黄金の暴君×永遠の二番手=星の皇帝(僕) (パンダコパンダ)
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資料集的なやつ
ズヴィズダツァーリ産駒成績


現状成績やその他諸々定まってるツァーリ産駒一覧です。

資料集的な感じで。


◆◇◆◇◆

 

シルクヒョードル 牡

二つ名 生まれながらの皇帝

母 アーモンドアイ 由来 冠名+ロシア皇帝

 

主なG1勝ち鞍 10勝

24 ホープフルS

25 クラシック三冠 有馬記念

26 大阪杯 宝塚記念 JC

27 大阪杯 宝塚記念

 

海外挑戦 4戦2勝

フォワ賞 26.27年1着2回

凱旋門賞 26.27年2着2回

 

27年引退 通算成績20戦15勝

 

◆◇◆◇◆

 

エカチェリーナ 牝

二つ名 青鹿毛の女大帝

母 クロノジェネシス 由来 ロシア皇帝

 

主なG1勝ち鞍 8勝

25 阪神ジュベナイルF

26 桜花賞 オークス エリザベス女王杯

27 ヴィクトリアマイル 有馬

28 ヴィクトリアマイル エリザベス女王杯

 

海外挑戦 なし

 

28年引退 通算成績17戦12勝

 

◆◇◆◇◆

 

ステイブラック 牡

二つ名 漆黒旅程

母 キューティゴールド 由来 毛色+旅

 

主なG1勝ち鞍 なし

主なG2以下勝ち鞍

26 阿寒湖特別

30 目黒記念

 

海外挑戦 2戦2勝

メルボルンカップ 27年1着

香港ヴァーズ   30年1着

 

30年引退 通算成績42戦5勝

 

◆◇◆◇◆

 

ブエナロード 牝

二つ名 日本総大将

母 ブエナビスタ 由来 素晴らしい+道

 

主なG1勝ち鞍 6勝

26 阪神ジュベナイルF

27 オークス 秋華賞 JC

28 ヴィクトリアマイル JC

 

海外挑戦 なし

 

28年引退 通算成績17戦9勝

 

故障により引退

 

 

◆◇◆◇◆

 

グリーズエンペラー 牡

二つ名 短距離皇帝

母 カレンチャン 由来 灰色+皇帝

 

主なG1勝ち鞍 3勝

28 スプリンターS

29 スプリンターS

30 高松宮記念 スプリンターS

 

海外挑戦なし

 

30年引退 通算成績17戦9勝

 

◆◇◆◇◆

 

ダイワローザ 牝

二つ名 美しき赤バラ

母 ダイワスカーレット 由来 冠名+薔薇

 

主なG1勝ち鞍 5勝

27 朝日杯フューチュリティS

28 桜花賞 日本ダービー

29 ジャパンカップ 有馬記念

 

海外挑戦 なし

 

29年引退 通算成績13戦7勝

 

◆◇◆◇◆

 

ジーズナヤヴァダー 牝

二つ名 クイーン

母 タニノアーバンシー 由来 生命の水

 

主なG1勝ち鞍 5勝

27 阪神ジュベナイルF

28 皐月賞 オークス

29 大阪杯 安田記念 エリザベス女王杯

30 安田記念

 

 

海外挑戦 なし

 

30年引退 通算成績20戦11勝

 

故障により引退

 

◆◇◆◇◆

 

ブラックジャーニー 牡

二つ名 漆黒の冒険家

母 キューティゴールド 由来 毛色+旅

 

主なG1勝ち鞍 3勝

28 ホープフルS

32 有馬記念

32 宝塚記念

 

海外挑戦 6戦3勝

ゴールドカップ    31年1着

エクリプスS     31年3着

インターナショナルS 31年1着

カドラン賞      31年1着

フォワ賞       32年3着

凱旋門賞       32年3着

 

32年引退 通算成績28戦11勝

 

◆◇◆◇◆

 

グロリアスフェリペ 牡

二つ名 星帝を継ぐもの

母 グランアレグリア 由来 スペイン王+栄光

 

主なG1勝ち鞍 12勝

29 朝日杯フューチュリティS

30 日本ダービー 宝塚記念 菊花賞 有馬記念

31 大阪杯 宝塚記念 秋古馬三冠

32 大阪杯 天皇賞・春

 

海外挑戦 4戦4勝

フォワ賞 1着2回

凱旋門賞 1着2回

 

32年引退 通算成績20戦16勝

 

◆◇◆◇◆



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本編
プロローグ


 馬素人です。
 駄文です。ご都合主義です。


 ソダシがかっこいいです。


 暗い世界の中。何かに押し出されるようにして足が飛び出した。

 一定のリズムで、励ますように体が軽く締め付けられる。そして、顔が出た。

 まぶしい光を浴び、僕は上半身をふかふかの場所へ投げ出す。

 

 柵越しに僕を見つめる多くの人。そして、僕の下半身が埋まったままの場所には、濃い毛色をした馬。

 

 馬!?

 

「あとちょっと……」

「頑張れ!」

「頑張れヴィルシーナ! もう顔は出てるぞ!」

 

 僕は思わず両腕を動かして謎の馬から離れようと両足をバタつかせるが、うんともすんとも。って、僕の両腕おかしくね? なんか細長いし、真っ黒なんだが……。

 

 頭の端に出てきた疑問に気づかないフリをして、僕はただひたすらにもがく。

 ドン! とはじき出されたような感覚を腰に受けた僕は、何も考えず瞬間的に両腕を動かして前へ進んだ。

 

「やった!」

 

「よし! ヴィルシーナ! お前の子供だ!!」

 

 すぐさま柵の中に入ってきた人たちが声を出し、ヴィルシーナと呼ばれた馬は僕の体をペロペロと舐める。

 普通なら、擽ったいだなんて感じるはず。だが僕は、そんな感覚よりも安心感に包まれた。

 

 顔の前にある大きな瞳に吸い寄せられ、顔を、首を、体を舐めるその馬のことを、僕は母だと認知した。

 そういえば僕ってなんだろう。そう思っていれば、男の人も女の人も柵の中に入ってきて、僕の体をタオルで拭き始めた。

 

 なぜか見たことある垂れ目の顔の男が、僕のことをじっくりと見つめてきたため、僕はどうすればいいか分からず、体を拭く人たちを気にせず、彼を見続けた。

 1秒とか10秒どころじゃない。10分くらいは見つめていたんじゃないだろうか?

 隣の女性やいかつい顔の男性が何かを話しかけても、彼は僕を見つめ続けながら会話をしていた。

 

「綺麗な青鹿毛。お母さんの血が強かったのかな?」

 

「おとなしいね。走ってくれるかな?」

 

 青鹿毛? という言葉が何かはわからないが、体を舐めてくれた母と似ているというのはうれしい。あと、走る? っていうと競馬かな? 大丈夫か? ほとんど知らないぞ? 僕。

 

「ヴィルシーナとオルフェーヴル。サンデーサイレンスの3×3になりましたね」

 

「それにしても、サンデーサイレンスに似てる。マンハッタンカフェもあの馬に似てたが、それ以上じゃないか?」

 

 彼がやっと僕から目を離したので、体を拭いてくれていた女性を見れば、彼女の手にはタオルではなく、哺乳瓶が握られていた。そのまま口を開いていた僕に哺乳瓶の先を突っ込み、顎辺りをしっかり捕まえて飲ませてくる。

 母馬は母馬で僕の体を舐め続けていて、今は足先を舐めて何も気にしていないから、これはおそらく普通のことなんだろう。暴れても意味ないし、一旦おとなしく哺乳瓶の中身を飲もう。

 

「すっごい飲んでる。飲むの上手だよ。この子」

 

「いいねいいね」

 

 哺乳瓶を吸うのに上手も下手もあるのか? なんて考えつつも。とりあえず飲み干す。もちろん、母のヴィルシーナ? は、ずっと体を舐め続けている状態だ。正直、飽きないのか? なんて思ってしまう。

 

「佐崎さん。しっかりとした牡馬ですよ」

 

「ならダービーか……。ヴィルシーナがジェンティルドンナに負け続けたから、娘に雪辱を晴らしてほしかったが」

 

「でも、あの子の父は奴です。三冠だって狙えます。父も母父も三冠を成し遂げてるんですから。でも、動かないですね」

 

 しばらく、じっと動かないまま辺りをきょろきょろと探っていたが、生まれてから20分ほどしただろうか。急に人たちが慌て始める。柵の向こう側の人もそうだし、哺乳瓶を持っていた女性も心配そうに僕を見てる。

 

「大丈夫? 動ける?」

 

 どうやら、最初に母馬から逃げようとしたとき以来動こうとしていなかったから心配されたようだ。とりあえずは両腕というか、前足を動かして大丈夫だと伝えてみる。が、顔色が変わっていないから伝わっていない。

 

『立てる?』

 

 突然聞こえた、透き通った綺麗な声。おしりの方で聞こえた気がして振り返れば、母馬が僕のことを見ていた。

 

『立てる?』

 

「ほら、お母さんが呼んでるよ?」

 女の人の言い方的に、どうやら先ほどのは母馬の声で正しいようだ。

 とりあえず、立ち上がらなければ話にもならないらしい。ということで、よくわからん状態だがいっちょかましてみよう。後ろ脚にぐっと力を込めておしりを突き出してみる。

 

「うわ!」

「惜しい!」

 

 だが、右脚の力が強すぎたのか、コテンと左に転んでしまい、母馬の前で一回転してしまった。正直すごく恥ずかしいが、今度は慎重に力の入れ具合を考えてしてみるが、前脚に力がなくて前転に近い形で回る。

 ハラハラした表情で人たちは僕のことを見つめ、母は動かなくなった僕のことをまたペロペロ舐め始めた。

 

「頑張れ」

「大丈夫だぞ」

 温かい声をかけた人たちの方を向き、今度こそはと脚を動かす。おしりを浮かせ、前脚で力が流れないよう踏ん張る。ふらふらとしながらも、何とか立ち上がれば、その安堵で力が抜け、三度目の転倒。

 だが問題ない。コツは掴んだ。

 

「名前決めれた?」

「ええ。ヴィルシーナに合わせてロシア語の名前だけど」

「なら呼んであげて」

 

 佐崎さんと呼ばれた男性の横。きれいな女性が僕の名前を呼んだ。

 

「ズヴィズダツァーリ。立って」

 

 他の人もどんどん名前を呼ぶ。男の人が、女の人が、そして母が。

 

『もう立てるわ。ズヴィズダツァーリ』

 

「ツァーリって、皇帝だろ? 確か」

「ええ。でも、大魔神の子供なら、皇帝ぐらいなってもらわないと」

「んで? ズヴィズダって?」

 佐崎さんが訪ねれば、女性は答えた。だってあなた。流星戦士でしょ?

 

 お前、ハマの大魔神かい!!

 

 自分の馬主が有名なプロ野球選手。その事実に驚いてしまったこと。それが僕の初めて立った瞬間。

 三年後の10月。父オルフェーヴル。母父ディープインパクトとの、史上初父子(おやこ)三代による三冠達成を成し遂げる僕の物語。その始まりだった。




父の父 ステイゴールド
父の母 オリエンタルアート

父 オルフェーヴル

母の父 ディープインパクト
母の母 ハルーワスウィート

母 ヴィルシーナ

芝:A タ:G
短:E マ:B 中:A 長:A
逃:G 先:B 差:A 追:A


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競走馬ー1:月日は早い

 あと一話。18時に投稿します。

 ちょっとの間は競走馬の話


 僕は「ズヴィズダツァーリ」という名前を持った馬だ。

 

 そう。馬だ。

 

 人だった記憶はあるが、正直どんな姿だったのか覚えていない。

 もちろん名前も、年齢も覚えていない。あるのは、ただ人として生きたということだけだ。

 人として生きた時代、どうやって死んだかは覚えていない。まあ自分の死なんて知りたくもないから別にいいのだが、なぜ馬になったのかがわからない。もし自分の意思で馬になりたい。そう願っていたらどうしようもないが、僕は競馬について詳しくないからおかしいのだ。

 

 と言うわけで、今は年末。

 今日も今日とて母親であるヴィルシーナと共に走り回り、厩務員の方々に名前を呼ばれ、たまに来る大魔神に顔を撫でられる生活を送り続けている。

 

「チビはおとなしいなぁ。ほんとオルフェーヴルの子供か?」

 

 どうやら父親である彼の馬はかなりの暴れん坊らしく、立ち上がるわ、斜めに逸れるわ、騎手を落とすわでやばかったらしい。しかも、それは父の父に当たるステイゴールドも似たようなもので、その上父の祖父と母の祖父であるサンデーサイレンスも似たようなもので暴れん坊らしい。

 見た目も生まれ変わりのようにサンデーサイレンスに似ているのに、あり得ないほど落ち着いているから、顔を見に来た多くの人に驚かれる。まあ、中身が人間だなんて外からじゃわからないから仕方ない。

 

「さあ、今日も走ろうか」

 

 そう言われた僕は母親の周りでウロチョロしたり、一緒に駆け足で走ったりと好き勝手し始める。

 どうやら精神的にはしっかり馬のようで、走るのは楽しい。それとおんなじくらい寝るのも好きで、よく厩務員さんに生きてるか確認される朝を過ごしている。

 

 もちろん、競走馬として大成することを求められているので、こんな運動でも将来のための基礎づくり。母を追いかけたり追いかけられたり。時々同じ厩舎の違う馬と軽く走ったり。

 あそうそう、生まれた時は0歳なのに、歳越した時点で一歳になるんだね。大魔神がこの前、もう一歳か。なんて言ってて驚いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 というわけで、気がつけば僕は一歳になっていた。というか、一歳と数ヶ月。季節的にはもう秋だと思う。セミが鳴きまくっていてうるさかったのが嘘のように消えている。

 年末は母とともに過ごし、時々来る大魔神に撫でてもらうのも忘れない。厩務員たちからは、おとなしく人懐っこいと思われていて、特に女性には自ら顔を近づける女好きだと思われている。

 

 仕方ないだろ? だって牡だし。

 

 そして何より、栗東トレーニングセンターへお引越しした。

 今までお世話になった厩務員たちと別れ、そして愛しの母とも別れ。僕は調教師のおっちゃんと顔を合わせる。名前は忘れた。

 もちろん、見た目がサンデーサイレンスなのに大人しすぎる僕はおっちゃんに驚かれるが、それも慣れたものだ。

 

「今日からツァーリも馴致だな。ハミ着けて鞍とか手綱とか着けて。お前は嫌がるかな?」

 

 大魔神たちのようにチビと呼んでくれる人がいなくなった環境。最初は慣れずにいたが、おっちゃんがいつのまにか、ズヴィズダツァーリを略して呼んでくれることで落ち着いた。まあ、暴れてないんですけどね! 動かなかっただけなんですけどね!

 

「とりあえずやってみようか。ハミ」

 おとなしいから大丈夫だろ。なんで笑いながら言われるものの、経験したことないからわからない。ハミってあれだろ? 噛むやつだろ?

 

 首元を撫でていたおっちゃんが、突然僕の口に鉄の棒を突っ込んだ。

 ガリッと歯に当たって擦れたのがすごく気持ち悪くて、思わず首を振ってしまい、おっちゃんも慌てたようにハミを外したが、おっちゃんは大丈夫だと言い続ける。

 

「なんのこっちゃわからんと思うけど、歯の奥のところにある隙間に入れるだけだ。ちゃんとハマれば歯で噛むこともない。大丈夫」

 あら? そういうこと? なら早く言ってよおっちゃん。と、今度は口を開き、しっかり奥に入れてもらう。

 本当だ。たしかに食いしばっても歯に当たらない。ちょうどいいわ。

「オッケー。ナイスだツァーリ。嫌がる奴はもっと嫌がるからな。正直頭振った時はついに血が出たかと思ったけど、お前はお前だな」

 

 よしよしと首を撫でるおっちゃん。今度持ち出したのは鞍を乗せるための布? パッド? だったり、鞍そのもの。

 背中にぽんぽんと乗せられた僕は、ただ立っているだけで気がつけばおっちゃんが背中に乗っていた。背中の上で揺れてみたり、ちょっとだけ腰を浮かしたりしていたおっちゃんは、僕が嫌がらないのを見て手綱を装着し、引っ張って感触を確かめる。

 

「そうそう。右に回ってー」

 

 ハミの左側がクイっと引っ張られると、今度は左に軽く回る。馬房が大きいわけじゃないので、その場で回る程度だが、指示通りに動くので問題はない。

 

「あとは降りるよ?」

 

 もちろん降りる時も棒立ち。おっちゃんが背中から降りると、満足そうに頷く。あとついでに従順過ぎと言葉をもらった。

 

「まあ、継続は力なりだ。明日も明後日も馴致は続けるし、騎乗に向けてもやってくからな。飯食って、しっかり寝て、遊んで頑張れよ。ツァーリ」

 

 その言葉に僕は、ヒヒーンと一回鳴いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 調教が順調すぎるらしい。それは、二度目の年越しを前にやってきた大魔神と謎の男に、調教師のおっちゃんが言ったことだ。

 

 調教調教。休んで併せ馬。調教休んでまた調教と、日々を過ごしていた僕は、激しい調教に耐えるために飼い葉を食い、筋肉をつけ、寝まくっていた。そんな中での話だ。

 

「確かに、かなり体も大きくなってますね」

「かなり食べますし、何より寝ます。体全体に栄養がしっかり行ってるんだと思います」

「素直に良いですね。ほんとにいいんですか? 僕が乗って」

 

 ん? 今乗るって言った? 謎の男。

 

「チビはヴィルシーナ に甘えっきりでしたからね、できれば彼女を知ってる人に乗って欲しかったんです。それで、あなたにお願いしたわけですよ。打田さん」

「いやぁ、乗りたいと願っても乗れない中で、馬主から乗ってくれなんて。ありがたい話ですよ。佐崎さん」

 謎の男改め、打田さんは、調教師のおっちゃんに今から乗れるかと尋ね、もちろんだとおっちゃんは答えた。

「ただ、ツァーリは芝の方がいいんですけど、今ダートしか使えないのでそれだけお願いします」

 

 というわけでダートのコースに出た僕たち。おっちゃんに手綱を持たれ、背中に打田さんがヒョイっと乗る。

 うん。おっちゃんより軽い。

 

 背中に乗った感じ、悪くない塩梅だと思う。特別気持ち悪くもなく。打田さんが軽く動いたのがなんとなくわかる感じ。慣れればもっと機敏に感じるのだろうか?

 常足、速足の感触も悪くない。

 

「一周走ってみましょう。状態によっては最終コーナーで上げてみましょう。いいですか?」

 

 打田さんの提案に大魔神が頷き返し、僕は走り始める。

 手綱の感じだと、飛ばさなくて良いと軽く引っ張られる感じがあるので、いったんそれほど足は使わない。

 左に引っ張られるようにラチに沿って周り、大魔神の向こう側直線を走る。

 

「……」

 なんか言ってよ打田さん! 良いとか悪いとか! というか、早く走りたいから引っ張らないで!

 若干抑えるような扱いをされたまま向こう正面を入っていたが、第3コーナー前で手綱が緩んだ。

 

「ッ!?」

 手綱が緩んだのは一瞬。ほんの一瞬だが、僕は走りたくてうずうずしてたのもあり、ゴーサインだと勝手に解釈して飛び出す。

 打田さんが抑えるように手綱を引くが、頭を低くして指示を無視し、そのままスピードを上げながらカーブを曲がり切る。そしてホームストレート。

 

 どんどんと加速していった僕に呆れたのかなんなのか、打田さんは手綱を緩めると、大魔神の前を通過して徐々にスピードを落とす。

 

「どうですか」

「良過ぎますね。見た目はヴィルシーナに近いですけど、走り始めたら暴走しようとしますね。そこはオルフェーヴルというか、ステイゴールドの血を感じる」

 打田さんの評価は、シンプルに頭が良い。と言うところから始まり、脚の強さ。前に行きたい気持ち、第3コーナーから動き出してゴールまで持つスタミナ。どれを取っても良いと言うものだった。

 

「併せは二歳同士でやってるんですか?」

「二歳ともやってますが、体が大きく強いのもあって、三歳馬とやっていることの方が多いです」

「そうですね……。ちゃんと言うことを聞いてくれれば、三冠は分かりませんが二冠は取れます」

 

 二冠? なんだそれ。大魔神も打田さんも険しい顔してるけど、どう言うこと? 僕ってやばいの?

 

「新馬戦。二歳限定を挟んでホープフル……。行けますか?」

「9月の22日にあるので、それで勝てれば東京スポーツ杯ですね。脚質さえ見極めることができれば」

「みてる感じだと先行ですかね」

 大魔神はそう言うが、打田さんは首を振った。

 

「先行で行けなくもないですが、父親のような、前に他の馬がいるのが嫌なタイプじゃないと思います。多分、我慢させた上で最後解放させる。そんな走らせ方の方がいいかもしれません」

 差しか追い込みか。そういう打田さんにおっちゃんも肯定する。

「一人で走らせると前に行きたがりますが、併せ馬をすると後ろに着くんですよ。さすが打田さん。多分言う通りですよ」

 

 まあ、先で走るより前の奴ら全員ぶち抜く方が楽しいよね? なんてことを思ったりはする。けど、一回乗っただけでわかるなんて、騎手っていうのはすごいんだなーと、素人のようなことを思う。

 

「よし。まずは8月の18日にある新馬戦ですかね。やってやりましょう」

「そうですね。いきましょう」

 

 そして、デビューの日が決まった。



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競走馬ー2:メイクデビュー 新潟・芝 2000m 左回り

 今日はこれで終わり。

 掲示板は初めてだから下手だと思う。見逃して……。


 ソダシには悪いけど、アカイトリノムスメにした。
 結果は最高。ごめんよソダシ。


2018年新馬戦スレ

 

390:名無しの紙吹雪おじさん ID:xtNCvYQvD

今日は新潟か

 

391:名無しの紙吹雪おじさん ID:7g+Iepk+V

めぼしい奴あげてけ

 

392:名無しの紙吹雪おじさん ID:e9kIKP1tM

>>391 ズヴィズダツァーリ

 

393:名無しの紙吹雪おじさん ID:/iEfbBb4C

>>392 オルフェーブルのやつか

 

394:名無しの紙吹雪おじさん ID:6yHklb7xB

一番人気は血統だろ?オルフェーブルとヴィルシーナ 。三冠と準三冠だし、母父はディープ

 

395:名無しの紙吹雪おじさん ID:dxRTzfcqP

名前がやばいよな。ロシア語で星の皇帝だし

 

396:名無しの紙吹雪おじさん ID:h+JQ1Icqg

>>395 ヴィルシーナに続いて奥さんが決めたらしい

 

397:名無しの紙吹雪おじさん ID:71WZmJ7UC

頂点の次は皇帝か。でも、母親と同じでシルバーコレクターだったら涙目だな

 

398:名無しの紙吹雪おじさん ID:Ety1Gyncd

けど父と母どっちに似るんやろな。見た目は母親似やけど

 

399:名無しの紙吹雪おじさん ID:ljogkxMAu

母親どころか、先祖返りのssでは?

 

400:名無しの紙吹雪おじさん ID:+ymWy59ll

ゴール後騎手落とすんじゃね?

 

401:名無しの紙吹雪おじさん ID:ig/2CDQJw

騎手誰?

 

402:名無しの紙吹雪おじさん ID:43inOJv4c

>>401 母親繋がりでウチパク

 

403:名無しの紙吹雪おじさん ID:oMWx72DEE

てか、こいつ500超えとんの?ボーノじゃん

 

404:名無しの紙吹雪おじさん ID:lNP7q5Hw/

ディープ産駒とか居ないの? 他に

 

405:名無しの紙吹雪おじさん ID:kKTI+hV3A

>>404 2番人気がディープ産駒

 

406:名無しの紙吹雪おじさん ID:6aMBMJlvJ

結局ディープ。はっきりわかんだね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ついにこの日が来た。僕のメイクデビュー戦。

 正直、緊張しすぎであまり眠れなかった。起き上がっては馬房内をぐるぐる回って、寝て起きての繰り返し。でも、不思議と気分が悪いわけじゃない。

 

「状態はどうです?」

 

 打田さんが、栗東トレーニングセンターの厩務員に尋ねると、いつもより起きていた。ということを話すが、僕の腹をさすりながら、だが問題ありません。なんて言う。

 まあ僕も同意見だ。戦える。シンプルにそう思う。

 

 パドックをぐるぐると周り、返し馬で軽く流す。

「調子は良さそうで安心したよ」

 他の馬に対して怖いと思う感情もない。母とずっと一緒にいて、併せ馬でいろんな奴と走った。だから大丈夫。

「ツァーリ、君の競馬は一番後ろからだ。ゲートに合わせて飛び出さなくて良い。怖がらず落ち着いて、脚を貯めてくれ」

 

 僕は一つ鳴くと、他の馬に続いてお姉さん厩務員さんに引かれながらゲートに入る。

 初めてのレースは、なんの因果か大魔神の数字である2枠2番。

 

 大外枠の馬がゲートインすれば、打田さんが僕の首元を軽くポンと叩いた。

 

 オッケー。やってやろう。

 みんなが言うんだ。ヴィルシーナの仇を打てとか。永遠の2番手にプレゼントをやろう。とか。

 だから鳴く。いいよ。全員まとめてぶち抜いてやるって。どうせ僕の言葉が伝わって無いだろうけど。

 

 ゲートが開いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 不思議な馬を紹介された。

 父はあの暴君であるオルフェーヴル。母は自分も乗った牝馬準三冠のヴィルシーナ 。その名前は馬主である佐崎さんの奥様に名付けられたズヴィズダツァーリ。愛称はツァーリ。

 ヴィルシーナ を超える濃い色をした体に、真っ白な額の流星。父親の血が一滴も入ってないのでは? なんて思ってしまうほど母親系統の血が多い馬。

 

 生産牧場の厩務員も、栗東トレセンの厩務員も揃って大人しい子だと言う。さらには良く寝て動かないとも。

 だが、調教はしっかりとこなし、飼い葉もたくさん食べ、体重は500に届いた体。脚周りも非常に良い状態で、問題があればできすぎた体であるという事。

 性格は至って穏やか。のんびりとした子で、食べることと寝ることがとても好きな子。付け加えるなら女好きだ。トレセンの女性厩務員がやってくると、すぐに顔を寄せて甘えに行きたがる。

 

 脚は頑丈。それに父親からつながる大きなパワー。前に前にとスピードを出したがるものの、常に続けられるスタミナは無い。平均よりも上のそれは持っているが。まあなんだろう、見た目は母親譲りで、走り出すと父親が出てくる。そんな馬。

 母親のヴィルシーナ とは似ても似つかないが、とても面白い子だ。

 

 だからこそ大切に、だからこそ確実に。この子で三冠を狙う。ヴィルシーナ にティアラを被せてあげられなかった僕に、この子を預けてくれた佐崎さんのためにも。

 

「準備はいいかいツァーリ」

 

 隣に他の馬はいない。ずっとハミを引っ張ろうとするツァーリを嗜めながら、一番後ろで脚を溜めさせていた僕は、軽く手綱を緩める。そうすれば、やっとかとツァーリが首を一度大きく落とし、我慢を辞める。

 

「頼むから落とすなよ……」

 

『第四コーナー手前、最後方2番のズヴィズダツァーリが上がっていきます。先頭14番キュアンからは大体10馬身ほどでしょうか。大外から一気に来ます。11番6番10番マイネルジャーニーを交わして第四コーナー。先頭集団が詰まり横並びになっていきますが、上がってきた上がってきた。先頭キュアンは粘れるか、後ろとは二馬身ほど!

 第四コーナー回り切って最後の直線! ここに4番ミケランジェロが先頭に立つ! 後方からは半馬身差で一番ポイントオブオナー! 2番人気のロジャーバローズも上がってきたぞ! ポイントオブオナーが交わすか? 交わすか? いや、3頭まとめて2番のズヴィズダツァーリが抜いていく! 追い縋れるかロジャーバローズ! 差は広がる! 広がっていくぞ!』

 

 完全に抜け出した。僕の前に誰もいなくなった。これで終わり。

 でも後ろの方で聞こえる足音が嫌で、さらに引き離すために、僕の我儘ながら手綱を緩めツァーリの好きにさせる。

 

『後方から一閃! 1番人気の良血統のズヴィズダツァーリが一着! 強い! 強いぞズヴィズダツァーリ!! 後方2着のロジャーバローズに4馬身差!! クビ差で3着ポイントオブオナー! 4着ミケランジェロ。5着アドマイヤユラナスとなります!』

 

 首筋をポンポンと軽く叩いた僕は、彼の体に入った力を抜かしてあげようと声を掛ける。

「よくやった。よくやったぞツァーリ」

 問題なくしっかりと勝ち切れた。正直、手綱が緩んだから引っ張った程度の感覚だろうが、それで目の前の奴らを抜いたのだから、もしかしたらコイツはやる奴なのかもしれない。

 一周ぐるりと回りつつスピードを落としていく。ターフから離れていくと厩務員のお姉さんが手綱を取りに来る。

「お疲れツァーリ!! おめでとう!!」

 お姉さんを見つけた同時に胸元に顔を寄せていくツァーリ。やっぱりコイツ女好きだな。

「ツァーリ。自分から行き過ぎると女性は嫌がるぞ」

「ぶるるっ……」

 こいつ今返事したか? いやまさかね。そんなことないよね。僕は思ったことを口に出さず、そのまま計量に向った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

2018年新馬戦スレ

 

 

756:名無しの紙吹雪おじさん ID:dwNf484T/

<新潟5R>◇18日=新潟◇芝2000メートル◇2歳新馬◇出走14頭

 

ズヴィズダツァーリ号(牡、父オルフェーヴル)が一番人気に応え、圧巻の末脚を披露。見事勝利を掴んだ。

 

馬主である佐崎氏が現役時代に着けた背番号と同じ、2枠2番での出走となった。問題のないスタートを決めた後、最後方に下げた状態での競馬を行ったが、第4コーナー手前からスパートをかけ、前方にいた馬群を第4コーナーの大外から抜き、直線で先頭に立つ追い込み馬の手本的走り方を見せた。

勝ちタイムは2分1秒8。打田幸弘騎手は、「馬房にいるときは動いている時間の方が少ない? なんて思うくらい大人しい子なんですが、調教に入った途端暴れ始めて。けどそんな血のおかげかしっかりと戦えました。中距離以上。問題なさそうですね」と話した。

次走は未定。

 

757:名無しの紙吹雪おじさん ID:h1eglovRP

強くね?

 

758:名無しの紙吹雪おじさん ID:AlUJX7gDm

何も返ってこんかったw

 

759:名無しの紙吹雪おじさん ID:2T2uIM5Vu

堅すぎたな

 

760:名無しの紙吹雪おじさん ID:eCGILcmGN

勝ち方いいね。父親を思い出す

 

761:名無しの紙吹雪おじさん ID:Emw5T8yet

コイツの名前言いずらいよな

 

762:名無しの紙吹雪おじさん ID:UEZCrH0U5

>>761 ロシア語は全部言いづらい

 

763:名無しの紙吹雪おじさん ID:YCTR5zIa+

1着がオルフェーブルで2着がディープってなると、やっぱ熱いな

 

764:名無しの紙吹雪おじさん ID:ABv9U/+Kq

てか、ウチパクのやつ「血のおかげって」

 

765:名無しの紙吹雪おじさん ID:hZNt9QYE3

ゴルシ「呼んだか?」

 

766:名無しの紙吹雪おじさん ID:gdQd8x9vD

120億返してどうぞ

 

767:名無しの紙吹雪おじさん ID:8SZlYHkOj

>>766 お前が120億全部出してたら返してやるよ

 

768:名無しの紙吹雪おじさん ID:4MNzgRjFj

ウチパクは気性難の呪いからいつ解放されるんだ……

 

769:名無しの紙吹雪おじさん ID:GxY6nxI9Z

レース中に暴れてる感じなかったよな?

 

770:名無しの紙吹雪おじさん ID:vUfheqNd8

ウチパク「前に飛び出したがる暴走癖はあるが、それ以外は素直な走りをしてくれる。こっちがきっちり見ておかないといけないので気が抜けない馬ですが、ステイゴールド系統の馬に比べれば優等生」

 

771:名無しの紙吹雪おじさん ID:Gvr8oirs6

>>770 ステゴ系優等生という矛盾

 

772:名無しの紙吹雪おじさん ID:dGfQQjl3w

ステゴの血をメジロで抑えられなかったゴルシに乗ってるから、重みが違うwww

 

773:名無しの紙吹雪おじさん ID:zdSezev/k

>>770 その文章の後に「もう少し落ち着いていうことを聞いてほしい」って言ってるから血は争えない

 

774:名無しの紙吹雪おじさん ID:LrHyScV8o

レース後に出てきた女性厩務員に引っ付いていったよな

 

775:名無しの紙吹雪おじさん ID:zzUt951ZG

可愛かった。普通に。あの厩務員は今並さん枠なんか?

 

776:名無しの紙吹雪おじさん ID:ZcQygjp/n

ゴルシ「おう! よんだか!」

 

777:名無しの紙吹雪おじさん ID:5Z3xh6ByQ

>>775 つ須貝調教師

 

778:名無しの紙吹雪おじさん ID:r+d8YSsF/

>>776 ゴルシ「触るなぁ!! 殺すぅ!!」

 

779:名無しの紙吹雪おじさん ID:YZClD/qoS

けど、ズヴィズダツァーリが三冠食い込めるかって話だよな

 

780:名無しの紙吹雪おじさん ID:pD4kL7woa

今のところ世代の中心って感じでもないよな。ロジャーバローズもしっかり走っていたし

 

781:名無しの紙吹雪おじさん ID:Gv9AyZPq8

次走次第じゃないか?

 

782:名無しの紙吹雪おじさん ID:xNvhlnJkM

未定だけどどうするんだろうな。オルフェーブルは何戦かやってるけど、ホープフル狙いに行くんかいな

 

783:名無しの紙吹雪おじさん ID:FD0INl45s

今日の勝ち方なら夢見たいけどな。流石に1勝クラスだろ

 

 

 



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競走馬ー3:気づけば年の瀬そして新年

 本日一話目


 僕は案外やるらしい。

 

 新馬戦に勝った僕は、1ヶ月と半月(?)ほどまた調教を受け、東京競馬場で行われる東京スポーツ杯2歳ステークスに出走した。

 新馬戦より短い1800メートルの勝負。途中大きく一回登るものの、一発目に坂を降って、最後に長い間登っていくコース。カーブも3箇所しかないので違和感しかなかったが、他の馬が最後の上り坂でバテてしまったのを尻目にぶち抜いて一着を取った。

 

 そして3戦目。今日のレースの足掛かりが前の試合だったらしく、3戦目にしてG1競走。調教師のおっちゃん改め、友康道夫さん曰く、これはかなりいいのだとか。

 無敗で進めていること。アップダウンに対応できるスタミナと脚を鍛えられていること。デビューが2000メートルだったため経験があること。そして何より、皐月賞と同じコースで走れること。

 それらを踏まえた上で、大魔神がホープフルステークス出走を決めたんだとか。まあ僕的には、頭空っぽにして走ることができれば文句はない。

 

「調子良さそうだな」

 

「いい脚してる」

 

 パドックを観覧している人たちが、僕たちの体を見て好き勝手に感嘆を漏らしていた。トモの感じや汗のかき方。歩き方とジロジロ見られているのはまだ慣れない。人数が少なければ問題ないんだけどね。

 けど別に焦る気持ちもない。馬によってはイレ込む? なんか暴れてる奴もいるし、やばすぎるやつはだいたい歯茎になんかチェーンつけられてる。今日はいないがこの前はいた。

 

「相変わらずツァーリは大人しいね」

 

 厩務員のお姉さんに言われる通り、僕は今日もおとなしく歩いている。ちなみに、打田さんが騎乗しても大人しいままなので、新馬戦の時は慌てられた。ゲートに入る直前になって、よしやろう。って気合を入れるから、他の馬に比べればめんどくさいだろうな。

 

「ツァーリ。今日もよろしく」

 

 とかなんとか言ってたら来た打田さん。

 ヒョイっと背中に乗った彼が僕の首を撫でる。彼も彼で大人しいな。なんて言うが、そう言われて入れ込むほど慌てん坊でも暴れん坊でもない。と言うか、正直レースの実感がないんだよな。だってまだ走れるわけじゃないし。

 逆に返し馬になると走りたい気持ちが大きくなるから良く抑えられてるけど。というわけで、今日もしっかり嗜められながら準備運動を行う。

 

 脚は動く。問題ない。

 息もしやすい。大丈夫だ。

 そして走りたい気持ち。十二分。

 

「もう少しで枠入りだから、やる気出してくれよ」

 今日の枠は4枠5番。青と水色の勝負服を見に纏った彼の言葉で、そろそろだなと重い腰をあげる。頭をブルルと振った僕は、ゲートへ進む。

 

『さあ、8枠13番の大外枠コスモカレンドゥラが入りました』

 

 ゲートが開く。

 

『さあスタートです。

 

 好スタート好ダッシュを決めたのは一番人気のズヴィズダツァーリ。ですが打田騎手、ゆっくりと下げます。代わりに出てきたのは8番アドマイヤジャスタ。1番最内のニシノデイジーとともに上がってきた13番コスモカレンドゥラも上がって先頭争い。先頭集団を形成します。

 

 続いていきます。12番タニノドラマ。内につけた2番ブレイキングドーンと4番ヒルノダカールが並走し第1コーナーに入ります。6番・9番と続きスタートダッシュを見せた5番ズヴィズダツァーリは10番手まで下がって脚を溜め、7番ミッキーブラックの後ろ。

 

 眩しい日差しを受けながら、13番コスモカレンドゥラ出ます。1馬身半の差を受けて8番アドマイヤジャスタ。全く差がなく馬群を形成先行集団。

 

 レースは進んでいく。コスモカレンドゥラは少し落ちてきているか? アドマイヤジャスタとの差がなくなってくるが依然順位変動なし。

 

 向こう正面半分過ぎた。後ろから3番手の5番ズヴィズダツァーリは前へ出られるか。11番バンドギャルド、殿3番キングリスティアカーブで上がってくるぞ! 第3コーナー入ってくる。外側、先行集団に追いつく7番のミッキーブラック上がってきたぞ? 後方集団がいい位置につけている。

 第4コーナー抜けて直線に入る! 直線は短い上に急坂だぞ! 先行馬逃げ切れるか! 先頭に立った8番アドマイヤジャスタいい調子だ。外からニシノデイジーも来るがさらに大外やって来た!』

 

 バシンッ! と鞭が入る。

 これまで打田さんは、僕に鞭を振って来なかった。新馬戦だと緩んだのを勝手に進み、前走は声をかけてくれた。ここだっ! って。まあそれも、声と同時に手綱が緩んだから一気に出たんだけどね。

 けど、今日は違う。右の肩あたりに軽く入る。

 

 ああ、勝ちたいのか。この人は。

 

 なら応えよう。緩んだ手綱は、僕が引っ張る。

 

『来たぞ来たぞ1番人気のズヴィズダツァーリ! 坂をものともしないぞズヴィズダツァーリ!

 

 あっという間に前に出た! ニシノデイジー内から出てくるがズヴィズダツァーリが差を広げる! そのままゴールだズヴィズダツァーリ! その差は2馬身!!

 

 勝ちましたズヴィズダツァーリ1着! 続いて2着は8番のアドマイヤジャスタ。1番ニシノデイジーは3着です』

 

 いつも通り、スピードを落としつつターフを走る。脚を止め他の馬たちに合わせ馬場から離れる。

「次も勝とう。ツァーリ。この場所で」

 

 大魔神が言っていた。このレースに出たのは、皐月賞と同じコースで走るから。激しいアップダウンに合わせてレースをできるかの確認をすることを一番に。なんてことを、調教師のおっちゃんと打田さんの3人で話していた。

 大魔神たちは何度も皐月賞と口にしてた。それだけ重要なレースなんだろう。人だった頃は、競馬に触れてこなかったためよく知らないが、それでも打田さんが意気込んでる。大魔神も、おっちゃんもベテランなんてわざわざ付ける打田さんが。

 

 12月28日(土)中山競馬場11レース。

 G1 ホープフルステークス 13頭 芝2000メートル。

 1着 タイム 2:01:2 1人気(1.7倍)

 

 2歳の暮れ。同世代の一番として年を過ごした僕はそのまま無敗として最優秀2歳牡馬に選出され、年明けは栗東トレセンから近いノーザンファームしがらきにて、成長を促すための放牧に。トライアルには出ないこととなった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 というわけでノーザンファームしがらきに居ます。現場のズヴィズダツァーリです。年が明けて一月の中頃。雪も積もってたりします。ちょっと寒い時もあるけど、人時代は雪が積もらない地域にいた気がするので嬉しい。

 

「チビ。元気か」

 

 相も変わらず顔を出してくれる大魔神。多分今日が初日だったのもあって来てくれたんだろうが、素直に嬉しい。

 そんな大魔神から驚きの言葉を受けた。

 

「好きなだけ食べて好きなだけ寝て良いぞ」

「ぶるっ!」

「おお! ゆっくりしろ! 3月手前くらいまでだけど」

 

 思わず「マジ!?」と声に出してしまったが、まずは1〜2週間は体を休めることをメインに据えるとのことだ。

 そのあとはおっちゃんが放牧? の計画を大魔神に話していたが、まずはストレスや疲労を完全に抜き切り、そこから筋肉が衰えない程度の運動で体の状態をキープし、クラシック三冠に向けての調整を始めるらしい。

「パワーは内田さんも言う通りありますから、とにかくスタミナですね。菊花賞は3000。10月なので自然に着いていくでしょうけどあって困りませんし」

 最終的には495キロくらいに絞って行くとの事。

 

「ぶるるっ……」

 

 おいおい、ダイエットすんのかよ……。なんて僕の声は受け流される。

 

 けどまあ良いや。とりあえずは好き勝手しよう。

 せっかく広い場所に来させてもらったんだ。いつもみたく馬房でじっとするんじゃなく、ちょっとは動こう。せっかく広い場所にいるんだから。

 

「じゃあまた今度なチビ。成長したお前を見にくるから」

 

 そう言って大魔神は去って行く。僕は頭を下げて挨拶して彼を見送った。




 出走成績 3戦3勝(G1:1勝) 獲得賞金総額1億1000万

 18/09/22/土 新馬戦 2000メートル
   1番人気 1着 2:01:8 700万

 18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート
   1番人気 1着 1:45:2 3,300万

 18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル
   1番人気 1着 2:01:2 7,000万
     2着 アドマイヤジャスタ 2:01:6 2馬身差


 次走 19/04/14/日 皐月賞 2000メートル


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競走馬ー4:放牧と僕 ついでに掲示板

 本日二話目。今日はこれで。


 放牧はのんびりしたもの。そう思っていた時期もありました。

 

 みなさんこんにちは、人間を辞めた馬こと、ズヴィズダツァーリです。

 

 放牧って言葉くらい、人時代競馬に触れてこなかった僕でも知っていました。広大な牧草地で好き勝手動き回り、足元の草をバクバク食べて、昼寝して、夜寝て。それに見学しに来た人と触れ合ったり。

 そんなのを僕は想像していました。最後の方は引き締めると言われていたのでいつも通りの調教になるのはわかってましたが、僕は騙されました。

 

「ぶるる……」

 

「どうしたツァーリ。元気ないな」

 

 いやね? ここの厩務員のにーちゃん。そらそうでしょ。

 大魔神に好きなだけ食べて良いよ! 好きなだけ寝て良いよ! って言われてたのに、蓋を開けてみりゃあ待っていたのは徹底管理だよ。

 餌も規定量。寝るのも叩き起こされる。走ったりはしないが、ウォーキングマシンに乗せられたり。正直太ることがなかった。

 

 2月に入ってからは、厩務員のにーちゃんが背中に乗って周回コースを走ったり、皐月賞に向かって坂の練習で走らされたりと何かと動かされた。

 

 何がなんでも動いてやるもんか。と最初は思いつつも、見学者のお姉さんが居れば、僕のかっこいい姿を見せたい。ぐぬぬ……。と悔しさを感じながら走ったね。

 あと、3日おきにお姉さんが来た時は正直やられた。3回目の人が可愛かった。ボブカットで愛らしい笑顔。もちろん胸元に顔を寄せましたよ。でも結果は怖がられた。打田さんが言う通り、積極的に行くのは良くないのかもしれない。

 

「けど、ツァーリはすごいな。日に日に良くなる」

 

 そう! そんな僕だが、ちゃんと成長しているんです。

 ちょっとずつではあるがタイムを上げてきている。コーナーの曲がり方も、後ろから一気に抜く加減で大外に膨らんでいたが、にーちゃんのおかげで内側につけながらスピードを下げないように練習できてる。自分でも驚くくらい成長を実感してる。

 

 そして今日。ノーザンファームしがらきから戻る3日前になって、打田さんがやってきた。彼自身忙しくて、あまり来れなかったようだが、皐月賞手前になって僕のところに来た。

 

「いいね。うん」

 

 思わずつぶやいた感じの一言を聞いた僕は、嬉しくなって地面を掻いた。

 珍しく期待十分かい? なんて言われ恥ずかしくなり、そっぽを向く。僕はそんな単純じゃない。と言いたい。

 

 打田さんは、厩務員のにーちゃんと今日の調教を確認し、調教タイムを確認したあと、僕に乗って準備運動を始める。

 体があったまってきたかな? と言う頃になって周回コースに入ると、併せ馬の子と共に走り始める。

 

 そういえばこの前、馬群の中から抜ける練習したなぁ。

 僕の走り方は後ろから。それで外側に馬が来て防がれた時に、馬群に呑まれて抜けにくくなった時に対応できるよう、おっちゃんもとい友康さんから指示があったらしい。

 けどあれは楽しかった。前にいる馬の隙間を抜けて行く瞬間。大外から抜き去るのとは別の、無理矢理自分の道を作るためにこじ開ける感覚。用意された外も好きだが、中は中でハマりそうだった。

 

 っていかんいかん。今は周回。これまでの練習の成果を打田さんに見せる時だ。カーブの曲がる時の成果。綺麗にロスなく曲がる走り方。最低限のスピードを保ってスタミナを温存する走り方。そして、少し外から入って加速しつつ抜けて行く走り方。

 どう? 結構良いと思わないかい打田くん。

 

「……」

 

 まあ通じないわな。あ、今緩んだ? 緩んだよね!!

 

「抑えなさい」

「ぶるる……」

 今日から打田さんのこと先生って呼ぼう。うん。

 

 数周を走った後、僕は厩務員のにーちゃんの方へ向かうよう促され、ゆっくりと歩いていると、首元を撫でた先生が呟く。

 それは秘策。僕がここにいる間走っていた他の馬たちに勝つための、彼が考えた秘策を、僕に伝えた。

 

「ツァーリは賢いから、伝わってたら良いな」

「何を伝えたんです?」

「いや、大したことないよ。勝てるってだけ」

 

 大丈夫先生。伝わってるよ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

2018年新馬戦スレ

 

196:名無しの紙吹雪おじさん ID:P9+KbcsWU

このタイミングで放牧はありなん?

 

197:名無しの紙吹雪おじさん ID:l/uVu2tFi

さあ。状態を保てる自信があるならリフレッシュさせるのもありだけど、一戦挟まないのは微妙

 

198:名無しの紙吹雪おじさん ID:exEmF8p7B

ズヴィズダツァーリは追い込みな感じだけど、皐月は先行の方が有利だろ?

あって入着じゃないか?

 

199:名無しの紙吹雪おじさん ID:drZq7QArY

あのホープフルは痺れた。ディープみたいだった

 

200:名無しの紙吹雪おじさん ID:L/BL85oLc

てか、無敗で来てるのどいつだ

 

201:名無しの紙吹雪おじさん ID:T6DsgoH/b

 

現時点での有力馬

ズヴィズダツァーリ ホープフルs 無敗

サートゥルナーリア 弥生賞 無敗

ダノンキングリー 共同通信杯 無敗

アドマイヤマーズ 朝日杯フューチャリティs 5-4

 

 

202:名無しの紙吹雪おじさん ID:vrC1moCDy

アドマイヤマーズ、ダノンキングリーに負けてるし厳しいだろ

 

203:名無しの紙吹雪おじさん ID:AvDtIHioH

>>202 出た! 格付けニキ

 

204:名無しの紙吹雪おじさん ID:V6KgTuqnW

>>202 一戦だけで格付けされるわけw

 

205:名無しの紙吹雪おじさん ID:DAkex2JSv

あとは数こなしてるヴェロックスとか?

 

206:名無しの紙吹雪おじさん ID:PT91wHqch

弥生賞勝ってきてるし、本命はサートゥルナーリアかな

 

207:名無しの紙吹雪おじさん ID:7Veww9vTa

ホープフルの最後見たら、ツァーリがぶち抜くのしか想像できなくなった

 

208:名無しの紙吹雪おじさん ID:Q68VzzfrG

今のところ2番人気だな

 

209:名無しの紙吹雪おじさん ID:qDG7qxWFo

>>208 休み明けだから。正直わからん

 

210:名無しの紙吹雪おじさん ID:FnN7JPcVh

本命 サートゥルナーリア

対抗 ダノンキングリー

   ズヴィズダツァーリ

単穴 アドマイヤマーズ

連穴 ヴェロックス

大穴 ニシノデイジー

 

211:名無しの紙吹雪おじさん ID:gbdKY0dm6

>>210 かたいな

 

212:名無しの紙吹雪おじさん ID:Hn3d0lKoj

新馬戦2着だけど残り勝ったサトノルークスを推していきたい

 

213:名無しの紙吹雪おじさん ID:OH66u6K9Q

人気上位は団子だろうな

 

214:名無しの紙吹雪おじさん ID:FDMFX006L

結局ここで走ったことある馬だろ

 

215:名無しの紙吹雪おじさん ID:zciNyEizG

ホープフル出てる馬だよな

 

216:名無しの紙吹雪おじさん ID:O9JLdcEX7

ホープフル出ててディープってなるとダノンキングリーだよな

 

217:名無しの紙吹雪おじさん ID:PJTfTceZy

オルフェーヴル産駒も皐月賞取ってるけど、ディープだよな

 

218:名無しの紙吹雪おじさん ID:3g3VPTO1G

ズヴィズダツァーリ

父   オルフェーヴル

母の父 ディープインパクト

 

 

 

母の父 ディープインパクト

 

219:名無しの紙吹雪おじさん ID:H/08pW9D8

ズヴィズダツァーリが三冠取れば三代制覇か

 

220:名無しの紙吹雪おじさん ID:F/wfhsfGH

ってなると夢見るよな

 

221:名無しの紙吹雪おじさん ID:wBy628VbY

オルフェーヴルとの父子制覇の可能性もあるし、ヴィルシーナの悲願だろ

去年もオルフェーヴル産駒だし、産駒としても二連覇

 

222:名無しの紙吹雪おじさん ID:4fsMes3gQ

>>221 ジェンティルドンナが強すぎた

 

223:名無しの紙吹雪おじさん ID:S+hxkEVEA

パドックで見んとわからんよな

224: ID:72RxfVmzs

【速報】隣の馬房の牝馬に、ズヴィズダツァーリ突っ込まれる

 

225: ID:kcUulnTPG

え? 何?

 

226: ID:/DOglgDLh

>>224 kwsk

 

227: ID:EjvCx1rRD

しがらきで放牧してるツァーリが、調教終わりに馬房に戻ろうとしたら、

入れ違いで調教になる牝馬にアタックされたらしい。たまたま記者がいて情報になったみたい。

 

突っ込んだのグランアレグリアっていうらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 




 感想と評価付与待ってます。


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競走馬ー5:三冠への挑戦 皐月賞 中山2000M

 間違えて早く投稿してたのですぐ削除して再アップ。

 今日から書きダメある間一話ずつ行きます。

 21/10/20 13:30 ルーキー日間1位
 ありがとうございます
 同上       総合日間16位
 ありがとうございます


 栗東トレセンから車に揺られること……。いっぱい。

 

 長時間の輸送の後、僕は皐月賞が開催される中山競馬場に帰ってきた。放牧場だと、一頭変な牝馬が、確かサングリア? 違うな、アレグリアだ。そいつが突っ込んできていろいろあったけど、それよりもレースだ。

 ホープフルステークスから大体3ヶ月半。あの頃よりも進化したことを証明できるのは、シンプルに楽しみ。

 

 レース前日に入厩した僕は、いつものお姉さん厩務員に甘えながら移動のストレスを抜いていた。

 でも、いくら高速道路で移動できるとはいえ、普通の馬が長時間箱詰めにされるのはしんどいだろうなと思う。中身が人間だった僕だからあまり気にしてないが、馬によっては大問題だろう。

 

 まあ、僕には関係ない。と、お姉さんに出される飼い葉をハムハムし、撫でてもらいながらブラッシング。あーそこきもちぃ〜。と鳴けば、よしよしとさらに甘やかしてくれる。

 ここは天国か!? 最高じゃねぇか。

 

「やあ、今日ものんびりしててよかったよツァーリ。下手に緊張されてたらと思って早めにきたけど、問題なさそうだ」

「打田さん! わざわざ早めに。ありがとうございます」

 色々とインタビューやらなんやらで動いていた先生が僕の元に来ると、朝からの様子をお姉さんから聞いたり、自分の手で脚を触ったり確認を取る。

 お姉さんと違ってゴツゴツとした手。この手が、僕をきっちり導いてくれるのだと思えば、額を撫でられるのも嬉しいものだ。

 

「ツァーリ。今日は皐月賞だ。三冠の一戦目。お前に乗りたい奴なんていっぱいいるだろうに、佐崎さんは僕をお前にと預けてくれた。デビューから乗せてもらって、無敗でここだ。放牧の様子を見ても、僕はお前に夢を見てる」

 

 僕の視界に入るよう顔の右側に立つ先生が、顎下を撫でる。

 

「このレースは、一番早い馬が勝つって言われてる。それはもちろん、純粋な速さ。でも、それを言うとどのレースだってそうだ。そうだろう? ツァーリ」

 

 確かに先生の言う通りだ。このレースに限らず、一番早いやつが先頭に立つ以上、その真理に変わりはない。

 僕は一度頭を下げて頷く。

 

「だからな? この一番早いって言うのは、馬主にも、厩務員にも、調教師にも、そしてファンにももらう愛情をしっかり受け止め、その期待に応えたいって覚悟が決まった速さのことを言ってるんだと思うんだ」

 

 愛情に応える覚悟。それを決めた速さ。

 

「ツァーリ。お前は速い。そして強い。そこは誰もが認めてる。でも、みんなに貰った放牧っていう愛情をわかってない奴がいる。だから、サートゥルナーリアが1番人気で、お前が3番人気だ。だから、分からせてやろうぜ」

 

 一番愛されてる馬が、お前だって。

 

「ぶるるっ!!」

 

「エンジンかかったな。珍しく」

 

 笑うなよ先生。そこまで言われてやらないやつは、男じゃないんだよ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『さあ、クラシック路線の栄冠。第一の冠であります皐月賞の本馬場入場となります。果たしてどの馬が、一つ目の冠を被ることになるでしょうか。

 1枠1番のアドマイヤマーズ。前走の共同通信杯はダノンキングリーに譲りましたが、意気込みは十分』

 

 僕は、お姉さんに引かれながら入場の列に並んで進んでいく。

 まだ4戦目だからよく分からないが、見た感じ調子が良さそうなのは12番のサートゥルナーリアかな? あとはベロックス? ヴェロックス? も雰囲気がある。

 

『2枠4番ダノンキングリー。2歳チャンピオンを破った無敗は力を見せてくれるか。共同通信杯からの流れをモノにしたい』

 

 今日の人気は、1番がサートゥルナーリア。2番がアドマイヤマーズ。3番が僕で4番がダノンキングリー。そして5番目がヴェロックス。そこからのオッズは離れてるとおっちゃんが言ってたから、実力の壁がここにあると考えられてるんだろう。

 

 通路を進んだ僕はターフの上を進み、待機所に向かってゆっくりと歩く。他の子達が僕を抜いて待機所へ行くが、僕は変わらない。エンジンがかかっていたとしても、変わらない。

 

『さあ6番12枠のサートゥルナーリアはここにいます1番人気。弥生賞で4馬身差。強さを見せつけたこの無敗馬の強さ。注目しましょう』

 

 僕が待機所に着いた頃にはすでに輪乗りが始まっていた。これまでなら参加はしないが、体を解したかった僕は、自らの意思でこの中に入る。

 

『3番人気ながら大注目のこの馬。7枠14番ズヴィズダツァーリ。常識はずれの中100日越え。ホープフルステークスで圧巻の勝利を飾ったこの馬は、底知れぬ可能性で常識を破れるでしょうか? G1競争2連勝を目指します』

 

 時間となり、大音量のブラスバンドと、それに合わせた歓声が中山競馬場を包む。

 

「時間だよ。楽しもう」

 

 1枠1番から順番にゲートへと入って行く。僕が入るのは16番目。最後から3番目になる。つまりは、ゲートが開くまで短いということ。

 内枠で待たされるよりも断然良い。

 

 サートゥルナーリアが枠入りし、僕もすんなり入る。最後の大外枠ナイママがゲートイン。

 

 そして、一番速い馬を決める皐月賞が始まる。

 

 

 ガコンと扉が開いたのと先生が鞭を打ったのはほぼ同タイミングだった。

 それを合図に、僕はホープフルステークス以上のスタートを決める。

 

『さあ先頭を飛び出したのは5番ランスオブプラーナ。1番のアドマイヤマーズだがそれ以上に14番ズヴィズダツァーリのスタートが良い! ですが追い込み馬、鞍上打田は、下げない!? 戦法を変えてきたのかただ今4番手辺りです』

 

 今日のために用意した作戦。それは先行。

 本来最後方から戦う僕だが、放牧中に来た先生に言われた作戦は反対だった。

 

【ツァーリ。お前の力を見せてやろう。1コーナーあたりまで、僕はお前を縛らない。最初に鞭を打つ以外は、お前の意思で前に出ろ】

 

 先生が用意した、皐月賞を取るための秘策。それがこの先行勝負。

 

 手綱を長めに持ち、腰を浮かしてスピードが出やすいように合わせてくれているため、とてもとても走りやすくてありがたい。

 

『さあ5番のランスオブプラーナが先頭です1コーナー手前。続いて15番クリノガウディー。4番ダノンキングリーとヴェロックスは横並び。外半身後ろに控えるのは14番ズヴィズダツァーリです。

 

 アドマイヤマーズ、クラージュゲリエ、サートゥルナーリア後は3番ファンタジストの団子状態までが先頭集団です』

 

 1コーナーの途中。最初に前に出た分の体力を補うため、後ろとの差が縮んでも良いからと少しだけスピードを落とす。その間に後ろにいた気配が離れ、新たな気配がついた気がする。

 差し馬たちが近づいて来た? まあ先生に動きがないから大丈夫だろ。

 

 ってわお、左側の桜綺麗。

「よそ見しちゃダメだよツァーリ」

 ごめんなさい先生。

 

『2コーナーを抜けて向正面。先頭集団から1馬身半離れて11番と8番が並走状態。10番と2番の4頭で中段残り5頭は後方ですが最後尾のメイショウテンゲンは少し離れているか』

 

 先行集団で走るのは初めてだけど、視界に入る馬が少ないっていうのは違和感。前に行きたい欲は少しくらい解消されている気がしなくもないが、前の奴らを抜く気持ちよさは半減すると思う。

 あと、先頭集団の外側にいるけど、邪魔してる感じがあるのがちょっと嫌。と位置どりに不満。

 

『前半1000メートルを通過してタイムは平均的です。人気上位4頭は前の方に固まってます。1番アドマイヤマーズが先行集団先頭。まさかここにいる3番人気ズヴィズダツァーリは集団真ん中。集団最後尾に1番人気のサートゥルナーリア。直線で抜け出せるか。無敗で来た3頭目ダノンキングリーもそのすぐ横。

 

 散ってゆく桜を後方に置いて3コーナー回っていきます。

 

 3コーナーから4コーナーにかけて出て来たのは7番ヴェロックス。外からだ。サートゥルナーリアも出てくる!

 

 さあ中山の直線だ! 春の冠を被るのは坂を最初に越えた馬だ!

 

 先行集団上がってくる! ランスオブプラーナはバテたか、アドマイヤマーズが上がってくるがサートゥルナーリアも一気に来る! ズヴィズダツァーリはどうだ! どうだ』

 

 位置取りは外側。ちょうど良いからと第4コーナーを速度を上げながら抜けると、隣に上がって来たヴェロックスと横並ぶ。

 先行で貯めた脚。一番後ろから走った時よりかは少ないものの、残り200メートルほどの坂をぶち抜くに問題はないと僕は思う。隣の馬に入る鞭。バシンバシンッ! と近くのいろんな馬から聞こえる。

 

 僕の肩にも、走るリズムに合わせて2回鞭が入り、手綱が緩む。

 

「行け!」

 

 下げた頭を持ち上げた時、目の前に他の馬はいなかった。

 

『ぐんぐん伸びる! ぐんぐん伸びて行くぞズヴィズダツァーリ!! 抜け出したサートゥルナーリアに影を踏ませない!! 差が広がるぞその差は2馬身! 追いつけない! 追いつけないぞサートゥルナーリア』

 

 先生が体を落として手綱を軽く引き、僕はスピードを出すのをやめ、坂を登り切る。

 右の目にゴール板が見え、あとは流すだけ。ここからはウイニングランだ。

 

『1着のタイム、1分57秒9! アルアインのレコードまでコンマ1に迫る激走!!

 追い込み馬による先行作戦。見事決めてみせた打田幸博!! 3馬身半のリードを築き上げズヴィズダツァーリ皐月賞制覇! ディープインパクト以来の無敗皐月賞馬誕生だぁあ!!』

 

 湧き上がる歓声を受けつつ、先生がよくやったと褒めてくれる。

 

『鞍上打田、大きなガッツポーズです。母ヴィルシーナとは叶えられなかったクラシック戦線での勝利!』

 

 完全にスピードを殺した僕は、計測所に向かう馬たちに混ざりターフを歩く。記者たちに写真を撮られつつ、一番後ろを歩いていると、厩務員が僕の手綱を受け取りに来た。

「お疲れ様ツァーリ。やっぱツァーリは凄いよ!」

 よしよしと額を撫でられご満悦な僕。あ、そうだ、走りだけじゃなくて、態度でも覚悟を見せよう。

 

「うわっ!? ちょっとツァーリ!?」

「どうした」

 ターフ場に一度伏せた僕は、頭も下げる。

 顔を上げ、お辞儀を済ますと、そのままヒョイっと立ち上がる。突然の行動に先生もお姉さんも観客も驚いているが、僕は何かありました? と計測所へ脚を運んだ。

 

「今のお辞儀か?」

「ぶるっ!」

 

 立ち上がった僕の勢いを乗りこなし、しっかりと鞍上にいる先生の言葉に僕は答える。

 すると、先生は僕の背中の上で何かをしたのか、観客席が再び湧き上がった。

 

「ダービーも菊花も無敗で取ろう」

 

 先生が鞍上で一本指を上げたこと。それを知るのは、口取り式の後のインタビューのことだった。

 

 

皐月賞 レース結果 上位5着

馬名タイム人気

14ズヴィズダツァーリ1:57:9

12サートゥルナーリア1:58:5

ヴェロックス1:58:5

ダノンキングリー1:58:5

アドマイヤマーズ1:59:12

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

   レース後のインタビューとなります。まずは皐月賞1着。おめでとうございます。

 

「ありがとうございます」

 

   7年前のゴールドシップ以来の皐月賞制覇となりましたが、今の気持ちはいかがでしょうか。

 

「そうですね。ホープフルステークスの時点でいい状態でしたから、チャンスは十分あると思ってましたので勝ち切れてホッとしています」

 

   ホープフルステークス後、異例の放牧で中100日を越え。この皐月賞に直行した訳ですが、陣営はどのような判断だったのでしょうか。

 

「はい。ホープフルステークスでズヴィズダツァーリの能力の高さを把握することができていたので、主にメンタル面と、ハイペースの戦い方を身に付けさせる方向を考えてのことでした」

 

   結果として本日のズヴィズダツァーリ号はどうでしたか?

 

「レース勘が鈍ってないかが心配ではありましたが、珍しくパドックの時には気合十分だったので、成功と言って良いと思います」

 

   成功の要因。ゲートが開いてからのスタートダッシュとその後の先行策。狙ってましたか?

 

「狙ってましたね。前に行きたがる癖をどうにかしようと考えた時、デビュー直後から調教師の友康さんとスタートで前につける方法を検討していました。外側を通りましたが位置的に内側に好きにさせなかったので、初めてにしては上出来だと思います」

 

   レース後、ズヴィズダツァーリ号は一度伏せましたがあれはなんだったと思いますか?

 

「彼なりの感謝だと思います。多分お辞儀ですね。時々僕の言うことに返事してる感じもありますし賢い子ですから」

 

   お辞儀の後、鞍上で立てた一本指。無敗の三冠を狙っていきますか?

 

「もちろんです。あの子にはその素質と資格がある以上狙いに行きます」

 

   力強い宣言。ありがとうございます。それでは最後に、今後についてお願いします。

 

「ズヴィズダツァーリはまだまだです。これからもっと仕上がって来ますし、もっと未来がある馬です。これからも応援お願いします」




 出走成績 4戦4勝 獲得賞金総額2億2000万

18/09/22/土 新馬戦 2000メートル 
 1番人気 1着 2:01:8 700万
18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート
 1番人気 1着 1:45:2 3,300万
18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル
 1番人気 1着 2:01:2 7,000万
   2着 アドマイヤジャスタ 2:01:6 2馬身差

19/04/14/日 皐月賞 2000メートル
 3番人気 1着 1:57:9 11,000万
   2着 サートゥルナーリア 1:58:5 3½馬身差

次走 19/05/26/日 東京優駿(日本ダービー) 2400メートル


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ウマ娘ー1:また転生ですか?

 やっとウマ娘回です。

 同期説明回です。


 僕が意識を持ったのは、生まれて間もない頃だった。

 

 黒色の髪でありながら、前髪の一部だけ白くなった女性が、僕のことを抱えていた。

 誰だろう。そう思いながら伸ばした手はとても小さく、モミジのように可愛らしい。そんな僕の手が、女性の頬に触れた。

 

 僕を抱える女性は、驚いた表情を浮かべ、そのきれいな青色の瞳を見開いた。頭に着いた耳が真っすぐ天に伸び、しまいにはおろおろとし始める。

 

「どうしたの? ツァーリ」

 

 心配そうに右手人差し指の背で僕の頬を撫でた彼女。そんな姿に僕は思った。

 彼女が母だと。四足歩行とは違うが、あの、最愛の母であるヴィルシーナだと感づいた。

 

 どうしてこうなったか分からない。人として、どのような人生を送ったかは、終ぞ分からなかったが、いい競走馬人生を送ることができた。

 先生に怒られながら好き勝手走り回り、窘められるように手綱を引っ張られながらターフの上を走り回った。

 そんな僕は、頭の上に青鹿毛の耳を生やし、おむつを替えられた時に気づくが、女の子になり、ウマ娘というよくわからない人種として生まれ変わった。

 

 ズヴィズダツァーリ。三度目の人生は、母の胸に抱かれて始まった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 競走馬時代。僕にも同期というものがいて、牡馬で言えば、皐月賞で無敗を賭けて戦ったサートゥルナーリアとダノンキングリー。牝馬で言えば、クロノジェネシスとグランアレグリアがそこに当たる。

 サートゥルナーリアは、皐月賞の後もずっと僕と戦い続けていて、真正面から戦いに来たライバル。逆にダノンキングリーは、ダービー後、中距離やマイルの方へシフトして、彼が勝てる分野へと進んでいった。

 

 牝馬の面々は、関わり合いがあんまりなかった。 

 クロノジェネシスの方はことごとく同じレースに出なかったのもあるが、グランアレグリアは、マイルの方に進んでおり、僕よりもダノンキングリーと顔を突き合わせていることの方が多かったような……。

 でも、彼女、僕のこと見ると突っ走ってきて、好きだー!! って叫ぶから怖かったんだよね。

 僕はお姉さんな感じの人が好きです!! サートゥルナーリアが被るけどアーモンドアイさんは最高でした。いろんな意味で。きれいだし、可愛いし、いろんな意味で。

 

 けど、そんな面々と顔を合わせることができるのは、シンプルに楽しみだった。どんな顔をしているのかな? とか考えて、みんなお父さんがディープだったり、サンデーサイレンス系列が多いから、似た顔になるのかな? なんて思っていた。

 どうしてこうなった。僕はそう頭を抱えるしかなかった。

 

 よくはわからないがウマ娘という存在になった僕は、二回の受けた命で相棒だった、愛する我が珍棒との急すぎる別れに気持ちが追いつかなくなってしまったりしていたが、現実を受け止められない生活は終わった。だって、大きな胸があるから。

 小学校6年生の時にはクラスで一番の大きさを誇っていた僕は、競走馬時代のよきライバルと、トレセン学園での再会で抱きしめてやろう。なんてことを考えていた。

 

 そして、入学した僕は今、教室で異常なほどに睨まれている。

 

「それではまずは自己紹介をお願いします」

 

 こちら側から。と立たされた僕に向く多くの目。その中でも、しっかりと僕を見てくるのは5人。教室の中でじっと見つめてきていて、正直一人殺気が出ていてとても怖い。

 

「僕の名前はズヴィズダツァーリ。自分で言うのもなんですが、言い難い名前なので、気軽にツァーリって呼んでください」

 

 前髪の白い流星を手でいじりつつ挨拶した僕は、席に戻り欠伸する。

 

「新入生の代表挨拶も致しましたので、知らない方はいないと思いますが、わたくしの名前はサートゥルナーリアと申します。これからを過ごす級友の皆様との毎日。楽しみにしておりますわ」

 あれ? この子がサートゥルナーリアなの? この茶髪のお嬢様然としてるのが? なんだろう。しんどそうだよね。良家ってね。

 

「私はダノンキングリー。気安くダノンでいいよ」

 次に来たのは、黒い髪をボブにしている女の子。胸は……、無い。

「今私の胸見たでしょ……。いいよね巨乳は。あーあ。ゲートも狭く感じるんだろうなぁ」

 皐月賞以降はマイルの方向へと進んでいったクラシック期のライバル。そんな彼女もここに居る。

 

「私はワールドプレミア。よろしくね」

「ロジャーバローズです」

 新馬戦で対戦し、僕が東京優駿で戦ったあの子も、この場所にいた。

 

「私はクロノジェネシス。ややこしいのは嫌いだから先に言う。私が一番強い」

 おおー。言うねあの子……。って、耳がめちゃくちゃピクピクしてるし、顔も赤くなってるし……。多分根はすごく真面目なんだろうな。あのこ、競走馬でもそんな感じだった。騎手や厩務員にでれでれの癖にかっこいい私を見てください!! って感じ。

 

 そして、問題児が立ち上がる。髪は明るい茶色で、左耳に耳飾りを付けた女の子。

「はーい! 私はグランアレグリアです! あそこで寝ようとしているあの子は絶対誰にも譲りません!!」

 濃い茶色の髪をした女の子が、ピシッと指をさす。

 もちろんそんなことが有れば視線はさされた方向へ行くわけで、それはなんとも僕なわけです。

 

「一目惚れしちゃいました!! ツァーリちゃんは私のだから! 運命の相手だから!!」

 こういう時は無視に限る。ここは学校だから先生がどうにかしてくれるだろう。

 

 ざわざわとし始めた教室。サートゥルナーリアにお知り合いですか? なんて言われたが、断じて違うと答えてやった。少なくとも今世では初対面だ。ったく、前世からしゅきしゅき言いながら突撃かましてきやがって。お前の騎手めちゃくちゃ引き離そうとしてただろうに。

 後ろの席のサートゥルナーリアに返事をすると、担任がこの学園のカリキュラムやら、トレーナーについて簡単に話してくれる。

 

「皆さんの最初の目標は、選抜レースと呼ばれる模擬戦となります。それまでは、このクラスを受け持つ担当教官が基礎的な指導を行いますが、選抜レース以降は、担当トレーナーを付け、それぞれの練習へと変化していくでしょう」

 

 終礼がかけられた教室は、一度静かになる。

 担任が教室から出れば賑わいを取り戻し、近くの生徒同士が話し始める。サートゥルナーリアも、僕の右隣に座るダノンキングリーと話し始める中、僕は思う。

 

「先生、いるかな……」

 

 競走馬時代、僕の背中に乗り続け、騎乗依頼が被った時も絶対に僕の背中に乗ってくれた先生。

 トレーナーというと、道夫のおっちゃん系だと思うが、先生のような、優しく、しっかりと見守ってくれるトレーナーがいてくれるとありがたい。

 

「ずーびーずーだー! ツァーリ!!」

 

 ガシッと音が鳴るくらいの強さで肩を掴まれた僕。目の前にいたのは、先ほどいきなり一目惚れ宣言をした問題児。サイドテールにされている髪の毛。目は黒色。大きな瞳を輝かせながら見てくる彼女。

 思考を放棄した僕は、そういえば、おっちゃんが言うに、グランアレグリアは普段僕並に大人しいくせに、僕の前だということ聞かない。なんて言っていたような。と思い出に浸る。

 

「ツァーリちゃん!! あなた好きな食べ物は何? やっぱりニンジンハンバーグでしょうか! 今度私が作って来ますので食べてください! どれくらい量は食べますか? やっぱりたくさん? ああ大丈夫です! 私がデビューすれば連戦連勝ですから、ツァーリちゃんの食費ぐらい大丈夫です! あなたは体型の維持をして、好きなだけ食べて好きなだけ寝てて良いですから!」

 

 好きなだけ食べて、好きなだけ寝て良い?

 その言葉を聞いて、耳をピクピクする。思い浮かべるのは大魔神だ。ノーザンファームしがらきでの放牧。僕はそこで騙された。

 それ以降も、放牧の度に僕は同様のことを言われ続けた。

 夏の短期放牧で行った天栄の時も、僕はその言葉を信じて裏切られた。それ以来、僕は……。

 

 嘘だ! と叫ぼうとした時、グランアレグリアは、彼女の後ろから現れた大きな体のウマ娘に掴まれていた。

 

「グラン。いつものお淑やかさはどうしたの」

「あ! ジェネちゃん! あーでも、抑えられないの私。ツァーリちゃんを見るとドキドキして、これが、恋? きっと私とツァーリちゃんは前世でも夫婦で」

「ごめん、僕は落ち着いた人が好きだから」

 

 彼女の言葉を遮った僕。数秒の沈黙の後、教室内が爆笑に包まれた。

 あれ? なにこれ? 僕、何かやっちゃいました?




 ズヴィズダツァーリ
  食う寝るが好きな天然女好き(年上派)
 サートゥルナーリア
  姉のアーモンドアイに劣等感を持つお嬢様
 ダノンキングリー
  自分の才能を生かすためマイルに向かう努力家
 クロノジェネシス
  孤高を目指す真面目ちゃん
 グランアレグリア
  普段大人しいくせにツァーリの前で暴走するマイラー

 とある部位の大きさ
 99 ツァーリ
 89 クロノジェネシス
 81 ナーリア、グランアレグリア
   越えられない壁
 70 サイレンススズカ
 66 ダノンキングリー


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ウマ娘ー2:選抜レース

 ウマ娘二話目です。

 最後だけサートゥルナーリア目線です。


「今日の選抜レースですが、皆さんには5つある種類の内、1つに出走していただきます。1200メートルの短距離。1600のマイル。2000中距離。そして、2500メートルの長距離」

 

 黒板に書かれた白色の文字。それを見て、クラスのみんなは、自分がどのレースに出走するかを考える。

 

「種目毎に出走者数の偏りはあると思いますが、それでも大丈夫なように2箇所のターフを使いますので、訓練で怪我してない限り出走制限はありません。よく考えて出走するようにしてください」

 

 そう言って担任が出ると、もちろん騒がしくなるわけで、みんなは配られた出走希望票を持って友人と顔を突き合わせる。

 

「皆様はどういたしますの? おそらくほとんどの方が中距離だと思いますが」

 なにも言わず、僕とナーリアとダノンの3人の元に来るクロノジェネシスとグランアレグリア。グランは机を挟んで立ち、ダノンの方を向いている僕の横顔を口を開けながら見つめてるが、クロノジェネシスはちゃんとしている。

 

「私は中距離」

「私も」

「ということは、私とダノンさんとジェネシスさんで中距離ですのね。ツァーリさんは?」

 

「マイルだよね!! 私マイルだからツァーリちゃんもだよね!」

「いいや、長距離ですね」

 アニメか漫画でしか聞いたことないような、ガビーン。なんて言葉を口に発したグランアレグリア。正直、入学からの1ヶ月間アタックされ続けられ、競走馬時代の突撃を思い出してしまう。

 そういえばこいつ、僕が出走すると思って大阪杯に出走してたらしい。僕出てなかったんだよねー。色々あって。

 

「ハッ!? 長距離走ってフラフラになったツァーリちゃんを介抱してあげれば、私の印象良くなるのでは!? 勝ったら誉め殺しで負ければ慰める……。これでツァーリちゃんは私のお嫁さんに、じゅるり」

「グラン……。よだれ」

「ごめんごめんジェネちゃん! ってかそれより、タオルとドリンクを用意しないと、保健室行ってくるから!!」

 

 嵐のように去っていくグランアレグリア。この1ヶ月で見慣れた光景だが、若干危機感を覚え始めている僕がいる。

「なんか怖いよね? あの子」

「悪い子じゃない」

 うん。それは分かってるよクロノジェネシス。てか、前も言ったけど大人しくしてれば可愛い子だと思うんだけどなあ。あの子。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「それじゃあ僕はここで待ってるね。行ってらっしゃい」

「ええ。わたくしの力を見せてあげます」

「いや。一番は私だよナーリア」

 バチバチと視線を交わすナーリアとジェネシス。そんな二人を後ろから追いかけるダノンは、何も言わずに静かな状態。

 

 え? ちょっと待って? 僕、暴走娘と二人きりなの?

 

「3人のこと応援してますね!」

 いや、絶対嘘だ。僕だけでなく、3人とも振り返ったので心の中では同じことを思っているのだろう。目が怪しんでいる。

 

 3人はそれぞれ違うタイミングでの出走。

 第1コースの2レース目にサートゥルナーリア。続く3レース目にダノンキングリー。第2コースの4レース目にクロノジェネシスが出走する。

 ちなみに、隣のサングリア(笑)は既にマイルを走っており、全体トップの記録を残している。

 

「まあ、3人ともバラバラだから見れるかな?」

「いや、ジェネちゃんの出走とツァーリちゃんの長距離1レース目が被ってるので見れないですよ?」

 あら、ことごとくクロノジェネシスとはタイミングが合わないな……。まあいいか。

「お、しれっとゲート入りしてる」

 

 視線の奥。見慣れた長髪がゲートから飛び出した。

 

 2000メートルの競走。競走馬時代の彼と同じように先行集団に入った彼女は、その中の一番後ろで様子を窺っている。タイムは平均的。そういえば馬時代の彼女は、特別早いペースでどうこうって感じじゃなかった。

「うん。らしい」

「何がですか? ツァーリちゃん」

「え? いや、綺麗なレースをしてるなと思って。特別前にいるわけじゃないけど、第3コーナーくらいから位置を調整して直線で抜く。末脚も良いなって」

「なるほどねツァーリちゃん」

 

 一周してきたウマ娘の先頭は、やはり彼女。しっかりと足を動かして抜け出した後は、軽く流すようにしてゴール板を通過する。

 

「長距離レースに出走予定の方は集まってください!!」

 運営の方の声かけを聞いて、僕はアレグリアと別れる。

 やっと走れる。母のおかげでターフを走ったことはあるが、競走として他のウマ娘と走るのは久しぶりだ。

 

「気合入れていこう」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「それで? あいつはどんな感じだ」

「気になるの?」

 自分たちのレースが終わり集まった面々。残念ながらクロノジェネシスは被っていていないが、ナーリア、ダノン、アレグリアの3人が顔を突き合わせる。

 

「トモの感じとかすごいですわよ? ただ、そもそも体力が持つのか? と言うのが。2500メートルなわけですし」

「けど、気になるよな。実力」

 

 黒い長髪。右に流れた白色の前髪。目は青色で、口調はすごくおとなしい。

 クラスで行う訓練だと、時々暴れたかのように飛び出すものの、周りに合わせているのか特にすごい記録は残していない。ただ問題はその飛び出した時。

 

「坂路訓練。わたくしとクロノジェネシスさんが同タイムで、彼女は3番手。ただ、角度が変わるラスト1ハロン。彼女が最速なんです」

「え? そうなの?」

 わたくしの1ハロンが11秒2だったのに、彼女は10秒9。前半の部分からトップスピードであれば、あの人が最速だった。

 

「選抜レース長距離、1レース目出走です」

 2のゼッケンを胸元につけた彼女は、黒色の2枠に入る。なぜだろう。どこか嬉しそうな顔をしている彼女の後に6人、ゲートに入ると、すぐさまゲートが開いた。

「2枠なのに一番後ろから行くんだ」

「がんばれー! ツァーリちゃん!!」

 

 すんなり最後尾についた状態で1コーナー目を通った彼女は、長い髪を揺らしながら走る。

 向こう正面に入っても対して変わらず、そのままだ。

 

「追い込みですわね。4コーナーまでにある程度出ないと、どうしようもありませんわよ?」

「来た。早くない?」

「がんばれー! ツァーリちゃん!!」

 

 コーナーを曲がりながらぐんぐんと上がってくる2番。邪魔されないように後方集団の外側を通りつつ四つ目のコーナーを曲がり切ると、彼女の前に他のウマ娘は居なかった。

 

「マジ?」

「凄まじいですわね」

 長距離で大外を走る。スタミナが必要だし、他の内側を走るに比べてパワーがいる走路。それをいとも簡単に抜け出した。

 

「流しましたわね」

「流したね」

「ツァーリちゃんすごい!!」

 サートゥルナーリアは考える。この学年でクラシック路線を戦った時、最大の敵は誰だと。

 

 迷わず言えるのは、ダノンキングリー。足元の強さはあるし、先行から差しの間で戦える存在。たった一回のレースでどうこうと言えないけど、周りにいた他のウマ娘と比べれば頭が飛び出ているように思える。

 グランアレグリアはティアラ路線と言っていたし、クロノジェネシスもティアラ狙いだなんて言っていた。

「あのまま行っていたら何秒だったと思います?」

「29秒とかじゃ無い? スタミナが持つのかは別として、4コーナー目抜けた時のスピードを保てれば。の話だけど」

 

 2500のレコードは何秒だ? 2400なら、お姉さまの2分20秒6。あれより短い距離で戦って、わたくしがダービーに出る時に出せるのは、一体何秒だ? お姉さまと同じ秒数は出せない。

 

「三冠戦。障壁はダノンさんとあの人ですわね……」

「悔しいけど認める。正直、彼女はステイヤーだろうし菊の花は取りづらいと思うよ。私は2400持つかわかんないレベルだし」

 

 ここにいる多くのウマ娘の視線の先。唯一の青鹿毛を、わたくしは障壁だと見定めた。



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競走馬ー6:大人たちの作戦会議

 ダービー前の話です。
 男三人謀ります。


「無敗の三冠へ、状態万全で挑む日本ダービー。本命馬、ズヴィズダツァーリに迫る。ねぇ」

 

 小さなミーティングルーム。予定時刻の少し前だから新しい新聞を読んでいるが、思うことは相変わらずなこと。

 

「外側の奴らは気が楽ですね」

「まあそんなもんですよ佐崎さん」

 

 

【日本ダービー】無敗の三冠馬へ ズヴィズダツァーリに死角なし!

 4月14日(晴)、第79回皐月賞をズヴィズダツァーリ号(鞍上:打田幸博)が制した。これにより、昨年12月28日のホープフルステークスに続きG1を勝利し、無敗のまま4戦4勝とした。

 レースを最後方、シンガリで進めてきたこれまでの3戦までとは異なり、スタートダッシュのままで先行集団の中に入ると、同じくデビュー後無敗のまま皐月賞ダノンキングリーとサートゥルナーリアの間を取る。

 後方から先方。違う戦い方もできる器用さを見せたズヴィズダツァーリ号は、坂を飛んでいくように駆け上がり、後続サートゥルナーリアと3馬身半を築き上げ一着となった。

 これでGⅠ・2勝目となる。

 

 次走日本ダービーでは400メートル距離が伸びるが、友康道夫調教師は「適正は長距離だから、ダービーと菊花賞は善戦以上をするだろう。ハイペースにならない限り前でも戦える。彼は賢いので、打田騎手も折り合いをつけやすいだろうから、しっかりと仕上げていきたい」とコメントを残した。

 ズヴィズダツァーリ号の馬主である佐崎氏は、「走りは父であるオルフェーヴルの血ばかりを見せていたが、ヴィルシーナからの流れがあって安心しました。お互いの弱点を補った上で高い能力を見せてくれる。追い上げに関してはディープインパクトの流れもあって同世代だと言うことないだろう。親バカながら反則級だと思います」

 

 出走を登録している中にはサートゥルナーリア号とダノンキングリー号。ヴェロックス号がいる。この世代のトップクラスにいる馬は、先行戦法を取ることが多いため、長距離のハイペースとなった場合のスタミナに焦点がいくだろう。

 特に、サートゥルナーリア号の血統は短距離〜中距離に向いているため、スタミナに関して不安である。

 追いかけるダノンキングリー号、ヴェロックス号とは能力差があり、ズヴィズダツァーリ号が同世代では一歩リードしているように感じる。現状の天気予報では、前日が雨であるが、父、母の父がともに重馬場にも対応できるパワーを持つ以上、どんな展開でもズヴィズダツァーリ号の一着は堅いだろう。

 

 だってさ」

 

 新潟で行われた新馬戦から約8ヶ月。ズヴィズダツァーリを取り巻く環境は、ティアラ準三冠馬の産駒から史上3頭目の無敗三冠を狙う挑戦者に変わっている。

 それは、陣営も気付いている。皐月賞の後に打田騎手が言った通り、三冠という3歳馬の頂に立つ素質と資格があると思っている。

 

「作戦はある程度決まってるんですか? 友康さん」

「そうですね。特に変なことをする必要はないかと。むしろ、先行で行ってマークされ、周囲を固められる方が危険だと。ですよね? 打田さん」

「はい。皐月賞のための戦い方でしたからねあれは。次も先行で行けば呑まれるでしょう。殿だと、マークのつけようもないですからそっちの方が良いかと」

 

 打田は想像する。佐崎氏が不安に駆られていると言うことを。

 自分が愛したヴィルシーナ。その初産駒が同世代のトップになっているのだ。しかも、血統的にも能力的にも、日本ダービーと菊花賞は得意と見ていい馬。ヴィルシーナでは叶えられなかったクラシックの冠を持っていることも要因だろう。

 

「ケガが一番怖いけど、無茶はしてほしくないけど、勝って欲しい」

「ええ。重々承知です」

 

 

5月26日 東京優駿 出馬表 予想:良~稍重

馬名脚質適正人気馬名脚質適正人気

ロジャーバローズ◁◀︎◁◁13

ヴィント◁◀︎◀︎◁17

エメラルファイト◁◀︎◀︎◁15

サトノルークス◁◀︎◀︎◁

ズヴィズダツァーリ◁◀︎◀︎◀︎

サートゥルナーリア◁◀︎◁◁

ダノンキングリー◁◀︎◀︎◁

メイショウテンゲン◁◁◀︎◁11

ニシノデイジー◁◁◀︎◁14

10クラージュゲリエ◁◁◀︎◀︎

11レッドジェニアル◁◁◀︎◁12

12アドマイヤジャスタ◁◁◀︎◁

13ヴェロックス◁◀︎◁◁

14ランフォザローゼス◁◀︎◁◁

15リオンリオン◀︎◁◁◁

16タガノディアマンテ◁◀︎◁◁16

17ナイママ◁◀︎◁◁18

18シュヴァルツリーゼ◁◀︎◀︎◀︎10

 

「ペースメーカーはリオンリオンでしょう。前走2つで逃げ勝ちしてますから。後は先行集団が形成され、後方集団を形成する馬は少ないかと。縦長の可能性が高いので、なおさら3コーナーの緩い坂がキモでしょう」

「勝算があるなら、何も言いません。ツァーリに乗るのは打田さんですし、レースの知識は中にいるあなたの方があるに決まっています。ただの馬主なだけで素人ですから」

「坂路の調教もいい感じでタイムが出てます。コーナー中の坂路の経験はないですが、問題ないかと」

 

 ダービーは夢だ。僕にとっても、佐崎さん、友康さんにとっても夢だ。

 佐崎さんは、初めての東京優駿。ヴィルシーナのように2着で終わる戦いではなくしっかりとした戦いを見せていて、これまで佐崎さんが持った競走馬(こども)のなかで一番の能力を持っている。

 友道さんは去年のダービー馬であるワグネリアンと、16年のマカヒキを育てていて、三頭目と期待する存在。

 

 そして僕にとっては、エイシンフラッシュ以来。ゴールドシップとは叶えられなかった夢。

 

 もちろん、だれもがここを狙いに来る。馬に人生を賭けている人たちの、ホースマンたちの夢の舞台。

 

 一筋縄ではいかない運の戦い。

 

「良馬場以外の調教タイムはどうですかね」

「問題ないレベルではありますけど、ヴィルシーナとオルフェーヴルのどっちに近いかっていうと、ヴィルシーナですね。柔らかいとだめかもしれないです。それこそ、皐月賞のゴールドシップみたいなことを狙えなくはないですが、博打に近いっていうのが調教師としての判断ですね。パワーをターフに伝えるのがそれほど上手じゃないですから」

 今も多少なりともやらせてはいるが、伸び率的なところは良くない。そこを本格的に調教するのはダービー後になると言われている。

 

「あとはあの子の気分次第ですかね?」

「見ていきますか? ええ。皐月賞の時とは違って、直前から顔を見れるわけじゃないですから」

 

 当日、ズヴィズダツァーリ以外に3件騎乗依頼が来ている。皐月賞と同じように競争前に何か話せるような時間はない。

 

「お願いしていいですか?」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「おつかれさん。チビ」

 

 あれ? 大魔神来たの? ってか、先生もおっちゃんも勢ぞろいだし。

 

「今日も調教お疲れ様。ツァーリ」

 

 先生! ちっすちっす! 今日は厩務員のお姉さんが乗ってくれたけどちゃんとやってやったぜ。調子も良いし、ダービー? また勝っちゃうかもね?

 なんて調子乗ってみる。

 

 さわさわと脚の状態を触って確認する先生。大魔神はずっと顔あたりをなでなでしてくれる。

 

「ツァーリ。もちろん勝ってほしいことには変わりはないんだ。ダービーは、同級生の馬のなかで1番を決める勝負だから。でも、怪我が一番嫌なんだ。俺は」

 

 怪我しない程度に、がんばれよ? そういってはにかんだ大魔神は、めちゃくちゃに優しい顔つきをしていた。それに頷くおっちゃんと先生。と、厩務員のお姉さん。

 そうか、この愛情に応えたいっていう覚悟が、皐月賞に勝つ資格。先生の言う通りだな。なんて思う。

 

「ダービー終わったらノーザンファームに行くか。避暑地だしな。おまえもヴィルシーナに会いたいだろ」

 

『え? お母さんに会えるの!? ならやるっきゃねえ』

 

 褒めてくれると良いな。と鼻を鳴らした僕を、みんなは声を出して笑った。




 日本ダービー有力馬

 ズヴィズダツァーリ 4-4
 サートゥルナーリア 5-4
 ヴェロックス    5-3
 ダノンキングリー  4-3
 アドマイヤジャスタ 5-2


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競走馬ー7:二つ目の冠 東京優駿 東京2400M

 二冠目。日本ダービーに挑みます。

 いつも誤字報告ありがとうございます!!
 なんなんすかね。「ちちあなな」
 パクパクモグモグと同じ気配を感じる。

 当作品はこれから、2500以上を長距離としていきます!
 アンケートありがとうございました!


『先日まで降っていた雨はカラッと晴れわたり、ここ。東京競馬場上空には見事な青空となりました。心配していた馬場状態も良馬場とのこと。第11レース。第86回東京優駿。始まります』

 

 こつこつと足音が響く地下馬道。この道を通ったのは東スポ杯2歳ステークスの時以来。

 あの時、初めて響く足音に驚く馬が多かった。汗をぼたぼた垂らして疲れているような馬もいた。

 

 たしかに、この空間に上がってこないのはどうかと思う。でも、それでスタミナが無くなってしまってはそれまで。

 務めて冷静に。自分に言い聞かせた僕は、地下馬道を出て、青い空と、眩しい太陽の光を浴びる。

 

 カラッと乾いた。とは足の感触的に言えない。少しだけ湿っていて、常脚程度なら何も感じないが、さっきの返し馬の時踏み込むとほんの少しだけ沈んだような気がした。

 まあ、気に留める程度のことでもないだろう。先生も、何も言わないし、大丈夫だろう。

 

 今日の僕は、3枠5番。右隣に入る6番は皐月賞で戦ったサートゥルナーリアだし、その横にはダノンキングリーがいる。

 って何? なんで2頭ともこっち来るの? え? え?

 

「ツァーリ。今日はオレが勝つ」

「いや、勝つのはボクだ」

 

 顔を近づけて来るこの子たちを気にせず、三人の騎手はそれぞれ軽く言葉を交わしている。

 気合十分といった二頭の勝利宣言。でもイレ込んでいるわけではない。皐月賞のときの僕に似た感じ。そんな二頭も、騎手が手綱を引っ張って離される。黒鹿毛の二頭。サートゥルナーリアとダノンキングリー。

 

 今日の敵はあの二人かな? なんて思っていたら、懐かしい顔を見た。

 新馬戦の時、僕が4馬身差をつけて引きちぎった馬。

 

 ねえ、あの脚やばくないかい先生さんや……。

「仕上がってるね。1番」

 あら同意見。

 

『さあもうすぐゲートインとなります。2016年生まれ。約7000頭の頂点を目指す、東京競馬場2400メートル。さあ、一頭目のロジャーバローズが入りました。続いて何頭か枠入りします。

 

 今日の注目は何と言ってもこの馬。1番人気、3枠5番となったズヴィズダツァーリ。エイシンフラッシュ以降2度目のダービー勝利を、鞍上の打田ジョッキーにささげられるのか。無敗、五連勝です。

 惜しくも皐月賞4着ダノンキングリー。4番人気からの逆襲を狙ってゲートに入ります。

 3番人気、ヴェロックスは7枠13番。リオンリオン、ナイママが入り偶数枠が入っていきます。

 

 さあやってきた、ズヴィズダツァーリ最大の障壁であり対抗。3枠6番に入ります2番人気のサートゥルナーリア。ズヴィズダツァーリ一強のこの状況を塗り替えることができるのか!!

 

 ここ近年は1000メートル1分0秒5をペースにしています。これまでのレースもペースが速く勝っているのは先行馬。追い込みの足は伸びない状況ですからね。試合展開。それと時計にも注目です。さあ、大外18番シュヴァルツリーゼがゲート入り。収まって

 

 第86回日本ダービースタートしました!!』

 

 ガコンと開いたゲート。隣が騒がしい気がしなくもないが、僕は飛び出した。

 

『おっと、サートゥルナーリア少し立ち上がったか出遅れだ! その分1番最内のロジャーバローズが良いスタート。3番エメラルファイトのスタートも良いですね。注目の5番ズヴィズダツァーリはゆっくりと後方へと下がり足を溜める』

 

 あれ? 横にいるのサートゥルナーリアじゃない? こいつ前で戦うんだろ? なんでいるの?

 横側を走る見慣れた黒鹿毛に驚きつつも、僕はしっかりと先生の指示通り後ろ側を着く。

 

『1コーナーまでの350メートル先行争いは外からやってきリオンリオンが先頭に立ってハナを掴みます。さあ1コーナーに入って先行馬4頭が団子状態。

 

 1~2コーナー中盤になって最後方はズヴィズダツァーリ。この位置で大丈夫か? スタートにミスがあったサートゥルナーリアは後方から6番手か7番手で2コーナー目を回ります』

 

 僕の視界から先頭に立つウマがラチ越しに見える。正直、すごいところにいるし、皐月賞に比べて全体のスピードが速いような気がする。

 前から離された2番目がロジャー君か?

 

『さあ向こう正面入って位置取りはある程度定まったか? 先頭に立つリオンリオンから離れて4馬身ほどロジャーバローズ。ダノンキングリーは5番手に着けています』

 

 サートゥルナーリアはあんまり前に行く様子がない。僕の視界から見える感じの位置で、ダノンキングリーとヴェロックスはそのさらに前。

 先生の指示がないままでスピードを出し過ぎないよう軽く引っ張られている程度。目の前にいる二頭、アドマイヤジャスタやメイショウテンゲンについていく状態のまま、向こう正面の真ん中を通り、上った坂を下っていく。

 

『さあ先頭リオンリオンから殿のズヴィズダツァーリまでは15馬身。いや20馬身ほど、本当に抜けるのか? できるのか打田幸博。おっと、57:8のタイム!! ここ10年で最速のラップより約1秒早い超ハイペースとなっている!!

 

 先頭から5番手ダノンキングリーまではそれぞれ間が開いた展開。その後ろから固まった状態。並走となってヴェロックスが中団先頭内側に入っています。サートゥルナーリアはリオンリオンから10馬身ほど離されているでしょうか中団の外側を走っている状態。殿ズヴィズダツァーリはメイショウテンゲン豊丈(ブンノ タケ)と共に末脚にかけて3~4(サンヨン)コーナー中間。外側黒いのが出て来るぞ!!』

 

 ここだ! と走っていて思った僕と、展開を見ながら作戦を決めた先生の息が合った。

 

 最内で続けていた走りからゆっくりギアを上げていくと、メイショウテンゲンが少しだけ横に出てくるものの、それごと外から躱していく。

 

『さあ先頭2番手中団差が詰まって第4コーナーを曲がっていくぞ! 外からやってくるズヴィズダツァーリはいつの間にか10番手ほどで直線に入る!! ダノンキングリーとロジャーバローズが並び、サートゥルナーリアとズヴィズダツァーリが後方で並んで上がってくる!! 横に広がっていく状態! 誰が抜け出す!!』

 

 ちょっと!! 当たらないでよサートゥルナーリア!! 近い近いよ!!

 さらに外側に行こうとしたことで、先生の鞭が右のおしりに入ってしまった。

 ごめんなさい、気にせず前に行きます!

 

 緩めに持ってくれてる手綱のおかげで、他の馬より頭を大きく動かしてしまう僕にとっては走りやすい。今日だけかな? なら、今度きつめに持ったら暴れてやろう。

 というわけで、踏み込む。

 

『さあ伸びてくる直線の坂! 内側でロジャーバローズがリオンリオンを交わしたっ! 交わしたが外からズヴィズダツァーリ! ズヴィズダツァーリが伸びていくぞ! サートゥルは伸びない! 伸びてこない! 坂を登りきってロジャーとツァーリが横並び!!

 

 粘る! 粘るロジャーバローズだが捉えにいくズヴィズダツァーリ! 真ん中から割るようにダノンキングリーも上がってきてやっと来たサートゥルナーリアは4番手!

 後少し! 後少しのところで抜け出すか? ツァーリが良い! ツァーリが良いぞ抜け出した! 20馬身を巻き返した反則級の末脚で! 無敗の二冠馬が誕生した!!

 

 ズヴィズダツァーリが2分22秒6のタイムで一着を取ったー!!

 

 これで! 鞍上打田はダービー2勝目! オルフェーヴル産駒として、初のダービー馬となりました!! 2着は伏兵ロジャーバローズ! 3着は意地を見せたサートゥルナーリア!! ダノンキングリー最後届かず!!』

 

 ぽんぽんと首を叩かれるまで、僕はゴールしたことに気が付いてなかったが、右側にあった声援をいつのまにか背負っていた。

 ターフを半分ほど行ったところで、体も落ち着き、逆走する形になるが、スタンドの前へと向かう。他の馬はもうほとんどがターフを去ってしまったが、測定して、レイ? を受け取って、写真とってなんやらかんやら。

 

 一歩スタンドに近づくだけで大きくなる歓声。少しうるさいと思ってしまう馬の耳に悲しくなってしまうが、今ここにある歓声のすべてが、僕と、先生と、見えないところで戦っているおっちゃん。そして、大魔神への祝福。

 

「うぉおおおお―――――おっ!!」

 

 すでに大きかった歓声がさらに大きくなり、どうしたのかと先生を見れば、掲げた右手がピースになっていた。

 

「ツァーリ。二冠目だ。次も勝つぞ!!」

 

 その言葉を聞いた僕は、皐月賞の時と同様ターフ上に伏せ、首を下げた。

 

 

東京優駿 (日本ダービー) レース結果 上位5着

馬名タイム人気

ズヴィズダツァーリ2:22:6

ロジャーバローズ2:22:613

サートゥルナーリア2:23:0

ダノンキングリー2:23:1

ヴェロックス2:23:1

 上がり3F 最速 5番 33.8秒

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「次の目標は菊花賞か……。10月の20日。セントライト記念か神戸新聞杯か……。どっちを入れるかが問題ですよね」

「そうですね。でもまあ、狙うなら神戸新聞杯でしょう。オルフェーヴルもディープインパクトも他の菊花賞馬もほとんどが神戸新聞杯で1着を取ってますし……」

 

 距離適性を考えれば、ダービーの最後で伸び切らなかったサートゥルナーリアは怖くない。となると、目下の敵と言える存在がいなくなる。なら、三冠戦以降のことを考えるべき。ジャパンカップにしろ有馬記念にしろだ。

 

「友康さん。神戸新聞杯で勝って、気持ちよく送り出しましょう。チビにはヴィルシーナに会わせるって言ったし、ノーザンファームで放牧させて、年末から来年春に向けた体づくりをお願いしていいですか?」

「ええ。やらせていただきます。あの子には、ディープもオルフェもルドルフも、超えてもらわないといけませんから」

 




 出走成績 5戦5勝 獲得賞金総額4億2000万

18/09/22/土 新馬戦 2000メートル 
 1番人気 1着 2:01:8 700万
18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート
 1番人気 1着 1:45:2 3,300万
18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル
 1番人気 1着 2:01:2 7,000万
   2着 アドマイヤジャスタ 2:01:6 2馬身差

19/04/14/日 皐月賞 2000メートル
 3番人気 1着 1:57:9 11,000万
   2着 サートゥルナーリア 1:58:5 3½馬身差
19/05/26/日 東京優駿(日本ダービー) 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:6 20,000万
   2着 ロジャーバローズ 2:22:5 アタマ差


 次走 19/09/16/月 神戸新聞杯(G2) 2400メートル
  有力馬 サートゥルナーリア ヴェロックス


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競走馬ー8:神戸新聞杯と掲示板

 多分誤字はないはず(掲示板は諦めた)

 ウマ娘のアプリの存在を消しました。
 2019年にアプリはない!!



「ヤッホー母さん元気してる?」

 

 北海道。ノーザンファームに放牧しに来た僕は、懐かしの青毛に近づいた。

 

「え? あんた帰ってきたの? 怪我? まさか友康くん困らした?」

 

「困らしてない困らしてない。おっちゃんはいっつも厳しい運動させてくるから、怒って馬房じゃ動かないだけで、やることはちゃんとやってるよ」

 

 まさかの口撃に僕の方こそ驚くが、母さんは横の馬房からひょっこり顔を出して、僕に声を掛けてくれる。

 

「そう? なら良いんだけどね? でもササキサンから聞いたよ? まだ負けてないんでしょう?」

 

「うん。みんな強いけど、先生がちゃんと僕のこと見てくれるから。やり過ぎてるときは怒られるけど、僕がやりたいようにさせてくれるから」

 

「へえ。ウチダ……。私はあの子に負け続けてたから、あなたが誇らしいよ」

 

 いや、そっぽ向かれながら言われましても……。

 

「とりあえずお疲れ。それと、お帰りチビ」

 

「母さんまでチビって言わないでよ」

 

「ヒト娘好きはチビで十分」

 

 鼻を一つ鳴らした母に僕はうなだれる。ちゃんとこうやって話すのは何時ぶりだろう。

 僕は母さんにとって初めての子供。まだ一緒の馬房で過ごしていたころは、短い単語でつたない会話をするだけだった。それでもとなりにいてずっと見てくれるのがすごくうれしくて、母親っていう存在の大きさを感じていた記憶がある。

 

「母親と子供で、積もる話でもあるんですかね?」

 

 横同士で入れられた馬房。お互いに顔を馬房の外ににょきっと突き出して話していたからか、ここの厩務員さんにそんなことを言われてしまう。

 

「まあ、今日は移動の疲れがあるだろうし、明日からは引き運動とかで軽めの運動。そこからがっつりってかんじだから。友康さんにも言われてる通りの調教をしていくからね」

 

 あら、あんまり休みはない感じか……。

 

 という訳で、母さんへの顔出しと共に、生まれ故郷での放牧が始まっていった。

 

 調教の内容は、基本的なものから始まっていった。

 最初はひき運動のような準備運動的なもので強い負荷は掛けないところから始まって、そこから周回コース。栗東も良い所だったけど、北海道は気温が高くないから楽だね。

 坂路とか登っても冬に行ったしがらきと気温変わんないんじゃないか?

 

 どうやらここにきた理由の中に、体力づくりと馬場が悪い状態での動き方の練習というのがあるらしい。

 おっちゃんはよく、しがらきとは別のノーザンファーム。テンエイ? かなんかを使うらしいけど、今来ているノーザンファームは、この時期よく雨が降るらしい。

 室内練習場は雨が入ってこないが、放牧地はそうじゃない。なので、雨の次の日とかはよく放り出されてしまった。

 

 そんな毎日が9月8日。出走予定である神戸新聞杯の二週間前まで続けられた。普段は三週間毎に蹄の確認してもらっていたのを、二週間に短くしてもらうくらい、過保護に、丁寧な調教になって、その分だけ、みんなが本気なんだなって実感する。

 

 母さんのヴィルシーナには、元気な子供産むんだよ? なんてことを言って出発した。お父さんは僕の時とは違って、ハワイアンな名前のキングカメハメハさんらしい。

 既にしっかりと身篭っていたらしく、一つ下の弟と同じお父さん。なんて言っていたから、それだけすごい馬だったんだろう。

 

「というわけで、新しい弟のためにも勝たないとなんだよ。先生」

 なんて、ブルルと鳴いて教える。

 

 流石にもう5勝。試合前に緊張がないとは言わないが、余裕がある。

 それに、他の馬を見ていて思うけど、気合を入れ過ぎたら入れ過ぎたで体力を使ってしまいよろしくない。だから、ゲートに1枠1番が入った時に気合を入れる。頭数が多ければ、偶数枠が入ってから。

 

「問題なく勝てる。しっかり状態を見てくれ」

 

 見てくれ。それは、状況をちゃんと確認しろ。ということ。

 前に出て良いのか。それともダメなのか。出たいからってだけじゃ行かせないよ? なんて先生の優しい忠告。

 

 なら、やってやろう。

 6枠6番。最後から二頭目として枠入りした僕は、ゲートが開くと同時に飛び出し、最初のコーナーを一番後ろで回った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

最後方から煌めく一等星・星の皇帝ズヴィズダツァーリを応援するスレ part.6

 

1:名無しの紙吹雪おじさん ID:MAYlTbOa8

上記タイトルのように、2018年デビューの3歳馬。現在無敗の二冠を達成してるズヴィズダツァーリを応援するスレです。

基本どなたも参加おkですが、ズヴィズダツァーリと全く関係ない話はNGで。

 

・アンチ

・荒らしと荒らしに触れるやつ

上記2点ノータッチで

 

前スレはこちら 最後方から煌めく一等星・星の皇帝ズヴィズダツァーリを応援するスレ part.5

 

他の馬の話はその馬のスレで

 

 

 

2:名無しの紙吹雪おじさん ID:Z0yMvaPgn

>>1 スレ立て乙乙

 

3:名無しの紙吹雪おじさん ID:HOUMGCevw

そろそろ決めようぜ? ツァーリがやばすぎるのか周りが弱いのか

 

4:名無しの紙吹雪おじさん ID:8TsDWrI2o

ここまでの成績 6戦6勝 G1・3勝

 

5:名無しの紙吹雪おじさん ID:zIAS2CihV

 

18/09/22/土 新馬戦 2000メートル 

 1番人気 1着 2:01:8 700万

18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート

 1番人気 1着 1:45:2 3,300万

18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル

 1番人気 1着 2:01:2 7,000万

   2着 アドマイヤジャスタ 2:01:6 2馬身差

19/04/14/日 皐月賞 2000メートル

 3番人気 1着 1:57:9 11,000万

   2着 サートゥルナーリア 1:58:5 3½馬身差

19/05/26/日 日本ダービー 2400メートル

 1番人気 1着 2:22:5 20,000万

   2着 ロジャーバローズ 2:22:5 アタマ差

19/09/22/日 神戸新聞杯(G2) 2400メートル

 1番人気 1着 2:24:5 5,300万

   2着 サートゥルナーリア 2:26:3 大差(約11馬身差)

 

 獲得賞金は約5億

 

 

6:名無しの紙吹雪おじさん ID:uR8+2SEKZ

周りが弱いんじゃないの? 三冠ってそんなものでしょ

 

7:名無しの紙吹雪おじさん ID:A7qJnpSTh

まあ無敗だし、他の奴らが弱いと思われても仕方ない

 

8:名無しの紙吹雪おじさん ID:ez1r48YdV

>>5 馬身差ついてないのロジャーバローズだけ?

 

9:名無しの紙吹雪おじさん ID:PCHlsp9Yy

>>8 新馬戦で4馬身差くらい。ただ、一番近づいた存在ではある

 

それだけに屈腱炎ってのはなぁ

 

10:名無しの紙吹雪おじさん ID:Kd0dvei1w

ロジャーバローズ陣営「新馬戦で当たった時から、打ち倒すのはズヴィズダツァーリ一頭。アタマ差まで届いた。怪我を完全に治し、古馬戦線で打ち負かすため、全力で治療を行なっています」

 

11:名無しの紙吹雪おじさん ID:BgaAbjT6y

引退だろこいつ

 

12:名無しの紙吹雪おじさん ID:p2WXn74F1

>>11 見込みがなければすぐさま引退させるんよ

 

13:名無しの紙吹雪おじさん ID:em3Yaslgt

てか、神戸新聞杯の勝ち方やばいよな。

 

14:名無しの紙吹雪おじさん ID:jJY413S+d

ローペースとは言え抜け出し方が凄かった。

 

15:名無しの紙吹雪おじさん ID:J8ibTBEV5

サートゥルナーリアはもう食い込めんだろ。陣営も秋天行くって言ってるし

 

16:名無しの紙吹雪おじさん ID:q7dflJzBu

ダノンも毎日王冠で中距離以下なのわかってるし

 

17:名無しの紙吹雪おじさん ID:Q8pNENyeg

出走届出てるのヴェロックスだけど、サートゥルナーリアにも勝ててないからな

 

18:名無しの紙吹雪おじさん ID:NAc/eIo/n

やはりロジャーバローズがいてくれれば

 

19:名無しの紙吹雪おじさん ID:tlDZTna7i

ツァーリが抜けすぎなんだよな。なんだよ、あれ。

 

20:名無しの紙吹雪おじさん ID:FdIvMmGm/

直系じゃないけど親子3代三冠ってえぐい

 

21:名無しの紙吹雪おじさん ID:aLjRHcQSH

菊花賞の後どうするとか言ってんの? 陣営は

 

22:名無しの紙吹雪おじさん ID:75QD2K6KK

>>21 まだ何も言ってない

 

23:名無しの紙吹雪おじさん ID:9K97zMkWA

>>21 どこの記者に対しても調教内容とか狙いを答えてるだけ。

 

24:名無しの紙吹雪おじさん ID:Xt3wM5ZrR

友康「まずは菊花賞ですね。元々ステイヤー気質の馬ですが、スタミナが持つよう調教しています。そこ以外は現状考える余裕がないので、菊花賞以降のことは追々考えます」

 

25:名無しの紙吹雪おじさん ID:l6OSHgwf/

当たり障りないコメントだな

 

26:名無しの紙吹雪おじさん ID:w6YcfbO7y

ズヴィズダツァーリよりアーモンドアイの方が強くね?

 

27:名無しの紙吹雪おじさん ID:TDRbv1V18

>>26 クラシック三冠前に負けてるからなんとも。ただ、経験値あるから距離によっては

 

28:名無しの紙吹雪おじさん ID:OKcOloLR8

ツァーリって1800以下走ってないんだね

 

29:名無しの紙吹雪おじさん ID:nM7PTR+t7

陣営的には短距離苦手って考えてるってことだろう?

ヴィルシーナのマイル適正と先行適正は軽くあるけど、

それ以上にオルフェが出てるとか?

 

30:名無しの紙吹雪おじさん ID:VEIHib0yo

多分それはある。

佐崎「ツァーリの見た目や性格は母のヴィルシーナ 系列の血が多いですが、走りに関してはオルフェーヴル。特別暴れることもないですが、打田騎手も、気をつけてないと飛び出してしまう。と言っている」

って雑誌でコメントしてる

 

31:名無しの紙吹雪おじさん ID:DDOtppwbi

オルフェ「落とさんとか俺の子か?」

 

32:名無しの紙吹雪おじさん ID:iFVKS1EHH

>>31 皐月賞のお辞儀でウチパクを落とし掛けてる

 

33:名無しの紙吹雪おじさん ID:M83Y30hGw

お辞儀可愛いよな。癒される

 

34:名無しの紙吹雪おじさん ID:oYQnWzyD/

ちゃんと、ありがとう。って考えてやってそうなのが

 

35:名無しの紙吹雪おじさん ID:Uxv63wcJx

ノーザンファームの見学で、ツァーリの放牧地行かせてもらったけど、うちの娘にメチャクチャ甘えてて可愛かったぞ

 

36:名無しの紙吹雪おじさん ID:B7AtiOBgA

ツァーリの女好きヤバいらしいな。見学者に女性がいるときだけいつもより良い調教タイム出してるらしいし

 

37:名無しの紙吹雪おじさん ID:ELKh3XvQC

厩務員のお姉さんにデレデレだもんな

 

38:名無しの紙吹雪おじさん ID:bTuwawnrg

ウチパク「女性にがっつき過ぎると嫌われるぞ」

 

39:名無しの紙吹雪おじさん ID:G6FzoKLQc

>>38 何それ?

 

40:名無しの紙吹雪おじさん ID:h1wW5VstB

>>39 ウチパクが、女好きのツァーリに言ったらしい。

 

41:名無しの紙吹雪おじさん ID:kpk2HlRnC

ツァーリは女好きを隠さない模様

 

42:名無しの紙吹雪おじさん ID:bP/frfoqR

グランアレグリア「ヒト娘よりもウマ女でしょ! ドゴーン」

 

43:名無しの紙吹雪おじさん ID:/Fht4i3h6

グランアレグリアのあれはなんだったのか……

 

44:名無しの紙吹雪おじさん ID:kC2oXGsD6

>>43 意図的に顔合わせないようにしてるんだろ? 最近は

 

45:名無しの紙吹雪おじさん ID:NL/q1jngi

大人しいとかいうけどね。あの子。

ツァーリのことが好きで突っ込んでるのか、嫌いでなのか

 

46:名無しの紙吹雪おじさん ID:OUH4XhWmD

ゴルシ「須貝とジョーダンはぶっ殺す」

 

47:名無しの紙吹雪おじさん ID:0clD7tbn/

>>46 ゴルシお金返して

 

48:名無しの紙吹雪おじさん ID:+zjct5/5Z

>>47 ゴルシ「ん? 楽しかったろ?」

 

49:名無しの紙吹雪おじさん ID:5ggCyECIg

>>48 本当に言ってそうで芝生えるわ

 

50:名無しの紙吹雪おじさん ID:z9KnMcNuI

>>46-48 てか、ツァーリに戻ろう?

 

51:名無しの紙吹雪おじさん ID:X7XG0ccz2

世代が弱いってのは多少ある。実際混戦じゃなくて、ツァーリの独走を許してる状態

 

52:名無しの紙吹雪おじさん ID:fRGckyjWq

ディープとオルフェのいいとこ取りだろ? 強いに決まってんじゃん

 

53:名無しの紙吹雪おじさん ID:cjRTcsxf0

しかもオルフェと違って優等生だろ? 強いに決まってんじゃん

 

54:名無しの紙吹雪おじさん ID:+VTt+mu33

しかもアイス食べるらしい

 

55:名無しの紙吹雪おじさん ID:pQQrlJLfg

ふーん ダッツじゃん って関係ない話すんなよ!

 

56:名無しの紙吹雪おじさん ID:9CHmOK0SK

>>55 大魔神がツァーリに舐めさせたらしいから関係なくない

 

57:名無しの紙吹雪おじさん ID:qQDLS6gGl

正直、三冠が生まれた世代も好きだけど、三強で一冠ずつ分け合った世代の方が好き

 

58:名無しの紙吹雪おじさん ID:ZRDkL2HS+

>>57 わかる

 

59:名無しの紙吹雪おじさん ID:5vfUnc1mR

菊花賞の出走表出たぞ!

 

1 ザダル

2 ズヴィズダツァーリ

3 カリボール

4 ユニコーンライオン

5 ワールドプレミア

6 ディバインホース

7 ヒシゲッコウ

8 メロディーレーン

9 ヴァンケドミンゴ

10 カウディーリョ

11 シフルマン

12 レッドジェニアル

13 ヴェロックス

14 サトノルークス

15 ホウオウサーベル

16 ニシノデイジー

17 タガノディアマンテ

18 メイショウテンゲン

 

ツァーリのオッズ今のところ1.2倍だぜ? 1.0行くんじゃねぇか? これ

 

60:名無しの紙吹雪おじさん ID:pSZDjqNqm

ああ、ディープのやつか

 

61:名無しの紙吹雪おじさん ID:5/Pl+RiYI

きたらおじさんとしては嬉しいよな

 

62:名無しの紙吹雪おじさん ID:sUc4LN7Ho

やっと芽が出たオルフェ産駒だしな

 

63:名無しの紙吹雪おじさん ID:RO/eAMVJx

いいところまで行くやつは多かったけどね

 

64:名無しの紙吹雪おじさん ID:QqhBPdIvC

むしろ、オルフェの血にディープの血が入るだけで

こんなえげつないのができるなら、

ディープの血がどんだけやばいんだよ

 

65:名無しの紙吹雪おじさん ID:9KKjKMw2B

奇跡に最も近い馬

 

66:名無しの紙吹雪おじさん ID:6CosPlU8a

>>65 現状奇跡に最も近い馬だな。

 

67:名無しの紙吹雪おじさん ID:4ghuC0XDX

ただ、本当に奇跡的存在なら有馬記念も勝ってるよ

 

68:名無しの紙吹雪おじさん ID:LZX8RXy4R

ディープは14戦12勝、有馬記念二着の凱旋門賞失格だからな

引退の有馬はやばかったけど

 

69:名無しの紙吹雪おじさん ID:0qAJHP6Uh

菊花賞はツァーリがどれだけ二着を引き離すかが楽しみだわ

 

70:名無しの紙吹雪おじさん ID:uOEFSfGFf

って考えるとナリタブライアンのやつはやばいよな

71:名無しの紙吹雪おじさん ID:T7/eQZ8+D

でも、あれに近しいものはあるんだろ? タケも言ってたし

 

72:名無しの紙吹雪おじさん ID:6FfhWl7YV

タケ(ダービー後)「メイショウテンゲンの末脚を期待しつつ、ズヴィズダツァーリを防ごうと動きましたが無駄でしたね。あれは反則級。ディープが本気を出すとすれば、あの馬くらいかもしれない」

 

タケ(神戸新聞杯後)「形としてはとても良い状態を作れました。でも、壁は高いですね。有馬記念のテイエムオペラオーを再現できるんじゃないかな? あの末脚」

 

73:名無しの紙吹雪おじさん ID:NjW+NNkuc

評価やばいな

 

74:名無しの紙吹雪おじさん ID:UM4Bz8BlA

ディープの本気って、そんなにか

 

75:名無しの紙吹雪おじさん ID:wDi02WLIx

いや、自分で乗ってないから比較もできんし、馬を馬で例えるのはなんともやけど、たしかにとは思う

 

76:名無しの紙吹雪おじさん ID:6qvntuwU1

反則級の末脚VS子馬たちVSだーくらい

 

 

 

 

 




 出走成績 6戦6勝 獲得賞金総額4億73000万

18/09/22/土 新馬戦 2000メートル 
 1番人気 1着 2:01:8 700万
18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート
 1番人気 1着 1:45:2 3,300万
18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル
 1番人気 1着 2:01:2 7,000万
   2着 アドマイヤジャスタ 2:01:6 2馬身差

19/04/14/日 皐月賞 2000メートル
 3番人気 1着 1:57:9 11,000万
   2着 サートゥルナーリア 1:58:5 3½馬身差
19/05/26/日 東京優駿(日本ダービー) 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:5 20,000万
   2着 ロジャーバローズ 2:22:5 アタマ差
19/09/16/月 神戸新聞杯(G2) 2400メートル
 1番人気 1着 2:24:5 5,300万
   2着 サートゥルナーリア 2:26:3 大差(約11馬身差)

次走 19/10/20/日 菊花賞 3000メートル
有力馬 ヴェロックス


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競走馬ー9:最後の戦い 菊花賞 京都3000M

菊花賞です。ご都合主義です


 初めに言っておく。今日この日の記憶は、とても封印したい。

 

 簡単に言うと、走った。それはもう全力で走った。何も考えず、無我夢中で走り抜いた。

 先生の気合いもすごかったし、大魔神と僕の名付け親である大魔神の奥さんも来てくれて、おっちゃんなんか顔がいつもより怖かった。

 

 会場の熱気もすごくて、耳がやられたんじゃないかってぐらいすごい声だった。

 

 オッズは1.0倍。賭けても何も返ってこないのは、誰もが僕が勝つと思っていたから。

 その想いに応えたくて、走った。真面目に、なりふり構わず、()()()

 

 だって僕は、愛されてるから。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『さあ、13万を超える人が集まりました。ここ。菊花賞の舞台京都競馬場です。ここにいる人は、どんな夢を見るのか。

 6戦無敗。ズヴィズダツァーリの頭上に、三つ目の冠がかけられるのを夢みるか。それとも、新たなヒーローが現れるのか。この場にいる競馬関係者のほとんどは、たった一頭の世代と思わせたくないでしょう。

 

 皐月賞二着。神戸新聞杯でも二着に入ったサートゥルナーリアは、秋の天皇賞へ向けて舵を切りました。

 ダービー二着のロジャーバローズは、屈腱炎からの回復を目指し、動いています。

 これまで善戦してきたダノンキングリーは、先日行われました毎日王冠を制覇。つぎはマイルでのチャンピオンを目指す道のり。

 

 壁はいない。それが現れた、祖父と同じオッズ1倍という事実』

 

 パドックでの視線。相変わらず慣れないそれで出された僕の体重は499キロ。前走の神戸新聞杯からはマイナス3キロ。

 個人的には500より上の方がいいと思うけど、実際はわからん。おっちゃんが色々気にして、考えた上で500以下がベストって言うから、そうなんだろう。

 

「チビ。今日が最後だ」

 

 ターフに入る前。ギリギリ会えた大魔神は、僕の顎を撫でてそんなことを言う。

 

「尻尾がないあの子からヴィルシーナが生まれて。そんなあの子から、お前が生まれた。皐月も勝って、ダービーも勝って。お前は孝行馬だ。勝とうが負けようがなんでもいい。怪我せず、しっかり走って返ってこい」

 

 そうか。今日が最後なのか。

 

 突然の言葉に、僕は固まる。

 

 馬になって、なんだこれは!? なんて思った。

 四足で走る感覚は掴めるまで変だったし、視界の高さも違う。人の時よりも頭は上下に動くし、口呼吸ができないのも新鮮だった。

 でも、走るのは嫌いじゃなかった。

 

 母さんの横に引っ付いて走り、おっちゃんに指示を受けて坂路を登る。雪が積もった栗東トレセンは寒くて、でも、僕を見に来てくれた見学者のためにも頑張って。

 

「今日は、静かなんだな」

「ブルルッ……」

 

 そんなことない。ただ、不思議なだけ。

 

「行くよツァーリ。今日も勝とう。最内通り続けて、最後のカーブから大外一気」

 

 僕の手綱を持つ先生。いつものお姉ちゃんが、僕のことを引っ張って行く。

 

 ヒシヒシと背中から伝わる、先生の気迫。

 どうすれば勝てるのか。勝たせてやれるのかと考えているのが分かる。普段は冷静な彼の、少し特別な気持ち。

 

『さあ! 本日の競馬は対抗馬不在と言われるほどの一強ムード。誰もがこの馬を見に来たでしょう! 1枠2番! 無敗の二冠馬ズヴィズダツァーリが本馬場入場です!!

 非常にゆっくりとした足並みで、ゲートの方へと向かっていきます。

 

 本日は良馬場ですし、大波乱と言えるものは起きないでしょう。神戸新聞杯で見せた、10馬身程の大差勝ち。今日はその繰り返しになってしまうのか』

 

 僕の横を通り過ぎて行く大勢の馬。それを僕は見送った。

 

 

菊花賞 出馬表

馬名脚質適正人気

ザダル◁◁◀︎◁

ズヴィズダツァーリ◁◀︎◁◀︎

カリボール◁◁◀︎◀︎10

ユニコーンライオン◁◀︎◁◁11

ワールドプレミア◁◁◀︎◁

ディバインホース◁◁◁◀︎17

ヒシゲッコウ◁◁◁◀︎

メロディーレーン◁◁◀︎◀︎13

ヴァンケドミンゴ◁◀︎◀︎◁18

10カウディーリョ◁◀︎◁◀︎14

11シフルマン◁◀︎◁◁15

12レッドジェニアル◁◁◀︎◁

13ヴェロックス◁◀︎◁◁

14サトノルークス◁◀︎◀︎◁

15ホウオウサーベル◀︎◁◁◁

16ニシノデイジー◁◁◀︎◁

17タガノディアマンテ◁◀︎◁◁12

18メイショウテンゲン◁◁◀︎◁15

 

『逃げ馬不在。先頭のペースメーカーが本日はいないですから、少し難しい展開になるでしょう。ダービーの時のように縦に伸びる展開は予想し難い状態です

 

 それでは枠入りです。すんなり入る1枠1番のザダル。奇数枠が順々に入りますが、特にトラブルなく入って行きます』

 

「ツァーリ。今日も楽しもう」

 

 うん。楽しむよ。全力で。最後なら。

 

『菊が彩る18頭の優駿。その先頭に立ち、頂に登るのはどの馬なのか。本命か。それとも対抗か。ズヴィズダツァーリか、ヴェロックスか。はたまた違う大穴か。

 

 第80回。菊花賞。ゲート開いてスタートです!』

 

 ゲートが開いた。

 それに合わせて、18の足音がターフに響く。

 

『さあ大方の予想通りスタート後に飛び出す馬はいません! 逃げ不在。先行集団が固まってハナを争っている状態。注目の2番ズヴィズダツァーリは後方集団。後ろから3番目ほど。いや後ろから4番手。

 出遅れたシフルマンが最後尾。カリボール、牝馬メロディーレーンが並走状態でその前に1馬身間を開けたところにズヴィズダツァーリがいます。

 

 ハナ争いは9番と10番。ヴァンケドミンゴとカウディーリョです。一つ目3コーナー曲がって行きます。3番手争いは4番13番18番。鞍上豊丈は何を思うワールドプレミアは馬群の真ん中ラチ横最内を通ります。12番15番14番で固まっている馬群後方。14サトノルークスは半馬身後ろの状態で二つ目の4コーナーを抜けて行く。メロディーレーンがズヴィズダツァーリの前に出て一回目のスタンド前。

 黄色い帽子。菊花と同じ色の帽子二頭が集団を引っ張っています。ザダル、ニシノデイジーは後方集団の先頭。紅一点メロディーレーンは1馬身離れてその後ろ。ズヴィズダツァーリが続いて1周目のゴール板を通過する。

 

 前半1000メートルのタイムは1分2秒4。平均より1秒半ほど遅い状態でスタンド前を通過します。三つ目1コーナーに先頭カウディーリョが入って行きます』

 

 ところで先生?僕の前ちょろちょろしているこのめんこいヤツ何?

 ちびっ子くて可愛いんやが!? ってよくないね。ちゃんと走ってるから鞭は入ってない! セーフ!

 

 でもごめんね、全力で君も潰さないと。

 

「ツァーリ。いい状態。内側通れてるよ」

 

 横に馬がいないからか、声をかけてくれた先生。レース直前に言ってくれた指示に合わせて、僕はラチに当たらないギリギリを通る。皐月賞の時みたいに桜は咲いてないからよそ見はしないよ?

 

「ブルルッ!!」

 

『二番人気、ズヴィズダツァーリの対抗馬ヴェロックスは5番手で向正面へと向かう1コーナーから2コーナー。徐々にスピードが上がっていますが……。おっと、歓声を受けたズヴィズダツァーリが上がってくる。メロディーレーンを抜いてきた』

 

「ッツ!? 待て」

 

『2コーナー出口ヴェロックスが少し上がったか? ただいま4番手。ズヴィズダツァーリがさらに外から抜いて行く。鞍上打田が抑えようとしているが掛かってしまったのか? 残りは1400メートルとなって向正面』

 

 いいや待たないよ、先生。だって、()()()()()()()()から。

 

『大丈夫なのかズヴィズダツァーリ!! 向正面半分だが一頭! また一頭抜いて行く! 気が付けばもう先頭のカウディーリョの1馬身後ろ! 後ろの方にいた青鹿毛が上がってきている!! ミスターシービーもゴールドシップもこれほどの仕掛けはしていないぞ!! 3コーナー前の坂を登り始める先頭カウディーリョ! だがズヴィズダツァーリが並ぶことなく抜き去って先頭に立つ! スピード差が全く違う!! 行けるのか!? 本当に行けるのかズヴィズダツァーリ! 残りはまだ800だぞ!』

 

 ハミが食い込んで痛い。すごくすごく痛い。先生が、すごく後ろに体重をかけてるから、すごくしんどいし、無理矢理走っている感がすごくある。

 でも、それを気にせずに、僕は良馬場で硬い芝生を、蹄で抉りながら走っていく。

 

「行くんだな?」

 

 もちろん。誰よりも前で、他の奴らは置き去りにする。それが、僕にくれた愛情の恩返しだと思うから。

 

「腹括るか」

 

 右肩に鞭が入り、手綱が緩む。

 なんだっけ。あれだ、折り合いがついた。

 

『ズヴィズダツァーリ抜け出す! カーブなど関係ないと速度を上げながら3コーナーの下り坂でスピードを上げる! カウディーリョとの差はすでに5馬身! いや6! 7馬身は差がついているぞ! 釣られて全体ペースが上がるが、それ以上にツァーリが早い!! 一人旅状態で4コーナー抜けて行く!! 早い!! 早すぎる!!

 

 このまま持てば、いや、バテたとしてもレコードか!?

 

 一頭だけが正面スタンドに戻ってくる! 大歓声を受けても! 皇帝は! なお止まらないッ!!』

 

 二度目のスタンドは、さっきの倍以上うるさくて、耳が変になっているような気がしてならない。

 先生は鞭を撃たないし、手綱も緩いまま。好きなようにしろ。って言ってるみたいで、嬉しくなる。

 

『強い! 強すぎるぞズヴィズダツァーリ!』

 

 

 将来。JRAは、新たなブランドCMとして、『THE LEGEND 』『THE WINNER』に続く、『THE HERO』を発表する。

 その菊花賞編。

 

THE HERO

 

19年 黄金の冠を目指す 菊花賞

 

ターフに輝く 黒き一等星

史上初 三世代の三冠制覇を成し遂げる 奇跡の末脚

その強さに 実況は叫んだ

 

星帝天駆(セイテイアマカケ) 眼前他無(ガンゼンホカ二ナシ)

 

その馬は 3分という壁を壊し 歴史的大差を築く

 

ああ そうだった 皇帝は 負けないから 皇帝だ

 

 

 

『前にも後ろにも敵はいない! 4コーナーを抜けた馬群は決して届かない!

 これが! これが皇帝の名を背負うもの!! 皇帝の名を体現するものの走り!!

 

 星帝天駆けッ! 眼前他に無しッ!!

 

 25馬身以上の差を開き! 世代の皇帝が! 無敗で三冠達成!!』

 

ズヴィズダツァーリ(ヒーロー)を 越えろ

菊花賞

 

 

 勝った? 勝ったよね? ちらっとゴール板見えた気がするし。

 あ、先生が首叩いてくれた。これで終わりか。

 

 これで、終わりか……。

 

「お疲れツァーリ。後ろ見えるか? お前の次着馬がやっとゴールだ」

 

 走りながらスタンドの方を見れば、集団から抜け出した先頭のワールドプレミアがゴールしていた。

 だが、僕よりかなり後ろ。

 

「あんな走りしやがって、このバカ……。ジャパンカップ出るって話だけど、念のために様子見て有馬記念に変更かな? これじゃあ……」

 

 怒んないでよ先生。だって最後だからさ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ん? 今有馬記念とか言った?

 

『過去最強の無敗三冠馬!! ズヴィズダツァーリのタイムは!?』

 

 スクリーンに浮かんだ数字は、夢かと思って頬を抓ってしまう程の記録。

 

『奇跡のタイムだズヴィズダツァーリ!! 勝ち時計! 2分58秒9!! トーホウジャッカルの世界レコードを、2秒1も塗り替えた!!』

 

 場内実況に反応する観衆を他所に、僕は立ち止まる。

 

「ブルルっ……」

 

「ツァーリ?」

 

 有馬記念って、年末にある有名なヤツでしょ? 流石の僕でも知ってるレベルのレースだよ?

 え? 僕って次もレースあるの!?

 

「ツァーリ、次も勝とうな」

 

 確定ですわこれ。

 跳満越えて役満ですわこれ。国士無双ですわ。

 

 鞍上で先生が三本指を上げた後、僕は項垂れるようにお辞儀した。

 

「ヒヒーンッブルブルルッ!!」

 

 若干の勢いつけて立ち上がってやったぜこんちくしょう!!

 大魔神の言うことは絶対信じないからなっ!!

 

 

 

菊花賞 レース結果 上位5着

馬名タイム人気

14ズヴィズダツァーリ2:58:9

ワールドプレミア3:03:0

14サトノルークス3:03:1

13ヴェロックス3:03:2

メロディーレーン3:03:313

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

【菊花賞】ズヴィズダツァーリ 歴史的大記録で無敗三冠達成!

 10月20日(晴)、第80回菊花賞をズヴィズダツァーリ(鞍上:打田幸博)がオッズ1.0倍という期待に応え勝利した。これにより、デビューから続く無敗記録を7に伸ばし、ディープインパクトに続く史上三頭目の無敗三冠馬となった。

 父オルフェーヴルとの父子二代での三冠制覇。母の父ディープインパクトを含めた三代に渡って三冠制覇。ともに史上初の快挙である。

 

 スタートから普段同様の殿集団に入り、後方から4番手を走っていたズヴィズダツァーリは、一度目の正面スタンド前を通ると、2コーナーからスパートをかけ始め、2度目の3コーナーを先頭で入る。それまで先頭にいたカウディーリョと並ぶことなく抜け出したズヴィズダツァーリは、早まるペースをものともせず、一頭だけで正面スタンドへと戻ってきた。

 ズヴィズダツァーリの勝ち時計は2分58秒9。トーホウジャッカルが記録した3分1秒0の記録を2秒1更新する記録であり、コースレコード、レースレコード、ワールドレコードを塗り替える結果となった。

 

   打田騎手のコメント  

「ツァーリが暴れましたね。皐月賞・ダービーとは違って、ゲート入り直前まで気合いがなくて、走るかな? と不安になっていましたが、無事走ってくれてよかったです。4コーナーだと、前にいたメロディーレーンを気にしてる感じでだったんですけど、スタンドの前を通った時、歓声にびっくりしたのか2コーナーで飛び出してしまって。全力で抑えに行ったんですけど、引っ張り方がいつもとは違うような感じだったので、腹括ってこいつに任せてみようと。結果はご覧の通りで、多分今まで本気で走ってこなかったんだと思います」

 

   友康調教師のコメント  

「一先ずの区切りを迎えることができて安心しています。放牧でパワーをつけることができたのがあのタイムに現れたと思いますね。あの子の本気が見れたことに驚きと衝撃が隠せないのが本音です。あれだけのレースをしてしまったので、体に異常がないかを確認してから次走を決めていきます。少なくとも予定していたジャパンカップの出走はありませんね」

 

 友康調教師のコメントを加味すると、年内で出走するとすれば暮れの有馬記念だろう。出走登録がされれば、1番人気はほとんど確定と言える状態である。しかし、史上2頭目となる無敗の三冠馬ディープインパクトは、この有馬記念で2着となって無敗記録を止め、初の無敗三冠馬であるシンボリルドルフも、三冠後初戦であるジャパンカップにて三着で敗れてしまい記録を止めている。

 無敗三冠馬の最高連勝記録は、シンボリルドルフの8連勝。新たな皇帝がその記録を超えるのか、次代の奇跡になるのか。ズヴィズダツァーリの次走に期待したい。




勘違い全力疾走とか芝生えるwww
あと、メロディーレーンは可愛い。異論は認めぬ。


 出走成績 7戦7勝 獲得賞金総額5億9300万

18/09/22/土 新馬戦 2000メートル 
 1番人気 1着 2:01:8 700万
18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート
 1番人気 1着 1:45:2 3,300万
18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル
 1番人気 1着 2:01:2 7,000万
   2着 アドマイヤジャスタ 2:01:6 2馬身差

19/04/14/日 皐月賞 2000メートル
 3番人気 1着 1:57:9 11,000万
   2着 サートゥルナーリア 1:58:5 3½馬身差
19/05/26/日 東京優駿(日本ダービー) 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:5 20,000万
   2着 ロジャーバローズ 2:22:5 アタマ差
19/09/16/月 神戸新聞杯(G2) 2400メートル
 1番人気 1着 2:24:5 5,300万
   2着 サートゥルナーリア 2:26:3 大差(約11馬身差)
19/10/20/日 菊花賞 3000メートル
 1番人気 1着 2:58:9(WR) 12,000万
   2着 ワールドプレミア 3:03:0 大差(約30馬身差)

次走  19/11/24/日 ジャパンカップ 2400メートル 未定


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ウマ娘ー3:トレーナー

 急展開。それがゴルシの真骨頂。

 ツァーリのウマ娘容姿は、カフェの目が青色になっただけのイメージ。


 今日、僕はトレーナーと契約を結んだ。でも、あまりにも急なことで、15分も経たずに契約が決まった。

 始まりは、不審者が僕の足を撫でまわし、嫌悪感から、心の中の母に救いを求めたところから始まる。

 


 

「何をしているんですか?」

 

「いやあ、いいトモだなって。って、蹴ってこないのか?」

 

 そういいつつも、ずっとふくらはぎ辺りを撫でる男。

 

「蹴られたいのならあなたが今している行動に理解ができなくもないですが、蹴られたいですか? 蹴られたくないなら、すぐさま手を放していただけると、僕的にはうれしいですね」

 

「ああ、すまんすまん」

 

「謝って済むのであれば、警察と迷惑防止条例違反と強制わいせつ罪は存在しないんですよ」

 

 妙な声を出しながら距離を取る男性は、黄色いシャツと、癖ではねた髪をしていた。

 

「不審者と呼ばれたくなければお名前を」

 

「ああ、俺は沖野だ。トレーナーだよ」

 

 ほう。彼はトレーナーなのか。さしずめ、この前の選抜レースを見て僕をスカウトしに来たのか。

 

「君は、噂のマンハッタンカフェであってるか?」

 

「痴漢の上に名前を間違えるとは……。僕はズヴィズダツァーリ。そのマンハッタンカフェという方は……。確か僕に似ている先輩ですね。同じ黒髪の長髪だったかな?」

 

「え? マジ!?」

 

 最近こんなことが多々ある。一番面倒だったのは、そのカフェ先輩の友人らしいアグネスタキオン先輩に見つかった時だ。

 最初、「カフェが追いかけるお友達は、君のことかい?」とか、まったくもって意味の分からないことを言われた。

 

「今年中等部に入学したズヴィズダツァーリです。てっきり、選抜レースを見てやってきたのかと」

 

「ああ。選抜レースか。すまんが見てないな……」

 

 僕の走りを見ていない? となると、ナーリアの走りを見たあとは帰ったりしていたのかな?

 

「その日は色々あって学園にいなかったからな……。でも、スカーレットとかウオッカが入学した時でもこんなトモはしてなかったし……。1着か?」

 

「ええ。長距離の部に出た方のスタミナがなかったようで、抜け出した後は流しましたが……」

 

 うんうんと唸る沖野と名乗るトレーナ。

 

「ちょっと待て。えっと……」

 

「言い難いならツァーリで構いません」

 

「ありがとう。選抜レースを見てってツァーリはさっき言ったろ? っつーことは、お前まだトレーナー決まってないの? スカウトは? なかったのか?」

 

 至極全うな質問をしてくる彼。だが僕は、首を横に振る。

 

「確かにスカウトされましたが、僕の話をまともに聞いてくれる方がいなかったので。断らせていただきました」

 

「話?」

 

 首をかしげる彼。まあ、中身も言わずにわかる訳がないか。

 

「沖野トレーナー。あなたは、『前世』というものを信じますか?」

 

 さあ、この人はどうだろうか……。

 今までの人は、聞くだけ聞いて、理解を示さなかった。

 ウマ娘がいない世界。馬が走り、競争はギャンブルという世界で走ったズヴィズダツァーリ()という存在の話を。

 

「何をもってそんな話をしてきてんのかは分からねぇけど。お前はそれを知ってんだろ? なら少なくともお前が言うお前の『前世』は信じるぞ?」

 

「え?」

 

「いや、何そんなボケッとしてんだよ。お前が言い始めたんだろ? それとも嘘なのか?」

 

「い、いや! ほんとのことだよ。……本当のことです……」

 

 無理に繕わなくていいと手を振る沖野は、砕けた口調でいいと言ってくれたので、素で話すとしよう。

 

「なら、『前世』の話を聞いてください」

 

 僕は、突然の出会いで立ったまま、ターフの横で彼に話す。

 

「僕の前世には、『ウマ娘』なる存在はいませんでした。いるのは馬。この世界にいないので想像しにくいとは思うけど、そうだな……。大きくした角の無い鹿とでも思ってくれれば。フォルムは似てるので。それが、賭け事として走る世界に僕はいた」

 

 相槌を打つだけで僕の話を遮らない彼。眉間にしわがあるから、いろいろと想像しているのだろう。いいや、そのまま続ける。

 

「レースする場所も、競馬場という名前でした。馬はウマ娘と違って人ではないので、言葉を交わせません。なので、騎手と呼ばれるプロが背中に乗り、操って勝負する。ぼくは、その馬。正しくは競走馬の一頭。名も同じく、『ズヴィズダツァーリ』」

 

 大魔神の奥さんからもらった、星の皇帝を意味する僕の大切な名前。

 

「僕はそこで走りました。背中に先生を乗せて、大魔神やおっちゃんに愛情をもらって。無敗の三冠を達成した三頭目になった」

 

 ただ、僕には悔いがある。認められない傷が。僕にはある。

 

「生涯成績は20戦18勝。僕は、あの世界で2回負けた。一回目は慢心で。二回目は真正面から戦って負けた。それが僕は悔しくて、認められなくて。みんなに貰った愛情を、2回も裏切ってしまった。僕は、それが許せない。菊花賞をレコードで勝ったことよりも、眼前にあいつらがいた2回が残ってる」

 

 よくわからない話だろうに、ちゃんと聞いていた沖野は口を開く。

 おまえは、何がしたいんだ? って。

 

「僕が求めるのは、生涯無敗。2度と負けない強さと、大きすぎる愛情に応えることができる心が欲しい。あの皐月賞の時にした覚悟は、まだ手放してない」

 

「おお。良いじゃねえか。何の因果か知らねえけど、お前さんは競争の生活が終わったのにまだ走りたいと思ってる。気持ちは何だって良いが、走りたいなら走れよ」

 

「貴方についていけば、僕はあの2頭に。いや二人に勝てますか?」

 

 偉大なる観衆の祭神と、夢追いし不屈の海賊王。その二人に。

 

「菊花賞。京都競馬場の芝3000メートル。2分58秒9。それが僕の全力。今は練習で出せてるのが3分1秒5。コースも違うし自分でしてるタイム計測なので参考だけど」

 

「ちょっと待て!? お前の前世はそれが普通なのか!? 菊花賞で2分58!? うっそだろ!?」

 

「ほんとのことだよ。ただ、僕の後3分を切った馬は僕の子供以外いないよ。少なくとも、僕が死んだあの瞬間まで」

 

「あー。そこまでの記録が頭にある以上、記録更新できるか? 俺の手で? ただスピカにはマックイーンがいるから長距離の練習ができる。ゴルシも菊花取ってるし……」

 

 あれ? 今ゴルシって言ったような。

 ゴルシって、ゴールドシップのことでしょ? 先生が皐月と菊花を取ったっていう、母さんの同期だった気まぐれ屋。

 

「っておーい! 何してんだよトレーナー!!」

 

 突然聞こえた声。それはとてもきれいな声。

 葦毛の髪を後ろになびかせながら走ってきた女性からの声だった。高い身長にすらっと伸びた手足。そんなウマ娘。

 

「おお! ゴルシ!! 良いとこに来てくれた!! 聞きてえことがあんだけどよ!!」

 

「おいおいどうしたんだよいきなり肩掴んで。あ、安心してくれ、肩パッドかiPadなら、ゴルシちゃんはバンテリン派だぜ?」

 

 何言ってんのコイツ。

 

「そんなことどうでもいい!! ゴルシ、今のお前が菊花賞を全力で走ったらタイムはどれぐらいだ!?」

 

「えー? ゴルシちゃんの本気とかゴルシちゃんでも知らねえよ。てかトレーナーなら大体知ってんだろ? 多分3分1秒5とかじゃねえの?」

 

  っだよな……」

 

 いきなりどうした? なんて言っていたゴールドシップが、僕の顔を見る。

 

「カフェ? じゃねぇな。おまえどっかであったことある?」

 

 あれ? よく考えれば、母さんと同期のはずなのに、なんでこの馬……じゃなくてウマ娘はトレセン学園にいるんだ?

 

「ア、あれだ。シーナに似てんだ。てか初めてあった気がしねー。なんて名前なんだ? 特別にゴルシちゃんが覚えてあげるぞよ♪」

 

「あ、ズヴィズダツァーリです」

 

「なるほど。星帝ね……。すっげえかっけえ名前だな。よし! んじゃあ今日からツァーリはスピカの一員だ!! 私がビシバシ鍛えてやるからな!!」

 

 ん? ちょっと待って? 急展開過ぎじゃない? 沖野トレーナーに会ったのも初めてなのにそのままトレーナー契約するの?

 

「目指せ、火星の彼方!! 目指す明日はスピカの部室だぁ!! ゴルシちゃん! ゴルシンゴルシーンッ!!」

 

 ぴゅーっと効果音が付きそうなほどの勢いで飛び出したゴールドシップ。

 たしかにあの感じなら、先生も苦労しただろうな。うん。たしかに先生が言った通り、僕は優等生だね。

 

「あーっと。どうします?」

 

「えーっと、ツァーリが良いなら受け持つけど、ほんとに良いのか?」

 

「いや、僕の話を信じてくれたの、沖野トレーナーだけなので……。よろしくお願いします」

 


 

 という流れで、沖野トレーナーが僕の担当になり、そのままチームスピカの一員になることになった。

 

「あ、ゴルシに先生のことと母さんのこと聞くの忘れてた」

 

 まあいっか。




 衝撃の事実!! ツァーリは生涯無敗ではない!?

 2014年の有馬記念って最高ですよね。
 ジェンティルドンナとゴールドシップがいて、
 ウインバリアシオンとジャスタウェイ。フェノーメノ。

 そして何よりヴィルシーナがいる。

 いまだにハナ差で負けた秋華賞を見るたびに悔しくなる……。


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競走馬ー10:有馬記念 中山2500M

正直、この有馬記念書くつもりなかったんですけど、
何も考えずにオペラオーのこと触れちゃったから書くしかなくなった。

初めて打田さん目線でレースしてます。
いちおう乗馬クラブでの騎乗経験はありますが、
競争レベルのスピードで乗ったことはないので拙い文章だと思います。

なにとぞご容赦を。

あと、いつも誤字報告ありがとうございます! 感謝です!!


 気が付けば、年の瀬。

 戦いの舞台は、年末の中山。2500メートル。

 1年間戦い抜いた馬たちに、最高のファンが夢を託す舞台。それに僕とこの子が一緒に出る。

 

「有馬はすごく変な形。外周コースの3コーナーからスタートして、実質的な一番最初のコーナーがいつもの3コーナーの奥側になる感覚。直線抜けて1〜2コーナーで山超えて。あとはいつも通り。そんなコース」

 

 馬房から出した黒い顔。額の白い流星。

 馬体は菊花賞の後少し体が引き締まって見えるが、体重が増えていて、筋肉がさらに増えた印象がある。そんな彼。

 

 人懐っこくて、女好きだけど可愛くて、愛らしい。

 

「去年の今頃はホープフルで勝ったんだよ。んで、今年は有馬記念。まだ負けてないとか、不思議だよな」

 

「ブルルルっ」

 

「はは。お前もそう思うか」

 

 妙なタイミングで、会話がしているようなタイミングで返事をするツァーリにも慣れた。

 

「今日は、お前の一年先輩のアーモンドアイが出てくるし、サートゥルナーリアもいる。あとはリスグラシューって言う今日引退する馬もいる。でも、関係ないよな。お前が最強だ。勝とう」

 

「ブルブルルッ!!」

 

「入場の時にな。また後でな」

 

有馬記念 出馬表

馬名脚質適正人気

スカーレットカラー◁◁◀︎◁12

スワーヴリチャード◁◀︎◀︎◁

エタリオウ◁◁◀︎◁11

スティッフェリオ◁◀︎◀︎◁14

フィエールマン◁◀︎◀︎◁

リスグラシュー◁◁◀︎◁

ワールドプレミア◁◁◀︎◁

レイデオロ◁◀︎◀︎◁10

アーモンドアイ◁◀︎◀︎◁

10サートゥルナーリア◁◀︎◁◁

11キセキ◀︎◁◁◁

12ズヴィズダツァーリ◁◀︎◁◀︎

13アルアイン◁◀︎◁◁16

14ヴェロックス◁◀︎◁◁

15アエロリット◀︎◀︎◁◁13

16シュヴァルグラン◁◁◀︎◁15

 

 天候は微妙だけど、馬場は想定より良い。

 レースで良以外の馬場を経験してないことが不安材料ではあるものの、それでも、硬くて反発力がある方が、ツァーリの足には合っている。

 前で戦った方がいいか? 全体ペースが遅いこともよくある。前の方で戦いに行っても。いや、馬群に呑まれた方が怖いか。

 

 ツァーリの脚を知ってて最後方から戦うのを想定すれば、さらに動かせないよう向正面あたりで壁にするため前を塞ぐはず。

 

「打田さん」

 

 馬房を離れた僕と入れ替わるように、ツァーリの元へ来た友康さん。

 

「脚溜めさせて、一番後ろから大外ぶん回して来い」

 

「良いんですか?」

 

「安心してください。アーモンドアイもサートゥルナーリアも他の馬も強いけど、ウチの(俺たちの)子がいっちゃん強いですから」

 

 少し恥ずかしそうに言う。

 

「無敗っていうのは重いよな。この2年間。絶対に負けない馬を育てようと必死になって考えてた。でも、競馬に絶対はない。答えとなる調教も、答えとなる騎乗もない。ルドルフの丘部さんも、ディープの丈くんも、そして君も。無敗を続ける怖さを経験できるのは、人生で一回もない。もちろん俺も」

 

 突然、帽子を外して頭を下げた友康さん。やめてくれと顔を上げさせようとするが、彼は地面を見つめて言った。

 

「あの子を輝かせられるのは、打田さんしかいない。お客さんが馬券握って夢見るように、調教師は、ジョッキーに夢託すんです。ルドルフも、ディープも、オペラオーも。全部の馬を差し切ってやってください」

 

「ええ。友康さん。強いツァーリの、強い競馬で、勝ちましょう」

 

 今日の戦い方は決まった。壁だろうが何だろうが、僕たちの戦い方をしよう。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『年末の中山競馬場には、全国の競馬ファンが夢を託した優駿、16頭が揃いました。史上稀にみる豪華メンバー。ディープインパクト以来の無敗三冠馬、ズヴィズダツァーリ。牝馬三冠。現役最強の呼び声高い女王。アーモンドアイ。女王は私だと証明できるか、宝塚記念を制したリスグラシュー。

 王座に座る者たちが強さを見せるのか、はたまた新たなスターが生まれるのか。もうすぐ枠入りとなります』

 

「今日も輪乗りはしない?」

 

 ゲート前、誰から始まるとも言えない恒例の流れ。このレースを完成させるレース前最後のピースを、いつもながらのんびりとした表情で眺めるツァーリ。

 

「まあ、こうしてくれるから、他の馬体もしっかり見れるし」

「ブルッ!? ぶるる……」

 多分だけどコイツ、マジ? なら次も混ざらんとこ。とか言ってそうだな。

 

『最後方からの競馬となるであろうズヴィズダツァーリ。かつてのテイエムオペラオーのように年間無敗を賭けた戦いとなります。あの世紀末と同じように包囲網が組まれてしまうのか。ゲート入りですズヴィズダツァーリ。6枠12番として綺麗に収まります。ファンの皆様は4度目のお辞儀を見たいでしょう!! 三冠戦では善走した7枠14番ヴェロックス、最後の大外枠シュヴァルグランが枠入り。全頭準備整いました。19年シーズンの総決算!!

 

 今、スタートです!!』

 

 ゲートが開く。

 

『16頭しっかり出ました。いや、ズヴィズダツァーリが少し出遅れしてますがすっと最後尾』

 

  ッ!」

 

 スタートが上手なはずのツァーリが出遅れた。いや、後ろから戦うから大丈夫だが、少し前に行こうとしてるか? やることは変わらないから落ち着いてくれ。抑えて。

 体力のロスだけが今は怖い。手綱をしっかり握り、後ろに体重を乗せる。

 

『先頭飛び出しています15番のアエロリット。スティッフェリオとアルアインが追走している状況。この3頭がレースを引っ張っていくでしょうか』

 

 まだ前に出ない方が良い。僕の判断を察したのか、ツァーリの引っ張る感じが収まってきて、しっかりとコース内側を走っていく。

 ペース目安として考えていたサートゥルナーリアは少し前。一番前は結構遠いが問題はなさそう。体感のペースが速いから、3コーナー辺りで捉えられる。

 

 というか、邪魔。と、先頭集団ではなく、目の前の馬群に意識が向く。

 

 僕たちの1馬身前に並んで走るヴェロックス、ワールドプレミア、シュヴァルグランの3頭。まだカーブに入ってないからこそ横並びなんだろうが、向こう正面入った時もこの状態なら少し面倒になる。

 アーモンドアイは集団2つ先。

 

『1つ目のコーナーを抜けてもうすぐ2つ目。正面スタンド前に先頭の15番のアエロリットがやってきました。大歓声!! 大きな歓声を浴びている状態で最後尾のズヴィズダツァーリも正面スタンド前、ゴール板を通過しました。

 展開はやや縦に広がっている状態。会場は異なりますが、日本ダービーの時のようです』

 

 なるほどね。

 手綱を握る手が強くなる。

 

 おそらくだが、今日のレースは作戦が二分したのだろう。

 1つは、ハイペースで前を戦い、最後の直線前で広がるだろうから、僕たちが抜け出せる場所が無くなると踏んだ先行策の集団。

 2つ目は、それを見越してスタミナ切れを考え、後ろから一気に呑み込む差し策。そして、自分たちが広がって先行集団を抜くから僕たちを防げると考えている。

 

 騎手同士が図らずとも出来てしまう2重の壁。包囲網。これを、オペラオーと輪田さんは打ち破ったのか。

 

「上がるな」

 

 僕がぽろっとこぼした声が聞こえたのか、ツァーリの頭が一回だけ、頷くように低く下がった。

 この子も一緒なのかとうれしくなると同時に、冷静にならないとと気持ちを引き締める。ゴールドシップの時は気持ちよくさせることが一番だったが、この子の場合は意思疎通がし易い分僕も『掛かり』易い。

 

『さあハイペースでレースが続いて向こう正面へと入っていきます。先頭は変わらずアエロリット。少し間開いてやってくる先行集団先頭スティッフェリオとアルアインが横並び。エタリオウ、スワーヴリチャード、最内にスカーレットカラー3頭絡んでいます。その外側にいるのが注目のアーモンドアイ9番です。半馬身後ろに控えるヴェロックス。三冠戦後は元気がないですから好走してほしい。

 

 さあ、中団です、だいぶ固まってしまっている状態です。6番のリスグラシューと5番のフィエールマンが併走。その後ろキセキと4番人気サートゥルナーリアも絡んで横並び、後ろの馬にとっては壁の状態です。内側の隙間を詰めるように菊花賞2着のワールドプレミア鞍上豊丈がいます。レイオデロとシュヴァルグラン。

 

 ズヴィズダツァーリは最後方ぽつんと1頭だけで隙を伺っている状態!』

 

 3コーナー入って15番達との差が無くなってきた。そろそろ上がっていきたい。

 カーブの合図として一度鞭を入れるが、前に出られそうな隙が無い。横並び4頭のせいで膨らめば、いくらツァーリでも脚を使いすぎる。内側はワールドプレミアが防いでるからどうしようもない。

 

 ギリギリまで溜めろ。リズム保って、最後暴れる。

 4コーナー出口で膨らむのは良い。そこまでは、絶対に最内!!

 

『さあ! 4コーナーに差し掛かって先行集団が後方集団に呑まれていく!! 隙間が埋まって最奥ツァーリは上がってこれてない! 大丈夫なのか打田!! 行けるか!?』

 

 左耳に入る声。ツァーリがピクピクと走りながら動かす耳。

 本当に、この子は賢い。

 

 行け! とか、走れ! とか、上がってけ! とか、さらには声にならない声とか。

 この子には、スタンドから聞こえる大きな声が、自分に向っていることが分かっている。

 

「退けぇ  ッツ!!!!」

 

『中山の短い直線!! ツァーリ来ないッ!! ツァーリ来ないッ!! ツァーリ来ないッ!!』

 

 手綱は緩めている。鞭も入れている。けど、前に隙間は……。

 

 隙間は。

 

 

 

 

 

 僕の腕が、今まで感じたことがないほどの力で持っていかれた。

 

『来た! 来た! 来た!』

 

 最内を走りつつスタミナ切れで落ちてきた15番の横、サートゥルナーリアとの間に在ったほんのわずかな隙間にツァーリが、その頭を、その体をねじ込んだ。

 

『ツァーリ! ツァーリが来た!! ツァーリが来た!!』

 

 完全に抜け出した。

 

「強い強い強  いッツ!!!!」

 

 一番最初にゴールしたのはほかでもなく星の皇帝だった。

 

 抜け出したと思った時には、もうゴール板を過ぎていて、僕たちの前にいたはずの馬が、2着3着でレースを終える。

 すごく一瞬のような出来事で、吸った息を吐き出した時には、全てが終わってた。

 

『やはり皇帝は強かった!! 2着サートゥルナーリアに2馬身差!! ズヴィズダツァーリの眼前に、他は一切存在しなかった!!』

 

 

 

有馬記念 レース結果 上位5着

馬名タイム人気

12ズヴィズダツァーリ2:30:1

10サートゥルナーリア2:30:5

リスグラシュー2:30:5

ワールドプレミア2:30:6

アーモンドアイ2:30:6

 

 ツァーリがお辞儀する中、僕の内心は疲労感で溢れていて、正直頭の中が真っ白だった。

 

 

 

 

 


 

 ところで先生、あそこのお姉さん馬きれいだけど、あれが噂のアーモンドアイさん?

 サートゥルナーリアのお姉さんなの?

 

「あなたすごいわね」

 

「……しゅき」

 

「え?」

 

「なんでもないです」

 

 真正面からすごいとか初めていわれてきゅんとしちゃった。うん恥ずかしい。逃げよう。っちょっと先生! 早くウイナーズ・サークルに行こうよ!!




 出走成績 8戦8勝 獲得賞金総額8億9300万

18/09/22/土 新馬戦 2000メートル 
 1番人気 1着 2:01:8 700万
18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート
 1番人気 1着 1:45:2 3,300万
18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル
 1番人気 1着 2:01:2 7,000万
   2着 アドマイヤジャスタ 2:01:6 2馬身差

19/04/14/日 皐月賞 2000メートル
 3番人気 1着 1:57:9 11,000万
   2着 サートゥルナーリア 1:58:5 3½馬身差
19/05/26/日 東京優駿(日本ダービー) 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:5 20,000万
   2着 ロジャーバローズ 2:22:5 アタマ差
19/09/22/日 神戸新聞杯(G2) 2400メートル
 1番人気 1着 2:24:5 5,300万
   2着 サートゥルナーリア 2:26:3 大差(約11馬身差)
19/10/20/日 菊花賞 3000メートル
 1番人気 1着 2:58:9(WR) 12,000万
   2着 ワールドプレミア 3:03:0 大差(約30馬身差)
19/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 1着 2:30:1 30000万
   2着 サートゥルナーリア 2:30:5 2馬身差

次走 20/03/22/日 阪神大賞典(G2) 3000メートル

話的に阪神大賞典飛ばして春天行きます。


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競走馬ー11:史上3頭目のローテーションに向かって

 掲示板回。阪神大賞典は飛ばします。
 掲示板の誤字は文化だから許して。

 あと、凱旋門賞ですが、出させることにします。
 どいう流れで出馬させるかは考え中ですが、生涯で回避ということはしません。アンケートありがとうございました。


最後方から煌めく一等星・星の皇帝ズヴィズダツァーリを応援するスレ part.11

 

1:名無しの紙吹雪おじさん ID:MAYlTbOa8

上記タイトルのように、2018年デビューの3歳馬。現在無敗の三冠を達成しても勢いが止まらないズヴィズダツァーリを応援するスレです。

基本どなたも参加おkですが、ズヴィズダツァーリと全く関係ない話はNGで。

 

・アンチ

・荒らしと荒らしに触れるやつ

上記2点ノータッチで

 

前スレはこちら 最後方から煌めく一等星・星の皇帝ズヴィズダツァーリを応援するスレ part.10

 

他の馬の話はその馬のスレで

 

 

 

 

 

 

396:名無しの紙吹雪おじさん ID:HyCdwO+jL

結局、歴代で最強馬はツァーリでいいだろ。シンザンとルドルフは超えた

 

397:名無しの紙吹雪おじさん ID:QwoUdU808

今ツァーリが勝ってんのが? 何勝?

 

398:名無しの紙吹雪おじさん ID:OhvKWAA6a

新馬戦

東スポ

ホープフル

三冠

有馬

阪神大賞典

で8勝。一応ルドルフの連勝記録は塗り替えた

 

399:名無しの紙吹雪おじさん ID:QypJORXpZ

有馬記念やばかったな

オペラオー世代のおじさんはあれがまた見れてうれしくてもう。うん

 

400:名無しの紙吹雪おじさん ID:x4oyskQH4

引退馬への花向けとかいうことを知らないツァーリの無慈悲さがすごかった

 

401:名無しの紙吹雪おじさん ID:fH6NAuGEJ

地味に二着にサートゥルナーリアがいておじさん嬉しい

けど、サートゥルナーリアの真横通って抜け出したけど、ほんとえぐいね

 

402:名無しの紙吹雪おじさん ID:wepvqWfV3

>>401 4戦4敗だけどな

 

あれはもうUMAだから、勝てるやついるの?

 

403:名無しの紙吹雪おじさん ID:u4qIk4S4V

アモアイが前に出てこれなかったところを抜け出したからな。

阪神大賞典終わってんのに未だに話題に上がるのはすごい

 

404:名無しの紙吹雪おじさん ID:g9fWB5j5y

すでにG1を五勝してるからシンザンは超えてるでいいんじゃね?

 

405:名無しの紙吹雪おじさん ID:s85nGz6LW

次春天だろ?

 

406:名無しの紙吹雪おじさん ID:iix8dT6YO

>>405 公表されてる

 

407:名無しの紙吹雪おじさん ID:ryCONfx6r

菊花賞ー同年の有馬ー翌年春天はルドルフとカフェ?

 

408:名無しの紙吹雪おじさん ID:hd5K6QsbO

>>407 正解

 

達成すれば3頭目。やったぁ!無敗三冠と一緒だね

 

409:名無しの紙吹雪おじさん ID:torTInipL

けど期待するよな。レコード勝利

 

410:名無しの紙吹雪おじさん ID:y53yZHEPa

2:58は頭おかしいよな

 

411:名無しの紙吹雪おじさん ID:4crvwMTKv

向正面で上がってきた時馬券捨てた

 

412:名無しの紙吹雪おじさん ID:juS/5sVI6

>>411 必死に拾ってザマァ

 

413:名無しの紙吹雪おじさん ID:T7yoWfSlR

>>412 それお前

 

414:名無しの紙吹雪おじさん ID:UjGqpkreg

あれ見たらなぁ。

誰だってそうする

おれもそうする

状態だからな

 

415:名無しの紙吹雪おじさん ID:n2GT/oTfn

結果があれよ

 

416:名無しの紙吹雪おじさん ID:zmtCyF6eD

今の春天レコードは?

 

417:名無しの紙吹雪おじさん ID:j1ZbcuT23

3分10とかじゃない? キタサンだったと思う

 

418:名無しの紙吹雪おじさん ID:+uOHotw8o

>>417 正しくは12秒5だね。

 

419:名無しの紙吹雪おじさん ID:AfP3Ax7mS

阪神大賞典でもしっかり3:00:1だからな

 

420:名無しの紙吹雪おじさん ID:JOc1dKzuk

遅いペースから一気にハイペースに持っていけるのがえぐいわ

ディープでもあれは無理だろ

 

421:名無しの紙吹雪おじさん ID:PZqLEujiS

ハイ、ミドル、ローの3パターンを持ってて、

抜け出してからもハイで飛ばし続けたのが菊花賞

ミドルに下げたのが大賞典と有馬記念

ローに落としたのがダービーって感じかな?

 

422:名無しの紙吹雪おじさん ID:qepjyrQG9

納得はできないが理解はできる

 

423:名無しの紙吹雪おじさん ID:2sTYGzHAg

ウチパクが鞭入れてるのあんまり見ないよな

 

424:名無しの紙吹雪おじさん ID:/IDqLat+Z

ウチパク「手綱緩めたら飛んでくから鞭は持ってるだけ」

 

425:名無しの紙吹雪おじさん ID:vxyL7KBCr

>>424 それま?

 

426:名無しの紙吹雪おじさん ID:6TscBYVPh

>>425 マジらしい

 

「前に行く気持ちがスタートからゴールまで持つ子だから、無理に鞭を入れなくても前に行ってくれる。僕の仕事は、コース取りとタイミングを教えるだけですね」

 

427:名無しの紙吹雪おじさん ID:5Bd0pCqiB

>>426 どこ情報?

 

428:名無しの紙吹雪おじさん ID:thdacNbQy

>>427 有馬後の雑誌だったはず

 

コンビニの立ち読みだから細かいとこまで覚えてない

 

429:名無しの紙吹雪おじさん ID:+teYyhvty

けど、アーモンドアイが沈んだのも驚いたけど、

あの伸び方したリスグラシューに脱帽

 

430:名無しの紙吹雪おじさん ID:s/ahVIJEn

それねじ伏せた上で飛び出してくるツァーリにも脱帽

 

431:名無しの紙吹雪おじさん ID:WgJ+kugSN

リスグラシューに追いついてしまったサートゥルナーリアに脱帽

 

432:名無しの紙吹雪おじさん ID:D3Y67hvRG

アフロのカツラを脱帽

 

433:名無しの紙吹雪おじさん ID:tUDK94wKb

>>432 それはつるべー

 

434:名無しの紙吹雪おじさん ID:ssyKBwutB

まあ、歴代最強って見てもいいんじゃない?

すでに実績十分だし

 

435:名無しの紙吹雪おじさん ID:x7RZFKWrn

凱旋門賞どうなの?

 

436:名無しの紙吹雪おじさん ID:Ef7Lqsvfo

>>435 今の所は出る方針

 

437:名無しの紙吹雪おじさん ID:D+1QjJF0n

こいつで勝てなきゃ誰も勝てんだろ

 

438:名無しの紙吹雪おじさん ID:Ymw/2/bf/

>>437 似たようなこと言って失格になったディープっちゅう馬がおってな

 

439:名無しの紙吹雪おじさん ID:cjTwrPRgt

この前Twitterでツァーリの擬人化あったぞ

 

440:名無しの紙吹雪おじさん ID:S8Geu316M

見た見た。

男と女バージョンのやつだろ?

 

441:名無しの紙吹雪おじさん ID:uGfI1eJCH

なんかサイゲームスがなんかやってなかった?

 

442:名無しの紙吹雪おじさん ID:bMqhRExa9

>>441 ウマ娘プリティーダービー

 

443:名無しの紙吹雪おじさん ID:mUTxF7tRc

なんそれ

 

444:名無しの紙吹雪おじさん ID:RLyisNZyR

女の子になった競走馬を育てる? ゲーム

ダスカとかウオッカとかルドルフとかテイオーとかいる。

2018年リリースだったけど今は無期限で延期中

 

445:名無しの紙吹雪おじさん ID:l25btbY2u

ツァーリとかアモアイとか現役のやついんの?

 

446:名無しの紙吹雪おじさん ID:YlKMdxuhF

いなかったはず。ディープとかオルフェっぽい奴もいたけど

名前出てないから権利取れてないんじゃない?

 

447:名無しの紙吹雪おじさん ID:N34sE+b1q

ツァーリは馬主大魔神だし現役中に出る?

 

448:名無しの紙吹雪おじさん ID:gL05AKgsu

(そもそもアプリが配信されて)ないです

 

449:名無しの紙吹雪おじさん ID:Smel8XHQd

>>448 せやかて工藤!!

 

450:名無しの紙吹雪おじさん ID:RZNd20lqi

>>449 原作で言ってない定期

 

競走馬も人気商売だから、

ゲームのステータス次第で弱い印象持たれたくないだろうし、

そもそも無敗三冠馬を育てるって考えたら

難易度めちゃくちゃ難しくなるべ

 

451:名無しの紙吹雪おじさん ID:3UG+t84FF

話変わるけど、ツァーリの二つ名は星帝? 星の皇帝?

マンカフェとかみたいな漆黒の摩天楼とか好きだから

そう言うのつけてあげたい

 

452:名無しの紙吹雪おじさん ID:WDeaVAzXW

星帝天駆眼前他無

 

453:名無しの紙吹雪おじさん ID:oO4zJUR7y

>>452 あれは痺れた

 

454:名無しの紙吹雪おじさん ID:di1AnGSr0

ミスターシービー 非常識の演出家

シンボリルドルフ 永遠なる皇帝

マルゼンスキー スーパーカー

 

マルゼンスキーだけダサいよな

 

455:名無しの紙吹雪おじさん ID:MCcpIRYCO

>>454 時代だな

 

456:名無しの紙吹雪おじさん ID:L6msiyz9Q

つけるならなんだろう

 

457:名無しの紙吹雪おじさん ID:+ft8pp58R

シンプルに「超新星」とかでいいんじゃない?

 

458:名無しの紙吹雪おじさん ID:QVSaUXIKr

世界の黒星

 

459:名無しの紙吹雪おじさん ID:9gAR3JTJH

>>458 凱旋門賞勝ったらな

 

460:名無しの紙吹雪おじさん ID:jeOhVQLOZ

まだ世界のではないしな

 

461:名無しの紙吹雪おじさん ID:i7HdYFbj5

「クラシックシーズンを彩る三冠戦。その最後の舞台は、世代最強のステイヤーを決める菊花賞。その同年。変則的なコースである有馬記念を制し、古馬最強のステイヤーを決める春の天皇賞の三つを制覇したのは、競馬史上たった2頭。

 永遠なる皇帝・シンボリルドルフ。漆黒の摩天楼・マンハッタンカフェ。

 史上3頭目の快挙に向けて、星の皇帝が歩き出す」

 

462:名無しの紙吹雪おじさん ID:5lf3Zdplz

JRAのようつべのやつか

 

463:名無しの紙吹雪おじさん ID:1QCpovlbj

けど、実際どうなんだろき3歳馬の有馬記念勝利自体が難しいの?

 

464:名無しの紙吹雪おじさん ID:pcjAeczjq

>>463 居るのは居る

 

2010年からヴィクトワールピサ、オルフェ、ゴルシで

三歳馬が勝ってるし、去年のブラストワンピースもそう

 

465:名無しの紙吹雪おじさん ID:dzj6cWQk9

そういえば、春天っていえば阪神大賞典だけど、何ですかあれ?

 

466:名無しの紙吹雪おじさん ID:MmNP1xKEp

>>465 それさっきも話してた

 

467:名無しの紙吹雪おじさん ID:8VruqUEMv

しっかり3分0秒台決めてくる星帝さん流石っす

 

468:名無しの紙吹雪おじさん ID:jOikIt5e0

あれ流してたよな。やっぱ囲まれるとダメなんか? ツァーリは

 

469:名無しの紙吹雪おじさん ID:sKGo7bP6T

あれぶち抜いてたらまた2分59?

だとしたら見てみたいけど、陣営としてはハラハラするだろうな

怪我しててもおかしくないで。3分切りは

 

470:名無しの紙吹雪おじさん ID:97hVulOr9

有馬と大賞典見てて思うのけど、

ツァーリは3000~がちょうどいいんじゃない?

 

471:名無しの紙吹雪おじさん ID:gu4Cjalzu

2500~な気がするね。それ以下ならギアが入り切る前になっちゃうと思う

 

472:名無しの紙吹雪おじさん ID:NNO2EyW90

オルフェが逸走したのってなんで? ツァーリは大丈夫だったけど

 

473:名無しの紙吹雪おじさん ID:pQYrd2d/t

確か、ルドルフみたいな、良い位置で戦って差し切る戦いを覚えないと、

古馬戦線じゃ戦えないから。とか川栄が言ってたと思う

 

474:名無しの紙吹雪おじさん ID:Wg1u/i00l

ツァーリ「E区分なら位置とか関係ないっす」

 

475:名無しの紙吹雪おじさん ID:aESzGysXP

>>474 事実過ぎて芝

 

476:名無しの紙吹雪おじさん ID:OucLDfsf8

世代一番って言われてたサートゥルナーリアを中距離戦線に押し込め、

期待のダノンキングリーをマイル戦線に監禁した皇帝

 

477:名無しの紙吹雪おじさん ID:PhMkalxwT

ツァーリが負けたら謀反って言おう。アンチスレが騒ぎ始める

 

478:名無しの紙吹雪おじさん ID:/59l/h3lw

>>477 アンチも菊花賞と阪神大賞典のタイムに腰抜かしてお通夜状態だからww

 

479:名無しの紙吹雪おじさん ID:FVvFeWm/R

>>478 競馬場も客いないからお通夜

 

負けるなら古馬相手じゃなくて同期に負けてほしい

 

480:名無しの紙吹雪おじさん ID:+q5zH6Q6D

皇帝に同期の敵がいない定期

 

481:名無しの紙吹雪おじさん ID:8YyCdxBLK

そういえば皐月賞。無敗が2頭いるな

 

482:名無しの紙吹雪おじさん ID:N3xWkHoJJ

>>481 コントレイルとサリオス

 

483:名無しの紙吹雪おじさん ID:FhKaoIPTw

流石に今年も無敗三冠はないだろ

でも、現地で見れねぇの嫌だな

 

484:名無しの紙吹雪おじさん ID:jF9LQpE5q

ツァーリが異常すぎるだけ

テレビ派だからかんけーねぇわ

 

 

 

 

 

 

 

『今週末は天皇賞・春が行われます。観客のいない京都競馬場。大注目の馬は、現在無敗の最強馬であるズヴィズダツァーリ。菊花賞でワールドレコードを叩き出した長距離の申し子ですが、やはり軸になるのはこの馬ですか?』

 

『そうですね。前年優勝したフィエールマンも対抗になりますが、3000メートル前後では独壇場でしょう。これまで同様のレースでは大差勝ちをし続けているわけですから、フィエールマンがどこまで戦えるか』

 

『それでは気になる出走表です』

 

天皇賞・春 出馬表

馬名脚質適正人気

モズベッロ◁◁◀︎◁

エタリオウ◁◀︎◀︎◁

トーセンカンビーナ◁◁◀︎◀︎

ダンビュライト◁◀︎◁◁

ミッキースワロー◁◁◀︎◀︎

スティッフェリオ◁◀︎◀︎◁12

ユーキャンスマイル◁◁◀︎◁

キセキ◀︎◀︎◁◁

ミライヘノツバサ◁◀︎◁◁13

10メロディーレーン◁◁◀︎◀︎14

11メイショウテンゲン◁◁◀︎◀︎11

12シルヴァンシャー◁◁◀︎◀︎10

13ズヴィズダツァーリ◁◀︎◁◀︎

14フィエールマン◁◀︎◀︎◁

 

『オッズはズヴィズダツァーリの1.1倍。さあ、日曜日の勝負を期待しましょう。星の皇帝が、皇帝と摩天楼に並ぶか。それともついに黒星をつける馬が出てくるのか』

 

『楽しみですね』




 出走成績 9戦9勝 獲得賞金総額9億6000万

18/09/22/土 新馬戦 2000メートル 
 1番人気 1着 2:01:8 700万
18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート
 1番人気 1着 1:45:2 3,300万
18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル
 1番人気 1着 2:01:2 7,000万
   2着 アドマイヤジャスタ 2:01:6 2馬身差

19/04/14/日 皐月賞 2000メートル
 3番人気 1着 1:57:9 11,000万
   2着 サートゥルナーリア 1:58:5 3½馬身差
19/05/26/日 東京優駿(日本ダービー) 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:5 20,000万
   2着 ロジャーバローズ 2:22:5 アタマ差
19/09/22/日 神戸新聞杯(G2) 2400メートル
 1番人気 1着 2:24:5 5,300万
   2着 サートゥルナーリア 2:26:3 大差(約11馬身差)
19/10/20/日 菊花賞 3000メートル
 1番人気 1着 2:58:9(WR) 12,000万
   2着 ワールドプレミア 3:03:0 大差(約30馬身差)
19/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 1着 2:30:1 30000万
   2着 サートゥルナーリア 2:30:5 2馬身差

20/03/22/日 阪神大賞典(G2) 3000メートル
 1番人気 1着 3:00:1 6700万
   2着 ユーキャンスマイル 3:02:0 大差(約12馬身差)


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競走馬ー12:天皇賞・春 京都3200M

 11月から投稿時間を20時にするか悩んでる。

 最後の下り、少しだけ文章変えてます。

 いつもいつも誤字報告ありがとうございます!


 いんやぁー。どうもどうも。

 無敵! 長距離の王! ズヴィズダツァーリです。

 

 この前の阪神大賞典は楽しかったね。ズドーンって抜いてくの。

 あと思うけど、みんな長いからって抑え過ぎじゃない? スローペースなら体力余るからいくらでもスパートかけられちゃう。逆にペース速いと残せる量減るから、他馬とジョッキーが長距離で戦おうと思ったら、無理にでも速いペースの馬が必要だと思う。

 そうなっても僕は先生と一緒に勝つんだけどね。

 

「チビ、今日の調子はどうだ?」

 

 おい! 来やがったなこの嘘つき大魔神!!

 調子いいもんねー。今日も勝ってやるもんねー。

 

「ブルブルル……」

 

 立ち上がったら驚くかな。驚くよね? 触ってこようとしたら……。怪我させたら良くないしやめとこう。うん。

 

「チビ、お前最近冷たくないか?」

 

 自分の胸に手を当てて考えてくれよ大魔神。

 この前の春先、しがらきに放牧した時も、好きなだけ食べていいぞ。とか言ってたのに、しっかり減量させられたんだから。

 

「あれじゃないですか? 佐崎さんが女性じゃないからじゃないですか?」

「あー。たしかに、家内がいると甘えてますしね。こいつ」

 

「まあ、とりあえず、今日もしっかり走ってこい。勝った負けたはどうでもいい。打田さんの言うこと聞いて、やれるだけやったらそれでオッケーだ。怪我だけは、するなよ?」

 

「ヒヒーンっ!」

 もちろん! 楽しく走ってきてやるさ。

「返事したなぁ」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 っておーい!! 今日もあのめんこい子いるじゃん!!

「ツァーリ? どうしたの?」

 いやお姉さん見てくださいよあのめんこい奴!! あ、メロディーレーンって言うんだ。阪神大賞典にもいて気になってたんだよね? 一頭だけちっこいし。

 え? 体重340しかないの? しかもマイナス!? 僕の体重511だから、3分の2くらいしか無い? 乗ったら潰れるんじゃね?

 

「そろそろ本馬場入場だからね。準備は良い?」

 

 大丈夫だよお姉さん! 元気有り余ってるから!

 

『さあ、今年に入って、各地の競馬場は静寂に包まれています。人がいない中山競馬場、皐月賞はコントレイルが勝ちました。阪神競馬場での桜花賞は、デアリングタクトが勝ちました。残す大舞台はここ。京都競馬場。昨年の菊花賞では、大勢の観客の前で新たな扉が開かれたこの地で、14の優駿が、誇り高き楯に挑みます!』

 

 悲しいくらい静かなパドックを抜け、背中に先生を乗せた。他の馬も準備が整って、どんどんとターフに入っていく。

 

『さあ、春の楯。挑む14頭の筆頭が入場です。8枠13番ズヴィズダツァーリ。前走阪神大賞典では、二着におおよそ10馬身差を着ける大勝。2701メートル以上のE区分では、最終直線で並ばれたことがないほど強い馬ですから、今日もどうなるか。

 

 続いてやってきます。平成最後の春天優勝馬。2番人気のフィエールマン。時代が変わっても、このレースの主役であると見せつけることができるのか』

 

 体の状態は良い。あとは、向正面でギアを上げれば、自ずと勝てる。

 

『さあ、ゲート入り。奇数枠最後のズヴィズダツァーリが入ります。いつもと変わらずすんなり入り、2枠2番エタリオウが入ります』

 

 最後に入ったフィエールマン。全馬の状態が整い、ゲートが開いた。

 

『さあ始まりました春の天皇賞。真っ先に飛び出していくのは二頭です。4番と6番。ダンビュライトとスティッフェリオ。この2頭がペースを作っていく。キセキは3番手。前の二頭とは1馬身ほど開いております。

 続いていくモズベッロとユーキャンスマイルとシルヴァンシャー。予想通りの状況で展開しています』

 

 うん。良い感じだね。芝の感じも堅くて気持ちがいい。

 前の馬……。トーゼン? トーセン? カンビーナがいるけど、有馬の時みたいに横に広がってる感じじゃないから怖さもない。

 

『一度目の坂越えを終えて3コーナーの下り坂。2番人気のフィエールマンはここ。7番手ほどでしょうか。後ろにエタリオウとミッキースワローを控えさせた状態となります。

 

 さあ、正面スタンド前を通る各馬。静寂が包む悲しいスタンドではありますが、ターフ上は熱さで溢れています。ミライヘノツバサ、メイショウテンゲン。少し離れてメロディーレーン。そして一番後ろで2頭並びますズヴィズダツァーリとトーセンカンビーナ。

 スタンド前通過して1コーナー。2コーナーへと向かいます』

 

 どうする先生? ここの坂、中山ほどひどくないけど良い位置に行きたいから前に行きたい。

 3コーナーの下り自体は曖昧でもいい。スピードを上げてくだけだから。ただ、上りのロスはしたくないのが僕の意見。去年一年間先生の戦い方を見てきて僕が思う、僕の考え。

 今回は時計回りで左側の足に負担がかかるし、阪神大賞典も左側が外だから。

 

 そういえば、馬にも利き足ってあるのかな? 左脚の力が強いのか分からないけど、菊花賞も阪神大賞典も今日も、右回りだと走りやすいんだよね。

 

『さあ最後方にいたズヴィズダツァーリが少しずつギアを上げてきた。メロディーレーン、メイショウテンゲン、ミライヘノツバサ、ミッキースワローとエタリオウも躱してフィエールマンと7番手の所まで上がって来てペースを整えています。坂前に息を入れたか鞍上打田』

 

 うん。ここは僕とフィエールマンだけだから走りやすい。

 

『さあ坂を上り切って2度目の3コーナー。先頭で下っていくのはキセキです。そこから3頭が徐々にスピードを上げていきます。

 8番、4番、6番、1番が4コーナー手前。徐々に馬群が詰まっていきます。さあ後方から本命と対抗が上がってくる! フィエールマンが5番手、ズヴィズダツァーリが今6番手で直線』

 

 手綱が緩んだ。先生から、行くぞの合図。

 

『さあ直線! 上がってきた2頭!! 新旧長距離王者の激闘だ! フィエールマンが少しリードか!? いや、並んでいる! スティッフェリオも来るが2頭の戦い』

 

 あれ? おかしい。

 

 必死に足を動かすが、僕のスピードが上がらない。

 先生も、2度3度と鞭を入れてくるが、それでも上がらない。

 

 僕の良い耳に、ピキっと、何かが割れる音がした。そして、左前脚が重い気がした。

 

『叩き合い! ついに敗れるのかツァーリ! フィエールか! ツァーリか! フィエールか! ツァーリか!』

 

 意地だ。こうなったら意地。僕を最強にしてくれているみんなのために、走り切る!

 

『長い直線! 抜けた! 抜け出したぞツァーリ!! クビ差! アタマ差! 体半分前でゴール!! ズヴィズダツァーリ!! 無敗で10連勝達成だァ!! 長距離の皇帝が! 強さを見せつけた!!』

 

 いつもよりスピードの無いウイニングラン。重い左脚を庇いながら、ゆっくりスピードを下げる。

 うん。一周しない方が良い気がする。2コーナー前くらいで完全にスピードを0にした僕は、先にお辞儀だけしようと思ったが、立ち上がろうとして変に力が入ると良くないなと思い、トボトボと歩き始める。

 

『フィエールマン。負けて強しの勝負でしたが、ギリギリ届かず。さあ、勝ちタイムは? 3分16秒4です!! そして、皇帝がする恒例のお辞儀。お? 今日は伏せませんね。頭だけ上下に振っています』

 

 うん、やっぱり左肩? 左前脚が痛い。あれかな? 筋肉痛かな。馬って立ってないと死んじゃうから、立てない怪我したらどうしようもなくて安楽死なんだよな……。ひどいケガじゃなければいいんだけど。

 あ、お姉さん来た。

 

「ツァーリ? 今日はお辞儀しないの?」

「ぶるる……」

「ん? 元気ないね。疲れてる感じはないからいつも通りだけど……」

 

「最後、伸びなかったです。もしかしたら足に何か起きてるかもしれないです。歩き方も少しおかしくなってるから少し微妙です。コズんでるならおります」

「え? わかりました。ツァーリ。ちょっと触るよ?」

 

 じっとした状態で僕は立っていたが、左脚を触られた時に軽い痛みがあったので一つ鳴く。

 僕の状態を確認したお姉さんの指示で、僕たちは急いでターフを去った。

 

 

 

天皇賞・春 レース結果 上位5着

馬名タイム人気

13ズヴィズダツァーリ3:16:4

14フィエールマン3:16:5

スティッフェリオ3:16:612

ミッキースワロ3:16:9

ユーキャンスマイル3:16:9

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「馬鹿野郎!!」

 

 僕に、大魔神。いや、佐崎さんの怒号が降りかかった。

 

「誰が怪我して良いって言った!! おれはいつも言ってんだろう!! 勝とうが負けようが良い。怪我無く戻ってきてくれれば良いって」

 

 その通りだ。佐崎さんは、僕を愛して接してくれる。

 

「佐崎さん。それぐらいにしてください。この子が怪我したのは私たち調教師や厩務員側の責任です。怒るなら彼じゃなく、私たちに怒ってください。彼だって怪我したくてしているわけじゃないんですから」

 

 んなことわかってる! と口調を荒げる佐崎。多分、みんなにも色々と言いたいことがあるんだとは思う。でも、それでも僕を心配してるから、真っ先に僕に出るんだろうな。

 

「それでも、コイツにはちゃんと言わないとだめです。友康さん。この子は他の子とは違う。ちゃんと考えて動ける子なんだ。オレの、俺たち陣営の自慢の子なんだ。レースで左脚負傷して。裂蹄もして。無敗だろうが何だろうが下手したら俺たちはこの子を殺さないといけなくなるんです。その辛さの10分の1でも理解できる子だと思っているからこそ、毎回言ってるんです」

 

 いや、ストレスになってなんかないよおっちゃん。これは僕が悪い。

 先生やおっちゃんに勝るとも劣らない愛情を注いでくれる()()()()の愛情に背いたんだから。

 

「完治の見込みは何時頃ですか?」

 

「現状だと11月の頭まではかかるかと。コズミ自体は軽いものですが、裂蹄は時間がかかりますから。プール調教とかで体力と筋力を落とさないようにして、勝負勘を取り戻して、ジャパンカップに間に合うかどうか……」

 

「分かりました。なら、凱旋門賞は来年ですね」

 

「ええ」

 

 分かった。全力で治して、全力で鍛えて、ジャパンカップに間に合わせる。

 それが僕の、当分は走れない僕の仕事だ。




皆さんは馬房で大声出さないでね。
馬ちゃんが驚いちゃうので。

一生で一回の凱旋門賞。上がるでしょ?

 出走成績 10戦10勝 獲得賞金総額11億1000万

18/09/22/土 新馬戦 2000メートル 
 1番人気 1着 2:01:8 700万
18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート
 1番人気 1着 1:45:2 3,300万
18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル
 1番人気 1着 2:01:2 7,000万
   2着 アドマイヤジャスタ 2:01:6 2馬身差

19/04/14/日 皐月賞 2000メートル
 3番人気 1着 1:57:9 11,000万
   2着 サートゥルナーリア 1:58:5 3½馬身差
19/05/26/日 東京優駿(日本ダービー) 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:5 20,000万
   2着 ロジャーバローズ 2:22:5 アタマ差
19/09/22/日 神戸新聞杯(G2) 2400メートル
 1番人気 1着 2:24:5 5,300万
   2着 サートゥルナーリア 2:26:3 大差(約11馬身差)
19/10/20/日 菊花賞 3000メートル
 1番人気 1着 2:58:9(WR) 12,000万
   2着 ワールドプレミア 3:03:0 大差(約30馬身差)
19/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 1着 2:30:1 30000万
   2着 サートゥルナーリア 2:30:5 2馬身差

20/03/22/日 阪神大賞典(G2) 3000メートル
 1番人気 1着 3:00:1 6700万
   2着 ユーキャンスマイル 3:02:0 大差(約12馬身差)
20/05/03/日 天皇賞(春) 3200メートル
 1番人気 1着 3:16:4 15000万
   2着 フィエールマン 3:16:5 1/2馬身差

次走 20/06/28/日 宝塚記念 2200メートル
   故障のため回避

   その他海外遠征計画、故障のため回避

目標 20/11/29/日 ジャパンカップ 2400メートル

有力馬 アーモンドアイ、その他不明


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競走馬ー13:掲示板と笑う大魔神

 箸休め回。短いよー

 あと、馬主がどれくらいトレセンには入れるとかは知らん!!
関係者だからは居れるでしょw

 ーどうでも良い話ー
 秋天、狙ったんすよ。
 グランアレグリア  ガチ
 コントレイル    安定の2着
 カレンブーケドール 安定の3着

 結果はご存知の通り。


最後方から煌めく一等星・星の皇帝ズヴィズダツァーリを応援するスレ part.17

 

 

1:名無しの紙吹雪おじさん ID:KnUu5acQ1

上記タイトルのように、2018年デビューの3歳馬。現在無敗の三冠を達成しても勢いが止まらないズヴィズダツァーリを応援するスレです。

基本どなたも参加おkですが、ズヴィズダツァーリと全く関係ない話はNGで。

 

・アンチ

・荒らしと荒らしに触れるやつ

上記2点ノータッチで

 

前スレはこちら 最後方から煌めく一等星・星の皇帝ズヴィズダツァーリを応援するスレ part.16

 

他の馬の話はその馬のスレで

 

 

2:名無しの紙吹雪おじさん ID:tF0pNz0KU

>>1 スレたて乙

 

3:名無しの紙吹雪おじさん ID:j6IxKljZI

早速で悪いけどこれ

 

【天皇賞・春】ズヴィズダツァーリ競走後負傷発覚!!

 5月3日(晴)、第161回天皇賞・春をズヴィズダツァーリ号(鞍上:打田幸博)が制した。勝ちタイムは3分16秒1。2着となった昨年の優勝馬フィエールマンと半馬身差を着けた。これによりズヴィズダツァーリは、連勝記録を10に伸ばすこととなった。

 また、菊花賞馬が同年の有馬記念を制し、翌年の天皇賞・春を制したのは、同じ無敗三冠馬であるシンボリルドルフと2001年菊花賞馬のマンハッタンカフェに続く史上三頭目となった。

 

 スタートから後方で隙を伺う戦いを選択したズヴィズダツァーリと鞍上の打田ジョッキーは、観客席に人がいない競馬場を走り抜け、2回目の坂となる向こう正面から仕掛け始める。下り坂を利用してスピードを上げたズヴィズダツァーリは、2着となるフィエールマンと叩き合いを行い、勝利した。

 

 

  打田騎手のコメント  

「展開自体はかなり良かった。3コーナー前の坂を上るタイミングでいい位置につけたい気持ちがあったので、向こう正面に入ったタイミングで一回仕掛けた。一度息も入れることができたので、展開的には100点満点の出来」

 

 しかし、ズヴィズダツァーリはレース後に左前脚の負傷と同足の裂蹄が判明した。友康調教師によると、「左足のパワーが強すぎる弊害かもしれない。」と述べている。また、昨年世界レコードを達成している菊花賞。同距離の阪神大賞典も右回りのコースであることを左足の負傷要因に挙げた。

 これを受けて、陣営は同年の宝塚記念や、期待されていた凱旋門賞などの海外遠征を回避することを宣言。ただ同馬の馬主である佐崎氏は、「2021年の凱旋門賞には万全の状態で出させる。」と発言しているため、史上3頭目の無敗三冠馬による初の快挙を期待したい。

 

4:名無しの紙吹雪おじさん ID:Wxb17GdDm

>>2 ありがとう

 

5:名無しの紙吹雪おじさん ID:8g0SjLhKG

これ、怪我って言ってるけどコズミだろ?

そんなひどくないんじゃないか? すっげー変な歩き方してなかったし

 

6:名無しの紙吹雪おじさん ID:e7T1NjHsf

どこで復帰なんだ?

 

7:名無しの紙吹雪おじさん ID:TPe2S+zNb

裂蹄がどのくらいの幅なんだろうな。

馬の蹄が伸びるのって結構時間かかるだろ?

 

8:名無しの紙吹雪おじさん ID:cuNikmC+6

次走が何にしろ、無敗記録は終わりそうだよな。残念

 

9:名無しの紙吹雪おじさん ID:Zf47YYxif

>>7 一か月で数ミリとか

 

>>8 今までが出来過ぎだと思う

 

10:名無しの紙吹雪おじさん ID:rmUtgPWJ1

1か月で3ミリ伸びても2センチ裂けてたら半年くらいかかるのか

 

11:名無しの紙吹雪おじさん ID:7fo12DjJX

年内無理なんじゃないか?

 

12:名無しの紙吹雪おじさん ID:qOvBy7Al4

けど、屈腱炎で引退とかじゃないならまだいい。走ってる姿が見れるならそれだけで

 

13:名無しの紙吹雪おじさん ID:Yxa2jnCha

アグネスタキオンは4戦しかできんかったし、BNWも屈腱炎。

スズカとライスは競走中だったことを考えればましだよな

 

14:名無しの紙吹雪おじさん ID:enJg97YvZ

ライスみたいに、無敗止めた馬はヒール扱い?

 

15:名無しの紙吹雪おじさん ID:nev6oKLTR

>>14 なる

 

ただ、同世代の馬ならどうだろう。

フィエールマンはギリギリだったけど、怪我してる奴に勝てないのはな

 

16:名無しの紙吹雪おじさん ID:3wzYSIXU3

同世代なら悲願だろ。

最強の存在がいるからずっと勝てない。弱いって言われてる。

可能性があるサートゥルナーリアは有馬でも2着でシルバー感あるけど、

あるとしたらあいつが、2400辺りで戦ってって感じだろ。

 

17:名無しの紙吹雪おじさん ID:1j6sfzVnC

もう4回負けてるけど、可能性あるのナーリアだけだもんな

 

18:名無しの紙吹雪おじさん ID:NM9oKnweZ

ダノンとかアレグリアとかがいるマイルは

距離適性的に絶対に出ないだろ

クロノジェネシスとかが良い感じだからな

 

19:名無しの紙吹雪おじさん ID:36JER5DOb

古馬相手じゃなく同世代の牝馬に負ける三冠馬は見たくない

そうなったら引退してくれ

 

20:名無しの紙吹雪おじさん ID:UirzakNtP

今年中に間に合ったらコントレイルと戦えるのにな

 

21:名無しの紙吹雪おじさん ID:YNtyFlJzH

無敗二冠馬(現状)

 

22:名無しの紙吹雪おじさん ID:NvKpoQnd+

まさか二年連続で無敗の2冠馬が現れるとは……。

オークスも無敗2冠だし

 

23:名無しの紙吹雪おじさん ID:Gl6XEi1n3

18 牝馬三冠 アーモンドアイ

19 牡馬三冠 ズヴィズダツァーリ

20 牡馬二冠 コントレイル

   牝馬二冠 デアリングタクト

 

24:名無しの紙吹雪おじさん ID:r/V4AA7s4

あるとしたら有馬だよな

 

25:名無しの紙吹雪おじさん ID:E1Mm6RGKe

結局ツァーリの足が間に合うかだけ

 

26:名無しの紙吹雪おじさん ID:8FC0bH1CJ

負ける可能性あるのに出ないんじゃね?

G3とかで状態見るでしょ

 

27:名無しの紙吹雪おじさん ID:S38Ra0yCI

>>26 確かに

 

そっちの方が安牌よな

 

28:名無しの紙吹雪おじさん ID:tjGMySsvd

あ、あんはい

 

29:名無しの紙吹雪おじさん ID:nIptg5WUE

>>27 アンパイ な

貴様はアカギと咲を勝ってこいと命令しよう

 

30:名無しの紙吹雪おじさん ID:crHqOC/02

ざわざわ ざわざわ

 

31:名無しの紙吹雪おじさん ID:KcFfqEYc/

ちょっつ、これ見て

http://~~~~/

 

32:名無しの紙吹雪おじさん ID:d9lcQvEiY

ふぁ!?

 

33:名無しの紙吹雪おじさん ID:/cuvJNJkg

ちょ、可愛い

 

34:名無しの紙吹雪おじさん ID:cq71H+isS

何これ

 

35:名無しの紙吹雪おじさん ID:cpAE+2sA1

裂蹄でプール調教はわかるけど……

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 どうも皆さんこんにちは。僕の名前はズヴィズダツァーリ。人だったはずの競走馬です。

 突然ですが、僕はとてもしんどいです。いや、今やっていることがしんどいのではなく、僕のことを見て笑う大魔神に怒っています。

 

 基本的に関係者しか入れない栗東トレセンにある珍しい馬用プール。

 馬には泳ぎの上手下手はあれどほとんどの馬が泳げるという特徴がある種族で、僕ももちろん泳げる。

 

「チビ! が、がんばれ、おぼれんなよ。あーだめだ、カクカクしてて面白い」

 

 ちょっと!! お姉さんも笑ってるじゃん!! やめてよね大魔神!!

 

 えっさ、ほいさ。えっさ、ほいさ。と脚を動かして泳いでいるのだが、あまりにも人だった時と異なる感覚で、すごく泳ぎづらい。まあ、楽しいから良いんだけどね。

 ただ、これは前からよく言われていたんだ。僕の泳ぎ方が凄く変だとか、下手だとか。

 

 地下の窓から泳ぎが見れるらしいのだが、先生や他の騎手さんが僕の泳ぎ方を見て、不細工で可愛い。なんていうもんだからすごく悔しい。

 ただ、大魔神が僕のプール調教を見るのが初めてだから、余計笑われていてムカつく。今度全力で触られるの嫌がってやろう。うん、そうしよう。

 

 大魔神にはアイスを渡されてあまりに冷たすぎて叫んだら笑われたこともある。

 

「ヒヒーンッ!! ブルル! ブルル!」

 

「あはは! 頑張れ頑張れ!!」

 

 僕の怒りの叫びも含めて笑われた。

 絶対10月中に回復してジャパンカップ勝ってやる。

 

 有力馬? 知るかクソが。僕が最強なんだ。僕が一番強いんだ!!

 

ヒーン! ヒーン!(爪早う伸びろや!!)




 次はウマ娘回

「なんでエフフォ来るんだよー!!」

次走 20/11/29/日 ジャパンカップ 2400メートル
有力馬 アーモンドアイ
    コントレイル デアリングタクト


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ウマ娘ー4:先輩たちとの顔合わせ

誤字報告ありがとうございます。
ウマ娘の話が進まなーい。

スペちゃーん 止まらなーい


 僕は今相当ブチギレている。

 学生寮へ向かおうと校門を歩いていた僕。そんな僕が、人にぶつかってしまい、顔を上げると……。

 

「ウオッカ、スカーレット、スペ、テイオー、マック。やっておしまい」

「え? やるんですの?」

「もっちろーん! だよね? ゴールドシップ! というわけでー、ちょっとごめんねー」

 

 その六人は、サングラスとマスクをつけた状態で変装していたのにゴルシとトウカイテイオーが名前を呼び合う状況。

 

「あんたら何やってんすか……」

 

 ズヴィズダツァーリのやる気が下がった。

 

 ズダ袋に入れられた僕は、いつの間にかチームの部屋に座らされており、体を麻縄で椅子に固定されていた。

 そして、僕の向かいには六人と、一人。トレーナーの沖野。

 

「すでに入部を認めている僕を連行。さらには縄で監禁。たづなさんと理事長に話を通して、監督不行届でここを解散させるか……」

「待て待て待て、何しれっと怖ぇこと言ってんだ」

 

 ならこれはどういうことですか? と僕はヒト男を見上げる。かなり怖い顔をしたつもりだから、流石のトレーナーも数歩後退りしていたが、一度咳払いをして、顔合わせだという。

 

「チーム加入の正式な許可が今日下りた。それで、顔合わせだな」

 

 左から順番に。と、ゴールドシップ、メジロマックイーン、トウカイテイオー、スペシャルウィーク、ダイワスカーレット、ウオッカと紹介される。

 

「僕の名前はズヴィズダツァーリです。気安くツァーリと呼んでください。それと、別に逃げたりしないので縄外して」

 

 ごめんねーと縄を解くテイオー先輩。そういうなら最初からするな。って怒りたいが、一旦やめよう。

 

「なあなあツァーリ。ゴルシちゃんトレーナーから聞いたんだけどさ、お前、3000メートル3分以下ってマジなわけ?」

 

「あー」

 

 いきなりえげつないこと聞くな……。この人。

 てか、他の人もうんうん頷いてるから、全員で聞いたのか。

 

「参考程度にですが、私の菊花賞でのタイムが、3分6秒台。ゴールドシップさんは、3分2秒9? だったはずですわ? 本格化もしていない、入学してすぐのあなたがそれほどのタイムというのは、どういうことなのか……」

 

 嘘をついている。と疑っているのか、尻すぼみに声が小さくなるマックイーン。それに僕は、どう答えるか悩んだ。

 

「えーっと……。現状は、3分です。3分1秒5が僕の今のベストです」

 

 目に見えて引いた顔をするウオッカとダイワスカーレット。まあ、それでもゴールドシップよりも速いんだから、嘘を言ってると思われても仕方ない。

 

「ただ、僕が、ちゃんと体を鍛えて、コース取りが完璧だった場合の理論値がそこに、2分58秒9になるっていう話です。少なくとも1年間鍛えていかないと、そこにはならないと思ってます」

 

 だから僕は言った。気になるなら走ります? と。

 不敵な笑みを浮かべ、ここにいる全員を挑発する。

 

「僕は模擬戦含めて、生涯無敗を貫く存在です。3000メートル。僕の踏み台になってくださいよ」

「おいツァーリ! 煽りすぎだ!! それにいきなり走るとか」

 

「おうおうやってやろうじゃねーか!」

「そうね。私も走るわ。本当にそうなら、走ってみるのが一番わかりやすいもの」

「生意気いってたらぶっ飛ばす!」

「私が勝ちます!!」

「ふふーん? 無敗だって? ならボクに勝たないとね」

「不覚ですわ、足の怪我がなければ私だって……」

 

 あれれ? おかしいぞぉー? ここまで火がつくとは……。

 

「よーし! 行くか! し……。ツァーリ!!」

「おいゴルシ、今シーナって言いかけただろ」

「何のことでゴルシか? ゴルシちゃんわかんなぁーい! あと、アタシ、先輩だから……。っかー!! 決まった!!」

 

 うん。言ったら終わりだよゴルシ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ところで、誰がどういう走りをするか、事前情報は要りまして?」

 

 ぽんぽん、と肩を叩かれたボクが振り向くと、そこにいたのはとても綺麗なウマ娘。脚を故障してしまい現在は療養中のメジロマックイーン先輩。

 

「あなたのお話が事実でしたら、問題はないと思いますが、相手となるのはG1を何度も勝ってきている猛者」

 

「あー。ありがとうございますメジロマックイーン先輩。ただ、大丈夫です。何となくはわかるので」

 

 ウオッカ、ダイワスカーレット、スペシャルウィーク、トウカイテイオー。そしてゴールドシップ。5人がバラバラに準備運動をする中、僕はそれを見てつぶやく。

 

「先生の言う通りだ」

 

「え?」

 

「いや、レース前って、結構神経が尖っていく感覚とかがあるじゃないですか。それを解す必要があるからこそ準備運動がありますけど、僕ってあんまり緊張しないタチで、今みたいに、ああ言うのに混ざらないんですよ」

 

「は、はぁ……」

 

「僕にレースを教えてくれた先生は、そう言う時に他のやつの馬た……。ウマ娘たちの状態を確認しろって。使える情報は自分で拾えるからって。ウオッカ先輩とダイワスカーレット先輩の二人はおそらくマイル以下。走れてもE区分の距離は走れない。だって、マイル戦線だったお母さんと似た脚をしてるし」

 

 雰囲気的にはウオッカ先輩が後ろ目。ダイワスカーレット先輩が前目かな? 分かんないけど。

 

「トウカイテイオー先輩は未知数だけど、多分前。先行タイプ。ジャージの上からだからよくわからないけど筋肉の感じがダイワスカーレット先輩に似てる。逆にスペシャルウィーク先輩は、ウオッカ先輩と似た感じだから差しかな?」

 

「では、ゴールドシップさんは……」

 

「僕と同じ追い込み。スタミナとパワーに特化していて、ロングスパートが得意なタイプ。彼女のことは僕が一番知ってる」

 

 だって彼女のことは、先生から色々教わった。

 似たタイプで、僕よりもどうしようもないって言われて、気分屋だからって笑って。先生があの馬に乗っていたからこそ、僕は先生についていけた。僕のことを分かってくれた。

 たまたま調教の時に乗った父の主戦騎手も合わなかったことを考えると、僕とあの馬は近い。だから、彼女も僕と近い。

 

「筋肉が柔らか過ぎてギアを瞬時に上げるのは苦手だけど、柔らかく強靭な分普通のウマ娘よりも長く使える。柔らかい上に強く、さらに丈夫。無事是名馬を地で行くタイプ」

 

 ついでに言うなら、スタートが下手。

 

「よーし。それじゃあ芝3000するぞー。準備はいいかー?」

 

「それでは失礼します。僕は行きますんで」

 

 メジロマックイーン先輩に一度頭を下げてから、僕はみんながいるターフのど真ん中へと向かう。

 

「ねえねえツァーリ! マックイーンと何話してたの?」

 

「皆さんのことですよ、トウカイテイオー先輩。事前情報は必要ですか? と」

 

「へぇ? それで? あんたはなんて言ったんだ? 聞いたんだろ?」

 

「いいえ。負けることがないのに、皆さんの情報を聞いてどうするんです? 大外ぶん回して全員差し切る。それだけですよ」

 

 だって僕は、皇帝だから。

 

「ツァーリは皇帝になりたいの?」

 

 おや? トウカイテイオー先輩の目がちょっと怖い。何だ? 地雷か?

 でもまあ、僕は僕の言いたいことを言おう。

 

「違いますよトウカイテイオー先輩。僕はズヴィズダツァーリ(星の皇帝)です。生まれた時から皇帝なんですよ。知ってます? 皇帝は、負けないから皇帝って言われるんですよ」

 

 大きく目を見開いた先輩。その目は何かがフラッシュバックしているように見える。でも、すぐ笑顔になって、僕を見つめた。

 

「なら、帝王くらい倒せる?」

 

「ええ。それはもうコテンパンに」

 

 我ながら生意気だなぁー。なんてことを思うが、まあいいだろう。僕は僕だ。

 

「よーし。んじゃ始めるぞ。マックイーンはゴール側に行ってもらってるから、一周して、マックイーンの所に一番最初についたやつが勝ち。ただ、模擬戦だからな? 怪我するような走りはしないこと」

 

 沖野トレーナーの言葉に、僕たちは揃って返事する。

 

「それじゃあ位置について。よーい、ドン!」

 

 沖野トレーナーが挙げた手を振り下ろしたのを合図に、僕たち6人は走り出した。

 

 ハナを進むのはトウカイテイオー先輩。その後ろにダイワスカーレット先輩が続き、2馬身ほど差を開けてウオッカ先輩。さらに1馬身差でスペシャルウィーク先輩が入り、最後方で僕とゴールドシップ先輩が横並び。

 全体としてはスローペース。例え一線級の存在である先輩たちでも、3000メートルは長いのだろう。ただ、ゴールドシップ先輩以外は、僕の走りを時々振り返りながら確認している。まあ、どんな走りするかわからないだろうし、当然か。

 

 位置取りが決まってこう着状態のまま、一つ目のカーブを曲がる。みんな一列になってるから、どんな曲がり方をしているか、どんな癖があるかがわかりやすい。

 みんな、当たり前だがクラスの面々とは比べものにならないほど綺麗なコーナリングをしてる。

 

 ゴール板役のメジロマックイーン先輩の前を通り過ぎて、三つ目のコーナーに入る。先頭と2番手の距離が少し短くなった気もするけど、トウカイテイオー先輩は息を入れてる感じかな?

 

 それほど大きく差が出来てる訳でもない。よし、そろそろかな?

 

 僕は、コーナーを抜けながら、ギアを一つ引き上げた。

 

「うお!? なんだー!?」

 

「併走に付き合ってもらってありがとうございますゴールドシップ先輩。とりあえず、先行きますね?」

 

 踏み込んだ一歩目。僕は力を込めて一度頭を下げる。そして、次に顔を上げれば、少し前にいたスペシャルウィーク先輩の真横。

 突然後ろから来たやつが横に並んで驚いたのか、ギョッとした顔をする先輩。だが、その先輩を追い抜き、今度はウオッカ先輩も抜く。

 

 僕の走り方はいつだって変わらない。強い僕の強い競馬。

 

「おいおいまじかよ!?」

 

 後ろの方で、「面白くなってきたぜぇっ!!」と謎な言葉を発してるゴールドシップ先輩だが、それを無視してダイワスカーレット先輩の横も通り過ぎる。彼女からは、「なんて脚してんのよっ!」との言葉を頂戴した。

 すでに僕たちは第3コーナーに入っている。あとは、このカーブでトウカイテイオー先輩を抜くだけ。それだけすれば、勝てる。

 

「っよ! ツァーリ、お前すげぇんだな!?」

 

「っ!? ええ、まあ」

 

 後方から現れた芦毛の怪物。あまりにも突然訪れたそれに、出そうになった声を押し留めて対応する。

 

「すごいんですね。先輩。この上がりをしてる時の僕に追いついたの、数えるくらいですよ」

 

「おう! そうだろ!! 何てったってゴルシちゃんは、火星探索までするウマ娘の宣伝担当だからな!!」

 

 うん。宣伝担当って何? あと、火星探索しても宣伝はできないのでは?

 

「すげー上がり方してるけど、体力持つのか?」

 

「ええ、下手に育てられてないですから」

 

「育てられた? 誰に?」

 

 そう言われて僕は、直線に入る前にトウカイテイオー先輩を抜き去り、そのまま二人でラストスパートをかける。

 

「僕の先生です。打田幸博って言います」

 

「……。へぇ、その人がレース教室してたのか?」

 

「まあ、そんな感じです」

 

 今、耳動かさなかった? なんか怪しいんだよね。ゴルシ。

 まあいいや。それより、やることをやろうか。よそ見してると、先生に怒られちゃうしね。んま、先生いないんだけどさ。

 

  ッ!!」

 

 自分が持つギアの、一番上まで上げた状態でターフを走り抜ける。

 そのままゴール板を横切った時、ゴールドシップ先輩は届かなかったのか、流したのか、少し後ろ側にいた。

 

「う、嘘……。ゴールドシップさんが、負けた?」

 

 1着は僕。次にゴールドシップ先輩。トウカイテイオー先輩を最後の直線で差し切ったスペシャルウィーク先輩が3番手で、ウオッカ先輩とダイワスカーレット先輩は仲良く並んで最後尾だった。あの二人に関しては、多分距離適性の問題だろうな。

 

「ふぅー。いい汗かいちまったぜ。んで? タイムはどうなのよ」

 

 ゴールドシップの言葉にハッとしたマックイーン先輩は、手に持っていたストップウォッチを見て項垂れる。しょんぼりと耳を垂らして。

 僕たちが心配しそうに彼女を見つめていると、先輩は右手に持った、動いたままのストップウォッチを、僕たちに向けた。

 

「あちゃー。タイムわかんねぇか」

 

「いや、3分1秒だ」

 

 ウオッカ先輩の言葉を遮ったのは、他でもなく沖野トレーナーの声だった。

 

「3分何秒って? 聞き間違いじゃ無かったら、1秒って言ったか?」

 

「ああ。3分。3分1秒1。それが、さっきそいつが走ったタイムだよ。どうやら、あいつの言ってることは嘘じゃない。てかゴールドシップ。お前は普段からそれくらい真面目に走れ」

 

 なんのことかわからなーい。と惚けるゴールドシップ。だが、それより僕は今までのタイムが縮んだことに嬉しくなる。この世界なら、もしかしたらあの記録を越えれるかもしれない。

 

「あー。ツァーリ。悪かった」

 

「え? なんですか?」

 

 突然、ウオッカ先輩が後頭部を掻きながら、謝罪をする。それに続いてダイワスカーレット先輩も。控えめながらスペシャルウィーク先輩も。

 

「俺、お前のタイム嘘だと思ってた。まだデビューもしてない奴が3000で三分以下って最初聞いて、ありえねぇって」

 

「私もよ。ごめんなさい」

 

 揃って頭を下げる二人に、僕は驚いた。少しだけの関わり合いだが、プライドが高そうだな? なんて思っていたから。

 僕は二人に顔をあげるよう促し、こちらこそごめんなさい。と謝る。

 

「走りで証明した方が早いと思ったのは事実ですけど、それ以上に煽ってしまったのは僕なので。悪いのは僕です。トウカイテイオー先輩にも、多分良くない話をしてしまったと思いますし……」

 

「え? あぁ、皇帝の下り? いいよいいよ。ボクは皇帝じゃなくて、帝王だから」

 

 ん? どゆこと?

 

「あー。改めて、僕の名前はズヴィズダツァーリ。自分で言うのもなんですが、言いにくい名前なので気軽にツァーリって呼んでください。得意な距離はE区分。目標は、生涯無敗。先輩方、よろしくお願いします!」

 

 ペコリと頭を下げた僕に拍手をくれるみんな。

 それぞれがそれぞれの自己紹介を行い、堅苦しい口調はいらないとまで言ってくれた。

 

「よし! ツァーリもみんなも打ち解けたし、早速だがデビュー戦の話をしていこう」

 

 こう言う状況になることをあらかじめ想像というか、予想していたのか、手に持ったメイクデビューの試合日程が書かれた資料を渡される。

 

「他の新入生がどうかは知らないが、ツァーリはすでに本格化しているって言ってもいい。ジュニア期にいるが実質シニア級だ。どのレースに出てもほぼ間違いなく負けることはない」

 

 そう言われて資料に目を通すと、目に入ったのはとある場所、とある距離のレース。

 

「皐月賞って2000ですよね?」

 

 僕が言ってるのは、この世界では当たり前のようなこと。だが、それには理由がある。ちゃんと、一冠目に向けた準備を整えるためだ。

 ただ、ここにいるウマ娘は、僕が言った意図を理解してるのか、僕の持つ資料を覗き込み、会場が中山レース場のメイクデビューを探している。

 

「あるとすれば、ここが2000、この日が1800。ただ、この2日は近すぎるな。お前の正確な能力を把握したいのがこっちの希望だ。全力を出さなくても勝てるとはいえ、万全で挑みたいだろう?」

 

「なら、ここにしましょう。新潟2000」

 

 ピシッと指を示したのは、9月にある新潟レース場でのメイクデビュー戦。

 

「ダービーまで、僕の走るレースに2400以上は無い。僕の得意なロングスパートは長所と短所が同居していて、向正面に入った位置から速度を上げるから、最低でも2400は必要。距離が短かったり、ペースが速かったりすると本領が発揮できない」

 

 だから、それまでの間は、先行で戦う。皐月までの間は、前での叩き合いを鍛え抜いて、そこからは長距離戦線。

 

「なるほどな。ならそこを目標にしていこう。先行の特訓ならスカーレットとテイオーと併走して練習できるし、あとは、ハイペースでの練習か。そこら辺はまた考えるとして、明日から基礎能力の確認。それと基礎練から始めよう」

 

「よろしくお願いします。トレーナー」



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ウマ娘ー5:メイクデビュー、漆黒の摩天楼、お友達

 誤字報告いつもありがとうございます。

 明日から投稿時間を1時間遅らせて、20時に致します。


 入学から約4か月。僕に課されたことは、とにかく早いペースを刻み続ける事だった。

 

 僕が入部したスピカのウマ娘たちは、速いペースでも対応できる面々がほとんどで、そんな面々がラップを一定に刻みつつ、僕を追いかける。それを僕は逃げ続けるという特訓が主だった。

 先輩たちは1ハロンを11秒5から8で走り、僕は11秒5以内で走る。もちろんハイペースを続けるから体力は嫌でもつくし、雨の日でも同じペースで走らされるからパワーもつく。

 

 僕が沖野トレーナーに苦手だと申告した、ハイペースのことを考えてくれているのがありがたかった。

 

 ハイペースだと足を溜めることができない。ギアを上げる先がないから。

 その打開策は、ハイペースのまま垂れず、抜け出せばいい。ハイペースの分、他の奴の体力も削られているのだから。というもの。少し脳筋的な考えではあるが。今できることはそれしかないと、僕は同じ特訓を続けていた。

 

 そして迎えたメイクデビュー、僕の相手は、競走馬時代に新馬戦やダービーなんかで戦ったロジャーバローズと同じレースとなった。

 

 少しだけ気弱そうな顔をしていた彼女だが、ゲート前にみんなが集まった時には決意を固めた顔をしていた。

 

 そして、スタート。

 

 僕たちは必死に走り、ロジャーバローズは僕の後ろをずっと着けていたが、一定のスピードでしっかりと走る上に、最後の直線でスピードを上げたことに着いて行けず、だいたい4馬身差くらいの差を開いて勝つことができた。

 僕が1着。彼女が2着だ。

 

 普段から全員で試合観戦はするらしいが、デビュー戦だからと、スピカ全員が僕の応援へと訪れ、勝利を祝ってくれた。

 

「次は東スポジュニアステークスだな」

 

 なんていう沖野トレーナー。どうやら、僕のローテーションは、あのころと変わらないものになりそうだ。

 

 競走馬時代は、新馬戦を勝ち、東スポ2歳s、ホープフルsと来て皐月賞だった。だが、今回はそうじゃない。皐月賞の前に一回どこかレースに出たいと思っている。ウマ娘という人に近い存在になり、馬だった頃ほど体にストレスが溜まらないのもある。

 

 まあ、今はメジロマックイーン先輩の奢りで食べるチーズケーキをパクパクしよう。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「さあ始めようか」

 

 そういった彼女の言葉に、僕と噂のあの人は、二人揃って、言葉を返す。

 

「何をですか?」

 

 いや、言わんとしていることはわかる。わかるんだが、何分急展開過ぎるのだ。

 改めて言うが、僕の容姿はマンハッタンカフェというウマ娘に似ている。らしい。

 

 らしいというのは、僕自身が実際にマンハッタンカフェ先輩に会ったことがない。というのが理由だが、競走馬時代、僕のことを初めて見た人は、よくマンハッタンカフェだと言っていたから、ウマ娘となった今の僕も、彼女に似ているのだろう。

 まあ、正しいことを言うと、競走馬時代の僕は、サンデーサイレンスという馬に似ていたらしい。そして、マンハッタンカフェもサンデーサイレンスに似ていたと言うのだから、そりゃあ互いが似ていて可笑しくない。

 

 黒い長髪。結ぶのが下手だからいつも寝癖を整える程度で伸ばしたまま。前髪が少しだけ白いのが僕のチャームポイントだけど、雨の日は跳ねてしまってアホ毛になる。髪の流れ方は左から右。

 目は淡い青色。母さんと同じ目だからすごく気に入ってる。髪の色もほとんど一緒だしね。最高。

 体は割と身長も高いし、胸もある。仲のいいメンバーの中では一番上だ。よくアレグリアが胸を揉んでくるけど、まあそこは一度置いておこう。

 

 容姿の話だ。

 どうやら、僕とマンハッタンカフェ先輩を後ろから見ると、同じようにしか見えないらしい。

 そして、そんな僕と彼女を見分けられる数少ない存在が、ゴールドシップ先輩と、今目の前で優雅に紅茶を飲んでいるアグネスタキオン先輩である。

 

 なお、私の前には、湯気が立つ透き通った紅茶と、黒く底が見えないコーヒーが置かれていた。

 

 

 事の発端は、僕の後姿を見たマンハッタンカフェ先輩が、小さな声で、「お友達」と呟いたことに起因する。

 そして、それを後ろから見ていたアグネスタキオン先輩が、僕とカフェ先輩の腕を掴んで彼女の研究室に連れ込んだのだ。

 

 僕とカフェ先輩は互いに顔を見て、どういう状況か不思議になりながら、椅子に座らされた。

 

「君はどっちを飲むんだい? もちろん! この私が入れた紅茶だろうけどねぇ? そうだろう?」

 

「いいえ、ツァーリさんはコーヒー派だと私のお友達が言っています……」

 

 そこからは、タキオン先輩が、僕とカフェ先輩をもてなそうと紅茶を出し、コーヒー以外は飲まないと主張したカフェ先輩が、研究室に置かれていたカフェ先輩の豆を使って、コーヒーを淹れていたのだ。

 

 そして論点は、僕がコーヒー派か紅茶派か。ということになっているらしい。

 

「いやあ、流石のメイクデビューだったよツァーリ君。私が気にかけている後輩なだけある。スタートから先頭集団で戦い、そのままの抜け出して一着。素晴らしかった。そんな君だ。私のようなレースをする君だ。もちろん嗜むのは紅茶だろう?」

 

「いいえ。あのレースは本領を発揮していないように見えました……。無理に走っているような……。お友達も、本当なら足を溜めてから解き放つスタイル。私と似たようなスタイルだと……。だから、彼女は私と同じようにコーヒーを飲むはずです」

 

 え? これはどうしろと? どっちを飲んでも地獄が待っていそうな気がするんですけど……。

 さあ! さあ!! と二人の圧を受ける僕。

 

「……。それじゃあ喉が渇いてから飲みます。本題は、僕がコーヒー派か紅茶派かの話じゃないんでしょう? 何か用事があって僕たちをここに連れて来たはずだ。やっと、マンハッタンカフェ先輩に会えたっていうのに」

 

「おお、まだ会っていなかったのか。そうかそうか」

 

 僕の初対面発言をとてもうれしそうにするタキオン先輩。正直、怪しい。

 

「よし、それじゃあ本題に移ろう。私はね、カフェの言う彼女にしか見えない「お友達」が、君なんじゃないか? と考えていた。だが答えは違った。何より君自身から否定され、カフェからも違うと否定されてしまったわけだ」

 

「はい……。ちゃんと友達は、います……」

 

 似ているのかい? とタキオン先輩に聞かれたカフェ先輩は、コクリと頷いた。

 

「ただ、「お友達」は振り向いてくれないので、顔は分かりませんが、後ろ姿は……。はい、そっくりです」

 

 綺麗な黄色の瞳が僕の目を覗き込んでくる。

 何かを伺うような怖がっているのような目。

 

「僕は、カフェ先輩の言う「お友達」ではありませんし、その存在が見えてるわけじゃ無いです。何がいるかとかも分かりませんが、もし会えるなら、その「お友達」と会ってみたいですね」

 

 ブワッと、僕の周りを風が包んだような気がした。優しいのではなく、どちらかというと、威圧されるような感覚。もしかして、いる?

 

「ねぇ、カフェ先輩の「お友達」さん。いるんでしょ?」

 

 ね? 先輩? とカフェ先輩に聞いてみれば、彼女はまたコクリと頷く。

 

「先輩は、「お友達」と話したことがあるんですか?」

 

「い、いや……。だから、後ろ姿を追いかけてる……」

 

「なら、名前も知らないのか……。喋らない。サイレンス? 追いかけるならレースだから、日曜日? ってなるとサンデー。うん。カフェ先輩が名付けてないから嫌かもしれないけど、ずっと「お友達」って言うのも面倒だし、サンデーサイレンスって呼んでもいいですか?」

 

「サンデー、サイレンス……」

 

 マグカップを両手に抱え、ボソボソと繰り返すカフェ先輩。それを僕とタキオン先輩は見つめ続けていた。

 この世界には存在しないのかわからないが、まったくもって名前を聞かない存在。一応競走馬時代は、父・オルフェーヴルの、父父・ステイゴールドの、その父に当たる。母の方は、母父ディープのその父なので、両方の曾祖父? に当たる馬。

 

「僕は前世なんていう非科学的なことを信じてるからね。カフェ先輩のお友達も存在するって知ってるよ? それに、僕とも似た容姿してるなら、違う世界だとみんな家族だったり血縁者だったりするかもね」

 

 なーんて言ってみれば、カフェ先輩は目を見開いて、見るからに驚いていた。

 まあ、僕は前世のことを話していろんなトレーナーをたらい回しにされたし、彼女も彼女で、お友達のことや超常現象が起きてたらい回しされたとタキオン先輩が言っていた。

 似たもの同士だ。うん。

 

 あ、サンデーサイレンスって略したら3歳じゃん。

 

「サンデーサイレンス君か……。略したら3さうわぁ!?」

 

 おんなじことを思っている上に口にしたタキオン先輩が、椅子から転げ落ちた。危なかった。僕もああなってしまうところだった。

 

「それで? 僕とカフェ先輩とサンデーサイレンスくんは違う存在なわけですけど、どうします? タキオン先輩。本題は終わったということで、帰っていいですか?」

 

 飲み物も、飲み切りましたし。

 と、しれっと飲み干した紅茶とコーヒーのカップを見せた僕は立ち上がる。

 

「ああそうそう。マンハッタンカフェ先輩と会ったら言おうと思ってたことがあったんですよ」

 

「な、なん、ですか……」

 

「マンハッタンカフェ先輩。僕とお友達になってくれませんか?」

 

「は、はい……」

 

 よし、これでやりたかったことはできた。

 もともと会えたら友達になってほしいと言うつもりだったからオッケー。お友達ことサンデーサイレンスの名前も付けれた。

 あと何かあったかな? うん。無いな。大丈夫。

 

「あ、次のレース……。頑張って、ください」

 

「あはは。はい。頑張るよ。カフェ」

 

 あー。呼び捨てにしちゃったけど、まぁーいいやー。



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競走馬ー14:ジャパンカップ 東京2400M

 気づいてる?
 4歳の11月末なのに、同期牝馬、
 クロノジェネシスが一回も出てないんだよね笑

 もちろん今話も出ません。


 競馬界は今、世情を吹き飛ばすほどの大フィーバーが起きていた。

 

 それは、なんと言っても、4頭の三冠馬が一つの舞台に集まったから。

 

 世界各国の名馬を日本に集め行うジャパンカップ。今年は状況的なこともあって、日本馬だけでの開催になったのだが、そのメンバーがあまりにも凄すぎた。

 

 一頭目は18年度の三冠牝馬、現役最強との呼び声も高く、愛らしい見た目で人気も高いシャドーロールの女王ことアーモンドアイ。この試合で引退であり、9つ目の冠を被りに来ている。

 二頭目は、19年度無敗三冠牡馬、10戦10勝と言う圧倒的力を見せ、現在進行形で歴史に名を残す存在。星の皇帝ことズヴィズダツァーリ。この試合に勝てば、牡馬最多タイになる7つの冠を被ることとなり、シンボリルドルフやディープインパクトに並ぶことになる。

 三頭目は、そんなズヴィズダツァーリに続いて二年連続で誕生した、20年度三冠牡馬、未だ底が見えない怪物。軌跡残す天馬ことコントレイル。勝てば無敗同士の戦いを制し、ついにズヴィズダツァーリに黒星をつけられるか。

 最後に、史上初となる無敗三冠を達成した牝馬。20年度に現れた夢の新女王、ターフの指揮者・デアリングタクト。

 

『果たして、こんなことが起きて良かったのでしょうか。変わってしまった世の中、11月を締めくくるここ、東京競馬場には、4頭の三冠が揃うこととなりました。これまではなかった戦いがここにあります。これからも起きない戦いが、ここにはあるでしょう!!』

 

 人数制限がかけられた観客席。いつもより圧倒的に少ないながらも、人がいる。

 

『夢と、誇りと、意地と、思いが交錯するジャパンカップ。さあ、本馬場入場となります』

 

 ここにいる人も、いない人も、見ているものはすべて同じ。

 

 

ジャパンカップ 出馬表

馬名脚質適正人気

カレンブーケドール◁◀︎◀︎◁

アーモンドアイ◁◀︎◀︎◁

ワールドプレミア◁◁◀︎◁
キセキ◁◁◀︎◀︎

デアリングタクト◁◁◀︎◁

コントレイル◁◀︎◀︎◁

ミッキースワロー◁◁◀︎◀︎11

ウェイトバリス◁◁◁◁10

トーラスジェミニ◀︎◁◁◁15

10パフォーマプロミス◁◀︎◀︎◁13

11ズヴィズダツァーリ◁◀︎◁◀︎

12マカヒキ◁◁◀︎◀︎12

13ユーキャンスマイル◁◁◀︎◁

14ヨシオ◁◀︎◀︎◁14

15グローリーヴェイズ◁◀︎◀︎◁

 

 

『ズヴィズダツァーリが1番人気ではないというのは、皐月賞の時以来ですから、約1年半ぶりとなりますね。しかし、天皇賞・春を一着で勝った後、裂蹄等が見つかり休養となっていることもあり2番人気ですが、友康調教師は、「かなりいい状態。菊花賞の時のようなベストの状態とまでは行かないが、それに近いところには持っていけた」と発言してますから、期待しても良いでしょう。

 対して、1番人気のアーモンドアイ。ズヴィズダツァーリと競い合った去年の有馬記念では5着となりましたが、その後のヴィクトリアマイルと天皇賞・秋では1着。安田記念では2着といい状態を保ったままです。安定して成績を残してますからね。展開としては中団から仕掛けていくでしょう。本日をもって引退な訳ですし、是非G1・9勝目を目指してほしい』

 

「こうも豪華だと、逆に落ち着くね」

 

 そんなことを言う先生だが、正直僕にはなんのこっちゃわからない。

 

 先生曰く、僕みたいなやつがあと3頭居る。なんて言ってたが、アーモンドアイさんは有馬記念で倒してる。

 コントレイル? と、デアリングタクト? は初めましてだが、筋肉のつき方とか見るに、まだ敵じゃ無い。サートゥルナーリアの方がよっぽど怖い気がする。

 

「いやぁ、今日は胸借りますね」

 

「何を言ってるんですか福長(フクナガ)君。2年連続で無敗三冠。こっちは怪我明けだし、1番の敵だよ」

 

「嘘言わないでくださいよ。眼前に他なしは打田さんもでしょ?」

 

 なーんて言っちゃってくれて。これまでも時々見ていた顔の騎手。

 それを乗せているのは、僕と同じ青鹿毛の馬。

 

「お前、強いの?」

 

「え? うん」

 

 突然口を開いたコントレイル。何を言うかと思えば、僕を舐め腐った態度だ。別に群れのボス的なものを求めてるわけじゃ無いが、こっちは先輩だぞ? なんて思ってしまう。

 お前より強い。なんて僕が言うもんだから、コントレイルは怒って鼻をフンスフンス鳴らしている。まあせいぜい怒って体力を使ってくれ。流石に同じ無敗三冠相手に何も策を打たず戦うことはない。怪我明けだし。

 

「いけるか?」

 

 大丈夫だよ先生。天皇賞の時みたいな脚の感じはしない。裂蹄中トレセン内でずっと感じていた違和感も無くなった。4本の足全部に均等に力を伝えられる練習? もできた。

 

 勝つだけだよ。誰よりも前で。

 

『さあ枠入りとなります。真っ先に入るのは1枠1番のカレンブーケドール。この豪華なメンバーの中で勝つことができれば、それはかなりの意味を持つでしょう。続いて2枠のワールドプレミア。状態はかなりとのこと。さあ続いていきます』

 

 僕の出番となり、他の馬が厩務員さんに強めに引っ張られているのをよそに、自分の足でゲート入りする。そして、他の馬も、大外のグローリーヴェイズもゲートに入る。

 

『さあ、世界に誇る名馬の戦い。勝つのはどの馬か。アーモンドアイが意地を見せつけるのか、それともシンボリルドルフに並ぶG1・7勝目をズヴィズダツァーリが手にするのか! コントレイル、デアリングタクト の新三冠馬が世界を変えるのか!! 2020年ジャパンカップ、ゲートが開いてスタートです!』

 

 

 

 勢いよく飛び出した僕は、左右を確認しつつ、白い毛の馬……。ウェイトパリスの横につける。

 

 そして内心で舌打ち。

 先行策を取った2〜3頭が、かなり早いペースで飛ばしてる。先行集団もそれに付き合っていて、全体のペースも上がってる。

 

『注目の三冠4頭の位置ですが、先頭にいるのがアーモンドアイ。1馬身半ほど離れてデアリングタクト。その真後ろにはコントレイルがいます。ズヴィズダツァーリは最後方。ウェイトパリスと横並びで1コーナーを抜けていきます。

 2コーナー抜けで順位は変わらず先頭はキセキ。かなりの大逃げとなっております。それに続いて、かなり離れた2番手。ヨシオとトーラスジェミニがついて行く。1馬身離れてグローリーヴェイズ。半馬身後ろ内側にアーモンドアイ。シャドーロールが光ってる。

 1馬身離れてデアリングタクト前を伺っている状態。同じくカレンブーケドールも外側から並走。4頭目の無敗三冠馬コントレイルは真ん中より後ろ。3番10番7番の3頭後ろに従えております』

 

 向正面中盤。完全にペースが早かった。

 いや、体力は行けるから大丈夫なんだが、前を潰そうと思ったらかなり無理に行かないといけない。コースはいいけど、最後に使える足のことを考えると……。

 

 バシンッとムチが入る。

 

 あれ? ヨレてた? 違う、しっかりまっすぐ走ってる。このタイミングで緩めることはあっても入れることはなかった。どうしたんだ? 先生。

 

「お前は最後に飛ばすことだけ考えろ」

 

 おっこらーれたー。

 

 いや、そうだ。僕は走ることを考えなきゃいけないんだ。

 ただ、ハミとムチのことを気にして、ちゃんとタイミング通りに出る。

 

「有馬じゃできなかったけど、強いお前の、強い競馬だ」

 

 答えは一つ。大外をぶん回して打ち抜く。

 

『さあ向正面終わって3コーナー! 下り坂に入って行く! 馬群は寄ってきた三冠馬が4コーナーで出てくるぞ! 先頭のキセキが呑まれる! ツァーリが速度を上げてくる! 4コーナー出口一番外まで出た! 横並び!』

 

 最後の直線。パッと見て、一番内側にアーモンドアイ。その横で近づいていたのがデアリングタクトだろう。コントレイルは僕の少し前。彼の位置も外側だが、さらにその外にいるのが僕。

 

『三冠馬4頭が飛び出した!! 三冠が来た! 三冠が来た!!』

 

 少し歪ではあるが、僕たちは横に並んだ。

 デアリングタクトはアーモンドアイを、コントレイルは僕と横並び。

 

 ってちょっと待って? コントレイルくん? 僕の方に寄ってきてない?

 ジョッキーさんも僕がいる側を鞭で叩いてるから、わかってるもんね。

 

「おい! いるよ!!」

 

 先生も言ってる。けど、コントレイルは戻らない。と言うより、むしろぶつかってきている。

 

「どけよ」

 コントレイルは言う。

「俺の方が速い」

 続けて言葉を繋げる。

 

 ははーん。可愛い奴め……。

 

 

 

 

 

  無礼だな。

 

 

 

 

 

「星の皇帝、舐めんな」

 一言呟いた。

 

 ギラギラとした目。それが一層勢い付いた。

 

「年上に勝ってから、文句は言え」

 再び、口にした。

 

 ごめんね先生。流して勝つつもりだったけど、ムカついたから引きちぎる。

 

「星帝の前にも、横にも、並ぶ奴はいなくて良い」

 

 右肩に先生から鞭がくる。それが合図。

 いつも通り踏み込み、頭を下げ、前を向いた時に他は無い。たとえそれが同じ無敗三冠馬でも、歴戦の梟雄でも関係ない。

 

『タクトが伸びない! アーモンドアイが少し出たか! いやコントレイル!』

 

 僕の後ろに続くコントレイル(飛行機雲)に収まっとけよ。

 

『全部をちぎるようにツァーリが出たぞ!』

 

 脚は、うん、春天の時より重い。前には出ないし、完全じゃない。でも、勝てる。だってゴール前1ハロン。やっとトップギアが入ったから。

 

『伸びる! 伸びる! コントレイル縋り付くが届かない! 三冠馬3頭を振り切り! ズヴィズダツァーリ1着!! ツァーリ1着!』

 

 ……。ふぅ。2400って短いわ。嫌だわ。2200まで走らないとギアが入んないのも困るけど、ペース速いの疲れる。

 

『無敵の体現者! ズヴィズダツァーリが他の三冠馬を制して1着! これで、シンボリルドルフに並ぶG1・7勝目! 七冠馬の誕生です!!

 コントレイル。惜しくも届かず1馬身差の2着! ただ、牝馬三冠のアーモンドアイに2馬身差をつけ、無敗三冠馬の強さを証明しました!』

 

 まばらなスタンドから、まばらな拍手が僕たちに降り注ぐ。

 

「危なかったなツァーリ」

 

 うん。結構やばかった。思ってた以上に追い縋ってきたし。

 さすが無敗三冠馬。意地が違うね。

 

「さあ、次は有馬記念だ。次も勝とう」

 

 先生が両手を使って表した7の数字。そんなことはどうでもよくて、僕は、僕の背中で年甲斐もなく喜んでくれる先生が嬉しくて。

 

 天皇賞では怪我もあって、それに人もいなくてちゃんとできなかったお辞儀を、今日、人がいるこのターフのど真ん中で、しっかりと行った。いつもよりちょっとだけ長めにしたのは、僕だけの秘密だ。

 

ジャパンカップ レース結果 上位5着

馬名タイム人気

11ズヴィズダツァーリ2:22:9

コントレイル2:23:1

アーモンドアイ2:23:5

デアリングタクト2:23:5

カレンブーケドール2:23:9

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 アーモンドアイ

「あなた、やっぱりすごいわね」

 ズヴィズダツァーリ

「え、あ、ありがとうございますお姉さん。僕、お姉さんみたいな馬好きですよ?」

 アーモンドアイ

「あら。本当? うふふ。強い牡が嫌いな牝は居ないのよ?」

 ズヴィズダツァーリ

(勝ち申した!!)

 デアリングタクト

「ちょっとちょっと!! ツァーリさんはウチみたいな可愛い方が良いの!! おばさん」

 アーモンドアイ

「あら? お転婆な子は嫌われるのよ?」

 コントレイル

「ツァーリの兄貴!! さっきまで失礼しました!! 絶対!! ぜーったい次は勝ちますから!」

 デアリングタクト

「コントくんタイミング悪い!」

 コントレイル

「なんでぇい!!」

 

 実況

『おや? 三冠馬4頭が競走後になって集まってますね。同じ三冠馬同士、積もる話でもしてるんでしょうか』

 

 グランアレグリア

『ピキーン! ツァーリくんが危ない! ところで、大阪杯に出たらツァーリ君いるって聞いてたのに、なんで居なかったの?』




 怪我明けなのにブチギレて最後全力出すやーつ
 やったね! これでトキノミノルも超えたよ。

 出走成績 11戦11勝 獲得賞金総額14億1000万
 G1:7勝 歴代2位タイ

18/09/22/土 新馬戦 2000メートル 
 1番人気 1着 2:01:8 700万
18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート
 1番人気 1着 1:45:2 3,300万
18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル
 1番人気 1着 2:01:2 7,000万
  2着 アドマイヤジャスタ 2:01:6 2馬身差

19/04/14/日 皐月賞 2000メートル
 3番人気 1着 1:57:9 11,000万
  2着 サートゥルナーリア 1:58:5 3½馬身差
19/05/26/日 東京優駿(日本ダービー) 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:5 20,000万
  2着 ロジャーバローズ 2:22:5 アタマ差
19/09/22/日 神戸新聞杯(G2) 2400メートル
 1番人気 1着 2:24:5 5,300万
  2着 サートゥルナーリア 2:26:3 大差(約11馬身差)
19/10/20/日 菊花賞 3000メートル
 1番人気 1着 2:58:9(WR) 12,000万
  2着 ワールドプレミア 3:03:0 大差(約30馬身差)
19/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 1着 2:30:1 30000万
  2着 サートゥルナーリア 2:30:5 2馬身差

20/03/22/日 阪神大賞典(G2) 3000メートル
 1番人気 1着 3:00:1 6700万
  2着 ユーキャンスマイル 3:02:0 大差(約12馬身差)
20/05/03/日 天皇賞(春) 3200メートル
 1番人気 1着 3:16:4 15000万
  2着 フィエールマン 3:16:5 1/2馬身差
   裂蹄
20/11/29/日 ジャパンカップ 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:9 30000万
  2着 コントレイル 2:23:1 1馬身差

次走 20/12/22/日 有馬記念 2500メートル
有力馬 クロノジェネシス サートゥルナーリア

2019年組の女王と皇帝。ついに。


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競走馬ー15:激闘! 有馬記念スペシャル! 話題の馬に密着!!

短いです。


『さあ、本日は有馬記念スペシャルと題しまして、特別にこちら! 滋賀県栗東市にあります。栗東トレーニングセンターにやってきました!!』

 

 カメラの前でポーズを取る女性。じゃじゃーんと両手を広げたのは、栗東トレセンのターフの真前。

 と言っても、もちろんこんな場所で大声を出したら馬が驚くため、実際の声量は小さく、ちゃんと考えてやってくれている。

 

『ただいまの時刻は朝の5時です! こんな朝早くからということで驚いていますが、早速、トレーニングセンター内を回っていこうと思います!』

 

 リポーターの女性と番組スタッフは、トレーニングセンターの広報に案内され、まず連れて行かれたのは厩舎。

 ほとんどの馬が今年の競走を終えている中、数少ないトップ戦線の馬は、まだ戦いに向けて調整をしている状態。厩務員も騎手も馬房の掃除や手入れなどを行なっており、馬の鳴き声と、人の声が交わっている。

 

 見慣れないカメラに興味津々なのか、多くの馬たちが馬房から顔を出して、あいつら何? っていう顔をするが、リポーター達の目的はただ一頭。

 

『こちらです』

『おお、一番奥にいらっしゃるんですね』

 

 というわけで僕の目の前に来たリポーターさんとカメラ。今日は前から言われていた、有馬記念の特番で僕の密着取材がある日だった。

 

『はじめまして。リポーターの稲村です』

『はじめまして。僕はここの厩務員を務めてます、村田です』

『てっきり、競馬場でよく映る女性の方だと……』

『今日彼女ちょっと来れない用事で。すみません。ネットじゃ美人厩務員とか話になってるのに、僕なんかが出てきて』

 

 あはは、お姉さん今日いないもんねー。なんて、馬房からひょこっと顔を出しながら話を聞いていた僕。そんな僕に、リポーターさんが挨拶してくれたので、ペコリと頭を下げておく。

 

 それじゃあ撮影行きますね。と番組スタッフさんが声を出したので、僕もシャキッとする。

『見てください! 馬! 馬! 馬! 多くの馬が生活する厩舎に見学させていただいてます。さて、せっかくなので、お一人厩務員の方にお話を聞かせていただきます。すみません! お話よろしいでしょうか!』

 

 僕の馬房の藁を整えていた厩務員(村田のにーちゃん)に話しかけたリポーター。今は何をしていたのか。だったり、どのような流れで仕事が行われているのか。だったりと質問をする。

 

『あの、私、ズヴィズダツァーリを探してるんですけど……』

 

『あはは。そうですか、ズヴィズダツァーリなら、この子です』

 

 リポーターさんの質問に答えたにーちゃんは、彼が整えていた馬房の主である僕に手に平を向ける。

 

「ひひーん! ブルッブルルッ……」

 

 しっかりと、はーい! 僕がツァーリでーす! と元気よく返事すれば、お姉さんは驚いた顔を見せる。

 

『おっきい体ですね』

『はい。食べることと寝ることが大好きな馬なので、こちら側が気を付けていないと、すぐに丸くなってしまうので』

 おいおいおい。それはねーんじゃねぇーの? にーちゃん。僕だって体のこと気にしながら食べてるって。ただ、食べとかないとパワーが出ないから食べるんだよ。

 

『それではここからは、ズヴィズダツァーリに関するさまざまな記録を振り返ってみましょう。VTRにまとめましたので、そちらをご覧ください』

 

 一仕事を終えたリポーターは、にーちゃんに許可をもらって僕の体を撫で始める。ほほう、此奴なかなか良い触り方をしよる。うむ。苦しゅうない。

 

『ツァーリはかなり人なっこい子で、生産牧場にいた時から人に近寄ってくる子だったと聞いてます。ついでに言うと、女性好きなので、お姉さんみたいな人に懐くんですよね』

『女性が好きなんですね。けど、思っていた以上におとなしくて驚いてます』

『昔は頭擦り付ける勢いだったんですけどね。最近は紳士的ですよ』

 

 なんて言って笑ってる。

 そうだもん。僕は紳士だからね。

 

『それじゃあここからズヴィズダツァーリを担当してる調教師とジョッキーが今日の調教内容を確認したり打ち合わせをして、ジョッキーが到着します。一旦厩舎から移動して、打ち合わせ終わりのジョッキーと合流する形になりますので』

 

 えー? これで撮影終わり?

 あ、調教中とかも外から撮影するの? んじゃ良いや。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「これまで乗ってきた馬とは、やっぱり違うんですか」

 

「そうですね。別物ですね」

 

 ツァーリが密着取材を受ける数日前、僕は、福長君と一緒にテレビ番組の収録をしていた。

 

 スポーツ全般を盛り上げるような番組で、福長君はよく出ている。

 

「実際にどういうところが違うんですか?」

 

「うーん。なんて言って説明するか悩むんですけど、本当に賢いんですよ。ツァーリは。中身が人なんじゃないかな? なんて思うくらい」

 

 ペースアップを仕掛けるタイミングを常に伺っているように見えるし、コース取りは僕が指示を出すまでなく行う。

 

「賢すぎて、他の馬より余裕があるんですよね。いろんなところを見てます。ただ、その分好奇心というか、意欲もかなり高くて、我慢させるのが難しい」

 

 元アスリートの司会者や、野球好きの芸人も、僕の言葉に驚いた声を上げる。

 

「それじゃあ完璧な騎乗だったのはやっぱり菊花賞?」

 

「いや、あれはツァーリが暴れて、僕が抑えきれなかったので、違いますね。去年の有馬も、ルートがないって考えてた時にツァーリが自分で道を選んだし」

 

 どれだろう。ベストレースは。しっかりと戦って勝ったという意味なら、多分ダービーか? 縦長の展開の中足を溜め続けて、しっかりとツァーリらしい戦いができた。

 仕掛けるタイミングも僕とツァーリ、同じタイミングを考えていたから、人馬一体だったのはあのレースだろう。

 僕が日本ダービーの名前を挙げたことで、あの時のレース映像が流され、僕自身で解説する。

 

「途中ここら辺ですね。サートゥルナーリアがこっちによってきて、ツァーリの意識が外れたりとかもしたんですけど」

 

「そういうのって、馬が走る気なくすってよく言いますよね」

 

「普通はそうなんですけど、ツァーリは普通じゃないので」

 

 普通じゃない。その言葉にスタジオにいた人が声を上げる。

 

「そんな普通じゃないズヴィズダツァーリの有馬記念。去年はついに負けるかな? って思ってたら隙間から飛び出して1着。今回は?」

 

「今回も、これまでと変わりません。強いズヴィズダツァーリの強い競馬。全力で取りに行きます」

 

「福長さん。こんなこと言ってますよ」

 

「いやぁ、けど、去年のあれ真横で見てたら、どうしようもないっすよ。僕も彼の少し前で走ってましたけど、おんなじタイミングで仕掛けてるのに倍早いですからね」

 

 今年の相手は? と聞かれ、パッと頭に出てきたのは、宝塚で勝ったクロノジェネシス。アーモンドアイがジャパンカップで引退して、現状最強牝馬は彼女だろう。

 あとは、春天で競い合ったフィエールマン。秋の天皇賞でも2着と良い成績を残してきている。

 

「あとは、やっぱりサートゥルナーリア。いつも振り向けばいますから、騎手としては要注意ですよね。金鯱勝って、宝塚じゃ伸びなかったですけど、末脚はやっぱり怖いですし」

 

「一番怖い足の馬乗ってる人が何言ってんすか」

 

 福長君のツッコミを貰いスタジオがまた笑いに包まれる。

 テレビ慣れをしているのか、福長君のおかげで変な空気にもならず、無事に収録を終えることができた。

 

 週末は目の前。勝ちます! と番組内では言ったが、調教タイムを聞くにクロノとサートゥルの調子がかなり良いらしい。

「うし!」

 誰もいないトイレの中、僕は両頬を叩いて、レースへの気合を入れた。



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競走馬ー16:2度目の有馬記念 中山2500M

 有馬記念。2度目。

 そろそろ書き溜めが無くなる。やばい。


『年末。12月27日の中山。声は出せませんが、我々一人一人の声援が必ず届きます。拍手の一つ一つが背中を押します。我々の熱が、新たなスターホースを生み出します。

 2020年の総決算。有馬記念。出走表をご覧ください』

 

 

有馬記念 出馬表

馬名展開予想人気

バビット◀︎◁◁◁12

ブラストワンピース◁◀︎◀︎◁11

サートゥルナーリア◁◀︎◀︎◁

ラヴズオンリーユー◁◀︎◀︎◁

ワールドプレミア◁◁◀︎◁

キセキ◀︎◁◁◁10

ラッキーライラック◁◀︎◁◁

ペルシアンナイト◁◀︎◀︎◁14

クロノジェネシス◁◀︎◁◁

10カレンブーケドール◁◀︎◀︎◁

11モズベッロ◁◁◁◁16

12オーソリティ◁◀︎◀︎◁

13フィエールマン◁◀︎◀︎◁

14サラキア◁◀︎◀︎◁13

15ズヴィズダツァーリ◁◀︎◁◀︎

16ユーキャンスマイル◁◀︎◀︎◁15

 

『注目はもちろん! と2年続けてきましたから、ご覧の皆様はわかると思いますが、なんといってもズヴィズダツァーリ。春の天皇賞後、怪我が発見され、宝塚記念や凱旋門賞などのレースを回避しましたが、競馬史に残る三冠馬4頭のジャパンカップを制し、2年連続グランプリホースを目指して出走します。

 このレースを制せば、永遠なる皇帝を超え、アーモンドアイと同じG1の冠を八つ被ることになります。そして、デビューから続く連勝記録は12に。何をとっても前人未到です。

 対抗は、秋の天皇賞を2着。その前走宝塚記念では1着のクロノジェネシス。同じ19年組ですからね。19年牡馬といえばズヴィズダツァーリ。同年牝馬といえばクロノジェネシス。女がその底力を見せるのか、男が全てをねじ伏せるのか。

 同じ同期馬で言えば、クロノジェネシスなどに後塵に拝しているカレンブーケドール。ズヴィズダツァーリで言えばサートゥルナーリアも要注意。本命はズヴィズダツァーリと言って良いですが、対抗乱立です』

 

 

「行けるか?」

 

 先生の言葉に、僕は大丈夫だよ? と軽く返す。

 いつも通り緊張はしていない。返馬で体をちゃんとほぐしてるから、輪乗りに混じる必要もない。

 

 調子も悪くない。少なくともジャパンカップの時よりも問題ないはず。

 内ラチ沿いに体力を抑えながら走って、向正面に入る下り坂で一気に前へ飛び出す。ジャパンカップのハイペースでもしっかり勝てたんだ。大丈夫。

 

「よし、枠入りだ。堂々と行こう」

 

 そうだね。先生。

 

 いつも通りの会話。いつも通りの枠入り。今日は奇数枠の一番最後なので、順番的に言うと一番真ん中。

 お姉さんに引っ張られ、外から2番目のゲートに入る。

 

「よろしくね。ツァーリ」

 

『疲れた一年。変わった一年を吹き飛ばす最高の戦いを。夢を賭け、夢を駆けるレースを。第65回有馬記念。全頭揃い……。

 

 スタートです』

 

 目の前の鬱陶しさが解放されて僕たちは走り出す。

 

『さあ真っ先に飛び出したの1枠1番バビットと6番のキセキ。ブラストワンピースとオーソリティ。フィエールマンも前の方。全体的には飛び出したキセキが馬群を引っ張っています。すでに2馬身ほど離れて1番のバビット。

 フィエールマンはここにいます。逃げ集団から1馬身。カレンブーケドールはその半馬身ほど離れております。ペルシアンナイトとラヴズオンリーユーが横並び。半馬身後ろにラッキーライラックとサートゥルナーリア。クロノジェネシスとサラキアが並んで正面スタンド。まばらな拍手を受けていきます。』

 

 

 ペースは速い。去年の勝負と同じ感じ。

 先頭がだいぶ飛ばしているように感じる。いつものパターンならキセキが飛ばして大逃げ決め込む感じかな?

 

『後方集団。モズベッロとユーキャンスマイルは後ろからの競馬。そして殿。ポツンと一頭走っていますは15番。投票一位。人気も1番のズヴィズダツァーリ。堂々と1回目のゴール板を通過し、第1コーナー。向正面に向かっていきます』

 

 今日の僕のターゲットは、クロノジェネシスとサートゥルナーリア。

 両馬とも基本的には中団グループとして足を溜める戦法をよく使うが、サートゥルナーリアは先行よりのため、どちらか自分に近い方を目安にする。と決めている。

 実際のところは、向正面に入って上がっていき、後ろから来た僕にペースを乱されて行く馬が多いだろうから、そこに対応できそうな馬が、その二頭だという話らしい。

 

 第二コーナーの下り坂を利用して、ハイペースだが少しだけ速度を上げる。

 多分だが、前回の有馬でも最後届いたし最後の短いけど角度のある坂もある。バテたやつを外から抜くだけの簡単なお仕事。

 

『さあズヴィズダツァーリがゆっくりだが上がって行く。つられるようにラッキーライラックとラヴズオンリーユーも上がっているようだが、二頭はこの上がりに着いて行って良いのか?』

 

 うん。大丈夫、大丈夫。

 コースは違うけど、いつもの戦いでハイペースも勝ってる。

 

「行けるよ」

 

 うん。先生の考えも一緒。

 去年の有馬で勝ってるし、ジャパンカップでももちろん勝ってる。速いペースでも追い込みで勝てるなら、いつも通りの戦いでいい。

 

『内回り第3コーナー回りましてフィエールマンが3番手まで上がってきている。大逃げを決めているキセキだが大丈夫か? 上がってくるぞ? さあ直線!!』

 

 向正面から第4コーナーの入り口までは全くの平坦。そして、4コーナーの終わりから降り、このコースで1番低いところに着くと、約300メートルの短い直線の間登り続ける。

 

 4コーナーに移る直前。僕は先生の指示で、ロスにはなるが外側、先頭から6番手ほどでコーナーを曲がる。大回りになる分スピードは落とさなくて良い。

 チラッと周りを確認すれば、9番のクロノジェネシスが最内で隙間を狙っていた。そしてその真後ろにサートゥルナーリア。

 フィエールマンは少し外側なので、役者は全員前に固まった。

 

 

THE HERO

 

20年 ユメヲカケル 有馬記念

追いかけろ

嘲笑を払い除け 遥か先を 追いかけろ

 

 

『直線は300! 300しかないが外側から星帝! 内側には女帝のクロノが来ているが!』

 

 鞭が入る。足を動かす。それの繰り返し。

 芝の状態が良い外側。他の馬に邪魔されないコースを突き進む僕。

 

 横側に広い視界には、クロノとナーリアが居るが、ナーリアの方が体勢は有利。そして、そのナーリアとは、半馬身ほど僕と差があるかな?

 

 うん。流して勝てる。ナーリアは、いつもここで伸びない。

 

『ナーリア! ナーリアが伸びるぞ!!』

 

 

着いてしまった 4度の敗北

離されてしまった 18馬身という壁

だが 何度敗れてもその馬は 決して俯かない

 

 

 僕は、体のルールを忘れていた。

 顔を上げ走るサートゥルナーリアの末脚が、僕より少し前に来た時、踏み込んだ足にパワーが乗っていなかった。

 

 なんで? そう思っても一度流して抜けた力は、すぐには戻らない。

 

『並んだ! 並んだ! ナーリア優勢! ナーリア優勢!』

 

 

永遠の2番手による 過去最高の復讐劇

幕が開いた あとは 戦うだけ

茨の中でも 道があるから歩み続ける

 

 

『ナーリア! ナーリアだ! 星帝を倒したのは、苦渋を舐め続けた同期のライバル!

 

 

サートゥルナーリア1着ゥ  ウッ!!

 

 ついに苦渋が、美酒へと変わった!!』

 

 

舐め続けた苦渋が 歓喜の美酒となる その日まで

サートゥルナーリア(ヒーロー)を越えろ

有馬記念

 

 一度も諦めなかった馬が、世代の壁を越える。

 

 僕は初めて、ゴール板を先頭で通過できなかった。

 勝ってきたという実績と、勝てるという慢心が、僕を二着に押し留めた。

 

 全力で伸ばした頭も、少しだけ届かなかった。

 ゆっくりとスピードを下げて完全に止まるいつもの僕のいつもの動作。

 

 だが、目の前にあったのは、皐月賞の誓いを裏切った事実。

 何も考えられない。目の前が真っ白になる。

 

 なぜ負けたのか。理由はわかってるが認められない。

 

「ツァーリ……。すまない」

 

 どよめくスタンド。僕の首に顔を埋めて謝る先生。ウイニングランを終わらせて計測所へと向かうサートゥルナーリア。そしてその鞍上で喜びを爆発させるジョッキー。

 

 負けた? 僕が?

 

 

 

 

   ふざけるな。

 

 

 

 

 

 全く動かなくなった僕を心配そうに見つめるお姉さん。

 引いてターフから離れるように僕を動かそうとする先生。そんな二人に反応できないほど、僕の思考は一つに染まった。

 

 ふざけるな。という言葉が脳を食い散らかす。

 僕にくれた愛情を裏切り、二着という負けを届ける屈辱。

 

 

 結局僕が動き始めたのは、サートゥルナーリアがターフから去った10分ほど後だったらしいが、正直よく覚えていない。自分に対する怒りで、何も考えていなかったから。

 

 

 

有馬記念 レース結果 上位5着

馬名タイム人気

サートゥルナーリア2:29:9

15ズヴィズダツァーリ2:29:9

クロノジェネシス2:30:1

14サラキア2:30:113

13フィエールマン2:30:5




一つ目の負け。敗因は油断と慢心。
サートゥルナーリアは、5度目の正直を勝利で飾る。

 出走成績 12戦11勝 獲得賞金総額15億3000万

18/09/22/土 新馬戦 2000メートル 
 1番人気 1着 2:01:8 700万
18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート
 1番人気 1着 1:45:2 3,300万
18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル
 1番人気 1着 2:01:2 7,000万
   2着 アドマイヤジャスタ 2:01:6 2馬身差

19/04/14/日 皐月賞 2000メートル
 3番人気 1着 1:57:9 11,000万
   2着 サートゥルナーリア 1:58:5 3½馬身差
19/05/26/日 東京優駿(日本ダービー) 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:5 20,000万
   2着 ロジャーバローズ 2:22:5 アタマ差
19/09/22/日 神戸新聞杯(G2) 2400メートル
 1番人気 1着 2:24:5 5,300万
   2着 サートゥルナーリア 2:26:3 大差(約11馬身差)
19/10/20/日 菊花賞 3000メートル
 1番人気 1着 2:58:9(WR) 12,000万
   2着 ワールドプレミア 3:03:0 大差(約30馬身差)
19/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 1着 2:30:1 30000万
   2着 サートゥルナーリア 2:30:5 2馬身差

20/03/22/日 阪神大賞典(G2) 3000メートル
 1番人気 1着 3:00:1 6700万
   2着 ユーキャンスマイル 3:02:0 大差(約12馬身差)
20/05/03/日 天皇賞(春) 3200メートル
 1番人気 1着 3:16:4 15000万
   2着 フィエールマン 3:16:5 1/2馬身差
  裂蹄
20/11/29/日 ジャパンカップ 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:9 30000万
   2着 コントレイル 2:23:1 1馬身差
20/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 2着 2:29:9 12000万 ハナ差
   1着 サートゥルナーリア 2:29:9

次走 未定


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競走馬ー17:敗北の味 次の目標

誤字報告・感想ありがとうございます。


 負けた。

 

 それをやっと認められるようになったのは、年が明けて、初戦を大阪杯に決めた日だった。

 

 あの日から僕の周りにいる人は、お疲れさん。という労いの言葉や、次だ次。と切り替えるような言葉をかけてくれた。前者が大魔神。後者がおっちゃんだったりする。

 

 ただ、先生は大魔神とおっちゃんにずっと頭を下げていたし、僕にもずっと謝ってくる。別に先生が悪いわけじゃないのに。

 けど、にーちゃんが持ってきた新聞には色々とよくないことが書いてあった。

 

① ズヴィズダツァーリ 燃え尽きたか?
 同日引退したアーモンドアイ。一歳下のコントレイル、デアリングタクトが揃ったジャパンカップ。三冠馬四頭対決に勝利し、戦うことに対してモチベーションを失ったことが原因で、有馬記念に敗北した説

② ジャパンカップから一転 怪我再発症か?
 天皇賞・春て発症した足の怪我を競走中に再発症したため、末脚を見せることができず敗北した説

③ 打田騎手 鞍上交代か?
 レース後、全ては僕の責任だと発言した打田騎手に対して、ズヴィズダツァーリの馬主である元・メジャーリーガーの佐崎氏が、新たな鞍上を迎えようとしている。濃厚な人物は、同期馬のワールドプレミアに乗る天才・豊丈か

④ サートゥルナーリア勝利の秘密は!?
 同期である日本競馬史上最強の馬・ズヴィズダツァーリに4度敗北したサートゥルナーリアは、なぜズヴィズダツァーリに並ぶことができ、ハナ差とはいえ差すことができたのか

⑤ ズヴィズダツァーリ 次走未定は予定通り? 種牡馬入りか?
 先日の有馬記念の出走は、生涯無敗を賭けた競走馬生活最後の出走だった!? 陣営は当馬の成績を考え、有馬記念以降のローテーションは組んでいなかった可能性がある

 

 

 パッと見ただけでも5つくらい何か書かれてあって、その中には先生についても書いてある。

 

「おいおいツァーリ、お前新聞まで読めんのか?」

 

 まあ読めるよ。一応元々人だし。

 

「でもあれだよなツァーリ。負けなかった馬が負けただけで調教師が悪いだの、騎手が悪いだの勝手に言いやがってな。たしかに打田さんは自分が悪いとは言ってたけど、友康さんも佐崎さんも何も言ってないのにな」

 

 ん? どういう事? と思い、もう一度新聞を見れば、大魔神がジョッキーを先生から変更しようとしている。なんて記事がある。にーちゃんが言ってるのはこれか。

 

「そもそも。ここまで負け無かったのが奇跡だし、負けさせたく無かったら佐崎さんも友康さんも走らせないよ。ツァーリが強いってわかってるから走らせるんだし」

 

 でも、僕負けたんだよ? 一番前じゃ無かった。

 

「なに。イジイジしてんの? お前らしくねー。いつものお調子者っぷりはどうしたよ。俺が女じゃないからか?」

 

「ぶるる」

 

「え? マジ?」

 

 それはない。とは言ったものの、伝わってはなさそうだ。

 

「けど、今のお前がこんなの見たらもっと痩せそうだ。あんまり飼い葉食べてないんだし……。まだ次どうするか決まってないけど、負けたままなんか嫌だろ?」

 

 けど、次も走って負けたら、先生にも大魔神にも迷惑かけちゃうし。

 うじうじというか、イジイジというか。馬になって、今までとは違ってちゃんと一番って誇れるものがあって。みんなが凄い凄いって言ってくれて、お前が一番だって。

 ちゃんと面倒見てくれてたのに、油断というか、考えが甘くて。

 

 勝てる。って思った僕と、勝ちたい。って思ってた彼の違い。

 

「すごく体重が落ちたわけじゃないし、筋肉量もちゃんとしてるけど、元気ないよなぁ……」

 

「あれ? 隣にはツァーリですか?」

 

「あれ? アレグリアの……。こっち来てたんですね」

 

 アレグリア? グランアレグリア? と名前を聞いて、バッと身構える。

 なんであの馬が? みんな引き離すようにしてたはずじゃ……。

 

「横なんですか?」

 

「ああ、ほかに使える馬房が無くて。まあ、しばらくしたらまた美浦の方に戻りますし、多分大人しいはず?」

 

 と、僕やにーちゃんがアレグリアに目線を向けると、たしかに彼女は大人しい。どうしたんだろ? と見つめていれば、僕の方を見つめ返して、フンっ! とそっぽを向く。

 どうしたの? と尋ねてみても、アレグリアは大した反応をせず、そっぽを向くだけ。今まで何回か会ってきた彼女とは大きく違う。

 

「今日は大人しいですね」

 

「ええ。一安心です」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「それで? 聞きましたよ?」

 

 隣の馬房から声が聞こえたのは、外がある程度暗くなり、人があまり馬房にいない状態になってからだった。

 僕は思わず、え? と口にしたが、アレグリアは一番前じゃなかったんでしょ? とだけ聞いてくる。

 

「……うん」

 

「それで? 一番前じゃ無くて? 走れない?」

 

「そんなこと! そんなこと……」

 

「見っともないですね……。私が初めてみたあなたは、すごく自信に満ち溢れて、オスの強さを見せつけるような存在でした。だからこそ、あなたの意識に入れるように突撃しに行ったのに」

 

 今のあなたにあの時のようなオス味はない。強くないオスに興味はない。

 突然の代わりよう。だが、アレグリアの言葉を聞いて、そりゃそうだ。なんて思う。

 

 負けることなんてあの時は考えていなかった。全力は出してなかったけど、やっとレースがわかって来て、走ることの楽しさを覚えたあたりだったから油断もなかった頃。

 

「残念ながら私は長い距離を走ることができません。あなたと共に走る機会なんて一度もないかもしれない。けれど、今のあなたなら、弱ったあなたなら私でも勝てます」

 

 まあ、走るか走らないかは好きにすればいい。

 そう言った彼女は、馬房の奥に引っ込んでしまったので、僕からは見えなくなる。

 

 走るか走らないかは好きにすればいい。

 

「負けるのは……怖いじゃん……」

 

 あー。どうすりゃいいんだよー。こうなったら自棄だ。食うぞ!

 と、あまり何も考えないようにするため、夜食用の飼い葉に頭を突っ込み、ハムハムと咀嚼し続ける。

 

 多分、明日も引き運動して、乗ってもらって、走る。

 いつもの調教メニューをこなして、次のレースに向けて準備を整える。

 

 昨日も一昨日も、ちゃんと調教メニューがあったから、大魔神は僕を走らせようとしてる。負けた僕を。次また負けるかもしれない僕を。

 

「ダメダメ。考えちゃダメ」

 

 考えないようにするために食べ始めたのに、考えてたら意味がない。

 とりあえず、言われた通り生活しよう。その方が気が楽だ。

 

「はは。やっぱ飯食べてたか」

 

 ん!? 先生!? こんな時間になんで!?

 

「どう頑張ってもお前のことばっかり頭にあってな……。まあ、愚痴とでも思って聞き流しといてくれ」

 

 先生は、負けたな。って一言言った。

 

「盛大に負けたな。ハナ差とはいえ、今まで一回も負けたことがなかったサートゥルナーリアに。速いペースなら先行だとかなんとか言ってたのに、ジャパンカップで勝てたから、大外から回れば問題ないって考えてた」

 

 僕もそうだ。外側から走って、全員抜かせばどうにかなるって考えてた。

 

「あの日の僕は、ジョッキーじゃなくてただのリュックだった。お前が走るために乗せなきゃいけない重り」

 

 そんなことない。先生はコース取りを教えてくれる。ジャパンカップだって、コントレイルのジョッキーに僕たちがいることを教えてくれたし、よそ見してたら勝てないって教えてくれるし。

 

「お前はさ。強いんだよ。それも、シンザンとかルドルフとかディープとか目じゃないくらい。むしろさ、サートゥルナーリアが、お前のレベルについて来られた。って考えないか?」

 

 着いてこられた? でも、あの時僕は流したから負けたんだよ?

 

「お前も最後は抜いてたが、流しても勝ててた相手が、流しちゃ勝てない相手になった。それだけサートゥルナーリアが、レベルアップしたんだよ。少なくとも、2500までならお前と肩を並べられる。って。

 

 今のホースマン達の目標は、もちろんダービーを取ることでもあるんだが、何より、お前に勝つことだ。生涯無敗を阻止して、ズヴィズダツァーリに土をつけようとしてくる。特に、三冠戦敗れてる陣営は特にだ。

 

 そんな中、アーモンドアイや同じ無敗三冠馬のコントレイルを差し置いて、サートゥルナーリアがお前に勝った。わかってない奴は、お前が負けた原因を探して、わかってる奴は、サートゥルナーリアの勝利を喜んでる。

 本人としては、お前が負けたことが悔しいし、辛いけど、あれだけお前を追いかけたサートゥルナーリアだ。一個人としてはすごく嬉しいものがある」

 

 うん。たしかに、僕に勝ちたくてギラギラしてるジョッキーさんは多いように思う。返し馬の時に僕のこと見てたり、輪乗りしながらこっちを見てたり。

 

「でもさ、そんな奴らに目標にされて、そんな追いかけてくる奴をさ、ボコボコにしないか? 一回負けて、モチベーションがなくなって、怖くなって走らなくなるより、一回負けたけど、もっと強くなって、お前ら如きじゃ負けねぇよ。って証明する方が、最高じゃないか?」

 

 それができれば、それが最高。うん。たしかにそうだ。

 

「大阪杯、春天、宝塚の春古馬三冠を達成した馬はいない。秋天、ジャパンカップ、有馬の場合は2頭だけ。なら、六戦全部を達成すれば? もちろん初めてだし、オペラオーの時代になかった以上これから現れることもないはずだ。負かしてしまった僕が言うのもなんだけど、お前には僕がいる」

 

   お前は、一人じゃない。

 

「なんていうかさ。すごい馬はこれまでいっぱいいたんだよ。牝馬でダービーに勝ったウオッカとか。それこそアーモンドアイとか。でも、本当に凄い馬は、負けたことを語られるんだ。

 ルドルフも、ディープも負けたことが話題になる。それは、常に勝ち続けているからこそ、負けたというインパクトに持ってかれるから。

 ツァーリは、このまま負け続けて、有象無象の馬になるか? それとも、ここから勝ち続けて、負けを語られる馬になるか?

 なりたい方を選べ。ツァーリ。ただ、走るのはお前だからな。お前の道を、僕たちは支える」

 

 

 あー。明日6時半で良かったー。なんて、あくびをしながら立ち上がった先生は、僕の首をトントンと叩く。

 

「サートゥルナーリアは冬だから仕方ないけど、裂蹄が見つかって復帰は有馬記念。それが2021年最初で最後の試合。そのまま引退らしい。そして、新馬戦とダービーで戦ったロジャーバローズは屈腱炎が治ったらしくて、今年の春から本格的に動き出す。両方とも、戦うとすれば秋以降」

 

 クロノジェネシスが来るとすれば宝塚。ダノンキングリーとグランアレグリアは中距離以下で、大阪杯か秋天。デアリングタクトもそう。

 コントレイルは大阪杯。宝塚記念、秋天とジャパンカップを考えるだろう。有馬も出るかもしれない。

 

「ツァーリ。次は勝とう。僕は、お前が楽しそうに勝つ姿が見たい」

 

 夜中の作業をしている厩務員に挨拶した彼の姿は、そのうち見えなくなる。

 

 大阪杯からの春古馬三冠戦。秋天から始まる秋古馬三冠戦。それに大魔神が春天の後言っていた、凱旋門賞……。

 

「みんなからの愛情に応える覚悟」

 

「なにそれ」

 

 いつのまにか顔を出していたアレグリアが聞いて来たので、僕はあの時のことを思い出しながら教えてあげる。

 

「3歳の春に先生が言ってくれた。みんなが僕を勝たせたいと思って与えてくれる愛情を受け止めて、しっかり返したいって覚悟を一番最初に決めた馬が、皐月賞を勝つって……」

 

「それであなたは勝ったんだ。なら、ずっと前から覚悟は決まってるんじゃない。あとは好き勝手走ってあげれば良いだけよ」

 

「あはは。アレグリアはいい奴だな」

 

「でしょ? 良いメスよ? 番になって?」

 

「うん。今ので全部台無しだよ」

 

 あはは。なんて二頭で笑い合う。けど、ありがとうアレグリア。

 

「よし。大阪杯から7つ。全部勝つ。それも全部、誰よりも早く」

 

「へぇ? あなた長い方が強い。ってみんな言うけど? それに、私も出るのに勝てると?」

 

「うん。だって僕はズヴィズダツァーリだから。大喝采を浴びるのは、僕の仕事だよ」




ウマ娘回挟みます。

下のやつガッツリ春古馬三冠2回書いてた。芝

目標 春古馬三冠+凱旋門賞+秋古馬三冠
   空前絶後のグランドスラム。

次走 21/04/04/日 大阪杯 芝2000メートル
有力馬 グランアレグリア コントレイル


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ウマ娘ー6:皇帝と星帝

 ウマ娘回難しい。
 戦績を辿っていけば良い競走馬パートと違うから……。

 会長の口調こんなんで良い?


 メイクデビューからの3戦。新潟のメイクデビュー、東スポジュニアステークス。そして年内最後でありG1戦のホープフルステークスを危なげなく勝った僕は、クラシック期初戦に2月に行われる共同通信杯を選んだ。

 

 理由は大したものじゃない。皐月賞のステップアップレースに指定されていなくて、他のウマ娘には悪いが、先行策の練習になる程度に強いウマ娘が集まるレースを選んだ。

 

 特に、ダノンキングリーが出走すると言うのが大きな理由であり、彼女は先行か差しの戦い方が多い(とトレーナーが言っていた)。

 なので、彼女が先行で戦えば見本として背後に着き戦い方を学ぶ。差しならば後ろから上がってくる奴から逃げる練習を実践ですることを目的に。

 

「てかあれはえぐいわ」

 

「え? 突然なんですか?」

 

 チームスピカのチームルーム。

 のんびりとコーヒーを飲みつつ、コースの利用可能時間を待っていたのだが、三杯目のコーヒーを注ごうとした時、僕に向かって沖野が呟いた。

 

「いや、共同通信杯の話だよ」

 

 共同通信杯。その試合に居たのは、同級生であり比較的仲の良いメンバーであるうちの一人ダノンキングリー。あとは、朝日フューチャリティステークスを勝ったアドマイヤマーズ。

 

「予定通りの戦い方ができたけど、何か問題が?」

 

「いや、なんて言うかなぁ……」

 

 8人で出走になったが、全体はスローペース。先頭はアドマイヤマーズが引っ張り、僕はその後ろで2番手を走っていた。問題のダノンキングリーは僕の後ろで道中4番手。

 

「思ってたより周りが遅くてしんどかったんですよね。あれ」

 

 1〜2コーナーの途中にあるポケットからスタートする加減で、ほぼほぼ直線のまま向正面に入る。出走人数も少なかったこともあってハナ争いも激しくならず、僕にとってはゆっくりしすぎの展開だった。

 

「先行って感じの戦いじゃなかったからな? あれ。いや、スローペースで足を溜めれたこともあるけど、世代じゃトップクラスのダノンキングリーに影も踏ませないって……」

 

 あの日のタイムは1分45秒8。2着のダノンキングリーからちょうど1秒前で、着差は6馬身。

 

「あれでも流したんですよ? 僕」

 

「見てたから知ってるよ。あのまま行ってたらワールドレコードは無理でも、44秒台入ってたろ? ダノンキングリーの悔しがり方も凄かったけど」

 

 先行で走ったこれまでのレース。タイムで1秒ほど差をつけれたら流している。油断ではなく、手加減でもなく、足の疲労をできるだけ溜めないようにするために。

 

「まあ、これで準備は整ったろ。ダノンキングリーとアドマイヤマーズ達の状態は確認できた。サートゥルナーリアはリギルに入ったし、ステップアップを使ってくる。弥生賞は今週末だから、その情報を仕入れて、作戦を完全に組み立てる」

 

 ペースが遅ければ上げる幅はいくらでもあるし、速くても、同じ時期の競走馬時代に比べれば対応できる能力がある。トウカイテイオー先輩とダイワスカーレット先輩からの、先行逃げ切り追いかけっこのおかげで。

 

「まあ、4コーナーで飛び出してって言う走り方を足を溜めにくい先行でできてるわけだから不安材料はほぼほぼ無い。あとは、慌てず、落ち着いて戦うだけ」

 

「うん。トレーナーの言う通りだよ」

 

 多分だけど先生もおんなじこと言うと思う。

 

「よし、そろそろ坂路コースが行けると思うから行ってこい」

 

「はい、それじゃあまた後で」

 

 三杯目のコーヒーをしっかり飲み切った私は、後でマグを洗おうと流し台の中に置いてから出て行く。

 

「っさ、油断と慢心はゴミ箱に入れとかないとね」

 

 テクテクと廊下を歩き、建物から出て、そのまま坂路コースへと向かう。

 校舎から一段下がった位置にあるメインの芝コース。坂路はその横側で、高くなった校舎の位置まで上がる。

 

「って、ナーリアだ」

 

 坂路のゴール地点からスタート地点へと移動しようと歩き出した時、ふと芝コースを見れば、その一部のところで、フジキセキ先輩と何か話していたサートゥルナーリアを見つけた。

 フジキセキ先輩が身振り手振りで何かを伝えているので、多分走ってる最中に関するところだろう。

 

「気になるのか?」

 

「えっ?」

 

 突然後ろから聞こえて来た落ち着いた声。思わず耳と尻尾がぴーんと跳ね上がったような気がするが、まあ良いだろう。

 振り向いた先にいたのは、制服に身を包んだ生徒会長。少し大人びたトウカイテイオー先輩というか、似たような容姿をしているのは気のせいだろうか? 僕とカフェ先輩みたいに、競走馬として血が近いのか?

 

「君はズヴィズダツァーリ。で合っているかな?」

 

「はい。ツァーリと呼んでくだされば」

 

「ふむ。ツァーリか……。だが、口調が固いな。取って食おうなんて気はない。テイオーからも話を聞いていて、私個人としても気になる存在だった。普段通りの口調で話してくれ」

 

「……。わかった」

 

 向かい合っていた彼女が僕の横に立つ。そのまま、僕たちの視界の先には、走り始めたナーリア。

 

「ナーリアは、リギルで上手くやってますか?」

 

「ああ。向上心が高く一生懸命に練習を重ねている。レースにかける思いも強くしっかりしている。私たち先輩にも関係なく身に付けられそうなことは尋ねてくるしな。緊褌一番、弥生賞と皐月賞に向かって行っている」

 

 やはり、彼女は努力してるのか。

 

「君はどうだい?」

 

「僕? 僕も順調ですよ。トウカイテイオー先輩にも扱かれてますし……」

 

「テイオーがな……。テイオーが言っていたよ。生意気な後輩ができたってね。会っていきなり煽られて、皇帝は負けないから皇帝だと言われたってね」

 

「うわぁ……。どんな後輩だよそれ……。って、僕か」

 

「はは。まあ、君がどんなウマ娘になろうと目標を、夢を掲げているかは知らないが、私たちが面倒を見ているサートゥルナーリアは、強い」

 

「ええ、身に染みて知ってます。努力家で、諦めが悪くて、悔しさを笑顔で隠して、絶対に俯かない。僕が掲げる目標の壁だ」

 

 よければ聞いても? なんて言うシンボリルドルフ。だが、僕がよく比較された彼女になら言って良いか、生徒会長だし。タキオン先輩みたいに危ない存在でも無いし。

 

「生涯無敗」

 

「……。いま、生涯無敗と言ったか?」

 

「はい。まずは三冠。そのまま有馬記念と春天。そして出られそうなら凱旋門賞を目指して、翌年は大阪杯からのシニア六冠。生涯無敗と、クラシック・シニアでの九冠。あと、叶うならイギリスのインターナショナルステークスも」

 

「荒唐無稽な目標だな。レースを甘く見過ぎではないかツァーリ。自分の力を誇大妄想してしまって揣摩憶測だ」

 

 まあ、側から聞けばそうなるよな。僕も、逆の立場ならそう思うし……。

 でも、僕はやる。やり切る。僕の存在の証明は、勝つことだから。

 

「別に誰に何を言われようとも、僕は一人じゃないので」

 

「そうか……。なら私は何も言わない。星帝の力。まずは皐月賞で見せてもらうとしよう。井底(せいてい)の戯言か、それともレースを制して青帝(せいてい)となるか……」

 

 ん? せいていの戯言? は井戸の底か。もう一個のせいていは何?

 てか、ドヤ顔されても伝わる言葉で話さなくて大丈夫? よくわからんのだが。

 

「とりあえず、これからトレーニングなので……。失礼します」

 

 ペコリと頭を下げた僕は、そのまま坂路コースのスタートラインへと急ぐ。そこにはもうすでにダイワスカーレット先輩とウオッカ先輩が待っていたので、遅くなったことを謝り、僕はトレーニングへと入って行った。




ゴルシってキーボードで打つと、
予測候補に「しゃーない」って出るのは何!? なんで!?


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ウマ娘ー7:三冠ウマ娘と帝王

 皐月賞、ダービー、神戸新聞杯は流します。
 短めだよーん

 いつもいつも誤字報告ありがとうございます。


「ゴルシ……」

 

「おう。なんだー?」

 

「会長にセイテイになるか? って言われたんだけど、分かる?」

 

「あー。あれじゃね?春の王的な。青春って言うだろ? 青色は春の色だからな。んま、シーナも青だし、ツァーリの色に合ってんだろ」

 

「最近隠す気なくなってるよな。あんた絶対僕と同じで馬だったろ」

 

「はぁー!? んなわきゃねーし! ゴルシちゃんは、ゴルゴル星のプリティーアイドルぞよ?」

 

「「……無いな」」

 

「お二人して何しているんですの。ツァーリさんはそろそろ入場ですし、ゴールドシップさんは早くトレーナーさんのいるところに行かないと。みんな待っていらしてよ?」

 

 二人で馬鹿みたいなことをしながら緊張をほぐしてもらっていたが、ゴルシに似てるのにめちゃくちゃ美人なメジロマックイーン先輩が現れ、彼女を連れて行く。

 

「あなたの頑張りは知っています。あとは、出し切るだけですわ」

 

「そーそー! そーだぞー」

 

「あはは。まあ、やるだけやってみますよ」

 

 

 クラシック三冠戦。前の時は3歳の初戦が皐月賞だったのもあって3番人気だったが、今回は違う。ここまで無敗の4連勝。人気はサートゥルナーリアより上の一番人気。

 

「わたくしが勝ちます」

 

「いいや。私が勝つよ。共同通信杯じゃ負けたけど、今度は勝つ」

 

 これ、私に言われてるよなぁ。どうしよう。

 

「ちょっと、聞いてんのツァーリ」

 

 天使なマックイーン先輩

『ええ、正々堂々戦いましょう。わたくしもあなた方には負けません』

 

 悪魔なゴールドシップ

『ん? なんか言った? てかよー、今度一緒に化石掘り行かね? 良い場所知ってんのよ』

 

 うん。ゴルシは知らねーや。

 

「うーん。まあ勝つのは僕だけだよ。仲良しこよしはレース場に来れば関係なくなるし。まあ、僕が言いたいのはそれだけ」

 

 少しポカンとした表情を見せる二人。キングリーは小声で「舐めやがって」と呟いているし、ナーリアは「既に勝った気で……」と。

 うわー怖ぇー。

 

『さあ一番人気はこのウマ娘。7枠14番ズヴィズダツァーリ』

 

『実力は完全に上位です。火花散らすデッドヒートを期待しましょう』

 

『各ウマ娘準備が整いました。最も早いウマ娘が勝つ皐月賞。2000メートルの戦い。今、スタートです』

 

 約2分後、ゴール板を一番に駆け抜けたのは、他の誰でもなくこの僕、ズヴィズダツァーリだった。

 サートゥルナーリアでも、ダノンキングリーでも他の馬でもなく、僕だった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 僕は、サートゥルナーリアとロジャーバローズの二人を退けて勝ったダービーの後、珍しくトウカイテイオー先輩に連れ回されていた。

 

「ねー。ツァーリは可愛いんだから、こう言う服着た方がいいんじゃ無い?」

 

「嫌。断固拒否。子供っぽい。クソガキ臭がする。ダンス部の中学生レベル」

 

「ちょっとー! このボクが選んであげてるのにそれは良く無いよ! いっつもいっつも真っ黒な服着てるんだからさぁ、たまには色んな服着るべきだって」

 

「ッチ……。これならメジロマックイーン先輩と野球観戦行くべきだった……。大阪対横浜だからユタカとササキでそれぞれ応援できたのに……」

 

 僕の愚痴が聞こえてしまったのか、黄色いTシャツを片手に持っていたトウカイテイオー先輩は「ワケワカンナイヨッ!」と叫んでいた。

 

 まあ、普段から私服に面白みがないとはよく言われていた。

 スカートが苦手なので、黒色のパンツ。もちろんヒールも苦手だから、革靴もどきの少し見た目がいい靴を履き、上はカッターシャツ一択。ジャケットを着ればすぐさまスーツみたくなるので、色々と楽だ。カレーうどんを食べられないことくらいかな? 問題があるとすれば。

 

 ウオッカ先輩からは、「殺し屋みたいでかっけー!!」と大絶賛されている私服。

 

「というか、突然僕の手を引っ張ってショッピングモールまで来たわけですけど、何かようでも?」

 

「あー。えっと……」

 

 僕が急な行動の理由を問い質そうとすれば、彼女は目をキョロキョロと左右に動かして慌て始めた。

 

「はぁー。先輩が何かを考えて行動してくれるのは嬉しいけど、僕的にはちゃんと説明してほしいです。どうせ、菊花賞がどうだのこうだのでしょ?」

 

「うぐっ……。バレてる」

 

 まあ先輩はわかりやすいからなぁ。と言うか、耳と尻尾である程度無意識の心情を見せてしまうのだから隠せる方がすごいよ。

 

「とりあえずカフェにでも入りません? 素晴らしい先輩と甘いものが食べたいんですよねー」

 

「素晴らしい……先輩……。よし! んじゃあ行こうかツァーリ!! あっちにね、マックイーンがいつも涎垂らすパフェがあるんだ」

 

 ……。現金な奴。

 と言うわけで移動した喫茶店。割と落ち着いた雰囲気なので、パクパクとものすごいスピードでパフェを消して行く先輩だけが浮いている。ちなみに僕はホイップが苦手なので甘味は和菓子以外食べない。

 赤福は至高。異論は認めん。

 

「で、菊花賞がどうしたんですか?」

 

「いやー。ボクってさ、昔は無敗の三冠ウマ娘を目指してたんだよね」

 

 あっけらかんと話す先輩。口調は軽く、身振り手振りもいつもの明るい雰囲気だが、目が、3000メートルを一緒に走った時のあの時と同じで笑っていない。

 

「でもさ、ダービーの後、ボク、骨折しちゃったんだよ」

 

 骨折によって菊花賞の出走を辞め、目の前で走る同期たちの菊花賞を見て、自分ならどう走るかを想像し、涙を流した。そんな話を彼女はボクにする。

 

「カイチョーみたいなウマ娘になりたくて頑張って、そのあとは怪我から復帰して、無敗のまま春の天皇賞でマックイーンと戦って、無敗が終わった。ツァーリは前、生涯無敗が目標って言ってたよね」

 

「はい。そうですよ?」

 

「どの試合に出るとか考えてる?」

 

「三冠の後で。となると、まずは有馬記念。そして天皇賞・春。宝塚記念に出るかは特に決めてませんが、インターナショナルステークスと凱旋門賞の海外G1競走。国内に戻って有馬記念。最後の年は春秋シニア六冠」

 

 ズズズーと音を立てながらはちみつシェイクを飲み切った先輩は、壮大な夢。とだけ呟いた。

 

「一度も負けずに?」

 

「ええ。負けずに。生涯無敗。絶対を体現する星の皇帝。先輩には前世の話はしましたっけ?」

 

 アイスコーヒーの氷が音を立てるのと同時に、先輩は横に首を振った。

 

「気になるか気にならないかで言ったら、気になる。だってその世界のボクやマックイーン。カイチョーだって知ってるんでしょ?」

 

「ええ。会長に関しては良く比べられましたから。七冠馬がどうとか」

 

「でもさー。そこを聞いちゃうとさー。ツァーリが今掴もうとしてる物語を楽しめないでしょ?」

 

 なるほど。そう考えたか。まあ、そう言う捉え方もあるよな。

 

「じゃあ、怪我せずにしっかりと戦い抜ける?」

 

 答えはもちろん肯定。

 

「ボク勝手に、君の走る姿にボクを映すけど良い?」

 

 この質問にも、僕は肯定の意を示す。

 

「ボクが憧れた皇帝の姿、見せてね」

 

「もちろん。知ってます? 皇帝は  

 

   負けないから皇帝なんだよね? ボクが言うのもなんだけど、ツァーリはホントに生意気だね」

 

 なんのことでしょう?




 ウマ娘の菊花賞は書きますが、その後だいぶ時間が飛ぶ予定。


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ウマ娘ー8:2度目の菊

 誤字報告ありがとうございます。
 ウマ娘回8話目。ついにちゃんとしたレース回です。

 果たして、ツァーリは自己記録を更新できるのか。
 トウカイテイオーとの約束を守れるのか!!


 菊の花。といえば重陽の節句だと思う。

 だが、決戦の舞台は9月9日ではなく10月の中旬。

 

 あの時、僕と一緒に走ったのは、ワールドプレミアだったりヴェロックスがいた。だが、この世界だとどうやら違うらしい。

 

 コツコツと、京都レース場の通路を歩いていた僕を待っていたのは、3人のウマ娘。

 

「何でいるの?」

 と、僕。ズヴィズダツァーリ。

 

「宣戦布告ですわ」

 と、彼女。サートゥルナーリア。

 

「負ける宣言じゃなくて?」

 と、僕。

 

「あんた生意気だよね。ほんと」

 と、ダノンキングリー。

 

「僕が一番だからさ。これまでも、これからも変わらないよ」

 と、僕。

 

「あははー。でも、わたし達も負けない」

 と、ロジャーバローズ。

 

 お淑やかな少女が決意を示し、気怠げな少女が火を灯す。そして、少し気弱な少女が前を見て、六つの眼が僕の体を貫く。

 

「僕はズヴィズダツァーリ(星の皇帝)だよ? 生まれながらの皇帝に、君たちが勝てるとでも?」

 

「勝てる勝てないではありませんわ。勝つんですのよ」

 

 スタミナに不安があるサートゥルナーリア。

 距離適正に不安があるダノンキングリー。

 そして、体の丈夫さとパワーに不安があるロジャーバローズ。

 

 だが、3人は強い気迫で僕を見る。

 良いねぇ。ダノンキングリーは距離適正でマイル中心だったからちょっと違うけど、同世代のライバルってのはこうじゃないと。

 

「なら、僕だけの世代って言われないよう、せいぜい頑張ってね」

 

 僕は勝ち続ける。絶対に。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『さあ、クラシック最終戦である菊花賞。なんといっても中心にいるのはこのウマ娘! これまで無敗! 6戦6勝の二冠を達成しているズヴィズダツァーリ』

 

 1番人気である僕。僕は、案内に従って、1番最初にゲートへと入り、他のウマ娘の状態が整うのを待つ。

 

『さあ大外枠のウマ娘のこれでゲート入り。強さを見せているズヴィズダツァーリが無敗の三冠ウマ娘になるのか。それとも、世代は彼女だけではないと苦渋を舐め続けている他のウマ娘が最後の冠を被るのか』

 

 最後のウマ娘が入り、今か今かと待っていた僕はゲートが開くのを待つ。

 視界から取り入れ条件に対する反応は、確か最速でもコンマ2秒を切ることはないらしい。それ以下に飛び出せば見切り発車。なので、G1・競争に出るトップクラスのほとんどは、0.2秒ぎりぎりのスタートを決める。

 

 もちろん僕は、

「スタート? んなもんで遅れても全員ぶち抜けばいいだろ?」

 と、ゴルシに金言をもらっているので気楽だ。別にスタート遅れても……。

 

『ゲートが開いた!! 優駿が飛び出す!!』

 

 っておーい!! 遅れたじゃねえか!!

 

『スタートまさかのズヴィズダツァーリが出遅れる。ここまで先行で戦ってきたズヴィズダツァーリ。この展開は大丈夫か? 先頭、ハナ争いはロジャーバローズ! ダービーではズヴィズダツァーリに対してクビ差の惜敗!! 今日は見返したいぞ!

 

 さあ注目の4名の位置関係。先頭はロジャーバローズ。2番手の位置。先頭集団でレースを進めています。

 2番人気のサートゥルナーリアは先行集団の固まっているバ群の真ん中あたり、全体の6番手ほどでしょうか。ダノンキングリーは中団。すきを窺いつつ正面スタンド前を通っていきます。

 

 来ました来ました。一番後方ぽつんと一人走っています無敗の二冠ウマ娘、ズヴィズダツァーリ!』

 

 僕がしんがりに入るのは、基本的には最内に入るためのロスを減らしたいから。

 横並びすると基本的に走る距離が伸びてしまってスタミナを持っていかれる。だからと言ってガス欠になるようなスタミナはしてないんだけどさ。それでも、無駄は完全に省く。

 

 観客や一緒に走っているウマ娘たちは、今僕が最後尾にいることに驚いているだろう。だが、僕にとってはここが定位置。

 歓声が大きいスタンド。チームスピカの面々。一人一人の顔がはっきりわかる。

 

 少しだけ不安そうな顔をしているダイワスカーレット先輩。

 歯を食いしばって見つめ続けるウオッカ先輩。

 スペシャルウィーク先輩は両手を胸の前で抱えていて、ゴルシは……。なんか法被着てた。

 

「あは……。心配性じゃん」

 

 同じステイヤーのメジロマックイーン先輩も見た感じ不安そうな表情。でも、ダイワスカーレット先輩ほどじゃないかな? よく一緒に走ってるから、実力は知ってる。って感じ。

 

「あと、逆に笑顔過ぎ……」

 

 なんであんたが。と口にしたくなったが、今はレース中。よそ見してたら先生に怒られる。

 でも、頭の中に焼き付いた、トウカイテイオー先輩の笑顔。自信満々な表情で僕を見つめていて、口元は三日月。まるで絶対がここにあるとでも言いたげな表情。

 

「いいね。上がるな」

 

 背中に乗っていた先生が、有馬記念の時に呟いた言葉。だが、今の心情を表すにはちょうどいい。

 

『さあサートゥルナーリアと並走するかと思われていたズヴィズダツァーリ。出遅れの後そのまま最後尾で足を溜めているのか? 先頭はすでに2コーナー手前。もう向こう正面か? っと!? どうした!? どうしたんだズヴィズダツァーリ!?』

 

「え?」

 

「なんで!?」

 

 一歩。踏みしめる。

 跳ね返ってくる反発力を生かして、一歩ごとにスピードを上げていく。

 コーナーの曲がり方は内側ではなく外側。距離は必要になるが、その分角度に余裕ができ、向こう正面に入ったときに一段階ペースアップができる。

 

   何かに没入する感覚があった。

 

   いつかそれが何か分かるのだが、それに僕は名前をつけた

 

   天球駆ける瑕疵なき黒星

 

 

「っつ!?」

 

 僕がスピードを上げたことによって、まず中団グループの面々の視野が狭まる。そして、後ろから抜いていく僕のペースによって自分たちのリズムが崩れ、そのままスタミナを無駄に使う。

 

「ツァーリさん……」

 

『さあズヴィズダツァーリが上がってくる、大丈夫なのかズヴィズダツァーリ!! 向正面半分だが一人! また一人抜いて行く! 後ろの方にいた青鹿毛が上がってきている!! 向こう正面真ん中ほどでしょうか? もうダノンキングリーとサートゥルナーリアを交わしている! なんということだズヴィズダツァーリ。ミスターシービーもゴールドシップもこれほどの仕掛けはしていないぞ!! 向こう正面中間すでにズヴィズダツァーリは三番手』

 

 ここで意固地になってスピードを、ペースを上げようとすれば僕の思う壺。こんな自滅的に見える走りだが、しっかりと沖野トレーナーと組み立てた戦い方。

 

「ツァーリ!?」

 

 3コーナー手前で抜かしたロジャーバローズ。

 

 中団は、僕のペースに乱されてスタミナを失い、先行は、僕が近づいていることで冷静さを無くす。

 どうやら、この世界では馬と騎手ではなく、ウマ娘個人が戦う世界である以上、心を揺さぶった方が強い戦略になる。

 

「行けるか? 57秒台」

 

 あとは、最高の状態の最内を、全速力で、止まることなく飛ばしきるだけ。

 

 

 スキル発動

『先陣の心得』

レース中盤に大きく差をつけ先頭だとリードを保ちやすい

『内的体験』

最終コーナーで内ラチ側にいると速度が上がる

 

『さあ4コーナーを回ってきたのはズヴィズダツァーリただ一人!! 他のウマ娘ははるか後方で二番手争いとなっている。ツァーリ! ツァーリが速い!

 一人旅状態で4コーナー抜けて行く!! 速い!! 速過ぎる!! このまま持てば、いや、バテたとしてもレコードか!?

 一人だけが正面スタンドに戻ってくる! 大歓声を受けても! 皇帝は! なお止まらないッ!!』

 

 

 スキル発動

『全身全霊』

ラストスパートで速度が上がる

 

「見とけよ……。これが……。ズヴィズダツァーリ(星の皇帝)だっ!!」

 

『強い! 強すぎるぞズヴィズダツァーリ! 前にも後ろにも敵はいない! 4コーナーを抜けたバ群は決して届かない! これが! これが皇帝の名を背負うもの!! 皇帝の名を体現するものの走り!!

 

 星帝天駆けッ! 眼前他に無しッ!!

 

 25バ身以上の差を開き! 世代の皇帝が! 無敗で三冠達成!!』

 

 誰よりも先にゴールした僕。はるか後方。遅れてゴールしたウマ娘の先頭にいたのは、2頭だった。

 

『2着争い!! 縺れる縺れる!! どっちだ! どっちだ!! 同着か!!』

 

 ドドドドと芝を駆ける音が近づき、他のウマ娘がゴール板を越えて僕の所へとやってくる。

 

『1着ズヴィズダツァーリの勝ち時計! 勝ち時計は……。事件です!! 2分57秒9という事件!! ウマ娘の歴史、固く閉ざされた3000メートル3分の壁を無理やりこじ開けました!! なんという力! なんという強さ! これが、シンボリルドルフに続く無敗三冠ウマ娘!!』

 

 肩で息を切らすサートゥルナーリアとロジャーバローズは、写真判定の後同着。その後ろに半バ身差で4着が続いた。残念ながらダノンキングリーは距離適性の問題から6着。掲示板に乗ることすら叶わなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「今日はウイニングライブにまで来ていただいてありがとう!!」

 

 菊花賞に勝ったことで、三度目となる『winning the soul』を歌唱していた。

 スタンドマイクを持ち、しっかりと強い声で叫ぶように。

 

 正直、走るのがメインのはずなのに、ライブまでする意味が分からないが、ルールには従おう。僕は長いものには巻かれる……。巻かれてるのか? 僕。

 

「無事! 三冠ウマ娘になることができたので、間奏の間に宣言します!!」

 

 僕がそう言えば、青色のペンライトを握る観客たちは大いに盛り上がり、そのまま僕の名前を呼んでくれる。

 

「僕は、全ウマ娘の頂点に立つ!! 全てのレースに勝ち続ける!!」

 

 次のレース、有馬記念に出るつもりだったけど、このまま秋古馬……じゃなくて、秋シニア三冠取りに行くのも面白いよな。ンで、来年の春には春シニア三冠。国内蹴散らしたら、海外。競走馬時代の4歳時にできなかったことを、この世界で達成する。

 

「僕はズヴィズダツァーリ!!」

 

 

   絶対は、僕だ。

 

 観客席の中段で僕のライブを見ていたトウカイテイオー先輩に指を指し。高らかに宣言する。

 彼女は、笑顔のままで何か口を動かしていた。

 

 正直、なんて言ったかは分からないが、たぶん、がんばれとかそんなところだろう。

 まあ、やるだけやろう。テイオーは、勝手に僕に夢を見とけ。見せてやる。

 

 あ……。秋天月末だから無理じゃね?




 固有スキル
『天球駆ける瑕疵なき黒星』
向正面でスピードを上げ、3コーナーまでに6人以上ウマ娘を抜けた時、3コーナーで少し息を入れ、3コーナーの時点で先頭になった時、更に加速力が上がる。

 わーいわーい。ぶっ壊れだー!

 あーこのままジャパンカップと有馬で勝ったらコント君が絶望しちゃうよ。
 菊花賞勝ちージャパンカップ負けはルドルフとコントで懲りてるって(笑)

 あと、このタイミングで金スキル持ってんのは気にしないで。
 だってツァーリだもん。


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競走馬ー18:大阪杯、春天、掲示板

 大阪杯、春天、ダイジェストでご覧ください(笑)

 あと、掲示板に誤字見つけても触れるなー!!(切実)


 2021年シーズン。僕の初戦は、4月4日からとなった。

 

『さあ3コーナー手前で最強馬ズヴィズダツァーリが上がってくる。おっとコントレイルとグランアレグリアも同様に上がってくる。先頭は変わらずレイパパレ。レイパパレが先頭のまま4コーナー回る。逃げるレイパパレ! レイパパレ逃げるが駄目だ! 三頭上がってくる!!』

 

 G1競走・大阪杯。阪神競馬場で行われたレースは、見事なまでの雨だった。

 圧倒的な支持を受けた僕が一番人気となり、2番人気には後輩三冠馬のコントレイル。そして3番目にグランアレグリア。

 正直、先生と一緒に初めての重馬場に不安でいっぱいだったが、思っていた以上に走りやすくて、良い意味でビビっていた。

 

 なんというか、足を取られると思っていたが、少し沈むだけで逆に足が引っかかるような感覚を覚えた。

 

 行ける。向正面で僕と先生は同じ考えを持ち、そのまま3コーナー目で一気に飛び出す。

 

『阪神の直線は約350!! 直線入ってレイパパレはコース真ん中、外側から三頭横並び!! 三冠馬が伸びる! 伸びる! 伸びる!』

 

「負けない!!」

 

「勝つ! 勝つ! 勝つ!」

 

 コントレイルから聞こえる声をかき消すように。自分の心に言い聞かせるように何度も何度も声を出した僕は、先生の鞭に合わせてどんどん加速する。

 

『三冠馬同士の叩き合い!! 並んだまま! 並んだまま! 並んだまま! いやツァーリだ! ツァーリが伸びる』

 

 ここで足を止めて僕は負けた。そんな負け方なんていらない。負けるなら全力の叩き合いで。まあ、それでも負けないんだけどね。

 

『星帝だ! 星帝だ! 星帝が抜け出した!』

 

 うん、やっぱり短い。でも、1番最初にゴール板を越えるのは、僕だ。

 

『コントレイルは届かない! やはりツァーリだ!! やはり星帝は強かったぁ  ッ!!

 

 重馬場に対して少なくとも今はネガティブな要素がないことが分かった。重馬場の柔らかい芝は、凱旋門賞の洋芝と似通った点がある。なんておっちゃんが言ってたから、また放牧なり調教の時に雨の時はしっかり練習して行こう。

 

 

 

 そして2戦目は5月2日。去年ケガしてしまった春の天皇賞。

 僕は2連覇をかけて戦うこととなった。ただ、舞台は去年の京都競馬場と異なり阪神競馬場。

 

『さあ27年ぶりに開催される阪神競馬場での天皇賞・春! 外回りを使用する1周目を抜け、1~2コーナー中間、さあ長距離の王が早くも動き始める最後方にいたズヴィズダツァーリが動き始めた。このコースは大きな坂はなく、最終直線の坂が肝。

 向正面中間。すでにズヴィズダツァーリは前から数えた方が早い状態。ツァーリの超々ロングスパートにペースを崩されているか、他の馬もペースが上がっていく。さあ内回りの3コーナー先頭で入ってくるズヴィズダツァーリ! まだまだスピードを上げながら4コーナー。もう完全に一人旅の状態!!』

 

 先生、阪神の3200長くない? なんか4000くらい走ってる気がするんだけど、知らないうちに距離伸びてないよね!?

 

『基本的に隊列は動かないまま内回り4コーナー抜けてからのスパートとは思いますが、この馬に常識なんてありません。この馬が通った道が王道。覇道!! ワールドプレミア、ディープポンドも動き始めているがどうなる!!』

 

「ツァーリ、行こう」

 

 けど、平坦な分、本当に4000走っても問題ないよ。何時振りかわかんないくらい全速力だし、下り坂も使ってスピード上げてるから。でも、苦しいんじゃなくって丁度良いよ。このタフさ。

 

 馬なり? 鞭を打たずに進めていくのかな? なんて考えていたけど、先生に油断もないらしい。

 

『静かな正面スタンド前、走ってくるズヴィズダツァーリ! ワールドプレミアが追いすがるが距離は縮まらない! 強い! 強すぎる! 後ろを確認した鞍上打田、もう鞭は打たない』

 

 ふー。京都の春天より、こっちの春天の方がいいかもね。なんて思いつつも、先生の指示で流しながらゴール板を通過する。

 

『星の皇帝!! 春の天皇賞2連覇!! コースは違いますが、キタサンブラックのレースレコードタイ、3分12秒5で春古馬2冠達成!! 2着のワールドプレミアには、10馬身差の圧勝劇!! 残る冠は、阪神3連戦の最終戦ともなる、宝塚記念!!』

 

 っていう感じで、春の2戦を制することができた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

最後方から煌めく一等星・星の皇帝ズヴィズダツァーリを応援するスレ part.26

 

1:名無しの紙吹雪おじさん ID:6mybPUU+n

上記タイトルのように、2018年デビューの5歳馬。現在国内最強であり13/14を達成しても史上初の春古馬三冠に王手かけてるズヴィズダツァーリを応援するスレです。

基本どなたも参加おkですが、ズヴィズダツァーリと全く関係ない話はNGで。

 

・アンチ

・荒らしと荒らしに触れるやつ

上記2点ノータッチで

 

前スレはこちら 最後方から煌めく一等星・星の皇帝ズヴィズダツァーリを応援するスレ part.26

 

他の馬の話はその馬のスレで

最後方から煌めく一等星・星の皇帝ズヴィズダツァーリを応援するスレ part.26

反旗を翻した祭宴の神子・星帝被害者の会理事長サートゥルナーリアスレ part.6

1つ上の怪物のせいでシルコレの無敗三冠馬・星帝被害者の会会長コントレイルをいたわるスレ part.8

 

 

2:名無しの紙吹雪おじさん ID:SFX6YlIV1

>>1 スレ立て乙

 

3:名無しの紙吹雪おじさん ID:4ikMLkmD7

マジで春古馬三冠あるんじゃね?

 

4:名無しの紙吹雪おじさん ID:oPqfXqehG

初重場でも全然余裕だったからな。2000の大阪杯勝ってるし、宝塚も行けるだろ

 

5:名無しの紙吹雪おじさん ID:oW0GvFuTI

コース違うとはいえ、キタサンのレコードとタイとか……。さすが星帝

 

6:名無しの紙吹雪おじさん ID:EtRinMYEJ

>>5 なお、最後流してる模様

 

ウチパクが鞭叩いてたらレコードだったんじゃね?

 

7:名無しの紙吹雪おじさん ID:Dm+HsJz82

>>6 十分あり得る

 

大阪杯で2000勝てたわけだしな

 

8:名無しの紙吹雪おじさん ID:zEFkG6aQg

ツァーリより確実に距離適性が合ってるコントとアレグリアを凹してるからな

 

9:名無しの紙吹雪おじさん ID:AD7Fs/X9k

コントレイルとか適正2000以下なのに、俺たちが3冠対決見たいせいで宝塚に駆り出されるやつ

 

10:名無しの紙吹雪おじさん ID:qnlZQS5cP

コントは時代が悪かったよ。マジで

 

11:名無しの紙吹雪おじさん ID:1wa9kHo0r

宝塚出てくるとして、ツァーリとコントと後は?

 

12:名無しの紙吹雪おじさん ID:sBKN4j6jU

>>11 クロノジェネシス

 

13:名無しの紙吹雪おじさん ID:hua56eZ2I

>>11 カレンもじゃね?

 

14:名無しの紙吹雪おじさん ID:7qMtA3Fkw

>>11 キセキ

 

15:名無しの紙吹雪おじさん ID:Q8IvIa0/5

>>14 キセキが全体引っ張ってレコード決戦してほしい

 

16:名無しの紙吹雪おじさん ID:S1/jadRFG

宝塚のレコードと2200レコードわかる奴いる?

 

17:名無しの紙吹雪おじさん ID:D7xANfrPz

>>16 いねえよなぁ!!

 

18:名無しの紙吹雪おじさん ID:iX+mMLSXg

>>16 ggrks

 

19:名無しの紙吹雪おじさん ID:wpThJgMEZ

>>16 rr2:10:1/wr2:08:7/jr2:09:7

 

20:名無しの紙吹雪おじさん ID:PGo1oGPQQ

ちな、ツァーリの記録

 

皐月賞 2000 良 1:57:9

大阪杯 2000 重 2:00:2

ダービー 2400 良 2:22:5

神戸新聞杯 2400 良 2:24:5

jc 2400 良 2:22:9

 

2200は初めてだけど、割と10秒台じゃないかな

 

21:名無しの紙吹雪おじさん ID:r4Rwr6AFf

ツァーリの距離が短すぎる不安がな

 

22:名無しの紙吹雪おじさん ID:nFskMvuYW

2500すら適正じゃない説あるんだろ?

 

23:名無しの紙吹雪おじさん ID:WbIqyTp67

ナーリアに負けてるからな

 

24:名無しの紙吹雪おじさん ID:+0d6m+bTh

ウチパク「大阪杯でしっかり勝てたのはとても大きい。宝塚に向かって不安はありませんし、しっかりと勝てるよう準備している」

友康「状態は良い。有馬記念以降調教でもやる気を見せてるので、このまま仕上げまでいけば問題ない」

 

25:名無しの紙吹雪おじさん ID:9b49P8Csm

ツァーリに真正面から勝てる要素ある?

有馬はウチパクが自分のミスとか言ってたけど

 

26:名無しの紙吹雪おじさん ID:2I3FyJUGM

>>25 距離適正以外ない

 

27:名無しの紙吹雪おじさん ID:aco3pIT6R

1800以下 出走しない(ギアが上がり切らない)

2500以下 出れなくない(ページ次第で)

2701以上 無敵

 

28:名無しの紙吹雪おじさん ID:fVat2rfvX

結局、ツァーリのエンジンがかかりきらん可能性を願うしかない。

 

29:名無しの紙吹雪おじさん ID:B224AgbI5

両古馬三冠狙いだろ?

 

30:名無しの紙吹雪おじさん ID:d7jXRJ7jY

>>29 春古馬+凱旋門賞+秋古馬の七冠馬

 

31:名無しの紙吹雪おじさん ID:PwhEn9NXh

凱旋門行くの?

 

32:名無しの紙吹雪おじさん ID:bQFLYEYd8

多分怪我なかったら去年海外遠征してただろうな。

 

33:名無しの紙吹雪おじさん ID:3Th4Z5hZB

凱旋門賞と秋古馬三冠とか、秋天どうすんの

 

34:名無しの紙吹雪おじさん ID:TBWFpqarR

地獄としか言いようのないローテ

 

35:名無しの紙吹雪おじさん ID:VvujH0QZG

ゲームじゃなきゃ見れんよな

 

36:名無しの紙吹雪おじさん ID:rpX717EfO

フォワ賞行くだろ? 宝塚からずっとあっちか

 

37:名無しの紙吹雪おじさん ID:ClA1Ld/OP

ツァーリクラスだと余裕で出られるだろうけど

 

38:名無しの紙吹雪おじさん ID:OQJmNggI7

サートゥルナーリアが勝ったものの、基本的に国内敵なしだからな

 

39:名無しの紙吹雪おじさん ID:xkfwizZKF

てか、ツァーリの大阪杯見てマジ敵いねぇわってなった

 

40:名無しの紙吹雪おじさん ID:kCn2b7HGy

多分ナーリア陣営は勲章もんだろ。ツァーリに勝ったし

 

41:名無しの紙吹雪おじさん ID:Nsg8D0Q52

裂蹄なかったら宝塚で引退だろ?

 

42:名無しの紙吹雪おじさん ID:wjeckHHSa

>>41 勝ち逃げは許されんだろ

 

大魔神「有馬記念で負けたことで、ツァーリはチャンピオンからチャレンジャーになった。気合も十分だし、是非お礼参りをさせてあげたい」

 

43:名無しの紙吹雪おじさん ID:p5W8eE8Bd

けど、ルドルフとかディープみたいに絶対殺すマンになってそう

 

44:名無しの紙吹雪おじさん ID:5u0/uSMDh

さすがに今年の有馬で引退だろうし、最初で最後のリベンジチャンスだろ

 

45:名無しの紙吹雪おじさん ID:SsjwgcrkV

あの勝負が後一回しか無いのか

 

46:名無しの紙吹雪おじさん ID:n8l1B0r4z

コントレイルとの三冠馬対決はまだあるよ

 

47:名無しの紙吹雪おじさん ID:pnnK2vi3q

コントとかいう三冠馬最弱www

 

48:名無しの紙吹雪おじさん ID:crT/P+eEgy

>>47 お前目付いてない?

 

コントレイルの2着は全部ツァーリが相手だし、あのツァーリ相手に大敗は喫して無い。大阪杯もギリギリのところまでは追い縋ってる。完全に時代のせいで価値がないけど、このまま二着を続けられるなら三冠馬の中でも最強格よ

 

49:名無しの紙吹雪おじさん ID:KshV40tKr

ツァーリ

ディープ=ルドルフ

オルフェ=ナリブ=コント

みたいな感じあるよな

 

50:名無しの紙吹雪おじさん ID:uRxwbjjZ5

>>49 この手の話で一切交われないシービー

 

51:名無しの紙吹雪おじさん ID:8GVeFl4sO

傑物は怪物には勝てなかったんだよ

 

52:名無しの紙吹雪おじさん ID:TJR9X8utx

早くウマ娘に実装されないかな?

 

53:名無しの紙吹雪おじさん ID:Czft8AFDG

流石に現役馬はダメだろ。許可は下りるだろうけど

 

54:名無しの紙吹雪おじさん ID:arY5I2PMp

俺はもうどんな容姿でも良いから、ツァーリを有馬で勝たせるんだ

 

55:名無しの紙吹雪おじさん ID:J/o0L3XGi

そういえば、なんだけど

 

56:名無しの紙吹雪おじさん ID:VvkG17DVx

>>55 どうした?

 

57:名無しの紙吹雪おじさん ID:fNNu3WO+V

大阪杯の後のグランアレグリア何!? ずっとツァーリにすり寄ってんの可愛すぎんだけど

 

58:名無しの紙吹雪おじさん ID:Oy/HrcrgH

あーあれか

 

59:名無しの紙吹雪おじさん ID:Uko/r56HC

グラン→ツァーリの一方通行感すごいけどな

 

60:名無しの紙吹雪おじさん ID:3s5997ZMj

嫌ってる感じでもなかったしな

 

61:名無しの紙吹雪おじさん ID:u9vwS4Q/w

去年のジャパンCのとき三冠四頭集まってたけど、最初コントいなかったから、牝2牡1でなんか話してた

 

62:名無しの紙吹雪おじさん ID:wU+gMNTHC

こ、皇帝やから女侍らすんやで……

 

63:名無しの紙吹雪おじさん ID:TVUtlWZ+w

>>62 なお、当の本人は厩務員のおねーさんに甘えまくりの模様

 

64:名無しの紙吹雪おじさん ID:vOJF58uJm

なんで有馬記念の特番でおねーさん出てこなかったんだよ!!

めっちゃ見たかったのに

 

65:名無しの紙吹雪おじさん ID:u74LCqkjX

てか、ねっと調べてきたけど、あの人の名前さ

 

66:名無しの紙吹雪おじさん ID:Lc4kESduV

ああ、びっくりした

 

67:名無しの紙吹雪おじさん ID:dQJiuneNb

なになに?

 

68:名無しの紙吹雪おじさん ID:JxsZ8nY8V

いや、ツァーリの入場とかパドックとかで引いてる厩務員のお姉さんの名前だよ。自分で調べてみ?

 

http://~~~~~

 

69:名無しの紙吹雪おじさん ID:OjOQnchJr

>>68 これマ?

 

70:名無しの紙吹雪おじさん ID:eFOIA7bTA

>>69 マ

 

 




最近すぐに感想返せてなくてすみません。
ちゃんと全部見てます。

出走成績 14戦13勝 獲得賞金総額18億1500万

18/09/22/土 新馬戦 2000メートル 
 1番人気 1着 2:01:8 700万
18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート
 1番人気 1着 1:45:2 3,300万
18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル
 1番人気 1着 2:01:2 7,000万
   2着 アドマイヤジャスタ 2:01:6 2馬身差

19/04/14/日 皐月賞 2000メートル
 3番人気 1着 1:57:9 11,000万
   2着 サートゥルナーリア 1:58:5 3½馬身差
19/05/26/日 東京優駿(日本ダービー) 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:5 20,000万
   2着 ロジャーバローズ 2:22:5 アタマ差
19/09/22/日 神戸新聞杯(G2) 2400メートル
 1番人気 1着 2:24:5 5,300万
   2着 サートゥルナーリア 2:26:3 大差(約11)
19/10/20/日 菊花賞 3000メートル
 1番人気 1着 2:58:9(WR) 12,000万
   2着 ワールドプレミア 3:03:0 大差(約30)
19/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 1着 2:30:1 30000万
   2着 サートゥルナーリア 2:30:5 2馬身差

20/03/22/日 阪神大賞典(G2) 3000メートル
 1番人気 1着 3:00:1 6700万
   2着 ユーキャンスマイル 3:02:0 大差(約12)
20/05/03/日 天皇賞(春) 3200メートル
 1番人気 1着 3:16:4 15000万
   2着 フィエールマン 3:16:5 1/2馬身差
  裂蹄
20/11/29/日 ジャパンカップ 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:9 30000万
   2着 コントレイル 2:23:1 1馬身差
20/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 2着 2:29:9 12000万 ハナ差
   1着 サートゥルナーリア 2:29:9

21/04/04/日 大阪杯 芝2000メートル
 1番人気 1着 2:00:2 13500万
   2着 コントレイル 2:00:4 2馬身差
21/05/02/日 天皇賞(春) 3200メートル
 1番人気 1着 3:12:5 15000万
   2着 ワールドプレミア 3:14:3 大差(約10)

次走 21/06/27/日 宝塚記念 2200メートル
有力馬 コントレイル クロノジェネシス


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競走馬ー19:宝塚記念 阪神2200M

 しれっとランキングにお邪魔させていただいてるのが度々あって。
 見つけるたびに嬉しくなります。ありがとうございます。

 毎度毎度誤字多くてすみません。いつもありがとうございます。


 宝塚記念。

 

 有馬記念の関西版として、また、上半期総決算の舞台として整えられた、人気投票制で出走馬が決められるグランプリ。舞台は阪神競馬場。距離は2200メートル。

 外回りの第4コーナーからスタートし、内回り一周にて決着するコースであり、スタートから1コーナーまでは500メートル以上。下り坂によって序盤はペースが上がりやすいものの、スタンド前直線の途中にある上り坂などからすぐにペースが落ち着くのが特徴のレース。

 

 正直なところ、僕にとっては短い距離で不安があるが、それでも、僕は勝つ。

 

『元G2競走である産経大阪杯が、2017年に一新し、G1競走大阪杯となってから設立された!春古馬三冠。2000の同レース。そして、3200の春の天皇賞。そしてここ、2200メートルの宝塚記念。

 2017年にこのタフな春の頂を目指したキタサンブラックは、宝塚にて惨敗。それ以来、リーチをかけた馬はいません。しかし、現役古馬最強であるズヴィズダツァーリは、大阪杯を勝ち、春の天皇賞を勝ち、この舞台へと駆け上がりました。

 

 集まった夢は、約15万。誰もが星帝による春の完全制覇を願い、そして、最強の証明を求めます。もちろん、人気も一番で、オッズは脅威の1.6倍。続く2番人気のコントレイル。去年の女王である3番人気のクロノジェネシスとはオッズに差が開いております』

 

 僕の調子はすこぶる良い。体に違和感は全く無くて、ピンピンしている。

 コントレイルもかなり仕上げてきているが、大きな敵ではないような気がする。まあ、気がするに押し留めて、しっかりと戦うのが僕のするべきことなので、それまで。

 

『去年のジャパンカップ。今年の大阪杯と、同じ無敗三冠馬同士の戦いにおいて、常に一歩遅れてしまっているコントレイル。絶対に連対は外さないと粘り続けていますが、遂に偉大なる星帝を自身の飛行機雲にできるのか。それとも後塵に拝してしまうのか』

 

 

宝塚記念 出馬表

馬名展開予想人気

ユニコーンライオン◁◀︎◁◁

レイパパレ◀︎◀︎◁◁

メロディーレーン◁◁◀︎◀︎12

コントレイル◁◀︎◀︎◁

ズヴィズダツァーリ◁◁◁◀︎

シロニイ◁◀︎◀︎◁13

クロノジェネシス◁◀︎◁◁

カデナ◁◁◁◀︎10

アリストテレス◁◀︎◁◁

10カレンブーケドール◁◀︎◀︎◁

11モズベッロ◁◁◀︎◁

12ミスマンマミーア◁◁◀︎◀︎11

13キセキ◁◁◁◁

 

展開予想 過去レースより自動表記

逃げ先行中団後方

13 10 11 12

 

『皆様は私と同じ気持ちでしょう。ズヴィズダツァーリによる史上初の快挙を見届けたい気持ちと、それを阻止する新たなダークホースが出現することの期待。コントレイルか、クロノジェネシスか、それともまた別の馬か』

 

「ツァーリの兄貴! 今日こそ勝ちます!!」

 

「おう。がんばれがんばれ。でも、負けないから」

 

「いいや。私が勝つ。貴方みたいなオスを倒して、メスだって強い事を証明する」

 

「クロノジェネシス。うん。僕は君にも負けないよ」

 

 ゲート入り直前。僕たち三頭が固まり、ほんの少しだけ言葉を交わした。

 三頭とも気合は十分。努めて冷静に。ただ、心は熱く。

 

 おねーさんと先生に促されてゲートに入った僕は、ゲートが開く瞬間まで待つ。

 やがて大外のキセキが枠入りし、準備は完了。そして、飛び出す。

 

『ゲートが開いて、宝塚記念、スタートです!

 

 全馬問題なく出ました。さあハナ争い! お!? ズヴィズダツァーリが前の方にいます。ズヴィズダツァーリが前です』

 

 スタートと同時に鞭が入れられた僕は、前から3番目を狙って飛び出し始めた。宝塚の後、僕は海外に行く。そのため、できる限り脚部に不安は残したくないのが現状で、そのためには最後方からのロングスパートじゃなく、良い位置につけて、しっかりと差し勝つ。所謂好位追走を狙う。

 

 お前は頭がいいから。と、前日だったり、パドックに行く前に先生が大まかな作戦を教えてくれるが、僕としてはありがたい。なんだっけ、身構えてる時に死神は来ないんだっけ? 人時代になんか見たか聞いたかした記憶がある。

 

『長いスタート後の直線。先頭はユニコーンライオン。続いて2番のレイパパレが続きます。13番のキセキが続き、クロノジェネシス。ズヴィズダツァーリがこの位置に。

 カレンブーケドール、アリストテレスと続き先行集団の最後尾には対抗馬コントレイル』

 

 ペースが緩めでよかった。そう思いつつ、しっかりと走る。右側。内ラチ側にいるクロノジェネシスの半馬身後ろ。割と前側だから今までで割と良い芝を走れてるんじゃないかな? なんて思う。跳ねっ返りが凄くいい。

 

 中山とか、京都とかのしっかりとした山がある方が個人的には好き。阪神は、下り坂で楽して足溜めて、最後にズドン! って行くから登ってる気がしないんだよね。基本平坦だし。

 

『1〜2コーナーを抜けて向正面。ズヴィズダツァーリに勝つとすれば、スピードが乗り切る前にリードを保った上で逃げ切るしかない中距離のレース。だが問題のズヴィズダツァーリは鞍上打田に導かれるように先行集団の中!

 前半の1000メートル! タイムは1分ジャスト! 少しゆっくりなペースだが、どうなる?』

 

 僕は、ずっと右側にクロノジェネシスを置いた状態で走っている。

 昨年僕が怪我で出られなかった時に勝った馬。それがクロノジェネシス。多分先生はそれを気にしていてわざと僕を彼女の外側に置いている。

 

 絶対がないのが競馬。僕だって気を抜けば負ける。

 勝つことの要因に絶対はないが、負けることの要因に絶対はある。だから先生は、クロノジェネシスを負かす絶対を選んだ。後方から飛んでくる天馬を無視してでも。

 

『さあ3コーナー! 3コーナー! 馬群がだいぶまとまってくる。先頭はユニコーンライオンがそのまままだが、2番手のレイパレとの差は無い! 5番手ズヴィズダツァーリは少し前に出てきたか? 曲線巧者! 少し膨らんでいる分スピードが上がっているように見えます!』

 

 4コーナーを抜ける直前、後ろを見たのか、先生が小さな声で、「コントが来た」とだけ呟いた。

 そして鞭を入れ、手綱を軽く緩める。

 

「行けツァーリ」

 

 おっけー。面白くなってきたぜ!

 

『さあ直線! 下り坂でスピードを上げていく各馬だが、クロノジェネシスとズヴィズダツァーリの二頭が飛び出していく! 二頭並んで居るが? おっとクロノジェネシス前のユニコーンライオンとレイパパレに塞がれて抜け出せない!?

 その隙に大外から上がってきたコントレイル!! やはり決戦はこの二頭なのか!? 逃げるツァーリ! 追うコントレイル!!』

 

 やばい! 速度が上がんないよ先生!! 距離が足りん!!

 

 溜めた足を解放しつつ、速度を上げるが、普段に比べればかなり幅が小さい。距離が短いのもあるし、いくらスローペースとは言え長く足を使っている。

 逆にコントレイルは、ある程度後ろ目で溜めてきた分があり、僕よりも多く残っていたのだろう。クロノジェネシスを無視して3コーナーで飛び出すべきだった? 

 

 いや、踏み込めよ僕! スピードは無くても、跳ねっ返りのいいこの場所なら、パワーで無理やり上げれるはず!

 

 勝つんだ、僕は!

 

 視界の横に映った同じ青鹿毛に、僕はそう叫んだ。

 

『コントレイルが! コントレイルが少し前か? 体勢有利のまま!』

 

 下り坂が終わった。泣いても笑ってもこの坂を登り切ればこのレースは終わり。

 

『遂にコントレイルが! いや差し返しているツァーリ! まだコントレイルが僅かに前か? 前か!? いや、ツァーリだ!!』

 

 僕とコントレイル。どっちが前だったか分からない。体勢有利とか、正直僕には分からない。ただ、観客席から聞こえてくる歓喜の声が、遂に先輩を超えたコントレイルへの歓声ではなく、僕に向けてのものだと確信していた。

 

『は、ハナ差! ハナ差で勝ったのはズヴィズダツァーリ! ズヴィズダツァーリです!!』

 

 場内アナウンスの声が聞こえてくるまで、僕は掲示板に表記されていたタイムを眺めていただけだったが、そこに表れていたのは、初めて見る『写真』の文字。

 

「安心しろツァーリ。お前が一番だ」

 

 ポンポンと、首筋を叩いてくれた先生にありがとうと一つ鳴くと、次に起きたのは、大きな拍手。

 

 掲示板の馬番号だけ変わらず、着差の文字が、『写真』から『ハナ』に変わったから。

 

「っし!!」

 

 ガッツポーズをする先生は、背中の上で三本指を上げると、

 

『やった! やりましたズヴィズダツァーリと打田幸博!! 大阪杯、春天、そしてここ宝塚記念! 史上初の春古馬三冠達成!! 星帝が目指す舞台! 次はフランス! ロンシャンを目指して!!』




出走成績 15戦14勝 獲得賞金総額22億6500万

18/09/22/土 新馬戦 2000メートル 
 1番人気 1着 2:01:8 700万
18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート
 1番人気 1着 1:45:2 3,300万
18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル
 1番人気 1着 2:01:2 7,000万
   2着 アドマイヤジャスタ 2:01:6 2馬身差

19/04/14/日 皐月賞 2000メートル
 3番人気 1着 1:57:9 11,000万
   2着 サートゥルナーリア 1:58:5 3½馬身差
19/05/26/日 東京優駿(日本ダービー) 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:5 20,000万
   2着 ロジャーバローズ 2:22:5 アタマ差
19/09/22/日 神戸新聞杯(G2) 2400メートル
 1番人気 1着 2:24:5 5,300万
   2着 サートゥルナーリア 2:26:3 大差(約11)
19/10/20/日 菊花賞 3000メートル
 1番人気 1着 2:58:9(WR) 12,000万
   2着 ワールドプレミア 3:03:0 大差(約30)
      クラシック三冠 10000万
19/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 1着 2:30:1 30000万
   2着 サートゥルナーリア 2:30:5 2馬身差

20/03/22/日 阪神大賞典(G2) 3000メートル
 1番人気 1着 3:00:1 6700万
   2着 ユーキャンスマイル 3:02:0 大差(約12)
20/05/03/日 天皇賞(春) 3200メートル
 1番人気 1着 3:16:4 15000万
   2着 フィエールマン 3:16:5 1/2馬身差
  裂蹄
20/11/29/日 ジャパンカップ 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:9 30000万
   2着 コントレイル 2:23:1 1馬身差
20/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 2着 2:29:9 12000万 ハナ差
   1着 サートゥルナーリア 2:29:9

21/04/04/日 大阪杯 芝2000メートル
 1番人気 1着 2:00:2 13500万
   2着 コントレイル 2:00:4 2馬身差
21/05/02/日 天皇賞(春) 3200メートル
 1番人気 1着 3:12:5 15000万
   2着 ワールドプレミア 3:14:3 大差(約10)
21/06/27/日 宝塚記念 2200メートル
 1番人気 1着 2:10:7 15000万
   2着 コントレイル 同タイム ハナ差
      春古馬三冠 20000万

次走 21/09/12/日 フォワ賞(仏G2)
日本馬 ズヴィズダツァーリ ディープポンド


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競走馬ー20:フランスの地

 ずっとディープボンドじゃなくて、ポンドって書いてた。

 ネットでステゴ産駒調べてたけど、あの一族って顔芸しないと死ぬ病気?


 イェーイ! フランスフランスー。

 

「ツァーリ、今日は凄く元気ですね」

 

「だな。元気な分にはありがたいよ。あっちじゃねーちゃんいるから、環境が激変することもないだろうしな」

 

 そうそう! おねーさんが居れば何とかなる!!

 ブラッシング気持ちいいしー。シャワーも上手だしー。

 自分の身の回りを世話してくれるお姉さん? つまりこれは……。美人嫁。なのでは?

 

「なんというか、ツァーリがものすごく私を見てくるんですが……」

 

 そんなことないそんなことない。ツァーリさん紳士だから。

 

 って、そんな話はどうでも良くて、フランスだよフランス! 海外!!

 多分だけど、人間だった時の僕は海外旅行なんて縁がなかった。と思う。海外に行けるような家じゃなかったはずなんだよね。よく覚えてないけど。

 だからさ、走ることが目的とは言え、海外旅行は初めてなんだよなぁ。だから楽しみ!

 

 そりゃあテンションも爆上がりでしょ! 聳り立つでしょ!!

 飛行機にも乗れるんだからさぁ!! 最高でしょ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことを、思っていた時期がありました。ええ。

 

「クソ飛行機!! コントレイル! ゼッテー許さん! うるさすぎてムカついたし揺れるし最悪!!」

 

 ブモブモと鼻を鳴らし、足で地面を掻き。イライラしてます!! と分かる行動をし続ける僕を見て、おっちゃんの顔がすごく引き攣っていた。

 

「いやぁ、こっち着いてからずっと暴れてんなツァーリ……」

 

「はい。飛行機が嫌だったんですかね……。馬運車の中でも結構苛立っているような雰囲気あったらしいですし」

 

 馬運車はよかったよおねーさん。でもね、飛行機はクソ。クソオブクソ。もうね、馬の生涯だと日本に戻るときだけでいい。絶対凱旋門賞取って2度と来ないでいいようにする。

 競馬に絶対はないらしいけど、決心したんだ。可能ならば実行し、不可能でも断行する。

 

「とりあえずはこちらの芝に慣れさせないとですね」

 

「検査が終わり次第フォワ賞に向けて。そのまま一気に調整を終わらせましょう」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

最後方から煌めく一等星・星の皇帝ズヴィズダツァーリを応援するスレ part.31

 

378:名無しの紙吹雪おじさん ID:cajBnTE5t

ツァーリは今頃フランスか

 

379:名無しの紙吹雪おじさん ID:sUeMsI1kS

芝大丈夫かな

 

380:名無しの紙吹雪おじさん ID:jaZZDAgsq

重馬場とも違うんだろ? 洋芝って

 

381:名無しの紙吹雪おじさん ID:7gzblk5gO

>>380 根の張り方が違う。

 

382:名無しの紙吹雪おじさん ID:SqoFIWDQj

>>380 根が真っ直ぐで深いのが洋芝 根が横に広がってるのが和芝

 

383:名無しの紙吹雪おじさん ID:lDCXpUr3/

ヤベェ、現地映像これ

 

https://〜〜〜〜/

 

384:名無しの紙吹雪おじさん ID:yYbUB6c7I

え?

 

385:名無しの紙吹雪おじさん ID:f5DfoNSI9

あれ? 黒色のオルフェがいるような……

 

386:名無しの紙吹雪おじさん ID:XVVdYmwtR

川添! 川添を連れてこい!!

 

387:名無しの紙吹雪おじさん ID:Al6riC/gM

厩務員のねーちゃん「飛行機移動でだいぶストレスがかかったのか、ワガママになっています」

友康「ここまでキレてるのは初めてです。洋芝の感覚も嫌いみたいで」

 

388:名無しの紙吹雪おじさん ID:RUOcbpZxM

ツァーリもキレるんやな。

 

389:名無しの紙吹雪おじさん ID:g97Lofbpe

>>388 オルフェの産駒だし……

 

390:名無しの紙吹雪おじさん ID:p0w+DFyWB

てか、そろそろフォワ賞?

 

391:名無しの紙吹雪おじさん ID:rUWprSCKy

生放送だとそうだな。実況するならしてくれ

 

392:名無しの紙吹雪おじさん ID:L9N95gcEd

フォワ賞出るのってツァーリとディープボンドで合ってる?

 

393:名無しの紙吹雪おじさん ID:UGzoMSbQ7

>>393 合ってる

 

394:名無しの紙吹雪おじさん ID:xQ8wTSxhi

凱旋門賞はツァーリとクロノとボンドの三頭

 

395:名無しの紙吹雪おじさん ID:rDOMuoHA2

7頭立

2番ボンド 7番ツァーリ

 

396:名無しの紙吹雪おじさん ID:N/WXFOt6w

>>395 さんくす

 

良芝なら多分2分半とかそこら辺?

 

397:名無しの紙吹雪おじさん ID:VNgKbq0R4

多分。このコースって後ろ厳しいと思うんだけど、ツァーリは先行で行くのかな?

 

398:名無しの紙吹雪おじさん ID:zn69decHf

どうだろな。数も少ないし、馬群の外側つけてるんじゃないの?

 

399:名無しの紙吹雪おじさん ID:O0rmlzo6x

あっ……

 

400:名無しの紙吹雪おじさん ID:3AfLfEGfZ

ツァーリさん!?

 

401:名無しの紙吹雪おじさん ID://a3/xn/z

>>339

>>340

 

何があった?

 

402:名無しの紙吹雪おじさん ID:mteHnUzRX

【速報】ツァーリ出遅れ

 

403:名無しの紙吹雪おじさん ID:Am+3NYh/q

【速報】ボンド逃げ

 

404:名無しの紙吹雪おじさん ID:X4i9XQzbJ

ツァーリ?

 

405:名無しの紙吹雪おじさん ID:iRPlMxeQb

さ、最初坂だから、多分

 

406:名無しの紙吹雪おじさん ID:YlvWpL21v

場所選ぶためにわざと出遅れたんだよ

 

407:名無しの紙吹雪おじさん ID:tXUBRjNLS

ボンド結構良い、先頭で引っ張ってる

 

408:名無しの紙吹雪おじさん ID:quTF8gI31

ツァーリさんは安定の最後尾か。前とは何馬身なんだろ

 

409:名無しの紙吹雪おじさん ID:vhzggBblN

>>408 一馬身

 

全体でも7馬身くらいでまとまってる

 

410:名無しの紙吹雪おじさん ID:u4WBTk+tL

あー。緊張する

 

411:名無しの紙吹雪おじさん ID:wU/bs2F0+

【速報】ツァーリが気付けば二番手

 

412:名無しの紙吹雪おじさん ID:M/JUJLioa

>>411 何が合ったの?

 

413:名無しの紙吹雪おじさん ID:KlEwob1jL

どゆことや

 

414:名無しの紙吹雪おじさん ID:3twXc6YPd

ロンシャンの奥の急坂で一気に上がってきて、

ディープボンドの半馬身後ろにおる。こいつやべぇ

 

415:名無しの紙吹雪おじさん ID:nubuzMXre

下り坂は? いつもなら飛ばすけど

 

416:名無しの紙吹雪おじさん ID:G3jlUsaDR

>>415 めちゃくちゃ大人しく走っとるで

 

417:名無しの紙吹雪おじさん ID:zJUvU0I63

ツァーリがやばい

 

418:名無しの紙吹雪おじさん ID:AXj+2EnQx

エグっ、ボンドに謝れ

 

419:名無しの紙吹雪おじさん ID:R+6zSH0oC

>>418 kwsk

 

420:名無しの紙吹雪おじさん ID:s4ej85b6E

ボンド=鞭めっちゃ入れてる

ツァーリ=馬なり

で並走してる

 

421:名無しの紙吹雪おじさん ID:++vEKGmeO

勝った

 

422:名無しの紙吹雪おじさん ID:+Bkgoe90F

【速報】ツァーリが馬なりのまま一馬身差で勝った

 

423:名無しの紙吹雪おじさん ID:Yz027aAuB

ツァーリよし!

 

424:名無しの紙吹雪おじさん ID:saLO/fcyn

お辞儀は? お辞儀してる?

 

425:名無しの紙吹雪おじさん ID:GHjsBF60S

>>424 してない

 

426:名無しの紙吹雪おじさん ID:r6DVIQ3/J

うわぁ。これで今年も勝てなかったらどんな馬でも凱旋門取れねえよ

 

427:名無しの紙吹雪おじさん ID:hzQBDUhUl

ツァーリならやる!

三冠とってヴィルシーナの無念を晴らしたんだ。

次はオルフェの無念を晴らす。

 

 

 




出走成績 16戦15勝
獲得賞金総額22億6500万+13万ユーロ

18/09/22/土 新馬戦 2000メートル 
 1番人気 1着 2:01:8 700万
18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート
 1番人気 1着 1:45:2 3,300万
18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル
 1番人気 1着 2:01:2 7,000万
   2着 アドマイヤジャスタ 2:01:6 2馬身差

19/04/14/日 皐月賞 2000メートル
 3番人気 1着 1:57:9 11,000万
   2着 サートゥルナーリア 1:58:5 3½馬身差
19/05/26/日 東京優駿(日本ダービー) 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:5 20,000万
   2着 ロジャーバローズ 2:22:5 アタマ差
19/09/22/日 神戸新聞杯(G2) 2400メートル
 1番人気 1着 2:24:5 5,300万
   2着 サートゥルナーリア 2:26:3 大差(約11)
19/10/20/日 菊花賞 3000メートル
 1番人気 1着 2:58:9(WR) 12,000万
   2着 ワールドプレミア 3:03:0 大差(約30)
      クラシック三冠 10000万
19/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 1着 2:30:1 30000万
   2着 サートゥルナーリア 2:30:5 2馬身差

20/03/22/日 阪神大賞典(G2) 3000メートル
 1番人気 1着 3:00:1 6700万
   2着 ユーキャンスマイル 3:02:0 大差(約12)
20/05/03/日 天皇賞(春) 3200メートル
 1番人気 1着 3:16:4 15000万
   2着 フィエールマン 3:16:5 1/2馬身差
  裂蹄
20/11/29/日 ジャパンカップ 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:9 30000万
   2着 コントレイル 2:23:1 1馬身差
20/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 2着 2:29:9 12000万 ハナ差
   1着 サートゥルナーリア 2:29:9

21/04/04/日 大阪杯 芝2000メートル
 1番人気 1着 2:00:2 13500万
   2着 コントレイル 2:00:4 2馬身差
21/05/02/日 天皇賞(春) 3200メートル
 1番人気 1着 3:12:5 15000万
   2着 ワールドプレミア 3:14:3 大差(約10)
21/06/27/日 宝塚記念 2200メートル
 1番人気 1着 2:10:7 15000万
   2着 コントレイル 同タイム ハナ差
      春古馬三冠 20000万
21/09/21/日 フォワ賞(G2) 芝2400メートル
 1番人気 1着 2:31:6 13万ユーロ
   2着 ディープボンド 2:31:8 1馬身差

次走 21/10/03/日 凱旋門賞 2400メートル
出走日本馬 ズヴィズダツァーリ クロノジェネシス ディープボンド


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競走馬ー21:頂点という夢 凱旋門賞 芝2400メートル

 全てのホースマンが目指す夢。

 その一つが、東京優駿。つまりはダービー。

 

 ダービーが大晦日で、翌日が正月だと言うホースマンもいるほど、日本競馬会の中心にあるのが、そのレース。

 

 だが、日本の馬が届かない頂。

 牡馬も牝馬も関係なく、優秀な種牡馬と繁殖牝馬の選定競争であり、ヨーロッパだけでなく、世界中から名馬が集まる2400メートルの舞台。

 

 あの怪鳥、エルコンドルパサーも届かず、

 あの英雄、ディープインパクトも届かず、

 あの祝祭士、ナカヤマフェスタも届かず、

 あの黄金の暴君、オルフェーヴルですら届かなかった。

 

 勝とう。

 大魔神が、いや、佐崎さんがぽつりと呟いた。

 

 オルフェーヴルは俺の持ち馬じゃないし、こんなこと言うのもお門違いだとは思う。

 そう前置きを置いて、ズヴィズダツァーリ()と、打田幸博(先生)と、友康道夫(おっちゃん)と、厩務員(おねーさん)の前で、佐崎浩一(大魔神)は話し始める。

 

「ツァーリは時代の寵児だ。競馬の神様が作り出した、ディープよりももっと奇跡に近い馬だと俺は思ってる。

 そんなディープが届かなかったところに、こいつの父親がいた。オルフェーヴルは、2年連続2着。三冠馬で、有馬記念であんなすごい勝ち方したオルフェーヴルも、2着を味わってる。

 でも、俺たちはもっと2着に泣いてきた。ヴィルシーナは、ジェンティルドンナに何度負けても喰らい付いて、エリザベス女王杯に打田さんと勝つことができた。ツァーリは、牝馬三冠を取れなかったヴィルシーナの無念を晴らすようにクラシックを取った。そのまま無敗で有馬も勝って、オペラオー以来の年間無敗も取った」

 

 ゴクリ。と、大魔神が生唾を飲んだ音を、僕の耳が捉えた。

 

「これまでの成績で、ツァーリは母親を超えた。でも、まだ凱旋門賞2着の暴君を超えてない。たとえ無敗三冠でも、年間無敗でも、長距離ローテ覇者でも、春古馬三冠でも、父親をまだ超えてない。だから、超えるぞ。俺たちのチビが、ズヴィズダツァーリ(星の皇帝)が、世界のどこを見ても一番強くて、カッコいいやつだって証明しよう」

 

 いいね。父を超える。上がってくる。

 フォワ賞走って、やっぱり2400の距離は短いけど、それでもダービーとジャパンカップみたいな2400とは違う。

 足元の違い。坂の角度。

 

「発表だと重馬場。芝の違いはありますが、ツァーリのパワーは大阪杯で重馬場でも問題ないと証明してる。あとはツァーリの強さを信じて」

 

「ええ。大外ぶん回して来てください。ツァーリは、その戦い方が一番強い」

 

 うんうん。おっちゃんと先生はよく分かってるね。

 じゃあいっちょ気張ろう。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『さあ、10月の第一日曜日。フランス、パリロンシャン競馬場に、凱旋門賞がやって来ました! 今日の一戦! 各国の最強格が集まる凱旋門賞に挑む日本馬三頭。

 

 まずはキズナ産駒ディープボンド。前走のフォワ賞では2着、阪神大賞典で勝ち、春の天皇賞では3着とスタミナ自慢!

 続いて日本を代表する牝馬。2020年の宝塚記念を制しているクロノジェネシス。血統的にも欧州に通用する血を持っていますから、好走を期待!

 そして最後に、日本が誇る最強馬。16戦15勝、星の皇帝ズヴィズダツァーリ。父オルフェーヴルの忘れ物を息子であるこの馬が掴み取るのか!

 さあ、本日の出馬表をご覧ください!』

 

 日本馬の馬番とゲート番号は、僕が5番の4枠。ディープボンドが2番の5枠。クロノジェネシスが7番の14枠。

 

 枠入り前、何を言うでもなく集まった僕たち三頭。ディープボンドはフォワ賞で僕に負けていて、僕に対してすごく敵視をしている。クロノもクロノで宝塚記念のお返しをすると言っていた。

 もちろん僕が勝つんだけどね。

 

「重馬場はどう?」

 

 どう? って聞かれても……。まあ、思ってたより?

 抉れたりはするけど、大阪杯の時と似た感じかな? って印象。

 

 現地の人たちに案内されて僕たち15頭の馬がゲートに収まった。

 

『さあ100回目の凱旋門賞。記念すべきこの大会に、日の丸は掲げられるのか! 凱旋門賞、スタートです!』

 

 ゲートが開き、一斉に各馬が飛び出す。

 僕は迷わず後続につき、ハナ争いから一番遠いところで走っていく。

 なんか一頭見知った顔のやつが端っこで一人旅してるが、まあ良いだろう。

 

 右側の内ラチのすぐ近くに車が大量に止められてて若干引くが、先生の「ツァーリ?」と言う一言で前を向いた。

 なんだろう、先生は僕に対する視線センサーでも付いてんの? 皐月賞からたびたび言われるけど、超能力?

 

 まあいいや。

 平坦な道を突き進んでいくと、どんどんと坂に差し掛かり、長く高い丘のようになっている3コーナーに向かう。

 いつのまにかクロノジェネシスは馬群の前の方に。ボンドは僕より少し前。

 

 あとは下り坂。跳ね返ってくれない足場に苛立ちが募るが、下り坂を利用して足の回転数を上げる。そんなことで無くなってしまうほど柔なスタミナはして無い。

 

 ん? なんか、ここ走りやすいぞ?

 

 グイグイと無理やり動いて馬群から少しだけ離れた場所。

 少しだけ。ほんの少しだけ、阪神の重馬場に似ている足元が続いてる。

 

 ここしか無い。そう思ったのと、先生が鞭を入れたのはほとんど同時だったと思う。でもなんて言うか、今日も今日とて、僕はタブーを犯した。

 パリロンシャン競馬場にある偽りの直線。下り坂を我慢させられた馬が最終直線と勘違いしてしまいバテるフォルスストレートに向かって、僕は迷わずギアを上げた。

 

『馬群固まって来ました。後方にいたズヴィズダツァーリが外から上がって来ている。フォルスストレートと入って来まして先頭は変わらず。二番手にクロノジェネシスが好走している。どんどんどんどん前にくる5番ズヴィズダツァーリ! 大外に膨らんだ状態でオープンストレッチ! 最終直線!』

 

 内ラチが途中でもっと内側に行くから、見えてる世界よりもさらに広く感じる最終直線。各馬が横に一気に広がるから、全然進路の邪魔が起きない。

 日本と違って真横に他馬がいないからどんな感じか分からないが、とりあえず一つ。

 

「行ける!」

 

 横に広い視界のおかげで、内側にいる他馬がどんな状態か分かるが、そいつらよりも僕の方がパワーがある。スピードがある。そして何より、2着の悔しさを知ってる!

 

『さあズヴィズダツァーリが先頭! 先頭にいる! 打田鞭を叩いて内側に入れるが、後ろが伸びてくる! だが強い! 一頭完全に抜け出してる! 差が広がる! 広がっていく!

 

 ロンシャンよ! フランスよ! 世界よ!

 

 これが星帝! これが日本の最強!

 

 残り200! 星帝が天を駆ける! 眼前に他はない! 他はない!

 

 日本の夢を背負ったズヴィズダツァーリ! 父が! オルフェーヴルが残した忘れ物を!』

 

 やったな。先生。世界で一番強い馬だよ。僕は。

 

『しっかりと掴み取ったーーっ!! 黄金旅程は、黄金から漆黒へと託されました!!』

 

『1969年のスピードシンボリから約半世紀! ついに日本馬が、世界に名前を刻んだ!! ズヴィズダツァーリ! 大差での圧勝劇! この馬に、世界の壁などなかった!! 2着はーー』

 

「やった! やったぞツァーリ! 勝ったんだ!」

 

 ポンポンと首筋を叩く力がいつもより強い気がするが、世界で一番強い馬を決める勝負に勝ったんだ、今日くらいは許してやろう。

 さあ、フランスの人たちにお辞儀をして、日本に帰ろう。これで来年来るとか無くなったろ。飛行機は帰りの一回で十分だ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

【凱旋門賞】悲願達成 ズヴィズダツァーリ 史上初凱旋門賞日本馬に

 10月3日、フランスのパリロンシャン競馬場で行われた第100回凱旋門賞を、ズヴィズダツァーリ号(鞍上:打田幸博)が制した。これにより、日本競走馬で史上初の凱旋門賞馬となり、また、欧州以外の調教馬が同レースを制するのも初の快挙である。

 レースを最後方、シンガリで進めたズヴィズダツァーリは、じっくりと第3コーナーに向けて周囲の状況を把握し、10メートルの高低差がある坂を登り切ると、下り坂を利用して一気に加速。不安視されていた距離の適正の問題など感じさせず、最終直線で抜け出すと、後続のトルカータータッソに10馬身の大差をつけ勝利した。

 走破タイムは2分36秒02。同レースでの最大着差記録も更新している。

 

 同馬の馬主である佐崎氏によると、怪我兆候や疲労感の確認はするが、全く問題がない場合秋の天皇賞(東京・芝2000)を予定していると言う。出走が叶えば、4頭目の無敗三冠馬コントレイル。今年の無敗皐月賞馬であるエフフォーリア。短距離の女王であるグランアレグリアと戦うことになる。

 秋の天皇賞に向け打田騎手は、「重馬場の遅いペースと高い山に助けられたロンシャンとは違う。かなり厳しい戦いになる。」とコメント。友康調教師も、「いくら大阪杯で勝っているとはいえ、この馬に2000は短すぎる。凱旋門賞直後であることを除いても、秋古馬三冠を目指す上で1番の障害になると思う。」と答えている。

 

 菊花賞の3分切り。史上初の春古馬三冠。そして史上初の凱旋門賞馬。日本最強から世界最強へと至ったズヴィズダツァーリ。疲労や怪我などが心配ではあるが、その強さの証明をぜひ期待したい。

 

 

 

 

「あ、そうそう。ロジャーバローズだけど、毎日王冠勝ったぞ。秋天、来るらしい」

 

「屈腱炎からの復活。G2なら敵なしじゃないですか? 日経新春は3着だけど、日経賞と毎日王冠。友康さんから見てどうですか?」

 

「いい脚してる。秋天はコントレイルとかの方が強いけど、2400の適正ど真ん中だからな。ジャパンカップ。ツァーリがいなけりゃ。なんてよく言われてるけど、実際ツァーリがいなけりゃサートゥルナーリアは皐月賞馬。ロジャーバローズはダービー馬。打田さんも同じ考えでしょう」

 

「まあ、コントレイルもツァーリがいなかったら何冠取ってんだ。って話ですしね」

 

「そうだな。とりあえず、俺たちは安全に秋天を走らせることだけ考えよう」

 

「はい」




出走成績 17戦16勝
獲得賞金総額22億6500万+298万ユーロ

18/09/22/土 新馬戦 2000メートル 
 1番人気 1着 2:01:8 700万
18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート
 1番人気 1着 1:45:2 3,300万
18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル
 1番人気 1着 2:01:2 7,000万

19/04/14/日 皐月賞 2000メートル
 3番人気 1着 1:57:9 11,000万
19/05/26/日 東京優駿(日本ダービー) 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:5 20,000万
19/09/22/日 神戸新聞杯(G2) 2400メートル
 1番人気 1着 2:24:5 5,300万
19/10/20/日 菊花賞 3000メートル
 1番人気 1着 2:58:9(WR) 12,000万
   クラシック三冠 10000万
19/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 1着 2:30:1 30000万

20/03/22/日 阪神大賞典(G2) 3000メートル
 1番人気 1着 3:00:1 6700万
20/05/03/日 天皇賞(春) 3200メートル
 1番人気 1着 3:16:4 15000万
  裂蹄
20/11/29/日 ジャパンカップ 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:9 30000万
20/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 2着 2:29:9 12000万 ハナ差
   1着 サートゥルナーリア 2:29:9

21/04/04/日 大阪杯 芝2000メートル
 1番人気 1着 2:00:2 13500万
21/05/02/日 天皇賞(春) 3200メートル
 1番人気 1着 3:12:5 15000万
21/06/27/日 宝塚記念 2200メートル
 1番人気 1着 2:10:7 15000万
      春古馬三冠 20000万
21/09/21/日 フォワ賞(G2) 芝2400メートル
 1番人気 1着 2:31:6 13万ユーロ
   2着 ディープポンド 2:31:8 1馬身差
21/10/03/日 凱旋門賞 2400メートル
 1番人気 1着 2:36:02 285万ユーロ
   2着 トルカータータッソ 2:37:62 大差

次走 21/10/31/日 天皇賞(秋) 2000メートル
有力馬 コントレイル エフフォーリア グランアレグリア


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ウマ娘ー9:勧誘と計画

 ツァーリさんに行かせたい海外G1選んだけど、お前飛行機大丈夫なんか?

 追記、ごめんなさい。ブライアンって副会長だったんですね。


 菊花賞の後、有馬記念を制した僕はテイエムオペラオー先輩に次ぐ年間無敗のウマ娘となった。その際メイショウドトウ先輩を引きずりながらやってきた件の先輩と初めて対面した。

 

 サートゥルナーリアが所属するリギルに属しているらしいテイエムオペラオー先輩だが、とりあえずとにかくしんどい。気がつけばメイショウドトウ先輩が放つ、「救いはないのですかぁ?」という言葉に、ノータイムで頷いてしまうくらいに精神がやられていたと思う。

 

 まあ、年間無敗を達成したことで、いろんな先輩と会うことになった。リギルに所属する先輩たちはほとんど顔を合わせたんじゃないだろうか。スペシャルウィーク先輩の友人であるセイウンスカイ先輩とはまったりお昼寝するときもあるし。あれだ、BNWの3人とはまだ顔を合わせてないね。

 

「で? なぜ僕を生徒会室に?」

 

 そんな中、僕はシャドーロールの怪物と呼ばれる先輩ウマ娘。ナリタブライアン先輩に呼び出され、生徒会室のソファーに座らされていた。

 

「有名な御三方に囲まれると、僕としては気後れするというか……」

 

「たわけ。三冠戦後に全勝宣言までしておいて……」

 

 やれやれと言った表情をするエアグルーヴ先輩。苦笑いを浮かべるシンボリルドルフ先輩。そして、無表情のまま突っ立っているナリタブライアン先輩。

 

「一応三冠は取りましたけど、僕の方が実績じゃ格下なわけで……。んで? 毎回こう言って始まってる気はしますが、本日の御用件は? 本題を始めませんか?」

 

「そうだな。単刀直入に言おう。春シニアの三戦後、海外遠征に行くという話は変わりないか?」

 

 あー。そういえばだいぶ前に言っていたような気がする。けど、海外遠征の話ちゃんとしてないんだよね。沖野トレーナーに。スピカの面々はかなりの成績を残しているが、海外に対して何かできているわけじゃない。

 スペシャルウィーク先輩はジャパンカップの人だし。

 

「一応計画ですね。出走するレースの選定中。っていうのが正しいです」

 

 出たいレースは色々ある。

 イギリスのキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスステークス。

 フランスの凱旋門賞。有馬に出れなくなるけど、香港の香港ヴァーズ。

 UAEのドバイターフにオーストラリアのメルボルンカップ。

 

 これを来年と再来年で完成させたい。まだ、この体で飛行機に乗ったことがないからどうなるかはわからないけど、耳がいい分少し不安ではある。

 

「そうか。まず一つ目の話だが、チームスピカには海外遠征の経験がほぼ皆無だ。少なくとも、今の沖野トレーナーにそう言った経験は無いと言っていい。失礼な言い方だがな」

 

「はあ」

 

「ただ、我々が所属しているリギルでは海外遠征の経験がある。良ければ、君の海外遠征を援助したい。と言うわけだ」

 

 あー。なるほど。引き抜き?

 

「安心しろ。これはあくまでも提案であって強制ではない。そして貴様をリギルに引き抜くわけでもない」

 

「ああ、グルーヴの言う通りだ。ただトレセン学園に所属するウマ娘の中で、海外遠征を行えるほど実績を積んだウマ娘が少ないのも事実だ。だからこそ、チームの垣根なく学園のものとして援助をしたいと考えている」

 

 まあ、もっともらしい理由だね。

 時としてかなりの権力をこの学園の生徒会は握ってるのだ。全ウマ娘のために。と言っておけば丸い。

 

 ただ、ここで素直に頷かないのがこの僕!

 大魔神に散々やられたからな……。ここで僕はこう言う!!

 

「それで条件は何でしょう? 流石にタダでこんな提案はしないでしょう?」

 

 僕の問いかけの答えは、生徒会に入れ。

 

「君も知っているだろうが、この学園の生徒会には権力がある。だからこそ、ただの生徒を生徒会に入れるわけにはいかない。セントライト先々代やシンザン先代の様に、千代続く様な名声を持つ生徒でなければ、生徒会長の座になれない。なんて言ったって、生徒会長は学園の顔だからだ。有智高才で冠前絶後の存在でなければならない」

 

 あれ? 会長の後ろにいるエアグルーヴ先輩のテンションというか、やる気が下がっている様な気がせんでもないけど、何だ? なんか会長の言葉に変なものでもあったか?

 

「私が卒業すれば、次に生徒会長になるのはナリタブライアンだ。彼女も私と同じく三冠ウマ娘。実力も、全体の上から数えた方が早い」

 

「それで? ナリタブライアン先輩の次は僕ですか?」

 

「構想。ではあるがな」

 

 君と同じで。と笑う生徒会長。

 

「もし生徒会に入ってくれるのであれば、役職は一応書記という名の庶務になるだろう。実際、書記に関してはエアグルーヴが今はやってくれているから色々教えてもらうといい。とりあえず、君が本格的にシニア期を過ごす前に伝えたかったのだ」

 

 1、海外遠征の援助とアドバイス

 2、生徒会への勧誘

 

「あれ? テイエムオペラオー先輩は年間無敗なのに選ばれないのですか?」

 

「たわけ。アイツが何か引っ張れる様なタイプだと思うか」

 

「ドトウは引っ張ってる」

 

 いや、ナリタブライアン先輩? ノータイムで返すのやめて? 飲み物飲んでたら吹き出してたよ。少し前に会ったしね。

 

 とりあえず一度咳払いをして、話を戻す。

 

「海外遠征に関してはまだ本格的な話をトレーナーにも出来ていないので、持ち帰らせていただきます。ただ、生徒会入りに関しては……。このソファーで寝転がってても良いなら?」

 

「おい」

 

「いや、それで構わない。クラシック期を終えたんだ、海外挑戦のためにも息を抜ける場所が必要だろう。ルームメイトは?」

 

「菊花賞の後から僕にビビって辞めました」

 

 まあ、同じ空間で仲良しこよししてた人が、三冠だけじゃなくてウマ娘でも考えられない様なタイムで勝ったんだから、化け物を見る様な目で見られた。私はあなたみたいになれないとかなんとか。

 名前も覚えていないが、少なくともあの子達は必死で食らい付いてきた。努力という人事を尽くしていないのに、勝利という天命を待つなど烏滸がましい。

 

「不甲斐ない……」

 

 どうやらナリタブライアン先輩も同じ意見らしい。

 

「一人部屋で辛くはないだろうが、ここに居ればある程度人の出入りはある。チームルームに入ればトレーナーがメンタルケアをしてくれるだろうが、同性同士、近い年齢同士話しやすいこともあるだろう。まあ、細かい話はトレーナーと話してくると良い」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「という話がありまして」

 

 と、チームスピカの面々に話をすると、みんながみんなして驚きの声を上げていた。

 

「つ、ツァーリさん海外に?」

 

「リギルって、移籍!? スズカさんの逆!?」

 

「凱旋門賞……」

 

「世界一……」

 

「よし、一緒に世界を獲るかツァーリ!」

 

「えー! カイチョーと一緒にお仕事するのー!」

 

 と、上から順番にメジロマックイーン先輩。スペシャルウィーク先輩。ウオッカ先輩とダイワスカーレット先輩。そしてゴルシとテイオー先輩。

 

 肝心な沖野トレーナーはというと、頭を抱えて蹲り、呪詛の様な何かを吐き続けていた。

 

「チーム予算チーム予算チーム予算チーム予算チーム予算……」

 

 あっはっはー。呪詛じゃないならまあいいや。あと、テイオー先輩だけ生徒会の話をしているのは、会長への愛ということにしておこう。

 

「はい。これが今考えてるローテーションです」

 

 そう言って、蹲って動かなくなっていた沖野トレーナーを起き上がらせると、一枚の紙を渡す。

 

 大阪杯、春の天皇賞、宝塚記念からなる春シニア三戦。

 そして英国のキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスステークス。

 フランスの凱旋門賞。同年の有馬記念には出走せず、香港の香港ヴァーズ。

 

 ここまでがシニア期1年目の希望ローテーション。

 

 2年目はドバイターフから始動し、国内の宝塚記念で久しぶりに日本を走る。

 オーストラリアのメルボルンカップと秋の天皇賞は日にちが近いが、フランスからよりオーストラリアからの移動の方が楽なはず。

 そして最後は秋シニア三冠。秋の天皇賞、ジャパンカップ、有馬記念を制して引退。

 

「アメリカに行くタイミングがないんですよね。できればアメリカも行ってみたかったんですけど」

 

「行ってみたいで行けるものでもないと思いますわよ。ツァーリさん……」

 

「でもまあ、リギルの方々が手伝ってくれるなら、割とできそう? なんじゃないの?」

 

 自由が売りのスピカだが、本当に自由な感想を述べている。まあ、こっちとしては変に反応される方が嫌なので、ありがたいっちゃありがたい。

 

「あー。わかった。とりあえず1つ! 海外遠征の件はおハナさんに聞いておいてやる。それとたづなさん通して理事長とも。それで、2つ目! 生徒会入りは別に好きにしろ。練習と学業をおろそかにしないなら問題ないからな」

 

 げ、たづなさん苦手なのに……。会う度会う度口元笑ってるけど目が殺す気なんだよね。おねーさん。

 

「はい。あ、凱旋門賞の前にカドラン賞って出られます? 4000のレースとかあっちじゃないとないじゃないですか」

 

 いや、みんなそんな死んだ魚みたいな目するのやめてください。本当に。うん。やめて?



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競走馬ー22:凱旋門賞勝利に対する反応

凱旋門賞を取った時の日本の反応。


「おい! そろそろだぞ!」

 

「わかってるよ。凱旋門賞だろ!」

 

 ツァーリが生まれたノーザンファーム。ヴィルシーナ の出産に立ち会った面々や、その他関係者の多くが、大きなモニターの前に集まっていた。

 目的はただ一つ。

 

「俺たちのチビなら絶対勝つ」

 

 誰が言ったかわからないが、その言葉にああ! とか、もちろん! なんて声が帰ってくる。

 

 全てのホースマンたちの夢。それは日本ダービー。だが、それと同じくらい、ホースマンは世界に憧れてる。

 フランス、パリロンシャン競技場。全ての馬の最強を決める凱旋門賞に、日本の馬はこれまで勝てたことがなかった。

 

「あのオルフェも、ディープも勝ててないんだ、とにかく頼むぞ」

 

 男も女も関係なく、世界の1番にあの名前が呼ばれることを願っていた。

 

「映った! うわ、今日も棒立ち!!」

 

「今の見た? あの騎手今二度見してたぞ」

 

 レース前、ツァーリの棒立ちは知らない人からすれば驚くだろう、馬は基本動きたがるものだし、レース前は気持ちが上がっていて、忙しない印象を受けるはず。だが、あの子の場合はじっと立ち、他の馬をじっくり見て観察する。

 

「どの馬だ? 今日の相手は」

 

「日本馬で3着まで独占!」

 

「フランス馬怖ぇ〜。流石のチビでも無理かな?」

 

「おまえ、フォワ賞馬なりのまま勝ってんだぞ? チビが負けるわけねぇだろ」

 

 みんな好き勝手言うが、目は画面に映る、ゲート入りしたツァーリにだけ向いている。そして、今ゲートが開いた。

 

「スタートオッケー!」

 

「後ろつけ後ろつけ」

 

「いつものお前で良いぞ! お前より強いのなんかいねぇから」

 

 最後尾を走るツァーリ。クロノジェネシスが少し外側を走ってるが、まあ大丈夫。ロンシャンのスタートは斜めに進む。一気に直線を進み、10メートルの高さまで登るのは、かなりスタミナとパワーを持っていかれる。

 

「おお! クロノ3番手か! ボンドもいい位置だし」

 

「下り坂下り坂! 落ち着いてけ」

 

「なんかツァーリ無理やり外行ったよな?」

 

「いや、外にはいるけど、指示じゃないの?」

 

 他の馬とは少しだけ離れた位置を走るツァーリ。それがどう言う意味なのかはその場にいないのでわからないがそのまま走り続けてるから問題はないのだろう。

 

「行った!」

 

「きた! スパート!!」

 

「フォルスだぞ? 大丈夫か!?」

 

「バテねぇとは思うけど、ああ、頼む!」

 

 外側へと広がる青鹿毛の馬体。それが最終直線、広がったオープンストレッチで一気に先頭に立つ。

 

「行けー!!」

 

「ツァーリ! ツァーリツァーリツァーリ!」

 

「勝てる! 勝てる! 行け!」

 

 完全に抜け出したツァーリの姿に、みんな怒号のような声援をかける。

 フォルスストレートの時に上がって行ったのが不安でハラハラとしたが、終わってしまえば、ツァーリの大差勝ち。ディープボンドもクロノジェネシスも頑張ったが、俺たちのチビが凄すぎてもうなんて言うか。うん。

 

 チビが産まれた時にミルクをあげた姉さんなんか大号泣してわんわん泣いてる。まあ、ここにいる奴らの中で泣いてない奴なんか居ないけど。

 

 いつか産まれてくれればと思っていたG1ホースが産まれ。

 いつか産まれてくれればと思っていた三冠馬になり。

 いつか産まれてくれればと思っていた凱旋門賞馬の夢は、果てしなく遠いもので、きっとその馬が生まれるのは、俺たちの周りではなく違う厩舎に生まれるだろうと。

 

 いくら父親があのオルフェーヴルで、いくら母の父があのディープインパクトでも、できるわけがないと半ば諦めていたんだ。これまでの日本競馬を濃縮させたようなあの二頭でも届かなかった世界。

 それを最も容易く抜け出して、誰よりも遠いような位置にいる。

 

「やったな」

 

 俺が呟いた言葉を、みんなは噛み締めるように頷いた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

《boxbgcolor:#e1e0e0》

凱旋門賞@2021スレ

215:名無しさん@実況競馬

うわぁ、これで惨敗だったらやべぇ

 

216:名無しさん@実況競馬

正直に行って2着が関の山じゃないか?

 

217:名無しさん@実況競馬

ポンド 鞭入って二着

ツァーリ 馬なりで一着

 

これで負ける要素どこにあるんだよ

 

218:名無しさん@実況競馬

言うてフォワ賞g2だぞ?

 

219:名無しさん@実況競馬

>>218 g2でもガチなやつはガチぞよ

 

220:名無しさん@実況競馬

けど、フランス馬やばいやつらくるんだろ?

 

221:名無しさん@実況競馬

>>220 それ以上にやばい奴がいるんだよ。

 

三千を2:58で走るやつはどこ探してもツァーリしかいねぇ

 

222:名無しさん@実況競馬

オルフェの無念を晴らしてほしい黄金一族ファン

 

223:名無しさん@実況競馬

ステゴ産駒とディープ産駒だと、ステゴ産駒の方が海外向いてるよな

 

224:名無しさん@実況競馬

ウマ娘的なイメージで言うと、

ステゴ系 パワー特化

ディープ産駒 スピード特化

 

って感じ。

 

225:名無しさん@実況競馬

割とツァーリはゴルシに似てるよ。

ストライドが大きくて、

坂でもなんでも関係なくおんなじスピードで上がれる。

みんなが遅くなるタイミングも

変わらずの力で走れるのがでかい。

中山阪神京都強いのがそうじゃん

 

226:名無しさん@実況競馬

>>225 あの、どのコースも強いんすよ……

 

227:名無しさん@実況競馬

>>225 言いたいことはわかる

 

228:名無しさん@実況競馬

凱旋門賞が3000ならなぁ。

風呂入ってこれんだけど

 

229:名無しさん@実況競馬

凱旋門賞でもツァーリは3分切るよ

 

230:名無しさん@実況競馬

>>229 凱旋門を3分で走れば余裕でタイムオーバーよ

 

231:名無しさん@実況競馬

そろそろ始まるぞー

 

232:名無しさん@実況競馬

誰が実況……。って、ここ実況スレか!

 

233:名無しさん@実況競馬

日本の彼岸

 

234:名無しさん@実況競馬

>>233 彼岸じゃなくて悲願な

 

でも、ツァーリで取れなきゃどんな馬も無理よ

 

235:名無しさん@実況競馬

これ勝って日本戻ったら秋天とかマジ?

 

236:名無しさん@実況競馬

これで怪我とかして予後不良なら暴動起きる

 

237:名無しさん@実況競馬

【速報】日本馬三頭ゲート入り前集まってる

 

238:名無しさん@実況競馬

>>237 何それ可愛い

 

239:名無しさん@実況競馬

ツァーリを取り合うクロノとボンド……

 

240:名無しさん@実況競馬

>>239 え? クロノジェネシスに対してじゃなくて?

 

241:名無しさん@実況競馬

これは……リャクダツアイ

 

242:名無しさん@実況競馬

リャクダツアイ「これは……オトナノジジョウ」

 

243:名無しさん@実況競馬

オトナノジジョウ「これは……キンジラレタアソビ」

 

244:名無しさん@実況競馬

キンタマーニ「我が名は」

 

245:名無しさん@実況競馬

キンタマーニ! っは!?

 

246:名無しさん@実況競馬

ハッ!?

 

247:名無しさん@実況競馬

はっはっは! オレハマッテルゼ

 

248:名無しさん@実況競馬

お前らいい加減にしろ。

 

249:名無しさん@実況競馬

そろそろ出走だな。

 

250:名無しさん@実況競馬

ツァーリ 5-4

ボンド 2-5

クロノ 7-14

 

251:名無しさん@実況競馬

>>250 さんくす

 

252:名無しさん@実況競馬

出た!

 

253:名無しさん@実況競馬

スタート!

 

254:名無しさん@実況競馬

【速報】出遅れなし!

 

255:名無しさん@実況競馬

いい感じいい感じ

 

256:名無しさん@実況競馬

ツァーリにステゴ系列の悪癖が出なくてよかった

 

257:名無しさん@実況競馬

クロノが外走ってる

 

258:名無しさん@実況競馬

元々外枠だしロス減らしたな

 

259:名無しさん@実況競馬

もうすぐ坂登り切る

 

260:名無しさん@実況競馬

クロノ 多分前

ボンド 中団内側

ツァーリ 最後尾

 

261:名無しさん@実況競馬

クロノ前にいるのか

 

262:名無しさん@実況競馬

3コーナークロノ3番手。下り坂

 

263:名無しさん@実況競馬

息入れてくれツァーリ

 

264:名無しさん@実況競馬

絶対フォルスで暴れる

 

265:名無しさん@実況競馬

【速報】ツァーリ離れて走る

 

266:名無しさん@実況競馬

>>265 逸走? オルフェか

 

267:名無しさん@実況競馬

なんかツァーリがやばい

 

268:名無しさん@実況競馬

速度上がってね?

 

269:名無しさん@実況競馬

【速報】ツァーリがフォルスストレート爆走

 

270:名無しさん@実況競馬

終わった

 

271:名無しさん@実況競馬

さよなら凱旋門賞

 

272:名無しさん@実況競馬

また来年

 

273:名無しさん@実況競馬

【速報】直線ツァーリだけ伸びる

 

274:名無しさん@実況競馬

え?

 

275:名無しさん@実況競馬

どゆこと?

 

276:名無しさん@実況競馬

行け!

 

277:名無しさん@実況競馬

行け!ツァーリ

 

278:名無しさん@実況競馬

勝てる!

 

279:名無しさん@実況競馬

余裕余裕!

 

280:名無しさん@実況競馬

めっちゃ馬身さある

 

281:名無しさん@実況競馬

お前ら説明しろ

 

282:名無しさん@実況競馬

なになに!

 

283:名無しさん@実況競馬

勝った

 

284:名無しさん@実況競馬

おい!

 

285:名無しさん@実況競馬

勝った!!

 

286:名無しさん@実況競馬

実況……

 

287:名無しさん@実況競馬

「黄金旅程は、黄金から漆黒へ託された」

 

288:名無しさん@実況競馬

ステゴ……

 

289:名無しさん@実況競馬

それも良かったけど、オルフェーヴルの忘れ物を掴み取ったー!!

も最高

 

290:名無しさん@実況競馬

てかちゃんと勝てた?

 

291:名無しさん@実況競馬

>>290 10馬身差。大差勝ち

 

292:名無しさん@実況競馬

エグすぎ

 

293:名無しさん@実況競馬

やば!

 

294:名無しさん@実況競馬

てかなんか重くね?

 

295:名無しさん@実況競馬

初凱旋門賞馬の誕生だし

 

296:名無しさん@実況競馬

落ちるな。

 

297:名無しさん@実況競馬

サーバーよ耐えてくれ

 

298:名無しさん@実況競馬

あ(あこれは)げ(んじつ的に考えて耐えられ)ません!!

 

299:名無しさん@実況競馬

それで落ちたくねぇよ

 

 

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競走馬ー23:世界最強の帰還 秋天 2000M

ツァーリの嫌いなものランキング
1、飛行機
2、しつこい記者
3、大魔神の嘘
4、レースで前にいる遅いやつ

読者の皆様が嫌いなもの
1、誤字←本ッ当に申し訳ありません。

 あと、活動報告あげてます。詳細はリンクで。ご応募待ってます!
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=271189&uid=371990


 先に言っておこう。隔離期間を終えて秋の天皇賞へ直行となった僕は、それはとても気が立っていた。

 

 そもそも飛行機の音に苛立って一睡もできなかったし。知ってる? 馬って1日で3時間とかしか寝ないんだよ? そんだけ寝なくても大丈夫な馬の体の僕が眠れなくて苛立ってるんだからね!!

 

 それで、空港から馬運車に乗って検疫のところ行くけど、その馬運車をずっとフラッシュで写真撮り続ける人。

 え? 車の中だから大丈夫だろって? ノンノンノン! 普通に外見えるから。うん。多少明るさはましだけどね。

 

 馬運車から検疫のところ行っても人が追ってきて、検疫のところから栗東に移った時も人がいて、そして東京競馬場の場所にも人がたくさん。本っ当に鬱陶しい。カメラだけ踏みつぶしてやろうか。

 

「うん。脚の状態は全然悪くない。凱旋門なんか走ってないって言われてもわからないレベルですよ」

 

「去年の春天は何だったんだ……」

 

 うん。知らん。

 

 触られていない方の脚で地面を掻き、暴れはしないもののムカついています! ということを表現する。

 もちろん後ろ脚を触られているときに前脚で地面を掻くと当たったりして危ないので、その時は触られていない後ろ脚で掻いているので問題ない。

 

「とりあえず、そろそろパドックだ。お願いします」

 

「はい。かしこまりました。行こうか。ツァーリ」

 

 了解だよおねーさん。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『さあ、ここ東京競馬場に、日本最強から世界最強となった競走馬が戻ってきました。世界に輝いた黒い星。検疫後ここへ直行という強行ローテ。さらには距離適性不安がありますが、この馬の底力を見せてほしいところです』

 

天皇賞・秋 出馬表

馬名展開予想人気

コントレイル◁◀︎◀︎◁

ズヴィズダツァーリ◁◀︎◀︎◀︎

モズベッロ◁◁◀︎◁11

ポタジェ◁◀︎◀︎◁

エフフォーリア◁◀︎◀︎◁

トーセンスーリヤ◁◀︎◀︎◁10

ワールドプレミア◁◁◀︎◁

サンレイポケット◁◁◀︎◀︎12

グランアレグリア◁◀︎◀︎◁

10カイザーミノル◁◀︎◁◁13

11ロジャーバローズ◀︎◀︎◁◁

12ラストドラフト◁◁◀︎◁16

13ペルシアンナイト◁◀︎◀︎◁15

14カレンブーケドール◁◀︎◀︎◁

15ヒシイグアス◁◀︎◁◁

16ユーキャンスマイル◁◁◀︎◁14

 

『ズヴィズダツァーリ以外にも夢がある今日の天皇賞・秋。なんといってもズヴィズダツァーリの2着三回。だが前回は写真判定の後ハナ差だったコントレイル。さらには短距離の女王グランアレグリアも出走します。

 そして、菊花賞に出走せずここに直行した無敗の皐月賞馬のエフフォーリア。最も速い馬が勝つと言われる皐月賞を無敗で勝った三頭が、中山から東京に舞台を変え、2000メートルを走り抜けます』

 

 いつも通り、一頭だけ動かない僕。

 凱旋門賞でも動かずいたので、初めてみた騎手はすごく驚いてる感じだったけど、日本の騎手やお客さんはもう見慣れたものだろう。

 

「ツァーリの兄貴!」

 

「おうコント。どしたん」

 

「いやー。ツァーリの兄貴が苦手な距離ってユーイチが言ってたから、今日こそ勝ちます! って宣言を」

 

 ユーイチ? ああ、騎手さんか。

 背中に乗ってる先生たちもなんか話し始めたし、一旦このまま話すか。

 

「僕的にも短いなって思うけど……。負けないよ」

 

「おい……」

 

 ん? なんか聞き馴染みのない声が聞こえてきたけど。

 そう思って横を見てみれば、見たことない鹿毛の馬体。

 

「お前、強いの?」

 

 あれ? なんかデジャヴ……。

 

「まあ、世界最強だね」

 

 そう返してみれば、彼、エフフォーリアはお前より強い。と大変ありがたい言葉を呟いた。

 

「あははー。だってさ。そんなこと言いながら僕にしっかり負けたんだよねー。ね? コント」

 

「いやぁ、思い返しても恥ずかしい。でも、君……。相手は選んで挑発した方がいいよ? 俺は傑物だけど、ツァーリの兄貴は怪物。そもそも、ツァーリの兄貴に挑戦しようと思うなら、ダービーで一着取ってからにしなよ」

 

 うわぁー。コント君結構キレてない? これ。

 

「まあ、若者は勢いがあって良いよ。でも、僕は負けないよ?」

 

 先生が進めと指示出してきたので、話を終わらせてゲートへ向かう。

 

「ツァーリ君……」

 

「覚えてるよロジャー。ダービーじゃ危なかった。君とまた一緒に走れて嬉しいよ」

 

 新馬戦とダービーで戦った懐かしい顔がいる事に嬉しさが溢れるが、勝負は本気。多分彼もわかってる。ダービーの再戦はここじゃない。

 

「ジャパンカップで」

 

「うん。ダービーのお礼参り。させてね」

 

 僕の横を通り抜けてゲートへと入って行った彼の後ろ姿。その背中に力は無くて、多分今日は本気で走れないんじゃないだろうか。なんかあったかな? なんて考えるが、僕にわかるはずもない。

 対戦数はクロノジェネシスよりも少ないけど、それでも数少ない、また戦いたいと思える相手。

 サートゥルナーリア。コントレイル。クロノジェネシスの様な大きな存在。

 

「勝つぞ。ツァーリ」

 

 もちろんだよ先生。

 

『さあ! 16頭全頭の準備が整いました。凱旋門賞馬、世界最強のズヴィズダツァーリが勝つのか。それともコントレイルが屈辱を晴らすのか。無敗の皐月賞馬が勢いのまま勝ってしまうのか!

 役者は揃っています。さあ、第164回天皇賞・秋。ゲートが開きました! コントレイル良いスタート! ズヴィズダツァーリは少し遅れたか? 距離不安の2000で大丈夫か?』

 

 クソっ! コントレイルに気を取られ過ぎて反応遅れた!

 先生どうする? 皐月賞の時みたく前? いや、手綱引っ張ってるから抑えよう。コントの後ろあたりを走ろうとか考えてたけどやめだ。

 

『さあすぐにやってくる2コーナー。ハナ争いは10番カイザーミノル。1馬身後ろに6番トーセンスーリヤ。屈腱炎からの復活。毎日王冠勝ち上がりました、星帝に限りなく近づいた19年アタマ差二着のロジャーバローズが半馬身外側に控えます。さあ、良い位置につけている先頭から4番手に居るのは短距離女王グランアレグリア。ズヴィズダツァーリとは違って距離が長い不安がありますが好走期待です、

 

 向正面下り坂を降りまして、4番、14番続いて、今日こそ一矢報いたい1番コントレイルは7番手。サンレイポケットが内側からするすると上がってきて8番手。1000メートル走ってタイムは……。59秒台! 逃げ馬不在でありながらかなりのハイペース!

 

 全体的に纏まってはいるもののハイペース。後続馬たちは大丈夫なのか? 第3コーナー回って行きます。

 15番、3番、12番の三頭が横並び。少し離れて11番』

 

 うげー。やっぱり短いよこの距離。滅びれば良いのに……。右側の紅葉楽しむ余裕すらねぇじゃん。

 どうする先生? どっかの国と違って足元の反発いい感じだからある程度はスピード出せるよ? あ、まだ? を? 外膨らむのね? おけおけよー。

 

『さあ、最後尾にいた2番ズヴィズダツァーリが外側、馬群から一頭分離れた辺りでしょうか。外膨らみながら走っていきます』

 

 凱旋門のロンシャンで気づいたんだよ。いつもは長く大きくを意識するスパートだけど、小さく速くは、短い距離で使える。スタミナを余計に使う分、距離以上にギアが入る。

 普通にやってギアが入らないなら、普通じゃないことして入れればいいんだから。

 

 って先生! 内内!! ギリギリ通れるよここ!!

 

『おっと外に膨らんだズヴィズダツァーリ、4コーナーのカーブで内側に動く! 先頭はカイザーミノルで入っていく! 東京の直線は長い! カイザーミノルの横グランアレグリア上がって! 並んで! 最内トーセンスーリヤやってくるが、エフフォーリア上がってくる上がってくる! そしてさらに、コントレイル! 三冠馬の意地だ!』

 

 邪魔だよ6番! 退け! 先生の足が内ラチ当たってんだよ! 噛み付くか蹴るかするぞ! ほら! ほらさっさと退け!

 んで? 前はどうなってる? 固まってて一番前がグラン。その次が……挑発君。って、コントが3番目? いや、今先頭か。

 

 入った鞭が僕を押す。頭を下げて、次は、前。こいつら全員ぶち抜いて、ロジャーに示す。お前の努力が無駄じゃないって思える相手が、目標が、僕だって。

 

 距離不安なんか、意地で押し通せよ! 僕!

 

『内から! 内から上がってきたズヴィズダツァーリ! 一気に4番手! 抜け出した三頭に追いつくか! 追いつくか! 残り100! 並ぶか! いや並ばない!  世界最強にはもう! 距離という弱点すら無くなってしまったのかーっ!!』

 

 完全に抜いたか微妙だけど、どう? 勝ったでしょ?

 

『どうすればこの馬に勝てるんだ! まさに皇帝! ターフの独裁者! コントレイルまたしてもこの馬の前に敗れた!』

 

 

 

天皇賞・秋 レース結果 上位5着

馬名タイム人気

ズヴィズダツァーリ1:56:0

コントレイル1:56:1

エフフォーリア1:56:3

グランアレグリア1:56:4

11ロジャーバローズ1:56:8

 

『れ、レコードです! 勝馬ズヴィズダツァーリ、11年にトーセンジョーダンが記録したタイムをコンマ1更新し、1分56秒ジャストで、秋の天皇賞レコード勝ち! これでズヴィズダツァーリは、天皇賞春秋制覇! 同一年制覇はキタサンブラック以来となります!』

 

 背中の上にいる先生は、G1勝利の回数を両手で表す。右手で十の位である人差し指を。左手で一の位である二本指を立てて。

 

 さあ、宝塚記念以来のお辞儀をして、僕達も戻ろう。さすがに間が開いてないとしんどい。今はとりあえず飼い葉食ってゴロゴロしてたい。

 

 なお、コントレイルと違って負けず嫌いなエフフォーリア君は、若干うるうるした瞳で僕を睨みつけた後に帰って行った。

 

「ツァーリ……。やっぱり強くてカッコいい。襲ってくれないか……」

 

 うわ。スッゲェ聞きたくない言葉がグランから聞こえてきた。逃げよう。

 

 迎えにきたおねーさんを気にせずターフを去る僕。多分今だったら短距離走でもどうにかなると思う。




出走成績 18戦17勝
獲得賞金総額24億1500万+298万ユーロ

18/09/22/土 新馬戦 2000メートル 
 1番人気 1着 2:01:8 700万
18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート
 1番人気 1着 1:45:2 3,300万
18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル
 1番人気 1着 2:01:2 7,000万

19/04/14/日 皐月賞 2000メートル
 3番人気 1着 1:57:9 11,000万
19/05/26/日 東京優駿(日本ダービー) 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:5 20,000万
19/09/22/日 神戸新聞杯(G2) 2400メートル
 1番人気 1着 2:24:5 5,300万
19/10/20/日 菊花賞 3000メートル
 1番人気 1着 2:58:9(WR) 12,000万
   クラシック三冠 10000万
19/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 1着 2:30:1 30000万

20/03/22/日 阪神大賞典(G2) 3000メートル
 1番人気 1着 3:00:1 6700万
20/05/03/日 天皇賞(春) 3200メートル
 1番人気 1着 3:16:4 15000万
  裂蹄
20/11/29/日 ジャパンカップ 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:9 30000万
20/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 2着 2:29:9 12000万 ハナ差
   1着 サートゥルナーリア 2:29:9

21/04/04/日 大阪杯 芝2000メートル
 1番人気 1着 2:00:2 13500万
21/05/02/日 天皇賞(春) 3200メートル
 1番人気 1着 3:12:5 15000万
21/06/27/日 宝塚記念 2200メートル
 1番人気 1着 2:10:7 15000万
      春古馬三冠 20000万
21/09/21/日 フォワ賞(G2) 芝2400メートル
 1番人気 1着 2:31:6 13万ユーロ
21/10/03/日 凱旋門賞 2400メートル
 1番人気 1着 2:36:02 285万ユーロ

21/10/31/日 天皇賞(秋) 2000メートル
 1番人気 1着 1:56:0 15000万
   2着 コントレイル 1:56:1 1/2馬身差

次走 21/11/28/日 ジャパンカップ
ロジャーバローズ シャフリヤール


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ウマ娘ー10:仲間

 いつもいつも誤字報告ありがとうございます!

 ツァーリの走り方ちょろっと書いてます。こんなイメージで3分切ったんやでぇーってなもんです。

 あと、活動報告あげてます。詳細はリンクで。ご応募待ってます!
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=271189&uid=371990


 春初戦。競走馬時代は、春の天皇賞を狙う加減で出なかった大阪杯から始動した僕は、重馬場の足元のおかげで全体のペースがゆっくりになり、そのまま何とか差すことができた。

 

 天皇賞・春に関して言うことはない。E区分に敵はいない。

 

 そして、この世界でクロノジェネシスと初対決になった宝塚記念。ダービーの前くらいから、事あるごとに教室で怪我するなと言い含めていたロジャーバローズが怪我をせず、もちろんサートゥルナーリアも出走していた。

 

『さあ、先頭引っ張っていくのはロジャーバローズ! 第4コーナーを抜けて先頭に入っていく! 内からするすると上がってきたサートゥルナーリアはクロノジェネシスと横並びか!!

 阪神の直線は長い! 大外飛んでくるズヴィズダツァーリが5番手! 4番手! 3番手! 残り200! 速い! 速い! 速い!先頭ロジャーバローズを抜いて! ズヴィズダツァーリ1着! 無傷の11連勝!!』

 

 4コーナーで飛び出したロジャーを追いかける展開。最内で前を伺っていたナーリアと中団外目にいたクロノが続く展開。外側から行った僕は、ギアが少しでも速く入るよう外側に膨らんで距離を稼ぎ、大きいスライドで一気に駆け上がった。

 

 1着は僕。続く2着はギリギリまで粘ったクロノジェネシス。ロジャーは最後バテたもののナーリアを抑え切って3着と言う結果。

 だったのだが……。

 

 

 

 沖野トレーナーが、おハナさん事リギルのトレーナーに話を通したことで日程が決まり、明後日日本を出立する。そんな日。

 トレーナーからは体休めとけ。とだけ言われてオフ扱いなので、学園のターフが一望できるベンチからみんなの練習を眺めていた。

 

 Aターフはリギルの練習時間。サートゥルナーリアが秋初戦の天皇賞に向けて調整している。Bターフはカノープスの面々。ロジャーバローズがジャパンカップに向けて練習しているのをツインターボ先輩に邪魔されてる。あ、イクノディクタス先輩に技食らって退場だ。

 

「ねぇ」

 

「え? ああ、キングリー。どうしたの?」

 

 突然声をかけられて振り向くと、そこにいたのは学友の一人。マイルから中距離を走る彼女。

 

「キング先輩もトレーナーも今日いないから、並走手伝ってよ」

 

「いや、今日オフだから」

 

「なんですの? お二人して」

 

「ナーリア。ツァーリが暇らしいから並走相手になってもらう」

 

「まだ何も言って……」

 

「なになに? ツァーリと並走? 混ざって良い?」

 

「ロジャーまで!?」

 

「私も。あなたに勝ちたいから。良い?」

 

「ツァーリちゃんと一緒に走る!! 良いよね?」

 

 クロノとグランまで混ざってしまい、僕は抵抗することを諦めた。勝手にしろ。ってなもんよ。

 

「僕オフだから、一緒に練習するにしても走るのはなし。そもそも僕は食っちゃ寝てが大好きなの。だから今日は走らないよ?」

 

「なら私たちの練習見てよ。あなたを倒さないと、私たちの世代が弱いって思われる」

 

「てかそもそも、あんたの走りなんなの? 先行なの? 追い込みなの?」

 

 相変わらず機嫌が悪そうなダノンキングリーは、ため息を吐きながら僕に尋ねてきたので、ノータイムで追い込みだと答える。

 

「僕の走り方はさ、自分で言うのもなんだけどチグハグなんだ。先生……、昔僕にレースの仕方を教えてくれた人と試行錯誤して、自分に合った戦い方をしてるけどね」

 

「はいはーい! ツァーリちゃんって、足ためてドゴーン! って感じじゃなくて、ジワジワ上がってる気がするのは?」

 

「ああ、単純にギアが入らないんだよ。短いと」

 

 そーいえば、足の回転数上げてあの時の秋天とか勝ったけど、もうちょい早めに気付いてたら有馬でナーリアに負けることなかったのでは? ではでは?

 

「適正距離ってあるでしょ? それって、基本的には上がり3ハロンの全力疾走をした時、その体力を残せる距離だと思うんだよね。僕的に」

 

「それはあれですの? スタミナを使い切れる距離とかそういう意味ですの?」

 

 お! ナーリアの捉え方完璧! その言い方次から使おう。

 ちょうど、足元が砂なので、軽く絵を描く。

 

「ナーリアの場合は適正距離のマックスは2200。つまり、全力疾走をしてスタミナを使い切るには1600以下じゃないと成り立たない。クロノの場合はもう少し長いかな? 2200から2600くらいだと思うから」

 

「言いたいことはわかるけど、菊花賞3分以下っていうのは説明できないでしょ。あんた息も上がってなかったじゃん」

 

「ただ、その全力疾走って、はいどーぞ。っていきなり出せないでしょ? って僕は思う」

 

 僕が言いたいのは、トップスピードに持っていける速度の話。加速スピードと最高速度は違うという話。

 

「ウマ娘的な感覚で言えばよくわからないと思うけど、人間は速さに憧れを持ってる。船の速度、新幹線。そしてF1」

 

 F1。フランス語の規格という意味のフォーミュラ。その1。つまりは、世界最高クラスという意味(で捉えることができる)スポーツカーの最高地点。

 それは、空気の流れを考え、直線では地面に押し付ける力を弱めることを考え速度を出し、コーナーでは地面に押し付ける力を強めることでギリギリの速さを求める。もっと細かいことを言えば色々あるが、ナーリアにはマルゼンスキー先輩がいる。多分セナプロとか好きだろうからそこら辺好きにしてくれ。

 この世界で初めて見たが、僕はベッテルとライコネンが好きだ。

 

「スロットルを上げてエンジンの回転数を上げれば、僕たちのスピードはもちろん上がる。ただ、スロットルを踏み込んでから最高速に至るまでの速度が遅い。スライドが多い、体力をうまく使えない。色々あると思うけど」

 

 僕の最高速度は同期の中で加速力最強のナーリアよりも速いが、規格外ほど大きな開きの差はない。4ハロン44秒1のバケモンだからな。こいつ。

 そして、今のでわかったと思うが、ナーリアは最高速へ至る速さが余りにも速い。

 

「なら、最初っからギア上げていけばいいんじゃないの?」

 

「たしかにクロノの言う通りだ。だからやってる」

 

「え?」

 

「だからやってるんだよ。いつも」

 

 そう。いつもやってる。皐月賞の中山2000も、ダービーの東京2400も、菊花賞の京都3000も。

 

「菊花賞の記録って考えれば簡単なもんでさ、みんなが出さないタイミングに、僕が速度を出してるだけなんだよ。暴論だけどね」

 

 走り続けることそのものが僕を加速させる。だが、他のウマ娘に比べて加速率が低い。低い加速率を補うために常に加速をし続ける。ゴルシと同じだな。だが、その加速がある程度のものになるのが菊花賞で言えば1〜2コーナー間。1400〜1600くらい。

 そこからもどんどん加速していくが、その頃はまだみんな抑えて走る。速いものなら3コーナーあたりで動き始めるが、普通はまだ動かない。

 

「もちろん加速し続ける僕は、3コーナーあたりで先頭に立つ。みんなが速度を上げる4コーナー直前でも、その後の直線でも。そして、2400ほどまで走ってやっと僕の最高速度の手前くらいになる」

 

「でも加速は止まらない」

 

「そう。あくまでも手前だからね」

 

 だからロンシャンの形状はありがたい。前半は坂でスローペースだし、下り坂は長いから速度を少しでも上げられる。京都もそう。下りが短いから微妙だけど、春の天皇賞で走った阪神よりも100倍良い。

 まあ、これ全部競走馬だった時の話だけどね。

 

「じゃあ、基本の練習は……」

 

「1秒でも早く最高速到達スピードを上げること。普通の練習は僕はあんまりしてないから、みんなの練習見るなんて。あ、でも僕から言えるのは、ストレッチだけは本気でやりなよ? 怪我して走れなくなったとか言ったら、殺すから」

 

 少し威圧を込めて言ってやろう。殺す。と。

 

「同じ距離を走ることが少ないとは言え、ここにいる面々は僕がライバルだと思ってる皆だ。僕が負けるとすれば、君たちだ」

 

 そういえば、彼女たちは生唾を飲み込む。

 目の敵というか、目標というか。彼女たちからすれば、自分たちの存在など僕の視界にも入ってないと思っていただろう。特に、キングリーのようなタイプは。

 

「僕が海外に行ってる間、強い先輩は残るだろうし、新しい後輩が突き上げてくる。けど、君たちはそれを全部振り払うんだ。アレグリアはヴィクトリアマイル。キングリーは安田記念。クロノは有馬記念。ナーリアは秋天。ロジャーはジャパンカップ」

 

 僕がいないから主役不在じゃない。決して君たちは脇役なんじゃない。

 

「僕が出てたら、もしかしたらズヴィズダツァーリが負けてたんじゃないか? ってレースが見られることを、イギリスとフランスから見守ってるよ」

 

 よし、これで練習見るとか無くなっただろ。めっちゃいい雰囲気出し。うん。

 

「そうですわねツァーリさん!」

 

 いや、なんで僕の手掴んでんの?

 

「そこまで言われたらやるっきゃないよね」

 

 いや、ロジャーは背中押さんで?

 

「だよねー。さあさあ行こうツァーリちゃん!」

 

「早く行かないとターフのいい場所取られるからね」

 

 アレグリアとクロノは両側に立たないで?

 

「星の皇帝にダート舐めさせてやんよ」

 

 うん。キングリーが一番怖い。

 

「あーもう! お前ら全員ターフ外周五周してこい! スタミナ不安は距離走れ! マイル組はダッシュとスローの交互練! 僕は座って見とくだけだからな! 絶対だからな!!」

 

「はーい! ツァーリちゃんトレーナー!」

 

 絶対お前ら許さない。



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競走馬ー24:二度目のジャパンカップ 東京2400M

 ジャパンカップ。頼むよコント。
 お前が軌跡残す天馬(コントレイル)であることを証明してくれ。

 ※ディープ産駒よりステゴ産駒派です笑。


 ついにこの日が来た。

 2021年11月28日。今日の出走馬は、近年でも強い海外馬がいる。

 凱旋門賞2着のトルカータータッソ。

 イギリスのチャンピオンシップを制覇したフランス馬のシリウェイ。

 そしてフランスの二冠馬であるセントマークスバシリカ。

 

 その中入ったのは僕。ズヴィズダツァーリ。

 

 日本馬が、不利と言われている洋芝で大差勝ち。そんなの、欧州の馬が黙っていられるわけない。

 欧州馬は、僕を全力で倒しにかかるのだ。まあもちろん、こちらも全力で叩き潰しに行くけど。

 

 東京競馬場。基本的に先行と差し馬が強いこのコースを追い込みの捲りで好走したのは父であるオルフェーヴルの二着ぐらい。少なくとも近年では歯が立たない状態にある。

 そんな中、去年は僕たち三冠馬が四頭集まって戦った。本当の最強はどの馬なのか。っていうのを証明するような戦いだった。なんて大魔神はインタビューで答えてたらしい。

 

「今日も頼むな」

 

 パドックを数周していた僕とお姉さんは、先生が来たことで歩くのを止める。ヒョイっと軽やかに背中へ乗った先生にそう言われれば、僕の準備運動は殆ど終わったようなもので、後は本馬場入場でターフに行ったあと、芝の確認程度に軽く走ればおしまい。いつも通り棒立ちタイムに突入。

 

 あれ? そういえばコントいなくね?

 

 あれがトルカータータッソで、セントマークスバシリカでしょ? あのめっちゃこっち睨んでくるのがシリウェイ。

 

 遂にコントの野郎、拒否することを覚えたか!! あいつナーリアみたいに2000メートルくらいが適正なのに、無理やり走らされてるからなー。よかったよかった。無理に走らされて怪我とかヤバいからな。うん。

 

 相変わらず棒立ちなんだあ。って言う海外から来たジョッキーが僕を見て驚いているがまあいいだろう。そろそろ枠入りだしね。

 

「先生……。あれほんとにロジャー?」

 

「仕上がってるなロジャーバローズ……」

 

 足の筋肉の膨らみ方がとても大きく、パワーを鍛えてきたのがよくわかる。目付きもギラギラとしていて、秋天のあの雰囲気とは別物。正直偽物なんじゃないかな? なんて思うくらいには違う雰囲気を纏ってる。

 

「あっちはダービーのお礼参りか」

 

 

 

 

『さあ、三冠馬四頭による世紀のレースから一年。あの日栄光に輝いたのは、当時無敗だった星帝・ズヴィズダツァーリでした。次走の有馬記念で同期馬に初めての敗北し、そこから上を向いたズヴィズダツァーリが、今年、イギリスとドイツの名馬とともに、日本競馬史上初の凱旋門賞馬として帰還します。

 もちろん人気は一番人気! 日本帰国後初戦となる天皇賞・秋でコントレイルを押さえつけた実力は距離が伸びれば伸びるほど抑えられないものです。件のコントレイルは怪我によりジャパンカップ、有馬記念を回避、来年の大阪杯まで姿を見せない以上、三冠馬最強のこの馬にみんな賭けているでしょう。

 2番人気のセントマークスバシリカ。3番人気のトルカータータッソ。そして4番人気は今年のダービー馬、シャフリヤール。5番人気にシリウェイと続き、6番人気は秋の天皇賞で5着と好走。引退寸前から戻ってきた幻のダービー馬ロジャーバローズ。

 

 やはり期待してしまうズヴィズダツァーリのジャパンカップ連覇。そして秋古馬三冠と年間全勝というグランドスラムへの王手。さあ、ズヴィズダツァーリがフルゲート、18頭の最後として大外枠、8枠18番へと入ります』

 

 

ジャパンカップ 出馬表

馬名脚質適正人気

キセキ◁◁◁◁10

シャフリヤール◁◀︎◀︎◁

セントマークスバシリカ◁◁◁◁

マカヒキ◁◀︎◀︎◁

トルカータータッソ◁◁◁◁

ユーバーレーベン◁◁◀︎◀︎13

ムイトオブリガート◁◁◀︎◁12

ワグネリアン◁◀︎◁◁11

ロジャーバローズ◁◀︎◁◁

10アリストテレス◁◀︎◀︎◁

11シャドウディーヴァ◁◁◀︎◁17

12ロードマイウェイ◁◁◀︎◁18

13サンレイポケット◁◀︎◀︎◁14

14カレンブーケドール◁◀︎◀︎◁

15オーソリティ◁◀︎◁◁15

16ユーキャンスマイル◁◁◀︎◀︎16

17シリウェイ◁◁◁◁

18ズヴィズダツァーリ◁◁◁◀︎

 

 

 するするっとゲートに入った僕。スタンドに一番近いこの位置。隣にいるのはシリウェイ。塀で見えないが、きっとその目はギラギラとしてるんだろうな。だってフランス馬だし。

 

「出遅れ厳禁」

 

 もちろんだよ先生。フォワ賞は下り坂のお陰でどうにかなったけど、東京はわりかし平坦気味。

 

「行こう。勝つぞ」

 

 ゲートが開いた瞬間、僕たち18頭は全速力で飛び出した。

 

『さあジャパンカップスタート! ゲート開きました! 好スタート決めたのはオーソリティとワグネリアン。ロジャーバローズも悪くない! だがキセキ! キセキが逃げます!』

 

 東京の2400は、スタートから1コーナーまでが割とある。だから秋天の時みたいなハナ争いにはなりにくい。ただ、今日の出走馬の多くは中段に位置する馬なので、そこでのポジション争いは熾烈。

 

 今も目の前で馬が固まっている状態。

 ん? なんかペース上がった? だれが逃げてる?

 

「先頭キセキとなりまして、3馬身ほど離れてワグネリアン。その外側ついているのがオーソリティ。ロジャーバローズは4番手半馬身離れて追走。

 

 残り固まっています。中団グループ先頭はマカヒキ。京都大賞典からの2連勝を狙います。さあさあ、先頭キセキが逃げています。大分馬群が縦長の状態。2コーナー目抜けてそろそろ向正面。マカヒキの後ろ続きますカレンブーケドール、セントマークスバシリカ、サンレイポケットが一番外で横並びで、

 半馬身下がってムイトオブリガート。シリウェイ内側。アリストテレスがこの位置」

 

 向正面真ん中の坂。すごく短い上り坂だが、若干だけペースが落ちる。

 まあ、そのあとすぐ下り坂だから結局のところペースは変わらないのだが、それでもみんなの体力は削られる。

 第3コーナーはほぼほぼ下り坂。そして第4コーナーから登り。

 

『かなり速いペース! 馬群はかなりの縦長、ズヴィズダツァーリが勝ったダービーと殆ど似た状況です! 先頭は変わらずキセキ! ワグネリアンとオーソリティ、ロジャーバローズは2頭よりも内側です。内ラチギリギリのところを上がってきて、後続とキセキとの差が縮む!』

 

 僕はいつも通り外側に膨らんだ、視界に見える位置にキセキがいる。

 あいつがいるといつもハイペースになるからしんどい。嫌い。

 

 まあいい。とりあえずやり切ろう。

 

『さあ東京の直線! ロジャーバローズがスルスルと上がってきてキセキを抜く! シリウェイもバシリカも上がってきた! ツァーリは!? 星帝は!』

 

 踏み込みに力を入れて、全速力で坂を登る。

 

『ツァーリだ! ツァーリが上がってくる!! ごぼう抜き! ごぼう抜き! 伸び方が違うぞズヴィズダツァーリ! ロジャー粘れるか!』

 

 ロジャーが一瞬僕の方を見ていた気がした。

 

『ロジャー粘るか!』

 

 勝つ。そう心で叫びながら足を出す。

 

『2頭だけの旅! いや、ロジャーが僅かに前か!』

 

 先生が鞭を入れる。僕はそれに応えようと必死に足の回転数を挙げるが、なかなかロジャーの前に行けない。

 

「勝つんだ!」

 

 ロジャーの声がはっきり聞こえた。

 

「クソがぁ  ッ!!」

 

 叫んだ。伸びきらない加速に。到達しない最高速に。そして何より、ロジャーが目の前にいるという現状に。

 踏み込めと足を動かし、進めと回転数を上げるが、足りない。せめて後1ハロン。いや、100メートルでいいから走らせてくれれば、完膚なきまでに打ち倒すことができるのに、

 

『ロジャーとツァーリの叩き合い! 叩き合いだ!!』

 

 

 そして、戦いが決する。

 

 2021年ジャパンカップ。僕は2度目の敗北を味わう。

 その相手は、ロジャーバローズ。僕とは新馬戦で敗北し、東京優駿でその首元にナイフを突きつけるところまで行ったが、それでも負けてしまった時代の敗北者。

 ダービーの後に屈腱炎が発症し、一年以上の養生。終わったはずの馬は、G2戦線で無敵となる。

 僕と同じように愛情を覚悟で返した。また走れるようにするという陣営の愛情に、屈腱炎からの復活という覚悟で持って応えた、ロジャーバローズ(不屈の海賊王)という馬が、牙を剥いた。

 

 

THE HERO

 

21年 世界に誇る競演 ジャパンカップ

 

1着だけが名前を残すレースは有れど

2着に残せる名前はない

 

 

『残りは300! ロジャー! ロジャー! 粘る! 粘ってる!

 ツァーリ届くか! その差は僅かだが体制有利はロジャーバローズ!!』

 

 

その秋 世界の中心が奪われた

世界最強を降すその略奪は 決してフロックではない

全ては 果たせなかった 取り逃がした夢を掴む為

 

『ロジャーだ! ロジャーだ! ロジャーバローズだ!!

 

星帝が持つ冠を! 今! 今! ロジャーバローズが奪い取った!

 

 ロジャーバローズ1着!! ロジャーバローズ1着!!

 

 東京の2400。これはきっと、古馬になった2頭だけのダービーだ! 不屈の海賊王ここにありと、あの日負けた同期たちに知らしめました!!』

 

 

引退寸前からの 奇跡の復活

波に沈む 自分の体ごと 全てを奪い去れ

ロジャーバローズ(ヒーロー)を越えろ

 

ジャパンカップ

 

 

 僕とロジャーにあった着差はハナ差。だが、それは果てしなく大きなものだった。

 サートゥルナーリアには油断で負けたが、彼には全力を出して負けた。全力で脚を回し、先生の指示に従って勝機を探り、最高のタイミングで飛び出したのに、負けた。

 

『2度目の敗北! ズヴィズダツァーリ、去年の有馬同様茫然と立っている。その瞳に映るのは何だ。あるはずだった王冠か、それとも、世代は一人ではないと教えてくれたライバルかっ!』

 

 完敗。たとえそれがハナ差でも、僕は彼に完敗した。

 たとえ周りが、僕のことをどう捉えようとも、僕はロジャーに覚悟で負けた。

 

「ごめん、みんな……」

 

 頭によぎった陣営に、僕は謝罪の言葉しか出てこなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

【ジャパンカップ】世界の競演で星帝の連覇阻止! 勝ったのは同期馬の海賊王!

 11月28日、東京競馬場で行われた第41回ジャパンカップを、6番人気であったロジャーバローズ号が制した。これにより、同馬はG1初勝利となり、また、同期馬であるサートゥルナーリアに続き、ズヴィズダツァーリ号に勝った二頭目となった。ズヴィズダツァーリ号はこれにより、19戦17勝。大阪杯からの連勝記録は6で止まることとなり、秋古馬三冠と年間全勝の偉業を阻止された。

 

 レースは、キセキが逃げに出ることで縦に伸びた展開となった。まるでズヴィズダツァーリが無敗の二冠馬になった日の東京優駿(日本ダービー)のような展開であり、最後方からの競馬となったズヴィズダツァーリと、先頭から3~4番手を走っていたロジャーバローズという形。

 ズヴィズダツァーリに騎乗していた打田騎手は「キセキが引っ張るハイペースに対応するため足を使ってしまい、彼の持つ末脚の全部を使いきれなかった」とコメント。

 同馬を担当する友康調教師も「あと100メートルでも長ければツァーリが勝っていたのは間違いなかった。だが、速いペースをタフに走り抜けたロジャーバローズには脱帽」とコメントしている。

 

 ロジャーバローズ陣営は、「皐月賞に走れなかった我々にとって、唯一戦えたダービーが心残りでした。同じ舞台。同じ距離、同じ最強に挑み、勝てたこと。それが何よりも大きな意味を持ちます」とコメント。

 また、「あの最強に二連勝した馬はいないので、19年組の意地として何がなんでも勝ちにいきます。サートゥルナーリアも、ズヴィズダツァーリにもうちの子負けません」と自信満々なコメントも残している。

 

【星帝引退】ズヴィズダツァーリ 年内引退へ 有馬記念でラストラン!!

 史上初の凱旋門賞馬であり、日本競馬史上最多であるG1・12勝。現在世界ランキング1位のズヴィズダツァーリが、年末12月26日の有馬記念を最後に競走馬を引退することが発表された。

 

 2019年10月20日、新馬戦から6連勝の後に迎えた菊花賞において、現状アンタッチャブルレコードと言っても過言ではない、2分58秒9を記録し、その強さを全世界に知らしめた。

 また、その年の有馬記念に勝利し、クラシック期の年間無敗を達成。また、8連勝を記録した。連勝記録は、翌年の有馬記念においてサートゥルナーリアに敗北するまで続き、11連勝まで記録を更新した。

 

 最終レースに向けて馬主である佐崎氏はインタビューに、「サートゥルナーリアとロジャーバローズにはしてやられた。一競馬ファンとしては、ズヴィズダツァーリだけの世代ではなく、あの子は一人ではないことが分かって嬉しい気持ちもあるが、やはり悔しい。調教師、ジョッキー共々陣営の全力を尽くして、ズヴィズダツァーリに最後の勝利を届けます」と答えている。

 

 引退後は種牡馬になることが確定しており、既に多数の申し込みが馬主である佐崎の所に来ていると噂されている。

 

 また、19年組の各馬も引退を発表しており、ズヴィズダツァーリに勝利したことのあるサートゥルナーリア、ロジャーバローズ。そしてクロノジェネシスも引退を表明。上記4頭は、有馬記念の後に4頭合同で引退式を挙げる運びと噂されている。




ローテ関係でバチボコ怒られるやつ。

出走成績 19戦17勝(G1:12勝)
獲得賞金総額25億3500万+298万ユーロ

18/09/22/土 新馬戦 2000メートル 
 1番人気 1着 2:01:8 700万
18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート
 1番人気 1着 1:45:2 3,300万
18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル
 1番人気 1着 2:01:2 7,000万

19/04/14/日 皐月賞 2000メートル
 3番人気 1着 1:57:9 11,000万
19/05/26/日 東京優駿(日本ダービー) 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:5 20,000万
19/09/22/日 神戸新聞杯(G2) 2400メートル
 1番人気 1着 2:24:5 5,300万
19/10/20/日 菊花賞 3000メートル
 1番人気 1着 2:58:9(WR) 12,000万
   クラシック三冠 10000万
19/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 1着 2:30:1 30000万

20/03/22/日 阪神大賞典(G2) 3000メートル
 1番人気 1着 3:00:1 6700万
20/05/03/日 天皇賞(春) 3200メートル
 1番人気 1着 3:16:4 15000万
  裂蹄
20/11/29/日 ジャパンカップ 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:9 30000万
20/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 2着 2:29:9 12000万 ハナ差
   1着 サートゥルナーリア 2:29:9

21/04/04/日 大阪杯 芝2000メートル
 1番人気 1着 2:00:2 13500万
21/05/02/日 天皇賞(春) 3200メートル
 1番人気 1着 3:12:5 15000万
21/06/27/日 宝塚記念 2200メートル
 1番人気 1着 2:10:7 15000万
      春古馬三冠 20000万
21/09/21/日 フォワ賞(G2) 芝2400メートル
 1番人気 1着 2:31:6 13万ユーロ
21/10/03/日 凱旋門賞 2400メートル
 1番人気 1着 2:36:02 285万ユーロ
21/10/31/日 天皇賞(秋) 2000メートル
 1番人気 1着 1:56:0 15000万

21/11/28/日 ジャパンカップ 2400メートル
 1番人気 2着 2:20:5 12000万
   1着 ロジャーバローズ 2:20:5 ハナ差

次走 及び 引退レース
  21/12/26/日 有馬記念 2500メートル

有力馬 及び 同日引退馬
サートゥルナーリア ロジャーバローズ クロノジェネシス


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ウマ娘ー11:全世界覇者へ KGVI & QESと凱旋門賞

いつも誤字報告ありがとうございます。

もう書きだめがない。よくここまで毎日かけたよ。もう次はない笑


「おいスぺ! なんかお前の携帯鳴ってるぞ?」

 

「え?」

 

 ゴールドシップさんにそう言われた私は、ガサゴソとカバンを探り、奥底で眠っていた携帯を取り出した。

 

「あれ? エルちゃん」

 

 携帯の画面に映っていたのは友達であるエルコンドルパサー。確か彼女は今、グラスちゃんと一緒にツァーリちゃんの海外遠征に付き合ってくれていたはず。

 

「もしもしエルちゃん? どうしたの?」

 

『ど、どうしたもこうしたもないデース!! ま、魔王が怖すぎるデース!!』

 

「ま、魔王!? 何があったの?」

 

『ごめんなさいスぺちゃん』

 

「あ、グラスちゃん?」

 

 どうやら慌てふためいていたエルちゃんだと説明ができないと思われたのか、グラスちゃんがエルちゃんの携帯を取ったみたい。

 

『ツァーリさんは飛行機が苦手なんですか?』

 

「え?」

 

 え? ツァーリちゃんって飛行機苦手なの? あれだけ海外遠征しまくるとか言っておいて……、苦手?

 

「どうしたんだスペ」

 

「あ! トレーナーさん! あの……。ツァーリちゃんって、飛行機苦手なんですか?」

 

「はあ!? あいつあんだけ海外遠征だのどうだの言っておいて飛行機苦手なのか?」

 

 どうなっているんだ? と口に咥えていた飴を取り出したトレーナーをよそに、電話の相手であるグラスちゃんは言葉を続ける。

 

『一応今イギリスに着いて、こっちの環境に慣れようとされてるんですが……、飛行機に乗ったあたりからおかしくなったんです』

 

 グラスちゃんによると、一応飛行機に乗り込んで出発するまでは大人しい感じだったらしい。だが一番最初に始まったのは、離陸直前エンジンが始動したことによる「うるさい」という一言だったという。

 学園が用意した遠征費用の中から座席などを指定した今回の遠征。未だ無敗のツァーリはレースの賞金で懐がかなり潤っているから、自腹でツァーリちゃんとエルちゃんとグラスちゃんの座席をファーストクラスに変えたらしい。

 

『確かにウマ娘にとって飛行機のエンジン音は大きいですが、我慢ができないほどではないはずなんですが……。ただ、次は狭いと言い始めたんです……』

 

 静かにしていたものの、閉鎖空間というのもありイライラし始めたように見えたとグラスちゃんは言う。さらには離陸後、乱気流の中に入ってしまい機体がジェットコースターの様に揺れ、ツァーリちゃんは気分が悪くなり15分ほどお手洗いに籠ることになったらしい。飛行機に酔っていた。

 戻って来るや否や、鞄からウマ娘用のイヤホンを取り出して音楽を聴き、全力で寝る。とそう言っていたのだが寝れなかったようで、目に隈ができた状態でイギリスの地に降り立ったらしい。

 

『それは、災難というか。仕方のないことだったのですが……。そこにエルが悪ふざけをしてしまって……』

 

 何をどう聞いてもエルちゃんがどんなことをしたかは教えてくれなかったが、何かよくないことをして怒らせたらしい。最終的にエルちゃんは、ツァーリちゃんにいろいろなプロレス技をかけられてしまったせいで全身が痛んで動けなくなったとのこと。

 

「そ、それで……」

 

『はい。つい先ほどまで技を掛けられていたのでエルは今ベッドで潰れてます』

 

「と、とりあえずエルちゃんが生きてるなら。それで、ツァーリちゃんは……」

 

『ベッドで眠ってます。とりあえず今週いっぱいとにかく体を慣らすとスピカのトレーナーさんに言われてますので。すでに東条トレーナーとスピカのトレーナーさんからいろいろメニューは聞いてますので、当分は問題ないと思いますが、何か注意点のようなものはありますか?』

 

「注意点……。なにかありますか? トレーナーさん」

 

 状況を掻い摘んで説明した私は、ひょいっとトレーナーさんに携帯を取られた。

 

「すまん。スピカの沖野だ。一応スペから聞いてるけど、ツァーリに対する注意点だよな」

 

 電話の向こうで、グラスちゃんが返事したのが聞こえた。

 

「一つ目。睡眠の邪魔をしないこと。ちゃんとアラームで起きるから起こさなくて良い。

 二つ目。起きるけど低血圧で寝起き悪いからあまり構わないこと。しばらくすればちゃんと動けるらしい。

 三つ目。食事が好きだから食事に関してとやかく言わないこと。マナーも良いらしいから大丈夫だと思う。

 四つ目。辛い料理が苦手で、唐辛子の匂いもダメだから近づけないこと」

 

『ああ。それで。エルがイギリスに着いてすぐの時にデスソースをかけたから……』

 

「よく死ななかったなエルコンドルパサー。ゴルシが辛子のたい焼き食べさせてロメロクラッチ食らってたからな。まあ注意点はそんな程度だ。俺も本人から聞いただけだからどんなもんかはわからないが気に留めといてくれ」

 

『わかりました。わざわざありがとうございます。トレーナーさん』

 

 そしてその電話から12日後、キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスがテレビで中継された。

 

 たった6人で執り行われるイギリスの歴史ある競争。アスコットレース場はかなり特殊な形をしていて、3角形の内、2つの頂点が伸びた形。

 

「そういえばトレーナー。なんであいつはキングジョージ? のレースを選んだんだ?」

 

「そういえばそうよね。イギリスのG1といえばインターナショナルステークスとかもあるものね」

 

 出走するウマ娘が紹介される画面の前で、私たちはトレーナーに説明を求める。

 

「ああ、あいつがKGVI&QESを選んだのはレース場の問題なんだよ」

 

 コース? 三角形が何か理由? と思っていたが、ゴールドシップさんが短く「坂」と答え、トレーナーもそれを肯定した。

 

「アスコットで行われる2400のレースは、下り坂でスタートする。そのままコースで一番低い位置を曲がり、残りはゴールまで20メートルを登っていく。ツァーリはスピードを上げるのが苦手だから、スタートから下り坂でスピードを上げやすく、また後半はずっと上がっていくからほかのウマ娘にとっては足が鈍る」

 

「ツァーリ向きってこと?」

 

「……。それをわかっていてあの遠征計画を考えたんですの?」

 

 アスコットでのこのレースの後は凱旋門賞。パリロンシャンレース場は約10メートルの坂と長い下り坂。それはそれでツァーリにとっては走りやすいものとなる。

 

「そろそろ始まるよー。枠入り!!」

 

 画面に映る彼女の勝負服は海外仕様というわけではなく、いつも通りの勝負服だった。

 真っ白なパンツとジャケット。インナーは青色のカッターシャツで、黒色のベストとネクタイを締めている。マックイーンによると「横浜カラー」らしい。野球はよくわからないけど。

 

 胸元には、皇帝・シンボリルドルフのように、これまでのG1勝利を示す8つのバッジがつけられている。見た目はマンハッタンカフェ先輩に似ているのに、勝負服は黒・黄色と白・青色で真逆なのは面白いよね。

 

『待ちに待った一戦が始まります。日本最強のウマ娘は世界に通用するのか。このアスコットレース場で星の皇帝は輝けるのか! 今! ゲートが開きました!!』

 

 皆ハラハラドキドキしているだろう。このチームから海外G1ウマ娘が出るかもしれない。いや、出るレースなのだ。だれも彼女が負けるとは考えていない。考えられないが正しいかもしれない。

 

 下りながら6番目。つまりは最後尾を走る彼女は、いつかは負ける。と私に言うけど、そんな姿を想像できない。

 

「勝利に絶対の原因はないが、敗北に絶対の原因はある」

 

「トレーナー? なんですかそれ」

 

「ツァーリが言っていた。油断と覚悟がレースを決める。って。あいつは前の世界でやり残したことをこの世界でやってる。それが無敗。油断なく、とっくの昔に覚悟を決めてるあいつは……。負けねえよ」

 

 スウィンリーボトムと呼ばれるこのコースの一番低い位置から進出する青鹿毛の髪。どんどんと上がっていく坂を、ツァーリちゃんだけが顔色一つ変えず登っていく。

 

「いけ。ツァーリ」

 

 トレーナーさんが言う言葉に続いて私たちも応援する。

 そして、ツァーリちゃんが先頭で最終直線へとやって来る。

 

『さあ! 最後! 最後! 伸びて来るズヴィズダツァーリ! 一人だけ次元が違う末脚! 既にもうセーフティリード! 後ろとは7バ身ほど、いや、もう8バ身差か!? 強い! 強すぎる!!』

 

 後ろを確認したツァーリちゃんは、明らかに流し始める。それでもゴールは目の前であり、確実に勝てる状況。

 

『もはやこのウマ娘を止めることはできないのか!! ズヴィズダツァーリ無傷の13連勝! 海外でも、星帝は強かった!!』

 

 上り坂が続くこのレース場においておそらくツァーリちゃんは無敵だろう。むしろ、彼女が苦手な平坦部分が多い日本に生まれたことが不幸だと思えるほど。そして、海外に適応できる能力を10月の第一日曜日に私たちは目の当たりにする。

 

 

 

 

『な、なんということだズヴィズダツァーリ!! フォルスストレートを全力疾走! 大丈夫なのかズヴィズダツァーリ! 走る! 走る! 先頭のまま直線に入る!!』

 

 抜け出した白と青の勝負服。重馬場の芝が抉られ、そして高く舞い上がっている。

 

 フランス。パリロンシャンレース場に良かった記憶なんて全く無くて、一番印象に強いのは、泣きながら通話したエルちゃんの声。

 でも、今画面に映る彼女にそんな姿は重ならない。

 

 世界にいる多くの最強格が集まる凱旋門賞。それなのに、日本の最強は全てをねじ伏せている。

 

『ロンシャンよ! フランスよ! 世界よ!』

 

 実況のアナウンサーが叫ぶ。これが星帝だと。これが日本の最強だと。

 

 本当にその通りだと思ってしまう。彼女に対して負けない。とは言えるが、勝つ。と断定できないほど、ズヴィズダツァーリという存在は勝利に愛されていると思う。

 チームルームの中ではソファーで寝転んでいるか何か食べているかばっかりだし、ストレッチは入念にしてるけど、基礎練以外ほとんどしている形跡もない。たぶん一人部屋になってしまった寮の中で違う練習をしているのだろう。そんな彼女が最強であると、実況アナウンサーが叫ぶ。

 

『残り200! 星帝が天を駆ける! 眼前に他はない! 他はない!』

 

 星帝天駆、眼前他無。

 

 菊花賞以降彼女の走りに対してよく言われている言葉。だが、その通りだと私も思う。

 

『エルコンドルパサーも、ナカヤマフェスタも敗れた世界に、ついに日本のウマ娘が、世界に名前を刻んだ!! ズヴィズダツァーリ! 大差での圧勝劇! このウマ娘に、世界の壁などなかった!! 海外G12連勝  ッ!!』

 

 1着で駆け抜けた彼女とその後ろには10バ身くらいの差があった。その差が一体なんなのか、私にはわからない。

 だけど、おかーちゃんと約束した日本一のウマ娘というのを目指す以上、彼女の存在は日本一を目指す上で大きいものだと思う。

 

 単純に強い。単純に速い。そんな指標で日本一のウマ娘を決めるのであれば、私は彼女に勝つことはできないだろう。

 でも、私にはおかーちゃんと約束した夢がある。ジャパンカップで日本総大将と呼ばれた誇りがある。

 

「私も頑張らないと」

 

 今日はツァーリちゃんの凱旋門賞で練習が休みだが、明日から普通に練習がある。その分しっかり熟さないと。

 

「見ててね。おかーちゃん!」




そろそろウマ娘回の方が多くなります。
競走馬回は有馬と引退後1〜2話くらいで終わらすからねー。


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ウマ娘ー12:隠してた秘密

 有馬記念の最後どうするかすげー悩んでる。
 多分、どんな書き方しても多少不満というか消化不良はあると思うけど、
 できる限り少なくしたくて悩んでる。

 あと、今話展開が急だけど許して。ウマ娘の話巻いてかないと。


 上半期の最後である宝塚記念の後僕は海外へと渡り、チームリギルのグラスワンダー先輩とエルコンドルパサー先輩と共にイギリスとフランスへ喧嘩を売りに行った。

 

 結局この世界でも飛行機は嫌いだった。

 音がうるさいし、ファーストクラスでも縛られてる感があるし、揺れて寝れないし、酔うし。本当に最悪。その上楽しみにしていたフィッシュアンドチップスにデスソースをかけられたし。睡眠も邪魔されたし……。

 

 けど、僕英語できないからなぁ。エルコンドルパサー先輩に、良い勝負を。ってどう言うの? って聞いたらめちゃくちゃいい笑顔で教えてくれたしね。まあ、お陰でイギリスもフランスもいい戦いができた。楽しいレースだったよ。本当。

 

「んで? なになに? スプリンターズステークスはグランが勝ったのか。マイルチャンピオンシップも。キングリーはハナ差二着。頑張ったな。秋天はナーリアでジャパンはナーリア・ロジャー・クロノが三つ巴って見方なのか……」

 

 空港のロビーで携帯をいじる僕。

 見ているのはレースの結果と分析的なことを記事にしているニュースサイト。そこに載っていた僕がいないレースでの話。

 

「ナーリアは距離不安があるデース! ジャパンカップの距離を走れなくはありませんが、ロジャーバローズの方が一枚上手だと思うデス!」

 

「あ、エル先輩もそう思う?」

 

 トレセンまでは学園が車を出してくれると言うことなので待っていれば、両手にタコスを持ったエル先輩が後ろから話しかけてきた。

 

「距離適正的なこと言うと、ロジャーとクロノなんだよねー。ナーリアは厳しいかな?」

 

「エル。ツァーリちゃん。学園からの車が来ましたよ」

 

 学園と連絡を取り合ってくれていたグラス先輩が僕達を呼んだ。どうやら、職員の一人がクルマを回してくれるそうだ。

 

「けどこれでやっと日本食が食べれる。おにぎり、天ぷら、寿司、ラーメン」

 

「あれだけ食べて太らないのがすごいデース! あんまり練習とか動いてるイメージないから、不思議デース」

 

「あー。多分燃費が悪いんですよ。僕。それに、食べる回数は多くても一回の量が少ないから、総量で言えばそんなにだと思うよ? スペシャルウィーク先輩の方が食べてる」

 

 エル先輩もグラス先輩も笑っていた。どうやら心当たりがある様だ。

 とりあえず私はグラス先輩の後ろを付いていき、学園が出してくれた車に乗り込む。僕の帰国を嗅ぎつけてきたマスコミには一切目線を合わせなかったのはまあ……。うん。

 

 そして、戻ってきた学園。久しぶりのトレセン学園。

 

「お帰りなさいですわ。ツァーリさん」

 

 三女神像の前で僕を待っていたのは、可憐な少女。サートゥルナーリア一人だけ。

 

「他の子達は?」

 

「特訓ですわ。誰かさんが海外のウマ娘たちを焚き付けたせいで、私たちジャパンカップ組が狙われるんですのよ?」

 

 ナーリアは? と聞けば、彼女はどうやらオフらしい。後でエル先輩とグラス先輩にも挨拶するとのこと。

 

「海外はどうでしたの?」

 

「うーん。コース的にはあっちの方が走りやすいよ? 坂とかいっぱいだし。ただ、やっぱり芝は日本のが良いよね。反発感が良いから」

 

 特にアスコット競馬場……。じゃなくて、レース場は良かった。開幕下り坂でスピード上げれるし、底からはずっと上りだし。コーナーが急なこと以外は最高。

 

「それで? 何か用があって僕を迎えにきたんじゃないの?」

 

 そうです。と、私より茶が強い長髪が揺れる。

 

「エル先輩が仰ってましたの。凱旋門賞に勝った日の夜、ベッドに寝ていたあなたは、『先生』と呼ぶ方に謝っていたと……」

 

 うげ。めっちゃ心当たりある。飛行機でテンション下がった上に、やっと寝れた時に先生の夢を見て、無理やりエル先輩に起こされてタコス口に入れられて……。

 多分、何回かあったんだろうな。遠征中に。

 

「その先生というのが、日本を離れるときに仰っていた方と同じであると思うのですが」

 

「人の秘密に踏み込むには、相当の覚悟がいると思うよ?」

 

 これはまだ、誰にも言っていなかった話だから。ほとんど同じ境遇だと想像できる、ゴルシにだって言えなかったこと。

 

「それでも知りたい?」

 

「ええ。あなたのことならなんでも。わたくしは、ライバルである以前に、あなたと共に歩む存在になりたいですから」

 

「はは。とっくの前から親友だけどね」

 

 少なくとも皐月賞で戦った時から。僕にとってサートゥルナーリアという存在は大きな存在だよ。ったく。

 

「僕からは言いたくない。君から聞いて? 僕から話すと、色々とややこしく話してしまいそうだしね」

 

「なら、先生とは誰ですか?」

 

 真っ直ぐ見つめて来るナーリア。その目は、全てを聞き出そうとしている目で、そこに躊躇いはない様に見えた。

 

「僕に走り方を教えてくれた人。打田幸博。この世界には居ない、僕を最強に導いてくれた人の一人。降ろされるかも知れないのに、お父さんと大喧嘩してまで僕に夢を持たせてくれた人」

 

 僕には何も言わなかったが、あの厩舎での後、先生は大魔神に頭を下げたらしい。全ておっちゃんからの情報だから、どこまで本当かはわからないが、無事であることを大前提としていた大魔神に対して、喧嘩を売る様なローテーションを先生は提案した。

 凱旋門賞から4週おきに秋天とジャパンカップに出るローテーション。そもそも、秋古馬三冠のローテーションだって負担が大きいからと回避する陣営が多いのにという話。

 

 どう言った内容をしていたかはわからない。ただ、「お前の夢にうちの子を巻き込むな」と大魔神が言ったとおっちゃんは言ってたし、先生も先生で、「最強の馬に最強の夢を見なくて何がホースマンですか!」と大魔神に言ったらしい。

 

 最終的には、僕に少しでも怪我や疲労感が少しでもあればすぐに出走取り消しすると決定され、僕は引退レースの有馬記念まで走り切った。

 外野はクソローテのせいだとかなんだとか好き勝手言うけど、僕にとって全力で戦いに行っての負け。先生も大魔神もおっちゃんもみんなバッシングを受けていたが、引退した時のインタビューで言っていた通り、悔いはなかったろう。全力出して負けるほど悔しいことはないが、慢心で負けるほど許せないことはないから。

 

 僕は左の首筋に手を添えた。

 

「なら、なぜ謝るのですか? 休み時間にあなたが寝ている時によく謝ってますが」

 

「ナーリアは、大切な人っている?」

 

 僕は、ナーリアの質問に答えではなく、質問で返す。

 

 僕を産んでくれた母さん(ヴィルシーナ )。ウマ娘になった母さんと、馬だった母さんはだいぶ違うけどね。

 

「僕はね、何人も大切な人がいるけど、本当に会いたい人には会えない。だってこの世界にいないから」

 

 嘘を言って僕を怒らせる大魔神はいない。

 女の人が僕を見にきてやる気を出すことに呆れるおっちゃんはいない。

 僕の走りを見て、勝ったらお疲れと首を叩いてくれる先生はいない。

 

「この世界に生まれ落ちて、日にちが経てば経つほど、勝てば勝つほど、あの人達は遠くなっていくんだ。信じられる? 褒めて欲しい人に褒められないどころか、その人の顔も、声も、手のひらの感触も忘れかけてるんだ」

 

 正直、みんなの顔は輪郭と服装くらいしか覚えていない。思い出せない。

 みんなと一緒に走りたいのに、僕の記憶は、みんなを消そうとする。もう、みんなが必要ない。なんて言ってる様で嫌になる。

 

「僕の夢は無敗。それは先生たちへの恩返し。まあ、言ってる人には言ってるからね。ナーリアたちも聞いたことあるかも知れないけど」

 

「相談できる相手はいないのですか?」

 

「いるよ? でも、言えないんだ。この感情も、思いも、僕だけのものだから」

 

「わたくしや、わたくし達に出来ることはありますの?」

 

「あるよ。怪我せず、全力で僕を叩き潰しに来ること。たとえ僕がみんなの事を忘れてしまって、存在がいた事しか覚えていなくても、強い君達を倒せば僕はみんなに愛情を返せる。この世界にいる意味がある」

 

 君たちが僕に教えてくれたんだ。この世代の名前が、この時代の名前がズヴィズダツァーリ()だったとしても、僕だけじゃないんだって。一人じゃないって教えてくれた。

 

「僕が抱えてる問題を説明するのは本当に難しいよ。僕にある言葉にできない情報が、君たちにはないんだから。ただ、僕が問題を抱えている事を気づいてくれたのはありがとう。ジャパンカップは厳しいだろうけど、頑張って。ジャパンカップの海賊王。いや、今代の日本総大将(ロジャーバローズ)は強いよ」

 

「ええ。重々承知ですわよ」

 

 適正距離であるチャンピオンディスタンスに於いて、あの存在はレベルが違う。クラシックでロジャーに経験が少なかったから勝てたダービーとは違い、古馬じゃ頭一つ飛び抜けてたと思う。

 ナーリアが秋の天皇賞にいたら、色々変わってたのかな?

 

「まあ、チグハグな話でわけがわからないと思うけど、僕が言えるのはひとつだけ」

 

 僕は僕のために走る。それ以上でもそれ以下でもない。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『さあズヴィズダツァーリは外を回る。ズヴィズダツァーリは5番手から4番手、3番手、前との差は6バ身程でしょうか。ズヴィズダツァーリが一気に2番手まで上がって来る! 残り300メートル!

 

 しかし前とは5バ身ほどある! 残り200メートル! ズヴィズダツァーリがんばれ! ズヴィズダツァーリが来る! 前とはまだ3バ身ある! ズヴィズダツァーリ勝ち切れ!

 

 ズヴィズダツァーリ! ズヴィズダツァーリ! ズヴィズダツァーリぃ! 勝ち切ったズヴィズダツァーリ! これで今年も6戦6勝の年間無敗達成!! このウマ娘の旅路は終わらない!!』

 

「あれ? クロノちゃんまたツァーリちゃんの香港ヴァーズ見てるの?」

 

「うん。ツァーリは坂を得意としてるけど、シャンティンレース場はほとんど平坦だから、走り方を研究すれば日本のレース場でも活かせると思う。私が一番になるには、一番強い人から研究してかないと、ジャパンカップじゃ、ロジャーにもナーリアにも、届かなかったから」

 

 有マ記念がある中山は大きな山がある。それの攻略法も既に考えてある。あとは走るだけ。だから、来年の6月。来る最強との戦いのために、私は準備する。

 

「あんまりやりすぎてもダメだからね? 有マ記念近いんだから」

 

「わかってるグラン。ありがと」

 

「私はツァーリちゃんと同じ距離で戦うことなんてほとんどないけど、やっぱり目標だよね」

 

「うん。誰よりも先に、私が勝つ」

 

 布団を被ったグランを他所に、私はもう一度香港ヴァーズでのツァーリの走りを確認し始めた。



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ウマ娘ー13:ウマ娘世界での掲示板

色々学年がおかしくなってるから整理

ウマ娘としてトレセンに入ったツァーリの学年的に
ルドルフは卒業してないといけない。→してない

テイオー→ダスカ→ツァーリ。で中3からのはずがなってない

キタサトコンビが入学してない
(アプリだとダスウォッカとキタサト同学年だけど、アニメじゃ違うしね)

なので、学年のことに触れちゃうと世界崩壊するので、サザエさん時空ということで……。許して。そこ触れられると、ウマ娘回全部書き換えないといけないから。


中央ウマ娘を語るスレpart49

 

569:名無しのうまぴょい ID:4i2DbOzyO

三強はツァーリに勝てるの?

 

570:名無しのうまぴょい ID:dIZGgo77G

やっぱそこだよな。

ツァーリは海外修行(と言う名の蹂躙)をするって言ってイギリスから回ってるけど

 

571:名無しのうまぴょい ID:aloGeuIhy

サートゥルナーリア 秋天

ロジャーバローズ  JC

クロノジェネシス  有マ

3人で一つずつ分け合ってるからな

 

572:名無しのうまぴょい ID:SEK8unBbW

秋天とかの距離短いの苦手なんでしょ? ツァーリは

 

573:名無しのうまぴょい ID:aMrFh3DNh

>>572 そう

 

ツァーリは凱旋門賞の後のインタビューで、距離が短いのは苦手って言ってる

 

574:名無しのうまぴょい ID:Q3oaHdm5z

あの、皐月賞と大阪杯取ってるんですけど……

 

575:名無しのうまぴょい ID:bqaX4O14g

次ツァーリはドバイ?

 

576:名無しのうまぴょい ID:3L/Or8kKu

>>575 そう

 

577:名無しのうまぴょい ID:9LrIN4L4X

やっぱり最強はツァーリ?

 

578:名無しのうまぴょい ID:1DrGLHzva

俺はロジャー推すけどな

 

579:名無しのうまぴょい ID:XQELghwt0

ジャパンカップ良かったもんな

 

580:名無しのうまぴょい ID:+fg/ivFKO

エルの凱旋門賞二着じゃなくて、

ツァーリの1着でやってきたバケモン揃い押さえつけたからな

 

581:名無しのうまぴょい ID:1frrLN/9o

ナーリアが結構食らい付いてて驚いた。5着

 

582:名無しのうまぴょい ID:cazMlbus2

2000あたりのナーリアがやり切ったからな

出るって聞いた時驚いたけど

 

583:名無しのうまぴょい ID:xGqxhmj7i

凱旋門賞の二着とか、フランスのダービーウマ娘とか、

フランスばっかきたけどな

 

584:名無しのうまぴょい ID:R+DmeN+A8

意地だろ。でも、ロジャー1着とクロノ2着だしな

ダービーの2着とかがまぐれじゃない事は確実だよな

 

585:名無しのうまぴょい ID:B7rwebu/f

先行で前目にいて、しっかり抜け出すのは強いよ。

ハイペースでもしっかりスタミナが保って、

ローペースの瞬発力勝負でも戦える

 

586:名無しのうまぴょい ID:wo2ceUhCZ

有マだとクロノだったけどな

 

587:名無しのうまぴょい ID:h3xKbHQM/

ロジャーのトレーナーが、坂に対応しきれなかったって言ってたな

 

588:名無しのうまぴょい ID:rm6NS1b0R

ロジャーのトレーナーってどんなやつ?

 

589:名無しのうまぴょい ID:oJhZsZJgd

チームカノープスのトレーナー。優漢な見た目なのに

イクノディクタスに鬼畜ローテ組ませてるトレーナー

 

590:名無しのうまぴょい ID:240bOtxrI

カノープスっていったらツインジェットとネイチャか

んじゃあカノープス初のG1ウマ娘?

 

591:名無しのうまぴょい ID:p/oPU0+jW

>>590 そう

 

カノープスに入った理由は、ツインターボに誘われたかららしい

あと、オールカマーの時の走りに感動したらしい

 

592:名無しのうまぴょい ID:f63fUI5ts

おいおい、ツインターボって名前間違えて……ない!?

 

593:名無しのうまぴょい ID:rbrOM19VN

けど、ジャパンカップの後、ダブルターボのおかげで自信を持てたってインタビューに答えてたから、ロジャーは本当にいい子

 

594:名無しのうまぴょい ID:PI+tErw8K

パドックで困った顔しながら手を振るの可愛い。

 

595:名無しのうまぴょい ID:ygAcUtSHy

それなら、ナーリアの「わたくしを見なさい?」って感じの顔がたまらん

 

596:名無しのうまぴょい ID:VIVoiYrDB

ツァーリって基本欠伸してるよな。六冠ウマ娘の威厳がない

 

597:名無しのうまぴょい ID:cnsepgzPY

欠伸してなかったの菊花賞だけじゃない?

流石に海外のパドックまでは分からんけど

 

598:名無しのうまぴょい ID:4eQMb79QG

てか、ツァーリって国内だけでも六冠か。

 

599:名無しのうまぴょい ID:pagTd4J5v

海外でも4勝?

 

600:名無しのうまぴょい ID:4LLWSaBT6

国内外含めれば10冠。ルドルフ超えてる

 

601:名無しのうまぴょい ID:XkEY+Wpsl

絶対はルドルフだけど、ツァーリもいいよな

 

602:名無しのうまぴょい ID:2sk1Tzlbt

あれかっこよかった。菊花賞の

「絶対は、僕だ」って言う宣言

 

603:名無しのうまぴょい ID:eaMmZ1U4J

けど、国内組もめちゃくちゃレベル上がってるからなぁ

 

604:名無しのうまぴょい ID:JYl/xa84E

有マと春天は厳しいかもだけど、それ以外ならいい勝負するんじゃね?

 

605:名無しのうまぴょい ID:MIYcuioUW

ナーリア「わたくしたち国内組がどれだけ頑張っても、皆様の頭にはわたくし達1着の前にいる幻想の姿がある」

 

606:名無しのうまぴょい ID:dGJTvnJTH

>>605 秋天のやつか

 

607:名無しのうまぴょい ID:dL/ClHs6f

けどそうだよな。流石に秋天はナーリアが買ってたと思うけど、

ジャパンカップと有マはツァーリが勝ってたと思う

 

608:名無しのうまぴょい ID:Y08xZJejg

ツァーリが負ける状況が思いつかんもんな

距離適正以外で

 

609:名無しのうまぴょい ID:IN1xbfoHU

そういやファン感で言ってたけど、

マルゼンとルドルフとシービー

卒業だな

 

610:名無しのうまぴょい ID:ffQFsdcP4

>>609 そっか。最終学年か

 

611:名無しのうまぴょい ID:Nc8JmWOky

マルゼンはなぁ……。マブイよな

 

612:名無しのうまぴょい ID:AVD8pbygO

>>611 マブイな

 

613:名無しのうまぴょい ID:MUWOz9zLy

てことは生徒会のメンバー変わるのか。

 

614:名無しのうまぴょい ID:03EuD6Q32

ナリタブライアンだろ? 三冠ウマ娘だし

 

615:名無しのうまぴょい ID:crh4o+Aed

ツァーリも一応生徒会に入ってる。庶務らしい

ファン感の校内見学の時に、生徒会役員一覧に名前載ってた

 

616:名無しのうまぴょい ID:++pltm8Nq

庶務か。てことはそのうち会長になるのか?

 

617:名無しのうまぴょい ID:WQx3OnIQr

あくびばっかりのツァーリが会長とか、崩壊だろ

 

618:名無しのうまぴょい ID:3mWfgj4Kw

けど、この年の組はいいよな。最高。

前にすごかったのはウォッカとダスカだったからなぁ

 

619:名無しのうまぴょい ID:h+olhQPU3

smile区分に分けると

S グラン

M グラン・ダノン・ナーリア

I ナーリア・クロノ・ロジャー

L クロノ・ロジャー・ツァーリ

E ロジャー・ツァーリ

だから、どの区分でも一流が見れる

 

620:名無しのうまぴょい ID:c1bpREODP

>>619 ダノンは一流じゃないでしょ

 

621:名無しのうまぴょい ID:b8bUjtMBz

安田記念も勝ちきれなかったもんな。菊花賞もダメだったし

 

622:名無しのうまぴょい ID:pfgp4uFxN

ツァーリ達は仲良くしてるけど、本人の劣等感凄そう。

有マでクロノも勝ったから、仲の良いメンバーでG1勝ててないの

ダノンキングリーだけだし

 

623:名無しのうまぴょい ID:fcK761UuC

けど、ツァーリのインタビューにあったけど、

自分についてこられる同期って言い方するよな

 

624:名無しのうまぴょい ID:WU/rtW+Uh

>>623 以外だよな。孤高的な感じの成績なのに

 

625:名無しのうまぴょい ID:nMHYdmxuS

けど、ナーリアとロジャーに対してだけバチバチってグランが言ってたな

ファン感で

 

626:名無しのうまぴょい ID:ni3S7N0Cl

あー。ツァーリの国内、6月まで待たんといけんかぁ

 

627:名無しのうまぴょい ID:/No69tuhc

大阪杯のメンバー、ナーリアとダノンだって。

クロノでないらしい

 

628:名無しのうまぴょい ID:MegMUVdMy

>>627 他は?

 

629:名無しのうまぴょい ID:vUXciaHXb

イクノディクタスまだ走るの?

そろそろ引退させたれよトレーナー笑

 

630:名無しのうまぴょい ID:8u4PCTb61

優男サイコパスで草

 

631:名無しのうまぴょい ID:TjF2bRQ5y

けど、怪我してねぇのすげえよ

 

632:名無しのうまぴょい ID:plh+ByZsx

逆に、テイオーは怪我だからなぁ。

あの有マで泣かんやつは潜り

 

633:名無しのうまぴょい ID:4fxkG0jG0

あの時のネイチャの投げキッスは俺のもん

 

634:名無しのうまぴょい ID:YbxzfSTmQ

>>633 これだから勘違い野郎は。あれは俺にだよ

 

635:名無しのうまぴょい ID:pZVbDvjy5

>>634 おい、ネイチャは俺の嫁なんだから俺へのに決まってんだろ

 

636:名無しのうまぴょい ID:5+Oy+P9PT

師匠「ネイチャ勢いでやってたから、ライブ終わり顔真っ赤だった!!」

 

637:名無しのうまぴょい ID:I/Gg2fb4m

今年の春シニア楽しみだわ。

三冠ウマ娘は出てこないだろうけど、

全部色が違うからね。楽しみ

 

638:名無しのうまぴょい ID:yoWZAhb8x

けど、ツァーリは長く走るんかね

 

639:名無しのうまぴょい ID:h8n+a+Cni

>>638 ドリームに移籍させられるんじゃね?

 

基本実績上げると中央はすぐドリームに転向させたがるし

 

640:名無しのうまぴょい ID:qRs37hJDf

まあ、いつかはがたつき来るからな。

半年ごとにレースがある方が調整しやすいだろ

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

問一、あなたはなぜ走りたいと思うのか。

 

回答、僕に課せられた使命のため。

 

 

問二、使命とは何か、詳細を答えなさい。

 

回答、僕を育て、誇ってくれた皆への恩返し。

 

 

問三、恩返しとはどのような行為か。

 

回答、負けない存在になること。

 

 

問四、現状負ける可能性はあるか。

 

回答、可能性はどんな状況でも存在している。

 

 

問五、負けないためにあなたがすることは?

 

回答、走ること。

 

 

「僕はいついかなる時でも走り続ける。たとえ僕の気持ちが届かなくても、きっと届いていると思いますから」

 

「そうか。なんというか、君という存在の幸福は、実現がかなり難しいものなんだな」

 

 もうすぐドバイへと出立する頃合い。生徒会室で、来季に向けて引き継ぎ作業をしていた生徒会長。

 仕事をいったん止めた彼女と僕の話は、彼女の信念に関することだった。

 

「僕的には、会長の考える『全ウマ娘の幸福』というのがいまいち理解できませんが」

 

「はは、理解してもらおうだなんて思わんさ。それが困難な道であるとは理解しているし、君の考えとかけ離れていることもわかっている。君は、全体ではなく個の理論だろう?」

 

「まあ、そういう言い方をすれば? ただ僕は、できる手段を行わない者が嫌いなだけです。僕のルームメイト……。元ですが、彼女は未勝利戦を走る存在でしたが、僕にはなれないと言ってこの学園を去りました。ただ、その前に何かできたのではないか? と思ってしまうのが僕なんですよ」

 

 確かに彼女には、原石のような素質はなかった。

 彼女に着いたトレーナーも、サブトレーナーから昇格した新人で、沖野トレーナーのような経験や知識が豊富な人材でもなかった。でも、彼女のトレーナーはよく僕に話しかけ、彼女がルーム内でどんな事をしているかを聞いていた。

 

「彼女があのトレーナーとしっかり話せれば、オープンを勝つことは出来ていたと思います。壊れる事を厭わず、重賞で勝つ事を目的としていたら、G3は1〜2回勝っていたでしょう。僕が言いたいのは、それまでの努力の否定ではなく、それ以上を熟す覚悟。覚悟がないのに、夢は叶えられないでしょう?」

 

「なるほど……。半知半解だな。ただツァーリの考えを聞くに、覚悟の先にある夢を達成した時に幸福があると」

 

「そうですね。そう捉えてもらって問題ないです」

 

 まあ、僕の夢が叶ったところで、目の前にあるのは無力感だと思うけどね。

 

 もちろん。やるだけやるけどさ。

 

「会長の言うウマ娘の幸福というものは競走生活の中にあるなら。って話ですけどね」




掲示板形式を長く書くのが苦手。

有馬の結末がうまく書けないのでウマ娘回引き伸ばす。
2パターン考えてて、どっちが良いかで悩んでる。


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競走馬ー25:忘れ物。有馬記念 2500Ⅿ

 積み上げてきた19の戦い。
 そこには勝利と敗北があった。
 勝つ意味を皆はくれた。
 負けたくないと思わせてくれた。

 全てをつぶす。
 それ以外に手段はない。

 僕が僕であるために。

 残り、2500メートル。


 有馬記念。それは、僕が初めて負けたレース。

 得意じゃない距離のサートゥルナーリアを甘く見て、彼に負けてしまったレース。

 

 多くの競馬ファンは、その年に走った多くの馬に夢を見せられ、この馬に出てほしいと投票する。自分の力では出走できない、一年の総決算。

 

『何かが起こる中山に、多くの夢が集まりました。

 世紀末、テイエムオペラオーはこの地で覇王へと至りました。オグリが、テイオーがこの地で復活のラストランを見せました。

 

 そして、星の皇帝・ズヴィズダツァーリが、ここで初めての負けを喫しました。果たして今日は何が起きるか。19年クラシック組四頭が、世代の強さを見せるのか。それとも、時代は変わるのだと若きホープが走るのか』

 

 中山競馬場で、大きな拍手が起きる。

 誰のためでもなく、1年間戦った、各馬への労いの意味を込めて。そして今日引退する、優駿達に向けて。

 

『あえて、あの馬と同じ言い方をしましょう。

 

 その馬は、いろいろな事を教えてくれました。

 名は、ズヴィズダツァーリ。

 無敗の三冠達成。その偉業は、我々に夢の意味を教えてくれました。

 国内G1・11勝。その強さは、我々に競馬の楽しさを教えてくれました。

 凱旋門賞、1着。その挑戦は、日本の誇りと意地を教えてくれました。

 

 その偉大な馬が、今日、このターフを去ります。

 

 ズヴィズダツァーリよ。最後に教えてくれ。このゴールの先に何があるのか。お前は一体何を求めて走るのか』

 

「ツァーリ。お前の忘れ物、取り返しに行くぞ」

 

 もちろんだよ先生。今日はみんな居る。全員倒して、僕が勝つ。

 

「気合十分だな。菊花賞の時並みじゃないか?」

 

 そりゃそうだよ。あれは偽物の最後だけど、今日は、本当の最後だから。

 

「ああ、そうそう。お前の父親のオルフェーヴルは、ラストランの有馬で8馬身差だぞ」

 

 はぁ? 何言っちゃってくれてんすか先生!!

 

『さあ、本馬場入場となります。本日は15頭立てとなっております。』

 

 本馬場入場。なんでかは知らないけど、今日は先生がすごく話しかけてくる。それに僕は静かに聴きながら、ターフへと向かう。

 

『2枠2番、馬主佐崎氏の背番号で勝利を誓う星帝ズヴィズダツァーリ。

 去年の有馬記念。今年のジャパンカップ。星帝を負かした二頭のいる舞台で、最後は自身の忘れ物を取りに行きます』

 

 今日の僕は2枠2番。つまりは22。大魔神の背番号。

 そんな番号を引いてくれた抽選の人には感謝だし、その番号で僕は負けるわけにはいかない。

 

『4枠7番、最後のグランプリを狙う最強牝馬クロノジェネシス。

 星帝の横を走る唯一無二の女傑が、今年最後の勝者になるか。

 

 5枠8番、幾度の敗北を乗り越えた祝祭馬サートゥルナーリアです。

 去年の衝撃は誰も忘れられないでしょう。絶対を絶対でなくした馬が、有馬2連覇を掴みに行きます。

 

 5枠9番、星帝を下したもう一頭ロジャーバローズはここにいます。

 不屈の海賊王はジャパンカップでの勝利と共に、星帝に対して唯一の2連勝を目指します』

 

 

「あれ? 珍しい。みんな来たの?」

 

「ああ。みんな今日が最後らしいし、みんなでちゃんと話すのは最初で最後かも」

 

 ゲート入りの前。僕の周りには、普段集まらないような馬も含めてみんなが集まっていた。

 サートゥルナーリア。

 ロジャーバローズ。

 クロノジェネシス。

 カレンブーケドール。

 ワールドプレミア。

 メロディーレーン。

 

「そうだ、レーン! 君、僕のお姉ちゃんなんだってね。ごめんなさい。ずっと前にいるちっこいやつって思ってた」

 

「知ってる。イワタが言ってた。でも、私がお姉ちゃんだがら言うこと聞くように」

 

「うん。引退後にね」

 

 カレンブーケドールからは、私のことなんて眼中にないと思ってたと言われ、ワールドプレミアは悪魔を見るような目で見られた。でも、なんかそんな空間が楽しかった。

 

「今日も勝つよ」

 

「いや、僕が勝つからね? わかってる?」

 

 ナーリアの宣言を秒で返す。

 

「わかってない。ジャパンカップで勝ったの、たまたまって言う奴いるから、僕が今日も勝つ。絶対に」

 

「かかって来なよ祝祭馬と海賊王。お前らに絶対影は踏ませない」

 

 そういえば僕って、大外枠になったことあった?

 なくね? 一番最後に枠入りするとかかっこいいじゃん。

 

「ツァーリ。最後行きましょう」

 

 おねーさんに引かれた僕が、2枠2番に入る。

 それだけで大きな拍手が中山競馬場に響き渡る。

 ごめんなさい。年末なのに一人で競馬場来て虚しい奴ら。なんて考えて。僕たちを見に来てくれたのにね。

 

『さあ、このレースで何を見せてくれるのか。星帝の底力か、19年組の意地か。はたまた。結末は約2分半後。2021年。最後な戦いが今、スタートです!!

 

 さあ飛び出したのは最内からのキセキ! 続きますタイトルホルダー逃げを打つ。続くはズヴィズダツァーリを倒したジャパンカップの勝ち馬ロジャーバローズ。キセキたちとは大体3馬身離れてついていきます。そこから2馬身中団固まり先頭はクロノジェネシスです。

 

 それにしてもキセキとタイトルホルダーが逃げる逃げる! 既に殿のズヴィズダツァーリとは10馬身。いや、15馬身程でしょうか?』

 

 スタート同時に緩い右に曲がるコーナー。正直内枠だったのもあって、後方集団の先頭に行こうと思ったのだが、先生がそれを止めた。

 久しぶりに序盤前に行こうとして怒られた気がする。よそ見して怒られることは良くあるけど。

 

 ああ、こうやって怒られることも無くなっちゃうのか。

 

 有馬記念の場合、外回りから始まる加減でスタンド前までは角度が緩い。なら無駄に外側に行く必要はないと最内をロスなく走る。僕と先生。

 左側からの拍手を浴びながら、目の前にいるメロディーレーンお姉様のことを伺う。

 

 そして、中山名物の大きな坂。ロンシャンに比べればそれほどでもないが、登り切ったら後半戦に走る位置にある。そして逃げ馬の速いペースでも必ずペースが落ちる地点。

 

 待ってたよ。先生のそれ。

 

 バシン! と良い音の鞭が僕の肩に入った。それが合図。下り坂に入る頃には1コーナーが終わっていて、2コーナーの入り口。

 加速力を得るために回転数の高い小さめのスライドで走っていたのをやめ、一気に前へと向かうため大きなスライドに変える。2種類の走り方をできる、頭が人だからできる走り方。

 

 内側のまま行くのかな? なんて思えば、先生がくいッと手綱を動かしたので外側へと位置をずらしていく。

 

『さあ2コーナー回ってズヴィズダツァーリが上がってくる上がってくる。内側から少し外に出ましたがそのままメロディーレーンを抜いて進出開始となります! さあ今日の上りはどうなのか、先頭キセキは少しペースが落ちてきたか? タイトルホルダーとの差は1馬身ほどでしょうか? そこから3番手のロジャーバローズまでは変わらず5馬身ほど。さあ後ろからあの青鹿毛が飛んでくる。

 

 皆様の記憶には何があるでしょうか。20馬身を巻き返したダービーか。それとも世界を打ち破ったフォルスストレートの爆走か。いや、今ズヴィズダツァーリが行うこの走り方でしょう。向こう正面中間!! ズヴィズダツァーリがサートゥルナーリアを抜かす。そのまま中団先頭のクロノジェネシスも交わして3角!』

 

 あとは3頭。僕の半馬身前にいる鹿毛の馬体。

 

 左足に力を込め、どんどんと芝を駆ける。

 

『さあズヴィズダツァーリがロジャーバローズを交わす。外側からしっかり抜ける。逃げ馬2頭はスタミナがきついか? 馬群がかなりまとまってきている!! さあ、ツァーリがタイトルホルダーを抜かして2番手! ロジャーとサートゥルナーリア、クロノジェネシスも上がって4コーナーを回る。

 

 母と同じ黒い体に、父の夕日が重なった!!

 

 キセキが馬群に飲まれる! ツァーリだ! ツァーリが一頭一人旅!! 完全に抜け出した!!』

 

 後ろの足音は遠い。先生が後ろを一度振り向き、そして二度鞭を入れる。

 

『な、なんなんだこの馬は! 強い! 強すぎる!! これが星帝だと二番手争いのナーリア・ロジャーに差を広げていく!! 3、いや5馬身!! 違う! それ以上の差を作っている。鞍上打田はセーフティリードだと鞭を入れるのをやめたが、ズヴィズダツァーリは走り続ける!!』

 

 どんどんと足を動かす。これが感謝だ。もらった愛情への恩返し。僕の覚悟。

 2回も負けちゃったけど、負けはそれだけで十分。

 

『さあ! さあ! 目に焼き付けろ!! これが日本競馬史の結晶!!

 

 この馬が! この世代が! この時代そのものが!!

 

 星の皇帝! ズヴィズダツァーリだぁ  ッ!!

 

 走り抜けたゴール板。スタンドは声にならない声で叫ぶし、拍手も送られる。

 

『ズヴィズダツァーリ! 二着のロジャーバローズに10馬身の大差!! さらには、ゼンノロブロイが残した2分29秒5を大きく更新!! 2分29秒2という置き土産を残しての引退!! 天を駆けた星帝には、歴史の名馬すら眼前にない他でしかなかった!!』

 

 そして、先生が僕の首元をポンポンと優しく叩く。

 

「お疲れ。ツァーリ。ありがとう」

 

 何を言ってんの先生。こっちこそありがとうだよ。先生のおかげでいろんなことができた。先生が走り方を教えてくれたんだよ?

 

「お前が一番だよ。ヴィルシーナより、ゴールドシップより、エイシンフラッシュより、ディープやオルフェ、ルドルフなんかよりも、お前が最強で、最高だよ。って!?」

 

 うれしすぎて立ち上がっちゃった。大丈夫? 大丈夫だよね。うん。

 

 けど、うれしい。母さんよりも凄くて、2冠馬のゴールドシップよりすごくて、先生に初めてダービーの勝利をプレゼントしたエイシンフラッシュよりも凄くて、名だたる三冠馬よりも凄いと思ってくれてる。

 

「さあ、口取り式と引退式があるからな。佐崎さんたちに最後の孝行だぞ」

 

 だね。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 後日談というか。

 

 引退式は恙なく終わった。残念ながらみんなは引退ということがどういうことなのかわかっていなかったが、僕が簡単に、一緒にレースすることがなくなる。っていうと、クロノがキレていた。どうやら、同じ距離を走る馬で勝てなかったのが僕だけらしく、それが心残りなんだそうな。

 

 有馬記念の前にグランは1足早くマイルCSで引退していたらしく、大魔神が、お前に種牡馬として依頼が来てる。って言ってた。まじかー。もう逃げれんじゃん。

 

 というわけで、僕はいったんだが母のいるノーザンファームに来てのんびりしている。

 

 そのうち種牡馬としての仕事が始まる。

 

 え? お前牝馬相手にちゃんとできんの? って?

 

 あの日、ほんとはグランに興奮してたから大丈夫だよ。たぶんね。

 

 

 

 

 


 

 

【有終の美】ズヴィズダツァーリ有馬記念でレコードの置き土産

 史上初の凱旋門賞馬であり、日本競馬史の結晶、ズヴィズダツァーリが、12月26日に行われた有馬記念を勝利し、有終の美を飾った。

 

 日本競馬を語る上で外すことができない2頭。無敗の三冠馬ディープインパクトと凱旋門賞まであと一歩まで迫ったオルフェーヴルの二頭の血を受け継いだ存在が、その存在を証明して見せた。

 

 2016年3月30日、ズヴィズダツァーリはジェンティルドンナが三冠を達成した陰で2着に泣いてきた名牝ヴィルシーナの初産駒として生まれた。伝説的事件と言って良い2分58秒9を記録した菊花賞を始めとして、その強さを全世界に知らしめた存在は、19・20年に続き、3年連続で年度代表馬に選ばれた。今年は8戦7勝という異次元の強さを見せ、満票で選ばれている。3年連続で年度代表馬に選ばれるのは史上初のことである。

 

 有馬記念での勝利について、主戦騎手を務めた打田ジョッキーは「菊花賞のような戦いができた。スタート直後からお互い意思の疎通ができていたので本当に良かったです。有馬記念が3000メートルならまた30馬身つけられたかも」とコメントしている。

 

 同馬は一度北海道のノーザンファームで放牧された後、種牡馬としてデビューするとのこと。

 

 ズヴィズダツァーリに関する主要な記録。

 

 デビューからG1を含む生涯20連対。

  次点は神馬シンザンの19連対。連対率10割ならダイワスカーレット。

 芝3000メートルでワールドレコード「2:58:9」を達成。

  前記録はトーホウジャッカルの「3:01:0」

 史上初春古馬三冠達成。(大阪杯、天皇賞・春、宝塚記念)

  リーチ馬はキタサンブラック2017で大阪杯と天皇賞・春制覇。

 日本馬初の凱旋門賞馬。

  前最高記録はオルフェーヴルの二年連続2着など




出走成績 20戦18勝 国内G1・12勝
獲得賞金総額28億3500万+298万ユーロ

18/09/22/土 新馬戦 2000メートル 
 1番人気 1着 2:01:8 700万
18/11/17日 東スポ2歳s 1800メート
 1番人気 1着 1:45:2 3,300万
18/12/28/金 ホープフルs 2000メートル
 1番人気 1着 2:01:2 7,000万
   2着 アドマイヤジャスタ 2:01:6 2馬身差

19/04/14/日 皐月賞 2000メートル
 3番人気 1着 1:57:9 11,000万
   2着 サートゥルナーリア 1:58:5 3½馬身差
19/05/26/日 東京優駿(日本ダービー) 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:5 20,000万
   2着 ロジャーバローズ 2:22:5 アタマ差
19/09/22/日 神戸新聞杯(G2) 2400メートル
 1番人気 1着 2:24:5 5,300万
   2着 サートゥルナーリア 2:26:3 大差(約11)
19/10/20/日 菊花賞 3000メートル
 1番人気 1着 2:58:9(WR) 12,000万
   2着 ワールドプレミア 3:03:0 大差(約30)
      クラシック三冠 10000万
19/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 1着 2:30:1 30000万
   2着 サートゥルナーリア 2:30:5 2馬身差

20/03/22/日 阪神大賞典(G2) 3000メートル
 1番人気 1着 3:00:1 6700万
   2着 ユーキャンスマイル 3:02:0 大差(約12)
20/05/03/日 天皇賞(春) 3200メートル
 1番人気 1着 3:16:4 15000万
   2着 フィエールマン 3:16:5 1/2馬身差
  裂蹄
20/11/29/日 ジャパンカップ 2400メートル
 1番人気 1着 2:22:9 30000万
   2着 コントレイル 2:23:1 1馬身差
20/12/22/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 2着 2:29:9 12000万 ハナ差
   1着 サートゥルナーリア 2:29:9

21/04/04/日 大阪杯 芝2000メートル
 1番人気 1着 2:00:2 13500万
   2着 コントレイル 2:00:4 2馬身差
21/05/02/日 天皇賞(春) 3200メートル
 1番人気 1着 3:12:5 15000万
   2着 ワールドプレミア 3:14:3 大差(約10)
21/06/27/日 宝塚記念 2200メートル
 1番人気 1着 2:10:7 15000万
   2着 コントレイル 同タイム ハナ差
      春古馬三冠 20000万
21/09/21/日 フォワ賞(G2) 芝2400メートル
 1番人気 1着 2:31:6 13万ユーロ
   2着 ディープポンド 2:31:8 1馬身差
21/10/03/日 凱旋門賞 2400メートル
 1番人気 1着 2:36:02 285万ユーロ
   2着 トルカータータッソ 2:37:62 大差
21/10/31/日 天皇賞(秋) 2000メートル
 1番人気 1着 1:56:0 15000万
   2着 コントレイル 1:56:1 1/2馬身差
21/11/28/日 ジャパンカップ 2400メートル
 1番人気 2着 2:20:5 12000万
   1着 ロジャーバローズ 2:20:5 ハナ差

21/12/26/日 有馬記念 2500メートル
 1番人気 1着 2:29:2 30000万
   2着 ロジャーバローズ 2:30:8 大差
   3着 サートゥルナーリア 2:30:8 ハナ
   4着 クロノジェネシス 2:30:9 1/2馬身 
   5着 タイトルホルダー 2:31:1 1馬身

同日引退
生涯成績 20戦18勝(内国外2勝)


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ウマ娘ー14:新年度

 今回短いです


 新年度になった。

 

 この学園の顔であったシンボリルドルフ先輩は卒業し、同学年のミスターシービー先輩やマルゼンスキー先輩も卒業した。

 

 それに伴い生徒会は、ナーリアを新しいメンバーとして迎え、ブライアン会長を筆頭に、グルーヴ副会長。ツァーリ書記。ナーリア会計の四人で運営されていく。

 

 そして、今年、テイオー先輩とメジロマックイーン先輩に懐いているウマ娘が入学する。

 一人はキタサンブラック。謎にテイオー先輩に憧れているウマ娘で、僕はその日いなかったが、先輩の引退騒動の時彼女のおかげで復帰し、有馬記念で執念の勝利を見せた原因のウマ娘らしい。

 もう一人はサトノダイヤモンド。こちらは謎にメジロマックイーン先輩の大ファンである。キタサンブラックとは幼馴染らしいが、体が仕上がってないことから、キタサンブラックと同年のデビューとはいかないだろう。

 

「んで? なんで僕は2回もこれを受けてるの?」

 

「こうでもしないとあんたが捕まらないからよ」

 

 なぜかはわからないがズダ袋に入れられた僕は、チームルームに運ばれ、いつかと同じように椅子に括り付けられた。

 

「まあ、確かに? 去年ほとんど海外いたしね。んで? 用件は?」

 

「最近お前が悩んでるって聞いてよー。鍋しねぇ? キムチ鍋」

 

「ゴルシ。僕は辛いのが嫌いだ」

 

「大丈夫大丈夫! 比較的甘いの買ってきたから。キムチ鍋祭りだぜ?」

 

「え!? 祭りですか!!」

 

「準備万端ですね! 私、鍋パーティーなんて初めてです!」

 

 両手に持ったビニール袋には、大量のキムチ。そして、祭りという言葉に反応したのはキタサンブラック。そして、若干ずれたことを言うサトノダイヤモンド。

 

「おいゴルシ。キムチに水ぶち込んで煮込んでもキムチ鍋にはなんねぇよ……。てかお前ら3人とも驚いてんじゃねぇよ。知っとけよ」

 

「や、やっぱり、おおおおかしいと思ったんですのよ」

 

 うん。メジロマックイーン先輩はわかってなかったな。てかスペシャルウィーク先輩は? こういうの知って……。目ぇ逸らすなよてめぇ。ツァーリちゃんボンバーが火ィ吹くぜ!

 

「まあいいですけど……。それより、眠いよ。ふぁ……」

 

 そういえば、この前授業サボって屋上で昼寝しようとしたら、セイウンスカイ先輩と会ったんだっけ。なんか気に入られた記憶が。

 

「とりあえずキタ、ダイヤ。二人はツァーリ挟んじゃいなさい」

 

 ダイワスカーレット先輩の指示を受けた二人は、そのまま僕の両腕を掴む。

 いや、可愛い子に引っ付かれるのは嬉しいけどね?

 

「キムチは嫌だなぁ」

 

 ちなみにこのキムチ鍋パーティーはチームルームにて行われたため、その日から当分の間キムチの匂いが充満し、僕は日本を離れるその日までチームルームに寄り付かなかった。

 周囲のチームルームにもキムチの匂いがついてしまったことで、沖野トレーナーは先輩たちにめちゃくちゃ怒られたらしい。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ツァーリさんって、どんな人なんですか?」

 

 ことの始まりは、チームスピカに入った一人、キタサンブラックの一言だった。

 

「怪物よ。かいぶつ!」

 

「怪物っつーより、バケモンじゃねぇか?」

 

「うーんと、魔王?」

 

「探究者。というべきでしょうか?」

 

「すっごい強くてカッコいいんだよー!」

 

「何言ってんだよお前ら。ツァーリはツァーリだろ」

 

 そんなことを言うチームスピカの面々。

 

「そういえばツァーリについて知ってることって何かある?」

 

 という話に変わる。

 みんなが口々に言うのは、生涯無敗を誓っていると言うこと、食事量が多いこと。趣味が睡眠で、学業は基本中の下あたり。そして時々、変な名前の人物に対して謝ってる。

 

「ねえねえゴルシ? ゴルシはツァーリと仲良いけど、先生ってどんな人か聞いた?」

 

「ん? 知らねー。あいつのかーちゃんなら付き合いあるぜ? つってもすげー昔のことだから、ツァーリのかーちゃんがこっちのこと覚えてるかは知らねーけど」

 

 情報として知ってることは沢山ある。

 芝のコースが得意で、パワー型。追い込みが合っているタイプで、長距離が異常に強い。

 

「菊花賞とかバケモンだからな。あれ」

 

「わたくしたち菊花賞を経験している者から言わせていただくと、デタラメもいいところですわよ。3000メートル三分切りなんて、後にも先にもツァーリさん以外できませんもの」

 

 海外で既に四勝。イギリスにフランス。香港とドバイで勝利を収め、マスコミからは世界皇帝。なんて呼ばれる存在。ドバイでは、ツァーリの出走が発表された時に4人出走を取り消してる。そんな、出れば勝つと思われてる存在が彼女。

 

 けどな。と、ゴルシが止める。

 

「けど、ツァーリは寂しがりやだから、構って構って構い倒しちまえよ?」

 

「もちろんやりすぎはダメだよ? エルちゃんがそれでツァーリちゃんに殺されかけてるから」

 

 殺されるってどう言うこと!? と、キタサトの二人がパニックに陥っていた時、チームルームの扉が勢いよく開かれた。

 

「沖野トレーナーは!?」

 

 扉を開けてやってきたのは、チームリギルのサートゥルナーリア。

 

「おうおう、今いねーぞ」

 

「かしこまりましたわ。沖野トレーナーが戻ってこられたらBターフに来るようお伝えください」

 

「何があったんですか?」

 

「何って、リギルの新人二人が、ツァーリさんに喧嘩を売ったんですのよ。自分たちの方が強いって」

 

 強い? ツァーリさんより?

 スピカの面々は頭の上にクエスチョンマークが浮かんだ。

 

「その二人の名前は?」

 

「コントレイルと、エフフォーリアですわ」

 

「おい、何やってんだよお前ら! こんな面白そうなこと、全力でやりに行かねぇと!!」

 

 一人だけ満面の笑顔を浮かべるゴールドシップ先輩に、みんなキョトンとした顔を見せる。が、次の一言でキタサンブラックがもって行かれた。

 

「何やってんだよキタサン! これは、トレセン学園名物、喧嘩祭りだぜ!!」




こんと? エフフォ? 死ぬ気か?


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ウマ娘ー15:特別出走 喧嘩祭り

 ツァーリの言葉・目線では馬で合ってます。

 あと、書き溜めないから明日落とすかも。

 メルボルンカップの日程勘違いしてました。
 でも、メルボルンカップを外すと、海外の長距離レースができなくなるので、目をつぶってくれると幸いです。

 なんかうん。日程早まったと思ってください。

 ほんとごめんなさい。


 俺、コントレイルには倒さなければならない相手がいる。

 ズヴィズダツァーリ。星の皇帝だのなんだの呼ばれてる奴。

 

 走れば絶対に勝ち、どんな相手にも負けない奴。そんなやつに勝てと、両親は口を酸っぱくして言っていた。

 しょーじき気に入らない。

 

 俺は地元じゃ最強だった。

 他のどんなウマ娘と戦っても負けたことどころか、影をふませたこともない。そんな俺に、両親はあいつに勝てだなんて言う。

 

 凱旋門賞の走りを見て、ミスターシービーのようなバカ見てぇだなんて笑ってたら、あいつはそのまま勝ちやがった。日本のウマ娘が不利って言われてるロンシャンで。

 

「おいお前。強いの?」

 

 目の前であくびかましたやつが、俺のことを見てニヤリと笑いやがった。

 

「うん。強いよ? お前より強いね」

 

 ムカつく。本気でムカつく。

 

「俺と勝負しろ。ダービーとおんなじ距離で」

 

「良いよ? 泣かしてやるから楽しめよ。コントレイル」

 

 なんで俺の名前知ってんだよ。とは言えなかった。その前に、同じクラスのスカシ野郎が口を挟んだから。

 

「なら。私も交ぜてくださいよ」

 

 もう一人のこいつはエフフォーリア。双子の姉にデアリングタクトとか言う優等生がいて、その姉に勝つために必死になってるやつ。

 口を開けばダービーダービーうるせぇやつだ。なんか知らんが、ダービーに勝って無念を晴らすとか言ってた。

 

「あなたに勝てば、私が世界一でしょ?」

 

「そんな簡単に決まれば面白いけどね。良いよ? 二人ともまとめて潰してあげる」

 

 俺の目には、目の前にいる存在が悪魔にしか感じられなかった。

 それほどまでに強い圧を浴びせられていた。こんな奴に勝つって? やってやんよ。

 

「あ、ナーリア。15分後くらいに模擬戦するからさ、ゲート出すの手伝ってよ」

 

「は? え? なんですのいきなり」

 

「だから、そこのクソガキ二人ボコボコにして泣かすからゲート出すの手伝って?」

 

 クソガキ? 誰がクソガキだって?

 

「誰がクソガキですか!!」

 

「世界ランク1位の僕にただの新入生が喧嘩売ってる。礼儀がなってない。そんなクソガキを躾ける。別に悪いことじゃないでしょ? それに、僕に真正面から向かってくる後輩って一人もいないから、可愛がってあげるよ」

 

「と、とりあえず東条トレーナーと沖野トレーナーを呼んできますから、絶対何もしないでくださいよ! 絶対ですわよ!!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「え? なんで13人もいるの?」

 

 僕は、集まった面々を見てそう言う他なかった。

 

 僕、コントレイル、エフフォーリアは分かるとして、なんで?

 

 ダービーウマ娘のウオッカ先輩。ウイニングチケット先輩。

 それに海外遠征じゃお世話になったエル先輩。ビワハヤヒデ先輩なんかもいる。

 ついでにツインターボ先輩とイクノディクタス先輩も。

 

 同期以下でいえば、クロノとロジャー。

 キタサンブラックとサトノダイヤモンドなんかもいる。

 

 あ、ウオッカ先輩が出るならとダイワスカーレット先輩もやってきた。あの人2400走れるの?

 ちげーわ。あの人有馬記念で勝ってんだ。

 

 ほかにもちらほらと見たことのある顔が集まっている。

 

「いや、なんで?」

 

「さあさあさあ! みんな集まれ!! 新進気鋭の新入生が、世界最強のズヴィズダツァーリに喧嘩を売ったぞ!! それに合わせて、各学年の最強ウマ娘たちがこぞって参戦!! トレセン学園名物の、喧嘩祭りだぜ!!」

 

 いや、ゴルシ、何やってんの? 何しれっと長机とマイク準備してんの?

 

「特別出走、枠抽選というか、奪い合いです!」

 

 まあいい。枠は抽選ではなく適当ということで、僕は迷わずに二枠二番を選ぶ。ツァーリは追い込みだから大外で良くない? なんて言うロジャーは無視だ。13人立ての2ー2は絶対譲らない。

 僕の隣である一枠一番は、喧嘩の末にコントレイルがとった。

 ちなみに、このレースで走るのは僕たち三人だけ。だと思う。ロジャーは割とやる気っぽいけどね。

 

「さあ、解説のマックイーンさん。このレースどう見ますか?」

 

「え!? わたくしが解説いたしますの!? そ、そうですわね」

 

「ありがとうございます解説のマックイーンさん」

 

「まだ何も言っておりませんわよ!!」

 

 このレースで使われるターフは練習用Bターフ。コースは基本的な楕円形であり、ポケットは2箇所。香港の沙田レース場に似た形。ただ、平坦な沙田レース場とは異なり、左回り。そして、向こう正面中盤から坂が始まり、第3コーナーで6メートル登る。中山レース場を逆走してるような感覚のコース。

 最終直線は420メートル。4コーナーの下りから平坦な直線に移り、ゴール盤までの1ハロンで3メートル登るバカみたいにスタミナを使うコース。

 

「ふぁー。眠っ」

 

 だらけ切った僕の周りで、他のウマ娘が準備運動を始める。

 体を動かして温めたり、ストレッチをしたり。いくら中継で見慣れてるとは言え、実際にこの僕の立ち振る舞いを見て驚いてる。

 

 いつのまにか指示出しする人も現れて、僕達はゲートに入った。

 

「よーし、出走じゃーい!」

 

 ゲートがバコンっ!と開いて、僕達は飛び出す。

 

「さあゲートが開いて、飛び出したのはツインターボ! ツインターボがめちゃくちゃに逃げる! 続くのはチームスピカの新人キタサンブラック。そしてダイワスカーレット。ジャパンカップを勝った今代の日本総大将ロジャーバローズが横並びですが4番手です」

 

「意外と普通に実況するんですの?」

 

「あたりめーだろマックちゃん!

 

 さあビワハヤヒデはロジャーから半バ身。そこからさらに1バ身離れてクロノジェネシス、サトノダイヤモンド、エフフォーリア、コントレイルと4人が固まってその後ろにエルコンドルパサーが続き先行グループを形成しています。

 

 イクノディクタススタート出遅れの加減で後ろからのレース。しっかりと対応ができるか! ウオッカも後方。そして新時代の旗手ウイニングチケットは後ろから2番。いつも通りの戦い方でダービーウマ娘の意地を見せられるか!」

 

 1コーナーに入り、位置取り争いも落ち着いた。まあ、そもそも僕は一人旅だから位置取り争いとか関係ないんだけどねぇ。

 

「さあ最後方のんびりと一人旅状態のズヴィズダツァーリですが、どう見ますかマックイーン」

 

「そうですわね。Bターフの特徴である2箇所の坂。そこでペースが落ちることを考えると、ウイニングチケット先輩に」

 

「ありがとうございます」

 

「せめて言い切らせなさい!!」

 

 スピーカーから流れる芦毛二人の絡みにクスリと笑うが、メジロマックイーン先輩の言ってる事は当たってる。

 僕とウイニングチケット先輩には3馬身くらいの間がある。これは前に近くない方が中団とか前の位置が見やすいとか色々あるんだけど、まあそこは良い。

 

 2コーナーを抜けたことでピッチ走行から徐々に歩幅を広げていく。

 

「さあ向正面に入ってズヴィズダツァーリ仕掛けてきた。ウイニングチケットにジリジリと詰め寄り?そのまま交わす!」

 

 ウイニングチケット先輩とウオッカ先輩の。そして、ペースが乱されていたイクノディクタス先輩を交わした僕は、そのまま第3コーナーの坂で一気に詰める。

 

「そんなとこいたら2人とも最下位だね」

 

 コントとエフフォの横を抜ける時に一言だけ呟く。嘲笑い、見下し、盛大に舐めた態度をとって呟く。

 

「舐めんな!」

 

「クソがっ!」

 

 坂にやられたツインターボとキタサンブラックがズルズルと落ちていく。入れ替わるようにダイワスカーレット先輩とロジャーが前へと進出し、ビワハヤヒデ先輩とクロノも3〜4番で前を伺う。僕はその二人の外側5番で坂を登り切る。

 

「坂ある分早く入る」

 

「なんだ?」

 

 頭は小さいが毛量が多いビワハヤヒデ先輩の横で呟いた僕は、そのまま飛び出す。

 ダイワスカーレット先輩が落ちてきたこともあって、第4コーナー手前で僕は2番手。前にいるのはロジャーだけ。

 

「あがるな」

 

「ズヴィズダツァーリがもう2番手! 下り坂を利用して一気にスピードを上げていきますズヴィズダツァーリ! 先頭は抜け出したロジャーバローズだがその差は僅か1バ身ほど! 逃げ切れるか海賊王!!」

 

「問題のコントレイルさんとエフフォーリアさんは6〜7番手あたりでしょうか? 少しキツそうですわ。シニア期に入ってる皆さん相手に新人ウマ娘は厳しかったでしょうか?」

 

 4コーナーを回り切った僕は末脚を爆発させロジャーを交わす。彼女も負けじと伸びてくるが、残り1ハロンの坂で勝負がついた。

 

「強い! 強い! 強すぎるズヴィズダツァーリ!!2番手からは4バ身差で楽々の圧勝!! コレが世界王者の力だー!」

 

 2番手は、最後の直線でロジャーを差し切ったビワハヤヒデ先輩。その次がロジャー。ウイニングチケット先輩、エルコンドルパサー先輩がクロノの前でゴールしている。

 ウオッカ先輩とダイワスカーレット先輩はハナ差でウオッカ先輩が前。

 

 イクノディクタス先輩を間に挟んで新入生四人が固まってツインターボ先輩がビリッケツ。

 

「コントレイル、キタサンブラック 、サトノダイヤモンド、エフフォーリアの順ですが、四人固まった原因はなんでしょうマックイーンさん。……ありがとうございます」

 

 いやいやゴルシ? 一言くらいは言わせてやりなよ。

 よし。とりあえず、クソガキ二人に話しかけるか。

 

「お疲れコント。エフフォ。見事な惨敗っぷりだね」

 

「う、うるさい」

 

「おうおうキレてるキレてる。二人とも、負けることは悪いことじゃないよ。恥ずべきことでもない。ただ、許せない負け方以外はどんな負け方をしても良い」

 

 ゴール番の奥で地面に倒れている二人。そんな二人の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でる。

 

「僕は君たちみたいに真正面から来てくれるような相手が少なかったから嬉しかったよ。一緒に走ってくれてありがとう」

 

 二人とも良い素質がある。しっかりと体を作って東条トレーナーや先輩方に色々教えて貰えば光る。

 

「僕はどんな相手にも負けるつもりはないけど、成長した君たちが、いつか僕の喉元に噛み付けるくらい強くなるのを期待してるよ」

 

 起き上がったコントレイルは、僕の目をしっかりと見て、ハイ! と元気のいい返事を返し、エフフォーリアは涙目で顔を逸らした。

 

 この反応も懐かしいや。

 

 レース後。僕はエアグルーヴ先輩と沖野トレーナーにしっかり怒られた。そしてコンエフコンビはエアグルーヴ先輩と東条トレーナーに。

 まあその後東条トレーナーには二人の走りがどうだったか尋ねられたりしたけどね。

 

「コント、エフフォ。お前ら僕に負けたから今日僕に付き合って」

 

「え?」

 

「はぁ?」

 

「ご飯食べいくよー。やっぱ日本にいるなら蕎麦だろ蕎麦。蕎麦食うぞー」

 

 瞳をキラキラさせたコントレイルと、ぶつくさと文句を言いながらもついてくるエフフォーリア。二人ともそのうち僕の舎弟と呼ばれるのだが、そこはまぁ一旦後でもいいだろう。



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ウマ娘ー16:国内帰還と、芽生えた思い

 前話にも書きましたが、以下注意文。

 メルボルンカップの日程勘違いしてました。
 でも、メルボルンカップを外すと、海外の長距離レースができなくなるので、目をつぶってくれると幸いです。

 なんかうん。日程早まったと思ってください。

 あと、いつもいつも誤字報告ありがとうございます。


『さあ、向正面に中盤! 白と青の勝負服! ズヴィズダツァーリが進出していきます! 最後方からぐんぐんと上がり、固まっていたバ群を一人! また一人と交わしていく!!』

 

 オーストラリアで1番のレースであるメルボルンカップ。それが行われるフレミントンレース場は、かなり独特な形状をしている。

 第1コーナーまでは約900の直線が続き、アスコット競馬……。じゃなくてレース場ほど急ではないが、割と急な第1〜2コーナーを曲がって向正面。そこからは末広がりに角度がつくことで、第3〜4コーナーの緩やかで大きなカーブが作られる。

 想像しにくい人は、音楽記号の『♭』を思い比べてくれ。

 

『さあ、第3コーナー直前でズヴィズダツァーリはすでに2番手! まるで菊花賞や春の天皇賞の時のような上がり方だ! 第3コーナー回って先頭はズヴィズダツァーリ! さあ、眼前に他はない! ここからは星帝による一人旅!』

 

 割と反発感の良い硬めの馬場。内ラチから一人分くらいを開けつつ、しっかりと走る僕。そして、思う。そういえば競走馬時代、3200のレコードって出してないよな? って。

 

「あがるな」

 

 一言呟けば、大きなスライドで一気に飛ばして行く。

 どんどんと後ろと差が生まれて行く中で、僕は勝利を確信しても緩めることなく足を動かした。

 

『ズヴィズダツァーリ! ズヴィズダツァーリ! 瞬発力勝負のE区分で、ありえない強さ! 異常としか言えないぞ! この強さ!

 

 イギリス・KGVI & QESを制圧し! フランス・凱旋門賞! 香港の香港ヴァーズ! さらにはドバイ! そして今日! オーストラリア・メルボルンカップを制する! さあ残りはたった2ハロン 五か国制覇まで残り200!』

 

 誰よりも先頭で僕はゴールを駆け抜けた。

 そのタイムは、3分10秒9。キタサンブラックが僕の後輩である以上、このタイムはぶっちぎりのワールドレコード。前の記録なんぞ知らん。

 

『ズヴィズダツァーリ! ターフのど真ん中で右手を広げます!

 これで、海外G1レース5連勝!! 世界中の名ウマ娘たちを前に、この存在は自身が最強であることを証明した!!』

 

 なお、このレースの後の飛行機で、僕は盛大にゲロをかましたが、その話は一旦置いておこう。ファーストクラスに乗っていたのに、5時間くらいはトイレとお友達をしていた。

 グラス先輩の緑茶がなかったら多分死んでたよ。ほんとに。読みたい本も読めなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「んで? 帰国早々話ってのはなんだ? ツァーリ」

 

 オーストラリアから帰国した僕は、一日の完全オフを言い渡されていた日。みんなが授業中であるのにも関わらず抜け出した僕は、一人トレーナーのところにいた。

 

 進路的な話です。と切り出せば、彼は胸を撫で下ろす。

 まあ、メルボルンカップから、足の異常はないとは言えかなりの短期間で秋天に出走するのだ。トレーナーとして怪我のことは憂慮に堪えないだろう。

 

「それで? 進路っていうのは?」

 

「うん。トレーナーになるにはどうすれば良い?」

 

「トレーナーに? お前が?」

 

 驚いた表情を見せたトレーナーは、何かを考えるように悩み。しばらくして何か納得したような表情をした。

 

「お前レベルのウマ娘がいない以上、お前のレベルにあった存在を作りたいってのはわかる。分かるが、かなりしんどいぞ?」

 

 えーっと、理由は違うけどまあいいや。勘違いしててもそれでいい。

 

「まず、トレーナーになるには中央や地方が運営している専門学校に入学する必要がある。そこで4年間学んで、地方なら地方、中央なら中央のトレーナー免許を受ける試験に合格しなきゃいけない。もちろん専門学校に入ることに関して年齢制限は無いが、ほとんどは大卒の奴らばっかりだ」

 

「けど、トレーナー免許の試験って、専門にいなくちゃ取れないわけじゃ無いですよね?」

 

「ある程度はもう調べてるか……。ああ。その通りだ。ただ、自力学習で試験に合格したやつは本っ当に一握りだけだ。普通無理だな。少なくとも俺の周りじゃ聞いたことねぇ」

 

 ま、そうなるよなぁ。

 ガシガシと頭を掻くトレーナーは、終わった飴玉の棒を捨てると、僕を見る。

 

「一応トレセン学園には、競走生活をリタイアしたウマ娘に対して、トレーナー学科って言う普通の学業にプラスして学べる仕組みがあるっちゃある。ただ、そこにいても辞めてく奴がほとんどだし、お前みたいな実績を積み上げてる存在は行かない」

 

「でも、門は開いてるんですよね?」

 

「一応な。練習方法とか人体学ってもウマ娘とかのだが、それはどれぐらい持ってる?」

 

「独学で地方の免許に合格した人がネットに記事を出していたので、そこに載っていた本は取り揃えてます。寮もいま一人なので、相手のベッドに山積みですね」

 

 読んでるか? と聞かれ、僕は室内で取れるトレーニングの時と移動中に。と。

 飛行機の移動で寝られない分、吐き気と戦いながら本を読み漁った。すでに6割くらいの本は読み終えていて、知識として頭の中にある。

 

「なら、たづなさんに相談しねぇとなぁ。中等部からそこに入っていいかどうか。実際、来年高等部だから問題ないっちゃないんだがなぁ」

 

「沖野トレーナーに付くサブトレーナー的な奴とか無理ですか? 候補生的な」

 

「あー。無理やりできるっちゃできるが、やっぱりそれも相談してからだわな」

 

 手詰まりに近い状態か。まあ制度があるなら仕方ない。

 

「免許をいつ取るかだな。高卒と同時に免許を取るのか、在学中に取るのか。俺としちゃ卒業後の方が断然いいとは思うが」

 

「できれば在学中に免許を取って、卒業と同時にサブトレーナーじゃない本トレーナーになりたいです。思うんですよね。ウマ娘側にやる気のあるウマが少ないと」

 

「って言うと?」

 

「前にシンボリルドルフ先輩にも言ったんですけど、どれだけトレーナーが頑張ったところで、ウマ娘のやる気がなければ話にならない。一人でも多くのウマ娘と関わってみたいんですよ。先生みたいに、愛情を受ける心地よさを与えて、それを返させる覚悟を持つ存在を育てたいんです。正直重賞なんて足壊せば誰でも一つくらい取れるんですよ。暴論だし、やりもさせもしないですけど」

 

 ただ、一人でも多く、許せない負けを減らしたい気持ちはある。

 

「なら、お前ならキタサンブラックをどう育てる?」

 

「この前の走りを見たり、足元見て思いますけど、キタサンブラックの脚質は逃げと先行より。ウチで言えばダイワスカーレット先輩と似た感じ。あの日は僕とツインターボ先輩っていうペース乱し魔神が二人もいたから話は別だけど、ある程度のハイペースでもついていけそうな感じがある。だから、いざと言う時の脚のため方。それと瞬発力勝負のやり方を中心にパワー系を育てていきます」

 

 トップスピードは中1中でも上から数えた方が早そうだしね。

 

「それには概ね賛成だ。よし、とりあえず上の人たちに許可が取れたら、キタにも聞いて、相談の上でやってみよう。やり方としては、お前がキタの育成プログラムを作って、それを俺が確認しながらダメなところは適宜直していく。コレからはほとんど日本だしな。キタの面倒見てやれ。アイツら拗ねてたぞ? 同じチームの自分達よりも、リギルの二人と一緒にいるってな」

 

 あー。そりゃすまねぇよ。二人とも。

 

「とりあえず、お前の意思は受け取った。俺から言えるのは、やるならやり切れ」

 

「はい」

 

「んで? お前は授業受けなくていいのか? 中の下だろ? 成績」

 

「うげ」



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競走馬ー26:ズヴィズダツァーリという馬

 ツァーリ産駒のちょい出し。

 ツァーリの産駒名募集します!
 繁殖牝馬の一覧も載せるので、牝馬と名前下さい!
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=271608&uid=371990


 the HERO 募集の活動報告
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=271189&uid=371990


 ズヴィズダツァーリという馬は、それはもう特殊な馬だった。

 

 彼の馬を簡潔に表せ。

 なんて言われたら、賢い、優しい、強い。と答えると思う。

 特に、その賢さは今まで見てきた馬の中で一番。ゴールドシップも頭は良かったが、それ以上に頭が良かったんじゃないだろうか。

 

 こちらの言葉はしっかりと理解していて、レース前に作戦を伝えたらその通りに走るし、レースを熟せば熟すほど、レースの位置取りや、僕の考えを理解していっていた。

 

「本当に不思議な馬でした。今まで乗ってきた馬の中で、ゴールドシップみたいな気性が荒かったり気まぐれだったり。なんて馬も経験してるんです。ツァーリもツァーリで、女の子好きだったりして気分屋なところはありますが、それでも根は真面目です。勝った負けたを理解していて、初めて負けた時に呆然と立ち尽くす。人の背中に乗ってるような感覚が時々ありました」

 

 ズヴィズダツァーリが引退したことにより、僕に、ツァーリに対するインタビューが殺到した。テレビ番組から雑誌、ラジオに新聞と、かなりの数インタビューを受け、そのほとんどが同じ回答ではあるが。

 

「打田ジョッキーとズヴィズダツァーリの思い出で、一番良い思い出と、一番悪い思い出はなんでしょうか」

 

 これもよく質問された。けど、たまにははじめてのことも話してみるべきかな? なんて思い、あの夜のことを話してみる。

 

「そうですね。良かった思い出とすれば、あれですね。サートゥルナーリアにはじめて負けた有馬記念の後。僕は色々考え込んじゃって、ツァーリの馬房に行ったんですよ。その時にね、ツァーリははじめて負けたのがショックだったのか落ち込んで、飼い葉も全然食べなかったんですけど、僕が行ったら食べてて」

 

「ズヴィズダツァーリが吹っ切れていたと?」

 

「いや、多分自棄食いだったと思います。それで、その時に色々愚痴みたいな感じでツァーリに話しかけたんです。負けたな。とか、自分はリュックだった。とかを」

 

「はいはいはい。打田さんが思う自分の不甲斐なさを吐露していたような感じでしょうか?」

 

「そうですね。その中で、ツァーリのレベルにサートゥルナーリアが来た。とか、ここから負け続けて有象無象の馬になるより、数少ない負けを語られる存在にならないか? って。お前は一人じゃない。陣営がしっかりついてるから。って言ったのが良い思い出です。そこからツァーリが本気を出し始めましたから」

 

 三冠を取ったあの菊花賞より、世界一になった凱旋門賞より、僕の記憶の中で一番輝いていたのは、子供のようにしょぼくれた、人間臭いツァーリの気弱な顔だった。ただそれだけ。

 

「それでは一番悪い思い出は」

 

「春の天皇賞ですね。怪我した時。ツァーリが無理をすることはなかったのに、それでも騎乗中に起きた怪我ですから。あの日、ツァーリがお辞儀をしなかったのは、すれば自分が立てなくなることに気づいてたんじゃないでしょうか? 獣医曰く、立ち上がる時の反動で肩の骨に異常が発生していたかもしれないとおっしゃっていましたから」

 

 あそこでお辞儀をしていれば、予後不良の可能性もあった。と言われた時、僕の目の前が真っ暗になったんだ。ツァーリが死ぬなんて考えたことも無かったから。そりゃあいつかは死ぬけど、競走生活中になんて考えられない存在だった。

 

「負けたことよりも、そちらの方が悪い思い出ですか?」

 

「ルドルフだってディープだって絶対じゃ無かったわけですから、いつかは負けると思ってました。有馬記念で負けた原因は誰が何を言おうと僕の騎乗ですが、ジャパンカップの時みたく、万全の体調、状態の時に負けることもある。僕たちはそう思ってました」

 

「それでは、何かやり残したことはありますか?」

 

 そう聞かれた僕は、何をやり残したか考える。

 無敗? それともレコード勝ち? 違うな。なんて浮かんでは首をかしげる。

 

「ツァーリとやり残したことはありません。やりたいこと、成したかったことはやらせてもらった。僕みたいなジョッキーに三冠の称号をくれた訳ですしね」

 

 ただ、カレの子供とまた走れたら良いな。なんて思うけどね。

 

「そう言えば、ファンの中には凱旋門賞2連覇を求める声もありましたが……」

 

「ああ、2連覇については佐崎氏も考えていたんですが、帰国後ツァーリの前で外国の名前か凱旋門賞って言うと後ろ蹴りをし始めて。馬房の壁、何箇所か凹ましてるんですよ。それで、やめとこうって」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 種牡馬としての生活が始まった。

 

 一番最初の相手は、やっぱりと言うか、グランアレグリアだった。

 グランも、グランの馬主さんも目をキラキラとさせながらやってきて、そのまま一発目。

 

 秘めた巨大なパワーによって聳え立ったタワーを、アスファルトに網目状にヒビが生えるような地響きで突撃してくるグランに使った。

 

 スッゲーでた。

 

 他にもアーモンドアイお姉様やクロノジェネシスともしたし、有馬で倒したリスグラシューさんとか。会ったことない馬で言えば、ダイワスカーレットさんとか、ブエナビスタさんとかメイショウマンボさんやアパパネさんとか。

 

 全く名前の知らない馬だっていた。

 

 もちろん子供ができない可能性はあるものの、馬主さんたちは子供を求めてる。叶うなら。全頭の種付けができてたらなぁ。なんて考えていたのだが、グランアレグリアと行ったあれから三週間後。受胎ができていなかったことをノーザンファームの厩務員から聞かされた。

 

 馬の発情は三週間毎らしいので、またそれに合わせて種付けを行ったがそれも失敗。他の馬はあらかた問題ないので、なぜかグランアレグリアにだけ成功しない状態だった。

 なので、グラン側も大魔神も5回ほど交配が失敗した時点で一旦交配を中止し、来年また行うことを決定した。

 

「あなたに何度も襲ってもらえるとか……」

 

 とブルブルと体を震わせていたグランには申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、人間だって受精卵がちゃんとできるかは確率なんだ。馬だってそうだ。と、僕は一度気にするのをやめた。

 

「どんな名前でどんな子が生まれるんだろう」

 

 そんな僕たちの裏側で、アーモンドアイの馬主クラブであるシルクが動いた。

 

 アーモンドアイとズヴィズダツァーリとの子供を、最後のシルクにしないか。と。

 ノーザンファームの傘下に入ってから原則として冠名をつけていなかったシルクレーシングだが、これまでのシルクという冠名の終止符に、ズヴィズダツァーリの産駒を選んだ。

 そして、そのまま名前は決定し、アーモンドアイとズヴィズダツァーリの仔である「シルクヒョードル」が、2億円、一口25万円の800口で募集され、「シルク」という冠名と、20冠ベイビーという期待の高さですぐさま埋まった。

 

 そんなまだ生まれていない「シルクヒョードル」が、無敗の三冠を達成するのは、これから3年後の話。

 

 もちろん、そんなことを知らないシルクの面々は言う。

 

「20冠ベイビーで大コケしたら天下の笑い者だな」

 

 と。

 シルクヒョードルの誕生まで、星帝の後継者が生まれるまで、残り300日。




 間違えてそのまま投稿してた笑。


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ウマ娘ー17:秋天 大衆の祝祭バvs.星の皇帝

 ツァーリの産駒名募集します!
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 まだの人はぜひぜひー。


 わたくしの学年には、化け物がいる。

 その名前はズヴィズダツァーリ。

 

 一見どこにでもいそうなほど平凡な見た目で、綺麗な黒髪と大きなお胸以外は、割と普通だった。坂路訓練を見るまでは。

 

 わたくしはオールマイティだと思ってる。平均的になんでもでき、それが高い位置でまとまってる。だからこそ、坂路訓練だって問題なく行っていた。

 

 わたくしが1番のタイム。まあクロノさんも同タイムだったけど。

 それで彼女は3番手。だが、坂路の最後1ハロンは、彼女が一番だった。まさか? という疑問は、選抜レースで確信に変わる。

 

 まだデビュー前とは言え、2500を一着。瞬発力勝負のコースを一番後ろから進めて、大外から一気。最後は流していた。思えば、あの時から格が違った。

 

 そこから、ツァーリさんは追い込みではなく先行で走っていた。

 メイクデビューからずっと、日本ダービーまで。不思議に思ってはいたが、スタートが上手でコース取りがうまい彼女をわざわざ後ろに下げる必要がないのも事実。

 チームスピカのトレーナーさんが考えた上で作戦を与えていたのだろう。

 

 みんな、ツァーリさんが先行集団を引っ張ると思っていた菊花賞。彼女は、最後方から飛んできた。

 無敗のまま二冠を達成した彼女は、本来の力を出していなかった。裏切られた。という気持ちと、どうすれば良いのか分からない焦燥が、わたくしたち同期の中にはあったと思う。遥か先でゴールする白い服と黒い髪を未だに夢に見る。

 全力で、三冠を阻止するために戦った面々が、完膚なきまでに叩き潰されたから。

 

 多くの同期はこの時点で競走生活をやめた。わたくしのルームメイトも、彼女のルームメイトも辞めた。

 でも、わたくしたちは諦めず、彼女に必死に追いつこうとした。ツァーリさんはそれは嬉しそうな表情をして、あくびしたり、ご飯をよく食べたりと割と自由人な彼女が、とても嬉しそうにわたくしたちを見ていた。

 

「海外2連勝……」

 

 新聞で見た彼女は、凱旋門賞の勝利トロフィーを片手に持ち、さも当然だという表情をしていた。だが、その衝撃は凄くて、凱旋門賞二着のエルコンドルパサー先輩とはよく走らせてもらっていたから、彼女が取れなかった高みというのを理解しているつもりだった。

 明確に、わたくしの目標が、世界で一番すごいのだと理解したのはその日だった。

 

 ツァーリさんは二人きりの時によく仰っている。僕に勝つことができるのは、君ともう一人だけだよ。と。少し悲しそうな笑顔で。

 

 もう一人が誰なのかは分からないが、それはきっと先生との約束に関係してるのだろう。そこに、わたくしもいる。

 

 今日は、わたくしが成長したのを見せる日。

 わたくしの適正距離で、下地をきっちり整えて挑む2000メートル。東京の地下バ道の出口で、あの人を待つ。

 

「来た……」

 

 真っ白なスーツに青色のカッターシャツ。黒色のベストとネクタイ。

 胸元には、これまで彼女が積み重ねてきた10個のバッチ。コツコツと鳴らす音が反響していた。

 

「今日こそわたくしはあな  

 

   お前を殺す」

 

 すれ違い様。彼女が一言呟いた。

 ちらり見えた彼女の青い眼は、凍てつくような恐ろしさがあり、わたくしは思わず狼狽えた。だが、彼女はそれだけを呟き、そのままターフへと向かう。

 

 仕上がった体つき。オーラ。その全てが、わたくし一人に対して、絶対に勝つと言う覚悟の現れ。メルボルンカップから間短い中で作ってきた、彼女の本気。

 

「あなたと会えたこと、本気のあなたが挑んできてくれること。その全てに感謝を致しますわ。それでもわたくしは負けません」

 

 わたくしは、光の中にいる彼女の背中に言葉を返す。

 

 化け物? 独裁者か魔王ですわよ。あれは。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『優駿が集まりました。ここ、秋の東京レース場。今日の注目は、世界最強と国内最強のぶつかり合い。去年の秋の天皇賞勝者のサートゥルナーリアが、王者として星帝の前に立ちはだかります』

 

 あまりにも強い気迫に、すでに折れてるウマ娘が何人か居た。やる気があるウマ娘はかなり少ないし、やる気のあるウマ娘も、勝ってやると言うよりかは、良い線行ってやる。と言うような雰囲気。

 ツァーリさんの言葉じゃないが、彼女を殺そうとしているのは、わたくしとグランさんの二人だけ。

 

「やってやりますわ。今日、ここで」

 

 東京レース場は嫌いじゃない。地下バ道を歩くことで足音が反響し気持ちが上がる。外に出た時の明るい空と、スタンドを埋め尽くす大勢のファンに嬉しくなる。そして、絶対に超えたい相手が、最高の仕上がりで戦ってくれる。

 

『さあ枠入りとなります! 一番人気はやはりこの子。星の皇帝・ズヴィズダツァーリ! 距離の短さをよく話題にされますが、皐月賞、大阪杯、ドバイターフと2000メートル以下でも結果を残しています!

 

 この評価は少し不満か? 二番人気、大衆の祝祭バ・サートゥルナーリア! 去年行われた秋の天皇賞を勝利しており、今年の大阪杯でも、グランアレグリア、クロノジェネシスの二人を叩き潰した傑物が、今日こそ一矢報いれるか。

 

 評価は劣りますが、素質は十分! 三番人気、喝采受ける短距離女王・グランアレグリア。主戦の1800以下ではありませんが、持ち前の切れ味を見せることができれば、距離も関係なく良い戦いができると思います』

 

 13人のウマ娘。その12人の準備が整った。あとは、ゲート入り前もずっと静かに立っていたツァーリさんが、大外枠の8枠13番に入るだけ。

 

 ゆっくりと、芝を踏みしめる音がやけに大きく聞こえた。歓声よりも、ツァーリさんの足音の方が大きかったような気さえもする。そして、全員の準備が整う。

 

『秋の天皇賞に輝くのは一体どのウマ娘か。期待しましょう。秋の天皇賞今、スタートです』

 

 ゲートが一斉に開く。

 

  ッ!?」

 

 スタート同時に、わたくしは目の前の光景に衝撃を受けた。なぜかすでに掛かってしまっている先行のウマ娘が、逃げ策のように飛び出したから。いや、実際逃げたんだ。ツァーリさんの気迫から。

 

『おおっと飛び出したウマ娘が何人かいるぞ! 明らかにおかしい破滅的な逃げ! 一体何が起きた!?』

 

 逃げも先行も飛び出したことで、バ群が縦に伸びる。ハナ争いではなくただ逃げるための走り。おそらく、彼女たちのトレーナーは悔しそうな顔をしているだろう。

 

 東条トレーナーからよく言われている。ツァーリさんと戦う上で一番重要なのは、自分のペースを守り切ること。春の天皇賞のような長距離は話が別だが、宝塚記念のような2200メートルあたりまでは、自分のペースを守ることで戦える。

 あくまでも、あまりにも早いタイミングでの進出によってペースが崩される。崩すのがツァーリさんの強みだと。

 

 そして、煽られた者たちがかなりのハイペースを作る。向正面中盤まで下り坂だから、余計にペースが早まる。対ツァーリさん的に言うとハイペースは歓迎だが、破滅的なのは歓迎できない。

 

 一番後ろにいるはずなのに、まるで真後ろにピッタリと貼りついているかのようなプレッシャー。

 なんでしたっけ。こう言う時にツァーリさんがよく言う言葉……。

 

「あがりますわね」

 

 向正面途中の短い坂を登り、そして再び降る。3コーナー途中にある1番低い位置から、残りは登り。

 最終直線で一気に上がるから、ツァーリさんが得意な形。でも、大丈夫。

 

「わたくしは、わたくしの力で祝祭を受けるッ!!」

 

  それは、初めての感覚だった。

 

 踏み込んだ足の反発によって一気に加速する。いつもと違うような加速に驚きはするが、足に違和感はない。なら、全力で駆け抜けるだけ。

 

  ターフの上に見えるはずのない矢印が見える

 

  先にあるのはただ一つ。

 

「見えましたわ! わたくしが受ける、祝祭への道が!!」

 

   Il festival non è ancora finito(祝祭はまだ終わらない)

 

 周囲に人が集まる。集まる歓声。いや、バ鹿騒ぎだ。酒の匂いを感じる。楽しそうな声が聞こえる。これはきっと、祝祭を祝う声。

 

「行けますわ!!」

 

 前にいる他のウマ娘たち。その間を、どう進めば良いか道が見えた。あとは、それを辿るだけ!

 

 一人。また一人と前を行くウマ娘を交わす度に、わたくしは確信していく。これが、ツァーリさんが菊花賞の時に見せた力だと。

 これが、わたくしのための力であると。

 

『第4コーナー手前でサートゥルナーリアがするするっと間を縫うようにして上がってくる! だがその後ろ、ズヴィズダツァーリが上がってくる! 上がってくるぞ! 先頭集団は飲み込まれる』

 

 前にいた人たちは全員抜いた。あとは、全力であの人の相手をするだけ。

 

『来たぞ来たぞ世界最強ズヴィズダツァーリ!! 4角を回って残り500メートル!! 祝祭バと星帝の一騎打ち!! まだ差は1バ身半だが、ジリジリとツァーリが詰め寄っている!

 

 祝祭を! サートゥルナーリアに祝祭を! 必死になって逃げるナーリア! だが最後の坂が立ちはだかる! すでに勝者はどちらかだ! 逃げるナーリア! 追いかけるツァーリ!』

 

「負けませんわ! 絶対に!!」

 

「勝つのは、僕だ!!」

 

 声にならない声を叫びながら、わたくしたち二人は坂を登り切る。

 

『残りは200メートル! ナーリア! ナーリアの体勢が有利! ツァーリが並ぶ! 並ぶ! 横並びでゴール!!』

 

 ゴール番を抜けたわたくしたちは、転げるようにして止まる。

 

「結果は!?」

 

 ガバッと顔を上げ、掲示板を見つめれば、そこに書いてあったのは「写真」の文字。

 確定勝ちではないことに悔しさを感じるが、それでもまずは届いた。捉えた。並んだ。

 走り終えた他のウマ娘も、スタンドを埋め尽くす観衆も掲示板を眺める。

 出された写真には細かな線が引かれ、手前にツァーリさん。奥にはわたくし。ぜーぜーと肩で息をしながら立ち上がった私は、結果を見て天を仰ぐ。

 

「何がワールドレコードですか……。負けは負けですわ……」

 

『大接戦! 横並びの死闘を制したのは、世界皇帝のズヴィズダツァーリ!! 判定結果は僅か6センチ!』

 

 勝ち時計の横で点滅する2文字に、わたくしは嫌味を言う。

 1分55秒2。6センチ差のわたくしももちろん同じタイムだが、負けは負け。全力を出しても、自分のテリトリーである2000メートルに置いて負けた。

 

「ズズッ……、ああ、はぁ」

 

 わたくしから遠くないところから、鼻を啜る音が聞こえた。

 まさかと思い彼女を見つめると、彼女が大粒の涙を溢れさせていた。

 

「ツ、ツァーリさん?」

 

「勝ったよ。やっとナーリアに勝てたよ、先生……」

 

 溢れる涙を拭おうともせず、ターフのど真ん中で空を見つめる彼女は、叫ぶ。

 

「見てたでしょ、なんで、なんで褒めてくれないんだよ! 先生ッ!!

 

 左の首元を押さえた彼女が泣き叫ぶ。

 いつか教えてくれた、決して届かない「先生」への恩返し。

 

「ありがと」

 

「ツァーリさん?」

 

「ナーリアが負けないって思ってくれてありがと」

 

 何を言っているのかわからず、彼女を見つめていると、ツァーリさんは言葉を続けた。

 

「ナーリアが負けないじゃなくて、勝ちたいって思ってたら、多分僕は負けてた。だから、ありがと」

 

 涙の跡がついた彼女を見たわたくしは、言葉を失った。

 彼女の言い方を考えるに、2000メートルでの実力はわたくしの方が僅かながら勝っていた。だけど、負けたくないと勝ちたいの気持ちの差でわたくしが負けた。

 

「もういいですわ。ほら、立ってください。泣いて寝転んだままなんて、わたくしたちが追いかけてるあなたじゃありませんわよ?」

 

「あははー。言うねー」

 

「あなたには有マ記念で勝たせていただきますので、わたくしの前を進みなさい。必ず勝ちますわ」

 

「あー。君と有馬は上がるね。最高に。あの世界で君に負けたのも有馬だった。もう上がってこないって思ってた君が、僕を追い抜いた。油断して負けた。許せない負けだった。ナーリアの今日の負けは、許せない負け?」

 

「いいえ。悔しいですが、気持ちの良い負けですわ。次は必ず勝つって思えるくらいの」

 

 手を引いて立ち上がった彼女は、わたくしの言葉を聞いて笑顔になる。

 そして、両手を上げ、右手は5を、左手は2を表す。

 

「有マ記念で」

 

「うん。有馬じゃ、全力の潰し合いを」

 

 彼女と共にお辞儀したわたくしは、二人でターフを去る。

 

「あ、レース中すごく変な感じがあったのですが、ご存知ですか? 力がみなぎると言うか、進むべき道が見えると言うか」

 

「あー。僕のとは違うけど、領域って言うらしい。ルドルフ先輩が教えてくれた。時代をつくるウマ娘は、必ず入るらしいよ?」

 

「なら、あなたと戦うことでわたくしも時代をつくってますのね。それはなんというか、嬉しいですわ」

 

「そう? まあ、僕も張り合いのあるライバルがいるのは嬉しいよ。あとは、もう一人……」

 

 ツァーリさんの目に火がついた。戦う相手は、きっと。あの鹿毛。

 

「あなたを倒すのはわたくしですわ。負けないでくださいね」

 

「あはー。君にも負けないからね」



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ウマ娘ー18:チームスピカ

 ツァーリ産駒のところから名前頂きました。
 さらや 様 ハイパー扇風機 様 ありがとうございました。

 ちょっと変えてるけど許してね。

 まだまだ募集してるのでぜひ!

 ツァーリの産駒
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=271608&uid=371990

 the HERO
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=271189&uid=371990


 秋の天皇賞を無事制し、国内7冠を達成した。

 

 まあ実際は、そのことよりもナーリアに勝てたことの方が嬉しくて、先生達に届けたくても届けられなくて泣いていたのだが。

 初めてナーリアに負けたあの日、ナーリアは、僕の得意な距離で勝てたことで世間からの評価を上げた。逆に今の僕は、Smile区分の「I」区分で国内最強の彼女に勝ったことで、僕も評価を上げた。

 

「あの時と逆か……。笑える」

 

「何が笑えるんですか? ツァーリ先輩」

 

「ん? キタか」

 

 はい! と元気な笑顔を見せる後輩の頭を、僕はワシワシと撫でる。

 沖野トレーナーと相談し、キタとも話した上で、僕は彼女の練習を見ることとなった。まあある程度は僕の趣味というか、やり方をよく真似させているようなものだが。

 

「まずはストレッチ! ですよね!」

 

「うん。体つきでちゃんとクランチとか体幹やってるのはわかるから、怪我しないようにストレッチとケアだけはしっかりね。僕は、枠入り前には動いてないけど、その前はしっかりと準備運動してるからね」

 

 二人でターフの上に座り、他愛無い話をしながらストレッチをする。足先から順番に、膝、腰、肩、首、肘、そして手首と手を解す。

 

「準備できた?」

 

「大丈夫です!」

 

 ここ2週間くらいは、僕の秋天へ向けた調整のためにチームで共通の練習をしてもらっていた。なので、今日からは久しぶりにマンツーマンで教えることになる。

 

「基本的に僕が教えるのは、加速力の上げ方っていうのは前にも話したよね?」

 

「はい!」

 

 僕が持つ最大の問題。それが最高速度へ到達する加速スピード。この件に関しては、時間がある時にタキオン先輩のモルモットになることで共同研究をしてもらってるから、そこで分かったことを噛み砕き、中学一年生の体でできることを教えているのが現状。

 

「キタの場合、トップスピードは高い位置でまとまってる。だから、前に資料で見せた通り、スピードを生かすための加速力と、スタミナを鍛える」

 

 最高速を表すスピード。

 レース中のスタミナ。

 加速力を生み出すパワー。

 速度維持の根性。

 レース運びに関する賢さ。

 

 この5項目を5段階で評価すれば、5、2、2、3、1くらいかな? 最高値のスピードを5とすれば。の話だけどね。

 

「スタミナは積み重ね。賢さは経験だと僕は思う。だから、練習で補えるパワーだよね。力こそ全てとは言わないけど、それが真理に近いのは事実。だから、今日は、太もも潰そうか!」

 

 僕の素晴らしい笑顔に、彼女は引き攣った笑顔で答えた。

 

 まずやるメニューは、寝転びダッシュ。うつ伏せの状態からスタートするやつだ。決められた幅。加速するのに必要な5メートルをうつ伏せから走る。

 そのあとはラダーと腿上げ。ひたすらに太腿を酷使する。

 

 別にしんどい表情を見るのが好きなわけでは無いが、必死になって練習をこなし、その練習を楽しんでるように見えるのはすごく好きだ。だからこそ、

 

「腿上げ遅くなってるよ! もっと上げて! 上げて上げて!」

 

 ちなみにこんなことを言いながら、僕も隣でおんなじ練習をしている。音楽室からパチってきたメトロノームのリズムに合わせて、足踏みをする。

 

 もちろん僕的に少しキツイかな? なんて思う練習も、彼女からすればしっかりとした負荷がかかる。僕が考えた彼女の体の許容範囲ギリギリを沖野トレーナーに確認してもらってるので問題はない。オーバーワークをしなければ。

 

「あと10! 9! 8!」

 

 とカウントダウンを行い、ゼロと同時にストップする。

 基本的な方針は脚を引っ張って前に出すこと。さらには歩幅を小さく回転数を上げる練習。彼女の戦いだとテンの3ハロンで全てが決まってしまうのだ。そこに集中力を高めていくしか無い。

 

「よし、この調子ならレベル上げられるね。体の成長さえ間に合えば、今年の年末デビューだから、しっかり焦らずね。んじゃあ水分とって、ここの外周ゆっくり走ってスタミナつけてこう。その間、僕も僕の練習するから」

 

 キタに指示を出し、今日の瞬発力に関する練習の第一段階をメモ取ると、自分の練習。東京レース場を模して作られたこのCターフの300メートルの坂路を、ピッチ走行で走る練習。

 競走馬からの癖でついついスライドを大きくしてしまうから、そうならないようの意識づけがメイン。キタと違ってまっさらな状態からの練習じゃ無いからね。うん。

 

 キタのスタミナ練の後に使うゴムチューブを取りだし、脚を出す力を増やすための練習を僕はし始めた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 こんこん。と、寮の扉がノックされた。

 

「はい。どうぞ」

 

 ガチャリと開いたドア。

 

「邪魔するぜー」

 

「失礼するわ」

 

 そう言って部屋に入ってきたのは、ウオッカ先輩とダイワスカーレット先輩。珍しい人が僕を訪ねてきたことに驚いたが、それ以上に驚いた声が二人の口からこぼれた。

 

「うげ、すげぇ大量の本」

 

「あんた散らかしすぎよ! せめて整理しなさい!」

 

 平積みだったり、開きっぱなしになっていたりするトレーナーになるための参考書が、相手のベッドどころか、床に大量に散乱した僕の部屋。申し訳程度に、僕のベッドへ向かう一本道と、体幹トレーニング用のスペースはあるが、それだけ。

 

「あーんもう、せっかく勉強見にきて上げたのに、片付けからやり始めないといけないじゃ無い」

 

「勉強? 僕の?」

 

 ちょうど床に座って本を読んでいた僕に、ダイワスカーレット先輩は、前屈みになり、一本指を立てる。

 

「トレーナーから聞いたわよ。あんたトレーナーになるための勉強始めたのに、学業が中途半端らしいじゃ無い! だから、この私が後輩の面倒を見てあげるってわけよ」

 

 うわぁ。おっぱいでか。あの世界じゃそんなことなかったのに、なんでこんなにでかいの? って、僕もでかいか。

 

「それじゃあありがたく?」

 

「ええ、この私が一番を取らせてあげるわ」

 

「んじゃあオレは本片付けとくぜ? つっても分類とかよくわかんねぇけどな」

 

 まあ、ウオッカ先輩はいいや。勉強の邪魔さえしなければ。

 

 というわけで、家庭教師スカーレットによる勉強が始まった。

 どうやら、先輩が見てくれるのは予習分らしいが、僕の苦手な数学と理科を中心にしてくれるらしい。ありがたい。

 

「いい? 出される宿題は全部復習なんだから、予習だけでもしっかりしなさい。特にあんたは海外にいた分ちゃんとした授業受けれてないんだから」

 

 ぷりぷりと怒ったような口調の先輩が色々と教えてくれる。

 

「あんたにも色々あるのは私たちも知ってる。けど、私たちはチームだし、私たち先輩がいて、キタやダイヤたち後輩がいる。あんたがあの日何に泣いたのかはわからないし聞かないけど、私たちがあんたのことをちゃんと見てるから。良い?」

 

「分かりま  

 

   ツァーリ! 漫画とか置いてねぇのか?」

 

 あ、これスカーレット先輩怒るわ。

 

「あんたねぇ!! 今ツァーリの勉強見てんだから邪魔するなら帰りなさい!」

 

 はは。この感じよく知ってる。

 ウオッカ先輩の孫とダイワスカーレット先輩の娘の喧嘩と似てる。というか、あれだね。こっちが本家だね。

 

「あいつら元気かなぁ」

 

「あいつらって?」

 

「えーっと、お二人みたいな親戚の子? ですね。ジーズナヤヴァダーと……、ローザ」

 

 80年振り、皐月賞を制した牝馬ジーズナヤヴァダー。ウオッカ先輩の孫に当たる子で、のちの安田記念にも勝った名牝。クラシックは皐月賞とオークスの二冠馬。

 ローザは正しい名前だとダイワローザだけど、ダイワってつけちゃうと気付かれるかもしれないし、やめとこうか。彼女は、ダービーと秋華賞を制した二冠馬。世代を超えたライバル対決。なんていろいろ言われていたけど、あの子達もずっとケンカしてた。

 

 放牧の時に、おじいちゃん! ってやってくるヴァダーと、お父さん! ってやってくるローザが可愛かった記憶がある。

 

「そいつらもウマ娘か?」

 

「内緒です」

 

 おい教えろよ! なんて言うウオッカ先輩をあしらって、僕は再び勉強に戻る。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「時代を超えたライバル関係がぶつかる! 男馬をも越える二頭の名牝が、東京の最終直線を走る!

 

 ジーズナヤヴァダーか! ダイワローザか! どっちだ! どっちだ!

 

 ジャパンカップ! 父が取った偉大な栄冠を掴むのは! 並んだまま! 並んだまま! 大接戦ドゴーン!!!」




 間違えてドゴーン! って書いたけどいいや。

 追記

 やっとコントが勝ってくれた。いろんなところで最弱だなんて言われてるけど、なんだかんだやってくれたことに最大の感謝を。
 この作品で活躍してくれたグラン、コントが引退して、あとは有馬のクロノだけ。頼む、下の奴ら全員ぶっ飛ばしてきてくれ。


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ウマ娘ー19:La victoire est à moi!

 仕事中に書いたから誤字見直す時間なかった。
 多分大量。ごめんなさい。

 まだまだ募集してるのでぜひ!

 ツァーリの産駒名募集します!
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=271608&uid=371990


 the HERO 募集の活動報告
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=271189&uid=371990


 僕の引退まであと少し。残りは二戦。

 

 学校のことを言うと、授業には付いていけるようになった。

 スカーレット先輩のおかげで予習をすることになり、生徒会室でエアグルーヴ先輩とサートゥルナーリアに睨まれながら宿題をこなす毎日。

 

 学年でも上から数えた方が早いほど頭の良い彼女に泣きつき、面倒見てもらったおかげで、最近の小テストは点数が割と良い。

 頭に叩き込む系はまだ苦手だが、とにかく書きまくって頭に入れる。これで形が決まった社会科のテストはどうにかなる。

 

 なので、勉強がある程度終わって、一息をつくタイミングで、僕は自販機で売られていたブラックコーヒーに口をつける。

 

「最近勉強しかしてないんだけど。僕」

 

「たわけ。貴様が普段からしていないのが悪いのだ」

 

 うわー。手厳しいー。

 なんて思いつつ、僕はソファーに体を預ける。

 

 まあ、ナリタブライアン先輩も、学年では上の方の成績らしいし、エアグルーヴ先輩も言わずもがなだ。あれ? なんで僕生徒会に入った? 場違いじゃね?

 

「私たちウマ娘は確かに競走生活を送っているが、トレセン学園はあくまでも中高一貫の私立校であり、そこに所属する以上、私も貴様も学生だ。学生の本分は学業」

 

「すみません。お母さん」

 

「誰が母親だ。全く……。それより、そろそろ時間だろう」

 

 壁にかけられた時計を見た先輩が、僕にそう言う。僕も確認すれば、確かにそろそろ、ジャパンカップの会見。

 

「それじゃあちょっくら顔出してきます」

 

「顔を出す。ちょっくら顔を出すのではありませんわ。ツァーリさんは主役でしてよ?」

 

 えー。やんなきゃだめー?

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「それではこれより、ジャパンカップ開催における記者会見を行います。本日司会進行を務めます。トレセン学園学園長秘書・駿川たづなです」

 

 連邦の白い悪魔じゃなくて、トレセンの緑の悪魔が、スタンドマイクの前で色々と話す中、僕は他のウマ娘たちを見る。

 

 すでにG1を勝利しているウマ娘だったり、僕が凱旋門賞で倒したフランスのウマ娘だったり。見たことのある奴がちらほら。

 

「ふわぁ〜あ」

 

「あくびするなツァーリ」

 

「眠い」

 

 一応口元は隠したが、後ろに立っていた沖野トレーナーにつつかれる。

 こんなことしょっちゅうなので、おねーさんは気にしないし、他の奴らも記者も、またやりやがって。なんて睨んでくるだけ。

 

 こう言う時に最強って良いよねー。素行不良でも許され……。

 

 めっちゃおねーさんに睨まれた。やめよう。

 

「それでは、各自決意表明を行っていただきます。枠順、1枠1番となった  さんからお願いいたします」

 

 予定調和と言うべき言葉。頑張ります。や、勝ちます。と言った決意表明と、ちょろちょろとしたトレーナーからの発言。

 よくもまあこんな形式ぶったことをいつまでも続けられるなぁ。なんて思ってしまう。

 

「3枠5番。ロジャーバローズさん。お願いします」

 

「はい。そうですね。今回のジャパンカップは、二度目のダービーという気持ちで行きたいと思ってます。あの時負けた人がちょうどそこにいるので、同じ距離、同じ場所。成長した私が、ふんぞり返ってる星帝さんを蹴り落とします」

 

 うひょー。やっぱりロジャーはそうじゃないとね。

 二度目のダービー。その言葉がこの世界でも聴けるとか。最高。あがるわ。

 ロジャーのトレーナーさんも、ジャパンカップに向けてしっかりとした調整ができているとコメントをしてくれた。

 

「それでは最後に、大外枠8枠16番のズヴィズダツァーリさん。よろしくお願いします」

 

「はい」

 

 待ってました。と言わんばかりに、パイプ椅子の上の目が僕の方を見る。機械のようにこちらを向く。気持ち悪いなぁ。なんて思うわけで。でも、彼ら彼女ら記者にとっては、それが仕事。まあ、ある程度分別がついてる記者の方が多いから良いよね。フラッシュ焚くやつとかいないし。

 

「大外枠は秋の天皇賞に続いてですが、あの時と違って2400なので、距離的な不安も少ないです。調整は順調。ただ、そこの海賊王が僕の絶対っていう宝物を奪おうとしてるらしいので、潰しに行きます。もちろん、国内外の有力ウマ娘もいるので、まとめて蹴散らします」

 

 パシャパシャとカメラのシャッター音が響く中、トレーナーもコメントを求められる。

 

「ツァーリの苦手なI区分から一変して、海外で修行して来たチャンピオンディスタンスになる。ツァーリ自身が言った通り距離に不安は少なく、調整も順調。必ず勝ってくれる状態になってる」

 

 16人の決意表明とコメントが揃った。ここからは、質疑応答。

 

「雑誌名駿の多田です。秋の天皇賞制覇おめでとうございます。レース後コメントがありませんでしたので、申し訳ございませんがこの場で聞かせていただきます。あの日、勝利後の涙と叫びはなんだったのでしょうか? 何かモチベーションに関係していたのでしょうか」

 

「そうですね。あの時泣いたのは、サートゥルナーリアに勝てたことが嬉しくて泣いちゃいましたね。秋シニア三冠が僕の最後の目標で、1番の関門は2000の秋天だった。波に乗れるかどうかの戦いだったので、嬉しさと安堵ですね。叫んだのは、勝ったって叫びました」

 

「毎朝新聞の金倉です。今回のジャパンカップ、本命はズヴィズダツァーリさん。あなたですが、あなた自身が考える対抗バはどなたでしょうか」

 

「そりゃあ全員です。レースは僕だけでするものじゃありませんし、僕以外は全員敵ですから」

 

 僕への質問が続くので、緑の悪魔が、僕以外への質問を募集した。

 

「月刊トゥインクルの乙名史です! ロジャーバローズさん! 先程は二度目のダービーという言葉をお使いになりましたが、それは悔しさをバネに。ということでしょうか」

 

「はい。クラシック期、彼女に一番近付いた以上、目標は決まってます。誰よりも先に彼女に勝つこと。それがジャパンカップという世界の名バが揃う場所でさせてくれる」

 

「つまり、二人がお互いを意識しており、最高の勝利を必ず掴むと!」

 

「もちろんやるからには勝ちます。負けないなんてことは言いません」

 

「たとえ嵐の中の航海であろうと、全力で夢を掴みに行く! なんと素晴らしい!!」

 

 うわー。大丈夫あのおねぇさん。なんか決まってない? 残念美人はノーセンキューだよ?

 

 立ち上がった彼女は若干怖い目をしていたが、そのあとは恙無く会見が終わった。僕を目の敵にする海外勢には、エル先輩から頂いた「La victoire est à moi!」で一蹴。日本のウマ娘には、ちゃんと宜しくね。と伝えた。

 

「なーんかみんなに睨まれたんだよねー。ふわぁ」

 

「外国語間違えてたんじゃないのか?」

 

「けど、スペシャルウィーク先輩もエル先輩も同じこと言ってたし、大丈夫でしょ」




 次回。競走馬ズヴィズダツァーリ君女の子になる。


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競走馬ー27:のんびり種牡馬生活

 僕が引退してから、色々なことがあった。

 

 まず、コントレイルが春古馬三冠を取って宝塚で引退した。春天は足的に厳しく、ハナ差でなんとか制し、引退レースの宝塚は、執念でエフフォーリアとシャフリヤールから奪っていた。三頭ハナ差だったらしく、大魔神が興奮しながら教えてくれた。

 三冠最弱。なんて言われ方もしていた彼が、その持っていた力を証明した。2年連続の春古馬三冠に世間は浮かれたが、引退後の検査で、体がボロボロだったのが判明。本当の本当に、最強に憧れ、追いつき、追い越そうとしたバカの話を聞いて、僕は少し嬉しかった。

 

 そして、アーモンドアイとの子供である「シルクヒョードル」について。

 生まれながらの皇帝。なんて言われたらしい産駒は、今無敗で2歳を終えた。来年はクラシック期に入るので、彼がどんなレースをしてくれるのかすごく楽しみだ。

 それと同時に、クロノジェネシスの産駒が生まれ、「エカチェリーナ」と名前がつけられた。こちらは牝馬で、サンデーレーシングが持ってる。豊丈さんがジョッキーになるらしい。話によると、メジロラモーヌ以来の旧牝馬三冠を取りに行くとのこと。それはそれで楽しみ。

 

 あとは、僕の祖父にあたるステイゴールド。彼の大ファンが、ステイゴールドの母の血を辿り、キューティゴールドという牝馬と交配して出来た子の馬主になった。その子の名前は「ステイブラック」らしい。

 

 あとはなんだろう。グランアレグリアとの子供が一頭できたことかな? ただ、インブリード? 血が濃いからちゃんと生まれてくるかは分からないらしい。けど、大魔神は、大丈夫だって言ってた。シルクヒョードルがいるから。だって。

 

 海外馬の子供はほとんどが海外に行ってる。フランスの初産駒はまだ芽が出ていないらしいが、イギリスの方は割と良い子が生まれてるとのこと。まあ、飛行機乗らないから会えもしないけどね!

 

 ただ、トレンドはどうやら僕と、短距離の馬を掛け合わせることが多いらししく、最近はアーモンドアイやサートゥルナーリアのお父さんになる相手の産駒と掛けるらしい。星帝龍王? かなんか言ってた。

 

 そんなこんなで、のんびり種牡馬ライフを満喫してた。のだが。

 

「ウマ娘。なるか?」

 

 ウマ娘って何? 大魔神。

 

 種牡馬としての生活をする僕の馬房へとやってきた大魔神と、スーツを着た3人くらいの人。どうやら、ゲームの話らしい。

 競走馬をウマ娘なる女の子にし、サラブレッドの世界のように激闘を繰り広げていく話。

 アニメ化もされていて、スペシャルウィークさんが主人公の第一期。トウカイテイオーさんが主人公の第二期。そして、キタサンブラックとサトノダイヤモンドの第三期に続く映画版として、僕とサートゥルナーリアとロジャーバローズが選ばれていて、三部作でするらしい。

 

 大魔神? スペシャルウィークってブエナビスタさんのお父さんだよね? キタサンブラックはまだ関わり合いがないけど、一応名前は知ってる。

 けど、トウカイテイオーって? なんか聞いたことあるけど。

 

「トウカイテイオーはルドルフの息子だ。この前ヤマニンシュクルって馬とヤったろ? その子のお父さんだ。ルドルフとテイオーの血を残そうと頑張ってる人もいるからなぁ。ヤマニンシュクルはだいぶ歳なんだけどな」

 

 なるほどねー。んで、そのウマ娘の関係者がそこにいるリーマンかぁ。

 

「はじめまして。ツァーリ」

 

 スーツの男のうち一人が、僕の首を触る。お? 大魔神より撫でるの上手くないか? この人。

 

「今まで、全く首を縦に振ってくれなかった人たちが、君とのライバル関係を話にしたい。というと、喜んでくれてね。サートゥルナーリアとロジャーバローズ。それにクロノジェネシスとグランアレグリア」

 

 三部作できっちり作るよ。まあ、主人公というより、ライバル側になっちゃうんだけどね。という彼。

 

「ウマ娘になれば、こんな姿になる。君は、君の祖先のサンデーサイレンスによく似てる。だから、全体的に容姿はマンハッタンカフェと酷似させた。違いは髪の毛の流す向きや目の色」

 

 勝負服に合わせて白色と青が基調のスーツに似たG1用衣装。胸にはこれまで勝ってきたG1の勝ち数に合わせたバッチ。すらっとした姿のイラストを見せてくれた。

 

「胸は普通のサイズだね」

 

 えー。女の子になるんならせっかくだし大きくしてよー。おっぱいには夢と希望が詰まってるんだしさぁ。

 

「ツァーリはなんか嫌なところある? 髪? 顔?」

 

 サラリーマンが、部位を一個ずつ上げていく。僕が賢いと聞いてこういう対応をしているかはわからないが、まあ、そういうならと、胸の時に鳴く。大きい小さいだと、大きいでもう一度鳴き、見事バインバインを手に入れた。

 ただ、大魔神が、着痩せした方がエロいとだけ呟いてた。うん。激しく同意。

 

「正式に進めていきます。映画の宣伝が始まった頃には実装ですね。ほとんどの作業は終わってますから」

 

 数ヶ月後、僕の実装を聞いたファンたちは、狂喜乱舞にはしゃいだらしい。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ウマ娘スレ

 

199:名無しのうまぴょい ID:hwhMkFvw5

【速報】19年組実装!!

 

200:名無しのうまぴょい ID:xN/SfumlE

>>199 ま?

 

201:名無しのうまぴょい ID:shi4vskyg

やっとか!

 

202:名無しのうまぴょい ID:/W5Xj4FmT

誰来た? ツァーリか?

 

203:名無しのうまぴょい ID:PMeGqzCOR

キャラ

ツァーリ、ナーリア、ロジャー

サポカ

グラン、クロノ、ダノン

 

204:名無しのうまぴょい ID:zHmBdjrJj

ツァーリ 速10% 力20%

ナーリア 速20% ス10%

ロジャー 根性30%

 

グラン 速

クロノ 力

ダノン 根

 

詳細不明

 

205:名無しのうまぴょい ID:fKJ88VVJi

ツァーリの乳デカすぎて草

 

206:名無しのうまぴょい ID:ET4dgu9QK

今月も天井ダァ

 

207:名無しのうまぴょい ID:GFjSE/ICS

育成目標どうなるんや

 

208:名無しのうまぴょい ID:YlyvxdIHx

【速報】ウマ娘映画三部作決定

 

209:名無しのうまぴょい ID:sN5t7YTGe

映画?

 

210:名無しのうまぴょい ID:fKOZldRAx

ナーリア、ロジャー、ツァーリの三部作やって

 

211:名無しのうまぴょい ID:x6d44qyDj

あ、ツァーリさん魔王ラスボス枠や

 

212:名無しのうまぴょい ID:lrVaIwgDK

>>211 産駒もラスボスやからしゃーない。

 

213:名無しのうまぴょい ID:+7S53Md2+

ズヴィズダツァーリ

 

欠伸ばかりするが、レースには人一倍の努力を重ねるウマ娘。

同期に対する信頼感はかなり大きく仲間思い。

絶対にあこがれているのは

彼女に大きな後悔があるから

 

214:名無しのうまぴょい ID:O937ANJul

>>213 後悔って二敗?

 

215:名無しのうまぴょい ID:+7KIYwxMN

ツァーリってウチパクのこと大好きらしいし、

全勝をプレゼントしたかったとか?

 

216:名無しのうまぴょい ID:gNuhW+VqW

全勝とか、ツァーリの産駒でも無理でしょ

 

217:名無しのうまぴょい ID:4eYVKPZgs

>>216 ヒョードル

 

218:名無しのうまぴょい ID:7FN9BUOxr

ツァーリでも勝てないことあるのに?

 

219:名無しのうまぴょい ID:2t2Acq6mW

てか、ツァーリさん有望株毎年生まれんじゃね?

 

220:名無しのうまぴょい ID:AE5qmPaGb

短距離血統と組み合わせてるからな

圧倒的ステイヤーなのをカバーしてる

 

221:名無しのうまぴょい ID:E2PZb34f7

今更バクシンオー引っ張ってきてるもんな

 

222:名無しのうまぴょい ID:NRNgJIf/k

バクシンオー系

龍王系

カレンチャン系

ダイワメジャー系

 

223:名無しのうまぴょい ID:btGcQ8iZY

てかウマ娘よ

ナーリアたちはどうなのよ?

 

224:名無しのうまぴょい ID:qEHrxOH8y

ナーリア

 距離 GCAB 脚 CAAD

ロジャー

 距離 GEAA 脚 AAEG

ツァーリ

 距離 GFAS 脚 GBBA

 

 

225:名無しのうまぴょい ID:3rDGsu1TA

>>224 長距離s!?

 

素でsとか初だろ

 

226:名無しのうまぴょい ID:Yi1tsDf4R

クロノとかはまだ出てないんだろ?

 

227:名無しのうまぴょい ID:ZLGvmNx5y

ビジュアルはあるけど、ディープ産駒多いから、

黒髪の長髪か短髪か。見たいな

 

228:名無しのうまぴょい ID:aiuZYLcOV

グラン可愛いな。

この子ツァーリに凸るの?

 

229:名無しのうまぴょい ID:i2NQKk2nU

>>228 まだわからんがして欲しいや

 

230:名無しのうまぴょい ID:I0J4aEyGL

けど、ツァーリがSで出てくるんなら

ディープもSかなぁ

 

あと、凱旋門とかの海外G1取らせたいよな

 

231:名無しのうまぴょい ID:LOZ7R51s4

利権があるから海外は難しいだろ

 

232:名無しのうまぴょい ID:+QrqPGJYY

凱旋門賞とか出たら、

エル、ナカヤマ、ツァーリの3人で戦いに行って欲しいな

 

233:名無しのうまぴょい ID:GZb80o4cO

てか、海外重賞出たら

ツァーリで制覇だろ

 

234:名無しのうまぴょい ID:0x+tPuF3T

キンイロリョテイでヴァーズやりたい

 

235:名無しのうまぴょい ID:O2mV8KFbN

>>234 阿寒湖は早く実装されておなしゃす

 

236:名無しのうまぴょい ID:i9pcWyUSQ

てか、キャスト決まってんの?

 

237:名無しのうまぴょい ID:4XT7hVd7z

ツァーリ あおいゆうき

ナーリア あめみやてん

ロジャー ひがしやまなお

 

238:名無しのうまぴょい ID:ODu+F39aJ

よく許可くれたな。ツァーリ以外は無理とばかり

 

239:名無しのうまぴょい ID:K+ybnlAWx

ディープ、オルフェ来るかな?

二人に甘やかされてるツァーリみたい

 

240:名無しのうまぴょい ID:gANY3FQDm

ロードカナロアとナーリアも見たいよな

 

241:名無しのうまぴょい ID:wS9ogX+hi

竜王星帝コンビ

 

242:名無しのうまぴょい ID:v989f3gHF

>>241 実際の絡み一回もないけどな

 

243:名無しのうまぴょい ID:R//RswJ10

実装いつから?

 

244:名無しのうまぴょい ID:L5jLQ3H0r

再来月の映画公開日に合わせて、

ナーリア、

ロジャー、

ツァーリ、

1週間ごとに実装

 




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ウマ娘ー20:ジャパンカップ 不屈の海賊王vs.星の皇帝

ツァーリ同期の勝ち鞍

ナーリア 秋天、大阪杯
ロジャー JC、春天
クロノ  有マ、宝塚
グラン  マイル以下いっぱい
ダノン  安田

なお、みんなナーリアたち3人はツァーリがいないから勝てたとか言われる始末。ただ、ツァーリが化け物すぎるだけで草。



 緊張の雰囲気があるジャパンカップ。

 

 まあそれもそうか。相手は世界の星帝。海外で5勝。国内で7勝の化け物。

 あのナーリアの得意な距離である2000メートルで、ハナ差とはいえ追い込みで差し切った怪物。

 

 本当に勝てる? なんて気持ちが生まれるが、首を横に振る。

 会見で言った。負けないじゃなくて、勝つんだと。二度目のダービー。成長した僕が、全力の彼女を蹴り飛ばすんだ。

 

「調子はどうですか? ロジャー」

 

「調子は良いですよ。しっかりと」

 

 G1制覇まで後一歩。なんていう集団になっていたチームカノープス。その一員が私、ロジャーバローズだ。

 ナイスネイチャ先輩は有マ記念3年連続3着って言う凄い能力を秘めてる人で、マチカネタンホイザ先輩は良い素質を持っているものの怪我や腹痛など不運が多い人。ただ、ライスシャワーさんやあのミホノブルボンさんに続く菊花賞3着の実績もある。イクノディクタス先輩はかなりの丈夫で、何十戦とレースに出てるが、全く怪我の素振りを見せない。

 

「ロジャー! ターボ作戦考えた!」

 

 ツインターボ先輩は、私が憧れた人。どんな時もあきらめない彼女。

 勝ち鞍はオールカマーと七夕の2レースで、どれだけの人を勇気付けたかわからない。もちろん私も、そんな彼女の姿に感動したタチなのだが。

 

「なんですか? ターボ先輩」

 

「えっとね、スタートするでしょ? で、飛び出して、そのまま一着でゴールするの」

 

「ターボ先輩? それは作戦じゃないですよ? 私は逃げじゃなくて先行です。逃げのペースに隠れてしっかりと走り、抜け出して、勝つんです」

 

「そうですね。ターボさんの作戦も良いですが、無理にこれまでと変えない方が良いですね。目下の敵はズヴィズダツァーリ。2400はロジャーさんの距離ですが、彼女にとっても庭です。最後方から飛んでくる彼女の強さ。それに対処するには、前でペースを守って脚を溜め、最後の坂に備えること」

 

 うん。トレーナーの言う通りだと思う。

 

「ダービーの時の1バ身差。あなたと彼女の距離は逆転してると僕は信じてます。やってやりましょう」

 

「はい!」

 

「ロジャー! いつものやる?」

 

 ターボ先輩の提案に即答で返事し、背中を向ける。

 

「頑張ってこい!」

 

 バシン! っと背中を叩かれ、チームカノープス全員の気持ちをもらう。

 よし、行こう。私は、東京の地下バ道を進んで行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『東京の秋空の下に、世界各国から優駿が揃いました。東京レース場2400メートル、ジャパンカップです。

 

 日本のウマ娘の注目は2人。一人は、フランスの最強達を押し除けジャパンカップを制した、今代の日本総大将。海賊王ことロジャーバローズ。2400は自分の庭だと、自信たっぷりの表情。トレーナーからのコメントも、これまでのベストに持っていけたと言うことで、2連覇に期待がかかります』

 

 ターフに立ち、スタンドに向かって手を振れば、大きな歓声が沸き上がる。

 私の姿を見に来てくれた多くの人に感謝と、期待に応える為に決意をし、頬を両手で叩く。

 

「うし!」

 

 後は出航するだけ。ゲートの方向へと向かう。

 

『対するは、世界の星帝。国内G1最多タイの7冠バにして、国外合わせて12冠に輝く絶対の体現者・ズヴィズダツァーリ。本領発揮の2700以上ではありませんが、それでもチャンピオンディスタンスは自分のものだとこちらも気合十分。レース前コメントでは、「勝ちます」と、自信満々な言葉を頂きました』

 

 やってきた青と白の彼女。その彼女の気迫は今まで見たことないくらいで、テレビで見ていた秋天のと同じか、それ以上だった。こんなプレッシャーを受けながら、ナーリアは戦ったのか。

 

「これが、星帝……」

 

「ああ、ロジャー。悪いけど、僕の愛馬(今日の僕)は凶暴だよ」

 

 ゲートの前までやってきた彼女が、青い瞳に火を灯して僕に言う。

 足元の感じはすごい。体に合わせて作られてるはずの勝負服。脹脛と太ももの部分が張り上がっていて、重量も増えてるんじゃないだろうか。

 

「負ける為にここにいるバ鹿はいないよ? 星帝さん」

 

 ツァーリは、それもそうだね。とだけ答え、そのまま動かなくなった。

 いつものやつ。他の子達は、柔軟だったり気持ちを落ち着かせたりする中の不動。皆、慣れてはいるものの気にしてしまうそれ。多分これも、彼女の作戦の一つなんだろう。

 

「順番にゲート入り! お願いします!」

 

 係員の指示で私たちは動き出し、私は3枠5番に、問題の彼女は一番端の16番に入る。

 

『海外の名ウマ娘が歴史の強さを見せるのか。それとも去年の覇者が今年もジャパンカップを守るのか。はたまた、絶対が、秋シニア三冠と生涯無敗に王手をかけるのか』

 

 大歓声を受けた白。その音を聞いて力がこもる。

 

 うん。行こう。

 

『ゲートが開きました!』

 

 私はゲートに合わせて、これまでで1番のスタートを切れた。

 すぐさま1コーナーに合わせて内側へと寄る。今日は逃げが2人。先行が6人。差しも6。残りが追い込み。

 ちらりと横側を見てみれば、ツァーリもキッチリスタートを決めていたが、スルスルと後ろに降りていく。もうその姿を見るとすれば、最終直線だけ。

 

 私の位置は、それほど速いわけではない2人の逃げの後ろ、少しかかり気味な先行集団先頭から1バ身離れた4番手。そのまま1コーナーをロスなく曲がる。

 

『もうすぐ2コーナーというあたりで、位置争いは落ち着いております。先頭4番、7番は逃げていますが、先行集団先頭の海外ウマ娘2番までは3バ身。それほど早いペースではありません!』

 

 向正面に入れば、やれることは少ない。

 できる限り無理をせず戦う。下り坂で脚を休め、前とは距離ができるが登りに備える。坂に対応すれば、このコースは大丈夫。

 

 坂路の練習でネイチャ先輩に追いかけ回されたんだ。大丈夫。

 

『先頭はもう第3コーナーを回っている! 一番後ろ、しんがりのズヴィズダツァーリはどうか』

 

  ッ!?」

 

 なんだ? これは……。

 菊花賞の時に感じた異様な圧力。気になる。この気持ち悪い背後に安心を覚えたくて振り向きたくなる。いや、だめだ。ツァーリの走りだ。これは。彼女は、走るだけで周りを落とす。

 なぜかはわからないが、中盤までの間、彼女の走りは私たちを焦らせ、かからせる。だから、しっかり前を見て走らないと。

 

 帆を畳め。ツァーリという暴風に、(私の体)は耐えられない。なら、それ以外で勝てば良い。

 

「取り舵いっぱい!」

 

 体を全力で傾け、転けないギリギリのスピードでコーナーを曲がっていく。

 一歩、また一歩、と駆けて行く度に、僕の周りに波ができる。

 正直スタミナはやばい。最後の直線で尽きるかもしれない。けど、そんなハラハラ乗り越えないと、あいつには勝てない!

 

   波が、私の足跡に合わせて起きる。

 

   大きな波が、進むべき道を惑わす。

 

   でも、航海の方法は知ってる。

 

 夕焼けの空に、星が見えた。

 私の右側。視界の端ギリギリに黒い髪が見えた。これが星なら、僕は迷わず舵を取れる。

 

    ROMANCE DAWN(黄金への出航)

 

勝負ダァ!! ツァーリッ!!

 

まだだ! まだ終わらんよ!! ロジャーッ!!

 

『第4コーナーから直線! ロジャーバローズが内側からスルスルっと上がってきたが、ズヴィズダツァーリが外側から急襲!! 先頭4番はここで2人に呑まれる! これは! 2人だけのマッチレース! 二度目のダービー!!』

 

 全力で坂を登る。強すぎるパワーで芝が捲れ上がる感触があるが、そんなことどうでも良い。とにかく前。とにかく前だ。真横にいる黒に恐れ、逃げ出したくなる気持ちも、勝てるか不安になる気持ちも、何もかも、前だ。

 

「行けーっ!! ロジャー!!」

 

 ほら、青色の髪が揺れてる。大きく口を開いて、両手を口に当てて叫んでる。

 

「互いにいい先輩を持ったね」

 

 ターボ先輩の横には、並んだトウカイテイオーさんが、ツァーリに向けて大声で叫んでる。

 

「うん」

 

「でも、僕が勝つ!」

 

 私が一つ瞬きをした瞬間、下を向いていたはずのツァーリが、少しだけ前にいた。

 

「2200は、越えたぞ」

 

『坂を上り切ってロジャーが体勢有利! いや、差し返す! 差し返す! 差し返して僅かにツァーリが前!!』

 

 たった一ハロン。たった200メートル。それを絶望に変えられるのは何人いるだろうか。私は今、それを味わった。

 ズヴィズダツァーリが最高速度へ至る為に必要な距離。それは2200メートル。それまでは、驚異的な末脚で誤魔化しているが、本来は超長距離特化の足。

 

 背中が遠ざかる。

 

 また負け? ふざけんな、私は、何を見てきた!

 

「カノープスは諦めないんだよ!! 弱気な私が自信を持てたみたいに、皆あの人にターボを貰ったんだ!!」

 

 人一倍努力を尊び、誇り、讃える。

 人一倍喜びに共感し、感情豊かに自分を魅せる。

 あの汚れのない大海の青を、夜空に輝く龍の骨の優しい恩恵を。

 

  ッ!!

 

『ロジャーが再び伸びる! どうだ! どうだ! 並んだ! 並んだ! 並んだままゴールっ!! どうでしょうか! 私の目には両者の優劣はつけられないほどの大接戦、掲示板の表記は写真判定です』

 

 ゴール板を抜けた私たちはペースを落とし、ゆっくりと止まる。

 

 私たちは掲示板の二文字を見詰めていた。

 

「ねぇ、ロジャー」

 

「何?」

 

「忘れられないものに想いを馳せるのも悪くないけど、ちゃんと見つめてくれる相手への恩返しも、覚悟だよね」

 

「ん? うん。カノープスのために走ったよ」

 

 どういう意味かはわからないけど、ツァーリがイギリスに行った後ナーリアが言っていたことを思い出した。私たちとは違う私たちを見てる。という言葉を。

 

「ツァーリは勝ちたいって思ってるのと同じくらい負けたい気持ちあるんじゃない?」

 

「あー。あるかもね。でも、それならロジャーかナーリアが良い。今日みたいな、ギリギリの戦いの上で負けるなら、案外楽しいかも」

 

 写真の文字が、ハナ差に変わる。掲示板の上には16。下は5番。

 秋の天皇賞から2レース続けて、ワールドレコードで決着。タイムは2分20秒4。

 

「有馬で」

 

「え。それナーリアにも言ったんでしょ? 聞いたよ?」

 

 出された拳に、私も拳で返す。

 彼女が両手で8を作る姿に背中を向け、ターフを去る。頬に落ちた雨に気づかないフリをして。

 

 まあこの後通路でカノープスのみんなに抱きしめられて泣き喚いちゃうんだけどね。




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競走馬ー28:生まれながらの皇帝 青鹿毛の女大帝

 産駒の話。
 シルクヒョードルとエカチェリーナ。


 ズヴィズダツァーリの種牡馬としての評価はかなり高かった。

 それは、初年度産駒、2年目産駒に化け物が2頭生まれたから。

 

 1頭はシルクヒョードル。

 シルクレーシングの至宝であるアーモンドアイとの産駒である牡馬であり、コントレイルに続く親子で無敗三冠を達成した。

 もう1頭はエカチェリーナ。クロノジェネシスとの産駒である牝馬であり、メジロラモーヌと同様牝馬旧三冠をトライアル込みで完全勝利した。

 

 そんな2頭について話していく。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 シルクヒョードルの特徴は、なんといっても中距離特化である。

 父ズヴィズダツァーリの特徴は3000メートルを3分以下で走れる長距離特化であるが、彼は母であるアーモンドアイの血が強かった。

 

 新馬戦を2馬身差の快勝で飾ったヒョードルは、そのまま3戦3勝で放牧、父と同じく新年一発目のレースを皐月賞に定め、これを馬なりのまま勝利する。

 エフフォーリア以来の無敗皐月賞馬誕生に、世間はすでに三冠馬だとそう評価する。続くダービーを4馬身差。シャフリヤールのダービーレコードをコンマ3更新する2分22秒2で圧勝。神戸新聞杯も1馬身差で勝ち上がり、迎えた菊花賞。

 

 距離不安はない。そう言われていた。ツァーリの血があれば、長距離に対応できると。結果は、ハナ差の1着。喉元にナイフを突き付けたのは、父のライバル、ロジャーバローズの産駒であるシモンバローズ。

 菊の舞台で逃げを打ったシモンバローズが最後の最後まで逃げ続け、ゴール板の僅かに2メートル前でヒョードルが交わした形だった。

 

 この日、生まれながらの皇帝は、星を継ぐものではないことが判明した。

 

 だが、中距離では無敵だった。放牧で菊花賞の疲れを完全に抜き迎えた有馬記念。古馬相手に半馬身差での勝利。父同様クラシック期を無敗で終わらしたヒョードル陣営は、春古馬三冠を狙いにいくと発表し年を越えた。

 

 

 26年。大阪杯ではサートゥルナーリアの産駒であるメイショウメイデイに2馬身差勝ちするものの、続く春の天皇賞はシモンバローズの二着。これにより、無敗は9で止まった。

 追い込みで飛んできたヒョードルが僅かに前に出た途端、前で逃げていたシモンバローズが伸びたのだ。完敗と言って良い結果になった。

 

 だが、宝塚記念の勝利を手土産に海外遠征を行う。

 フォワ賞を危なげなく勝利し、父子で凱旋門賞制覇を期待されるものの結果は4着。連続連対も12で止めてしまうこととなった。

 

 日本に戻ったヒョードルは憂さ晴らしのようにジャパンカップにて3馬身差。シモンバローズにお礼参りを達成する。有馬記念は出走せずに27年に備えることを発表した。

 

 

 

 迎えた27年の大阪杯。昨年のスプリンターズステークスと秋天を連勝していたメイショウメイデイとのマッチレース状態になる。

 最終直線を抜け出した2頭は、僅かながらヒョードルが体勢有利のまま勝利。僅か12センチでの決着となり、ヒョードルが2連覇を達成する。これで、母であるアーモンドアイのG1・8勝を超える9勝を記録。国内12勝まであと3勝まで近づく。

 

 世間からバッシングを受けたものの、ヒョードル陣営は春の天皇賞へ出走を登録。無敗三冠馬である父、コントレイルに続く春古馬三冠を再び狙いに行ったものの、結果は2連覇したシモンバローズの4着。国内で初めて連対を逃した。

この結果を受けて皆に言われるようになる。ツァーリ産駒は、「天皇賞に勝てない」と。

 

 復讐とばかりに、2番人気のシモンバローズに再びやり返した宝塚記念。4馬身の圧勝で2連覇を達成すると、そのまま再び凱旋門賞への挑戦。フォワ賞2連覇の成績から2番人気に推されるも、ハナ差での惜敗。

 シルクヒョードルの凱旋門賞挑戦は幕を閉じた。

 

 そして、引退レースの有馬記念に話が続くが、その前にもう一頭の話をしよう。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 エカチェリーナ。生まれながらにしての皇帝・シルクヒョードルの妹であり、母は牝馬最強格であるクロノジェネシス。

 生まれながらにして勝利を渇望された兄同様、エカチェリーナも勝利を求められた。

 

 彼女はとても美しかった。メジロラモーヌを彷彿とさせる光沢のある青鹿毛。そしてツァーリ以上の人懐っこさ。優しく、人の言うことに敏感でしっかり意図を理解できる馬。主戦ジョッキーとなる豊丈は、優しすぎるから戦えないのでは? と不安するほどだった。

 

 だが、蓋を開ければ、新馬戦は快勝。同じ父を持つアパパネ産駒、ブチコ産駒の牝馬を物ともせず1600メートルを走り切った。

 そのままオープン戦を快勝。続くレースはクビ差2着。負けてしまったが、状態は良いと2歳の最強牝馬を決める阪神ジュベナイルFへ出走させ、見事1着。翌年チューリップ賞を勝った勢いのまま、桜花賞、そしてオークスを制覇。

 

 だが、秋華賞へ出走せず、エリザベス女王杯へと行くことを発表すると風向きが変わる。

 メジロラモーヌの時代は、牝馬路線が明確に整えられていなかったからこそのエリザベス女王杯だが、今は秋華賞がある。それなのになぜ? そんな空気が広がった。さらに、調教師が同期に敵はいない。と発言したことが周りに火を着けた。

 メジロラモーヌ以来の牝馬旧三冠挑戦。府中牝馬Sを制したことで一気に有力馬へと躍り上がったエカチェリーナは、1番人気を獲得、オッズは1.4倍。だが、桜花賞・オークスの上位入賞馬、古馬の最強格がエリザベス女王杯へ集まった。2番人気は、ヴィルシーナとロードカナロアから生まれた、昨年オークス馬。今年に入っては高松宮記念を制しているスヴィエトが待ち構える。

 しかし、結果はエカチェリーナがハナ差の接戦を制して勝利。見事、旧牝馬三冠を達成することとなった。

 

 27年、陣営はエカチェリーナの短距離適性を確認する意味も込めて、高松宮記念に出走。しかし結果は4着。続くヴィクトリアマイルは勝利するも、秋の天皇賞は5着。ズヴィズダツァーリの産駒は、春の天皇賞だけではなく、秋の天皇賞も勝てない。その意見が一気に強くなった。

 

 そして迎える、最初で最後の兄妹喧嘩。

 

 年末の中山競馬場のスタンドは満員だった。人気投票の一位、そして、一番人気もシルクヒョードルのものだった。対抗馬である解放王・シモンバローズが二番人気。エカチェリーナは距離の不安から三番人気となる。

 

 そして、ゲートが開いた。

 飛び出したのはシモンバローズ。普段同様飛び出したシモンバローズが先頭で残りの15頭を引っ張っていく。

 エカチェリーナは中団先頭で最内を走り、シルクヒョードルは最後尾で前を伺う展開。高い山を登り、向正面に入ってきて馬群が縮まっていく。第3コーナーを回ったところでシルクヒョードルが動き始める。馬群の外側を通り上がってきたシルクヒョードル。4コーナーで馬群から抜けたエカチェリーナ。スタートから一番を守り続けていたシモンバローズの三頭。

 シモンバローズをシルクヒョードルとエカチェリーナが抜き去る。そして、2頭だけが中山の急坂を登る。

 

『エカチェリーナだ! エカチェリーナが最強の兄から逃げる! ヒョードルが追う! 皇帝が崩れる! ラストランで! 生まれながらの皇帝が!

 魔性の青鹿毛が! エカチェリーナが! シルクヒョードルを王位から追放した!! これが妹からの、最初で最後のプレゼント!!』

 

 皇帝の終わりを女大帝が決めた。専門外の距離を勝ち切ったエカチェリーナは国内最強馬として君臨することになる。が宝塚は6着。おまえ、フロックか?

 そして翌年。エカチェリーナはヴィクトリアマイルとエリザベス女王杯を勝利して引退することとなった。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

「親父。どうやって春天勝ったの?」

 

「え? 春天なんか普通に走ってたら勝てるよ」

 

「いや、シモンバローズが強すぎてさぁ」

 

 シモン? バローズ? ってことはあれか、ロジャーの子供か。すげぇじゃん。春天2連覇かよ。あと有馬も勝ったんだっけ?

 

「パパ、気にしなくていいよ? ヒョードル弱いもん。私に有馬で負けるくらいだし。私に勝った後、凱旋門賞頑張ったから良いんだ。とか言ってたし」

 

「そりゃやばいな。僕はそういう言い方しなかったぞ?」

 

 面白いからエカチェリーナに乗ろう。悪ノリも楽しいし。

 

「あ、そうそうステイブラックは?」

 

「まだ走ってる。絶対国内で勝つ! って言ってたよ?」

 

 ステイブラック。僕の子供の中でも一番気性が荒く、よく川添さんが被害を受けてる子。

 クラシック期は良いところがなく、勝ち鞍もエカチェリーナが有馬記念をヒョードルから奪い去った年に取ったメルボルンカップを取るまでは阿寒湖特別だけの子で、国内のG1には全く縁がなかった。

 

「いつまで走るんだろうな。あいつ」

 

「諦めないっていうのは、私的にいいけどね。どっかの誰かさんみたいに言い訳しないし」

 

 二頭の言葉がどんどん強くなってきたので、僕はさっさと離れる。

 今年はステイブラックの全弟であるブラックジャーニーがクラシックに入る年。ホープフルステークスは勝ってるから、いい勝負が出来るんじゃないかな?

 

「親父! どっちが悪い!?」

 

「パパ! ヒョードルが悪いよね!!」

 

「えぇ……知らん」




シルクヒョードル 生まれながらの皇帝
母アーモンドアイ
20戦15勝 G1:10勝
24 ホープフルs
25 クラシック三冠 有馬
26 大阪杯 宝塚 JC
27 大阪杯 宝塚

エカチェリーナ 青鹿毛の女大帝
母 クロノジェネシス
17戦12勝 G1:8勝
25 阪神JF
26 桜花賞 オークス エリ女
27 ヴィクトリア 有馬
28 ヴィクトリア エリ女


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ウマ娘ー21:年末に向けて

短いです。
次回有馬です。


「もー。やばい! 訳分からん!! ナーリア! これ何!?」

 

「もう少し静かにしてください。隣にいるんですから、そんなに大きな声を上げなくても教えますわよ」

 

 どれどれ? と右側から顔を覗かせるナーリア。問題をさらっと読み、答えになるヒントをくれると、自分の勉強の方に戻る。

 僕は、渡されたヒントを使って唸りながら答えを書くと、すぐさまナーリアが答え合わせを行う。と言っても、合ってたら何も言わず、間違えていたらやり直しと言われるだけなんだけどね。

 

「ツァーリちゃん、なんで急に勉強するようになったのー?」

 

「アホの子じゃダメな目標ができたからだよ? グラン」

 

 左隣にいたグランのおでこに、ぴーんっと一発入れてやる。両手でおでこを抑える彼女は可愛いが、一旦置いておこう。乳突くな。おい。

 

「目標って?」

 

「トレーナー。ナーリアと、スカーレット先輩のおかげでだいぶ良くなったし、キタの成長もいいからね。あっちの勉強もだいぶいい感じ」

 

「ふーん。私が教えてあげようか? ツァーリちゃんにつきっきりであんなことからこんなことまで……。じゅるり」

 

「貞操の危機を感じるから遠慮します」

 

「グラン? 補習組なのに何教えるの?」

 

「そりゃあ」

 

 グランは、横にいたクロノに現実を突きつけられるが、うん。わかるよ? 保健体育だろ? お前の中身おっさんだろ。まじで。

 けど女の子ってスキンシップ多いとか聞くからなぁ。抱きついたりチューしたり。あれ? 僕グランにしかそれされてなくね? あれあれ? ナーリアは生徒会室でよく会うけど、そういうの全くないし……。

 

「騙されてる?」

 

「大丈夫ツァーリちゃん! 騙されてるって……。まさか、トレーナーさんに!?」

 

「んな訳ないでしょ! まあ、なんていうか、性自認ってわかる? 僕って、気持ち的には男の子なんだよねー。だから、まあなんていうの? 女の子同士で集まると、グランみたいにチューされたりおっぱい触られたりとかすると思い込んでたけど、実際してくるのグランだけだなぁって」

 

「そそそ、そんなハレっ! 破廉恥なこと!!」

 

「ツァーリ。グランの頭がおかしいだけだから。ほら見て?」

 

「ツァーリちゃんが男の子? なら禁断の恋的な? でも女の子同士だと結婚できないし……。あ、アメリカに行けば同性結婚ができる。よし、マイル戦で賞金荒稼ぎして、高卒同時に結婚。これだ!」

 

 うん。これだじゃないね。てか、グランは僕のこと性的対象として見てるの? そのうちマジで襲われんじゃないの僕? 怖っ。

 あと、ナーリアさんはやっぱお嬢様だね。顔真っ赤だし。

 

「でも、自分が育てた子で、僕の記録抜いてもらうのって面白そうじゃない? 原石だろうが、ただの石ころだろうが、磨けば光る訳でしょ? 宝石のようにキラキラしてるか、鈍色に怪しく光るかは別として」

 

 その光るお手伝いをしたい訳だよねー。なんて言えば、単純なナーリアは感動して、すごい表情をしている。

 

「記録はいつか破られるもので、僕の凱旋門賞や、海外5勝だっていつかは破られる。でも、それは遠い未来の話じゃなくて、憧れたもの、夢を抱いたウマ娘に訪れるべきだと思う。トレーナーとして、120パーセントの愛情を注いだ先に、何がなんでもこの愛情を返すんだ。って思わせたいし、達成させたい」

 

 まあ、生涯無敗さえ成せれば、僕の先生たちに向ける感謝と、チームスピカに対する恩返しもできる。それに……。

 

「それに、生涯無敗は並ぶことはできても超えることはできないでしょ? だから良いんだ」

 

「ツァーリ。ダノンが聞いてたらまた生意気って言われるよ?」

 

「良いの良いの。ダノンの生意気発言は照れ隠しだからね。でも、ダノンほど努力家もそうそういないよ。自分が劣っているのを自覚しても、腐らずに上だけ見続けられるやつってどんだけいる? って話」

 

 最初は上だけを見られる。でも、それがデビューしてからしばらくして下を見るようになる。

 

 まだ自分は一勝クラスだけど、あいつらは未勝利クラスだ。

 まだ自分は二勝クラスだけど、あいつらは一勝クラスだ。

 まだ自分は重賞未勝利だけど、G1のあいつらとは違うから。

 

 私よりも弱いやつがいるから。

 

「生きてる限り、安堵を求めてしまうと想うんだ。僕は。でも、ダノンは安堵じゃなくて危機感を持ち続けた。それが、安田記念だよ。まあ、僕は、僕が一番だから他のやつら全員下にみてるけど、それでも油断じゃなくて警戒してるからね」

 

「その言葉が油断では?」

 

「まさか。そんな訳ないよナーリア」

 

 油断してたら秋天で君を差せてないし、ジャパンカップでロジャーに差し返されてるよ。実際、あの時の有馬記念やジャパンカップを考えると、油断があればああなる。ロジャーは油断してなくて負けたんだから。

 

 死神は、身構えてる時には来ない。なんていうけど、そもそもこの世に神なんていない。神が実在するのであれば、走らせるために生産された僕たち(サラブレッド)は存在しない。原種が生きて然るべきの世界だから。

 でも、人間だけが神を持つというなら、ウマ娘となった今の僕たちに神はいるだろうか。いないのであれば生み出すだけ。今を超える力、「可能性」という名の内なる神を抱くだけ。その可能性を手放すからこそ死神がやってくるんだ。

 つまりは全部、自分次第。

 

「だからこそ、やれることをやろうよ? ってこと。トレーナーになるために、学業の面は恥ずかしくてもナーリアを頼るし、グルーヴ先輩に泣きつくし、タキオン先輩の怪しい薬も飲む」

 

「うーん。ツァーリちゃん、タキオン先輩の薬はやめとこう? トレーナーさん光ってるもん」

 

「あー。でも、なんだかんだ言いながらちゃんと勉強教えてくれるし、ウマ娘に関してもヒトに関しても体のことも詳しいからね。たまに記憶飛ぶけど、タキオン先輩もカフェ先輩も次の日会ったら顔赤くするくらいで特に何もないし……」

 

 何をしてたかは気になるが、聞いたら黒歴史になるから聞かないけどね。

 

「まあ、あなたはあなたですから、とやかくは言いませんわ。ただ、私たちも簡単にやられるようなタマじゃありませんからね」

 

「いいや、有マ記念は私が勝つ。ナーリアもロジャーもあなたも倒して、クロノジェネシスがグランプリに輝く」

 

「残念だったねクロノ。去年は僕が出てなかったんだよ? 僕が差してぶっちぎる。10バ身先の僕の背中でも見とくんだね」

 

「絶対勝つ」

 

「あ、ツァーリちゃん、そこの問題代入するの間違えてるよ」

 

「え?」

 

「あら、本当ですわね……」

 

 そんなバカな!? と問題を解き直してみればその通りで、隣のグランは得意げな顔をしていた。うん。

 

「いたっ!? もう何するのさツァーリちゃん!」

 

 なんかむしゃくしゃしたので一発グランにデコピン入れてやった。反省も後悔もしてないが、デコを抑えるグランは可愛かった。



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ウマ娘ー22:最後の冠 有マ記念

 まだまだ募集してるのでぜひ!

 ツァーリの産駒名募集します!
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=271608&uid=371990


 the HERO 募集の活動報告
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=271189&uid=371990

 追記

 ツァーリの真・領域の名前を変更しました。(長くて語呂が悪かったので)

 改変前 極夜の向こうを見せる黒き太陽
 改変後 明けの明星


 有馬記念。それは僕が初めて負けたレース。

 中山競馬場の外回り3コーナー目からスタートして、内回りを一周する独特なコースの2500メートル競走。

 

 出走するのは、ファンの期待を受けた人気投票で上位のものだけ。

 

 得票数第一位はもちろんこの僕。

 

 パドックへ向かった僕は、相変わらずあくびを片手で隠しながら手を振る。

 

「最後だぞー!」

「あくびすんな、」

「最後くらい真面目にやれー!」

 

 ファンのみんながそんなことを言うもんだから、今日くらいはいいか。なんて思って、一度下を向く。どんなポーズを取ろうか? 7冠を見せる感じ? 威圧たっぷり? 僕は自己主張が強いタイプじゃないから、テイオー先輩みたいにすぐに何か思いつく訳じゃないけど……。

 

 心のゴルシが叫んだ。お前、魔王だろ。と。

 

 今日は寒いからと、母から送られた青のコートを羽織っていたがちょうどいい。服装が白だから、魔王感はないかもしれないけど、良いよね?

 

 僕は体斜めに向けると、右手で羽織っていたコートを脱ぎ、肩にかける。もちろん、自信たっぷりな表情で。

 

「勝てよツァーリ!」

「お前が絶対だ!!」

 

 大きな歓声が僕に降り注ぐ。いいね。あがるよ。

 

「みんなには悪いけど、僕が勝つよ」

 

 見ててね。スピカ。先生。みんな。

 小さく呟いた言葉は、誰の耳にも入らない。歓声でかき消され、存在がなくなる。

 

 瞳に青色の火を灯し、パドックを後にすれば、舞台の裏には、見慣れた三人。じゃなく、四人。

 

 なんでいるの?と、僕があえて聞く。

 宣戦布告だよ。と前年覇者のクロノが言う。

 負ける宣言じゃなくて? と続けて僕。

 あんた生意気。と憎まれ口を言うダノン。

 僕が一番だ。と彼女の目を見て言う。

 届かなくても良いなんて思ったことは一度もない。とロジャー。

 それに僕は、同期の意地? と返せば、ナーリアが言う。

 

「友との思い出に、最初で最後の敗北を味わわせてあげますわ」

 

「いいね。そうでなくちゃ。前世からそう。僕のことを追いかけてきてくれたのは君たちだけだ。あの有馬も、ジャパンカップも、屈辱はこの有マで返させてもらう」

 

 生まれながらの皇帝(ズヴィズダツァーリ)に勝てると思うな。

 

「時代を作るのは私。クロノジェネシスだから」

「絶対あんたにダート舐めさせてやる」

「ツァーリの絶対っていう宝は私がもらうよ」

 

「決してわたくしたちが届かないなんてことはありませんわ。誰よりも勝利を渇望するあなたに、わたくしたちの願いが届くかどうか。良い戦いをいたしましょう」

 

「いいよ。全力でやろうか」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『何かが起こる年末の中山に、夢が集まりました。皆様はどんな夢を抱くでしょうか? 私の夢は、絶対です。

 

 ここ、有マ記念にて、最後の戦いが始まります。

 

 無敗の三冠ウマ娘に叫んだあの日を、私たちは覚えています。

 春シニア三冠を打ち立てたあの日の熱狂を、覚えています。

 海外五連勝で、世界に勝ったあの日を、まだ覚えています。

 

 ですが、その裏側で頑張ってきた他のウマ娘たちを、知っています。

 

 中距離において右に出る者がいなくなったサートゥルナーリア。

 中長距離で一番の輝きを見せたロジャーバローズ。

 グランプリ2連覇で最強へ一気に躍り出たクロノジェネシス。

 短距離女王を差し切った努力の天才ダノンキングリー。

 

 それぞれが、それぞれの勝ち鞍を持っています。絶対王者に対して、これまで積み重ねてきた誇りを、意地をぶつけます』

 

「ツァーリ」

 

「ん? なに?」

 

 ゲートの前、珍しく屈伸運動とか、体を伸ばしていた僕の前に来たロジャーが右拳を出す。最後だから。なんて言う彼女の拳に僕も合わせると、それを見ていたナーリヤも拳を出してきた。

 

「さ、最後ですので……」

 

 恥ずかしがるならしないでよ……。とは流石に言わなかった。僕は2人ともに拳を合わせると、係員の指示に従ってゲートへと入る。

 

 あの時と同じ、2枠2番。残念ながらこの世界でも大外枠の運命はなかった。一番最後に入るのとかかっこいいと思うんだけどなぁー。やっぱりだめかぁ。

 

『さあ、各ウマ娘がゲートに入りました。素質が光る3番人気はロジャーバローズ。昨年の有マ記念、今年の宝塚記念では勝ちウマ娘のクロノジェネシスに半バ身差で惜敗。今日の勝ちに向けて準備は整っています。あとは全力を出し切るだけですね。

 

 続く2番人気。この評価は少し不服でしょうか。昨年有マ記念を制しましたクロノジェネシス。グランプリレースではかなりの強さを見せる彼女ですが、調子は良さそうに見えます。ですが、相手が相手ですからね。連覇に向けて、好走を期待しましょう。

 

 そしてやはり! このレースの主役はこのウマ娘でしょう。1番人気、ズヴィズダツァーリ。凱旋門賞を含む海外G1を五連勝した実績と共に秋シニア三冠、生涯無敗に王手をかけてやってきました。狙うは史上初のクラシック・春秋三冠合わせての九冠です。

 

 さあ、中山2500メートル。今ゲートが開きました!!

 

 全ウマ娘綺麗にゲートから出ました。中でも好スタートを決めたのは9番ロジャーバローズ。するすると内側に寄っていきます。外回り第3コーナーから始まる有マ記念。もうすぐ一度目のホームストレッチです。

 大歓声が各ウマ娘の一年の戦いを称賛します』

 

 いつも通り。そう言って良いかはわからないが、僕の目からは見慣れた展開になった。

 

 今日は逃げ馬不在。なので、ロジャーともう一人のウマ娘が残りの13人を引っ張る展開。

 先行集団の前の方にクロノジェネシスがいて、先行と中団の間にサートゥルナーリア。人数が多い中団に隠れて息を潜めているのがダノンキングリー。僕は一番後ろで前の展開を見つつ、しっかりと一歩ずつ加速している。

 

 1周目のゴール板を抜けた時点で、先頭は3番のウマ娘。ロジャーは2番手につけた状態。先頭が1コーナーの山に入ったところで、若干ペースが下がり、僕のペースだけが相対的に上がる。

 

『さあ、ズヴィズダツァーリがじわじわと外を回って上がってくる。最後方の星が煌めいた!

 バ群は2コーナーを回って向正面。先頭は3番から今9番のロジャーバローズに変わりました。3番手の7番クロノジェネシスとは2バ身差。続いて1番、15番、13番、12番、6番、4番と続いて向正面真ん中。2番ズヴィズダツァーリはもう10番手。内側にいる8番サートゥルナーリアをかわします』

 

 第3コーナーまでもう少し。

 一人、また一人とかわしていく僕は、徐々にペースが上がって行く。

 バ群が固まってる分外を走らないといけないが、全然問題ない。むしろ僕にとってはそっちの方がいい。

 

 さて、この展開どうするか。

 前とはそれほど遠くない。前の奴らの内側に若干の隙間もあるからそこも通れる。でも、外側に膨らんで抜くことも問題ない。先生ならどう指示出す?

 

「やっぱ外だよね……」

 

 クロノが若干外側によってスタミナを奪いにくるが、関係なく大外から回って3コーナーに入る。

 

「っ!? 仕掛けてきた」

 

「わたくしがあなたが行くのをただ見ているだけとお思いですか!!」

 

 3コーナー。いくら割とスローペースで足をためてきていたとは言え、ナーリアが3〜4コーナー中間で上がってくるとは思わなかった。だが、仕掛けてきたのはナーリアだけじゃない。

 ダノンも最内をスルスルと上りながら加速し、クロノも僕の半バ身差くらいで外側につけてる。そして、先頭のままのロジャーが少しだけ抜け出して第4コーナーに入っていく。

 

『先頭はロジャーバローズ! その後ろにいた3番が飲み込まれて行きます。2番手は現在ズヴィズダツァーリ! クロノジェネシス、サートゥルナーリア、ダノンキングリーと続いて2番手集団!』

 

 前で、声が聞こえた。海賊王が海に出る。

 

   領域 ROMANCE DAWN(黄金への出航) 発動

 

 外でも、聞こえた。時の創造者が針を定める。

 

   領域 Time is mine(理の中針) 発動

 

 内からも聞こえる。不屈の天才が化けた。

 

   領域 ドン・ネバ・ギバ 発動

 

 真後ろから迫る声。大衆の祝祭バが祀られる。

 

   領域 Il festival non è ancora finito(終わることのない祝祭) 発動

 

 4人が、僕を置いていく。どんどんと前にいく。僕の前に?

 この僕の前に、他がいる?

 

「……ざけんな……」

 

 口から溢れた言葉は、目の前の光景を認められない僕の弱さだった。

 そんな時、ふとスタンドに目が行く。テイオー先輩と、キタの間。そこにいた男の子と女の子を見て目を見開く。

 

 真っ黒な髪に真っ白な流星。目の色は太陽のような色で、右耳に真っ赤な耳飾り。そしてその横には、水色の服を着た、癖毛の男の子。

 その二人は、スピカの面々と一緒に大きな声で叫ぶ。

 

 二人の後ろに、ゴルシがいることで、本能的に理解した。

 

「僕が……。いや、俺が勝つんだよ!!」

 

   領域 天球駆ける瑕疵なき黒星 発動

 

   発動できませんでした

 

 絶対に勝つ。心の底から、今勝利を渇望している。もうなんでも良い。僕は、僕のために勝つ。

 

 世界が黒に染まっている。一歩一歩が凍えた世界の中で、見えない暗闇の中は寒くて、どうしようも無い孤独感に苛まれる。

 どこをどう歩いても、光は無い。

 

   領域を発動します

 

 いや、違う。違う!

 

 光が無いなら、僕がなればいい。

 苦しさと寒さに包まれてしまった黒を焼き尽くす、優しい太陽という星に、僕がなれば良い。だってズヴィズダツァーリは、星の皇帝なんだから。

 

   明けの明星 発動

 

 上げた視線は、周りをどんどんと照らしていく。

 

「動け、動け動け動け」

 

 乱れる呼吸の中で息を吸い、叫ぶ。

 

「動けーーっ!!」

 

 赤と白の勝負服。ダノンを抜いた。

 緑と白の勝負服。ナーリアを抜いた。

 赤と黒の勝負服。クロノを抜いた。

 そして、白と緑の勝負服を着た、ロジャーを抜く。

 

『ツァーリ! ツァーリが一気に伸びてくる! 何という足だ! 鬼脚! 鬼の末脚が爆発する!!』

 

 出しきれ。行け。

 

『星帝が全てを飲み込んだ! 誰だ! ウマ娘に絶対がないと言った者は! 目に焼き付けろ!! これが! このウマ娘こそが!

 

 絶対だーーっ!!

 

 ズヴィズダツァーリ1着!! ズヴィズダツァーリ1着!! ズヴィズダツァーリ1着』

 

「べふっ……」

 

 頭から突っ込んだターフ。正直顔が削げたと思う。

 

「ぐふぁっ!? 重っ」

 

 背中の上に突如来た重み。なんか泣いてんすけど?

 

「負けましたわっ、最後の最後まで」

 

「何であそこから伸びんだよー」

 

「くそっ! くそっ……」

 

「なんで届かない……」

 

 なんとか仰向けになった僕の目には、不細工な顔をした4人。

 

「バーカバーカ! 散々頑張って努力してもずっと僕に追いつけなかったバーカ!」

 

 全力で煽った僕の言葉に、みんなの目がキツくなる。

 

「みんな。勝ちたいって思わせてくれてありがと」

 

 僕の笑顔は、多分心の底から出た笑顔だったと思う。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「今日の勝利、何が要因でしたか?」

 

「負けることに原因はあっても、勝ちに要因はありません。全部を準備した上で叩き潰されることがあることを僕は知ってます」

 

「え? 潰される? あなたが?」

 

「もちろんそりゃありますよ。でも、強いていうなら、ナーリアやロジャー。彼女らにも、その他諸々にも、負ける姿を見せたくなかっただけです。ファンの為とか、全部関係なく、初めて自分のために勝ちたいと思えたので」

 

「ツァーリさん!」

 

「ちょっと! 通してください」

 

「ちょ! おいコラ待てよお前ら」

 

 突然やってきた三つの喧騒。それは、僕の目の前で止まった。

 

 ホームストレッチにいた、小さなウマ娘と、男の子。ついでにゴルシ。

 

「あっ、あの!」

 

「お嬢さん。お名前はなんですか?」

 

 僕は、赤い耳飾りと太陽のような目を見て、誰か気づいていたが、名前を教えてもらう。

 

「は、はい! 私の名前はグロリアスフェリペです! いつか、いつか絶対にツァーリさんみたいなウマ娘になります!!」

 

『グロリアスフェリペ! グロリアスフェリペが変則三冠を掲げる! 降着に泣いた皐月賞をバネに、ダービーを! 宝塚記念を! そして、この菊花賞を走り抜ける! 眼前に他はない! 何もない! 父が起こした奇跡を! 遅れてやってきた後継者が! 再びこの菊花賞で見せつける!』

 

 僕は知ってる。菊花賞を走り抜け、僕の記録を塗り替えた姿を。

 

『やはりこの馬が星帝を継ぐ! あの日の光景が甦る! 4コーナーから上がってきたグロリアスフェリペがフォルスストレートを駆け抜ける! 2連覇! 2連覇だ! 太陽王の栄光が! 今! 沈まぬものとして刻まれた!!』

 

 僕は知ってる。世界へ開かれた凱旋門の頂に二度もたった姿を。

 

 僕と、グランアレグリアの唯一の子供。受胎が確認できなかったり、流産だったり、デビュー前に亡くなったりしてしまった子供たちの中で、唯一引退まで走った僕たちの愛息子。

 

「あ、あの! 僕、ヒロユキって言います! 僕がトレーナーとしてリアを貴女みたいな絶対にさせます!」

 

 うん。やっぱり先生だった。僕たちの子を最後の最後まで面倒を見てもらったあなたが、フェリペを見てくれるなら、これほど心強いことはない。

 

 僕は二人の首元に手を当てた。

 

「うん。いつか君たちが僕の前に来てくれることを待ってるよ」

 

「ツァーリさん……。泣いて……」

 

「おいおいツァーリ、なんでお前が泣いてんだよー」

 

「だって、だってぇー!!」

 

 ゴルシが僕の頭を乱暴に撫でる。

 

「ちゃんとお前のこと見てたろ? 先生は」

 

「ゔん゛!!」

 

 僕は、二人のことを強く抱きしめた。きっと僕の嗚咽は、カメラのシャッター音で消えてると思いたい。




一旦これでおしまいかな?

多分明日は更新できないし、
流れ的にちょうど良いから完結と言うことで連載から変えます。

けど、ちゃんと後日談とか色々更新します。

23時に間に合わなくてごめんね!!


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後日談
後日談ーウマ娘ー1:デイ・アフター・トゥモロー 緑と青


 後日談その1


 有マ記念に勝った翌々日。

 

「会見? なんで?」

 

「いや、日本で初めての生涯無敗ウマ娘の引退なんだから当然だろ。それに、昨日にも会見やら取材やらなんやらでいろいろ頼まれてたんだよ。知り合いの人とかからもな」

 

 沖野トレーナーの言葉に、まじかぁ。なんて言葉を呟く。

 

「けど、会見って今からですか?」

 

「いや、いまが11時だから、昼飯食って、のんびりして、13時くらいとかたづなさんが言ってたはず。まあ、理事長もいるし、俺も横にいるし、司会もたづなさんだから大丈夫だろ」

 

「テレビ中継、される?」

 

「されるな」

 

「あくびしてたら怒られる?」

 

「怒られるだろうな……」

 

「あー。お疲れ様でした」

 

 チームルームのドアノブを取り、扉を開けた僕は、一礼して逃げるように部屋を出る。

 

「どこに行こうとしてるんですか? ツァーリさん」

 

「あ、あはは……。なんのことですか? おねーさん」

 

「ああ、よかったたづなさん。こいつ逃げたら俺たちじゃ無理なんで、ちょっとの間一緒に行動してもらってもいいですか? 無理にとは言わないので」

 

 トレーナーの言葉に対して、たづなさんは了承の言葉を言うと、そのまま僕の腕を取る。

 

「ツァーリさんはお昼は食べられましたか?」

 

「い、いや、まだですね」

 

「良かったです。今日記者の方へ手配した弁当が一つ多くて、よければ控室で食べていただいててもいいですか? 私は会見の最終確認等で動けないので」

 

 そのままかなりの力で僕は引っ張られ、気がつけば会見場としてよく使われる多目的室の裏側にある控室に通された。

 

「それじゃあまた後でお会いしましょうね」

 

 笑顔ではあるが目が笑ってないおねーさんは消え、僕は控室に一人残される。いや、一人でどうしろと。

 とりあえず部屋の中を見渡し、ペットボトルのお茶とニ種類の弁当を発見。てか、二つある時点で確信犯だよね。絶対好きな方食べろ。だよね。お茶も緑茶とほうじ茶置いてるし。

 

「お、牛タンじゃん。あ、唐揚げもいいなぁ……。二つ食べたら怒られるかなぁ」

 

 うーんとテーブルの上にある二つの弁当を眺めていれば、ピコン。と僕のスマホがなる。

 メッセージの送り元は沖野トレーナーから。文面は、たづなさんが二つ食べて良いってよ。とのこと。

 

「うん。アルミホイル探して頭に巻くか。思考盗まれてるよ。これ」

 

 もちろんアルミホイルなんてこんな場所にはないので、僕は二つの弁当を食べる。

 一つは、さわやかネギ塩ダレの唐揚げ弁当。

 もう一つは、ガッツリ濃い味! 俺らの牛タン重。

 

「なーんか掌の上で転がされてる気するんだよねー。おねーさんに」

 

 ほうじ茶を飲み、一息つく。

 有マ記念が26日で良かった。大晦日近くまで記者に追っかけられるとか許せんしね。

 僕はソファーに体を預け、時間になるまで睡眠を取ることとする。異論は認めん。後1時間ちょっと暇だからね。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「それではこれより、ズヴィズダツァーリさんの引退会見を執り行います」

 

「出陣! それでは行こう」

 

 たづなさんの言葉に合わせて理事長が声を出す。そして、理事長を先頭に、僕、トレーナーが続いて、会見会場へと入っていく。ちなみに、理事長が頭を下げてから座席の方へ向かったので、僕たちもそれに倣って頭を下げる。

 

「それでは、理事長、お願いします」

 

「承知! これより、本学園の生徒であるズヴィズダツァーリによる引退に関する合同記者会見を始めさせていただく」

 

 ここからはテーブルに置かれた式次第に沿ってやっていけば良いらしいので、僕は早速だが始める。

 

「えー。記者の皆さん。それにテレビ中継までしてくださってるテレビ局の方。集まっていただきありがとうございます。

 えー。僕、ズヴィズダツァーリはですね、先日行われました有マ記念の出走でもって、競走生活を終了し、引退させていただきます」

 

 パシャパシャとカメラのシャッター音が響く中、僕はそのまま言葉を続けた。

 

「えー。今後は、トレセン学園に通う一生徒として、学業を。そして、ブライアン先輩から託された生徒会の長として、学園に通うウマ娘たちのためのことを斯く行っていきます」

 

 そうして、学園長からの話や、沖野トレーナーからの話を経て、たづなさんの司会によって質問コーナーへと移る。

 

「有マ記念でもって引退ということですが、これまで全てのレースを勝利してきたことをどう思いますか?」

 

「そうですね。やっぱり、やり切った気持ちですね。全てに勝つ。僕が持っていた、あー。願い? かな。うん、願いを叶えることができて、何より安堵が一番でした。というか、1レースごとに、良かった。今日も勝てた。って気持ちと一緒に」

 

「これまでのレースで、一番難しかった勝利はどのレースでしょうか?」

 

 質問してきた記者に、一つじゃなくても良いですか? と聞いてみれば、記者の人が頷いたので、秋の天皇賞とジャパンカップだと答える。

 

「海外のレースとかで色々経験とかもしたけど、やっぱり2000メートルでナーリアを、2400でロジャーを倒すって言うのはすごく難しくて。僕は長距離向きなので」

 

「先ほど、競走生活を引退。と仰っておりましたが、ドリームトロフィーリーグに移籍する。と言うことでしょうか」

 

「いいえ。移籍しません」

 

 そう言い切ると、会場はざわざわとし始める。だが、これはトレーナーになる夢を持った時点で決めていたこと。沖野トレーナーと相談した上で中央の上の人たちに伝えている決定事項。

 

「それは、ドリームトロフィーリーグに行けば無敗が止まるからですか?」

 

「いいえ。たとえ相手がミスターシービーだろうがシンボリルドルフだろうがナリタブライアンだろうが、全員潰しますよ。ただ、僕は移籍することよりもやることがあるんです」

 

 やることとは? と、多くの目が僕に訴えていた。だから、笑みを浮かべながら答える。トレーナーになると。

 

「僕は、僕と言うただの存在をここまでしてくれたみんなに恩を返したい。その方法を考えていた時、僕は、僕のような存在を育てることだと思った。全ての愛情を注ぎ、その愛情に応えたいと思わせたい。僕の愛情に応える覚悟を生み出させ、その覚悟に応える成績を残せるように育てるのが目標です」

 

「それは、世代が弱かったからですか?」

 

「はぁ?」

 

 おっと、おもわず声が出ちゃった。けど良いや。ちょっと遊ぼうか。

 

「良いよ? 答えてあげるから全部言いなよ。世代が弱いって言うのはどう言う意図? 意味? 何をもってそう言ってるのかな。世代っていうのは、誰のこと? 僕が思いつく名前を挙げてくから、頷くだけで良いよ?」

 

 隣で沖野トレーナーが頭を抱えていたし、理事長の扇子の文字が『恐怖』の二文字に変わっていたが気にせず行こう。

 

 サートゥルナーリア。頷く。

 ロジャーバローズ。頷く。

 クロノジェネシス。頷く。

 ダノンキングリー。頷く。

 

 他には? と聞いてみれば記者は何も言わないし反応も見せない。

 

「みんなG1ウマ娘だよ? ダノンはまだ来年も走るらしいけど。ナーリアは秋天と大阪杯。ロジャーはジャパンカップと春天。クロノはグランプリ2連覇。それのどこが弱いのかな。みんな同世代だけじゃなく経験のある先輩たち、若さという力強さを持つ後輩たちと戦って冠を被ってるわけだけど?」

 

「そ、それでも、貴女には勝てていません」

 

「だから? 少なくとも彼女たちは僕に勝つことを諦めなかったウマ娘だよ? 1着しか名前を残せないことを知ってて、2着には何にも残らないことを許せないから僕に挑んできた数少ない盟友だよ? 勝ててないから何? 僕は君とは違って、努力を続ける存在の行動を無かったことにはしない」

 

「そ、そんな事は」

 

「確かにレースは必ず勝者を生み出す。だから結果が全てだ。でもあんたは、泣いて悔しんで、自分との距離に絶望しながらも、握り込んだ手から血を流して、怪我する直前まで体を追い込み、僕を殺そうとしてきたあいつらのことを知らない。全部を知れとは言わないが、表面しか拾わないあんたに僕達を語る資格はない」

 

 僕は一度息を整えると、用意された飲み物を一口飲み、睨みつける。

 

「世代が弱い? 無礼(なめる)な。その言葉だけはこの世代そのものであるこの僕が許さない。次同じことを言ってみろ。お前を殺す」

 

 脅しはこのくらいで良い? 良いよね? うん。

 

「っというわけで、僕は高校卒業と同時にトレーナーになるために勉学に勤しんでる。高二からは補助トレーナーとしてチームスピカの練習をみることになります。高卒と同時に中央トレーナーに配属されるようとにかく勉学の日々なので、ドリームトロフィーリーグに行くことはできない。これでこの質問に関する答えは終わり。他には?」

 

 シーンとした会見場。よし。と、僕は立ち上がる。

 

「質問が終わったから帰るね。なんか聞きたいことあったらトレーナーに。んじゃ!」

 

「おいコラツァーリ!!」

 

「ダスヴィダーニャ!」

 

 逃げるように入り口に向かうと、手が掴まれた。視線を向けると、緑の悪魔。

 

「ツァーリさん? 緑の悪魔ではありませんし、主役が帰るのは良くありませんよ?」

 

 コホン。緑の悪魔ではなくおねーさん。

 

「戻ってください?」

 

「はい」

 

 おねーさんのいうことなら聞こう。何度も言うが、目が笑ってない。

 

「他に何か質問がある方はいらっしゃいますか?」

 

 恐る恐るといった感じで手を挙げた記者が、戦ってみたい相手は? と尋ねてきたので答える。

 

「幻の三冠ウマ娘と、三冠目をかけて走ってみたいですねー。いれば、ですが。ね? おねーさん」

 

「幻の三冠ウマ娘。トウカイテイオーさんでしょうか? それならみんな見てみたいでしょうね」

 

 ありゃ、うまいこと逃げられた。まあ良いや。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「それで? やっと話せましたね。幻の三冠ウマ娘さん」

 

「なんの話ですか? ツァーリさん」

 

 会見が終わり、しばらく。控室のソファーでゆっくりとコーヒーを飲みながら、僕は彼女に尋ねてみた。

 

「貴女でしょ? 僕をこの世界に呼んだの。ねぇ、僕の厩務員だった、駿川たづなおねーさん?」

 

「うふふ。本来であればこの世界に来た時に、ほとんど記憶がなくなるはずなんですけどね」

 

「あの日、僕は貴女に言ったんだ。はっきり覚えてる」

 

 ターフに寝転んだ僕の上に、泣いている耳のついた女の子が乗っかった夢を見るって。

 

「貴女は言った。なら、その世界に行きますか? ってね。前世の記憶があるのは、僕とゴルシ。そしておねーさんだけだよね?」

 

「はい。その通りです」

 

 まさか否定しないとは。でも、話が進むからまあ良いや。

 

「ただ、明確にどうこうとは言えません。気が付けば私は、競走馬の時代に無念のままの引退した貴方のところにいました。ゴールドシップさんは遊びの続きのようですが、私自身、ダービーの後死んでしまったわけで、そのリベンジをしようとこの世界に来ました」

 

「自由に行き来できるの?」

 

「いいえ。できません。もう貴方が、あの世界で佐崎さんや打田騎手に会うことはできません」

 

 っち……。無理か。

 

「三女神様が私をあの世界へ送っているのだとは思いますが、細かいことは分かりません。さっきも言った通り、私も気がつけば友康厩舎で働いていましたから。でも、貴方が栗東トレセンから離れたあの日に、私と同じなんだと気付きました。そこから私はウマ娘側に戻ってきましたが」

 

「それじゃあ、僕がこの世界に来たのは無念を晴らすため?」

 

「いいえ、あの世界と並行世界であるこの世界で、あなたが生まれることは予定調和でした。ただ、競走馬時代の貴方と言うウマソウルが強く残ってしまったのだと思います。そしてそれは私やゴールドシップさんも同じかと」

 

 あくまでも、推測の域が超えない。と彼女の言葉は俯き気味だった。

 

「僕って馬鹿だからさ。摩訶不思議現象の今の状況がなんなのかはわからない。けど、せっかくまた走れてるんだしねー。それに、僕が見て欲しかった人が、僕を見てくれてるのは分かったから。僕的にはもう何も気にしてないんだよねー」

 

 だからさ、その脚また使おうよ。

 

「え?」

 

「トレーニング続けてるんでしょ? 伊達にずっと他のウマ娘観察してきたわけじゃないからねぇ。多分一回3000走っても大丈夫だと思う。だからさ、幻の三冠ウマ娘・トキノミノル。貴女が菊の冠に見合うかどうか、歴代最強の三冠ウマ娘である僕が確かめてあげるよ」

 

「それは……。それは良い提案ですね。二人だけのマッチレース。しますか?」

 

 その日の夜。月明かりだけがターフを照らす深い夜に、緑と青だけが煌めいた。

 結果は何も言わないでおく。ただ、彼女はすごかった。彼女が実際に走っていれば、菊の冠をその頭に載せていただろう。そう思えるくらい円熟した走りと、強さだった。なお、Bターフ3000メートルの僕の参考記録は、2分57秒6になったとだけ伝えておく。

 

 そして、もう一つ。

 

「見事! 最高の戦いだった!!」

 

 栗毛の小さな女性の言葉は、ターフを眺めることのできる学園長室の中だけで留まったことは、言うまでもない。



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後日談ー競走馬ー1:ツァーリ産駒スレ

後日談です。
このスレだと2035ねんの三月くらいです


ツァーリ産駒を語るスレ part9

 

197:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:v7OXYEa9h

結局、ツァーリ産駒の最高傑作はどいつなの?

 

198:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:iYuTYRTMe

>>197 よく出る話題すぎて草

 

199:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:LEl2ii6r+

グロフェリに決まってんだろ。解散解散

 

200:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:fP8gCR1lb

よくよく考えると難しいよな。

種付け数が多いから産駒も結構いるけど、

名馬いっぱいいるからなぁ

 

201:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:eBDLepapL

無敗三冠馬 シルクヒョードル

旧牝馬三冠 エカチェリーナ

凱旋門賞2連覇 グロリアスフェリペ

 

202:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:o7JwWtebO

ダイワローザはダービーだし

ジーズナヤヴァダーは皐月賞

 

二代目阿寒湖総大将は置いとくとして、

ブエナロードはビスタみたいに突撃せんかったし

 

203:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:EJe9kogz4

てか、栄光王に隠れてるけど、

ヤマニンイヴァンが三冠達成したからな

しかも無敗で

 

204:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:Cqgi3bKV1

おじさんたち見てびっくりしたよ。

母父トウカイテイオーに

 

205:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:7zY59aDF4

皇帝と帝王の血が復活するのは嬉しい

 

206:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:xf1tBPjZN

ツァーリ産駒って母側の血が強く出るぽいよね。

 

207:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:h0r9nS6Dk

だな。だからルドルフ系列の中距離向きの血が混じってるから、

ヒョードルと似た感じになるんじゃない?

 

208:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:6/Bh/4sQo

けど、ヤマニンシュルクってツァーリ引退してから

毎年種付けされてんだろ?

それでやっと芽が出たのか

 

209:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:V6+mctU1n

重賞勝利した馬とかもいるから

実績ないわけじゃない

 

210:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:5+C4UBWzd

けど、

短距離 グリーズエンペラー

マイル エカチェリーナ

中距離 シルクピョードル

    ヤマニンイヴァン

長距離 ブラックジャーニー

    グロリアスフェリペ

でリーディングサイアー六年くらい取ってるだろ?

 

211:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:sEuo1ZzgJ

ブラジャー若きが凱旋門賞で1番人気だったの許せない

 

212:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:vKRL78Mvt

全兄のステブが苦労して海外G1取ったのに、

弟のブラジャーは海外荒らしたからな。

世界一位を一年守ったわけだし

 

213:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:7ao/aqHHi

ジャスタウェイ見たいよな。

実際イギリス戦線荒らしてきたわけだし

当時イギリスでは一番だろ

 

214:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:f7ueV6EI7

日本馬で唯一のインターナショナルS制覇だからな

 

215:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:3QvjUHvZJ

グロフェリは基本国内集中というか、国内で勝てるから国内のままで、

ブラジャーは国内じゃ勝てないから海外行ったわけだし

 

216:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:dVsb+6V1V

てか、産駒成績がやばいんよな

 

217:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:K/lgy8vY6

ダート微妙どけどな

 

218:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:bsFf6Y4r7

アメリカの方は暴れてるらしいぞ?

http://~~~

 

219:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:sm/oxhZSx

>>218 これまじかよ

 

220:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:dagz/Mttc

ダート12戦10勝とか

やべーなこのディザスターとかいう馬

 

221:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:Qq8sMZCD6

散々言われてるけど、ツァーリの産駒のほとんどは

母、母父の血が強く出る。

 

実際ツァーリは中距離戦線に向かない馬だけど、

ヒョードル、ダイワローザ、ヤヴァダーの三頭でそれはわかってた。

 

特に短距離は壊滅的なのに、カレンチャン との

グリーズエンペラーは同一G1三連覇だしね

 

222:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:hwR2IrPf+

けど、最強って言うとむずいよな。

 

223:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:s8Mh9W/O6

シンプルに三冠のことを強いって言うなら、

シルクヒョードルかヤマニンイヴァンだけど、

ツァーリの後継的な意味で言うなら

グロリアスフェリペかブラックジャーニーじゃないか?

 

224:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:ktAbEGShc

>>223 ブラジャはない

 

カドラン勝ってるのは評価できるけど、

菊花に勝ってないし、秋天も勝ってない

 

グロリアスフェリペだけが菊花賞3分切りを達成して、

星帝一族の天皇賞の呪いを断ち切った

 

そこだろ

 

225:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:RsIdZY2SI

牡はフェリペでいいけど、牝馬がなぁ

 

226:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:vN3VQ+uT8

エカチェリーナ

マイルの女王

距離適正度外視でヒョードルに引導を渡した有馬記念はベストレース

 

ブエナロード

二代目日本総大将

3歳でジャパンC制覇の偉業はやばい

 

ダイワローザ

男勝り第二弾

普通に先行抜け出しでダービー取るとかなんなのあれ

 

ジーズナヤヴァダー

皐月に逃げたやばい奴

中山の雨で3馬身差はヤバすぎるんよ

 

227:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:8T7qxIogI

逆に言うと、アパパネ産駒が手こずってる。

 

228:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:gJekYWWXO

>>227 ヤバいのが最初の方に出過ぎなだけでそんなもん

 

229:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:EbXlIdPsw

ツァーリ産駒の、母血統が出るって言うスタンスを捻じ曲げてるのって

フェリペだけだもんなー。

 

230:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:YPkJ2/j5B

うまくいってないのは

爆進王血統

龍王血統

の2種類かな?

最初の方はステゴの長距離適正に合わせて

短距離のやつ合わせてオールラウンダー作るのが意図だったけど、

長距離特化もあんまいないからな

 

231:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:orztiD5c8

セントライト記念勝ったブラジャーが

菊花賞2着で、

ダイヤモンドSと阪神大賞典で勝ったのに

春天勝てなかった時の絶望感やばかった

 

232:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:MeqOnV6yF

>>231 タイトルホルダー産駒が一矢報いてくれて嬉しかった

 

233:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:tobDdJouc

ワープレ産駒のグロリオサスカイも忘れるな

エカチェリーナの秋天を食い止めた奴だぞ

 

234:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:0A8Ytzm3f

>>233 ヒョードルが走ってたら勝ってた定期

 

235:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:9ZIm99jC/

ヒョードルは秋天出てないからな

 

236:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:RFBns5bXn

ヒョードル

26 春天2着 27春天4着

 

エカチェリーナ

27 秋天5着

 

ブエナロード

28 秋天5着

 

ブラックジャーニー

30 春天2着 32春天2着

 

ヤマニンイヴァン

32 秋天3着

 

237:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:Ig6RsZvYI

>>236 マジでフェリペしか勝ってないんやな

 

238:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:0L/WkaPNm

ツァーリ産駒が春天負ける時大体接戦なんよな

秋天は惨敗が多いけど

 

239:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:iJfDTZ37v

30年のブラジャはマジで惜しかった

内側荒れてたのを嫌って外側に振ってハナ差2着

晴れてて内側通れていたら勝ったよ。あれは

 

240:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:z55lbm6uL

シャイニングラン、逃げだから一番いいところ使うしな

あいつにハナ差まで持ってったんだから、強いのは強いんだよ

 

241:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:1JDHwHq25

ブラジャーと一緒の稍重どころか、大雨の春天で

シャイニングランに大差勝ち

そのまま引退に追い込んだ栄光王は

やっぱり星帝の後継者

 

242:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:mHVGIsmJx

ツァーリ産駒は終わった

 

243:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:y2czCzPIh

>>242 2年間中距離G1馬出てないとは言えそれはない

 

244:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:4Rs70oyvU

>>242 ここまでが良すぎるだけ

 

245:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:TL9tewKvS

25 ヒョードル

26 エカチェリーナ

27 ブエナロード

28 ダロ・ヤヴァダー

29 ブラジャー

30 グロフェリ

31 ヤマニンイヴァン

 

で、ほぼ毎年バケモン生み出してるからな

 

246:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:wqDOa0fc2

ヒョードル 無敗三冠馬

エカチェ  旧牝馬三冠

ブラジャー 海外G1を3勝

グロフェリ 優駿宝塚菊花の変則三冠

イヴァン  親子4代無敗二冠と無敗三冠

 

247:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:PDxu/SPph

>>246 栄光王アタックで降着したから宝塚走った話好き

 

248:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:Ubb0lZ5Nh

実質フェリペも三冠馬だからな。

 

249:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:k6XFJOI43

最終直線ウチパクがめちゃくちゃ外に行かそうとしてるのに

フェリペが進路塞いだ奴な

 

250:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:VcslS+yXs

いくらナーリア産駒でツァーリにやられ続けてたとは言え、

あの勝ち方じゃあちょっとな。

ブルーレコードもなんかな

 

251:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:0z1SsS9V5

なお、そのブルーレコード陣営は

「あんな勝ち方だと勝ったうちに入りません。真正面からぶつかって、本気でダービー取りに行きます」

って言っておきながら12着だから大爆笑よな

 

252:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:MVMehJxMY

>>251 あ、有馬じゃ2着だから

 

253:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:Erhhjwdny

>>252 4馬身差でぶっちぎられてるけどな

 

254:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:EYo9t3Mxy

やめろ! ブルーレコードの悲しい記録を言うんじゃない!!

 

255:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:VGuJfXnYQ

今年のツァーリ産駒はどうなん?

 

ここ2年で産駒勝利3回だけど

 

256:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:ddCJbBCLq

>>255 一応世代最強って言われてる三頭は全部ツァーリ産駒

 

キスアンドクライ

母ラヴズオンリーユー

 

カレンサンフラワー

母カレンブーケドール

 

エレクトトップ

母グランアレグリア

 

257:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:UzJmw6RQy

三頭とも母父ディープインパクト やん

 

258:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:40S1k3O4i

ツァーリってなんでかわからんけど、

血が濃くなってもマシらしいな

 

259:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:MH4Epbojj

>>258 種付け料が高くなる原因よな

 

インブリードで濃くなっても悪い部分が出にくいし

あのヘイロー産駒の

あのサンデーサイレンス産駒の

あのステイゴールド産駒の

あのオルフェーヴル産駒の

大人しいツァーリだけど、

一応暴れるからなぁ

 

260:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:sq2WBqUgk

>>259 グランアレグリアとの子はダメらしいな

 

現状フェリペだけが引退まで走ってるから、

エレクトトップがちゃんと引退できるか不安

 

261:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:vlbG+L1tL

予後不良は嫌よな

 

262:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:czHqO+0W8

けど、久しぶりのクラシックでツァーリ産駒が勝つ可能性が高いからなぁ

 

263:名無しに代わって、皇帝に仕えます ID:CVg7OVANA

一頭飛び抜けてる感じはないから、混戦かな?

楽しみ

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後日談ーウマ娘ー2:キタサンブラックの皐月賞

なんか微妙。納得がいかん。
難しいね。書くのってね。


「トレーナー……。キタ、どうする?」

 

「どうするって言ってもなぁ……。スプリングステークス勝っちまったんだし、皐月賞出させるしかないだろ」

 

「まあ……。だよねぇ」

 

 キタサンブラックの本格化はもう少し先だと考えていたけど、年初一発目に間に合ってしまい、メイクデビューと一勝クラスと3戦目のスプリングSに勝ったため、三連勝で皐月賞の優先出走権を手に入れた。

 

「勝てると思うか?」

 

「無理。3着に入ればいいところ」

 

 僕も沖野トレーナーも考えは同じらしく、揃って頭を抱える。

 果たして一体どうするか。

 

 スローペースならともかく、ハイペースの2000を走り切れるスタミナはあるか? 答えは五分五分。

 ハイペースでも足を溜められる器用さはあるか? いいや、ない。

 最後の直線で大外回って走り抜けられるようなパワーは? あるわけがない。

 

「作戦授けるってもなぁ。あいつ割と不器用だしなぁ」

 

「スローペースなら先頭。無理なら2〜3番手で抜け出す。になるよね」

 

「だな」

 

「お疲れ様です!!」

 

 二人だけのチームルームにやって来た元気な声。

 キタサンブラックは、僕とトレーナーが向かい合わせに座ってるのを見て急に静かになり、そそくさと隅の椅子に座る。

 

「あ、あの、何を話してたんですか?」

 

「何って……。そりゃあ」

 

「キタの皐月賞について」

 

「おいツァーリ!」

 

 隠してても無駄なことだと僕は思うから、直接言おう。

 体の向きを沖野トレーナーからキタの方へ移すと、話しかける。

 

「悪いけど。包み隠さず言うよ。変な期待を持つ方が、僕は良くないと思うから」

 

 そう前置きを置いて言う。皐月賞は上手く行って三着だと。

 もちろん勝つために練習している以上、キタはその目を見開いて驚く。

 

「もちろん、僕はキタが一着を取れるように指導している。ただ、今年本格化予定のドゥラメンテが、シンプルに言ってやばい。鬼脚だ」

 

 ターフで練習している姿をみて色々とシミュレーションをしてみたが、勝つ確率は低い。他にもリアルスティールと言うウマ娘も状態が良い。

 

「キタ。今のお前は一番早いウマ娘じゃない。運を味方につけるか、足を壊すつもりで走るか。勝つなら二択だ。だから、提案だ」

 

 僕の提案。それは、菊花賞に狙いを定めて、皐月賞、ダービーは流す方法。トウカイテイオーに憧れてる彼女なら、絶対に受け入れない提案だろう。だけど、僕は言う。

 

「キタがクラシック三冠で勝てるとすれば、それはきっと菊花賞だ。10月に入れば体もしっかり完成してる。それまで耐えることを、僕は提案する」

 

 そして、僕の提案に対して、キタからの返答はもちろん、いいえ。

 

「わたしは、トウカイテイオー先輩みたいに、強くてかっこいいウマ娘になるんです。勝てない? 運がいる? 壊せば勝てる? 違いますよツァーリ先輩。絶対である先輩の言葉が本当だったとしても、私は走ります」

 

 強い目。良いね。それくらいじゃないとね。

 

「キタが勝つためには、何個か条件が揃わないといけない」

 

 一つ、芝の状態が良であること。

 二つ、ゲートが内側であること。

 三つ、ペースがスローであること。

 四つ、体力のロスを極力減らすこと。

 

「四つ目は自分の力だから良いとして、残りの三つは完全に運になる。しかも、運要素の三つが揃っても、厳しい戦いになる」

 

「覚悟の上です」

 

「キタの良いところは速いペースをある程度保てること。ただ、逃げほどのハイペースには持っていけないし、しっかりとしたラップを刻めるほどの器用さもない。だから、残り1週間で付け焼き刃にしかならないだろうけど、ベース刻んで、下りで溜める練習するよ」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 キタサンブラックには、憧れのウマ娘が二人いる。

 一人は、無敗の二冠ウマ娘であるトウカイテイオー。強く、カッコいいウマ娘。幾度となく怪我から這い上がり、引退レースとなった一年ぶりの有マ記念。伝説的なレースは有マ記念の中でも5本の指に入る名レースだろう。

 

 そして、もう一人のウマ娘であるズヴィズダツァーリ。全てのウマ娘の目標。絶対の体現者。世界星帝。ウマ娘の終着点。呼ばれ方は色々あるが、どのウマ娘にとっても憧れである全戦全勝のレジェンド。

 

 そんな二人のウマ娘に憧れてるキタサンブラックは、何の運命か、二人が所属するチームスピカに入団し、トレーナーを目指すツァーリの指導でもってデビューからの三連勝を達成した。

 

 そして大舞台。4月中旬の中山レース場に集まった、未来あるウマ娘によるクラシック一冠目。皐月賞。

 

 芝の状態は良。枠は7番で微妙。ペースは始まらないとわからないが、足が溜めれるかも微妙。つまり、勝負はわからない。

 

「キタちゃん! 頑張って!」

 

「うん! ダイヤちゃん!」

 

 幼馴染の言葉の他にも、先輩たちから激励の言葉をもらう。ツァーリ先輩は、一言だけしか言ってくれなかったけど、やりきってこいって。

 

「よし、張り切っていこう!」

 

 そう言って気合いを入れたキタサンブラックがゲートに向かった。

 

「キタちゃんは勝てるの?」

 

「いや、五分五分って感じ。内枠なら70%くらいは勝率あったんだけどね」

 

 ホームストレッチの最前列。僕の横に来たテイオー先輩に答える。なら勝てるじゃん。なんて笑顔で言うテイオー先輩に、僕は頬が引き攣った。

 

「だってさー? 一着になる可能性が50%で、二着以下になる可能性が50%なら、どの着順よりも一着になる確率の方が高いじゃん」

 

 うわー。暴論ぶちかまして来たぞこいつ。やべー。

 

「トレーナーさん? 作戦とか授けたんですか?」

 

「いや、ただ、ツァーリがな?」

 

「うん。スタートだけしっかりねって。前で戦えさえすれば、多少太刀打ちはできるって」

 

 4コーナー出口に設置されたゲート。

 珍しく、15人しか揃わなかったこのレースの出走者が全員準備を整えた。

 

「出たっ!」

 

 一斉に飛び出したウマ娘。キタは問題なく出れたらしく、正面を登る。

 

「内に寄ってかないけどいいの?」

 

「うん。何より中山は起伏が多いし、1コーナーまではなんだかんだ言って400くらいある。だから、登り切って、カーブに合わせて内に入ればいい」

 

 スタートで飛び出すことができたキタは、単独2番手で内側に入っていく。

 そのままバ群は落ち着いている。

 

「教え子のレースって、ハラハラするだろ」

 

「だね。不安だよ」

 

 しっかりと前を見つめながら走るキタは向正面。僕たちはスクリーンを通して彼女の走りを見る。状態は良い。位置取りも良い。前にいる逃げから半分外に出て足元の確保はしっかりできてる。

 

「3角。行け……」

 

 先頭のウマ娘からは2バ身ないくらいしか離されていない。ただ、後ろはピッタリ張り付いていて、完全にマークされている状態。僕ならもう少し外側に寄って、多少距離をロスしたとしても最終直線で自分の道を確保しに行く。

 

 キタは? 内か。

 

 多少の隙間を設けていた内側を閉めたキタが、4コーナーを回って直線に入る。一人すごく外へ離れたように見えたが、キタは前にいたウマ娘を抜いて現在一番手。

 

「行けっ!」

 

「頑張れ! キタちゃん!」

 

「あと少しだ! 行けキタ!!」

 

 スピカの面々を通り過ぎて彼女は笑顔のままゴール板へ向かう。

 

「ダメだ。差される……」

 

「え?」

 

 外側へ出たドゥラメンテが、異常な速度で捲ってくる。

 ダイヤが目を見開き、トレーナーが口から飴を落とす。

 

「おいおい、マジかよ……」

 

 先頭抜け出したキタをドゥラメンテが急襲。先頭でゴールしたのは、法被のような勝負服をしたキタでは無かった。

 

「中山2000であの末脚とか、ヤバすぎんだろ」

 

 あの脚、僕でも逃げ切れるか怪しいところ。2400になれば問題ないけど。キタはあれから逃げ切らないといけない。と考えると、足りないところは沢山ある。

 

「スタミナだよね」

 

「だな。最後にあと一伸びできれば逃げ切れてただろうから、脚の溜め方とスタミナ。重点的にいこう」

 

「この際瞬発力は切って良い? 伸びるところより伸ばさないといけないところ。パワーよりもスピードとスタミナ重点的に行きたい。ダービー勝たせたい」

 

「分かった。プランだけ考えて纏めとけよ。今のところお前のやり方に変なところはないけど、念のためな」

 

 僕が指導する一人目の皐月賞は、2バ身差の二着でスタートした。



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the HERO 発表時のスレ その1

後日談及び、the HEROシリーズです。

何回かに分けます。


今年の競馬を考えるスレ part.7

 

346:名無しの競馬好き

今年のCMってどうなんのかなぁ

 

347:名無しの競馬好き

>>346

CM? どうせ俳優出てくるだけ

 

348:名無しの競馬好き

けど来週フェブラリーステークスだからな

 

349:名無しの競馬好き

競馬に行こう! 的な奴。

 

350:名無しの競馬好き

レジェンドとウィナーの本機はもうないよ

 

351:名無しの競馬好き

んじゃあもしあの系列でCM来たらどの馬がどこにくるか

 

352:名無しの競馬好き

>>351

星帝 菊花賞定期

 

353:名無しの競馬好き

>>352

言うまでもないだろ。そこは

 

354:名無しの競馬好き

どうすんだろうなぁけど。

選ぶのも難しいからなぁ

 

355:名無しの競馬好き

どの年代の馬までを出すかだよな。

ツァーリ産駒ぶち込むとほぼほぼが埋まっちゃうからなぁ

 

356:名無しの競馬好き

ツァーリ産駒だけで組めそうよな

 

357:名無しの競馬好き

ダートと障害厳しくないか?

 

358:名無しの競馬好き

フェブラリーs:ビィエル

高松宮記念:グリーズ

大阪杯:ヒョードル

桜花賞:ビィエル

皐月賞:ヤヴァダー

春天:

nhkマイル:なし

ヴィクトリアm:

オークス:ブエナロード

ダービー:ダイワローザ

宝塚記念:グロフェリ

スプリンターズs:モリガントウショウ

菊花賞:星帝

秋天:

エリ女:エカチェリーナ

マイルcc:なし

ジャパンカップ:ヤマニンイヴァン

チャンピオンズc:

有馬記念:ブラックジャーニー

 

被らずに行くならこんなんか?

 

359:名無しの競馬好き

>>358

天皇賞勝てない呪い定期

 

360:名無しの競馬好き

>>358

ヴィクトリアマイルなんで空白?

 

361:名無しの競馬好き

多分ヴィクトリアマイルは

エカチェかブエローしか勝ってないからだと思う

 

362:名無しの競馬好き

>>358

ヤマニンイヴァンが有馬じゃない

やり直し

 

363:名無しの競馬好き

>>362

ブラジャーの国内勝ち鞍が

宝塚か有馬しかないから

3歳で勝った栄光王が宝塚になると

ブラジャーは有馬しかなくなるの……

 

364:名無しの競馬好き

ブラジャーはイギリス馬だから

 

365:名無しの競馬好き

>>364

そのネタは否定できんのよ

 

366:名無しの競馬好き

ツァーリは単独2位

 

ブラジャーは単独1位だからなぁ

 

367:名無しの競馬好き

一応凱旋門賞勝った時は1位タイになったけど、

ロジャーに負けて単独2位だしな

 

368:名無しの競馬好き

ジャパンカップは難しいよなぁ

イヴァンの、4代制覇

ブエローの、3歳&父母子制覇

だからなぁ

 

369:名無しの競馬好き

カレンサンフラワーのダービーはうれしかったなぁ

 

370:名無しの競馬好き

ブーケドールはなあ。よかったんだけどなあ

 

371:名無しの競馬好き

同期牝馬が

グランとラヴユーとクロノじゃあな

 

372:名無しの競馬好き

ブーケが取れなかったG1を彼女の産駒に託したい

 

って言ってたらまさかのダービーだもんな

 

373:名無しの競馬好き

おい!!

 

お前らJRAのチャンネル行け!!

 

374:名無しの競馬好き

は?

 

375:名無しの競馬好き

何?

 

376:名無しの競馬好き

>>373

どうしたよいきなり

 

377:名無しの競馬好き

URL貼るから見てこい

 

https;//youtube.com/********************/

 

378:名無しの競馬好き

>>377

おいおい

 

379:名無しの競馬好き

>>377

やったな

 

380:名無しの競馬好き

来たぞこれは

 

381:名無しの競馬好き

サクセスブロッケン!!!!!!

 

382:名無しの競馬好き

サクセスブロッケンのためのファンファーレキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!

 

383:名無しの競馬好き

【速報】JRAが再び本気を見せる!!

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

THE HERO

 

09年 G1戦線の幕開け フェブラリーステークス

 

それは、ガラスのような脚

憧れのダービーには届かなかった

そして、砂の上には 2頭の覇王がいた

 

体の弱さなど 言い訳にもならない

 

走れるなら 戦うだけ

 

 

 残りはたった200メートル。

 大本命のカネヒキリ、ヴァーミリアンという2頭の王者。

 

 先頭に立ったカジノドライヴを追いかけ一気にスパートをかけるが、ダートの王が襲い掛かる。

 

 

『カジノドライヴが逃げるが! 最内から雷光だ!!

 

外から!! 外からサクセスブロッケンが来ている!』

 

 エスポワールシチーもヴァーミリアンも上がるが、戦いは三頭に絞られる。

 ゴール板手前、残りは100。黄色の勝負服がすべてを撫で切る。

 

『内からカネヒキリ! 横にはカジノドライヴ!!

 

 だが!! サクセスブロッケンが捻じ伏せた!! サクセスブロッケンがゴールッ!!』

 

光輪の演出家が見せる 新世代の交代劇

王は捻じ伏せた 僕たちの物語を 始めよう

 

サクセスブロッケン(ヒーロー)を 超えろ

フェブラリーステークス

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

384:名無しの競馬好き

マジかよ!!

 

385:名無しの競馬好き

かっこよすぎだろ!!

 

386:名無しの競馬好き

ヴァーミリアンとカネヒキリを捉えたサクセスブロッケンは

俺たちの誇り

 

387:名無しの競馬好き

ヒーローを超えろじゃなくて、ヒーローを超えたんだよなぁ

 

388:名無しの競馬好き

この後にも東京大賞典勝って有同馬だろ?

 

389:名無しの競馬好き

いや、良い馬だったよ本当に

 

390:名無しの競馬好き

栗毛の来訪者と光輪の演出家

 

391:名無しの競馬好き

光輪って?

 

392:名無しの競馬好き

>>391

ブロッケン現象のこと

 

山の尾根に影が映って、その周りを

光の反射とかいろいろで輪っかの虹ができる

 

393:名無しの競馬好き

へー

 

394:名無しの競馬好き

>>392

博学ニキありがとう

 

395:名無しの競馬好き

それにしてもサクセスブロッケンか。

 

396:名無しの競馬好き

いいなあ。マジでこれ

 

397:名無しの競馬好き

こういうCM待ってたわ。本気で

 

398:名無しの競馬好き

次は? 高松宮記念?

 

399:名無しの競馬好き

一か月後か・・・。

 

400:名無しの競馬好き

ヒーローを超えるんだったらどいつだ?

キングヘイローはないだろうし

 

401:名無しの競馬好き

>>400

オレハマッテルゼ希望

 

402:名無しの競馬好き

名前だけならしっかりヒーローよな

 

403:名無しの競馬好き

あー早く次の来てくれ!!

 

 

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 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

THE HERO

 

11年 栄光への6ハロン 高松宮記念

 

連覇の望みは薄かった

出走取消、届かなかった春秋制覇、そして大敗

旬の短い短距離路線で その馬は1着を狙っていた

 

主役だから遅れるのか

 

遅れるから主役なのか

 

奇跡は、再び顕現する

史上最高齢による 最後の戦いを

 

キンシャサノキセキ(ヒーロー)を 超えろ

高松宮記念

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

今年の競馬を考えるスレ part.12

 

 

 

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792:名無しの競馬好き

この前のヒーローも最高だったわ

 

793:名無しの競馬好き

まさかキンシャサノキセキとは……

 

794:名無しの競馬好き

7・8歳で連覇だからなあ

 

795:名無しの競馬好き

正直ロードカナロアかなとか考えてた

 

796:名無しの競馬好き

>>795

龍王なら来てもおかしくなかったもんな

 

797:名無しの競馬好き

>>796

それならスプリンターステークスじゃないか?

 

キンシャサノキセキ同様2連覇してるわけだし

 

798:名無しの競馬好き

それだ

 

799:名無しの競馬好き

さすがに大阪杯はCMなかったな

 

800:名無しの競馬好き

まだG1になってめちゃくちゃ歴史あるわけじゃないしな。

しゃーない

 

801:名無しの競馬好き

桜花賞は絶対あいつやろ

 

802:名無しの競馬好き

やろうな

 

803:名無しの競馬好き

白いの

 

804:名無しの競馬好き

あの世代おもろいよな

 

805:名無しの競馬好き

桜花賞  白いの

オークス 黒いの

秋華賞  赤いの

 

やからな

 

806:名無しの競馬好き

鼻以外は美人なんだよ 白いの

 

807:名無しの競馬好き

>>806

 

808:名無しの競馬好き

マジそれなんよなあ

 

809:名無しの競馬好き

桜花賞はソダシで決まりだけど、残り2つどうすんだろう

 

810:名無しの競馬好き

確かに

 

811:名無しの競馬好き

次回もいいの頼むよJRA!!

 

 

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 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

THE HERO

 

21年 桜舞う可憐な女王へ 桜花賞

 

その白が示す意味は 桜が教えてくれた

純粋の白でもなく 輝きの白でもない

 

史上初 白馬によるG1制覇

 

『さあ最後の直線! 最後の直線!

 先頭、ソダシが先頭! ソダシ先頭で残り200!

 

 アカイトリノムスメ!

 外から外からサトノレイナスがやってくるが!?

 

 しかし、阪神に白い桜が咲き乱れる!!』

 

白き桜は 強さの証明に他ならない

 

それは 無敗という穢れなき白

 

ソダシ(ヒーロー)を 超えろ

桜花賞

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆



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後日談ーウマ娘ー3:残り僅かな学園生活

 個人的には、勝って終わりが1番好きです。
 オルフェみたいな、お前ら如き本気出せば千切れるんじゃって感じのが。


「なぁなぁマックイーン。メジロ家の力で中山レース場一日貸切にできたりしないのか?」

 

「突然何を言ってますのゴールドシップさん! できるわけありませんわ!!」

 

 大概、チームスピカの中で突飛なことを言い始めるのはゴールドシップだと相場が決まっている。

 その例に漏れず、放課後のチームルームでキタのトレーニングをまとめたファイルと睨めっこをしていた僕と、上半身を鍛えるトレーニングを試してもらっていたマックイーンの間にすごいことを言ってきた。

 

「どうして中山? 東京の模擬コースあるでしょ? Cターフとかてか中山とは逆回りだけどBターフもあるし」

 

「そうですわ。わざわざ中山レース場を丸々貸切する必要がないじゃありませんの」

 

 ゴルシの突飛なことに対して、完全な正論で返す僕とマックイーンに、珍しくゴルシは真面目な顔を見せた。

 

「有マ記念。勝ちたいんだ」

 

「えっ?」

 

 マックイーンの驚いた声。だが、ゴルシは続ける。

 

「やり残したことがあんだよ。せっかくウチパクが屋根だったのに、びっくりするぐらい足残ってなくてさ。ついでに、スピカで一番古参なのはアタシだろ? アタシたちの期待の新人であるキタも出るわけだし、最初で最後にいいもん見せてやりテェじゃん?」

 

「ゴルシさん……」

 

「てかぶっちゃけ言うとそろそろ走ってやんねぇと退学にしますってたづなさんに言われた」

 

 うん。なんとなくわかってたよ。うん。お前はそう言うやつだ。ちょっと浸った感傷を返しやがれこんちくしょう。

 

「けど、有馬は人気投票制だよ? 出られる?」

 

 最近レースに走っていないゴルシに対して、僕は真っ当な質問をする。

 だが返ってきたのは、怪しく笑う彼女の声。

 

「おいおいツァーリさんよぉ。アタシが誰だか忘れたのか?」

 

 二冠の千両役者だぜ?

 

 

 

 

 

 キメ顔してるけどお前宝塚でやらかしてんだよ。大魔神がお前にブチギレてたからな?

 

 

 

 

 

「んで? 僕たちにどうして欲しいの? って言ってやることは一つだけどさ」

 

「おうよ! このゴルシちゃんと一緒に世界の果てまで行ってツタンカーメン像に、落書きしてやろうぜ!」

 

「絶対に致しませんわ!!」

 

 立ち上がって叫ぶマックイーン。愉快そうに笑うゴールドシップ。そしてその二人に呆れる僕。

 

「お疲れ様でーす! って、あれ? どうしたんですか?」

 

 こんなカオスな状況にやって来たキタが、不思議そうにしているが、時間は有限。やれる時にやれることしておかなければ勝つことはできない。

 

「悪いけどキタ。当分の間、トレーナーに練習見ててもらっていい?」

 

「え? あ、はい。大丈夫ですけど……。何かありました?」

 

「とあるいちご大福にね、黄金の旅程を歩ませないといけないからね」

 

 通じるわけのない言葉を伝えた僕は、一つ伸びをする。

 

「行くよゴルシ。あの人見つけてくれたお礼もあるし、ストレッチして併走。いい?」

 

「うぉー!! 出走じゃい!!」

 

 僕の呼びかけにニヤリと笑ったゴルシは、チームルームから飛び出そうと動き始める。というか、飛び出そうとした。

 

 ふーん。そうか。そうなんだゴールドシップ。

 

 比較的ドアの近くにいた僕は、横を通り抜けようとしたゴルシの襟を掴み、動きを止めると、ぐぶぇ!? と情けない声を出したゴルシに言う。

 

「ストレッチもせずに強めの走りしたら、殺す」

 

「つ、ツァーリさん!?」

 

「あ、私よく言われてるんで通常運転です!!」

 

「ツァーリさん!?」

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「実際のレースってどうだったの」

 

「ん? 1着じゃなかったことは確かだぞ?」

 

「ラストランくらい覚えておきなよ」

 

 どうだっけなぁ? なんて両手を頭の後ろで組みながら空を見るゴルシ。ただ、口元はいつもの笑いを浮かべているものの、目は笑っていない。悔しさがあることを見せてる。

 

「まあこれから1週間真面目にトレーニングするなら、手伝ってあげるよ」

 

「お? マジィ!? よっしゃー海行こーぜ!!」

 

 うん。一回シバこう。

 

 と言うわけで始まった練習。ターフを一緒に並走したり、坂路の練習をしたり。キタとは違ってフォームどうこうのレベルじゃない以上一緒に走る以外の大きな練習はない。

 まあ他にするといえば、ウェイトトレーニングの補助とか。

 

 彼女がちゃんとしたトレーニングをしていることに、スピカの面々だけでなく、リギルの東条トレーナーなんかも驚いていたが、正直僕だってここまで真面目に練習するとは思っていなかった。

 

 ただ、これまでかなり不明瞭だった彼女の能力を知ることもできた。

 

 スピードはそれほど速いわけじゃない。ただ、上げ続ける能力は僕並み。

 パワーに関しては僕よりも上なのではないだろうか? 皐月賞での彼女の走りを見させてもらったが、荒れた内側を走り抜ける度胸とパワーは桁が違う。

 スタミナも無尽蔵。京都外回りの3コーナーから仕掛けて、ゴール後まで持つ奴は僕の他に彼女とミスターシービー先輩くらいじゃないだろうか。

 そして根性は分からんが、ことレースにおいての賢さも抜きん出てる。それ以上に自分が楽しければいいと思ってしまうところが傷だが。

 

 レッグプレスマシンも僕の想定する二つくらい上の重量を上げてるしね。

 まじで身体能力お化けだよ。このウマ娘。

 

 と言うか、普段スイカ割ったり将棋したりふざけたことしてるけど、ちゃんと練習すれば負けなしなんじゃないか?

 

「どうやって勝つつもり? 有馬」

 

「そりゃいつも通りだろ。このゴルシ様は向正面で上がって、逃げるキタを抜いて……。何がなんでも勝つ。クソ親父もオルフェも最後は勝ったんだ。アタシも勝てる。そう思うだろ?」

 

「僕に振るな。知らんよ」

 

 レースは何が起きるか分からんからね。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

『中山に響き渡る大歓声! それを一身に受けるのは、得票数1位! 12万の期待を受けた黄金の不沈艦ゴールドシップ! もちろん一番人気!』

 

「ゴルシが真面目に走るって、今まであんのか?」

 

「さあね。本気で走ってるところなんて見たことないもの」

 

「つ! ツァーリさん!」

 

「あれ? フェリペ。それにせん……。ヒロ」

 

「お久しぶりです」

 

 スタンドの最前列にいたスピカの面々。ウオッカとダスカの二人が話す中、僕にかけてきた声の方へ顔を向けると、そこにいたのは有馬記念以来に顔を合わせたグロリアスフェリペとヒロユキの二人。

 

「ゴルシの応援?」

 

「はい! といっても、ヒロ君が絶対に行くって言って聞かなくて」

 

 あははー。と頬を掻くヒロユキ。そういえば、最後の鞍上は先生だってゴルシが言ってたからその繋がりかな? まあいいや。おけおけ。

 

「トレーナー」

 

「どうしたツァーリ?」

 

「ゴルシがスタート出遅れるに初任給」

 

「いやいや、流石にそれは」

 

『有マ記念、ゲートが開きました!! 15番ゴールドシップやや出遅れたか! ずっと後方に下がります!!』

 

 くくく。と笑う僕と、口をあんぐりと開けてしまったトレーナー。

 

 正直なところ、ゴルシの引退なんて知らない。どんなレースをしたかは知らないし、どんなふうに負けたのかも知らない。引退の美学。なんて言い方もあるし、勝ち切って引退や沈んで引退することにそれぞれ思うこともあるだろう。

 

「引退の美学って何かわかる?」

 

「なにって、そりゃ勝つことだろ」

 

 そんなトレーナーの答えを僕は否定した。

 

「勝とうが負けようが、引退レースには関係ない。普段なら勝てっていうけど、流石の僕も引退レースだけは違うと思う」

 

「じゃ、じゃあ、ツァーリさんは引退レースの捉え方はどう思うんですか?」

 

 おっと、フェリペが頑張って聞いてきた。良い子良い子。頭なでなでしてやろう。おっと、ゴルシがホームストレッチ前で観客にめちゃくちゃ笑顔で手ェ振ってやがる。流石にやりすぎ。

 

「この世界のウマ娘は、比較的息が長い。それでも、故障は起きやすいし、疲労だって溜まる。それでも引退になるまで自分達を見てくれた人たちは大勢いるわけで、どんな子にだってファンが付く。なんてったって1人目のファンはトレーナーらしいし?」

 

 その言葉でダスカとウオッカがトレーナーを見つめるが、件のトレーナーはそっぽを向いた。恥ずかしいんかい。

 

「だから、そのファンのために、元気で戻ってくるのが仕事。勝てるなら勝つ。負けそうでも全力で走る。あくまでも僕の主観だけど、引退の美学は、しっかり走り切る。それに限る」

 

 それがステゴもオルフェもやってきたことだから。僕はそれしか知らないのもある。

 

「サクラバクシンオー先輩みたくレコードで勝てだなんて言わない。でも……。エレクトトップ見たく予後不良なんて絶対にしちゃダメだ」

 

 エレクトトップ? と聞きなれない言葉を聞いたせいか、フェリペは首を傾げる。

 そんな彼女の頭をまた僕は撫でた。あの子はこの子の全弟だ。あの子もこの世界にいるなら、絶対に最後まで、せめてトゥインクルシリーズは完走させないと。

 

「てかさー。レースはいいの? ゴルシ上がってきたよ?」

 

「行っけぇー!!」

 

「ゴルシー!!」

 

 向正面。最後方にいたゴルシがどんどんと外側を通って上がっていく。2コーナーからの向正面は下り坂だから、僕やゴルシのようなタイプにはすごく走りやすい形状。

 

「行ける」

 

『向正面で芦毛の千両役者ゴールドシップが上がってくる! スルスル上がって外側3番手! 先頭は依然変わらずキタサンブラックですが内側からゴールドアクターも良い位置に着けているぞ!』

 

 1周目とは違う目。何を考えているかわからないほど眩しい顔で走っていたさっきとは違い、今はただ、先頭だけを見つめている。

 

 たづなさんが言っていた、無念を晴らす旅。それが僕やゴルシがここにいる理由。僕はあの二敗を。ゴールドシップはこのレースを勝つための旅路。いや、僕は星だし彼女は船だから航路かな?

 

「ゴルシ! 行けっ!!」

 

「ゴールドシップさん!」

 

「シップ、行け!」

 

 先生。いや、ヒロユキが声を出すと同時に、彼女は先頭を、キタサンブラックを捕まえた。

 

「キタちゃん!」

 

「キタちゃん頑張って!」

 

『逃げるキタサンブラックをゴールドシップが捉えるか!! 並んだ、並んだ、まだ僅かにキタサンブラックが出ているが、坂道巧者ゴールドシップ! 内側のゴールドアクター少し届かないか!?』

 

『内か! 外か! 並んだままゴール!! 僅かにゴールドシップ、ゴールドシップが勝っていたでしょうか!!』

 

 掲示板の1と2だけ光らないまま、残りの三つが埋められた。

 3着はゴールドアクター。史実ではこの有馬を制した伏兵。

 

 そんな中、ターフのど真ん中ではゴールドシップとキタが何かを話してる。2人とも朗らかな表情。

 あれ? ゴルシがキタに後ろ向かせた。何をするんだ? あいつ……って。

 

「張り切って! 来いっ!!」

 

 バシンッ! と彼女の背中を叩いたゴルシは、掲示板の一番上に15が映ったのを見ると、改めて観客に向けてピースを見せつけた。そして、しっかりと深いお辞儀。

 

 場内は割れんばかりの拍手、そして、ゴルシコールで埋め尽くされる。

 

 それは、これまでの世代の終わりを告げるような、新たな物語の始まりのような空気で満ち溢れていた。



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後日談ーウマ娘ー4:卒業。そして、僕の最後のレース

 お久しぶりです。
 コロナ等々で死んでからだいぶ日にちが経ちましたが、幸動と言うことなく生きてます。

 この話を最後に当作品を完全に終わろうと思います。

 ※ツァーリトレーナー編はべつで新たに描き始めるつもりです。

 これまでの読んでいただいた皆様に最高の感謝を。


「豊かな春の日差しに彩られ、舞い散る桜が祝福する今日、僕たち卒業生のためにこのような晴れやかな卒業式を挙行していただき、心より感謝申し上げます」

 

 壇上。並んだ多くの卒業生、在校生に向き合った僕は、テンプレの文章しか書いていない白紙を両手に持って答辞を述べる。

 

 右手側には進行役であるたづなさんや、学園の教師陣、卒業生を担当しているトレーナーが。左手側にはURAの関係者だったり、市議会のお偉いさんだったりご臨席いただいている方々。生徒たちの奥には保護者たちが並んでいる。

 

「期待と不安が胸いっぱいに広がっていた入学から気がつけば多くの時が過ぎました。大きな校舎、数ある練習用ターフ。憧れの中央に所属するという重みを知らなかった若輩であった僕たちは、多くの先輩方に支えていただいた恩を忘れることはないでしょう」

 

 初めて競走の意味を知った選抜レース。

 

 自身の伸び代を知ったメイクデビュー。

 

 スタートラインに立ったオープンクラス入り。

 

「夢の舞台での掛け替えのない親友たちとの戦い。その上で勝ち取ったたった一つの冠。積み重ねた努力は、未来への旅において大きな武器になることでしょう。ドリームトロフィーシリーズに進む彼女。トゥインクルシリーズを続ける彼女。大学に進む彼女。ターフの上ではなく、別の方向に進む彼女」

 

 先行策で仕掛けた二冠。菊花賞と古馬……じゃなくてシニア期を見据えた作戦だったあの二レースを思い出す。

 菊花賞で一番後ろについた時はみんなが驚いてたよな。

 無敗で三冠を取って、有馬も勝って年間無敗。オペラオー先輩と初めて会ったのはここだった。同じ年間無敗とは言え、あっちは古馬王道の年間無敗。こっちはクラシックからの有馬までの年間無敗だから、格が違うけどね。

 

 僕が初めての春シニア三冠を達成して、グラス先輩とエル先輩引き連れて海外に出た。凱旋門もしっかり勝って、国内に戻ったのは一年ぶりの宝塚で、得意の長距離であるメルボルンカップから秋シニア三冠。

 思えばG1ばっかり走ってるな僕。調整やらなんやらでG2以下も走らなかった。まあ、そういうスケジュールに自分からしていたんだけど。

 

「ただ、その裏には、夢をこの学園に預けた多くの学友がいます。あの日共に笑った友人が、何も言わずに寮から、学園から去った。その事実は変わりません。怪我だったり、成長の限界を感じターフを去った子達がいます」

 

 僕たちの学年は人数が少ない。それは、ほとんどの子が僕たちに劣等感を感じて辞めてしまったから。その傾向は、G2以上のクラスで戦う子たちが多かった。

 やっとG2を勝っていざステップアップ。そう思えば、短距離とマイルにはグランとダノンが。中距離にはクロノとナーリアとロジャーが。そして長距離に行っても僕がいた。

 わざわざダートに転向する子が多かったのは僕たちに勝てないと思っていた子が多いからだ。

 

「だからこそこの学園を卒業する僕たちは、無数に広がった僕たちの未来を、この学園で学んだ多くのことを胸に切り開いて参ります。そして、先達たちが微笑むことができる学園の卒業生として、若き名も知らぬ優駿たちの憧れとして、この学園を去っていった多くの友たちの誇りとして突き進んで参ります。卒業後も方々にご迷惑をお掛けすると思いますが、どうかご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」

 

 後は数少ない台本の通りに言葉を述べ、頭を下げて壇上から降りる。

 その後も恙無く卒業式は続き、よくある在校生の合唱とか聞いたりしながら、僕たちは会場を後にした。

 

「って、やっぱり集まる?」

 

「まあ、わたくしたちですからね」

 

「最後だし。なんか気が向いちゃって」

 

「ツァーリちゃんフラーってこっちに来たからさ!」

 

「私たちはグランに引っ張られてきただけだけど」

 

 この学校におけるすべての行事が終わった僕は、練習用のターフを眺めていた。

 そこに集まったのは僕のライバルたち。内一名は本当に嫌な顔してるけど。

 

「ダノン、結局走るのやめるの?」

 

「トゥインクルは卒業。トレーナーと相談してドリームに行くことにした」

 

 負けたままじゃ終われない。なんていう彼女は、同じ距離を走ることが多いグランのことを睨んでた。まあ、マイル以下はグランの独壇場だったし、目下の敵? 目の上のたんこぶ? 的なやつだ。

 

「じゃあみんなドリームトロフィーかな?」

 

「そうですわね。わたくしは大学に行きながらですし、ロジャーさんは?」

 

「細かいところまでは考えてないけど、ドリームには出るよ? 大学の推薦ももらったし」

 

 クロノもダノンも大学に進学して、そこでトレーニングを続けるらしい。

 

「ねえねえツァーリちゃん。最初で最後にさ、みんなで走らない?」

 

「みんなで?」

 

「うん。みんなの得意距離が違うからさ、難しいかもだけど」

 

 うーん。と顎に手を当てて悩むグラン。おい、可愛いかよ。

 

「なら、みんな得意距離で走ればいい。一番距離が長い人、ツァーリからスタートして、それぞれ宣言した距離から始める。抜かされる少し前ぐらいにスタートすれば良い。ロジャーバローズの2400、私の2200、サートゥルナーリアの2000、ダノンキングリーの1600、グランの1200。どう?」

 

「名案!! いいじゃんいいじゃんクロノちゃん! 完璧じゃん!」

 

 え? そんなことすんの? する気ないんだけど。

 てか、なんか周りガヤガヤして無い? いつのまにか人集まってんの?

 

「ツァーリさんは3000ですか? それとも春天の3200?」

 

「え? これする流れなの?」

 

「へぇ。逃げるんだ星帝様。怖いの? 私たちに負けるの。まあそうだよねー。全員が全員あんたに勝つために走るんだからこれまでで一番負ける可能性高いもんね」

 

「おいおい、生徒会長たちがレースするって」

「卒業レース? 誰と?」

「あの学年のエースたちだよ。ナーリアさんとか、ロジャーさんとか!!」

「マジぃ!? ちょ、絶対見なきゃじゃん!」

 

 あ、逃げれんやつだ。これ。

 

「ちょっとちょっと! ツァーリさん! 祭! してるって」

 

 いやいやしてないから祭。大人しく帰りなさい。キタサンブラック。

 

「ちょっとツァーリさんが挑戦者受け付けてるって聞いたんですけど!!」

 

 それもしてないから落ち着きなさいコントレイル。うるさい。目を輝かせるな。

 

 とりあえず周りに集まった在校生・卒業生たちに一睨みして黙らせる。何か考えるにも騒がしい。落ち着かせろ。

 どうすれば一番丸い? 綺麗にまとめられる? 走るにしても僕たちだけ? 在校生は? 他の卒業生は?

 

「キタサンブラックちゃん! どーもどーもグランアレグリアです!」

 

「は、はい! キタサンブラックです」

 

「これからするのは祭りじゃなくて、私たち卒業生が君たちに見せる最後のレースです! 世界星帝のツァーリちゃん! 祝祭バのナーリアちゃん! グランプリの女王クロノちゃんに、日本総大将のロジャーちゃん! そしてライバルのダノンちゃんと私だけの、最初で最後の全力レース」

 

「グランの言う通りだ。すまないが君たちは見ておいてくれ。すまないが私たちの喧嘩だ。意地でもあいつには勝っておかないといけなくてな」

 

 キタの前に立つグランとクロノ。クロノは僕の方に親指を向けてクイクイっと動かす。他のみんなも、僕の方を見つめる。

 

「じゃあさ、走るから条件」

 

 ① 出走者である6名は勝負服を着用すること。

 ② 距離は各自申請した距離をゴールから逆算しスタートすること。

 ③ 第二走者以降は先にスタートした走者が、第二走者以降のスタート地点約80メートル手前地点到着以降にスタートをすること。

 ④ 第二走者以降は必ず内ラチ側からのスタートとすること。

   ただし、コーナー間からスタートする場合はその限りではない。

 ⑤ レースの記録はトレーナーのみ許可され、外部に映像を漏らさないこと。

 ⑥ 観戦者は全力で応援すること。

 

「⑤の条件ってなんですの?」

 

「僕たちは今日から先達だよ? それも全員G1バ。なら、トレーナーには後輩たちのために研究してもらわないとね。キタ。コント。二人とも他の人たちに声かけできる? 多分トレーナーたちは食いつくから」

 

 良い返事で校舎に消えていった二人を見送ると、僕はささっと携帯を取り出す。

 

「あ、おねーさん? あ、ごめんなさい。とりあえず噂通りだから、色々お願いして良い? え、ごめんなさい。いや、ありがとう。その、はい。ごめんなさい。それじゃあよろしく」

 

「すごく謝っていましたが、どなたとの……」

 

「……。いつも迷惑かけてるおねーさん。とりあえず、準備とかウォームアップとかあるから、一時間後に集合で」

 

 5人が戸惑いながらも頷いたのを確認して、Bコースねー。と軽い口調で告げた。

 

「僕に挑んでくる相手を、無下にはできないだろう」

 

 仕方ない。やるからには全力だ。日本での最長は3600。僕の領域で皆を沈めてやる。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

『晴れ渡る空の下、6名の名バがターフに集まりました』

 

 いつのまにか実況と解説までできてることに驚いたが、それはそれで良いか。

 

「それにしても……」

 

 僕が立っている場所はバックストレッチの入り口。真横には1200を走るグランがいる。2400のスタート地点になる3コーナーのところにはロジャーが。第4コーナーのポケットにはナーリア。コーナー間にクロノが一人ぽつんと立っている。そして、ホームストレッチの先、1コーナー辺りにはダノン。

 

「これ、流れ乗ってる中長距離が強いのか、坂路一回のマイル以下が強いか……」

 

 とりあえず、やるだけやろう。

 

「準備はいいですか?」

 

「いつでも良いですよ。おねーさん」

 

 3000のスタート位置にいる僕に対して、スターターを務めるおねーさんが確認を取る。もちろん準備万端だから問題ない。各自のスタートの目印になる80メートルラインにも在校生たちが立って準備が整った。

 

『エクストラレース。トレセン学園卒業レース、出走です。

 

 ゴール地点から1200メートル地点からスタートする快速女王グランアレグリア。電撃の6ハロンは、中長距離を走る他のウマ娘たちを差すことができるのか!

 

 続いて1600メートル地点にいるのはダノンキングリー。安田記念を制した足は、同期たちも注目しています。不屈の精神でどうか走り勝って欲しい!

 

 第4コーナーのポケットにて準備するのは祝祭バサートゥルナーリアこの人です。皐月賞、秋の天皇賞と辛酸を舐め続けてきたこのウマ娘は、今日こそ祝祭を受けることができるのか!

 

 堂々とした出立で3〜4コーナー間に立つのはクロノジェネシス。グランプリ連覇の実績。そして、気高き紅葉の女王として勝ちに行きます!

 

 注目のロジャーバローズはチャンピオンディスタンスから宝を狙います。サートゥルナーリアと同じく唯一星帝のハナ差まで近づいたウマ娘ですから、狙うは王冠。曇りない黄金を求めて出港です。

 

 さあ、最後に登場するのは、全てのウマ娘の終着点。絶対の星帝ズヴィズダツァーリです。あの菊花賞と同じ3000メートルから走ります。無尽蔵なスタミナ、どんな足場でも対応できる走りで、有マ記念同様世代の証明を果たせるか!!』

 

 おねーさんがバッ! と旗を振り下ろしそれに合わせて飛び出す。

 

 このレースの肝はスタートからの600メートル。ロジャーのところまでのペースが全ての基準となるからこそ、しっかりと足を動かす。大体12秒程で一つ目のハロンを抜けたことで、そのままペース目標を12秒以下に設定。

 

 ロジャーがスタートした。ペースは僕より少しだけ前。スタートをしっかりと切れるこのルール上、出遅れることはほとんどない。しっかりと助走タイミングを合わせたロジャーが、チラチラと僕の方を確認した。

 

 直ぐにクロノがスタートする。クロノは唯一のコーナー間からスタートする。だから、できる限り直線でのスタートになるよう外ラチに近いところにいる。

 きゅっと内側に入ってきたクロノは、僕とロジャーの間に位置をとった。

 

 ペースはそれほど早いわけじゃない。皆初めてやる形だから、慎重になっている。それは、4人目のナーリアも一緒。

 ポケットから出てきた彼女はクロノの外に着く。

 

「さすが皆。ペース合わせるの上手だね」

 

「あははー。まあ、ゆっくり目だしね。ツァーリもまだ来ないし」

 

「それはそう」

 

 皆軽口が言い合えるくらいには余裕を持って走っている。

 ホームストレッチまで来て、ラチ沿いに並ぶ生徒たちトレーナーたちの横を通り抜ける。それぞれが世話になった誰かの応援をするウマ娘たち。僕たちの走りを一つでも研究しようとするトレーナー。そんな横を抜ければ、ダノンが僕の前に陣取った。

 

『さあ、ホームストレッチを抜けた各バです。

 先頭は以前変わらずロジャーバローズ。2400メートル地点から全体を引っ張ります。そこに続くのは最内クロノジェネシス。僅か後方に位置取るサートゥルナーリアは抜け出しのタイミングを虎視眈々と狙っています。

 さあ第五走者のダノンキングリーは1バ身後方。スパートにかけるでしょう。そして最後尾にズヴィズダツァーリが待ち構える状態で残り1200メートルとなり、グランアレグリアスタートです。ロジャーバローズの背後にピッタリつけました!

 

 さぁ! 向正面でペースがどんどんと上がっていく! 全体的にゆったりとしたペースが一変しました! 徐々にスピードが上がります!!』

 

 グランが隊列に入ったことでロジャーが引き離しに出た。少しずつ上がるペースだが、ここでロジャーを野放しにしてはどうやっても届かないことを僕たちは知っている。

 だからこそ、僕たちもジリジリと詰め寄る。

 

『さあ最後方のズヴィズダツァーリ。約4バ身あったダノンキングリーとの距離が埋まっていきます! 普段同様このままズヴィズダツァーリが全員纏めて撫で切ることになるのか!?』

 

 バカ言うなよ実況。そんじょそこらのやつじゃないんだぞ。全員が強敵。壁だ。そんな奴を撫で切る? 無茶言うな。全員得意距離だぞ? 勝つ気しかないけどさ。

 

「やっばい! すっごく楽しいよ! 皆!!」

 

「そうだねっ!!」

 

「ああ」

 

「ええ。友との勝負。最高ですわ」

 

「悪くないね」

 

「ああ。この気持ち……、まさしく愛だ!!」

 

 横に並んだダノンが、一瞬僕のことを汚物を見るような目をした気がするが無視だ無視。僕には効かん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、悲しいから前出ようかな。

 

『各バ3コーナーのを抜けて4コーナーです! 最終直線は約400メートル! これは瞬発力勝負になるか!!』

 

 真っ先に動いたのは僕だった。最終コーナーに入る時、前には横並びになったグランとクロノとナーリア。

 前が詰まっている状態であればパワーとスピードが一気に上昇し、前のスタミナを奪う領域が発動する。

 

   領域  明けの明星 発動

 

 大外に膨らみつつ、一気に加速を上げて前を掴みにいく瞬間、ロジャーが出た。彼女の領域、「ROMANCE DAWN《黄金への出航》」だ。

 最終直線で先頭にいる時、一気に引き離しに行く彼女の力。それを押さえつけるように、クロノの領域である「 Time is mine(理の中針)」が発動する。一気に足が鈍くなるような、彼女だけが悠然と進むような錯覚が広がるが、それを振り解くように抜け出したのはグラン。そしてダノン。

 ダノンの領域である「ドン・ネバ・ギバ」は直線で中盤にいる時にパワーを上げるシンプルな物。だからこそハマれば強く、グランを差した安田記念のような強さにつながる。だが、彼女のライバルグランも負けていない。いつもの朗らかな表情は消え去り、真剣そのものの顔で腕を振る。

 

「勝つんだ!!」

「勝つ!」

「私が勝つんだよ!!」

「っざけんな! 勝つのは私っ!!」

 

 前にいる4人との距離が近づく。あれ? ナーリアは?

 

『最内の隙間からナーリアだっ!!』

 

 実況の声を聞いて横を見れば、鹿毛の髪がたなびいていた。

 

「わたくしが勝ちますわ!!」

 

 ナーリアがいつか言っていた。進むべきが見えた。と。

 それを考えるに、彼女の領域である「Il festival non è ancora finito《終わることのない祝祭》」は、きっと位置取りとパワーに関する差し向きの領域。本能のまま勝つための最適解を導き出し、今このレースで、最内という選択を取った。

 

「勝つのは、俺だ!!」

 

 力一杯踏み込んだ反発で、ぐんぐんと速度が上がる。

 残り2バ身。残り1バ身半。1バ身。

 

『残り200!!

 

 ロジャーバローズとの差がなくなる! なくなる!

 後続が追いついたが、ロジャー粘る!! 粘っている!!』

 

 僕のスピードは既にマックス。これまでのレースならぶっちぎって勝っていた状況。だが、今日の僕は完全に差しきれない。僕が弱くなったのか?

 

 いや、みんなが僕のために強くなってくれたのか。

 

『横一列! 6人が横に並んだまま、並んだままゴールっ!!

 

 大接戦のゴールだ!! 私の目には、全員同着のように見えました!!』

 

 6人全員息を切らしながら速度を落とす。そして、僕は、ゴール板の位置で写真を撮っていたおねーさんを見た。手にはカメラ。彼女の横には、接戦と書かれた扇子を持つ理事長。

 

「完全な横並びじゃなかった?」

 

 息も絶え絶えのロジャーに、みんなが頷いて返事する。

 どっと疲れた僕は、パタリと地面に倒れ、青空を見上げた。

 

「いや、違うよ……」

 

 5人が、え? と驚きの声を上げるのと、「決着!」と理事長が声を上げたのは同時だった。

 

「着順! これからこのレースの着順について発表する。たづなの撮った写真をもとに判定しているため、レース場のものほど正確では無いが、模擬戦であるため問題はないだろう」

 

 1着 ロジャーバローズ

 

「いっ、ちゃく?」

 

 同着 サートゥルナーリア

 

「え? わたくしも1着ですの!?」

 

 同着 クロノジェネシス

 

「これは……」

 

 同着 ダノンキングリー

 

「私も? いや、横並びだったとは思うけど……」

 

 同着 グランアレグリア

 

「私も!? やったー! みんな1着だね!!」

 

 だめだ。涙が出てくる。空が滲んできた。

 

「2着 ズヴィズダツァーリ ハナ差」

 

 だよなー。やっぱり。そうなるよなぁ……。

 

「ツァーリちゃん?」

 

 言葉を失うとはこのことだろう。ターフの中も外も、理事長の言葉を信じられないのか、不思議と静寂が包んでいた。

 

「っおい理事長! なんであいつが2着なんだよ!! 横並びだったでしょ!!」

 

「そうだ。ダノンの言う通り。ツァーリと並ぶことはあっても、私たちが勝つことは  

 

   いや、負けだよ。僕の」

 

「ツァーリさんは最後の末脚が伸び切ってなかったですね。それでも有マ記念以上のスピード、パワーだったと思いますが、それ以上に皆さんの走りが素晴らしかったと思います」

 

「どうしたの? 皆。勝ったんだから喜びなよ」

 

「でも、ツァーリさん……。泣いてますわ……」

 

 しょうがないじゃん。ずっとライバルだと思ってた子たちが、必死になって自分を磨いて、全力を出した僕に勝ったんだよ? 僕は負けたんだよ? 踏み込んだ足が君たちのことを捕まえられなかったんだよ?

 

「だってさ……。悔しいじゃん」

 

 そうだ。悔しい。この世界に来て初めて味わう感覚。

 全身全霊で挑んで、全てを倒した僕が、初めて受けた本能による感情。

 

「でもさ、嬉しいんだ。僕はやっぱり一人じゃなかったって思えたから。みんなのこと好きだよ。だからさ、今度はトレーナーとしてリベンジするよ」

 

 シルクヒョードル。エカチェリーナ。他にもいっぱいいる。

 ステイブラックとブラックジャーニーの兄弟にジーズナヤヴァダーとダイワローザ。キスアンドクライたち団子三兄弟。そして、僕とグランの結晶。

 

「競走馬としてはこれで終わりだけど、これはこれで良かったよ。本当に」

 

 糞。でも勝ちたかったな。

 負けた。完全に負けた。

 

「あー。悔しい。本っ当に悔しい! あー! もー!」

 

 絶対に借りは返す。絶対にね。




 PS、ポタジェ……。お前誰やねん笑


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