ゲームつよつよ系Vtuberはレティクルの向こうに何を見るのか【完結】 (畑渚)
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注意事項
・この小説はフィクションです。実在の団体、人物、地名等がそのまま、もしくは意図して似せて描写されることがありますが、一切関係ありません。
・小説の構成上、Vtuberの中の人要素・現実での話が出てきます。そういったものが苦手な方は、早めにブラウザバックをすることをオススメします。


「はい、おはようございます。画面と音、大丈夫ですかね?」

 

 サイドモニターに目をやると、<わこつー><おはよう(深夜)><見えてるよー>とコメントが流れていく。

 

「大丈夫そうなので今日も始めていきますね」

 

 配信画面上の私が、現実の私の表情と同じように笑みを浮かべる。

 

 <今日は何をやるの?>

 

「はい、今日はですね、このゲームをやっていこうと思います」

 

 メインモニターには、今日のゲームのタイトル画面が映し出されている。リリースされたばかりだからなのか、同時接続数が普段よりも多い気がする。

 

「まだ設定をいじったくらいなので完全初見なのですが、難易度はどれがいいんですかね?」

 

<一番上希望>

<悪いことは言わん。ソロなら一番簡単なのにしとけ?>

<漢は黙って一番上>

<unrealityはマルチ前提だよ>

<でも見たいよな>

 

「ええっと、それでは多数決によりこのunrealityという難易度でやっていきますね~」

 

<R.I.P>

<今のうちに明日のご飯3食分買ってくるか>

<マネさんはどこだ!はやく止めてあげて!>

<早まるな!>

 

「随分と手応えがありそうですねぇ。これは楽しみです」

 

<まあ、そうだよなぁ>

<生粋のゲーマーで安心する>

 

 

❍✕△❑

 

 

「はーっ!これで全部終わりましたね。長らくご視聴ありがとうございました」

 

<まさか本当にソロクリアするとは恐れ入った>

<もしかしてつこうた?>

<使ってたらもっと早かったはずなんだよなぁ>

<てか連続視聴ニキは生きてるのか?>

 

「皆さん大げさですね。ちゃんとコメント欄も読んでいたので、何人かずっと居てくれた人も把握してますよ」

 

<まじかよ>

<あと1時間くらいあったらヤバかった>

<おいおい、この程度で音を上げるとはまだまだやな>

<こいつ……あの3日間連続配信の経験者ニキでは?>

<ヤベエのしかいない>

 

「はいはい。私の先輩の話はそれくらいにしてください。それじゃあ最後に、一つ発表してから終わりますね」

 

<おっ?発表?>

<なんだろ、期待>

<もしや……>

<この時期ってなるとアレかな?>

 

「おっと、察しが良い人もいるみたいですね。そうです。今度のカジュアル大会にお呼ばれしたので、初参戦となります。チームについてはリーダーからの発表が後々あると思いますので、それまで乞うご期待、といったところですかね」

 

 今やVtuber界隈では知らぬ人はいない最大級のストリーマーカップ。次回のその大会に私が出ることを発表すると、またたく間にSNSで話題を呼んだ。

 

「それでは皆さん。よい夜を~」

 

<良い夜を~>

<お疲れ様でした>

<まさか昼夜逆転が一周回って夜に寝ることになるとは>

 

 流れるコメントを見ながら、私は配信終了ボタンを押した。椅子の背もたれに体重を預けながら、ヘッドホンを外す。クーラーの風が心地よい。

 

 しばらくそうしていると、まだカメラがつけっぱなしであったことに気がつく。画面越しの私は、今の疲れ切った私を鏡のように映し出していた。

 

「さすがに……長時間やりすぎちゃったな」

 

 椅子の近くには、配信中に飲み干したペットボトルが散乱していた。椅子にもたれかかりながらそれらを拾ってゴミ箱に投げ入れる。ついつい長時間配信中は細かいことがおろそかになってしまう。よくない癖だと思いつつも、やめられないあたり配信というものが好きになってきているらしい。

 

 いくつかの事務連絡を終えて、床につく。その日は久々に、懐かしい夢を見た。

 

 

❍✕△❑

 

 

『さあとうとうやってきました、チャンピオンシップ・ファイナルステージ最終戦!』

『我々は日本の選手に偏った実況になると思いますが、ご了承ください』

『注目の選手はやはりXゲーミングのA選手でしょうか』

『日本最大手チームのエースですからね、期待せざるを得ません』

『そうですよね。是非最終戦でもそのエイム力を魅せてほしいものです』

『あともう1人……』

 

 

『さあ試合は最終盤!残っているのはこの5人!どう見ますか』

『日本の選手が2人も残っていますね。A選手と、それからez選手ですか』

『どちらも注目選手です。さあゲームエンドまで残り僅か!ややez選手が不利な場所取りか?』

 

 

 敵の位置は見えている、くっきりと。そして右手も左手も思い通りに動く。

 

 

『ez選手はかなり不利ですね。あそこでは他の相手の位置は見えないでしょう』

『対してA選手はとてもいい位置、確実に順位があがるでしょう!』

『おっと?ez選手動いた!ゲームを動かすべく最初に動いたぁ!』

 

 

 まずは近くの1人、そして次にあの高台で見下ろしてる相手。

 

 

『ありえない!彼女には何が見えているのでしょうか!』

『A選手危ない……!ああ、こんなことがあるのでしょうか』

『ヘッドショットでしたか?何が起きたんでしょうか』

『唯一見えた頭の頂点を狙って、弾の落下を使いながら撃ち抜きましたね。いや、ありえない。障害物の向こう側まで見えているような動きでした』

 

 

 あとは建物内の二人。でも私の銃声で上の階の相手はあの窓から顔を出してくるはず。

 

 

『ez選手、目にも留まらぬ速さで窓にエイムをあわせているが?』

『ありえません。壁の向こう側は我々の視点からしか見えないはずですが』

『エイムはピッタリと追っています!ありえません!壁越しにエイムが吸い付いています』

 

 

 このスピード、このタイミングで動くはずだから、撃つべきは……今!

 

 

『我々は何を見ているのでしょう!本当に一瞬、たった一瞬窓から頭が出たタイミングでした!』

『ありえない……。彼女の画面には壁が透けて見えているかのようです』

『勝てるわけがありません……残りは物資があまり良くない選手のみ』

 

 

 アクションがない。想定通りにハイド気味で物資不足みたい。だとすれば、隠れている場所は3箇所。

 

 

『ez選手、迷わずに優勝へと、進んでいます!隠れている場所まで一直線です!』

『隠れている選手はワンチャンスにかけてグレネードを持っていますが……』

 

 

 ここにいるなら、足音を聞いてグレを投げてくる。

 

 

『突然の爆発!?優勝!ez選手優勝です!しかし何が起きたのか私にはわかりませんでした!』

『チートだろ……』

『どうしましたか?』

『今、彼女は、一瞬ブッシュから出たグレネードを持った手を撃ち抜いたんです』

『そんなことが可能なんですか!?』

『相手の位置も行動も完全に把握していなければ不可能です。人間業じゃない』

『でもez選手はやってのけたってことですよね?……おっと現地の様子がおかしいですね』

『A選手がez選手に掴みかかっていませんかこれは!』

『CM!スタッフ早くCM!』

 

 

「チートするくらいなら辞めちまえ!」

 

「チート?私は使ってない」

 

「嘘ばっかり言うんじゃねえ!」

 

「実力で敵わないからってチート呼ばわりしないで」

 

 そう言って軽く手を振り払ったつもりだった。変に避けられたせいで、手の先が相手の鼻に直撃した。

 

「お前ぇ!!!」

 

 逆上した相手からの渾身の右フックは、とっさに出した私の細腕だけでは防ぎきれずに脳を揺らした。

 




Vtuberアーカイブ
名前:筑紫みや(チクシミヤ)
誕生日:4月3日
年齢:20前後(未発表)
身長:166cm
好きなもの:ゲーム、甘いお菓子
嫌いなもの:お風呂


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電撃セットアップ

 世界大会から帰ってきたezこと私を出向かえたのは、優勝した栄誉に対する賞賛の声ではなかった。一度着いた疑惑は、たとえ大会運営の入念なチェックを超えた後でも振り払えぬままだった。

 ニュース記事は私のことを面白おかしく書き記し、またたく間にSNSで拡散。知り合いからは、SMSで何件もメッセージが届いていた。その後二度と、競技シーンに私が出ることもなくなってしまった。

 

「それでもゲームはやめなかった、と」

 

「は、はい。好きなものは好きなので」

 

 目の前のスーツの女性に、私はそう答える。今私は、いわゆる面接というものを受けていた。

 

「実力や実績は申し分ないですが、配信等の経験はないと」

 

「人に魅せるようなプレイは出来ないので」

 

「十分魅力があるプレイだと思いますけどね……」

 

 面接官はそう言いながら、ノートPCで私が送った動画を再生する。某人気バトルロワイヤルゲームでの一試合を録画したもので、動画編集の知識もなかったので無編集のままだ。

 

「わかりました。面接は以上になります」

 

「ありがとうございました」

 

「後日また連絡が行くと思いますので、電話をとれるようにしておいてください」

 

 会議室のような場所から退室すると、ちょうど玄関から女子高生二人組が入ってきたところだった。

 

「あっもしかして面接にきた人?」

 

「大学生?」

 

 事前に調べておいたから、声を聞けばすぐにわかった。このVtuber事務所を支える、初期メンバーの姉妹だ。

 

「はい。面接はさっき終わりました」

 

「へー?ゲームは強いの?」

 

 姉のほうが、こちらを値踏みするような視線を向けてくる。

 

「多少はできます」

 

「ふーん。でもうちの妹に勝てるかな!」

 

「ほう、妹さん?」

 

「なんたって、あのezの再来って言われたくらいなんだからね!」

 

「姉さん……恥ずかしいから言わないでよ」

 

 妹の反応を見るに、姉のたわ言というわけではないらしい。

 

「ez……ですか?」

 

「知らないの?あのezだよ?」

 

「あの?」

 

「そう!突然競技シーンに突如として現れたプロフィール不明の女性プロゲーマー!初参加の大会で勝ち続けて、そのまま世界一位の座までたどりついたゲーマーの憧れだよ」

 

 花粉症気味なところもあってマスクをつけていて本当によかった。数年経ってるとはいえ、顔つきが急激に変わることはないだろうから。

 

「もしかして本当に知らない?」

 

「いえいえ、知ってますよ。でも確か、チート疑惑で一線を退いたとか」

 

「そ、そんなことない!」

 

 いままで静かにしていた妹のほうが、突然大声を上げた。

 何か言葉を続けようとしていたようだが、その声を聞きつけた面接官に止められる。

 

「もう二人とも、迷惑かけないのよ」

 

「大丈夫だよ。わかってるってマネージャー」

 

「迷惑じゃない、ですよね?」

 

 アハハと愛想笑いで返すと、妹のほうからの視線が強くなる。

 まさかこのあとファミレスで小一時間説教をうけるとは、そのときの私には想像もつかなかった。

 

 

❍☓△❑

 

 

 後日無事に事務所からの電話を受け取った私は、Vtuberとしての自分と対面することとなった。

 

「これが、私ですか」

 

「ええ。あなたの採用前に概形は出来ていたんですけど、絵師さんから仕上げてから見せてあげたいと強く頼まれましたので」

 

 紫髪でおとなしそうな女の子は、筑紫みやという名前らしい。薄めの彩色と表情から、おとなしそうな印象を受ける。男の子に人気の出そうなデザインと言えるだろう。

 

「でもこんなかわいい子と私の声で合いますかね」

 

「そこは私と、そして絵師さんからのお墨付きですよ」

 

「絵師さんからも?」

 

「ええ。仕上げに入る前に面接用のサンプルボイスを送ったので、声に合わせて微調整されたそうです」

 

 自分の声に対しての評価なんて、特に考えたこともないから主観的には何も言えなかった。だが、マネージャーさんと絵師さんの二人から認められたとなれば、私に合う見た目なのだろう。まあ、現実では絶対にこんな可愛い系の格好はしないのだけれど。

 

「では初配信の日程を決めましょうか。なにか希望はありますか?」

 

「えっと、いつでもいいんですかね?」

 

「ええもちろん。何なら明日からでも大丈夫ですよ」

 

「じゃあそうしましょう」

 

「ただ明日からというのはそちらの準備が……えっ?」

 

「大丈夫です。明日から行けます」

 

「……マジですか?」

 

「駄目でしょうか」

 

「いや、いいですね。電撃参入、謎の凄腕ゲーマー。話題性は十分ですね」

 

 マネージャーさんはニヤリと笑うと、急いでスマートフォンに何かを書き込み始めた。

 

「各方面への準備は私がしておきます。だから筑紫さんは自分のデビュー配信にだけ専念してくださいね」

 

「あの、本当に大丈夫なのでしょうか?忙しいのなら後日でも大丈夫ですよ?」

 

「問題ないと私が言ったら問題ないんですよ。それより、配信については大丈夫なんですか?経験がないんでしょう?」

 

「なんとかなりそうです。凝ったものにはできないかもしれませんが」

 

「素材等はどうしましょうか」

 

「素材?」

 

「……本当に明日デビューする気ですか?」

 

「ええ、まあ」

 

「基本的には自己紹介をするものなので、プロフィールをまとめたスライドなどを用意することになるのですが」

 

「ああ、なるほど。そういうことですか」

 

 確かに、多くのVtuberがデビュー配信として自己紹介配信をする。自分を知ってもらうということは、何よりも大事だからだ。

 

 しかし、普通ではインパクトはでない。

 

「私に一つ、考えがあります」

 

 そのときのマネージャーは、期待と不安が半々に混ざりあった複雑な表情をしていたと思う。

 



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電撃デビュー配信#1

 配信開始のボタンを押せば、時間のタイマーが進み始める。確認のために開いておいたスマホで配信がスタートしていることを確認してから、ふうと一息つく。

 

「皆さん初めまして。筑紫みやと申します」

 

<わこつ>

<清楚期待>

<VeGamer所属やぞ>

 

「はい、既に言われているとおりVeGamer所属です。メインのゲームはFPSを予定していますので、観たいゲームがあったら是非、コメントに書いていってくださいね」

 

<アレ?デビュー配信だよね?>

<背景真っ黒だけど大丈夫なん>

<さっそくポンか?>

 

「まあ落ち着いてください。理由は後ほど説明しますから」

 

 普通は自分の立ち絵の背景にモチーフカラーを使ったり、枠取りされたコメント欄を表示したりするのがセオリーというものだろう。しかし、私の今の画面は真っ暗闇に私自身が映っているだけである。

 

「さて、皆さんは私のことをどこで知りましたか?」

 

<公式アカから>

<そりゃもう、運命的にこの配信を開いたんよ>

<風に聞いた>

 

「なるほど、ロマンチストも多いようで。それで、この配信がデビュー配信となるわけですが……」

 

 ここで配信ソフトの画面をいじる。真っ暗だった背景が一転し、ゲームのタイトル画面が映し出される。

 

「せっかくの電撃デビュー配信なので、この有名バトロワゲーで電撃バッジ取得耐久を始めたいと思います」

 

 画面の中の私がニコニコと笑みを浮かべる。もちろん現実の私だってそうだ。そしてコメント欄は急加速している。

 

<デビュー初日に耐久……?>

<電撃バッジってVeGamerじゃ誰も持ってなくない?>

<てかVtuberでもほんの一握りでしょ>

 

 このゲームでの電撃バッジとは、1マッチ内に敵の総数の3分の1をキルすることで手に入る、難易度の高いバッジの1つである。腕前の高さとマッチ内の運の良さの両方が求められ、話題性には十分な内容だろう。

 

「本当は自己紹介配信だとか、タグ決めだとかをやるのが一般的ですよね」

 

<それな>

<自己紹介配信はやるの?>

<電撃バッジとれるんか……?>

 

「いえ、これといって別枠で自己紹介をするつもりはありません。私にとってはゲームプレイこそが1番の自己紹介だと思います」

 

 マウスを握り直して感触を確かめる。うん、問題なく動く。

 

「それでは始めていきますね」

 

 タイトル画面をクリックし、準備完了ボタンを押す。人気ゲームなだけあって、マッチングはすぐに終わる。

 

「使うキャラは……流石に一番手に馴染んでいるものにしておきます」

 

 キャラピックが終われば、それぞれのパーソナルデータの載ったバナーが表示される。

 

<4桁キル……!?>

<てかもう電撃バッジ持っとるやんけ>

<一番下のやつ初めて見るバッジなんやけど>

 

「一番下のですか?ああ、これはリリース初日からやってる人だけ持ってるバッジですね」

 

<もしかして元プロ>

<このゲームで日本人の女プロいたっけ?>

<いないことはないけど、声もっと高いしIDも違うよ>

 

「私声低いですかね?」

 

<低くはないけどなんだろう>

<芯がある感じ?>

<女の方ぁ!って感じではない>

 

「まあ、不快に思われないならいいです」

 

<むしろ心地良いわ>

<聴きとりやすくて良い>

<てかASMRやらない?>

 

「っと降下が始まりましたね」

 

 3人で1分隊のゲームなので、味方の1人が降下地点を決める。運が良いことに、初動に多くの人が集まるところへまっすぐと落ちてゆく。

 

「初動ファイトは少し黙りますのでご了承ください」

 

<うーん猛者>

<配信用垢とかで分けないの珍しいな>

 

「うちの事務所の方針ですね。VeGamerは対人戦ゲームではサブ垢禁止です」

 

<そういやそうやったな>

<いうてこのレベルのアカ持ってきた先輩はいないけどな>

 

 雑談していると、地面が迫ってくる。私はすぐに武器が確定で落ちている場所に進路を変え、着地とほぼ同時に拾う。

 

<マグナムリボルバーwww>

<これは西部劇>

<ナーフにナーフが重なってもはや縛りプレイ用武器>

 

「いや、勝ちました」

 

<は?>

<やはり歴戦の猛者だったか>

 

 音量調整も完璧で、足音がしっかり聞き取れる。壁を見透かすようにレティクルを合わせ、ドアから顔が出た瞬間に左クリック。

 

<えっ?>

<使ってる?>

<さっきまでは普通だったけど?>

 

「いや、足音ですよ。あっ後ろから来ますね」

 

 振り向きざまに2発胴体へ。最初の体力だと倒し切れる。だからこの武器が好きだ。

 

「味方さんが倒れてますね、助けに行きます」

 

 1on2に負けたようで、既にダウンからの確定キルまで取られていた。基本的に人数有利の強いゲームなので、相手も強者かもしれない。

 

「音がしない……」

 

 強いだけでなく厄介な敵だ。ただ、その分わかりやすい。キルした位置、拾いにくる味方待ち、ならば隠れる場所は……

 

「まあ、そこですよね」

 

 こちらもゆっくりと近づき、バレないように射線を通す。一度深呼吸をしてから、頭にエイムを合わせる。静かに引き金を引けば、3人分のキルログが流れた。

 

「はい、味方を起こしに行きますね」

 

 ついでに近くの物資も漁り切る。最高級のアーマーやショットガンなども拾ったあと、リスポーン地点まで走った。

 



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電撃デビュー配信#2

「おっと蘇生見て寄ってきましたね」

 

<余裕で3タテ>

<相手弱くね?>

<ピークした瞬間ヘッショは怖いって>

 

「相手、物資武器持ちですか」

 

<対物ライフル相手にマグナムリボルバーで勝つな>

<射程距離の概念壊れる>

<何見て撃ってるの?>

 

「いや、だいたいあそこらへんでスナイパーポジションといえば1箇所しかないので」

 

「という間に最終部隊ですか、キル数は……あと3人」

 

<味方に言おう>

<勝ったな風呂入ってくるわ>

<耐久(ワンマッチ)>

 

 

「……、味方が全部倒しちゃいましたね」

 

<これは戦犯>

<味方に恵まれなくて草>

<このレベル帯野良でも強いからなぁ>

 

「というわけで次に行きましょう。それにデビュー初戦でチャンピオンは縁起も良いですし」

 

 初戦はチャレンジこそ失敗したものの、結果を残すことはできた。配信にも問題はなさそうなので、一安心する。

 

「おっと……キャラがピックされちゃいましたか」

 

<他何使うん?>

<手堅く索敵かな>

<いや、ここはトリッキーなキャラで>

 

「なるほど、それではコメントの要望にお答えしますか」

 

 次に私がピックしたのは、このゲーム内で最もピック率が低いキャラクターだ。デコイを出して敵を撹乱しながら戦うキャラなのだが、上手く立ち回るには技術が求められる。

 

<あっ開幕直下降り>

<香ばしいなぁ>

<ボクシング開幕!>

 

「初動のワチャワチャした状況だと、このスキルとても強いんですよね」

 

 デコイで相手の視線を完全に掌握し、思わぬところからキルを取っていく。

 

「っと、追加の部隊ですか。これは無理ですね」

 

 二戦目は初動落ち。どうしても初動に戦闘しに行くと安定しないのは、ゲームの特性上仕方がないことだ。

 

「はい、次いきます」

 

<むちゃくそドライで草>

<負けを気にもとめないストイックさよ>

 

「こういうゲームは勝ち負け気にせずに無限にインキューし続ける人が一番強いですからね」

 

<まあわからんでもない>

<それができたら皆ソロマスター行ってる>

<メンタル鋼か?>

 

「メンタルは……まあ弱くはないと思いますよ。昔からこういうゲームで鍛えられてきたので」

 

 少し前に流行っていたゲームでは、ボイスチャットやテキストチャットで暴言はかれるのが当たり前なんてこともあった。そんな状況でゲームをし続けた私は、一時期心を失ったなんて言われていたりもした。

 

「負けるときはどうしようもなく負けますからね。割り切っていきましょう」

 

<とかいいながらサラっとチャンピオンとらないでもろて>

<負けるときは負ける(ただし今回は勝つ)>

<いや、強いんよ>

 

「今回は全体的に減りが早かったので数キルしかできませんでしたね。次行きます」

 

 冷たい水で頭を切り替えて、次のマッチへと挑む。

 

「あっ……味方さん」

 

<即抜けか>

<ツイてないね>

 

「いえ、開幕直下降りしたのは私ですからね。嫌な思いさせたかもしれません」

 

 このゲームにはダウン状態というものがある。体力が0となっても、味方に起こしてもらうチャンスがあるのだ。しかもその間に這いずり回ったり、シールドを出して壁になったりもできる。

 しかし、そのダウン状態になった瞬間に切断して抜けてしまう人たちもいる。良いマナーとは言えないが、今回は特に、直下降りという嫌われかねない行為をしているため咎めることもできない。

 

「さて、とりあえず周りの部隊はいなくなりましたかね」

 

<もう1v3じゃ驚かなくなってきた>

<適正レベル帯に帰れぇ!>

<適正レベル帯……?プロスクリムのことか……?>

 

「今回はなんだか良い予感がします」

 

 その予感は的中することになる。

 

「ここ、1人狙えますね」

 

 1人になったことで、漁夫の利戦法が余計にとりやすくなった。回復しに1人で下がってきたところを狩り、すぐさま離脱というのを繰り返す。

 

「えっと、あと一部隊だけですか……」

 

 気がつけばラスト部隊。そしておそらく1on1。コメント欄は大いに盛り上がっている。

 

「ちょっと集中します」

 

 コメント欄を映すモニターを消して、頭の処理能力をゲームに全振りする。

 敵の位置、デスボックス、グレネードの投げる角度、残り時間、全てを頭の中へと叩き込む。

 

「よし」

 

 一手一手を丁寧にこなしていく姿のせいで、後にコメ欄が『まるで詰め将棋だな』という書き込みで埋まった。

 

「よし、勝ちましたね」

 

 コメント欄を見れば、大量のおめでとうコメ。何事かと思えば、最後の1キルでバッジ取得の条件を満たしたらしい。リザルト画面から進めば、バッジ取得の音が鳴り響く。

 

「えっと、それでは長い時間お付き合いくださりありがとうございました。明日には、私の同期でもあるもう1人の新人のデビュー配信があると思うので、そちらも是非見てあげてください。それでは失礼します」

 

 あらかじめ用意していた文を読み上げて、配信停止の処理をする。しっかりと配信が終わってることを確認してから、ふぅと息を漏らす。

 

 こうして私の電撃デビュー初配信は幕を閉じた。

 

 

 

____________________

[ひこうにん]VeGamerについて語りたい#166

30:名無しのVeG民

  そういや新人どうよ

 

31:名無しのVeG民

  今配信中だっけ?

 

32:名無しのVeG民

  いや、終わったで

 

33:名無しのVeG民

  あれ?電撃バッジ耐久してなかった?

 

34:名無しのVeG民

  なんや、諦めたんか

 

35:名無しのVeG民

  いや、とり終わってやめたで

 

36:名無しのVeG民

  は?

 

37:名無しのVeG民

  3時間も経ってなくない?

 

38:名無しのVeG民

  記録は2時間17分となっております。

 

39:名無しのVeG民

  そんな簡単なバッジだっけ……?

 

40:名無しのVeG民

  いや、最難関の一つに数えられるやつや

 

41:名無しのVeG民

  仕事おわて今北産業

 

42:名無しのVeG民

  新人デビュー

  自己紹介やなくて耐久はじまった

  耐久2時間で終わった

 

43:名無しのVeG民

  なお、VeGの掟によりレベルカンスト垢での所業

 

44:名無しのVeG民

  サブ垢作って初狩りしたとて取れないワイ、涙目

 

45:名無しのVeG民

  新人ちゃんは元プロなんか?

 

46:名無しのVeG民

  知っとる限りでは違う

 

47:名無しのVeG民

  とうとうVeGに競技部門か

 

48:名無しのVeG民

  競技シーン舐めすぎやろ流石に

 

49:名無しのVeG民

  >>48 まずはアーカイブ見てもろて

 

50:名無しのVeG民

  流石に競技流れやろ、明らかに動きが逸般人

 

51:名無しのeSpo民

  流れてきたんでお邪魔するど

 

52:名無しのVeG民

  珍しいやん競技板民くるとは

 

53:名無しのeSpo民

  プレイ見て思ったのは別ゲーのプロやね

  多分爆弾系かソロ系バトロワか

 

54:名無しのVeG民

  あー、えっとこの板はああいう話NGだっけ?

 

55:名無しのVeG民

  こっちはok

  ダメなのは公式運営スレでしょ

 

56:名無しのVeG民

  じゃあいうけど、前世特定したわ



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同期デビュー配信

「皆さん初めまして!新人Vtuberの鐡(くろがね)ララだよ。ぴっちぴちの18歳JKの輝きで失明しないようにね」

 

<ぴっちぴち……>

<かわいい子キタ、これで勝つる>

<まて、VeGamer所属やぞ>

 

 今日は筑紫としての活動はせずに、1人の新人デビュー配信を見ていた。

 

「えっと、じゃあ自己紹介をするね!プロフィールはこんな感じ!」

 

 かわいらしいプロフィール画像が映し出される。年齢身長から好きなもの、プレイしたゲームまで、よくあるデビュー配信の方式で時間が過ぎていく。

 

<<うちの同僚をよろしくおねがいします>>

 

<筑紫ちゃんもよう見とる>

<二人のコラボに期待>

<先輩も同期も勢揃いでワイ涙目>

 

 私がコメントをすれば、コメント欄は一気ににぎやかになる。

 

「筑紫ちゃんやっほー!そういえば昨日の配信見たよ?今度キャリーしてね」

 

<<キャリーは無理ですけど、一緒に遊ぶの楽しみにしてます>>

 

「またまたぁ。ああ、もしかしたら筑紫ちゃんのこと知らない人もいるかもだから紹介するね」

 

 そういってララちゃんは私の立ち絵を出す。随分と準備が良い。

 

「私の同期にあたる人なんだけど、私が採用を知ったのが一昨日、そしてデビューしたのが昨日っていうよくわからない子だよ。ちなみにゲームの腕前は……是非自分の目で見てみてね」

 

<まあ確かにあれは筆舌に尽くし難い>

<現役プロだと言われても疑わないわ>

<逆にホラゲーが苦手とかだったらギャップで萌える>

 

「ホラゲー?ははっ……いいかもね。筑紫ちゃんが叫ぶところ見てみたい」

 

 ホラゲーはあまりやったことがない。一度実姉にやらされたが、感情を失った悲しき機械呼ばわりされてからというもの、やらなくなってしまった。

 

「でもホラゲー、私も苦手なんだよね。だからやるなら何かの記念とかイベントのときになるかな」

 

<二人絶叫期待>

<俺的にはララ姫と筑紫王子でも可>

<完全に絡みがない同期ってVeG初か>

 

「絡みがない?ああ、たしかに先輩は実姉妹だったり幼馴染だったりだね」

 

<というか採用を知ったのが一昨日ってマ?>

 

「あーっと、これ話していいのかな?ちょっと確認とってくるね」

 

 そう言ってしばらくミュートになる。ミュート中だというのに、マネージャーさんと話してる顔だけはしっかりとトラッキングされていたため、表情がコロコロ変わる様子でコメント欄は賑わい続けていた。

 

「確認とれた!えっと、筑紫ちゃんの採用を一昨日私が知ったっていったけど、本当は採用自体が一昨日だったの!」

 

<じゃあ、採用翌日にデビュー配信があったってこと?>

 

「そうだね。だから耐久配信をデビュー配信の代わりにしたみたい!でも本当に筑紫ちゃんしかできないデビュー配信だったよね」

 

<できなくはないけど誰もやらないんじゃないかな>

<2時間半くらいって普通のゲーム配信並なんだよな>

<耐久配信の概念が壊れる……>

 

「私もあれだけ上手いプレーを突然見せられたもんだから自信なくしちゃった」

 

<聞いてる限りだと全然強そうだけどね>

<あれは流石に規格外>

<闇のゲーム経験者ってだけで十分やで>

 

「みんな闇のゲームって言うけど!アレ本当に面白いゲームなんだからね!」

 

 闇のゲームと言われているチームゲーム系FPS。私も以前プレイしたことがあるが、チャットの荒れ方が尋常じゃなかった記憶がある。ただし、ゲームデザイン自体はとても良く、未だにファンが残り続けているとは聞いていた。

 

「とにかく!タグ決めとかしていこうと思うよ」

 

 まさにテンプレート通りのデビュー配信。しかし力の入れようは私の比ではなく、スライドの一枚一枚が丁寧に作り込まれている。適宜コメントを拾いながら配信を進めていくあたりも、慣れを感じるほどだ。

 

「それじゃ、今日はこのくらいかな~。よかったらチャンネル登録、高評価もよろしくね!それじゃまたね~」

 

 ララちゃんは最後まで笑顔で配信を終えた。同期のデビュー配信が無事に終わったことを見て、私は一息つく。

 

 しかし……

 

 

<ezと同期ってどんな気分?>

<同期の前世チート使用疑惑どう思う?>

<筑紫ちゃんはezって説知ってる?>

 

 私が早急に対応しなければいけない問題も出てきた。

 

 

_________________________

|◯筑紫みや@38tks_VeG ・3分           |

|右腕の古傷が痛むので、今晩は配信をおやすみします。|

|_________________________|

 



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腕のキズ

VeGamerについて語りたい#184

70:名無しのVeG民

  【悲報】筑紫みや、内なる力が溢れる

 

71:名無しのVeG民

  右腕の古傷はもう完全に包帯巻いてるそれ

 

72:名無しのVeG民

  右腕に傷アリであのエイム!?

 

73:名無しのVeG民

  つまり俺たちは、けが人よりエイムが悪い……ってコト?

 

74:名無しのVeG民

  毎日感謝のbot1万体撃ちやらないと

 

75:名無しのVeG民

  訓練場の主でもやらんわそんなこと

 

76:名無しのVeG民

  横槍いれるけどさ、ezが出た世界大会の最後、腕でガードしてたよな

 

77:名無しのVeG民

  なにそれkwsk

 

78:名無しのVeG民

  2位だった奴がチート疑惑ふっかけてリアルファイト勃発。殴りかかってきた相手の拳を腕でガードしたところで生放送中断

 

79:名無しのVeG民

  探せばまだ映像残ってるで。一応は1位2位が日本人っていうすげえ世界大会だったから。

 

80:名無しのVeG民

  前世確定、今回は早かったな

 

81:名無しのVeG民

  これって本人が認めたってことなんかな?運営的にまずくない?

 

82:名無しのVeG民

  つぶやきが消えてないってことは運営もノータッチってこと?

 

83:名無しのVeG民

  明言はせずに匂わせ程度だから大丈夫なんかな

 

84:名無しのVeG民

  萎えるわ、なんか

 

85:名無しのVeG民

  前世バレ程度でなえるやつまだ生きてたんや

 

86:名無しのVeG民

  このスレルール読まずに紛れ込んだ迷子さんかな?

 

87:名無しのVeG民

  とりあえず、運営と筑紫自身の発言待ちかな

 

 

❍✕△❑

 

 

 身バレだのなんだのっていうのは、意外と需要があるものだ。そういった情報サイトが消えないのが、何より物語っている。

 

『筑紫さん。さすがに無視できないレベルになってきました』

 

「そうですよね。マネージャーさん的にはどうしたらいいと思いますか?」

 

『そうですね。何も言わない、触れないことでしょうか』

 

「まあ、そうですよね」

 

『……不服そうですね』

 

「すみません。言われっぱなしは嫌な性分で。ただ、運営側に迷惑をかけるつもりもないので、何も言わないようにします」

 

『助かります』

 

 人の噂も七十五日と言う。しばらく騒げば、いずれ静かになるだろう。

 

 

 

 

 と、私もマネージャーさんも思っていた。

 

『筑紫さん、あの……すみません』

 

「いえいえ。こうなる可能性を考えてはいたので」

 

 掲示板から発生した私の前世の情報は、新人Vtuberとは考えられないほどの可燃物となった。FPSの実力に納得したなどの意見もあれば、大会等には出ないで欲しい、前世バレについて話してほしいなどの否定的な意見もある。酷いものでは、デビューを取り消してプロゲーマー界隈に帰れなんてものもある。

 

『運営側としてもコメントに困っている状況です』

 

「そうですよね。でも、このままではマズいですよね」

 

 最近では私以外のVeGストリーマーのコメント欄まで荒れてきた。営業妨害レベルとまでは言わなくとも、ストリーマーの中には私に関する話題をNGワードに指定して微炎上してる人もいる。

 

「私からコメントを出さない限り、このボヤ騒ぎが収まるとは思えません」

 

『ですが、前世の存在を認めるというのは、さすがにVtuber運営として認可できませんよ?』

 

「認めなければいいんですよね?私がezであると明言しなければ」

 

『……この場合、仕方がありません。しかし、くれぐれも直接的に言わないでくださいね』

 

 通話を切って、ふうとため息をつく。これは、私の静かな戦いだ。

 

 

❍✕△❑

 

 

「はい、おはようございます。画面と音、問題ないですかね?」

 

<わこつ>

<待ってた>

<見えとるで~>

 

「はい、大丈夫みたいですね。それでは今日も初めていきたいと思います」

 

 今日は少し前にリリースされた、5対5のタクティカルシューターゲームをプレイする。キャラの固有能力と純粋な撃ち合いの力の両方が必要で、競技性はとても高い。

 

「えー、このゲームを配信するにあたって先に言わなければいけないことがありまして」

 

<なに?>

<つよつよ期待>

<vcの件かな?>

 

「コメント欄にもあるとおり、ボイスチャットの件ですね。なんとか設定ができたので、私自身が味方のボイスチャットを聞くことはできるんですが、その音を配信にのせたり、私がvcで話したりということができないんです。そこだけは予めご了承ください」

 

<まあ、しゃあないな>

<vcなしだとキツくない?>

<一応、チャットとかピンとかでなんとかなる>

 

「そうですね。少し手が忙しくなりますけど、頑張ってみます。ランクもできれば回したいですね」

 

 タイトル画面をクリックし、そのまま射撃場へと入る。初めて触れるゲームということもあって慣らしが必要だ。

 

「こういう武器購入制のFPSをするのは久しぶりです」

 

 購入画面を見て、だいたいの銃を触ってみる。裏でかけている音楽が鳴り止み、ほんの少しの間、射撃音のみの配信になる。

 

<無言で草>

<似たようなゲームやったことあるなら期待だな>

<てか何歳だよ、ゲームやりすぎだろ>

<そりゃ永遠の18歳よ>

<ソレ以上はいけない>

 

 集中して無言になったからか、コメント欄同士で会話して騒がしくなる。

 

「すみません、ついこういう練習だと無言になっちゃうんですよね」

 

 配信者として無言の時間というのはよろしくない。しかし、もう少し撃ち感を慣らしたいので、練習を止めたくはない。

 私はおもむろに視聴者数を見て、十分な人数が集まっていることを確認する。

 

「ウォームアップはもう少しかかるので、この間に雑談でもしましょうか」

 

 例の件に関するコメントもちらほら見えてきたので、ちょうどよいだろう。

 

「実は先日のですねぇ……『右腕がー』というツイートが物議を醸し出してるらしくて、厨二病だとか言われてるんですけどね?実は本当に怪我したことがあって、それが原因で一時期ゲームができなかったんですよね」

 

<ほんまに古傷だったんか>

<ゲームできないってやばくね?>

<どんな怪我?>

 

「簡単に言うならば骨ですね。ヒビがはいっちゃって、利き腕だったので大変でした」

 

<ezって骨折だっけ>

<確定ezで草>

<引退理由判明ってかんじ>

 

 普通の心配コメントにまぎれて流れてくる前世に関するコメントを流し見しつつ、話を続ける。

 

「おかげで長い時間ゲームをすると、たまに腕が痛むんですよね。この怪我で夢も諦めることになりましたし」

 

<大事にしてもろて>

<夢?>

 

「世界一のゲーマーになりたいって思ってた時期がありまして。ただ、怪我でゲームができなかった期間のせいで勘が鈍りましてね」

 

<まるで大会に出てたみたいな言い方だな>

<ガチのプロゲーマー志望とは恐れ入った>

<まだ目指せるんじゃないの?最近は選手年齢も上がってきたし>

 

「いやいや、さすがに無理ですよ。練習も前ほどはできませんし」

 

<前はどれくらいやってたの?>

 

「どれくらいですか……。えっと、多分寝て食べて以外の時間ほとんどですかね」

 

<学校にも行ってもろて>

<授業中もゲームしてたってこと?>

 

「さすがに中学までは計算して休んでましたよ?」

 

<中学までは>

<高校……>

 

「……えっと、私まだ高校生です」

 

<設定ではね?>

<ダウト。昔のゲーム触りすぎ問題>

<何歳?>

 

「次の話題に行きましょうか!何か聞きたいですか?」

 

 高校生というのは本当なのだが、年齢の話はNGだ。全日制に通っているわけでもないので、信じてもらえるとも思えないし、触れぬが仏である。

 

 その後は、当たり障りのないコメントだけを拾って質問に答えていった。でも、さすがにゲーム遍歴やゲーム内設定の質問が多すぎたので、そっとマネージャーさんに相談チャットを送っておいた。

 

「さて、それじゃあ試合に入ってみましょうか!」

 

 大体の感覚を掴んでから、私はPLAYのボタンを押した。

 



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憧れの人

 マッチングが成立し、キャラ選択画面になる。このゲームはスキルによって役割が割り振られたゲームである。

 

「どんなキャラがいいですかね」

 

<前線キャラで無双希望>

<索敵で少人数戦クラッチしまくり希望>

<後衛キャラで1対多数戦希望>

 

「素晴らしくばらばらな意見、ありがとうございます」

 

 こうして視聴者と戯れている間に、他のプレイヤーがキャラを確定させていく。

 

「あとは私だけですね。これ、役割的には何が足りてませんか?有識者おねがいします」

 

<一応は自由枠か>

<前中後のバランスがいいから、前線キャラでいいんじゃない>

 

「わかりました。じゃあ適当にこれで行きます」

 

 そういえば一つ致命的なミスを犯していて、訓練場で銃に関しては慣らしたのだがキャラのスキルに関してはほぼ無知なのであった。

 

<あっ……>

<そのキャラは>

<初ピックでそれ……?>

 

「えっ?もしかして弱いキャラでしたか?」

 

<むしろ環境キャラやね>

<花形キャラやけど、難しすぎるという>

<スモーク投げながら高速で入っていったりする>

 

「なるほど、つまりは体で索敵していこうってことですね」

 

<そうだけどそうじゃない>

<ハイドポジ一つ潰したりヘイトかったり、まあ間違ってない>

<それが難しいから初心者バイバイキャラなんだよな>

 

 画面が切り替わり、マップにスポーンする。攻めスタートのようで、目の前に爆弾が落ちている。

 

「それじゃあ、とりあえず気楽にやってみます」

 

<ファイト~>

<GLHF>

 

 試合が始まり、制限時間のタイマーが動き始める。今回私は前衛キャラ、味方についてきてもらうためにピンを指しつつ片方のサイトへと進むが……

 

「難しいですね。このゲーム」

 

 相手の侵入阻止のスモークに手間取っている間に、詰められて殺されてしまった。

 

「なかなかうまくはいかないものですね。さて、次ラウンドに行きましょう」

 

<いまモクの中からサイト奥の敵殺してなかった?>

<たしかによくいる場所やが、一発で頭……?>

<使ってる?>

 

「次はエコラウンドですか」

 

 エコラウンド。つまりはお金を次のラウンドに残しつつ戦う節約ラウンドだ。私のキャラは、スキルなどを全部買えた方が良いので一つも買い足さずに戦うことにした。

 

「すこし試したいことがあるんですよね……」

 

 味方の索敵スキルを待ってから、サイトの中に無料スキルで飛び込む。相手は急に後ろを取られたことでまだ振り向けていない。

 そのままフリーキルをとり、相手の武器を拾ってサイトの中をクリアリングする。たまたま相手の寄りが遅く、サイトの中を固めてしまえば、状況は一気に動く。

 

「うまくいきましたね」

 

 味方による必死の抵抗により、爆弾の起爆によってラウンドを取ることができた。私も2キルして、その後もギリギリまで時間を稼げていたから良い動きができただろう。

 

「こういう戦略性の高いFPS、私好きです」

 

<切り抜き班>

<おk、任せろ>

<ぐう有能>

 

「えっ?何ですか?何を切り抜くんですか?」

 

<そりゃもう>

<告白シーンよ>

 

「た、たしかにFPSが好きって言いましたけど……今後は言葉に気をつけます」

 

<今後もボロだしてもろて>

<今の照れてる感じ、良き>

<あまり聞かないタイプの声色だから助かる>

 

「ご好評のようでなによりです。そういえば切り抜きに関してですが、VeG公式のガイドラインに一度目を通すことをおすすめします。初配信の切り抜きが多くて私自身では確認のしようがなかったので、切り抜きを作る側の人たちが注意喚起をし合うようにお願いしますね」

 

 切り抜き動画に関しては賛否両論がある。たしかに広告効果や新しい層の獲得にもなり、配信者個人で動画を作る手間も省ける。しかし中には悪意のある切り抜きや、金銭目当てでの作成も見られるため、VeG公式がガイドラインを提示する事態に発展した。個人配信者では契約を結ぶところも増えてきている。

 

「さて、マッチポイントですか」

 

 あっという間にゲームが終わりに向かう。せっかくマップの場所を覚えてきたというのに残念だ。

 

「えっと……最後は何もせずに勝ちですか」

 

 味方も強くて、片方のサイトを私が守っている間にもう片方で殲滅戦が行われていた。

 

「GG、でいいんですかね。なんとなく試合の流れも掴んできたので、今日はこのままランク戦開放まで行きますかね」

 

 その後も山あり谷ありの戦績で、配信は多くの視聴者に見られながら幕を閉じた。

 

 

❍✕△❑

 

~数日前~

 

 

 私は、無意識に震えながらスマホを操作していた。

 

 今日は後輩のデビュー配信。ゲーム配信メインの事務所で『多少できる』なんて言うものだから、どの程度なのか見てやろうと思って配信を開いた。そこでは、デビュー配信のテンプレを投げ捨てたゲーム配信が行われていたのだが……

 

「あ、ありえない。この動き……絶対そう」

 

 私がFPSゲームに心血を注ぐキッカケとなった人物『ez』。その人物としか思えないプレイが画面で繰り広げられている。これがただの真似というのなら、それは多分チートを使っている。ez選手の真似をしてここまでゲームをしてきた私でも、この動きはできない。

 

「じゃ、じゃあ……あの事務所に面接に来てた人が、ezってこと……?」

 

 どうにも信じられない。丁寧な態度ではあったがどこか抜けているような雰囲気の女性だった。自分の憧れの人物と既に遭遇していたことに、驚きを隠せない。

 

 それに加え、ezの良さを本人に力説したことになる。恥ずかしすぎてもう二度と顔をあわせられない。

 

「そうだ、きっと夢だ」

 

 私の脳は考えるのを辞めた。そしておもむろにスマホで連絡を済ませて、布団をかぶって目を閉じた。

 

『ちょっとまって、新人さんってあのezさん?』

 

 このメッセージを送った相手が姉でなく筑紫さんであったことに私が気づくまで、あと8時間。

 



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初の○○○配信

tksmyについて語りたい#6

3:名無しのtks民

  たとえ新しいゲームでもうますぎて馬になったわね

4:名無しのtks民

  このゲームはキャラクターのスキルを駆使するゲームです

5:名無しのtks民

  前衛キャラは結局撃ち合い勝ってなんぼやから……

6:名無しのtks民

  スキルで遅延いれても突っ込んでくる前衛キャラどう止めればいいのよさ

7:名無しのtks民

  そりゃ複数人で弾幕よ

8:名無しのtks民

  このあと弾幕の発生地を逆に潰されたんだよね

9:名無しのtks民

  あまりに一方的な虐殺で草

10:名無しのtks民

  ワイの推し強すぎワロタ

11:名無しのtks民

  初戦だから仕方ないけど初心者狩りみたいになっててかわいそうだった。

12:名無しのtks民

  なおこっちもただの初心者な模様

13:名無しのtks民

  素人目線だけど、初心者には見えなかったけど、どうなん?

14:名無しのtks民

  一応このゲームリリース日からやってるワイ目線になるが、スキルの使い方やマップの移動とかはぜんぜん初心者。ただ……FPSとして……戦いのセンスが頭おかしくなるレベル

15:名無しのtks民

  我らが下界では、撃ち合いの強さこそがあのゲームの強さだからな

16:名無しのtks民

  10戦くらいして1on1の撃ち合い負けたのが両手で足りるくらいしかなかったってマジ?

17:名無しのtks民

  俺も1on1でtksちゃんに56されてぇなあ

18:名無しのtks民

  上級者ニキは帰ってもろて

19:名無しのtks民

  どう見たってスマーフだろ、お前らバカすぎ

  てかそろそろ元プロだって認めろや

20:名無しのtks民

  あぁ

21:名無しのtks民

  管理者さーん、たのんます

22:[管理者]tks民

  はーい、BANしときました

23:名無しのtks民

  助かる。ってか対応早すぎワロタ

24:名無しのtks民

  おかしいな……この管理者、いつもいるぞ

25:名無しのtks民

  24時間体制でスレ監視してるレベルでいつもいるよな

26:名無しのtks民

  いつ寝てるんや……てか仕事は……?

27:[管理者]tks民

  ソレ以上はお口チャックしてね

28:名無しのtks民

  あっはい

29:名無しのtks民

  ハイワカリマシタ

30:名無しのtks民

  イエッサー

❍✕△❑

 

 

「こんララ~!VeGamer所属、鐡ララだよ~!」

 

<こんララ~>

<こん~>

<わこつ>

 

「はい、じゃあ今日はタイトルにもある通りこのゲームをやっていこうと思うんですけどね!」

 

<初バトロワ配信、待ってた>

<あれ?>

<いま更新したらサムネ変わったんだけど>

 

 やはりララちゃんは人気だなぁ、と流れるコメント欄を見ながら思う。まあそれもそう。私よりトークが上手だし、女の子らしさもある。なによりコロコロと変わる表情がバーチャル適正の高さを明確にあらわしている。

 

「はい!突発もいいところなんですが!つい先程、一人仲間が釣れたので紹介しちゃいたいと思います!」

 

<えっ>

<同箱コラボかな>

<筑紫ちゃん期待>

 

「そう!なんとあの話題の的であり私の同期でもある、筑紫ちゃんが来てくれました~!」

 

「こ、こんララ~。筑紫みやです。今日はついさっきたまたま裏で話していたところお誘いされたので来ちゃいました」

 

<キターーーー!>

<このコラボを待っていたんだぁーー!>

<今日は命日か>

 

「そう簡単に召されずに最後まで見ていってください。それじゃあララちゃん、後はお願いします」

 

「はいよー任されました!せっかくのコラボなので、なにかゴールを決めようと思うんだけど、とりあえず目指せ5連勝!ってことでチャンピオン5連取を目標に進めていくよ!」

 

<普通につらそう>

<筑紫ちゃんってレベルカンスト帯だよね……>

<ララちゃんも経験者とはいえ、5連勝かぁ>

 

「何事もやってみないとわからないからね!それじゃあ行こうか筑紫ちゃん」

 

「はい、もうパーティにいますよ」

 

「っと本当だ。それじゃあ一戦目、スタート!」

 

 休日のゴールデンタイム。最も人が多い時間帯に、その企画は始まった。

 

 

❍✕△❑

 

 

「あー!惜しかった!」

 

「ごめんなさい、勝てませんでした」

 

「ナイファイナイファイ!じゃあ、次に行こ!」

 

 いや、本当にララちゃんは元気だ。もう4時間以上連続でやっているというのに、疲れをまったく見せない。むしろ、楽しそうな声が途絶えないまである。

 

<まじ楽しそうで草>

<風呂入ってきたらまだやってた>

<さっき轢き殺された敵です、対あり>

 

「そりゃ楽しいよ~!敵さんもナイファイでした!」

 

 これが配信者かと私は驚愕していた。視聴者を楽しませ続けるというより、自分が楽しみ続けている。その笑顔が伝染って、視聴者も楽しんでいる。トークも楽しく、コメントもほどほどに拾うので長時間の配信でも飽きない。ファン数が多いのも頷ける。

 

「筑紫ちゃーん?」

 

「は、はい。なんでしょうか」

 

「楽しんでる?」

 

「ええ、まあ」

 

「またカウントリセットだけど大丈夫?たしか長時間はできないんだっけ?」

 

 そのうえ気まで回るらしい。本当に人間力が高い。

 

「10時間を超えるとわからないですけど、それまでは大丈夫ですよ」

 

「……10時間?」

 

「はい」

 

「流石の私でも10時間はきついよ……腕は大丈夫でも指がうごかなくなっちゃいそう」

 

「でも変な力が抜けて何故か撃ち合いに勝てるようになりますよ」

 

「それは無意識レベルまで修練を積んだからこその賜物だと思うよ……あっ降下が始まった」

 

 話題も出してくれるし、拾ってもくれる。なるほど、これだけ世話焼きであれば、視聴者たちにママと言われているのも理解できる。ならば私も存分に甘えることにしよう。

 

「バレルアタッチメントあったらください」

 

「筑紫ちゃんあげるよ~」

 

「私回復なくなりました」

 

「わけてあげる」

 

「ダウンしちゃいました、すみません」

 

「すぐ蘇生するね!」

 

 いや、とても手厚い保護を受けている気がする。

 

 

 そしてさらに数時間が経った後……

 

 

「やったーーーー!」

 

「やりましたね、5勝目です!」

 

 もう何度目の挑戦か数えるのをやめたころに、ようやく企画のゴール条件を満たしたのであった。

 

「今日はありがとうね!」

 

「こちらこそ。とても楽しい時間を過ごさせてもらいました」

 

「うん!それじゃあまたね~」

 

「はい、失礼します~」

 

 そういって通話から抜け、天井を見上げる。久々にここまで勝ちにこだわってゲームをした気がする。勝つときも負けるときもあると割り切って遊んでいるいつもとは違い、精神的、頭脳的疲労が溜まっている気がする。むしろこれに加えトークまで全力だった私の同期は、いったいどういう体力をしているのだろうか。

 

「でも……楽しかったな」

 

 勝ちにこだわりつつも、こんなにも楽しい。今まで一度も経験したことのない感覚に、私はしばらく眠りにつけなかった。

 

 

❍✕△❑

 

 

「筑紫ちゃんホントにすぐ落ちちゃった」

 

<さすがに疲れてたんやろ>

<姉御のテンションについていくのは体力使うから>

<姉御はテンション上がりまくりやったけどな>

 

「う、うるさい!だって……」

 

 私は、さっきまで一緒にゲームをしていた同期のことを思い浮かべる。

 

『大丈夫、私が守るから』

 

 そういってダウンした私の前ですべての敵を捌き切った彼女は、まるでそのプレイが当然かのように平然としながら私を蘇生したのだった。

 

「だって……あんなのかっこいいじゃん」

 

<VeGamerで最もイケメン枠>

<見た目は可愛いのにな>

<ギャップ萌えよ>

 

「それじゃ!今日はここまで、おつララ~!」

 

<おつ~>

<おやすみ>

<お疲れ様でした>

 

 配信を閉じて、私はベッドにダイブする。

 

「……あんなのかっこいいじゃん」

 

 しばらく顔が火照っていて、私は寝付けなかった。

 



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二人の現実

 平日の昼間。普通の学生ならば学業に勤しんでいるはずの昼下がり。私は電車に揺られていた。

 都心部とはいえ昼間のこの路線はガラガラで、同じ車両にも数人しか乗っていなかった。

 

 基本的に引きこもりがちな私がこうして外にいるのにも理由がある。

 

『ねえ、明日どーしても付き合って欲しいお店があるの』

 

 そう、頼まれたからだ。誰にかといえば……未だ一度も会ったことのない同期だ。普通はデビュー前に顔合わせをしたりするらしいが、私は普通でないデビューをしてしまったがために初遭遇となる。

 

 待ち合わせの駅で電車から降りると、改札口に1人の女性が立っていた。事前に聞いた通りの服装をしているところを見るに、彼女は私の同期、ララちゃんであるようだ。

 

「あの……もしかして……」

 

「ん?その声!筑紫ちゃん?」

 

「こ、声が大きいですよ」

 

「ああごめんごめん」

 

 このテンションの高さ、間違いなくララちゃんだ。見た目こそバーチャルの体と違えど、すぐに本人だとわかる。

 

「最初に声かけてくれなかったらわからなかったよ〜」

 

「すみません、無難な服しか持ってなくて」

 

「謝らなくてもいいよ。それに似合ってるよ」

 

「ありがとうございます」

 

 外行き用の服なんて最低限しか持ってなかったものだから、どこにでもいる目立たない服を着るしかなかったのだ。

 

「というかびっくりしちゃった。スタイルめっちゃいいじゃん」

 

「ただ縦に細長いだけですよ」

 

「それとタメ口でいいよ」

 

「えっと……」

 

「あー難しい感じ?ならいいや。ちょっとむず痒いけどね」

 

 目的地に着くまでも、彼女の口は止まらなかった。私は自分から話すのは苦手な方なので、正直助かっていた。

 

「でも意外だなぁ。本当にすぐに会ってくれるなんて」

 

「まあ……いろいろと迷惑もかけましたし」

 

 例の騒動の件で最も被害に遭ったのは、同期であるララちゃんだった。タイミングの悪さ、新人という立場の不安定さを狙われ、私の次に標的にされたのが彼女だったのだ。

 

「気にしなくていいのに。それに……それだけじゃないでしょ。だって店の名前を出したらすぐにオッケーしてくれたもんね?」

 

「ぐっ……べ、別に甘いものに釣られたわけじゃないですよ?」

 

「ふんふん、そういうことにしといてやろう」

 

 スイーツに釣られたわけではない。決して……違うのだ。たしかに店名だけでわかるほど事前サーチしていた場所とはいえ、違うのだ。

 

 

❍✕△❑

 

 

 甘いものと共に、口数はさらに増えた。

 

「ホントに!前世だのなんだの失礼でしょ!」

 

「まぁまぁ、落ち着いて」

 

「落ち着いてられないわまったく」

 

 彼女が憤る気持ちもわかる。彼女も私と同じく、前世持ちだった。彼女の場合は別サイトで雑談配信をしていたという経歴だったが、既に消したはずの動画を世に出されたり、複数のまとめサイトに晒しあげられたりとなかなか酷い扱いを受けている。

 

「せめて私の目の届かないところでやってよね」

 

「本当に……そうですね」

 

 私の騒動が酷かったとき、彼女もまた、自分の前世の情報が目に留まる形でばら撒かれていた。

 

「私のせいですね……」

 

 私の前世がすぐに割れたからこそ、飛び火した彼女にも特定班が大勢動いた。そもそも特段人気というわけでもなかった彼女のアカウントを短期間で特定するなど、至難の業のはずだ。

 だからこそ、その火付けとなってしまった私は彼女に頭が上がらない。

 

「いいの。本当に筑紫ちゃんが謝る必要ないんだから」

 

「でも……」

 

「だって、筑紫ちゃんは何もしてないもん。一部の厄介なオタクが騒ぎ立てて、それに群がるイナゴが面白がって火を大きくしただけでしょ」

 

「でも思うんです。もっと静かに終わらせる方法もあったんじゃないかって」

 

「無理よ無理むり」

 

 そう言って、彼女は私の腕を掴んだ。

 

「こんな細腕じゃ自分すら守るので精一杯でしょ。だから気にしなくていいの」

 

 その通りだ。なんなら、自分すらも守りきれなかった細腕だ。ゲームの中の腕前では自信があっても、現実ではただの非力な女である。

 

「お姉さんの胸をかりるくらいでいいのよ」

 

「ちなみにララさんは何歳ですか?」

 

「えっ?今ちょうど20歳だけど」

 

「じゃあ私の方が年上ですね。年だけですけど」

 

 あんぐりと口をあけてこっちをみるララちゃんは、しばらく瞬きを繰り返す。

 

「えっ?でも女子高生って」

 

「まあ、いろいろあって今は通信制で単位取得中なんです。なのでこんな年でも高校生です」

 

「え~!私より年上なのに現役JK名のれるなんて、ずるいわ!」

 

「セコくないですよ。ちゃんと制度に則ってるわけですし」

 

「たとえ制度が許そうと私は許さないから!」

 

 このあと、ご立腹のララちゃんをなだめるべく食後のショッピングに乗り出した私は、ララちゃんが満足いくまで着せかえ人形にされたのであった。疲れた……

 

 

❍✕△❑

 

 

「ということがあったんだよね~!」

 

 ララちゃんはその日の夜も雑談配信をつけていた。でかけた後だというのに……底しれぬ体力の持ち主である。

 

「いや、もうほんっと筑紫ちゃん美人さんでさ……。また会いたいなぁ」

 

 そういってくれると、私もありがたい。家族以外の誰かとでかけるなんて経験は何年ぶりだろうか。それでもとても楽しかった。

 

<私も楽しかったです。また遊びに行きましょう>

 

「あっ筑紫ちゃん!?ありがとう、また行こうね!」

 

 コメントにすぐに気づいて、話を遮ってまでそう返してくれる。本当に、私はいい同期に恵まれている。

 




???「ezさん……じゃなくて筑紫ちゃんは甘いものが好きっと……メモメモ」


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5分だけの発見

ランキングにちょくちょく乗っているようでして、いつも応援ありがとうございます。




「はい、皆さんこんにちは。画面と音声、問題ないでしょうか?」

 

<こん~>

<わこつ>

<大丈夫やで>

 

「ありがとうございます。それでは今日も始めていきましょう」

 

 今日もまた、筑紫みやの配信が始まる。私は一度飲み物を飲んで、喉を潤す。Vtuberになってから、明らかに家での飲み物の消費が増えた。その分トイレも近くなるのであまり配信中はいきたくないのだが、たくさん酷使される喉のためにも、結局は若干の諦念を抱きながら飲み物に口をつけるのであった。

 

「さて、今回なんですが……最近はFPSが多かったので、趣向を変えていこうと思います」

 

 そう言いながら起動するのは、横スクロール2Dアクションゲームだ。

 

<えっ……このゲームやってくれるとか神か?>

<普通にバトロワ見たかった>

<このゲーム全然知らん!でもおもしろそう!>

 

 コメントの反応は3:2くらいで賛成:反対といった感じだ。まあ、FPSゲームを見たい層がいるのも仕方がないが、今日はこのゲームだと決めていた。

 

「実はこのゲーム、とても思い出深いゲームでして」

 

 私は幼少期を思い出しながら話を続ける。

 

「親に怒られるまでやっていたら、最終的にボス撃破手前で電源を切られたんですよね。ああ、今は親に対しては何も思ってないですよ?ただ、当時の私はそれはもう荒れに荒れたらしく……、以降親は絶対に電源をぶち切ることはしなくなったんですよね」

 

<普通、ゲームをさせなくなったとかそういう話なのでは>

<何やったら親が折れるんや……>

<筑紫ちゃん、もしかして意外とリアルだと尖ってる?>

 

「別に尖ってるわけじゃないと思いますよ。たぶん、親もゲーマーってのはあるのかもしれませんね」

 

 私がこうしてゲーム三昧の人生を送れているのも、両親のおかげだ。結果を出すという制約はあったものの、大会のための援助だってしてくれたわけで、私は両親に頭が上がらない。

 

「とにかく、やっていきますね」

 

<よーいスタート>

<た、タイマーが右上に見えるんですが>

<もしや……>

 

「えっと、じゃあゲームスタートしますね。まずは名前を入力して設定を変更して……。よし、それじゃあ始めます」

 

 ゲーム開始のボタンを押すと同時に、配信上に映しているタイマーも動かす。

 

「ここはこう」

 

「ここで連続ジャンプ」

 

「ここの壁抜け、解析される前に見つけた人がいたらしいですね」

 

<ってオーイ!>

<何食わぬ顔でRTAを始めるなwww>

<今のところ世界記録と同ペースなんですけど>

 

「実は一時期、RTAにハマってまして。その時の影響ですね」

 

<ハマってたの次元じゃないけど?>

<雑談しながら高難易度技決めるな>

<もしかして記録持ってる?>

 

「一位は取れたことないですけど、10位圏内に入ってたことならありますよ。そのあと大きな短縮ルートが見つかったのですぐに消えましたけど」

 

<なるほど納得>

<fpsもあれだけできて横スクでもこの腕前?>

<多分だけど1日が30時間くらいある人だこれ>

 

「何を言ってるんですか、1日はたったの24時間ですよ」

 

<そのうちゲームに費やすのは?>

 

「20じか……おっと、ここは難しいので集中しますね」

 

<睡眠時間4時間以下>

<早死しそう>

<ここでミスか、人間アピール上手いね>

 

 あまりにシビアな判定に、数回苦戦する。ここの短縮は私がこのゲームを触らなくなった頃に発見された場所なので、練習不足なのだ。

 

「いけました。記録を出すのは厳しいですが、今日は通しでこのままやります」

 

<一応ゲーム配信だからね!>

<RTA配信は地獄すぎるんよ>

<VeG内に新たな風……>

 

「よほどじゃない限りはオススメはしませんね……やはり辛い時の方が多いので」

 

 そしてゲームは終盤へと差し掛かる。

 

「ここ、短縮まだできないんですよね」

 

 短縮不可能なギミックステージが、私の行く手を阻む。

 

「ここで上、そして右のスイッチからの下」

 

<あっ>

<間違えたね>

<そこ下じゃなくて左や>

 

「……間違えましたね。セーブ元まで戻りますか」

 

<あれ?>

<ゲームオーバーにならない?>

<ミスったらデスだったよねここ>

 

「あれ、たしかにそうですね。なにかおかしいです」

 

 ゲーム画面では、まだわたわたと動き続けるキャラクターが映し出されている。

 

「えっと……とりあえず操作を続けますね」

 

 入力通りに動く。変なちらつきや判定のバグもない。

 

「よ、よくわかりませんが生きてます。なんででしょう」

 

<新ルート発見きた?>

<ここからラストまで計測してみよう>

<どうせ途中でデスルーラするでしょ>

 

「そうですね、せっかくなのでこのまま進めましょう」

 

 ゲームはその後も安定して動き続け、気がつけばあっというまにラスボスの手前。そのままいつもどおりの手順でラスボスを倒せば、タイマーストップだ。

 

「えっと……5分の短縮ですかね」

 

<やばくて草>

<世界とっちゃったよ>

<どうするんこれ>

 

「なぜあのルートに行けたかわからないので、記録としては公表できないですね。あとはガチ勢の方たちがきっと条件をみつけだしてくれるでしょう」

 

 RTAのガチの方たちは、本当に無限の時間を費やす。特に今回は5分という大きなタイム差の出る短縮ルートだから、死にものぐるいで条件を特定するだろう。

 

「あっ、きっと切り抜かれるので言っておきますが、この件に関してのDMや問い合わせには受け答えできません。本当に私もどうやってやったかわからないので、唯一の手がかりであるアーカイブから解析してくださいね」

 

 筑紫の名義でRTAの世界に身を置く予定はないので、先にそう断っておく。私はさまざまなゲームを多種多様な楽しみ方でプレイするのが好きなだけなのだ。

 

「それでは、今日はここらへんにしておきます。よければ高評価チャンネル登録もよろしくおねがいしますね。それでは、失礼します」

 

 配信を閉じ、アプリケーションを落とし切る。しかし、その間ずっと、スマホのバイブレーションが鳴り続けていることに、私は顔をしかめた。

 開いてみれば、案の定さきほどのプレイについての質問の山だ。どうやら、大きすぎる発見をしてしまったらしい。

 

 マナーが悪いとは言わない。そもそも、よく見る私のリスナー層ではないところからのDMだ。

 

 私はマネージャーさんに一報を入れてから、通知をオフにして布団に潜り込んだ。

 



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私が行っても

[ひこうにん]VeGamerについて語りたい#377

35:名無しのVeG民

  悲報、耐久配信が30時間を超え、さすがに運営ストップが入る

 

36:名無しのVeG民

  エグいって

 

37:名無しのVeG民

  ストップはいったあと一戦して、それで仮眠とったら再開予定らしい

 

38:名無しのVeG民

  耐久企画は愚か……

 

39:名無しのVeG民

  誰か救ってくれ

 

40:名無しのVeG民

  すでにファンらしき数人がキルポ捧げにいってるもよう

 

41:名無しのVeG民

  今北産業

 

42:名無しのVeG民

  我らがVeG代表姉妹の妹の方、某弱キャラで電撃バッジ耐久開始

  3時間経過、ちょっと匂い立つ方々がちらほら見える

  30時間経過、さすがに休憩といって仮眠に入る。なお枠はつけたまま

 

43:名無しのVeG民

  枠つけっぱって大丈夫なんか

 

44:名無しのVeG民

  一応隣の部屋に姉が待機してるから事故はなさそう

 

45:名無しのVeG民

  【速報】寝言で「お姉ちゃん……それは食べ物じゃないよ……」と言う

 

46:名無しのVeG民

  コメント欄に姉さまが来て必死に弁明しているものの、効力なし

 

47:名無しのVeG民

  寝言かわいすぎて録音したわ

 

48:名無しのVeG民

  うわぁ!アラームの音か、びっくりした

 

49:名無しのVeG民

  仮眠はいって1時間とちょっとくらい?はやくない?

 

50:名無しのVeG民

  寝ぼけながらご飯食べてるのかわいい

 

51:名無しのVeG民

  やはり姉の方は世話焼きだなぁ

 

52:名無しのVeG民

  こうしてゲーム漬けの妹ができあがっていくんやなって

 

53:名無しのVeG民

  俺もこういう世話してくれる姉が欲しい人生だった

 

54:名無しのVeG民

  さすがに体調を鑑みて40時間までとする模様

 

55:名無しのVeG民

  それでも多いが

 

56:名無しのVeG民

  す、少し寝てくるわ……

 

57:名無しのVeG民

  おう、仮眠と言わずしっかり寝てこい

 

58:名無しのVeG民

  いのちだいじに

 

59:名無しのVeG民

  プロとか呼んでもいいからはよ救ってくれ……

 

 

❍✕△❑

 

 

「うう、また負けた……」

 

<どんまいナイファイ!>

<惜しかった!>

<次はいけるよ!>

 

 温かいコメントを読みながら、次の試合へと進む。

 

 はあ、やっぱりこんなことしなければ良かった

 

 元はといえば、うちの新人の筑紫ちゃんことezに憧れて始めた配信だった。電撃バッジ自体は私もとったことがあるし、長くても6時間もかからないと高を括っていた。

 

 しかし、蓋を開けて見れば地獄の始まりだった。初期の頃に比べて明らかに強くなった一般プレイヤーたちにより、何度も阻止され続ける。

 いや、それだけならまだ良かったのかもしれない。明らかに怪しい動きをするものが増えた。私の降下に3人で被せてきたり、戦った瞬間に別チームが参戦してくることが多すぎたり……。確実とまでは言わないが、こう何度も続いては疑ってしまうのも仕方がないというものだ。

 

「今回も、初動落ち……」

 

 仮眠は取ったものの、それでも眠いものは眠い。ただ今は、眠気よりも諦めたくないという意志が勝ってるだけだ。

 

<誰か来てくれー>

<無理はしないでね>

<視聴者の中にプロのお方はいませんか?>

 

 誰かに手伝ってもらえという声が聞こえる。しかし、プロの知り合いなんていなければ、VeG内にすら、気軽に誘える友達もいない。お姉ちゃんは今は寝てるから呼べない。

 

 八方塞がりだった。

 

<<私、いつでも行けます>>

 

 コメント欄に流れる、特殊アイコン付きのコメント。いわゆるモデレーター権限持ちのアカウントによるコメント。

 それは、筑紫ちゃんからのコメントだった。

 

 

❍✕△❑

 

 

 レポートが忙しくて配信ができない日、私は作業の傍らで先輩の配信を開いていた。どうやら電撃バッジ取得耐久をするとのこと。一応下調べのときに先輩の配信を見たことがあるが、普通に強いので早ければ5~6戦くらいで終わるだろう。そう思っていた。

 

 うーん、これはやられてるな……

 

 明らかに先輩の位置がわかった状態で動く敵が多い。初動ならまだしも、中盤以降だってずっとそうだ。先輩のチームだけ、不利な戦いを強いられ続けている。

 

 そうこうしているうちに、一日が終わった。先輩の配信をつけながら、その日は眠りについた。

 

 

 

 

「うわっ、まだやってる」

 

 起きて画面を見て、思わずそう口にしてしまった。どうやら、あの後も沼りに沼ってひたすら試合を続けていたらしい。時間を見れば、配信開始から24時間は経っていた。

 

 しかし、それでも先輩はめげずにやり続けるらしい。しばらくすれば、健康のためにも一度休んで欲しいというメンバーからのコメントも、だんだんと流れるようになった。

 

「お姉さんと同居だから大丈夫とか言ってたけど」

 

 他人がサポートしてくれたとて、ゲームをこれほど長時間やり続けるのはあまり良くないことだ。健康被害もそうだが、なによりそのゲームのことが嫌になってきてしまう。ゲームが嫌いな状態でやり続ければ、実力が発揮できないのも仕方がない。

 

「まあ、私が行っても断られそうだし」

 

 むしろ、私に対してのゴースティングまで連れて行きかねないので、今回は参加を見送るつもりだ。

 

「しかし……本当に酷い」

 

 先程から同じ名前の敵をよく見るし、たまにあたる酷い人は屈伸煽りをした後に自殺までしている。粘着し続ける気なのだろう。泣きそうな声を出しながらも、先輩はずっとゲームを回し続けていた。

 

 

 

 そして時は過ぎ……48時間というリミットまで残り3時間というところ。先輩はもはや半分寝てるような動きをするようになってきた。今はコメント欄と会話しながら、簡単なご飯を食べているところらしい。

 

<誰か来てくれー>

<無理はしないでね>

<視聴者の中にプロのお方はいませんか?>

 

 コメント欄も、この挑戦に否定的になってきた。確かに、このままでは何も得ず40時間配信をしただけになってしまう。これで体調まで崩すようだったら、本当に無意味な挑戦になる。

 

 なにか私にもできないか、しかし特に何も思い浮かばない。

 

 そんなときだった。

 

 ピコピコ

 

 スマホの通知音が鳴る。姉の方の先輩からのメッセージだった。

 

『筑紫ちゃん。もしよかったらだけどうちの妹をお願いできない?』

 

『突然どうしましたか?』

 

『言葉の通りなんだけど。正直、見ててつらいの』

 

『まあ、そうですよね』

 

 つらい気持ちは伝染る。配信者がつらいだけでなく、それを見ている視聴者もつらい気持ちになっていくのが配信というものだ。

 

『おねがい。筑紫ちゃんならなんとかなるでしょ?』

 

『私は今はプロでもなんでもないですよ』

 

『プロだったとかそんなことはどうでもいいの』

 

 その言葉に私は驚きをかくせなくなる。あの姉妹はやたらとezにこだわりがあるようだったからだ。

 

『うちの箱の中で最もゲームが上手いから頼みたいの』

 

『そうは言ってもですね……私が行っても改善しませんよ?』

 

 むしろ、私に粘着しているアンチを連れていったという悪影響しかない気もしてくる。

 

『……ごめん。正直に話すね』

 

『はい』

 

『私、もうこの企画は無理だろうって思ってるの。ただ、うちの妹は目標達成できませんってなると相当落ち込むから……。せめて筑紫ちゃんとコラボできたっていう思い出だけでもあったらなって』

 

『でも、それって私である意味はないですよね』

 

 少し冷たいかなと思いつつも、そう聞いてみる。

 

『じゃあ筑紫ちゃん!ゲームの上手い人を紹介してよ!』

 

『うっ……』

 

 知り合い?そんなものはとうの昔に縁を切ってしまった。ゲーム内のフレンドなんて、ボイチャすらしたことない人が大半である。

 

『お願い。今度なんでも言うこと聞くから』

 

『……本当になんでもですか?』

 

『えっと、そこは筑紫ちゃんの良識的な判断に任せるかな……』

 

『……わかりました』

 

 私は、コメントを打ち込む。

 

<<私、いつでも行けます>>

 

 そのコメントに対しての反応を見ている余裕はなかった。返事も聞かぬままにゲームを立ち上げて、SNSの個人チャットで先輩にIDだけ送る。

 

「へぇ……意外と早かったな」

 

 フレンド申請は、そう待たずに来た。もう少しソロじゃなくなることに葛藤すると思っていたが、先輩もいろいろと限界を感じていたらしい。

 ゲームに参加してすぐに、個人VCの着信が来た。

 

「先輩、いちおう表では初めましてですね」

 

「つ、筑紫ちゃん……」

 

「先輩のリスナーの皆さんも初めまして。つい先日デビューした筑紫みやです。以後お見知りおきを」

 

<筑紫ちゃん来た!これで勝つる!>

<メシアよ……>

<でも電撃バッジの手伝いって可能なのか?>

 

「あー、えっと。そうなんですよね」

 

「えっ?なになに?」

 

「一応、手伝いにきたつもりではあるんですけど、あのバッジって自分のキルをカウントするものなので、結局は先輩にかかってるってことです」

 

「うん、チームで話せる人がいるだけで全然楽なんだけど」

 

「……ど?」

 

「つ、筑紫ちゃんだとキルとられそうで」

 

「否定はできませんね」

 

 乾いた笑いを浮かべる先輩は、でもなんだか肩の荷が降りたような声の軽さを感じた。

 

「じゃあ、終わらせに行きましょうか」

 

「うん、よろしくね」

 

 マッチ開始のカウントダウンが始まった。

 



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先輩と初コラボ

 キャラピックが終わり降下が開始する。先輩は固定のキャラ、野良の人はメタの強キャラ、そして私が回復スキルを持つ唯一のキャラクターだ。もちろん先輩をサポートするためのキャラピックである。

 

「やはり被せてきてるパーティがあるのと、それから隣の集落降りが3パーティですね」

 

「降りる場所逸らした方がいいかな?」

 

 先輩が向かってるのは、マップのはずれだが物資がなかなか美味しい場所である。確かにパーティが集まる場所だが、この数は明らかに多すぎる。

 

 なにより不安要素が……

 

 試合開始前に表示されるトップ部隊に、私の知る名前があったことだ。名は『ez』。もちろん、私自身がezなので偽物なのだが、厄介なことにこの名前のアンチを私は記憶している。

 

「いえ、先輩はここを漁ってください。死ぬ気で守ります」

 

 ピンを指してそう指示すれば、先輩はうんと返事をする。どうやらIGLは任せるつもりらしい。

 

「味方さんがそっちに行くなら……私はこっち漁ります」

 

 目標を見定め、雨粒のように急降下する。後出しじゃんけんが普通は強いゲームなのだが、この最初の降下後だけは話が違う。

 

 ショットガンに……サブマシンガン。やはりここの範囲あたりの漁り効率は最高だ。

 

 そして、私ではなく先輩にかぶせてきた連中は……予想通り3人で先輩を倒しに向かっている。しかし、物資エリアに立ち入らせていないので、そのうち2人は丸腰だ。

 

「ごめん!私死んだ!」

 

「守るって言ったでしょう!」

 

 一心に向かってくる3人に怖気づいてる先輩に、私はそう叫ぶ。

 

 まずはSMGで大きく削り、そのまま一人をダウンまで持っていく。運良くそれが唯一の武器持ちだったらしく、後の二人は拳を振りかぶって走ってくる。

 

 そんな動きは、ショットガンの前では無意味なのは自明の理だ。

 

「た、たすかった……」

 

「まだ落ち着くには早いですよ」

 

 私は、遠目で見つけた敵をピンで知らせる。

 

「うそっ!早すぎでしょ」

 

「物資はほどほどに漁って漁夫メインで来た部隊でしょう。ただ、こっちも戦闘のせいで十分に漁れてないですね」

 

 私はショットガンとその弾を落とす。

 

「持っててください。それならチャージをすれば遠距離もある程度撃てるので」

 

「う、うん」

 

 味方の野良?彼なら速攻で自殺していった。まあ、先程まで先輩の配信に敵側としてIDが出ていたし、そういうことなのだろう。

 

「じゃあ戦いにいきますよ。回復は持ってますか?」

 

「少しだけ」

 

「十分です。それじゃあ、行きましょう」

 

 次の部隊の壊滅まで、あと5分。

 

 

❍✕△❑

 

 

 私の手は震えていた。それは、あの憧れのezと共にゲームをしているからだけではなかった。

 

 

 明らかに敵を殺しやすい。

 

 

 オーダーのうまさや敵の動きの読みだけではない。ほどほどに敵を削ってはキルをゆずってくれる。私はピンの指された方向に銃を向けておけば、勝手に敵がレティクルに飛び込んでくる。

 

「これは確かに、チートだわ」

 

「ん?先輩なにか言いました?」

 

「えっ!いや、なんでもないよ」

 

<チート言うたべ>

<まあその気持ちはわからんでもない>

<IGL、DPS、サポート、全部一人でやってるよ……>

 

「本当に、筑紫ちゃんって強いです」

 

「そうでもないですよ。プロの方々に比べればまだまだです」

 

「でも、筑紫ちゃんは他のゲームも上手だよね」

 

「まあ、それしか取り柄がないもので」

 

<とうとう慣れてきやがった>

<雑談しながら敵壊滅してるが>

<もはや二人の間に言葉は不要ってわけね>

 

「えっあっあれ?」

 

「どうかしましたか先輩」

 

「えっと……あと5キルだ」

 

 いつの間に私こんなにキルしたんだろう。でも、まるで相手がこちらの土俵に飛び込んできてくれるかのようで、私はただ構えておくだけで良い。

 

「先輩、次、東の方角です。おそらく2人」

 

「えっ。は、はい」

 

 東の方にある道を向けば、3秒後に敵が顔を見せる。と同時に爆発。

 

「な、なに?」

 

「私のグレネードです。多分両方削れてるのでやっちゃってください」

 

 とにかく私は左クリックを押しつづける。それだけで、相手は散っていく。

 

「……っ!先輩、危ない!」

 

 気が緩んでいた。私は射線管理を怠り、頭一発でダウンしてしまう物資武器に貫かれてしまった。敵の位置は遠く、先程までの残り具合から3人全員生存しているだろう。そして……

 

 キルログに流れる、ezの文字。

 

 私をダウンさせたのは、『ez』を騙る偽物だった。

 

「ごめん、筑紫ちゃん」

 

「いいんです。こちらこそすみません、守れませんでした」

 

 とても悔しそうな声で筑紫ちゃんは謝ってくる。こんなにも思いやりのある人を巻き込んでしまって、私は本当にわがままだ。

 

「あ、あれ……」

 

「どうしました?」

 

「う、うん。いや、大丈夫……」

 

 そんなわがままなばかりの自分が情けなくて、私の頬を涙が伝っていた。私はバレないようにマイクをミュートした。

 

 

 

 

「でも先輩、まだ終わりじゃないですよ」

 

 ハッとなり顔をあげる。画面の向こうでは、私を守るように筑紫ちゃんのキャラが立っていた。

 

「ほら、起きてください。あとたったの3キルなんですから」

 

 

 筑紫ちゃんのキャラの特殊効果により、安全に蘇生が行われる。しかも特殊なアイテムによって、体力やシールドも半分回復した状態でだ。

 

「これ、回復です。少し隠れて巻いててください」

 

「う、うん」

 

 私は渡された全回復アイテムを使う。10秒。短いようで長いその時間が過ぎた頃、ダウンログが流れる。

 

「筑紫ちゃん……!」

 

「こっちにこないで!」

 

「……っ!」

 

「私のキルを取りに南から1人、西から2人来ます。あとはお願いしますね」

 

 いそいで蘇生しようとするも、目の前で撃ち抜かれる。そのまま、筑紫ちゃんは確定キルされ、デスボックスとなる。

 

「先輩、落ち着いてマップを見ればわかるはずです」

 

 すぅと息を吸って、ゆっくり吐く。左上に表示されたマップを見れば、すでに安全地帯の円が狭まってきていた。

 

 この円は見たことがある。たしか、筑紫ちゃんのデビュー配信のときに見た。確かあのときはここに1人と……それからここから2人……

 

 

 あまり考えずに、レティクルを向けて見えた敵に銃弾を打ち込む。

 

「ナイスです、先輩」

 

「あ……えっ?」

 

「チャンピオンですよ!電撃バッジもです」

 

「ああ、うん。ありがとう」

 

 なんだか、実感がわかない。本当に、記憶どおりに反射で撃っただけだった。

 

<つこうた?>

<完全に敵の位置わかってて草>

<つ、つえーーーー!>

 

 コメント欄がいつにもまして加速しているが、それを読む余裕すらなかった。

 

「そ、それじゃあ目標達成ということで今日はここまで、です。長時間ありがとうございましたー」

 

 夢うつつのまま、配信を閉じる。

 

『それじゃあ私も失礼しますね』

 

 それだけチャットして、筑紫ちゃんはすぐにvcを去っていってしまった。お礼すらまだ言えてないのに。

 

「ああ……終わったのか」

 

 ふらふらと立ち上がって、そのままベッドにダイブする。そのあとすぐに、意識はプツリと途絶えた。

 



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呼び出し

推しのVtuberが1人卒業したつらさを乗り越えるのに時間がかかりました、対よろ


 先輩とのコラボから数日後、私は事務所へと呼び出されていた。

 

「どうして呼ばれたかわかりますか?」

 

「い、いえ……わからないです」

 

 会議室の一室をかりきって、私はマネージャーさんの前に座らされていた。

 

「えっとですね……まあ、筑紫さんの経歴は存じておりますが」

 

「は、はい……」

 

 マネージャーさんは頭を抱えてながら、数枚の資料を机の上においた。

 

「これがなんだかわかりますか?」

 

「い、いえ……」

 

「目を通してください」

 

 置かれた資料の1枚を目に取る。それは、私のSNSのログだった。デビューしてから昨日までのログが書類にまとめられていた。

 

「直近の呟きは何ですか?」

 

「えっと……配信の開始ツイートです」

 

「その前は?」

 

「配信の開始ツイートです……」

 

「あと何回このやり取りしたいですか?」

 

「もういいです……」

 

 私は資料を机に戻す。

 

「SNSの使い方下手すぎませんか?」

 

「何を言えばいいのかわからなくて……。以前、ツイートした内容で相当な騒動になりましたし」

 

「前世騒動のときですか……」

 

 デビューからしばらくあった前世に関する騒動は、いつのまにか勢いが弱まっていた。というより……VeGではない他の箱が大規模に新人デビューを行ったので忙しいようである。

 

 その際の右腕が痛むという呟き。あれくらいしかまともな呟きはなく、あとは告知系の事務連絡しかしていない。

 

「筑紫さん。Vtuberをただのガワだと思ってませんか?」

 

「はい?」

 

「いるんですよね。Vtuberをただの立ち絵だと思ってる人たちが」

 

 なんとなくマネージャーさんの言いたいことがわかった。

 

「いいですか?Vtuberはあなたの身代わりじゃありません。1人の人間です。確かに声はあなたの物です。しかし、その姿や性格、それらが相手に与える印象はVtuber固有のものです」

 

「は、はぁ……」

 

「もしですよ?日常会話がほぼなく事務連絡しかしない友達がいたらどうしますか?『この日はここにいる』『この時間帯は〇〇してる』のように」

 

「少し……いやだいぶ気持ち悪いですね」

 

「そう!それなんですよ!」

 

 机をバンと叩いて立ち上がるものだから、思わずビクリと震える。

 

「Vtuberは画面のすぐ向こう側の友達なんですよ。そんな友達が事務連絡しかつぶやかないって怖いでしょう?」

 

「はい……」

 

「というわけで、今、呟きましょう」

 

「えっ?」

 

「ほら、今すぐ」

 

「で、でも何を……」

 

「何でも良いですから」

 

 うーんと考えて、そういえばと思いつく。

 

_________________________

|◯筑紫みや@38tks_VeG ・3分           |

| 実は先日、訳合って先輩に『何でも言うことを聞いて|

| もらう』権利をもらったんですけど、何に使おうか迷|

| ってます                    |

|_________________________|

 

 

「……あのですねぇ」

 

「えっ何かダメでしたか?」

 

「まあ良いでしょう。でも、別にそんなことじゃなくても何食べたとか何したいとかで良いんですよ?」

 

「な、なるほど」

 

 そもそも私はSNSというものに触れたことがない。ezとして活動していたときも、連絡のために作っただけの『#初めての呟き』の1呟きのみのアカウントしか持っていなかった。

 

「同期のララちゃんにでも聞いてみてください。彼女は、いまのところはSNS運用のモデルケースとして優秀ですから」

 

 いまのところはと付け加えるあたり、賢いマネージャーさんだと私は思った。

 

 

❍✕△❑

 

 

VeGamerについて語りたい#404

30:名無しのVeG民

  速報、某有名チーム主催のカジュアル大会開催決定

 

31:名無しのVeG民

  あれな。仲良しグループの集いって感じやけど

 

32:名無しのVeG民

  仲良しグループのメンツがエグいねんあそこは

 

33:名無しのVeG民

  我らがVeGは今のところ参加なし?

 

34:名無しのVeG民

  参加なしだったらここで話題にだすわけねぇよなぁ!

 

35:名無しのVeG民

  我らがVeG姉妹が参加表明出してる。あと2期生の厨二病ちゃんも

 

36:名無しのVeG民

  ララちゃんも有名ストリーマーにリプ送ってたから出たそう

 

37:名無しのVeG民

  まあゲーマー女子の集まりだから、出たい人は多いやろな

 

38:名無しのVeG民

  女将とララちゃんの同期は?

 

39:名無しのVeG民

  女将は……出ないだろうなぁ。FPSはあまりやってないし

 

40:名無しのVeG民

  あの人、建築ゲームとシミュレーションの番人だもんな

 

41:名無しのVeG民

  tksちゃんとか出たら無双できそうだからみたいんだが

 

42:名無しのVeG民

  tksちゃんはなぁ……

 

43:名無しのVeG民

  黙ってない層がいるだろうな

 

44:名無しのVeG民

  あー、そんなこと言ってるから……

_________________________

|◯筑紫みや@38tks_VeG ・6分           |

| 今度の大会、精一杯先輩たちを応援しますね!   |

|_________________________|

 

45:名無しのVeG民

  まあしゃあないか

 

46:名無しのVeG民

  カジュアルとはいえ大会には色々と思うところありそうやしな

 

47:名無しのVeG民

  いや待てよ……当日tksちゃんと同時視聴できたら面白い……?

 

48:名無しのVeG民

  天才がおるな

 

49:名無しのVeG民

  その発想は素晴らしい。VeGミンドールに100点

 

50:名無しのVeG民

  うーん、推せる

 

51:名無しのVeG民

  もうそのまま公式配信の解説席まで上り詰めてもいいんやで

 

52:名無しのVeG民

  ワイは普通にtksちゃんの試合見たいけどな……

 

 

 



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コーチ初心者

「はい、それでは今日の配信はここまでにしようと思います」

 

 バトロワゲーの配信を終わろうとしていた時だった。そういえばと思い出し、普段の挨拶に加えて誘導をしておく。

 

「そういえば今日は練習カスタムの1日目ですね」

 

 先輩たちの出るカジュアル大会の事前練習会。その一日目が今日である。1期生の2人に2期生の片方、そして我ら3期生のララちゃんが参加と、VeGとしての存在感はかなり大きい。

 

「VeGからも4人参加しますので、是非応援をよろしくおねがいします」

 

<あたぼうよ>

<姉妹先輩と組むの元プロなんだっけ?>

<筑紫ちゃんは誰応援するの?>

 

「そうですね。VeG全員と言いたいところですが、さすがに同期を贔屓しちゃいますね」

 

<それはそう>

<正直、4人の中だと実力的にも応援したい>

<カジュアル大会(現プロ元プロたくさん)>

<つくららてぇてぇ>

 

「というわけで、この後は多分ララちゃん視点のコメント欄にいると思います。それではまた」

 

 配信停止のボタンを押すなり、すぐに着信音が鳴る。VeGの事務所で使っているSMSツールのものだ。

 

『筑紫ちゃーーーん!!!!』

 

「ど、どうしたんですかララちゃん」

 

『た、たすけて……』

 

「何がですか。状況を教えて下さい」

 

『詳しくはこのサーバーに来て』

 

 そういってサーバーへの招待が送られてくる。3人中3人がオンラインと表示されているあたり、嫌な予感がする。

 だが、まあ行ってみないことには何もわからない。それに、今回はララちゃんを応援すると決めたわけだ。覚悟を決めて、サーバーへと参加した。

 

 

❍✕△❑

 

 

「はい!というわけで急遽コーチしてもらいたいわけです!」

 

 サーバーの通話に入っての一言目。私は椅子から転げ落ちそうになった。コーチ?そういえば確かに、こういったカジュアル試合には強豪ストリーマーや現役プロなどの上手い人をチームコーチとして呼ぶことがある。しかし、私はただのVtuberであって、プロでも強豪ストリーマーでもない。

 

「あー、えっと。まずは初めまして、筑紫みやです」

 

 とりあえずララちゃん以外の2人に挨拶をしておく。片方は元プロで現在は主催チームの所属ストリーマーtoreddoさん。そしてもう片方は、VeGとは別の箱の企業Vtuberである朝蛇ハルさんである。どちらもこのバトロワをメインに配信をしている、中堅ストリーマーだ。

 

「それで、ララちゃん。一体どういうことですか?」

 

「それについては俺から」

 

 toreddoさんが話し始める。

 

「他のチームのようにコーチが欲しかったんすけど、俺の仲良い人は他チームのコーチか出場者しかいなくて、最後の頼みの綱として呼んだんです」

 

 まあ、そんなところだろうとは思っていた。しかし……

 

「私、別にこのゲーム上手くないですよ?プロでもないし、ランクもそこまで高くないですし」

 

 実力で言えば、競技経験のあるtoreddoさんに私は敵わない。

 

「そこまでのガッツリコーチングは求めないッス。ただ客観的な第三者の意見を聞けるだけで、うちのチームは伸びそうだなって」

 

「まあ確かに……ララちゃんもハルさんもポテンシャルありますね」

 

 2人とも、ストリーマーの中では平均やや上くらいの実力を持っている。頭の中に、チーム優勝の姿が思い浮かぶ。

 

「わかりました。出来るだけ私も頑張ってみます」

 

「それは良かった!それじゃあ大会運営の方に伝えてくるっス!」

 

 そう言ってtoreddoさんはすぐに通話から抜けていった。おそらくは大会用のサーバーに話を通しに行ったのだろう。

 

「筑紫ちゃんゴメン!」

 

「謝るくらいなら先に話してほしかったですよ」

 

「でもこのくらい強引じゃなきゃ引き受けてくれないかなって……私は交渉とか苦手だし」

 

「はぁ……、別に巻き込まれるのはいいんですけど、本当に素人ですからね?」

 

「電撃バッジ余裕で取れる素人はいないと思うの……」

 

「こういったカスタムマッチという形式に、です」

 

「そんなに違うものなの?」

 

「ええ。まあその話は今度にしますか」

 

 こういったカスタムマッチと普通のゲームプレイとでは、天地の差がある。特にこういったバトロワゲームでは顕著だ。マッチの中での動き、ポジションの狭さ、キルの難しさ。どれをとってもカジュアルとは全く違う。

 

「あっと大会用のサーバーに呼ばれたから先に行っとくね!サーバーの招待も送っといたから私たちのチームに入ってきてね」

 

 そう言って逃げるようにララちゃんも通話を抜けていった。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 おかしい。通話を抜けずに待っている人がまだいる。チームメイトのハルさんだ。

 

「あ、あの……?」

 

「え、はい」

 

「ezさん……ですよね?」

 

 私は頭を抱えそうになった。

 

「だと噂になってますね」

 

 とりあえずは否定も肯定もしないでおく。別に配信中でもなんでもないから気にしなくてもいい気がするが、今のここにいる私は筑紫だ。

 

「違うんですか?」

 

「……今の私は筑紫みやであって、それ以外の何者でもないですよ」

 

「そう……ですか」

 

 感情が読めない。掴みどころのない声色をしているせいで、相手が喜怒哀楽のないロボットじゃないかと不安になる。

 

「先にあっちのサーバーに行ってます」

 

「ああ、はい」

 

 ピコンと、通話から切断する音が聞こえる。本当に何だったんだろうか……。




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カスタム1日目

KRU vs GMBが最高にアツい試合だったので初投稿です。


 そのあとすぐに来たサーバー招待に、私は参加申請を通す。入ってみれば、動画投稿サイトで見た名前がいくつも連なっていた。このバトロワの現役プロの名前をいくつか見えるあたり、コーチをつけているチームが多いようだ。

 

「改めてよろしくお願いします」

 

「おねがいするっす」

 

「お願いね、筑紫ちゃん」

 

「……お願いします」

 

 

 不安である。特にハルさんとのコミュニケーションの面だ。

 私との会話もそうだが、この3人スクワッドのゲームとしてコミュニケーションというのは勝利に必要だ。私はララちゃんとのDMを開く。

 

<<ララちゃん>>

<<どうした?>>

<<ハルさんっていつもこうなんですか?>>

<<うーん。だいたいこんな感じかなぁ>>

<<緊張とかではなく?>>

<<独り言は多いけど会話が少ない感じ>>

<<なるほど>>

 

 それならまだなんとかなる。特にこっちにはコミュニケーション強者のララちゃんがいるから尚更だ。

 

「えっと。まずは構成について教えて下さい」

 

「そうっすね。俺が前衛、ハルさんが後衛、ララちゃんがサポートのつもりっす」

 

 よくあるメタ構成だ。移動力の高い前衛と、帰ってくる場所を守る後衛。そしてサポートとして索敵力のあるキャラでどの立ち回りでも適応できる。

 

「そうですね……事前に顔合わせとかはしてますか?」

 

「はい。それで、ハルさんとララちゃんの役割を交代した感じっす」

 

 その判断は理解できる。後衛キャラの硬さ、ファイトの強さは試合の安定感に関わるからだ。

 

「とりあえず一戦目は何も言わずに見てます」

 

 この事前カスタム中は、ゴースティングさえしなければどのようなコーチングも可能だ。しかし、あえて一戦目はこのチームの分析に注力することに決めた。

 

 

❍✕△❑

 

 

「いやー、あの人強すぎっすよ」

 

「何も出来なかったごめん!」

 

「……私が最初にダウンしちゃった」

 

 一戦目の結果は、14位という微妙な位置だった。大会のルールでは、10位から順位ポイントが付くので、せめてそこまでは上げたいところだ。

 

「筑紫ちゃん、何か気づいたことある?」

 

「うーん」

 

「……筑紫ちゃん?」

 

 試合内容を見て、率直に思ったことを言うか迷う。同僚として言うべきとは思えない。しかし、コーチとしては言うべきだ。

 

「いいっすよ思ったこと全部言って。コーチをお願いしたのはこっちなんすから」

 

「そうですか。じゃあ言いますよ?」

 

「えっ……なんか深刻そうっすね」

 

 深刻な問題だ。そう、とても深刻だ。

 

「まずtoreddoさん。うるさいです。報告が多すぎて他2人がついていけてないです。たしか現役の頃はIGLでしたよね。理解力のあるチームメイトだからこそできたのであって、ハルさんとララちゃんに同じ報告の仕方をしていては意味がないです」

 

 私は返事を聞かぬまま言葉を続ける。

 

「ハルさんは報告なさすぎです。せっかくのダメージトレードが全て無駄になってます。それに前に出過ぎです。1人で攻めるキャラじゃなくて守るキャラなんですから、コミュニケーションをとって引いてください」

 

「うわぁ……すごい沢山言うね。それで私は?」

 

 流石に一気に話しすぎたようで、止めるようにララちゃんが口を挟む。

 

「ララちゃんですか?単純に弱いです」

 

「うぐぅ……たしかにそうだけどさぁ」

 

「これが、コーチ目線での私の意見です……2人とも生きてますか?」

 

「瀕死っす」

 

「グサリときた……」

 

 どうやら3タテしてしまったらしい。

 

「それで、ここからがララちゃんの同僚としての意見なんですが……」

 

 最初にそう前置いてから、言葉をつなぐ。

 

「この構成で勝ちたいですか?それとも、新しい構成を試してみませんか?」

 

 悪魔の提案を、私はすることにした。

 

 

❍✕△❑

 

 

「うわぁ負けた……」

 

「完敗っす」

 

「……ほんとにこの構成で勝てるの?」

 

 私の提案した構成でいった結果。それ以降のカスタム試合を最下位で帰ってきた。しかしそれに反し、私は思わず笑みを浮かべてしまっていた。

 

「グッドゲームでした。結果は結果ですが、私の考えが間違ってなかったようで安心しました」

 

「ほんとにっすか?正直俺は疑ってるっすよ。やっぱり最初の構成がいいんじゃないかって」

 

「まあ、そう思いますよね」

 

 そう、このままでは勝てない。それどころか余裕で最下位だろう。しかし、今はバラバラのピースでしかない3人が、この1週間で噛み合うようになればいいのだ。

 

「toreddoさんには申し訳ないんですけど、一旦2人をお借りしていいですか?」

 

「えっ?まあ俺はこの後用事なんでどうせ抜けるっすけど」

 

「それはちょうど良かった。それじゃあ2人をコソ練させときます」

 

「相手に言ってコソ練ってそれコッソリになってないっす」

 

 見事なツッコミだと思いながら、落ちていくtoreddoさんを見送る。

 

「さて、まずはカジュアルマッチからいきましょうか」

 

 矯正トレーニングの開始だ。

 

 

❍✕△❑

 

 

「東側何人!」

 

「えっと……1人です」

 

「南は!」

 

「み、見えない!」

 

「よし。それじゃあピンの位置に移動します」

 

「あーっ!待ってよ筑紫ちゃん」

 

「ララちゃんは前衛キャラの真後ろがポジションですか?」

 

「ご、ゴメン!」

 

 そうやりとりしている間に、後ろから銃弾が飛び交う。

 

「っ……!」

 

「ハルさん死にそうなら死にそうって言う!」

 

「し、死にそう!」

 

「わかったシールド投げるね!」

 

 半球状のシールドが展開され、ダウンしかけたハルさんをララちゃんがカバーする。

 

「筑紫ちゃん!この後は!?」

 

「ポータル繋いでます。回復したら入ってください」

 

「えっ……本当だ」

 

 シールドを展開した時点で既に繋ぎはじめたポータルで、安全な位置に味方を引っ張る。

 

「筑紫ちゃんのポータル早すぎ……」

 

「そんなことないです。toreddoさんも何回か似たポータルを繋いでましたよ」

 

「ほんとに?気づかなかった……」

 

 このポータルは、判断が早ければ早いほど生存に直結する。しかし、敵のいない位置が分かっていることと味方が人数不利でも耐えることが必要だ。

 

「toreddoさん、流石の元プロだけあって判断はピカイチなんです。あとは2人次第ですよ」

 

「うん……ありがとう筑紫ちゃん」

 

「感謝はまだ早いですよ」

 

 安全地帯も、時間が経てば危険地帯へと直ぐに変化する。

 

「北の扉から索敵お願いします」

 

「……」

 

「返事は?」

 

「ひゃ、ひゃい」

 

 完全にハルさんを萎縮させてしまってる。しかし許してほしい。これは彼女への矯正なのだから。

 

「……っ!北から来てる、2部隊」

 

 この地形でそうくると……今私たちが居座っているこの建物を死にものぐるいで取りに来るはずだ。

 

「ララちゃん、ウルトを構えてください。3秒後に撃ってから、すぐに今の足元にシールドを」

 

「うん、了解!」

 

 空爆が始まり、指示通りにシールドが展開する。

 

「それじゃあ私は行ってきます」

 

「えっ……?」

 

「あっ、ダメ!敵が目の前の建物で止まってる!」

 

 ハルさんの必死の報告を聞き、私は足を止める。

 

「というのは冗談です」

 

 ハルさんは明らかに前衛寄りのプレイスタイルだ。だからこそ、前衛の一歩後ろに立つことで視界を広げることができる。索敵のスキルも組み合わせれば、最強の索敵アタッカーだ。

 

「ナイス報告です、ハルさん」

 

「う……」

 

 だがやはり、萎縮させてるのは変わらないらしい。残念である。

 

 

 

 そのあと明らかに上位帯の敵に轢き殺された私たちは、今日のところはと言って解散することにした。

 

「しかし……」

 

 最後の試合、上位陣のプレイヤー相手だったとはいえ勝てない訳ではなかった。

 

「ここでこう。こうスキルが来てたからここに居て、私のスキルでこう」

 

 録画データを何度も見直しながら、夜が更けていく。満足できるまで考えきった頃には、既に朝日が昇り始めていた。

 




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宣戦布告

数日前にオリジナル日間を開いたらすぐにこの作品が見えて腰抜かしかけました。沢山の応援ありがとうございます。


VeGamerについて語りたい#595

30:名無しのVeG民

  カスタム1日目終了、乙っしたー

 

31:名無しのVeG民

  我らがVeG、無事壊滅!

 

32:名無しのVeG民

  なんでや!真柴姉妹はいい感じに勝ってたやろ!

 

33:名無しのVeG民

  さすがに現役プロのオーダーは格が違った

 

34:名無しのVeG民

  でも確か総合7位くらいだっけ?

 

35:名無しのVeG民

  キルも順位も平均的って感じだからな

 

36:名無しのVeG民

  バイトで見れなかったわ。他はどんな?

 

37:名無しのVeG民

  我らがナイトメア様はボロボロだったね

 

38:名無しのVeG民

  内藤ちゃんね

 

39:名無しのVeG民

  †ナイトメア内藤†

 

40:名無しのVeG民

  Vの名前すら捨て去りナイトメアを名乗る根性よ

 

41:名無しのVeG民

  言うてララちゃんの方がやばかったで

 

42:名無しのVeG民

  堂々の最下位。恥ずかしくないの?

 

43:名無しのVeG民

  味方の2人もある程度実力あるはずなんやけどなぁ……噛み合ってないよね

 

44:名無しのVeG民

  コメント欄で応援するとか言ってた筑紫ちゃんがVCに居たの笑った

 

45:名無しのVeG民

  筑紫はたしかに個人技強いけど、コーチとしてはどうなんだろ

 

46:名無しのVeG民

  一戦目の方が良かったのに、筑紫の構成に変えてからずっと最下位でしょ

 

47:名無しのVeG民

  結果的に良くないアドバイスだったよねぇ

 

48:名無しのVeG民

  どうすんだろあのチーム。あまりに弱すぎるけど

 

49:名無しのVeG民

  そりゃララちゃん名義で筑紫プレイよ

 

50:名無しのVeG民

  うーんポイントオーバー

 

51:名無しのVeG民

  規約違反は別箱が処されたばっかだろ

 

52:名無しのVeG民

  その点VeGはプライベート垢すら禁じてるらしいから安心

 

53:名無しのVeG民

  前筑紫ちゃんと配信外でマッチしたけどあれホンマにチート使ってないか?

 

54:名無しのVeG民

  ところがぎっちょん、VeGが保証してます

 

55:名無しのVeG民

  VeGの社長って何者?各ゲーム会社にコネ持ってるよね

 

56:名無しのVeG民

  海外ゲームの日本支部にもコネあるらしいよ

 

57:名無しのVeG民

  噂では海外の超大手ゲームメーカーのプロデューサーだったとか

 

58:名無しのVeG民

  話戻していいか?実際筑紫コーチどうなん

 

59:名無しのVeG民

  ララちゃんとハルちゃんの枠はまだマシ。toreddoの枠はコメント欄地獄だよ

 

60:名無しのVeG民

  まあ、元プロとぽっと出のVの者とでどっちの意見が正しいかってねぇ

 

61:名無しのVeG民

  みんな結論急ぎすぎじゃない?まだ一週間あるんだし

 

62:名無しのVeG民

  速報:現在筑紫・ララ・ハルの3人でカジュアルマッチを回してる模様

 

63:名無しのVeG民

  マ?どこ情報?

 

64:名無しのVeG民

  ソースは俺。さっき轢き殺された

 

65:名無しのVeG民

  うらやまけしからん。ちな俺は人間

 

66:名無しのVeG民

  64ニキをソースにしようとするな定期

 

67:名無しのVeG民

  これはまだまだ期待できますねぇ

 

 

❍✕△❑

 

 

 その後3日4日と経っても、ララちゃんのチームが上位に上がることはなかった。私もこの時期になると流石に迷っていた。

 

「うちの枠のコメントは読まない方がいいっすよ」

 

 toreddoさんの枠は大いに荒れていた。そもそも、ストリーマーとはいえ元の視聴者数はそれほど多いと言う訳でもなかった。そんな彼の元に、ハルさんやララちゃんの枠で行き場をなくした人たちがコメントを残していくらしい。

 

「筑紫さんのコーチングは的確。それは私たちが保証する」

 

 初めこそは警戒されていたようだったハルさんも、今では多少話してくれるようになった。

 

「おねがい筑紫ちゃん。私もっと強くなりたいの」

 

 ライバー業だけでなくバイトも複数掛け持ちしているララちゃんは、隙間時間を使って練習をお願いするようになった。

 本当にいいチームだと思う。だからこそ、私なんて言う不純物が紛れ込んでいいチームじゃなかった。

 だからこそ……

 

「マネージャーさん、すみません」

 

 スーツを着て菓子折りとともに事務所へと訪れた私に、マネージャーさんは深くため息をついた。

 

「正気ですか?今だけでなく今後の活動にも影響が出ますよ?」

 

「問題ないです。昔から声の大きな人たちには慣れてますから」

 

「……VeGとしては一切サポートできませんからね?」

 

「分かってます。むしろ事務所のイメージを悪くする行動だってことも分かってます」

 

「はぁ……社長もてきとうなこというし……」

 

 私がまだ見ぬ社長は、今回に関しての全権を目の前のマネージャーさんに任せているらしい。

 

「わかりました。しかし、できる限り穏便に、頼みますよ?」

 

「最善を尽くします」

 

 今度、マネージャーさんを薬膳料理の店に連れて行ってあげようと、心の中で静かに約束した。

 

 

 ________________________

|◯筑紫みや@38tks_VeG ・1時間        |

| これまではコーチだからと枠を取りませんでしたが|

| 今日は練習カスタムと同時間帯に枠を取ります。 |

| 暇な人は是非お話ししましょう。(^^)      |

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



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コメント欄と会話()

今回、人によっては不快に感じる描写があると思います。耐性のない方はそっとブラウザを閉じることをオススメします。


「はいこんばんは。画面と音に問題はないでしょうか?」

 

<こん~>

<今日はコーチング枠?>

<見たかったんよね>

 

「はい、問題なさそうで何よりです。それじゃあ通話に入りますね~」

 

 大会用のルームに入り、すでに3人が揃っているチャンネルに接続する。しかし、今日は今までと違って通話のマイクはミュートしたままである。

 

「すでに3人には説明してますが、今日はチームの会話に入るつもりはありません。後日アーカイブを見ながら後々に時短でコーチングするつもりです」

 

<なるほどね>

<たまに見るよねその形式>

<試合ごとにしないとフィードバック遅くならない?>

 

「確かに今日の試合で修正はできませんが、逆にこれまでは情報を入れすぎてて頭パンクしてた人がいたので……」

 

<ララちゃん……>

<真面目で努力家すぎたんや>

<後半の試合とか明らかに集中力切れてたもんね>

 

 ここ数日、ララちゃんをコーチングし続けて思ったことだ。私が教える量を調節できないことが原因だが、つい多く話してしまう癖が治らない。それで考えた結果、リアルタイムのコーチングではなく、後に落ち着いた状態で、内容をしっかりまとめたコーチングをすることにした。

 

<こんララ~>

<ララちゃん枠とってない?>

<ハルちゃんも枠ないわ>

 

 これも、3人にお願いしたことだ。コメント欄が荒れているのなら、枠を取らなければいい。3人とも人気は十分あるので、数日間の枠がなかったところで支障はない。

 

「それでは一戦目ですね。降下位置は……、大丈夫そうですね」

 

 初手のムーブは安定してきている。あまり美味しくない場所に降りていることもあるが、そこそこな広さのランドマーク一つを、3人でしっかりと分割して漁れている。

 しかし、問題は周りのランドマークに降りる部隊が強豪ぞろいであることだ。どの方向に移動してもファイトに勝てず、最下位を取り続けた。

 

<あっジャンプタワー使うんだ>

<コーチングの成果?>

 

「はい。というより、他のチームの行動分析の結果ですね」

 

<他チーム?>

<いつの間に>

<もしかしなくても全部のチームの動きってこと!?>

 

「はい。皆さん親切なことに配信のアーカイブを残してくれているので、重要な部分だけですが見てみました。ですのでここから移動すれば……」

 

 まるで穴のように空いた一つの建物。そこに空からチームが舞い降りる。動きの解析結果からして、ララちゃんたちのチームが最も早くここへたどり着ける。

 そして、建物内において基本的には攻めより守りのほうが有利だ。まあ一部のトッププロを除いてという脚注は付くのだが。

 

<おお、ここは>

<かの有名なあのチームのスポットか>

<安置さえ寄れば完璧>

 

「お気づきの方もいますね。そうです。この2~3日で直近の競技シーンを見てきました。うちのチームに最も足りない爆発的な攻め力を補うにはいい作戦だと思います」

 

 攻めに関して言えば、ララちゃん以外の2人は多少は戦える。どちらもこのバトロワ配信で人気を得ているだけはある。しかし、このゲームにおいて人数差というのはそう覆せるものではない。特に今回のようなカスタムゲームなら尚更だ。

 

「ちなみにこれはtoreddoさんの作戦です。動きの分析自体は私ですけどね」

 

<toreddoさん……>

<さすがは元プロ>

<結局は筑紫ちゃんの判断次第か>

 

「はい。というか今日の最初のマッチに関しては本当に私の判断のみで動いてるようなものですよ」

 

 指示通りに移動し、指示通りに戦い、そして……

 

<おっ1チーム落とした!>

<成長してんな>

<完全に3on1押し付けてるな>

 

 指示通りに勝つ。それこそが今回のマッチで求めたことだ。

 

「あとは負けますけどね」

 

<あっ>

<今度は完全に1人ずつ死んでるな>

<逃げた>

 

「おっと、toreddoさんが1人生存ですか。これは想定外ですが……そっちはマズいんですよねぇ」

 

 必死に逃げた先には、優勝予想もされている強豪チームが待ち構えていた。不意の遭遇戦に勝てるわけもなく、toreddoさんまでも落とされる。

 

「ナイファイですね。GG」

 

 そう言いながらも、見えるようにしたメモアプリにアドバイスを書き込んでいく。3人のボイスチャットでは、ララちゃんが話題を振って雑談が盛り上がっていた。

 

<コーチ……;;>

<雑談くらいには混ざってもいいんやで>

<ララちゃんまじムードメーカーよな>

 

「ララちゃんは信頼してますよ。彼女がいる限りチームの雰囲気が悪くなることはないでしょうから」

 

 ただし、いろいろと1人で背負ってしまうところがある。先日も、皆との練習が終わったあとにコメント欄に対して注意喚起をしていた。しかし、それが仇となってモデレーターの仕事が増えたのは言うまでもない。

 

「さて、あとは……」

 

 すでに先程からチラチラと見えている私に対する批判コメント。モデレーターを渡している人には、わざと泳がせるように言っている。常連さんもスルーしてくれているので、ありがたい限りだ。

 

「まずはこのコメントから行きますか」

 

 私が使っているコメントビューアには、以前のコメントを表示するという便利な機能がある。私は無作為に批判コメントをとりあげ、その過去のコメントごと配信に載せる。

 

<<撃ち合いよっわ>>

<<元プロいてこれとかマジ?>>

<<コーチ入れてないチームにすら負けてて草>>

 

「わぁ……す、すごいですね」

 

<晒しあげ!?>

<やってることやばくて草>

<画面見えちゃってるよ!>

 

「あっすみません。説明してなかったですよね」

 

 私は配信前のツイートの話をする。

 

「言いましたよね?暇な人とお話すると」

 

<お話(晒し上げ)>

<暇な人ってそういう>

<まあ暇人には変わりないけどさぁ>

 

「ちなみに同じことが他の人にもできますからね?」

 

<ヒエッ>

<ユルシテ……>

<ご勘弁願いたい>

 

「冗談です。常連さんやララちゃんの枠によくいる人は把握してますし」

 

<把握されてるのは草>

<ララちゃんとこのリスナーも逃げて>

 

「さて、脱線はそこまでにしておきますか」

 

 晒し上げる前まではとてつもない頻度でコメントしていた彼は、今はダンマリである。

 

「まあ、こんな要領でマッチまでの空き時間はお話していこうと思います」

 

 一気にコメント欄から人が消える。先程まで声の大きかった人がどんどん黙り込んでいく。違うそうじゃない。私がしたいのは『お話』だ。

 

「おっ君ちょうどいいですね」

 

 未だに大口を叩く捨てアカウント。私はその一つをピックアップしてコメントを画面に強調表示した。

 

 

❍✕△❑

 

 

V○uver餡スレ#499

20:名無しの餡

  tks、批判コメント晒し上げ中

 

21:名無しの餡

  なにそれ面白そう

 

22:名無しの餡

  今度のバトロワ大会のやつか

 

23:名無しの餡

  FPS民の民度が知れるコメント欄してたかんな

 

24:名無しの餡

  おまいう

 

25:名無しの餡

  tksのコーチングが素人丸出しなのが悪い

 

26:名無しの餡

  逆に玄人なコーチってなんだよ……プロチームから引っ張ってくるか?

 

27:名無しの餡

  実際それやってるチームいたろ

 

28:名無しの餡

  tksこのゲームのカスタムマッチ未経験なのに引っ張り出されてて草なんだよな

 

29:名無しの餡

  tks、批判ボーイを1人泣かせる

 

30:名無しの餡

  いいぞーもっとやれー

 

31:名無しの餡

  ちくしょうもどかしいな、俺、ちょっと雰囲気高めてきます

 

32:名無しの餡

  もしかして今コメント晒し上げられてるの31か?

 

33:名無しの餡

  うわっ

 

34:名無しの餡

  31、息してるか?

 

35:名無しの餡

  なんだこの地図……全部のチームの動き?

 

36:名無しの餡

  確かにこの理論なら31への反論になるわな

 

37:名無しの餡

  囲まれてでも耐えられるポジションに行く戦法か

 

38:名無しの餡

  31です。なんとか生きてます

 

39:名無しの餡

  論破された感想をどうぞ

 

40:名無しの餡

  いやおかしいだろ。あんなん想像できるか?

 

41:名無しの餡

  この敵チームのムーブ予想図を一戦目の前に書いてたってマジ?

 

42:名無しの餡

  今リアタイで二戦目を見てるけど、だいたいのチームが予想図と同じ動きしてるんやが……

 

43:名無しの餡

  とうとう人外もVになる時代か

 

44:名無しの餡

  人外フェチはそっちの板に行って、どうぞ

 

45:名無しの餡

  でもこんなアンチを増やすような行為、運営が怒るんじゃね?

 

46:名無しの餡

  それがコメント欄にV○G運営さんいるんだよな

 

47:名無しの餡

  運営公認でアンチを殴るVがいるらしい

 

48:名無しの餡

  案件とかこなくなりそう

 

49:名無しの餡

  どうして運営はGOサインだしたんや

 

50:名無しの餡

  V○Gには失望したわ、出資やめよ

 

51:名無しの餡

  野生の石油王ニキは中東に帰ってもろて

 



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大会直前

年末のアレのために東京に移動しながら初投稿です。遅くなってスマソ


「ああ、こういうリングですか。だとしたら……こうですかね」

 

 いくつか用意した画像の中から一枚を表示させる。

 

<この画像あればチーム勝てるんじゃね?>

<それな。なんか言ったらダメかと思ってたけど>

 

「まあ、勝つ確率は格段に上がるでしょうね」

 

 ただ、予測だけで物事が進んでいれば何も困ることはないのだ。

 

「この地図には、最終リングまで全チームが残っていること前提で書き込んでいますよね?ですが実際、そんなことはほぼ起きないので、100%の予測はできてないんです」

 

 敵チーム同士が削り合い、ポジションが変異していく。バトロワとはそういうものだ。そのランダム性こそが、醍醐味なのである。

 

「それに、今回私が配信で公開したことで、本番に動きを変えてきかねないですし」

 

 私が他のチームのアーカイブを漁ったように、他の人も私の配信アーカイブを見ることができる。それを理解した上でこの予測図を公開したわけだから、対策してくるチームがいてもおかしくはない。

 

「ほら、言ってる間に既に1チーム、動きを変えてきましたよ」

 

 現プロと元プロの2人がいるチームが、歪な動きをし始めた。明らかに私の予測図を意識して、他のチームを狩りに行く動きだ。

 

<ほんまや>

<まあこんなの見せられたらなぁ>

<すぐに自分のものにできるあたりプロってヤベェな>

 

「あっでもそっちに向かったら……」

 

 件のチームが東側に向かう。そこはララちゃんたちの構えている場所だ。

 

「こっちが完全に有利な状態で戦えるんですよね」

 

<優勝候補チームを落とした!?>

<toreddoなぜ死なないw>

<2人のカバーもあったけぇんだ>

 

 教えた通りに場所を守り切り、時間によって安全地帯が縮小していく。

 

「この試合は運が良かったですね」

 

 最終安置がララちゃんたちのいる建物となった。ここまで来るとチャンピオンまであと僅かだ。

 

 継続する外での戦闘をよそに、建物内で盤石な守りを展開するチーム。最後に必死に突っ込んできたチームをドア前で押さえつつ、安置外での回復競争へと発展。

 

 結果、戦闘による疲弊と物資消費の差によって、ララちゃんたちのチームがチャンピオンとなった。

 

「はい。と言った感じでうちのチームは勝つこともできます。まあ今回は特に最終安置の場所が良かったおかげですけどね」

 

<うぉぉぉぉぉぉ!!!>

<GG!>

<初チャンピオンおめでとう!!!>

 

 コメント欄と同じように、チームの通話も大盛り上がりだった。私は『ナイスチャンピオンでした。GG』とだけチャットで送り、そっと通話を抜けた。

 

「それでは今日の練習カスタムはここまでのようですので私も配信を終わりますね。それではお疲れ様でした」

 

<おつ〜>

<おつかれ〜>

 

 配信を停止してふうと一息つく。まさか勝てるとは思っていなかったが、十分すぎる働きだろう。配信前半に見かけていた批判や指示のコメントも、後半ではほぼ見かけなくなっていた。

 あとは、今後の配信でも『私の枠以外』にそういったコメントが湧かないことを願うばかりだ。

 

 

❍✕△❑

 

 

 迎える本番の日。時刻は集合時間の30分前だった。

 

「あまりやり過ぎると疲れますよ」

 

「大丈夫、ここまでだから」

 

 私は射撃場でララちゃんのアップに付き合っていた。本当にこの1週間でララちゃんは強くなった。特にシールド際の撃ち合いでは、何回かに一回は私に勝つようになったほどだ。

 

「よし!ありがとうね筑紫ちゃん。これで本番も勝てそうだよ!」

 

「本当に頑張りましたね」

 

 敢えて大会に関しては触れないようにする。言ってはなんだが、私はララちゃんたちのチームが優勝するとは思ってないからだ。

 もちろん応援はする。応援はするのだが、この大会の参加選手はそれほどチーム間で差がある。なにより、『プロ選手がキルムーブをする』ことが可能なゲームシステムである以上、どうしてもプロを積んでるチームとそうでないチームに差が出てくるのだ。しかも、この大会においては『キルポイントの上限』が存在しない。

 つまり、たとえどんなに順位が悪かろうと、キル数を重ねたチームが強い。反してララちゃんたちのチームは『キルは諦めても順位を上げるムーブ』を教え込んでいる。元から私がコーチングに入った時点で、この大会の優勝を狙って教えることを諦めている。

 

「それじゃあ行ってくるね!筑紫ちゃんはどうするの?」

 

「基本的にはララちゃんの枠を見てようかと思ってます」

 

「わかった。じゃあより一層頑張らないとね!」

 

 私も頑張らないといけない。すでにtoreddoさんとハルさんのモデレーター権限も貰っておいた。コメント欄を監視しつつ、応援。これが大会本番中の私の仕事だ。

 

 試合には勝てなくとも『この3人のチーム』を応援して良かった。

 

 そう視聴者に言わせることが、私の勝利条件だから。

 

 

❍✕△❑

 

 

 筑紫ちゃんとの通話から抜けて、私こと鐡ララは大会用チャンネルに入る。

 

「toreddoさん、ハルちゃん、今日はよろしくお願いしますね!」

 

「よろしくっす!楽しい大会にするっす」

 

「頑張る」

 

 2人とも気合が入っている。あとは本番を迎えるだけだ。

 

「ララさん、緊張してるっすか?」

 

「えっ?全然そんなことないよ」

 

 嘘である。先ほどから、マウスを握る手が定まらない。背筋には冷や汗が絶えず流れている。

 

「……嘘下手だね、ララちゃん」

 

「ハルちゃん?」

 

「ホントっすね、声震えてるっすよ?」

 

「えっ嘘!そんなに!?」

 

「カマかけただけ。でも隠し事はなし。私も緊張してる」

 

「引っかかったっすね。ちなみに俺も緊張してるっすよ」

 

「なにそれ。つまりチーム全員緊張でガチガチってこと?」

 

 思わず笑いが溢れる。私だけじゃなくtoreddoさんもハルちゃんも笑っている。自然と手の震えは止まっていた。

 

「さあ、一戦目行くっすよ!」

 

「うん。GLHF」

 

「練習の成果を出し切ろう!」

 

 大会が幕を開けた。

 



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大会本番

多忙につき予約投稿にて失礼


「うわぁ!負けたっす!完敗っす!」

 

「ごめん私が敵に気づけなかったから」

 

「いや、ララちゃんは悪くない。索敵は私の仕事」

 

 遅延のついた配信を見ながら、私は労いのコメントを残しておく。

 

<<1戦目ナイスファイトでした。次も頑張ってください!>>

 

<筑紫ちゃんもよう見とる>

<コーチきた!これで勝つる!>

<ほんとナイファイだったわ>

 

 1戦目の戦績は守りに徹底した成果もあり8位くらい。しかしキルポイントは2つしか取れてない。作戦通りに行ったが、ただ作戦通りでは勝てないのが大会というものだ。

 実力、事前の準備……そしてそれを覆す本番の運の全てが必要である。

 

 

 数分経てば、すぐに2戦目が始まる。降下コースは問題なく、他のチームも特段と変わった動きはしていない。しかし……

 

「良いアーマーゲット!」

 

「装備はバッチリ」

 

「でもヤバいっすね、これだと最終安置はマップの反対側っすよ」

 

 toreddoさんの言う通り、運が必要な場面で1番最悪の安置を引いた。これだと、最初の収縮の時点でチームが篭る予定の建物は使えない。

 

 2戦目の結果は0キル最下位。奮闘はしていたが、周りにチームが多すぎた。事前練習以上に全てのチームが必死に生き残っている。

 

「ドンマイ!安置が悪かったね」

 

「くそっ、あそこで1人落とせてたら建物に飛び込めたっす」

 

「私もカバーが遅れた、ごめん」

 

 散々な結果でも、チームの雰囲気は良かった。早めにマッチから抜けて、作戦会議をしている。

 

「3戦目、筑紫コーチの指示とは違うことやりたいっす」

 

「え?」

 

「このチームのIGLはtoreddoさん。私はtoreddoさんの指示に従う」

 

「ハルちゃんまで。でもどういうこと?」

 

「今まで守りの姿勢だったっす。でも2戦した結果からして、このままじゃ俺ら勝てないっす。だから3戦目だけ、キルポイントを稼ぎたいっす」

 

 toreddoさんの言うとおりである。すでに総合1位との差はそれほど開いている。

 

「私たちにできるかな」

 

「もちろんできるっすよ。俺らこの1週間でファイトもめちゃめちゃ成長したじゃないっすか」

 

「確かに……、よしそれじゃあ、3戦目だけはその手で行こう!」

 

 チーム内での会議の結果だ。私は口出ししないでおく。ただし、コメント欄はそういかなかった。一気に論争が展開されたコメント欄で、私はひたすらに過激なものをBANし続けていた。

 

 

❍✕△❑

 

 

 結果から言えば、3〜4戦目はまあまあだった。順位も半分くらいで、キルポイントは合計7キル。ファイトは強かったが、ムーブが疎かになり、1チームも落とせずに逃げられてばかりの試合だった。

 

 コメント欄はお通夜である。それもそう。優勝不可能なポイント差が確定したからだ。toreddoさんの作戦は良かったが、それに着いていける2人ではなかった。

 

「もしもし、3人ともお疲れ様です」

 

「あっ筑紫ちゃん!」

 

 4戦目の結果待ちの最中、私は通話に入る。この大会では、試合の間のみコーチングが許されている。

 

「ごめんね。筑紫ちゃんの指示に逆らってまでキルとりに行こうとしたのに」

 

「いえ、気にしてないのでいいですよ。それに、勝つならばあのムーブは必要でしたし」

 

「それでも、ゴメン……」

 

「時間がないので謝罪をしたいなら後日聞きます。それより最終戦について話しましょう」

 

 必要なのは実力、事前の準備、そして運。

 

「降りる場所を変えましょう」

 

 その言葉に、ララちゃんまでも言葉を失っているようだった。

 

 

❍✕△❑

 

 

 実況歴5年。esportsに身を捧げて10年になろうとしている私は目を疑っていた。

 

「toreddoチーム、まさか降りる場所の変更だ!」

 

 個人的に付き合いのあるtoreddoの視点に画面が移る。たしかチームメイトの2人だけでなくコーチまでVtuberを付けた珍しいチームとの認識だった。

 

「その場所は物資が弱いがこの後一体どのように動くのか、他のチームの視点も見てみましょう」

 

 他のチームも最終戦ということでムーブが変わっている。キルポを狙って走り回るチーム、上位維持のために守りに徹するチーム。しかし、1番ムーブが変わったチームはtoreddoのいるチームだ。

 

「おっと、toreddoたちのいる建物に近づいてくるチームがいるが……何故だ!何故仕掛けない!?」

 

 しっかり漁ってきた強豪チームが、物資のないtoreddoたちの籠る建物の前で止まる。壁越しの索敵スキルでtoreddoたちを確認し、そして少し迷った素振りを見せながら引き返していった。

 

「他のチームも戦闘している!これはtoreddoチーム漁夫のチャンスだ!」

 

 そう実況してみるも、toreddoチームは動かない。

 

「事前練習カスタムで見せたように動きません。ひたすら耐える姿勢を見せているtoreddoチーム、この後はどう動くのか」

 

 非常に興味深いものの、他のチームの実況を挟む。キルムーブのチームもいるせいか、部隊数の減りがこれまでより早い。

 

「さあ、あっという間に半分のチームが消えました。現在総合1位のチームは1人生存、2位は壊滅し3位4位はキルポイントを積んで全員生存です、これはわからない展開になってきました!」

 

 toreddoのチームはまだ動かない。ひたすらに自分達の存在をアピールしながら籠り続けている。どこか1チームでも飛び込んで来たら死んでしまう状況。そこでずっと耐えている。

 

 そして、変化が訪れる。

 

「おっと?1位チームの残り1人がtoreddoたちの建物に侵入成功。これは……」

 

 ついに、toreddoチームが動いた

 

「殺しに行った!見事な連携だぁ!1位チーム壊滅、これは本格的に1位争いがわからなくなってきた!」

 

 1人分の物資を、toreddoチームが回収する。私は当然それをtoreddoが使うものだと思っていた。

 

「toreddoチームから1人飛び出した!朝蛇ハルだ!物資を全て朝蛇ハルに託している!」

 

 ウルトを使いながら索敵を駆使し、人数の減ってるチームに1人で仕掛ける。

 

「toreddoだけじゃない!このチームには朝蛇ハルもいる!しかし流石に1人では厳しいか!」

 

 2人生存のチームを1人落とすも、ギリギリの体力となる。このまま落とされるかと思った瞬間、朝蛇ハルの後方からシールドが投げられる。

 

「このチームは3人生存だ!ポータルで移動してきた2人がカバーに入り、見事に部隊を落とした!素晴らしい連携プレイだ!」

 

 あまりに見事な連携に、つい興奮しすぎてしまった。しかし、誰がこの絶望的状況を一介のVtuberが覆すと思っていたか。

 

「しかも移動した先は最終安置中!勝利の女神はtoreddoチームに微笑んでいるぞ!」

 

 他のチームが削り合いながら安置を目指す中、toreddoチームは落ち着いて対処していく。

 

「あと3部隊!まだtoreddoチームも残っている!おっとここで3人ともグレネードを手に持っているぞ!過去の局面まで温存していたのか!?」

 

 見事なグレネード裁きにより、1部隊が壊滅。もう1部隊もポジションを失った。

 

「流石の現役プロ!この局面でtoreddoを落とした!これで1on2!あの状況からtoreddoチームを3タテしてしまうのか!?」

 

 もう索敵スキルを撃つ暇すらないはずだった。しかし、朝蛇ハルは前に突っ込みながら索敵スキルを放った。数秒間、敵の位置が見える代わりに無理に放った為に朝蛇ハルも現役プロに撃ち取られる。

 

「あと1人!1on1!」

 

 その姿の見える数秒が、決め手となった。

 

「鐡ララ!シールドを前に投げてのファイトをプロに仕掛けていったぁ!完璧な位置、完璧なタイミングだ!まさか、まさか!!!勝った!現役プロに鐡の名を叩きつけた!」

 

 まるで相手を手玉に取るようなシールド際の攻防だった。しかもプロを相手にしてだ。

 

「予想を覆すとはこのこと!最終戦のチャンピオンはtoreddo、朝蛇ハル、鐡ララの3人だ!」

 

 

❍✕△❑

 

 

「やった!やったぁ!」

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!!まじナイスっす2人ともぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「やったぁ……」

 

<ナイスチャンピオン!!!>

<感動したわ>

<全俺が泣いた>

<あんなん勝てんやん普通>

<全員ハンパないって>

 

 3人も、そしてコメント欄も大盛り上がりだった。それこそ、アンチコメントがすぐに流れて行くほどに。

 

<<おめでとうございます。このチームのコーチができて良かったです>>

 

<筑紫コーチ!>

<コーチもおつかれさま!>

<次は筑紫ちゃんも選手側期待してるで>

 

 こうして私がデビューしてから初の大きな大会が幕を閉じた。

 

 

 そして数日後……

 

 

「筑紫ちゃん!お邪魔しまーす!」

 

「まさか本当に来るとは」

 

 海外に行くのか?というほど大きなスーツケースを持って、ララちゃんがリアル私の家にやってきたのであった。

 

 



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成年済み人妻女子高生

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。正月はコミケ後の宅飲みにより二日酔いで潰れました、対よろ。


「おじゃましまーす!」

 

 どうしてこうなったと内心頭を抱えつつも、とりあえずは大荷物なララちゃんを家に上げる。

 

「うっわ……」

 

「なんですか部屋に上がるなり」

 

「いやぁだってさ……生活感ないなぁって」

 

 白を基調としたモノクロデザインの部屋。色がつきがちなPCデバイスにすらこだわりの一部屋を『うわぁ』と言われるのは少し遺憾である。

 

「これが筑紫ちゃんのセンスなのね……」

 

「ちなみに名誉のために言っておきますが、うちの姉のセンスです」

 

「アネ?」

 

「何故疑問系」

 

「あーね?」

 

「姉です」

 

「ANE?」

 

「どうして外国人風なんですか」

 

「いや、意外だなって思って」

 

「そうですか?私末っ子ですよ」

 

「え〜見えない。むしろ長女感あるし」

 

 そう言いながらララちゃんはスーツケースを下ろす。見かけだけでなく、しっかり中身も詰まっているらしい。スーツケースを横にして開こうとしたタイミングで、ララちゃんの動きが止まった。

 

「ん?ちょっと待って、末っ子ってことはまだ姉がいるの?」

 

「ええ、姉が2人と、それからその上に兄がいますよ」

 

「えぇぇぇ!?人は見かけによらないんだね」

 

 そんなに意外だろうか?むしろ兄や姉に甘やかされたからこそ、昔からゲーム漬けの生活ができていたのだが。

 

「それで、一体何を持ってきたんですか?」

 

「ああ、そうだった」

 

 予定では1泊するとの話だったのだ。それを週単位でいそうな荷物できたのだから明らかに怪しかった。

 

「じゃーん!これわかる?」

 

「えっと……ASMR用のマイクですよね」

 

「そう!借りてきちゃった」

 

「か、借りた?」

 

「うん。ハルちゃんに」

 

「ハルちゃんって朝蛇ハルさん?」

 

「そうそう。知らない?結構音響マニアなんだよねあの子」

 

 そういえば使っているヘッドセットについて詳しく聞かれた気もする。私はこだわりないから、兄のお下がりのイヤホンをイヤーピースを変えて使っているが。

 

「しかしなんでまた……しかも周りに詰めてある服、緩衝材の代わりですか」

 

「まあね。流石に値段を聞いたらこのくらいしないとなって」

 

「じゃあ私は値段を聞かないでおきます」

 

 下手すると、この部屋の中で今1番価値があるものかもしれない。戸締まりはいつも以上に気を使うようにしようと心に固く決心する。

 

「とりあえずご飯にしましょうか」

 

「うん!出前にする?どこかに食べに行く?それとも……私が作ろうか?」

 

「まあ作りたいのならそれでもいいですけど」

 

「へぇ、冷蔵庫に自信がありと見た。ララちゃんチェック入りまーす!」

 

 私が静止の声を出す前に冷蔵庫は開け放たれた。

 

「筑紫ちゃん?」

 

「は、はい……?」

 

 ララちゃんは目を白黒させながら私の方を向く。

 

「もしかして筑紫ちゃんって料理とかできる人?」

 

「ま、まあ一人暮らしを許される程度には」

 

 失望されたわけではないようである。一安心。

 

「いやいや、そんなレベルじゃないけど!?主婦ですかって感じだけど!?」

 

「そんなことないと思いますけど」

 

「いやいや!突然旦那さんが帰ってきてメシ〜って言っても驚かないよ」

 

 そう言ってると、ちょうど良くガチャリと扉が開く。

 

「はー疲れた〜、メシできてる?」

 

「ほら〜!」

 

 入ってきた男性を見てその場にララちゃんが崩れ落ちた。とりあえずその豊富な想像力の持ち主は置いておくとして、冷蔵庫からいくつかタッパを取り出して袋に入れて渡す。

 

「サンキュー!珍しいな、お友達か?」

 

「同僚?みたいなものです」

 

「そうか、仲良くな」

 

「はい。兄さんも気をつけて」

 

 慌ただしく男性は扉を閉めて出て行く。兄さんは仕事人間なのでご飯に関しては今は私に依存している。そろそろお嫁さんでも探せばいいものを、『お前以上の優良物件がない』と言って聞かない。血のつながりのある兄妹は結婚できませんよ兄さん……。

 

「えっ兄さん?」

 

「はい、うちの兄さんです」

 

「兄さんってお兄ちゃんってこと?つまりはbrother?」

 

「ま、まあそうですよ」

 

「な、なるほどね。良かった、成年済み人妻高校生とかいうジャンル過多な同僚じゃなくて」

 

「端2つは合ってますけどね」

 

 とりあえずスマホで出前を調べてみる。意外と店舗が多い。オーソドックスにピザや中華、蕎麦うどんもアリだ。

 

「何にしますか?一応大体のジャンルはありますけど」

 

「えーっと、その」

 

「……?」

 

「せっかくだから筑紫ちゃんの手料理が食べてみたいなぁ……なんて」

 

「まぁ、いいですよ?でもそんなに料理得意なわけじゃないですからね?」

 

「いいのいいの!気になるだけだから!」

 

「それじゃあ待っててください」

 

 食材の残りを確認して、準備を始める。オムライスくらいならサッと作れそうだ。

 

「ねぇ筑紫ちゃーん!」

 

「どうしました?」

 

「待ってる間配信してて良いかな?スマホで」

 

「はい、どうぞ」

 

 特に断る理由もないので、何も考えずにすぐに了承してしまった。

 まさかあんな事態になるとは、この時の私は考えもしなかったのであった。

 



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ララちゃんの事情

また今回も人によっては不快な表現が入っていると思います。その時はそっとブラウザを閉じてください。
それとお気に入り1000件超え、ありがとうございます。


「こんララ〜!」

 

<こんララ>

<こんこん>

<わこつ>

 

「はーい、VeG所属、鐡ララです。というわけで今回は雑談枠予定だね」

 

<いつもと音質違うな>

<マイク変えた?>

<まさかスマホ配信!?>

 

「おっと、勘のいい人たちが多いねぇ。そう、今日は私の家じゃないところから配信してるよ!」

 

<ホテルかどこか?>

<俺にはわかる、あそこだな>

<ふむ、とりあえずテイスティングからよろしいか?>

 

「よくわからないコメントやめてぇ!まあ、ヒントを出すと誰かの家に泊まりにきてるよ」

 

<なにっ!>

<ぐふぅ>

<おい!今の情報だけで何人被害者が出た!>

<これもてぇてぇのための仕方のない犠牲だ>

 

「えっと?予想ではハルちゃんのところが1番多いかな」

 

<大会でめっちゃ仲良くなったからな>

<てか泊まりに行く約束してたし答えでしょ>

<ファイナルアンサー!>

 

「ブブー!ハズレだよ。でもちゃんと今度泊まりに行く日程まで決めてるから乞うご期待」

 

<ハルちゃんじゃない……だと?>

<VeGの誰か?>

<ここは大穴でtoreddo氏で>

 

「toreddoさんとこに泊まったら大問題でしょ!?流石に違うよ!正解は〜」

 

「ララちゃん、お米はどのくらい食べます?」

 

「……」

 

<やはりつくララ>

<あったんやな、こんな世界が>

<言っただろう?俺にはわかると>

 

「あれ?タイミング悪かったですか?」

 

「いや、まあ良いけど、その……」

 

「……?何ですか?」

 

「エプロン似合ってるなぁと」

 

<エプ……ロン?>

<筑紫ちゃんのエプロン姿?>

<ガタッ!>

 

「そうですか?兄さんからのプレゼントなんですよねこれ」

 

<兄?>

<筑紫ちゃん妹属性マ?>

<どけ!俺が兄さんだ!>

 

「あー、センスありそうだったもんね……顔も服もカッコよかったし」

 

<悲報 俺ら勝てる要素ない>

<やはり筑紫ちゃん家の観葉植物がワイらの天職や>

<じゃあワイは床で>

 

「そうそう。それでどれくらい食べますか?」

 

「えっと、普通に1人前でお願い」

 

「わかりました。もうすぐできるので机の上片付けといてください」

 

「はーい」

 

<だめだ鼻血出てきた>

<先生!てぇてぇの過剰摂取により重傷者が!>

<もう手遅れだ……残念だが>

 

「コメント欄もノリノリだね」

 

「それは良かったですね。はい、簡単に作ったものですけど」

 

「いや、めっちゃ綺麗じゃん。ちょっと待って、写真取るから」

 

「はい、どうぞ」

 

「いや、そうじゃなくて……筑紫ちゃん写ってたらSNSに上げられないでしょ?」

 

「ああ、そうですね。失礼しました」

 

「といいつつパシャリ」

 

<俺たちは何を見せられているんだ>

<俺たちここにいてもいいのかな>

<もはや盗聴してる気分になってきた>

 

「それじゃあいただきまーす。……んーーー!美味しい!」

 

「それは何よりです」

 

「案の定料理上手いじゃん」

 

「そうですか?意外と簡単ですよ」

 

「あとで教えてよ~」

 

「いいですよ?何を教えられるかはわからないですけど」

 

<だめだ、俺ももう終わりらしい>

<待て!まだだ、まだ倒れる時ではない!>

<でも艦長!これ以上は体が持ちません!>

 

「あ、ほっぺについてますよ」

 

「ほんと?取って~」

 

<あっ>

<あっ>

<みっ>

 

 

❍✕△❑

 

 

 とりあえず配信を終了して食事をして、後片付けまで終わらせる。ララちゃんも手際よく家事をしてくれたおかげで、いつもより早く片付けが終わった。今は湯船にお湯を溜めながら、適当に時間を過ごしている。

 

「筑紫ちゃんってさ」

 

「はい?」

 

「いや、聞いていいのかなこれ」

 

「何ですかいきなり」

 

「筑紫ちゃんって、筑紫ちゃんになる前のことどう思ってる?」

 

「……?どういう質問ですか?」

 

 わかりづらい質問をしてくる。

 

「もしかして、ez名義の頃の話ですか?」

 

「うん。あの頃のこと、今はどう思ってる?」

 

「まあ、過去のことですね」

 

 あそこまでゲームだけにうちこめたのも、過去だからできたことな気がする。

 

「そうだけど……えっと」

 

「もしかして前世のことで悩んでますか?」

 

 ララちゃんは、無名の配信者だった。顔を出して雑談メインで視聴者と会話するタイプの、リアルをネットにさらけ出していたタイプだ。

 

「最近……ちょっとね」

 

 一時期に比べれば沈静化しているように見える前世騒動だったが、どうやらそうでもないらしい。確かに私も未だにアンチスレなどで叩かれてはいるが、ララちゃんは別の形らしい。

 

「話してください。できる限り力になりますから」

 

「いや、でも……その」

 

「同期の悩みなんです。聞かせてください」

 

 手を握ってそう返せば、ララちゃんは重たい口を開く。

 

「実は……」

 

 ララちゃんの口から聞かされた話は、想像を絶するものだった。

 

 簡単に言うならば、前世からのファンの粘着行為が過激になっているという話。しかし、その粘着は次第にネットからリアルへと発展している。そして最近では、外に出るたびに変な視線を感じ、とうとう家のポストに直接手紙が届き始めたということ。

 

「ごめんなさい……私もう無理で」

 

「なるほど。事情はわかりました。それに、その明らかに多量な荷物の理由も」

 

 ストーカーされながら家に来たことを咎める気にもなれない。むしろ、変に立ち向かわずに逃げてきてくれたことに感謝すらしている。

 

「とりあえず安心してください。ここのマンションのセキュリティは一般人が通れるようなものでもないので」

 

 なんて言ったって、私の兄姉が私のために建てたマンションなので、24時間365日、厳重な警備体制が敷かれている。

 

「とりあえず、兄さんたちに連絡しておくので先にお風呂どうぞ」

 

「う、うん……ごめんね」

 

 着替え等を持たせてお風呂へとララちゃんを送り出し、私はベランダに出て電話をかける。高層階なだけあって、見晴らしは最高な点だけがうちのベランダの取り柄だ。

 

「ああ、兄さん、私。急にごめん。違う、愛のメッセージじゃない」

 

 こうやって明らかに緊急なときでもふざけるのは、兄さんの悪いとこだ。

 

「うん、さっきの友達なんだけど。そう、ストーカーされてるみたいで。特殊部隊?何を言ってるの、そんな大事でもないでしょ」

 

 よくわからないスケールの冗談はやめてほしい。反応にこまるし、なにより兄ならもしかするとなんて私が考えてしまうから。

 

「うん。というわけで私の部屋の隣なんだけど、使わせてもらうね」

 

 兄さんに連絡したのは、つまりはそういうことだ。残念ながら私の家はそう広いものでもないので、事態が解決するまではとりあえず隣に住んでもらおうということである。よくある手狭な部屋だが、仮の住まいとしては十分すぎるほど整っている。

 

「姉さんたちにも連絡しておいてくれる?うん、ありがとう。それじゃあ、私もしばらく家から出ないから。うん、いろいろとよろしく」

 

 連絡は滞りなく終わった。なんだかんだ理解の早い兄さんで助かる。あとは……

 

「きゃ、きゃあっ!」

 

「……っ?ララちゃん!?」

 

 バーンと急いでお風呂を開けると、後ろ向きに倒れてる真っ裸のララちゃんがえへへと頭をかいてこちらを見てきた。

 

「ごめんごめん、ちょっとぼーっとしてて石鹸で滑っちゃった」

 

「まったく、危険ですから気をつけてくださいよ」

 

「あはは、大丈夫大丈夫。私こう見えて頑丈だからさ」

 

 これは、思った以上に重症かもしれない。配信をつけている時は普段と変わりなく見えていたが、仕事熱心なのだろうか、そのスイッチが切れてしまうとこうだ。

 

「まったく……」

 

「ごめんごめ……?なんで筑紫ちゃんも脱いでるの?」

 

「出しっぱなしのシャワーで濡れたから、どうせなので私も入ります」

 

 濡れたまま外で待たされるのも癪なので、ご一緒させていただくことにする。すこし広めの風呂で助かった。

 

「えっ、あっ、えぇ?」

 

「……あまりジロジロみないでくださいよ」

 

「ああ、ごめん」

 

 変な空気のまま、私は今日の風呂を終えた。

 




次にお前は、「そんな!つくララの風呂シーンの詳細は!?」と言う。


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夜更け

つくララの風呂シーンの要望を多数頂いたのでこの話は特別に——





——筆者が風呂に入りながら書き上げました。対よろ


「はい、こんばんは。音と画面と大丈夫でしょうか」

 

<こん>

<わこつ>

<あれ?ララちゃん泊まってたんじゃないの>

 

「私もいるよ~」

 

<声遠くて草>

<感じる……部屋という空間ってやつを>

<上級者おるな>

 

「今日はララちゃんもいるので、せっかくなので2人でできるゲームをやろうと思います」

 

 私はゲーム画面を映し出し、サムネイルも用意していたものに変える。

 

「というわけで協力型のゲームです」

 

<協力……?>

<バトロワなんですが>

<協力要素どこ……?ここ……?>

 

「今回は誰が何と言おうとも協力型だよ!」

 

 これは60人くらいの部屋で、ゴールまで障害物を超えて行くタイプのバトルロワイヤルゲームだ。まるでお菓子のような見た目のキャラたちが、血みどろの王冠争奪戦を繰り広げる様は話題を呼んだ。

 

「ちなみに妨害はありです」

 

「えっ?筑紫ちゃん?」

 

 もちろん、チームを組んだからとて有利になることはない。むしろ配信者の中では、足を引っ張り合うほうがウケがよいという認識がされている。

 

「ララちゃん、世界はそんなに甘くないですよ」

 

「うそうそ!やだぁ!」

 

 などと言いながら、体は正直である。完全に目の色が、狩るものに豹変している。

 

「というわけでゲームスタートです」

 

 

❍✕△❑

 

 

 時は数時間前……

 

「えっ、ゲーム配信?」

 

「はい。せっかくほぼ毎日続けていることなので、今日もやりたいと思って」

 

 お風呂から上がった私たちは、ダイニングでお茶をしながら話した。

 

「う、うん。全然いいよ?私のことは気にしないで」

 

「そうはいきませんよ」

 

 客人を無視してゲームをするなど、私はできない。というか、後ろから見られているとプレイに集中できなくなるので苦手ということもある。

 

「型落ちのものですが、軽いゲームなら動くのでこれで何かやりましょう?」

 

 昔使っていたノートパソコンをララちゃんに渡す。型落ちしているとはいえ、グラボも積んだゲーミングノートパソコンなので多少のゲームは動くはずだ。

 

「う、うん。わかった。ゲームは?」

 

「ああ、それならもう決めてあります。リクエストが多いけれど1人じゃあまりやりたくなかったゲームがありまして……」

 

 たとえ何があろうと、鐡ララは視聴者からララちゃんでいることを求められる。そのファンの期待を裏切ってしまうことが、今何より避けたいことだ。

 

「あ〜、でもこのスペックだと配信はツラいかも」

 

「私の方で枠はとります。何なら今回の収益に関しても——」

 

「いやいや!いいの!むしろ持ってって!お世話になってるのは私の方だから!」

 

「そうですか」

 

 遠慮するところも彼女らしい。

 

「それじゃあ始めますよ」

 

「う、うん……。筑紫ちゃんはこんな時でもいつも通りなんだね」

 

「……?こんな時、ですか?」

 

「いや、その……私は結構勇気出して話したんだけど、拒絶されても仕方がないと覚悟しながら」

 

 まあ確かに、客観的に見ればストーカーを連れて友達の家まで来ているわけだ。迷惑極まりない。

 

「でもララちゃんはただの友達じゃないですから」

 

「えっ……?それってどう言うこと!?」

 

「唯一の同期ですからね。こんなことで突き放すほど冷酷な人間じゃないです私」

 

「あ、うん。そうだね。そういうことね」

 

「とにかく、いつも通り目一杯ゲームを楽しむこと。今夜ララちゃんに私が求める対価はこれだけです」

 

「うん、わかった。じゃあ私頑張るよ!」

 

 いつも通りのハイテンションな声に戻ったララちゃんを見て、私は安堵の息をつく。とりあえずこちら側は大丈夫だ。あとは兄さんたちがどれくらい早く対処してくれるかを待つだけである。

 

 

❍✕△❑

 

 

「筑紫ちゃ〜〜〜ん!!!」

 

「あっ、お先に失礼しますね」

 

「やだ!待っておいていかないで!」

 

<つくララてぇてぇ>

<ララちゃんついてないなぁ>

<筑紫ちゃんも笑ってながら声がマジなの笑う>

 

 白熱したバトルがそこにはあった。少しの予習でするするとゴールまで向かう私と、その私の背中に何度も掴み掛かろうとしているララちゃんとの戦いだ。

 

「よし、捉えた!」

 

「このタイミングで来ると思ってましたよ!」

 

 ゴール間近の障害物。ヘタをするとスタート地点まで帰されるその場所で最後の争いが始まった。

 

「くっ……ようやく捉えましたよ」

 

「掴みかかる射程は同じ。つまりは反応勝負なわけですが」

 

「ふふふ、私は一つ、筑紫ちゃんの弱点を知っている!」

 

「ほう、その弱点とは?」

 

「反射神経勝負なら私にも分があるってこと!」

 

 掴みかかってくるララちゃんに対して、私はワンテンポ遅れて反応する。しかし、計算内だ。

 

「残念ながら、この距離なら私の反射神経でも避けられるんです」

 

「なっ!?そんな……」

 

 皆には見えないが、背後にいるララちゃんが手を床につく。

 

<筑紫嬢、白熱してるとこ悪いけどゴール人数後1人だよ>

 

「あっまずいですね」

 

 このゲームはゴールに辿り着く先着制。間に合わなければ脱落となる。

 

「くっくっく……行かせないよ」

 

「なっララちゃん!?潔く負けを認めて私にゴールをさせてください」

 

「ヤダ!2人で脱落して一緒に次のゲームに行く!」

 

「離してください!ああもう、制限時間まで迫ってきたじゃないですか!」

 

 まずい。このゲーム、一度掴まれたら掴んだ側が非常に有利である。そして、当のララちゃんは離す気がない。

 

「あっ」

 

「あーっ」

 

<あっ>

<野良の方ぁ!>

<空気読み全一おるな>

 

 揉み合いの争いに発展している中、その脇をするりと通っていった野良の人がゴールする。

 画面に映る『Game Over』の文字をしばらく無言で眺めたあと、どちらからともなく笑い声が共鳴する。

 

「あー、おかしい。野良にラスト一枠とられるなんて」

 

「全部無駄だったじゃないですか。やっぱり協力ゲーですよこれ」

 

「とかいって最初に落とそうとしてきたの筑紫ちゃんでしょー?」

 

「記憶にございません」

 

「えーひど〜い!」

 

 夜は更けていく。階下で起きている騒動も気にせずに。

 



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一晩

寝不足で多少語彙力が落ちてますが次話投稿です、対よろ


「あー楽しかった!」

 

「お疲れ様です。それじゃあまた明日の配信で会いましょう」

 

「おつララ〜」

 

<おつかれ〜>

<おつ>

<おつララ〜>

 

 流れるコメントを読みながら、配信停止ボタンを押す。背後でララちゃんが伸びをしながら床に寝転がる音が聞こえた。

 

「今日はよく寝れそうだよ〜」

 

「それは何よりです。それじゃあまた明日」

 

「……」

 

「どうかしました?」

 

 隣の部屋のベッドメイクも済んでいるし、あとは帰って寝るだけだと思うのだが。

 

「……ダメかな」

 

「声が小さくて聞こえないです」

 

「い、いや!やっぱいいや、おやすみ!」

 

 逃げようとするララちゃんの手首を握り、壁に押し付けて捕まえる。

 

「ちょっ筑紫ちゃん!?」

 

「なんで逃げるんですか?何かあるなら言ってください」

 

 少し強引な手になってしまったが、こうでもしないと言ってくれないだろう。まったく、手のかかる人だ。

 

「あの、えっ顔ちかっ」

 

「何と言ったんですか?言わないと手、離しませんよ」

 

「いや、その……」

 

 顔を真っ赤にしながらララちゃんはそう言う。

 

「今日は一緒に……寝てほしいなって」

 

 なるほど。そういうことか。

 

「良いですよ」

 

「えっ?」

 

「別に問題ありませんよ。でもベッド広くないですよ」

 

「ほ、本当にいいの?」

 

「まあ構いませんよ」

 

 別に同性と一緒に寝ることに抵抗はないし、それにララちゃんは今、1人では心細いだろう。ベッドが手狭だからと部屋を用意したものの、別に一緒に寝れないほど狭いわけではない。私もそこまで大きくないし、ララちゃんも小柄だから、寝てる途中にベッドから落ちることもないだろう。

 

「やった」

 

「また何か言いました?」

 

「い、いや!だから顔近いって」

 

 嬉しいなら別に隠すことでもないだろうに。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 私こと鐡ララは非常に困っていた。

 

 というのも、事の始まりは私が筑紫ちゃんをベッドに誘ったことだ。流石に断られると思っていたのに案外すんなりと承諾してくれたまでは良かった。私は生粋の一人っ子であり、年も変わらぬ誰かと一緒に寝ることに慣れていなかった。だから壁際の端っこを陣取り、筑紫ちゃんの寝るスペースを邪魔しないようにしようと思っていた。

 だが運命というものは残酷にも、迫りくるものだった。

 

 いや、実際に迫りきたのは筑紫ちゃん自身なわけだが……

 

「ちょっ、筑紫ちゃん……!?」

 

「う~ん……ムニャムニャ」

 

 普段のクールそうな見た目とは裏腹に無邪気な寝顔を見せる筑紫ちゃんは、寝返りを打つたびにだんだんとこちら側に迫ってきている。そして寝息がわかるほどに近づいた頃、私はさすがに我慢の限界が来て抜け出そうと身を動かそうとした。

 

「……フニャンッ!」

 

 突然体を支えていた腕を捕まれ、ぐいっと引き寄せられる。バランスを崩した私は受け身も取れず、筑紫ちゃんの上へと覆いかぶさるように倒れた。

 

「つ、筑紫ちゃんごめん!」

 

「……」

 

「……筑紫ちゃん?」

 

「すぅ……すぅ……」

 

 嘘だろ……と、私は戦慄した。これほどの衝撃を与えてなお目が覚めぬというのか筑紫姫は。

 

「ううん……」

 

 筑紫ちゃんは身をひねらせた。私の腕を掴んだまま。

 なので必然的に私の顔は筑紫ちゃんに埋まる形となり、しかも手は離してもらえないという始末。

 

 あっ筑紫ちゃんの心音が聞こえる。

 

 そんなこんなで、私の眠れない夜は過ぎていった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 朝、目が覚めたあとに隣の体温に気が付き思わず飛び退く。その相手の寝顔を見てようやく、昨晩の出来事を思い出した。誰かと寝ることなど久々だったので、つい驚いてしまった。

 

「……それにしても随分と深く眠ってますね」

 

 ララちゃんが起きる様子はない。しばらく朝支度をしていれば目を覚ましてくれるだろうと、私はキッチンへと向かった。

 

「えっと……まあ軽くでいっか」

 

 朝ごはんを準備しつつ、コーヒー豆をゴリゴリと挽く。そろそろ電動のモノに買い換えようかと思いつつも、結局後回しにしていたために未だに我が家では手挽きである。ちなみに豆の種類などは私は詳しくないので、姉のチョイスだ。

 

 キッチンの物音か、それとも匂いを嗅ぎつけたのか、ベッドの方で動きがあった。

 

「ララちゃん、おはようございます」

 

「ふわぁぁぁ、おはよ」

 

「まだ眠いのなら寝ていてもいいんですよ」

 

「うわぁ……このままじゃ私ダメ人間になっちゃいそう」

 

「冗談を言う余裕があるなら手伝ってください。朝ごはんは食べられますか?」

 

「えっ?うん食べる食べる!」

 

 朝から元気で何よりである。のはいいのだが……

 

「……私の顔に何か付いてますか?」

 

「いや!大丈夫、今日も筑紫ちゃんだよ!」

 

「ええまあ、筑紫ですが」

 

 なんとも本調子ではなさそうなララちゃんであるが、慣れない環境に緊張しているだけのようにも見える。

 

「お皿とってもらえますか?」

 

「うん、えっとこっちの棚だよね」

 

「そうです。そこの中くらいの大きさのものを」

 

「はい!」

 

「ありがとうござっ」

 

 勢いよく振り向いた私と、勢いよく向かってきたララちゃんの顔が思いがけぬ距離まで近づく。

 

「っと危ない。ララちゃんは大丈夫ですか」

 

「だだだ、大丈夫だだだよよよ」

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

 背中から倒れたララちゃんは、持ってたお皿を高く掲げ死守してはいるものの、顔を真っ赤にしている。どこか怪我をしてないといいのだが。

 

「ほら、たんこぶできてますよ」

 

「だ大丈夫だよ私頑丈だから!」

 

 本当に、心配だ。



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その時までは

 俺の名は……やっぱり名乗るのは恥ずかしいから一般警備員と呼んでくれ。

 

 なに、これは俺のとある一日の話だ。

 

 

 俺の一日は昼の15時くらいに始まる。俺は夜勤族である。給料だけで選んだ警備会社なので、勤務時間以外に文句はないが、さすがに体が慣れるまではつらかった。

 その日の俺はいつもどおり音楽を聞きながら昼飯を作る。音楽なんて洒落てるだって?ちげぇよ俺はオタクだ。ただの音楽なわけがないだろう。いつもかける音楽は、推しのVの歌ってみたのマイリストだ。

 

 16時過ぎに家を出て電車に揺られ、17時に現場に着く。控室で警備服に着替える。

 警備って言ったっていろんな種類があると思うが、俺の警備はマンションの一階で座っとくだけだ。たまに監視カメラにも目を向けるが、ここの設備は一級品。俺が目で確認するよりも早く自動警備システムが反応してくれる。じゃあなんで俺がいるのか?知らない。なんかよくわからない仕事だが、座っておくだけで給料が入るのでラッキーである。なんだこのホワイト企業。

 

 だが、この日だけは少し違っていた。

 

「やあやあ。君が今日の夜間警備員くんかい?」

 

「……しゃ、社長!?」

 

「まあそう構えなくても、そんなに重大なことを伝えに来たわけじゃないさ」

 

 あぶねぇ。もう少しでいつものように推しの配信を見始めるところだった。本当にあぶねぇ。

 

「それじゃあ一体何の用でしょうか?」

 

「なに、簡単なことさ」

 

 社長の目がギラリと光る。

 

「どうやら妹の友達がストーカーに付きまとわれてるらしくてね。許せないだろう?女につきまとうストーカーだなんて」

 

「え、ええ確かに」

 

「というわけで君にはそいつを捕まえてほしい」

 

「で、でも私はただの一般警備員ですよ!?」

 

「なぁに。腕っぷしが強い連中を呼んどいた」

 

 そう社長が言うや否や、警備室に複数人が入ってくる。それは荒くれ者というより、訓練された軍隊のようで、皆、何人か沈めてそうな目をしていた。

 

「こいつらの指揮権を君にやる。だから早急に問題を解決したまえ」

 

「なっ……さすがになんでも」

 

「ああ、もし妹たちに危害を及ばせず、無事に解決できた場合……」

 

 社長は書類を一枚、机へと置く。それは給与契約書だ。簡単に言えば、給与がさらに上乗せになる。

 

「この契約書にサインしよう。それじゃあ任せたよ」

 

「ひゃ、ひゃい……」

 

 たしか俺の実家の弟が高校受験のために塾に通い始めた頃だ。俺には金が必要だった。

 だから……死にものぐるいでストーカーを捕まえたときに思わずガッツポーズしちまったのは誰にも咎められないだろう。

 

 

❍✕△❑

 

 

 朝ごはんを終えた頃、兄さんから電話がかかってきた。

 

「おはよう、兄さん」

 

「うん、わかった。ありがとう。下の警備員さんのシフト教えてくれる?今度お礼を言いにいかないと。えっ?そんな必要はない?ダメだよ、ちゃんとお礼しないと。うん了解。じゃあ」

 

 どうやら無事にストーカーさんは捕まったようである。しかし一晩で解決してくれるとは、さすがの兄さんだ。多分酷使されたであろう警備員さんには、今度菓子折りでも持っていくことにする。

 

「電話、お兄さんから?」

 

「はい。無事?と言っていいかは分かりませんけど、ストーカーは捕まったみたいですよ」

 

「良かった……。本当にありがとう」

 

「いえ。別に私が動いたわけじゃないですし。お礼は今度直々に警備員さんに言いましょう」

 

「えっ?」

 

「安心してください。私もついていきますから」

 

「いや、ちょっと待って?捕まえたのって警察がではなく、ただの警備員さん!?」

 

「えぇ……まあ。兄さんのことですし多分無茶させたんでしょう」

 

「筑紫ちゃんのお兄さんいったい何者なの……?」

 

「私にも分かりません」

 

 兄さんは思いつきで行動するタイプだから、今何の仕事をしているのかすら私は知らない。ただ、大半の問題ごとは兄さんに相談すれば片付くと言う事実だけが存在している。

 

「とりあえずあと数日はここにいてください。正式な警察での取り調べ等もあるでしょうし」

 

「あーでも、学校には行かないと」

 

「ああ、そうですよね。自分が通信制なので完全に忘れてました」

 

 そうか。一般人には登下校っていうものがあるんだ。

 

「ちなみに学校はどの辺です?」

 

「ここからなら5〜6駅くらいかな。上り線」

 

「ああ良かった。それならしばらくは私が送りますよ」

 

「え?」

 

「ちょうど定期券の範囲内なので一緒に行けます」

 

「定期券?でも学校は通信制なんだよね?」

 

「あー何と言えばいいか」

 

 少し時間を置いて言葉を選ぶ。変に誤解されても嫌だし。

 

「姉さんの仕事の手伝いをしてるので、職場への定期券ですね」

 

「へぇ〜仕事の手伝いか。筑紫ちゃんってほんと兄姉孝行だよね」

 

「もらった恩を返そうとしてるだけですよ。まだまだ全然足りませんけど」

 

 実質的に私を育ててくれたのは兄さんたちだ。実際に今も世話になりっぱなしだから、恩を感じつつ働いて返してるというところもある。

 

「今度お姉さんにも会ってみたいなぁ。あのお兄さんと筑紫ちゃんという妹を持つ姉……多分後光差してるよ」

 

「後光は流石に差してないと思います、多分」

 

「そこは完全に否定してよ」

 

 姉さんも兄さんに負けず劣らずの自由人なので、完全に否定できない私がいた。

 

 

 電車で無事に移動し、ララちゃんの大学へ着く。

 

「今日は午前と午後の一コマずつだけだから、それが終わったら連絡するね」

 

「はい。それまでは私も姉さんの手伝いをしてるんで」

 

「了解。ありがとうね」

 

「いえ、いいんですよ」

 

 どうせ姉さんの職場への道がてらだったし、そこまで手間はかかってない。

 

「それじゃあ行ってきまーす」

 

 ララちゃんは、そう言って大学へと入って行った。元気なことは何よりである。あとはストーカー被害のことも忘れられるくらい日常に夢中になれることを願うばかりだ。

 

「さて、私も行かないと」

 

 手伝いとはいえ、内容が内容なので私も先を急ぐことにした。

 

 

❍✕△❑

 

 

 無事に今日の授業が終わり、ふぅとため息をつく。昨晩は色々あったものの、筑紫ちゃんのおかげで私は無事に今日を過ごせている。

 

 ただ、少し他人の視線に敏感になっている自分もいた。それもそうか。1日で癒える傷なんてない。筑紫ちゃんにも数日はついてもらえることだし、これを機にしっかり甘えさせてもらおう。

 ついでに、謎の多い筑紫ちゃんについても知れたら良いなぁ……

 

 

 

 なんて思ってる時期が私にもありました。帰りの駅の構内で人だかりができているのを見つけるまでは。

 




さすがに次話で現実パートを終わらせて配信パートに帰りたいです


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でもこの声

感想・評価等、いつもありがとうございます。全部読ませてもらってます。


 今日の授業が終わり、駅の改札を通ると、謎の人だかりができていた。有名人でも来ているのかと人混みの間から中心を見てみれば、構内のカフェの前で、1人の美人な女性がコーヒー片手に佇んでいた。誰かを待っているようだが、その素振りが様になっており、ドラマかなにかの撮影かとカメラを探してしまう。

 

「ねえねえアレって」

 

「どこかで見たことあるかも。雑誌かな?」

 

「ってことはモデルさん?」

 

 近くの女子たちが騒いでいるのが耳に入る。確かにモデルをやっててもおかしくない。髪なんかもふんわりとセットされており、メイクも大人びている。年齢はあまり私と変わらないように見えるが、経験の差で圧倒的な敗北感を感じる。

 

『筑紫ちゃん、待ち合わせ場所あたりに人だかりができてて近づけないや』

 

『確かに人が多いですね。とりあえずわかりやすい場所にいます』

 

 SNSアプリで筑紫ちゃんに連絡を入れるも、それだけしか返信がこなかった。私は人だかりの中を探したが、筑紫ちゃんらしき人物は見つからない。確かにカフェの前で待ち合わせとは言ったが、この人混みだと見つけることすら困難だ。

 

 人混みをかき分けて最前列まで来たとき、人だかりが突然騒がしくなる。

 

「あの」

 

「えっ、私?」

 

 気がつけば、件の美人さんが私の目の前まできて、話しかけてきていた。なにか粗相でもしてしまったかと焦って、思わずそう聞き返してしまった。

 

「そりゃそうですよ。まったく、待ち合わせ場所にずっと立ってたのに」

 

「???」

 

 自分の頭の上にクエスチョンマークが飛び出る。何を言っているのだこの美人さんは?そっと手を取られるが、こうも自然に手を取られては抵抗すらできない。

 

「ほら、帰りましょう?」

 

「あ、うん……」

 

 それから電車まで、ずっと手をひかれるがままで、緊張して相手の顔すら見ることができなかった。

 

「本当にどうしちゃったんですか」

 

「いや、その。来たときとだいぶ雰囲気が違うからさ」

 

 電車に乗り込んでからようやく、その美人さんが筑紫ちゃんと同じ服を着ていることに気がついた。来るときと雰囲気が変わりすぎである。

 

「あー、まあ仕事でセットしてもらってからそのまま来たので」

 

「仕事?やっぱりモデルとか?」

 

「まあそんなところです」

 

 人ってメイクでここまで雰囲気が変わるのかと驚愕する。ただでさえスタイルが良いのに、醸し出す雰囲気まで大人びていて、隣にいる私がとても子供っぽく感じて恥ずかしくなる。

 

「そうだ。よかったら今度一緒に行ってみませんか?姉さんも是非会ってみたいと行ってましたし」

 

「えっ本当に?でも場違いじゃないかな私」

 

「良いじゃないですか可愛らしいのも。私はそういった可愛い系はさっぱりさせてもらえなくてですね」

 

「そりゃそうだよ。だって大人っぽいのすごく似合ってるもん」

 

「似合ってますか?」

 

「そりゃもう、鬼ほど」

 

「鬼ですか?」

 

 こてんと首をかしげる筑紫ちゃんは、たしかに話してみれば普段通りの筑紫ちゃんだが、しかしその仕草がいちいち惚れ惚れする美しさをもっていて目に毒だ。

 

「ほんと、どうしてVtuberなんてやってるの」

 

 ポロッと心からの言葉が漏れ出てしまった。

 

「あっゴメン!今のは違くて!」

 

「うーん、そうですね。答えるなら」

 

 筑紫ちゃんは顎に手を当てて考える仕草をする。

 

「Vtuberの方々が楽しそうだったからですかね。ゲームをしている姿とか」

 

 私は確信した。筑紫ちゃんもまた、あのお兄さんやお姉さんと同じ家系のものなのだと。

 

 

❍✕△❑

 

 

 俺の名は一般警備員。今は少し昇格して警備主任とかなっているけれど、肩書ばかりで仕事内容は変わらないので一般警備員と呼んでくれ。

 

 俺の一日のルーティンも変わらずだ。今日も職場に行って、推しのVtuberのアーカイブを流しながら制服に着替える。いや、もうね。推しのために生きてるような俺なので、推しが少しつらそうな声とかしてるともう泣きたくなるんだけどね。それでも、先日のゲームのカジュアル大会は最高だった。大会当日なんかは、無理やり休日を貰って酒を片手に叫びまくった。それだけ楽しかったし、推しも楽しんでた良い大会だった。

 

 あのときの切り抜きを聞きつつ警備室に行くと、見覚えのない二人組の女性がいた。

 

「あっ筑紫ちゃんもしかして」

 

「昨晩兄さんの対応をしてくれた警備員さんで合ってますか?」

 

 突如脳裏に浮かぶ社長の姿。そして社長のことを兄さんと呼ぶ眼の前の美女。そしてその隣の美少女。脳の中を電気が走り、その答えを導き出す。

 

「お嬢様、何かご用でしょうか」

 

 耳につけていたイヤホンを雑にとっぱらって、深々と頭を下げる。

 俺の前任者が言っていた、社長一家には逆らうなと。逆らわなければいつまでも甘い蜜を吸えるから、知らずともお嬢にナンパしかけた俺のようにはなるなよと……。

 

「まったく兄さんはこういう連絡だけはしないんですから」

 

 そう言いつつお嬢が友達へと目配せすると、お友達さんが小包を手渡してくる。

 

「今回は私のために動いてくれてありがとう。これ、少ないけどお礼です」

 

「そんな。自分は職務を全うしただけですよ」

 

「でも大変だったでしょ?本当にありがとう」

 

「私からもお礼を。兄さんの無茶につきあってくれてありがとうございます」

 

「そんな!お嬢様頭を上げてください」

 

「礼儀ってものは誰に対しても必要ですから」

 

 死にものぐるいで働いた昨晩の俺、本当にグッジョブ。ありがたく小包を頂き、自分の部屋へと帰っていく二人を見送る。

 

 ふぅ、あぶないあぶない。推しの配信を聞いてることはバレなくて済んだみたいだ。

 でもなんだかあの声を聞いたことがある気がするんだよな……。

 

 俺はイヤホンをつけ直し、椅子に座る。そして先程の二人を思い浮かべながら、再び再生ボタンを押した。

 

『ねえ筑紫ちゃん!』

 

『ララちゃん、どうしました?』

 

 俺は椅子から転げ落ちた。

 



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【ホラー】配信タイトルをここに入力【VeG所属】

LaFロスが激しいので遅くなりました。皆様は推しチームありましたでしょうか。


「はい、おはようございます。画面と音、問題ないですかね?」

 

<わこつ>

<待ってた>

<見えとるで~>

 

「はい、大丈夫みたいですね。それでは今日も初めていきたいと思います」

 

 画面を切り替え、最近流行りのホラーゲームを映し出す。一人称視点で独特なグラフィックで描画される現代日本を舞台にしたこのゲームは、とある事務所の所属Vtuberたちが実況したことで大いにバズり、リクエストも急増した。

 

「ホラーゲームってあまりしたことないので楽しみです」

 

<びびる筑紫ちゃんを見せてくれ>

<ぜんぜん想像できないわ>

<真顔で「武器は?」とか言ってそう>

 

「さすがにそこまで戦闘狂じゃないですよ。それじゃあ始めますね」

 

 スタートを押せば、自室っぽい場所からゲームがスタートする。とりあえず深夜のファミレスバイトに行かなければいけないらしい。

 

「えっと、道はこっちであってますかね」

 

<そっちは違うね>

<なにもないよ>

<右やね>

 

「失礼しました。こうも暗いと迷いますね」

 

<方向音痴なんか?>

<マップとかないからな>

 

「方向音痴では……ないと思います。でも初めての道を歩くのは苦手ですね」

 

 道を進めば、一軒だけ明るいお店が見えてくる。どうやらここが目的地で間違いないようだ。

 

「えっと、バックヤードから入って。バイトの先輩らしき人がいますね」

 

 会話などはあまり目立った要素はない。ただ悪い噂があったりするくらいだ。純日本製のゲームだけあって、日本語に違和感もなくスムーズに物語が進んでいく。

 ゲームの指示通りにしていれば一日目は終わり、何も起きないことにすこしがっかりしながら日を進めた。

 

<こ、こいつ……>

<方向音痴とか言ってごめんなさい>

 

「えっ?皆さん突然どうしたんですか」

 

 二日目も昨日の道を通ってバイト先に向かっていたところ、コメント欄がざわつきはじめる。もしや何か要素を取り逃したかと思い焦って、一度立ち止まりコメント欄をしっかりと読む。

 

<二日目にして道を覚えた?>

<だいたいのプレイヤーはここで迷うんだけどな>

<道の把握完璧すぎて笑うわ>

 

「た、たしかに迷いやすい道だとは思いますけど、意外と覚えるマークは多く設置されてますよ?」

 

<ここで20分迷い続けた俺……>

<某箱の犬型Vとか最終日までコメントに介護されないとダメだったのに>

<頭脳の差を感じる……>

 

 まあ確かに不親切なゲームだとは思う。しかし、その不親切さが、ゲームっぽさを削ぎ落としてくれている気もする。つまりは、何か起きそうで何も起きてないという状況の演出が上手い。

 

「あれっ今日は先輩がいないんですね」

 

<あっ>

<ここは>

 

 コメントを見る暇もなく、突然目の前に顔がドアップで映る。扉の裏側に隠れていた先輩が、脅かしてきたというよくある描写だった。

 

<筑紫さん?>

<あれ?>

<ぐるぐる?>

 

「……」

 

<目開いたままやが>

<画面止まった?>

<もしもーし>

 

「……」

 

<もしかして:気絶>

<びっくりする系ダメな感じか?>

<メディーック!>

 

「っとすみません。大丈夫です。音声も聞こえてますか?」

 

<良かった>

<動いてるし聞こえてるよ>

 

「よし、それじゃあ進めていきますね」

 

 二日目も、不穏なニュースや不審な客が来た以外は、何事もなく終わりを迎えた。

 

 そして来る三日目。ここで大きく事態は動き始める。

 

「……なんですかね」

 

 いつもどおりバイト先に向かう道。しかしなぜか背中がぞわぞわとする。このゲームにおいて視線なんて概念はないはずだが、何かに見られているようで落ち着かない。

 

<どうした?>

<何かトラブル?>

 

「いえ、でもなんか、見られてる気がするというか」

 

<筑紫ちゃんも怖がりだったか>

<大丈夫、俺たちがついてるよ>

<かわいい>

 

「うーん」

 

 違和感は店に近づいても晴れなかった。それに、やたらとコメント欄の流れが速いのも気になる。速すぎて全てのコメントを読みきれないでいる。

 

「ちょっと、いいですかね」

 

<えっ?来た道戻るの?>

<そっち何もなかったよね?>

 

「すみません。どうしても気になるので。時間の無駄だったらすみません」

 

<そっち行くの?>

<だだだ大丈夫おれたちがついててて>

<マジ?正気?ニュータイプ?>

 

「確かここの曲がり角を逆に」

 

 普段通らない道に入った瞬間だった。目の前に手が無数にあらわれ道の奥へと強制的に運ばれていく。

 

「えっと……これは?」

 

<あー>

<なんで気づくかね>

<一周目でこのエンド行く人初めて見た>

 

「……?」

 

 流れるテキストを読めば、どうやら知らずしらずのうちにエンディングのトリガーを引いてしまったらしい。

 

「な、なんですかこれ」

 

<いわゆる取り込まれエンド。無謀にも怪異に突っ込んだ対処法を持たない主人公って感じ>

 

「な、なるほど。すごいエンディング見ちゃいましたね」

 

<うん、おかしいんよ>

<これって発動条件何なんだろう>

<三日目までに情報あったっけ?>

 

「いえ、なんだかこう、見られてる気がしたので」

 

 本当にそうとしか言えない。直感的に進んだだけなのである。

 

<やはりニュータイプ>

<幽霊との交信やめてもろて>

<というかこれトゥルーエンドミスったときに来るエンドやね>

 

「なんか、えぇ……と、とりあえずエンディング達成です」

 

<消化不良>

<とりまおめ>

<こうなりゃもう全エンド耐久よ>

 

「そ、そうですね!今から全エンド耐久配信に切り替えます!ネタバレコメントもオッケーなのでどしどし指示してください!」

 

<おい誰だ耐久とか言ったやつ>

<嘘だろ……明日仕事……>

<耐久言い始めたやつ吊るせぇ!>

 

 

❍✕△❑

 

 

 昨晩やったゲームのせいで良くない目覚め方をしながら、朝日を浴びる。コーヒーで目を覚ましながら、軽く背中を伸ばす。変な夢を見たせいか体が凝っている。適当に体操しつつ、SNSを開く。

 

「ん?」

 

 トレンドに見覚えのある名前がある。というか、私の名前だ。Vtuberのトピックで私の名前が上位に上がっていた。

 

「何かしましたっけ」

 

 あまり自分からはしないのだが、エゴサというものをしてみる。数分もすれば、だいたいの情報は集め終わった。

 

 問題となっているのは昨日のホラゲー配信だった。そのホラゲー配信の切り抜き動画がとてつもない伸びを見せていた。

 

 私が固まったところから、ゲーム画面に映り込む影、たまにボソボソと聞こえる謎の声。様々な違和感が配信内に散りばめられている。その切り抜き動画のコメント欄は、実際に起きている怪奇現象派と私の悪戯派で口論になっていた。

 

「ふふっ、計画通り」

 

 私はどんどん再生数が伸びていく今回の動画を見守りながら、笑みを浮かべつつコーヒーを啜った。



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協賛:Vegamer

[ひこうにん]VeGamerについて語りたい#324

 

25:名無しのVeG民

  【悲報】ナイトメア内藤、親フラ

 

26:名無しのVeG民

  つまり真名バレってこと?

 

27:名無しのVeG民

  【朗報】親、Vについての理解が高い

 

28:名無しのVeG民

  また名物親ができるのか

 

29:名無しのVeG民

  理解のある親さんで良かった

 

30:名無しのVeG民

  【悲報】Vに理解はあっても厨二に理解はない

 

31:名無しのVeG民

  †ナイトメア内藤†

 

32:名無しのVeG民

  親に対して素が出てるの可愛すぎてスパチャした

 

33:名無しのVeG民

  >>32 もしかして今俺の虹スパチャ邪魔した上限赤スパニキか?

 

34:名無しのVeG民

  >>33 虹スパニキだったか、すまそ

 

35:名無しのVeG民

  >>34 ええんやで

 

36:名無しのVeG民

  優しい世界

 

37:名無しのVeG民

  やさいせいかつ

 

38:名無しのVeG民

  石油王しかおりゃんのか

 

39:名無しのVeG民

  配信ROM勢も居ます

 

40:名無しのVeG民

  そういやVeG公式のツイート見た?

 

41:名無しのVeG民

  ストーカー被害に対して法的措置がーってやつ?

 

42:名無しのVeG民

  あれ気がついちゃったんやけど、発表時期的にララちゃんの件よな

 

43:名無しのVeG民

  >>42 どゆこと?

 

44:名無しのVeG民

  ララちゃんと筑紫ちゃんの突発コラボ、その後の急な引っ越し、俺は見逃さなかったぜ

 

45:名無しのVeG民

  さすがに解決まで早すぎだろ

 

46:名無しのVeG民

  昔からの問題だろうしなぁ。それこそ真柴姉妹がデビューした当初からの

 

47:名無しのVeG民

  助けて法務部!

 

48:名無しのVeG民

  某ゲーム企業「あいわかった」

 

49:名無しのVeG民

  裁判絶対勝訴マンは帰って、どうぞ

 

50:名無しのVeG民

  あそこの法務部、俺TUEEE系いても驚かないわ

 

51:名無しのVeG民

  !!!!

 

52:名無しのVeG民

  !?!?!?

 

53:名無しのVeG民

  #@/&")?!,

 

54:名無しのVeG民

  どしたどした

 

55:名無しのVeG民

  なんだなんだ?

 

56:名無しのVeG民

  突然別言語になるやん

 

57:名無しのVeG民

  とりまこの画像を見てくれ

 

htptp//upimage.col/huhfgmd.hjpg

 

58:名無しのVeG民

  これは!?

 

59:名無しのVeG民

  つまり大会が開催されるってこと!?

 

60:名無しのVeG民

  たしかこの主催のとこって朝蛇ハルの所属事務所だよね?

 

61:名無しのVeG民

  またバトロワの大会かぁ。爆破ゲーのも見たいなぁ

 

62:名無しのVeG民

  今の流行りだからしやぁないな

 

63:名無しのVeG民

  協賛にVeGの名前入ってんねぇ!

 

64:名無しのVeG民

  ってことはVeG全員参戦?

 

65:名無しのVeG民

  筑紫ちゃんも!?

 

66:名無しのVeG民

  ありえるな……

 

67:名無しのVeG民

  女将も!?

 

68:名無しのVeG民

  ないかもな……

 

69:名無しのVeG民

  バランスブレイカー筑紫ちゃんと逆バランスブレイカー女将の図

 

70:名無しのVeG民

  女将は伸び代が1番あるから……

 

71:名無しのVeG民

  同時に参加表明してる人達見るに、意外といい感じのレベルのストリーマー大会って感じか

 

72:名無しのVeG民

  圧倒的V率だな。主催がVの事務所ってのが大きそうやが

 

73:名無しのVeG民

  VeGは今のところ誰も参加表明してなくね……?

 

74:名無しのVeG民

  まだまだ日程先やし、チーム調整中とかなんじゃない

 

75:名無しのVeG民

  内藤・女将コンビ見たいなぁ

 

76:名無しのVeG民

  やっぱつくララよ

 

77:名無しのVeG民

  真柴姉妹出てくれると俺が助かる

____________________

 

 

❍✕△❑

 

 

「大会、か……」

 

 私はマネージャーさんからのメッセージを見てそう呟く。

 今度の大会、選手として出てくれないかという連絡を、主催者である社長さんから直々にお願いされているらしい。大会には私たちVeGamerも運営に関わっており、まだ発表前だが、私以外の5人は出ることがほぼ確定している。

 

「選手として……大会」

 

 思い出したくもない記憶が脳裏をよぎる。しかし同時に、大会という場においての興奮、熱狂、歓声を思い出す。

 

「でも、無理ですよね」

 

 ソロ参加が可能な大会ならば、何も構わずに出れたかもしれない。しかし、これは3人スクワッドのゲームだ。ezに向かっている矢印が、チームメイトに向く可能性は否めない。

 だからといってパッと断ることもできないのが企業所属のVtuberとしての責任だ。特に今回の件は相手方の社長さん直々のご指名だという。

 

 私は返信を入力しては取り消し、入力してはまた取り消した。どんな返信をすれば適切かがわからず、そもそも断るのかすら決意できていなかった。

 

プルルル

 

 持っていたスマホが突然鳴り、思わず手から零れ落ちそうになる。なんとか落とす手前で掴み直し、着信をとる。

 

「もしもしマネージャーさん?」

 

「そろそろ結論を出してもらおうと思いまして」

 

「こんなに早くですか」

 

「こちらにも事情がありまして」

 

 曰く、初の開催とあっていろいろと手探り状態らしい。運営側でノウハウを持っている人間がおらず、箱外のメンバーを集めるのにどの程度の時間がかかるかも不明で、箱内だけでも参加意思を早く固めてほしいということらしい。

 

「どうしますか?こちらとしても出ていただきたくはあるのですが、無理強いはできませんし」

 

「すみません」

 

「謝る必要はないです。それも承知で採用したわけですから。だけどこれだけは言わせてください――」

 

 最後に一言を残して、マネージャーさんの通話は切れた。その一言がぐるぐると脳をめぐるも、未だに結論が出せない。私は沈みきってしまった気分をどうにか変えるべく、支度を手速に済ませて家の外に出た。



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制限

 電車に揺られること十数分。都会の町並みになれば広告の種類も増えてくる。特に最近では、漫画やゲーム、アニメ等のサブカルチャーの広告も増えてきた。

 その中の一つにVtuberのものもある。VeGではなく、もっと大きな、箱売りとしてでなく1人のスターが企業を支えていた時代の、Vtuberが流行るキッカケを作ったような存在だ。

 

「おい見ろよ、あの広告」

 

「おっVtuberじゃん」

 

「見てはないけど知ってるわ」

 

 その知名度は多岐にわたる。というより、サブカル文化に浸かっていてその名前を知らないまま過ごす方が難しい。

 

「今度Vの大会あるんだろ?誰だっけお前の推しの……ナントカも出るんだろ?」

 

「ナイトメア様な」

 

「そうそう内藤ちゃん」

 

「楽しみだわマジで。チームとかどうなるんだろ」

 

 学生だろうか。楽しそうに話す声は少し聞き耳を立てていれば簡単に聞き取れた。

 

「内藤ちゃんが出るってことはVeG全員出るの?」

 

「半分はもう表明してたっけな」

 

「まあでも出ないわけにもいかないだろうしな」

 

「正直どうなん、あの新人」

 

「筑紫の方?」

 

「そうそう。なんかあそこらへんいっつもザワザワしてるイメージだわ」

 

 興味が湧いたのでもう少し彼らの話に耳を傾けることにした。スマホで適当に文字を呼んでいるフリをして耳を澄ます。

 

「うーん俺じつは全然詳しくないんだよね」

 

「前世バレめっちゃ早かったし話題になってた部分だけ知ってるけどよ」

 

「へぇ。まあお前そういうネタ好きだもんな」

 

「大会に出るとかなると話は別だぜ?だって前回の鐡ララが出た大会、コーチで居ただけなのにあれだけ目立ってたんだし」

 

「ふーん。いや、お前詳しくないか」

 

「いや、詳しくないぞ」

 

「そうか。それで?」

 

「あの実力とあの評判というか粘着質なアンチが大量にいる中で大会参加できるものなのかってね」

 

「そこらへんは問題ないんじゃないか?Vにアンチが多いのなんていつものことだろ」

 

「うーん、それもそう」

 

「それになぁ。個人的には筑紫ちゃんに――」

 

 私は電車を降りて改札を通る。駅ビルの1階にあるカフェで適当に飲み物を買い、ソファ席に腰掛ける。カフェインを摂りつつ一息ついていると、隣から聞き覚えのある音が聞こえたのでつい視線を向ける。スマホで動画を見ている女の子が、私と同じようにソファ席に身を沈めていた。イヤホンを耳につけているものの、スマホのスピーカーから音が鳴っているため、周りから注目を集めていた。

 

「あの……すみません」

 

「……」

 

「もしもし?」

 

「……」

 

 ああこれはダメだ。完全に動画に集中しきっていて自分が話しかけられていることにすら気づけていない。

 

「すみません」

 

「えっひゃいっ!?」

 

 肩を軽く叩いてみると、思った以上に驚かれて逆にこちらも驚いてしまう。

 

「あの、音。スピーカーから出てますよ」

 

「えっ!?あ、すみません。もしかしてずっと?」

 

「はい、少なくともその動画が始まったときには」

 

「うわぁ。すみませんほんとに」

 

「いえいえ」

 

 女の子は顔を真っ赤にしながら、謝りつつイヤホンを差し直した。

 

「声かけてくれてありがとうございます、お姉さん」

 

「隣に座っちゃったので気になって」

 

「ほんっとにごめんなさい。お詫びになにか」

 

「あー、うん。そんなに気にしなくていいですよ」

 

「いえいえ、でも」

 

「そうですね。それじゃあ少し話しませんか?どうせ1人で暇だったので」

 

「わ、わかりました!ちょっと飲み物おかわり買ってきますね!」

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「おまたせしました。それで、何について話しましょうか」

 

「さっき見ていた動画、流行りのゲームの動画ですよね」

 

「えっ!?もしかしてお姉さんも知ってるんですかこのゲーム!」

 

 私も何度も配信し、今度大会が開催されるゲームを知らないわけがない。私は笑顔で肯定してみせる。

 

「意外です。お姉さんみたいな美人が私なんかと同じゲームをやってるなんて」

 

「あなたもプレイしてるんですね」

 

「はい!実は競技シーンのファンで、それで自分もーって感じです」

 

「競技シーンね」

 

「あ、競技シーンというのは」

 

「賞金が出ることもある大きな大会でしょう?知ってますよ」

 

「よく知ってますね。もしかして――」

 

 あ、やばいかも、と危機感を覚える。そういえばリアルでの身バレに関してはご法度。ましてや友人関係でも何でもない人に対してなど論外だとマネージャーさんに口を酸っぱくして教育を受けたことを思い出す。

 

「お姉さんも競技シーンのファンですか?」

 

「……ファンというほどではないですけど、それなりに知識はありますよ」

 

「ほんとですか!こういう話できる人初めて見つけました!」

 

「ゲームのフレンドとかは?」

 

「あー、えーっと、いくら課金したら手に入りますかねそのフレンドとかいうもの」

 

「失礼しました」

 

「そんなことはどうでもいいんです!それよりこれ見てくださいよ」

 

 女の子は先程まで見ていた動画の画面を私に見せてくる。たしかこのチームは、toreddoさんの所属チームのプロ部門だったか。

 

「ヤバくないですか?それぞれ三方向見て1on3をしてほぼ勝ち越してるんですよこれ」

 

「フィジカル強いですもんね」

 

「もう最強って感じです。お姉さんはどう思いますかこのチーム。私は今シーズンの優勝はここだなって思ってるんです」

 

「ふむ。もう少し見ても?」

 

「ええ、どうぞどうぞ!」

 

 そのチームの特徴を言うならば、フィジカル、フィジカル、フィジカルである。もう少し深く言うならば、絶対に誰か1人が生き残る。そしてその1人がチームを救う。良いチームだと思った。

 

「でも優勝は難しいと思いますよ。多分この試合もこのあと負けますよね?」

 

「どうしてわかったんですか?」

 

「簡単なことですよ。確かに強いチームですが、このゲームにおいては――」

 

 動画の中でチームのエースが1on3を勝ち取る。だがしかし……

 

「――よっぽどでない限り戦闘しないほうが強いですから」

 

 超遠距離からの狙撃で、チームの蘇生を通す間もなく撃ち抜かれる。

 バトロワの鉄則として、戦闘をしないほうが強い。そしてFPSの原則としてハイポジションが強い。そして、エリアが狭まると漁夫の利の取り合いとなる。自ら戦闘をしかけに行くスタイルは難しいのだ。

 

「でもこれだけのフィジカルがあれば十分じゃないですか?」

 

「もちろん、十二分にフィジカルはありますよ。実際にキルムーブにしては上位に食い込んでいますし。でも一位のチームには届かないんですよね」

 

 今回の優勝チームは、ひたすらに安置予測を極めたチームだった。安置の予測位置の中で最も強いポジションを最速で取るムーブは、不落城の如く全チームを敗退に追いやった。

 

「次回の大会が楽しみですね」

 

「でも負けちゃいましたよ?」

 

「プロなんですから修正してくるでしょう。それに、このフィジカルに立ち回りまで身につけたらと思うと恐ろしいですよ」

 

 ただ、フィジカルを支えているのはキルムーブによる物資有利だ。敵が拾ってきた弾や回復があるからこそ、長く強く戦える。これが噛み合えばもちろん強いが、噛み合わなければ順位は伸びない。

 

「そ、そうです!うちのチームはすごいんです」

 

「こうして人と観戦するのも楽しいですね」

 

「はい!そうだ、よかったらお姉さん今度私とこのゲームやってもらえませんか?」

 

「えっ?」

 

「詳しそうだし、ぜひいろいろと教えてほしいなって」

 

「えーっと」

 

「1、2戦だけでもいいので!お願いします」

 

 これには困った。私も別に彼女とゲームをやることに忌避感はない。しかし、VeGの規約上サブアカウントは禁止であり、つまるところ一緒にゲームをすれば私が筑紫であることを彼女に知られることになる。

 

「えっと、ちょっと事情があるので」

 

「そこをなんとか!」

 

 うん。そこまで言うのなら少し考えざるを得ない。しかし、私の独断で決めるには少しデリケートな問題でもあった。

 

「とりあえず可否は後日伝えるので、SNSでも交換しますか?」

 

「......!是非っ!」

 

 とりあえずはプライベート用のSNSを教えることにして、あとはマネージャーさんと相談することにした。

 

「そういえば今度、カジュアル大会があるらしいですね」

 

 ふと思い、そう話題を提供してみた。競技シーンというプロの世界を見ている彼女の視点が少し気になった。

 

「ああ。アレですか」

 

 彼女は顎に手を当てた。表情が読みづらい。

 

「プロが出るわけじゃないですからね。私は見るかわからないです」

 

「じゃあもしプロが1人でも出るとしたら見るんですか?」

 

「それは絶対見ますよ。私は全てのプロゲーマーのファンですから」

 

「でもカジュアルな大会ですよ?実力的にプロを叩く人もいると思いますけど」

 

「うーん。でもプロになった人は悪くないじゃないですか」

 

「まあそりゃそうですけど」

 

「それに、1人強いだけで勝てるほどバトロワは浅いゲームじゃないですから。運営のバランス調整に期待って感じですね」

 

「バランス調整?」

 

「初動制限だったりキャラ制限だったり、バトロワは調整の幅がありますから」

 

「なるほど……ありがとうございます」

 

「いやー、嬉しいな。お姉さんみたいな人とこんな話ができるなんて。今日来て良かった!」

 

「いえいえ。私も楽しかったです。それじゃあまた、SNSでメッセージ送りますね」

 

「うん、待ってます!」

 

 彼女の背中が見えなくなるまで見送ってから、ふうと一息つく。

 

 それから、マネージャーさんへの返信の文面をどうしようか考えつつ、帰路につくことにした。

 



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表明

⇆筑紫みやさんが共有

________________________

|◯VeGamer公式 @VeG_unei_VeG ・10分

|

| すでに各個人の配信でも告知済みですが、今度の

| 大会に協賛します。また、VeG所属6名全員が今回

| 参加します。応援をよろしくお願いします(運営1)

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

________________________

|◯筑紫みや @38tks_VeG ・2分

|

| 運営の呟きにもある通り、今度の大会に参戦します

| チームについてはリーダーからの発表に任せるので

| お楽しみに

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

❍✕△❑

 

 

[ひこうにん]VeGamerについて語りたい#422

 

66:名無しのVeG民

 【速報】筑紫参戦

 

67:名無しのVeG民

 それマ?

 

68:名無しのVeG民

 これでVeGが全員参戦か

 

69:名無しのVeG民

 筑紫ちゃん大会出れたんや、てっきりNGなのかと

 

70:名無しのVeG民

 NGというより、本人の性格的に断りそう

 

71:名無しのVeG民

 協賛やし、事情ありそう

 

72:名無しのVeG民

 大会って大丈夫なんか?こうトラウマ的な

 

73:名無しのVeG民

 またなんか問題おきなきゃいいけど

 

74:名無しのVeG民

 さすがに杞憂やろ

 

75:名無しのVeG民

 箱推しのワイ、大勝利を確信

 

76:名無しのVeG民

 今回のメンツ的に筑紫無双来そうだな

 

77:名無しのVeG民

 でも大御所とか出るし流石に接待あるやろ

 

78:名無しのVeG民

 筑紫現役じゃないし、そもそもこのゲームのプロでもないから大丈夫やろ

 

79:名無しのVeG民

 コーチしてた大会を見てるかぎりだと……そうとも言えん

 

80:名無しのVeG民

 元プロ相手にコーチして現プロからガチ対策されてたもんな

 

81:名無しのVeG民

 筑紫、うちのチームでコーチにならないか

 

82:名無しのVeG民

 野生のチームオーナーが現れた

 

83:名無しのVeG民

 実際、コーチング受けたい人は多いっぽいんだよな

 

84:名無しのVeG民

 前回の大会主催チームの中では意外と大きな話題になってたし

 

85:名無しのVeG民

 俺の推しはプロからも目をつけられるVです

 

86:名無しのVeG民

 ラノベのタイトルにありそう

 

87:名無しのVeG民

 チームどうなるか楽しみで朝しか眠れない

 

88:名無しのVeG民

 真柴姉妹に内藤でVeGチーム爆誕!

 

89:名無しのVeG民

 ここが強さの基準チームになりそうやな

 

90:名無しのVeG民

 いや、若干強くね?

 

91:名無しのVeG民

 真柴妹がガチ勢だし、内藤もネタキャラっぽいくせに普通にFPS勢だかんな

 

92:名無しのVeG民

 女将推しのワイ、女将×内藤がなくなり少し泣く

 

93:名無しのVeG民

 涙拭いて

 

94:名無しのVeG民

 女将チーム大丈夫なんか?

 

95:名無しのVeG民

 筑紫の逆でチーム探し大変そうだよな

 

96:名無しのVeG民

 ちなみにミリしらなんだが、女将ってランクいくつ?

 

97:名無しのVeG民

 ランクなしやね

 

98:名無しのVeG民

 FPS歴など……

 

99:名無しのVeG民

 そんなものはない

 

100:名無しのVeG民

 画面酔いとかであんまりやる気ないらしい

 

101:名無しのVeG民

 配信するとなると数時間になるからなぁ。画面酔いするなら厳しいわな

 

102:名無しのVeG民

 でもストラテジーとかシミュ系のゲーム得意だからバトロワでは光るものありそう

 

103:名無しのVeG民

 3日後の未来から来ました。チームは筑紫、女将、あと今回最大の大御所こと水城ちゃんの3人でした

 

104:名無しのVeG民

 タイムスリップニキも見てます

 

105:名無しのVeG民

 接待枠に筑紫はまずくね?

 

106:名無しのVeG民

 まずいというか、コメ欄が蠱毒になりそう

 

107:名無しのVeG民

 大御所のコメ欄にVeGアンチ湧くとまずいしさすがにないべ

 

108:名無しのVeG民

 タイムスリップとかいう戯言にそんなにマジ議論しなくても

 

109:名無しのVeG民

 でもありそうなのちょっと怖い、怖くない?

 

110:名無しのVeG民

 実際怖い

 

111:名無しのVeG民

 VeG全員集まる初めての機会だし、ここでVeGの名前宣伝しときたい

 

112:名無しのVeG民

 割と節目だな、今回の大会

 

 

❍✕△❑

 

 

「はい、それでは今日はこのあたりで失礼します」

 

<おつ~>

<おつかれ>

<大会来週か~>

 

「おっとそうでした。明日から大会の練習カスタムが始まります。ですのでそろそろチーム発表があると思うんですが……」

 

<チーム発表まだよね>

<誰と出るん?>

<良かった。話流れたんかと思ってたわ>

 

「不安にさせてしまってすみません。大会にはちゃんと参加します。ちょっとリーダーに確認してみますね」

 

 SNSでリーダー枠の人にメッセージを送る。少し雑談をしながら場をつなぎ、返信を待つ。

 

「っと、意外と早いですね。どうやら忘れていたようです。このあとすぐに呟くらしいので少しお待ち下さい。それではお疲れ様でした」

 

 配信停止ボタンを押し、背もたれに体を預ける。しばらくすると、メンションのついた呟きの通知がスマホに届く。

 

________________________

|◯水城ゆず @V_mizuki33 ・1分

|

| 告知が遅くなってしまいごめんなさい!!

| 今度の大会、VeGamer所属の筑紫ちゃん(@38tks

| _VeG)と女将こと秋月ちゃん(@akdkaoi_VeG)

| と出ます!

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 さすがの大御所だけあって、とてつもない拡散速度だ。とりあえず私も引用しつつ宣伝し、今日は色々な意味で荒れるであろうSNSの通知を切って眠りについた。

 



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顔合わせ

遅れた理由に関しては何も言うまい
あと'//,世界3位おめでとう。


「というわけでどうも〜!水城ゆずです。みんなこんゆず~!」

 

<こんゆず~>

<こんこん>

<キターーー!>

 

「はい、というわけで今日の夜から大会の練習があるよ。今回は色々あって後回しになってたチームの顔合わせをしたいと思いまーす。というわけで自己紹介よろしく!」

 

「ゆずちゃんの視聴者さん始めまして。VeGの女将こと秋月葵ですぅ。いつもはあんまりFPSやらないんやけど、今回はせっかくお誘いいただいたわけやし、頑張りますね」

 

「というわけでまずは葵ちゃん!FPS初心者と侮ることなかれ。ジャンルは違えどVeGの名に恥じぬゲーマーさんだよ。そしてもうひとり!」

 

「こんにちは、初めまして。筑紫みやと言います。チームを引っ張っていけるように頑張ります」

 

「筑紫ちゃんはね、めっちゃ強いの。私もチーム組むにあたってアーカイブを見たんだけど、今回の大会でもトップレベルの強さをしてるし、これは私たちなかなか良いチームかも?」

 

「他にもたくさん強い人居ますし、わかりませんよ」

 

 今回の大会。私は一番トップ層のポイント換算で参加している。その結果、うちのチームは合計ポイントをほんの少しオーバーしており、その代償に私に制限が課せられている。ピックキャラを指定された中からしか選べないという制限だ。これは私から提案した制限であり、他の全チームに私自身が説明しに言って納得してもらったものでもある。といってもだいたいは全力の私と戦いたいという好戦的な相手が多かったが……。

 

「というわけでゲームのほうをやっていこうか!タイトルはこれ!」

 

 その声に合わせて画面を切り替える。コメント欄はすこしざわついていた。

 

<ホラゲーで草>

<有識ニキ、三人のホラー耐性教えて>

<上から超つよ、激つよ、無味に等しい>

<つまりだれもビビらないホラゲー配信が始まるってこと……?>

 

 このゲームはマルチプレイ可能な幽霊特定ゲームで、数々のアイテムを使いこなし、フィールドにいる幽霊の種類を当てて生きて帰ることが目的である。ちなみに水城ゆずはこのゲームの超高難易度コンテンツのソロ踏破者である。葵先輩と私は初見のゲームだが、お互いにホラーに対して忌避感はなかったのでこのゲームをやることになった。

 

「よし、それじゃあとりあえずウォーミングアップにいこうか」

 

「チュートリアルみたいなものはないん?」

 

「やってみたほうが早いから!大丈夫、そんなに難しくないから」

 

「でも私たち初心者ですよ」

 

「大丈夫!私がいる!」

 

 随分と頼もしいが、実際にそのレベルの実力と知識がある。それに流行りのゲームではあるので、実は私は他の人の配信で少しだけ内容を知っている。だというのに……

 

「水城さん!?」

 

「あかん、これどうしようか」

 

 水城さんがまさかの最初の襲撃で死亡。このゲームの性質上、死んだ人はボイチャからも切断されるため、フィールドには初心者二人が取り残された。

 

「どうしましょう先輩」

 

「うーん、とりあえず筑紫ちゃんはコレやってもらっていい?私トラックから別の機器もってくるわぁ」

 

「わかりました~」

 

<あっ単独行動>

<キャリー枠さん即4で草>

<そりゃ(ベテランとはいえ初撃避けれなかったら)そうよ>

 

「まさか水城さんが最初に脱落するとは思ってなかったです」

 

<単独行動!>

<でも筑紫ちゃんも少し知ってる感じか>

<なんか作業ゲー見てる気分だ>

 

「えっと、ここらへんでしたよね。それでここでレーダーを起動して……」

 

 キャラが手に持つレーダーが、起動した瞬間にけたたましく鳴り響く。

 

「あっ」

 

 二人目の犠牲者が、その場に転がった。

 

「アハハハ筑紫ちゃん!ようこそこちら側へ」

 

「いやぁ、死んじゃいました。葵先輩だけでできますかね……?」

 

「無理じゃないかなぁ。だってこれ多分……うんそうだね。あの幽霊だから無理だねぇ」

 

「何か条件が?」

 

「あの幽霊は凶暴だからさ。単独行動してると狩られるんだよねぇ」

 

 なるほど、どおりでさっきから単独行動について言及するコメントが多いわけだ。確かに残り1人の葵先輩は、今後ずっと襲われるリスクを考えて行動しないといけない。

 

「しかし随分と難しいゲームですね。これで一番簡単な難易度なんて」

 

「あー、それね」

 

「えっ?」

 

「嘘なんだよね」

 

 しばらく言葉が出なかった。というかなんと反応すればいいのか考えつくまで時間がかかった。

 

「実は一番難しい難易度なんだよね」

 

「はい?」

 

「しかもマップも激ムズのやつ」

 

「なるほどなるほど、そういうことですか」

 

 どうりで難しく感じるわけだ。初心者二人でどうこうできる難易度ではない。

 

「二人のコメント欄がネタバレをあまりしないでくれて助かったよ」

 

「まあ、そもそも難易度が高すぎてコメントを細かく追う余裕すらなかったですけどね」

 

「アレ?もしかして怒ってる?」

 

「いやいや、まさか。怒ってるわけないじゃないですか」

 

「うーん、やっぱりなんか怒ってるよね?」

 

「いえいえ。ただ、この恨みをどうやって返そうか考えてるだけですよ」

 

「やっぱり怒ってるじゃん!」

 

「なんて、嘘ですよ。仕返しです」

 

「あーもう、こんな人だとは思わなかったな」

 

「こんな?」

 

「ん?ああ、意外と話しやすいなって。ガチガチのゲーマーさんって聞いてたしコラボ配信も少ないから会話が続くか不安でさ」

 

「事前情報だけじゃ計り知れないってことですかね」

 

 その気持ちはわかる。私だって水城さんとのチームが決まったときは不安だった。大会である以上勝ちにはこだわりたいが、大御所が相手となっては気を使わなければいけないかもしれないからだ。

 しかし、この事前のコラボ配信を経て、そんな遠慮はむしろ失礼に値することがわかった。これなら、貪欲に勝ちを狙いに行ける。その過程の厳しい練習ですらも、水城さんなら楽しい配信にしてくれるだろう。

 

 いや、もしかするとこのドッキリ企画こそが、私にそう思わせるための水城さんなりの作戦だった可能性も……いや、さすがに考えすぎか。

 

「あっ、葵ちゃんしんじゃうねぇ」

 

「詰みですね」

 

「わー、しんでしもうたわ」

 

「おかえり~」

 

「おかえりなさい、先輩」

 

 ゲームオーバーになったことで強制的にロビーに戻され、ボイスチャットが再接続される。

 

「よし、じゃあウォーミングアップは終わったと言うことで次はこのマップ行こうか!」

 

「さすがにさっきのより簡単なやつよな?」

 

「……」

 

「あの、水城さん。コメント欄が『鬼畜DLCマップ』の文字で埋まってるんですけど」

 

「大丈夫大丈夫!私たちに敵なしだよ!」

 

 この後無茶苦茶、幽霊退治した。

 



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練習カスタム初戦

お久しぶりです
今後は感想にも返信していけたらなと思いますので、気軽にご感想ください(^^)

##投稿期間が空いたため再掲##
この小説はフィクションであり、実在の人物・団体との関係はなく、加えて実在の人物・団体を揶揄することもありません。予めご了承ください。
また、特殊な状況を扱う作品のため、「合わないな」と思った方はブラウザバックをお願いします。


「はい、こんばんは。画面と音、大丈夫ですかね?」

 

<こん~>

<わこつ>

<¥2940 大会練習ファイトぉ!!!>

 

「早速投げ銭もありがとうございます。それでは今日も始めていきますね」

 

 今晩から、今度の大会の事前練習試合が行われる。日程に都合のつくチームが集まって行われるこのカスタムマッチは、参加者の熱量やチームのストーリー制を創り出すことから視聴者層にも人気だ。

 

「このあと21時からはチームが集まってのカスタム参戦となるので、それまではソロでエイムを温めておきたいと思います」

 

 最近は配信に少し慣れてきたこともあり、射撃練習のルーティンをこなしながらも雑談を交えることができるようになってきた。

 

「最近は他のゲームをしている暇がないくらいこのゲームにのめり込んでしまいますね。大会で勝ちたいという思いが余計に外れること無い枷になっています」

 

<これ以上強くなるとかwww>

<プロにでもなるんか?>

<筑紫、お前アメリカに行かないか?>

 

「そういえばこのゲームの競技シーンの世界大会がアメリカで行われているようですね」

 

<筑紫ちゃんも大会みたりする?>

<日本人勢は……ちと壊滅か>

<ムーブは悪くないしエイムも国内最高レベルの選手ばかりなのになぁ>

 

「そうですね。私も大会をチェックしていますよ。なにせ、メタの最先端を知る一番の機会ですから。日本チームについては……あまり成績がふるわないようですね」

 

<まあ日本のFPS界隈はこれからだべ>

<悔しいけど、これが現実なのよさ>

<筑紫ちゃんからすると、日本勢は何が足りない?>

 

「私目線で、ですか?そうですね……」

 

 難しい話だ。そもそも私はこのゲームのプロではないし、分析するほどしっかりと試合も見れていない。しかし敢えて言うとするならば……

 

「あくまで素人な私の意見ですが、ムーブが60点なんです」

 

<60?>

<落単はしないけど点数低いみたいな?>

<赤点ですらないのか>

 

「おっしゃるとおり、ムーブ自体は悪くないんです。ただあまりに無難すぎる。だから他のチームに動きを読まれますし、弱いポイントも把握されている。そして何より……」

 

 バトロワという性質上どうしても付きまとう問題だ。

 

「強いチームに目をつけられやすいんです。有利ポジションというものは」

 

 最近の大会を見て思うこと。それはノッているチームほど、不利なポジションから逆転している点だ。

 

<ということは今回のカジュアル大会でも>

<そもそも誰がどのポジションをやるんやろ>

<さすがに、筑紫ちゃん前衛かな?>

 

「キャラピックについてはチーム練習の際に発表するので期待していてください」

 

 コメント欄で加速するキャラピック論争を見ながら、私は微笑を浮かべて誤魔化した。

 

 

❍✕△❑

[ひこうにん]VeGについて語りたい#565

 

66:名無しのVeG民

 大会練習カスタム開始ぃ!

 

67:名無しのVeG民

 おめぇらはVeGチーム応援するよなぁ!?

 

68:名無しのVeG民

 あったりまえだ

 

69:名無しのVeG民

 VeGチームって……真柴内藤チームのことか?

 

70:名無しのVeG民

 女将つくしチームもオセロ的にはVeGチーム

 

71:名無しのVeG民

 水城ゆずをVeGと認識するのはさすがに烏滸がましくないか?

 

72:名無しのVeG民

 ゲーム好きの女の子。よし通れ!

 

73:名無しのVeG民

 本来はこちらが土下座するレベルの大御所である

 

74:名無しのVeG民

 【速報】初戦、開幕

 

75:名無しのVeG民

 ちょっおま

 

76:名無しのVeG民

 筑紫ちゃんピックミス?

 

77:名無しのVeG民

 本人配信見てきたけど、このキャラであってるらしい

 

78:名無しのVeG民

 なになに?どしたの

 

79:名無しのVeG民

 筑紫ちゃんのキャラピックが、運営に見捨てられた男と名高いアイツ

 

80:名無しのVeG民

 前衛はるくらいしかスキルの使い道ないけど、生存スキルゼロのあいつか

 

81:名無しのVeG民

 まあカジュアル大会だし?

 

82:名無しのVeG民

 大御所の接待だと思ってたけどそうでもないのか?

 

83:名無しのVeG民

 接待だと思って来た水城、トロールピックの筑紫、FPS自体が初心者な女将、レディーファイ!

 

84:名無しのVeG民

 コメント欄今日も元気ねぇ

 

85:名無しのVeG民

 まーた配信枠筑紫だけかよ

 

86:名無しのVeG民

 そろそろモデレーターが過労死しそう

 

87:名無しのVeG民

 筑紫、兄姉をモデレーターの応援要員にする

 

88:名無しのVeG民

 今の切り抜いたか?俺は一生巻き戻してリピートしてる

 

89:名無しのVeG民

 筑紫、マイクミュート忘れで「兄さん」呼びを流出

 

90:名無しのVeG民

 あっ照れてる

 

91:名無しのVeG民

 ミッ

 

92:名無しのVeG民

 無慈悲なFPSマシーンだと思ってたけど、感情あったんだな

 

93:名無しのVeG民

 俺にも……こんな妹がいたらなぁ

 

94:名無しのVeG民

 >>93 私たちがいるよ♡

 

95:名無しのVeG民

 寒気がしたわ

 

96:名無しのVeG民

 まだ冬は長いか

 

 

❍✕△❑

 

 

「初戦はダメダメだったな!次こそは」

 

 水城さんがそうボヤくと、葵先輩も賛同する。

 

「FPSゲームに慣れてないってのがきついなぁ」

 

「いえいえ、お二人とも良い出だしだったと思いますよ」

 

 初戦で負けたのは、たしかに二人の力が他チームに及ばなかったのもあるが、何より私の判断ミスがあった。いままで分析してきたデータではいないはずの場所で接敵がおきたのだ。

 

 それもそうだ。いままでのデータというものは、プロたちや、国内の実力者たちがいる試合ばかりだったのだ。今回のチームは葵先輩のように、普段このゲームに触れていない人たちも多数出場している。その変数を計算できていなかった。

 

「まずは目標を立てようよ!次のマッチで達成できそうなくらいの」

 

「いい案やねぇ。せやったら私は今度はちゃんと武器拾えるようにするわぁ」

 

「私はえっとそうだな、目指せ1キル、かな!」

 

「ええなぁ。筑紫ちゃんは?」

 

「えっと、私ですか?」

 

 こうやってチームメイトとして意見を聞かれるのは初めてで、少しドキッとしてしまう。

 

「私は……うーん」

 

 次のマッチの目標を立てるのは、意外と難しい。初戦の結果が散々だったからこそ、次こそは脱最下位とは思うが、それだと志が低すぎる気もする。なにより……

 

「まずはこのキャラの性能を開拓するところからですね」

 

「あー、たしかに、難しそうだもんね」

 

 水城さんがそう言ってくれると、ありがたい。コメント欄ではすでに、何件もの私への批判で埋まっていた。だが、それでいい。ヘイトは全部私が受けるべきだ。

 

「だいたいのスキル仕様は把握できたんですが、やはり……強みがちょっと」

 

「まあ、そのキャラを使うって聞いたときから予想してたことやから、筑紫ちゃんのペースで覚えていけばええんよ」

 

 そうも行かないというのが私の心境だった。なにより今回の縛りについては、私自身が課したものだ。その縛りで負けたとなれば、何より私自身が私を許せない。

 

「とりあえず次のマッチはもっと集中します」

 

 

 とは言ったものの……

 

 

 その日の結果は、5戦中3戦が最下位。他2戦も上位に行くことはできず、総合最下位という最悪の初日になってしまった。

 



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個性

[ひこうにん]VeGについて語りたい#569

 

30:名無しのVeG民

 一日が終了したわけですが……

 

31:名無しのVeG民

 VeG民冷えてるか~?

 

32:名無しのVeG民

 そりゃひっえ冷えよ

 

33:名無しのVeG民

 ララちゃんとこ以外はねぇ

 

34:名無しのVeG民

 真柴姉妹が……内藤についていけないとは

 

35:名無しのVeG民

 辞書作ってこないと会話が成立しないからな

 

36:名無しのVeG民

 内藤と普通に会話してくれる女将が恋しい

 

37:名無しのVeG民

 それより女将のチームでしょ

 

38:名無しのVeG民

 バランスブレイカー二人の化学反応よ

 

39:名無しのVeG民

 女将がショートバレルショットガン2丁で走ってたところまではみた

 

40:名無しのVeG民

 それ初戦やんけ

 

41:名無しのVeG民

 筑紫氏も苦戦してんねぇ

 

42:名無しのVeG民

 そりゃあれだけ使用キャラがピーキーだと流石にね

 

43:名無しのVeG民

 なんか拍子抜けしたわ

 てっきり筑紫が破壊して回る大会になるのかと思った

 

44:名無しのVeG民

 ずっと0キルだったもんな

 女将と水城ゆずがキルできてるという現実

 

45:名無しのVeG民

 そんなに酷いんだ

 

46:名無しのVeG民

 今までの、全部チートだった説

 

47:名無しのVeG民

 ありえる

 

48:名無しのVeG民

 体調でも悪かったんかな?

 

49:名無しのVeG民

 >>46 そういうのは裏でやろうな?

 

50:名無しのVeG民

 >>49 裏でも表でも変わらんだろ

 

51:名無しのVeG民

 はいはい加熱すんなよ~

 

52:名無しのVeG民

 今日は暑いなぁ

 

53:名無しのVeG民

 ここのスレ民は暑かったり冷えてたり大変やねぇ

 

54:名無しのVeG民

 >>53 お前も同類定期

 

 

❍✕△❑

 

 

「ふわぁ~っ」

 

 大きくあくびをしてから時計を見ると、もう朝だった。カーテンの隙間からは日差しが差し込んでおり、自分が時間を忘れてゲームに熱中していたことを思い出す。

 

「だめですね。まったく」

 

 こういうことをするな、と家族から口酸っぱく言われていたことを思い出す。この熱中癖があるから、いろいろと失ってきたというのに。

 

「えっと、換気でもして、それから朝ごはんをたべて……」

 

 やることをリストアップしながら椅子から立ち上がった瞬間、グラリと視界が揺れる。

 

 あっマズイ……

 

 そう思ったときには、床に倒れ込んでしまった。

 そのまましばらく眼を瞑り、そしてゴロンと寝返りを打つ。意識がはっきりしてきたあたりで、スマホを操作して連絡をとる。今日はララちゃんと出かける予定だったが、さすがにこの体調で外に出る勇気はない。

 

 予定を断る謝罪文を送ってから、ゆっくりと起き上がる。今度はぐらつくことなく立つことができた。

 とりあえずはカロリーを取ろう。思えば昨日の昼から何も口にしてなかった。

 

 

❍✕△❑

 

 

『筑紫ちゃん本当に大丈夫なの?』

 

「ええ、少し脳を使いすぎただけですから」

 

 通話越しに心配の声を上げるのは、ララちゃんだ。急な私の予定キャンセルに驚いて、電話をかけてきてくれたのだ。

 

『うーん、でも心配だな』

 

「大丈夫ですよ。慣れてますし」

 

『よし、わかった!』

 

 その声と同時に、玄関の鍵がガチャリと開く音がした。

 

「私が看病してあげよう!」

 

 そこには、両手に荷物を抱えたララちゃんが仁王立ちをしていた。よくよく見れば両手に持っているのは近くのスーパーのレジ袋だし、中身もスポドリやゼリーなど様々だ。きっと私の体調が悪いと聞いた瞬間に飛び出すように買いに行ったのだろう。

 

「えっと、ご迷惑をおかけします?」

 

「もうほんと、迷惑だよ!心配させないでよね」

 

 口でぷんすかなどと言いながら袋から食べ物を出すララちゃんは、どこか嬉しそうだ。

 

「ご飯の管理くらい自分でしてよね~!」

 

「すみません、気をつけてたんですけどね」

 

「……やっぱり昨日のことを引きずってるの?」

 

 その問いには、つい沈黙を返してしまった。

 

「まあ気持ちはわかるよ。筑紫ちゃんほどじゃないけど、私のチームも成績は良くなかったし」

 

「ララちゃんのところは10位くらいでしたよね」

 

「うん。でももっと上を狙えるはずだった。コミュニケーションエラーが多すぎて……」

 

「大丈夫ですよ。ララちゃんのコミュニケーション力なら絶対強くなれます」

 

「ありがとう。それで、筑紫ちゃんの方はどうなの?」

 

「私ですか?私はキャラを研究したところなので、今晩の練習では私が――」

 

「違うよ」

 

 肩をガシリと掴まれてララちゃんの方を向く。ララちゃんの表情は、先程までとは打って変わって悲しそうだった。

 

「筑紫ちゃんのチームは?って聞きたいんだよ」

 

「チーム、ですか?」

 

「そうだよ。だってチームメイトが二人とも、FPSメインじゃないゲーマーでしょ?筑紫ちゃんは初めての経験なんじゃないかって」

 

「確かにそうですね。いや……でも……」

 

「もう、筑紫ちゃんらしくないよ?」

 

「私らしく、ですか?」

 

「そう!筑紫ちゃんはもっとこう、自分と敵の分析をきっちりやって、周りが何と言おうと自信をもって自分の作戦を遂行するタイプじゃん?」

 

「自分の作戦……」

 

 寝不足と体調不良で思考にかかっていたモヤが、スッと晴れた気がした。

 

「ありがとうございます、ララちゃん。おかげで今しなければいけないことがわかりました」

 

「そ、そう?……もしかして敵に塩を送っちゃったかな」

 

「そうと決まれば、二人のプレイを見直さないと!」

 

「ちょーっと待った!」

 

「……?ララちゃん?」

 

「体調不良で倒れるんだから、今日これ以上無理するのは許さないよ!」

 

「無理じゃありません。むしろコンディションが良い気すらします!」

 

「とぉっ!」

 

 ぐっと力をかけられ、私は抵抗できずにベッドに倒れ込む。体調は本調子とは言えないみたいだ。

 

「とりあえず睡眠!私、筑紫ちゃん寝るまで一生ここで圧かけるからね!?」

 

「それはそれで寝れないのでは……?」

 

 しかし、意外にも言われるがままに目を瞑れば、すぐに睡魔が襲ってきたのだった。

 

 

❍✕△❑

 

 

 目を覚ませば、すでに外は暗くなり始めていた。ふとテーブルを見ると、可愛らしい文字で『ちゃんとご飯食べてね。今夜もGLHF』と書き置きがされていた。

 

「さて、と」

 

 やることは盛りだくさんだが、シンプルだ。

 パソコンを起動し、動画配信サイトを開く。ウィンドウを分割して、3つの配信アーカイブを同時に開く。それぞれ水城さん、葵先輩、そして私のものだ。

 

「ああ、そうですよね。私らしくない」

 

 再生ボタンを押せば、昨日の敗因はすぐに判明した。

 

 昨晩の私は、こだわり過ぎていた。キャラクターの性能に呑まれて、敵どころか味方すらも見失ってしまっている。

 水城さんは常に私より遅れた位置にいて、葵先輩は逆に私の真後ろをキープしている。葵先輩はというと、自分の物資漁りをおろそかにしてまで私に着いてきており、戦闘ではその物資の弱さもあってダメージが出ていない。

 

「私が前衛じゃないほうが良いんですかね……でもそれだと強いチームに当たれないですし……」

 

 悩みどころだ。私は顎に手を当てながら、ふと葵先輩の画面を見みる。

 

「ん……?これは」

 

 それは、私が警戒できていなかった場所をしきりに見るシーンだった。

 実際その後、葵先輩が見ている方向から来た敵に対処しきれずにそのマッチで敗退したことが気にかかる。

 

「えっと……確か葵先輩の連絡先は……」

 

 チャットサービスを起動してみると、葵先輩はちょうどオンライン表記になっていた。そして追加情報として、現在ちょうどゲームを起動中のようだ。もしやと確認してみると、配信で個人練習しているところのようだ。

 

『えっと、ここって何て名前のとこや?』

 

<イーストタウンやね>

<物資うまいぞぉ>

<まあチームで降りるには激戦区すぎるけど>

 

『そうやね、あー負けや。武器がまだ把握しきれてへんなぁ』

 

 コメント欄と会話しながら葵先輩はゲーム理解を深めているところらしかった。

 普段はもっと複雑なゲームを好んでいるからだろうか。葵先輩の学習速度は目を見張るものがあった。何より、バトロワで重要な『マップに道順を引く』という能力が高い。

 

 これはもしかすると、もしかするかもしれない。

 

『あー、移動しきれへんかったなぁ。もう少し早く、いやでもそうすると他のチームにあたっとったやろうし。このゲーム難しいわ』

 

<成長意欲◎>

<移動の意識が偉すぎる>

<エイムさえあれば……>

 

『エイムはどうしようもないしなぁ。せめて別のところで貢献せんと』

 

 そう言いながらも、葵先輩は常に『視聴者の一人である私が考える、道順の最適解』で動き続けていた。

 そういえば葵先輩は、リアルタイムストラテジーというゲームジャンルが得意だった。先輩からしてみれば、たかが20チームの動きなど、片手間に把握しきれるのかもしれない。

 

 

 もしこの仮定が合っていたとしたら、先輩は私以上にバトロワのIGLに向いていると言える。

 

 

「もしそうならば……ガラリと構成を変えることができそうですよね……」

 

 その後、変な笑みを浮かべながら配信を見ている姿を兄さんに見つかり恥をかいたのは、ここだけの話である。

 



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IGL

 今晩の練習カスタムが始まる前、お二人に数分時間を頂いて、配信外で集まってもらった。

 

「葵先輩、IGLしてみませんか?」

 

「へっ?何言うてんねん」

 

「いや、『してみませんか』じゃないですね。お願いします、やってください」

 

「いやいや、無理や!私ビギナーやで?」

 

「いや、葵先輩は私並みの、いえ、ゆくゆくは私以上のIGLになれます」

 

「このゲームの武器すら把握しきれてへんのに」

 

 葵先輩は頑なに拒否する。

 それもそうか。一つの指標とはいえ、私のこのゲームのランクは格上だ。葵先輩は自ら率先してリーダーになるような性格でもない。

 

 この試合を楽しむだけならば、私がエスコートしてもいいだろう。

 しかし、勝ちたいならば、葵先輩のIGLが絶対に欲しい。

 

「なあ水城はんもなにか言うてや」

 

「そうだよ筑紫ちゃん。昨晩は頼り過ぎた私達が悪かったからさ?」

 

「いえ、昨日の敗因は決してそんな理由じゃなかったです」

 

「それじゃあ何が悪かったん?」

 

 私は昨日のことを思い出し、一度ぐっと息を呑む。

 

「私の視野が、いつも以上に狭くなりすぎていたんです。慣れないキャラ、慣れない環境、言い訳は無限にできますが、結局は私がプレイスタイルを見失っていました」

 

「筑紫ちゃんのせいだけとちがうで」

 

「そうだよ」

 

「今は反省会が目的ではないので後回しにしましょう。それで、葵先輩、どうですか」

 

「うーん」

 

 しばらく沈黙が続く。

 

「やっぱしIGLは筑紫ちゃんがやったほうがええ思う。私じゃ力不足やし」

 

「IGLを任命したのは私です。先輩の判断の責任は私が取ります」

 

「んーな、あー」

 

 葵先輩が踏ん切りがつかないのも仕方がないことだ。

 しかし、私は確信してしまったのだ。『葵先輩の指示』がこのチームに加わるだけで、一回りも二回りもチームの順位が伸びるということを。

 

「わかった。わかった。そやけどこれだけは聞かして?なんでうちがIGLをやったほうがええんや?」

 

「それは……」

 

 私は葵先輩の配信で見たことを説明する。状況把握、他チームの移動推測、そして最終円予測。どれをとっても現状で私とほぼ同格で、時には上回ることすらあることを。

 

「筑紫ちゃんから認められるレベルの……。わかった、今日だけでもやってみるわ」

 

「リスナーへの説明は私からします。だからミスしても責任に感じないでください」

 

「何言うてんねん。私、後輩に責任とらすような不甲斐ない先輩に見えるん?」

 

 やはり私は、先輩に恵まれている。

 

 

❍✕△❑

 

 

 練習カスタム2日目、第3試合。

 1~2戦目は凡退した。しかし、ムーブが良かったおかげで生存時間は昨晩とは比べ物にならない。

 

「葵先輩、次はどっちですか?」

 

「次は北や。でもピン指したほうに敵おるから、すこし迂回するで」

 

「はい!」

 

 3戦目ともなれば、葵先輩は持ち前の判断力を存分に発揮し始めた。

 そして気づけば残り部隊9で最終円まであと2段階。私達のチームにとって未知の領域まで手が届いた。

 

「……」

 

「葵先輩?」

 

「ごめんな筑紫ちゃん。これ以上は無理や。とれるポジションがどこもあらへん」

 

 今日からIGLし始めたという点を加味すれば、上出来にも程があるだろう。

 それに、安全地帯の見極めで言えば、既に私の判断を上回っている。

 

「葵先輩、ここから1位を取るために必要なポジションを逆算してください」

 

「無理や!移動中に他チームからの射線が通るんよ」

 

「いいです。高速で移動して一点突破をすれば……」

 

 私は夢中になりすぎていたのかもしれない。だから単純なことを忘れていた。

 

「あ、あのさ?」

 

「どうしました、水城さん?」

 

「このポジションを維持したらどうして駄目なのかな?だって今室内だし」

 

 チームは2人ではなく、3人だった。

 

「それに小さいとはいえ、外には遮蔽物もあるよ?」

 

 水城さんが言っている遮蔽とは、横に伸びたパイプや無造作に置かれた箱など、一人入るので精一杯な大きさだ。グレネードと同時に攻撃されれば、すぐに倒されてしまうだろう。

 

「水城はん、このままジリジリ前に詰めていくにしてもな?『決して落とされることの無い、回避や逃げに長けたキャラクター』が必要になってくるんよ。そのキャラと後衛で三角形の形を組めれば確かに耐えられるかもしれへん」

 

「なるほど、そういうことなのかぁ~。じゃあどうしよっか」

 

「他に取れるポジションは……えっと、ないなぁ」

 

 うーんうーんと頭を抱える二人を横目に、私はふと思い立った。

 

「葵先輩。もし前衛一人がエリアを取るとした場合の遮蔽を探してください」

 

「ん?えーっと、それならあそこの箱裏やね。でもあそこに進んだが最後、引いてこれる道はないで?」

 

「引かなければいいんですよね?」

 

「あっちょっと筑紫ちゃん!?」

 

 二人の制止を聞く間もなく、私は建物から飛び出した。

 

 

❍✕△❑

 

 

 私は運営スタッフD。私の企業が主催する大会の進行スタッフの一端を担っている。

 

「鐡ララつえぇ、テラワロス」

 

 『神視点』とも言われる、カスタムマッチ特有の視点から練習試合を眺めながらコーヒーを嗜んでいた。今は私の推しVtuberであるララたそがいるチーム、鐡工業が最有利ポジションをとっていたため、安心して応援できていた。

 

「ん?何か一人浮いてるポジションがいるな?でも残り部隊に欠けはなかったはず」

 

 ふと見れば、鐡ララの有利ポジションの唯一の死角に入り込んでいるプレイヤーがいた。プレイヤーネームは『筑紫みや』。ララたその同期である。噂に事欠かない人物だが、とある事件でララたそを迅速に救ったことから、ララたそファンの間では評判の良い方のVtuberだ。

 

「いやでも、その位置はさすがにきついだろ」

 

 なんとか遮蔽で射線を消してはいるものの、グレネード一つでクリアリングされるポジションだ。

 ほら、今もまた、キルポイントに飢えたチームが集中砲火で……

 

 

 えっと、生き残ってるな。

 

 

 落ち着いて見れば、ここぞというタイミングでダメージトレードを仕掛け、敵のタイミングに合わせて回復しつつ時間を稼いでいる。恐ろしいプレイヤーだ。

 

 リングの収縮にあわせ、1チームが筑紫のポジションを潰しに来る。しかし、落ち着いた様子で一人削り、グレネードで遅延、スキルで遅延、その隙に他チームも気づき加勢。

 

 あっという間に1部隊が壊滅した。しかも物資は筑紫の近くで落ちたため、全て漁ることができる。

 

 また敵のグレネードが筑紫の足元に転がる。しかしくらった瞬間にアーマーをデスボックスから抜き取り、早着替え。

 逃げスキルを持つからと詰めてきた敵を返り討ちにした。

 もちろん筑紫だけの力ではなかった。筑紫のチームメイト二人が援護射撃をしたからだ。

 

 残り5チーム、うち2チームは人数が欠けている。もしかしたら、そう感じさせる強さが筑紫にはあった。

 

 

 っといけないいけない。俺はララたそ推し。たとえ同期であったとしても応援するのはララたそ一筋だ。

 

 

 結局その後、警戒されすぎた筑紫は数チームからの同時グレネードを複数くらい、そのままチームとしても敗退してしまった。

 しかし、その強気ムーブと独特のキャラピック、そして初日とは比べ物にならない完成度を見せつけられて、心に来ない者はいないだろう。

 

「まあ、でも鐡ララチームが優勝するがな」

 

 神視点を任命されたデメリットとしては、リアルタイムでララたそ視点の配信を見れないことだろうか。




攻撃は最大の防御

次回は水城ちゃんのターン……の予定


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キャラピック

今日は投稿休むつもりでしたが、WBCを観ちゃったもんだから頑張りました
ありがとう侍ジャパン


「ほな今日はお疲れ~」

 

「はい葵先輩。おつかれさまでした」

 

「おつかれ~」

 

 3日目の練習カスタムが終わり、私たちは配信を終えて解散することにした。

 今晩の戦績は中の下くらいだろうか。3戦目が一番上位争いに食い込めたが、その後は試合内容が散らかってしまい、試合中盤で敗退してしまうことが多かった。

 

「では私も失礼しますね」

 

「あ、ちょっとまって筑紫ちゃん」

 

 私も通話から落ちようとすると、水城さんの方から引き止められた。

 

「ちょっと相談があって……」

 

「はい、何ですか?」

 

「その……私は何をすれば良いのかなって」

 

「何をというと?」

 

「いやさ、筑紫ちゃんは前衛で敵のストッパーになってくれるし、葵ちゃんはIGLをしてくれてるじゃん?じゃあ私は何なのかなって」

 

 そう言われてみると、難しいところだ。他のチームを見れば、前衛のサポートをする人、後衛の護衛をする人、はたまた自由さを活かして移動力のあるDPSとする人と様々だ。

 

 つまりははっきりと決まっていない。だから私から『このポジション』と指定することはできないのが実状である。

 

「ですので、水城さんのやりやすいポジションが最適解だと思います」

 

「うーん、それはそうなんだけどぉー!」

 

 まあ、はいわかったと納得できないのも無理はない。葵先輩ほどではないとはいえ、水城さんもギリギリビギナー枠での招待である。自分のプレイスタイルというものが定まってない状態では、そう言われても逆に戸惑うだけか。

 

「キャラクターの特徴で言うならば、前衛のサポートが最適解だと思います。でも、私が前で一人耐えるといったチームコンセプトの上だと、耐久や逃げスキルの問題から少し厳しいんですよね」

 

「たしかに今日も筑紫ちゃんの後ろで倒れちゃうことが多かったんだよね」

 

「撃ち合いでポジションをキープする私のキャラの都合上、どうしても水城さんの分の遮蔽がとれない場合が多いんですよね」

 

「でも、だからといって葵ちゃんに付いてると、何もできずに筑紫ちゃんがやられることがあったし」

 

 水城さんの使用キャラクターは索敵スキルに優れた中衛だ。前衛の私と後衛の葵先輩を支える縁の下の力持ちで、かつスキルの使用感が良く初心者におすすめされがちなキャラでもある。

 

「あと、すごく正直な話をするとさ、筑紫ちゃんも葵ちゃんも既に敵の居場所把握してる時が多いから、スキルの使い所がわからなくて」

 

「葵先輩の位置把握能力は神がかってますし、たしかにそうかもしれません」

 

「筑紫ちゃんもでしょー!まあそれでね、これもしかすると私いらないのかなって思うときがあって」

 

「そんなことないですよ!」

 

「うおっビックリした」

 

 思わず食い気味に割り込んでしまった。

 

「水城さんがいなければ、今日の3戦目であそこまで順位を伸ばせませんでした」

 

「そ、そうかな?あのときは筑紫ちゃんのスーパープレイだったと思うけど」

 

「たまたま上手くいっただけですよ。それにお二人の援護があってこそでした」

 

 お世辞ではない。二人の援護射撃があったからこそあれだけの時間稼ぎができた。

 

「それで、ですが」

 

「うん。何かな」

 

「選択肢が3つあります」

 

 なんとなく、これまでの水城さんの方向性からして答えは予測できる。しかし、水城さん本人の口からその選択をして欲しい。

 

「一つ、このキャラのまま水城さん自身が強くなる方法」

 

「うんうん、まあまずはそうだよね」

 

「次に、別の索敵スキルのキャラクターをピックすること」

 

「でも新しくキャラを勉強する時間あるかなぁ」

 

 水城さんの反応としては予想通りだ。ならば最後のこれも

 

「3つ目が、索敵キャラを使わない選択です」

 

「索敵キャラを?じゃあ代わりに何を入れるの?」

 

「それは――」

 

 私はとあるキャラクターの名前を言う。そしてしばらく水城さんの反応を待つ。

 

「そんなの絶対――」

 

 

 水城さんの反応は、私が思い描いた通りだった。

 

 

「面白そうじゃん!わかった、やろう!」

 

 水城さんの原動力。それは自分の『面白い・楽しい』という感情だ。

 きっとこの『面白い』という提案は、水城さんの心をくすぐると思った。

 

 

❍✕△❑

 

 

[ひこうにん]VeGについて語りたい#600

121:名無しのVeG民

 練習カスタム4日目どりゃぁ!

 

122:名無しのVeG民

 VeG民元気か~?

 

123:名無しのVeG民

 わい女将の客民、コメント欄見れない

 

124:名無しのVeG民

 あのチーム全員、コメ欄終わってるよ

 

125:名無しのVeG民

 い つ も の

 

126:名無しのVeG民

 もはや一周まわって、ブロックしきって見やすいまである

 

127:名無しのVeG民

 まあ、あのキャラピックだとね

 

128:名無しのVeG民

 あのチーム全然見てないんだけどどんな感じなん?

 

129:名無しのVeG民

 それぞれのキャラピックが

 筑紫→トロール前衛キャラ

 水城→後衛防衛キャラ(1パッチ前の修正で超弱体化)

 秋月→後衛索敵キャラ(操作難易度高杉)

 

130:名無しのVeG民

 うーんと、まあ去年の世界大会のチーム構成+筑紫のキャラか

 

131:名無しのVeG民

 あのときはメタだった、あのときは

 

132:名無しのVeG民

 暴れすぎたからなぁ

 だとしてもナーフされすぎだとは思うけど

 

133:名無しのVeG民

 水城氏は詳しくないからわからんが、女将とかいう別ゲーメインの人にはあの索敵キャラは合わないだろ

 

134:名無しのVeG民

 それが意外とそうでもなかったりする

 

135:名無しのVeG民

 元々IGL向きのキャラではあった

 

136:名無しのVeG民

 筑紫ちゃん個人配信で言うとったが

 女将は自分以上にIGLできるって

 

137:名無しのVeG民

 さすがにお世辞やろ

 

138:名無しのVeG民

 ランクなしさんに負ける最上位ランクさん

 

139:名無しのVeG民

 ほんとに筑紫ちゃんよりIGLできるとしたら

 ここにいる全員女将に負けるが?

 

140:名無しのVeG民

 名無しのプロニキなら勝つる

 

141:名無しのVeG民

 プロゲーマーがこんなスレにおるわけwww

 

142:名無しのVeG民

 プロゲーマーがいます

 

143:名無しのVeG民

 >>142 嘘乙

 

144:名無しのVeG民

 嘘つくなや

 

145:名無しの142

 わたしはプロゲーマーです

 

146:名無しのVeG民

 はいはい、乙

 

147:名無しの142

 わたしプロです

 優勝しました

 

148:名無しのVeG民

 こいつはおいといて、真柴・内藤チームもララちゃんとこも健闘してておじさんニッコリ

 

149:名無しのVeG民

 女将チームコメ欄に負けるなー!

 

:

:

:

 

342:名無しのVeG民

 ところで関係ないんやけど

 今シーズンのプロ大会ってどのチームが優勝したんだっけ

 

343:名無しのVeG民

 韓国やね。一人は日本人とのハーフや

 

344:名無しのVeG民

 ふーん、そっか

 

:

:

:

 

❍✕△❑

 

 

 上位争いに食い込めない。

 

 

 いまの直近の悩みはそれだった。

 そもそもこの大会は『カジュアル大会』であるということで参加をしたわけだ。

 

 しかし蓋を開けてみれば、メンバー選定・キャラ構成・試合展開に至るまで、競技時代を彷彿とさせる雰囲気が漂っている。

 

 それもそうだ。現状練習で総合一位のチームが、現役プロゲーマーにコーチを依頼している。その例に倣い、他のチームでもプロの意見を取り入れ始めた。

 

 つまり、人気配信者を使ったプロゲーマーたちの代理戦争である。世はまさに動乱の時代といった感じだ。

 

 

 だが、私たちにはコーチはいない。

 

 

「でも、今から呼んでも遅いんですよね」

 

 

 声をかけやすい縁のある人は、もうすでに他のチームと接点を持ってしまっている。直接的な関わりがある人なんてものはいないし、だからと言って呑気に募集し始めるには期間がない。

 

「ふぅ、少し休憩しますか」

 

 明日は練習カスタム最終日だ。未だに一位を取れずにいる。それどころか、上位5位以内にすら入れていない。

 

「なにか、なにか新しい刺激が……」

 

 ブレイクスルーを起こさなければ優勝は目指せない。

 上位陣の手堅く勢いのあるプレーを見て、そうぼやいた。

 



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野生のリスナー

「はい、画面と音声、問題ないでしょうか?」

 

<こんつく>

<待ってた>

<おはよー>

 

「はい、おはようございます。平日の朝からみなさん観てくれてありがとうございます」

 

<ニートなので今朝か昼かわかりません>

<筑紫ちゃんが朝と言うなら朝や>

<実際10:30はほんとに微妙な時間>

 

「さて、では先ほどSNSでも告知した通り、今日は視聴者参加型でやっていきますね。VCは聞こえないので、何かある方はチャットで発言してくださいね」

 

<待ってた>

<りょーかい>

<任せてほしい、足を引っ張って見せますよ>

 

 視聴者に新たな刺激を求めるのは間違っているのだろうか。

 なんてことはさておき、今までやってこなかった視聴者参加型配信をすることにした。大会前にやるようなことじゃないのはわかっているが、私の熱中癖のある頭を解きほぐすには最適解な気がした。

 

「では固定コメントにコード貼りますね。早いもの順です」

 

 数秒足らずで参加申請が届く。承認すれば、そこそこのレベルの人たちがパーティに入ってくる。

 

「それでは初戦、行きましょうか。あ、ちなみに初動落ち以外は一戦交代です。初動落ちの判断は私がしますので、よろしくおねがいします」

 

 

❍✕△❑

 

 

<また筑紫ちゃんの1v3!>

<なんで勝つねーん!>

<味方の人もナイスファイト>

 

 何回も勝利を積み重ねながら、私の考えは別のところにあった。

 

 楽しい。ただひたすらに

 

 ゲームとはこんなにも楽しいものだったのか、いや楽しいからゲームなのか

 

「よし、それじゃあ次行きますね!」

 

<筑紫ちゃんもテンション上がってきたねぇ>

<おもろいやんこのゲーム>

<俺も参加できっかな>

 

 勝ちに貪欲な大会は素晴らしい。負けたくないと言う気持ちが短期間にチームで出来上がるのも良い。

 

 でも楽しいという思いを忘れてはいけない。

 楽しいからこそ、上手くなりたいし、勝ちたいと思えるのだから。

 

「よろしくお願いします。それではどこに降りましょうか」

 

 そう尋ねると、リスナーさんがマップにピンを刺した。その場所は、激戦区として有名なスポットだった。

 

「えっと、降りてもいいですけど、初動落ちしても交代してもらいますよ」

 

 二人のリスナーはどちらも『ok』と短く返してくれた。

 

「右も左も敵だらけですね」

 

 驚くべきことにリスナーも強い人だったようだ。激戦区に降りて初動ファイトし続けた結果、今のところ三人とも生き残ることができている。

 しかし安置の関係もあって、未だに東西南北すべての方向から敵が迫ってきている。

 

「くっ流石にこの量はつらいですねっ!」

 

 まずは東から来た敵を返す。リスナーさんもこちらの意図を汲んでくれて、集中砲火でサクッと壊滅させる。

 

<えっぐ>

<リスナーさんもつえぇ!>

<あれ?このIDどこかで……>

 

「味方さん、強い上に私のやりたいことを全力でサポートしてくれるんですよね。相当上手いです」

 

<筑紫ちゃんのお墨付き>

<強いうえに上手いとか、勝てへん>

<勝ったな()>

 

「ちょっと集中するのでコメント欄から眼を離しますね」

 

 次の敵は、西と北からだ。東側に私たちが飛び出ているので、北のパーティを喰うようにぐるりと反時計回りに動く。

 

「くっ、さすがに敵も強いですね」

 

 なかなか高位帯のマッチのようで、高レベルの敵が多いようだ。しかも敵の殆どがVCでコミュニケーションをとっているかのような動きをする。VCが限られているこちら側としては、細かい部分の意思疎通の速度が遅れてしまう。

 

「こ、この銃声は。想定よりも早かったですね」

 

 北側のパーティに苦戦していると、東側から回り込んだ私たちをさらに回り込むように後方から攻撃を受ける。

 

「くっ、遮蔽が足りないっ!」

 

 射線を切りきれなかった私は、健闘むなしくダウンしてしまう。リスナーさんたちの援護が来るよりも前に、確殺までいれられてしまった。

 

「申し訳ないです。さて、リスナーさんの視点を見ますか」

 

 このゲームでは確殺が入ってしまうと味方の画面を観戦することができる。リスナーの戦いを見ながらコメントでも見ようかと、私は画面を切り替えた。

 

「えっと……リスナーさん、ですよね?」

 

 私の視線はコメント欄に向かうことなく、リスナーさんの観戦画面に惹きつけられてしまった。

 

<強すぎ>

<いや、これプロか?>

<このIDのプロとかいたっけ?>

 

「私は存じませんね。でも動きからすると、なかなか上位の方じゃないでしょうか?」

 

 射撃、ムーブ、そして判断。どれも高水準で完成されており、無駄がない。そのせいかゆっくり動いているかのようにすら見える。

 

<ID、特定したで>

<マ?>

<誰やったん?>

 

「私も気になります。ぜひ教えてください」

 

<えっと、プロ名義のIDは3rr0rやね>

<それって世界一位の?>

<韓国人で草>

<グローバル配信だったか>

<世界……一位です>

 

「え……本当ですか?」

 

<なんなら配信してる>

<見に行くか>

<なんならめちゃめちゃいい笑顔>

 

 私はスマホを取り出してすぐにその名前を調べた。SNSアカウントから配信先を探し出し開けば、確かに同じゲームをプレイ中だ。そしてそのIDは、リスナーとして入ってきた名前と一致していた。

 

「まさか本当にプロの方とできるとは。でも確かに、プロと言われればこの実力にも納得ですね」

 

 しかし、本当に楽しそうにプレイする。まだゲームでは多数の部隊に攻め続けられているというのに、雑談を交えながらプレイしている。

 まあ、韓国語はさっぱりなので何を言っているのかは不明だが……

 

「世界1位ですか……」

 

<すごいなぁ>

<もしかしてめっちゃすごいことではこれ>

<世界一位も見てます>

 

「この強さ、憧れますね」

 

 この人のプレイは、奇抜なスタイルではなかった。むしろ教科書に乗るかのような落ち着いたプレイ。状況判断に基づく適切さを突き詰めたかのようなプレイだ。

 しかし、華がないわけではない。キャラクターコントロールはトップレベルで、その技術を前提としてプレイスタイルが組み立てられている。

 

「ナイスチャンピオンです。ありがとうございました」

 

『ty』

『GL tukushi』

 

 そうチャットが帰ってきて、つい頬が緩む。とても貴重な機会を得たものだ。刺激としても十分だし、モチベーションも急激に上がった。

 

<うぉぉぉ>

<今シーズンも頑張れよぉ!>

<また見に行くわ!>

 

 視聴者さんたちの反応も上々である。

 

 

 この試合の切り抜き動画が何故かプロ界隈で有名になったらしいのだが、それはまた別のお話。

 

 

❍✕△❑

 

 

「こんゆず~!」

 

「こんやで~」

 

「こんばんは」

 

 個人配信を終えてしばらく経てば、チームで集まっての配信が始まる。

 

「今日は練習カスタム最終日、はりきっていこー!」

 

「水城はんの言う通りや、頑張るで」

 

「はい。今日こそは目指せチャンピオンです」

 

 ここ数日、多くの困難にさらされたおかげか、短期間でありながら随分と仲を深めることができた気がする。

 

「今日は二人とも、個人練習してたよね」

 

「まあ私は初心者やしなぁ。それにキャラの操作になれるにはプレイするのが一番やからね」

 

「少しの間見てましたけど、葵先輩本当に上達しましたね」

 

「お世辞は大会終わるまでとっといてや。それに筑紫ちゃんもおもろいことしよったみたいやん」

 

「私ですか?」

 

「そうそう、筑紫ちゃん。世界一位の人とプレイしたんだって?やるねぇ」

 

「いえいえ。本当に運が良かっただけですよ。ついていくだけで精一杯でしたし」

 

「いやいや、おいていかれるどころかむしろ先頭に立ってIGLしてた気がするけど?」

 

「水城さんの気の所為ですよ。ほら、カスタムのコードが配られましたよ、入りましょう」

 

 ナイスタイミングだ。慣れてきたとはいえ、まだ自分がVtuber『水城ゆず』の配信にのることには緊張がある。

 

「水城さんはどうですか?新しいキャラの調子は」

 

「うーん。まあ自分なりに触ってはいるんだけどね?やっぱり細かい判断を即時にしなきゃいけないのが難しいね」

 

 水城さんが使っているキャラクターは、トラップを用いて閉所を防衛する特徴があり、そのためには『強い罠の設置』を覚える必要がある。簡単な部分は私が試合中に指示できるものの、やはり細かい部分の基礎となる部分は独学でやってもらうしかない。

 

「私もまだ操作がおぼつかないこともあるし……たいへんやなぁ」

 

「……、大丈夫です。お二人の成長速度であれば、今日必ず成果が出ます」

 

 気まずい雰囲気が流れる前に、私はそう打って出る。

 

 

 なにかに基づいた発言ではなかった。

 しかし、何故か確信できる。このチームはどんどん強くなる。たかが一日しかなかろうと、それでも十分なくらいに。

 




マシュマロの存在を完全に忘れており、感想送ってくださった方がいてびっくりしました
今後も変わらずご意見ご感想受け付けてます。匿名でおくりたい!って方はどうぞご利用ください
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初めての味

「よし、一戦目張り切って行こー!」

 

「筑紫ちゃん、生きとる~?」

 

「は、はいっ!すみません少し別の作業をしてました」

 

 気がつけば一戦目のキャラピックが始まっていた。私たちのチームの構成は、今のメタとは離れているため、とても特色のあるものだ。

 

「よし、航路もバッチリだね!降りようか」

 

 ランドマークこと最初に降りる地点は、今回は運良く真下にあった。初動が早くなるのでありがたい。

 事前に決めたとおりに付かず離れずの距離で3人とも降り、効率よく物資を集めていく。

 

「水城さん、ARありましたよ」

 

「葵ちゃん、スナイパーあったよ」

 

「筑紫ちゃん、SMGあったで」

 

 一瞬の沈黙、そして誰からともなく笑いがこみ上げてくる。

 

「それではあとで集合した際に武器を交換しましょう。まずは物資と安置の確認です」

 

「了解や。安置を読むな?」

 

 葵先輩のキャラクターは、ドローンを飛ばすことで索敵することができる。そのドローンが安置読みの機械にインタラクトすることで、次の安置範囲を読むことができる。これが索敵キャラクターを入れる一番の理由と言ってもいい。

 

「ちょいまってな。今回はややこしい安置になりそうやな」

 

「遠いですね……」

 

 マップでいうと私たちが降りるのは南西の端であり、今回の安置は北東に寄っていた。こういった場合、大きく2つのムーブが考えられる。1つは急いで移動し、他のチームを追い越して先に安置に入る方法。そしてもう1つが、安置の収縮に合わせて移動し、外側からファイトを仕掛けていく方法だ。

 

「筑紫ちゃん、どっちのムーブがええかなぁ」

 

「葵先輩にお任せしますよ。どちらでも大丈夫です」

 

「そういうのが一番困るんよ……」

 

「えっとさ!」

 

「どうした水城はん」

 

「きっと筑紫ちゃんは『どちらでも私たちなら勝てます』って言いたいんだと思うよ?後入りだとファイトが多くなるけどさ」

 

「うーん、せやったら後入りムーブにしてみるわ」

 

「わかりました。それじゃあ武器を交換して進みましょう」

 

 ここ最近は水城さんも積極的に作戦会議に混じってくるようになった。そして葵先輩も、自分の判断をしっかりと伝えゲームメイクしていく姿勢が付いてきたように思う。

 

 あとは、私が成長するだけだ。

 

「筑紫ちゃん!目の前の建物と右の建物にそれぞれ1パーティずつ敵いんで!」

 

「わかりました、優先度はどっちが先ですか?」

 

「右優先やで!正面は無視してええ。それより、長引いた時は南から敵来るかもしれへんさかい気ぃつけて」

 

「わかりました、水城さん一緒に付いてきてください。ウルトを投げて建物に突入します」

 

「了解だよ!」

 

「葵先輩は外の遮蔽から索敵とウルトを。速度優先で行きます!」

 

「わかったで!」

 

 ファイトになれば私の領分だ。もちろん水城さんや葵先輩のサポートあってのことだが。

 

「一人ダウン、一人水城さんの方に向かいました!」

 

「アーマーは割ったけど……っ!私も限界!ごめん一回下がるね!」

 

「水城はん下がって回復してええよ。私がカバーに入れる」

 

「もう一人ミリです!葵先輩お願いします」

 

 連携は完璧だった。私を軸にして、水城さんと葵先輩の波状攻撃、回復を優先する安定度。あっという間に1パーティを喰い、建物内を制圧しきる。

 

「罠置くよ!」

 

「お願いします。葵先輩、周りの状況は?」

 

「想定通り。次の移動は東方向で敵はほぼいない。このまま最終安置まで接敵なさそうやねぇ」

 

「流石です。物資の数をあわせておきましょう」

 

 葵先輩の判断力はさすがの一言に過ぎる。水城さんも新たなキャラに呑まれずに手堅くスキルを使っている。

 

 今日はことごとく噛み合う。なぜかそんな気がした。

 

 

❍✕△❑

 

 

 最終安置一段階前。私達のポジションは最高だった。最低限の接敵と最速の殲滅をこなし続けた私たちは、気がつけば残り5部隊まで来ていた。

 

「葵先輩、お見事でした」

 

「おおきに。そやけどまだ最終収縮残ってんで。ポジションはたしかに有利やけど、逆に言うたら残りの全チームからヘイトを買う場所でもあるんやんな」

 

「そうですね……遮蔽も心もとないし、ここで籠城しても最終的に混戦に飛び出していかなければ勝てない……」

 

 葵先輩にIGLを任せたのは、私以上にムーブを考えるのに長けているからだった。いわばゲーム性とのマッチが良かったのである。

 しかし、一方戦闘内での指示はまだ私の方にも分がある。ここまでIGLをしてくれたおかげで、脳のキャパシティにもだいぶ余裕が残った状態でこの場に立てていた。

 

「水城さん」

 

「……ん?えっと私?」

 

「はい。水城さんにお願いなんですが」

 

 私は、水城さんに作戦を伝える。それは最善策のようで、しかし彼女には酷な判断を強いるかもしれない。

 

「葵ちゃんはそれでもいいの?」

 

「筑紫ちゃんの判断の正しさは私が保証すんで。それに、私最後生き残ってもこの武器構成じゃ戦い切れへん可能性高いさかいね」

 

 葵先輩はスナイパーライフルとハンドガンという、なんとも近距離火力に乏しい武器構成をしていた。しかし安全圏からスナイパーライフルで敵を削ってくれる頼もしい火力の1つであったのは間違いない。

 そんな葵先輩を、私はこの安置外となる建物に置いていく判断をしていた。

 

「どうしても最後までこの建物内から圧をかけ続ける必要があるんです。葵先輩、申し訳ありません」

 

「気にしいひんで。筑紫ちゃんに任せるよ」

 

「ありがとうございます」

 

 収縮のギリギリまで建物内に籠城し、最後は水城さんのスキルとともに混戦へと持ち込む。しかしその混戦となりそうな場所には1つ、優位となる高台が存在しており、いかにそこからの射線を切るかが勝敗を分ける要因となり得た。

 葵先輩のスキルとSRでの制圧射撃があれば、その場所を抑えることができるだろう。しかし、抑え続けたが最後、葵先輩が移動できる先はなくなってしまうのだが。

 

「わかった!それじゃあ筑紫ちゃんのタイミングに合わせてスキルを使うね」

 

「はい、お願いします」

 

 最終収縮が始まる。最後に向けて身を潜めていた他チームが、だんだんと安置に追い立てられて遮蔽から身を乗り出してくる。

 

 まだだ。まだ早い。

 

 葵先輩は必死に射線を通し、優位ポジションに圧をかけ続ける。

 

 まだだ。もう少しで……

 

 

 他チームのグレネードが複数入り、キルログがずらりと一気に流れた。

 

「今です!スキルを」

 

「了解!ウルトもいくよ!」

 

 狭いエリアにおいては、水城さんのウルトは最強と言っても過言ではない。それはナーフをされた今パッチにおいても、変わらない性能だ。それに加え……私の火力スキルも飛んでいく。

 

「水城はん!筑紫ちゃん!後は任せたで!」

 

 葵先輩の分のキルログが流れたと同時に、私たちは建物から飛び出す。

 十二分にダメージトレードで勝っていたため、見つける敵に弾を叩き込めばすぐにダウンしていく。

 

「筑紫ちゃん!後ろ!」

 

「っ!大丈夫です!」

 

 振り向きざまにショットガンを当て、敵をダウンさせる。そして最後に残った遮蔽にグレネードを複数投げ込めば……

 

「やったよ!やったぁ!」

 

「さすがやな筑紫ちゃん」

 

 二人の声が耳に届く。ああそうか、私たち……

 

「お二人のおかげです。ナイスチャンピオン!」

 

 初めての勝利は、格別の味だった。

 

 

❍✕△❑

 

 

[ひこうにん]VeGについて語りたい#622

 

90:名無しのVeG民

 とうとうVeGチーム初のチャンピオンか

 

91:名無しのVeG民

 まさかララちゃんとこと真柴内藤のとこをしのいで女将がチャンピオンとはな

 

92:名無しのVeG民

 初心者ですが筑紫ちゃんの使ってるキャラ専になります!

 

93:名無しのVeG民

 >>92 やめろ

 

94:名無しのVeG民

 >>92 駄目だ

 

95:名無しのVeG民

 >>92 he is troll. report plz

 

96 :名無しのVeG民

 そんな言うてやるなw

 

97:名無しのVeG民

 別にいいけどブラックリストに入れさせてな?

 

98:名無しのVeG民

 マッチ蹴られても文句言うなよ

 

99:名無しのVeG民

 いやぁ、女将めでてぇな

 

100:名無しのVeG民

 あんなに声だして喜んでる女将初めて見るかも

 

101:名無しのVeG民

 ようあんな構成でチャンピオンとるわ

 

102:名無しのVeG民

 知ってるか?あそこのIGL、女将なんだぜ

 

103:名無しのVeG民

 知ってるか?あそこのIGL、女将なんだぜ

 

104:名無しのVeG民

 連投すな

 

105:名無しのVeG民

 連投ニキワロタ

 

106:名無しのVeG民

 いやよく見ろ、別IDだ

 

107:名無しのVeG民

 双子ニキやったか

 

108:名無しのVeG民

 ララちゃんとこ大丈夫かな……

 

109:名無しのVeG民

 永遠の2番手……

 

110:名無しのVeG民

 むしろ毎回2位だから本番の総合では順位高くなるのでおkです

 

111:名無しのVeG民

 キルポとれてないからなぁ……悲しいことにならないか不安だわ

 

112:名無しのVeG民

 真柴姉妹と内藤はなんであれ仲良くできてるんだ???コミュニケーションエラーばかりなのに

 

113:名無しのVeG民

 なんでやろなぁ

 

114:名無しのVeG民

 コミュ障の俺らにゃわからないことだらけさ

 

115:名無しのVeG民

 い、い、いっしょにしないでもらえないか!!!




久々にファンタジー熱が来ており、ちょろっと新しい小説をあげてたりします。お暇があればご覧になってください
→辺境伯領と蒼水の祝福https://syosetu.org/novel/312398/

今後もつよVの方を優先して連載していきますのでよろしくお願いします


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最終戦

 朝、目を覚ますと一通のメッセージが入っていた。

 

『筑紫ちゃん起きた?今日は負けないからね。GLHF!』

 

 ララちゃんからだ。メッセージの時間帯を見ると、遅くまで練習していたらしい。きっと寝る前に送っておいたということなのだろう。

 

『はい、こっちだって負けません』

 

 私はメッセージを返し、布団から出る。今日は快晴で、室内でゲームをするにはもったいないほどだった。

 

「さて、私も準備し始めますか」

 

 PCを起動して、ゲームと配信ソフトを立ち上げる。カメラに被せていた布を取れば、私こと筑紫みやが動き始める。私が身体を揺らすのに追従して動く髪の毛が、なんともいえぬ可愛さを生み出している。

 

 自画自賛はこれまでにして、配信を準備する。もとから凝ったサムネイルや配信画面を使っているわけでもないので、数分もすればSTARTを押すだけの状態になる。

 

「さて、あーあー。マイクも大丈夫ですね。おっと、飲み物を先に取ってきますか」

<おっ?>

<こんつく~>

<画面まっくら?>

<休日やからといって朝はまだ眠いよ筑紫ママ>

<朝から練習とはやるなぁ>

<あれ?>

<画面真っ暗っておまかん?>

<いや、真っ暗やね>

<リロードしても治らないわ>

<お~い筑紫ちゃん?>

<音声もないな>

<てかこれ枠バグ?>

<わからん>

<いや、音あるぞ、かすかに>

<ホントだ、マックスにしたらかすかに聞こえるわ>

<なんかさ、水の音しない?>

<する。水というか、水の流れる音というか>

<これシャワーだよね……>

<ガタッ>

<ガタッ>

<REC●>

<あっ扉の音>

<お~い筑紫ちゃん>

<おはよ~>

 

「……」

 

<あれ?>

<まだ来てなかったか>

<帰ってきたらおこして>

 

「……」

 

<枠バグか>

<(でもシャワーの音入ってたよな)>

<(なんなら鼻歌までかすかに聞こえてた)>

<しっ言うな。アーカイブ消えるだろ>

<あっ>

<消せ消せ>

 

「……」

 

 しまった。やってしまった。

 帰ってきてみると明らかに異常な速度でコメントが流れているものだから、何をしてしまったのかと思ったら……

 

 飲み物を取るときに手が滑ってこぼしてしまい、服も濡れたためシャワーと洗濯をしていたのだが……どうやら配信がいつの間にか開始してしまっていたらしい。

 

「……えーっと」

 

<あっ筑紫ちゃん>

<こんつく~>

<何もなかった、いいね?>

 

「いや、その。完全に私のミスだと思うのでいいんですが、いや良くないですけど……」

 

<どうする?>

<アーカイブだけは!何卒!>

<切り抜き師~!!!>

 

「詳しくはマネージャーさんと話し合ってからにしますが、とりあえずアーカイブは消します。切り抜きもこの枠に限っては拒否しますので、無断で投稿されたものは通報しますね。それでは」

 

 慣れてきた頃だからだろうか、油断していた。

 もう一度配信を立てようとすると、画面端に小さく通知が表示される。

 

「配信サイトの仕様変更について……もう遅いですマネージャー……」

 

 その後のミーティングで聞いた話なのだが、私が配信枠を立てる5分前にアップデートが入り、運営陣も急いで仕様確認と通達に務めたらしい。しかし私の配信にはもちろん間に合わずといったことで……つまりは不幸な事故だったのだ。

 

「気を取り直して配信しますか……」

 

 今後は事故をおこさないよう、慎重に枠を取り直した。

 

 

❍✕△❑

 

 

「さあやってまいりました。KLM主催、ストリーマーカップ!今夜は豪華ゲストたちが集い最強の名を競い合います!」

 

 実況の声が画面から響く。数分遅延があるものの、まだ待機時間であったため、各々準備をしながら本配信を見ていた。

 

「うわぁ、緊張する」

 

「うちもこないな大会は初めてやさかい、緊張するわぁ」

 

「筑紫ちゃんは?緊張してる?」

 

「いえ、私は大丈夫ですよ」

 

「おーさすがやねぇ」

 

「頼りにしてるよ、筑紫ちゃん!」

 

 もちろん嘘だ。緊張はしている。しかし動きが固くなるほどではないし、むしろ集中力が高まって調子が良い。

 

「そういえば筑紫ちゃん……今日大変だったらしいね」

 

「ほんとうに、困りましたよ」

 

「マネはんも慌てとったもんね」

 

 すでに私の放送事故はVeG内で共有されており、ついでにSNSのトレンドにまで載ったらしく水城さんすらも知っているようだった。

 

「急な仕様変更は先に言ってほしいです」

 

「確かシャワー音も入ったんかいな?」

 

「……っ!先輩!」

 

「おちょくっただけやで~」

 

「もう……ほんとうに気づいた時は真っ青になったんですから」

 

「まあでも、おかげさまで」

 

「うん、緊張もほぐれてきたなぁ」

 

 それはなによりだが、後輩を出汁にしないでほしい。まったくこまった先輩だ。

 

「あっもう始まるみたいだよ!二人とも準備はできてる?」

 

「はい!」

 

「もちろんや」

 

「よし、それじゃあ一戦目、張り切って行こー!」

 

 筑紫みやにとっての初大会が、幕を開けた。

 

 

❍✕△❑

 

 

 各試合はあっという間に消化されていった。全5戦中、すでに4戦を終えた。

 

「うわぁ惜しかったね!」

 

「そやけど順位は伸びたで?集計はどうなってるんやろ」

 

「コメント欄の有志の方曰く、私達が現在7位だそうです。だけど2位まではたった3ポイント差、次の試合の結果では1位もありえるそうですよ」

 

「ほんまに?せやったら気合を入れ直さなね」

 

「よ~し、頑張ろう!」

 

 1位が少し抜けてはいるものの、10位以内のチームであればどこでも優勝が目指せる圏内、10位以下でも最終試合の結果によってはわからない、そんな状況だった。バランス調整が上手く言っている証拠だが、参加者側としてはソワソワとしてしまう最終戦だった。

 

「葵先輩、最後の試合のIGLなんですけど」

 

「うん?なんか気ぃつけななん?」

 

「はい。最終戦は『何が何でも』と上位を目指すチームが多くなる分、普段とは違う動きをするチームや強引な戦闘を仕掛けるチームが増えます。先入観にとらわれない指示が必要になります」

 

「なるほどなぁ。了解、気ぃつけとくわ」

 

「それと水城さん」

 

「ん?何かな」

 

「最終試合だけ、キャラクターを近距離戦のできるキャラに変えられますか?」

 

「うーん、できなくは無いと思うけど、ちょっと自信ないかなぁ」

 

「わかりました」

 

「ごめんね?変えたほうがいいよね」

 

「いえ、自信のあるキャラクターが一番です。ここ数日で今のキャラクターに自信を持てたのなら、それに勝る優位はないです」

 

「そう言ってもらえると助かるよ」

 

「それでは最終試合、集中していきましょう」

 

「了解だよ!」

 

「了解やで!」

 

 

❍✕△❑

 

 

 本当に楽しい数日間だった。

 私こと水城ゆずは、そう心の中でつぶやく。もう何度も降り続けた降下先を目指しながら、少しの間だけ過去を振り返っていた。

 

 この大会に呼ばれたときは、正直言って断ろうと考えていた。大御所という名は厄介なもので、こういったチームを組むゲームでは味方に重圧を与えてしまうことになる場合があるからだ。

 

「大丈夫です。絶対に水城さんが『楽しい』と思える試合にさせますから」

 

 最近伸びてきているVtuber事務所のVeG。その名は私の耳にも届いていた。そのCEOから直々にそう言われたのならば、私も首を縦に振らざるを得なかった。

 

 チームメイトを聞いた時に『接待』という二文字が頭の中に浮かんだのは、仕方のないことだろう。

 

 秋月葵。通称女将。普段はシミュレーションやストラテジーゲームをメインに活動しているが、そのゲームセンスは『いかに初見のゲームを早く理解するか』という点に長けている。

 

 そして筑紫みや。彼女のデビュー当時の騒ぎは私自身も観察していた。元プロゲーマーでその手腕は今も現役。そう言われている。

 

 そんな二人に挟まれてしまえば、たとえ私がいようと簡単に優勝できるだろうと思っていた。しかし、現実はそうではなかった。葵ちゃんはFPSの操作すらおぼつかないところからスタートだったし、筑紫ちゃんは難しいキャラクターしか使えないという縛りがあったのだ。

 

 そしてなにより、私はこのゲームを誤解していた。チームの平均値が高ければ勝てるわけじゃないのだ。

 

 そんな甘えが、私がこの大会のスタートダッシュを切りそこねた原因だったのだ。

 

「筑紫ちゃん!1パーティ来てる!」

 

「葵先輩!こっちに寄れますか?」

 

「水城さん?水城さん!」

 

「水城はんの方を狙い撃ちされとる!筑紫ちゃん、援護に行ける?」

 

「くっ、無理そうです」

 

 私達のチームは2チームから狙われていた。

 たしか筑紫ちゃんはこのランドマークを『キルムーブ前提の場所』だと言っていた気がする。最終安置から外れやすく、外側から安置内へと入っていくムーブをするためのランドマークだ。

 

「1パーティは倒しました!葵先輩!」

 

「ごめん筑紫ちゃん、私、限界やわ」

 

 葵ちゃんのキルログを眺める間もなく、前方から複数の射撃音が聞こえる。

 

「水城さん!」

 

「ごめん、筑紫ちゃん」

 

 油断?物思いに耽っていた?違う。私は……結局ずっと、味方に甘えていたのだ。

 

「絶対に蘇生しますから!」

 

 私はマイクをそっとミュートにして、声を噛み殺す。

 目の前には筑紫ちゃん一人が健闘している画面が、滲んで見えるのみだった。

 




次回、決着


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優勝

「絶対に蘇生しますから!」

 

 そうは言ったものの、状況的には不可能に近かった。私達を攻めてきたパーティと、追加で銃声につられて寄ってきたパーティで戦闘が始まったのだ。

 制限時間内にデスボックスからビーコンを回収しなければ、蘇生のチャンスはなくなってしまう。しかし……

 

「筑紫ちゃん、もう私たちの蘇生は諦めんと」

 

「……はい」

 

 葵先輩の言う通りだ。ここで粘ってギリギリで移動しても、圧倒的不利な状況下で生き残ることはできない。

 

 

 集中しろ、勝ち筋を見い出せ。

 

 

 遮蔽に身を隠し、一端マウスとキーボードから手を離す。私の昔からの癖、ルーティンだ。手を組みぐっと前に伸ばし、そのまま上に。そして頭の上で手を離し、グルっと肩を回す。簡単なストレッチだ。

 

「葵先輩」

 

「ん?なにか手伝えることがあるん?」

 

「はい。今後すべてのキルログを把握して、全チームの様子を推測してください。できますか?」

 

「うーん」

 

「少し欲張りでしたかね。キルログと人数の報告だけでも助かります」

 

「いや、できるで。任せといてや」

 

「本当ですか!?」

 

「たかが数十人、データを読み込んで整理するだけなら余裕やわ」

 

「わかりました」

 

 ちらりとチャットアプリを見る。まだ水城さんはミュート中から帰ってきていないようだが……

 

「水城さん、戦闘中、私の残弾とHPを管理してください。それぞれ50%と25%のときにコールしてくだされば大丈夫です。お願いします」

 

 届いただろうか。非常に申し訳ないことをしている自覚はある。しかし、私はどんなときでも勝ちを諦めたくない。そうやってezは生きてきた。

 

『ok』

 

 たった二文字のチャットが水城さんから届く。それだけで十分だ。

 

 

❍✕△❑

 

 

「さあアツくなってきました!ポイント差はどのチームもイーブン。しかも1位のチームが既にマッチから脱落しているぞ!これは上位チームだけでなく、下位チームにまで逆転のチャンスが巡ってきている!」

 

 声が枯れるまで、それをモットーにeSportsの実況に取り組んできてはや10年。今では大会実況はこの人だと太鼓判を押されるような存在になった僕だが、まだまだ声を枯らすまで実況できたことはない。

 

「さあカメラは移って……えー現在総合7位の水城チーム!ここは初動で二人が落とされ、筑紫選手のみが生き残っています。人数はいなくともこの選手ならば100人力!彼女の今後の動きにも目が離せませんね!続いてこちらのチームは――」

 

 筑紫みや。僕が試合前に密かに注目していた選手だった。なにせ、明言されてはいないものの彼女はあの『ez』だと聞く。ezといえば、日本のeSports業界が世界に羽ばたいたあの年の立役者であり、我ら実況界隈では知らない人はいないだろう。

 

 しかし……最終戦というプレッシャーに呑まれてしまったか……

 

 期待していたのだ。7位という絶妙な位置から、ezがキルムーブで優勝をかっさらっていく姿を。しかし現実は、チームメイト2人を救えず孤立、絶体絶命だった。

 

「さぁ戦闘が始まりそうです!おっと急激にキルポイントを伸ばしているのはVeGの三人で構成されたチームだ!姉妹のコンビネーションと†漆黒の力†によってあっという間に壊滅だ!これはさらに順位争いがわからなくなってきたぁ!」

 

 画面から目を話し一瞬スタジオに顔を向けると、皆画面に喰い付くように見入っていた。ゲーム好きで構成されたスタッフだから無理もないか。僕も実況に戻ろう。

 

「そして最終安置がとうとう公開!そしてその中心地の建物を取っているのは鐡ララ率いるチームだ!この完全に有利なポジション、そして守りに徹する構成!練習では永遠の2番手と呼ばれたこのチームがとうとう最終戦で優勝に王手をかける!」

 

 残りは5部隊。位置部隊は強ポジションの建物内で、その建物を囲む柵にそれぞれ4チームが残っている。しかし、そのうち1チームは……まさか?

 

「なんとこの終盤、まだ筑紫選手は生き残っている!?しかも途中でキルを拾っていることから総合順位もまだ伸びそうだ!」

 

 ところどころキルログが追えていなかったが、どうやらカメラのないところでいくつかキルを拾ってきたようである。つい『ez』と口に出しそうになるが、プロ根性でなんとか『筑紫』の名で彼女を呼ぶ。

 

「さあ最終収縮まであと10秒!とうとうこのストリーマーカップの優勝が決まろうとしています!」

 

 きっとスタッフも、そして画面の向こうの視聴者も、この展開に息を呑んでいることだろう。僕は急いで水分をとり、最後の実況をスタートさせた。

 

 

❍✕△❑

 

 

「葵先輩、もう一度確認のためにいいですか?」

 

「わかったで。まずはここの最終円中心のチーム、これは建物内やからどうしようもない。手を出すのは最後にするしかないやろうな。そして東と北のチーム。銃声の傾向からして両方とも物資はもうカツカツのはず。西のチームはハイド気味やけど、ちらっと見えた構成から建物内を制圧しに行くやろな」

 

「建物は私だけじゃどうにも成りませんし、西のチームに削ってもらいますか」

 

「まさか筑紫ちゃん、ここでもまだ優勝を狙っとるんか?」

 

「あたりまえです。諦めが悪いことで有名なんですよ、私」

 

「流石やわ。精一杯サポートするで。なあ水城はん」

 

「うん、筑紫ちゃんの管理は任せて」

 

 数分前から水城さんもVCに戻ってきて、私のHPと残弾を管理してくれている。これで私は、画面中央から目を離さなくてもすべての情報が網羅できているのだ。

 

 

 さあ、最終盤だ。目を開け、考えろ、敵の位置、自分の状態。

 勝ちはどこにある。

 

 

「行きます!」

 

 最終収縮のアラームが、スタートの合図になった。

 

「まずは東と北の敵や!漁夫って安全地帯を広げるんや」

 

「残弾半分!今ならリロードできるよ!」

 

 

 情報を処理しろ。敵はどこだ。何を見ているのか。自分が撃つタイミングは。

 

 

「西のパーティが中央とやり合い始めたみたいや。ワンダウンしたけど多分これは起こされる!」

 

「HPが危ないよ!リロードも挟まないとだから隠れて!」

 

 

 スキルを活かせ。アイテムを使い切れ。最後の最後まで立ち続けろ。

 

 

「東のパーティダウン!北もボロボロで建て直す暇ないで!中央はまだ健在!」

 

「弾半分!……後少し!……リロード!」

 

 

 遮蔽を探せ。ギリギリで戦え。絶対にダウンしてはいけない!

 

 

「ナイスキルや!あとは建物周り!」

 

「弾がもうない!あとショットガン5発!ARは0!」

 

 

 最適、最小限、一発一発を最大限に意味のあるものに

 

 

「一人!もう一人も……ナイス!!」

 

「あと1発!アーマーなし!」

 

 

 ラスト1つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

❍✕△❑

 

 

「優勝は……鐡ララチームです!」

 

 実況兼司会の人の声が響き渡る。このテンションで実況していたのか、少し声がかすれている。

 

「すみません。勝てませんでした」

 

「何謝ってるねん!」

 

「ほんとだよ!」

 

 私たちのチームは、惜しくも2ポイント差でララちゃんのチームに負けた。

 

「それに最終戦、チャンピオン取れたじゃん!流石は筑紫ちゃんだったね」

 

「二人のサポートがあってこそです」

 

「あのなぁ筑紫ちゃん。私たちはただ情報を読み上げてただけやで?」

 

「それでも二人がいたから、あそこまで画面に集中できたんです」

 

 マップやキルログ、それに自分のHPや残弾は、画面中央のクロスヘアを邪魔しないように配置されている。そのため、敵に集中しすぎるとつい情報を疎かにしてしまうことがある。

 それを二人がカバーしてくれた。お世辞でもなんでもなく、本当に二人と一緒に戦った試合だったのだ。

 

「くぅ、でも惜しかったなぁ」

 

「平たい結果になりましたね。運営もほっとしているでしょうし」

 

「今回の大会運営には頭があがらないよ!本当に良い大会だった!」

 

「とりあえず私は配信閉じてくるわ」

 

「確か水城さんもこの後」

 

「うんごめんね!用事に向かうよ」

 

「それじゃあ解散ですね」

 

「……」

 

 しばしの沈黙。すこし別れが惜しい。

 

「それじゃあ、ありがとうございました」

 

「うん、二人ともまた遊ぼうね?」

 

「水城はんから誘ってな?私らの方が暇やから」

 

「確かに、水城さんのスケジュール調整が大変そうですね」

 

「そんなこと……あるかも……。空いてる日連絡するね」

 

「はい、お願いします。それじゃあ」

 

「ほなな~」

 

「ばいば~い!」

 

 通話を切り、ふぅと一息つく。

 

「それでは配信も閉じますね。一週間、応援ありがとうございました。至らない部分も多かったですが、本番でも……順位を伸ばすことができました。それではまたお会いしましょう」

 

 配信の終了を確認して、背中を椅子に預ける。久々にあれほど集中できた。もしかするとプロ時代レベルかもしれない。しかし……

 

 

 もし1戦目で右から倒せていれば

 もし2戦目で遮蔽が足りていれば

 もし3戦目でアーマースワップをミスしなければ

 もし4戦目でチャンピオンをとれていれば

 

 

 もし5戦目であと2キルとれていれば……

 

 

「もしもし?もしもーーーーしピンポンピンポーン!」

 

「……っ!?」

 

 いつの間にか真後ろに、ララちゃんがいた。

 



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Vtuber

難産でした……お待たせしました


「どうしてここに?」

 

「だってインターホンを何回鳴らしても反応ないんだもん。また倒れてないか心配だから合鍵使ったの」

 

「ご心配をおかけしました。それと優勝おめでとうございます」

 

「うん、ありがと!でもさ、最終戦はとくにヒヤヒヤしたよ」

 

「そうですか」

 

「……まさか筑紫ちゃん気付いてない?」

 

「はい?何をですか?」

 

「最後に筑紫ちゃんと1v1したの、私だよ?」

 

 もちろん把握していなかった。キルログの管理は葵先輩に任せっきりだったからだ。

 

「はーあ、意識してたのは私だけだったかー」

 

「ララちゃんは私だってわかっていたんですね」

 

「そりゃねぇ。あんなきm……独特な立ち回りで生存し続けるなんて筑紫ちゃんしかありえないし」

 

「褒めているんですよね?ありがとうございます」

 

「あれでもし優勝を逃してたら、さっき声をかけたときに私の手に武器があったかもしれないけどね」

 

「……あはは」

 

「アハハ」

 

 正直笑い事ではないとは思うが、まあ実際にやるような分別のつかない人ではないし大丈夫だろう。

 

「さっき最後のシーン見返したんだけどさ、筑紫ちゃんの銃、最後の一発だったのわかってた?」

 

「はい、水城さんがコールしてましたから」

 

 私の答えに、ララちゃんは首をかしげた。

 

「水城ちゃんが?」

 

「はい。私が一人生存だったので、キルログとマップを葵先輩に、HPと残弾を水城さんにコールしてもらっていたんです」

 

「……それって大丈夫なの?」

 

「まさか……ルール違反でしたか?」

 

「違うよ!そういうことじゃなくて、戦闘中にずっと話しかけられるわけでしょ?集中できなくない?」

 

 なるほど、たしかにそういう意見もあるかもしれない。でも、私はクロスヘア周辺から視線を動かさないことの方がファイトに勝つために必要だった。

 

「プレイスタイルと癖ですかね」

 

「まあ確かに、筑紫ちゃんいつも、あちこちキョロキョロしてるもんね」

 

「なぜそれを……」

 

「いや、意外と配信でもわかるよ、視線の動き」

 

 VeGの2Dモデル担当の技術力の賜か。

 

「なるほどね。それじゃあキョロキョロしないほうが筑紫ちゃんは強いんだ」

 

「あくまで正面の撃ち合いが発生した場合のみですよ。普段のゲームプレイならいつもどおりのプレイスタイルのほうが勝てると思います」

 

「そんなもんかなぁ」

 

 ララちゃんはソファに腰掛けて、グーッと伸びをした。

 

「それより、ララちゃんのチームはもう解散したんですか?優勝したわけですし、二次会とかもありそうですけど」

 

「うん、二次会&祝勝会はやるよ〜。でも流石に疲れたから、一旦晩ごはん休憩ってことになったの」

 

「なるほど。確かにそんな時間ですね。ララちゃんは晩ごはんどうするんですか?」

 

「うーん、未定!でもちょっと仮眠とりたいんだよね」

 

「……もしかして私を目覚まし代わりにしようと思ってます?」

 

「良きに計らいたまえ~」

 

 まあ後に予定があるのならば、誰かに起こしてもらうのが確実ではあるだろう。

 

「良いですよ。何分後に起こせばいいですか?」

 

「20分後かな。お願いね」

 

 さすがに大会後で疲れていたのだろう。ララちゃんが寝息を立て始めるまで、3分とかからなかった。

 

 

❍✕△❑

 

 

「ふわぁ、おはよう」

 

 20分ぴったりで、ララちゃんはソファーから起き上がった。

 

「自分で起きれたじゃないですか」

 

「念のためは大事でしょ?」

 

「それもそうですね。二次会は何時からですか?」

 

「えーっとね、ちょうど0時からだってさ。あっでも……」

 

 スマホを確認したララちゃんが、なにか伺うようにこちらに視線を向けてくる。

 

「な、何ですか?」

 

「筑紫ちゃんのチームは二次会あるの?」

 

「いえ、水城さんの予定があるので今日はありません」

 

「よかったらさ二次会にこない?今他チームにも声かけたら9人集まってて、あと一人いれば5v5でゲームできるなって」

 

 大会後の二次会は、カジュアル大会ならではの文化だと思う。とくに先程まで敵として戦っていた人たちと仲良くゲームをするのは、配信者だからこそだろう。

 

「私で良いんですか?」

 

「むしろ大歓迎だと思うよ?それに他のVeGの先輩たちも来るよ」

 

「葵先輩もですか?珍しいですね」

 

 葵先輩は良くも悪くもマイペースなところがあり、普段やってるゲームジャンルの違いもあってVeG内でもソロの時間が多い人だ。

 

「わかりました。私もあとで行きますね」

 

「うん、それより晩ごはんにしよー?筑紫ちゃんはもう食べた?」

 

「まだですが、せっかくなので出前を頼んでおきました」

 

「う〜ん、できる女だね筑紫ちゃん。婿に欲しいくらいだよ」

 

「私が婿側なんですね」

 

「ウェディングドレスは私の夢だからね、嫁枠はあげないよ」

 

「ララちゃんらしいですね」

 

 純白のドレスに身を包むララちゃんを想像する。うん、イメージ通りぴったりだ。

 

 

 その後、来た出前を二人で平らげて雑談をしていれば、すぐに二次会の集合時間になった。

 

 

❍✕△❑

 

 

 二次会はというと、結局12人集まり、5v5の爆破ゲーを選手+コーチという構成で、メンバーをローテーションしながらプレイすることになった。

 そして初戦。私がダントツのスコアトップで試合を破壊してしまい、その後コーチ枠から出してもらえることはなかったのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 時は流れ数週間後。私は1つの転機を迎えていた。

 

「姉さん。もう一度言ってくれる?」

 

「だから、あなた今後、私の手伝いに徹する気はない?」

 

「モデルになれってこと?」

 

「まあ端的に言えばそうね。あなたなら日本どころか世界のトップモデルを目指せるわ。もちろん兄さんや私のマネジメントあってのことだけれどね」

 

「……、もう少し考えさせてくれる?」

 

「いいけれど……もしモデル業に専念するならできるだけ早いほうが助かるわ」

 

「分かった」

 

 今年このまま行けば、私は高校卒業の資格を得る。しかしその後のことは、未だ決めきれずにいた。

 進学か就職か……それだけではない。もしどちらを選んだにしても、『Vtuberを続けるか否か』という問題がつきまとう。

 

 

 いつまでVtuberを続けるのか

 

 

 これは全Vtuberが共通して考える、正答が存在しない問題だ。とくに受験や就活など人生の転機を迎える瞬間というのは、こういった問題に突き当たりやすい。

 

 

 私はゲームが好きだ。

 

 

 昔は家族の時間を犠牲にしてでもやり続けていたほどだし、今も熱中することは変わらない。

 

 

 私は家族が好きだ。

 

 

 兄さんや姉さんたち、皆が私に優しくしてくれる。だから、兄さんや姉さんたちに恩返しをしたい。姉さんの手伝いはその一環だ。

 

 

 私はVtuberが好きなのだろうか。

 

 

 私は配信が好きなのだろうか。

 

 

 私は、Vtuberであることが好きなのだろうか。

 

 

「あ、もうこんな時間ですか。配信をしないと」

 

 慣れた手つきで配信の準備をし、あとマウスをクリックしたら始められる段階まで進める。が、しかし、手がふと止まる。

 

「……すぐに答えがでる訳がないんですがね」

 

 マウスカーソルを動かし、パソコンをシャットダウンする。

 

 

 

 

 

 

❍✕△❑

 

 

________________________

|◯筑紫みや@38tks_VeG ・5日前

|

| 本日8時から予定していた配信ですが、諸事情で

| 急遽休むことになりました。

| 次の配信については追って連絡します

|________________________

 

 

 

 

 

________________________

|◯VeG運営@unei3_VeG ・5分前

|

| 先日未明から我が社所属のライバー「筑紫みや」

| との消息が途絶えている件につきまして、本人家族

| との連絡がとれ、本人の無事も間接的ではあります

| が確認が取れましたことをご報告いたします

| 詳細は省きますが、事件や事故等ではありません

| でしたので、ご安心ください。

| 今後の活動についてのご連絡はまた後日となります

|

| また、本件について弊社の他ライバーへの度を超え

| た追及はお控えくださるようお願い申し上げます。

|________________________

 



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[速報]

新生活でなかなか投稿まで漕ぎ着けられんかった……スマソ


[ひこうにん]tks捜索板#3

 

26:名無しの捜索隊

 もう3日か……

 

27:名無しの捜索隊

 まだ3日定期

 

28:名無しの捜索隊

 まあでも、今まで毎日呟いてたのに突然消えたからな

 

29:名無しの捜索隊

 急な休みからの……だしな

 

30:名無しの捜索隊

 おいバカ誰だララちゃんの配信に凸ったやつ

 

31:名無しの捜索隊

 心配なのはわかるけどさぁ……その投げ銭は迷惑になるだろうがよぉ

 

32:名無しの捜索隊

 ?

 

33:名無しの捜索隊

 !?

 

34:名無しの捜索隊

 これはいよいよ

 

35:名無しの捜索隊

 今外なう、3行クレ

 

36:名無しの捜索隊

 誰かがララちゃんとこに筑紫生存確認の依頼投げ銭

 ララちゃん電話するも電源ついてない

 ちょっと家いってくるわ!←イマココ

 

37:名無しの捜索隊

 合鍵……?

 

38:名無しの捜索隊

 てぇてぇか?

 

39:名無しの捜索隊

 通い妻できるやん

 

40:名無しの捜索隊

 筑紫ちゃんの方が料理うまいから通われ妻では?

 

41:名無しの捜索隊

 んでどうよ

 

42:名無しの捜索隊

 まだ帰ってこないな

 

43:名無しの捜索隊

 実は筑紫家がブラックホールになった可能性

 

44:名無しの捜索隊

 ありうる

 

45:名無しの捜索隊

 ありえる……のか?

 

46:名無しの捜索隊

 ねーよ

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

62:名無しの捜索隊

 アウストラロピテクス

 

63:名無しの捜索隊

 スイス国際空港

 

64:名無しの捜索隊

 きめぇ

 

65:名無しの捜索隊

 一生「う」で責めるやん

 

66:名無しの捜索隊

 うぅ……うぅぅぅ!

 

67:名無しの捜索隊

 今回は早かったな

 

68:名無しの捜索隊

 5人斬りとは恐れ入った

 

69:名無しの捜索隊

 しりとりしてる場合ちゃうぞ!速報速報!

 

70:名無しの捜索隊

 なに!?

 

71:名無しの捜索隊

 そうか、ここはしりとりスレではなかった!

 

72:名無しの捜索隊

 スタンド攻撃だ!スタンドの能力によって勝手にしりとりを!

 

73:名無しの捜索隊

 しりとり終わるまで出れない結界張りそう

 

74:名無しの捜索隊

 もういいから

 >>69 それで速報って?

 

75:名無しの捜索隊

 ララちゃん帰宅

 家にはいなかったらしい

 

76:名無しの捜索隊

 そりゃそう

 

77:名無しの捜索隊

 まあ家で倒れてましたとかじゃなくて良かった

 

78:名無しの捜索隊

 んでここからララ探偵の捜査が始まるんだけど

 

79:名無しの捜索隊

 ふむ、探偵ですか

 

80:名無しの捜索隊

 冷蔵庫に食べ物はなかったらしい

 ゴミも処理されてたって

 

81:名無しの捜索隊

 (冷蔵庫開けたんだ)

 

82:名無しの捜索隊

 (合鍵で侵入して躊躇なく冷蔵庫を)

 

83:名無しの捜索隊

 そして洗面所

 こっちもいくつか使ってたスキンケア用品がなかったらしい

 

84:名無しの捜索隊

 (洗面所の様子把握してんだ)

 

85:名無しの捜索隊

 んで「もしかして」ってクローゼット開いたんだけど

 スーツケースも着替えもちゃんと残ってたらしい

 

86:名無しの捜索隊

 旅行でもないと

 

87:名無しの捜索隊

 そして極め付けが……

 

88:名無しの捜索隊

 なんだよ

 

89:名無しの捜索隊

 おい?

 

90:名無しの捜索隊

 また一人消えた?

 

91:名無しの捜索隊

 こわいこわい

 

92:名無しの捜索隊

 ごめんごめん

 鼻血拭いてたわ

 

93:名無しの捜索隊

 草

 

94:名無しの捜索隊

 んで?

 

95:名無しの捜索隊

 極めつけが……

 残っている下着から推測される現在の下着が

 部屋で着ているくらいしかないはずの灰色の地味なやつらしい

 

96:名無しの捜索隊

 エッっっっ

 

97:名無しの捜索隊

 鼻血ってそういう

 

98:名無しの捜索隊

 好きだねぇ

 

99:名無しの捜索隊

 >>98 嫌いか?

 

100:名無しの捜索隊

 >>99 大好きさ!

 

101:名無しの捜索隊

 して、名探偵ララたその推理やいかに

 

102:名無しの捜索隊

 旅行でも急病でもない

 つまり迷宮入りです

 

103:名無しの捜索隊

 いやそれって

 

104:名無しの捜索隊

 行方不明……誘拐……?

 

105:名無しの捜索隊

 俺やだよ?全国ニュースでVが中身バレするの

 

106:名無しの捜索隊

 さすがにないやろ……ないでくれよな?

 

 

 

 

❍✕△❑

 

 

[デカイ]今日の胸部装甲人物特定スレ[説明不要]#3538

 

3:名無しのソムリエ

 ふむ、私のターンだ

 httlp:/www.picturup.png

 

4:名無しのソムリエ

 ん?日本人か?

 

5:名無しのソムリエ

 でもこのビーチ、ハワイですよね

 

6:名無しのソムリエ

 ビーチソムリエもいます

 

7:名無しのソムリエ

 このスレに長くいるとこうなります

 

8:名無しのソムリエ

 有名なビーチじゃない方なのによう知っとる

 

9:名無しのソムリエ

 んで、どこから拾ってきたんや

 シークバー見えとるが

 

10:名無しのソムリエ

 某数秒動画系SNS

 元動画は自分で探せ

 

11:名無しのソムリエ

 うーん不親切

 

12:名無しのソムリエ

 許せん!

 

13:名無しのソムリエ

 見つけた

 

14:名無しのソムリエ

 どうやって見つけるんやこれ

 

15:名無しのソムリエ

 投稿者知ってる人だったわ

 海外のそこそこ有名なインフルエンサー

 

16:名無しのソムリエ

 追加情報助かる

 

17:名無しのソムリエ

 それで、評価は?

 

18:名無しのソムリエ

 左が10、右が8

 

19:名無しのソムリエ

 左が8、右が10

 

20:名無しのソムリエ

 両方10

 

21:名無しのソムリエ

 左が10、右が9

 

22:名無しのソムリエ

 まあ、左の人の方が大きいしな……

 

23:名無しのソムリエ

 グラサンしてるのもなんか雰囲気醸し出してて強い

 

24:名無しのソムリエ

 右は装甲こそ劣るものの、トータルバランス的にはモデルで生計立ててそう

 

25:名無しのソムリエ

 どうやったらあんな白く細くなるんですか?

 

26:名無しのソムリエ

 そりゃ家から一歩も出ない

 

27:名無しのソムリエ

 嘘だ!俺だって出てないけどむしろ太いぞ!

 

28:名無しのソムリエ

 >>27 痩せろ

 

29:名無しのソムリエ

 >>27 食うな

 

30:名無しのソムリエ

 >>27 走れ

 

31:名無しのソムリエ

 脂身と赤身のバランスが良いですね

 シンプルに塩胡椒、それからハーブでステーキにしましょう

 

32:名無しのソムリエ

 >>31 ヤメテクレメンス

 

33:名無しのソムリエ

 人生で1番痩せようと思った瞬間だったわ

 

34:名無しのソムリエ

 野生のカニバリストもいます

 

35:名無しのソムリエ

 本題戻るぞ

 特定できそうか?

 

36:名無しのソムリエ

 動画の……右の子の声いいなぁ

 

37:名無しのソムリエ

 姉妹か……

 

38:名無しのソムリエ

 妹さん!お姉さんをください!

 

39:名無しのソムリエ

 んじゃ俺は妹の方を

 

40:名無しのソムリエ

 は?許さんが

 

41:名無しのソムリエ

 腹を切れ、解釈いたす

 

42:名無しのソムリエ

 火刑に処せ

 

43:名無しのソムリエ

 ドンタッチ、イフユワナリブ

 

44:名無しのソムリエ

 日本語でおk

 

45:名無しのソムリエ

 英語ならアルファベット使えや

 

46:名無しのソムリエ

 んで特定はどうなったんじゃ

 

47:名無しのソムリエ

 え?

 

48:名無しのソムリエ

 >>46 もしかしてまだ特定できてない?

 

49:名無しのソムリエ

 小学1年生レベルだぞ?

 

50:名無しのソムリエ

 もしかしてファッション誌とかご存知でない?

 

51:名無しのソムリエ

 当たり前のように履修してるお前らの方が怖いよ……

 

52:名無しのソムリエ

 いうて有名なとこやぞ

 

53:名無しのソムリエ

 あー聞いたことあるわ

 

54:名無しのソムリエ 

 見つけたー、へぇ

 

55:名無しのソムリエ

 デザイナーとモデルの姉妹か

 

56:名無しのソムリエ

 遺伝子仕事してらぁ

 

57:名無しのソムリエ

 お姉ちゃんもたまにモデルやってるわけね

 

58:名無しのソムリエ

 でもなんかなぁ、声聞いたことあるんだよなぁ

 

59:名無しのソムリエ

 気のせいやろ

 

60:名無しのソムリエ

 これで実は「〇〇の中の人でした!」とかだったら笑うわ

 

61:名無しのソムリエ

 なんかここ最近で何回も聞いてたんよな

 

62:名無しのソムリエ

 インフルエンサーか?でもインフルエンサーに自信ニキが起きてこないからなぁ

 

63:インフルエンサーチョットワカル

 いやぁ見たことないね

 

64:名無しのソムリエ

 うわ本人きた

 

65:名無しのソムリエ

 降臨したか

 

66:名無しのソムリエ

 何回も聞くようだけど顔を知らないような間柄?

 

67:名無しのソムリエ

 んでインフルエンサーでもないと

 

68:名無しのソムリエ

 あ、わかった

 

 

❍✕△❑

 

 

[速報まとめブログ]

【速報】失踪Vtuberさん、まさかの方法で顔バレする【すごい美人】

 

4日前から音沙汰の無くなっていたVeG所属のVtuber「筑紫みや」の行方は?顔バレした経緯、その気になる顔について調べてみました!

 

・筑紫みや とは?

 ゲーム好き女の子の集うVtuber事務所VeG、そこで昨年デビューして——

 



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【雑談】近況報告と今後のお知らせ【VeG】

[ひこうにん]tks捜索板#38

 

54:名無しの捜索隊

 見つかったマ?

 

55:名無しの捜索隊

 >>54 ああ、最悪の形でな……

 

56:名無しの捜索隊

 お通夜かな?

 

57:名無しの捜索隊

 まあお通夜

 

58:名無しの捜索隊

 顔バレしてるVなんてたくさんいるだろ!

 

59:名無しの捜索隊

 そりゃそうだが

 

60:名無しの捜索隊

 VeGも別に顔バレ自体はあるしな

 

61:名無しの捜索隊

 記事みてきた

 めっちゃ美人やんけ

 

62:名無しの捜索隊

 火種に事欠かないなぁ

 

63:名無しの捜索隊

 まあ生きててよかったよ

 正直ダメかと思ってた

 

64:名無しの捜索隊

 それはそう

 無事が何よりよ

 

65:名無しの捜索隊

 突然連絡途絶えるのは怖過ぎるんよ

 

66:名無しの捜索隊

 ララちゃんが触れちゃったのが騒ぎ大きくした原因ではあるけどね

 

67:名無しの捜索隊

 つくララてぇてぇの供給があったからギリプラス収支か

 

68:名無しの捜索隊

 てかあのサイト嫌いすぎて読めてないんだけど

 経緯教えてくれへんか?

 

69:名無しの捜索隊

 >>68

 海外インフルエンサー、ビーチで美人に声かける系の配信をする

 筑紫ちゃん、なぜかビーチにいて配信に映り込む

 別のスレの連中が声を聞いて特定

 アフェブロ、記事へ

 

70:名無しの捜索隊

 俺も読みいけてなかったから助かる

 

71:名無しの捜索隊

 どうすんだよこれ

 

72:名無しの捜索隊

 まあ知らんぷりじゃない?

 

73:名無しの捜索隊

 それはそう

 

74:名無しの捜索隊

 問題は……なんかなぁ、筑紫ちゃんなんだよなぁ

 

75:名無しの捜索隊

 なんか、なんか言わんとすることはわかる

 

76:名無しの捜索隊

 アンチとファイトするタイプやからな……

 

77:名無しの捜索隊

 でもさすがに、「私の中身はコレです」なんてやらんやろ

 

78:名無しの捜索隊

 さすがにマネが止めるやろ

 

79:名無しの捜索隊

 とりあえず俺……雑誌買ってきます

 

80:名無しの捜索隊

 ファッション誌なんて買ったことないが、どこに置いてある?

 

81:名無しの捜索隊

 レディース向けのファッション誌を買いに走るオタクたちの姿が……

 

82:名無しの捜索隊

 おまえら正気か?

 

83:名無しの捜索隊

 顔バレはなぁ、いつ見てもキチィ

 

84:名無しの捜索隊

 間違いであってくれ

 

85:名無しの捜索隊

 お?

 

86:名無しの捜索隊

 あ

 

87:名無しの捜索隊

 ようやく本人出てきたか

 

88:名無しの捜索隊

 明日か

 

 

❍✕△❑

 

 

________________________

|◯筑紫みや@38tks_VeG ・20秒前

|

| 連絡が取れずにすみません

| ようやくゴタゴタが落ち着いたので

| 近況報告と今後について明日の夜、お話します

|________________________

 

 

 投稿した呟きを読み直して、ぐっとつばを飲み込む。私は、Vtuberとしての禁忌の1つに触れようとしていた。

 

 Vtuberはバーチャルな存在。中の人などいない。

 

 それがこの業界での共通認識であり、暗黙の了解である。だから、顔バレ記事が出ようと、前世バレしようと、「私とは関係ない誰か」であるように振る舞う。

 

 かくいう私だって、「私=筑紫みや」であるとは思ってない。しかし、ファンが熱心であればあろうとするほど、「筑紫みやの中身」という情報に触れることは多くなる。ましてやこれだけ大きな火となって燃え上がっていれば、なおさらだ。

 

「でも、もういいかな」

 

 私だけならまだしも、今回の炎上は姉さんにまで迷惑をかけた。姉さんは優しいから『気にしなくていいのよ』と言ってくれている。しかし、それに甘えるわけにもいかない。

 

 そろそろ、独り立ちする時間だ。

 

 

❍✕△❑

 

 

「はい、おまたせしました。こんにちは皆さん」

 

<こん~>

<とんでもねぇ、待ってたんだ>

<元気だった?>

 

「はい、おかげさまで。さて、早速ですが本題に入りましょうか」

 

<おっ>

<心の準備が>

 

 私は用意した台本を取り出し、すぅと息を整える。

 

「まずは謝罪から。この度は皆さんにご心配をおかけしました。本当にごめんなさい」

 

<謝れてえらい>

<こちらこそ大騒ぎしてごめんやで>

<まじで心配した>

 

「まずは連絡がない間どこにいたのかですが、海外に行ってました」

 

<海外?>

<バーチャルバカンスか>

<あー>

 

「急遽行くことになってほぼ着の身着のままででかけまして。ついでに携帯もつながらなくなりました」

 

 事実を述べる。しかし、噂の「筑紫みやの中身」との関係は直接明言しない。

 

「それで目的地まで数時間連絡が途絶えたわけでして、着き次第すぐに連絡をいれようと思ったんですが……携帯回線のトラブルがちょうど起きてまして、しかもロストバゲージまでする始末。本当に散々でした」

 

<運なさすぎ>

<お祓い行ったほうがいいよ>

<それ荷物どうしたん>

 

「もう諦めて現地でだいたい揃えました。そして時間をつぶしてようやく回線が復旧したころには……とんでもない状況になってまして」

 

<とりあえず不運だったことはわかった>

<海外ねぇ>

<誰と行ってたん>

 

「一人でしたよ」

 

 嘘ではない。移動したのは一人で、後に現地で姉さんと合流した。

 

<嘘だろ>

<海外なら確定では>

<本人確定やん>

 

 そんなコメントが流れてはモデレーターによって消されていく。無視だ。とにかく無視。筑紫みやはそんな存在を知らない。

 

「近況報告としてはそんなところですかね。そして今後について少し話しましょうか」

 

<今後?>

<まさかね?>

<海外にまた行く感じ?>

 

「えっとそうですね……」

 

 台本を持つ手が震える。やはり、自分の口から言うのは難しい。しかし、言わなければいけない。

 

「大事な、とても大事な話があります」

 

<嘘やろ……>

<泣かないで>

<まさかのまさかやん>

 

「私、筑紫みやは、権利譲渡の都合上、VeGでの活動を卒業することになりました。それに伴い、『筑紫みや』という存在も、一時凍結されます」

 

<は?>

<権利譲渡ってなんだよ>

<一時ってことは復活するんよな?>

 

「残念ですが、復帰の予定は今のところはありません。権利譲渡先がどのような扱いをするのかは『私の口から』は言えませんので」

 

<頭バグってきた>

<VeG……どうしちまったんだよ>

<譲渡先ってどこ?>

 

「その辺については、今後運営さんから出る公式告知をお待ちください。すぐ出る予定だと聞いています」

 

 コメント欄は、今日いちばんの速度で流れている。悲しむ声、感情を顕にする声。筑紫みやはこんなにも多くの人に愛された存在だった。それだけで私は満足だ。

 

「以上です。ここまでお付き合いくださりありがとうございます。それではまた、バーチャルの世界で皆さんと巡り合えることを願いつつ、終わりとさせていただきます。本当に、ありがとうございました」

 

<ちょっと!>

<もう終わり?>

<卒業配信してよ!!!>

<何なの……>

<どうして>

=======この配信は終了しました======

 

 



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「筑紫みや」に関するご報告

         「筑紫みや」に関するご報告

 

 

VeGamerを応援していただき、誠にありがとうございます。この度、弊社所属Vtuberである筑紫みやに関する重要なお知らせがございます。

 

この度、弊社は所属Vtuber「筑紫みや」の権利をeSportsチームVenomous Vipers(以下VV)に譲渡することとなりました。この譲渡に伴い、筑紫みやのすべての権利・権限はVV様に一任されます。

 

当事務所としては、Vtuber「筑紫みや」の成長と活躍に誇りを持っておりました。彼女の才能あふれるプレイや魅力的なトークは、数多くのファンに愛され、支持され続けてきました。しかし、様々な要因により、本譲渡の締結に至らせていただきました。

 

VVは優れたeSportsチームであり、筑紫みやの新たな展開と成長をサポートしてくれると確信しております。彼女の今後の活動については、VV様からの公式発表をご確認ください。

 

なお、弊社では今後の筑紫みやの活動に関して情報提供を行うことができません。質問やお問い合わせに対しては、申し訳ありませんがお答えすることができませんので、ご了承ください。

 

引き続き、VeGamerと所属Vtuberたちへのご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

 

 

株式会社VeGamer

 

 

❍✕△❑

 

35:名無しのVeG民

 筑紫ちゃん……

 

36:名無しのVeG民

 どういうことだってばよ

 

37:名無しのVeG民

 俺にもわからん

 

38:名無しのVeG民

 だれかVVってチームについて知ってる?

 

39:名無しのVeG民

 不明

 

40:名無しのVeG民

 結論、そんなチームはなかった

 

41:名無しのVeG民

 なかった?

 

42:名無しのVeG民

 できました。今朝

 

43:名無しのVeG民

 は???

 

44:名無しのVeG民

 結局移籍なの?

 

45:名無しのVeG民

 なんかそんな感じじゃないよね

 

46:名無しのVeG民

 権利・権限の譲渡ってなんや

 

47:名無しのVeG民

 まあ、少なくともガワの使用権?

 

48:名無しのVeG民

 中身も含まれるんかな

 

49:名無しのVeG民

 中身込みでの譲渡ってそれなんて人身売買

 

50:名無しのVeG民

 つかそれなら普通に移籍って書くだろ

 

51:名無しのVeG民

 あっ

 

52:名無しのVeG民

 どうした

 

53:名無しのVeG民

 あーっと、この板で言っていいかわからん

 

54:名無しのVeG民

 気にせず言ってええぞ

 NGなら数分書き込めなくなるだけや

 

55:名無しのVeG民

 そんならいうが、これ→@ezez_VV

 

56:名無しのVeG民

 あっ

 

57:名無しのVeG民

 これは

 

58:名無しのVeG民

 筑紫→ezってこと?

 

59:名無しのVeG民

 いや、まだわからんだろ。同じチームなだけかもやし

 

60:名無しのVeG民

 残念ですが……→44k3k20d2824k.png

 

61:名無しのVeG民

 『近日公開!』じゃねえんだわ。このシルエット筑紫ちゃんのガワだろ

 

62:名無しのVeG民

 配信サイトでもアカウント立ち上がってるぞ

 

63:名無しのVeG民

 VeGを捨ててez名義に戻るわってこと?

 

64:名無しのVeG民

 だとしてもプロチーム所属はおかしくない?

 

65:名無しのVeG民

 プロ活動するんかな

 

66:名無しのVeG民

 それこそ筑紫名義でいいだろうし、そんな新興チームにほいほい入るタイプではないやろ

 

67:名無しのVeG民

 あのさ、一つ仮定なんだけどさ

 

68:名無しのVeG民

 おう

 

69:名無しのVeG民

 聞いてやろう

 

70:名無しのVeG民

 VVって筑紫ちゃん、もしくはその近しい人がオーナーなんじゃね

 

71:名無しのVeG民

 あー

 

72:名無しのVeG民

 なんとなくお嬢様っぽいし、金持ちそうだよな

 

73:名無しのVeG民

 兄姉いるって言ってたしな

 

74:名無しのVeG民

 おい配信サイトの方更新あったぞ!来週の土曜に初配信だとよ!

 

75:名無しのVeG民

 そろそろスレ移るか

 

76:名無しのVeG民

 VeGのことを話す場だもんな……

 

77:名無しのVeG民

 じゃあの、tks民

 

 

❍✕△❑

 

 

222:名無しのtks民

 はい

 

223:名無しのtks民

 VeG捨ててどうすんねん……

 

224:名無しのtks民

 つくらら民息してるか~

 

225:名無しのtks民

 もうコラボ見れないのかな

 

226:名無しのtks民

 Vtuber界隈としては一応、他箱に転生したV同士が第三者経由でコラボすることはある

 

227:名無しのtks民

 ただ今回ばかりは前例がないしなぁ

 

228:名無しのtks民

 ezがどう活動していくかにもよる

 

229:名無しのtks民

 てかさ、結局筑紫ちゃんはいなくなってガワをezが使うわけ?

 

230:名無しのtks民

 そうなる……のかな

 

231:名無しのtks民

 なにぶん、公式反応がないからな

 

232:名無しのtks民

 噂をすればなんとやら、VVの公式サイト立ち上がったで

 

233:名無しのtks民

 グッドタイミング

 

234:名無しのtks民

 えーっと

 

235:名無しのtks民

 サイトおっも

 

236:名無しのtks民

 見れたやつ要約してくれ

 

237:名無しのtks民

 ・筑紫みや の文字なし

 ・3ゲームの部門同時設立

 ・上記に加え、ストリーマー部門が存在する

 ・ストリーマー部門紹介に『ez』の名前がある

 

238:名無しのtks民

 つまりVeGからVVに移籍して名義変更?

 

239:名無しのtks民

 そうかな、そうかも

 

240:名無しのtks民

 速報、ezの声が出る

 

241:名無しのtks民

 筑紫ちゃんだった?

 

242:名無しのtks民

 展開早いな、筑紫ちゃんデビュー時を思い出す

 

243:名無しのtks民

 懐かしいなぁ、電撃デビューだったもんな

 

244:名無しのtks民

 感傷に浸ってるところ悪いが、『筑紫ちゃんの声と似ても似つかないぞ』

 

245:名無しのtks民

 は?

 

246:名無しのtks民

 え、

 

247:名無しのtks民

 ほんとだ……誰だこのハスキーボイス

 

248:名無しのtks民

 筑紫≠ezだったってこと???

 

249:名無しのtks民

 ガワと声くらい合わせろよな……帰ってきてくれ

 

250:名無しのtks民

 わかんないっすわ……もう何も

 

 

❍✕△❑

 

 

【初配信】うっす【ez】

==◯月XX日(土)19:30から配信予定==

 



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【初配信】うっす【ez】

<待機>

<待機>

<待機>

<全裸>

<待機>

<待機>

<なんか裸のやついなかったか?>

<待機>

<待機>

 

 コメント欄を眺めながら、私はふぅと息を吐く。待機画面は『筑紫みや』のシルエットで作った手抜きのもののみで、配信タイトルも「うっす」の一言だけ。そんな魅力のカケラもない配信にこれだけの人が待機しているのは、ひとえに『筑紫みや』そして『ez』のネームバリューの大きさによるものだ。

 

「さて、始めますか」

 

 私は慣れた手付きで開始ボタンを押した。

 

「はい、どうも」

 

<きたー!!!>

<はじめまして>

<うお、声かっこよ>

 

「はい、なんかね、思った以上に人が多くて緊張してんだけど、やってくよ」

 

<画面待機のままだぞ>

<配信初心者か?>

<おちつけよ>

 

「うおっと、申し訳ない。それじゃ」

 

 私は用意していた画面へと切り替え、コメント欄を少しの間眺める。

 

<えっ?>

<あー、そういう>

<江戸>

<ダーク◯紫>

<悪堕ちですかい>

 

「えーっと、コメント欄大盛り上がりだね」

 

 元のガワであった筑紫みやはキレイ系の落ち着いた服を着ていた。しかし今使っているガワは顔こそ残しつつも、肩や腹部が露出した、サイバーパンクみのあるVtuberらしいデザインをしている。

 

<筑紫ちゃん返せよ>

<ezカス>

<VeGに返せ>

 

 もちろんそんなコメントまで流れる。こんなコメント、拾ってしまえば炎上まっしぐらだろう。だから私はそっとコメントをクリックして……

 

 

<<ezカス>>

 

 

 画面上にコメ主のアカウントごとどうどうと表示した。

 

<ちょっおま>

<エグいって、無敵か?>

<これ、初配信です>

 

「申し訳ないんだけどさぁ、モデレーターとかを今のところ導入しないつもりだから、こういうコメントも流れると思うんだよね。あと別箱のVの名前出されても反応できないから、そういうマナーわかんないやつは半年ROMってな」

 

<ハイ>

<一応は企業所属だろ、いいんか?>

<ええんやろなぁ>

 

「ああ、その点に関しては……」

 

 私はVVのホームページを表示する。そして会社概要をクリックし、ある箇所にマウスカーソルをあわせる。

 

「これ。これが私なので大丈夫です」

 

<えーっと>

<オーナー本人で草>

<真名バレが初配信の女>

 

「ついでに多分、どうせやるやつが出てくると思うから先に釘打っとくけど」

 

 私は画面を表示したまま検索欄に自分の本名を打ち込む。検索をかければ出てくるのは、私が被写体の写真たちだ。

 

「本業はこっち。だから本人ですか?とかなんとか言って事務所に凸して来るなよ?一回説明したかんな?」

 

<顔バレ>

<バレというか自己開示というか>

<Vとは……いやVじゃないのか?>

 

「まあそこらへんの定義は難しい話になっちゃうけどさ。別に君たちはVを見に来てるわけではないんでしょう?」

 

<あー>

<うんまあ、俺はそう>

 

「じゃあVじゃなくていいかな。君たちが見てくれるんだったら」

 

<いまドキっとしたわ>

<父さん母さんごめん、俺は……推すよ>

<ていうかさ、ezはあのezなの?>

 

「『あのez』ってなに?」

 

<そっちは違うんか>

<誰なんだ>

<今日は自己紹介配信のみ?>

 

「ああ、そうだった。早速本題に行かなきゃ。今日はこのあと……いやなんでもない」

 

<お?用事か?>

<クンクン、これ男です>

<早速掴んだ視聴者層を手放していくのか>

 

「安心してよ、女の子だよ。ただちょっと……話が長引きそうだからね」

 

 このあと『話してくれるんだよね』と短文でDMを送ってきた相手の対応をしなきゃいけない。だから時間は限られている。

 

「というわけで、ゲーム、やっていくよ」

 

 私はゲームの起動画面を配信にのせる。

 

 

 それは、『ez』が世界1位となった、あのゲームだった。

 

 

❍✕△❑

 

 

332:名無しの裏VV民

 はい

 

333:名無しの裏VV民

 えーっと、初配信?お疲れ様でしたわね

 

334:名無しの裏VV民

 あのプレイの仕方は……

 

335:名無しの裏VV民

 競技時代→44kjsa20fsdsah.mp4

 筑紫時代→jfa90uasfjasfas.mp4

 さっきの→jgiasdeiapsa.mp4

 

336:名無しの裏VV民

 完全にこれ

 

337:名無しの裏VV民

 同一人物です……

 

338:名無しの裏VV民

 プレイ見てわかるもんなの?俺には全然わからん

 

339:名無しの裏VV民

 わかる

 

340:名無しの裏VV民

 癖?視点の動かし方とか結構個人差でる

 

341:名無しの裏VV民

 あとはもう、こんだけ敵位置把握してプレイするのはezしかいないよな

 

342:名無しの裏VV民

 これがストリーマーでオーナー?VVってどうなるんだ

 

343:名無しの裏VV民

 応募条件:ez以上のプレイスキル

 

344:名無しの裏VV民

 誰も入らん

 

345:名無しの裏VV民

 あ

 

346:名無しの裏VV民

 どしたん?

 

347:名無しの裏VV民

 ちょっと前にいろんなチームからちょくちょく人が抜けたタイトルが合ってだな……その人達がezのことフォローしてるわ

 

348:名無しの裏VV民

 どんな人たちよ

 

349:名無しの裏VV民

 えーっと、5人中3人が世界経験者

 1人が他2作品で海外チームにいた経験のあるレジェンド

 ラストにもう1人……

 

350:名無しの裏VV民

 えぇ、こいつって

 

351:名無しの裏VV民

 ezと一悶着あったやつだよね

 

352:名無しの裏VV民

 もしほんとにこのメンツでチーム組むなら激アツだぞ

 

353:名無しの裏VV民

 世界取りに行く気か

 

354:名無しの裏VV民

 そりゃez様なら当たり前よ

 

355:名無しの裏VV民

 でも世界でプレーするez様見たかったな……

 

356:名無しの裏VV民

 本業もお忙しそうですし

 

357:名無しの裏VV民

 海外インフルエンサー君さぁ

 

358:名無しの裏VV民

 国内外問わず行ったり来たりしてるみたいじゃん

 

359:名無しの裏VV民

 Vの顔も持つプロゲーミングチームオーナーを兼任する元Vtuberの売れっ子モデル

 

360:名無しの裏VV民

 ごちゃごちゃで草

 

361:名無しの裏VV民

 元世界王者ってのが抜けてるぞ

 

362:名無しの裏VV民

 カオスだ

 

363:名無しの裏VV民

 だからこそ気に入った

 

364:名無しの裏VV民

 こういうの好きだよね、tks時代から

 

365:名無しの裏VV民

 どっちかというとezらしさかな

 

366:名無しの裏VV民

 本人が満足してるならヨシ!

 

367:名無しの裏VV民

 燃えねえかなぁ

 



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エピローグ

 私は初配信の反応を見ながら、コーヒーを啜る。今日はマスターがブラジル現地まで行って仕入れてきたシークレットブレンド。独特の苦味とキレのある味が舌を滑る。

 

「随分と機嫌が良さそうだね」

 

「そういうララちゃんは、これでもかというくらい怒ってますね」

 

「そりゃそうでしょー!」

 

 ララちゃんはより一層頬を膨らませながらコーヒーカップを置く。

 

「ほんとに何も相談せずにいなくなって、かと思ったらなんか突然デビューするし」

 

「ご心配おかけしました。すみません」

 

「ふーん。その口調も気に入らない」

 

「口調?前となにか変わりましたっけ」

 

「そうじゃなくてさ、筑紫ちゃん。いやez」

 

「……あーこっちのこと?」

 

「急に目の前で切り替わるとウゲッとなるなぁ」

 

「リクエストされたから答えただけなんだけどなぁ」

 

「それで、さ?」

 

 ララちゃんはケーキをつついていたフォークで私を指し示す。そういうの行儀よくないからやめたほうがいいと思いますまる。

 

「どっちが素なわけ?」

 

「どっちが……どっちもですよ」

 

 別に私は二重人格でもなければ、ezや筑紫みやを『演じていた』わけでもない。

 

「外行きで客人と会うような礼儀正しい私が元筑紫、そしてそうでもない、ただゲームをしているだけの私がezですかね」

 

「じゃあ私は客人扱いってこと?」

 

「というより、ezの方は人前では出さないだけです。これまでも一人でゲームをしているときだけの存在でした」

 

 ezの方が出ていたのは、配信外のソロゲーム中くらいだった。vcで聞いたことがある人すらいないはずだ。

 

「うーん、でも納得いかないよ、VeGじゃなくなっちゃうなんて」

 

「それは、すみません」

 

「まだ筑紫ちゃんといろんなことしたかったのに」

 

「いろんなこと……ですか?」

 

「一緒にゲームしたかったし、雑談配信とかさ、オフコラボもあるし、あとは……一緒に大会に出るとかさ」

 

「……そうですか」

 

 

 転生したVtuberに対しての世間のあたりはそれほど甘くない。もしezとララちゃんがコラボだなんてしてしまうと、ララちゃん、ひいてはVeGにまで迷惑をかける事態になる。

 だから、転生した人は元の事務所がNGになることが多い。顔出ししていると尚更だ。

 

「まあでも」

 

「……ん?筑紫ちゃん、今度は何を企んでるの?」

 

「企んでるだなんて酷い言われようですね」

 

「あ、ごめん」

 

「気にしないでください。むしろそのくらいがezらしいですし」

 

 我が道を行くこと。それがezとして活動するときに決めたルールだ。

 

「私に策があります」

 

 用は、コラボ配信じゃなければいいのだ。

 

 

❍✕△❑

 

 

「さぁ始まってまいりました、第3回ストリーマー大決戦!いよいよ最後のイベントです!」

 

 司会進行の声によって、今回の目玉である企画マッチが開催される。

 

「まあ、時の運次第だね」

 

<ezなら誰と組んでも最強よ>

<誰と組みたいとかある?>

 

「うーんと、そうだな。なかなか絡めない人?」

 

<大御所狙ってけ>

<新規参戦の俳優勢も>

<ここでVを一摘みっと>

 

「Vはさすがにまずいね。燃やしちゃう自信がある」

 

<火炎放射器かよ>

<というより火だるまで突っ込んでくほうが近い>

<ホント害悪>

 

「おいおい言いすぎじゃない?さすがのezでも泣いちゃうわ」

 

<草>

<きっつ>

<涙言い値で買います>

 

「さて、と」

 

 今回のストリーマーカップ。参加者は有名配信者やVtuber、それに別ゲームのプロや元プロ、はたまた有名俳優まで、豪華勢揃いというわけである。

 そしてその一大イベントが、シャッフルトリオ即席戦だ。ルールは簡単で、完全ランダムなチームを組み、そのチームでバトロワを勝ち上がれというものだ。

 

 この企画の利点はもちろん、『今まで関わったことのないビッグネームとつながるチャンス』があることだ。もちろん私ことezも、この企画には大賛成で出資した。

 

 ああ、ちなみに配信界隈でノーネームな私が出場できているのは、出資者権限を使ったからである。コネと金は使わないと腐るからね。

 

「さて、いよいよチームの発表です。今回のマッチの組み合わせは……このようになっています!」

 

 不正などしない。むしろするなと私が主催に掛け合ったくらいに、ランダムなはずの組み合わせだ。

 

<あっ>

<Vかぁ>

<ほんとにランダム?>

 

「ランダムじゃないと面白くないでしょ?私が保証する。でも……まあ疑う気持ちはわかるけど」

 

 私は運営からの指示のとおり、ボイスチャンネルに移動した。

 

 

❍✕△❑

 

 

「ねえやばいよチーム1!プロ3人はやり過ぎじゃない?」

 

「やっぱりそうですよね。一応武器の制限はあるらしいですけど」

 

「いやいやそれでもだよー?本当にランダムなのかなこれ」

 

「そうだと思いますけどね……」

 

 すでにチームメイトの2人が話している。会話の切れ目を狙って、私は喉に空気を通す。

 

「コホン、よろしく、鐡さんと真柴さん」

 

「……初めまして」

 

「あっ、ez……ホンモノ」

 

「初めまして、よろしくね」

 

 コメント欄がザワつくものの、私たちはゲーマー。一度マッチが始まってしまえばもう、ゲーム画面しか見えない。

 

 プロ3人の無双状態かと思われたシャッフルトリオ即席戦は、1つのチームが速攻でプロを狩りきったことで大きく揺れ動く。

 

 

 




まずは感謝を
ここまで読んでくださりありがとうございます

こんな需要もへったくれもないようなVモノもどきに最後まで付き合ってくださりありがとうございました。まだまだ書き足りない部分もありましたが、当初の30話の予定を大幅に上回っての完結となります。皆様の温かい感想のおかげでここまで筆を進めることができました。本当にありがとうございました。

もし感想や疑問等あれば感想欄や作者twitter、マシュマロ等にどうぞ、存分にレスバしましょう。

最後に、もし少しでも良かったなと思ってくださる方がいらっしゃれば、評価欄で★9をポチッとしてくださると今後の活力になります。
それではまた、次の小説でお会いしましょう。


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