戦艦機動艦隊〜地球なめんなファンタジ〜 (東欧のアヒル)
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第1話 接触

西暦2042年6月12日

 

太平洋 

 

日本連邦国海軍 戦艦機動部隊 旗艦 大和型戦艦〈大和〉

 

 

第2次世界大戦で大日本帝国は太平洋戦争を短期決戦で勝利し、講和。終戦をした。そして、その後はアメリカ合衆国と共に対ソ戦へと移っていくのであった。歴史のIFを歩んだ日本。いや、地球の歴史のIFを歩んだ地球世界では大艦巨砲主義が未だ貫かれ、航空機の搭載する武器では破壊できない装甲を持つ戦艦たちによる艦隊決戦が戦争における海戦のセオリーになっていた。

 

戦後、大日本帝国から日本連邦国となったこの国では終戦間際に建造された大和型戦艦を旗艦とし、長門型戦艦、伊勢型航空戦艦を編成。それに加えて、戦後に建造された紀伊型戦艦を中心とした世界で初の戦艦機動部隊創設され、世界各国もさらに真似をする形で戦艦機動部隊を創設していった。

 

時は流れ西暦2024年。第2次世界大戦を生き延びた猛者たちは大規模な近代化改修を受け、現代でも絶大なる武力を保持していた。

 

戦艦〈大和〉。それは3度にわたる大規模な近代化改修を経ている戦艦である。日本連邦国海軍戦艦機動艦隊の旗艦を務め、極東の武士という異名を持っていた。

 

そんな日本連邦国海軍戦艦機動艦隊であるが、何故、ここを航行しているのか。結論から言うと、地球世界の全ての国家群が異世界に転移したのだ。それから6日後の今日は日本連邦国警察庁の管轄下にある海上保安軍の監視巡洋艦が発見した異世界国家イグルート帝国へ向かっていた。

 

表向きでは使節でああるが、裏ではいわゆる砲弾外交に等しいと言える。それは日本連邦国海軍の戦艦機動艦隊の編成にある。

 

旗艦 大和型戦艦〈大和〉

 

前衛武装戦隊

 

扶桑型戦艦〈扶桑〉

 

長門型戦艦〈長門〉〈陸奥〉

 

高速打撃戦隊

 

天城型戦艦〈赤城〉〈高雄〉〈愛宕〉

 

航空打撃戦隊

 

伊勢型航空戦艦〈伊勢〉

 

遠距離強襲戦隊

 

伊400型潜水航空戦艦〈伊400〉〈伊401〉〈伊403〉

 

以上が戦艦機動艦隊の編成になる。紀伊型戦艦に関しては2回目の大規模近代化改修後からは戦艦機動艦隊に組み込まれず、単艦運用特化になっている事もあり、戦艦機動艦隊には編成されていなかった。

 

「対水上レーダーに反応、艦影は1。イグルート帝国艦と思われます。」

 

既にこの海域はイグルート帝国の主張する領海内である。最も、日本連邦国は太平洋を旧アメリカ合衆国とカナダ南部が合体した北アメリカ連合国と折半で所有しているのだから、日本連邦国側からしたら完全に領海侵犯なのだが。しかし、それは日本連邦国政府は全く重く考えておらず、イグルート帝国の主張する領海までは認める方針を固めていた。

 

「イグルート帝国艦より入電。『日本連邦国使節艦隊をお待ちしていた。我が艦が停泊先の軍港へと案内する。』以上です。」

 

「了解、進路をイグルート帝国艦に変更。全艦、イグルート帝国艦へ進路を向けろ。」

 

8隻の戦艦はイグルート帝国艦へと進路を取る。が、遠距離強襲戦隊は潜水したままイグルート帝国艦の真下を航行していた。

 

魚雷発射管は既に注水状態にあり、いつでも撃てるようになっていた。一方、その状態をイグルート帝国艦は把握している。その為、この状況はバレているのだが、言い方を変えると首元にナイフを突きつけられている状態と同じであるのだ。

 

 

イグルート帝国 沿岸警備隊 ラル級パトロール駆逐艦〈ゼドラー〉

 

 

イグルート帝国を含むこの異世界では魔法の技術が用いられ、ラル級パトロール駆逐艦〈ゼドラー〉はその恩恵を受けている。主砲の122ミリ連装赤色ビーム砲塔や対空ビーム砲から放たれる無数のビームはSF映画を思い起こさせるようになっている。武装は少ないが、精度は高い。

 

「戦艦…無用の長物も異界では必要なのか。」

 

大艦巨砲主義の終焉を迎えている異世界において戦艦など骨董品に等しかった。が、彼の知る戦艦とは破格のハイスペックだったのを彼はまだ知らない。

 

「時代錯誤だと分かってはいますが、威容は凄まじいですね…。」

 

「ああ、副砲でも夾叉すれば我が艦は無事では済まないだろう。」

 

ラル級パトロール駆逐艦〈ゼドラー〉は停泊地であるバルバード軍港へと到着した。案内の為、光らせていた赤色灯は色を失い、艦を回頭させて日本連邦国海軍戦艦機動艦隊から姿を消した。

 

「もう少しここに居たかったですね。」

 

「記念艦ぐらいしか我が国には残っていないからな。内心、こっちも少しでも長くここに居たいと思うな。」

 

「そういえば、先進6ヵ国会議が来週ありますよね?」

 

「ああ、我が国も例年通り参加するらしいな。」

 

「当然、話題に日本連邦国は上がりそうですね。そしたら…」

 

「何を言ってる。どうせ、他の先進国はあの艦隊なんぞに興味はない。魚雷とミサイルの飽和攻撃で沈み、鈍重で金食い虫の艦艇に何の利益を見出せるのか。」

 

艦長は部下を諭すように吐き捨てた。

 

 

イグルート帝国 バルバード軍港 

 

 

日本連邦国海軍戦艦機動艦隊旗艦〈大和〉の艦載ヘリ『震洋』が音もなく飛行していた。音力発電システムが組み込まれ、ヘリコプターの出す巨大なローター音を原動力に『震洋』は飛行していた。その為、無音の状態で飛ぶヘリは少し違和感があった。

 

二重反転ローターに推進用プロペラを搭載した『震洋』はその卓越した機動性で軍港に隣接した陸軍基地の滑走路の端に着陸する。

 

ダウンウォッシュは相変わらず強く、待ち構えているイグルート帝国兵を風が襲う。どうも、イグルート帝国にヘリはないらしく、まるで少年のように目を輝かせている者や、思わず目を丸くしている者も居た。

 

スライド式のドアから軽快に護衛兵と共に降りたのは日本連邦国外務省から派遣された外交官の両津菅である。

 

両津外交官は身長190センチで体重は86キロと筋骨隆々の男だ。外交官とは思えないその風貌に待ち構えているイグルート帝国兵の身体を震わせた。

 

「歓迎を感謝します。では、会議室へ案内をお願いします。」

 

両津の巨漢とゴツゴツした強化外骨格を見にまとい、頭部の殆どが機械類に覆われている護衛兵が後ろからついてくるのだからイグルート帝国兵の緊張は計り知れない。

 

爆音が上空で炸裂した。その正体は航空機であり、その姿はまさにジェット機であった。

 

前後長の短い胴体と主翼の中ほどに取り付けられた双垂直尾翼と無尾翼の組み合わせという特異な形状である。エンジンは双発であり、紫色の排気熱を吐き出している。イメージとしてはF7U カットラスといったところか。

 

5機のイグルート帝国陸軍主力戦闘機『スパニート66』は見事なダイヤ型の陣形を組んで飛行している。その様子に両津一行は顔を見上げて、興味深そうに見ていた。

 

「では、こちらへお乗りください。」

 

イグルート帝国兵の誘導で待っていた装甲車に両津一行は乗り込むと、けたたましいエンジン音を奏でて会議室のある基地本部に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第2話 他所者

宇宙戦艦ヤマト2205前章を見てきました!悪名高い2202の後だったので心配していたけれど、超面白かったー!

まさかのここで終わるか!?という所で終わってしまったので後章が待てない…

前章ではゴルバ出てきてないし、前章ではグレートプレアデスの後ろにいたカットしかなかったから後章見たら気絶しそう…




西暦2042年6月12日 

 

イグルート帝国 バルバード軍港陸軍基地 基地本部 会議室

 

 

「ところで日本連邦国の諸君。我がイグルート帝国に何の用かね?あれほどの威圧感のある戦艦を持ち出したと言うことは砲弾外交と捉えても致し方ないが?」

 

急遽、イグルート帝国外交省から派遣される外交官の繋ぎとして陸軍基地司令がバインダーを片手に言った。

 

「ええ、そう捉えてもらっても構いません。しかし、こちらとしてはこの世界は何があるかわからない未知の領域。決して砲弾外交ではないと宣言します。」

 

両津外交官の言葉に陸軍基地司令は何も言わずに手元にある書類を見た。

 

「それで…えー…と。日本連邦国の外交官が来たのには何の目的がある?」

 

「我が国は貴国との国交締結のためにここに訪れました。この世界で生きていくためには隣国である貴国との関係が必須なので。」

 

「そうか…分かった。簡単でいい、日本連邦国について話してくれ。文化でも軍事でも特産物でもいい。私は簡単な報告書の作成を頼まれているのだ。」

 

「分かりました。では、簡単かつ簡潔にお話ししましょう。日本連邦国は我々のいた地球世界では先進国に分類され、軍事力、経済力共に世界3位を維持してきました。人口は1億9000万人で、首都は東京。準首都として大阪、京都があります。」

 

「準首都とは何だ?」

 

「準首都とは首都が自然災害やテロ、戦火に晒された場合に速やかに遷都する為の都市であり、首都と同等かそれ以下の国の重要施設を有しています。」

 

両津外交官の言葉に陸軍基地司令はふむふむと羽ペンで書類に書き込む。

 

「ところで、貴国では羽根ペンは主流であるのですか?」

 

「いや、完全に私の趣味だ。」

 

両津外交官は羽根ペンの存在が趣味であることに安心する。まさか、羽根ペンが主流だとしたら時代錯誤すぎる。

 

「では続けます。主食は穀類である米や小麦粉で作られるパンです。どちらかといえば、米の方が主食と言えるでしょう。そして…」

 

「もういい。次に行ってくれ、次は軍隊についてだ。」

 

中々、客人に失礼な男だなと両津外交官は思う。が、その言葉を心の内に秘めたまま、営業スマイルを続ける。

 

「日本連邦国軍は5軍制となっています。陸軍、海軍、空軍、海兵隊、宇宙軍です。ここまでで何かわからないことはありますか?」

 

「その…海兵隊とか宇宙軍とは何なのだ?」

 

「分かりました。海兵隊とは陸海空軍よりもより早く迅速に行動することができるいわば即応軍です。陸海空軍の混成部隊と思ってもらってもいいです。宇宙軍は宇宙空間にて作戦を行う軍隊であり、地球世界では宇宙空間の領有権が無いので、あくまでも人工衛星や対人工衛星用の武装や人工衛星に偽装した戦闘宇宙艦が各国上空で睨み合っている程度です。」

 

「ちなみに兵力は?」

 

「おっと…言い忘れていましたね。陸軍が12万人、海軍が10万人、空軍が8万人、海兵隊が4万人、宇宙軍が3万人です。」

 

「…まぁいい。こんなところでいいか。日本連邦国の諸君、ここからは私的な意見だが、我が国は日本連邦国のことを疑ってかかるだろう。そうしたら、日本連邦国が我が国の外交官を招待しろ。そうすれば、日本連邦国のことは嫌でもわかるだろう。」

 

「奇遇ですね…私もそうしようと思っていたところでした。」

 

両津外交官の言葉に陸軍基地司令はニカッと笑う。態度こそ大きいが、悪い人では無いのだ。

 

「しかし、なぜ我が国のことを考えてくれるのですか?」

 

「…これも国益の1つだ。日本連邦国の戦艦はとても力強い。どう見たって、イージス艦にしか見えない。ああ、イージス艦というのはだな…」

 

「説明は結構です。我が国にもイージス艦は存在しますので。」

 

「ほう!技術的な開きもあまり無い様ですな。」

 

陸軍基地司令はそういうと席を外す。そして、ドアを開けると去り際に顔を両津外交官に向けた。

 

「では、案内役がまた来る。本国からの外交官はあと2日で来る予定だ。私とは多分、この先も会わないだろう。では失礼。」

 

 

バルバード軍港 戦艦機動艦隊 前衛武装戦隊 〈扶桑〉

 

 

特徴的な艦橋。違法建築などと揶揄される本艦であるが、高い艦橋には高度な電探が積まれており、戦艦機動艦隊の目となっていた。その最大探知距離は350海里。648キロである。

 

「電探に反応…62海里先の周辺空域を飛行していた6の所属不明機より発射された12発のミサイルが接近中。」

 

「〈大和〉より入電。『直ちに迎撃せよ。』以上です。』

 

「座標入力…艦対空ミサイル発射ッ!」

 

主砲と艦橋の間に設置された箱型の多目的ミサイルランチャーから24発の艦対空ミサイルが発射される。微かな白煙だけを吐き出しながらロケット推進で12発のミサイルへ向かう。

 

「反応消滅…全弾迎撃しました。」

 

「所属不明機をカメラが捉えました!映像映します。」

 

スクリーンに表示される6機の所属不明機。三角形の陣形を取りながら優雅に飛行している。

 

細い胴体に短い矩形の主翼を持つ小型軽量の機体に強力な単発エンジンを一基搭載している。その卓越した高速性と形態はミサイルを彷彿とさせている。イメージとしてはF104 スターファイターといったところか。

 

排気熱は緑。『スパニート66』といいこの世界はどうなっているのか。

 

速度はマッハ0.8。高度は驚異の30フィート。メートルに直すと約10メートル。

 

「敵編隊の練度は高いな。無人と言われても信じてしまうだろう。」

 

艦長の発言に周りにいる船員は皆、小さく頷く。コックピットには小さな窓があり、付近に熱源がある事から有人であることは確実であるのだが、イマイチ信じられない。それ程の練度なのだ。

 

「第1主砲に対空炸裂弾を装填。反撃だ。」

 

「第1主砲に対空炸裂弾を装填開始!…自動装填終わる。」

 

「第1主砲発射よーい!…発射まで、3…2…1…。」

 

「撃てぇッ!」

 

高波が立つ。砲撃したことで砲身から黒煙が噴き出し、艦が左右に大きく揺れた。

 

30.5センチ連装砲から放たれた30.5センチ対空炸裂弾の威力は伊達ではなかった。内装されている赤外線センサーで敵編隊まで誘導。それから、敵編隊より10メートルで炸裂した。火球が生成され、敵編隊の前方を覆った。

 

そして、1発につき50発の子弾であるタングステン弾が敵機を血祭りに上げる。

 

すると、敵編隊の1番前を飛行していた所属不明機にタングステン弾が命中。右翼がもげ、胴体が穴だらけになる。駆け抜けるタングステン弾は他の機体をも貫き、たちまち飛行能力を奪う。

 

タングステン弾の嵐が過ぎ去った時には航空機とは思えない醜いスクラップが登場する。当然、コックピットもその影響を受けており、生存者はいないだろう。

 

一瞬にして血祭りに上げられた敵編隊。その様子がスクリーンにリアルタイムで配信され、船員たちは歓声を上げる。

 

「全機撃墜完了。…ッ!?」

 

「どうした?」

 

「…バルバード軍港陸軍基地から入電…です。」

 

艦橋内が一気にピリついた。皆が電探士の方に顔を向ける。

 

「読み上げろ。」

 

「『こちらはバルバード軍港陸軍基地である。現在、日本連邦国艦隊に攻撃を加えたのは我が軍の航空機では無い。迎撃を感謝する。』以上です。」

 

艦橋内の空気が元に戻った。安堵の声が艦橋内を包み込む。が、その中で対照的に険しい顔をする男が1人。艦長である。

 

「これは次が来るぞ。」

 

その言葉に船員たちの視線が艦長に集中する。そして……。

 

「120海里先を航行している4の艦影よりミサイルが発射。その数32発…目標は〈大和〉ですッ!」

 

「愚かな…暴れ女をわざわざ相手しようとするとは。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第3話 始まりの時

短い気もするけど一投


西暦2042年 6月12日 

 

イグルート帝国 バルバード軍港

 

日本連邦国海軍 戦艦機動艦隊 旗艦〈大和〉

 

 

「約120海里先から計32発のミサイルが本艦に向かってきます。」

 

「対空戦闘用…」

 

「駄目だ!対空戦闘用意は停止しろ!」

 

艦隊司令である菊島直道中将が怒号にも聞こえる大声を飛ばした。

 

「し、司令!何故ですか…?」

 

「理由を言う必要はない。貴様も戦艦乗りであればわかるだろう。主砲、副砲以外の武装と電探は全て格納せよ。」

 

菊島中将の言葉に他の船員たちはポカーンとしていた。一方、参謀たちは何も言わずに腕を組んでいた。

 

「これより、本艦は接近中の全ミサイルを全力で受け止める!」

 

船体各所に設置されている電探類が格納され、機銃座に搭載されているレーザー式機銃群も格納される。主砲と副砲以外がなくなった〈大和〉はのっぺりとしており、まるで造船途中の様であった。

 

「ミサイル命中まで残り35秒を切りました。」

 

「ミサイルの速度はマッハ1.2。依然変わらず。」

 

「司令…本当に防げるのでしょうか?」

 

心配そうに1人の船員が尋ねた。そのおどおどとした雰囲気に菊島中将は鼻で笑う。

 

「フッ…戦艦が簡単に沈むか。それもミサイルでな。」

 

大和型戦艦の装甲は46センチの砲弾でも貫かれない様に改修されている。いや、生まれ変わったと言った方がいい。初期の時から残っている装備品は指で数えられる程しかなかった。

 

装甲は特殊な超合金やさまざまな合成繊維が合わさって出来ている。その為、180センチ列車砲ほどの兵器でなければ中破以上のダメージを与えることはできない。

 

「右舷バラストタンクに注水開始!衝撃を相殺する。」

 

両舷に搭載されたバラストタンクは本来、姿勢制御に用いられるのだか、今回は計32発というミサイルによる飽和攻撃によって発生する衝撃で艦内が揺れに揺れてしまうことが予想される。その為、右舷より迫るミサイルが命中すれば艦は大きく左舷に傾く。よって、右舷バラストタンクに注水を開始したのであった。

 

「注水開始!注水完了まで残り10秒。」

 

「右舷バラストタンクに注水完了!」

 

「ミサイル命中まで残り10秒!」

 

電探士は声が裏返りながらも必死で声を発する。やはり、無事と分かっていても怖いのである。

 

「ミサイル命中まで残り5秒!」

 

「衝撃に備えよ!」

 

全ての船員が周りの壁や手すりなどのあらゆる物にしがみつくと右舷にしっかりと32個の火球が生成され、〈大和〉の右舷を包み込んだ。

 

耳をつんざく爆音が響き渡り、ミサイルの残骸が海上に散布され、衝撃波によって波の立つ海に消えていく。

 

黒煙が晴れた。〈大和〉の右舷は無傷であった。傷も塗装も剥げていない。

 

「被害無し!繰り返す、本艦に被害は無し!」

 

歓声が巻き起こる。この戦艦は耐えたのだ。この瞬間は日本連邦国を含む地球世界の各国の戦艦に対して、異世界産のミサイルが効かないことを証明した瞬間であった。

 

だが、問題はまだある。それは未だに敵を発見できていない事である。その為、戦艦機動艦隊は敵の攻撃のやってきた方向へ全速前進で向かう。

 

 

ディルーター帝政連邦国海軍 第6艦隊 旗艦〈ラピード〉

 

 

F104 スターファイター擬きを放った主。その国家はディルーター帝政連邦国。ディルーター帝政連邦国軍に所属する第6艦隊旗艦〈ラピッド〉は戦艦と同じレベルの装甲を施された重装甲空母である。

 

「我が国を舐めしイグルート帝国よ。我が航空隊によって滅ぶが良い。」

 

第6艦隊司令のアルバ・タラン中将は機嫌が良さそうに笑う。が、その様子はレーダー士からの報告で消え去ることとなる。

 

「先行した第207航空隊のうちの6機の反応が消滅!撃墜された模様!」

 

「対水上レーダーに未確認の艦影多数!」

 

アルバ司令は歯軋りを鳴らす。ギチギチと濃密な音は艦橋内を包み込んだ。

 

「対艦兵装をさせた『ランデルスIII』を出撃させろ。数は3個航空隊である。」

 

「し、司令!3個は流石に…3個航空隊を出撃させてしまえば我々には護衛空母2隻に搭載された計2個航空隊。そして、我が艦にはあと1個航空隊しか無くなってしまいます…イグルート帝国陸軍の『スパニート66』による物量戦法に勝てると思えま…」

 

「何を言っている。その為の『ランデルスIII』であろうに。『スパニート66』の最高速度はマッハ0.99。こっちの最高速度はマッハ2.0。速度で引き離して、新型の拡散機能の付与された空対地ミサイルでバルバード軍港陸軍基地を破壊させるのだ。」

 

「ハッ…」

 

意見を具申した参謀はアルバ司令の言葉にすぐさま引き下がった。

 

「第505航空隊、全機発艦しました。」

 

レインボーギャングによる正確な誘導で『ランデルスIII』は次々と大空へと羽ばたいていく。その様子にアルバ司令は目を輝かせて、少年の様な目をしていた。

 

「この様子を私はずっと見ていたい。そうは思わないかね…ヒルデ君。」

 

先程、意見具申をした参謀であるヒルデ・バード大佐は突然のことに慌てふためいた。

 

「…は、はい!?……そ、そうですね。」

 

「あの鋼鉄の鳥たちは腹に抱える悪魔を落として、輝かしく帰ってくるのだ。私はこの仕事を天職だと思っているよ。」

 

アルバ司令の言葉にヒルデ大佐は彼のポケットに乱雑に丸まって入っている雑誌を見つける。そのタイトルは…。

 

『転職は天職!』

 

ヒルデ大佐は息を飲んだ。

 

 

バルバード軍港陸軍基地 司令塔

 

 

「敵はまさしくディルーター帝政連邦国…忌むべき敵を殲滅するのだ!戦闘機隊、発進せよ!」

 

司令塔からは怒号に等しい指令を飛ばすバルバード軍港陸軍基地司令。その様子はまさに威容に満ちていた。しかし、その姿とは裏腹に彼の脚は小刻みに震えていた。

 

ディルーター帝政連邦国海軍第6艦隊旗艦〈ラピード〉から飛び立った『ランデルスIII』と同じく、『スパニート66』は3本ある滑走路より密集して一気に飛び立つ。その様子はアクロバットさながらだ。

 

こうして飛び立った10個航空隊。その数はなんと120機。『ランデルスIII』は3個航空隊で36機と差は3倍以上。

 

一世一代の大空戦が日本連邦国海軍戦艦機動艦隊の上空で繰り広げられようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第4話 大空戦

西暦2042年 6月12日

 

イグルート帝国 バルバード軍港陸軍基地より約15メートル 

 

 

「ディルーターめ…消し炭にしてやる!」

 

そう息を巻くのはバルバード軍港陸軍基地より発進した戦闘機『スパニート66』に搭乗する新人パイロットである。

 

彼は初の実戦で怖がる様子もなく、逆に興奮していた。

 

『おいおい…少しでもいいから緊張感は持てよ?』

 

後ろに乗る同僚はそれを不安に感じていた様だった。戦場では臆病者が勝つのだ。蛮勇の末路など言わなくてもわかる。

 

「わかってるって、ディルーターが強いのは知っている。多分来るのはあの『ランデルスIII』だろう。『ランデルスIII』はマッハ2戦級でこっちの『スパニート66』より速度が大幅に出る。だからこそ、いち早く捕捉して空対空ミサイルによる飽和攻撃で撃墜する必要がある。」

 

『…お前の意見が聞けて安心したよ。』

 

同僚はホッと胸を撫で下ろし、深くため息をついた。

 

『こちらハスラー00。全機に告ぐ!たった今、高高度にて飛行している哨戒機から連絡があった。接近している敵戦闘機の数は36機である。捕捉次第、各機の独断で攻撃を開始して良い!必ず、バルバード軍港陸軍基地は我々の手で守り抜くぞ!』

 

戦闘機隊の総隊長機から士気を高揚させる無線が入る。無線から投げかけられた言葉にパイロットたちは意気揚々と返事を入れる。

 

最初に敵機を捕捉したのは隊の先頭を飛行する総隊長機であった。

 

『敵機発見!空対空ミサイル発射ッ!』

 

総隊長機に続けて、後続する『スパニート66』は次々と敵機を発見、捕捉すると空対空ミサイルを惜しむ間もなく発射していく。

 

少し灰色がかった煙の筋が辺りを包み込み、何百という空対空ミサイルが『ランデルスIII』で編成された3個航空隊に襲い掛かる。

 

「こちらパンゲア00、全機編隊を解け!この飽和攻撃から抜け出さなければ我々はバルバード軍港陸軍基地を破壊することは叶わない!健闘を祈る!」

 

ディルーター帝政連邦国海軍第6艦隊旗艦〈ラピード〉より出撃した3個航空隊の総隊長はそう言い残すと他の機体と同じ様に機体を傾けて空対空ミサイルの回避運動に入った。

 

「ぐっ…こんなミサイルの嵐は見たことがない…これがイグルート帝国軍の物量戦法か!」

 

総隊長は空対空ミサイルの嵐を避けきれず、爆散していく友軍機を横目に見ながら、操縦桿が取れる勢いで空対空ミサイルを回避していく。

 

また1機、また1機と友軍機が撃墜される。隊内無線は阿鼻叫喚であり、友軍機から発せられる遺言が轟いていた。

 

総隊長機から金属音が鳴り響いた。その音に搭乗しているパイロットと共に総隊長は音の鳴る方向を見た。

 

「チッ!…数発くらったか。」

 

機体の右側からは数本の黒煙が噴き出しており、機銃弾か空対空ミサイルの破片が刺さった様である。総隊長機の速度は急激に低下。マッハ1.8で飛行していたが、今はマッハ1.0と『スパニート66』と大差が無かった。

 

空対空ミサイルの嵐が終わった。ひとまず総隊長は残っている機体を確認する。

 

「たったの9機か…全滅しなかっただけ儲けものか。」

 

残存している『ランデルスIII』はたったの10機。そして、残存している『スパニート66』は72機。絶体絶命のピンチではあったが、生き残っている10機は数々の空戦を生き残ってきた猛者。例え、武器が底をついても機体をぶつけて勝負をかけるような連中だ。容易くやられるわけがなかった。

 

「こちらパンゲア00。全機に告ぐ、これより我々は敵編隊に突撃し、格闘戦に持ち込む。空対空ミサイルがまだある機体は撃っておけ!行くぞ!」

 

10機の『ランデルスIII』は急加速。敵を狩る為に鋼鉄の鳥は行く。

 

「まだ半分以上はいる!このまま押しつぶせば勝てる!」

 

またもや新人パイロットは意気込む。一方、後ろの同僚はため息をついた。

 

『だが…ベテランたちは諸共撃墜されてるんだぜ?総隊長機もご臨終。残っているのは俺たち新人パイロット。勝てるかなぁ…。』

 

「お前の悪い癖だ…いくら新人だからと言って訓練はしっかり受けているん…」

 

前方から微かにオレンジ色の閃光が現れ、前方を飛行する『スパニート66』に吸い込まれると黒煙を放ち、爆散した。それに加えて、左右にいた機体も同様の末路を辿る。

 

「き、機銃弾か!なんて精度だよ…。」

 

『もたもたするな!早く敵を見つけるぞ!』

 

左下を飛行していた『スパニート66』が爆発。それによる黒煙から1機の航空機が飛び出した。

 

「あれは…『ランデルスIII』!?」

 

『噂には聞いていたが、なんて細さだあれは…マッハ2戦級なのも納得いくぜ…。』

 

「直ぐに撃墜してやる…ッ!」

 

新人パイロット2人を乗せた『スパニート66』は上昇を続ける『ランデルスIII』を捕捉した。

 

「空対空ミサイル、発…ッ!?」

 

急に『ランデルスIII』の姿が消えた。2人は動揺し、キョロキョロと辺りを見回す。

 

『後ろだ!敵は後ろにいる!』

 

「…急激に速度を落として、後ろを取ったわけか…!」

 

『スパニート66』がもたもたしている間に後ろを取った『ランデルスIII』のパイロットは不敵に笑う。

 

「あばよ…イグルートのクソ虫共ッ!」

 

『ランデルスIII』からオレンジ色の閃光が飛び出す。が、その閃光は爆発を見ることなく、虚空に散った。

 

「な…どこに!?」

 

視界から消えた獲物。それは『ランデルスIII』の後ろにいた。狩る側から狩られる側に変わった瞬間であった。

 

「もらった…ッ!」

 

パタパタと軽快な音とは裏腹に『ランデルスIII』は見るも無残になり、鉄屑と化す。コックピットは機銃弾が駆け巡り、パイロットは肉塊と化しているだろう。

 

『ふぅ…死ぬかと思った。』

 

「俺もだよ…人を殺した感覚がない…。」

 

『そういう物だって。俺たちは。』

 

 

ディルーター帝政連邦国海軍 第6艦隊 旗艦〈ラピード〉

 

『スパニート66』は残り32機、『ランデルスIII』は残り6機。この惨状はディルーター帝政連邦国海軍第6艦隊司令のアルバ司令は少し焦っていた。

 

「護衛空母2隻より2個航空隊を出撃。素早くテキパキとバルバード軍港陸軍基地を破壊させる。」

 

「司令…艦砲による対地攻撃を始めましょう。」

 

「…おっと、忘れていたな。これより、第2フェーズと並行させる。バルバトス弾による艦砲射撃にて直ちにバルバード軍港陸軍基地を破壊せよ。」

 

航空機による対地攻撃作戦。それに加えて、駆逐艦の艦砲射撃による対地攻撃作戦。果たして、バルバード軍港陸軍基地は耐えることができるのだろうか。

 

 

 

 




多分次は忘れられてる潜水戦艦だすよ!


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第5話 異邦人からの増援

西暦2042年 6月12日

 

ディルーター帝政連邦国海軍 第6艦隊 旗艦〈ラピード〉

 

 

「くっ…ここまでやられるとは…。」

 

アルバ司令は不甲斐なさそうに拳を握りしめた。

 

「流石に10個航空隊が相手になるとは思いもしませんでした。頼みの綱は艦砲射撃ですか。」

 

「ああ、ミサイル駆逐艦〈ダルガン〉〈イピソル〉はバルバトス弾を装填したか?」

 

「ええ、射撃準備完了との事です。」

 

アルバ司令がふとメインモニターを見るとそこには画面に大きく『バルバトス弾装填完了』というメッセージがミサイル駆逐艦〈ダルカン〉〈イピソル〉から来ていた。

 

「直ちに撃て。失われたパイロットの命の弔いだ。」

 

 

ミサイル駆逐艦〈ダルカン〉

 

 

ビコネッツ級ミサイル駆逐艦として建造された〈ダルカン〉と〈イピソル〉。単装速射砲を2基、多連装汎用ミサイルランチャーを4基、50ミリ連装緑色ビーム対空砲を6基搭載しており、武装の量だけを鑑みれば巡洋艦と言われても特におかしな点は無かった。が、魚雷が積まれていないのが弱点であり、それを防ぐ兵器(例:アスロック)も搭載していない。

 

形状はステルス性を意識している為、F-117 ナイトホークのように傾斜が沢山付けられている。

 

「バルバトス弾発射よー…いッ!」

 

砲身はバルバード軍港陸軍基地に向いており、仰角も完璧であった。

 

「発射まで5…4…3…2…1…。」

 

「撃てッ!」

 

凄まじい爆発音と黒煙が起こり、砲身からは黒いキノコ雲が生成される。衝撃波により、2隻は大きく揺れ、周りには高波が立っていた。

 

砲身の上に乗っていた海鳥たちは砲撃によって身体が破裂。そして、衝撃波によって、その無惨な姿を見るまもなく海中へと消えていった。

 

「これで…終わったな。」

 

8発のバルバトス弾はバルバード軍港陸軍基地へ向かっていった。

 

 

バルバード軍港陸軍基地 司令塔

 

バルバトス弾は見事に弧を描いて飛翔し、瞬く間にバルバード軍港陸軍基地上空に到達した。バルバトス弾の落下音はバルバード軍港陸軍基地にいる兵士たちの不安を煽った。

 

「何の音だ…?」

 

バルバード軍港陸軍基地司令は大きな窓の外を覗き込みながら言った。

 

「航空機は上空に居ませんので爆弾の可能性はありえないかと。」

 

「あっ…艦砲射撃かもしれません。」

 

「いやいや、哨戒中の駆逐艦から報告がないのだからそれはあり得ないだろう。」

 

参謀たちは口々に意見を交わす。が、その間にもバルバトス弾の落下音はその大きさを増していた。

 

次の瞬間、基地が捲れ上がった。上空200メートルで信管が作動した8発のバルバトス弾は上空で炸裂。基地を舗装するコンクリートやアスファルト共に整備場や司令塔などの施設も粉々に粉砕されてしまった。

 

バルバトス弾。それは技術者バルバトス・ニュートンにちなんで付けられた砲弾である。重量は重く、飛翔する速度も遅いが、威力は絶大であり、駆逐艦程度の艦砲射撃でも1個基地をほぼ壊滅に追いやることが出来る。

 

そして、バルバトス弾の爆発後は強力は衝撃波と爆発に加えて、強力な放射線を撒き散らす。その為、基地を修復しようにも放射線を先に除去しなければならない為、修復に時間をかける。まさに異世界の核兵器であるのだ。

 

 

ディルーター帝政連邦国海軍 第6艦隊 旗艦〈ラピード〉

 

 

「信管作動…爆発しました。映像、映します。」

 

バルバード軍港陸軍基地方面が映し出された映像からは大きなキノコ雲が8個立ち昇っているのが確認できた。

 

「ハッハッハッ!!…実に気分が良い…バルバード軍港陸軍基地はイグルート帝国海軍3大軍港の1つ。払った犠牲は大きかったが、バルバード軍港陸軍基地の破壊の実績は大きい。」

 

アルバ司令は機嫌が良さそうに笑うと手に持っていたワインを下品に一口で飲み干すとどっかりと椅子に座った。

 

「もはや、"透明迷彩"は解いても構わん。魔力の無駄遣いだからな。」

 

「ハッ!…透明迷彩解除!」

 

日本連邦国海軍戦艦機動艦隊がディルーター帝政連邦国海軍第6艦隊を見つけられなかった理由。それは透明迷彩という物に理由があった。

 

透明迷彩とはディルーター帝政連邦国とその同盟国であるガトラー神聖共和国で共同開発した技術である。艦艇や車両などを動かす魔力の燃費はすこぶる悪いが、透明になり、全く見えなくなってしまう。それに加えて、ロックオンすらできない為、対艦ミサイルや魚雷で攻撃することは不可能である。しかし、電磁パルスを喰らえば透明迷彩は瞬く間に消滅してしまう。

 

「ふぅ…我が艦隊はこれより、ハイロード軍港へ帰港する。全艦回頭、全速前進!」

 

ディルーター帝政連邦国海軍第6艦隊はその威容を存分に見せつけ、夕陽を背にして巣へと帰っていく…筈だった。

 

 

日本連邦国海軍戦艦機動艦隊 遠距離強襲戦隊 〈伊403〉

 

 

バルバード軍港付近にて待機していた遠距離強襲戦隊。そのうちの1隻である〈伊403〉は単独で周辺海域を哨戒していた。

 

バルバード軍港陸軍基地が破壊されたことで常時戦闘態勢になっていた本艦は透明迷彩を解いたディルーター帝政連邦国海軍第6艦隊をすぐさま発見した。

 

「水中電探に10の艦影を発見。場所は…」

 

「どうした?」

 

「本艦の…直下です…。」

 

「…なんだと…ッ!」

 

戦慄とする艦内。しかし、彼らは旗艦〈大和〉から通達されていた命令を思い出した。

 

『敵艦隊を発見次第、直ちに攻撃せよ。』

 

この命令を〈伊403〉の船員たちは忠実に遂行する。

 

「魚雷発射管に注水…注水後は装填が完了した発射管から発射せよ。」

 

彼らにはもう、時間がなかった。敵の能力は未知数である為、先手を打たなければこちらが沈みかねない。先手必勝。この言葉を胸に、船員たちは音を立てずに忙しなく動き回った。

 

「第1魚雷発射管…撃てッ…。」

 

まず、最初に装填が完了したのは第1魚雷発射管だった。微かな白線を引きながら、駆逐艦サイズの艦艇へ吸い込まれていく。

 

「第2魚雷発射管…撃てッ…。」

 

次々と魚雷が発射され、全部で9門の魚雷発射管は装填した魚雷を撃ち尽くし、また魚雷の装填に入る。

 

「急速潜航…身を隠せ。」

 

〈伊403〉の航行する水深よりも上に爆発が起きる。それはディルーター帝政連邦国海軍第6艦隊の駆逐艦による爆雷攻撃であった。

 

見当違いの方向に爆雷をばら撒き、海上では水柱が何本も立つが、〈伊403〉は既に急速潜航をしていた為、意味はなかった。

 

そして、〈伊403〉による攻撃が止むと第6艦隊は荒れていた陣形を立て直し、扇形の陣形に戻した。

 

「急速浮上…これより、本艦は敵艦隊を殲滅する。」

 

弔い合戦が今、始まった。

 

〈伊403〉は瞬く間に海上に浮上した。その姿はよく見る葉巻型の潜水艦とは大きく異なり、どちらかと言えば水上艦に見えた。しかし、船体には海中航行を考慮した結果、少しのっぺりとしている。

 

艦載機はVTOL機である33式空間格闘戦闘機『雷電』を5機搭載している。33式空間格闘戦闘機『雷電』は艦尾のヘリポートのような空間からF-35のようにエンジンを90度曲げて、垂直で離着陸するようになっていた。

 

ここから始まる戦闘は日本連邦国とディルーター帝政連邦国との技術力の差が例外を除いて、完全に判明することとなった。

 

〈伊403〉対ディルーター帝政連邦国海軍第6艦隊。果たして、単艦で〈伊403〉は勝利することができるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんか思ったより進まなかったなー…まぁいいか!


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第6話 戦闘の終結

いやー…最近、創作意欲が湧いて結構、短スパンで書けてるんですよね。なんでかな?


西暦2042年6月12日  

 

ディルーター帝政連邦国海軍 第6艦隊 旗艦〈ラピード〉

 

 

「…ッ!?…艦隊中央に1隻の所属不明艦が浮上しました!」

 

「まさか、あの攻撃はアレによるものだったのか…!」

 

アルバ司令は戦慄した。第6艦隊は総勢16隻で編成されている。バルバード軍港陸軍基地の破壊までは1隻も被害を受けていなかった。が、帰路につこうとしたところ、突如発生した水柱に5隻の駆逐艦が沈んでいったのだ。

 

慌てて爆雷を投下するものの、効果は無し。ソナーにも反応はなかった。

 

「そんな…ステルス潜水艦など…ファンタジーかよ…。」

 

アルバ司令は思わず、本音を漏らしてしまった。

 

「し、司令!もたもたしてられません!攻撃命令を!」

 

「わ、わかっている。全艦、持てる武装を全て用いて、敵艦を撃沈せよ!」

 

アルバ司令の命令が少し遅れている間に〈伊403〉は攻撃を開始した。

 

主砲である試製30.5センチ3連装無砲身高圧増幅レーザー砲2基による攻撃。それは、狙いを定めた第6艦隊の艦艇を溶かす。金属が融解し、被弾箇所は地獄と化していた。そして、起こる爆発は海を揺らす。

 

「巡洋艦〈ミルド〉〈ガゴーラ〉爆沈!」

 

「巡洋艦〈ゴルド〉大破!」

 

次々と報告される被害にアルバ司令は脚がガタガタと震え出した。彼はディルーター帝政連邦国の技術が世界でトップレベルだと思っている。これは決して、過信ではない。この異世界ではディルーター帝政連邦国は先進国に数えられる1国であり、軍事力でもトップ5に入るほどである。そんな誇らしい自国の技術が最も簡単に踏み潰されていくのは彼からしたら夢としか思えなかった。

 

「くっ…敵艦に攻撃すら当てられんのか!」

 

敵艦…もとい〈伊403〉には煙すら上がっておらず、傷も全く見えなかった。が、第6艦隊は〈伊403〉を攻撃していない訳ではなかった。

 

「ち、違います!…攻撃が通用しないのです!」

 

「ど、どういうことだ?」

 

「我々…参謀が思うに物理障壁の類が使われているのではないかと。」

 

「物理障壁…バリアのような物か?」

 

「そうです。砲弾やミサイルを撃ち込んでも、敵艦よりも先で爆発する。極めつきは青色の膜が微かにかかっているのが見えませんか?」

 

アルバ司令は目を細めて、〈伊403〉を見る。じっくりと、じっくりと。

 

「あっ!…もし、その予想が当たっているとしたら我々に勝ち目は…」

 

「…可能性はあります。」

 

ヒルデ大佐は断言した。彼の目はまだ負けていなかった。

 

「時間がないので簡潔に言いますが、敵艦のバリアは半円状に広がっていると思われます。なぜかと言いますと、全体にバリアが展開されているとすれば潜水できないからです。ここに魚雷があればいいのですが、残念ながら我が国は魚雷は開発中。爆雷を敵艦の周りに投下し、攻撃を与えることができればバリアを展開する装置も破壊できるかもしれません。」

 

ヒルデ大佐の案にアルバ司令は藁にもすがる思いで即刻、採用した。

 

「爆雷を搭載する艦は直ちに敵艦に向けて投下せよ!」

 

ディルーター帝政連邦国海軍が採用している6連装爆雷投射機から爆雷が一斉に投射される。残存している駆逐艦から巡洋艦。はたまた空母から爆雷が弧を描いて、〈伊403〉の付近で着弾する。

 

〈伊403〉の周りを数多の水柱が覆った。轟音が辺りを包み込む。果たして、〈伊403〉はどうなったのか。

 

 

日本連邦国海軍 戦艦機動艦隊 遠距離強襲戦隊〈伊403〉

 

 

「つ、掴まれッ!」

 

「うおッ!?」

 

〈伊403〉は爆雷投射機による攻撃を受けたことで爆発時の衝撃波が艦を襲い、左右上下に激しく揺れていた。砲撃をしていた主砲30.5センチ無砲身3連装高圧増幅レーザー砲から放たれる緑色のビームはあさっての方向へと消えていった。

 

「バラストタンクを自動調整に変更!揺れを抑える!」

 

脱着可能なバラストタンクを用い、左舷右舷のバラストタンクから海水を出し入れして、激しい揺れを抑え込む。〈伊403〉は完全に揺れが収まると攻撃を再び行った。

 

「被害は軽傷!第4区画の第2通路に浸水…のみです。」

 

「…分かった。攻撃は続行…しかし、あの大型空母は残すんだ。」

 

海上を航行しながら多数の艦艇を潰し、とうとう旗艦〈ラピード〉のみとなったディルーター帝政連邦国海軍第6艦隊。ここで〈伊403〉から選択が迫られた。

 

「こちらは日本連邦国海軍戦艦機動艦隊遠距離強襲戦隊の〈伊403〉である。貴艦に告ぐ、直ちに降伏せよ。繰り返す、直ちに降伏せよ。降伏時には白旗を掲げろ。」

 

 

ディルーター帝政連邦国海軍 第6艦隊 旗艦〈ラピード〉

 

 

『こちらは日本連邦国海軍戦艦機動艦隊遠距離強襲戦隊の〈伊403〉である。貴艦に告ぐ、直ちに降伏せよ。繰り返す、直ちに降伏せよ。降伏時には白旗を掲げろ。』

 

突如入った無線。それは〈ラピード〉の船員たちにとっては屈辱以外の何物でもなかった。

 

「………。」

 

「司令…ここは要求を呑むしかありません。」

 

黙り込むアルバ司令にヒルデ大佐は悔しそうに言った。

 

「分かっている…分かっているのだが…」

 

「…はい。」

 

「この戦いで死んだ奴らはどうなるんだ…ッ!…バルバード軍港陸軍基地を破壊はできたが、帰路につこうとしたところに奇襲。それで、我が艦隊は壊滅状態…。奴らの人生はどうだったんだ?…なぁ…ヒルデ。お前はどう思う?」

 

目に涙を溜めながら本音を語るアルバ司令にヒルデ大佐は何も言えなかった。普段の様子は人を捨て駒のように扱う冷酷な人間だと周りからは思われていた。が、それは違った。

 

単にディルーター帝政連邦国海軍第6艦隊が敗北の経験をしていないだけであった。たった1隻によって壊滅状態になる第6艦隊。アルバ司令はどんな作戦をしても味方は全滅しないという絶対的な自信によってあのような作戦指揮を取っていたのだ。しかし、それが見事に崩された今、彼の思いは相手に傷を負わせることができずに死に絶えさせてしまった無念な思い。

 

その思いは彼の正常心を狂わせたのだった。

 

「しかし、司令…このまま闇雲に戦っても、味方を無駄死にさせるだけです。…司令、覚悟を決めてください。」

 

アルバ司令は拳を握りしめ、微かに震えている。

 

「…分かった。」

 

〈伊403〉の要求を〈ラピード〉は呑んだ。白旗を掲げ、降伏した。そして、〈伊403〉の後方からは〈大和〉を先頭とした戦艦機動艦隊が水平線の向こうから太陽を背にして現れた。

 

「ディア・ニュートロン…我々に神の祝福が訪れる様に。」

 

アルバ司令は祈った。拳を激しく握りしめて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




〈ラピード〉は鹵獲されて、解析。透明迷彩の技術を手に入れるという感じになってくる……かな?


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第7話 新たな戦いの始まり

なんか短いかも


西暦2042年 6月12日 

 

ソビエト共産主義帝国 帝都モスクワ 帝王宮殿

 

 

ソビエト共産主義帝国を治める帝王。第12代ソビエト共産主義帝国帝王のヨシフ・ウシャコフが居住する帝王宮殿では各軍大臣が謁見の間に集まっていた。

 

「面をあげよ。」

 

陸軍、海軍、空軍の各大臣は付いていた膝を上げて、一糸乱れぬ敬礼を行った。

 

「作戦を順番に話せ。」

 

「ハッ…ではベニヤより報告させて頂きますと、海軍第10輸送艦隊に陸軍4個歩兵大隊と1個機甲師団、2個工兵大隊を輸送させます。護衛には海軍第2艦隊が担当します。」

 

海軍大臣のベニヤ・ガルドの言葉に帝王ヨシフ・ウシャコフは怪訝な顔をする。

 

「戦艦機動艦隊は出さないのか?余は敵を徹底的に叩き潰してほしいのだが。」

 

「…いえ、戦艦機動艦隊を出す程の相手ではありません。」

 

ベニヤ海軍大臣はニカッと少し引きつった笑顔を見せる。

 

「フッ…まぁ良い。成功すればなんでもいい。続けろ。」

 

「ハッ…では続いてユンカースより報告させて頂きますと、陸軍4個歩兵大隊と1個機甲師団を用いて、敵陸軍基地を収奪しますと2個工兵大隊を用いて前線基地を設置させます。」

 

陸軍大臣のユンカース・ハイデルンは胸を張って、自信満々に報告する。その様子に帝王ヨシフ・ウシャコフは機嫌が良さそうであった。

 

「ゴルバチョフ、貴様も述べろ。」

 

「ハッ…最後にゴルバチョフが報告させて頂きますと、陸軍上陸までに戦略爆撃機群による敵基地のレーダーなどの各種電子施設と大型湾岸施設の破壊を行います。その後は空中給油機を常時展開させ、制空戦闘機で編成された6個航空隊を投入し、制空権を確保します。」

 

「余はお前たちに期待しているぞ。必ず、異世界の利権を獲得するのだ。」

 

ベニヤ海軍大臣、ユンカース陸軍大臣、ゴルバチョフ空軍大臣は敬礼をすると謁見の間から退室した。

 

「…フッハッハッハッ!…余は…余は、この世界で世界皇帝となるのだッ!…地球では苦渋を舐めさせられたが、この星であれば…。」

 

 

西暦2042年 6月13日 

 

ソビエト共産主義帝国 ウラジオストク軍港 

 

ソビエト共産主義帝国海軍 第2艦隊 旗艦〈ソビエツキー・ソユーズ〉

 

 

ソビエト共産主義帝国が誇る超弩級戦艦〈ソビエツキー・ソユーズ〉。それは日本連邦国の紀伊型、北アメリカ連合国のモンタナ級と並べられる3大超弩級戦艦の1つである。

 

そして、この戦艦の特徴は唯一無二のミサイル戦艦である事だ。いわゆるアーセナルシップである。

 

搭載されているミサイルは2種類ある。長距離艦対艦ミサイル[ボローネ]と大型長距離艦対艦ミサイル[パグローム]である。

 

順々に説明していくと長距離艦対艦ミサイル[ボローネ]は弾頭に電磁パルス投写機を搭載した大型巡航ミサイルである。

 

大型長距離艦対艦ミサイル[パグローム]とは他ミサイルのVLS方式とは異なり、艦首と甲板にびっしりと設置されたミサイル発射機から放たれるタグボートサイズの大型ミサイルである。炸薬量は他ミサイルと比べて半端ないが、ミサイルを覆う装甲は空対空ミサイルや対空砲火を跳ね返す。しかも、巡洋艦に搭載可能な艦砲でも撃ち落とすことは不可能に近い為、戦艦を編成していない艦隊はすぐさま大型長距離艦対艦ミサイルの餌食となる。

 

それに加えて、弾頭付近のセンサーが自身を沈めうる口径で迎撃してくる砲弾を捉えると自動的に装甲を分離し、3段式の超音速ブースター飛行へ切り替わるシステムとなっており、戦艦機動艦隊レベルでないとこれらの飽和攻撃の迎撃はほぼ不可能となっている。

 

「全艦抜錨ッ!これより、第2艦隊はディルーター帝政連邦国カイドート地方へ出撃する。スターリン閣下に恥じぬよう一致団結せよ。」

 

第2艦隊司令のベムラーゼ中将は旗艦〈ソビエスキー・ソユーズ〉の甲板にてオーケストラの指揮者のようなステッキを振り回し、興奮していた。

 

「ウラー・スターリン!ウラー・スターリン!」

 

甲板に集合していた船員たちは両手を上げながら叫ぶとベムラーゼ中将は満足そうに頷いた。

 

「これより、解散!我が艦隊は明日、明朝に出港する。今晩は存分に英気を養えッ!」

 

 

ディルーター帝政連邦国 カイドート地方 カイドート軍港

 

 

ディルーター帝政連邦国の帝都ディフェンスに最も近い軍港カイドート。その規模はディルーター帝政連邦国の4大軍港の1つとなっている程である。

 

今日は3個艦隊が停泊中で明日の明朝までにイグルート帝国のバルバード軍港へ出撃する予定であった。

 

ディルーター帝政連邦国海軍 第1機動部隊 旗艦〈ローレッツ〉

 

新鋭空母〈ローレッツ〉。就役からまだ1ヶ月も経っていない本艦であったが、乗員は熟練の船員たちで構成されている為、第1機動部隊の旗艦となっていた。

 

ディルーター帝政連邦国海軍初の三胴であるトリマラン方式の艦艇となっており、イメージとしては2隻の空母が繋がり、そのつなぎ目に艦橋構造物が聳え立っている。

 

搭載機数は150を超える機体を搭載しているが、その代わりに防御は自前の装甲のみであり、対空、対潜、対艦においては護衛の巡洋艦や駆逐艦が行うようになっている。

 

「第6艦隊の二の舞にはなるまい。旗艦は鹵獲されたらしいな。」

 

「ええ、おそらくアルバ中将は捕虜となったと思われます。」

 

第1機動部隊司令のモールス・パターソン大将の投げかけに艦長は深妙な面持ちで応える。

 

「そうだな。何やらイグルート帝国には存在し得ない戦艦が確認されてたそうだ。他国の可能性も否定できん。」

 

「ですね。そうあれば〈ラピート〉が鹵獲されたのは痛いです。」

 

「ああ、イグルート帝国程度なら解析はできないだろうが、先進国であれば…」

 

「「技術は確実に奪われる。」」

 

総勢65隻の第1機動部隊。人工衛星すらないこの異世界でソビエト共産主義帝国海軍第2艦隊が攻撃しにくるとは誰も思わなかった。しかも、この異世界に存在しない国だとは。

 

西暦2042年 6月14日

 

ディルーター帝政連邦国海軍 第1機動部隊 旗艦〈ローレッツ〉

 

ガイドート軍港を出港し、朝日を背に出撃していくその様はガイドート軍港から見送る水兵たちに活気を与えることとなった。

 

「全艦、最大船速!…バルバード軍港までひとっ飛びだッ!」

 

モールス大将はここまでは楽しんでいた。いや、楽しんでいられた。

 

今から数時間後に激闘が繰り広げられるとは思えないほど活気に満ちた第1機動部隊。危機は確実に迫りつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第8話 戦闘開始

西暦2042年 6月14日

 

ソビエト共産主義帝国海軍 第2艦隊 旗艦〈ソビエスキー・ソユーズ〉

 

「前方150海里先から100を超えるミサイルが接近中…。国籍は不明です。」

 

「了解…駆逐艦と巡洋艦は艦砲のクラスター弾で迎撃せよ。本艦は対空型長距離大型ミサイルにて迎撃する。」

 

ベムラーゼ中将の命令に駆逐艦と巡洋艦を編成する第200水上打撃戦隊と第201水上打撃戦隊によるクラスター弾の連射が始まる。

 

ラルチョフ級大型ミサイル駆逐艦の搭載している3連装速射砲、ドント級ミサイル巡洋艦の搭載している4連装速射砲が唸りを上げ、毎秒0.5発のペースで射撃をしていく。

 

ちなみにクラスター弾は砲撃してから、敵機や敵ミサイルまで到達した瞬間に起爆するように設定されている。

 

「敵ミサイル、総数が…80、70、60…30を切りました。」

 

「了解、全滅するまで射撃を続行せよ。」

 

クラスター弾の餌食となった敵ミサイルは木っ端微塵となり、大爆発を起こす。その様子はまさに花火。黒煙と爆炎が織りなす花火大会であった。

 

「敵ミサイル全滅。未だ敵艦を発見できず。」

 

「艦長、ミサイルの大きさから射程を計算してくれ。」

 

「…私ですか!?…分かりました。」

 

艦長はタブレット端末に敵ミサイルを読み込み、大まかな諸元を計算する。そして、類似したミサイルの射程を調べる。

 

「えーと、我が国の艦対艦ミサイル[ソユーズ]が約1800キロメートルです。そして、敵ミサイルは[ソユーズ]に比べて0.5倍なので射程は約900キロメートルだと考えられます。」

 

「分かった。では、長距離艦対艦ミサイル[ボローネ]を敵ミサイルの接近してきた方向の約900キロメートル先に発射する。信管作動は約900キロメートル先にしてくれ。」

 

弾頭に電磁パルスが搭載された長距離艦対艦ミサイル[ボローネ]がVLSから勢いよく白い煙を吐き出しながら、敵艦がいるであろう前方約900キロメートル先へ飛翔していった。

 

 

ディルーター帝政連邦国海軍 第1機動部隊 旗艦〈ローレッツ〉

 

 

「レーダーに反応ッ!ミサイルを探知…数は10、20…依然増えつづけています。」

 

「空対空ミサイルにデータ入力!直ちに迎撃せよ!」

 

ソビエト共産主義帝国や日本連邦国などの地球国家と比べてデータ入力は少々遅く、長距離艦対艦ミサイル[ボローネ]は第1機動部隊へ迫っていく。

 

「データ入力完了!迎撃ミサイル発射まで3、2、1…発射ッ!」

 

各艦搭載の多連装ミサイル発射機から放たれた迎撃ミサイルの総数は60を超え、1発の長距離艦対艦ミサイル[ボローネ]に対して2発ほどが迎撃を行う計算となる。

 

「敵ミサイルとの接触まで、5、4、3、2、1…」

 

突然黙り込んだレーダー士にモールス大将は眉をひそめた。

 

「どうした…?気分でも悪いのか?」

 

「…イ、インターセプトならず!敵ミサイルは迎撃直前に速度を上げ、接近中ッ!」

 

「な…なんだと…ッ!?」

 

混乱する艦橋。透明迷彩の通用しない相手はミサイルを自在に操ることができたのだ。本当はただ単にブースターに点火しただけであるのだが。少なくとも第1機動部隊側からするとそう見えたのだ。

 

「くっ…全艦衝撃に備えよ!」

 

敵ミサイルは迎撃できず、10を超える艦艇が沈んでしまうだろう。モールス大将は歯軋りをしながら叫んだ。

 

「敵ミサイルとの距離、2海里を…ッ!?…敵ミサイルの反応消滅!自爆した模様です!」

 

レーダー士の報告を聞き、すぐさま窓の外を見ると敵ミサイルは爆発し、汚い花火を咲かせていた。その様子を見て、モールスは胸を撫で下ろした。

 

「神は我々に味方をしてくれた…か。」

 

『こ、こちら機関室ッ!自動航行装置が故障しました!』

 

この報告が悲劇の始まりであった。この報告は艦内無線が呼称した時の為に張り巡らされた有線ケーブルを用いた非常用無線からであった。

 

「何ッ!?…機関室、何故非常用無線を使ったのだ?」

 

『何って…無線が使えないんです!他の区画にも繋がりません!』

 

そして、矢継ぎ早に非常用無線から機械の故障が報告される。

 

『こちら格納庫!甲板エレベーターのシステムが停止!復旧には時間がかかります!』

 

『こちら弾薬庫!自動弾薬補給システムが故障!部品がない為、復旧は不可能です!』

 

『こちらレーダー室!全レーダーが故障!透明迷彩も解けました!火災も発生しています!……おいッ!…消火班はまだか!?…くそ!…ここまで火が…うわぁぁぁッ!!!…助けて…助けてくれぇッ!』

 

「チッ…なんでこんな時に電子機器の故障が相次いで…。まさか…電磁パルスか?」

 

モールス大将はそう呟くと首を振った。そんな訳はない。電磁パルスを搭載したミサイルなど構想にすら入っていないのだ。モールス大将は自分の考えを一蹴する。

 

「兎に角、艦の復旧が最優先だ。攻撃は中止、各艦とも通信を繋げろ。」

 

レーダー士はモールス大将の命令に準じて、各艦との通信チャンネルを操作する。しかし、何度やっても繋がらない。レーダー士の首から冷や汗が流れた。

 

「…各艦との通信…取れません。」

 

「くっ…内火艇を使え。こんな状況…100年前でもあり得んぞ…。」

 

 

ソビエト共産主義帝国海軍 第2艦隊 旗艦〈ソビエスキー・ソユーズ〉

 

 

「長距離艦対艦ミサイル[ボローネ]は全弾起爆完了。敵艦隊を捕捉しました。数は65隻です。」

 

「なんたる物量だ…まぁ良い。直ちに反撃せよ!」

 

「司令、反撃というと勿論…」

 

艦長の問いにベムラーゼ中将は意気揚々と答えた。

 

「[パグローム]を出す。」

 

艦内が戦慄した。大型長距離艦対艦ミサイル[パグローム]はいわば切り札。搭載している艦も〈ソビエスキー・ソユーズ〉のみであるのに加えて、搭載量は10発しかない。その為、まだ前哨戦に近いこの戦いで重要な戦力を削ぐことは船員からすると蛮勇でしかなかった。

 

「切り札を出す…ということは司令、それなりに自信があると?」

 

「ああ、我々にはもう1つの切り札がある。それは時が来ない限り、教えることはできない。そのことを知っているのは私と艦長だけだ。」

 

艦内がざわついた。もう1つの切り札とはなんなのか。爆弾か?砲弾が?ミサイルか?様々な憶測が飛び交うが、どれも正解には至らなかった。

 

「[パグローム]、全弾発射よーー…いッ!」

 

ミサイル発射機の安全装置が外されて行き、全てのロックが外れた。すると、[パグローム]のロケットエンジンが熱を持ち、排気熱を放出する。動き出したのだ。

 

「発射まで、5、4、3、2、1…。」

 

「[パグローム]、全弾発射。」

 

〈ソビエスキー・ソユーズ〉を包み込む白煙。それはまるでロケット発射場から打ち上がるロケットさながらであった。

 

艦首から2発、甲板から8発の大型長距離艦対艦ミサイル[パグローム]が打ち上がり、敵艦隊…もとい第1機動部隊へ向かっていった。

 

未だ混乱の続くディルーター帝政連邦国海軍第1機動部隊。果たして、大型長距離艦対艦ミサイル[パグローム]によって消される運命となる。そう、ベムラーゼ中将は思っていた。

 

が、第1機動部隊はただの張り子の虎ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




パグロームのイメージは宇宙戦艦ヤマトに出てくる大型ミサイルですね。2とかに出てくるヤツです。2202の方がわかりやすいかな?


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第9話 敗走

西暦2042年 6月12日  

 

ディルーター帝政連邦国海軍 第1機動部隊 旗艦〈ローレッツ〉

 

 

「前方80海里先に8の大型機を確認。敵機です。」

 

「了解、全艦対空戦闘用意!新鋭機を編成している1個航空隊を直ちに撃墜させよ!」

 

モールス大将の額には冷や汗が流れていた。

 

合計3基の甲板エレベーターを酷使させて、即座に戦闘機を発艦させる。が、その戦闘機は『ランデルスIII』ではなかった。

 

ステルス戦闘機『ニッケル・ガーディアン』である。この機体は第一機動部隊の出撃前に引き渡された軍隊省の航空機開発部門が開発した新鋭機である。技術者たちの血と涙の結晶である『ニッケル・ガーディアン』は『ランデルスIII』の1.5倍の大きさがあるものの、マッハ3戦級で機体は全て曲線で構成された全翼機である。

 

格闘戦は難しいが、敵よりも早く捕捉する長距離レーダーとそのステルス性で敵の姿を見る前に殲滅するのだ。

 

武装は艦首上に埋め込み式の30ミリ4連装赤色対空ビーム砲が1基、機体上に搭載され、ウエポンベイには12発の空対空ミサイルと6発の空対艦ミサイルを搭載できる。

 

現在は海軍機だけとなっているが、対地使用の陸軍機も今後は配備されていく予定だ。

 

『こちらデーダー00、これより編隊の間隔を10キロメートルに開ける。無視界戦闘で敵を叩く。』

 

ウエポンベイがゆっくりと開くとロータリーランチャーに装着された空対空ミサイルが顔をのぞかせた。

 

『こちらデーダー00、大型空対空ミサイルを各機2発同時に発射せよ。カウントは本機が行う。』

 

パイロットたちは操縦桿のミサイル発射ボタンに素早く手をかける。カウントが始まり、今か今かとパイロットたちは待ちわびていた。

 

『5、4、3、2、1……発射ッ!』

 

6機の『ニッケル・ガーディアン』から12発の大型空対空ミサイルが放たれた。煙は赤黒く染まり、空というキャンバスに筆を動かしているようだった。

 

その速度はマッハ4.6。『ニッケル・ガーディアン』から今放たれた大型空対空ミサイルは試作。軍隊省の航空装備品開発部門が無理やり搭載させた代物である。

 

その名も[ドントレス]。弾頭にバルバトス弾の威力を10分の1にまで削った炸薬を有している高威力なミサイルである。現在は大型空対空ミサイル[ドントレス]を改良し、陸上装備品開発部門と協力して、歩兵の携帯する対戦車ミサイルである[ドントレスα]の開発が急がれている。

 

『…敵機はこれで木っ端微塵だ。』

 

その通り。大型空対空ミサイル[ドントレス]に敵わない航空機など存在し得ない。が、今回接近してくるのは航空機ではなくミサイルであった。

 

大型空対空ミサイル[ドントレス]は長距離大型艦対艦ミサイル[パグローム]へ命中。凄まじい爆発と黒煙が辺りを包んだ。

 

爆発と黒煙が晴れる。誰もが迎撃したと考えていた。しかし、長距離大型艦対艦ミサイル[パグローム]は各所に傷や部品の損失はあるものの、堂々とした様子で飛行していた。

 

『…こちらデーダー00、インターセプトならず。依然、敵機は第1機動部隊に向けて飛行中。』

 

『こちらローレッツコントロール、試験飛行隊は〈ローレッツ〉ではなく、付近を航行している護衛空母〈ハイバレート〉へ帰投せよ。』

 

『こちらデーダー00、了解した。』

 

6機の『ニッケル・ガーディアン』は機首を40度回転させ、速度を引き上げた。

 

青い排気熱が飛び出し、炎の長さも増している。ウエポンベイは既に閉じており、突起らしき物は全くなかった。

 

『…レーダーに反応!…敵機が速度を上昇させた。その速度はマッハ5を超えている!』

 

『た、隊長…ッ!…これじゃあ敵と立ち会ってしまうぞ!』

 

敵機という名の大型艦対艦ミサイル[パグローム]との距離は約20海里を切っており、もたもたしていれば見つかってしまうのだった。

 

『くっ…仕方ない。これより、全機有視界戦闘へ移行する!格闘戦モードを起動せよ!』

 

『ニッケル・ガーディアン』に搭載された格闘戦モード。それは未だ安全性が確実に保証されている訳でないことから緊急時以外では使用が禁止されている代物である。

 

大きなモーター音を奏でると機体が変形。可変翼を持っている為、主翼が傾いた。すると、速度が上昇し、パイロットたちの握る操縦桿も軽くなった。

 

そして、空の彼方から白い何かが向かってくるのが分かった。長距離大型艦対艦ミサイル[パグローム]であった。

 

『あれが敵か…お手並み拝見と行こうじゃないか。』

 

全員が敵に対して息巻くが、徐々に敵機が近づくにつれて、言葉数が減っていった。

 

それから数秒が経つとついに、敵機の姿が鮮明に見えるようになった。しかし、彼らが見たのは敵機ではなくミサイルであった。

 

『…何だよ、アレ…。』

 

『敵はミサイル…しかも、極超音速のか…ッ!』

 

パイロットたちは戸惑ったが、直ぐにミサイルの発射ボタンを押して、長距離大型艦対艦ミサイル[パグローム]を撃退するべく短射程空対空ミサイルを放った。

 

が、結果は同じ。更に機関砲での射撃も行うが豆鉄砲に過ぎなかった。

 

『こちらデーダー00、我が隊では迎撃できず!敵ミサイルは我が艦隊の方へ飛行中!』

 

 

ディルーター帝政連邦国海軍 第1機動部隊 旗艦〈ローレッツ〉

 

 

「…クソ!バルバトス弾を積んでいる艦は直ちに敵ミサイルに向けて砲撃を開始せよ!」

 

モールス大将の額からは冷や汗が滴り落ち、瞼は痙攣している。

 

各艦の主砲が動き出し、見るも凄まじい黒煙を噴き出した。まるで管制制御など為されていないかのように連射されるバルバトス弾。

 

「早く…早く撃ち落とすのだ…ッ!」

 

鋼鉄の咆哮が鳴り響き、上空にいくつものキノコ雲が形成され、雲を切り裂いていく。

 

「敵ミサイルとの距離、5海里を切りました!」

 

「駆逐艦〈ドーパ〉〈ゴールド〉のバルバトス弾枯渇!続いて巡洋艦〈ガルド〉〈コンバー〉のバルバトス弾も枯渇しました!」

 

最悪の報告の嵐。モールス大将は艦橋の大きな窓から接近してくる[パグローム]を肉眼で捉えた。

 

「あれは…ミ、ミサイルッ!?」

 

ようやく気づいたモールス大将。しかし、今更気づいたとて関係はない。

 

対空砲火の弾幕が[パグローム]を包み込むが、それは[パグローム]の装甲を撫でるだけであった。

 

[パグローム]は徐々に光を帯び始め、閃光を放つ。それに加えて、さらに加速した為、甲板にいる乗員や観測員たちはその恐怖に怯えて海に飛び込んでしまった。

 

細い水飛沫が立ち上がり、乗員たちはぷかぷかと波に身を委ねて浮き沈みする。

 

「ぜ、全員退避ーッ!!」

 

彼らの知るバラバトス弾を超える爆発が旗艦〈ローレッツ〉を含む第1機動部隊の半数を包み込んだ。

 

爆発によって発生する津波は残存艦艇を押し流した。特に駆逐艦の被害は酷く、ほぼ転覆している物から大破している物などと散々であった。

 

巡洋艦や空母、輸送艦においては酷くても小破という結果に落ち着いている。

 

 

臨時旗艦〈パイオニア〉

 

旗艦〈ローレッツ〉が消滅した今は空母〈パイオニア〉に乗るレクター少将が陣頭指揮を取っていた。

 

「全艦離脱!動ける艦は直ちに本海域から脱出せよ!」

 

「…し、少将ッ!…漂流している乗員の救出はしないのですか?」

 

参謀からの疑問にレクター少将は悔しそうに答える。

 

「第1機動部隊の半数が消失し、尚且つ残存艦艇も無視できない被害を被っている。こちらに乗員を救出する程の余裕はない。」

 

艦艇の沈没時に発生する水流により、いくつもの渦が海面に発生し、海に浮かぶ生存者を飲み込んでいく。

 

悲鳴や救助を乞う声は海中にかき消されていった。

 

「…何処の国だ。もし、イグルート帝国ならば本国は非人道兵器の投入もやむ終えないと判断するか。」

 

レクター少将の呟きに何人かの乗員の耳が反応したが、直ぐに各自の仕事に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第10話 陽動作戦

西暦2042年 6月14日

 

イグルート帝国 ラーバア軍港陸軍基地

 

 

「…壮観だな。しかし、この内の何隻が戻ってくるのだろうか。」

 

イグルート帝国3大軍港に隣接するラーバア軍港陸軍基地司令はラーバア軍港に停泊している第4試験艦隊を眺めていた。

 

時に西暦2042年6月14日。イグルート帝国はディルーター帝政連邦国によるバルバード軍港及びバルバード軍港陸軍基地への武力侵攻を受けて反撃の一手を放とうとしていた。

 

それが第8試験艦隊である。が、試験艦隊とは名ばかりで退役間近の老朽艦のみで編成されているが、それを活かして不相応な費用対効果の見込めない高威力兵器を搭載している。

 

艦の殆どが無人であり、旗艦〈イグニッション〉のみに12名の乗員がいるだけであった。

 

総勢32隻の第4試験艦隊は出撃から3時間後に出撃するイグルート帝国海軍虎の子の第3空母打撃群の陽動として責務を全うする予定だった。

 

 

第4試験艦隊 旗艦〈イグニッション〉

 

試作兵器の火焔旋回砲を搭載している旗艦〈イグニッション〉。艦隊司令のメール大佐は死に戦であるにも関わらず、満面の笑みを浮かべていた。

 

「定年間近の俺たちが国の為に命を散らす戦などもう来ないかと思っていたが、神は俺たちを導いてくれた…。だろう?」

 

メール大佐の問いに周りにいる部下たちは頷く。メール大佐を含む部下たちは全員が白髪混じりで顔に皺が刻まれている。

 

軍のお荷物などと言われる事もあったが、そのような不名誉を挽回する時が来た。士気は天を衡かんばかりであった。

 

「全艦出撃ッ!…第3空母打撃群を無事に敵地へ届けさせるのだ!」

 

変形型魔導スクリューが回転し、急加速したことから艦首が持ち上がる。水飛沫を放ちながら第4試験艦隊はディルーター帝政連邦国海軍最大の軍港であるハンジャール軍港へ向かった。

 

 

ディルーター帝政連邦国 首都メビウス 大統領官邸

 

超高層ビルの立ち並ぶ摩天楼の中心をくり抜いたかのようにポッカリと空いた場所。そこには六角形の建物が建てられており、周りには常時銃を持った歩兵や歩兵戦闘車が警備をしていた。

 

大統領官邸である。その中に存在する執務室では2人の男がワインを呑み交わしていた。

 

「その北アメリカ連合国との接触は上手くいっているのか?」

 

「はい、異界から訪れた国家は我々に大きな繁栄をもたらしてくれるでしょう。」

 

ドルシーラ・テルート大統領の言葉に補佐官は自信満々に答えた。

 

「例えば…?」

 

「異界から訪れた国家は全て魔素が検知されておらず、全て物理法則に則った技術を持っているのです。つまり、基礎的な技術は彼らの方が上。しかし、この世界は魔法が全てを解決する。我々は北アメリカ連合国に魔導技術を小出しにして与え、その対価として彼らの発展した技術を得る。彼らはそれを科学と呼んでいるようですので魔法と科学が融合した魔導科学で世界一の座を取り戻して差し上げましょう。」

 

「なるほど…想像だけ先行しても仕方ない。実現は可能なのか?」

 

「ええ、可能です。魔導科学を用いる事ができれば我が国は更なる発展を遂げるでしょう。」

 

「まぁ良い、資金の調達はしてやる。だが、失敗はするなよ。これ以上ウェストノース帝国との技術格差を開くことはできまい。」

 

補佐官は不敵な笑みを浮かべるとゆっくりと頷いた。

 

(全ては救世主による救いの為に…。)

 

 

ストファール地方 ハンジャール軍港 

 

聳え立つ鋼鉄の城。それはディルーター帝政連邦国海軍が誇る機密艦隊であった。それらは停泊し、白い煙をもうもうと吐き出していた。

 

時代に先駆けた先駆艦隊。旗艦〈ハインケル〉を中心としたX艦隊はイグルート帝国海軍の第4試験艦隊を捉えており、出撃準備を整えていた。

 

旗艦〈ハインケル〉

 

ミサイル艦という分類に入るこの艦艇は総勢24隻の内の20隻を構成している。計200セルものVLSが搭載されており、発射するミサイルの全てが対艦仕様だ。ミサイルは新型であり、ディルーター帝政連邦国軍初の超音速ミサイルとなっている。

 

姿形は簡単に言えば巡洋艦の艦橋や甲板に搭載された武装を完全に取り外しただけであるが、構造は似て非なる代物となっていた。

 

「全艦システム起動、連動開始。」

 

旗艦〈ハインケル〉が動き出すとそれに応じるかのように他艦も同じ動きを見せた。イグルート帝国海軍の第4試験艦隊のように遠隔操作で動き出したX艦隊。作戦は誰にも知られていないはず…。

 

が、極秘裏に動く彼らを密かに監視している者たちが海の底に鎮座していた。

 

「ディルーター帝政連邦国艦隊を確認。秘匿回線にて〈大和〉に情報を転送。」

 

それは、単独で駆り出された日本連邦国海軍戦艦機動艦隊所属の遠距離強襲戦隊〈伊301〉であった。

 

機関を停止させ、沈黙を守り続ける〈伊301〉はディルーター帝政連邦艦のソナーには全く捉えられておらず、X艦隊が出撃していく様子をじっと見ていた。

 

「じきにラーバア軍港から出撃したイグルート帝国艦隊と衝突するだろう。ここは眺めさせてもらおうか。」

 

「別動隊を悟られない為の陽動。艦の所々に傷や錆びが見られている老朽艦隊らしいが、彼らは最初から帰還が考えられていない。いわゆる特攻隊みたいな物だな。」

 

「…時間帯からして優雅なディナーってところか?」

 

「ハハハッ…間違いない。」

 

微かな暖色の光の中で小声で話す乗員たち。彼らの目の前には1つの卓が引き出されていた。

 

その上には日本銀行券と書かれた紙が数枚乱雑に置かれていた。

 

「俺はイグルート帝国を信じるぜ。」

 

「じゃあ俺はディルーター帝政連邦に賭ける。…これでどうだ?」

 

「フッ…負けても知らないぞ。」

 

 

第4試験艦隊 旗艦〈イグニッション〉

 

 

「第2戦隊全滅ッ!被害は以前拡大中!」

 

「前方よりミサイルがさらに接近中!総数は200を超えています!」

 

旗艦〈イグニッション〉の艦橋は阿鼻叫喚で包まれていた。それは第4試験艦隊の状況を見れば直ぐに分かる。

 

転覆する駆逐艦、艦尾だけを海面に突き出し、今にも沈みそうな艦。黒煙を噴き出しながら停止する艦や弾薬庫に誘爆して大爆発を起こす艦など第4試験艦隊は艦隊の6割を喪失する結果となっていた。

 

「敵艦隊はまだ捕捉できないのか?」

 

「はい、艦対艦ミサイルの射程から考えると通常のディルーター帝政連邦艦であれば既に捕捉できている筈です。」

 

「…となると敵の新型艦か?まずいことになったな。」

 

メール大佐はため息をつくとコーヒーを啜った。

 

「この老ぼれが敵の新型艦隊を相手せねばならんとは。神はワシらか敵か、どっちの味方に付いているんだか。」

 

「本艦にミサイル接近!総数は12。撃ち落とせ!」

 

右舷4基の4連装対空赤色ビーム砲が唸りを上げ、細いビームの弾幕がミサイルの弾頭を貫いていく。

 

次々と爆発する敵ミサイル。しかし、その数発が対空ビーム砲の弾幕を抜け出し、〈イグニッション〉の右舷に突き刺さった。

 

「右舷被弾!ダメージコントロール!」

 

「第3区画にガス発生!隔壁閉鎖を行う!」

 

厚い黒煙が〈イグニッション〉を包み込む。が、〈イグニッション〉の速度は依然変わっておらず、防御力の高さがうかがえた。

 

「敵艦隊捕捉!総数24隻です!」

 

「敵は我が方の3分の2程か。火焔旋回砲の射程までは?」

 

「射程内です。」

 

「皆の者よ、よく聞け。我が艦隊は敵艦隊を撃滅する為に敵艦隊の陣形へ切り込む。今日が命日かもしれない。死が怖い、そう思う者もいるだろう。しかし、我々イグルート帝国軍人。今こそ、国に命を捧げる誓いを果たす時が来たッ!」

 

メール大佐はそう言い切ると、思いっきり息を吸った。ただでさえ分厚い胸板が一層膨れ上がった。

 

「全軍突撃せよッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第11話 決着

西暦2042年 6月14日

 

イグルート帝国海軍 第4試験艦隊 旗艦〈イグニッション〉

 

 

「火焔旋回砲への回路開け。」

 

「魔導エネルギー伝導開始…エネルギー充填100パーセント。」

 

「火焔旋回砲、発射準備完了。」

 

全速前進で突撃していく第4試験艦隊にX艦隊は艦対艦ミサイルによる飽和攻撃を開始した。次々と飛翔する極超音速ミサイル。空を埋め尽くすそれらを目にしても第4試験艦隊は止まることを知らなかった。

 

そして、編成されている高射艦〈ハブラド〉〈ハイゼル〉〈ダラーニア〉〈ギルバード〉が数多の赤色ビームを浴びせ、数多の艦対艦ミサイルを撃墜せしめた。

 

高射艦は艦橋構造物以外の全てに大小様々な対空ビーム砲が敷き詰められている。それに加えて、艦の7割が魔導機関で占められている為、エネルギー供給がとても素早く、再装填の時間は3コンマあるか無いかという程であった。無論これは実験艦であり、新型赤色対空ビーム砲の有効性などを調べる時に使われていた。

 

「火焔旋回砲、発…ッ!」

 

旗艦〈イグニッション〉の右舷が消失した。凄まじい揺れと高波で艦は一気に制御を失ってしまった。

 

「機関中破!航行に大幅な支障あり!」

 

「魔導エネルギー充填室からエネルギー漏洩!充填率が下がっていきます!」

 

「第5から8区画にて浸水発生!」

 

矢継ぎ早に飛び交う被害報告。それは今まで冷静だったメール大佐の動揺を引き出した。

 

「一体…何が起きているんだッ…?」

 

左舷からもうもうと噴き出す黒煙。しかも、旗艦〈イグニッション〉の後続を航行する艦艇は軒並み轟沈しており、良くても大破という甚大な被害を被っていた。

 

「艦長、ここは例の装置を使うべきかと…。」

 

「…敵艦隊をここで潰さなければ、この作戦の成功はない。直ちに小ワープ準備ッ!!」

 

 

ディルーター帝政連邦国海軍 X艦隊 旗艦〈ハインケル〉

 

 

「フハハハッ!…イグルート帝国よ、我々に楯突くなど浅ましいにも程があるぞ!」

 

敵旗艦の損傷する様子を見て、1人だけ乗艦している髭を蓄えた男は大きく笑った。見た目とは反対に手にワインボトルを持ちながら、直接ゴクゴクと飲むその風貌は蛮族に近しかった。

 

彼の名はシュワイザー・アルフォート。ディルーター帝政連邦国議会の上院議員である。彼はディルーター帝政連邦国の造船業を牛耳る男でもあった。軍、民間問わず90パーセント以上のシェアを保ち続ける大企業グループの会長を勤めている。

 

その為、シュワイザー上院議員は海軍に働きかけ、本来ならば完全無人運用のされる筈だったX艦隊に乗艦したのだった。その理由は単なる好奇心のみである。

 

「うむ…しかし、もう少し命中精度が上がれば艦橋ごと吹き飛ばして無力化できるようになるのだがな。」

 

第4試験艦隊旗艦〈イグニッション〉を貫いたのは旗艦〈ハインケル〉にしか搭載されていない後付けの決戦兵器だった。それは艦首に搭載され、禍々しい雰囲気を纏わせながら紫色の蒸気を吐き出していた。

 

「決戦兵器ダルケル砲。非常に楽しみな武器だな。」

 

『次弾装填ノ為、魔導エネルギー充填ノ許可ヲ求メマス。』

 

「許可する。次弾で必ず沈めよ。」

 

『期待通リニ…。』

 

決戦兵器ダルケル砲の砲口が紫色の閃光に包まれる。チカチカと光の強弱をつけながら魔導エネルギーを充填していく。

 

『魔導エネルギー充填100パーセント。』

 

「ダルケル砲発射まで5、4、3、2、1…発射ッ!!」

 

淡い青色の稲妻を纏わせながら、濃淡の激しい紫色の閃光が直進していった。海面ギリギリを直進していることもあり、大海原を切り裂いていった。

 

ダルケル砲が海面に着弾し、地表が隆起したかのような潮の塔が創り上げられた。

 

「…やったか?」

 

シュナイザー上院議員は正面に設置された巨大モニターに対して、食い入るように覗き込んだ。しかし、ダルケル砲の着弾した海面には濃い泡しか浮かんでおらず、敵旗艦が見当たらない。しかも、周辺には他の敵艦艇の残骸が浮かび、転覆している物や装備だけがプカプカ浮いていた。敵旗艦の居た場所だけが何もなく、綺麗な群青色を見せていた。

 

 

イグルート帝国海軍 第4試験艦隊 旗艦〈イグニッション〉

 

 

「火焔旋回砲、発射まで…5、4、3、2、1…発射ッ!」

 

様々な色彩を纏った暖色の豪炎が辺りを包む。そして、それらは風のように舞うといつしかトルネードを形成し、高速で直進し始めた。

 

「火焔風、速度を上げて直進。」

 

「予想到達時間、あと12秒。」

 

黒煙をもうもうと噴き出していた旗艦〈イグニッション〉は既に修理班による応急処置が完了していた為、大穴が空き、黒焦げになっている被弾部が露わになっていた。左右に大きく揺れながら航行するも、艦の制御に支障はない。もっとも、艦内にいる乗員たちは酷い有様だったのだが。

 

ところで、決戦兵器ダルケル砲で消滅した筈の第4試験艦隊。が、旗艦〈イグニッション〉1隻だけが生存していた。そのポイントは元いた場所から、なんと約50海里先。

 

それは旗艦〈イグニッション〉の両側にそれぞれ4基搭載された魔導次元跳躍基による小ワープであった。普通のワープももちろん可能なのだが、リスクが高く、実験中に別次元から抜け出せないなどの遭難が相次いだ為、小ワープのみに使用が留められ、余程の緊急事態でない限りの使用は認められていなかった。

 

「これでチェックメイトだ…ッ!」

 

火焔旋回砲の紅炎に包まれるX艦隊。その姿をモニターで見ながらメール大佐は勝ち誇ったように拳を握り締めた。

 

紅炎に包まれ、次々と爆発するX艦隊。もちろん、旗艦〈ハインケル〉も例に漏れず、左舷、右舷、艦首、艦尾など各部分が時間差で爆発していった。すると、艦橋が強力な電流を帯びた。そして、左右上下に激しく揺れると艦橋だけかすっぽりと消滅した。無論、それは紅炎に包まれながら起きた出来事であったので、メール大佐たちは気づく様子がない。最も、気づいたとしても気にすら止めなかったと思うが。

 

「副長、本艦隊の損耗率は?」

 

「およそ62パーセントです。小破や中破した艦も含めれば80パーセントを超えます。」

 

「なんと…。これでは作戦の継続は不可能に近い。しかし、第3空母打撃群の陽動は続けなければならない。彼らの作戦開始時間はあと1時間弱……どう持ち堪える…ッ!?」

 

メール大佐は苦悩する。それは他の乗員も同じで、どんよりとした空気が漂っていた。

 

 

日本連邦国 首都東京 首相官邸 第8大型会議室

 

 

眠らない都市、東京。そこは日本連邦国最大の都市にして首都である。人口は約2500万人という地球世界でも随一な超人口過密都市となっている。そして、警視庁や国会議事堂のある永田町に聳え立っている首相官邸に大勢の記者たちが詰めかけていた。

 

全長は100メートル、全幅は200メートルを超える大きさの巨大会議室。そこでは高級そうな素材の用いられた椅子が並び、記者たちはそこにちょこんと座っていた。だが、彼らの持つ映像機器を構える態勢は可愛いものではなく、全身から熱気を放つ者やシャッターチャンスを逃さまいとピクリとも動かない者など一般人とは異なる風貌であった。

 

SPたちが木製のドアを開けると一斉にフラッシュが焚かれた。最も、数十年前と比べるとその半分もなく、それほど眩しいものではなかった。

 

堂々と胸を張りながら入場したのは第102代内閣総理大臣の神野浩一である。明治時代の官僚のように長く伸ばした白髭を蓄え、オーダーメイドのスーツを見にまとっていた。

 

壇上に上がり、両手を付くと深く息を吸ってマイクに息を吹き込んだ。

 

『国民の皆様、こんにちは。神野浩一でございます。本日、私が記者会見を行った理由は唯一つ。それは異世界国家の件です。国交を結び、様々な友好条約を締結してきたイグルート帝国の仮想敵国であるディルーター帝政連邦国はイグルート帝国への侵攻を開始し始めました。幸い、ディルーター帝政連邦国軍はイグルート帝国へ上陸しておらず、緊迫とした状況が続いています。そこで、我々は閣僚会議を開き、全会一致でイグルート帝国へ軍事物資の支援と軍隊の派遣を決定付けました。』

 

記者たちは凄まじい衝撃を受けた。スピーチが一区切りつくと質疑応答が始まり、記者から猛烈な勢いで質問が飛び出したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやく参戦しますね、長らく出てこなかった戦艦機動艦隊がようやく出てくると思う…かも?


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