GBNサイドメモリーズver.M (麻婆炒飯)
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Side:「終末」のフォース
王の2つめ




初投稿です(大嘘)
今回は本編で暴れるあの人の話。


 

 

世の中は退屈だ。

 

当たり前のような出来事が、当たり前のように過ぎ去っていく。特段これといった輝きも無く、もはや見慣れた鈍色の景色が今日も流れていく。

 

本や有難い御言葉には「そんな毎日にこそ価値がある」だとか、「当たり前を当たり前だと思うな」だとかあるけれど、そんなものは実際に失ってみない限り、上辺だけならばともかく本心では到底わかるものじゃ無いだろう。

 

ともかく私の毎日は退屈で、ありふれていて、何をするにしても特別な輝きを感じる事が出来ないでいる。

だから私は────、

 

"壊れてしまえ"と今日も願うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スメラギさん、また9月に」

 

「えぇ、皆さんもお元気で。」

 

学園の大きな正門前で、同じクラスの同輩達に別れを告げて迎えに来た自家用リムジンに乗り込む。

 

……突然の高級車で面を喰らいましたか?

でも私にはこれが日常なんです。

 

何せ私は市内の八割を牛耳っているとすら噂される「スメラギ財閥」の令嬢なのですから。

 

もちろん先程出た学園も、国内でも五本の指に数えられるレベルの所謂お嬢様学校、

「私立リット学園」と名付けられたあの学園は小高い丘……というよりは山の一角を丸ごと支配するように佇み、実際にその山全域が学園の所有物になって、厳重な警備体制が敷かれています。私達、名家の令嬢はそんな箱庭の如き学園に囲われた学生生活をおくるのです。

 

しかしそれも一段落、この学園にも夏季休暇というものがあり、明日からおよそ30日の連休となる。

この連休をどう過ごすかは当然ながら各々の自由であり、私は実家へ帰る事となるのですが……

 

「爺、今日も良いかしら。」

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

運転手を務める執事に、一言告げるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンダムシーサイドベースIBO。

それは全国に幾つも展開された、俗に言うプラモ屋を中心とした店舗群であり、その対象ジャンルを「機動戦士ガンダム」シリーズに限定した、ある種のテーマパークとも言える大型施設だ。

 

そんな場所に一台のリムジンが停車し、それを見た人々は騒然とする。

当たり前だろう、少し離れた場所にはこのベースのシンボルマークでもある大型モニュメント「1/1ガンダムバルバトス立像」がそびえ立ち、周囲はリムジン等とは結んでも結び付かないような「ガンダムオタク」のテーマパークが広がっているのだから。

 

そしてそこから出てきた令嬢の姿に誰もが二度見をしてしまう。まるで少女漫画か何かから出てきたような外見をした少女が、迷うこと無く目の前のシーサイドカフェへと歩いていくのだ。

 

当の本人はそんな視線に気付きつつも、微塵も気に止める事無く、そのまま自動ドアのセンサーを受けて開いた扉から中へと入っていく。

 

「らっしゃ……あぁハノエお嬢様、いらっしゃいませ。本日はお日柄もよろしく……」

 

「何度でも言いますけど、そういうの止めてくださいません?無理をしているのが丸わかりですよ。」

 

「……サーセン。んでお嬢、今日もいつものコースで良いんですね?」

 

「えぇ、個室3時間でお願いします。 」

 

「んで情報は秘匿、と……はいはい、手続き完了ですよ。それじゃあコレと、コレ。何かあったらいつでも呼んでくださいね」

 

受付にて何やら親しげに話した後で2つの鍵を受け取った少女は、そのまま奥のGBNプレイルーム……を通り過ぎて、幾つかの個室が並ぶ完全個室ブース(金持ち用GBN部屋)へと入って行った……

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「……さて、と。今日は此方にしましょう 」

 

個室を施錠してゲーミングチェアに座り、傍に置いた鞄に手を入れ探って…1つの携帯端末を取り出す。

それを数秒見つめ、眼前の筐体にセットする。

筐体上部に起動を告げる立体映像(ホログラム)が浮かび上がったのを確認して…次に手を付けるのは、個室に入る前に貸しロッカーから取り出した小型ジュラルミンケースと、その中に仕舞われたガンプラだ。

 

黒く煌めくガンプラを筐体の読み取り機に置いて光を浴びせる。その間に私は備え付きのヘッドセットを被って、身体に余計な負荷が掛からないようにゲーミングチェアへ全身を預け…ログイン工程が始まった。

 

全身が解け、再構築されていく。

電子の海に意識が溶け込み、己が全く違う何かへと変質していく感覚に身を委ねる。

恐れることは無い。こんなものは幾度となく味わってきた感覚であったし、何より今回、(わたし)()になるのではなく、

(わたし)のままでGBNに降り立つのだから。

だから、恐れる事等何も無いのだ───、

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

GBNセントラルロビー

 

多くのダイバーがスタート地点に設定するその場所にやってきた少女は、迷わずその場でメニュー画面を開き操作を始める。そんな姿を見た幾人かは、無粋にも連れ立ってそこへ近付いて行った。

 

「2人は不在…まぁ、平日ですし当然ですね。」

 

「やあやあ見目麗しいお嬢さん、お1人ですか?」

 

「俺たち今日すっごい退屈しててさぁ、ちょっとだけでも付き合って欲しいなーってぇ」

 

「慣れてないなら手解きだってしちゃうよォ?俺達これでもちょっと名の知れたダイバーだからさぁ」

 

その姿はそれぞれ異なるノーマルスーツに身を包んだ、所謂世紀末フェイスと呼ばれる顔立ちな3人組。誰がどう見てもろくな誘いでは無い文句に少女は1人ずつ見定めるかのように視線を巡らせて……

 

「えぇ、よろしければ、是非」

 

満面の笑みで、その言葉を返した。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「操作系統のアップデート完了、不具合無し。……久しぶりに使いますが、問題は無さそうですね。」

 

あの後4人連れ立って移動した先で、3人を先に出発させて少女は1人コックピット調整を行っている。

3人とはこの後出撃すれば即開始の設定にしたフリーバトルを行う約束を取り付けているので、今のうちに異常が無いか確認を済ませたのだ。

 

「……さて、久々の狩りですよ。」

 

機体の操縦桿を握り、語り掛けるようにそう呟く。

その言葉に答えるように、愛機……HGガンダムバルバトスをベースに黒く染め上げられたガンプラはその瞳に光を宿し、その姿勢を中腰へと変える。

目の前のハッチが開き、発進シークエンスが進行する。幾つかのシグナルが赤から青へと変わって……

 

「バルバトス・オルタナティブ、往きます。」

 

少女の言葉と同時に、それは射出される。

降り立つ先は見渡す限りの荒野地帯、端まで行けば眼下には無限の自然が広がる巨大な台地。

機動武闘伝Gガンダムに登場した「ギアナ高地」が、今回のバトルフィールドであった。

 

「さて、先の方々は……」

 

陸に降り立ち周囲を見渡していると…機内アラートがけたたましく鳴り響く。

センサーが敵機の接近を示すそれは索敵機にも簡易的に表示され、戦局を知らせる。

 

そう……敵が13機連れ立っているという、異常な事態を知らせる索敵画面を、映し出した。

 

「はっはは、ごめんよお嬢さん!」

 

「けど俺らもDP稼ぎたいからさぁ!」

 

「だから大人しく俺達の肥やしになってくれ!」

 

湧き出る湧き出る敵の群れ。

3人組のジェガン、GN-X、クランシェを先頭に、量産されている機体、という程度しか共通点の無いMS達が迫ってくる。初心者ダイバーからすれば間違いなく、トラウマもののピンチだろう。

 

しかしそんな状況下において、

コックピットの中の少女は……

"獲物が増えた事"に歓喜して、

口角を吊り上げ笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「……ん?コレは…あぁ、成程」

 

「どうかした?」

 

時は少し動いて、セントラルロビー。

そこにログインして降り立った黒い服の男と、黒いフード付きジャンパーの少女は開いた画面のフレンド欄を見ていた。

2人は1つの画面を眺めながら、近場の共用ベンチへと腰を下ろす。少女の方は小さな背丈を補うべくベンチの上に立って、背の高い男の肩に掴まりディスプレイを覗き込んでいる。

 

「いや何、珍しく楽しんでるなって」

 

「んー……初めて見るガンプラ」

 

「嗚呼…サリィはハジメテだったか。アイツは、まだGBNが生まれる前に彼女が使ってた子なんだ。 」

 

「んー……そうなんだ。どうりで 」

 

「……何か聞こえたのかい?」

 

「うん。久しぶりだって、喜んでる。」

 

少女は画面を見ながら、そんな事を呟いた。

フレンド限定公開としてプロフィールに据え付けられたバトルアーカイブには、今ちょうど終わったバトルの結果が、映し出されている。

 

そこには……荒野に転がり1つずつ電子の海へ還っていく無数のガンプラと、その中央で唯一無傷のまま佇む、「紫焔を揺らめかせる」黒いバルバトスの姿を映し出して、終了を告げた。

 

 

 

Battle Ended

 

 






ここからキャラクター情報

[ハノエ・スメラギ]
少女漫画にでも出てきそうな黄金色のロングヘアが特徴的なスレンダー体型の女性。
対外的にはお淑やかな性格で、整った顔立ちや主張し過ぎない装いも相まってお嬢様然とした雰囲気を漂わせる。

[サリム]
ハノエ・スメラギの所有アカウント。
リアル姿にかなり寄せたダイバールックで、腰まで深いスリットの入った、CERO的にかなりギリギリのラインを攻めている黒のドレスを身に纏っている。
乗機はGPD時代に愛用した機体
「ガンダムバルバトス・オルタナティブ」


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side:ELダイバー小噺
はっぴーにゅーいやー


年の瀬なので初投稿です。




「うぃたー、みかん」

 

「ん。……あい、どぞ」

 

「ありがと」

 

年の瀬のGBN、とあるフォースネストの一室。

和洋折衷のよくある畳部屋に置かれた炬燵に、容姿の良く似た2人の幼女が呑み込まれていた。

 

「クー、みかんはんぶんちょうだい。」

 

「いいよー、……あい。」

 

「ありがと」

 

ゆったりとした時間、ゆるりと流れる一日。

ある意味GBNでは恒例とも言える騒動らしい騒動も起こらない。それもそのはず、大きな騒動(一大イベント)は今を謳歌する者達の特権であり、彼等こそが立ち向かうべき物語なのだから。だから、既に一線を退いた「最古参のダイバー」にそんなお祭り騒ぎは不要なのだ。

 

「ぬくぬく……」

 

「ここでとしこしするの、いつぶりかなぁ」

 

「ひさしぶり?」

 

「んー、クーがくるまでそんなつもりなかった」

 

「そっかぁ」

 

2人の少女は互いに向かい合って深く炬燵に呑まれ、無気力に顔をテーブルにのせてぐだりとしたまま特にこれといった意味の無い雑談に花を咲かせている。

 

「クーももーすぐ一歳だね」

 

「うん、はじめてのおしょーがつ。」

 

「いまからたのしみ?」

 

「おもち、おぞーに、おせち?たのしみ」

 

「ぜんぶごはんだね」

 

「おいしいからしかたない」

 

「うん、しかたないね」

 

食い意地の張った幼女は正月と言って連想される一通りの食べ物を揚げるのそのどれもを楽しみにしているようで、言葉に出すだけで口の中が美味しいのか手で頬をもちもちたぷたぷさせて心の内を表現する。

もう1人の少女…ウィタエはその様子をにへらとあどけない笑みを見せつつ眺め、穏やかな談笑は続く。

 

「クー、もうそろそろだよ」

 

「どれくらい?」

 

「あと30びょう」

 

「わぁ」

 

そうして次第に近付く一年の終わり。

2人で迎える初めての年越し。

もう1人では無い、満たされた日々。

今日この日よりも11ヶ月と数日程前に出会い、そして似たような境遇にあった(心を満たす何かが欲しい)2人はこうして、どんな時でも一緒にあり続ける事を、互いの酷く虚しかった心の「からっぽ(さみしさ)」を満たし合うと誓ったのだ。

 

「さん、にぃ、いち……おー、」

 

「ん、クー。あけましておめでとう。」

 

「ん…うぃた、あけまして…おめでとう…?」

 

フォースネストの外から、新年を祝う打ち上げ花火の音が聞こえてくる。外では昨年末から引き続き、飲めや食えや闘えやのお祭り騒ぎなのだろう。

 

「……うぃた」

 

「ん……なに、クー。」

 

「クーのこころは、おなかいっぱいだよ」

 

「んー……そか。ウィタエも、クーと同じだよ。」

 

それでも2人は変わらない。

外で何が起ころうと、例えば世界の常識を変えるような新しい風が吹いても、世界を全て壊してしまうような事件が起こったとしても、2人は変わらない。

 

だからこそ、2人はこう言うのだ。

 

「「ことしも、これからもよろしくね」」。

 

 




ウィタエ (※考案:守次 奏 様)

GBN黎明期に活躍を見せ、現在は一線を退いた最古参ダイバーの1人。ダイバールックは身長130cm前後の幼い容姿に、白のゴスロリドレス、青く大きな日傘を差した銀髪の幼女。
舌足らずな喋り方が特徴的で、見た目の幼さと相まって小さな子供のように見える……が、その実力は当時のままであれば現在の3桁ランカー程度なら難無くあしらって見せる程だという。
現在はGBNの「食」の進化に楽しみを見出し、日々GBNを巡ってその食を堪能しているのだとか。

クー
最古参ダイバー、ウィタエが後見人を務めているELダイバー。その在り方はGBNにて刻々と進化を続ける「食」への探究心、その食を「食べて究める」事への執着から構成されている為に、非常に大食いでどんなものも食べてしまうという。
見た目は奇跡か偶然か、後見人であるウィタエとそっくりな姿をしており、共に並んで歩く2人はペアルック、或いは姉妹か双子のように見える。クーの持つ大きな日傘はウィタエからのプレゼントで、クー本人も余程嬉しかったのか外を出歩く時は常に肌身離さず持っている。


それでは皆様よいお年を。


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side-IFストーリー [BD]
IF-1話 「発見」


もう半年ぐらいあっためてたif話です。

※当ストーリーに登場するよその子は全て作者様に許可を頂いた上でif編集、登場しています。

※この章は原作に対するアンチ・ヘイト要素が非常に強くなっております。それ等を嫌悪する方はブラウザバック推奨です。



 

私は「奇跡」というものが大嫌いだ。

 

奇跡とは、思いがけない不思議な出来事。

或いは神様がやったとしか思えないような現象。

人々は得てして、「良い事」が起きた時にばかりそんな呼び方をするけれど、実際のところ奇跡とはいい事ばかりを差す言葉ではない。

 

現に私は、その奇跡に苦しめられてきた。

 

そうして私の心は、限界に達したのだ。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

時は20XX年。…なんて言う程未来ではないけれど、フルダイブVRMMOだとか、そんな感じの技術が確立された頃。

 

この物語の舞台となる日本では…否、世界ではもはや幾度目なのかも解らない「ガンダムブーム」が世間を賑わせ続けている。

 

そんな世界に数年前、新たな風が吹いた。

 

ガンプラバトル・ネクサスオンライン

通称GBN。ガンダムブームに更なる火をくべて、大きく燃え上がらせるそのゲームは当然のごとく大流行を巻き起こし、数年も経てばそのプレイ人口はガンダムに明るくない人々まで巻き込んで、2000万人に届こうとしていた。

 

しかし、世間にだって物事の流行り廃りの流れが存在するのだからそれは当然と言えば当然なのであるが、

その流行の影で、静かに輝きを喪う世界もあった。

当然ながら、そこに取り残された人々もいた……

そして……極々小数ではあるものの、それをGBNのせいだ。GBNさえ生まれなければ、と的外れの憎悪を募らせる者も、確かに存在していたのだ。

 

 

 

GBN、それは「自身の意識を広大な専用サーバーにアップロードし、自身が組み上げたガンプラに実際に乗って戦う」事を主眼に置いたゲームである。

それは世のガンダムファンにとって大きな輝きとなり、遍く人々を魅了してきた。

 

過去に流行った様々な「ガンプラを用いた遊び」とGBNの決定的に違うところは、「実物大の機体を操る」事と加えて、「バトルに負けてもガンプラが壊れない」事があげられる。

過去の遊戯…直近であれば、特殊な技術でガンプラそのものを動かして戦わせるGPD…ガンプラデュエル等は、バトルで機体が受けた傷は程度の違いこそあれ少なからずガンプラに反映され、傷付いてしまう事もあれば、重要なパーツが割れて補修程度ではどうにもならない程に壊れてしまう事もあった。

だがGBNは、ガンプラをスキャンして再現する、謂わばVRの類だ。そうなれば当然、機体が大破しようとガンプラそのものが傷付く事は無い。

 

しかし世間にはそれを「生温い」「物足りない」「所詮はゲーム」等と揶揄する人種が僅かに存在する程度には、GBNを受け入れられない人もいた。

そんな人々からすれば……否、彼等の多くはGBNを受け入れられなくてもソレを害そうとはしなかっただろう。だが、世の中には越えてはならない一線を越えてしまった人もいたようで────、

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「はぁ……やっぱりつまらない。」

 

1人の少女が、コックピットの中でそんな事を呟く。

少女が操縦桿を握る機体……HGウイングガンダムゼロのカスタム機は、バードモードと呼ばれる飛行形態でGBN内の草原地帯を宛もなく彷徨っていた。

 

無気力とも取れる言葉を呟く少女の姿は、黒のショートカットに、MSとは掛け離れたラフな軽装、その上からピンク色のラインを取った黒のパーカーを着ている。

GBNの基礎となるセントラルロビーで最も多く見る、ノーマルスーツを用いたアバターとは似ても似つかない格好なあたり、それなりに手間暇を掛けて作り上げたアバターなのであろうが……その少女は、そんな手間を掛ける程の価値を感じられなかった、とでも言うかのような失望感を顕にしている。

少女はこれまでミッションを3つ程と、幾つかのフリーバトルで勝利を収め……それでも、このGBNを心から「楽しい」と思える事は無かった。

確かに世間一般から見れば、この”ゲーム”は革新的で楽しいモノなのかも知れない。けれど……少女の心には、その「楽しい」を掻き消して尚も残る程の大きな棘が深く刺さっていた。

 

「………何、あれ。」

 

そのままいつまでも飛び続け…やがて少女は眼下に1つの小さな異常を発見する。それは……GBNという広大な世界に現れたヒビ割れという名の異常(バグ)は、少女の心の中の棘をもう取り返しがつかない程に肥大化させてしまう、大きな切っ掛けとなるのだった……

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「ひっへへ、最高だなァブレイクデカールゥ!ビームマグナムくらって傷1つすらつきやしねぇッ!」

 

「このッ!卑怯者!!」

 

場所はほんの少し移り変わる。

草原地帯にて繰り広げられていた1つのフリーバトル……否、バトルなどと呼ぶにはあまりにも一方的すぎる戦いは、誰の目で見ても異常であった。

片やHGUCユニコーンガンダムデストロイモード。塗装や必要な処理をしっかりこなした、「ガンプラ」としては充分な出来栄えの機体。

相対するは、ザクII…特別なチューンアップもカスタマイズも無いただのザクIIだ。しかもガンプラとしての出来すら相手に劣る機体だ。

だがしかし、ユニコーンガンダムはザクIIに押されている。…ザクIIの使用者が圧倒的にバトル慣れしていて、ユニコーンの攻撃を全て捌いているとか、そういう話ならまだ良かっただろう。しかしこのザクは…

ユニコーンガンダムが扱うビームマグナムの一撃を、腕で弾き返して見せたのだ。

当然そんな事は有り得ない。

ビームマグナムの威力は同世代におけるビームライフルの4倍であり、しかもザクIIとユニコーンとでは設定においても製造された年代に大きな差があり、当然その基礎性能も圧倒的に異なる。

普通ならば、こんな戦況には絶対にならない。

 

「ひッひ…そォら、いい加減に大人しくぶった斬られて、俺サマのポイントになりなァッ!!」

 

「っ…くぅ…!」

 

下卑た笑い声を上げる男のザクIIが、大型ヒートホークを赤熱させて歩み寄る。マグナムは既に弾を使い切り、2本のビームサーベルの発振器も弾き飛ばされてしまった。この上でやれる事など、タックルぐらいしか無いだろう。絶体絶命かと思われたが……

その刹那、ザクIIの後方上空より高速で急接近してきたウイングガンダムの改造機が、目にも止まらぬ機動性で高速強襲を仕掛けて来たのだ。

一瞬の間に乱入者は通り過ぎながら機体を変形させて、ザクIIの肩口をビームソードで斬り落とす。

腕を落とされたザクIIはその手に持っていたヒートホークを失い、間抜けにもザクマシンガンすら持ち込んでいなかったせいで丸腰になってしまう。

そんな相手でも乱入者は容赦をしない……

 

「ふぅん……やっぱり、チートツールの類かな…ねぇ、ソレ。なんて呼ばれてるツール?」

 

「あァ?…ンだよ、ブレイクデカールだよそれがなんか悪ィのかよクソがッ!!」

 

「そ、ありがと。」

 

十数秒。たったそれだけの通信を終えて乱入者が一方的に通信を切ると、同時に容赦無く振るわれたビームソードの刃がザクIIの関節部を尽く切り離し、五体バラバラのガラクタへと変えてしまう。

そうなれば当然ザクIIは耐久値の限界を迎え…爆発と共に電子の海へと還元されていった。

 

「ね、ねぇ君」

 

「………何?」

 

「その、ありがとう。正直…助かった。」

 

「……そう思うなら、ガンプラなり、プレイヤースキルなり、少しくらいは強くなったら?こんな"お遊び"でも弱いなんて目も当てられない。……それじゃ」

 

「なっ…な、何もそこまで…行っちゃった…」

 

その後、乱入者は襲われていたダイバーに辛辣な言葉を返し、その返事を待つ事も無く飛び去ってしまった。ユニコーン使いのダイバーはその場に1人取り残され、事前の通報がブレイクデカールの妨害を抜けて届き、駆け付ける運営の聴取を受ける事になる……

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「……見付けた。これが…こうなって…」

 

時と場所は変わって、現実世界のとある一室。

そこでは1人の少女が大仰な機械……最新鋭のコンピュータ機器を操作しつつ、しきりに画面と手元に置かれた小さな物体を交互に見比べている。

大きな画面には無数のデータが並んだ文字の羅列が目まぐるしく流れ続け、その膨大さを物語る。

 

それは……ブレイクデカール。

今、GBNを騒がせているチートツールだ。だが…その本質は世に蔓延るただのチートツールでは無い、という事実を少女は既に突き止めていた。

少女は、GBN運営ですらも未だ解き明かせていないソレを購入して解析し、既にその根幹となる干渉データ部分へと足を踏み入れていたのだ。

 

「やっぱり…これなら……」

 

これなら、GBNをぶち壊しに出来る。それだけのポテンシャルを、ブレイクデカールは秘めている。それに気付いた少女……有栖川(アリスガワ)美優(・ミユ)は、1人誰にも見られる事無く……歓喜の笑みを、浮かべていた。

だが…だがしかし、ミユの目的を達成するにはソレは完成度が足りていない。

今のブレイクデカールから手に入るものは、機体の異常なまでの火力上昇と、防御力上昇。加えてそこに隠された、「使用者のイメージを引き出す力」。これらの代償としてGBNには幾つかのバグが発生している。

ミユが利用するのはこのバグだ。

特にこのバグは使用者のイメージする力が強ければ強い程、力の反動によってGBNに齎されるその影響も大きく重篤なモノになる事が判明している。

 

だが……そこには大きな不足があった。

イメージに応じて力を与える、ブレイクデカールのキャパシティがミユの想像力に追いついていなかった。結局ミユがブレイクデカールから受け取れた効果はそこらのデカール使い……通称マスダイバーと同等程度に留まり、バグの影響も頭打ちになっていた。

ミユにとって…己の願いを叶えられるだけの可能性を持っていながら、しかし未だ完成していないソレは今の大きな不満の種になっていたのだ。

 

故にミユは……決めた。

 

「……デカールの製作者に、会おう。」

 

その日は昼間だというのに空が暗く、今にも雨が降り出してしまいそうな、曇天の日であった……

 

 




今回紹介する要素は無いです( ˇωˇ )

お得意の白文字芸もやっておりませんぬ。

以上です。待て次回。


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IF-2話 「邂逅」


if編2話です。

だんだん人を選ぶ内容になってくるかも、

※朔紗奈さんより桜野恋愛ちゃんをIFver.でお借りしています。もちろん事前に確認済みです。


とある曇天の日の廃工場街、その一角にて。

 

「────見つけた、」

 

「………ァ…?」

 

フードを深く被り、何処か遠くを見ている男。

不思議とその背に哀愁を感じさせる男の元に、自身の体格よりも幾ばくか大きなパーカーを纏い、眼前の彼と同じようにフードを深く被った少女が現れ、男の背中を見つめたままそう呟いた。

当然ながら、そこに2人以外の人影は無い。

かつて……GPDが流行った頃にはこの辺りはGPD筐体の部品を生産する為の工場が日夜稼働し、流行の舞台裏を支えてきた。しかし流行が過ぎ去り筐体の新規生産依頼が無くなれば当然、ソレを専門に一発立ち上げた企業主達は軒並み工場を手放し離れて……今やこの場は持ち主のいない廃墟同然の廃工場となり、そのうえこんな曇天の日ともなれば、余程の事情が無い限りそうそう人は近寄らないものだ。

そんな場所に、この日は2人もいる。

それには当然、それなりの理由がある訳で……少女は、その目的を果たすべく、男へ言葉を投げ掛けた。

 

「貴方でしょ、ブレイクデカールを組み上げたの。」

 

「知らねえな。こんなところで油売ってる暇あんなら今流行りのGBNでも遊んで来たら……」

 

「お願い、もっと侵食力を上げたやつが欲しい。」

 

「ッ…!?」

 

男は、思いがけない言葉に振り返る。

振り返った先に立っている少女の、フードの下から覗き見る瞳は……同じような年頃の少女からは到底見られないであろう、酷く濁った闇を湛えていた。

見る者が見れば、それは途方も無い絶望、そして憎悪から来るものであると理解が及ぶのだろう。そしてそれはフードの彼にも…明確に伝わったようだった。

男は数秒の間を置いて、少女から視線を外し1人勝手に歩き始める。しかしそれは、少女を無視してその場を去るという意図のものではなく……

 

「……ついて来んなら勝手にしろ」

 

「うん。」

 

特に招きはしない。

歓迎もしない、だが拒絶もしない。

本来なら、あんな事を言ったところで彼の心が乱れる事は無かっただろう。しかし、彼が見た少女の瞳の色は……彼の心をほんの少しでも動かすのに、何かしらの影響を与えてしまったのかもしれない……

 

その日が、男…シバ・ツカサと、少女…有栖川美優が始めて邂逅した日であり、後の世に語られるGBN最大級の危機……マスダイバー動乱の、始まりの日であった…

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「あ、ツカサおかえりー」

 

「────、あぁ。」

 

2人が廃倉庫に入ると、大きなドラム缶の上に座っていた小柄な人影が飛び降り駆け寄って来る。

小柄で……やたらと豊かな胸を揺らす少女は、フードの男をツカサと呼んで親しげに近寄り、当の男も無愛想にしつつも諦めたように軽く返事をしている。

フードの男の方は色恋沙汰なんて柄じゃない雰囲気だが、少女の方は…世話焼きが好きそうな感じだ。さしずめ通い妻か何か、といったところだろうか。

……と、そこで少女が後ろのもう1人に気付く。

 

「っ……と、その子は?」

 

「……客だ。」

 

「お客さん…え、デカールなら会いに来る必要無いし、そもそもどうやって突き止めたの…?」

 

「さぁな、」

 

少女は客と言われた相手に対し並々ならぬ興味を見せるが、男も当の客も彼女に見向きはしない。男はそのまま奥の暗がりへと進んで姿が見えなくなり…やがて、何やら機械らしきモノを弄る物音を立て始めた。

その間にも彼女の興味は尽きない。

客の周囲をぐるぐると歩き回りながら、その整った容姿を脳裏に焼き付けていく。

 

えっ待っかわっ!?逸材じゃないこの娘…!?

ん……こほん…私の事はレアって呼んでくださいね。それで…えーっと…お客さんの事は何て呼んだら?」

 

少女…桜野 (さくらの)恋愛(れあ)は親しげにフードの少女へと言葉を投げ掛け、それを幾度か繰り返したところで、ようやく少女は視線のみを彼女の方に向け、その口を開く…

 

「…………ミユ…」

 

「ミユちゃん!ふむ…ミユちゃんは何でブレイ…」

 

「オイ、」

 

「ん…準備、出来た?」

 

「クデカー、ル…に……行っちゃった…」

 

恋愛の言葉を途中で遮るようにツカサが言うと、ミユは其方に応えて恋愛の横を通り過ぎて行く。何だか自分だけ置いてけぼりにされたような気分になって一人しょもりとする恋愛を他所に、2人は明かりの灯された廃倉庫の一角へ移動していく。

そこには3人が……正確にはミユだけは実機では無く映像で、だが、よく見慣れた大型の機械が……前世代を大きな流行の渦に巻き込んだ、GPD(ガンプラデュエル)の筐体が安置され、起動に伴う機械音を唸らせていた。

 

「やるぞ」

 

「うん、」

 

当たり前の事、2人とも解りきってる、とでも言わんばかりの数少ない言葉の応酬。それを終えてツカサとミユは互いを見合うように、筐体の左右へ周り立つ。

そこまでくれば、この2人の配置が何を意味しているのかはもはや誰の目にも明らかであった。

 

ファイターであれば、口よりもガンプラで語れ。

 

誰かが言ったらしいその格言を実行するように、ツカサは左右非対称のアストレイ(ノーネイム)を、ミユは白黒に塗装し直されたウイングゼロ(ブリランテ)を読み込ませる。

 

Please.GPbase

 

筐体から発せられる音声と共に筐体上を粒子の幕が包み込み、やがて一つのフィールドが生成される。

 

Field......Remains

 

システムによってランダムに決定されたのは…廃墟。重力圏内に含まれる地上戦主体のステージであり、砂漠や森林のようなファイターを選ぶようなピーキーさを殆ど持たない、一般的なフィールドの一つだ。

 

当人達以外からも見えるようモニターに映し出された映像には、2機のMSが映し出されている。

先程2人によって登録されたガンプラはこうして大地に降り立ち向かい合う。そして……

 

「先手は貰う…!」

 

迷いの無いウイングゼロのツインバスターライフルによる砲撃を合図に、戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとツカサ!!」

 

「あ?」

 

筐体によるバトル決着の案内音声を待つ事無く、恋愛がツカサの元へ詰め寄って行く。その声色は怒り心頭と言った様子であり、そのままツカサへ掴み掛って行きそうな雰囲気だったが…生憎と彼女の平均よりも小柄な背丈ではそれは叶わなかったようだ。

それでもやはり気心の知れた間柄ではあるのだろう、下から見上げるようにムッとさせた顔で睨む恋愛と、扱いづらいと言わんばかりに視線を逸らすツカサの組み合わせは何処か「お似合い」といったイメージが湧き出る。

 

恋愛の怒りの根幹は、バトルの過程。

結果ではなく過程だ。結果そのものはツカサのアストレイ(ノーネイム)が勝利し、ミユのウイングゼロ(ブリランテ)が敗北を喫した。片や歴戦のGPDプレイヤー、片やGPD未経験者なのだから、それは当然の結果だろう。

しかしその過程で、ミユのガンプラは四肢を分解されるに留まらず、重要な接続部までツカサによって粉々に打ち砕かれ、最早パーツの補修などでは到底修復しきれない状態になっていた。

……というのも、ミユ自身が何度も何度も、それこそ機体が胴体と右腕のみになってもバーニアで起き上がって戦い続けたからなのだが……恋愛にとっては、それがいくらGPDで、当人が諦めなかった結果だからとはいえ、ガンプラが半ば一方的にボコボコにされていく光景は良い気分では無かったのだろう。

 

「あぁ?じゃないよ!幾ら何でもやり過ぎでしょ!どう見たってミユちゃんはGPD未経験者なんだから…」

 

「うるせェちんちくりん、喚く前に見ろよ」

 

「見ろって、何を…」

 

不満をぶつけてくる恋愛に対し、ツカサはぶっきらぼうに返しつつも反対側にいるミユを指し示す。

そこには無惨にも破壊し尽くされたガンプラを掻き集め、持ってきたケースに詰め直していくミユの姿があった。しかしその姿は、心を折られた敗者、或いは大切なモノを壊された被害者のソレではなく…

 

「く…っふふ……ははっ…あははっ……うん、やっぱりこれだよ…!これが、ホンモノのガンプラバトル…!あんな、GBNなんか(ニセモノの遊び)とは全然違う!」

 

「ミユ、ちゃん…?」

 

「母さんが、立っていた場所!ホンモノのガンプラバトル…!GPDは、やっぱり取り戻さなくちゃ。その為にも…GBNは、壊さなくちゃいけないんだ…!」

 

笑っていた。

少女は落ち込む事も、怒る事も無く、ただただ笑い、歓喜の言葉を誰にも向かない虚空へと投げている。

その姿は多くの人には「狂気」に、それを見た2人には「憎悪」に、この場にいない誰かにとっては「絶望」に見えた事だろう。その姿が人にどう映っていたにせよ、少女は既に「GBNを完膚無きまで破壊する」という覚悟を、硬く決めてしまっていた。

その姿に対し、恋愛は何も言う事が出来なかった。

否、ただ言えないだけなら、まだ良かったかも知れない。…少し、ほんの少しだけ、目の前で笑う少女に対して恐れを抱いてしまったのだ。その時点で恋愛は、自分が彼女に何かを言う資格は無いのだと思い、黙る事しか出来なかった。

 

「はは………はぁ。…ごめん、取り乱した。心が折れないか試されたんだと思うけど、むしろ助かったよ。これでもう、心置き無くGBNを破壊出来る。」

 

「そうかよ……チッ」

 

「資金が必要なら幾らでも用意するし、時間が必要なら少しくらい待つ。…連絡先はここに置いておくから、契約の目処が経ったら教えて」

 

一頻り笑い終え落ち着いたミユはその言葉と共に踵を返し、倉庫の外へと歩いていく。ツカサも恋愛も、その姿を静かに見送り……外まであと数歩、というところでミユはその足を止めた。そして、まるで思い出したかのように「あぁ、そうだ」と呟くと視線のみを後方の2人へと向けて、先程の憎悪とは異なる…聞きようによっては「その日を楽しみにしている」とも感じ取れそうな声色で言葉を紡ぎ始める……

 

「運営が探ってる事はとっくに解ってると思うけど、GBNの最高戦力…チャンピオンも動き始めてるよ。あの男、アレでかなり影響力あるから…他の面倒な上位ランカーも動くかもね。」

 

「……だろうな」

 

「…もし任せてくれるなら、レベルの高い戦力で、デカールとも親和性の高そうな人は何人かアテがある。…私としても、GPDを捨ててGBNにのめり込んでる裏切り者には思い知らせてやりたいし……」

 

「っ……」

 

「……考えておいて。じゃあね」

 

そう言って少女は倉庫を…廃工場街をあとにする。その直前、彼女の言葉にほんの小さなリアクションを示した恋愛へ鋭い視線を向けながらも何かを言う事は無く、フードを被り直して去っていった。

外にはいつから降っていたのか、雨が地面を、廃倉庫を守る金属の屋根を激しく打ち付けていた。

 

その翌日、自宅に…有栖川邸で1人過ごしていたミユの元に、ツカサからの連絡が入る事になる……

 

この時期からマスダイバーの呼称は多くのダイバーに知られて、ブレイクデカールはそれまで以上の深刻なバグをばら撒き、また運営もより警戒心を強めてGBN内外での捜査を厳重化させていく。

そして、GBNチャンピオンをはじめとした数多の上位ダイバーが追随するように動きを見せ……

 

ある少年達が、不思議な少女と出会ったのだった。

 

 




人物紹介(プチ)

フードの男(ツカサ)

皆さんご存知あの人。
説明するまでも無いよね。



桜野恋愛(IFバージョン)

作者様の本編とは違う未来を辿った桜野恋愛。
この世界線では、腐れ縁であるツカサの反逆に最後まで付き合う道を選んだようだ……


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Side:「栄光」のフォース
何年目かのバレンタイン




まだバレンタインなので初投稿です。





◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

〜感情暴走少女→愛しのお姉様〜

 

 

「お姉様!私の愛の証、受け取ってください!」

 

 

このやり取り、もう何年目だろうか。

毎年この日になると、毎回決まってほとんど同じような時間に、彼女は”アレ”を手渡しに来る。

 

今日は2月14日のバレンタイン・デイ。

そう、チョコレートである。

 

フォースメンバーの1人であるズィーベンは、それはもう365日毎日本気でアプローチを仕掛けてくるのだが、やはりバレンタインともなると、普段から熱烈なアプローチもより一層気合いが入ったモノになる。

 

GBN内でバレンタイン前後に限定で配信されるカカオ採集…という名の鬼畜ソロレイドを鬼の如く周回し、集めたカカオで手作りチョコレートを製作、意中の異性、または同性にプレゼントする、というのが今やGBNバレンタインの定番行事になっていた。

 

そして今日もその日がやってきた、という訳だ。

案の定ズィーベンは手作りチョコレート…1年目こそ拙い出来だったものの、もう何度も作ってきた事でプロ一歩手前並の出来栄えへと至った一品を袋から取り出し……自らの口に咥えて差し出してきた。

 

 

「──────、はぁ。」

 

 

成程、今年はそう来たか。

 

ズィーベンは毎年何かしらの一策を講じてプレゼントと同時に己の欲望…主に色欲を叶えようとしてくる。どうやら今回は、そのまま口に咥えて受け取って貰う事で、所謂ポッキーゲーム的なアレか或いはそのままキスでも出来れば、などと目論んでいるのだろう。

 

そうは問屋が卸すものか。

 

 

「ん、ありがと。」

 

「あっ…そんなお姉様…!」

 

 

幸いにもチョコレートを咥えたズィーベンの顎の力は、手で摘んで奪い取れないという程強く無い。

なので普通に手で受け取り、そのまま口に運んで食べた。うん、今年のチョコレートもいい出来だ。私好みの甘さがどれくらいなのかを熟知している。

 

だが……

 

 

「お姉様…自分から関節キスだなんて…はぅ…♡」

 

 

おのれ謀ったなズィーベン。

どうやら今年は私よりも彼女の方が上手だったようだ。ズィーベンは満足そうに微笑み、そしてそのまま仰向けに卒倒し、強制ログアウトしていった。

 

急速に顔が熱くなる。

顔が紅潮しているのが、鏡を見なくても解る。

 

定例通りなら、この後リアルでもチョコレートを渡されるはずなのだが、どんな顔をして受け取れというのか。そもそもいつも通り平静を装ったままチョコを受け取れるか、だんだん不安になってきた。

 

 

「この……少しずつ小賢しくなって…!」

 

 

この気恥しさは、まだ暫く治まってくれなさそうだ。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

〜感情暴走少女→お姉様を誑かす不埒者〜

 

 

 

「オズマ、今年も貴方に義理チョコをあげましょう」

 

「毎年の事だけど今年は何でそんな離れてんの?」

 

「これが適切な距離だからです。」

 

 

うーん、意味がわからん。

 

毎年μに渡すチョコレートのついでと称して失敗作のクッソ苦いチョコだったり異常な程アルコール臭いチョコだったりを無理やり喰わされ…もといプレゼントされて来たが、どうやら今年は趣旨が異なるらしい。

 

謎に距離を…およそ4m程空けた先で見せてきたチョコレートを包んだと思しき箱。今年は珍しくラッピングまで施す徹底ぶりだ。やっとマトモに渡してくれる気になったのか、とも一瞬思ったりしたが、その有り得ない希望は刹那の隙に打ち砕かれる。

 

ズィーベンが笑顔で箱のラッピングを解き、包み紙を外し、箱を開けるとそこには…刃物が入っていた。

 

 

「いやお前、それは流石にどうかと思うぞ」

 

「何を言ってるのですかオズマ、これは紛うことなきチョコです。ヒートダートチョコです。」

 

 

そう言ってこの暴走特急娘はヒートダートを手に取り…危ねぇッ!?投げてきやがったコイツ。ちゃんと壁に刺さってる…何で殺傷力まで再現されてんのさ。

 

 

「ちょっと、避け無いでくださいオズマ、そんな事をされたら上手く眉間に刺せないでしょう。」

 

「いや刺されたく無いから避けたんだがッ!??」

 

 

コイツ、殺る気だ。

いや殺意満々なのはいつもの事だが、今回はチョコにかこつけて硬さと鋭さを巧みに細工しほぼガチモンのヒートダートをチョコで作って挑んできた。

 

 

「おま、危なッ、やめ…うぉあぁ刺さったァッ!?」

 

マジで眉間に刺さった。

幸いにも手刀を喰らってもいいように感覚共有の感度を最低値にしていたから痛くは無かったが、アバターのバイタルポイント…俗に言うHPがゴリゴリ削れていく。あ、胸と喉にも刺さった。……これは誰がどう見てももう紛うことなき致命傷だな。

 

 

「お前ェ、年々手が込んで来てんなこの…解ってるとは思うがリアルでもリアルじゃなくても他所様にこんなチョコ作ったり渡したりすんなよー!」

 

 

そう言って断末魔のお説教と共に、バイタルポイントが尽きてエントランスに強制転送(デスルーラ)されていく。

アイツの事だから俺以外にこんな態度を取ったりはしないと思うが、年長者の性かズィーベン…ナナカの将来が少しばかり心配になった。しかし……

 

 

「────貴方だけです、こんな事が出来るのは。」

 

 

どうやらこの心配は杞憂で終わってくれそうだ。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

〜ドMフィジカル侍 ━ 拙を初めて満たした漢〜

 

 

「────オズマ、オズマよ、今年は拙も皆に倣ってちょこれいとを拵えてみたのだが。」

 

「へぇ、また珍しい事をするじゃねぇか。」

 

「うむ、今年のれいどぼすはかなりの強敵と聞いてな。刀が疼き戦線に身を投じていたら自然と素材が溢れた。このまま蔵の肥やしにも出来んであろうし、ここは久方ぶりに腕を奮ってみようかと、な。」

 

 

 

俺達のフォース、「Gloria」内において、ヒバリの立ち位置は所謂「遊撃担当」である。バトルにおいての連携力では目を覆いたくなる有様だが、自由に行動させとけばこれ程心強い侍はいないだろう。

またネット上での異名(?)も「肝心な時にしか役に立たない侍」、「×戦闘狂 ◎戦いしか出来ない」などと散々な言われようだ。隙あらば何処かで居眠りをキメているし、バトル以外のイベントも気付けば観客席に回って居眠りをキメていたりと全体を通してバトル以外の行為に対する適正が全くと言っていい程無い。

 

なのだが……どうやら今年は珍しく、他の誰かに触発でもされたのか、バレンタインチョコを拵えたと。

彼女にしては非常に珍しい事であり、思わずその通り口に出てしまう。…まぁ、ヒバリはそんな事を気にする程小さな器はしていないだろう。

 

 

「見てくれ、中々良い出来だと思うのだが」

 

「ほぉー…初めて作った…ってもここはVRだから勝手はある程度違ってくるんだろうが…それでもこれは結構いい出来栄えをしてるんじゃないか?」

 

「くふ、そうだろう。拙も寝るか戦に明け暮れるばかりの女では無いと、その証になるな?」

 

 

前言撤回しよう、どうやらヒバリでもその辺は気にしていたらしい。案外可愛いとこもあるじゃないか。

 

 

「……で、このチョコは誰に渡し」

 

「あむ。……んむ、んまい」

 

 

え。

 

………えっ?

 

食った。チョコを、1人で全部。

 

……さてはコイツ、バレンタインチョコを誰かにプレゼントするものだってところを理解していないな?

 

 

「あー……ヒバリ、ちょっといいか」

 

「んむ?はんはほふあ(なんだオズマ)

 

「バレンタインチョコってのはな、想い人や家族、世話になった奴は友達に渡す物だ。」

 

「────ッッッ!!?」

 

 

その時ヒバリに電流走る。

いや閃きって言うかショックの電撃なんだが。

折角なのでトドメを刺しておく事にしよう。

 

 

「ついでに言うと、チョコを作った証もスクショとか撮る前に食っちまったから残せて無いぞ」

 

「────ッッッ!!?」

 

 

おっと電撃2発目だ。

少し可哀想になってきたな、これ程ダメージを受けるヒバリは初めて見る気がする。

 

 

「もう一度、狩りに出る…ッ!」

 

「ヒバリ…カカオ集めミッションは昨日までだ。」

 

「あぁ…ッ!」

 

 

ついに膝から崩れ落ちた。

まぁ、こんな事もあるさと慰めだけはしておいてやろう。まだ初挑戦なんだし、来年に乞うご期待だな。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

〜世界を赦した亡霊→全ての始まりになった彼〜

 

 

 

「……オズマ」

 

「……っと?どうしたμ、今日はやる事があるからって早めに解散するんじゃ無かったのか?」

 

「ん……それはもういい、ハイこれ」

 

 

そう言って少女は、照明の落とされたフォースネストのブリーフィングルームに残って後片付けを済ませたばかりの男に赤い包み紙と金のラッピングリボンで飾られた箱を手渡す。その中身は今日という日を鑑みれば、大地を走るブリッツガンダムを見つけるよりもずっと簡単に理解する事が出来た。

 

 

「リアルはともかく、こっちじゃ上手く作れそうになかったから、買ったやつになるんだけど…」

 

「………おう、ありがとなミユ。」

 

 

そう言って男は、少女から差し出されたバレンタインチョコを受け取り、二カリと笑って見せる。

その様子を見て、少し表情が強ばっていた少女はそれが緩むのを感じ……そして間もなくふいと背を向け、扉を潜り抜けて廊下へと駆け出して行ってしまう。

 

 

「……そうだ。オズマ、リアルでもちゃんと渡すから、次のオフ会やる時、ちゃんと来て!」

 

「はいはい、リーダーの御招待とあらば、謹んでお受け致しますよ、我等がお姫様。」

 

 

そう言って返事をした男の言葉に、少女は呆れたような笑顔を見せ……閉まっていく扉が2人の間を隔てていく中……少女は男にも聞こえないような声で、そっと呟きログアウトする。

 

 

「これでも、本命のつもりなんだからね」

 

 

そんな小さな言葉を残して。

 

 

 

 






という訳で久々にGloriaのお話。

特に本編とは関係無い。この後μはパパにもチョコをあげたそうですが、そのチョコはオズマに買ったチョコよりもちょっと休めのやつだったみたいです。




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