SAO ~銃の喝采の鳴る仮想の地で~ (見知らぬ誰か)
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第01話 過去と再会と

 小学5年の二学期が始まってすぐの事だ。俺は親と共に漢字検定のお金を入金するために郵便局へと来ていた。

 自分の事であるにも関わらず、俺は局内のベンチに座ってその頃からの愛読書だった銃器名鑑を読んでいた。かなり分厚い本だった気がした。

 隣を見れば同じクラスの俺の数少ない友達の朝田さんが本を読んでいた。途中で本を読むのに飽きてきて、朝田さんも本を読むのに珍しく飽きたようだったから俺と朝田さんはしばらく話していた。

 キィ……とドアが鳴る音を聞いて俺と朝田さんは入ってきた1人の男を見た。灰色っぽい服装で片手にボストンバッグを持った中年の痩せ男だった。

 男は入り口で足を止めて局内をぐるりと見回した。一瞬、その男と目が合った。その目の真っ黒の瞳はせわしなく動いていた。焦点が定まって居ない……これは薬か何かやっているというのは警察24時などのテレビ番組を見ていて知識として理解していた。

 男は貯蓄を落とそうとしていたであろう朝田さんの母を突き飛ばし、ボストンバッグをカウンターに置くとその中から黒い物を取り出した。

 一瞬しか見えなかったが、銃器名鑑を見ていた俺はそれを見た瞬間それが銃だというのが分かったし名前も分かった。

 

──その名を《五四式・黒星(ヘイシン)》──

 

 元はソ連で使われていた物を中国がコピーした自動拳銃だ。通常の拳銃よりも火薬量が多く、初速は音速を超える弾を撃つ。そんな銃を男は右手で持ち、男性局員に突き付けた。

 その瞬間に漸く俺は理解した。コイツは強盗だと。

 

「この鞄に金を入れろ!ありったけ全部だ!!」

 

 男性局員がそう言われるとぎこちない動きで鞄に札束を詰めていく。

 そして次の瞬間。

 

パァンッ!

 

 耳が痛くなる破裂音が耳につんざき、その次にキンと排出された空薬莢が床に落ちた音が聞こえた。

 強盗の持っていた銃の銃口の先にはお金を詰めていた男性局員がシャツの胸の中心部分にある赤い染みの所を両手で押さえていた。

 

「ボタンを押そうとするんじゃねぇ!」

 

 男性局員は胸を押さえながら横に倒れていった。

 

「チッ!」

 

 強盗は局内をぐるりと見回すとカウンターの奥にいる女性局員2人に銃を向けながら言った。

 

「おい、お前!こっち来て金を詰めろ!」

 

 そんな事を言われても女性局員は動ける筈もなく、2人固まった立ち尽くしていた。

 

「早く来い!!」

 

 強盗の声が響いたが女性局員は細かく首を振るうだけで動こうとしなかった。

 男はもう1人撃とうと思ったのか職員のいるカウンターではなく、客用スペースを向いた。そうして狙いを着けたのは宙に虚ろな視線を向ける朝田さんの母だった。

 次の瞬間、俺と朝田さんはほぼ同時に走り出した。朝田さんは右手首に噛み付き、俺は強盗に右肩からタックルを喰らわせた。

 いくら子供と言えども噛み付かれ若干後ろに仰け反っていたその体勢では耐えることは出来なかったようで、強盗は後ろ方向に倒れた。

 倒れるのとほぼ同時に強盗は腕を朝田さんごと振るって朝田さんをはずした。それと共に右手の銃も放してしまったようで黒星は朝田さんの前に転がっていた。

 朝田さんはその銃を両手で持って強盗に向けた。強盗は倒れた状態から急いで起き上がり、朝田さんの持っている銃を取ろうとしたが、強盗が朝田さんの手を握り、銃から手を放させようとした瞬間

 

パァンッ

 

 二度目の銃声が響いた。

 その後、更に二回銃声が鳴ると強盗は倒れた。強盗の顔を見れば眉間の所に穴が空いていた。

 

※─※─※

 

「はぁ……」

 

 俺は教室の前の廊下に立って溜め息を吐いた。親の都合で引っ越しをすることになり、高校の編入試験を受けてなんとかそれをクリアし今日からこの新しい学校に通うのだ。

 ついでに親は俺にアパートの部屋を与えて親は借家を借りた。俺が邪魔だったんだろうか……いや、どうでも良いけど。

 

「──では、入って来い」

 

 担任にそう言われると俺は教室のドアを開けてクラスに入った。ホワイトボードには担任の男が書いたであろう俺の名前が綺麗な字で書かれていた。見掛けによらず丁寧な字だと俺は思った。

 俺はクラスの生徒が見えるようにそちらを向くと自己紹介をした。

 

「神那岐(かんなぎ) 汐耶(しおや)と言います。趣味は読者、好きな物は──」

 

 銃です、と言おうとしたところで俺は一瞬留まった。何故ならあの事件以来話すことが無くなった朝田さんが居たからだ。

 

「──ま、特にはありません。あえて言うならミリタリー関係って事にしておいてください。では、これからよろしくお願いします」

 

 銃が好きだと言うのを留まった理由、それは朝田さんを思っての事だ。

 あの事件以来、朝田さんは虐めにあっていた。銃で人を殺した、人殺しだ……そんなのは小さな町では一瞬で広がった。正当防衛だろうが何だろうが人殺しだ。そんな理由で虐めにあっていた。

 朝田さんを助けようと声を掛けたが『放っておいて』とピシャリと言われた。

 

「じゃ、席は……」

 

 クラスを見回して担任が空いている席に行かせようとしたとき、担任は席がどこかと言うのを止めた。担任の視線の先には空いている席では無く、その右隣の席に座っている朝田さんだ。左の廊下側の席も空いているが恐らく不登校が居るのだろう。

 見れば周囲の視線も朝田さんに向かっている。あの視線……どこかで……。

 そこで漸く俺は気が付いた。クラスメートの視線、それは犯罪者を見るような目だ。担任は流石にそんな目では無いが、何かを……確実に蔑む目を抑えるような目だった。

 これが示す事はただ一つ、朝田さんの過去を知っている者がそれを言い触らしたという事だろう。最近、マスゴミの情報のみならず普通の奴らの情報ですら疑いなく信じる傾向があるから困った物だ……。

 

「チッ……」

 

 俺は小さく、しかし一番前の列や担任には聞こえるような苛立ちを込めた舌打ちをして窓際の一番後ろの席に座った。

 

「あの……」

 

 朝田さんが声を掛けてきたが今の所は朝田さんに誤解されようが何しようが無視だ。話すのは授業中、特に世の中で使わないだろうと思われる歴史の時間だ。朝田さんも中学の頃は適当にしか受けてなかったからな。

 話し方は……筆談で問題ないだろう。切欠は……資料集がないって事で問題ない。

 

※─※─※

 

 そうして午前の3時限目、歴史の時間。

 

「では、資料集を出して下さい」

 

 歴史の担任はお爺さんだった。何気にラッキーだね。

 そこで俺は朝田さんに話し掛ける。

 

「あのさ……」

「何?」

「資料集持ってきてなくて……見せてくれない?」

 

 俺がそう言うと朝田さんは無言で机をこちらに寄せて来た。俺も席をくっつけるように机を寄せる。

 俺が席をくっつけると朝田さんはルーズリーフを一枚取り出して何かを書くと此方に見せた。1行目にはこう書かれていた。

 

『久しぶり』

 

 俺はその2行目から返事を書いた。

 

『久しぶり。何やらクラスでやらかした様だね。この分で行けば、全校に広まってる感じかな?』

 

 朝田さんは目を見開き返事を書く。

 

『何で分かったの?』

『クラスの雰囲気、あとクラス委員長から聞いた話と一番朝田さんに蔑む目を送っていた女子3人からの垂れ込み情報。よく全員あんな情報を信じられたなー……と思いつつ聞いてた』

『それで?』

『ま、偶然にも同じ学校同じクラスだ、よろしくね朝田さんm(_ _)m』

 

 筆談で顔文字……良いよね。

 

『変わってないね……あの頃から』

『あの頃は大変だったよね~。俺の地道な草の根外交も功を為さなかったし』

『草の根外交?』

『クラスへ真実を伝えただけ』

『しなくて良いって言ったのに』

『当事者ですし。友人を助けるのは義務ですので(^_^;)』

 

 朝田さんははにかむような笑みを浮かべた。自然な、故意に出した笑顔ではない、極々自然な笑顔だ。

 

『ところで、銃器名鑑は読まないの?あの頃の愛読書だったよね?』

『ん……ま、ちょっとね』

『別に読んでも良いのに』

 

 心を見透かされた気分だな。小学の頃からそんな感じだったし。

 

『ま、なら読むよ。最近は真面目にミリタリー……って言っても銃器と戦闘機だけどね……に興味があってね』

『てことは自衛隊志望?』

 

 残念、外れだね。

 

『いや、普通の会社に就職する予定だよ。まぁ、直で就職じゃなくて専門学校に行ってからだけどね』

『そうなんだ』

 

キーンコーンカーンコーン

 

 ここで授業終了の鐘が鳴る。何気にタイミングが良いのか悪いのか分からんな……。

 

「起立、礼!」

 

 授業が終わると俺と朝田さんは席を戻して次の授業の用意をする。

 用意が終わると俺は机の横に掛けていた鞄から愛読書の銃器名鑑(三代目)を取り出して読み始める。

 

「お?転校生は銃とか好きなんだぁ……隣の朝田もさぁ、銃見て吐くぐらい好きだからもしかしたら気が合うんじゃね?」

 

 確か遠藤とかっていう奴が突っかかって来た。読むのを止めてたのはこうなるのが嫌だったからだよ……まったく。

 

「そうだねぇ~……気は合うかも知れないねぇ~……ねぇ、朝田さん?」

 

 朝田さんは読んでいた本を読みながら答えた。

 

「そうね」

 

 俺は銃器名鑑を閉じて朝田さんに右手を差し出した。

 

「よろしく」

 

 朝田さんも右手を差し出して俺の右手を握った。

 

「はぁっ!?馬鹿じゃねぇの?朝田は人殺しだぞ?」

「んでどうしたの?」

「そいつは根っからの犯罪者なんだってのが分かんねーのか?」

 

 人1人を正当防衛で殺して人殺しって馬鹿じゃね?

 

「馬鹿が居る。この場に馬鹿がいらっしゃる……」

「どういうこことだよ?」

「しっかりと朝田さんの件について調べ直しやがれ。馬鹿共」

 

 俺は本を開き読み始めた。




……これから頑張ります。


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第02話 過去のトラウマとゲーム

 4時限目終了直後、汐耶はクラスの誰かと質問に答えつつ昼食を取るという事はせず、鞄から弁当と黒い板のようなものを取り出すとそれらを手に持ちそそくさと教室を出て行った。

 詩乃はそれを横目で見つつ、何時ものように愛読書の本と弁当の入った袋を持って教室を出て何時も昼食を食べている屋上に向かった。

 詩乃が屋上のドアを開けるとそこには授業終了直後速攻で教室を出て行った汐耶が詩乃が何時も昼食を食べているベンチで黒い板のようなタブレットPCで何かをしながら昼食を食べていた。

 汐耶は人というよりも詩乃の気配を察知したようにタブレットPCから顔を上げて詩乃を見た。

 

「やぁ、朝田さん」

「教室で食べないの?」

 

 汐耶はウーン……と少し悩むと何かを思い出したようにニヤリと笑うと言った。

 

「俺、コミュニケーション能力低いから」

「……確かにそうだったわね……その割に学校の規則とかは思いっ切り破ってPCとかポータブルゲーム機とかポータブルデバイスもって来てクラスの人気者になってたけど……」

 

 汐耶は、ははは……と笑うと言った。

 

「いやぁ……あれは俺の楽しみの一環だよ」

「と言うと?」

「小学では無かったけど中学じゃ持ち物検査ってあったろ?」

「そうね……しかも抜き打ちで」

「俺がそう言う事をして他の奴に持ってこさせるだろ?で、俺は嫌な予感がしたときに持って来ない……すると見事に打ち抜き持ち物検査……あらびっくり、検挙者多数で漏れなく人の不幸は蜜の味を味わえます」

「えげつないわね」

 

 汐耶はけらけらと笑うと自分の座っているベンチの端に移動した。

 

「昼飯、食わないの?座ったら?」

「あ……うん……」

 

 詩乃はぎこちない動きで汐耶が座っている右端の逆の左端に座ると袋から弁当箱を取り出して食べ始める。

 

「ねぇ……なんで神那岐くんは私に関わろうとするの?私は人殺しなのにさ……」

「…………」

 

 汐耶は口に運び掛けていたおかずを弁当箱に戻して詩乃に聞いた。

 

「関わる理由?大した理由は無いと思うけど……強いて言うなら……そうだなぁ……これを撃ったときの感覚が知りたいから……かな?」

 

 汐耶は制服の上着から黒星を取り出して詩乃に見せた。

 

「ひぐっ……」

 

 その銃を見た瞬間詩乃はそれから目を離せなくなった。それと同時に呼吸が乱れ吐き気が詩乃を襲い、詩乃の全身を冷気で包んだ。

 詩乃は膝に乗せていた弁当箱と箸を屋上のに落とし、弁当箱の中身をぶちまけたのにも気付かず、前に倒れ込む。

 

「ヤバっ…………見せるんじゃなかった……!」

 

 汐耶は手に持っていた黒星を制服の中に仕舞うと倒れ込んできた詩乃を受け止めた。

 

「ごめん、朝田さん……何も考え無さ過ぎだったな……」

「…………」

 

 詩乃は受け止められている汐耶に抱きついた。

 トラウマとなっている銃を詩乃に見せた汐耶だが、詩乃にはそれが悪意で見せたものでは無いことは分かっていたから汐耶の腕の中は安心出来る場所だった。

 汐耶は詩乃抱きついている詩乃を抱き返し、詩乃に小さく声を掛けた。

 

「……ごめん、本当に何にも考えないであんな事してさ……

 信じられないかもしれないけど……あれは嘘だから気にしないでくれる……?」

 

 その言葉に詩乃は小さな、とても小さな声で答えた。

 

「分かってる……分かってる……だから、信じるわ……」

「……嘘は言わなくて良いよ……」

「本当にそう思ってるわ……だから、本当の事を教えてくれない?」

 

 汐耶は少し黙ってから口を開いた。

 

「……良いよ。

 俺は、あの事件の場にいた人として……友達として朝田さんの安心出来る場所になりたいと思ったから、君に関わろうとしている。

 もし、君がそんなことして欲しくないと言うなら、不本意だが止めるよ」

「……周りから孤立しても?」

「周りに混じらなかった俺からすれば、孤立とは一体何なのだろうという感じでね、孤立しようが何しようが構いやしないよ」

 

 汐耶はニッコリ笑って答えた。

 

「気分はどう?」

「……少し、気持ち悪い……かな……」

「……ちょっと失礼」

 

 汐耶は詩乃をお姫さま抱っこで持ち上げ横のベンチに寝かせた。

 

「何するの?」

「お片付け」

 

 汐耶は制服のポケットからビニール袋を取り出すと詩乃がぶちまけてしまった弁当の中身をそれに入れた。全て片付けると詩乃の弁当箱を詩乃の持って来た袋に仕舞い、自分の弁当箱も袋(勿論、詩乃とは別の自分の袋)に仕舞って黒いタブレットPCを一つの場所に一度纏めると詩乃の方に来た。

 

「今日はもう、早退しようか」

「でも神那岐くんは……」

「気にしないで良いよ。ただ消化するだけの日々だし、高校は卒業出来れば問題ないよ」

 

 汐耶は詩乃を起き上がらせると背中に詩乃を背負い、他の弁当箱の入った袋やタブレットPCを右手に持って屋上から出てクラスにまで戻ると自分のと詩乃の荷物を取ってから保健室に行った。

 保健室に入ると保健室の先生に話し掛けられた。

 

「あら、どうしたの?」

「この子が気分悪いって言うので早退届けを出しに……」

「それは君もって事かな?」

「あー……何か気分悪いなぁー……」

「良いよ。名前は?」

「一年A組の神那岐 汐耶と朝田 詩乃」

「分かったわ。お大事に」

「はい」

 

 汐耶は保健室を出て昇降口に向かう。周囲からは変な目を送られるが、気付かない事にして昇降口に真っ直ぐ向かう。

 汐耶は靴に履き替え、詩乃は汐耶に支えられ靴を履き替えるとまた背中に背負われ、学校の駐輪場に向かう。

 駐輪場にあったのは自転車ではなく、大きな1100ccのガソリンバイクだった。

 

「これ、神那岐くんの……?」

「まぁね……親の高校合格祝いだよ」

 

 汐耶はバイクのキーをズボンから取り出して鍵穴に入れて回してエンジンをかけた。

 汐耶は詩乃をバイクのリアシートに座らせバイクに置いておいたオープンフェイスのヘルメットを詩乃に被らせ、顎下のハーネスを留めると汐耶はフルフェイスのヘルメットを被ってバイクに跨ると詩乃が汐耶の腰の辺りに腕を回されるのが分かるとバイクを発進させた。

 

「家はどこ?」

 

 汐耶にそう聞かれて詩乃は答える。

 

「学校側の商店街の端にあるアパート……って言っても分からないわよね……」

「大丈夫。分かるよ」

 

 汐耶は少し速度を上げて詩乃の住むアパートの方へとバイクを走らせる。

 五分そこらで2人は詩乃の住むアパートに到着した。

 

「ありがとう。ここまで来ればもう大丈夫よ」

「ん、俺もここに住んでるんだよね~」

「そ、そうなんだ……」

 

 詩乃はそう言ってバイクから降りて立ち上がろうとするがクラリと立ち眩みがして倒れ掛けたのを汐耶が受け止めた。

 

「無理はしなくても良いよ。人間、頼って頼られてなんぼだしね」

「ありがとう……じゃあ、部屋まで運んでくれない?」

「部屋の番号は?」

「201号室」

「俺の隣だな」

 

 汐耶は自分と詩乃の2人分の荷物を持つと詩乃をお姫さま抱っこする。

 詩乃は自分の顔が朱くなっているのが分かるぐらい恥ずかしくなって顔を俯けた。

 

「ま、恥ずかしいのはお互い様だよ」

 

 詩乃が顔を上げて汐耶の顔を見れば汐耶の顔は真っ赤だった。

 

「そ、そうね……」

 

 詩乃は再び顔を俯けた。

 汐耶は階段を上り、詩乃の部屋の前に来ると詩乃を降ろした。

 

「はい、到着」

「あ、ありがとう……」

 

 詩乃はドアの前に立つと部屋の鍵を取り出して開錠すると、電子ロックに暗証番号を入れてドアを開けた。

 

「あの……上がっていかない?お茶でも出すよ?」

「良いのか?」

「ええ」

「じゃ、上がらせて貰うよ……っと、俺は一回家からちょっと取ってくるよ」

「何を?」

「朝田さん、昼飯食べてないだろ?具材もって来て適当に作るよ」

「あ、ありがとう」

 

 汐耶はそう言って詩乃の荷物を詩乃に渡すと隣の202号室の鍵を開けてキッチンの冷蔵庫を開けて、何を作るか考える。

 

「何が良いかな……ささっと食べられるやつ……ラーメンとかの麺類……あ、ラーメン無いや……蕎麦もうどんもない……あ!」

 

 汐耶は冷蔵庫を閉めてキッチンの棚を開ける。そこには……

 

「あったあった」

 

 大量のそうめんが入っていた。しかもそうめんが美味しいと有名な所で作られたそうめんで統一されているという恐ろしさ。

 

「ん~……流石に冷たいつけ麺では今の時期キツいよな……」

 

 今は10月で寒くなってきた時期であり、冷たい物は結構キツくなってきた時期である。

 

「頑張って温かいの作りますか」

 

 汐耶は他にネギや人参、鶏肉その他調味料を持つと詩乃の部屋の前に来て、インターホンを鳴らすとすぐにドアは開いた。

 

「ど、どうぞ」

「お邪魔するよ」

 

 汐耶はそう言って部屋に上がった。

 

「んじゃ、キッチン借りるよ」

 

 汐耶が自分の部屋と同じ間取りの詩乃の部屋のキッチンに入ると詩乃もそこに来る。

 

「調理器具とかどこにあるか分からないでしょう?」

「有り難い」

 

 それから汐耶は詩乃に調理器具の場所を聞きながら、詩乃と話しながら料理を作っていく。

 

「何を作るの?」

「温かいそうめんだよ。本当はラーメンにしたかったがね」

「そうなんだ」

「そうめんは嫌い?」

「冷や麦が嫌いよ」

「じゃあうどんは?」

「嫌いじゃないわ」

「……今言った3つ……太さが違うだけで原材料は同じだった気がするんだが……気のせいだよな?」

 

 そんなこんなで20分程で料理は完成した。

 詩乃と汐耶は出来上がった料理を入れた丼をリビングのテーブルに置いて、向かい合って座ると両手を合わせ……

 

「「頂きます」」

 

 同時にそう言って食べ始めた。

 

「……美味しい……」

「そりゃ、そうめんが美味いって有名な所で作られた奴だからな。美味くない訳が無い」

「そうじゃなくて全体的に美味しいわ」

「そりゃ良かった」

 

 汐耶はそうめんを食べながら部屋を見回す。そうして見つけたのは、二重円環状の機械『アミュスフィア』だった。

 

「朝田さん」

「何?」

「何かVRゲームやってるの?」

 

 詩乃は少し考え込んでから答えた。

 

「笑われるかもしれない、馬鹿にされるかもしれないけど、VRMMORPG『ガンゲイル・オンライン』っていう銃ゲーをやってる」

「GGOか……」

「神那岐くんは何かやってるの?」

「同じGGOをやってるよ」

 

 汐耶は少し驚きつつ答えた。

 まさか詩乃がトラウマとなっている銃主体のゲームをやっているとは思わなかったからだ。

 

「じゃあ、中で落ち合う?」

 

 詩乃は唐突に汐耶にそう言った。

 

「ああ、良いよ。俺の名前はアリスだよ」

 

 汐耶は了承の返事を言い、プレイヤーネームも添えた。

 

「私はシノン」

 

 こうして2人はGGOで落ち合う約束をしたのだった。

 まぁ、詩乃が汐耶のキャラネームを聞いて不思議に思ったのはご愛嬌だろうか。



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第03話 開けてはならぬ箱

気づけばUAが800近い数字になっていたことに驚く。

5/27 副リーダーの名前を変更いたしました
5/30 主人公の二つ名を変更しました


 食べ終わった2人はその場でそのままお茶を飲んでいた。

 

「朝田さん」

 

 詩乃はいきなり呼ばれて驚きながらも返事をした。

 

「な、何?」

「お茶、淹れるの上手くなったねぇ……」

 

 汐耶にそんな事を言われた詩乃は言い返した。

 

「あのねぇ……神那岐くんと遊ぶ毎にお茶の淹れ方を言われてたら誰だって上手になるわよ!」

「え……?俺の所為なの?この結果って……」

 

 汐耶はそんな事を言いながらお茶を飲む。

 

「ところでさ」

 

 詩乃が汐耶に話しかける。

 

「何がところでなのか分からないけど何?」

「GGOでのステ振りって何なの?」

「ん~?確かDEX─AGIだったような……その次がSTRだったと思う。朝田さんは?」

 そう聞かれた詩乃は即答する。

 

「命中一極型よ」

「て事はスナイパー?」

「うん、まぁ……」

 

 詩乃はステ振りだけでクラスを当てられて驚きながらも返事をした。

 

「武器は……対物狙撃ライフルの……ヘカートⅡかな?」

 

 銃まで当てられて詩乃は驚愕した。

 

「なんでそう思ったの?」

「偶然、雰囲気が似てる人を戦場で見かけてね。その人、ヘカート使ってたから」

「そうなんだ」

 

 そこで汐耶はすっくと立ち上がると言った。

 

「さて、そろそろお暇しますかね……次会うときは銃の喝采の鳴る地で」

 

 つまり、食事中に言ったようにGGOで落ち合おうと。

 

「集合場所は?」

 

 汐耶はニコリと笑いながら言った。

 

「総督府地下一階の酒場でどうかね?」

「分かったわ」

「じゃ……っと、その前に……シノンの容姿ってどんなの?最悪特徴だけで良いよ」

「ショートなペールブルーの髪……って、見掛けたって言ってたんだからそれぐらい分かるわよね?」

「まぁね。俺は赤髪に紅眼の細身アバターだから。じゃ、お邪魔しました」

「あ、ちょっと待って」

 

 汐耶はそう言って詩乃の部屋から出て行こうとしたところで詩乃に止められた。

 

「何?朝田さん」

「私達、友達……だよね……?」

「まぁ、そうだね」

「だから……名前で呼んでくれない?そんな他人行儀な呼び方じゃなくてさ」

 

 汐耶は少し意地悪をしてみた。

 

「……他人はもう信じないと誓ったんじゃ無いの?」

 

 汐耶の言葉が詩乃の胸に突き刺さるが、それでも詩乃は言った。

 

「そんな他人行儀な呼び方しないで」

 

 汐耶はそれを聞くと安心したようににっこりと笑って言った。

 

「分かったよ。詩乃」

「よろしく、汐耶くん」

「くんは消えないのな……」

 

 汐耶はそう言って部屋から出て行った。

 

※─※─※

 

 俺は朝田さん……いや、詩乃の部屋から出て今、自分の部屋で部屋着に着替えた直後だ。

 俺は詩乃が名前で呼んでくれと言ったのに内心驚きながらもそれを了承した。それが詩乃のこの先の為になると思って。

 時計を見れば12時50分。出て来たのが12時30分だからもう既に詩乃は潜って居るだろう。俺は急いでベッドに寝て体が冷えないように布団を被り、頭にアミュスフィアを被る。気温はまだ昼間で太陽昇って……いや、もう下りはじめては居るが太陽の光が入っていてそこそこ温かいためエアコンは着けずにベッドに寝転がる。そして、静かに呟く。

 

「リンク・スタート」

 

※─※─※

 

 GGOの仮想の地面……いや、床に足を着いた俺を歓迎したは俺が率いる中規模スコードロンのメンバー数人だった。

 

「……お前ら暇人だなぁ……」

 

 ここは総督府のすぐ近くにある大型の俺所有の物件だ。たしか20Mクレジットで買った気がする。

 俺はそこをスコードロンの拠点にして且つセーブポイントにしているのだ。

 

「お、リーダーじゃんか」

「学生じゃなかったっけ?」

 

 メンバーが俺にそんな事を言いながら近付いて来る。

 

「風邪で具合悪いから早退したんだよ」

「じゃあ暇なら一狩り行きませんか?」

 

 まぁ、行きたいのは山々だが……

 

「すまんな、用事があってさ」

「そうですか……じゃ、また今度、次は大規模スコードロンと派手に戦いたいっすね~」

「現在募集中だから待ってろバトルジャンキー共」

「了解です!」

 

 そいつはそう言って離れていった。

 

「さてと……」

 

 俺は簡単に武器の装備の確認をすると拠点を出て総督府に向かう。

 AGIはそこそこに上げているためすぐに着くと俺はエレベーターで地下一階の酒場に向かう。

 酒場に入るとペールブルーの髪を探す。それはすぐに見つかった。ジャケットを着てサンドカラーのマフラーをした小柄な少女だ。

 俺は黒いコートのポケットに両手を突っ込みそこに歩いていく。足音に気付いたようにペールブルーの少女が此方を向く。

 俺は少女の正面に座り、メニューからネームカードを差し出した。名前にはAliceと表示されている。

 

「詩乃……いや、シノンで合ってるよな?」

「もちろん」

 

 シノンもネームカードを取り出して渡す。名前はSinon……リアルを知っている者からすればひねりも何も無い名前だ。

 

「て言うか、アンタってかの名高き《弾丸喰い(ブザービーター)》じゃない。対人戦闘では無類の強さを誇るプレイヤーでしかも対人戦闘に特化したスコードロン《パンドラ》を率いるリーダー」

「まぁね」

 

 そこでシノンが意を決したような顔で言った。

 

「ねぇ、私をそのスコードロンに入れてくれない?条件があるならそれをクリアしてでも入るわ」

「良いよ。これからよろしく、シノン」

「え……?」

 

 あれ?なんか間違ったっけ?俺。

 

「シノン、なんで鳩がアハトアハト喰らったみたいな顔してんの?

 ここでどう広がってるのか知らないけど俺のスコードロンは入る為の条件とか無いよ。まぁ、独断と偏見で許可不許可は出すけど……あと人数制限」

「そうなんだ」

「まぁ、リーダー故にやらないといけないこととかは多いけど中規模だから統制は取れやすいよ」

「リアルじゃ人を引っ張るのは嫌いだって言ってる癖に押し付けられるとそこそこ頑張ってたよね」

「はっきり言ってどの道気は進まないよ。現在、後釜を捜索中さ」

 

 俺はジンジャーエールを注文し、出て来たのを一口飲む。

 

「じゃ、招待状送るぞ」

 

 俺はメニューを開いてシノンへスコードロンの招待状を送る。

 シノンは考える暇もなく了承したようですぐにスコードロンにシノンが加入しましたというメッセージが視界中央に表示された。

 因みに俺のスコードロンで加入を許可出来るのは俺だけだ。大規模にならないための保険としてそうしている。

 

「じゃ、行きますか」

 

 俺はジンジャーエールを一気に飲み干すと立ち上がった。

 

「え……?どこに?」

「パンドラの拠点に」

「スコードロンの拠点を持ってるの!?」

 

 シノンが驚いたように聞いてくる。

 

「まぁな……ほら、行くぞ?」

 

 俺はシノンの右手を引いて立ち上がらせるとエレベーターまで引っ張って行くが、シノンはエレベーター前で止まると手を強引に離させた。流石にデリカシーが無さ過ぎだっただろうか……?

 

「いつまで握ってるのよ」

 

 若干睨んでいるシノンは獰猛な山猫に一瞬見えた……いや、もう纏っている雰囲気もリアルの柔らかいものではなく、全てを凍らせる氷を抱かせた。

 

「悪い」

「良いけど」

 

 口調もリアルとは違い、厳しく鋭い刃物……いや、絶大な貫通力を秘めた狙撃銃を思わせた。

 リアルとバーチャルで性格の変わる奴は多いが此処まで違う奴は初めてだ……。

 そこまで考えた所でエレベーターが到着し、俺とシノンは無言でそれに乗った。他に乗っている者は居なかった。

 

「ねぇ」

「な、何だ?」

 

 俺はいきなり声を掛けられ驚きながら答える。

 

「今日ってスコードロンでやる事ってあるの?」

「いや、今日は特に……」

 

 続きの無いと言おうとしたところでメールを受信したというのを知らせるダイアログが視界に表示され、その下には見る/見ないのボタンがある。差出人は大規模スコードロンのリーダーだ。

 俺はそれを間髪入れることなく見るのボタンを押す。

 内容は次のような物だった。

 

《『パンドラ』リーダー『アリス』へ

 

君達の挑戦を受けよう。

本日午後4時にグロッケン西方フィールドの旧市街地での戦闘を開始とする。

戦闘方法は殲滅戦とし、戦闘終了は午後6時になるかどちらかの全滅、リーダーの敗北とする。

此方の人数は90人オーバーだ。

 

『ファイアクラッカーズ』リーダー『リーサ』より》

 

「へぇ~……面白いじゃないか」

「……?」

「シノン、市街地における狙撃は出来るか?」

「ち、ちょっと!何があったのよ!?」

「出来るか出来ないのか聞いてるんだ。詳細は拠点で」

「そ、そりゃ狙撃手だから出来るわよ」

「上等」

 

 そこでエレベーターが開いて俺とシノンは出る。俺はその後すぐにグロッケンの車庫に行き大型の2輪バイクに掛かっていたロックを解除してそれに跨る。ここはVR故にヘルメットは必要ない。

 

「え……!?」

「乗って。スコードロンメンバーの招集とか説明とかしないといけないから」

「あ……うん」

 

 シノンはすぐにリアシートに跨り俺の腰の辺りに腕を回し振り落とされないように固定されるのを感じると俺はアクセルを全開にして急発進させる。

 道路を走るのが嫌な俺は車庫出口にあるジャンプ台から一気に飛び上がり建物の屋上から屋上へと移動していく。

 

「な、何よこれ!?」

「裏技」

 

 何軒か跳ぶと拠点の屋上が見えて来て、最後にフルアクセルで大ジャンプをして拠点の屋上にタイヤが着くとフルブレーキで停まる。

 

「到着」

「き、規格外ね……あなた……」

「ほら、行くぞ」

「はいはい……」

 

 俺とシノンが拠点の中に入ると俺がログインしたときよりも人数が増えていた。

 

「暇人多いな……」

「…………」

 

 俺とシノンがキャットウォークから降りるとスコードロンメンバーがワラワラと集まってきた。

 こいつらはどうもシノンに興味津々らしい。肉食系が多いな……うん……。

 

「全員、整列!!」

 

 俺がそう言うと全員が並んだ。こいつらの扱いやすい所だ。

 

「ん~……大方30人……ほぼフルメンバーじゃねぇか!」

 

 パンドラの総員は38人(シノン除く)だから、ほぼフルメンバー揃っている。何を察知して集まったんだろうか……?

 

「じゃ、てめぇら、一体何が聞きたい?」

 

 俺が言った質問の返答は、完全統一されていた。それは……

 

『その可愛いのは誰だ!?』

「新メンバーだこの馬鹿共!」

 

 そう言った後、聞こえて来たのは「リーダーにも漸く春が!」とか「祝杯だ!」とか「おめでとう」とか……嫌みが無いだと!?

 

「それだけか!?」

「いや、だってねぇ……?」

「このスコードロンで独り身ってリーダーとその親友だけだし……」

 

 そう言えばそうだった。クレイジーガンナーズに入る奴大抵リア充なんだよな……って、話がずれてる!?いや、ずらされた!!

 

「じゃなくて!!新メンバーの紹介だっての!後、大イベント迫ってるから静かにしやがれ!」

 

 俺がそう言うだけでメンバー全員が何も言わなくなる。こいつらもう嫌……大人だってのに聞き分け良すぎるんだもん……。兎に角、シノンを紹介しなければ。

 

「シノン、自己紹介をしてくれ。クラスと差し支え無ければ使用武器も」

「分かったわ」

 

 シノンは一歩前に出て自己紹介をする。

 

「シノンです。クラスはスナイパーで主武装はアンチマテリアライフルのヘカートⅡで予備武装はMP7です。よろしくお願いします」

 

 そうしてつつがなくシノンの紹介が終わった所で俺が今日のイベントを話す。

 

「喜べ戦闘馬鹿共、本日午後4時から大規模戦闘だ」

「どこのスコードロンですか?リーダー」

 

 副リーダーで親友の『ストラトミットス』にそう聞かれて俺は答える。

 

「相手は大規模スコードロン『ファイアクラッカーズ』。彼方の戦力は90人オーバー……確実に100は超えているだろう」

 

 メンバーから賞賛の声が聞こえる。

 

「てめぇら!あいつらを本当の爆弾の如く破裂させてやろうぜ!!」

『オー!!』




……スコードロンの名前は考えるの大変でしたよ……名前とか考えるの苦手なものですから……

人によっては主人公と副リーダーの元ネタが分かるかも……


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第04話 弾丸喰らい(ブザービーター)

 さて、そこそこに戦闘士気も上がった所で作戦ブリーフィング(手抜き)と行きますか。

 

「じゃ、アタッカー、ボマー部隊は右に、他は左に集合しろ。遊撃スナイパー部隊は壇上に来い」

 

 俺がそう命令するとそれぞれのクラスにそって集合する。

 

「各々、作戦を立案すること。以上、始め!」

 

 アタッカー、ボマー部隊とその外部隊は何時ものように作戦立案するとその2つの部隊リーダーで作戦の奥を詰める。何時ものパターンだ。

 で、問題は俺の率いる遊撃スナイパー部隊だが……

 

「まず、スナイパーと遊撃手でタッグを組め」

 

 俺がそう言えばすぐに男女1組が4つが出来上がり、俺とシノン、そしてストラトミットスが余る。

 

「じゃ、俺とシノン、ミットスが一緒で問題ないな」

「それ以前にリーダーはペア行動の必要ないワンマンアーミーじゃん」

 

 うるせーよこの野郎。

 

「まぁ、良いとして。

 俺達遊撃スナイパー部隊は各所に芋り、敵部隊が見えたら後方から狙撃する……勿論、敵にもスナイパーが居る可能性があるから周囲1キロの警戒は怠らない事」

 

 因みにこの遊撃スナイパー部隊の人数はシノン合わせ10人で、全員が有名なスナイパーライフル或いは対物狙撃銃を装備している。

 有名なスナイパーライフルはレアだし、対物狙撃銃はサーバに10丁程しか無いためある意味で幸運部隊である。

 ちなみにミットスは除く。あいつは俺が遊びで作った『遠距離仕様(ロングレンジ)電磁投射砲(レールガン)』を使っているからな。結構使えるらしい……まぁ、音速の5倍も出る狙撃銃が使えない訳無いよな。音も殆ど無いし。

 

「後は敵スナイパーを見つけた場合確実且つ迅速に排除する事。これは自分が敵に発見される可能性があろうが何だろうが行う事」

『了解』

 

 全員が俺の命令に了承の返事をする。

 

「じゃ、各自自分の配置場所を考えておくこと。

 シノン、俺に付いて来てくれ」

『はーい』「分かったわ」

 

 俺が屋上に来ると俺はバイクのエンジンを掛けて、それに跨る。

 

「な、何するの?」

「戦場を見に行くんだよ。ついでに、フライングした馬鹿共を始末に」

「ふ、フライング?」

「さ、乗った乗った」

 

 俺はシノンをバイクに乗せると一気にアクセルを全開にして急発進させてビルの屋上からビルの屋上へと移っていく。

 そのうちにグロッケンの圏内から出て、ニュートラルフィールドに移るが、ビル群が存在するため屋上を移動していく。

 

「お……?」

「あ……」

 

 俺が見つけるのと同時にシノンも何かを見つけたようで声を出す。

 俺はそれを見つけた瞬間、バイクを止めて取り出した双眼鏡を覗く。

 そいつは座って居るがその傍には黒く長い銃身を持つスナイパーライフルが見えた。

 

「……約束違反はイケないぜ?」

 

 俺はメニューを開いて対物狙撃銃《OSV-96》を取り出し、バイクのシートに二脚(バイポッド)を立ててスコープを覗いた。

 視界いっぱいに敵スナイパーが移るようにスコープ倍率を変更すると、引き金に指を掛ける。

 

息を大きく吸い込み

 

ゆっくりと息を吐く

 

息を大きく吸い込み

 

止める

 

 視界の敵スナイパーの眉間を中心に広がるライトグリーンの弾着予測円がほんの数ドットに収縮した瞬間、俺は引き金を引き絞った。

 OSV-96から放たれた音速を超える弾丸は敵スナイパーの眉間を捉え、顔のみならず上半身の殆どを消失させた。

 

「ビンゴ」

「お見事」

 

 シノンがそう言うが、シノンの腕も悪く無い筈だ。

 

「さ、次行くぞ」

「分かったわ」

 

 俺はシノンがバイクに乗ったのを確認すると言った。

 

「次からは一々止まらないからな。シノン、ヘカートⅡ出してジャンプ中に撃ってくれ」

「へ……?」

「なに素っ頓狂な声出してんだよ。これぐらいは基本だからな。

 あと心配いらん、狙撃距離は500以内だから」

「……やってみる」

 

 シノンはそう言うとメニューを開いて巨大な対物狙撃銃《PGM・ウルティマラティオ・ヘカートⅡ》を取り出した。

 それを確認した俺はバイクを急発進させて再び屋上から屋上への運転をする。

 そして4回目の跳躍の時……ΟSV-96と殆ど同じ銃の轟音が響いた。シノンのヘカートⅡの発射だ。

 

「見つけたのか?」

「次、探して。確実にやったわ」

 

 遠視スキルにより見えたガラス破片のようなポリゴンの崩壊エフェクトは明らかに1キロを超えていた。最悪、2キロに到達する距離の狙撃をシノンは当てた……どんなプレイヤースキルだよ……。

 

 その後も移動しては撃ち、移動しては撃っていると約束の時間である4時まで残り30分になった頃。

 

「シノン」

「何?」

「拠点に戻るぞ」

「ああ、4時近いものね」

「じゃ、行くぞ」

 

 俺はそう言ってバイクをグロッケンに向けて走らせる。勿論、屋上から屋上への移動で。

 

※─※─※

 

 俺とシノンが拠点に戻るとメニュー全員が綺麗に整列していた。

 

「何これ?」

「毎度思うんだよね。どこの宗教団体だよって」

 

 怖いんだよね……全員が何にも話さず静かにしてるんだもん。

 

「ま、良いや。全員、戦闘エリアに行くぞ」

『おおー!!』

 

 全員がそう応え、立ち上がるとようやく話を始める。

 てか……ん?増えてるな……いつの間にか38人のフルスコードロンメンバーになってる……誰だよ、残りを読んだのは。

 

※─※─※

 

 と、まぁやって来ましたグロッケン西側ニュートラルフィールドの旧市街地。

 もう既に戦闘開始時間から5分経っては居るが未だにどの部隊からも戦闘に入ったという連絡は無い。

 

「……異様な静けさだな……」

 

 俺の言った事にシノンとミットスが返事をする。

 

「対人戦闘なんてこんなものじゃないの?」

「たしかにアリスのいう事も理解出来なくは無いな」

 

 戦闘が始まらない?なら始めれば良いじゃないか。探し出せば良いじゃないか。

 

「じゃ、行って来ますかね……」

 

 俺は黒のロングコートの袖の中に隠していたワイヤーアンカーを取り出しながらそう言った。

 

「何をするんだ?アリス」

「決まってんだろ?あいつらやる気が無いから一丁発破掛けに行ってくる」

「あ、そう」

「じゃ、ミットス……シノンの護衛頼んだぜ」

 

 俺がそう言うとストラトミットスは『短距離用(ショートレンジ)電磁砲(レールガン)・連射式』を装備して答える。

 

「しょうがないなぁ……行ってらっしゃい」

 

 俺はそれに答える。

 

「行ってくる」

 

 俺はビルの屋上から助走をつけて屋上から思いっ切りジャンプして右手に持っていたワイヤーアンカーを習得している『投げナイフ』スキルで近くにあったビルの壁面に向かって投げた。

 薄い銀色のライトエフェクトを引いたワイヤーアンカーはしっかりとビルの壁面に突き刺さった。あとはこれを某蜘蛛男の如く自分を振り子の重りようにして移動していくだけた。

 振り子の位置エネルギーがそこそこに溜まり運動エネルギーが残っている状態でワイヤーアンカーを機会仕掛けのリールで瞬時に手元に戻し、再びビルの壁面に投げる。

 『軽業(アクロバット)』の上位スキル『鉄線軽業(ワイヤーアクション)』によってこれは可能なのだが……あまりと言うか先ず使われない。理由は簡単、ワイヤーアンカーの作業が面倒だからだ。

 投げるまでは良い。だが回収が大変なのだ。故に使われない。でもだからこそ奇襲に使えるのだ。

 

 ワイヤーアンカーによる移動を8回ほど繰り返した時、ようやく敵部隊を見つけた。まぁ、偶然にも敵部隊背面だったが。

 そんなことはお構い無しに目標地点に着地出来るように調整してアンカーをビルの壁面から引き抜くと両大腿部の外側に装備している『S&W・M500(10インチモデル)』を両手に装備して空中で構える。

 敵部隊との距離は200……完全とは言えないものの頭を撃ち抜けばこの銃であれば一撃で仕留められる射程距離だ。

 俺は両手合わせて12回引き金を引き絞る。発射された.50マグナム弾は全て敵部隊の12人の後頭部に直撃し全てポリゴンの破片と化した。この時点で地面との残り距離、50メートル。

 俺は素早くシリンダーから空薬莢を排出し自作したフルムーンクリップ(M500用)を使って再装填する。この時点で地面との距離残り5メートル。

 俺が着地したのは敵陣のど真ん中。まだ俺が降りてきたのに動揺を隠せない奴らの眉間と後頭部にM500をぶっ放す。

 放った12発全てが狙った場所に直撃しポリゴンの欠片となるのを確認する前にM500の空薬莢を排出して再装填すると両大腿部のホルスターに仕舞って、背中の『FN・P90(50発マガジンを強引に2つ連結させて100発装填したやつ)』を手に持つ。

 

「楽しいパーティーだ。楽しめよ?」

 

 そこからは『地獄』の一言だった。

 あ……いや、俺が地獄じゃなくてファイアクラッカーズが地獄って事な?なんせ俺は敵陣ド真ん中。撃って外せば即友軍被弾(フレンドリーファイア)でまともに撃てないが反対に俺は撃てば誰かには当たる。

 が、そんな考えが何時までも通じる訳が無かった。

 連中は仲間に当たるのもお構い無しに手に持っていた武器で俺を照準し撃つ。

 囲まれて居るものだから平面上の360度から赤い線が迫る。七面鳥撃ち、鴨撃ち、蜂の巣とは当にこの事を言うのだろうか?

 視界に映るこの無数の赤い線はGGOに搭載されている守備的システムアシスト『弾道予測線(バレッドライン)』だ。

 俺はそれを避けるのに使うのではなく、弾くのに使う。

 撃ちきって残弾ゼロとなったFN・P90を投げ捨てコートの中に装備していた『FN・ファイブセブン』を二丁両手で持ち、赤い弾道予測線に向けて5.7ミリ弾を幾つも発射した。

 その直後に幾つものアサルトライフルやサブマシンガン、重機関銃から大量の弾丸が発射されるが弾道予測線を見た感じ直撃率は良くて4割……酷くて3割届かないだろう。近距離であることを想定すると異常な着弾率だが、恐らく味方諸共撃つのに緊張しているのだろう……情けねぇ……。

 俺の放った弾丸は俺を捉える弾丸全てを弾いた。

 当たり判定のあるこのゲームだからこそ出来る芸当だ。これまでやって来たFPSは弾丸には当たり判定無くて出来なかったがここはそこそこリアルを追及した作品だから弾丸にまで当たり判定が存在するし、弾道予測線という大変やりやすいアシストがあるからこそ出来る。

 まぁ、周りから『弾喰い(バレッドイーター)』なんて不名誉な二つ名を貰ったけど。

 でも、そんな事はどうでも良い。俺がGGOをやり始めた理由とは違うし、第一こんなゲームやったところで理解は出来ない。

 だけど今日も引き金を引き続ける。このゲームの住人にですら忌み嫌われるまで引き金を引き続ける。

 弾丸を弾きつつも的確に、確実に敵プレイヤーの眉間に一弾一弾を当ててポリゴンに変えて行く。

 そんな時だ……俺の視線の先に青白い雷撃が走り、その直撃青白い塊が複数人を貫通しビルの壁面に穴を開けた。よく見ればそのビルに穴を開けただけで無く貫通までしていた。これはもしや……

 

「あ~り~すぅ~?」

 

 その言葉で俺だけでなく敵部隊すらも硬直する。

 雷撃が飛んできた方を見れば、右手で大振りの『雷撃砲(俺自作の大口径高威力レールガン)』を構えているストラトミットスとその他パンドラのスコードロンメンバーが集合していた。勿論、シノンも居る。

 

「な、何だ?ミットス……?」

「し・け・いね?」

 

 ストラトミットスが雷撃砲のボルトハンドルをジャキリと引いて次弾を装填した。

 

「い、いや……ミットス?話を……」

「問答無用!全員、放てぇ!!」

 て、こいつら範囲的に照準してて逃げ場が無いだと!?

 あっと言う間に赤い弾道予測線が殺到した瞬間、俺は両手のファイブセブンをコートに仕舞って右手にワイヤーアンカーを持ちスキル支援全開でビルの壁面にアンカーを投げつけた。

 そして空中に浮いた瞬間、弾幕が足元を通り過ぎた。か、間一髪……危なかったぁ……。殺す気か!?全く……



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第05話 箱舟とお誘い

UAが2000突破してた……これって多いのかね?分からん


 今回の戦闘、結果を言うならばパンドラの圧勝だった……なのに……

 

「ミットス!いい加減放しやがれ!!」

 

 中規模対人スコードロン『パンドラ』のリーダーの俺はロープでグルグル巻きにされ天井からぶら下がっていた。

 いや、まぁね……?十字架に磔にされるよかはまぁマシなんだけどさ(実際にやられた方がそう断言致します)?

 

「五月蝿い。1人で楽しんで連絡一つ寄越さないアリスが悪い」

 

 ストラトミットスはそう言って右手に持っている電磁連射砲を構えて俺を照準する。

 まぁ、圏内故にダメージは無いんだけどしっかりと衣服とかロープとかには耐久度消費が発生するし、武器を全部装備したままだから機関部に当たれば……通常のアサルトライフルなら問題無いけどシグの持っている電磁連射砲は音速の2~5倍の速度という対物狙撃銃よりも速い速度で弾丸を発射するため一発でも銃の機関部に当たれば威力的に即アウトなのだ……いや、冷静に状況説明してる場合じゃないんだけどね?

 

「アリス、弁明は?」

「すいません。俺の「却下」言わせろよ!!」

「チッ…………弁明は?」

 

 舌打ちしたよな?こともあろうリーダーに向けて舌打ちしたよな?まぁ、良いんだけどさ。

 

「戦闘狂の血を抑えられませんでした。今では大変後悔し反省しています。大変申し訳ありませんでした」

 

 ストラトミットスがため息を吐く。

 

「アリス」

 

 静かに且つ冷たく凍えた声で俺の名前を呼ぶ。

 

「ハイ?」

「その言葉、何回目だと思ってるんですか?」

「えーっ……とぉ……」

 

 ひい、ふう、み、よ……………

 

「28回目」

「よく覚えてましたね?誉めてあげましょう」

「ありがとうございます?それじゃあそのレールガンを仕舞って俺を解放してくれない?」

「そんな訳無いでしょう」

 

 ストラトミットスがニコリと笑って拒否する。

 なお、現実のストラトミットスとは実際には親友ではなく幼馴染だ。同じ年齢の小さい頃からの付き合いだ。

 GGOでの容姿は紫の髪に赤の眼……そして雪のように白い肌。

 使っている武器は電撃に近い攻撃を放つレールガンで、しかも全体フィールド(この場合はGGOの世界全体を示す)の西側に存在するグロッケン故に『西方の魔女(ウェスタンウィッチ)』なんて二つ名まで出て来る始末。この世界に『魔法』という概念は存在しないが。

 

「というわけで……死刑」

 

 そう言った瞬間、ストラトミットスが電磁連射砲の引き金を引いた。そんなの、通常のマガジンなら0.2秒で撃ち尽くす……が、本来マガジンが存在する部分にはベルトが延びていた。

 ベルト型ぁ!?一体誰がそんな危険物をストラトミットスに渡した!?

 ……ああ、俺だっけ?もっと連射したいってせがまれて渋々作ったんだっけ?馬鹿だなぁ……俺……。

 ん?弾丸?俺の頭にピンポイントで精点射撃されてるよ?圏内じゃなかったら一瞬で死んでるね。絶対にやられたくない。

 と、ここで漸く弾を撃ちきったのか射撃が止む。痛みは無いけど衝撃はあるから結構怖い。大変に怖い。

 

「ふぅ……すっきりした」

 

 ストラトミットスが左大腿部のホルスターから『IMI・デザートイーグル』を左手で引き抜いて俺を吊しているロープを撃った。弾丸は寸分狂う事無くロープを捉えそのロープは耐久度を0にして切れた。

 俺は落ちるが何とか両足で床に立った。バランス感覚はかなり良い方だと我ながら自負している。

 なお、俺とストラトミットスは右利きでも左利きでも無く両利きだ。だからこそ俺は迫る弾丸を両の弾丸で弾く程の精密射撃が出来るしストラトミットスはロープを拳銃で狙い撃てる。

 案外これがストラトミットス……正しくは現実の彼女との関係が続いている理由かもしれない。

 

「さっさと縄を解いてくれよ」

「意味不明の謎スキルの縄抜けがあるでしょ」

「それは現実だけだ!」

「ちぇー……」

 

 そう言ってストラトミットスはもう一度左手のデザートイーグルを撃った。弾丸は見事に結び目を直撃し縄が落ちる。

 ストラトミットスのこの精密射撃は某有名な泥棒三世のスーツを着て髭を生やした帽子命の相棒並みだ。ちょっと前にデザートイーグルで1キロ先にいる人を狙撃してたし。

 

「ふぅ……まったく、リーダーに向かって酷い扱いだよなぁ……」

「それはキミが悪いんだよ?」

 

 ストラトミットスが武器を全て仕舞って立っていた。

 

「俺が何をした!?」

「パンドラ率いている癖に1人で楽しんでた。リーダーとしての威厳は無いの?」

 

 ……分かってる癖に言うなよ……。

 

「……俺のリアル知ってる癖に……俺が引っ張って行くの嫌いなの知ってる癖にそう言うことを言うか?」

「…………なんだかんだで適任の癖に……」

「……俺としてはソロで良いんだけどな」

「最近、AGI型なんてソロでは無理でしょ」

「其処まで軽くて強いレア銃無いしな……」

 

 俺は両大腿部のホルスターに仕舞っているM500を取り出す。

 

「ねぇ、なんでそれを使ってるの」

 

 今まで気配を消していたシノンが話し掛けてくる。

 

「……二丁拳銃スタイルでも絶大な威力を発揮するから」

「お誂えみたいに2キロもあるリボルバー拳銃を自由自在に操るSTRもあったしね」

 

 ストラトミットスが追加で説明する。

 

「ふぅん……」

「さて、酒場に行くかな……」

 

 俺は拠点の酒場に向かって歩く。

 

「え……外で飲むんじゃないの?」

「拠点に小さいけど酒場を作ったんだよ」

 

 俺は両手のM500と腰の後ろに装備している『H&K・MP7』二丁、コートの中に装備しているファイブセブンをストレージに仕舞う。若干重いんだよね……銃を6丁も装備してるとさ。

 

※─※─※

 

 俺はそこそこに拠点の酒場で飲んだ後、ログアウトして現実に戻ってきた。枕の近くに置いておいた高スペックデスクトップPCの遠隔スイッチでその電源を入れる。

 布団の外は其処まで寒くないため普通に起き上がる。

 パソコンが起動すると俺はPCデスクの前の椅子に座った。

 PCにインストールしている幾つものソフトウェアからVR空間製作ツールを起動する。

 

「…………」

 

 何時ものように製作途中のVR空間を呼び出す。

 その世界は曼珠沙華が視界一面に広がる丘だ。有り得ないような世界だが俺の生まれたて故郷には実在する。

 製作途中とは言っても大半は完成していて後はその世界を綺麗にするために大容量HDDにコンバートするだけだ。

 まぁ、買いに行かなければならないが……。

 俺は曼珠沙華が広がる世界を閉じて仕事の為に他の箱庭を開く。

 高校生の俺が出来るアルバイトでも株でもない金稼ぎはGGOで超レア銃を一発ドロップするか一発カジノで儲けるか1人で超大規模スコードロン潰すか、かなりマイナーな『VR空間製作』ぐらいだ。

 俺がやっているのがその『VR空間製作』。俺は作って欲しいVR空間を『箱庭』と呼ぶ。

 手順としては作って欲しい箱庭(VR空間)を募集するサイトを立ち上げ、メールで仕事を受ける峰を送る。VR空間の入った大容量HDDをこちらで先ず買って、作って欲しい箱庭を制作しお金(HDD代+2万円)を振り込まれるのを確認するとHDDを送る。

 一昔前の絵師募集に似ているかもしれない。昔やってたんだよな……友達の小説の挿し絵……カラー、モノクロ問わず。

 で、現在受けている仕事は5つ、もう既に空間の制作は終了しているため、今開いたのは新しい仕事のだ。

 月に大凡10~20空間は作っているため、最低でも月に20万円、多いときには40万円は稼ぐ。案外儲けてたりするのだ。

 

「今幾ら入ってるんだ?」

 

 気になって預金通帳を見てみる。

 現在の預金残高……一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億…………ん?一億?……

 

総額3億5623万円也

 

 結構な額が銀行に預金されていた。親からは他の口座にしっかりと仕送りを貰っているが、この量……下手すると親の財産超える……事はないか。何気に家の親、2人して大企業のCEOやってるからこの程度普通か。

 よく見てみればたまに一発で大量に入っている時があるから企業から何回か依頼を受けていたんだろう。てか、名刺貰ってるのにそれを見ない俺もおかしいよな。箱船を作るときは実際に会ってるってのに……。

 

 そしてふと時計を見れば午後7時過ぎ……結構やっていたんだな……随分と板に付いてきた物だ。

 

「腹減った」

 

 そりゃ、7時過ぎって言ったら飯の時間だからな。腹も減るよ……。

 

ピンポーン♪

 

 ここで部屋のインターホンが鳴る。この時間に誰だろうか?俺の友人はこの近くには詩乃しか居ないし、この時間に俺の所に来る奴はよっぽどの物好きだろう。俺でなくても付き合いやすいやつはごまんと居ると思うし。

 まぁ、居留守使うのも気が引けたので渋々インターホンに出る。

 

「はい、誰でしょうか?」

 

 そこでインターホンの画面に映ったのは隣の住人詩乃だった。

 

『あの……こんばんは……』

「……何のご用件で?」

『えっと……一緒に夕食食べない?』

 

 ……静かに夕食は食べたいんだけど……という返事をしそうになって何とかそれを留める。そもそも詩乃はそこまで喋らないしね。

 

「あいよ~」

 

 俺は玄関まで行き、閉めていた鍵を開けてドアを開ける。

 

「んで、どこで食べる?詩乃が作る?俺が作る?それとも外食かい?」

「えっ……と……」

 

 ふうむ……どうするのだろうか?てか、どうしようとしていたのだろうか?

 生憎と人の心を読む事なんて出来ないから良く分からん。特に女子の考えていることは……。

 

「あの、私のところで私の作ったのを……食べない?」

 

 誰が予想しただろうか?

 あ、自分で予測してたな。詩乃にそう言ったじゃん。

 とは言っても……詩乃のお手製料理は食べてみたいし何よりも女性からのお誘いだ、無碍に断る気も起きなかった。

 まぁ、父親に言われたのが原因でもあるが……。

 

~父の名言~

《女性のお誘いは何の理由も無く無碍に断るな》

 

 偶に父親の口から出てくる名言(迷言)の数々は父親曰わく全て実体験から来ているらしい。聞いてみれば父親はかなりモテるとのこと。現在進行形だって話を母親から聞いてる。大変だね、父親も母親も。

 父親は鈍感かって?むしろ逆の敏感だよ?そうでなければあんな名言が出て来る筈無いし。

 

「あの……お昼のお礼で……」

 

 ああ、なるほど。そう言う事ですか。それなら何となく納得出来るな……うん。

 てか、随分と不安そうな顔だなぁ……俺が断らないか心配なのか?まぁ、断りはしないが。

 

「分かった。有り難く頂くよ」

「そう?嬉しいわ」

 

 詩乃の顔は不安そうな顔から一気に安心したような顔になる。

 

「じゃ、ちょっと待ってくれ。着替えてくる」

「あ……うん、分かった。部屋で待ってるわ」

 

 俺はその返事を聞くとドアを閉めた。流石に部屋着で女子の部屋に上がるのもどうかと……って、俺はそこまで気の利く人間だったのか?初めて知ったよ。

 で、俺は部屋の箪笥から外に出ても恥ずかしくない……とは言っても下はジーンズで上にTシャツ、上着にフード付パーカーを着て家を出る。

 鍵はオートロックにしたため問題ない。ま、長時間出るときは普通の鍵も掛けるが……まぁ、今回は良いだろう大した物も無いし。

 俺は隣の部屋のインターホンを鳴らす。直ぐに中からドアが開けられる。

 

「どうぞ」

 

 上がる前に……一言言わせて貰おう。

 

「詩乃、誰なのかの確認をしろよ……そんなんじゃ、何時か事件に巻き込まれるぞ……」

「あ……うん、気を付ける……」

「じゃ、お邪魔しまーす」

「どうぞ」

 

 そうして俺は本日2度目の詩乃宅に上がった。




主人公とその幼馴染……元ネタ分かった人居るかな?


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第06話 お食事と……試験開始?

 詩乃の部屋に上がり、リビングに入るとそこには俺よりも先に先客が居た。

 彼は顔には幼さが残っているものの、両目に宿る濃い陰影だけはそれを裏切っている若干幼げな少年だった。

 俺は詩乃のあの噂……ではなく、過去が広まって尚、詩乃との関係を持っている少年に興味を持って話し掛けた。

 

「こんばんは」

 

 彼は少しおどおどしながら返事をする。

 

「あ、こんばんは……えっと、あなたは……?」

「本日、1年1組に転校してきた神那岐 汐耶と申します。長い付き合いになるかは分かりませんが……まぁ、宜しく」

「あ……同じクラスの新川(しんかわ) 恭二(きょうじ)です。宜しく」

 

 そのあと、殆ど同時に右手を出して握手をする。何やら握られた手が少し痛かったのは気のせいだろう。きっと彼は緊張していたんだ……そう思いたい自分がここにいる。

 俺の中には恐らく詩乃を自分のものにしたいという自分が居る……だが、詩乃の隣に居るべきなのは俺ではないと思う自分もそこには居る。

 詩乃のことを理解するのはあの場に居た自分ならば簡単だ。だが、それではいけないのだ。詩乃の過去を一切知らない者がそれを受け入れる、認められることが無ければ詩乃は周りから追い詰められ、自分を守る為に作ってしまった籠から抜け出すことは出来ないから。

 だから、詩乃の隣に居るのは俺ではいけないのだ。

 

「私は必要無いみたいね……」

 

 詩乃はそう言ってキッチンに入っていった。

 そこからは詩乃が来るまで終始無言だった。そもそも俺はコミュニケーション能力不足なのだ。所謂、コミュニケーション障害……と言うものではない(と思う)。話す事が無ければ話さない主義なのだ、無駄な事にはエネルギーを使わないのだ。

 更に言えば、家族が居る家に居たとしても俺は必要なとき以外部屋に籠もって居るほど独りが好きなのだ。

 

「何も話さないの?」

 

 気付けば詩乃がキッチンから料理を運んで来ていた。

 

「趣味とか知らないし」

「話すの面倒くさい……」

 

 上から新川くん、俺だ。これを聞いた詩乃は溜め息を一つ吐いて運んできた料理をテーブルに置くと言った。

 

「新川くん、こちらGGO中規模対人専門スコードロン『パンドラ』リーダー『アリス』」

 

 詩乃が新川くんにGGO俺を紹介する。

 

「ぱ、パンドラ!?リーダー!?……って事は『弾丸喰らい(ブザービーター)』で有名な!?

 しかも、かの有名なソロプレイヤー『西方の魔女(ウェスタンウィッチ)』を引き入れた!?」

 

 ……あいつソロだったのか……知らなかった。レールガンに関してはあいつから貰った設計書から改良改造したのをあいつに渡したんだよな。

 

「で、汐耶くん。こちら『シュピーゲル』」

 

 詩乃がのGGOの新川くんを紹介する。

 

「シュピーゲルね……」

 

 ドイツ語か何かだったかな?よく覚えてないな……ロシア語の方なら分かるんだが……。

 

「ま、とにかくご飯にしましょう。座って」

 

 俺はテーブルの折り畳み式の椅子に座る。

 

「あ……私が座ろうと思ったんだけど」

「気にするな。詩乃は主人だ」

 

 俺は食器類などを詩乃の所のと自分のを交換する。理由は言わなくても分かるよね。

 

「じゃ、頂きます」

「頂きます」

「……頂きます」

 

 順番に俺、詩乃、新川くんだ。

 料理のメニューは白飯、豚の生姜焼き、ワカメと豆腐の味噌汁だ。一汁一菜の節約メニューか……GGOの接続料が圧迫しているのだろう?

 まぁ、何かあった場合にそれは考えれば良いとして、俺は豚の生姜焼きを一口口に入れる。

 

「……旨いな」

 

 感想を小さく口の中で呟く。焼き加減、味付け共に丁度良い。

 次に味噌汁……味噌の加減が丁度良い。濃すぎず、薄すぎずで飲みやすい。

 白飯、かなり綺麗にとがれているが、強くやり過ぎたのか割れていたりするが……味は申し分なく、とても美味しい。

 米は炊くときにしっかりとぐのが大切だ。それだけやれば、白飯だけでも食べられる。

 

「美味しいよ」

 

 今度は詩乃にも聞こえるように言った。

 

「ありがとう」

 

 少し顔を朱くしながら答える詩乃。

 

「…………」

 

 新川くんが何やら妬ましいようなそんな視線をこちらに向ける。言うなれば『自分も言おうとしてたのに』だろうか?

 男の嫉妬は醜いって言葉を知っているかい?過去に見たことあるけど本当に醜いぞ?

 俺の幼馴染を取り合ってたけど見事に玉砕……正しくは自滅だった。

 どうもそいつら友人だったようでお互いにお互いの悪口を言い始め、爆発(発言)を投げ合い、最終的にお互いを終末に導く核爆弾(発言)を投げて、幼馴染に嫌われそれは収束した。

 遠目から見てたけどかなり醜く、そして壮絶だった。

 どうでも良いので閑話休題。

 突然に気になった事があるので新川くんに聞いてみる

 

「ところで、新川くんはGGOでどんなステ振りなんだい?」

「あ……いや……」

 

 もう何か分かった気がする。流行に乗ってやっちゃったって人じゃ無いか?

 

「……AGI一極です……」

「あぁ……やっぱり……」

「じゃあ、そう言う神那岐さんは何なんですか?」

 

 ま、答えますか。こっちから聞いたんだし、答えるのが常識だろう。

 

「DEX―AGI型だよ」

「……何ですか?その謎ステ振りは?」

「変態ステータスで悪かったな!!行き詰まりでどん詰まりのAGI一極型!」

 

 俺は最後に少し残っていた味噌汁を飲み干した。案外、お気に入りのステ振りなんだが……。

 俺はここで新川くんに意地悪をしてみる。

 

「……AGI型一極でキャラ育成に困っているんだろ?」

「うっ……」

「何で必要な時にAGI以外に振らなかったのかねぇ~……後先考えてやろうよ」

「……そう言うあなたはどうなんですか?」

 

 意趣返しとばかりにそんな事を言う新川くん。意趣返しとか意味ないよ?

 

「ん?俺は別に困っちゃ居ないよ?確かにさっきDEX―AGI型とは言ったものの、俺はそこまで重いアサルトライフルやら重機関銃やらバトルライフルやら使い気は無いからね。

 必要なのは馬鹿デカい反動を片手で抑えられるSTR値だけだよ。あのじゃじゃ馬を使いこなすにゃもうちょいSTR欲しいけど……」

「……あの、マナー違反だとは思いますが……メインアームは何を?」

 

 なら聞くなよと言いたくなるのを抑えて答える。

 

「んー……ファイブセブン二丁、P90、MP7二丁、M500二丁……だな」

「……メインアームですよ?」

「だから、メインアームを言った」

「全部?」

「あ……」

「なんですか?」

「サブアームでOSV―96を……」

「なんでサブアームの方が重いんですか!?」

 

 いや、だって……ねぇ……?

 

「俺のメイン、サブってのは戦闘中の武器切替じゃなくて使用頻度だよ。

 君の知っている『弾丸喰らい(ブザービーター)』こと弾丸に弾丸を当てる技術だけど……あれはお遊びでしかない。本当にロールプレイングだよ。使えるか分からない『自弾道予測線表示』なんてつけるぐらいだしね。

 ……で、人を基本的に仕留めるのはM500の役目。勿論、他のやつでもある部位に一定のダメージ与えられれば一撃死ではあるけど……確実性が安心出来るという観点で言えば、M500がメインアームかもね」

「あの重いM500を片手で……規格外にも程がある……」

 

 早速AGI型一極の人にまで規格外宣言された……悲しくなってきた……。他に規格外って言ったやつ?ストラトミットスに他のスコードロンメンバー多数だな。あれは泣けた。

 

「汐耶くん」

 

 詩乃に話し掛けられ、俺は返事をする。

 

「……何?」

「自分の出身とかって言わなくて良いの?」

「寧ろ言うな。嫌な予感しかしないから」

「わ、分かった……」

 

 少し強い口調でごめん、でも今は必要ないよ。必要なときに使うものだよ、情報っていうのはね。

 

 その後は新川くんが話のメインになったのだが……彼の目を見ていたらある隠している感情が見えた。

 恋情と言うか好きと言う感情は照れ隠しのようにして隠しているが、その裏にある感情が見えてしまった。

 隠している感情、それは……

――狂愛――

 

 ものの見事に狂ってしまった恋心。

 これも同じく、幼馴染が俺の友人の餌食になったが……俺の幼馴染ってそこまで柔じゃ無かったんだよね。物の見事にそいつの心を粉末状になるまで折ってたよ……

 まぁ、その後は何とか日常生活遅れる程度には回復したらしかった。言葉責めが癖になったとかってのは聞かなかった事にした。

 このおかげで幼馴染が心的外傷を与える事が出来る話術を身に付けてしまったのはご愛嬌でも何でもなく、正に彼の狂気の産物(意味不明)であろう。

 おっと、閑話休題。どうでも良いので終わるとしよう。

 

 そのあと、俺は早々に帰らず、新川くんが帰るまで詩乃の部屋に居た。

 その理由は勿論、新川くんの狂愛が出て来ないようにするためだ。狂愛は俺の経験上自分と対象の2人きりでなければ、出て来ない……経験上では……。(幼馴染のを2回見て、1回被害に遭った)

 まぁ、狂愛が露わになった後は対象の親しい人が来れば、その人物の所為で自分に愛が向かないとか言い出すけどね。大変にウザイ……運命だとか好きになるべきだとか、君は彼女に相応しくないだとか……いや、お前が言うことじゃないと言い返さなかった俺を褒めて欲しかったね。結局、幼馴染に心をズタズタにされたようですが……可哀想に言葉責めが癖になって戻ってきましたよ。

 で、今回は俺が居たからか片鱗を見せる程度に留まった。酷いとき誰が居ようと狂愛って起こすからな……。ああ、恐ろしい恐ろしい……恐ろしい(重要なので3回言いました)。

 

 で、詩乃(正しくはシノン)がパンドラに入っていると新川くんに伝えると何故か凄い形相でシュピーゲルを『パンドラ』に入れさせてくれって言われたが……即座に断ったんだけど粘られて、仕方無く入団試験をやる羽目になった。

 入団試験の条件は『圏内デュエル』。勝利条件は2時間以内に俺にダメージを入れること。敗北条件はタイムアップ、もしくはあちらの死。禁止事項として俺の『弾丸弾き』が禁止された……詰まらぬ。

 会場はグロッケン圏内。こっちは発信機を付けて逃げる。あっちは俺を追う。天を突く摩天楼を利用したワイヤーアクションは禁止されなかったから遊べるよ。バイクは禁止されたけど。

 

※─※─※

 

「……86計逃げるに如かず」

 

 試験開始されてから5分俺はシュピーゲルに見つかりはしたものの、まだ銃を撃たれていない……銃を構えた瞬間に準備済みのワイヤーを巻き取り、上に飛ぶ……。

 相対距離が200を切った瞬間にシュピーゲルが両手で持っているアサルトライフルで照準し引き金を引く一瞬前、俺はワイヤーを巻き取って宙を舞う。

 宙を舞った瞬間、俺の居た場所に3発の弾丸が通り過ぎる。

 狙いは正確……条件を満たしたら入団出来るレベルの照準速度と精度だ。だが、もう100近くても良いかな……?まぁ、それだと普通の評価しかしないがな。

 シュピーゲルが俺を照準し射撃するが……もっと正確に予測しなければ当たるものも当たらない。

 俺は巻き取りを止めて振り子の運動で斜め上に移動するのをやめて移動を始める。

 シュピーゲルは俺を見るなりステータス補正と『疾走』、軽業派生スキル『壁走り(ウォールラン)』で人に邪魔されずに追いかけてくる。

 スキル構成は自慢のAGIを生かす構成にしているようだ。

 

 ここで10分が経過したため、使用を禁止されていた俺の武器の使用が解禁された。

 さあ、楽しもうか?



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第07話 試験終了と転校生

試験開始から10分、俺は空いている左手で腰の後ろに装備しているMP7を取り出し、地面を走って来ているシュピーゲルを照準して、予測照準が合った瞬間に引き金を引いた。

 50発の拡張マガジンを一瞬の内に撃ち切ったにも関わらず、シュピーゲルのHPはまともに減って居なかった。流石はAGI一極型、回避はお手の物と言った感じだ。何故それで育成に困るのかというレベルの話である……。

 俺は左手のMP7を腰に仕舞うとビルの壁面に刺さっていたワイヤーアンカーを引き抜き、一瞬で巻き取りまた投げた。今度は只、振り子の運動に任せるだけでなく、ワイヤーに体重を任せ壁面を走った。

 俺は右のアンカーを引き抜き、次のビルに投げるのと同時にその反対の方向に左のワイヤーアンカーを投げた。

 シュピーゲルが曲がってきたのを確認した時点で、右のアンカーを引き抜き巻き取りつつ、左のアンカーを引き抜かずに巻き取る。俺は仮想の重力に従い後退しながら地面に落ちた。俺は地面に足を着いた瞬間に左のアンカーを引き抜いた。

 シュピーゲルは俺を見失ってキョロキョロしている。このままスニーキングするのも良さそうだなぁ……という考えを振り切って黒いコートのフードを目深に被り、足音を立てずに人混みに紛れてシュピーゲルの後ろを追う。シュピーゲルはどうやら発信機という存在を忘れているようだった。

 俺はこれを好機と見て右大腿部のM500を右手で引き抜き、シュピーゲルの後頭部を照準する。

 そして引き金を引く一瞬前、シュピーゲルが一気に振り返って武器であるアサルトライフルをこちらに向けた。

 

「残念でしたね」

 

 シュピーゲルは引き金を引く瞬間、勝ち誇ったような顔をしたが……

 

「俺を誰だと思ってる?有名な弾丸喰らいだぜ?」

 

 弾丸が撃ち出された瞬間に俺は弾丸を避けた。弾丸弾きをしているのだからこれぐらいは余裕で出来る。出来ない筈が無いのだ。

 そして俺は弾丸を避ける中、右手のM500をシュピーゲルの眉間に照準して、撃ち出した。

 マッハを超える弾丸は眉間に当たり、シュピーゲルのHPを0にした。

 因みに今回の試験はデュエルでやっていたが、その設定によってはデスペナルティ(レベルになっていない経験値消失や一部アイテムドロップなど)を付ける付けないが設定出来る。今回は全切りだったが……。

 なお、勿論俺のHPは1たりとも減っていない。この試験、俺の勝ちだ。

 

「あー……めんどくせぇ……」

 

 何が面倒くさいかと言えば、結果を知らせに死に戻りポイントに行かなければならないのが大変に面倒だ。

 もう試験官なんか絶対にやらないからな!

 

※─※─※

 

 総督府近くの死に戻りポイント前で俺、シノン、シュピーゲルの3人は何も言わずに立っていた。

 そんな膠着状態を破ったのはシノンだった。

 

「……結果は不合格って事で良いのよね?」

「ああ、シュピーゲルには悪いがな」

「………………」

 

 そこまで睨むなシュピーゲル。プレイヤースキルが足りてないんだよ……キャラステータスじゃなくてさ。

 

「でも、まぁ……キャラ育成に困る理由が分かったよ」

 

 シュピーゲルが俯いていた顔をバッと上げた。現金なやつだ……嫌いだが……まぁ、仕方がない……教えるか。

 

「シュピーゲル、回避能力は流石はAGI特化と言うべきか良いんだが……足りないと思うものはなんだと思う?」

「…………状況判断力ですか?」

「ハズレ」

「えー……分かりません」

 

 これだから最近の若い奴は嫌いだ。分からない事は殆ど考えもせずに答えを聞こうとする。嫌いなんだよ……全くもってさ。

 

「AGI型の基本戦法は?」

「回避と速射です」

「そう、回避と速射。てな訳で足りてないのは重い高火力武器とそれを持つSTRじゃなくて、扱いやすい軽火器と命中精度を上げるDEXだ。ヘッドショッド喰らわせれば一撃なんだから思い武器を振り回す意味はない。

 闇風がもっともな証拠だな。てな訳で、誰が変態ビルドだって?」

「すいませんでした」

「分かればよろしい。

 俺とて何も考えずにステータス振ってる訳じゃない……。

 兎に角不合格だ。1から出直して来やがれ」

「はい……」

 

 シュピーゲルがトボトボとデュエルアリーナのある方へと歩いていく。

 速射上げるならモンスター戦でも良いんだがな……まぁ、良いか。

 

「ねぇ……」

 

 ここでシノンが俺の袖を引っ張る。

 

「何?」

「なんでアリスは私をシュピーゲルみたいに試験に受けさせなかったの?」

 

 ……いやぁ、痛いところを突いてくるね……。

 答えは決まってるけどね。

 

「シノンがスナイパーでシュピーゲルがアタッカーだから」

「そんな理由で?」

「スナイパーは希少だからね。欲しいだけ欲しいのさ」

「アタッカーは不憫ね」

「スナイパーが優遇されてるだけだ。」

 

※─※─※

 

 次の日の朝、朝食を食べながらスマホでネットニュースを見ているとこんな記事を見つけた。

 

『箱庭の人気について』

 

 その記事を見ていくとページの下の方に俺の箱庭の他様々なサイトのURLが載っていた。

 

「……なんだこりゃ」

 

 俺は自信過剰だと思いながらも見ることはないテレビの電源を入れた。

 その局ではニュースをやっていたのだが、丁度なのか『箱庭』について報道されていた。

 

「……えー…………」

 

 他の局に変えても何故か箱庭が有名になっていた。流石にテレビ局では名前や写真を公開する事は無いようだが、2chの掲示板では盛大に公開されていた。

 一体、箱庭のどこに有名になる要素があったんだろうか……。何時の間にか依頼されたVR空間の名称が『箱庭』というのも広がっているし。

 そうしている内に家を出なければならない時間になったため俺は朝食に使った食器を水を溜めた流しに入れて、部屋を出た。

 

「ん…………」

 

 空は雲が幾つか浮かんでは居るが晴天に近い天気であってもそこまで暖かくなく、少しヒンヤリする温度だった。

 

「おはよう」

 

 そう声を掛けられて横を見れば学生服を着た詩乃が鞄を持って立っていた。

 

「おはようさん。マフラー、似合ってるよ」

「ありがと」

 

 詩乃は少し顔を朱くしながらそう言った。いや、ホントに似合ってるんだよ、お世辞とか抜きで。

 

「行かないの?」

「行くよ?ただ、ちょっとね……」

「私を待ってたの?」

 

 そんな詩乃の質問に俺は冗談めかして答えた。

 

「ま、そんな所」

「じゃ、一緒に行きましょ」

「そうだな」

 

 俺の冗談は理解して貰えなかったらしく、少し朱かった顔を更に朱くしながらそう言われた。残念だ……冗談のセンスが無いのかもしれんな。

 

※─※─※

 

 学校に着いて、席に座ると少し仲の良くなった男子が声を掛けてきた。

 

「おはようさん」

「ああ、おはよう」

「なぁ、聞いたか?転校生の噂」

 

 ……噂か。学校ってそんな噂だけで騒がしくなるもんだな……もう少し静かな方が好きなんだが。

 

「転校生?俺が来た次の日にか?いくらなんでも多いだろ……いや、そもそも転校生自体珍しいか」

「いや、このクラスには来ないよ。隣らしい」

「その情報網、信用出来んの?」

「昨日、2組の知り合いが帰りのHRで伝えられたって言ってたから確かだよ」

「そうなのか……どっち?」

 

 男だもの、俺だって。騒ぎこそしないが、気にならない訳ではない。

 

「お?やっぱり気になるか?」

「まぁ、人並みに」

「今、アンケート取ってるけど優勢なのは女子だな」

「……そのアンケートの対象……」

「男だけだぜ」

 

 やっぱりか……これはあれだ、小説とかに良くある……。

 

「どうしようもねぇ……これは男子確定だ」

「浪漫が無いな……お前」

「だってそうじゃねぇか。小説とかでは女子が転校して来るけど現実見れば男子だらけじゃねえか」

「確かに……」

「ま、結果は後々伝えてくれ。写真があれば尚良いな」

「了解」

 

 俺はそれから本を出して読み始めた。本の題名は『この世にご都合主義は存在しない』だ。一応ラノベで売上は上々らしい。

 中身は曲がり角で美少女にぶつかってパンツが見れるとか、その美少女が実は転校生だったとか、朝ベッドで起きたら美少女がいきなり自分の隣に寝ていただとか、そんなものが一切存在しない世界で暮らすとある少年のお話だ。ご都合が存在しないため、ポロリとか転んで少女の胸を揉むとかそんなものはない。一応ラブコメだ。

 で、本を読んでいる内に何時の間にか朝のSHRが始まっていた。転校生はやはりこのクラスではないらしい。隣の2組が何やら騒がしいためやはりあちらだろう。

 

「――では、朝のSHRを終わる」

「起立、礼!」

 

 SHRが終わると同時に前の席の奴は2組の方に向かった。見つかると良いな。

 

※─※─※

 

 そして一時間目の休み時間、前の奴が話し掛けてきた。

 

「汐耶」

「結果は?」

「女子だったぜ。しかもスンゲーカワイイ奴」

 

 前の奴は転校生を撮ったのであろうデジカメの画面を見せてきた。没収されないのか……規則が何気に緩いな。

 真っ白い腰の辺りまで伸ばしたロングの白髪に紅い瞳の少女。その顔はまさしく……えっ!?

 俺はその顔を見た瞬間に驚いてひっくり返ってしまった。

 

「おいおい、大丈夫かよ?」

「大丈夫だ、随分と可愛くてひっくり返った」

「そうか……まぁ、そうだよな……こんなに可愛くちゃあな」

 

 なんでアイツがここに居るのか疑問に思いながら、俺はその日の午前中の授業を受けていた。

 

※─※─※

 

「起立、礼!ありがとうございました」

 

 汐耶は4時間目終了後直ぐに弁当を持って教室を出た。

 それから少し経ってから白髪、紅眼の転校生が一組を訪れた。

 

「すいません」

 

 隣から訪れた激カワの転校生の訪来に教室が湧く。

 その訪来にクラスのモテる男子が聞きに行く。

 

「どうしたんですか?」

「ん……神那岐って言うのを探してるんだけど」

「神那岐……ああ、あいつなら授業終わった後に直ぐに出てったけど?」

「……そっか……ありがとうございました」

 

 その教室から去ろうとした転校生の腕を男子が掴む。

 

「……何ですか?」

「あんなの探すより、俺と飯を食わないか?」

「すいません、ボク君みたいな人と食べたくはないので」

 

 転校生は掴まれた腕を振り払った。

 

「……そんなナンパして引っ掛かる人なんて居るんですか?」

「なっ!」

 

 転校生はそう言って教室から今度こそ、教室から去った。

 

※─※─※

 

 俺はアイツが教室に来る前に教室を出て、体育館裏で昼食を食べていた。

 てか、なんでアイツがここに居るのか……アイツは確か“あの”学校に行ってた筈だろ……。

 

「汐耶っ!」

 

 だが、逃げるのは無理だったようだ。

 

「よう、沙耶」

「久し振りだねぇ……」

 

 本名『七乃瀬(しちのせ) 沙耶(さや)』。俺の小さい頃からの幼馴染だ。

 先天性白皮症……通称『アルビノ』のため皮膚、髪、瞳の部分のメラニン色素が無いため、肌は白に近く、髪は真っ白、瞳は瞳を通る血の色が透過して紅い。

 そして本来ならばコイツはここには居るはずが無いのだ。日本を震撼させたあの『SAO事件』の被害者、SAO生還者(サバイバー)であるため、政府の用意したSAO生還者の通う学校に通っている筈なのだから。

 まぁ、それでも、頭脳明晰なコイツには中学の勉強なんて恐らく難しく無かったのだろう。

 

「汐耶くん」

 

 ……どうやら詩乃もここに来たようだった。

 まぁ、そこまで姦しくない2人だからどうでも良いか。




……初の生まれつき持病(?)持ちの登場です!!たぶんこの先には関係のない設定かと思われますので生温かい目でお願いします。


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第08話 幼馴染みと遠藤ズ

久しぶりの投稿です。
いやぁ、時間がなかなか取れないわ、話は思い浮かばないわで大変でしたよ。


今、俺は詩乃と沙耶に挟まれ、両手に華ならぬ両手に刃とも言うべき空気に包まれていた。だって2人とも笑ってんのに目が笑ってないんだもん。

 何と言うか……こういうのを修羅場って言うんだっけ?……俺、なんかやらかしたっけ?

 

「……汐耶」「……汐耶くん」

 2人が同時に口を開き……

 

「「……浮気?」」

 

 ネタとしか言いようのない言葉が飛んできた。

 

「まず、前提条件が可笑しいな。お前等どちらかと付き合ってる訳でもないのにその単語は出て来ないだろ」

「「……じゃあ、誰?」」

 

 ……沙耶が過去の事で有名なのとのアイツの持っている『性質』があれば詩乃を忘れる訳は無いし、詩乃があの特異な容姿を持つ俺の幼馴染である沙耶を忘れる訳も無い……。

 

「わざとやってんなら……これから一切合切何があろうが反応しないぞ?」

「「ごめんなさい、それだけは勘弁してください」」

 

 過去、友人に聞いた話では本当に一切合切反応しなかったらしい。虐められているという話を聞こうが、何を聞こうが(藁人形が俺の写真と共に五寸釘で有名な神社の御神木に磔にされてたと聞いても(後に何か俺に恨みを持ってた奴が倒れたとか聞いたな……そう言えば近所の御神木に頭に蝋燭巻き付けて火付けて何かを五寸釘で打ってるそいつを見たような)、呪いを掛けようとしているらしいと聞かされようが)反応しないと決めた奴には本当に反応しなかったらしい。

 聞いてた自分が怖くなって話の途中で耳塞いで聞かなかった。

 

「てな訳で自己紹介は不要だな……でだ沙耶、お前なんで此処に居る?」

「うえー……話さないと駄目?」

「駄目だな。いくらお前が天才で、頭がキレて、世の中上手く渡れようが……俺が納得するまで話せ」

 

 沙耶はうー…………と少し、唸った後に言った。

 

「分かった。でも、条件がある」

「……どんな?」

 

 粗方予想は付く。一緒に出掛けよう辺りだろう。

 

「週末、遊びに行こう?詩乃ちゃんも誘ってさ」

「ほう……そりゃあ良いな。何処にだ?金は持ってやるよ」

「羽振りが良いね……じゃ、遊園地とかどう?」

「貸し切りにしてやろうか」

「だーめっ!時間掛けて並んで乗るのが良いんじゃないか」

 

 一回やってみたいな……と思っていたが、却下された。残念、また今度だな……いや、次があるかは不明だけど。

 

「えー……と……?」

 

 あ、詩乃が話に着いて行けなくなってる……。

 

「んで?飯でも食いながら沙耶の話を聞こうか」

「分かったわ」「は~い」

 

 2人は俺の両隣に座って昼食を食べ始める。

 端から見れば両手に華かもしれんが、やられてる本人からすれば両手に刃……もとい、両方から銃の空気はキツい。まだ、GGOで武器持った奴らに囲まれた方が居やすいぜ。

 

「んでー、汐耶が聞きたかった『ボクがここに居る理由』だけど……簡単に言うなら『あの学校に通う必要性が無くなったから』だよ」

「勉強なら、お前は教科書読むだけで良いしな」

「キミが思う以上に困っているんだよ?この症状」

「物事を一切忘れない……いや、忘れられない病気『超記憶症候群』……だったか?」

 

 アニメなどで使われるのは『完全記憶能力』と言われるもので、かなり症例は少ない。

 沙耶はその少ない症例を持っている内の1人だ。

 とは言え、この超記憶症候群は一般人からすれば『あったら楽が出来る』と思うだろうが、実際に持っている物からすれば『呪い』の他当てはまらない。失敗したことや侮辱、虐め、耐え難い恥ずかしい事……それらが一般人のように超記憶症候群を持つ者は『記憶に埋もれる』なんて事は無いのだから。

 特に虐めは受けやすい。どんなことも忘れられないその力は学校の些末な事にさえ影響を及ぼす……テストを受ければ毎回百点満点……当たり前だ。テストは授業で受けたことしか出ないのだから自然、普通に受ければそうなる。

 沙耶も例外に漏れず、中学に症状の出始めてから2回の定期テストで連続全教科満点を取り、クラスメートから何かズルをしているのでは無いかと思われる始末。

 そして、沙耶は容姿も相まって虐めを受け始めるが何事も無いかのように日々の日常を過ごした。靴を隠されようが予備を出して履く、教科書を捨てられようが水浸しにされようが捨てられた物を普通に使い、水浸しになった物は次の日には綺麗にして使われている。暴力を受けようがすらりすらりとかわして反撃はしない。

 だが、そんな虐めの日々はある日突然見なくなる。

 理由は簡単、沙耶が日本を震撼させた最悪の事件『SAO事件』に巻き込まれたからだ。

 

まぁ、閑話休題。

 

「じゃ、ここに来た理由を教えて貰おうか」

「簡単だよ。あそこで勉強する事が無くなったから転校してきた」

「……そんな事だと思った」

 

 詩乃は最早話に参加する気が無いようで、無言で昼食を食べている。蚊帳の外って感じになってすまん……。

 

「ところでさ、詩乃ちゃんは何かVRMMOやってたりするの?」

「え……?何でそう思ったんですか?」

「同じ年なんだから敬語は要らないよ。

 何でそう思ったのかって疑問の答えは……なんとなくかな?」

 

 沙耶は勘が良いからな……何となくでも当たるんだよな。

 

「えっ……と…………ガンゲイル・オンラインを……」

「やっぱり……昨日振りだね、シノンちゃん」

「え……?」

「キミの名前で何となく分かったよ。本名のモジリとはちょっとどうかとも思うけど……本人次第だし」

「まぁ……そうね……」

「ま、そう言うボクも人の事言えず、少し前まで『Die』と表示して『ディー』と名乗ってたんだけどね」

 

 『ディー』……沙耶がMMOなどて多く使う名前だ。沙耶の場合、『Die』の表記+PKをする事が多いためかなり有名な名前だ。

 他の特徴として沙耶が付加させているのが白い髪に紅い目、白の下地の装備に紅い血の血飛沫の装備が基本。

 呼び名は『白血飛沫のPKer(死神)』読み方は『はっけつひまつのしにがみ』。恐ろしい名前がついたものだ。GGOでは『西方の魔女(ウェスタンウィッチ)』と呼ばれては居るが中身は同じで偶にニュートラルフィールドにいるスコードロンを潰しに潰しているらしい。

 最早戦闘になって居らず、只の蹂躙としか言いようのない状況だったが、ミットスがとても良い笑顔だったので止める事無く、俺はその場から去った。死にたくは無かったからね。

 にしてもあいつ、SAOというデスゲームの中でも同じ事してないだろうな……流石に無いか。

 

※─※─※

 

 時は飛んで放課後の後者裏。

 俺は昨日詩乃についてありもしないことを嘯いていた遠藤とかって言う愚者とその取り巻き2人に呼び出されていた。

 めんどくさい事が起きそうな予感がいたします。理由?現実をねじ曲げる嘘をあの遠藤……めんどくせ、遠藤ズに言うからだよ。

 しかも、今回の嘘は実際にその現場を見なければ見抜けない嘘だ。

 

「はーい?待たせたぁ?」

「呼び出しておいて30分も待たせるな」

「女子に対して紳士としての対応があるんじゃ無いのぉ?」

「興味が1マイクロメートルとしてない奴に紳士としての対応をする必要は無い」

「ふーん……ガッカリね」

 

 勝手に言ってろ。

 まったく、何で俺はこんな馬鹿共の相手をせねばならんのだ……話してるだけで気持ち悪い。

 

「で?調べ直して詩乃のやった事は変わったか?」

「はぁ?変わる訳ないじゃん」

「「無いじゃん?」」

 

 ハモるな、鬱陶しい。

 

「全く……まぁ、良いや。お前等に本当の話をしてやるよ。

 尾鰭の付いていない、本当の話をな」

「はぁ?なにそれ、それで朝田さんを擁護するつもり?あ、もしかして体で誑かされたとか?」

「「ギャハハハハ!!」」

 

 ウザったい。殴りたいと本気で思う程にウザったい……。

 で、ひとしきりあいつらが笑った所で話を再開した。

 

「んじゃま、話を聞いて貰おうか?」

「仕方ないわね聞いてあげるわよ」

「「仕方無くよ?仕方無く」」

「ああ、はいはい……良いから聞け、疑問に思うことがあるなら質問しろ」

 

 そう言って俺は嘘と真実を織り交ぜだけ話をし始めた。

 

「面倒臭いから要点だけを話そう。

 俺と詩乃が親と共に郵便局に来た。そこにいきなり強盗が押し入って金を要求した。

 強盗は郵便局員を1人撃つと今度は客の居る方に銃を向けた。強盗の照準した先には幼い詩乃……俺は強盗に襲い掛かり、強盗の銃を奪い、三度引き金を引いた。

 致命的だったのは最後の3回目の引き金だった。3発目は強盗の眉間に当たった。ゲームで言うならヘッドショット。強盗は即死した。

 これがお前たちの言い触らしてる事件の真相だ」

 

 何か遠藤ズが苦虫を噛み潰したような顔してるが構わず続ける。

 

「で、こっからがお前たちの聞かなければならない話だ。

 世の中は8割方嘘だ……てな訳でお前等の見つけた大半の情報は嘘だった……幾つか無かったか?実際には同い年の男子が殺したって記事」

「そう言えば……」

 

 この話については俺が実際に記事を作り出し、サイトに載せただけだ。全くの大嘘だが、今更他の本当の記事とともにネットの情報の海に沈んでいるだろう。

 

「情報伝達なんて伝言ゲームと同じで、他人から他人へ行く毎に内容は変わる。

 詩乃の件もそうだ。情報は広がりやすい形にどんどん変わり、最終的に殆ど原型を留めない。

 詩乃のやつは俺という『男子』が殺したと言うより『女子』殺したと言うことにすれば、悲劇のヒロインらしく広めやすい……そう言うことだ」

 

 話し終わった俺に遠藤が言う。

 

「なら、朝田さんのPTSD(心的外傷後ストレス障害)はなんて説明するんだ?」

「嘘によって広がった情報による虐めによって起こった現実錯誤……だろうな……殺してもいないのに殺してしまったと思い込んでしまったんだろ」

「…………アンタは人を殺して何とも思わなかったのかよ?」

「正当防衛で何を思えと言うんだ?

 ま、罪から逃げるための建て前ではあるがな」

「そうかよ……『人殺し』」

「「人殺し」」

 

 遠藤ズの口元がつり上がる。

 

「そうさ、俺は人殺しさ」

 

 俺はそう言ってその場から離れた。

 

※─※─※

 

 人殺し……ね……これは予測してなかったが……ま、後は遠藤ズがまた広めるだろうな……確証は無いし……確率も少し低いが……。

 これで多少、詩乃の重荷を背負えるなら良いさ。

 俺はそう心の中で終わらせて頭にアミュスフィアを被り、合い言葉を口に出す。

 

「リンク・スタート」




てな訳で(どんな訳?)後書きですが……これの外伝的なのを書き始めようかなと思案中……もとい、決定です。異論は認めません。反論も聞く気はございません。

と言う訳でその物語の主人公はこの作品で幼馴染み兼サブヒロインを持つ七乃瀬 沙耶/ストラトミットスことディーです(神ないから離れるつもりはない)。
タイトルは『SAO ~赤黒の戦乙女(ブラッディヴァルキリー)~』です。近日公開!!かみんぐすーん


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第09話 週末

そしてやって来た週末……そう、詩乃と沙耶と遊園地に行く日だ。なんか憂鬱……頭が痛い……治っていた偏頭痛が復活しやがったのか?

 集合場所は俺、詩乃、沙耶の住んでいるアパートの門だ。つい一昨日まで沙耶が同じアパートなのは知らなかった……つか気付けなかった。集合時間は朝7時、移動はバス。

 なんでバイクじゃないのかって?そりゃ、沙耶も詩乃もバイク免許持ってないからだ。普通持ってる訳がない。

 ……で、現在時刻午前6時57分。俺はアパートの門の前に居る。詩乃はもう既に隣に居る。俺が来たのが50分ちょい前だったのだが、来てみれば詩乃はもうそこにいた。今は沙耶を待っている。

 詩乃の格好はダメージジーンズに長袖のシャツの上に青色のフード付きパーカーを羽織り首にはマフラーを巻いたものだ。俺はサンドカラーのズボンに黒の長袖シャツに白と黒のフード付きパーカー、首には真っ黒い伸縮素材で出来たチョーカーだ。お洒落とか気にしない俺は至って普通の格好だ、チョーカー以外は……詩乃もそれは同じか。

 

「おまたせ♪」

 

 ようやく沙耶も来た……7時ジャスト。時間前行動を沙耶はしないからどうでもいい。時間とか細かい事を気にしない大雑把な沙耶の性格はSAOで死にかけようが何しようが変わらなかったらしい。

 沙耶の格好は赤と白のチェック柄のロングスカートに白のシャツ、そして赤黒い……血の色とでも言うべきどぎつい色のチェスターコート……普通の女性が着れば違和感があるかもしれないが沙耶にはその違和感を感じない……何というか、着こなしている。

 

「んー……やっぱりなんか足りないなぁ……」

 

 沙耶は背中を見ながらそう言った。

 ああ……そう言う事か……沙耶のその格好はSAOでの格好か……どうりでしっくりくる訳だ。

 

「……ま、仕方ないかな。あの世界じゃないんだし♪」

 

 ……吹っ切ったようだ。何時までも引っ張っていてはどうしようも無いのだろう。間も無く1年が経つのだから……

 

「さぁ、遊ぶよ詩乃ちゃん♪汐耶の奢りだしね!!」

「ええ、そうね」

 

 あー……そういやそうだったね。しっかりと俺の財布の中に一応の予備も含めた12万円が入っているのが怨めしい……

 ま、それだけで詩乃の笑顔が見れるならそれで良しとしよう。

 

「さ、行こう♪」「行きましょう?」

「はいはい……」

 

※─※─※

 

 そしてやって来たは遊園地。右には詩乃が左には沙耶が抱き付いている。つまりは両手に華……周りからの視線が痛い……頭も痛い……。

 更に追い討ちを掛けるのは沙耶の平均を上回る大きさの胸のソレと詩乃の小さくはあるがしっかりと質量のある胸のソレの感触……逃げたいけど逃げられない……ここに来るまでに1度逃げようとして逃げ損ね、ただ腕を組むだけでなく押し付けてきたのだ。まだ普通に腕を組むだけの方がマシだった。

 ここで当たってるって言ったところで当ててるんだよ的な言葉が返ってくるのは確実なので言わないが。

 

「んじゃ、最初は何にする?無難にジェットコースター?」

 

 ……どこが無難なのかと突っ込みたい。

 因みにここの遊園地、ゲテモノ遊園地として有名だ。例を挙げるならば

・時速120キロの足の着かないジェットコースター【ホェアーアーユーレッグス】

・落ちる角度が70°もあるジェットコースター【ダイブ】

・グルグルと座席が回転しながら時速80キロの速度で走るジェットコースター【ハイアラウンド】

・5分耐久時速70キロジェットコースター【ファイブミニッツロード】

・超高速回転コーヒーカップ【アラウンドアラウンド】

・70メートルの高さからバンジージャンプ【ヒャッハァァァ!】……etcetera

極めつけは耐えきったら現金1万円プレゼントの1時間耐久時速100キロの足の着かないジェットコースター【レッツゴウ・インフェルノ】……未だにクリア出来た奴が居ないらしい……俺はチャレンジしたこと無いが。

 

「じゃあ、早速1時間耐久時速100キロジェットコースターに行ってみよー!!」

「おー!」

 

 2人に引き摺られて1時間耐久ジェットコースターに向かう俺達3人。

 え?沙耶、詩乃?マジですか?初っ端からハード楽々飛び越えヘル(地獄)も普通に飛び越えインフェルノ(火焔地獄)にチャレンジすか?

 

「いや、まずは5分耐久あたりから……」

「大丈夫大丈夫♪」「大丈夫よ」

「そのこころは?」

「「アリスのバイクに比べればどうって事は無い(わ)♪」」

「……………………」

 

 反論出来ない俺が悔しい。

 そして乗せられる前にしっかりとトイレに行き、漏らさないようにしてから自分で乗る。

 乗り方は1列で順番は俺・沙耶・詩乃。首にはハーネスが着けられ、肩の方からしっかりとシートに体が固定される。俺、詩乃、沙耶の右手に持たされたのは何やらボタン付きのグリップ。説明では停止ボタンだとか……始まってすぐに……

 

「汐耶、これ押したらまた乗るからね」

「……ハイ」

 

 押したかったな……。

 足場が下に降りていき足がブランブランとなる。ガタガタと動き出すジェットコースター。右手のグリップは握るだけで上の親指で押すであろうボタンには親指を架ける事もしない……偶然にも押したら一大事だ。

 ガタガタと登っていき頂点に1番後ろが達した瞬間、ソレは始まった。

 普通に落ちるだけではない、捻りが加えられながらの落下。例えるならば空自の航空祭のブルーインパルスのコークスクリューの外側のやつの落下バージョン。

 

「ギャアァァァァァァァアッッ!!」

「「ヒャッホォォォォォオ!!」」

 

 えー……悲鳴ならぬ喜鳴を聞きながらも次に移る。

 次は……直角旋回?

 

「ヒィィィィィイッッ!?」

「「イィィィィエェェェェイィィィィッッ!!」」

 

ガガガガガガガガガガガガガ

 

 と連続で高速で直角に曲がるジェットコースター……うわ、なんつうジェットコースター好き殺しだよ。こんなん乗ったらもう乗りたく無くなるわ。

 次は……連続宙返り?

 

「イィィィヤァァァァッッ!!」

「「フゥゥゥゥゥゥゥッッ!!」」

 

グリングリングリングリングリングリン!

 

 と、ここまででまだ5分経ったあたりか?何か慣れてきた。

 次は……宙吊り高速旋回?

 

「「「ヒャッハァァァァア!!」」」

 

 ヤバい、なんか楽しくなってきた。

 

※─※─※

 

 1時間も残り10分ほど……なんか速度が120キロぐらいに増えた気がするけどやっぱり速度あった方が楽しいな。

 後ろの2人?速度上がってから声聞いてないな……まぁ、良いか。残り10分、楽しむとしよう。

 

※─※─※

 

「ふぃー……楽しかったぁ……」

「「……………………なめてた私(ボク)が悪かった」」

 

 詩乃と沙耶は高速ジェットコースターに酔ったらしく途中から気絶したらしい。俺は最後まで楽しんでついでに現金1万円ゲットした。気絶したら貰えないんだって。

 ついでに言うと俺はベンチに座り2人は俺の膝枕中。右の膝が詩乃で左の膝が沙耶……なんか2人でブツブツ言ってるけどよく聞こえないからいいや。

 

「さて……次は何にするかな……」

 

ビクゥッ!

 

 2人が跳ねた。ギギギギギ……と音を立てるように俺の顔を見てくる2人に俺はイイ笑顔をしてやった。

 

「ね、ねぇ汐耶……」

「なんだ?」

「……ちょっと休憩しない?」

「もう30分近く休憩してるが?」

 

 いい加減回復したと思うんだが……

 

「うん、そうなんだけどあのフードコート辺りでさ……何か食べない?」

「ああ、そうだな。移動するか」

 

 フードコートからは甘い良い匂いがしている女子は甘い物が好きだったっけ……詩乃は余りそうでは無かったような……

 

※─※─※

 

 フードコートで適当に甘いものを食べた後、俺達3人は遊園地内のゲームセンターに来ていた。

 俺的には適当なアトラクションで楽しみたかったのだが詩乃と沙耶に止められた。恐ろしい速さで回るメリーゴーラウンド【アラウンドアラウンド】とか超高速回転コーヒーカップ【エレクトリックコーヒー】、ウルトラマン気分が味わえる【ウルトラソウル】……仕方無い、また今度の機会に楽しむとしよう。

 で、そんな訳で来たゲーセンな訳だが……俺は入った瞬間に詩乃の視界を手で覆った。

 

「な、何?汐耶くん……」

「詩乃、流石にここは無理だ」

 

 何故ならこのゲーセン、銃ゲーしかないからだ。なんで銃ゲーだけなのかは分からん……

 

「今はここに入れない、詩乃が自分の過去を克服したらまた来よう」

「……分かったわ」

「てな訳で沙耶、出るぞ」

「分かった」

 

※─※─※

 

 で、フードコートに戻ってきた俺達、何か空気が思い。

 

「ちょっとトイレに……」

「おう、いってらー」

 

 詩乃が席を立ってトイレに行く。

 

「汐耶、詩乃ちゃんのこと好きなんでしょ?」

「……まぁな……」

「力無いじゃないか。どうしたの?」

「……SAOで1人くらい殺してたら、詩乃の気持ち分かるかなってさ」

「汐耶」

 

 冷たく鋭い声が俺に突き刺さる。

 

「そんなことは冗談でも言わないで。これは、SAOに居たボクの本心だ」

「分かってる。それは分かってる……」

「分かってるなら良いよ……(十数人殺したボクが言えた義理じゃ無いけどね)」

 

 最後の方は聞こえなかった事にした……敢えて割り切りに割り切りを加えて完全に割り切ったようだったから。忘れることが出来ないと言うのも辛いな……SAOなんか渡すんじゃ無かったな……。

 

「ところで、詩乃ちゃんが君の事を好きだってのは分かってるのかい?」

「………………敢えて、敢えて見ないようにしてたんだが……」

「どうして?相思相愛なんだろ?」

「…………詩乃の傷に付け込むような形だったからだよ。詩乃がやったことを1から見て信じたのが、肯定するのが俺1人だったから……そんな傷に俺は付け込んだ……だから俺は……」

「詩乃ちゃんを彼女には出来ないって?」

「……まぁ、そうだな。何時かは言うつもりだが」

 

 いやまぁ……俺の身勝手な考えなのかもしれないが、それでも何時かは詩乃に伝える時が来るだろう。覚悟が決まったその時に……

 

「……その前に他の誰かとデキちゃうかもよ?」

「むしろその方が良いのかもしれないな……差し当たってはSAO生還者あたりかな」

「…………もしそうなってもボクはキミとは付き合わないからね」

「……………………それくらいは分かる」

「じゃあ、理由は?」

 

 ……沙耶の顔に浮かぶ屈託の無い笑顔……それには影が見て取れる……ああ、なるほど……そう言うこと。

 

「……俺が詩乃を捕まえられなかった事への戒め……そして沙耶がもう既に誰かと付き合ってるから……か?」

「ご名答」

「お前を受け入れてくれる奴が居て俺は肩の荷が降りたよ」

「勝手に背負ってただけでしょ」

 

 ……かもしれない……だが、沙耶は俺・詩乃以外とは孤独だったからな……俺の心配の種が消えたのは確かなのだ。

 

「そうなのかもな……

 で、良いのかよ?彼氏ほっといて俺なんかと居て」

「別にアイツはそこまで嫉妬深いやつじゃ無いから大丈夫だよ」

「……そりゃ安心だ」

 

 ま、その後は詩乃が戻ってきて適当なアトラクションに乗った。ま、どれもゲテモノであることに違いは無かったがとても楽しかった。

 最後は夕焼け空見ながら70メートルの高さから飛び下りるバンジージャンプで締めくくった。夕焼け空はとても美しかった……




えーお久しぶりにございます。
持病の「新しいのやりたがり病」が復活しやがりましてこちらの更新が遅れます。

あーあと、この作品のスピンオフSAO編『SAO ~ 血塗れ戦女神(ブラッディヴァルキリー)~』を書き始めました。興味のある方はどうぞ→http://novel.syosetu.org/30746/

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