仄暗い深海からのヴィランコレクション (ターンアウトエンド)
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プロローグ

見切り発車でGo!


諸兄らは『生まれ変わり』を信じるか?

 

死んだのち、新たな命として生まれ直す考えだが。

仏教か何かの考え方で、たまに前世の記憶を引き継ぐこともあると言う。

 

かつては興味もなかった。と言うか、死ねばそれまでとしか思ってなかった。

大抵の人間はそうであろう。

 

まぁ、生まれ変わって新しい人生を謳歌したいと思うのは誰でもあるかもしれんが。

 

さて、実のところ、私はどうやら生まれ変わったようだ。

しかも前世の記憶をハッキリと保持している。

生まれてから段々と思い出したので、いまは二次成長期手前といったところだが、ようやく自分なりに心の整理がつけたものだ。

 

というのも、最初はテレビで見た映像を夢で見て、それを実際に経験したものと勘違いしているのだろう、と、自分で思い込んでいた。

その方が()()()からな。

 

しかし成長するにしたがって、これなんかおかしいぞ?と思うようになってきた。

えらくハッキリと記憶している上、関連した項目も普通に思い出せるので、子供ながらに達観したものの見方をするようになったと思う。

 

それに、複数有ったのだ。自認を阻害する要因が。

 

『ふぁんたじい』なる世界観を連想してほしい。

いや、私とて、前世では大いにサブカルチャーに浸ったものだ。様々な世界観のふぁんたじいを知り、拙い創造性を膨らましたのも気恥ずかしい思い出だ。

では、自ら過ごす世界が、そのふぁんたじいの中であるならば、逆説的に。あの面白味の薄い平和で創造性に溢れた世界もまた、ふぁんたじいなのだと。

 

回りくどくなったが、シンプルに言うと、親に角が生えてるのだ。

 

角だ。

 

一応、父親だけなのだが、まだ記憶が曖昧な幼少期はその角にぶら下がるのが好きだった。

 

父曰く、個性が『鬼』なのだと。確かに個性的だ。鬼と言われれば納得できる。別にそれだけが父の()()でもあるまいに、と思ったが、今にして思えば私の認識する個性は、父のそれとはずれていたのだと思う。

 

あと、母が水の上を歩ける。

 

水の、上を、歩けるのだ。

 

種も仕掛けもなかった。いや、もしかしたら認識できないだけで種は有るのかもしれんが、少なくても騙してはいないと思う。それが母の『個性』だそうだ。

 

個性的過ぎやろ。

 

最初に市民プールで見たときは、あぁ、そう言うものなんだと水面に一歩踏み出し、見事一瞬で水中に没したのはハッキリと記憶している。

鼻の穴の中にカルキ臭いプールの水が入り込み、鼻水駄々漏れで踞ったのも覚えているし、そんな私を見た弟がギャン泣きしてるのも、キチンと記憶している。

一番覚えているのは、私を水から引きずり出したあとに腹を抱えて爆笑している母の姿であるが。

今でもしっかり覚えている。当時は、一週間母と口を利かなかった。最終的に、母がギャン泣きし、父の仲介で和解したが。

 

とまあ、普段接する家族だけでこれだ。

 

これに加えて、テレビではヒーローがどうのだとか、個性犯罪がどうのだとか何ともアメコミの世界が広がっているではないか。

マントをはためかせたタイツ姿の原色男が、市民に歓喜で送り出される姿などを見るたびに、私はこいつらとは相容れない、と子供ながらに思ったものだ。

 

そして、極めつけがアレだ。

 

テレビの画面一杯に表示された、なんか濃い作画っぽい大男。筋肉だるま。ミスターアメリカン。

 

それを見た瞬間 、

 

『あ、これヒロアカやん』

 

と呟いてしまった。

その時は母が台所にいて、ん?と聞き返してきたが誤魔化した。

 

『僕のヒーローアカデミア』

私が前の人生、前世の日本で刊行されていた人気コミックのタイトルだ。

その例に漏れず、私も同作品を少なからず嗜んでいた。

 

“個性”と言う『異能』が世界人口の八割に発現し、増加する個性犯罪者(ヴィラン)を職業『ヒーロー』が取り締まると言う、アメコミがそのまま現実となったような時代。

そんな時代に、ヒーローに憧れる“無個性”の少年が『特別な力』を受け継ぎ、次代のヒーローの柱を目指す現代的熱血系英雄譚と表現するような、そんな物語。

 

普通に考えれば、漫画の世界に転生したなんて、妄想だけの産物と一笑に付せた話だろうに。

 

あの筋肉ダルマ、一人だけアメコミ男、ヒーローの中のヒーロー。

 

『オールマイト』

 

物語のキーパーソンである彼が、テレビの中で活躍していたのだ。

アニメや映画などではなく、ニュースで、だ。

 

もう、一度現実として認識すれば、後は早かった。

 

個性と表現された超常能力。それを使用した犯罪者ヴィランと取り締まるヒーロー。そして、ミスターアメリカン。

 

夢の中の漫画に現実を投影している、と、思い込みたかった。

 

だって、『僕のヒーローアカデミア』って、意外とハードモードやん。割りとアルティメットに足突っ込んだハードな世界やん?

今は未だ起きて無いけど、これから凶悪犯罪が連発してヤバイやつらが脱獄する未来なんよ?

 

とまぁ、割りと現実逃避のために自己認識が遅れたのは、自分の心の中だけの秘密である。

 

ちなみに、この世界がヒロアカのそれだと認識した後、今がどの年代か調べた。

もしかしたら今この瞬間にも原作が進んでいるかも知れないし、もしかしたら主人公と同年代で巻き込まれる可能性も少なからず有るかもしれない。

いや、こんな漫画の中に入り込むような生まれ変わりを果たしたのだ、因果として関わる可能性は強いと考えた、が。

 

どうも、あの主人公がヒーローに憧れる切っ掛けとなった映像、あのミスターアメリカンの『私が来たっ!』動画が、どこを探しても見つからんのだ。

と言うか、ミスターアメリカンが超元気。多分怪我してない。

結果として、恐らく私は主人公の年代よりも上で、私の弟の世代が原作時期なのかもしれないと考えた。

 

多分、合っていると思う。

感覚的にそう思う。それは私の『個性』にも関わって来るものだ。

 

私の個性は父のような体質的なものと言うよりも、発動型に近いものに落ち着いた。

つまり、鬼になろうと思えばなれるのだ。で、その時水の上も歩ける。

個性判断に立ち会った医者が言うには、混ざった結果どちらも引き継ぎ、そのどちらも中途半端に発現してしまったとのことだった。

 

私がそうなるように誘導したのだけどね?

 

下手に強力な個性だと認識されるのも問題だ。個人情報の扱いなんて、グーグルにリンクしてる個人ブログ並みにプライバシーのプの字もない世界だ。いらん厄介を呼ぶ可能性もある。

 

故に、力の強化も、水上歩行の発動時間も、父と母の下位互換に納めたのだ。我ながら良い仕事である。

だが実際の能力は中々の『個性』だ。

発現が確認されて早々に能力の把握に勤めたが、未だ限界が見えない。

鬼らしい筋力というか、パワーだけでもぶっ飛んでいる。車は持てた。トラックや、ダンプもいける。コンクリは砂みたいになるし、鉄もやろうと思えば粘土に成る。まるで数万馬力を人の姿に落とし込んだようだ(白目)

水上歩行は、プラスで滑ることも出来るようになった。人が走る程度のスピードが限界だが、鍛えれば伸びるという確信もある。

そして追加の能力で、勘が良い。

スクラッチ宝くじで、あ、これ当たりかも、と分かるくらいに勘が良い。母がケーキを買ってくるタイミングが分かるし、父がお菓子を隠している場所も分かる。弟が皿を割ったのをいの一番に気付いたのもそうだ。

それはレーダーのように、周りの状況を把握することの延長でもあるようだ。

未だこれ等の能力の限界は見えない。だが把握しないと怖い。隠された能力でもありそうだ。

 

 

 

自己把握も含め、そういった必要に迫られた努力をすることで、現実逃避をしていたのは否めない(二度目)

 

いや、考えても見ていただきたい。

 

水の上に立てる、鬼なのだ。

 

しかも角が生えている。片方だけ。

 

そして、極めつけが、()()()()()()

将来はロングドレスが似合いそうである。

 

 

まぁ、前世男で、女の子に生まれ変わった身としては、性自認など特に気にしてもいないのでもう良いのだけど。

 

名前がね、私『みずき』って言うの。

『水』に『鬼』って書いて、水鬼(みずき)

 

名字が『(いくさ)

 

 

うん、そうだね。(ふね)が無いね。

 

 

 

 

世界観違く無い!???

 

どっちかって言うとヴィラン寄りじゃん!?

 

それに艤装無いじゃん!

 

 

 

 

 

 

そんな感じで、薄々そうじゃないかな、と思ってた部分を個性診断でハッキリ自覚したわけで。

余談だが、個性診断の方法だが、医者の個性である嘘がわかるという能力を応用して、子供から体験や感覚を聞き出し、医者がそれに基づいて判断を下す形式らしかった。

なので過小申告は難しくはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、なぜ今そんな回顧をしていたのかというと。

 

 

 

休日の朝、何気なく見た私の足元、影から顔を出している、黒い『ナマモノ』と言えるような物体を認識したからで。

 

 

 

 

 

おまえ、ちっちゃ過ぎない?

 

 




頑張って連載出来るように、祈ります(爆)


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第一話

今はまだスムーズ。書き貯めはしてないので更新頻度:気分次第となります。


子供と言えど、中学生にもなれば恋愛や将来の方向性など、周りに目を向けるように為る。

それを成長と云う。

 

「ねぇねぇ、ミズキはどうするの?」

 

我が家に一番近い中学に入って早1ヶ月。

子供の成長とは早いもので。今まで駆けっこやらサッカーなどで男女問わず遊んでいたものが、拙いながらも男と女の装いを形成し出している。

 

「ねえってば」

 

この身で言えば、二次成長期は凄まじいの一言だろう。

可愛らしい少女(自賛)だったものが、たった数年で色香を放つ美女手前に成るのだから。

女の子の成長は早いと云うが、私はその中でもなお早い部類らしかった。

前世、女の子のコミュニティでは異端は排除されると云うから、少し警戒したものだ。悪質ないじめなどは中学から始まるという。故にもしかすれば、友人など出来ないのではないかと。

だがどうやら、突き抜けた異端はその限りではないようだ。

 

「無視しないでよぉ」

 

してないしてない。

進路だろう?未だ特に決めてないんだよ。

 

「えー、ヒーローとかならないの?」

 

ヒーロー?

興味ないなぁ。

 

目の前で可愛らしく顔を歪めているのは、クラスメイトの女の子だ。名前はなんだったかなぁ。

髪が鮮やかな緑色と言う如何にもアニメの住人と言わんばかりの配色をしてるんだが、顔立ちとのバランスが取れていて違和感はない。元気印の娘だなぁ。

 

実はこうやって話し掛けられるのは珍しくない。

寧ろ、話題が出来ればすぐにでも寄ってきて女の子の環が出来る。私の周りで。

 

なんか妙に敬われているというか、目上のように置かれているというか。

矛盾する例えだが、同級生の先輩みたいな立ち位置になっている。なぜだ。

 

(いくさ)さんは成りたいものがあるのですか?」

 

ん?あぁ、ミズキで良いよ、戦だと可愛くないだろう?

 

「あ、ありがとうございます、ミズキさん」

 

今度は近くの席に座っていた子が話に入ってくる。

黒髪ロングの将来が楽しみになるような娘だ。と言うか、この世界顔面偏差値高いな。

 

ん。で、なりたいものだっけ?今はないかなぁ。

開発とかはしてみたいけど。

 

「ヒーローのサポートアイテムとかでしょうか?」

 

「あ、開発も面白そう!」

 

それに限らないかなぁ。

ヒーロー関係は充実してるけど、それ以外って結構手が入ってない分野とかもあるし。

隙間産業的な?

 

「凄いです、私、そこまでリサーチはしてませんでした…」

 

「へー、でも私はヒーローに成りたいかなぁ」

 

良いんじゃないか?

私は戦うのが苦手なだけで、ヒーロー自体はすごいと思うよ。

 

「私も、もう少し調べてみたいと思います」

 

「ミズキありがと!雄英目指してみようかなぁ」

 

おう、応援するよ。

私も弟がヒーローに憧れているから、色々と調べてみるよ。

 

戦うのが苦手なのは嘘ではない。

正確に言えば、ヒーローとしては戦うのが、だが。

故にヒーローはすごいと思う。あれほど制限して、自ら不利な条件下で戦うなど、私には出来ない。

 

「あら?」

 

黒髪ロングの娘が、地面に落ちていた何かを拾い上げる。

…おい、それは、

 

ごめん、私が()()落としたみたいだ。

 

 

「ミズキさんのでしたの?あれ、これ意外と重いですね」

 

 

まぁ金属製だし。

拾ってくれてありがとう。

 

「なにこれ、ピンポン玉?」

 

「これで卓球をしたら危ないと思うのですが」

 

いやぁ、それは…

アレだよ、防犯ブザー。ほら、こうやって、

 

黒髪ロングの娘から、卓球ボールサイズのそれを受けとると、一ヶ所だけ存在する開口部を押し込んだ。

 

ほら、鳴れよ。オラあくしろよ

 

び、びー、びぃー、びー

 

「…弱々しいですのね」

 

「防犯ブザーとしては使えなくない?」

 

まぁ自作の試作品だし。

投げて使うのも考えてたけど、要検討かなぁ。

 

「まぁ、ミズキさんが作られたんですか?凄いです」

 

「自分で作ったんだ!凄いじゃん!」

 

まだまだだよ。

あ、ほら、先生来たよ。

 

「あ、お話ありがとうございます、ミズキさん。ではまた」

 

「ミズキもリカちゃんもまたねー」

 

「はい、早苗さんもまた」

 

黒髪ロングの娘がリカちゃんで、元気な緑髪の娘が早苗ちゃんね。ぼくおぼえた。

 

 

 

で、オメェだオメェ。何やってんだオラ。

 

私はそのピンポン玉を睨み付ける。

本来は此処に無い筈のそれ。この世界でも、知ってるやつは居ないであろう、存在。

 

なに?あるじの学校見てみたかった?

だったら影の中からで十分だろうが。なんでワザワザ出てきてんだよ。

 

あるじに友達がいたのが嬉しくて?

余計なお世話だコラ。ったく、勝手に動くなよ。お前らみたいなの、この世界に無いんだからさぁ。

 

それは知る人が見れば、すぐわかるだろう。

サイズは違えど、機能はなんの遜色もない。

 

浮遊要塞

 

今はピンポン玉サイズの金属球だが、本来のサイズは直径1メートル程になる。

中学に入る少し前の、()()との邂逅。それから続く、私の新たな能力。

 

まぁ、そんなに畏まった出会いでは無かったんだけどね。

 

 

 

 

 

 

ある休日の、穏やかな朝。

私は習い事などはやってないから、休日の朝は昼近くまで眠ることにしている。父も母もそこは緩く、朝ごはんを抜いてでも二度寝を楽しませてもらっている。

大抵は10時頃に起きて遅い朝ごはんを食べるのが、休日の私のルーティンとも言える。

 

そんな、穏やかな筈の朝。

 

ベッドから足を下ろした先に、違和感を感じて視線をやると。

 

 

真っ黒の、何かがいた。

 

 

 

地面から顔だけ出していた『それ』は、わたしが気付くとヨッコイショとばかりに這い出してきた。

 

うぉっ、と小さく驚くが、それが危ないものではないと感覚でわかる。

寧ろ身近に感じるそれを、よく観察する。

 

と言うか、ぱっと見ただけで直ぐ何かわかった。

 

これ艤装じゃん。

 

 

…いや、小さ過ぎねぇか?

 

 

どう見ても、30センチ位しかない。

私の足のサイズが20センチちょいだから、少し大きいくらいだ。

質感は金属っぽくは無く、どちらかと言えば桃の表面みたいに、しっとりとした光沢を返している。

 

頭は、二つ。

 

いやね、名前からしてそうだろうとは思っていたけど、艤装を見れば確信に変わる。

 

成る程、私は戦艦水鬼で、お前はその艤装なのか。そうかー

 

『戦艦水鬼』

 

これもまた、前世のサブカルチャーから来た知識のひとつ。

 

前世では、携帯電話のアプリで行うゲームが流行っていた。

その内のひとつに、『艦隊これくしょん』と言う、世界大戦時の戦闘艦を美少女にして楽しむゲームがあったのだ。

そして、作中の敵キャラクターのボス格に、この『戦艦水鬼』が居た。

それはもう、数多くの美少女をボコボコのけちょんけちょんにして来たボスで、人によってはトラウマに為っている提督も居るらしい。

あ、提督というのはゲームプレイヤーのことを指す。

 

つまり、私はゲームの敵キャラクターに生まれ変わったわけだ。

まぁ、まんまゲームのキャラという訳じゃ無いみたいだし、そもそも戦艦水鬼は人間じゃ無いし。

 

と、軽く考えていた時代も有りました。

 

名前と身体能力だけ似てて、方向性がそんな感じのなんちゃって深海棲艦(敵の種族)だろうと、そう、気楽に構えていたのに。

 

私がチベットスナギツネを彷彿とさせる視線で()()を見つめる。

…艤装がなんかもじもじしとるな。

 

『艤装』

それは艦隊これくしょんのキャラクターが装備する、船の一部を模した兵装のことだ。

これは敵の種族である深海棲艦も変わらない。

 

そして目の前の()()は『戦艦水鬼』の艤装で、

つまり、私の側に、艤装があるということは。

 

そう言うことである。

 

 

見れば全体的にデフォルメされているらしく、肩の主砲もスッゴい小さくなっているし、ムキムキだった体つきも皮下脂肪が乗ってるかのように丸っこい。

 

悔しいが、ちょっと可愛い。

 

しかし、よくわからんイキモノだ。ナマモノか。

艦娘的に言えば妖精と艤装が合わさったモノなのかもしれんな。

妖精は主人公側のサポートキャラクターになる。

 

…そも深海棲艦に関してのロジスティクスは明らかにされていなかった。

その辺りはどうなるんだろうか?

私のカロリーを燃料にするのか?

 

そも個性がナマモノを生むって有りなのか?

いや、漫画でも主要キャラにいたな。常闇、だったか?あれは影か。深層心理がどうこうとかだったか?

()()とは別モンのようにも思えるが。

 

これ、飼うのか?

 

母の許可下りるかな?よくわからんイキモノだし。

捨ててこいって言われたらどうしようか。

 

ん?

 

 

今度は両手を祈る様に合わせて、プルプル震え始めた。

 

その上、私の頭に何かが流れ込んでくる。

これは感情…?

それだけじゃない、意思や気持ちといったモノもだ。

 

 

お前か?

 

視線をそれに移すと、首を縦に何度も振る。

 

なに、捨てないで?

いや、捨てる気はないが、母に何と説明したものかと思っただけだ。

 

ん?隠れられるから?何処にだ。

影、お前影に入れるのか?

 

 

それは頷くと、私の足元に近づいた。

そしてそれの影が私の影に伸びていき、くっついた。

特に感触もないが、ひとりでに影が動くのは気味悪いな。

それは私を一瞥すると、ゆっくり地面に沈んでいく。

いや、これは影の中に沈んでいるのか。

 

最後に、ちゃぽん、と効果音が着きそうな感じで、それは影の中はと消えていった。

 

ただ、私の影の中に()()というのは解る。

五感以外の何かが、感覚として理解できている。

 

未だこの体と、この個性の能力を把握できていないな。

 

影の中から、()()が意思を飛ばして来た。

 

 

何々、出てきてもいいかって?

 

 

 

 

 

 

 

 

駄目だ。私は今から飯を食うのだ。

 

 

そう言葉を送ると、向こうでシュン、と落ち込んだのが雰囲気でわかった。

その姿を想像して、少し笑ってしまったのは内緒だ。

 

 

 

 

 

 

その日は家族全員外出している様だった。

父と母は仕事で、弟は友達のとこかな?

 

用意されていたサンドイッチを頬張り、テレビを見て時間を過ごしていると、ふとなにかに呼ばれたような気がした。

 

ん?あぁ、お前か。何だって?話したい?

そういえばそうだったな。

 

私の艤装である()()と、後で話そうと約束したのだった。

 

で、なんだ?

 

ふむ、私の役に立ちたい?

どうやって?何が出来るんだ?

 

大きくなれる、と。

どのくらい?

20フィート?メートル法で言えメートル法で。

 

6メートルか。でかいな。

私が良いと言うとき以外、でかくなるの禁止な。

 

なんでーじゃねぇ、目立つじゃねぇか。駄目だ。

つか、小さいままだと不都合あるのか?

 

無い、なら良いじゃねぇか。小さいままで。

まぁ、たまには大きくしてやるさ。場所を選んでな。

確認しないと怖いしな。

 

良かったよ。お前を大きくするために育てなきゃいけないのかと思ってたから。

 

ってか、そのエネルギーどっから来てんの?

 

海?海ってあの海?お前海からエネルギー貰ってんの?無限じゃんそれ。ヤバイな。

 

主砲も撃てるよ?あ、そう。でも私は進んで戦闘する気ねえから。

 

何でって?

 

 

個人特定されたら面倒臭ぇからだよ。

 

こと組織に属するのならば悪くない、と思う。

だがな、ヒーロー、ヴィラン共に基本は個人か、多くても小隊以下の人数でしか動いとらん。

 

単位が小さ過ぎる活動はな、幾らでも対処できるんだよ。

私がいくら肉体的に優れていようが、お前を使って強力な攻撃力を持とうが、個人ならいつかは攻略される。

 

方法を問わなければ、な。

非人道的な手段ならば、私にも弱点は出来るのさ。

 

ヒーローであれヴィランであれ、対応するなら個人が特定されない方法を確立してからになるな。

 

ん、何、遠隔でも動けると。ほぅ、詳しく聞こうか。

 

 

あと何?

 

 

 

 

…浮遊要塞?

 

 

 

え、作れんの、お前?

 

 

 

 

 

 

 

 




つづく、かも?


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第二話

そこそこ見ていただき嬉しいです。


中学生の授業なんてもう記憶の彼方である。

あ、前世、前世の話な。

 

今は絶賛受講中なわけで。

難しい訳じゃないぞ?寧ろ簡単だ。

 

と言うかこの体のスペックやっぱりおかしいな。

 

一度覚えたものは忘れないし、公式を覚えたらそれが使われそうな問題はきちんと想起も出来る。

そもそも頭の回転が早い。

 

肉体的スペックだけでなく、頭脳面でのスペックも規格外のようだ。

 

今も、授業を受けながらもこの教室内の状態が手に取るように分かるし、なんなら別のことを考えていても問題ない。

足下の、私の影からじわじわ顔を出してきた浮遊要塞を、ゆっくり踏みつけることで押し戻していくことも、視線をやらずにこなしていける。

 

 

 

あぁ?ゴホウビー?ぶっころすぞてめぇ。

 

 

 

 

 

 

艤装に、いや、名称がないと面倒だな。

ダイソンで良いか?え、嫌なの?じゃあ連装砲君でどうよ?それでいいって?じゃぁ連装砲君で。

 

で、だ。連装砲君のスペックも知りたかったので、中学に入学する前に色々と動き回ったのよ。

 

海に行って、港で釣りをしながら連装砲君のフルサイズを確認したり、作れるという浮遊要塞を作ってサイズを確認したり。

浮遊要塞もサイズの変更が自在だったので良かったけど、でかくても宙に浮くのは違和感バリバリだった。だって1メートルサイズの鉄球が宙に浮くんやぞ?

 

だが一番の問題は、こいつらの戦闘力が洒落にならんと言うことだった。

 

連装砲君が言うには、海ならかなり遠くまで遠隔で動けるとのことだったので、私は釣りをしながら、彼らには遠征に行ってもらった。

遠くまで行けても見えないなら意味無いと思ってたら、意思だけじゃなく彼らが見た映像も受信できるらしい。都合の良いやつらだな。

 

小笠原かな?近くの諸島に、ちょうど良さそうな無人島があったので、そこで射撃演習をやってみたんだが…

 

 

島が消えてしまった。

 

 

 

いやな、最初浮遊要塞に撃たせたのよ。

そこそこ攻撃力あるかなぁ、といっても所詮たこ焼きだしなぁ、と思ってたら、外周2㎞はあるだろう無人島の、真ん中に大きな湾が出来てしまった。

 

解せぬ。

 

これでも抑えたらしい。

というのも、現在はノーマル状態で、ここから二段階はパワーアップ出来るんだと。

お前ら仕様の違いだけじゃ無かったんか。

 

 

そして満を持して登場する我らが連装砲君。

ぶっちゃけ、こいつもう撃たなくても良いやと思っていたんだが、どうしても私に自分の主砲の威力を見せたいと懇願されたので、着弾後を確認したら即撤退を条件にやらしてみた。

 

したらさ、もう。

 

 

島が消えてしまったと。

 

 

 

着弾の衝撃はそれはもう凄まじかった。と言うか、距離が近すぎて着弾後後方まで衝撃波が延びていた。

巻き上げられた土砂と水の柱は、フルサイズの連装砲君の10倍は越えるだろう高さにまで昇り、その衝撃範囲は視界一杯まで広がるほどに広大だった。

 

え、戦艦って、こんなに主砲の威力あったっけ?

 

 

 

射撃位置から着弾地点の島まで、300mは離れていた筈だが、正直近すぎたみたい。なまじヒトガタのサイズに収まっているから勘違いしていたが、そういやコイツら戦艦よりも凶悪な装備してるんだったな。

 

 

とまぁこんな感じで。

 

最初の射撃実験は威力を知るという点では大成功に終わった。

え、何。まだ上に4段階ある?

はぁ?お前『壊』の上ってなんだよ。知らねぇし撃たせねぇよ?だめ。絶対駄目です。

 

後でアイスやるからそんなに落ち込むなよ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の個性で分かったことはそう多くない。

戦闘に特化した個性であることは言うまでもないが。

それでも、中には使い勝手の良さそうな能力も有った。

 

 

『眷属作成』

 

 

これは浮遊要塞も含め、小型の深海棲艦を作れる能力だ。未だ強力なのは出来そうにないが、鍛えていけばその限りじゃ無いだろう。

 

出来ればヒトガタ欲しいなぁ。

 

 

この個性『戦艦水鬼(仮)』を纏めると、以上の能力になる。

・身体能力強化(筋力・耐久力・反応及び思考能力)

・艤装展開能力(砲雷撃含むその他)

・眷属生成能力(要調査)

・艤装・眷属格納能力(これも要調査)

 

のんびり調べただけでもこれだけある。

 

ちなみに、何故(仮)なのかというと、次点で『深海棲艦』の可能性も否定できないからである。まぁ、どちらでもヤバイことに代わりはない。

 

 

この持ち得る能力が、それぞれが独立した個性として扱っても良いレベルなのだ。しかも悩ましいことに、現状個性伸ばしを殆どしていないことが問題だ。

まだ伸びる余地があると言うことだから。

この能力が伸びるという可能性は、この個性自体から来る勘の良さで確信している。

 

と言うか、一部能力は強力すぎて担い手が混乱しないよう出力を制限している節が有る。

 

具体的にいうと、身体能力強化だな。

 

一応、前世では拙いながらも体の使い方は納めた。

この強化のお陰で一切活用できておらんが。

 

今暫く、この強化に慣れることからやっていかねば。

活用しようにも、『力こそパゥワー』状態では上手くいかん。

個人的には柔よく剛を制すのが理想なんだが、なぁ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?ミズキはヒーローにはならないの?」

 

学校から帰ってきて、リビングで寛いでいると、母から行きなり質問された。手元には学校からもらった封筒が。

どうやら前に学校で出した進路調査の結果が親元に知らされたらしい。

まぁ、別に隠していることじゃないから良いけど。

 

 

ならないよ。

戦うの嫌だし。

 

「ミズキなら、海難救助ヒーローにもなれると思うんだけどなぁ」

 

母が残念そうに用紙を見つめている。

母は、昔ヒーローを目指していたそうだ。

水上を歩けるから、海難救助ヒーローとして人助けをするのが夢だったと。

しかし母の身体能力は、ヒーローとして活動するには遠く及ばなかったようだ。

結局ヒーローになることを泣く泣く諦め、現在の海上警備のオペレーターとして、自分の夢だった海難救助ヒーローのサポートをしている。

 

そんな母にとって、中途半端であれ力もあり、水上歩行が出来る私は、自分の代わりにヒーローに成って欲しかったんだと。

 

うん、泣かせる話だなぁ。

 

 

 

 

 

でも絶対嫌だ。ならない。

 

人のために命を懸ける職業は尊敬するよ?

素晴らしいと思う。

 

だからと言って、自分がそれをやろうとは思わんね。

 

現在、角を出さずにパワーアップすることも、水上歩行することも出来るようになった。

後々、某ミスターアメリカンな超人的活動も出来るかもしれない。

 

だがね、私はこの現在のヒーローとヴィランに分かれた社会構造そのものが気に食わないんだ。

構造的欠陥だらけじゃないか。

現状を維持している管理者側に改善の意思がない限り、私はヒーローに与する気はない。

 

自分が管理者側になる気もないしね。

 

それに今のヒーロー制度も、圧倒的にヒーロー側にとって不利じゃないか。

戦力情報は開示されるし、達成条件は厳しく設定されている。

 

ヴィラン側はウェポンズフリー(なんでもあり)なのに対して、ヒーローは警棒のみ(非殺傷)は厳しいだろう。

 

え、何?昔の日本の警察はやってたって?

あれは数がいたから可能だったんだよ。戦いは数だよ。

 

そんなわけで。

 

 

 

母さん、私は開発に進んで、ヒーローのサポートに回るよ。

今の母さんと同じことをしたい。

 

「ミズキ…この可愛い娘め!」

 

ふっ、チョロいもんだぜ。

母が襲いかかってきたので軽くあしらいつつ、自分の将来について考えた。

 

 

 

…当分は宝くじで生活出来ないかな?

 

 

 

んだよ?

 

影の中から何か物言いたげな気配を感じたが、気のせいのようだ。

 

 

 

 

 

 

 




続くと良いなぁ

やる気スイッチ兼ブレーカー


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第三話

沢山の方に見ていただいて嬉しいです。


「ミズキ、お前サポートアイテムの開発に回りたいって言ってたらしいけど、どんなのが作りたいんだ?」

 

 

休日、リビングでソファに寝転んでいたら、同じく休日だった父に話しかけられた。

父は隠していたお菓子とお酒を持って、昼酒を楽しむ準備をしていた。

 

その持っているお菓子は、私が見逃していたやつだな。ピリ辛は要らん。

 

 

んー?

いきなりどうしたの。

 

「いや、母さんに聞いてな。サポートアイテムってんなら、俺がテスターやれるかもしれないだろ?」

 

なるほど。

今は特に具体的には考えてないからなぁ。

父さんは私にヒーローになれとは言わんね?

 

「ん、あぁ。人助けなんて、本人のやる気が無けりゃ有り難迷惑ってもんだ。お前はお前がやりたいことをすれば良いさ」

 

へー、さすが大黒柱。

 

じゃニートで。

 

「それは話が別」

 

前言撤回が早すぎるぞぉおやじー。

 

 

かかか、と笑う父は、気の良い漁師みたいな為りだ。

骨太で大柄な体は重厚な筋肉で覆われていて、第一印象は軍人かプロレスラーである。

 

父の職業は、レスキュー隊員。

これはヒーローとかではなく、そのサポートもこなす真っ当なレスキュー隊員だ。

海難に限らず、山岳遭難、交通事故、災害救助まで、所属している管区内の事故・災害に日夜対応している。

その他にも、緊急のレスキュー要請がなければ、消防活動や、訓練、延いては教導まで行っているそうだ。

 

何でこんなに詳しいかって?

定期的にこう絡み酒で自慢するからだよ。耳にオクトパスだぜ。

 

 

そういえば、

父さんはなんでヒーローにならないん?

やってることヒーローと変わらないじゃん。

 

「あー、それな。それはなぁ」

 

さっきまでのテンションと違い、やや言い辛そうに言葉を選ぶ父。

これは気になるが?

 

 

なんかあった?

ヒーローに虐められたとか?

 

「んー、これ、龍鬼(りゅうき)に言うなよ」

 

と言って話し始める父。

龍鬼ってのはヒーローに憧れる弟の名前だ。

変身しないよな?

 

「昔な、俺の高校の恩師が事故で亡くなったんだ」

 

ふむ。

でも事故ならヒーロー関係なくない?

 

「まぁ聞け。でな、その事故で亡くなる前から、方角先生って言うんだが、方角先生はある活動をしてたんだ」

 

活動?

 

「ああ。ヒーローのな、この名前は言わないが、昔の教え子のヒーローを辞めさせようとしていたらしい」

 

辞めさせるって、ヒーローを?

またなんで?

 

「精神的にかなり憔悴していたらしくてな、何度か相談を受けていたみたいだ。それで、暫くヒーローから離れてはどうか、と勧めてたみたいだが…」

 

辞めなかった?

 

「いや、辞めさせて貰えなかったらしい」

 

誰に?

事務所の社長?

 

「いや、……ヒーローの、公安委員会がだな」

 

…なるほど。

 

 

あれか、なんか漫画の方でも居たな。公安の暗部。

と言うことは?

 

 

その方角先生は公安に殺された?

 

「いや!…さすがにそれはない、と、思いたい」

 

なんでそんなにブレブレなの。

 

「その後の対応がな…でも何かはしたんだろうな。方角先生は事態を大きくしようと色々と、教育委員会なんかも巻き込んでいたんだ。でもニュースどころか地域広報にすら載らなかった。それに結局、そのヒーローも辞めて音沙汰無くなったし、…色々後味の悪い結果だったんだ」

 

だからヒーローに不信感があるんだ?

 

「ヒーローには無いさ。ただそのまとめ役の公安委員会は、ちょっと信用がならん。そのあと、俺らの世代でも何人かはヒーロー志望を辞退したんだ。俺も含めて、な」

 

そっか。でも龍鬼はいいの?

 

「ああ、ヒーローを目指すことは悪いことじゃない。人を助けるために体を張ることは、とても尊い事だ。龍鬼がそれを目指すなら、父さんは応援するさ。でもな、もし公安委員会が龍鬼を利用しようってんなら、俺が許さねぇ。例え何かされようと、俺の息子は守ってやる」

 

さすが父さん。

でも決めるならそのお菓子とお酒は手を離そうよ。

 

「これがないと気恥ずかしくて無理」

 

さすが父さん

締まらないね。

 

「るせえゃ。じゃあお前だお前。ミズキは何したいんだよ?」

 

私は家族が笑って過ごせるように頑張るよ。

 

「お、おう?」

 

 

 

 

戸惑ったような父の顔が、少し面白かった。

 

もし家族を害しようとする者が居るのなら、私は力を使うことを躊躇わない。

父が守ろうとするものを、(かぞく)ごと守るだけだ。

その結果、この世界が混乱しようとも、ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん、何。お前達も頑張るって?

有り難う。ただ、撃つなよ。

 

あん?フリじゃねえよ。威力の調整も出来ねぇモン使えるかよ。

 

あ?上に調整してどうするんだバカ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇちゃんは俺が守る!」

 

お、おぅ、いきなりどうしたよリュー坊。

 

 

「ヒーローってすげェよねぇちゃん、オールマイトすげェよ!」

 

あぁ、そういやあの映像か。

あれだろ?

 

「もう大事ョーブ!わたしがきたぁ!」

 

可愛いなこいつ。

身長(たっぱ)はもうすぐ私に並ぶくらい成長が早いのに、中身はまだ子供っぽい。そのギャップも良いんだが。

何より性格がまっすぐで、ひねくれた私にとってみれば非常に眩しく映る。

よかったぜ、クソを下水で煮込んだ様な性格にならなくて。

 

 

で、いきなりどうしたんだ?

 

「ん?ねぇちゃんヒーローにならないんだろ?だから俺が守ってやろーと思って」

 

ほぅ、そう言うのは姉弟喧嘩に勝ってから言うんだな。

 

「ねぇちゃんに勝つ?俺は無理なことはしねぇんだ」

 

何言ってんだおめぇ。

ヒーローだってピンチは有るだろうに。

 

「大丈夫だよ!」

 

おう?

 

 

 

「そんな時は、オールマイトが来てくれるから!」

 

 

 

…お、おぅ、そうか。

 

 

 

まぁ、お前がピンチになるこたぁ無ぇよ。

 

 

「なんで?」

 

 

父ちゃん()居るからな。

 

 

「おぉ、父ちゃん強いもんね!」

 

 

おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふう。

 

バスの中でも、空いていれば一番後ろに乗り込むのは前世からの習慣だな。

 

視線が一番高くて、見晴らしの良いのが好きなのだ。

あ?何と何が高いとこが好きって?

最近調子のって無いかオイ浮遊要塞さんよ。あとで覚えとけよ。

 

休日のバスは余計好きだ。なんてったって空いてるからな。

まそうそう休日にバス乗ることもないか?

 

席について、ポータブルプレイヤーを耳に掛ける。

イヤホンと一体型だからワイヤレスで鬱陶しくない。この辺は、個性が広がる前の時代からそんなに変わってないらしい。

企業のリソースの問題かね。安全保障が優先だものな。

 

久しぶりにバスにのって向かう先は楽器店だ。

前世はギターを嗜んでいた。生まれ変わってからは引いていないので、すぐに引けるかは疑問だが…

 

父と話した折、父も昔ギターをやっていたそうだ。

なので自分もやりたい旨を伝えた。

 

計画通り、父から軍資金をせしめることに成功したというわけだ。

 

私はやりたいと言っただけで金の無心はしていない。

なので母に怒られるのは父だけである。

 

父の犠牲は無駄にはしないよ。

 

窓の外の光景はゆっくり穏やかに流れ、治安の悪さは感じさせない。

私の住む地域のベッドタウンは、結構治安が良い地区なのだけど、市内は軽犯罪が多いと聞く。

路地には入らないように気を付けよう。

 

 

と、バスが急に止まった。

速度が出ていなかったとはいえ、急ブレーキに乗客の声が上がる。

私は何となくブレーキが掛かるのを事前に察知して身構えていたので、大した衝撃はなかったが。

 

 

 

肌が、チリついた。

 

 

 

 

 

 

 




おや~?


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第四話

皆様今作を見ていただきありがとうございます。
お陰様でランキングに入ることができました。
もし良ければ、今後ともよろしくお願いします。

今回のお話は少しグロいかもしれません。
ただ、『ソウ』や『羊達の沈黙』を見慣れている皆様なら大丈夫だと思いますので、あまり気にしないでください。


肌がチリつく。

 

 

 

 

乗っているバスの周りに視線を巡らすが、特に異常は見られない。

 

ならばバスは何故止まった?

 

道路への飛び出し。飛び出した人はフロントの影になって見えない、が。運転手が困惑している。

 

これは…

 

 

瞬間、チリつきが大きくなった気がした。

 

 

全員、伏せろ!

 

思わず喉から声が出たことに自分でビックリした。

三つ前の席のおばぁさんが肩を震わせるのが見えた、が。

 

 

もう、遅い。

 

気がつけば、バッグを盾に構えて席と席の間にしゃがんでいた。

と、ほぼ同時に、頭上で轟音。

 

肌を撫でる熱波。

視界を横にずらせば、輻射熱だけで燃え上がるサテン地のシート。

 

悲鳴は聞こえない。

そうだろう、この熱風をまともに浴びたなら、一瞬で肺が焼け、喉が張り付き、声など出しようもないのだから。

 

視線を巡らし、頭上を見てみれば、炎が滝のように流れている。

言い表すなら、暴炎風か。

 

 

ふと気づく。

 

 

妙に落ち着いている。

 

状況だけ見るなら、ガス爆発にでも巻き込まれたか。

リアルバスガス爆発である。

 

危機感を感じないのは、やはり身体能力がこの状況を危機と認識させないからか。

 

実際、恐らく伏せなくても問題はなかった。

いや、上半身が裸になる可能性があるのは問題か。

 

取り敢えず、一般的には危機的状況である。

ただ私にとってはそうでないと言うだけだ。

 

だがそれでも、多少混乱位はするはずだ。

人間、誰でも自分の目の前で死亡事故があれば、パニックかそれに近い状態に位なるだろう。

 

 

だが、今の私にはそれも無い。

 

 

 

むしろ、思考は澄みきって状況判断の速度が上がっている。

 

これは?

 

 

 

いや、今出てくるな。

 

うちの連装砲君が、対応しようか?と問いかけてくるが、無理矢理抑える。

こんな状況で出てこられたら、周囲の人間が余計混乱するだけだ。

 

 

じゃあ敵はどうするのって?

 

 

 

 

 

『敵』?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎の暴風が突然無くなる。

 

流れた熱波を洗い流すように、冷たい風が吹き込んでくる。

 

バスの車体が急激な冷却に歪み、カンカンと音を奏でていた。

先程までの地獄のような状況から一転して、音はそれくらいだ。

 

と、遠くから足音が聞こえる。誰かが近付いて来るみたいだな。

状況を確認しようと顔を上げると、バスの中の現状が目に入ってきた。

 

生き残りは、もちろん私を除けば居ない。

前に近いほど炭化していて、自分の三つ前の席のおばぁさんは形だけは辛うじて判る状態だ。

運転手のいた辺りは、蒸発したのかもはや跡すらない。

 

毛の焼ける臭いが鼻に付く。

唇は、空気中に舞った脂でベタつき、嫌に勘に障った。

 

 

近付いてくるのは一人。

先程までいた周りの人間は、誰もいなくなった。

 

賢い選択だ。

 

 

この状況を齎した原因が()()ならば、巻き込まれないように避難するのが最善の選択だ。

 

 

見晴らしの良くなったバスの前方、地面まで良く見える。

 

なるほど、前方から後方上部に向かって熱波は駆け抜けたのか。

だから後方の席は輻射熱だけで済んだようだ。

 

肩でチリチリ焼けているナイロン生地をはたいて鎮火させながら、妙に納得した。

 

 

「おいおいおい、アンだけ大きな口利いといて、結局此れかよぉ! 丸焦げじゃねぇかぁ? アァン?」

 

頭の悪そうな台詞で煽るように()()()に話しかける男。

 

ナニか。

それは恐らくヒーロー()()()()()

 

ここからでも分かる。

もう生きてはいない。

 

 

 

成る程、これが、本物の“ヴィラン”か。

 

 

 

 

「つまんねぇなぁ、アンだけ言ってくれたんだからモット保てよお前ぇ」

 

 

男は()()に興味を失ったようで、周囲を確認するために視線を巡らし、

 

 

 

私と目があった。

 

 

「おぉ、マジかよ、生きてんの?おぉ!しかもカァイイ女の子ジャーン」

 

 

気味の悪い笑みを浮かべながら、男はバスの中に入って来た。

 

癖なのかいつもやっている脅しの一環なのか、右手を閉じたり開いたりしながら炎を弄ぶ。

手袋をしている状態や体と炎との距離を見るに、ある程度は耐性が有るが、某火ダルマオヤジの様に炎を纏うと言うことは出来ないのかもしれない。

 

まとめると、放射に特化した炎熱系能力者(パイロキネシスト)と言ったところか。

 

 

男が私のすぐ前まで来た。

 

ちなみに私は、バッグの燃えカスをはたいて消していた。

 

「カァイイ上にイィカラダしてんじゃん?こりゃ暫く楽しめそうだ」

 

 

男の視線がイラつかせる。

嫌悪感で肌が粟立ち、自分がここまで影響される事に、驚いた。

 

 

「なんか怖がってるぅ?カァイーねぇ!…とりあえず来いよ」

 

 

イラつきを抑えて、どう対処しようか考えていると、そんな私の状態を勘違いしたのかテンションが上がった態度で私に手を伸ばした。

 

男を殴り飛ばすのを抑えたのと、死ななければ良いかと腹を括ったのが要因か。

 

気付くのが遅れた。

 

 

 

やめろ!

 

「はぁーん?ッおっと!」

 

 

男の視線がバランスを崩したかの様に、下がる。

私に伸ばした手で、そのまま側の座席の背もたれを掴んだ。

 

「なん、だよぉ!」

 

バランスを崩した原因に、苛立ちをぶつける(ヴィラン)

 

その目に映るのは、

 

 

失くなった己の右足と

 

 

今正に噛み千切られる左足

 

 

そして、噛み千切った黒い『ばけもの』

 

 

 

 

 

「ふぁ、ひぁ、おれの、お()の足がァぁぁぁァぁ!?」

 

バキッ、ごりゅ、グチィっ、と、思ったより響く咀嚼音。そして群がる、我が眷属たち。

 

おい、お前らぁ…

 

 

ユルサナイ

 

 

あん?

 

 

アルジニフレルノ、ユルサナイ!

 

クラウ!!

 

コロス!

 

ツブス!!

 

オマエハァ!!

 

キサマァ!!

 

 

 

 

 

ユルサナイ

 

 

 

 

 

 

お、おう、そうかぁ

 

 

それは仕方ないなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひっ、ふっ、たすけっ、たすけてっ…いゃぁっ…あ゛ぁっ!?」

 

 

足下で咀嚼音と汚い悲鳴をBGMに、取り敢えず周囲の状況を確認して目撃しているヒトやカメラがないか確認した。

ついでに壊れたプレイヤー内蔵イヤホンを弄る。買い直しだなこりゃ。

 

暫く周囲に気を張っていたけど、幸いヒトもカメラも無いようだ。

私の勘も大丈夫だと言っているのだけど念のため。

 

よかった。

 

どうやら、誰も()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気付けば静かになっていた。

 

咀嚼音がしなくなった跡にはもう、血痕すら、見当たらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご協力、感謝します」

 

渋い顔をした刑事さんが頭を下げる。

 

 

 

現在、私は近くの総合病院の個室にてベッドの住人となっている。

 

あのあと、駆け付けたヒーローや警察の人たちに私は保護され(退避が間に合わず)、即座に病院に担ぎ込まれた。

 

怪我が無いか入念に検査され(流石に産婦人科は断った)、どうやら今日一日は検査入院の必要性がある、とかなんとかで無聊を囲っている。

 

と言うのも、ここまで病院側が神経質になるのは、今回のヴィラン被害の状況は割と凶悪案件らしく、被害者が精神に変調を来すのも無理ないレベルだからだそうで。

入院後に自殺をしたヒトまで居たそうだ。私の場合も、カウンセリングが後日に入るらしい。

どうも病院側は私がヴィランに何かされたと思っているような?そう言うヴィランだったのかもなぁ。

 

 

 

しっかし、改めて思い返すと、ワタクシはなっから変調を来してませんかね?

 

死体を見て、あぁ、原形ねぇなぁ、なんて呑気に観察できるほどタングステンメンタルじゃなかったはずなんだが…。

 

 

お、何だって?

 

 

深海棲艦になった影響?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本気(マジ)で!?

 

 

 

 

 

 

聞いてないけど!?

 

言ってなーぃって、ぶっ殺すぞテメェ!!

 

 

それに普通に流してたけど、オメェらがヴィランバリボリ喰ってたの見て、

 

あ、腹壊さねぇよな?

 

くれーしか感想出てこねぇ時点で大分狂っとるァ!

 

何、深海棲艦って主食ヒトなのか!?

 

東京グールも入ってる系なのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁ、まぁ良いか。

 

メンタルが人外になった程度で、どこが悪いって訳でもないんだし。

 

人を喰ったのも、今回は不可抗力ということで納得したるわ。

 

 

 

…え、なに?戦闘モード?なんやそれ

 

あー?あ、あれか!妙にクリアになったやつ…

 

 

 

…おいダイソン、オメェ他に隠してること無いだろうな?

 

 

ナ、ナイヨーって分かりやすく吃るんじゃねぇ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チッ、まだ隠していることは後々問い詰めるとして。

 

私が警察に渡した情報は、見てない、踞って気を失ったら誰もいなかった。

何度も聞かれたが、目を合わさずに首を振って答えたりして、ヴィランは逃走した、で警察は納得した筈だ。多分。

 

そのせいでみょーに周りの対応が優しいのは、やっぱ何か勘違いされてるよね?

 

バレるよりはマシか。

 

 

 

ついでに聞いた話だが、別の場所ではカメラに犯人が写っていたらしい。

やっぱり指名手配中の凶悪ヴィランだったそうだ。

 

被害に遭われた方々にはご冥福を祈ります。

 

そう刑事さんに言うと、

 

「貴女だけでも、無事で良かったっ」

 

と絞り出すような声で喜んでいた。

 

全力で犯人確保に血道を上げるそうな。

無駄に税金使わせてごめんな?

 

ま、もう被害は出ないからそれで勘弁してくれや。

 

 

 

 

私は心のなかでそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

「ミズキ!」

 

「ミズキちゃん!」

 

「ねぇちゃん!」

 

泣きべそかいた我が家族に揉みくちゃにされちう。

悪い気はしないね!

大事にされとるよ。

 

残っていた刑事さんが微笑ましい顔をしながらも、父に声を掛けるタイミングを伺っている。

 

刑事さん、ごめんだけど暫くは無理だよ。

父の抱擁が一番ヤバイ。ミシミシいってるよ。ベッドが。

 

しっかし、抱き付きを受け止めたときも思ったが、妙にカラダの調子が良いなぁ。何でだ?

 

 

 

え、パワーアップしてるって?なんで?

 

 

他人の個性を喰ったから?

 

 

え、何その機能。

 

じゃあ何だ、個性を持った人をお前が喰えば喰うほど、パワーアップすんのか?

マジで?

 

 

 

 

 

 

 

どうせなら個性まで使えたら良いのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

使える?何が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

個性、使えんの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次のお話と、閑話までは1日更新が可能ですが、そのあとからは更新頻度が落ちるかと思いますので、ご了解下さい。


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第五話

ご覧いただきありがとうございます。

これで序章は終わりです。閑話を二つ入れた後は、第一部になる、のでしょうか?




「ミズキ、怪我はないか?」

 

「ミズキちゃん!何かされてないわよね!?」

 

「ねぇちゃん、ごめん、おれぇ!」

 

まったまった、ったく、考え事もさせてくれねぇなこの家族は。

 

あん?にやけてるって?

当たり前だろぅが。

 

おいダイソン、後で()()詳しく、話せよ。

おう。

 

 

 

大丈夫だって。

怪我もしてないし、ただの検査入院だから。

リュー坊も泣くなよ、ってか何で泣いてんだ?

 

「だって、だって、おれがまもるっていったのにぃ、いったのにぃぃ!」

 

あー泣くな泣くな。

大丈夫だって。ほら、ねぇちゃん無事だろ?

 

「うん、だけどぉ」

 

だけどもかしこもねえよ。

無事だった。それで良いじゃねぇか。幸運だったんだよ。

 

「うん、ねぇちゃん」

 

ん?

 

「おれ、強くなるよ」

 

おう。おう?

 

「ねぇちゃん守れるくらい、強くなるよ」

 

そうか。

 

「ねぇちゃん、おれ、わかったんだ」

 

ん?

 

「いつも、来てほしい時にオールマイトが助けてくれる訳じゃねぇって」

 

あぁ、そうだな。オールマイトだって手は二本しか無いからな。

 

「だから、だから、俺が強くなって、ねぇちゃんのピンチに駆け付けられるようになるから」

 

あぁ。龍鬼なら、絶対そうなれるさ。

 

 

あー、決意が宿ったつぶらな瞳が眩しいわ。

男の子から一歩、男への道を歩み出したってか?

可愛い奴だなぁお前は。

 

リュー坊の頭を抱えて撫で回しながら、横目で母を見ると。

母が看護婦さんに深刻そうに説明を受けていた。

 

あぁん?なんか勘違いが伝染してるなぁ。

 

母は自らの身を抱きながら、何かを強く堪えるかのように、聞いていた。

 

そのそばで父も眉間に6個くらい深めのしわを作っている。

 

面倒な誤解は追々解けばいいか。

取り敢えず、今は弟を可愛がり倒しとこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、父は警察の人と少し話して、弟を連れて帰っていった。

 

母は残って泊まるようだ。

 

 

 

夜、ベッドでテレビを見ながらバージョンアップした能力を確認していると、肩を寄せあっていた母が諭すように話し掛けてきた。

 

「ねぇ、ミズキちゃん。本当に大丈夫?」

 

ほ?何が?

体調は問題無いけど。

 

流石にぼーッとしていたので変な声が出たが、

真剣な声色の母の語りに、意識を傾けた。

 

「本当に、何もされなかったの?」

 

いや、本当に何もされてないよ。

もう、段々と居たたまれなくなってきたから、明日婦人科受けても良いけど…

 

「ううん、そこまで言うのなら良いんだけど…」

 

どうしたのさ?

看護婦さんに何て言われたの?

 

「ミズキちゃんが遭遇したヴィラン、そう言う事例も多かったらしくて、被害に遭った女性が自殺したことも…」

 

あぁ、被害者が自殺って、そうなんか。

大丈夫。私は大丈夫だから。

 

「でも、警察の人が言ってた、熱を認識する能力があるから人を見つけるのが得意だって言うからっ」

 

へぇ、そんな能力有ったんだ、()()

 

「ミズキちゃん?」

 

あぁ、大丈夫。

いや、だとしてもあの状況じゃ見つからないよ。

幾らヒトの熱を探知出来ても、あの時は私の居たバスの方が熱かったんだし。

あの状況で私を見つけられたら、それはもう別の個性だよ。

 

私は母に諭すように、イメージ聖母で語りかけた。

 

あまり心配を掛けるのは心苦しいからな。

進んで看護婦さんの誤解を解かない辺り、性格的にクズ寄りの自覚は有る。

 

 

お?何か言いたい事あんのか?

 

おぅ、そうだな、学習したじゃねぇか?浮遊要塞クン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、父の車で帰ることとなった。

 

看護婦さんは、最後まで、

 

「辛いと思ったら、何時でも相談に乗るからね?」

 

と優しい声色で手を握ってきた。

 

少し引いた私は悪くないと思う。

 

母もちょっと苦笑いしてたし。

 

まぁエエか。

 

 

 

 

 

車の中で、父と母、そして私の日常の会話が交わされる。

 

ただ、妙に父の言葉が固いのは何故だろうか。

 

 

「なぁミズキ」

 

んー?なんよ。

 

「ミズキは本当にその炎を使うヴィランがどこ行ったか、分からないんだよな?」

 

…引っ掛かる物言いである。

私の勘も、何かあるとは囁いているものの、明確な悪意や私にとって都合が悪くなる感覚ではない。

 

 

そーよ。見てないからねぇ。

分からん。

 

「…そうか」

 

「どうしたのあなた?」

 

「ん、いや、それだけあのヴィランは危険だと思ってな」

 

有名だったの?

 

「ん?あぁ、お前がまだ小さい頃、龍鬼が生まれてすぐの頃かな。全国紙で暫く騒がれてたよ。家族や親戚を含めた、かなりの人数が被害に遭ったらしい」

 

ヤバイね。

 

「あぁ、そんな凶悪ヴィランにうちの娘が被害に遭ったなんて聞いたからもう父さん生きた心地しなかったよ」

 

「私もよ、はぁ」

 

未だ二人してショックを隠しきれないようだ。

一番の被害者であるはずの私が一番平然としてるんだからなぁ、

 

儘ならないもんだねぇ

 

 

え、お前がいうなって?うるせぇよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家族で晩御飯の買い出しをして家に戻ると、駐車場で父に声を掛けられた。

 

「ミズキ、今からちょっとドライブしないか?」

 

「ちょっとあなた、もうすぐ晩御飯作るんだけど」

 

「そんなに時間は掛けないさ」

 

何となく、私の勘がこれは受けた方がいいと囁く。

んー、父の硬さの原因もわかるかなぁ?

 

 

おっけー。

母さん晩御飯楽しみにしてる。

 

「もう、あまり遅いと怒るからね?」

 

「ん、わかった」

 

ういういー。

 

 

 

 

 

 

 

私の家から、車で10分のところに海岸線を走る道路がある。

デートスポットにもなりそうだけど、今の時代人気のないところは危ないからなぁ。

 

父が海岸線を横目に見ながら車を走らせていると、意を決したのか話し出した。

 

 

「父さんな、父さんの一族の中でも、一番個性が合ってるらしいんだ」

 

ふーん、凄いね。

 

「父さんの個性分かるだろ?」

 

もちろん。

『鬼』でしょ?

 

「そうだ。でな、父さんは他の、似たような個性を持つ連中よりも、かなり鬼に近いんだと、昔父さんの父さんに言われたんだよ」

 

爺ちゃんに?

爺ちゃんも子煩悩っぽいもんね。孫煩悩だし。

 

「あー、あれはもう血だなぁ」

 

成る程、父さんの爺ちゃん、つまり私にとって曾祖父も孫煩悩だったと。

 

爺ちゃんは田舎の白川郷みたいなとこに住んでるそれっぽい人だ。

それっぽいとは、顔も含めて仙人っぽい。

体格は父より一回りは小さいんだけど、何かよく分からん強者感があるじっさまである。

住んでるとこ違和感無いんだけど、移住したのはそんなに昔じゃないなんちゃって仙人な人だ。

余談だが、笑い方が父と爺ちゃんそっくりなのは、本人たちだけが知らなかったりする。

 

 

で爺ちゃんがなんだっけ?

 

 

「ん?いや、爺ちゃんは関係なくてな。んー、なぁミズキ、鬼の能力って、知ってるか?」

 

鬼の能力?

鬼の魔眼的な?

 

「いや違う。まぁはっきり言えば、鬼はな、嘘が判るんだ」

 

へーすごいじゃん。

ヤベェ能力。

 

 

ん?

 

「だからな、父さんも嘘が判るんだ」

 

…マジで?

 

「マジで」

 

ふ、ふ~ん、すごいねぇ。

 

「ミズキ」

 

う、うん?なにかなぁ父さん。

 

 

 

「あのヴィランは、何処に行ったんだ?」

 

 

 

 

 

車がゆっくりと止まる。

路肩は広く、父も運転は慎重にやっていたけど、どうやら本格的に私を問い詰めるつもりらしい。

 

んー、どうしようか。

 

この場合二択だなぁ。

 

しらばっくれるか、話せるとこは話すか。

 

まぁ、父の雰囲気的に、前者は無理そうだけど。

 

 

「前にな、父さんミズキがどれだけ強いか聞いたことあるんだが、覚えているか?」

 

いや全く。

 

「だろうなぁ。父さんも何気なく聞いたんだ。ミズキはもしかして父さんより強いんじゃないか、ってな」

 

な、成る程…

 

「最初は子供に良くある、根拠の無い自信の類いかと思ったんだけどな。昔っからミズキは頭が良かっただろう?何かしら考えって言うか、理由があるように思えててな」

 

そ、そうなんですかぁ…

 

「そのあとも流れでな、力を隠してるんじゃないか?とも聞いたんだ。上手く誤魔化してたみたいだが、この鬼の能力と合わせて考えてみると、ミズキはミズキなりの考えがあって、自分の実力を隠しているんだろうな、と思ったんだ」

 

うぉぉ、そうですかぁ…

 

「…なぁミズキ、本当のところ、教えてくれないか?」

 

んー…

 

 

 

まぁ、そんじゃぁ仕方無いかなぁ。

 

 

 

 

んー、父さん。

 

「なんだ?」

 

全ては言いたくない。それはOK?

 

「あぁ、言えることだけで構わない」

 

 

ん、じゃあさ、取り敢えずこれだけは確定してるよ。

 

あのヴィランは、二度と、誰も傷つけられないよ。

 

 

「…それはどういう意味」

 

だから、二度と、被害者は生まれない。

 

それだけだよ。

 

「…ミズキ、それは」

 

うん。アレは危ない。もしかしたら成長したリュー坊なら、逮捕できるかもしれないけどね。今はダメだ。

 

本当に、家族の中で出会ったのが私で良かったよ。

家族の誰かが傷つけられたなら、もう形振り構ってなかっただろうからね。

 

とりあえず、もう悪さは出来ないよ、彼は。

 

「そうか」

 

私が嫌いになった?

 

「それはない!父さんがミズキを嫌うことなんて、絶対にない!もし、世界がミズキの敵になるとしても、父さんはミズキの味方だ!」

 

クッサイ台詞だねぇ。

 

「わかってる!言うなょ…でも父さん本気だぞ?」

 

それは分かるよ。

私にも父さん程とはいかないけど、似た能力あるし。

ただなぁ、そうなってほしくはないよね。

 

「まぁ、そりゃそうだ」

 

だってさ、そうなったら世界を滅ぼさなくちゃいけなくなるじゃん?

 

 

 

それは、面倒そうだ

 

 

 

 

「みずき?」

 

ん?

 

 

 

「あ、いや、あ、そうだ、ミズキはそれだけの個性でさ、ヒーローになろうとは思わなかったのか?」

 

えー、今さらそれ?

 

「ミズキの、戦いが嫌いと言うのは本当みたいなんだが、戦いが苦手、と言うのは、嘘だろう?」

 

あー、そうだねぇ。

戦うことで自分の情報が知られるのは、嫌だからねぇ。

 

「それは、父さんが前に言った、公安委員会のことが有ったからか?」

 

いやいや、まぁ、確かに公安委員会も信用出来ないけどね。

元々、歪な組織なのは分かっていたし。

 

「歪?確かにあまり表に出てこないから、どう言った組織なのか今一分からんではあるよなぁ」

 

公安委員会もなに考えているか分からないけど、その仕組みが気にくわないかな。

 

「仕組み?」

 

うん。

 

だってさ、今の仕組みって、ヒーローになれなかったらヴィランになる様に成ってるんだよね。

 

「…どう言うことだ?ヴィランになる?」

 

うん。

 

もう、個性が人の人格に影響を与えるのは、個性に接してる人たちの間じゃ常識じゃん?

 

「そうだな。父さん達鬼の系譜も、曲がったことが嫌いだったり、イタズラが好きだったり、振り回されてるヤツもいる」

 

そう。

 

水系統が穏やかだったり、爆破系統が怒りっぽかったり。

個性は、どうしても人のあり方に作用してくる。

 

「あぁ、だから周りのフォローが大切なんだな」

 

してくれれば、ね。

 

理解のある親や大人ばかりじゃないでしょ。特にこんなご時世さ。

 

そんな中で、攻撃傾向のある個性だったり、モラルに対して真っ向からぶつかる個性だったり。

そんな人だっているわけじゃん?

 

「まぁ、そうだな」

 

そう言う人が、ヒーローになれれば良いけど、成れなかったら?

自分の個性に突き動かされる衝動を抱えたまま、個性を抑圧して過ごすしかないでしょ?

社会が受け止めてくれるんなら問題ないけど、そうじゃないでしょ。

 

「いや、それは、カウンセリング施設だってあるし」

 

カウンセリングは対症療法でしかないよ。

 

それにさ、今の社会じゃ、ヒーロー賛美でしょ?

ヒーローには悪役が要る。

カウンセリングが必要な人って、社会の外れ者ってことじゃん?

色眼鏡で見る下地が出来てるじゃん。

だから皆、ヴィランっぽいって人を、ヴィランと見る。()()()()()()()()()()()

 

 

 

そう、今の社会の構造が、ヴィランを生むんだよね。

 

 

“ヒーローが居る限り”

 

 

知ってる?それってさ、世間一般で、

『マッチポンプ』って言うんだってさ。

 

だから私は、ヒーローにならない。

ただね、この社会を変革するつもりもないし、現状を訴える気もないよ。

 

私としては特に不満はないからね。

 

 

「…ミズキは頭がいいんだなぁ」

 

 

そこぉ!?

 

まぁ良いけどさ。

 

理由なら他にもあるよ?

何で公安委員会がそんなの放置してるのー?だとか。

政府の高々一部署であるはずの公安委員会がそんな権限持ってるのー?だとか。

今のヒーロー制度って見方に寄っちゃ州軍、もしくは民兵じゃん、てのもあるし。

地方の独自裁量権が強すぎて危なくないの?とか。

 

今のこの国の在り方を考えるなら、安全保障はグダグダだよ。

ベネズエラ化するまであと少しじゃん。切っ掛けがあれば、一瞬だろうね。

 

「べ、ベネズエラ?どこだっけ…」

 

話が飛んだけど、

私がヒーローにならないのはね、こんな情勢で、他人を救ってる暇は無いだろうなーって考えているのさ。

 

私は私の周りを守るために、ヒーローにはならないの。

 

それが、私の決意。

 

 

「そっか、ミズキはしっかりしてるなぁ」

 

家の男衆が夢見がちだからね。

代わりに女衆がしっかりするようになるんだよ。

 

 

「その通りだな」

 

だからほら、そろそろ怒られるよ。

 

「ん?なにがだ?」

 

晩御飯

 

 

 

「あっ」

 

 

 

 

 

 

冷めてないと良いなぁ

 

 

 

 

 

 

 

父さん、ありがとね?

 

「それほどでもない(キリッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キャラクター紹介memo

イクサミズキ
戦 水鬼

性格
・利己的かつ排他傾向有り
・共感生は高く、内面を悟らせないタイプ、友達は多いが親友は居ない系。
・精神耐性の高さは個性が関係しているが、彼女の個性にそういった機能は無い。

属性
・中庸
混沌かと思われがちだが、中庸。だが中庸なので、救うことにも、殺す事にも忌避感がない。

個性、能力
・個性:不明
詳しくは今後。
・能力:古武術。本編にそんなに関係してこないテイストみたいなもの。ただ、今後増える仲間が強いのは半分位これの所為。

スタイル
・身長は現在で160前後。結構でかい。スラッとしているため、目立つ。体重は調査員が死亡したらしい。
髪は黒髪のロング。さすがに足まではないが、背中の中程の髪をポニーテールでまとめている。たまにシニョン。
・D。何がとは言わない。

目はやや赤いが、たまに光ってる気がする。


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閑話その①

今回と次が閑話になります。

箸休めに、どうぞ!

あの人も出るよ!


【洋上:巡視船わたみ作戦室】

 

「…これが回答だと?…現在の状況は?」

 

常備灯のみの明かりの中で、男は自身の副官に確認を促す。

男の海洋人生で、経験したことのない事案。

それは、対処を間違えば、多くの人の安全を脅かすかもしれない。

 

男の勘が、そのように囁く。

 

「15分毎に、三名のソナー員に確認をとらせました。GPSリンクも正常、誤差は基準内です」

 

無情にも告げられる事実。

それでも優秀な部下を疎むこともなく。

ただただ事態の素早い把握に務められたことを感心した。

 

「現在までの経緯を再確認する」

 

男が視線を巡らすと、副官と、戦術士官数名が慎重に頷いた。

 

「本日12:11時に、本局へと通報があった。内容は不審な爆発音」

 

男は資料に目を落とし、尚も続ける。

 

「通報は付近で漁をして居た横浜市登録の一般男性。通報を受けた保安庁の早期警戒機が13:15時点で付近を捜索し、異変を察知。該当の島の所在が確認できないと現場に最も近い我々に本局経由で要請が入る、この時点で14:21時。…改めてみると、かなり優秀だな」

 

「ですね。それだけ事態を重く見たのかと」

 

一呼吸入れ、自分達の調べた、不可思議な現状の把握に取りかかった。

 

「巡視船わたみが当該海域へ到着したのが16:18時、現場の海洋データをソナーヘリ、わたみの艦首海底ソナーで取得、随時本局へとデータ送信を行い、本局からの回答が現18:55時に受信」

 

男は、手に持った資料を、皆で囲んでいた海図台の上に放った。

態度にわずかばかりの苛立ちが混ざるのは、自覚していない焦りから来たものだった。

 

「外周2.61km、海抜は2メートル、当該名『魚民島』が水深8メートルまで消失した、と。中心部はクレーター状になっており、最深部では25メートルを超える…、なぁ、何を使えばこんなデカイ島を吹っ飛ばせるんだ?核か!?」

 

「艦長…」

 

「あぁ、すまん。分かってる。だがな、俺たちの知らない()()()が、今でもこの下を悠々自適に泳いでるかもしれんと思うと、分かるだろ?」

 

「「分かります」」

 

艦長と呼ばれた男のやもすればヒステリックとも捉えられかねない悪態に、全員うなずきながら答えた。

海の男は、同じ船に乗れば思考も似てくる様だ。

 

「本局の分析官は、こんな事が出来る兵器は存在しないと抜かしやがった。まぁ、もっともだが、一番の可能性を省いて送ってきたのは許せん」

 

「“個性”ですか?」

 

「こんな非現実な結果を出せるのはそれくらいだろう」

 

「だがどんな個性だ?爆発音がしたというなら爆破系統の登録者を当たる必要が」

 

「いや、登録してる個性持ちでこれが出来るのか?キャパオーバーではないか」

 

「可能性の一つとして、海洋生物が個性を発現したと言うのも考えられ無くはない、だとしたら事だぞ」

 

「それはどうやって探せと言うんだ!」

 

「そんなことより、現実的に考えれば船で来たと考える方が」

 

「通報があってすぐ哨戒挺が出ている。船で出ていれば引っ掛かっている筈だ」

 

「無いから問題なんだろうが!」

 

 

 

「・・・静粛にっ!」

 

艦長の威厳か、よく通る声はその場で討議に没頭する者達の意識を、一瞬で纏めた。

 

「…結局、ここで議論しても始まらん!あと一時間もすれば、応援の『いくまる』と哨戒機の『ノーブルバード』がここに来るんだ。変化した海底図の素案を作っておけばデータ取りも早く済む。やるぞ!」

 

「「はっ!」」

 

「各員は持ち場に戻り、安全を確保しつつデータの収得に努めろ。いいか!安全の確保が最優先だ!もし不審な兆しを探知したら、直ぐ様戦闘状況へと移行する。各員は心して掛かれよ、では解散!」

 

作戦室から各々持ち場へ戻っていくわたみ士官達。

部屋を出る際に一人一人敬礼をする様が、これより死地へと赴く戦士の顔にも思える。

最後に艦長は、もう一度報告書のある台に視線を向けた。

 

「絶対見つけてやる…」

 

そう言うと艦長は、各員に指示を出すために求められる持ち場へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【都内某所】

 

 

 

「どう思われます?」

 

「個性だろうねぇ、でも…」

 

 

薄暗がりの中、独特の威圧感を纏った男が口の中で言葉を回す。

その部下らしき人物は、自らの主の独り言のような呟きに耳を欹てた。

 

…確かに、もしこの結果が真実ならば、欲しい個性だ。

実際に此れだけの事を成せるならば、ね。

 

 

「ブラフだと?」

 

思ってもみなかった主の意見に、考えを巡らせる男。

今は確かに何かあれば怪しむべきかもしれない。しかし()()()がこんな回りくどいことをするだろうか。

疑問を頭の中で廻しながら、主の言葉を待つ。

 

「さぁて、どうかな。うん、こう言ったことに向いた()()が有ったね?」

 

 

主の言葉に記憶を掘り起こす。探すタイプの“個性”は数あれど、現状で使えそうなのは一人しか思い当たらなかった。

しかし、あれは…

 

「…お言葉ですが、流石に海は難しいかと。彼の“個性”は物の記憶を見るものでしたから」

 

「じゃあ」

 

と、ここで部屋の隅に置かれたクラシカルな電話が、二人の会話を遮った。

主に視線を向けると、此方に視線をくれないままに指を軽く回す。

出ろ、の合図だ。

 

「失礼します」

 

軽く会釈をして、電話へと向かった。

取った瞬間から、電話先の部下の声が室内に響く。

声量を考えない通話相手に顔をしかめつつ、男は内容の理解に努めた。

徐々に現状が把握される。

 

その電話は、彼らにとって良くない知らせだった。

 

 

男は自らの主に、今把握したことを伝えなければならない。

少し体が強張る。何故なら、自身の主は穏やかな口調に隠れているが、男とは価値観が異なるのだ。

今まで重用されてきた自負はある。

でも明日どうなるかなんて、分からないのだから。

意を決して、慎重にかつシンプルに。言葉を選んだ。

 

「…九州の工場が、摘発されたそうです」

 

「ふむ」

 

主の気配が重く、冷たいモノへと変わる。

それが殺気だと気付いたのは、主が口を開けようとしたときだった。

 

「確か、蔵持くんだったね?」

 

「彼も、逮捕されたと…」

 

主の手に力が入るのがわかった。握った肘掛けが悲鳴を上げている。

男は生きた心地がしないまま、己をこの状況に追い込んだ元凶の名を紡いだ。

 

「立ち入りの、主導は、その、オールマイトであったと…」

 

遂に主の力に耐えきれなくなったのか。肘掛けが音を立てて潰れていく。

固い、年代物のオークウッドが、まるで豆腐のように潰れる様に、なぜか自らが重なった。

そのまま怒りに任せるかと思いきや、手の力を抜いた主は、満面の笑みで虚空を見つめている。

今は、全身に鳥肌が立つのを、黙って堪え忍ぶ以外の方法は無い。男のその直感は、きっと正しい。

 

 

「ククク、やるじゃないかぁ、オールマイトォ!」

 

 

妙にテンションの上がっている主の気分を損ねないように、男は気配を出来るだけ消す。

 

あぁ、自分の将来のためにも手土産が要る。

男は、次点の千葉方面でやらかした炎熱系能力者を探すことを、静かに心に決めた。

 

 

 

 

 

 




キャラクター紹介memo②

イクサゼンキ
戦 善鬼

性格
・良い意味でも、悪い意味でも大雑把。
・日本渾沌期を経験しているので、悪意を知らないわけではない。
・その為、家族や親族、仕事仲間と言った小さいコミュニティを大事にする傾向がある。
・排他的ではないが、優先順位は確りしているタイプ
・取り敢えず家族至上主義

属性
・善性(非干渉・保守)

個性・能力
・個性:鬼
・能力:主に身体強化系。筋力、肉体強度、知覚、情報処理能力全てに及ぶ、謂わばオールマイトの下位互換。
肉体のバランス感覚は持って生まれたセンスであり、一般的に見ればチートの類い。さすが父。

スタイル
・身長196cm
・体重131kg(体脂肪率8%)
・何がとは言わないが、多分E(long)

情報
・実はあるヒーローに、サイドキックに誘われたことがある。世話になった事もあるので少し悩んだが、断った。
その為、そのヒーローのサイドキックにむっちゃ嫌われてる。

・結構モテる。

・角は二つ。そこそこ長いので、Tシャツが着れない。
親戚の家に行くと、たまに梁に引っ掛かる。で、梁が削れて怒られる。

・断っているが、公務員の伝で警察のヴィラン対策課からの勧誘が来ることもある。

・笑顔が眩しい。


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閑話その②

次回の投稿は火曜日になるかと思います。
完結まで頑張りたいと思いますので、気を長くしてお待ちください。


はしやすめ、そのにぃ!


【とあるバス会社の事務所】

 

「う~っ!」

 

男が唸っていた。

体型は小太り、顔色も悪い。

最近は苦情の電話の対応で、夜も眠れない状況だった。

 

「社長、大丈夫ですか?」

 

事務所の管理を任せられている中年の男性が声をかける。

社長と呼ばれた不健康そうな男が、すがるような目で部下を見た。

この部下とは会社が未だ小さい時からの付き合いだ。バスが一台しかなかった時代、苦労の連続だった。

観光ブームのおり、彼と交代しながら何とか遣り繰りしていた経験は、そこそこ大きなバス会社まで成長させた今の自分にとって、(たから)と言って良い経験だ。

 

「耐熱ステンレスすら蒸発させる個性に、何をすりゃよかったんだぁ!?安全のためにクソ高い個性耐性バスを仕入れたってぇのにぃ!」

 

「社長、落ち着いて」

 

「落ち着いてるよぉ!見て分からないのかぁ!」

 

「分かるから落ち着いてと言ってるんです」

 

「ぐぅぅ!みんな敵だぁうぁぁ…!」

 

「社長……っあ、ダメです!」

 

「あだっ!」

 

社長が、咄嗟に頭を抱えようとしたのを殴って止める。

それは社長の凶悪な能力が発動してしまう恐れが有ったためだ。

 

「社長!()()()()()()()()頭なんて触ったら、とんでもないですよ!」

 

「あ、ぁあ、有り難う、河童くん」

 

部下の男は社長のお礼に頭を下げつつ、郷愁の面持ちで社長を見つめるのだった。

 

社長の個性は大変凶悪なもので、学生時代は友達も恋人も作れないほど不遇な扱いを受けていた。

彼が会社を立ち上げた理由も、自分だけの城が欲しかったというのが、一番の理由だ。

 

それは、指を五本、揃えて発動する個性。

あまりにも強力で、人の心を腐らす兇手。

 

「こんな個性で生まれ、頑張って会社を立ち上げれば個性持ちにズタズタにされる、こんな社会、クソじゃないか!」

 

「社長、落ち着いて」

 

「もう落ち着いてられるか!娘だって抱けないんだぞ!」

 

「社長…」

 

そう、社長の個性はひとを選ばない。五つの指で触れるだけで、発動してしまう。

 

「それは、仕方無いでしょう?」

 

「ぅぅうぅっ…!」

 

「だって、社長の個性が発動してしまったら、死んでしまいますからね…

 

 

 

 

 

 

 

毛根が」

 

「うるさい!はっきり言うな!」

 

 

実に凶悪極まりない個性である。

 

苦笑いをして目をそらした部下の男は、午後のチャイムが鳴っていることに気づいた。

 

「社長、昼食を摂りましょう」

 

「ぅぅ、食欲が湧かん、君だけで摂りなさいっ」

 

「社長!食べるものを食べないと、本当に体を壊しますよ!?」

 

「ぅっ、分かったよ…」

 

社長と部下2人、取り敢えずさまざまな問題は棚上げして、持ち寄りの弁当を広げることにした。

 

「社長、お茶とコーヒー、どちらにしますか?」

 

「ん?あぁ、お茶を、っ!」

 

部下の男が異変に気付き目をやると、社長が弁当を広げ、固まっていた。

 

「社長?どうされたんです?」

 

部下は心配になり、社長に近付いた。

社長は、小さなメモ用紙を見て固まっていた。

男は気になり、覗いてみると…

 

 

 

 

 

『おとうさん、いつもありかとう、

 

おしごとがんばってね!かなみ』

 

 

 

それは、社長の娘からのメッセージだった。

 

「河童くん」

 

「はい、社長」

 

社長の声は少し震えていた。

しかし部下の男はそれを茶化したりはしない。

なぜなら、自分の声も震えていたからだ。

 

「もう少し、頑張ろうと思う」

 

「はい、私も微力ですがお付き合いしますとも」

 

 

社長の会社の未来は、そんなに暗くないのかもしれない。

 

 

 

社長の頭髪の未来と違って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある火災現場】

 

「避難の遅れたものは!?」

 

男が声を張り上げる。見上げるような巨躯、その高所からの一喝。

強力な筋力から絞り出されたそれは、遠くまではっきりと聞こえた。

 

「娘が、むすめがまだなかにぃ!」

 

母親の悲痛な叫び。

 

燃え落ちる家屋の梁の音と重なるも、男は聞き逃さなかった。

 

「わかったぁ!!ちょっと待ってろぉ!!鮫島ぁ!呼吸器と搬送のよぉい!」

 

「うっす!!」

 

「ちょ、ちょっとイクサ隊長!?危険です!!」

 

隊員の制止も聞かず、水を被っただけで崩れ落ちそうな火災家屋へと飛び込んでいった。

 

「糸出ちゃーん!搬送ラインの確保ぉ!すぐ出てくるからさぁ!」

 

「治療系個性の隊員の確保完了です!はーい、皆さん怪我人が通る道を開けてくださいねぇ!」

 

「え!?え!?なんで助けにいかないんですか鮫島さん!隊長が!」

 

てきぱきと指示を出すベテラン隊員たち。

彼らは知っているのだ。

自分達の隊長が、殺したって死ぬような人間じゃ無いってことを。

そもそも人間かも疑わしいと、思ってたり。

 

そんな周りの反応に困惑を隠せないのが、最近入った新人の女性隊員だった。

 

「ミナミちゃーん、ウチらの隊長がそんな簡単に怪我するわけ無いよー!」

 

「何を言ってるんですか!今にも崩れそうな家屋に装備無しで入っていったんですよ!?」

 

「だってそりゃぁ、あ、」

 

鮫島と呼ばれた隊員が説明しようと火災家屋に視線を合わせると、次の瞬間まさにその家屋がバキバキと大きな音を立てて崩れて行くのだった。

 

善鬼(ぜんき)せんぱい!?善鬼せんぱぁい!!」

 

「ありゃりゃ、こりゃぁ…っ!」

 

鮫島はなにかに気付くと、後ろを振り返って急いで注意を促した。

 

 

「破片ちゅーい!!」

 

 

叫びながら、隣の新人を抱えてそのタイミングに備えた。

と、同時に、

 

ガァン!!

 

という、まるで巨大な破砕機で木材を砕いたかの様な音が響き渡った。

 

ちゃんと飛ぶ方向は考えたのだろうが、それでも燃えた木材の破片が辺りに降り注ぐ。

 

「なっ、なっ、なんですかー!?」

 

抱えられたのと、隊長が潰されたであろう家屋が吹き飛んだの、そして、

 

「おーう、タンカ持ってこーい!!」

 

傷ひとつなく女の子を抱えて出てきた()()()()()を目にして、新人隊員の()()()()()は頭がパニックになるのだった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅー、今回は危なかったなぁ!」

 

「え、そうなんすか?」

 

火災はほぼ鎮火し、後は燃え残りを片付けるのみとなった現場。

レスキュー部隊の隊員たちが、各々の格好で待機していた。

 

その中で、隊長の『イクサ善鬼』は崩れ落ちる最中の事を語った。

 

「やっぱりイクサ隊長無茶してたんじゃ無いですかぁ!」

 

「隊長が珍しいっすね」

 

隊員たちも、滅多に聞かない隊長の弱音に驚きを隠せない。

 

「あぁ、もうちょっと大黒(柱)殴んの遅かったら、あの子に怪我させてたかもしんねぇからなぁ」

 

「あぁ、そういう」

 

隊員たちは納得した。

一人未だ納得できていない隊員が、

 

「でも隊長だって危なかったんじゃないんですか!?」

 

「俺が危険を感じる状況、かぁ。多分50階建てのビルに潰されそうにでもなったら、気を付けるな!」

 

「( ̄* ̄)」

 

 

 

 

 

「隊長!」

 

ふと、緊急車両の側で休んでいた隊員が緊張感を伴った声色で、隊長に呼び掛ける。

 

「おう、どうした」

 

「中央区のランデリオンビルで高層火災です、まだ要救助者多数と!」

 

「おっし皆休憩は終わりだ!さくっと救助して風呂入って帰るぞ!!」

 

 

「「「おうっ!!」」」

 

レスキュー隊員たちの今日はまだまだ続く。

 

 

 

 

 

恋の予感もまだまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【とある支部のオペレータールーム】

 

 

海上保安庁オペレーターハウス千葉支部は、遭難者の救難連絡から海上のゴミのクレームまで、様々な連絡が飛び込んでくる。

しかしそう大きい事が有るわけでもなく。

それでも日々の通報には、それなりの緊張感を持って臨んでいるのだった。

 

そんなある昼の出来事。

 

 

「イクサさーん、十一番線、不審物の通報お願いしまーす」

 

「あら、増田リーダーったら。分かりました、回してください」

 

人に仕事を振るのは超一流と言われる、千葉支部オペレーターハウスのハウスリーダーから、ある一件の通報を託された。

こう言うときは面倒になることが多い。咄嗟の判断を評価されている自分に回したのも、なにか意図があったのだろう。

 

 

「はい、海上保安庁です。事故ですか、事件ですか?…はい、それは××××の海域で、あ、ではその海図の、ええ、番木出版のですよね?はい、存じてます。ええ、七番の。GPSの座標を教えていただいても?ええ、はい、そうですお願いします。えぇっと、北緯○○○○、東経○○○○、はい、ご連絡先をー……」

 

 

情報を汲み取りながら、必要なデータを集めていく。

通報者は場合によってひどい興奮状態に陥っていることがある。

その場合は、まず通報者を落ち着かせることから始めなければいけない。

 

彼女はそれが非常に巧かった。

声の質もあるだろうが、技術と言うのは喋る質に繋がる。

通常、電話口と言うのは表情が見えないぶん声に集中してしまう。

パニックになっている人間は余計に耳をそばだててしまうだろう。

そんな状態の通報者に対して、対応するオペレーターが浮わついていたり、声に真剣さが感じられないような雰囲気だと。

通報者はパニック状態、判断よりも内容の強弱で主張してしまうだろう。

つまり余計に空回りしてしまって、伝えたい内容が伝わらないと言う結果になる。

オペレーターの質が、災害の初期対応の良し悪しに直結する。

 

自分は貴方の話を聞きます。

それを声だけで相手に信じさせるのは、一種の才能(タレント)が必要になってくるのだ。

 

 

主要な情報を聞き取った彼女は、この通報が大事になる予感を感じていた。

少なくとも、ここのシステムでは早期警戒機と巡視船の連携はキャパオーバーである。

 

彼女は優先順位をつけた。

まず始めは、早期警戒機だ。たしかルートは太平洋上が二機、午前と午後に分けて飛ぶから、今際この位置で、IFFコードはこれか。

 

 

「ピュアバード、聞こえますか、ピュアバード。こちらCC(センターコントロール)N3、聞こえますか?」

 

『こちらピュアバード。CCN3、アクティブ!』

 

「ピュアバード、現在地を送れ、どうぞ」

 

『こちらピュアバード、現在北緯○○○○を南下中、5分後に東経○○○○へと到達する見込み』

 

「こちらCCN3、ピュアバード、東経○○○○へ変進されたし、どうぞ」

 

『こちらピュアバード、変進理由を送れ、どうぞ』

 

「こちらCCN3、当該座標付近で爆発音、状況を確認されたし」

 

『こちらピュアバード。了解した、到着次第送る。以上』

 

「了解、報告を待つ、以上」

 

緊張感を孕んだ早期警戒機との連絡。

向こうの定期航路を外させるのだから、効率的なルートを指示するのはオペレーターの役割である。

普通は、航路管制官に助言を貰ったりするのだが。

 

「すごい…」

 

たまたま今日見学に来ていたインターン生が、感心したように呟いた。

しかし今は時間が勝負、優先順位を消化していかなければ。

インターン生の娘に笑いかけて気を解してあげると、戦略オペレーティングセンターへと権限を移す手続きに取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

「どうしてこちらでやり取りしなかったんですか?」

 

インターンの娘が聞いてきたのは、先程の件だった。

このままオペレーション業務を進めていても問題がないように思えたからだ。

 

「内容が爆発音がした、だったでしょう?」

 

「はい」

 

「じゃあ、何が爆発したと思う?」

 

「あっ、船とか飛行機とか、救助の必要性もあるんだ!」

 

「そう、船だとすぐに移動というわけにもいかないから、一番近い船とのやり取りもしなきゃいけないの。其処までの複合オペレートはここのシステムじゃぁ、ちょっと無理かな?」

 

「あの一瞬で判断したんですか?すごい…」

 

「あはは、決まったことをやってるだけだから、全体の流れを意識すれば、そう難しくは無いわよ?」

 

「それがいちばん難しいとおもいます…」

 

目が真ん丸になったインターンの娘にお茶を出しながら、今日はこれで終わりかと気を緩めようとしたそのとき。

 

『こちらピュアバード、CCN3、応答セヨ、繰り返す、こちらピュアバード、CCN3、応答セヨ』

 

「え?珍しいわね」

 

「…大丈夫なんですか?」

 

インターンの娘の問い掛けを、唇に人差し指を当ててこたえる。

最後の一仕事を、確り終らせよう。

 

「はい、こちらCCN3、ピュアバード、どうしました?」

 

『あぁ良かった!こちらピュアバード、確認したい、そちらの指定した島が見当たらない、海図を確認してくれ、どうぞ!』

 

「見当たらない?はい、こちらCCN3、確認してみます。暫しお待ちを」

 

島が見当たらない?そんなはずはない、少なくとも外周2㎞半の島だ、いくら海抜が低いからって見えないなんてことはないはずだ。

 

データを回線でも送りつつ、無線でも座標を伝えた。

 

「こちらCCN3、座標は今の通りです、外周2㎞を超える島です。そちらのGPSは正常ですか?」

 

『こちらピュアバード、GPSに問題は無い。自己診断機能も付いてるんだ。それよりも、中央部が深くなっている浅瀬を確認、…まさかとは思うが、あれか?』

 

「ピュアバード?大丈夫ですか?」

 

『すまない、こちらピュアバード。当該座標に中央がくぼんだ浅瀬を確認した。これは、不味いかもしれない』

 

「ピュアバード、TICC(戦略情報管理センター)との連絡は付いてますか?」

 

『こちらピュアバード、問題ない。これ以上のデータ取得は困難とし、船の手配をする。CCN3、対応感謝する』

 

「こちらCCN3、了解、帰路の安全を祈る、以上(オーバー)

 

『…こちらピュアバード、女神の加護に感謝する。以上(オーバー)

 

「っ!?もう、あんな軽口して!」

 

 

最後の台詞は確りインターンの娘にも聞こえた様で、可愛らしくクスクスと笑っていた。

 

「最後の最後にカッコ悪いとこみせちゃったなぁ」

 

「そんなことないですよ!パイロットとの通話憧れます!」

 

「あはは、あちらのオペレーターだよ。まぁ多分最後はパイロットだと思うけど」

 

最後だけ声が違った気がする。

たぶんパイロットだろう。何故ならやつらはキザだから。

 

「今日は私も終わりっ!あ、インターン今日までだったわよね?」

 

「はい、寂しくなります」

 

「ヒーローになるのも大変だと思うけど、きっとなってからも大変だと思うわ。頑張って!」

 

「はい、ありがとうございます!こちらで学んだことを活かしていきたいと思いますから!」

 

その笑顔は、ヒーローを諦めた自分には眩しいものだったけど。

それでも彼女たちを支えていける仕事をしようと、改めて心に決めたのだった。

 

 

 

 

「じゃあ、今度会うときはヒーローになってるかもね、

 

 

 

 

 

頑張ってね、

 

 

()()()()ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

人は繋がる。

 

繋がりが人を創る。

 

 




キャラクター紹介memo③


イクサ アユミ
戦 歩美
(旧姓:水橋)

性格
・おおらか
・プラス思考。旦那と似た者夫婦。
・意外とお嬢様。それなりに格式高い家なので、日本混乱期をそこそこ詳しく知っている。だから組織の後ろ暗いところにも理解は有る。

属性
善(独自)
意外と自己ルールが行動理念。そして家族が大切。

個性・能力
・個性:水上歩行
・能力:類いまれなる情報処理能力。記憶力。
専修学部の段階でその片鱗を見せており、実地研修時は本職を差し置いて、テクニカルオペレーターとして実戦に参加した経緯を持つ。付いた渾名が『オペレーション・スクリプター(管制脚本家)』。
いわゆるチートの類い。

スタイル
・身長165cm
・た


・…E。最近娘に負ける覚悟をした、さんじゅうさんさい。

情報
・本局から未だに勧誘が来る。単身赴任になるので絶対嫌だと断っている。
・体力は有る。筋力がない。
・声と喋りで、他所のオペレーターに人気。
指名されることもあるが、とあるハウスリーダーによって別メンバーに振られる為、レア度が高い。
余波でハウスリーダーの渾名が『鉄壁』とか『通信の割り振りだけ超一流』となった。
ちなみに、各局オペレーター内では『通信の女神』とも呼ばれてたりなかったり。

・外反母趾


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第六話

今回から新章です。
ただ、今週から来週頭まで私事で忙しいので、次回更新は来週水曜日辺りになるかと思います。
宜しくお願いします。


目の高さまで上げた掌を、ゆっくり(かえ)しながら前へと押し出す。

足は猫足立ちで、重心は極力上下には揺らさない。

荷重を左足から右足にシフトしつつ、スタンスは維持する。

 

自分のイメージの通りに、寸分狂いもなく制御していく。

呼吸と体の動きを連動させる。

 

ヒトガタであるなら、体が鬼であろうが深海棲艦であろうが動かし方は変わらない。

 

ゆっくりとした動きは、ただの健康体操にも見えるし、空手の演舞が変化したものの様にも見える。

 

体の、心の調子を整える演舞。

 

武術の中でも、継戦能力に秀でた流派。

 

前世からの遺産。

 

 

 

 

…ふ~っ。

 

呼吸を整える。

 

 

全身に集中力を巡らすのは、全力で体を動かすのとはまた違った負荷が掛かるものだ。

それは体が感じる、と言うよりは体に表れる疲労。精神的な負荷が体にフィードバックされる、本来とは逆の流れ。

 

久しぶり、それこそ、生まれ変わる前に慣れ親しんだ負荷に、わずかに口が緩んだ。

 

 

かつては『気』などイメージの産物だと思っていたのに。

 

 

今感じられるこの奔流は何だ?

 

これが、気か?

 

それとも、これが私の“個性”とでも?

 

 

ゆっくりと『気』を抜く。

 

 

絞るように、意を第6穴より抜き、第1穴より溢れ来る奔流は、常時へと移行していく。

 

 

考えることは多い。

 

 

あのヴィランを喰らった後、この身に訪れた変化は、劇的だった。

 

変化はいくつもある。でも一番変わったのは、体の感覚だ。

 

最初はパワーが上がったのかと思ったが、そうでは無い。

 

 

 

これは言うなれば、『調律』か。

 

元より、この体と、内包された私の意識との間に、私自身も認識していなかった()()があった。

 

つい先日まで、前世の肉体の感覚を引きずっているのだろうと、長い目でみて感覚を慣らしていく腹積もりだった。

でもこの変化の後は、ボヤけたピントが合うように、この不調の原因が理解できる。

 

 

バラバラなのだ、私の魂が。

 

魂といっていいのか、意識といっていいのかは未だはっきりしないが、精神に関連する事だというのはわかる。

 

恐らく、()()は、“個性”に紐付けられている。

 

恐らく、と付けたが半ば確信している。

他者の“個性”の在り方はどうなのだろうか。

気にはなるが、確かめようもあるまい。

 

この魂がバラバラという表現は感覚的なものだ。

ちぐはぐというか、気配が異なるというか。

私の体であるのに、私の体ではない感覚。

 

まるで今の私を形作るために、最適なパーツを組み込んだような、俯瞰的な輪郭。

 

 

()()が良かったのか“個性”が良かったのか、それは分からない。

 

 

だがそれを得たことで、私の魂は『()()()()()

 

今はまだ全てが『定着』していない、と感覚で理解できる。

多分、まだあの炎熱系能力(パイロキネシス)も使えまい。

 

暫くすれば、肉体と精神の齟齬も、取得した個性も問題なく使えるだろう。

 

 

 

…そもそも“個性”とは何なのだ。

読み物としていた頃なら気にもしなかった『設定』。

 

しかし我が身に降りかかってみれば、げに思う。

個性とは何なのか、何故ヒトの身にこの様な超常の力が宿ったのか、そして、何処へ向かうのか。

 

知識だけには有る『個性特異点』。

それが引き起こす終末論。

 

物語としては整合性のある、理屈。

だが、この世界に生まれた私の実感として、それが納得し難い()()()を伴っていた。

 

個性とは何なのか。

 

『私』は、私の“個性”は何故生まれたのか。

 

 

分からないことだらけだ。

 

 

 

 

 

 

まったく、難儀な体になったものだな。

 

 

 

 

 

 

武術の型が一通り終わり、精神的な疲労から来る汗を拭う。

 

最後に『息吹』と呼ばれる呼吸で意識の区切りを付け、精神の残心を少しづつ(ほど)くことで修練に区切りを付けた。

 

 

 

 

拍手が聞こえた。

 

 

その方向に視線を向けると、見慣れた顔が目に入った。

 

 

「凄いな!ゆっくりだが力強い動き、何だそれ!?どこで習ったんだミズキ!」

 

 

父である。

 

 

秘密です。

 

「えぇ!?良いじゃんか、教えてくれても!」

 

まぁ、()()を借りてくれた対価として、『身体活用の法』を教えてあげますか。

 

「おぉ!ありがとよミズキ!いやぁー、昔っから体の使い方()()は上手いって言われてたからなぁ、あんま武道とかやろうと思わなかったんだけどよ?」

 

じゃやめる?

 

「違う違う!そうじゃなくて、ミズキは特別、特別だから!父さんミズキのやってる武道習いたいなぁー!」

 

うぜぇ

 

まぁ良いよ。普通に教えるから。

 

「おぅ、俺ぁやってこなかったのを後悔してる部分もあるんだ」

 

父さんの身体能力じゃあ必要ないもんね。

あと、『武道』じゃなくて『武術』だから、そこんとこ間違えないように。

 

「お、おう」

 

 

父の戸惑った顔が笑いを誘うが、そこは大事なとこなんだよ。

 

出たよオタクの妙な拘り?…ほぉ~、なら浮遊要塞クンには後で浸透勁をプレゼントしてあげよう、私はオタクだからね。

この体の筋力で打ったらどうなるか気になるんだよね、私はオタクだから。

 

 

 

しかし父には感謝しかないなぁ。

 

私の異常性を僅かばかりではあるけど受け止めてくれたし、こうやって協力もしてくれる。

普通の親なら、少しくらいは怖がりそうなものだけど。

 

父にあのヴィランを()()したのを、遠回しではあるけど伝えた後。

 

父にふと尋ねてみた。

 

私が怖くないの?と。

 

父は特に気にした風もなく、『全然。何で?』と逆に聞いてきたほどだ。

 

今の私の精神性が強靭過ぎて気付き難いが、確かに、あのとき私は、()()()()んだと思う。

 

そんな、気がする。

 

 

 

 

 

父の動きを観察する。

 

父が自慢したのも頷ける。

少し教えれば、すぐに覚える。これはセンスだな。

 

生まれつき、自分の身体の細部まで()()()()意識が行き渡っている人が居る。

説明しにくいが、これはセンス、感覚として出来てしまうことで、練習して得られる類いの才ではない。

 

それを活用すれば、この様に動きを覚えることも難くない。年少の時分ならば、やれ神童だと持て囃されることも有るだろう。

 

だがなぁ、

 

こういう類いのセンスは、武術とは余りにも相性が()()

 

ボクシングや現代空手など、格闘技系統の理論ならば相性が良いのだが、こと武術系統は反復修練による『イメージの拡張』が技術の根幹にある。このイメージの拡張と父のような優れたセンスは、競合するのだ。

 

結果として、本質を極めるのを阻害されてしまう。

 

『十で神童、十五で才人、二十過ぎれば只の人』と言うのもあながち嘘ではないのだ。

 

 

だがまぁ、父の場合はそれが高い次元でまとまっている感じか。

 

極めるのは難いが、技としての機能を活用する分には問題無い。

 

 

 

 

「うぉっし!」

 

私が教えた動作を繰り返しさせ、横で見ながら逐次改善する。

父にベストな動きに最適化されるまで、何度も何度も繰り返させた。

 

今は一つの工程を覚えただけだが、最初の頃とは立ち居からして変わったな。

 

 

父さん、どうだった?

 

「いやぁ、自分の動きがみるみる安定してきて、楽しいな!」

 

こっちも教えていて楽しかったよ。

すごいじゃん。

さすが父さんだね。

 

「そうだろうそうだろう!もっと誉めていいぞぉ!」

 

うざっ

 

「(´・c_・`)」

 

…まぁ、今教えた動きはもう大体身に付いたんじゃない?

 

「そうだなぁ、普段でも使えそうな動きだから、ちょくちょく意識しないとなぁ」

 

うん。それでいいと思う。

今度教えるときは受け身とかも入れとくよ。

 

「おぉ!受け身か!あのしゅぱっ、てヤツだろ?楽しみにしとくよ!…ところでミズキ、お前どこでこんなの習ったんだ?」

 

ん?

 

「今までミズキが習い事してたこともないし、そもそもお前身体動かすの嫌いな感じだったからなぁ。どこで習ったのか気になったんだよ」

 

んー、まぁこれはねぇ…

 

 

 

聞かれるのは予想していたので、回答は準備していた。

内容を思い返し、父の『鬼としての特性』に引っ掛からない形で組み立てる。

 

 

 

前世の記憶、かなぁ。

 

「ぜんせ?前世って、生まれる前の前世か?」

 

うん。

前世に習ってたんだよ、これ。

 

「嘘じゃないんだなぁ、前世か、こりゃまたすごいなぁ」

 

原因が前世の“個性”だったのかどうかすら今は分からないけどね。技術ってば忘れないものらしいよ。

 

「はぁー、成る程なぁ。なぁミズキ、ミズキの個性が強いのにも関係してるのか?」

 

さあ。

でも、私の『勘』は、多分関係してるって囁いてるよ。

 

「そうなのか。まぁ、今の世情だと身を守る力は有って困らんしな!」

 

満面の笑顔になる父。

 

すまん、父よ。まだ前世が男だったと白状するには覚悟が足りないんだ。

成人した位に、酒でも呑みながら語り合おうかなぁ。

 

 

 

 

「ところで、女の身で武術なんてめずらし、ん?ミズ」

 

ん?

 

「ぁ」

 

ん?

 

「ぃゃ」

 

ん?なんだい父さん。

 

「チョット水買ってきまぁす!」

 

あ、逃げた

 

 

 

 

 

 

 

チッ

 

勘のいい鬼は嫌いだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁその後は普通に締めの動きを教えた。

身体をほぐして身に落とし込む。これが有ると無いじゃ脳の運動記憶中枢への働きかけに違いが出てしまうからなぁ。

 

ん?最後の事?何の事だ?

ほら、父も分からないと言ってるだろう、浮遊要塞クン。

ん?あー、ちょうど握りたいところに握りやすそうな物があったから握っているダケダヨ、ホラ。ギリギリギリ

 

 

じゃあ私はもう少し動いてから帰るわぁ

 

「あんまり遅くなるなよ。終わったら中央棟の管理室に事務員さんが居る筈だから、鍵はそこで返したらいい。父さんも言伝はしておくから」

 

分かった。ありがとうね!

 

「なーに、こんぐらいどうってこと無いさ!」

 

実は今日練習していた鍛練場は、一般開放されている場所じゃ無かったりする。

 

父の所属するレスキュー隊や海上保安隊の、『緊急時に個性の使用を許されている』実務部隊員が訓練するための鍛練場なのだ。

 

父も含めて、危険な現場で活躍する公務員は、規定さえ満たせば『特殊業務任免状』という形で、個性使用の許諾が出るという。

ただ、統括として特定ヒーロー免状を持っている現場責任者が必要であったり、許可が下りるのは危険な現場に行くときだけであったりと制限は有るらしいが。

 

そんな実務部隊員が個性を含めた訓練をするために、この鍛練場はそれに耐えうる造りをしていたりする。

私の鍛練というか、身体の使い方を確認するにも、非常にありがたい。

 

普通であれば、いち一般人の私が借りれるものではないが、

 

ん?

 

逸般人?

…バラされたいかテメェ?

 

 

 

んんっ、()()()の!私が借りれるものではないのですが、此処は長年レスキュー隊を勤めあげたと言う信頼預金の残高溢れる父が居りまして。

「いいよいいよ、(いくさ)さんのご家族なら空いてるときはいくらだって使っていいから!」

 

と言う有難いお言葉を頂いたわけです。

 

 

父には感謝しかないよ、まったく。

 

 

 

 

 

 

父がドアを閉めるまで見送り、ひと息つく。

 

まぁこれから本題と言えば本題だからなぁ。

 

一応、ドアの前には小さくした浮遊要塞のひとつを仕込んである。

誰か近付けば私と浮遊要塞のダブルチェックで気付けるだろう。

 

さて、と。

 

 

 

 

 

じゃあ出てきて貰おうか

 

 

 

 

 

 

足元の影が広がり、そこから人間サイズの塊が競り上がってくる。

影の残滓が空中に溶けるように消え、それに包まれていた()()が明らかになる。

 

 

 

 

 

 

それはー

 

 

 

 

 

 

 

「お呼びでしょうか、主様(あるじさま)

 

 

 

 

 

見慣れた『艤装』は無いが、白磁のような肌に、一度目にすれば記憶に刻まれる妖艶さを含んだ白髪。

美しい(かんばせ)に光るのは、海で見れば人を海底へ引きずり込むような、()()()

 

 

 

知っている者が“彼女”を見たら、こう呼んだだろう。

 

 

 

 

 

『欧州水姫』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いよいよチートさんがアップを始めました。


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第七話

納期マミったょぉ。
なので今回短くなりました。


人ならざる美しさと言うのか。

妖刀が人のカタチに成ったような、

そんな只者では無い空気を纏っている。

 

確かに、スペックだけなら戦艦水鬼に匹敵するのだからなぁ。

 

今は艤装は展開していない。

というか、あるのか?艤装。

 

「はい、主様(あるじさま)

 

 

彼女が薄く笑うと、()()が濃くなった。

背面、腰の中程から、結晶が形成されるようにナニかが生まれる。そしてそれは花開く様に一気に広がり、見覚えのある形状にまとまっていく。

体感で十秒はいかない位かね?

意外と遅いな。

 

「いえ、これは最初だけになります」

 

ほーん?次からはもっと早いと?

 

「はい、このように」

 

と彼女が呟くと、艤装が黒い煙のように消え、再度展開された。

 

え、じゃあ今さっきのは艤装をつくったんか?

 

「そうなります」

 

ほーん?よう分からん機能だなぁ。

 

ん?私喋ってないけど通じてる?

 

「はい、私たち眷属は主様の思念を受け取れますので、お口になさらずとも会話ならば」

 

出来ると。

ほーん?便利だなぁ。でもそういえば、連装砲くんや浮遊要塞(あいつら)も意思疎通は出来るからなぁ、同じなんか。納得し難いが。

まぁそもそも元となる私の個性自体よう分からんからしゃぁないか。

 

 

 

 

彼女、『欧州水姫』が生まれたのは、つい昨日の出来事だ。

 

 

 

検査入院から退院したのが先週の末の出来事で。

数日は学校からも、休んで構わないと言う旨を伝えられていたため、急にできた休日を満喫していたわけだが。

 

ふと、私の個性が気になってしまい、その場でできるチェックをしていたところ、

 

「ぁァ」

 

と言う呻き声のような悲鳴のような、そんな声と共に、“眷属の()()”とも言うべきものが出来たことを知ったのだった。

 

最初はびっくりしたね。

 

私はフラスコの中の小人(ホムンクルス)も造れるんか!?

と真剣に別作品(はがねの)のクロスオーバーを疑ったものだが、どうやらそうでは無いみたいで。

 

個性が囁きかけてくると言うか、インストールした知識を参照している様な、そんな方法で、この眷属のたねの扱い方を学んだ。

 

アバウト?じゃぁお前らが教えろよ。

シラナイモーンじゃねぇよだったら黙ってろ。

 

個性のスキル拡張が起きたのはその時点で察したけど、

『勘』も含めて使用者に優しくない仕様である。

 

 

 

新しく獲たスキルは、名付けるなら【生命の海】かな。

 

能力は眷属作成。

 

 

今までも浮遊要塞は作れたけど、それはこの能力の一端が漏れ出たようなモノらしい。

個性が成長(?)した結果として、ハッキリと能力として目覚めたと。

 

で、件の“眷属のたね”は、上位の力を持つ眷属を精製するメインパーツで、それを核にして方向性のある外郭を精製していく流れになるわけだ。

 

用はキャラ付けだな。

 

その結果として、()()が出来たわけで。

 

 

 

 

 

 

 

 

それで、何故、欧州水姫を造ったか、なんだが。

…造ったでいいよな?ウン

 

 

 

まず、メインの理由から言おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

趣味だっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

いやぁ、セクシー系のお姉さんって良いよね?

洋モ、外国の人ってセクシーだからキャラとしてもお気に入りだったんだよ。

 

あぁそうだよ趣味だよ性癖で悪いか(゚Д゚)ゴルァ!!

 

お、そうか良かったよ連装砲君、君とはいい酒が飲めそうだ。

 

 

 

で、なんで欧州水姫を造ったか、次の理由ね?

 

 

活動できる大人が欲しかったんよ。

 

 

私は、世間知らずだった。

ヴィランがここまで簡単に一般人を害するなんて、知識としては知っていても、実感として理解できていなかった。

 

表にはでなくても、まだ頭の中では私は大丈夫、私の家族も大丈夫、なんてぇ甘い考えだったんだ。

 

本当に、襲われたのが私で良かったよ。

 

冷や水を浴びせられたと言うか。

 

 

バイクの免許取り立てで無謀な運転をして、それを数年後思い出して『あの頃事故ってたら死んでたわぁ』って思う感じだ。

 

ん?わからない?

そうか…

 

まぁとにかく、世間の常識と言うか、もっと『外』に対するアプローチをしていく必要性を感じたんだ。

 

そんなとき、子供の肉体は枷になる。

 

まず目立つ。

 

次に嘗められる。

 

そして相手にされない。

 

 

アングラな場所だけとは限らないが、限らないからこそ人垣に溶け込める大人である必要性があるんだ。

 

 

あとは私自身を認識されない為だな。

 

ヴィラン組織に私と言う存在を、個性の詳細はともかく大枠でも認識されてしまったら、父や母、弟に迷惑が掛かるかもしれない。

 

無論そうなっても護りきる気持ちはあるが、そうならないように立ち回るのが戦略である。

 

現状、私は考えられる上で最上位の戦略的優位性を持っている。

 

ヒーローの今後と、ヴィランの首魁たるオールフォーワンの動向を大まかとは言え識っているという事。しかも此方は認識されていない、と言う好条件。

 

 

無論、油断する気は無い。

 

炎のヴィランもそうだが、無人島消滅事件は恐らく確実にオールフォーワンの耳に入るだろう。

最悪、そこから辿られる可能性もある。

 

なので現在、浮遊要塞を小型化したものを、私の家や生活行動圏にばらまいているのだ。

何かしら不審な動きをするものがいれば、直ぐ様対応できるようにはしている。

 

まぁ、十分とは言えないと思うが。

 

 

だからまず、認識されないためには関係性の無さそうな人物を見繕わなきゃいけない。

 

しかしそう簡単には見つからん。

 

なら造ろう!

 

 

と、思っていたんだが、つい先日までは小さいもの位しか造れなかった。

 

まぁそれでも大分助かってはいるけどね。

 

なので姫、鬼クラスが造れるようになったのは僥倖だ。

 

 

問題は()()か。

 

幸い、今現在の()()()()で、四、五体は行けるみたいだから生産効率は良さそうだ。

材料の()()は追々考えていかねばなるまい。

 

 

 

まぁ、欧州水姫を造った理由は、その他にもスペックやバックグラウンド等、いくつか有るのだが基本的には外見の大人っぽさがメインである。

 

まっさかー、趣味だけで私が選択するとでも?

 

…浮遊要塞よ、チョットOHANASHI、しようか?

 

 

 

 

 

 

「主様、私はどうしたら良いでしょうか?」

 

欧州水姫が首を少し傾けて尋ねてくる。

 

うーん、改めて考えても、私の個性すごいなぁ。

こんなのも造れるんか…自我持ってるっぽいよな?

 

現に今も『なぜ主様は指示を出してくれないのかなぁ?』とか、『何か不快にさせるようなことを言っただろうか?』といった不安そうな感情が流れ込んでくる。

不安、と言うことは。

好き嫌いの概念を認識し、それが動作の判断基準になっていること、期待と想定と言う、自我を持つもの同士の認識、相手の気持ちになって考えると言うことができる証左でもある。

つまり、個性が造った『自己認識が出来る生命体』だ。

 

連装砲君や浮遊要塞なんかは自我と言うよりも『AI』に近い行動理念だったんだがなぁ。

 

此方に反逆する可能性も有るか?

 

成る程、私の勘は、それは絶対に無いとしている。

 

こういうの、理由がありそうだよなぁ。

 

 

 

 

よーし、じゃあとりあえず、名前から決めようか。

 

「っ、はい!」

 

すっげー嬉しそう。

尻尾があったらすごい勢いで振ってそうな程、全身で『ホント!?やった!』を表現してる。

 

美人にこれやられて嬉しくないわけ無いやろー?

 

 

ちなみに名前は決まってるんだけどねー。

 

 

 

君は、今日から“ネル”だ。

 

「ネル」

 

そ。

宜しく、ネル。

 

「はい、主様に頂いたネルの名に恥じぬよう命を懸けて、仕えたく!」

 

堅いなぁ。まぁそれもいいキャラ出してるけどねぇ。

お国柄かな?

もしそうならジョンブル魂を警戒すべきかな?

 

 

名前の由来はさもありなん、某キャラ(ネルソン)そっくりだからである。外見がね?

中身のロイヤル感は控え目かな。姿勢や仕草は上品なんだけども、私と言う主に対してだけなのか、元よりこういう性格になったのかは分からん。

ただ、原料となる()()が素材だけに、人に近い成りを獲たのは今後のためにも助かった。深海棲艦って、場合によっちゃ人からかけ離れた質感になることもある。連装砲くんや浮遊要塞とか。

 

社会に潜むならば、この系統の娘を随時増やしていった方が良さそうだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うん、名前も決めたし、次にやらなきゃいかんことをすんべか。な?

 

 

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じゃ、()ろか?

 

 

 

「はい!…はい?」

 

 

 

 

 

 

 




次回、主人公の強さが明らかに!



・・・なるかなぁ?




次回は金曜になります。


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第八話

前話とセットにしようとしていたお話です。

次回も金曜日に。


「ふっ!」

 

地を滑るような動き。緩急のついたそれは、時折視界から消える。

間合いを撫でるが、不用意には飛び込んでこない。

仕合って最初に投げられたのを警戒しているのだろう。

 

速い動きに、此方の体勢が整わなくなったタイミングで。

 

「…っ!」

 

 

打撃は気が引けたのか、掴む仕草で距離を詰める彼女。

私の死角から、まばたきの間で手が届く程に。

 

生まれたてとは思えない敏捷性、身体能力。

 

だが、

 

 

 

甘い。

 

「くっ!?」

 

力を抜く事で体勢を変化させる体術。

それは、振り向きと、迎撃、掴んで極める、これを一呼吸で行う。

 

私が迎撃することを予想してたのだろう、極めた腕を抜かれる。

まぁ、抜けやすいように掴みは甘くしていたが。

 

学習能力が凄まじい。

 

先程まで見た父の吸収力はまだ人の範疇だったが、これはもうコンピューターの域だろう。

まるで、毎秒毎にパッチ当てと最適化のアップデートを行っているようなものだ。

 

自身の動きを、人体工学的視点から高効率動作を模索し続ける。

間違えた動作は二度としない、前より今、今より次の動作がより速く、無駄なく。

 

 

 

故に、分かりやすい。

 

「がぁ!?」

 

間合の外で様子を見ていた彼女と距離を詰める。

その位置からだと、逃げ道は二つ、誘導するのは難しくない。

後は来るとわかっていれば、タイミングを合わせるだけ。

そこに速さは関係ない。

 

()()()()()()()()()()()()

 

掴む仕草を見せることで警戒を上に引き上げ、強引に間合いを取ろうとする彼女の、まるで差し出されたように存在する体重の乗った蹴り足に、足先を引っ掛ける。それだけだ。

 

 

 

うわぁ、今顔面からいったなぁ…

 

大丈夫?

 

「だ、だいじょうぶれふ」

 

Mr.アメリカン(オールマイト氏)が訓練しても大丈夫だと自慢された床は、その謳い通り傷ひとつ無い。

 

彼女の鼻も、無事なようだ。

 

私と相対するは、コーカソイド系美女の欧州水姫『ネル』。

 

彼女の身体能力を見てみようと、まずは模擬戦をしてみれば。

パワー、スピード、敏捷性に耐久性。どれも一般的に高い、と言う程度のレベルを遥かに超えていた。

 

人の中では飛び抜けた身体能力を持つ父と比べても、スペック上では数倍の開きがある。

 

下手をすると、オールマイトと同等?

いや、それはないか。私の“勘”もそう言ってる。

しかし、下位互換、それも少し劣る程度のレベルであるのは確かだろう。

 

私が別に確かめたかった事も、大体分かった。

 

 

 

「私は、ご期待に添えたでしょうか?」

 

身だしなみを整えたネルが、やや不安そうに問いかけてきた。

良いとこなしだったもんね。不安にもなるか。

 

 

十分満足の能力だったよ。

思った以上に高かった。

 

「それは良かった、です」

 

 

私相手に、良いところを見せられなかったからか微妙な笑顔で答えてくれた。

 

悪かったね。

でも上司としてはさ、こう、不甲斐ないところを見せられないというか、意地があるわけで・・・

 

 

 

オマエラみみっちいって言うなし。私の能力確認も兼ねていたんだ。自分の個性に負けたらそれは不味いだろうに。

 

 

でもまぁ、これで予想していた個性の()()()に、確証に近いモノを得られた。

 

 

 

前世、漫画としてこの世界(ヒロアカ)を楽しんでいた時から思っていた事があった。それはオールマイトの個性、『ワンフォーオール』についてだ。

 

ワンフォーオールは、継承する度に強くなる肉体強化系の個性の性質を持つ。シンプルに言えばパワーが上がる。

 

オールマイト氏はそれを用いて様々な超常行動を成していた。

 

だが普通に考えれば、いくら超人的な力を手に入れたとはいえ、殴った車が空高く吹っ飛んだり、銃弾並みのスピードで移動するのは無理がある。

 

車は殴れば変形する。が、吹っ飛びはしない。何故なら殴った部分には応力が掛かるが、車両全体には静の慣性力が働いているからだ。

特に現代の車は、クラッシャブル構造をとっていることが多い。この構造は、動的エネルギーをスポイルさせる。

車体が()()のように変形はしても、空高く飛ぶことはまず無い。

そこまでのエネルギーを伝達できない。

 

普通ならば。

 

想定と結果が乖離している。

漫画ならそういうもの、で納得出来たが、自分がその中に生まれ生きているとなるとせめて確認はしたい。

 

ということで今回、ネルを使って地上での移動を実験し、観察をしてみた。

 

この地球上で動くには、どうしても空気の抵抗が入る。それは上下だろうが前後だろうが変わらない。

真上ならともかく、前に進むために後ろに蹴り出して進もうとすれば、空気による抵抗で起きる抗力によって、蹴り足が滑るだろう。

つまりは摩擦が負けるはずなのだ。

 

遅い銃弾で秒速190メートルほどだと言う。

時速換算でおおよそ700キロ、旅客機の翼に立つのと同じ空気の圧力が、踏み込みの瞬間本人に掛かるわけで。前に進める気がしないんだよなぁ。

 

しかし現実は違う。

 

オールマイトも、ネルも。

残像が残るような超スピードでの移動を可能としている。

現実が理屈を凌駕している・・・ならば何処かで補完している筈だと、私は考えた。

 

結果として、私の考えは正しかった様だな。

 

 

ネルは高速機動で地面を蹴る際、滑りを防ぐために微細な念動力(サイコキネシス)を発動させている。

いや、蹴り足だけじゃない、体勢を整える際にも使っている様だ。

 

恐らく車を空高く飛ばす原理も似たようなものだろう。

 

そしてこれはネルが持つ能力、という訳じゃ無い、

 

個性の、本質に関わる部分。

 

 

 

個性とはなんなのか。

 

私たちは個性を本当の意味で理解できているのか?

 

個性を、ただの身体的な能力の延長で考えるのは間違いなのかもしれない。

 

個性が能力を形作っているのではなく、

『能力』が“個性”を形作っているとしたら。

 

 

 

 

 

 

 

 

ネル、そろそろ帰るから片付けしようか。

 

「はい、分かりました」

 

 

これからの方針、方法の模索、情報の収得。

やること、考えることは一杯ある。後に回せることは後に回すしかない。

 

 

 

 

 

 

 

私の“個性”は何をもたらしたいんだ?

 

 

(おまえ)は、何処へ行きたいんだ?

 

 




新たな問題提起。



そして、









さむい


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