芸術家提督ー英雄列伝 (後世の歴史家(自称))
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設定集
設定・世界観・主要登場人物


はじめまして。初投稿です。


息抜きの道楽で始めました。不定期更新です。

どこかで聞いたような話・ネタが多いとは思いますが、温かく見守りください。


この世界では、艦娘は本来の艦船の姿で戦います。人型でも戦えますが、あくまで 戦える 程度の力です。通常戦闘時は艦橋で妖精さんと協力して戦います。旗艦には提督(司令官)が座乗することもありますが、派遣時に旗艦艦娘に指揮権を与えることもできます。

この世界では、提督・鎮守府に所属するものを〇〇艦隊と呼びます。

遠征などの派遣は〇〇分艦隊という分類で、分艦隊ごとの艦艇上限は特にありません。

 

 

大本営

各艦隊・鎮守府・泊地の総司令部。指揮下に直属艦隊(数個警備艦隊)を持つ。

作戦本部と艦隊司令部に分かれており、司令長官は横須賀鎮守府の司令を兼任する。

大規模作戦の発令や人事を行い、政府との玄関となる。

作戦本部長は艦隊司令長官の上位にあるが、独自の艦隊は大本営所属の警備艦隊のみ。

 

 

横須賀鎮守府

司令長官直属艦隊が所属。海軍における最重要拠点。大規模作戦、演習、補給における中心を担う。

 

舞鶴鎮守府

4大鎮守府。主に日本近海の警備とシーレーンの確保を担う。大規模作戦時には出撃した泊地の警備を担当する。

 

呉鎮守府

4大鎮守府。作戦本部長、艦隊司令長官に次ぐ実質的な制服軍人No.3

横須賀同様大規模作戦、演習、補給における西の中心地。

 

佐世保鎮守府

4大鎮守府。横須賀と同様の役割をもつ。かつてはフィリピン以南の泊地に対する限定的な指揮権を有していた。

 

士官学校

大学校に代わり設置された。卒業後、本人の意思と適正審査により、提督研修センターに配属される。士官学校卒業生より3年遅れて配備されるため、着任時の階級は少佐。さらに他の提督の下で約1年間研修を行う。その後は大本営勤務と艦隊勤務の2つの道がある。

 

 

階級表

 

将官  佐官  尉官  特務士官  

                  

元帥  大佐  大尉  特務大佐  

大将  中佐  中尉  特務中佐  

中将  少佐  少尉  特務少佐

少将      准尉

准将

 

士官学校卒生は中尉に任官

研修センター卒生は少佐に任官

特務士官は民間採用者(医師・技師含む)が該当

 

 

 

作中人物(登場時)

 

渡邉大佐

 

宿毛艦隊所属、艦隊運営研修生。のちに「不敗の英雄」や「芸術家提督」と呼ばれる。

士官学校卒。新任少佐として沖縄に配属、すぐに大規模侵攻に会い、指揮系統の混乱もあって最終的に撤退戦の指揮を執った。

紅茶と音楽を愛する。器楽が得意。軍人らしくないとイヤミをよく言われる。

 

 

散田提督

 

大湊艦隊司令。自衛隊からのたたき上げ。士官学校は出ていない。戦争初期から戦い続けている最古参。茶目っ気のあるガンコ爺。士官学校卒の自称エリート軍人にとっては目の上のタンコブ。

堅実な用兵手腕とごく平均的な常識の持ち主。放つ言葉には皮肉のスパイスがたっぷりとまぶされている。

実は士官学校の用兵書の執筆にも携わった。

 

 

富山少将

 

士官学校卒。大本営後方部門所属。渡邉の先輩にあたる。適性審査は通過したが、自身の指揮能力の限界を見極め、辞退した。大本営の事務屋。彼が休むと補給兵站が機能不全に陥る。

各艦隊との資材要求戦争に最近疲れている。

 

 

永井少佐

 

士官学校、提督研修センター卒。門限破りの達人。

教科書を超えた派手な戦いをすることが多いが、本人はゲリラ戦が好きな模様。

渡邉の後輩にあたり、たまに飲んだりする。

 

 

墓誌

 

山口提督

 

第一次ミッドウェー反攻作戦を指揮、一時的に前線を押し上げた。最終階級は元帥

 

 

秋山提督

 

山口提督を補佐し続けた知将。ミッドウェーにおける包囲殲滅戦が九割以上の成功を収めた功績は彼の手腕に帰す。最終階級は大将

 

 

 

艦隊基本編成例

 

駆逐隊  任意の駆逐艦4隻で構成

 

水雷戦隊 軽巡1-2隻、2個駆逐隊で構成

 

重巡戦隊 重巡2隻で構成

 

戦艦戦隊 戦艦2隻で構成

 

航空戦隊 正規空母又は軽空母2隻で構成

 

特務艦隊 非戦闘用舟艇を含む編成

 

連合艦隊 複数泊地が合同して艦隊を編成したもの。

 

警備艦隊 泊地に所属しない小規模な艦隊の総称。作戦本部所属

 

 

重巡・戦艦・航空戦隊は単独で運用する場合は一個駆逐隊又はそれに軽巡を一隻加えてたものを付帯させることが多い




余裕があれば、アーリーデイズを描いた外伝も書きたいと思います。






ここまでで、参考にした元ネタってばれてしまってますかね…


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本伝
第一話 沖ノ鳥島海戦


一応本伝です。

実は、構想中の外伝の方が好きだったり…

暖かく見守りください。


定期的に侵入を試みる深海棲艦に対し、大洗、宿毛艦隊による殲滅作戦が発令された。しかし、「横須賀は防衛線を突破された際の迎撃を担うべし」作戦命令書の記載が最大戦力の参加を否定していた。

そのような中、決して弱くはない、いわゆる中堅と呼ばれる2司令官が取った作戦は、「大規模挟撃作戦」だった。

 

三十年来の作戦を採用し、必勝の態勢にあると豪語する2司令官に意見具申したのは、しかし現在研修中の若手士官だった。

 

「司令官、先程先行した駆逐隊より入電しました。未だ敵艦隊の姿が見えないようです。敵情分析が為されない今、戦力を二分したままでは危険です。一度合流した上で作戦の再検討が必要ではないでしょうか。」

 

宿毛艦隊旗艦 日向艦橋にてだるそうな見た目の彼が報告書を片手に珍しく意見具申する。

 

だか、幸か不幸か司令官はいわゆる服従を求めるタイプだった。さらに、かの大戦に多く居た楽観視が得意なタイプだった。

「日向」の援護もあり、なんとか無電封鎖を解除し、友軍艦隊に連絡を取る許可を取り付けた彼は呼びかける。

 

「こちら宿毛艦隊司令部。大洗艦隊、応答願う。」

 

ノイズのみが聞こえる。接敵を警戒する彼とは裏腹に司令官は楽観していた。

 

「向こうは接敵していないから封鎖を続けているのだろう。迂回運動中の我々には嬉しいことだ。何かあれば通信が入るだろう。そう、つまり我々はまだ敵に気づかれていないだけなのだ。」

「余計な心配などせず艦内を巡見してはどうかね。研修の足しになるのではないか?」

 

「……」

 

現在通過中の小笠原諸島を左に見て彼は退出した。

 

彼の不安要素は、各個撃破である。近年の深海棲艦には、明らかに意図されたと思われる戦術的行動を取るものがある。

司令官の楽観性が悲劇を生まないことを願うばかりだった。

 

実はこのとき、司令官は己の感情に従って彼を追い出したのだが、後に、海軍の未来を守ったという一点で「完全な愚将」との呼び名を回避したのだった。

 

後部艦橋を目指していた彼の耳に、突然敵弾接近警報が響いた。2瞬置いて衝撃と爆発音が響き、大変不名誉な「開戦早々の旗艦被弾」という異常な事態に見舞われるのであった。

 

断続的な攻撃の中、後部艦橋にて被害状況を確認する。そこで目にしたのは空襲警戒で密集輪形陣を取っていた大破炎上する艦艇群と、島陰から覗いた水雷戦隊、着弾観測機。そして被弾部位が艦橋であることを示す蒼白な妖精だった。

 

 

 

提督研修中の渡邉大佐は、楽観視していた司令官に艦橋から追い出されたことで、負傷を免れた。




短く拙い文章ですみません。

物書きって大変ですね…
結局好きな小説の構成から離れられない自分がもどかしいです。


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第二話 沖ノ鳥島海戦II

沖ノ鳥島海戦の大洗艦隊視点です。


同時刻

大洗艦隊旗艦赤城 艦橋

 

「提督、先程一瞬だけ通信波のようなものを受信しました。ほとんどノイズでわかりませんでしたが、宿毛艦隊からの通信でしょうか」

 

「あいつのことだ。時間的にやや早いが、どうせ撃破報告だろう。戦果を見せびらかすのが好きな男だ。全く。こちらの機動部隊が無ければヲ級は撃破できんだろうに」

 

「それよりどうだ、小笠原を迂回して隠密行動してきたが、まだ奴らは見つからんかね。何をやっとる」

 

「偵察に出した艦攻隊からは通信がまだありません。なにぶん雲量9です。あまり高度を下げると発見されてしまうでしょうから、もう少しかかるかと」

 

「フン、あいつらに遅れを取るわけにはいかんのだ。さっさとアウトレンジで決めるぞ」

 

 

鈍色の積乱雲が空を覆っていた。

 

 

 

格納庫

 

※以下漢字仮名交じり文ですが、妖精さんです

 

「なんだか嫌な予感がするです」

「今回は直掩隊も艦攻に載せ替えられました」

「私たちは攻撃隊の直掩のみを命じられてますです」

「偵察している仲間達もまだ帰ってこないです」

「発艦準備すらかからないです」

「ネズミが一匹もいないです」

「いたら困るです」

「この艦(ふね)は赤城なので同じようなものです」

 

「「「戦いの前にはご飯です」」」

 

 

…一部怪しい会話もあるが、どの艦でもある程度似たような会話がなされていた。

 

嫌な予感程よく当たるもの、という多くの人が半ば帰納法的に求る格言はまた一つ実例を増やしそうだった。

 

 

 

2時間後 艦橋

 

「提督、4番機より敵見ゆと入電、沖ノ鳥島よりかなり東です」

 

「機動部隊か?」

 

「わかりません。撃墜されたらしく、詳細は何も…」

 

「全艦へ、戦闘用意。輪形陣を維持、船幅を大きく取れ。攻撃隊発艦準備」

 

「攻撃隊が先ですか?」

 

「当たり前だ、ミッドウェーで何を学んだんだ。甲板も使ってすぐにだせ。準備が出来た機から発艦だ」

 

 

 

かの戦いにおいて戦局を大きく変えたミッドウェーでは、米軍は機動部隊発見後すぐに攻撃隊を発艦させた。直掩機なしの攻撃機は被撃墜を多く出したものの、先手を取ることに成功。連続的な艦爆と艦攻の攻撃により、ついに空母四隻を行動不能に追い込んだ。

 

 

先制の重要性を強調する戦訓として航空畑を歩むものにはよく知られた話である。

 

彼の目論んだ「大量の艦載機による先制波状攻撃」は空母戦における理想である。

 

 

 

が、遅すぎた。

 

 

 

最初に気づいたのは直掩艦隊の重巡「摩耶」だった。

 

「て、敵機、艦隊直上、急降下ーー!!」

 

 

……当時の戦闘詳報によると、ミッドウェー同様に

 

「強力な白い艦載機による急降下爆撃によって出撃準備中に被弾、航空戦隊は戦闘力を喪失。また直掩艦隊にも被害が発生」

とある。

 

生還した艦娘による詳報の内容は、「大本営発表」により語られることはなかった。が、のちに「青葉」によって封鎖を突破した情報は、多くの提督の空母運用論に一石を投じることになる。

 

 

 

航空戦において先制攻撃は基本だった。しかしCAP(戦闘空中哨戒機)すら用意せず、アウトレンジ攻撃に失敗したこの戦闘は

「航空戦術における艦載編成と運用の失敗例」

として士官学校の教科書に乗り続けることになった。

 

 

参加した大洗艦隊、2個航空戦隊、2個重巡戦隊、2個水雷戦隊のうち

空母4、重巡1、軽巡3、駆逐5の計13隻が撃沈。残りの半数以上が中大破。大洗艦隊は戦闘力の七割以上を喪失して撤退した。

 

 

旗艦赤城は炎上しつつ沈んだ。

 

彼のアウトレンジ戦法は未発のまま、彼と共に沈んだのであった。

 




ゲージ付きの海域では、通常艦隊で最低でも4-5回は出撃される方が多いと思います。
現実の戦闘では、大体において一回の出撃で決着することが多いので、このような編成にしました。


今回もお読み頂きありがとうございます。


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第三話 沖ノ鳥島海戦III

沖ノ鳥島海戦 宿毛艦隊視点に戻りました。


あともう一話くらいで時間が進みます。(予定)
もう少しだけお付き合いください。





旗艦の艦橋部に被弾ーー最悪の場合、全艦隊の戦闘力を喪失しかねない事態は敵の奇襲により起きてしまった。被害状況を調査していた大佐のもとに、艦橋から連絡が入る。

 

「こちら艦娘「日向」。司令官が負傷した。現在治療中だが、妖精によると、戦闘中の復帰は望めないそうだ。臨時に指揮権が委譲される」

「私もこれより後部艦橋に向かう。大佐、指揮をお願いする」

 

「日向へ。わかった。只今より指揮にはいる」

 

「妖精さん、全艦に繋げるかい?」

 

頷いたのを確認してマイクを取る。

 

「全艦へ、こちら渡邉大佐。先程の砲撃によって旗艦艦橋をやられた。司令官が負傷したため、私が指揮権を引き継いだ」

「この後の作戦行動は追って伝える。各艦は被害の復旧と戦闘力の報告を頼む。今より各艦は自由操艦、次の指示まで回避に専念してほしい。以上」

 

 

被害状況を妖精さん達が黒板にまとめていく。

 

「しょうはいかのかんていは、せんかんいせ、けいくうぼちよだ…

 

 

 

「まともに戦闘できるのは戦艦1、軽空母1、重巡2と水雷戦隊のみか…再編成しなくてはな」

 

ため息も出ようものである。

 

今回の宿毛泊地の参加艦艇は、二個戦艦戦隊、二個重巡戦隊、一個航空戦隊(軽空母)、二個水雷戦隊。

 

開戦早々に主力水上打撃部隊の半数以上に被害を受けたことになる。

 

 

しかし、どんな敗勢であったとしても影だけは胸を張っていなければならないのが指揮官であり、その点において彼に問題は無さそうであった。

もっとも、彼の意識外の事であったが…

 

 

「姿勢の良さは楽器をやっていて助かった数少ない一例だね」

 

とは後に青葉の取材にイヤイヤ答えた際の言葉である。

 

 

 

「千代田へ。搭載している艦攻にで偵察させてくれ。方向は沖ノ鳥島。一機は大洗艦隊の予定航路に向かわせてくれ」

 

「千代田、了解です。攻撃隊はどうしますか?」

 

「まだ待機させてくれ。偵察結果如何で飛ばし方を変えなければならないだろう。一応暖機は済ませて置いてくれ。特に艦戦を優先的に」

「そうそう、念のため1小隊CAP(戦闘空中哨戒機)を出しておいてくれ。可能なら敵水偵を落とすように」

 

「こちらも了解です。すぐに出します」

 

 

「臨時に千代田を旗艦とする航空戦隊を編成する。一水戦より第二駆逐隊は千代田の発着艦を掩護する様に」

 

「攻撃隊はまだださないのか?主力の位置はもう知れているようなものだとおもうのだが」

 

「敵 ー恐らく戦艦級ー が方角的に見て父島の裏側から着弾観測射撃をやっているのは、まあ事実だろう。現に奴さんが飛ばしてる。」

「しかし問題は、毎度お馴染みのヲ級さんだ。大洗がうまく叩いてくれていたならいいのだが、最悪の場合はこちらに横槍を入れてくることも考えられる」

「ところで、開戦前の通信、どう思う?」

 

「不自然なノイズが多かったのではないか?なにか、こう邪魔をされていたような…」

 

「やはりか、私は大洗が予定ルートをそれたと思う。先程の通信が妨害されていたとすると、今頃我々と同じように攻撃を受けているはずだ。

攻撃をしていたとすれば、時間的に見て我々が発見する頃には収容作業中の筈だ。軽空母一隻分の攻撃隊とはいえ、収容中に攻撃されればかなりの牽制になるのではないか…。というわけで艦載機はなるべく温存したい。従って炙り出すまで待機ということさ。」

 

「まあ、そうなる…のか?」

 

 

「さて、次だ。伊勢日向の瑞雲全稼働機を出して欲しい。爆装して出してくれ。恐らくこちらの転舵の瞬間を今か今かと狙っている水雷戦隊がいるはずだ。」

「発見次第攻撃してくれ。中破相当のダメージを与えれば十分だ」

 

「了解した。準備する」

 

 

「一水戦へ、一水戦は大破艦を護衛して直ちに海域から離脱せよ。特に空襲に十分注意する様に」

 

「二水戦へ、艦隊を川内隊、長良隊に分ける。各隊は父島の両端を掠めるように時間差を置いて雷撃。その後煙幕を展張しつつ退避、出てくるであろう敵水雷戦隊に対応してくれ」

 

 

「敵の水雷戦隊を撃破次第回頭・撤退する。少しでも変わったことがあればすぐに知らせてくれ」

 

 

 

「「了解しました」」




設定集に基本艦隊編成を追加しました。
興味のある方はどうぞ…

今回もお読み頂き、ありがとうございました。


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第四話 沖ノ鳥島海戦Ⅳ

今回で海戦終結です。



提督代理となった渡邉大佐の命に従って艦隊が行動を起こす。

彼の乗る戦艦「日向」も中破しているが、まだ彼に撤退する気はない。彼は研修生ながら、安全な鎮守府から督戦するばかりの周囲とは異なり、警邏や遠征以外では必ず戦場にいた。

 

 

 

「無線通信だけで正確に戦況判断が出来るとは、どれほどの才能に溢れているのだろうかねぇ」

 

 

…この皮肉の効いた発言が事実であったか、についての正確な証言は残っていない。発言当時酔っ払っていた妖精たちの間では聞いた、いや提督は言ってない、などといった低レベルな争いが一部あった事は事実である。

事の発端は言わずと知れた"鎮守府のパパラッチ"による買収工作である。しかし下手をすれば"お偉いさん"に目をつけられそうな発言は、現場の店主"鳳翔"が笑顔で沈黙を守ったため、真偽は闇の中という形で収まった。

もっとも、渡邉本人が鎮守府から動かない指揮官を毛嫌いしていたのは確かのようだ。

 

 

 

ーーー

 

 

水雷戦隊の突撃開始からおよそ15分が経過した。

戦場の混乱は次第に収束へと向かっていた。

 

伊勢日向の瑞雲が聟島付近に敵水雷戦隊を発見。少数だが爆弾も命中し、更なる奇襲は未然に防がれた。

 

「川内参上、昼だけどしょうがないからいくよー。各艦逐次回頭。終わり次第発射!」

「よしきたー!みんな、転舵後雷撃!用意!」

 

また、雷撃を敢行した長良・川内両隊は煙幕を展開。同時に千代田艦載機による敵水偵の撃墜によって敵戦艦の砲撃精度は大きく低下。

当面の危機は脱したようである。

 

 

この瞬間、渡邉が命令を下す。

 

「全艦面舵一杯、進路3-0-0。現海域を離脱する。転針後は最大全速」

「千代田は転舵後に攻撃隊発艦。目標は現在交戦中の敵水雷戦隊。発艦後に艦隊直掩機をもう1小隊だしてくれ」

 

「最後まで気を抜かないように。このまま全員で生きて帰るぞ」

 

 

綺麗なウェーキを描きながら艦隊は撤退に成功した。

 

 

当時の戦闘詳報によると、最終的な損害は

 

大破8、中破13、小破以下9、轟沈0

 

対する戦果は

 

戦艦撃沈破3、軽巡撃沈1、駆逐艦撃破5

 

 

宿毛艦隊は戦力の七割の消耗と引き換えに、推定される敵前衛艦隊のおよそ4割を撃沈破したことになる。

 

 

 

 

ーーー

 

 

「大佐、艦載機より入電です。大湊艦隊は予定航路にはいませんでした。現在犬吠埼沖を北上中です」

「その、…航空戦隊の姿が見えなかった、と言っています」

 

「…そうか、報告ありがとう。引き続き小笠原方面の哨戒を頼む。何か分かったらまた教えてくれ」

 

「…千代田、了解です」

 

 

「日向、しばらく外す。通信、異常その他些細なことでもあればすぐに呼び出してくれ」

 

「分かった。何か有ればすぐに放送を入れる。その、大佐の所為ではないだろう。気にするな、とは言えないが、どうか気を落とさないでくれ」

 

「ああ、分かっているさ。ありがとう。しばらく頼むよ」

 

頷いた日向を背に彼は艦橋を後にする。

 

およそ10分後、艦隊は軍では滅多に聴くことのない弔歌を耳にした。

 

そのラッパの音色は何故か大湊艦隊の中にも聞いたものがいたという

 

 

ーーー

 

翌々日に出撃した横須賀艦隊が沖ノ鳥島近海で敵主力を撃破したことから、前例に習って沖ノ鳥島海戦と呼ばれた一連の戦闘は、大本営に衝撃を与えた。

提督の殉死はすなわち泊地の崩壊であり、特にこれ以上後退できない中、2泊地が機能停止に陥った海軍にとっては早急に手当しなくてはならない問題である。

 

 

 

各艦隊の戦闘詳報を受理した大本営は、大佐に大本営への出頭命令を発することを決定した。

 





渡邉が扱う楽器一つ目はトランペットです。

次回は大本営に移ります。


戦闘描写は何を書けばいいのですかね…
拙い文章ですみません。今回もお読み頂きありがとうございました。


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第五話 富山少将

ようやく時が進みました。

今回は会話中心です。なんとなく世界観を掴んでもらえたらと思います。


療養中の宿毛泊地提督にかわり敗戦処理を押し付けられた渡邉大佐の姿は、一片の紙切れと共に執務室…ではなくその屋上にあった。

 

「シユウヨウシコウ ノ テンタツアリ

シキユウ タイホンエイ マテ シユツトウ サレタシ」

 

平文に直せば

 

「重要事項の伝達あり 至急大本営まで出頭されたし」

 

である。

わざわざ電報を使うことに、いささかの疑問を感じなくはないが、恐らく大本営も混乱していたのだろう。軍専用回線で来た以上、迷惑電話ならぬ迷惑電文…ではなく正式な呼び出しである事は間違いない。

 

しかし、艦艇の修繕も大部分を終え、休みを寄越せ!という艦娘のブーイングを受けながら遠征をこなしていた彼からすれば、呼び出される理由がわからない。

 

考えてもわからないものは致し方ない。というわけで執務室に戻ってみれば、新たな通達が待っていた。

いわく

 

「正装を用意されたし。滞在は数日を見込む」

 

だそうで、時の秘書艦とともに悩んだそうである。

ちなみに、この通達は平常通りFAXだったようだ。

 

「大都市東京」という名は当時まだその魅力を失ってはいなかったようで、護衛兼輸送役を決めるのに一悶着あったようだが、

 

「大佐、ようこそー!!しばらくのあいだ、よっろしくー☆!」

 

…最終的にある軽巡娘で決まり、その日の夕方頃には大佐は船上の人となった。

 

本人が心躍るためか最大全速で進み、予定より早く到着した。ところが大本営で言い渡されたのは待機だった。

 

 

かの大戦においても、当時も、大本営は究極の"お役所"である。都合の悪い時の常套句に「担当が不在」というものがあるが、今回の場合は「元帥達が定時で不在」だった。

 

「やつらには言葉についての"新しい辞書"が必要だったな。権力があるうちに作っておけば良かったものを」

 

とは数ヶ月後に艦隊司令長官となる、当時中将だった散田提督の言である。

 

 

 

「しかたがないので、とりあえず食事にしよう」

 

という建設的な提案をしたのはどちらだったか。

補給を済ませた那珂と共に食堂を訪れると、1人の人物が待ち構えていた。

 

 

「渡邉中ーーもう大佐だったな。渡邉大佐、久しぶりだな。二ヶ月ぶりか。元気…そうではないが、まあ許容範囲か。で、時の秘書艦様と仲良く逢引か?」

 

「な、那珂ちゃんはー、みんなのアイドルだからー…えっと…」

 

「気にするな、先輩はからかっているだけだ」

 

「先輩…?」

 

「…富山少将、お人が悪いですねぇ。至急、という言葉に踊らされて来ただけですよ。食を確保できそうなのが唯一の救いですがね」

 

「先達の悪いところを学ぶのだけは得意な連中だからな。お陰で"した"が迷惑する。まあそんな事はどうでもいい。後で俺の執務室に来い。奴らの"グレーな腹"と面白いネタ、出してやる。ブランデーでいいだろう?」

 

「そいつは結構ですね。彼女さんのツマミ付きとは杯が進みそうです」

 

「ちょ、お前なんで知っている⁉︎」

 

「そうですか、先輩にもついに春が…いやーめでたい。では、少将どの、後程お伺いいたします」

 

 

 

ーーー

 

富山少将 執務室

 

 

トントン

 

「入れー」

「よくきたな。香取、済まんがこいつんとこの那珂としばらく外して貰ってもいいかね?」

 

「うふふ…了解です。さ、那珂さん、こっちへ」

 

「…那珂、済まんな。終わり次第迎えに行く」

 

「那珂ちゃんはー、アイドルだからー、しっかり空気も読めるんだよー☆ というわけで、大佐ーまったねー☆」

 

 

 

 

「…いつ気づいた?」

 

「はい?」

 

「だから、俺がくっついている事だ。いつ気づいた?」

 

「一月前に来た時ですかね。先程鎌かけたら確定しました」

 

「全く、相変わらず困ったやつだ…と これでいいか?」

 

では、再会を祝して

「「乾杯」」

 

 

「…早速だが本題に入ろう。今回の呼び出しだが、メインはお前さんの異動だ。それも世間的に見れば栄転だ。要するにお前さんの研修を仕舞いにして提督をやらせよう、ということだ」

 

「まだ始まって二ヶ月半ですよ?気の早いサンタでさえ六ヶ月も早く来たりしません。どういった吹き回しですか?」

 

「今回の作戦で在職の司令が2人消えた。とても横須賀と呉では太平洋側をカバーできないのが現状だ。特に大洗は殉死した上に未だダメージを復旧できていない。運営もかなりやばかったようだ」

 

「どの位です?」

 

「お前さんが先月シメたのと同じくらいだ。まったく、資源は底をつき、資金は何処に消えたかわからない。艦娘に手出ししてないのが救いだな。もっとも手を出したら妖精が袋叩きにしてしまうがな」

 

 

当時、杜撰な運営状況の泊地は多かったようだ。初期は艦娘にまで"手を出した"輩がいたようだが、今は妖精による制裁が阻止している。実際にお縄になった某提督は憲兵隊の聴取に対して

 

「早くに大人しく出頭すればよかったと後悔している」

 

と証言した記録がある。詳しい内容は言わなかったようだが、かわいい姿をしてなかなか酷い仕打ちを見舞ったらしい。もっとも自業自得だから致し方ない。

 

とにかく、運営はよくわからなかったらしいが、艦娘の守護者としてはまことに頼もしき者たちだったようだ。

 

 

「そいつは置いておいて、防衛網の強化を図って新泊地を建てたいらしい。で、その指揮官候補だが、現在のところ警備艦隊司令か研修生になる。ところが、作戦本部に遊んでいる奴は警備艦隊付きしかない。誰かいい候補はいないか…という次第で先日"轟沈を出さなかった"お前さんに白羽の矢が立ったのさ」

 

「仕事が増えるのはごめん被りたいですね。ところで、何故そんなにお詳しいんです?」

 

「モノの流れを見ていればわかるさ…とカッコつけたいところだが、妖精さんたちのおかげだ。提督は辞退したが、今でも仲良くやっているのでね」

 

「なるほど、何握らしたんです?」

 

「実は舶来物のカステイラを…阿保言うな。んな事はやらん。バカで見栄っ張りな"お上"に危機感を抱いたから、だそうだ。まあとにかく明日辞令が出るだろう。もう一度明日来い」

 

「わかりましたよ。まだ隠している情報は明日もらいに来ますよ。で、面白いネタとはなんです?」

 

「せっかちだな。ちょうど4日前、横須賀が沖ノ鳥島を押さえたのは知っているだろう。その時の話だ」

「お前さんの詳報によると海は赤く、艦載機は白く、奴さんの作戦能力も高かった。間違い無いな」

 

「ええ、奇襲を行い、待ち伏せを計画してました。なんとか逃げ切りましたがね」

 

「ところが、横須賀によると海の色も艦載機も通常通りで、さらにろくな艦隊行動も取れなかったようだ」

 

「お前さん何かやらんかったか?」

 

「いえ、指揮を代わっただけですよ」

 

「大洗の艦娘が言っていたそうだが、帰路どこからかラッパの音がしたそうだ。なんでも心に染み入る調べだったらしくてな、皆で泣いたらしい」

 

「………」

 

「お前さん、また吹いたのか…」

 

「トランペットはサブですがね。帰りに大洗の主力が居ないと知ってつい…ね」

 

「何を吹いたんだ?」

 

「今はもう使われない弔歌ですよ。アホな指揮官の所為とはいえ残念で」

 

「そいつが引き金かもしれんな。へたすりゃ研究班に目をつけられる。変な連中にとっ捕まらないよう気をつけろよ」

 

「VIPではありませんからね。ほどほどに気をつけますよ」

 

「まあいい。今日伝えられるネタはこれで全部だ。恐らく泊地準備の差配も俺がやることになるだろう。失言には気をつけてな。終わり次第連絡してくれ」

 

「わかりました。また明日来ますよ。お楽しみを邪魔しても申し訳ありませんからね。那珂も来たようですし帰ります」

 

「相変わらずの耳の良さだな。まあいい、気をつけて帰れよ。今日は海の上の方が安全だろう。またな」

 

 

「大佐、たっだいまー☆ あんまり遅いと、那珂ちゃんおこだよー?」

 

「すまんすまん、では一旦ひきあげるとしようか」

「少将、失礼します」

 

 

ーーー

 

 

「やれやれ、骨が折れそうだ」

 

「少将、お疲れ様です。お水でもお持ちしましょうか?」

 

「紅茶がうれしいな。それより熟練見張り妖精達にアイツの警備をお願いできるかな。陸戦隊もできれば」

 

「かしこまりました。それにしても…うふふ…随分と気に入っておられるんですね」

 

「面白いやつだよ、あいつは。お前さんも現在進行形で、"過去最高レベルの問題児軍団"と呼ばれた連中を知っていただろう?」

 

「ええ、教官達に毛嫌いされていた生徒さん達ですよね」

 

「そうだ。実際軍団と呼ばれる程はいなかったがな。講義中に反論する、指導すれば論破してくる、その上演習の勝率もいい。にもかかわらず学科試験は毎回ボーダーより5点上をキープ」

「しかも"研修生でも労働者"と言って組合まで作りおった。実際少額だが給与は出ているがね。世紀末的に暴れていた連中だ」

 

「では渡邉大佐が率いていた…と?」

 

「メンツをまとめていたのは今年飛び級した提督研修所の永井だ。アイツは頭で軍団を支えてた。教官のほとんどは気づいていないが、1番厄介だったのはアイツだ。俺も教務補佐をやっていた時に迷惑を被ったものだ」

「それは置いておくとして…さて、かわいい後輩のフォローを考えておきますか」

 

「うふふ…人の悪い笑みを浮かべてますよ。ほどほどになさってくださいね」

 

「しかしね、明日からは世が少し面白い方向に進みそうなんだ。気合も入ろうものさ」

 

 

ーーー

 

 

台場沖 軽巡那珂

 

 

「申し訳ないね、今日は泊まらせてもらうよ。念のため妖精さん達に警戒直を取らせてくれ」

 

「まっかせてねー☆ でも何かあったの?」

 

「詳しくは言えんがまあ用心しとけ、と言われたのさ。さて、明日は忙しくなりそうだ。長距離移動で疲れたろう。もう休むとしようか」

 

「出撃より楽だから大丈夫だよ☆ 大佐、おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ。妖精さん達、何かあったら起こしてくれ」

 

「「りょうかいしましたです。おやすみなさい」」





次回、いよいよ新艦隊始動です。

今回もお読みいただきありがとうございました。


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第六話 季節外れの門出

お久しぶりです。大分時間が空いてしまいました。

前回に引き続き大本営での話になります。



大本営 講堂

 

 

デザインこそシンプルだが金の掛かり方がわかる室内には、一目で威張っているとわかる人物が数人、高級士官らしき人物とその秘書艦達であろう艦娘が数十人集まっていた。渡邉大佐と護衛の那珂もその一部である。

全員正装だった。

 

「過日、沖ノ鳥島において勇戦し敵に対し大打撃を与えながら、帰還叶わず散った、大洗艦隊司令 東雲中将を二階級特進、元帥とする。総員、東雲元帥に敬礼」

 

死者に対して送られるのが黙祷ではなく、敬礼と賛辞である事が軍社会におけるある種の異常性を示しているだろう。さらに勇壮な軍歌まで流れ出したとあれば、死をも戦意高揚のプロパガンダに使おうとする思惑は明らかだ。

 

以後海軍のお偉方からの"ありがたい"スピーチが延々続き、小一時間は経っただろうか。ようやく話題が移った。

 

「先の沖ノ鳥島海戦において、負傷した司令官と損傷激しい艦娘を援護し、さらに敵艦隊に有効な打撃を与えたことを評し、よって貴官に勲章を授ける。元帥 第14代作戦本部長 近藤隼雄」

 

今度もあの軍歌である。一体人類の精神はこの百数十年でどれほど進歩したのだろうか。

 

本来ならば敗北と記録されるべき海戦の多くが実態とは異なる発表をされてきた。特に民間に対する発表はかつて同様「大本営発表」と呼ばれている。”国民を無用な混乱を与えないため”として行われる発表によりかの大戦よりも戦争の実態を国民が知ることは困難になっている。さらに、国民の中で進んで知ろうとする者は稀だ。これらは政府の”国民教育”の成果だろう。

生まれたままの人間は、まだ国民の定義には当てはまらないのだから…

 

 

その後ようやく艦隊司令長官室に呼び出された大佐は、辞令を受け取る。

 

当時艦隊司令部から辞令が発せられることは既に異例の事態だったが、さらに異例だったのは一度に新たな司令官が4人も誕生することだった。

 

「戦力の大幅増強を目指して4個艦隊を新設することになった。そのうちの三河湾泊地を貴官の所属とする。在職司令官に負けない艦隊を育て上げ、お国のため宿敵撃滅に全力を尽くすよう」

 

「…小官の全力をもって職務に精励いたします」

 

 

(お国のため…ねぇ。かの大戦から百数十年。再び同じ言葉を使う我々に先達は何を思うだろうか)

 

 

「新泊地創設の準備は作戦本部の富山少将が行なっている。また今回は通常の初期艦に代わり複数隻の高練度艦を用意している。貴官自身の運営構想に従って選んでくれたまえ」

 

「ご配慮に感謝いたします」

 

「国民と我々が期待するところは大きい。是非とも頑張ってくれたまえ」

 

 

ーーー

 

 

富山少将 執務室

 

 

「やあ、遅かったな。泊地の準備はお前さんで最後だ。しかし面白いな。こうして見ていると、作戦本部がどんな序列を作りたがっているかがよくわかる。まず初めに来たのは作戦本部所属だったプー太郎2人だ。こんな事でもなけりゃ指揮する事はないだろうな。次いで民間採用1人。こいつについてはまだ情報がない。最後がお前だ。作戦本部の連中はどうしても艦隊に手駒が欲しいらしいな。」

 

「派閥争いを前線に持ち込まないで貰いたいものですね。ところで少将、司令長官から初期艦が変わると聞いていますが」

 

「そうだ。大洗泊地を再建するにあたり元所属全艦を本営に移し、新提督に配分するそうだ。ついでに言うと、呉の士官学校が来月横須賀に移転する。これも作戦本部の影響力アップを狙ってだな。それに伴い教導艦からも一部参加させることも決まった。近来ない措置だな」

 

「随分と大袈裟ですね」

 

「陸軍が民衆を煽っている。沖縄を失った海軍は今何をしている、とね。お陰で"上"が焦っている。座り心地の良い椅子から下ろされたら困るからな」

「まあバカどものことはどうでもいい。ここの一覧から7、8隻選べ。」

 

「わかりました。では、大洗より五十鈴、由良、白露、時雨、村雨、夕立。教導艦から飛鷹、隼鷹。以上を。しかし小型艦ばかりですね」

 

「大型戦艦・空母の類はプー太郎が、巡洋艦は民間採用が持っていったな。新鋭駆逐も売り切れだ。誰に戦果を上げさせたくないか、一目でわかるな」

「ちなみに、俺からの選別に五隻用意している。まあお前さんなら気にいるだろう。クックック…317会議室に1500に集まるように連絡してある。顔合わせだけでもしておけ」

 

「私だけ配分が多いと問題が起きませんか?主に上の連中に」

 

「なに、心配いらん。他の奴らは今の表からきっちり12隻選ばした。”特務艦はいらん”そうでな、問題ない」

 

「はあ、了解いたしました」

 

 

ーーー

 

 

317会議室

 

あまり広くは無い室内には、簡単な給湯設備、いくつかの長机、イスが配置されている。

その一角には、鳳翔、明石、大淀、間宮、あきつ丸の5人が会話を弾ませている。

 

「急に異動、という辞令を受け取りましたがなんでしょうね」

 

「間宮さん、新しい泊地を作るようです。なんでも四つも一度に作るとか…」

 

「一度に四つも…そのような余裕があったのですね。私は厨房ばかりであまり噂話程度しか聞けませんからわかりませんでしたわ。ところで、今度の渡邉…大佐。皆さんはご存知ですか?」

 

 

「ククク…誠に面白い方ですなあ。この陸軍艦艇に海賊というあだ名がつけられるくらいであります。模擬演習で大佐と組んだのは一度きりでありますが、いやあお陰様で楽しめたでありますよ」

 

揚陸艦あきつ丸。呉にいた教導艦である。対地ではなく、艦対艦演習で渡邉艦隊の旗艦を務めた。彼女と陸戦隊は渡邉の指揮のもと、相手艦隊の半数を前代未聞の移乗攻撃によって無力化した。陸軍艦艇にも関わらず”海賊”という異名で恐れられた存在である。

 

 

「さぞかし相手さんは腹が立ったでしょうね。ああ、私は…もうすぐ三ヶ月前の沖縄戦ですかねー。あの時はまだ渡邉少佐だったんですよ。”どうせ全部持ってけ無いんだから使ってしまえ”とか言って装備?武器?作りましたよ。無茶な注文も多かったけど、いやー資材いっぱい使えて楽しかったなー」

 

工作艦明石。元泊泊地の所属である。沖縄撤退戦において当時新人研修を始めたばかりだった渡邉少佐の指揮に従った。渡邉が発案し、明石が作り上げた装備は北上する深海棲艦の足止めに絶大な威力を発揮した様である。

 

 

「明石…次の任地でそのようなこと、私が許しませんからね。私は…そうですね、ひと月ほど前の  震災の時でしょうか。私はあまり大きく関わったことはないです。大本営からの救援部隊の一つに大佐がいました」

 

軽巡洋艦大淀。大本営にて待機中。一ヶ月前、富山・新潟付近が震源と推定される地震被害に遭う。艦隊機能が麻痺する中、混乱する提督を無視して艦隊を指揮、被害の復旧と機に乗じてくる敵艦隊の迎撃を行った。

この後別の泊地で偶然不正を摘発。命令外の行動と、大本営にとっての”不都合な事実”を知ったために艦隊を外されていた。

 

 

「それは大変でしたね。ですが、さすが大淀さん、と思いますよ。そうですね、私も明石さんと同じ沖縄です。あのとき渡邉少佐に指揮をお願いしました。”陸軍を乗せるから艦載機は地上発進で管制してくれ”などと言われてしまって…陸軍の皆さんと共によく帰還できた、と今でも思います」

 

軽空母鳳翔。元泊泊地所属。深海棲艦の大攻勢に対して積極的な迎撃を主張した提督や研修生には選ばれず、他の旧式艦と共に待機していた。当時まだ沖縄本島に取り残されていた陸軍将兵を収容し、撤退に成功。渡邉の名が初めて世に知られた戦闘で旗艦を務めた。

 

 

「皆さん、もうすぐ1500ですね。そろそろお見えになる頃でしょうか。お茶を入れてきますね」

 

 

 

こうして後に海軍の中核たる渡邉提督の”初期艦

勢”が決定したのであった

 




今回もお読みいただきありがとうございました。


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第七話 季節外れの門出II

あけましておめでとうございます。(遅過ぎ)

今年もゆっくりと書き進めていこうと思います。道楽に、とやっていますが、暖かくお付き合いください。


大本営 通路

 

 

「大佐ー。那珂ちゃん、アキハバラ?に行ってみたいなー☆この後ダメ?」

 

「自称敏腕 富山少将の設定した顔合わせがあるからな。その後でも良いのなら、になるな。しかし今は殆ど何もないぞ?本土空襲以来再建が進まず、"ヲタク達の夢の跡"を変質者が徘徊しているだけだ。アイドルの勉強にはならないんじゃないかな」

 

「それでもいいのっ!那珂ちゃんは、アイドルなんだから☆」

 

「やれやれ、武装憲兵を同行させた方がいいかな」

 

 

これらは317会議室まで、彼の元に配属となる艦娘を訪ねる道中の会話である。会見ののち、2人は秋葉原を訪ねたようだが…荒れ果てた国土と同様に、帰還した那珂の瞳には光が無かったという…。

 

 

ーーー

 

 

大本営 317会議室

 

 

「お入りください」

 

ノック、応答、扉を開けるという何の変哲もない社交儀礼を行った大佐の前には、弧状に座るあきつ丸、間宮、大淀、明石、鳳翔の姿がある。

 

間宮以外の4人から「お久しぶりです(であります)」と言われた大佐は、虚空を仰いだ。那珂は笑顔で固まっている。

 

この一言で彼は、”自称敏腕少将”のしたり顔が浮かんだのである。

かろうじて言葉を捻り出して一言

 

「お久しぶり、これからよろしく」

 

那珂の目が点になった瞬間である。

 

 

「大佐、どーゆーこと!?みんな知ってるの?」

 

「私も今知った。先輩暇人かよ」

 

那珂の問いと大佐の答えがいまいち噛み合っていないが、それだけ驚いたのであろう。

那珂が五人組に問う対象を変えている間に、彼は受話器を取って”先輩”を呼び出す。

 

 

「後方部門、富山少将執務室」

 

「先輩、暇人ですか?」

 

「申し訳ないが名乗ってもらえるかな?悪口が得意な後輩に心当たりが多過ぎて見当がつかん」

 

「閣下に泊地手配をして頂いております。新任の渡邉大佐です」

 

「知っとるよ。あまり怒るな。ちょっとしたジョークだ。まあ口の悪い後輩が多いのは事実だがね」

 

 

「少将閣下?あまり後輩をいじめてはいけませんよ?」

 

この時渡邉の耳には香取と思しき女性の叱る声が届いた。静かになるまで待つこと十数秒。ようやく少将の声が聞こえ出した。

 

「で、半年早いクリスマスプレゼントは気に入ってもらえたかな?」

 

「ええ、驚きました。真夏にクリスマスプレゼントとは、先輩は南半球の方でしたか?見知った顔ばかりだったのでびっくりです。珍しく良いプレゼントを頂きました。わざわざ探し出したんですか?相変わらず”わるだくみ”には余念の無い暇人だとわかり一安心です。今後心置きなく仕事をお願いできますね。お楽しみ中にすみませんでした。ではまた」

 

「なあ、おいまt…」

 

返事を待たずに受話器を置いた大佐が振り返ると、6人がこちらを向いている。

 

頭を掻きながら一言

「あー、えー…今回新たな泊地、三河湾泊地を任されることになった渡邉大佐です。あらためて、以後よろしく…」

 

新しい部下達の笑顔は生暖かかった。

 

 

ーーー

 

 

大本営のお偉方がどんなに暇していようと、あるいは椅子取りゲームに興じようと、仕事に追われているのが後方部門である。

自称敏腕 富山少将もその中核として漏れなく多忙であった。

 

「真に偉大なのは彼女さんの方さ。教練上がりの事務能力は伊達じゃない。あんな先輩は支えて頂いていることをいずれかの神に毎日五回ずつ感謝するべきだね」

 

とは某後輩クンの発言である。たまたま通りがかった香取女史に満面の笑みで睨まれていたが…

 

 

やれ資源をよこせ、ネジが足らん等々、少将相手に色々と”丁寧に注文をつける”輩は少なくないが、彼女が愛用の教鞭を片手に

 

「あらぁ、ほほう?」

 

…と口にすれば、三言目を発するまでに退散してしまうのである。

 

事実、少将の円滑な業務は、近頃”龍田よりも怒らせてはいけない”とまで言われるようになった香取女史によって守られているのであった。

 

 

後方部門の業務量は継続して右肩上がりである。これが作戦の成功と制圧海域の増加によるものであれば、どれほどの充実感を伴うだろうか。しかしながら現実はその逆で、本土とその周辺海域のみをかろうじて確保しているに過ぎない。

 

昨年秋、大湊に栄転するまで10年以上の長きに渡って単冠湾泊地に在り、北方海域を守り続けた散田提督。単冠湾泊地の後任は僅か2ヶ月足らずで全域を失い戦死。

そして今年の4月、沖縄本島とその周辺海域までもが敵艦隊の手に落ちた。特に沖縄本島は南部を中心に陸上型が要塞化するなど、反抗作戦の難易度は上がる一方である。

 

海軍全体で調達に力をあげている資源であればまだしも、昨今の制海権喪失に伴う民需用資源の確保はますます厳しさを増している。

もはや供給の維持は、後方部門単体での解決が不可能な段階に至っていた。

 

事態を抜本的解決に導くと思われた新泊地創設だが、渡邉大佐の三河湾以外が佐伯湾、岩国、境であると知れると落胆するものが続いた。新3泊地は瀬戸内と日本海にあり、太平洋の制海権拡大には寄与しにくい場所だからである。

 

現状の改善が見込まれないにも関わらず業務量ばかりが増える。上層部の政治ゲームの1番の被害者は後方部門であったかもしれない。

 

 

ーーー

 

富山少将 執務室

 

 

この日の晩遅く、富山少将の執務室には人影が二つあった。どうやら公には御法度である”執務室での飲酒”を敢行するようだ。今は希少な”本場”のワインなどどこで手に入れたのだろうか。

 

 

2人はグラスを片手に言葉を交わす。

 

 

「後輩さんの泊地、もうすぐ出来上がるそうですね」

 

「急ぎだったので、取り敢えず必要最低限は揃った、という段階だな。あとはあいつが自由に増改築すればいいさ。しかし周りがアホウだからすぐに栄転するんじゃないかな?しかし妖精さん達もさすが、仕事が早い。上の連中がこの1%でも仕事ができればなあ」

 

「妖精さんと比べるのは酷ですよ。仕事をする、とは何かがわかっておられませんもの」

 

「私もそう言われぬよう気をつけよう」

 

「閣下はすでに十分過ぎるほど働いておられますわ」

 

「これはこれは教官殿にお褒めいただけるとは光栄です。…しかしあいつもついに艦隊司令か…卒業から僅か二ヶ月半、あいつもかなり大変だな。これからはさらに大変になるだろうが…」

 

「うふふ、そうですね。私たちもできることを続けてゆきましょう。…では、後輩さんの…」

 

「…あいつの、季節外れの門出に」

 

 

「「乾杯…」」

 

 





話がまとまらない…

次回閑話(解説回)を挟んで続きを書こうと思います。そろそろ(自称)本題の外伝編も作りたいと思っています。


今回もお読みいただきありがとうございました。


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閑話 提督抜きで座談会

今回は、本編とは直接関係無い…訳ではありませんが雑談会?です。

試験的に台本形式を使ってみました。読みにくい、などありましたら何かしらの方法でお知らせ頂きたいです。


大淀「どういうわけだかわかりませんが、座談会兼解説をやることになりました」

 

間宮「面子は前回までに登場した五人組ですね」

 

あきつ丸「那珂殿は…」

 

大淀「今度は大佐と上野見物らしいですよ。上野のアイドル?を見に行くとか」

 

明石「じゃあもう、始めちゃいましょうか」

 

鳳翔「お茶も入りましたよ。どうぞ」

 

大淀「今回のテーマですが、先程発表した通り、これまでの解説になります」

 

明石「要するに、作者のフォローね」

 

大淀「まあ、そうなりますね。いちいち設定集を更新していくのは読者に申し訳ないのと、無駄なUA稼ぎにならないようにしたいから…らしいです」

 

間宮「この座談会がUA稼ぎ…でないとも言えませんけどね」

 

大淀「ま、まあ前置きはここまでにしまして、まずはこの世界における組織図からお話ししていきましょうか」

 

あきつ丸「ここでは大本営が軍事の全権を握っていますな。陸軍部と海軍部に分かれているのも、あの時と変わりませんな」

 

間宮「物凄く仲が悪いとは聞きませんが、仲良しとも聞きませんね」

 

大淀「一応協力体制にある、という事になっていますからね。自衛隊を発展的解消して作られた訳ですし。当時は、という注釈がつけられますけど」

 

あきつ丸「大学校も士官学校に改められましたな。ちなみに陸軍部の士官学校は中野にあります。かつてとは違い今はごく普通の士官学校でありますよ」

 

鳳翔「陸海ともに教育部門に分類されますね。他にも装備関連の開発・建造を行う工廠部門、かつての戦争や現在確認されている深海棲艦について調査する研究部門があります。これらは陸海共同の組織ですね」

 

間宮「私の居た主計科も含まれる後方部門、大規模作戦や通常作戦の発令を行う作戦本部、そして艦隊司令部があります。陸軍ではここは師団司令部でしょうか」

 

明石「簡単にまとめると、陸海ともにエラい順に 部ー部門ー科 というわけね」

 

大淀「一応作戦本部が艦隊司令部に優先される決まりではありますが。まあ、おおよそその通りです」

 

あきつ丸「陸軍としても、各師団が本部の言うことを聞かずに暴走しては困りますからなあ。いや、自虐ネタではありませんぞ」

 

鳳翔「戦いの最後まで秩序を保った軍でなければ、軍としての存在意義がありませんものね。私たちも気をつけなければなりませんね」

 

間宮「あとは、お話しのメインとなる艦隊司令部の麾下ですね。艦隊司令部とその長官は横須賀鎮守府を兼任する。これは設定集にもありますが…」

 

大淀「はい四大鎮守府とその他大規模泊地(警備府)の他に、かつて漁業で賑わっていた民間港を中心に小規模な泊地が多数存在します。これらは近海の警備と、1番大切な遠征による資源収集が科されています。大本営から鎮守府と大規模泊地に送られる資源の供給元ですね。そのため殆どが駆逐艦や軽巡で構成されます」

 

明石「確か今度の新泊地、境港もそれだよね」

 

- [ ] 間宮「そうなりますね、主に民間採用者とちょっと失礼ですが、出来の悪い提督さん達の勤務地ですね。(一匹狼が飛ばされたとか無いとか…派閥争いは辞めにして欲しいですね!ご飯抜きですよ?)鎮守府や本営に集められた資源は大本営の後方部門指示のもと、特務艦や民間徴用船などで各泊地に送られます」

 

あきつ丸「そのための護衛が、遠征任務の海上護衛でありましたか」

 

大淀「物資は週一回泊地に届けられますが、任務や遠征報酬はこの時の補給に加算されますね。各艦隊の規模や戦果によって基本補給量(※ゲームにおける資源の自然回復値になります)は適正管理されている、という事になっています」

 

明石「酒舗から大淀経由でタンカーを徴用すれば、補給量は増えますね。もちろん費用は各提督の給料から天引きです。ご利用は計画的に」

 

鳳翔「遠征内容によっては直接入手できるものもあります。ある意味提督の手腕が最も問われる部分になりそうですね」

 

間宮「確か、もう一つ怪しい部署がありませんでしたか?」

 

明石「あー祈祷部?正直私もよくわかんない」

 

大淀「かつての私たちに所縁のある寺社を集めて毎日祈祷しているようです。まだ確認されていない艦娘の顕在や、羅針盤などのお祈りにも使われているようです。最近確認された宗谷さんにも関わっているとか…某戦艦姉妹や考える事を放棄した提督がよく参拝している、という噂もありますよ」

 

あきつ丸「お布施の額や求めた寺社のお札、お守りによって何かが起こる…という噂までありますな」

 

明石「さっ触らぬ神になんとやら。次行っちゃいましょー」

 

大淀「では戦闘編、参りましょうか」

 

鳳翔「まずは序盤、大洗艦隊が奇襲を受けた場面です。轟沈までの流れは…あの戦いと同じです。どうしても空母は被弾を前提とすると作れませんから、一発の重みが大きくなります。また出撃準備で全力直進中ならばより命中させ易くなります。あの戦いを語るものには”運命の五分間”という文言が散見されますが、当時の状況では出撃完了まで1時間単位でかかっていただろう、と言われています。空母戦では索敵と先制、これが何よりも大切になりますね」

 

大淀「宿毛湾艦隊の川内さん、長良さんが用いた逐次回頭、こちらは先頭艦と同じ地点に到達次第同じように回頭する艦隊運動になります。あの有名な”東郷ターン”もこちらになりますね。似たようなものに一斉回頭がありますが、こちらは全艦が同時に回頭する艦隊運動になりますね」

 

明石「大佐が撤退命令時に使った”針路3-0-0”。ご存じの方も多いと思いますが、これは北を0°とした時の進行方向を右回りの角度で表したものになりますねー。今回は北より西に60°方向を示します」

 

あきつ丸「ちなみに戦闘詳報の戦艦撃沈破3、艦隊の転針・撤退をみて油断したお相手が油断して魚雷針路にノコノコ出てきた為のようですぞ。島の後ろにいたままなら無傷だったものを…。我が軍としてはありがたいラッキーショットでありますな」

 

明石「そうそう、フツーに使われていた煙幕、リアルでは実装されてないんですよねー。ちなみに11年前位に工廠部が復活させたらしいですよ。現在(※リアル現世です)のような超高性能電探が存在しない時代ならではの装備ですねー。あのガンコな親父が関わっているとかいないとか…お楽しみに!」

 

鳳翔「あの?明石さん?まだ終わってはいないのですが…」

 

大淀「はあ…気を取り直して、戦備編です!」

 

鳳翔「海軍における編成例はおおよそ設定集の通りですね。軽巡戦隊が抜けている…はい完全なる落ち度です。いえ、不知火さんのせいではありません。作者の、です」

 

間宮「一応その括りはあるのですが、軽巡戦隊+駆逐隊…は既に水雷戦隊、ですね」

 

大淀「〇〇戦隊+駆逐隊、これで原作と同じ基本6隻編成…だそうです。警邏や小規模作戦行動時、遠征以外ではあまり使われませんね」

 

あきつ丸「そうそう、何度か描写されておりますが、提督が旗艦に座乗することがありますな。ちなみに停泊中の大型艦へはカッター艇を使うようですぞ。艦娘に愛想を尽かされた提督は毎回漕艇訓練をやらされておるようですなあ。ご苦労様であります」

 

間宮「あと話ていない事ってありましたっけ」

 

大淀「一応託された話題は全て出したと思いますが…この作者のことです。忘れている、ということが無いとも…」

 

あきつ丸「でh…

 

明石「じゃあ最後は番宣だね!」

 

大淀「あ か し〜?」

 

明石「いいじゃない別に」

 

あきつ丸「次回予告であります!」

 

鳳翔「次回は外伝編、good old days…コホン、海軍黎明期編です。かつて太平洋の制海権を奪還した英雄の列伝。海軍で初めて英雄と呼ばれた迷コンビのお話しになります(予定)」

 

間宮「初めて深海棲艦が確認されてからおよそ十年…」

 

大淀「太平洋奪回を目指す提督がくだした…」

 

明石「艦娘も驚いた作戦とは…!」

 

 

全員「次回もよろしくお付き合いください!」




…誇大広告にならないように頑張ります…はい。

今回もお読みいただきありがとうございました。


追伸ー

座談会は本編の進行に関わらず筆者の都合によりゲリラ的にでます。ご容赦ください。


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第八話 北の英雄 

気づけば2月も残りわずか…

遅くなりました。本伝(?)の続きです。


戦艦霧島 艦橋

 

艦橋には不機嫌そうな顔をした男が1人。大湊の散田提督。世間には”北の英雄”で、海軍内では”北海の頑固ジジイ”で通じる。齢70を超えている筈だが、外見は50代後半といっても通じる。長く信頼を交わしてきた艦娘達のなせる効果なのだろうか…

彼の前には、彼のものではない懐刀がある。本来士官学校を出ていない老提督は持ち得ないものである。

 

霧島は、老提督の心境を表すように「高速戦艦」には似付かわない低速で航路を北に進む。

 

 

ーーー

 

 

大本営 大会議室

 

時は少し戻り、渡邉大佐が大本営へ呼び出される数日前である。

 

この日会議室に招集されたのは、海軍部作戦本部と各部門の中将以上の階級を持つものである。

会議の内容は部外秘、秘書艦さえも締め出された室内には、陸海合わせて三十名以上が集まっていた。

例年と異なるのは、ここに外務省の官吏が数名混じっていたことだろう。

この日の議題は何度目かの夏季大規模作戦についてであった。

 

「えー、お手元の資料に記載の通り、欧州海軍条約機構(ENTO)からの共闘要請を受けとりました。世界最大の海軍力を持つ日本として、欧州の救援を行いたいところでございます。大本営におかれましては、現状からの協力可否、そして作戦概要を検討されたく…」

 

欧州では今年に入ってから強力な深海棲艦によって防衛網を突破され、沿岸部を中心に甚大な被害を受けていた。それを受けて欧州海軍条約機構は共闘要請を行うことを決定した。書簡が六月頭に条約機構の本部、ベルリンを発ってからおよそ一週間。陸路日本までかなりの時間を要したが、衛星等を用いた長距離通信が機能しない以上致し方のないことである。

 

 

「海軍作戦本部としては、この救援作戦を実行する余力ありと考えるものである。各位には、我々が作成した作戦計画について討議頂きたい」

 

ねちっこい笑みと共に前向きすぎる発言をしたのは作戦本部長である。入室を許される多数の取り巻きと共に、”艦隊派”の2人を見遣る。

しかし、より早く反対を宣言したのは陸軍参謀本部であった。

 

「ならん。陸軍としてはこの派遣作戦に反対である。二ヶ月前に沖縄を失ったのをもうお忘れか。駐屯した我が軍将兵全滅の可能性すらあったほど近海の制海権が危ぶまれるにも関わらず、このような対外作戦を行うとは笑止。馬鹿馬鹿しいにも程があろう」

 

「では参謀長殿は、我が国が世界最大の艦娘戦力保持国としての責務を放棄すべき、と主張なさるおつもりで?」

 

異なる声が割って入る。

 

「話を飛躍させるでない。我が軍に対外派兵の余裕があるかどうかについて議論しているはずだろう。正義だ責任だと御大層な話をする前に我が国の現状を見つめ直してはどうかね?無論わしはこの作戦には反対じゃな」

 

「そもそも、欧州までの航路を用意出来ないでしょう。この春貴官が発令したルンガ沖作戦に失敗して以降近海の制海権が揺らいでいるのは、参謀長の言の通りだ」

 

会議の軌道修正を図ったのは、大湊の散田提督と呉の桂提督。どちらも中将である。

 

「我々は作戦本部です。実現不可能な作戦は立てませんよ。そう、各艦隊が我々の予定通りに働けば…ね。欧州までの航路は簡単です。ベーリング海峡を抜けて北極海を通過し、北からヨーロッパに突入する。南回りは無理でも、北からならば、かの大戦における激戦地は通りません。実施予定は今夏、よって海が閉ざされることもない。もっとも、宗谷が顕在した以上不安要素はないでしょう」

 

「いやならん。この作戦では近海が戦力の空白となるのは明らか。陸軍は反対する」

 

「おまけに、わしの転属以降北海も閉ざされている。ベーリング海峡までもが遠いじゃろう」

 

「そこで今回は多方面に派遣します。鹿屋を主力とし、建設予定の四泊地と沖縄の再攻略。大湊は単冠湾を奪還後、同地に一時的に前進、北方海域を再開放。佐世保、呉、横須賀はその間大湊に前進し、待機。宿毛、柱島は舞鶴と共に近海警備。作戦開始は前段となる沖縄、北方海域の攻略後。これならば陸軍殿も異論なかろう」

 

「確かに、万全なようにもみえる。しかし…」

 

「今回は陸軍の動員予定はありませんよ。今まで通り内地を固めていただければ十分」

 

「………」

 

「ふん、わしが仕損じたらどうする?」

 

「”北の英雄”とまで謳われる貴官が敗北するとも思えませんね。まあ、もし仕損じたならば、提督もよいご年齢です。そろそろ後進に道を譲られては?」

 

「このわしに脅しをかけるか。小童。そもそもこの作戦は…

 

「他に疑問のある方はいませんね。この作戦に賛成の将官はご起立を」

 

にやけた顔の本部長が声を高める。

老提督を遮って行われた採決には、作戦本部と佐世保、舞鶴、横須賀、そして陸軍の一部が起立。ここに本作戦の決行が決まった。

 

 

 

ーーー

 

大本営 ガンルーム

 

窮屈さを感じさせない程度に狭い室内には、”群れない”2人の中将が杯を交わしていた。

それぞれの秘書艦も少し離れたテーブルに居る。

 

先程終わった会議に出席していた彼らは、片方は疲れた顔、もう片方はアルコール以外の理由でやや赤くなっていた。

 

 

「また無茶な作戦が行われますね。今回ばかりは陸軍も大反発すると思っていたんですがね」

 

ため息と共に切り出したのは桂提督である。海軍内で極少数派である”艦隊派”に纏められる彼は、先の会議の果て、作戦参加だけでなく艦隊の最先鋒をやらされる事になった。酷使されるであろう未来に待ち受ける可能性を思い、既に顔は暗い。

 

「”鼻ぐすり”の効いた”パイプ野郎”が多い。陸軍も首脳部の数人以外は既に中毒患者じゃ。わしらが消えれば海軍はしまいじゃ。内側を食い荒らされた巨木は倒れるのが道理じゃて」

 

こちらも極少数派にして海軍部エリートにとって最大最後のタンコブ、散田提督である。自衛隊時代からの叩き上げである彼は既に齢70。日本に50年貢献してきた宿将が中将と冷遇されているのは、組織の腐敗を示す例として十分だろう。

 

彼は昨年の秋まで単冠湾の提督であった。長い間1人で守り通した北方海域は現在敵の手中にある。作戦本部は長い間勢力図の変化しない北方海域は派閥員に”箔”を付けるのに手頃だと考えたのだろう。結果は全域喪失である。今回の作戦では奪還だけを求められていた。本人でなくとも”いいように使われている”と気付くのは容易であった。

 

 

「しかし、これから大変なのはお主じゃぞ。奴らの描いた設計図がありありと浮かぶが、あえて言うまい」

 

「…ええ、ええわかっていますとも。ですから老提督にお願いしたいことが…」

 

 

ーーー

 

「なあ、霧島。先程概要は聞いたが、この作戦どう考える?」

 

「もはや思惑を隠す気さえ無さそうですね。前回は死地に追い込むも、我々の共闘で生還。今度は完全に分断して先ずは片方から解体。反省を活かして作戦を組み立ててはいるようです」

 

「遠征は横須賀、佐世保の大将とうちの中将。前線で反対意見でもしようものなら有無を言わさず坑命罪。従えば捨て艦ならぬ、捨て艦隊か…」

 

「那智さん、あなたが必ず連れ帰らなければいけませんよ。いくら元気とはいえ、我々の司令官もいいお年です。私たちが消えれば、最後の野党が消えてしまいます」

 

「ああ、わかっているさ。しかしもしも、ということもある。その時は…」

 

「那智、帰ったらまた飲みましょう。秘蔵の一本、出しますよ」

 

「…そう、そうだな、私もとっておきを用意するとしよう」

 

「酔っ払い運転はダメですよ?」

 

「私は足柄ではない。その程度でやられはせん。貴様こそ、戦場でまいくちぇっく?とやらに気取られるなよ」

 

「金剛姉様とは違いますからね。私だってむやみやたらに暴走したりはしません」

 

「貴様の司令官風に言えば、暴走の定義が変わった…のだな。まあいい。…そろそろ帰るようだな」

 

「作戦後にまた飲みましょう」

 

「沈むなよ」

 

「那智さんこそ」

 

 

 

 

夕暮れの浦賀水道をひっそりと抜ける戦艦と重巡洋艦。一隻は北へ、もう一隻は西へと消えてゆく。

 

夏の大規模作戦発令まであと一月半…




最近あまり艦娘が出てない…


ちなみに、ここで出てくる”艦隊派”…かつての派閥とは別物です。
現実世界にも、パイプや鼻ぐすりに困らされることは多いですね…


今回もお読みいただき、ありがとうございました。


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第九話 新艦隊始動

前イベでラスダン敗北以降、そのうちそのうちと思っていた内にいつの間にか次期イベが開始…
遅くなりましたが、本編です。


ーーー

 

発 艦隊司令部  宛 新提督並びに該当艦娘

 

各艦隊新提督とその所属艦娘は、六月二十日までに任地への移動を完了せよ。新提督の任地までの移動は、各艦隊所属艦娘によるものとする。

 

各艦隊は到着次第、直ちに泊地の運営・近海の哨戒を開始せよ。

初期備蓄資源は既に輸送を完了している…

 

ーーー

 

宿毛湾泊地

 

 

「軽巡大淀、渡邉提督の護衛を兼ねてお迎えにあがりました」

 

鎮守府にて離任の挨拶を済ました渡邉提督の前には、大本営でも面会した「大淀」の姿があった。

彼の新任地、三河湾泊地までの乗艦になるようだ。

 

宿毛湾の艦娘達の見送りを受けながら、大淀は泊地を出港する。

 

 

湾に響く汽笛は白い雲に吸い込まれていった。

 

ーーー

 

軽巡大淀 艦橋

 

 

新任地である三河湾に到着すると、彼の初期艦となる艦娘達が既に投錨していた。

 

一通り眺めた提督が大淀に問いかける。

 

「祝日でもあるまいし、満艦飾はちとやりすぎではないかね?」

 

答えて曰く

 

「提督の着任記念日ですからね。これくらいは必要かと。祝砲をおつけする事もできますが、どうされますか?」

 

との事である。

 

「やれやれ、一応汽笛を鳴らしてくれ」

 

大淀が投錨する頃、艦載機が頭上に何かを投下した。上空で弾けたそれからは、大量の”銀色をしたモノ”が降り注ぐ。

 

恐らく紙吹雪がわりに…と思い付いたのだろう。撒かれたのはチャフ(レーダー妨害用の金属が貼られた紙片など)であった。

 

「…大淀、流石にやりすぎじゃないか?」

 

提督の反応もやや鈍る。

 

「…ですね。後で隼鷹さんにはきつく言っておきます」

 

こうして一部想定外はあったものの、提督は無事到着したのであった。

 

 

ちなみに、このとき一部東海地域では、ラジオが”原因不明の電波障害”によって聴けなかったようだ。

新提督と彼の艦娘達のみが正確な事実を知っていたので、珍しく大本営は(彼らの知る範囲で)100%事実の発表をしたのである…

 

 

ーーー

 

鎮守府

 

三河湾泊地の建物は、ほぼ完成していた。

“ほぼ”であるのは、一部内装が整っていないためである。

工事中の妖精に提督が

 

「私の私室が未完成だったら、でいいのだが、ある程度防音機能を持たせられないかな。報酬代わりにこちらのカステイラを進呈しようと思うのだが」

 

と声をかけた所、四方八方を数多の妖精さん達に囲まれてしまった。中には背中に白く”マル憲”と描かれた紺色の制服を着ている者も居る。

彼にはその理由の見当がおおよそついたのだが、敢えて考えないことにした。

 

「これらは私の楽器なのだが、業務時間外に多少弾きたいと思っていてね。出来るだけ皆に迷惑を掛けないように…と思ったんだが、どうかな?」

 

 

妖精さん達は集まって話し合うと、了解と返してきた。

その中から例のマル憲妖精が進み出て、ニヤニヤ笑いながらこうのたまった。

 

「富山少将から、提督は”自称”音楽家だから、何かと注文をつけてくるかもしれない。まあ出来る範囲でやってやれ。このことはヤツには言うなよ。…と言われてたので、叶えましょう」

 

 

…この妖精はいまいち秘密とは何か、がわかっていないようだ。あるいは分かっていてふざけているのかもしれない。

どちらにせよ、彼の注文は彼の精神的疲労とカステイラとの引き換えに叶えられそうであった。

 

ーーー

 

大淀の、

 

「提督が鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮に入ります」

 

という半ば定型文化したセリフと共に執務室に入った提督は、彼の初期艦”勢”と挨拶を交わす。

 

「はじめまして、の方が多いかな…一応無事着任した新人の渡邉です。まあ、所属の全員で生き残ることを目標に指揮を取ろうと思ってる。”北の英雄”が少なくとも現在まで成し遂げているそうだ。難しくはあっても、少なくとも不可能では無いと思っています…と、このくらいかな。改めてよろしく」

 

初期艦勢も続いて自己紹介する。

 

「わたしが白露型1番艦、いっちばーん!はい、1番艦の白露です。提督、よろしく!」

 

「僕は白露型2番艦、時雨。もう…誰も見送らなくていいのかな…これからよろしくね」

 

「はいはーい、3番艦の村雨よ。村雨のちょっといいところ、期待しててね?」

 

「こんにちは、夕立よ。よろしくお願いするっぽい!」

 

「五十鈴よ。水雷戦隊の指揮ならお任せ。私が勝利を導いてあげるわ。だからもっとしっかりなさい」

 

「長良型軽巡4番艦由良です。由良のいいところ、いっぱい見せられたらいいな。提督さん、これからよろしくお願いしますね、ね?」

 

「提督ぅ〜ひっさしっぶり〜。ちょっと見ない間に随分出世したんだねぇ〜。あぁ、あたしは隼鷹ってかみんな知ってるかぁ〜。今度美味いやつ差し入れてくれよ〜」

 

「あんたもう飲んでるわけ?本当に教導艦やってたとは思えないわね…んん、軽空母の飛鷹です。商船改装空母と侮らないでね。意外とやれるんだから」

 

「工作艦明石です。提督、今度もいっぱい開発したいなー…て、あ、ダメですか?早めにやらせてくださいよ〜って大淀、冗談だから、ほら怒らないで笑顔笑顔」

 

「提督殿、あきつ丸であります。陸戦隊ともどもよろしくお願いするであります。やはり海軍式の敬礼は慣れないものでありますねぇ」

 

「給糧艦の間宮です。台所はお任せください。毎食心を込めて用意いたしますね。甘味所も開いておまちしています。是非いらしてくださいね」

 

「提督、お久しぶりです。軽空母鳳翔です。不束者ですが、またよろしくお願いしますね」

 

「軽巡大淀、着任致しました。泊地の運営、艦隊指揮、資材資源の管理など、提督の補佐はお任せください。連合艦隊旗艦の名にかけて、明石さんからも資源を守り抜きます」

 

「大淀ったらそんな所で使うと艦隊旗艦の名が泣きますよ〜?」

 

「あら、明石さんは開発に積極的では無いようですね。資源の配分の優先順位は低そうですね」

 

「くっ資源を盾に取るとは…大淀ごめんーごめんだから開発資材ください」

 

…明石の反撃は失敗に終わった。

 

 

「改めてよろしく。今後の行動計画は後ほど通達させてもらう。とりあえずここでの生活の準備をしてください」

 

 

解散の前に大淀がこう付け足した。

 

「隼鷹さん、あなたが蒔いたチャフの所為で付近一体が電波障害に見舞われました。大本営がわざわざ”原因不明”と発表まで出しているんですよ?当分の間飲酒禁止令です」

 

 

陽気過ぎる飲兵衛は陸の上でもう何度目かわからない轟沈を果たした。

 




ーーー
深夜空母寮に静かに近づく影が四つ…

かちゃり……ドバーーン

隼鷹「な、なんだぁ〜〜⁉︎敵襲かぁ〜〜」

村雨「御用だ♪」
夕立「御用っぽい!」
白露「誤用だっ!」
時雨「姉さん……御用だよ」

隼鷹「こぉ〜んな夜更けになんだよ〜」

夕立「心当たりないっぽい?」
村雨「今も濃く淡く匂うお・さ・け。まだあるんでしょう?」

隼鷹「なんだなんだ〜。酒ならもう没収されたろ〜?」

時雨「提督が言ってたよ。”あいつはへそくり代わりに酒持ってるだろうさ”ってね」
白露「というわけで…夕立、行け‼︎」
夕立「くんくん…こっちから匂うっぽい。あっちからも…ここにもあるっぽい!」

ーーー


隼鷹「アタシの…酒が…ぜ、全部…」

村雨「というわけで、こちらは没収いたしまーす」
時雨「大丈夫、全部鳳翔さんに預けておくから」
白露「飲みたくなったら鳳翔さんのところでね」
夕立「っぽい?」

白露「ではでは、夜分にしっつれいしっました〜。ほらみんな、帰るよー」


部屋には再び轟沈した隼鷹の姿が残された…




いろいろとすみませんでした。


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外伝編 栄光の日々
第一話 栄光の始まり 


いつのまにか1月も終わり…早いものです。

題にも列伝とある通り、外伝という括りで違う提督のお話になります。

今回もよろしくお付き合いください。


「歴史とは、勝者が自らの正当性を示す為に生み出した事実を基にした伝説である」

 

古くは神々の時代から現代社会まで、採用された言葉や語句や修辞の差を考慮しなければ、何世紀にも渡って使い古された表現である。

 

初めて深海棲艦という存在が確認されてからおよそ十年、まだ仕事無き元帥が量産される前の時代。アメリカで言えば黄金の20年代、日本ではかつての戦後復興期に匹敵するだろうか。”まだ”国の根幹を揺るがすような腐敗もなく、新たな敵との生存競争に意欲が燃えていた時代である。

 

「集団・組織の団結を強化し、一つの方向を向かせる為に最も効果的なのは”共通の敵”の存在である」

 

ある証言によれば、”数十年後のとある執務室で某提督が発した言葉”だそうである。

もっとも、当の本人も

 

「誰かが言った言葉の何番煎じかだね」

 

と言っている通り、”大多数には含まれない誰か”が語り継いできた言葉である。

 

地球上の主要な資源の殆どが尽き、遅々として進まぬエネルギー転換と世界規模で起こるマイナス成長、それに起因する社会秩序の乱れ…

元先進国を中心に訪れた長い”退嬰の時代”は、国連最後の採択となった「人類共通の敵との闘い」によって一度に吹き飛んだのである。

 

艦娘と鎮守府による沿岸防衛網が完成される前までに被った被害は、「世界の主要都市のおよそ半数が焼け野原(面積比)」というものだった。

あの大戦に参加した主要国に誕生した艦娘…この時代の悲願は太平洋の制海権奪還だった。

 

北太平洋奪還の鍵はミッドウェーとハワイの攻略である。この時、艦隊司令長官に抜擢されたのが海軍で初めて英雄と呼ばれた男、山口提督である。この時齢31。

 

艦娘との揺るがぬ絆と、何より各鎮守府司令官との強固な信頼関係から、後世「山口一家体制」とも呼ばれた海軍の古き良き時代である。

 

彼と、彼が率いる”連合艦隊”が世界を驚かせるまで、あと半年である…

 

 

 

ーーー

 

 

御前へ荘厳な軍歌とともに壇上に歩みを進めるのは、艦隊司令長官任命と共に中将に昇格した山口提督、大学校が士官学校と名前を改めてからはじめての、”映えある一期生”である。

 

31で艦隊司令長官という大抜擢と、何より彼の若さから、世間の期待を一身に背負った存在である。

その人気ぶりは数十年後、”北海のガンコジジイ”が就任した時をも上回る。

 

彼の最初の仕事、「鎮守府人事の刷新と組織改編」も相まって古参からは「3代目は家を潰す」などと、彼の若さとともに陰口を叩かれたものだ。が、ご存じの通り彼は自らの地位と名声を、半年後に行われる”初めての大規模作戦”で確立するのであった。

 

ちなみに、この時の組織改変で戦術研究科が設立され、古参勢が栄転という形で配属された。

当時閑職として置かれた組織がおよそ二十年の熟成期間を経た後にある悲劇の発端となるのだが、今はまだ関係の無い事である。

 

 

4月半ば、山口提督は各鎮守府の人事を完了した。

呉には士官学校で”闘将”とよばた一つ下の宇都美。佐世保には、彼も席次を争った坂本。そして舞鶴には静原。

横須賀には司令長官本人である。しかし彼は横須賀に異例の事ながら参謀を招いた。秋山提督である。彼の”ハンモックナンバー”は下から数えた方が早い。しかし「あいつは首から下が不器用だっただけさ」と言い、大本営の資料庫で燻っていた所を引っ張り出したのである。

皆新進気鋭の少将であった。

 

 

この5人が久方ぶりに一堂に会したのは5月の初旬である。会場は呉であった。提督達曰く、「大本営には余計な羽虫が多い」そうである。

鎮守府のある一室では真剣だが悲壮感とは疎遠な戦略会議が行われていた。

 

「これはこれは長官、並びに提督諸兄、呉にようこそ」

 

呉提督 宇都美。どんな劣勢でも闘志を失わず、僅かな勝機をモノにする。彼の率いる水雷戦隊の瞬間火力は凄まじく、彼相手に一度守勢に回れば手を焼かないものは無かった。特に旗艦にあって突撃を指示する姿は闘将と呼ばれたものである。

 

 

「書類上私は”上”になっているが、そのようなみみっちい事でウダウダ言うつもりはない。我々は悲願である太平洋における制海権確立を目指す同志なのだから。気楽に行こうや」

 

艦隊司令長官兼横須賀提督 山口。卓越した航空戦術と統率力で圧倒的な攻撃力を発揮する。かつて二航戦を率いたあの名将と同じ姓を持ち、嘘か誠か似たエピソードが数多く残されている。彼がただの前線指揮官を超える点は、軽視されがちな兵站についても意識した事だろう。もっとも、思考と結果は必ずしも一致した訳ではなかったようである。

 

 

「呉に来るのは久しいな。長き退嬰の時代は終わった。未来地図の再建に向けて手を取り合うのは必然でしょう。階級などと言う御大層なものは二の次だ。改めてよろしく」

 

舞鶴提督 静原。当時の海軍において数少ない補給戦をこなせる人物である。彼の守勢の強さも相まって長期戦では負け知らずである。演習では敗北したものの、あの闘将宇都美さえ完全には攻め切れなかった程である。

 

 

「正直私を選ぶとは思ってもいなかったな。ハンモックナンバーやら派閥やらで牛耳る時代は終わったと言うことかな。登用に感謝する。明日静かに飯を食べる為に、今日手を取り合おう」

 

佐世保提督 坂本。やや大仰な物言いがタマに傷だが、戦場外までを見渡す大局観の持ち主である。主力打撃艦隊を敢えて遊撃に置くなど、相手の裏を掻く思考と攻守共に隙の無い用兵が持ち味。同期の山口とは席次を争った、よく言えばライバル、悪く言えば敵同士と言う間柄。このような関係の2人が、人事において一方がもう一方を抜擢するのはいつの時代でも類を見ない事だろう。

 

 

「大本営のバカどもは身内争いが大好きだからな。権力のイスとは誰のためのものなのか。椅子取りゲームの代わりに昼寝していてくれればどれほど助かることか。私の首から上は有効に使ってくれ。よろしくな」

 

横須賀艦隊参謀 秋山。卓越した戦術眼を持ち、後の大規模作戦でその手腕を遺憾なく発揮する。頭はキレるが極度の運動音痴であり、相乗効果で教官に疎まれていた。佐世保の坂本と並んで見通す力に秀でた智将である。

 

 

「…まあ、わざわざ運営を中断してまで集まってもらった訳だが、議題は知っての通り太平洋奪還作戦についてだ。どんな些細な事でもいい。意見を出してくれ」

 

「一度に全域は無理です。北と南、どちらかに絞るべきでしょう。残りは後段作戦か、新規で攻略すべきです」

 

「北太平洋に絞っては?北方海域を制圧した上でそこから東進、ミッドウェーを制圧することでハワイ奪還の足がかりとする」

 

「確かに、両諸島を制圧できれば、我々は橋頭堡を築ける。奴さんは太平洋のど真ん中で補給拠点を失う。もっともあいつらに母港や補給という概念が有ればの話だが」

 

「しかし長官、アリューシャンまででもかなりの長躯になりそうです。補給や損傷艦の後送。何より主力が不在の間に本土を攻撃されては困る」

 

「アリューシャンを今確保する意義はあるのか?攻略に進発してから夜半に反転、でも良い気がするが」

 

「少なくとも北方海域千島を抑えるのは私も賛成だ。しかしなんだ、こう、やはり”あの”作戦に大分似ているな」

 

「ふむ、あまりあやかりたくはありませんね」

 

「かつてと違い、我々の戦略目標は決まっている。北太平洋奪還に必要であれば、抜かりなく進めばいいだろう」

 

「一理あるな。ではまとめてみよう。間違っていたら教えてくれ」

「我々の戦略目標は北太平洋奪還である。その上でまず北方海域 オホーツク海・千島列島の制海権を確立する」

 

「間違いない。これは補給路を含めた後方安全確保のために最低限必要だ」

 

「…続いて第二目標はミッドウェーの攻略。それに先立って攻略部隊は千島列島より北上、陽動を行った上で東進、ミッドウェーへ向かう」

 

「ここを取れば後方に安全海域を持てる。しかし、陽動を看破されないか?アリューシャンを攻略しないということは、敵の南下部隊によって後方を遮断されることになる」

 

「北方海域に監視拠点を設けたらどうだ?同時に我々の前進基地にできれば、補給線も短くて済む」

 

「夏に決行すれば大掛かりな建築は必要ない。ドックと港湾設備があれば十分。ならば妖精さんのことだ。大した時間はかかりません」

 

「場所は…そうですね、単冠湾がいいでしょう。あまり本土からは突出しないが、北方への出撃にはもってこい。おまけに”最初の作戦”で使われた地だ。ここで天佑をましょうや」

 

「坂本、しかし佐世保からは些か遠いぞ?大丈夫なのか?」

 

「大規模作戦を行うにしても、何ヶ月も行うわけにも行くまい。不都合が無ければ諸君と共に北に在ろう」

 

「ならば問題はない。概要は決まったな。各自戦術面の検討を頼む。一月後にまた会おう。それまで練度向上と艦隊整備、備蓄…まあ全てだな、を頼む。新生海軍、我らで勝利をもたらそう」

 

「おうともさ。近海勢力の掃討もだな、抜かりなくゆこう」

 

「ところで同志諸君、この後一つ、どうですかな?呉の鳳翔は味も場所も、他所には負けてないと思いますぞ」

 

「ははは、再開を祝して一杯か。悪くない、では一つ邪魔しようかね」

 

 

銘々の秘書艦と共に”呉の鳳翔”の元を訪れた5提督からは、夜の帷が落ちても笑い声が絶えなかった。

 

 

 

ー日本海軍栄光の日々の始まりである。

 




彼らは、”純粋に同じ志を抱く者達”です。念のため…


今回もお読みいただきありがとうございました。


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外伝編 沖縄撤退戦
第一話 敵艦みゆ


梅雨イベが終わったら出そうと思っていたんですが、忙しくなりいつの間にかこんなに遅く…

今回も暖かくお付き合いください。


 

―先のルンガ沖での作戦に失敗した海軍は、東南アジア方面に戦力の空白地帯を生み出してしまった。ブルネイ、タウイタウイ両泊地は関連施設をすべて爆破し撤退。同方面に対して唯一作戦行動が可能なのは沖縄本島に司令部を置く泊艦隊のみであった。泊(とまり)泊地(はくち)は以前―東南アジアに前進基地が多数おかれていた頃―に前線に近く、かつ後方拠点だったため比較的安全であるという理由から、卒業した新人提督の実地訓練場所としても使用されることが決まった。沖縄が2度目の大規模侵攻を受けたとき、所属する訓練生の名簿には渡邉少佐の名があった…

 

 

―――

 

発 与那国島監視所 宛 大本営、泊艦隊司令部

 

監視所索敵機ガバシー海峡ニテ敵大艦隊ヲ補足。監視所ヨリ方位203距離300海里

現在敵情ハ索敵機の接触ニテ確認中。至急艦隊ノ派遣ヲ要請ス

 

―――

 

泊艦隊司令部

 

「提督、与那国島監視所より入電。与那国島より南南西およそ300海里、バシー海峡にて敵艦隊を補足、現在接触中。至急艦隊を派遣されたし、とのことです。どうされますか?」

 

「全訓練生を非常招集、これより訓練を兼ねた迎撃作戦を立案・実行する」

 

10分後、30名の訓練生に対し状況の説明と先行艦隊司令官の募集を行った。本来偵察は、敵戦力の確認を目的とするため、想定以上の戦力に鉢合わせする可能性もある危険な任務である。しかし多くの訓練生にとってはまたとないアピールチャンスだった。これまで通りだったのなら…

 

泊艦隊に与那国島の偵察機が、敵編成を空母級20以上、戦艦級15以上をつげて通信を絶った、という事実が知らされたのは、泊地から先行艦隊が出航してから30分後のことだった。

 

 

―――

 

大本営 作戦本部長室

 

「失礼いたします。溝口中将、与那国の監視所より緊急電です。与那国より南南西300海里にて接敵、規模は確認中だが大きいようです。艦隊派遣を要請しています」

 

「ご苦労、わざわざブルネイの生き残りを置いといてよかった。はは…馬鹿なやつだな。理想と現実の区別がつかなくなるからこうなるのだ。…さて、どう対応すべきか。作戦本部士官を全員緊急招集だ。今後の作戦行動を検討する。」

 

「はっ、直ちに」

 

緊急電を伝えた通信士官は退室する間際の、「島津大将(・・)…か。ふん、彼にふさわしい、素晴らしい花道になるだろう」という中将の呟きを聞かなかったことにした。大本営(ここ)で彼が生き残る術だから…

 

 

―――

 

泊艦隊司令部

 

泊地を預かる佐久間提督は楽観的だった。先行艦隊の戦力が過少ではないか、と発言したある少佐の発言を退ける程度には楽観的だった。先行偵察を主任務とする以上、発見されにくい水雷戦隊で十分、という発言を採用したのである。ついでに遠距離から油断した敵に魚雷をお見舞いしてやりましょう、という発言に大きな称賛を送った。つまるところ少数戦力で大艦隊を打ち破ることを是としたのだ。

泊艦隊にとって、シーレーンの防衛以外では久々の会敵である。“戦果”を昇進の基準とする大本営に対して、敵艦隊を少数戦力で撃破することは大変覚えが良かった。うまくすれば、出世街道の中心である作戦本部行も実現するかもしれない…。

提督と大部分の訓練生はまだ見ぬ戦果に心躍らせていたのである。

 

最初のツケは5時間後にやってきた。半田訓練生率いる水雷戦隊が通信「敵編隊確認」を最後に消息を絶ったのである。大規模な空襲を受けたことは間違いなかった。

 

 

―――

 

発 大本営 作戦本部 宛 佐世保・泊艦隊司令部、与那国監視所

 

敵艦隊発見トノ報告ニヨリ、佐世保艦隊ヲ主力、泊艦隊ヲ前衛トスル迎撃艦隊ヲ編成ス。両艦隊ハ直チニ出撃ヨウイセヨ。主力艦隊ノ作戦計画書ハ別途送付スル。

 

与那国監視所ハソノ総力ヲアゲ、迎撃艦隊到着マデノ間戦線ヲ維持、敵艦隊の本土及ビ沖縄ヘノ侵攻ヲ阻止セヨ。

 

―――

 

仲間の死を目の当たりにして、提督と訓練生達は闘志をみなぎらせていた。“戦果争い”という意味にに“弔い”が加わり、司令部は異常な熱気に包まれた。

そんな司令部が不確定事項としながらも、大本営に先行させた偵察艦隊が撃沈されたことを報告し、さらなる迎撃艦隊の編成を行っている最中に電文が届いた。

電文からは、要するに泊艦隊に求められているのは敵主力までの露払いだったのだが、彼らは敵主力までをも佐世保艦隊の到着以前に撃滅しようとした。

 

提督と候補生たちの多くは、エリート意識の塊であった。士官学校と提督研修センターを卒業した時点である程度以上の頭脳と素質を持つ“エリート”と呼べないこともないが、自負が実力と実績を大きく上回っていたのである。それぞれ得意とする戦術にこだわり、その達成を目的として他者を利用しようとした。もちろん狙いは戦果の独り占めである。

そして不毛な“作戦会議”を続けていくうちに、当初「迎撃」であったはずの戦略目標がいつの間にか「積極的攻勢」に置き換わっていった。

餓えた狐が30人も集まれば統一した作戦行動など行えるはずはない。泊艦隊は“佐久間提督を頂点とする小艦隊の集合”となって戦い以前から戦力を失い始めたのである。

 

四月にしてはやけに生暖かい風が泊地を吹き抜けていった。

 

 

―――

 

沖縄方面軍(第10師団)司令部

 

 

「さて、各旅団長・参謀に集まってもらったわけだが、先ほど大本営陸軍部より通信が入った。昨日海軍がおよそ7、800キロ先に敵艦隊を補足したそうだ。海軍によれば、対応不可能なほどではない、とのことらしいが…まあ念を入れて各旅団は部隊を招集、戦闘態勢をとってくれ。通常通り南部を重点に配置。上空警戒を厳にせよ。質問のある者は?では以上だ」

 

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いつも通り一日遅れの情報だが、まあ沖縄本島(うち)の艦隊司令部から連絡がこないということは、大した規模でないということだろう。まあ念のため明日情報共有を受けに行くとするか。

あの提督(野郎)は気に食わないが、こっちが頭を下げない限り情報は来ない。仕方ないか…

 

―師団長の日記より

 





今回もお読みいただきありがとうございました。

不思議と本編より外伝の方が書きやすいんですよね…どちらも展開と概要はまとまっているのですが…

ちなみに梅雨イベはD敗北。乙作戦で早潮さんをお迎えできませんでした…



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