジェット機だった。そこに乗っていたのは、

「ソヨゴちゃん! 皆!」

『団長さ~ん! 何か良く分からないけどパイロットに選ばれたみたいです!』

 

 バットマシン。日本が秘密裏に開発を進めてきた、最強最大の戦闘兵器。未知のエネルギーによってもたらされたその戦力は、あの核兵器をも超えると言われている。

 

「行きますよ皆さん! バットミサイル!」

「ぐぉぉぉ!」

 その威力に流石の国会議事堂ロボもバランスを崩してしまう。

「効いてる……あのロボにダメージを与えてます!」

 

「この、ちょこまかと……」

「これならどうだ! 全方位レーザー射出!」

「よ、避けられないし!」

 各バットマシンに被弾。機体は煙をあげて墜落寸前まで追い込まれる。

 

「ソヨゴちゃん! 皆~!」

「まだです! バットマシンは三人が心を合わせることで真価を発揮するのです!」

 

「三つの心を……」

「一つに……」

「そうか……行きますよ!」

 

 

 

「「「チェェェンジ! バッタァァァワンッ!」」」

 各バットマシンが変形・合体。これが無敵のバッターロボだ。

 

「ほう……そちらもロボか。ならば遠慮なく行かせてもらうぞ!」

「解散ミサイル!」

「バッタァァァビィィィム!」

 

 二つのエネルギーが激しくぶつかり合う。勝ったのは……

「ぐぉぉぉ!」

「よしっ! 国会議事堂ロボを吹き飛ばした!」

 

「ですがバッターロボの力はこんなものではありません」

「オープンバット!」

 三つのバットマシンは再び分離。そしてバットマシン2号を先頭にフォーメーションを組み直した。

 

「チェンジバッター……ツー!」

 白を基調としたスマートなシルエット。先程のバッターロボとは全く別の機体に見える。

 

「ドリル! ドリルです!」

「バッターロボは三つのフォームがあります。最初に変形したのがバランス型のバッター1、今の形態がスピード型のバッター2です。ちなみにパワー型のバッター3もありますが、今回は割愛しましょう」

 

 

 

「ドリルハリケーン!」

「ぬぉぉぉ!」

 激しく回転するドリルによって、国会議事堂ロボのどてっ腹には巨大な風穴が開けられる。

 

「まずいよご主人! このままじゃ内閣総辞職だよ!」

「そう言われても仕方ないだろう!」

 

「オープンバット! チェンジバッター……ワンッ!」

「今です! 超必殺技を放つのです!」

「ストナァァァ!」

「まずい! 脱出だぁ!」

 

「サァァァンシャイィィィン!」

 極大のエネルギー弾が国会議事堂ロボに直撃。その巨体は塵一つ残さず消え去った。

 

 

 

 敗戦が決定的となり、カマボコは塵となって消えた国会議事堂跡を野良犬のように這いずり回っていた。

「はぁ……はぁ……くそ! 世界征服まであと一歩の所で!」

「カマボコちゃん」

「ア、アクア……」

 じりじりとにじり寄るアクア。

 

「あなたの負けです。大人しく春庭に帰りなさい」

「嫌だ……まだこの世界には豊富なエネルギーが……」

「まったく……日本の人達にこんなに迷惑を掛けて……」

 そこまで言うとアクアは一瞬で背後に回り、

「反省しなさい!」

「ぐぉぉっ!」

 必殺のジャーマンスープレックスを喰らわせたのだった。

 

 

 


「というわけで新総理、色々お騒がせしました」

 夕日の中、無事元の鞘に収まった総理と握手を交わすアクア。

 

「いえ、アクア団長にはお世話になりました。春庭に何かあれば、我々も微力ですが力を貸しましょう」

「ありがとうございます」

 

「い~や~だ~! まだ帰らない~!」

「大人しくするッス!」

 

 何だかんだで嵐のような日々は過ぎ去り、日本はようやく元の平和な姿を取り戻そうとしていた。

 ……いや、もう一つ、新たなる嵐が近付いて来ていたのだった。

 

 

 

「新総理! 大変です! 中国とアメリカとイギリスとフランスとロシアと北朝鮮から核ミサイルが発射されました!」

「なにぃ!? というか、何でそんな集中砲火されてるの……?」

 その総理の言葉にカマボコの額からは滝のような汗が流れ始める。

 

「いやぁ~……まいったなぁ……」

「カマボコ博士、何か知ってるんですか!?」

「その……余が総理の時、欧米諸国を挑発しまくったんで……正直思い当たる節が有り過ぎる……」

「何やってんですか~!」

 

「迎撃するにしても、この数を撃ち落とすのは無理ですね……」

「このままでは日本は核の炎に包まれて、死の国になってしまいます!」

「余の迎撃システムも解体されてしまったしな……だから戦力の補強は怠るなとあれほど「どの口が言いますか、どの口が!」

 

 

 

「……そうだ、バッターロボなら! 未知のエネルギーを積んだ彼なら、不可能も可能にしてくれるかも知れません!」

「そう言うことならまたわたし達が乗ります! 早く発信準備を……っ!?」

 その時、地面が開き、地下格納庫から三機のバットマシンが緊急出撃した。

 

「そんな! 誰も乗ってないのに!」

『聞こえるか? 花騎士、そしてアクア団長』

「この声は!?」

 

 アクア達の脳内に直接響いた声。それは紛れもなくバッターロボからのものだった。

『私はこれより新たなる進化の旅路に出掛ける』

「進化の旅路? ど、どういうことです……?」

『いずれ分かる時が来る。人類がこれからも続いていくのなら……』

 

 やがてバットマシンはバッターロボに合体、音速を超えるスピードで遥か上空へ舞い上がっていった。

 

 熱くなれ 夢見た明日を 必ずいつか捕まえる

 走り出せ 振り向くことなく 冷たい夜を突き抜けろ

 

 

 

「ば、バッター! 一体何を!」

『お前達にもいずれ分かる。何故宇宙が生まれたか、何故人類が存在しているのか、その意味を』

「バッター!」

『友よ、また会おう』

 

「そ、総理! 核ミサイルが全て消滅しました!」

「何っ!? まさかバッターロボが……」

「そのバッターロボは大気圏を越え……この軌道だと火星に向かっているものと思われます」

「火星……そこに何が……」

 

 日本を救い火星へと旅立ったバッターロボ。

 果たして新たなる進化とは、人類の存在理由とは?

 大いなる謎を残しながら熾烈な戦いは幕を閉じたが、作者の頭ではそんな壮大な風呂敷を畳むことなど出来ないだろう。

 その答えに辿り着くのは、今画面の前にいる君達に違いない!(丸投げ)

 

 

 

「何だったんですか今回の話……」




何なんだ今回の話……
支離滅裂さに拍車がかかっていますね
というかあんまり花騎士が活躍してないという……

次はもうちょっと真面目に書きます(多分)

ここまで読んで頂き、ありがとうございました


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謎の黒ずくめの女

外伝の方で真面目?な話が続いているので息抜きに

人気投票……残念でした……


 ここはリリィウッドの中心街。普段は人で溢れるこの場所も、深夜になれば人通りはまばらになる。そんな薄暗い街を、一人の女性が歩いていた。

「ふぅ~……調べ物をしていたら、もうこんな時間になってしまいました~」

(何でこんな独り言してるんでしょう、私……)

 花騎士のポトスだ。

 

 静かな街に、ポトスの足音が響き渡る。コンコンと規則正しいリズムで刻まれる足音。しかしそこに、もう一つの足音が聞こえてきた。

(……つけられてる?)

 

 ポトスの表情は途端に真剣なものになる。ただ行き先が同じだけなら問題ない。しかしポトスが歩く速度を緩めると相手も緩め、速めると同じく速くなっていく。

 これはただ事ではないと思った。何より、花騎士であるポトスのスピードに合わせるなど、一般人では不可能だ。

 

(ディープ・レコード関連か、それとも……いや、考えても埒が明きませんね)

 ポトスは走り出した。同時に相手の足音も速くなっていく。相手がついて来ているのを確認し、ポトスは建物の角を直角に曲がった。そこには地元民しか知らないような、狭い路地裏がある。相手が追って来るのなら、その角で鉢合わせになるはずだ。

 

(追って……来ない?)

 人の気配は無い。路地裏には不気味な闇だけが広がっていた。

(巻いたのか……いや)

「私に何か用ですか?」

 闇に問う。すると、

「花騎士のポトスちゃん……ですね?」

「っ!?」

(い、いつの間に後ろに……!)

 

 ポトスの背後から現れたのは、闇に紛れるような黒ずくめの女だった。シャツもズボンも、靴も黒い。そして恐らく、下着も。

(いや、下着はどうでもいいでしょ)

 

「何か用ですか?」

「立ち会いたい」

「立ち会う……? 私は花騎士ですよ。害虫ならともかく、人間と戦うことなんて」

「怖いんですか、私が」

 その言葉に、ポトスはむすっと唇を尖らせた。

 

「怖いのなら仕方ない。そんな臆病者とは戦う気が起きませんからね」

「……もう、取り消せませんよ」

 ポトスのその言葉に、女は唇の端をニッと吊り上げた。

 

「どこで始めますか。何ならここでも……」

 ポトスが戦いの準備のため、バックを下ろそうとしたその時、

「なっ……!?」

 女は瞬時にポトスの間合いに入り、バックの紐を掴んで自分の方へ引っ張った。ポトスが前のめりになると、女は自分の足を彼女の左足に掛ける。

 

「がはっ……!」

 ポトスの背中に激痛が走る。コンクリートに背中を強く打ち付けてしまったのだ。痛みに悶える彼女に、女は馬乗りになった。所謂マウントポジションだ。

 

(しまった……!)

 ポトスはすかさず顔面をガードする。しかし女の攻撃は、ポトスの想定しないものだった。

「ひゃぁぁぁ♡ な、何でそんなところを……!」

 女はポトスの胸を揉みしだいてきたのだ。

 

「この胸か! この胸でユーザーをたぶらかしたんか!?」

「な、何のことを……んぅっ♡」

 堪えようとするも、女の慣れた手つきにポトスの甘い声が漏れる。

 

「い、いやぁぁぁぁぁ♡」

 静かな夜に、ポトスの嬌声が一晩中鳴り響いたとか何とか。

 

 

 


 所変わり、ここはウィンターローズのアクア騎士団。ソヨゴとアクアが一時の休暇を楽しんでいた。

 

「花騎士ポトス、痴漢に襲われる……ですって。怖いですねぇ」

 新聞を読んだソヨゴがアクアに話し掛けた。

 

「ほ、本当ですねぇ……」

 アクアは何故か冷や汗をだらだら垂らしている。

「団長さん?」

「い、いや! 何でもないですよ、ホント、何でも!」

「?」

 

 

 


 だが襲われたのはポトスだけではなかった。翌日の夜にはブロッサムヒルにて、

「タイツすりすり~」

「だ、誰ですかあなたは……きゃぁぁぁ♡」

 

「猫ちゃ~ん、交尾しましょ♡」

「な、何なの……にゃぅぅぅ♡」

 

 

 

「何っ!? ブロッサムヒルのタツタソウとネコヤナギも襲われた!?」

 その知らせは春庭中を駆け巡り、ここウィンターローズのオリビア大佐の元にも届いたのだった。加害者は黒ずくめの女で、ポトス襲撃事件と関係している可能性が非常に高いとのことだ。

 

(ポトス、タツタソウ、ネコヤナギ……被害者に一体何の繋がりが……)

 オリビアには何かが引っ掛かっていた。一見関係の無さそうな花騎士達だが、彼女らを結び付ける一本の線が見えてきそうだった。

 

「大佐、失礼するよ」

「ブリオニアか……どうした?」

「最近の花騎士襲撃事件で、耳に入れておきたいことがあって」

 ブリオニアがオリビアにあることを耳打ちした。

 

「……なるほど。あり得るな」

 

 

 


 再びウィンターローズ、アクア騎士団。

「また花騎士さんが襲われたんですって。怖いですね」

「そ、そうですね」

 またもや冷や汗が流れるアクア。その時、

「失礼。アクア団長ですね?」

 執務室を訪ねてきたのは3名の警察官だった。

 

「そうですが……何か?」

「お話を聞かせて頂きたいのです。最近の花騎士襲撃事件について」

「……まさか私を疑ってますか?」

「そりゃあ、お前には動機があるからな」

 開いているドアから入ってきたのはオリビアとブリオニアだった。

 

「動機?」

「ポトス、タツタソウ、ネコヤナギ。これらはニューカマーで上位に入った花騎士だ」

「へ、へぇ……そうなんですね」

 アクアは明らかに目が泳いでいる。

 

「お前はソヨゴが入賞しなかったことに腹を立て、犯行に及んだ。違うか?」

「そうなんですか、団長さん!?」

「そ、そんなことありませんよ。第一、物的証拠が無いじゃないですか」

「そうなんだよね。物的証拠が無いと捕まえることが出来ない」

 ブリオニアが口を開いた。

 

「だからあなたの部屋を見させて貰ったよ。そうしたらこれが出てきた」

 ブリオニアが取り出したのは黒いタイツだった。

 

「これ……タツタソウさんのだよね? 鑑定に出したら分かると思うけど」

「」

「団長さん……」

「ふふ……ふふふふふ!!」

 

「そうですよ! 私はソヨゴちゃんを入賞させるため、上位11人を襲おうとしたんです! 彼女達が再起不能になれば、繰り上げでソヨゴちゃんが一位になるでしょう?」

「お前というやつは……」

「くそ……水着ソヨゴちゃんやメイドソヨゴちゃんという夢が……」

 

「アクア団長、痴漢と傷害の容疑で身柄を確保させて貰います」

 がっくりとうなだれるアクアに、警官が手錠を掛けようとしたその時だった。

「がっ……!」

 アクアの蹴りが警官の顎に直撃した。

 

「こ、この!」

 他二人の警官が飛び掛かるも、アクアはそれをはね除け、ドアへ向かって一直線に走り出した。

 

(刑務所で罪を償うことは簡単です……しかしそれを私自身が許さない! それがこのアクアの『(さが)』なのです!)

「さらばっ!」

 アクアはドアを蹴破り脱走を図る。しかし、

「待てやっ!!」

 その後頭部にオリビアのドロップキックが直撃した。

 

「……」

 うつ伏せで倒れるアクア。その手首に、冷たい手錠が嵌められた。

「罪を償ってこい」

「オリビア大佐、ご協力感謝致します」

 

「くそ……ソヨゴちゃんのバニーが……ちくしょぉぉぉ!」

 悲痛な叫びを残し、アクアの姿は見えなくなっていった。

 

「全く……外伝でサントリナが真面目に戦っているというのに、アイツと来たら……」

「団長さん、今度は懲役何年でしょうね」

 こうして、春庭は再び平和を取り戻したのだった。めでたしめでたし。

「めでたくないわい!!」




何か久々に変態なアクアを書いた気がする……
というかアクアの出番が……

ここまで読んで頂き、ありがとうございました


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特別編 MMAロボVSニャントニオ・イノキ!!(前編)

久々に投稿したと思ったら、何でこんな花騎士関係ないものを……
まぁ、世代じゃないとは言え、彼の死は衝撃でしたからねぇ……


「ふぅ~……」

 マホガニー製の大きな机に、巨体の女がどかりと腰を下ろした。

 簡素な部屋だ。あるのは、机と椅子、少しの観葉植物。そして異質なのが、サンドバッグやバーベル等のトレーニング器材が並んでいるところだ。

 これが社長室だと言って、一体何人の人間が信じるだろうか。

 新春庭プロレスの社長、ニャントニオ・イノキの部屋である。

 イノキがため息をついたのは、本日まで行われていた巡業での出来事のせいであった。

 

 

 

────

 ウィンターローズ中心街。

 身体の芯まで冷えるような寒空の下に、一箇所だけ、人間の熱気で溢れている場所があった。

 『新春庭プロレス』と赤い文字で書かれた看板に、老若女が群がる。

 武道館で、イノキをメーンエベンターとする興行があるのだ。

 

 その控え室に、花束を持ってやってきた一団があった。

 ウィンターローズ所属の騎士団長アクアと、ソヨゴら花騎士である。

 

 アクアがコンコンとドアをノックすると、「どうぞ」と野太い声が聞こえてきた。

「し、失礼します……」

 緊張した面持ちのアクア。部屋の中には、真っ赤なローブ姿のプロレスラー、ニャントニオ・イノキの姿があった。

 

(ほ、本物のイノキさんだ……)

 緊張が最高潮に達し、茫然と立ち尽くすアクアに、イノキは優しい笑みを浮かべながら近づいた。

「これはこれは、アクア団長。お目に掛かれて幸栄です」

「こ、こちらこそ!」

 差し出された大きな手に、アクアが両手で握手を返す。

 

 整髪料の匂いが鼻を掠めた。嫌な香りではない。

 イノキが身に纏っている真っ赤なローブには、龍の模様と共に『闘魂』の文字が大きく刻まれている。肌触りが良さそうだ。

 相当な高級品なのだろうが、それが幾らなのか、アクアには全く見当が付かなかった。数百万か、あるいはもっとするのだろうか。

 一般人ならば、そんな高級品を身に着けていたら、逆に()()()()()()ように見えるだろうが、イノキの場合はそれが絵になった。

 

(何て『華』ですか……)

 決して美形ではない。

 身体はかなり大きいが、プロレスラーにはそれ以上の巨体が星の数ほど居る。

 それでも、存在するだけで全てを虜にしてしまうような魅力が、イノキにはあった。

 それは努力でどうにかなるものではない。天性のものだ。

 

「そ、それじゃあ頑張って下さい! では!」

 足早にその場を後にするアクア一行。

 部屋から出ても、アクアの心臓の高鳴りは止まることが無かった。

 

「団長、何でそんなに緊張してるんスか?」

 ヤドリギが、アクアの真っ赤な顔を覗き込みながら言った。

「だ、だってイノキさんですよ! 子供の頃からファンだったんですよ!」

「へぇ~、でも『頑張って下さい』ってのは変じゃないッスか?」

「?」

 

「だって、プロレスって台本があるッスよね? 勝ち負けが決まってるのに、頑張りようが無いじゃないッスか?」

「や、ヤドリギちゃん! 何てことを!」

「奇譚の無い意見って奴ッス」

 アクアが花騎士達の方に顔を向けると、彼女達はソヨゴを除き、皆バツの悪そうな顔をしている。

 

「まぁ……シナリオがあるわよね……」

「皆さん、身体を張ってて凄いとは思いますが……」

「え? え? そうなんですか?」

 ソヨゴのみが困惑の表情を浮かべている。

「そ、そんなことありません! イノキさんはガチなんです! ストロングスタイルです!」

 

 

 

「まぁ……そう言われても仕方ないわな……」

 そんないざこざを、イノキも聞いていた。詳しくは聞こえなかったが、プロレスの()()()()()についての話だと見当がついた。

 

 花騎士達の言う通り、今日の試合は結果が決まっている。いや、結果だけではなく大まかな過程までも、台本によって決められてしまっている。

 

 仕方ない……そう思うしかなかった。

 殴り蹴り、投げ、関節を極める。それを真剣(ガチ)でやった場合、一体どれだけの負担が選手に掛かるのか。

 総合格闘技ならば良い。総合の試合は、大抵3~4ヶ月の期間を空けながら行われる。

 だがプロレスの興行は、一年中行われている。一人のプロレスラーが担う試合数は年間百以上……選手によっては二百試合行う選手もいる。

 ある程度試合の流れを作っておかねば、選手の身体が持つはずがないのだ。

 

 一般人に「やらせ」だの「八百長」だのと揶揄されることもある。

 だからこそイノキは『プロレス最強説』を提唱し、様々な異種格闘技戦を行ってきた。

 それでも八百長論は消えなかった。

 虚しかった。

 春庭のありとあらゆる人間に、プロレスラーの強さを証明したかった。

 強さとは一体何なのか……

 

 

 

────

(……ふっ、らしくねぇことを考えちまったな)

 イノキは社長室の机の上で脚を組んでいる。

 

 結局試合はイノキの勝利で終わった。と言っても、最初から決められていた結果なのだが……。

 

 イノキは部屋に置いてあるバーベルに近付くと、

「ふっ!」

 片手で軽々と持ち上げてしまった。

 一枚20kg のプレートが左右3枚ずつ、計120kg。自分の体重を超えるバーベルを、イノキは片手で持ち上げ、まるでラジオ体操をするような涼しい顔で上下し始めた。

 右手で10回行うと、左手に持ち替えてまた10回。それを何度も行っていく。

 ──最初は、この半分も持ち上げられなかったな。

 イノキは若かりし頃を想起していた。

 

 17歳の頃、元力士の力豪山にスカウトされたことから、彼女による地獄のしごきが始まった。

 いや、しごきなどという言葉で表されるものではない。あれは拷問だ。犯罪行為だ。

 スクワットを3000回やらされ、練習部屋を汗の海にした。

 金属バットで殴られ、骨が何本折れたか分からない。

 身体を作るため、ちゃんこを吐くまで喰わされた。

 毎日、血の小便を流した。

 それでも私は弱音を吐かなかった。歯を食いしばって耐えた。

 何故か。強くなるためじゃなかったのか。

 

 最初、プロレスとは常に真剣勝負をする場なのだと思っていた。20を過ぎたくらいに、先輩からプロレスとは()()()()()()なのだと、やんわりと教えられた。

 納得がいかなかった。何故強い者が勝ってはいけないのか。何故実力で這い上がることが出来ないのか。

 だが、所詮プロレス団体の一員である私では、そういった不条理を覆すことは出来なかった。それは、社長となった今でも変わらない。

 

 ──本気の勝負をしたい。

 42歳。肉体の全盛期は当に過ぎている。格闘家として、あと何年持つか……。老いが始まる前に、自分の中にある格闘技術を、思う存分使ってみたかった。

 

 プロレスのリングでは使えないような、危険な技を幾つも学んだ。異種格闘家との戦い方も熟知している。打撃だって、並みのボクサー程度なら引けを取らないと自負している。

 負ける気がしない。例えMMA(総合格闘技)のヘヴィ級チャンピオンだろうと、何でもあり(バーリ・トゥード)ならば絶対に自分が勝つ。

 だが、そんな技術を腐らせ、老いていく。これだけは許せなかった。

 

 イノキの中に、激しい感情が沸々と湧き上がってきた。

 

 

 

────

 同じ頃、MMAで大波乱が起こっていた。

 オクタゴンの中でうずくまる巨体の黒人選手。ヘヴィ級チャンピオンのボブだ。いや、元チャンピオンか。

 一方、涼しい顔をしてオクタゴンから出てきた選手が一人。その選手が、セコンドの少女に右手を上げさせられると、会場からは割れんばかりの歓声が響き渡った。

 新チャンピオン、マイクの誕生である。

 

 

 

「はっはっはっ! まさかここまで圧倒的とはな! 流石余の技術力だ!」

 控え室で身体を仰け反らせながら高笑いしているのは、先程のセコンドの少女、天才科学者のカマボコ博士だ。

「ご主人、久々の登場だからご機嫌だね」

 隣には人造花騎士、アーティの姿もあった。

 

 先程の試合は、僅か一分でマイクのKO勝ちとなった。

 相手のストレートをかわしてからの、飛びつき腕十字固め。サンボでよく使われる技だ。

「この世界のありとあらゆる格闘技術をインプットしてあるからな。MMAロボ、マイクに敵う格闘家など存在せんわ!」

「ソノトオリデス、ドクター・カマボコ」

 

 マイクは柔軟体操をしていた。しかし、人間の行う柔軟体操とは全く異なっている。

 右腕が背中を通り、腹を通り抜け、右わき腹まで到達してしまうのだ。異常な柔軟性であった。

「良い筋肉だ。流石、余が研究に研究を重ねて造り上げた肉体なだけはある」

 

「ヘヴィ級ボクサーのパンチ力、ムエタイのキック力、バナナリアン柔術の関節(グラップリング)技術、アマチュアレスラーの柔軟性、力士の破壊力。それら全てを併せ持つのがマイク、お前なのだ」

「ハイ」

「グフフ……よぉし! これからマイクでガッポリ儲けるぞ~!」

 

 

 

 マイクの快進撃は止まることがない。あらゆる格闘技のあらゆる階級のチャンピオンを倒していく。

 その常軌を逸した強さは、新聞等でも連日報道された。

 

「ドクター、ワタシはモットツヨイアイテとタタカイタイ!」

「うむ、当然だ。もっと強い対戦相手を用意しよう」

 

「グガァァァ!」

 マイクの相手は人間を離れ、羆や虎に。

「ギャァァァ!」

 大型害虫に。

「ま、参りました……」

 果ては花騎士までも倒してしまった。

 

「モット……モットツヨイアイテがホシイ……!」

 

 

 

「どうだね? 誰かマイクに挑戦しようと言う者はいないかね?」

 記者会見にて、ドヤ顔のカマボコがそう言った。

「しかしカマボコ博士、マイク選手はあまりにも強すぎます。最早生物の手に負えるものでは……」

「1000億だ」

 その一声に、記者達は静まり返ってしまう。

 

「マイクに勝てた者には、1000億ゴールドを支払う。どうだ? ここまで言われても何も出来ない腰抜けしかいないのか?」

(アクアよ、この挑戦を受けろ……)

 カマボコの瞳は、レンズの先のアクアに向かっていた。元よりマイクは、アクアを倒すために造られた存在なのだ。

 しかし、会見場に現れたのは、誰もが予想だにしなかった人物だった。

 

 

 

────

「史上最強のトータルファイターロボ……だと?」

 社長室で新聞を読んでいたイノキが、思わず唸った。

 

 マイクの試合を幾つか見てみた。確かに強い。異常な強さだ。

 その時、一つの考えが、イノキの中に過った。

 ──自分がマイクに挑戦出来ないか。

「……まさか」

 思わず苦笑いしてしまう。現役のMMAチャンピオンが勝てなかったのだ。自分のような、引退に片足を突っ込んでいるプロレスラーを相手にしてくれるとは思えない。

 しかし、もしも、もしも戦うことが出来たのなら。

 使えるのではないか。リングで使えないような技が。一歩間違えれば殺人者になり得るような技が。

 

 イノキ、お前は今幾つだ。あと何年戦える。その肉体をいつまで維持出来る。

 国民的なスターにはなれた。だがそれで満足か。

 お前の本当の夢は何だったのだ。強くなることじゃなかったのか。世界最強になりたかったんじゃないのか。

 何のために血の小便を流した。

 

 しかし、マイクと戦えば、最悪死ぬ。

 死んでも構わない。死んでもいいじゃないか。

 本当の、本当に全力を尽くすことが出来たのなら、本望じゃないか。

 

 イノキの中に、止めることの出来ない熱い思いが、次々と生まれていく。

 イノキの眼付きが変わった。『闘魂』のローブを羽織り、社長室を出ていく。

 

「社長ッ!」

 社長室の前に並んでいたのは、新春庭プロレスの選手達だった。

「ご武運をッ!」

「……シャアッ!!!」

 イノキは、大きく右拳を突き上げ、記者会見場へ向かうのだった。

 

 

 

────

 そして今、カマボコ達の前に、『燃える闘魂』が立っている。

「おやおや、誰かと思えば、国民的スターのニャントニオ・イノキ殿じゃないか。我々に何か用かな?」

 カマボコは、挑発的な目でイノキを見上げる。

 

「言わなくても分かるだろう? アンタらの挑戦、私が買ってやるってことだよ」

「……うん?」

 聞こえなかったかのように、カマボコは耳を立てる仕草をした。

 

「聞き間違いかな? 今、『挑戦を受ける』と言ったようだが……」

「聞き間違いじゃねぇよ」

「……ふふ」

 カマボコは嘲笑した。

 

「イノキ殿、何か勘違いをしていないか? これは真剣勝負なんだ。我々は八百長はぶべらぁぁぁっ!」

 カマボコの身体は壁際まで吹っ飛ばされていた。その頬がポンポンに腫れている。イノキのビンタが当たったのだ。

 

「な、何をするかぁ!?」

「アンタじゃねぇ……こいつに聞いてるんだよ」

 そう言ってイノキは、闘志を宿した瞳をマイクに向けた。

 

「……」

 しばらく睨み合う二人。記者達が生唾を飲む程の緊張感。そしてマイクが、その緊張を破った。

「ヤル。イノキサン、アナタとタタカイタイ!」

「ふふっ……」

 イノキが笑みを返す。

 

 こうして、世紀のスペシャルマッチが幕を開けたのだった。




イノキ編を終えたら、普通に花騎士SSを書こうと思います。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


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特別編 MMAロボVSニャントニオ・イノキ!!(後編)

とりあえずイノキ編は今回で終了
お遊び回ですが、戦闘はガチで書きました


 イノキがマイクの挑戦を受けてから一週間後、試合の詳細が決まった。

 ルールは何でもあり(バーリ・トゥード)。ただし目潰しと噛み付きだけは禁止となっている。春庭中に報道することからの配慮だろう。

 そして試合は、MMAで使われるオクタゴンで行うこととなった。

 1R5分のラウンド制。MMAと異なるのは、判定での決着を行わないことだ。

 KO、TKO、ギブアップ、ドクターストップ。試合を決める要素はこれだけだ。どちらかが勝つまで、何時間でも試合は続行される。

 

「とは言え、試合は短期決戦になるだろうな……」

 部下からルールの説明を受けながら、イノキはマットの上でブリッジをしていた。鍛え抜かれた分厚い筋肉が、美しいアーチを描いている。

 つま先と額のみで身体全体を支える、所謂レスラーブリッジ。人並み外れた柔軟性と、首の強さがあるからこそ出来る技だ。イノキのブリッジは、その中でも特に美しい。地面が、額どころか、長い顎まで届いてしまいそうである。

 

「シャァッ!」

 イノキは気合いを入れると、バーベルに手を掛けた。200kgのバーベルでのベンチプレス。しかも、ブリッジをしながら。異常な身体能力である。

 

(これでも恐らく……マイクには勝てないだろうな……)

 

 

 

 その頃、マイクは。

「凄いぞ、マイク! 流石は余の造った究極の肉体!」

 300kgのバーベルで軽々とスクワットをしていた。

 

「これなら次の試合は楽勝だな!」

(イヤ……)

 

 イノキ、マイク双方の思いを乗せ、いくつかの夜が過ぎていった。そして……

 

 

 

────

「イ・ノ・キ! イ・ノ・キ!」

 会場を包むイノキコール。その中心にあるオクタゴンに、燃える闘魂が降り立った。

 ローブを脱ぎ、レスラーパンツとシューズだけになる。

 鍛え抜かれた美しい肉体。プロレスラー最大の武器は、この肉体である。

 

「イノキさん、頑張って下さい!」

 セコンドとして入っていたアクアがオクタゴンの外からエールを送る。

「……シャァッ!!!」

 

 もう一方、赤コーナーからは、最強のトータルファイター、マイクが姿を現した。

 ローブを脱ぐ。無骨な肉の塊が現れた。

 

 肉体のキレという意味では、イノキよりも上である。一つ一つの筋肉が、硬くて大きい。

 

 二人が向かい合う。

 イノキ、190cm、108kg。

 マイク、195cm、130kg。

 巨大な肉と肉が、今にもぶつかりそうな距離まで迫る。その迫力に、アクアやカマボコ、観客達も、息をするのも忘れてしまった。

 

 

 

『ファイッ!』

 ゴングが鳴った。

 イノキが仕掛ける。

 太く長い脚から放たれる、ローキック。重い一撃だ。

 マイクはそれを脛で受ける。体勢は全く崩れない。

 

 お返しとばかりに、マイクもローキックを放つ。脛で受ける。

「ぐっ……!」

 イノキの脚に、電撃のような痛みが走った。

(ガードしたって言うのに、何て威力だ……)

 

 怯んだイノキに、マイクが猛攻を仕掛ける。

 ガードの下、ボディへ拳を何度も放つ。

「ぬぉぉぉ!」

 

「ふふ、これは一分と持たないな」

「イノキさん!」

 両セコンドが対照的な声を上げる。

 

「ぐぬぅぅぅ!」

 どれだけ攻撃されても、イノキは倒れない。攻撃を受けることこそ、プロレスラーの真髄。

(さぁ来い……私は脇腹を痛めてるぞ……蹴ってこい!)

 イノキの苦痛に歪んだ顔を見て、マイクは中段蹴りを放つ。

 イノキの唇が、ニヤリと吊り上がる。

 

「ふんっ!」

 イノキの腕の中で、ぺキッと音が鳴った。

「がっ……!」

 マイクの顔が歪む。その隙に、イノキはマイクを押し倒し、寝技に持ち込んだ。

 

「ど、どうしたんだ、マイク!?」

「今のは……足首を折った!?」

 

(どうだ……これがプロレスだ!)

 普通の格闘家ならば、痛みを顔に出すことなどしない。どれだけ痛くても、何でもない顔をして耐える。そこが弱点だと分かると、集中攻撃を受けてしまうからだ。

 しかし、プロレスラーはその逆である。痛みに歪んだ顔を敢えて見せていく。観客にも、対戦相手にも。

 弱点をさらけ出し、そこを攻めさせる。それを見た観客が更に盛り上がる。これこそが他の格闘技にはない、プロレスだけの技であった。

 

「うぉぉぉ!」

 腕ひしぎの体勢に入るイノキ。しかし、彼女の両腕から、マイクの右腕がするりと抜けた。

 今度は逆に、マイクがイノキの腕を極めに掛かる。

(何て速さだ……!)

 何とか抜ける。イノキがマイクの足を狙う。抜けられる。マイクがイノキの足を狙う。抜ける。

 

「す、凄い……体勢が目まぐるしく変わっていく……」

 会場を異様な緊張感が包んでいく。

 今行われているのは、最早格闘技ではない。殺し合いなのだ。二人の目を見れば、それが分かる。

 

 

 

────

「はぁ……はぁ……」

 息が苦しい。汗が止めどなく流れている。

 あぁ、だが……とても清々しい気分だ。

 これだ。私はこういう試合をしたかったのだ。

 

 このマイクというファイター、身体能力は勿論、技術もかなりのものだ。

 面白い。本気で私を殺しにかかっている。だから私も、本気で戦うことが出来る。

 

 極める。腕を、脚を、肘を、膝を、指を、首を。何度も、何度も。

 マイクはそれを抜け、私の五体を極めに来る。

 目まぐるしく状況が変わっていく。留まっていること、それはつまり、死を意味する。

 精一杯の攻撃を、精一杯の防御をしなければ、一瞬で死が迫ってくる。

 

 

 

 くそ。良いのが顎に入りやがった。

 咄嗟に顎を胸に付けたから、脳の揺れは最小限に抑えられたが、それでも視界がぐにゃりと歪んでいる。

 尻に硬い感触がある。遠くから、何やらカウントが聞こえる。

 ……しまった。ダウンしていたのだ。

 

 待て、レフェリー。私はまだやれる。まだこれからだ。

 マイクの奴も、この程度で満足しちゃいないだろう。

 立て……これまで歩んできたプロレス人生のためにも、立て! イノキ!

 

「ぐっ……はぁ……はぁ……」

「続けられるか?」

 レフェリーが聞く。

「当然だっ!!」

 

「……はっ!」

 マイクの奴、立ち上がったばっかりだってのに、容赦なくハイキックを打って来やがった。

 ガードする。ガードした腕が一瞬、感覚を失う。とんでもない威力だ。

 体勢を崩された隙に、マイクのフックが顔面を襲って来た。

「ごっ……」

 

 まずい。意識が……遠……。

「イノキさん! ラウンド終了まで後10秒です! 耐えて下さい!」

 セコンドのアクア団長の声が聞こえてきた。

「がぁぁぁ!」

 私は死に物狂いで、マイクの太股にしがみついた。マイクも抵抗するが、ここまで密着されていたら、蹴りの威力は半減される。

 永遠のような10秒が過ぎ、やっとゴングが鳴った。

 

 

 

────

「ぜぇ……ぜぇ……今、何ラウンドだ?」

「2ラウンドが終わったところです」

「そうか……」

 イノキは荒く息を吐く。まだ3ラウンド目に差し掛かるところなのに、既に10試合くらい終えたような疲労感がある。

 

「かはっ! はぁ……はぁ……」

 イノキの口から、血と共に白い物が吐き出される。歯だ。先程のフックで歯が折れてしまっていたのだ。

 

「イノキさん……」

「止めないでくれよ、アクア団長。例え私が死んだとしても……」

 イノキが立ち上がる。その大きな背中が、彼女のプロレスラー人生の全てを物語っていた。

 

 

 

────

「ぐぅっ!!」

 血を吐く。

 今、何ラウンド目だ。

 ……そうか、5ラウンドも持ったのか。

 上出来じゃないか。MMAチャンピオンだって瞬殺されたんだ。それを20分以上耐えている。

 

 もう身体はボロボロだ。肋骨が折れている。3トンを超えるパンチをモロに喰らっちまった。

 だが……それこそがプロレスラーのベストコンディション。

 思えば、今まで万全の状態で臨める試合の方が少なかった。常にどこかしらに怪我をしていた。

 そう、手負いこそがプロレスラーの最高状態。最も力を発揮できる。

 

「ふっ!」

 マイクの強烈なハイキックが襲う。とんでもない速さのはずが、何故か今はスローモーションに感じる。

 奴の右足が顔面目掛けて飛んでくる。ゆっくり、ゆっくり、それが右顎に直撃した。

 

「イノキさん!」

「よし、決まった!」

 多分、顎の骨もイカれたな、こりゃあ。

 だが、プロレスとは……。

 プロレスとは、相手の攻撃を耐え、最後の最後に逆転するもの!

 

「っ!?」

 倒れると見せ掛け、マイクの背後に回り込む。背後からのクラッチ。ガッチリと決まった。もう抜けられない……!

 

「ダッシャァァァ!!!」

 今まで何千回と放ってきた技を、今、放った。

 

 

 

────

 イノキの肉体が美しいアーチを描く。

「あれは……ジャーマンスープレックス!?」

「馬鹿な! あんなショープロレスの技が!!」

 

 マイクの視界が、突然逆転した。

 そう思った瞬間には、彼女の身体は宙に浮いていた。

 それに気付いた瞬間に、彼女の面前にマットがあった。

 

 

 

────

「ぐ……おぉ……」

 タフな奴だな、マイク。ジャーマンを喰らっても、まだ意識があるとは。

 だが……。

 

「ふんっ!」

 ──裸絞め。

 完璧に決まったこれからは抜けられない。

 頸動脈を絞める。

 マイクは抵抗するが、やがて……

 

 

 

────

「ま、マイク~~~ッ!!」

 

 二人のファイターが、死力を尽くして戦った。そして今、試合終了を告げるゴングが鳴り響いた。

 立っているのはただ一人。

 強かったからか、運が良かったからか、それは分からない。

 分かっているのは、彼女が勝ったということだけ。

 

「ダッシャァァァ!!!」

「イノキ~~~!!」

 プロレスラー、ニャントニオ・イノキが拳を振り上げると、会場は割れんばかりの拍手と歓声で包まれる。

 

「イノキさん……あなたこそ最高のプロレスラーです……」

 その大きな背中に、アクアは人知れず涙を流したのだった。




花騎士SSとは(哲学)
次回はもうちょい真面目?に書きたいです

ここまで読んで頂き、ありがとうございました


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変態VS世界花

久しぶりの投稿になり申し訳ありません
前より変態成分がパワーアップしてるような、そうでもないような……


 お久しぶりです。ウィンターローズの騎士団長であり、ソヨゴちゃんの妻、アクアです。

「エタったと思いましたか? 変態は死なないんですよ

「誰に言ってるんですか、団長さん……」

 

 

 

────

 いつも通りの寒い朝、アクアは執務室に足を運んでいた。暖炉に火を付け、ココアを二つ淹れる。一つは自分、もう一つは、もうすぐ出勤するはずの副団長、ソヨゴの分だ。

(そう言えば目薬を入れると媚薬になるって言いますよね……まぁそこまでクズにはなれませんが……)

 そう思いながら、目薬を持った右手を必死に抑え込むのだった。

 

「それにしてもソヨゴちゃん遅いなぁ。いつもなら来てる時間なのに」

 ソヨゴは真面目な花騎士である。8時からの勤務でも15分前には出勤し、執務の準備をしている。それが、今は8時15分。遅刻の時間である。

 

 …………

 ………

 ……

「お、遅い! 遅すぎる! 何かあったのかも知れません!」

 執務室のドアをぶち破るアクア。部屋という部屋を捜すが、ソヨゴどころか花騎士が一人も居ない。流石に異変を感じ取ったアクアは、顔を青くしながら外へ出るのだった。

 

「ソヨゴちゃーん! 皆ー! どこですー!?」

 居ない。寮にも公園にも繁華街にも。

 街中を捜し回って息を切らしたアクアの前に、ある少女が立っていた。

「無様ですね、アクア団長」

 不思議な雰囲気の少女だった。雪のような美しい白銀の髪に、白い肌、先端が鋭く尖った耳。そして何より、その瞳が特徴的だった。

 氷のような模様が瞳の中に入っている。人形のように可愛らしいが、どこか近寄り難さを感じさせる少女だった。

 

(うわ……めっちゃストライクのロリやん……って、そんな場合じゃありませんでした)

「あなたは一体……」

「わたくしはウィン。ウィンターローズの世界花の化身です」

「世界花!?」

 

 ウィンはアクアにことの経緯を説明した。

「なるほど、擬人化って奴ですね。最近多いんですよね~。しかし何でもかんでも擬人化するのは芸がないというか何というか」

「ツッコミませんよ?」

 

「それで、ウィン様が私に何か用ですか? もしかして私に一目惚れしちゃいました? 寝室行きます?」

 興奮するアクアを無視し、ウィンは続けた。

「あなたに報告があります……あなたの部下の花騎士はわたくしが預かりました」

「……何ですって!?」

 

「あなたのことは以前から監視していました。小さな少女に劣情を抱く、危険な異常性愛者だと」

「ぐへへ、それほどでも……」

「褒めてません! やはりあなたは危険です。そんな輩の下にソヨゴ達を置いておくわけにはいきません」

 

「ソヨゴちゃん達は何処に居るんです!?」

「安心しなさい。わたくしの管理下にある、()()()()()で保護しています」

「いくら世界花の化身とは言え、横暴が過ぎます! ……ちなみにウィン様のスリーサイズとか聞いていいですか?」

「花騎士を守るのがウィンの使命です」

「私はウィン様と一発やりたいです」

「もう! 何なんですかこの変態は! こんな人がウィンターローズの騎士団長だなんて……」

 

「と、とにかく! あなたのような変態を騎士団長とは認めません! 花騎士はわたくしが必ず守ります!」

 踵を返すウィン。

「その前にあなたを犯してやりますよ! ウィン様!」

 背後からガバッと襲い掛かるアクア。しかし次の瞬間、

「ぐふっ……!」

 アクアの腹部に、ピストルで撃ち抜かれたような激痛が走った。ウィンの強烈な肘が入ったのだった。

 アクアはうずくまり、地面に、朝食べた物をぶち撒いていく。

 

「うげっ……げぇ~……!」

「これに懲りたら、もう少女に欲情するのは止めなさい」

「ククク……よ、幼女から殴られるって結構気持ちいいですね……」

「もうやだこの変態」

 

 

 

────

 一方その頃、ソヨゴ達は。

「落ち着くッスね~」

 暖炉のある大きな部屋でくつろいでいた。

「でもこんなゆっくりしてて良いんでしょうか? 団長さんは今頃……」

「まぁ、世界花の化身のことだから、悪いようにはならないでしょう。ここに連れて来られた時も……」

 

『あなた達をあんな変態の下に置いておくことは出来ません。わたくしが保護します』

『あのアクアという女は少女に欲情するロリコンの変態です。騎士団長は辞めさせて、誰も彼女を知らないような場所で、耳と目を閉じ、口を噤んだ人間にさせます』

『その方が社会のためであり、彼女のためでもあるのです』

 

「何も言い返せなかったわね……」

「……はい」

 

 

 ソヨゴ達が保護された騎士団はウィンターローズでも屈指の規模を誇る騎士団であった。その上、ある変わった特徴がある。

「やあ皆さん、ご機嫌いかがですか?」

「あっ、ジャクソン団長」

 騎士団長、ジャクソン・セトウチ。170cmを超える長身と、脂肪で丸々と肥えた腹、そして坊主頭が特徴的な女である。

 

「すみません、ここまで手厚くもてなして貰って……」

 ソヨゴが申し訳なさそうに頭を下げるが、ジャクソンは丸い顔にしわを作って笑い飛ばした。

「いえいえ。ソヨゴさん達に来て頂いて、我々にとっても色々と収穫がありました。これもウィン様のお導きですね」

 ジャクソンは数珠をじゃらじゃらと鳴らして祈りを捧げた。ジャクソンは騎士団長であると同時に、ウィンターローズ世界花を信仰する宗教、『冬薔薇創生会』の教祖でもあるのだ。

 

「ジャクソン団長は本当に信仰心の厚い方ですねぇ~」

「えぇ。信じる者は救われる……皆様も、ウィン様を信じる心を忘れないようにして下さい……おっと、これから仕事の約束があるんでした。私はこれで」

 深くお辞儀をしながら部屋を出ていくジャクソン。花騎士達はそれを見送り、

「アクア団長とは真逆のタイプね……」

 としみじみと思うのだった。

 

 

 

────

 ろうそくが数本灯された薄暗い部屋。白いベッドがポツンと置かれ、その上に白装束を着た少女が寝かされていた。

 ドアが開き、大きな女が入ってくる。騎士団長であり、『冬薔薇創生会』の教祖、ジャクソン・セトウチである。

 

「教祖様……これでお母さんの病気が治るんですよね?」

 少女は純粋な目をジャクソンに向けた。

「えぇ、勿論です。あそこの壁に掛かっている写真を見なさい」

 金に光る額縁に飾られた写真には、笑顔で握手を交わしている二人の女性が写っていた。一人はジャクソン、そしてもう一人は……

「この冬薔薇創生会は、ノヴァーリス女王陛下からも表彰を受けているのです。その他にも各国で様々な慈善事業を行い、ブロッサムヒルからは名誉国民の称号も頂いております」

 自らの栄誉を語るジャクソンの顔は、まるで卑しい豚のようであった。

 

「だから安心しなさい。信じる者は救われるんですよ……ククク」

 ジャクソンの巨体が少女に覆い被さる。その後、閉ざされた部屋の中から、ベッドの軋む音が聞こえてきたという……。

 

 

 

────

「……さて、()()()()を実行に移しますか。早くしなければウィンターローズは……」

 背の高い本棚に、分厚い専門書何百冊と収められている書斎。その机の上で、ウィンは肘をついて考え事をしていた。その時、いつの間にか、背後にある花騎士が立っていた。

「ウィン様、ボクにお任せ下さい」

「あなたは……イオノプシジウム」

 

 花騎士、イオノプシジウム。紫のメッシュが入った黒髪と、何よりその怪奇な瞳が特徴的な花騎士である。

 つかみどころのない花騎士であった。遠くを見ているのか、近くを見ているのか。笑っているのか怒っているのか。その視線も表情も、伺い知るのは難しい。

 

「アクアさんを生け捕りにさえすれば、後は何をしてもいいんですよね?」

「……何をするつもりです?」

 ウィンの問いに、イオノプシジウムは唇を吊り上げ犬歯を見せた。

 

「ボクはジェンダーレスですよ。男も女も平等に愛してあげるんです」




※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません

何か意味ありげなこと言ってるけど、作者は何も考えてなかったりします

ここまで読んで頂き、ありがとうございました


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