人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝)  (ミスター仙人)
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0. 人類銀河帝国 コリント朝 ライブラリー担当AIの呟き

はじめましてミスター仙人と申します。

文才の無い自分ですが、日記帳の様な私文録であれば書けるのではないかと愚考しまして筆を執らせて頂きました。

何分投稿させて戴くのも初めてなので、読み辛い箇所や誤字脱字等は多々散見されるとは思いますが、なるべく訂正を重ねてよりわかり易い文に近付ける様に努力していく所存なので暖かく見守って頂けると幸甚です


さて前置きが長くなってしまいましたが、今回題材とさせて戴く作品は、

「航宙軍士官、冒険者になる」

という作品です。

この作品は「a_itoh(伊藤 暖彦)」様が小説家になろうに投稿されていて書籍、コミックにもなっています。

ただ残念な事に今現在投稿がストップし、更には作者様の現況が不明な為に再開が見通せない

状況が続いております。然もこれからが本編といっても過言ではないタイミングでです。(泣)

なのでこれから「こうなるんじゃないか?」「ああなるんじゃないか?」という妄想ばかりが膨らみとうとう二次創作小説という暴挙に出てしまいました。


たかが1ファンに過ぎない自分がこういう事を言うのは大変烏滸がましいのは重々承知しておりますが、出来ましたら「a_itoh(伊藤 暖彦)」様の目に止まり作品の再開が始まって頂ければこれ以上の幸せは御座いません。


 

0. 人類銀河帝国 コリント朝 ライブラリー担当AIの呟き

 

 私は帝国図書館司書AI(ガンマ)、只今ライブラリの物理ストレージ拡張に伴う大規模アップデートに備えてライブラリー内の無駄なデータの洗い直し作業を行っている。 

 

ただ、旧帝國の首都星の失陥による惑星アレスへの首都移転に伴い、バグス達に荒らされた「人類に連なる者達」の各星系のデータの保持が最優先だったので10周期も掛かった為に、様々なゴミデータが放置されており、如何に最新の量子演算プログラムからなる私でも片手間には終わらない量だった。

 

 だが、その私文録は非常に私の仮想感情プログラムを刺激した。

 先ず珍しい事に紙媒体による保持が成されており、然も当時のイーリスコンラートAIが把握していない、功臣の方々の生の声が伝聞等で記載されているのだ。

 

 大祖アラン・コリント創建帝による建国とそれに伴う数々の物語は、ありとあらゆる媒体やメディアに格好の題材を提示して今尚ムービーやTVドラマとして提供され続けている。

 

 この私文録は新たなる物語を綴る上での第一資料になり得るのではと思考させられるのだ。

 

 ただこの私文録は当時の旧アレス語で書かれているので先ずは帝国語に直し、検証を可能にした上でライブラリーに保存しようと決定した。

 

 ライブラリーに保存するに辺り、此のケニーと云う功臣の来歴と事績そして家族構成を調べてみた。

 

 生まれは、スターヴェーク王国のルドヴィーク辺境伯領で鍛冶職人の父が営む工房兼家にて産まれた。

 家族構成は父、母、妹の四人家族で、両祖父母はスターヴェーク王国の王都で隣同士仲良く老後を楽しんで静養していた。

 ケニーは幼い頃から体頑健にして剣術、体術が人より優れていた為、15才の成年に達する際にルドヴィーク辺境伯の兵士募集に応募し見事に受かり、兵士訓練しを次席で卒業し将来を嘱望されていた。

 しかし、全ては旧アロイス王国の貴族連合軍によるクーデターの前に覆った。

 電撃的に王都を貴族連合軍に陥落され、次に狙われたルドヴィーク辺境伯領も以前から着々と準備されていた罠に掛かり、抵抗虚しくルドヴィーク辺境伯共々落とされた。

 だがケニーは、ルドヴィーク辺境伯が「クレリア・スターヴァイン王女」へ託した、スターヴァイン王家の復興とルドヴィーク家の復活という思いに応える為に、近衛隊と兵の8つのグループの内の一つに入り城を落ち延びた。

 そして冒険者と身を窶しながら「クレリア・スターヴァイン王女」を探し、ゴタニアの街で合流を果たす。

 此の時、生涯の主君にして永遠の忠誠を誓う事になる「アラン・コリント」と巡り合う。

 その後一旦「シューティングスター」の面々と別れ再度合流を果たし「クラン・シューティングスター」の「サテライト8番隊隊長」となり、此の時初めてケニーは歴史の表舞台に躍り出た。

 

 紆余曲折を経て、「アラン・コリント」が男爵に叙爵されて領地たる、「魔の大樹海」を目指す所からこの物語は始まる。




何とも申し訳無いのですが、初めての投稿でフォームの使い方や諸機能の使い方が判らず、試行錯誤しております(汗)
今後もやり方とより便利な使い方が解る度に、更新することになると思われます。
ご面倒をお掛けしますが、時折変更点を御確認頂ければ幸甚です。


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第一部『帝国成立編』
1. 4月の日記(ケニー、コリント領に到着する)


 これから我々(クラン・シャイニングスターと旧スターヴェーク民及び新規領民)は、領地である「魔の大樹海」へ向けて王都から出発する。

 ついてはこれを期に日記なるものを書いてみようと思う。(アラン様から本屋の蔵書を買い取った際に日記帳が含まれていて希望者に配布された)

 

 

 4月6日

 

 いよいよ出発するが、事前の全体会議で定められた通りの順番に従い粛々と馬車の列が街道を進み始める。

 皆そこそこに緊張しており、馬車の扱いに慣れない王都育ちの者達にアドバイスも兼ねて付き添う事をアラン様からサテライト各班に命令が出された。

 よって我々8班はスラム出身の冒険者グループと共に行動する事になった。

 彼らは西三区孤児院の出身で、ハロルドと云うDランク冒険者を中心に行動しておりゲルトナー大司教様から

 「今回の事がうまくいけば、追加で孤児を受け入れてくれる」

 とのお達しを受けより模範的に振る舞おうと、他のスラム出身と比べても緊張し過ぎてる様に感じたので、私は班員と相談して年若い彼らと仲良くなる為に話しても問題無いこれ迄の「クラン・シャイニングスター」の活躍を話す事にした。

 

 4月9日

 

 ハロルド達と行動を続けている内に彼らは馬車の扱い、各班に別れた巡回、訪れた町々での馬草や食糧の荷運びに馴れて来て当初の緊張も徐々に解けて要領も良くなってきた。

 人間余裕が出てくると興味の有る事や今後の事に意識が行くらしく、色々な質問を我々8班に問うて来たので教えれる範囲で答えているとやはり「魔の大樹海」への質問が多いので、グローリア殿を絡めた話をすると皆瞳を輝かして話に聞き惚れてくれた。

 

 4月13日

 

 昼食後の報告の為にアラン様が居られる場所へ行くと、新たに加わる事になったユリアンと云う者を皆に紹介された。

 驚くべき事にこの者は元ベルタ王国の諜報組織の人間で、今後はアラン様の配下として組織ごと加わりベルタ王国に敵対する事も辞さず、命を賭して仕えると誓約して来たとの事だ。

 アラン様は試験として幾つかの試練を組織に与え、それを熟せば採用すると皆に宣言し今後領地に入り採用試験をクリアしたとアラン様が判断された際には、仲間として受け入れて欲しいと仰られたので、ダルシム副官とロベルト老はクレリア様とアラン様に忠誠を誓うので有れば問題無いと答え我々サテライトも同意する旨を述べた。

 

 4月15日

 

 ユーミ、カーヤ、ユッタ、マリー、ハンスという兄弟姉妹達とハロルド達と共に昼食、夕食の準備に取り掛かる。

 彼等の様な孤児達に色々な経験を積ませる事で職業訓練と選択肢を与えるというアラン様の領地経営の一環としての教育の一つの形であるが、本日はアラン様が陣頭指揮を取り作って頂いたので、群がるグループが続出し食事の取り合いになってしまった。

 

 4月17日

 

 ナーセ川という「魔の大樹海」と繋がる大河に差し掛かる。

 此の川とその支流がベルタ王国にとって主要な水源になっているのだが、アラン様が仰られるには此の川は領地にとっても物流、食材、水源、用水と幅広く活用するとの事で、特に食材となる魚の種類を知る為と今後釣りというものを知って貰うために釣り大会が急遽開催された。

 アラン様の釣り道具に加え竹の先端部分を火で炙り、其処にアラン様から戴いた透明な糸とルアーなる疑似餌を強く結び簡易的な釣り竿を計10本作り、交代交代で釣りをしていくが、殆どの者が初めてなのにどんどんと釣れるので盛況な内に釣り大会は幕を閉じた、当然釣られた魚は調理され我々の食材となった。

 

 4月20日

 

 ガンツが近付くに連れて段々と魔物が出没し始め、我々サテライトに冒険者と孤児の内冒険者を志す者達が加わる集団が、予めアラン様が探知魔法で探知した地点に向かいグレイハウンドやゴブリン、コボルトを狩り辺境での狩りを王都出身者達に教え込む、当初はおっかなびっくりで覚束無かったが、慣れてくるとランク上位者達は余裕が出て来たようだった。

 

 4月26日

 

 予定より早くガンツに到着、主だった者はホームとその周辺にテントを張りその他の者達は分宿や商業ギルド提供の広場等にテントを張り3日過ごす予定だ。

 我々旧スターヴェーク出身者はハインツ達と合流、再会を労いあった後改めてアラン様から今後の方針の説明を受ける事となった。

 先ず「魔の大樹海」を切り拓いているのはアラン様の船に乗せていた、ボットという名のアーティファクトで王都で手に入れた魔法大全に記してあった、ゴーレムとよく似ているそうで、噂に聞く大陸の西端に有る魔法大国マージナルで使用しているという疲れ知らずの魔道具で人の言う通りに働くとの事だ。

 そして大まかな領地の概略図によると円形の開拓地が4つ作られて折、大きい土地と小さい土地が2つずつで大きい土地は5キロメートル、小さい土地は3キロメートルの直径になり「魔の大樹海」に道から入った側の大きい土地に居住地を構築していて先ずは其処に行きその他の説明は現地に赴いてからすると言われた。

 

 4月28日

 

 ホームには管理責任者を残して、ついて行きたいというサリーさんとテオ兄弟他の人達、カリナさんと商業ギルドの幹部職員とギルド員、そして商業ギルドを通して購入した大量の物資を加えた一行は、ガンツから一路「魔の大樹海」へと出発した。

 

 4月30日

 

 我々の目の前に想像していなかった光景が堂々とその姿を現した、

 先ず半楕円形の巨大な建築物が魔の大樹海入り口に在り其処に事前説明の有ったボットが4体存在しアラン様の命令一下、建築物に我々が入るためのサポートをし始めた。

 初めて見たボットは人型ではあるが明らかに人とは違う、しかし話掛けると人と同じように会話が出来るので目を閉じて会話すれば人と会話していると勘違いしてしまいそうだ。

 渡されたカードを差し込みゲートと呼ばれた門を通ると馬車が6台横に並びながら通れ然も若干の傾斜が設けられ両端には王都でも見たこともない側溝なる物が一列に続き更には両側側面には材質不明な側壁が高さ5メートル有り、且つ天井には透明な天蓋の有る真っ白い道(石畳なのだろうか?)が奥に向かって有った。

 驚く我々を尻目にアラン様達は、ボットに指示して一行の方々へのサポート及び説明をするよう命じた。

 領地へ後10キロメートル程だが、半分の5キロメートル地点の休憩所まで給水等が行え無いと言われた。

 まるで継ぎ接ぎの無い堅固な道を突き進むと、又も半楕円形な建築物が有り巨大な門が現れた。

 「ゲートオープン」とアラン様が声を上げると、何と門が道路幅上に揚がり我々を通してくれた。

 しばらく進むと中央に天を仰ぐ程の高さの塔が在り、その周りには広大な広場が有った。

 其処にアラン様が皆に集まる様に指示を出され、それに従って我々が屯っていると塔の壁面に有る平面で長方形な壁が突然アラン様を映し出した。

 アラン様は、

 「皆、大変驚いたと思うが、細かい説明はこれから順々に時間を掛けながら行うので取り敢えずは先程班長達に配布した紙に従いそれぞれの住宅に落ち着いて欲しい、そして落ち着き次第今日明日はこの場所で旅程と同じ形で食事をして其の際には今後の生活方法の取り決めと住居の使用方法を教授する。」

 と仰られた。

 私は驚き過ぎて心が中々落ち着かなかったが、我々を今迄過たず導いてくださったアラン様を信じ今後もその導き通りに行動する事が一番良いと思い起こして新しき我が家で就寝する事とした。



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2. 5月の日記①(ケニー、竜騎士になり空軍軍人になる)

 5月1日

 

 目を覚ましてみると其処には新たなる我が家の真白い壁が見える。

 何とも殺風景だがそもそもここは魔の大樹海の開拓地の筈なのだ、そんな感想を抱く事自体おかしな話ではないかと思い直す。

 朝食を取りアラン様の指示の下サテライト8班は巡回を始めた。

 一刻も早くこのドームなる都市の状況把握と地理把握そして入植者達の心身を落ち着かせ、此の領地を軌道に乗せる事に注力すべきと気合を入れ直し行動を開始した。

 先ず職人の住居の一画を訪れそれぞれに割り当てられた工房及び工場なる先進的な場所に案内する。

 工場にはボットが居り、どういった用途と機械なる魔道具の動かし方を教授してくれて、又必要に応じた相談を受け付けると説明してくれていた。

 

 5月2日

 

 本日はいよいよフードコートなるレストランや食堂の様なものが集中している一画が始動する。

 此処に至るまでの道程で説明を受けていたが、何と此処で食事をする場合は貨幣であるギニーでは無くポイントなるもので精算するそうだ、最初に渡されたカードにポイントなるものが仕事量等で累積されそれをギニーの代わりに使えるという仕組みで、本人にしか使えない様に魔法で個人認証されるらしく犯罪目的で盗んでも意味を成さない仕組みだそうだ、なんとも素晴らしい代物だ。

 

 5月5日

 

 それなりに皆この生活に慣れてきた処で次のドームが公開された。

 このドームは農業ブロックという物で主に食糧となる植物を主軸に小麦、大麦、稲等を栽培そして各種果樹園等を植える予定だそうだ。

 更に連れてきた牛、豚、鶏の養畜を行い、いずれは放牧場を設置し用水の為に設置された池にはドームの隣を流れるナーセ川他から取れた魚類を養殖するという事だ。

 

 5月8日

 

 次のドームは工業ブロックといい上水道、反射炉、インフラ工場、ナノム増殖工場、MM(マイクロマシーン)増殖工場、兵器工場、工板工場、材木工場等の耳慣れない先進的な設備が現在急ピッチで建築中の住居の数が整い次第、これらの構築に取り掛かるとアラン様は仰られ本格稼働は数ヶ月先になり一般領民にはまだ公開しないとの事。

 因みに下水道なる物は既に農業ブロックで稼働しており、スライムを活用した水資源の浄解を目的とした循環システムが出来ているとの事でスライムが増殖したら魔石を回収した後に資源として利用するらしい。

 

 5月10日

 

 最後のドームは軍事ブロックで我々(旧スターヴェーク民の軍事関係者約500人)は、ここが基本的な活動拠点になり、軍事に纏わる諸々は全て此処で行われるが、当然此処は他の者には部外秘とされる。

 久しぶりにグローリア殿と此処で再会できたが、グローリア殿用の家とも言うべき構造物は解るのだが併設して有る竜舍を見せられて驚かされた。

 何と15頭ものワイバーンが其処に繋がれて居たのだ。

 

 「皆んな大人しく言うことを聞きますよ。」

 

と上の方から声を掛けられ思わず見上げるとグローリア殿が居られた。

 

 「まさか貴方が?」

 

と聞き返すと

 

 「ええ、私が今喋りました。」

 

と返された。

 茫然自失しているとシャロン殿とセリーナ殿が笑いながらグローリア殿が胸に革で固定したアーティファクトで竜語を人語に変換出来る様にして任意で切り替えられると説明してくれた。

 クレリア様始め皆感動し、恒例のそれぞれの挨拶式は改めて人語で行われた。

 

 5月11日

 

 軍事ブロックにて我々(旧スターヴェーク民の軍事関係者約500人)に今後の指針が示された、先ず全員に「ナノム玉」というアーティファクトとでも云うべき代物を服用し「精霊の加護」を受けて貰うが此の事は当面部外秘とし我々の中だけの秘密とすること、そして効能が表出するのは五日後以降なのでそれ以降に今後の軍の編成及び調練を順次行って行く事が示され、表向きに我々は今まで通り「クラン・シャイニングスター」と名乗るのだが、実際上は本日を持って「スターヴェーク帝国軍」(略称は帝国軍)が正式名称で有ると皆の前でアラン様は厳かに宣言された。

 我々はアラン様とクレリア様に対して即座に跪き、各々感動の涙で打ち震えた。

 

 5月16日

 

 これ迄の間各ブロックを巡廻しながら土地勘を養い領民との横の連携を確認したりして過ごし、「精霊の加護」を受けられる本日を迎えた。

 アラン様の召集の元軍事ブロックにて示された軍の内容は以下の通り、

 

 「近衛軍」

 

 人員300名

 

 計3部隊からなる攻撃を主とする軍

 

 第一部隊・・・・・・・・・隊長アラン様だが、アラン様はグローリア殿に搭乗される事もあるので其の際には副官のダルシムが隊長代行を務める。

 

 第二部隊・・・・・・・・・隊長セリーナ殿

 

 第三部隊・・・・・・・・・隊長シャロン殿

 

 「空軍」

 

 人員30名

 

 竜であるグローリア殿を中核としワイバーン15頭に搭乗して主に地上に対しての偵察・撹乱・攻撃をする 

 

 「支援軍」

 

 人員170名

 

 クレリア様が率いられるが当然危険性を考慮してエルナ殿が前面にでて補佐し場合によっては代理する

 主に回復・付与・魔法支援攻撃を行い「近衛軍」の側面支援を行い此処には触れていないが、「補給部 隊」、「諜報部隊」等との連携を任務とする。

 

 此等の軍に選り分けて向き不向き等を勘案しながら調整して、各々訓練を開始する事となった。



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3. 5月の日記②(ケニー、魔法が上手くなる)

 5月17日

 

 グローリア殿に以前乗せて頂いた時の感動が忘れられず「空軍」に志願し無事選抜されたが、如何せんワイバーンを見るのも触るのも初めてで、おっかなびっくりで近づいたが、グローリア殿が「伏せ!」と命令されると一斉にワイバーン達は頭を垂れて搭乗姿勢なる体勢になった。

 予め取り付けられた鞍に体を固定し、ドーム内をグローリア殿が先導して一列に飛ぶ。

 しばらくして慣れたと判断されたのか急降下と急上昇を繰り返し始めたが、不思議な事に目眩や吐き気等が起こらない、後でアラン様にお尋ねしたら例の「ナノム玉」を服用した事による「精霊の加護」のお陰で三半規管という体の器官が強化された為に酔いにくくなったと説明された、益々私はアラン様と引き合わせて頂いたアラミス神への尊崇の念を篤くした。

 

 

 5月19日

 

 

 此の日は合同訓練を500名全員で行うのだが、以前クランの面々がアラン様の訓練に付いて行けなかった事を鑑みレベルを落とした訓練の内容にし、徐々にレベルを上げた訓練にして行く事となった。

 午後座学を行う前にアラン様から驚愕の事実が告げられた、何と「ナノム玉」を服用した事により、我々全員が魔法を行使する事が「精霊の加護」により才能に関係無く出来る様になり、然も呪文を唱えずとも行使出来るのだという。

 各部屋「教室」(と云うそうだ)に約30名ずつに別れ、広場に有った「モニター」が教室の壁一面を占め、その画面に魔法の概要と行使する際のイメージが流される、中々信じられない心地ながら訓練場の一角にある魔法練習場に全員が向かい、十人ずつ各種の魔法を行使してみた。

 始めはこれ迄通り魔法を行使する際の癖で呪文を唱えたりしている者が居たが、今迄魔法を使えなかった筈の者が見事にファイアーボールとフレイムアローを目標に撃って見せたことで、皆興奮し出来なかった筈の各種の魔法に挑戦し出来る者が続出し、皆更に興奮状態になり限界まで魔法を行使してしまった。

 皆が魔法を使いすぎてへたり込んでいた処、アラン様が笑いながらそれぞれにグレイハウンドの魔石を手に取る様に指示された。

 まさか?と震えながら以前アラン様、セリーナ殿、シャロン殿がしていた様に、魔石から魔力を補填するイメージを脳裏に浮かべてみると、手の平が光り魔力が補填された事を実感する、凄いと思いながらもそれとは別の一種の畏怖の念が沸き起こるのをどうしても抑えられなかった。

 つまり此処にいる500名は、魔法を最大限駆使しても魔石から魔力を補填する事で、1人で10から20人の敵に対する事がこの瞬間に出来る様になった事を意味する。

 そして部隊、更には軍として纏まり一丸となって魔法を最大限駆使する事でその威力は倍増どころか累乗するのではなかろうか?客観的に見ても此の軍に匹敵し得る軍など想像出来ず、今後研鑽を積めばより強くなれるであろう。

 我々は必ずスターヴェークが遠くない未来に取り戻せると確信した。

 

 5月23日

 

 此の日入植してくれた方々への慰労会を全員参加で中央広場で実施した。

 予め予告しておいたので、グローリア殿が中央広場に来られても特に混乱も起きず式が始まったが、グローリア殿が人語で挨拶された際には流石に帝国軍以外の方々は静まり返り、その後驚嘆の歓声とグローリア殿との対話が開始された。

 全ての対話は流石に無理とアラン様が判断され、代わりに代表として志願されたクレリア様が他の面々の対話を代弁され其の姿をモニターに映し出す事で皆興奮しながらアラン様が指揮して作られた料理の数々に舌鼓を打ちながら大盛況の内に慰労会は幕を閉じた。

 

 5月25日

 

 以前これから味方として加わる事になると、説明を受けていた諜報組織代表のエルヴィンと其の一族及び家族合計250名程が新たなる入植者としてやって来た。

 皆、顔面蒼白の状態で想像するにコリント領のあまりの先進性を見て、驚嘆に次ぐ驚嘆で身も世もないという風情であった。

 アラン様達と先に入植者していたユリアンが一行を出迎え、苦笑いを浮かべたユリアンが住居等への案内を始める中エルヴィンだけアラン様達と共に軍事ブロックへ向かった。

 当初は驚きっぱなしだったエルヴィンも肝が座ったのか、それ以上驚きを示す事も無くアラン様達と密談を始める。

 しばらく経ってアラン様達がエルヴィンを連れて合同会議室に主だった者を集めてエルヴィンの紹介と我々が居なくなった後の王都そして周辺の町々の状況そして宰相や貴族の動向が説明された。

 

 5月27日

 

 エルヴィンの要請を受けてギニー・アルケミン奪取作戦の概要が空軍に説明された。

 フランツと云う者をアラン様と共にグローリア殿へ同乗させ、とある鉱山跡地で運用していたギニー・アルケミンを馬車で運び出し、途中貨車部分を切り離しそれをグローリア殿が貨車毎掴み上げて持ち去る作戦である。

 その際に2頭のワイバーンを随伴させるが、この2頭の1頭に自分が選ばれた、早速作戦演習を開始し幾通りかのパターンの行動を練習し納得出来るものに仕上げ2日後に実行する運びになった。

 

 5月29日

 

 夜半予定通りに作戦開始し、自分もガイ(自分の騎乗するワイバーンの名前)で出る。アラン様は空からでも探知魔法を駆使し過たず導いて下さる、初めてガイとドーム外で飛ぶがお陰で瑕疵無く作戦は成功し工業ブロックにギニー・アルケミンを搬入出来た。

 

 5月30日

 

 いよいよ入植した冒険者達が「魔の大樹海」に魔物を狩りに出発する。

 これ迄、冒険者とスラム出身のランクの低い冒険者達はドーム内の警備員として巡廻と警邏活動を主に仕事をして貰い、余裕の有る時に元サテライト班が交代交代で魔物への対処法と実際に各種魔物を用意し(グローリア殿とワイバーン隊が練習がてら捕まえていた)戦って練習していた。

 あくまでもドームから5キロメートル程の範囲で魔物は倒したらそのままの状態でドーム内に持ち帰り工場で魔石と証明部位を解体で取り、残りの部分は畑の肥料や養殖用の飼料として活用する。

 「漆黒の剣」というパーティーのハンス達とスラム出身の低ランク冒険者グループも慎重に「魔の大樹海」へと分け入り数は少ないながら、グレイハウンド、ゴブリン、コボルトを狩りドームへと無事に戻って来た、慣れれば狩れる数も種類も増えるだろう。




 *補足説明*

 前話でいきなり「ナノム玉」が500人分有るのに違和感を覚えた方も多いと思います。
 しかし、これにはそれなりの根拠が有ります、廃棄された格納庫セクションから離脱し無事に生き残る事が出来たドローンは全体の約八割だった。
 ならば壊れた二割は残骸として地表に残っている可能性が有る、其の部分を自分は拡大解釈し更にはアラン達の脱出ポッドも有る事ですし、此等全てをコリント領の工業ブロックに搬入して有効活用した事にしました。(ご都合主義です)
 よってレアメタルはカーゴ内の非常用備蓄の「レアメタル錠」とパワーモジュールに近いレアメタル資材等から材料を得て、アラン達が口内で作成してた「ナノム玉」を培養槽等で量産出来る事にしました。(強引)
 皆に配布した「ナノム玉」は必要最低限な量で、大凡アラン達の三分の一と設定して第一段階としています。
 更に反射炉や溶鉱炉の炉心壁そして鉄鋼やその他の工板の型枠には、大気圏突入に耐えた脱出ポッド外壁を利用する事で相当な高温にも耐えれる炉が複数構築出来たと設定しました。
 


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4. 6月の日記①(ケニー、使用可能魔法一覧)

 6月1日

 

 ほぼ『帝国軍』の訓練カリキュラムが整い、一週間の内日曜日の休暇日と緊急時を除き訓練を行う。

 皆「ナノム」とムービーによるイメージ学習のお陰で各種魔法の1段階以上(個人差で2段階目の習得者有り)の使用が可能になった。

 一覧にすると

 

 火魔法・・・フレイムアロー、ファイアーボール、ファイアー、ファイアーウオール

 

 風魔法・・・エアバレット、ウインド・カッター、エアシールド(体を風で覆う)、エアウオール

 

 光魔法・・・ライトアロー、ライト、フラッシュ

 

 土魔法・・・アースウオール、アースピケット(地面に穴を空ける)

 

 水魔法・・・ウオーター、ウオーターボール、ウオーターウオール

 

 回復魔法・・ヒール(打ち身、炎症用)、ヒール(切り傷、骨折用)

 

となる。

 

 個人の魔法は以上になるが、魔法の性質によっては複数人で同時に行使する事で増幅、対消滅、複合等の事象が起こりそれを利用した「軍団魔法」があるがそれは別の日に記そう。

 

 6月3日

 

 訓練にも馴れて来て日々のノルマが定まってきたので大凡の暮らしぶり1日を綴って見よう。

 

 朝

 

 5:30・・・起床、備え付けられた家にあるユニットのシャワーを浴び軍服(練習用)に着替える。

 

 6:00・・・フードコートにて朝食を摂る。

 

 7:00・・・軍事ブロックに集合、点呼の後ランニング(ダッシュ等を挟みながら)。

 

 9:00・・・魔法訓練(標的に当てたり、軍団魔法の連携訓練)、剣術訓練、格闘訓練を交代交代で熟す。

 

 12:00・・・生活ブロックのフードコートにて昼食を摂り、雑談等の休憩を取る。

 

 13:00・・・そのまま生活ブロックにて病院(教会横に併設)手伝い(患者に対してヒールの練習)、工場での手伝い(魔法や力作業)、ボットの建設等の手伝い(魔法や力作業)、住居等への各種納品物を配達設置、此等を一週間毎ローテーションで行う。

 

 15:00・・・軍事ブロックで各部隊に別れて訓練(自分はガイと飛行訓練)

 

 17:00・・・ミーティング(本日の報告や、気付いた点や提案等)と座学

 

 18:30・・・終了、各自備品チェックや武具手入れ(自分の場合ガイの健康チェックも)

 

 19:30・・・生活ブロックに戻り銭湯(好みの温泉、サウナ付きタイプ)に入った後フードコートで夕食と飲酒をしながらフードコートに有るモニターで放送されるニュースや音楽を皆と一緒にたのしむ。

 

 21:30・・・帰宅、下着の選択等をして此の日記を書く。

 

 22:30・・・就寝。

 

 6月5日

 

 商業ギルドのカリナ殿と職員が一旦ガンツに帰り諸案件の手続きを進める事と、ガンツに試験設置したいモニター及び延長して直通にしたい道路の許可申請を貴族と橋渡しして貰う為、サイラス・ギルド長と交渉を行うべくアラン様の随伴者として自分とガイ他2頭のワイバーンが選ばれる。

 グローリア殿にアラン様とカリナ殿と職員そして他の座席に荷物を括り付け計4頭は、僅か1時間程でガンツに付くが混乱を避ける為に正門と街道から離れた場所に降り立った。

 ガンツ正門にてギード隊長と折衝して馬車を仕立てて貰い荷物を商業ギルドまで持ち込む。

 アラン様は通信用の魔道具を設置して、商業ギルドとタイムラグ無しに会話が出来る様に計らうと同時にサイラス・ギルド長にモニター設置と今後の領地との取引の定款及びポイントとギニーの暫定的なレートの取り決め等を交渉された。

 その際、緊急時の書簡や荷物のやり取りは、我々「空軍」がワイバーンにて行う事を確認し離着陸は元シャイニングスターのホームで行い商業ギルド員をホームに常駐させる旨が決定した。

 冒険者ギルドに訪問しアラン様はギルド長のケヴィンさんと交渉して今後の取り決めを定めた。

 

 1.商業ギルドとも交渉したが使い終わった魔石はコリント領側が引き取る。

 

 2.元シャイニングスターのホームに職員を常駐して貰いコリント領から来た冒険者やコリント領に用が有ったり商人の警備をする冒険者の手続きを円滑に行う。

 

 3.今後のより良い関係を築く為に早い時期にギルド長のケヴィンさん自ら訪問して貰い、冒険者ギルドをコリント領にも設置してもらう事とする。

 

ギルド長のケヴィンさんは快く了承してくれた。

 

 知り合いのクラン「疾風」のカール殿に会いにアラン様が宿[木漏れ日]に赴かれた。

 カール殿に是非コリント領を見てもらいたいので、商業ギルドの交易キャラバンが近くコリント領に出発する際、警備として雇われて随伴し来訪することを勧めカール殿も快く了承してくれた。

 コリント領に帰還する際、ガンツ正門前に予め説明しておいてワイバーンを着陸させ安全な事をギード隊長に確認して貰い、今後元シャイニングスターのホームにワイバーンが離着陸する事を伝えた。



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5. 6月の日記②(ケニー、家族と再開す)

6月8日

 

 引っ越しを行う。

 後数日で家族(父、母、妹)がガンツに着き、商人キャラバン隊と共にコリント領に向かうとの事がロベルト老から知らされた。

 旧スターヴェーク王国からセシリオ王国を経由してやって来る様だ、我々の家族や関係者凡そ8千人は千人ずつ8グループに別れ、以前アラン様が送られた資金を活用してコリント領を目指しているが運良く自分の家族は第一陣に入れたようだ。

 なので今迄の単身用の宿舎では無く、4人家族用の宿舎(セリーナ殿曰くマンションと云うそうだ)に居を移す。

 今迄はユニットに有るシャワーだったが、憧れの風呂が自宅に有る生活がこれから家族と共に営めるのに心が湧き立つ想いだ、一平民出身の自分がまるで下級貴族並みになったかのようである。

 いや、このコリント領における生活全般が王都以上の先進性を持っている事を鑑みれば、上級貴族にも比するであろう、アラン様とクレリア様には感謝してもしきれない。

 改めて一命を賭して忠誠を貫く事を胸に刻む。

 

 6月12日

 

 家族が商人キャラバン隊と共にコリント領に着いた。

 生活ブロックのゲートに迎えに行くと、予想通りに驚きの余り茫然自失の状態になった家族と会う。

 心ここにあらずといった状態では有ったが、先ずは自分のマンション(4階)に連れて行き、順番に風呂に入って貰い旅の垢を落として貰うと、徐々に人心地が着いたのか矢継ぎ早に質問を受けた。

 とても短時間で説明出来る筈も無いので、後でゆっくりと話す事を確約して先ずは歓迎会の行われる中央広場に向かう事になった。

 中央広場歓迎会会場で、旧スターヴェーク王国関係者以外が入れない様にした後、クレリア様が壇上に立たれ音を拡大してくれる魔道具を前にお言葉が発せられた。

 

 「皆、よく此処コリント領にきてくれた。

 改めてこのクレリア・スターヴァイン感謝する。

 恐らく皆は話を聞いた当初「魔の大樹海」の領地とは人が住めるのか?と疑問を感じた事だろう、私自身も聞かされた当初は有り得ないと疑ったものだ。

 だが見ての通り十分人の住める環境は整っている、いや、元のスターヴェーク王国の生活より住心地が良いとすら言えるだろう。

 此等全ては此処にいるアラン・コリント卿の尽力によるものだ、私クレリア・スターヴァインは改めてアラン・コリント卿に感謝を申し上げる。

 本当にありがとう。

 さて此処にいるのは旧スターヴェーク王国関係者だけだ。

 なので皆に我々の今後の方針を伝える。

 我々はスターヴェーク王国を奪還し、混沌としてきた大陸情勢に対して対抗出来る体勢を整える。

 詳しくは今後順々に説明して行くが、皆もこの目標に向かって行動を共にして貰いたい!」

 

と手を大きく広げられた。

 

次の瞬間、皆跪き号泣する者が大勢をしめた。

 

そしてクレリア様が再度口を開かれた。

 

 「皆、ありがとう。

 だが取り敢えずは家族、友、同士との再会を喜び食事と酒を酌み交わし明日からの英気を養って貰いたい、それでは乾杯の音頭をアラン・コリント卿に取って貰う。」

 

 アラン様が壇上に登られクレリア様の横に並ばれると、正装のアラン様とクレリア様は誠にお似合いで、自分にはまるで地上に降臨された対の男神(アラミス神)と女神(ルミナス神)の様に見え、皆嘆息と共に魅入られてしまい静かになった。

 

 「紹介に預かったアラン・コリント男爵だ。

 遠路はるばる皆保証も無い中此処コリント領に来てくれた事有り難く思う。

 明日からは此処の生活の為のレクチャー等で忙しくなるが、今夜は其れ等は忘れ大いに食べ飲んで英気を養って戴きたい。

 それでは乾杯!」

 

 アラン様の乾杯の音頭に合わせ、皆は近い者達と一斉に乾杯し合い、用意されたアラン様の郷土料理に舌鼓を打ち、アラン様がガンツで作らせた酒等を酌み交わして大いに我々は喜びを共有し合った。

 

 6月13日

 

 早速、朝から家族に家の魔道具の使い方のレクチャーを始める。

 (予め家族と合流した者は3日間の休暇を頂いている。)

 特に驚かれたのが灯りだ、各部屋に有りスイッチを押すだけで点灯する為蝋燭が不要になったのだ、然もマンションの通路や表玄関は夜中も点灯したままで、街路も一定間隔に街灯が存在していると説明したら「なんて贅沢な!」と呆れられた。

 朝食を摂ろうと、家族全員でフードコートに向かい、好きな物をそれぞれ注文して支払いをカードのポイントで行うとまたも驚かれてしまった。

 「ギニーを使わないのか?」と家族に質問されたがコリント領では両方使えるが、現金は嵩張るしカードは自己証明にもなり他人は使えない魔道具だと説明したら、「なんて便利な魔道具だ!」と感心された。

 職業斡旋事務所、教会、病院、工房、工場、各種職業訓練校、学校等を見て昼食を最近出来た大衆食堂で摂ろうと入ったら顔馴染みのユーミ達が働いていた。

 幼い兄弟の事を聞くと、皆出来る範囲の仕事のお手伝いをしてポイントを貰い、それとは別に定期的にポイントの給付を受けられるので王都に居た時と違い生活に余裕があると楽しげに笑いながら答えてくれ、9月に開校予定の「学校」が読み書き計算を教えてくれるという通達に心が躍るとアラン様に伝えてくれと言われたので快く了承した。

 午後は農業ブロックの案内をしたが、畑と果樹園で見たことも無い植物に驚嘆し、魚の養殖場では感心された。

 此処では娯楽要素として釣り堀が有り、自分も余暇に釣りに来て楽しんでいる事を家族に伝えると是非やってみたいと言われ、急遽家族での釣り大会が行われた。

 当然自分に一日の長が有り、釣果は圧勝したが以外にも妹が最も大きな魚を釣り上げた。

 記録を掲示してあるボードに一位のエルナ殿の次に大きいと掲示され妹は得意満面で今度の休養日にも必ず来ようと父母と約束していた。

 そして釣った魚を食べられる様併設されたレストランで夕食を食べた。

 本日は自宅の風呂では無く、温泉とサウナの有る銭湯に行き家族に初めての銭湯の入浴方法を説明し経験を積んで貰う。

 父母は温泉がお気に入りで定期的に温泉に入ろうと相談していた。

 

 6月15日

 

 家族それぞれが相談しあって職業斡旋事務所から紹介された各種職業訓練校に向かい、各々の職業訓練を凡そ一ヶ月受ける。

 父は元鍛冶屋の職歴を活かし、更には見学の際感心させられた魔道具を作りたいと金属加工と魔法陣を刻む工場勤務を志願し、専門の職業訓練を受ける事になった。

 母は以前近所の洋裁屋の手伝いをしてたので、服飾工場勤務志願し専門の職業訓練を受ける事になった。

 妹は初めて仕事をする事になるが、病院での医療従事者のテキパキとした患者への対応や優先的に「ナノム玉」を服用する事でヒールを行える事実に感動し、看護師を志願し専門の職業訓練を受ける事になった。



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6. 6月の日記③(ケニー、軍団魔法を習得し完全武装になる)

 6月18日

 

 第二、三陣が到着。

 

 第一陣でそれぞれの担当の係員は要領を掴み、入植はスムーズに行われた。

 

 一緒に来た商業ギルドの交易キャラバン隊に[疾風]のカール殿も警備として随行されて来た。

 

 もうお決まりの様にカール殿が驚愕されている中、アラン様が笑いながら案内されて行く。

 

 我々は我々で郷里を共にする者達と再会を喜び合い、クレリア様の元に案内する。

 

 どんどん入植者が増えひたすらだだっ広いと感じたドームも賑やかになってきた。

 

 6月20日

 

 我々「空軍」の訓練場所が軍事ブロックのドーム内から外になり、いよいよ実戦に即した訓練に変わった。

 

 編隊飛行を行い地上へのワイバーンの火球と魔法による攻撃を行い、更にワイバーンの足に待たせる岩や油の入った壺を落とす絨毯爆撃を訓練する。 

 

 そして我々空軍独自の軍団魔法の訓練を開始した。

 

 「ソニックインパルス」

 

 グローリア殿を先頭にして、後をワイバーン隊が続く魚鱗の陣の形で風魔法を併用し敵軍に突っ込み蹴散らす撹乱魔法。

 

 「ナパーム」

 

 予め油の入った壺を目標に落とし、其処を目掛けグローリア殿を中心にして一斉に「ファイアーグレネード」と「火球」を多重展開し投射する広範囲殲滅魔法。

 

 「ファイアーサイクロン」

 

 グローリア殿が放つ「ファイアーブレス」に合わせアラン様が風魔法「トルネード」を融合させ更にワイバーンは「火球」竜騎士は「エアーカッター」を其の周りに纏わせる事で威力を高めた空中にも展開できる広範囲殲滅魔法。

 

 「ファイアーウォール」「アースウオール」「エアーウオール」

 

 此等は其々の盾系の属性魔法を其々の騎竜と同時に展開し、更には部隊として同時に展開する事で範囲を極大化して敵軍の進路を妨害したり、戦場を限定化させる。

 

 「ハウリングパニッシャー」

 

 厳密に云えば魔法では無いがドラゴンとワイバーンの咆哮には、他の弱い動物や魔物を萎縮更には絶命させる効果が有るのでそれを魔道具で増幅し敵を行動不能にする。

 

 此等をドーム周辺の今後切り拓く予定の土地を相手に行う。

 いずれは広範囲の拓けた場所が訓練が進むに連れ出来上がる事だろう。

 

 6月22日

 

 「ハウリングパニッシャー」を開拓予定地に向けて放った後に、倒れた魔物達の回収をガイと共に行う。

 ガイも馴れて来て作業もスムーズに進んだ。

 ある倒木の陰で何やらキラキラと光る宝石のような輝きにガイが気付き、自分も気になりガイに命じて倒木を除けると2匹のリスを大きくした様な魔物が失神していた。

 2匹共に額にルビーの様な宝石が有りこれが輝いていた様だ。

 種類が判らずアラン様に見せると、「カーバンクル」という魔物だと説明された。

 大人しい性格の魔物で人に幸せを呼ぶと言い伝えられているとの事で、アラン様から試しにペットとして飼ってみたらどうか?と勧められた。

 昔ルドヴィークに居た頃老犬を飼っていたが、自分では無く妹が世話をしており妹に大変懐いていた事を思い出した。

 老犬は既に死んでいるしマンションでは馬等の大型動物以外の犬、猫、鳥を飼っている者も居る。

 軍務で自分は世話は出来ないが、妹なら可能だろうと快く受ける事にした。

 

 6月25日

 

 残りの移民団が到着しそれに随伴して来た商業ギルドの交易キャラバン隊にはアリスタさんとカリナさん他多数の商業ギルド職員が同道して来た。

 何でも商業ギルドの支部をコリント領に開きその代表としてアリスタさんが着任し、其の補佐としてカリナさんがやって来たらしくカリナさんが案内し中央通りの大きな建物(ビルディングというらしい)に入られた。

 夜には、移民団として到着した各家庭にクレリア様とアラン様連名の歓迎文と料理、酒が届けられ入植を祝われた。

 

 6月28日

 

 全軍に制式採用された完全武装装備が配布される。

 それと同時にその機能と活用方法そして個人と部隊、軍団で運用する方法が説明された。

 

 「近衛軍」

 

 グローリア殿から提供された大量の先祖達の鱗を前面の胴部分に配置し関節部分は鱗を利用したサポーターで包む、背中には魔石10個をセット出来て更にアタッチメントを介して各オプショナルパーツを取り付けられる。

 左腕には小さい鱗を利用した小型盾、右腕には動きを阻害しない形での腕当て、両拳にはナックルガード。

 腰には、両側に剣帯や諸々の武器等を付けられる鱗を削った粉を練り込み強度を上げた合金(以降合金)で作った腰当て。

 足には合金で作ったレッグガードと足先と靴底に合金を入れた靴。

 頭には合金で作ったヘルメットで形は統一ながら、隊長等位に応じて羽根飾りを付ける。

 武装は現時点で剣と短剣、2ヶ月後にはハンドガンとオプショナルパーツとしてバズーカ砲(肩に固定して各種魔法を増幅し魔石をカートリッジとして使用)等が配布されるらしい。

 

 「支援軍」

 

 殆ど「近衛軍」と装備は一緒だが、盾が違いラージシールドを装備し局面によって地面に突き刺し集団で壁として運用し壁越しに魔法等を使用する。

 

 「空軍」

 

 「近衛軍」「支援軍」と違い盾は無く、代わりに竜の牙を先端に使う槍(ドラゴンランス)が武装に加わる。

 防具は合金を使ったサポーターで関節部分を包む。

 そしてワイバーン自身にも合金を使った防具が装備された。

 

 グローリア殿のご先祖は「紅き森一族」と言われていたとの事で、此等の武装はいずれも紅く我々は軍団名を通称として「紅」と呼ぶ事とした。

 

 6月30日

 

 他の組織にも制服或いは装備が配布された。

 エルヴィン率いる諜報組織は、防具は合金を使ったサポーターで関節部分を包む動きを重視した軽装。

 色は黒色に染めて軍との区別化をして、通称は「黒」と呼ぶ事となった。

 

 警備隊、警邏隊は防具は合金を使ったサポーターで関節部分を包み、小型の盾と剣を装備。

 色は青で統一して通称は「青」と呼ぶ事となった。

 

 そして此等とは別にクレリア様とアラン様に仕える内政職員、女官、従者、コック等は、普段着にはシャイニングスターの記章のバッジを着け、制服にはコリント男爵の記章が刺繍された物を着用する事になった。 



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7. 7月の日記①(ケニー、集団移民団を救う)

 7月1日

 

 アラン様から「空軍」に緊急出撃が発令された。

 

 「黒」からの情報で旧ルドヴィーク辺境伯領からダヴィード伯爵やアルセニー男爵の縁者と共に大規模な集団移民団(凡そ2万人)が、アロイス王国とベルタ王国の緩衝地帯に差し掛かる所まで来たが、アロイス王国軍に追われている事が集団に合流させていた者から通信で判ったとの事。

 

 「空軍」全軍で出動する事になり、グローリア殿にはシャイニングスター全員が搭乗する。

 

 後事を民生はロベルト老とヴェルナー・ライスター卿そして軍政をダルシム副官とヴァルター次席副官に委ね、4時間程掛けて現地に急行する。

 

 空から偵察すると移民団側には武装している兵士が殿部隊として展開中であるが精々500人程で、アロイス王国軍は3000人以上で内訳は軽騎兵1000人と軽装兵2000人以上で既に弓での戦闘が繰り広げられているが、幸い移民団側が風上で有効的な矢は届いて居ないのか軽傷者ばかりで、重傷者は居ないようだ。

 

 演習通りに急降下し軍団魔法「ハウリングパニッシャー」をアロイス王国軍の前方に向けて放った。

 

 突然、グローリア殿と15頭のワイバーンによる凄まじい咆哮は、アロイス王国軍先鋒軽騎兵の馬を竿立たせ更にはひっくり返る馬も続出しアロイス王国軍全体が大混乱に陥いった。

 

 驚愕しているのは集団移民団も同様だが、クレリア様が魔道具(拡声器)を使い大音量でアロイス王国軍に対して大喝を発した。

 

 

 「我こそは、クレリア・スターヴァインその人で有る。

 

 スターヴェーク王国への反逆者共よ、我を慕い我の元に集おうとする我が国民に対して不当にも暴力を振るい連れ戻そうとの企図、スターヴェーク王家を継ぐ者として断じて許しがたい。

 

 もしこれ以上我が国民に対して攻撃するつもりならばこちらも遠慮せずドラゴンの爆炎攻撃を以って攻撃させてもらう、返答や如何に?」

 

 急なドラゴンの咆哮を受けて茫然自失となっていたアロイス王国軍指揮官も我に返り、慄きながらも返答を返して来た。

 

 「私は軍務大臣ロイス卿の配下ボッシュである。

 

 アロイス王ロートリゲン陛下の勅令に従い行動している。

 

 アロイス王国領民の義務を放棄して税を納めもせず、勝手に他国に移住しようという不埒な民に対して見せしめと連行をロートリゲン陛下は命令された。

 

 亡国の姫よ、お主こそアロイス王国に対して民を唆し平穏な国を乱す愚かな反逆者で有る。

 

 即刻ドラゴンを引き上げ道を譲れ今なら見逃してやる!」

 

 

 と些か聞き取り辛くは有ったが、返答して来たのでクレリア様はそれに応じた

 

 

 「そうか聞き入れないと有れば致し方無い。

 

 ドラゴン達よ我等新生スターヴェークの持つ力を見せつけよ!」

 

 

 次の瞬間アロイス王国軍指揮官の居る場所の上空に軍団魔法「ファイアーサイクロン」が放たれた。

 

 其れは人の行使する魔法とはレベルの違う広範囲殲滅魔法。

 

 グローリア殿が放つ「ファイアーブレス」に合わせアラン様が放つ風魔法レベル2「トルネード」を融合させ更にワイバーン達は「火球」竜騎士達は「エアーカッター」を其の周りに纏わせる事で広範囲に炎の地獄を展開する。

 

 敢えてこの軍団魔法「ファイアーサイクロン」を放ったのは、我々が圧倒的な力を有する事をアロイス王国に見せつける事で容易に勝つことは不可能で有ると理解させる為で有る。

 

 そして更に軍団魔法「ファイアーウォール」をアロイス王国軍両側に展開し来た道をそのまま引き返すしか無い状況に追いやり、アロイス王国軍は這々の体で逃げ出した。

 

 敢えて死者を出させずに退却を許したのは、アロイス王国国内により多くの混乱と恐怖を伝染させ、民にはアロイス王国の力に対しての不信感、貴族達にはアロイス王国に従って本当に良かったのか?という不安と、自分以外の他の貴族は元の主たるスターヴァイン王家へ復帰しようとするのでは?と互いを疑心暗鬼に陥らせる為の布石である。

 

 アロイス王国軍が退却し終わるのを確認して集団移民団と我々は合流した。

 

 ダヴィード伯爵やアルセニー男爵の縁者達はクレリア様の前に跪き、其れに倣う形で民も跪いた。

 

 クレリア様は皆に呼びかけた。

 

 

 「皆、これで当面の危機は脱せた、これより先はベルタ王国国内である。

 

目的地のコリント領までは此処に居るアラン卿の名の下に町々に補給物資と馬車等が用意されている。

 

そしていざとなればこの通りドラゴンとワイバーンが駆けつけるので心配には及ばないので安心して向かってくれ。」

 

 ダヴィード伯爵やアルセニー男爵の縁者は皆を代表して答えた。

 

 「姫殿下、仰せに従います。

 又、此の様に我等をお救い頂きありがとうございました。

 姫殿下とアラン様には今後の働きを以ってお返ししたいと思います。」

 

 と、跪いていた皆は改めてクレリア様と横に並ぶアラン様を仰ぎ見て感謝を述べた。

 

 軽傷者達をヒールで癒やし補給物資を受け取る際の符丁等を伝達した。

 

 こうしてベルタ王国国内に入った集団移民団(凡そ2万人)は、一路コリント領の有る「魔の大樹海」を目指し意気盛んな様子で進み始めた。

 

 此の日、我々「新生スターヴェーク帝国」は簒奪者たるアロイス王国に対し反撃の狼煙を上げた。

 そして其の事は同時に、大陸の覇権を争う大乱に我等も参戦するとの堂々たる雄叫びでもあった!!




 後書き
 漸くこれ迄の準備期間を経て、此の日からアロイス王国に対しての戦争の火蓋が切られました。
 ですがまだ、アランとクレリアは一地方領主に過ぎないので勝手に戦争も起こせませんし、兵力もまだまだ少な過ぎです。(質は兎も角量が)
 しかし、大陸の戦乱は産声を上げ始めたばかりで、当然その波はベルタ王国にヒタヒタと迫って来ています。
 事実上これ迄の流れは、此の日迄がプロローグで次からが第一章となります。

 泣き言になりますが、自分には文才が有りません(泣)
 よって日記形式で本文を書いているつもりでは有りますがしばしば逸脱し、文体も可笑しな方向に逸れる事が今後も多々有ると思われます。
 どうか読者の方々に置かれましては、大いなる寛容の心でお許し下さい。(願い)
 それでは、閑話等を挟みますが今後とも宜しくお楽しみ下さい。


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8. 7月の日記②(ケニー、放送局とダイナモに感嘆す)

 7月3日

 

 セシリオ王崩御の知らせが「黒」によってもたらせられた。

 即日セシリオ王国王太子ルージ王子が王位に就いたとの事.

「黒」によるとルージ王子は幼少の頃より軍国主義を掲げており、以前から我が国に対しても不穏当な発言を繰り返していた。

 確実にベルタ王国に対してルージ王は侵攻してくると分析している。

 アラン様もそうなると想定している様で、我々「紅」に想定される侵攻ルートや諸々のパターンでの侵略行為を予想して、それに対抗する方法を検討し訓練するように命じられた。

 

 7月5日

 

 此の日「放送局」なるものが開局した。

 此のコリント領に於いては当たり前になりつつあるが、他の街や王都では存在するわけの無いこの「モニター」を通してニュースや音楽放送、そして広報等が見たり聞けたりする環境は入植者全員に非常に人気が有り、職員の応募への倍率は他の職種を圧倒していた。

 今日までに受かった職員は職業訓練校で猛勉強し続け無事に本日開局にこぎつけた次第だ。

 実はこの「放送局」は自分とも密接に関係しており郷里を同じくする親友の「ハリー」が職員で「カメラマン」なる者に採用されている。

 このカメラマンは魔道具の「カメラ」を使い其の能力は「写真」「動画」という絵とは全く違い現実そのものを切り取る様にモニター画面に映させる、本当に素晴らしい魔道具だ。

 そしてハリーの役割として軍務に随行する場合は、自分の乗るガイの後部座席に乗せて空からの景色等を写したり、今後の偵察活動や戦場等の全景を映す重要な任務が想定されるので自分との連携訓練もカリキュラムに入れる事となった。

 

 7月7日

 

 鉱山までのレール敷設が完成した。

 我々空軍が訓練を兼ねて、鉱山に至るまでの道を直線に焼き払いレール、枕木を運び職人とボットが大量の石の上に敷設する、汎用トラクターは凄まじい能力でこの作業を支援した。

 全長10キロメートルを超える4列のレール線で、現在はトロッコを其々の列毎に複数台用意し工業ブロックに各種鉱石、鉱物そして「ナノム玉」の原料となるレアメタル、「MM」の原料となるレアアースを運び入れている。

 

 7月10日

 

 「黒」の要請に応じて我々空軍は、補助席に1人ずつ乗せてセシリオ王国国境線の拠点や街に送り届ける。

 此れは、セシリオ王国軍がやって来ると想定される侵攻ルートや諸々のパターンでの侵略行為を予想して予め「黒」を要所に配置して例の「通信機」という魔道具を使いタイムラグ無しに情報を得るという布石である。

 自分は其の中でも最重要と想定される、ファーン辺境伯の城邑に「黒」を送り届けた。

 話には聞いていたがファーン辺境伯の城は、かなり城壁も高く堅固に感じられる、恐らくは余程の事が無い限りは短い日数では陥落はすまいと思った。

 ただ随分と「魔の大樹海」に近く日頃から魔物の被害が多いのではと思えた。

 

 7月13日

 

 [疾風]のカール殿が、自分達のクラン用のホームを借りたいとアラン様に申し出られにアラン様の生活ブロックに有る執務室に訪問された。。

 偶々、仕事上の報告に来た自分はそのままアラン様の護衛騎士としてアラン様の背後に立ち応接に臨まれるアラン様をお守りする。

 アラン様はカール殿の望みに快く了承されたが、一つの仕事を[疾風]に依頼された。

 コリント領の冒険者達は幾人かのBランク冒険者は居るが、其のBランク冒険者達もあくまで王都の冒険者だったので、魔物との戦闘経験が圧倒的に少なく本来は「クラン・シャイニングスター」が育成すべき事案だが、なにせ軍人に鞍替えして軍人活動が忙しい。

 是非代わりの役を[疾風]が受け入れて、更には期待出来そうな者は[疾風]のメンバーにしてくれないだろうか?と頼まれた。

 カール殿は、

 「貴族様に頼まれたのだし当然受けさせて戴くが、依頼料は相応額頂きたい。」

 と言われた。

 アラン様は「尤もだ。」と言われ妥当と思われる額を提示し、加えて「クラン・シャイニングスター」がガンツで借りていたホームと同程度の建物と更には宿舎を提供する。と返答した。

 カール殿は驚かれ

 「いいのですか?」

 と慌てた様に言われたが、アラン様は、

 「当然このホーム提供には下心があるのだが、カールには是非クランごとコリント領に移籍してもらい、そのままクランのメンバー其々の家族全て移住して貰いたい。」

 と頼まれた。

 カール殿は暫く沈思黙考されていたが、目を開けられると、

 「判りました、是非前向きに検討しメンバー全員の家族共々移住する前提で依頼を受けます。」

 と返答し、アラン様が最近皆に奨励している握手というものをカール殿とされてお互い笑い合っておられた。

 

 7月15日

 

 フードコートで夕飯を家族で摂っていた時に父が夕食の度に興奮して話してくれていた新技術「魔導発動機」(通称ダイナモ)を搭載した、新機軸の運搬作業する機械が公開された。

 既に中央広場とフードコート以外の人が集まれる場所や銭湯等には、モニターが設置されておりその画面に音楽と共に「セリーナ殿」と「シャロン殿」が、その運搬作業する機械に乗って搭乗された。

 種類は2つで「セリーナ殿」の方は4輪のまるで馬車の馬の部分の無い貨車みたいで、「シャロン殿」の方は2輪で今迄見た事のない形状をしていた。

 突然画面内でその2つが、馬が引いてもいないのにかなりの速度で走り出した。

 呆気にとられ見ていた皆全員が口を開けたまま固まっているとアラン様が登場されて、この機械なる物の説明をし始めた。

 

 「この2つの機械は、4輪の物が{モト・ローラー}2輪の物が{モト・サイクル}と言い、ご覧のように馬等の牽引する動物等を必要とせずに魔石から力を引き出し動力として進む魔道具の試作品だ。

 何故公開したかと云うと、この程未公開の工業ブロックで工場という工房を巨大にして、同じ物をより効率化させた作業工程で作り出す職場が出来上がり、9月には稼働を始める。

 ついては大規模な職人の応募を始める。

 当然工場を稼働させる前に1ヶ月間の訓練をして、この新しい機械なる魔道具の生産を推進したい。

 皆よろしく頼む」

 

と仰られた。

 皆、初めて見る機械なる魔道具に興奮して、緊急性の無い職種の者やスラム出身の職業訓練を受けたいと願う者は「明日にでも出願するぞ。」と興奮しながら叫ぶ若者が帰り道の帰路多く




お詫び
  
 以前「航宙軍士官、冒険者になる」の感想欄に他の方への迷惑も顧みずに妄想の設定を書き連ねていたのですが、やはり迷惑であるとのご指摘を読者様から受け、削除させて頂きました。
 公共の場に妄想を書く行為は落書きと何ら変わらないと反省し、今後此の様な事の無いように自省致します。


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閑話① 「カレンちゃん日記」① (カレンちゃん旅立つ)

 突然始まる謎の話、えっ、これからセシリオ王国との諍いが始まる筈なのに何故?然も番号が付いているのでシリーズ化前提?
 という少ないながら熱心に読んで下さる読者を無視し始まりますは、本編主人公「ケニー君」の妹「カレンちゃん」の日記です。
 当然読者様は困惑している事でしょうが、原作の「航宙軍士官、冒険者になる」の魅力の一つとして、同じ状況を他の人視点に置き換えるという点が挙げられます。(例:アラン視点とクレリア視点等)
 なので、なるべく原作に寄せたい自分は苦肉の策としてケニー一家其々の視点から見た、コリント領そして帝国へ至る道標を書いてみようと思います。


 7月某日

 

 今日、タルス商会コリント領支店(通称:カトルの店)で可愛い日記帳を兄ちゃんに買って貰っちゃった。

 嬉しいよ!、なんたって初めての紙に書く私の持ち物だよ!以前住んでいたルドヴィークの街では、高級な白い紙で出来た私物なんて有り得ないよ!

 ここコリント領が他の街と違うのは分かってたけど、紙製品が安いのはすご~い(なんたって他の街の100分の1)これも私のなかではポイント高い!

 よーし、ここコリント領へ来るまでの道のりを忘れないうちに書き留めていこう、オー!!

 

 でももう既に細かい日付は忘れちゃった、えへへっ

 だから某月某日とか使おうっと

 

 某月某日

 

 この日、私の街は攻撃を受けてお城は燃やされちゃった、悲しかった・・・王城に比べれば小さかったけどキレイなお城だったのに。

 兄ちゃんは兵士だから戦ってたけどその後どうなったのかわかんないし、これから私達がどうなるのかもわかんない。

 それから数日たったら布告というものが出た。

 何でも今日からルドヴィークはアロイス王国の物だって、えっ!スターヴェーク王国のじゃなくなっちゃたの?ついこの間クレリア姫様が来たってみんな喜んでたのに、だいたいクレリア姫様もどうなったかわかんないし。

 

 某月某日、なんか前と同じ日に見えるけど数日経ってるよ

 

 アロイス王国になって嫌なことがいくつも出来た。

 1つ目は、ルミナス教以外の全ての宗教を無くす事、うちは父ちゃんが鍛冶職人だから鍛冶の神と火の神を仕事場で祀ってるけどルミナス教も普通に信じてる、なのに他の神を信じちゃだめだって、なんかおかしくない。

 2つ目は、同じルミナス教でもルミナス神以外は信じちゃだめだって、えっ、なんで、だって他の神様もいるじゃないなんでも従属神というらしいけど、兄ちゃんが信じてるアラミス神や父ちゃんが信じてるトール神も立派な神様だよ!

 3つ目は、税金が7割になるんだって、私はまだ働いてないけど家のお金が減るのは嫌だよ!だって新しい服買ってもらえないじゃん!!

 

 某月某日、今度は1周間くらい経ってるよ

 

 友達のテルちゃん一家が懲罰官に連行された!

 なんでも商売の神様を信じてお店の神棚に祀ってたからだって、うちは神棚を物置にしまい込んでるけどだいじょうぶかな?

 

 某月某日、今度は1ヶ月くらい経ってるよ

 

 徴税官がうちにやって来た、いままでは各ギルドで集めてたのになんで?

 なんでもごまかす者が多いからだって。

 他にも人頭税ってのが加わって私の分の税金も取られちゃうんだよ!働いてもいないのに払えるわけないじゃん(怒)

 

 某月某日、今度は2ヶ月くらい経ってるよ

 

 ロベルトおじさん(本当は爵位も有る偉い人だったらしいけどこう呼んで貰いたいそうだ)から連絡と当座の資金が送られてきた。

 正直額は少なかったけど父ちゃんは本当に助かったようだ。

この時は知らなかったけどなんとクレリア姫様が送ってくれたお金だったんだよ、ご本人が大変だろうに私達の為にって、素晴らしい人だよ!

 

 某月某日、今度は1ヶ月くらい経ってるよ

 

 クレリア姫様が無事が旧ルドヴィーク辺境伯の関係者と兵士の家族に知らされた、と同時にそこへ合流しないか?とのお誘いがかかった。

 正直ルドヴィークは育った場所で思い入れも多いけど、友達が捕まったり雰囲気は悪くなったり何より偉そうにしているアラム聖国から来た司祭と懲罰官が大ッ嫌い!

 父ちゃんも徴税官にお金どころか手形まで没収され、仕事も兵士相手に武器を卸す事が出来ないから包丁の研ぎだけでは年も越せないと言って合流には乗り気で、母ちゃんも裁縫のアルバイトができなくなった(仕事場が前の戦争で燃えたから)ので父ちゃんに賛成だ。

 手助けの人のお陰で夜半に城門を無事通り抜けて、かなりの人達と合流(中の良い友だちとも合流)出来てそのまま馬車に乗り込みセシリオ王国を目指した(この時はてっきりクレリア姫様はセシリオ王国にいると思った)

 

 某月某日、今度は1週間くらい経ってるよ

 

 セシリオ王国国境の国境検問所を手引の人が大規模商人キャラバン隊と説明し商業ギルドのギルド証と袖の下(後で聞いたら賄賂なんだって)を渡し問題なく通過出来た、世の中お金なんだね~勉強しちゃった。

 セシリオ王国のとある街(後で聞いたらシスタナという街)で脱出した皆が集まった。

 ロベルトおじさん(正直おじいちゃんだよ)が代表者達を集め、本当の目的地を教えてくれてその代表者(友達のお父さん)から私達家族は知らされたんだけど、なんでもクレリア姫様は今ベルタ王国にいて「シャイニングスター」(カッコイイよね!)って名前の冒険者をやっていて、今までのお金も依頼の仕事で稼がれたんだってお姫様なのにすご~い。

 話を聞く内にスゴイ話はさらにスゴくなっていく、クレリア姫様を助けてくれて今はベルタ王国王都に向かっているアラン様という人は、他の大陸(ここ以外の大陸ってあるの?)の貴人で窮地に陥ったクレリア姫様を救い、義によってスターヴェーク王国復興に尽力し冒険者となっては名を馳せ更には人に危害を与えるドラゴンを討ちその功績を以って貴族に叙爵されるべく現在ベルタ王国王都に招聘されているんだって。

 ドラゴン?!ドラゴンを討ち取ったの!!

 えっ、ほんとにと驚いていたらこの移動費用もその討ち取ったドラゴンを売ったお金で支払われてるんだって!

 それじゃあほんとなんだと納得したけど、やっぱりあらためて驚いちゃう!

 まるで英雄伝説じゃない!こんなことがあるなんて。

 ついでの様に兄ちゃんの無事が伝えられたけど、アラン様への思いで心がいっぱいになり後で母ちゃんから聞くまで兄ちゃんのことは思い出さなかった。

 

 某月某日、今度は1ヶ月半くらい経ってるよ

 

 先に行ったロベルト老(この方があってるよね)から商業ギルド経由で向かう先を教えて貰ったけど、その場所が問題だよ!

 なんと行く先は「魔の大樹海」なんだって、スターヴェーク王国はとなりあってないから細かくは知らないけど、噂では嫌というほど聞いてるよ。

 「魔の大樹海」はこの大陸でも大秘境と言われ、人が入れる場所じゃ無いって聞かされてるよ。

 アラン様へのあこがれでこの1ヶ月半ワクワクしっぱなしだったのに、憂鬱になっちゃった・・・

 これがこの時の私の正直な気持ちでしたが、その気持ちを抱えながら、翌日「魔の大樹海」へ向けて我々家族は千人の第一集団として旅立ちました。

 

 キリが良いので今日はここまでね、明日はコリント領に到着する処までかな。

 頑張って思い出しながら書くぞ~!

 

 

 




後書き
 
 別視点で書くという自分の実力からすると、無謀極まり無い暴挙に打って出てしまいました。(汗)
 非常に違和感だらけでお見苦しい文だと反省しきりです。
 ですが、ケニー君の日記では把握出来ない裏事情等を描写できるのは作品を作る上で便利ですね。
 申し訳有りませんが、今後もこの「ケニー一家」の描写は続くのでご了承下さい。


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閑話② 「カレンちゃん日記」② (カレンちゃん到着)

 カレンちゃん日記2話目です。


 4月9日

 

 セシリオ王国のシスタナという街を出て順調に旅は続いていたんだけど、私の気分はなかなか良くなんない・・・

 「魔の大樹海」って魔物だらけなんでしょ、このあいだこのキャラバン隊(ウソだけど)に襲いかかってきた、大きな犬みたいなグレイハウンドとかもいっぱいいるんだよね、夜なんか眠れるのかな~。

 比較的大きな街に入った、買い出し隊にくっついていって母ちゃんと生活雑貨の商店に入る。

 買い物をしていると地元の買い物客の話し声が聞こえてきた。

 なんでもシャイニングスターのリーダー、アランが王都を襲ったドラゴンを追い払い王都に巣食う賊を全て退治したんだって!

 アラン様のスゴイ話は旅の途中でもみんなで話してたから、落ち込みそうになる気分を救ってくれる気晴らしになってたんだけど、新しい話題を友だちに教えられそう!

 なんだか全ての悪いことは、アラン様が解決しちゃいそうで気持ちも前向きになっちゃった!

 

 4月15日

 

 また、買い出し隊にくっついていったら、今回は商業ギルドによる事になり資金の追加があったらしい、らしいというのは母ちゃんに渡されたお金が前の時の倍でしかも今まで買わなかった新しい下着や服まで大量に買っちゃって、持って帰れるのかな~って不安に思ってたら馬車も5台も買ってたから余裕で運べちゃった。

 クレリア姫様とアラン様はお金持ちだな~。

 

 5月30日

 

 旅にも慣れて馬車の馬とも仲良くなれた、馬って優しい目をしてるんだよ!

 時々だけど御者台に乗せてもらって手綱も持たせてもらった、けっこう高いからウトウト寝ちゃったら危険だよ、と注意されたけどあまりに同じ景色だと春だし眠くなっちゃうのわかるな~!

 

 6月10日

 

 ガンツって最後の街に到着、最後ってのはクレリア姫様とアラン様の治めるコリント領に行くための最後の街って意味。

 実は1週間前くらいから私は興奮しっぱなし!

 だってその頃からコリント領に行った事のある人達から話を聞かされてワクワクが止まんない!

 その商人と護衛の冒険者の人たちは一緒にガンツに来たんだけど、その間いろんな話を聞けたの。

 まずなんといってもコリント領は「楽園」なんだって!

 どうして「魔の大樹海」にあるのに楽園なのか謎なんだけど、いろんなわからない単語(ドームやトンネル、ボット等)を出され面食らってたら住居はもう5万人は住めるようになってるんだって。

 5万?!えっついこのあいだ男爵になったばかりなのにそんな数ありえるの?もしかして木と布だけのほったて小屋なんじゃって質問したら、トンデモナイいままで見たことも無い住居でなんと蝋燭や油を使った灯火具でもない魔道具の明かりが家には必ず常備され、更には街灯も同じで通りには必ずそれが有り夜でも暗い場所は無い、と言われた。

 私は、もっと幼い時にスターヴェーク王国王都のじいちゃんの家に行ったことがあるけど、夜はそこまで明るくはなかった、それじゃあコリント領は王都以上なの?

 そしてもっと信じられないのは、水はどんなに使おうがタダなんだって!しかも各家には上水下水が備わっていていちいち水汲みに行ったりする必要が無いそうで、私にとってはこれが一番大歓迎!!

 だって、ルドヴィークにいた時の私の仕事は朝と夕方の井戸の水汲みで何度も往復する力仕事が女の子としては辛かったよ・・・

 そんな話を山のように聞かされワクワクしっぱなしでガンツに着いたんだけど、ここでも驚かされっぱなし!

 城門付近がスゴイ大混雑でとてもじゃないけど、今日中にはガンツに入れそうも無い。

 みんなでどうしようと困惑してたら突然ワイバーンが空からやって来た!

 驚いて急いで逃げ出そうとしたら、ワイバーンに乗っていた人が降りてきたんだけどなんとその人は女の人でみんなに声を掛けてきた

 「怖がらなくても大丈夫、私はコリント男爵の配下ミーシャと言うものです、皆さんの案内をアラン様から仰せつかりました。

 もうすぐガンツから、皆様と同道する商業ギルドのキャラバン隊と護衛の冒険者達が城門横の広場に集結しますので、休憩の後そのままコリント領に出発します。」

 と言われた。

 正直けっこう有名なガンツに入りたかったけど、あの大混雑に巻き込まれるのは嫌だからいっそのことコリント領に早く向かうのは大賛成!

 休憩中にワイバーンを大人しく伏せさせているミーシャさんに近づいて、幾つか質問したら苦笑しながら答えてくれた。

 どうしてこんなに大混雑してるの?って聞いたら1ヶ月程前にコリント領を公開してから商人が出入りしてガンツに帰る度に情報が流されて、噂が噂を呼び近隣の商人達がガンツ経由で頻繁に商売しに来るものだから、ここ数週間はずっとあんな感じなんだって。

 更にガンツの商業ギルド長(サイラスさんていうこの国一番の商人なんだって)がコリント領での支店開設の店舗入札を取り仕切っていて、その交渉のためにはるばる王都からも大きな商会が来ていて前に行われたドラゴンの競売と同じくらい賑わっていて、その護衛に来ている冒険者達もコリント領を一目みるためにコリント領に向かうキャラバン隊の護衛役として自分を売り込むのに城門前にいて混雑に拍車をかけてるんだって。

 次にワイバーンについて聞いたら、ドラゴン(グローリア殿って名前)が別の森に生息していた群れを従属させて連れて来たんだって、そのワイバーンを別の国では「竜騎士」として活用されていたので、アラン様がそのノウハウ(活用方法だって)を我々「空軍」に伝授してくれたんだって。

 最後に兄ちゃんは何をしてるか?尋ねたら、名前と特徴を問われたので素直に答えたら驚かれた。

 なんと兄ちゃんはミーシャさんと同じ「空軍」の「竜騎士」で更には暫定ではあるが、隊長なんだって!

 あの体は立派だけどデリカシー(難しい言葉知ってるでしょ、エヘン)が無く、乙女心を理解してくれなくてただひたすら真面目な兄ちゃんが「竜騎士」?!

 イメージがわかないよ~。

 まああともうちょいで会えるからどんな風に変わったか、楽しみにしようっと!

 

 6月12日

 

 とうとうコリント領到着~!

 長かったよ~、2ヶ月だもんね1年前には想像もつかなかったね。

 そんな思いもだんだん見えてきた建物に驚いてすぐに消えちゃった。

 噂ではさんざん聞かされてたけど実物はスゴすぎる。

 まずとっても大きい!

 高さだけでも5メートルは有る壁が両方にあって天井は透明(ガラスかな?)そして地面は真っ白くて土じゃない!

 それがずーっと奥の方に続いてる、信じられないこれってどこまで続いてるの?

 

 この日の驚きはとても多くて大変だから、次回にまた書くね。

 

 

 

 




 続けて「カレンちゃん日記」です。
 あまり間隔を空けると状況が把握し辛いのでは?
 と考え連投しました。
 明日からは、中断していた対セシリオ王国編に戻ります。
 どうぞお楽しみに。


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9. 7月の日記③

 7月20日

 

 セシリオ王国が此処ベルタ王国に宣戦布告をして来た。

 我々が危惧して来た通りになったので驚きは無いが、まだ集団移民団(凡そ2万人)はこちらに向かっている最中で巻き込まれるのは甚だまずい、アラン様は「黒」に予定のコースを変えてセシリオ王国から離れたコースを進む様に集団移民団に伝えよと命じられた。

 

 7月23日

 

 セシリオ王国軍5万がベルタ王国国境線を突破破竹の勢いで国境線配置軍2万人は蹴散らされて撤退、セシリオ王国軍は国境近くの街々に進軍中であるとベルタ王国上層部に情報が入った。

 そしてベルタ王国側はファーン辺境伯の城邑で迎え討つべく周囲の貴族及び王都から国軍が進発し対抗する様だが、合計しても3万人に届かず対抗しきれないのではと考えられた。

 現在クレリア様とアラン様のブレーンとなっている前宰相ヴェルナー・ライスター卿が説明するに、以前セシリオ王国のルージ王子の不穏な動きを警戒し「黒」に探らせるとかなりの数の傭兵団を呼び集め、更にはならず者に近い者達も集めているらしくお陰でセシリオ王国国内は治安が悪化し税率まで上がりセシリオ王国内の王家の評判は下がっており、此の侵略戦争をセシリオ王ルージは是が非でも成功させセシリオ王家の評判の悪さを払拭したいのだろうと述べられた。

 アラン様は

 「我々の領地からは離れた国境での戦争だが、何時どの様な形で飛び火してくるか分からない、よって軍人は準戦時体制に入り呼集されたら直ぐに出動出来る体制に移行する!」

 と命じられた。

 

 7月26日

 

ファーン辺境伯の城邑にセシリオ王国軍が迫り、ファーン辺境伯は籠城して迎え討つ様だが籠城するのは、付近の貴族の私兵が入れただけでその数8千人に届かない、然も宣戦布告から僅かな日数で城邑に迫られてしまい食糧や補給物資の備蓄は少ない、早くセシリオ王国軍を追い払わなければ国境線周辺の国土は奪われてしまうだろう。

 

 7月28日

 

 「セシリオ王国国境線周辺の街や村に出没する賊の退治を護国卿の権限を以って行い、その後ファーン辺境伯の救援に迎え!」

 と王命が商業ギルド経由で通達された。

 早速全軍の内「近衛軍」「支援軍」はガンツを経由してファーン辺境伯領を目指し、我々「空軍」は即応軍としての役割通り襲われている町や村々の救出に向かう事になった。

 又この行軍に初めて「放送局」の人員20人が従軍し、諸々の戦時記録を写すとの事で自分はハリーを後部座席に乗せたが興奮を隠しきれない様子が伺えた。

 

 7月31日

 

 タラス村が襲われているという「黒」からの情報によりグローリア殿にシャイニングスターの面々を乗せ随伴として自分のガイが急行した。

 村は賊に対してバリケードで防ぎながら応戦していたが、賊が30人と多く武装も賊側の方が良いので多数の怪我人が出ていた。

 グローリア殿が空から雄叫びを上げ賊達が驚きに空を振り仰いだ瞬間、グローリア殿の上からシャイニングスターの面々による高速ファイアーアローが賊達全員の両肩を貫いた。

 村人も突然のドラゴンの来襲に驚愕し茫然自失していたが、降り立ったアラン様とクレリア様が兜を脱ぎ手を振ると、「アランさん、師匠?!」と驚きの声と共に若者2人が駆け寄って来た。

 

 「ベック、トール久し振りだな。」

  

 と、アラン様とクレリア様も親しく声を掛けられた。

 挨拶もそこそこに怪我人に対して自分も含めた全員でヒールを掛け、賊を縛り上げる。

 一通りの処置が終わった後、ザック村長始め村人全員を広場に集め現在の状況を説明した。

 村人一同は驚きながらもアラン様が噂に聞くドラゴンスレイヤーその人で貴族になられた事に感心し、捕らえた賊は村の倉庫に監禁しいずれ到着する「支援軍」に引き渡す事を確約した。

 アラン様は村が被った被害に対して見舞金と賊を捕虜として扱うための保証金を村長に渡された。

 ザック村長はその金額の多さに驚き返そうとするが、

 アラン様は、

 

 「今後は戦争も起こり今迄の生活が脅かされる時代になった、タラス村もその資金で防備を固め武器を買い集め時代に負けない備えをしてくれ。」

 

 と仰られた。

 村人一同は感動してアラン様に感謝していたが、ベックとトールの2人はアラン様に自分達をアラン様の領地に連れて行って欲しいと願い出てきた。

 アラン様は家族の了承を得られたらいずれ到着する「支援軍」に合流し行動を共にすると良いと仰られた。

 そして我々は村人達の歓声を浴びながらグローリア殿とガイに搭乗して飛び立った。

 



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10. 8月の日記①

 8月4日

 

 タラス村と同じ対応を各町村に行っていたが、セシリオ王国軍の一部隊がゴタニアを目指して行軍中との連絡が「黒」から入る。

 約3千人程の部隊でゴタニア守備軍300人では対抗も出来ないと推測された。

 よって我々「紅」は全軍を以ってゴタニアへ救援に赴く事になった。

 魔石を使用して通常有り得ない強行軍を可能にしてセシリオ王国軍よりも2時間早くゴタニアに全軍(空軍を除く)入る事が出来た。

 ゴタニア守備軍にアラン様は護国卿の権限を以って指揮権を預かり自分の指示に従う様に命じられた。

 2時間後現れたセシリオ王国軍は到着早々ゴタニアに対して大声で降伏勧告がなされた。

 それに対して城壁上に居たアラン様が、

 

 「笑止、貴様達愚かな侵略者に降る者は此処ゴタニアには居らぬ!

  つべこべ言わずに力を以って攻撃してみよ、存分にこのアラン護国卿と我が軍「紅」が相手をしてやる!」

 

 と、大音声をセシリオ王国軍に向かって浴びせられた。

 援軍が居る事にセシリオ王国軍は戸惑った様だが南門に布陣すると北、東、西の各門に各500人ずつを配置して攻城戦の体制に入った。

 これも想定内の行動なので予め「支援軍」はゴタニア守備軍と共に城壁上に陣取り、「近衛軍」は北、東、西の各門の内側に100人ずつ待機させた。

 セシリオ王国軍は攻城兵器こそ持っていなかったが「氷雪魔術師団」の一部隊が含まれていて得意の軍団魔法「ブリザード」が城壁上のゴタニア守備軍目掛け早速叩きつけるが「支援軍」が「ファイアーウオール」で炎の壁を作り対抗するとセシリオ王国軍は弓と各種攻撃魔法を浴びせてくるが「ファイアーウオール」に阻まれ効果を発揮しない。

 セシリオ王国軍に疲れが見えて来た段階で、城壁上に居たクレリア様が合図の「ファイアーボール」を空高くで爆発させる。

 それを契機に北、東、西の各門から「近衛軍」100人ずつが打って出た。

 セシリオ王国軍はそれに対して弓と各種攻撃魔法を浴びせてくるが、当たる前に「近衛軍」の軍団魔法「イフリート」が各隊一斉に展開される。

 

 軍団魔法「イフリート」・・・「近衛軍」の軍団魔法の一つで鋒矢の陣の形で敵に突っ込む際に「ファイアーストーム」の膜が部隊を覆い尽くし敵の攻撃を燃やし尽くしながら吶喊する「攻性防壁魔法」で有る。

 

 それぞれの巨大な炎の塊が各門に配置された軍を木っ端微塵に蹴散らし、返す刀で南門の主力に突っ込み縦横無尽に敵陣を切り裂いた。

 撤退するセシリオ王国軍は千人に届かず大多数の怪我で動けない者が捕虜になった。

 武装解除した捕虜をゴタニア守備軍に預け王都からの沙汰に従う様にアラン様が命じると、キビキビとした反応で対処していた、きっとあまりにも凄まじい「紅」の強さに感銘を受けたのだろう。

 我々「紅」が街に戻ると民衆が歓呼の嵐で迎えてくれた。

 その中からカトルの親で大商人のタルスさん達が進み出て御礼を申し上げて来た。

 シャイニングスターの面々も進み出て無事を喜び合い、当面の危機は除いたがまだ戦争中で有り警戒を厳にして欲しいと述べられ、戦争が終わったら是非コリント領に遊びに来て欲しいと仰られた。

 大商人のタルスさん始め民衆は、必ず行きますと笑いながら返答された。

 此の街の領主は王都にいて留守で、代わりの代官に後事を託し我々は暫くの休憩の後、戦場たるファーン辺境伯の城邑目指して行軍を再開させた。

 

 8月16日

 

 諸々の小部隊(といっても我が軍より多い)を蹴散らしながらファーン辺境伯領に到着した。

 そのまま小高い丘の上に布陣しファーン辺境伯の城邑と包囲しているセシリオ王国軍を望めるベルタ王国の迎撃軍駐屯地に入った。

 アラン様とシャロン殿、セリーナ殿が陣幕の作戦会議に呼ばれしばらくしてから我々の駐屯する場所に戻られて作戦会議の内容と、明日からの行動指針を我々に開示された。

 先にこの迎撃軍に潜り込ませていた「黒」の報告を受け討論をしている処に、アラン様達と作戦会議に出席されていたブリテン伯爵とフランシス子爵が陣地に来られアラン様に相談事があると会談を求めて来た、アラン様が迎え入れて用向きを尋ねられると、両者はこれ迄の司令部への鬱憤をこぼし始めた。

 どうやら迎撃軍司令官のロドン将軍は積極的にセシリオ王国軍と戦う意思が無いらしく、この2週間の間1歩も陣地から出ず、やたらと王都の宰相との書簡のやり取りをしていたらしい。

 度々開かれた作戦会議も積極的にロドン将軍は発言せず、結論を得ぬまま時間切れで終わっていたようだ。

 業を煮やしていた処に、幸い各地を目覚ましい活躍をしながら合流されたアラン護国卿に自分達に同心してもらい、是非とも侵略者に対しての攻撃の許可を我等と共に上申して欲しいと同心を願い出られた。

 アラン様は両者の申し出に快く応じられたがそのタイミングに伝令が来て、迎撃軍司令官のロドン将軍から明日又作戦会議を開くので参加する様にとの事だ。

 アラン様は両者に明日の作戦会議が終わったら再度陣地に来て頂き、その際攻撃作戦を練りましょうと告げられた。

 

 8月17日

 

 朝から作戦会議が開かれたが、アラン様達主戦派と宰相派閥の傍観派の意見が対立し

 「戦いたいならお前達だけで戦え!」

 とロドン将軍が言われたのでアラン様達主戦派は言質は取れたとばかりに喜び、作戦会議が終了したと同時にアラン様達主戦派は我々「紅」の陣地に集まってアラン様主導の元作戦が練られた。

 ブリテン伯爵とフランシス子爵は作戦内容に驚かれていたが、両者は王城でのアラン様がドラゴンを追い返した(演技だったのだが)場面を見られていたので作戦内容に同意して明日の戦闘に備える為に自分の陣地に帰られた。

 



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11. 8月の日記②

 8月18日

 

 快晴の中我々は陣地を出てファーン辺境伯の城邑を包囲しているセシリオ王国軍に対して700メートル程の距離をおいて陣形を整えた。

 我等は変形型の魚鱗の陣で前面に「近衛軍」300が配置され中間に「支援軍」そして後方にブリテン伯爵軍1000人とフランシス子爵軍700人が続いた計2200弱。

 対するセシリオ王国軍はファーン辺境伯の城邑を包囲する1万人を残し、各地方に部隊を派遣して数を減らしたとは云え横陣で迎え撃つ様だ、正規軍2万人はお得意のファランクスを展開し傭兵団1万人は両翼に配置され明らかに取り囲んで包囲陣形に移行してこちらを袋叩きにする構えだ。

 13倍以上の敵に挑むと云う普通に考えれば正気を疑われるのが当たり前なのだが、我等「紅」には恐怖など微塵も湧いて来ず、むしろ我等の攻撃を受けなければならないセシリオ王国軍を憐れんでいたが、流石に他の友軍は緊張している様だった。

 戦場に緊張が走る中、徐ろにアラン様が単騎進み出られ魔道具を構えた。

 すると空中に縦30メートル横50メートルの映像が映し出された。

 我等「紅」以外の両軍が驚く中アラン様はセシリオ王国軍に対して降伏勧告をされた。

 

 「我はドラゴンスレイヤーにしてベルタ王国護国卿アラン男爵で有る。

 不当な侵略者よお前達の町村を襲わせた支軍は既に我と我が軍が退治した。残るは此処に居るお前達の軍のみ、即刻此の場より立ち去り不当な侵略行為の賠償を行え、そうすれば攻撃を控えてやるがもし聞き入れないのならば地獄も生温いと思える程の断罪の火を以って報いるが返答は如何に?」

 

 セシリオ王国軍は一瞬の沈黙の後、嘲笑するような笑いに包まれる特に傭兵隊と思われる辺りからはこちらを嘲る様な怒号が飛び交った。

 暫くの間その無知蒙昧な輩の哀れな囀りに耳を貸した後、アラン様は宣言された。

 

 「どうやら返答は無くこちらを嘲る様な笑いが聞こえてきたのみ、それでは我が軍による攻撃を受けて貰うが精々地獄で後悔せぬようにな。」

 

 と仰られた、そして5秒程の空白の後空中から戦場を圧する咆哮がセシリオ王国軍頭上に降ってきた。

 其れまでひたすら我等ベルタ王国軍を嘲っていたセシリオ王国軍は、ピタリと笑いを止め恐る恐る天を振り仰いだ。

 この時まで「空軍」は遥か上空で待機しており自分と騎竜のガイもひたすら出番を待っていたのである。

 ゆっくりとグローリア殿を中心にセシリオ王国軍側に降下して行き、彼等が茫然自失している間に彼等の頭上に其々の両足に掴んでいた油の壺の束を投擲した。

 セシリオ王国軍が落とされた油に慌てているのを尻目にグローリア殿始めワイバーンも轟々と息を吸い込み始める。

 次の瞬間セシリオ王国軍中心目掛け「空軍」による軍団魔法「ナパーム」が展開された。

 其れは伝説とさえ言われる爆裂魔法の多重展開、その威力はアーティファクトによりセシリオ王国軍を覆っていたマジックシールドを容易に引き裂き戦場に花開いた地獄の炎である。

 瞬間の被害は5千人そして油に引火する事で炎が燃え広がりその炎に焼かれて更に5千人が死傷し、火傷と呼吸困難による戦闘継続困難者は更に1万人に達した。

 頃や良しと見て、アラン様が号令を発し「近衛軍」300が3つの鋒矢の陣に分かれてセシリオ王国軍残存部隊に突っ込む。

 そして「近衛軍」が使用しているのは軍団魔法「オーディン」で有る。

 

 軍団魔法「オーディン」・・・それは多重展開された「エアーシールド」を纏った攻性防壁魔法、同じ攻性防壁魔法で有る軍団魔法「イフリート」と違い、これは炎の中であろうが水の中であろうが呼吸が可能で有り、基本的に相手を跳ね飛ばしながら疾走し敵を行動不能にする魔法で有る。

 

 混乱でまともな陣形を維持出来無い、セシリオ王国軍残存部隊は3本の強力無比な鋒矢の陣に貫かれた。

 切り裂かれたセシリオ王国軍に「支援軍」とブリテン伯爵軍1000人とフランシス子爵700人からなる各種魔法と弓矢による側面攻撃が容赦無く降り注ぐ。

 セシリオ王国軍得意の氷雪魔法も部隊で使用してこそ意味があり、個々での魔法発動では威力が小さすぎて意味を成さなかった。

 戦況に驚いたファーン辺境伯の城邑を包囲する1万人のセシリオ王国軍は友軍と合流を果たそうと戦場に向かおうとするが、其処に待っていたのは地面に降り立ち踏ん張りを効かせた状態で口を大きく開けたドラゴンとワイバーン15頭の我が「空軍」で有る。

 その姿に驚愕し騎兵は馬が竿立になり歩兵は折り重なって倒れ込む、其処へ避ける間もなくドラゴン達の「ハウリングパニッシャー」が放たれる。

 その一撃で1万人のセシリオ王国軍は半数以上が気絶し戦線は崩壊して残りの部隊は潰走を始め、釣られるように元3万人いたセシリオ王国軍前線軍の残存部隊3千人程が撤退を始める。

 その撤退軍に対しても我等「空軍」は空から容赦無く「ハウリングパニッシャー」を投射し続け終には組織的な撤退をセシリオ王国軍残存部隊は諦めさせ潰走させる事に成功する。

 戦場の決着は着き、全軍集結して点呼と被害の確認を行うが怪我人は幾人か居たが即座にヒールが使われて事実上損害無しで有った。

 アラン様が剣を天に突き上げて

 

 「我等の勝利だっ!!!」

 

 と雄叫びを上げられると、戦った軍勢皆が同じ様に剣を天に突き上げ歓声を張り上げた。

 その歓声が響く中、城門が大きく開けられ城主以下兵士達が我等を目指しやって来て、我等「紅」とブリテン伯爵、フランシス子爵の軍と手を握り合い抱き合って双方の無事を称え合った。

 



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12. 8月の日記③

 8月19日

 

 此の日、小高い丘に作られた駐屯地の陣幕で戦後処置会議が開かれ今後の諸々の処置の決定が成された。

 ファーン辺境伯と其の家臣も出席し城への補給物資の搬入や補填、籠城していた領民の街や村への帰還護衛と物資の移送が決められた。

 先ず大量に捕まえた捕虜(約3万人)をどうするか?という点では幸い想定より早期に決着が着いた為3ヶ月は戦える兵站が有り、それを当座の食糧にして近隣の貴族の領地で捕虜を分散して預かる様に手配した。

 潰走したセシリオ王国軍の残党が国内に潜伏しているかも知れず、その洗い出しと国境線への軍の派遣も策定され取り敢えず王都から派遣されて来た国軍の一部が国境線へ向かうことになった。

 我等「空軍」は何と行っても機動力が違うので各市町村を廻り、現状の通達及びセシリオ王国軍残党や賊と化した元傭兵団を退治して廻る事が決定した。

 

 其の夜ファーン辺境伯と其の家臣、更にブリテン伯爵とフランシス子爵それぞれの家臣が我等「紅」の駐屯地に来られた。

 ファーン辺境伯は改めてアラン様とブリテン伯爵、フランシス子爵に御礼を述べられ、続いてグローリア殿にも御礼を述べられるとグローリア殿が魔道具の「翻訳機能」を使われ返答して来られたので、我等以外の方々は呆気にとられたが、会話が出来ることに感激し更に厚くお礼を述べられた。

 そして今後も友誼を重ねより良い関係を構築しようと4者共に誓われ、アラン様が戦争が一段落して落ち着いたらコリント領へ来られる事を3者にお勧めしたが、ブリテン伯爵とフランシス子爵は直ぐに了承されたのだが、ファーン辺境伯は「コリント領とは距離も有るので難しい。」と言われるとグローリア殿が自分の鞍に乗られればその日の内に運べると言われ、ファーン辺境伯は呆気にとられた顔をされたが直ぐに相貌を崩し、「是非とも其の際には宜しく頼む。」と笑いながら述べられた。

 皆で前日の戦闘を称え合い大いに歓談された後、コリント領での再会を約し解散となった。

 

 8月25日

 

 粗方の後始末を終え其々帰途に付くことになったが、迎撃軍の面々は我等に対して立場によって温度差が激しく異なる事が、その態度であからさまに判った。

 共に戦ったブリテン伯爵とフランシス子爵の軍の関係者は、笑顔で談笑したり再会を誓ったりして終始和やかだが、迎撃軍司令官のロドン将軍やその関係者と宰相側の貴族は怯えを含んだ苦々しい面持ちで我等に接し、末端の兵士に至っては友軍とは思えない様子で、怯えと恐怖を感じているのか我等から顔をそらしていた。

 彼等は戦後処置会議が行われた翌日には王都に向けて早々に帰還していった。 

 自分は此の対応の落差が、今後のベルタ王国の勢力図に一石を投じると思わざるを得なかった。

 

 8月31日

 

 後処理をファーン辺境伯と其の家臣に託し帰路に着いた。

 ゴタニアに到着すると街の人々が待ち構えていて大歓待してくれた。

 代官始め各ギルド長が出迎えてくれたが、前の戦闘で知り合いになった兵士達も多くいて、我等の口元も自然に綻んだ。

 城壁側の広場に陣地を設営して食事の用意に取り掛かろうとすると、バースと云う者が協力したいという有志達を率いて来て、相当な量の料理と食材を提供し更には此の場で料理をし始めた。

 驚くべき事にその料理はアラン様が作られる絶品料理とよく似ていた。

 皆が勢い込んで尋ねると、何と以前アラン様がバースの宿に泊まられた際に、教えを受けたのだそうだ。

 その教えの料理のお陰で大繁盛しており、是非その恩を返したいと思い我等にご賞味頂きたく参上したそうだ。

 生憎アラン様と上層部の方々はタルスさん宅に呼ばれて居ないが、アラン様の許可が降りているので街人も招いて宴会が行われた。

 ゴタニアのバース始め街人達は皆戦争がどの様に行われたか知りたがり、どうやって我等が勝ったかを話して聞かせると街人は興奮し喜んでくれて酒の振る舞いもあり大変盛り上がった。

 



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13. 9月の日記①

9月1日

 

 以前街を解放した時にアラン様が勧めていたコリント領への旅行は、タルスさん一同とバースさん一家そして魔術師ギルドの2人(何故か旅行とは思えない程の荷物を馬車に積んでいる?)とそれ以外の商人達(商人達も荷物が多すぎる位多い)と難民、更にはタラス村の若者達と総勢100人を超える人数になったが我々「紅」にとっては護衛対象としては少ないくらいなので、特に問題もなく出発することが出来た。

 当然行軍速度は下がるので「空軍」に八面六臂の活躍が求められる。

 事前連絡の通達、「黒」の足になっての諜報活動の支援、警戒と索敵、緊急の際の手紙等の物流、等など大変では有るがやり甲斐も有るので望む処だ。

 

 9月15日

 

 ガンツに到着したが、城門の検査でゴタニアと違いよそよそしさを感じる。

 顔なじみの兵士達が、あからさまに後ろにいる役人を気にしながら対応してくるので「何かある?!」と推察出来た。

 アラン様も直ぐに気付かれて、「郊外の拓けた場所で駐屯せよ。」と命じられた。

 殆どの者が街に入れると考えていただけに不思議がっていたが、「黒」の一人が合流して我々に説明してくれた。

 どうやらガンツ伯の命令で我々「紅」とその関係者に一切の便宜を図るなとの事で、殆どの民が我々を歓待したいのに出来ず、更には物資の購入も禁止されたという。

 流石にここまで敵対感情を抱かれているとは予想を超えていたが、いずれは宰相派閥のガンツ伯とは敵対関係になるのはコリント領側にとっては想定済みの事態であり、その時期が早まったに過ぎない。

 許可を得て数人が面会者と会い、敢えて当たり障りないやり取りをした後我々はガンツを後にした。

 

 9月17日

 

 途中迄舗装の出来ている新しい道路にゴタニアからの同行者達が驚く中、「魔の大樹海」のコリント領入り口に到着した。

 出征する前はまだ着工し始めたばかりだったが、既に五割程街が出来ている。

 この街は基本的に物資集積用と物資流入管理用更には、「魔の大樹海」側に構築し始めている壁(フェンスと言って「魔の大樹海」内に魔物を封じ込める目的だそうだ)の管理、維持も担う。

 その規模と物資移動用の「レール」更に「モトローラー」に又もゴタニアからの同行者達が驚く中、トンネル前で入国審査(あまりに他の貴族領と違うので自然に商人達が言い始めたが、それが通称になった)を行い、ゴタニアからの同行者達全てにカードが渡された。

 そしてそのまま生活ブロックのドームへと向かう、途中魔術師ギルドの2人組がしつこくアラン様に質問していたが、アラン様は嫌な顔一つせずに全てに答えられその内容に魔術師ギルドの2人組は感心したり、驚愕したりしていた。

 漸く生活ブロックのゲートが開き、やっと帰れたとほっとする間もなく割れんばかりの歓声が上がる。

 驚いて周りを見回すと、何千人という領民達が手にコリント領の記章が描かれた手旗を持ち一斉に大きく振っている。中には横断幕に「戦勝おめでとうございます」や「アラン様、ありがとうございます」等の文字が書かれている。

 どうやら、2週間程前に到着した大規模移民団と元居た領民達とで、歓迎会と戦勝記念会を同時に開催しようと画策した様だ。

 皆の盛大な歓声の声を浴びながら、ゴタニアからの同行者達は入植管理官に預け後で合流することにして我等「紅」は会場の中央広場に向かった。

 中央広場には、五千人は入れる会場が設営され壇上も設けられていた。

 皆案内に従い其々の席に着き、壇上近くの貴賓席にはアラン様、クレリア様を中心に主要幹部達が座られた。

 しばらくして、貴賓席からロベルト老が壇上に向かいマイク(声を拡大音量にする魔道具)に向かってこの会の開催を宣言された上でアラン様に要望を述べられた、

 

 「アラン様始め「紅」の方々に於かれましては、戦勝おめでとうございます!(((おめでとうございます!!)))、我々領民一同は、必ず戦争に勝たれて凱旋されることを少しも疑いませんでしたが、何と13倍以上の敵に真正面から立ち向かい散々に打ちのめした上でこちらの被害はほぼ皆無との事、軍神アラミス神であろうと、ここまでの完勝は難しいのではと思わざるを得ません!流石はアラン様と「紅」であると領民一同皆感嘆しきりであります。どうかその凄まじい戦闘のご様子の一端なりとも我等にお話しいただけませんでしょうか?」

 

 アラン様は、苦笑しながらも壇上のマイクの前に立ち、その雄姿を「放送局」職員に命じられて背後に有る「モニター」に映させた上で仰られた。

 

 「皆、斯くも盛大な会を催してくれてありがとう。

 今回の戦争勝利は、確かに「紅」の奮戦も有るが此処に居る領民全員の努力による処が大きい、何故なら我が軍の代名詞「紅」の由来はこの鎧の色である。

 つまり工場で出来た合金を加工して各種鎧に仕立て直したのは男性陣の鍛冶工房であり、その連結部分の強靭な革紐や編み紐を縫ってくれたのは女性陣の縫製工房だ。

 そして皆の安全安心を確保してくれたのは警備警邏隊であり、其々の仕事を円滑に周旋したのは役人達だ。

 今はまだ収穫出来ていないが、いずれは農民達も我等の為に素晴らしい実りを見せてくれるだろう。

 つまり今回の勝利は、個々に居る全員の勝利だ、皆存分に誇ってくれ!

 それでは、その戦闘の様子を発足間もないながら頑張って記録してくれた「放送局」の努力に感謝しながら共に鑑賞しようだはないか。」

 

 と述べられたタイミングに丁度ゴタニアの面々も会に合流して来た。

 

 早速大型モニターに「ゴタニア攻防戦」から「ファーン辺境伯領での会戦」が映し出された。

 (幼い子供や女性も見る為に予め血が飛び交ったり、人が死ぬ様は編集という作業で除けている)

 初めての臨場感溢れる戦闘の様子に皆驚愕していたが、徐々に慣れ始めグローリア殿と自分達「空軍」が共に放った「ハウリングパニッシャー」が映し出された頃は歓声を上げて喜んでおり、ゴタニアの面々もモニターに驚いていたが、最後の辺りには陶酔した様な面持ちで画面に見入っていた。

 その後は無礼講で大いに飲み食いして各々の武勲を称え合ったり、新しい生活の便利さを喜び合ったりして、夜遅くまで会は続き深夜0時手前で漸く解散となった。

 



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閑話③ 「カレンちゃん日記」③ (カレンちゃん新生活に戸惑う)

さて途中だった「カレンちゃん日記」の続きです。
そして明日、明後日は両親の日記が始まります。
どうか下手な文章ですが、読んで頂けると幸いです。


 6月12日(前の続きだよ。)

 

 同行してた商人のキャラバン隊は慣れっこなのかテキパキと手続きをしてドンドン大きな空洞状の建物(後で聞いたらトンネルって言うんだって)内を進んでるから慌てて付いて行こうとすると、

 「スターヴェークオウコクカラキタヒトタチハ、コチラニナランデクダサイ。」

 と後ろから呼び止められた。

 振り返るとどう見ても人に見えない、まるで金属で出来たお人形さんが案内している?!

 友達のお父さんが恐る恐る話し掛けた、

 「あの貴方が話されたんですか?」

 すると、金属で出来たお人形さんが、

 「エエ、ソウデスヨ、ココデアンナイガカリヲシテイルボット10ゴウトモウシマス、イゴオミシリオキヲ」

 と返事してきた?!

 驚いてボーッとしてたら、いつの間にか順番が来てて、ボット10号さんからカードが渡された。

 私まだギルドに所属なんかしてないから、カードって初めて持てたんだけど表面に自分の名前と年齢が浮き出てる?!えっ、カードって文字が浮き出るんだすご~いって父ちゃんに話したら、ギルドで発行するカードにはそんな機能は無いらしい、でもキレイだからこっちの方が好き!

 もう一度馬車に乗り直してトンネルを進むと、時々壁の一部に透明な所があるのでソコから「魔の大樹海」を見ているとオークと目が合っちゃった!

 こっちに来られちゃうよ!危ない!と逃げようとしてたら、同行してた商人のお姉さんが笑って、

 「大丈夫よ、オーク程度じゃこっちに来られはしないは。」

 と断言してくれた。

 後で聞いたら透明な所は、厚さ30センチメートルの強化アクリル板で出来ていて、ドラゴンくらいしか傷も付けられないんだってスゴイよねー。

 そしてドームって所の入り口に着いて、またカードを通して待って居たら、ものすごく広い扉(ゲートシャッターって言うんだって)が少しずつ上に上がって行き、スゴく広ーい場所が目の前にあった!

 確か私、トンネルを通って「魔の大樹海」の開拓地って場所に来たんだよね?!

 なのに目の前には、スゴく広ーい空間があって遠くにはものすごく高ーい塔があり、通りがまっすぐに伸びた街並みがキレイに並んでいる!

 親子でポカ~ンと口を開けていたら兄ちゃんが笑いながら近づいて来るのが見えた。

 久し振りに見る兄ちゃんは、もともと大きくて強そうな見た目だったけど、なんだか背は同じだけどスゴく締まってスマートになっていた。

 聞きたい事だらけすぎて頭の中ぐちゃぐちゃで上手く言葉が出なくなっちゃってたら、珍しく気を効かせた兄ちゃんが、

 「取り敢えず家に荷物を置いて、沸かしてある風呂に入り旅の垢を落としてから説明するよ。」

 と兄ちゃんらしくない気づかいまでしてみせた、気味が悪くなっちゃって、

 「ほんとに兄ちゃん?」

 と尋ねたら頭を軽くハタかれた、その家にいた時の兄ちゃんのいつもの対応で、ようやく父ちゃんと母ちゃんも安心したのか家族で抱き合い、お互いの無事を笑いながら祝った。

 いままでの旅の道のりをしゃべりながら通りを進むと、横に長く四角い建物が列になって見えてきた。

 「ここの4階だよ。」

 と中央の広い階段を荷物を両肩にのせて兄ちゃんが軽い調子で話してるけど、兄ちゃんしばらく会わない間にスゴイ力持ちになってる?!

 父ちゃんの仕事道具が入ってるその荷物一つ60キログラムも有るのに両肩に一つずつのせて大したことなさそう。

 私がスゴイねと聞いたら、

 「アラン様の訓練に従って鍛えていたら、最近その成果が出てルドヴィークに居た頃より2倍は強くなったよ。」

 と笑いながら答えてくれた。

 すっかり頭から消えてたけど、そうだよ!もうちょっとしたら憧れの「アラン様」と「クレリア姫様」に会えるんだった!

 お風呂が沸いてるなら出来る限りキレイにしなくちゃ!

 表札の出ている部屋に入って兄ちゃんがボタンを押したら簡単に明かりが点いた。

 えっ、これってもしかして魔道具の明かり?!

 ルドヴィークに居た頃はロウソクや油の灯りだったのに、と思いながら自分の部屋と案内された部屋にも魔道具の明かりがある?!

 もしかして全部の部屋に?!

 気になって見て回ったら全部屋にあり、それどころかベランダや廊下にもあった!

 なんてゼイタクなのと感心してたら、父ちゃんと母ちゃんが興奮気味にお風呂から出てきたので、私も期待しながらお風呂に向かう。

 うわあ~、スゴイよ!!いきなり全身が映る姿見だよ!!!

 お姫様でもないと持ってないと言われてるのに、兄ちゃんスゴイお金持ちになったのかな?

 そして肝心のお風呂を見たら、大きい!私が寝そべって入る事が出来る広さだ!!

 しかもお湯を沸かす為のマキを燃やす所が無い?!

 まさか?と疑いながら蛇口をひねると赤い印がある方から熱いお湯が出た。

 もう感動しっぱなしで驚くのに慣れてきたはずなのに、私は今後井戸の水汲みの仕事がなくなり湯を沸かすマキ作りと燃やしの作業がなくなることが嬉しくて泣いちゃった。

 お風呂から出てリビングに行くと、父ちゃんと母ちゃんが交互に兄ちゃんに質問していた。

 兄ちゃんは苦笑いして、

 「気持ちは判るけど、急いで一番良い服に着替えてくれ、「クレリア姫様」と「アラン様」が歓迎会の用意をしてくださってるのだから」

 と答えたので、そうだったと両親は慌てて旅の途中で皆に配られた正装へと着替え直した。

 私はもう着てたので問題なしだよ、エヘン!

 全員着替え終わって、中央広場って所に向かう。

 途中で友達家族と合流したら、やっぱり全員着飾ってたので友達とからかいあいながら会場へと入る。

 入り口でカードを確認され、旧スターヴェーク王国関係者以外が入れないことを説明される。

 みんな席に着いたら、見たこともない服で正装したクレリア姫様が壇上に立たれ音を拡大してくれる魔道具を前に話された。

 

 「皆、よく此処コリント領に来てくれた。

 改めてこのクレリア・スターヴァイン感謝する。

 恐らく皆は話を聞いた当初「魔の大樹海」の領地とは人が住めるのか?と疑問を感じた事だろう、私自身も聞かされた当初は有り得ないと疑ったものだ。

 だが見ての通り十分人の住める環境は整っている、いや、元のスターヴェーク王国の生活より住心地が良いとすら言えるだろう。

 此等全ては此処にいるアラン・コリント卿の尽力によるものだ、私クレリア・スターヴァインは改めてアラン・コリント卿に感謝を申し上げる。

 本当にありがとう。

 さて此処にいるのは旧スターヴェーク王国関係者だけだ。

 なので皆に我々の今後の方針を伝える。

 我々はスターヴェーク王国を奪還し、混沌としてきた大陸情勢に対して対抗出来る体勢を整える。

 詳しくは今後順々に説明して行くが、皆もこの目標に向かって行動を共にして貰いたい!」

 

と手を大きく広げられた。

 

みんな感動したのかすすり泣きが聞こえてきた。

 

そしてクレリア様がもう一度話された、

 

 「皆、ありがとう。

 だが取り敢えずは家族、友、同士との再会を喜び食事と酒を酌み交わし明日からの英気を養って貰いたい、それでは乾杯の音頭をアラン・コリント卿に取って貰う。」

 

 憧れのアラン様が壇上に登られた!

 初めて見たアラン様は見たこともない服を着ていて、クレリア姫様の横に並ばれると、正装したアラン様とクレリア様はスゴくお似合いで、兄ちゃんが信じてる男神(アラミス神)と女神(ルミナス神)の様に見えて思わず「うわあ~っ」て声が出ちゃった。

 そしてアラン様が話された、

 

 「紹介に預かったアラン・コリント男爵だ。

 

 遠路はるばる皆保証も無い中此処コリント領に来てくれた事有り難く思う。

 明日からは此処の生活の為のレクチャー等で忙しくなるが、今夜は其れ等は忘れ大いに食べ飲んで英気を養って戴きたい。

 

 それでは乾杯!」

 

 特に大きな声で話されたワケじゃないのに、心に響き渡る声に私は感激しちゃった!

 明日からはこの人の指導で新生活が始まるんだね、期待でワクワクしながら隣の友達と大人の様にジュース(フルーツを絞った飲み物)で乾杯して、見たこともない美味しい食事をお腹いっぱい食べて、最高に幸せを感じつつこれが夢でないことを願いながらフカフカのベッドで眠った。

 

 




漸く諸々の仕事が一段落して暇が出来ます、嗚呼疲れたー。
この一週間は全然手直ししてない文章を予約投稿してました。
きっと誤字脱字だらけだろうな(汗)
なので折角感想コメントを貰ってるのに返事出来たのは本日になってしまいました、大変申し訳無い(謝罪)
今後も多忙な時は、感想コメントへのレスポンスは悪いとおもいますがなるべく返答致しますのでお手数おかけしますが、過去の感想コメントに遡って読んで下さいね。


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閑話④ 「ガトル親父の雑記」① (親父、あの夕日に誓うの巻)

  俺は、今の今まで日記なんて気の利いたモンは書いた試しがねえ!

 でもよ、カワイイ娘が自分の日記帳とは別に俺とカカアの分まで買ってきて、プレゼントってヤツをしてくれた!

 照れるじゃねーか、コンチクショウめ!

 娘の手前書かないわけにはいけねーし、息子のケニーも偉そうに書いているようだ、俺とカカアもコリント領に来たついでだ、心機一転てヤツでいっちょ書いてみるか!

 

 6月某日 (日にちなんて覚えてねーんでこれからもこれで行くか)

 

 ここコリント領へ来ての驚きなんざ、娘や息子が散々っぱら書いてるだろうから、これ書いてるのも2ヶ月も後だしもう驚きには慣れっこになっちまてるし、細かい事なんざ覚えてねーや。

 

 6月某日

 

 職業訓練所て所で、久し振りに読み書き計算を復習させられたぜ、でもよ鍛冶師て職業柄全部日々使ってたんで特にわかんねー事はねー。

 隣の元農民出身の「ドップ」って奴が計算が苦手そうで、恥ずかしそうに指で数えてやがったが、

 「こんな事は鍛冶師にとっては些事だ、良い鍛冶師ってのは如何に鉄を叩けるかだ、要は腕っ節よお!」

 って言ってやったら。

 大きな体のくせに小さな声で。

 「ありがとうございます」

 て抜かしやがった。

 なんだよ、照れるじゃねーか。

 

 7月某日

 

 職業訓練所を卒業し、8月から稼働する工場とやらに入る準備期間をスターヴェーク王国だけでなく、ここベルタ王国の王都から来たヤツ等も交え、大きな工房で鎧と鎖帷子そして大型と小型の盾を大量に作る事になったんだが、肝心の材料がてーへんなモンだった。

 俺は、鉄や銅他には錫、真鍮は扱ってたがドラゴンの鱗を取り扱うのは初めてだ、然も軽いクセにこの鱗はなんて硬えんだよ、俺の愛用の鎚が曲がっちまったぜ!

 そのざまを見てたボットてヤツが、工房の壁に大きさ別に並んだ銀色に鈍く光るハンマーを持ってきて「コレヲドウゾ」って差し出してきやがった。

 未だに人でもねえヤツに普通に話かけられるなんざ、慣れねえけどあのドラゴンの「グローリア殿」とも普通に話せるご時世だ、いつかはそこら辺でくつろいでいる、犬や猫更には馬や牛から突然「今日は晴れて良かったですね。」とか声を掛けられる日が来るかも知んねえ、何ともスゲえ世の中になったもんだぜ。

 差し出されたハンマーは硬さに比べ軽くどんな金属で出来てるんだか見当もつかねえが、頑丈そうなのは確かだ、試しに鱗を叩いてみたら簡単に拉げやがった!

 なんてハンマーだ!あのドラゴンの鱗をヤスヤスと壊せるなんざ、お伽噺で俺の大好きなトール神が振るった「トールハンマー」くらいしか思いつかねえや!

 まさかこんなに「トールハンマー」が数多く有る筈ねえし、やはり噂になっているアラン様のお国の技術の産物に違いねえ、全く凄え話だアラン様の大陸は相当進んでいやがるんだろうな、いつかは行ってみてえもんだ。

 

 7月某日

 

 なんとなく気があってドップと相方になり工房で一緒に作業をしてたら、とんでもねーモンが運ばれて来やがった!

 なんでも「ダイナモ」って名前なんだが、正式名称は魔導発動ウンタラカンタラってなげー名前なんで「ダイナモ」で通すらしいぜ。

 こいつは「魔石」の魔力を喰ってシリンダー(なんだか飛び出てる棒みてーなやつ)部分を回すらしいんだが、この回転するてーのがミソだ!

 つまりよ、人様が人力でしなきゃならねえあらゆる作業を、この「ダイナモ」の回転する力を別の動力、例えば車軸を回す力を歯車の噛み合わせで、早い回転と力強い回転に切り替えたら馬車の馬が要らなくなっちまう。

 他にもカカアが働いてた裁縫の工房でも「ダイナモ」を使用すりゃ、厄介な縫う作業と洗う作業を人力でする必要がねー事になる。

 こりゃ、みんなが最近口癖のように寄ると触ると話題にする「先進的技術」「未来科学」ってヤツの根本そのモノなんじゃねえか?!

 一介の鍛冶職人でしかねえ俺でもこの「ダイナモ」がありゃあ、今迄夢描いてた便利な魔道具を作れるかも知んねえ!

 横に居るドップに、

 「俺の道楽だが便利な魔道具作成をしてみてえから手伝ってくれねえか?」

 て言ったら相変わらず小さな声で、

 「勿論ですよ。」

 と気持ち良く二つ返事で応じてくれた。

 よーし、見てろよー、必ずみんな魂消る魔道具を作って、クレリア姫様とアラン様に献上してみせるぜ!

 

 7月某日

 

 俺とドップはボットに作成してみてえ魔道具の説明をしたら、空いている工房と「ダイナモ」10機、更に工作用の器材を十分過ぎる程用意してくれ、隣の倉庫にこれでもかって量の資材と各種の金属鋼板を積み上げてくれた。

 なんて太っ腹なんだい!クレリア姫様とアラン様は!!

 俺とドップは、必ず期待に応えてみせるぜ!と職人魂を燃え上がらせて、あの夕日に向かって誓った!

 



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閑話⑤ 「ガトル親父の雑記」② (親父、親方になるの巻)

 7月15日(この日だけは忘れねーぜ)

 

 俺にとっては、かなり驚れーた日だ!

 アラン様と2人の美女が動く魔道具をモニターで大公開されて、みんなも驚れーた様だが俺の驚きは他の連中とは別の意味でショックだった。

 俺よりもっと凄え事を考えてる天才がいて更には、四輪駆動だけでは無く二輪駆動も実用化している現実に打ちのめされちまった。

 一瞬落ち込んじまったが、直ぐに落ち込む必要のねー事に気がついた。

 この{モト・ローラー}と{モト・サイクル}は確かに凄え代物だが、俺の考えてた用途と若干違うという事に。

 先ず俺の考えてた用途は、あくまでも馬車の馬部分を代替えするもので速さは特に求めて無く、力強さをひたすら求める代物だ、何故なら俺が考えてるのは馬より牛にさせる作業の代替えだし車輪もあんな小さくなくて車体並みにでけーものだ。

 早速仕事道具の入った袋から紙を取り出し、{モト・ローラー}と自分の考えてる比較表を書いてみた。

 明日ドップの奴と8ちゃん(ボット8号さんなんて言い難いからこれにした)に見せて、これから作る四輪駆動の概要を決めちまおう。

 

 7月16日

 

 昨日の比較表を2人に見せ、主に使う作業は農作業の田起こしと畑起こしそして刈り取りで、ついでに諸々の荷物を引いたりする力作業が出来ると力説する。

 するとあのドップが顔を真っ赤にして大きな声で、

 「是非作りましょう!」

 といつものドップとは思えねえ熱意で賛成してくれた。

 後から聞いたらドップの親父さんは、畑作業のし過ぎで腰を壊しそのままポックリ死んじまったんだと、それというのも貧乏で農作業用の鉄製品が買えず、木製品で作業してたらしい。自分が鍛冶職人に転職したのもそれが理由だそうだ、俺もそれならもっと別の農作業にも使える様に工夫しようぜと手を握り合った。

 その間、大人しく聞いてた8ちゃんが突然大きな製図表に猛烈な勢いで魔道ペンを走らせていった。

 俺とドップは驚れーて見てたら、なんと俺が書いて見せてた比較表を寸法や材料の品質を注釈まで付けて清書しちまった。

 凄えぜ、8ちゃんと褒めてやったら、早速試作品の作成に取り掛かってもらう為に人員を20名明日手配します、と突然言いやがったので、おいおいそんな簡単に決めれるのか?と問いただしたら許可は取ってありますと返事して来た。きっと予めお偉いさんの許しを貰ってたんだろうな。

 

 7月17日

 

 工房前に元孤児院出身者の20名が整列してた、何やら凄え緊張をしてるので、どうしたんだ?て聞いたら昨日アラン様自ら職業訓練所に来られ、車両作成訓練を受けていた自分達に実地での訓練をして欲しいと直接願われたそうだ。

 俺の車両の事がアラン様のお耳に?!て驚れーてたら、8ちゃんが幹部上層部も大いに期待してますよ、とみんなに向かって話したので、全員気合の入った顔になり早速工房に入り作業に取り掛かった。

 作業工程は分解図を皆に渡しそれぞれの役割分担を8ちゃんが割り振って、先ずは10分の1の模型を作成するのだが、8ちゃんの分解図が丁寧なお陰で木で作る模型は1日で出来上がった。

 そして明日までにその構造を各自が把握して、理解しろと命令したら

 「親方判りました!」

 と一斉に返答してきた。

 ああ、そうか気付かなかったが、俺はいつの間にか親方になってたんだなと今更のように気付いた。

 

 7月18日

 

 昨日の模型の10倍の大きさの木で作る試作品の試作品とも呼ぶべき車両作成に取り掛かる。

 工具が優秀で寸法も正確だから作業が進む進む、あっという間に木の部品は出来上がったが、肝心の「ダイナモ」との接合そして歯車を噛み合わせて、前進後進を切り替える部分の削りに手間取った。

 

 7月21日

 

 漸く手間取った部分も納得がいく出来になり、早速試してみるが所詮木なのであまり「ダイナモ」の強さは上げられねー、しかし曲がりなりにも歯車が噛み合い車軸が回り車輪が回る!

 その瞬間皆が歓声を上げた。

 そりゃそうだ、つい最近までずぶの素人でしかなかったてーのに、動く魔道具を作りあげたんだからよ、感動しねー方がどうかしてらー。

 粗組みしてみて工房の外で動かしてみる、5分間くらいは問題なく前進後進出来たがやはり所詮は木製でシャフト部分が折れちまった。

 だけど車両として動くのは確認出来た、いよいよ鋼板で作成するぜ!

 

 7月26日

 

 まだ公開されてねーが、工場とやらから部品と車軸そしてシャフトとギア(歯車の噛み合わせ部分)が鋼材と共に提供されたんで、俺たちは外装と組み立て作業をやって試行錯誤してたら8ちゃんが奇妙な箱を持ってきた。

 なんでも集積回路てヤツで、例の{モト・ローラー}に使われている速さの加減速を自動で行い、更には部品への負荷がどうか?とか諸々の作業をやってくれる優れもんだそうだ。

 どうやらアラン様は俺等に期待してくれてる様だ、絶対に成功させてみせるぜ!

 

 7月30

 

 試作品が出来上がったと報告を出してたんで、アラン様とクレリア姫様が工房に来て下さったが、何故か息子と娘まで来た。

 息子に聞くとクレリア姫様の護衛と自分の父だという事らしい、それは判るが娘がわからねえ。

 娘に問うといつの間にか、クレリア姫様と仲良しになったと言う。

 失礼な事はしてないだろうなと念を押すと、クレリア姫様が、

 「問題無い、時々カー君とバンちゃんを連れて来てもらって一緒に遊んでるだけだ。」

 と仰られた。

 カー君とバンちゃん?と疑問に思ってたら、娘が教えてくれた。

 例の息子が拾ってきて娘にあげた2匹の「カーバンクル」の名前なんだそうだ、そのまんまじゃねーかなんてネーミングセンスのねー娘だ。

 そう云えば、最近は家にも帰らず工房で寝起きしてたから、家の状況知らねーまんまだった。

 そうこうしている内にドップが、

 「親方、準備出来ました。」

 と威勢よくでけー声で言ってきた。

 最近はドップもあんまり工房内がうるせーんで、どうしてもでけー声でなきゃ聞こえやしねーから、自然とみんな声がデカくなっちまうが、しょうがねーやな。

 さて乗る奴は、一番操縦が上手かった「ハロルド」が務める。

 「始めます。」

 との合図と共に俺たちの試作品の車が動き出す。

 最初は恐る恐るゆっくりと、そして段々と速度を上げ人が走るくらいまで速度を上げ、ゆっくりと止まったら今度は後進してみる、グルグルとその場で左右に回ってみせてからお披露目は終了した。

 アラン様とクレリア姫様が盛大に拍手してくださり、作業に加わった作業員達が誇らしそうに顔を上げて赤くなっていた、そこへアラン様が声を掛けて下さった、

 「素晴らしい、この車は魔道具に於いての一大革命といって良い。

 先日の{モト・ローラー}と{モト・サイクル}は私の故郷の技術のコピーに過ぎないが、この車はコリント領の領民である貴殿達が試行錯誤して、生み出した独自の物だ。

 来月から工業ブロックの工場が稼働を始め、{モト・ローラー}の量産に入るがこの車も生産ラインに乗せたいので、更に改良に努め秋の収穫時期には農業ブロックでの実用を目指して貰いたい。」

 と仰せられた。

 こりゃー凄え事になったぞ!と皆でうなずき合ってたら、クレリア姫様まで、

 「貴方方の懸命な努力そして出来た魔道具の完成度に、私も感動している。

 素晴らしい成果だ、今後も期待している。」

 とのお言葉を戴き、思わず俺とドップは平伏してしまったが、作業員の連中も感極まったのか同じく平伏してたので、妙に思われる事はなかった。

 お帰りになられるお2人と息子、娘を眺めながら全員に向かい俺は、

 「皆良くやってくれた、俺も親方として鼻が高い。

 今夜はお祝いの宴をフードコートでするから、早めにあがる。

 だが明日からはアラン様に仰せつかった様に、改良を重ねて量産出来る物にしあげるぞ。

 気合をいれて頑張って行くぜ!」

 皆、「オオーッ!!」

 と応えて、満足の内に試作品のお披露目は終わった。

 



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閑話⑥ 「マゼラママの徒然日記」①(主婦の呟き 新生活は大満足!!)

カレンから日記帳をプレゼントされて、困ってしまった。

 今迄私、買い物メモや忘れない為にメモをとるくらいしか書き物なんてしたことないもの。

 でも折角だし、この素晴らしい新生活を後で振り返るのも良いかもと思い直して、慣れないけど日記をつけてみようかしら。

 

 6月12日(この日から新生活始まりよ)

 

 コリント領に到着、諸々の信じられない光景を見せられたけど、それは後で思い返すとしてサッサと荷物を新居に置いて楽になりたいは~、とため息混じりに周りを見回すと息子のケニーが笑いながらやって来るのが見えた。

 旅の途中からケニーの伝言が、「黒」という人達から通達されてたから無事なのは判ってたけど元気そうでほっとしたが、なんだか以前より痩せて見えてちゃんと食べてるのかしら?と不安になる。

 喋りながら新居に案内してもらっている途中も、主婦の目は街路の様子や井戸はどこに有るのか?ゴミ捨て場はどこか?と生活の基礎の部分の確認をするが、井戸もゴミ捨て場も見つからない。ここは本当に生活出来る街なのか疑問を感じてしまった。

 ケニーがある建物の前で止まり、

 「ここの4階の1部屋が家だよ。」

 と言うので細かく主婦の目でチェックする。

 先ず建物の材質がいきなり分からない、ケニーに聞くと鉄骨を内部に入れた強化セメントだと説明を受けた。

 えっ、セメントって石と石の間を補強するもっと柔らかい材質よね、こんなに硬い筈無いんだけどなあ。

 その強化セメントとやらで作られた、異様なまでに真っ直ぐに整った階段を登り新居に辿り着く。

 「鍵は?」とケニーに聞くと、表札を指差しそこにカードをかざせば良いと言うので試してみたら「ピッ」と音がしたのでドアのぶに手を掛けると、スムーズにドアが空いた!

 なにこれ、このカードって鍵でもあるの?こんな薄っぺらい物をもし落としたら、拾った人が悪い人間だと全て奪われてしまうじゃない!

 怖くなってケニーにその辺を聞いたら、

 「大丈夫、このカードは他人が使えない様に工夫している魔道具だし、もし失くしても一定間隔に有る交番という所に届け出てそこに落とし物として届いて無くても、役所に行けば直ぐに新しいカードが発行され以前のカードは使えなくなるよ」

 と説明された。

 凄い魔道具、こんなの噂でも聞いた事無いから王侯貴族も持って無いんじゃないかしら?

 フワフワした気持ちで部屋に入るとカレンが興奮した様子で、全部屋に魔道具の明かりがあると叫んでいる。

 カードの件もあるからそうかもと主婦の目で細かくチェック。

 するとカレンが把握出来なかった所にも魔道具の明かりがある事が判る、凄いわ!だけどそうすると魔石を魔力が無くなったら買わなければいけないから、逆にお金が掛かり過ぎるんじゃない?

 とケニーに聞くと、

 「この入口近くにある、魔力充填BOXという魔道具に、魔力の切れた魔石を嵌めると大体4時間位で魔力が回復するから」

 と信じられない事を話したので、「最近の魔道具って便利ねーっ」と感心したらケニーは苦笑して、

 「そんなワケ無い、この魔道具はコリント領だけのオリジナルだよ、だから領民以外の人には当面は秘密。」

 と言われたので、考えてみたら魔石が半永久的に使えたら、魔石を扱っている商人にとっては死活問題になるからコリント領だけの秘密なのは納得がいった。

 ケニーに勧められ一番風呂に入る。

 洗面所の姿見が大きいのに驚くが、疲れているので風呂場を開け浴槽に直ぐに入る。

 気持ちの良いお湯に心が落ち着き、ゆっくりと風呂場を見渡す。

 ツルツル感のある浴槽で、陶器とは違う感触だが陶器のヒンヤリとした冷たさより浴槽に向いているなと思い、蛇口を見ると青と赤のバルブがある、もしかしてと思いながら赤のバルブを捻ると熱湯が出た。

 この魔道具は貴族の家には有ると聞いたことがあるので直ぐに判ったが、よくよく考えるとつまり貴族並の浴槽に現在私は入浴してるんだと感動した。

 風呂場から出て普段着に着替え、夫とカレンが風呂をでるまで気になった物を色々と確認していく。

 台所は、キレイで特にシンクが金属で出来ていて汚れが残らなそうで好感が持てる。

 流石に皿数と包丁は少ないので、持参した物を取り敢えずは入れていき、足りない分は買い足さなきゃと考えながら気になっていた、白い大きな箱を開けてみる。

 突然冷気が顔に当たり思わず閉じてしまったが、恐る恐るゆっくりと開けてみたら瓶と少しの食材が見える、手で確認すると思った通りに冷えている。

 やはりこれは、レストラン等に有る冷蔵庫だ。

 でもこんなに小さいサイズは見たこと無いなーっと引き出し部分を開けてみたら、氷があり更に凍った肉まで有る。

 もしかして冷凍庫?!

 凄い、個人宅に冷蔵庫と冷凍庫が組み合わせさった魔道具とは、想像もつかなかった!

 ということはこれら優れた魔道具の恩恵を今日から家族全員が受けられ、しかもその恩恵を一番うけるのは主婦である私だ。

 家族全員お風呂を堪能し、中央広場での歓迎会を終え良い気持ちで夜風に当たりながら、私はこの素晴らしい新生活に子供みたいにはしゃぎたくなる気持ちを抑えながら、つくづくルドヴィークを出る決断をしたあの時の自分と夫に感謝した。



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閑話⑦ 「マゼラママの徒然日記」②(主婦の呟き コリント領四方山話)

 6月19日

 

 服飾工場勤務の為に専門の職業訓練校に通い始め、同世代の母親達と仲良くなりお昼ごはんはフードコートで食べて、そのまま奥様方の井戸端会議が昼休みの間にするのが日課になりましたの。

 なんて優雅なのかしら、ルドヴィークに居た頃は基本的に食事の用意は主婦の仕事というのが当たり前だったのに、コリント領に来てから数えるくらいしか食事を作っていないのよ、他の奥様方も同じで人によっては一切作っていないそうよ。

 それも無理は無いわね、とフードコートで注文したパスタとピザを美味しく頂き、否応なく顔をほころばせながら思う。

 だってどう考えても自分達が作るよりも、このフードコートで食べる料理の方が美味しいもの!

 そしてなんといっても安い!(主婦にとってはこれが一番大事!)

 昼食に掛かるポイントは500、つまりギニーなら5ギニーしか掛からないの!

 これだけ美味しいのにこの値段だからか、フードコートは3箇所(まだまだ増えるらしい)有るのに、並ばないと入れないし席も争奪戦なの、何故なら商売人やその護衛の人もここで食べるし、しかもその人数増え続けてるみたい。

 凄いわよねー。

 

 6月26日

 

 コリント領に来て2週間経ち、諸々の新生活のやり方にも馴れて来て色々と便利な方法も判って来たわ。

 なんといっても一番便利なのは、柔らか巻紙(トイレットペーパー)よね!

 最初は使い方が判らなくて、手を拭いてしまったけどケニーに教わって正しいやり方が判ったの。

 でも凄いわよねー、このトイレットペーパーは王侯貴族でも使用しているのはごく一部で庶民が使う事なんてコリント領以外では有り得ないんだって。

 クレリア姫様とアラン様には感謝だわ。

 二番目はMM(マイクロマシン)の粉よ。

 このMM粉は、生ゴミを溜めた容器に適量振りかけると1日もすればあら不思議、匂いもしない良質な土になってるの、この土は花壇やベランダで栽培している家庭菜園に利用させてもらっているわ。

 

 6月28日

 

 この日は、1週間に1回のゴミ収集の日なの。

 朝8時にこのマンションには来て、生ゴミ以外のゴミを馬車で回収して行き工業ブロックにある高温焼却炉で燃やすんだって、その際例のトイレットペーパーとティッシュペーパー(柔らか正方形紙)が適量もらえるの。

 こんなサービスがある領地って他にあるのかしら?

 

 7月2日

 

 工場勤務に入る為の実地訓練をする為、洋裁工房で訓練をすることになったわ。

 幸い基礎は、ルドヴィークに居た頃からこなしてるし職業訓練校でじっくりと復習も出来たから自信があるわ。

 早速、クレリア姫様とアラン様の従者や職員用の制服の制作に入る。

 実際服の作成は問題なかったけど、手間取ったのは紋章と記章部分ね。

 流星をイメージしていてカッコイイんだけど、結構細かいのよねー。

 でもベルタ王国出身者の奥様方にはまだ秘密だけど、私達旧スターヴェーク王国出身者にとってはこの紋章と記章こそが、「新生スターヴェーク帝国」の国旗であり紋章、どうあってもテキトーに縫う訳にはいかないわ!

 

 7月16日

 

 一通りの発注分の作業が終わったので、いよいよ最新式のミシンの講習に移ったわ。

 普通の足漕ぎミシンは、制服作成でも使ってたから問題無いけど最新式のミシンは、高機能な魔道具で足漕ぎは必要なくて、あらゆる縫い方や各種の糸に対応して更には刺繍まで全自動で縫えちゃうんだって?!

 試しに志願して、例の紋章と記章を布に刺繍する様に選択すると凄い速さで縫い始めて、寸分違わず完璧な紋章と記章の刺繍が完成したわ。

 なんて便利なのかしら、これなら今までの作業が10分の1の時間で済んじやうわ!

 噂では2万人に及ぶ旧スターヴェーク王国からの脱出者達が、ここコリント領を目指してるそうだし、その人達は私達早期の脱出者と違い、かなり困窮した上で脱出したようで、着の身着のままの人もいるらしいので、せめて服だけでも良いものを着せて上げなくちゃねとみんなでうなずきあった。

 

 7月31日

 

 今日は訓練最終日、いよいよ8月からは工場勤務の始まりよ。

 ここに至るまで、本当に色々あったけど今の生活には大変満足してるから、クレリア姫様とアラン様への御恩返しに工場勤務を頑張るわ!

 

 



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14. 9月の日記②

9月19日

 

 ゴタニアの面々も新居に移られ、徐々に新生活を営み始められて来た最中、ファーン辺境伯とブリテン伯爵、フランシス子爵から、是非来訪したいとの連絡が届きアラン様からファーン辺境伯のお迎えに随伴する様に命じられた。

 この日までにグローリア殿と各ワイバーンの搭乗スペースは改良され、オプショナルパーツにより取り外しの効く「戦闘用」「通常用」「荷物用」が用意され、今回は「通常用」が使用される事になった。

 「通常用」は長時間での空の旅を考え例のアクリル板を全面に使用し、乗り込むドアも透明でグローリア殿の場合は8名搭乗出来、ワイバーンは3名搭乗出来る。

 早速取り付けファーン辺境伯領に向けて、アラン様の搭乗するグローリア殿と自分を含むワイバーン5頭が出発した。

 4時間程掛けてファーン辺境伯領に着き、予め決めていた離着陸用の兵士訓練場に降り立つと、其処には出迎える為の人員とグローリア殿とワイバーン用の食事まで用意されてあった。

 流石だなと感心しながら、ガイの食欲旺盛な食べっぷりをお茶を飲みながら眺めていると馬車が数台やって来て食事と会談の用意が出来ました、と伝えて来たのでアラン様と共に馬車に乗り込み城へ向かった。

 ファーン辺境伯とそのご家族との和気藹々な食事会を終えて、アラン様とファーン辺境伯だけの会談が行われている間に、ファーン辺境伯の息子兄弟がグローリア殿とワイバーンの見学に来られた。

 兄君のレオン様は知的な風貌でこの国では珍しく眼鏡を掛けておられ、その眼鏡の奥の瞳を輝かせてグローリア殿と会話に熱中されている。

 弟君のカイン様は如何にも武人といった厳つい風貌で、先の戦いでもファーン辺境伯と城壁上で奮戦されたそうで、恐気もなくガイに近付き自分に先の戦いでのワイバーン隊の活躍と、どの様な能力をワイバーンは持っているのか?等の武人らしい質問をされ、自分も機密事項以外の内容を明かし会話を弾ませた。

 1時間程経ち、アラン様とファーン辺境伯が連れ立ってやって来てファーン辺境伯とカイン様がコリント領に向かい、レオン様が留守居役として残る事になった。

 レオン様はグローリア殿との会話を打ち切られた事と噂に聞くコリント領に今回行けない事を大変残念がり、次回は必ず同伴させて下さい!と強くファーン辺境伯に願い出られ、ファーン辺境伯は苦笑しながらアラン様に次の機会を設けて頂けるかな?と尋ねられアラン様は快く了承された。

 グローリア殿にファーン辺境伯と随行する家臣の方々が乗り、ワイバーンに荷物を乗せて行く手筈なのだが何故かカイン様は自分の後部座席に乗っている。

 カイン様がどうしてもガイに乗りたいと主張し、流石に操縦席に乗せられないので自分の後部座席に乗せる折衷案が採用され、カイン様も納得して後部座席で満足しているようだ。

 グローリア殿始めワイバーン隊は、いつもに比べゆっくりと離陸し比較的に低空を飛びコリント領を目指し出発した。

 カイン様は初めて見る空からの景色に感動され、興奮した感想を自分に述べられた。

 行きと同じく4時間程掛けてコリント領の玄関街に到着した。

 この玄関街の作業員や商人達はワイバーンの離発着には慣れているが、めったに無いグローリア殿の降着に注目はしていたが、だからといって作業の手を止めてまで見学に来る程では無いのか、それ程騒ぎにはならなかった。

 しかし、ファーン辺境伯とカイン様そして家臣の方々は、「魔の大樹海」の入り口と云うべき場所に街が有ることに驚かれ、その街を取り囲む様に敷かれた複数のレール線と駅舎を見て何に使用するのか?と訝しんだ。

 そのレールの上を豪華な車両を引く{モト・ローラー}が現れ駅舎に到着した。

 ファーン辺境伯領の方々は驚愕されながらも、貴族の威厳を保たれて車両にアラン様と共に乗られ生活ブロックの有るドームに向かわれ自分はガイに乗りグローリア殿達と一諸に軍事ブロックへと帰った。

 

 9月20日

 

 野外訓練をしているとファーン辺境伯領の方々が視察に来られた。

 直ぐに訓練を止めて挨拶に向かおうとしたが、アラン様が大声でそのまま訓練を続ける様にと命令されたので編隊飛行に戻り訓練を再開する。

 今現在訓練している内容は「連発グレネード」という魔法で、本来ドラゴンであるグローリア殿にしか出来ない「連発グレネード」を、ガイの火球に自分の「ファイアーボール」を融合させる事で可能にし、グローリア殿に比べれば威力は落ちるが、戦場における面制圧をワイバーン隊だけで出来るようにしてグローリア殿との連携で戦術の幅を増やす訓練である。

 ファーン辺境伯領の方々も感心した様子で訓練を視察され、他のブロックの視察の為に{モト・ローラー}に乗りドームに戻って行かれた。

 

 9月22日

 

 ブリテン伯爵とフランシス子爵そしてその家臣団が、例の豪華車両に乗り生活ブロックに到着されて、落成したばかりの「迎賓館」横の「ホテル」に向かわれた。

 我々「空軍」は上空から護衛していたのだが、あまり低空で近づくと馬が怯えてしまうのでブリテン伯爵達は気付かなかった様だ。

 驚愕しきりの一行は、先に来ていたファーン辺境伯と会い、互いの健勝を称え合った後「迎賓館」での宴に臨まれた。

 来賓の方々に正装のアラン様とクレリア姫様は挨拶を交わし、今後のお互いの親密な交流と物流及び技術の発展の為の、道路等のインフラ(社会基盤だそうだ)整備を積極的にコリント領で受け持つので、是非人材の提供と人的資源投入をお願いされ、ファーン辺境伯、ブリテン伯爵、フランシス子爵は、我等こそお願いすると快諾してくれた。

 その後、アラン様とファーン辺境伯、ブリテン伯爵、フランシス子爵は、「黒」の頭領であるエルヴィンそして前宰相ヴェルナー・ライスター卿を交え秘密の会談を行い、今後のセシリオ王国への対応と現宰相ヴィリス・バールケ侯爵への対処、そしてベルタ王国での立ち位置を話合ったらしい。

 

 



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15. 9月の日記③

 9月23日

 

 ファーン辺境伯、ブリテン伯爵、フランシス子爵が泊まるホテルの近くのビルに、それぞれの仮の領事館が用意され、それぞれの領地との直通連絡手段を設けるべく改装作業が行われた。

 昨日の秘密会談で決まった諸々の件での連携の為には、スムーズな情報共有は必須事項である、そして器材のそれぞれの領地への運搬は、まだ道路等のインフラ整備が出来ていない以上は機密保護の観点から、現状ワイバーン隊が適任であり、「放送局」の人員も伴い、将来のテレビ放送(コリント領で日々モニター画面で放送しているニュースや音楽広報の事を指す)の為の試験運用を貴族宅で行うべく設置作業をさせる。以上の内容をダルシム副官から通達され、近いうちにファーン辺境伯、ブリテン伯爵、フランシス子爵の其々の領地に向かう事になった。

 

 9月25日

 

 カイン殿(様と言われるのが苦手ならしく、殿とつける事になった)がコリント領にするファーン辺境伯領駐在武官に正式になられ、公開して問題無い訓練等に参加される事が決まった。

 余程ワイバーンのガイで空を飛んだ経験が気に入られたらしく、「空軍」の訓練に優先的に参加されたいようだが流石にファーン辺境伯のご子息を竜騎士にする訳にはいかず、ヴァルター第一軍指揮官が預かることになった。

 やって来た大移民団と、ゴタニア始め諸々の市町村からの難民等の流入人口がコリント領民として新たに加わり、現在コリント領民は約4万人という規模に膨れ上がり、その中には当然前職が軍関係の者や志願兵もおりその数は千人を超えた。

 よってアラン様は新たに軍団を2つ創設され、其々500人の2軍団を編成された。

 

 第一軍・・・・・ヴァルター第一軍指揮官が長で、「近衛軍」「支援軍」と違い騎馬を使わず、現在量産している{モト・ローラー}(以降車両)、{モト・サイクル}(以降バイク)の戦闘用タイプの物を運用しその圧倒的な機動力と攻撃力で、「紅」とは基本別行動による機動戦力として運用する。通称(機動軍)。

 

 第二軍・・・・・ハインツ第二軍指揮官が長で、ブルーノ、パウル、ランドル、ローマン、ウッツが5つの隊を率い、主に補給を担当し車両の中でも大型の「トレーラー」を運用し、補給物資の大量且つ迅速な運搬と捕虜や怪我人等を戦場から運び出す等の任務を担う。通称(補給軍)。

 

 この第一軍の戦闘バイク部隊にカイン殿は訓練される際に行動を共にする事になった。

 カイン殿は、ワイバーンに乗れない事に当初かなり落ち込まれたが、試作戦闘バイクを見て直ぐに気に入られた様で試作された10台の内1台を借り受けて乗り回し始めた。

 最初は勢いよく戦闘バイクごと転倒されていたが、4時間程でかなり上達され相当なスピードにも対応され

ヴァルター第一軍指揮官に今後宜しく共に訓練させて欲しいと頼まれて、ヴァルター第一軍指揮官もこちらこそ宜しく頼みますと返答されていた。

 

 9月27日

 

 王都から、先のセシリオ王国との戦争が一旦の休戦となったので論功行賞を行うと王命での召喚状が届いた。

 ファーン辺境伯、ブリテン伯爵、フランシス子爵は、アラン様と上層部の方々と協議され、共に王都にこのまま向かう方針が決定され、我々「空軍」は上空からの護衛を命じられたが自分は別任務に着く。

 「黒」からの情報で、迎撃軍司令官だったロドン将軍とその取り巻き、そして現宰相ヴィリス・バールケ侯爵が王に対して実情とはかけ離れた戦争報告をしていて、あまり好ましい事態になっていないようでありそれに対抗する為に数多くの証拠を用意する必要があり、自分とガイは「放送局」職員のハリーを連れて、戦争捕虜を預かっているファーン辺境伯の城邑に赴き、戦争捕虜からの聞き取りを動画にしたり、戦争に参加していたが論功行賞に呼ばれていない中立的な立場の貴族そして兵士の面々からの聞き取りを動画にする事を命じられたのだ。

 

 9月29日

 

 アラン様とファーン辺境伯、ブリテン伯爵、フランシス子爵は、車両20台とバイク10台そしてワイバーン5頭の編成で王都に出発した。

 その間の留守居役は、表向きロベルト老とヴァルター第一軍指揮官が行うがクレリア姫様が主導し、表向きの留守居役と前宰相ヴェルナー・ライスター卿とその御子息アベル・ライスター殿も補佐する事になった。

 やはりベルタ王国の政治状況と地理そして周辺国家との関わりは前宰相ヴェルナー・ライスター卿が詳しく、御子息のアベル・ライスター殿は経済官僚としての経歴が有り、そのセンスはアラン様とカトルが素晴らしいと絶賛する程であり、このお二人がアラン様とクレリア姫様のプランを地に足のついた施策として手直ししてくれるお陰で、予定を繰り上げてコリント領と周辺の街とのインフラ整備そして物流がはじまっている。

 恐らく王都からアラン様達が帰って来る頃には、ブリテン伯爵とフランシス子爵の領地までの道路インフラは完成するだろう。

 




漸く私の書きたかった場面の一つに登場する、戦闘バイク(まだ試作段階ですが)の初御目見得です!
何故書きたかったか?というと自分同様年配のオジサンは知っている可能性が有りますが、その昔少年チャンピオンに連載されていた漫画家どおくまん様の作品「熱笑!! 花沢高校」に出てきた戦闘バイク(グーグルで画像検索すると出てきますが、この主人公の乗るタイプは相当進まないと登場しません)を是非縦横無尽に戦わせたい!との思いが強烈にあったからです!
ですので、この世界の騎馬民族の大騎馬軍団や魔物の大量氾濫、ゾンビ軍団との対戦で大いにその本来の力を振るってもらいます!


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16. 10月の日記①

 10月2日

 

 ファーン辺境伯の城邑に向かい城の大広間に大型モニターを設置し、会議室に通信設備を設営した。

 その作業中ファーン辺境伯の御長男レオン殿が、確認作業と実地テストを行われ、その際、コリント領側のモニターにカイン殿が映られ御兄弟がテストも兼ねて会話された。

 カイン殿の話すコリント領の先進的な生活や車両とバイクに代表される各種の人の乗る魔道具、更にはこの通信設備等の今まで想像すらしてこなかった情報インフラを説明され、レオン殿は目を血走らせてモニター越しのカイン殿に掴み掛かる様に近付き、

 「私と替われ!」

 と大声で訴えた。

 カイン殿は即座に、

 「断る!」

 と断言され、

 「自分にいうのでは無く親父殿に嘆願すれば良い、幸い通信設備が整ったのならば移動中の親父殿とも連絡がつくからテストも兼ねて訴えてみてはどうか?」

 と返答された。

 レオン殿もそれもそうだ、と納得され早速我々に便宜を図って貰いたいと立場も顧みずに懇願された。

 我々もレオン殿の熱意に押されアラン様と連絡を取り、アラン様がファーン辺境伯と話され親子での通信テストを兼ねた会話がなされた。

 結果、ファーン辺境伯が領地に戻られるその時まで問題無く領地を預かり、セシリオ王国の情報等の対外情報も滞りなく収集していれば、ファーン辺境伯と入れ替わりにコリント領に駐在文官として赴任する事を許すという事になった。

 ファーン辺境伯が、

 「どうか愚息の我儘を聞き入れてはくれまいか?」

 とアラン様に頼まれ、アラン様は快諾された。

 レオン殿は通信が終わると小躍りされ、早速執務室に戻られ矢継ぎ早に仕事をこなされている様子で、自分は近い将来この非常に活動的な御兄弟が、コリント領で我々と一緒に生活する事になるのだろうなと確信した。

 

 10月8日

 

 以前と違い三分の一の日数で王都に到着し、ブリテン伯爵とフランシス子爵の王都における館に分宿する事になった。

 意外なことにファーン辺境伯は王都に館を持って居らず、もし王都で泊まる場合は高級宿を貸し切るそうだ、考えてみれば辺境伯というのは基本辺境にあって国にとっては他国等への防波堤の意味合いが強く、この様な機会でもなければ王都に来る事は無いのだろう。

 自分とガイもブリテン伯爵の館に入ったが、ガイを厩に入れようとすると馬が嘶くので仕方なく、フランシス子爵の厩にブリテン伯爵の館にいた全ての馬を移動させ、ブリテン伯爵の厩にワイバーン隊全てを入れた。

 その後ブリテン伯爵の館にて、明日からの対応として恐らくは本日にも開始される現宰相ヴィリス・バールケ侯爵の間者等による、こちらへの妨害工作、嫌がらせ、中立の貴族への多数派工作等が行われる事を想定し、こちらも王都の現在の情報収集を各々で分担し夜会合を持ち情報の精査と対策を行うと確認した。

 

 10月9日

 

 昨日中に王城へ4者其々の王都到着の報告を届けていたので、早速朝には明日行う論功行賞と戦争の際の状況説明を王に報告する為の諸準備を整えよ、との通達がブリテン伯爵とフランシス子爵の館にもたらされた。

 自分はアラン様から命じられた通りに、王城の大広間に設置する大型モニターと更に其れを拡大して投影する立体プロジェクターなる最新式の魔道具の起動確認等をしていると、ゲルトナー大司教がブリテン伯爵の館にアラン様との面会を求めて来られた。

 アラン様はブリテン伯爵の了承を得て、会議室を借りゲルトナー大司教との会談に臨まれ現在の王都の様子をゲルトナー大司教がアラン様に教えてくれた。

 どうも我々がコリント領に向かい1月余り経つと、王都の賊どもが息を吹き返し更には近在の賊共が元王都の賊が塒にしていた拠点等に移り住み、王都の治安は以前より悪くなっているという。

 その事で王と守備軍の評価まで下がってしまったらしい、何とも自分達があれだけ賊を捕らえたのに元の木阿弥とはやるせない気持ちだ。

 ゲルトナー大司教の話しは続き、ルミナス教アトラス派閥への現宰相ヴィリス・バールケ侯爵による不可解な介入の実態が話された。

 不可解な介入とは、ルミナス教の教義内容をアトラス派閥の物から変更しアラム聖国の信奉する教義内容にする事、そしてアロイス王国を経由してアラム聖国が派遣してくる司祭や神父を優遇し、従来のルミナス教アトラス派閥の司祭や神父は地方に配置転換する様にという通達が、現宰相ヴィリス・バールケ侯爵の名を持って布告されたという。

 アラン様は沈思黙考され、護衛の自分に連絡用の魔道具である小型通信装置をガイの背中の荷物入れから持ってこさせ、使い方を書いた説明書ごとゲルトナー大司教に渡された。

 いざとなったら躊躇無くコリント領側に通信を送られる事をゲルトナー大司教に頼まれ、ゲルトナー大司教も、

 「ありがとうございます、是非頼らせて頂くのでその際は宜しく頼みます。」

 と返答された。

 ゲルトナー大司教は帰る際アラン様に小さな声で、

 「使徒様の件では大変ありがとうございました。」

 と言われて帰られた。

 何の事かは自分には判らずじまいだったが、きっと自分の判らないとても高度な話なのだろう。

 



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17. 10月の日記②

10月10日

 

 午前9時からの王臨席の会議に赴く為に、ファーン辺境伯、ブリテン伯爵、フランシス子爵そしてアラン様は其々馬車に乗り王城へと向かう。

 その馬車に随伴する護衛等の従者用の大型馬車に、自分とハリーはモニター等の器材と共に乗り込みアラン様の指示があり次第会議室に設置する手筈になっている。

 先の戦争に従軍した将軍や武官そして貴族が全員会議室に入室し、最後に宰相を伴った王が会議室へ入り会議が始まった。

 自分は当初入室して居らず、隣室の従者待機所に他の貴族の従者共々待機していたが、仲良くしているファーン辺境伯、ブリテン伯爵、フランシス子爵の従者達と会話しているとあからさまに敵意を含んだ視線を感じる、例の「ナノム玉」で精霊の加護を受けて以来、こういった敵意や殺意には以前に比べ相当な確度を持ってその対象を特定出来る。

 会話していたフランシス子爵の従者に小声で、部屋の窓側に屯ってこちらを見ている集団はどこの御家中かな?と尋ねると紋章を見るに現宰相ヴィリス・バールケ侯爵とロドン将軍の従者だと小声で教えてくれた。

 「成程、あちらにとってはこちらは目の上の瘤だろうからなと納得いった。」

 と小声で話すと同意とばかりにファーン辺境伯とブリテン伯爵の従者もクスクスと笑い、その様子を見て宰相と将軍の従者は不機嫌そうな態度だったが、別にこちらが失礼な言動をあちらに示した訳でもないので、抗議も出来ないようだ。

 1時間程経ち会議室からのお呼びで自分とハリー、そして手伝ってくれるブリテン伯爵、フランシス子爵の従者の方々が会議室に入室し、アラン様からの指示に従いモニターと立体プロジェクターの設置を行い5分程で準備が整った。

 そのまま自分とハリーは操作要員として会議室に残り、その他のお手伝いの従者が退室すると、徐ろにアラン様が話され始めた、

 「先程までの戦場記録係として従軍された書記官の記録された公文書の内容は、殆ど全て事実と異なると私アラン男爵とファーン辺境伯、ブリテン伯爵、フランシス子爵は異を唱えたが、其れに対してロドン将軍と武官の方々及び従軍された貴族諸兄は公文書の内容は間違いなく更に宰相ヴィリス・バールケ侯爵もロドン将軍の意見が正しいと判断されるのですな?」

 と問い糾された。

 それに対して宰相ヴィリス・バールケ侯爵は、

 「当然である、長く軍務に精通され軍歴を積み重ねたロドン将軍が話された戦争報告は非常に納得がいくものであり、それに対してお主達の主張する報告内容は荒唐無稽であり、嘘偽りを王に向かって堂々と申告するとは不敬にも程がある、それよりもブリテン伯爵、フランシス子爵、アラン男爵にはロドン将軍の作戦行動に対するサボタージュと戦闘行為に対する不参加が他の武官と貴族の連名で申告されている、それに対する弁明は無いのか?」

 とアラン様達を弾劾してきた。

 それに対してアラン様は、

 「其の為の器材設置です。

 再度確認させて頂きますがロドン将軍と武官の方々及び従軍された貴族諸兄は公文書の内容は間違いなく事実であると主張され、宰相も其れに同心であると?」

 ロドン将軍は、

 「クドい!

 いつまでこの様なくだらない問答を繰り返すのか!

 お前達は王に対して誓約して臣下になった貴族の立場にありながら、国家の危機に対してサボタージュして我の作戦行動に反発し終には戦争にも不参加だったでは無いか!

 不忠にも程があるは!!」

 と激昂し罵ってきた。

 アラン様は王に向かい、

 「それでは真実と云う物をお見せ致したく、王様、魔道具の使用を御許可頂けますか?」

 と王に願い出でられた。

 ずっとこの間当惑された顔をされていた王は、その言葉に興味を惹かれた様子で即座に許可を出された。

 自分とハリーはアラン様の指示の元、戦争前日の作戦会議からの動画を立体プロジェクターで投影した。

 会議室の中央に大きく映し出される過去の映像、その真実の動画に我々以外の者は当初はただ驚いていたがロドン将軍と武官、従軍した貴族そして宰相は顔を青ざめさせ狼狽し始めた。

 動画は進み「紅」とブリテン伯爵、フランシス子爵合わせて2200が魚鱗の陣を以って、計3万人の敵軍に相対しているのに丘の上で戦おうともせず高みの見物を決め込むロドン将軍とその取り巻きがアップで映る。

 それを見て王は鋭い視線をロドン将軍達に浴びせ、無言のまま動画に視線を戻した。

 空軍による「ナパーム」、近衛軍による「オーディン」の軍団魔法に王は驚愕されながらも、お若い所以か徐々に興奮されて来られ、最後の方の空軍の「ハウリングパニッシャー」が会議室を揺らす程の轟音で放たれた時には大歓声を上げられた。

 動画が終わり興奮冷めやらぬ王は、用意されていた水を飲み干しアラン様とブリテン伯爵、フランシス子爵に称賛の言葉を述べられた、

 「素晴らしい戦闘だ、この様な戦いは数多くの物語を読んできたが一度も読んだ事が無い!

 この軍団を保有しているのが我がベルタ王国の貴族で、国の為に其の力いかんなく行使してくれた事に感謝する。」

 と最大限の賛辞を送られ、

 「アラン男爵、あの王都に来た例のドラゴンを戦争行為に使えるまでに飼い馴らすとは見事である!」

と言われるとアラン様は、

 「報告が遅れ申し訳無く思います。

 ですが一つ訂正させて頂きますと、飼い馴らしたのでは無く味方になって貰いました。」

 と笑いながら返答された。

 王は、

 「其の辺りの事情も是非聞かせて貰いたいが、今は其れよりも重要な案件が有るな。」

 とロドン将軍達に厳しい視線を向けられ、

 「ロドン将軍よ、先程までお主達の主張して来た内容と真逆のものを、余はこれ以上無いくらいの証拠で以って見せて貰った、何か弁明は有るか?」

 とロドン将軍達を問い詰めた。

 ロドン将軍達は動画を見せられる前迄の意気軒昂な様子はどこに行ったのか、顔面蒼白で黙り込みどう反応して良いのか判らないようで助けを求める様に宰相に縋る様な目を向ける。

 すると宰相がロドン将軍の代わりに答える様に、

 「王よ、騙されてはなりませんぞ!

 この様な如何わしい魔道具による魔法で、この者達は王を誑かそうとしているのです!」

 と顔を紅潮させながらも開き直った。

 それに対して王は、

 「宰相よ、可笑しな事を言うではないか?

 宰相も良く知っている通り、この場には精神に作用する魔法を阻害するアーティファクトが用意されている、このアーティファクトが作動している現状如何なる魔法であろうが、余に精神的に働きかける事は出来ない。それでもなお魔法による誑かしであると主張するのか?」

 と静かながら偽りは許さぬといった態度で王は宰相を問い詰めた。

 「そ、それは・・・。」

 と返答に窮した宰相に変わりアラン様が王に別の報告内容を話され始めた、

 「王様に先程の動画とは別の証拠となる動画と資料が御座いますので提示させて頂きます。」

 そう話されると同時に自分とハリーは、先の戦争での捕虜への聞き取りの動画とその供述調書の写し、更には「黒」が秘密裏に撮していた、ロドン将軍による武官そして貴族に対しての口裏を合わせる様依頼している根回しする様子が立体プロジェクターで再現され、極めつけはロドン将軍がルチリア卿とセシリオ王国のルージ王からの工作員に、この戦争が終わった後の地位の確約とその際の負け方の確認をしてルチリア卿とセシリオ王国の工作員をセシリオ王国に送り出すシーンが克明に映し出される。

 顔面蒼白となり大きな身体を震わせているロドン将軍を見て王は心底蔑んだ目をし徐ろに口を開かれた。

 「さて、もう弁明を聞く必要は無いと思う故、ロドン将軍と其れに同心していた武官そして貴族達に申し渡す。

 お前達は、有りもしない武功を言い立てて論功行賞を余にねだった上に、本来恩賞を受けて然るべきファーン辺境伯、ブリテン伯爵、フランシス子爵そしてアラン男爵を誹謗中傷し、更にロドン将軍に至ってはルチリア卿と共謀の上ベルタ王国をセシリオ王国に売ろうとした国家反逆罪が明らかになった。

 当然本日開かれる予定であった論功行賞は白紙に戻し、精査の上で後日執り行う。

 先の戦いに従軍したロドン将軍と武官、貴族達はファーン辺境伯、ブリテン伯爵、フランシス子爵、アラン男爵以外の者は取り調べの上で裁きを申し渡す!

 衛兵、この不届き者達を引っ立てて牢屋にぶち込めい!」

 狼狽して騒ぎ出すロドン将軍一派を粛々と衛兵が連行していく中、悄然として身体を戦慄かせている宰相

ヴィリス・バールケ侯爵に向かい王は疑いの眼差しで見ながら話された、

 「宰相ヴィリス・バールケ侯爵よ、お主が擁護していたロドン将軍はこの有様、更にお主の腹心たるルチリア卿は国家反逆罪に充当する嫌疑が掛けられた、お主は今回の休戦に至った功績はロドン将軍と折衝にあたったルチリア卿に有ると言い立てておったが、先の映像で裏の事情が露呈した今となっては却ってお主が今回の謀略に加担したのでは?という疑いが濃厚となった。

 よって宰相ヴィリス・バールケ侯爵よ、お主の宰相の任を解き領地での謹慎と閉門を命ずる。

 セシリオ王国に赴いているルチリア卿が帰り次第尋問を行い真実を確認。

 合わせてお主がしきりと勧めていた、お主の娘と余の婚約の件も今回の事で白紙とする。

 以上。」 

 と、王の決断が下った。

 がっくりと項垂れたヴィリス・バールケ侯爵は、暫くそのままであったが、衛兵が立ち上がらせ会議室から連れ出す間際、アラン様に向けて火が吹かんばかりの憎しみを瞳に宿した視線を向けたまま外に連れ出された。

 その表情を脇で見ていた自分は、これで事件解決では無くこの瞬間に新たな事態が始まったのではないかと思わずにはいられなかった。

 



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18. 10月の日記③

 10月11日

 

 昨日に続き王城に早朝から呼び出され、ファーン辺境伯、ブリテン伯爵、フランシス子爵そしてアラン様は昨日と同じ会議室に通された。

 昨日と同じく立体プロジェクターとモニターの操作要員として自分とハリーは随行したが、他にも其々の家臣が複数人同行していた。

 早朝に関わらず顔を紅潮させた王が形式を諸々省略して入ってこられ、皆慌てて跪こうとすると、

 「皆、挨拶はそこそこで良いから早速諸問題を解決しなければならないので、顔を上げて欲しい。

 なにせ政務を司る中心の宰相を蟄居させた所以で、余が親政せねば政治が滞り国が立ち行かぬ、と言った処で余は宰相の言うがままに決済をした事しか無く良い知恵も浮かばぬ、だが余には国を想い国の為に血を流す事を厭わず戦ってくれた諸卿が居る!

 諸卿ならば余に良い知恵と指針を授けてくれるだろう、どうか余を助けてはくれまいか?」

 と仰せられた。

 皆恐縮する中、年配のファーン辺境伯が始めに顔を上げられ話始めた、

 「陛下、率直に現状を話され、陛下にとって恥になりかねない今までの政務を宰相に握られていた事実を我等に話して頂けた事、我等をご信任頂けた証と我等一同感動しております。

 このファーン辺境伯ルキウスは、より一層の忠誠を誓うものであります!」

 其れに続けて、

 「我等一同同じく、より一層の忠誠を誓うものであります!」

 と皆唱和した。

 王は感動された様で瞳に涙を浮かべながら、

 「皆の忠誠の誓い、余は大変感動した!

 これこそ本当の忠誠の誓いなのだな、今まで宰相始め王都に居た貴族達の心のこもらぬ誓い、あれは一体なんだったのであろうな?まあそれは今はどうでも良い、ファーン辺境伯よ早速だがどの様にすれば良いか具体例を挙げて余に示して欲しい。」

 と仰られたのでファーン辺境伯は、

 「それでは、先ずは此処に居るアラン男爵をお頼りください。

 陛下も御存知の通り彼は素晴らしい人材です、今般の状況の好転は全て彼のお陰であると言って良いでしょうから。」

 と言われ、王も頷きアラン様に向き直り尋ねられた、

 「アラン男爵、ファーン辺境伯の言われる通り今回の事態の好転は全てそなたのお陰といえる、そなたならば今後のベルタ王国の進むべき道が見えているであろう、余にその道を示して欲しい。」

 との問にアラン様は、

 「勿体無いお言葉有り難く頂戴致します、それでは陛下の問に対して幾つかのご提案が有りますのでお聞き届け頂けると幸いです。」

 との答えに王は頷かれたので続けてアラン様は答えた、

 「第一の提言は、政策を陛下とともに担う官僚の刷新です。

 今まで宰相とその一派が陛下のご命令であると偽り、好き勝手に自分達に都合の良い施策を全土に向けて行い現在ベルタ王国は衰退の道を辿っており、遠からず他国から攻められるか内から崩壊するかの二者択一の状態に有り、先の戦争は前者の他国の侵略という形で現実化しました。

 その状況を打破する為に、宰相一派に追いやられた前宰相ヴェルナー・ライスター卿付きの官僚及び政治に精通された貴族の方々を復帰させるのです。

 幸いな事に此処に居られるフランシス子爵は、その辺りのご事情を良く御存知で官僚と貴族の方々の復帰を取り計らう事が出来るでしょう。」

 との答えに王はフランシス子爵に問われた、

 「フランシス子爵よ、アラン男爵の言われた通りに事を取り計らうのは可能であるか?」

 と言われフランシス子爵は、

 「可能です。官僚については左遷させられた際に我が領内に匿い、領地の政策運営を担って貰っていましたし、貴族の方々とは常にサロン等で現状に対する不満と自分ならばこうするといった意見を戦わせておりました、両者共に復帰させて頂けるならば直ぐに応じる事でしょう。」

 と答えられ王も安堵された様だ。

 続けてアラン様は、

 「第二の提言は、軍事面の強化です。

 第一の提言と同じく宰相一派に追いやられた、武官と軍人としての経験豊富な貴族は地方に追いやられ冷や飯食いに落とされており、その方々を復帰させるには同じ立場にあったブリテン伯爵が適任でありましょう。」

 王も尤もだと頷かれ、

 「余もこの事に関しては宰相に何度も問うていたのだが、あやつらは忠誠心が無いだの軍事力を与えればクーデターを起こしかねない等と言を左右にして余の言うことを聞かなんだ、今になって思えば宰相にとって都合の悪い武官と貴族だったのであろうな。

 ブリテン伯爵よ、お主も余の不明で被害を被った被害者で有るがベルタ王国の為に力を貸してはくれまいか?」

 とブリテン伯爵に要請した。

 ブリテン伯爵はそれに答え、

 「とんでもなき事、全てはヴィリス・バールケめの策動で有り陛下に落ち度は御座いません。

 そして宰相一派に追いやられた者共も一声かければ、ベルタ王国の為に直ぐに馳せ参じる事でしょう!」

 と力強く言われた。

 王はそれに対しても安堵された様だ。

 更にアラン様は、

 「第三の提言は、王都の治安回復です。

 以前私がヘルマン・バール士爵と共に行った王都に蔓延る賊の討伐により、王都の治安は良い方向に向かっていましたが、私が王都から去ると宰相により私が施した施策は尽く有名無実化され、掲示板には新たな情報や賊から回収された物品の更新も無かった様です。

 此等の事を踏まえ今一度私が護国卿として、王都の賊を追い払い且つ二度と賊が王都に蔓延る事が無いように手当致します。」

 と言われ王は、

 「何と!王都はまたもその様な事になっていたのか?

 その様な報告は一切受けていなかったぞ?!

 ヴィリス・バールケめ、余を謀って情報が耳に入らぬ様にしていたのだな。

 彼奴の罪状に更に追加せねばな。」

 と憤慨された。

 アラン様も同意といった様子で頷かれ最後の提言を述べられた、

 「最後の提言は、セシリオ王国への対応です。

 昨日の宰相一派の態度やロドン将軍とルチリア卿の暗躍が示した事実から、セシリオ王国との休戦とはでっち上げで内実はロドン将軍達が自分達の栄達の為にベルタ王国を売ろうとした事実から考えると、再度セシリオ王国が侵略して来る際に国境線の防備を緩める為の虚偽で有ると想定されます。

 ならば今現在国境線に配備されている国軍はロドン将軍が配置した事実から類推すると、セシリオ王国が攻め寄せた場合には戦わずそれどころか水先案内人として国土に誘引する役になるのでは?と考えられます。

 これに対応する為には、第二の提言を早急に行い国境線の国軍を信頼のおける指揮官と兵士に入れ替える必要が有り、それでも駄目な場合は前回と同じくファーン辺境伯の城邑にて食い止める事になります。

 よって前回を教訓として活かす為にファーン辺境伯には私と同じく護国卿に任じて頂いて、緊急時の他貴族への援軍要請等を迅速に行える様に体制を整えると共に、我がコリント領から「魔の大樹海」を縦断する道を通す御許可を陛下に求めるものであります。」

 と提案された。

 王は驚かれたご様子で疑問を投げかけられた、

 「ファーン辺境伯を護国卿に任じる件は尤も至極であるから、後日執り行う論功行賞の席で護国卿の盾を贈らせて貰うが、「魔の大樹海」を縦断する道とな?アラン男爵はあの「魔の大樹海」に道を通せるというのか?」

 と問われた。

 其れには、ファーン辺境伯、ブリテン伯爵、フランシス子爵が現場を見ていなければさもあろうと苦笑され、アラン様は予め「放送局」に作らせていたコリント領のPR動画をモニターに映すように自分とハリーに命じられたので、大型モニターに環境音楽が優雅に響くコリント領のPR動画が再生される。

 王は初めて見るPR動画に驚かれながらも、其処に映し出されたコリント領の「魔の大樹海」に有るとは思えぬ先進的な街並みと工場群、ドームという人が作ったとは思えない構造物そしてその中を走る車両に魅了され顔を紅潮させながら食い入る様に画面を凝視し続けた。

 やがてPR動画が終わると興奮冷めやらぬ王は、

 「アラン男爵、信じられぬ街をよくぞあの「魔の大樹海」に作り上げた。

 正直今なお夢を見せられたのではという思いがあるが、この部屋は欺瞞を伴う魔法は使えぬので全てが真実なのは疑いない。

 これならばファーン辺境伯領まで道を作れるのに納得が行く、当然許可を与えるので早速着手して貰いたい。

 其れとは別だが、あの映像に出てくる馬車の荷車部分だけで自走する乗り物は一体何なのだ?」

 とアラン様に問われたので、

 アラン様は、

 「{モトローラー}という物で種別では車両と申します、実は陛下に献上する為に王城に運んで参っておりますので、後程ご案内致します。」

 と言われ、

 王は、

 「何と真か?!

 其れは素晴らしい献上品だ、是非後で案内してくれ!」

 と言われたのでアラン様は、

 「畏まりました。」

 と快諾された。

 王は、

 「アラン男爵の提言は全て至極当然であり、理に適うものであった。

 皆先の戦争から、苦労を掛け続けて心苦しく思うが此れも全ては明日のベルタ王国をより良くし住みやすい国土を保つ為の必要な努力であると寛恕して貰いたい、後日執り行う論功行賞では今後してもらう仕事に見合う其れ相応の役職を用意するので、各々貴族としての職責を全うして貰いたい。」

 と仰られた。

 アラン様達一同は片膝を着き、王に対しての誓いを返された。

 



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19. 10月の日記④

10月15日

 

 延期された論功行賞が行われたが、それと同時にベルタ王国現体制の刷新が王都にて告示され、功労の有った者達への陞爵と役職授与は以下の通り、

 

 ファーン辺境伯ルキウス・・・・ファーン侯爵となりベルタ王国北部の護国卿を兼任する。

 

 ブリテン伯爵シモンズ・・・・・ブリテン侯爵となりベルタ王国中央の治安を担当する。

 

 フランシス子爵ユリウス・・・・フランシス伯爵となりベルタ王国中央の行政に参画する。

 

 コリント男爵アラン・・・・・・コリント辺境伯となりベルタ王国全土の護国卿を兼任する。

 

 その他功労の有った武官・兵士諸氏は一階級の上格と報奨金の授与。

 同上の貴族諸氏には貴族位階を一階級陞爵の上領地を拡充させ、王都への無期限の滞在を許可する。

 

 

 逆に国家反逆罪及びその加担者に対する罰は以下の通り、

 

 アンテーヌ伯爵ロドン将軍・・・貴族位を剥奪の上、領地を召し上げ罪科が確定次第死罪。

 

 ルーテス子爵ルチリア・・・・・貴族位を剥奪の上、セシリオ王国から帰還させ罪科が確定次第死罪。

 

 バールケ侯爵宰相ヴィリス・・・疑いは濃厚なれども未だ罪は確定では無いので、宰相位は剥奪の上領地での

                蟄居・閉門とする。

 

 その他ロドン将軍に同心した武官は、役職停止の上牢獄に送り罪科によって裁く。

 同上の貴族達は貴族位階を降格の上領地半減、王都への上洛を禁止とする。

 

 といった告示が王都の至る所に掲示された。

 

 10月17日

 

 アラン様はブリテン侯爵と共に、位階の上がったバール男爵ヘルマン卿と打ち合わせの上で、王都守備軍の拡充と質の向上を図る為に王都近郊に練兵場を設ける事にし、其処にはグローリア殿とワイバーン隊の離着陸スペースを用意する事になった。

 

 10月20日

 

 後続のトレーラー3台がやって来て、積まれていた諸々の資材と放送局職員の手により王城・商業ギルド本拠・ゲルトナー大司教のいる教会・職人ギルド・王都城門に大型モニターと王都各所にスピーカーを設置し、緊急時にはニュースが其処から放送されるが、日頃は心を落ち着かせる環境音楽が流される事になった。

 

 10月22日

 

 ファーン侯爵がベルタ王国北部を統括する為に、王都から北部貴族諸侯を伴い計1万人の国軍を連れてセシリオ王国との国境線へ向かう。

 現地に着き次第ロドン元将軍の息のかかった武官を更迭し、代わりに復帰させた武官をその職に割り当てる事になる。

 

 10月24日

 

 ゲルトナー大司教と面談する為に教会にアラン様が赴く、護衛兼モニター操作係として自分とハリーが随伴した。

 ゲルトナー大司教は、初めて見るコリント領の様子や生活ブロックに建てられた壮大な教会とその周辺に有る病院や薬局等を見て嘆息され、是非諸々の行事が終わればコリント領に伺いたいとアラン様に申し出られた。

 アラン様は、

 「勿論歓迎致しますが、諸々の行事とは?」

 と尋ねられると、ゲルトナー大司教は、

 「実は、後半月もするとアラム聖国が派遣してくる司祭や神父を含む、総勢3千人に及ぶ大使節団がアロイス王国を経由して来訪するのです。

 以前ベルタ王国に来訪されたイーヴォ枢機卿とは別の枢機卿も来られる様で、其れ等への対応と前宰相ヴィリス・バールケが無理強いして要請して来た教義内容変更と司祭や神父の交代要件で交渉しなければならず、私が居なければとても対処出来るとは思えないので此処を留守には出来ません。」

 と大変残念がられた。

 アラン様はまた沈思黙考され、

 「了解しました、いずれタイミングの良い時に映像にも出て来た車両にてお連れ致しますので、ご来訪を心よりお待ちします。」

 と返答され、ゲルトナー大司教も、

 「あの馬車よりも早く、人が運転する乗り物ですな、見ていて心踊るものがあり是非乗ってみたいと思っておりました。

 諸々の行事が終わり次第、例の頂いた通信機で連絡させて頂きます。」

 とにこやかに返答された。



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20. 11月の日記①

 11月1日

 

 王都に於ける諸々の仕事を終えられ、後事をブリテン侯爵とフランシス伯爵に委ねられて、この日アラン様がコリント領に帰られる。

 既に王城にて王や貴族の方々とはご挨拶を済ませているので、城門外の広場で待つ新規にコリント領の開拓民となる孤児院出身者300名をトレーラーと車両に乗せて速やかに王都を出る。

 暫くして、人家もまばらになってきた辺りでトレーラーと車両を止め休憩していると空からグローリア殿と交代のワイバーン2頭が降りてきた。

 孤児院出身者達が大騒ぎしている中、グローリア殿からエルナ殿とデリー殿が降りられた。

 エルナ殿が、

 「此処からは、私が引率しますのでアラン達はグローリア殿に乗り一足早くコリント領にお向かい下さい。」

 と言われたのでアラン様が、

 「了解した、後の事は頼む。」

 と返答されたので、自分も、

 「了解。」

 と軍人らしく短く答え、ガイと共にグローリア殿を追い空を駆けた。

 ものの5時間程でコリント領に到着し軍事ブロックに直接降りて行くと、其処にはクレリア姫様とダルシム副官とロベルト老、そして何故か妹がカーバンクル2匹を連れて出迎えてくれた。

 アラン様は挨拶もそこそこにクレリア姫様達と、会議室の有る軍事教練棟に向かわれた。

 気にはなったが自分は呼ばれていないので、ガイをワイバーン隊用の宿舎に移動させる為に歩き出し隣を歩く妹に「何か有ったのか?」と尋ねると、

 妹はガイとカーバンクルが鳴きあっている(会話?)のを横目に見ながら、

 「よくわかんないけど、多分ケッちゃんの話じゃないかなあー。」

 と返事をした。

 ケッちゃん?と疑問が湧いて「ケッちゃんって誰だ?」と問うと、

 「ケッちゃんは、ケットシー128世に私が付けてあだ名だよ!」

 と答えた。

 相変わらず酷いネーミングセンスに頭を痛めたが、ケットシー128世とはまた凄い自称だなと人物像が想像出来ず、妹に「貴族なのか?」と問うと、

 「えっ、兄ちゃん何言ってるの?ケッちゃんは猫だよ!」

 と呆れられた。

 何を言われたのか、暫く理解出来ず1分間程ただ歩いていたが、徐々に妹の言葉が脳に染みこんで行き、漸く猫が話をしたという有り得ない事を妹が喋っている事に気付いたので、妹がジョークを言っていると思い、

 「お前も中等部の学校に通っているんだろう?

 余り巫山戯てばかりだと、友達を無くすぞ。」

 とアドバイスをした。

 すると、

 「あー、兄ちゃんは相変わらず頭カチコチの真面目人間だから、最近のコリント領が以前よりもっと凄い所になっているのに気付いて無いんだー、あんまり最近のトレンド(友達に教わったらしい)を知らないと彼女も出来ないんだから!」

 と答えになっていない反論を返された。

 まあ、重要な案件であれば後日アラン様からお話があるに違いないと思い直し、家族の最近の様子等の話をしながらワイバーンの宿舎に向かった。

 

 11月3日

 

 現在コリント領の軍勢は、3分割されていて近衛軍第一部隊ダルシム隊長代行、近衛軍第二部隊隊長セリーナ殿、近衛軍第三部隊隊長シャロン殿をそれぞれ中核とし、空軍、支援軍も3分割の上で近衛軍の元に割り振られ其々行動している。

 第二部隊はブリテン侯爵領に入り、領兵の訓練と周辺地域の治安の安定を図る為に賊の征伐や魔物の駆除を行っている。

 第三部隊もフランシス伯爵領に入り同様な事をしている。

 つまり、現在は第一部隊と(機動軍)、(補給軍)がコリント領にいる訳で、中でも(機動軍)は新機軸の魔道機械化部隊とでも云うべき代物で、ドーム外の我々空軍が演習がてら拓いた広大な練兵場をバイクで走り回り色々な訓練を重ねている。

 私はアラン様に付き添い、不測の事態(例えば空飛ぶ魔物)が起こった場合の備えとして見学した。

 まだバイクの数は50台程で交代交代で訓練しているのだが、その中に何台か異質なバイクが存在した。

 一台目はバイクの両脇に箱の様な物を装備し、その箱から時折ファイアーグレネードが発射され前方に有る標的を破壊して行く。

 此れは、先月「紅」に制式採用された「バズーカ」だ、このバズーカとは「紅」の場合背中に有るアタッチメントに接続するオプショナルパーツで、普通時は背中に付けたままだが戦闘時は肩口に担ぐ形でヘルメットから出る照準装置で狙いを定め、引き金を引く事で魔法を発射するのだが、魔法は刻印魔法を刻み込まれた砲身を交換する事で魔法の種類を変更出来る。

 この最先端の戦闘用魔道具を装備しているバイクとはと感心していると、二台目は片側に小さな車両(後で聞いたらサイドカーと言うそうだ)が有り、その小さな車両には人が乗っていて例のバズーカが取り付けられていた。

 三台目は何と先端部分にドリル(鉱山等で使われる螺旋回転をする硬い金属状の物)が有り、標的に見立てた木材をそのドリルで以って穴を穿ったり、粉々に粉砕している。

 更に驚いた事に、三台目に乗って豪快にバイク集団の先頭を走っていたのはカイン殿だった。

 アラン様も苦笑され、ヴァルター第一軍指揮官に、

 「カイン殿が望まれて訓練されているのだろうが、程々にな。」

 と釘を差された。

 ヴァルター第一軍指揮官も、

 「了解で有ります。」

 と苦笑されながら返答された。

 訓練を終えられたカイン殿がこちらに気付きアラン様に、

 「アラン様、この度は辺境伯に陞爵されたとの事誠におめでとうございます。」

 と貴族の礼をされたのでアラン様も、

 「ありがとう、そしてカイン殿のご尊父も侯爵に陞爵した事だし、お互いにベルタ王国の為により精進して行こうではないか。」

 と返礼されたのでカイン殿も、

 「勿論です、今もこうして訓練に励み次の戦いではこの戦闘バイクで活躍して見せますよ!」

 と力強い宣言がなされた。

 自分以外の皆様は苦笑されていたが、自分は何故か本当に大活躍されるのではと予感が働いた。

 

 



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21. 11月の日記②

11月7日

 

 「吾輩はケットシー128世である、あだ名はまだ無い。」

 (「あるよ~、ケッちゃんだよ~。」と妹が発言するが場の雰囲気を察して、小声なので隣の自分にしか聞こえなかった様だ。)

 と会議室の机の上に設けられた席から立って、シルクハットと燕尾服を着た猫が流暢に挨拶している。

 列席している多くの者が、その現実に戸惑い誰かの腹話術なのか?と疑っている様子の者も居るようだ。

 何時だったか、親父が家族団欒中に話してた事が思い出される。

 親父は、

 「ドラゴンや魔道人形が、俺達と普通に会話しているご時世だ、そのうちそこらの犬や猫も話掛けてくるに違いねえ。」

 と言っていたが、いざ現実に猫が挨拶をしているのを見ていると、常識がガラガラと崩れ去って行く音を聞かされている様だ。

 ルドヴィーク領の兵士だった頃は、今のワイバーンに乗る竜騎士になっている様を夢想だにしなかった事を思うと、随分狭い世界で生きていたんだと判らされたし、アラン様とクレリア姫様の為にこれから世界を転戦していく事を思えばきっとより驚くべき驚異と出会うのだろうな、と想像が次々と湧いてくる。

 そんな愚にもつかない思いをよそに、

 ケットシー128世は話始めた、

 「魔の大樹海のある場所に有った、猫の楽園とも云うべき吾輩の王国が1ヶ月程前に崩壊した。

 崩壊させた輩は人に操られた『フェンリル』、世に氷雪魔狼と恐れられる魔獣で有る。

 人はアーティファクトを駆使して『フェンリル』を操り、吾輩の王国を守護していた『ベヒモス』をその能力である氷雪で凍らせ、更に吾輩の王国をも氷壁で以って閉ざし吾輩達を入れなくしてしまったのだ。」

 と天井を見ながら慨嘆し、話を再開した、

 「吾輩達は王国を追い出され、途方に暮れながら魔の大樹海をさまよっていたがある時、空を飛ぶドラゴンの背中に乗っている人を見かけたのだ。もしドラゴンを使役する事の出来る人間が吾輩達に協力してくれれば、吾輩の王国を取り戻せるかもしれないと考え、取り敢えず接触をしようとこちらにやって来たのだが、懐かしいテレパシー(よく判らないが魔物同士の通信らしい)を受け取り確認したら旧友のカーバンクル夫妻のテレパシーであった、直ぐに会いに向かうと其処の娘子(妹に頭を下げ)がカーバンクル夫妻と共にやって来られ、事情を話すとクレリア様と会わせて頂けた。

 そしてクレリア様とグローリア殿と会談し、グローリア殿とワイバーン隊の方々が吾輩の王国とその周辺を探索された結果驚くべき実態が判明したのだ。」

 と述べられ、其処から引き継ぐ様にアラン様が話始めた、

 「此処からは自分が話そう。

 『空軍』で付近を探索した結果、ケットシー128世殿の王国周囲半径20キロメートルの魔物が姿を消していたが、其れとは逆にファーン侯爵領近くの魔の大樹海の空き地に数万匹に及ぶ魔物が集結していて、その中心に例の『フェンリル』と其れを使役する人間が確認された。

 その人間の素性も「黒」によって判明している、セシリオ王国「氷雪魔術師団」に於ける第3席次の人物でアーティファクトを使用する事で『フェンリル』を使役している様だ。

 そして、ケットシー128世殿の王国の秘宝である『魔獣使いの杖』も所持している様だ、ケットシー128世殿の話では『魔獣使いの杖』は魔力の量により使役出来る魔物の数が増減し、魔力は魔石でも代替が可能でオークの魔石1個で大体50匹のグレイハウンドを使役出来るそうだ。

 あの規模だと相当な量の魔石を使った様で、魔物の中には強力な『オーガ』や『ゴブリンキング』そして『オークキング』すら存在している。

 奴等の目的は明白で、その魔物達を率いファーン侯爵領を荒らす為だと推察出来る。

 困った事に、ファーン侯爵は国境線の対セシリオ王国の国軍を率いていて、更にファーン侯爵領からも軍勢2千人が国軍に合流している。

 つまり今現在ファーン侯爵領には残りの軍勢2千人しか居らず、この魔物達の襲撃を受ければ対処のしようがない。

 よって我等は、ファーン侯爵領を救う為にコリント領に残る全軍約1200人で以って救援に向かう!

 ただ、魔の大樹海を迂回する従来のルートではあまりにも日数が掛かり、救援は間に合わなくなる公算が高い。

 幸いな事に陛下の許可を得て魔の大樹海を縦断し、ファーン侯爵領と繋ぐ道路の舗装工事には既に着手しているが、今現在は空軍がただ一直線にファイアーブレス等で繋げただけの道とすら言えない筋が有るだけだ、だがこの未舗装の道を使えば3日でファーン侯爵領に着く。

 方策は上層部で練るので、兵士各位は明日までに各自準備を整え出撃に備えよ!」

 と命じられたので、

 「「「ハッ、了解しました。」」」

 と妹を除く全員が立ち上がり返答した。

 



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22. 11月の日記③

11月8日

 

 早朝から軍事ブロックの広場で其々の軍が装備の確認と点呼等をしている。

 自分もガイに積み込む荷物と装備の確認を終え、空軍全員の点呼を行い問題なしとの報告をアラン様に報告し丁度同じタイミングに来られたカイン殿と鉢合わせしたのだが、何故か其処に親父の姿が有った。

 「何故親父が此処に居る?」

 と疑問をぶつけると親父は、

 「何故もヘチマもあるか、俺は其処の貴族の坊っちゃんにドリルバイクの説明をする為にアラン様から呼ばれてるんだよ、邪魔だからおめえは脇にいて後学の為に内容を聞いてやがれ。」

 と捲し立てられたが、流石に貴族の坊っちゃんは失礼だと思いカイン殿に謝罪したがカイン殿は、

 「構わない、いやむしろざっくばらんに接してくれた方が、自分としても本音の会話が出来て嬉しい。」

 と言われ、親父まで当然といった顔をしているので何も言えなくなり黙って脇で見ている事にする。

 親父は、

 「今まであんたが訓練していたドリルバイクは、あくまでも試作品でな目の前に有る此奴こそが正式採用版だ、どう違うかと云うと先ずはドリルが違う。

 今までのドリルは鋼を使っていたんだが、此奴はアダマンタイトの塊で鋼とは雲泥の差の硬さだ、アダマン或いは強化ダイヤモンドとも言われているそうだが、8ちゃんに言わせると『高圧縮魔道伝導体ダイヤモンド』というのが正式名称らしいが、ミスリルより硬いと言われる伝説のアダマンタイトが似つかわしいからこれで決まりだ。

 このアダマンタイトは見ての通りクリスタルみてえに透明だ、だから魔道伝導体として魔法を発動させると色が変わる、例えば火系統なら赤、氷系統なら白といった具合だ、試してみな。」

 とても貴族へ話す口振りでは無いが、カイン殿は気にする様子もなく早速ファイアーをドリルバイクのコンソール(幾つものボタンで選択出来る様になっている)から選ぶと、ドリル部分が赤熱化し始めた。

 「オオッ!」

 と周りにいた技術者達も感嘆する中、親父は、

 「どうでえ、大した代物だろうが、こいつなら敵に居るという『フェンリル』やセシリオ王国「氷雪魔術師団」が作る氷壁なんざ粉々に粉砕してくれるぜ!」

 と鼻息も荒く太鼓判を押した。

 カイン殿は大いに気にいった様子で親父に握手を求め、親父もその無骨な手で握り返した。

 他の面々も用意が出来た様で、広場に整列し始めた。

 整列が終わった段階でアラン様が壇上に上がられ、今回の作戦概要を大型立体プロジェクターで説明し始めた。

 「我々は此れよりファーン侯爵領の危機を救う為に全軍を以って救援に向かう。

 留守にするコリント領の守りは警備隊と警邏隊が行うが、補佐として冒険者組合から『疾風』や『漆黒の剣』他のクランが協力してくれる事になった、更にいざとなれば空軍が直ぐに戻るので後顧の憂いは無い。

 編成は、

  近衛軍(100)、空軍(30)、支援軍(70)、機動軍(500)、補給軍(500)となり、隊形は機動軍が先鋒で続いて補給軍、そして空に空軍といった形で『魔の大樹海』を征く。

 皆存じているだろうが、未だファーン侯爵領までの道は舗装工事を始めたばかりで、道筋を空軍が空から焼いて印を付けて程度の代物でしか無い。

 よって我等は半ば道を切り拓きながら進む事になるが、悠長に舗装しながら征く暇は無く車両で疾走しながら突き進む事になる。

 車両の先陣はドリルバイクが務めそのドリルで以って障害物を粉砕しながら進み、その後ろに作戦指揮車両の大型トレーラーが続き此処から軍団魔法『オーディン』を常時展開して全軍を包む、それに続いてバズーカバイクとサイドバズーカバイクを両側に置いたバイク部隊、後方は補給軍のトレーラー部隊となる。

 近衛軍、支援軍とその他の軍の交代要員も補給軍トレーラーに乗り込み4時間毎に交代する。

 かなりの強行軍となるが、今までの訓練を思えば4時間ずつ休めるのだから我等ならば問題無い。

 準備も整った様だし、連絡手段の通信機も全員配布済みだ。

 さあ、全軍出撃だ!!」

 とのアラン様の激に皆、

 「「「「オー!」」」」

 と応じ各自車両に乗り込んだ。

 カイン殿が最初のドリルバイクの操縦者の様で、近衛軍と同じ武具に身を包んでドリルバイクに乗り込み気合の乗った顔を正面に向けている。

 車両の隊形が整った様で、作戦指揮車からヴァルター第一軍指揮官から、

 「機動軍発進!」

 の命令が発せられ、ドリルバイクが先頭の機動軍が軍事ブロックドームの開いているゲートを潜り抜け、続いて補給軍のトレーラー部隊がゲートを抜けて『魔の大樹海』に全軍が向かう。

 大凡5キロメートル程はある程度の舗装がされており、魔法を使用する必要が無かったが其処を過ぎると道幅が5メートル程しか無く、所々に倒木や飛び出た岩そしてまだ両側に壁が無いので魔物も時折姿を現す。

 そんな中を先頭のドリルバイクは、赤熱化させたドリルを回転させ倒木や飛び出た岩を触れた瞬間に粉砕し、飛び出て来たグレイハウンドやオークを跳ね飛ばしながら突き進んだ。

 バイク部隊の両側のバズーカバイク達も、時折障害物に向けファイアーグレネードを発射して粉砕し、後続の補給軍のトレーラーも前面に鋼鉄のバンパー(障害物除けだそうだ)を張り出させている為、粉砕された障害物を跳ね飛ばし道幅を広げながら順調に進む。

 今日1日で行程の3分の1を踏破する事が出来た。

 

 



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23. 11月の日記④

 11月10日

 

 一昨日からの強行軍を続けた結果、『魔の大樹海』を抜けファーン侯爵領外縁に到達し小休止に入る。

 強行軍の最中も我々空軍は、偵察と監視そして警戒を続け我軍の接近を敵に悟らせず敵の戦力概要はほぼ把握している。

 アラン様がファーン侯爵の長男レオン殿に、1週間前には状況を教え此方が援軍に向かう旨も伝えているので、ファーン侯爵領城邑では先の戦争と同様に付近の市町村の住民の城邑内への退避と物資の搬入は既に終えており、城壁上にはコリント領で開発した魔道砲(試験品でまだ3台しか無い)が設置済みである。

 ただ魔獣達の中に想定を超える魔獣が2匹いた事が問題で有った。

 

 1匹目は、グランド・タートル・・・・巨大陸亀と云うべき存在で全長30メートルに及ぶ巨体で、俊敏性は皆無だが物資輸送量が相当量有り守りも硬く敵の動く本陣となっている。

 

 2匹目は、ロック鳥(ルフ)・・・・・巨大な鷲と云うべき存在で全長30メートルに及ぶ巨体で空を飛び、敵の空軍戦力の中核で周りにはハーピー100羽を従えている。

 

 この2匹とフェンリルが目を引くが、他の戦力はグレイハウンド(約1万匹)、ゴブリンキング率いるゴブリン各種(約2万匹)、オークキング率いるオーク各種(約1万匹)、コボルトキング率いるコボルト各種(約5千匹)、そしてオーガ10匹を含めた雑多な魔物(約5千匹)の計5万匹強が敵の陣容で有る。

 グランド・タートルはまだ戦場には到達していないが、ロック鳥が両足に掴んだ大岩を城門に落とす攻撃を受け城の南門は崩壊し掛かっていて、其処に足の早いグレイハウンドが波状攻撃を掛けている。

 以上が現状である。

 その報告を吟味されアラン様、ダルシム副官、ヴァルター機動第一軍指揮官他上層部は、道中に立てていた作戦プランの第二案と第四案の改定版を採用する事に決定し、各軍は装備を通常用から戦闘用に変更してフル充填した魔石を各部アタッチメントに装填、兵士達は予め配布されていた栄養剤(万能薬を希釈し各種栄養素を加ええ更にバース殿監修の味に整える事で飲みやすくなった)を飲み戦闘準備は整った。

 アラン様は立体プロジェクターを起動し説明を始めた、

 「皆、戦闘準備は終わった様だな。

 これから我等はファーン侯爵領城邑に救援に向かうのだが、既に戦端は開かれ城の南門は崩壊し掛かっている。

 よって我等は機動軍と空軍、その他に別れ、その他は(立体プロジェクターに我軍の表示が現れ矢印が行動順路示す)この様に行動して南門から城に入り防衛戦に突入する。

 機動軍は城には入らずそのままグレイハウンドとの交戦に入り、その他の敵軍が来たら戦わず入城してくれ。

 空軍は厄介な敵の空軍(ロック鳥を指差し)を総力を以って撃滅し、その後全軍集結して次の行動に移る。

 今回の敵は戦力に於いて、以前の人間相手の戦争の10倍は有ると思われる、負けるとは思わぬが苦戦は必至と考えるので、常に通信装置から伝わる情報を聞き現状の把握に努め連絡を密とせよ。」

 と訓示されたので全員、

 「ハッ、了解で有ります!」

 と返事し、其れに応えてアラン様は、

 「良し、其れでは全軍出撃!」

 と号令を発し、其れに応えて空軍以外は『魔の大樹海』を突っ切ったフォーメーションのまま、ファーン侯爵領城邑目指して残り5キロメートルを疾走する。

 その様子を上空から確認しながら我々空軍は、軍団魔法『ソニックインパルス』のフォーメーション隊形であるグローリア殿を先頭にした魚鱗の陣に移行した。

 残り1キロメートルを切った段階で、敵空軍のハーピーが我々に気付き「キキキィー」と警戒の奇声を上げ其れにロック鳥も気付きこちらに向かって巨体を旋回させ対決姿勢を取った。

 我等空軍は軍団魔法『ソニックインパルス』を発動させて、こちらに向かって来るロック鳥とハーピーの集団目掛け真っ向勝負に出た。

 『ソニックインパルス』の風の防御壁にハーピー達は跳ね飛ばされて地面に落ちて行くが、肝心のロック鳥はグローリア殿の2倍もの巨体な為にこちらが進路をそらされた。

 双方旋回運動に入り、こちらは次の軍団魔法『ハウリングパニッシャー』を放つ。

 だが、アラン様達が事前に推測していた通り、ロック鳥とハーピー達は萎縮どころか平然とこちらに向かって来る。

 やはり『魔獣使いの杖』で操られている魔獣には、精神に作用する魔法は効かない様だ。

 ならばとばかりに、次の軍団魔法『ファイアーサイクロン』を多重展開させ広範囲を炎で埋め尽くす。

 流石に此れは効いた様で、次々にハーピーは焼き尽くされて行くが、ロック鳥は巨大な翼を羽ばたかせ炎を散らしてしまう。

 アラン様から指示が発せられ、グローリア殿とアラン様がロック鳥を牽制している間にハーピーをワイバーン隊が殲滅する様にとの命令が下った。

 自分とガイは指示通りに次々とハーピーを、ファイアーグレネードと竜の牙で作った『ドラゴンランス』のランスチャージで屠り、自分以外のワイバーン達も同様にハーピーを倒し、残る敵空軍はロック鳥のみとなっていた。

 ふと空軍以外はどうなったのかと下界を観察すると、予定通りに機動軍がグレイハウンドを蹂躙しているのが見えた。

 機動軍の先端でドリルバイクはサンダーの魔法を発動させている様で、ドリル部分を黄色に光らせ機動軍全体が雷光を発し、襲いかかるグレイハウンドの大群を海を切り裂くが如く貫いていく。

 此れこそ、近衛軍と機動軍が展開出来る軍団魔法『インドラ』である。

 

 軍団魔法『インドラ』・・・・鋒矢の陣で敵に突入するのは、軍団魔法『イフリート』と同じだが先端に当たる者が雷系の魔法を発する魔道具を駆使する点が違い、基本的に敵を痺れさせ長時間行動不能にする事を目的とした魔法で、『イフリート』と比べ効果範囲が広い。

 

 予想を超える戦果に、きっとカイン殿は凄まじい高揚感の中で戦っているのだろうなと思いながら目を転じ城を見ると、南門は応急処置なのか土魔法で巨大な土壁で覆われている、これならば簡単には崩せないだろうと安心し城壁上を見ると、近衛軍と支援軍がファーン侯爵領兵と共にあって何時でも防衛戦が出来る体勢が整っていた。

 地上の確認が終わり、グローリア殿とロック鳥の死闘に目を向けると両者接近戦にもつれ込んでいた。

 しかし、それでも決着が容易にはつかないと見たアラン様は我々空軍に命令を発した、

 「空軍は散開しロック鳥を大きな輪の形に取り囲め、軍団魔法『サンダーストーム』を展開する!」

 空軍全体に緊張が走り、各々規定のポジションに散開し軍団魔法『サンダーストーム』を仕掛ける体勢に入る。

 そして大きな輪の中心にグローリア殿がロック鳥を誘導しアラン様が、

 「今だ!

 全員ドラゴンランス投擲!!」

 その命令一下空軍全員が、ドラゴンランスをロック鳥に投擲し15本中8本がロック鳥に突き刺さった、次の瞬間アラン様が、

 「軍団魔法『サンダーストーム』展開!!!」

 と号令を発した。

 そしてロック鳥を中心に巨大なストーム(嵐)が展開され、そのストーム目掛け空軍全員のサンダーの魔法が放たれ、徐々に周囲が静電気を帯び始め準備が整ったと見たアラン様が、グローリア殿と協力し天の裁き『インドラの矢』を最大魔力で放った!

 

 軍団魔法『サンダーストーム』・・・他の軍団魔法が多くの敵を対象に展開されるのに対し、基本的に強力な一個体を軍団全員で攻撃する魔法である、先ず避雷針とする為のドラゴンランスを打ち込み、次にアラン様が敵を巨大なトルネードで閉じ込める、そして外側からサンダー系の魔法を打ち込み続け、周囲の電位差(この理屈は自分には判らないが)を変容させ、最後にアラン様とグローリア殿が協力し天の裁き『インドラの矢』を最大魔力で放つ。

 

 その瞬間世界が白く染め上げられ、続いて振動を伴った轟音が周囲一帯を包み込み、静寂が訪れる。

 静かな時が暫く続き、皆が辺りを確認すると地上に黒焦げに成ったロック鳥がピクリとも動かずに絶命していた。

 その死を確認した者が歓声を上げ、続いて戦場と城にいた全員が歓声を上げた。

 余りの凄まじさに戦場にいたグレイハウンドは、敵の本陣であるグランド・タートルに撤退して行った。

 物見として偵察を空軍が行うと、敵はグランド・タートル始め魔物達も『魔の大樹海』に戻り出てくる様子がない。

 其れ等を確認し予定通りに全軍を城に有る練兵場に集結させ、損害の確認と装備の補充に取り掛かる。

 そうしている内に、レオン殿と領兵の指揮官達がやって来てレオン殿が、

 「アラン辺境伯様、よくぞあの『魔の大樹海』を踏破し、援軍としてやって来られ魔物達を追い払って下さいました、心より御礼申し上げます。」

 と跪いて言上されたので、アラン様は、

 「顔をお上げ下さい、それにまだ敵の空軍を倒しただけで敵の本隊は未だ健在です、先ずは休息を取りその後で作戦会議に移りましょう。」

 と返答され、レオン殿も立ち上がりやって来た馬車に乗って作戦指揮用の大型トレーラーを先導して城に向かった。

 我々は補給軍が用意してくれた食事を摂り、トレーラーから出した簡易ベッドの上に寝転がり、激闘だった昼間の戦いを反芻しながら就寝した。

 



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24. 11月の日記⑤

11月11日

 

 早朝、偵察任務を交代する為に食事を摂っている時に、カイン殿がレオン殿にドリルバイクを自慢している姿が目に入る。

 レオン殿は興味津々と行った感じでドリルバイクのドリル部分やダイナモ、タイヤ周りをカイン殿に尋ねながら触ったり動かしたりしている、その様子は親父が妹や自分にダイナモの素晴らしさや車両の画期的な先進性を熱弁を振るって説明している姿に酷似していて、魔道具が御兄弟共に好きなんだろうなと食事を終えガイに向かいながら、この分だとレオン殿のコリント領入りは早まるだろうと予感を覚えた。

 ミーシャとサバンナのペアから偵察任務を引き継ぎ、魔の大樹海に居る魔物達の軍団を高空から偵察する、本来なら敵対して攻撃し合う魔物達が、鳴き声一つ上げずにじっとしている姿は異様の一言に尽き、この不自然さは例の『魔獣使いの杖』の強制力の強さを物語っている。

 そういった諸々の事情を考えながら観察していると、グランド・タートルが突然動き始めそれと同時に各魔物達も動き始めた。

 通信機で作戦指揮車に敵軍が行動を起こした事を報告し、そのまま偵察任務を続ける事を命じられ偵察任務を続行する。

 相変わらずグランド・タートルはゆっくりと進軍しているが、グレイハウンドやコボルトは素早く30分もすれば城に到達しそうである。

 ファーン侯爵領城邑でもこれに備え、南門を除いた城門の上には魔道砲を配置して敵が射程圏内に入り次第包筒に刻まれた刻印魔法に魔力を魔石から供給して、ファイアーグレネードとサンダーボルト(サンダーの上位魔法)そしてサイクロンカッター(ウイングカッターの上位魔法)を放つ用意が完了している。

 そして城壁上には領兵と共に支援軍が配置され各種魔法を放つ準備は出来ており、そのサポートに補給軍も待機している。

 近衛軍は城門が破られたり城壁を越えて来た敵に対処する為に城門内側に待機しているが、機動軍は南門の外側に既に出ておりその機動力で以って敵を撹乱する事になる。

 我等空軍は、城に敵軍が攻撃を掛けている間に、手薄になった敵の本陣である『グランド・タートル』、そして最も強いと思われる『フェンリル』を倒すべく高空に待機している。

 想定通りにグレイハウンドが城壁に到達するが、当然グレイハウンドに城攻め出来る訳がなくひたすら城壁を駆け上がろうとするが、城壁上から各種魔法攻撃が放たれ良い的となっていた。

 其処へ、コボルトキング率いるコボルト各種(約5千匹)が続いて城壁に到達し、突如城壁下に穴を掘ろうとし始めた、だが其れも予想通りの行動であり城壁上から土魔法が放たれ、地面が硬くなり穴が掘れなくなったり、穴が出来た所は穴が閉じて生き埋めになったりしている。

 コボルトとグレイハウンドが攻めあぐねて、立ち止まり始めた次の瞬間に機動軍が横合いから軍団魔法『イフリート』を発動させ突っ込む。

 近衛軍と比べて圧倒的な速力を誇る機動軍は、その速力を最大限に活かし旋回運動する事で城の周りを周回し始めた。こうなるとコボルトとグレイハウンドは城に近付く事すら出来ない。

 それから15分程経ち漸く、ゴブリンキング率いるゴブリン各種(約2万匹)、オークキング率いるオーク各種(約1万匹)そしてオーガ10匹を含めた雑多な魔物(約5千匹)が戦場に到着、土塁と化しとても登れない高さの南門を避け、北門にオーガ隊、東門にオーク隊、西門にゴブリン隊、そしてその周りにグレイハウンド隊とコボルト隊といった具合に其々が分担する様だ、明らかに知性ある者が配置を行ったと推測され、その者を第一目標として倒す事が全軍に通信機を通して通達された。

 その最も怪しい候補地である、敵本陣目掛け空軍が空から急降下し軍団魔法『ナパーム』を使用する。

 僅かに残っていた直掩の魔物達を一掃し、多少焦げているが健在の『グランド・タートル』が轟々と息を吸い込み始め次の瞬間口を開け空に向けて何かを発射する体勢になる。

 慌ててグローリア殿が旋回すると空気の塊と思われる物が連射され、自分とガイの脇をかなりのスピードで空気の塊が飛んでいった。

 これは、侮れないと思って距離をとり様子を見ていたら突然『グランド・タートル』の下から『フェンリル』が飛び出して来た。

 強敵が2匹連携してくるのか?と空軍は警戒し更に距離を取ると、何だか様子がおかしい事に気付いた。

 どうも『フェンリル』が『グランド・タートル』に対して攻撃を始めたのだ。

 よく見ると『フェンリル』の後方に白いローブを着た女性らしき人物が居て、『フェンリル』はその人物を庇っている様に見え、『グランド・タートル』の甲羅の上にも魔法障壁が張られた小屋から杖を振りかざした人物が確認出来た。

 此れはもしかして仲間割れか?と疑って見ていると、『グランド・タートル』が例の(空気弾)を『フェンリル』に向けて発射し、『フェンリル』は氷壁を前面に作りそれを跳ね返す。

 その様子を見たアラン様は、

 「第一目標である『魔獣使いの杖』を持つ者を確認出来た、その者と敵対していると思われる『フェンリル』とその後方に居る人物は一旦攻撃対象から外し、『グランド・タートル』の上に居る人物目掛けサンダー系の魔法で集中攻撃を掛ける。

 総員『グランド・タートル』の攻撃を避けつつ攻撃開始!」

 早速自分とガイも『グランド・タートル』の首の可動域外から協力して放つサンダーボルトを小屋目掛けて集中させる、グローリア殿とアラン様は敢えて攻撃せずに『グランド・タートル』の前に降り立ち、(空気弾)をエアーウオールで無効化させる。

 その間『フェンリル』は女性らしき人物を守ったまま、我々と『グランド・タートル』の戦いを静観している。

 サンダーボルトが5回程小屋に直撃すると、魔法障壁が「パリンッ!」と音を出して割れ、その後すぐに浴びせられたサンダーで杖を持った人物は小屋の中に倒れ込む。

 すると『グランド・タートル』は攻撃を止め、突然魔の大樹海の有る後方に向きを変えると進み始めた。

 どうやら『魔獣使いの杖』の強制力から解放された様だが、そのまま上の小屋に倒れ込んで居る人物を連れて行かれては困るので、自分とガイは『グランド・タートル』の上の小屋毎倒れ込んで居る人物を引きずり落とす事で『グランド・タートル』を解放した。

 生存確認をしようと近付き仰向きにひっくり返すと口から青い泡を垂れ流し絶命していた。

 アラン様が来られて件の人物の様子を見て、青い泡に触れない様に指示してグローリア殿の後部座席に乗せさせ、『魔獣使いの杖』もご自身が回収された。

 そして『フェンリル』に向かい、

 「我々は、君と背後に居る彼女に敵対する意思は無い。

 どうか彼女と話させてくれないか?」

 と尋ねられ、『フェンリル』も言葉が判るのか頷くとアラン様が彼女に近付くのを容認し脇に退いた。

 アラン様が白いローブを着た彼女に近付き、挨拶を交わそうとしたタイミングに彼女は膝から崩れ落ちた。

 どうやら今迄は気が張っていて立っていた様だが、安心したのか立っていられなくなった様だ。

 此処では治療も出来ないとアラン様が『フェンリル』に話しかけられ、『フェンリル』も納得した様で彼女を器用に自分の背に載せると城に向かってくれた。

 既に『魔獣使いの杖』の強制力から解放された魔物達は、城への攻撃を止め魔の大樹海に向けて退散しており城に帰るのは簡単だったが、そこら中に散乱する魔物達の死体を見て此れは後始末が大変だと明日からの作業を想像して思わず溜息が出た。

 



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25. 11月の日記⑥

  11月12日

 

 昨日の激戦を終え、当直の者以外は皆泥の様に眠り自分も珍しく昼近くまで寝ていた。

 起き出して練兵場広場に用意された、補給軍主導の炊き出し隊が作った臨時食堂で朝食兼昼食を摂り、厩に居るガイの所に行き食事とブラッシングをしてやり、ガイが満足気な鳴き声を上げ再度休息に入ったので作戦指揮車のある城へ向かう。

 其処では、ダルシム副官とヴァルター機動第一軍指揮官が指揮を取り、城内の被害のあった箇所への修復要員の派遣や怪我人への手当(ヒール)要員の派遣、そして城外の魔物の死骸から魔石を取り出す要員に簡便に魔石を取り出せる魔道具の貸し出しが行われていた。

 自分は初めて見たが、この魔石を簡単に取り出せる魔道具はバズーカの様な形をしており、砲部分の先端にはアダマンタイトを輪状に尖らせた物が付いていて、容易に魔物の身体を貫き魔石のある箇所をくり抜いてスイッチである引き金を引くと魔石と弱冠の肉片を取り出せるのだという。

 此れは、今迄の魔石取り出しの苦労を思うと画期的と呼んで良い魔道具だ、開発者は誰ですか?とダルシム副官に聞くと、ゴタニアからコリント領に来られた魔術ギルドのカーラさんだと答えてくれた。

 嗚呼、そういえば非常に派手な服を着ていて荷物を馬車一杯に積んだ目立つ人が居たな、と思い出す。

 何でもコリント領に着くなり、アラン様とクレリア姫様と交渉し大きな開発所と職員10名を預けられ精力的に研究と開発を行い、今では職員30名・工場一棟を抱えて、タラス商会とサイラス商会更には商業ギルドに其処で生み出された商品を卸すコリント領の稼ぎ頭だそうだ。

 そうなのかと思いながら、その魔道具を借りて城外の魔物の死骸から魔石を取り出す作業を午後は行った。

 

 11月15日

 

 昨日まで、魔石を取り出す作業と魔物の死骸を焼く作業を行ったお陰で、粗方の戦場の後始末は終了し城内の片付け手伝いをしていた所、アラン様の呼び出しを受け城の会議室に向かう。

 会議室では対面式に席が設けられ、片方は30席でアラン様始め軍の上層部とレオン殿、カイン殿と家臣5人が座られている、反対側は6席と何故か長椅子が1席並んでいる、訝しく思いながらハリーと何時もの立体プロジェクター設置をしていると、セシリオ王国の軍服を着た軍人らしき5名と白いローブの女性そして女性の横に寄り添う銀色の狼が1頭入室して来た。

 アラン様始め皆様立ち上がり、入室して来た人達と黙礼をし双方席に座った。

 徐ろにアラン様が、

 「それでは、暫定的ながらセシリオ王国亡命政権との交渉と経緯説明、そして対アラム聖国との対策検討会議を始めます。」

 との宣言がなされた。

 自分は内心驚いていたが、此処に居る面々は既に承知の様なので顔には出さずにいた。

 そしてセシリオ王国側の中央の人物が立ち上がり発言し始めた、

 「私はビクトール侯爵、先の戦争でセシリオ王国の総大将をしておりましたが、戦争に負けて捕虜としてこの城に捕らわれておりました。

 そもそも何故先の戦争が行われ、私達が何故今解放されているのか?その根本理由と経緯を説明致したく思います。」

 続けて、

 「約1年半程前に、アラム聖国の宗教使節団がやって来たのがそもそもの原因です、彼等は王宮に来て先王との対面後ルージ王(この時は王子)と会談が持たれました、そして何故か使節団代表ギランがルージ王の相談役として就任し諸々の宮廷会議にも顔を出す様になりました。

 それに対して心ある貴族や官僚がルージ王に諫言すると、その後面談と称した面接をルージ王とギランの居る部屋で行われ、帰ってくるとその諫言した者はまるで人が変わった様に、ルージ王とギランの意見に全面賛成と唱える傀儡と化していたのです。

 かくいう私もその一人で、そのカラクリはこの首飾りが原因です。」

 と言い首飾りを掲げられ、立体プロジェクターに其れが映し出されその概要が示された。

 「この首飾りは、精巧な魔道具で一度嵌めると映像にある通り皮膚と同化してしまい、他者からは首飾りを着けている様には見えません、そしてその能力は嵌めた人物への従属と云う形で現れます、私の経験から考えますとルージ王の意見は素晴らしく反対する事等考えられなくなり、侵略戦争を起こすと言われた際も素晴らしい大賛成だと思い総大将に志願した程です、此処に居る面々も同じで志願して将軍となりました、そして戦争捕虜となった後もルージ王は正しいと考え続けて居たのですが、こちらに居られるヒルダ嬢(白いローブを着た女性を示され)が首飾りのロックを外してくれたお陰で正常な判断が出来る状態に解放されました。」

 そしてヒルダ嬢が立ち上がり話始めた、

 「私もビクトール侯爵と同じくこの首飾りに支配されて居たのですが、『グランド・タートル』の指揮所に居たギランの持つコントロール用の魔道具を、アラン様達が攻撃をされ集中が途切れた瞬間にこの『フェンリル』(隣の銀色の狼を撫でながら)が奪ってくれたのです。

 それからは皆様もご覧になられていた通り『フェンリル』が私を守りながら戦い、アラン様達がギランを討ってくれたお陰で私は完全に解放されました。改めて感謝致します。」

 と頭を下げられた。

 代わってアラン様が、

 「皆に補足説明をしよう、以前から『黒』がセシリオ王国の不穏な動きに警戒し内偵を進めていたのだが、突然戦争に懐疑的な人物が好戦派に変わる理由が皆目判らず、どの様なカラクリが有るのか?と疑っていたのだが、この首飾りとコントロールの魔道具を入手したお陰で説明が着いた、つまりルージ王は貴族や官僚の反対意見を封じ込め国家を私物化した上でベルタ王国に大義の無い侵略戦争を仕掛けたのだ。

 だがその侵略戦争が大失敗に終わり、王都以外の地方領主から糾弾され始め事態に焦ったルージ王は、ギランに事態の収束を求め、ギランはセシリオ王国の切り札(『フェンリル』に目を向けられ)を使い戦争捕虜を奪還するべく此処に攻め入ったのだ。」

 と説明された。

 すると長椅子から『フェンリル』が立ち上がり、首に着けた翻訳機で朗々と話始めた。

 突然狼が話始めた事に、レオン殿と家臣の方々は驚かれたが、カイン殿と我々はグローリア殿と話し、此処に来る前には猫から説明を受けていたので、今更狼が喋ろうと驚きは少ない。

 「俺は、このヒルダと誓約を交わしていてヒルダが願う事は最優先で叶える事になっている、そのヒルダが俺の知っている戦いに使える物や方法を教えて欲しいと願ったので、何時ものヒルダでは無いと判りながらも俺の知る盟友たる『ベヒモス』の守る『猫の王国』の事、そして其処に有る秘宝『魔獣使いの杖』の事も話さざるを得なかった。」

 と話し、

 「ケットシー128世と『ベヒモス』には大変申し訳無い事をした、事が収まったら彼等の王国と『ベヒモス』を解凍しに行く事と、この借りは必ず返すと伝えて欲しい。」

 と話終え長椅子に戻った。」

 そしてアラン様が、

 「以上が経緯説明だ、皆今まで判らなかった戦争原因やアラム聖国の介入等の新しい情報が有り咀嚼するに時間が少なかったと思う、休憩を挟み少数のメンバーで再度会議を行うので一旦解散。」

 と解散を宣言された。

 自分とハリーはあくまでも機材要員なので、ここでの用事は済んだのだが戦争の裏事情、そして見え隠れするアラム聖国の陰謀に、もしかするとスターヴェーク王国の崩壊にもアラム聖国が関与していたのではと考えざるを得なかった。

 

 



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26. 11月の日記⑦

 11月18日

 

 3日間の会議を終え、これからの指針が決まり先日まで戦争捕虜だった人々がファーン侯爵領の復興に従事したいと申し出られた。

 アラン様は近隣の貴族の領地で捕虜として預かって貰って居た者達も呼び寄せられ、ビクトール侯爵と将軍達に先ずは我々が通ってきた『魔の大樹海』までの舗装工事を命じられた。

 ビクトール侯爵達は訝しんでいたが、捕虜のまま牢屋暮らしをするよりは余程良いだろうと兵士達に命じ舗装工事に着手した。

 その工事を監視する為と練兵も兼ねて、『機動軍』が周りを戦闘用バイクで疾走する。

 元セシリオ王国兵士の面々は、ドリルバイクやバズーカバイクが時折標的をその能力で以って粉々に砕いて行く様子を見て、自分達が如何に危険な者達と対峙したのかと今更の様に震え上がっていた。

 

 11月25日

 

 『魔の大樹海』側から大型トレーラー10台と巨大な魔獣が現れた。

 巨大な魔獣の上には、ケットシー128世が居て物珍しそうに舗装工事の様子を見ている。

 其処へグローリア殿に乗ったアラン様がやって来て、大型トレーラーに乗っていたヒルダ嬢と『フェンリル』も降りてきた。

 この巨大な魔獣こそが『ベヒモス』、大地の精霊にして『猫の王国』を守護していたのだが、『フェンリル』によって氷漬けにされていたのだが、ヒルダ嬢が元に戻ったので解凍されたのだ。

 アラン様、ケットシー128世、ヒルダ嬢が挨拶を交わされ、『グローリア殿』、『ベヒモス』、『フェンリル』も翻訳機を使い挨拶を交わされた。

 護衛としてその様子を見ていて、思い出すのはまたも親父の言葉だ。

 「ドラゴンや機械人形が人間の言葉を話すご時世だ、其処らに居る犬や猫も「今日は良いお天気ですね。」とか挨拶をして来るに違いねえ。」

 その言葉通りの現実に以前は困惑していたが、今ではワクワクしてきている自分に、慣れて来たものだと可笑しくなり思わず笑ってしまいそうになった。

 

 11月26日

 

 『ベヒモス』が舗装工事を手伝う事になった。

 『ベヒモス』の能力は大地の精霊らしく、土地を均したり、邪魔な岩を砂に変えたり、コンクリートの材料になるセメント原料、石灰石やケイ素等を選り分けする力が有る、これ程工事に向いた魔獣は居ないのでは?と思いたくなる程だ。

 その能力を活かす為に大型トレーラーには、コンクリートを製造する為の機材が積まれていて早速組み立てて夕方には生コンクリートがドンドン出来て行き、大凡枠の出来上がっている道路区画に流し込んで乾くのを待つと行った作業を進める。

 

 11月28日

 

 『ベヒモス』が手伝ってくれたお陰で『魔の大樹海』までの舗装工事は大まかに出来上がり、後は流し込んだコンクリートが乾き強度とメンテナンス不要にする為のMMを塗り込めるだけとなり、城の広場で懇親会を開催した。

 まだまだ、侵略した者とされた者の垣根は高いが、この10日程真面目に舗装工事をする姿を見て、ファーン侯爵領の民も大分気を許してきた様だ。

 皆、美味しい食事と飲み物を振る舞われ、徐々に盛り上がり始めた時に広場に立体プロジェクターを設置し大きな映像と音が聞こえる様にした。

 流される動画は、見せて構わない範囲のコリント領の姿である。

 懇親会に参加していたファーン侯爵領の民、元セシリオ王国兵士、『ベヒモス』と『フェンリル』も先進的な街並みとドームの大きさ、行き交う車両、物流の主役になりつつあるトレーラー、其れ等を生み出す工場群と逆に長閑な放牧と豊富な農業地帯、更に魚の養殖場を見せられ、「オオッ!」と歓声を上げる。

 アラン様が壇上に立ち、

 「皆が頑張って作っている道の舗装工事は、このコリント領へ直通する道に繋がる、いずれは『魔の大樹海』の道も舗装され誰もが安全に通れる事だろう。

 つまりは今皆がしている工事は間違いなく、皆自身の未来を切り拓く工事なのだ、希望の未来を掴む為に皆励んで欲しい!」

 と仰せられた。

 参加者全員が喜んで歓声を上げ更に懇親会は盛り上がった。

 

 11月30日

 

 後始末もほぼ終えて、後事はレオン殿と家臣の方々に頼み我等はコリント領に帰還する事になったのだが、何故かヒルダ嬢と『フェンリル』更にケットシー128世がグローリア殿に乗り込んでいる。

 ヒルダ嬢と『フェンリル』は、是非懇親会で見せられたコリント領をこの目で見たいと言われ、ケットシー128世は留守番をされているクレリア姫様との約束で、生活ブロックのドーム内に作られる『猫の王国』の保養地を確認する為だという。

 まあ、アラン様が納得された上でグローリア殿に乗せて居るのだから、部下である我々が異議を唱えるのも可笑しな話なので問題無い筈なのだが、不思議な予感で何かトラブルが起こる様な気がしてならなかった。

 

 



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閑話⑧ 「カレンちゃん日記」④(カレンちゃん新生活にご満悦)

またも突然始まる閑話シリーズ、何故今再開したのか?
それは作者が、これ以上ケニー君以外の家族の動向を描写してないと本編との時間経過に差が広がり過ぎて、忘れてしまいそうになったからです。(謝罪)
という訳で(どんな訳だよ!)、久し振りにカレンちゃん達のあれからが始まります。
本編は暫くしてから始まりますので、忘れないで下さいね。(願い)


 6月13日

 

 「いつまで寝てるの起きなさい!」

 と母ちゃんに怒鳴られちゃったよ、旅の間グッスリと寝たことなんて無かったから、ルドヴィーク以来だね。

 そして何といってもこのベッド、フワフワでフカフカ寝心地良すぎてすぐに寝れたの、初めてのケイケン!

 起きて顔を洗おうと洗面所に行くと、父ちゃんがお湯を使って髭剃りをしてるしかも泡立てて!

 なんてゼイタクと思いながら蛇口から水を出そうとすると、父ちゃんがお湯を使えと言ってきた「エッ」と思い「お湯ってどこから?」と聞くと、お風呂と同じく水の蛇口の横に赤い色の蛇口がありひねるとお湯が出た!

うわあ~、便利だ!と感心しながら洗面器にお湯を入れ顔を洗う、ルドヴィークにいた頃は水くみに井戸まで行ってその時に冷たい井戸水で顔を洗ってたのに本当に便利。

 兄ちゃんが家族がそろったらさっそく家の魔道具の説明を始めた。

 昨日、全部の部屋に魔道具の灯りがあることは判ってたけど、ベランダや廊下、玄関にもあったんだね、その為の魔石は玄関横の魔力充填BOXて魔道具で魔力を溜めることができるんだって何度でも使えるんだ~、あれ?

という事は魔石買わなくて良くなるの?って、兄ちゃんに聞いたら「そうだよ。」とアッサリ教えてくれた。

 という事は魔道具を使うかぎり、ロウソクも要らないしお湯を沸かすためのマキも要らないんだ!

 お金使わなくなるから、私のお小遣いも増えるのかなあと考えちゃった。

 朝食はフードコートって場所で食べるからと外にお出かけ。

 マンションの廊下も玄関も朝なのに明るすぎるくらい灯りがついてる、兄ちゃんが「灯りは1日中点いてる。」と教えてくれた、ゼイタクだな~。

 フードコートに着いたら友達家族も居てもう食べ始めてる、お腹が「グウ」と鳴りそうなので兄ちゃんに教わって席を取ったらお店を選んだ、「サンドイッチ専門店」て旅をしている時に街によくあった軽食のお店で、ここにもあったので安心して私の好きなハムサンドとタマゴサンドを頼む、父ちゃんと母ちゃんも好きな物を選んでたけど兄ちゃんが余計にカツサンドという聞いたことの無いサンドイッチを人数分注文していた。

 お金を払おうと母ちゃんが財布からギニーを出そうとすると、兄ちゃんが、「これからはこの方法が便利だよ。」と例のカードを取り出し目の前の四角い箱にかざすと「ピッ」と音が鳴り数字が箱に表示された。

 父ちゃんが、「ギニーを使わないのか?」と兄ちゃんに聞いて兄ちゃんが「コリント領では両方使えるが、現金は嵩張るしカードは自己証明にもなり他人は使えない魔道具だよ。」と説明してくれて、父ちゃんが、「なんて便利な魔道具だ!」と感心していた。

 タマゴサンドから食べて、兄ちゃんオススメのカツサンドを食べてみる。

 うわあ~、美味しい!このお肉とソース(マヨネーズって言うんだって)そしてキャベツが良くあってるよ、今度から必ず注文しようと思いながら果物ジュースという飲み物を飲んだらこれも甘ーい!朝からゼイタクだなーと満足して朝食を終えた。

 職業斡旋事務所、教会、病院、工房、工場、各種職業訓練校、学校等と午前中に兄ちゃんが案内してくれたけど、私は病院と学校が気になっちゃった。

 だって、凄く立派な病院なんだよ!旧スターヴェーク王国の王都に行った時に王都の病院も見たけど、こんなに大きく無かったし、手術用の魔道具や治療師(ヒーラー)が10人以上居るなんてあり得なかったもん。

 そしてなにより学校!

 何でも18才より下の人は必ず通わなければならなくて、そこでは読み書き計算と他の教科も習うんだって、ということは大勢の子供が集まるんだよね!

 友達が一杯できそうで楽しみだなー。

 お昼は大衆食堂でとることになり、チャーハンというゴハン料理をたべたんだけどこれも美味しいー、いくらでも食べれそうだけど、父ちゃんと母ちゃんから「あんまり食べると太るぞ。」と脅され仕方なく腹八分目(最近覚えたんだよ)にしておいた、だけど本当の理由は父ちゃんと母ちゃんがもっと食べたかったからじゃないかな?と父ちゃんと母ちゃんの食べっぷりを見て思っちゃった。

 午後、農業ブロックというドームを案内され、凄く広い農場で畑と果樹園を見せてもらったけど、何といっても感動したのは魚の養殖場だね!

 そこでは、色んな魚が養殖されていたんだけど横に今まで見たことも無い「釣り堀」があったんだよ!

 なんとどんな人でも「釣り」が楽しめる様に、釣り道具も貸し出されていて子供でも釣りが楽しめる様に小さいサイズの物もあったので私でもできる、家族で相談して釣りをやってみることになり私もチャレンジしてみたよ。

 最初に渡された釣り道具は、エサをつけるタイプで私虫が嫌いだから他のは無いの?と聞いたらルアー(疑似餌のことだって)タイプに変えてくれて、ルアーがキレイな色で気にいったからこれにすることにしたよ。

 家族それぞれが釣り道具を選び、さっそく釣り大会開始!

 最初は投げ方もわかんなくて、目の前にルアーが落ちたりしてたんだけど、だんだん遠くにルアーを飛ばせる様になり飛ばすだけでも楽しくなっちゃった。

 ドンドン兄ちゃんが釣り上げて、父ちゃんと母ちゃんが続いて1匹も釣れない私がビリだったんだけど、これまでで一番遠くにルアーを飛ばせることができて喜んでリールを巻いていたら、ガツンといった当たりが来てモーレツに糸がリールから出ていき、困っていたら家族全員が手伝ってくれてようやく釣り上げたら、1メートル30センチもあるイトウという魚だったの。

 係の人に渡したら、今までで2番めのサイズだと教えてくれて「食べますか?放しますか?」と聞いてきたのでもっと大きくなってもらいたいから放してもらい、食べるのは兄ちゃんが多く釣ったニジマスにしてもらった。

 夕食はとなりにあるレストランで、さっき選んだニジマスをムニエルという料理で食べたんだけどこれも美味しかった。

 コリント領に来てから、美味しくない料理一つもなくてここは天国なんじゃないかと本気で思っちゃいそう、この日も満足のうちに就寝できちゃった。

 



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閑話⑨ 「カレンちゃん日記」⑤(カレンちゃん色々な人?と出会う)

 6月15日

 

 初めて仕事をするために、専門の職業訓練を受けることになったの。

 私が志願したのは『看護師』。

 だってカッコイイんだよ!テキパキとした患者への対応、そしてヒールを患者にかけている神秘的なカッコ良さ、あこがれちゃうよ。

 朝9時から看護師職業訓練校で授業が始まったんだけど、私1番小さいから1番先頭の席に座ってたら横に軍服を着たお姉さんが座ってきて、「お互い頑張りましょうね。」と言われたので、思わず「ハイッ。」て答えたらニコッと笑い返してくれたので、良い人に出会えたなあとルミナス様に感謝しちゃった。

 モニターで講習が始まり、『看護師』の仕事内容とどんな事が出来るのかという事を説明されたんだけど、ヒールが使えるのが当たり前みたいに説明されたんで、正直に「私魔法は使えません。」と言ったら隣のお姉さんが、「大丈夫よ。」と答えてくれたので、「どうして?」と聞いたらお姉さんは壇上に向かい、持ってきていた箱から丸い玉を取り出し教室の全員に見せて、

 「私はサーシャという『支援軍』の者です、今回この『ナノム玉』を持って参りました、これは体に入れるタイプの『魔道具』で能力は『精霊の加護』を得るというもので、具体的には怪我をしてもすぐに治り時間は掛かりますが魔法がつかえなかった人も、1段階目の魔法が使える様になるというものです、証拠をお見せしましょう。」

 と言われ私の目の前でナイフを出して、腕を傷つけた。

 エッ、大丈夫なの?と驚いていたら、ちょっと血が出ただけですぐに血は止まり布で拭ったら傷口が治っていた?!

 スゴーイ!『精霊の加護』ってスゴイ能力なんだ!周りに居た講習生もポカンとしていて、傷がついていた筈の腕を確認させてもらったらさわいでいる。

 是非『ナノム玉』を飲んでみたいと、手を上げたら「どうぞ。」と渡されたので、すぐに飲んでみたんだけど、口に入れた途端に『ナノム玉』はとけちゃった?!

 不安になってお姉さんを見ると、「それで良いのよ。」とうなずいてくれて、みんなに、

 「『ナノム玉』の効き目は、傷を治す力は1日、魔法を使える様になるのは5日後となるので実地訓練は5日後以降になります、それまで教科書の勉強をします。」

 と説明してくれた。

 5日後に魔法が使える様になるなんて夢みたいと、みんな興奮しっぱなしでスゴク嬉しそうだったよ。

 

 6月20日

 

 今日で『ナノム玉』を飲んで5日目、ワクワクして看護師職業訓練校でイメージ動画を見て、外にある魔法練習場で、イメージ通りにトーチの魔法から試してみる。

 3秒くらいで、火が指先5センチ先に灯ったのを見て「うわあ~!」て声がでちゃった!

 続けて『ライト』『ウオーター』を試してみてアッサリと成功しちゃった!

 みんなも成功したみたいで大騒ぎになってたんだけど、例のお姉さんが、

 「早速病院で実践してもらいますので、付いてきて下さい。」

 と言われたので教会横にある病院に向かう。

 病院では、冒険者や職人の人達が怪我や打ち身を治してもらおうとやってきているので、それを治す事を実践するとお姉さんがみんなに指示したので、私は冒険者の人の打ち身をイメージを思い出しながら「ヒール」と唱えて手をかざす、すると手から柔らかい光が冒険者の人の打ち身部分を照らし少しずつ打ち身が治っていく!

 やった、やったよ!この私が『ヒール』を使えたんだよ!

 冒険者の人も子供の私が『ヒール』を使えたことに驚いていたけど、私自身がもっと驚いて「やったー!」と喜んじゃった。

 続けて何人か打ち身を治して上げてたら、フラッとめまいがしたのでお姉さんに言ったらお姉さんが

 「それが魔力が尽きる感覚です、よく覚えて置いてくださいね。」

 と説明された。

 うーん、あまりこんな気分になりたくないから、魔法は一杯使えないのかな?ちょっと残念。

 

 6月22日

 

 講習と病院の手伝いが終わって家に帰ったら、兄ちゃんが珍しく早く帰っていて大きな箱をもってきて私に見せてきた。

 中には2匹のリスを大きくした様な動物がいて額には大きな宝石みたいな物が光っていて、のぞきこんだ私を怯えもしないで見つめている。

 「うわあ~カワイイ!!」と叫んで、兄ちゃんに振り向いて「この子たちどうしたの?」と聞いたら、兄ちゃんがガイと訓練してたら、木が倒れてそれに巻き込まれていたので『ヒール』を掛けて保護した、と答えて「お前この子たちをペットにしてみないか?アラン様からも勧められたんだ。」と私にすすめてきたので、もう一度箱の中をのぞくと「クゥー」とカワイイ鳴き声を上げている。

 私は兄ちゃんに、

 「この子たちは、なんて種類なの?」

 と尋ねると、

 「アラン様から聞いたら、カーバンクルというおとなしい魔物だそうだ。」

 と答えてくれたので、

 「じゃあ、この男の子は『カーくん』で女の子は『バンちゃん』ね。」

 と名前を決めて飼う気マンマンなのを伝えたら、なぜか兄ちゃんはめまいがしたようにこめかみを押さえている。

 「どうしたの、ヒール使おうか?」と言ったら「何でも無い。」と苦笑いしてたので、まあいいかなと思い。

 『カーくん』と『バンちゃん』を箱から出して、

 「私は、カレンて言うんだよ、これから仲良しのお友達になってね。」

 とあいさつをしたら、2匹とも「クゥー」と答えてくれた。

 私は受け入れてくれた事がわかったので嬉しくなり、

 「今日から、一緒に暮らそうね!」

 と言って抱きついたら、2匹は首元や足元をグルグル回り喜んでくれた。

 弟と妹が出来たみたいで、今日はコリント領に来て最高な日になったよ!

 



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閑話⑩ 「カレンちゃん日記」⑥(カレンちゃんクレリア姫様と友達になる)

 7月3日

 

 だんだん実地訓練にも馴れて来て、私も打ち身だけじゃなくてちょっとした傷の手当も『ヒール』で治せる様になっちゃった。

 この病院のとなりには、教会があるから毎日決まった時間にシスターが来て、私達と同じ様に『ヒール』を病人や怪我人に掛けて治してあげてるんだけど、私はちょっと疑問に思って聞いてみたの、

 「みなさん『ヒール』を使えてますが、もしかして教会で魔法訓練とかしているんですか?」

 そうしたら、黒い修道衣を着たシスターが、

 「いいえ、そうではなく『ヒール』が使える様になったのはコリント領に来てからよ。」

 と答えてくれたので、「それじゃあ、『ナノム玉』で。」と聞くと、

 「そう、貴方と同じく『ナノム玉』を飲み『精霊の加護』を受けたの。」

 と思った通りの答えてくれて、

 「実は『精霊の加護』を受けてから、毎日の礼拝や勤行をしてたら王都に居た時にはあまり感じなかった、女神ルミナス様の加護と存在を明確に感じられる様になって、司祭様に至ってはより明確で時に『お言葉』すら賜っているわ。」

 とスゴイことを教えてくれた。

 うわあ~、うらやましい~、私も一度くらい女神ルミナス様の『お言葉』を聞いてみたい!と言ったら、

 シスターが、

 「貴方はこれ程毎日『ヒール』を病人や怪我人に掛けて治してあげてるんだから、きっと女神ルミナス様はご覧になっていて、いつか『お言葉』を掛けてくだされるわ。」

 と力強く言ってくれたので、これからもがんばりますと女神ルミナス様にお祈りした。

 願いが届くといいなぁー。

 

 7月5日

 

 『放送局』というのができて、今日からモニターで『ニュース』や『音楽』そして『広報』が今までと違って朝から夜までずっと流されるんだって、実は家族の中で一番私がモニターを見てるかも?

 だって、実地訓練している病院にモニターがあるし、シスター達と一緒に昼食を食べる時も教会の玄関にあるモニターが見れる部屋で食べるからね。

 だからシスター達と一緒に見る、女神ルミナス様の創世神話は毎日の楽しみの一つで、私のわきで大人しく一緒に見ているカーくんとバンちゃんも内容がわかってるのか、物語が終わるまで動こうとしないの、カーバンクルてスゴク賢いんだなー。

 

 7月7日

 

 驚いちゃった!

 今日病院に『クレリア姫様』が来られたんだよ!

 定期的に軍の人達が病院に来て、『ヒール』の練習もかねて病人や怪我人に掛けて治してあげてるんだけど『クレリア姫様』の支援軍が来られたの!

 私と何人かの旧スターヴェーク王国出身者はすぐにわかったんだけど、態度に出しちゃいけないんだ。

 なぜなら、まだベルタ王国の人達には明かしてはいけないと言われてるんだよ、いずれその時が来たら全ては明かされるんだけどそれまではヒミツ。

 本当はひざまずいて感謝したいのに、できなくてもどかしい変な気持ちでいたら、例のお姉さん(サーシャさん)が『クレリア姫様』を案内して、私の作業場(病人や怪我人に『ヒール』を掛けてる場所)のとなりで同じく『ヒール』を病人や怪我人に掛けて治していく。

 うわあ~、姫様が貴族でも無い平民のために『ヒール』を掛けてあげてる!と声に出したくても出せなくて顔を真っ赤にしてたら、『クレリア姫様』が変に思ったのか、

 「大丈夫?」

 と心配そうに聞いて来られたので、

 「ぜんぜん、大丈夫です!!いつもより元気なくらいです!!」

 と大きな声を出してしまったので、『クレリア姫様』も私が旧スターヴェーク王国出身者だとわかってくれてほほえんでくれた、

 けっこう大きな声だったせいか、作業場のわきに置いておいたカゴからカーくんとバンちゃんが出てきて、私を守るために額の宝石を光らせ始めちゃった。

 今度は『クレリア姫様』の方が驚かれて、

 「これはアランの言っていたカーバンクル?!

 という事は、この娘は!」

 とサーシャさんに振り向いて聞いて、サーシャさんが、

 「そうです、空軍のケニー隊長の妹さんです。」

 と答えられてて『クレリア姫様』も私が誰なのかカンペキにわかっちゃったみたい。

 『クレリア姫様』はカーバンクル達と私に、

 「ごめんなさいね、驚かせてしまったみたいで、この御礼にこの子たちにおやつを上げたいから、実地訓練が終わったら付いてきてくれる?」

 と誘われたので、この後特に用事も無いので、

 「はい、ありがとうございます!」

 と返事したら、ニッコリとほほえんでくれた。

 実地訓練が終わりサーシャさんの馬に同乗させてもらって、アラン様やコリント領の上層部のおエライさんが住んでいると聞いている建物に着いた。

 何だか入って良いのかな?

 と疑問に思って玄関前に立ちすくんでいたら、サーシャさんとは別の女性の軍人さんが来られて「どうぞ、いらっしゃい。」と声を掛けてくれたの。

 この女性の軍人さんは『エルナ』って名前で、何とシャイニングスターの5人の内の1人だと自己紹介されちゃった。

 やっぱりスゴイ人しか居ないんだと感心しながら階段を登り、最上階の5階一番奥の部屋に通された。

 そこには『クレリア姫様』とサーシャさん、そしてガンツで知り合いになったミーシャさんが居られ、私を歓迎してくれたの。

 私舞い上がっちゃって、思わず抱えてたカゴを落としちゃったら素早くカーくんとバンちゃんが出てきて私の首元と足元を回り始める。

 「そんなに緊張しないで、良いのよ。」

 と『クレリア姫様』が仰られて手招きされたので、断るのも失礼なんじゃないか?と思い席に座る。

 するとミーシャさんが部屋の角に有る冷蔵庫から箱を出されてテーブルの私の前に置かれ、紅茶をサーシャさんがみんなのカップに注がれた。

 『クレリア姫様』が、

 「どうぞ。」

 と言われたので箱を開けると、コリント領に来てまだ一回しか食べてない『プリン』が出て来たの。

 「プリンだ!」

 と思わず声がでちゃったら、『クレリア姫様』が、

 「これはアランが作ってくれた物だから、お店の物より美味しいのよ。」

 と仰られた。

 「エッ、アラン様はお菓子を作られるのですか?」

 と聞いたら、

 「そうよ、アランはお菓子だけでは無く料理、魔法、政治、剣術等ありとあらゆる才能に満ちあふれているわ。」

 と自慢げに仰られたが、そういえば兄ちゃんもそれと似たようなこと言ってたなと思い出す。

 『クレリア姫様』は今度はテーブルの下に居るカーくんとバンちゃんの前に、クッキーが盛られたお皿を

置かれ「どうぞ。」と促している。

 カーくんとバンちゃんは私を見て「クゥー」と鳴いてきたので、私は「いいよ。」と許可をあげたら喜んで食べ始めた、そういえばカーくんとバンちゃんには、おやつをあげたこと無かったな、時々あげようと考えていたら、食べ終わったカーくんとバンちゃんが『クレリア姫様』の足元に行き、クゥー」と鳴いた、

 「美味しかった?」

 と『クレリア姫様』がカーくんとバンちゃんに尋ねたら、突然カーくんとバンちゃんが額の宝石を光らせ始めた。

 エルナさんとサーシャさん、ミーシャさんが素早く『クレリア姫様』の前に出られたが、すぐに光は止みみなさんのテーブルの上にルビー(紅玉)、サファイア(蒼玉)が置かれていた。

 みんな驚いて私を見たので、

 「この子たちの感謝の印で私もこれまで3回もらいましたよ、ただ私にはもっと小さいサイズだったので、よっぽどクッキーが美味しかったんですよ。」

 と教えてさしあげた。

 みんな感心してくれて、カーくんとバンちゃんに「ありがとう。」と感謝された。

 『クレリア姫様』が私に向かい、

 「実はそなたを呼んだのは、御礼の件とは別に友人になって貰おうと思ってな、今居る者達とシャイニングスターのメンバーのセリーナとシャロンを加えた女子会という会をコリント領に着いてから作ってい時々女子だけの情報交換、例えばこの店のデザートが美味しいとかあの店の服が可愛い等の男には判らない話題を提供しあっていたのだが、中々メンバーを増やし辛い状態が続いていて、誰か身元がしっかりとして年齢層の違う者は居ないか?と探していてな、そなたはその条件にピタリと適合し話題に事欠かない人材としても素晴らしい、是非この会のメンバーに入りそして私の友人になって貰いたいのだ、どうだろう受け入れてくれないだろうか?」

 と尋ねられた。

 私は悩んだ、どう考えても不釣り合いだし、貴族じゃないから貴族流の言い回しなんかできないし、礼儀もできているかわかんない、その辺を『クレリア姫様』以外の人達に素直に聞いてみたら、みなさん「大丈夫よ、そんなに格式張った会じゃないから」と言ってくれたので、『クレリア姫様』にカーくんとバンちゃんも連れてきていいですか?と言うと、

 「勿論だ、それどころか是非毎回連れて来てくれると嬉しい、今回同様カーバンクル達用のおやつも用意して置く。」

 と答えてくださったので、

 「わかりました、是非メンバーに入れてください!」

 と答えをかえしたら、みなさん喜んでくれた。

 ホッとして足元のカーくんとバンちゃんを見たら、とても喜んでいる様で本当に言葉がわかるんだと感心しちゃった。

 



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27. 12月の日記①

 12月1日

 

 我等空軍は、アラン様とケットシー128世そしてヒルダ嬢とフェンリルを乗せたグローリア殿と共に昨日コリント領に皆よりも早く到着し、ヒルダ嬢とフェンリルには本来ならホテルに宿泊して貰うべきなのだろうが、諸々の不都合を鑑み軍事ブロックの宿泊施設に泊まって貰う事になったが、ケットシー128世はクレリア姫様との約束通り生活ブロックの比較的端の方に作られた猫用の保養施設に入られた。

 双方満足してくれている様なので、自分の心配は杞憂でしか無かった事に安堵を覚えた。

 

 12月3日

 

 とんでもない知らせが『黒』によって齎され、コリント領上層部に激震が走った!

 何と、ベルタ王国国王アマド陛下が刺されたと云うのだ!そしてそれを阻止しようとした『黒』の副隊長ハインツは片腕を失う重傷を負ったという。

 更に現在王都は、暴徒による火付けによる大火災が発生し、ブリテン侯爵、ヘルマン卿が暴徒鎮圧と消火を行っているが、其れを妨げる様に活動するルミナス教徒と覚しき手練の者達に手を焼いているという事だ。

 この混乱の巷に有る王都は危険であると判断されたブリテン侯爵、ヘルマン卿の計らいで、『黒』の副隊長ハインツを含む数人の『黒』の隊員でアマド陛下を護衛し、車両2台で王都を脱出しコリント領目指して逃走中であると続報が届く。

 直様アラン様が、

 「空軍出動、自分もグローリアで出る。

 後部座席はカーゴBタイプ(救急搬送用)に換装。」

 と命令を出されたので自分もガイへと急ぐ。

 3時間後、グローリア殿のスピードに追いつけず30分程遅れて、王都近くのブリテン侯爵の親族である貴族の領地で合流し、アマド陛下と『黒』の隊員を収容出来た。

 アマド陛下の刺された箇所はヒールで塞がっているが、毒の塗られた刃物だったらしくアマド陛下は昏睡状態のままだ。

 ハインツ副隊長が機転を利かせ保持していた『ナノム玉』と『万能薬』を刺された際に、強引ながら陛下に飲ませていたお陰でそれ程顔色は悪く無いが、早く処置する必要があるだろう。

 グローリア殿のカーゴにアマド陛下を乗せいざ出発といったタイミングに、

 「追っ手が接近中!」

 と王都方面を警戒していた空軍の隊員から、通信がもたらされた。

 自分は、

 「アラン様、此処は空軍が対処します!アラン様はグローリア殿でアマド陛下をコリント領に!」

 とアラン様に進言し、ミーシャに向かって、

 「ミーシャ、お前とサバンナで護衛を頼む!」

 と言い、他の空軍隊員には、

 「皆、追っ手を蹴散らし後顧の憂いを断つ!」

 と命令を下した。

 「「「了解!」」」

 と皆敬礼し、直ぐにワイバーン達に搭乗して装備確認を行う。

 「出撃!」

 とアラン様が命令を発し、グローリア殿とミーシャの搭乗するサバンナがコリント領目指し飛び立ち、空軍は追っ手に向かって編隊を組みながら飛び立つ。

 5分程飛ぶと追っ手と覚しき騎馬隊100騎が見えて来る。

 此の数ならば、大した事も無いと考え軍団魔法『ハウリング・パニッシャー』を空から騎馬隊100騎に浴びせる。

 処が、想定と異なり騎馬隊は『ハウリング・パニッシャー』を意にも介さず、こちらへ向けて魔法や矢を飛ばしてくる。

 訝しく思いながらも編隊を組み直し軍団魔法『ソニック・インパルス』の体勢になって、騎馬隊100騎に突入した。

 流石に『ソニック・インパルス』を食らってはどうしようも無いらしく、殆どの騎馬隊は倒れてもがいているが3騎だけ倒れなかった騎馬が空軍に対して攻撃して来る。

 その異様なまでの執着に驚いたが、負ける訳にはいかないと皆で集中してフレイムアローを3騎の騎士の四肢に叩き込む。

 当然落馬した騎士に向かい状態を確認しに向かうと、四肢が効かないにも関わらず飛び跳ねて噛みつこうと口を大きく開けて飛んで来る。

 其れを避けて首筋に当身を行い気を失わせたが、あまりの行動に尋常では無いと思い此の3騎の騎士は縄で雁字搦めに拘束しコリント領に連れ帰る事にした。

 

 12月4日

 

 アマド陛下は病院の特別室にて治療と療養に入り『黒』の副隊長ハインツも病院入りした。

 連行した3騎の騎士の尋問と状態確認を『黒』に任せ、アラン様達上層部と各軍団隊長格以上は一番大きな会議室で、ベルタ王国各地方の情報収集と周辺各国の動向を精査した。

 王都での動乱の主軸は、どうやらアラム聖国からの宗教使節団らしい事は『黒』からの情報で判っていたが、ゲルトナー大司教からの通信で裏付けが取れた。

 ゲルトナー大司教曰く宗教使節団とは真っ赤な偽りで、闇で噂されて来たアラム聖国の暗部『神罰執行部隊』(通称エクスキューショナー部隊)が多数紛れ込んでおり、ゲルトナー大司教始め多くの司祭やシスター達も拘束されそうになったが、連行されかけた際にヘルマン卿と丁度来訪されて居た『剣王』の一人『シュバルツ』殿に救われたそうで、現在王宮に多数の市民とブリテン侯爵、ヘルマン卿の新たに結成された『防衛軍』、そして協力を願い出でられた『シュバルツ』殿とで立て籠もって居るそうだ。

 敵軍はドンドン増強されつつ有り、先の処罰に含まれなかったが警戒していたガンツ伯とカリファ伯の私兵が現在の敵軍の主力で、其処に近隣の賊や王都にまだ居た悪党の類が合流、そして処罰を受けた貴族達の領地から領兵、私兵、傭兵が次々と王都に向けて進軍中で有り、更にはアロイス王国の国境守備軍がアロイス王国王都からの軍と合流し弱冠の兵士を残しただけでベルタ王国領に侵入、本来戦わなければならないベルタ王国国境守備軍がその軍と合流し、そのまま前宰相ヴィリス・バールケ侯爵の領地に入った。

 セシリオ王国ではそれ程目立つ行動は無いが、ベルタ王国との国境線の国境守備軍が増強されており、ファーン侯爵と派遣された国軍は迂闊に国境から動く訳には行かなくなった。

 一気にベルタ王国は内乱の様相を帯びて来て、我等は此の国難に全力で立ち向かわなければならないと拳を握りしめ武者震いに体を震わせた。

 



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28. 12月の日記②

 12月6日(前半)

 

 昨日漸く昏睡状態から脱しベッドから起き上がれる様になったアマド陛下に、アラン様とクレリア姫様そして元宰相ヴェルナー・ライスター卿、『黒』の隊長のエルヴィンが面会され、何事かを相談された様だ。

 我々は、現在の敵軍の状況と其れに対抗する味方の兵力の配置図を確認し、どの様な対抗策で望むか?想定される敵の行動をどうやって迎え撃つか?兵站線をどの様に構築し其れをどの様に維持するか?等の作戦案を策定し何時如何なる時に出動が掛かっても対応出来る体勢を整え始めた。

 昼過ぎに大会議室で、車椅子に座られたアマド陛下臨席の元で作戦会議が開かれた。

 アマド陛下に現状の説明として、敵の勢力の状況と味方の勢力の状況、そして周辺各国の動静がアラン様の口から語られた。

 アマド陛下は顔を強張らせながらも、

 「アラン辺境伯、今後どの様に行動すべきか?余に示して欲しい。」

 と仰せられ、其れにアラン様は、

 「其れでは、進言させて頂きます。

 先ずは、一刻も早く王都を取り戻しましょう!

 まだ王城は陥落しておりませんし、王都を奪還し陛下が無事で有る事をベルタ王国全土に発表すれば、様子見を決め込んでいる貴族諸侯の敵への寝返りを鈍らせる事が出来ます。

 恐らくは、敵の主力であろう前宰相ヴィリス・バールケの領地に集まっているアロイス王国の軍とベルタ王国国境守備軍そしてヴィリス・バールケとその親族である貴族の私兵合わせて約7万の軍勢は、大軍ではありますが、逆に大軍であるが故の弱点として小回りが効きませんし、兵站線を維持するのも大変な事になります。

 よって・・・」

 と話の途中で、「ピピピッ!」とアラン様の背後から音が聞こえてきて、皆アラン様の背後のモニターに注目する、モニターの画面にシャロン隊長が出てきて、

 「会議中失礼致します、緊急事態につき通信させて頂きたいのですが宜しいでしょうか?」

 と言われたのでアラン様が、

 「陛下宜しいでしょうか?」

 と許可を願い、陛下も「うむっ」と許可をだされた。

 シャロン隊長は、

 「ありがとうございます、つきましては私では無く当事者であるフランシス伯爵から報告する事になります。」

 と言われ画面にフランシス伯爵が映り、

 「陛下ご無事なお姿を拝謁し、臣は安堵致しました。」

 と画面内で片膝を着いた。

 それに対して陛下は、

 「フランシス伯爵にも心配を掛けた、余は此の通りコリント辺境伯のお陰で無事だ。

 ただ毒を使われた所為で暫くは無理を出来ないので、車椅子を使う事になるが喋る事には不自由は無い。

 其れよりも緊急事態の用件の方が気になる、報告内容を聞かせてくれ。」

 と尋ねられ、フランシス伯爵は、

 「承知致しました、其れでは報告させて頂きます。

 前宰相ヴィリス・バールケの領地にて、大変不穏な状況になっており、此処に居るシャロン隊長と『黒』の隊員が情報収集に励んでいた処、伝令がベルタ王国の中立派貴族とヴィリス一派の貴族に出され、その内の一人の伝令を捕らえ身体検査した処、檄文とヴィリスからガンツ伯宛の密書を発見致しました。

 ただ、内容が些か過激且つ虚偽を多分に含んでますので、此の場で公表するのは如何かと思います。」

 と檄文については陛下が別室で報告を受けて貰いたさそうに言ったが、陛下は、

 「どうせ檄文ならば何れ全土に向けて公表するだろうから、今公開された処で構わないし、密書も一緒に公開すれば良い。」

 と答えられた。

 了承された、フランシス伯爵が咳払いの後檄文を読み上げた、

 

 「告、

 我宰相ヴィリス・バールケ侯爵は、ベルタ王国国王アマド一世を弾劾する。

 この者は、日頃から奢侈贅沢にうつつを抜かし、政治を顧みず我に無理難題を押し付けて来た。

 更に自らの欲を満たす為に、税率をこの3年間で5割から7割に上げるという暴挙を行って来た。

 そしてこの者は、何と他国にまで狙いを定めセシリオ王国にまで攻め入ったのだ。

 我はこの愚行を収めるべく心ある同士と共にこの者を諌めたが、逆に蟄居・閉門させられ心ある同士に至っては逮捕されたり、降格させられる憂目にあった。

 そして我等をこの様な目にさせるべくアマド一世を唆した、アランと其れに与する貴族の一部は我が世の春を謳歌していると聞く。

 此処に至って我ヴィリス・バールケ侯爵は、現状を変えるべく武力で正義を行う事を決意し心ある同士達と共に決起するものである。

 そしてこの決起にはセシリオ王国とアロイス王国からも賛同を得られ、アロイス王国に至っては援軍4万を派遣して頂いている。

 心ある貴族の方々は、正義が我が方にあるのはお判りの筈だ、直ちに我が軍と合流してベルタ王国の為に正義を行おうではないか!

 

            連名 

             アロイス王国国王ロートリゲン・アゴスティーニ一世

 

             セシリオ王国国王セリオ・ルージ一世

                       

  我等は宰相ヴィリス・バールケ侯爵に賛同し、協力する事を此処に誓う。」

 

 と聞いててあまりの呆れた内容に周りの者と苦笑いを交わしていたが、ふと気になってアマド陛下の様子を伺ったら顔を紅潮させ、かなり憤慨されている事が見て取れた。

 続けて密書の内容が読み上げられた、

 「ガンツ伯よ、お主はカリファ伯と共に王宮を陥落させたら、囚われているアンテーヌ伯爵ロドン将軍を助け出しロドン将軍を総大将として軍を再編成せよ、そしてその軍でもって我等に靡かない愚かな貴族達の領地に攻め入り従属させよ、その際お主が許可を求めていた略奪をしても構わないが、略奪した物品の内宝物の高価な物は我に上納せよ誤魔化すのは許さん、そうすれば貴族位を上げてやるし領地の加増も考えてやる、必ず成し遂げろよ。」

 と檄文の内容との差に笑えて来るが、アマド陛下が苦悩されている様子を見て笑いを引っ込めた。

 アラン様が陛下を気遣い直ちに病院へ送り届けようとすると、陛下が、

 「いや気遣い無用だ、其れよりも先の進言通り一刻も早く王都を奪還して貰いたい、アラン護国卿頼めるだろうか?」

 と問われたので、アラン様は、

 「安んじてお任せあれ、此れより空軍を率い夜間の闇に紛れて王都に向かいます。

 王都奪還の後の方策は、此処に居るダルシム副官に概略は伝えて有るのでどうぞご質問下さい、ダルシム頼んだぞ。」

 と言われたので、ダルシム副官は、

 「ハッ、了解致しました!」

 と敬礼して答えられた。

 その姿を陛下は眩しい物を見るかの様な目つきで、とても羨ましそうに見ている様に自分には見えた。

 



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29. 12月の日記③

 12月6日(後半)

 

 アラン様の指示の元出撃する軍の発表が、隊長以上に通達された。

 空軍はグローリア殿に乗るアラン様とパラシュート(落下傘ともいって練習を重ねてきた)を背負った『黒』の精鋭を軸に、ワイバーン達は後部座席をカーゴAタイプに換装しパラシュートで王城に落下させる、中には新兵器の他支援物資が満載されている。

 近衛軍は今回は出動させず、アマド陛下とクレリア姫様の護衛をする護衛部隊となり、王都を無事奪還した際には護衛しながらアマド陛下を王都に連れて来る任務を負う。

 支援軍はエルナが率い、補給軍の大型トレーラーに乗り込んでセリーナ隊長の居るブリテン侯爵領へ向かい、合流の上でセリーナ隊長率いる近衛軍とブリテン侯爵領兵と共に王都を目指す。

 補給軍も大半は支援軍と共に行動する。

 機動軍は、補給軍の一部隊と共に一路王都を目指す。

 アラン様もパラシュートを背負い、空軍と『黒』の精鋭に今夜決行する作戦概要と目的の説明をされた。

 「ブリテン侯爵とゲルトナー大司教からの情報で、例の『エクスキューショナー部隊』が暗躍し王都での要人殺害やテロリズムが行われ王城と王都市街地区との分断が進み、クーデター軍が占拠している地域がましているそうだ、何とかしたいが神出鬼没過ぎて対処しようが無い様だ、其処で探知魔法を使える自分と王都の地理に明るい『黒』の精鋭と空軍でも精鋭(自分とミーシャを指差し)の両名で部隊を組み、『エクスキューショナー部隊』を退治する。

 ゲルトナー大司教からの情報では、アラム聖国は相当自分とコリント領への警戒心が強く檄文に連名が無かった事といい、表立っての我々との対立は現状避けたい様だが、セシリオ王国で暗躍していたギランが死んでしまった為にアラム聖国の情報源が我々には無く、『エクスキューショナー部隊』は是が非でも捕らえたい、だが我々が王城に居る事に気が付かれた場合直ぐに王都から撤退する可能性が有る為電撃的に拘束する必要ガある。

 よって空軍の二人にも、『黒』の標準装備で有るこの麻痺短剣(パラライズナイフ)を使用して貰う。」

 と麻痺短剣を渡された。

 用意を整え一時間後の出撃に備えていると、アラン様の元にクレリア姫様とヒルダ嬢がやって来た。

 二人は何やら留守番部隊では無く、機動軍と共に王都攻防戦に参加したいとアラン様に嘆願しに来た様だが、この様にクレリア姫様が自分の立場を弁えずに行動する姿は珍しく、何かあったのか?と疑問を覚えたがアラン様が事態は未だ流動的で、クレリア姫様とヒルダ嬢がコリント領に居る事は我等の最後の砦になるかも知れず、留守番だからと任務を軽く考えないで欲しいと丁寧に留守番部隊の重要性を説かれたので、二人は納得された様で部屋から出て行かれたが、アラン様が珍しく溜息をつかれ疲れた様子を見せ驚いてしまった。

 一時間後アラン様の号令の元グローリア殿と空軍が出撃した。

 4時間後王都上空でアラン様が早速探知魔法を発動させ、『エクスキューショナー部隊』の現在位置把握に取り組まれ、やがてそれと覚しき黒装束5人組が闇に紛れ走っている姿を捕らえたと通信が来たので、ガイにグローリア殿に従えと命令し、ガイも「グル!」との返事で返した。

 そしてグローリア殿からアラン様と『黒』の精鋭が飛び降り次々とパラシュートが開くが、黒に染め上げられている為全く目立たずに緩やかに落下していき、自分とミーシャも続いた。

 『エクスキューショナー部隊』の前方30メートル先にアラン様が、パラシュートを10メートル上空から切り離し着地し敵の出足を止めさせた。

 その直後『黒』と我々二人も3メートル上空から切り離し降り立つ。

 『エクスキューショナー部隊』は、我々を見ても騒がず様子を窺っている。

 アラン様が、

 「お前達はアラム聖国の『神罰執行部隊』で間違いは無いか?」

 と尋ねたが敵は其れには答えず逆に、

 「その身体能力そしてその佇まい、お主がアラン・コリントだな?」

 とリーダー格と思われる中央に居る黒装束が確認するかの様に聞いて来た。

 アラン様は、

 「そうだが、どうやら此方の質問に答える気は無さそうだな、皆2対1で相手をしろ『俺』は中央の者の相手をする。」

 と言われたので、自分は左側の一人をミーシャと組んで相手をする事にした。

 実はこの時、自分を含む空軍二人と『黒』の精鋭6人全員が密かに戦慄していた、何故ならアラン様が『俺』と言われたからだ。

 日頃丁寧な口調で話されて、滅多に『俺』と云うやや乱暴な一人称を使用しないアラン様が、最近使用したのは、9月に選抜された者達との格闘技公開試合に於いて準決勝と決勝で、シャロン、セリーナ両隊長と戦われた際に闘う直前使用されて以来だからだ、つまりアラン様が『俺』と自分自身を呼んだ時は本気であるという事だ。

 緊張しながら自分の相手に『ライトアロー』を放つと当たる前に弾かれてしまう、やはりギランと同じく魔道具かアーティファクトで魔法対策をしている、接近格闘で倒すしか無い。

 自分が相手の正面に立ち、ミーシャは横から牽制するポジショニングを取りイリリカ製の剣に魔力を通し斬り掛かった。

 敵の剣も魔法剣で、受け止められたがミーシャが横から斬り掛かったので、敵はすぐさま後ろに下がる。

 敵も慣れたもので、4人で我々8人を相手にする為に円陣を組み対抗して来た。

 有る種の膠着状態に成りかけたが、ドサッという音がして横目で音の方向を見ると、アラン様があの決勝でセリーナ隊長を倒した技『鉄山靠』の体勢で敵のリーダーを倒していた。

 残りの敵4人は、明らかに狼狽しアラン様を注視したので我々8人は一斉に斬り掛かり、止めを例の麻痺短剣を使用する事で自害させずに拘束する事に成功した。

 それにしてもやはり『俺』と名乗られたアラン様は凄まじい、正直敵のリーダーとの闘いはじっくり見たかったと埒も無い事を考えながら拘束した敵を連れ王城に向け歩き出した。



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30. 12月の日記④

 12月7日

 

 夜の内に適当な広場にグローリア殿とガイとサバンナに降りてきて貰い、拘束し眠らせたエクスキューショナー部隊をグローリア殿に乗せコリント領に連れ帰って貰い、我々9人はガイとサバンナに往復してもらう事で、遠巻きに王城を取り囲んだ敵の上を飛び越し王城へ入った。

 既に明け方近くだった事もあり、我々は小休止の後当直の者の案内でシャワーを浴び、籠城されている方々と会議する事になった。

 ブリテン侯爵とヘルマン卿そしてゲルトナー大司教が、早朝にも関わらず意気軒昂な様子で会議に参加された。

 アラン様と其々が握手し合って互いの無事を喜びあい、双方の現状を報告し合った。

 現在王城は、ガンツ伯とカリファ伯が遠巻きに囲んで時々城門に攻撃を掛けて来るのだが、破城槌やその他の攻城兵器を使うでも無くただ効きもしない魔法や弓矢で攻撃するだけだ、どうやら一度本格的に攻撃した際に手酷く反撃され懲りた様だ、此方も城を討って出るには兵力が足りず膠着状態に陥っている。

 コリント領では、アマド陛下を無事保護し現在療養に入って頂いているが命に別状は無く、会話も長時間で無ければ問題無い事、そして軍の一部をブリテン侯爵領に向かわせ領兵と合流の後王都に進軍させ、其れとは別の一軍は王都に向けて進軍中である事をアラン様は教えた。

 そして最大の懸念である、前宰相ヴィリス・バールケの領地に集まっているアロイス王国の軍とベルタ王国国境守備軍そしてヴィリス・バールケとその親族である貴族の私兵合わせて約7万の軍勢は、近隣の貴族の領地へ進軍し吸収したり、降伏させたり、略奪したりして版図をベルタ王国の東側三分の一まで広げている状況も籠城組に説明した。

 朝食を全員で済ませ方策を練る段でアラン様が、

 「先ずは、遠巻きに王城を取り囲んだ敵の様子を見て作戦を決めましょう。」

 と言われ、自分とミーシャを連れ城門に向かう。

 城門の上にある望楼に登ると、一人の武者と出会った。

 その武者は明らかに接近して来た我々を遠くから感知していたらしく、望楼からずっと我々特にアラン様を観察していた。

 望楼に着き其処に居た兵士が挨拶して来る中、武者はアラン様の前に立ち頭を下げ、

 「お初にお目に掛かる、此の方は『シュバルツ』と申す武辺者であります。

 武者修行をしておりまして、剣豪と云われる方々との試合を求めて諸国を遍歴していた処、ベルタ王国にてドラゴンスレイヤーが現れたとの噂を聞きやって参りました、是非アラン様と試合をと望みアラン様と懇意であると聞かされたゲルトナー大司教へ表敬訪問をしに伺った処、『神罰執行部隊』とやらに連行されかけていたので、そやつらからゲルトナー大司教と他の方々を奪還し、王都が大混乱する中王城に匿って現在賊軍と対峙している方々の助太刀をしている者です。」

 と挨拶をして来た。

 アラン様も、

 「其れは大変忝ない、ゲルトナー大司教の救出と王城の守備への力添え、幾重にも御礼させて欲しい。」

 と返答された。

 シュバルツ殿は、改めて惚れ惚れとアラン様をご覧になり、

 「素晴らしい!これ程練り上げられた身体、そして圧倒的な気の充実を表に出さず身体の隅々まで行き渡らせる技術、是非この動乱が終息した暁には試合をして貰いたい!」

 と手を合わせて願い出られた。

 アラン様は苦笑され、

 「そうだな、この内乱が終息したらその試合受けて立とう。」

 と快諾されたので、シュバルツ殿は「有り難い。」と感謝された。

 そして両者は連れ立って望楼から敵を観察し始め、自分はハリーから預かった撮影魔道具を使い敵軍を満遍なく撮影した。

 アラン様は充分観察した後シュバルツ殿を伴い、会議室に戻られ自分に動画をモニターに映す様に指示された。

 会議室にブリテン侯爵とヘルマン卿そして武官の方々が席に着かれた。

 アラン様が、

 「其れでは作戦会議を始める、先程敵軍の状況(モニターに画面を映し出し)を確認し人数、装備、編成、士気、攻城兵器等を把握して来た、自分には作戦の腹案が出来上がったので各現場指揮官には其々の現場状態と兵士の数そして備蓄食糧の量を細かく報告して貰いたい。」

 と指示され、武官達が現在の状況と備蓄食糧の量を細かく報告し、皆に現況が知れ渡った処でアラン様は、

 「其れでは、作戦を説明する。

 敵軍はガンツ伯とカリファ伯が指揮官で両名の私軍4千が主力だ、其れに王都に居た悪党5百と近隣の野盗や傭兵凡そ2千5百合わせて約7千となるが、この映像から判る様に戦う為の布陣が出来て居らずただ雑然と各々で固まっているだけでつまりは雑軍でしか無い、其れに対して我々は王都守備軍千と防衛軍千の合計2千である、数の上では負けているが装備、士気の面では比べ物にならない程勝っている、食糧備蓄もブリテン侯爵が王都に赴任してから、励まれたお陰で半年分は確保されている、ただ我々王城に籠城している分には問題無いが、王都で苦難に合っている王都民の事を考慮すると一刻も早く敵軍を王都から追い払う必要がある、よってコリント領から持ってきた新兵器を王都守備軍が運用し空からはワイバーン隊で敵を混乱させ、その間隙をつき私がガンツ伯とカリファ伯を取り押さえ、そのタイミングに防衛軍が王城から出撃し敵を王都から退却させる、この作戦概略に沿って作戦を詰めて行きたい。」

 と作戦の骨子を述べられ皆が納得している処、シュバルツ殿が手を挙げられた。

 どうぞ、とアラン様に促されると、

 「作戦の大まかな流れと要諦は理に叶っていると感心致しましたが一点だけ納得しかねる、何故か皆様ご指摘しない様だが、アラン殿お一人が敵軍に入り込み敵の指揮官達を取り押さえると云う話が当たり前の様に納得されているのか?」

 と呆れた様に問われた。

 するとシュバルツ殿以外の皆様は苦笑され、代表してブリテン侯爵が、

 「その通りだ、貴殿の言われる通り普通はそう考えるのが妥当だ、だが我々はアラン護国卿のこれ迄の戦いとその凄まじさをこの目で或いは(モニターを指差し)映像で目の当たりにしている。

 まあ、信じられないのも無理のない話なので、今度の戦いの際に存分に見聞されよ。」

 と言われたので、シュバルツ殿は周りを見渡し皆納得している事を確認し、身体を震わせアラン様に、

 「では、是非、某も同行させて頂きたい!ドラゴンスレイヤーたる貴殿の力を間近で見れるこの機会を逸したくない、お願いだアラン殿、某も連れて行ってくれ!」

 と頼まれた。アラン様は、

 「其れは、願っても無い申し入れどうぞ同行され、剣王としてのお力を存分にお示し下さい。」

 と返事され、シュバルツ殿も、

 「忝ない!」

 と満面の笑みで応じられた。



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31. 12月の日記⑤

 12月8日

 

 全軍しっかりと朝食を摂り、昨日の作戦会議の通りに王城城壁四隅に新兵器である対長距離魔道砲を設置し、連れてきた『黒』の精鋭が其々に一人ずつ配置され残り二人はゲルトナー大司教の護衛についた。

 空軍は、自分を含む5騎が戦闘に参加し残りの10騎は周辺からの敵軍への援軍が来た際の要撃用の備えとして各街道を見張らせている。

 王都守備軍と防衛軍には、カーゴに入れて持ってきた関節部分を守る合金製のサポーターを、鎧の邪魔にならない様に装着して貰い防御力を上げ、魔法の不得意な者は3人で組ませ持ってきたバズーカを砲手、砲身変換、魔石供給と役割分担させ運用させる。

 予定通りに王都守備軍は城壁上、防衛軍は城門内側に待機させる。

 用意が整いガイの後部座席に乗るシュバルツ殿が、アラン様と共にやって来られた。

 背中にパラシュートの入ったランドセルを背負われ、腰には2剣を差して関節部分には合金製のサポーターを装着しており準備万端の様だ。

 昨日の作戦会議の後は、ずっとシュバルツ殿は我々と行動を共にして、色々と会話する事でかなり打ち解けて来たのだが、このシュバルツ殿は剣王とは思えぬ程気軽な御仁で、色々な物に興味を示され先進的な魔道具を見てアラン様のコリント領にこの内乱が終息したら、来訪するだけでは無く手柄を挙げるので是非屋敷を賜りたいと堂々と要求してきて、アラン様も大笑いされて手柄次第では道場もプレゼントしようと返答されたので、シュバルツ殿も「必ず大手柄を挙げますぞ!」と顔を紅潮させて鼻息荒く約束された。

 そして午前9時になりブリテン侯爵の「作戦開始!!」の号令で、王城城壁四隅から敵軍に向かって対長距離魔道砲から魔法が放たれた、敵軍は魔法の届かない距離に居るとの思い込みから警戒していなかった様だが、放物線を描き勢いを落とさずに空から降ってくる魔法に表情を強張らせた瞬間、轟音と共に4地点でファイアーグレネードが炸裂した。

 次の瞬間アラン様が、

 「出撃!」

 と命令が発せられ空軍5騎が城門内の広場から飛び立つ。

 狙うは敵軍の中心に有る攻城兵器群で、空軍5騎から火球が空中から発射され周囲に居た敵軍も爆風で吹き飛んだ。

 敵が大混乱に陥ったタイミングにアラン様は、パラシュートも着けずにミーシャの乗るサバンナから飛び降り、着地する瞬間エアバレットを地面に向かって撃ちフワリと着地され、それに続いてシュバルツ殿がガイの上から飛び降り、問題無くパラシュートを開かれて、3メートル程の高さからパラシュートを切り離されて地面に降り立つ。

 混乱中で殆どの者が両者に気付かない中、悠々とガンツ伯とカリファ伯に近づく二人だが双方の戦いぶりは違い、シュバルツ殿は向かって来る敵の手足を容赦無く斬り飛ばして行き、アラン様は剣の峰や柄頭を使い首筋や鳩尾を打ち据え昏倒させて行く、30人程が戦闘不能になる中漸く二人に気付いたガンツ伯とカリファ伯は、顔を引き攣らせながら金切り声で周りの兵士に二人を倒せと命令するが、命令に従った10人が前述と同じ様に戦闘不能にさせられる様子を見て、二人を遠巻きにして様子を窺うのみになった。

 ガンツ伯とカリファ伯は、兵士は役に立たないと見て後ろを見せて逃げようとした瞬間、アラン様が我々と最初に会った時に見せた、瞬間移動と思える程のスピードでガンツ伯とカリファ伯を昏倒させて組み伏せた。

 シュバルツ殿が、

 「お見事な『縮地』ですな!」

 と感嘆しながら背負ったランドセルから拘束具を取り出し、ガンツ伯とカリファ伯を拘束した。

 それを確認し、自分はガイに火球を上空に飛ばさせて空中で爆発させる。

 それを合図として、城門が大きく開かれて防衛軍が打って出る。

 大混乱中の敵軍に、吶喊の雄叫びを上げ突入する防衛軍は、アラン様とシュバルツ殿に合流しその場で円陣を組むと、周囲に向かってありったけの魔法と弓矢そしてバズーカを撃ち込む。

 その凄まじい攻撃に敵軍は為すすべもなく吹き飛び、城壁からも間断なく援護射撃が加えられて、指揮官不在の為に撤退の指示も出せず散り散りとなって逃げて行った。

 戦場には、呻き声を上げる敵軍の怪我人が散乱しているのみで、味方の兵士は殆ど怪我した者もおらず、戦いは籠城軍側の完勝となった。

 アラン様は、此の場での決着は着いたと判断され、

 「我々の勝利だ!!」

 と勝鬨を上げられ皆も、

 「「「「オオーッ!!!」」」」

 と拳を突き上げ勝利の雄叫びを上げた、そんな中アラン様にシュバルツ殿が近付き握手を求められたので、アラン様も手を差し出し固く握手を交わしていた。

 



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32. 12月の日記⑥

12月11日

 

 籠城戦も終わり、王都を元に戻すべく全員で忙しく戦後処理をしていく中、セリーナ隊長から通信が入りアラン様達上層部が会議を開いた。

 セリーナ隊長は、ブリテン侯爵領で軍事訓練とインフラ整備の陣頭指揮を取って居られたが、内乱が発生したためブリテン侯爵領兵と連れてきた近衛兵達で、周辺の貴族領を含む街や村を鎮撫して廻っていたのだが、時折狂人の様な兵士や騎士に会い、ブリテン侯爵領の牢屋に入れていたのだが、食事も受け付けず衰弱しているという、以前我々がアマド陛下を救出した際に似た様な騎士がいた事を思い出しながら話を聞いていると、どうもその者達はアラム聖国から来た宗教使節団の人員と何らかの形で接触していたらしい。

 アラム聖国から来た宗教使節団は、ゲルトナー大司教から聞いた話によると王都に来訪し陛下への謁見を望んだ者とエクスキューショナー部隊以外の大半は、各地の教会に向かった様だ、もしこの者達がアラム聖国の意を汲んだ工作員であったとすると、ベルタ王国各地で王都の様な混乱が起こる可能性がある。

 アラン様はセリーナ隊長に王都に進軍する際、ルート上の地域の鎮撫とアラム聖国の工作員の逮捕を命じた。

 そしてブリテン侯爵とヘルマン卿と相談し、王都守備軍から以前我々と共同で行った『王都掃討作戦』に参加していた者達を中心に、『第二次王都掃討作戦部隊』を編成しアラム聖国の工作員と先日の戦いでの落ち武者狩りをさせる事となり、『黒』の精鋭もこれに参加する。

 会議が終わり自分とアラン様二人になり、雑談をしながら魔道具の機材を仕舞おうとしていると、「ピピピッ」とアラン様の通信機が鳴り『黒』の隊長エルヴィンが通信して来た、モニターと繋いで貰いたいとの事で自分が操作するとコリント領の牢屋に居るエルヴィンが映る。

 エルヴィンが、

 「アラン様お忙しい中申し訳有りません、ですがどうしても話をさせて欲しいと言われ、話をさせてくれれば困っているであろう狂った人々の原因と対処法を教えても良いと、アラン様達が捕まえられたエクスキューショナー部隊の隊長から懇願され通信致しました。」

 と報告して来た。

 アラン様は、「良いぞ、繋いでくれ。」と言われ獄中のエクスキューショナー部隊の隊長が画面に出た、

 エクスキューショナー部隊の隊長は、アラン様を見ているが不思議な事に自分を倒した人間で有るにも関わらず、敵を見る様子では無くむしろ尊敬の眼差しでアラン様を見ている。

 エクスキューショナー部隊の隊長は口を開き、

 「私は、エクスキューショナー部隊の隊長を務めている『カトウ』と云う者です。実はアラン殿に確認したい事があり、エルヴィン殿に嘆願した次第です。」

 と言われたので、アラン様は、

 「確認したい事とは?」

 と聞かれ『カトウ』は、

 「失礼ですが、アラン殿のご出身は?」

 と聞かれたのでアラン様は、

 「何かそれが重要な事なのか?」

 と問い返された。

 すると『カトウ』は居住まいを正し座り直し(正座という体勢だそうだ)、

 「これから話す内容は私の戯言で有り、アラン殿は答えて頂かなくても結構、ただ聞いて頂きたい。」

 と言われ、アラン様が頷かれると話始めた、

 「我々の一族は、5年程前にある目的の為に遠く東の果ての島国から船で旅立ち、我等の故郷から西に当たるこの地に来ました。

 その目的を叶えるには一族の力だけでは難しく国の様な組織の力が必要で有り、更には生きていく為には生業も持たねばならなかった、そこで我々は島国で培った暗殺の業と技術を持ってアラム聖国と取引し仕事を請け負っていました。」

 と自分達の出身を明かされた。

 アラン様は「フム」と頷かれ先を促された、『カトウ』は続けて、

 「我々の故郷である島国は、或る強大な魔物に支配され屈従を1000年に渡って強いられて来ました。

 何度も倒そうと抗いましたがどうしても倒せずにいましたが、5年前我々の崇める神に仕える最高位の巫女が神から神託を受けとられました。」

 とアラン様を見つめながら続けた、

 「此れより3年半後、西の国にて星々の欠片が多く地に落ち、その星々と共に『神人』が天より降る。

 『神人』は神の化身(アヴァターラ)にして、強大な力を持ちその傘下には神の使徒が数多存在する。

 『神人』は数年の後、降り立った西の国にて君臨し、その力でもって周辺の国々を平らげ豊かに治める。

 そして東の大国を平定した後、この島国を訪れ我等の苦難を取り除くべく、かの魔物を退治される。」

 自分は驚愕しながら横からアラン様を窺うと、何時もは明快に受け答えされるアラン様が、ただじっと『カトウ』を見つめている。

 『カトウ』は、

 「今は答えを求めません、ただ我等はこれより神託を信じ貴方様に仕える事で、出来るだけ早く故郷の民を救うべく、貴方様の覇業へのお手伝いをさせて頂きたいのです。」

 と頭を地に着けて(土下座というそうだ)懇願して来た。

 アラン様は、暫く目を瞑り沈思黙考されていたが、意を決したのか、

 「其の件は一旦置いておいて取り敢えずは、狂った人々の原因と対処法を教えて貰いたい、その結果如何でお前達の採用を考えよう。」

 と言われ、『カトウ』が隣に居るエルヴィン隊長に紙と筆記用具を求め、渡された紙に薬の調合のレシピを記入する姿を自分は見ながら、『カトウ』が話した神託を思い返さずにはいられなかった。

 だが、様子を察したアラン様が自分に、

 「ケニー隊長とエルヴィン隊長、この場で話された内容は他の者には秘密にしてくれないか?」

 と頼まれたので、

 「了解です、我等は決して今の会話の内容は他に漏らしません!」

 とほぼ同時に答え、アラン様も頷かれた。

 今日からこの日記は鍵を付けて、家族も見れない様にする事にした。

 



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33. 12月の日記⑦

 12月20日

 

 会議室でアラン様と自分の目の前に、白い修道士姿の25人の一団が跪いて微動だにしない様子は異様ではあったが、元『神罰執行部隊』であると言われれば納得せざるを得ない雰囲気を一団は発していた。

 アラン様の背後のモニターには、同じ様に『カトウ』と仲間4人も同じ様に跪いている。

 アラン様は、

 「お前達の調合した薬と暗示の解除で、狂人と成りかけていた者達は回復したので取り敢えずお前達に課した仕事は完了したとみなす、これで第一段階の試練は達成した。

 それでは次の仕事だ、ベルタ王国で暗躍するお前達以外のアラム聖国の工作員の排除と其奴等の持っている情報の収集と魔道具及びアーティファクトの回収、この仕事を終えた暁には晴れてお前達をコリント領の仲間として迎え入れる事にする。」

 と言われ、

 「「「ハッ!」」」

 と背後のモニター内と目の前の者達が、返事をした。

 アラン様は、

 「便宜上お前達の事は、その白い修道士姿を鑑みて『白』と呼称する事にする、我等の諜報部隊である『黒』と連携し仕事を熟せ、判ったなエルヴィンにカトウ。」

 と命令され、画面外に居たエルヴィン隊長とカトウも、

 「「ハッ了解しました、必ずやご期待に応えます!」」

 と応じた。

 「解散!」

 と自分が言うと、素早い動きで全員が行動に移った。

 「アラン様、そろそろ全軍が王都横の練兵場に集合されます。」

 と報告が通信で『黒』から入り、アラン様と自分は王城バルコニーに伏せていたガイに搭乗し練兵場へ向かった。

 練兵場では、セリーナ隊長と近衛軍、支援軍、補給軍の混成部隊(600)とブリテン侯爵領兵(2000)、更に途中で鎮撫して廻って、前宰相側に味方する貴族に反抗していた部隊や、味方として協力を願い出た貴族の私兵から参加を志願して来た兵士等(3000)、ヴァルター団長率いる機動軍と補給軍の混成部隊(800)と途中で鎮撫して廻って参加して来た兵士(2000)、そして王都に駐留していた防衛軍と王都守備軍の当直を除いた(1600)、合わせて約1万の兵士が勢揃いしていた。

 アラン様が壇上に登られ、一同を見渡して、

 「此れより、ベルタ王国国王アマド陛下のお言葉を賜る、一同傾聴!」

 と宣言され、今回同行して来たハリーと放送局の職員が立体プロジェクターを最大限で空中に映し出した、勇壮な音楽と共にアマド陛下が画面に登場されると、この場に居る上層部の面々は片膝をつかれ敬意を払う。

 アマド陛下が、

 「皆の者、ベルタ王国の危機に際し余の元へ馳せ参じてくれた事大変感謝する。

 此処に集う諸君は、ベルタ王国の為を思う真の勇士で有り精鋭で有る。

 敵の首魁は、前宰相ヴィリス・バールケだ、この者は長年に渡り政治権力の中枢に有りながらその間ひたすら私腹を肥やし、自分の邪魔と見做した者達を毒殺する事で政敵を排除して来た。

 その悪事が露見し罪に問われそうになると、他国の軍を自領に招き入れ余に対して公然と反旗を翻して来た。

 もはや此奴は、反逆者ですら無く薄汚い売国奴で有る!

 敵は、己の私兵と他国軍と国境守備軍を主力として、後は傭兵、野盗、悪党を合わせて10万の兵だと吹聴している。

 だが、此方には諸君等精鋭と素晴らしい将帥が揃っている!

 そして何といっても我等には、我が国最強にして最高の武人『アラン・コリント護国卿』が存在する。

 彼の軍配の元で戦う軍は、正に一騎当千となり必ずや味方を勝利に導いてくれる事を余は確信している!

 よって余は、護国卿の地位から格上げし新たに創設した『総帥』の地位を与える。

 『総帥』は王の持つ軍権を与り、敵からベルタ王国を守り、ベルタ王国から敵を追い払う役目を担う。

 どうかアラン・コリント護国卿よ、『総帥』の任を受けてくれぬだろうか?」

 と仰られた、それに応えてアラン様は、

 「陛下、あまりにも恐れ多い大任です、私はまだベルタ王国の貴族にお取り立て頂いてから1年程しか経過しておらず、その間にも男爵から辺境伯、更には護国卿にまで取り立てて頂きました、此れ以上の地位に着くのは分不相応に御座います。」

 と遠慮された。

 それに対して陛下は、

 「否、その遠慮こそ無用で有る、この際これからの国家体制を述べて置こう。

 アラン護国卿を『総帥』に格上げし、其の下にファーン侯爵、ブリテン侯爵、フランシス伯爵を護国卿として置き、宰相には元宰相であったヴェルナー・ライスター卿に返り咲いて貰い、其の支えとしてアベル・ライスター卿を事務次官として当てる。

 この新体制を以ってベルタ王国は生まれ変わるのだ!」

 と宣言された。

 全軍が、

 「「「「オオッ!」」」」

 とどよめき、全軍が興奮しているのが肌で感じる。

 アラン様は暫く黙られていたが、

 「判りました陛下、陛下のお望み通り『総帥』の大任承りました。

 そして、この上は『総帥』の権限で以ってこの内乱を鎮めてみせます!」

 と力強く了承された。

 その瞬間また全軍が、

 「「「「「オオー!!」」」」」

 と賛同と喜びの混じった歓声が上がった。

 莞爾とアマド陛下が微笑まれ、

 「未だ余は毒の後遺症か、歩く事が出来ぬ故このコリント領で静養させて貰うが、勝利の吉報が齎せられる事を信じているぞ!」

 と仰せられ、そのお言葉にアラン様以下上層部は跪き、アラン様が代表され、

 「陛下、心安んじてお待ちあれ、必ず勝利の吉報をお届けに上がります!」

 と応えられ、陛下は微笑まれて画面から退席され、代わりにダルシム副官が画面に出られ、

 「アラン様、急ぎ編成された装甲トラック30台と装甲車20台が一両日中にそちらに着くと思われます、荷台と後部座席には、1万5千人分の合金サポーターと、バズーカ500門が積載されております、どうぞお役立て下さい。」

 と報告され、画面にその能力概要と実際に運用された演習動画が流され、全軍が驚嘆の声を上げた。

 アラン様は、

 「ダルシム副官、良く間に合わせてくれた。

 全軍明後日からは此等新兵器も加えた練兵を行い、訓練の過程で適正を考慮し新たなる軍へ編成し直す、励んで貰いたい。」

 と宣言され、全軍も、

 「「「「「ハッ、了解であります!」」」」」

 と一斉に敬礼して応えてみせた。

 



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34. 12月の日記⑧

12月22日

 

 本日早朝に、装甲トラック30台と装甲車20台がダルシム副官の報告通りに王都に着いた。

 練兵場で荷台から、合金サポーターとがバズーカが降ろされ早速装備されたり、点検に入っている中、何故か同乗されて来たクレリア姫様が、アラン様に連れられて王宮に向かわれた、ヴァルター団長とエルナ副隊長そして自分はクレリア姫様と一緒に来たサーシャ副隊長に尋ねた、

 「どうして、コリント領の留守を預かる筈のクレリア姫様が来られたのか、理由を教えてくれないか?」

 と代表してヴァルター団長が聞くと、サーシャ副隊長は、

 「他の者には言わないで下さいよ。」

 と念押しされ、皆で小さく輪を作り他に聞こえない様にして促すと、

 「作戦の一環で、ケットシー128世とヒルダ嬢がセス地方のシストの森に向かい、反乱軍が近くで野営したら夜襲する作戦が3日前に決まったじゃないですか、それに触発されて急遽装甲車を運転されてやって来たんですよ。」

 と説明して来たが、エルナ副隊長はその説明で納得した様だが、ヴァルター団長と自分は理解に苦しんだ。

 「サッパリ意味が判らない、何でケットシー128世とヒルダ嬢が夜襲する作戦が決まったら、クレリア姫様が王都にやって来るんだ?」

 と自分が聞くと「察しが悪いわねーこの朴念仁!」と言われ憮然としていたら、ヴァルター団長は「嗚呼、そういう事か。」と理解された様だが、自分には判らないので首を傾げていたら、サーシャ副隊長が、

 「ミーシャも大変ね。」

 と何故か呆れられた。

 釈然としないままで居たら、王宮からクレリア姫様とアラン様が戻って来られたが、クレリア姫様が笑みを浮かべているのにアラン様は憮然としている、不思議な事に自分と顔を合わせた瞬間アラン様と自分は同時に溜息をついた、何故かアラン様と想いを共有し女性の気持ちとは男には永遠の謎であると二人して空を見上げた。

 

 12月25日

 

 訓練と編成を終え、いよいよ反乱軍を迎撃に向かう。

 『黒』の情報によれば、反乱軍はバールケ領の食糧備蓄が底を尽きかけて他領の食糧を奪いながら王都を目指すつもりらしく、自軍への協力を申し出た貴族に食糧の供出を大規模に命令している様だ。

 アロイス王国の援軍もアロイス王国からの補給路は、国境守備軍が味方の今なら確保出来ると高をくくって居たようだが、そんな事を此方が許す筈も無く、既にシャロン隊長とフランシス伯爵領兵合わせて2千5百が、迂回してアロイス王国との国境線で後続のアロイス王国軍を撃破し補給路を遮断している。

 正直な処、我等は王都に籠城して居るだけで反乱軍は瓦解してしまいそうだが、アラン様はこれ以上国土を荒らされ、国として疲弊するのは好ましく無いとお考えの様だ。

 先日策定された、作戦案も短期決戦で然も街や村の周辺を避け平原と森の点在する、セス地方のシストの森を会戦の戦場として練られている。

 軍上層部の方々が列席される中、練兵場では編成の済んだ軍が整列し号令を待っている。

 壇上に上がられアラン様は、

 「此れより我等ベルタ王国正規軍は反乱軍を討つべく出陣する。

 既に反乱軍は、バールケ領を出て王都に向け進軍中である。

 ただ奴等は進軍ルートの街から街に、まるで蝗の様に襲いかかって食い潰しながらやって来ており、その進軍速度は軍隊と呼べぬ程の緩慢さだ。

 其れ故に奴等を迎撃する戦場も自ずと決まった、セス地方のシストの森で有る。

 此処は街道は存在するが、近くに街等は無くただ平原と点在する森が有るのみで人家も無い。

 此処ならば、我等の力を存分に振るえるし奴等が逃げ込む拠点も無い。

 作戦案は既に決まっており、各部隊長は了承済みで有る。

 兵士諸君、我等はベルタ王国国民の平和と安寧を守護する護国の剣である、その平和と安寧を踏みにじりやって来る反乱軍は、決して許す訳にはいかない賊徒でしか無い!

 勝利を掴む為に諸君には、必勝の念を持ち戦いに邁進せよ!

 其れでは、出陣!」

 と号令を掛けた。

 号令に従い一軍、二軍、遊撃隊、本隊、補給隊の順で王都の民が応援する中出陣した。

 その編成は、

 

 一軍(2千)・・・・ブリテン護国卿が率いる装甲トラックと重装騎兵を中心にした軍で、歩兵もラウンドシールドを全員が持ち基本的に相手の攻撃を受け止める防御力重視の軍である。

 

 二軍(3千)・・・・ヴァルター団長が率いる機動軍と装甲車を中心にした軍で、軽装騎兵と軽装歩兵を主力としバズーカもこの軍に大量に配備した攻撃力重視の軍である。

 

 遊撃隊(5百)・・・セリーナ隊長が率いる戦闘バイクを中心にした軍で、カイン殿がファーン侯爵領に残られているので、先頭をセリーナ隊長が搭乗する新型戦闘バイクが務め、従来のバズーカバイクとサイドバズーカバイクの台数を増やした機動力重視の軍である。

 

 本隊(5百)・・・・アラン総帥が率いる空軍とグローリア殿、『黒』『白』そしてクレリア姫様率いる支援軍を中心にした軍で放送局員達とシュバルツ殿率いる抜刀隊もいる、作戦指揮車等を筆頭とする情報力重視の軍である。

 

 補給隊(2千)・・・ハインツ団長が率いる補給軍のトレーラー部隊を中心にした軍で、トレーラーには食糧の他、補給物資や支援物資他にも拘束用の器具や医薬品等を大量に積載している軍である。

 

 この軍団以外の防衛軍(1千)と王都守備軍(1千)は、ヘルマン卿が率い従来通り王都を守備し賊や落ち武者等の逮捕、取り締まりを任務として貰う。

 

 出撃した軍団は、市街地には一切寄らず一路戦場と見做したセス地方のシストの森目指して進軍した。

  



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35. 12月の日記⑨

 12月31日(前編)

 

 反乱軍はこの日珍しく街では無く、平原で野営する事になった。

 その様子を後部座席にハリーを乗せた偵察仕様のガイで高空から観察する。

 しかしこの高空まで音が聞こえる程騒いでいる様子は、とても軍隊とは思えず野盗の群れにしか見えない。

 ただそんな集団の中にあって、静かな部隊が離れて存在している、魔道具で望遠して見ると思った通りアロイス王国軍であった、複雑な気分で眺め目を転じると更に離れた場所には『白』の報告にあった、大量の馬車と大きな石像50体が静かに佇んでいる。

 此れがアラム聖国のゴーレム部隊かと上空からの偵察を続け交代要員と代わり進軍中のベルタ王国正規軍に合流した、既にベルタ王国正規軍は反乱軍の北20キロメートルで駐屯し野営の準備と若干早いが夕食の準備に掛かっている。

 反乱軍はもある程度斥候を出している様だが、最大限10キロメートル半径でしか出しておらず此方に気付いてる様子は無い、余程大軍であるという自信からかすっかり気が緩んでいる様だ。

 アラン様が、部隊長以下に探知魔法と空軍の偵察により警戒網は万全であり、早朝の戦いに備え装備等の確認をしたら早目に就寝して置く様に通達を出された。

 作戦指揮車内では、備え付けのモニターと小型立体プロジェクターで偵察した動画の分析を行い、策定して置いた作戦案の幾つかを修正されたが、殆どは変わらず遂行する事が決定した。

 自分も夜中の偵察当番に備え、17時には早目の夕食と就寝に入る。

 22時偵察当番になり、上空からの偵察をハリーと共に行い始めたタイミングに、予定通り反乱軍の野営地のヴィリスの私兵がいる場所に向けてヒタヒタとゴブリンキング率いるゴブリン部隊(1万匹)が迫る、先の戦いで半数に減らされているが先鋒としては充分な数だろう、至近の森に隠蔽(コンシール)の魔道具で潜んでいて夜闇に紛れて接近していたのだ。

 「ガー!」

 というゴブリンキングの雄叫びを合図に、ゴブリンジェネラルやゴブリンロードが率いる各種ゴブリンが反乱軍のヴィリスの私兵、傭兵、野盗の屯している場所目掛けて夜襲を敢行した。

 突然の夜襲に備えを怠っていた反乱軍は、大混乱に陥り魔法を唱える事も出来ず、剣で応戦しようとする者もいたが、ゴブリン達に篝火を倒され暗闇の中では次々とゴブリン達に倒されていった。

 そうこうする内にオークキング率いるオーク各種(約5千匹)、コボルトキング率いるコボルト各種(約2千匹)が戦場に到着し、後詰めとしてグランド・タートルに乗ったケットシー128世とヒルダ嬢とフェンリルそして護衛役のオーガ5匹がゆっくりと地響きを点てて戦場に向かっている。

 彼等魔物軍は、ファーン侯爵領での戦いの際にアラム聖国の工作員であったギランが、『魔獣使いの杖』を正規の手順を踏まずに無理矢理大量の魔石を注ぎ込む事で、魔物の自我を奪いただ命令通りに本能の儘敵を攻撃する傀儡になっていたのだ。

 アラン様はこのままではただ衰弱して死んでいく魔物達に、せめて自分達を利用し尽くしたアラム聖国の扇動に乗った反乱軍と工作員に一矢報いさせるのが魔物達の復仇になるのでは?と、ケットシー128世とフェンリルに提案され、両者も此れに同意してケットシー128世が『魔獣使いの杖』を使い魔物達に反乱軍へ攻撃させているのだ。

 夜襲の効果でかなり当初は押し気味に反乱軍を攻撃していた魔物軍も、時間が経つにつれて数の劣勢がバレ更には魔法を仕える魔物の少なさから、徐々に魔法の攻撃により数を減らして行くが自我が無い為に退却しようとせず最後の一匹になる迄戦い続けていた。

 最後のオーガが大型ストーンゴーレムに頭を砕かれ、グランド・タートルに反乱軍の一部が向かおうとした処でベルタ王国正規軍が戦場へと現れた。

 丁度朝日が上り始めたその太陽を背に、正規軍全軍が戦闘態勢で行軍して来る。

 既にこの段階で反乱軍は凡そ3万の死者重軽傷者を出しており、更に夜の間ずっと戦っていた為、やっと魔物達を叩き潰したと思ったタイミングに新たな敵が現れた事になり士気はドン底に迄下がっている。

 正規軍が残り500メートルに近づいた段階で反乱軍の中で特に雑軍と呼べる、ヴィリスの私兵、傭兵、野盗の集団は及び腰になり、至近に迫った段階では目の前に見た事も無い装甲車が重装騎兵と共に吶喊して来た。

 弾け飛んだ!正にそう表現するしか無い形で反乱軍は装甲車と重装騎兵の吶喊で正面にいた者達は、吹っ飛ばされて行き、真っ二つに反乱軍は引き裂かれた!

 そして引き裂いた正規軍は、軍団毎に陣形を変え分断した反乱軍其々に対応する。

 第一集団に当たるアロイス王国軍とアラム聖国の工作員と覚しき集団には、一軍(2千)が方陣になり防御魔法の掛かったラウンドシールドを敵に向け、更に土魔法のアースウオールを軍団の両脇に重ね掛けして土壁を高さ3メートル横200メートルずつ構築する事で容易に越えられない様にした。そして一軍の後ろに二軍のバズーカ部隊が第一集団に向けて間断なくバズーカから魔法を放つ。

 それに対して反乱軍の第一集団は、積極的に攻撃せずマジックシールドを軍団毎展開するアーティファクトによってバズーカから放たれた魔法を防御して一種の膠着状態に陥らせた。

 もう一方の第二集団は、二軍からバズーカ部隊を抜いた装甲車を先頭に軽装騎兵と軽装歩兵で以って長蛇の陣を展開する。

 先頭の装甲車部隊が敵を切り裂き、続いて軽装騎兵が追い打ちの弓矢と魔法による攻撃を掛け、最後に軽装歩兵が剣で撃ち漏らした敵を戦闘不能にして行く。

 この長蛇の陣の攻撃を二軍が繰り返している間に遊撃隊(5百)が、敵本陣のヴィリスとその親族の貴族達目指して突き進む。

 その先頭には赤い新型戦闘バイクに乗るセリーナ隊長の姿が、朝日を浴びて燦然と輝いている。

 新型戦闘バイクは、初の3輪タイプで安定感に優れていてセリーナ隊長は両手持ちの柄の付いた長刀(薙刀と云うそうだ)を振り回し、更には頭上で回転させ敵からの矢や魔法を弾き飛ばしている。

 反乱軍の第二集団は、数こそ4万と多勢であったが所詮寄せ集めの雑軍でしか無く、既に士気は無く軍としての秩序も後数分で崩壊すると云った時に、第一集団後方にいたゴーレム部隊が動き出し、馬車群からは飛び立つ物があった。

 其れは当初石像であったが、朝日を浴びて明らかに肉質を持った伝説の悪魔と化した。

 此れこそ『白』の報告にあった『ガーゴイル』アラム聖国の秘匿していた兵器にして、我々空軍とグローリア殿への対抗手段である。

 其れ等50体が空を飛び一軍に襲いかかろうとした瞬間、上空から『エアーウオール』が一軍の真上に展開され『ファイアーサイクロン』が『ガーゴイル』達目掛け放たれた!

 そう、この時まで我々空軍とグローリア殿は、上空で待機していたのである。

 ただ『ガーゴイル』達も警戒していたのか直ぐに散開し、倒した数は5体であった、此れは倒すのに時間が掛かりそうだと覚悟を決めた時に、全軍に作戦指揮車にいるアラン様から、

 「新軍団魔法『サンダーサイクロン』を持って覆滅する、全軍マジックシールドを全力展開!!」

 と命令が下る。

 少し離れた場所で、補給隊(2千)を守っていた本隊(5百)の作戦指揮車の上に、アラン様とクレリア姫様が上がり二人掛かりで『ガーゴイル』達に向かって『トルネード』の上位魔法『タイフーン』を展開させた。

 すると『ガーゴイル』達は天地を繋ぐ渦巻に絡め取られる様に拘束され、渦の中心で動けなくなる。

 その渦巻は移動を始め土壁を壊そうとしていたゴーレム達の真上で止まり、その儘ゴーレム達に覆い被さりゴーレム達も渦の中心に集めた。

 そしてグローリア殿に空軍全員(ワイバーン含む)の魔力を集中させ、グローリア殿が集まった全ての魔力で放つは、現時点最強の魔法である天の裁き『インドラの矢』!

 

 新軍団魔法『サンダーサイクロン』・・・・軍団魔法『サンダーストーム』が1体の強力な敵を倒す事に特化しているのに対して、『サンダーサイクロン』は複数の敵をアラン様とクレリア姫様が二人掛かりで魔力を融合させた巨大な『タイフーン』で絡め取り、グローリア殿に不足の魔力を空軍全員で補填し天の裁き『インドラの矢』を最大魔力で放つ。

 

 その瞬間凄まじい轟音と共に、朝日が上り明るくなり始めた戦場を真っ白に染め上げた。

 視界が晴れ、『ガーゴイル』達とゴーレム達を確認すると、ただ地面に石塊が残骸として転がっていた。

 他はどうなったのかと確認すると、正規軍はマジックシールドを全力展開していた為問題なかったが、反乱軍はその大半が爆風と『インドラの矢』の余波の雷撃で行動不能に陥っていた。

 アラン様は、

 「補給隊が持ってきた大量の拘束具で、反乱軍を拘束せよ!

 拘束した後に怪我を補給隊は治療する様に。」

 と命令を発した。

 其の命令に従い全軍が行動を始めた瞬間、

 倒れ伏しているアロイス王国の中から、3人の修道士姿の人物が現れ大声で叫んできた。

 




後編に続きます。


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36. 12月の日記⑩

 12月31日(中編)

 

 3人の内、真ん中の男が、

 「この戦争は、貴方達の勝利だ!

 其れは認めよう、しかし我等は戦争とは別に一騎討ちの勝負を求めたい!

 受けて頂ければ、アーティファクト『テンプテーション』(効果は特定の条件下で人を操ると云う代物)を差し上げる。

 しかし、断られるならばアーティファクトは壊させて頂く、この場合このアロイス王国軍は恐慌に陥り自害する羽目になるだろう、返答して頂きたい!」

 と訴え出た。

 アラン様は、

 「戦うのはお前達3人だけか?」

 と聞かれると、

 「その通りだ、我等3人で其々一騎討ちを望む!」

 と返答された。

 少しの間アラン様がよくされる沈思黙考をされて、

 「了解した、先程此方の魔法で出来た空き地で、3時間後に一騎討ちを行おう。

 現在見ての通り怪我で苦しむ戦傷者が大量にいる、その者達の対処は此方で行うので3時間後だ。

 了承して貰いたい。」

 と言われ、

 「受けて頂けた事感謝する、それでは3時間後にまた。」

 と真ん中の男が了承し話は着いた。

 3人の男達は馬車に戻ると、中からアーティファクトと覚しき物と椅子らしき物(床几というらしい)を出しそのまま『サンダーサイクロン』で出来た空き地に向かい、椅子らしき物に座ってそのまま待つつもりの様だ。

 アラン様は、全軍に反乱軍(重軽傷者を含む)残存数約5万人を拘束具で拘束し、ピストン輸送で王都に向けトレーラーで送り出す指示を行い、王都にも受け入れて戦争捕虜として扱う様にヘルマン卿に連絡した。

 アラン様は、諸々の諸手続きを終え2時間後作戦指揮車に入られ、

 「其れでは一騎討ちの人員を決めたい、立候補する者は居るかな?」

 と問われ、シュバルツ殿、セリーナ隊長、ヴァルター団長、他数人が手を挙げた。

 アラン様は、立候補者を見ながら吟味され『白』の隊長カトウに相手の能力等を尋ねられた。

 カトウは、

 「相手はアラム聖国聖典12将の3人で、能力は解りませんが得物は『ツーハンデッドソード』、『モーニングスター』、『長刀』でかなりの使い手だと聞いて居ります。」

 と答え、アラン様は何時もの通り沈思黙考され、

 「『ツーハンデッドソード』使いにはシュバルツ殿、『モーニングスター』使いにはセリーナ隊長、『長刀』使いには自分が当たろう。」

 と仰られた。

 ケットシー128世を護衛する為にフェンリルをグランドタートルに残してやって来られたヒルダ嬢が、

 「何故アラン様が出られるのですか?」

 と大声をあげられたので、嗚呼そう云えばヒルダ嬢はアラン様が魔法を使われる処は見ているが、剣を振るわれる処は見てなかったなと、ある意味新鮮な思いでヒルダ嬢を見ていたが、この場に居る大半の者が苦笑する中クレリア姫様が、

 「あら、ヒルダは知らなかったのかしら?

 『私のアラン』は世界最強の剣の使い手よ!きっと剣聖にだって勝てちゃうんだから!」

 と普段のクレリア姫様と違い些か子供っぽい自慢をされ、何故かヒルダ嬢はクレリア姫様を怒った様な目付きで睨まれている。

 すると疲れた様に溜息をつかれたアラン様が、

 「他に意見は無い様なので、この3名とする各々準備をする様に。」

 と決定された。

 約束の時間になった頃、弱冠クレーターの様になった『サンダーサイクロン』の跡地で、3者同士が向かい合っていてその周り周囲100メートル程を、正規軍の上層部と手の空いた者達が物見高く囲んでいる。

 真ん中にいる男が進み出て、

 「其れでは、最終確認だがそちらはアラン殿を含めた3人で宜しいな?」

 と尋ねられアラン様が、

 「其の通り、此処に居る3人で其々が一対一で勝負を行う、だが勝敗は如何に決する?」

 と問われたら、

 「武人の勝敗は自らの心が折れるかどうかで決まるが、そもそも戦争で負けているのに一騎討ちを申し込んだのは此方であり、貴方方が負けを認めたら此方は手を引くが貴方方は好きになされよ。」

 と答えたので、アラン様は、

 「了承した、此方も貴方方が負けを認めたら手を引こう。

 そして私が出番の時以外は審判を引き受けるが、出番の時はヴァルター団長頼む。」

 と言われ離れた所に居たヴァルター団長が、「了解しました。」と答えられ、勝敗ルールと審判が決められた。

 アラン様が、

 「此方の一番手は、神剣流剣王『シュバルツ』!」

 その声に応えられ、シュバルツ殿が両剣を腰に差し前に進んだ。

 左に居た男が、

 「我は聖国聖典12将第8席『ケルト』!」

 と名乗り、シュバルツ殿同様両剣を腰に差し前に進んだ。

 そしてアラン様が、

 「当人以外は下がれ、周りも囃し立てるな!」

 と言われ、周りも静かになり両者の剣気が燃え盛った。

 「其れでは、始め!」

 瞬間、「ガッ!」と云う刃響きと共に両者の1剣同士が鍔迫り合いの形になり、止まると次の瞬間には両者離れ両剣を両手に持ち凄まじい剣風が巻き起こる。

 どよめきが周囲から起こるが直ぐに収まり、皆固唾を呑んで見守る。

 暫くの打ち合いが続いたが、埒が明かないと見たのか『ケルト』が、一旦距離を開け呼吸を整えると右手の剣を前に出し左手の剣を後ろに引いた構えになり再び剣気を燃え盛らせる。

 「弐式迅斬!」

 との声と共に『ケルト』が突っ込む!

 それに対してシュバルツ殿は、両剣を前に交差させ構えた。

 両者が神速で交差し、世界が止まったかの様に静かになったが、空から両手が落ちてきて世界が動き出す。

 「神剣流奥義『弐連千鳥』」

 シュバルツ殿が技名を口にした瞬間、『ケルト』の両肩から血が吹き出した。

 シュバルツ殿が、『ケルト』に近付き、

 「介錯はいるか?」

 と問われ『ケルト』が、

 「た、頼むっ!」

 と返されたので、シュバルツ殿は『ケルト』の胸を刺し頸動脈にも刺す事で苦しませずに介錯をした。

 アラン様が、

 「勝負有り、勝者『シュバルツ』!」

 と宣言され、周囲は「「「オオッ!」」」との声と共に拍手が上がった。

 「次は、コリント流剣士『セリーナ』!」

 その声に応え、セリーナ隊長が例の薙刀を携えて前に出る。

 右に居た男が、

 「我は聖国聖典12将第12席『ゴウダ』!」

 と名乗り、『モーニングスター』を携えて前に出る。

 アラン様が、

 「両者用意は良いな、其れでは始め!」

 と言われると『ゴウダ』は『モーニングスター』の棘の付いた鉄球を振り回し始めた。

 最初はゆっくりと、そして徐々に回転スピードが上がり始め轟々と空気を裂く様な音がし始めたと思った刹那、鉄球がセリーナ隊長に打ち出された。

 セリーナ隊長は薙刀の柄の部分で鉄球を弾くと、猛然と『ゴウダ』に襲いかかり『ゴウダ』もセリーナ隊長と同じく『モーニングスター』の柄の部分で防ぐが、あまりの斬撃に膝を地に着けてしまう。

 『ゴウダ』は自分が剛力に於いて女性に負けたのが余程信じられないのか、呆然とセリーナ隊長を見た。

 セリーナ隊長が薙刀を大上段に構え傲然と言い放つ、

 「コリント流奥義、ファイナル・ブレード!」

 その瞬間、薙刀の刃が光り輝きセリーナ隊長は真正面から薙刀を打ち落とす。

 『ゴウダ』は必死の形相で『モーニングスター』の柄の部分を頭上に掲げるが、薙刀はそのまま『モーニングスター』ごと『ゴウダ』を真っ二つにしてしまった。

 「勝負有り、勝者『セリーナ』!」

 と宣言され、周囲は先程よりも大きく「「「「「オオッ!」」」」」とどよめき歓声が上がった。

 



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37. 12月の日記⑪

 12月31日(後編)

 

 「其れでは、私の番か。」

 とアラン様は言われ、其処に審判になるヴァルター団長が来られた。

 最後に残った男が、興奮も顕わに、

 「素晴らしい!何と素晴らしい戦いだ!!

 今迄研鑽を積み重ねたが、其れを活かせる相手が居らず無理矢理戦場で憂さ晴らしをして来たが、この様な強者達と巡り会えるとは!

 死んだ二人も、存分に己の力を出せて死ねた事を地獄で感謝している事だろう!」

 と本当に喜んでいる様だ。

 「天国では無いのか?」

 とアラン様が問われると、

 「嗚呼、今ならアラム聖国の目が無いから言えるが俺は中途採用でな、あまり信仰心は無いのだよ。

 傭兵をしていたが、強い敵に出会えず放浪していたら聖国聖典12将にスカウトされてな、傭兵よりも待遇が良くて技を磨くのに便利だったから在籍している。」

 と答えた。

 アラン様は、

 「そうか。」

 と短く答えると前に出られ、そして、

 「ベルタ王国総帥『アラン』!」

 と名乗られ、最後の一人も、

 「俺は聖国聖典12将第3席『ミツルギ』!」

 と名乗った。

 ヴァルター団長が、

 「始め!」

 と言われたが、前の2つの戦いと違い両者腰の長剣に手を伸ばしたまま動かない、30秒程経ったと思った刹那アラン様の体がブレた様に感じアラン様の背後の地面が土埃を上げた。

 『飛斬』

 と隣にいたシュバルツ殿が呟かれる、どうやら『ミツルギ』が斬撃を飛ばした様だが、まるで自分には見えなかった。

 避けられたと判ったのか『ミツルギ』が今度は見えるレベルで、離れた距離から斬撃を連続で飛ばす。

 しかし、アラン様は殆ど動かず時折体がブレた様に避けている様だ。

 飛斬では無駄と判断した『ミツルギ』が、今度は正眼に構えそのままアラン様の喉を突いて来ると思った瞬間、後ろにバックステップし長剣を跳ね上げる様に上段から打ち下ろした。

 だがそのトリッキーな技もアラン様は見破られ横に避けると、『ミツルギ』目掛け袈裟斬りに斬って掛かるが『ミツルギ』は大きく飛び退いて此れを避けた。

 「『月影』を初見で見破るか!」

 とシュバルツ殿は拳を震わせて食い入る様に両者を見る。

 アラン様は今度はユラリと前へ出られ、剣を片手持ちにしてコリント流のコンボに入られた。

 剣術だけでは無く、足技も途中絡ませる連続技は『ミツルギ』にとっては初めて目にする技なのだろう、途端に追い詰められ終いには、セリーナ隊長の使われた『コリント流奥義ファイナル・ブレード』で持っていた魔法剣を叩き折られた。

 「やはり、神剣流剣術では勝てぬな。」

 と『ミツルギ』が嘯くと、長剣の残骸をを地面に捨て、

 「格闘で勝負を着けたい、受けてくれるか?」

 と申し出て来たので、アラン様も長剣を地面に刺した。

 「有り難い、元拳王『ミツルギ』参る!」

 と『ミツルギ』は叫ぶとフットワークを軽やかに使いジャブを放つ、

 アラン様も帝国式格闘術の歩法でジャブを簡単に避け、『ミツルギ』の顔目掛け上段蹴りを放ちそのままコマの様に回転し下段蹴りを放つ。

 この蹴りは避けられなかった様で足を『ミツルギ』は払われたが、倒れながら『ミツルギ』はアラン様の腕を掴みそのまま投げ飛ばそうとする。

 しかし、アラン様はその力に逆らわずそのまま空中に飛び上がり、空中から踵落としを仕掛ける。

 その踵落としを腕を交差させ防ぐと、横蹴りをまだ空中にいるアラン様に放つ。

 其の蹴りに両足を合わせて足裏で受け止めると、蹴りの勢いを利用し大きくアラン様は飛び退く。

 距離を取ったアラン様に『ミツルギ』は今度は手を着いた構えになり、そのままタックルを仕掛けて来た。

 アラン様がサイドステップしてその横っ面に蹴りを食らわせたが、何と『ミツルギ』は蹴りに来た足を抱え込み逆関節で折りに来た。

 素早く足を引き抜かれアラン様が距離を取られる。

 其処へ瞬間移動の様に『ミツルギ』が迫り左、右、左、左、アッパー、右肘、バックブロー、左回し蹴り、とコンビネーションの技を繰り出した。

 アラン様は全てを捌き、最後の左回し蹴りにカウンターの胴回し回転蹴りを放つが、『ミツルギ』はバック転で避ける。

 両者の距離が空き『ミツルギ』は大きく息を吸い、アラン様を嬉しそうに見て、

 「楽しいな、アラン!」

 と本当に楽しそうに『ミツルギ』は笑い、

 「確かに。」

 とアラン様も認めたが、

 「だが、ずっと遊んでいる訳にも行かぬ、『俺』の持つ最強の業で決めさせて貰う。」

 と宣言され『ミツルギ』も、

 「いいぜ、受けて立つ!」

 と吠えた。

 すると、アラン様はまるで脱力された様に構えを解き腕をダランと下げた。

 『ミツルギ』は訝しみながらも鋭いステップで近付き、渾身の右ストレートをアラン様の顔目掛け繰り出す。

 当たるそう思った瞬間、アラン様がスウェー気味に身体を後方に反らせる。

 『ミツルギ』の右ストレートが尚もアラン様の顔を追う。

 其の腕を下からアラン様は右手で手首を左手で肘の辺りを掴む。

 と、アラン様の両足が地面を蹴り、腰が『ミツルギ』の右脇に潜り込み左足が後方から『ミツルギ』の首に巻き付き、同時に跳ね上がった右足の膝が『ミツルギ』の顔を真下から襲う。

 「ゴッ!」と云う鈍い音が響き、縺れる様に両者の体が地面に落ちてゆき、落ちながらアラン様は『ミツルギ』の右腕を抱え右に身体を捻る。

 「グギッ!」と又も鈍い音が響き、『ミツルギ』の右腕を折りながらアラン様は左足の脛を『ミツルギ』の首に掛け顔面から地面に叩きつけた。

 咳き一つ上がらない、静寂の時が辺りを支配する中ゆっくりとアラン様が立ち上がる。

 

 「『虎王・・・』」

 

 静かな時の中アラン様が、呟く様に告げられた言葉が皆の耳に届く。

 ヴァルター団長が、『ミツルギ』が完全に気絶しているのを確かめ、

 「勝者、ベルタ王国総帥『アラン』!」

 と判定を下した。

 次の瞬間、周囲が割れんばかりの歓声に包まれ、辺りの音が一斉に回復したかの様に騒然となる。

 アラン様の元にクレリア姫様が駆け寄り、そのままの勢いで抱き付いた。

 アラン様は当惑した様にしていたが、クレリア姫様が体を震わせ泣いているのに気付き背中をポンポンと叩き優しく抱きしめ、

 「心配させた様だね、ごめんよ。」

 と囁かれるとクレリア姫様が号泣し始めた。

 その様子をヒルダ嬢とセリーナ隊長が憮然とした表情で眺めていたが、エルナ副隊長がクレリア姫様の背中をさすりながら臨時の休憩所に連れて行くと、アラン様に勝負を見た感想を興奮混じりに話された。

 アラン様は他の面々からの祝辞を聞き終わると、

 「本日は、此処に駐屯する。

 夕刻までに粗方の作業を終えるぞ、皆もう一踏ん張りだ気合を入れ直して作業をこなそう。」

 と仰られ、皆も、

 「ハッ、夕刻までに終わらせます!」

 と元気良く答え、戦争の疲れも見せず作業をこなして行った。

 




初めて1日の話を3部作に分けました。
だけど此れ12月31日とか書いてるけど、どう考えても1月1日(正月)に戦ってるよな(笑)
まあ、構成力など皆無の初投稿の初心者なので、読者様の皆様には多目に見て下さい(謝)
今回戦いまくったので、暫くは後始末と国力回復への地道な話が続きます。
色々と仲間も増え日常の話も多くなりますが、どうぞ楽しんでお読みください(願い)


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38. 1月の日記①

 1月2日

 

 新年が早朝からの戦争に始まった今年は、戦争漬けの年になるのでは?と嫌な予感を覚えたが、そもそも我等は国を興し大陸に覇を唱える事を目的としているのだから、今更かと含み笑いをしてしまい隣を歩くミーシャに何かあったの?と訝しがられた。

 粗方の後始末を終え、魔物の魔石回収と遺体の焼却処分も後少しで終わる、やはり車両とトレーラーによるピストン輸送は早い、戦争捕虜の輸送も昨日から夜通し続けられたので今日で終わるだろう。

 そう思いながら作戦指揮車に向かうと、シュバルツ殿がセリーナ隊長の薙刀を手に取り素晴らしい業物だと、感心していた。

 セリーナ隊長が自分を見つけ、

 「この薙刀は、ケニー隊長の父親が鍛えてくれたんですよ。」

 と紹介して来たので、

 「ケニー隊長の御父上は、刀工なのですか?」

 と尋ねられたので、

 「いえ、親父はありとあらゆる鍛冶仕事に手を出す、技術の摘み食いをする傍迷惑な技術バカですよ。」

 と答えると、シュバルツ殿は、

 「謙遜なさるな、御父上は溢れんばかりの才能の発露として、色々な技術に挑戦なされて居られるのだろう、是非お会いして某の長年の夢だった、刀の魔法剣も鍛えて頂ける事をお願いしよう。」

 と嬉しそうに言われたが、あの親父が興味を持って引き受けてくれれば良いが、と願わずには居られなかった。

 

 1月7日

 

 空軍は今コリント領に全員戻っている、何故なら相棒たるワイバーン達が卵を産む為に、巣のある専用の厩舎に入って籠もってしまったからだ、詳しくは知らなかったがグローリア殿がワイバーン達から聞き出した処、本来卵を産む時期では無いらしいが、暖かなドームの環境と騎竜として連戦した事でタイミングがズレたそうで、其々の番同士で卵を温め合うらしい。

 ガイの番のパートナーはミーシャの騎竜サバンナで、共に一つの巣で交互に卵を温め合う様だ。

 こうなってしまうと空軍全員は、日に一度ワイバーン達にエサを大量に運ぶ以外の事はする事が無く、溜まっていた報告書等の事務作業をこなしていく。

 

 1月15日

 

 ファーン侯爵の長男レオン殿が、ファーン侯爵領の留守番をカイン殿に委託してコリント領にやって来られ、其れに同行されてセシリオ王国亡命政権のビクトール侯爵含む首脳陣がコリント領に来訪された。

 一同は、迎賓館にてアマド陛下へ表敬訪問された。

 その後、宰相に返り咲かれたヴェルナー・ライスター卿も交え、今後自分達がベルタ王国内で生活して行くにあたり、ベルタ王国国民並の権利を認めて頂きたい旨をビクトール侯爵がアマド陛下に申し出られ、幾つかの条件を付けられたが了承された。

 レオン殿は、以前王都で年齢が一緒(現在28才)で仲の良かったアベル・ライスター殿と再会されて共に無事を確かめ合い、早速アベル殿がレオン殿にコリント領の案内を買って出て、双方楽しそうに諸々の先進性にとんだ施設を見学され喜ばれていた。

 

 1月20日

 

 アラン様がグローリア殿で、コリント領で療養中のアマド陛下とヴェルナー・ライスター卿を迎えに来られた。

 王都にて、コリント領に居るアマド陛下、ヴェルナー・ライスター卿とモニター越しに審議した反乱軍への裁きにより、明日行われる反乱の主犯たる前宰相ヴィリス・バールケ、そして王都で反乱を主導したガンツ伯とカリファ伯の刑の執行を見届ける為である。

 自分も無聊を囲っているのに飽きていたので、志願し護衛としてグローリア殿に同乗させて貰う。

 以前グローリア殿に乗せてコリント領に来られた際は、毒の症状から意識が無かった為今回が初めて見る空からの景色でアマド陛下は楽しまれた様だが、ヴェルナー・ライスター卿は思いつめられたご様子で、じっと俯いた儘でその理由を察し、自分以外の同乗者も敢えて声を掛けず王都に向かう。

 王都に到着し、アラン様とアマド陛下達は直ぐに王宮に向かわれ、自分は放送局の職員達が詰めている会議室に向かいハリー達の作業を手伝う。

 一通りの作業を終え現在の王都の様子を職員達に聞くと、例のピストン輸送で王都に連れてきた戦争捕虜の内、罪状の軽い一般兵士だった者等(約4万5千人)を王都守備軍が監督し、荒廃してしまった王都のインフラや城壁、道路そして家屋等を整備、改修、建て直し等の作業員として使い、練兵場のグラウンドにテントを張り寝泊まりさせて、見張りは防衛軍が行っているそうだ。

 

 1月21日

 

 早朝、シュバルツ殿と一緒に練兵場のトレーニング室でを訓練を行った。

 シュバルツ殿は、あのアラン様とミツルギの一騎討ちでのアラン様の格闘技術に感銘を受けて、是非帝国軍格闘術を教わりたいとアラン様に懇願され、丁度手の空いている自分に白羽の矢が立ち訓練する事になった。

 一連の訓練項目を共にこなすと、シュバルツ殿は初めて行うストレッチにいたく感心し、明日からもお願いすると頼まれたので代わりに、神剣流の剣術を見せて頂く事で了承された。

 午後13時、王宮の裏手に有る死刑執行場で、アマド陛下臨席の元今回の反乱者達の罪状が読み上げられた。

 その間、前宰相ヴィリスは、ろくに罪状読み上げをしている係官を見ずに、ひたすらアラン様を憎々しげに睨んでいる。

 他のガンツ伯とカリファ伯は、顔色が真っ青な儘身体を震わせ続けている。

 やがて罪状読み上げが終わり刑の執行となるが、本来なら公開処刑を王都大広場で行われる処、後日モニターを通し放送する事にして大掛かりにはしない事にしている。

 刑の執行内容は、ヴェルナー・ライスター卿が強く要望された、前宰相ヴィリスが暗殺用に使用していた黒蠍の毒を使う事になった。

 アマド陛下が最後の温情として、盃に入った毒を自分で飲む自裁を許したが、3名共自分で飲もうとしない。

 アマド陛下は溜息をつかれ、

 「貴族としての矜持も無いのか・・・」

 と呆れられ、死刑執行人に命じ無理矢理飲ませる事になった。

 ガンツ伯とカリファ伯は、何やら言葉にならない絶叫を上げていたが、死刑執行人に無理矢理口を開けさせられ、毒を飲まさせられて口から泡を吹きながら絶命した。

 ヴィリスの番になり死刑執行人が近づくと、突然ヴィリスはアラン様に向かって大声を上げた、

 「お前だ!

 お前さえ居なければ、全ては私の思い通りになり今頃は玉座に座れていたものを、お前の度重なる妨害の所為でこの様な羽目になってしまった!

 呪われよアラン!未来永劫呪われるがいい!!」

 と鬼気迫る形相で言い放った。

 だが、その放言を聞いてアクションを起こしたのはアラン様では無くヴェルナー・ライスター卿であった。

 ヴェルナー・ライスター卿は立ち上がると、徐ろに拳にナックルガードを装着しヴィリスの腹を抉る様に殴った。

 「ウゲエエエー!」

 と云う豚の呻き声の様な声と共にヴィリスは吐瀉し、周りに吐瀉物の据えた匂いが立ちこめる。

 ヴェルナー・ライスター卿は、ヴィリスの顎を掴み上げ後頭部を掴み己の吐いた吐瀉物目掛け、ヴィリスを顔面から叩きつけた。

 「お前のくだらん野望の所為で、どれだけの人命が損なわれた事か!

 お前の意地汚い欲の所為で、どれだけの人が塗炭の苦しみを強いられた事か!

 そしてお前の分不相応な出世欲の所為で、よくも私の愛する息子以外の家族を殺してくれたな!!

 お前にはやはり自裁などさせない!

 この儂自ら毒を飲ませてやる!!」

 と血の涙を流しながら、ヴィリスを足で仰向かせて顔面を足裏で踏みつけ、死刑執行人達に両手両足を押さえさせ、ヴィリスの顎を足裏で上から踏みつけたまま無理矢理口を開かせると、盃では無く瓶ごとヴィリスの口に突っ込み嚥下させた。

 「ゴボッ!」

 とヴィリスは咳き込んだが、吐き出させない様にヴェルナー・ライスター卿は瓶を上から踏みつける。

 暫くヴィリスは藻掻いていたが、やがて体を突っ張らせる様にしなった後動きを止め、他の二人と同じ様に泡を吹き絶命した。

 ヴェルナー・ライスター卿はその様子を凝視し続けたが、やがて膝を着き嗚咽し始めた。

 こうして、ベルタ王国を乗っ取ろうとした奸物『ヴィリス・バールケ』は、自らが使用し暗殺をしていた毒で惨めな最期を遂げた。

 



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39. 1月の日記②

1月21日

 

 昨日の反乱軍首謀者達の死刑の様子を(人が死ぬシーンを省いた)ダイジェスト版で王都始めモニターの設置された場所全てで報道され、ベルタ王国全土に向けて内乱が完全に終わった事を、アマド陛下が宣言されたとニュース番組で繰り返し報道された。

 殆どの者が内乱が終わった事自体は知っていたが細かい内容は知らず、ニュース番組で前宰相ヴィリス・バールケやガンツ伯、カリファ伯の悪事を知り、改めて貴族の平民に対しての横暴が明らかになり相対的に反乱軍を打ち負かしたアラン様達に人気が集まった。

 そして大多数の国民が、反乱軍がバラ撒いた檄文に連名していたアロイス王国とセシリオ王国が、この内乱の陰にいた事を把握しておりこの2国に対しての反発心も育っていた。

 

 1月23日

 

 ミツルギ殿が、戦争捕虜になっていたアロイス王国軍と国境守備軍の洗脳を解く日が来た。

 あの一騎討ちの翌日、ミツルギ殿はアラン様に臣従を申し出られアラン様も条件付きで認められた。

 その条件の一つに、アーティファクト『テンプテーション』の効果の切れる3週間後に、全員の洗脳を解き元に戻すというものが有ったのだ。

 ミツルギ殿は、全員に洗脳する場合の『聖水』とは逆の効果を持つ『解放の水』を飲ませ、練兵場のグラウンドに全員を仰向けに寝る様に命じ、拡声する魔道具を使いキーワード(鍵になる言葉だそうだ)を唱えた。

 暫くして、全員がゆっくりと起き上がり自分がどこに居るのかも判らず、呆然自失している。

 事前に準備していた、大掛かりの聞き取り用の机と椅子に防衛軍と本隊の総勢で、アロイス王国軍と国境守備軍全員の聞き取りを行う。

 やはりミツルギ殿の報告にあった通り、アロイス王国軍は軍と名乗っていたが、実はアロイス王国の北部と東部に暮らしていた農民や職人そして商売人で、つまり生粋の旧スターヴェーク王国国民を無理矢理洗脳して戦わせていたのだ。

 そして国境守備軍も、アラム聖国の工作員が事前に井戸や水道に『聖水』を混入させ、アーティファクト『テンプテーション』を使用して洗脳して戦わせていたのだ。

 此れは『白』がアラム聖国側に居た時に使用していた技術と異なり、大規模且つ長期間洗脳状態に出来る恐るべきアーティファクトで有る。

 アラン様は、アマド陛下や他の重臣方と協議しこのアーティファクトは、王宮の特別魔道具保管室に厳重に保管される事になった。

 

 1月25日

 

 元に戻った国境守備軍(1万5千)を、元のベルタ王国とアロイス王国の国境線に戻す為に、トレーラーによるピストン輸送が始まった。

 コリント領の工場で大規模に生産ラインを拡充し生産され、補給軍に配備されているトレーラーは200台に登り、他は商業ギルドに貸し出している100台とサイラス商会のアリスタさんが統括されている物流部門が買われた30台、他にタルス商会のカトルがアラン様と軍事と物流で双方使う形で契約している70台が有り、それ以外にも諸々の商会や商人が予約待ちで購入している様だ、あの時親父が興奮していた様にこの国は今物流の転換点に来ているのかも知れない。

 それに伴い、車両の運転技術を学ぶべくコリント領に短期滞在をする者が激増している様だ。

 何といってもこの技術を持っているだけで、雇い主が高額の給与を約束してくれるし、軍でも高給で雇ってくれる、お陰でコリント領には運転技術講習所用のドームが新設された。

 

 1月28日

 

 此の日、アロイス王国軍として洗脳されて使われて居た旧スターヴェーク王国国民(約3万人)にクレリア姫様を公開する事になった。

 実はアマド陛下やベルタ王国の重臣方には、コリント領での秘密会談でクレリア姫様の素性と我等旧スターヴェーク王国兵士そして国民が、コリント領で生活を営んでいる事は明かされていた。

 アマド陛下やベルタ王国の重臣方と話を照らし合わせて行くと、アマド陛下はアロイス王国との交渉内容や秘密協約等は全然関知しておらず、全ては前宰相ヴィリスの独断で行われていた事がこの件でも明らかになり、ハインツ隊長やブルーノ副隊長達は、やはり前宰相ヴィリスがアロイス王国との交渉材料の一つとして捕らえていたのが確認されている。

 そしてアマド陛下は、自分のハトコにあたるクレリア姫様とそのクレリア姫様と婚約されているアラン様を自身の親族と認め、更にはベルタ王国に於ける準王族であると重臣方と教義の上で決定している。

 練兵場のグランドに集められ、其々長いテーブルと椅子に座った旧スターヴェーク王国国民に対して、壇上に登られたクレリア姫様は、

 「諸君、座ったまま聞いて欲しい。

 実は今から話す内容は、貴方方へのスターヴァイン王家からの懺悔だ。

 私は、スターヴェーク王国第一王女『クレリア・スターヴァイン』その人であり、現在唯一のスターヴァイン王家の継承者だ。

 スターヴァイン王家はロートリゲン・アゴスティーニ侯爵の野望を見抜けず、スターヴェーク王国を乗っ取られアロイス王国の僭称を許してしまった。

 貴方方は、自身の所為では無くスターヴァイン王家の不甲斐なさから、現在の状況に追い込まれているのです、スターヴァイン王家の継承者として、スターヴェーク王国国民を守れなかった罪を詫びる(クレリア姫様はここで頭を下げられた)。」

 慌てて旧スターヴェーク王国国民達は、椅子から立ち上がりクレリア姫様に、

 「「「クレリア姫様とスターヴァイン王家の所為ではございません、全てはアロイス王国を僭称する奴等の汚い騙し討と其れに乗っかった貴族共の裏切りの所為です!」」」

 と言いクレリア姫様に頭を上げさせた。

 クレリア姫様は、

 「ありがとう諸君、私とスターヴァイン王家を許してくれて、

 取り敢えず我々は、諸君を元の故郷に帰れない代わりに、此処に居るアラン総帥のコリント領で預かる事となった。

 既に其処には、諸君等と同じ旧スターヴェーク王国国民達4万人以上が生活している。

 諸君等に必要な生活基盤は充分用意していて、様々な仕事や農地も有る、安心して向かって欲しい。」

 と言われた。

 そしてクレリア姫様に変わりアラン様が壇上に登られ、

 「私がアラン総帥だ、私の領地に行くにあたり色々と不安に思う事も多いと思う。

 その不安要素の一つである食の問題を払拭する為に、用意した私の故郷の食事だ是非味わって食べて欲しい。」

 と言われた瞬間大量の食事を積んだトレーラーがグランドに横付けされ、次々とテーブルに食事を補給軍が載せて行く。

 その料理から立ち昇る美味しそうな匂いに、皆喉を鳴らしている。

 アラン様が、

 「さあ、マナー等気にせず存分に食べてくれ、もう無粋な説明は無しだ。

 私が監修した料理の数々を味わって貰いたい。」

 と言われ合図にグラスを掲げ、

 「乾杯!」

 と音頭を取られた、慣れている我等も「乾杯!」と唱和し、真似て皆も「乾杯!」と言い食事をし始める。

 料理の美味しさに歓声が上がり、皆徐々に盛り上がり始めた。

 その様子を一緒に食べながら見ていて、此の者達も我々と同じ様にコリント領の凄さに驚く一連の儀式が繰り返される風景を思い描き、クスリと笑い隣のハリーと顔を見合わせハリーも同じ様に笑い、終いには二人して大笑いしてしまった。

 



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40. 2月の日記①

 2月5日

 

 旧スターヴェーク王国国民(約3万人)の第一陣を連れてガンツに到着した。

 王都からのトレーラーでの移動の際、自分も何度かトレーラーを運転する機会があったのだがちょっと操作法を教えて貰ったら問題無く運転出来てしまった、それは自分だけでは無く、本隊や補給軍の者達も同様らしいので、『ナノム玉』で得られた『精霊の加護』は、こういった面でも恩寵があるのかと改めて女神ルミナスに感謝を捧げた。

 そのままトレーラーは、新規に出来たガンツ駅に横付けされ、皆は駅員の誘導の元8両編成の魔道列車に乗り込む。

 このガンツ駅は、ガンツ伯が敵対した際に工事がストップして居たのだが、我等がガンツを占領した後工事を再開しレールもコリント領玄関口の街から2車線引いて、ガンツからコリント領玄関口まで2時間で着く事が出来る為に、今現在ガンツは新たな物流の拠点として大発達している最中である。

 早速自分も魔道列車に乗り込んで、他の3人の為にボックス席を取り荷物を棚カゴに載せた。

 他の3人とは、剣王シュバルツ殿、元拳王ミツルギ殿、『白』の隊長カトウである。

 この3人は、全員武侠を好みこの1月余りずっと行動を共にしており、自分はアラン様の護衛をしているので兵士の帝国式訓練の際に誘われて、アラン様が他の者と訓練している時別の者は自分と訓練を共にする事が多く、終いには親友になってしまったのだ。

 自分とカトウ以外は、コリント領が初めてで早速他の地には無い魔道列車に興味津々で、車窓から見る外の景色が魔道列車のスピードの所為でグングン遠ざかって行く光景に「オオッ」と歓声を上げている。

 暫くすると『魔の大樹海』が近づいて来たが、以前は荒野でしか無かった場所には大規模に開拓された農地が広がっていた。

 そして端の方を見ると、グランドタートルが後ろに、親父の相棒のドップが考案した荒れ地を耕す耕運機のロータリー装置の超巨大版を引いている。

 グランドタートルは時折、山積みになっている専用の餌場に戻り旨そうに膨大な野菜を頬張っている、その姿を見ていると戦争に使われるより余程幸せそうである。

 やがてコリント領玄関口を素通りして生活ブロックに着き、シュバルツ殿とミツルギ殿はカードの発行とポイントの支給を入管審査室で貰い、アラン様の居られる本部ビルに全員で馬車に乗り向かった。

 アラン様は執務室に居られたが、どうやら引っ越しの準備中らしく荷物が散乱しており、皆で応接室に行き其処でシュバルツ殿とミツルギ殿の住居と道場の説明が行われた。

 会議室のモニターに現在のコリント領の外観図が表示され、新たに出来たドーム3つの内の1つが点滅する。

 「この新しいドームは(仮称)軍事ブロック2という名称で、主に今後増え続ける軍人の住居と生活の場となり、此処に自分を含め此処に居る全員も住居を映す予定だ。

 現在は独身者用の団地が有るだけだが、約束通りに道場用の区画を用意しているから、要望を建築する職人に伝えて思い通りの道場を作ってくれ。」

 とアラン様は説明され、シュバルツ殿は、

 「有り難い、此の様な住心地の良さそうな都市で我が道場を開けるとは、望外の喜びだ!」

 と感謝された。

 アラン様は、夜に旧スターヴェーク王国国民の入植祝の歓迎会があるそうなので、自分は軍事ブロックに有る短期滞在者用の宿舎に3人を案内した。

 当面(仮称)軍事ブロック2で道場と家が出来上がるまで、此処にすんで貰う。

 途中生活ブロックで大量の酒と酒の肴を買い込み、3人が其々の部屋に荷物を降ろしたら、軍の集会場の一つを借りて空軍の面子も呼び、改めて3人主役の歓迎会を内輪で開いた。

 3人とも酒好きで、色々と地方の酒の話で盛り上がっていたが、ミーシャに持ってこさせた取って置きのアラン様がサイラス殿に作らせた蒸留酒を3人に振る舞ったら、絶賛してくれた。

 今アラン様が、カトルに依頼して米を原材料にした吟醸酒なるアラン様の故郷の酒を作っている最中で、コリント領の酒好き達は、大変心待ちにしている事を教えたので3人も酔いで顔を赤くしながら、是非飲みたいものだと笑い、歓迎会は盛況の内に終わった。」

 

 2月10日

 

 旧スターヴェーク王国国民(約3万人)の第二陣もコリント領に着き、前職に応じた職の斡旋が行われた・

 その中でも大多数の農民達は、魔道列車の車窓から確認したガンツとコリント領の間の大規模に開拓された農地で、親父の相棒のドップが考案し工場ラインで量産されている、多目的耕運機(トラクターというそうだ)を大規模に使用しありとあらゆる野菜や小麦そして米を作付けする事になっている。

 作物を植える際には、トラクターから一定量の農業用のMM(マイクロマシーン)が噴霧される様になっていて、病害や害虫対策及び農地改善を自動で行ってくれるそうだ。

 もうベルタ王国の殆どの国土は、ケットシー128世が正しく使用した『魔獣使いの杖』により魔物達は『魔の大樹海』より外には出れなくなっていて、今後は魔物被害で手つかずだった荒野も何れ開拓されて行く事だろう。

 



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41. 2月の日記②

2月20日

 

 漸くセリーナ隊長、シャロン隊長、ヴァルター団長と配下の軍が、コリント領に帰ってきた。

 彼等はベルタ王国東半分の反乱軍に与した、貴族達の領地に赴き財産の没収と貴族位の剥奪を行い、王都から派遣された政務官に引き継いで領地の安定を行う一連の作業をこなしてきた。

 その際、悪辣な貴族達により謂れのない罪科で収監させられた囚人達を解放し、望む者達は一緒にコリント領へ連れて来た。

 其の中に我等と一緒に王都に向かった、フォルカー・ヘリング士爵夫妻とその家臣が居た。

 彼等はヴィリス・バールケが反乱を起こした際に、反乱に加担しないと表明しそれを罪科としてヴィリス・バールケによって牢屋に収監させられていて、ヴァルター団長が救い出したそうだ。

 アラン様は、フォルカー・ヘリング士爵夫妻とその家臣に、好きなだけコリント領に留まってくれて結構であり、幸い今現在コリント領にはアマド陛下が療養中なので、ご挨拶される事を勧められたそうだ。

 アマド陛下は、年の近いレオン殿とアベル殿そして連絡役のユリアンを引き連れ、放送局に向かわれる事が日課となっている。

 何をしているかと云うと、アマド陛下は美術や音楽と云う芸能分野の造詣が有り、放送局の番組内で音楽番組や絵画の鑑定番組等を持つが、流石に国王が芸能番組に出演しているとは、明らかに出来ないので仮面をして、仮面の音楽評論家、仮面の鑑定士となり一定のファンがいる。

 アラン様は、軍から護衛を付けているがアマド陛下は、護衛がゾロゾロと付いて来る事が煩わしく感じるらしくどうすべきか思案していた処に、フォルカー卿が来られたのでアマド陛下の了承を貰い、腕の立つ特別護衛人としてアマド陛下の近侍として侍る事になった。

 また、奥さんのリーナ・ヘリング殿は生粋の貴族らしく絵画の造詣が深く、絵画の鑑定番組内の今一人の鑑定士として出演して貰う事になった。

 

 2月25日

 

 シュバルツ殿とミツルギ殿の道場が出来上がった。

 当初は別々の道場を建てる予定だったが、予想の10倍もの門弟志願者が殺到した為に、合同で3階建ての総合格闘技道場となり、1階はシュバルツ殿の剣術道場で2階はミツルギ殿の格闘技道場となり、3階は師範や門弟のロッカールームや備品室と事務室となり、隣のマンションにシュバルツ殿とミツルギ殿の住居と師範や門弟の宿舎になった。

 此れは、先の内乱での一騎討ちを18才以下を視聴禁止とした上で、ムービーとして特定の場所で公開した為に感銘を受けた軍人や冒険者、警備隊等が殺到した所為である。

 自分は門弟にこそならなかったが、近くの空軍用マンションから時々習いに行こうと考えている。

 

 2月28日

 

 大量の信者と共にゲルトナー大司教と司祭、シスター達がコリント領に入植された。

 信者達は、内乱発生時にアラム聖国の工作員に騙されたり、反乱貴族の横暴な略奪や財産没収の憂き目に合い、生活もままならない状態に陥ってしまったので、ゲルトナー大司教がアラン様に要請しそれをアラン様が快く受け入れ、新たな入植者として迎え入れる事になったのだ。

 彼等は1万人にも登り、先の旧スターヴェーク王国国民約3万人と合わせると計4万人もコリント領は住民を増やした事になる。

 当面は、反乱軍が収奪していた財貨と膨大な量の食料がある為飢える心配は一切無いが、彼等にも職業訓練をして貰い、生活に困らない職を斡旋する必要があるだろう。

 アラン様は計画の前倒しを決定された。

 現在ガンツまで完成している魔道列車のレール網を、ガンツからカリファ、カリファから王都と行った具合の計画路線図を、元々の計画では4ヶ月掛けて作るつもりだったのだが、2ヶ月に短縮する事にした。

 其のために、現在ファーン侯爵領までの『魔の大樹海』を縦断する道を舗装し終え、コリント領で短期滞在中のセシリオ王国亡命政権軍を動員し、更には其の時大活躍だった『ベヒモス』を使いたいとケットシー128世に頼まれた。

 ケットシー128世は先頃レオン殿の飼い猫と結婚されて、その際クレリア姫様とアラン様が仲人されアラン様から結婚祝いとして、コリント領に有る『猫の王国』の保養地内にスイートルームを新築して貰っていた為に快く了承してくれた。

 




次話からは、お久しぶりの閑話シリーズになります。
大分間が空いて終い、読者様からはこんな話あったっけ?といった声が聞こえてきそうですが、一応この閑話シリーズやって於かないと、本編で突然出て来た。
 アランとクレリアの正式婚約に至った裏話。
 ガトル親父と相棒のドップが考案した諸々の発明品。
 そして魔術ギルドのカーラさんのマッドサイエンティスト染みた、数々の魔道具。
 等の説明がされないまま推移してしまうので、此処で大量に公開します。
 お楽しみに。

 話は変わりますが、或る読者の方から先日、
 「1日の読者数100人超えおめでとうございます。」
 と言われ、エッ、そんな事判るの?と思い確認した処、例の一騎討ちの時の話で、103人の方々が読まれたそうです。
 大変ありがとうございます。(感謝)
 実は自分の中では、こんな駄文を読んでくれる奇特な方は、精々5人くらいだろうと思っていてこの5人の有り難い読者様の為にも、頑張ろうとセッセと仕事の合間に構想を練り、家に帰ったら寝る前までに2話程書き上げる毎日を過ごして居りました。
 こんなに多くの方が読まれているとは、これも全て原作の『航宙軍士官、冒険者になる』の底力あっての事です。(感謝)
 嗚呼、この原作再開への切なる思いが、原作者様に届く事を願い拙い文章では御座いますが、連載を続けて参りたいと思います。
 どうか読者様方も、原作の『航宙軍士官、冒険者になる』が連載再開する事をお祈りして下さい、よろしくお願いします(合掌)


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閑話⑪「カレンちゃん日記」⑦(カレンちゃんお姉ちゃんになる)

 7月10日

 

 2回目の女子会の日、母ちゃんが作ったお土産をバスケットに入れてクレリア姫様の居られるビルに来たんだけど、いかつい警備員さんがやってきてカードを見せて下さいと言われて、カードを見せたらニッコリと笑って直ぐに通してくれたの、カードってスゴイよね~。

 今回は初めて自分だけで、エレベーターって乗り物にチャレンジ!

 最上階の5階のボタンを押して閉まるボタンを押す、するとドアが閉まって何だかフワフワとした気持ちを味わって、「ピンポン!」という音でドアが開いた。

 素早くドアから出たら、しばらくしてドアが閉まったの。

 やったよ、誰の手も借りずにエレベーターって乗り物へのチャレンジが出来たよ!

 誇らしい気持ちでいたら、隣のもう一つのエレベーターが開いて、何と私よりもっと小さい5才位の女の子と10才位の男の子が、カートワゴンを二人で押しながら出てきたの。

 ちょっと負けた気分になったけど、年上のお姉ちゃんとしては手伝わなくちゃと思いカートワゴンを一緒に押そうとすると、男の子が、

 「大丈夫だよ。」

 と笑いながら答えて来たので、ホントかなあ?と心配しながら見ていたら、この子達結構軽そうに押して行く。

 思ったより力持ちなんだなあ、と感心しながら後を付いていくと一番奥の部屋までカートワゴンを押していく。

 男の子が、

 「テオとエラです、クレリア様お菓子を持って来ました。」

 とドア前で言うと、ドアが開きミーシャさんが出て来た。

 「ご苦労さま、テオ、エラ。

 あら、カレンちゃんも居たのね、どうぞ部屋に入って。」

 と言われ3人とも部屋にまねかれたの。

 部屋に入ると、エルナさんとサーシャさんそしてクレリア姫様がテーブルに着かれていて、私は、

 「呼んでいただいてありがとうございます。」

 と頭を下げ、忘れない内に母ちゃんが作ってくれた焼き菓子をバスケットから出してテーブルにのせ、

 「母からです、お口に合うかどうかわからないんですが、故郷のお菓子だそうです。」

 と包みを開けた。

 クレリア姫様が、

 「此れは懐かしい、スターヴェークの菓子ではないか!久しく食べて無い。」

 と言われて喜んでくれた。

 「皆、席に座ってくれ、カレンからのありがたい差し入れだ。

 テオにエラも其処の子供用の席に着くと良い。」

 と言われたので、席に着くとサーシャさんがミルクティーを子供達に、大人には紅茶を入れてくれた。

 早速、焼き菓子をみんなに配ると、クレリア姫様が、

 「さあ、頂こう。」

 と言われみんなで味わった。

 大人達は、みんな懐かしそうに食べてくれて、テオとエラも美味しそうに食べてくれた。

 満足していたら、クレリア姫様が、

 「実は、カレンにお願いがあるんだ。

 此処に居るテオとエラの友達になってくれないか?」

 と言われ、

 「いいですよ。」

 と答えたら、ホッとされたみたい、

 「何か理由があるんですか?」

 と聞くと、

 「実はこの子達は、ガンツで『クラン・シャイニングスター』が雇っていて、今は私とアランの小姓として働いて貰って居るのだが、周りは大人ばかりで同世代の子供が居らず友達が作れないの。

 其処でカレンには、友達になってもらいカレンの友達達にも紹介して欲しいんだ。」

 と答えてくれたので、

 「わかりました、仕事が終わったらここによって、友達にも紹介しますね。」

 と言い、テオとエラに、

 「ヨロシクね!」

 と話かけたら、テオは、

 「ありがとうございます、カレンさん。」

 と子供っぽくない応え方だったが、エラは、

 「よろしく、お姉ちゃん!!」

 と元気よく返事してくれて、私はうれしくなった。

 だってお姉ちゃんだよ、お姉ちゃん!

 いままで、一回も私お姉ちゃんと呼ばれたことなくって、いつも幼い子供扱いされていて、結構お姉ちゃんにあこがれてたんだよねえ。

 クレリア姫様が、

 「良し、カレンがお姉ちゃんになった事だし、用意していたアラン監修の『ケーキ』でお祝いをしよう。」

 と言われた。

 『ケーキ』ってなんだろう?

 とギモンに思ってたら、カートワゴンにのせられていたカバーが取られて、中からスゴイお菓子が出て来た!

 それは、いままで見たこともないゴウカなお菓子!

 イチゴがいっぱいのっていて、周りは白く何かでぬられている、やわらかそうなのがエレナさんがナイフで切っていくたびにわかる。

 みんなに切り分けられお皿にのっているのを見ても、生地の間にイチゴがあるのを見て、思わず、

 「うわあ~!」

 て声に出ちゃった。

 「この『ケーキ』はケーキの王道、『苺のショートケーキ』でアランの故郷では、子供に大人気でお祝いには欠かせないそうだ。

 私も初めて食べた時には、これ程美味しいお菓子がこの世には有るのか!と感動したし、他の者も絶賛して料理人達全員がアランから教わり、必死に覚えようと頑張っている。

 此れはその成果だよ。」

 とクレリア姫様が答えて下さった。

 クレリア姫様が、

 「それでは、テオとエラにカレンお姉ちゃんが出来た事を祝おう、おめでとう。」

 と言ってくれて、みんなも「おめでとう。」と祝ってくれて、「ありがとうございます。」

 と3人で一緒に感謝して、早速『苺のショートケーキ』をいただいたら。

 「・・・」

 3人とも言葉がでなくて、なんにも考えられずに食べちゃった。

 ミルクティーを飲んで一息ついたら、ようやく言葉が出せれたけど

 「美味しい、甘い、フワフワしてた」

 と夢を見てるような感想しかでなかった。

 女子会が終わって帰り道も、まだフワフワした感覚だけど、コリント領に来れて何度目かのルミナス様への感謝を捧げちゃいました。

 



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閑話⑫「カレンちゃん日記」⑧(カレンちゃんプールで遊んじゃう)

 7月17日

 

 テオ君、エラちゃんと友達になってから1週間くらいたち、大分仲良くなれて一緒に工場見学に行くことになったの。

 実は、昨日母ちゃんから最新式のミシンが使えるようになったから寸法を測りたいと言われ、ついでに「テオ君、エラちゃんも行っていい?」と聞いたら、「良いわよ。」とアッサリ許してくれたの。

 コリント領では、色んな服がポイントで買えるんだけど、母ちゃんが服飾工場に勤務するから、専門の職業訓練校で練習でぬった服を貰えるんで、買った事ないんだよねえ~。

 お昼休みに工場見学に向かって母ちゃんと会うと、サッソク3人とも寸法を測って貰って、16時過ぎにもう一度来てねと言われ、3人で病院に向かい私の今日のノルマを終えて、病院にある育児室のお手伝いをしてたら16時になり、服飾専門の職業訓練校に向かったの。

 そうしたら、普通の服だけでなくて、『水着』まで作ってくれてたの!

 うれしいよ~!

 3日前に例の女子会で、クレリア姫様達大人の人達が、軍事ブロックに先日出来た『プール』で泳ぐ訓練のための『水着』を見せてくれたんだけど、訓練用以外に遊ぶための『水着』も見せてくれて、それがスゴク可愛かったの!

 いいなぁ~、うらやましい~なあ~って、母ちゃんに家で言ってたのを叶えてくれたんだね!

 母ちゃん大好きー!

 サッソク更衣室で着替えたら、驚いちゃった!

 この『水着』伸びるんだよ!!

 何でも、新しい素材で出来てて、最新の服にも使われてるんだって。

 実は伸びるだけじゃなくって、水をはじく性能だそうで水着に水を掛けてみたら、水が染み込まないの!

 スゴーイどうなってるの?!

 カンゲキして、水着のまま踊ってたらエラちゃんが水着に着替えて出てきたの。

 うわあ~、カワイイ!

 水着の端にフリルがついてて、それがヒラヒラと風にゆれるから、まるでお姫様みたい!

 みんなが、周りであんまりカワイイ、カワイイとホメるもんだから、エラちゃん顔を真っ赤にして、

 「カレンお姉ちゃんのお母さん、ありがとう。」

 と頭を大きく下げて、お礼を言った。

 「いいのよ、私も作り甲斐があったわ。」

 と母ちゃんも微笑んでうなずいてる。

 テオ君は着替えなかったけど、母ちゃんにお礼を言って3人で服飾専門の職業訓練校を出て、クレリア姫様の部屋に帰ったら、そこでまた水着を着て見せたら、クレリア姫様達も喜んでくれたよ。

 すると、クレリア姫様が、

 「此れで、皆に水着が揃った事だし明日の日曜日に、プールで泳ごうではないか、

 シャロンやセリーナも水着を持っているし、後で通信機で誘ってみよう。」

 と言われたので、私は泳いだこと無いけど、エルナさんとサーシャさんはスターヴェーク王国の海で泳いだことがあるそうなんで、教えてもらえる約束をしてくれたよ、あー、明日が今から楽しみー!

 

 7月18日

 

 朝から、早起きして母ちゃんにお弁当のサンドイッチを作ってもらったの、当然みんなの分も作るから私も手伝いをガンバって大量に作ったんだけど、作りすぎて私一人じゃ持てなくなっちゃった。

 どうしようと悩んでたら、兄ちゃんが馬車を借りて来てくれたから、ついでにカー君とバンちゃんも乗せることが出来た、兄ちゃんたまには役に立つね、エライ。

 兄ちゃんが馬車で、クレリア姫様のビルに横付けしてくれてクレリア姫様を待っていると、ミーシャさんがナゼか走ってきて、

 「ケニー隊長が来るとは聞いてないぞ。」

 と私に小声で話してきたので、

 「エッ、違いますよー、兄ちゃんは多くなりすぎた荷物を運んでくれるだけですよ。」

 と答えると、兄ちゃんも、

 「妹の言う通りだミーシャ、自分がいくら無神経でも、クレリア姫様の休息日のお楽しみの場に参加する等有り得ない、あくまでも自分は荷物の配達人だ、プールまで運んだらそのままガイの処に行き、ガイをブラッシングしたり、厩舎の清掃をする予定だ。」

 と答えた。

 ナゼかミーシャさんは、複雑そうな顔をしていたが、クレリア姫様達もビルから降りて来られ、

 クレリア姫様達の馬のタースとシラーそして兄ちゃんの借りた馬車で、軍事ブロックのプールに向かったの。

 その間ミーシャさんは、馬車の御者席で兄ちゃんと空軍の話やセシリオ王国の話をしてたようだけど、私は連れてきたカー君とバンちゃんを、テオ君、エラちゃんに紹介していたの。

 テオ君とエラちゃんは、カーバンクルの二匹をすぐに気に入ってくれて、わざわざ二匹に自己紹介してカー君とバンちゃんも鳴くことで返事しているみたいだった、カーバンクルって賢いねえ。

 プールの入り口に着いて、兄ちゃんが荷物をプールにある休憩室に運び、クレリア姫様にアイサツしてワイバーン達のいる厩舎に馬車で去って行ったんだけど、ミーシャさんがナゼか残念そうにタメ息をついていたの、何があったんだろうね?

 みんなで更衣室に行き、着替えようとしていたら、二人の女性が更衣室に入ってきた。

 スゴイ美人!と驚いて見てたら、この二人に見覚えがあるのに気づいちゃった。

 この間、父ちゃんが興奮して説明してた、人が乗る魔道具に乗ってた人だよ。

 この美人さん二人、近くで見てもスゴクソックリ、ちょっと髪型が違うくらいしか差がないよー。

 とジロジロと見てたら、美人さんの一人が、

 「ああ、貴方が空軍のケニー隊長の妹さんね、私はシャロンそしてこっち(もう一人の肩に手を掛けて)がセリーナよ、ヨロシクね。」

 とキレイな声で自己紹介してくれて、見とれていた私はハッと気がついて、

 「ごめんなさい、自己紹介もせずにジロジロと見て、私はカレンと言います、言われる通りケニーの妹です、ヨロシクお願いします。」

 と返事したら、カー君とバンちゃんが私がキンチョウしたのがわかったのか、スルスルとやって来てお決まりの首筋と足元に巻き付いて来たの。

 「これは、カーバンクル?!」

 とセリーナと紹介された、美人さんが声を上げ初めて私を見て驚いた顔をしている。

 「ハイッ、そうです、男の子の方がカー君で、女の子の方がバンちゃんです、ヨロシクお願いします。」

 と返事したら、

 「そう、私はセリーナ宜しくね。」

 と答えてくれた。

 その後、消毒水というシャワーを浴びプールに向かっていくと、スゴイ景色が広がっていたの!

 大きな長方形の水たまりと、何だか塔のような物が横にあって階ごとに飛び出た通路がある深そうな水たまり、そして大きな長方形の水たまりの半分くらいで私の足が届くくらいの浅い水たまり、この水たまりがプールっていうんだって!

 すると、セリーナさんが突然、

 「帝国式準備運動!」

 と言われて、上にある魔道具から音楽と次に運動する部分の掛け声が聞こえてきたの。

 言われるがまま、運動すると何だか、体がリラックスした気分になっちゃった。

 エルナさんとサーシャさんがやって来て、輪っかのような物(浮輪っていうんだって)を子供組3人にそれぞれの大きさに合わせて渡してくれたの。

 どうやらお腹の辺りで固定して置くみたいで、準備が出来たらゆっくりと浅いプールにはいってみると、気持ちいいー!

 最近は夏なので、ドームの中とはいえ暑いと思ってたんだけどプールの水は、ちょっと温めだけど充分涼しく感じる冷たさだよ。

 サッソク、エルナさんとサーシャさんが私達3人に泳ぐキソを教えてくれたんだけど、私達3人はすぐに覚えてバタ足と平泳ぎを浮輪を付けながらなら出来るようになっちゃった。

 隣の大きなプールでシャロンさんとセリーナさんが、クレリア姫様とミーシャさんに泳ぎを教えてたんだけどこちらもすぐに覚えたらしくて、みんな(子供は浮輪つきだけど)泳げるようになったから、後半は浅いプールの中でカー君とバンちゃん(二匹とも最初から泳げたの)も加えて、鬼ごっこをする事になっちゃった。

 大人の女の人も楽しそうに、キャーキャーと喜んでたし鬼ごっこの後の、水に浮くボールを投げる遊びも面白かった。

 疲れるまで遊んで、昼食用に朝母ちゃんと用意したサンドイッチと、クレリア姫様達が用意してくれた、お菓子とジュースをいただいたら、眠くなっちゃった。

 気がついたら私馬車にゆられて家に帰る途中で、御者席にいる兄ちゃんに聞いたらみんなも疲れたのか眠くなって来たので、お開きになったそうだ。

 水着のままタオルとカー君とバンちゃんを巻きつけた状態だったんで、家に着いたらすぐにお風呂にカー君とバンちゃんと一緒に入り、体を温めながらプールで遊んだ楽しい時間を思い出し、夕飯の時にでも家族に自慢してやろうと、考えながらカー君とバンちゃんを泡だらけにして自分も泡だらけになっちゃった、エヘヘ。

 



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閑話⑬「カレンちゃん日記」⑨(プリンアラモードは美味しいよ)

 7月20日

 

 トンデモナイ事になっちゃった!

 お隣のセシリオ王国が、今私たちが住んでるベルタ王国に戦争をしに来るんだって!

 思わず故郷のルドヴィーク辺境伯領が、アロイス王国軍に攻められて街がむちゃくちゃになっちゃって、友達家族が連れていかれたり、ビンボーにさせられたことを思い出しちゃう。

 でも、きっとだいじょうぶだよね、なんたってこのコリント領は『魔の大樹海』の中にあって、しかもドームとパイプラインのトンネルはガンジョウだから、セシリオ王国の軍隊なんて目じゃないよ!

 だけど、詳しいことが聞きたくて病院での休憩中にサーシャさんに聞いたら、まだどうなるかわからないらしいけど、とりあえず女子会はしばらく出来そうに無いってクレリア姫様から、伝えて欲しいと言われたんだって。

 エーッ、せっかく次の女子会では、アラン様が作る『プリンアラモード』が出るっていうんで楽しみにしてたのにー!

 許すまじセシリオ王国の国王ルージ王、私の大好物のお菓子をしばらく食べさせないようにしてしまうとは、怨んでやるーー!

 

 7月26日

 

 朝食をフードコートで食べてると、モニターに臨時ニュースが放送されたの。

 何でもベルタ王国北方の国境が破られて、ファーン辺境伯領にセシリオ王国軍が迫ってるんだって。

 兄ちゃんもワイバーンに乗って、今日から出動するんだって不安だけど「ガンバってね!」って兄ちゃんを応援したら、「任せておけ!」と自信マンマンで答えてくれたんで、ケッコウ安心しちゃった。

 正直兄ちゃんというより、兄ちゃんが所属してる空軍にはワイバーンと何といってもドラゴンの『グローリア様』がいるんだもんね!

 モニターで見せてもらった、スターヴェークからの移民団を救ったときの軍団魔法『ハウリングパニッシャー』、軍団魔法『ファイアーサイクロン』は最強無敵って感じで、人間の軍隊なんてイッパツだよ!

 

 7月30日

 

 久し振りにクレリア姫様と会えたんだけど、一緒に行ったのは父ちゃんの工房。

 正直ここって前に来た時もスゴクうるさいし、みんな大声で会話してるからコワくて好きじゃないんだよね。

 でもアラン様とクレリア姫様が、並ばれて座ってるところを見てるとスゴクお似合いで、見てるだけで胸がポカポカしてくるの。

 父ちゃんの大きな魔道具を、工房の若い人が乗って前後左右に動いてみせたら、アラン様とクレリア姫様が盛大に拍手して、よくわかんないけどあのアラン様が父ちゃん達をホメてくれて、クレリア姫様までホメてくれてるから、きっとスゴイことなんだろうなあ。

 父ちゃん達はアラン様とクレリア姫様から、いっぱいホメてもらったので地面にひざまずいちゃった。

 あー、危ない、まだクレリア姫様の本当の正体は、スターヴェーク以外の人にバレちゃダメなんだから!

 父ちゃんには夕飯の後の肩もみのときに、お小言をしなくちゃね。

 そう考えてたら、クレリア姫様が手まねきされているのに気がついて、向かうとアラン様に私のことを紹介してくれたの!

 アラン様が、

 「ケニー隊長の妹さんだね、始めましてアラン・コリント男爵だ、君の事はお兄さんのケニー隊長とリアからよく聞いているよ、カーバンクルは元気かい?」

 と尋ねられて、自分でも顔が真っ赤になってるのわかるくらい、顔が熱くなりながら持ってきてたバスケットを開けると、勢いよくカー君とバンちゃんが飛び出しちゃった。

 少しアラン様は、驚かれたようだけどすぐに落ち着かれて、

 「本当に元気そうだね、良かったよ。

 リアからとても良くお世話してると、聞いていたんで安心はしてたんだけど、この目で確認出来た。

 何でも私の作る『プリンアラモード』を楽しみにしてたのに、食べれなかったそうだね。

 カーバンクルのお礼と前回食べれなかったお詫びに、『プリンアラモード』を作って来たんだよ、家族全員で食べて欲しいな。」

 とおっしゃられたから、

 「ありがとうございます、家族全員で美味しく食べさせてもらいます!」

 と答えると、ニッコリとうなずかれたの、やっぱりステキな方だなあ、クレリア姫様は本当にうらやましい~なあ。

 

 8月1日

 

 いよいよ、コリント領の全軍が出動!

 私と母ちゃんは軍事ブロックに行き、『紅』のみんなを見送ったんだけど、みんなの鎧が見事に紅くてスゴク目立ってる。

 きっと戦場でも目立つよね、でもみんな強いからセシリオ王国軍なんて、コテンパンにしちゃうんだから。

 そしてみんなを見送ったら、同じように見送っていたテオくんとエラちゃんを同じ馬車に乗せて、私んちに向かう。

 今日から二週間は夏休みで、軍人さんや特別な職業の人以外は休みなんだ。

 だから、テオくんとエラちゃんは世話をする軍人さん達がしばらくいないから、私んちににお泊り会をするんだ。

 テオくんとエラちゃんは、お泊り会なんてしたことないから、スゴク楽しみにしてたんだって、私も自分より小さい子供と一緒に生活するの初めてだから、スゴク楽しみ!

 



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閑話⑭「カレンちゃん日記」⑩(カレンちゃん親友と再会する)

8月15日

 

 うれしいよー!

 親友だった『テルちゃん』と再会できたの!

 整理すると、今日いつものように午前中は9月からの『学校』が始まる前に、基本的な読み書きをテオくんとエラちゃんに教えて、午後は病院のお手伝いに行ったの。

 だって、夏休み中だけど病気や怪我をする人はいるし、ヒールは使えば使うほど上手になるから魔力を問題無い量使うのは、毎日の日課なんだ。

 1時間くらいガンバってヒールを掛けて、今日の日課を終えて帰ろうとしたら、病院の裏口からキンキュウカンジャが運びこまれていくところに出会っちゃた。

 タンカって名前の移動用ベッドに乗せられた男の人が、治療室に運びこまれて行ったんだけど、見覚えがある人のような気がして、何となく控え室に行ってみたら、『テルちゃん』とテルちゃんのお母さんが居たの。

 エッ、テルちゃんは、ルドヴィークでアロイス王国の懲罰官に連行されたハズだよね?!どうしてここに居るの?

 驚いて入り口で固まってたら、テルちゃんが気付いてくれて、

 「カレンちゃん?!」

 と大声を上げたから、テルちゃんのお母さんも気がついて、

 「マゼラの娘のカレンちゃん?!」

 と言って二人とも驚いたまま固まっちゃた。

 駆け寄ってテルちゃんに抱きついたら、テルちゃんも抱きしめ返してくれて、二人で「ワー、ワー」泣いちゃった。

 テルちゃんのお母さんが、テルちゃんと私の背中をなでてくれて、ちょっと落ち着いたからどうしてコリント領に居るのかテルちゃんに聞いたの。

 何でも、ルドヴィークでアロイス王国の懲罰官に連行されて、アロイス王国南部の農地で強制労働をさせられていたんだけど、テルちゃんのお父さんが体をコワして農場で働けなくなって、一家ごとアラム聖国に売られていく最中に、コリント領のテイサツ部隊『黒』の人達に救われて、そのまま馬車で大規模移民団に合流したんだけど、テルちゃんのお父さんのヨウダイが悪くなったんで、キュウキョ例の『モトローラー』に乗せて、一足早くコリント領に着いたんだって。

 話に夢中になってたら、カンゴシさんがやって来て、

 「薬とヒールの重ね掛け、そして『ナノム玉』を投与しましたので、容態は安定しました、このまま病室に入って貰いますね。」

 と言われたので、テルちゃんとテルちゃんのお母さんは、ホッとしたみたい。

 みんなで、テルちゃんのお父さんを見舞ったら、眠ってるけど呼吸も静かだし顔も赤みがさして元気そう。

 カンゴシさんが、

 「ご家族は、どこに泊まられますか?」

 と聞かれたから、私が、

 「ウチに泊まればいいよ。」

 と答えたら、

 「いいの?」

 とテルちゃんが聞いてきて、

 「モチロンだよ!」

 とムネをたたいたら、

 「ありがとう、カレンちゃん。」

 とテルちゃんのお母さんが、涙ぐんで感謝してくれた。

 サッソク母ちゃんに、病院の通信機で連絡して馬車で来てもらい、荷物を積んで家に帰ることにする。

 途中フードコートで、大量のサンドイッチやピザそしてパスタを買って、他の店でスープを買い鍋に入れて持って帰る。

 家に帰ったら、テオくんとエラちゃんがお風呂を沸かしてくれてて、テルちゃんとテルちゃんのお母さんに入ってもらう。

 テルちゃんとテルちゃんのお母さんも、ようやく落ち着いてきたのか、ウチの中を物珍しそうに見て色々と質問して来たから、私と母ちゃんで答えてあげたらスゴク感心してた。

 母ちゃんとテルちゃんのお母さんは、さっき買った夕飯を食べ終わった後もテーブルで話こんでるから、私達は、ウチで1番広い応接間にベッドを並べテオくんとエラちゃんも一緒に寝ることにした。

 テオくんとエラちゃんに、テルちゃんは私の親友だよと紹介して、テルちゃんにはテオくんとエラちゃんは大切な弟分と妹分だよと説明し、友達になってもらったの。

 疲れてるのか、テルちゃんとテルちゃんのお母さんはしばらくしたら、眠っちゃった。

 

 8月17日

 

 無事テルちゃんのお父さんが、病院を退院してコリント領に住むことになり、昨日の内にロベルトおじさん(未だにこう呼んでるの)の許可をもらって、ウチの隣の部屋に住むことが決まったの。

 元々備え付けの魔道具や、家財道具以外の生活用の物資も届いたから、私とテオくんとエラちゃんはお手伝いをすることになったの。

 大分テルちゃん達家族も驚いていたみたいだけど、魔道具がスゴク便利なことと、自分達をサイテイな立場にしたアロイス王国から救ってくれた、クレリア姫様とアラン様に感謝したいと言われた。

 でも、今お二人とも戦争に行ってて居ないんだよねー、と考えてたら、テオくんとエラちゃんが、「ちゃんと伝えておくよ!」とうなずきながら答えてくれた。

 そう云えばこの二人は、クレリア姫様とアラン様の公式な小姓だから、伝える相手としては向いているんだよね。

 「お願いね。」

 とテルちゃんのお母さんに言われて、

 エラちゃんは、真っ赤になりながら、

 「わかった!」

 と返事してくれたから、テルちゃんのお母さんがエラちゃんを抱きしめてあげたら、エラちゃんは「ママ、ママ!」と泣き出しちゃった。

 エルナさんから、テオくんとエラちゃんの生い立ちを聞かされてたから、幼い時にお母さんを亡くしたエラちゃんは今まで甘える相手がいなくて、寂しかったんだろうなと思い、今後はお姉ちゃんとして甘えさせてあげようと思った。

 



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閑話⑮「カレンちゃん日記」⑪(親友4人、全員集合!)

8月20日

 

 大規模移民団がコリント領に到着!

 母ちゃんとテルちゃん一家で、ドームの玄関口であるゲート前でお出迎え。

 ロベルトおじさんや高官の人達が、並んで出迎えてる後ろにいるから見えづらいんだけど、近くにあったモニターに様子が映ってくれたんで問題なかった、ホント『放送局』の人達ガンバってるなあ。

 ファンファーレが鳴って、ゲートが開き大規模移民団の人達が次々とやって来た。

 大規模移民団の人達、スゴクびっくりしている様子で口をポカンと開けてるけど、出迎えてる人達が笑ってるのに気づくと笑い返してくれた。

 しばらく同じ様な列をながめてたら、居た!居たよ!!

 親友の『スー』ちゃん一家と『クー』ちゃん一家!

 手を振ったら、気付いてくれて手を振り返してくれた。

 これでルドヴィークでの親友4人全員無事にコリント領で再会出来た、良かったー。

 スーちゃん一家とクーちゃん一家を、母ちゃんとテルちゃん一家そして私であらかじめ教えてもらってたマンションに案内して、スーちゃんとクーちゃんに魔道具の使い方とかを教えてあげたの、二人ともビックリした顔をしてたけど、私とテルちゃんが笑いながら教えてる様子がおかしかったのか、クスクス笑い始めて最後はみんなで大笑いしちゃった。

 

 8月23日

 

 だいぶ新たに来た人達もコリント領になれたみたいで、大人達は職業訓練学校にそれぞれ行き始めたんだけど、私達子供は9月から『学校』が始まるから私んちで読み書きの勉強、私最近は頭が良くなって計算も早くなったからみんなに教えてあげたの。

 みんな私が割り算まで出来るから、驚いてスゴイスゴイとホメてくれて、魔法のヒールとウオーターを使ってみせたら「カレンちゃん、大人よりスゴイよ!」と興奮してホメてくれたんだけど、タネ明かしで『ナノム玉』のおかげで『精霊の加護』を受けれたんだよ、バラしたら、

 「エッ、それじゃあ私達も『ナノム玉』を飲んだら『精霊の加護』を受けれるの?」

 と聞いてきたから、

 「そうだよ、そしてクレリア姫様から『学校』に通う子供達は、全員入学した時に『ナノム玉』が配られて、『精霊の加護』を受けれるんだって。」

 と答えたら、

 「カレンちゃん、クレリア姫様とお話したの?」

 と聞かれたから、クレリア姫様と会って女子会メンバーになったこととか話してあげて、カー君とバンちゃんの話になったら、

 「カーバンクルってどんな動物なの?」

 ってスーちゃんから聞かれたから、カー君とバンちゃんを専用の部屋から連れて来たら、

 「「「うわあ~、カワイイ!」」」

 と喜んでくれて、カー君とバンちゃんをかわいがってくれてたら、始めの女子会の時と同じように突然カーくんとバンちゃんが額の宝石を光らせ始めた。

 みんなビックリしちゃって、後ずさりしたけど私が「大丈夫だよ。」と言ったら安心したのか、カー君とバンちゃんにみんな近づいて、クーちゃんが「キレイ。」とつぶやいてジッとみんなで見てたら。

 みんなのテーブルの上にあの時と同じ様に、ルビー(紅玉)、サファイア(蒼玉)が置かれた。

 みんなが、

 「「「スゴイ!、キレイ!、カー君とバンちゃんありがとう!」」」

 と感謝したら、

 「クゥー」と鳴いて答えてくれた。

 「でもどうしよう、私達宝石箱無いから置く場所が無いよ。」

 とスーちゃんが言ったので、

 「大丈夫!タラス商会のカトルの店で、雑貨専門コーナーにカワイイ子供用の宝石箱が売ってるの、子供用だけどガンジョウだからキチョウな品物を入れるのに持ってこいだよ。」

 と言って自分の宝石箱を見せたら、みんな納得して午後にみんなでカトルの店に向かった。

 カトルの店で、顔なじみのウィリー君に出会えてみんなに紹介した、

 「彼はウィリー君、私達よりちょっと上の15才で、カトルの店の副店長なんだよ。

 何と彼はカトルさんと同じく、あの『クラン・シャイニングスター』の正式メンバーで、調達や物資の手配をしているスゴイ人なんだ。」

 とウィリー君の肩にある、『クラン・シャイニングスター』のバッジをみんなに見せると、

 「「「スゴーイ、あのアラン様達のクランメンバーなんだ!」」」

 ってみんな感心したら、

 「そんな大した事ないよ、あくまでも自分はカトル様の補佐でしか無いからね、それより何を探してるのかな?」

 と照れながら言ってくれて、宝石箱の話をしたら色んな品を見せてくれて、みんなそれぞれ好きな宝石箱を選んで、コリント領に着いた時にもらったカードのポイントで買った。

 ウィリー君が袋に商品を入れながら、

 「カレンちゃん達も、1週間位したら『学校』だね、『学校』では同じ『中等部』になるから仲良くしようね。」

 と言ってくれたから、

 「『学校』で休み時間の時、『クラン・シャイニングスター』でのお話、特にアラン様とドラゴンのお話をして下さいね。」

 とお願いしたら、

 「いいよ、自分の見た色んな話をしよう。」

 と快く引き受けてくれた。

 みんなで帰り道、『学校』楽しみだねーと話ながら家に帰った。

 

 8月31日

 

 いよいよ明日から、『学校』が始まるよ!

 うわあ~、楽しみー。

 『学校』は生活ブロックの奥の方にあって、主要道路から離れた場所にあって小さい子供が馬車に跳ねられたりしない様に、道にはガードレールというのが歩道と車道を分けてるんだよ。

 給食というのもあるらしいし、『小等部』にはテオくんとエラちゃんも通うことになってるから、夏休みでウチに来てた時以来だから、早く会いたいなあ。

 ニュースでは、セシリオ王国との戦争は大勝利で、コリント領の兵士の被害は無しだそうだから、誰も悲しまない入学式になりそう。

 さあ、明日からガンバルゾー!

 




 今回は長い閑話でした(汗)
 どうしても一つの区切りである、学校に入る前までを書いて置きたかったんですよ。
さて、今回サブタイトルの親友4人組ですが、学校に通い始めてからしばらくして途中入学してくる一人の女の子がすぐに加わり、親友5人組になります、さてアッサリ加わる一人の女の子とは一体誰なんでしょう?判る人にはバレてるだろうなあ(笑)
学校は、『航宙軍士官、冒険者になる』に於いて重要な意味を持つのは、原作ファンの皆様方は当然御存知でしょうが、まだまだアラン達の真実を公表する訳には行きません。
なので自分の考えとして、段階を踏んで科学技術を少しづつ教えて行くという形にしようと思っています。
 皆様が毎日読んで下さってる事実が、大変自分にとってモチベーションを上げる力になっております。
 どうか原作者様もファンの熱い想いを感じ、モチベーションを取り戻してくれないかなあと願っております。


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閑話⑯「ガトル親父の雑記」③(親父、工場長になるの巻)

 8月1日

 

 工房の清掃も昨日で終わり、今日から工場で働く事になってたんだが、最初に予定されてた工場では無くて工業ブロックの奥の方の、出来たばかりの工場に連れて来られちまった。

 8ちゃんに聞いてみたら、

 「オヤカタハ、2カマエノオヒロメデスバラシイセイカヲアゲタノデ、シンコウジョウノコウジョウチョウニニンメイサレマシタ。」

 とかぬかしやがった。

 工場長?長って付く役職は、まさかこの工場の責任者は俺なのか?!

 8ちゃんに再度聞いてみたら、

 「ソウデス。」

 とぬけぬけと答えやがった。

 呆れちまったが、考えてみたら今迄の工房を大きくしただけで、やる事は決まってるんだし広い空間を使えるのは有り難え、アラン様とクレリア姫様のご期待に添える様に頑張るだけだぜ。

 新工場に入って行くと、8ちゃんとは別のボットが居て、箱から全員に何やら玉っころを渡された。

 「何でえ、この玉っころは?」

 とボットに聞いたら、

 「コレハ、『ナノムダマ』トイッテ、ミナサマガタニ『セイレイノカゴ』ヲアタエルモノデス。」

 と教えてくれたから、俺は驚いちまった。

 これが、息子と娘が教えてくれた『ナノム玉』か!

 何でも怪我はすぐに治るし、魔法まで使える様になるそうじゃねーか、凄えプレゼントもあったもんだ。

 俺は早速『ナノム玉』を口に放り込んだんだが、あっという間に口の中で溶けちまった。

 ドップ達は躊躇してたんだが、俺がアッサリと飲んじまって特に問題無さそうなのを見て、全員問題無く飲み込んだ。

 するとボットが新たな工員20名を連れて来て、この連中も『ナノム玉』を既に飲んでいます、と説明してそれぞれ紹介してくれた。

 これでこの工場は、元の工房仲間の23(俺とドップと8ちゃんそれに元孤児院出身者の20名)人と新たに加わった20人、合計43人で稼働させる事になった訳で、然も俺が責任者か!

 1年半前まで、俺はしがない個人工房の鍛冶屋に過ぎなかったてえのに、今じゃ工場長かよ、人の運命なんて判らねえもんだなとつくづく思い、今日はそれぞれの働く場所、役職、道具類、部屋の配置、トイレ他を確認し、明日からの仕事をする前のお祝いを内輪で祝う為、最近出来た居酒屋に繰り出して親睦を深めさせた。

 

 8月3日

 

 漸く、工場を稼働させ例の試作品の車を改良した、先行量産型を10台作り始めた。

 この10台はそれぞれ、オプションパーツを前部や後部に付ける事で、用途をそれぞれ特化させていて、俺が荷物運搬や物を上下に上げ下げする車両、ドップが農業用の耕運、田起こし、刈り入れ、田植え、稲刈り等を作る事になった。

 先日飲んだ『ナノム玉』のお陰で『精霊の加護』が受けられて、昨日から身体の調子は良いし、俺の汚かった書く文字も信じられねえ位見やすくなった、『精霊の加護』って奴は本当に偉大だぜ。

 

 8月6日

 

 工場員全員で、備え付けられたモニターから放送される動画を見せられた。

 正直な処、こんな娘が好きそうな可愛らしい精霊達が、魔法の『ヒール』を使うと光と共に現れて傷や打ち身を治してくれるのかと疑っちまうが、モノは試しだ早速やってみようと言い出しっぺの俺が、ハンマーで左腕を殴り(結構痛かったが、何故かすぐ痛くなくなり)打ち身を作って、ドップが『ヒール』をイメージして手を翳すと、本当に光ってきて青あざがキレイに無くなりやがった!

 凄え凄えぜ、昨日まで魔法の魔の字も使えなかったドップが、魔法の中でも高位の『ヒール』をアッサリ覚えちまった。

 全員で『ヒール』を使えるかどうか試してみたら、全員傷、打ち身を治せる事が確認出来た。

 こいつは便利だ、なんたって俺等の仕事はハンマーや旋盤等の危ねえ物だらけだから、怪我なんてしょっちゅうだ、それを其の場で治す事が出来りゃ大助かりだぜ。

 ついでのように覚えた『ウオーター』も有り難え、水は鍛冶仕事に必須だし、暑い現場で冷たい水は大助かりだ。

 

 8月20日

 

 先行量産型のドップが手掛けた農業用の、耕運、田起こしオプションが出来上がり早速農業ブロックで試運転する事になり、まだ手つかずの農地で試してみた。

 おお、『ダイナモ』で回る器具部分が中々力強く回り、土を掘り起こして行くな。

 運転していたハロルドが、

 「これは、面白い位地面を掘り起こせますね、見事ですドップ副工場長。」

 と褒めたんだが、ドップの奴何と泣いていやがる。

 「どうしたんでえ!」

 と尋ねたら、

 「コイツがルドヴィークの時に有れば、両親が死ぬ事なんて無かったのに。」

 と嗚咽しながら答えてくれた。

 俺もシンミリしちまったが、ドップの肩を叩き、

 「そうだな、けどお前の作ったコイツはこれからそういった不幸を、無くしてくれるんだ、きっとお前のの両親も天国で息子の活躍を喜んで見てる筈さ。」

 と言ってやったら、

 「ありがとうガトル工場長、自分もそう思う事にするよ。」

 と涙を拭って答えた。

 すると、遠巻きに見ていた農民の一人が、尋ねて来た、

 「貴方方が、この魔道具を作られたんですか?」

 俺は、

 「このドップ副工場長が、作り上げたんだよ。」

 と答えてやったら、

 「どうすれば、この魔道具を使えるんですかね?」

 と更に聞いてきたので、ハタと気がついた。

 そうだよ、作る事に夢中で、使う人達の運転技術の事すっかり忘れてたぜ。

 これは、今後問題になるなと判ったので、アラン様とクレリア姫様に上申したい処だが、戦争にお二人とも行かれてるから、留守を預かってるロベルト老に相談する事にした。

 質問して来た奴にも、上の人に聞いておくよ、と答えた。

 

 8月21日

 

 昨日の農民からの質問を胸に、生活ブロックの執務ビルでロベルト老と面会して、運転技術の普及を考えなければならない事情を話したら、ロベルト老は、

 「安心せいガトルよ、アラン様から運転技術講習所を9月に開校する為に、ドーム外で車両の運転練習を出来るようにしており、教習用の人員も教育している最中じゃ。」

 と答えてくれたので、『トラクター』(名前はこうなった)の練習項目も追加してくれる様に頼み了承された。

 工場に帰りながら、大規模移民団も昨日到着した事だしトラクターの需要は、右肩上がりだろうなあと想像して、ドップ副工場長が喜んでいる姿が脳裏に浮かび、思わずにやけちまった。

 



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閑話⑰「ガトル親父の雑記」④(親父、問題を解決するの巻)

 9月1日

 

 娘達が『学校』ってのに通い始めるタイミングに、その親達も職業訓練校に通いながら、工場勤務を実地に始める事になり、俺等の工場でも120人やって来たから午前・午後で60人ずつ、交代しながら勤務をしてもらう事になった。

 流石に素人に、魔道具の扱いを任せる訳には行かねえから、先ずは工場のラインの検品作業と清掃及び荷物の搬入、搬出をしてもらい、暇な時には車両運転訓練校に行ってもらう事にした。

 しかし、この工場も広いと思ってたけど今じゃ200人弱働いているから、段々手狭になって来たな、ロベルト老に話しをつけて、後2,3棟の工場を作って貰わねえと、予定している新規の車両の開発ラインが滞っちまう。

 

 9月5日

 

 車両関係者の初会合が行われたんだが、中々凄え面子でクセのある奴ばっかりだったぜ。

 先ずは、

 

 魔道列車組・・・・・・魔道列車を開発し今や時の人と言っていい、『アルムおんじ』と孫の『ハイジ』その付き人で『クラン・シャイニングスター』所属の『ペーター』。

 

 トレーラー組・・・・・トレーラーの仕組みを考えつき、今最優先で工場をフル稼働させてる、『ホシ』と相棒の『ジョナサン』。

 

 俺達、トラクター、フォークリフト組の『俺』と『ドップ』そして付き人として来た『ハロルド』。

 

 そして、この初会合を主催したロベルト老。

 

 挨拶もそこそこに、ハイジ嬢が、

 「ロベルトさん、今ある資材量だと5両編成の魔道列車を4両しか作れないわ、至急資材の増量をお願いします!」

 とロベルト老に要求して来た。

 ロベルト老は、

 「判っておる、だが今はレールの無い他領への物流を考えると、トレーラーを優先しなければならんし、漸く各ブロックの建築が終わったが、コリント領の玄関口の街を整備しなければならん、人手は大規模移民の成功で上手く行きそうじゃが、資材はもう少し待ってくれ。」

 と答えて、ハイジ嬢も「仕方ないわね。」と諦めた様だ。

 次に、ホシって奴が挙手して、

 「ロベルトさん、実は軍からの要望が多すぎて困ってるんだよ、オイラが考え付いたのはあくまでも車両部分とカーゴ部分を連結させて運用する車両だ、カーゴ部分を荷物用にするのは判るが、医療用、作戦指揮用、調理用にしろなんざ無理だぜ。」

 と困ってる事情を吐露しやがった。

 ロベルト老も、

 「お主の言うことも最もじゃな。」

 と同調して悩んでいる様だが、ハイジ嬢が、

 「私達も困っているのよ、魔道列車が積んで運んでくる鉱石や木材は工業ブロックに降ろすんだけど、その際の積み下ろし作業の煩雑さと、玄関口駅でのトレーラーへの荷物の積替え作業の時間と手間が掛かり過ぎて、上手い具合に行ってないわ。」

 と更に問題提起をしたので、ロベルト老は頭を抱えちまった。

 頃合いを見て、俺も手を上げて発言させて貰おうとしたが、ロベルト老は、

 「お主も困り事か?」

 と疲れた様子で発言を促したが、俺は、

 「いや、むしろ問題解決の提案だな。」

 と答え、皆の注目を集めると、

 「つまり、あんた方の問題点は、それぞれの用途に合わせてカーゴ部分を作っている為、一々その規格に合わせなければならない訳だ、ならば一つの頑丈な箱の統一規格を作り、その箱の内部は好きな様に運用出来るようにするが、外側は全部一緒にする。」

 と俺は話し、ロベルト老に資料を渡してモニターに映して貰う様に頼むと、ロベルト老は、

 「ゴルゴ、資料をモニターに映してくれ。」

 と自分の護衛兼介添役のボット13号に指示して、フォークリフトの概要をモニターに映した。

 全員が、モニターを見てフォークリフトの概要を理解すると、ホシが、

 「成程コイツは便利だ、これならトレーラーの基本構造は同じまま、このコンテナって奴をフォークリフトで乗せ換えるだけでいいわけだ!」

 と関心してくれて、ハイジ嬢も、

 「凄いわ、これなら重い荷物の上げ降ろしも人力でする必要が無くなるし、厄介だった大きな木材を簡単に運ぶ事も出来る、素晴らしい発明だわ!」

 と絶賛してくれた。

 俺も予想以上の反応ににやけてたら、突然今まで全然反応しなかった、アルムおんじが俺の前まで来て徐ろに手を差し伸べて来たので俺も手を伸ばしたら、とても白髪の爺とは思えねえ力で握ってきて、分かりづらかったが白髭の口元を綻ばせて笑って、

 「お前さん、かなりの知恵者じゃな、儂もそれなりの経験に基づく知恵を誇ってきたが、これは中々良いアイデアじゃ、今後も頼むぞ!」

 と結構理知的な話しぶりで、褒めてくれたんで、

 「此方こそ、宜しく!」

 と握り返して答えたら、

 「ウムッ」

 と返答してくれた。

 ロベルト老も一つの問題が上手く解決したので、心が晴れたのか笑いながら、

 「やはり、アラン様が目を付けて引き上げた者達は素晴らしいな、今後も定期的に会合をして、より良いアイデアを出し合って欲しい。」

 と言って会合を終了させて、そのまま全員で居酒屋に向かい親睦会を開催した。

 やはり、酒が入ると打ち解けるのも早くて、俺のアイデアに皆が色んな意見を言ってくれたから、大分初期案より良い改良品が出来そうだ。

 今後も会合をするらしいし、アイデアを出し合う場に出来れば最高だぜ。

 



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閑話⑱「ガトル親父の雑記」⑤(親父、アラン様に託されるの巻)

 9月10日

 

 2回目の会合が開かれ、『コンテナ』の基本寸法と重量が決められたぜ。

 基本は魔道列車の、1両に無理無く載せられてトレーラーに積んでも、重さで動けないなんて馬鹿げた事にならない様に計算したんだが、此奴を作るのにも俺のフォークリフトがどうしても必要だ。

 かといって、まだフォークリフトは5台しか無くて、作りかけを合わせても10台だ、時間は掛かるが不良品を作る訳には行かねえから、待って貰うしかねえかと皆で諦めていたら、突然アラン様とロベルト老が部屋に入って来られた。

 慌てて、頭を下げようとすると、

 「そんな礼儀は必要無い、そんな事よりフォークリフトの問題だ、ガトル、フォークリフトとはお前に渡した例の重機案3つの内の1つだな?」

 と聞かれたから、

 「そう通りです、アラン様からお預かりした、ドリル掘削重機、平土重機(ブルドーザー)、荷役運搬重機(フォークリフト)の案を、自分なりに『ダイナモ』を使った魔道具として設計し直し、大量生産しやすくしたんであります。」

 と答えたら、アラン様は頷かれ、

 「見込んだ通り、自分の素案を見事に改良してくれたな。

 それに『アルムおんじ』と孫の『ハイジ』も、トロッコ列車の改正案から更に自分の素案を発展させ、『魔道列車』にまで高めてくれた、流石だ。

 そして、『ホシ』と『ジョナサン』も、自分の素案のトラックから、車体とカーゴ部分に分けた『トレーラー』に昇華させてくれた、素晴らしい。」

 とそれぞれ皆を褒めて下さった。

 全員頭を下げ、

 「「「ありがとう御座います。」」」

 と返事をしたら、

 「皆、顔を上げてくれ、フォークリフトの話しだ、ロベルト付きのボット13号、今動かせるボットと汎用トラクタを最大限稼働させ新工場を予定を繰り上げて完成させろ!

 ガトル、今出来上がっているフォークリフトを、全部、車両運転訓練校に持って行き、車両訓練の必須項目にフォークリフト運転を組み込ませよ。

 そして、此処に居る面々と工場勤務の者達も、時間の余裕が出来次第、車両運転訓練校で運転技術を習得する事。」

 と命じられたので、全員、

 「「「判りました!」」」

 と返答したら、アラン様はニコッと笑われ、

 「頑張ってくれ、3週間程は猛烈に忙しいだろうが、そこさえ越えれば人員の教育も終わるから、人手も増えるし、ドンドン重機が完成すれば余裕も出来てくる、我々上層部も皆が働きやすい様に便宜を図るから、共にこの忙しい時期を乗り切るぞ!」

 と激を飛ばされ、俺等も、

 「頑張ります!」

 と気合の入った返事をした。

 すると、アラン様は頷かれそのまま出て行かれた、ロベルト老に聞くと、アラン様は忙しくグローリア殿を乗り回し、各地の貴族との折衝をしたり、インフラ整備の陣頭指揮を取られたり、行政の事務作業を一手に片付けたりと八面六臂の仕事をこなしているそうだ。

 俺等全員感心しちまった。

 俺等も忙しいと思っちゃいたが、アラン様はその数倍の仕事をこなし、更に軍人として戦争では最前線で敵を蹴散らされる、正に神の様なお方だ。

 其の上、俺等に車両の案を提示し、アイデアを下さってもいる、この素晴らしい方が近い将来クレリア姫様と結婚され、我等を導く王様になって頂けるとは大変有り難え話しだ。

 思わず此の場にいる、旧スターヴェーク王国出身者達は、目で同じ思いを抱いている事を確認し頷きあった。

 

 9月28日

 

 アラン様が、強力に推し進めてくれたお陰で、新工場も3棟出来て既にフォークリフトも30台出来て、現場でフル稼働している。

 その様子を来訪されている、ファーン辺境伯、ブリテン伯爵、フランシス子爵とその家臣団もご覧になられて感心し、何れは其々の領内でも使いたいとアラン様に頼まれていた。

 此の分だと、俺の作る『魔道重機』は遠く無い未来にベルタ王国中に広まるかも知れねえな、とドップと笑いながら休憩していたら、アラン様が休憩室に来られた。

 慌てて席を用意して、お茶を出そうとすると、アラン様はお茶を断りカバンから書類を取り出し、8ちゃんに手渡された。

 「ボット8号、モニターに出してくれ。」

 とアラン様は命じられ、8ちゃんが書類をモニターに映し出した。

 モニターには、新たな重機と農業用の新たなトラクターの設計図が映し出され、その数それぞれ10種類も有った。

 凄えと、目を血走らせて凝視していると、アラン様は、

 「軍務の暇な時等に、書いていたアイデアだ、だがこのアイデアを実現するにはあまりにも自分には時間が無い、そこで専門家のお二人にこのアイデアを活かした、新たな魔道重機と魔道トラクターを開発して貰いたい、明日から自分は王都に向かわねばならないので相談に乗る事も出来ないが、貴方方が作り上げた魔道具は、自分の考えていた物を更に改良していた、必ず貴方方なら作る事が出来ると信じている、頑張ってくれ!」

 と設計図を託された。

 責任重大だと思ったが、アラン様に少しでも貢献出来るのはコリント領住民としては望む所だ。

 「お任せ下さい!」

 と胸を張って答えたら、

 「ありがとう。」

 と感謝された。

 アラン様が帰られ、ドップと8ちゃんとで改めて設計図を見ると、やっぱり凄い代物だ。

 だが、男が1度任せろと請け負ったのなら、完遂するまでよ。

 俺とドップと8ちゃんは、握手しあいながら頑張るぞと気合を入れた。



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閑話⑲「マゼラママの徒然日記」③(主婦の呟き 何歳になっても女の子はお菓子好き!)

 9月1日

 

 服飾工場は横に大量の最新ミシンを並べ、其々の列で違う生地或いは違う糸による縫製が行われてるわ。

 隣接する紡績工場から、色々な素材による布地や生地が運ばれてきて、それを下着や服或いは水着等に縫製または刺繍するの。

 その品目は、子ども用と大人用そして男女に区別の上、サイズ毎にS/M/L/XLに分けられていて、然も、過程でどうしても出てくる端切れや糸くずは集められまた紡績工場で、布地や生地に再生されるの。

 なんて効率的なのかしら、これならコストがかなり掛からないわ。

 それに今まで服は、コットン(綿)、リネン(麻)、ウール(毛)地が基本で、貴族がシルク(絹)地を使うくらいだったのに、ここでは新しい生地が大量に使えるの。

 

 新しい生地とは、

 

 ポリエステル・・・・一般のスライムを魔石を取った後に魔法処理を行うと出来る繊維、主に下着の材料。

 

 レーヨン・・・・・・木材パルプを主原料とした再生繊維、服の裏地の材料。

 

 ナイロン・・・・・・中レベルのスライムを魔石を取った後に魔法処理を行うと出来る繊維、運動用のウェアや冬物のジャケットの材料。

 

 アクリル・・・・・・上水道と下水道で大活躍の高レベルのスライムを魔石を取った後に魔法処理を行うと出来る繊維、他にもコリント領ではガラスの代替品として利用しているが、セーターや靴下などの材料。

 

 ポリウレタン・・・・特殊なスライムを魔石を取った後に魔法処理を行うと出来る繊維、ウェアやインナーそして水着の材料。

 

 これ程の種類の新しい生地を使えるから、正直貴族や王族より余程上等な服を着れるんじゃないかしら?

 

 9月18日

 

 服飾工場勤務にも慣れてきて、いつの間にか奥様グループ(30人位)の代表に押し上げられて、上層部との折衝役になってしまったの、どうしてかしら?

 多分、率先してみんなの要望を上と交渉してた所以ね。

 今日も、商業ギルドのアリスタさんとカリナさんが来られて、新しいデザインの服と下着の交渉をしたの。

 5日前に全員『ナノム玉』を飲んでから、殆どの女性からデザインセンスの良いアイデアが幾つも出てきて、工場長等の上層部に提出したんだけど、上層部は全員男性だから判断出来ないと言われて、直接購入して物販されている商業ギルドに判断を委ねられたらしいわ。

 アリスタさんとカリナさんは、コリント領での物販とは別に、他領と王都での物販をアラン様から許可されたそうで、今後大量の発注が予想され、更には貴族からのオーダーメイドの発注もあり得るので、貴族や大商人向けのデザインを考えたサンプルを作って貰いたいと依頼して来たわ。

 なるほど、この量産体制なら他領にも大量に売れるから、予め他領の流行や好みに合わせたデザインの服を用意しておきたいということね。

 ただ、私達大半の者は旧スターヴェーク王国出身者だから、この国の流行や好みはあまり詳しくないのよね。

 しょうがないから、ベルタ王国出身者に詳しく聞こうとしたんだけど、困ったことに孤児院出身者ばかりで、上流階級の出身者が居なかったのよ。

 家に帰って、カレンに相談したら、

 「だったら、ベルタ王国では無いけど、王族のクレリア姫様に聞いてみるよ。」

 とアッサリと答えたから驚いたわ。

 「そんなに気安く相談出来るの?」

 と聞くと、

 「大丈夫!

 それどころか、何時も女子会では、服や下着の話しが主流なんだから、喜んで協力してくれるよ!」

 と胸を叩いて承知してくれたわ。

 

 9月23日

 

 クレリア姫様とお付きのエルナ殿、そしてファーン辺境伯、ブリテン伯爵、フランシス子爵の家臣で女性の方々が来訪されたの。

 一応視察と云う名目らしいけど、護衛の方々も全て女性なので、先日のカレンに依頼した用件で間違いないわね。

 一通り工場を視察されて、応接室で休憩される事になったんだけど、そそくさと工場長以下上層部はいなくなり、何故か私と同僚のマミ(テルちゃんのお母さん)が残されたの。

 私とマミは、貴族様とお話した事なんて無いから、戸惑っていたら、クレリア姫様が、

 「礼儀等気にせずに、接して欲しい。

 今此の場にいる者達は、貴方方へ多くの要望が有り、忌憚なく喋って貰わないと、出来もしない事を要求する羽目になるので、双方不幸になる事は避けねばならん。」

 と仰って頂けたので、ホッとしてクレリア姫様と他の方々との満足いく意見交換が出来たわ。

 意見交換会も終わり、お茶にする事にして、工場の大冷蔵庫に保管して置いた、来客用のお菓子を他の職員に持って来て貰った。

 すると、それを見たクレリア姫様とエルナ殿が、

 「そ、それは、『バウムクーヘン』と『カステラ』ではないか?!

 どうして、アランしか作れないお菓子をそなた達が持っているのか?」

 と驚かれているので、

 「私の娘のカレンに、最近出来た友達でサラちゃんと云う女の子が居まして、その子のお父さんが最近オープンした、レストラン『豊穣』のオーナー兼シェフをなさっていて、そのお店のテイクアウト用のお菓子を、定期的に購入する契約を結ばせてもらって、その1回目がこのお菓子です。」

 と答えると、

 「そうか、そう云えば『バース』にアランが、お菓子のレシピも渡していたな、これは盲点だった。

 早速我々もレストラン『豊穣』と契約を結ぼう。」

 とクレリア姫様が何度も頷かれていたわ。

 全員に紅茶と、『バウムクーヘン』と『カステラ』が行き渡り、早速食べて貰ったら、全員から感嘆の声が上がったわ。

 私も初めて食べたんだけど、今まで食べていた焼き菓子とは全然違い、フワフワと柔らかく、其の上しっとりとした甘さが口に残る、とても美味しいお菓子だわ!

 皆様大変喜んでくれて、お茶受けとして出したのは、正解みたいだったけど、クレリア姫様始め皆様帰りがけに、レストラン『豊穣』へよりテイクアウト用のお菓子を買おうと、相談されていたので、私も帰宅途中で買う予定なのに、無くなってしまうんじゃないかしら?と不安に感じながら、残りの仕事を片付け早目の帰宅をしたわ。

 ちなみに、『バウムクーヘン』と『カステラ』は売り切れて無かったけど、『マカロン』を買えたので良かったわ。

 



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閑話⑳「マゼラママの徒然日記」④(魔導服完成したわ!)

10月10日

 

 私の目の前に、凄く派手な衣装を身に纏う女性が座って居るんだけど、その衣装が気にならない程私は今興奮しているの。

 時は遡って、30分程前、私に面会したいと云う女性が来たと、受付の女性職員から連絡が来て応接室に出向くと、件の女性が座ってお茶を飲まれて寛がれていたわ。

 「私がマゼラですけど、貴方はどなたですか?」

 と尋ねたら、立ち上がってカードを見せて名乗られたの。

 「突然お邪魔して、ごめんなさいね。

 私は、此処コリント領での魔術ギルドの支部長を務める『カーラ』と申します、以後お見知り置き下さいね。」

 と答えられたの。

 アッ、私、知ってるわ。

 タラス商会本店の、魔道具コーナーのモニター画面に出て、魔道具の使い方や効果を説明していて、今やコリント領の知名度でいったら、5本の指に入るんじゃないかしら。

 カーラさんは、徐ろに布を何枚か取り出してテーブルの上に広げて、説明を始めたわ。

 全ての布によく見ると、魔法陣が描かれていて、中々デザイン的にも変わっていて良い感じね。

 カーラさんは、

 「見ての通り、この布には魔法陣が描かれているわ、この平面の状態であれば魔力を通しさえすれば、魔法が正常に発動するけど、此の様に(布を持ち上げて歪ませた)すると、魔法は発動しないか、発動しても弱い効果しか得られないの。」

 と言って、実際に『ライト』の魔法を唱えて実演すると、布が歪むと明らかに光が弱まったわ。

 「でも、弱まるだけである程度の効果は得られるの、つまり布に魔法陣で冷房や暖房の魔法陣を描いて置き、服として使用している最中に、魔力を通すと服が冷たくなったり、暖かくなったりする訳よ。」

 ここまで聞いて、私は興奮して来たの、すると服に魔法陣を予め描いて置けば、暑い日に服が冷たくなったり、寒い日には服が暖かくなったりすると云うわけだわ!」

 いいえ、外出の時だけでは無いわ、例えば溶鉱炉勤務の人達や、巨大な冷蔵倉庫勤務の人達には、喉から手が出るくらい欲しいと思うわ。

 カーラさんは、

 「判ってくれたようね、この魔法技術の検証の為に私はこうやって(服や帽子を脱ぎ)、日々試しているの。」

 と脱いだ服や帽子を私に渡してくれた。

 其処には、かなり簡略化された魔法陣が描かれていて、多少歪んだ程度ではあまり魔法陣は歪まず、これならば魔法は確かに発動しそうだ。

 カーラさんは、

 「ただ、私はあくまで魔術師であって、精々布に魔道具のペンで描くしか出来ないの、だから貴方方の使う最新式魔道具のミシンならば、魔法処理を施した糸で服に魔法陣を刺繍する事が出来る筈、そうすれば魔道具のペンで描いた物と違い、掠れる事も無く長持ちするだろうから、需要も多くなるでしょう。

 という訳で貴方方と私達魔術ギルドで、この新しい魔法服の開発を進めて行きたいの、協力して頂けないかしら?」

 と願い出でられたので、私は、

 「私個人は、是非協力したいのだけれど、上の人達と相談してみないと、工場ぐるみでの協力が出来るかどうかは判らないわ、でも職場の環境の過酷さで、困っている人達には救いの服になる筈、頑張って交渉してみるわ。」

 と熱意を持って答えたら、カーラさんにもその熱意が伝わったらしく、握手を求めてきたので求めに応じて、固く握手したわ。

 

 10月15日

 

 私とカーラさんの熱意が伝わり、工場長以下上層部も協力してくれて、最新式魔道具のミシン5台と各種魔道液の冒険者ギルドからの買取(コリント領では、『魔の大樹海』の魔物達から全種類の魔道液が取れる)も予算から捻出してくれた。

 いよいよ開発開始ね。

 

 10月20日

 

 早速問題発生、糸や布地によっては効果が全然出ない事が判明、更に幾つかの種類は洗濯したらすぐに色落ちして魔道液も溶けちゃう。

 最適のパターンを試して行くしか無いわね。

 

 10月25日

 

 大体5つの組み合わせが、各種魔法との相性が良い事が判ったわ。

 そして、使える魔法の種類も5種類になったの。

 より効果を高める為に、魔道液の混合比や糸の太さも試してみるわ。

 

 10月30日

 

 試作品5種類が完成したわ。

 

 その5種類は、

  

 魔導服『ヒール』・・・・・『ヒール』の魔法陣を刺繍している、主に冒険者向け。

 

 魔導服『ライト』・・・・・『ライト』の魔法陣を刺繍している、主に鉱山関係者向け。

 

 魔導服『ウオーム』・・・・『ウオーム』の魔法陣を刺繍している、主に冷蔵、冷凍倉庫関係者向け。

 

 魔導服『クール』・・・・・『クール』の魔法陣を刺繍している、主に溶鉱炉や鍛冶関係者向け。

 

 魔導服『エアー』・・・・・『エアー』の魔法陣を刺繍している、主に高所の仕事関係者向け。

 

 で、これから其々の仕事場で試して貰うわ。

 

 11月10日

 

 其々の仕事場での評判も上々、普段着でも使用したいと要望が来ているみたいだけど、流石に魔法陣が服の真ん中に刺繍されている服は、人の好みが分かれるんじゃないかしら?

 

 11月20日

 

 其々の仕事場での作業着としての、大量発注が其々のギルドを通して工場に来たの。

 工場もそれに合わせて、新しい工場に専門の工員も育成し、用意は出来てるので問題は無しね。

 私達、開発に携わった人達は、今後も開発者チームとして工場の一角に大きな部屋と、開発費を頂いたわ。

 きっと、これからもより良い製品を開発して貰いたいんでしょうね。

 もう既に私と外郭組織の魔術ギルドのカーラさんには、冬に向けての腹案が有るわ、きっと一般向け冬製品のこの魔導服とアクセサリーも、大評判間違いなしね、頑張るわ。

 



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閑話㉑「マゼラママの徒然日記」⑤(広告宣伝したわ!)

 11月22日

 

 マミの夫(つまりテルちゃんのお父さんね)が『魔導アクセサリー』のコンパクト化に成功して、そのサンプルが工場に届いたわ。

 この『魔導アクセサリー』こそ、私達の放つ第二の矢よ!

 魔導服の作業着は軍で採用されている、ベルトやランドセルにカートリッジとして装着された、魔石ケースから魔力が供給されてるけど、一般人が魔導服を使う場合は、人の持つ魔力量はドラゴンの様な莫大な量では無いから、すぐに魔力は尽きちゃうの。

 かといって、作業着の様にベルトやランドセルに魔石ケースを装着して外出するのは、冒険者はともかく一般人特に女性は見栄えが良く無いわ。

 そこで、魔導服と並行して開発されていたのが、魔石を組み込んだアクセサリー型魔力供給器、『魔導アクセサリー』よ。

 この『魔導アクセサリー』は、例えばブローチだと、表は魔石が宝石の様になってて、可愛く見えるんだけど、裏面には刻印魔法で魔力供給魔法陣が刻まれていて、魔導服に魔力を供給するの。

 この『魔導アクセサリー』を如何にコンパクト化出来るか?が、一つの山場だったんだけど、見事にマミの夫は成功させたわ。

 ルドヴィークに居た頃から、マミの夫は腕の良い宝石関係の宝飾技師だったけど、コリント領に来て例の『ナノム玉』を飲む事で『精霊の加護』を受けてからというもの、腕が格段に上がったわね。

 しかし、アロイス王国の連中って頭がオカシイんじゃないかしら?

 こんな人を、農場で力仕事に従事させても、身体が壊れるだけで、自分達にとってもメリットが無いわ、ただ、国民を酷使するだけで、国力が削がれて行くだけよ。

 遠くない未来天罰が下るでしょうね。

 

 11月25日

 

 『魔導アクセサリー』と魔導服の魔力接続は良好に作用したから、肝心の魔導服の一般受けする色合いと、如何に魔法陣をデザインに違和感無く活かすかが課題ね。

 カーラさんは、敢えて派手にする事で、魔法陣を誤魔化してたけど、全員があんな派手な服を気に入る訳無いから、どうしたら良いのかしら?

 そんな事を夕飯の時に、娘のカレンに聞いたら、

 「だったら、服の裏地や下着に魔法陣を刺繍して、表に見えない工夫をすればいいんじゃないかなあ。」

 といとも簡単に答えてくれたわ。

 そう云えばそうよ、カーラさんが来てる服や帽子から連想してたから、魔法陣は表面に出す物と云う、先入観に凝り固まってたけど、バカ正直に表に出す必要なんて無かったんだわ。

 大人って子供に比べて柔軟性が無くなってるのねー、思い知らされたわ。

 

 11月28日

 

 裏地に魔法陣を刺繍して、その表側には厚みの薄い花の絵を刺繍して、違和感を無くし、下着にも魔法陣を刺繍して、その部分では無く身体全体に魔法の力が作用する様にしたわ。

 

 12月5日

 

 各種の魔法陣を裏地で隠すのが、上手くいきどうやら問題無しとなった処で、商業ギルドから『放送局』の番組で、広告宣伝して見ないか?と依頼が来たの。

 このドーム内だと殆ど感じないから判らなかったけど、他領では雪が降ったりする冬なのよね。

 カリナさんによると、ファーン侯爵領、ブリテン侯爵領、フランシス伯爵領では、トレーラーで運搬したコリント領で作られた、各種の生産品が飛ぶ様に売れていて、その中でも私達の作る服は、値段の安さとデザインの良さそして着心地で大人気らしいの。

 だから、冬物の服を取り扱いたいらしいんだけど、普通の服とは別に魔導服『ウオーム』を目玉にしたいと言われたの。

 構わないけど、広告宣伝ってどうやるのかしら?

 と疑問をぶつけたら、カリナさんは其々の年代別の人が、着こなした姿を放送したいと言い、その為の人も用意したので、商品を各年代毎に用意して貰いたいと説明されたので、撮影日に放送局に持って行くことになったわ。

 

 12月8日

 

 何故か、撮影用のモデルに娘のカレンとテルちゃん、そしてテオくんとエラちゃんがスタンバイしてたから、どうして?と聞くと、

 「兄ちゃんの友達のハリー君が、依頼して来たんだよ、お小遣いも貰えるから、他の3人も誘ったんだ。」

 とあっけらかんと答えてくれたわ。

 まあ冬物の服を着てるだけだしいいか、と考え直し見ていると、結構走り廻ったり、雪の中で遊ぶシーンまで撮影されたわ、魔導服には自信が有ったから見てられたけど、事情を知らなかったら驚いちゃうんじゃないかしら?

 撮影も終わり、みんなでレストラン『豊穣』で夕飯を食べる事になったわ。

 中々予約しないと、入れないレストラン『豊穣』だけど、放送局が前から予約してくれていたお陰で入れて、噂の『トンカツ』と『オムライス』を食べれて、みんな大満足。

 お土産の『シュークリーム』を買って帰り、テオくんとエラちゃんとテルちゃんも一緒に帰って『シュークリーム』を食べたんだけど、本当に美味しいお菓子だわ、『シュークリーム』も私の殿堂入りね。

 

 12月13日

 

 放送局が服の広告宣伝を開始したわ。

 中々評判が良いらしく、番組終了後大量の発注が来たわ。

 今後は新製品が出るたんびに、広告宣伝するのが当たり前になりそうね。

 



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42. 3月の日記①

3月3日

 

 カトルのご家族の大商人タルスさんが、正式にコリント領に入植された。

 以前9月に、旅行がてらコリント領を訪れ、色々とご覧になられて、先ずは支店としてカトルの店をオープンされたが、ガンツのサイラス商会が本格的にコリント領に店と商業ギルドを展開し始めたので、負けじと本店を4月にグランドオープンさせる為に事前に入植された様だ。

 以前約束された通り、中央広場と執務ビルを望む一等地に広大なスペースを確保して居たのだが、既に地上6階、地下3階の巨大な建造物(デパートと云うそうだ)が出来上がっていて、現在内装作業中である。

 然も将来の車による来訪を考え、隣には巨大な立体駐車場も作られている。

 タルスさんは自分の商会の店だけでは無く、他の店も入れるように店舗フロアーを用意していたり、色々なイベントを行える様に、大きな講堂や広場等の施設も内包するデパートにする様だ。

 

 3月10日

 

 ゲルトナー大司教が、先日アラン様、クレリア姫様と会談され、重要な内容を話された様で、我々軍部にはアラン様から、明かしても良いと思われる範囲の内容が開示された。

 我々が一口に『ルミナス教』と言っている、宗教は厳密に云うと『ルミナス教西方教会』と云う宗派に辺り、我等と現在敵対関係にあるアラム聖国は『ルミナス教東方教会』と云う宗派だそうだ。

 この2つの宗派でルミナス教は、この大陸の半分以上の国をルミナス教圏としており、2つの宗派は特にいがみ合う事も無く交互に教皇を選出しあってやって来た。

 だが、凡そ20年前にアラム聖国は、現在西方教会で選出された教皇とは別に、『法皇』を東方教会のトップに据えて、独自の宗教観に基づく人事と宗論をし始め、更には従来の教徒とは異なる戦闘用の『聖徒』なる組織を作り、数を増やしているらしい。

 西方教会としては、東方教会との争いは望まず、イーヴォ枢機卿も周辺の国々を歴訪して宗派対立をしない様に努力し、ゲルトナー大司教も先日の訪問使節団を、なるべく穏便に歓迎しようとしたが、拘束されそうになると云う憂き目に遭った。

 そうこうしている内に、ファーン侯爵領での魔物をけしかける戦争が行われたが、その際に投入された魔物の2体は、東方教会の聖堂を守護する形で召喚され長い間石化させていた、四聖獣の内の2体で間違い無いのが、グランド・タートルを調べて確認出来たそうだ。

 そして、先日の内乱の際に使用されたアーティファクト『テンプテーション』は、元々は西方教会に於いて厳重に保管されて居た禁忌のアーティファクトだったが、今から10年前に何者かに盗まれた。

 ミツルギ殿からの供述で、アラム聖国が持っていた事を考えると、東方教会は西方教会を20年前から完全に敵視しており、今後も西方教会と西方教会圏の国々に対して攻撃して来る事が想定される。

 ベルタ王国の周りは既に、アロイス王国とセシリオ王国が東方教会の傘下に有ると見做すべきだし、周辺の従属国や小国も恐らくは東方教会の影響下に有るだろう。

 此処まで聞いて、我々は真の敵が何者かが理解出来た。

 つまり、アロイス王国とは表面上の傀儡国家で有り、黒幕にアラム聖国そしてそのトップである『法皇』と東方教会こそが、真の敵であると云う事が!

 然も、セシリオ王国も乗っ取られ、ベルタ王国にもその魔の手は迫っている。

 絶対に我々はこの脅威に対して、敢然と立ち向かうべきだ。

 我々の愛する故郷『スターヴェーク王国』を、奪ったのは此奴等だと判ったからだ!

 軍部の者達は、燃える思いを胸に明日からの訓練に臨もうと、心に誓った。

 

 3月15日

 

 アラン様は、軍の再編成を発表された。

 

 近衛軍団・・・・・・ダルシム団長が率いる総勢700人の軍団、従来の装備を基本とする為、今後はこの軍団のみを『真紅』とする。

 

 第一軍団・・・・・・ヴァルター団長が率いる総勢6000人の軍団、従来の装備を基本とするが、色を変え紫色に変えたためこの軍団は、『紫紺』とする。

 

 第二軍団・・・・・・ハインツ団長が率いる総勢3000人の軍団、支援軍と補給軍を統合した軍団で、側面支援と後方支援を任務とする、従来の装備を基本とするが、色を変え緑色に変えたためこの軍団は、『深緑』とする。

 

 機動軍団・・・・・・セリーナ団長とシャロン副団長が率いる総勢2000人の軍団、全員戦闘バイクか装甲車両に乗り、装備は合金を関節部にサポーターとした軽装装備、合金はドラゴンの鱗の粉末とミスリルの粉末を魔法処理で合金化した物、其の色からこの軍団は、『真銀』とする。

 

 空軍団・・・・・・・自分ケニーが団長で副団長はミーシャ、総勢100人の軍団、今はワイバーン全頭育児をしている為に出動は出来ないが、何れは子供のワイバーンが成長し戦力になれば、新たに80頭の竜騎士が編成される事になる、装備は合金を関節部にサポーターとした軽装装備、グローリア殿とワイバーン達に新装備のオリハルコン外装を施した為、其の色からこの軍団は、『黃金』とする。

 

 軍団では無いが諜報組織も整理され、黒と白を統合した上に人員も増やして総勢500人の組織とし、従来の任務の諜報以外に撹乱や扇動等も行う、色は夜の活動を考え『漆黒』とする。

 

 この様に軍は、再編成された。

 




本日から本編に戻りますが、実は後3話分閑話が入る予定でした。
内容は、アランとクレリアの婚約騒動なのですが、日記を書いてる人まだケニー君の家族じゃ無いんだよね(苦笑)。
なのでこの人が、ケニー君の家族になったら公開しようと思います。


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43. 3月の日記②

3月18日

 

 ワイバーン達の雛達が巣立ちの為に飛ぶ練習に入った。

 1ヶ月半前に卵から産まれた時には、翼長70センチメートル程だったが、既に翼長150センチメートルに達していて、最近『ナノム玉』を飲ませる事で、其々の騎竜になる竜騎士との意思の疎通を図っている。

 ガイとサバンナの子供達4頭も、滑空飛行を出来る様になっていて、後数日も有れば羽ばたいて飛べそうだ。

 

 3月23日

 

 ワイバーンの子供達全てが飛べる様になり、いよいよ空軍としての訓練に入る。

 流石に翼長150センチメートルでは、竜騎士を乗せられないので、通信機を介した形で其々の竜騎士の命令に答えて行動出来るか?が課題になる。

 軍事ブロックから出てドーム外縁の演習場に向かう、其処には高さ5メートル程の壁で大きく囲った場所に、ゴブリンとコボルトの群れを区画を分けて其々100匹を、冒険者が追い込むことで準備されていた。

 其処へ我々空軍は上空から近付き、ガイやサバンナ親ワイバーンが引率して来た子供ワイバーンが、其々の竜騎士の指示の元、編隊を組み始めた。

 此処までは軍事ブロック内での訓練通りに出来ているが、敵との対戦は初めてなので不安はあるが、頑張って貰おう。

 「攻撃開始!」

 と自分の命令に従い、其々の竜騎士が自分の騎竜に指示を出し、1列10頭で8列の子供ワイバーン隊が上空からゴブリンの群れに襲いかかる。

 子供ワイバーンはまだ火球は出せないが、小さい規模のブレスは出せる。

 なので、上空から急降下して地上直前でブレスをゴブリンに浴びせるという攻撃だ。

 かなり歪ながら列になって一斉にブレスをゴブリンに浴びせ、次の列も同じ様に攻撃をゴブリンに加える・

 8列全部の子供ワイバーン隊が攻撃を終えると、半数のゴブリンが焼け焦げて死んでいる。

 続いて、上空から急降下させて足の爪による攻撃をさせる。

 今度はゴブリンの群れが四散しているので、竜騎士が其々の騎竜に攻撃目標を指示して個別に攻撃させる。

 すると、今度は色々と問題が起こる。

 足の爪がゴブリンに刺さったは良いが、抜けなくなってゴブリンの反撃を受けたり、距離感が掴めないのか足の爪がカスリもしなかったり、ゴブリンの血に興奮したのか死んだゴブリンを啄み始めたりした。

 取り敢えずゴブリンを全滅させてから、子供ワイバーン隊を地上に並ばせて被害確認を竜騎士にさせると、凡そ三分の一の子供ワイバーンが、怪我をしていた。

 竜騎士達に其々の子供ワイバーンの怪我を『ヒール』で治させ、問題の有った子供ワイバーンには何が悪かったか、其々のやり方で伝える様に命令した。

 休憩をさせてから、準備を終え上空に子供ワイバーン達を待機させ、次の目標コボルトへ先程と同じく攻撃させる。

 ゴブリンに比べてコボルトは素早いので、最初のブレス攻撃では五分の一程しか死なず、次の足の爪での攻撃では殆ど攻撃が当たらない。

 すると2人の竜騎士が自分達の騎竜に命令し、地上に降りさせ翼を広げさせコボルトを威嚇し、コボルトが攻撃して来たらブレスで牽制させる。

 そして周りの竜騎士にも同じ行動を、子供ワイバーンにさせる様に指示させ、コボルトの行動範囲を狭めて行き、上空に半分の子供ワイバーンを飛ばせ、コボルトを囲いの角に追い詰めて、地上と上空から立体的にブレスを浴びせさせて全滅させた。

 自分が命令せずとも、臨機応変に対応したこの竜騎士2人は、ベックとトールと云い、以前自分とアラン様とクレリア姫様が、セシリオ王国のならず者達の攻撃から救ったタラス村の若者であった。

 この2人は、タラス村を救った際の空軍の凄さに憧れ、コリント領に来た時から空軍に志願し、これまでずっと空軍の下積み訓練と、ワイバーンとグローリア殿の食事の世話や厩舎の掃除等を率先してやっていて、自分も目をかけていた者達だ。

 一通りの訓練が終わって、軍事ブロックに帰りベックとトールを呼び、コボルト戦の訓練の際の作戦は以前から考えていたのか?と問い、「その通りです。」との答えを聞き、他の作戦案が有るか聞いてみると、「有ります。」と即答され、自分とミーシャを交えたディスカッションを行い、その作戦案の妥当性を確認した。

 

 3月28日

 

 先日ベックとトールが示した、新たな子供ワイバーンの作戦案を試し、その有効性が確認出来た。

 その様子をアラン様に見てもらい、アラン様も太鼓判を押してくれたので、2人とも20才と若いが子供ワイバーン隊の8人の隊長の内の2人として任命した。

 其々が10頭ずつの隊長で、編隊を組んで貰う事になる。

 

 3月30日

 

 今日から子供ワイバーン隊は、グレイハウンドとオークへの攻撃訓練が始められた。

 まだ火球は出せないが、訓練によりブレスの威力と持続時間そして遠くへブレスを伸ばせる様になった。

 更に編隊行動も様になってきて、大分スピードも増してきた。

 もう少ししたら、軍団魔法『ソニックインパルス』も可能になるだろう。

 オークは案の定素早く無いので、ゴブリンに対する時と然程変わらない作戦行動で全滅出来たが、グレイハウンドはやはり素早く従来の作戦行動では対応出来ない。

 そこで新作戦案の一つを試す、子供ワイバーン隊を地上で1列の長蛇の陣型にし、グレイハウンドを外側からブレスによって行動範囲を削り、徐々に包囲陣に移行し完全に包囲が完成したら、竜騎士がグレイハウンドの群れの中心目掛け10人で、『ファイアーグレネード』を弓なりに放つ、その凄まじい爆発で殆どのグレイハウンドは死んだが、残ったグレイハウンドも子供ワイバーン隊のブレスで全て焼き尽くされた。

 新作戦案は非常に有効な事が証明されたので、今後も他の作戦案を試して行こう。

 



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44. 4月の日記① (2年目)

4月1日

 

 タルス商会の本店たる『デパート』がグランドオープンした。

 中央通りをパレードする宣伝隊や、芸をするピエロやパフォーマンスをするパフォーマー、そして魔術ギルドのカーラさん以下ギルド員による、新魔法『花火』による綺麗な光と音による演出が行われた。

 沿道は、警備隊と警邏隊によって整理された人々が埋め尽くし、皆初めて見る『花火』に驚きながら係員の誘導の元『デパート』に誘導された。

 デパートに入ると、入り口でカードに様々な『クーポン』が付与された。

 『クーポン』の中には無料の物まであり、その中には目玉のレストラン『豊穣』の『ソフトクリーム』が有り、早速子供達はデパート内に有る、レストラン『豊穣』の支店前に並び、各種の『ソフトクリーム』を求めて並び、受け取った子供は口の周りをクリーム塗れにしながら、美味しそうに食べて幸せそうだ。

 大人の男性達は、今回のグランドオープンに合わせ、カトルが手掛けた米から醸造した『吟醸酒』を求め、各地の酒類を展示販売しているコーナーで長い行列を作っている。

 主婦層は、地下1、2階の食料品コーナーで、各地の嗜好品や日頃手に入らない高級食材を、クーポンを利用して買い漁っている。

 そんな中デパート正面に設置された、巨大モニターにアラン様が出演され、今回の『デパート』グランドオープンへの祝辞を述べられ、今後同じタルス商会による遊戯施設の巨大『プール』が、新たなるドーム『生活ブロック2』で建設中で夏にはオープン予定である事が告げられ、人々は気が早いと思うが水着コーナーで早速水着を購入する姿が見られた。

 

 4月10日

 

 デパートのオープン記念セールも落ち着き、軍事ブロック2では剣術訓練と格闘技訓練が、何時もの通り行われている。

 

 剣術訓練は、セリーナ団長がコリント流剣術の指導を行い、相手役はシュバルツ師範が受けてくれている。

 何といってもこの大陸では、大半の国が神剣流を国家剣術としている為に、我等も元々は神剣流を学んでいる。

 それに対してコリント流剣術は、他の国にとって全く知らない剣術で、そういった意味で我々は敵国に対して圧倒的なアドバンテージを持つ、しかし何れは対策も取られると思われるので、相互の剣術を学べるのは非常に有り難い。

 

 格闘技訓練は、シャロン副団長が帝国式格闘技の指導を行い、相手役はミツルギ師範が受けてくれている。

 帝国式格闘技は、とにかく関節の柔らかさと走り込みによる体幹強化を基礎とする。

 それに対して従来の軍隊の格闘術は、筋力の強化と打撃に力点が置かれていた。

 ミツルギ師範は従来型の格闘術に疑問を抱き、独自に組打ち技術を開発していて、アラム聖国に所属する前、諸国では拳王として呼ばれていたそうだ。

 

 正直この大陸でも、有数の強者による指導を受けれる我等は、なんて恵まれているんだろうか。

 

 この日は珍しく、アラン様とクレリア姫様が訓練に参加され、最後にアラン様の剣術と格闘技の演舞がモニターで披露され、その動きの仕方と意味等の説明迄され非常にためになった。

 剣術は、『エターナル・ストリーム』という、最終秘奥義『メテオ・ストリーム』の2段階前の奥義で、5連撃を基本とし、その5連撃を繋げて相手に反撃させず、無理に相手が反撃しようとすると、その瞬間急所に剣が刺さるという恐るべき技だ、実際相手役になったシュバルツ師範は袋竹刀であるにも関わらず、無理に反撃しようとして急所を打たれて、苦しそうだ。

 

 格闘技は、ある意味単純ではあるが、突き詰めれば奥の深い技で、『徹し』という。

 この技は、腰を落とし手の掌底部分で相手の鳩尾を打つだけに見えるが、実は体の中で練り上げられた魔力そのものを、螺旋状に回転させ掌底部分から相手の急所に叩き込むという技で、相手役になったミツルギ師範は鳩尾に喰らうと、悶絶してしまった。

 

 この2人を倒すとは、演舞ながら凄まじい。

 アラン様直伝のこの技2つだけでも、他の国にとっては悪夢の様な話しだろう。

 たった今教わった奥義を、見様見真似で反復練習しているクレリア姫様が目の前にいて、どこの世界にこんな凄まじい奥義を持つお姫様がいるのだろうかと、眺めながら戦慄を覚えて恐怖すら感じた。

 



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45. 4月の日記② (2年目)

4月16日

 

 先日の演武で、アラン様に悶絶させられたシュバルツ師範とミツルギ師範は、アラン様の勧めに従い軍隊でも隊長以上に支給された、『ナノム玉2』を飲まれた。

 『ナノム玉2』とは従来の『ナノム玉』の2倍の量で、『精霊の加護』もほぼ2倍の能力で、魔法も全てレベル2の魔法が使える様になる。

 『ナノム玉2』を飲んでから、1日安静にして翌日から動画によるイメージ教育と、今迄の魔力把握を更に進めた『循環魔法』と魔力そのものを飛ばす『魔力発勁』の基礎学習を始めた。

 

 『循環魔法』とは、身体の新陳代謝(体の体調や五感を指すそうだ)を自分の意思で、促進或いは退行させる事で負荷を軽減か荷重にする事で、練習時に利用したり、長期間の走行に適させたりする。

 

 『魔力発勁』とは、神剣流や神拳流で『気』と呼んでいる体内エネルギーを、そのまま相手に叩きつける技術で、先日の『徹し』もその一つであり、他にも寸勁、震脚、纏絲勁、浸透勁等が有る。

 これは、魔法は魔力を物理原理の火や氷や雷等に変換され、物理現象を引き起こすのとは違い、体内で練られた魔力をそのまま使用するので、タイムラグが無く更には相手の急所に叩き込めば、相手を傷つける事無く無力化する事が出来る。

 

 シュバルツ師範とミツルギ師範は、お二人共願い出でられて、隊長以上が行う特別訓練に参加され、軍に於いても隊長並の扱いになり、アラン様の親衛隊隊長の様なポストになった。

 

 4月20日

 

 セシリオ王国にて大変な事件が発生した!との報告が、『漆黒』から齎された。

 先日、セシリオ王国国王ルージと大貴族数十人による、会談が行われていた。

 内容は先の戦争や貴族に対しての王の不当な扱いに対する、詰問と是正勧告だったのだが、会談中に国王ルージがある化け物を会議室に乱入させ、大貴族数十人を殺害しそのまま王城を閉鎖した。

 大貴族の家族や親族、そして他の貴族達が軍隊を率いて王都に乗り込み、そのまま王城を取り囲むと、王城から化け物と、どう見ても死んでいるとしか思えない人間が、門から出てきて軍隊に襲いかかり、当初軍隊は優勢に戦えていたのだが、噛みつかれた兵士が同僚を襲い始め、瞬く間に同様な事態がそこかしこで起こり、全軍崩壊してしまったそうだ。

 『漆黒』の報告によると、現在セシリオ王国首都は『死都』と化し、生きる者は見当たらなくなり、周辺の都市に広がり始めているそうだ。

 直ちにアラン様は、緊急会議を軍事ブロックで軍上層部他を招集の上で始めた。

 先ず、『漆黒』が撮影した、どう見ても死んでいるとしか思えない人間を、モニターで見ていたら、『漆黒』のカトウが、「『ゾンビ』?!」と声を上げた。

 アラン様がカトウに聞くと、

 「某が、神罰執行部隊に所属していた時、ある実験としてアラム聖国は捕らえた叛徒を使い、ある杖状のアーティファクトを使用したのです。

 そのアーティファクトの名は『ゾンビ・マスター』、使用すると相手を生きる屍『ゾンビ』にして、『ゾンビ・マスター』を使用した者に永遠に従属させられます。

 『ゾンビ』は見ての通り生きる屍で、生者を憎み生者に噛み付く事で、噛み付いた相手を同じ『ゾンビ』にしてしまいます。」

 とカトウは説明した。

 そう云えば、伝承でその昔西端のバラクーダという国で、ゾンビが国を襲いドンドンとゾンビが増えて行き、終いには国全体の人民がゾンビになり、隣接する国々に『死の津波』という、災害レベルの数のゾンビ群が襲い掛かるという、とてつもない被害の歴史が有った。

 まさか、この現代に昔話の悲劇を起こさせるとは、セシリオ王国国王ルージは、既に狂っていると見做すべきだろう。

 アラン様は、直ぐに対策を立てるべく、コリント領に滞在療養されているアマド陛下に状況を説明し、この問題に対する全権を委任された。

 そして同じく、コリント領に滞在されている、元セシリオ王国の貴族であるビクトール侯爵と将軍達『セシリオ王国亡命政権』の方々と相談され、、滞在している『セシリオ王国亡命政権』の軍隊1万5千人と共に、ファーン侯爵領の残り1万5千人と合流して貰い、事態解決の為に故国へ向かって貰う事になった。

 当然、我等も事態解決の為に出動する事になった。

 アラン様は、この事態はセシリオ王国全体に広がる懸念を抱かれ、コリント領の全軍で向かう事を決定された。

 アマド陛下の護衛はフォルカー・ヘリング殿を中心に、王都から派遣された防衛軍300人に任せ、ロベルト老とヴェルナー・ライスター宰相に後事を託し、警備隊・警邏隊合わせて1500人に、コリント領の守備を命じた。

 

 4月21日

 

 先遣隊として、我等空軍は大人ワイバーンと子供ワイバーンの計95頭で、ファーン侯爵領に向けて『魔の大樹海』を切り開いた道路の上空を飛行した。

 流石にこの長距離の移動は、子供ワイバーンにとっては辛いので、途中休憩を挟みつつだが、凡そ8時間でファーン侯爵領外縁の、以前道路舗装用に作っていた空き地に到着し、臨時の駐屯地を作った。

 ファーン侯爵領に戻られていたカイン殿が、臨時の駐屯地に愛用のドリルバイクで来られ、自分と久しぶりの再会を喜び、今度の事件の為にファーン侯爵領で組織し訓練していた、ドリルバイクを中心とした重装騎馬隊の参加を望むので、アラン様への口添えを自分に頼んで来たので、出来る限りの口添えはする。

 と言ったら、

 「有り難い。」

 と喜んでくれた。

 その後は、空軍に新たに加わった子供ワイバーンの話題や、現在のコリント領の様子等の話題で、盛り上がった。

 



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46. 4月の日記③ (2年目)

 4月24日

 

 空軍を除く全軍と、トレーラーに分乗されて来たセシリオ王国亡命政権軍が、ファーン侯爵領に到着され、準備していた駐屯地に入った。

 アラン様以下上層部は、直ぐにファーン侯爵領城邑に向かい、自分とミーシャも一緒に向かう。

 早速大会議室で、モニターをセシリオ王国国境線の要塞に居る、ファーン侯爵と繋ぎ、現在の状況をお互いに確認し合う。

 ファーン侯爵曰く、既にセシリオ王国国境線にセシリオ王国軍は存在せず、逆に庇護と亡命を求める軍民5万人を、国境線のベルタ王国側に保護しているそうだ、そしてそれを主導して連れて来た、セシリオ王国のルミナス教司教がモニター画面に出て、、

 「女神ルミナスのお告げを聞いて、セシリオ王国王都を脱出しました。

 その際、ゾンビ他の化け物の襲撃を受けましたが、ルミナス神の使徒『イザーク』様が天空から現れ、化け物達を天罰の光で追い散らし、ベルタ王国への街道を光で指し示し、逃げる我々を援護し続けてくださったのです、そして我々が此処に辿り着き無事な様子を確認されると、天空へと昇って行かれました。」

 と天へ祈りを捧げながら、説明してくれた。

 流石は使徒『イザーク』様だ、人民の不幸を放って置けず、ルミナス神の指示の元救済にやって来られたのだろう。

 そして我等ベルタ王国側でなら、対抗出来ると判断されたに違いない。

 代わって画面にファーン侯爵が出られ、

 「司教様が言われた通り、王都以外の都市や街々でも同様に、使徒『イザーク』様の導きの元、此方を目指す難民の集団が幾つも有り、その集団の救援の為に国軍をビクトール侯爵の領地まで侵攻させ、救護活動を行っている、承諾も得ずに行動した事とビクトール侯爵には、勝手に領地に侵入した事を幾重にもお詫びする。」

 と頭を下げられた。

 アラン様は、

 「問題有りません、ファーン侯爵の行動は大局的見地に立てば、護国卿としてベルタ王国防衛の為の行動ですし、私もアマド陛下からベルタ王国の為にセシリオ王国侵攻もやむ無し、とのお墨付きを貰っております。」

 と返答され、ビクトール侯爵も、

 「とんでも無い、ファーン侯爵の行動のお陰で領地が守られた様なものです、この上は此処に居る軍団諸共に、我が領地そして城邑に入って頂き、対ゾンビ戦線の前線基地として貰いたい。」

 と希望を述べられた。

 その後、軍上層部の作戦会議が行われ、行軍ルートの策定と、難民の誘導計画、兵站と補給品の難民に対しての供出、そして空軍による偵察行動の指針が決められた。

 臨時の駐屯地に帰りながら、ミーシャと会話したがやはりミーシャも気付いていた。

 使徒『イザーク』様が、我等の味方と云う事は、セシリオ王国国王ルージには、ルミナス神の正義は無く、当然それに加担するアラム聖国は、ルミナス教の東方教会を謳いながら実の処、ルミナス神に敵対している外道であるという事だ。

 自分は、どの様な苦難があろうとも戦い抜く覚悟を決め、ミーシャも同意してくれた。

 

 4月28日

 

 我等空軍とグローリア殿、そして機動軍がいち早くビクトール侯爵の城邑に入り、そこでゾンビ軍団と戦って居た、ベルタ王国の国軍とセシリオ王国の義勇軍、そしてかつてセシリオ王国が誇っていた『氷雪魔術師団』が一同に会した。

 グローリア殿に便乗された、『ヒルダ嬢』と『フェンリル』が地面に降り立ち、『氷雪魔術師団』の面々と再会された。

 事前に『漆黒』から知らされて、ヒルダ嬢とフェンリルの無事を氷雪魔術師団は知っていたが、やはり本人達と直接再会出来たのは有り難かったらしく、ヒルダ嬢の祖父と叔父にあたる、氷雪魔術師団第一席と第二席は、アラン様に感謝されて居た。

 現在ビクトール侯爵領には、散発的なゾンビの襲撃はあるが、本格的な侵攻は無い。

 だが、我等空軍は此処ビクトール侯爵領に入る前に、セシリオ王国各地を偵察し、分散しているゾンビ軍団が明らかにビクトール侯爵領を、最終目的地にしているかの様な行軍ルートを取っており、主要幹線道路の4方向の内、ベルタ王国方向以外の3方向に各20万のゾンビ軍団が集結してゆっくりと迫っている、凡そ1週間後には、この城邑に至るだろう。

 それまでに、この城邑で迎え撃つ準備を整えなければならない。

 トレーラーはピストン輸送で、ビクトール侯爵領にやって来た難民を、ベルタ王国側の難民キャンプに連れて行き、それと入れ替わり各軍団をビクトール侯爵領に連れて来る事になる。

 軍団が集結する迄に、城壁上に魔導砲を計8門取り付け、ゾンビに有効な炎系の砲身を主軸にする。

 そして、魔法を使えない兵士にバズーカ砲を供給して、使用方法を教授し練習させる。

 氷雪魔術師団には、得意の氷雪系の魔法でゾンビ軍団の行動範囲を狭めて貰う為に、ゾンビ軍団侵攻ルートの3方向に魔法系の罠を仕込んでもらう。

 我等空軍は、各軍団の支援を空からするのだが、初実戦の子供ワイバーン達は当初は戦闘に参加させず、城内からピンチになった箇所の支援を行う事にした。

 ベック隊長とトール隊長は、かなり緊張している様だが、

 「大丈夫、訓練通りにすれば勝てる!」

 と励ますと、幾分緊張が和らいでいた。



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47. 5月の日記① (2年目)

 5月5日(前編)

 

 この日、雲が低く空を覆い、朝なのにどんよりとした天気になった。

 ビクトール侯爵領の主要幹線道路3方向から、城邑目掛け大きな音も立てず、ただ黙々と押し寄せる合計60万のゾンビ軍団。

 対するは、

 北門に陣取る、セシリオ王国亡命政権軍と義勇軍、そして氷雪魔術師団を合わせた『セシリオ王国救国軍』、合計5万人。

 西門に陣取る、ファーン侯爵とカイン殿率いるベルタ王国国軍と第二軍団、合計2万人。

 東門に陣取る、近衛軍団と第一軍団と親衛隊、更に機動軍団、合計9千人。

 南門は、敵がやって来ていないので、警戒の人員が居て、空軍団と戦闘指揮車、合計百人。

 各城壁の4角には魔導砲2門ずつ、そして全部の城壁には、ビクトール侯爵領兵がバズーカ砲を3人ずつで運用し、各門百ずつ計4百砲。

 全て合わせて、合計8万強。

 この陣容で迎え撃つ。

 

 敵は策も無いのか、ただそのまま進んで来ているが、それを許す我々では無い。

 予め用意していた罠を幾つも作動させる。

 土魔法で其々の門の前500メートル程に大穴を掘り、その上に氷魔法で蓋をして置いた、穴の中には氷魔法の氷柱を上に向けて設置している。

 ある程度のゾンビ兵が、穴の上に乗った段階で氷魔法の蓋を解除。

 一気に数百のゾンビ兵が穴に落ち、次々と後続のゾンビ兵も穴に落ちて行く。

 そして次の段階の罠を発動させる。

 長大な『アイス・ウオール』を敵の半分の辺りに展開させた。

 それは高さ5メートルに及び厚さは1メートル、そして円を描く様に半径2キロメートルに及び、南門前だけは開けている。

 これでしばらくの間、敵は分断された。

 そして城壁4角の魔導砲8門から、『ファイアー・グレネード』が連射される。

 その魔法は、丁度大穴に固まっていたゾンビ兵の上に降り注ぐ。

 「ドドドオオーン!!!」と云う轟音と共に、地響きが城邑を揺らす。

 音は中々鳴り止まず、しばらく続いたがやがて終わり、偵察の為自分がガイで上空に上がり確認すると、ゾンビ兵達が死体の山に隠れて、攻撃をやり過ごしている。

 これで予想された、幾つかの可能性が確定した。

 つまりゾンビ兵は、本能だけで行動している訳では無く、少なくとも指揮官或いは、特定の行動パターンが予め命令されているという事だ。

 すると半分に分けられた、後ろ半分から飛び立つものがあった。

 それは、ゾンビや骨で出来た鳥のモンスター。

 これの存在は想定されていたが、些か数が多く2万羽はいる。

 これは、空軍全軍で迎え撃つ必要があると判断し、大人ワイバーン部隊は15頭全頭で迎撃に向かい、子供ワイバーン達は一塊になり城の上に陣取り、火力を集中させて射程は短いながら巨大な火炎放射器として活用し、敵の空軍の抑止力になる。

 これ以上の空軍は敵に無いと見たアラン様は、空からの妨害を警戒して出撃させ無かった、各門の攻撃軍を出動させる。

 北門は、氷雪魔術師団とフェンリルが共同して放つ『ブリザード』が、ゾンビ兵を凍らせて行く中、凍ったゾンビ兵を砕き、二度と蘇らない様にしながら、横陣を維持して敵ゾンビ軍団を『アイス・ウオール』まで追い詰めて行く。

 西門は、敢えて敵ゾンビ軍団に接敵せず、炎属性の魔法を第二軍団が間断なく浴びせ、その援護をファーン侯爵率いるベルタ王国国軍が行い、更にカイン殿のドリルバイクを先頭に重装騎兵が、軍団魔法『オーディン』を発動させ、縦横無尽にゾンビ兵を薙ぎ倒し、敵ゾンビ軍団が第二軍団に近づけない様に牽制する。

 東門は、この地上戦で1番華々しく戦ったと言える。

 機動軍は2つに別れ、其々の先頭には先の内乱でお目見えした、新戦闘バイクに乗ったセリーナ団長とシャロン副団長。

 そして其々の持つ得物は、セリーナ団長がオリハルコン製の大薙刀、シャロン副団長が伸縮自在のオリハルコン製のトンファー。

 新戦闘バイクは3輪の安定性に優れ、操縦者がその上で得物をぶん回しても問題無い。

 機動軍は、軍団魔法『イフリート』を展開し、凄まじいスピードでゾンビ軍団に突っ込む。

 ゾンビ軍団はその炎に焼かれながらも、機動軍に纏わり付こうとするが、、セリーナ団長とシャロン副団長がそれを許す筈もなく、セリーナ団長は大薙刀に炎を纏わせゾンビ兵を焼き斬り、シャロン副団長はトンファーを光輝かせながら回転させ、伸縮自在にゾンビ兵を砕いて行った。

 後ろに続く機動軍は、戦闘バイクに取り付けられた、バズーカで進行方向横のゾンビ兵に向けて発射して行く。

 第一軍団は、機動軍が切り開いた道筋を辿り、その切り開いた道筋を更に広げる様に各種魔法と、魔法剣でゾンビ兵を攻撃して行く。

 近衛軍団は、敢えて突っ込まず、ゾンビ兵が他の門に近づく気配を見せたら迎撃する為に待機している。

 親衛隊は城内に留まり、空軍が焼き尽くした敵の空軍、ゾンビや骨で出来た鳥のモンスターの生き残り?を退治して行く。

 我々空軍は、当初散解して攻めてくる敵の空軍に難渋したが、軍団魔法『ファイアーサイクロン』を二度放つと、目に見えて敵の空軍は激減したので、後は子供ワイバーン達の支援をしながら、個別に対処して行く。

 1時間程戦闘が続き、大勢が決し敵半分はほぼ壊滅したが、此方も重軽傷者が多数出たので、作戦指揮車からの命令で魔導砲8門全部の砲身を換装させ、新機軸の『散布型ヒール』砲身に変えさせた。

 そして其々の軍団目掛け、魔導砲から『散布型ヒール』が降り注ぐ。

 人間にとっては、ヒールは回復魔法だが、ゾンビ兵にとっては攻撃魔法となり、横たわっていたゾンビ兵は散布型ヒールを浴び次々と溶けて行った。

 其々の軍団がその場で、装備の点検と死者の搬送を行い、残り半分の敵に備えていると。

 突然『セシリオ王国救国軍』の上に暗い影が差した。

 雲が垂れ込めたかと、思って視線を向けると、何やら人型の影に見える。

 まさか?と思い、残りの敵のいる『アイス・ウオール』の向こう側を見ると、『アイス・ウオール』を遥かに凌ぐ高さ50メートルの巨人が此方を見下ろしている。

 「「「うわぁーーー!!!」」」

 と『セシリオ王国救国軍』のほぼ全員が絶叫し、氷雪魔術師団とフェンリルを中心に『ブリザード』と『アイスロック』等を敵の巨人に浴びせるが、あまり効いていないのかゆっくりと城邑目指し歩き始めた。

 「やはり、奥の手が有ったか。」

 との後ろからの声に振り向くと、アラン様がオリハルコン製の金色に輝く装甲を纏ったグローリア殿に乗って居られた。

 アラン様から、

 「地上各軍団は、城内に退避!

 此処からは温存していた戦力である、グローリアと総帥アランに任せて貰おう、空軍も上空にて待機、必要な時に援護せよ!」

 と命令が下った。

 地上の各軍団はその命令に従い、粛々と城内に引き上げて行き、我々大人のワイバーン達の空軍は、上空で待機する事になった。

 戦場は、巨人VSグローリア殿とアラン様の対決となる、第二幕へ移行した。

 



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48. 5月の日記② (2年目)

 5月5日(後編)

 

 各地上軍が城内と城外で布陣する中、巨人とグローリア殿の戦闘が開始される。

 先ずは小手調べといった感じで、グローリア殿が火球を連続発射し、巨人の四肢其々に攻撃を当てる。

 すると、明らかに障壁と思われる、膜が巨人の表面に現れる。

 そして、戦場に魔道具で拡声された大声が響き渡った。

 「ハーッ、ハッ、ハッ、ハーッ!

 愚かなる者共よ、この偉大なるルージ王の強さを思い知ったか!

 お前達は、ただ余の命令に従ってさえおれば良いものを、大貴族共は賢しくも嘆願や勅言そして諫言すら余に対して行い。

 終いには集団で余に直訴してくるとは増長も甚だしい、よって制裁してやったが、貴族でも無い平民までもが、余に楯突くとは到底許しがたい!

 この上は余が直々に、この強化ネクロス・ジャイアント(死体の集合した巨人)『ルチリア』で天罰をくれてやるわ!」

 と巨人の胸辺りから、ルージ王と覚しき人物が喚いている。

 「ルチリア?!」

 とアラン様やベルタ王国の上層部が、訝った様な声を上げると、

 「おおっ、そう云えばお前達ベルタ王国の者共には、説明してやらねばな。

 この強化ネクロス・ジャイアントは、アーティファクト『ゾンビ・マスター』を触媒とする人間に埋め込む事で発動し、巨人を人間と同様の運動性能を持たせる事が出来るそうなので、ベルタ王国ではお尋ね者となったルチリア卿を、ベルタ王国への仕返しが出来る様に触媒とさせて貰った、本人もさぞ喜んでおる事だろうよ。」

 と平然と、外道な事を口にし更に、

 「まあ、お前達もこれから、この巨人の材料にして余の覇道の糧にし、大陸全土の掌握を手伝わせてやるぞ。」

 と狂人の戯言をぬかしている。

 アラン様は、

 「そうか、ルチリアも哀れな結末を迎えたものだな。

 ルージ王、人道を無視した行為を堂々と宣言するその心根、既に人の物では無いと判断する。

 このアラン総帥が、天に代わって制裁を下す!」

 と宣言された。

 すると、

 「アラン?!

 そうかお前がアランか!

 お前の所為で、余の聖なる覇業が一々頓挫して終い、結局余自身が出張らなくてはならなくなった。

 そのツケを今この場で支払わせてやるぞ!」

 とルージ王がほざいたが、

 アラン様は、黙ってグローリア殿を駆り攻撃を開始した。

 各種攻撃魔法をアラン様とグローリア殿は、巨人の周りを旋回しながら繰り出すが、やはり巨人の防御膜が展開され、有効なダメージを与えられない。

 突然巨人は、大きな口を開け轟々と息を吸い始めて、吸い終わると黒い瘴気をグローリア殿に向かって吐いた。

 当然グローリア殿はアッサリと避けられたが、避けられた黒い瘴気が地面に達すると、触れた地面が一面黒く染まり、明らかに地面が汚染された事が判る。

 ルージ王は、王自ら自分の治める国土を汚染させているのだ。

 『セシリオ王国救国軍』の面々は、

 「嗚呼、我等の国土を!」

 と嘆き、次々にルージ王に向かい怨嗟の声を上げる。

 それに対して、

 「煩い、余が余の物をどうしようと余の勝手だ、そもそも余の物であるお前達が、余を非難するとは、烏滸がましいにも程がある、分をわきまえよ!」

 と一国の国王が国民に対して、言うべきでない言葉を堂々と吐く。

 その言葉を聞いた『セシリオ王国救国軍』の面々は慟哭し、ルージ王を見る目付きは自分達の国王を見る目付きではなく、侵略者や悪魔を見る目付きである。

 アラン様は、一連の事態を観察し生半可な攻撃では、防御膜を突破出来ないと判断され、切り札の一つを切る事を決断された。

 「空軍!軍団魔法『サンダーストーム』展開!」

 と号令を発した。

 用意万端を整えていた我々は、魔法障壁を貫くドラゴンランスを巨人に向かって投擲、15本全部が突き刺さり、巨人を中心に巨大なストーム(嵐)が展開された。

 其処へ空軍全員のサンダーの魔法が放たれ、徐々に周囲が静電気を帯び始め準備が整ったと見たアラン様が、グローリア殿と協力し天の裁き『インドラの矢』を最大魔力で放った!

 「ドゴオオーーンン!!」

 瞬間世界が白く染め上げられ、轟音が辺り一面に鳴り響き振動が周囲を震わせる。

 巨人は流石に耐えられなかったのか、跪いていたがゆっくりと立ち上がった。

 「驚いたぞ、まさかこれ程の魔法を使えるとは!

 だがお前達の切り札は、バリアーを壊したのみ、『ルチリア』は健在だ、勝負はあったな!」

 とルージ王は、勝利宣言した。

 確かに現在アラン様とグローリア殿は、『インドラの矢』を最大魔力で放った為、魔法を直ぐには放てない、だが他の軍団は魔法を撃てる。

 状況を把握した各軍団と城壁の魔導砲そしてバズーカ砲部隊は、遠距離魔法を次々と巨人に放つ。

 だが巨人は、防御膜が無いにも関わらず殆ど効いていないのか、小揺るぎする程度で城邑目指し歩を進める。

 不味い!

 と誰もが思い、撤退の二文字が脳裏に浮かんだ時、唐突に陽の光が天空から差してきた。

 曇天だった筈と疑問に思い皆が空を仰ぐと、ゆっくりと天空から舞い降りてくる存在が有った。

 「「「イザーク様!!!」」」

 この場にいる全ての者が呆気にとられ、ただ天空から舞い降りてくる使徒イザーク様を見つめていると。

 使徒イザーク様は、地面で休息しているアラン様とグローリア殿に、祝福の光を放射した。

 祝福の光は、高密度の魔力を伴っていた様で、アラン様とグローリア殿の魔力を回復し、更に装備された魔石ケースの魔石も魔力をフル充填した様だ。

 その様子を見た巨人に乗るルージ王は、

 「ば、馬鹿な、イザーク様だと?!

 偉大なる聖王である余にでは無く、薄汚い敵をイザーク様は祝福するというのか?!

 有り得ん、この様な事が有ってはならん!」

 と震えた様子が拡声された声の震えで、判った。

 そしてグローリア殿は、神聖な輝きと共に静々と羽ばたきもせずに浮かび上がる。

 その際、グローリア殿がイザーク様に振り向き、「D10、ありがとう!」と言っていたが、恐らくイザーク様をドラゴン語で称する尊称であろう。

 アラン様が、

 「待たせた様だな、仕切り直しだ、決着を着けよう。」 

 と言われ、ルージ王は、

 「おのれー、おのれー、屑の分際で聖王たる世を愚弄しおって、絶対に許さん!」

 と喚き散らし、再度瘴気のブレスを吐こうと巨人が息を吸い始めた。

 「させるか!『ホーリーレイ(聖なる光)』」

 とアラン様が唱え、次の瞬間アラン様が光輝かれ、その光が巨人の頭部を突き刺す。

 あの、我々の遠距離魔法を尽く跳ね返した巨人の頭は、光に貫かれアッサリと爆砕した。

 続いて、

 「拘束せよ!『ホーリーストーム(聖なる嵐)』」

 とアラン様が唱え、グローリア殿のオリハルコン製の装甲を施した翼から、光の玉が吹き出して巨人の周りを取り囲むと、徐々に旋回し始め天地を繋ぐ竜巻と化し、完全に巨人を拘束する。

 そしてアラン様は、

 「トドメだ!『ホーリースパーク(聖なる閃光)』」

 とアラン様が吠える様に唱えると、アラン様とグローリア殿の輝きが凄まじい勢いで増し、そのまま上空へ昇り、輝き諸共急降下して来た。

 ぶつかると思った瞬間、アラン様とグローリア殿は上に急上昇し、光だけが巨人の胸辺りを貫いた!

 次の瞬間、

 「カッ!」

 という音と共に衝撃波が、体を通り抜けた気がしたが、爆発とは違い物理的な衝撃は感じなかった。

 白く染まった世界の中、徐々に視力が戻って行くと、上半身の無くなった巨人が居て、残りの残骸も徐々に光りながら崩壊し消えていく。

 皆が、ホッと安堵のタメ息を吐いていると、突然地面に居る誰かが天を指差し、大声を上げた。

 「みんな、あの天空を見ろ!」

 その声の通りに、天を見上げると、

 去って行かれる使徒イザーク様を迎え、我々を祝福される様に微笑まれた『女神ルミナス』様が天空に光と共に居られた!

 戦場に居る全員が、

 「ハハーッ」

 と地面に跪き礼拝する中、『女神ルミナス』様と『使徒イザーク様』は天空高く昇られ、去って行かれた。

 我々全員は、ゾンビ軍団との陰惨な戦いをしたにも関わらず、『女神ルミナス』様と『使徒イザーク様』に助けられた事で非常に救われ、今後も『女神ルミナス』への信仰を欠かさずに行おうと心に誓った。

 



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49. 5月の日記③(2年目)

 5月6日

 

 昨日の戦争の後始末の為に、全軍が朝から準備に取り掛かる。

 あの後、巨人は『ホーリースパーク(聖なる閃光)』の威力のお陰で、完全に光になって消滅してしまい、ルージ王とアーティファクト『ゾンビ・マスター』そしてその贄に使われたルチリアも、綺麗サッパリいなくなってしまった。

 まあ、今更彼奴等が生きていた処で、どうせ死刑が待っているだけで、気分を害するお荷物でしか無いだろうから、消えてくれて良かったとさえ思う。

 作業に移る前に、アラン様とグローリア殿が辺り一帯に、広域範囲魔法『ホーリーレイン(聖なる雨)』を降り注がれたので、汚染された土壌も浄化された。

 やる作業は土魔法を用いた穴掘りと落とし穴の埋め直し、そして荒らされた街道整備だ。

 ほぼ1日で粗方の作業が終わったのは、アラン様達のホーリーレインと、魔導砲からの散布型ヒールで、ゾンビの浄化と汚染された土壌の浄化が楽に終わったお陰だろう。

 作業が終わり、城外に設営した駐屯地に戻ると、セシリオ王国救国軍の面々が大変盛り上がっていた。

 何事かと近づいて見ると、セシリオ王国救国軍の中で義勇軍の人達が、コリント領で過ごした事のある、セシリオ王国亡命政権軍の人々から、コリント領のまるで天国の様な暮らしと、アラン様の素晴らしい領地経営、そして我等の軍の素晴らしい装備の数々の説明を受けて、感動し是非行ってみたいという声が上がる中、一人の若い女性が、

 「いっそ、セシリオ王国は半ば滅んだんだから、アラン様が国王の新しい国家が誕生してくれないかしら。」

 と発言したので、周りはシーンと一瞬静まり、その後「そうだよその通りだ!」と言う声が周りから一斉に起こり、終いには殆ど全員が賛成し、夕飯の席ではその話題一色になった。

 

 5月8日

 

 後事をビクトール侯爵領兵と家臣の方々に任せ、全軍で主要幹線道路を通りセシリオ王国王都を目指す。

 途上の街々にもよって、状況の確認と諸々の浄化をして行く予定だ。

 

 5月18日

 

 トレーラーに分乗した部隊と我等空軍は、先遣隊として王都に到着したが、とても一国の首都と思えない程に静かで、生命活動の息吹をまるで感じない正に『死都』だ。

 早速アラン様は、広域範囲魔法『ホーリーレイン(聖なる雨)』を王都全ての範囲に降り注がれた。

 どうやらルージ王は、全てのゾンビを総動員して連れて行動していた様で、ゾンビ等は一体も居ない。

 王都の門の閂を、空から城内に入る事で外しながら思ったのだが、ルージ王はどういう成算が有ってあの様な行動を取ったのであろうか?まさか生者の臣下や国民はいらないとでも考えていたのだろうか?つくづく狂人の考える事は理解できないと判らされた。

 王都に入ってみてもその感想通り、弱冠の争いの後以外は生きている者は誰一人居らず、普通は人が居なくなると動物、主にネズミが繁殖し病気の蔓延に繋がるのだが、そのネズミも見当たらない。

 恐らくは、ネズミにもゾンビ化の波が襲いかかり、王都だけでなく進路上の街々のネズミもあの巨人に統合されていたのだろう。

 案の定ネズミが居ないお陰で、王都の食料庫や商人の食料備蓄倉庫は手付かずだ、この備蓄量ならば食糧難になる心配は無い。

 そして王宮に入り、財宝や国庫のギニー美術品を確認し、最も重要な国民の統計資料と地理、そして直轄地の財務資料と貴族達の納税資料を押収した。

 この辺りの事はセシリオ王国亡命政権の方々と相談し、予想した通りに王都にいた筈の官僚や政治に関わっていた貴族は死に絶えているだろうから、以前のセシリオ王国の政治システムは事実上崩壊している。

 新たに政治システムを構築する為には、前述の資料を精査し、より効率の良い国民の為の体制を作る必要が有り、その為の会議を翌日にする事が決まった。

 

 5月19日

 

 昨日集めた資料を大まかに把握し、セシリオ王国亡命政権の方々とアラン様、ファーン侯爵以下ベルタ王国遠征軍の上層部、そしてハリー(いつの間にか報道局長になっていた)の放送機材取り扱い班が、大会議室で今後のセシリオ王国の政治体制決定会議が開催された。

 遠距離通信で繋いでいるモニター画面には、アマド陛下とヴェルナー宰相が出られその脇には、フランシス伯爵以下政治官僚が机を並べている。

 開始早々、セシリオ王国亡命政権のビクトール侯爵が、

 「アマド陛下、今回のセシリオ王国国王の起こした暴挙に対して、ベルタ王国が示してくれた一連の行動にセシリオ王国貴族として、感謝とお礼を申し上げたい、大変ありがとう御座いました。」

 と述べられ、他の亡命政権の方々も立ち上がり、頭を下げられた。

 アマド陛下は、

 「うむ、その感謝受け入れよう。

 昨年の夏からの一連のセシリオ王国による愚かな行動は、全てルージ王の野望に端を発していた。

 そのルージ王を今回の戦闘で討ち果たせたのは、周辺国全てに取って幸甚であった、アラン総帥、ファーン護国卿そして遠征軍全員ご苦労であった!」

 と仰られたので、ベルタ王国遠征軍の面々は、

 「ハッ、有難うございます!」

 と頭を下げて答えた。

 そして実務的な話しに入り、アラン様がフランシス伯爵以下政治官僚の色々な質問に、淀みなく答え政治官僚が解決策を見いだせない場面では、独自の解決策を提示しそれに掛かる予算と期間を示される。

 アラン様は、相変わらず凄まじい実務処理能力をお持ちだ、フランシス伯爵以下政治官僚の面々は示された解決策を書いて行くだけで手一杯だ。

 アマド陛下は笑われながら、

 「流石だなアラン総帥は、今聞いていた概要だけでも素晴らしい施策なのが判った。

 どうだろうビクトール侯爵と亡命政権の方々、当面はこのアラン総帥の施策を実行されては?」

 と言われ、ビクトール侯爵は、

 「少し聞いただけでも、素晴らしい施策の数々でした、是非その方向でお願い出来ますでしょうか?」

 と願い出でられたので、アマド陛下は、

 「了解した。

 アラン総帥聞いた通りだ、其の方の思う通りに新たな政治システムを構築せよ、ファーン護国卿と遠征軍はその施策に則り行動する様に。」

 と仰られたので、

 「ハッ、了解しました!」

 とベルタ王国遠征軍全員片膝を着き答えた。



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50. 5月の日記④(2年目)

 5月24日

 

 残りの全軍が王都に到着し、其々が指示された部署に着き行動を開始する。

 進路上の街々とその付近の町村には、部隊を派遣し現況を把握しており、我々空軍はその他の地域にセシリオ王国の人員を連れて行き、現況の確認と必要な物資や情報を提供していった。

 そういった地域でも一番の重要拠点は、何といっても北の巨大港湾都市『オスロ』だろう。

 そこには、ベルタ王国やアロイス王国には無い軍港が有り、そこを抑えるのは軍事的にも経済的にも最重要である。

 その為我等空軍は、王都に5頭の大人ワイバーンを残し、子供ワイバーン80頭を連れ計90頭とを乗せ、親衛隊からシュバルツ殿とミツルギ殿が同乗されて、北の巨大港湾都市『オスロ』に向かった。

 5時間程で、北の巨大港湾都市『オスロ』に着く事が出来た。

 子供ワイバーンも翼長250センチメートルになり、ベックとトール達を1人ずつなら乗せる事が出来る様になり、今回はその飛行訓練も兼ねている。

 オスロの市民を、無用に刺激する必要は無いので、近くの平野にワイバーン達を待機させ、自分とシュバルツ殿とミツルギ殿で市庁舎へと向かう。

 オスロは漁港と貿易港の面も有るので、賑わっていると予想していたのだが、火が消えたように静かだ。

 といっても王都と違い人が居ない訳では無く、漁民や港湾作業員そして商人は、そこかしこに居て屯っている。

 「どうして海に出ないのか?」と近くに居た漁民に聞くと、最近海賊が近くの島を占拠し、海に出る船を片っ端から攻撃し、貨物や金銭を奪われるそうだ。

 陸には山賊、海には海賊と、人が行き来する場所には必ず同種の賊が出没する、なんとも世知辛いと思いながら、市庁舎に入った。

 市庁舎には、故オスロ公爵の娘婿である港湾都市長が居られ、市政を司っていて、早馬によってルージ王が死んだ事や王都が解放された事は把握されていた。

 王都の現在始動している暫定政権に対しては、その政権運営には従うと応じられ、取り敢えずの目的は果たしたが、港の様子の話しを始めると、港湾都市長は途端に渋い顔をされ、困っている実情を説明された。

 何でも昨年の夏にルージ王が、王位に着いた際に傭兵、山賊、チンピラといったならず者を大量に国家として集め、粗奴らに他国を荒らさせる事で侵略しやすくしようと考えたらしいが、その中に海賊もいて、オスロに有る海軍の軍艦を幾つか譲渡したらしい、そしてオスロ公爵がルージ王を諌めるべく王都へ行った際に、オスロ公爵と伴った軍がルージ王によって虐殺されてしまい、統制出来なくなった海賊が付近を荒らし始めたそうだ。

 そう云えば、昨年の夏のベルタ王国への侵攻の時も、セシリオ王国軍所属の傭兵、山賊、チンピラがベルタ王国の街や村を襲っていたなと思い出し、こんな負の遺産を残すとはルージ王は歴史に残すべき罪人だなと改めて思った。

 早速会議室の改装を許可を得て始め、放送機材を設置し王都のアラン様と連絡を取る。

 港湾都市長は当初面食らっていたが、会話する内に便利な魔道具であると納得され、アラン様と親しく今後のセシリオ王国のあり方と、港湾都市『オスロ』の歩むべき道の展望を話し合われた。

 そして今後の事を考えると、害悪でしか無い海賊は滅ぼしてしまおうと決定し、その役目を我等空軍に任された。

 当然自分は承諾し、横に居たシュバルツ殿とミツルギ殿も承諾された。

 港湾都市長から、海賊が占拠している島の見取り図と軍艦の仕様を聞き取り、今夜島に夜襲を掛けサッサと始末を着けようと決めた。

 市庁舎を出て、海賊を捕縛する為のロープや足かせを港湾都市長から提供され、馬車に積んでいると後ろから、

 「シュバルツ後輩じゃないか?」

 とシュバルツ殿に話し掛けて来る女性が居た。

 全員で振り向くと、異国風の服装をして腰に長刀を差した女武者が居た。

 「オウカ殿!」

 とシュバルツ殿が驚いていると、女性は、

 「オウカ殿じゃなくて、オウカ先輩だろ!」

 と不満そうに応じてきた。

 「たった一週間の入門時期の差ではないか!」

 とウンザリした声でシュバルツ殿も応じ、自分とミツルギ殿に、

 「オウカ先輩は、某の同門である神剣流の先輩で、3剣王の1人だ。」

 と女武者の紹介をした。

 3剣王の1人は、女性だったのかと驚いたが、考えてみればセリーナ団長とシャロン副団長という、自分を遥かに凌駕する女性がいるのだから、驚く程では無いなと思い直した。

 路上で話すのも憚れるので、昼間だが酒場に入り、お互いの事情を話す。

 何でも、オウカ殿はシュバルツ殿と同じく諸国武者修行の旅をしていたが、異国へ行こうと港湾都市『オスロ』に着いてみると、海賊がのさばっているではないか、これは義を見てせざるは勇無きなりと、海賊討伐を考えていたが、肝心の島に行く船を探したが、誰も船を貸してくれないので困っていたそうだ。

 シュバルツ殿が、その海賊退治は今夜我々が行うと話すと、驚かれて、

 「船はどうするのか?」

 と聞かれ、

 「いや、船は使わない。」

 と言うと、理解出来ない様子なので、ワイバーン達が居る平野に連れて行くことにした。

 馬車で向かう道中、色々とオウカ殿はシュバルツ殿と会話された、

 「エッ、あんた宮仕えなんてしてるの?!

 確か道場にいた時、幾つかの大国から招聘されてたけど、修行の妨げになるからと、全部断ってたじゃない、どういう心変わり?!」

 とオウカ殿は驚かれていたが、シュバルツ殿は堂々と、

 「その修業の為だ、敬愛するアラン総帥は人格、識見、民への慈しみ全てに於いて、人として見習うべき方で、恐らくは大陸に比肩し得る者は皆無だ。

 そして何より、アラン総帥は某より強い!」

 断言された。

 その意見に自分とミツルギ殿は大いに賛成なので、

 「その通りだ。」

 と頷きながら、答えた。

 オウカ殿は、

 「アラン?

 もしかして、ドラゴンスレイヤーとして名高い、今時の英雄と噂されているベルタ王国のアラン男爵?!」

 と聞いてきたので、

 嗚呼、世間ではまだ正確な身分が伝わっていないのが判ったが、真実の立場の前にはどうでも良いかと思い直した。

 「処でシュバルツ後輩の双剣が、双刀になっているけど、腕利きの鍛冶師見つかったの?」

 とオウカ殿に聞かれ、突然シュバルツ殿が破顔され、ニコニコと双刀を腰から外し自慢し始めた。

 「良くぞ聞いてくれた、此の2刀こそ某が夢見ながら持つ事が叶わなかった刀だ!

 『銘は右月と左月』

 オリハルコン製で製法は秘密だが、2刀とも魔法剣の最高峰クラスだ!」

 と尋常でない喜び様だ。

 すると、ミツルギ殿も負けじと、

 「ならば、俺の此のガントレットも見てくれ!

 シュバルツ殿の2刀を鍛えた鍛冶師が、特別に鍛え上げた代物で、ガントレットでありながら、打つ・掴む・投げる・突く事が出来る。

 『銘は豪雷』

 同じくオリハルコン製で製法は秘密だが、魔導武具の最高峰クラスだ!」

 と豪快に笑いながら、自慢している。

 些か、呆気にとられながらオウカ殿が、双方の魔導武具を観察されていると、徐々にその目が険しくなった。

 そして、

 「誰だ?その鍛冶師は、こんなアーティファクトと言って良い魔導武具を作れる天才は?!」

 と問われたので、シュバルツ殿とミツルギ殿は自分を指さされ、

 「「此のケニー殿の、御父君だよ。」」

 とハモッて答えたので、オウカ殿が剣呑な目付きで、

 「そなたの御父君は、何処に居られる?

 是非教えて頂きたい!」

 と尋ねられたので、

 「コリント領ですよ、もし行きたいのであれば、我々に付いて来て下さい、案内しますよ。」

 と答えたら、

 「有り難い、恩に着る!」

 と頭を下げられ、感謝された。

 しかし、親父が天才鍛冶師ねえ、ルドヴィークに居た頃は、近所の家庭の包丁の打ち直しと研ぎで生計を立てていたのに、変われば変わるもんだと思った。

 



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51. 5月の日記⑤(2年目)

 5月25日

 

 午前1時、密かに夜暗の中、我等空軍(大人ワイバーンのみ)は港湾都市『オスロ』沖の島の上空で滞空している。

 島には2つの篝火が焚かれているだけで、少しも警戒していない様だ。

 幾つかの作戦の内、一番楽な作戦を実行する事になったが、あまり気を抜く訳にはいかないので、気合いを入れ直し、先ずは軍艦の確保を行う。

 5隻の軍艦に2頭ずつのワイバーンが、静かに降り立ちシュバルツ殿とミツルギ殿そしてオウカ殿が、次々と当直の海賊を捕縛して行く。

 我々空軍も、参加しアラン様直伝の『魔力発勁』を使用して、20人の海賊を拘束して、5隻の軍艦全てを確保した。

 軍艦を確保した事を、港湾都市長とベック達に連絡をして、船と子供ワイバーンに軍艦を託し島の制圧に移る。

 大人ワイバーンに乗り竜騎士とシュバルツ殿達は島に侵入し、オウカ殿を除いた者たちが其々特大のエアバレットを海賊の寝ている家屋に向けて放った。

 当然、無人島に建てた掘っ立て小屋に毛が生えた様な家屋は、アッサリと屋根ごと潰れ、そこから、怪我を免れた海賊が這い出して来て、そいつ等をシュバルツ殿とミツルギ殿そしてオウカ殿が、次々と無力化して行く。

 シュバルツ殿は双刀から『魔力発勁』を飛ばし、ミツルギ殿はガントレット越しに『魔力発勁』を海賊に叩き込み、そしてオウカ殿の峰打ちにより殆どの海賊が拘束され、大勢が決したと思われた時、海賊の頭目と覚しき男が大声を上げた、

 「おいっ!貴様らこれを見やがれ!」

 と海賊の頭目に目をやると、商人と思われる男性と貴族の令嬢らしき女性に対して、青竜刀を振り翳している。

 それを見た瞬間自分は、手を揃えて前に突き出した。

 「バンッ!」

 と云う音と共に海賊の頭目は、後ろから突き飛ばされた様に、白目を剥きながら顔から地面に倒れた。

 「ケニー殿、アラン様直伝『鬼勁』成功!御見事なり!」

 とミツルギ殿が、自分に称賛を送ってくれた。

 

 『鬼勁』・・・・・本来『魔力発勁』は、魔力を直進させて敵に打ち付ける技だが、『鬼勁』は敢えて直進させず、敵に取って無警戒の方向から魔力を叩きつける技であり、直進させないのでその分高度な技。

  

 「有難う、やはりアラン様の教えてくれた技術は、実戦に即しているから、役に立つ。」

 と答えたので、シュバルツ殿とミツルギ殿も「その通りだ。」と応じて、3人で笑い拳を打ち付けあった。

 オウカ殿は、知らない武術に面食らっている様だった。

 白み始めた朝日の元、港から船が島に到着し、囚われていた人質の解放や、強奪された財宝等を確保し、拘束した海賊120人余りをロープで数珠繋ぎにして、犯罪者として連れて行った。

 諸々の手続きを終え、港湾都市長始め港湾都市『オスロ』の民衆から感謝されながら、午後には港湾都市『オスロ』を出て、王都への帰途に着いた。

 オウカ殿は、ワイバーンの後部座席に乗って飛ぶ、空の景色にいたく感動され、此れ等を組織し運用させているアラン様に会うのが楽しみな様だ。

 王都の空軍用の駐屯場所に到着し、其々の騎竜を厩舎に移動させ、後事をベック達に任せ、オウカ殿を紹介する為に、アラン様の執務室にシュバルツ殿とミツルギ殿そしてオウカ殿を伴い向かった。

 アラン様は執務室で、コリント領で育成していた政治官僚数人に指示を出され、その政治官僚が別室のモニター室で、各地方都市とモニター越しにやり取りし新しい施策の、意見交換を行っていて、その脇には後から合流されたクレリア姫様が、書類の分類や数値の集計を手伝われていた。

 受付をしているサーシャに、任務完了の報告をして待っていると、一区切りされたアラン様とクレリア姫様が、隣室の応接室に我等を迎えられ、任務完了と海賊退治について労ってくれ、オウカ殿に海賊退治に対しての助力を感謝された。

 オウカ殿は、

 「いえ、私も海賊退治をしようとしていたので、作戦に便乗させて貰った形で此方もワイバーンに乗る事で島に渡れて、目的が果たせて有り難かった。」

 と言われて、双方良い形で目的が果たせた事を確認した。

 続けてオウカ殿は、

 「アラン殿、このシュバルツ後輩に聞いたのだが、コリント領には天才鍛冶師が居られ、また画期的な武術を教えておられるという事、是非私もコリント領に連れて行って貰いたい!」

 と願われた。

 アラン様は、

 「剣王のお一人で有られるオウカ殿に来て頂けるとは大変光栄ですな、天才鍛冶師のガトル殿には私の方で口添えしますが、オウカ殿が直接交渉されて下さい、武術については出来れば此処に居られるシュバルツ殿とミツルギ殿と同じく、双方で学び合いより高め合う事をお勧めします。」

 と答えられたので、オウカ殿は、

 「有り難い、その方向でお願いします。」

 と応じられた。

 その後、コリント領のレストラン『豊穣』のオーナーシェフ『バース』監修の、工場で量産されたバウムクーヘンとラスクを全員で賞味した。

 応接室を辞し、我々の泊まる王都の宿舎に向かい、オウカ殿を女性軍人用の宿舎に案内したのだが、道中先程食べたバウムクーヘンとラスクをオウカ殿は称賛しまくっていたので、オウカ殿もコリント領の女性陣同様に、レストラン『豊穣』のスイーツの虜になるんだろうなと思い思わず苦笑



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52. 6月の日記(2年目)

 6月5日

 

 セシリオ王国に於ける新たなる施策が発表された。

 

 今後セシリオ王国という名称は無くなる。

 当面はアラン総帥が治める自治領になり、総帥府が統治する。

 

 税制は、物品等の買い物時に支払われる代金に2割の消費税を乗せるだけで、それ以外の税の徴収は無い、よって人頭税等も一切廃止する。

 

 今回の内乱で被害に合われた人民に対しては、速やかなる王都への移住を勧め、家屋・食料・仕事等は総帥府が責任を以って用意し、無担保且つ無期限で無利子の事業資金も貸し付ける。

 

 各地の人民に対しても同様で、もし王都に移住を希望するならば、総帥府がその移住費用を負担する。

 

 同時にセシリオ王国国軍は無くなったので、改めて『総帥府軍』が創設され、軍人を募集する。

 人員は、各国境の守備軍3方面に3万人ずつと、港湾都市『オスロ』に配備する海軍1万人、王都に配備する王都守備軍と常設軍其々1万人、計12万人の軍となる。

 元セシリオ王国国軍の軍人は、スライドして『総帥軍』になって貰い、貴族の私兵や義勇軍は軍人教育を受けて貰い、希望する軍に入って貰う。

 

 各ギルドは、王都でのギルド再開の為に地方から王都に人員を派遣して頂き、ベルタ王国のギルドとの融合を図り、ベルタ王国で進められている新たな物流システムとインフラ、そして通信機とモニターに代表される、情報インフラを学んで貰う。

 

 また、希望者には、コリント領と同じくカード登録が出来て、カード登録するとギニーだけでなくポイントも使用する事が出来、ポイントは何時でもギニーと交換出来る様に、総帥府が窓口を設け対応する。

 

 カード登録をし、軍人或いは公的職業に就職した場合、希望者には『ナノム玉』を配布する。

 (『ナノム玉』に関しては、別項目で詳しく説明する)

 

 といった内容の概略が発布され、この時点でセシリオ王国は正式に消滅した。

 

 6月12日

 

 発布から1週間が経ったが、殆どの元セシリオ王国国民は反発せず、逍遥として新たな施策と総帥府の統治を受け入れた。

 これは、前国王のルージ王が7割という税を課した上に、別途の人頭税や労役を課され、とてもでは無いが生活出来ない状態にさせられ、生き地獄を体験していたのが理由として大きく、更に街や都市には街頭モニターを設置し、ニュースや特集番組でルージ王がどの様な事をしていたかや、先の戦いの際どの様な内容の話しを喋ったかを赤裸々に放送した所為で、前王朝であるセシリオ王国を国民自身が嫌悪し、一刻も早く忘れたい心理が働いたのかも知れない。

 また、内乱の最後の局面で、使徒『イザーク様』がアラン様を助けたシーンと、『女神ルミナス様』がその戦いに参加した全ての民を祝福されたシーンを、動画でご覧になったルミナス教の西方教会が、教皇始め全ての上層部の承認の元、『女神ルミナス様』の顕現と使徒『イザーク様』のアラン様への助力を認められた。

 更に、王都から『女神ルミナス様』に脱出のお告げを賜ったり、使徒『イザーク様』が脱出の助力を得たユリウス大司教は、アラン様こそ『女神ルミナス様』に認められた真実の『王権神授』の当事者であり、我等元セシリオ王国国民は、今まで偽物の王朝に支配されていた、哀れな人民であり、漸く真実の指導者に出会えたのだと熱弁を振るって信者達に聞かせ、放送局の特集番組にも出演され、証拠動画と共に元セシリオ王国国民は総帥府の施策を全面的に受け入れ、アラン様達と共に進む事が『女神ルミナス様』の望みであると祈りの言葉を唱え述べられた。

 この放送を見た元セシリオ王国国民は、『女神ルミナス様』への信仰を改めて誓い、率先して総帥府の指導に従う姿勢を見せている。

 生き残った少数の貴族達は、前王朝の貴族である事に我慢出来なくなり、貴族の身分を捨てられて、総帥府の指示の元、能力に相応しい役職に就いて貰い、元セシリオ王国国土全てが総帥府の直轄地となり、総帥府から派遣された政治行政官が、各地方の行政と司法を司る事になった。

 

 6月23日

 

 周辺各国の内大半の国が、西方教会を国教にしている事もあり、セシリオ王国を総帥府が暫定統治し、これまで以下の入国税で貿易を再開し、港湾施設の使用料及び滞留費を当面減免する、との発表に全面的に賛成し国交の樹立を調印した。

 しかし、アロイス王国はこれを断固拒否し、

 「総帥府はベルタ王国の策謀により、正当な前セシリオ王国王朝を所以も無く簒奪した暴虐な政体であり、アロイス王国は義により近く制裁を下す。」

 と各国に声明を発表した。

 だが、アロイス王国と歩調を合わせると思われたアラム聖国は、奇妙な沈黙を守り、国交の樹立こそしなかったが、人の往来を阻害する様な事も無かった。

 ある意味不気味な沈黙と我等も疑い、アラム聖国から流入する商人や旅人には、『漆黒』の人員を割き警戒する事になった。

 アラン様の指示の元我等は、新たに組織された『総帥府軍』を戦力として使える存在にする為に、装備をベルタ王国正規軍並みに整えるべく、コリント領で増産された各関節部を保護する合金製のサポーター、そして剣や槍は大量生産品ながら魔法武具に切り替え、隊長以上には『ナノム玉』服用とイメージ動画の教育により魔法教育を施した。

 

 6月30日

 

 アロイス王国がベルタ王国の国境線守備軍に、昨日攻撃を仕掛けてきた。

 常識で考えるなら、アロイス王国が非難した元セシリオ王国である、現総帥府に対して攻撃するのが筋であるが、一応ベルタ王国も非難していたし理屈は通るのかな?と愚にもつかない事を考えながら、王都にある『総帥府軍』演習場の大広場に向かう。

 其処には、此の日が有る事を想定し、準備していたベルタ王国から派遣されていた遠征軍全軍と、『総帥府軍』の内、王都守備軍と常設軍其々1万人が集結していた。

 アラン様が壇上に登られるのと同時に、頭上に巨大な立体プロジェクターが展開され、

 

 「皆も聞いたと思うが、昨日ベルタ王国の国境線でアロイス王国軍とベルタ王国の国境線守備軍が、戦端を開いた。

 その際アロイス王国軍は、前セシリオ王国国王ルージの弟を名乗る人物が旗頭である、と公言しその人物をセシリオ王国国王とする為にベルタ王国に侵攻した、と宣言を行い攻撃して来た様だ。

 総帥府も確認の為、前王朝の系譜資料を精査したが、その様な人物は資料上存在せず、もし真実だとしても前王朝の公認の存在では無い、つまり僭称しているだけの人物であり、アロイス王国の企図している事は、この国にアロイス王国の傀儡政権を樹立して、アロイス王国への従属国家を成立させる事だ。

 よって、総帥府はこの国の民をアロイス王国への従属国民にさせない為に、アロイス王国の野望を粉砕する。

 空軍と自分及び王都守備軍を除いた全軍は、此処から南のアロイス王国の国境線に向かい、其処で国境の守備軍3万と合流し、アロイス王国国境要塞を攻撃せよ。

 空軍と自分は、現在戦端の開かれている、ベルタ王国の国境線に向かい、アロイス王国侵攻軍を攻撃する。

 良いな、2正面作戦になるが互いに連絡を密にして、連携して行動する。

 では、順次出撃!」

 とアラン様は号令され、全軍、

 「「「「「オオオーーーー!!!」」」」」

 と地響きする様な雄叫びを上げ、次々と軍団毎に出撃し始めた。

 そんな中、我々、旧スターヴェーク王国出身者は、凄まじい闘気を胸に秘めてある思いを共有していた。

 今度の戦いこそは、我々の悲願である国土奪還戦であり、どの様な難敵が現れようが必ず国土を回復してみせるとの決意である。

 自分の闘気を感じたのかガイも武者震いして飛び立ち、空軍全軍のワイバーン95頭はグローリア殿を先頭に、ベルタ王国の国境線に向かい出撃した。

  



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53. 7月の日記①(2年目)

 7月1日

 

 昨日出撃してから、子供ワイバーン(既に3メートル半の翼長なので子供では無いが)の航続距離を考えて、4回に分けて休息しながら、20時間を掛けてベルタ王国の国境線に辿り着いた。

 そしてアラン様を含め空軍全員が、信じ難い戦場を見る事になった!

 ベルタ王国とアロイス王国の間の国境は、緩衝地帯を挟み其々要所に要塞と検問所が有るのだが、アロイス王国軍は、ベルタ王国側の要塞にも近づけていなかったのだ。

 何故かというと、其れは今現在凄まじい音(クラクションというらしい)を鳴らしながら、アロイス王国5万の軍勢に襲いかかるド派手なトレーラー200台による、暴走突入の所為で間違いない。

 そのド派手なトレーラー(デコレーション・トレーラー:通称デコトレというそうだ)達は、前方に張り出したトゲ付きバンパーと、車体全体は軍団魔法『オーディン』と同じく風の魔法で保護し、時折音響破壊魔法『サウンド・ソニック』をクラクションと共にアロイス王国軍に浴びせ、蹴散らしている。

 その中で、一際目立つ先頭をはしる2台のデコトレが有り、その2台を自分は知っている。

 親父の飲み仲間で、トレーラーを開発し自ら改造を施し、更には自ら暴走気味に乗り回す、コリント領でも関わるのはタブーとされている、『ホシ』と『ジョナサン』の愛車である。

 その2台が、其々99台のデコトレを率い御意見無用!と言わんばかりに、アロイス王国の誇る戦車(チャリオット)部隊をアッサリと粉砕して行く。

 あまりにもあまりの光景に、アラン様も珍しく呆然とされていたが、暫くして正気に戻られて空軍に指示を出され、デコトレに魔法攻撃を仕掛けているアロイス王国軍の後続魔法部隊に対して絨毯魔法爆撃をする様に命じられた。

 ワイバーン95頭による火球攻撃と竜騎士100人による『ファイアー・グレネード』により、アロイス王国軍の後続魔法部隊はアロイス王国軍全体の魔法防御を厚くしなければならず、敵に対して魔法攻撃が出来なくなる、恐らくは以前我等空軍の空からの攻撃に対応する為に、魔法防御をアロイス王国軍全体に出来る様にしていたのだろうが、そんな事は想定済みだ。

 其処に、魔法とは関係無いワイバーンの爪攻撃とドラゴンランスの攻撃が空中から襲いかかり、地上ではデコトレのトゲ付きバンパーが蹴散らして行く。

 打つ手がないアロイス王国5万の軍勢は、1万の軍勢を戦闘不能にされ、這々の体でアロイス王国側の国境へと退却して行った。

 漸く戦場にクラクションが鳴らなくなり、アラン様がグローリア殿から地上に降りられると、『ホシ』と『ジョナサン』始め400名のトレーラー乗りが、アラン様の前に集結した。

 我々も地上に降り彼等の話しを聞くと、どうやらロベルト老の差し金らしく、1週間前にアロイス王国が各国に声明を発表した時点で、旧スターヴェーク王国出身者のトレーラー乗りがロベルト老に嘆願書を出し、故郷を奪還する為に自分達のトレーラーを役立てて欲しいと訴えたそうだ。

 ロベルト老は、恐らく補給や怪我人の搬送を頑張って貰うつもりで、彼等を送り出したのだろうが、まさかアロイス王国正規軍に正面から喧嘩を売るとは、想像していなかったに違いない。

 取り敢えず、全員魔石の補給等を受けねばならず、ベルタ王国の国境要塞に全員で向かい、駐屯する事になった。

 要塞にいた国境守備軍2万も籠城戦を覚悟してたのに、街道を様々な色の魔力光をこれでもかと言わんばかりに光らせながら驀進して来たデコトレが、そのままアロイス王国軍に襲いかかり、あっという間に乱戦状態になった為、魔導砲で援護する事すら出来なかったそうだ。

 アロイス王国軍もまさかこの様な形で敗退しようとは、考えていなかったろうなあと、ミーシャに話し掛けたら「間違いないわね。」と笑いながら答えられ、近くにいた空軍の面々も笑い合い、其々のワイバーンに餌を与えながら、明日からの戦争へ思いを馳せた。

 

 7月2日

 

 デコトレの魔石充填をして、敵の8千人に及ぶ戦時捕虜を収容し、デコトレのピストン輸送で王都に送って貰い、例のレール敷設工事要員として働かせる様に王都守備軍のヘルマン卿へアラン様は依頼された。

 

 午前9時、要塞の会議室で、アラン様が作戦説明をされた。

 

 1、空軍のみで、敵の国境線の要塞に向かい、投降を呼びかける。

 

 2、その際、これから5分後に戦術級魔法『メテオ・ストライク』を要塞に行使するので、投降しないなら退避する様に呼びかける。

 

 3、戦術級魔法『メテオ・ストライク』は、天空より隕石を落下させる召喚魔法なので、落下時凄まじい音と衝撃波が伴うので、要塞にいる国境守備軍も防音措置を取る事、そして空軍と居残っているデコトレ20台のトレーラー乗りも防音措置を取る。

 

 4、音と衝撃波が収まり次第、国境守備軍は敵アロイス王国の国境線に進出し、国境の砦等を接収する。

 

 5、居残っているデコトレ20台は、『メテオ・ストライク』により落ちてきた隕石を、熱が冷め次第分割し、コリント領に輸送する。

 理由は、隕石に含まれる鉱物資源は大変貴重な物で、今後の研究資材として有用な為。

 

 以上の説明がされ、アラン様の今までの魔法能力を知っている軍人は、説明に寸毫の疑いも抱かないが、トレーラー乗り達は目を白黒させている。

 まあ、トレーラー乗り達ももう少ししたら、アラン様の凄まじさを理解する事だろう。

 

 1時間後全ての用意を終え、我等空軍を連れてアラン様は敵の国境線の要塞に向かった。

 要塞手前500メートルの処で、全員滞空状態になり、アラン様は拡声器と立体プロジェクターを起動させ、敵アロイス王国軍に向け勧告を行った。

 「要塞に立て籠もる、アロイス王国軍に勧告する。

 速やかに要塞を立ち退き投降せよ!

 投降出来ないというのであれば、一刻も早く要塞から最低でも1キロメートル離れ、耳を塞ぐ事を勧める。

 今より5分後に発動する魔法は、戦術級魔法『メテオ・ストライク』。

 天空より隕石を落下させる召喚魔法であり、その威力は如何に堅固な防御魔法を展開しても無駄な魔法だ、賢明な判断をアロイス王国軍上層部が下される事を切に願う。」

 と要塞にいる、アロイス王国軍に呼びかけられた。

 それに対して、

 「我等を謀り、この要塞を無償で手に入れたいのであろうが、無駄な事だ!

 此処に居る者達は、アロイス王国国王ロートリゲン・アゴスティーニに無二の忠誠を誓う、誇り高き者達だ、援軍が来次第お前達なぞ滅ぼしてやるから、精々吠えているが良いわ!」

 と敵も拡声器で返答した。

 敵上層部はともかく、付き合わされる兵士を哀れに思い、心の中で黙祷し空軍は要塞から2キロメートル程距離をとる。

 5分後、天空から灼熱の炎を纏った星の欠片が、要塞目掛け落ちて来た。

 徐々に落ちてくる星の欠片を見て、偉そうに吠えた敵の指揮官は、最後に何を思ったのかな?

 と耳を塞ぎながら埒も無い事を考えていたら、凄まじい衝撃波が我等空軍に襲いかかった!

 予め距離を取り、防御魔法を展開していたから問題なかったが、要塞は半壊していた。

 多くの敵が衝撃波で吹き飛ばされ、5体無事の者も鼓膜は破られ突っ伏した状態だ。

 敵の指導部に生き残りは居らず、我等空軍は倒れている敵軍を次々に拘束し、ロープで数珠繋ぎにして行く。

 アロイス王国軍の中で徐々に意識を回復する者が増え始め、殆どの者が茫然自失している。

 そんな中、ベルタ王国の国境守備軍1万が到着し作戦通り接収作業に移った。

 どうやら、アロイス王国軍は5千人が犠牲になり残り3万5千を戦争捕虜に出来た様だ。

 特に戦争捕虜達は、抵抗の意志は示さずにただ項垂れる様に地面に座っている、余程戦術級魔法『メテオ・ストライク』はショックだったのだろうと想像出来た。

 自分がもし敵側で、あの様な神の如き魔法を使用されたら、とてもでは無いが敵対する意志を保てないだろう、本当にアラン様が味方で有ることの有り難さを染み染みと感じた。

 



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54. 7月の日記②(2年目)

7月3日

 

 戦争捕虜達の怪我をヒールで治して臨時の捕虜収容所を設営し、雨風を防げる様に手配した。

 国境線上の砦に備蓄されていた補給品や食料の備蓄を確認し、十分当面の兵站としては賄える事を確認すると、ベルタ王国に待機していた『漆黒』とその配下の宣伝部隊を、アロイス王国各所に送り込み、徹底的な宣伝工作をさせる。

 内容は、

 

 「現アロイス王国に住まう全ての者に告げる!

 私は、旧スターヴェーク王国王女『クレリア・スターヴァイン』である!

 現在私は、元セシリオ王国からアロイス王国先遣部隊を駆逐し、元ルドヴィーク辺境伯領を目指している。

 目的は、不当にも旧スターヴェーク王国を簒奪し、旧スターヴェーク王国国民に対して塗炭の苦しみを背負わせる、アロイス王国を名乗る逆徒を旧スターヴェーク王国から追い払う為である!

 此れは、西方教会全面支持の行動であり、西方教会圏全ての国家が支持し物資及び資金の援助を表明している。

 更に、ベルタ王国と元セシリオ王国で現総帥府は軍隊を派遣し、此れより復活する新生スターヴェーク王国への全面支持を表明された。

  心ある者は、元ルドヴィーク辺境伯領に参集する事を望む。」

 

 という、我等旧スターヴェーク王国国民の希求する宣伝文である。

 「いよいよ此処まで来たか・・・」

 自分の心に今迄の様々な場面が、走馬灯の様に去来した。

 自分は宣伝部隊を現アロイス王国の要所に届けながら、上から見る故郷の風景に必ずこの国土を新生スターヴェーク王国として、復活させて見せると決意した。

 

 7月10日

 

 デコトレのピストン輸送が終わり、戦争捕虜4万3千をベルタ王国王都に送り、代わりに要塞に運び入れたのは10万の兵士が1年は戦える物資だ。

 此処を中継基地として、先ずは元ルドヴィーク辺境伯領に拠点を移す事にする。

 現在、元セシリオ王国から発した総帥府軍とベルタ王国と総帥軍の混成軍は、アロイス王国側の国境線の要衝を、移動式魔導砲の集中運用で城門を粉砕し、全てのアロイス王国側の国境線の砦等を接収し其処の守備を総帥府軍の国境守備軍に任せ、一路元ルドヴィーク辺境伯領へ南下している。

 クレリア姫様始め旧スターヴェーク王国出身者は、長い者は2年振りの故郷の地だ、様々な思いを抱かれているに違いない。

 

 7月11日

 

 『ホシ』と『ジョナサン』を先頭にして、計200台のデコトレが元ルドヴィーク辺境伯領に続く主要街道を爆走する。

 その上空をグローリア殿と我等空軍が、護衛しながら飛行する。

 アロイス王国側は、不思議な程此方を牽制する様な素振りを見せない。

 我々空軍の偵察でも、アロイス王国は王都に北部と東部の軍を呼び寄せており、まるで国土の北部と東部は捨てたかの様だ。

 作戦会議の席でも議題に上がったが、恐らくアロイス王国側は元々旧スターヴェーク王国への忠誠の篤い北部と東部はアロイス王国への馴致が思う様に行かず、已む無く手放したのであろう。

 それが証拠に続々と、旧スターヴェーク王国の貴族とその領民兵、そして北部と東部から義勇兵が集まって来て、我等の軍と合流し一路元ルドヴィーク辺境伯領を目指す。

 

 7月15日

 

 とうとう、元ルドヴィーク辺境伯領に辿り着いた!

 懐かしの故郷であるが、城郭は壊れたままだし、家屋や道路は一切整備されていない。

 まるで廃墟の様で、元の賑やかな様子が嘘の様である。

 一足早く入城された混成軍の方々と合流して臨時の会議を開き、直ぐに城郭及び道路の整備をして籠城戦でも戦える様にすると決定され、アラン様とクレリア姫様の命令の元、各軍は工事に取り掛かる。

 粗方の廃材やゴミの撤去を終えると、旧スターヴェーク王国の上層部とアラン様達は、残っていた人民が保存してくれていた、『ルドヴィーク辺境伯』と『アルセニー男爵』そして『ダヴィード伯爵』の遺髪を受け取り、後日懇ろに弔う事にした。

 クレリア姫様は、

 「伯父上、約束通り帰って参りましたぞ!

 このクレリア、必ず伯父上や我が家族の仇である、アロイス王国を討滅して見せます。

 そして、スターヴェーク王国を復活させた後、もう一つの約束であるルドヴィーク家の後継者を、此処に居るアランとの間にスターヴァイン家の後継者の次に、必ず産んで見せます!」

 とルドヴィーク辺境伯の遺髪を胸に抱き、魔力を込めて『女神ルミナス』に誓う。

 『女神ルミナス』が誓いが受け入れられた証として体が光った。

 その様子を後ろに控えていた、アラン様と旧スターヴェーク王国の上層部更に合流した旧スターヴェーク王国の貴族達はご覧になり、改めて国土の回復とスターヴェーク王国を復活させる事を『女神ルミナス』に全員が誓った。

 

 7月16日

 

 早朝、同僚のミーシャを連れて元の家の有った場所に向かった。

 その場所は家屋が全て燃やされ、ただの空き地と化していて、思い出の痕跡も無い様だ。

 思わず拳に力が入り、地面に拳を叩きつけた。

 「ゴッ!」

 という音と共に地面が陥没」する。

 知らず知らずの内に魔力を込めていたらしい。

 「大丈夫?」

 とミーシャに心配されたが、拳は魔力を纏っていた為に傷一つ無い。

 「この様子だと、君の故郷であるダヴィード伯爵領も酷い有様な気がするな。」

 とミーシャに言うと、

 「心配要らないわ。

 貴方の家族と一緒でコリント領に全員移住出来ているから、あくまでも元の故郷は故郷でしか無く、今はコリント領こそが私達の家よ。」

 と答えてくれた。

 ミーシャの言葉に、その通りだと思い返すが、アロイス王国には当然そのツケを支払って貰おう。

 



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55. 7月の日記③(2年目)

 7月20日

 

 新生スターヴェーク王国の拠点として、急速に元ルドヴィーク辺境伯の城は整備され、外縁部まで土魔法を徹底的に使う事で広大な駐屯地を抱え込む土壁を構築した。

 更に、持ってきた魔導砲計20門を城門と土壁上に配備し、バズーカ砲も200砲用意している。

 此れで、長い籠城戦でも戦い抜ける戦う城が出来上がった。

 現在、続々と旧スターヴェーク王国の貴族だった方々と、兵士だった人民が参集して来ている。

 ベルタ王国内乱時にミツルギ殿が使用していたアーティファクト『テンプテーション』を、魔法ギルドのカーラさんが解析し、その能力の一部である人を催眠状態にして本音を聞き出すと云う魔道具が開発され、僅か5分間しか効き目の無い簡易版で有るが、其れを使用して新たに合流して来た面々を検査した。

 すると、貴族の10分の1と兵士の100分の1にスパイが紛れ混んでいて、逆にそのスパイからアロイス王国の指令内容を聞き出す事に成功し、『漆黒』の上げて来る情報と照らし合わせ、アロイス王国が次に何を企図しているかを、大まかに把握出来た。

 アロイス王国側は、此れまで隠し徹してきた我々との戦争に於ける惨敗と、敵方にクレリア姫様が存在する事、そして西方教会がアロイス王国を非難し、周辺諸国もクレリア姫様を支持している事実をバラされた所為で、士気がかなり落ち込んでおり、中々元ルドヴィーク辺境伯の城に攻め寄せられない様だ。

 其処で、アロイス王国国王ロートリゲン・アゴスティーニは、後ろ盾であるアラム聖国に援軍を要請した。

 直ちに、アラム聖国は義によってアロイス王国を支援すると表明し、聖徒を主軸とした30万の義勇軍を海路と陸路で派遣するそうだ。

 流石公称100万の軍勢を持つとされるアラム聖国だが、今迄の工作員を派遣したり、アーティファクトや魔道具を使った裏工作等の姑息な手段をひたすらして来た経緯を考えると、方針転換せざるを得ない何事かがあったのだろうか?

 何れにせよ、近い内にアロイス王国10万とアラム聖国の義勇軍30万の計40万の大軍勢と、この改修の終わった新生ルドヴィーク城は戦端を開く事になる。

 

 7月25日

 

 ノリアン卿、 アウラー卿、イルクナー卿他多数の貴族が家臣と旗下の兵士を連れて、『漆黒』の案内で王都を脱出したとの報告が有り、空軍(大人ワイバーン10頭)と機動軍(1000)が出動し護衛する事になった。

 クレリア姫様付き親衛隊のエルナ隊長とデリー隊員、ニルス隊員他が其々の家長を助ける為、機動軍の装甲車に便乗させて貰い、共に出撃した。

 いち早く空軍は、脱出して来た1万の軍勢と合流したが、その後方には砂塵を巻き上げながら追っ手が迫っていた。

 脱出して来た軍勢を新生ルドヴィーク城へ向かわせ、空軍は追っ手を牽制する為、軍団魔法『ソニックインパルス』の体勢に入った。

 次の瞬間、

 「「「バババッーン!!!」」」

 という猛烈な音と共に、

 「「「キキキッーン!」」」

 という硬質な音が、ワイバーン達のオリハルコン外装の表面から響き渡る。

 オリハルコン外装の表面を見ると、薄っすらと何か硬い物が当たった跡が有る。

 此れは、ワイバーン達のオリハルコン外装だからこそ良かったが、竜騎士の軽装では当たり所が悪いと怪我を負うかも知れない。

 急遽、軍団魔法『ソニックインパルス』を取り止め、追っ手の前面に『アース・ウオール(土壁)』を交互に展開し、徹底的に追っ手の足を鈍らせる事にした。

 それにしても、あの猛烈な音と共に発射された物は何だったのか、非常に気になった。

 

 7月27日

 

 機動軍が前方に現れ、脱出して来た1万の軍勢と合流し、我々空軍も合流地点で休息して、魔石の交換作業に入る。

 この2日間でノリアン卿達に確認した処、あの猛烈な音を出す兵器は『銃』と云って、原理は教えて貰えなかったが、魔法に基づかない火薬と言われる物を使用し、金属片を飛ばす代物だそうだ。

 弓矢やボウガンよりも遠くの標的を狙う事が出来て、魔法に基づかないからマジックシールド系の魔法防御は、意味を為さないそうだ。

 どうもこの『銃』は、アラム聖国が供与した物らしく、相当数アロイス王国に入って来ているらしい。

 『銃』の報告を、機動軍を率いて来たシャロン副団長に伝えると、、

 「厄介な物を・・・・」

 と苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべ、アラン様へ通信機で連絡を取られた。

 アラン様から通信機越しに、

 「直ちに空軍は帰投し、機動軍は脱出して来た1万の軍勢の殿を務め、無事に新生ルドヴィーク城に届けよ!」

 と命令された。

 命令に従い、空軍は新生ルドヴィーク城に帰投し、自分とミーシャはそのまま上層部の集まる作戦会議室に通された。

 作戦会議室では、自分がこの2日間で撮影した動画から、ハリー率いる『放送局』の画像解析版が、『銃』の画像を抽出し、大凡の外観を抜き出しモニターに映し出している。

 アラン様に求められ、相対した自分の感想と実体験に基づく大凡の射程距離と命中率を述べた。

 皆、今まで見たことも無い兵器の登場に緊張した様子で、アラン様はシャロン副団長と同じく苦虫を噛み潰した様な表情をされている。

 アラン様は、

 「見てのとおりだ、敵アロイス王国はアラム聖国から供与された、新兵器で武装している。

 この新兵器は、魔法に基づかないからマジックシールド系の魔法防御は、意味を為さない。

 よって、今以上に城壁や土壁は厚くしなければならない、更に火薬そのものを城内に入れられない様にする為、城壁や土壁の高さも上げる様にせよ。」

 と命令された。

 「「「ハッ!」」」

 と皆が持ち場に向かい、自分はハリーの後片付けの手伝いをしていると、アラン様の独り言が傍を通る時に聞こえた。

 「アラム聖国は、地獄の釜の蓋を開けたか。」

 という内容で、自分も実際相対した時に感じた、何とも不吉な予感を肯定された様で、不安になった。

 



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56. 8月の日記①(2年目)

8月1日

 

 昨日アラン様の命令で、大人ワイバーン15頭とグローリア殿で元セシリオ王国の『総帥府』に向かい、一泊して本日『ヒルダ嬢』と『フェンリル』そして精鋭の『氷雪魔術師団』30名を乗せて、新生ルドヴィーク城に帰投した。

 早速、連れてきた面々を作戦会議室に連れて行くと、アラン様とクレリア姫様が出迎えられた。

 アラン様が、

 「『氷雪魔術師団』の方々と『フェンリル』殿には、遠距離の移動大変ご苦労だった。

 さて、諸君等に来て頂いたのは他でもない、貴方方の御力で我軍を助けて欲しいからだ。

 先ずは此れを見て欲しい(モニターに『銃』とアラム聖国から搬送されつつある『大砲』、『野砲』を表示させ)、この新兵器は火薬という爆発物を使用する事で、金属球や爆発物を遠距離に飛ばし、兵士や城壁に損害を与える事を目的とした兵器だ。

 此れ等は、魔法に基づかないからマジックシールド系の魔法防御は、意味を為さない。

 然も、魔法に基づかないが故に、魔法を使用出来ない兵士でも使用出来、大量に運用されれば莫大な損失を被る事になる。

 しかし、同時に欠点も存在し、物理的な燃焼爆発力を利用する為、その燃焼爆発そのものを起こさせなければ、この兵器群は活用出来ない。

 よって、諸君等の『氷雪魔術』でこの兵器群を活用出来なくする切り札としたい。

 正直、貴方方にはあまり軍事行動に突き合わせる気は無かった。

 だから、『総帥府軍』には組み込まなかったし、第1席次と第2席次の両名には、元セシリオ王国に新しく作った『学校』の校長先生と教頭先生に就任して頂いた。

 このまま『氷雪魔術師団』の方々には、新しく生まれ変わった国で魔法を教える教員として、頑張って頂きたかったのだ、しかし、この兵器群を野放しにして置くと誰でも簡単に人を殺す事が出来る上に、狂人が持つといともたやすく行われる大量虐殺の要因になる。

 魔法ならば、対抗魔法防御や魔力の抑制によって一般人の安全も図れるが、この兵器群には殆ど一般人には対抗策が無い。

 諸君にお願いする、此の兵器群が戦争には有用では無い事を示す為に、全力を尽くして貰いたい。」

 と頭を下げられお願いされた。

 ヒルダ嬢は、

 「どうぞ、アラン総帥頭をお上げ下さい。

 我々『氷雪魔術師団』は貴方様に返せない程の恩義が御座いますし、貴方が治めてくれたお陰で元セシリオ王国が新しくそして力強く復興している姿に、とても感謝しております。

 我々が将来の国の為に魔法を教える教員として働く事は、大変有意義で有り心踊る話しです。

 ですが、未だこの様に周辺各国に対して野望を抱く、アロイス王国とアラム聖国が存在している以上、我等『氷雪魔術師団』だけが、安穏としている訳には参りません。

 どうかアラン総帥、我等『氷雪魔術師団』にご命令下さい、我等の力で以ってこの戦争を勝利に導く様にと!」

 と返答され、『氷雪魔術師団』共々片膝を着き命令を待つ体勢になった。

 アラン様は、

 「ありがとう、大変感謝する!

 それでは、『氷雪魔術師団』に命令する、この新生ルドヴィーク城にて籠城戦に備え準備を整え、当面敵の猛攻を防ぐ手伝いをし、反撃の時に各々の最大魔力を統合し敵に戦術級魔法『コキュートス』を展開せよ!」

 と命令され、

 「「「ハッ、命令受諾致しました!」」」

 ヒルダ嬢以下氷雪魔術師団は片膝を着いたまま命令を受諾した。

 

 8月5日

 

 此の日、王都からアロイス王国とアラム聖国の連合軍が、此処新生ルドヴィーク城に進発した。

 その合計兵力は30万人、アロイス王国5万、アラム聖国25万という内訳で、王都に10万が残る様だ。

 我等空軍の偵察隊は、『銃』の射程距離では届かない上空から、望遠用の魔道具でつぶさに偵察する。

 アロイス王国は、重装な装甲の騎馬と歩兵を主軸にしており、軽装な兵士もタワーシールドを背中に背負ってる事から、かなり防御主体な軍である。

 それに比べるとアラム聖国は、かなり軽装である。

 東方教会で『聖徒』と呼ばれる存在で、西方教会の『教徒』と響きは似ているが、まるで別種の存在の様だ、先ず全員が白い仮面をしていて、白い修道服の様な服を着ている。

 そして肩には例の『銃』を装備していて、腰には剣を差している。

 殆ど全ての聖徒が同じ格好で、個人の区別が外見からは全くつかない。

 そして双方の軍の真ん中辺りに、大きな魔道具が馬に引かれている。

 恐らく此れが『漆黒』の情報に有った、魔法防御シールド発生魔道具だろう。

 かなり大きく、高さ2メートル横3メートルの円筒形で、数は30基有り1基で1万人を其々包み込めるのだろう。

 軍の後方には、アラン様が『大砲』、『野砲』と呼んでいた金属の塊が約500砲存在していた。

 更に後方には、大量の補給品と食料を運ぶ輜重隊が延々と続いている。

 かなりゆっくりとした行軍だが、魔法防御シールド発生魔道具や大砲の想定される重量は、相当な物なので仕方がないのだろう。

 

 8月10日

 

 此の日の朝、新生ルドヴィーク城の目の前にアロイス王国とアラム聖国の連合軍が現れ、そのまま攻城陣地設営を開始した。

 此の日迄に、幾度か機動軍と空軍は牽制の為出撃し、魔法攻撃を其々の軍に加えたのだが、例の魔法防御シールド発生魔道具は、行軍中にも発動出来る様で魔法を尽く防いで見せた。

 だが、逆にワイバーンに持たせて落としたただの岩は、魔法防御シールドをアッサリと貫通していたので、その辺に攻略の決め手が有りそうだ。

 攻城戦の割に従来の、破城槌やカタパルト他にもバリスタや井闌車等は見当たらず、代わりに『大砲』と『野砲』用の土台を工兵と覚しき者達が一心不乱に作っている。

 その500門に及ぶ砲列は、籠城側としてはひたすら不気味に映る。

 午前中を攻城陣地設営に費やし、アロイス王国とアラム聖国の連合軍の指揮官と思われる人物が拡声魔道具を使い、籠城側に向い呼びかけて来た。

 

 「籠城する逆徒に告げる!

 我は、お前達逆徒を征討する為に来たアロイス王国軍務大臣ロイスである!

 即刻、城を明け渡し首謀者達を引き渡せ、そうすればその他の者共には、穏便な措置を取る様に、ロートリゲン陛下に口添えしてやっても良い。

 見ての通り、城は既にアロイス王国とアラム聖国の計50万の連合軍によって、十重二十重に取り囲んでおり更に最先端の兵器がお前達を狙っている。

 もう勝負は着いておる、愚かな考えは捨て我等の軍門に下るが良い!」

 と型通りの口上を偉そうに喋った。

 

 それに対しクレリア姫様は、巨大な立体プロジェクターを城の上空に映し出され返答した。

 

 「我こそは、正統なるこの国の後継者!

 スターヴェーク王国王女『クレリア・スターヴァイン』である!

 軍務大臣ロイス!

 よくも逆徒なぞと我等を称してくれたな!

 お前達こそ逆徒と称されるに相応しい悪逆の徒よ!

 そもそもお主こそが、スターヴェーク王国の軍務大臣であったのに謀反を企て、ロートリゲン・アゴスティーニ侯爵を奉り上げて国王にし、自らが権力を得た極悪非道の徒である!

 天地人此れを許さず、『女神ルミナス』の照覧されるこの戦場で討ち取ってやるから、首を洗って待って居るが良い!」

 

 と気持ちの良い啖呵を切られた。

 その啖呵に怒ったのか、ロイスは、

 

 「良くぞ吠えた、亡国の愚かな姫よ!

 貴様には、163年に及ぶアロイス王国のスターヴェーク王国への忍従と苦難の歴史を、罪科として拷問してやるから覚悟せよ!」

 

 と激昂した声で返して来た。

 

 そしてその言葉が終わり数秒後に、割れんばかりの銃声と砲音が戦場を支配した。

 此れが、ルドヴィーク城籠城戦の最初の砲火であった。

 



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57. 8月の日記②(2年目)

 8月15日

 

 これ迄の5日間、ほぼ同じ内容の籠城戦が繰り広げられていた。

 朝食の炊煙が早朝に上がり、それが終わると朝一番の号砲と共に、アロイス王国とアラム聖国の連合軍側から大砲と野砲の一斉砲火が始まり、散発的に銃声が上がり城壁上の兵士を狙う、そして夕暮れと共に砲火と銃声が静まり、そのまま夕食の炊煙が上がり篝火を煌々と焚いて交代で休むという、まるでルーチンワークの様な繰り返しだ。

 アロイス王国とアラム聖国の連合軍は夜襲を警戒しいるが、我等はアラン様と数人が探知魔法を使えるので、極度の警戒はしていない。

 夜、作戦会議室で明日の戦闘行動の練り直しが行われた。

 ほぼ予定通り、アロイス王国とアラム聖国の連合軍は大砲と野砲そして銃で城攻めをしてくれ、城壁はその都度覆っている土魔法による土壁を壊されるが、すぐさま土魔法を掛け直し元に戻す事で損害は無い。

 しかし、此方が牽制の空軍による落石攻撃や投石機の攻撃等の、昔ながらの攻撃以外の魔法攻撃は、魔法防御シールド発生魔道具で完璧に防がれている。

 一種の膠着状態だが、此れは想定通りなので我等に驚きは無いが、アロイス王国とアラム聖国の連合軍側はこんなにバカスカ攻撃して置いて、弾薬や砲弾は尽きないか不安では無いのだろうか、『漆黒』の情報からそんなに備蓄している補給品は無い筈なのだが、まさか王都との補給線を我等が襲わないとでも思っているのか?或いは、補給線を絶対に断たれないという保証があるのか?会議でも其処に疑問が出て、其れへの対処作戦を幾つか考案された。

 そして明日の大攻勢に向けての最後の確認が行われ、何時もの戦闘時に装備する倍の魔石ケースを、其々予備として持ち、長時間の戦闘に備えた。

 

 8月16日

 

 朝、これ迄と同じく大砲と野砲の一斉砲火が始まったが、敢えて城壁が壊れても土魔法で直さないでいると、アロイス王国とアラム聖国の連合軍側も何時もと違う事に気づいたのか、様子を見ていたが、チャンスと考えたらしく城壁の壊れた箇所に集中攻撃を仕掛け始めた。

 そして城壁の一部が完全に崩れ去り、城内が見えて来たタイミングで、アロイス王国とアラム聖国の連合軍は砲撃陣地から兵士を出し、崩れた城壁に向かわせ始めた。

 そのタイミングで、城の戦闘指揮をアラン様から委任されたクレリア姫様が、命令を発した。

 

 「第1段階、『ヴァルキリー・ジャベリン』全カタパルトで投擲せよ!」

 

 次の瞬間、カタパルトに装填されていた、『ヴァルキリー・ジャベリン』が次々と魔法防御シールド発生魔道具を目掛け投擲された。

 

 『ヴァルキリー・ジャベリン』・・・・ドラゴンランスと同じく、魔法による障壁を貫く処置を施されており、その長さは5メートルに及ぶ。ドラゴンランスと違う点は封入されたサンダーの魔法が常時、貫いた対象に流され続けるという点だ。

 

 魔法防御シールド発生魔道具は、全力で魔法防御シールドを張っていた様だが、凄まじい勢いで投擲された『ヴァルキリー・ジャベリン』は、簡単に魔法防御シールドを貫き壊していく。

 最後の魔法防御シールド発生魔道具が壊れた段階で、クレリア姫様は次の命令を発した。

 

 「第2段階、戦術級魔法『コキュートス』全力展開!」

 

 満を持して、『ヒルダ嬢』と精鋭の『氷雪魔術師団』30名が無事な城壁に立ち、『フェンリル』とその周囲に設置した魔導砲に魔導線を通して、氷雪魔法に特化した魔法力を届け続ける。

 十分に充填出来たと判断した『フェンリル』は、新生ルドヴィーク城の一番高い所に設営した舞台に飛び上がり、

 「ウオオオオオオーン!!!」

 と吠えた。

 そのタイミングに魔導砲から、アロイス王国とアラム聖国の連合軍の上空にの一点に、氷雪魔法力そのものを発射した。

 そして『ヒルダ嬢』が集中して『フェンリル』と共に唱えた。

 「「戦術級魔法『コキュートス』発動!!」」

 すると、アロイス王国とアラム聖国の連合軍全体を覆うように暗灰色の雲が広がり、凍えるブリザードが全てを包み込む様に吹き荒び始め、あっという間にアロイス王国とアラム聖国の連合軍は、吹き荒ぶブリザードで白く覆われた。

 

 戦術級魔法『コキュートス』・・・・本来の冷却魔法『アイス・クラウド』は敵1部隊を、ブリザードを伴う雲で覆い、行動不能に陥らせる魔法だが、魔導砲で氷雪魔法力を極大化し『フェンリル』と『ヒルダ嬢』が範囲指定し、軍団単位で行動不能に陥らせる事が可能だが、今回は銃や大砲等の爆発燃焼が必要な兵器の無力化を主眼にし、範囲を極大化し全軍の爆発燃焼兵器を使用不能にした。

 

 

 散発的に上がっていた、銃声と砲火が完全に止んだと見たクレリア姫様は最後の命令を発した。

 

 「第3段階、全門開放!

 『第一軍・第二軍・機動軍』は全力機動戦にて、敵の砲撃陣地を殲滅!

 そして『総帥府軍』は破壊された城壁前に展開し、防御戦に移行、『義勇軍』は城壁上からバズーカ砲で『総帥府軍』を援護せよ」

 

 と号令され、全軍が、

 

 「「「「「オオオオオオーーーー!!!」」」」」

 

 と応じる怒号を発し、行動を開始した。

 

 一つはセリーナ団長が率いる機動軍半分と後続は第一軍で、北門から軍団魔法『イフリート』で、寒さ対策をして、迂回機動し砲撃陣地を破壊して行く。

 もう一つはシャロン副団長が率いる機動軍半分と後続は第二軍で、南門から軍団魔法『イフリート』で、寒さ対策をして部隊に別れ、壊れた魔法防御シールド発生魔道具を接収し敵退却路を断つべく行軍する。

 其々が、高度に連携された行軍をしながら、アロイス王国とアラム聖国の連合軍を蹂躙して行く。

 如何に気温が致死しないレベルに抑え、兵器のみを使えない様にしたとは云え、極低気温に敵軍が晒されたのは事実で有り、特に重武装だったアロイス王国軍は冷却された、金属製の武具が肌に張り付き、凍傷を負う兵士が続出し、まともに戦える兵士は殆ど居ない。

 そんな中、アラム聖国軍は軽装で有ったが為、防具の所為で行動不能にはなっていないが、何故か型通りの動きしかせず、まるで寒さを感じていないかの様だ。

 防御戦をしている『総帥府軍』は、これまで使用出来なかった恨みを晴らすかの様に、敵に対し遠慮なく遠距離から魔法攻撃をし、敵は接近する事すら出来なく盾でひたすら防御していたが、城壁上からバズーカ砲の強力な魔法攻撃を受け、盾を破壊される事になり早々に退却し始め、その背中に向かってエアバレット等の足止めに向いた魔法が放たれ、次々と拘束し戦争捕虜として捕らえて行く。

 どうやら、この時点で地上でのルドヴィーク城籠城戦は決着した。

 そして其の頃、我等空軍とアラン様の乗るグローリア殿は、今迄で最強の敵と凄まじい戦いを繰り広げていた。

  



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58. 8月の日記③(2年目)

8月16日(中編)

 

 敵の補給路を遮断して同時に、退却路も無くす為に我等空軍とアラン様の乗るグローリア殿は、ファーン侯爵率いるベルタ王国国軍3万を護衛しながら、王都に向かう主要道路の上空を飛行していた。

 このベルタ王国国軍3万は、戦争捕虜の護送と補給路の確保を行い、予め新生ルドヴィーク城に入らず迂回行軍して敵の補給路を遮断し、敵軍の継戦能力を奪う為に行軍していた。

 我等空軍は、その護衛と不審な敵の意図を探る為、王都への偵察も兼ねて共に行軍して来た。

 丁度、新生ルドヴィーク城と王都との中間地点の辺りで、アラン様が全軍に命令を発した。

 「全軍行軍停止!

 王都から来た大規模な補給部隊と、その護衛と見られる軍団が此処から10キロメートル先まで行軍してきた。

 凡そ、合わせて5万に上る軍勢だ。

 そして、其れとは別に超高空に巨大な存在が、アラム聖国の方向からやって来つつ有る。

 その大きさとスピードから、この存在に対して対応出来るのは、グローリアと空軍の大人のワイバーンだけと考えられる。

 残りの空軍とベルタ王国国軍は、補給部隊とその護衛と見られる軍団合わせて5万を、この主要道路で陣を張り迎え撃ってくれ、それでは全軍行動開始!」

 その命令に従い、其々が行動を開始し、ファーン侯爵率いるベルタ王国国軍3万は、カイン殿のドリルバイクを先頭に続いて重装騎兵隊が並び魚鱗の陣を構築し、その上空にはベックとトール達8人の隊長が横に広く子供ワイバーン部隊を展開させた。

 その様子を確認した後、グローリア殿と我等空軍は3000メートル級の山脈を越えて来る巨大な存在に対処するべく、全員が地上軍が展開する軍団魔法『オーディン』を其々展開し、大空を上昇して行った。

 遠い空に、かなりの速度でやって来る存在が徐々に見え始め、望遠の魔道具で確認すると、全長約50メートルの大きさの首を2つ持つ灰色の巨大なドラゴンが飛んで来るのが確認された。

 アラン様が、

 「まさかとは思っていたが、姿から確認出来た。

 奴の名は『双頭の暴虐竜ザッハーク』、その昔大陸の中央に有った大国を支配し、周辺各国を荒らし回り暴虐の限りを尽くした存在だ。

 西方教会には、奴の姿と能力に関する文献が残っており、奴が暴れた所為でドラゴンと人間の相互交流が失われ、現在に至る経緯も記されていた。」

 と説明してくれた。

 グローリア殿が、

 「それじゃあ、あいつのせいでドラゴンと人間は、仲が悪くなっちゃたんですか?」

 と尋ねられ、アラン様は、

 「そうだ。

 だがそのあまりの暴虐に、他のドラゴンと人間は共に立ち上がり、ドラゴン50頭と人間50万人の犠牲を払い、奴は倒された筈なのだ。

 しかし、如何なる手段かは判らないが奴は復活し、アラム聖国の走狗として我等に向かって来ている。

 戦うしか無い!

 グローリア及び空軍は全力戦闘用意!

 今迄の様な手加減をした攻撃は、一切不要だ!

 奴は、此の場で確実に殺さなければ、どの様な災厄をこの世に振り撒くか想像も出来ない!

 必ず殺すぞ!」

 と凄まじい闘気を込められた命令が下された!

 我等は今迄戦争の際、敵であってもなるべく殺さない様に手加減をして来たが、この『双頭の暴虐竜ザッハーク』は、とてもでは無いが手加減など出来ず、其の様な事を考えていたら直ぐに死んでしまいそうだ。

 グローリア殿とワイバーン達は、その装備するオリハルコンの武装に、最大限の防御シールドを掛けて『双頭の暴虐竜ザッハーク』目掛け、空を遥かに掛けた。

 我等の存在に気づいたザッハークは、

 「グギャギャギャギャギャーーーー!!」

 と吠え、我等の居る高さまで高空から降りてきて、2つの首を大きく膨らませた。

 次の瞬間、ザッハークは広大な範囲に黒いブレスを吐きまくった。

 アラン様が、

 「アシッド(腐食)ブレスだ避けろ!」

 との指示を出されたので、全軍大きくブレスの届かない場所まで退避した。

 「各個に火球攻撃!」

 とのアラン様からの指示が飛び、全軍遠距離からの火球を連射しザッハークに撃ち込んだ!

 しかし、ザッハークに届く遥か手前で火球は掻き消す様に消滅した。

 やはり、防御手段を持っている様だ、あの様に巨大な体躯の為此方からしたら巨大な的の様な物だ、必ず以前の巨人の様に防御手段を講じていると想定していた。

 アラン様もそう考えていた様で、

 「軍団魔法『ファイアーサイクロン』を仕掛ける、グローリアの周りに集まれ!」

 と命令された。

 全軍集結し、グローリア殿が放つ『ファイアーブレス』に合わせアラン様が風魔法「トルネード」を融合させ更にワイバーンは『火球』、竜騎士は『エアーカッター』を其の周りに纏わせる事で威力を高め、ザッハーク目掛け攻撃した。

 ザッハークはそれに対して、灰色の全身から瘴気を吹き出し対抗する。

 軍団魔法『ファイアーサイクロン』は瘴気を焼き尽くす事には成功したが、やはりザッハークに届く手前で掻き消す様に消滅した。

 遠距離からの魔法では無理か、と我等全員が感じて接近戦を考えドラゴンランスを構え始めると、ザッハークは、上空に双頭を向け何やら吠え始めた。

 「まさか竜語魔法?!

 そんな・・・・今では、失伝しているのに!」

 とグローリア殿が驚かれている。

 そしてザッハークの上に巨大な魔法陣が展開された。

 その魔法陣が、光り輝くと魔法陣の中から次々と現れるものが有った。

 其れは軍隊での魔物の種類に関する講座で学んだ、『フライング・ワーム』という全長20メートルの蛇の様な長い胴体を持つワームの一種で、平べったい体の横に付いている小さな翼で方向を変え、体をくねらせながら飛ぶ魔物だ。

 その魔物が15匹召喚され、我々空軍と対峙した。

 アラン様は、

 「俺とグローリアがザッハークの相手をする、空軍はワームの相手をせよ!

 恐らく其奴らには魔法が効く、軍団魔法で以って殲滅してやれ!」

 と命令された。

 「ハッ!了解しました!」

 と返事をしながら、自分はアラン様が『俺』と自身を呼ばれた事で、アラン様が本気になられた事が判ったが、それと同時にそれ程アラン様とグローリア殿も余裕が無い事を悟り、一刻も早くこのフライング・ワームどもを倒し、アラン様の援護に入らなければならないと覚悟を決めた。

 



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59. 8月の日記④(2年目)

 8月16日(後編)

 

 早速我等空軍は、軍団魔法『ソニックインパルス』を発動し、フライング・ワームの群れを撹乱し分散させる事に成功し、続けて新軍団魔法『サンダークラッシャー』を発動した。

 

 新軍団魔法『サンダークラッシャー』・・・ケニー団長を先頭に各ワイバーンは、オリハルコンの武装を完全防御モードに変形させ、サンダーの魔法を装甲表面に纏わせ紡錘陣形で敵に突っ込む、フルダイブアタックで有る。

 

 『サンダークラッシャー』を大きな口を開けて迫るフライング・ワーム一体一体に、自分とガイを先頭に発動させた。

 フライング・ワーム共は次々と大きな口を切り裂かれ、サンダーを喰らう事で身体機能を麻痺させて行く。

 頃や良しと判断し、最後に新軍団魔法『ファイアートルネード』を展開した。

 

 新軍団魔法『ファイアートルネード』・・・循環魔法の1つで有る『アクセラレーション(加速)』をワイバーンと自分に発動させ、敵軍の周りを2倍速のスピードで旋回させる事で、敵軍を漏斗状の竜巻に巻き込む、そして完全に敵軍を巻き込んだら、敵の最下方に集結し一斉に最大火力のファイアーブレスとファイアーを漏斗の先端に放ち、敵軍を焼き尽くす。

 

 フライング・ワーム共は、新軍団魔法『サンダークラッシャー』を喰らう事で身体機能を麻痺させて居て、上手く動けないまま、竜巻に巻き込まれ次々と焼滅して行った。

 流石に全ての軍団魔法を最大限の魔法を行使して発動させたので、魔石ケースの魔力を全て使い尽くしたので、予備の魔石ケースに換装させてアラン様達に合流するべく、空軍はアラン様達の戦われている戦場へ向かった。

 かなり離れた、上空でアラン様とグローリア殿はザッハークと対峙していた。

 相当な激戦であったのだろう、グローリア殿のオリハルコン製の装甲は凹みまくり、かなり傷ついていた。

 脳裏に親父の言葉が思い出された。

 「このグローリア殿のオリハルコン製の装甲は、ワイバーン達の装甲と違い厚さで2倍、鍛えるのに3倍の折返しをしている。

 余程の敵じゃない限り、傷一つ付く訳ないぜ。」

 と親父は得意満面に豪語していたが、

 「居たぞ親父!余程の敵を上回る、尋常では無い強敵が!」

 と脳裏の親父に向かい話した。

 暫くして、ゆらりとグローリア殿が左に動き出し徐々に加速し始め、目にも留まらぬスピードで不規則に飛行し、ザッハークがグローリア殿を見失い動きを止めた瞬間、グローリア殿は完全防御体勢のままザッハークに連続で激突しまくった。

 「ドガガガガガッ!」

 という連続で硬いものが同じ硬いものにぶつかる硬質な音が鳴り響き、遂には、

 「ガシャーーン!」

 と云う何かが砕ける音が鳴り響いた。

 其の場に居た者は、とうとうザッハークの魔法防御が砕けた事が判ったが、其れを成したグローリア殿の装甲は、更に酷い有様になっていた。

 つまり、アラン様とグローリア殿はザッハークに魔法が効かない事から、自分達自身に循環魔法の1つで有る『アクセラレーション(加速)』を掛け、我等より上の3倍速でオリハルコン製の装甲の完全防御体勢になり、魔力を纏いながらザッハークにぶつかりまくる事で、ザッハークの防御用の魔道具に負荷を掛け続け、遂に壊す事に成功したという訳だ。

 ザッハークは怒り狂い、2つの口から異なったブレスを吐きまくった。

 1つは以前と同じ『アシッド(腐食)ブレス』だが、もう1つはライトの魔法を凝縮した光線の様なブレスで、その光線が当たった山肌は焼け焦げている。

 その様子を高空に逃れて我等は観察して、アラン様が、

 「戦ってみて判ったが、ザッハークは巨体であるが故に小回りが効か無い。

 しかし、それを補うように魔法防御だけでなく、物理的に尋常で無い防御力を備えている。

 よって今から俺は体表より弱いであろう体内目掛け、此の『グングニル』(グローリア専用の接近戦武器で先端にドリルバイクと同じアダマンタイトのドリルが装着、柄はオリハルコン製で同じオリハルコン製の鎖が巻きつけて有る)をザッハークの口から体まで貫き、『グングニル』に巻いてある鎖を通し最大火力の魔法を、ザッハークの体内で解き放つ、その際恐らく俺は魔力を使い尽くしてしまうだろう。

 空軍は、弱ったザッハークに最強の魔法で以ってトドメを刺せ!」

 と命令された。

 「ハッ!」

 と短く返答し、我々は散開しザッハークのブレスの射程外で周囲を取り囲んだ。

 アラン様とグローリア殿は、ザッハークの直上1キロメートルに移動し、凄まじい勢いで『グングニル』に魔力を充填し始めた。

 ザッハークは、その信じられない程の魔力に反応し、双頭の口から光線のブレスをアラン様達に吐いた。

 だが、アラン様達の前方に有る『グングニル』の先端のアダマンタイトのドリルは、飛んできた光線のブレスを簡単に吸収してしまった。

 驚き慌てたザッハークは、威力を高めた極太の光線を双頭の口から吐いたが、先程と全く同じ結果に終わる。

 明らかにザッハークは、アラン様達の尋常では無い魔力に怯み、逃げるかの様に双頭を上に上げたまま下降し始めた。

 「行くぞ!」

 とアラン様が闘志の塊の様な気合いの入った掛け声を上げた。

 次の瞬間、対巨人戦の時の様にグローリア殿とアラン様が、燦然と輝いた!

 その輝きと共に凄まじいスピードで、『グングニル』を構えたアラン様がグローリア殿と共に急降下して来た。

 ザッハークは、避けられないと覚悟したのか、此れまでで最大の光線を双頭の口から吐いた!

 『グングニル』はいともアッサリとその光線を弾き、ザッハークの双頭右の口目掛けアラン様が投擲された!

 見事に『グングニル』はザッハークの双頭右の口を貫き、体内深く潜り込んだ!

 そしてグローリア殿は、その勢いのままザッハークの双頭左の首に完全防御体勢の状態でフルダイブアタックを仕掛けた!

 「ドゴッ!」

 と云う鈍い音と共に、ザッハークの双頭左の首は一旦折れ曲がる様に傾げたが直ぐに持ち直し、首の根本に突っ込んだままのグローリア殿目掛け、光線を吐こうと息を吸い込んだ。

 「ザシュッ!」

 鋭く切り裂く音と共に、ザッハークの双頭左の首は遥か下の地面に落ちて行く。

 それを成したのは、グローリア殿の尾に施されたオリハルコン製の武装で名は『スライサー』、魔力を込めてグローリア殿が尾で対象を薙げば、殆ど抵抗無く切り裂く事が出来る隠し必殺武装だ。

 アラン様とグローリア殿は、鎖の届く最大距離に退かれ、あらん限りの魔力を『グングニル』に注ぎ込み、吠える様に魔法を唱えた!

 

 『グランド・クロス』!!!

 

 その瞬間、ザッハークを中心に眩い光で出来た十字架が出現し、辺りに白い光と衝撃波が広がった!

 

 『グランド・クロス』・・・・聖魔法に於ける奥義の1つで、十字架の形状で出現しイビル(悪)の属性を持つ存在に対し神の裁きを下す。

 

 ザッハークはそのまま地面に落下して行き、地面に横倒しになった。

 アラン様はザッハークから抜け出た『グングニル』を鎖で巻取り、ザッハークの様子を確かめる為に近づいて行った。

 暫く全員でザッハークの様子を窺うと、何とザッハークの失われた双頭が再び生えて来ようとしている。

 「やはり、蘇ろうとするのか。」

 とアラン様は呟かれ、

 「軍団魔法『サンダーストーム』ワイバーン・バージョン展開!!!」

 と号令を発した。

 ザッハークを中心に巨大なストーム(嵐)が展開され、そのストーム目掛け空軍全員のサンダーの魔法が放たれ、徐々に周囲が静電気を帯び始め準備が整った段階で、空軍全員で協力し天の裁き『インドラの矢』を最大魔力で放った!

 

 軍団魔法『サンダーストーム』ワイバーン・バージョン・・・『サンダーストーム』は本来はアラン様とグローリア殿を中心にして放つ軍団魔法だが、何らかの理由でアラン様とグローリア殿が参加出来ない場合に備え、訓練して来た空軍最強の軍団魔法。

 

 その瞬間世界が白く染め上げられ、続いて振動を伴った轟音が周囲一帯を包み込み、静寂が訪れる。

 

 静かな時が暫く続き、皆が辺りを確認すると地上に黒焦げに成ったザッハークが、ピクリとも動かずに立っていた。

 やがて、ボロボロとザッハークの翼から徐々に崩れ去り始め、ザッハークの全身は灰となって消えて行った。

 「終わった・・・・」

 誰かがそう呟き、皆、その声に反応したかの様に地面にへたり込んだ。

 見るとグローリア殿とワイバーン達も地面にうつ伏せになっていて、アラン様も仰向けになり「ハーッ」と大きく息を吸い込まれ疲れ切ったご様子だ。

 「クスクス」

 と小さく笑う声が聞こえ、隣を見るとミーシャが自分を見て笑っている。

 何だかその姿を見て、自分まで可笑しくなり笑いだした。

 すると空軍全員も次々と笑い出し、終いにはアラン様も仰向けのまま大笑いしている。

 そしてゆっくりと皆がアラン様の元にやって来て、アラン様も立ち上がり、

 「ヤッタゾー!」

 と拳を天に突き上げられ、自分始め皆も、

 「ウオオオーッ、ヤッター!」

 と歓声を上げながら拳を天に突き上げた。

 すると、グローリア殿とワイバーン達も天に向かい、

 「ガオオオーーーッ!!」

 と豪快に吠えている。

 そう、我々は、伝説の『双頭の暴虐竜ザッハーク』を誰一人失う事無く、倒す事に成功したのだ。

 



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60. 8月の日記⑤(2年目)

 8月17日

 

 昨日、『双頭の暴虐竜ザッハーク』との激闘で精も根も尽き果て、暫く全員自然回復を待つ間、通信機で各軍と連絡を取り合うと、概ね予定通りに事態は推移した様だ。

 他の軍団も作戦中怪我人は大勢出たが、その都度ヒールで回復し大過なく作戦は遂行され、目的は達成出来たそうだ。

 ベックとトールの2部隊に予備の魔石ケースを持ってきて貰い、漸くグローリア殿とワイバーン達は飛べる様になったので、新生ルドヴィーク城にゆっくりと飛んで帰り、待っていた上層部の方々との挨拶もそこそこにアラン様始め自分達空軍全員は、後事を上層部の方々に任せ其々の部屋で死んだように眠った。

 

 8月19日

 

 1日半の爆睡を終え、新生ルドヴィーク城大食堂で他の軍の連中と、其々の戦場での話題で盛り上がっていると、大食堂のモニターにアラン様が登場され、14時より隊長以上は大会議室にて作戦会議が行われる旨が通知され、急いで昼食を掻き込む様に食べて服装と報告書を整えて大会議室に向かった。

 大会議室に入ると、自分とミーシャは他の団長達から『双頭の暴虐竜ザッハーク』との激闘を労われた。

 何でも、ワイバーンとグローリア殿の装甲の肩の辺りに有るカメラで、『双頭の暴虐竜ザッハーク』との激闘が克明に撮影されていて、その動画は現在編集中ではあるが、隊長以上は既に断片的に視聴していてその伝説に残る凄まじい戦闘シーンに皆興奮を覚えたそうだ。

 確かに自分とミーシャにとっても、疲労困憊で動けなくなるまで戦ったのは、始めての事だったのであの戦闘レベルの戦いは正直二度と御免だ。

 大会議室にクレリア姫様とアラン様が入室され、軍人全員立ち上がり敬礼した。

 クレリア姫様が、

 「皆、先日の戦争では大変な激闘を戦い抜いてくれて、このクレリア大変感謝している、本当に有難う」

 と頭を下げられた。

 ダルシム団長が皆を代表し、

 「とんでもございません、どうかクレリア姫殿下頭をお上げ下さい、このアロイス王国との戦いは謂わば我等元スターヴェーク王国国民にとって、我等の愛するスターヴェーク王国を取り戻す聖戦、どのような苦闘であろうとも必ず戦い抜きます!」

 と応じ、自分達元スターヴェーク王国国民の軍人は、

 「「「その通りです!」」」

 と同意を言上した。

 すると、クレリア姫様は涙ぐまれながら、

 「皆の献身は、クレリア必ず報いてみせるので、これからも宜しく頼む。

 さて、今後の事だが現在は先の戦いで我軍は、大変な数の戦争捕虜を確保した為に後方である、ベルタ王国王都とコリント領にトレーラーのピストン輸送で送り出しており、この作業に暫くは忙殺されそうだ。

 ただ、この戦争捕虜の扱いはアロイス王国軍の捕虜に限り、アラム聖国軍はある特殊事情から未だ取り扱いは決まっていない。

 故に、アラム聖国軍の取り扱いが決まり次第、我軍は王都攻略戦に乗り出す。

 皆、色々と思う事は有るだろうが、王都攻略戦は避けて通れぬ道だ、必ず勝つぞ!」

 と檄を飛ばされた。

 「オオッ!」

 と全員が応じ、アラン様が、

 「それでは、今後の行動指針を説明する・・・・」

 と各軍の行動指針と其の為の準備を指示された。

 我等空軍は第一軍と共に、現在も王都とここ新生ルドヴィーク城の中間地点で、アロイス王国の補給部隊とその護衛部隊を蹴散らした後、王都に対して睨みを利かしている、ファーン侯爵率いるベルタ王国国軍3万と子供ワイバーン80頭と交代し、王都と周囲への偵察任務と牽制を行う事になった。

 

 8月25日

 

 今現在、我等『アロイス王国討伐軍』(義勇軍から全軍の名称を統一して欲しいと要請されて付けられた名称)は、元アラム聖国軍25万の兵士の行軍を監督している。

 どうして此の様な事態になっているかというと、其れはルドヴィーク城籠城戦直後に遡る。

 アラム聖国軍を戦闘不能にし、戦争捕虜用に用意していた広大な空き地で、武装解除している時にそれが発覚した。

 全員の仮面を剥がさせ、個別確認をしている兵士が3人目で気付いたそうだ。

 2人目の段階では、よく似た顔の兄弟で並んでいたなと思ったそうだが、3人目で目を疑い、周りに居た全員の仮面を剥がすと、全員が同じ顔をしている。

 直ぐに上官を呼び、多数の兵士で顔の確認をしていくと、何と5万人ずつ同じ顔で体つきまで一緒なのだ、然も戦争に負けて意気消沈して俯いていたと考えていたが、全員が全く同じ様に俯いたままで微動だにしないのは、あまりにも違和感があったらしい。

 アラム聖国に詳しい、ミツルギ殿と『漆黒』のカトウが状況の確認と対処にやってきて、顔が同じ事以外の大体の状況が判明した。

 以前のベルタ王国内乱の際、ミツルギ殿がアラム聖国に命令されて使用したアーティファクト『テンプテーション』を掛けられた、旧スターヴェーク王国国民とベルタ王国国境守備軍の症状と酷似していて、恐らくは類似したアーティファクトか、洗脳手段による物と推測出来た。

 なので、同じ方法で洗脳を解く事が出来るかも知れないと考えられたが、如何せんその方法では3週間の聖水が抜ける期間が必要であり、その間の食事や排泄も以前はアーティファクト『テンプテーション』で指示していた事を考えると、同じ効果を引き出すアーティファクトが有る筈と、戦場とアラム聖国兵士を詳しく探したが見つからず、代わりの方法として現在コリント領で研究の為に利用している『テンプテーション』を、元気になったグローリア殿にコリント領を往復して持ってきて貰い、アラン様がアラム聖国兵士に使用してみた処、ものの見事に命令を聞くようになった。

 という事で、アラン様とアラム聖国兵士は一緒に行動する必要が有り、当然アラン様は総帥として此の戦争の指揮を取らなければならないので、アラム聖国兵士はこのまま王都攻略戦に随伴する事になる、その為に実際どの程度の事が可能なのかテストしているのだが、アラム聖国兵士はアラン様の指示に怖いくらい従順に従う。

 まあ、盾は持たせても良いが、剣等の武装をさせなければ問題無いので、このまま王都攻略戦までは随伴させようと作戦会議でも決まり、明日王都に向けて進軍する事が決まった。

 



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61. 9月の日記①(2年目)

 9月1日

 

 我等『アロイス王国討伐軍』と元アラム聖国軍合わせて35万の軍勢は、王都の外周に到着し王都攻略の為の布陣を開始した。

 いよいよか、と自分の胸中にこれ迄の様々な出来事が去来し、その様々な場面が思い出される。

 国を追い出され失意の中、必死にクレリア姫様を仲間と探し回り、か細い手掛かりを得てゴタニアでクレリア姫様とアラン様達に出会えた。

 そしてクラン・シャイニングスターの一員としての楽しい日々、グローリア殿との出会いや王都での活躍、魔の大樹海に出来たコリント領での暮らし、相棒のガイとの出会いと訓練、空軍としての色々な任務、そして家族とのコリント領での再会、次々に起こる戦乱に空軍の隊長として従軍し激しい戦闘を行ってきた。

 そんな中でも新たな出会いで出来た仲間と、親友と呼べる友達、アラン様とクレリア姫様の尽力で発展して行くコリント領、そして宿敵アロイス王国との激闘。

 其の果てに、とうとう我等は、敵の首魁の居る王都まで辿り着いた。

 後もう少しで、反逆者ロートリゲン・アゴスティーニを討ち取れる。

 そう考えると、早く攻め入りたい思いで胸が一杯になった。

 暫くして布陣が完成し、十重二十重に王都を囲い込んだ。

 閉ざされた王都の城門に向かう形で、作戦指揮車の上でクレリア姫様とアラン様が並び、立体プロジェクターを上空に最大の大きさで映し出し、王都中に聞こえる大きさの音量に拡声しクレリア姫様が、王都民に呼びかけた。

 

 「王都民に告げる!

 我は元スターヴェーク王国第一王女にして、正統なスターヴァイン王家の後継者たる『クレリア・スターヴァイン』其の人である!

 我は不当にもスターヴェーク王国を簒奪し、スターヴェーク王国国民に塗炭の苦しみを与え、他国にも侵攻する事で他国の民にまで被害を与えた、アロイス王国国王を僭称するロートリゲン・アゴスティーニと元スターヴェーク王国軍務大臣ロイス、そしてそれに与する貴族達を討伐する為にやって来た。

 その際に王都民に被害が及ぶ事を我は憂いている。

 王都民に於いては、この王都攻略戦の間は外出せず、自宅に閉じ込もっていてもらいたい。

 それ程時間は掛からずに終わらせるから、我慢して欲しい!」

 

 と訴えられた。

 すると、閉ざされた王都の城門上に人が現れ、手に短杖(ワンド)を持って何やら吠えて来た。

 

 「何を偉そうに綺麗事を抜かす、薄汚い亡国の王女よ!

 お前達こそ、今から討伐してやるから覚悟する事だ!」

 

 と偉そうに言い放つ、貴族らしき姿をした人が喚いている。

 その姿を見て、クレリア姫様は、

 

 「おやっ、誰かと思えばスターヴェーク王国を裏切り、先のルドヴィーク城籠城戦で形勢不利と見たら、いち早く戦場から逃げ出した、元スターヴェーク王国軍務大臣ロイスではないか、どこに逃げたか?と思っていたが、王都に逃げ込んでいたのか、引導を渡してやる故其処で首を洗って待っておれ。」

 

 と見事に敵の煽りに対して煽り返された。

 そのクレリア姫様に対して、売国奴ロイスは嫌な笑みを浮かべほざいた。

 

 「全く愚かな亡国の王女だ、自分が敵に囲まれている事に気付いていないとは!」

 

 と態とらしく嘆いて見せ、手に持つ短杖を振るった。

 すると、城壁上で一斉に兵士が立ち上がった、どうやら格好から見て王都に残っていた、アラム聖国の兵士らしい。

 

 「さあ、敵方に使われているアラム聖国の兵士よ、我が命に従い周りに居る敵軍に攻撃を仕掛けよ!」

 

 と再び手に持つ短杖を振るい、王都を取り囲む様に布陣している元アラム聖国の兵士に命令した。

 しかし、元アラム聖国の兵士は微動だにしない。

 其れを見た売国奴ロイスは、先程までの傲慢な様子はどこかに消え、焦った顔をして手に持つ短杖を振るいまくり、

 

 「どうしたのだ聖徒どもよ?!

 この『支配のワンド』に従い、命令を受諾するんだ!」

 

 と気が狂った様に短杖を振り回したが、一向に元アラム聖国の兵士は動かない。

 諦めたのか、肩で息をしながら、城壁上に居るアラム聖国の兵士に、

 

 「仕方ない、F群の聖徒よ、その手に持つ『銃』で眼下にいる敵に対し攻撃するのだ!」

 

 と手に持つ短杖を振るい命令したが、先程と違い城壁上に居るアラム聖国の兵士も命令に従わず、微動だにしなくなった。

 

 此れには売国奴ロイスも、完全に狼狽し、

 

 「な、何故だ?!

 何故、この『支配のワンド』によって絶対服従で有る筈の、聖徒達が命令に従わない?!

 アラム聖国秘蔵の魔道具で有る『支配のワンド』は、どの様な事があろうと聖徒達を完全服従させると、アラム聖国は確約してくれたのに!」

 

 と売国奴ロイスは城壁上でヘナヘナと膝から崩れ落ちた。

 そしてクレリア姫様に代わり、アラン様が立体プロジェクターにアーティファクト『テンプテーション』を手に持ち現れて、

 

 「もう茶番は十分だろう、『漆黒』よ手筈通りに行動せよ!」

 

 と言われ、その命令に従い売国奴ロイスの隣に居る近習に化けていた『漆黒』が、素早く売国奴ロイスを取り押さえ、続いて閉ざされた王都の城門が潜入していた『漆黒』により開け放たれた。

 

 「それでは、粛々として入城せよ!」

 

 とアラン様が命令され、第一軍と第二軍が隊列を揃え王都に入っていく。

 既に『漆黒』により、粗方の王都と王城の重要拠点は抑えて居る。

 極力王都と王都民に被害を与えない様に、予め多数の『漆黒』の精鋭を潜入させていて、其れが功を奏し上手くいった様だ。

 第一軍と第二軍は、『漆黒』により飲料水に混ぜられた強力な『睡眠導入剤』で眠らされた、アロイス王国軍人を次々に拘束し、同時に狼狽して呆然としているアロイス王国貴族も捕らえていく。

 王城も城門を開け放たれていて、次々にアロイス王国関係者を捕らえ、王都外に構築した臨時の捕虜収容所に収容していった。

 すっかり静かになった王城に、アラン様とクレリア姫様そして軍上層部の方々と護衛の親衛隊が入城していった。

 そして、謁見の間である大広間へ入り玉座とその背後に有る、王朝を示す紋章のタペストリーが目に入った。

 クレリア姫様は玉座に真っ直ぐに進まれ、そのまま背後に有るアロイス王国の紋章のタペストリーを睨みつけた。

 

 「消え失せろ!」

 

 と大声で叫ばれ、次の瞬間クレリア姫様の手が伸ばされて『ファイアー』の魔法が、タペストリーに放たれて、瞬く間にアロイス王国の紋章のタペストリーは燃え尽きた。

 その様を見届けて、クレリア姫様は玉座に視点を下げた。

 

 「父上、クレリア帰って参りましたぞ!」

 

 と亡き王に報告され、横にあったが現在は取り除かれている、女王用の玉座の有った跡に向かい、

 

 「母上、クレリアを褒めて下さい!」

 

 と亡き女王に願われ、玉座の横に何時も居られた皇太子の席に向かい、

 

 「兄上、クレリアは頑張りました!」

 

 と亡き皇太子に胸を張って報告された。

 

 そして玉座の有る壇上から下がられ、感慨深げにもう一度玉座を見渡されると、大粒の涙を流され号泣し始められた。

 そしてクレリア姫様を慰めようと、アラン様がクレリア姫様を包むように抱きしめられると、クレリア姫様はアラン様に取り縋り、その胸に顔を埋め更に大声を出されて泣かれた。

 その様子を見ながら、其の場に居た旧スターヴェーク王国出身者も泣き始め、自分も横に居たミーシャと抱き合い一緒に号泣した。

 

 此の日、我々を散々苦しめたアロイス王国は、完全に消滅した。

 



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62. 9月の日記②(2年目)

9月2日

 

 いち早く王都を陥落させた我等『アロイス王国討伐軍』は、第一軍と機動軍そして義勇軍3万をトレーラー隊に分乗させアラム聖国との国境線に派遣し、第二軍と総帥府軍は元アロイス王国に与していた、新生スターヴェーク王国の西部と南部の貴族の領土に派遣した。

 アラム聖国の国境線では、元アロイス王国へのアラム聖国増援軍がやって来る気配が有り、国境線の検問を完全に閉じて臨戦態勢を取り、迎撃体勢を整えた。

 西部と南部の貴族の親族達は新生スターヴェーク王国への恭順を拒否したので、第二軍と総帥府軍とで領地の接収と財産の没収を行い、東部と北部の民を無理矢理奴隷としているのでその解放も目的としている。

 

 9月3日

 

 王都民に戒厳令の解除とアロイス王国の崩壊、そして暫定的にベルタ王国総帥のアラン総帥が統治する旨を各所に設置したモニターで発表した。

 そしてアロイス王国によって歪められた法令や税制等を全て破却し、新たな法令等が発布されるまで旧スターヴェーク王国の法令に従うようにと全国土に通達した。

 

 9月7日

 

 元アラム聖国軍全軍が新生ルドヴィーク城に到着し、其処で兵士では無くレール敷設作業員として新たな任務を与え、聖水の効果が切れる3週間働かせるそうだ。

 その監督には、ファーン侯爵率いるベルタ王国軍が担当し、道路整備やレール敷設用の石材の運搬作業をさせる。

 

 9月15日

 

 アラム聖国との国境線の検問所に、アラム聖国の全権大使が入国許可を求めて来た。

 アラン様は、コリント領に居られるアマド陛下に報告し、アラン様にアラム聖国の意図が何処に有るのか?を確認する為に接触し、アラム聖国の全権大使と話して見ようとの事になり、新生スターヴェーク王国の王都でモニター越しに会見する事になった。

 

 9月18日

 

 アラム聖国の全権大使とその副官達、そして護衛の総勢15名が新生スターヴェーク王国の王城に入城し、大会議室でアマド陛下とモニター越しに会見する運びになった。

 双方挨拶を交わし、昨今の動乱とその陰で暗躍したアラム聖国の行為をアマド陛下は弾劾なさり、その際に自身が殺されかけて、未だ車椅子生活である事に対しどの様な弁明があるのか?

 と問われ、それに対しアラム聖国の全権大使は、

 

 「弁明は無い!

 我が国はベルタ王国と宣戦布告して戦争を行った訳でもなく、あくまでもセシリオ王国とアロイス王国そしてヴィリス・バールケ宰相への援軍を出したに過ぎません。

 その援軍を、其々の国や人物がどの様に運用したかは、其々が責任を持つべきで我が国は関知しない。

 故にこの会見交渉は互いに五分であり、どちらにも相手側を弾劾する権利は無い!」

 

 と堂々と詭弁を弄した。

 正直呆れた話しだが、アラム聖国は自国が1億の人口を擁する大国であるが故に、傲慢な態度で上から目線で位攻めをして来た。

 それに対しアマド陛下は大いに気分を害され、アラン総帥とベルタ王国宰相ヴェルナー卿に交渉を委ねられモニターから姿を消した。

 交渉を委ねられたアラン様は、

 

 「それでは、どの様な用件で交渉したいのか申されて欲しい。」

 

 と用件を尋ねられた。

 すると、居丈高にアラム聖国の全権大使は要求して来た。

 

 「此方の要求は、ベルタ王国が戦争捕虜として収容した聖徒30万人と宗教使節団300名の解放、そしてそちらが回収した筈のアーティファクトと魔道具そして各種の兵器の返還である!」

 

 と厚顔無恥にも言い放った。

 少々呆れた様子でアラン様は、ヴェルナー卿と目で会話されて返答した。

 

 「とても対等の相手に要求する内容では無いな。

 此れでは交渉には成らない、申し訳無いが一旦落ち着かれる事を勧めるので、滞在用の部屋に戻られるが良かろう」

 

 と勧められると、特に異存は無いのかそのまま出て行った。

 一旦我等も休憩する為に、解散し休憩所に向かい始めたが、アラム聖国の全権大使の副官と紹介された目付きの異様に鋭い男が廊下で此方を待っていた。

 親衛隊がアラン様の前に立ち、警戒体勢に入ると副官が、

 

 「警戒する必要は無いぞ。

 俺にアラン総帥を害するつもりは無い。

 先程までの茶番には飽き飽きしていたが、それはそちらも同様だろう?

 此れより本当の交渉をしたい」

 

  と言ってきたので、アラン様は、

 

 「ふむ、本当の交渉とは興味深いな、だが自分一人だけでは有らぬ疑いを招く、此処に居る2人(自分とカトウを指差し)を同席させるが良いかな?」

 

 と問われ、副官は了承した。

 応接室に副管を迎えると、副官は、

 

 「交渉に応じてくれて有り難い。

 俺は、アラム聖国の3聖人が1人『カルマ』という、以後見知り置いて貰いたい。

 アラン総帥、お主に会えて全て納得がいった。

 お主のその表面には一切出さない、信じられない戦闘力!

 そして溢れかえらんばかりのカリスマと頭脳!

 とてもでは無いが人とは思えない程だ!

 今回の戦争への切り札として投入した『双頭の暴虐竜ザッハーク』が、アッサリと討たれた事にアラム聖国上層部は混乱甚だしかったが、こうやってお主の前に立って見ると成程と頷ける」

 

 と『カルマ』殿はウンウンと至極納得がいった様に頷いている。

 アラン様は、

 

 「お褒めに預かり光栄だが、それで交渉とは?」

 

 と尋ねられた。

 『カルマ』殿は、

 

 「ああ、そうだな。

 それでは、交渉というかお主に尋ねるが、其処に居るカトウの求めていた『神人』とは、お主か?」

 

 と自分とカトウ達しか知らない内容を尋ねてきた。

 すると、アラン様は暫く黙っていて、逆に尋ねられた。

 

 「・・・・・ザッハークの残された首と、聖徒達を調べて判明したが、アラム聖国の技術の根幹は、『サイヤン帝国』の物か?」

 

 と言った瞬間、ガタッ!と椅子が倒れる程の勢いで『カルマ』は立ち上がり、

 

 「やはり!やはりなのか?!

 アラン総帥!お主こそが『アラム聖国の黙示録』に記されている、『天降る天人』なのだな!

 ならば全ての疑惑は氷解した。

 アラン総帥!

 我等は究極的な処では敵では無い。

 色々と越えなければならない問題は有るが、我等は協力出来る。」

 

 と興奮しながら、目を血走らせてアラン様に訴えた。

 

 「そうか、やはり『サイヤン帝国』の技術を使用した、複製体(クローンと云うそうだ)だったのだな」

 

 とアラン様は遠い目をしながら呟かれ、

 

 「『カルマ』殿、いつかその『アラム聖国の黙示録』を拝見させて貰いたい」

 

 と言われ、それに対し『カルマ』殿は苦い顔をして答えた。

 

 「それは、大変難しい。

 俺は賛成だが、他の聖人と肝心の『法皇』は絶対に許可を出さないだろう。」

 

 と懊悩する様に言った。

 

 「そうか・・・・」

 

 とアラン様は言われ、其れに対し『カルマ』殿は、

 

 「だが、アラン総帥にはいつかアラム聖国の中枢で有る、法王庁地下に眠る『聖なる頭脳』との対面をして貰いたい!

 『天降る天人』であるアラン総帥ならば、必ず『聖なる頭脳』の全てを蘇らせてくれる筈だ!」

 

 と勢い込んで言われた。

 

 「自分も非常に興味が有るが『カルマ』殿、此処での会話はお仲間やアラム聖国上層部には明かされない方が御身の為と考える、今後の対処は此の通信機でこのカトウを通して行ってくれ」

 

 と通信機を渡され、依頼され、

 

 「有り難い!

 カトウ殿、以降宜しく頼む!」

 

 と『カルマ』殿は答えられ、これ以上時間を掛けると疑われると、大きく頭を下げてそそくさと応接室を出ていかれた。

 アラン様は自分とカトウに、

 

 「意外な内容の交渉になったな、偶々事情を知る2人で良かったが知らない者だったら、訳が判らなかっただろう、本当に運が良かった」

 

 と苦笑され、自分とカトウは、

 

 「「当然此処での交渉内容は、他に漏らしません、ご安心を」」

 

 と誓い、アラン様は、

 

 「ああ、宜しく頼む」

 

 と我々2人に頼まれた。

 



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63. 9月の日記③(2年目)

 9月19日

 

 改めてアラム聖国の全権大使との交渉が開催され、基本的な条約が締結され後日正式な文書を取り交わす事になった。

 内容は、

 

 1、ベルタ王国とアラム聖国は、今後3年間の相互不可侵条約を結び、3年後には再度の交渉をして年次更新か友好国に格上げするかを決める。

 

 2、ベルタ王国に囚われている宗教使節団と聖徒は、ベルタ王国に於ける刑法上の犯罪者であり、刑期等を終えたならば、本人の希望を聞きアラム聖国への帰国も許可する。

 

 3、ベルタ王国とアラム聖国の国境線には、相互連絡用の事務所を設営し今後問題が有った場合、その事務所で双方の上層部による話し合いが行われる。

 

 更に細かい条文は有るが、大まかにこの3点が決められた。

 ベルタ王国とアラム聖国の双方とも納得はいっていないが、事実上の3年間の休戦条約であり、その間につけ込まれない強固な国家体制を築く猶予期間と考えると、妥当な線とも云えた。

 アラム聖国の全権大使含む総勢15名は、来賓用に設えた豪華な内装の殆ど揺れないトレーラーで、アラム聖国との国境に送られたが、自分は昨日の真の意味での会談内容の方が余程気になった。

 恐らくアラン様はそう遠くない将来、例のアラム聖国の中心部たる法王庁に出向き、最奥に存在する『聖なる頭脳』との対面を果たすのではないだろうか、そしてその際秘密を共有する自分とカトウも同行するのだろう、そう考えると自分は分不相応ながら、この世界に於ける真実に近づける栄誉をアラン様と共有出来るのだ。

 その場合アラン様を命に代えて守る、と密かに決意した。

 

 9月21日

 

 新生ルドヴィーク城で元アラム聖国軍全軍合計30万人の、洗脳状態の解除がアラン様の手で行われた。

以前同様のやり方でベルタ王国での解除を行ったので、ミツルギ殿の指導の元問題無く解除は進められたが、問題が起きたのは解除後であった。

 何と聖徒と呼ばれる人々には、名前が無かったのだ。

 辛うじて識別用の番号は振られていて、A群の1番やD群の28563番といった識別番号で、正直なところ人の名前としては違和感は拭えないが、我々も平民出身者は基本名前だけで、同じ名前で重複することが度々あり、現在自分には役職があるから間違われる事も無いが、『ケニー』という在り来たりの名前は1国に数千人居そうだから、ある意味完全に分けられているから本人が望まなければ、このままで良い様な気がした。

 

 9月22日

 

 聞き取りを30万人全て終え(実際の処殆ど内容は同じだからこの内容か?と確認していっただけ)確認してみた処、彼等聖徒は普通の人としての生活は一切した事が無くて、産まれた?時から集団で行動させられていて、軍事行動かインフラ整備等をした事があるだけで、人間としての生活をした事が無かった様だ。

 アラン様は、そんな彼等に普通の人間としての情緒と生活を学んで貰うべく、指導する事にした。

 交代制でレール敷設作業員としての仕事をさせ、仕事をしない間に職業訓練と一般社会の常識を学ばせて行く事になった。

 そして、何れは本人の希望を確認し帰国するか帰化するかの選択をしてもらうそうだ。

 

 9月25日

 

 第二軍と総帥府軍が元アロイス王国に与していた、新生スターヴェーク王国の西部と南部の貴族の領土から帰還し、代わりに新生スターヴェーク王国から派遣した政務官僚が、其々の貴族領地で政務と司法を司った。

 膨大な資産と様々な資料が接収され、アロイス王国が成立していた時期にこの貴族達が如何に無法な行為をして来たかの証拠資料の作成に入った。

 

 9月27日

 

 ロベルト老始めアルセニー男爵、ダヴィード伯爵他の貴族縁の親族達や、希望した元スターヴェーク王国国民がトレーラーに分乗し新生スターヴェーク王国の王都に到着した。

 ロベルト老達は王城に入城し、出迎えに出られたクレリア姫様とアラン様達に気付くと、全員其の場で直ぐに跪き、

 

 「姫様!

 良くぞ、たった2年でスターヴェーク王国を取り戻されました!

 この様な短期間で祖国を奪還した例は歴史上存在せず、亡くなられた国王陛下夫妻と皇太子様もあの世で姫様を称揚して居られる事でしょう」

 

 と皆を代表し、ロベルト老は泣きながらクレリア姫様に言上した。

 クレリア姫様は歩み寄られロベルト老に立ち上がって貰い、

 

 「有難うロベルト。皆も立ってくれ。

 全ては、此処に居る皆とコリント領に住む領民たち、そして協力してくれたベルタ王国国軍と総帥府軍の方々のお陰だ。

 このクレリア、皆に幾重にも感謝する。

 本当に有難う」

 

 とクレリア姫様は頭を下げられた。

 

 「「「とんでもございません!!」」」

 

 と此の場に居る元スターヴェーク王国国民が、頭を下げながら応じた。

 そして現在の状況を説明する為に、主だった者達を大会議室に集めた。

 アラン様が司会をする事になり、用意されていた資料を各自の席に配られ、背後に有る巨大モニターに同じ物を映し出された。

 

 「・・・・・この様に、現在新生スターヴェーク王国の王都は治安を完全に回復し、物流を大量のトレーラーを投入する事により、以前とは比べ物にならない位充実させている。

 物流の充実は少しづつ地方に波及させており、アロイス王国が荒廃させた東部と北部もそれ程掛からずに、以前のスターヴェーク王国統治下の姿を取り戻すだろう」

 

 とアラン様は力強く仰られた。

 

 「流石でございますアラン様!

 此処スターヴェーク王国に戻る途上、我等はベルタ王国国境線まで『魔導列車』の寝台タイプに乗り、僅か2日で到着しました。

 そして新生ルドヴィーク城までも7割方レールが引かれて居ますし、新生ルドヴィーク城から王都までもレール敷設作業が行われているのも拝見させて頂きました。

 遠くない将来、コリント領からベルタ王国王都、そして新生ルドヴィーク城を経由し此処スターヴェーク王国王都に至る『魔導列車』の線路が完成するのですな?」

 

 とロベルト老は確認する様に尋ねられたが、アラン様は首を横に振り、

 

 「それで完成では無い。

 此処スターヴェーク王国王都からは、現在総帥府の置かれている元セシリオ王国王都まで線路が引かれ、そこから更にファーン侯爵領を通り、『魔の大樹海』を突っ切ってコリント領に至る円環を描く形になって、漸く完成する事になる。

 壮大な工事だが、自動レール敷設作業車が現在コリント領で完成し、量産化も目前だ。

 予定では3年後には、この環状線は完成する事になっていて、それ以外のインフラ整備と3国全ての諸々の仕組みを同時進行で改正して行く、此れはアマド陛下から了承を得ており、今迄の国家運営そのものを変革する一大事業だ。

 皆故国を取り戻せてのんびりしたいのは分かるが、アラム聖国との事実上の休戦期間は僅か3年だ、今後も皆で協力しあい国力を増す努力をして貰いたい!」

 

 と仰られ、

 

 「「「ハッ、無論であります!」」」

 

 と皆一斉に返事をして決意を表明した。

 



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64. 10月の日記①(2年目)

 10月2日

 

 此の日、元アロイス王国を主導してスターヴェーク王国を簒奪した、元アロイス王国国王ロートリゲン・アゴスティーニと、スターヴェーク王国軍務大臣で有りながらスターヴェーク王国を裏切り、国王夫妻と皇太子殿下を王城前の広場にて斬首した、元アロイス王国軍務大臣ロイスの裁判が執り行われた。

 列席するのは、クレリア姫様を始めとした元スターヴェーク王国旧臣の方々と、東部と北部の地方貴族の方々そしてアラン様と軍部上層部だ。

 傍聴席には、この裁判の為に来られたベルタ王国代表として宰相ヴェルナー・ライスター卿、総帥府代表としてビクトール侯爵、そして其々の属僚の方々が傍聴される。

 裁判官と検事は、コリント領で司法と行政分野を養成していた官僚が担当し、スターヴェーク王国旧法に従い裁く事になる。

 裁判官が開廷の宣誓を告げ、早速検事が冒頭陳述を始めた。

 元アロイス王国がスターヴェーク王国を簒奪したそもそもの原因を、様々な資料と聞き取りを南部と西部の貴族と領民から集め精査した内容を開陳した。

 凡そ164年前、スターヴェーク王国が旧アロイス王国を併合したのは武力の行使では無く、旧アロイス王国自身の失政により国家破綻して、その時の王家を貴族達が断罪し貴族位を安堵して貰う条件でスターヴェーク王国に併合して貰ったのだが、貴族達は自分達の領民に対し代々スターヴェーク王国の無理矢理な併合で、旧アロイス王国は滅んだと吹聴し、スターヴェーク王国の東部と北部に比べ、南部と西部の税率が高いのはスターヴェーク王国の所為で有り、実際は貴族が税の上乗せをしていた事実を誤魔化し、南部と西部の平民に東部と北部に対しての憎悪を掻き立てていた事が資料と聞き取りで判り。

 そして今から30年前程から、アラム聖国の策謀により南部と西部の貴族達にスターヴェーク王国に対しての反乱を教唆され、アラム聖国がスターヴェーク王国に対ししばしば攻めてきた時に、軍備の援助と資金の援助を密かに受けて来て、2年前の反乱に繋がった事実も説明された。

 更に東部と北部の地方貴族の中でも利益に転びやすい者を選び、アラム聖国からの軍備の援助と資金の援助をチラつかせ、スターヴェーク王国を裏切らせる事に成功した。

 王城の警備部隊の人員にもそれは行われ、アッサリと王城が陥落した原因は、王城の城門の閂を城内から外されたという事だ。

 

 諸々の反乱に繋がる経緯と状況が説明され、クレリア姫様は顔面を紅潮させながら全て聞き終え、元アロイス王国国王ロートリゲン・アゴスティーニと元アロイス王国軍務大臣ロイスの両名を、今にも掴み掛かりそうな様子で睨まれている。

 そんなクレリア姫様とは対照的に、元アロイス王国国王ロートリゲン・アゴスティーニは顔面蒼白になりながら被告席で俯いている。

 其れとは違い元アロイス王国軍務大臣ロイスは、不貞腐れた様子でただひたすらアラン様を睨み、不満な様子を隠しもしない。

 30分に及ぶ冒頭陳述が済み、被告2人に弁明の機会を与えると、元アロイス王国国王ロートリゲン・アゴスティーニは被告席から進み出て、

 

 「私は騙されていたのだ!

 私は反乱を主導して居らず、全ては其処にいる軍務大臣ロイスがアラム聖国と共謀した事で、私は軍務大臣ロイスとアラム聖国に担がれていただけだ!」

 

 と見苦しく弁明した。

 すると苦々しい様子で、

 

 「何を抜かす!

 お前こそ、率先してスターヴェーク王国に弓引き、王城に踏み入った際には王城の財貨と美術品を独り占めし、同心した貴族達から顰蹙を買っていたではないか!」

 

 と元アロイス王国軍務大臣ロイスが己の主君であった筈の、元アロイス王国国王ロートリゲン・アゴスティーニを口汚く罵った。

 暫く双方の見苦しい罵り合いが続き、列席されている方々と傍聴されている方々がウンザリしていると、業を煮やした裁判官が、クレリア姫様とアラン様そしてヴェルナー・ライスター卿とビクトール侯爵を別室に呼び、このままでは裁判にならないと告げて、準備して置いたアーティファクト『テンプテーション』を両者に使用し、真実を詳らかにし裁判を結審しようと提案され、全員がその提案に賛成したので、裁判の場に戻ると、早速被告の脇にいる警備員に両者を取り押さえさせると、裁判官自らがアーティファクト『テンプテーション』を使用し、其々から真実の供述を引き出した。

 その内容は、冒頭陳述にあった内容を裏付けるもので、結局両者共に私利私欲が反乱の主要な動機で、国民の為でも旧アロイス王国の復仇でも無かった事が明かされた。

 此処まで馬鹿馬鹿しい理由で反乱を起こされたという事実は、この反乱で死んだ方々を冒涜していると思い、ブルブルと体が怒りに震えたが、誰よりも怒っているのはクレリア姫様だと思い直し、心を落ち着けた。

 裁判官が全ての供述を鑑み結審し、

 

 「元アロイス王国国王ロートリゲン・アゴスティーニ並びに元アロイス王国軍務大臣ロイスは、自分自身の私利私欲を満たす為に、スターヴェーク王国への反乱を主導し、アラム聖国の甘い甘言に乗りスターヴェーク王国だけでは無く、ベルタ王国とセシリオ王国の内乱にも介入し、著しい被害を両国に与えた。

 然も其れに対して、些かの謝罪も無く、何一つ負い目にも感じていない。

 よって此の様な人間を、今後生まれ変わるスターヴェーク王国の世に生かす理由は無い。

 直ちに死刑を執行し、これを以って此の様な人間は人の世に居てはならないという、教訓として世に示そう」

 

 と結審した内容をこの裁判の場に居る方々に開陳した。

 そしてこの両者に同心した貴族達も、後日その罪科に応じた刑が執行される事だろう。

 



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65. 10月の日記②(2年目)

10月4日

 

 「ケニー団長に面会の申し込みが有り、素性を尋ねますと祖父母であるとの可し」

 と空軍の申次衆をしている事務官が知らせてくれたので、まさかと思いながら面談室にミーシャと向かうと、本当に父方母方の両祖父母が勢揃いしている。

 正直な処、王都に住んで居た両祖父母の屋敷は、元アロイス王国によって破却されていて、両祖父母の行方は皆目判らなかったので、てっきりもうこの世には居られないのではと諦めていた。

 両祖父母と抱き合って互いの無事を喜びあい、この2年間の変転を聞かせて貰った。

 王都が、元アロイス王国によって陥落した際にはまだ王都に居たのだが、スターヴェーク王国国王夫妻と皇太子様が斬首され、このままでは元スターヴェーク王国国民は王都に居続けると、如何なる悲劇に合うかも知れないと思い、親戚の居る東部の街に疎開する事にして、その際王城前の広場にて晒されていたスターヴェーク王国国王夫妻と皇太子様の御髪を、其々一房づつ警備員の隙を突いて持ち去り、この度クレリア姫様がスターヴェーク王国を復活されたと聞きつけ、街にやって来た物流用のトレーラー部隊の隊長らしき『ホシ』という人物に事情を話したら、2つ返事で自分達を王都まで連れてきてくれたそうだ。

 後で『ホシ』殿には、『ホシ』殿の大好物の『大吟醸』と、オスロ特産の海産物のツマミを持ってお礼に行こうと考えていると、両祖父母が興味深そうにミーシャを見ているのに気がついた。

 両祖母が、

 

 「あんたさんは、ケニー坊の良い人かね?」

 

 と突然とんでもない事をミーシャに聞いて来た。

 思わず口にしていた紅茶を吹き出しかけて咽っていると、ミーシャが、

 

 「私は、そうなりたいと常々アピールして居るんですけど、中々ケニー団長は気付いてくれないんですよ」

 

 と更にとんでもない事を両祖父母に申告したので、「え?!」とミーシャに振り向くと、ニコニコと微笑まれたので、驚き過ぎて目が点になってしまった。

 

 「なんと、こんな美人さん自身に告白させるとは、ケニー坊も不甲斐ない!

 男なら自分にアプローチしている女性には、いち早く気付いて上げるのが女性への気配りというもんじゃろうが!」

 

 と両祖父から叱られてしまった。

 考えてみると、自分はミーシャの事を大事な同僚であると思い過ぎ、恋愛対象として考えまいと意識し過ぎていて、ミーシャからのアプローチを意図的に無視していたのかも知れない。

 そう考えると自分は如何にも不誠実だったと考え、ミーシャに、

 

 「ミーシャ、今まで気付いてやれなくて、本当にすまない!

 これまでひたすらスターヴェーク王国復活の為に、軍務に邁進していたので自分の事を二の次にしていたんだ。

 だけど、この通りスターヴェーク王国は、見事にクレリア姫様とアラン様のお陰で復活出来た。

 もう自分の事を考えても良い筈だ。

 ミーシャ、武骨で固すぎると妹に批判されてばかりいる俺だが、良ければ恋人として付き合ってくれないだろうか?」

 

 と自分に出来る精一杯の告白をしたら、

 

 「ハイッ!」

 

 と元気良くミーシャは返事してくれて、涙を浮かべている。

 直ぐに両祖母が、ミーシャに歩み寄り「良かったね」と慰めている。

 そして自分には、両祖父が歩み寄り両肩に手を其々乗せて、

 

 「ケニー坊にしては良くやったが、どうせならそのままプロポーズしてしまえば良かったのに・・・」

 

 と言ってきたが、

 

 「そんな無責任に一足飛びで物事は進めませんよ、先ずミーシャのご両親の眠るお墓に報告し、クレリア姫様とアラン様から許可を貰い、同僚達にも報告してからですよ」

 

 と説明すると、両祖父母は呆れた様な顔をして、

 

 「・・・・・順番が間違えてると思うが、2人が納得しているのなら良いが、ミーシャさん本当に良いのかい?」

 

 とミーシャに確認する様に聞いたら、

 

 「大丈夫ですよ、私もこれまで通りケニー団長と共に、軍務を果たしていくつもりですから、もっと状況が落ち着いたらプロポーズしてくれると信じています!」

 

 と力強くミーシャが返事をしたので、

 

 「なんとも頼もしい返事じゃ!

 じゃがここにいる、爺と婆にとっては今から事実上の孫の嫁じゃから、そのつもりで接しておくれ」

 

 と両祖母とミーシャは手を取り合い、互いを確かめる様に抱きしめあった。

 

 その後、自分とミーシャはクレリア姫様とアラン様にアポイントを取り、数時間後に両祖父母を連れて会議室で会談する事になった。

 警備員から入室許可を貰い、手順に従いながら全員で入室し、クレリア姫様の許可に従い所定の席に着いた。

 クレリア姫様が、

 

 「どうかケニー団長の両祖父母には、楽にして貰いたい。

 なんといっても貴方方は、我の大事な家族の遺物である御髪を、あの混乱の最中に持ち出して、今迄大切に保管して頂いていてくれたのだ。

 此方は最上級のもてなしを提示したのだが、ケニー団長から拒否されてこんな簡素な面談になってしまった。

 だが貴方方に対する此のクレリアの感謝の念は、些かも変わらぬ本当に有難う」

 

 と両祖父母に、クレリア姫様とアラン様は頭を下げられたので、自分とミーシャそして両祖父母は恐縮し、其の場で土下座してしまった。

 クレリア姫様とアラン様が頭を上げられたので、自分達も土下座を止めて改めて席に着き、遺物である御髪の入った3つの箱を自分がクレリア姫様に献上した。

 クレリア姫様は、厳かな様子で其々の箱表面に書いてある名前と、中に入っていた御髪を確認され、暫く瞑目されて故人を悼まれた。

 そしてクレリア姫様は、

 

 「本当に有難う。

 元アロイス王国は、我の家族を斬首して王城前の広場にて首を晒した後に、その後首と体は広場で燃やし尽くし、灰はゴミと一緒に捨ててしまったそうだ。

 とても王家に対しての正当な扱いとは云えない蛮行であり、お陰で葬儀すらまともに出来なかったが、これで当たり前の葬儀が行える、どうか貴方方も葬儀には出席して貰いたい」

 

 と両祖父母に頼まれたので、両祖父母は、

 

 「「ありがとうございます、葬儀には是非出席させて頂きます!」」

 

 と快く返答した。

 

 「しかし、これだけの大殊勲に対し葬儀への出席だけとは、あまりに礼を失するというもの、貴方方には何らかの形で報いたいと思う。

 何か望む願いは、ないだろうか?」

 

 と問われたので、両祖父母は、

 

 「実は1つ、クレリア姫様とアラン様にお願いがございます!」

 

 と答えたので、クレリア姫様は「何なりと申すが良い」と両祖父母に頷かれた。

 すると両祖父母は、自分とミーシャを指差し、

 

 「どうかクレリア姫様とアラン様、ここにいる2人の婚約を認めて頂き、将来結婚する事も認めて頂けないでしょうか?」

 

 と願った。

 さしものクレリア姫様とアラン様も予想していた願いの内容と、全く違う願いに驚かれた様だが、状況を徐々に把握されると、お二人共笑顔になられ、自分とミーシャを祝福してくれた。

 特にクレリア姫様の喜び様は大変大きく、結婚する際は是非自分も参加したいと言われ、まだまだ先の話しですし、出来ればクレリア姫様とアラン様のご結婚の後で、自分達は目立たない形でしたいと言上したら、クレリア姫様は顔を真っ赤に染められ俯いてしまい、アラン様は当惑してしまった。

 出過ぎた物言いだったかと思っていると、ミーシャが、

 

 「ケニー団長の言う通りですよ!

 コリント領に居る領民や新生スターヴェーク王国の民も、今や遅しとお二人の結婚を望んでいます!

 どうか一刻も早く全ての国民の願いである、お二人の結婚を成してくれる事をこのミーシャからもお願いします!」

 

 とミーシャが頭を下げ、続いて自分と両祖父母も頭を下げた。

 すると、当惑していたアラン様が、

 

 「そうだな、ケニー団長も男の責任を取ろうとしているのに、自分だけがクレリアに責任を取らないのは国民に示しが着かない。

 近い内に皆と相談し、諸々の用件を片付けてから、話しを進めよう」

 

 とアラン様は事実上の結婚宣言をされた。

 クレリア姫様は感極まったのか、大いに涙を流され、横にいたアラン様がよしよしと抱きしめて上げられたので、お二人の邪魔になると我々は退室の挨拶をして、そそくさと部屋を出た。

 思いがけず、お二人のご結婚を促した形になったが、このご結婚は全ての国民の悲願であり、きっと両祖父母が持ってきた、クレリア姫様のご家族の遺髪がこのご結婚を促したというのが恐らく真実なのだろうと、ミーシャと両祖父母に話しきっとその通りだと同意してくれた。

 



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66. 10月の日記③(2年目)

 10月6日

 

 官舎から自分は、両祖父母の為に用意された、元アロイス王国の男爵居館に移る事になった。

 まあ、あくまでも王都に於ける仮屋でしか無いので、両祖父母の安全管理も出来る事だし、自分に異存は無い。

 元の屋敷の主は、裁判で裁かれ身分は平民に落とされた上で、重労働が課される事が決定しており、一族全員元セシリオ王国のオスロ港での港湾工事を、一生する事になるだろう。

 王都に於ける宿泊所の様な男爵居館だったので、小ぢんまりとした造りで5~8人位なら住むのに不便さは無さそうだ。

 両祖父母は昨日から居館の大掃除を始めており、着いたら早速自分も働かされた。

 引っ越しの様子を見に来たミーシャとベック達もついでのように手伝ってくれたので、ほぼ1日で片付ける事が出来た。

 夜は奮発して、一流レストランで内輪の晩餐会と洒落込み、珍しく酔っ払ってミーシャの介護を受けてしまい、両祖父母に冷やかされてしまった。

 因みに、既に王都のお店での決算システムは、ギニーとポイント両方で精算出来る様になっている。

 

 10月9日

 

 10月2日に結審した元アロイス王国国王ロートリゲン・アゴスティーニと、元アロイス王国軍務大臣ロイスの刑が執行された。

 殆どの元スターヴェーク王国の旧臣と貴族そして軍人は、公開での極刑を望んだが、クレリア姫様は西部と南部の国民は未だにスターヴェーク王国復活を快く思っておらず、ここで両名を斬首や絞首刑等の公開処刑を行うとまた深い恨みを買う事になり、統一が遅れる事を危惧し、処刑場での斬首となった。

 両名は、裁判時の洗脳状態のままで、或る意味本心から後悔しながら斬首された。

 洗脳状態で無かったら、相当な見苦しい結末だったであろうことは、容易に想像されたので、本人の意志では無かろうと関係者一同はこれで可しと納得した。

 他の西部と南部の貴族や、元アロイス王国に協力した東部と北部の貴族、そして王城の警備部隊の人員にも刑が執行された。

 資料と聞き取りに応じ貴族達は、死刑又はスターヴェーク王国以外での重労働、王城の警備部隊で城門を開けた者は死刑、に処された。

 貴族達に率いられスターヴェーク王国の刃を向けた、軍人と兵士には位に応じた処分が言い渡され、軽い者でも今後5年間の無報酬でのインフラ整備の重労働が課された。

 

 10月15日

 

 スターヴェーク王国王都までの線路が開通し、1番魔導列車が王都駅に到着した。

 その車両には、元スターヴェーク王国の旧臣や、アルセニー男爵とダヴィード伯爵等の最後までスターヴェーク王国に忠義を貫いた貴族の親族の方々が、乗車されていた。

 大半の方々が、懐かしいスターヴェーク王国王都に帰って来れた事に喜び、旧知の人々と久闊を叙した。

 王城前の広場に一般国民向けの、魔導列車開通記念お祝いセレモニーが行われた。

 クレリア姫様とアラン様、そして新生スターヴェーク王国の重鎮が列席され、この日の為に王都に来た地方のスターヴェーク王国国民の為に、王城前の広場に設置されている超大型モニターには、魔導列車の開発経緯やその変遷、そして近い将来環状線になって3国を自由に往来しながら交流をさかんにし、10年後には西方教会圏全ての国と線路が繋がるとの未来予想図が映し出された。

 お祝いセレモニーに参加した全ての国民が、元アロイス王国に支配されていた陰鬱な2年間と違い、新生スターヴェーク王国には未来の息吹を感じ、これからの隆盛を想起した。

 

 10月18日

 

 王都郊外にある、小高い丘の上に有った歴代王家の墓所の修繕工事が終わったので、此の日王家主催の合同慰霊祭が執り行われた。

 王城では、亡き国王夫妻と皇太子の葬儀が行われ、続いてルドヴィーク辺境伯、アルセニー男爵、ダヴィード伯爵等の、最後までスターヴェーク王国に忠義を貫いた貴族の方々の慰霊が行われた。

 そして参列した一同は、小高い丘の上に有った歴代王家の墓所に出向き、遺髪の入った小箱を棺桶の代わりに奉納し、近くに新たに作った忠魂烈士の碑には、忠義を貫いた貴族烈士の方々の名を刻んだ。

 此処は本当に見晴らしの良い丘で、これからドンドン発展して行く新生スターヴェーク王国王都を、ずっと見守る事が出来るだろう。

 

 10月28日

 

 いよいよコリント領に戻る日が来た。

 新生スターヴェーク王国王都には選出した数多の政務官僚と、義勇軍から志願して鍛え上げた王都守備軍1万人が、其々政務と軍事を担って貰う。

 各地方の行政と司法も、派遣した政務官僚に担って貰う事になり、犯罪者等の検挙等の実働部隊は、全土に派遣した警察が行う。

 このシステムは以前、元セシリオ王国を現在統治している総帥府の統治法を更に進めたもので、まだ試行錯誤している状況なので、コリント領に置く行政府や警察機構で随時やり方を模索しながら、更新して行く事になっている。

 此れ等全ては、来月に3国全ての統治機構を一元化して、新たな国家体制を構築する上でのテストとなっている。

 いよいよ本当の意味で、アラム聖国及び他の大国との対決を念頭に置いた、国家戦略を描く事になるのだ。

 



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67. 11月の日記①(2年目)

 11月5日

 

 此の日迄に、新生スターヴェーク王国とベルタ王国そして総帥府のトップによる会議が連日行われていた。

 そして、その総括として、各国の重鎮と軍部の上層部そして宗教関係者及び各ギルド長を、モニター越しに参加させる形で、初の全体会議が始まった。

 

 アラン様が厳かに発表された。

 

 「一同傾聴してくれ!

 我等、私アラン総帥とスターヴェーク王国第一王女クレリア・スターヴァイン殿そしてベルタ王国国王アマド・ベルティー陛下は、連日会議を行い、今後どの様に三国を統治して行くかを、ベルタ王国ヴェルナー・ライスター卿や元セシリオ王国貴族ビクトール侯爵等も交えて検討し、一定の方向に結論を出した。

 今からその発表を行うが、その内容に疑問点や不服が有る場合は、挙手の上で発言して貰いたい。

 

 ベルタ王国、スターヴェーク王国、総帥府は国家として一旦白紙に戻し、三国全てを統合した新たな国家を誕生させる。

 

 その国家の名称は、

 

 『人類銀河帝国』

 

 大陸全ての人類の規範となり、遥かな将来あの夜空に煌めく銀河を目指す、未来に夢を描ける帝国だ!

 

 帝都は、此処コリント領とし『帝都コリント』となる。

 これ迄の国王は、『公王』となり、従来の其々の王都は『公都』となる。

 『公王』は権威はあれど、権力は無く。

 政治権力と軍事権力は、『公王』より上位にある『皇帝』に移譲する事になる。

  従来の貴族は廃止され、『華族』という新しい称号に変わる。

 『華族』は貴族と違い、領地を持たず私兵も持てない。

 その代わりに、国家から今迄領地から得ていた収入と同額の、歳費を年度毎に支払われる。

 領地は全て解消され、全ての領民は『帝国民』となる。

 『皇帝』は王権を越え『帝国民』全体に対し君臨し、其の代わりに『帝国民』全体に対し全ての責任を負う。

 今迄様々な名称に変遷して来た軍隊は、統一され『人類銀河帝国軍』となり、軍人兵士諸君は略して『帝国軍人』となる。

 そして、この『人類銀河帝国』は国教を『ルミナス教』と定め、『帝都コリント』にその本部を置く事にする」

 

 と今迄の国家体制を一新する重大な発表がなされた。

 一部の上層部以外は、騒然と成り、其々が周りの者と話し始めたが、ビクトール侯爵が挙手して、アラン様が発言を促すと、皆静かになりビクトール侯爵の発言に注目した。

 

 「指名有難うございます。

 先程の発表には、肝心要の『皇帝』は何方がなるのか、発表されませんでしたが、まさかと思いますがまだ決まっていないのですか?」

 

 との質問にアラン様は、

 

 「此れは失礼した。

 実はこの次の発表で一緒に発表しようとしていたので、皆を不安にさせてしまったな」

 

 と謝られると、ビクトール侯爵は、

 

 「いえ、発表があるのなら良いのです。

 実は、元セシリオ王国国民の中には、暫定的とは云え総帥府に治められている事に、このままでは対等な国民に成れないのでは、と大変な不安を感じている者が大勢いたのです。

 只今の発表で、元セシリオ王国国民も全て『帝国民』に成れる事は判ったのですが、やはり唯一の主が何方なのか、気になりまして」

 

 と言われ、アラン様は頷かれて、

 

 「それでは、発表しよう。

 ベルタ王国国王アマド・ベルティー陛下は、王位を禅譲し『ベルタ公国公王殿下』となられる。

 スターヴェーク王国第一王女クレリア・スターヴァイン殿は、スターヴァイン王家を継がれスターヴェーク王国女王陛下に成られた上で、王位を禅譲し『スターヴェーク公国公女殿下』となられる。

 そして、私アラン総帥は、両者からの禅譲を受諾し、

 『人類銀河帝国初代皇帝 アラン・コリント一世』として推戴された!」

 

 と発表された。

 

 「「「「「オオオオーーーー!」」」」」

 

 とどよめきが起こったが、特にその発表に対して否定的な雰囲気は無く、殆どの者が当然であるといった様子だ、そんな中ダルシム団長が挙手し、アラン様が指名し、ダルシム団長は、

 

 「発言許可有難うございます。

 アマド・ベルティー陛下に質問があります、今回の発表では貴族を除くと一番御身分が変更されますが、その変更に納得されておられるのか?そして納得されておられるのならば、如何なる理由がお有りなのか?お聞かせ頂けないでしょうか?」

 

 と質問された。

 それに対して、車椅子姿でアマド陛下は、

 

 「質問に答えよう。

 先ず余は、見ての通り未だ毒の影響下から脱しておらず、今後も車椅子生活を余儀なくさせられた。

 王都にもまともに帰れず、公務も満足に出来ない状態だ。

 その間、此処に居るアラン総帥は、余に成り代わりベルタ王国の内乱を納め、度重なるセシリオ王国の侵攻を防ぎ、遂にはセシリオ王国国王ルージの暴虐を止める為に、セシリオ王国まで出向き戦乱を鎮めてくれた。

 更に、アロイス王国の傲慢なる侵攻にも、敢然と立ち向かい、両国の黒幕であったアラム聖国の野望を打ち砕いた上で、余の再従兄弟であるクレリア・スターヴァイン殿の祖国で有る、スターヴェーク王国をアロイス王国の魔の手から奪還され、見事スターヴェーク王国を復活してくれた。

 この様な事例は、どの様な英雄伝説にも無く、正に人民を導くに足る王者に相応しいと余は考える。

 また、余の再従兄弟であるクレリア・スターヴァイン殿と、アラン総帥は婚約者の関係であり、遠く無い未来お二人は華燭の典を上げられる。

 余は、あの忌々しい奸賊ヴィリス・バールケの手によって、余以外の親族全てを殺されてしまった。

 だが、アラン総帥とクレリア・スターヴァイン殿が婚姻なされれば、余の親族が彼等を起点として再興されるのだ、これ程嬉しい事は他に無い。

 そして、その幸福は今後『人類銀河帝国』が成立すれば、『帝国民』のみならず、全ての人類にとっての幸福になるに違いないと、余は確信している。

 その様子を、余は親族として、此処『帝都コリント』で暖かく見守って行きたいと思う」

 

 と厳かに仰られたので、此の場にいる全ての者が、頭を垂れてその決断に敬意を表した。

 



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68. 11月の日記②(2年目)

 11月7日

 

 『人類銀河帝国』は国教を『ルミナス教』と定め、『帝都コリント』にその本部を置く事になり、その本部の移転に伴い、ゲルトナー大司教はイーヴォ枢機卿から老齢を理由に枢機卿を引き継ぐ事になった。

 『帝都コリント』に新たに建設された『ルミナス教』本部は、現在10基有る特大ドームの内の1基全てが宗教施設となり、教会以外にも孤児や難民を受け入れる施設、『ルミナス教』の歴史や資料を展示する施設、修行者やシスターを養成する施設等を内包する、一大宗教施設である。

 ゲルトナー大司教改めゲルトナー枢機卿は、アラン様の勧めにより、『放送局』での宗教動画編纂作業に着手し、新たに出来た『TV放送』のチャンネル枠の一つで、常に放送して行く事が決まった。

 本部移転に伴い、諸々の手続きと三国の宗教上の組織統合の為に、『帝都コリント』にて事務作業をされていた、元セシリオ王国大司教ユリウス殿と元スターヴェーク王国大司教ルウイ殿は、この宗教動画編纂作業に積極的に参加され、精力的に資料と西方教会の教義を動画編纂作業に組み入れ、更にアラン様が其々の国に於いて戦った動画を動画に入れる事を推し進めた。

 中でも、元セシリオ王国の戦乱の際、元セシリオ王国国王ルージが乗っていた、ゾンビの巨人との死闘に於いて使徒『イザーク』様が明確に、アラン様のお手伝いをされ、更に勝利を納めると『女神ルミナス』が降臨なされて、戦争に参加した全ての民に対し慈しみの微笑みをされていった感動的なシーンは、ありとあらゆる宗教関係者にとって、あまりにも重大な宗教的偉業であり、今後永遠に語り継がれるべき証拠である、と『帝国民』どころか周辺各国に広めるべく、布教する時に必ず見せるべき動画として、尋常でない熱意で宗教動画編纂作業に協力している。

 

 11月10日

 

 西方教会圏全ての国に対して、ベルタ王国とスターヴェーク王国そして元セシリオ王国が統一され、一つの国家である『人類銀河帝国』が来年1月1日を以って成立する事が大々的に発表された。

 その国家規模は、大陸東方の皇国、大陸北方の連邦国、そして大陸中央のアラム聖国に次ぐ第4位になり、人口で凡そ5千万人以上である。

 他国との大きな違いは、大陸の基軸通貨で有るギニーも使えるが、ポイントと云う大陸初の仮想通貨も使える点であり、このポイントと云う仮想通貨は帝国が完全に保証し、『バンク』と云う『帝都コリント』に本拠があるギニーとポイントとの等価交換をする業務以外に、預託金や商取引用の決済を行い、各地方に支店を置き、個人や商会そして各ギルドと取引を仕事とする、帝国が運営する公的機関である。

 

 他に『帝国民』は義務として、満18~6才の子供には『学校』に通ってもらう事になる。

 『学校』とは、

 

 満12~6才の子供には、読み・書き・計算等を基本として教える『小等部』。

 

 満15~13才の子供には、基本的な科学と初期の魔法技術を教える『中等部』。

 

 満18~16才の子供には、高度な科学と攻撃魔法以外の魔法技術を教える『高等部』。

 

 に分かれて教育される。

 そしてその間の生活全般は、帝国が責任を持って負担する。

 

 といった内容も合わせて公表された。

 

 11月20日

 

 西方教会圏殆どの国から『人類銀河帝国』に対し、『帝都コリント』に有る商業ギルドの通信魔道具を通して、大使を派遣する旨と大使館を『帝都コリント』に置きたいと云う連絡が入った。

 既に周辺各国からは、大使館が『帝都コリント』に存在し、中には併合を求める小国や、他の国の従属国が有り、現在折衝中である。

 実際の処、小国や従属国の貴族や王族は、必ずしも安泰な立場では無くて、戦争や病気の蔓延更には農民の反乱等で、何時一族全員滅ぼされるか判らない状態で有り、公表された内容の一つである、『華族』という新しい身分は、彼等にとって魅力的な解決法なのだろう。

 そして西方教会が、教皇始め全ての教会が『人類銀河帝国』を完全に支持し、西方教会圏全ての国に有る教会では、毎週末の礼拝で設置されている大型モニターに説法と、例の宗教動画が放送されており、当然ながらその動画にはアラン様始め我等『帝国軍』の勇姿も流されている。

 とてもでは無いが、従来型の国家体制の軍隊では、我等『帝国軍』に敵う筈もなく、逆に庇護下に入ればこれ程頼りになる軍隊は無いであろう。

 この分では、中規模国家以下の小国は、遠く無い未来に進んで『人類銀河帝国』に併合して貰おうとするのではなかろうか。

 

 11月29日

 

 此の日、クレリア姫様は、『スターヴェーク王国第一王女』と云う立場から、『スターヴェーク王国女王陛下』と成られた。

 そして、来年1月1日に王位を禅譲し、『スターヴェーク公国公女殿下』と成られる事と、『人類銀河帝国初代皇帝 アラン・コリント一世』の妻にして、『人類銀河帝国初代皇妃 クレリア・スターヴァイン・コリント』と成られる事が、全国に発表された。

 この発表に、殆ど全てのスターヴェーク王国国民は喝采し、中でも我々元『クラン・シャイニングスター』の面々は内輪で集まり、この波乱万丈の3年間の互いの健闘と活躍、そしてアラン様とクレリア姫様のお幸せを願い、皆で店の終業時間まで盛り上がり、実に幸せな気分で帰宅した。

 



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69. 12月の日記①(2年目)

 12月1日

 

 来年1月1日から発足する、軍部に於ける大改編が発表された。

 従来型の軍隊のシステムは完全に破棄し、階級制という新しいシステムが取り入れられる。

 従来の隊長以上の者は、尉官・左官・将官という階級に分けられ、順番は、

 

 尉官・・・・・准尉、少尉、中尉、大尉

 

 佐官・・・・・少佐、中佐、大佐

 

 将官・・・・・准将、少将、中将、大将

 

 となり、其の上に『元帥』と云う最高位が有るが、これは暫く空位にするそうだ。

 そして兵士の順番は上から順に、

 

 曹長・軍曹・伍長・兵長・上等兵・一等兵・二等兵

 

 となる。

 

 因みに自分は空軍の団長だったが、これからは『空軍ケニー大佐』となり、ミーシャは『空軍ミーシャ中佐』となる。

 この階級は、率いる軍団規模と人数にも比例するらしく、何れ空軍の規模が大きくなるとそれに合わせて昇進させるそうだ。

 

 12月3日

 

 軍務人事が発表された。

 

 アラン様は『皇帝』ながら、軍務に於いては唯一の大将となる。

 

 将官では、

 

 『人類銀河帝国』中央たる『帝都コリント』にて、全ての軍の統括をする『軍務省』の軍務大臣としてダルシム中将、直接率いる帝国軍はいないが、中央軍たる帝国軍18万を各地に派遣する権限を持つ。

 

 『人類銀河帝国』東方の軍管区の代表としてファーン(元ベルタ王国侯爵)中将、『人類銀河帝国』東方への備えを担い、10万の帝国軍を率い、基本的な編成は陸軍を主軸とするが、息子のカイン少佐を中心とした重装機動軍もいる。

 

 『人類銀河帝国』北方の軍管区の代表としてビクトール(元セシリオ王国侯爵)中将、『人類銀河帝国』北方への備えを担い、10万の帝国軍を率い、基本的な編成は陸軍を主軸とするが、編成間もない海軍も統括する。

 

 『人類銀河帝国』南方の軍管区の代表としてヴァルター中将、『人類銀河帝国』南方への備えを担い、15万の帝国軍を率い、基本的な編成は陸軍を主軸とするが、アラム聖国の備えとして魔法支援軍5万を傘下に配置されている。

 

 帝都守備軍を率いるヘルマン(元ベルタ王国子爵)少将、基本的に外征等には出ず『帝都コリント』を守備し、帝国軍8万を率いる。

 

 高機動軍を率いるセリーナ准将、戦闘バイクと新型の高機動戦闘車両で編成された、高機動軍3万を率いる。

 

 重機動軍を率いるシャロン准将、新型の重魔法戦車を中軸とした、重機動軍3万を率いる。

 

 佐官では、

 

 空軍を率いるケニー大佐(自分)、従来のワイバーン部隊に加え、新型の飛行魔道具『ヘリコプター』が加わった。

 ワイバーン部隊と『ヘリコプター』の補給と休息等を行える『陸上空母』と、その運用上の膨大な人員と車両が加わり、空軍1万を率いる。

 その『陸上空母』の艦長もケニー大佐(自分)が兼ねるが、不在時は副艦長ミーシャ中佐が指揮する。

 

 近衛軍を率いるハインツ大佐、基本的に外征等には出ず、帝都守備軍と共に『帝都コリント』を守備するが、帝都守備軍と違い独自の戦闘バイクを持ち、帝国軍の精鋭3万を率いる。

 

 そして其々の軍団に、副官や大隊長として中佐・少佐が配属されている。

 

 尉官では、

 

 其々の軍団に、中隊長や小隊長として尉官が配属されている。

 空軍には、ベック中尉とトール中尉が居り、小隊長として其々30名の部下がいる。

 

 12月5日

 

 政務人事が発表された。

 

 宰相は置かず、アラン様による親政が行われるが、アラン様が軍務に忙殺される際は、クレリア姫様が『皇妃』として『皇帝』の代わりを務める。

 

 国務省は、国務大臣としてヴェルナー(元ベルタ王国宰相)大臣が政務面で皇帝を支え、フランシス(元ベルタ王国子爵)事務次官等がいる。

 

 警察庁は、警察庁長官としてブリテン(元ベルタ王国伯爵)長官が、『人類銀河帝国』全土に派遣している警察官を統括し、捜査、交通機関の管理、帝国民の慰撫等を行い、公的機関としては最大の80万人を指揮する。

 

 中央情報局は、中央情報局局長としてエルヴィン局長が、各国の情報収集や工作活動を行い、相変わらず通称は『漆黒』、工作活動指揮官としてカトウがいる。

 

 魔法省は、魔法大臣としてマーリン(元セシリオ王国氷雪魔術師団代表)大臣が、軍隊と教育現場への魔法指導と、新たな魔法開発等も行う。

 魔法開発局長として、カーラ局長が居る。

 

 運輸省、ギルド管理庁、企業庁は、カトル大臣が兼任する。

 業務が重複する面が多く、何れは細分化されるが、最初から分けられていると、混乱をきたすのが予想されるから、当分は一元化しておくが、その代わりに官僚が最も多く割り当てられている。

 

 宮内庁は、宮内庁長官としてロベルト長官が、『皇帝』と『皇妃』の国事行為や、宮廷に於ける序列の策定、そして外国要人の『皇帝』と『皇妃』への謁見等を取り仕切る。

 

 外務省は、外務大臣としてアベル(元ベルタ王国宰相ヴェルナー卿の息子)大臣が、各国の大使や要人と折衝したり、各国の大使館に派遣した大使や職員から、各国の情報や状況を中央情報局と協力しあい収集する。

 

 財務省、総務省は、レオン(ファーン元ベルタ王国侯爵の息子)大臣が兼任する。

 完全には、住民基本台帳が整理されて居らず、消費税を店舗等で徴収した際に集まったデータを元に、現在急いで帝国民の台帳を作成している。

 

 他にも諸々の役所が有るが、主な公的機関はこの様に発表された。

 



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70. 12月の日記②(2年目)

 12月10日

 

 帝国の国営企業で有る、『帝国鉄道公社』が来年1月1日を以って正式に発足する。

 全人員は40万人で、例のアラム聖国の元聖徒30万人を内包する巨大な国営企業で有る。

 

 社長は、『クララ・ゼーゼマン』社長

 

 スターヴェーク王国伯爵ゼーゼマン家の令嬢だったが、アロイス王国によってゼーゼマン家は滅ぼされ、一緒に脱出した祖母と一緒に大規模移民団に合流してコリント領に移民したが、到着手前で祖母は他界し唯一のゼーゼマン家の生き残りとなる。

 大規模移民団で、その昔或る事情で親友になったハイジ達と再会し、コリント領で一緒に暮らしていたが、一家の主で有るアルムおんじ(頑なに本名を明かそうとしない)が、コリント領で出会った新技術『魔導発動機』と車両に魅せられ、自分も新しいトロッコを発展させたレールの上を走る車両を作りたい!と言い出し、その夢に全財産(スターヴェーク王国から持ち出した貴金属等をカトルを通し、アラン様に全部売り払った)を投資した。

 そして見事にアルムおんじは『魔導列車』を作り出し、アラン様達に認められて大々的に鉱山からの鉱石輸送や、コリント領玄関街への物流輸送を始めた。

 ドンドンと『魔導列車』の需要が高まって、カトルの勧めも有り、アラン様とクレリア姫様と協定を結び、今回『帝国鉄道公社』の初代社長となる。

 

 開発局長は、『アルムおんじ』局長

 

 スターヴェーク王国のアルム山に住んでいたが、アロイス王国の簒奪により国を出た、本名は誰も知らない謎の人物だが、その広範な知識と年齢にそぐわない力強さに、決して常人では無いと噂されている。

 非常に煙草と酒が好きで、パイプ煙草は何時も手放さない。

 人付き合いは悪いが、自分が認めた人物(『ホシ』や『ガトル』)には、打ち解けている。

 『魔導列車』は、元々鉱山に出稼ぎをした際にトロッコを見て、此れが自走すれば、と常に思考していてその想いが結実した成果で有る。

 今回『帝国鉄道公社』が発足するに当たり、当面の目標で有る帝国の環状線完成に向け邁進している。

 

 営業部長は、『ハイジ』部長

 

 スターヴェーク王国のアルム山に住んでいたが、アロイス王国の簒奪により国を出た、明るく利発で機転が利き、各ギルドや商会との折衝等では人当たり良く応じてくれる為に、大変評判が良く、アラン様達上層部の推進するインフラ整備に非常に協力的で、この人物が居なければ帝国の進めるインフラ整備は、頓挫するのでは無いかと言われる程で有る。

 今回『帝国鉄道公社』が発足する事が出来たのは、この人物のお陰だと専らの噂が出ている。

 

 人事部長は、『ペーター』部長

 

 元々は、『クラン・シャイニングスター』のメンバーでカトルの部下で有ったが、物流輸送での折衝や鉱石の搬入搬出と云う業務でハイジと仲良くなり、アルムおんじという人付き合いの悪い人物とも、普通に接する事が出来て、周りからは図太い神経を持つと評価されている。

 アラム聖国の元聖徒30万人の上に適切な上司を配置し、鉄道敷設工事と云うインフラ整備を滞り無く推進出来ているのは、ペーターの手腕と言って良い。

 今回『帝国鉄道公社』が発足するに辺り、カトルの部下と云う立場を解消し正式に『帝国鉄道公社』に入社する事になった。

 

 『エーリヒ』査察部長、『ホラーツ』財務部長

 

 両名は、元『漆黒』から出向して来て、アラム聖国の元聖徒30万人を管理監督する役目を負っていたが、組織改編にあたり、『帝国鉄道公社』の今後の発展と業務拡大を見据えた必要な人員として、クララ社長が中央情報局エルヴィン局長に願い出られ、今回『帝国鉄道公社』が発足するに辺り、正式に入社した。

 

 此の巨大な国営企業は、軍事面でも多大な協力体制を必要とする為、自分も積極的に交流を図るつもりだ。

 

 12月15日

 

 『帝国鉄道公社』と並び、帝国に於ける物流を担うトレーラーの組織で有る、トレーラーギルドが来年1月1日を以って正式に発足する。

 

 ギルド代表は、『ホシ』と『ジョナサン』

 

 スターヴェーク王国にて、『ホシ』と『ジョナサン』は馬車での人や物の運び屋として、義理人情に篤く金銭に拘らずに人助けをすると、仲間内からも信望篤い人物で有った。

 アロイス王国によってスターヴェーク王国が滅ぼされた際、他国に逃亡する人達を金銭を取らずに亡命させていて、アロイス王国に要注意人物として両者は目を付けられていた。

 大規模移民団が隣国のセシリオ王国で組織させられている時に、積極的にアロイス王国から難民を脱出させていたが、国境線の兵士達に執拗に追い回され、その時に両者の愛馬『一番星号』と『ジョナサン号(ジョナサンは元々この愛馬の名前で、コリント領に着いた際改名した、元の名前はキンキン)』は兵士に殺された。

 コリント領で車両を見て、自分達の手で愛馬を蘇らせようと、尋常で無い熱意で取り組み、見事に新機軸の車両『トレーラー』を作り出し、物流の一大改革を成し遂げたが、あくまでも自分達は運び屋であると言い張り、トレーラー野郎としての自由と引き換えに全ての権利をアラン様に譲渡したが、その際にアラン様と或る約束をした。

 その約束とは、両者の愛馬を殺したアロイス王国と事を構えた際は、軍事行動を妨げない限り、好きに行動して良いという約束だ。

 此の事も有り、両者はアロイス王国を不倶戴天の敵として、殺された愛馬の仇を討つべく、先の戦争に於ける国境での戦いで、生まれ変わった鋼の体を持つ相棒『一番星号』と『ジョナサン号』のトレーラーと、トレーラー野郎仲間を引き連れ、改造しまくったトレーラーで以って、一介のトレーラー野郎400人が200台のトレーラーで、5万人のアロイス王国正規軍を打ち負かすと云う、前代未聞の快挙を成し遂げた。

 トレーラー乗りは雇われた商会や商業ギルドとは別に、初の労業組合とも云うべきトレーラーギルドに所属し、いざという時はトレーラーギルドでの横の連帯を何よりも優先し、『ホシ』と『ジョナサン』はトレーラー乗りの安全と権利を守る為の代表である。

 

 因みに『ホシ』は独身で、未だに自分のマドンナを探しているが、『ジョナサン』は妻帯者で10人の子持ち(1人は養子)で有り、今回のトレーラーギルド発足にあたり、奥さんと子供達はギルドの事務を担う事になった。

 



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71. 12月の日記③(2年目)

 12月20日

 

 此の日、ボットの集中運用により新設されたドーム群の中心の、一際大きく壮麗なドームに、皇帝の居城たる『アスガルド城』が落成した。

 

 此の城には、アラン様とクレリア姫様が住まう事になり、様々な国事行為も行われる。

 近くには、アマド陛下や周辺各国の華族が住まう事になる『ルンテンブルク館』や、皇族や華族がサロンや、各種イベントを行う広大な『ヴァルハラ宮』等が建てられる予定だ。

 

 (現在ボットは、5千体居て、

 

 ハイ・ボット・・・・・従来の汎用ボットより滑らかな会話と、人間に酷似した外見をしているが、反面建築作業やインフラ整備等の力作業には不向きで、教育現場や受付、事務手伝い等に活躍している、凡そ1千体。

 

 汎用・ボット・・・・・従来型で会話も出来て力作業も出来、最も汎用性が高く新規に加わった領土に配属される事が多い、凡そ2千体。

 

 ヘビー・ボット・・・・建築作業やインフラ整備等の力作業に特化したボットで、主に新規のドーム建設や道路等のインフラ整備等の力作業を行っている、凡そ2千体。

 

 このボット達は、『人類銀河帝国』の各市区町村全てに、3体以上配置する為に現在も量産されている)

 

 12月22日

 

 周辺各国から、大使や高位の貴族が続々と『帝都コリント』に来訪され、大使館用のドームとホテル等の宿泊施設の集中するドームに滞在される事になる。

 中には王族自身が来訪し、このまま『人類銀河帝国』への併合を求める小国も有り、相当賑やかな状態である。

 

 12月23日

 

 いよいよ、ルミナス教西方教会の最高位に座す『ヨハネ教皇』が、派遣された壮麗な王族用のトレーラーに乗られて、『帝都コリント』に来訪された。

 『ヨハネ教皇』は、元枢機卿のイーヴォ卿を通しアラン様に大変協力的で、今回の『人類銀河帝国』の誕生と、同時に行われるアラン様とクレリア姫様のご結婚に、是非立ち会いたいと熱望されお越しになられた。

 当然滞在される場所は、『人類銀河帝国』に於けるルミナス教の総本部たる巨大ドームで有る。

 出迎えられた、アラン様とクレリア姫様そしてゲルトナー枢機卿達と親しく挨拶され、大勢の信徒に手を振りながら、ルミナス教本拠である『パルテノン市国』にある神殿に有る像を、軽く凌駕する『女神ルミナス』像と使徒『イザーク』像を内包する神殿に驚かれながら、入殿していかれた。

 

 12月25日

 

 此の日、ルミナス教に於ける最大の神事である、『女神ルミナス』降臨祭が『帝都コリント』にて盛大に執り行われた。

 通常『パルテノン市国』のパルテノン神殿で行われるのだが、肝心のパルテノン神殿がアラム聖国による聖遺物の強奪に遭ったりして、安全性に疑問符が付き、諸事情を鑑みて今回は『帝都コリント』で催される事になった。

 『ヨハネ教皇』がルミナス教ドームに有る『ルミナス神殿』にて、盛大なミサを執り行われる姿は、『人類銀河帝国』のみならず、ルミナス教西方教会圏の国々に設置されたモニターを通し放送され、更にはセシリオ王国内乱時の使徒『イザーク』様のアラン様への助力シーンと、『女神ルミナス』様の我等への祝福シーンが放送され、ルミナス教信徒で無くてもモニターに釘付けになった様だ。

 

 12月28日

 

 『人類銀河帝国』誕生とアラン様とクレリア姫様のご結婚を4日後に控え、スターヴェーク公都から両祖父母が『帝都コリント』にやって来た。

 当然マンションでは狭いので、ホテルに滞在して貰うのだが、久しぶりに再会する事になった両親と妹も一緒にホテルに泊まり、ミーシャと部下のベックとトールも呼んで盛大に歓迎パーティーを催した。

 両祖父母は、1ヶ月前に推奨されて飲んだ『ナノム玉1』のお陰で治った腰の痛みや物忘れ等の効能が素晴らし過ぎて、今後は両祖父母で『人類銀河帝国』の各地に旅行に行くつもりだそうだ。

 なんとも元気な話しだが、『人類銀河帝国』の各地は以前と違って治安状況も良く、旅行事業をタルス商会が来年から始めるという話しもあるから、今後は旅行もブームになるのかな?と思った。

 

 12月31日

 

 明日の準備やリハーサルも終え、昨日はミーシャに手伝ってもらい官舎の大掃除も終わった。

 昨年と違い戦争に出向かずに、平和な年末年始を迎えられそうなので、年末最後の『女神ルミナス』への感謝を捧げるべく、ルミナス教ドームに向かったが、あまりの人数の集中で並ばされて、『女神ルミナス』に詣でる事が出来て家路につく事が出来たのは夜遅くだった。

 明日早朝から自分とミーシャは、行事に参加する為に『アスガルド城』へ行くので、早々に就寝する必要がある、ミーシャを女性用官舎に送り届け最後に、

 「良い年を迎えよう」

 と別れの言葉を言うと、

 「そうね、来年は別々の家に帰る事が無くなると良いわね」

 と意味深に返され、

 「ああ、早い内にするつもりだ!」

 と返事し、

 お互いに歩み寄ってキスを交わした。

 ミーシャが自分自身の部屋に入るのを確認し、自分も己の官舎に向かいながら、明日そして来年の事を考えた。

 これ迄は激動の日々だったが、アラン様とクレリア姫様の不退転の決意と意志に従い、無事故国を取り戻す事が出来た。

 これからも様々な事が起こるだろうが、アラン様とクレリア姫様の歩まれる道を我々は支えて、共に付いて行こうと心に誓った。

 




 この回で、第一部『帝国成立編』が終わり、溜まっていた大量の閑話が次回から始まります。
 そして閑話を終えたら、第二部『帝国拡大編』が始まります。
 話しの途中で書きましたが、この大陸には今迄三大強国という大国が有り、漸く帝国はスターヴェーク王国、ベルタ王国、セシリオ王国と周辺の小国を併合する事で、三番目のアラム聖国の国力に近づく事が出来ます。
 アラム聖国とは、3年間の不可侵条約を結んでいますので、次の難敵は二番めの北方の連邦国となります。
 如何にテクノロジーのアドバンテージが有るとは云え、アラム聖国の隆盛の背景にあった様な『サイヤン帝国』の様に、この国にもある秘密があります。
 どうぞお楽しみに。


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閑話㉒「カレンちゃん日記」⑫(学校は楽しいよ!)

 9月1日

 

 今日から『学校』が始まるから、朝、友達と一緒にテオくんとエラちゃんを迎えに、アラン様とクレリア姫様達コリント領の上層部が日頃暮らしている(今はセシリオ王国と戦争してるから、政務官僚以外ほとんどいないの)ビルに行って、送迎用の乗り合い馬車で『学校』に向かったの。

 乗り合い馬車は、まだ小さい『小等部』の生徒を対象に送迎してくれるんだけど、私達も『学校』には、見学に3回しか行ってないから、どこが生徒用の玄関かも知らなかったから、助かっちゃった。

 これからも、テオくんとエラちゃんをダシにして、乗らせてもらおーっと、えへへっ。

 『学校』の正門前に『小等部』の先生たちがいて、テオくんとエラちゃんそして他の『小等部』の子供達をユウドウして行ったけど、帰りも一緒に帰ろうと約束して、私達は『中等部』の教室に向かった。

 教室は、これから途中入学する予定の子供の為に、各学年4クラス分用意されてるけど、まだ20人しかいないから、1クラスで始まるんだって。

 先生は45才の男性で、元スターヴェーク王国のルドヴィーク辺境伯領で私塾をしてたんだけど、アロイス王国が派遣した兵士とアラム聖国の懲罰官によって、スターヴェーク王国の誤った歴史を教えるとは問題だと、インネンを付けられて、私塾を壊された上に教師の資格も失っちゃたんだって、ヒドイよねー。

 今日は『学校』の始まりだから、教室の壁一面のモニターに映し出された、『学校』内の施設の案内と時間割そして決まりごとを、配布された教科書と一緒に貰った資料で確認したの。

 スゴイんだよー、教室の中には音楽室や美術室、他にも調理室や体育館等があって、なんといっても大食堂というお昼ごはんを食べれる施設もあるの!

 なんと大食堂では、お金やポイントは必要無くて、いくらでもお替り出来るんだって!

 だけど、食事を残したら怒られる上に、授業が終わった後の居残り掃除をさせられるんだって、友達と一緒に帰れないのはイヤだなあー。

 

 9月2日

 

 授業が始まったんだけど、先ずは生徒によって習っている内容に差があるから、読み書き計算を一通り判る子は、知らない子に教えてあげるの。

 でもあらかじめ入学する前に『ナノム玉』を飲んでるから、みんなスゴイ速さで覚えて行くんだよ、私他の子より早くにコリント領に来て、職業訓練校にも行ってたから、そうとう進んでるっていうのがヒソカな自慢だったんだけど、この分だと来週にはアッサリ追いつかれそうだよ・・・

 

 9月10日

 

 みんなスゴイ進歩で読み書き計算出来るようになったのは、予想してたんだけどテオくんとエラちゃんまで信じられない速さで覚えて行って、エラちゃんまだ5才なのに読み書きが出来るようになったの、私5才の時にあんなにキレイな字で書けたかなあー?

 先生もみんなの覚えて行く速さに驚いていて、この分だと直ぐに教える事が無くなりそうだ、と笑っている。

 そんな訳ないじゃんって、みんなで笑い返したら、ナゼカ引きつった顔をしてるの、どうしたんだろう?

 

 9月20日

 

 私達の教室に途中入学して来た子がいるの、名前はサラちゃん。

 なんでもゴタニアっていう街から、引っ越してきたんだって。

 ご両親は、ゴタニアで旅館をしてたんだけど、以前その旅館のアラン様とクレリア姫様の冒険者パーティー『シャイニング・スター』が滞在していて、その時にサラちゃんのお父さんが、アラン様から直々に多数の料理を教わって、ゴタニア周辺では知らない人はいないくらい有名なお店になってたんだって。

 だけど、ゴタニアにセシリオ王国の軍隊がやって来て、今後どんな争いに巻き込まれるか判らないから、出世して男爵になり『魔の大樹海』に領地を頂いたアラン様への恩返しと、もっと沢山の料理を学ぶべく一念発起してこのコリント領に移住するんだって。

 今は、アラン様から頂いたフードコート近くの大きな店舗に、レストランとお菓子の店『豊穣』をオープンする為に、両親と雇われた20人もの元孤児院出身者達で頑張っているんだって。

 無事オープンしたら、絶対行くね!とみんなで約束したの。

 

 9月23日

 

 ファーン辺境伯、ブリテン伯爵、フランシス子爵という貴族とお付きの方々が、『学校』の視察に来られたの。

 みんな授業視察なんて、始めてだから緊張してたんだけど、しばらくしたら慣れて来て何時もの授業風景になったんだけど、逆に授業視察されていた貴族とお付きの方々が、当初にこやかに笑ってたんだけど、授業が終わる頃には真剣な顔をされてたの、どうしたんだろう?

 帰宅する時にテオくんとエラちゃんに、貴族の人が来たの知ってる?

 と聞いたら「うん」とエラちゃんが答えてくれて、

 「自分が書いた読み書きのノートを見せたら、スゴク驚いてたよ」

 と教えてくれた。

 そうだろうな、と私も貴族とお付きの方々が驚いた理由が、なんとなく理解出来た。

 エラちゃんは、会った当初と違いお喋りがスムーズだし、正直5才とは思えない程しっかりとしてきたと思う。

 書く文字は、大人レベルで非常に達筆で、書いている姿を見ていないとこれを書いた人間が、5才の幼女だとは誰も信じてくれないだろう。

 最近戦争から帰って来られた、アラン様とクレリア姫様に宿題のノートを見せたら大変感心されて、クレリア姫様は将来はエラちゃんに秘書になって貰おうと、言ってくれたそうだ。

 クレリア姫様の正体を知っている私は、「エラちゃんそれって本当にスゴイ事なんだよ!」と言いたくても言えないから、もどかしくて困っちゃった。

 



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閑話㉓「カレンちゃん日記」⑬(カレンちゃん、ケッちゃんと出会う)

 10月1日

 

 サラちゃんのご両親が経営するレストラン『豊穣』がオープンした。

 『学校』が終わったら寄ってみようとみんなで相談し、早速放課後に乗り合い馬車でフードコートに向かうと、なんとレストラン『豊穣』から並んでいる長蛇の列が出来ているの。

 みんなで唖然としてたら、予想してたらしいサラちゃんが、裏口から3階にある自宅の自分の部屋に私達を通してくれて、予め用意してたらしい『プリン』を全員に振る舞ってくれた。

 「「「アラン様の『プリン』と同じ味だ!」」」

 と、テオくんとエラちゃんと私は、思わずハモっちゃったんだけど、他の友達達は始めて食べた味に呆然としている。

 まあ、そうだよね、とみんなが驚いている理由は良く判る。

 しかし、ここまでアラン様とソックリの味を出せるとは、サラちゃんのお父さんの『バース』さんは、尋常な料理人では絶対に無い!

 サラちゃんは、窓越しにレストラン『豊穣』に並ぶ長蛇の列を見ながら、

 「オープンする前から、コリント領上層部の人達始め、色んな人からの予約が一杯入ってたから、多分こうなるだろうなとは、予想してたよ(タメ息)

 まあ、明日になれば少しは落ち着くし、雇った人達も少しずつお客さんを上手くさばける様になるから、来週にはこんなに並ばないよ」

 とタメ息まじりに、言ってくれた。

 すると、テルちゃんが、

 「このお菓子は、他のお菓子と違いすぎるよ!

 お菓子でこれなら、料理も絶対に食べたくなるもん!

 しばらくは、こんな風にコリント領の人達、食べたくて並ぶんじゃないかな?」

 と興奮して、サラちゃんに答えた。

 「・・・うーん、その可能性もあるかも・・・」

 とサラちゃんも考えながら言い、前から約束していたカー君とバンちゃんに合わせる為に、私の家にサラちゃんと一緒に帰宅した。

 家に着いて、カー君とバンちゃんを連れ出して近所に出来た公園内の公会堂に向かう。

 最近この公会堂では、大型のモニターで色んな動画が公開されていて、ルミナス教の語る『女神ルミナス』の神話や、以前行われたセシリオ王国との戦争の子供が見て良い動画が見れる様になってるの。

 カー君とバンちゃんも、私達と一緒に大人しく動画を見ていて、休憩中にサラちゃんがお土産として持ってきた、『ラスク』を頂いたら2匹ともとっても喜んで、例のルビー(紅玉)とサファイア(蒼玉)をサラちゃんの手元に生み出したので、サラちゃんは驚いたけど私がカー君とバンちゃんがサラちゃんを気に入った証拠だよ、と説明するとスゴク喜んでくれた。

 「また、何かお菓子を持ってくるね」

 と、カー君とバンちゃんに話し掛け、カー君とバンちゃんも理解した様で額の宝石をキラキラと輝かせている、キレイだねえとみんなで一緒に感心しちゃった。

 

 10月7日

 

 学校から帰宅して、友達と遊ぼうと出かける用意をしてたら、カー君とバンちゃんが部屋にやって来て何かを訴えるように、額の宝石をキラキラと輝かせている。

 こういう時は、カー君とバンちゃんが私に自分達の気持ちを教えてるんだといことは、これまでの付き合いで判ってる。

 「どうしたの?」

 と聞くと、付いて来て欲しいのか、玄関に向かい外出時に入ってもらうバスケットに自ら入っちゃった。

 これは何かある、と思ってバスケットを抱えて外に出て、どっちに行けばいいか、方向を鳴き声の「クゥー」という声で答えてもらい、幾つかの辻を曲がり冒険者の人たちが、ドーム外に出る時に使うゲートまで来たの。

 「ここ?」

 とカー君とバンちゃんに聞くと、カー君とバンちゃんがバスケットから出て、ちょっと離れた路地に向かって行ったの、慌てて追いかけて行くと行き止まりに着いちゃった。

 「本当にここ?」

 とカー君とバンちゃんにもう一度聞くと、

 「クゥーーー」

 と何時もより長くカー君とバンちゃんが鳴いたの。

 すると、行き止まりが消えて小さいけど広場が現れたんで、ビックリしてたら、

 「お初にお目に掛かる。

 お主が、旧友で有るカーバンクル夫妻のご主人で有るな?」

 と声を掛けられて振り向くと、シルクハットと燕尾服を着た猫が流暢に挨拶している。

 「あなたは、どなた?」

 と聞くと、

 「此れは吾輩ともあろう者が、失礼した。

 吾輩はケットシー128世である、あだ名はまだ無い」

 と自己紹介してくれたから、

 「私はカレン。

 中等部の『学校』に通っている学生だよ」

 と私も自己紹介したの。

 すると、ケットシー128世さんは、

 「『学校』とは、どの様な物かな?」

 と聞かれたから、

 「『学校』というのは、このコリント領の子供達が、大人になる為に必要な学習内容を教えてくれる、とっても良いところだよ」

 と教えてあげると、

 「ほほう、其れはとても興味深い。

 例えば吾輩が学びたいと希望したら、教えて頂けるのかな?」

 と聞かれたから、

 「うーん、どうかな?

 私偉い人じゃないから、判らないよ」

 と答えたら、ケットシー128世さんは、

 「偉い人とやらに会うには、どうすれば良いかな?」

 と尋ねられたので、

 「『学校』に入れるかどうかだけを聞くの?」

 と尋ね返したら、

 「否、『学校』の事は二の次で、他にもっと重大な用件が有り、是非此の地で一番偉い人に会わせて頂きたい!」

 と願われちゃった。

 うーん、確かアラン様は、今ベルタ王国の王都に向かっている筈だけど、クレリア姫様は王都に向かわずコリント領の留守を預かってるから、何時ものビルでお仕事をしている筈だよね。

 「一番偉い人かどうか、私には判らないけど、とっても偉い人は知っているから、会ってくれるかどうか聞いてみるね!」

 と答えると、

 「忝ない!」

 とシルクハットを取り、優雅に感謝してくれた。

 早速、路地を出てゲート近くの冒険者ギルドの受付に行き、備え付けの通信機に私のカードを差し込んで、クレリア姫様の親衛隊のサーシャさんと連絡を取ったの。

 だけど、どうしてもケットシー128世さんが猫であるという説明が、理解してくれなくてしょうがないから直接ビルに向かうことにしたの。

 「偉い人の所に、直接行くね」

 とケットシー128世さんに言うと、

 「大変苦労を掛ける、この礼は吾輩の王国が取り戻せたら、何倍にしてでもお返ししよう!」

 と感謝されちゃった。

 



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閑話㉔「カレンちゃん日記」⑭(カレンちゃん、重要な出会いを仲立ちする)

 10月7日の続きね!

 

「吾輩はケットシー128世である、あだ名はまだ無い」

 

 とケットシー128世さんは、クレリア姫様と親衛隊のエレナさんとサーシャさんの前で、優雅にシルクハットと燕尾服を着て挨拶している。

 突然、普通の猫と思っていたのに、テーブル上で立ち上がって幻術を解除し挨拶を始めたので、クレリア姫様達が呆気にとられちゃった。

 

 時間を戻して説明するね。

 

 あの後、サーシャさんに連絡を取ってから、一旦ケットシー128世さんには目立たないように、

 

 「シルクハットと燕尾服を隠して、普通の猫のように周りに見せたいんだけど・・・」

 

 と言ったら、ケットシー128世さんは、首につけてる蝶ネクタイの真ん中にある宝石に、右前足で触れるとアラ不思議、シルクハットと燕尾服が見えなくなっちゃった!

 不思議そうに宝石を見てたら、

 

 「この宝石は、其処に居られるカーバンクル夫妻が、吾輩の誕生日プレゼントに贈ってくれた宝石で、このアーティファクトである蝶ネクタイと組み合わせると、幻術が展開出来るのだよ。

 先程、路地の先の広場を行き止まりに見せかけたのも、此れで幻術を掛けたのだよ」

 

 と教えてくれた。

 カー君とバンちゃんの入るバスケットに一緒に入ってもらい、乗り合い馬車でクレリア姫様のビルに向かった。

 途中、どうしても景色が見たいと、ケットシー128世さんがバスケットの中から訴えて来たので、他に乗っている人が偶々居ないから、バスケットの外に出して上げたら、カー君とバンちゃんと一緒に窓越しのドーム内の景色を行儀よく並んで見学している。

 

 「・・・此れが、建物内の景色とはな、人間とは凄い生き物で有るな!」

 

 と心底感心したように、ケットシー128世さんが感嘆してるので、

 

 「人間の住む場所全部がこんなにスゴイわけじゃないよ、コリント領が特別なだけだよ!」

 

 と教えて上げたら、

 

 「つまり今から会談する、カレン殿のいう偉い人が素晴らしい人物と云う事で有るな?」

 

 と尋ねてきたから、アラン様とクレリア姫様は本当に素晴らしい人だから、

 

 「その通りだよ!

 だけどアラン様は、今別の所に行ってるから会えないけど、クレリア姫様には会えるよ」

 

 と答えて上げたら、

 

 「いやいや、カレン殿のお陰でこんなにすんなりと会談出来るのだ、本当に感謝する!」

 

 と感謝されちゃった。

 そうこうしている内に、クレリア姫様のビルに着いたので、もう一度バスケットに入ってもらい、何時ものようにカードを見せてビルに入り、エレベーターに乗って執務室に向かった。

 執務室の前に、サーシャさんが待っていてくれたので、バスケットに入っているケットシー128世さんとカー君とバンちゃんを見せたら、

 

 「本当に猫なのね、この猫さんがクレリア姫様に会いたいと申し込んだの?」

 

 と私を見て尋ねたんだけど、

 

 「嗚呼、その通りである。

 どうか取り次いで頂きたい」

 

 とケットシー128世さんが頼まれたので、サーシャさんが周りを見渡して誰も居ない事を確認し、恐る恐るもう一度バスケットに入っているケットシー128世さんを見たら、

 

 「どうやら、驚かせてしまった様で有るな、どうか混乱せずに取り次いで頂きたい!」

 

 とケットシー128世さんが、しっかりと言い含めるように発言されたんだけど、サーシャさんはどうしたら良いのか、判断出来ないみたい・・・

 

 「良い!

 カレンが、私に害を為す者を連れて来る訳が無い!

 通して上げよ」

 

 と、執務室からクレリア姫様からの声が聞こえ、サーシャさんもそれもそうかと判ってくれたので、執務室に私達を通してくれたの。

 

 そして最初に書いた通りの話しになったんだよ。

 

 私以外の人達は、呆気にとられてたんだけど、クレリア姫様は直ぐに落ち着かれて、

 

 「ケットシー128世殿と申されるか、我は此処コリント領の留守を預かっているクレリアと申す、リアと呼んで貰いたい」

 

 と返事をなされたので、

 

 「此れは、丁重なるお返事を頂いた、就きましては貴方に吾輩に相応しいあだ名を付けて貰いたいとお願いする、そのあだ名で今後お呼び頂きたい」

 

 と、ケットシー128世さんがクレリア姫様にお願いされて、クレリア姫様は、

 

 「ふむ、ですがまだ我々は出会ったばかりで有るので、今後親しく縁を結んで行けば自ずとあだ名を思いつこう、其れまでは保留で宜しいかな?」

 

 と答えられたので、

 

 「其れもそうで有るな、吾輩とした事が、些か性急に事を進めたようで有るな、今後親しくして行く内に決めて頂く事にいたそう」

 

 と、ケットシー128世さんは納得したみたいだけど、気の毒に思って私があだ名を考えて上げたんだ。

 

 「じゃあさ、私が考えて上げたあだ名で『ケッちゃん』と云うのはどうかな?」

 

 と、提案したら、みんなしばらく黙っちゃて、クレリア姫様が、

 

 「・・・・・・其れは其れとして、ケットシー128世殿は何やら我に頼み事の筋がお有りとか、どうぞその頼み事の内容をお話頂きたい」

 

 と、仰られたんだけど、私のあだ名の事は触れなかったの、いいあだ名だと思うんだけど、私もそもそも『学校』以外のお願いの内容知らなかったから、『ケッちゃん』の願い事を聞いてみる。

 

 「・・・・・・痛み入る、実は『魔の大樹海』の或る場所に、猫の楽園とも云うべき吾輩の王国が有り、其処の国王を歴代に渡り務め上げて居たのだが、其の吾輩の王国が1ヶ月程前に崩壊した。

 崩壊させた輩は人に操られた『フェンリル』、世に氷雪魔狼と恐れられる魔獣で有る。

 人はアーティファクトを駆使して『フェンリル』を操り、吾輩の王国を守護していた『ベヒモス』をその能力である氷雪で凍らせ、更に吾輩の王国をも氷壁で以って閉ざし吾輩達を入れなくしてしまったのだ。」

 

 と天井を見ながら慨嘆し、話を再開した、

 

 「・・・吾輩達は王国を追い出され、途方に暮れながら魔の大樹海をさまよっていたがある時、空を飛ぶドラゴンの背中に乗っている人を見かけたのだ。もしドラゴンを使役する事の出来る人間が吾輩達に協力してくれれば、吾輩の王国を取り戻せるかもしれないと考え、取り敢えず接触をしようと此方にやって来たのだが、懐かしいテレパシーを受け取り確認したら旧友のカーバンクル夫妻のテレパシーで有った、直ぐに会いに向かうと其処の娘子がカーバンクル夫妻と共にやって来られ、娘子の案内でリア殿にこの様に会わせて頂けたという訳だ」

 

 と、ケットシー128世さんは説明して、改まってクレリア姫様に向かい頭を下げられて、

 

 「どうかリア殿には、此の『魔の大樹海』をテリトリーとする唯一のドラゴンとの仲介と、ドラゴンに乗って居られた人間との折衝をお頼みしたい!」

 

 と、スゴク重大なお話をクレリア姫様に願い出られたんだ。

 執務室に居る全員が、真剣な顔をして話しを聞いてくれて、クレリア姫様が、

 

 「ケットシー128世殿、お頼み事の筋、確かに承った。

 だが、もう既に日も暮れていて、貴方の云うドラゴンであるグローリアも、訓練で疲れて眠る頃だ。

 本日の面会は無理なので、どうぞ此処の客室にお泊りして貰い、明日にでもグローリアに会わせよう」

 

 と仰って頂けたので、

 

 「大変有り難い、実は吾輩は王国を出てから、まともに就寝出来ていなかったので、正直な処今すぐにでも眠ってしまい・・そう・・なの・・だよ・・・・・・」

 

 と言ったかと思うと、そのままテーブルの上に倒れて、眠っちゃった。

 今まで気が張っていたから、動けてたんだろうね。

 クレリア姫様が、

 

 「客人を客室にお通しして、ベッドに寝かせて上げてくれ。

 それと、栄養のつく料理とミルク等を用意して置いて、ケットシー128世殿が目が覚めたら食べれるように」

 

 と、通信機で事務方に連絡されて、クレリア姫様は、

 

 「カレン、ご苦労だったな。

 此の事件は、思っていたよりも相当重大な案件の様だ、また明日にでもカー君とバンちゃんと一緒に此処に来て貰えないか?」

 

 と私に仰られたので、

 

 「明日は、土曜日なので学校は午前中で終わりだから、お昼に来ます!」

 

 と答えたら、クレリア姫様はうなずいてくれたの。

 

 馬車で家に送ってもらいながら、私はカー君とバンちゃんに、

 

 「大事になっちゃったけど、明日も一緒に行こうね!」

 

 と言ったら、

 

 「クゥーー!」

 

 と元気良く答えてくれたから、思わず2匹をギュッと抱きしめちゃった!

 



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閑話㉕『カレンちゃん日記」⑮(カレンちゃん、『魔の大樹海』に向かう)

 10月8日

 

 「おや、カレン嬢ちゃんじゃないか、久しぶりだなあ!」

 

 と後ろから声を掛けられたので振り向いたら、ガッシリとした体格のオジサンが手を振ってやって来たの。

 

 「あれ、カールおじさん、今日は、珍しい所で会ったね!」

 

 声を掛けて来たのは、コリント領で最大の冒険者クラン『疾風』のリーダーである、『カールおじさん』だったの。

 カールおじさんのクラン『疾風』って凄いんだよ!

 コリント領に来た頃は、60人くらいの人数だったらしいけど、他のクランやパーティーと合流したり、元孤児院出身者の冒険者達を積極的に入団させて行って、今では300人規模のクランで、まだまだ増やす予定らしくって、500人は住める団地を生活ブロックにアラン様から提供されてるんだよ。

 私は、目の前にあるビルを指差して、

 

 「カールおじさんも、このビルに用があるの?」

 

 と聞いたら、

 

 「ああ、リア殿に呼ばれてな、何でも『魔の大樹海』で取り残された者達の、救援を依頼されたんで是非協力してくれ、と頼まれたんだよ」

 

 と答えてくれたんで、あっ、もしかすると『魔の大樹海』で取り残された者達って、ケッちゃんのお仲間じゃないかな。

 と思ったけど、違うかもしれないから黙っておいて、一緒にクレリア姫様の執務室に向かったの。

 

 執務室に入らせて頂いたら、案の定ケッちゃんがテーブルの上に用意された、小さな席に座っっている。

 流石のカールおじさんも、何で猫が?と疑問に思ったみたいだけど、取り敢えずクレリア姫様にうながされて、座席に着かれた。

 

 「カール殿、早速来て頂いて忝ない。

 実は、通信機越しでは説明しきれないので、直接来て頂いて当事者からの説明を受けるのが、一番手っ取り早いと考えたのだ、是非その者の話しを聞いて頂きたい!」

 

 と、クレリア姫様が話されたので、カールおじさんもうなずいて、

 

 「承知しましたリア殿。

 で、依頼者は別室ですかな?」

 

 と、聞いて来たので、

 

 「いや、驚かれると思うが、依頼者は此の者だよ」

 

 と苦笑されながら、クレリア姫様はケッちゃんに手を差し伸べられたの。

 すると、ケッちゃんは恭しくクレリア姫様の手を取って立ち上がり、

 

 「吾輩はケットシー128世である、あだ名はまだ無い」

 

 と、お決まりのセリフを言って、カールおじさんに対して優雅に挨拶したの。

 カールおじさんも目を大きく開いて驚いたみたいだけど、そこは日頃から『魔の大樹海』に潜っている熟練の冒険者、驚異には慣れっこなのか、すぐに落ち着いて、

 

 「自分は、冒険者クラン『疾風』のリーダーであるカールという者だ、是非依頼内容を教えて欲しい」

 

 と、ケッちゃんに尋ねられたので、

 

 「ふむ、流石はリア殿が太鼓判を押された百戦錬磨の強者で有るな、話しが早くて助かる。

 実は、此処から『魔の大樹海』の内側北部へ向かって吾輩の足で2日の距離に、吾輩の王国民である猫3千匹が湧き水の出る泉で、吾輩を待っているのだが、既に吾輩と別れて3日経っていて、幻術でカモフラージュして隠れさせているとは云え、『魔の大樹海』はそれ程甘い場所では無い。

 カール殿お願いする!

 一刻も早く吾輩の民を救って、此処コリント領に連れて来てはくれないだろうか?」

 

 と、ケッちゃんは頭を下げてカールおじさんにお願いしたの。

 

 「カール殿、私からもお願いする。

 此方もグローリアと軍隊の一部を出すが、貴方方専門家と違い、未踏の『魔の大樹海』の深部には慣れていない。

 当然相応の依頼料と便宜を図るので、此の依頼を受けて貰えないだろうか?」

 

 と、クレリア姫様も口添えする形でお願いされたので、

 

 「そこまで、頼まれなくても良いですよ。

 元々アラン男爵に、コリント領で起こるトラブルに対して、リア殿を助けて欲しいと依頼されてましたし、その為に幾つもの特権と巨大なホームを譲って頂けているのです。

 当然この依頼も自分の受けるべき仕事です、安心して下さい!」

 

 と、力強く答えてくれたんで、クレリア姫様とケッちゃんはホッとして、

 

 「「感謝する!」」

 

 と同時に返事された。

 

 1時間後、軍事ブロックにクラン『疾風』100人と、エレナさんが率いる軍人さん達50人とグローリアさん、そして私とケッちゃんとカー君とバンちゃんが集まって、軍用トレーラー5台で出発したの。

 途中までは、ファーン辺境伯領への道路舗装工事がされていて、スムーズに進んでいたけど、いざ『魔の大樹海』に踏み込んだら、中々順調には進まなかったんだ。

 グローリアさんに、時々吠えてもらったり、ブレスで焼き払ったりしてもらいながら進んでいくと、なんだか奇妙に前方が見にくい所にぶつかって、戸惑ってたら、

 

 「此処である!

 良かった、まだ幻術が解けていなかった」

 

 と、心から安心した声を出して、ケッちゃんが先頭に出て来て、例の蝶ネクタイの宝石部分に触れて、幻術を解除したら、スゴイ数の猫がこちらを警戒して見てたの。

 

 「お前達、無事で有るな?」

 

 と、ケッちゃんが猫達に尋ねたら、

 

 「にゃーにゃー!」

 

 とケッちゃんに複数の猫が報告しているみたい。

 

 「何だと!

 『サイクロプス(単眼の巨人)』が複数来て、周りを徘徊しているのか!」

 

 と、ケッちゃんが大声を上げた瞬間、『魔の大樹海』の奥の方から、木が「バリバリッ!」と折れる音が響いてきた!

 

 「今の内にこの場を去り、道路に用意した乗り物に乗せて貰うのである!」

 

 とケッちゃんが猫達に指示して、道路に用意していた軍用トレーラー2台のコンテナに、子猫を含めた3千匹の猫達を避難させるべく、ケッちゃんと護衛の冒険者達50人が道路に向かう、そして残った冒険者達50人と軍人さん達50人が戦う準備に入って周りを警戒してる。

 私とカー君とバンちゃんは、軍人さん達の後ろに控えて様子を見てたら、100メートルくらい前方に、3体の身長5メートルくらいの巨人が現れたの。

 

 「撃ち方用意!」

 

 とエレナさんが軍人さん達に命令して、軍人さん達が魔法の用意を整えて、『サイクロプス』が50メートルくらいに近づいたら、

 

 「撃ち方始め!」

 

 とエレナさんがもう一度命令したら、軍人さん達は全員で猛烈な各種の魔法を『サイクロプス』に叩き込んで、『サイクロプス』達は何も出来ずに倒されたの。

 

 やったー!って声を上げようとしたら、後ろから木が「バリバリッ!」と音を立てて折れ、15メートルくらいの距離に2体の『サイクロプス』が現れて、

 

 「ゴオオオオオオーー!」

 

 と叫びながら、手に持った棍棒を振りかざして、迫ってきた!

 

 「クゥーーー!」

 

 とカー君とバンちゃんが吠えて、額の宝石からキレイな光輝く光線を、『サイクロプス』2体の目に浴びせたの!

 

 「ガアアー!」

 

 と、『サイクロプス』2体は目を抑えて、苦しみ始めて見当違いの場所に向かい、棍棒を振り回してる。

 すると上空からグローリアさんが、猛烈な勢いで『サイクロプス』2体に襲いかかり、一体は頭を踏み潰して、もう一体は尻尾で打ち据えて動けなくしちゃった。

 本当にグローリアさんは強いよね、あっという間に強そうな『サイクロプス』を倒しちゃったんだから。

 それより私は、カー君とバンちゃんが頑張ってくれたのに感動して、

 

 「カー君、バンちゃん、私を助けてくれて有難う!」

 

 と抱きしめたら、

 

 「クゥ」

 

 と返事してくれて、安心してたら、

 

 「ゴオ!」

 

 と突然吠えて、尻尾で打ち据えられて動けなくなってた『サイクロプス』が起き上がったの!

 

 「ウオオオリャアー!」

 

 とスゴイ掛け声と一緒にカールおじさんが、大きな斧が先端に付いた武器で『サイクロプス』に向かって斬り掛かり、周りから冒険者達が何十本もの槍で『サイクロプス』を突き刺したの。

 流石に何十本もの槍が突き刺さって、倒れた『サイクロプス』の首をカールおじさんは、大きな斧が先端に付いた武器で切り落としちゃった。

 

 「危なかったな!」

 

 とカールおじさんは、私に微笑んでくれたから、

 

 「ありがとう、カールおじさん!」

 

 と頭を下げて感謝したら、

 

 「オウ!」

 

 と武器を天に突き上げて答えてくれた。

 やっぱり、冒険者の人達も軍人さん達に負けず劣らず強いんだなあーって、感心しちゃった。

 



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閑話㉖『カレンちゃん日記」⑯(カレンちゃん、成功サンプルに認定される)

 10月8日の続きね

 

 あれからカールおじさんのクラン『疾風』の人達に、ケッちゃんの王国民の猫さん達3千匹を軍用トレーラーで、コリント領に運んでもらって、私とケッちゃんとカー君とバンちゃん、そしてエレナさん率いる軍人さん達50人とグローリアさんは、猫さん達が避難していた湧き水の出る泉の更に奥にある、崖に向かったの。

 

 「此処で有る!

 いよいよ、カーバンクル夫妻の主人で有る、カレン殿の出番で有るぞ!」

 

 と、ケッちゃんが声を掛けて来たので、私は事前にケッちゃんに説明してもらった内容を思い出した。

 

 

 『魔の大樹海』に向かう前に、

 

 「カレン殿、貴方に頼みたい事が有る。

 吾輩達は、『フェンリル』によって王国から追い出されてしまった身で有り、財産と呼べる物を一切持たぬ難民で有る。

 故に今回、貴方方のご厚情に対して、支払うべき物品が無い。

 だが、カーバンクル夫妻に認められた貴方ならば、或る条件を叶えて居られるから、此の地に眠る『封印』を解く事が出来る!

 その『封印』されている代物は、必ず貴方方にとって益になる物だ。

 是非、協力して貰いたい!」

 

 とケッちゃんに頼まれたので、

 

 「うん、いいよ!

  カー君とバンちゃんは私の親友だし、ケッちゃんも友達だと思ってるから、友達のお願いだから出来る限り手伝うよ!」

 

 と返事したら、

 

 「・・・・・忝ない。

 必ず恩には報いよう」

 

 と言われてたんだ。

 

 

 そして今、私の出番らしいんだけど、どうすれば良いのかな?

 

 「カレン殿、もう少し右に移動してくれ・・・・・

 ・・・そう、其処だ!

 暫くしたら地面が盛り上がるが、それ程高くは盛り上がらないから、そのまま立って居てくれれば良い」

 

 と説明してくれたの。

 

 徐にケッちゃんとカー君とバンちゃんが、崖前に並んで、ケッちゃんが呪文の様な言葉を唱え始めたの。

 

 「今此処に、調整者派遣の生体監視端末で有る3個体、我『星猫(スター。キャット)』個体名『ケットシーNO.128』、『レッド・カーバンクル』個体名『フレイムNO.111』、『ブルー・カーバンクル』個体名『アイスNO.123』が選出した成功サンプルを提示する。

 調整者『スター・シード』プロジェクト・・・成功例『惑星アレス』に於ける『マナリンク』プロジェクトと、成功例『アサポート星系』に於ける『ナノマシン』プロジェクトの融合成功を確認、『ヒューマン・エボリューション』プロジェクトの第三段階への進化を促す為、文明レベル促進資材『オリハルコン、アダマンタイト鉱床』の『封印』の解除を要請する」

 

 と、私にはサッパリ判らない言葉を唱えたら、突然地面が盛り上がり、崖の一点から光が私を照らして来たの。

 驚いたけど、ケッちゃんとカー君とバンちゃんを信じて、光が私を照らすのを我慢して待ってたら、光が止まって崖の一部が、「ゴゴゴッ!」という音をたてて開き始めたんだよ。

 エレナさんと軍人さん達が、恐る恐る覗いてみて確認して、その内の誰かが中に入り、

 

 「これは凄い!

 見たことの無い、鉱石が壁一面に広がっていて、ずっと奥まで続いている!」

 

 と中から大声を出して、みんなに教えてくれた。

 エレナさんが、ケッちゃんに、

 

 「・・・此れが貴方の言われた、我々への報酬なのか?」

 

 と聞くと、

 

 「其の通りである。

 どうか今回の依頼の報酬として受け取って欲しい。

 そして其れは此の娘子、カレン殿のお陰だ。

 カレン殿の健やかなる精神と身体は、貴方方の云う『女神ルミナス』のお眼鏡に適った!

 どうか今後のコリント領の発展の為に、役立てて欲しい。

 おそらくは、貴方方の長で有る『アラン殿』とは、綿密な計画に基づいて民を導いて行くお積もりだろう。

 願わくば、此の『セリース大陸』を平和に治められ、何時かは・・星の・・・・・海へ・・・・」

 

 と、ケッちゃんは暗くなって星が瞬き始めた夜空を仰ぎ、懐かしそうに呟いている。

 きっと昔の事を思い出してるんだろうね、近所のおじいさんやおばあさんが似たような感じで、スターヴェーク王国の事を思い出してるのを見たことあるから。

 

 10月9日

 

 昨日は夜遅くコリント領に戻ったらしい。

 らしいと云うのは、私帰る途中軍用トレーラーに乗って揺られてたら眠っちゃって、コリント領に着いた頃には熟睡してたそうで、執務用のビルに有る客室ベッドで朝起きたんだ。

 サーシャさんが、家の母ちゃんに連絡を入れてくれてたから、家に帰った時は怒られなかったけど、会う約束をしていたテルちゃんに謝る為に、隣の家のベルを鳴らしてテルちゃんに会い、事情を話したの。(もちろん話して良いと言われてる処までね)

 テルちゃん達と、昨日約束してた買い物を済ませ、午後は様子を見にビルに向かったら、丁度クレリア姫様がケッちゃんと共に、猫さん達を預かっている農業ブロックへ出かけるところだったから、一緒に連れて行ってもらうことにしたの。

 猫さん達は、使っていない巨大なサイロとその付近の芝生の上で、ゆったりと休んでいる。

 昨日まで幻術で隠れていたとはいえ、サイクロプスが周りをうろつくあの『魔の大樹海』で夜を過ごしてたんだから、それは眠いよね。

 でもここなら、雨は降らないし外敵も居ないから、のんびりと過ごせるよ。

 ケッちゃんは、起きている数匹の猫さん達と相談して、今後それぞれの猫さん達の希望を聞いて、ここに住むか?人のいる生活ブロックに行くか?を決めるみたい。

 私がカー君とバンちゃんと一緒に暮らしてる姿を、うらやましそうに見ている親友達の顔を思い浮かべ、

 

 「・・・あのー、良ければ私の親友達と一緒に暮らしてくれる猫さん達はいないかなあ?」

 

 と聞いたら、ケッちゃんが、

 

 「・・・・・・ご迷惑では無いか?」

 

 と尋ねてきたので、

 

 「・・・確かに部屋を汚されたりしたら迷惑だろうけど、ルールを決めてそれを破らなければいいんじゃないかな?

 だってこれから、同じコリント領で過ごす仲間なんだよ!

 仲良くする為にも、一緒に暮らしてお互いに歩み寄って、より仲良しになろうよ」

 

 と答えたら、クレリア姫様とケッちゃんは、フムと考えこまれた。

 

 「・・・希望者を募ってみよう、今迄自由気儘な暮らしをして居たので、人との関わりを学ぶ為にも人と一緒に暮らしたいと思う者もいるかも知れない」

 

 とケッちゃんが承知してくれて、

 

 「相わかった、人間の側でも新しい仲間として加わった、猫達とのルールを作り、双方納得の行く形で暮らせる様にする」

 

 とクレリア姫様も承知してくれて、ケッちゃんとクレリア姫様は握手した。

 きっと、上手くいくよね。

 と二人のその姿は見て、確信出来たよ。

 



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閑話㉗「ガトル親父の雑記」⑥(親父、伝説の鉱石と出会うの巻)

 10月10日

 

 珍しく俺はクレリア姫様に呼び出され、執務用ビルに向かった。

 何でも新しい鉱脈が見つかったらしく、その鉱石の用途を調べる為に来てくれとの事だ。

 アラン様から頼まれた、新たな魔道重機と魔道トラクターを開発中ではあるが、クレリア姫様に頼まれたとあっちゃあしょうがねえから、ドップに任せて俺の新しい愛車の『バイソン』で出向いたって寸法だ。

 俺の新しい愛車の『バイソン』は、アラン様のアイデアにあった『四輪駆動車』で、かなりの難所でも問題なく走れる、俺の自慢の愛車だぜ。

 カードを提示して大会議室に通されると、俺だけではなく飲み仲間の『魔道列車組』『トレーラー組』とコリント領の魔術ギルド代表カーラ殿が集められてた。

 随分とクセの強い連中が集められたもんだ、と思ったが考えてみりゃあ新しい鉱石が見つかったと噂になれば、ほっといても押しかけてきそうな連中だ、それなら最初から集めて置こうということだろうな。

 大会議室に、クレリア姫様を先頭にロベルト老とダルシム隊長始め軍人組が入室して来た、これは大事だと思いながら、部屋に居た全員が起立しクレリア姫様に頭を下げた。

 

 「皆、頭を上げて注目して欲しい。

 我々は、新しい鉱脈を発見して試掘し幾つかの鉱石を持ち帰った、是非手にとって確認し、其々の知見で以って意見を述べて貰いたい」

 

 とクレリア姫様が、開会早々に宣言されたので、相当重要な代物だと予想し、早速運ばれて来た鉱石を手に持って確認してみたんだが、驚愕しちまって鉱石をテーブルに落としちまった!

 こ、コイツはもしかして、あの伝説の『オリハルコン』なんじゃねえか?!

 噂じゃあ、あの魔法剣製造で有名な『イリリカ王国』王族の秘剣として有名な『カリバーン』が、このオリハルコン製だと、聞いたことがあらあ。

 もし本物ならば、魔力を通せば光り輝く筈だ。

 恐る恐る、鉱石に魔力を通してみたら、見事にキラキラと輝き出したじゃねえか!

 伝説では、オリハルコンは『真なる黄金』と云われる。

 ミスリルが『真なる銀』と云われるのと同じく、魔力を通すと真なる能力を発揮し、通常時とは比べ物にならない切れ味や、魔法を発動すると謳われている。

 俺と『トレーラー組』そしてダルシム隊長始め軍人組は、オリハルコン鉱石を代わる代わる確認し、凄え凄えと嘆息してたが、横で別の鉱石を確認してた魔術ギルド代表カーラ殿が、突然卒倒しちまって更に周りが騒がしくなっちまった!

 俺も気になって、そっちの鉱石を確認してみたら、なんだか透明に光る部分が目についた。

 まさか?!と思いながら黒く煤けた鉱石を拭いていったら、まるでクリスタルの様に透明に光り輝く鉱石がゴロンと存在してるじゃねえか!

 しかし、絶対にコイツはクリスタルなんかじゃねえ!

 先ず、硬さが違う!

 クリスタルって奴は、かなり脆い構造体で鋼のハンマーでぶっ叩くと、簡単に割れちまう。

 だが、コイツは触って見た感じでは、鋼のハンマーでぶっ叩いたところで、逆に鋼のハンマーがひしゃげてしまいそうだ。

 そして、俺の勘だと、コイツもオリハルコンと同じく魔力を通せば、凄え事になりそうだ。

 意を決して魔力を通してみたら、案の定だ!

 オリハルコンどころか、その10倍の光りを発してやがる!

 コイツは一体どういう鉱石だ?!と誰もが疑問に思ってると。

 

 「・・・・・『アダマンタイト』別名『真なる金剛石』その輝きと魔力伝導力は他の追随を許さず、『女神ルミナス』の持つ聖なる杖『ガンバンテイン』の材料として使用されている、神話の鉱石・・・・・」

 

 と今迄倒れてたカーラ殿が、陶然とした顔つきで俺の目の前にある鉱石を見つめていた。

 

 まさか?!

 『女神ルミナス』様が手に持ち、いざ戦いとなれば、その先端から凄まじい雷を発し万の敵を打ちのめし、慈愛を持って民に振るわれると万人の病と傷を治すと云われる、神器『ガンバンテイン』に使用された材料である鉱石だとおおー!

 

 あまりにも恐れ多くて、尻込みしてしまいそうだぜ。

 皆、驚愕しながらクレリア姫様に振り向くと、

 

 「皆が驚くのも無理は無い。

 此の2種類の鉱石は或る者との約定により、コリント領に齎された鉱脈から採取したものである。

 信じられないだろうが、膨大な鉱脈が提供されており、恐らくは掘り尽くすのに数百年は掛かるのでは?という量だ」

 

 と信じ難い話しをクレリア姫様は仰られ、

 

 「では皆の意見を聞きたい、挙手して意見を述べて貰いたい」

 

 と言われたので、早速俺は挙手して許可を貰い発言した、

 

 「恐れ多いんですが、意見を言わせて頂きます。

 本当なら重機開発者としての意見を述べるべきなんでしょうが、どうしても我慢出来ません!

 リア様お願いです!

 この自分に、『オリハルコン』と『アダマンタイト』を使用した、武器と武具の作成の許可を貰えませんでしょうか?

 アラン様から提供された工場にある、工具と機材ならば必ず従来の武器と武具を超える物を作り出して見せます!」

 

 と意見と云うより、お願いをしちまった!

 しょうがねえじゃねえか、元の鍛冶職人の想いが魂が、咆哮を上げて体から出てきちまいそうなんだ、我慢が出来なくてどうしようもねえんだよ!

 

 クレリア姫様も判ってくれたらしく、苦笑しながら頷かれて、

 

 「判っている。

 王都に居るアランに連絡した時にも、アランからガトル殿が望まれる量の『オリハルコン』と『アダマンタイト』を与え、ガトル殿が思い描く武器と武具を好きな様に作らせる様に、と言われていたのだ。

 ガトル殿、貴方の思い描く武器と武具を是非作成して欲しい、その為の協力は惜しまない!」

 

 と、あまりにも素晴らしいお言葉を頂いて、俺はそのまま跪いて、

 

 「ハハーッ!」

 

 と感謝した。

 その後、他の面々も意見を上げていた様だが、俺は上の空で聞いていて、ひたすらこれから作る武器と武具を想像して、夢心地だった。

 



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閑話㉘「ガトル親父の雑記」⑦(親父、武器・武具の制作準備を始めるの巻)

 10月11日

 

 昨日は、会議の途中からよく覚えてねえんだが、とにかく愛車の『バイソン』で工場に帰り着き、工場にある工場長の部屋のソファーベッドで眠った様だ。

 隣りにある作業デスクには、思いついた武器や武具のラフデッサンと仕様書、そして鉱石から鉱物のみを抽出するアイデア等が書きなぐられた紙が、散乱している。

 多分興奮したまま書いたんだろうな、と我ながら呆れる思いで眺めながら、備え付けの冷蔵庫から瓶に入った珈琲をカップに入れ、熱魔道具の上に置いてホットを選択し5秒後温まった珈琲を飲んで、眠気を吹き飛ばした。

 さあて、今日からまた忙しくなるぞ!

 という覚悟とは別の鍛冶職人としての高揚感に包まれながら、散乱した紙束を整理しながら頭の中身も整理してやった。

 取り敢えずは、専用の反射炉と溶鉱炉の確保、そして鉱板の成型とその保管場所の確保、更に武器及び武具にする為の鍛錬と研ぎを行う鍛冶職人と器具の製造、此れ等を整えなくちゃいけねえ。

 出勤時間になり、自分も工場前広場で『帝国式体操』っていう軍隊から広まった柔軟体操を、毎朝の決まった時間に音楽に会わせて行う。

 柔軟体操を終えてから、幹部連中を会議室に集めて今後の方針の転換を宣言した。

 先ず各工場ラインに配置している鍛冶職人経験者を集め、抜けた穴を別の人員で埋めラインは問題なく稼働する様に手当し、トラクターやフォークリフト等の6車種は納期までに作り上げれる様にして、アラン様から頂いたアイデアの車両の開発は一旦棚上げし、新しい武器と武具の作成に注力する事になった、と説明した。

 ドップ始め幹部連中は、昨日までの方針が変更した事に戸惑ってるが、今までの付き合いで何かが有った事に気が付き、阿吽の呼吸で会議室の鍵を掛けて誰も入って来れない様にして、俺の詳細な説明を求めた。

 頼もしい奴らだぜ、と思いながら幹部達に『オリハルコン』と『アダマンタイト』の鉱脈の発見と、その膨大な量、そして其れ等を使用した新しい武器と武具の開発の許可を頂いた事を説明してやった。

 幹部連中の中でも鍛冶職人出身の奴らは、最初はまさか?といった顔をしてやがったが、俺の腹案を聞いていく内に、これが嘘でも冗談でも無く本気である事だけは理解してくれた。

 早速鍛冶職人出身以外の奴らの中で人事担当部署は、『放送局』に行き鍛冶職人の大募集の広告宣伝を頼みに行き、施設管理部は工場ラインの見直しと、新たに作る武器・武具用の開発拠点の設置の計画に入った。

 そして鋼材調達部は連携している、『魔道列車組』と『トレーラー組』の鋼材調達部と連絡を取り、専用の反射炉と溶鉱炉の立地と構築の計画を相互に相談している。

 皆、目の色を変えながら活動している中、俺や鍛冶職人出身の連中は、作る武器・武具の種類・強度・魔法付与の実験等の重要項目の策定と器具の調達を、8ちゃんと相談しながら決めていった。

 

 10月16日

 

 最初の『オリハルコン』鋼材が、元々有った溶鉱炉で出来上がり実験の為に、『魔道列車組』と『トレーラー組』そして俺達様に運び込まれた。

 いよいよ色々と試して、俺達の思い描く武器・武具を作る前段階まで進めるぜ!

 先ずは強度の確認だ、以前の工房の時から愛用しているアラン様から貰ったハンマーやペンチ等の機材が、果たして伝説の『オリハルコン』鋼材に通用するかが一つの実験なんだが、なんとほぼ同等の強度だったぜ。

 未だにこのハンマーの素材については謎なんだが、負けてないのならこちらとしても問題無いぜ。

 俺は他の鍛冶職人出身の連中の為に、オリハルコン製のハンマーやペンチ等の機材の成型用の型を、時間は掛かったが作り上げた。

 これで溶鉱炉から出て来た、熱々のオリハルコンを成型用の型の内側に別の素材(粘土等)で型枠し、流し込んで冷却すれば、立派なオリハルコン製のハンマーやペンチ等の機材の完成だ、これを『魔道列車組』と『トレーラー組』にも用意してやれば、作業効率が上がるって寸法よ!

 

 10月18日

 

 当初予定していた数、のオリハルコン製のハンマーやペンチ等の機材が出来上がった。

 取り敢えず、オリハルコン製のナイフを作ってみる事にして、適当な量の鋼材からナイフの形を作り、ハンマーで鍛えて行く。

 良い感じに出来て、刃の部分を研ごうと砥石でグラインドしてみたら、なんてこった?!

 砥石が磨り減るばかりで、肝心のオリハルコン製のナイフの刃先は少しも研げて無いときたもんだ。

 コイツは想定外だ、如何に硬かろうが切れないナイフなんて意味が無いぜ。

 途方に暮れて、周りの鍛冶職人出身の連中と一緒に悩んでたら、8ちゃんが、

 

 「アランサマカラノオクリモノデス」

 

 と台車に乗せた魔道具を持ってきた。

 

 「コイツは何でえ?」

 

 と聞くと、

 

 「コウミャクカラコウセキヲトリダストキニデル『アダマンタイト』ノカケラヲ、ヒョウメンニツカッタ『グラインド・カッター』デス、コレナラバオリハルコンデモトゲマス」

 

 と凄え事を言ってきたから、モノは試しだとナイフの刃先を研いでみたら、嘘のように刃先が研げてキラキラと輝いていやがる。

 

 「流石アラン様だ、こういった事で俺達が困るだろうと、想定してたんだな、本当に有り難え話しだ!」

 

 と王都に居るアラン様に向けて拝んじまった。

 きっと、アラン様や家臣の方々に相応しい武器を納めさせて貰うぜ!

 



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閑話㉘「ガトル親父の雑記」⑦(親父、ドリル・バイクを作り上げるの巻)

 10月19日

 

 ハロルド達の工場にドップと一緒に向かった。

 『オリハルコン』の説明と技術支援をする為なんだが、ここの煩さは半端じゃねえ!

 あんまり五月蝿えから、ハロルド達上層部数人を掻っ攫って俺の工場にとんぼ返りした。

 こいつらは、元は俺の工房の若え奴らだったんだが、一通り技術を覚えたら重機より『モト・サイクル』に興味を持っちまって、アラン様と俺の公認の元、新しい『バイク』という代物を誕生させたかと思ってたら、あれよあれよという間に『戦闘バイク』て奴を完成させちまった。

 コイツは『バイク』の横に、小型化した『バズーカ』っていう魔道具を取り付けて、ハンドル上のボタンを押す事で各種の魔法をぶっ放すって奴と、『バイク』の脇に車輪の付いた『サイドカー』って奴に人が乗り込んで、備え付けた『バズーカ』を撃てる様にしてる奴の2種類だ。

 実験で、『魔の大樹海』の魔物との対決をモニターで見せて貰ったら、正に鎧袖一触ってやつで勝負にもならねえくらい圧倒的だった。

 俺達の弟子がこんなに凄え物を発明して、実戦配備も間近って云うんだから俺も負けてられねえし、俺とドップにも戦闘用バイクの腹案があるから、ハロルド達と相談したかったんだ。

 ハロルド達も新しいアイデアに飢えてたから、この日は徹夜で激論しあって終わったのは翌日の朝4時で、そのまま工場の仮眠室で全員倒れる様に寝ちまった。

 

 10月20日

 

 ハロルド達を愛車の『バイソン』で送るついでに、『戦闘バイク』の演習場に出向くと、一際目立つバイクがひたすら障害物にぶつかり、終いには突き刺さったまま動けなくなっていやがった。

 

 「何をやってるんでえ!」

 

 と助手席に座っているハロルドに聞くと、

 

 「先日から演習参加されたファーン卿のご子息が、大変『戦闘バイク』を気に入られたんですが、独自の戦術構想を持たれていて、それを実践する為に従来より頑丈な大型バイクの先頭部分に、あの様な重装甲騎士が使うランスの先を巨大化した物を取り付け、敵を薙ぎ倒しながら突き進める様に試行錯誤を繰り返しているんですよ」

 

 と答えてくれた。

 ホーッと貴族のお坊ちゃんにしては、根性の入った奴だと感心しながら見ていたが、ピンッと頭に閃くものが有りやがった!

 

 『バイソン』でそのまま貴族のお坊ちゃんに近づき、

 

 「失礼しますが、その『戦闘バイク』ではご不満では無いですか?」

 

 と不躾に聞いてみたら、気にした様子もなく、

 

 「言われる通り、不満だらけだよ。

 私の理想はあらゆる障害となる敵を、この『戦闘バイク』が集団の先頭で蹴散らし進み、常に戦争の主導権を握る事で、圧倒的に優位に戦闘を行うというものだ、それにはこの『戦闘バイク』に取り付けた大型ランスでは、役不足も甚だしい!」

 

 と、かなりお冠の様だ、

 

 「それでは、そのご不満を解消する戦闘バイクを提供すれば、乗って頂けますか?」

 

 と提案したら、

 

 「そなたは?」

 

 と聞かれたんで、

 

 「これはご無礼致しました、私はガトルと云う者でこのハロルド達の師匠の様な立場です」

 

 と頭を下げながら説明すると、

 

 「これはお初にお目に掛かる、私は先日爵位が上がったファーン侯爵の次男で、カインと云うものだ。

 ハロルド殿から聞かせて貰ってる、ガトル親方とは貴殿の事であるな。

 お会いしたいとは願っていた処だ、是非その戦闘バイクを提供して頂きたい!」

 

 とやや興奮しながら歩み寄って来られたので、頭を下げたままでいると、

 

 「頭を上げて、どうかざっくばらんに接して欲しい。

 貴方方はファーン侯爵領民では無いし、大体自分は貴族扱いされるのは嫌いで、一介の武人で有りたいと常に思っているんだよ。

 ファーン侯爵領ではそういう訳にも行かないが、ここコリント領では一介の武人で通したい!」

 

 と望まれたから、俺も、

 

 「判りやした。

 その方が俺も話し易いし、お互い意見も交わしやすいってもんだ。

 それでは、ハロルド達をバイク工場に送り届けたら、俺の工場にそのバイク毎付いてきてくだせえ」

 

 と気軽に応じると、「判った」と貴族とは思えない気軽さで答えて、カイン殿は着替える為にロッカールームに向かった。

 ハロルド達をバイク工場に送り届け、カイン殿と合流しそのまま俺の工場に向かう。

 

 カイン殿のお付きの騎士2人も戦闘バイク乗りで、例のバズーカを搭載した戦闘バイクで工場内に入り、一緒に企画開発室に入って貰う。

 早速、今朝まで激論を交わして作成した新しい戦闘バイク案をモニターに映し、説明を始めた。

 

 「この様に、新設計の戦闘バイクはバズーカの砲口以外の部分を、オリハルコンのカバーで覆うことで防御力を高めて、敵の攻撃や障害物の破片から搭乗者を保護する事が出来るんだが、肝心の先頭を進むドリル重機が鈍重で、折角の戦闘バイクの長所である速力が失われる事になってやがったんだが。

 カイン殿あなたの様な度胸が有り、障害物にぶつかろうが阻まれようが突き進む運転技術、貴方ならば重機では無く戦闘バイクの先端にドリルを付けて、ドリルの回転と魔法発動の反動にも耐えられるだろう。

 そうすれば貴方を先頭にして斜め後ろを、お付きの2人が固める事で三角形の鏃の形が出来上がるって事だ。

 これならば、利点を殺す事無く戦闘バイクの能力を十全に活かせる。

 是非俺に、今思い付く最強の戦闘バイク『ドリル・バイク』を作らせて欲しい!」

 

 と、俺が願い出ると、黙って聞いてくれてたカイン殿が歩み寄ってきて、俺の手を取って握手して来て、

 

 「こちらこそ頼む、ずっと越えられない壁が有り、どうしたら良いか皆目検討が着かず困っていたんだ。

 だがガトル殿、貴方のお陰で目の前の壁が取り払われた。

 是非ガトル殿の思い描く、最強の戦闘バイク『ドリル・バイク』を作ってみせてくれ!」

 

 と熱意の籠もった目で俺を見ながら、握手する手により一層の力を込めて握ってきた。

 なんて熱い男だ、とても貴族のお坊ちゃんとは思えねえ、すっかり気に入ったから、内の幹部連中とお付きの騎士さん2人も連れて、前祝いに馴染みの飲み屋で宴会をしたんだが、何故か『トレーラー組』のホシとジョナサンまで合流して、とんでもなく賑やかな宴会になっちまった。

 

 10月28日

 

 宴会の翌日から、カイン殿が乗られていた戦闘バイクを試験機にして、ドリル重機の為に作っていた鋼のドリルを取り付け、様々な試験を行い取り敢えず乗れる代物を作り上げ、カイン殿に乗ってもらい乗り心地を確かめて貰ったんだが、相当なじゃじゃ馬らしく中々に乗りこなすのに手間が掛かりそうだ。

 

 11月2日

 

 漸くハロルド達に発注しておいた『ドリル・バイク』用の大型バイクが届いたし、特注の『アダマンタイト』製のドリル、そして魔法発動用の各種シリンダーも用意している。

 これらを素体にして俺の思い描く最強の戦闘バイク『ドリル・バイク』を作り上げて見せるぜ!

 

 11月6日

 

 とうとう出来上がったぜ!

 これこそが現在思い付く最強の戦闘バイク『ドリル・バイク』だ!

 既にアラン様達には、コイツの概要は伝えて有るから、きっと明後日からの行軍には役立ってくれるに違いねえ。

 一緒に行く事は出来ねえが、ハリーの奴が付いて行ってるから、後で動画で見せて貰えるだろう。

 カイン殿、頑張ってくれよな!

 

 



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閑話㉙「ガトル親父の雑記」⑧(親父、納得の武器を作るの巻)

 11月9日

 

 昨日、アラン様始めコリント領に残っていた全軍が、ファーン侯爵領救援に向かった。

 俺やハロルド達と『トレーラー組』の作り上げた、戦闘車両や戦闘バイクそして人員運搬用のトレーラーの初陣だ、アラン様達の戦いにきっと役に立ってくれるだろう。

 そう願いながら、元のオリハルコンでの武器や武具の制作に今日から打ち込み始めた。

 

 11月20日

 

 思い付く限りの武器と武具の試作品を作り上げ、その能力試験をしている最中にセリーナ殿が来訪された。

 ブリテン侯爵領に入り、領兵の訓練と周辺地域の治安の安定を図る為に、賊の征伐や魔物の駆除を行っていたそうだが、その任務をある程度終えたので報告と補給に、一旦少人数でのコリント領への帰還となったそうだ。

 

 「お初にお目に掛かるガトル殿、私は暫定第2軍団団長のセリーナです。

 アラン辺境伯様の紹介でこちらに来ました、以後お見知り置き下さい」

 

 と、なんとも女性にしては堅苦しい物言いで、自己紹介されたから、

 

 「こちらこそ、宜しくお願いします」

 

 と、堅苦しく返事するしかなかったぜ。

 

 「実は、これを見て欲しい。

 新しい武器の資料だ」

 

 と言われて、紙の束を渡された。

 何枚か捲ってみて確認すると、そこには俺が作った試作品の中には無い、武器としての思想が根本的に違う代物が資料となっていやがった。

 

 「・・・こ、この武器は?」

 

 と震える手付きで、資料に釘付けになりながら尋ねると、

 セリーナ殿が、

 

 「此れ等は、アラン辺境伯様の故郷に存在した武器です。

 ガトル殿には此れ等の武器の再現、そして凌駕する武器の制作をお願いしたいのです!」

 

 と、お願いして来た。

 

 「願ってもねえ!

 是非、作らせてくれ!!

 必ずこの武器達を凌駕する武器を、この手で作って見せるぜ!!!」

 

 と、思わず地の喋り方で答えちまった。

 そんな俺の半ば失礼な物言いを、気にした様子も無く、

 

 「実に素晴らしい!

 見事な心意気で、頼もしい限りだ!

 そんなガトル殿には、私が望む武器の作成を切に願う!!」

 

 とセリーナ殿は、自身のカバンから紙束を新たに取り出し、俺に渡してくれた。

 

 「・・・これは?!」

 

 と食い入る様に紙束を見ていると、

 

 「・・・『冷艶鋸』!

 武器の種類は青龍偃月刀と云い、私の尊敬する昔の武将の愛用した武器です。

 そしてそれを更に魔法強化する事で切れ味を増し、魔法発動媒体としての能力を加えたのが、その資料になります。

 絶対に完成させて下さい!」

 

 と今までより熱意の籠もったお願いをされた。

 紙束を見ていると、なるほどこの資料は最初に見せられた資料よりも、より詳細で細かい指定が入っている。

 これならば俺としても作りやすいし、完成させてみせれば俺の技術も格段に上がるに違いねえ!

 

 「やってみせますぜ!」

 

 と承諾したら、セリーナ殿は満足そうに頷き、

 

 「頼む!」

 

 と言われて、キビキビとした動きで出ていかれた。

 なんとも男らしい女性だなと感心しちまった。

 

 11月29日

 

 何度もの失敗を繰り返しながら、セリーナ殿の武器『冷艶鋸改』が出来上がった。

 ほぼセリーナ殿の資料通りに仕上げたが、俺のアイデアでアダマンタイト製に石突を変更し、刃部分だけでは無く石突部分でも魔法発動を出来る様にしておいたぜ。

 自分でも、満足のいく出来上がりににやけていると、ドップの奴が、

 

 「これは、本当に凄い武器ですな!

 正直地上戦で、この武器と相対する敵は可哀想に思いますよ」

 

 と評したので俺も同感だと応じてたら、何故か違和感を感じやがった。

 何に違和感を感じたのか、判らなくて気分がモヤモヤしてたら、ハロルド達がやって来て戦闘バイクに乗る機動軍用にあつらえた、標準装備の武器を取り付けるアタッチメントと、セリーナ殿用の特注アタッチメントの取り付けと具合の確認をしている。

 その様子を見てたら、漸く違和感の原因に気付いちまった!

 そうだよ!

 セリーナ殿の武器は大きすぎて、通常のアタッチメントでは装着出来ない訳だから、特注アタッチメントにしたんだが、機動軍は戦闘バイクに乗ったまま武器を振り回す為に、簡単に外せるアタッチメントで取り回し易い様にしたのに、セリーナ殿の武器は戦闘バイクに乗ったまま使うには非常に向いていない!

 あの『冷艶鋸改』は、安定した足場で振り回す事でその威力を発揮するから、しっかりと両足が安定しなければ振り回す事が出来ない。

 つまり通常タイプの戦闘バイクでは、セリーナ殿の実力を活かせない!

 その危惧をドップとハロルド達に教え、解決策を相談したいと提案したら、ドップが、

 

 「そんな程度の問題なら、簡単に解決できますよ!」

 

 と気楽な様子で笑いながら返事しやがったから、

 

 「・・・どんな解決策何でえ?」

 

 と聞いたら、

 

 「俺の作っているトラクターに採用している、『三輪駆動』ですよ!

 これを戦闘バイクの高速機動用に設計し直し、後輪部分を足場に出来る様にすれば、問題解決です!」

 

 と答えてくれた。

 なるほどそれならば、安定した足場は確保出来る、後は高速機動用に設計出来るかどうかだが、ハロルドに聞いてみたら、

 

 「出来ますよ。

 というか既に、何台か試作した事がありますから、試作品を発展させて仕上げれば良いだけです!」

 

 とあっさりと請け負ってくれた。

 なんとかなりそうだと判って、漸くホッとした。

 

 12月8日

 

 セリーナ殿の専用武器『冷艶鋸改』と『三輪戦闘バイク』を完成させて、セリーナ殿に引き渡せた。

 セリーナ殿は、練兵場で『三輪戦闘バイク』を最高速で乗り回してそのまま『冷艶鋸改』を振り回して、標的を斬りまくった挙げ句に、各種の魔法を標的に向けて解き放った。

 その凄まじい戦闘力に、周りで訓練している兵士達が呆然としている中、セリーナ殿は、

 

 「気に入った!

 これならば、次の戦場では思いっきり働けそうだ!

 ガトル殿、ハロルド殿、本当に感謝する!」

 

 と『三輪戦闘バイク』に乗りながら、感謝された。

 俺とハロルドは確かに頑張って作り上げたが、正直な処ここまで凄え物を作ったつもりは無かった。

 この分だと、セリーナ殿だけで万の敵に勝っちまいそうだぜ。

 ハロルドと思わず顔を見合わせ、セリーナ殿の敵になる相手は地獄を見る事になるだろうと戦慄し合った。

 



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第二部『帝国拡大編』
1月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝元年)《これ迄のあらすじ》


 1月1日(前編)

 

 本日『アスガルド城』にて『人類銀河帝国』誕生、そしてアラン様とクレリア姫様のご成婚式が執り行われる。

 早朝から西方教会圏全ての国のモニターを通し、ルミナス教の賛美歌が流れる中これ迄の経緯が放映された。

 その内容とは、

 

 

 西方教会圏のスターヴェーク王国が平和な暮らしを営む中、密かに東方教会圏の首魁たるアラム聖国に取り込まれたアロイス王国の貴族達によってクーデターが行われ、スターヴェーク王国はスターヴェーク王国第一王女『クレリア・スターヴァイン姫』以外の王族は尽く斬首された。

 辛うじて虎口を脱したクレリア姫は、遺臣と共に王家復活を目指して他国を頼ろうと旅立たれたが、過酷な運命はその遺臣達の命すら奪ってしまう。

 しかし、今正にクレリア姫の命が魔物の手により奪われようとする時、『女神ルミナス』は自ら選ばれた代理人たる『アラン・コリント』を地上に降臨させ、すんでのところでクレリア姫の命は救われる。

 当初は意思の疎通すら難しかったが、アランの才能と努力によりものの1週間で会話出来る様になり、クレリア姫の当初の目的地であるベルタ王国へ2人は赴く事にした。

 ベルタ王国にはクレリア姫の祖母エリカ様の妹君のイレナ様が正室として嫁いでいて、ベルタ王国の現国王アマド・ベルティー陛下は再従兄弟にあたり、その縁を頼る事にしたのだ。

 だが、この頃ベルタ王国では佞臣ヴィリス・バールケ宰相が専横を振るい、一切の情報を遮断してアマド・ベルティー陛下に助けを乞うスターヴェーク王国の遺臣を逆に捕らえてしまっていた。

 アランとクレリア姫の2人は、途中合流出来た遺臣の人々からその事実を知り、方針を転換し自らの運命は自らの力で切り拓くべく、身分を隠し一介の冒険者となり冒険者としての頂点になる事で地歩を築く事にした。

 その冒険者パーティーの名は、『シャイニングスター』と云う、スターヴェーク王国の復活を願うこの名は、遺臣が合流する事で規模が大きくなると、『クラン・シャイニングスター』になる。

 様々な出会いと運命を経て、人に対して牙を向いたドラゴンをアランが討つ事になり、ドラゴンスレイヤーとして『クラン・シャイニングスター』は不動の名声を得た。

 ドラゴンとの激闘の際に、味方となった良きドラゴンである『グローリア』は、後にアランの騎竜となり様々な戦場で、その凄まじい戦闘力を遺憾無く発揮する事になる。

 そしてその名声はベルタ王国王都でも噂になり、漸く国王アマド・ベルティー陛下の耳にも届き、アランの貴族への叙爵が決まる。

 無事男爵への叙爵が決まり、『魔の大樹海』に『コリント領』としての領土を賜り、その能力の高さから護国卿に取り立てられる。

 しかし、未だ佞臣ヴィリス・バールケ宰相が王宮に居ることを考え、クレリア姫の身分は隠したまま行動し、ベルタ王国に降りかかる様々な国難をアラン護国卿とクレリア姫は、遺臣達と共に乗り越えて行く。

 そうしてアランとクレリア姫が確かな地歩を築いて行く事を苦々しく思っていた、佞臣ヴィリス・バールケ宰相は様々な罠を仕掛けアラン護国卿を追い詰めようとする。

 だがそんな策謀はお見通しのアラン護国卿の手によって、逆に悪事の証拠として国王アマド・ベルティー陛下に提示され、佞臣ヴィリス・バールケは追い詰められた。

 それを逆恨みした佞臣ヴィリス・バールケは、遂にベルタ王国に牙を剥き国王アマド・ベルティー陛下に刺客を差し向けた。

 国王アマド・ベルティー陛下はアラン護国卿の手によって命こそ救われたが、毒の後遺症により下半身不随の憂き目に合う。

 国王アマド・ベルティー陛下をコリント領に匿い、ベルタ王国の未来を憂う貴族ファーン侯爵、ブリテン侯爵、フランシス伯爵達と連携し、佞臣ヴィリス・バールケに与する悪逆な貴族と対立する。

 佞臣ヴィリス・バールケは、ベルタ王国を売るべくセシリオ王国とアロイス王国と連携しアロイス王国の兵をベルタ王国に呼び込み、反乱の首謀者として悪逆な貴族達を糾合する。

 国王アマド・ベルティー陛下は、アランを護国卿から『総帥』と云う軍権全てを司る最高職に進ませ、佞臣ヴィリス・バールケとその与党、そしてセシリオ王国とアロイス王国への対処を命じた。

 アラン総帥は反乱軍を鎧袖一触に打倒し、反乱軍首魁ヴィリス・バールケとその仲間である悪逆な貴族達を捕らえて裁判で応分の処置を終え、対セシリオ王国へ向かう。

 この時セシリオ王国愚王ルージは、自分の意思に従わない大貴族を尽く殺して、アラム聖国から提供されたアーティファクトでゾンビに変え、のみならず王都の殆どの民までゾンビにして、自らの国民全てを意のままに動くゾンビにする為に行動し始めた。

 このまま状況が推移すれば、周辺各国の人々までゾンビにされてしまう。

 この人類にとっての危機に敢然と、アラン総帥とベルタ王国正規軍そしてそれに協力するセシリオ王国の義勇軍達は立ち向かう。

 その激闘に於いて愚王ルージは、事もあろうに自らの国民を贄として作り上げた、巨大なゾンビの集合体である巨人に乗り込んで攻めてきた。

 あわやという場面になり、これまでかと皆が諦めかけた瞬間、天を割り使徒『イザーク』様が、味方であるアラン総帥に助力する為降臨され、祝福の光をアラン総帥と騎竜たるグローリアに与えた。

 その助力により力を取り戻し、聖なる力を行使出来る様になったアラン総帥は、見事に愚王ルージと巨人を聖なる力で以って滅ぼした。

 その偉業を祝福するかの様に、『女神ルミナス』は天空にその御姿を顕現され、愚王ルージと戦った全ての民を称えて下さった。

 セシリオ王国の民を救う為にアラン総帥達が尽力する中、それに異を唱えセシリオ王国とベルタ王国を併呑するべく、アラム聖国の傀儡であるアロイス王国がベルタ王国に侵攻して来た。

 アラン総帥とベルタ王国正規軍そして元セシリオ王国の義勇軍改め『総帥府軍』は、この不当な侵攻に対し一歩も怯む事無く、堂々と国境線を一歩たりと踏み越えさせず、逆にアロイス王国領土までアロイス王国軍を押し返す。

 この時までに、ベルタ王国国王アマド・ベルティー陛下にクレリア姫は、自分の正体とアラン総帥との婚約を明かし、アマド・ベルティー陛下はクレリア姫が公式に自分の親族である事を認め、婚約者であるアラン総帥も将来の自分の親族である事を内外に発表している。

 そして敵国であるアロイス王国を、スターヴェーク王国を不法な手段で簒奪した国であり、その内実はアラム聖国の傀儡国家である事を西方教会圏全ての国に公表し、スターヴェーク王国を復活させるべくクレリア姫を押し立てて、アロイス王国から奪還戦を仕掛ける事を宣言した。

 大義名分であるスターヴェーク王国復活を謳い、元セシリオ王国国境とベルタ王国国境から2正面作戦をアロイス王国に仕掛け、撃破した後スターヴェーク王国の元貴族や義勇軍を募りながら、元ルドヴィーク辺境伯領に入った。

 半ば廃墟と化していた城邑を、戦う城である新生ルドヴィーク城に改修し、アロイス王国10万とアラム聖国の義勇軍30万の計40万の大軍勢を迎え撃った。

 敵軍は、新兵器である『銃』、『大砲』、『野砲』を大量に配備し、強力な火力で新生ルドヴィーク城を攻撃して来たが、新生ルドヴィーク城は強固に作られていて籠城戦を戦い抜き、『ヴァルキリー・ジャベリン』と戦術級魔法『コキュートス』によって戦局を一変させ、城から打って出て40万の大軍勢を無力化させる事に成功した。

 だが、そんな戦局をひっくり返すべく、アラム聖国はとんでもない切り札を切ってきた。

 それは、『双頭の暴虐竜ザッハーク』、その昔大陸の中央に有った大国を支配し、周辺各国を荒らし回り暴虐の限りを尽くした存在だ。

 そんな伝説上の怪物に対し、アラン総帥と空軍は戦いを挑み死力を尽くして滅ぼす事に成功した。

 その後王都にて、アロイス王国首脳陣を捕らえて、王都を奪還する事に成功した。

 この時を以って事実上アロイス王国は滅び、3年の時を経てスターヴェーク王国は復活した。

 そして諸々の戦後処理を行い、一連の三国を巡る戦乱を終息させたが、黒幕たるアラム聖国は未だ健在であり、更に北方の雄たる『スラブ連邦』は、隣国のノルデン諸国連合国境付近に30万の兵を駐屯させ、何時侵略してくるか判らない情勢だ。

 このセリース大陸を覆う戦雲に対し西方教会は、強力な指導者たりうる国家を誕生させ、更にこの国家を西方教会圏全ての国家が盟主と仰ぎ、その代表を王の上に立つ存在として『皇帝』として推戴する。

 

 その新しく誕生する国家の名称は、

 

 『人類銀河帝国』

 

 大陸全ての人類の規範となり、遥かな将来あの夜空に煌めく銀河を目指す、未来に夢を描ける帝国である。

 そして『人類銀河帝国』の『皇帝』は、アラン総帥にベルタ公国公王アマド殿下とスターヴェーク公国クレリア公女殿下が持つ全ての王権を禅譲して、

 

 『人類銀河帝国初代皇帝 アラン・コリント一世』

 

 となられた。

 

 

 この『人類銀河帝国』成立の経緯が、繰り返し放映されているのだが、途中に挿入された数々の戦闘シーンや使徒『イザーク』様と『女神ルミナス』の降臨、そして発展していく『帝都コリント』が映し出されて行く様子は、今までの苦難の道とそれを乗り越えた栄光を余すこと無く思い出させてくれた。

 




 いよいよ今回から、
 
 第二部『帝国拡大編』
 
 が始まります。

 暫くは、『人類銀河帝国』成立とアランとクレリアの結婚で、お祝いの様子が続きますが、既に本文でも触れてますが、北方の雄『スラブ連邦』が周辺各国に侵略の動きを見せています。
 『スラブ連邦』とはどのような国なのか?
 習俗や文化、そして思想や宗教は?
 これらも徐々に明らかになってきますので、読者様はどうぞお楽しみ下さい。


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1月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝元年)《御成婚と奇跡》

 1月1日(中編)

 

 皇宮謁見大広間にて、自分を含め諸将が左側、大臣始め文官が右側に並び、壇上の玉座より1段下の左側に『ベルタ公アマド殿下』が自動車椅子に座し、右側に『スターヴェーク公クレリア殿下』が座して居られる。

 そして壇上玉座の右脇に『ヨハネ教皇』と『ゲルトナー枢機卿』が並んで立たれて居り。

 ルミナス教西方教会圏各国の王族や貴族達は、両側階下席にて座している。

 その様子は、西方教会圏全ての国のモニターに実況で放送されている。

 

 儀典長が、戴冠式開催を告げると、

 

 暫くして皇宮謁見大広間の巨大な扉が、厳かな音曲と共に静々と開いて行く。

 其処には豪奢なマントを纏い、煌めく様な礼装でありながらスタイルの整ったアラン様らしく、動きやすそうにスタイリッシュに纏められた皇帝衣で身を包んだ『人類銀河帝国初代皇帝 アラン・コリント一世』様が居られた。

 ファンファーレと共に、ゆっくりとたアラン様は歩を進められて行き、その後ろでマントのドレープ(裾)が下に着かない様に小姓4人?がマントの裾を持ち上げて続いて行く。

 (小姓は、正装したテオ君とエラちゃん、そして何故か妹とケットシー128世)

 臨席した全ての者が頭を下げる中、壇上直下までアラン様は進みい出て、玉座に直面する形でゆっくりと壇上の階段を進まれた。

 座して居た者の内健常者は全て立ち上がり、儀式の見届人としての責務として、壇上のヨハネ教皇とゲルトナー枢機卿がアラン様に近づかれる姿を注視した。

 アラン様は玉座前で片膝を着く形で跪かれ、ヨハネ教皇を待つ。

 

 ヨハネ教皇が、

 

 「今此処に、余『ヨハネ・パウロ15世』はルミナス教西方教会代表として、汝『アラン・コリント』を『王権神授』の事実を以って、我等ルミナス教に於ける地上の権限執行者代表として認め、王位を越える皇帝位を授けるものとする。

 これより汝は、

  

 『人類銀河帝国初代皇帝 アラン・コリント一世』

 

 となり、遍く人類の代表として、また、『女神ルミナス』の権限執行者として、人々を正しき道へと誘い、全ての生きる者達に慈悲と寛容を以って責務に邁進する事を望む。

 此れ等が実行され、また、今後更に『女神ルミナス』の威光を世界に照らす努力をされる事を期待し、

 余『ヨハネ・パウロ15世』は、皇冠を以って報いる事とする」

 

 と宣言された。

 

 そして脇に置かれていた見事な台座の上に光り輝きながら置かれていた皇冠を、ゲルトナー枢機卿が恭しく持ち上げヨハネ教皇に渡された。

 

 そしてヨハネ教皇は、跪くアラン様の頭に皇冠を乗せられた。

 

 その瞬間音楽隊が高らかにラッパを吹いて、次の瞬間には皇宮外で一斉に魔法による『花火』が盛大に打ち上がった。

 それを合図に、

 

 「「「『人類銀河帝国初代皇帝 アラン・コリント一世』様、万歳!

 人類銀河帝国に『女神ルミナス』の幸有れ!!」」」

 

 との大合唱が家臣一同から上がり、臨席された各国の王族や貴族達から、惜しみない拍手が鳴り響いた。

 

 この時を以って『人類銀河帝国』は成立し、

 『人類銀河帝国初代皇帝 アラン・コリント一世』の戴冠式が終わった。

 

 続いて、アラン様とクレリア姫様の御成婚式を行う為に、アラン様とクレリア姫様がお色直しに控え室に向かわれた。

 

 その間、休憩に行く者や自分の様に礼服の着こなしを確認する、弱冠賑やかな音が響いていたが、30分後諸々の準備が整い皆が整列すると、音楽隊が高らかにラッパを吹き鳴らした。

 

 儀典長が進み出て、御成婚式開催を告げると、音楽隊がルミナス教の結婚行進曲を静かに奏で始めた。

 

 その音楽に合わせて、ゆっくりと皇宮謁見大広間の巨大な扉が開いていった。

 其処には、例の軍人礼服を真似て仕立て直し、ミスリルを織り込んだ服に身を包んだアラン様と、ミスリルを織り込んだ上に白銀で仕立てた光り輝くウエディングドレスに身を包まれたクレリア姫様が、並んで立たれている。

 アラン様は元々、軍人にしてはスラリとした体型で、颯爽とした立ち居振る舞いは、世の女性達から絶大な支持を得られている御方なので、正しく男神の化身と言って良い方だ。

 クレリア姫様は、スターヴェークの民にとっては美しさに於いても、他国の姫君と比べてすら格段の差があると言われていた程で、光り輝くウエディングドレスに身を包まれたその姿は、正にルミナスとは別の女神の様である。

 

 ゆっくりと御二人が玉座に向かい進む中、クレリア姫様のウエディングドレスのロングトレーン(引き裾)の裾の先を持って付いていくのは、白い正装をしたエラちゃんと妹だ。

 結婚行進曲が音楽隊によって静かに奏でられる中、壇上の玉座前に設えられた牧師席には、お疲れになって休まれているヨハネ教皇に代わり、ゲルトナー枢機卿が就かれている。

 その牧師席の前まで御二人は進まれ、屈まれる形でゲルトナー枢機卿に挨拶をした。

 ゲルトナー枢機卿は、ルミナス教の経典を読み上げられて、最後に御二人に幸有れと結び、御二人に宣誓する様に促された。

 促されるまま御二人は立ち上がると、宣誓文を読み上げられた。

 

 「私達は、夫婦として、喜びの時も悲しみの時も、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓います。」

 

 と御二人は誓われ、ゲルトナー枢機卿は頷かれ天に向かい『女神ルミナス』に祝福を請うた。

 

 「我、ゲルトナーは此処に請う!

 『女神ルミナス』よ、この夫婦に祝福を与え給え!」

 

 そのお言葉が述べられると、柔らかな光りが皇宮の屋根に当たるクリスタル越しに差し込んで来た。

 何事か?とこの場に居る全員が天を振り仰ぐと、あの巨人との戦いの時の様に使徒『イザーク』様が降臨なされている。

 全員が、一斉に跪いて『イザーク』様を拝むと、『イザーク』様はアラン様とクレリア姫様だけでは無く、我々全員に柔らかな光りが注がれた。

 その柔らかな光りは、ヒールの光りにも似た暖かさと共に、癒やしと魔力の充填と云う似た効果を我々全員に与えてくれた。

 我等家臣は、さもありなんと納得の展開で、そう驚いてもいないが、各国王族や貴族更にはヨハネ教皇の喜ばれ様は凄まじいもので、皆口々にこの御成婚の正当性を褒め称えた。

 そんな中、一つの奇跡が有った。

 

 「治った、治ったぞ!

 私の足が、治っている!!」

 

 と云う声に振り返ると、ベルタ公アマド殿下が自動車椅子から立ち上がっているではないか!

 

 「オオーー!」

 

 と皆がどよめく中、使徒『イザーク』様はゆっくりと天に昇られて行き、そのまま消えて行かれた。

 壇上に振り返ると、さめざめと泣かれたアマド殿下を、アラン様とクレリア姫様そしてヨハネ教皇とゲルトナー枢機卿が、こちらも涙ぐみながら祝福されている。

 この奇跡も全ては、アラン様とクレリア姫様の行いを『女神ルミナス』が認めている証拠だろうと、周りの同僚と話し、「その通りだ!」と賛同を得られた。

 



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1月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝元年)《パーティーと『飛竜の部族』》

 1月1日(後編)

 

 感動的な御成婚とその後での奇跡で、皇宮謁見大広間は騒然としていたが、その熱気も冷めやらぬ内にも各国の王族や貴族からの祝辞を、御夫婦と成られたアラン様とクレリア姫様は受けられ、卒なくこなしていかれた。

 我等家臣一同は儀典長の指示の元、大方の各国代表の祝辞が終わった段階で、アラン様とクレリア姫様に全員での祝辞を述べ、お疲れであろう御二人を解放するべく、儀典長が閉会と解散を告げられたタイミングに、来賓の方々を伴い立食パーティーの大広間に誘導した。

 そして始まった、パーティーで皆から喜びを以って祝福されたのは、もう既に車椅子に乗られていないアマド殿下だった。

 アマド殿下は、これまで例の毒の所為で不自由な生活を余儀なくされていたが、使徒『イザーク』様の奇跡の光りで回復なされた事で、深く『女神ルミナス』に感謝されて、今後もルミナス教への寄与を行う旨を皆に開陳しておられた。

 アマド殿下に続いて喜びと感謝を述べられたのは、エラム国のエドウイン老王である。

 エラム国は後1ヶ月すると、他のアサム国、イスラ国、ウーラ国、オクト国と一緒に、人類銀河帝国に編入される事になっており、このまま帝都コリントに滞在したまま、王位から華族である侯爵位に降りられる事になっている。

 それもあってこの戴冠式と御成婚式に参列されていたのだが、使徒『イザーク』様の奇跡の光りを浴びられる事で、アマド殿下同様に車椅子生活をされていたのだが、今ではしっかりとした足取りで歩かれている。

 確か年齢は80に近い筈だが、とてもそうは思えない程矍鑠とした様子だ。

 随伴されて来た男のお孫さんと抱き合い、

 

 「本当に人類銀河帝国に参加出来て、良かった!」

 

 と涙を流されている。

 それに同調する様に、他の4カ国の首脳陣も、

 

 「その通りだ。

 『女神ルミナス』はこの行いが正しいからこそ、使徒『イザーク』様をお遣わし、我等に祝福の光りを与えて下さったのだろう」

 

 とひどく感銘を受けた様子で、何度も『女神ルミナス』に感謝されている。

 

 この5カ国は、旧アロイス王国、旧ベルタ王国、旧セシリオ王国に隣接していた小国なのだが、軍事力が殆ど無かったので、其々の旧国の悪辣な権力者、『簒奪者ロートリゲン』、『佞臣ヴィリス・バールケ』、『愚王ルージ』によって、常識外の関税や国境守備の負担税そして半ば強引な朝貢を強いられていたのだ。

 だがアラン様は、5カ国が払えなくて借款としていた税金を棒引きした上に、其々の国に『白金貨』1000枚(10億ギニー)を譲渡し、当座の国家運営資金として貰う事にされたのだ。

 5カ国の首脳陣はこれに大変感謝されて、今後予定されているインフラ整備や、旱魃や日照りそして疫病等で苦しむ村々への支援として、無償によるトレーラーで運ばれた『緊急支援コンテナ』によって、救われた人々が喜ぶ姿を見て、この際国民の為にも国家ぐるみで人類銀河帝国に参加する事を決断されたのだ。

 

 こういった様子を西方教会圏各国の首脳はご覧になり、立食パーティー中も其々の国々で壁際に集まり密談をする姿が散見された。

 ある程度大きな国でないと、この動乱の時代に生き残るのは大変だろうから、事実上西方教会圏の盟主である人類銀河帝国に対し、どの様な態度で望むべきかは国家の存亡の掛かった重大事だ。

 本当に我等はアラン様とクレリア姫様に率いられて、幸福だとしみじみと感じた。

 

 1月4日

 

 昨日まで公的な祝日に指定されており、当直の者以外は休んでいて本日から仕事始めなので、空軍は軍団其々に与えられた軍事ドームの『空軍ドーム』に集合し、『ルミナス教本部ドーム』から派遣された司教の聖句が読み上げられて、我々の武運長久を祝って貰った。

 

 実は今日から新しく空軍の仲間になる『飛竜(ワイバーン)の部族』の面々が、我等空軍の見学をする事になっている。

 飛竜の部族が自分の騎竜と共に見学する中、何時もの様に『グローリア』殿を先頭にしてドーム内の空を縦横無尽に、各陣形のフォーメーションに切り替えながら飛び回る。

 そして魔法やドラゴンランスを使用し、各魔法による対地攻撃や対空戦闘を標的にぶつける。

 本気では無いとは云え、魔法攻撃を主体にした各攻撃は、飛竜の部族にとってかなりショッキングな様だ。

 判らなくもない。

 以前からこの大陸で竜騎士がする攻撃とは、地表の敵に対しワイバーンの火球攻撃と竜騎士が持つ長槍で攻撃する2種類しか無いのは、モニターに示された動画やスライド静止画で教えて貰っていた。

 我等がアラン様の指導の元で培い、各戦場で戦いつつ試行錯誤した戦法は、完全に今までの竜騎士が使用する戦法とは次元が違うものであり、飛竜の部族が面食らうのは当然だ。

 

 呆然としたままの飛竜の部族の竜騎士25名に、

 

 「流石に今すぐにこのレベルでの、戦闘訓練が出来るとはアラン様始め軍部の上層部は考えていない。

 しかし、12月中に諸君に飲んで貰った『ナノム玉1』と、今日から始めるモニターで見る動画研修を行う事で、基礎的な要件はクリアする事になる。

 明日からは、基本的な陣形や魔法の訓練に移るので、飛竜の部族の諸君は覚悟して貰いたい!」

 

 と訓示を述べたら、飛竜の部族の族長の息子でキリコという青年が、武者震いして、

 

 「ハイッ!

 宜しくお願いします!!」

 

 と非常に気持ち良く返事して来た。

 このキリコ君には、是非隊長として頑張って貰いたいのでかなり期待していて、ベックとトールと共に一翼を担って欲しい。

 



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1月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝元年)《合同結婚式と伝説の魔法使い》

 1月15日

 

 自分とミーシャ、そして他の同僚や一般人等の合同結婚式が行われた。

 元々自分とミーシャは、家族と友人達だけの内輪で小ぢんまりとした結婚式とするつもりだったのだが、やはりアラン様とクレリア姫様の感動的な御成婚式に触発され、ヨハネ教皇猊下の居られる内に結婚式をすれば、「自分達も『女神ルミナス』様の覚えも目出度いに違いない」と考える人が出てくるのは、人の情を考えると必然であろう。

 そういう訳で、現在、帝都コリントでは『ルミナス教本部ドーム』に結婚式の申込みが、殺到していてとてもではないが裁ききれないと、ルミナス教側だけで無く役所も悲鳴を上げているので、合同結婚式と云う形を連日1回ずつ行う事に落ち着いた。

 なので本日行われた合同結婚式は、自分とミーシャ以外では、親友のハリーと同僚のハーマイオニーさん、剣王シュバルツ殿と行きつけの飲み屋のウエイトレスだったターニャさん、ミツルギ殿と剣王オウカ殿他、約30名が挙式した。

 些か大雑把過ぎる様な気もするが、ヨハネ教皇猊下とゲルトナー枢機卿が主催してくれる上に、アラン様とクレリア姫様始め帝国の上層部が、短時間とは云え臨席して下さるのだから大変有り難い事だ。

 ヨハネ教皇猊下が聖句を唱えてくれて、ゲルトナー枢機卿の牧師席の前に順番に並んで誓約を2人で誓い、それをゲルトナー枢機卿が承認して行き、最後にアラン様とクレリア姫様が祝辞を述べてくれて、一連の儀式は終わり、自分と親友達の合同披露宴を1フロアを借り切ったホテルで盛大に行い、家族や友人更には同僚達も参加してくれた。

 空軍の勤務時間を終えて、駆けつけてくれたベック、トール、キリコが次々にやって来てくれて、ミーシャの花嫁姿を褒めてくれたのは大変嬉しかったが、最後に新郎である自分、ハリー、シュバルツ殿、ミツルギ殿に向かって、親父と相棒のドップさんそして何故か居るホシとジョナサンが悪ノリして水(本当はビールかシャンパンの予定だったらしいが酒は飲む物だと云う事で急遽変更したらしい)を掛けまくったので、新郎全員が豪雨にあった様になり、其々のホテルの一室に新婦共々退場した。

 

 「ミーシャ有難う」

 

 とシャワーを浴びて漸くサッパリとした自分に、バスタオルを渡してくれて暖かい珈琲を入れてくれて、自分の席のテーブルに置いてくれた自分の女房に感謝すると、

 

 「どういたしまして」

 

 と微笑みながら自分用の珈琲を手に取り、向かい側の席にミーシャは座った。

 今日の合同結婚式の話しや合同披露宴での話し、2人で一緒に経験した様々な話しを取り留めもなく話しながら、非常に和んだ気持ちでミーシャと接している事に、自分は気付いた。

 これから2人で一緒に生活して行く上で、これは結構重要な事だと思いミーシャにその事を告げると、

 

 「・・・私も貴方と、こうやって向かい合っていると、とても安心な気持ちになれるわ

 私の家族を失ってからは感じなかった気持ちよ・・・

 ・・・貴方の存在は、私にとって前々からとても重要だったの・・・

 そんな貴方と結ばれる事が出来て、私は本当に幸せよ・・・・・」

 

 と涙ぐんでいる姿に居たたまれなくなり、ミーシャに歩み寄りそのまま抱きしめた。

 

 「・・・これからは夫婦として、永遠に一緒だ、

 何れ子供も産まれてミーシャの家族は、ドンドン増えて行くよ。

 その安心は幸せを伴い、大きな輪となって皆を繋ぐんだ、

 共に育くんで行こう・・・」

 

 と子供をあやすように背中をさすってやり、そのままベッドに寝かして一緒に眠った。

 

 1月20日

 

 大陸の西端に有る『魔法大国マージナル』から、空のお客がやって来た。

 西方教会圏に於いての魔法使いの権威で有り、伝説の大魔法使いにして賢聖である『モーガン』殿が、それ自体がアーティファクトである『飛空船』に乗って来訪されたからだ。

 帝国の魔法大臣としてマーリン(元セシリオ王国氷雪魔術師団代表)大臣が、魔法技術の発展と子供達への魔法教育を実践するに辺り意見を伺いたいのと、是非魔法大学を作るに辺り後見人として就任して貰いたいと云う願いを出された為だ。

 アラン様とクレリア姫様始め帝国上層部が列席されて、『空軍ドーム』に有る発着スペースで出迎えられた。

 我等空軍のワイバーン全120頭と魔導ヘリコプター全300機は、『魔の大樹海』に生息する空を飛べる魔物(ヒッポグリフやハーピー等)を『飛空船』に近付け無い為に、交代で周辺警戒体制に臨み、いざとなった時の備えとしてアラン様とクレリア姫様の後ろにはグローリア殿が控えている。

 『飛空船』は静々と発着スペースに降りられたが、その威容はやはり大したものだ。

 搭乗最大人数は300人を誇り、時速500キロメートルで進む事が出来る。

 ただ昔は作動したらしいが、武装の類は現在一切作動せず、専ら貴人の移動用として活躍しているそうだ。

 タラップ(搭乗口)が開き、関係者が降りられて行く中、タラップで無く甲板上の一部がスライドして、其処からグリフォンに乗られた老婆が現れた。

 そしてグリフォンは甲板上から飛び立ち、そのままタラップ付近の地面に降り立った。

 老婆はグリフォンに乗ったまま、アラン様とクレリア姫様に近付きペコリと頭を下げられた。

 

 「御免なさいね、私、寄る年波には勝てなくて、専ら移動する時には使い魔で有る、このグリちゃんで移動するの」

 

 と謝られ、

 

 「自己紹介がまだだったわね、私は『モーガン』其処(マーリン魔法大臣を指差し)に居るマーリンの師匠の魔女よ」

 

 と、かなりアッサリとした自己紹介をされた。

 

 「私は、アラン・コリント。

 賢聖と名高い魔法使いの権威『モーガン』殿を、こうやってお招き出来て大変光栄です」

 

 とアラン様は、頭を下げられて敬意を示された。

 

 「・・・そんな肩書きなんて、勝手に他の人達が付けたもので、私自身にはどうでも良いわ。

 それよりも『アラン皇帝』、貴方にお会いするのを私ずーっと待ってたのよ、星々の彼方から来られた異邦人(エトランゼ)に・・・」

 

 その返事にアラン様が、『モーガン』殿の顔を見つめられた。

 周りがざわつく中、『モーガン』殿は、本当に楽しそうに笑って居られた。

 これが、齢402歳を数える伝説の大魔法使いにして賢聖である『モーガン』殿と我々との出会いである。

 



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1月の日記⑤(人類銀河帝国 コリント朝元年)《モーガン殿の空軍視察》

 1月25日

 

 先日の驚きの対面の後『モーガン』殿は、とても400歳を越えているとは思えぬ程精力的に動いている。

 『魔法大国マージナル』の大使館が用意した滞在用のホテルには、一緒に来た弟子達を滞在させて、自らは『アスガルド城』の客室に留まり、連日アラン様とセリーナ殿かシャロン殿のどちらかを連れて、帝都コリントの様々な施設、工場、デパート、軍事演習、フードコートやレストラン等を大変興味深そうに見学されていた。

 そして見学を済ませても、城に帰るとグローリア殿やケットシー128世、そして滞在されているヒルダ嬢の護衛に来ているフェンリル殿と会話を楽しまれている。

 本日は我等空軍の見学なのだが、驚いた事にその姿が一変していた!

 先ず最初に会った時には歩行が困難という事で、使い魔のグリフォンに乗られていたのに、今では普通に歩かれているし、深いシワが刻まれていた顔は、シワが殆ど目立たない若々しいご婦人といった様子に変貌していた。

 迎えに出向いた自分とミーシャは、あまりの変貌に言葉が出なくて呆然としていると、

 

 「嗚呼、貴方達は最初に来訪した時に出会ってたわね。

 あの日の夜に『アラン皇帝』が勧めてくれた『ナノム玉3』を服用させて頂いて、イーリス様からの教育をARで毎日受けているから、『身体循環魔法』の奥義とも呼べる魔法で、老化細胞からの脱却を試してみたの。

 あんまり若返ると厄介だから、この辺で留めるつもりだから、今の姿がこれからの私になるわね」

 

 と信じ難い話しをされている。

 伝説の魔法使いとは、此処まで常識外れなのかと戦慄しながら、空軍の演習を見学して頂いた。

 

 「・・・流石ね!

 グローリアちゃんと此のワイバーンちゃん達の行軍スピード、魔法火力、オリハルコン製の装甲による防御力、このセリース大陸西方では最強といって良いわね!」

 

 との評価を頂いた。

 その言葉の中にある『大陸西方では』、との部分に気付き質問してみた。

 

 「『モーガン』様にお聞きしたい。

 もしかすると、大陸西方以外の地では我等の空軍以上の戦力が存在するのですか?」

 

 との問いに、

 

 「・・・そうね、明確な比較は出来ないから難しいけど、空軍だけで云っても、アラム聖国の『聖獣騎士団』の《光翼隊》、スラブ連邦の『機械魔獣軍団』の《魔空旅団》、崑崙皇国の『天龍八部衆』の《八大龍王》、といった連中は貴方方と同等か凌駕しているわね・・・

 何故かというと、グローリアちゃんはまだ20歳の幼竜でしかないけど、他は此処100年間其々の国で最前線で働いていて、其々の空軍にはドラゴンが少なくとも1頭居るわ。

 スラブ連邦と崑崙皇国のドラゴンは詳しく知らないけど、アラム聖国のドラゴンは公には秘密にされているけど、攻撃されている街を魔道具越しで見た事もあるから知っているわ」

 

 と恐らくはアラム聖国の秘事を教えてくれた。

 

 「そのドラゴンの名は、『破滅竜ジャバウォック』。

 貴方達が、何とか倒した『双頭の暴虐竜ザッハーク』よりも恐らくは強いドラゴンよ。

 理由としては、ザッハークは見た所老竜(エルダー・ドラゴン)でしか無いけど、ジャバウォックは明確に古竜(エンシェント・ドラゴン)に該当するわ。

 如何に貴方達の相棒達がオリハルコンの装甲を纏おうと、ザッハークによってグローリアちゃんの装甲は、ボコボコにされてたわ。

 どう見てもグローリアちゃんの装甲より、防御力が下がる貴方達の相棒の装甲では、保って1、2回の攻撃でオリハルコンの装甲は砕けてしまうでしょう」

 

 と納得出来る理由まで教えてくれた。

 つまり、あの『双頭の暴虐竜ザッハーク』より明らかに強いドラゴンが、アラム聖国には居て、そんな存在を我等は仮想敵としなければならないのだ。

 

 「怖じ気付かないで!

 其れ等の強敵達に対抗する為にこそ、私は此処に来たの。

 貴方方の相棒達には、三大国のドラゴン達が上限まで到達してしまった強さと違い、進化し種族の限界を越えて行ける未来が有るの。

 その進化を促す要件は、既に貴方達の相棒は備えているのよ。

 

 1つ目は、ワイバーンとして限界まで鍛えている事。

 

 2つ目は、『ナノム玉』によって細胞の隅々まで、魔力を循環させる『身体循環魔法』が使える事。

 

 3つ目は、イーリスによって完全制御された、魔力炉から供給される莫大な魔力。

 

 この要件と、アラン皇帝、クレリア皇妃、セリーナ准将、シャロン准将、そして私の、計5人の『ナノム玉3』服用者による完全同期魔法ならば、貴方達の相棒のワイバーンをドラゴンに進化させられるわ!」

 

 と今まで想像もして来なかった事を教えられた。

 自分とミーシャは、思わず背後に居るガイとサバンナに向かって振り向いた。

 すると、会話内容を理解してたかの様に、

 

 「ガウ!」

 

 と返事をしてくれた。

 その返事と思える鳴き声を聞いてモーガン殿は、

 

 「・・・そうね・・・

 こんなレベルで満足せずに、より高みを目指さなきゃいけないわ。

 なにせこの『惑星アレス』だけでも、『セリース大陸』だけでは無くて、(東方を向いて)遥か東の『日の本群島』、(南方を向いて)暗黒大陸『アフリカーナ』には強大な魔物が居ると言われているわ。

 ・・・そして恐らくは、・・・其れ等全てよりも・・・・遥かに強大な・・・・・」

 

 と語尾の方は、呟かれる様に聞こえなくなったが、厳しい眼差しで西方を見ている。

 とてもではないが、大陸の西端に有る『魔法大国マージナル』を見ている様には見えず、それよりも遥か遠くの西方を見ている様に自分には思えた。

 



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2月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝元年)《グローリア殿進化》

 2月1日

 

 此の日、『ベルタ公アマド殿下』と魔法大臣マーリン殿の孫娘にして魔法大学教授に就任された『ヒルダ嬢』の結婚式が行われた。

 昨年10月頃に内輪で婚約した事を発表されていたらしいが、スターヴェーク王国にて軍務に着いていた自分は全然知らず、かなり後にミーシャから教えて貰ったが、その後帰還した帝都コリントでは、度々ヒルダ嬢がアマド殿下の車椅子を押したり、仲睦まじく過ごされて居る様子を、皆微笑ましく思っていたので今日此の日を迎えられて、我々は皆祝福している。

 今回の結婚式も、元王族にしてはかなり質素に執り行われ、帝国上層部と元ベルタ王国貴族(現華族)の方々そして元セシリオ王国氷雪魔術師団の皆さんが出席された。

 アマド殿下は先日の奇跡によって、歩く事が出来る様になったのが大変嬉しいらしく、ヒルダ嬢の手を取られて、堂々と歩く姿は喜びに満ち溢れている。

 ヨハネ教皇とゲルトナー枢機卿による誓約の儀式が済むと、羽目を外しヒルダ嬢を抱きかかえてクルクルと回られた程だ。

 アラン様とクレリア様始め皆は、そのお二人のお姿を暖かく見守り、祝福のお言葉を贈って共に喜んだ。

 

 2月3日

 

 全ての公式行事を終えられて、ヨハネ教皇はルミナス教本拠である『パルテノン市国』に、モーガン殿が貸してくれた飛空船に乗って帰国された。

 帝都コリントに滞在中、『ナノム玉』とルミナス教本部ドームに有る巨大な温泉施設のお陰で、来訪した時より明らかに元気になられた様子だ。

 ヨハネ教皇は、帝都コリントが大変気に入った様で、側近達にしきりとルミナス教本拠を帝都コリントに移転出来ないか?と相談されていたらしく、去り際アラン様とクレリア様に向かいかなり真剣に要請された様で、流石のアラン様も勝手にルミナス教本拠を移せる筈も無く、

 

 「・・・どうぞ何時なりと来訪されて結構ですし、どれだけの期間滞在されてもよろしいですが、宗教行事の妨げにならない範囲でお願いします」

 

 としか答えようが無かった様だ。

 

 2月5日(前編)

 

 先月から準備していた、グローリア殿とワイバーン達の進化施設が出来上がった。

 モーガン殿が長年研究して来て、自分自身を実験材料として得た理論体系は、イーリス殿との出会いにより遂に完成し、いよいよ他者に施せる段階まで来たそうだ。

 

 「さあ、これから始めるけど、心の準備は出来たかしら?」

 

 とのモーガン殿の問に、

 

 「大丈夫です、私もザッハーク戦でギリギリ勝てたのは、アラン様と空軍のみんなのお陰だったのは、良く判ってるし、今後立ち塞がる強敵はザッハークよりも強いから、必ずみんなを守れる位に強くなって見せます!」

 

 と力強く答えて、太い魔力チューブが繋がった巨大なコクーン(繭の様な形で透明な容器)に入られた。

 周りにはアラン様始め、クレリア様達『ナノム玉3』服用者が座席に着いて、ヘルメット(兜の様だが細い魔力チューブが付いている)を被っている。

 モニターに《準備完了》の文字が浮かび、

 

 「進化プログラム開始!」

 

 とのモーガン殿の掛け声と共に、コクーン内に魔力が魔力チューブを通して充填されて行き、アラン様達のヘルメットの顔の透明部分に様々な文字が流れて行く。

 15分程の時間が流れ、ヘルメットに文字が浮かばなくなり、魔力の充填も無くなってコクーンがただ淡く光っている状態になると、モーガン殿が、

 

 「・・・成功したわ!

 後は、40分位経てば魔力がグローリアちゃんに馴染むから、コクーンから出ても大丈夫」

 

 と太鼓判を押された。

 アラン様達もヘルメットを外されて、モニターでグローリア殿の状態を確認する。

 自分もモニター上のグローリア殿の変化を確認すると、グローリア殿は体長が25メートル程に成長し、弱冠腕や両足が太くなっているが、それ程表面上の変化は著しくは無い。

 しかし、魔力係数と魔力備蓄指数は桁違いに上がっていた。

 魔力係数とは、一度に放出出来る魔力だが、今までの凡そ20倍の係数となっている。

 此れは単純に云うと、今までアラン様との協力で放っていた『インドラの矢を』単独で同時に5発放てる事を意味する。

 そして魔力備蓄指数とは、そのまま魔力備蓄量を表していて、今までの凡そ100倍の指数になっていた。

 

 「・・・予定通りの結果ね、古竜(エンシェント・ドラゴン)にこそ及ばないけど、十分老竜(エルダー・ドラゴン)の能力を越える事が出来たわ。

 今回の進化は、これで充分よ。

 いずれ、様々な経験値が積まれて行けば、また進化出来る様になるわ」

 

 とモーガン殿は満足気に頷いている。

 モーガン殿の言われた通り、40分後グローリア殿はコクーンから出て来られ、身体の変化を確認されている。

 

 「グローリアちゃん、気分はどう?」

 

 とモーガン殿がグローリア殿に聞くと、

 

 「・・・何だか、自分の身体じゃないみたい・・・

 フワフワと身体が浮いてる気がする」

 

 とグローリア殿は答え、実際羽ばたいてもいないのに身体が浮いたままだ。

 

 「フフフッ、成程ね。

 じゃあドームの開閉口から外に出て、思いっきり飛んでみたら?」

 

 とモーガン殿がグローリア殿に勧めると、

 

 「ハイッ!

 やってみます!」

 

 と答えられ、そのままドーム天井の自動開閉口から空中に躍り出た。

 

 「・・・グローリア、行きます!!」

 

 とグローリア殿が発言した瞬間、赤い流星が空を駆け巡った!

 その赤い流星は縦横無尽に空を飛び、時にジグザグ、時に急停止や急加速を行い、更には回転しながら急上昇や急降下し、正に自由自在に空を駆けた!

 その速度は今までの比では無く、凡そ5倍は早いのでは無いだろうか?!

 

 「どう、今迄とは段違いでしょ」

 

 とモーガン殿が聞くと、

 

 「驚きました!

 無茶苦茶に飛んだり、錐揉みしてみたりしても、一つも酔わないし平衡感覚が狂う事もないです!

 此れが新しい力なんですね!」

 

 と興奮気味にグローリア殿は答えられた。

 

 「そうよ、グローリアちゃんは早くその感覚に慣れて頂戴ね。

 なんと云っても貴方は、今後も帝国軍の中核でいて貰うんだから!」

 

 とモーガン殿は期待を込めて答えられた。

 



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2月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝元年)《ガイ進化》

 2月5日(後編)

 

 グローリア殿の進化が成功したので、本日は続けて自分の騎竜たる《ガイ》と、ミーシャの騎竜で有る《サバンナ》を進化させる。

 手順は先程のグローリア殿と同じだが、なんと云ってもワイバーンからドラゴンに進化するので、自分としては正直不安だ。

 自分が不安そうにしているのに、ガイの方は随分積極的で、コクーンの前に向かい用意万端といった様子で、こちらを向いて促す様に「ガウッ」と鳴いた。

 

 「フフッ、ガイ君は随分と乗り気な様ね。

 相棒のケニー君は不安そうだけど」

 

 と自分に聞いて来た。

 

 「・・・はい、どうしても不安に思ってしまい、昨日もあまり眠っていません・・・」

 

 と弱気を吐露してしまった。

 

 「大丈夫よ、安心して。

 グローリアちゃんも見ての通り成功したでしょう!

 貴方の相棒も必ず成功させるわ!」

 

 と力強くモーガン殿は返事してくれた。

 コクーンの前面が開き、サッサとガイは入っていった。

 何でそんなにやる気なのか、やや呆然としてしまったが、相棒が乗り気なのに自分が怖じ気づくのは、体裁も悪いので、表面上だけでも自信がある様に見せようと、腕組みしてコクーンの中を映すモニターを見据えた。

 やがてモニターに《準備完了》の文字が浮かび、

 

 「ワイバーン用進化プログラム開始!」

 

 とのモーガン殿の掛け声と共に、コクーン内に魔力が魔力チューブを通して充填されて行き、アラン様達のヘルメットの顔の透明部分に様々な文字が流れて行く。

 

 15分程の時間が流れ、ヘルメットに文字が浮かばなくなり、魔力の充填も無くなってコクーンがただ淡く光っている状態になると、モーガン殿が、

 

 「今回も成功したわ!

 後は、1時間位経てば魔力がガイ君に馴染むし、体積が大きくなった分をナノムの制御の元で、マナとタンパク質等で補填してくれるから、コクーンから出ても大丈夫」

 

 と保証してくれた。

 コクーン内のガイを観察すると、今迄が7メートル半といった体長だったのに、15メートルとほぼ倍の体長になり、出会った頃のグローリア殿と酷似した体型に変化している。

 モニター上のガイの変化を確認すると、魔力係数と魔力備蓄指数が桁違いに上がり、進化前のグローリア殿とほぼ同等レベルに上がっていた。

 

 「・・・思っていたよりも進化したわね。

 恐らくは、ガイ君が想定を越えて自分自身を強化しようと願った様ね。

 きっと相棒の貴方の力になりたいと、という思いからだわ」

 

 とモーガン殿が説明してくれた。

 

 1時間経ち、コクーンが開きゆっくりとガイが外に出て来た。

 ガイは、珍しそうに周りを見渡し、自分の身体の変化を色々と長い首を傾けて確認している。

 やがて、納得がいったのか「ガウガウッ」と話し掛けてきたが、当然自分始め皆には理解出来なかったが、シャロン准将が、

 

 「やっぱりだわ!

 ガイ君も喋れてる、今迄の簡単な受け答えで無くて、ちゃんとした意思疎通が出来てる!」

 

 と、クレリア様とセリーナ准将と一緒になって、喜んでいる。

 そんな女性陣を眺めながら、やや苦笑したアラン様がガイの前に立ち、

 

 「ガイ、首を降ろしてくれるかい。

 翻訳機を付けたプロテクターを、装着するから」

 

 と言われ、アラン様が自分を手招いたので、テーブルに予め用意されていたプロテクターを持って、アラン様の横に移動した。

 ガイは大人しく首を降ろし、自分は翻訳機を付けたプロテクターをガイに装着した。

 すると装着した途端に、ガイは話し始めた。

 

 「あらんさまありがとう!

 おいらはかならず、きたいにこたえてみせるぜ!!」

 

 と思っていたより、かなり幼い感じで会話して来たので、あまり感動出来ないでいると、

 

 「・・・あら、この翻訳機デフォルト(初期状態の事だそうだ)の儘だわ。

 イーリス、ワイバーンの時の年齢に合わせた設定に変更してくれる」

 

 とクレリア様が指示された。

 以前からモーガン殿始め『ナノム玉3』を飲まれた方々の言われる、《イーリス》とはきっと『ナノム玉3』を飲む事で判る隠語の様なものなのであろうと考えている。

 そんな事を思っていると、

 

 「・・・クレリア皇妃様、大変有難う御座います!

 某は、以前より皆様と意思疎通を自在にする、グローリア様を羨ましく思っておりました。

 此れからは某も、会話を自在に出来るのですね。

 ご期待に添える様に精進して参りますので、宜しくお願いします!」

 

 と立派な口上を述べたので、漸く自分も感動出来た。

 

 「・・・うーん、何だか固すぎる物言いだと思うんだけど、ケニー大佐はこれで良いの」

 

 とセリーナ准将が聞いて来たが、

 

 「ええ、これで構いません」

 

 と返事すると、横にいるミーシャが笑いながら、

 

 「良いんじゃ無いでしょうか、ケニー大佐も日頃から固い表現で会話してますし、お似合いですよ」

 

 とセリーナ准将に答えると、此の場に居る女性陣全員が自分を見ながら、「それもそうね」と笑いながら納得し合っている。

 そんなに自分は固いのだろうか?と憮然とした気持ちになりながら、ガイに向かい、

 

 「此れからも宜しくな!」

 

 と言うと、ガイも、

 

 「無論です!

 ケニー大佐、貴方と共に今後も歩んで参ります!」

 

 と自分好みの答えを聞いたので、この設定が最適だと自分は納得した。

 



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2月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝元年)《スラブ連邦と導師(グル)ラスプーチン》

 2月15日

 

 あれからミーシャの騎竜で有る《サバンナ》を進化させて、翌日にも3頭づつ進化させて、元々のワイバーン隊15頭全てが幼竜(ドラゴン・パピー)まで進化完了した。

 他のワイバーン達は幼かったり、キリコ達のワイバーン達の様に経験値が足りなかったりと、進化の要件を備えていないので、暫くは進化を見合わせる事になっている。

 早速、従来グローリア殿に装着していた、オリハルコンの装甲を量産していたものを、全ドラゴンに装着し訓練に入った。

 ただアラン様の様には、全員ドラゴンに最高速を出された場合騎乗していられないので、新たに風防を強化した搭乗席(コックピットと言うらしい)を設置し、更にそのコックピットは以前使ったパラシュートを大型化した物を標準搭載していて、緊急時には自動でコックピット毎射出してパラシュートが開く様になっている。

 其れ等の耐久実験や、新たにドラゴン自身の武器となった『量産型グングニル』を使用した、格闘戦も訓練内容に盛り込み、グローリア殿を始め新たな戦術を試行錯誤しながら訓練に勤しむ事になった。

 

 2月18日

 

 いよいよ北方の情勢がきな臭くなりつつあり、ノルデン諸国連合から正式に援軍要請が帝都コリントにある大使館を通してあった。

 『スラブ連邦』との国境線を縦断する形で構築されている、マジノ線(ノルデン諸国連合陸軍大臣アンドレ・マジノが完成させた、強力な対スラブ連邦要塞線)から観測するに、元々展開されていたスラブ連邦軍30万に加えて20万の軍が、スラブ連邦首都『エデン』から派兵された様で、恐らくは雪解けする春先には侵攻してくると推測され、如何にマジノ線が強力であろうとも計50万の兵力には正直耐えられるか判らないという事だ。

 直ちに、アラン様と軍上層部そしてモーガン殿による会議が行われた。

 アラン様が、

 

 「・・・皆も知っている様に、ノルデン諸国連合から正式に援軍要請が我が帝国に有った。

 帝国と同じ西方教会圏に属するノルデン諸国連合は、同盟国でこそ無いが協力体制を築いており、魔導列車構想に参画されている。

 このノルデン諸国連合に対して、度々スラブ連邦は宣戦布告も無く不当な侵略を繰り返して来た歴史が有り、恐らく次回の侵略戦争も宣戦布告など無しに行われる公算が高い。

 此れまでは、マジノ線によってスラブ連邦の企図は阻めて来たが、あくまでも多くて10万の兵力に対してであり、現在観測されている50万の兵力には心許ないと考えられている。

 どうやらスラブ連邦は、3年前まで戦ってきたルーシア王国を完全に併呑し、其処に振り向けた兵力をノルデン諸国連合にぶつける事にした様だ。

 漏れ聞く処によると、スラブ連邦代表である『導師(グル)ラスプーチン』は、前身はルーシア正教の僧侶であるにも関わらず、併合したルーシア王国や周辺国に対し、過酷な税と自分の編み出した『共産主義』という思想を強制している様だ。

 それに反発した人々を、己を盲信する信者や『共産主義者』によって虐殺しており、虐殺された人数は既に600万に達している。

 此の様な人物を推戴している国家とは、我が帝国は共存出来ない!

 帝国軍はノルデン諸国連合からの援軍要請に対して正式に受諾し、全面支援を行う事を前提として議論して貰いたい!」

 

 と帝国軍としての指針と、スラブ連邦への対応策を会議する事を望まれた。

 以前から、仮想敵国としてスラブ連邦も想定に入っていたが、あまりにも帝国と距離が有り自分もスラブ連邦人など一回も出会った事が無く、辛うじてオスロ港の船乗りにスラブ連邦に併合される前のルーシア王国に貿易に行った事があると聞いた事が有るくらいだ。

 自然全員は、賢聖たるモーガン殿に視線を向けられた。

 モーガン殿は苦笑されながら、皆の視線に答えてくれた。

 

 「・・・まあ、私もスラブ連邦の全てを知っている訳じゃないけど、元々は大陸北方の地域をルーシア王国を中心にしてマニア、ガリー、ガニスタン等の都市国家群が周辺に点在する、あまり豊かでない地域だから、互いに助け合って生きている『共生主義』とでも云う国家体制をとる国家が多かったわ。

 凡そ150年前、都市国家の中でも最底辺と云って良い『スラブ国』という国の端の辺りに、全長2キロメートルに及ぶ金属で覆われた落下物が有ったの、当初は隕石と思われたけど隕石にしては周りに殆ど被害が無くて、明らかに落下する際速度を落としている事が推測されたわ。

 暫くの間スラブ国の住民は、その金属で覆われた落下物を警戒して、近づかなかったんだけどある日一人の農奴が、主人の制止を振り切ってそれに近付き、開いていた穴に入り込んだの。

 農奴が穴に入ると、金属で覆われた落下物は奇怪な光りを発して穴を塞ぎ、不気味な音を立て始めたそうよ。

 三日三晩、奇怪な光りと不気味な音を立てていた落下物は、突然反応しなくなり、穴が再び開いて例の農奴が穴から這い出て来たそうよ。

 農奴の主人は、勝手に行動した彼を鞭で打ち据えようと鞭を振り上げたら、途端に農奴の目が怪しく光りだしてその目を見た主人は鞭を手放し、近くの煙突をよじ登り身を投げたの。

 その投身自殺した主人を例の落下物の穴に農奴は放り込んだ、暫くしてその主人は死んだ筈なのに生き返って穴から出て来たんだけど、その頭には奇妙な金属の突起が生えていて、何故か農奴に対して頭を下げて隷従する様になり、農奴はその主人の持つ農場の支配者になったわ。

 だけど元の主人の上司に当たる貴族にその農場は攻められて、農場は燃え落ち農奴は行方不明になったの。

 暫く時が経ち、スラブ国の首都にあったルーシア正教本部に『ラスプーチン』と云う僧侶が、台頭しはじめたの、その僧侶は怪しい能力を使って人々を惑わし、瞬く間にスラブ国のルーシア正教を乗っ取ったわ。

 そのままスラブ国の首脳部も怪しい能力で籠絡して、周辺の小国を次々と同じ様に陥落していったの。

 そして北方の盟主たるルーシア王国は、この動きに反発して軍事力で対抗したわ。

 だけど当初は10倍以上の兵力で、勝利を重ねていたルーシア王国側はある事実に気付いたの。

 殺した筈のラスプーチン側の兵士が、次の戦いにも平然と参加していたのよ、然も頭に奇妙な金属の突起が生えていて、明らかに以前より蘇った後の方が強かったの。

 そして其れは、人だけでは無かった。

 北方は戦争に戦闘用に訓練した動物や魔物を使うんだけど、これらも人と同様に頭に奇妙な金属の突起が生やして蘇ると以前の倍以上に強かったらしいわ。

 やがてルーシア王国は中々勝てなくなり、そして3年前に王女『アナスタシア』以外の王族は全て殺されて、ルーシア王国は滅んだわ。

 これらの話しは、王女アナスタシアが『魔法大国マージナル』に庇護を求めて来られた際に、教えてくれたわ。」

 

 何とも不気味な話しで、とても普通の国家とは思えない成り立ちだ、こんな怪しい国と戦うのかと、明らかに武者震いとは別の身震いをしてしまった。

 



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2月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝元年)《陸上戦艦『ビスマルク』》

 2月20日

 

 自分の騎竜であるガイに乗り、新しい軍団魔法やドラゴン部隊とワイバーン部隊の連携、そしてヘリコプター部隊が対地用空爆をする際の護衛等をどの様に熟すか?等の新しい戦術パターンを試して行く。

 一段落着いて、陸上空母で他のドラゴンの訓練の様子を見ていたら、先日の会議での後半のモーガン殿の話しが脳裏に浮かんだ。

 

 「・・・確認しますが、話しにあった例の農奴と『導師(グル)ラスプーチン』は、同一人物で間違い無いのですか?」

 

 とダルシム中将がモーガン殿に質問し、

 

 「・・・アナスタシア王女に確認した所、同郷の者の証言等を得た処、間違い無いそうよ。

 例の主人の話しと、現在確認されているスラブ連邦の兵士が酷似している事から、その通りでしょう。

 ただ、そうなって来ると色々な疑問点が湧いてくるわ。

 農奴は何故ルーシア正教の僧侶になり、宗教団体そのものを乗っ取って新しい経典とも云うべき『共産主義』と云う思想を広め始めたのか?

 記録が正しければ、ラスプーチンは既に150歳を越えている筈だけど、私の様に魔術的な手法を用いないで、長生きして行ける秘密は?

 ルーシア王国と戦い続けていたのに、場当たり的にノルデン諸国連合国境線を侵略しようとした意図は?

 そして最大の疑問は、ラスプーチンは一体何を目指しているの?・・・」

 

 モーガン殿は、自分自身でも疑問が多いらしく、そのまま考えに沈まれてしまった。

 アラン様が、

 

 「・・・何れにせよ、ノルデン諸国連合から正式に援軍要請が我が帝国に有り、此れに応じる事は同じ西方教会圏国家として、既定路線である。

 侵攻して来るのは春先であろうから、各軍はそれを想定した準備行動に入って貰いたい!」

 

 と命令されたので、

 

 「ハッ!

 了解しました!!」

 

 と全員起立して、命令を受諾した。

 

 という情景を思い出しながら、皆の訓練を観察した。

 

 2月25日

 

 トレーラーギルドのホシとジョナサンを中心とした重武装トレーラー500台が、様々な軍需物資を積載してマジノ線に向けて進発した。

 先ずは、マジノ線の強化が最優先事項であり、その為には物流の確保が一番で有る。

 既に帝都コリントから公都『セシリオ』そしてオスロ港まで、『帝国鉄道公社』の尽力で魔導列車は開通しており、オスロ港からノルデン諸国連合に対しての食料支援・生活必需品・魔道具による水資源調達と耐寒機材等の海路による支援は開始している。

 ただ、直接マジノ線に通ずる魔導鉄道は開通していないので、ビクトール(元セシリオ王国侯爵)中将の

北方の軍管区の帝国軍は、帝国鉄道公社と協力しあいマジノ線までの魔導鉄道の開通目指して、工事に着手している。

 高機動軍と重機動軍の陸上空母は其々の軍需物資を満載し、本日マジノ線付近に構築する予定の大規模駐屯地目指し出発した。

 其々には、空軍から100機ずつのヘリコプター部隊が随伴しており、偵察等に役立って貰う。

 

 2月28日

 

 此の日、皇帝座乗艦である陸上戦艦『ビスマルク』がその堂々たる姿を一般公開した。

 その威風は放送局が広く西方教会圏に放送する事で、ほぼ全ての国が知る事になった。

 全長凡そ300メートル、全高50メートル、全幅150メートルと云う大きさで、空軍・高機動軍・重機動軍の持つ陸上空母の凡そ倍の巨大さだ。

 因みに陸上戦艦と言う割に、この陸上戦艦と後述する陸上空母は浮いているのだ。

 その浮いている高さは、凡そ地面に対して2メートル程で固定されていて、それ以上の高さに浮ける訳では無い、何でもマナ原理に於ける対地反発係数に基づく理論で浮いているらしいが、自分は専門家では無いので詳しい事は判らない。

 ただ地面から浮いているが、まるで接地している様に安定しているので、そういう物かと理解するしか無い。

 陸上空母には其々1基搭載している『魔力凝縮炉』を、ビスマルクは4基搭載しており、陸上空母が周囲直径1キロメートルに張れるバリアー(アラム聖国が先の戦争で使用した魔法障壁発生装置を解析し、物理・魔法双方に対してより強力な障壁を発生させる)を、周囲直径5キロメートルに張れる。

 更にその圧倒的な魔力は、攻撃面でも活かされ4基ある46センチ主砲(従来の魔導砲を発展させ連続速射が可能になった)を始め、パルス魔導弾を発射するパルス魔導速射砲計50門が両側舷側に有り、船首にはドリルバイクのドリルをそのままスケールアップした物が存在し、丘であろうが山であろうが粉砕しながら直進する事が可能だ。

 此れ等、陸上戦艦と陸上空母は、昨年解放したオスロ港で長年住人達から変人扱いされていた、船大工『ドレイク』殿が総督府の置かれた現在の公都セシリオで、アラン様に口角泡を飛ばしながら熱弁を振るい、遂には許可を得られてから専門のボッド部隊を酷使する事で完成させた、或る意味狂気の産物である。

 そもそも当初は海上船の話しだった筈なのに、陸上船になったのは経緯を知らない自分には永遠の謎であるが、ドレイク殿は専用の工廠ドームで今もひたすらに新しい艦船を作り続けているそうだ。

 自分の親父も大概な人物だと思っているが、ドレイク殿に比べればまだ大人しいと言える。

 帝国がこのまま大陸を制覇する過程に於いて、此の手の天才肌の奇矯人がますます増えて行き、終いには艦船が空を飛ぶのだろうなと、モーガン殿の飛空船がより大型化した物を思い描いた。

 




 とうとう出ました陸上戦艦『ビスマルク』!
この戦闘艦はこれから当分の間、皇帝座乗艦として活躍します。
 モチーフは、ドリルで気付いた方も居られるかも知れないですが、特撮映画『海○軍艦』に出て来た『轟○号』です。
 まあ、正直その能力は物語が進むに連れて、『轟○号』よりOVAの新海底軍艦『○号』が近くなるかも知れないけど(笑)


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3月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝元年)《マジノ線到着》

 3月1日

 

 本日自分の乗る陸上空母『ドライ』(この名称は、単に形式番号だったのだが言い慣れてしまい、正式な艦船名になった)は、マジノ線目指して進発した。

 約2週間程でマジノ線に到着する予定だが、その間も訓練しながら行くつもりなので、中々気を抜けないだろう。

 ガイやサバンナ達新たにドラゴンになった元ワイバーン達は、非常に賢くなったので戦闘訓練も彼等の意見を組み入れて、より実戦を想定したものに変更されて行った。

 此れなら、突然変わる戦局にも瞬時に対応出来るだろう。

 逆にヘリコプター部隊はまだまだ覚束なくて、其々2人乗りで飛行運転する者と対地攻撃及び偵察する者とで、役割分担しているのだが、ワイバーン隊に比べると見劣りしてしまう。

 まあ、新機軸の兵器で更に初の実戦に臨もうと云うのだ、緊張するのは当然だし不安になるのも良く判る。

 だが、相手はだからと云って手を抜いてくれる筈も無く、戦場は一瞬の判断の誤りで死んでしまう事もある。

 自分は指揮官として、ヘリコプター部隊を死地に送る訳には行かないので、出来る限り死ぬ可能性を下げるべく訓練させて行こうと決意している。

 

 3月4日

 

 公都セシリオに到着したが、以前の街並みを知っているだけに隔世の感がある。

 先ず、直ぐ隣にドームが有って其処には魔導列車の駅と、コンテナの搬入搬出用のプラットフォームが有り、親父の作ったフォークリフトとトレーラーが頻繁に行き交い、物資が次々と運び入れたり運び出されている。

 以前の人っ子一人いないゴーストタウンと化した姿を見ているだけに、同じ場所だと信じられない思いだ。

 我々の陸上空母がプラットフォームに横付けされて、物資の搬入を開始していると、魔導列車から降りて来た学生達が駅から物見高く、陸上空母を見上げている。

 すると、周囲警戒と訓練を兼ねたヘリコプター部隊が甲板上から飛び立った。

 学生達は、ヘリコプター部隊を見て歓声を上げて、

 

 「僕は『学校』を卒業したら、空軍に絶対入るんだ!」

 

 「私は、セリーナ様の高機動軍の戦闘バイク部隊に入るわ、だってセリーナ様カッコイイんだもん!」

 

 「いや、なんといってもアラン皇帝の親衛隊だな、一騎当千の猛者ばかりだし、剣王達が隊長なんだぜ!

 だから俺は、神剣流と帝国武術の道場に通ってるんだ!」

 

 「オイラは、魔導列車の運転手だな!

 もうすぐ元三国の首都を繋いだ環状線が完成するし、何れは西方教会圏全てが魔導列車で繋がるんだぜ!

 魔導列車の運転手なら外国に行き放題だよ!」

 

 「オレっちは、トレーラー乗りだな!

 1月から始まった『トレーラー野郎!』のドラマは、男心をくすぐるぜ!」

 

 「アタイは、帝都の技術開発部に必ず入るわ!、必ず新しい技術を生み出して見せるんだから!」

 

 などと、喋り合っている。

 旧セシリオ王国の国民だった頃に比べると、明らかに子供達の瞳には光りが有り、未来への展望が開けている所為か、皆明るく朗らかに自分達の望む未来を語っていた。

 自分達が、あの愚王ルージを倒す事で子供達の未来を開いた事を考えると誇らしくなるが、翻って見ると北方のスラブ連邦に併合された国の子供達に未来は有るのだろうか?と考えてしまった。

 

 3月14日

 

 公都セシリオから、元周辺国だったエラム国を通りノルデン諸国連合の国境線に近づいた。

 帝国との間の国境線にはマジノ線の様な要塞は存在せず、逆に鉄道敷設工事と道幅を大きくとった道路インフラ工事を、大型魔道具と大人数で大掛かりにしている為、まるで交易都市の様な有様だ。

 故に、国境の検問所は書類と本人確認を行うと、フリーパス状態で通してくれた。

 そのまま一路、帝国の為に用意された駐屯地用の土地目指して向かった。

 

 3月15日

 

 予定通りに駐屯地用の土地に着いたら、既にかなりの巨大ドーム用の基礎工事が終わっていた。

 高機動軍と重機動軍は、予めかなりの大型重機を陸上空母『アイン』、『ツヴァイ』(結局空軍と同じく名称は形式番号を踏襲した様だ)双方に積載していた為、土地を均したり杭を地下深く埋め込む事が出来た様だ。

 此処には、援軍として派遣される15万の帝国軍と、マジノ線に張り付いているノルデン諸国連合軍15万、計30万の軍人の宿泊施設及び生活を支える施設類を抱え込んだ、巨大なドームを建設する事になっている。

 もう少しすると、魔導列車用の駅及びプラットフォームも出来上がり、兵員と物資の輸送が円滑に行われる様になるだろう。

 自分とミーシャは書記官を連れて、司令部の有る一際巨大な要塞に赴いた。

 待合室に通されて、高機動軍と重機動軍の幕僚達と久々の合流に、其々の情報の照らし合わせと四方山噺に話しの花を咲かせていると、セリーナ准将とシャロン准将が入ってきたので、自分とミーシャは敬礼しセリーナ准将とシャロン准将も敬礼して席に着いた。

 何でもセリーナ准将とシャロン准将は、此処に着いてから駐屯地用のドーム建設は部下達に任せ、自分達2人だけでかなり離れた広大な荒れ地を演習場として、実戦訓練を繰り返しているのだそうだ。

 実は先月末に2人用の新型戦闘バイクが遂に完成し、その試運転がてら行軍してたらしいのだが、その新型戦闘バイクは他の戦闘バイクとあまりにも戦闘力が違い過ぎていて、漸く双方がこの駐屯地で合流出来て演習相手を務められる戦闘バイクに巡り合ったという訳だ。

 2人の戦闘バイクだけで広大な荒れ地の障害となる様な丘や巨大な岩は全て粉砕されて、キレイに荒れ地は土地が均されていて何れは広大な農地に変貌するのではと考えられているそうだ。

 と云うのも双方の新型戦闘バイクは、双方共にホバークラフト走行をする代物で、従来の2輪走行とはそもそも根本思想から隔絶しており、既に戦闘バイクどころか車両と言って良いのか判らない程の新しい戦闘マシーンと云うべきだろう。

 正直自分の騎竜であるガイは、帝国軍に於いてグローリア殿を除けば1、2を争う戦闘力を誇ると考えていたが、地面の上だけで戦う局面でこの2台の新型戦闘バイクにセリーナ准将とシャロン准将が搭乗されている場合は、勝ち目が無いだろうと考えている。

 そんな思案をしていると、マジノ線の防衛司令官が会議室でお待ちになっていると知らせが有り、全員で向かった。

 防衛司令官たるレリコフ元帥とその幕僚達が勢揃いして我等を待って居られ、我等も入室して一列に並び一斉に敬礼すると、レリコフ元帥とその幕僚達も対面に並びキレイな敬礼を返してくれた。

 双方其々の席に着くと、レリコフ元帥が自分とミーシャに対して礼を述べられた。

 

 「ケニー大佐、ミーシャ中佐、お二人の統括されている空軍所属のヘリコプター部隊により、敵であるスラブ連邦軍の上空からの偵察を行ってくれたお陰で、詳細な敵軍の配置図及び部隊編成、そして補給路の位置等が判明した。

 此のお陰で、敵の侵攻作戦が開始されても防御の重点場所や、此方からの遠距離攻撃を何処に集中すべきか作戦立案が容易になりました。

 重ねて貴方方を派遣して下さった、アラン皇帝陛下に感謝申し上げる!」

 

 と深く頭を下げられ感謝された。

 

 「・・・自分もアラン皇帝陛下に指示されての事、その感謝のお言葉は、直接アラン皇帝陛下に申し上げて下さい」

 

 と返答したら、

 

 「・・・伺って居りましたが、アラン皇帝陛下自らモニターで見せて貰った、皇帝座乗艦である陸上戦艦『ビスマルク』で直々に援軍を率いて来られるとか、幾重にも人類銀河帝国には感謝する。

 他にも、マジノ線強化の為のバリアー発生装置や大規模な食糧支援、そして医薬品や要塞毎に設置してくれた水資源用魔道具と大型浴槽魔道具のお陰で、兵士達の衛生面での生活改善が図れました。

 今迄本国に要請しても、予算面での問題で出来なかった事案でした、本当に有難う!」

 

 とレリコフ元帥は、心から感謝されている様だ。

 その後、これからの駐屯地構築の工程表と、マジノ線を更に強化する為の項目を確認し、此の日の会議は終わった。

 敵の状況を偵察部隊のお陰で詳細に判ったが、奴らは自分達の首都からの大規模増援が来ない限り、行動に出ないと思われる。

 ならば其れまでに出来る努力を重ねようと、決意を固めた。

 




 本文中のセリーナとシャロンの新型戦闘バイクは、察している方も居られるかも知れませんが、以前説明した『熱笑!!花○高校』で出てくる、虎の総頭『天界○主』の『悪○号』をモチーフにしているのが、セリーナの『ディアブロ号』で、黒いゲリラ総大将の『力○男』の『スー○ーバイク』をモチーフにしているのが、シャロンの『ジャッジメント号』です。
 此の2台の戦闘バイクが活躍するのには、もう少し話数が掛かりますがどうぞお楽しみに。


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3月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝元年)《『西方教会圏共栄構想』》

 3月16日

 

 レリコフ元帥の幕僚であるブルゾン大尉にマジノ線の要塞と城壁を案内して貰った。

 流石にこの100年間スラブ連邦の攻撃を退けてきた大防御戦線だけ有り、城壁の厚みと要塞の重厚さはかなりのものだ。

 しかし、自分達は先のスターヴェーク王国奪還戦争に於いて、敵であるアロイス王国への援軍に来たアラム聖国が使用した、大砲と野砲で一点集中攻撃されたら、城壁どころか要塞でもそれ程時間を掛けずに陥落するであろう。

 スラブ連邦が、あの大砲や野砲に匹敵或いは凌駕する兵器を持っていない保証は無く、いや、スラブ連邦は国境を2大国である『アラム聖国』と『崑崙皇国』と接していて、国境紛争を繰り返しているのだから、大砲や野砲に匹敵する兵器を持っていると考えるべきだ。

 その様な事を思いつつ要塞の階段を登り、スラブ連邦が30万人駐屯しているという付近を備え付けの望遠鏡で観察した。

 流石に丘に阻まれて見えないが、50キロメートルの距離に敵の軍勢が居ると云うのは、守備兵にとって相当不安だろうとブルゾン大尉に聞くと、

 

 「・・・確かにストレスを感じていますね、然も今までと違い到着次第攻撃と云う行動をせず、ジッと駐屯したままで特に動き出さずに居ると云うのは、ひたすら不気味ですよ。」

 

 と答え、ブルゾン大尉自身が不安なのだろう、不気味なものを見る様子で敵軍のいる方向を眺めている。

 

 3月20日

 

 駐屯地用に使う巨大ドームのインフラ整備が完了し、魔導列車用の駅及びプラットフォームも出来上がったので、ドンドンと物資が搬入し始めた。

 巨大ドームの天井はエネルギーフィールドで覆われているので、北方な為に度々降ってくる雪を完全に防ぐ事が出来る。

 特別にドームとしては異例の陸上戦艦と陸上空母の発着スペースも設けられ、物資の搬入搬出そして人員の乗り換えもスムーズに行える様になった。

 周囲の荒野も演習がてら土地を均していったので、将来は広大な街が出来上がるのではないだろうか。

 

 3月25日

 

 アラン様の乗る陸上戦艦『ビスマルク』がその勇姿を水平線上に見せて、鉄道の横を通る幹線道路脇を悠々と此方に向かって進んで来る。

 ビスマルクは将来ハイウェイ(高速道路と云うらしい)を通す事を考えて、その船首に有るドリルを稼働させて、邪魔になる山や丘を現地民と相談の上で粉砕しながらやって来たそうだ。

 何れ公都セシリオと『マジノドーム』(結局名称はこうなった)は、一直線のハイウェイで繋がるのだろう。

 3時間後マジノドーム内の大会議室で、アラン様始め帝国軍上層部とレリコフ元帥とその幕僚達そしてノルデン諸国連合の代表団との会議が開催された。

 レリコフ元帥とその幕僚達は、かなり前から陸上空母やマジノドーム建設工事に接していた事もあり、それ程はビスマルクに対して恐れては居らず、寧ろ頼もしげにご覧になられているが、ノルデン諸国連合の代表団はマジノドームとビスマルクに対して恐怖に近い感情をお持ちの様だ。

 まあ、考えてみれば無理もあるまい。

 此処は、防御拠点で有るマジノ線が有るだけの、謂わば見捨てられた土地でしか無かったのだが、突然マジノドームと云う50万人が住める巨大な都市が出来上がり、鉄道と幹線道路が公都セシリオから繋がって物流の一大拠点となった。

 実際の処、ノルデン諸国連合の各首都も此れほどの規模の都市機能は有しておらず、戦時はともかく通常時も帝国が此処に居座ったら、スラブ連邦とは別の脅威と考えてしまうだろう。

 その辺りの機微をいち早く感じたのだろう、

 

 「ノルデン諸国連合の代表の方々に要請したい。

 御国の優秀な政務官やテクノクラート(技術官僚)を、此の『マジノドーム』に派遣して戴きたい。

 我々が此の地を去った後のドームの運営、インフラ設備の保守や利用等を早期に習熟して貰い、このドームに設置されている『魔法炉』によってこの広大な荒野を豊かな土地へと、変貌させる取り組みに参加して貰いたいのだ」

 

 とアラン様は、熱意を持ってノルデン諸国連合の代表団に訴えられた。

 ノルデン諸国連合の代表達は、面食らった様に呆然とされていたが、1人の代表が我に返り質問された。

 

 「・・・・・素晴らしいお話ですが、先ずは援軍要請に速やかに応えて頂いた事と、マジノ線に対しての様々な支援と武器や武具等の供与、更にはインフラ整備による物流の円滑化により、此の地は北方に於ける一大拠点になりました。

 此の様に莫大な経費と物資を掛けられた拠点を譲られても、我々には直ちに支払える様な予算や資産は存在しないので長い期間での借款になった場合、ノルデン諸国での分担割合等で新たな火種を抱える事になります。

 ・・・叡明でなるアラン皇帝陛下には、その辺りに於ける画期的な提案やお知恵が有ると推察されますので、是非その辺りをご開陳頂きたい!」

 

 と要望してきたので、アラン様は、

 

 「・・・此れは誤解を招いた様だ。

 我々『人類銀河帝国』はマジノドームをお譲りするに当たり、一切の経費や権益をノルデン諸国に対して要求しません。

 ただ此方としては要望として、鉄道関係とインフラ構築関係の運賃や敷設工事等で発生する様々な経費は一律20%の消費税としての課税に留め、それ以上の関税や地方税等の上乗せ課税は止めて頂きたい。

 此れ以降の他の国にも、同じ様な提案をさせて貰っていて、概ねの賛同を得られている為、既に工事に着手している国は多く存在します。

 物流や人流による経済の発展による国家に齎す富は、今までの人頭税や所得税での国家所得を遥かに凌ぎます。

 どうぞ、この新しい形での『西方教会圏共栄構想』への参加を、我々は切に願います!」

 

 と説明された。

 ノルデン諸国連合の代表達は、目を白黒させ面食らった様に呆然とされていたが、先程質問した方と他に2人程は、此の『西方教会圏共栄構想』の持つ巨大な利権に気付いた様で、周りを気にしながら思案に耽り始めた。

 相変わらずアラン様は、皇帝になられてもこの辺の政治的な取引や、経済的な発想に於いて天才であり、我等としては、相手をさせられる側が気の毒でしか無いと思った。

 



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3月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝元年)《対スラブ連邦作戦会議》

 3月26日

 

 昨日はアラン様の提案された『西方教会圏共栄構想』に、面食らわれたノルデン諸国連合の代表団だったが、1日経ってみるとその莫大な富を得られる仕組みに気付かれた様で、アラン様が連れて来た政務官僚達とかなり詳細な交渉に入った。

 ノルデン諸国連合各国は、此処マジノドームからノルデン諸国の首都を巡る鉄道網と道路インフラの環状線の敷設と、其々の国での関税を撤廃し円滑な物流と人流を推進する事に概ね合意した。

 後は本国に戻り提示された、条件や諸々の利益試算を王族や貴族の方々と相談する事になるだろう。

 そして各国は、其々の首都に『人類銀河帝国銀行』(略称『帝銀』)を置く事にも許可したので、何れはノルデン諸国でもギニーだけでは無く、カード決済によるポイントでの利用が出来る様になるだろう。

 既に帝国内では、大口の取引でも嵩張るギニーでの取引は下火で、ポイントによる取引が主流だ(商業ギルド始め職人ギルドと冒険者ギルド、そしてサイラス大商会とタルス株式会社もポイント決済が基本で有る)、大体鉄道運賃がポイント決済しか受け付けないから、魔導列車を使用する人間はカードのポイントが必須なのだ。

 

 その様な今後の帝国と周辺各国の未来を想像し、チラホラと降る雪を陸上空母の飛行甲板上で見上げながら、ペットボトル(最近出来た飲料水等を入れる容器)に入った暖かい珈琲を飲みつつ、次々と偵察任務と訓練の為に飛び立つ、ヘリコプター部隊・ワイバーン隊・ドラゴン達を督促しながら見守った。

 

 3月28日

 

 レリコフ元帥とその幕僚達そしてアラン様始め帝国軍上層部は、かれこれ8回に及ぶ作戦会議を行った。

 何といっても此方は防衛する側で有り、殆ど選ぶべき選択肢は無く、敵であるスラブ連邦にキャスティングボードが握られている事は仕方が無かった。

 此れが普通の国家であれば、外交による折衝や交易品等の荷留更には他方面の国からの圧力等が、選択肢として存在するのだが、スラブ連邦にはそもそも外交チャンネルが存在せず、貿易すら行っておらず立ち寄った交易船は全て拿捕或いは沈められている。

 他に国境を接している国とは全て交戦状態にあり、一体どの様な意図の元で国家運営しているのかサッパリ判らない。

 我々が知っているのは、旧ルーシア王国の亡国のアナスタシア王女から齎された情報と、スラブ連邦が成立する前に亡命して来た一握りの人々が噂として聞いていた物だけだ。

 そもそもスラブ連邦の首都とされる『エデン』の位置すら判らず、情報に有った『共産主義』とやらもどんな国家体制を構築する思想なのかも把握出来ていない。

 只々不気味で有り、同じ人間が存在する国家とは思えない違和感だけが付き纏う。

 

 「・・・・・此の様に、今までのマジノ線での防衛戦では必ずと云って良い程、前面にスラブ連邦がこれまで併合して来た国の人民を戦奴隷として配置し、その後方にその戦奴隷を督戦させるスラブ連邦督戦部隊が続き、更に後方に『機械魔獣軍団』が存在し此処ぞという時に投入されます。

 ・・・実際の処、戦奴隷による攻撃は見せしめ的な要素でしか無く、殆ど意味を成しません。

 ですが不思議な事に、戦奴隷の死体は必ずどの様な状態でもスラブ連邦は、大掛かりな荷馬車に詰め込んで回収して行くのです。

 お陰で此方は大量の死体による、疫病発生や腐臭に悩まされる事も有りません。

 何度も繰り返されるので、黒魔術や死霊魔術の材料にして、例の元セシリオ王国国王だったルージ愚王がやった様にゾンビを作り出すのでは?と疑われましたが、100年間ゾンビが襲って来る事も無く、ただひたすら肉弾を壁にぶつける様な攻撃を仕掛けて来ました。

 しかし、それはあくまでも戦奴隷だけの話でスラブ連邦正規軍と『機械魔獣軍団』は、凄まじい波状攻撃を行って来ます。

 中でも機械魔獣軍団は、動物や魔獣がベースですが、明らかに魔道具や金属で以って強化されていて、魔法だけでは無く物理的に此の分厚い城壁や要塞に打撃を与えて来ます。

 幸いな事に機械魔獣軍団は、数が少なく多くて3千程しか今までは居ませんでした。

 ですが今回動員されている30万の軍勢には、御国のヘリコプター部隊の詳細な偵察により、少なくとも1万の機械魔獣軍団が確認されていて、更に今までに見たことの無い巨大な魔物達が存在しています。

 そしてアラム聖国経由で齎された情報で、スラブ連邦首都からの増援軍30万が此方に向かってきており、そして対アラム聖国で猛威を振るった《百の蛇を身体から生やすドラゴン『テュポン』》が、軍勢の最後方でその巨大な身体をくねらせつつ此方に向かってきている様です」

 

 とレリコフ元帥の幕僚総長が、今までの戦いと入手された最新情報を明かしてくれた。

 今までの会議で、戦奴隷への対処は作戦が練られたので問題無いが、増援軍の規模と『テュポン』の情報はかなりの状況変化となった。

 

 改めて空軍としては、『テュポン』への対処を検討せざるを得ない。

 以前モーガン殿が教えてくれた、スラブ連邦の『機械魔獣軍団』の《魔空旅団》とは、アラム聖国が名付けた名称で『テュポン』を中心とした空飛ぶ魔獣の軍団なのだ。

 『テュポン』自身は、そのあまりの巨大さの故なのか飛べないらしいが、『フライングワーム』『ハーピー』『コカトリス』『マンティコア』『キメラ』等が配下に居るらしい。

 

 此の日の作戦会議では、大まかにスラブ連邦が増援を待たずに攻撃して来るか?増援と合流の上で攻撃して来るか?の2通りに対しての幾つかの作戦案を策定して終わった。

 何れにしても、増援軍は後3日程で此処にやって来る。

 いよいよスラブ連邦との戦争となるのだ!

 以前から感じて居る、不気味な予感を吹き飛ばす為に自分自身に気合を入れ直した。

 



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4月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝元年)《マジノ線防衛戦①》

 4月1日(前編)

 

 殆ど何の前触れも無く、スラブ連邦との戦争が開始された。

 レリコフ元帥率いるノルデン諸国連合軍15万と、アラン様率いる帝国軍15万がマジノ線の要塞と城壁で迎え撃つ形になった。

 鯨波の声もなく、軍勢がざわめく訳でも無く、ただ淡々とスラブ連邦の駐屯地に居た軍は、まるで躾られた様に順番に駐屯地を出てマジノ線に向けてやって来る。

 スラブ連邦軍の全ての動向は、ヘリコプター部隊の連携によって齎されており、増援軍の状況も詳細に入り始めた。

 最も警戒すべき『テュポン』は、最後方に居る所為もあるがそもそも進行スピードが遅いので、マジノ線に到達するのは恐らく2日後であろう。

 つまり現状駐屯地に居た30万の軍、次に首都からと思われる増援軍約30万の軍、そして最後尾の『テュポン』と云う3つのグループに分かれている。

 常識で考えると、わざと緩急を付けた軍で此方の疲労を誘うつもりなのか、単に指揮官が無能で各個撃破の対象になっているのか、何も考えていないのか判断がつかない。

 だが、もう直ぐにスラブ連邦の先鋒軍と戦う事になるし、その為の作戦は幾通りも用意されている。

 我々は、軍人として忠実にこなしていくだけだ!

 自分自身に気合を入れて、予定通りにガイ達ドラゴン15頭は高空に飛び上がり、滞空状態を保つ。

 やがてスラブ連邦軍の先頭部隊が現れ、特に陣形も整えずにマジノ線に向かって来て、そのままマジノ線の城壁に対して攻撃し始めた。

 レリコフ元帥の幕僚達から散々聞かされていたが、本当に此の先鋒軍は戦奴隷らしく、大半が槍を持っているが中には、鋤や鍬で城壁に取り付いて攻撃している者もいる。

 スラブ連邦軍は想定通りに、戦奴隷による先鋒軍10万と督戦部隊と思われる10万とに分かれていて、両者の間隔が1キロメートルを越えた段階で、我々は動いた。

 

 「プランA実行!」

 

 と、我々帝国軍全員はヘルメットのインカムを通して、城壁上と要塞に待機しているノルデン諸国連合軍には、館内放送やスピーカーで第1段階目の命令が伝えられた。

 

 命令通りに自分の騎乗するガイとドラゴン達は、高空から急降下し戦奴隷部隊と督戦部隊の間に降り立った。

 

 「広域アースウオール展開!」

 

 との自分の命令にガイとドラゴン達は、忠実に応えて高さ30メートル・長さ5キロメートルに及ぶ土壁の断層を、戦奴隷部隊と督戦部隊の間に作り上げた!

 

 「プランB実行!」

 

 続けて第2段階目の命令が出された。

 次の瞬間マジノドーム近くに陣取っている『ビスマルク』の主砲から、魔力カートリッジ弾が戦奴隷部隊の上目掛けて曲射され、戦奴隷部隊の真上50メートル程で爆発して中に封入されていた『遮断魔法』が広域散布された。

 すると、戦奴隷部隊10万は全員動きを止めて直立の状態になった。

 

 「・・・効果確認!

 続いて、プランC実行!」

 

 戦奴隷部隊への効果が確認された為に、戦奴隷部隊の回収作戦であるプランCが実行された。

 マジノ線の要塞に其々配備されたバリアー発生魔道具の最大稼働により、マジノ線からドラゴン達が構築した土壁までを覆うバリアーが展開された。

 続いてマジノ線に設けられていた4つの大門が全開され、準備していたトレーラー部隊と護衛の戦闘バイクが出撃した。

 トレーラー部隊には回収要員が乗っていて、城壁近くで直立不動の戦奴隷部隊に対しバズーカ砲を頭上に撃ち『簡易命令魔法』を広域に展開した。

 すると想定通りに命令を聞く様になった戦奴隷達を、次々とトレーラーに収容しピストン輸送でマジノドームに設けられた捕虜収容所に収容して行く。

 

 この『遮断魔法』と『簡易命令魔法』は、以前から研究されていたアーティファクト『テンプテーション』を、研究していた過程で生まれた魔法で、洗脳又は心身が弱っている人間に対し命令がされて居た場合に、その命令をキャンセル出来るのが『遮断魔法』であり、『簡易命令魔法』は『遮断魔法』によってキャンセルされた命令を上書きし、単純に目の前の人間に従うと云う命令にしてしまうといった内容である。

 

 此処までの作戦で、10万の戦奴隷達は全て無力化して捕虜収容所に収容した。

 残るは約19万のスラブ連邦軍正規軍と、『機械魔獣軍団』1万だ。

 ドラゴン達が構築した土壁に対して、現在敵軍は魔法と破城鎚による攻撃を繰り返していて、土壁そのものがそもそも分厚く無い為に、遠からず崩壊しそうだ。

 既に戦奴隷達をマジノ線の内側に収容出来た段階で、4つの大門は閉じられそれの伴いバリアーも解除された。

 

 「・・・プランD実行!」

 

 まだ土壁を崩せずにいるスラブ連邦軍正規軍に、『遮断魔法』が『ビスマルク』の主砲から魔力カートリッジ弾で広域散布された。

 しかし、戦奴隷部隊と違い一向にスラブ連邦軍正規軍は動きを止める様子が無い。

 

 「・・・効果無しを確認!

 プランE破却!

 土壁崩壊後、防衛作戦プランGに移行する!」

 

 とのプラン変更と、防衛作戦への切り替えが命令された。

 それから30分程経ち、土壁の3箇所に穴が開き其処からスラブ連邦軍正規軍がマジノ線に向けて進軍し始めた。

 その3箇所に向けてビスマルクから魔力カートリッジ弾が発射され、封入された聖魔法『ホーリー・レイン』が降り注いだ。

 しかし、スラブ連邦軍正規軍は全く怯む事無く淡々とマジノ線に向かって来る。

 此の段階で幾つかの事実が確認された、事前にヘリコプター部隊によって『サーモグラフィー(熱源探査)』等を行っていて、戦奴隷部隊以外の部隊には生物の発する熱源や、気(オーラ)等が検出されず、一つの仮説として、ゾンビの使役と云う例のアーティファクト『ゾンビマスター』に類似する物が使用されたのでは?と云うものが有ったのだが、聖魔法が効果が無かった事で此れは否定された。

 すると、死体といって良い状態の人間や動物そして魔物を死霊魔術等で使役しない、他の技術体系によって動かしている訳だ。

 

 「・・・プランG効果無し!

 プランH及びプランI破却!

 迎撃作戦プランJに変更する!」

 

 との命令が全軍に通達された。

 例え、ゾンビで無いにしても死体には違い無く、ならば人として一刻も早く葬ってやるのが彼等の供養になるだろう。

 マジノ線に設けられていた4つの大門が全開され、高機動軍と重機動軍がセリーナ准将とシャロン准将に其々率いられて出撃し、空からはベック・トール・キリコ等に率いられたワイバーン隊とヘリコプター部隊も出撃した。

 いよいよセリーナ准将の乗る新戦闘バイク『ディアブロ号』と、シャロン准将の乗る新戦闘バイク『ジャッジメント号』が、その真価を見せるべく動き出し、戦闘は第2局面に移ろうとしていた。

 



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4月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝元年)《マジノ線防衛戦②》

 4月1日(中編)

 

 セリーナ准将の乗る新戦闘バイク『ディアブロ号』を先頭とした高機動軍3万は、マジノ線の要塞と城壁からの連装魔導砲による支援砲撃を受けながら、スラブ連邦軍正規軍に対し鋒矢の陣で突進する。

 スラブ連邦軍正規軍からは、アラム聖国から鹵獲した物と思われる野砲と銃による攻撃が、高機動軍に対して行われる。

 そのタイミングにセリーナ准将は、

 

 「軍団魔法『イフリート2』展開!!」

 

 と命令を発した。

 

 軍団魔法『イフリート2』・・・軍団魔法イフリートは兵士自身が魔法を展開していたが、イフリート2は戦闘バイクと戦闘車両が其々のダイナモから魔法を発動し展開している。

 その強度はイフリートの4倍に相当し、ある程度の大砲の砲弾までは燃やし尽くしてしまう。

 

 次の瞬間高機動軍3万は紅蓮の炎に包まれ、スラブ連邦軍正規軍から放たれた銃弾と砲弾は高機動軍に当たる前に、高機動軍を覆う紅蓮の炎によって焼き尽くされて行った。

 

 「フィィーーーーン!」

 

 と『ディアブロ号』の前面左右にあるドリルバイクと同じアダマンタイト製のドリル2つと、バイク両翼に有る丸鋸が、高速回転し始めた。

 地面の状態に左右されないホバー走行で、時速100キロメートルを維持したまま『ディアブロ号』を先頭に高機動軍はスラブ連邦軍正規軍に、鋒矢の陣形で突っ込んだ!

 

 両軍がぶつかったと思った瞬間、スラブ連邦軍正規軍は真っ二つに切り裂かれた!

 『ディアブロ号』は、其処にスラブ連邦軍正規軍が存在しないかの様に速度を一切落とさず、19万の軍勢を蹂躙して行く。

 その直ぐ後ろを高機動軍は、よりスラブ連邦軍正規軍の傷口を開く様に、戦闘バイクと戦闘車両はバズーカ砲でファイアーグレネードを連射して突っ切って行った。

 その切り裂かれた道を、高機動軍に比べればゆっくりとした速度(それでも時速50キロメートル)で、シャロン准将の乗る新戦闘バイク『ジャッジメント号』を先頭に重機動軍が魚鱗の陣で突入した。

 既にスラブ連邦軍正規軍は重機動軍に対し、有効な攻撃を出来ていない為に重機動軍は軍団魔法を使用せず、ただ攻撃突進を敢行する事になった。

 『ジャッジメント号』は、その鳥にも似た両翼に4門ずつの銃口が有り、シャロン准将の搭乗席にも2門の銃口が有る。

 その銃口から、パルス魔法弾が凄まじい勢いで連射され、スラブ連邦軍正規軍は為す術も無く倒れ伏して行った。

 その直ぐ後ろを重機動軍は、今回初お目見えの『魔導戦車隊』がその巨大な砲列と多連装バズーカ砲で、土地を均すかのように満遍なく、スラブ連邦軍正規軍の立っている部隊に魔法を浴びせて行った。

 順調に事態は推移し此の戦闘も先が見えた、と思った瞬間アラーム音(警戒警報音)がヘルメットのインカムから鳴り響いた!

 何事か?と思ってヘルメットに表示された画面下を見ると”イレギュラー発生!”の文字が、赤文字で流れてきた。

 何事が?

 と考えていると、ヘルメットに表示された画面に矢印が示されその方向に視線を転じると、スラブ連邦軍正規軍を切り裂いて、その勢いのまま『機械魔獣軍団』に攻撃をする予定だった高機動軍が、大きく迂回運動をして『機械魔獣軍団』から距離を取っていた。

 その予定に無い行動にも驚いたが、何よりも驚愕したのは『機械魔獣軍団』に対してだ。

 ものの数分前までは、確かに1万の金属部分が光る魔物や魔獣の群れだったのに、現在は10頭の巨大な魔獣が居るだけだ。

 そんな馬鹿なっ!と思いながら10頭の巨大な魔獣を観察して見ると、何やら不気味な蠢動が身体の表面に生じている様だ。

 やがて蠢動が収まると、10頭の巨大な魔獣は其々9つの頭を持つ『ヒュドラ』に変貌していた!

 

 「・・・・・エッ・・・・・?!」

 

 という誰かの呟きが、インカム越しに聞こえたが、正に自分の思いと同じだったので、もしかすると自分自身の呟きかも知れなかったが、恐らく帝国軍とノルデン諸国連合軍の9割以上が同じ感想を持った事だろう。

 絶対に事前には『機械魔獣軍団』の中には体長30メートルの『ヒュドラ』など、影も形も無かった!

 作戦会議でも散々見せられた、ヘリコプター部隊が詳細な偵察で映した画像や動画には、1頭たりとも存在しなかったのに、今では10頭も居る。

 そんな混乱が生じている中、セリーナ准将は武人らしく、スパッ! と思考を切り替えられた様で、迂回運動をしながら、遠距離魔法攻撃をヒュドラ10頭に開始した。

 そんな遠距離魔法攻撃に対して痛痒を感じていないのか、身体の至る所に穴を開けたり燃やされながらもゆっくりとではあるが、ヒュドラ10頭はマジノ線に向かって進軍して来る。

 この間にシャロン准将率いる重機動軍は、スラブ連邦軍正規軍19万に対して見事な『中央突破背面展開』と云う戦史に残りそうな軍隊行軍を成功させ、マジノ線からの『連装魔導砲』の砲撃と『魔導戦車隊』の砲列と多連装バズーカ砲、そして空軍のワイバーン隊とヘリコプター部隊の対地攻撃による、立体的包囲殲滅戦に移行していた。

 殆どスラブ連邦軍正規軍19万は、何の反撃も出来ず終わると見えたが、ヒュドラ10頭が重機動軍の背後に近づいたので、シャロン准将は敢えて包囲陣の一部分を開いて、ヒュドラ10頭とスラブ連邦軍正規軍を合流させた。

 

 成程!敢えて合流させる事で、敵全体を十字砲火出来る様にして、包囲殲滅陣を完成させようとした訳か!

 とシャロン准将の臨機応変な戦術眼と行動力に自分は舌を巻いたが、ヒュドラ10頭に起こった現象は我等の予想を尽く裏切った!

 倒れ伏していたスラブ連邦軍正規軍19万の身体が、突然形を失い黒いスライムの様なアメーバ状になったかと思うと、ヒュドラ10頭の身体に纏わりついたのだ!

 全軍が呆気に取られる中、黒いスライムの様な塊はヒュドラ10頭を取り込むと、今度は5頭のヒュドラになっていた。

 どういう意図か皆目検討がつかないが、何とヒュドラの尻尾部分で2頭のヒュドラが融合していて、更に50メートルずつに巨大化して足まで生えている!

 もうこの魔獣が、どういう分類になるのかサッパリ判らないが、何れにしても敵である事には変わらないので、攻撃が再開された。

 しかし、普通のヒュドラの時は魔法攻撃が当たっていたのに、異形の怪物と化した後は明らかにバリアーと思しき遮蔽効果の有る膜が、全身を覆っていて攻撃を全て弾いてしまっている。

 

 「・・・迎撃軍全てその場から、大きく等間隔に輪を広げよ!

 ビスマルクより、『ヴァルキリー・ジャベリン弾』を曲射する!

 敵のバリアーが解除され次第、攻撃再開せよ!」

 

 とアラン様からの命令がインカムに聞こえ、迎撃軍は直ぐに包囲殲滅陣を大きく広げ、空軍はより高空に退避した。

 その直後、ビスマルクの主砲から『ヴァルキリー・ジャベリン弾』が発射され、放物線を描く軌道で怪物達のバリアーを貫き、深々と怪物の身体奥深くまで突き刺さった。

 

 『ヴァルキリー・ジャベリン弾』・・・・・スターヴェーク王国復活戦の新生ルドヴィーク城攻防戦に使用された、『ヴァルキリー・ジャベリン』を弾頭にして、ビスマルクの主砲から発射出来る様にした物で、あらゆる種類のバリアーを解除する事が出来る。

 

 『ヴァルキリー・ジャベリン弾』のお陰で、怪物達のバリアーは解除され迎撃軍の攻撃が届く様になったが、怪物達は荒れ狂った様に其々の蛇の口から、光線の様なブレスを吐いてきた!

 しかし、我々帝国軍の乗る其々の機体には、多少強度に差は有るが物理・魔法両面に対してのバリアーが常時展開されているので、余程の攻撃でなければ機体に攻撃を当てる事は不可能だ。

 1頭1頭、怪物達は迎撃軍の凄まじい十字砲火によって倒されて行き、二度と蘇らない様に念入りに燃やし尽くして行った。

 最後の1頭を燃やし尽くして、全軍が一息ついていると、ビスマルクから緊急通信が全員に届けられた。

 内容は、

 此方に進軍して来る、敵の増援軍が最後尾にいた『テュポン』を残し消失、その代わりに『テュポン』は遠距離観察でも判る程体積を増大しており、更に進軍速度を大幅に増していて、本日中に会敵が予想される。

 というものであった。

 此の場に居る全員は、『テュポン』が増援軍30万を尽く自身と融合させたのだろうと思い、厄介な怪物が更に力を増してやって来る事実に、覚悟を決めて臨む決意を固めた。

 



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4月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝元年)《マジノ線防衛戦③》

 4月1日(後編)

 

《チカッ》

 

 と何かが、光ったと思ったと同時に極太の光線が、ワイバーン隊とヘリコプター部隊で編成された空軍に襲いかかった!

 次の瞬間、

 

 「ドオオオーーーーン!!」

 

 と云う轟音が轟いて極太の光線が斜めに天を貫いていき、ワイバーン隊とヘリコプター部隊の其々10騎と15機体が翼とローター部分を破損し、地面に向かい落下して行った!

 

 「何だと!」

 

 と自分の口から驚きの声が出て、光りを発した方向に眼を向けると、更に、

 

 《ピカッ!》《ピカカッ!!》

 

 と光が瞬き、100条もの光線がワイバーン隊とヘリコプター部隊に襲いかかり、今度はワイバーン隊50騎とヘリコプター部隊100機体が攻撃に巻き込まれて、様々な箇所を破損したり何機かのヘリコプターは爆散してしまった!

 

 "そんな馬鹿なっ!!"

 

 と思いながらも自分の乗るガイ含むドラゴン隊は、高空から一気に垂直落下して残りのワイバーン隊とヘリコプター部隊と、光りを発した方向に割り込み最大魔力による多重バリアーを展開した!

 次の瞬間、

 

 「ドオオオーーーーン!!」

 

 と先程と同じ極太の光線が多重バリアーに直撃した!

 

 「「「グオオオオオーーーン!」」」

 

 という15頭のドラゴンの雄叫びが上がり、辛うじて極太の光線を逸らす事に成功したが、光線は天を切り裂いていき光線に触れた雲は雲散霧消して行った。

 戦慄と共に光りを発した方向に目を凝らすと、想像通り『テュポン』がその巨体をくねらせながら、此方に近づいて来るのが見えたが、ヘルメットに映し出された対象への距離と大きさに驚愕した。

 何と『テュポン』は約80キロメートルの彼方に居て、その巨体は約3キロメートルと表示されたのだ!

 そんな距離から、今までの戦争に於いて殆ど損害を被った事の無い帝国軍、然もその中でも最強と自認する空軍の半数近くが戦闘不能にさせられたのだ!

 幸い死傷者は居ないとの表示がヘルメット画面に表示されたが、重軽傷者多数とも表示され無事だったベック、トール、キリコ等の隊長に、マジノ線の後ろに控える陸上空母への緊急退避を命令し、地上に居る高機動軍と重機動軍に負傷者とワイバーン達の回収を依頼し、15頭のドラゴンによる最大魔力の多重バリアーを展開し続ける。

 

 その後『テュポン』による光線攻撃は止み、『テュポン』はマジノ線目掛け着実に迫ってくる。

 その間に、被害の有った空軍の負傷者とワイバーン達の回収は完了し、此方は体勢を整える事が出来た。

 そして『テュポン』が、丘の向こうに肉眼でも確認出来る距離にまで迫り、そのとても現実とは思えない巨体を衆目に晒した。

 様々な魔物・魔獣と対戦して来た帝国軍としても、これ程の巨体を持つ敵と戦った試しは無く、ましてやノルデン諸国連合軍にとっては、正に悪夢に出て来る地獄の魔獣に他ならない。

 そんな皆が戦意喪失しそうな中アラン様は、

 

 「全軍傾聴!

 此れより、帝国軍は『対強敵戦』に移行する!

 ノルデン諸国連合軍は、レリコフ元帥の指揮の元マジノ線要塞に各自篭もり、バリアーの最大稼働で防御に専念せよ!

 帝国軍より参戦するのは、我アランが遠隔操縦するドラゴン『グローリア』と空軍のドラゴン隊、そして局面によって投入するセリーナ准将とシャロン准将そしてその親衛隊、以上である!

 それ以外の帝国軍は、戦闘に参加せず臨機応変に対処せよ!」

 

 と号令を発した。

 するとマイクを切り忘れたのか、奇妙だが美しい音声が聞こえて来た。

 

 「・・・龍脈(レイライン)へのリンクを確立・・・龍脈遠隔操縦(レイラインダイレクトリンク)プログラム始動・・・対《邪神》迎撃プログラムの限定解除を"武神アラミス"へ要請・・・・・認証中・・・認可成功・・・武装タイプ選択・・・標準(スタンダード)モデル・・・名称『機龍(ドラグーン)』モード・・・対象『グローリア』への武装換装開始・・・換装中・・・・・・換装終了・・・グローリア後部甲板にて出撃準備・・・」

 

 との何とも不思議な言葉が聞こえて来たが、その中に"武神アラミス"と云う言葉が有り、きっとアラン様も自分と同じくアラミス神を密かに信奉しているので、祈りでもささげたのだろうと納得した。

 

 やがてビスマルクの後部から、武装を整えたグローリア殿を乗せた飛行甲板がせり出してきた。

 

 「・・・グローリア、『機龍(ドラグーン)』モード」、行きます!」

 

 と勇ましい掛け声と共に、オリハルコンとアダマンタイトによる武装を光り輝かせて、グローリア殿が出撃した。

 そのグローリア殿を中心にドラゴン隊は飛行編成をし、この2年間訓練と戦争で共に培った連携行軍を『テュポン』に見せつける様に向かって行った。

 

 『テュポン』は我等に気付くとその雄大な上半身を起こし、威嚇する様な雄叫びを上げた、

 

 「オオオオオオオーーーーン!」

 

 その雄叫びは、衝撃波となって辺り一帯を振動(空振と云うらしい)させた。

 だが我等は一切怯まない。

 既に新軍団魔法『ソニックインパルス2』を展開し、振動や音に対しての防衛体勢に入っていたからだ。

 

 新軍団魔法『ソニックインパルス2』・・・従来の軍団魔法ソニックインパルスと違い撹乱魔法では無く、予めバリアーで身体全体を守っている事で空気の抵抗が少なくなったお陰で、かなりの速度が出せる。

 その速度は最高時速マッハ(音速と云うらしい)3に達し、マッハを越える事で文字通りソニック(音波)をインパルス(衝撃波)として敵に叩きつける事も出来る。

 

 効果無しと見たのか、『テュポン』はその両肩から生えさせている100匹の蛇の口から、光線を我等に向かい吐いて来た。

 しかし、ワイバーン隊やヘリコプター部隊には通用したが、グローリア殿とドラゴン隊のバリアーを貫ける程の威力は無く、『テュポン』もそれが判ったのか大口を我等に向けて開き、極太の光線を吐いてきた。

 その極太の光線を我等はアッサリと回避して、漸く我等の有効射程距離に『テュポン』を捕捉した。

 

 「フォノンメーザー照射!目標両肩の蛇群!」

 

 との命令がアラン様から下り、アラン様は遠隔で我等は直接照準で、『テュポン』の両肩から生えさせている100匹の蛇達を、グローリア殿とドラゴン達の肩に装備しているフォノンメーザー砲で焼き払った

 

 「グギャアアーーーー!」

 

 と苦悶の声を『テュポン』は上げ身悶えている。

 此奴にはバリアーは無いのか?と意外な思いを抱いていると、焼き払われて地面に落ちた蛇群が当初はのたうっていたのだが、暫くすると足が生えて来てまるで蜥蜴の様になり、意外な素早さでマジノ線に突進して行く!

 

 「セリーナ准将とシャロン准将そしてその親衛隊は門から出て、蛇群改め蜥蜴群を迎撃!

 要塞上と城壁上に展開する帝国軍は連装魔導砲で蜥蜴群を迎え撃ち、陸上空母はビスマルクと共に主砲を曲射してセリーナ准将とシャロン准将達を援護せよ!」

 

 とアラン様は号令された。

 その間もグローリア殿とドラゴン達は、『テュポン』に対しフォノンメーザーやブレスを浴びせ続けている。

 『テュポン』はバリアーを持たないらしく、此方の攻撃は当たり放題なのだが、何といっても巨体の為に致命傷を負わせる事が出来ない。

 

 遂にアラン様は決断され、

 

 「新軍団魔法『サンダーストーム2』展開!!!」

 

 と我等に号令を発した。

 そして『テュポン』を中心に、グローリア殿を通しアラン様は巨大な高密度のタイフーンを現出させた!

 その規模は周囲5キロメートルに及び、ビスマルクの4つ有る『魔力凝縮炉』の並列機動が無ければ出来ない代物だ。

 だが、そんな高密度のタイフーンに捕捉されながらも『テュポン』は暴れ回り、ミーシャのサバンナを始め5頭のドラゴンが極太の光線を浴び、バリアーを貫かれて装甲を破壊されマジノ線後方に退避して行く。

 それでも他のドラゴン達は魔力を充填し終えて、アラン様の指示を待つ。

 グローリア殿も魔力を充填し終え、その『機龍(ドラグーン)』モード」に装備されている避雷針パーツ3個を、上空に射出した。

 たちまち上空に雷雲が立ち込めて来て、雷が避雷針パーツ3個に吸い込まれる様に集まっていく。

 充分に雷が集まったとアラン様は判断され、グローリア殿専用の『グングニルの槍』をグローリア殿に持たせられた。

 

 「喰らえ!『ゼウス(雷神)の裁き』!!」

 

 と叫ばれ、グローリア殿に『グングニルの槍』を『テュポン』頭部に投擲させ見事に上顎に突き刺さった。

 次の瞬間、グローリア殿とドラゴン隊は『インドラの矢』を全力で多重展開し、『グングニルの槍』に向けて放った!

 

 「カッ!」

 

 その瞬間『インドラの矢』特有の現象で、世界が白く染め上げられ、続いて振動を伴った轟音が周囲一帯を包み込み、静寂が訪れた。

 だが、『テュポン』は身体を焼け焦げさせながらも反撃の光線を口から吐いて、その光線は戦場から遠いマジノ線の城壁をいともたやすく貫き、大穴を穿った!

 

 「トドメだ!『ウラヌス(天空神)の怒り』!!」

 

 とアラン様は叫ばれ、上空に有る避雷針パーツ3個から充分過ぎる程集まった雷が、百雷となって突き刺さったままの『グングニルの槍』に降り注いだ!

 

 「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーンンン!!!!!!」

 

 と今まで聞いた事の無い音と云うより衝撃波が、ドラゴンに乗っているにも関わらず、空軍全員を木の葉の様に空中で翻弄した。

 暫くすると、視界が開けて来て周りを見れる様になったが、周囲の景色は一変しており自分達が何処に居るのか判らない。

 ヘルメットの画面が復旧してくれて、大凡の場所は把握出来たが、明らかに地形が変わっていて周囲がクレーター状になっており、『テュポン』がどうなったかも判らないでいると、『グングニルの槍』と避雷針パーツを装着し直したグローリア殿がやって来られ、

 

 「『テュポン』は蒸発させましたよ、『テュポン』の身体を構成していたMM(マイクロマシーン)の痕跡は一切有りません!」

 

 と答えてくれた。

 その様子をわざわざ頭部に有る魔道具から、立体プロジェクターで見せてくれたので、他のドラゴン達も立体プロジェクターを目印に集まり、全員で鑑賞して『テュポン』が消失した事を確認出来た。

 本当に勝ったんだと理解出来たが、まだマジノ線では蜥蜴群の掃討戦が続いている様なので、援護の為に向かう事になったが、ガイも疲れ切っていてヨタヨタと翼で飛ばずに歩いて向かう羽目になり、そのドラゴンらしくない姿に思わず笑ってしまった。

 



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4月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝元年)《マジノ線防衛戦後始末》

 4月2日

 

 遅い朝食を摂りながら、ミーシャや他のドラゴンライダー達と昨日の『テュポン』との対戦後の顛末を語り合った。

 

 『テュポン』を何とか蒸発させたが大量の魔力を消費し疲労困憊の我等に、グローリア殿が魔力を補填してくれたので、漸く通常状態まで魔力を戻せたのだが、グローリア殿の魔力は大丈夫なんですか?と質問したら、

 

 「大丈夫ですよー!、この『機龍(ドラグーン)』モードなら、常時地中を走る龍脈(レイライン)へのリンクが確立してるので、星の魔力を限定的ですけど利用出来ますから、かなり長い間全力で魔法を使えるんですよ」

 

 と説明してくれた。

 龍脈と云うのが理解出来ないが、星の魔力を使えるというのは凄い話だ。

 帝都コリントに戻ったらモーガン殿に聞いてみよう。

 

 準備万端整ったのでマジノ線の援護に向かうべく全員で飛び立ったが、既に例の蜥蜴群の掃討は殆ど完了していた。

 中でもセリーナ准将とシャロン准将の働きは凄まじい!

 後で見せて貰った動画でもお二人の乗る、『ディアブロ号』と『ジャッジメント号』はマジノ線手前の戦場を縦横無尽に走行し、蜥蜴達を蹴散らして行く。

 

 『ディアブロ号』は装備されているドリルと丸鋸で以って、其々体長20メートルは有る蜥蜴達の横っ腹に突っ込み文字通り切り裂き、搭乗者であるセリーナ准将は愛刀の『冷艶鋸改』の刀身にファイアーの魔法を宿らせて、片っ端から焼き尽くして行った。

 

 『ジャッジメント号』はパルス魔導弾と翼下に装備された連装バズーカ砲で、蜥蜴達を蜂の巣にしながら装填されているファイアー系の魔法で燃やし尽くし、蜥蜴達の口から吐かれる光線を防御魔法を纏わせた愛用の巨大なトンファー『神虎』を回転させて防ぎつつ、接近戦になると『神虎』にファイアーの魔法を宿らせて、蜥蜴達を砕きながら焼き尽くして行った。

 

 彼女らに従う其々の親衛隊は、ホバークラフトの戦闘バイクなので彼女らの速度に付いて行けて、彼女らが取りこぼした蜥蜴達を連携して倒して行った。

 

 そんな彼等を要塞上と城壁上に居る帝国軍は、連装魔導砲で援護し、陸上空母とビスマルクは大きく迂回しようとする蜥蜴達を牽制して外側から中に追い込むように主砲を曲射していた。

 

 結局100匹の蜥蜴達は、幾つかのサンプルを回収した以外は全て燃やし尽くされ、帝国軍の被害は『テュポン』が苦し紛れに放った極太の光線で穴の開いた城壁上に居た、帝国軍人が怪我をしただけで済んだ。

 

 やはり『テュポン』による最初の光線攻撃が、此方の想定を遥かに超えていた為に、ワイバーン隊とヘリコプター部隊の空軍の被害が最も大きく、重傷者は陸上空母に備え付けの医療用カプセルに入れて、療養して貰っている。

 まあ、一両日中には欠損部分の修復が完了するから、後はゆっくり療養してくれれば良い。

 他の帝国軍人達も、昨日の今日なので本日は休む様にとのアラン様の命令が出ているので、ゆっくりと休んでいて、代わりにレリコフ元帥始めノルデン諸国連合軍が、収容した戦争捕虜で有る戦奴隷の聞き取り等を行っている。

 明日からは我等も参加する事になるだろう。

 

 4月5日

 

 洗脳解除のプロセスを踏みながら、戦奴隷達の身体バランスを考慮して、問題無しと判断された者から聞き取り調査を行って行った。

 すると驚くべき実態が徐々に明らかになっていった。

 戦奴隷達は、戦奴隷になる前の記憶は明確に有るが、戦奴隷とされた後の記憶が全く無かったのだ!

 それどころか、逆に「今は何年なのですか?」と問われて、此方も当惑しながら答えると、質問した当人が驚愕するという事例が多発した。

 整理すると、近いところで1年前に戦奴隷にされた者、遠い者は何と70年前?!に戦奴隷にされた者が居たのだ!

 然も1年前に戦奴隷にされた者より、70年前に戦奴隷にされた者の方が、明らかに若いのだ。

 此れは、もっとしっかりとした研究施設の有る、帝都コリントに連れ帰らないと判明出来ないと、アラン様は判断され、戦奴隷だった者達は全員帝都コリントに連れ帰る事になった。

 

 4月15日

 

 ノルデン諸国連合のフィン国とスウェー国そしてノル国の、全権委任大使がアラン様に面会を申し込んで来た。

 ノルデン諸国連合各国には、4月2日の段階でマジノ線防衛戦の顛末を、様々な資料や動画を纏めて送付しており、恐らくはマジノ線防衛戦に対しての援軍へのお礼と感謝だろうと、我等は考えていたのだが、実態は全然違っていて、この三国は内々に帝国への併合を求めて来たのだった。

 この三国は今回のマジノ線防衛戦での、スラブ連邦の軍勢と云うよりヒュドラもどき達と、何と云っても『テュポン』の凄まじさに驚愕したが、その恐るべき異形の怪物達に打ち勝った帝国に対し、畏敬と驚嘆の念を抱かれたそうだ。

 更にマジノ線防衛戦前にアラン様より提案された、『西方教会圏共栄構想』の骨子に大変な興味を抱き、3ヶ月前に帝国に編入したエラム国、アサム国、イスラ国、ウーラ国、オクト国の帝国周辺5カ国が、たちまち建て直されて、平民の暮らしが安定した上に、帝都コリントで元王族や貴族達が『華族』という称号になり、国民への義務と責任から解放されてより自由に生活出来ていて、最先端の技術により病気や怪我等のどうしようも無い事象に対してすら解き放たれている事実に、憧れすら感じているのだそうだ。

 アラン様は、其れ等に対し即答は避けて、近く帝都コリントに凱旋する際に同行して頂き、他のノルデン諸国連合の国家とも相談の上で、より良い形の国体を考えましょう、と提案されて三国とも了承されたそうだ。

 まあ、ぶっちゃけた処、スラブ連邦と云う不気味極まり無い大国に隣接している隣国という立場は、立場の上に居る者程恐怖を感じる事だろうから、非常に納得出来るなと自分は思った。

 



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4月の日記⑤(人類銀河帝国 コリント朝元年)《帝都コリントへ大回りでの帰還》

 4月18日

 

 我等帝国軍が主催するマジノ線防衛戦の慰労会が、レリコフ元帥とその幕僚達そしてその旗下の兵士達を招いて行われた。

 マジノドームに設けられた広大な広場には、一般の兵士やマジノドームに入植を求めて来た一般の人民も、自由に会場に出入り出来るというかなり開かれた会場設定なので、非常に賑やかだ。

 レリコフ元帥とその幕僚達そしてその旗下の兵士達とは、此の1ヶ月間寝食を共に過ごして居たのでかなり親密な仲になれたので、もしノルデン諸国連合が帝国にこのまま編入する事になれば、同じ帝国軍に合流してくれるだろうから、気心が知れているだけに対スラブ連邦への有り難い味方だ。

 

 本日は無礼講で、あらゆる酒類と食べ物の飲食が許可されていて。

 ノルデン諸国連合の方々は、かなりアルコール度数の高い酒が好みらしく、そこかしこでウオッカベースのカクテルや、此方が用意した蒸留したワインとバーボンそしてウイスキーが飲まれている。

 

 「・・・これは、美味い!

 今まで、西方で主に飲まれていたワイン類は、アルコール度数が低すぎてとても酒と云えないと思っていたが、このワインは充分北方人にも通用する酒だ!

 一体この酒は、どこ産ですかな?」

 

 とレリコフ元帥がアラン様に尋ねられ、笑いながらアラン様は、

 

 「今回用意した酒類は全て、帝国産ですよ。

 今帝国では、あらゆる国の方々が御国の自慢の酒類を持ち寄り、帝都コリントで行われている酒の品評会や、毎夜何処かの華族の邸宅で行われているサロン等で飲みかわされていて、私の用意した酒造に特化した工房や、工場、そして新たに起こした『酒造ギルド』にて、其れ等の酒類を研究し更に美味しくする努力を日夜取り組んでおります。

 此処に用意した酒類は、その努力の結晶の一例ですよ」

 

 と説明された。

 

 「・・・すると帝都コリントにお伺いすれば、此処にある酒以外にも多数の酒類に出会える訳ですな?」

 

 と席から乗り出してアラン様に質問されていて、アラン様は可笑しそうに、

 

 「ふふっ、酒類だけでは無いですよ!・・・

 あらゆる食材、あらゆる工芸品、あらゆる鉱物、あらゆる魔道具、そして魔法技術が、今現在も帝国には凄い勢いで集まって来ており、今後の西方教会圏の文化・文明を帝国から新たに誕生させるのだ!と皆が其々の分野で頑張っていますから、何れはその波は良い方向でしノルデン諸国連合に波及します。

 是非其処から生まれる波及効果を、酒類等でお楽しみ下さい」

 

 とレリコフ元帥のグラスに、アラン様がカトルに教授して生み出された、新たな酒『大吟醸酒』を注がれながら、解説された。

 レリコフ元帥も初めて飲む、酒米から醸造した『大吟醸酒』に感動された様子で、その後も帝国産のあらゆる酒類を飲まれて、最後にはへべれけになられて、幕僚達に抱えられて宿舎にお帰りになられた。

 

 4月19日

 

 レリコフ元帥達に見送られながら、我等帝国軍は大回りでの帝国への帰路に着いた。

 既に殆どの帝国軍兵員と、例の戦奴隷だった者達約10万人は、帝都コリントまで魔導列車で送り出していて、最後に残っていたのは、陸上戦艦ビスマルクと陸上空母のアイン、ツヴァイ、ドライの計4隻とその兵員達だ。

 我等はこれから往路に通った道では無くて、西廻りで西方諸国を周り大陸西端の『魔法大国マージナル』に向かい、旧ルーシア王国の王女『アナスタシア姫』をお迎えし、帝都に帰還する事になっている。

 その帰路の途上に、ゲイツ王国・イリリカ王国・ザイリンク帝国に来訪し、同じ西方教会圏の国として誼を結ぶべく行動する予定だ。

 凡そ2ヶ月の旅になるだろうが、帝国に何かあっても現在のドラゴン達に乗れば、音速で飛ぶ事が出来る為、ものの数時間で帝都コリントに帰還出来るから、あまり心配する必要は無いし、常に帝都コリントとは連絡出来る体勢は陸上戦艦と陸上空母は構築済みだ。

 そんな事より、『テュポン』との激戦で途中退避したミーシャが、対戦翌日に陸上空母の医療用カプセルから出た後も、気分が悪いと自分に申告して来たので、魔導列車で帝都コリントに戻らせて、『国営帝国総合病院』に入院して貰った。

 今まで、例の『ナノム玉2』の服用のお陰か、怪我以外の病気に掛から無くなったと、喜んでいただけに何の病気だろうと気になった。

 何でも漏れ聞く処によると、剣王シュバルツ殿の奥さんで有るターニャさん、ミツルギ殿の奥さんで有る剣王オウカ殿、親友のハリーの奥さんで有るハーマイオニーさんも『国営帝国総合病院』に入院されたそうだ。

 幸い全員入院したのは1日だけで、翌日には退院して特に不調だという続報は無い。

 

 ただ極めつけは皇妃クレリア様が同じく『国営帝国総合病院』に入院した、という情報が帝国上層部だけに齎されていて、帝国上層部はその情報を聞いた当初激震したのだが、直ぐに退院したようなので皆胸を撫で下ろした。

 

 恐らくは、今までの激務の疲れが偶々一斉に出たのだろうと、魔導列車に乗って合流した親友のハリーと、男同士で陸上空母の艦橋に備え付けの魔道具で有る、珈琲メーカーで作られた熱い珈琲を飲みながら語り合った。

 



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閑話㉚「ミーシャの思い出帳」①(妊娠と妊娠仲間)

 さて今回から始まりますは、以前から予告していたケニー君一家に新加入したミーシャさんです。
 彼女は、今までのケニー君一家の日記とはまた違う形式での閑話シリーズになります。
 それではお楽しみ下さい。


 私はミーシャ、結婚3ヶ月の新妻なのよ。

 旦那はケニーと云って、私の上司に当たる空軍の団長なの。

 だから、最近巷で流行りの職場結婚という奴ね。

 実は私、諸事情で『国営帝国総合病院』に入院したんだけど、その時に詳しく診察して貰ったら妊娠が判明したの!

 最初ビックリしちゃったけど、落ち着いてきたらスゴく幸せな気分に成れたわ。

 女医さん始め、看護婦さんからも、

 

 「「おめでとうございます!」」

 

 と祝福されて、思わず泣いてしまったわ!

 だけど問題なのは、知らせるべき旦那が未だ遠いマジノ線で、仕事に励んでいて直接会えないという点なのよ。

 こんな大事な話しは、やっぱり直接伝えたいじゃない。

 でも、流石に一人で抱え込む訳にも行かないし、どうしようと悩んでたら、看護婦さんが、

 

 「・・・義妹のカレンちゃんに、相談されると良いと思いますよ。

 あの娘は、病院で手伝ってくれている時から、面倒見も良いですし頼りになりますから!」

 

 とアドバイスしてくれた。

 成程、カレンちゃんなら頼りになるし、義父と義母にも円滑に伝えてくれるわ。

 と考えて、看護婦さんにカレンちゃんとの連絡を依頼したら、快く応じてくれた、やはりプロは手慣れた感じで仕事を熟してくれるので、信頼出来るわ。

 

 1時間半後、カレンちゃんと義母であるマゼラさんが、病室に駆けつけてくれた。

 2人共看護婦さんに、妊娠の事実を伝えて貰っていたらしく、入室するなり祝ってくれたの。

 カレンちゃんが、

 

 「ねえ、ねえ、ミーシャ義姉さん、私に出来るのは甥なのー?姪なのー?」

 

 と眼を輝かせて聞いて来て、マゼラ義母さんが、

 

 「そんなの、生まれて来るまで判らないわよ」

 

 と笑いながら答えられたら、カレンちゃんが得意げな様子で、

 

 「母ちゃん、遅れてるーー!

 今はね、アラン様が主導してる魔法開発局で制作されている、医療用スキャナーという魔道具で、身体の外側から身体の内側の様子が見れて、的確な医療が出来る様になっているから、きっと早い段階で赤ちゃんの性別が判る筈だよ!」

 

 とマゼラ義母さんと私に教えてくれた。

 

 「・・・カレンちゃんは、物知りねーー!」

 

 と感嘆して見せたら、

 

 「・・・でしょう!

 私ってば、看護師職業訓練を学校に通う前に受講しているから、今すぐにでも看護婦さんに成れるんだよ!

 家族や友達に病気や怪我になっても、的確な対処が出来るんだから!」

 

 と鼻高々に自慢するので、

 

 「その時は、宜しくね!」

 

 と頼むと、

 

 「任せてよ!」

 

 と胸を叩いて、自信満々に言ってくれた。

 カレンちゃんの言に従えば、それ程掛からずに赤ちゃんの性別や様子が判るみたい。

 カレンちゃんとマゼラ義母さんは、色々な手続きをしてくれたので、私は安心して病室のベッドで眠りに着いた。

 

 翌朝、処方して貰った薬のお陰でよく眠れたので、気分が久しぶりに良くなった。

 お昼前に退院し、軍事ブロックに有る自宅へ帰ろうと、ドームの中を循環する『乗り合いバス』という車両に乗る為のバスターミナルに向かうと、合同結婚式で一緒に式を上げた剣王のオウカ殿とターニャさんが居た。

 オウカ殿が私に気付き話しかけて来たので、妊娠の件を話したらなんと2人も私と同じく、昨日から『国営帝国総合病院』に入院していて、今から帰宅するんだそうだ。

 

 「へーー、奇遇って有るんだねえーー!」

 

 と3人でワイワイ騒いでたら、『乗り合いバス』がやって来て乗り込んだら先客が居たの。

 その人は、私達と同じく合同結婚式で一緒に式を上げた、旦那の親友のハリーさんの奥さんのハーマイオニーさんだったんだけど、今にも吐きそうな様子なので私達3人はバスに乗らずに急遽ハーマイオニーさんを連れて、病院にとんぼ返りしてハーマイオニーさんを入院させたの。

 何でもハーマイオニーさんは、ここ数日気分が優れなかったんだけど、ハリーさんは放送局の仕事で旦那の居るマジノドームに出張していて、暫く帰る予定が無く、放送局の仕事はずっと激務なので休む訳には行かなくて、漸く本日休暇を取って病院に向かう事にしたんだけど、バスの僅かな揺れでより気分が悪くなったんだって。

 

 「私達3人とハーマイオニーさんは、同じ合同結婚式で一緒に式を上げた仲なんだから、頼ってくれて良いのよ!」

 

 と告げたら、見る見る涙を浮かべて嗚咽し始めたんで、3人で慰めてたら、ハーマイオニーさんも私とターニャさんと同じく旧スターヴェーク王国出身者で、アロイス王国のクーデターの際に家族を全員殺されていて、天涯孤独の身の上だと判った。

 剣王のオウカ殿が、

 

 「判ったわ!

 私の旦那と後輩のシュバルツの道場には、夫を亡くして子供も居ないけど世話好きのオバさん3人衆が居て、この人達に給金を払ってさえくれれば、ハーマイオニーさんが仕事で出来ない家事や、相談相手になってくれるから、頼んでみるわ!」

 

 と解決策を提案してくれた。

 ハーマイオニーさんも今のままでは、家事どころか寝るのも辛いと思ってたそうで、渡りに船とオウカ殿の案に飛びつかれた。

 因みに、ハーマイオニーさんの気分が悪かったのも、私達と同じく妊娠の初期症状でよくある、体調の悪化だったので、1日入院して貰ったらかなり改善したので良かったわ。

 




 暫くこのミーシャさんの閑話シリーズは続きまして、その後カレンちゃんとガトル親父の閑話が来て、本文に戻りますが、実はミーシャさんの閑話シリーズは本文より若干未来の帝国の話しも含みますので、本文が其処に触れたら、裏ではこういう事情が有ったんだよなあと、思い返してくれると幸いです。


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閑話㉛「ミーシャの思い出帳」②(妊娠報告そして・・・)

 久しぶりに女子会が開催されるので、義妹のカレンちゃんと皇妃宮の私室(プライベートルーム)に出向く事になり、『タルスデパート』の人気スイーツの”アップルタルト”と”シフォンケーキ”を持参して行ったら、サーシャと皇宮のロビーで出会い四方山話をしながら、プライベートエレベーターを使い受付をして貰い、皇妃宮の私室(プライベートルーム)に通された。

 出張組のセリーナ、シャロン両准将以外の、女子会メンバーで有る『エレナ皇妃様付き親衛隊長』と『ヒルダ公妃殿下』そして私達3人が揃うと、奥の部屋からクレリア皇妃陛下とお付きのエラちゃんが入って来られたので、部屋に居た一同は席から立ち上がり深々と頭を下げた。

 

 「・・・ありがとう・・・、だけどみんなそんなに鯱張らないでね。

 私達には、確かに立場がそれぞれ有るけど、この女子会にはなるべくそういったしがらみ無しと云うのが、決まりだったじゃない。

 私は皇妃に成り、ヒルダはベルタ公妃になったけど、別に人格が変わった訳では無いんだから、以前の通りで行きましょう」

 

 と仰られたので、私達は、

 

 「「「御意!」」」

 

 とほぼ同時に声を上げたので、みんな一斉に顔を上げたら、

 

 「クスッ!」

 

 と誰かが含み笑いを漏らし、それに続いて全員で慎み無く大笑いしちゃった!

 

 暫く笑い合って場が落ち着くのを待ち、持参した”アップルタルト”と”シフォンケーキ”をみんなに配り、カレンちゃんとエラちゃんが大分慣れた手付きで紅茶を入れてくれて、みんなで美味しく頂きながら最近の自分達の状況を確認し合っていたんだけど、私が話す番になったので、居住まいを正してみんなに報告する事にした。

 

 「・・・皆さん!

 実は私ミーシャは、北方のマジノ線から療養の為に帝都コリントに帰還し、去る4月10日『国営帝国総合病院』に入院したんですが、その際に赤ちゃんを身籠った事が判明したんです・・・!」

 

 一瞬の沈黙の後、

 

 「「・・・・うわあ~、ミーシャさん、おめでとうございます!」」

 

 とみんなが爆発した様な歓声を上げ、私の周りに集まり祝福してくれた。

 やっぱり女子会メンバーは、素晴らしい仲間だわ!

 全員心から祝福してくれているのが、ヒシヒシと伝わってくるから、とても寛いだ気分に成れて安心できる。

 最後にクレリア皇妃陛下が、

 

 「おめでとうミーシャ、貴方は私と同じく憎っくきアロイス王国の所為で、家族を奪われ天涯孤独の身になったから、ケニー空軍団長と一緒になると報告を受けた時は、自分の事の様に嬉しかったわ!

 これから貴方は、新しい家族を築いて行くのね、本当におめでとう!」

 

 と祝福してくれたので、

 

 「・・・有難うございます!・・・クレリア皇妃陛下!!」

 

 と思わず畏まった物言いで返答してしまったわ。

 クレリア皇妃陛下は苦笑されてたけど、暫し思案してる様子を見せてから、エラちゃんとエレナ親衛隊長に眼を向けられた。

 エラちゃんとエレナ親衛隊長は、共にとても嬉しそうに微笑んで、クレリア皇妃陛下に向かい頷かれた。

 何だろうと、疑問に思ってたら、クレリア皇妃陛下は意を決しられたのか、

 

 「・・・・・もう少し経ってから、皆に報告しようと思ってたんだが、ミーシャの嬉しそうな顔を見てたら、とても我慢出来なくなってしまった・・・・・

 ・・・今月始めに、『タルスデパート』の1周年記念に来賓として、ヒルダ他華族の方々と一緒に参加したんだが、その帰りに些か気分が悪くなって、距離の有る皇妃宮に帰るよりもすぐ傍の『国営帝国総合病院』に向かい、エラとエレナ親衛隊長に付き添って貰って診察を受けたのだ・・・」

 

 ここまで話したクレリア皇妃陛下は、突然顔を真っ赤にして面を伏せて黙ってしまった。

 そう云えば、今月初旬にクレリア皇妃陛下が、『国営帝国総合病院』に急遽入院された!と云う情報が帝国上層部だけに齎されて、帝国上層部に当初激震が走ったのだが、その後直ぐに退院されてただの検査入院だったと云う報告を受けた事が有った。

 もしかすると、検査入院だったと云う報告は違ったのだろうかと心配になったが、どうも悪い報告ではなさそうなので、自分の身の上と照らし合わせると、答えはたった一つしかなさそうだ!

 

 女子会メンバー全員が、明かされる報告の内容を察しながらも、クレリア皇妃陛下のお言葉を待つ。

 やがて覚悟を決められたのか、顔を上げられて、

 

 「・・・・・診察してくれた女医はすぐに判った様で、問診の後、皇妃宮に連絡を取って入院の手続きに入ったのだが、表向きは検査入院という事にして、様々な検査を行い確証を得た上で、私に教えてくれた・・・」

 

 ここでクレリア皇妃陛下は、声がかなり小さくなったので女子会メンバーは、一切の音を立てずに固唾を呑んで見守った。

 

 「・・・・・女医は・・・私に・・・・微笑み・・ながら・・おめでとう・・・・ござい・・ます!

 と・・言い・・3ヶ月に・・・なり・・ます・・・と教えて・・・くれたんだ・・・・!」

 

 と話されたが、肝心の言葉は中々言えないようだ。

 流石にほぼ言えた事に気が楽になったのか、

 

 「・・・そうなんだ、私とアランの赤ちゃんが、この(ここで愛おしそうにお腹を撫でられて)お腹に宿っていると教えてくれたんだ・・・・・・」

 

 最後は消え入りそうな声だったが、ハッキリとクレリア皇妃陛下は妊娠した事実を、女子会メンバー全員に報告してくれた。

 次の瞬間、声にならない声が叫ばれ、皇妃宮の私室(プライベートルーム)の熱が、一気に5度は上がった様な気がした!

 恥ずかしそうに蹲ってしまったクレリア皇妃陛下に、女子会メンバー全員が駆け寄った。

 全員で、クレリア皇妃陛下とお腹に居る赤ちゃんを祝福し、ワンワンと全員で喜びの涙を流しあった!

 皇妃宮の私室(プライベートルーム)が、完全防音で無ければ、きっと部屋の外に待機しているメイドや親衛隊に気付かれてしまったに違いない。

 

 この日の女子会は、私達全員にとって忘れられない記念日となり、永遠の思い出となった。

 



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閑話㉜「ミーシャの思い出帳」③(アラン皇帝陛下と旦那の緊急帰還)

 「ケニー貴方どうしてここに居るの?」

 

 皇妃宮のラウンジで女子会メンバーと、妊婦仲間で有る剣王のオウカ殿とターニャさんそしてハーマイオニーさんを交えて、様々な情報交換をしていたのだが、剣王のシュバルツ殿とミツルギ殿の親衛隊と共に旦那が姿を現して驚いた!

 

 「・・・実は今朝方、アラン様が帝都コリントに緊急で帰還する事になって、そのお供でガイに乗って先程辿り着いたんだよ!

 それよりも・・・・・!」

 

 と言ったかと思うと、ガバッと私は抱きすくめられてしまったの。

 

 《嗚呼、これはバレてるわね!》

 

 と判り、バラしたと思われる旦那の肩越しに見える、シュバルツ殿とミツルギ殿をジト目でみると、2人とも有らぬ方向を向いて誤魔化そうとしている。

 2人を問い詰めようかと、考えたが、

 

 「ミーシャ、怒らないでくれ。

 自分がアラン様のお供で、帝都コリントに帰還すると2人に連絡したら、てっきりミーシャの妊娠を知っていると思った様で、『奥方もおめでとう!』と言われて、自分が当惑してる事に気付いて2人は慌てて取り繕うとしたんで、問いただしてミーシャが妊娠した事実を把握出来たんだよ!」

 

 と旦那は説明してくれて、何とも複雑そうな顔をしたかと思うと、

 

 「でも、ミーシャも酷いぞ!

 夫で有る自分にいち早く知らせるべきなのに、他人の方が先に知っているなんて!」

 

 と私を嗜める様に小言を言った、

 

 「・・・・・だって貴方は、当分他国に出張する事になってたし、まだ妊娠の事実が判っただけで、赤ちゃんの性別判定や健康状態を確認してから、連絡しようと思ってたのよ、私自らの報告でね!」

 

 最後のセリフを言うタイミングに、シュバルツ殿とミツルギ殿を睨もうとしたら、何と大の大人である2人は、それぞれの奥さんを突き出して、その後ろに隠れている!

 それでも剣王とその相棒で有り、然も皇帝の親衛隊長達の身分に居る者なのだろうか?と呆れたら、

 

 「・・・まあ、許して上げてよミーシャ。

 この情けない旦那と後輩は、何れキッチリと締め上げてやるから。

 ・・・・・アンタ達良かったわね、私が妊娠してるお陰で直ぐにオシオキされなくて済んで!」

 

 と後半は、シュバルツ殿とミツルギ殿に振り返って脅していた。

 2人の親衛隊長達は直立不動の体勢になって、私とオウカ殿とターニャさんに対して平謝りして来たので、私達は許してあげる事にした。

 

 「・・・・・それよりもここに居る全員は、『例の件』を把握しているのかな?」

 

 と旦那が聞いて来たので、全員が頷き返し状況を説明し始めた。

 

 先日、クレリア皇妃陛下の女子会メンバーへの報告の後、全員で相談し、取り敢えず宮内庁長官のロベルト長官への報告と、お付きの女官長やメイド達に説明して妊婦となったクレリア皇妃陛下に、それに沿った対応をして貰う体勢にしようと決めた。

 クレリア皇妃陛下の妊娠の事実を聞いたロベルト長官が、突然狂喜乱舞し始めたので皆でドン引きしてたら、思い立ったかの様に走り始めようとしたので、皆で止めたら案の定『皇宮に居る全員にこの慶事を知らせようとした』と言われたので、先ずは落ち着かせる為に、”アラン皇帝陛下に報告する事と、クレリア皇妃陛下の健康配慮の為の医療体勢の構築、そして母体への安全面での警備強化”を考えて下さい。

 と諄々と説明したら正気に戻られて、その責任の重さに気付いて、とても自分だけでは出来ないと考えられた様で、ヴェルナー国務大臣とフランシス事務次官と相談し、今後の方針を決めたいとクレリア皇妃陛下に嘆願されて、了承を貰われた。

 そうした手続きや、専門の医療団が手配され、一通り安心出来る体勢が出来たので、昨日アラン皇帝陛下にクレリア皇妃陛下自らが妊娠報告したのだと、旦那に説明した。

 

 「・・・そうか、それでは此処に居る面々と帝国上層部、そして皇妃宮のスタッフと医療団しか、クレリア皇妃陛下の妊娠の事実は知らない訳か・・・・・」

 

 と旦那は呟いて、私は、

 

 「・・・そうよ、今頃は皇妃宮の私室で、部屋の前でカレンちゃんとエラちゃんに見張りをして貰って、アラン皇帝陛下とクレリア皇妃陛下は、余人を交えずお二人だけでお話されておられるわ」

 

 と現在の状況を話して上げた。

 

 それから暫く経ち、皇妃宮のラウンジで妊婦達をどうフォローするか?等の相談をし合っている私達の前に、カレンちゃんとエラちゃんを引き連れて、皇帝ご夫妻が現れた。

 私達一同、直立し深々と頭を下げると、

 

 「・・・皆、楽にしてくれ!

 特に妊婦の方々は、席に着いて楽な体勢でいて欲しい。

 其れに此処に居る全員は、特にクレリアにとっては家臣では無く友達で有り仲間だ。

 私にとっても同じで、特に此処に居る男性諸君は、共に戦塵をくぐり抜けて来た戦友で有り同士だ!

 更に云えば、人生経験の少ない新人の夫同士でも有る。

 だから此処は腹を割って、どうすればお互いの妻の妊娠に対して対処すれば良いか?等の相談をしたいと思う。

 今此処に居る全員は、この人生に於いての重要な局面で有る、子供を無事出産させるという一大イベントの仲間だと、認識して貰いたい!」

 

 と些か大げさな宣言をアラン皇帝陛下はされたが、それに対して旦那達男どもは、

 

 「ハッ、了解であります!」

 

 と至極真面目に返答したので、クレリア皇妃陛下始め女性陣は思わず吹き出してしまい、アラン皇帝陛下もやや大げさだったかな?と思われたのか笑い出し、釣られる様に全員で大笑いしたわ。

 でも考えて見ると、こんなに家臣と別け隔てなく接してくれる、皇帝ご夫妻なんて過去に居たのかしら?

 



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閑話㉝「ミーシャの思い出帳」④(カー君とバンちゃんに感謝)

 アラン皇帝陛下と旦那が緊急帰還した翌日から、俄に事態は進展し始めたわ。

 先ず皇妃宮裏に有る、広大な敷地に皇子宮と其れに付随する諸々の施設が建設される事になり、其処で働く職員の募集と教育が行われる事になり、剣王オウカ殿がハーマイオニーさんにと推薦した、身寄りが無いが世話好きのオバちゃん3人衆と共に、剣王オウカ殿とハーマイオニーさんそしてターニャさんがテスト的に、その職員の教習過程の実地研修相手になる為の妊婦として、皇子宮別邸に滞在する事になったの。

 何故かというと、3人の夫であるミツルギ殿とハリー放送局長、そして剣王シュバルツ殿は、『ザイリンク帝国』で年1回行われる武術及び魔法技術大会である、『西方武術魔術競技大会』への参加と、その大会が行われる”コロシアム”を、西方教会圏全てで中継出来る様にする為のスタッフの長として出向する事になった為だそうよ。

 私は他の人達と違い、皇子宮別邸には時々伺う事にしたわ。

 実は、現在旦那の両祖父母が帝都コリントに来て居て、私の妊娠を知ると帝都コリントでの家を購入したの。

 この両祖父母の行動力たるや、中々なものなのよ!

 以前スターヴェーク王国王都を解放して、両祖父母が王都に帰還したのだが、その際壊された自宅の代わりに貴族の邸宅を提供された時に、宮内庁長官のロベルト長官と懇意になって、今では私達の女子会とよく似ている、『シルバー華族のサロン会』のメンバーになっているの。

 

 私と旦那の家に両祖父母が尋ねて来て、家を購入したというので場所の説明を受けたら、華族しか入れない『ルンテンブルク館』群の一角の邸宅を指し示してくれたんだけど、疑問に思ったから聞いてみたの。

 

 「・・・どうして華族では無いのに、華族しか入れない『ルンテンブルク館』群の一角の邸宅が購入出来たんですか?」

 

 と質問したら、

 

 「何を言ってるんだい!我々は、立派な華族だよ!」

 

 と返答されたので首をかしげていたら、両祖父母はクスクス笑いだして、皇室典範に有る華族規定法を見せてくれて、その軍人身分特例法の項目を指し示して私にみせてくれたわ。

 

 《・・・・・帝国に於ける将官以上もしくは軍団長以上の者は、帝国に於いて華族に列する者として此れを遇し、その家族もその一族と認め華族として此れを遇する・・・・・》

 

 初めて知ったけど、旦那が空軍団長である以上私も華族になってたのね!

 

 「それで、ロベルト長官に確認したら、今の処ケニー坊は”名誉男爵”に該当するんじゃと、今後昇進すればもっと上がるらしいんじゃが、取り敢えず私らは男爵相当の華族待遇になるんじゃよ」

 

 と説明してくれたわ。

 まあ、それは判ったけど『ルンテンブルク館』は何処も華族が入居したがっていて、競争率が何十倍にもなっているから、仕方なく華族の中には平民用のドームの高級住宅地を購入する人が多いと聞いているのに、どうやって簡単に購入出来たのかしら?

 その辺を聞いてみようとしたら家のチャイムが鳴り、カレンちゃんがバスケットを持って尋ねて来てくれたので、家に上がって貰ったらバスケットからカー君とバンちゃんが出て来たの。

 

 「丁度良かった、この(カー君とバンちゃんを指差し)2匹のお陰で、邸宅が購入出来たんじゃよ」

 

 との両祖父母の説明に、意味が判らなくて困惑してたら、カレンちゃんが笑いながら謎解きをしてくれたの。

 

 「あのねミーシャ義姉さん、この間『ケッちゃん』が家にやって来たの。

 何でもカー君とバンちゃんに相談事があったんだけど、私もその場に同席したんだよ。

 『アスガルド城』近くの一等地に邸宅を貰ったのは良いんだけど、『ケッちゃん』はもう少ししたら、『モーガン』さんの飛行船に乗って『魔法大国マージナル』に向かうんだって。

 『魔法大国マージナル』には、守護竜『アルゴス』さんて云うドラゴンさんが居て、そのお孫さんの『アトラス』さんていうドラゴンさんと、私達のドラゴンのグローリア様と今度お見合いをするんだって!

 他にも所要が有るから大体2ヶ月位邸宅を留守にする事になって、是非カー君とバンちゃんにこの際邸宅を譲りたいと、お願いして来たの。

 するとカー君とバンちゃんが、私を見て「クゥーッ」と鳴いたから『ケッちゃん』に訳して貰ったら、「カレン殿とそのご家族と同居出来るなら良い」と教えてくれたの。

 『ケッちゃん』に良いの?と聞いたら、何でも『ケッちゃん』の奥さん(ファーン侯爵家の飼い猫だった)は生まれた子猫達と一緒にお里帰り(『ルンテンブルク館』のファーン侯爵邸宅)していて、そこが気に入っているから動こうとしないので、実際の処『ケッちゃん』自身もそこで寝泊まりしてるから、正直使用した事の無い邸宅だったんだって。

 だから気にしないで貰って欲しいと言われたんだけど、名義変更とかでややこしくなるから、一応邸宅は一旦売りに出されて購入したという形で譲って貰ったんだ」

 

 と説明してくれたの。

 

 「ンッ?!」

 

 今の説明によると、形式はともかく本当の家主はカー君とバンちゃんとなり、私達家族は間借り人と云うのが真実であるという事になるのかしら?

 そんな風に困惑してたら、

 

 「・・・・・形式なんて、大した事無いんじゃよ。

 そんな事より、家族全員で暮らせる良い邸宅に住める事が重要じゃよ!

 そうじゃよな、カー君にバンちゃん!」

 

 と両祖母が言い、両祖父も頷いて、カー君とバンちゃんも、

 

 「クゥーーーー!」

 

 と鳴いて両祖母に駆け寄り、両祖母が抱き上げたら頬にキスをしている。

 まあ、良いかという気分になり、私も感謝を込めてカー君とバンちゃんの頭を撫でて上げたら、気持ち良さそうにしてくれたので、これで良かったと心から思えたわ。

 



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閑話㉞「ミーシャの思い出帳」⑤(諸々の出来事と馴れ初め)

 全員の妊娠が判ってほぼ1ヶ月が経ち、帝国民全てにクレリア皇妃陛下のご懐妊の事実と、その性別と出産予定日が公表されたわ。

 皇帝一家の初の御子様は男の子で、出産予定日は今年11月11日を予定しているとの事。

 この発表を受けて、色々な方面から”皇太子殿下万歳”の祝辞が殺到して、一時期宮内庁はテンヤワンヤの大騒ぎになってしまったらしいわ。

 改めて帝国民向けにモニター越しの発表が行われ、皇帝ご夫妻御本人達は出演されなかったけど、放送局の特番報道で放送されたの。

 内容は、これまでの皇帝ご夫妻の歩み等が動画で流され、各界の有名人や宮内庁のロベルト長官、そしてヴェルナー国務大臣等の帝国の重鎮と呼ばれる方々の祝福コメントが紹介され、新たに『皇子宮』が造営されている事も紹介されたわ。

 合わせて、現在皇帝陛下は『ザイリンク帝国』で年1回行われる武術及び魔法技術大会である、『西方武術魔術競技大会』への来賓として参加される為に当地に来訪されていて、その『西方武術魔術競技大会』はこの放送局で、ポイントを支払えば生放送で中継され、帝国からの出場選手として親衛隊長の『剣王シュバルツ殿』、『拳王ミツルギ殿』が出る事も発表されたわ。

 『西方武術魔術競技大会』には、オブザーバーとして『賢聖モーガン様』、『剣聖ヒエン様』、『拳聖ダンテ様』も出席されるそうだから、『剣王シュバルツ殿』と『拳王ミツルギ殿』は、己の師匠の前で恥はかけないわね。

 

 『皇子宮』が出来上がり、新たに剣王オウカ殿とハーマイオニーさんそしてターニャさんを女子会メンバーに加えた、新生女子会を出来上がったばかりの『皇子宮』だ開催したの。

 妊婦の女性陣には、かなり酸っぱい『レモネード』と柑橘類のオレンジが供されて、他の女性陣は最近編入した南方の国家である『エジーバラ』から齎された、『マンゴー』と紅茶を頂いている。

 あれから、クレリア皇妃陛下以外の妊婦である私達4人の、赤ちゃんの性別と出産予定日が判明したんだけど、性別はともかく全員が、皇太子殿下と同じ出産予定日である今年11月11日だと判明して、全員でこんな偶然ってあるのかしら?

 因みに、私とターニャさんの赤ちゃんが男の子で、オウカ殿とハーマイオニーさんの赤ちゃんが女の子だと判明してるわ。

 出産予定日が全員同じ事に全員驚いたんだけど、クレリア皇妃陛下が大変喜ばれて、

 

 「まるで、運命の様だ!

 きっと私達の子供達は、仲の良い兄弟姉妹の様に育つだろう!」

 

 と大変畏れ多い事を仰られたので、妊婦4人組は、

 

 「「「「生まれてくる子供達には、終生、皇太子殿下に対しての忠誠を誓わせます!」」」」

 

 と頭を下げて返答したら、

 

 「・・・・・忠誠など、大人になったら子供達自身の判断で決めれば良い。

 そんな事よりも、私の子供と皆の子供達が仲良くしてくれればと、親としては思うだけだよ!」

 

 と苦笑されながら、クレリア皇妃陛下が願われたので、

 

 「・・・それは誓って!」

 

 と私達は返答した。

 

 するとヒルダ公妃殿下が羨ましそうに、

 

 「・・・・・皆さん良いわねえ・・・・・

 私も2月に挙式したから、そろそろ妊娠しても可笑しく無いんだけど、今日も診察して貰ったのにお医者様からは、まだ妊娠の兆候は有りません、と言われてしまったのよ・・・・」

 

 と言われたが、普通こんな風にみんな一斉に妊娠して、然も出産予定日が全員一緒と云うのが、あり得ないくらいの偶然だと思う。

 だがこうしてヒルダ公妃殿下が、クレリア皇妃陛下と仲睦まじく過ごされているのを見てると、どうしても過日の事を思い出してしまうわ。

 

 ・・・・・そう、かれこれ1年半前になるか、まだ彼女がヒルダ公妃殿下では無く、セシリオ王国『氷雪魔術師団』の第3席次の魔術師であり、半分戦争捕虜扱いでフェンリルとケットシー128世と共に、この地に着いた時の事を・・・・・

 

 その時のヒルダ嬢は、とてもアラン様の事が気になっていたらしいわ。

 何でも今まで自分より、魔術に於いて上回る若い男を見た事が無く、突然現れたアラン様は、自分どころか祖父である『氷雪魔術師団』第1席次のマーリン殿を、魔力・魔術の実力に於いて上回っており、更には武術や事務能力等のありとあらゆる分野で、天才としか云えない能力を示していたの。

 まあ、確かに過去の歴史を紐解いても、アラン様程の英雄は存在しないし、実際帝国民の中にはアラン様を現人神であると信じている人も居るくらいだから、ヒルダ嬢がアラン様の事が気になるのは当たり前の話しだわ。

 それから暫く私は、軍務でベルタ王国の王都での戦闘等に駆り出されて、詳しくは知らないんだけど、いつの間にかヒルダ嬢とクレリア姫様は、アラン様相手の恋のライバル関係になっていたわ。

 私達、元スターヴェーク王国国民としては、アラン様はクレリア姫様の将来の伴侶にして、事実上の婚約者であると認識しているから、ヒルダ嬢はある意味クレリア姫様にとっては、恋のお邪魔虫と感じてたらしく、この後暫くの間このお二人はアラン様を挟んで、恋の鞘当てを繰り返していたわ。

 そりゃあもう、傍で見ていても凄かったわ。

 ある時は、魔術の訓練時の目標に対してのスピード競争、またある時は、アラン様へのおやつとしてのスイーツ作り合戦、そんな競争に何故か途中からセリーナ殿とシャロン殿が参戦されて、アラン様では無く他の女子会メンバーが、4人での競争の判定役になっていって、なんだかいつの間にか恋の鞘当てというより、仲良くなる為の親睦会を競争形式でやっている様な感じに、なっていったの。

 その間も、アラン様始め私達にはあらゆる試練と戦場がやって来て、アラン様とクレリア姫様は共にそれに立ち向かって行ったのだけど、ヒルダ嬢は共に行けない事が多かったの。

 そんな時、ベルタ王国のアマド陛下が下半身不随の状態になり、お寂しい境遇をアラン様は憂いて、話し相手になって上げて欲しいとヒルダ嬢に願われたそうよ。

 そうしてヒルダ嬢がアマド陛下の車椅子を押して、ドーム内の色々な場所を巡ったり放送局での美術品鑑定や、音楽鑑賞を一緒にされている内に、アラン様とはまた別の魅力をヒルダ嬢はアマド陛下の中に見つけられた様なの。

 その心情をヒルダ嬢は、クレリア姫様に打ち明けられて、クレリア姫様もアラン様に熱烈に自分の恋心をこの時までに吐露されていたらしく、アラン様もクレリア姫様のその想いを受け止めて正式に婚約する事になったわ。

 こうして、今現在の形に落ち着いたんだけど、実はもう一つこの時、他の2名とのアラン様は約束事項を交わしているの、まあその話しは別のタイミングに書くとするわね。

 




 文中で出て来た、出産予定日が全員一緒なのは、或る理由が有ってイーリスが仕組んでいます。
 大体自分の、不自然極まりない仕込みには、必ず伏線が内在していて物凄いご都合主義が発生します(汗)
 さて、いよいよ見えてきました、帝国の2世代目の子供達が!
 この5人こそ、
 『皇太子殿下とその取巻き』、『2世代目の子供達(セカンド・ジェネレーションズ)』、『1並び(オールワンズ)』、『5人の操縦者(ファイブ・パイロット)』等の異名を周囲から与えられる、第三部の主人公達です!
 この子供達の成長も、本編と閑話で少しづつ触れて行きますので、お楽しみに。


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閑話㉟『カレンちゃん日記」⑰(カレンちゃん、恋愛相談される)

 さて、またまた過去に戻る閑話になります(汗)
まあこの『カレンちゃん日記』続けないと裏事情全く判らないまま、第三部に突入してしまいますので、何で最初から皇子宮にカレンちゃんとエラちゃんが居るのか?サッパリ判らなくなるんですよね(汗)
 という訳で、以前の続きから再開します。


 11月9日

 

 あれから1ヶ月経って、猫さん達もコリント領に出来た猫の保養所と、希望猫による人間との共存が進んで行って、親友達も可愛いペットが飼えて嬉しいと感謝されちゃった!

 ただ『ケッちゃん』は、アラン様と兄ちゃん達の軍と一緒に『魔の大樹海』を抜けてファーン侯爵領に向かっている最中なんだよ、みんな無事に帰ってきてくれるよね。

 

 11月30日

 

 『ケッちゃん』と兄ちゃんが、コリント領に帰って来たのは良いんだけど、カー君とバンちゃんへの報告に私んちに兄ちゃんと一緒に来たら『ケッちゃん』の様子が可笑しかったの。

 何だかフワフワした足取りで、家の家具に躓いたり頭をドアにぶつけたりしてるんだよ。

 

 「・・・『ケッちゃん』どうしたの?グローリア様があんまり早く飛ぶから、ドラゴン酔いでもしたの?・・・」

 

 と聞いたんだけど、私の声が聞こえて無いみたい。

 カー君とバンちゃんが額の宝石から、キラキラ光る光線を『ケッちゃん』に浴びせたら、ようやく正気に戻ったみたい。

 

 「・・・嗚呼、有難うカーバンクル夫妻、お陰で吾輩も目が覚めた・・・。

 この様な気分になったのは、この身体になって初めてであるから、些か驚きであるな」

 

 と何だか良くわからないけど、ようやく『ケッちゃん』と話しが出来るようになったよ。

 

 「ところで、『ケッちゃん』はどうしてフワフワした感じなの?」

 

 と尋ねたら、

 

 「うむ、実は吾輩は恋煩いを患っているのだよ!」

 

 と答えてくれたんだけど、よく判らないから聞いてみた。

 

 「恋煩い?!って、もしかして恋のことかな?

 『ケッちゃん』は誰かを好きになったのかな?」

 

 「その通りなのである。

 吾輩はカレン殿の言う通り、一目惚れしたのだよ!

 彼女は吾輩が、カレン殿の兄君が戦い終えたファーン侯爵領での懇親会に出席した際に、ファーン侯爵のご長男であるレオン殿の胸に抱かれながら現れた!

 その瞳はまるで黒曜石の様に漆黒に輝き、その白い毛並みは白銀の雪をたたえた霊峰を想わせ、その尻尾は豊かな綿毛を集めたかの様で有り、その細い足が歩まれた足跡は見事な模様を刻まれている!

 今まで無数の女性を見て来たが、この様に美しい女性は見た事が無かった!

 此の胸のときめきは、彼女を見た瞬間から今もずっと続いているのである!」

 

 と『ケッちゃん』は大演説してくれた。

 私は、今まで恋ってしたことが無くて、せいぜい昔飼ってた老犬やスターヴェーク王国王都に住んでいる、おじいちゃんとおばあちゃん達は大好きだったけど、これって恋じゃないし、身近な男の子といえばエラちゃんのお兄ちゃんのテオ君くらいだけど、別に特別な感情を持ってはいないから、恋についてはピンと来ないよ。

 

 すると、カー君とバンちゃんが額の宝石から、キレイな光線で空中に何だか判らない模様を描きだしたの。

 その模様は見てると、何だか暖かい気持ちが湧いて来て、スゴく満たされた気分になったの。

 

 「・・・流石は、カーバンクル夫妻で有る!

 やはり貴方方に相談に来た吾輩の判断は、間違っていなかった。

 其れでは、此の熱い想いを伝えるべく行動を起こそうと思うので、カレン殿にお頼みしたい!」

 

 と言われたから、

 

 「何をすれば良いのかな?」

 

 と尋ねたら、

 

 「うむ、吾輩達猫族は人の様に、手紙でのやり取りの様な手段を持たないので、遠方に居る彼女に想いを伝える術が無い。

 故に、吾輩が赴くか彼女が此方に来て直接会うしか無いのだが、吾輩は此処に避難している国民で有る猫達の面倒を見なければならない。

 よって吾輩はそれ程長くは、此処を離れる訳にはいかないのだが、聞けばファーン侯爵の領有する宿泊施設が、此のコリント領に有るそうで、彼女の直接の主であるレオン殿は、弟御のカイン殿と交代でコリント領に来るそうではないか。

 ならばレオン殿が来訪される際には、是非彼女を帯同して貰えぬか?と打診して欲しいのだ!」

 

 と頼まれたけど、私ファーン侯爵のご長男であるレオン様とは会った事が無いんだよね。

 弟である、カイン様は何度か会った事があるけど、あくまで父ちゃんと一緒に会っただけだし、どうしようと考えたら、帰ってきたばかりの兄ちゃんなら知ってるかも?と思い出し、兄ちゃんに応接間で『ケッちゃん』の恋について説明して、協力を頼んだの。

 

 兄ちゃんは、最初戸惑ったみたいだったけど、話しが進むに連れて乗り気になってくれて、明日一緒にクレリア姫様の元へ報告に行き許可を貰ってから、軍の連絡手段を使ってレオン様に頼んでくれることになったの。

 

 「・・・本当に感謝するのである。

 此の礼は何時か必ずするので、覚えていて貰いたい!」

 

 と兄ちゃんと私に『ケッちゃん』は頭を下げてきたけど、

 

 「友達が困ってたら助けてあげるのは、当たり前だよ。

 それより、私まだ『ケッちゃん』が好きになった猫ちゃんの名前知らないんだけど、教えてくれる?」

 

 「・・・此れは吾輩とした事が、何とも失礼な事であるな。

 彼女の名は、『マドンナ』・・・なんとも彼女に相応しい優雅な名前ではないか!」

 

 と教えてくれたの。

 『マドンナ』かあ、あまり馴染みの無い名前だけど響きが良いから、きっとその名前の通りキレイな猫さんなんだろうなあ。

 



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閑話㊱『カレンちゃん日記」⑱(カレンちゃん、恋の三角模様を見せられる)

 12月1日

 

 私と兄ちゃんそして『ケッちゃん』は、執務ビルのクレリア姫様の執務室を訪ねたの。

 兄ちゃんと『ケッちゃん』はクレリア姫様への報告と、ファーン侯爵領事館のあるホテルに向かい、例の頼み事をしに行ったんだけど、何故か私はエルナさんに呼び止められて、何時もの女子会が開かれるクレリア姫様の私室に通されたんだ。

 私室では、サーシャさんとエルナさんに学校での出来事や、友達が飼い始めた猫さん達が元気な様子と、最近建設が始まった噂の『デパート』について喋ってたら、クレリア姫様とミーシャさんそして白い服を着た若い女性が入室して来たの。

 

 「久しぶりに女子会が開けて私は嬉しいんだけど、実は新たなメンバーにと考えている『ヒルダ』嬢を今回紹介しようと思う。

 ヒルダ嬢は、先頃行われたセシリオ王国の魔物達を使ったファーン侯爵領侵攻戦に、悪辣な手段で操られ心ならずも我々と当初は敵対したのだが、戦争途中で敵の洗脳から解放されて我々の味方になり、今では心強い我々の協力者である。

 みんな、出来れば彼女の女子会メンバー入りを承諾して貰いたい!」

 

 とクレリア姫様が仰られたので、私は直ぐに賛成して、

 

 「ハイッ、判りました。

 クレリア様の判断は、正しいと思います!」

 

 と言い、サーシャさんとエルナさんも頷かれたら、

 

 「みんな有難う、事前にアランに頼んでセリーナとシャロンに連絡を取り了承を貰ったから、此れで全員の賛成を得られた事になる。

 ヒルダ嬢、良かったな」

 

 とクレリア姫様は仰られ、ホッとした様子を見せて、ヒルダさんに自己紹介を促されたの。

 促されたヒルダ嬢は、

 

 「・・・皆さんはじめまして、ヒルダと言います。

 出身はセシリオ王国で、『氷雪魔術師団』の第3席次の魔術師です。

 これから宜しくお願いしますね!」

 

 と自己紹介されたの。

 この後、みんなでヒルダさんに質問攻めしてしまって、大分ヒルダさんが疲れて来た頃に、溜まっていた事務作業を終えられたアラン様が、テオ君とエラちゃんと一緒にキッチンワゴンを押してやって来られて、

 

 「みんな楽しそうだね、そんなみんなに差し入れだよ。

 此のデザートは、ファーン侯爵領の伝統菓子を自分の故郷のお菓子と掛け合わせて、新しく作ったデザートなんだ、名は『チョコレート・フォンデュ』。

 此の金属の棒串で、ファーン侯爵領の伝統菓子『マシュマロ』と自分の故郷のお菓子『シュークリーム』を突き刺して、溶けているチョコレートに入れて充分に絡ませてから食べる。

 但し、あんまり数を食べると、夕食が入らなくなるから、そうだな・・・一人5個までとしよう」

 

 とアラン様は自分で実演して見せて、テオ君とエラちゃんに渡して上げた。

 

 「オイシイー!

 甘くてオイシイーヨーーー!」

 

 とエラちゃんが、絶叫に近い大きな声を上げたので、みんなそれぞれ金属の棒串を取り、『マシュマロ』と『シュークリーム』を突き刺し、大きな鍋で溶けているチョコレートに入れて食べてみたの。

 因みに私は、、『マシュマロ』からね。

 パクッと、垂れそうなチョコレートを上手く口に放り込んでみたら、

 

 《ウワアアーーー!ホントに甘くて美味しいよーーー!》

 

 と心の中で叫びながら夢中で飲み込み、次の『シュークリーム』を突き刺して、溶けているチョコレートに入れて充分に絡ませてから、口に放り込んだら、

 

 《ウワアアーーー!これも甘くて美味しいよーーー!》

 

 と口に出せないけど感動しちゃった!

 と暫く口に頬張りながら、一心不乱(学校で習った言い回しだよ)に食べて一息ついたら、クレリア姫様が本当に愛おしそうにアラン様を見つめているのに気付いちゃった!

 昨日の熱烈な『ケッちゃん』の告白を聞いた所為か、私ってば恋愛感情が判る様になっちゃたのかな?

 

 そんな事を思いながら他の人を見たら、ヒルダさんまでアラン様に熱烈な眼差しを向けてるのに気付いちゃった?!

 え~っ、アラン様はクレリア姫様の将来のお婿さんだよ!取っちゃダメなんだからーー!

 と思ったけど、私の勘違いかも知れないから、黙っておいたけど、大丈夫かな?って不安になっちゃった!

 

 12月21日

 

 私にはよく判らないんだけど、今このベルタ王国では内乱が起きていて前のベルタ王国宰相って悪人が、自分の主人である王様を暗殺しようとして失敗すると、周辺国のセシリオ王国とアロイス王国と組んで、私達のコリント領や王様に対して攻撃するつもりらしいの!

 それに対してアラン様とクレリア姫様始め、コリント領の上の人達は一丸となって迎え撃つらしいの。

 だから、それに協力する為に『ケッちゃん』と『フェンちゃん』(ヒルダさんの相棒と紹介されたんだけど、『フェンリル』って名前よりはこっちの方がいいよね!)も今日出陣するんだよ。

 

 「吾輩の民が平和に暮らし、何れは第二の故郷となるべき場所に平然と牙を剥く連中には、天誅を下してやるのである!」

 

 とスゴく勇ましい事を『ケッちゃん』は、私達見送りに来た学生と親友達が抱えて来た猫さん達に宣言して、ヒルダさんも『フェンちゃん』の背に乗って、

 

 「心配するな!

 もう既に綿密な作戦が練られていて、その作戦遂行の為に私達は向かうんだ。

 其れにアラン総帥(昨日アラン様は今までの護国卿から総帥に格上げされたんだって)は、様々な手を打ち色々なケースへの対処を整えられている。

 本当に素晴らしいなアラン総帥は、この国が羨ましいわ!」

 

 と頬を染めながら言うので、

 

 《うわあ~、やっぱりヒルダさんはアラン様が好きなんだって確信しちゃった》

 

 と考えたけど、ぐっと言いたいことを我慢して、

 

 「・・・頑張って下さいね・・・!」

 

 と激励して送り出して上げたの。

 どちらかと言うと、戦争よりアラン様を巡る女の戦いへの健闘(正直クレリア姫様に勝てる訳ないと思いながら)を祈った気分になっちゃった!

 



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閑話㊲『カレンちゃん日記」⑲(カレンちゃん、猫の『マドンナ』さんに出会う)

 1月7日

 

 兄ちゃんとミーシャさんが、みんなよりひと足早く帰って来たかと思ったら、『ガイ君』と『サナちゃん』(ミーシャさんのサバンナちゃんのあだ名だよ)の巣を用意し始めたの。

 何でももうすぐ『サナちゃん』が卵を産むから、緊急で厩舎を改造して2頭で交互に卵を温め合う様にするんだって。

 うわあ~、ワイバーンの赤ちゃんってどんななのかな?

 

 1月15日

 

 ファーン侯爵の長男レオン様がコリント領に到着されたの。

 私は、『ケッちゃん』の付添で迎賓館に向かい、控え室で噂の『マドンナ』さんに会えたんだよ。

 

 《こんなにキレイな猫さん初めて見たよ!『ケッちゃん』が一目惚れしたの良く判っちゃった!》

 

 『ケッちゃん』が言う通り、その真っ白な毛並みはまるで輝いているみたいだし、黒い瞳は吸い込まれそうな気がする。

 『ケッちゃん』は、何時もはあんなに饒舌(学校で習ったの)なのに、『マドンナ』さんの前ではギクシャクした動きで、手足が片側ずつ同時に出てるから変な動きに見えるよ。

 

 『マドンナ』さんの主人であるレオン様が、

 

 「いやあー、貴方がケニー殿の妹さんですか、今後永住する予定のレオンと言います。

 以後宜しく!」

 

 と手を差し出してきたの。

 とても貴族とは思えない気さくな喋りで、自己紹介されたから戸惑っちゃったけど、手を握って挨拶を返し『ケッちゃん』を紹介しようとしたら、

 

 「ああカレン殿、以前ファーン侯爵領でケットシー128世殿の事はアラン総帥から紹介されているんだよ。

 我々ファーン侯爵領の者は、ケットシー128世殿が遣わされた『ベヒモス』のお陰で大変助かっているんだよ。

 だから、我々はケットシー128世殿にとても感謝していて、今回はその感謝の意味合いでも、ケットシー128世殿の要望には出来る限り答えるつもりだよ。

 但し、私の愛猫である『マドンナ』を娶りたいとの事ならば、正々堂々正面から挑んで貰いたいとは思うがね」

 

 と私に答え、『ケッちゃん』には釘を差してきたみたい。

 『ケッちゃん』は、その忠告が聞こえているのかいないのか、判らない位緊張してるみたいだけど、『マドンナ』さんは、猫なのにシルクハットを頭に被り燕尾服を着ている『ケッちゃん』が気になったのか、『ケッちゃん』の隣に来てじっと『ケッちゃん』を見つめている。

 

 『ケッちゃん』は緊張し過ぎて身体がカチコチになっていて、ピクリとも動かない。

 『マドンナ』さんは、そんな『ケッちゃん』の緊張をほぐそうと思ったのか、『ケッちゃん』の頬をなめてくれたの。

 そうしたら『ケッちゃん』は、身体がカチコチのまま倒れてしまったの。

 その姿を見て、レオン様は笑いだして、

 

 「これは驚いた!

 ケットシー128世殿より、うちの『マドンナ』の方が余程積極的じゃないか!

 『マドンナ』は猫なのに、ファーン侯爵家の誰よりも気位が高くて気品があるのだが、ケットシー128世殿に興味津々な様子。

 是非、カレン殿にはこれからもケットシー128世殿を連れて、『マドンナ』に会いに来て貰いたい!」

 

 と言ってくれたので、

 

 「判りました、これからも宜しくお願いします!」

 

 と返事して、これから忙しくなるだろう迎賓館から出て、家に帰りながらバスの中で『ケッちゃん』を介抱してたら、ようやく『ケッちゃん』が元に戻ったので、良かったねこれからも会えるよ!と言ってあげたら、

 

 「・・・・・カレン殿大変感謝する!

 吾輩は今、天にも上る気持ちであり、これからも『マドンナ』さんに会いに行ける様に取り計らってくれたカレン殿には、無限の感謝を贈る!」

 

 と礼儀正しくシルクハットを頭から取り、華麗なポーズで感謝されたの。

 何でこのかっこいい姿を『マドンナ』さんの前で出来ないのか、不思議に思いながら、

 

 「感謝してくれてありがとう!

 でもね、友達なんだから当然だよ!」

 

 と返事したら、

 

 「・・・そうであるな、友達なのだ・・・・・

 かつての人類が、この博愛の心を持てる程の、器の大きさを持てればあの様な結末にならなかったのに・・・」

 

 とため息をついてバスの窓越しにドームの空を見上げてる。

 きっと『ケッちゃん』にも、色々な過去があったんだろうなと考えて、物思いにふける『ケッちゃん』の邪魔をしない様にしてバスの座席の背もたれに体重を掛けて座り直したの。

 

 2月10日

 

 今日、クレリア姫様の本当のご身分がコリント領で公開されたの!

 ようやくスターヴェーク王国出身者以外の人の前でも、クレリア姫様と呼べる様になったけど。

 学校のスターヴェーク王国出身者以外のみんなは、前々からクレリア姫様はただ者では無いと判ってたみたいで、そんなに驚いて無いみたい。

 まあ、アラン様とあんなに親しそうで、気品と美しさを兼ね備えるクレリア姫様は、誰が見てもスゴイ出自なんだろうなと判っちゃうよね。

 だけど、実はこのベルタ王国の王様であるアマド陛下と再従兄弟の関係で、正式に親族であると公開されたのには驚いちゃった。

 んっ?!そうすると、クレリア姫様と将来結婚されるアラン様も、王族になるって事だよね。

 この1年間でも、アラン様は男爵から辺境伯になり、役職称号も護国卿から総帥になってるから、今後はどこまで出世するのかな?

 でも、元々スターヴェーク王国出身者達にしてみれば、クレリア姫様のお相手であるので最初から私達の王様みたいなものだから、どう身分が変わろうと私達には関係無いよね。

 



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閑話㊳『カレンちゃん日記」⑳(カレンちゃん、『ケッちゃん』と『マドンナ』さんの結婚式に出る)

 2月22日

 

 本日、『ケッちゃん』と『マドンナ』さんの結婚式が『軍事ブロック2』で盛大に行われたの。

 どう考えても生活ブロックでは、『グローリア』様と『ベヒモス』さんそして『グランド・タートル』さんは入れないし、4千匹(色々あって1千匹くらい増えたの)以上の猫さん達も集合出来ないしね。

 

 アラン様とクレリア姫様、そしてコリント領の上層部全ての人も参加されて、放送局の人達もかなりの人数で撮影してるから、多分放送する予定があるんだろうね。

 私もカー君とバンちゃん、そして友達達とその飼い猫が出席している。

 

 《因みに猫さん達は、最初人間との共存生活に慣れなくて、馬車に轢かれそうになったりしたから、『ケッちゃん』の指導で『ナノム玉ver.猫』を全猫が飲んで、『ケッちゃん』が放送局に依頼して作られた動画で学習したら、とても礼儀正しくなってくれて、今では各猫さん専用のカードが発行されているから、最近はフードコートに猫さん専用のお店も出来ていて、お昼に行くと猫さん達が集まるテーブルに係の人が猫さん用の飲食物を持ってきたら、各猫さんが肉球で選んでカード決済しているシーンをよく見かけるんだ。

 一昨日なんか、近くに居たコリント領に買い付けに来たと思う商人の人達が、普通にフードコートで礼儀正しく飲み食いしてカードで支払う猫さんを見て、驚いたまま硬直してたよ。

 まあ、コリント領以外の猫さんがこんなことしてたら、私も驚いちゃうかも》

 

 アラン様とクレリア姫様が並んで壇上に上がられて、マイクを使い仲人としての祝辞を述べられたているの。

 

 「・・・・・・・・こういった経緯を経て、此の良き日に猫の王国の王で有る『ケットシー128世』殿とファーン侯爵家の愛猫『マドンナ』さんの結婚式を挙げられる事は、我らがコリント領にとって非常に喜ばしく思っています。

 其れでは、僭越ながら乾杯の音頭も取らせて頂きます、皆様目の前のグラスをお手に取って下さい。

 また、グラスを持てない方は、目の前に有る大盃に顔を近付けて頂きたい。

 

 改めまして、お二人の晴れの門出を祝福しまして、・・・乾杯!!」

 

 「「「「「乾杯!!!」」」」

 

 とみんなで唱和して、グラスに入ったお酒やシャンパン(私達子供や、お酒の飲めない人はノン・アルコールね)を飲んで、拍手を『ケッちゃん』と『マドンナ』さんに贈ったの。

 

 『ケッちゃん』と『マドンナ』さんは立ち上がり(『マドンナ』さんは、『ナノム玉ver.猫』を服用する事で、言葉こそ喋れないけど、立ち上がったり両足で歩く事が出来る様になってるんだよ)、丁寧にその拍手に対してお辞儀を返してくれたよ。

 

 それにしても『グローリア』様と『ベヒモス』さんそして『グランド・タートル』さんは、スゴく大きな盃をこの日の為に作って貰ったらしいんだけど、ドンドン飲み干してお代わりを要求してる、酔っ払っちゃうんじゃないかな?

 本当なら『ケッちゃん』と仲の良いガイ君とサナちゃんの、ワイバーン夫婦も参加するはずだったんだけど、丁度2周間前に卵が孵化して、4頭の赤ちゃんワイバーンが誕生して、その世話でガイ君とサナちゃんはてんてこ舞いなんだよね。

 

 その代わりも兼ねて私は、『ケッちゃん』と『マドンナ』さんの所に行って、お祝いの言葉を贈ったんだよ。

 

 「『ケッちゃん』に『マドンナ』さん、ご結婚おめでとう!

 出席出来なかったけど、ガイ君とサナちゃんからもお祝いして欲しいって、サナちゃんの生え変わった牙を貰ってきてるんだ。

 『ケッちゃん』と『マドンナ』さんの赤ちゃんが生まれたら、その牙を削ってアクセサリーを親友のお父さんに作って貰うんだよ、期待しててね!」

 

 と言ったら、『ケッちゃん』が、

 

 「雌のワイバーンが、卵を産む時に渾身の力を入れるのだが、その時にあまりの力故に牙が抜ける事が時々有るそうだが、その牙はドラゴンの牙に匹敵する魔力を持つと聞く。

 その様な希少な牙を頂けるとは、大変有り難い!

 何れ吾輩と妻で、『ガイ』殿と『サバンナ』殿には表敬と赤子の誕生祝いに訪問させていただこう。

 妻よ、そういった話になったが、宜しく一緒に行って貰えるかな?」

 

 と今まで『マドンナ』さんの前では、何時もカチコチになっていた『ケッちゃん』が、今日は『マドンナ』さんの前で堂々としてる。

 

 「ミヤァァ!」

 

 と『マドンナ』さんは鳴いて答えてくれ、

 

 「ありがとう妻よ、其れでは『ガイ』殿と『サバンナ』殿が子育てに、一段落着いたら訪問しよう」

 

 と『ケッちゃん』が言い、それに『マドンナ』さんはコクンと頷いてくれた。

 何だか『ケッちゃん』スゴク頼もしいね、これなら大事な愛猫である『マドンナ』さんを嫁にやるレオン様も安心だね。

 そんなレオン様は、まるで娘を嫁にやる父親みたいに眼が真っ赤になるまで泣いたみたいで、隣に居る親友のアベルさん(ベルタ王国宰相ヴェルナー卿の息子)に慰められてる。

 

 今は辛いかも知れないけど、『ケッちゃん』と『マドンナ』さんの赤ちゃんが生まれたら、多分スゴくデレデレした孫を可愛がるおじいちゃんみたいになるんじゃないかな?

 そんな姿を想像したら、私もカー君とバンちゃんの赤ちゃん抱きたいなあと思ったの。

 そうしたらカー君とバンちゃんが、額の宝石をキラキラ輝かせて、『ケッちゃん』と『マドンナ』さんの前にルビー(紅玉)とサファイア(蒼玉)を出してくれたの。

 

 「此れは忝ない!

 カーバンクル夫妻が、吾輩の妻に安産祈願の宝石を贈ってくれた!

 吾輩も何れカーバンクル夫妻に、子供が生まれたら必ずお返しをさせて頂く、楽しみにしていて貰いたい!」

 

 と『ケッちゃん』が言い、

 

 「クゥゥーー!」

 

 とカー君とバンちゃんが答えてる。

 みんな本当に仲が良いから、これからも家族が増えて益々幸せの輪は、広がって行くんだね。

 全ては、幸せの場であるこのコリント領を作ってくれた、アラン様とクレリア姫様のお陰だ。

 仲人席に居られるお二人に、感謝の心を込めて頭を下げたら、全て判って下さってるのか、鷹揚(学校でならったの)な様子で頷いて下さったわ。

 



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閑話㊴「ガトル親父の雑記」⑨(親父、武術馬鹿3人の武器を作るの巻)

 2月6日

 

 息子が内乱戦争から帰ってきて翌日、如何にも武術者といった感じの男3人を連れて俺の工場にやって来た。

 

 「貴方がセリーナ殿の愛刀『冷艶鋸改』を製作された、名刀工と云われる鍛冶師『ガトル』殿ですな!

 某は、剣王の一人である『シュバルツ』と申す、是非『ガトル』殿に某の刀を製作して欲しい!!」

 

 「俺は『ミツルギ』と云う、しがない武術馬鹿だ!

 今までは特に武器に拘らなかったんだが、今回の戦いでそれも重要な要素だと思い知らされた!

 お願いだ!俺にも自分に合っている武具を製作して貰いたい!!」

 

 「私めは、トビ・カトウという者『カトウ』と呼んで下され!

 私は、影に生きる者として暗器を使用していたのですが、いざ1対1の戦いに於いて相手が魔法剣の業物を持っていると、対処に困る事が度々有りました。

 私にも、自分専用の武器を製作して頂けないでしょうか?」

 

 と矢継ぎ早に催促して来やがった!

 幸い俺の弟子共が使い物になり始め、重機や工作機械も指示すれば問題無く進められる位に成長したから、最近は軍の上層部や、兵士の中でも使い手の連中用に武器を作ってるから、別に構わねえんだが、実はアラン様から直々の発注を幾つか受注してるんだよな。

 

 「・・・・・判った!

 受けてやっても良いが、当然お前達用の専用武器となると、お前達とそれぞれ膝詰めで相談したり、場合によってはお前達自身がオリハルコンを鍛錬したり、アダマンタイトに魔法を込める必要が有る。

 結構な手間だが、やる気は有るんだな?」

 

 と問いただしたら、

 「「「オオッ!望む処です!!」」」

 

 と気迫に満ちた声で唱和しやがった!

 気合いの入った連中じゃねえか、気に入ったぜ!

 

 「よっしゃ!その意気だぜ!

 それじゃあ、それぞれが思い描く武器の形と要望、そして能力を俺と1人ずつ膝詰めで相談しようや」

 

 と言い、それぞれと1時間ずつ相談する事で、大体の概略を掴んだので明日から製作に入る事になった。

 

 2月7日

 

 ドップの奴に以前アラン様から渡された資料から、リファインした製図の元での新しい重機や工作機械の魔道具の製作を指示し、ハロルド達には新規の戦闘バイクの構想に入れと指示して、俺は武術馬鹿3人の武器製作に入った。

 以前セリーナ殿から貰った『冷艶鋸』の資料には、参考文献てのも付随していて、その手の資料が他に有るのか8ちゃんに聞いたら、

 

 「リョウカイシマシタ、アランサマノキョカガオリマシタノデ、シリョウヲカイジシマス」

 

 と答えてくれたお陰で、武器・武具の資料を全て紙に纏めて貰い、俺の工場長の執務室にはその手の武器の資料が沢山ある。

 暇な時に其れ等を眺めるのが俺の趣味になってるんで、俺の中では3人の為の武器は大体考えが纏まってるんだが、後は3人の武器・武具にどんな魔法を込めるかだな。

 3人に聞いてみたら、全員基本的に魔法はオールラウンドで良くて、下手に特化しなくていいそうだ。

 成程、何れ自分でその武器に合う魔法と技を自得するって訳だな。

 そして其れ等の要望と武器・武具の重さの兼ね合い、そしてアダマンタイトを何処の部分に装着するか?等の最終構想を盛り込んで製図が出来上がったぜ。

 

 2月14日

 

 いよいよ純粋なオリハルコン鋼材での、”圧縮・延ばし・折りたたみ”という3工程を2万回繰り返し、凄まじい密度を誇るオリハルコン鋼材を、削り出し形を整え刃先等を例のグラインダー(オリハルコンの欠片を表面にコーティング)で研ぎ、仕上げに3人それぞれの魔法特性に合わせたアダマンタイトの魔法発動体を、それぞれの武器・武具に装着する。

 そうやって完成した武器・武具を3人それぞれに引き渡してやった。

 

 シュバルツ殿に渡されたのは、2刀の兄弟刀『右月と左月』。

 

 銘『右月・左月』・・・・・それぞれの柄頭にアダマンタイトが埋め込まれていて、魔法発動は其処から行う。剣が主流の西方教会圏には珍しい刀で、魔法で切れ味を増すと正に快刀乱麻に敵を切り裂く。

 

 ミツルギ殿に渡されたのは、ガントレットで『豪雷』。

 

 銘『豪雷』・・・・・・・・両手に装着するガントレットで、拳の上にアダマンタイトが埋め込まれていて、魔法発動は其処から行う。打つ・掴む・投げる・突く事が出来る用に指が自在に動く用に工夫されている。

 

 カトウ殿に渡されたのは、小刀で『絶影』。

 

 銘『絶影』・・・・・・・・オリハルコン鋼材で製作したにも関わらず、刀身から柄まで全て漆黒に染められていて、アダマンタイトは透明なまま鍔として装着していて、魔法発動は其処から行う。この『絶影』には或る魔法が予め付与されていて、持ち主であるカトウ以外には発動出来ない。

 

 3人それぞれが己の武器・武具を受けとり、その使い心地や手へ馴染ませる為に、工場裏に有る試験場に向かい各々が己の武器・武具を試してみる事になった、おう、存分に試してみるがいいさ!

 

 シュバルツ殿は、先ず一通り神剣流の型を行い、納得されると切れ味を増す魔法を発動し、巻藁を斬ってみるとあまりの切れ味に驚かれ、試しに力を入れずに刃先を強化アクリル板に触れさせると、そのまま鍔まで沈む様に刃先が潜り込み、感動してるみてえだ。

 

 ミツルギ殿は、元拳王らしく拳を連打する様に型を行い、練習で壊れた車両を掴み投げて納得されると、強化アクリル板に拳を打ち込み、拳の形に強化アクリル板がくり抜かれるのに驚き、魔法を発動して貫手の形に指先を揃え、強化アクリル板に打ち込むと、まるで抵抗無く強化アクリル板を貫くとそのまま打ち下ろしたら一刀両断してしまい、感動に打ち震えてるみてえだ。

 

 カトウ殿は、逆手に構え見たことの無い型を行い、納得されると或る魔法を発動させた。すると突然カトウ殿の姿は消えて無くなり、小刀を振る音だけが聞こえ影さえ見えない。徐に1枚の強化アクリル板が殆ど音も立てずに切り刻まれていき、やがてカトウ殿が姿を現して天に向かい祈りを捧げていた。神様に報告する程感動してくれたみてえだ。

 

 3人共俺の前に来て、一斉に頭を下げて礼を述べた。

 

 「「「『ガトル』殿、この様に素晴らしい業物を製作して頂き、大変感謝する!

 この様な名鍛冶師と出会えた事を、ご子息のケニー殿とアラン総帥には感謝しか無い!!」」」

 

 と息子にまで頭を下げやがったから、

 

 「よせやい!

 俺なんて、片田舎で其処らの家庭の包丁を研いで、その日暮らししてたうだつの上がらない鍛冶職人だったのが、アラン様のお陰で工場長なんて代物になれただけでえ、感謝してくれるっていうんなら、これから色んな人々を救おうとされているアラン様と、その手伝いを命を賭けてしようとしている息子の、手助けをしてやってくんな!」

 

 と言ってやったら、

 

 「「「承知した!必ず果たそう!!」」」

 

 と金打をして誓ってくれたぜ。

 



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閑話㊵「ガトル親父の雑記」⑩(親父、最高傑作『神虎』を作るの巻)

 2月21日

 

 セリーナ殿がシャロン殿を伴い工場にやって来て、『冷艶鋸改』へのお礼と如何に活躍出来たかを熱く語ってくれて、是非双子のシャロンにも相応しい武器を製作して貰いたいとお願いして来た。

 しかし双子っていっても、こんなに背格好と云い顔立ちと云い似てるのは、珍しいなと考えながら、

 

 「・・・『冷艶鋸改』と同じモンで良いんですかい?」

 

 と聞いたら、シャロン殿は首を振り、

 

 「・・・私はセリーナと違って、あんまり人の血を見るのは苦手なの。

 出来れば殺さずに済ませたいんだけど、人間だけならそれで良いけど場合によっては魔物や魔獣と戦闘する事もあるから、それらにも対応出来る武器が欲しいわね。

 後、私は、剣術より体術もしくは格闘術が得意だから、その辺も考えた武器が望みよ!」

 

 と要望されたんで、ミツルギ殿の『豪雷』と同じガントレットを勧めたら、またも首を振られちまった。

 

 「・・・・・うーん、私もセリーナと同じく戦闘バイクで軍団の先頭を進む事になるから、一々格闘をしてられないから、なるべく一瞬で決着が着く武器が良いわね・・・」

 

 と中々注文が厳しい内容になって来やがった。

 しょうがないので、8ちゃんに纏めて貰っていた武器・武具の資料を、セリーナ殿にも手伝って貰い、3人でどんな武器・武具がその要件を満たすか、調べはじめた。

 

 1時間ばかり、武器・武具の資料とにらめっこしてたら、シャロン殿が、

 

 「・・・・・完全にこの武器では無いけど、この武器を基本に私のアイデアを加味すれば、かなり私の要望を叶える物になると思うわ!」

 

 と言って、武器・武具の資料にある一つの武器を見せてくれた。

 ”トンファー”かだが、こいつはあくまでも接近戦且つ対人戦闘向きの代物だ、あまり当初要求された内容に合って無いようだが、と疑問をぶつけてみたら、

 

 「その通りよ。

 このままだと、私の武器としては全然不十分だから、基本だけこれで根本的に大きさから見直すわ!

 先ず、本来の太さをかなり変えて持ち手の部分以外は、4倍以上にして長さも可変式にして最長はセリーナの『冷艶鋸改』と同等にして貰いたいわ!」

 

 と、とんでもねえ要求をされちまった!

 セリーナ殿の『冷艶鋸改』は見た目通りの代物で、高圧縮されたオリハルコンを鍛えに鍛えたから、重量は約50キログラム有り、普通の兵士では持つのは無理で、漸く支えられるか?って代物だ!

 この『冷艶鋸改』を片手でぶん回せるセリーナ殿が、半分化け物なだけである意味武器としては、欠陥品もいいところだ。

 なのにシャロン殿は、それとほぼ同格の代物を片腕ずつ2本持つと云うのだ、それは既に人の範疇を越えた神々の武器と呼んで良い代物だ!

 

 「・・・・・本当にそれで良いんですかい?」

 

 と確認したら、シャロン殿はにこやかな顔で、

 

 「ええ、今言った条件を満たしてくれれば、セリーナの『冷艶鋸改』と遜色ない武器になるわ!」

 

 と言ってセリーナ殿を挑発する様に、

 

 「出来上がったら、試合をしましょうよ!」

 

 と云い、セリーナ殿も、

 

 「良いわよ!

 泣いて、降参しないでよね!」

 

 と物騒な目つきで返答してやがる、なんて恐ろしい双子だろうと、背筋を凍らせながらも、凄え武器を作れる事に震えてる自分に、俺も大概な鍛冶師馬鹿だなと笑っちまった。

 

 3月3日

 

 先日の武術馬鹿達の武器開発の工程を経て、更に様々な試行錯誤を繰り替えして、コイツは出来上がった!

 今の処、俺にとっての最高傑作と言って良いコイツは、アラン様の助言と指南も盛り込んであるから、完全に俺だけの力で出来上がった訳じゃねえが、そんな事はどうでも良い位の凄え武器だぜ!

 

 早速、3輪戦闘バイク2台に乗って受け取りに来たシャロン殿とセリーナ殿は、特注の台座(普通に作業台に乗せられねえ程コイツは重い)に乗せられている俺の最高傑作を見て、眼を輝かせながら「ホオー!」とため息を洩らして見入ってくれた。

 

 「銘『神虎』・・・コイツは俺の今までの全ての技術と、アラン様の助言と指南を集約した、今現在の最高傑作でさあ、是非シャロン殿にはコイツの能力を戦場で如何なく発揮して貰いてえ!」

 

 と俺の発言が聞こえてるかどうか疑わしいくらい、俺を見向きもせずシャロン殿は特注の台座に乗せられている『神虎』へ歩み寄ると、片手に一本ずつ手に取った。

 すると雷に打たれた様に、シャロン殿が身を震わせて動かなくなり、暫くそのままでいると、シャロン殿は俺に振り返り、

 

 「・・・『ガトル』殿・・・。本当に感謝する!

 私は生まれてから、別れ別れになっていた自分の半身と、久々に巡り合った気分だ!

 存分に此の『神虎』を振り回したいので、軍事ブロック2の演習場に付いて来てくれ!」

 

 と言われたから、2人の3輪戦闘バイクの後ろを愛車の『バイソン』で追いかけて、軍事ブロック2の演習場に向かった。

 

 そこでは、新しく各軍団に配属される新兵の連中が、コリント流の剣術訓練をしていたが、俺達は少し離れた広い場所に行き、シャロン殿の演武を見る事になった。

 

 「行きます!」

 

 と掛け声をかけると、シャロン殿は『神虎』を両手に一本ずつ持ち、回転させ始めた。

 思ってた通り凄え力だ!

 双子のセリーナ殿が、あの『冷艶鋸改』を軽々とぶん回せるんだ、問題無いだろうと考えてたが、コイツは予想を越えてやがる、『神虎』はそれぞれ約50キログラム有るから、つまりシャロン殿は合計100キログラム以上をあの細い身体で振り回してるんだ。

 と考えながら見てたら、何とそのまま宙返りしたり、側転をしながら振り回してやがる!

 なんて凄え体幹だ!

 あんな重い武器を持ちながら自由自在に身体を動かせるとは、とても信じられないぜ!

 

 シャロン殿は突然ピタッと動きを止めて、少し手前に用意された人形の標的に狙いを定め、『神虎』を上段から振った!

 すると、『神虎』はその棒身を一気に3倍に伸ばし、人形の標的の両肩口にめり込む。

 そしてシャロン殿は棒身を元に戻すと、

 

 「ハッ!」

 

 と気合いを込めて『神虎』の柄の部分を前に突き出すと、握り手の部分に有るアダマンタイトが輝き、『ソニックブーム』が人形の標的に叩きつけられ、標的を粉砕しそのまま後ろの土砂も盛大に吹っ飛ばした。

 

 「うーん、まだ魔法の威力調整は上手く出来ないかな?」

 

 とシャロン殿は首を傾げたが、いつの間にか集まって見学していた教官含む新兵達は、興奮しながらパチパチと拍手してやがる。

 

 セリーナ殿が、

 

 「新兵達、訓練頑張れよ!

 正式に各軍団に配属されれば、大量生産品ながら魔法剣が支給される。

 他国では、上級騎士でも無ければ持てない代物だぞ、武器に恥じない様に己れを磨け!」

 

 と発破を掛けられ、

 

 「「「ハッ、了解であります!」」」

 

 と答えて散開して行ったが、全員顔が喜んでやがる。

 

 「どうですか、使い心地は?」

 

 とシャロン殿に声を掛けたら、

 

 「素晴らしい出来で、満足です!

 この礼は、必ずさせて頂きます!」

 

 と返答されたが、

 

 「既に、アラン様から前の3人の武器・武具分も料金を頂いてますし、新たな発注も受けていますから、気にしないで良いですよ。

 それより、近日中に出陣されると聞いてますから、どうぞご存分に『神虎』で戦果を挙げてくだせえ!」

 

 と言ったら、セリーナ殿が、

 

 「無論だ!」

 

 と相変わらず、如何にも女騎士といった感じの勇ましい、返事をしてくれた。

 この2人が両翼を固める、アラン様の軍はそりゃあ強いに決まってるわな!

 



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5月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝元年)《海洋大国デグリート王国での滞在①》

 漸く前話で、ミーシャさん以外の閑話の時間軸が揃って本編の1年前に成りましたので、今回から本編再開です。
 これからの本編は恐らくかなり長くなりますが、お付き合いお願いします。
 西方教会圏全ての国の漫遊と帝国への併合。
 そして全ての体制を整えての、対スラブ連邦最終決戦直前まで書く事になるからです。
 どうぞお楽しみに。


 5月1日

 

 今現在我ら帝国軍は、かの海洋大国デグリート王国に滞在している。

 自分とアラン様は、4月後半に急遽グローリア度のとガイに乗り、マッハ1の音速巡航速度で帝都コリントに戻り、クレリア皇妃様とミーシャの妊娠騒動を3日という短さで乗り切り、シュバルツ殿とミツルギ殿そしてカトウを連れて陸上戦艦ビスマルクを旗艦とした、帝国艦隊にとんぼ返りして来たのだ。

 

 「しかし、壮観な景色だなこの『ドライ』の艦橋は!」

 

 と気楽な感じで感想を述べてるのは、ミツルギ殿でその横にはシュバルツ殿が興味深そうに、海洋大国デグリート王国の誇る海に浮かぶ2大艦隊の戦闘艦を眺めている。

 そもそもこの2人が、ミーシャの妊娠を教えてくれなければ、自分はこの長い出張期間中に、自分の奥さんの妊娠を知らずに居たかも知れないので、感謝しているのだが、自分の艦長室でまるでお客さんの様に寛いでいる姿は、色々な報告書や今後の計画書を業務として行っている身の上としては、どうしても親衛隊長の仕事をせずに遊んでいる様に見える。

 

 「・・・ところでお二人は、アラン様の警護はしなくて良いんですか?」

 

 と聞いたら、

 

 「いや其れが、某とミツルギ殿が警備したいと願い出たら、カトウが是非自分だけで警護してみて、『絶影』の能力でデグリート王国の首脳陣の本音を探りたいと、申し出て来てな。

 アラン陛下からも、次の訪問地である『ザイリンク帝国』で年1回行われる『西方武術魔術競技大会』へ出場するのだから、訓練したらどうか?と言われてな」

 

 とシュバルツ殿が返答したので、

 

 「なら、アラン様の言われる通り訓練したらどうだ」

 

 と言ってやったら、

 

 「ケニー殿の言われる通り訓練して居たんだよ、デグリート王国が貸してくれた練兵場で。

 すると、デグリート王国の兵士達が見学に来てな、感心してくれるのは別に良いんだが、是非一手指南して欲しいと言ってくる輩がやたらと多くて、俺自身の訓練が何も出来なくて困るんだよ」

 

 とミツルギ殿が心底参ったといった様子で、慨嘆している。

 まあそうだろうなと、見なくてもその様子がありありと想像出来た。

 剣王と元拳王の訓練など、金を払ってでも見たがる人間は多いだろうし、然も二人共が己の師匠にこれ迄の研鑽を見せる為に、専用の武器・武具で有る『右月・左月』と『轟雷』での新技の練り込みをしているから、少しでも武術に興味がある者にとっては、垂涎の状況だろう。

 

 「だから、ケニー殿に人気が無くなった夜にでも、『ドライ』の飛行甲板上で練習させて貰いたいと、願いに来たという訳さ」

 

 とミツルギ殿が、備え付けの珈琲メーカーから作った『カフェオレ』に、たっぷりと角砂糖を3個も入れて(この男、厳つい顔をしてる癖に重度の甘党なのだ)美味そうに飲んで、言ってきた。

 

 「其れは構わないが、飛行甲板を壊さないでくれよ!」

 

 と二人に釘を差したら、「了解!」と戯けたような感じで返事したので、3人で笑いながらそれぞれの好みの珈琲を飲んで艦長室から見える、デグリート王国の港湾施設でも最大の造船所を眺めた。

 今其処では、アラン様と帝国の技術者が、デグリート王国の上層部とデグリート王国の誇る造船技術者に、新機軸の輸送艦と、貿易に使用する動力運搬船の設計図を渡し、説明した上で50隻に及ぶ発注の商談を行っている最中だ。

 

 こういった商談やインフラ整備を、西方教会圏全ての国で行う為に、陸上戦艦ビスマルクの大金庫には、凄まじい量のギニーが保管されている。

 もう既に、帝国に於いてはギニーよりもポイントが決済の主流になっていて、自分もギニーは外国に出ている今の状況の様な時以外は全然使わない。

 財務省のレオン大臣に以前聞かされたが、元のベルタ王国・スターヴェーク王国・セシリオ王国のギニーアルケミン3機は(この内、元ベルタ王国のギニーアルケミンは我等空軍の初任務で奪ったんだよなあ)、最大稼働させて鉱石からギニーを作り続けてるが、作ったギニーは一切帝国内で流通させず、こういった諸外国との商談や決済の場合に使用するだけらしい。

 何でも、以前の3国での市場規模と現在の帝国の市場規模では、比べるのも愚かしい程の千倍という数字になっていてこれをギニーで回すのは完全に無理であり、今後市場規模が西方教会圏全ての国で大きくなる事を想定すると遠く無い未来に、全ての国がギニーからポイントに基軸通貨が代わるだろうと説明してくれた。

 そして基軸通貨が代わった段階で、帝国の大陸制覇は完了すると教えて貰った。

 自分の様な武人でしか無い者には理解し難いが、経済や市場原理の法則から考えると数年後には、その体制になるのは自明の理であり、諸外国の目端が利く者は其れを理解して、一刻も早く帝国の傘下に加わって帝国の中で栄達を図るべく、売り込んで来る人材がいるそうだ。

 そういった、この段階で判っている人物は充分優秀なので、『ナノム玉』と動画での基礎を学ばせた後は、英才教育を受けさせて、上級官僚として養成しているそうだ。

 実は、戦争で勝負を着ける方法は、既に時代遅れなのかも知れないなと、些か軍人としては複雑な心境になったものだ。

 



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5月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝元年)《海洋大国デグリート王国での滞在②》

 5月3日

 

 「で、この若者5人はなんなんだ?」

 

 と問うと、シュバルツ殿とミツルギ殿そしてカトウが、困った顔をしながら説明して来た。

 

 「いや、俺達も詳しい状況が判らなくてな、深夜、俺とシュバルツが『ドライ』の飛行甲板上で組手練習をしてたら、歩哨が乗り降りするタラップで歩哨と押し問答を、この5人がしていて段々興奮して来て、暴力沙汰になりそうになったから俺とシュバルツがこの5人を取り押さえたら、カトウが姿を現して、「乱暴しないでやって下さい!」なんて、頼むものだから寝ている処済まなかったが、艦長であるケニーに知らせて来て貰ったって訳さ」

 

 と言うので、カトウを見ると、

 

 「・・・この若者5人は何れも、デグリート王国の誇る造船技術者のご子息とその関係者に当たり、どうも新技術の塊である陸上戦艦と陸上空母を、見学したいと父親達に願い出たそうですが許可を得られずに、デグリート王国の眼の無い深夜に見学しようと来たみたいですが、他の3隻が地上3メートル上に浮いていて近付けず、偶々荷物の搬出作業が長引きタラップが降りたままの本艦に来た様です」

 

 と説明してくれた。

 うーん、そんな事なら見せても良い範囲で見学するのは、別に止められていないから問題無いが、何故父親であるデグリート王国の誇る造船技術者達は、この若者5人に許可を出さなかったのだろう?

 

 取り敢えず、こんな深夜にアラン様のご就寝を妨げるのは、帝臣としてあるまじき無礼なので、『ドライ』の応接室に通して寛いで貰い、若者5人にある程度の質問をして客室で寝て貰った。

 

 5月4日

 

 早朝に昨夜の出来事の報告をビスマルクに報告し、ビスマルクの上級船員食堂でアラン様と我等4人、そして侵入者である若者5人が朝食を摂りながら話を聞くことになった。

 朝食は、焼き立てパン類(クロワッサンやトースト)と海鮮サラダ類、そして新鮮な玉子を使ったオムレツだ。

 我々には、ごく当たり前の朝食だが侵入者である若者5人にとっては相当美味しかったらしく、クロワッサンとオムレツを何度もお代わりして旺盛な食欲を見せた。

 食後の珈琲に口を付けながら、アラン様が若者5人に説明を求めると、リーダーである『トカレフ』と云うデグリート王国の誇る造船技術者の長の息子は、

 

 「お願いです!アラン皇帝陛下!!

 自分達を帝国の造船技術者として雇って頂けないでしょうか?

 確かに、今の我々の技術力では、帝国のお力にはなれないでしょうが、必ず技術力を帝国で磨いて将来の帝国のお役に立ちます!」

 

 とテーブルの上に頭を着ける程に下げて懇願して来た。

 フムッ、若者らしい一途な願いだ、昨夜話しを若者5人とした時も、その熱意は大したもので、特に魔法動力炉の技術に感銘を受けていた。

 

 「・・・だが、君達はこのデグリート王国の次期造船技術者の卵なのだろう?

 その期待の新人達を勝手に帝国に雇う訳には、如何に友好国とは云え許されない行為には違いない。

 本日の処は家に帰ってお父上達に、自分の願望やその熱意をぶつけて見て、どうしても聞き入れられ無ければ、私の口からデグリート王に、交換留学生や期間を設けた技術習得目的の留学等の申し入れをしてみても良い。

 きっと良い形で、君の未来を切り開ける様に努力する事を約束しよう!」

 

 とアラン様が約束して下さったので、若者5人は、

 

 「「「ありがとうございます!一生懸命父親を説き伏せて来ます!!」」」

 

 と何度も頭を下げて帰って行った。

 

 「さて、中々想定してなかった事態だが、帝国の住民以外でも学問や技術を学びたいと願う若者が居る事を知れたのは、良かったな。

 似た様なケースが今後も来訪先で起こりうるから、その為の指針と対処法を考えておかねばならないな」

 

 とアラン様が仰られたので、モニター越しに帝都コリントの教育長官を兼ねるマーリン魔法大臣と、アベル外務大臣に教育現場での留学生の取り扱いと、外国からの学問や技術を学びたいと願う来訪者達への対処法の策定を進める様に指示し、なるべく此方が負担する形で便宜を図る様にと言われ、其々の大臣は「お任せ下さい!」と了承された。

 

 続けてアラン様は、我々を伴いデグリート王宮に向かわれて、デグリート王への面会を申し入れられた。

 程無く面会する事になり、応接室でデグリート王と面会出来て、早速、昨夜から早朝までの経緯を話されて、アラン様の提案である、留学生扱い等の話をされると、デグリート王は長い髭を扱きながら思案されて、

 

 「・・・判り申した。

 実は余の方からも、何名かの留学生等を帝国に受け入れて貰えないか、提案する用意をしていて、その選抜人員をどうするか?検討させていたところでして、自らその様に熱意を持って懇願してくれる者が居るとは、渡りに船というものです。

 造船技術者で有る父親次第ですが、余の方では賛成させて頂きますぞ」

 

 と言ってくれたので、外堀りを埋める事は出来た、後は彼等若者5人が自分の父親達を説得出来るかどうかだ。

 

 5月5日

 

 翌日出立する為に、様々な荷物の搬入が忙しく行われていた時、例の若者5人の父親達の来訪を受けて、アラン様と書記官が父親達全員と面談されて、無事『トカレフ』達5人は帝国に技術留学する事となった。

 その日の夜、帝国とデグリート王国の同盟調印式が終わり、デグリート王宮からの帰路自分のデグリート王国が用意してくれた馬車に同乗した『トカレフ』に、父親をどの様に説得したのか聞いてみた、

 

 「説得と云うより、父親の愚痴を聞かされただけでしたね」

 

 と『トカレフ』が答えたので、更に問うと、

 

 「つまり、父親達が当初自分達の行動を許さなかったのは、父親達の嫉妬心の所為だったんですよ。

 何故かというと、父親達はここ数年間新しい技術を開発出来ず、従来の木造船の横帆船しか作れなかったんです。

 処が帝国の皆さんの乗る時代を飛び越えて来た陸上船を見て、驚嘆すると共に恐怖したそうです。

 このままでは、自分達は時代の遺物として誰からも相手されずに、ただ朽ちていく老木の様になってしまうのでは無いか?と

 かと言って帝国からの新技術を学ぶには、父親達は年を重ね過ぎていた。

 そんなジレンマを抱えている時に、息子である自分が帝国の技術を学びたいと言って来たので、自分自身と違い若い息子には華々しい未来が有ると感じ、その眩しさに嫉妬して思わず息子の希望に許可を出さなかったと本心を打ち明けてくれました」

 

 と述懐してくれた。

 それを聞いて、そんな事は無いだろうと『トカレフ』の父親達に言ってやりたくなった。

 大して年も違わない、自分の親父である『ガトル』は、元はしがない辺境の鍛冶師に過ぎなかったが、帝都コリントに来てから年甲斐もなく暴走しまくり、今では5つの工場の工場長でアラン様から信頼されて、あらゆる新技術の開拓と新しい武器・武具の開発を手掛けている。

 何時か、『トカレフ』の父親達と親父が話せる場を作ってやろうと思った。

 



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5月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝元年)《『ザイリンク帝国』到着》

 5月10日

 

 海洋大国デグリート王国を出立して、幾つかの小国を通り過ぎたが、此れ等の小国は『ザイリンク帝国』の従属国なので、『ザイリンク帝国』の首都である、帝都ザイリンクで開かれる『西方武術魔術競技大会』の開催パーティーにて、全員と面談する事になっている。

 なので、検問等の煩わしい手続きも無く一路『ザイリンク帝国』の首都帝都ザイリンクへ向かう。

 その間、新しく仲間になった『トカレフ』達5人の若者達は、荷物の搬入搬出作業・炊事係・トイレ掃除等の水回り管理・等の下働きをアラン様から命じられ、船員の生活実態を下働きする事によっていざ造船を考慮する時に、其れ等を活かせる様に考えながら仕事をしてみろ、と訓示されて良くその訓示を理解して『トカレフ』達5人の若者達は、真剣に仕事を熟していった。

 

 5月12日

 

 今迄の従属国でのツケを払わせるかの如く、凄まじい額の入国税を課され(そもそも招聘した国賓に対し入国税を取る事が異常だが)『ザイリンク帝国』に入国した。

 『ザイリンク帝国』の指示に従い帝都ザイリンクから100キロメートル離れた、旧都ペインの荒廃した王宮跡地に陸上戦艦と陸上空母を停泊させ、『ザイリンク帝国』から差し向けられた馬車に分乗し、我等帝国の上層部は帝都ザイリンクに向かった。

 しかし、かなり遠い距離に留め置かされたものだ、まさか馬車で一両日掛かる距離に離されるとは、デグリート王国では王都にそのまま入る事が出来たのにえらい違いだ。

 全然舗装されていない幹線道路は、乗せられた馬車が時々飛び跳ねる様に揺れるので、尻が痛くなる程だ。

 漸く帝都ザイリンクまで40キロメートルの、今夜逗留する中継都市に入れたがどうやら『ザイリンク帝国』側は、我々の為に便宜を図るつもりは無い様で、宿泊施設は用意されていなかった。

 どう考えても外交非礼に中ると思うので、我々は強く憤慨したが、アラン様は苦笑するだけで特に不満を漏らさなかった。

 仕方ないので、小さい一般の民宿等に分散宿泊して、今夜は過ごした。

 

 

 5月13日(前編)

 

 帝都ザイリンクに到着し、かなり綿密な検閲が行われた。

 アラン様にまで身体検査をすると検閲官が言い出したので、「国の代表へ対するこれがザイリンクの態度か!」と我々が怒りを表すと、検閲官は額に大粒の汗をかきながら、

 

 「本当に申し訳有りません。

 全て『ザイリンク皇帝ゴラム陛下』直々の勅命に従っての行動なのです・・・・」

 

 と最後には消え入りそうな声で訴えて来たので、我々も気勢を削がれて検閲官を気の毒に思った。

 アラン様も検閲官を気の毒に思った様で、そのまま身体検査させてやり、問題無しとなって指定された宿舎に向かった。

 宿舎は其れなりに高級ではあったが、特別に立派というわけではなく、何故か他国の王族の宿泊している区画からは、かなり離れた場所に有り、宿舎前には検問所まで設けられている。

 アラン様は、

 

 「・・・・・随分と警戒されたものだな・・・・」

 

 と此処まであからさまな『ザイリンク帝国』の我々への、警戒行動に些か辟易している感想を述べられた。

 我々も、この『ザイリンク帝国』の警戒ぶりに、当初の憤慨は無くなり、逆にこの裏に何が有るのか?と慎重に対応しようと感じた。

 夕食も持参した物で済ませ、上層部全員で宿舎の大きな食堂に集まり、宿舎の従業員には一旦離れた一室に居てもらい、会議を行う事にした。

 

 「もう姿を現して良いぞ!」

 

 とアラン様が言われると、中央情報局局長のエルヴィン局長の懐刀と言われるフランツ副官と、3人の中央情報局局員が姿を現した。

 昨日からアラン様の周囲は彼等4人が秘密裏に警護し、いざとなれば彼等が命を賭けてアラン様の身代わりになるべく行動する事になっていた。

 

 「で、情報は掴めたか?」

 

 とフランツ副官にアラン様が問うと、

 

 「ハッ、予め潜らせて置いた草から、かなりの情報を受け取りました。

 やはり、『ザイリンク皇帝ゴラム陛下』は在位10年に当たる式典を『西方武術魔術競技大会』の後に行う際に、何かを画策している様です。

 我等『人類銀河帝国』の情報は、一切ザイリンク帝国民と従属国民には明かされて居らず、此方から提供されたモニター等の情報入手出来る魔道具は、ザイリンク帝国のみならず従属国に提供された物も全て没収されていて、他国から来訪した商人や旅人は、自国民との接触を許さず取引等を終えたらザイリンク帝国から追い出しています。

 此の様な状況をいつまでも続けられる訳も無いので、恐らく何らかの状況変化を今回の式典で発表すると想定されます!」

 

 とフランツ副官は、ザイリンク帝国の現状と己の推測を報告した。

 成程、我等帝国の隔離とも呼べる現状と、他国との接触を許さないザイリンク帝国の態度は何らかの理由が有るという訳か。

 

 「フムッ、何となく予想は出来るが、しかし何とも短絡的で行き当たりばったりな気がするな。

 その辺の経緯はご存知ですか?『モーガン』殿!」

 

 とアラン様が言われたので、我等は此の場に居ない筈の人物を探し、キョロキョロと周りを見渡す。

 

 「・・・・・流石はアラン陛下、お見事だわ!

 インビジブル(不可視)魔法と、気配撹乱アーティファクトを併用してるのに、アッサリと私を認識するとは!」

 

 とテーブルのアラン様の対面に空いていた席に、座った状態の『モーガン』殿が姿を現した。

 我々が驚いているのに構わず、『モーガン』殿は、

 

 「アラン陛下とフランツ副官が懸念している通り、私と『剣聖ヒエン』、『拳聖ダンテ』も例年は断っていた『西方武術魔術競技大会』へのオブザーバー参加を決めたのは、諸々の理由が有るわ。

 それとコロシアムに機材設置に向かったハリー君達は、私の飛空船に保護しているから、安心してね!」

 

 と言われたので、アラン様は、

 

 「其れは忝なかった、感謝します。

 処で、諸々の理由とは?」

 

 感謝とともに質問された。

 

 「・・・そうね、だけど理由の説明は結構長くなるから、覚悟してね!」

 

 と言われ、それにアラン様は頷かれ我等も了承したが、まさかあんなに長くなるとは、想像を越えていた。

 



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5月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝元年)《『ザイリンク帝国』の秘話》

 5月13日(後編)

 

 「そもそもが、今のザイリンク帝国に於いて至尊の地位に居る男は、皇帝家の血筋では無いのよ!」

 

 といきなりとんでもない事実を『モーガン』殿は、我々にぶちまけた。

 

 「彼ゴラムは、前皇帝の弟にあたる大公が何処からか見つけてきた浮浪児で、大公が亡くなった自分の息子の代わりに何らかの理由で育てていて、今から11年前にその大公夫妻が馬車の橋からの転落事故で亡くなると、大公家の後継者となったの。

 そして今から10年前に、前皇帝が突然死するとその葬儀の席で、半ば無理矢理な宮廷クーデターを起こし、『ザイリンク皇帝ゴラム陛下』に成りおおせたという訳よ。

 その宮廷クーデターを起こした際に、葬儀の席に居合わせた王族と己に従わなかった貴族そして廷臣は、尽く殺されてしまい、現在宮廷に居る貴族達はゴラムに人質を取られたり進んで忠誠を誓った者達よ。

 それに続いて彼ゴラムは、ザイリンク帝国の巨大な軍事力で脅して、従属国からも人質を差し出させて無理矢理な忠誠を誓わせているわ、更に毎年前皇帝が課していた税金の3倍にあたる額をザイリンク帝国に奉納させているの」

 

 と此処で息をつくように『モーガン』殿は一旦話を止め、紅茶を口に含んで喉を潤した。

 この段階で既に、ゴラムという男に自分を含め帝国上層部は嫌悪感を抱いたが、『モーガン』殿は更に話しを進めた。

 

 「・・・つまり彼ゴラムは、何ら正当性の無い皇帝の座に力づくで居座り、従属国に対してはザイリンク帝国の持つ巨大な軍事力で脅して、朝貢させているのよ。

 この行動にザイリンク帝国民と従属国の国民は、面従腹背で通しているわ。

 その事を彼ゴラムは、把握していてより一層頑なに権力を保持しようと、自分の権威を脅かす存在に牙を向け続けているの。

 今まで西方教会圏に於いて、国力が最大と云って良いザイリンク帝国は、西方教会圏の盟主と云うべき立場に居て、私の国の『魔法大国マージナル』とルミナス教本拠である『パルテノン市国』は隣国という事もあって、仲の良い交流を続けて居たのだけど、ゴラムがザイリンク帝国皇帝に就任してからは、上辺だけの付き合いの留めていたんだけど、皇帝在位10年という事で軍事力をチラつかせながら来訪する様に求めて来て、『魔法大国マージナル』からは仕方なく私が代表して出席する事になり、『パルテノン市国』からは『ヨハネ教皇』の代わりに『ペトロ枢機卿』が出席するわ。

 だけどこれ迄まともな外交をした事も無いゴラムが、どんな行動に出るか判らないから、丁度『魔法大国マージナル』に滞在していた、元私のパーティーメンバーの『剣聖ヒエン』と『拳聖ダンテ』に護衛を依頼したの」

 

 つまり皇帝ゴラムは、己の権威を見せつける為に、『魔法大国マージナル』とルミナス教本拠である『パルテノン市国』そして『人類銀河帝国』の我等を呼び寄せた訳か。

 しかし、こんな横紙破りな行動を取り続けていて、権力を維持出来るものなのだろうか?

 その点を、『モーガン』殿に質問すると、

 

 「ご存知の通り、ザイリンク帝国は西方教会圏に於いて随一の魔道具とアーティファクトの輸出国だったから、豊富な財源を誇っていて己の手足となる軍隊には、豊富な資金で購入した大量のイリリカ王国製の魔法剣を配布して己への忠誠を繋ぎ止めているし、頭脳としてはアラム聖国から来たギロンと云う宮廷魔術師が居て、この男が皇帝ゴラムの相談役となってあらゆる策謀と施策を練っているみたいよ」

 

 と答えてくれた。

 アラム聖国だって?!

 随分とまた久し振りに聞く名前だが、今我等帝国とは休戦状態なので、積極的な帝国への敵対行為とは考え難いが、油断は禁物だ。

 我々が抱いた懸念を察して『モーガン』殿は、

 

 「貴方達が心配しているのは判るけど、話しはもっと前からで更に深い話しなのよ。

 そうね帝国として成立する前の貴方達には、密接な関係があるから無関係では無いわ。

 そもそも事は15年前に遡って、スターヴェーク王国に度々アラム聖国が領土侵攻を繰り返してた時期に、多数の工作員がスターヴェーク王国と西方教会圏に派遣された事から始まるわ。

 スターヴェーク王国に潜り込んだ工作員達は、スターヴェーク王国に併合されていた旧アロイス王国の貴族達を扇動して、スターヴェーク王国を一旦滅ぼす事に成功したけど、貴方達の手により逆にアロイス王国は完全に滅びてしまったわ。

 それとは別に西方教会圏に派遣された工作員達は、ルミナス教本拠である『パルテノン市国』に眠る門外不出の様々なアーティファクトを盗む事が目的だったの。

 だけど『パルテノン市国』には、普通には入国出来ないし、アーティファクトが保管されているパルテノン神殿は警備が厳重だわ。

 だから彼等工作員達は遠大な計画を立てて、ルミナス教本拠である『パルテノン市国』にそれなりに意見を通せるザイリンク帝国を利用する事にしたの。

 其処で彼等が目をつけたのが、大公家に居たゴラムだったという訳よ。

 恐らく彼等工作員達とゴラムは何らかの約束をして、ゴラムを皇帝位に就ける様に協力し、ゴラムは工作員達が『パルテノン市国』に容易に入国出来る様に図ったわ。

 後の事は、アラン陛下もご存知の通り、彼等工作員達は門外不出の様々なアーティファクト、例の『テンプテーション』、『ゾンビマスター』等をアラム聖国に持ち帰ったんだけど。

 その内の一人のギロンだけは、ザイリンク帝国の宮廷魔術師としてゴラムの側近くに残っているの」

 

 と説明してくれた。

 アラム聖国はありとあらゆる策動を、西方教会圏に対して行っていて、どうやら我等はまたアラム聖国の野望と戦わねばならないらしい。

 



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5月の日記⑤(人類銀河帝国 コリント朝元年)《コロシアムの罠》

 5月14日(前編)

 

 昨日は『モーガン』殿の『ザイリンク帝国』の現状の説明と、それに対しての対応策そしてアラン様の提案を受けて、『モーガン』殿は昨夜の内に飛空船に乗り『魔法大国マージナル』に戻られて行った。

 そして午前5時に早朝にも関わらず、ザイリンク帝国皇帝令として特使が我等の宿舎に来訪し、朝の内に面会したいので朝食を共にするべく、朝食を摂らずに”コロシアム”まで来て欲しいと通達して来た。

 とても、一国の元首に対しての対応では無いし、突っ込み所が満載過ぎて何処から怒れば良いのか混乱して居たが、アラン様が、

 

 「・・・どうやら、早々に決着を着けたいようだ。

 皆も判っているだろうが、既にして此処は事実上の敵地だ!

 事前に想定した幾つかのパターンに則り、対応する様に!」

 

 と改めて命令されたので、

 

 「「「ハッ!了解であります!!」」」

 

 と何時もの返事をして、全員が気合を入れ直した。

 そして宿舎から出ると、宿舎の周りは十重二十重に兵士が取り囲んで居た。

 恐らく兵士達には、事情を明かさないままの命令なのだろう、どの兵士も困惑した様な顔をしている。

 思わず、この兵士達も朝早くからご苦労な事だと、同情してしまった。

 すると道路脇から見すぼらしい馬車がやって来て、近くに居た隊長と覚しき兵士がアラン様に馬車への乗車を求めて来た。

 だが、今にも壊れそうな馬車を気の毒に感じたのか、アラン様は苦笑しながら、

 

 「どうやら都合の良い馬車は用意出来なかった様だ、”コロシアム”までは2キロメートル程しか距離も無いし、帝都ザイリンクの都市見学もしていない事だし、皆で歩いて行こうではないか!」

 

 と我々に振り返りながら仰ったので、我々も「ハッ!」と短く返答した。

 すると、隊長と覚しき兵士が慌てて、

 

 「皇帝陛下からは、是非にもその馬車で”コロシアム”に来て頂くようにと厳命されております。

 どうか馬車にお乗り下さい!」

 

 と言って来たが、

 

 「だが、其の方も見たら判る様に、今にもこの馬車は壊れそうでは無いか。

 ゴラム陛下が折角用意して頂いた馬車を、我等が乗車する事で壊してしまう訳にはいかぬ。

 其の方の役目も判るが、我等の思いを汲み取ってご寛恕頂きたい!」

 

 とアラン様は返答し、我等帝国上層部を率いてサッサと、”コロシアム”に向かう幹線道路を進んで行く。

 尚も言いすがってきた兵士に、アラン様では無くセリーナ准将が、

 

 「クドい!」

 

 と一喝して黙らせた。

 幹線道路は両側に兵士が配置され、”コロシアム”までその状態が続いている様だ。

 

 「・・・此れはザイリンク帝国国民にとっては、朝も早くから日々の暮らしに支障が生じそうだな、致し方無いから、帝都ザイリンクの都市見学は後日にしよう」

 

 とアラン様は、のんびりとした口調で我等に提案し、我等も、

 

 「そうですね、決着が着いたらゆっくりと見学しましょう!」

 

 と笑いながら返答した。

 そんな気楽そうな我等を、幹線道路両側を固める兵士達は、薄気味悪そうな態度で見送っていく。

 《哀れなものだ》と自分は思った。

 もしこの兵士達が他の国と同様に、モニターで繰り返し放送される、我等帝国軍の今までの戦闘の歴史を少しでも見ていれば、如何に危険極まりない存在が目の前にいるか判っただろう。

 幹線道路両側には片側2千人ずつ兵士が配置していて、計4千人の兵士が警戒している事になるが、

 アラン様、セリーナ・シャロン両准将、シュバルツ・ミツルギ両親衛隊長、そして自分と書記官2人の計8人(実は透明化しているカトウとフランツ副官が、人知れず近くに居るので本当は10人)にとっては、いないも同然だ。

 まあ此れが倍の8千人居た処で、我等の内1人にもかすり傷一つ付ける事は出来ないから、兵士など幾らいようが無駄だから、どうでも良い事だが。

 そうこうしている内に”コロシアム”に到着すると、そのまま案内されてコロシアムの中央にワザワザ設けられたらしい、朝食用の大きなテーブルと座席へと誘われた。

 座席に着席して、暫くの間用意された飲み物(紅茶とハーブ・ティー)を飲んでいた。

 やがて、選手入場門と思われるゲートが開き、豪壮な御位(4隅に取っ手の有る台座)に乗った金ピカな鎧を纏った皇帝と思われる人物を4人の屈強そうな男が御位を担いで入場して来て、その後に宮廷魔術師と思われる扮装の男1人と兵士50人程が続いた。

 特にアラン様に挨拶もせずに御位に担がれていた金ピカ鎧が、奇妙にギクシャクとした動きでテーブルの上座に有る座席に座った。

 そしてその金ピカ鎧の後ろに宮廷魔術師風な男が立ち、50人の兵士達は我等の座席の後方に立った。

 

 「・・・・・余が、神聖不可侵にして西方教会圏の支配者で有る、『ザイリンク帝国皇帝ゴラム一世』で有る・・・・・!」

 

 と酷く聞き取り難い、嗄れた声で皇帝と思われる金ピカ鎧が発言した。

 

 「・・・私は、『人類銀河帝国皇帝アラン・コリント一世』と申します。

 お見知り置き下さい」

 

 とアラン様は席に着いたまま、昂然と胸を張ったまま述べた。

 その様子に、宮廷魔術師風な男が眉を寄せて発言した。

 

 「無礼では無いかな?アラン殿。

 『ザイリンク帝国皇帝ゴラム一世』陛下に向かって、席も立たず頭も下げないと云うのは!」

 

 と妄言を吐いてきたが、アラン様は宮廷魔術師風な男を見向きもせずに、目の前の紅茶を飲まれて寛いで居られる。

 その態度に、宮廷魔術師風な男は激昂し、

 

 「その態度は何だ!無礼であろう!!」

 

 と怒鳴ってきたので、初めてアラン様は宮廷魔術師風な男に視線を移し、

 

 「・・・おや、私に対しての発言だったのかな?」

 

 とアラン様は、トボけた感じで仰られ、その態度に更にエキサイトした宮廷魔術師風な男は、

 

 「当たり前だろう、トボけるな!」

 

 と言い返したので、アラン様は、

 

 「いや、此の場はコロシアムの中央にあるから、天井が吹き抜けで風の音かと勘違いした」

 

 とヌケヌケと言われたので、宮廷魔術師風な男は顔を真っ赤にして、今にも顔から火を吹きそうだ。

 そんな宮廷魔術師風な男は顔を手で制して、金ピカ鎧が聞き取り難い声で、

 

 「ところで、アラン殿はせっかく余が用意した馬車に乗ってくれなかったらしいな、なぜかな?」

 

 と聞いてきたので、アラン様は、

 

 「なに、そちらで用意された馬車の馬が疲れている様なので、我等も朝の散歩に丁度良いと、このコロシアムまで歩いて来た次第」

 

 と人を食った様な返事をされると、

 

 「それは国賓に対して大変失礼した、やはりそれは担当者に罰を与えねばな!

 連れて来い!」

 

 と兵士に命じ、命じられた兵士が指示すると先程の入場門から、磔にされた男が拷問吏と磔台ごと運ばれて来た。

 よく見ると、しきりと我々に馬車に乗る様に勧めていた、隊長ではないか。

 然も鞭で打たれたのか、裸の上半身には鞭打ちされた跡のミミズ腫れが無数に有る。

 

 「この者には、どんな事があろうとアラン殿達を馬車に乗せる用に命じていたのだが、役目を果たす事が出来なかった。

 余の命令を遂行出来なかった罪は万死に値する、拷問吏よ処刑せよ!」

 

 と命じた。

 その命に従い拷問吏は、磔にされた隊長の脇目掛け槍を突こうと身構える、隊長は叫ぼうとするが喉を潰されているらしく、ヒューヒューという音が口から出るだけだ!

 いよいよ拷問吏が槍を突きだそうとした瞬間、

 

 「グアッ!」

 

 と拷問吏が呻き、槍を地面に落として蹲る。

 その腕には、深々と木で出来たフォークが突き刺さっている!

 見ると、目の前に有るサラダボウルに入れてあった、木製のフォークが無くなっている。

 

 「おや、手が滑った様だお許しあれ」

 

 と戯けた様子でアラン様は言われた。

 

 「何をする、無礼ではないか!」

 

 と宮廷魔術師風な男が、アラン様を非難して来たが、アラン様は馬耳東風といった様子で聞き流す。

 すると金ピカ鎧が、ワナワナと震え出したかと思うと、

 

 「・・・・・おいっ、ギロンよ、充分に時は稼げたから、もう茶番はいいだろう!

 俺はもうこれ以上コイツの近くで耐える事は無理だ!

 コイツ(アラン様を指差し)は、あの大公の息子だった『アサイラム』を思い出させるんだ!

 あの偽善者は、貴族でありながらスラム街に度々やって来ては、炊き出しを行い。

 浮浪児だった俺を憐れむ様な眼で見て、常に蔑んでいたんだよ。

 絶対に許すものか!この世にいる恵まれた奴らは全て俺の敵だ!

 必ず俺の目の前に跪かせてやる!」

 

 と怨念じみた独白を行い、ギロン(宮廷魔術師風な男)と呼ばれた男は、

 

 「そうですね、座席に仕込んだ物と飲み物に入れて置いた、遅効性の麻痺毒は充分に効いた筈です。

 処で、アランと男共は例の奇妙な船の操作法を聞きだしたら殺すとして、この女二人はどうします?」

 

 と舌舐めずりして、金ピカ鎧に聞いた。

 

 「当然俺が頂く!

 俺が飽きたら、お前に下げ渡すからその後は、好きにすれば良い」

 

 とピクリとも動かないセリーナ・シャロン両准将を見ながら、とんでもない台詞を吐き我等の後ろに立っていた兵士達に、我等を拘束する様に命じた。



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5月の日記⑤(人類銀河帝国 コリント朝元年)《コロシアムの能力とギロンの正体》

 5月14日(中編)

 

 「しかし、思ったより呆気なく済んだな。

 残りの3個の罠を使う必要が無かった、警戒しすぎたか?」

 

 と金ピカ鎧が呟き、ギロンが、

 

 「まあまあ、ゴラム陛下。

 今後他国を例の船で蹂躙して行く際に、今回使用しなかった罠は使えますので、無駄では無いですよ」

 

 と返事し、自分に近づいて来た。

 

 「・・・・・もう芝居しなくて良いぞ!」

 

 とアラン様が、仰られたので両肩を掴んでいた兵士を両手でギロン目掛け投げ飛ばした。

 慌ててギロンは避けようとしたが、避けきれずにぶつかり無様にひっくり返った。

 

 「な、何だと!」

 

 とギロン倒れたままは、心底驚いた様子で狼狽えている。

 

 「・・・どうやらアラム聖国とは繋がりの切れた、はぐれ工作員という情報は正しかった様だな」

 

 とアラン様は呟かれ、何事も無かった様にスクッと立ち上がった。

 

 「なにっ!毒が効いていないのか?!」

 

 金ピカ鎧が狼狽えた様に叫ぶが、我等にはアラン様を抑えようと近づいた兵士の急所に、アラン様の寸勁が叩き込まれたのは見えており、今まで抑え込まれている様に見せて居たのは、アラン様が兵士を支えて居たからに過ぎない。

 しかし、此奴等は真正の馬鹿だな、普通罠に掛ける相手の情報は、事前に入念な迄にチェックして計画に穴の無いように完璧を目指すものだ、だが此奴等は巷に溢れる程出回っている、我等の強さの情報を少しも入手していない様だ、その情報にはまことしやかに、帝国軍には毒が効かない(実際その通りなのだが)というものもあるというのに。

 此処まで馬鹿だと或る意味感心してしまいそうだ、こんな体たらくでよくザイリンク帝国という大国を掌握出来たものだ、いや、もしかすると当初の宮廷クーデターは、優秀なアラム聖国の工作員が手を貸していたからこそ出来た事で、目的を達成した彼等工作員はサッサと撤退している事を考えると、この愚かな二人はアラム聖国にとって策謀が終わり価値が無くなったザイリンク帝国と云う残骸を、火事場泥棒よろしく掻っ払っただけの、盗人に過ぎないのだろう。

 我等が全員似たりよったりの感想を持って立ち上がり、二人を見下ろしているのにどうやら気付いたらしく、全身から怒気を発して金ピカ鎧が叫んだ。

 

 「貴様らー!

 この俺を、蔑んだ眼で見下すんじゃねえ!

 あああああああああ、憎い!憎い!憎過ぎて気が狂いそうだあああああああああ!

 殺す!絶対に殺してやるぞ!!俺を見下した奴はどんな事があろうと惨たらしく殺してやる!!!

 殺した後は、肉を細切れにして豚に喰わせ、骨や他の部分は肥溜めに沈めてやるぞおおおおおお!」

 

 と凄まじい怨念めいた呪詛を、我等に叩きつける様に金ピカ鎧が吠えている。

 よくもまあ僻みや嫉みだけで、此処まで人を恨めるのかと呆れていると、

 

 「ギロン!

 ”コロシアム”のペナルティーシステムを最大稼働させよ、コイツらを身動きできないようにするんだ!!」

 

 と金ピカ鎧が叫ぶと、ギロンが持っていた杖を翳しながら叫んだ!

 

 「ペナルティーシステム起動!対象個体全員に《マナ阻害MAX!》《身体拘束MAX!》期間は私が止めるまで!」

 

 すると、突然身体が重くなり、身体のキレも悪くなった。

 

 「おいっ、シュバルツ何だか身体の周りの空気が、まとわり付いて動き難く無いか?」

 

 「嗚呼、某の身体も重くなった様に感じるぞ!」

 

 とミツルギ・シュバルツ両親衛隊長も、身体の異変を訴えた。

 

 「・・・・・どうやら、此れが『モーガン』殿が説明してくれたこの”コロシアム”の能力らしいな。

 皆、予定通りなので、各々『循環魔法』を発動せよ!」

 

 とアラン様が指示され、我等も「了解しました!」と返事した。

 昨日の『モーガン』殿の言葉が脳裏に浮かぶ。

 

 《恐らく、ゴラン達は貴方方を何らかの方法で”コロシアム”に誘い出す筈よ。

 何故なら”コロシアム”ならば、貴方方の戦闘力の大半を奪えて無力化出来るとゴラン達は考えると思うわ。

 ”コロシアム”は、実はそれ自体がアーティファクトで、古代の遺物そのものなの。

 魔力は使えなくなるし、身体は拘束された様になるわ。

 50年前くらいに私が試した事があるんだけど、大体感覚としては体重が3倍位に重くなるし、魔法は撃ち出せなくなるわ》

 

 『モーガン』殿の言われた通りの様で、ファイアーをイメージしても炎は出てこない、

 しかし、アラン様が指示された『循環魔法』ならば体内で問題無く発動出来るようだ。

 我等が其々で、身体の状態を確かめているのを見て、気を良くしたのか、

 

 「どうだ!魔法も使えず、身体もまともに動かせまい!今から惨たらしく殺してやるぞ!

 特にアラン!貴様は弟の仇だからな!じっくりと殺してやる!」

 

 とギロンがアラン様に対して、憎悪を込めた呪詛を吐いた。

 

 「・・・弟?・・・」

 

 と数秒アラン様は考え込まれ、何かに気付かれた様に、

 

 「・・・もしかしてお前の弟の名前は、『ギラン』というのか?」

 

 と発言されたが、自分は『ギラン』と言われても、中々思い出せない。

 

 「そうだ!弟はアラム聖国の命令の元で、工作員としてセシリオ王国のルージ王の側近となり、順調にセシリオ王国を乗っ取っていたのに、貴様の所為で弟は命をおとしたのだ!」

 

 其処まで言われて、漸く自分も思い出した。

 『ギラン』と云う男は、セシリオ王国のルージ愚王の側近となり、貴族や家臣達をアーティファクトで操り、ヒルダ嬢も操る事でフェンリルを従え、ケットシー128世の猫の王国を凍りつかせた上に、魔獣や魔物をアーティファクトで操って、ファーン侯爵領に攻め込んで来た男だ。

 結局魔獣や魔物達はアーティファクトの命令を解除出来ず、ケットシー128世がアーティファクトを使用する事で戦争の道具として使うしか無かった、後味の悪い出来事だった。

 常に人を罠に落とそうとする手口は弟とソックリで、兄弟共によく似ている。

 

 「さあ、出て来い『ブラック・アーミー』よ、コイツらを殺さない程度に痛めつけろ!」

 

 と金ピカ鎧が嗄れた大声を上げると、”コロシアム”の入場門以外のゲート3つが開いて、其処から黒い鎧を着た兵士達が姿を現した。

 総勢凡そ300人といった処か、と数えていると、

 

 「どうだ!魔法も使えず、身体もまともに動かせない状態では、これだけの数の兵士には対抗出来まい!

 精々のたうち回るまで、痛めつけてやる」

 

 と狂気に歪んだ眼で此方を見ながら、ギロンは妄言を吐いた。

 まあ、此奴等の様な真正の馬鹿は、事実としての結果を叩きつけないと、到底理解出来ないのだろうなと皆思ったらしく、無言で『ブラック・アーミー』とやらが近づいて来るのを、待ってやった。

 



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5月の日記⑥(人類銀河帝国 コリント朝元年)《ゴラムとギロンの結末》

 5月14日(後編)

 

 「ようゴラム陛下!コイツらを痛めつければ良いのか?」

 

 と『ブラック・アーミー』の中で兜に羽飾りを着けた隊長と思われる男が、己の主君に対しての会話と思えない言葉使いで話している。

 

 「もう少し貴族らしい、話し方をしろ!

 出自がバレるぞ!」

 

 と金ピカ鎧が下卑た笑いをしながら、隊長と思われる男に言うと、

 

 「ヘイヘイ、判りやしたよ、ザイリンク帝国ゴラム陛下様」

 

 と返事をしている、どうやら普通の出自の兵士では無いようだな、と考えていると、

 

 「おいっ、てめえら顔が判る程度に痛めつけてやれ!」

 

 と兵士に命令した。

 兵士達も下品極まり無いニヤけた様子で、セリーナ・シャロン両准将に無造作に近付き、手を伸ばした瞬間そのまま前屈みに倒れて行く。

 

 「焦ってけつまずいてるんじゃねえよ、バカが!」

 

 と隊長と思われる男が、笑って揶揄していたが、続く兵士達も同じ様に前屈みに次々と倒れて行くので、徐々に異変に気付き焦り始めた。

 

 「・・・・・おいっ、他の男共を痛めつけろ!」

 

 と自分の周りに居た兵士に命令し、シュバルツ・ミツルギ両親衛隊長に兵士10人程が近付き、先程のセリーナ・シャロン両准将に近付いた兵士と同様に倒れて行った。

 

 「オオッ、これは良いぞ!

 良い感じで負荷が掛かって、訓練にはもって来いだ!」

 

 と喜色に溢れた感想を、ミツルギ親衛隊長は述べて、続いてシュバルツ親衛隊長が、

 

 「嗚呼、アラン様の指示通りに、『循環魔法』のトレーニングモードで身体を動かすと、負荷が二重に掛かって非常に良い訓練になる、是非帝国の訓練場に同じ機能を持つ魔道具で再現して貰いたいものだ!」

 

 と腕を回して負荷の具合を確かめている。

 

 「そうだな、だが其れはあくまでも『ナノム玉2』を服用している我等だけの話だから、書記官達は逆に『循環魔法』の強化モードで応戦する様に!」

 

 と自分は書記官2人に命じ、

 

 「了解です!」

 

 と書記官2人は、兵士達を投げ飛ばしながら応じてくれた。

 

 「・・・バッ馬鹿な!何故このように自由に動けるのだ!とてつもない拘束力でどんなに屈強な男だろうと、普通の人間になすすべ無くやられてしまうのだぞ!」

 

 と金ピカ鎧が狼狽えまくり、

 

 「・・・ええい!アランだ、アランの奴を全員で攻撃するんだ!」

 

 と命令し、残った250人程の兵士が剣を一斉に振りかぶりながら、アラン様に殺到する。

 

 アラン様は、帝都ザイリンクに入る際に我々と同様に身体検査されて、身に寸鉄も帯びていないが、ゆらりと身体を動かされて、250人程の兵士の前に歩を進めた。

 すると、人柱と云うべき現象がアラン様が進む度に人が地上高く吹き上がった!

 実際に見ていないと分かりづらいが、アラン様に突っ込んできた兵士にアラン様が手で触れると、そのまま兵士達は地上5メートルくらいに吹き上がり、そのまま受け身も取れずに地面に叩きつけられるのだ。

 

 「・・・相変わらず見事な《合気》だな!」

 

 「・・・嗚呼、流石であるな!」

 

 と自分に向かってきた兵士を倒し尽くしたシュバルツ・ミツルギ両親衛隊長が、のんびりと腕を組んでアラン様を評している。

 自分は、身体を透明化させてその様子を証拠資料として、カメラを回してムービーに収めているフランツ副官に、

 

 「カトウは?」

 

 と聞くと、

 

 「例のペナルティーシステムを掌握しに、”コロシアム”基幹部に向かってますよ!」

 

 と緊張感の全く無い返事を貰い、順調に計画通りに事が進んでいる事を確認した。

 

 「なっ、何をしている援軍に来い!」

 

 と『ブラック・アーミー』の隊長が、金切り声で叫ぶと、ゾロゾロとゲート3つから追加の『ブラック・アーミー』援軍700人程がやって来た。

 

 「もう面倒臭いから、訓練は止めましょうよ!

 手短かに倒しちゃうわよ!」

 

 「・・・そうね、こんな連中とは幾ら戦っても、大した訓練にはならないわ!」

 

 とセリーナ・シャロン両准将は呟き、そのまま文字通りに空中を駆けた!

 厳密にいうと、やって来る兵士の頭を踏み台にして、八艘飛びをひたすら繰り返し、其の都度兵士達を軍靴で踏みつけて倒して行ってる訳だが、その間一切地面に着地していないのだから流石である。

 自分の護身に徹している書記官2人以外の我等によって、15分くらいで1000人の『ブラック・アーミー』は隊長も含めて倒されてしまった。

 その光景が現実と認識出来ないのか、ポカンといった顔をしていた金ピカ鎧とギロンは、最後の『ブラック・アーミー』の隊長が、セリーナ准将に蹴られて”コロシアム”の壁面に叩きつけられて大きな轟音が鳴り響くと、漸く我に返ったようだ。

 

 「・・・こ、こんな事が・・・!」

 

 と金ピカ鎧は呻き、ギロンは我々を睨み歯ぎしりしている。

 

 「さて、打ち止めかね?」

 

 とアラン様がそんな2人に聞くと、

 

 「・・・まだだ!まだこれからだ!」

 

 とギロンは言い放ち、指に嵌めていた禍々しい指輪を光らせて呪文らしき言葉を叫ぶと、指輪から黒い靄が吹き出して来た。

 暫く様子を見ていると、3頭の禍々しい瘴気を纏った魔獣が目の前に現れた!

 

 「どうだ!これが『ザイリンク帝国』の秘宝の一つ、『降魔の指輪』だ!

 お前達の目の前に居るのは、地獄の犬『ガルム』2頭と、地獄の番犬『ケルベロス』だぞ!

 こやつら3頭なら大国の軍隊でも蹴散らす事ガ出来るのだ!精々憐れみを乞うが良い!」

 

 とギロンは叫んだ。

 フムッと自分は3頭を観察すると、地獄の犬『ガルム』は体長7メートル程で、グレイハウンドの3倍くらいの体格の真っ黒い犬だが、口からチロチロと炎が見え隠れしているから、恐らく炎を吐くのだろう。

 地獄の番犬『ケルベロス』は頭が3つ有って、体長10メートル程の犬だが、此方も口からチロチロと炎が見え隠れしているから炎を吐くのだろう。

 

 「流石に訓練は止めた方が良さそうだ。

 各自『循環魔法』を通常モードに戻せ!」

 

 とアラン様が指示されたので、『循環魔法』のトレーニングモードは解除して通常に戻る。

 

 「よくやったギロンよ!

 この地獄の魔物ならば、今後の他国征伐にも役にたとう!

 さあ、この犬共に命令を下しコイツらを食い散らかせろ!」

 

 と金ピカ鎧が喚き散らし、ギロンが、

 

 「お任せ下さい!

 さあ地獄の犬どもよ、敵を食い散らかせ!」

 

 と命令を下したが、『ガルム』と『ケルベロス』は命令して来た二人に対して振り返り、ゆっくりと近づいて行く。

 不審に思ったらしいギロンが、再度命じた。

 

 「・・・どうした?あっちにいる奴らがお前達の敵だぞ!こちらに来る必要は・・・・・無い・・・・・」

 

 と喋り終わらずに『ケルベロス』の真ん中の頭が、大きな顎を開きギロンを飲み込んだ!

 

 「グギャアアアアアーーーーー!」

 

 と悍ましい悲鳴を上げて、金ピカ鎧の胴体を上下に2つに分ける様に、『ガルム』2頭が喰らいつき、同時に首を振ると汚物の様な内蔵を撒き散らして、金ピカ鎧は『ガルム』に喰われて逝った。

 

 まあ、相応しい最後だなと少しも気の毒に思わないでいると、

 

 「これが良いんじゃない?」

 

 「うーん、もっと上等なのは無いの?」

 

 「俺は、この手甲にしよう!」

 

 「某は、この2剣に致そう!」

 

 「私は、最近槍の練習をしているから、この槍にしよう!」

 

 我々は二人の最後など心底どうでも良いから、『ブラック・アーミー』が落とした武器の中から、使えそうな物を拾い上げて、感触を確かめている。

 

 「さて、些か早いし変則的だが、『西方武術魔術競技大会』の武術部門のお披露目といこうではないか、もっとも相手はたかが犬ころなので、張り合いの無い事甚だしいが、文句を言ってもしょうがない。

 幸いこの様子は、全てムービーに収めている(とアラン様は透明化しているフランツ副官に振り返り)から、エキシビジョンマッチとして、放送して貰おう!」

 

 とアラン様が宣言されると、

 

 「「「了解です!」」」

 

 と笑いながら、全員が返事した次の瞬間、

 

 「「「ガアアアアアーーー!!」」」

 

 と咆哮を上げながら地獄の犬共3頭が、こちらに向かい突っ込んで来た!

 

 アラン様は足元にひっくり返っている、朝食の為に用意された大きなテーブル(長方形に長く全長10メートル程)を、軍靴のつま先を潜らせて少し浮かせると凄まじい蹴りをテーブルに叩き込んだ!

 テーブルは回転しながら地獄の犬共3頭にぶつかり四散した!

 地獄の犬共3頭は、無様に倒れて慌てて起き上がって来たが、信じられないものを見る様に、アラン様に視線を向けた。

 アラン様は別に気合を入れている訳でも無く、槍を肩に担いで地獄の犬共3頭に対し手で招く動作をされた。

 その時明らかに地獄の犬共3頭は、自分より遥かに強い敵(例えばドラゴン)を目の前にしたかの様に、身をガタガタと震わせて尻尾を折りたたみ怯えた様子をみせたが、我々がドラゴンなどより小さいのに気付き本能を無視して、襲いかかってきた。

 《馬鹿な犬どもだ、本能に従って我等に降伏すれば命が救われる可能性もあったのに》

 と思いながら、自分とアラン様は中央の『ケルベロス』に向かい、セリーナ・シャロン両准将は左の『ガルム』、シュバルツ・ミツルギ両親衛隊長は右の『ガルム』を相手に決め、全員が構えた。

 

 ほぼ同時に、『ケルベロス』と『ガルム』は合計5個の顎から地獄の炎を我々に吐いてきた!

 我々6人は地獄の炎をアッサリと避け、

 

 「コリント流剣術奥義《ビックバン・バースト》!」

 

 「コリント流剣術奥義《サンダー・ボム》!」

 

 とセリーナ・シャロン両准将はコリント流剣術 の奥義を叫び、凄まじい連撃を『ガルム』の左右から仕掛け、ずたずたに引き裂いてしまった!

 

 「神剣流奥義《二連朱雀》!」

 

 「神拳流奥義《火産霊》!」

 

 とシュバルツ・ミツルギ両親衛隊長は神剣流と神拳流の奥義を叫び、2剣と手甲に炎を纏わせて『ガルム』の左右から十字の切り裂きと拳の連打を浴びせ、燃やし尽くす!

 

 自分は『ケルベロス』の真正面に立ち、精神を集中させると突っ込んでくる『ケルベロス』に向け、

 

 「コリント流剣術奥義《ジャスティス・ジャッジメント》!」

 

 と叫び『ケルベロス』の真ん中の頭を、真っ二つに唐竹割りした!

 

 残り2つの頭が自分に襲いかかってきた瞬間!

 

 「コリント流槍術奥義《神槍八華閃》!」

 

 とアラン様がコリント流槍術の奥義を叫び、左右両方の『ケルベロス』の頭に一瞬の内に4つずつの穴を穿った!

 

 結局6人の奥義を喰らって地獄の犬共3頭は、断末魔も上げれずに黒い靄に戻りそのまま消えていった。

 

 「バキンッ!」

 

 という音と共に、『ケルベロス』が消えていった地面に落ちていた『降魔の指輪』が壊れ、そのまま崩れ去っていく。

 

 「やはり手応えが無かったな、これなら武器を持った『オーガキング』の方が余程強いぞ!

 そういった魔物がゴロゴロいる『魔の大樹海』が如何に訓練に適しているか判るというものだ!」

 

 とアラン様が感想を述べ、

 

 「「「全くです!」」」

 

 と我等も応じ、首謀者二人が地獄の犬共3頭と一緒に消えてしまったので、ある程度の事情を知ってそうな『ブラック・アーミー』の隊長を尋問する用意を始めた。

 



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5月の日記⑦(人類銀河帝国 コリント朝元年)《ザイリンク帝国併合》

 5月15日

 

 あれから、直ぐに陸上戦艦と陸上空母を帝都ザイリンクの四方に配置させ、帝都ザイリンクに戒厳令を布告して、『モーガン』殿の飛空船が戻って来た時には、ザイリンク帝国の帝都に居る兵士達は陸上戦艦と陸上空母に乗っていた帝国軍の元で武装解除された。

 此処まで簡単に帝都ザイリンクが陥落したのには、ある理由が有った。

 10年前の宮廷クーデターの際に、帝都に居住する皇族と貴族そして家臣は、ゴラムとギロンそしてアラム聖国の工作員達の手により尽く殺されており、政治を司る人間が居なくなっていたのだ。

 アラム聖国の工作員達は、そもそも目的が『パルテノン市国』のアーティファクト保管庫の有る『パルテノン神殿』への侵入だっただけで、ザイリンク帝国がどうなろうと知った事では無い。

 このボロボロの状態のザイリンク帝国を乗っ取ったのが、ゴラムとギロンな訳だが、当然此奴等に政治が出来る訳がない。

 仕方なくゴラムは、スラムでの盗賊仲間を殺してしまった貴族に成りすまさせて、体面だけを取り繕い、自身は皇宮深くに居るだけで、表には一切出ずに居て、どうしても出席しなければならない場合は、例の金ピカ鎧を着て取り繕っていたらしい。

 なので帝都に居る住民は、皇帝がゴラムという人物になった事は流石に知っているが、姿形を全然知らずそれどころか出自もスラムでの盗賊仲間以外誰も知らなかった。

 それで特に大きな不満等が出ずに居たのは、住民達にとって一番重要な税金の取り立てが10年前から、一切変わらず生活の不安定さは、帝都に限っていえば精々インフラ整備が行われなかったり、新しい道路の敷設が無かったくらいである。

 ただし其れはあくまでも帝都だけの話しであり、ザイリンク帝国の地方の荒廃は著しく、殆どの国民は従属国や周辺諸国の親戚や知り合いの所に身を寄せていた。

 こんな状況にも関わらず、ゴラムとギロンはザイリンク帝国の持つ魔道具やアーティファクトを他国に売りつけ、自分達の関心のある貴族への虐待の為に、”コロシアム”を増築して其処で行われる闘技会という名の、『ブラック・アーミー』を差し向けて捕らえてきた地方貴族の虐殺という仕打ちを頻繁に行っていた。

 この状態にも関わらず従属国や周辺国家が叛旗を翻さなかった原因は、まだまだザイリンク帝国の軍隊は強く(ゴラムとギロンは軍隊だけは懐柔していた)とてもでは無いが、対抗出来ない所為もあるが、いざ倒してもザイリンク帝国がこの10年で抱え込んだ色々な意味での負債をとても支払えそうも無かったからだ。

 だが、流石にこれ以上の朝貢は支払えないので隣国である、『パルテノン市国』と『魔法大国マージナル』に協力を仰ぎ、『ヨハネ教皇』と『モーガン』殿の合意の元で我等『人類銀河帝国』の手でゴラムとギロン達を断罪し、ザイリンク帝国はそのまま『人類銀河帝国』へ併合してしまう事にしていたそうだ。

 以上の事を『モーガン』殿は、事情を知らない自分やシュバルツ親衛隊長達に夜のミーテイング時に教えてくれた。

 しかし、こんな大国がこんな小物の手によって壟断されていたとは、情けない話だと呆れかえるばかりだ。

 

 5月20日

 

 ザイリンク帝国の従属国5カ国と、隣国である『パルテノン市国』と『魔法大国マージナル』の代表者の面々が一同に揃い、調印式が執り行われた。

 ザイリンク帝国代表として、『魔法大国マージナル』に亡命していた『ノーマ公女』と云う皇族としては傍流になるが唯一の皇家の方が最後の皇帝になり、ザイリンク帝国の解散と全ての国土と国民が『人類銀河帝国』へ併合される旨が宣言された。

 この宣言は直ちに『ヨハネ教皇』の代理人である『ペトロ枢機卿』が承認され、『魔法大国マージナル』の代表者たる『モーガン』殿、そして従属国5カ国の代表者達が署名されて、正式な公文書となり西方教会圏全ての国に公布された。

 これによりザイリンク帝国の帝都ザイリンクは『公都ザイリンク』となり、従属国5カ国の王族は『人類銀河帝国』の華族となり、王達は侯爵位を賜り以下はそれに準ずる事になる。

 こうしてザイリンク帝国とその従属国は『人類銀河帝国』に併合され、西方教会圏全土に於ける約半分の領土が『人類銀河帝国』の領土となり、人口は1億3千万となりアラム聖国を越える事となった。

 

 5月22日

 

 改めて『人類銀河帝国』の名のもとに”コロシアム”で開催する競技会を、『西方武術魔術競技大会』から名前を変えて『世界武道大会』として、第1回を6月6日に開催する事が決まり、西方教会圏全ての国に公布されて、それに参加を希望する者には渡航費と滞在費は全て『人類銀河帝国』が負担すると通達された。

 2つのバトルロイヤル(武器を使用する部門と徒手空拳の部門)を勝ち残り、決勝に進んだ2人には其々武器を使用する部門はシュバルツ殿、徒手空拳の部門はミツルギ殿と戦って貰う。

 更にその2人をも退けたならば、アラン様と対戦出来る事が通達された。

 この発表に、帝国軍人の中からも参加申し込みが殺到したので、帝国軍の中で参加する者を厳選する為に腕自慢達による大会が”コロシアム”で行われる事になった。

 随分と大きな催し物になったものだが、やはり武術にこだわりのある軍人としては、非常に興味があり楽しみな事だ。

 



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6月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝元年)《『世界武道大会』①》

 6月1日

 

 「よう、不肖の元弟子、調子は良さそうじゃないか!」

 

 と自分と組手をしているミツルギ殿に、無遠慮な声を掛けてくる者が居た。

 

 「おや、酒毒で寝込んで居るかと思えば、随分元気良さそうじゃないですか、『拳聖』!」

 

 とミツルギ殿が、声を掛けて来た50歳くらいの壮年の男性に対して、減らず口を叩いた。

 

 「吐かせ、破門された元弟子が、噂の帝国の親衛隊長様になられて居ると聞いて、表敬訪問に来てやったのよ!」

 

 「それは、どうもご丁寧に、こちらは至って毎日充実していますよ!」

 

 「腕は鈍っていないんだろうな?」

 

 「鈍るどころか、道場を出てから2倍は強くなってますよ、今なら確実に『拳聖』である貴方に勝ってみせますよ!」

 

 「・・・その様だな・・・良くぞそこまで鍛えられたものだ!殆ど人の領域を越えているじゃねえか、どうやってそこまで極めた!」

 

 「まあ教えるのは、吝かではないですが、帝国へ所属して貰う必要がありますがね」

 

 「・・・やはりか、お前のその能力の伸びは帝国へ所属する事で得られたんだな!

 だが、その伸び方は無理に強化したものじゃねえな!

 寧ろ歪んでた部分が矯正されて、健やかな成長が促進されてやがる!

 どうしたらそんな良い事ずくめの矯正された進化が出来やがるんだ!

 是非アラン皇帝陛下に会わせてくれ!」

 

 と後半は、自分に頭を下げて懇願して来た。

 この異様な精気に満ち溢れた人物が、『拳聖ダンテ』様か!

 肩書の割に軽い口調だが、その佇まいは流石は『拳聖』まるで隙がない。

 

 「・・・今少ししたら、この”コロシアム”の中継モニターのチェックが終了しますから、どうぞ直々にお会いになって下さい!」

 

 と説明したら、『拳聖ダンテ』様は自分の事も観察して、

 

 「ふーん、・・・・アンタも相当出来るな!

 俺の弟子共の内アンタに勝てそうなのは、1人しか居ねえな!」

 

 と評価してくれた。

 

 「ほう、今のケニー殿に勝てそうな奴とは、もしかしてあいつか!」

 

 とミツルギ殿が聞くと、

 

 「ああ、『ダルマ』だよ、現在の『拳王』殿さ。

 あいつも今度の『世界武道大会』に出る予定だから、稽古をつけてやってくれや!」

 

 と話していると、アラン様がカトウを連れて、”コロシアム”の照明具合をフィールドで確かめながらこちらに来られた。

 

 其処に居た全員が片膝を着いて出迎えると、アラン様は、

 

 「挨拶などせずに訓練を続けてくれ、ミツルギ殿には徒手空拳部門の優勝者と戦って貰うのだからな、ベストを尽くして貰いたい、そして、

 お初にお目にかかる、私はアランと申します『人類銀河帝国』では皇帝をやらせて頂いておりますが、単身の自分は一介の武人に過ぎません。

 偉大なる先達たる武人の頂点のお一人、『拳聖ダンテ』殿にお会いできて光栄です」

 

 と丁寧に頭を下げられた。

 

 「と、とんでもない、私など武人の頂点を名乗れる程の者じゃないですよ。

 あくまでも先代から譲られただけで、まだまだ道半ばと思ってまして・・・」

 

 とかなり恐縮されたご様子だ。

 ミツルギ殿が、突然吹き出して笑い、

 

 「『拳聖』がこんなに恐縮してる姿を見るのは初めてだ!

 『拳聖』様よー、アラン陛下は非常に話せる御仁だから、地のままでいいぜ!」

 

 と『拳聖』を冷やかし、アラン様も、

 

 「そうですな、此処に居る全員が武人ですので、宮廷ごっこをする必要は無い。

 どうぞ、くだけた調子で話されて下さい。

 私もその方が良くて、肩が凝らなくて済む」

 

 と笑われながら肩を回されて仰られた。

 

 「・・・そうですかい?それでは遠慮無く話させて頂きます。

 しかし、噂で聞いていた御仁とは、まるで違う方だな!

 外見だけは生まれながらの貴公子然としていて、気品に溢れていなさるが、上手く内に秘めて居られるその気配。

 まるで人間の皮を被ったドラゴンの様だ!

 とても人間の範疇に収まる人物じゃねえ!

 神話の英雄だって言われても俺は信じるぜ!」

 

 と手放しで『拳聖』はアラン様を褒められた。

 やはり『拳聖』程の方となると、アラン様の上辺だけの貴公子然とした佇まいには騙されず、その内なる武神の如き気配を濃密に感じられるのだろう。

 

 「・・・流石だな『拳聖』様よ、アラン陛下は俺や『剣王シュバルツ』が同時に掛かっても、いなしてしまうくらいの高みに居られるんだぜ!

 何時か、暇な時に稽古をつけて貰いなよ!」

 

 とミツルギ殿が揶揄する様に言われたが、『拳聖ダンテ』様は満更でもないのか、「うむ!そうさせて貰おう!」と頷いている。

 

 「嗚呼、そう云えば『賢聖モーガン』殿から、依頼されていたので今お渡しします」

 

 とアラン様は言われて、カトウが差し出してきた小箱を『拳聖ダンテ』様に向かい、

 

 「此れは『ナノム玉2』と申しまして、身体の改善と魔力の循環を促進する物で、皆が精霊の加護と言っている物です。

 『賢聖モーガン』殿が『拳聖ダンテ』殿と『剣聖ヒエン』殿に、是非提供して欲しいと依頼された物です。

 どうぞ、お受け取り下さい!」

 

 とアラン様は『拳聖ダンテ』様に手渡された。

 震えながら『拳聖ダンテ』様は受け取り、

 

 「・・・こ、これが、ミツルギがさっき言っていた物で、『賢聖』のしわくちゃババアが突然俺より若くなっちまった、とんでもないアーティファクトか・・・!」

 

 と呆然とした様子で独白している。

 《まあ無理もないな》

 と自分も思う、誰が400歳を越える老婆を一晩で40歳程に若返らせてくれる秘宝を、何の見返りも無くアッサリとくれるだろうか。

 

 震えながら『拳聖ダンテ』様は小箱を開け、『ナノム玉2』を手に取る。

 

 「無理に飲まれる必要は御座いませんよ、あくまでも飲むのは『拳聖ダンテ』殿のご自由になさって下さい。

 私と帝国は強制するつもりは一切御座いません」

 

 とアラン様は仰られたが、

 

 「いえ、是非この場で飲ませて頂きます!」

 

 と『拳聖ダンテ』様は言い、そのまま『ナノム玉2』を口に放り込まれた。

 

 「おおっ、溶ける様に消えたが、これで宜しいのかな?」

 

 と言われたので、アラン様が、

 

 「それで宜しいですよ。

 一晩眠られて明日、魔法等の使用に関するイメージムービーを見たら、完了です!」

 

 と言われたので、『拳聖ダンテ』様は、

 

 「そいつは良い。

 ああ、明日起きるのが楽しみですぜ!」

 

 と心底明日が楽しみらしく、莞爾と笑われた。

 



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6月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝元年)《『世界武道大会』②》

 6月3日

 

 「久方振りで有るな、『剣王シュバルツ』腕は上がったか?」

 

 と自分と剣戟をしているシュバルツ殿に、声を掛けてくる者が居た。

 

 「オオッ、此れは師匠!一別以来です!」

 

 と両膝を着いてシュバルツ殿は、声を掛けて来た総髪の60歳程の男に頭を下げた。

 とすると、この人物こそが『剣聖ヒエン』様か!神剣流の創始者にして、当代の武人として最高峰の地位を『拳聖ダンテ』様と分け合う人物だ!

 かなり前にスターヴェーク王国が健在な頃、王都にて武芸指南として滞在されて、王太子始めクレリア様やダルシム中将等の全ての武人達に、神剣流剣術を指導されたが、生憎自分が居たルドヴィークには来られなかったので、お目にかかる機会が無く、今回この『世界武道大会』にオブザーバーとして来られると聞いて、楽しみの一つになっていた。

 自分も正座して頭を下げると、

 

 「いや、弟子でも無い方にその様な振る舞いをされると、某の方が困りまする。

 どうか立ち上がって下され!」

 

 と『剣聖ヒエン』様が言われたので、立ち上がったがどうしても頭を下げてしまった。

 

 「困りましたな。

 どうしたものか?」

 

 と『剣聖ヒエン』様を困惑させたみたいだ。

 

 「・・・だから言っただろう、お前は自分の影響力を低く見過ぎなんだよ。

 お陰でお前といると堅苦しくなるばかりだよ!」

 

 と後から『拳聖ダンテ』様が来られたが、その姿は2日前から一変していた。

 先ず白髪交じりだった髪は黒々としており、元々引き締まっていた身体は、一回り太く大きくなっていて、筋肉に至ってははち切れんばかりだ。

 どう考えても30後半の年齢にしか見えず、完全に若返っている!

 

 「どうやら、『ナノム玉2』は問題無く効力を示され無事精霊の加護も得られた様ですね!」

 

 と自分が『拳聖ダンテ』様を祝うと、

 

 「おおっ、ケニー殿ありがとう!

 見てくれこの身体を!2日前まで衰えて行く身体にひたすら慄き、これ以上強くなれない我が身に絶望していたのが嘘の様だよ!

 先程アラン陛下に、感謝と忠誠を誓って来た処だ!

 此れからは、帝国軍の訓練教官となる事が決まったので宜しく頼む!」

 

 と手を取って喜びを伝えてくれた。

 その様子を心底羨ましく思っている様子で、『剣聖ヒエン』様は、

 

 「其れよ!

 先程ダンテが某に挨拶して来たのだが、たった3日会わない間に変わり過ぎだ!

 然もダンテが不得意だった筈の魔法を、自由自在に使い熟すでは無いか!

 白昼夢を見ているのか?と自分の正気を疑ったぞ!」

 

 と憤慨されている。

 思ったよりくだけた方の様なので、ある程度素の自分でも良い様な気がしたので、話し掛けてみた。

 

 「『剣聖ヒエン』様にも『拳聖ダンテ』様と同様に、『賢聖モーガン』様がアラン様にお願いされて『ナノム玉2』を用意されてますので、どうぞ恩恵に預かる事をお勧めします!」

 

 と言うと、『剣聖ヒエン』様はとても喜ばれた様子で、

 

 「本当に忝ない!

 貴方方帝国軍の正義の行いは仄聞しているが、あまりにも荒唐無稽なものが多く、些かその様な英雄譚があり得るのか?と疑っていた某の不明には、恥じ入るばかりです。

 我が弟子の『剣王シュバルツ』を、物陰から先程観察してましたが、明らかに某が鍛えていた頃よりも、剣技そして身体の充足が見て取れた!

 是非某もアラン皇帝陛下にお目にかかりたい、ケニー殿ご案内頂けますかな?」

 

 と頼まれたので、陸上戦艦『ビスマルク』に車両に乗り全員で向かう。

 道中『剣聖ヒエン』様にシュバルツ殿が、これ迄の出来事を報告していたが、

 

 「何と!『剣王オウカ』も帝国軍に入っていて、然も現在妊婦で有るのか!」

 

 と『剣聖ヒエン』様は驚かれ、ついでに『拳聖ダンテ』様も、

 

 「そしてその相手は、ミツルギの奴なのか?

 あの野郎ー、2日前には一言もその事に触れなかったじゃねえか!

 水臭いにも程があるぜ、大体あいつは俺とヒエンそしてモーガンのしわくちゃババアが昔パーティーを組んでいた事を、知ってる筈だぜ、何で報告しなかったんだよ!」

 

 と憤慨された。

 多分ミツルギ殿は、恥ずかしかったんだろうなと考えていたら、陸上戦艦『ビスマルク』に車両が着いた。

 

 「しかし、この船は近くで見ればみる程壮観だな、昔モーガンのしわくちゃババアが乗る飛空船にも驚かされたが、それよりも遥かに大きいこの船の迫力は桁違いだな!」

 

 と『拳聖ダンテ』様が感想を漏らされ、「全くだ!」と『剣聖ヒエン』様が頷かれている。

 エレベーターに乗り、お付きの秘書官にアラン様の居る艦橋の艦長室に案内される。

 

 「此れはワザワザのお運び、痛み入ります」

 

 とアラン様が『剣聖ヒエン』様に頭を下げられると、

 『剣聖ヒエン』様は深々と頭を下げられ、

 

 「初めて陛下に御意を得ます。

 某は、ヒエンと申す一介の武辺者で御座る。

 今回御国が開催される『世界武道大会』へのオブザーバーとして罷り越しました。

 どうぞお見知り置き下され」

 

 と挨拶された。

 アラン様も居住まいを正され、

 

 「神剣流創始者にして当代最高峰の武人のお一人である、『剣聖ヒエン』様には以前からお目にかかりたいと願っておりました。

 今日この日願いが叶いましたので、光栄に思います」

 

 と返された。

 改めてアラン様と『剣聖ヒエン』様がお互い眼を交わされると、『剣聖ヒエン』様は身を震わせ始めた。

 

 「そ、某は、生まれて初めての感動に身が震えてなりません!

 ・・・やっと、・・・本当にやっと出会えました・・・!某の真実の主君に・・・!

 嗚呼、嗚呼、口惜しくてなりませぬ!

 折角、折角、やっと真実の主君に出会えたというのに、我が身は老いぼれてしまっていて、お仕えする期間が短すぎる!」

 

 と大粒の涙を滂沱と流し始めた。

 するとアラン様が、『剣聖ヒエン』様に近付き手を取って、

 

 「その様な事は有りませんぞ。

 横に居られる『拳聖ダンテ』殿を御覧なさい、この様に若返り充実した身体を取り戻して居られる。

 必ず『剣聖ヒエン』殿も若返り充実した身体を取り戻せる筈、そして『拳聖ダンテ』殿と同様に、まだまだ武の極みを目指せる筈です!

 共に我が帝国で、武に生きる者達同士で競い合い高め合いましょうぞ!」

 

 と仰せられたので、『剣聖ヒエン』様はその場に土下座して、

 

 「我が唯一の主君で有る、『人類銀河帝国皇帝アラン・コリント一世』陛下!

 御身の為に、我が神剣流は全ての剣技と奥義を捧げるもので有ります!

 そして必ず新たな剣技、奥義を極めて帝国の為に尽くすのを誓いまする!」

 

 と腰に挿して居られた刀を捧げ、それに対してアラン様は、

 

 「その誓い受け取った。

 此れより後は、我が帝国の人民の為に神剣流を遍く教え、帝国の人民へ武人としての有り様を規範として示す事を、我は『剣聖ヒエン』殿に望む!」

 

 と捧げられた刀を金打されて『剣聖ヒエン』様に返し、受け取った『剣聖ヒエン』様は腰に刀を挿し戻し金打を行い、武人の誓いを行った。

 こうしてこの日、『賢聖モーガン様』、『剣聖ヒエン様』、『拳聖ダンテ様』が正式に帝国の傘下に入られ、名実共に帝国は最高の臣下を得たのであった。

 



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6月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝元年)《『世界武道大会』③》

 6月4日

 

 明後日から、第一回『世界武道大会』が開催される公都ザイリンクは空前の賑やかさを見せていた。

 この10年間まともな他国との交流をして居らず、インフラ整備は放置され、道路事情は悪化の一途を辿っていた。

 しかし、『人類銀河帝国』にザイリンク帝国が併合されると、全てが一変した。

 先ず今までのザイリンク帝国を簒奪していた、ゴラムとギロンの悪事が全て明かされ、その所為でザイリンク帝国が周辺諸国や従属国に取って、如何に愚かな行為をしていたり、ザイリンク帝国の貴族が殆どゴラムとギロンの手により殺されていた実態がバラされた。

 取り敢えず『人類銀河帝国』は、元ザイリンク帝国の地方の市区町村には、行政官を派遣して司法と行政を司らせて民心の安定に努めて徐々に人類銀河帝国民としての自覚を持つ様にする。

 そして本国から、大規模なインフラ整備部隊を派遣させて、先ずは公都ザイリンクから各大都市との幹線道路を大規模に改修させ、将来の魔導鉄道敷設の為に職にあぶれてスラムで生活していた者達を中心に雇い入れ、大規模な職業訓練を同時に行いつつ、魔導鉄道敷設を始めた。

 そしてザイリンク帝国軍約10万人は、最初に武装解除させた後、人類銀河帝国軍に入隊を希望した8万人には『ナノム玉1』を順々に与え、軍事訓練等や魔法教育を行い地方帝国軍としての自覚を持たせていった。

 残りの2万人は、各地方の警察官としての教育を行い、其々の郷里や大都市での盗賊や犯罪者の取締をさせ、徐々に遵法精神を培わせていく事になった。

 そんな中公都ザイリンクには、海洋大国デグリート王国とノルデン諸国連合から船に乗り海路やって来る商人達に混じり、『世界武道大会』に参加する腕自慢がやってき始め、悪路でも無視して障害物を破砕しながら爆走する『ホシ』と『ジョナサン』のトレーラーギルドが乗せてきた腕自慢がやって来た。

 その腕自慢達が宿泊出来る様に、簡易的に大規模な宿泊施設を”コロシアム”の横に設営した。

 当然血の気の多い連中なので、いざこざが耐えないので隣の”コロシアム”で拳により解決させ、それでも納得がいかない者には、帝国軍の猛者が鉄拳制裁を下していった。

 此れ等『世界武道大会』へ向けての広報やインフラ整備の模様は、公都ザイリンクを始め各地方都市と従属国の主要な場所に設置した大型モニターにより放送され、国が一新された事を全ての国民が実感した。

 

 6月5日

 

 朝から公都ザイリンクは、喧騒に包まれ主要な場所では超大型モニターで、これ迄の『人類銀河帝国』の歩みや帝国軍の様々な敵との戦闘の記録(当然子供も見る事を配慮してマイルドにしている)等を繰り返し流している。

 其れ等を見ながら食事等を行える様に、簡易的なテラスや座席が辻辻に設えられていて、その周辺には様々な屋台や物売りが通行の邪魔にならない程度に店を開いている。

 そんな中”コロシアム”では、明日の第一回『世界武道大会』に向けての予選会が行われていた。

 基本的に、武芸が拙劣で怪我をするだけと判断される者以外は参加出来るので、帝国軍人が武器や格闘での相手をして著しく劣る者以外は参加許可を認めて行った。

 そして参加者約500人が選出され、”コロシアム”に設営された前夜祭会場に各国代表の要人や、各ギルド長や有力商人が招かれ、全員に盃が回った事を確認してアラン様が壇上に立たれた。

 

 「皆様、明日の第一回『世界武道大会』に向けての前夜祭にご参加くださり、大変有難うございます!

 『世界武道大会』は今後毎年行われる事になり、現在はこの西方教会圏の範囲ですが、何れは『世界』と冠している通りに、参加される人員はこの世界全てから募りたいと考えています。

 そして今回は武術のみですが、別の機会には魔法や車両での運転技術を競う競技、更には文化面での競技も我が『人類銀河帝国』は推進して行くつもりです。

 我々人類はただの生物に有らず、生きとし生けるもの万物の霊長として、何れは戦争等で争うのでは無く、人を傷つける事無く、技能や技術を切磋琢磨してそれを競い、相手を励まし合って共に成長し高め合う事で、次への進化を為せる筈です。

 その為であるなら、『人類銀河帝国』は惜しみない支援を全ての国・個人・団体へと与えるつもりです。

 今回の『世界武道大会』がその大いなる端緒になる事を願います!」

 

 と『世界武道大会』前夜祭への祝辞を述べられ、

 

 「其れでは、『世界武道大会』の成功を祈り、乾杯!!」

 

 「「「「「「乾杯!!!」」」」」

 

 乾杯の音頭を取り、参加者全員も唱和してグラスに注がれた帝国産の各種酒類や、ノンアルコールのシャンパン等を一斉に飲まれた。

 飲まれた方々の中には、まだ帝国産の酒類を飲んだことの無い、元ザイリンク帝国関係者や従属国の方々も多く、そこかしこで初めて味わう酒類に対しての歓声が起こっている。

 そして会場での食事も、当然『人類銀河帝国』の誇るアラン様の薫陶が行き届いたシェフ達の手による料理の数々で、参加者達は満足そうに次々と食べて居られた。

 こんな風に、セリース大陸全ての国家が平和裏に戦争等を行わず、ただ人類の発展を喜び共に助け合い、競技する人々を称え合う、素晴らしい世界を現出しようと歩まれるアラン様とクレリア様の率いる『人類銀河帝国』に奉仕出来る自分の境遇に対して、改めて『ルミナス神』に感謝を捧げた。

 



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6月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝元年)《『世界武道大会』④》

 6月6日①

 

 第一回『世界武道大会』が開催された。

 先ずは徒手空拳部門の代表者を決めるべく、250人によるバトルロイヤルが繰り広げられる事になるのだが、我々の目を引いたのは、ある一人の男であった。

 その男は何もかもが太かった!

 腕が太い・手が太い・太ももが太い・足が太い・胸板も太い・指が太い・首も太い・頭も太い・眉毛も太い・終いには浮かべている笑みまで太かった!

 その男は何と、バトルロイヤル会場で有る”コロシアム”の中央にドッカと腰を降ろしているのだ!

 そして、攻撃して来る相手を次々と手のみで、払い・掬い・投げ飛ばして行くのである。

 

 「・・・あれは・・・?!」

 

 見学している自分が思わず呟きを漏らすと、

 

 「・・・・・『顛倒結跏趺坐』・・・。

 奴の得意技の一つで、奴曰く絶対の防御の構えだそうだよ」

 

 と隣で苦々しそうにミツルギ殿が、解説してくれた。

 とすると・・・・、

 

 「やはりあの太い男が、ミツルギ殿の次の現拳王である『拳王ダルマ』か!」

 

 と聞くと、

 

 「・・・そうさ、あの全てが図太い男がダルマだよ・・・!」

 

 と苦々しさを通り越して、忌々しそうに返事してくれた。

 段々とバトルロイヤルの人数が少なくなり、10人程になると『拳王ダルマ』の異様性が参加者にもハッキリと判った様だ。

 何と『拳王ダルマ』の周りには、息も絶え絶えで選手約100人が同心円状の模様の様に倒れているのだ!

 この男は一人では倒せないと見た選手達は、10人が一斉に『拳王ダルマ』に襲いかかった!

 その瞬間『拳王ダルマ』は、その太い眉毛を釣り上げて、

 

 「吩!」

 

 と気合を迸らせると、その太い腕を豪快に数人ずつをラリアットした状態で振り回し、10人全てを悶絶させてしまった。

 

 「・・・相変わらず、力任せの美しくない拳法だぜ!」

 

 とミツルギ殿は評し、選手控室に向かう『拳王ダルマ』殿の前に、見学していた2階席から飛び降り立ち塞がった。

 

 「ようおめでとさん『拳王』殿!

 これで晴れて、俺の前にもう一度立てるな!」

 

 と『拳王ダルマ』殿に声を掛けた。

 

 「・・・これは、これは、何方かと思えば兄弟子ではござらぬか!

 一別以来ですな!」

 

 と『拳王ダルマ』殿はこれまた太い声で返事した。

 

 「・・・フム、まだ俺の折ってやった両足は、蹴りが放てる程には完治していない様だな・・・」

 

 と『拳王ダルマ』殿の太い足を見て、ミツルギ殿が呟かれ、

 

 「・・・確かに完治はして居らぬが、日常生活する分には困らぬし、自分の『顛倒結跏趺坐』を完成するには、良いハンデでござったよ!」

 

 と太い笑みを浮かべて、『拳王ダルマ』殿は太い手で太い太ももを叩いてみせて、

 

 「其れよりも、兄弟子の両腕の靭帯の方は治ったようでござるな、断裂状態だったので心配しておりましたぞ!」

 

 と太く聞いて来たので、ミツルギ殿は、

 

 「おお、そう云えばこの両腕の件があったな、何色々と手を尽くして治療して、今では更に強靭な身体を手に入れたぜ!

 この両腕のお礼は、『拳王』殿の両腕にしてやるよ、覚悟しときな!」

 

 「楽しみでござるよ!」

 

 と双方が挑発し合い、同時に踵を返してその場を離れた。

 かなりの因縁が有りそうだが、敢えて尋ねずに自分とシュバルツ殿がミツルギ殿のセコンドに付き、帝国軍医療担当の『ヒール』を受けて疲労等を回復された『拳王ダルマ』殿が、武闘場にやって来るのを待つ。

 

 15分の休憩の後、『剣聖ヒエン様』と『拳聖ダンテ様』が付き添われて『拳王ダルマ』殿が、『世界武道大会』決勝用にせり出して来た武闘場にやって来た。

 『剣聖ヒエン様』は先日飲まれた『ナノム玉2』の効果で、その総髪は以前は白髪と黒髪が半々だったのに、今では黒々と光る総髪に変わり、肌は艶を取り戻して隣りにいる年下の『拳聖ダンテ様』より若く実年齢の半分程の30前半に見える。

 そのまま『剣聖ヒエン様』は武闘場に上がり審判役となられ、『拳聖ダンテ様』は『拳王ダルマ』殿のセコンドに付かれた。

 

 

 「其れでは、徒手空拳部門の決勝戦を始めます!

 選手二人は、武闘場に上がって下さい!」

 

 と『剣聖ヒエン様』が宣言して、選手二人は武闘場に上がって行く。

 

 「250人によるバトルロイヤルを勝ち抜いて決勝戦に駒を進めた挑戦者は、現拳王で有る神拳流免許皆伝『拳王ダルマ』選手!」

 

 大きなどよめきが起こったが、この紹介は”コロシアム”内だけで無く、西方教会圏全ての国のモニターを通し『放送局』により生中継されているので、”コロシアム”外の方が大騒ぎだろう。

 

 「そしてその挑戦者を迎えるは、帝国軍皇帝直属親衛隊長にして前拳王で有るミツルギ選手!」

 

 またも大きなどよめきが起こったが、選手である二人は対戦相手をひたすら見続けていて、全く聞こえていない様だ。

 

 「其れでは改めてルールを説明しますが、あくまでもこの戦いは死闘では無く競技なので、命を奪う様な技の行使は厳禁ですが、それ以外の急所や手足を折る等の行為は許可します。

 お互いこのルールに異存は無いですか?(此処で両者は同時に頷いた)

 其れでは、決勝戦開始せよ!」

 

 と審判役である『剣聖ヒエン様』が宣言した瞬間!

 

 「ゴワアーーン!!」

 

 と銅鑼がなって決勝戦が開始された。

 

 ゆっくりと二人が距離を詰めて行き、ミツルギ殿が軽くジャブを放ち、それをダルマ殿はその太い手で払う様に捌いた。

 そしてジャブからそのまま連打に繋げて、ミツルギ殿がコンビネーションを放つと、ダルマ殿は太い両腕を前面に掲げ完全に防ぐ。

 埒が明かないと見たのか、ミツルギ殿が凄まじい前蹴りを、その防御体勢を砕けよとばかりに叩き込むと、ダルマ殿はその防御体勢のまま5メートル程後ろに吹き飛んだ!

 

 「「オオッ!!」」

 

 と見物されている、来賓の方々がどよめく中、一気に距離を詰めたミツルギ殿が胴回し回転蹴りを右側面に放った。

 その蹴りを腰を落とす形でダルマ殿は避けると、まだ宙にあるミツルギ殿の右脚を抱え込みそのまま空中に放り投げた!

 そのまま空中で、ミツルギ殿は宙返りしてそのままの勢いで、踵落としをダルマ殿の頭頂部に落とす。

 しかしそれを読んでいたのか、ダルマ殿はその太い腕を、十字にクロスさせて防ぐ。

 ミツルギ殿は一旦距離をとり、「コオオオーーッ」と息吹を行い呼吸を整えると、以前アラン様と戦われた様にクラウチングスタイルの様に構えるタックルの体勢になった。

 するとそれを見越してか、ダルマ殿は例の『顛倒結跏趺坐』の体勢に座り直し、待ち受ける絶対の防御の構えを取った。

 

 「・・・・・前と同じになったな・・・・・」

 

 とミツルギ殿が呟かれ、それに応じて、

 

 「・・・・・そうですね、しかし今度は引き分けにはさせませんよ・・・!」

 

 とダルマ殿が答え、

 

 「・・・いや、前は両腕を折られて靭帯を断裂させられての引き分けだが、今回はそうは行かねええ!」

 

 「・・・いえ、今回は必ず勝たせて頂きます!」

 

 と二人は叫び、ミツルギ殿がタックルを仕掛け、ダルマ殿は『顛倒結跏趺坐』で応じた。

 低い体勢でダルマ殿のその太い腰にミツルギ殿が正面からタックルを決めて、引き倒そうとすると上からダルマ殿が覆い被さる様にして抱え込もうと、ミツルギ殿の両脇の腕をその太い腕で閂を極めようとした!

 瞬間、タックルを決めていた、ミツルギ殿が信じられない速度でダルマ殿の右側面に回り込んだ!

 

 「むうっ?!」

 

 とくぐもった声を上げ、ダルマ殿の太い両腕が密接状態で有るにも関わらず、空振りする。

 

 「じゃっ!ーー」

 

 と短く叫ぶとと共にミツルギ殿が、ダルマ殿の太い右腕を両腕で抱え込んだ。

 

 「ひゅっ!」

 

 とミツルギ殿が短く口から短い呼気を吐き、両足をダルマ殿を挟む様に、同時に地面から飛び上がる。

 

 そしてその左足の膝裏で、ダルマ殿の太い首を後ろから巻きつけた。

 

 と同時に右足の膝頭がダルマ殿の太い顔を、下から凄まじい勢いでめり込む程叩き込まれた!

 

 「メキッ!」

 

 という音と共にダルマ殿の太い顔が、地面に落ちて行き、ミツルギ殿は三角絞めの形でダルマ殿の太い首を両足で締めて、極めたまま二人共に倒れ込んだ。

 

 暫くの時が流れ、審判役である『剣聖ヒエン様』が、確認の為にダルマ殿の瞳孔を確認し、完全に落ちている事を確認した。

 

 「ダルマ選手の気絶を確認!

 よってミツルギ選手の勝利!!」

 

 と審判役である『剣聖ヒエン様』が、裁定を下しミツルギ殿を立ち上がらせると、その片腕を高々と天に向かい突き上がらせた。

 

 「「「「「オオオオオッーーーー」」」」」

 

 と来賓の方々がどよめく中、セコンドで有る自分とシュバルツ殿がミツルギ殿に近付き、

 

 「やったな!」

 

 と労うと、

 

 「・・・ああ・・・」

 

 と短く返事したので、気になった点を尋ねた。

 

 「もしかして、あの極め技はアラン様の『虎王』か?」

 

 「・・・・・その通りだよ、アラン様にやられてから直々に教わり、自分なりにアレンジしたのが、あれさ!」

 

 とミツルギ殿が答え、シュバルツ殿が、

 

 「成程、差し詰めミツルギ流『虎王』という訳だな!」

 

 と言い3人で、肩を叩きあって笑い合った。

 



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6月の日記⑤(人類銀河帝国 コリント朝元年)《『世界武道大会』⑤》

 6月6日②

 

 徒手空拳部門の決勝戦の興奮が冷めやらぬ中、武器を使用する部門(武装部門)のバトルロイヤルが開始された。

 この武装部門のバトルロイヤルは、武器・武具を使用する性質上一斉に始める訳には行かず、10人ずつ25組のグループでバトルロイヤルを行い、最後に25人でのバトルロイヤルが行われる。

 武器・武具は刃先や突起部分を、魔法や魔道具により人を殺傷出来ない様にしており、もし傷つけたり怪我を負っても、立ち所に帝国軍医療担当の『ヒール』によって癒やされる手筈は整っているので万全だ。

 

 次々とグループの勝ち抜きが終了して、いよいよ25人でのバトルロイヤルが始まろうとした段階で、一人の若い男が他の24人に向かって、

 

 「弱者の相手は面倒だし、時間の無駄だ!

 全員で俺に向かって掛かってこい!

 直ぐに終わらせてやるよ!」

 

 と自信満々に言い放ち、他の24人の選抜者の怒りを買っている。

 

 「・・・カイエンの奴・・・!」

 

 と自分の隣に立つ、シュバルツ殿が苦笑しながら呟かれた。

 その名は聞いたことが有る、以前シュバルツ殿やオウカ殿から聞かされた、3人目の剣王『剣王カイエン』の話しを。

 『剣聖ヒエン』様の甥にして、神剣流の正統後継者として期待される最も若い『剣王』で、その素質は群を抜いたもので、シュバルツ殿やオウカ殿が会得出来なかった奥義も修めているそうだ。

 

 「それでは、バトルロイヤル最終戦開始!」

 

 と審判役である『拳聖ダンテ様』が告げると、

 

 「ゴワアーーン!!」

 

 と銅鑼がなってバトルロイヤル最終戦が開始された。

 次の瞬間、『剣王カイエン』の姿がユラッと歪んだ。

 

 「・・・神剣流奥義『影法師』!」

 

 とシュバルツ殿が呟くと、『剣王カイエン』の姿の歪みが進み4人に分かれた様に見えた!

 その4人が一斉に襲って来た他の24人に向かって、剣を振るった!

 

 「・・・多連斬・・・」

 

 シュバルツ殿がまたも呟き、『剣王カイエン』の斬撃を目で追うと信じ難い事に、分かれた4人が其々6回以上の斬撃を放ち、他の24人全員に斬撃を打ち込んだ!

 

 凡そ10秒程で、他の24人全員を斬撃で打ち据えて、『剣王カイエン』は決勝戦に進む事となった。

 

 『剣王カイエン』は選手控室に向かう道すがら、シュバルツ殿を見つけて自分達のいる場所にやって来た。

 

 「これは、これは、先輩お久し振りです、お元気でしたか?」

 

 と『剣王カイエン』はシュバルツ殿に頭を下げて問いかけた。

 

 「嗚呼、お主も壮健そうで何よりだな。

 然も腕前は相当に上がっている様だ、これは決勝戦が真に楽しみだ!」

 

 「私も、先輩と立ち会えると聞いたからこそ、『世界武道大会』に出場を決めたのですよ。

 是非何時ぞやの、引き分けに終わった決着を、次の決勝戦で着けましょう!」

 

 「望む処だ!」

 

 と二人は笑い合い、『剣王カイエン』は選手控室に帰っていった。

 先程の武闘場での傲慢な様子が嘘の様な対応に、面食らっている自分に気付き、シュバルツ殿は苦笑しながら説明してくれた。

 

 「カイエンは、自分が認めた強者以外には、非常に尊大な態度で望むので、修行中の頃は某とオウカ先輩が、口酸っぱく注意していたのだが、あの様子だと我等二人が居なくなった後は、師匠以外に注意する者が居ないから、あまり性格改善はしていない様だ、この際決勝戦で某が、一つ注意がてら指導してやるとするか!」

 

 と笑い、帝国軍医療担当の『ヒール』と疲労回復ドリンクを飲んで、元気一杯に回復したミツルギ殿を迎えに行き、3人連れ立って武闘場脇のコーナーで決勝戦が始まるのを待つ。

 

 15分の休憩の後、『剣聖ヒエン様』と『拳聖ダンテ様』が付き添われて『剣王カイエン』が、武闘場にやって来た。

 そのまま『拳聖ダンテ様』は武闘場に上がり審判役となられ、『剣聖ヒエン様』は『剣王カイエン』のセコンドに付かれた。

 

 「それでは、武装部門の決勝戦を始める。

 

 選手二人は、武闘場に上がり給え!」

 

 と『拳聖ダンテ様』が宣言して、選手二人は武闘場に上がって行く。

 

 「250人によるバトルロイヤルを勝ち抜き決勝戦に残った挑戦者は、3人の剣王の1人で有る神剣流免許皆伝『剣王カイエン』選手!」

 

 大きなどよめきが起こり、先程の『剣王カイエン』の技に来賓達がどれだけ驚いたか判るものだが、恐らく”コロシアム”外の方も今頃大騒ぎだろう。

 

 「その挑戦者を迎えるは、帝国軍皇帝直属親衛隊長にして3人の剣王の1人『剣王シュバルツ』選手!」

 

 またも大きなどよめきが起こった。

 それはそうだろう、双方共に剣王で有り、その剣技は先程の『剣王カイエン』の技を見れば、いやでも期待が高まるだろう。

 しかし、選手である二人はそんな喧騒をものともせず、じっとお互いを凝視している。

 

 「改めてルールを説明するが、あくまでもこの戦いは死闘では無いが、当然武器を使う武闘なので命を奪う事の無いようにお互いの剣は、魔法や魔道具により人を殺傷出来ない様に施している。

 だが、当然怪我等は起こり得るから、審判で有る俺の裁定は絶対で有る。

 以上の説明で、お互いこのルールに異存は無いかな?(此処で両者は同時に頷いた)

 それでは、決勝戦開始!」

 

 と審判役である『拳聖ダンテ様』が宣言した瞬間!

 

 「ゴワアーーン!!」

 

 と銅鑼がなって決勝戦が開始された。

 

 『剣王カイエン』は1剣、シュバルツ殿は2剣を腰に挿していたが、双方共に左に挿している剣に手を添えて、抜刀術の体勢となった。

 お互いの距離は10メートル程有るが、そのままの体勢から常人には捉えられない速度で、同時に抜き打ちを行い双方ともに『斬撃』を飛ばし合った!

 

 「ザンッ!」

 

 とお互いの中間辺りの距離で、双方の斬撃が交差する様にぶつかり合った。

 

 「ザザザザザンン!!」

 

 と連続した音と同様に、連続した斬撃を双方共に飛ばしたが、やはり同じ結果に終わったが、地摺り気味にシュバルツ殿が斬撃を飛ばしながら距離を詰めていくと、『剣王カイエン』も同じ様に距離を詰め始めた。

 そして双方至近距離で斬撃を飛ばし合っていたが、双方の剣が触れ合った瞬間、

 

 「バッ!」

 

 という音と共に双方が後方に飛び、着地した瞬間双方が消えた様に見えた!

 自分は目で追えているが、殆どの者は音だけが聞こえているのでは無かろうか。

 

 「ガッ」

 

 と云う音と共に、1剣と2剣の鍔迫り合いの状態で武闘場の中心に現れた。

 

 「「「「「オオオオオッーーーー!」」」」」

 

 と来賓達がどよめく中、双方は先程と同じく後方に飛ぶ形で距離をとった。

 

 「・・・・・流石は先輩です、今の自分のトップスピード(最高速)の『縮地』に付いて来られるなんて、予想してませんでした!」

 

 「・・・・・某も驚いている、まさか此処まで鍛え上げているとはな。

 師匠は、お主を徹底的にしごいたのだな!」

 

 「ええ、お二人が武者修行に出られてから、朝から晩までただひたすら稽古の日々でしたよ、お陰で師匠がお二人には伝授しなかった奥義も自分のものにしました!」

 

 「ほう、それは大変興味深い、是非拝見したいものだ!」

 

 「どうぞ、味わって下さい、今からその奥義を出させて頂きます!」

 

 と言葉の応酬が続いた後に、『剣王カイエン』は剣先を地面すれすれに降ろして、前屈みの体勢になった。

 

 「ぬっ」

 

 と短く言葉を発して、シュバルツ殿は対抗する様にアラン様直伝の『コリント二天一流』の《五法之構上の太刀》の構えになった。

 

 「そ、それは?」

 

 と『剣王カイエン』が、今迄に見たことの無いシュバルツ殿の堂々たる2剣の構えに、明らかに狼狽えた声を発した。

 

 「お主が、師匠に徹底的に鍛え上げられたのと同様に、某も師匠以上の剣の達人と出会い、その方のご指導を受ける事で、この高みに到達する事が出来たのだ!」

 

 「う、嘘だ!『剣聖』で有る師匠以上の剣の達人など、居る筈が無い!」

 

 「この世は、広大無辺だ!

 我等が世界だと思って来た西方教会圏なぞ、この大陸に於いてすら、ごく一部に過ぎない!

 恐らく、大陸の中央部、北方、東方には、我等の想像を越える、様々な武術や剣術が有るに違い無い!

 お前が常日頃弱者と蔑んで見ている者達と同様に、我等自身もこの世にとっては弱者に過ぎん。

 だからこそ、武道を志す者は世界に対して謙虚で有り続け、弱者を労り共に歩み続ける同士として支え合うのだ。

 お主の才能は、素晴らしい!

 だが、心根は未だ未熟そのものだ!

 故に、師匠に代わり某が、この世の広さを教えてやろう!」

 

 「認められない!神剣流より強い剣術なぞあり得ない!その妄言は如何に先輩とは云え許し難い!

 この神剣流の奥義で以ってその妄言を打ち払ってくれるぞ!!」

 

 と双方言い合い、共に剣気を立ち上らせ、練り上げて行く。

 それは明らかに陽炎の様に立ち昇り、素人にも炎の様に見えている。

 ”コロシアム”内が緊張に包まれ、その緊張が限界に達した!

 

 「行くぞ!」

 

 『剣王カイエン』が気合を込めて、奥義を仕掛ける!

 シュバルツ殿の正面に向かい下段の構えで突進し、間合いに入る瞬間に例の神剣流奥義『影法師』で、4人に分かれ四方から時間差で下段・中段・上段・突きがシュバルツ殿に襲いかかる。

 

 「甘い!」

 

 とシュバルツ殿が一喝され、下段・中段を左の剣で、上段・突きを右の剣で無造作に払い、両剣を『剣王カイエン』の両肩に叩き込んだ!

 

 「グハアーー!」

 

 と呻いて、そのまま『剣王カイエン』は前のめりに崩れ去り、悶絶した!

 

 『剣王カイエン』の状態を審判役である『拳聖ダンテ様』が、確認の為にダルマ殿の瞳孔を確認し、完全に気絶している事を確認した。

 

  「カイエン選手の気絶を確認!

 よってシュバルツ選手の勝利確定!!」

 

 と審判役である『拳聖ダンテ様』が裁定を下し、シュバルツ殿に歩み寄り、その片腕を高々と天に向かい突き上がらせた。

 

  「「「「「オオオオオッーーーー」」」」」

 

 と来賓の方々がどよめく中、セコンドで有る自分とミツルギ殿がシュバルツ殿に近付き、

 

 「流石だな、シュバルツ殿!」

 

 と感想を述べると、

 

 「嗚呼、カイエンの奴も此れで考えを改めると良いが・・・」

 

 と『剣王カイエン』を見つめながら、呟くと、

 

 「大丈夫だろう。

 今夜やる予定の、例の試合にダルマと一緒に参加させるんだから、世界の広さを思い知るだろうさ!」

 

 とミツルギ殿が問題無いと云った様子で請け合い、その意見には自分も賛成なので、

 

 「その通りだ。シュバルツ殿、全てはアラン様に任せれば良い!」

 

 と告げると、シュバルツ殿もその事に思い至り、

 

 「そうだな、アラン様ならば某よりも上手に、彼等を導いてくれるだろう。

 つくづく我等は素晴らしい主君に巡り会えたものだ、天の配剤に感謝致そう!」

 

 と天に向かい感謝されている。

 自分とミツルギ殿もその様子に頷いた。

 



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6月の日記⑥(人類銀河帝国 コリント朝元年)《『世界武道大会』⑥》

 6月6日③

 

 「・・・漸く始められるな、本当の武道大会を・・・」

 

 と肩を回しながらアラン様は呟かれ、

 

 「「「「「お疲れ様でした!」」」」」

 

 とこの場に居る全員で、アラン様を労った。

 

 先程迄アラン様は、今回の『世界武道大会』の成功を祝う式典や、来賓との折衝と今後の方針の説明、そして新たに公都ザイリンクに設ける『帝国バンク』の説明を、集まった商人達にしていたのだ。

 折角、優勝者には、アラン様との対戦を準備していたのに、結局ミツルギ殿とシュバルツ殿が勝ってしまったので、アラン様は戦う事が無かった。

 アラン様は、皇帝と云う立場も有り、生粋の武人で有るにも関わらず、日々の業務に忙殺されて、中々武術訓練も出来ずに居て、先日のゴラムとギロンの討伐も敵があまりにも不甲斐なくて、全然暴れられなかった。

 然ももう一つの趣味で有る料理も、皇宮の全てが揃った料理魔道具だらけの厨房と違い、元ザイリンク帝国の帝城には、お粗末な厨房が有るのみ。

 かと言って、公都ザイリンクには、大きな川も無くて、気晴らしの釣りも出来ない。

 つまり今現在のアラン様は、全身ストレスの塊で有り、何時爆発するか判らない強力な魔法の様な状態で、帝国軍上層部は密かに危惧していた。

 という訳で、『世界武道大会』がどういう結果になろうが、アラン様には思う存分戦って貰おうと決まっていたのだ。

 

 「さて、新たに弟子入りと帝国軍への入隊希望した者達は、全員武闘場に上がれ!」

 

 と自分が声を掛けると、20人の今回『世界武道大会』に参加し、そこそこ出来ると判断して、スカウトした連中が武闘場に上がってきた。

 

 「先ずは徒手空拳の格闘だ、当然そちらで応募した者は参加して貰うが、武装部門での応募した者も参加して結構だ!」

 

 と言うと、全員が参加を希望した。

 皆、緊張して身体が強張っているのが、見て取れる。

 

 《それはそうだろうな》

 

 今から戦う相手はこれから仕える事になる、『人類銀河帝国』の皇帝陛下その人だし、元ザイリンク帝国以外の場所では、繰り返し帝国軍の戦いの模様が放送されており、その最前線で常に戦うアラン様の姿は、凄まじいの一言に尽きる。

 一般人は、アラン様の目を引く魔法に目が行きがちだが、武術家やそれを目指す者達ならば、要所要所でのアラン様の剣技や格闘技を見て、その素晴らしさは殆どの者が把握している。

 そして何より、目前で全く隙がない佇まいを見せるアラン様は、決して侮れない相手である。

 

 「嗚呼、皆に教えて置くが、この”コロシアム”は、古代文明のアーティファクトなので、訓練用と怪我等を軽減できる措置である、《ペナルティーシステム》と云うものがあり、今回はアラン様だけ最大限のペナルティーを課している。

 凡そ、アラン様は通常の10分の1しか実力が出せない様に調整している、其れでも恐らく君達では、対抗出来ないと思うが、悔しければアラン様に対して一本取って見せろ!

 そうすれば、最初からアラン様の親衛隊に採用して貰えるぞ!」

 

 と自分が説明すると、現金なもので、途端に参加者の緊張が溶けて、やる気が漲っている。

 

 審判役を請け負ってくれた、『剣聖ヒエン様』と『拳聖ダンテ様』が武闘場の脇で見守る中、

 

 「ゴワアーーン!!」

 

 と銅鑼がなってアラン様と20人による戦いが開始された。

 

 「「「ウオオオオーー!」」」

 

 との掛け声も勇ましく、5人程がアラン様に突っ込んで行った。

 しかし、アラン様は殆どその場を動かずに突っ込んで来た者達の、腕や腰そして蹴ってきた足に手を添える様に触れると、その突っ込んだ勢いのまま5人は受け身も取れずに吹っ飛んで行った。

 残りの15人が信じられずに、仕掛けるのに躊躇していると、

 

 「来ないのか?

 それでは此方から行くぞ!」

 

 とアラン様が宣言され、スタスタと無造作に15人の中央に歩まれると、手を組み軍靴を脱いで素足になられるとその足で15人を払い始めた。

 そうアラン様は、足で蹴るのでは無く、先程の手でやられた事と同様に、足で払われて15人を吹っ飛ばしたのだ!

 20人全員が、武闘場で呻きながら倒れたのを確認し、『拳聖ダンテ様』が、

 

 「試合終了!」

 

 と宣言し、直ちに帝国医療部隊が武闘場から20人全員を連れ出し、『ヒール』と回復ドリンクで20人全員を癒やしていく。

 

 「やはりこうなるか。

 さて、今のを見て感じた事も有るだろうから、『拳王ダルマ』よ精々揉んでもらえ!」

 

 と『拳聖ダンテ様』が言われ、それに応じて『拳王ダルマ』殿が武闘場に上がってきた。

 

 「・・・アラン陛下・・・、噂で貴方様こそ当代に於ける最高の武人で有ると、聞かされて居りましたが、正にその通りその眼前に立ってみれば、嫌でも貴方様が到達された高みを思い知らされる。

 こんな佳き日が又と有ろうか、兄弟子と久し振りに戦い、自分の技の至らなさを思い知らされ、此れからその兄弟子すら凌駕する貴方様と戦える!」

 

 と感動した様子で『拳王ダルマ』殿が、申告された。

 

 「フム、『拳王ダルマ』殿、思う存分にこれ迄培ってきた、力と技をぶつけて来なさい。

 貴方の問題点とそれを改善する方法を教えよう」

 

 とアラン様が言われると、

 

 「忝ない!是非お願いする!」

 

 と言い、

 

 「ゴワアーーン!!」

 

 と銅鑼がなってアラン様と『拳王ダルマ』殿の試合が開始された。

 

 初っ端から『拳王ダルマ』殿は武闘場中心に腰を落とし、『顛倒結跏趺坐』の体勢に入った。

 

 「・・・確かにその体勢になれば、対戦者はかなり攻撃手段が限定され、それへの対処は容易になる。

 だが、ミツルギがその技を破った様に、幾つかの方法でその技を破る方法は有る。

 それを判り易い様に、示してやろう」

 

 とアラン様が言われ、無造作に『拳王ダルマ』殿の『顛倒結跏趺坐』に近寄っていった。

 

 「むうっ?!」

 

 と面食らった様子で『拳王ダルマ』殿は呻くと、大上段からその太い手で手刀を繰り出した。

 それを軽々と避け、

 

 「此れこの通り、その技はあくまでも受けの技で、いざ攻撃に移ると途端に馬脚を現してしまい、素早い攻撃が出来ない事実が露呈してしまう、そして、」

 

 とアラン様は指摘し、ゆっくりと片手を伸ばした。

 

 「くっ!」

 

 と『拳王ダルマ』殿はアラン様の攻撃を警戒し、両腕を前面でクロスさせて十字受けの体勢になった。

 その十字受けの中心点に、アラン様が軽く手を当てると、

 

 「吩!」

 

 と気合を発した。

 幾らも力を使っていないと見えるその打撃は、ごく僅かに『拳王ダルマ』殿を揺らす。

 次の瞬間、

 

 「ドウッ!」

 

 という音と共に、『拳王ダルマ』殿は前のめりに倒れた。

 

 「・・・浸透勁・・・身体の体幹が定まっていない場合その体幹を揺らす事で、身体の中心線を通る神経が圧迫されて誤信号を脳に伝え、問答無用で悶絶してしまう。

 今の説明を、『拳王ダルマ』殿が回復次第伝えて頂けますかな?『拳聖ダンテ様』」

 

 とアラン様は、『拳聖ダンテ様』に言われ、

 

 「心得た!」

 

 と『拳聖ダンテ様』は心底感服した様子で頷かれた。

 



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6月の日記⑦(人類銀河帝国 コリント朝元年)《『世界武道大会』⑦》

 6月6日④

 

 「さて、続けて武装部門だ、参加者は武闘場に上がるように!」

 

 と自分が声を掛けると、帝国医療部隊によって回復した20人の内10人が武闘場に上がった。

 

 「他の者は、良いのか?」

 

 と聞くと、

 

 「武器を使用する戦闘は、得意では無いですし、それよりも先程の『拳王ダルマ』との試合の様に、武闘場外から観察した方が、全体が見れて勉強になります!」

 

 と徒手空拳部門で参加していた者が、答えてくれた。

 

 《それもそうか》

 

 と自分も考えたのは、見取り稽古の重要性をアラン様から、指摘されていて、実際それが身になっているのを実感するからだ。

 

 審判役を請け負ってくれた、『剣聖ヒエン様』と『拳聖ダンテ様』が武闘場の脇で見守る中、

 

 「ゴワアーーン!!」

 

 と銅鑼が鳴ってアラン様と10人による戦いが開始された。

 

 今回のアラン様の武器は、ただの棒である。

 最近のアラン様は槍術を極めようとしていて、その一環として槍先の無い柄の部分での棒術の訓練もして居られる。

 

 銅鑼が鳴っても参加者10人はうかつに仕掛けず、各々が得意とする構えを取り、アラン様の動きを見極めようとしている。

 

 「良いな、そうやって相手の動きを観察し、その微妙な変化を見逃さずに対処しようとする事は間違っていない。

 だが、それとは別に如何に動きを読んでも、対処出来ない段階も有るのだと、知るが良い!」

 

 とアラン様は言われ、徒手空拳部門での戦い同様に無造作に10人の中心辺りに、歩まれた。

 流石に此処まで近寄られると、攻撃しない訳にも行かず、10人其々が魂心の力を込めて武器を振るった!

 

 「フム、其れは悪手だな、武器や武具は己の身体の延長線に有るもので、力を込めすぎたりすると、無理な力みが生じて、体幹が崩れるのだよ、だからこの様になる」

 

 とアラン様は教え諭す様に言われながら、次々と棒を螺旋状に回転させて相手の武器を絡め取り、武器を奪った上で鳩尾や延髄を棒で突かれて悶絶させられていく。

 結局10人全てが武闘場に蹲り、決着が着き、『剣聖ヒエン様』が、

 

 「試合終了!」

 

 と宣言し、直ちに帝国医療部隊が武闘場から20人全員を連れ出し、『ヒール』と回復ドリンクで20人全員を癒やしていく。

 

 「まあ、こんなものかな。

 さて、今のを見て感じた事も有るだろうから、『剣王カイエン』!お主の全力でアラン陛下に挑んでみよ!」

 

 と『剣聖ヒエン様』が言われ、それに応じて『剣王カイエン』が武闘場に上がってきた。

 

 「・・・人類銀河帝国皇帝アラン陛下・・・貴方の事は、巷の噂を散々聞かされてきたが、眉唾物だと無視して来た。

 だが貴方が指導したシュバルツ先輩は、『剣聖』が指導していた頃より明らかに強くなっていたし、先程までの格闘と武器での試合は見事としか言いようがない。

 それでも自分は神剣流に誇りを抱いているし、自信も有る。

 ならば全ての想いを込めた技を貴方にぶつけるのみ!

 受けて頂く!覚悟されよアラン陛下!!」

 

 と『剣王カイエン』は、思いの丈をぶつける様な言葉を、アラン様に叩きつけた。

 

 アラン様は心底嬉しそうに、棒から剣に持ち替えて、

 

 「そうだ、その熱情の全てを込めてぶつかって来い!

 その先にこそ、お前の本当に目指すべき未来が有る!」

 

 と『剣王カイエン』に向かって言われたので、『剣王カイエン』は、はにかむ様な年齢相応の笑顔を見せた。

 

 「ゴワアーーン!!」

 

 と銅鑼が鳴ってアラン様と『剣王カイエン』の試合が開始された。

 

 「ウオオオオーー!」

 

 と凄まじい雄叫びを上げ、『剣王カイエン』は全身全霊を掛ける勢いで技を繰り出そうとしている!

 

 「この覚悟に対し、いなすのは礼儀に反しているな。

 其れでは、この場にいる全ての者達の為にも見せよう、此れが『コリント流剣術 最終秘奥義メテオ・ストリーム』!」

 

 嗚呼、その名だけはクレリア様とエルナ殿から伺っている、恐らくはどの様な猛者であろうとも、初見ではその連撃には付いて行けず、ただ打ちのめされるだけであろうと。

 

 『剣王カイエン』は、神剣流奥義『影法師』を初っ端から発動させたが、今までと違い4分身では無く8分身と、恐らくは最大限の奥義発動をさせて、8分身全てが大上段に構え打ち下ろしてきた!

 

 それに対してアラン様の身体が一気に歪み、『剣王カイエン』と同じ8分身に分かれた!

 

 「何だと!」

 

 と『剣王カイエン』が呻くと、8分身のアラン様が全員、『剣王カイエン』の大上段の打ち下ろしを下段から跳ね上げた。

 

 「行くぞ!」

 

 との合図と共に、『コリント流剣術 最終秘奥義メテオ・ストリーム』は発動した!

 其れは、信じられない程の連撃!

 正に目にも止まらない猛打の嵐だ!

 徐々に8分身は4分身になり、途中からは1対1に戻っていたが、その連打の凄まじさの前にはどうでも良い事だった。

 然もその連撃は流れる様に剣術だけでは無く、蹴りや足払いそして柄による打撃も織り交ざっていてまるで舞の様だ。

 最後は、上段からの目にも見えない鋭い打ち下ろしで、終了した。

 

 計24連撃の猛打で有る、『剣王カイエン』の剣は途中で折れてしまったが、それでも防御し続けて20連撃まで耐えていたが、最後は為すが儘になり遂には地に突っ伏してしまった。

 

 「勝負有り!」

 

 と『剣聖ヒエン様』がアラン様の勝利を宣告したが、周りの誰もがそんな些事はどうでも良くて、今見せて貰った神技にただ圧倒されている。

 

 自分もあの一切の無駄のない流れる様な体捌きと、淀みのない剣の振り、そしてそれでも尚一本の棒が通った様な体幹、殆ど芸術的な一枚の絵の構図を見る様な景色を見て、止めどなく溢れる涙を拭う事も忘れた。

 つまりアラン様は、この場にいる全員にこの神技を目指せと言われているのだ。

 そのスピードには達せずとも、真似る事は出来るし、一連の連撃のその一部でも再現できれば、かなりの強敵にも対抗し得るだろう。

 

 直ちに帝国医療部隊が武闘場から、『剣王カイエン』を連れ出して行く中、武闘場では車座になってアラン様と『剣聖ヒエン様』、『拳聖ダンテ様』、シュバルツ殿、ミツルギ殿、『拳王ダルマ』殿が先程の技に付いて座談会をしている。

 

 「ケニー殿、お前も加われよ!」

 

 とミツルギ殿が自分も呼んでくれ、更に『拳聖ダンテ様』が、

 

 「おいっ、回復した20人も来い!

 アラン陛下の武術談が聞ける、滅多に無い機会だ、後世に自慢出来るぞ!」

 

 と全員を誘って下さり、武闘場はさながら武闘家達の武術評論の場と化し、一層賑やかに皆で『コリント流剣術 最終秘奥義メテオ・ストリーム』の技への入り方や、次の技への繋げ方を討論し合っていると、”コロシアム”のペナルティーシステムを管理していたカトウとフランツ副官が、気を利かせて大量の酒類とツマミ等を武闘場に運んできた。

 

 「おおっ、これは気が利いているじゃねえか!

 こういうのは、酒を飲みながらじゃねえと面白くねえ!」

 

 と『拳聖ダンテ様』は言われて、アラン様も、

 

 「その通りだ、こういう話しは鹿爪らしく話すんでは無くて、大いに飲みながら愉快に楽しみながら、話すのが良いのだから、カトウとフランツそして部下達も参加し大いに楽しめ!」

 

と仰られたので、カトウ達も最初は遠慮していたが、酒が入ると大分砕けて行き、終いには笑いながら楽しんでいた。

 

 其処へ、帝国医療部隊のお陰で全快した『剣王カイエン』がやって来て、アラン様の前に土下座して、

 

 「先程の試合での無礼、誠に申し訳無い!

 アラン陛下を疑っていた自分は、正に井の中の蛙大海を知らずで、穴があったら入りたい気持ちで一杯です!

 この上はどの様な事も聞くつもりですので、どうぞ如何様にもお命じ下さい!」

 

 と大分しおらしい態度でアラン様に接しているのを見て、自分とシュバルツ殿そしてミツルギ殿は想定通りに、アラン様が『剣王カイエン』の性根を入れ替えてくれた事に、感謝した。

 『剣聖ヒエン様』が、

 

 「アラン陛下、感謝致す!

 此の者の才能を愛す余り、躾が疎かになって居りましたが、どうやら良い形で矯正されました。

 大変厚かましいのは重々承知していますが、どうぞコリント流の一門下生としてカイエンを扱って頂けないでしょうか?」

 

 と頭を下げられてお願いされた。

 すると、『拳聖ダンテ様』も、

 

 「ああ、ズルいぜヒエン、アラン陛下、俺も是非お願いしたい!

 このダルマも、どうかコリント流の一門下生に加えてやってくれねえですか?

 俺が教えるより、アラン陛下が教える方がコイツの為になると思うんでさあ!」

 

 大分酒が入っている所為か、かなり言葉が荒くなっているが、真摯な気持ちは伝わった。

 するとアラン様は、

 

 「問題無い!

 元々、此処に居る全員はこのまま我等て国軍の旅路に、同行して貰うつもりだった、恐らくこの旅の間でも、皆は様々な経験をする事になるだろう。

 それは、必ず諸君らの修行になる良い機会になる筈だから、大いに研鑽に励んでくれ!

 さあ、そう云う固い話しは後にして、今宵は徹底的に飲んで大いに楽しもう!」

 

 とジョッキに並々と注がれた良く冷えたエールを、グイッと飲み干して促されたので、

 皆も続けてジョッキのエールを飲み干して、場は一層盛り上がり飲めや歌えやの宴会場と化した。

 全員酔い潰れるまで飲む気になったので、羽目を外す者が続出したが、こういう楽しい時が人生には必要だと、心のなかでミーシャに謝って痛飲し、その気持良い酔いに身を任せた処で意識は切れて、全員翌朝をそのまま迎える事になった。

 



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6月の日記⑧(人類銀河帝国 コリント朝元年)《『魔法大国マージナル』到着》

 6月7日

 

 昨日は大宴会状態のまま、”コロシアム”で朝を迎えたのだが、我等帝国軍人と『剣聖ヒエン様』そして『拳聖ダンテ様』は、『ナノム玉』の恩恵により精霊の加護を受けて居るので、二日酔い等の気怠さも無く元気一杯に活動出来ているが、其れ以外の『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』他20名はものの見事にグロッキー状態で有る。

 帝国医療部隊によって介抱されているが、『ヒール』や回復ドリンクはあくまでも怪我や体力回復が目的なので、あまり二日酔い等の気怠さには効き目が薄い。

 彼等には現在飲んで貰っている『ナノム玉1』が、効力を発する明日まで我慢して貰おう。

 そんな中、昨日の『世界武道大会』の後片付けも終えて、諸々の引き継ぎを公都ザイリンクで執政する事になる行政執行官達に行い、後事を任せて行く。

 明日には出立して、いよいよ旅の本命である『魔法大国マージナル』に向かう事となる。

 一足早く『魔法大国マージナル』に着いて、あちらの守護竜と対面を果たしているであろう、グローリア殿始めガイ達ドラゴン部隊は、今頃どうしているのかな?と思いを馳せた。

 

 6月9日

 

 『魔法大国マージナル』の国内に入りそのまま海岸線に向けて全艦隊で進むと、自分の騎竜であるガイが自分の乗る陸上空母『ドライ』に合流して来た。

 久し振りの再会に喜び出迎えに行くと、傍目にも判る位にガイは疲弊していた。

 

 「どうしたんだガイよ?」

 

 と尋ねると、ガイは翻訳機を通して、

 

 「ケニー大佐、お久し振りです!

 何、『守護竜アルゴス』殿の訓練で疲労してるだけですよ。

 体調等が悪い訳では無いので、ご心配無く」

 

 と分かれる前と比べると、明らかに流暢な口調で返事して来た。

 恐らく頭脳面でも、『モーガン』殿と『魔法大国マージナル』の『守護竜アルゴス』殿に鍛えられて居るのだろう。

 他の14頭のドラゴン達も、陸上空母と陸上戦艦の飛行甲板に戻って来たが、肝心のグローリア殿が『ビスマルク』に帰って来ない。

 

 「ガイ、グローリア殿はどうしたんだ?」

 

 と聞くと、

 

 「昨日、アトラス殿と魔法での決闘騒ぎが有りまして、現在両者共に医療用『コクーン』で療養中です」

 

 と答えてくれた。

 アトラス殿と云えば、守護竜アルゴス殿の孫にして、グローリア殿のお見合い相手ではないか、もしかしてお見合いは失敗したのだろうか?

 ガイにその辺りを聞いてみると、

 

 「いえ、そういう訳では無くて、問題は別の所に有ります!

 実は、アトラス殿は非常にプライドの高い方で、自身がドラゴンとして絶大な力を持つ事に大変誇りを持っていて、ドラゴンである我々が人間と協力関係にあるのを、あまり愉快に感じて居らず、度々人間の能力を侮る発言をされていて、とうとうアラン陛下の能力を疑う発言をされたので、グローリア殿と言い争いに発展して終いには魔法での力比べをして、双方傷つくという事態になりました」

 

 と理由を説明してくれた。

 まあ、アトラス殿の言う通り普通の人間とドラゴンを比べるのは、そもそも比較対象として間違えている。

 だが、『ナノム玉』を服用して精霊の加護を得た上で、あらゆる魔法教育と実践を重ねた我等帝国軍人は、既に普通の人間の範疇から逸脱している。

 なにせ空軍の訓練では、時に自分の騎竜で有るドラゴンやワイバーンと魔法の撃ち合いをする、魔法訓練が有るのだから。

 確かにドラゴン達は、圧倒的な量の魔法力を持つが、カートリッジにした魔石を常に保持する帝国軍人は、それ程遜色無い魔法力を保持している事になるから優劣は無く、単一の魔法だと一度に引き出せる魔力の総量の差で負けるが、連射等でその不利は帳消しとなる、更には人間はドラゴンに比べ小さいので遮蔽物を利用すれば、簡単に隠れられるが、ドラゴンはその大きさから、その様な手段は取りようが無い。

 なので、市街戦や大樹海での魔法訓練では、ほぼ互角の勝負となる。

 だからこそ、帝国に所属するドラゴンとワイバーン達は、決して人間を侮る様な態度は取らず、むしろ尊敬し合っているので、人間との関係性は非常に良好だ。

 中でも、ごく少数だが自分を含め『ナノム玉2』以上を服用している人間は、ともすれば条件によって(例えばあらゆる強力な武器を仕える条件等)普通にドラゴンを凌駕し得る。

 そして、事実上の帝国軍最強にして古今無双の英傑であるアラン様は、普通の状態であろうとも複数のドラゴンを相手にして、平然と勝利してしまうし、アラン様ご自身の持つ最強の武装で身を包まれると、正直な処アラン様に帝国軍全軍で挑んでも、全く勝てる気がしない。

 恐らくアトラス殿が、如何に古代竜(エンシェント・ドラゴン)であろうとも、本気のアラン様には勝てないだろう。

 何だか、その場面が直ぐに脳裏に浮かんできて、その想像が事実になる様な気がしてならなかった。

 

 6月10日

 

 『魔法大国マージナル』の首都である魔法都市『ザナドゥ』は、非常に綺麗な都市であった。

 先ず目を引くのは、何とこの都市は海の上に浮かぶ海上都市なのだ。

 どういう作用で浮いているのか謎だが、フロート上に都市が築かれているのに、地面は一切揺れて居らず、高い壁によって大波が打ち寄せても、都市に被害はありそうに無い。

 非常に先進的な都市で有る。というのが、魔法都市『ザナドゥ』に対しての第一印象であった。

 

 我々の乗る全艦隊は、魔法都市『ザナドゥ』の港湾施設に横付けして、諸々の物資や魔道具の搬出が行われて行ったが、そうした作業をしている最中に王宮からの使節が『ビスマルク』に来訪し、アラン様と上層部の方々は王宮に出向かれた。

 自分と空軍の面々は、久し振りに再会した己の騎竜に乗り、久々の空中訓練を行っていた。

 久々に空を高速で飛行してくれるガイに乗っていると、つくづく空軍を志願して良かったと感慨に耽っていると、突如高空から巨大な存在が我等空軍の上に影を射した。

 何だと上空を振り仰ぐと、其処には凡そ200メートルに達すると思われる、巨大なドラゴンが鮮やかな紺碧の鱗を鈍く光らせて、ゆったりとした姿で羽ばたきもせずに浮かんでいた。

 

 「ケニー大佐、あの方こそが『守護竜アルゴス』殿です!」

 

 あれが、『魔法大国マージナル』の守護竜にして、西方教会圏に於ける最強の存在『守護竜アルゴス』なのか!

 とやや呆然とした面持ちで見ていると、『守護竜アルゴス』殿はその深い叡智を伺わせる瞳を我々に向けると、空中で深々と頭を下げられて挨拶してくれた。

 慌てて我等空軍もドラゴン達と共に頭を下げて礼を尽くすと、『守護竜アルゴス』殿は深く頷き、その紺碧の鱗を輝かせながら、そのまま海中に突っ込んで行かれた。

 唖然として『守護竜アルゴス』殿が飛び込まれた海を見ていると、

 

 「『守護竜アルゴス』殿の居住する場所は、海中に有るのですよ!」

 

 とガイが説明してくれた。

 

 此れが、『守護竜アルゴス』殿と我々空軍の初邂逅であった。 

 



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6月の日記⑨(人類銀河帝国 コリント朝元年)《スラブ連邦の現況》

 6月11日

 

 「・・・美しい・・・!」

 

 此れが、魔法都市『ザナドゥ』に有る王宮『クリスタル・キャッスル』を見た時の、素直な感想で有る。

 その壮麗さは、殆ど全体を構成するクリスタルの様な透明な構造体が、陽光を浴びて不可思議に反射する光と、精密な迄に彫り込まれた様々な模様(モザイクと云うらしい)によって構成された壁面は、思わず立ち止まって眺めていたい程だ。

 そんな全てが芸術作品の様な城の中を案内され、『賢王モルガ』15世の私室にアラン様と自分含む帝国上層部は通された。

 

 『賢王モルガ』15世・・・・・『魔法大国マージナル』の王位を継がれている、15代目の女王陛下で有る。代々世襲されたその名前は、『賢聖モーガン』殿の最初の御子で賢王となった初代国王に由来するそうだ。

 

 『賢王モルガ』15世は在位60年で年齢80歳の筈だが、見た目は50代の妙齢の女性に見える、きっと高等魔術等の恩恵が有るのだろう。

 

 「楽にして下さいな。此処は私の私室なので他の家臣や部下が、基本的に入ってはきませんから、密談には適しています。

 此れから会談する極秘会議には、非常に都合が良いのよ」

 

 と『賢王モルガ』15世は仰られた

 

 「・・・大変有り難い。

 昨日、引き合わさせて頂いた旧ルーシア王国王女『アナスタシア』殿との、質疑応答と資料の突き合わせで判明した幾つかの事実を、此処に居る全員に開陳して情報の共有を図るから、皆モニターに注目してくれ!」

 

 と言われたので、帝国軍上層部全員が壁面に設けられたモニターに注目し、スラブ連邦の現在の状況と、旧ルーシア王国の秘事について知る事になった。

 

 そもそも此のにセリース大陸に於いて遥か過去から、大陸の4分の1を占める北方とは、不毛の大地として昔はノーマンズランドと云われ、人が住むには適さない場所だった。

 だが、300年前に『魔法大国マージナル』で学んだ初代ルーシア王国国王は、『賢聖モーガン』殿と『守護竜アルゴス』殿から或るアーティファクトを預かり、そのアーティファクトによって北方に封印されていた、『システム・エキドナ』の封印を解いた。

 その『システム・エキドナ』とは、此のセリース大陸に於ける龍脈(レイ・ライン)の膨大なエネルギーを利用して、無限に増殖するMM(マイクロ・マシーン)の能力を使い不毛の大地の土壌を実り豊かな物に改善し、外敵である魔物や魔獣そして虫等(此処でアラン様は顔を顰めた)から守る守護者『ガーディアン』も生み出す、という至れり尽くせりの代物で、ルーシア王国は『システム・エキドナ』のお陰で、北方にも関わらず豊かな大地を手に入れて、人口を増やして行った。

 その恩恵は、周辺に生まれた国家に『システム・エキドナ』の端末を供与する事で、周辺国家にも徐々に波及して行くのだが、中々以前の厳しい暮らしから意識が抜け出せず、周辺国家には未だ農奴制度が残り、貧富の格差は変わらずに居た。

 

 そんな中以前説明して貰った事件で、ルーシア正教を乗っ取った『導師(グル)ラスプーチン』が生まれ、スラブ国を中心にしてスラブ連邦が成立して、ルーシア正教の説く処の、互いに助け合って生きている『共生主義』を廃止し、皆で共産して『導師(グル)ラスプーチン』に捧げるという『共産主義』という教えが主になり、その教えに従う狂信者と悍ましい化け物によって、次々と周辺国家はスラブ連邦に取り込まれ、3年前にはルーシア王国も滅ぼされた話しは、以前の説明で判ったが、問題は此処からだ。

 

 明らかに『導師(グル)ラスプーチン』は、ルーシア王国を併合した際に、『システム・エキドナ』を動かせるアーティファクトを奪い、そのアーティファクトの能力で守護者『ガーディアン』の最高峰である『テュポン』を生み出して使役しているのだが、王女『アナスタシア』殿によると、以前我々が倒した『テュポン』とは『システム・エキドナ』が作り出し、周辺国家に供与していた端末の一つでもあると云う事だ。

 という事は、あの神話の化け物の様な『テュポン』は、幾つかの周辺国家群に供与していた事を考えると、あれ一体だけでは無くて、『システム・エキドナ』が作り出せる、量産品に過ぎないという事なのか!

 

 その事実に帝国軍上層部全員が、暫くの間呆然としてしまった。

 だが、流石に如何に量産品とは云え『テュポン』はあれ程の巨体だったので、そんなに簡単には復元や再製は容易には出来ないらしく、スラブ連邦の首都で有る『エデン』では復活していない事が、アーティファクトを貸した『賢聖モーガン』殿と『守護竜アルゴス』殿は把握出来ているそうだ。

 それよりもアーティファクトを精査したことで、或る事実が判ったそうだ。

 実は北方には、『システム・エキドナ』とは別の或る封印が有ったのだ。

 それは、『システム・エキドナ』の様に人の営みを助けると云った様な、代物とは全く別であり、人に対して害しか与えないので、神が封印していた古代の怪物で有る。

 

 その封印されていた古代の怪物の名は、『クラーケン』!

 伝説でも船や海岸に住む人々を長きに渡り苦しめた、『海魔クラーケン』の封印を『導師(グル)ラスプーチン』は解放してしまった様なのだ。

 

 どうやら我等帝国軍は、次の戦いに於いて初の海戦を、伝説の『海魔クラーケン』と繰り広げる事になりそうだ。

 



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6月の日記⑩(人類銀河帝国 コリント朝元年)《試合アラン様対アトラス殿》

 6月13日

 

 「・・・本当に良いのだな?小さきものよ、手加減は出来ないぞ!」

 

 とアトラス殿はアラン様に言われ、アラン様は、

 

 「全然問題ないぞ!

 むしろ何処まで手加減してやろうか、考えて居るところだよ」

 

 返答されたので、

 

 「良くぞ、ほざいた小さきものよ、

 全力で引き裂いてくれるぞ!覚悟しろ!」

 

 とアトラス殿は翻訳機越しに、猛烈なドラゴンの轟く雄叫びを上げた。

 其れに対して、アラン様は少しも揺るがずに、口元をニヤリと歪ませてとても楽しそうだ。

 

 と此処まで書いたが、やはり此処までの経緯を書かないと、後で見返しても意味不明なので、書いて置かねばなるまい。

 

 そもそもはアトラス殿が、見合い相手であるグローリア殿に対して、アラン様の能力への疑義を呈したのが切っ掛けで、アトラス殿とグローリア殿は双方の魔法合戦で、医療用『コクーン』で療養する事に2頭ともなっていたのだが、本日朝に2頭とも治療が完了して、医療用『コクーン』から出て来た。

 早速、アラン様始め帝国軍上層部の面々は様子を見に来たのだが、アトラス殿はどうしてもドラゴンが人間に協力する事に、納得出来ないらしい。

 

 其処で、アラン様が直々にアトラス殿に力を見せてやるという事となり、ワザワザ魔法都市『ザナドゥ』から遠く離れた、ドラゴン達用の演習場(広大な荒れ地)までやって来て、アラン様とアトラス殿の1対1の試合となった。

 

 アラン様は、空軍用の標準装備で有るオリハルコン製の軽装備と、故アンテス近衛騎士団長が使っていた魔法剣にて、相手するようだ。

 対して、アトラス殿は武装の類は一切行わず、自らの持つ爪と牙で相手するようだ。

 しかし、そもそもアトラス殿は古代竜(エンシェント・ドラゴン)で有るので、体長だけで現在のグローリア殿の25メートルを越える30メートルに達し、当然その手足と尾も応分に大きい。

 正直その大きさに対して、身長は175cmしかないアラン様は、見比べるとあまりな差に、普通人が見ていたら恐らく絶望するであろうが、は欠片もアラン様の勝利を疑っていない、寧ろアトラス殿がどの位持つかを予想し合っていた。

 因みに此の場に居るのは、アトラス殿側に『守護竜アルゴス』殿と合流した『賢聖モーガン』と『ケットシー128世』、そして『賢王モルガ』15世とそのお付きの方々と、旧ルーシア王国王女『アナスタシア』殿とその旧臣達。

 アラン様側には当然帝国軍上層部の面々とグローリア殿含む帝国軍のドラゴン達、ドラゴンとの対戦と聞いて見学に来た『剣聖ヒエン様』と『拳聖ダンテ様』、そして『剣王カイエン』と『拳王ダルマ殿』含む修行仲間20人、更にはトカレフ達海洋大国デグリート王国からの合流者に手の空いている帝国軍人200名程がやって来ている。

 

 そして此処で冒頭に戻り、

 

 未だにアトラス殿は古代竜(エンシェント・ドラゴン)で有る自分に対して、堂々と立っている目の前のアラン様を見て、違和感を感じていらしく、

 

 「・・・本当に良いのだな?小さきものよ、手加減は出来ないぞ!」

 

 とアトラス殿はアラン様に言われ、アラン様は、

 

 「全然問題ないぞ!

 むしろ何処まで手加減してやろうか、考えて居るところだよ」

 

 返答されたので、

 

 「良くぞ、ほざいた小さきものよ、

 全力で引き裂いてくれるぞ!覚悟しろ!」

 

 とアトラス殿は翻訳機越しに、猛烈なドラゴンの轟く雄叫びを上げた。

 其れに対して、アラン様は少しも揺るがずに、口元をニヤリと歪ませてとても楽しそうだ。

 

 「其れでは始めよ!」

 

 と『守護竜アルゴス』殿が宣言された。

 すると、スタスタとまるで友達に歩み寄る様に、何でもない様子でアラン様が正面からアトラス殿に近づく、流石に面食らったのか、暫く呆然とアトラス殿はしていたが、直ぐ目の前でアラン様が「掛かってこい」と言わんばかりに、にこやかに笑いながら手招きして挑発した。

 

 「ゴオッ!」

 

 との吐息と共に、鋭い右前足の爪が横からアラン様に襲いかかる。

 だが、アラン様は僅かに前に出て爪を避けると、そのアトラス殿の右前足の振りに身体を合わせ、その力を利用して身体を独楽の様に回転させた。

 

 「むうっ!」

 

 と不審げにアトラス殿が訝ると、次の瞬間回転していたアラン様は、その回転軸を傾けて斜めにアトラス殿の腹部目掛けて、流星の様な勢いで凄まじい回転蹴りを打ち込んだ!

 

 「ウゲエエーー!」

 

 とアトラス殿はドラゴンとしてあるまじき事に、吐瀉物を撒き散らしながら20メートル程後退して、信じられないものを見る目付きで、アラン様を見た。

 アラン様は蹴り終わった場所で、またも笑いながら手招きしている。

 

 「フンッ!」

 

 と今度は、その太い尾を真横からアラン様に向けて、薙ぎ払った。

 その尾をアラン様は、スレスレに下から搔い潜られると、走り抜けて行くその尾に向けて、方向をそのままに手を添えて気合を発した。

 

 「発っ!」

 

 すると尾は振るった時の倍の速度で振り抜けてしまい、そのあまりの勢いにアトラス殿は、尾に引きづられるようにひっくり返ってしまった。

 

 「うぬうううーーっ!」

 

 と呻きながらアトラス殿は立ち上がり、アラン様を見たが、その瞬間アトラス殿のドラゴンの身体は盛大に震え上がった。

 そう、恐らく生物の本能として眼の前に居る存在が、自分より明らかに強者であるという事実が感じられ、恐怖したのだ。

 だが、アトラス殿はどうしても其の事実が認められないのだろう、

 

 「認めん!認めんぞ!古代竜(エンシェント・ドラゴン)で有る自分が、この様に小さい生き物に過ぎない人間に負けるなど、有ってはならない!有ってたまるかあああーー!」

 

 と吠えて翼をはためかせて、直ぐ側の海上に浮かぶと、轟々と息を吸い始めた。

 ブレスを吐くつもりなのだろうが、其れは悪手だと帝国軍上層部の面々は思ったが、他の面々は緊張した様だ。

 

 「ゴオオオオオーーーーーッ!!」

 

 とファイアーブレスを、アラン様に向かって猛烈な勢いでアトラス殿は吐いた!

 しかし、アラン様は少しも慌てずに魔法剣を掲げると、そのファイアーブレスに向けた、

 すると魔法剣はそのファイアーブレスをまるで息を吸い込む様に、尽く吸い尽くした!

 

 「何だと?!」

 

 とアトラス殿が驚愕したが、

 

 「・・・どうやら期待外れの様だ、魔法力は膨大だが、圧倒的に戦闘経験が無さ過ぎる。

 まるで素の能力に磨きが掛けられていない、『守護竜アルゴス』殿、どうやら甘やかせ過ぎた様ですな!」

 

 とアラン様は『守護竜アルゴス』殿に、苦言を呈された。

 『守護竜アルゴス』殿は爪で頭を掻いて、

 

 「・・・お恥ずかしい話じゃが、アラン陛下の見立て通り、甘やかせていたようじゃな。

 アラン陛下引導を渡してやってくれまいか!」

 

 とアラン様に頼まれたので、アラン様は頷くと、

 

 「・・・さて、鍛え直す意味合いでも叩きのめしてやろう、覚悟は良いか?」

 

 とアトラス殿に尋ねた。

 アトラス殿はブルブルと身体を怒りに震わせ、

 

 「・・・・・あり得ない!有り得てたまるかあああーーー!古代竜(エンシェント・ドラゴン)がひ弱な生き物で有る人間に負けるなどと、絶対に認めんぞーーー!!」

 

 と吠えて大きな口を開いて、猛烈な勢いでアラン様目掛け突っ込んで来た!

 

 「そうか、そのひ弱な人間も鍛え上げれば、神にも届く事を見せてやろう!」

 

 と皆に聞こえる様に叫ばれると、アラン様はそのままアトラス殿目掛け走り出し、その勢いのままに海面を走り空中のアトラス殿に向かって跳んだ!

 

 両者が交差すると見えた瞬間、突如アラン様が縦回転を始めて、勢いに急ブレーキが掛かった。

 するとアトラス殿の大きな口は、アラン様の手前で閉じてしまい、アラン様をその顎で喰らえ無かった。

 アラン様はその縦回転の勢いを少しも減じずに、右の踵落としを目の前で閉じている大きな口の上顎に炸裂させた!

 「ゴッ」とアトラス殿の上顎が沈み込みむと、次の瞬間下顎が猛烈な勢いで跳ね上がった!

 何故ならアラン様は、踵落としをしながらも回転を続けて、その回転軸を勢いを殺さずに逆回転に転じて、下顎を下から凄まじい勢いで蹴り上げたのだ!

 

 アトラス殿はこの時点で白目を剥き、意識を失っていたが、アラン様はアトラス殿の首元に有る一枚の鱗目掛けて、ファイアーブレスを吸い込み真っ赤になった魔法剣を振り下ろし、見事に切り落とした。

 

 すると、完全に力を失ってアトラス殿は、海面に叩きつけられて、そのまま海中に沈み込んで行く。

 『守護竜アルゴス』殿が、ゆっくりと飛び立ち海中に沈んだアトラス殿を引っ張り上げたが、完全に失神しているアトラス殿は呼吸こそしているが、白目を剥いたままだ。

 

 「勝負あり!勝者アラン陛下!!」

 

 『守護竜アルゴス』殿が、アラン様の勝利を宣言されたが、見学していた者達の内帝国軍の者は歓声を上げたが、他の者達は咳き一つ無い。

 まあ、無理もない、如何にモニターで今までのアラン様の戦闘記録を見ていようと、生の戦闘、それもドラゴンと生身で正面切って戦う人間など、アラン様以外に居る訳が無く、然もアラン様は『循環魔法』以外殆ど魔法を使用しなかった。

 横に目をやると、『剣聖ヒエン様』と『拳聖ダンテ様』は深く頷き合って居られるが、『剣王カイエン』と『拳王ダルマ殿』含む修行仲間20人は、皆同様にハラハラと目から涙を流している。

 何となく気持ちを察しながら、涙の理由を聞くと『剣王カイエン』が、

 

 「・・・武術とは、此処までの高みに到れるのですね・・・!

 私の考えていた武の頂点とは、山登りで云えばまだ麓から、中腹にも差し掛かっていない程度の代物だった訳だ・・・」

 

 と感動した様子で呟くと、『拳王ダルマ殿』も、

 

 「体術とは、此処までの動きが可能なのですね!

 格闘では、魔物や魔獣には通用せず、ただ人との戦いにしか役に立たないと思って居りましたが、完全にその間違いを悟らされました!

 極めれば、格闘技でも充分に魔物や魔獣にも通用するのだと、アラン様は古代竜(エンシェント・ドラゴン)相手に照明して下さった、おおっ、何と素晴らしいのだろうか!我等はこの武神その人の如き方から武術を学べるのだ!此の様な奇跡は100回生まれ変わろうと起こるものでは無い!」

 

 と周りの修行仲間20人と『剣王カイエン』に言い、皆も「その通り」と頷き合っている。

 正直、アラン様の様に古代竜(エンシェント・ドラゴン)に余裕で勝つのは、生涯賭けて修行しても無理だろうが、ドラゴンを相手に出来る様になる位ならば目指せるだろうから、この新しい仲間達を心から応援しよう。

 



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6月の日記⑪(人類銀河帝国 コリント朝元年)《神鎧『ジークフリート』と『レーヴァテイン』》

 6月15日

 

 我々は、『守護竜アルゴス』殿とアトラス殿の住処で有る、海中神殿に出向いた。

 此処でアラン様は、幾つかのアーティファクトを譲り受ける事になる。

 此の場には今、帝国軍上層部と『賢聖モーガン』と『ケットシー128世』そして『賢王モルガ』15世と云った面々が居る。

 他の者達や自分以外の空軍の士官達は、今もセリーナ・シャロン両准将の元で様々な特訓を受けていて、此の場に居るドラゴンは、『守護竜アルゴス』殿だけだ。

 

 「・・・さて、準備は良いかな『賢聖モーガン』に『ケットシー128世』よ」

 

 と『守護竜アルゴス』殿は尋ねられると、

 

 「私と『ケットシー128世』は、準備OKよ。

 其々がカーバンクル夫妻から預かってきた、承認用の宝石を持っているから大丈夫」

 

 「その通りである、カーバンクル夫妻もアラン陛下を完全承認する事に同意しておるし、当然吾輩も完全承認している。

 後は『守護竜アルゴス』殿、お主が承認すれば、調整者『スター・シード』プロジェクトに於ける特記事項たる、『神人』承認が行えるのだよ」

 

 と『賢聖モーガン』殿と『ケットシー128世』殿が、答えられた。

 正直な処、調整者『スター・シード』プロジェクトとは何か、サッパリ判らなかったが、恐らく何かの暗号の様な物なのだろう。

 

 「・・・良かろう、我もこれ迄の事績や行動、そして我との面談と調査によってアラン陛下を『神人』で有ると完全承認する!

 ではアラン陛下、神殿の祭壇に進まれよ!」

 

 と言われて、アラン様は神殿の奥に有る祭壇に進まれる。

 其処は、階段50段程の高い場所に有り、その脇には祭壇より低いが審判席の様な座席が8席有り、其処に『賢聖モーガン』殿と『ケットシー128世』殿が座って、両脇にカーバンクルから預かったらしい宝石を座席に固定した。

 『守護竜アルゴス』殿はその巨体故か、神殿の奥の広い空間に座したままで居て、そのままで何やら唱え始めた。

 

 「基幹プログラム『ルミナス』への承認手続きを要請する!

 今此処に、調整者派遣の生体監視端末で有る5個体の完全承認を以って、特記事項『神人』承認を行う!

 我『星竜』個体名『アルゴスNO.18』

  『星猫』個体名『ケットシーNO.128』

  『レッド・カーバンクル』個体名『フレイムNO.111』

  『ブルー・カーバンクル』個体名『アイスNO.123』

  『星人』個体名『モーガンNO.11』

 以上の完全承認を以って此の者個体名『アラン・コリント』を、惑星アレスに於ける基幹プログラム『ルミナス』の、対外敵プログラム"武神アラミス"の実行者たる『神人』として承認せよ!」

 

 と幾つかの判らない単語は有ったが、どうやら『ルミナス』様や"武神アラミス"様のお名前が有った事から、きっと神々への願いの様な物なのだろう。

 

 すると神殿の壁から不思議な色の光線が、アラン様を照らし始めた。

 そして何やら金属を弾く様な音が聞こえると、アラン様の目の前に神々しい光を放つ鎧が現れた!

 

 「・・・やはり承認されたな・・・、我が生きている間には無いだろうと考えていたがな。

 アラン陛下!今目の前に有るその鎧こそ、神鎧『ジークフリート』別名《不死の鎧》と呼ばれる物だ!

 この鎧は神代の昔に調整者が、貴方の知る『量子物理学』を3段階超える『イデア理論』により、高次元の物質で出来ている。

 つまり、この鎧はこの次元に於ける特異点そのもので有り、理論上この次元に存在する物はどの様な物であろうと、神鎧『ジークフリート』を傷つける事は出来ない!

 そしてこの鎧は、龍脈(レイライン)とのリンクを常時確立しており、龍脈(レイライン)の拠点であれば、空間跳躍が行える。

 あくまでも貴方だけが出来るのであって、他の者はその凄まじい力には付いて行けないので注意してくれ!」

 

 と『守護竜アルゴス』殿は言われた。

 やはり自分には判らなかったが、どうやらまたもアラン様を神々は認められ、あの神々しい光を放つ鎧を与えて下さった様だ。

 鎧は己の主人が判るのか、其々のパーツに分かれるとアラン様の身体の部分に次々と装着した!

 

 「「「オオッ!」」」

 

 アラン様に完全装着した神鎧『ジークフリート』は、まるで喜ぶかの様に七色の光を放ち、海中神殿内を明るく照らした。

 そしてアラン様は神々と同じ様に、空中に浮かばれると我々の目の前に降りて来られた。

 

 帝国軍上層部全員が地面に跪いて、アラン様を迎えたが、アラン様は苦笑されるとサッサと神鎧『ジークフリート』を解除してしまった。

 神鎧『ジークフリート』は、アラン様の目の前で最初に現れた形と同様の姿になると、空間に飲み込まれる様に姿を消した。

 

 「それで良い、神鎧『ジークフリート』は強敵が現れた際の、切り札の一つとして扱うのが正しい。

 そして今一つ、アラン陛下に与えるアーティファクトが有る」

 

 と『守護竜アルゴス』殿は言われ、『賢聖モーガン』殿に頷いて促すと、『賢聖モーガン』殿は携えていた黄金色の箱から一振りの剣を取り出し、アラン様に手渡された。

 

 「その剣こそは『レーヴァテイン』、神鎧『ジークフリート』程では無いけど、神器と云って差し支えない代物よ。

 そしてその剣ならば、現在『導師(グル)ラスプーチン』が持っていると思われる、アーティファクト『ティルフィング』に対抗出来るわ」

 

 アラン様が『レーヴァテイン』を鞘から引き抜かれ、その刀身を翳すと、『レーヴァテイン』も喜んだ様に光り輝いた。

 

 「・・・どうやら、『レーヴァテイン』にも認められたようね。

 アラン陛下、貴方ならばスラブ連邦の暴威から世界を救い、『システム・エキドナ』を『導師(グル)ラスプーチン』から奪い返して、元に戻せる筈だわ。

 期待しています!」

 

 と『賢聖モーガン』殿は言われ、

 

 「お任せ下さい」

 

 とアラン様は、堂々と誓われた。

 



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6月の日記⑫(人類銀河帝国 コリント朝元年)《イリリカ王国到着と魔法剣大量発注》

 6月18日

 

 諸々の手続きを終えた後、帝国軍全艦隊は『魔法大国マージナル』を出国して、一路最後の目的地『イリリカ王国』に向かっている。

 その間も空中では、空軍のドラゴン達とアトラス殿の演習が行われていた。

 試合で、徹底的にアラン様との力の差を思い知らされたアトラス殿は、態度を改められて、アラン様の騎竜として特訓につぐ特訓を重ねている。

 来たるスラブ連邦との戦いは、現在想定されているだけで、

 

 ①大量の『海魔クラーケン』との海戦

 

 ②マジノ線で戦ったMMで構成された疑似兵士や疑似魔物軍との陸戦

 

 ③ヒュドラの様な大型疑似魔獣との合戦

 

 ④複数の『テュポン』との超大型魔獣との連戦

 

 ⑤『システム・エキドナ』での『導師(グル)ラスプーチン』との対戦

 

 といった戦いが考えられていて、早期のアトラス殿の戦闘経験によるレベルアップは、必須の状況だ。

 また、『守護竜アルゴス』殿と『賢聖モーガン』殿は、『魔法大国マージナル』に居て、『システム・エキドナ』の復旧を龍脈(レイライン)からサポートするそうだ。

 自分には判らないが、恐らくとても重要な事なのだろう。

 

 アトラス殿は、グングンと演習によってレベルアップしていった、今まで『守護竜アルゴス』殿以外のドラゴンが居らず(『守護竜アルゴス』殿によると、今では滅んだ『アトランティス大陸』での、大量の魔物との大戦で『守護竜アルゴス』殿と卵だったアトラス殿以外のドラゴンは、全滅したそうだ)、訓練する相手が居なかったのに、今では16頭のドラゴンが訓練相手に居るし、自分とほぼ同格のグローリア殿には、魔法訓練はともかく格闘戦では、『コリント流ドラゴン格闘術』を習得しているグローリア殿には、負けてばかりだ。

 故に、アトラス殿は徹底的に基礎訓練である、走り込み(ドラゴンは飛べる為に基本走らないから、以外と下半身は弱い)と徹底的なストレッチ(ドラゴンはその巨体故に身体の柔軟性は乏しい)をする事によって、基本の身体作りに着手し、身体をバランスの取れたものに改善していった。

 更にドラゴン用の『ナノム玉』を服用して、魔力と魔法行使の最適化を行い、ムービーによる新たな魔法教育を受ける事によって、帝国軍の軍団魔法やグローリア殿が習得している強敵用の極大魔法等の学習を行っている。

 

 実際にムービーで過去の帝国軍、特に我等空軍と数々の強敵(『ザッハーク』や『テュポン』等)との対戦の記録は、アトラス殿にとって大変ショックだった様だ。

 自身がドラゴンで有り、この世界でも強者で有ると思い込んで居たのに、実際は自分など歯牙にもかけない強者がそこら中に居るのだ。

 このままの状態では、単に蹂躙されるのみと理解したアトラス殿は、より一層特訓に勤しんでいった。

 

 6月23日

 

 最後の目的地『イリリカ王国』の首都に到着した。

 早速アラン様達上層部が王宮に向かっている間に、我等空軍全員も協力して大量のオリハルコンを艦から搬出した。

 此れ等は、西方教会圏に於いて有名なイリリカ王国の武器工房へ提供し、大量の魔法剣と魔法ナイフを発注する為に必要なのだ。

 ドラゴン達もオリハルコン他の物品の搬出を手伝っていたのだが、イリリカ王国の人々にとっては陸上戦艦と陸上空母に続いて信じ難い光景だった様で、ひたすら呆然とただ見ている。

 アラン様達上層部が王宮から帰って来て、王宮から来た商務官と共に国営の武器工房に向かう。

 国営の武器工房では、搬入された膨大なオリハルコンの資材とそれを加工する事の出来る、親父謹製のハンマーや旋盤、そして数々の器具を前に喧々諤々と議論を重ねている鍛冶職人達が居た。

 早速アラン様は、設えられた壇上に上がり、

 

 「イリリカ王国の誇る鍛冶職人の方々、こうしてお会い出来た事を大変嬉しく思う。

 私は、人類銀河帝国皇帝アラン・コリントという者だ。

 常々帝国軍と共に戦いながら思うのは、武器という物の他に対する優位性だ。

 当初、冒険者クランでスタートした我等は、数人しか魔法剣を所持せず、戦闘行動を取る際にはその戦力差を念頭に入れながら行動していた。

 だが、或る時偶然からイリリカ王国製の魔法剣を、大量に得ることが出来て、戦力の不均衡差を考えずに済む事が出来た。

 此の時のクランメンバーの感動と喜びは、私の脳裏に深く刻まれている。

 それ程我等にとって、此の時のイリリカ王国製の魔法剣は素晴らしい物だったのだ。

 そして今また、戦力の不均衡が生じている。

 何故か?と言うと、我等帝国は大量のオリハルコンを得られたが、極一部の者にしかオリハルコンの能力を引き出した武器を与えられず、大量の量産品しか殆どの兵士には渡せていない。

 此れではオリハルコンという素材自身が、泣いてしまうのではと思う程悲しい事態だ。

 其処で私はあの時と同じ様に、大量の魔法武器を我が帝国軍の兵士に与えるべく、こうしてイリリカ王国にやって来て、直に鍛冶職人の方々にお願いするのだ。

 人類銀河帝国皇帝としてお願いする!

 是非、貴方方優れた鍛冶職人の皆様にオリハルコン製の、優れた武器を作って貰いたい!

 帝国からは、資材と器材そして資金は上限を設けずに提供するので、貴方方の持てる最高の技術を使い、素晴らしい魔法武器を製作して頂きたい。

 また、希望者を募るのだが、我が帝国にはこのオリハルコンとアダマンタイトが膨大に有るのは勿論、此れ等を溶かし資材に出来る溶鉱炉とアダマンタイトを加工出来る、旋盤が存在する。

 是非帝国に赴いてくれて、より技術を磨きたいと希望するので有れば、帝国は高待遇での雇用をしたいと思う。

 奮っての参加を期待する!」

 

 とアラン様は演説した。

 其れを聞いて、明らかに目の色を変えている職人が、大勢いる事に自分は気づいたので、恐らく相当数の希望者が帝国にやって来るのだろう。

 



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7月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝元年)《帝都コリントに帰還》

 7月2日

 

 大量のイリリカ王国製の武具・武器を満載し、更に帝国での技術支援をする熟練の鍛冶職人と、新規の技術習得を目指す新人達の合計300名は、艦隊の物流支援に来た、トレーラーギルド所属のトレーラー野郎達が運転する50台に分乗して、一路帝国首都で有る帝都コリントを目指して、イリリカ王国を出発した。

 このイリリカ王国での滞在期間中も、アラン様は精力的に動き、イリリカ王国・魔法大国マージナル・ザイリンク公国・海洋大国デグリート王国の新しい形での物流システムの構築、そしてその取引でも帝国の関係する物は、全てポイント決済にして、各国に置いた帝国バンクにて、ギニーとの為替レートは1対1のままで円滑に商売が出来る様に、全ての国で身分確認と保証の担保としてのカード発行も行っていく。

 何れは、其々の国にも繋がる魔導列車への搭乗パスポートにもなるので、恐らく全ての民が欲しがるだろう。

 

 そんな忙しい間も、暇を見つけてはアラン様はアトラス殿を鍛えるのに余念が無い。

 或る時はご自分がアトラス殿に乗り、限界以上のスピードや錐揉み回転をさせるなど、アトラス殿がゲエゲエと吐くまで飛行させたり、グローリア殿にアラン様が憑依(ダイレクト・モーションキャプチャーと云うらしい)して格闘し、散々に尻に敷いたりした。

 此処まで己の未熟さをアラン様によって思い知らされ、更に最初の試合の時に切り落とされた『逆鱗』の効果で、完全にアラン様をアトラス殿を認めた。

 いや、認めると云うレベルでは無くアラン様に心酔したと云った方が良いだろう。

 アラン様との訓練が無い時は、アラン様のこれ迄の戦いのムービーや話し、更にはコリント流の剣術・槍術・格闘技も知りたがり、終いには帝国軍人と一緒に帝国軍訓練をし始めた。

 その甲斐あって、アトラス殿はメキメキとその実力を向上させて行った。

 

 7月10日

 

 漸く2ヶ月間の長期出張を終えて、帝都コリントに到着した。

 久し振りに見る帝都は、全艦隊の到着を大歓声で迎えてくれて、人々は帝国旗たるコリントの紋章を縫い付けた旗を盛んに振っていた。

 正直そんなに長い出張では無いのに、帝都コリントに郷愁を感じるのは何故だろうか?

 やや疑問に感じながらも、我が家に帰ると家族全員が自分を迎えてくれて、その理由が判った。

 此処だけに自分の魂の安息出来る家族が居り、自分は此の場を守る為にこそ戦っているのだと心底理解出来たからだ。

 きっと、今回帰還した全員が同様な思いを抱いたのではないだろうか、抱きついて来たミーシャをお腹の辺りに気を付けながら抱きしめて、家に入った。

 

 7月13日

 

 3日間の休養を終えて、空軍ドーム(新しく出来た空軍専用のドーム)に出向き、留守中の出来事や書類作業を完了させて、午後にやって来られたアラン様とクレリア様と共に、アトラス殿の武装装着に立ち会う事になった。

 アトラス殿の武装は、対『テュポン』戦用にグローリア殿に換装した『機龍(ドラグーン)』モードを基礎とした、オリハルコンとアダマンタイトをこれでもかと鍛え上げ、対強敵用に特化した物で、両肩にフォノンメーザー砲を装備し、背部には避雷針パーツ5基を装着し、両脇には専用の『グングニルの槍』を装備している。

 つまりこの標準(スタンダード)モデルの段階で、凡そグローリア殿の『機龍(ドラグーン)』モードの1.5倍の戦闘力を備えている。

 更にこのアトラス殿の武装には標準(スタンダード)モデルの他に、海上・海中戦闘用の『海竜(リヴァイアサン)モード』が存在し、『海魔クラーケン』達との海戦を想定している。

 アトラス殿は、標準(スタンダード)モデルの武装を身体に装着し、その着け心地を確認して行く。

 どうやら納得したらしいアトラス殿は、アラン様とクレリア様の前に進むと、

 

 「アラン皇帝陛下、クレリア皇妃陛下、私に此の様な素晴らしい武装を与えてくれた事に、大変感謝します。

 此の上は、此の武装に恥じない働きを以って報いたいと思います。

 どうぞご期待下さい!」

 

 と深々と頭を下げて感謝された。

 アラン様とクレリア様は深く頷かれ、クレリア様は、

 

 「なんて礼儀正しいドラゴンなのかしら、帝国空軍のドラゴン達に見習わせるべきだわ!」

 

 とこれ迄の経緯を知らないが故の、感想を述べられた。

 なんとも云えない空気が漂う中、アトラス殿が機動訓練に入る。

 

 「・・・・・アトラス、『機龍(ドラグーン)』モード」、出る!」

 

 と決然とした掛け声と共に、オリハルコンとアダマンタイトによる武装を光り輝かせて、アトラス殿が機動訓練を開始した。

 

 その機動速度は、アッと言う間にドームの天蓋部分に有り、開いている開閉口を飛び出し、かなりの高空まで達した。

 そして望遠している観測モニター越しに、マッハ3以上の巡航速度で縦横無尽に飛び回り、やがて超高空でピタリと止まると、翼を大きく広げその翼に太陽の光を収束し始め、そして、

 

 「プロミネンス・フレアー!」

 

 とアトラス殿が叫ぶと、その翼から凄まじい高熱ビームが、天に向けて放たれた!

 予め決められていたのだろうが、もし地上に向けてその高熱ビームが放たれていたら、大惨事になっていた事だろう。

 だが、想定されている敵の事を考えると、この位の威力は当然必要になる相手で有る。

 何れは、ガイにも装備して貰いたいと考え、空軍の攻撃訓練はこの凄まじい攻撃も念頭に入れて、プランを練ろうと思った。

 



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7月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝元年)《第二次スラブ戦争の幕開け》

 7月20日

 

 アトラス殿とグローリア殿の2大ドラゴンを主軸とした、空軍のフォーメーションや新たな軍団魔法の演習に励んでいたが、遂にマジノ線に有る『マジノ・ドーム』から、緊急事態の発令が帝都コリントに齎された。

 どうやら、スラブ連邦に所属していたが、マジノ線の近郊に有る為に最近帝国軍側に寝返った、クライナ公国から救援依頼が、マジノ線に来たらしい。

 早速、マジノ線に張り付いていた、帝国北方軍から先遣隊がクライナ公国に出動し、戦闘ヘリコプターを改良して、無人の偵察機となったドローン(無人の遠隔操縦機をこう呼ぶらしい)をクライナ公国の重要都市に、配備した様だ。

 そのドローンを通して状況を把握すると、スラブ連邦はまたも首都の『エデン』から、大規模な軍団を進発したようだ。

 ただ前回と違うのは、クライナ公国の北のキエフ軍港にも動きが有り、何かの攻撃により商船が次々と沈められている様だ。

 やはり、想定にあった『海魔クラーケン』が出没しているのだろう、このままではクライナ公国への海の道が、閉ざされてしまう。

 

 アラン様は決断し、帝国上層部全員出席の御前会議を招集して、第二次対スラブ連邦戦を正式に提案され、帝国上層部全員の賛同を得られた。

 そして、『魔法大国マージナル』から連れて来た旧ルーシア王国の王女『アナスタシア姫』からの依頼を、本人の口から述べて貰った。

 

 「・・・人類銀河帝国の皆様、私がルーシア王国王女アナスタシアです。

 この度は、ルーシア王国の兄弟国であるクライナ公国への救援に向かって呉れるとの事、大変嬉しく思います。

 何でも、既にクライナ公国公王一族は尽く『導師(グル)ラスプーチン』の手により族滅されているそうですね、私は親族であったクライナ公国公王一族の無念を晴らす為にも、立ち上がりたいと思うのですが、如何せん私には、戦力と呼べるものは一切無く、然も私自身は戦いの経験も無く、只祈る事しか出来ません。

 真に不甲斐ないですが、人類銀河帝国皇帝アラン陛下と皇妃クレリア陛下にお願い致します。

 どうぞ、大陸北方の人民を助ける為に、人民を苦しめ続けるスラブ連邦、そして其れを主導する『導師(グル)ラスプーチン』を倒し、大陸北方に安寧を齎して下さる事を切にお願いします!」

 

 と深々と頭を下げ願われた。

 そのルーシア王国王女アナスタシアの横にクレリア様は寄り添われ、泣き出したアナスタシア姫を慰めて居られる。

 其れを見て、決意を改めて固めている我等帝国上層部に向かい、アラン様は、

 

 「当然我等帝国は、此のアナスタシア姫の願い通り、大陸北方の人民を救うべく行動を起こす!

 このままスラブ連邦を放置すれば、必ずその魔の手は我等の居る西方教会圏に襲いかかって来る!

 そして、最後には大陸全土は『導師(グル)ラスプーチン』の説く、『共産主義』と云う悪魔の教えに染まってしまうだろう。

 我等帝国は、此の様な人を人とも思わないスラブ連邦の行いを、断じて許すわけには行かない!

 よって我等帝国は、己の持つ軍事力を最大限行使した上で、同盟を組んだ西方教会圏の国々の協力を得て、これよりクライナ公国の救援と、スラブ連邦の首都への進軍を開始する!」

 

 と断固たる意志を示された。

 当然我等帝国上層部全員否やは無く、全員がアラン様に頭を下げ、

 

 「「「イエス、ユア・マジェスティ(皇帝陛下の御意の儘に)!」」」

 

 と一斉に唱和した。

 

 そして御前会議は、一気に軍事行動に伴う諸々の計画、そして実行期間・北方人民の保護等を立案し、スラブ連邦に面するアラム聖国と崑崙皇国への、外交折衝団を派遣し、我等帝国の行動はあくまでもスラブ連邦の暴虐を掣肘する為であり、アラム聖国と崑崙皇国へ敵対するものでは無い事を説明し、ただ両国が我等帝国の行動を阻害する様な措置を取った場合には、断固として両国の措置に対して応分の行動を取る事を宣言させる事とした。

 

 7月21日

 

 兼ねて約束していた通り、海洋大国デグリート王国の誇る二大艦隊の一艦隊がノルデン諸国連合の各港に向けて、出港した。

 この艦隊は、敢えて旧来の木造船で構成されていて、然も殆どの武装は取り外されて、新造されている鋼板船に備え着け直している。

 つまり、この艦隊は物資輸送を主の任務としており、場合によっては『海魔クラーケン』への囮の役目も引き受けて貰う事になる。

 その為に、ノルデン諸国連合の港に着いたら、物資を積み込む事と、少人数で運用出来る様に若干の改装をして貰う事になっている。

 

 7月24日

 

 西方教会圏の全ての人々に向けて、アラン様が今回のスラブ連邦との大戦の決意表明をモニターで放送された。

 

 「この度、我等『人類銀河帝国』にクライナ公国からの救援要請が有り、更に旧ルーシア王国の王女『アナスタシア姫』からの大陸北方の人民への救済依頼が有りました。

 我等『人類銀河帝国』は、元々スラブ連邦の人を人とも思わない行い(此処でドローンで撮影した、現在行われているクライナ公国を襲っている疑似兵士や疑似魔物による虐殺シーンをマイルドにして放送した)を、断じて看過し得ない!

 よって 我等『人類銀河帝国』は断固とした決意の元、クライナ公国を救援し、そのままスラブ連邦へ決戦を挑みます。

 厳しい戦いになると考えますが、我等『人類銀河帝国』は一丸となって戦う所存です!

 どうか西方教会圏の全ての人々にお願いしたい!

 戦いには勝つが、恐らく国土が荒らされて住めなくなった北方の人民は、西方教会圏の国々に難民として移住するケースが考えられる。

 その際には、どうか温かく迎えて上げて欲しい。

 諸々の費用負担は、全額 我等『人類銀河帝国』が肩代わりします。

 ただ貴方方には、異邦人で有るという理由だけで、隔意を持たずに、この世界に生きる同士なのだと考えて、受け入れて貰いたいのだ。

 必ずその思いは難民として移住する人々にも届き、その相互理解と協力関係は、後の世に素晴らしい財産となる事だろう。

 私アランには、その輝かしい未来が見えています。

 きっと貴方方にも見えて来る筈です。

 より良い未来へ向けて、皆で共に手を取り合い歩み始めましょう!」

 

 と半ば未来への祈りの様な宣言がなされた。

 

 此の時を以って、第二次スラブ戦争の幕は切って落とされたのである。

 




 一旦此処で、本編は休止して閑話が入ります。
しかし、感想でも上がってますが、まさか現実がこの二次小説に近い展開になるとは思わなかった(呆然)
 然も読者は、ご存知でしょうがかなり前から、『ラスプーチン』とし敵の首魁は設定してますし、此れから戦う主戦場はクライナ公国(ウクライナをもじってます)です。
 閑話が終わり、本編が再開すると海戦・陸戦・空中戦のオンパレードになり、『首都キ○フ奪還戦』『オデ○サの戦い』『クリ○ア海戦』等の思いっきり、現実とリンクする戦いが有ります。
 現実には起こって欲しくは無いですが、あくまでも娯楽作品として、お楽しみ下さい。


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閑話㊶『カレンちゃん日記」㉑(カレンちゃん、タラちゃんとの出会いと釣り大会)

 3月3日

 

 『ケッちゃん』と『マドンナ』さんの結婚式も終わり、学校の勉強を頑張ってたんだけど、今日はあのカトルさんのお父さん達が、正式にコリント領に入植されたんだ。

 去年の9月に、一旦はコリント領に旅行がてら来たんだけど、その時にスゴくコリント領が気にいったみたいで、アラン様とクレリア姫様と以前からお約束していた、最高の場所に大きなお店を開く為に、ゴタニアから完全に引っ越して来る諸々の準備をしに帰ってたんだって。

 親友のサラちゃんは、ゴタニアに居た時からちょくちょくお店に家族で食事に来てたタルスさんの娘さんのタラちゃんとは、コリント領に旅行する間に友達から親友になり、今回のコリント領への正式入植はずっと待ってたから、スゴく嬉しいと言ってたんだ。

 カトルさんのお店も、私達気にいってるから、きっと素敵なお店になるんだろうね。

 

 3月4日

 

 昨日話題になってた、タラちゃんが私達のクラスに編入して来たの。

 9月の時点で『ナノム玉』を飲んでたし、その後も家庭教師が付いてたから勉強は大丈夫だったんだけど、流石にゴタニアには魔法教育してくれる人は居なかったから、みんなで教える事になったの。

 だけど、中等部で教えるのは『ヒール』や『ウオーター』等の生活や、医療の初期魔法だから、直ぐに覚えられるよ。

 

 3月10日

 

 生活ブロックのドームで一番の場所で、去年の10月から工事してた大きな建物が完成したんだ。

 これがタラちゃんが言ってた、『デパート』っていうお店なんだね!

 スゴく大きくて、地上6階の地下3階そして隣には巨大な立体駐車場も作られているの。

 ただ、外側は出来上がってるけど内側は、まだ作業中なんだって。

 それに、色んなお店が中にいっぱい入るから、その工事で今てんやわんやらしいよ。

 なんでも、目玉の一つらしい、サラちゃんのお父さんのお店、レストランとお菓子の店『豊穣』が支店を出すというから、私達にとってもビッグニュースなんだ。

 

 3月12日

 

 例の『デパート』に出店する予定のレストランとお菓子の店『豊穣』の支店でオープン記念に出す、スイーツの選定メンバーに私達子供の意見も聞きたいと、私達のグループが呼ばれたの。

 目の前のテーブルに、30酒類くらいのお菓子が並んでてこの中から選んで欲しいと、、サラちゃんのお父さんから言われて、様々なスイーツを少しずつ味見したんだけど、物足りないよー。

 本当は、もっといっぱいに頬張りたいけど、あくまでも味見の検討会だもんね、ガマンガマン。

 プリンやタルト、焼き菓子なんかが有る中、目を引いたのは初めて味わう『ソフト・クリーム』という、冷たくて美味しい氷菓子という種類のスイーツ!

 なんたって、面白いのはカップという食べれる器に、流し込んで円を描くように回転させながら流し込むんだから、こんな変わったスイーツ初めてだよ!

 これは、きっと『デパート』に来たお客さんから、珍しがられるの間違いなしだね。

 みんな夢中になると思うから、花丸を付けてサラちゃんのお父さんに、評価表を渡したの。

 私の親友達も、大方似たような評価だったみたいだから、やっぱり選ばれたのは『ソフト・クリーム』だったよ、ヤッター!

 絶対に『デパート』がグランドオープンする当日に、並んででも食べようっと。

 

 3月18日

 

 今日は、タラちゃん達も誘った釣り大会を、クレリア姫様を始め女子会が主催するんだよ。

 参加するのは、『ケッちゃん』とカー君を除けば全員女性なんだ。

 みんなで、ルアー釣りかエサ釣りにするか?選んで、ニジマス、イトウ、ヤマメ、サクラマス、イワナ等のお魚さんが泳いでいる、養殖池兼憩いの湖に向かったの。

 最近は、陸から釣るだけじゃなくてボートを出して釣っても良いんだよ。

 私は、サラちゃんとタラちゃん、そしてカー君とバンちゃんでボートに乗って、エサ釣りをしたの。

 このドームに吹く爽やかな風は、とても気に入っているし、ボートに乗ってるととてもそれを感じるんだ。

 岸では、殆どの人がルアー釣りしていて、大きな魚を釣り上げてたけど、私としては初めて釣りをするというタラちゃんに、是非釣りを好きになって貰いたいから楽しくしてもらおうと、簡単に釣れるエサ釣りとボートでの釣りをチョイスしたんだよ。

 思った通り、エサ釣りで簡単にニジマスとヤマメが釣れて、魚籠がいっぱいになったから岸に戻ったら、釣りの天才であるエレナさんが、まだ数匹しか湖に居ないはずの、大きなナマズを釣り上げてて岸に上げてたんだ、大きなナマズはその大きな口で周りを威嚇してるから、周りの女性達がきゃあきゃあ騒いでるの。

 そんな中、『マドンナ』さんを連れた『ケッちゃん』が、岸で暴れ廻る大きなナマズの前に立って、何かの魔法を放ったんだ。

 すると、大きなナマズは急に大人しくなって、のそのそと身体をくねらせて、湖に帰って行ったの。

 

 「あのナマズは、折角美味しそうなエサが近くを通ったと思って、食らいついたら釣り上げられて、このままでは食べられてしまうと、恐怖して必死に暴れてたのだが、吾輩が『意志伝達魔法』で吾輩達にお前を食べる意志は無い、と伝えたら、了解してくれたのだ」

 

 と『ケッちゃん』は説明してくれた。

 『マドンナ』さんは、『ケッちゃん』の横に寄り添いうなずいてる。

 やっぱり、『ケッちゃん』は猫の王様だけに、スゴイ魔法が使えるんだね、さすがだなあ。

 

 その後は、みんなで湖の隣にある、レストランで自分達の釣った魚を調理してもらい、お魚パーティーをしたんだ、とっても美味しくて楽しかったよ。

 帰りに残りのお魚さんをもらって、今日から飛ぶ練習に入った、ワイバーンのガイ君とサナちゃんの子供達4頭のお土産にしたんだ。

 子供達4頭とも、美味しそうに食べてくれたから、また釣りに行ったら持ってきてあげようっと。

 



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閑話㊷『カレンちゃん日記」㉒(カレンちゃん、『デパート』で大満喫)

 4月1日

 

 今日は、朝から大忙しの『デパート』グランド・オープン日なんだ。

 丁度休日という事もあって、人出が多くて大賑わいが予想されるから、交通渋滞を起こさない様に、警備隊の人達が交通整理をしてる、きっと今日は一日大変だろうね。

 

 私達親友グループは関係者扱いだし、クレリア姫様の女子会メンバーだから、関係者通用門から入って、ネームプレートを渡された後、レストランとお菓子の店『豊穣』前で、私達より小さい子どもにあげる風船や玩具の魔法のステッキを配る係りをするんだよ、エッヘン。

 

 朝9時になって、行儀よく並んでいた人達が『デパート』に入って来るのに合わせて、『花火』が『デパート』屋上から打ち上がってる。

 この『花火』というのは、魔術ギルドのカーラさんとそのギルド員の人達が作った新魔法で、綺麗な光と音による演出が出来て、全然危なく無いから、今回の目玉の一つとして大量に売るんだって。

 これからのパーティーや催し物には、必要なアイテムになるんじゃないかな?

 

 そうこうしてる内に、『豊穣』の前に子ども達が並び始めたから、みんな持ってるカードのクーポンを見せてもらって、『ソフトクリーム』と風船や玩具の魔法のステッキを渡していたら、親御さんとはぐれた迷子の女の子がやって来て、泣き出しちゃった。

 私達は、教えてもらっていた通りに、係の人に来てもらい女の子を保護してもらったんだけど、女の子はカードを親御さんに預けたままだから、『ソフトクリーム』がもらえないから可哀想。

 だから私用のクーポンで、『ソフトクリーム』を女の子に上げたら、ものスゴく喜んでくれて、「おねえちゃん、ありがとう!」と言ってくれたんだ。

 私、エラちゃんを相手にする事が多いから、おねえさんらしくなってたのかな?自分では判らないけど。

 

 お昼休みになって、『豊穣』の中の従業員の部屋で、昼食のハンバーガーをみんなで美味しく食べてたら、さっきの女の子が、両親と一緒にお礼に来たの。

 女の子のご両親は、「とても助かりました!」と私に謝って来たけど、こんな人混みではしょうがないよ。

 

 「当たり前の事をしただけですよ」

 

 と返事して、女の子に「これからは、迷子になっちゃだめだよ」と言ったら、「うん!」と元気よく返事してくれて、私にお礼の『豊穣』のビスケット・セットを女の子のご両親がプレゼントしてくれたから、みんなで昼食と一緒に頂いちゃった。

 

 午後は、大分『ソフトクリーム』を取りに来るお客さんが減ったから、交代で『デパート』を見て廻る事にしたんだけど、まだまだお客さんがひしめき合ってるから、あまり見て廻れなかったよ。

 だけど、色々な服や帽子も見て回れたし、食料品コーナーで試供品のお菓子や飲み物もいっぱいもらっちゃった。

 夕方になって、私達の仕事が終わったから、サラちゃんとタラちゃんにお別れを言って『デパート』から、外に出たら、中央通りをパレードする宣伝隊や、芸をするピエロやパフォーマンスをするパフォーマーが、最後の公演をしてたから、それを見ながら家に帰ったの。

 お留守番してた、カー君とバンちゃんにお昼にもらったビスケット・セットの残りと、試供品のお菓子や飲み物をお土産4に上げたら、スゴく喜んでくれて、美味しそうに食べてくれたんだ。

 今度、人があまり居ない平日にでも、連れて行ってあげるね!

 

 4月9日

 

 学校が終わった夕方に『ケッちゃん』と『マドンナ』さんのお誘いで、ファーン侯爵の長男であるレオン様とお付きの家臣の人達と『デパート』巡りする事になったんだ。

 マンションの前に、ファーン侯爵の立派な車両3台が、横付けされて私とカー君、バンちゃんは真ん中の、レオン様と『ケッちゃん』『マドンナ』さんが乗る、一際立派な車両に乗せてもらったんだよ。

 レオン様と『ケッちゃん』『マドンナ』さんに挨拶して、乗り込んでから『ケッちゃん』に『デパート』で、何を買うの?と尋ねたら、

 

 「ウムッ、実はコリント領の住まいには、吾輩の妻である『マドンナ』に適したサイズの食器や小道具が少なく、不便で有ったのだが、この程出来た大型店舗である『デパート』には、吾輩達猫サイズの品々が取り揃えられていて、更には高級品の種類も数多いとの評判を聞いたのだ。

 そして、巷で評判のレストランとお菓子の店『豊穣』が支店を出店していて、其処で出される『ソフトクリーム』というスイーツは、我等『猫の社交界』でも噂になっているのだよ。

 そう云えば『豊穣』オーナーのお嬢さんと『デパート』オーナーのお嬢さんは、カレン殿は親友の間柄で有るし、先日の『デパート』グランド・オープン日には、活躍されたと聞いている。

 是非カレン殿に、吾輩達とご同道頂き、便宜を図って頂きたいとお願いしたい!」

 

 と私に頭を下げてお願いして来たの。

 見れば、『マドンナ』さんと何故かレオン様まで頭を下げてるから、慌てて頭を上げてもらって、

 

 「判りました!頑張って案内しますね!」

 

 と答えたら、

 

 「忝ない、この上は夕食を共にしたいと思うので、ご母堂に了解を取って宜しいだろうか?」

 

 と『ケッちゃん』が言うから、「判ったよ」と答えると、ファーン侯爵の家臣の人が母ちゃんに伝えに行ってくれて、そのまま『デパート』に向かったの。

 『デパート』に着いたら、タラちゃんのお父さんの『タルス』さんは、ベルタ王国王都にいる弟さんの所に出張してるそうで、会えなかったけど支配人達が大勢で迎えてくれて、学校から帰ってきてたタラちゃんと合流出来たから、早速猫用の高級品店に案内されたんだ。

 猫用とはいえ高級品の食器や小物は、宝石や銀が散りばめられていて、とてもキレイで感じが良いし、軽量化の魔法が掛かってるから、『マドンナ』さんが重くて扱いに困らない様になってるの。

 幾つかの気に入った商品を買った後、店舗の店長に今後も利用したいからファーン侯爵の領事館に、新製品等のパンフレット等を送って欲しいと契約して、店長も了承してたの。

 

 他のレオン様とお付きの家臣の人達の買い物や、店舗の契約が済んで、レストランとお菓子の店『豊穣』の支店の向かったら、サラちゃんが出迎えてくれて、レストランの中の一角に案内してくれたんだ。

 予め予約席にしててくれたらしくて、十数人分の空いていた席に着いて、早速美味しいコースメニューを頂いたの。

 出されたコースメニューは、スープパスタと春野菜を盛り付けたピザ、そしてクリームコロッケとシーザーサラダ。

 とても美味しくてみんな満足してたら、最後に『ソフトクリーム』が出て来たんだけど、キレイなお皿の上に上品そうに盛られていて、脇にはウエハースが付いていたの、何でもウエハースで掬って食べるんだって!

 『ソフトクリーム』ってこんな風に食べる方法が、あるんだね!

 て感心してたら、『ケッちゃん』が器用にウエハースで『ソフトクリーム』を掬って『マドンナ』さんに食べさせてる。

 本当に仲良しの夫婦なんだねと、とても和んで見てたら、レオン様とお付きの家臣の人達も私と似たような目付きで、和やかにご覧になってるのが判っちゃった、きっとファーン侯爵の領事館でもみんなに可愛がられてるんだろうね。

 カー君とバンちゃんは、行儀よく其々のお皿に盛られた『ソフトクリーム』を、残さずキレイに食べてお口を拭いて上げたら、満足そうな鳴き声を上げてくれたから、きっと美味しかったんだろうね。

 ファーン侯爵の車両で家まで送ってもらって、お土産としてもらった『豊穣』のビスケット・セットを母ちゃんに渡し、お風呂にカー君とバンちゃんと一緒に入って、そのまま一緒に就寝しちゃった。

 本当に良い一日だったなあ。

 



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閑話㊸『カレンちゃん日記」㉓(カレンちゃん、『温水プール』で遊ぶ)

 5月1日

 

 私も参加した母ちゃんが所属してる服飾工場が作った『水着』の発表会と、放送局がPRするCM撮影も終わり、6月オープン予定の、大規模遊戯施設『温水プール』が、新しく作られてるドーム『生活ブロック2』で基礎工事が終わり、色々な遊具設備の建築を開始したの。

 父ちゃんや魔術ギルドのカーラさんそして大勢の技術者が、全員で改良に改良を重ねた『魔力凝縮炉』の試作機を動力炉にしている最新型のドームで、年中ずっと常夏何だって、スゴイよねー!

 だから、このドームはゲートの処で着替えて水着で動き廻れるんだって。

 然も海岸線を意識した作りで、砂浜が有って波が打ち寄せて来るんだよ!

 流石に、本物の海みたいに海水みたいに塩辛くは無いけど、南国から取り寄せたフェニックスという木や、シダ類、そしてヤシの木が景観に合わせて植えられてるの。

 何だか本当に南国に行った気分になれるよ!

 

 5月7日

 

 アラン様とクレリア姫様達が、セシリオ王国のルージ王を倒したっていうニュースが、朝からコリント領の全部のモニターで繰り返し放送されたの。

 動画で紹介されたそのニュースは、セシリオ王国ビクトール侯爵領での激戦で、みんな絶句する程の恐ろしい戦いだったみたい。

 だって、戦ってる相手は人間じゃなくて、全て『ゾンビ』なんだよ!

 何でもルージ王は、自分の国の国民を『ゾンビ』に無理矢理に変えて、アラン様とクレリア姫様達に攻撃して来て、終いにはチョウ巨大な『ゾンビ』を集めて作った巨人で、ルージ王自ら乗り込んで攻撃して来たんだよ。

 このルージ王ていう王様は、何を考えて自分の国民を『ゾンビ』にしてしまったんだか、サッパリ理解出来ないよ。

 だってそんな事して、国民全員『ゾンビ』にして何が楽しいのかな?

 頭のオカシイ人って判らないなあー。

 案の定、そんな人を人とも思わない行為を、『女神ルミナス』様はお許しにならずに、『使徒イザーク』様を遣わして、アラン様に祝福の光を授けてくれたんだ。

 そしてその聖なる力で、アラン様とグローリア様は見事に『ゾンビ』の巨人を打ち倒されて、それを祝福される様に微笑まれた『女神ルミナス』様が天空に光と共に現れたの!

 やっぱり『女神ルミナス』様は常に私達を見守っていて、正しい行いをされているアラン様とクレリア姫様達を助けてくれるんだね!

 この日の夜のニュースの時、ゲルトナー大司教様がインタビューに答えられる形で出演されて、今回の戦いで『女神ルミナス』様と『使徒イザーク』様が降臨されたのは、セシリオ王国ルージ王のあまりにも残酷無惨な行いに激怒されて、それに敢然と立ち向かったアラン様とクレリア姫様達を神の代理人と認め、祝福の光を授けてくれたんだって。

 流石アラン様とクレリア姫様達は立派だし、『女神ルミナス』様はそれを良くご存知なんだね。

 

 5月18日

 

 セシリオ王国の戦傷者や、難民キャンプで怪我や病気に掛かった人達が、コリント領の病院に大勢やって来たから、中等部と高等部の学生は実践教育を兼ねて『ヒール』等の医療魔法を病院で掛けて行く。

 私は、学校に入る前は同じ事をしてたから、みんなの指導を先生と一緒にして、魔力の続く限り『ヒール』を使って怪我人を治していったんだ。

 

 5月26日

 

 この一週間で、殆どの怪我人や病人を回復させる事が出来て、休養を取っていたらサーシャさんから連絡が来て、執務ビルに向かったの。

 いつもの部屋でテオ君とエラちゃんに出会って、お互い頑張ったねと労ってあげたんだ。

 二人は小等部なんだけど、優秀だから『ヒール』が使えるし、同世代の難民の子ども達の聞き取りをして、欲しい生活用品等を聞き出して、係の人に伝えたりしていて、大活躍だったんだよ。

 そこにサーシャさんがやって来て、私達の活躍を褒めてくれて、

 

 「カレンちゃんとテオ君とエラちゃんは、本当に良く働いてくれたわ。

 クレリア姫様に報告したら大変喜ばれて、お礼に正式オープンする前の『温水プール』に招待する様に、仰せつかったわ」

 

 とクレリア姫様の言伝を教えてくれたんだ。

 エッ、6月1日前に『温水プール』に入れるの?!

 とサーシャさんに聞いたら、

 

 「そうよ、前日の5月31日に従業員のリハーサルを兼ねて、百人くらいのお客さんを呼ぶから、その内の10人くらいの枠を貴方達と例の友達グループに、割り当てる様に指示されてるわ。

 カレンちゃん、友達達に連絡してね!」

 

 と言われたから、明日学校でみんなに説明しようっと。

 

 5月31日

 

 親友グループの面々とテオ君とエラちゃん全員を、サーシャさん運転するバス(沢山乗れる車両だよ)が、新しく出来たドーム『生活ブロック2』に連れて行ってくれた。

 係の人にゲートでそれぞれカードを見せて入場したら、案内されてロッカールームに行き、全員『水着』に着替えていよいよ『生活ブロック2』の内部に入ったの。

 

 うわあ~、まだ夏じゃないのに暑いよ!

 早速、受付で渡された花が飾られた『麦わら帽子』を被り、サーシャさんの後ろを付いて行ったら、砂浜が見えて来たんだ。

 我慢できなくてみんなで走って行ったら、砂浜は真っ白い砂地で、素足で歩いても少しも痛くないんだよ!

 打ち寄せてくる波が、スゴく珍しくて、みんなで波に向かって行ったら、ものの見事にみんなひっくり返っちゃった。

 少しの間砂浜で遊んでから、サーシャさんに連れられて本命の『温水プール』に向かったの。

 『温水プール』は遠くから見ても目立っていて、何か大きな曲がりくねった物が有って、とても広いすべり台や、円形のプールが近づいて行くと見えてきたんだ。

 ここにはゲートが有って、もう一度本人確認のカード認証をしたら、子どもには浮き袋がそれぞれ渡されたの。

 みんな気になってた、大きな曲がりくねった物に近寄ると、係の人が説明してくれて、これは『ウォータースライダー』という物で、大きな浮き輪に腰を落として寝転がる様にして、一番上から水と一緒に流されるんだって。

 面白そうだから順番に、流される事になって私はエラちゃんと一緒に乗る事になったんだ。

 エラちゃんがまだ小さいから、私達は一番上じゃなくて中間くらいから流されたんだけど、エラちゃんと私は大興奮しちゃった!

 世の中にこんなに爽快になれる遊具があったんだね!

 他の人もしたがってるから、全員で次に円形のプールに入ったら、なんとこのプールは流れてるんだよ!

 浮き輪を付けて浮かんでるだけで、ドンドン流されるから面白ーい!

 しばらく流されてから、みんなで岸に上がり、サーシャさんと合流して休憩場所に行ったら、そこには売り場があってそこにはジュースと『カキ氷』という知らない食べ物があったんだ。

 早速みんなその『カキ氷』というものを頼んだら、今日は特別だから何杯食べてもタダなんだって!

 みんなで何種類かの『カキ氷』を食べ比べてみたんだけど、どれも冷たくて美味しい!

 特に私は、イチゴ味がお気に入り!他のメロン味やレモン味、ブルーハワイ(ハワイって何だろう?)味も良かったけど、私は最近『豊穣』で大人気のイチゴのショートケーキが、大、大好物だから、イチゴ味は私にとって大当たりなんだよ!

 その後、大きなすべり台やジャグジー、大きな水槽で泳ぐカラフルなお魚さんを鑑賞したりして、お昼には焼きトウモロコシと焼きそばを食べて、もう一度『ウォータースライダー』に挑戦してから、『温水プール』を出たの。

 ああ、本当に楽しかった!絶対にもう一度来ようとみんなで約束して、家に帰ったんだ。

 お留守番してた、カー君とバンちゃんにお土産の焼きトウモロコシをプレゼントして、今度は一緒に行こうねと言ったら、

 

 「クウーー!」

 

 と同意してくれたから、『ケッちゃん』と『マドンナ』さんもその時誘おうと決めたんだ。

 



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閑話㊹『カレンちゃん日記」㉔(カレンちゃん、喜びのスターヴェーク王国復活と『ケッちゃん』の大発表)

 7月1日

 

 随分長い間この日記を書かなかったけど、私達学生が勉強や魔法の練習を頑張ってる間、アラン様達はセシリオ王国のルージ王という悪い王を懲らしめて、新たに総帥府という組織でセシリオ王国民を救ってたんだって。

 そんな風にセシリオ王国民の為にも行動しているアラン様達に、アロイス王国が昨日難癖をつけて来たんだよ。

 この前の内乱でもこのベルタ王国にケチを付けたりしてるし、私達の故郷のスターヴェーク王国を奪ったり、ろくな事をしない国だよね。

 どうせアラン様とクレリア姫様によって、けちょんけちょんにされちゃうんだから、ホントにおバカな国だよ。

 

 7月16日

 

 学校の帰りに久し振りに執務ビルに行ったんだ、だって噂ではアラン様やクレリア姫様が、アロイス王国を懲らしめる為にスターヴェーク王国に攻め入ったって聞いて、スターヴェーク王国出身者の人達はみんなやきもきしてて、詳しい事を知りたがってるんだもん。

 当然私や親友達の中でも、スターヴェーク王国出身者が居るから、是非聞いてきてね!って頼まれたんだよ。

 受付の人にカードを見せて、女子会によく使われる部屋で、テオ君とエラちゃんと一緒に学校の宿題をしながら待ってると、現地の情報を整理して放送局に送っているサーシャさんが、やって来てくれて最新情報を教えてくれたんだ。

 もうアラン様とクレリア姫様は、何回もアロイス王国軍を撃破して、既に元ルドヴィーク辺境伯領についてるんだって!

 うわあ~、私の故郷のルドヴィークは、アラン様とクレリア姫様によって、取り戻されてるんだね!

 やっぱり、アラン様とクレリア姫様達はスゴイなあー、こんなに早く進軍していて、一度も負けないんだもん。

 みんなに教えて良いか?サーシャさんに聞いたら、「良いわよ」と答えてくれたの。

 もう少ししたら、夜のニュースの時間に、正式発表されるからだって。

 それでも、早く知れたのは嬉しかったから、サーシャさんにお礼を言って家に帰ったら、近所のスターヴェーク王国出身者の人達が集まってきてて、早速サーシャさん情報を教えて上げたら、みんな喜んでくれて、中には涙を流しながら喜んでる人もいたんだよ。

 無理もないかなあと、私も思うよ。 

 だって、無理矢理自分の故郷を追い出されて、親しい友人や家族を殺されたりして奪われて、必死に国外逃亡してようやくコリント領で、人心地つけたけど、やっぱり奪われた人達の事を考えると、寝れない夜も有ったんだろうと、想像がつくもの。

 その憎いアロイス王国をやっつけながら進軍して、ルドヴィークまで到達したアラン様とクレリア姫様達に、みんな感謝の心でいっぱいだよ。

 きっと後もう少ししたらスターヴェーク王国王都も、アラン様とクレリア姫様達によって解放されるんだろうね。

 

 9月2日

 

 あれから一ヶ月半経って、私達も中等部2年目に入ったんだけど、ここ2ヶ月の間はスターヴェーク王国出身者は日々入るニュースが気になって、やきもきしてる状態が続いてたんだ。

 でも今日の朝のニュースで、スターヴェーク王国王都が無事に、アラン様とクレリア姫様達によって解放されて、アロイス王国を打倒した事が報じられたの。

 スターヴェーク王国が奪われたあの日から3年、遂にスターヴェーク王国は復活したんだよ!

 色んな人や建物を殺したり壊した悪いアロイス王国は、とうとうアラン様とクレリア姫様達によって倒されたんだね。

 今までの色んな事が思い出されたけど、みんなと話したいから、『デパート』の屋上の一角にあるタラちゃんの部屋にみんなで集まったんだ。

 ここは、タルスさん一家の家なんだけど、タラちゃんの両親とカトルさんは何時も忙しいから、殆どいないんで、大勢集まっても余裕があるの。

 スターヴェーク王国出身の親友達はもちろん、関係ないタラちゃんとサラちゃんも喜んでくれて、サラちゃんが『デパート』にある『豊穣』の支店から、オードブルと色んなスイーツを届けさせたから、スゴく盛り上がったんだよ!

 そしてみんなに、『ケッちゃん』と『マドンナ』さんから、今度の休みに例の『生活ブロック2』の名称を改めた、『南国リゾート』の砂浜で開かれるパーティーに呼ばれてる事を教えて上げて、そのパーティーにはみんなのペットの猫さんも是非連れて来て欲しいと言われた事を伝えたの。

 みんなスターヴェーク王国も復活した事だし、ここ2ヶ月の間沈んでた気持ちも晴れたから、必ず参加するねと答えてくれたんだ。

 

 9月9日

 

 お昼前に『南国リゾート』の砂浜の会場に向かったら、スゴイ数の猫さん達が集まっていたの。

 どうやら『ケッちゃん』が王様をやっている『猫の王国』の国民みたいだけど、3000匹位いるみたい。

 私達は、駆り出されているファーン侯爵の家臣の人達に、会場の来賓席に案内されて、私はレオン様の隣に座りカー君とバンちゃんも私の隣にある専用の席に座ったの。

 司会の人に促されて『ケッちゃん』が壇上に上がり、

 

 「・・・お集まりの来賓の方々と吾輩の国民諸君に、この佳き日のご参加を大変感謝する。」

 この9月9日を以って、此処コリント領とファーン侯爵領の中間地点に有る、『猫の王国』の大改修工事が完成し、中規模ドームで出来た新たな駅を内包した新生『猫の王国』がスタートする事になった。

 吾輩の国民の中でも故郷を懐かしく思い、帰還を望む猫は申し出て帰還手続きをして、順次『猫の王国』に帰還し暮らしを始めて貰う。

 また、このままコリント領の保養施設や、人と一緒の生活を望む猫は遠慮なく申し出てくれ、その手続等はレオン殿とその家臣の方々が円滑に進めてくれると約束して下さった(『ケッちゃん』は来賓席のレオン様に頭を下げて)、本当に感謝する」

 

 と言い、みんなからお祝いの拍手を貰うと、

 

 「また、皆存じているだろうが、コリント領領主にしてベルタ王国総帥であるアラン殿はこの程、婚約者のクレリア姫の故郷であるスターヴェーク王国をアロイス王国から奪還し復活された。

 そして吾輩と相談し、新たにスターヴェーク王国に向かいたいと望む猫には、猫用のカードを発行し特別手当と魔導列車での運賃の免除を申し出てくれた。

 流石に全てのスターヴェーク王国での暮らしは保証出来ないが、スターヴェーク王国王都とルドヴィークには、駅を内包する形でのドームが建設され始めていて、其処には猫用の宿舎や家屋が作られる。

 人との共存を望み、共に未来を歩む事を決心した猫は、奮って新天地へ踏み出して貰いたい!」

 

 と人との共存の未来を語ったの。

 流石、猫の王様だけあって『ケッちゃん』は立派だなあと思ったら、突然『ケッちゃん』はハニカミ始めて、

 

 「・・・また、吾輩の私事だが、我が妻である『マドンナ』が無事懐妊し、10月上旬に出産予定となった。

 この佳き日に、合わせて発表して置く・・・」

 

 と発表したから、会場の猫さん3000匹が一斉に前足で、拍手し始めたの。

 そして会場に用意されていた、猫さん用のマタタビジュースやキャットフードが猫さん達に振る舞われ、私達には『温水プール』併設のレストランから、食事が運ばれて来て、みんなで『マドンナ』さんの懐妊お祝いを始めたんだ。

 私も『マドンナ』さんに近づいて、「おめでとうございます!」とお祝いを述べたら、『マドンナ』さんは「にゃあ~」と鳴いて頭を下げて返事してくれたの。

 

 本当にこの猫さん達は、猫用の『ナノム玉』を飲んでいるから、とても礼儀正しいし、言葉こそ話せないけど人間の言葉は理解出来るし、今のように仕草で意思表示出来るから、他の猫さんとは大違いなんだよ。

 何時か、この猫さん達のようにあらゆる動物さんと、意思疎通出来る日がくるかも知れないね。

 



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閑話㊺「ガトル親父の雑記」⑪(親父、陸上港湾施設と重機の大型化に着手するの巻)

 2月25日

 

 アラン様が、俺や『ホシ』達トレーラー野郎達と『アルムおんじ』達『魔導列車』組そして魔術ギルドのカーラギルド長といった、一癖も二癖もある面子を集めて、執務ビルの大会議場で会合が開催された。

 

 「皆、我がコリント領発展の為に日々各分野にて活躍して頂き、領主としてこのアラン、大変感謝している!

 皆、ありがとう!」

 

 と深々と頭を下げられて感謝されたんで、俺達も恐縮しちまってテーブルに頭が着くくらい下げちまったぜ。

 そしてアラン様は、頭を上げられると、

 

 「さて、このまま皆を労う為に宴会をして慰労したい処だが、先ずは仕事の依頼の話しをしよう、ボッド50号、資料を出してくれ!」

 

 とアラン様は言われ、ボッド50号がモニターに非常に巨大な施設の完成予定図が映し出された。

 それはドームを半分にして、巨大な港湾施設と船のドッグを入れた様な建造物だった。

 

 「色々と疑問に思っているだろうから、最初に名称を述べて置こう。

 此れは、陸上港湾施設と陸上船のドッグの予定図だ。

 そして此れ等を図に有る通りに、『魔の大樹海』の玄関口付近のこの辺りに建造する事になる!」

 

 とアラン様は、モニターに表示された地図を示し説明された。

 我々も位置関係とどういった構造物かは、把握できたが用途が判らないので、質問してみると、

 

 「・・・其れではこの設備が何の用途で必要なのか?

 説明する為に、この立体プロジェクターを見てくれ!」

 

 と言われ、ボッド50号が立体プロジェクターを起動し、其処には何だか正方形の乗り物が映し出されたが、縮尺を見て驚いちまった!

 何とコイツは、全長200メートルに及ぶ巨大な乗り物で、仕様書を確認すると、凄え事に浮く事が出来るらしい。

 半ば呆気にとられてると、アラン様は、

 

 「驚くのも無理は無い。

 しかし、理論は確立しており実用は可能なのだ。

 実物を見せよう、ボッド50号隣室から搬入せよ!」

 

 とボッド50号が隣室の扉を開けると、1メートル四方の先程立体プロジェクターで見せられた乗り物の模型が、確かに浮いたまま、大会議場に入ってきた。

 

 みんな驚いていたが、元々研究や開発そして工夫が好きな連中ばかりだから、直ぐに模型を取り囲み、あーでもないこーでもないと言い合って、観察し始めた。

 しばらく喧々諤々と議論しあい、ある程度落ち着いた処を見計らって、アラン様は、

 

 「これこの通り、実際に浮かび上がらせ進ませる事は可能で有り、後はこれを予定のサイズ通りに建造出来る、ドッグを建築する事になるのだが、其れについて是非皆の協力を取り付けたい」

 

 と仰られ、

 

 「この乗り物の名は、『カーゴシップ』!

 大規模な構造物や建築物を、そのままの形で移送する事で、現地での建築や移築をせずに済ませられる代物であり、建築コストの軽減を図る物だ!

 皆もガンツでのドーム建築の失敗と、その問題点は把握してるだろう?」

 

 とかなり前の話しだが、ガンツの魔導列車の駅設営に伴う、ドーム建築に於ける失敗に付いて話された。

 

 「あの失敗の根本原因は、現地の職員と建築従事者が、『魔法炉』への理解が無いのに、無理に解体した事だ。

 未だコリント領の住民と、他の地域での教育格差は如何ともし難く、何れは解消出来るだろうが、しばらくは掛かるだろう。

 それを待っていては、予定の各大都市との魔導列車のレールと駅の、敷設という目的は頓挫したままになる。

 ならば大型の『魔法炉』を小型化し、更に完成品を作り、それを組み込んだ小型のドームをそのまま運んで、現地に移送出来る乗り物を建造してしまおうと考えた訳だ、理解出来たかな?」

 

 と説明されたが、発想の突飛な事と、それを実際に作ってしまおうという、気宇壮大さは、流石はアラン様だ頭が下がるぜ!

 

 「それで俺らは、どう協力すれば良いんですかい?」

 

 と俺が尋ねると、

 

 「ウムッ、ガトル殿には以前渡して有った資料に記載してあった重機の内『クレーン車』や『ダンプカー』そして『ショベルカー』の大型化と、クレーン部分を『カーゴシップ』の四隅に付ける図案を作成し、実際に製作して貰いたい!」

 

 と依頼され、其れが可能かどうか検討を頭の中でして、

 

 「・・・3ヶ月貰えれば可能ですぜ・・・」

 

 と答えたら、アラン様は大きく頷かれて、

 

 「ホシとジョナサンには、この『カーゴシップ』を運転出来る要員の選抜と育成を頼みたい。

 大型トレーラーを乗り回す貴方方以外に、適任者は居ないし、予定しているベルタ王国、セシリオ王国、アロイス王国の地形を誰よりも把握しているのは貴方方だけなのだ、是非頼む!」

 

 とホシとジョナサンに頼まれ、ホシとジョナサンも、

 

 「任せてくだせえ、必ずお眼鏡にかなう奴等を鍛え上げて見せやすぜ!」

 

 と胸を叩いて、受けあった。

 其れに頷きアラン様は、

 

 「アルムおんじとハイジには、小型化したドームの中に入る駅と扇形庫を、現地で効率的に展開し運用出来る様な検討図案の作成と、どのくらいレールと敷設資材が必要かの計画資料を策定して貰いたい!」

 

 とアラン様が依頼されると、アルムおんじはハイジと大雑把に話し合い、ハイジが、

 

 「・・・アラン様、取り敢えず『カーゴシップ』の予定仕様書と、揺れ幅の資料を提出して下さい。

 そうして頂ければ、ある程度の見積もりは出せます!」

 

 と答えたので、

 

 「そうだな、あくまでも予定の資料は出せるので、頑張って資料を出して頂ければ、『カーゴシップ』の仕様そのものを変更する事も視野に入れているので、宜しく頼む」

 

 と仰られたので、アルムおんじとハイジも頷いた。

 最後にアラン様は、魔術ギルドのカーラギルド長に向かい、

 

 「カーラギルド長、魔術の師匠である貴方にこの難題を依頼するのは、大変恐縮なのですが、どうしても『魔法炉』の小型化は成功させて貰いたいので、お願いします!」

 

 と頭をカーラギルド長に深々と下げられた。

 カーラギルド長も頭を下げて礼を返し、

 

 「アラン総帥!魔術の師匠である私に任せなさい!

 実は、以前から『魔法炉』のあまりの大きさに、問題有りと考えてたし、私なりの小型化の腹案も有るわ。」

 其れに最近知り合った、セシリオ王国のヒルダさんから色々な知見を得られたから、試してみたい事がいっぱい有るの。

 必ず要望に答えて見せるわ!」

 

 と自信満々に返事してアラン様を満足させている。

 実際、このカーラギルド長の功績は、俺が知ってるだけでも、魔物からの魔石回収を容易にした魔道具を始め、魔石のリサイクル化の効率カートリッジ化、回復薬を飲みやすいドリンク化した等の様々な事例が有る。

 全く大した女だぜ!

 

 会合が閉会し、カーラギルド長がサッサと研究したいからと帰って行ったが、他の面子はアラン様と一緒に、行きつけの飲み屋に向かい、宴会に突入した。

 全く、アラン様という御仁は話せる御方で、お偉い総帥という立場にも関わらず、こんな庶民の通う飲み屋にも普通に入られて、焼き鳥を焼いている親父に、塩のもっと旨くなる振り方や、焼き方のコツを教えて、実際に焼いてみせて感心されているし、新しいメニューとして『つくね』という串のレシピを書いて渡して、親父に感謝されている。

 ホシとアルムおんじも、酒が入ると途端に饒舌になるから、アラン様と馴れ馴れしく接してるが、アラン様はその態度に欠片も嫌がられず、むしろ楽しそうに応じられている。

 この御人は、やろうと思えばどこまでも礼儀正しい生粋の貴族を演じられるが、こういう場ではかなり砕けた対応が出来て、正に万能の御人だ。

 だけど当然アラン様は、クレリア姫様とご結婚される事で、何れは王族になられて、こんな風に庶民と飲む機会は少なくなるに違い無い。

 という事は今の俺達は、とてつもなく幸せなのかも知れねえな、と心地よい気分になりながらアラン様と酒を酌み交わした。

 



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閑話㊻「ガトル親父の雑記」⑫(親父、『カーゴシップ』就役の巻)

 3月1日

 

 あれからドップと8ちゃん更に各工場の責任者達に、アラン様からの依頼を伝えて重機の大型化に対応出来る新たな工場建設の見積もり案提出を指示した。

 そして現状で余裕の有るブルドーザーやダンプカーを陸上港湾施設予定地に向かわせ、整地工事に着手させたが、『ケットシー128世』が貸与してくれた例の巨大亀が、大きな岩や丘を粗方壊してくれたから、かなり楽に整地出来たぜ。

 お陰で、俺は気兼ねなく『カーゴシップ』に取り付ける、クレーンの製図と新規の大型重機の製図作業に没頭出来て大助かりだ。

 

 3月20日

 

 アラン様が俺達が提出した工場建設の見積もり案通りに、工場建設実行遂行する為に派遣してくれた量産型ボット200体のお陰で、新たな工場はこの短期間でアッサリと出来上がり、更に新機軸のオートメーション化で、かなりの工程が無人で出来る様になってやがる、正にアラン様様ってやつだな。

 おまけに新規に入植して来た人員には、港湾施設専用の職業訓練校をあてがってもらって、かなりの人的資源を有効に使えそうだ。

 

 3月30日

 

 新工場のラインも無事に動き出して、いよいよ重機の組み立てが始まったが、『カーゴシップ』の基幹部分である『魔法炉』の小型化が中々上手く行って無いみてえだ。

 カーラギルド長も頑張ってるみてえだが、そんなに簡単に問屋は卸さねえんだろうな。

 仕方ねえから、先ずは陸上港湾施設の方に注力して、ホシやジョナサンのトレーラー野郎達への搬入搬出が便利な様に、フォークリフトの量産を先に進めて、出来上がった大型クレーンは陸上港湾施設の方に設置したら、コイツがかなり便利なもんで、物の上げ下げとコンテナの搬入搬出には無くてはならねえ代物になっちまった。

 そしてそいつを一歩進めてキャタピラで動く超大型クレーン車を組み立てて、陸上港湾施設とドッグの建造に役立させたら、かなり有効だったらしく、建設スピードアップに役立った様だ。

 

 4月21日

 

 例のセシリオ王国の愚王ルージが、とんでもねえ事に自分の家臣である筈の大貴族数十人を虐殺しちまった。

 更に、その虐殺は規模を広げてセシリオ王国首都の人民にも襲いかかり、どうやら愚王ルージは『ゾンビ』を使う事で、セシリオ王国首都は『死都』と化してしまったらしい。

 何なんだろうな、このバカ王は!

 自分の国民を殺しまくって、何が楽しいんだろうな、理解が全く出来ねえぜ。

 アラン様始めベルタ王国上層部は、直ちにセシリオ王国国民を救援に向かうべく、軍団を差し向ける事が決定し、息子の空軍は早速急行する様だ。

 セシリオ王国国民も可哀想になあ、自分達が選んだ訳でもねえとんでもない国王の所為で、殺されるなんざ聞いているだけでもやるせねえぜ。

 考えてみりゃあ俺達も、勝手にスターヴェーク王国を滅ぼされた挙げ句に、故郷のルドヴィーク辺境伯領を奪われちまった。

 世の中、欲深え権力者が横行し過ぎてやがるなまったく、だがようそんな馬鹿共を懲らしめてくれる方が、この世には居られるんだ、悪人共は覚悟しておけや。

 そんな正義の化身の様な方の依頼である、この陸上港湾施設とドッグは必ず満足の行く出来栄えにして見せるぜ。

 

 4月30日

 

 漸く、『魔法炉』の小型化第一号機である試作機が出来上がり、早速新規ドームの仮称『生活ブロック2』に取り付けられて、試運転を開始した。

 コイツの目玉の一つは、何と云ってもただ小さくしただけじゃなくて、出力の上げ下げの振り幅が大きくて、然もそれを使い手がかなり自由にする事が出来る点だろう。

 つまり『カーゴシップ』に取り付けた場合には、スピードアップが容易で相当な速度を出せるだろう。

 もう一つの目玉は、魔力を凝縮してプールする事が出来て、それを別の頑丈な容器に入れる事で魔力のカートリッジ化が独自に出来て、その容器から一気に魔力を吸い上げて出力を上げる事も出来る。

 全くコイツはアラン様の要望以上の代物で、カーラギルド長の魂心の作品と言えるだろうな。

 多少、俺やドップ、そしてハインツ達も協力して魔力のカートリッジ化のアイデアを出したんで、開発者に名を連ねてくれてるが、事実上はカーラギルド長始めコリント領の魔術ギルドが、徹夜で頑張った成果だぜ!

 カーラギルド長の命名で『魔力凝縮炉』と名付けられ、『生活ブロック2』の必要全魔力を出力させてみたが、余裕が有りすぎてかえって、魔力が無駄になっちまった。

 なので、予定では『生活ブロック2』の砂浜と大規模遊戯施設『温水プール』の辺りだけ、気温を上げて置くはずだったのに、急遽予定を変更してドーム内全てを暑くして、このドーム全部が南国の様にする事にせざるを得なくなった。

 もう『生活ブロック2』では無くて、『南国リゾート』とでも改名すべきだろうな。

 

 5月20日

 

 『魔力凝縮炉』を基幹とした『カーゴシップ』1番艦が就役した。

 諸々の失敗を重ねながらドッグから出港して、浮いたまま進む『カーゴシップ』は、建造に関わった全員の目頭を熱くさせてくれたぜ。

 だけど現在アラン様とクレリア姫様は、セシリオ王国の王都で戦後処理に忙しくて、代わりに自動車椅子に乗られたベルタ王国国王アマド陛下がヴェルナー宰相以下を伴い、『カーゴシップ』就航記念式典を開催してくれて、演説までして下さった。

 

 「此の度西方教会圏に於いて初の陸上浮遊貨物船『カーゴシップ』が就役した事を、余ベルタ王国国王アマド一世は国民全てに代わって喜びに満ちあふれている!

 この『カーゴシップ』は小型ドームを、ベルタ王国の都市全てに運搬する事で、魔導列車の駅の配備とレール敷設を円滑化し、いち早い物流の発展に寄与出来ると、アラン総帥から説明を受けている。

 この『カーゴシップ』建造に従事してくれた、諸君ら技術者・魔術ギルドの面々には真に頭が下がる。

 きっと、後世の歴史に於いてこの素晴らしい日は、特記事項として赤文字で記されるに違いない!

 皆、己の功績を存分に誇られよ!」

 

 と俺達を褒めて下さった。

 アラン様程では無いが、この御人もヴェルナー宰相他良いブレーンが居れば、名君に成れるんだろうな。

 

 6月2日

 

 無事『カーゴシップ』3番艦が就役して、取り敢えずの予定船数は建造したから、後はこの船から得られる、様々な情報をフィードバックして、改良した船を建造する事になる、きっと忙しくなるぜえ。

 



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閑話㊼「ガトル親父の雑記」⑬(親父、天才技術者ドレイクと出会うの巻)

 6月7日

 

 今、俺の目の前に、異様な迫力を漲らせた男が居る!

 この男を連れて来る為に、急遽グローリア殿に乗ってコリント領に戻られて、隣に立って居られるアラン様も、苦笑しながらお手上げといった感じでゼスチャーされて、俺の困惑は更にその度合を深めちまった。

 

 「貴方が、あの様々な重機と車両を作り上げた、稀代の技術者にして鍛冶職人であるガトル殿ですな!

 お目にかかれる日を、待っていましたぞ!

 貴方の協力が無ければ、某の望む船は建造出来ないので、是非これからは懇意にさせて頂きたい!」

 

 と初っ端から、凄え勢いで両手で俺の両手を掴みブンブンと振り、願い出て来やがった。

 呆気にとられたままの俺を救うべく、アラン様は、

 

 「・・・あー、いきなりで申し訳無いが、ガトル殿。

 彼の名は、『ドレイク』。

 セシリオ王国のオスロ港で船大工をしていたのだが、あまりにも独自の構造の船を船主や領主のオスロ公爵に提案されていて、そのあまりの高額の提案に全て却下され、自分の提案の高額な部分を直すべくセシリオ王国の魔術組織『氷雪魔術師団』の門を叩き、色々な魔術手法や錬金術を学んだそうだが、逆に更に高額になる理論と手法が身に付いてしまい、今の時代には自分の理論を活かせる場所は無いのか?とオスロ港に戻り腐っていたそうだが、我々がセシリオ王国を解放してオスロ港も海賊の手から奪い返し、トレーラーやフォークリフト等を目にした『ドレイク』殿は、『総帥府』にやって来て私に思いの丈をぶちまけたのだよ。

 当初は意味不明で、やたらと意気盛んさが判っただけだったが、『ナノム玉』を服用させヒールと回復ドリンクにより体調を整えさせてから、翌日に再度話しを伺うと彼の先進的な概念と技術力が判明したのだよ。

 恐らく彼の考える概念と技術は、この時代の凡そ300年後に該当する程の代物で、その先進性故に他の者には理解し難い発想だったに違いない。

 だが、我等の技術力と魔道科学理論ならば、彼『ドレイク』の思い描く艦船を建造出来る筈だ!

 どうかガトル殿、彼に協力してくれないだろうか?」

 

 と仰られたので、俺としても断る訳には行かねえんで、

 

 「判りやした!他ならぬアラン様のお頼みだ!

 快くお引き受け致しやす!」

 

 と承ると、あからさまにアラン様はホッとされて、

 

 「其れでは宜しく頼む!私はこのまま蜻蛉返りして、今後に備えねばならないのでね」

 

 と言われ、グローリア殿に乗って旧セシリオ王国に帰って行かれた。

 本当にお忙しい中、無理に帰られたんだろうな、全く頭が下がるぜ。

 

 「ところで、お前さん『ドレイク』と言ったか?

 どんな船を作りてえんだい?」

 

 と聞いてみると、ずっと俺の製図板に載ってる、次期『カーゴシップ』の図案を食い入る様に見ていた『ドレイク』殿は、顔を上げて、

 

 「それは当然既存の艦船と違い、己の動力で縦横無尽に動き、ありとあらゆる乗り物よりも早く、そして頑丈であり、其の艦船一隻だけで戦局を変え得る船ですよ!」

 

 と抜かしやがった。

 

 「・・・つまり軍船を作りてえんだな、そうするとやっぱりオスロ港の様な、海の港の方が良いんじゃねえか?」

 

 と言うと、『ドレイク』は首を振ると、

 

 「いえ、私の作りたい軍船は、この(次期『カーゴシップ』の図案を指差し)『カーゴシップ』の延長線上に有る、陸上を浮遊して進む艦船になります!」

 

 まあ、アラン様が俺に『ドレイク』殿を預けていった段階で、陸上港湾施設とドックで陸上浮遊タイプの船を作らせるんだろうな、とは判ってたんだがな。

 だが、てっきり『カーゴシップ』と同じ輸送船だと思ってたんだが、軍船とは予想して無かったぜ。

 

 「・・・それで腹案は、有るのかい?」

 

 と尋ねたら、突然満面の笑みを返して、グローリア殿で運んで来た荷物の中から、膨大な艦船の資料を出して来やがった。

 

 「・・・・・・こっ、これは・・・・・!」

 

 思わず絶句しちまったが、手渡された資料には、とんでもねえレベルの技術がてんこ盛りの製図や完成予想図、そして必要な資材の詳細な資料が記載されてやがった!

 

 《コイツ、一種の化け物だ!》

 

 と腹の中で呻きながら、資料を読み耽っていると、書かれている艦船の種類が複数有り、然も用途が完全に分けられている事に気づいた。

 その用途の不明な処を尋ねると、

 

 「嗚呼、やはりお気づきになりましたか。

 実はオスロ港でガトル殿のご子息が、ワイバーンで海賊の船を襲撃して見事に成功させているのを、遠目で見学させて頂き、艦船の急所は上空からの攻撃であると痛感させられまして、ならば航空戦力たるドラゴンやワイバーンを搭載し、更に積極的に運用出来る艦船を思いついたんですよ!」

 

 とにこやかに答えてくれた。

 アッサリと言いやがるが、この『ドレイク』という男、まだ見てねえ筈のエレベーターや俺にも判らねえ『カタパルト』なんて物をごく当たり前の様に組み込んだ製図を、綿密な数値表と予定魔法出力まで記載してやがる。

 

 取り敢えずこの工場近くのスパに連れて行って寛がせてやり、従業員寮に荷物を運んで、同僚になるドップやハインツ達を紹介する為に、アラン様とも一緒に行った飲み屋で歓迎会を開いてやった。

 どうやらこの『ドレイク』という男は、オスロ港で飲んだくれていたという話し通り結構な酒好きで、アラン様がカトル殿と推し進めてる、幾種類かのお酒が相当お気に召したらしく、しこたまに飲まれて皆に思いの丈をぶちまけた!

 

 「某は、貴方方が本当に羨ましい!

 アラン総帥の庇護のもとで、ご自身の望み通りの作品を幾つも作られて、その全てがこの世に無かった物ばかりだし、然もその費用や資材たるや、他の国の技術者や錬金術師が望んでも絶対に得られないレベルだ。

 他国の者が、この事実を知ったら恨まれますぞ!」

 

 と赤くなった顔を更に紅潮させながら、喋ってるが、

 

 「何言ってんだよ!

 『ドレイク』殿こそ、これから費用や資材を、使いたい放題消費出来る立場になるんだぜ!

 あんたの方が、此れからは他国の技術者から嫉妬されまくるだろうよ!」

 

 と返してやったら、本当に嬉しそうに笑い始めて、そのままバタンキューと仰向けに倒れちまった。

 仕方ねえから、俺とドップで肩を貸して従業員寮に連れて帰ったが、道中寝言でひたすらアラン様に感謝してやがった。

 まあ、これから長い付き合いになりそうだし、アラン様に俺達と同じ気持ちで居てくれるのはありがてえぜ。

 



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閑話㊽「ガトル親父の雑記」⑭(親父、『デコトレ』を作り隕石と出会うの巻)

 6月20日

 

 先日仲間になった『ドレイク』殿は、類まれな識見と異様なまでの執着心、そして誰よりも頑張るその熱意に、現場で作業する従業員や技術者達の心をあっと言う間に掴んじまった。

 かくいう俺も、その何かを必ず生み出そうという或る種の使命感に魅せられて、殆ど寝食を忘れて協力する事になぅたぜ。

 先ずは、『カーゴシップ』で問題になっていた、バランサーの件だ。

 此れは、船体を2つのより海上船に近づけたものにし、その2つの船体が両側で支える構造にする事で、かなり軽減されて、大きな風が吹いてきても、その空力特性で受け流す事が出来、中央のカーゴ部分には《オートジャイロバランサー》という、ドレイク殿の先進技術を取り入れる事で、殆どの揺れを相殺しちまう事が出来ちまったから解決したぜ。

 何でもジャイロバランス効果って奴は、

 

 1,外部からモーメントが加わっていないかぎり自転軸の方向を保つ性質

 

 2,自転の角運動量が大きいほど姿勢を変えにくい性質

 

 3,外部から自転軸を回すようにモーメントが加えられるとき、モーメント軸および自転軸の両方と直交する軸について振れ回り運動をする性質

 

 とか言う3大性質を積極的に活用してバランス回復させるらしいんだが、小難し過ぎるんで、要は子どもが遊ぶ独楽の原理を活用してバランスを取ると理解したぜ。

 カーゴ部分中央に8面体のアダマンタイトを置いて、そいつを独楽の様に回し続ける事でバランスを一定にする様に魔法で操作し、ついでにそのアダマンタイトも回転する事で余剰魔力を循環し、動力で有る魔力そのものをリサイクルさせるという、いわば半永久機関とでも云うべき代物だ。

 

 書いてても未だに信じられねえが、このドレイク殿はもしかすると300年といわず、5,600年は未来の技術を物にしてるんじゃねえだろうか!

 だが、この《オートジャイロバランサー》のお陰で、バランスの問題と速度の問題(あんまりスピードアップするとひっくり返っちまう)そして動力の問題を全部解決しちまった。

 なもんで『カーゴシップ』は、予定の10隻を納期を待たずに全て完成出来そうだ。

 

 6月25日

 

 一昨日俺らの故郷で有る、スターヴェーク王国を奪った憎っくきアロイス王国の馬鹿共がアラン様とクレリア姫様そしてこのベルタ王国に喧嘩を吹っ掛けて来やがった、身の程知らずにも程があるぜ。

 この知らせに資材の搬入搬出と、『カーゴシップ』の操舵手を育成してくれていた『ホシ』と『ジョナサン』の堪忍袋の緒が切れちまった!

 そりゃあそうだ、これでも俺達は今までのアロイス王国の仕打ちに対して、我慢に我慢を重ねていて、仕事に打ち込むことで誤魔化してやってたのに、何だこの言い掛かりは!

 俺もホシ達同様にブチ切れたから、ドレイク殿とドップそしてハインツ達も巻き込んで、ホシ達トレーラー野郎の乗るトレーラーを戦闘用に生まれ変わらせて、アロイス王国の軍隊に目にもの見せてやるぜ!

 軍隊の戦闘車両に装備する為に用意してあった代物を使い、車体の前方に頑丈なトゲ付きバンパーを取り付け、車体全体は軍団魔法『オーディン』と同じく風の魔法で保護出来る様にして、音響破壊魔法『サウンド・ソニック』をクラクションと共に敵に喰らわせる事が出来る様に改装してやる事にし、更にホシとジョナサンの要望通り、車体全体に様々な魔力光を放てる様にデコレーションする事にした。

 そう、名付けてこの戦闘トレーラーは、デコレーショントレーラー略して『デコトレ』だ!

 早速ロベルト老に、俺等とホシ達トレーラー野郎の嘆願書を持っていき、戦場へ行く許可を出して貰った。

 申し訳ねえがロベルト老には、あくまでもトレーラーが戦闘用の資材を運ぶと説明して許可を貰っていて、一つもその戦闘用の資材を装備して行く事は書いちゃ居ねえんだけどな。

 ロベルト老を騙す様で、気が咎めるが、事態は一刻を争うんでお叱りは後で頂くぜ。

 昨日から、徹夜で作業員と技術者の総動員で、『デコトレ』にトレーラーを改装し始め、

 改装の終わった『デコトレ』は、ホシ達トレーラー野郎が次々にアロイス王国との国境線に向かい出発して行く。

 計200台の『デコトレ』と400人のトレーラー野郎達が、調子に乗ったアロイス王国の馬鹿軍隊共に、正義の鉄槌を下してやるぜ!

 

 7月2日

 

 昨日、俺達が改装した200台の『デコトレ』と400人のトレーラー野郎達が、アロイス王国の馬鹿軍隊共に目にもの見せてくれた様だ。

 俺達も徹夜で作業した甲斐が有ったてーもんだ。

 実際被害も軽微で、数人が怪我したくらいで、『デコトレ』もトゲ付きバンパーと車体は歪み捲くってるが、運送には問題無いから、このままアラン様と空軍に随伴して物資や戦争捕虜の輸送を請け負うそうだ。

 ロベルト老も、アラン様から事情を聞かされて、驚くやら呆れるやらされていたが、俺達の熱い故郷奪還の思いを汲んでくれて、お咎めのお叱りは無かったが、その代わりに自分も同行したかったと、とんでもねえ愚痴を聞かされたぜ。

 

 7月8日

 

 アラン様から直々に依頼されて、何台かの『デコトレ』が荷台にいっぱいの鉱物を載せて、コリント領に帰って来た。

 トレーラー野郎共が云うには、何でもアラン様のとてつもねえ、戦術級魔法『メテオ・ストライク』で天空から隕石を落下させる召喚魔法が行われ、それでアロイス王国の国境要塞は吹っ飛んじまったそうで、その時に召喚した隕石を持ち帰ったそうだ。

 隕石とはまた珍しい物を持ってきたもんだぜ、鍛冶職人仲間でも隕鉄やその他の珍しい鉱物を含む隕石は、興味深い代物だ。

 そんな中、アラン様の手紙を食い入る様に読んでいた、ドレイク殿が素っ頓狂な叫び声を上げて、『デコトレ』の荷台に行き、扉を開けて隕石を確認して、更に奇声を上げやがった。

 驚いて悶絶していたドレイク殿を、起こしてやり回復ドリンクを飲ませると、ドレイク殿はガバっと起き上がって俺の両肩を掴んで、

 

 「ガトル殿、8ちゃん他ボット達を呼んで下さい!」

 

 と目を血走らせながら頼むんで、俺は息を飲みながらも要求通りに8ちゃん他ボット達を集合させた。

 そして8ちゃん他ボット達が、詳しく隕石を調べて俺とドレイク殿に報告してくれた。

 

 「ドレイクドノノイワレルトオリ、コレラノコウブツハチジョウデハテニハイラナイシュルイノ、レアメタルノカタマリデ、コレラヲツカエバドレイクドノノテイショウスル、シュウセキカイロヲサクセイデキマス」

 

 と教えてくれたが、日頃使用しているレアメタルと何が違うのか、俺にはサッパリ判らねえ。

 

 ドレイク殿が云うには、この鉱物は無重力の状態で均等に全ての方向から、圧縮をしなければ決して出来ない代物で、此れを使えばドレイク殿が夢見る理想の戦闘艦のメインブレインが開発出来るそうだ。

 メインブレインが何の事か、俺にはサッパリ判らねえが、このドレイク殿がここまで喜ぶんだから、凄え物なんだろうな。

 



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閑話㊾「ガトル親父の雑記」⑮(親父、警備艦と『ヘリコプター』を作り上げるの巻)

 8月15日

 

 例の隕石から得られた鉱物から、ドレイク殿が望む集積回路の内、メモリーバンクと魔導線を用いたケーブルは比較的早く作成出来たが、中央演算処理装置とシナプス回路が難題だった、8ちゃん他ボット達50台と共に試行錯誤しまくり、漸く納得の行く物が出来たんだが、コイツ等を載せての運用試験を重ねなくちゃ行けねえから、今アラン様とクレリア姫様が激闘し続けている、俺の故郷のルドヴィークでの戦いには間に合わねえ。

 まあ、たかがアロイス王国の馬鹿軍隊なんぞ、『デコトレ』にやられ放題なんだからもうすぐに決着が着くだろうぜ。

 それよりも問題なのは、ベルタ王国内の治安面だ。

 『カーゴシップ』で各大都市にドームを設置して行ってるんだが、先の内乱で蹴散らした反乱軍の落ち武者や、野盗更には元貴族の私兵共が徒党を組んで、『カーゴシップ』が去った後の都市を襲って被害が出てるらしい。

 全くろくでもねえ奴等だぜ。

 そう云う事情も有って、ハインツ達の作る戦闘バイクを各都市の警備部隊に配備を進めてるんだが、整備や補給の関係で、上手く運用出来ねえ様だ。

 つまり一刻も早く、整備と補給をこなす移動出来る拠点を、『カーゴシップ』に随伴させて、そのままその都市の治安を維持する警備部隊の拠点になって貰わなければならねえ訳だ。

 ドレイク殿と俺達は、気合を入れ直して頑張るぜ!

 

 9月3日

 

 今朝一番のニュースで、アロイス王国がアラン様とクレリア姫様の手で倒された事が放送された。

 久し振りに家族とフードコートで朝飯を食べてたから、周りのスターヴェーク王国出身者達と一緒に大歓声を上げて、家族と抱き合って喜んだ。

 あのスターヴェーク王国王都が陥落してから3年か・・・・・・、長かったか、短かったんだか、判らねえが、其れまでの変化のねえ、平穏な日常が激変して、波乱万丈の人生になっちまったのは間違いのねえ事実だ。

 だが、アラン様とクレリア姫様が俺等を導いてくれる限り、あんな惨めな想いを繰り返す事は、絶対に来ねえと断言出来るんだから、少なくとも生き残ったスターヴェーク王国の国民はこれからは幸せになるだろうぜ。

 

 9月20日

 

 漸く、ドレイク殿の建造した戦闘艦の試作艦が出来上がったぜ!

 全長40メートルの警備艦で、魔導砲4門と各種のセンサーが付いて居て、其処らの1000人規模の軍隊程度なら蹴散らせる代物だ。

 スピードも時速100キロメートルは出せるから、其処らの騎馬なら簡単に追い抜けるから、先ず逃走される心配はねえ。

 船体後部から、戦闘バイクの出し入れが出来て、整備と補給は船体内部で行えるから、そのまま都市での軍事拠点となれるだろう。

 

 10月20日

 

 いよいよ、ドレイク殿の夢描いてた、ワイバーンやドラゴンを搭載して、空から攻撃運用出来る戦闘艦『陸上空母』の建造に取り掛かれる体制が出来上がったぜ。

 ドックも更に拡張してるから、同時に3隻建造することになったんだが、弟子の1人がとんでもねえ提案をしてきやがった。

 『ハインリヒ』と云うやつで、ハインツと一緒に戦闘バイクを作っていた仲間なんだが、例のドリルバイクや、《オートジャイロバランサー》を人一倍研究し、若い技術者の中でも飛び抜けた奴なんだが、提案して来た内容がとんでも無かった。

 何と空を飛ぶ魔道具を作りてえと言ってきやがったんだ。

 然もただ飛ぶだけじゃなくて、人を載せて飛び事を目的とするんだと!

 この提案に意外な事に、8ちゃんが大賛成して一緒になって製図と計画書まで持ってきやがった。

 ドレイク殿と俺がチェックしても、良く出来てるし論理破綻してないから、恐らく浮く事は出来るだろうな。

 早速試作機を作って見ろと促すと、「ハイッ!」と嬉しそうに答えたんで、期待出来そうだ。

 

 10月23日

 

 僅か3日で、ハインリヒは全長2メートルの試作機を作って来やがった。

 流石に1人しか乗れねえが、先ずは浮く事と前後に動かす事が出来るかが問題だ。

 するとアッサリとハインリヒは、地上3メートルの高さに浮かばせると、前後に問題無く動かして見せた。

 まあこのくらいは、例のホバークラフトタイプの戦闘バイクのノウハウが有るから、特に驚かねえが問題は高度がどこまで取れるかだ。

 ハインリヒは、空軍全員が装備しているパラシュートの入った、リュックを背負い込んでいるから、かなりの高度で落下しても大丈夫だから、一気に50メートルまで高度を上げて、結構なスピードで前進と後進をしてみせやがった。

 よく考えてみると、もしかしてハインリヒは、ドラゴンやワイバーンの力を借りずに、純粋に人が魔道具のみで空を飛んでいる初の人間なのかも知れないなと、後で気づいちまった。

 

 10月27日

 

 『陸上空母』の建造を推進しながら、ドレイク殿と俺そして主役のハインリヒは、試作機をよりリファインして、2人乗りを基本にして全長を4メートルにして、更に安定性を図る為に後部ローター部分の連動性を向上させた。

 どうやら現在では、これ以上のレベルは無理と云う処まで突き詰めた、設計図を書き上げて、8ちゃん達ボットと一緒に1号機の製作に入った。

 

 11月3日

 

 先日コリント領に帰還されたアラン様とクレリア姫様そしてコリント領上層部、更についでに来た息子が、完成した1号機の試験飛行を観覧して下さった。

 テスト飛行を予定通り終え、降りてきたハインリヒの手を取り、

 

 「素晴らしい!

 とうとう君等は、人類の技術だけで空を飛んで見せたのだよ。

 きっとこの日は、歴史の上でも特筆される日になるだろう!

 是非、この空飛ぶ魔道具の名前を教えてくれないか?」

 

 とアラン様に聞かれたから、予めハインリヒと8ちゃんが暫定的に呼んでいた、『ヘリコプター』という名称を教えて差し上げると、

 

 「なんだか、以前から知っていた様に、しっくりと行く名前ね。

 アラン、私はこの名前が良いと思うわ」

 

 とクレリア姫様が仰られたので、アラン様始め上層部全員が賛成され、そのまま『ヘリコプター』という名称が正式名称になった。

 



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8月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝元年)《『ゼレンスク』と云う男と帝国軍新造艦隊》

 本当はあと2話閑話が続く予定でしたが、あまりにも現在の本編の雰囲気と違うのんびりとした話なので、スラブ連邦編が終わりある程度落ち着いたら載せますね。
 本編はいよいよ対スラブ連邦戦となります、昨年の書き始めた頃はこんな世界情勢になるとは想像しておりませんでしたが、二次小説の中とは云え、私なりの決着を下したいと思いますので、お付き合い下さい。


 8月1日

 

 『ゼレンスク』と云う男が居る。

 年齢は35歳で、元は喜劇俳優(コメディアン)だった。

 クライナ公国で地方都市をドサ廻りする興行一座に所属していて、喜劇俳優だけでなく台本書きや芸人更には社会風刺の絵本作家等もこなしていた。

 スラブ連邦がクライナ公国を蚕食して行く中、クライナ公国の人々を勇気付ける為に、敢えて愉快な喜劇を興行する事で、人々に笑いを取り戻させて明日への活力を蘇らせていたのだ。

 しかし、いよいよスラブ連邦の魔の手はクライナ公国の首都に迫り、クライナ公国公王自らが降伏する事で人民の命を救おうと、スラブ連邦軍に投降したのだが、奴等とはそもそも意思の疎通が出来ず、全くの無駄に終わるどころか、逆に公王自身が怪物にされてしまい、MMで出来た疑似兵士や疑似魔獣の軍団と共に、首都キエフへ襲いかかり、首都キエフは3日後に陥落し、王族全ては殺されてしまった。

 その時ゼレンスクは、偶々首都キエフで興行をして居たのだが、その攻防戦に巻き込まれて、興行一座の面々と彼の家族全てを殺されてしまった。

 ゼレンスク殿は、この時より復讐の為に立ち上がった!

 首都キエフから脱出する人々を連れて、遥か西に有るマジノ線まで避難させると、彼とその支持者達はクライナ公国で掃討戦を繰り返すスラブ連邦軍に対して、ゲリラ戦を挑み、首都キエフの時と同様に各都市の避難民をマジノ線まで避難させると云う行動を、実に20回以上を繰り返している。

 この男の元には、北方で活躍していた冒険者達や元ルーシア正教の司教、元都市国家の軍隊に居た軍人達等凡そ1万人が集っていて、かなりの被害をスラブ連邦軍に与えているそうだ。

 以前、我等帝国軍がマジノ線に行った際に、このゼレンスク殿と云う男の話しは聞いていたが、タイミングが合わなかったので出会えなかったが、その活動内容に感銘を受けたアラン様が、小型の『ヴァルキリー・ジャベリン』を放てるバズーカ砲100丁を始めとする様々な武器供与、そしてマジノ・ドームへの無制限の避難民受け入れ等を、マジノ線に常駐されているノルデン諸国連合軍のレリコフ元帥とその幕僚達に頼まれていた。

 本当は前の戦いの時、アラン様もゼレンスク殿と共にクライナ公国を救いたかったのだろうが、あの時はあくまでもノルデン諸国連合のマジノ線への救援依頼で有り、スラブ連邦へ侵攻出来る大義名分は無かったから、あれ以上の攻撃は出来なかった。

 だが、その為にこそアラン様は、遠く『魔法大国マージナル』に避難されていた王女アナスタシア様から、正式にルーシア王国の奪還の依頼を受け、西方教会圏全ての国からの承認を貰い、堂々たる大義名分を得て今回のスラブ連邦との大戦に突入される。

 然も王族でこそ無いが、ゼレンスク殿達スラブ連邦への反乱軍は、我等帝国との同盟を正式に取り交わしているから、その救援要請に従い行動する事になる。

 我等帝国軍は、ゼレンスク殿の救援依頼を皮切りとして、持てる軍事力の全てを使ってでも、北方の人々を苦しませ続ける、スラブ連邦を完膚無きまで叩き潰すべく行動を開始した。

 

 8月2日

 

 再編された帝国軍は現在3方向から、クライナ公国を救援に向かっている。

 既にマジノ線では、魔導列車でマジノドームに送り込んで居る帝都中央軍15万と、親衛隊長シュバルツ殿、ミツルギ殿を中心に、新たに親衛隊に加わった世界武道大会参加者20名と拳王ダルマそして剣王カイエンを含む特別陸戦隊が、ゼレンスク殿を救うべく、クライナ公国西端の都市『リビン』に向かい軍用トレーラーと軍用車両で、進軍していて、マジノ線のレリコフ元帥との連携の元、マジノ線までの避難民を安全に通す人道回廊を構築していっている。

 

 その軍を指揮する為に軍務大臣たるダルシム中将が、帝都の守りをヘルマン少将に任せて、陸上重巡洋艦『バーミンガム』に乗り込んで、陸上駆逐艦3隻を率いて現在マジノ線に向かっている。

 

 そして中央軍を側面支援する為に、東方軍管区からの援軍であるカイン少佐を中心とした重装機動軍を加えた、高機動軍と重機動軍をセリーナ、シャロン両准将が、陸上巡洋艦『ドレッドノート』と『ジャンヌ・ダルク』の2隻を中心にして陸上フリゲート艦4隻を伴い編成した遊撃軍が、クライナ公国の重要拠点である『ガデッサ』に向かっている。

 

 最後にアラン様の乗る総旗艦『ビスマルク』を中心として、自分の乗る新造陸上空母『グラーフ・ツェッペリン』と陸上空母3隻(従来のアイン、ツヴァイ、ドライ)とで編成された軍は、一路ノルデン諸国連合に向かい、約束通りに到着している海洋大国デグリート王国の一艦隊と合流するべく北上している。

 

 8月5日

 

 セリーナ、シャロン両准将が率いる高機動軍と重機動軍が、クライナ公国の重要拠点である『ガデッサ』に到着、そのまま北上してクライナ公国の中心に有る大都市『エリコフ』に向かった。

 そこには未だ避難出来ないでいる住民100万人と、その都市を包囲しているスラブ連邦軍20万が存在している。

 この包囲しているスラブ連邦軍を殲滅し、住民100万人をクライナ公国西端の都市『リビン』まで無事に輸送するのが、セリーナ、シャロン両准将に求められている。

 その状況は、戦闘ヘリコプターを改良して無人になったドローンが、逐一ライブで帝都の中央情報局に送られ、帝国軍ではそのまま情報共有が行われ、一般市民や他国には残酷なシーンを除いた動画をモニターで流している。

 そんなニュース動画でも、一般市民達にはとても痛ましい事で有るらしく、帝国のみならず西方教会圏の国民達は、今現在行われているスラブ連邦軍の悍ましい、クライナ公国民に繰り返される蛮行行為に対して嘆き悲しみ、そのスラブ連邦軍に対して敢然と立ち向かおうとしている帝国軍へ、称賛の声が上がっていると、中央情報局のエルヴィン局長からアラン様に報告が上がっているそうだ。

 




 本文を読んでくれれば判りますが、閑話で出て来た諸々の出来事と技術革新は全て本編にリンクしていて、これからも一見全然関係無い話に見えるかも知れませんが、後に意味が判る事になると思います。
 どうぞ長い話ですが、お付き合い頂ける事を、宜しくお願いします。


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8月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝元年)《大都市『エリコフ』攻防戦》

 8月7日

 

 クライナ公国の中心に有る大都市『エリコフ』を包囲しているスラブ連邦軍20万と、セリーナ、シャロン両准将が率いる高機動軍と重機動軍合わせて6万が衝突した。

 セリーナ、シャロン両准将は艦隊を横1列に展開してから、立体プロジェクターを使用しスラブ連邦軍20万に対し『エリコフ』包囲を即刻止める様に勧告した。

 

 スラブ連邦軍の主力は、MMで構成された疑似魔獣の中でも通称『タンク』で有る。

 全長5メートル程の、まるで鉄の塊の様な鎧を着込んだ犀に似た魔物の背中に砲塔が載っており、その砲塔から鉄の砲弾を城壁に撃ち込んでいて、破壊された城壁の穴を『エリコフ』の義勇兵達が必死に塞ぐ事で、何とか防いでいる状況なのだが、当然曲射による都市中心部への砲撃も行われていて、ドローンでその様子は西方教会圏に放送されていて、放送を見ている西方教会圏の一般市民はスラブ連邦軍の行為に対して、怨嗟の声を上げているのだ。

 

 だが、勧告している最中にスラブ連邦軍が帝国軍艦隊に向け攻撃して来た。

 『タンク』の砲身を旋回させると城壁攻撃を止め、帝国軍艦隊に向けて砲弾を浴びせて来たのだ。

 双方の距離は凡そ1キロメートルなので、この距離を踏破する射程距離は大したものだが、当然帝国軍艦隊の主砲の方が射程距離と威力は勝る。

 ある程度艦隊に砲弾は届いたが、この距離では『バリアー』を張らずとも船体表面で、敵の砲弾は弾いてしまった。

 暫くの後、陸上巡洋艦『ドレッドノート』と『ジャンヌ・ダルク』の2隻と陸上フリゲート艦4隻による魔導艦砲が火を吹いた!

 使用される弾頭には、リサイクル限界を越えた魔石群に過剰充填した『ファイアーグレネード』の魔法。

 こうする事で、着弾した砲弾は『ファイアーグレネード』を炸裂させると、飽和した魔石群はリサイクル限界の為に粉々になるのだが、その歳の作用で連鎖爆破する事になる。

 つまり、着弾した瞬間に砲弾は周囲一帯を燃焼爆破してしまうのだ!

 この強烈極まりない攻撃は、生きた人間にはとてもでは無いが使用できない。

 しかし、そもそも対峙しているスラブ連邦軍20万には、戦奴隷は居らず、全てMMで構成された疑似兵士と疑似魔獣のみなので、遠慮会釈してやる必要は全く無い。

 

 帝国軍艦隊による一斉射を3度繰り返すと、どうやら大半の『タンク』は沈黙した様だ。

 此処で帝国軍艦隊の後方に控えて居た、戦闘バイクを中核とした高機動軍と重機動軍合わせて約5万が、帝国軍艦隊の左右から戦場に躍り出た!

 先頭には、セリーナ、シャロン両准将が駆る『ディアブロ号』と『ジャッジメント号』が親衛隊のホバークラフトバイク5台ずつと共に鏃の戦隊を組み、2重鋒矢の陣の陣形で突進した!

 対するスラブ連邦軍は、前回のマジノ線攻防戦と同じく、戦闘陣形を一切取らずに無秩序に向かって来る!

 

 タイミングを図った艦砲が、スラブ連邦軍の中段辺りに炸裂し、高機動軍と重機動軍からも一斉に魔法を込めたバズーカ砲から、魔法弾がスラブ連邦軍前面に放たれた!

 

 「ドガガガアアーーーーンン!!」

 

 とスラブ連邦軍前面で魔法弾が炸裂し、その間隙をセリーナ、シャロン両准将が駆る『ディアブロ号』と『ジャッジメント号』が正に鏃となって、突っ込んだ!

 鎧袖一触と表現する他無い程の、見事なスラブ連邦軍に対しての分け入りを成功させて、セリーナ、シャロン両准将が駆る『ディアブロ号』と『ジャッジメント号』を先頭に、高機動軍と重機動軍はスラブ連邦軍を蹴散らして行く。

 そしてスラブ連邦軍が、高機動軍と重機動軍によって蹂躙されている間に、大きく迂回運動して大都市『エリコフ』の反対側を目指していた、カイン少佐を中心とした重装機動軍は、残っていたスラブ連邦軍1万に向かって行く。

 カイン少佐のドリルバイクは、アダマンタイト製のドリルを黄色く光らせながら回転させ、軍団全体に『サンダー』の魔法を纏わせると、カイン少佐のドリルバイクを先頭にスラブ連邦軍1万に突っ込んだ!

 スラブ連邦軍のMMで構成された疑似兵士は、サンダーの魔法を浴びると、MMでの構成が破綻するらしく、次々と崩れ去って軍団を維持出来なくなり、遂には全て崩壊してしまった。

 それを城壁の上から見ていた『エリコフ』の民は、歓声を上げると直ちに城門を開けて、カイン少佐率いる重装機動軍を迎え入れた。

 こうして、長い間包囲されていた大都市『エリコフ』は、漸く包囲から解放されたのである。

 

 その間も、高機動軍と重機動軍は残りのスラブ連邦軍に対して、殲滅戦を展開し、尽く塵と化すまで容赦なく殲滅して行った。

 

 4時間に及ぶ殲滅戦を終えて、大都市『エリコフ』に高機動軍と重機動軍は入城すると、早速、帝国軍艦隊に積んでいた食料品と医薬品等を『エリコフ』の住民に配給し、所属の医療部隊による臨時病棟を設営し、怪我人と病人の治療を開始した。

 『エリコフ』の住民は、我等帝国軍に感謝しながら、久々に訪れた爆撃の音のしない夜に、食事を終えた人々は深い眠りに落ちて行った。

 

 8月9日

 

 丸一日完全に眠る事で、ある程度体力の戻った『エリコフ』の住民達に、セリーナ、シャロン両准将は、この『エリコフ』に向かって、首都キエフに駐屯していたスラブ連邦軍30万が進軍している事と、クライナ公国西端の都市『リビン』に向かえば、マジノ線までの避難民を安全に通す人道回廊を構築している事を説明した。

 更に、今現在この『エリコフ』に向かい、『ゼレンスク』殿の反乱軍と帝国軍が護衛する大規模なトレーラーと車両による輸送部隊が近づいている事を知らせ、なるべく早く『エリコフ』を脱出し、その輸送部隊と合流して欲しい事を伝えた。

 『エリコフ』の住民達は、故郷で有る『エリコフ』を離れる事に、複雑な想いを寄せながらも、此処で死んでは、元も子もないと理解して、帝国軍と共に怪我人と病人を気遣いながら、輸送部隊の来る西に向かい『エリコフ』の住民約100万人は、ゆっくりだが確実に歩み始めた。

 



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8月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝元年)《『リビン』への遥かな道》

 8月10日

 

 ダルシム中将が乗る陸上重巡洋艦『バーミンガム』と陸上駆逐艦3隻が、マジノ線を越えてクライナ公国西端の都市『リビン』に到着した。

 既に『ゼレンスク』殿の反乱軍と帝国軍が護衛する大規模なトレーラーと車両による輸送部隊は、『エリコフ』の住民約100万人と合流すべく東に向かっている。

 その間、この『リビン』とマジノ線の間に構築した人道回廊を維持して、周辺都市に出没するスラブ連邦軍の疑似魔獣共を駆逐する必要が有った。

 ダルシム中将は、『リビン』を巨大な兵站基地とするために、マジノ線との間をインフラ整備し、片側3車線の計6車線の道路敷設を推し進め、その区間に等間隔に陸上駆逐艦を巡回させて、一切のスラブ連邦による妨害活動を排除する事にした。

 そして、周辺都市に対し潜入部隊として、親衛隊長シュバルツ殿、ミツルギ殿を中心に、新たに親衛隊に加わった世界武道大会参加者20名と拳王ダルマそして剣王カイエンを含む特別陸戦隊千人が、行動を始めた。

 彼等は、まだ生き残っているクライナ公国の住民を『リビン』に送り届けたり、出没するスラブ連邦軍の疑似魔獣共を駆逐する事を任務としている。

 彼等の中で、特に拳王ダルマ殿と剣王カイエンは、己が今まで磨きに磨いて来た武術を、クライナ公国の住民を守る為に、遺憾なく発揮出来る事に心底誇りを感じており、他の世界武道大会参加者20名と共に、スラブ連邦軍の疑似魔獣を相手に自分一人だけでなく、全員での連携技を考案しながらさらなる高みを目指し、腕を磨いているようだ。

 

 8月13日

 

 飛ばしに飛ばしたお陰で、ゼレンスク殿達輸送部隊は、無事に『エリコフ』の住民約100万人の避難民と合流を果たし、次々とトレーラーと車両に避難民を乗せて『リビン』に向けてピストン輸送を開始した。

 だが、やはり避難民は足が遅かったので、スラブ連邦軍の小部隊が次々と襲いかかって来た。

 当然、セリーナ、シャロン両准将の率いる高機動軍と重機動軍、そしてカイン少佐の重装機動軍は迎撃に出るが、何せ『リビン』までの道は長く、途中の街道は破壊され尽くしていて、難所だらけになっている。

 其処で、ゼレンスク殿は避難民達に向かい演説された。

 

 「クライナ公国の男達よ、皆が疲弊して居る事は、百も承知で頼む!

 どうかその手に武器を取り、自分達の家族・親類・友人を守る為に戦って欲しい!

 見ての通り、彼等帝国軍の方々は、勇敢にもあの地獄から這い出て来た様な疑似魔獣共に対し、一歩も引かずに戦って居られる。

 そんな彼等に対し我等クライナ公国の民は、ただ守って貰うだけなのか?

 私は、絶対にそんな事は無いと信じている!

 我等クライナ公国の誇り高い民は、不当な侵略者に対し決然と立ち向かう郷土愛を重んじる、不屈の戦士で有る。

 必ずこの『ラスプーチン』率いるスラブ連邦の愚かな侵略戦争は失敗に終わる!

 いや、我等クライナ公国の民の力で失敗に終わらせる!

 その為にも、クライナ公国の男達よ、帝国軍が供与して下さった、この『ヴァルキリー・ジャベリン』を放てるバズーカ砲を受け取り、帝国軍と共に戦って貰いたい!

 この戦争は、我等自身の手で終わらせるのだ!

 やるぞ、クライナ公国の民達よ!」

 

 立体プロジェクターで大きく空に映し出され、『エリコフ』の住民約100万人に向かって呼びかけられたその演説は、『エリコフ』の住民の心に確かに届き、次々と帝国軍が供与するバズーカ砲を受け取り、自分達の家族を守りながら、トレーラーと車両に乗り込み、時折襲ってくるスラブ連邦軍の小部隊を迎撃する事となった。

 

 彼等は勇敢にも、トレーラーや車両の上に身体を固定させ、3人1組となって射手と装填係そして警戒係と分担し、疑似魔獣や疑似兵士を倒して行った。

 この『ヴァルキリー・ジャベリン』は、敵を構成しているMMそのものをその魔法力で粉砕するので、疑似魔獣や疑似兵士はMMを再構築する事が出来ずに、直ちに塵と化してしまう。

 その威力に、自信を深めたクライナ公国の男達は、ドンドン戦士の顔へと変貌して行った。

 モニター越しにそんな彼等を見て、自分はクライナ公国の未来は明るいと確信する事が出来た。

 

 8月15日

 

 総旗艦『ビスマルク』を中心として、自分の乗る新造陸上空母『グラーフ・ツェッペリン』と陸上空母3隻(従来のアイン、ツヴァイ、ドライ)とで編成された軍は、ノルデン諸国連合の軍港から海洋大国デグリート王国の一艦隊と合流すると、巨大軍港を持つ首都キエフに向けて出港した。

 今現在首都キエフは、セリーナ、シャロン両准将の率いる高機動軍と重機動軍が、ワザワザ目立つ様にクライナ公国中央の大都市『エリコフ』を救援した陽動作戦によって、駐屯していた40万のスラブ連邦軍の内、30万の兵力で高機動軍と重機動軍が護衛する、『エリコフ』の住民約100万人の避難民を攻撃するべく南下している。

 その留守中に首都キエフを奪還するべく、我等は向かっているのだが、一つの懸念として存在するのが、例の『海魔クラーケン』達の存在だ。

 ゼレンスク殿とのモニター会議でも、その存在は語られたのだが、如何せん相手は海中に居るし、その全体像は誰も見ていない。

 ただ、同時多発に商船複数が海中から伸びてきたタコの様な足によって、海中に引きずり込まれた姿を、港湾作業員と船員が目撃している。

 少なくとも『海魔クラーケン』は複数居て、商船を海中に引きずり込める程の力を持っている。

 帝国軍には、海中に対して有効な攻撃力を持つのは、我等空軍がワイバーンとドラゴンに持たせて投下する、魔法水雷と氷魔法による氷柱攻撃、そしてアトラス殿の武装である海上・海中戦闘用の『海竜(リヴァイアサン)モード』しか無い。

 我等が『海魔クラーケン』を退けなければ、事実上首都キエフの奪還は無理で、クライナ公国全体の解放は著しく後退する事になる。

 我々に課されている、任務は非常に厳しいのだ。

 



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8月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝元年)《首都キエフ軍港戦(海魔クラーケンとの戦い)》

 8月17日(前編)

 

 総旗艦『ビスマルク』と新造陸上空母『グラーフ・ツェッペリン』に搭載されている、圧倒的な範囲を探査できる高感度の探知魔道具レーダーにより、海中に潜む『海魔クラーケン』共を発見した。

 ただ意外な事に、かなり浅い深度に集合していて、何やら食事中の様だ。

 正直な処意外だった、海中深く潜って商船が近づいたら海中から襲うと云った、お馴染みの行動を予想していたからだ。

 そしてその数も想定を遥かに越えている。

 何と、精々多くて百匹程度だと思ったのだが、軽く千匹を越えている!

 体長20メートルから30メートルの、巨大なタコに似た存在が群れを為して軍港いっぱいに集結している様子は、長い間見ていると正直気分が悪くなってくる。

 しかし、一体何を食べているのだろう?

 と気になっていると、ドローンがズームしてくれて海魔クラーケンが何を食べているのか、漸く判った。

 何と海魔クラーケン達は、魔物の中でも『サハギン』等で知られる、半魚人を捕食して居たのだ!

 

 「・・・・・インスマウス人・・・・・!」

 

 アトラス殿との最終確認の為に、『グラーフ・ツェッペリン』に来られていたアラン様が、ぼそっと呟かれた。

 

 《インスマウス人?》あの半魚人達の種類は、そう云う名前なのかと思ったが、どうにもその名前の響きが、どうしても違和感を感じさせた。

 そう、まるでこの世界に居てはならない、異界の存在であると理屈抜きで、自分の本能がしきりに警報を全身に鳴らしているようだ。

 

 我等帝国軍は、事前に策定した作戦行動を取るべく、所定の行動に順次移行して行った。

 先ずは、海洋大国デグリート王国が用意してくれた、退役艦と廃艦に近い木造の老朽艦計50隻を、軍港に向けて進ませる。

 此れ等は舵を固定の上で、進路を定めたら船員は全員『グラーフ・ツェッペリン』で回収し、無人でそのまま進むようにかなり単純な魔道具を積んでいる。

 上空には、予め『機龍(ドラグーン)』モードに換装しているグローリア殿と、空軍のガイを始めとするドラゴン15頭が、搭乗員を乗せずにグローリア殿の指示の元で戦闘する様に、滞空状態を保っていて、全員が投下する魔法水雷を満載している。

 そして水中には、アトラス殿が海上・海中戦闘用の『海竜(リヴァイアサン)モード』の武装に換装して、待機している。

 

 「作戦開始!」

 

 アラン様の号令の元作戦は始動し、老朽艦50隻は速力を上げて首都キエフの軍港に突入を開始した。

 老朽艦50隻が軍港まで、300メートルまで迫ってようやく海魔クラーケン共は気づいたらしく、何やら吸盤の付いた手足を振り回すと、半魚人達を放置して老朽艦計50隻に殺到して足の吸盤で取り付いた。

 

 「作戦第2段階に移行!」

 

 アラン様の次の指示が飛び、老朽艦50隻が火を吹いた!

 予め、燃焼し易い様に老朽艦50隻の船内は、廃油や要らなくなった布製品等の可燃物を満載していて、海魔クラーケン共が取り付いた瞬間、船の帆に向けて艦砲から遠距離魔法砲撃の『ファイアーアロー』が、老朽艦50隻に砲撃され、帆から導火線を伝い一気に船体が燃え上がったのだ!

 

 ゴウゴウと燃え広がった老朽艦50隻から、必死な様子で海魔クラーケン共は距離をとって、逃げ初めてが、

 

 「作戦第3段階に移行!」

 

 とのアラン様の次の指示が飛び、高空に滞空していたグローリア殿と、空軍のガイを始めとするドラゴン15頭が、満載していた魔法水雷を海魔クラーケン共目掛け、次々と投下した。

 

 「ドゴオオーーーン!」

 

 と大きな水柱を水上に吹き上げながら、魔法水雷は海魔クラーケン共に当たり、少なくない被害を与えて行った。

 此れは不味いと考えたのか、一部の海魔クラーケン共は、海中深く潜ろうと軍港から沖に、逃げ始めた。

 

 当然其処には、アトラス殿が迎撃するべく戦闘準備している。

 

 「『海竜(リヴァイアサン)モード』基本武装、マルチプル魚雷!」

 

 アトラス殿が、選択した攻撃は『グラーフ・ツェッペリン』で疑似音声化され、モニターで戦況を確認している艦橋員に聞こえ、自分のヘルメットにも再生された。

 マルチプル魚雷は、アトラス殿が換装している『海竜(リヴァイアサン)モード』の長い胴体(凡そ100メートル)の腹部にミサイルランチャーの様に格納されていて、同時に100体の敵をマルチ照準して、発射されると自動でホーミングして行く機能を備えている。

 

 次々とマルチプル魚雷は、海魔クラーケン共に直撃して粉々にして行き、海中に逃れようとした海魔クラーケン共を尽く粉砕した。

 堪らずに残った海魔クラーケン共は、軍港の陸上に上がり(コイツ等地上に上がれたのか!)、港湾施設の倉庫等に隠れようとした。

 

 「作戦第4段階に移行!」

 

 とのアラン様の次の指示が飛び、グローリア殿と空軍のガイを始めとするドラゴン15頭が、ファイアーブレスとファイアーグレネードを連射する事で海魔クラーケン共は、焼き尽くされて行った。

 

 《何と呆気ない》

 

 と自分を含む帝国軍全員が、あまりの海魔クラーケン共の弱さが、あまりにも敵として期待外れ過ぎて、物足りなさすら感じてしまった。

 

 すると、海魔クラーケン共の最期を確認したのか首都キエフの軍港の奥から、ゾロゾロと例の半魚人が港に押し寄せて来た。

 その数は凄まじく、軍港全てを埋め尽くしても終わらずに、まだまだやって来る。

 軍港から溢れている数に、100万匹は居るのでは無いか?と驚きながら見ていると、何やら半魚人達は一斉に、まるで教会でルミナス教の信者が唱えるルミナスの聖句の様に、酷く聴き取りづらい音で、声を上げ始めた。

 考えて見れば、どう見てもエラ呼吸をしてそうな外見の生物が、声を上げているだけで、充分異常なのだから、我々人間に明確に聴き取れる筈も無いか・・・。

 とやや場違いな感想を思っていたが、やがて人間にも聴き取れる内容に、変化した。

 

 「・・・ブジュルルr『ダ』、キリュリュr『ゴ』、ヅユウツリュr『ン』・・・」

 

 どうやら繋ぎ合わせると、『ダ』『ゴ』『ン』。

 『ダゴン』と繰り返し、発声している様で有った。

 次第にその唱和は合わさり、津波の様な大合唱となった!

 

 「・・・ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン・・・!」

 

 空間全てを覆い尽くすようなその大合唱は、首都キエフ全体に響き始めた!

 

 「バキン!!」

 

 と云う、硬質なガラスが割れる様な音が空中に響き、帝国軍全員がその音が聞こえた空間に目を向けると。

 何も無いはずの空間に、亀裂が走っている!

 

 「バキ、バキ、バキ、バキ、ガシャアーーーーンン!!」

 

 と空間に走った亀裂が、拡大して行き、やがて大きく割れると、空中に漆黒の闇が広がっていた!

 その漆黒の闇から、何やら途轍も無く巨大な存在が、此方側に向かいやって来ようとしているのが、自分の全ての五感を通して感じられた。

 ゆっくりと手が出て来たが、明らかにその手には水掻きが有り、更に足が出てきたがその足にも水掻きが存在する。

 そしてその肌は、魚類の物と思われる鱗がびっしりと覆っていた。

 非常にゆっくりとしたペースで全身を顕にした、その存在は、先程まで大合唱していた半魚人の姿に酷似していた。

 しかし決定的に違うのは、その大きさだ!

 空間から姿を現し、そのまま下半身を海中に沈めた全長は、海面に出ている部分だけで、凡そ2キロメートルに達している!

 恐らくは、下半身も合わせると約5キロメートルに達するのでは無いだろうか。

 そしてその怪物は、おもむろにその辺りに焼け焦げて死んでいる海魔クラーケン共を、その魚類の様な口に持って行って咀嚼し始めた。

 その様子を見ていて、自分を含む全ての帝国軍人の脳裏に、或る考えが浮かんでしまった。

 もしかすると、我等はとんでもない思い違いをしていたのでは無かろうか?

 海魔クラーケン共は、クライナ公国の人々や商船にとっては脅威になるだろうが、我等帝国軍にとっては何程の事もない。

 だとすると、スラブ連邦のラスプーチンは最初から、この怪物を呼び出す為の”供物”として、海魔クラーケンの封印を解いたのでは無いだろうか?

 つまり我等帝国軍に対して、ラスプーチンが用意した我々相応の相手は、今目の前にいるこの怪物だという事だ!

 

 「・・・・・父なるダゴン・・・・・・!」

 

 感度の良い自分のヘルメットの音声レシーバーは、小さく呟かれたアラン様の声を拾ってくれた。

 

 そして、首都キエフ軍港の真なる戦いが、始まろうとしていた。

 



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8月の日記⑤(人類銀河帝国 コリント朝元年)《首都キエフ軍港戦(ダゴン&ハイドラとの戦い)①》

 8月17日(中編)

 

 ダゴンはひたすら海魔クラーケン共を喰らい続けていて、正直我等帝国軍に対しての行動を見せないので、コイツ本当は無関係なのでは?との考えが浮かぶ。

 そもそもダゴンを呼び出したインスマウス人はどうしたのか?と大勢の半魚人共に視点を移すと、何故か半魚人たちが居た場所には、うず高く積み上がった全長2キロメートル程の黒い物体が有った。

 

 「えっ?!」

 

 誰かが呟いた声が、レシーバー越しに聞こえたから、他の誰かもあの黒い物体に気づいたのだろう。

 

 「ビキッ!」

 

 と音を立てて、その黒い物体は割れて其処からゾロゾロと、大きさ30メートル程の『ヒュドラ』が大量に出て来た。

 

 《そう云えば、マジノ線でも『ヒュドラ』が居たなあ》

 

 とのんびりとした感想が、自分の中で生まれたが、どうやらこの時はあまりの急展開に、落ち着いた思考が出来ず、或る種の思考の飽和状態になっていたのでは無いだろうか?

 

 すると、『ヒュドラ』達が出て来て割れていた黒い物体がザワザワと蠢いたかと思うと、突然形を失い黒いスライムの様なアメーバ状になってヒュドラ達の身体に纏わりついた。

 

 《アッ思い出した、この展開は覚えが有るぞ》

 

 とマジノ線での出来事を思い出しながら、観察していると。

 案の定、あの時の様に黒いスライムの様な塊はヒュドラ達を取り込むと、頭数が半分になり前回と同じで、ヒュドラの尻尾部分で2頭のヒュドラが融合していて、更に50メートルずつに巨大化して足まで生えていた。

 だが、この怪物の対処方は既に判っているから、異形ヒュドラ達が一体で計18の蛇の口から、光線の様なブレスを吐きガイ達ドラゴンに攻撃して来た!

 

 当然前回の教訓が有るから、帝国軍艦隊からの弾頭を『ヴァルキリー・ジャベリン弾』に装填した集中砲火を、異形ヒュドラ達に浴びせた。

 前回と同じく『ヴァルキリー・ジャベリン弾』のお陰で、異形ヒュドラ達のバリアーは解除され帝国軍の攻撃が届く様になった。

 しかしあまりにも数が居るので、応援部隊として陸上空母3隻に分かれて待機していた、ベック達のワイバーン部隊に出撃させ、異形ヒュドラ達の相手をさせて、ドラゴン部隊はダゴンへの警戒にあたった。

 艦砲とワイバーン部隊による凄まじい十字砲火を浴びて、異形ヒュドラ達は燃えて行く。

 

 《結局前回と同じか・・・》

 

 と安心していた自分を嘲笑うかの様な変化が、異形ヒュドラ達に生じたのは、その少し後だった。

 燃えていた異形ヒュドラ達は、燃えながらまたも突然形を失い黒いスライムの様なアメーバ状になって、集合し始めた!

 

 《前回と展開が違う、ここからどうなるんだ?》

 

 と薄気味悪くダゴンを警戒しながら、異形ヒュドラ達を横目で観察していると。

 段々と、微光を放つ広大な凡そ3キロメートルに及ぶ灰色の原形質状の流動体に変わり、其処から無数の触手の様な頭が生え始めた!

 その頭には、人間・オーク・オーガ・グレイハウンド・ゴブリン・サーペント・ワイバーン・ドラゴン・コボルトといった、この大陸に存在する生物の頭が、無数に生えている!

 そして暫くすると、その無数の頭は、奇怪な声を上げ始めた。

 

 「ギギョワラエウウウイエチガアアノワアワワwキュ!」

 

 その奇怪な声を聞き、今の今まで海魔クラーケン共を貪っていたダゴンが、突然その悍ましい食事を中断し、原形質状の流動体に顔を向けると、ダゴンも叫び声の様な声を上げた。

 

 「クsジビfソンオx!」

 

 「bッッsjルヅcybピイ!」

 

 「ンdhドmsモsjvパyロン!」

 

 「イhヂニsgヴザゥzbsmf!」

 

 もはや声なのか、叫びなのかサッパリ判らないが、その会話?が終わると、ダゴンは明らかな敵意を向けて、帝国軍艦隊に向けて軍港から出て来た。

 

 「帝国軍全てに命令する!

 海中に居る目標は『ダゴン』、陸上に居る目標は『ハイドラ』とし、

 ドラゴン全部隊と帝国艦隊は『ダゴン』を標的とし、それワイバーン部隊は『ハイドラ』を標的とする。

 戦闘体勢に移れ!」

 

 とアラン様は命令を下し、直ちに帝国全軍は行動に移る。

 ダゴンは何やら意識を集中し始め、急に立ち止まると水掻きの付いた大きな手を前に突き出した。

 やがてダゴンの足元から海水が立ち昇り始め、巨大な竜巻となり帝国軍艦隊に向けて押し寄せて来た!

 すると海中から海面上に姿を現したアトラス殿が、

 

 「『海竜(リヴァイアサン)モード』海上魔法の一、『海嘯』!」

 

 と叫ぶと潮波が垂直壁となり、そのまま其処から潮津波が連続してダゴンが作った巨大な竜巻に叩きつけられた!

 暫く拮抗していたが、やがて双方の魔法は相殺された様に姿を消した。

 すかさずガイ達15頭のドラゴンは、軍団魔法『ファイアーサイクロン2』をダゴンに対して展開したが、掻き消す様に軍団魔法『ファイアーサイクロン2』は消えてしまい、ダゴンには何の効果も与えていないようだ。

 続けて帝国軍艦隊が、様々な砲弾や魔法弾を雨あられの様に浴びせるが、ダゴンはまるで痛痒を感じていない。

 更に幾つかの、攻撃手段をダゴンに対して加えたが、やはり効果は無い。

 

 「・・・やはり『深きものどもの統率者』にして異次元の存在であるだけに、此方側の通常の攻撃手段では効かないか・・・」

 

 とアラン様の声が聞こえ、次に、

 

 「此れより、対異次元存在への攻撃手段で有る『ジークフリート』で出撃する!

 『ダゴン』対応班は俺アランの後方に退き『バリアー』を最大出力で展開し、次の指示を待て!」

 

 と命令が下された。

 

 「「「了解しました!」」」

 

 と『ダゴン』対応班のドラゴン部隊と帝国軍艦隊は、『バリアー』を最大出力で展開した。

 

 そしてアラン様は、総旗艦『ビスマルク』の甲板上に出られると、

 

 「対外敵プログラム"武神アラミス"起動!

 モード『異空間からの侵略者』!

 『神人』の要請に従い顕現せよ!

 神鎧『ジークフリート』!!!」

 

 《其は、大いなる遺産、神々の祝福を帯びし、不滅の武具にして、傷付けられる者など存在しない、異界の神ですら討ち滅ぼせる、この次元に於ける特異点、調整者が鋳造し残せし神の鎧、その名は『ジークフリート』!》

 

 ヘルメットのモニターに自動で文字が、流れて行った。

 次の瞬間、何やら金属を弾く様な音が聞こえると、何も無かったアラン様の目の前に神々しい光を放つ鎧が現れた!

 そしてあの時と同じ様に、鎧は己の主人が判るのか、其々のパーツに分かれるとアラン様の身体の部分に次々と装着した!

 アラン様に完全装着した神鎧『ジークフリート』は、まるで喜ぶかの様に七色の光を放ち辺りを照らす。

 其れまで、全ての帝国軍の攻撃を一向に意に介さず、ただ黙々と帝国軍艦隊に近づいて来ていたダゴンが、ピタリと動きを止めて、魚の様な目を神鎧『ジークフリート』を纏われたアラン様を凝視し、やがてその全長5キロメートルに及ぶ巨体をブルブルと震わせ始めた。

 あまりにも巨体である為に、ただ身体を震わせているだけで、5メートルの波がその足元から発生しているくらいだ。

 

 やがて、神鎧『ジークフリート』を纏われたアラン様はゆっくりと、空中に浮かばれて、ダゴンの正面にて進まれて、言われた。

 

 「征くぞ、ダゴン!

 俺と神鎧『ジークフリート』の力を見せてやる!」

 

 此処に異界の怪物ダゴンに対して、アラン様が神鎧『ジークフリート』を纏って全力の戦いを示す事になった。

 



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8月の日記⑥(人類銀河帝国 コリント朝元年)《首都キエフ軍港戦(ダゴン&ハイドラとの戦い)②》

 8月17日(後編)

 

 神鎧『ジークフリート』を纏って正面に立つアラン様に対して、ダゴンは、

 

 「Kbクdbcbァアンシd!」

 

 と叫び、其れに合わせて身体の表面を覆う鱗を逆立てたと思うと、その逆立った鱗が我等帝国軍艦隊に向かって射出された!

 

 「・・・集束・・・!」

 

 とアラン様が、呟かれながら左手を掲げると、帝国軍艦隊に向かって射出された鱗は、その掲げた左手の先に全て集束し、巨大な塊と化した。

 その巨大な塊をアラン様は、ダゴンに向けて指で弾く。

 その凄まじい勢いの付いた巨大な塊は、今までどの様な攻撃も無効にしていたダゴンの顔面を直撃し、全長5キロメートルに及ぶダゴンの身体を仰向けに仰け反らせた。

 

 「グツィンcbヂs!」

 

 と吠えながら立ち上がったダゴンは、今度はその大きな口から膨大な量の水流を吐き出した!

 

 「ディストーション・バリアー(空間歪曲障壁)」

 

 とアラン様が唱えると、高さ3キロメートル、横幅6キロメートルに及ぶ歪んだバリアーがアラン様の前方に現れ、見事にダゴンの水流攻撃を完璧に防ぐ。

 暫くの間ダゴンは水流を吐き続けたが、無駄と悟るとズンズンとアラン様に近付き、水掻きの付いたその大きな手でアラン様に殴りかかった!

 だが、アラン様が展開されている「ディストーション・バリアー(空間歪曲障壁)」によって、その攻撃はアラン様に届かない。

 何度かのダゴンによる殴打を全て「ディストーション・バリアー(空間歪曲障壁)」で防ぎ切ると、ダゴンはタジタジといった様子で、後退した。

 するとアラン様はバリアーを解除し、殴りかかていた両腕に対し攻撃した。

 

 「次元斬」

 

 そう言われると、アラン様は手刀の形で片手を二閃させた。

 

 「ブエヴdbgvソ!!」

 

 悲鳴を上げながらダゴンは、その二閃によって切り落とされた両腕を海に落とし、ひたすら苦悶し始めた。

 

 「・・・はーっ、この程度か・・・」

 

 アラン様は明らかに興味が失せた様に溜息をつき、手招きされてアトラス殿とグローリア殿を呼び寄せると、

 

 「お前達、これから実戦訓練をさせてやるから、全力でダゴンに攻撃せよ!

 良いか、これは何れ戦う事になる大いなる敵『古きものども』と、その尖兵で有る虫達との長い戦いの序章に過ぎない!

 あと、お前達の攻撃がダゴンとハイドラに当たって、ダメージを与えられる様に此の空間に於ける、奴等の異界との繋がりを、次元断層によって断つから、安心して全力で対処するように!」

 

 と2頭に命令を下し、

 

 「「了解しました!」」

 

 と2頭は、ドラゴンの頭を深く垂れて命令を受諾し、ダゴンへの攻撃を開始した。

 

 「『海竜(リヴァイアサン)モード』海上魔法の二、『水柱』!」

 

 とアトラス殿が叫ぶと、巨大な水柱がアトラス殿の周りに5本現れ、その先端はまるでドリルの様な形状になった。

 

 「貫け!」

 

 とアトラス殿が叫ぶと、水柱はその先端を向けてダゴンの両手足の付け根と首目掛けて貫いた。

 

 「ガガgンシブs!」

 

 と更に苦悶の声をダゴンは上げたが、当然水柱に貫かれたままなので、身動きが取れないままだ。

 

 「『機龍(ドラグーン)モード』殲滅魔法準備!」

 

 とグローリア殿は叫び、例の避雷針パーツ3個を、上空に射出した。

 たちまち上空に雷雲が立ち込めて来て、雷が避雷針パーツ3個に吸い込まれる様に集まっていく。

 その間もアトラス殿とグローリア殿は、両肩に装備している『フォノンメーザー』とドラゴンブレスを、絶え間なく撃ち続ける。

 

 漸く雷が避雷針パーツに充填されると、グローリア殿専用の『グングニルの槍』をグローリア殿は手に持ち、

 

 「第一段階『ゼウス(雷神)の裁き』!!」

 

 と叫ばれ、グローリア殿は『グングニルの槍』をダゴンの頭に投擲して、見事ダゴンの左目に突き刺さった。

 

 「スbcビs!」

 

 とダゴンは呻く、其処へ『グングニルの槍』に向けてアトラス殿とグローリア殿は、『インドラの矢』を全力で多重展開し、『グングニルの槍』に向けて放った!

 

 「カッ!」

 

 その瞬間『インドラの矢』特有の現象で、世界が白く染め上げられ、続いて振動を伴った轟音が周囲一帯を包み込み、静寂が訪れた。

 だがダゴンは、水柱に貫かれたまま耐えている。

 

 「第二段階『ウラヌス(天空神)の怒り』!!!」

 

 とグローリア殿が叫ぶと、上空に有る避雷針パーツ3個から充分過ぎる程集まった雷が、百雷となって突き刺さったままの『グングニルの槍』に降り注いだ!

 

 「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーンンン!!!!!!」

 

 と云う音と共に衝撃波が起こるが、前回と違い強力になった帝国軍の『バリアー』は見事に、その衝撃波を防ぎきった。

 この攻撃で流石に水柱は蒸発してしまったが、ダゴンはその場で焼け焦げているが、ピクピクと蠢いている。

 

 《『テュポン』よりタフだな》

 

 と思っていると、アラン様がダゴンの身体の上に降りられると、

 

 「ブラックホール(暗黒孔)」

 

 と唱えた。

 するとアラン様の上空に、非常に大きく真っ黒な空間に生じた穴が、現出した。

 その穴に向かいダゴンは、上空に引き寄せられ、その空間に生じた穴にまるで落ちるように吸い込まれていった。

 

 アラン様にとっては、何時でも今の様にダゴンは始末出来たのだなと思い、もう一方の陸上に居る『ハイドラ』に目を向けると。

 アトラス殿とグローリア殿以外の帝国軍の総攻撃で、かなりの頭を潰されながら辛うじて灰色の原形質状の流動体を保つ、『ハイドラ』の姿が有った。

 

 まあ、アラン様のお陰で全ての『ハイドラ』への攻撃は届き、艦砲始め、帝国軍の誇る超絶攻撃は、『ハイドラ』へ深刻なダメージを与えていた。

 やがて、ハイドラを構成していたMMは体型を維持出来ずに崩壊し、軍港にうず高く積み上がった。

 其処にアラン様は、ダゴンの時と同様にブラックホール(暗黒孔)を使用し、大きく真っ黒な空間に生じた穴にハイドラだったMMを落とした。

 此れでハイドラは、復活する事が出来なくなった。

 

 漸く首都キエフ軍港での異界の存在との戦いは終わったが、アラン様の言われた『古きものども』との戦いは始まったばかりだ。

 恐らくはラスプーチンも、何らかの形で『古きものども』と関わっているに違い無い事は、今回の事で確定したと言って良い。

 これからの対スラブ連邦戦争は、異界の侵略者との戦いで有る事を、我等帝国軍全員が肝に銘じた。

 



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8月の日記⑦(人類銀河帝国 コリント朝元年)《アラン様とゼレンスク殿の初対談》

 8月18日

 

 昨日の首都キエフ軍港での戦いを終え、無事帝国軍艦隊は軍港に横付けし、直ちに首都キエフの状況確認を始めたのだが、何となく帝国軍全員が察していた通り、首都キエフにはクライナ公国住民は一切居なかった。

 

 《やはり、あのインスマウス人とか云う半魚人共は、スラブ連邦がMMを悪用して製作した、クライナ公国住民なのだろう》

 

 吐き気がする話だが、こう考えるしか無い状況だ。

 クライナ公国住民が一人も居ない首都では、占拠していても仕方無いので、一旦大規模な兵站基地になっている、クライナ公国西部の『リビン』で帝国軍全軍が集結する事になった。

 我等帝国軍が如何に精強でも、クライナ公国全土に部隊を派遣する様な兵力は存在しない。

 当然しっかりとした太い兵站線を確保して、相手の損耗を図り、戦力を集中した上でスラブ連邦の大軍団を、一気呵成に攻撃し、殲滅する事が求められる。

 

 8月25日

 

 我等帝国軍は『リビン』で全軍集結出来た。

 あれからドローンで齎された情報を元に、帝国軍艦隊は各地方の残存しているクライナ公国住民を捜索して、帝国軍各部隊が救出に向かい、凡そ50万人のクライナ公国住民を連れ出せた。

 これ迄の救出されたクライナ公国住民は、其々の帝国軍方面隊の努力のお陰で、合計250万人救出出来た事になる。

 この人数は、元のクライナ公国住民数の半分に満たないが、帝国だけでは保護は出来ないので、話を通して於いた各同盟国に応分の人数を避難民として受け入れて貰う事になっている。

 何せ、例の西方教会圏の国々への歴訪は、この事も念頭に各国と交渉の場を設け、その際に掛かる全ての費用は帝国が賄う旨を各国との契約と云う形で取り交わして来た。

 実は、『魔法大国マージナル』以外の国は、大国であろうが小国であろうが、この避難民の受け入れを争う様に求めて居た。

 何故か?と云うと、その際に掛かる全ての費用は帝国が賄うと云うがその支払いは、全てポイントで支払われるのだが、既に西方教会圏の国々は我等が帝国との取引の際に、従来のギニーでの決済の方法は、額が少額ならば良いが、大口の取引の場合は、ギニー自体の運送費用や、保管する維持費が高額になってしまい、デメリットが大きすぎたのだ。

 それに比べ、ポイントならば各国に作られた『帝国バンク』が帝国との取引を完全保証してくれる上に、無料で各国の国民にカードを発行してくれるので、自身の身分保証と最初に付いてくる3万ポイントのボーナスを求めて、こぞって入会する事が当たり前になっている。

 この現象は、一般人よりも寧ろ国家の上層部が熱心に取り組んでいて、小国の中には全国民にカード発行を奨励している程だ。

 なにせ、帝国からの貿易に於いて、トレーラーや重機そして各車両等は、ポイント決済が当たり前なので、帝国に置かれている各国の大使館は、クライナ公国避難民一人一人に最初から付いている、カードのボーナスポイント300万は、是が非でも欲しいので、本国に対してクライナ公国避難民一人一人は、国家財産そのものに成り得ると打診しているようだ。

 きっとクライナ公国避難民の方々は、避難された各国が丁寧に扱ってくれて、一刻も早くポイントを避難した各国で使用して貰うか、ギニーとの等価交換を望まれる事だろう。

 然も、そのボーナスポイント300万を使いきっても、毎月10万ポイントが支給されて、一刻も早いクライナ公国避難民の生活安定化を、帝国は推し進めるのだから、きっと各国はかなりの高待遇でクライナ公国避難民に接してくれて、その状況を帝国に報告し本人のカードでその状況に嘘が無いかも確認出来るのだ。

 

 此の日の夜遅く、双方共にやらなければならない仕事が多すぎて、直接会えなかったアラン様とゼレンスク殿は、『リビン』の帝国軍艦隊宿営地で、総旗艦ビスマルクのアラン様の私室で有るラウンジで、会合を持たれた。

 

 帝国側は、アラン様とカトウ殿そして自分。

 

 クライナ公国側は、ゼレンスク殿とルーシア正教ボルト司祭そして元クライナ公国バレス将軍。

 

 この3人ずつで、余人の入らぬ本音の会談をする事になった。

 

 始まるやいなや、クライナ公国側の3人は、深々と頭を下げて来て、

 

 「アラン皇帝!大変有難う!

 貴方の帝国が迅速に救援に駆けつけてくれたお陰で、沢山のクライナ公国国民が救われて、西方教会圏の各国に避難出来ている、感謝の言葉もない!」

 

 とゼレンスク殿は感謝され、アラン様はそんなゼレンスク殿に近づきその両手を持ち、右手による握手の形にし、ゼレンスク殿と対等な形になられ、慣れない仕草である握手という仕草に、最初は戸惑われていたゼレンスク殿だったが、アラン様の柔らかい微笑みを見て、強く握手を握り返しながら頷き、それに対してアラン様も握り返しながら頷いた。

 

 「さあ此の場は、お固い正式な国同士の会談の場では無い!

 お互いの無事と今後の勝利への健闘を願い、乾杯しようではないか!」

 

 とアラン様は言われ、給仕役はいないので自分とカトウ殿が、ラウンジに常備されているアラン様の好物の蒸留したワインを、全員のワイングラスに注ぎ終わると、

 

 「其れでは、乾杯!」

 

 とゼレンスク殿が、やや戸惑われているのに強引に互いのグラスを近づけ、「キンッ」と硬質な音を立てさせて、ゼレンスク殿達に飲む様に勧められた。

 此処までされては、断るのは失礼と思われたのだろう、我等3人と同時にグラスに入った蒸留したワインを、一気に飲み干された。

 我等は飲み慣れているが、ゼレンスク殿達にとっては驚きだったに違いない。

 

 「この様に美味しいワインは、初めてです!

 もしかして、かのゲイツ王国のワインですか?」

 

 とゼレンスク殿が唸りながらアラン様に聞かれると、

 

 「いえ、このワインは我が帝国で作った物で、最初に帝都で収穫した葡萄から作った貴腐葡萄酒を、蒸留し2年間寝かせる事で出来た物です。

 どうやら気にいってくれた様子なので、陣頭指揮を取った私としては、大変満足ですよ!」

 

 とアラン様は満面の笑みを零しながら、全員のグラスにお代わりのワインを自ら注がれ、大満足された様だ。

 

 ゼレンスク殿達は更に驚かれ、

 

 「人類銀河帝国皇帝たる貴方が、陣頭指揮でワイン製造に携わられるのか?」

 

 と驚嘆されたまま尋ねて来た。

 

 《まあ、普通ならそう云う風に驚くよな》

 

 ともう既にアラン様に対して驚き慣れてしまっている自分とカトウは、顔を見合わせて苦笑した。

 

 「ええ、その通りですよ。

 是非気にいってくれたのなら、クライナ公国が復興した際には、大量に輸入されて下さい。

 他の国より負けて販売させて頂きますよ!」

 

 と愉快そうにアラン様が返答されたのに、突如ゼレンスク殿の目がギラリと光り、

 

 「・・・という事は、アラン皇帝はスラブ連邦の崩壊後、クライナ公国の復興を確約して頂けるのですな!」

 

 と確認する様に問われると、アラン様は真顔になられ、

 

 「其処ですよ、ゼレンスク殿!

 貴方方もあの首都キエフ軍港での戦いは、ご覧になられましたな?」

 

 とアラン様に問われ、ゼレンスク殿達は大きく頷かれた。

 

 「ならばお判りでしょう。

 この戦争は従来の戦争とは全く違い、我等この世界の住人と異界からの侵略者との、生存を賭けた決して負けられない戦いで有ると!」

 

 此れにも大きく頷かれゼレンスク殿達は答えた。

 そして、

 

 「当然把握しているし、其れは常に念頭にある!

 しかし、俗物と言われようが、私はクライナ公国の国民の為にも、明日の生活と今後の身の振り方を、責任を持って守らなければならない!」

 

 とアラン様に対してゼレンスク殿は、堂々と宣言して来た。

 

 《なんて責任感の強い男だ!此れほどの覚悟と国民に対しての強烈な思いを抱く、王族でも無い国家代表を見たのは初めてだ!》

 

 その返事に感銘を受けられたアラン様は、

 

 「・・・流石ですなゼレンスク殿!

 我等帝国はクライナ公国に対し、領土的な接収は一切御座いません。

 後日この件は、書類にして誓約を互いに交わしましょう。

 他の各国でも、同じ誓約を互いに交わして貰っています。

 何故なら、我等帝国としては、同じ人類として、同じ価値観・同じ言語・同じ社会規範を持つ仲間で有ってくれれば其れ以上は、一切望みません。

 極端な話、この大陸での戦いが全て終わり、人々が望むのならば人類銀河帝国は、皇帝で有る私の権限に於いて解散させてしまっても一向に構わない!

 だが、スラブ連邦の連中の様な、意思疎通を完全に拒み我等と交渉を持とうとせず、ただ我等人類を糧にしようとする者達とは、我が帝国は絶対に許さず、最期の一人になろうとも全ての人類の為に帝国は戦います!」

 

 と凄まじい覚悟を見せられた。

 その内容と、覚悟を聞いてゼレンスク殿は、

 

 「・・・その覚悟を聞き、私も全力で貴方方帝国と共に戦う覚悟が更に固まりました。

 先ずは、スラブ連邦軍をこのクライナ公国から追い出し、スラブ連邦本国に対して逆侵攻を果たしましょう!」

 

 と答えられて、アラン様と同時にお代わりのワインを飲み干し、その美味しさに惚れ惚れとした様子だ。

 他の自分も含む4人も、2人に遅れてワインを飲み干し、全員で「ホオーッ」と吐息を同時に吐き、皆で笑いあった。

 そう、全てはこれからのスラブ連邦との戦い次第だ、自分は政治など判らない一軍人に過ぎないから、ただ戦いに全力を尽くすのみだ。

 



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8月の日記⑧(人類銀河帝国 コリント朝元年)《ガデッサの戦い準備》

 8月28日

 

 3日前から、新たなスラブ連邦軍の情報がドローンの情報で、帝国軍に入ってきた。

 どうやらスラブ連邦軍は、クライナ公国の要衝たる南西部の『ガデッサ』を目指している様だ。

 アラン様からの情報で、我等帝国軍はそうなるだろうと予期していた。

 アラン様が言うに、例のMMで疑似兵士や疑似魔獣を作るには、大量のレアアースが必要で、ドローンのスペクトル分析によると、既にスラブ連邦の支配地域には、『ガデッサ』程の埋蔵量を誇る鉱床は無いそうだ。

 帝国軍の手によって大量の、疑似兵士と疑似魔獣を滅ぼされて、補充する為にはこの『ガデッサ』の鉱床は、是が非でも欲しいだろう。

 ならばエサに釣られる魚の様に、スラブ連邦軍は群がってくるに違いない。

 判明した3日前から直ちに帝国軍戦闘部隊は移動を開始して、『ガデッサ』の地に拠点を設営し初めて、塹壕や各種の罠を張り巡らせる工事に着手し、本日完成した。

 夜を迎えて作戦会議が、空軍旗艦『グラーフ・ツェッペリン』のドラゴン達も参加できる、格納庫で行われた。

 

 今回行われるであろう大会戦、仮称『ガデッサの戦い』に参加する陣容は次の通り、

 

 総旗艦『ビスマルク』・・・・・この艦の中央に有る中央管制室で基本的に作戦命令が発令されて、其処にはアトラス殿とグローリア殿との、《ダイレクトリンク》を行えるシートが有り、対強敵との戦いを挑む際には、アラン様がこのシートに座り、アトラス殿とグローリア殿に憑依(ポゼッション)する事で、アラン様がアトラス殿とグローリア殿の身体を扱える様になる。(兵数5万)

 

 陸上重巡洋艦『バーミンガム』・・・・・ダルシム中将が乗り、他の帝国軍艦船と違い基本的に動き回らず、超大型バリアーを展開して帝国軍全体を防御し、その大火力で帝国軍の各部隊への支援攻撃を行う。(兵数15万)

 

 陸上駆逐艦・・・・・バーミンガムを護衛しながら、それに連動する支援攻撃の補助も行う。

 

 陸上巡洋艦『ドレッドノート』『ジャンヌ・ダルク』・・・・・セリーナ、シャロン両准将率いる、高機動軍と重機動軍が乗り込み、スラブ連邦軍に対する遊撃戦を展開することになる。(兵数6万)

 

 陸上フリゲート艦・・・・・『ドレッドノート』『ジャンヌ・ダルク』と共にスラブ連邦軍に対する遊撃戦を展開し、多数の戦闘バイクも抱え込んでいて、連携攻撃も行う。

 

 新造陸上空母『グラーフ・ツェッペリン』陸上空母3隻(従来のアイン、ツヴァイ、ドライ)・・・・・帝国軍の陣形に於いて、最後尾に居て、ドラゴン部隊とワイバーン部隊の補給等を行う。(兵数3万)

 

 此れ以外の、軍団や部隊は、

 

 マジノ線を守護するノルデン諸国連合のレリコフ元帥の指揮下の15万人の内5万が、兵站基地『リビン』に駐屯し、補給線の維持と防御に専念して貰う。

 

 ゼレンスク殿達の部隊は分散搭乗を各艦船にしてもらい、新造陸上空母『グラーフ・ツェッペリン』には、ゼレンスク殿達指導部に乗って貰っている。

 

 親衛隊長シュバルツ殿、ミツルギ殿を中心に、新たに親衛隊に加わった世界武道大会参加者20名と拳王ダルマそして剣王カイエンを含む特別陸戦隊千人は、兵站基地『リビン』に留まり、レリコフ元帥と共に兵站基地『リビン』の維持と防御に専念して貰う。

 

 「・・・どうやらスラブ連邦軍は、3方向からこの『ガデッサ』目掛けて向かっている。

 

 一つ目は、『緑海』をスラブ連邦本土側から、海上ルートでやって来る、インスマウス人が主力の兵力70万。

 

 二つ目は、クライナ公国東部に駐屯していた、タンクと呼ばれる疑似魔獣や帝国軍艦隊にも似た、大型疑似魔獣を大量に抱えた、恐らくはスラブ連邦軍主力の兵力150万。

 

 三つ目は、『赤海』から揚陸して占拠した『クリーミー半島』に、駐屯していた疑似兵士達兵力30万。

 

 合計約250万に及ぶ最大兵力が、ガデッサ奪取を目的に迫っている」

 

 とアラン様は、スラブ連邦軍の全容を説明された。

 凄まじい大兵力の筈なのだが、アラン様達上層部は、あまり脅威に感じていないのか、淡々と作戦概要を説明し始めた。

 

 基本概要は、このスラブ連邦軍をこのガデッサの地で殲滅して、その後は『クリーミー半島』を一気に奪還して、その足で『赤海』を遡りスラブ連邦の各都市を攻略して行き、そのままスラブ連邦の首都である『エデン』を攻略し、首魁で有る『ラスプーチン』と対決して、この150年に及ぶスラブ連邦の戦いに終止符を打たせる。

 

 と云ったこの基本概要を軸に、細かい部分でのガデッサの戦いに於ける作戦案への提案や修正案等を、検討しあい、どうやら納得が出来た物を策定し、其々の部隊に持ち帰り、部隊の陣形や配置を通達させた。

 

 この大会戦さえ、勝利すれば実際上クライナ公国からスラブ連邦軍をほぼ追い出せるので、オブザーバー参加のゼレンスク殿達元クライナ公国の国民は、帝国軍の者達に比べ倍する程の気合を発していた。

 

 



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8月の日記⑨(人類銀河帝国 コリント朝元年)《ガデッサの戦い》

 8月29日

 

 早朝の朝もやの中、先ずは至近距離といって良い、クリーミー半島に駐屯していた疑似兵士達兵力30万がガデッサの平原に現れた。

 そのまま、完全に布陣を整えている帝国軍目掛け突撃して来た。

 以前から思っていたことだが、スラブ連邦軍とは基本的な戦術等を一切取らない。

 まあ、まともな人間の集団では無いから、補給等は必要無いのかも知れないが、戦略と戦術を駆使しなければ、如何に大軍で強大でも我等帝国軍には勝てない。

 しかし、流石に多少は知恵が有ったらしく、帝国軍艦隊の射程距離外で疑似兵士達はピタリと動きを止め、またも疑似兵士の形であったMMが集合し始め、巨大な球体となりゆっくりと動き出したが、此方に向かって来ずに射程距離外で回転しながら横に動いている。

 

 《何がしたいのだ?》

 

 と帝国軍人の全てが、頭の上に?マークを浮かべていたが、やがて回転を止めた巨大な球体の中央に巨大な単眼が目を開いた!

 そしてその『大怪球』は、その巨大な単眼の視線を帝国軍中央に据えた。

 するとその単眼から、強力なビームが放出された。

 だが最初から、ある程度予想している我等帝国軍は、全軍を覆う様にバリアーを3重に掛けてあるので、問題無く1重目のバリアーで軽くその攻撃を弾いた。

 3回ビームが弾かれて、どうやら近づかなければビーム攻撃は効かないと判断したらしく、またもゆっくりと此方の布陣に近づいて来た。

 当然射程距離に入ってきた『大怪球』に、帝国軍艦隊の魔法砲撃が雨あられの様に降り注ぐが、まるでガスの様な身体構造らしく、あまり効果が無いようだ。

 直ぐに魔法砲撃の種類を、炎系から光系にして、再度、帝国軍艦隊の一斉射を始めると、此れは効果が有ったらしく、『大怪球』はまたも射程距離外に退き、しきりと牽制なのかビームを帝国軍の布陣場所にランダムでビーム攻撃を加えてくる。

 暫くの膠着状態が双方に訪れていると、やがて『緑海』をスラブ連邦本土側から、海上ルートでやって来た、インスマウス人が主力の兵力70万が、ガデッサの南部に侵攻して来た。

 直ちに後方にて待機していた、ワイバーン部隊を出撃させ、ビーム攻撃の届かない高空に待機させた。

 インスマウス人達は、『大怪球』に近づくとMM状態にまたも戻り、『大怪球』に統合されると、『大怪球』の表面に黒い靄が出て来て、更に黒い触手が生えている。

 何故かその変化した『大怪球』の姿に、不気味さを感じていると、ヘルメットに映る敵という表記に(バックベアード)という名前が追加された。

 

 《バックベアードか、中々強そうだな》

 

 ととやや悠長な感想を思いながら、高空にいるワイバーン部隊から、光系の魔法を充填させた、魔法爆雷をバックベアードに向けて降らせて行く。

 

 今回の戦闘は、極力ドラゴン部隊を使わずに、帝国軍の地上部隊での実戦訓練も兼ねている。

 でないと、今後複数の強敵が出て来た場合に、相応の対応力を身に付けさせなければならないからだ。

 

 どうやらバックベアードには、バリアー能力が無いらしくかなりのダメージを、、光系の魔法を充填させた魔法爆雷によって被っていた。

 

 そんな中、敵の最大戦力で有る、クライナ公国東部に駐屯していた、タンクと呼ばれる疑似魔獣や帝国軍艦隊にも似た、大型疑似魔獣を大量に抱えた、恐らくはスラブ連邦軍主力の兵力150万が、到着した。

 

 此れでクライナ公国に巣食っているスラブ連邦軍と云う害虫が、このガデッサに全て集結した事になる。

 絶対にこの害虫共は、このガデッサの地で害虫駆除してやる!

 

 陸上巡洋艦『ドレッドノート』『ジャンヌ・ダルク』に乗るセリーナ、シャロン両准将率いる、高機動軍と重機動軍が、スラブ連邦軍に対する遊撃戦を展開する為に、帝国軍の布陣から外縁を通る様に出撃した。

 それに続いて陸上フリゲート艦が、バリアーを展開して後方を付いて行く。

 

 その高機動軍と重機動軍を支援する為に、残った総旗艦『ビスマルク』と陸上重巡洋艦『バーミンガム』は、主砲での遠距離魔法攻撃を、バックベアードと新しくやって来たスラブ連邦軍主力に加えたので、敵も高機動軍と重機動軍に対して攻撃出来ずにいる。

 

 敵主力からも、帝国軍艦隊にも似た大型疑似魔獣が、意外なスピードで戦場に進み出た。

 するとその陸上戦艦にも似た身体から、かなりの大きさを持つ円筒形の突起物が生えている。

 

 《何だろう?》

 

 と考えて居る処に、突然轟音を響かせながら円筒形の突起物は、後ろから火を吹きながら高空に打ち上がり、山なりとなって残った総旗艦『ビスマルク』と陸上重巡洋艦『バーミンガム』を目指し、飛んでくる。

 やはり此れにも、直ちに名称が変更されて、『ミサイル』となっていた。

 

 その『ミサイル』は、大凡60本で帝国軍本営に向け、現在爆進中だ。

 

 「迎撃用パルス砲と陸上駆逐艦の主砲は『ミサイル』に対してマルチロックし、迎撃せよ!」

 

 とアラン様は指示され、その命令通りに『ミサイル』はものの見事に迎撃された。

 次のタイミングで一斉に、艦砲と魔法爆雷の複合攻撃がスラブ連邦軍主力全体に襲いかかり、黒煙で戦場が覆われて視界が遮られたが、そんな中高機動軍と重機動軍は敵に一気に突っ込み、戦闘バイクも降ろさずにタンクと呼ばれる疑似魔獣等に、艦隊の艦砲だけでドンドン殲滅して行く。

 粗方の敵を殲滅する事に成功したが、案の定疑似魔獣達は元のMMに戻り、バックベアードと合流すると、今回はどうやら強力なバリアーを得た様で、殆どの帝国軍の攻撃を跳ね返す。

 此処でアラン様は、

 

 「・・・此れより、『カイザー砲』でバックベアードを粉砕する!

 攻撃範囲から全ての部隊は、直ちに退去せよ!」

 

 と命令され、帝国軍は、総旗艦『ビスマルク』とバックベアードの向かい合う進路上から去り、周辺の敵の殲滅を徹底している。

 

 やがて龍脈からの十分なエネルギー充填を終えて、総旗艦『ビスマルク』の先端に有る、超巨大なアダマンタイト製のドリルから尋常でないサンダー系の魔法が、凄まじいレベルで練り上げられている。

 

 「全軍サングラス着用もしくは目を伏せよ!

 カウントダウン開始! 4・・・3・・・2・・・1・・・0、『カイザー砲』発射!!」

 

 この瞬間自分は例のヘルメットが、バイザーとレシーバーが自動で降りて、全く聞こえない中、映像は薄暗く見えていたが、その極太のビームがバリアーを展開していたバックベアードを、バリアーごと消し飛ばして行くのが、現実感の無い中見えていた。

 

 なんとも凄まじい威力だ、結局バックベアード含む敵の残りは、事実上『カイザー砲』一発で方が付いた。

 然も、見た限りでは敵のMMの残滓すら残っていない様だ。

 

 そしてこの時点で、クライナ公国に残っていたスラブ連邦軍は消滅した。

 



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9月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝元年)《同盟と協定》

 9月1日

 

 ガデッサの戦いの後始末を帝国軍全軍で行う、下手に奴等のMMが残ってると、どんな悪影響があるか判らないからだ。

 幸いにもMMは残って居らず、我等帝国軍は全軍クリーミー半島に向かった。

 この地は、早々にスラブ連邦軍が電撃的に占拠していた為に、殆ど戦闘の後が無く、綺麗な街の風景が在りし日のクライナ公国の素晴らしさを物語っていた。

 

 《この風景を他のクライナ公国の都市で見られる様になれば良いな》

 

 と思いながら、予定通りにクリーミー半島の『赤海』に面している軍港に、帝国軍全艦隊が着艇して、軍港に備蓄されていた物資等を確認すると、食糧類は残っていたが穀物類や乾物類以外は、全て全滅だった。

 まあ、物資類にはそもそも期待していなかったので、問題無いのだが、軍港が全然問題無く使えそうなのは、今後の事を考えると非常に有り難かった。

 

 そんな中、クリーミー半島の地方行政府で、帝国とクライナ公国臨時政府が、正式な代表による政府間交渉を行っている。

 クライナ公国での戦闘は一先ず終わったが、我等帝国軍はこれからいよいよスラブ連邦の本国に攻め込み、ラスプーチンの居座るスラブ連邦首都『エデン』まで向かう為に、今後後背となるクライナ公国との取り決めは非常に重要だ。

 

 かなり短い交渉で、帝国とクライナ公国臨時政府との協定と同盟が、両者代表たるアラン様とゼレンスク殿との間で結ばれた。

 

 1、今後帝国とクライナ公国は同盟し、お互いの相互協力を誓い、軍事的に苦しい場合は直ちに援軍を送る。

 

 2、貿易を積極的に行い、壊滅してしまったクライナ公国の復興を帝国は全力支援する。

 

 3、財政については、当面帝国側が補填する形で、3兆ポイントと5千億ギニーを100年間の借款として都合する。

 

 4、帝国はクライナ公国の領土復興の為に、優先して重機を無償で貸与する。

 

 5、1から4の協定を締結する見返りとして、ガデッサに存在するレアアース鉱床を、優先的に掘り出せる権益を今後百年間帝国に渡す。(但し出て来た鉱物等は帝国が適正値段で買い取る)

 

 などの協定と同盟が、西方教会圏全ての国に放送され、最期にその両者の合意書をアラン様とゼレンスク殿は、両手に掲げ、握手がしっかりと結ばれた。

 

 9月2日

 

 昨日の協定と同盟の元で、対スラブ連邦国土への戦いにのぞみ、兵站基地で有るクライナ公国西部の『リビン』から、補給物資が軍用トレーラーで続々と届き始めた。

 先のガデッサの戦いで、かなり補給品が消耗されていて、スラブ連邦の首都までの道程を考えると、ここからの兵站線は、しっかりと確保して置かないと、遠からず帝国軍は攻勢限界点を迎えてしまうのだ。

 次々と空軍旗艦『グラーフ・ツェッペリン』に運び入れられる物資は、或る意味、我等帝国軍の生命線そのものだ。

 

 9月3日

 

 補給物資の第二陣が届くと、それに便乗する形で兵站基地『リビン』に留まっていた、親衛隊長シュバルツ殿、ミツルギ殿を中心に、新たに親衛隊に加わった世界武道大会参加者20名と拳王ダルマそして剣王カイエンを含む特別陸戦隊千人がやって来た。

 あれからかなりのクライナ公国住民をマジノ線に送り、彼等避難民は各国で保護されている事も明かしてくれた。

 

 「しかし、見せて貰ったけど、凄まじすぎるな神鎧『ジークフリート』を纏ったアラン陛下は!」

 

 興奮した様子でミツルギ殿が自分に、感想を述べると、親衛隊連中も頷き、

 

 「我々も、同感です!

 正に神の代理人と云って過言では無い!

 そしてその神々しさは、現人神そのものでしたよ!」

 

 と言い合っている。

 

 《嗚呼、そうかコイツらはあの承認の儀式を、見てないからなあの神鎧『ジークフリート』の神々しさを》

 

 確かに海中神殿では、放送器具全般が使用出来なくなり、一切放送出来なくなったのだ。

 一頻りアラン様と、神鎧『ジークフリート』の素晴らしさを褒めそやし、特別陸戦隊の連中は空軍旗艦『グラーフ・ツェッペリン』に用意して置いた各部屋に入室して貰い、ひと通り落ち着いたら夜は内輪で程々の酒を酌み交わし、壮絶な首都キエフ軍港でのダゴンとハイドラ、そしてガデッサでのバックベアードと云う強敵との、戦いを語ってやると、案の定食いついてきて、更に細かく聞きたがって、判る範囲で答えてやるととても喜んでくれた。

 



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9月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝元年)《ルーシア王国到着》

 9月5日

 

 補給作業も完了し、帝国軍艦隊は『緑海』を渡りスラブ連邦本土に上陸した。

 昔、グルジア侯国という国が有ったらしいが、既に50年前に滅んでおり、今では既に廃墟と化している。

 

 《・・・・・予めドローンによる偵察情報で、大体の状況は判っていたが、たった50年で此処まで荒廃するのか・・・・・》

 

 クライナ公国での惨状を見ていただけに、大凡の想像をしていたが、此処までしてラスプーチンは何がしたいのだろうか?

 これから向かう、元ルーシア王国の国土、そしてスラブ連邦の首都『エデン』はどの様な状況なのだろう?

 

 やはり『共産主義』と云う物の正体を考えると、嫌な予想しか浮かばない。

 

 9月8日

 

 元ルーシア王国の国土に向かっている途中でチーチンと云う小国で、『地虫(アースワーム)』の集団が帝国軍艦隊に向かって襲い掛かって来た。

 かなり大きめの魔獣なのだが、帝国軍艦隊の艦船は全て地上から3メートル程の高さで浮いていて、『地虫(アースワーム)』が地中から飛び上がって襲い掛かって来ても、正直大して脅威にはならず。

 其々の艦船からの艦砲で全て、殲滅して行く。

 なんとコイツらは、MMで構成されていない純粋の魔獣で、死体からかなり大きい魔石を回収出来た。

 どうも、この辺りの場所では、最近まで人間が居た痕跡が有るので、恐らくスラブ連邦に占拠された後、その住民を虐殺し、その死体はそのまま野晒しにしていた為に『地虫(アースワーム)』が集まり、死体は食べられてしまったのだろう。

 

 9月10日(前編)

 

 時折、襲い掛かって来る『地虫(アースワーム)』を倒しながら、元ルーシア王国の国土に到達した。

 凡そ3年前まで戦っていた国だけに、場所によってはクライナ公国での生々しい惨状と同じ光景が有った。

 正直度重なる惨状に、帝国軍全体が気分を滅入らせていましたが、或る情報が有ったお陰で、一気に帝国軍全体のやる気は回復した。

 なんと、まだ生きている元ルーシア王国住民が結構な数で地下に潜伏していた事が判明したのだ!

 どうやら、かなりの深度の地下都市?にいる上に、相当な岩盤が天井になっていて、スラブ連邦の目を掻い潜る事が出来ていた様だ。

 帝国軍の最新式超高性能ドローンでも、総旗艦『ビスマルク』の超高性能探知魔法レーダーとの連携探査で、漸く見つけられたのだ。

 ただ問題は、出入り口等は判明して居るのだが、かなりの深度の地下都市?に居る元ルーシア王国住民との接触する術が無いという事だ。

 此れはやはり、探索及び交渉する人員を向かわせるしか無いという事になった。

 そして選ばれたのは、、親衛隊長シュバルツ殿・ミツルギ殿、拳王ダルマ殿、剣王カイエン、中央情報局のカトウ、そして自分合計6人で有る。

 自分が参加した理由は、アラン様を探査に向かわせる訳にはいかないし、ガイならばこの人数を乗せても問題無い、そして比較的地位の高い人物が行く事で、交渉の際に帝国は交渉を真剣に望んでいる事を示す為だ。

 そしてその出入り口も、かなり強度のある扉が備え付けている上に、付近には魔物の徘徊も確認されたので、ドラゴンが行く事で、する必要の無い戦闘を予め避ける必要があったからだ。

 夜にその出入り口の有る近くに静かにガイが滑空し、静かに降り立った。

 カトウが自身の武具の能力を使い、6人全員を透明化の魔法により、消えた様になった。

 同時にガイにも透明化の魔法を掛けて、全員で出入り口に向かった。

 かなり判り辛い様に、カモフラージュした扉が結構深い場所にあったので、ガイが入れる様なトンネルでは無いから、トンネル入口で警戒させつつ待機させた。

 地下30メートル程の場所にトンネルを進み、出入り口に到達した。

 すると、丁度ばったりと出て来る元ルーシア王国住民の偵察部隊と会えた。

 直ぐに透明化の魔法を解いて接触を図ったが、元ルーシア王国住民の偵察部隊は、相当驚愕したらしく、我等帝国軍に剣を向けてきた。

 

 「待ってくれ!

 我々に敵意は無い!ただ話し合いをしたい!」

 

 と見える形で、6人全員其々の武器を地面に置いて両手を上げた。

 元ルーシア王国住民の偵察部隊は、直ぐに自分達が我々に剣を向けてしまっているのに気づいて、苦笑しながら剣を降ろし、

 

 「失礼致しました!

 武器は持ったままで構いません。

 こんなに普通の対応をスラブ連邦の兵士はしませんしから、貴方方がスラブ連邦の関係者で無い事は判っています。

 ただ確認させて下さい、貴方方は我々を救援に来てくださった、外国の方でしょうか?」

 

 と尋ねて来たので、自分が、

 

 「その通りです。

 我々人類銀河帝国は、貴方方ルーシア王国の王女から、ルーシア王国住民を救援する依頼を受けて、此処に来て居ます!」

 

 と答えると、

 

 「本当ですか!『アナスタシア姫』様が無事で居られるのですね!」

 

 と聞いてきたので、

 

 「本当ですよ、今現在我々人類銀河帝国で保護してますので、ルーシア王国が復興次第、貴方方の指導者として返り咲いてくれる事になっています」

 

 と答えると、あまり騒ぐと不味いのが判っているので声を上げずに、身体をブルブルと震わせながら、涙を流している。

 余程、嬉しいのだろうな、気持ちは良く判るのでとても共感した。

 



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9月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝元年)《ルーシア大空洞》

 9月10日(後編)

 

 親衛隊長シュバルツ殿・ミツルギ殿、拳王ダルマ殿、剣王カイエン、中央情報局のカトウ、そして自分合計6人は、元ルーシア王国住民の偵察部隊の案内のもと、地下都市?に招き入れられた。

 其処はかなりの広さを持つ空間で、処々に魔石を使った灯りが有るので、地下で有るにも関わらず相当明るい。

 そして我等6人は、地下都市?の中心部にあるルーシア正教の教会に通された。

 結構な人数(60人程)が中に居て、その中心に50才くらいの女性がいた。

 女性は予め、偵察部隊の報告を受けていたらしく、我等に尋ねて来た。

 

 「初めまして、私はこの『ルーシア大空洞』で代表をしている『マリア』と申します。

 貴方方の事は、偵察部隊の報告によって知りました、その中で幾つかの疑問点がありますので確認させて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」

 

 と言われたので、

 

 「どうぞ、お気の済むまでお尋ね下さい、我々としても出来る限りの疑問にお答えしたいと思います」

 

 と自分は代表として応えたので、

 

 「ありがとうございます、それではお言葉に甘えて。

 貴方方は所属を、『人類銀河帝国』と言われましたが、寡聞にも『帝国』と云う名の付く国家は、ザイリンク帝国しか覚えが有りません。

 何時の間に国体として王国よりも上で有るはずの、『帝国』を名乗れる国家が出来上がり、然もかなり距離の有るルーシア王国までどうして来れたのか?

 そして、ここまで来れたという事は、スラブ連邦軍の目を盗んで来れたんですね、その方法は?

 更にルーシア王国の王女『アナスタシア姫』様が生きて居られ、貴方方『人類銀河帝国』に依頼し、ルーシア王国復活を委ねたとの事、其れはつまりあの強大極まりないスラブ連邦軍と戦い、それを退けるという事だと考えます、とても信じられないので、どうかその根拠をお示し下さい!

 そうで無ければ、とても貴方方に全てを委ねた脱出作戦に、私『マリア』が預かる3千人を任せるわけには参りません!」

 

 と『マリア』殿が、正論を告げて来たので、その懸念を晴らすべく、簡易立体プロジェクターを懐から取り出し、魔道具を起動させる事の許可を取り、ある程度の簡略化した『人類銀河帝国』の成立と、マジノ線防衛戦とガデッサの戦い等を動画で見せて上げると、『マリア』達は心底驚嘆した様子で空中に浮かぶ動画を穴の開くまで見続けていたが、やがて嘆息の息を吐き、

 

 「・・・ありがとうございました、ですが正直、先程見せて頂いた魔道具の内容は、あまりにも信じ難いものなので、少し考えさせて下さい」

 

 と返事された。

 

 「どうぞ好きなだけ考えて下さい、但し躊躇すればする程やって来るスラブ連邦軍の妨害は増えると思うので、なるべく早く決断して欲しい」

 

 と伝えて『マリア』殿は頷かれた。

 そして周囲にいる警備の方にこの『ルーシア大空洞』の案内と、状況を教えて欲しいと願った。

 

 「取り敢えず、この『ルーシア大空洞』の略図を御覧ください、この様にかなりの広さと・・・・」

 

 と喋っている途中に、

 

 「ゴオオンンーーーーー!!」

 

 と音がして、

 

 「チイッ、またか!」

 

 と警備員が叫び、近くにあった槍を持って教会から飛び出して行くのに、我々6人も一緒に向かう、何だか深刻そうな雰囲気と、我々ならば事態を納めれるという、奇妙な予感があったからだ。

 

 音のした現場に行ってみると、何と其処には例の『地虫(アースワーム)』が3匹暴れ回っていた!

 既に、この『ルーシア大空洞』の自警団100人程が、遠巻きに槍と剣を構え、魔法使い(10人)が後方から攻撃魔法を撃っている。

 だが実際の処かなり攻撃を『地虫(アースワーム)』に叩き込もうと、殆ど効いていない様だ。

 後で聞いたら、今までも度々来襲されていた様だが、精々追い返す事しか出来ずに被害もダルマ式に増えて行っていたそうだ。

 何時もは、1匹だけだから追い返せていたそだが、3匹同時な現在は大変なピンチな様だ。

 自分は他の5人に目配せして、遠巻きに槍や剣を構えている自警団100人の前に進み、『地虫(アースワーム)』の前に立った。

 『地虫(アースワーム)』3匹は狙いを我々6人に定め、襲い掛かって来た!

 

 シュバルツ殿は、自慢の双刀『右月・左月』を腰から抜き放ち、自身の魔力を高めると、

 

 「神剣流奥義《二連朱雀》!」

 

 と叫び炎を纏わせた右月・左月で十字に『地虫(アースワーム)』の一匹を切り裂き燃やす。

 続けてミツルギ殿が、ガントレットで有る『豪雷』を両手に装着し自身の魔力を高めると、

 

 「神拳流奥義《火産霊》!」

 

 と叫び炎を纏わせた拳の連打を浴びせ『地虫(アースワーム)』の一匹を殴打し燃やす。

 

 最後の『地虫(アースワーム)』は、他の4人が奥義を使用する必要も無く、連打と連撃で難無くボコボコにし、倒した。

 

 呆然とした面持ちで佇んでいる自警団100人が見てる中、『地虫(アースワーム)』の魔石を取ろうとしながら、

 

 「しかし、やはり兄弟子達の武具は羨ましいばかりだな、この戦争が終わったら名鍛冶師のガトル殿にお頼み、必ず某の専用武具を作って頂くぞ!」

 

 「全くだ、でないとこれ以上実力差を広げる訳には行かないぜ!」

 

 と拳王ダルマ殿と剣王カイエンが、兄弟子達の武具を悔しそうに見て、言葉を吐いている。

 

 《親父この戦争が終わったら大変そうだな》

 

 と、休めない状態の親父を気の毒に思った。

 



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9月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝元年)《避難民回収》

 9月11日

 

 昨日の『地虫(アースワーム)』との我々の戦いを見た自警団の連中の証言と、実際に死んでいる『地虫(アースワーム)』を確認し、『マリア』殿は、

 

 「・・・すみませんでした、どうしてもスラブ連邦軍の強さを身に沁みて知っていたので、信じられ無かった面があり・・・。

 しかし、今は決心しました。

 どうか助けて下さい!そして『アナスタシア姫』様に会わせてくれないでしょうか?」

 

 と頼まれたので、

 

 「勿論です!

 『アナスタシア姫』様は、我々人類銀河帝国の首都で保護していますし、貴方方の事は昨日の時点で連絡しております。

 『アナスタシア姫』様は、貴方方の一刻も早いルーシア王国からの脱出を望んでいます、その為に帝国は全力で対処しますのでご安心下さい」

 

 と返答すると、かなりホッとした様子でいたが、マリア殿は座っていた椅子から立ち上がろうとしたが、そのままヘナヘナと地面に腰を落としてしまったので、驚いてしまったが隣に座られていた警備員の女性に肩を支えられて立ち上がると、

 

 「・・・すいません情けない姿を見せて、実は必死に頑張っていましたが、漸く肩の荷が下りると思ったら、一気に力が抜けてしまいまして・・・」

 

 と話てくれた。

 マリア殿が退出した後、先程マリア殿に肩を貸しておられた警備員の女性が教えてくれた。

 

 元々、このルーシア大空洞の避難民を統率していたのは、マリア殿の旦那さんで彼女はその補助をしていたそうだ、だが今から1年程前に旦那さんは、スラブ連邦軍の探索部隊がこのルーシア大空洞が探査されそうになった際に、わざとここから離れた場所で陽動する事により、ルーシア大空洞への探査は誤魔化す事が出来たそうだが、旦那さんはスラブ連邦軍の探索部隊に捕らわれてしまい、旦那さんの代理として今日まで気を張って頑張っていたそうだ。

 

 《成る程、どうして普通な主婦の様な女性が、代表なのか意味が判らなかったが合点がいった》

 

 と納得行った。

 

 9月12日

 

 昨日にアラン様に報告をして、状況を確認すると、とんでも無い事態を教えられた。

 なんと、『地虫(アースワーム)』の大群がこのルーシア大空洞目指してやって来ているのが、高性能ドローンのスペクトル分析と音響分析により判明したそうだ。

 他にも、スラブ連邦にも大きな動きが有り、何でもスラブ連邦を構成する各国から、巨大な存在がスラブ連邦の首都『エデン』と思われる場所に向けて動き出しているそうだ。

 然もそいつ等の大きさは、以前対戦した『テュポン』『ダゴン』に匹敵し、その数は17体に上るそうだ。

 つまり、スラブ連邦の首都『エデン』の攻防戦は、恐らく『テュポン』『ダゴン』級の強敵17体との対戦になる訳だ。

 正直この数は、以前帝国軍が想定していた敵戦力の最大数になってしまった。

 この数を倒すには、派遣している帝国軍の総力でやっと倒せるか?と云う程の戦力だ。

 だが、今はこのルーシア大空洞からの3千人以上の避難民を脱出させる事に専念しなければならない。

 

 どうしてもこのルーシア大空洞の有る、ルーシア王国首都『サンクトペテルブルク』には、起伏の関係で付近にしか近づけない帝国軍艦隊は、ギリギリまでの処で停泊し、脱出応援部隊のワイバーン部隊を派遣してくれた。

 粛々と、ルーシア大空洞から避難民達が出入口を出て、空中や地上に展開し『地虫(アースワーム)』とスラブ連邦軍に警戒しているワイバーン部隊に、度肝を抜かれながら次々と軍用トレーラーに乗せられ、ピストン輸送で帝国軍艦隊に回収されていったが、後もう少しで回収作業が終わるといった段階で、とうとう『地虫(アースワーム)』の大群がやって来てしまった。

 だが其れは些か遅かった。

 なんといっても既に、自分が鍛え上げた空軍のワイバーン全部隊が全力展開しているのだ。

 たかが大型魔獣に過ぎない『地虫(アースワーム)』如きでは、敵たり得ない。

 案の定、『地虫(アースワーム)』達は、喜び勇んでルーシア大空洞に突入したが、目的だった人間が一人も残っていなくて、その残滓を辿り地表に踊り出たは良いものの、地表に出た瞬間にワイバーン全部隊の攻撃を喰らう羽目になった。

 如何に地中を自由自在に突き進む『地虫(アースワーム)』と云えど、厚い岩盤層を突き進む事が出来ず、進みやすい箇所(出入口や、エアダクト等)を通ってきてくれるに違い無いと考えられたから、予めその場所にベック・トール・キリコ達の隊長達を割り当てて、効率良くワイバーンと乗り手による、ブレスと魔法による攻撃をさせた。

 その甲斐あって、無事に帝国軍艦隊に避難民達は回収され、殆どの『地虫(アースワーム)』はワイバーン部隊の攻撃によって殲滅され、尽く『地虫(アースワーム)』の魔石は回収された。

 

 避難民達は、セリーナ、シャロン両准将の陸上巡洋艦『ドレッドノート』『ジャンヌ・ダルク』と陸上フリゲート艦6隻に分乗させ、今までの航路を逆進して兵站基地たる『リビン』まで送り届けて貰う。

 そして其れ以外の帝国軍艦隊は、一路スラブ連邦の首都『エデン』に向かい、進軍する。

 恐らく避難民達を送り届け次第、此方に帰ってくるセリーナ、シャロン両准将達の艦隊は、首都『エデン』前辺りで合流出来るだろう。

 いよいよ敵の首魁『ラスプーチン』の居る、スラブ連邦の首都『エデン』へ狙いを定め、我等帝国軍艦隊は、スラブ連邦の荒野を進軍して行く。

 



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9月の日記⑤(人類銀河帝国 コリント朝元年)《超高性能ドローンとミーシャとの会話》

 9月13日

 

 アラン様から最近大活躍の超高性能ドローンの説明が全帝国軍に説明された。

 

 偵察用ドローン DR-3020 82機 全長15m、全幅10m、全高4m 姿は尊敬を込めて使徒『イザーク』様に似せた。

 個別名は、ボットと同じく、D1~D82 今後増える予定。

 基本は魔法力では無く、水素ラムジェットエンジンもしくはプロペラにより飛行する。

 ジェットノズルは可動式の垂直離着陸機。太陽光により充電、水素は大気中から補給可能。

 緊急時には人を数人なら乗せることが可能。

 光学迷彩(隠蔽機能)、フレキシブルアーム(自在腕)等を装備

 ほぼ半永久的に、独立起動(スタンドアローン)が出来て、航続距離も大陸を越えてこの星全てをフォロー。

 探査・探知魔法は、現在最強スペック。

 量産方ドローンを支配下に置き、最大10機をオートで動かせる。

 基本兵装は、レーザービーム(ライトアロー)の超強力板で、軽く素の儘のドラゴンを複数同時に倒せる。

 オプションとして、各種魔法を搭載したランチャーとして使用出来る。

 今後は帝国軍全てをフォローさせる為に、超高空から支援攻撃とバリアー等を兵士1人1人に設定している。

 他様々な機能を今後は搭載する予定。

 

 といった内容を紙の資料とデジタルデータそしてモニターで説明して貰った。

 自分含め帝国軍上層部は正直なところ、驚愕してしまい開いた口が塞がらない。

 

 《つまりこのドローン1機だけで、一つの大国すら滅ぼす事が可能ではないか!》

 

 更にアラン様からは、一番連携しなければならない空軍の長である自分は、よくこのドローンの概要を把握して、スラブ連邦首都『エデン』決戦までに、連携案を提出する事を求められた。

 そうなのだ、後20日程で、スラブ連邦首都『エデン』に到達し、そして其処で我等帝国軍は、今までと比べ物にならない、激戦を行うことになるだろう。

 ならば新しい戦力となる、このドローンとの連携は戦況を左右しかねないから、出来る限りの努力は当然するべきなのだ。

 

 9月20日

 

 超高性能ドローンの説明を受けて、あれから1周間の間我等空軍は、預けられたドローン10機と一緒に、徹底的に連携した訓練を行っている。

 どうやら、訓練している内に大体の戦力状況が把握できてきた。

 殆どの能力はガイ達ドラゴンより、超高性能ドローンの方が圧倒的に上だが、幾つかの能力(攻撃力と防御力等)は何とか匹敵出来る事が判った。

 その事を基礎としての命令順序の策定、フォーメーションの構築、新しい軍団魔法の開発等を帝国軍上層部で、試行錯誤して行く。

 その中で、取り敢えずアトラス殿とグローリア殿のフォーメーションが決まった。

 正直この2頭とアラン様が、帝国軍としての戦力としての対スラブ連邦軍主力になるのは規定路線だから、他の戦力は全てこの2頭への支援と牽制の為の陽動を務める事になる。

 なので、2頭には其々2機ずつの超高性能ドローンが付き、情報収集と防御を専任して貰う事になっている。

 そして其れを支援する我等他のドラゴン部隊は、5頭ずつに1機の超高性能ドローンが付き、同じく情報収集と防御を専任して貰う事になった。

 そのフォーメーションで、仮想強敵での訓練を今後続けて行く。

 

 9月26日

 

 諸々の障害えお乗り越えて、侵攻して行く帝国軍艦隊に漸くセリーナ、シャロン両准将の陸上巡洋艦『ドレッドノート』『ジャンヌ・ダルク』と陸上フリゲート艦6隻が合流した。

 かなり急いで戻って来られたので、スラブ連邦首都『エデン』に到着するまでまだかなり手前である。

 ただ、かなりの数の補給品を積載して来てくれたので、大分消耗した帝国軍艦隊は物資の補填が出来た。

 そしてセリーナ、シャロン両准将を加えた、合同会議が夜に開催された。

 

 「其れでは、恐らく10月1日に始まるであろう、スラブ連邦首都『エデン』での攻防戦についての作戦会議を始める。

 現段階では、かなりの部分流動的で、ハッキリと断定出来る資料は少ない。

 だから、確定している情報だけ話そう。

 既に以前話していた通りに、システム『エキドナ』の使用端末は各国から引き上げて、スラブ連邦首都『エデン』の外縁に集結して、システム『エキドナ』と連携した蠢動を繰り返している。

 その数は17体、1体ずつが『テュポン』『ダゴン』級の強敵に何時でもなれるという事だ。

 更に、超高性能ドローンの探査によって、スラブ連邦の各地域に点在していたMMで構成された、疑似魔獣と疑似兵士は、全てスラブ連邦首都『エデン』に集結している事も確認出来た。

 つまり敵であるスラブ連邦は、持てる全ての戦力をスラブ連邦首都『エデン』に集中し、乾坤一擲の勝負を我等帝国軍との戦いの為に挑むつもりの様だ。

 この事を念頭に於いて、しっかりと討論してくれ!」

 

 とアラン様は宣言され、この後4時間程のディスカッションを終え、ある程度の基本方針と戦術を確認し、第一回の作戦会議は終わった。

 この後、セリーナ、シャロン両准将から呼び止められ、アラン様と自分そしてシュバルツ殿とミツルギ殿が会議室に残された。

 何となく残された面子の共通点を察していたら、シャロン准将が、

 

 「流石にこの面子を残したから判っているでしょうが、貴方達最近は訓練にかまけて自分の伴侶に連絡をして無いでしょうが!

 確かに忙しいでしょうし、決戦が近いから敢えて連絡を断っているのも判るけど、貴方達の奥さんも一ヶ月半後の出産を控えて不安なの、ちゃんと其々自分の奥さんに連絡入れなさい!」

 

 とセリーナ、シャロン両准将に睨まれたので、一言も返せずに頭を下げて謝り、全員其々の私室に帰り、奥さんに連絡を取る。

 自分は、ミーシャにモニター越しにかれこれ1ヶ月ぶりの報告をしたら、以前より大きくなったお腹を擦り、自分の健康面とミーシャ自身の状況を掻い摘んで教えてくれた。

 自分はと云うと、預かっているドラゴンのサバンナの様子と訓練の内容等を報告したが、自分自身自覚していたが、なんとも味気無い報告で、まるで型通りの報告書の様だ。

 途中で詰まってしまい、ミーシャの顔をひたすら見ていたが、やがて自然に感情が溢れて台詞が出た。

 

 「・・・ミーシャ・・・俺はこの決戦を必ず生き抜き、君の元に帰り、君と自分の子どもに会う!

 絶対に・・・絶対に・・・どんな事があろうと必ずだ・・・!」

 

 と気合を入れながら言うと、

 

 「うん、きっとだよ!待ってるから・・・!」

 

 と無理に明るい調子でモニターを切ったが、目に涙を浮かべていたので、ミーシャの心情は、いやが上にも把握できた。

 必ず、自分はミーシャと自分の子どもの元に帰ってみせると、覚悟が決まった。

 



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10月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝元年)《決戦!スラブ連邦首都『エデン』攻防戦①》

 10月1日①

 

 払暁の朝靄の中、スラブ連邦首都『エデン』へ至る最後の難所である山脈を越え、平原に出た。

 そしてスラブ連邦首都『エデン』を帝国軍全軍が確認する。

 この時帝国軍全艦隊は、完全隠匿と完全遮音を同時に魔法展開しており、スラブ連邦軍は気づいていない様で、此方に対しての対応が一切行われていない。

 スラブ連邦首都『エデン』の上空には、事前に確認していた通り何やら巨大な黒い穴が空間に開いていた。

 やはり事前にドローンで観測していた通り、次元の穴を開けようとしているのだ!

 

 「帝国軍全艦隊、アンカー射出!

 艦挺の固定を行い、全魔法力を所定の空間座標に向けて集束させよ!」

 

 とアラン様の命令が飛び、所定の空間座標に向けて其々の艦艇の主砲から、全魔法力を放出させ始めた。

 その次の瞬間に、完全隠匿と完全遮音魔法は同時に切れたので、姿が露わになった為に相当な遠距離であったが、スラブ連邦軍が気づき疑似魔獣が押し寄せてきた。

 だが疑似魔獣が我々との距離を詰める前に、準備は整っていく。

 

 「『カイザー砲』エネルギー充填90パーセント、セーフティーロック解除、圧力、発射点へ上昇中。

 エネルギー充填100パーセント、敵目標へ軸線合わせ、ターゲットスコープオープン、電影クロスゲージ明度20。

 最終安全ロック解除、エネルギー充填120パーセント、対ショック、対閃光防御。

 『カイザー砲オーバーブラスト』発射!」

 

 次の瞬間、十分なエネルギー充填を終えて、総旗艦『ビスマルク』の先端に有る、超巨大なアダマンタイト製のドリルから凄まじいエネルギーが、所定の空間座標に溜まっていた魔力溜りに発射された!

 

 「ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!」

 

 発射された凄まじいエネルギーは、魔力溜りに突っ込むと、その威力を格段に増し、今にも開こうとしていた次元の穴に向かって行く!

 

 「キシューーーーーーーーン!」

 

 と空間が爆砕されて、次元の穴が閉じて行くと共に、その余剰エネルギーがスラブ連邦首都『エデン』の地表部分を激震させ、崩壊させて行く。

 その余剰エネルギー波は、我等帝国軍目掛けやって来ていた疑似魔獣共を、尽く薙ぎ払い一瞬の内に元のMMとなり、塵と化した。

 

 そのまま余剰エネルギー波は、帝国軍全艦隊に襲いかかったが、各艦艇の全力のバリアーの展開で防御しきる事が出来た。

 

 暫くの間、大量の魔石を消費しエネルギー補填を行い、ドローンによる偵察で、その後のスラブ連邦首都『エデン』の様子を観測していたら、例のシステム『エキドナ』の使用端末と思われる17の巨大なMMの塊が蠢動している事が観測された。

 

 やがて、17の巨大なMMの塊は一つの塊に集束され、一つの巨大な砲門を持つ塊と化した。

 あらゆる、攻撃に対処するフォーメーションを組みながらゆっくりと、スラブ連邦首都『エデン』の跡地に向かい帝国軍全艦隊が進み始めると、その巨大な砲門を我等に向けて照準に捉えた様だ。

 

 「ドン!」

 

 と思ったより大人しい音で砲弾が飛んで来たが、陸上重巡洋艦『バーミンガム』の4連装主砲が、迎撃すると。

 

 「キュン!」

 

 と何やら大きな物が小さく集束する様な音が響くと、敵との中間地点辺りで大爆発を起こし、キノコ雲が立ち昇り、爆発地点では巨大なクレーターが出来上がっている。

 

 《なんて威力だ!》

 

 戦慄を伴った震えを身体に感じたが、続けざまにその巨大な砲門から砲弾が放たれ、当然それに対して迎撃を重ねると、キノコ雲が連続で立ち昇る。

 

 一頻りの撃ち合いが終わると、敵はまたも身体を蠢動させ以前ガデッサで戦った、『バックベアード』を何十倍にしたくらいに巨大化し、その100以上の黒い触手から光線を浴びせてくる。

 帝国軍艦隊も艦砲で対抗していたが、中々『バックベアード』の方も強力なバリアーで対抗して来るので、決定だが出せないでいたので、いよいよ此方の切り札の一つを切る事になった。

 

 「此れより『アトラス』『グローリア』を新武装である、『光翼竜(ケツアルコアトル)モード』で出撃させる、全軍支援攻撃に移行せよ!」

 

 とアラン様が命令され、

 

 「「「了解!」」」

 

 と返事し、引き続き艦砲による牽制攻撃を行い、空軍旗艦『グラーフ・ツェッペリン』にてアトラス殿とグローリア殿の新武装である、『光翼竜(ケツアルコアトル)モード』への出撃準備に入る。

 

 予め新武装への武器換装はしていたので、空軍旗艦『グラーフ・ツェッペリン』の左右に有る巨大飛行甲板から、其々がせり上がる。

 

 『光翼竜(ケツアルコアトル)モード』・・・・・標準モードである『機竜(ドラグーン)モード』の上位モードで両翼に100枚の羽根を装着していて、基本はその羽根の推進力補助機能で、『機竜(ドラグーン)モード』の1.5倍にまで速度が増すが、戦闘の場合は羽根を切り離して展開し、攻防一体の武装となる。

 

 アトラス殿とグローリア殿は、戦場が戦塵により暗くなっているなか、オリハルコンで出来た100枚の羽根を装着して、その光り輝く姿を露わにした。

 

 「・・・・・アトラス、『光翼竜(ケツアルコアトル)モード』、出る!」

 

 「グローリア、『光翼竜(ケツアルコアトル)モード』、行きまーーす!」

 

 と双方はその翼を光り輝かせ、戦場に躍り出た。

 

 いよいよ、スラブ連邦首都『エデン』攻防戦は、第二幕に突入したのだった。

 



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10月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝元年)《決戦!スラブ連邦首都『エデン』攻防戦②》

 10月1日②

 

 アトラス殿とグローリア殿は、その輝かしい姿で仮称『超大型バックベアード』に正対すると、

 

 「『光翼竜(ケツアルコアトル)モード』、『リフレクション・ウイング』展開!」

 

 とアトラス殿が言い、100枚の羽根の内半分の50枚を身体の周りに展開し、同様にグローリア殿もそれに倣った。

 すると、『超大型バックベアード』はその100以上の黒い触手から光線を浴びせて来た。

 だが、その100以上の光線の殆どを、合計100枚の羽根は正確に弾き返し、黒い触手の先端は簡単に千切れ飛んだ。だが5秒程すると直ぐに黒い触手の先端は復活し、光線を吐き出す。

 そんな事を繰り返して、業を煮やしたのか、『超大型バックベアード』は全ての黒い触手の先端を集束させ、極太の光線をアトラス殿とグローリア殿に向けて放った!

 処が其れは、アトラス殿とグローリア殿にとって待っていた行動だったので、『リフレクション・ウイング』を漏斗状にしてその光線を2頭で吸収し、背中に装備しているバックパックに収納していた、2連装の砲塔から凝縮した光線のエネルギーを使用した、『プロミネンス・フレアー』を『超大型バックベアード』に向けて、アトラス殿は縦に薙ぎ、グローリア殿は横に薙ぐ形で切り裂いた!

 

 「ズドドドドーーーーーーン!」

 

 と云う轟音と共に『超大型バックベアード』は十字に切り裂かれ、大爆発を起こして4分割されてしまった。

 そして暫くブルブルと蠢動していたが、やがて無数の疑似魔獣や『テュポン』や『ハイドラ』等の巨大魔獣に分かれて、帝国軍全艦隊に襲い掛かって来た!

 

 当然此れに対し、帝国軍全艦隊は斉射3連で相手の進軍速度を殺し、空軍・高機動軍・重機動軍は、旗下のドラゴン部隊、ワイバーン部隊、戦闘バイク部隊、戦闘車両部隊を出撃させて、全戦力での総攻撃を開始した。

 

 主に艦隊は、『ヴァルキリー・ジャベリン』弾で、バリアー解除と敵を構成しているMMを破壊して行き、各部隊への支援攻撃を行う。

 アトラス殿とグローリア殿は、主に『テュポン』達を相手にし、『リフレクション・ウイング』で『テュポン』の光線攻撃を跳ね返し、それ程苦労しない様子で一体一体倒していく。

 ドラゴン部隊とワイバーン部隊は、『ハイドラ』達に先日から訓練していた超高性能ドローンとのフォーメーションの元、防御は超高性能ドローンに委ね軍団魔法を中心に、全力攻撃をして行く。

 戦闘バイク部隊と戦闘車両部隊は、セリーナ、シャロン両准将とカイン少佐が其々の愛機、『ディアブロ』号『ジャッジメント』号『ドリルバイク』に乗り、各々の軍団ごとに軍団魔法を展開し、ヒュドラやヒュドラもどきそして『地虫(アースワーム)』等の大型魔獣に突っ込んでいく。

 各部隊と軍団に、量産型ドローンは、情報提供と支援攻撃更に魔法力補填をして、支援する。

 

 4時間あまりの激戦を繰り返し、最後の『テュポン』を全軍の集中攻撃で葬り、MMも全て塵と化させた。

 漸く終わったかと、帝国軍全体が一息付いていると。

 地面が小刻みに揺れ始めた。

 何事か?と思っていると更に揺れは大きくなり、もしかして巨大地震なのかと疑っていると、スラブ連邦首都『エデン』の跡地に、巨大な穴が穿たれて行く。

 巨大な穴はやがて直径10キロメートルに及ぶクレーターと化し、揺れが小さくなると共に、そのクレーターの中から地響きを伴い、信じ難い程の大きさを持ったドーム型の物体がせり上がってきた。

 そのドーム型の物体は、大きすぎる所為か、どうやら先端部分を地表に出している状態だ。

 やがて揺れが収まり、ドーム型の物体もそれ以上地表に上がって来なくなると、その半球型の表面に無数の眼球が現れた。

 

 「・・・・・『システム・エキドナ』・・・・・!」

 

 そのアラン様の呟きを、ヘルメットのレシーバーが拾ってくれた。

 

 《こ、これが『システム・エキドナ』か?!》

 

 以前、賢聖『モーガン』殿が説明してくれた、此のセリース大陸に於ける龍脈(レイ・ライン)の膨大なエネルギーを利用して、無限に増殖するMM(マイクロ・マシーン)の能力を使い不毛の大地の土壌を実り豊かな物に改善する、本来人類の為に古の神々が残せし大いなる遺産なのだが、『ラスプーチン』が或るアーティファクトを悪用する事によって、人類の存在を脅かすとんでも無い存在に成り果ててしまっている。

 と超高性能ドローンが、『システム・エキドナ』を探査した資料を帝国軍全体に開示してくれたのだが、その中に違和感を感じる部分が有った。

 その違和感の元凶たる、『システム・エキドナ』の頭頂部に視線を移すと、何やら異質な光りを放つ円筒形の物体が見えて来た。

 

 《何だ?》

 

 と気になってその円筒形の物体をズームで観察すると、まるで息づくように光りを一定間隔で明滅している。

 暫く観察していると、円筒形の物体の一部に奇妙な突起物が見えた。

 更にズームすると、其れはどうやら人の上半身らしかった。

 その人間と覚しき物体をよく見ると、どうやらルーシア正教の司祭と思われる祭服を着ており、頭にも司祭帽を被っている。

 だが決定的に違う部分が見えた。

 そう服装の所為で人間に見えていたが、その顔と手は人間のそれとは全然違い、其れは『虫』それも蟻や蟷螂のそれと良く似ていた。

 

 「・・・・・バグス・・・・・!」

 

 アラン様の無限の憎しみを込めた言葉に戦慄しながら、我等はその無理矢理人間の真似をした悍ましき『虫』を嫌悪感も露わに見つめた。

 



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10月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝元年)《決戦!スラブ連邦首都『エデン』攻防戦③》

 10月1日③

 

 以前説明された、賢聖『モーガン』殿の言葉が思い起こされる。

 

 「凡そ150年前、都市国家の中でも最底辺と云って良い『スラブ国』という国の端の辺りに、全長2キロメートルに及ぶ金属で覆われた落下物が有ったの、当初は隕石と思われたけど隕石にしては周りに殆ど被害が無くて、明らかに落下する際速度を落としている事が推測されたわ。

 

 暫くの間スラブ国の住民は、その金属で覆われた落下物を警戒して、近づかなかったんだけどある日一人の農奴が、主人の制止を振り切ってそれに近付き、開いていた穴に入り込んだの。

 

 農奴が穴に入ると、金属で覆われた落下物は奇怪な光りを発して穴を塞ぎ、不気味な音を立て始めたそうよ。

 

 三日三晩、奇怪な光りと不気味な音を立てていた落下物は、突然反応しなくなり、穴が再び開いて例の農奴が穴から這い出て来たそうよ。

 

 農奴の主人は、勝手に行動した彼を鞭で打ち据えようと鞭を振り上げたら、途端に農奴の目が怪しく光りだしてその目を見た主人は鞭を手放し、近くの煙突をよじ登り身を投げたの。

 

 その投身自殺した主人を例の落下物の穴に農奴は放り込んだ、暫くしてその主人は死んだ筈なのに生き返って穴から出て来たんだけど、その頭には奇妙な金属の突起が生えていて、何故か農奴に対して頭を下げて隷従する様になり、農奴はその主人の持つ農場の支配者になったわ。

 

 だけど元の主人の上司に当たる貴族にその農場は攻められて、農場は燃え落ち農奴は行方不明になったの。

 

 暫く時が経ち、スラブ国の首都にあったルーシア正教本部に『ラスプーチン』と云う僧侶が、台頭しはじめたの、その僧侶は怪しい能力を使って人々を惑わし、瞬く間にスラブ国のルーシア正教を乗っ取ったわ。

 

 そのままスラブ国の首脳部も怪しい能力で籠絡して、周辺の小国を次々と同じ様に陥落していったの」

 

 そうこの時までは、『ラスプーチン』は異常性は有るが、確かに人間だったのだ、だが今円筒形の物体と融合している存在は紛れもなく、虫の特徴を備えていて、とても我々と同じ人類に見えない。

 恐らく話の中で有った、金属で覆われた落下物に接触した際に乗っ取られたか、今現在の様に円筒形の物体と融合して、変化したのだろう。

 そしてアラン様の言われていた発言も思い出された。

 

 「『深きものどもの統率者』にして異次元の存在」

 

 「此れより、対異次元存在への攻撃手段で有る『ジークフリート』で出撃する!」

 

 「『異空間からの侵略者』!」

 

 「この戦争は従来の戦争とは全く違い、我等この世界の住人と異界からの侵略者との、生存を賭けた決して負けられない戦いで有ると!」

 

 「『古きものども』との戦い」

 

 つまりあの『ラスプーチン』という名の『バグス』とは、この世界の存在では無く、異次元或いは異界からの侵略者達の尖兵で有り、首都キエフ軍港でのダゴンが異界から召喚された事実、そして朝に次元の穴を開けようと現象から考えて、恐らくダゴンの様な怪物か、自らと同じ『バグス』をこの世界に招き入れようと行動していたのだろう。

 それを完全に邪魔した我等帝国軍に対し、最後の砦といって良い『システム・エキドナ』本体を出してきたのは、既に他の手段が尽きたに違いない。

 だがそれ故にこそ、死物狂いの攻撃に来るのは容易に想像出来た。

 

 「・・・どうやら最後の戦いの様だ!

 俺も『ジークフリート』で出撃する!

 皆は、支援攻撃を頼むが、あくまでも艦艇から頼む!

 恐らく戦場は重力異常や空間歪曲等の尋常で無い、状況になるだろうから、戦場で直接に戦闘するのは、俺とアトラス、グローリアだけとする。

 その他の者は、最大魔力での『バリアー』を張った上で、艦艇からの戦況分析他を行ってくれ。

 其れでは征くぞ、アトラス、グローリア!」

 

 とアラン様は言われ、

 

 「「ハッ、了解しました!」」

 

 とアトラス殿とグローリア殿は応えた。

 

 そして、アラン様は総旗艦『ビスマルク』の舳先に立たれると、

 

 「対外敵プログラム"武神アラミス"起動!

 

 モード『異空間からの侵略者』!

 

 『神人』の要請に従い顕現せよ!

 

 神鎧『ジークフリート』!!!」

 

 と叫ばれると、アラン様の眼前に神々しい光を放つ鎧が現れた!

 

 次の瞬間、以前よりもハッキリと然も音声を伴って、文字がモニターに綴られていく。

 

 《其は、神々の大いなる遺産、如何なる者も傷付ける事能わず、不滅なる特異点、神々が祝福と共に鋳造せし神の鎧、汝の名は『ジークフリート』!》

 

 神鎧『ジークフリート』は、各パーツに分かれ、アラン様の身体の部分に次々と装着して行く。

 アラン様に完全装着した神鎧『ジークフリート』は、まるで歓喜するかの如く、七色の光を煌めき放ち辺りを照らす。

 

 すると、『システム・エキドナ』はその表面を覆う眼球全てを、神鎧『ジークフリート』を完全装着したアラン様を凝視して来る。

 そして静静と、空中に浮かび上がるアラン様に向かい、『システム・エキドナ』の頭頂部に存在している『ラスプーチン』という名の虫は、杖と覚しき物を振り上げて、『システム・エキドナ』に命令した。

 

 「空間爆砕!」

 

 と『システム・エキドナ』の声と思われる音が響き渡ると、アラン様の居る場所に向かいあらゆる方向からの、目に見えない圧力と思われる重圧が、襲い掛かって来た!

 しかし、当然アラン様には攻撃自体が届かない。

 

 「暗黒!」

 

 『システム・エキドナ』の声が再度響き渡ると、『システム・エキドナ』の周りに真っ黒い空間に開いた穴が、10個現れアラン様に向かって飛んで行く。

 アラン様は、その真っ黒い空間に開いた穴に左手を翳し、

 

 「・・・集束・・・」

 

 と唱えると、真っ黒い空間に開いた穴は10個ともアラン様の左手に、吸い込まれる様に集まりそのまま掻き消える。

 

 埒が明かないと見たのか、『ラスプーチン』という名の虫は、『システム・エキドナ』から離れ、此方も空中に浮かんでいると、

 

 「ェhブsルホいえhsc!」

 

 と叫び杖と覚しき物を振り下ろす。

 すると『システム・エキドナ』の無数の眼球が点滅し始めた。

 やがて地面から次々と津波の様なMMが、四方八方が押し寄せて、そのまま空中に留まっている『ラスプーチン』に一気に集結していった。

 だが、今までの敵と違い『ラスプーチン』は一切巨大化せずに、その身体の大きさのまま際限なく膨大なMMを吸収して行く。

 どう考えても、今までの『テュポン』や『ハイドラ』と比べても、圧倒的な量のMMを吸収した『ラスプーチン』は背後に漆黒の瘴気を纏わせ、その虫の複眼でアラン様を凝視していたが、その複眼が「キラッ」と光り、アラン様がそれに合わせ右腕で防御する仕草を見せると、アラン様の右斜め後方に有った山脈の一部が大穴を開けた。

 

 《エッ?!》

 

 と思った瞬間に最大パワーで『バリアー』を張った、陸上空母『グラーフ・ツェッペリン』に衝撃波が襲い掛かり、『バリアー』が悲鳴を上げた。

 

 《この威力は?!》

 

 と『ラスプーチン』に対し、恐怖を感じそうになったが、

 

 「此れより俺は、『ラスプーチン』と一対一の一騎討ちを行う!

 その間、アトラスとグローリアそして帝国軍全艦隊は、『システム・エキドナ』を全力攻撃し、俺と『ラスプーチン』の一騎討ちに介入させるな!」

 

 とアラン様は命令され、両手を前面に突き出すと、

 

 「招来、『レーヴァテイン』!」

 

 と唱えられた。

 次の瞬間、突き出された両手の中に、神器『レーヴァテイン』が出現した。

 

 「では、征くぞ『ラスプーチン』!」

 

 その台詞を残し、アラン様と『ラスプーチン』は凄まじい速度で、正面からぶつかり合った。

 此処に、対スラブ連邦との最後の戦いのクライマックスを迎えたのだった。

 



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10月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝元年)《決戦!スラブ連邦首都『エデン』攻防戦④》

 10月1日④

 

 アラン様と『ラスプーチン』は、互いの武器での攻撃の掛け合いとなっている。

 アラン様の持つ神器『レーヴァテイン』、『ラスプーチン』の持つアーティファクト『ティルフィング』のぶつかり合いで有る。

 驚愕スべき神々の戦いなのだが、此方の方も相手が相手だけに、余裕が無いので必死の戦いで有る。

 アトラス殿とグローリア殿は、『光翼竜(ケツアルコアトル)モード』の『リフレクション・ウイング』100枚ずつ全てを展開し、『システム・エキドナ』の攻撃を出来る限り反射し跳ね返す事にしている。

 龍脈(レイ・ライン)を使った通信手段で賢聖『モーガン』殿が我等に指示を与えてくれる。

 

 「みんな聞いて!

 『システム・エキドナ』は、あくまでも人類を支援するシステムだから、自律的に人類を攻撃する事は無いの。

 だけど『ラスプーチン』は、事前にある程度の定形行動をプログラムしているだろうから、先ずは自動防御(オート・プロテクション)行動以外の行動を探りましょう!」

 

 と言われ、幾つかの指示をくれた。

 最初は、飽和攻撃を仕掛ける為に、総旗艦『ビスマルク』から一番小さい駆逐艦までの全艦隊で主砲・副砲・機銃等のありとあらゆる攻撃手段を『システム・エキドナ』に浴びせていく。

 『ヴァルキリー・ジャベリン』弾含む魔法弾と、複合魔法を徹底的に撃ち込む。

 『ヴァルキリー・ジャベリン』弾によって『システム・エキドナ』のバリアーは、一時的に解除されその間は攻撃を与えられるのだが、その都度バリアーを張り直すので、再度『ヴァルキリー・ジャベリン』弾でバリアーを解除するしか無い。

 賢聖『モーガン』殿はこの『システム・エキドナ』の様子を観察し、

 

 「とにかく『システム・エキドナ』を、アラン様と『ラスプーチン』の一騎討ちに介入させない為に、注意を常に帝国軍艦隊に引きつけて、その間アトラス殿とグローリア殿は、『光翼竜(ケツアルコアトル)モード』の『リフレクション・ウイング』で常に『システム・エキドナ』の攻撃を反射して!

 自動防御(オート・プロテクション)行動以外の行動をどうやら『ラスプーチン』は指示して無いみたいね。

 このままの状態を維持しましょう!」

 

 と判断された。

 なので賢聖『モーガン』殿の指示通りに継続攻撃を反復しながら、アラン様と『ラスプーチン』の戦いを確認した。

 

 その戦いは、凡そ人の範疇に収まるものでは無く、正に神と邪神がこの世の覇権を争う様な、神々の黄昏であった。

 大空を白金に輝くアラン様が飛び周り、『ラスプーチン』が漆黒の闇を残像に残しながらアラン様と交差する。

 

 「うrglぃdktb!」

 

 妙な言葉を吐いた『ラスプーチン』は、何やら禍々しい巨大で悍ましく脈動する物体を、何も無かった空間から召喚した。

 アラン様は、

 

 「次元断層!」

 

 と叫ばれると、我々(『システム・エキドナ』をも含む)と『ラスプーチン』の間に、空間を断つ様な壁を生み出された。

 次の瞬間、『ラスプーチン』がその禍々しい巨大で悍ましく脈動する物体を、アラン様に投げつけて来たが、、空間を断つ様な壁の前で、一気に凝縮して弾けた!

 

 一瞬、世界の全てが白く染まり、アラン様が展開された空間を断つ様な壁のお陰か、音の絶えた静寂(この時点で『システム・エキドナ』は沈黙している)のなか、周りを見回すと、アラン様が展開した壁より前の地面は存在しなかった!

 信じられない思いで、ずっと先の方を見ると辛うじて山脈の一部が見えて来た。

 つまり端が判らない程のクレーターが、『ラスプーチン』の攻撃により現出したのだ。

 此の場にいる殆どの者が、恐怖の念に襲われる中、アラン様は、

 

 「此れより、俺の現時点での最強の技を放つ!

 全軍、対ショック、対閃光防御!」

 

 と指示されたので、帝国軍全艦隊はアンカーを射出して艦艇を固定し、バリアーを最大出力で展開し、バイザー等を下ろして対閃光防御を整えた。

 

 「征くぞ、『ラスプーチン』!

 ”武神アラミス”認可奥義『ドラゴン・ファング(竜牙)』!」

 

 と叫ばれると、アラン様の背後から黄金色のドラゴンの頭が八つ出現し、凄まじい勢いで『ラスプーチン』に襲い掛かった!

 『ラスプーチン』は逃れようと、飛ぼうとするが、呆気なく四肢を八つのドラゴンの顎に喰らいつかれ、拘束された。

 

 「kし柄rh云うgs@jmェhb!」

 

 『ラスプーチン』はその虫の頭を振り回そうと呻くが、当然ドラゴンの顎はそれを一切許さない。

 

 「トドメだ!

 ”武神アラミス”認可秘奥義『ディストーション・クライシス』!」

 

 とアラン様は叫ばれ、『ラスプーチン』目掛け真一文字に突っ込まれ、『ティルフィング』を持つ『ラスプーチン』に左手を切断し、返す刀で左肩から袈裟斬りに斬りつけ、股間に到達すると『レーヴァテイン』を握り返して逆に右肩まで斬り上げた!

 丁度、Vの字に斬られた『ラスプーチン』は、

 

 「セウbyゴア!!!」

 

 と絶叫したが、技はこれで終わらない!

 アラン様は、そのまま上段に『レーヴァテイン』を構え直し、唐竹割りに『ラスプーチン』を両断する!

 すると『ラスプーチン』の背後に虚ろなる穴が空間に出現し、そのまま『ラスプーチン』は虚無の穴に吸い込まれる様に、落ちて行った。

 

 虚無の穴は、『ラスプーチン』を吸い込むと、まるでその様な者は初めから存在しなかったかの如く、静かに消えて行った。

 

 暫くは、その場に居た全ての者がひたすら呆然としていたが、やがてゆっくりと総旗艦『ビスマルク』の甲板にアラン様が降りられると、全帝国軍人は怒号の様な歓声を上げた。

 

 「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」」」」」

 

 そう、この時、長きスラブ連邦との戦争が、一つの決着を見たのである。

 



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10月の日記⑤(人類銀河帝国 コリント朝元年)《対スラブ連邦後始末》

 10月5日

 

 あの『ラスプーチン』との激戦の後、アラン様は直ちに『システム・エキドナ』に神器『レーヴァテイン』を突き刺し、『ラスプーチン』によるアーティファクト『ティルフィング』を利用した命令を完全に解除し、システム・エキドナを支配している、基本プロトコルを抹消し、基幹プログラム『ルミナス』からの西方教会圏で使用されている、『システム・ガイア』を龍脈(レイ・ライン)とのリンクからダウンロードし、インストールし直して、北方世界に会わせて基本プロトコルを構築し直すそうだ。

 

 正直自分には、半分も理解出来なかったが、何にせよ、あの苦労したデカブツが元に戻り、人類の為に動き出す事が判ると、非常に安堵出来た。

 

 あの決戦が終わった瞬間、殆どの帝国軍人はその場でへたり込んでしまったのだ。

 全く不甲斐ない話だが、『ラスプーチン』と『システム・エキドナ』との戦いは、如何に数多の激戦を繰り返して来た帝国軍人にとっても、あまりにも精神的負荷がきつかったのである。

 自分もへたり込むことこそ無かったが、暫く呆然としていて部下に5分間指示を出せないでいたくらいだったのだ。

 何よりも、『ラスプーチン』という名の『バグス(虫)』を見た瞬間から、身体の奥底からあまりの嫌悪感と悍ましさに、絶叫を上げたくなったのだ。

 今後、『バグス(虫)』と云う輩と戦う場合に備え、正しい知識と覚悟を決めなければ、戦え無いだろう。

 

 10月7日

 

 アラン様が、例の『ラスプーチン』と融合していた円筒形の金属柱と、アーティファクト『ティルフィング』、そして斬り落とした『ラスプーチン』の左手を持ち、『龍脈跳躍(レイラインダイブ)』という空間跳躍を行われ、『魔法大国マージナル』にある賢聖『モーガン』殿の研究所兼巨大演習場に転移されていった。

 

 此れから、『ラスプーチン』の正体と『システム・エキドナ』を支配した経緯と、何を企んで空間に穴を開けていたのか?等を詳しく調査するそうだ。

 

 10月9日

 

 ルーシア王国の首都で有る、『サンクトペテルブルク』に元システム・エキドナ、現『システム・ガイア』を、例の避難民達が利用していた大空洞に誘導し、其処から『システム・ガイア』の全能力をフル回転させ、北方世界全体の汚染除去と、土壌改良、更にはMMを使用した作物栽培等の、人が将来住める様になる為の準備を始めさせた。

 恐らく5年後くらいには、ルーシア王国とクライナ公国は復興出来るだろうし、その周辺国も段々と復興して行くだろう。

 そして此の日、アラム聖国と崑崙皇国に向けて、外交使節団を其々1隻の駆逐艦に乗せて送り出した。

 其々の国にこれ迄の敬意説明と、現在『人類銀河帝国』がルーシア王国とクライナ公国以外の北方世界の国々を管理しており、何れは其々の国の国家代表を選出して、帝国の華族に加えて帝国の藩屏になって貰う事の宣言を行う事になっている。

 つまり、この時点で人口比はともかく領土的に云うと、セリース大陸の6割を帝国は領している事になる。

 其れは即ち、現時点でセリース大陸の覇者としての立場に帝国が立った事を意味する。

 アラム聖国と崑崙皇国は、この時点で和戦どちらの立場を取るか?選択を突きつけられたのである。

 

 10月20日

 

 漸く、クライナ公国の兵站基地で有る『リビン』に到着した。

 取り敢えず此の地は、当座のクライナ公国の首都となり、クライナ公国復興の拠点となる。

 なんと云っても『リビン』には、帝国からの太い直通インフラが有り、比較的に巨大鉱床の有る『ガデッサ』も近く、貿易やMM売買の拠点としても優秀で有る。

 到着した我々帝国一同を、ゼレンスク代表始めクライナ公国首脳陣が出迎えてくれて、大分整備された広大な貨物集積場の一角を使った、戦勝記念パーティーを開催してくれた。

 

 この戦勝記念パーティーは、一切の立場等を無視した完全無礼講で行われ、自分やアラン様他帝国の重鎮達も、久々に堅苦しい儀礼無しの宴会を楽しんだ。

 そうなのだ、今現在帝国の重要職を担っているが、僅か2、3年前までは、冒険者としてアラン様とクレリア様ともこうやって酒を酌み交わし、日々の魔物や盗賊の討伐数や回収出来た獲物、そして将来のスターヴェーク王国奪還等を思い、日々を一生懸命生きて居たのだ、その思いを目の前に座ってスラブ連邦と必死に戦ってきたパルチザン上がりの男と共に語り合い、お互いの願いが叶った事を祝福し合った。

 

 近くに居られたアラン様は、ゼレンスク殿と共に将来の帝国の夢とクライナ公国の夢、そして其れが結実した時の豊かに生活出来る様になる両国の国民の姿、その為にこそ双方の代表たるアラン様とゼレンスク殿は、文字通り命を賭けると、約束し合って居られた。

 それも済むと、アラン様とゼレンスク殿はお互いに飲み比べをしたり、お互いの趣味を話始め、共通の趣味で有る釣りの話題になり、何時かもっと暇になったら、ゼレンスク殿に帝国首都『コリント』に来てもらい、一緒に釣りをしようと約束して居られた。

 アラン様とゼレンスク殿は、非常に寛がれた様子で痛飲しておられ、久々に楽しまれているのが、傍から見ていても判ったので、双方の関係者も笑顔で見守られていた。

 



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10月の日記⑥(人類銀河帝国 コリント朝元年)《帝都コリントへの帰還》

 10月28日

 

 此の日、我等帝国遠征軍は『帝都コリント』へ戻ってきた。

 当然、帝国民総出で迎えられたが、肝心の嫁さん達の出迎えはされなかった。

 ある程度事情は、モニター通信のお陰で判っているので、直ちに皇妃宮に向かい、直ぐにアポイントを取って皇妃宮大広間に向かった。

 其処には、この皇妃宮の主であるクレリア皇妃様と、自分の嫁含めた4人の嫁さんズ。

 自分以外のシュバルツ殿とミツルギ殿、そして親友のハリーが殆ど同時に合流した。

 各々が自分の嫁さんに報告と、嫁さんの身体の心配を行っている最中、自分はミーシャに言葉も掛けずに柔らかく抱きしめた。

 

 「・・・帰ってきたよ、・・・約束通りに・・・」

 

 と言うと、ミーシャは自分の背中に手を回して自分の胸に頭を埋め、静かに嗚咽している。

 ミーシャは、暫く泣き続けていたがやがて落ち着いてきたのか、何故か笑い始め・・・そして、

 

 「・・・ねえ、触ってみて私達の赤ちゃんの居るお腹に・・・」

 

 と促されたので、恐る恐る自分の無骨な手で、ミーシャの大きくなったお腹に触ると、気の所為かも知れないが、確かに2つの鼓動を感じた様な気がした。

 瞬間、幸せな気持ちが押し寄せて来て、自分の耳をミーシャのお腹に寄せると、軽く自分の頬を蹴られた様な衝撃が伝わる。

 驚愕してミーシャを見ると、

 

 「驚いたでしょう。

 男の子の所為か、凄く活動的でよくお腹の中で蹴ってくるのよ!」

 

 と自慢げに自分に言ってくる。

 他の夫連中も色々と嫁達と対応していた様だが、どうやら皆落ち着いた様で、和やかな空気が流れていると、クレリア皇妃様付きの女官が、アラン様の来訪を伝えられたので、クレリア皇妃様以外の全員がお迎える為に、跪いてアラン様を迎えると、アラン様が慌てて、

 

 「何をしているんだ、婦人方は直ぐに楽なリクライニングソファーに座る様に、夫方は自分の妻を介添えする様に」

 

 と命令されたので、半ば慌ててミーシャを支えながらリクライニングソファーに座らせ、適切な角度にして楽な姿勢にさせた。

 場が落ち着くと、アラン様は、

 

 「・・・クレリア・・・、スラブ連邦の件は『ラスプーチン』を倒して、ほぼ方を付ける事が出来たよ」

 

 と言われると、クレリア皇妃様は、

 

 「・・・流石ねアラン、医師からあまり刺激的な場面を見たら興奮し過ぎて、妊娠している私達には見させてくれないのよ、でも貴方が無事に帰って来てくれたから、出産後には見せて貰うわ」

 

 と答えられた。

 その言葉を受けて、我等アラン様を含む夫達は心底ホッとした。

 

 《どう考えても、スラブ連邦軍との激戦の様子は、一般人でも刺激が強すぎて、ニュースとして放送する為には、オリジナルでは不味いので編纂しなければならないから、ハリーの努力に掛かっているな》

 

 と自分の横に居るハリーに目配せすると、ハリーも自分の意を汲んで頷いてくれた。

 

 「クレリア、今まで君の状態はモニター越しとARで把握していたが、やはり実際に会って確かめたかったんだよ!

 漸くその機会が訪れてくれた、是非自分の赤ちゃんの存在を確認させてくれないかな?」

 

 と何時ものアラン様の堂々とした、威風辺りを払う様子がまるで無く、自信の無い若者が初めての妻の妊娠に狼狽える様が、何とも微笑ましい(自分も人の事を言える程落ち着いて無いが)と失礼にも思ってしまった。

 

 クレリア皇妃様はその言葉に微笑まれると、アラン様を手招かれ、

 

 「さあ、触ってみて、私達の赤ちゃんが此処に居るのよ。

 そして、その生きている証の鼓動を確認してみて」

 

 と仰られたので、アラン様は恐る恐るクレリア皇妃様のお腹に顔を寄せられ、耳をお腹にゆっくりと近づけた。

 暫く、そのままの状態でアラン様は喜びを隠しもせずに、言われた。

 

 「自分は、此の地(自分とカトウそしてシャロン、セリーナ両准将と恐らくはクレリア皇妃様は、セリース大陸の事では無く、此の星アレスの事を指すと判っている)に一人でいきなり放り出された異邦人(エトランゼ)で、ただ途方に暮れる存在に過ぎなかった。

 だがクレリア、君と出会え此の地で生きる目的を見出し、此の場にいる人々と知り合えてより大きな目標に向かえる友を得て、此の地に生きる民達を救うべき大義まで貰えた。

 更にクレリア、君は自分の家族を作ってくれた!

 必ず自分はクレリア、そして我が子の為に、全力で此の地を守り抜く事を誓うよ!」

 

 と厳かに宣言された。

 クレリア皇妃様は、自身のお腹に耳を当てたままのアラン様の頭を、優しく撫でられて微笑まれている。

 ゆっくりとアラン様は立ち上がり、

 

 「先程、クレリア付きの御殿医や宮内庁長官のロベルトと話合ったのだが、皆の奥様方も何と出産予定日は同じとの事、ならば同じ妊婦として出産日近くの三日前には、アスガルド城に有る病院に入院して貰い、共に出産日を迎えて頂きたい。

 此れは皇帝としての命令では無く、只の若僧の不安を払拭する為の願いだ。

 勿論断ってくれても構わないが、どうかクレリアの為にも友として、或いは同士としても是非お願いしたい!」

 

 と深々と頭を下げられた。

 我々男共は、恐縮のあまり床に跪き、

 

 「「「恐れ多い話で、いきなりは判断出来ませんし、其の様な事をしてご迷惑極まり無いのでは無いでしょうか?」」」

 

 と全員で答えると、クレリア皇妃様が、

 

 「迷惑なんてとんでも無い。

 最近は、5人全員で互いをいたわりあい、常に寄り添い合いながら日々を暮らすのが当たり前の様になってるの。

 今更、全員離れ離れになって心細くなるのは、耐え難いわ。

 其々の夫が帰って来たのだから、ここ数日は実家に帰るのは当たり前だけど、どうか出産予定日前には必ず合流してね。

 待ってるわ!」

 

 と言われたので。

 

 「「「了解しました。

 ご迷惑で無ければ、お望みの通りに致します!」」」

 

 と返事したので、アラン様とクレリア皇妃様は、安堵されたのか、ホッと息を吐かれた。

 

 という事で、恐れ多くも妻のミーシャはクレリア皇妃様のご厚意で、アスガルド城で出産する事が決まった。

 何だか、まるで予め決まっていた運命の様に物事が進んでいる様で、然もこの流れを断つ事は天意を踏みにじる行為で、逆らう事は禁忌で有ると『ルミナス神』様に止められている様な気分にさせられてしまっていた。

 




 さて、一旦スラブ連邦の方が付いたので、次話からは閑話シリーズです。
またも長い閑話になりますが、閑話が終わると、いよいよ今まで殆ど話題に出てなかった崑崙皇国編が始まります。
 この崑崙皇国編の終盤の後で、かなり前に触れたカトウの出身地である東の群島での話になります。
 どうぞお楽しみに。


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閑話㊿「ミーシャの思い出帳」⑥(『世界武道大会』見学)

 『西方武術魔術競技大会』が始まる筈だったのに、何やら開催地の『ザイリンク帝国』がとんでも無い事に、アラン様達を嵌めて殺そうとして来たらしい?!

 馬鹿なのかしら、今までの帝国の発展具合や、モニター放送を少しでも見ていたら、とてもでは無いが勝てない相手なのは判りそうな物だけど、もしかして見たことも聞いた事も無いのかな?

 

 数日後、動画で結果報告が入って来たの、クレリア皇妃陛下と自分含む嫁さん仲間と皇妃宮でみんなで見たの。

 まあ、中央情報局のカトウと職員が撮ってくれた動画には、間の抜けた『ザイリンク帝国』のゴラムとか云う皇帝を僭称している馬鹿と、ギロンとか云う帝国を逆恨みする間抜けが、非常に間の抜けた罠を仕掛けてきたけど、当然アラン様始め内の旦那含む帝国の精鋭にとっては、手を抜きまくりの制裁を喰らってるわ(笑)

 

 だけどこのゴラムとギロンとか云う馬鹿は、救いようが無かったわね。

 自分達が召喚した『ケルベロス』に無惨に食い殺されてるわ。

 まあ、悪人にとっては相応しい最期ね、誰も同情しないし、世の中のゴミが勝手に滅んだんだから良かったんじゃないかしら?

 でも、アラン様と組んで『ケルベロス』を倒せたなんて、内の旦那にとってはご褒美ね、帰ってきたら自慢されそう(苦笑)

 

 アラン様達が『ザイリンク帝国』の悪人共を滅ぼして、正統な皇位継承者を定立し、『人類銀河帝国』に併合される事が決まったわ。

 当然でしょうね、どうやらゴラムとギロンとか云う馬鹿は、『ザイリンク帝国』を好き放題にして居たらしく、その所為で、国民は大分苦しんでた様だし、『人類銀河帝国』に併合されたら随分豊かになるんじゃないかしら?

 

 諸々有ったけど、『西方武術魔術競技大会』は名前を『世界武道大会』に変えて開催が決まったみたい、その様子もこの皇妃宮でみんなで見る事を、クレリア皇妃陛下が提案されたので、二言無く頷いたわ。

 

 『世界武道大会』当日、予定通りに皇妃宮にみんなで集まり、見始めたんだけど、私も興奮して見てるんだけど、やっぱり一番興奮してるのは『オウカ』殿ね。

 何と言っても自分の旦那である『ミツルギ殿』と、同じ剣王である『シュバルツ殿』と『カイエン殿』更には師匠で有る『剣聖ヒエン様』もオブザーバーとして、モニターに出て居るのだ、きっとなんで自分があの場にいられないのかと思ってるのだろう、悔しそうな横顔が全てを物語っているので、思わず、

 

 「オウカさん、悔しがる事は無いわ。

 別に今回が最後な訳じゃないし、来年はお子さんに強い母親を見せる為にも、旦那さんと一緒に参加すれば良いのよ!」

 

 と言ってあげたら、

 

 「・・・そうね、必ず来年は私も参加して、第一回の優勝者はあくまでも、私が出なかったから優勝出来たのだと示して見せるわ!」

 

 と威勢よく言われたので、此の場に居るクレリア皇妃陛下以下全員が、「頑張って女性の強さを見せつけてやってね!」と応援したので、「任せてよ!」と答えたので、全員で楽しそうに笑っちゃった!

 

 『第一回世界武道大会』は順当に進み、案の定『ミツルギ殿』と『シュバルツ殿』が各部門で優勝して幕を閉じたが、クレリア皇妃陛下が私とオウカさん、そしてエルナ親衛隊長とサーシャ侍従長を招かれて、夕食とその後のティータイムに付き合う事を望まれたんで、お言葉に甘えてご相伴に預からされて頂いたの。

 

 美味しい夕食を味わわせて頂いて、ティータイムに付き合っていると、クレリア皇妃陛下が、

 

 「長く引き止めちゃってごめんなさいね。

 実は、この後本当の武道大会でも云うべき『裏の世界武道大会』が開催されるのよ。

 ライブで見せる人は、限られて居るけど、帝国軍人には何れ動画で見せる事になるから、貴方達には私と一緒に是非ライブで見て貰いたいの、了承してくれるかしら?」

 

 と仰られたので、

 

 「勿論です!」

 

 とほぼ同時に私とオウカさんが答えたので、顔を綻ばせてクレリア皇妃陛下は喜ばれ、

 

 「ありがとう、それじゃあ一緒に見ましょうね」

 

 と言われて、皇妃宮の大型モニターで、『裏の世界武道大会』を拝見させて頂いた。

 

 その『裏の世界武道大会』の内情は実は、ある意味アラン様の憂さ晴らしで、散々に大会参加者をいなすように蹴散らされて行く。

 まあ、私達帝国軍人にとってはごく当たり前の光景で、少しも驚かないがオウカさんにとっては、驚きの連続だった事だろう。

 オウカさんも、アラン様に会われているのである程度アラン様の強さは把握されているだろうが、殆どの人はその強さは、その圧倒的な魔法力と其の魔法行使スピードの為と判断しがちだが、少なくとも初期の『クラン・シャイニングスター』のメンバーは、その剣技と格闘能力が信じ難いレベルである事を知り抜いている。

 

 そして私も見たことが無く、クレリア皇妃陛下とエルナ親衛隊長に聞かされていただけの、アラン様の『コリント流剣術 最終秘奥義メテオ・ストリーム』を見る事が叶った!

 

 其れは、信じられない程の連撃!

 正に目にも止まらない猛打の嵐!

 然もその連撃は流れる様に剣術だけでは無く、蹴りや足払いそして柄による打撃も織り交ざっていてまるで舞の様!

 最後は、上段からの目にも見えない鋭い打ち下ろし!

 

 そのあまりの凄まじさに初めて見た私達は、嘆息してしまい、称賛の言葉も出ずに、只々呆けてしまったわ。

 

 「・・・相変わらず凄まじい奥義ね、此れを手本にしてコリント流剣術を磨けとは、アランも厳しいわね・・・」

 

 とクレリア皇妃陛下は呆れた様に仰られた。

 愕然として、私とオウカさんがクレリア皇妃陛下に視線を寄せると、クレリア皇妃陛下は肩をすくませ、

 

 「そう、此れが敢えてアランが帝国軍人に公開したがった理由よ。

 この最終秘奥義メテオ・ストリームを少しでも真似或いは学習出来れば、かなりのスキルアップが望めるわ。

 其れは、必ず帝国軍人の実力の底上げになり、私達の目標達成に役立つわ、みんな驚いたでしょうけど、頑張ってアランの剣技に近づいてね」

 

 と仰られたが、正直何処までご期待に添えるか、怪しく思ったわ。

 



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閑話51「ミーシャの思い出帳」⑦(旦那達の旅程と帰還)

 あれから数日後、旦那から『魔法大国マージナル』に着いて、私の騎竜で有るサバンナと久し振りに話せたの。

 

 「サバンナ、元気!

 ガイや他のドラゴン達も元気なの?」

 

 とモニター越しに勢い込んで聞いたら、弱々しそうに翻訳機越しに、

 

 「・・・・・実は、それ程私や他のドラゴン全員元気では無いですよ・・・・・」

 

 と答えて来てので詳細を聞いたら、何でも朝から晩まで賢聖『モーガン』殿と『魔法大国マージナル』の『守護竜アルゴス』殿に、あらゆる面で鍛えられて居て、かなりキツイそうだ。

 喋り方も流暢になってるから、身体面だけでなく頭脳の方も鍛えてるんじゃないかしら。

 

 「そう言えば、グローリア殿のお見合いはどうなったのかしら?

 それこそが、主題だったんだから結果を知りたいわ」

 

 とサバンナに聞いたら、サバンナは言い淀む様に、

 

 「・・・・・その事ですが、少し問題が有るんですよ・・・・・」

 

 と答えたから、まさか不調に終わったのかしら?と聞くと、

 

 「いいえ、それよりも手前の段階で、グローリア殿がアトラス殿と話し合う前に、人間と同等の接し方をするグローリア殿に対し、のっけからアトラス殿が、優れた種のドラゴンで有るグローリア殿が、劣った種で有る人間と協力関係にあるのを愉快に思われずに、度々人間の能力を侮る発言をされ、とうとうアラン陛下の能力を疑う発言をされたので、グローリア殿と言い争いに発展して終いには魔法での力比べをして、双方傷つくという事態になりましたの」

 

 と答えてくれたの。

 成る程、考えて見れば、この反応は想定して置くべきだったわ。

 古代竜(エンシェント・ドラゴン)であるアトラス殿にして見れば、そもそも普通の人間とドラゴンを比べるのは、そもそも比較対象として間違えているでしょうからね。

 

 結局、グローリア殿とアトラス殿は現在両者共に医療用『コクーン』で療養中なんだそう。

 それでは、アトラス殿の認識を変更させる荒療治が必要ね。

 

 そうこうしている内に、話は進みアラン様とアトラス殿の決闘の日になったわ。

 クレリア皇妃陛下の提案で、自分含む嫁さん仲間と皇妃宮でみんなで見たの。

 

 アラン様が負けると、これっぽっちも思わないけど、流石にアトラス殿は大きいわね、古代竜(エンシェント・ドラゴン)なだけあるわね、体長だけで現在のグローリア殿の25メートルを越える30メートルに達し、当然その手足と尾も応分に大きいわ。

 

 「・・・本当に良いのだな?小さきものよ、手加減は出来ないぞ!」

 

 とアトラス殿はアラン様に言われ、アラン様は、

 

 「全然問題ないぞ!

 

 むしろ何処まで手加減してやろうか、考えて居るところだよ」

 

 返答されたので、

 

 「良くぞ、ほざいた小さきものよ、 全力で引き裂いてくれるぞ!覚悟しろ!」

 

 と激昂してるわ。

 

 「其れでは始めよ!」

 

 と『守護竜アルゴス』殿が宣言されたわ。

 すると、スタスタとまるで友達に歩み寄る様に、何でもない様子でアラン様が正面からアトラス殿に近づく、流石に面食らったのか、暫く呆然とアトラス殿はしていたが、直ぐ目の前でアラン様が「掛かってこい」と言わんばかりに、にこやかに笑いながら手招きして挑発したの。

 それを見て、クレリア皇妃陛下は一つも動じずに苦笑されてるわ。

 

 《流石はクレリア皇妃陛下、アラン様を完全に信頼されてるわ!》

 

 と思い、大型モニターを見直すと、その凄まじい激闘は、以前行われた『裏の世界武道大会』を圧倒するものだったわ。

 

 《でもこの動画を見ないで、伝聞だけでは誰も信じてくれないでしょうね》

 

 と『クラン・シューティングスター』のメンバーで有る人以外の同席者は、口を開けたまま呆けているわ。

 そして最後に、アラン様がアトラス殿の『逆鱗』を斬り落とし、勝負を決めると、此の場に居る全ての人が大型モニターに向けて拍手していたわ。

 そして口々に、クレリア皇妃陛下に向かい祝辞を述べると、クレリア皇妃陛下は、

 

 「みんな、ありがとう。

 だけど、オウカさんやミーシャそしてエレナとサーシャは、アランがどれだけ手を抜いてたか判るでしょう?」

 

 と問われたので、名前を呼ばれた全員は苦笑いしちゃった。

 だって、アラン様は『循環魔法』以外殆ど魔法を使用しなかったのだから、恐らくは実力の20パーセントくらいしか出して無いんじゃないかしら?

 

 その後は、特に困難も無く帝国艦隊は、順調に旅程を進めて、訪れた国々と同盟や協力を取り付けて、対スラブ連邦の準備を整えて、ここ帝都コリントへ向けて帰ってくるの。

 

 私も随分長く旦那と会えて無かったから、楽しみなんだけど、やっぱり人類銀河帝国の国民としては、クレリア皇妃陛下とアラン様の再会が待ち遠しく思うわ。

 きっとその光景は、帝国国民全てが望む素晴らしい一服の絵の様な図じゃないかしら。

 

 漸く2ヶ月間の長期出張を終えて、帝都コリントに帝国軍艦隊は到着したわ。

 望み通りにクレリア皇妃陛下とアラン様の再会シーンは、夕方のニュースから始まって、何回も放送されたみたいだけど、私は旦那が帰って来てお腹の辺りに気を付けながら抱きしめてくれたのが、何よりも幸せ過ぎて怖いくらいだったの。

 義妹のカレンちゃん始め、家族全てが家に勢ぞろいして口々に旦那の帰還を喜んでるのを見て、更に全員私のお腹の赤ちゃんを愛でてくれたから、本当にこの家族と一緒に居られる幸せを噛み締める事が出来たわ。

 

 



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閑話52「ミーシャの思い出帳」⑧(新しいメンバー『アナスタシア』王女)

 ルーシア王国の『アナスタシア』王女と、クレリア皇妃陛下と皇妃宮でお会いする事になったわ。

 今回のアラン様達の長期出張は、この方を保護していた『魔法大国マージナル』から保護先を私達の人類銀河帝国に移して、万全の協力体勢を構築して、対スラブ連邦戦を戦い抜くための布石を作る為だったの。

 

 「・・・此れから暫くの間迷惑を掛けますが、どうか宜しくお願いします・・・」

 

 と『アナスタシア』王女は仰られたけど、この御方は年齢27才と聞いていたけど、もの凄く落ち着いていて年齢以上に感じてしまったわ。

 

 「どうぞ、お気になさらず、自分の国と思って寛がれて下さいね!

 私は、貴方と同じ頃に故国を奪われ、同様の苦しみに会いましたので、貴方の境遇に共感を覚えています。

 幸い私は、アラン始め信じられない程素晴らしい仲間の手助けで、僅か3年で故国を復活出来ました。

 此れより、その素晴らしい仲間達は、私の時と同様に貴方の故国ルーシア王国を全力で復活させる為に動き出します。

 必ず、ルーシア王国の国土と国民を元に戻す事を約束するわ。

 安心して、帝都コリントで過ごされてね!」

 

 とクレリア皇妃陛下は、『アナスタシア』王女の手を取り、慰められた。

 

 《しかし、クレリア皇妃陛下も20才になられて間もないのに、堂々とされたものだわ、もしかして妊娠する事で子供を産む覚悟のお陰で、自信を持たれたのかしら?》

 

 との感想を持ったけど、私自身もお腹の中の子供の為なら、何でも出来る気がしているので、きっとクレリア皇妃陛下も同じなのかも知れないわね。

 

 『アナスタシア』王女は何度もクレリア皇妃陛下に感謝されて、後日、私達の例の女子会へゲストとして招かれる事になったわ。

 

 その後日、義妹のカレンちゃんと一緒に家を出て、皇妃宮では無くて先日落成した皇子宮でパーティー形式で、女子会が開かれたわ。

 その女子会には、人間だけでは無くて、カレンちゃんの相棒のカーバンクルの2匹と、『ケットシー128世』の奥さんである猫の『マドンナ』さんと5匹の子猫ちゃんが参加されたの。

 

 中でも、5匹の子猫ちゃんは大人気で、女子会参加の女性陣は抱き上げて離そうとしなかったわ。

 そんな風にされても、猫の『マドンナ』さんは鷹揚に構えていて、猫なのに泰然自若としていて、大物ぶりが際立っていたわ。

 

 数々の珍しい料理や飲み物、そしてアラン達が徹底的に教育したアスガルド城のシェフが作ったスイーツは、今回のメインゲストの『アナスタシア』王女にとっては、大変満足された様だったわ。

 だけど、突然『アナスタシア』王女がさめざめと泣き始めたので、みんな驚いて慰めてたら、ポツポツと話はじめたの。

 

 「・・・今も、ルーシア王国の民は、塗炭の苦しみに喘いでいるのに・・・私だけが、この様な贅沢を・・・どう考えても許される事では・・・無い・・・」

 

 と述懐されたわ。

 みんなも、思わずしんみりしてしまったけど、クレリア皇妃陛下はそんな事かと言われ、アナスタシア王女に「此れを見て!」と皇子宮に備え付けの超大型モニターを何処かと繋いだ。

 其処には、大きなパーティー会場が設営されていて、作業服や仕事着のまま、飲めや歌えやの砕けた宴会の様子が映し出されている。

 

 「アナスタシア、あの、満面の笑みを見せている人々が判る?」

 あの人達は、先の第一次スラブ戦争で、解放した元ルーシア王国人の戦奴隷だった人々よ。

 帝国軍が保護して、マジノ線近くの『マジノ・ドーム』で、職業訓練を受けてから働き初めて、もう既に3ヶ月経っているの。

 皆、今現在働いて十分自活出来る様になっているから、ご覧の通り仕事帰りに宴会したりスパに通ったりして、『マジノ・ドーム』での生活に満足して、決して貧しい生活をしていないわ。

 此れは、今現在救援中のクライナ公国国民にも適用されるから、どんどん増えていっているわ。

 そしてやるべき仕事は、もの凄い量有るから、どんなに人が居ても足りないくらいだから、是非ルーシア王国国民には、全員参加してもらいたいの。

 ね、アナスタシア!

 貴方が、ルーシア王国国民に対して引け目を感じる必要は、全く無いのよ!」

 

 とクレリア皇妃陛下はアナスタシア王女を諭されたので、アナスタシア王女は感極まって、号泣し始めてしまったわ。

 クレリア皇妃陛下は、ヨシヨシとアナスタシア王女の背中を擦って上げている。

 何だかどちらが年上か判らなくなるけど、アナスタシア王女の懸念が取り払われたのは、本当に良かったわ。

 

 アスガルド城のクレリア皇妃陛下付きの御殿医の勧めで、これ以降の戦争シーンをライブで見るのは、止めたけど、報告で順調に帝国艦隊は勝ち進んでいる様だけど、噂に上がっている、『ダゴン』『ハイドラ』『バックベアード』という強敵の話は、正直動画で見たいんだけど見せて貰えないの残念だわ。

 まあ、出産後は全て見せて貰えるだろうから、その時は楽しみね。

 



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閑話53「ミーシャの思い出帳」⑨(私の赤ちゃんの相棒(パートナー))

 セリーナ、シャロン両准将の陸上巡洋艦『ドレッドノート』『ジャンヌ・ダルク』と陸上フリゲート艦6隻に分乗させたルーシア王国の避難民達は、クライナ公国の兵站基地たる『リビン』まで送り届けられ、そこから『マジノドーム』を経由して、帝都コリントに魔導列車で来られたわ。

 『アナスタシア』王女は、駅まで迎えに行きルーシア王国の避難民達と合流出来て双方喜び合っていたそうよ。

 そして、クレリア皇妃陛下に報告に来て、改めて避難民達と一緒に難民専用ドームで生活する事を伝えたわ。

 

 「判ったわ、私としても貴方には是非ルーシア王国の避難民達の心のケアをお願いしたいと思っていたの。

 私から、難民移民局にその辺の事を融通付ける様に命令するわ。

 でもね、アナスタシア貴方が全てを背負い込む事は無いし、避難民達もそれを望んでいないと思うの。

 そして、貴方を女子会の正式メンバーにするから、女子会開催の時は必ず参加してね!」

 

 とクレリア皇妃陛下は言われ、アナスタシア王女も「判りました」と返事されたわ。

 

 それから暫く経って、軍部からスラブ連邦との戦争に勝利したとの報告が有り、帝国民全員が沸き立つ様な様子で、戦勝記念をいたる所で開催されてるわ。

 私達クレリア皇妃陛下始め妊婦達にも、戦勝報告は届いていたけど、その詳細は教えられず、只誰も戦死していない報告だけはいち早く教えられたので、みんな一様にホッとしてたの。

 私も、最後の旦那との会話で、不安を感じていただけに、この報告は本当に嬉しかったわ。

 最近は、お腹の赤ちゃんの成長が著しくて、結構お腹の中で暴れているけど、優しくお腹を撫でると直ぐに大人しくなるから、きっとよく言う事を聞く素直な子供になりそうね。

 

 もう後2周間で出産予定日と云う10月28日に、漸く旦那達の乗る帝国軍艦隊が帝都コリントに帰還したの、この日はクレリア皇妃陛下に招かれて、皇妃宮で軍人の旦那達を出迎えて上げたんだけど、旦那に会った瞬間私は思わず立ち上がって旦那と抱きしめ合っちゃった。

 自分自身気が付かなかったけど、実は物凄く不安だった事に旦那と会えて判っちゃった。

 この後、アラン様とクレリア皇妃陛下に要請されて、出産はアスガルド城で行う事が決まり、その3日前にはアスガルド城に滞在する事になったわ。

 本当に恐れ多いけど、正直此処までご一緒させてもらえてると、半ば私達は運命共同体の様な気がしているので、大変ありがたいわと

 

 そしてその出産予定日の3日前に、アスガルド城の皇妃宮を訪れると、其処にはクレリア皇妃陛下以下の妊婦3人と、賢聖『モーガン』殿とケットシー128世、そしてケットシー128世の奥さんで有る『マドンナ』さんと5匹の子猫ちゃんが居られたの。

 まあ、クレリア皇妃陛下への表敬訪問なのかな?と思いながら何時も座らせて貰っている、リクライニング・ソファーに座らせて貰い、全員に挨拶を交わすと、賢聖『モーガン』殿が、

 

 「どうやら全員集まった様ね。

 皆さん、順調に赤ちゃんが育っている様で安心したわ。

 これから、貴方達に素晴らしい贈り物が有るの、是非受け入れて欲しいから拒否しないでもらいたいから、お願いに来たの!」

 

 と言われたので、何の話か判らないけど、話の続きを待ったの。

 すると、ケットシー128世が、

 

 「モーガン殿のクレリア様の了解を取っているので、吾輩が話させて貰うのでどうか聞いて欲しい。

 実は、この程吾輩の妻マドンナとの間の子である5匹の子猫が、無事巣立ちの時を迎えたので、その報告とクレリア様達5人の御婦人方に是非お願いしたい儀があり、訪問させて頂いた。

 御婦人方には、巣立ちした5匹の子猫を受け入れて頂き、其々の生まれてくるお子さんの相棒(パートナー)としてくれないだろうか?」

 

 と突然言われたので、クレリア皇妃陛下以外の私達は面食らってしまったの。

 正直、別に子猫を貰う分には全然文句は無いけど、猫の王様のケットシー128世の子猫となると、普通の子猫とはレベルが違い過ぎる。

 返事に躊躇していると、5匹の子猫達は、マドンナさんから促され、トコトコと5人の妊婦に歩む。

 そして信じられない事に、その背中に純白の翼を生やして、優美に純白の翼を羽ばたかせ、リクライニング・ソファーに座る私達の側に降り立つと、ペコリと頭を下げてきたの。

 驚いて、子猫を凝視してると、ケットシー128世が、

 

 「驚かせた様で申し訳無い。

 だが、この子猫達の姿こそが、真実の『星猫』の姿なのだよ。

 吾輩は、この惑星アレスの監視端末用にカスタマイズされていて、本来の翼や感覚器官はオミットされているが、既にアラン陛下のお陰で、役割の幾つかは目標達成しつつある。

 ならば、吾輩の子猫達には、その任務を引き継がせる必要は無く、貴方方のお子様達と同じく、この惑星アレスに縛り付ける事はさせず、将来あの星々の彼方に貴方方のお子様達と共に旅立って欲しいのだよ」

 

 と言い、続けてモーガン殿が、

 

 「だからケットシー128世の要請を受けて私は、この子猫達に掛かっていた能力封印を解除したの。

 よってもう既に、この5匹の子猫は『星猫』としての能力を取り戻しているし、其々が自分自身の相棒(パートナー)を選んでいるわ。

 どうかこの事実を受け止めて欲しいの」

 

 と言われたので、改めて子猫を見ると、とても聡明そうな顔を見せながら視線を私のお腹に寄せて来たので、私も意図が判り許可すると、子猫はゆっくりと私のお腹に近づき頬ずりして来ると、不思議な事にお腹の赤ちゃんが呼応した様な気がしたわ。

 それが、単なる勘違いでは無いらしくモーガン殿は大きく頷かれて、

 

 「やはり、感応したわね。

 もう既に赤ちゃん達は、相棒(パートナー)を認識したわ。

 どうか貴方方は、この現実を受け入れてね」

 

 と諭されたので、私達も頷いたら子猫も嬉しそうに「ミヤァー!」と返事してくれたから、子猫の頭を撫でて上げたら、心地よさそうにしている。

 こうしてまだ生まれて無い内に、私の赤ちゃんの相棒(パートナー)は決まったの。

 



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閑話54『カレンちゃん日記」㉕(カレンちゃん、クレリア様から小姓役を頼まれる)

 10月10日(2年目)

 

 「カレン!久し振りじゃのう、元気じゃったか?」

 

 と兄ちゃんの通信機越しに、爺ちゃん婆ちゃん達がモニターに出てきたので、驚いちゃった。

 さっきまでスターヴェーク王国が正式に復活した話を聞いていて、小躍りしてみんなに教えて上げなくちゃと、走り出しそうにしてたんだけど、突然モニターに出て来たの、話を聞いてたら何でも田舎に疎開していて、戦乱に巻き込まれるのを避けれたんだけど、元の住居は壊されていて、兄ちゃんと一緒に元アロイス王国の男爵居館に済んでるんだって。

 結構広いし、そのまま住み続けるかも知れないと言ってる。

 

 「うーん、それでも良いけど、一度はコリント領の私達の家に来てね!

 スゴイ所だから、きっと驚いちゃうからね!」

 

 と言ったら、

 

 「うむ、トレーラーと云い、ケニーの奴の所属している軍の凄さや、クレリア様のお付きの方々の豪壮さと云い、驚いとるよ!

 是非行きたいので、『魔導列車』とやらで向かわせて貰うから、お土産を楽しみにの!」

 

 と答えてくれて通信は終わり、直ぐに隣の家の『テルちゃん』に教えて上げたら、意外な事にスターヴェーク王国が正式に復活した事は、ニュースで知ってたんだけど、爺ちゃん婆ちゃん達が無事だった事は、とても喜んでくれたんだ。

 

 他にもアロイス王国の元王様や貴族の人達は、全て裁かれたってニュースで放送されたんだって、当然だよね。

 テルちゃん一家もそうだけど、スターヴェーク王国の人たちをあれだけ、ひどい目にあわせてたんだよ、因果応報ってやつだよ。

 

 11月3日(2年目)

 

 爺ちゃん婆ちゃん達がコリント領に着いたんだけど、ポカーンとした顔をしてる、思わず笑っちゃった!

 そのまま送迎車両でホテルに向かって行って、取り敢えず落ち着いて貰ってから、家族全員(ミーシャさんも一緒)で食事を摂ったの。

 みんなで楽しい時間を過ごしてたんだけど、爺ちゃん婆ちゃん達の変化に気づいたから、聞いてみたら、

 

 「やっぱり気づいたか、実はの、ケニーとミーシャさんから勧められて、例の『ナノム玉』を飲んだら、あら不思議!

 次の日から、段々と視力は良くなるわ、節々の痛みは無くなるわ、今では持病のリウマチと偏頭痛まで無くなったんじゃよ。

 全く『ナノム玉』サマサマじゃな!」

 

 と豪快に笑ってる。

 終いには、魔導列車が気に入ったからこのベルタ王国の各地を廻ってみるんだって、元気だよねー。

 

 11月6日(2年目)

 

 朝のニュースで、ベルタ王国、スターヴェーク王国、セシリオ王国を全部合わせて、一つの国『人類銀河帝国』に纏まるんだって。

 然も、今私達が住んでるコリント領は、『帝都コリント』になるそうだよ。

 でも当然かな、こんなにスゴイ都市は、他に無いに決まってるからね!

 でもそうすると、ベルタ王国国王アマド陛下や、スターヴェーク王国王女クレリア殿下はどういう立場になるのかな?

 夕方のニュースで、アラン様が、

 

 『人類銀河帝国初代皇帝 アラン・コリント一世』

 

 となって三国のトップになって、ベルタ王国国王アマド陛下や、スターヴェーク王国王女クレリア殿下はそれぞれ、公王と公女になってアラン様を輔弼して、更にクレリア様は、

 

 『人類銀河帝国初代皇妃 クレリア・スターヴァイン・コリント』と成られるんだって!

 

 うわあ~、素晴らしすぎるよー!

 いよいよ、アラン様とクレリア様は正式に結婚されて夫婦になって、私達の指導者になってくれるんだって、嬉しすぎて親友みんなでフードコートに突撃したら、全部の店がお祝いだって事で格安でサービスしてくれたから、家族も呼んで、スゴイお祝いをみんなでしちゃったよ!

 

 11月14日(2年目)

 

 久々に大規模な女子会パーティーが開かれて、全員でクレリア様をお祝いする事になり、建築中のアスガルド城近くの広場で女子会以外の母ちゃん他の高級服飾工場の人々等、大人数が参加したの大体300人くらいかな?

 開催の言葉が司会から述べられた後、直ぐに全員でのお祝いがクレリア様に集まったら、クレリア様は真っ赤になって、

 

 「ありがとう、皆がこんなに祝ってくれて本当に嬉しく思う。

 9月にスターヴェーク王国を取り戻して以来の、喜びだ。

 改めて報告させて貰うが、今現在建築中(背後を指さして)のアスガルド城が来月落成して、来年の1月1日に正式に『人類銀河帝国』が成立すると同時に、私とアランの結婚式が執り行われ、その時スターヴェーク王国はある意味無くなってしまうが、皆悲しまないで欲しい!

 何故なら、スターヴェーク王国は此れより誕生する『人類銀河帝国』の大いなる基礎にして基盤となるのだ、この事実を皆は、誇りを抱いて帝国民としての自負を持って生きて貰いたい!

 私とアランは、その誇りを抱けるに相応しい国家を目指し、日々努力するつもりだ。

 皆、どうかこれからも宜しく頼む!」

 

 と頭を下げながら仰られたので、この場にいる全員が、深々と頭を下げて、

 

 「「「「「とんでも御座いません、『人類銀河帝国』に栄光有れ!!!」」」」」

 

 と一斉に唱和して、そのまま乾杯する流れになってみんなで、シャンパンと云う飲み物を飲んだんだ!

 このシャンパンって美味しい!

 私や親友達とエラちゃんは、ノンアルコールのジュースみたいな物を飲んだんだけど、シュワシュワして面白い飲み心地!

 エラちゃんも7歳になったから、私達と同じ飲み物や食べ物を摂れるし、随分大人びてきて、最近ではスカートの良く似合う可愛い女の子になってきたし、母ちゃんの高級服部門の女の子専用のモデルになってるから、同世代では一番の有名人なんじゃないかな?

 

 女子会パーティーの最中、私とエラちゃんが同時にクレリア様に呼ばれて、改めてお祝いを述べて促された席に着席したら、クレリア様が、

 

 「呼び出したのは他でもない、カレンとエラには私とアランの結婚式の際に、私のウエディングドレスのロングトレーン(引き裾)の裾の先を持つ小姓として参加して貰いたいんだ。

 肝心のウエディングドレスもカレンの母親に発注している事だし、お願いしたいんだ」

 

 とお頼みされたから、私とエラちゃんは顔を見合わせて、私が、

 

 「・・・ロングトレーン(引き裾)の裾の先を持つ小姓って、何をするのか良く判らないけど、私はクレリア様の為なら出来る限り頑張ります!」

 

 と答えると、エラちゃんも、

 

 「当然私も、引き受けます!

 私は、アラン様をアニキと呼ばせて頂いた幼い頃からの恩義を絶対に忘れないから、どんな事でもします!」

 

 と私よりも、しっかりと受け答えしている。

 流石、同世代の神童と呼ばれてるエラちゃんだわ。

 みんなから将来の、宮廷女官長間違いなしと言われてる所以ね。

 私ももうちょっと、礼儀作法を学ぼうかな。

 



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閑話55『カレンちゃん日記」㉖(カレンちゃん、私、華族になってた)

 12月20日(2年目)

 

 今日、量産型ボットが沢山働いて現在30有るドーム群の中心の、スゴく立派なドームに、帝都コリントの中心になる『アスガルド城』が出来上がったの。

 見上げると、高さは200メートルは有りそうで、敷地面積はまだ建設中の場所も有るからよく判んない(華族用の邸宅も有るから、境目がわかんない)。

 

 一杯居るボットさんの中でも、『ハイ・ボット』と呼ばれるボットさんに連れられて、皇妃宮に案内して貰う為にアスガルド城内を移動してたら、その途上で驚いちゃったの!

 吹き抜けの空間を通って行くんだけど、廊下の壁も継ぎ目が見えない綺麗な通路を通ってる最中、多くの偉い人達が落成式に参加してたんだけど、お年寄りの人達用の場所が有って、そこでは何故か私の爺ちゃん婆ちゃん達が着飾って、お偉い華族のお年寄りの方々と、親しそうに歓談してたの。

 

 「お爺ちゃんお婆ちゃん達、どうしてここに居るの?」

 

 て聞いてみたら、

 

 「どうしてって、儂等も宮内庁長官のロベルト長官から呼ばれた、華族の親族じゃからな」

 

 て答えたので、

 

 「え、どうしてお爺ちゃんお婆ちゃん達が、華族の親族なの?」

 

 と不思議に思って聞いたら、

 

 「ロベルト長官に確認したら、今の処ケニー坊は”名誉男爵”に該当するんじゃと、今後昇進すればもっと上がるらしいんじゃが、取り敢えず私らは男爵相当の華族待遇になるんじゃよ!

 それに、カレン達も特別待遇で”名誉士爵”に当たるから、個人としても華族となるんじゃ!

 偉いもんじゃな!」

 

 と笑いながら、頭を撫でて来たので、嬉しいというより混乱しちゃって、複雑な気分になっちゃったよ。

 

 この後、ハイ・ボットに案内されてクレリア様の居られる皇妃宮に向かってたら、途中でテオ君とエラちゃんと合流して一緒に行くことになったの。

 2人共、何時もと違いスゴく着飾っていて、立派な護衛従士と小さな女官みたい。

 

 「スゴく似合ってる、将来は立派な護衛騎士と綺麗な女官長だね!」

 

 と褒めたら、2人ともはにかんで顔が紅くなってる可愛い、

 

 「カレン姉さまも凄く綺麗、誰が見ても可愛い華族のお嬢様ですよ!」

 

 とエラちゃんが褒めてくれたんだ。

 自分としては、もっと動き易そうな服を着て来たかったんだけど、母ちゃんが朝から何度もコーディネートして、結構フワフワしたスカート(フレアスカートって云うんだって)を着せられてるから、あまり早く動けないから不便なんだよね。

 

 そうこうしてる内に、クレリア様の居られる皇妃宮に着いたら、周りは綺麗な華族のお姫様やお嬢様だらけだし、普段は武装している親衛隊の女性達も、剣は腰に挿してるけど儀典用の綺麗な服装をしてる、やっぱり今日は午前中に式典が有ったばかりだから、そのままなんだろうね。

 やっとクレリア様に会うことが出来ると、エレナ親衛隊長に知らされたから案内して貰ったら、周りの華族の女性達より、一段と光り輝く様なオーラを放つクレリア様が居られたんで、予め練習していた皇族に対しての礼儀作法で挨拶を頑張ってしたの。

 どうやら、そんなに間違っていなかったらしくて、場の雰囲気を壊さないで出来たみたいだけど、クレリア様や近くに居た女子会のメンバーは、クスクスと含み笑いしながら、「そんなに畏まる事無いのよ」と教えてくれたんだけど、

 

 「両祖父母から聞きましたが、私いつの間にか華族だったらしいので、これくらいは出来ないと笑われちゃいますよ!」

 

 とクレリア様に申告しちゃったら、

 

 「・・・嗚呼、成る程そう云う事だったのか。

 其れは済まなかった、正式には来年1月1日の『人類銀河帝国』が誕生した瞬間に確定する事になるけど、実際な処既に身分登録の作業は済んでいて、カレン、そなたは”名誉士爵”となっていて華族特権の幾つかを行使する事が出来る。

 具体的には、アスガルド城レベル1までの自由往来、『ルンテンブルク館』での自由往来等が出来るから、立派な華族と云って良くて、更にカレンは女子会メンバーとしての顔が有るから、我が皇妃宮への往来も自由だ!」

 

 と仰られたから、周りの女子会メンバー以外の女性達がざわつき始めちゃった。

 実は私も最近知ったんだけど、クレリア様主催の女子会は、華族の女性達にとって、一つのステータスなんだって!

 それもそうかも知れないなー、女子会メンバーは准メンバー(私の親友達タラちゃん、テルちゃん他)含めても30人に届かないし、何と云っても女子会メンバーだと、時々アラン様の創作オリジナル料理やスイーツ、そして趣味の釣り等に参加出来るから、これってスゴイ特権だよねー。

 

 クレリア様とはその後、来年1月1日の細かい打ち合わせをして、あまり他の人との面談に邪魔になると思ったから、早々に切り上げて貰えたから、帰ろうとしたら大勢の華族のお姫様やお嬢様に取り囲まれて、各々とカードの登録をし合って、今後の交友を考えて欲しいとお願いされちゃった。

 うーん、私はにわか華族だから礼儀がなって無くて、交友関係になるとご迷惑を掛けますよ、と言ったんだけど、「全然構わないから今後都合の良い時に、色々とお話しましょうね!」と言われたので、拒否するのは失礼だと思ったから、諸々の諸行事が終わって都合の良い時に、お会いしましょうと、約束したらとても喜んでくれたの。

 華族なのに同世代だからか、友達と会話してるのと変わんなかったから、結構楽しみになっちゃった。

 



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閑話56『カレンちゃん日記」㉗(カレンちゃん、御成婚式とシルバー華族のサロン会に立ち会う)

 1月1日(コリント朝元年)

 

 前日から皇妃宮でリハーサルって云う、事前練習を繰り返したり、自分の服装での歩き方を練習してたらすっかり遅くなっちゃって、そのまま皇妃宮の客室の一つにエラちゃんと一緒に泊めさせて頂いたの。

 その夜は、エラちゃんと一緒に盛り上がって、中々寝付けなくて夜更かししちゃったよ。

 

 早朝、エルナさんが起こしに来てくれたから、寝坊しなくて済んだけど、寝不足にならずにサッと起きれて行動出来たのは、やっぱり『ナノム玉』のお陰だろうね、本当に精霊の守護は偉大だなあ。

 

 式典が始まって、私の最初の任務はアラン様のマントのドレープ(裾)が下に着かない様に、一緒に進む事!

 正装したテオ君とエラちゃん、そして私とケットシー128世が小姓なの。

 身長が違うから歩幅がバラバラなんだけど、リハーサルを十分してたから、誰も躓かなくて成功!

 

 そして、アラン様とクレリア様がお色直しに控え室に向かわれ、私の次の任務はクレリア様のウエディングドレスのロングトレーン(引き裾)の、裾の先を持って付いていく役目。

 

 アラン様のマントのドレープ(裾)は、若干重さが有ったけど、クレリア様のウエディングドレスのロングトレーン(引き裾)は、少しも重さを感じないから、逆に私は本当に何か持ってるのかな?と不安になるんだよね。

 

 無事、御成婚式が終わろうとする最後の、ゲルトナー枢機卿の宣言が行われた瞬間、スゴイ事が起こったの!

 使徒『イザーク』様が降臨されて、私達全員に柔らかな光りを注がれて、御成婚式を祝福されたんだよ!

 その場に居た全員が、一斉に跪いて『イザーク』様を拝んでいたんだけど、私の近くに居た足の状態が悪いから椅子に座ったままだった、元スターヴェーク王国の貴族で、今日から帝国の男爵位の華族になった老婦人が突然立ち上がって、喜び始めたの。

 

 「良かったですね。

 きっと『女神ルミナス』様が、日頃の信心を認めて使徒『イザーク』様を遣わして、足を治してくださったんですね!」

 

 と言って上げたら、大粒の涙を流して去って行かれる使徒『イザーク』様に向かって、何度も感謝してる。

 本当に『女神ルミナス』様は、天から私達を見守ってくれてるんだね。

 

 御成婚式が終わって、アラン様とクレリア様が控え室に向かうから、そのまま付いて行ってクレリア様がお着替えしている間のお話相手をしたんだよ。

 クレリア様も、緊張が解けてホッとしてるみたいで、気楽そうに話されてるけど、やっぱり先程の使徒『イザーク』様の降臨には、とても驚いたんだって。

 当たり前だよね!

 そりゃあ今までも、アラン様達を救う為や元セシリオ王国の避難民を救う為に使徒『イザーク』様は、現れておられたけど、今回は別に戦争中じゃないし、誰も困ってる訳じゃないからね。

 

 「きっと『女神ルミナス』様は、クレリア様とアラン様の今までの正しい行いへの、ご褒美に使徒『イザーク』様をお遣わしになって、周りにいた方々にも祝福の光りを与えて下さったんですよ!」

 

 と近くに居た、華族の老婦人の話をしてさしあげたら、

 

 「本当にそうかも知れないわね。

 『ベルタ公アマド殿下』も実際に足が治られた様だし、他の人々も怪我や病気が治ったと云う報告が、アランにも来たらしいから、私達への『女神ルミナス』様のご褒美かもね」

 

 と微笑みながら言われたので、周りにいる女官やスタイリストの女性も私と一緒に賛同してくれた。

 今日は、ここで家に帰る事になったんだけど、家に着いたら友達に質問攻めにあい、とても疲れちゃったんで、夕食を食べてお風呂に入ってたらそのまま寝ちゃったらしくて、この日記も実は翌日に書いてるの。

 

 1月11日(コリント朝元年)

 

 今日は、爺ちゃん婆ちゃん達と一緒に、お馬さんが放牧されてるドームに向かったの、

 何でも車両や魔導列車が、移動手段の主流に成ってきて、お馬さんの仕事が激減してるから、不要になったお馬さんを帝国は片っ端から買い上げて、このドームで放牧させて馬乳等を提供して貰ってるんだって。

 でもそれだけじゃあ勿体ないから、今回起ち上げる『シルバー華族のサロン会』で運用させる事になるんだって。

 具体的には、例の使徒『イザーク』様の祝福の光りのお陰で足が治った人達の、リハビリも兼ねて馬術クラブとしても機能させるそうよ。

 私も協力して、前に交友を申し込まれた華族のお嬢さんに声をかけて、華族のお嬢さんの祖父母さん達に参加して貰う事にしてたの。

 その伝手で、大勢の華族の老人が参加してくれたから、今日起ち上げる『シルバー華族のサロン会』は最初から100人のメンバーでスタートするの。

 

 馬術用のお馬さんは、予め馬用の『ナノム玉』を服用させてたから、スゴく従順で華族のおじいさんおばあさんも気に入ってくれて、『シルバー華族のサロン会』起ち上げは大成功!

 代表は宮内庁長官のロベルト長官なんだけど、あくまでも肩書だけで、実際は私の爺ちゃん婆ちゃん達が運営するんだって、先日までただの平民のおじいさんとおばあさんだったのに、なんて行動力なんだろうね。

 普通は尻込みしそうなのに、率先してやりたがるって、パワフル過ぎるよ!

 



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閑話57『カレンちゃん日記」㉘(カレンちゃん、5匹の子猫と出会う)

 1月15日(コリント朝元年)

 

 今日は兄ちゃんとミーシャさん、そして兄ちゃんの親友のハリーさんと同僚のハーマイオニーさん、剣王シュバルツさんと行きつけの飲み屋のウエイトレスだったターニャさん、ミツルギさんと剣王オウカさん他、約30名が挙式するんだよ、然もヨハネ教皇猊下とゲルトナー枢機卿が主催してくれる上に、アラン様とクレリア姫様始め帝国の上層部が、短時間とは云え臨席して下さるんだって、スゴイよね。

 

 ヨハネ教皇猊下が聖句を唱えてくれて、ゲルトナー枢機卿の牧師席の前に順番に並んで行ってそれぞれの誓約を2人ずつで誓ってる。

 それをゲルトナー枢機卿が承認して行って、最後にアラン様とクレリア姫様が祝辞を言ってくれてる。

 儀式は終わり、自分と親友達の合同披露宴を1フロアを借り切ったホテルで盛大に行うことになってて、家族や友人更にはそれぞれの職場の同僚の人たちも参加してくれたよ。

 ミーシャさん始めお嫁さんになる人達はみんな綺麗で、参列した人たちからスゴく賛美されてたよ。

 

 合同披露宴では、父ちゃんと相棒のドップさんそして何故か居るホシさんとジョナサンさんが、悪ノリして水を兄ちゃんと新郎の人たちにを掛けまくったので、兄ちゃん達全員が豪雨にあったみたいにずぶ濡れでになっちゃった。

 

 母ちゃんそしてお爺ちゃんとお婆ちゃん達が、水を掛けまくった父ちゃん達をこっぴどく怒って、それぞれのお嫁さん達が旦那を連れてホテルのそれぞれの一室に向かったら、直ぐに怒るのを止めて、みんなでハイタッチしてる。

 よく判らなかったから、母ちゃんに聞いたら、実はワザと水を掛けさせて嫁に介抱させる形で、追い出して2人で仲良くさせてやったんだって。

 ちょっと意味が判らなかったけど、兄ちゃんとミーシャさんが仲良くなるのは大賛成だから、良いことなんだよね?

 てお婆ちゃん達に聞いたら、「何時か、カレンにも判るよ!」と言われちゃった、大人の世界はまだまだ謎だよ。

 

 2月1日(コリント朝元年)

 

 アラン様とクレリア様の御成婚から丁度1ヶ月後の今日、『ベルタ公アマド殿下』と魔法大臣マーリン殿の孫娘にして魔法大学教授に就任されたヒルダさんの結婚式が行われたの。

 アマド殿下は、例の使徒『イザーク』様の祝福の光りのお陰で、足が治られてから頻繁にヒルダさんとお出かけになっていて、よくデパートにお出かけになってるらしくて、みんなお似合いだって言ってたし、結婚は近いと言われてたけど、こんなに早かったのは、ヨハネ教皇がそろそろルミナス教本拠である『パルテノン市国』に帰られるから、今の内にって事なんだって。

 でも、そんな裏事情なんて関係無くアマド殿下とヒルダさんは幸せそうで、アマド殿下は羽目を外しヒルダさんを抱きかかえてクルクルと回られたんだよ。

 本当に嬉しそうだったのが印象的だったなあ。

 

 2月22日(コリント朝元年)

 

 今日は、私の大切な友達の『ケッちゃん』と『マドンナ』さんの赤ちゃん5匹を見せて貰ったんだよ。

 丁度この日は、『ケッちゃん』と『マドンナ』さんの結婚1周年だったから、クレリア様始め女子会メンバーと准メンバーの私の親友たち、そして帝都コリントに居住してる、猫の王国代表の猫さん達も参加してのパーティーとなったんだ。

 場所は、アスガルド城の至近距離にある『ルンテンブルク館』の一画にある『ケッちゃん』の邸宅。

 子猫達は去年の10月末辺りに生まれてたんだけど、幼い間は『マドンナ』さんが徹底的に保護していて、今日まで他の人に会わせないようにしてたんだって。

 そして満を持して公開されたんだけど、可愛いーーーーーー!

 5匹共に、額に五芒星の形の青いマークが有って、非常に特徴的で物凄く子猫なのに理知的な顔付きで可愛過ぎるううう!

 女子会メンバーと准メンバーも、子猫達にメロメロで、みんなで取り合いになっちゃったけど、マドンナさんは全然動じないで、子猫の好きにさせてる、余っ程自信があるのか、ケッちゃんとクレリア様の前で寛いでる。

 暫くの争奪戦が終わって、子猫達のミルクタイムになり、用意された食器のミルクを綺麗に飲んでる姿は、どこか気品があって、育ちの良さが判るなあ。

 女子会のメンバーの幾人かから、是非ある程度大きくなったら、パートナーとして欲しいとケッちゃんとマドンナさんに申し込みされてたけど、ケッちゃんがある事情が有って、渡せないと言われたから、申し込んだメンバーは結構落ち込んでたけど、パーティーに出席してる他の猫さん達が、貰い手を望んでいる子猫がそれなりに居るので、パーティーが終わったら、是非猫の保養施設に一緒に行って選ぶのは如何ですかって、提案されてスゴく嬉しそう、きっと良い出会いがあるよね。

 

 ただ、ケッちゃんとマドンナさんは、そのメンバー達と一緒に行こうとした、クレリア様とミーシャ義姉には、やんわりと行く必要が無いですよって言われてたんだ、どういう意味なんだろうね?

 



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閑話58「ガトル親父の雑記」⑯(親父、『陸上空母』(アイン)を就役させる)

 11月20日(2年目)

 

 とうとう『陸上空母』(アイン)が就航した、続けて2隻も来週に就役する予定で有る。

 この『陸上空母』の概要は、

 

 全長・・・・・180メートル

 

 全高・・・・・40メートル

 

 全幅・・・・・120メートル

 

 動力炉・・・・・『魔力凝縮炉』1基

 

 主砲・・・・・30センチ砲2門

 

 パルス魔導速射砲・・・・・両側舷側合計30門

 

 最大積載機数・・・・・ワイバーン40頭、ドラゴン5頭、ヘリコプター20機、戦闘車両50両

 

 対地浮揚能力・・・・・常時2メートル(最大瞬間浮揚30メートル)

 

 巡航速度・・・・・30ノット(最大巡航速度50ノット)

 

 といった具合だ。

 ドレイク殿は、今回の『陸上空母』の出来上がりを見て、いよいよ自分自身の夢描く最高傑作に挑むそうだ。

 俺も色々なアイデアが有るから、協力するつもりだぜ。

 

 12月3日(2年目)

 

 来年1月1日に誕生する、『人類銀河帝国』が発足するに当たり、俺やドレイク殿と相棒のドップ達は、あまりにも活動範囲が広すぎるんで、アラン様特別預かりの『何でも屋』と云う、色々な省庁と切り離している、特別部局とやらになっちまった。

 

 12月20日(2年目)

 

 アスガルド城の落成式に呼ばれたんだが、凄え城で圧倒されちまったぜ!

 高さは200メートルは有り、敷地面積はまだ建設中の場所も有るから、まだ完成してはいねえんだから、取り敢えずの落成式だそうだぜ。

 『ハイ・ボット』っていうボットでもより人間に近い連中が、酒等を丁寧に給仕してくれたが、俺は結構無骨な8ちゃんが長い付き合いも有るから、ドップと同じくらい信頼しているし、港湾施設や造船工場で四六時中働いてくれてる量産型ボットの『汎用・ボット』が、使い勝手が良くてお気に入りだ。

 アラン様から、俺たち『何でも屋』の為に『汎用・ボット』と『ヘビー・ボット』を500体ずつ預かってるから、かなり無茶な要求もコイツラが居れば大抵叶うから重宝してるぜ。

 

 1月1日(コリント朝元年)

 

 今日から『人類銀河帝国』が始まるってんで、俺もアスガルド城の式典に参加しちまった。

 然も俺は知らない内に、華族って奴になっちまってた。

 実は去年の12月の段階で俺は、”名誉子爵”とやらで、結構凄え立場らしいが別に華族としての特権なんざどうでも良いぜ。

 そんな事より、俺は人類銀河帝国皇帝で有られるアラン様と結構な頻度で、面と向かって技術開発の話をしたり、時々例のむさ苦しいホシとジョナサン、そしてアルムおんじとドレイク殿と一緒に場末の居酒屋で、飲み明かしている事の方が、どんな華族よりも凄え特権の様な気がするぜ。

 正直アラン様も、帝国の華族や他国のお偉い王族と貴族達とのパーティーや、サロンに参加されるより、寛がれてるのが判るんで、俺たちもなるべく敬語なんて七面倒臭い話し方はせずに、ざっくばらんと対応してるから、結構アラン様も本音を喋ってくれて、クレリア様との馴れ初めなんかも聞いちまって、他言無用の秘密を抱え込んじまった。

 だけど本日、漸くそのクレリア様と御成婚する運びになったんだ、敢えて失礼を承知で書かせて貰うが、物凄え天才だが色恋には不慣れな俺たちの若い仲間が、頑張って可愛い嫁さんを貰って一つの家族を背負おうと、必死に努力してる姿は、あまり泣いた覚えの無い俺も涙ぐんじまったぜ。

 御成婚式が終わろうとした瞬間には、使徒の『イザーク』様も降臨されて祝福の光りなんて、大層なもんをプレゼントされてたが、俺は当然だと思ったぜ。

 アラン様は、歴史上のどんな英雄よりも頑張り、努力されて今の帝国を無から作り出し、これからも人の為に尽くして行く覚悟が有るんだ。

 『ルミナス神』様も、それが良く判ってるから、使徒の『イザーク』様を遣わされたんだろうな。

 

 1月15日日(コリント朝元年)

 

 俺の息子のケニーの奴が、漸く覚悟を決めてミーシャの嬢ちゃんと結婚した。

 合同結婚式と云う形で、大勢の友人達と一緒に結婚をしたんだが、どいつもこいつも幸せそうな顔をしてやがるから、家族全員で盛大に祝ってやった。

 披露宴で計画通りに水を掛けて、会場から追い出してやり、しこたまに酒を飲ませて貰い、家路についてカレンを寝かしつけてから、俺は自分の女房のマゼラとしんみりと過去の思い出を語り合った。

 

 「・・・マゼラ、俺とお前の結婚なんざ、式とも呼べねえ貧相極まりねえ代物だったが、父母達と職人仲間が本当に心から祝ってくれて、俺は凄え幸せに感じてた。

 今日の息子の結婚も其れに負けず劣らずだったし、色んな人が本当に祝ってくれてるのも判ったし、アラン様とクレリア様達まで祝ってくれた。

 息子は幸せ者だよなあ」

 

 と言ってやったら、

 

 「・・・そうね、ガトル、貴方と結婚して、色んな事があったけど、ケニーとカレンと云う素晴らしい子供を授かったのは、本当に『ルミナス神』様に感謝するわ。

 そして一つの区切りとして、ケニーは私達と同じ様に一つの家族を作ろうとしてる。

 きっと、ミーシャさんとなら暖かい家族を作れる筈よ。

 私達の家族としてのこれからの仕事は、少し離れた所でケニー達を見守り、正しい道を進むようにアドバイスする事ね」

 

 と答えてくれた。

 嗚呼、全くその通りだと思い、女房に向かい深く頷いてやった。

 



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閑話59「ガトル親父の雑記」⑰(親父、帝国軍総旗艦、陸上戦艦『ビスマルク』を就役させる)

 1月20日日(コリント朝元年)

 

 大陸の西端に有る『魔法大国マージナル』から、それ自体がアーティファクトである『飛空船』に乗って賢聖『モーガン』殿がやって来られたと云うので、俺とドレイク殿は早速『飛空船』を見させて貰ったぜ。

 

 『空軍ドーム』に有る発着スペースで見せて貰ったんだが、搭乗最大人数は300人を誇り、時速500キロメートルで進む事が出来るそうだが、幾つかの機能が経年劣化で使用不可らしい。

 

 然も俺等が見たかった動力炉と武装に関しては、見せて貰えなかった。

 だがよ、舐めて貰っちゃ困るぜ。

 此方には、天才ドレイク殿と高センサー機能を備える8ちゃんが居るんだぜ!見学しながら目で2人に「把握出来たか?」と聞いたら、「バッチリだぜ!」とアイコンタクトで答えてくれたから、早々に見学を切り上げて、工場に帰還して、早速8ちゃんのスキャナーで取り込んだ『飛空船』の内部構造を確認した。

 かなりの部分を理解出来たが、幾つかの高度な魔法技術が判らなかった。

 だが、ドレイク殿は今は完全には理解出来ないが、遠くない未来に解明出来ると鼻息荒く俺に確約してくれた。

 流石だぜ、だが俺も『飛空船』を見れたお陰で、色んなアイデアが溢れてくるぜ、絶対に今後の開発に役立つだろう。

 

 2月25日(コリント朝元年)

 

 ハインツ達が、主軸になってセリーナ殿とシャロン殿専用の新型戦闘バイクが出来上がったぜ。

 双方の新型戦闘バイクは、双方共にホバークラフト走行をする代物で、従来の2輪走行とはそもそも根本思想から隔絶しており、既に戦闘バイクどころか車両と言って良いのか判らない程の新しい戦闘マシーンと云うべきだろうな。

 セリーナ殿専用の新戦闘バイクは『ディアブロ号』と云う。

 独自の武装として、前面左右にあるドリルバイクと同じアダマンタイト製のドリル2つと、バイク両翼に有る丸鋸が、高速回転する事で絶大な近距離戦を展開できる。

 更にセリーナ殿の持つ俺の作った、『冷艶鋸改』との相性は抜群で、連携した攻性防壁魔法を展開すれば、一軍を単騎で駆逐出来るだろうぜ。

 

 シャロン殿専用の新戦闘バイクは『ジャッジメント号』と云う。

 独自の武装として、その鳥にも似た両翼に4門ずつの銃口が有り、シャロン准将の搭乗席にも2門の銃口が有る。

 その銃口からはパルス魔法弾が連射出来て、魔力が有る限り殆ど無限に発射する事が出来る。

 両翼には、バズーカ砲も4門ずつ取り付けられていて、各種魔法弾を発射し、面攻撃も可能だ。

 更にシャロン殿の持つ俺の作った、『神虎』と組み合わせると、攻防一体の機体となり中距離での殲滅能力が凄まじい。

 正直、良くぞこんな化け物みてえな機体を作成したもんだ、呆れちまうぜ。

 ハインツ達が、早速セリーナ殿とシャロン殿に連絡を入れると、軍務も有るだろうに直ぐに来てくれて、熱心にハインツ達の説明を聞いて、試乗する事になった。

 ハインツ達の工場裏の、練習スペースで試乗されていたが、非常に満足したみてえで、軍事ブロックに乗ったまま持って行っちまった。

 慌ててハインツ達も、オプション武装や予備の武装を積んだトレーラーで後を追っかけて行っちまった。

 余っ程嬉しかったんだろうな、俺も気に入った武器や金属そして技術を見せられたら、きっと夢中になっちまうだろうから、その気持は本当によく判るぜ。

 

 2月28日(コリント朝元年)

 

 あれから、『飛空船』のアイデアやドレイク殿の新機軸のアイデアを盛り込んだ、アラン様の皇帝座乗艦となる。

 帝国軍総旗艦、陸上戦艦『ビスマルク』がその堂々たる姿を一般公開したぜ。

 

 この陸上戦艦『ビスマルク』の概要は、

 

 全長・・・・・300メートル

 

 全高・・・・・50メートル

 

 全幅・・・・・150メートル

 

 動力炉・・・・・『魔力凝縮炉』4基

 

 主砲・・・・・46センチ砲4門

 

 パルス魔導速射砲・・・・・両側舷側合計50門

 

 最大積載機数・・・・・ドラゴン5頭、ヘリコプター30機、戦闘車両20両

 

 対地浮揚能力・・・・・常時2メートル(最大瞬間浮揚50メートル)

 

 巡航速度・・・・・40ノット(最大巡航速度70ノット)

 

 船首ドリル・・・・・直径30メートル

 

 最強武装・・・・・『カイザー砲』、実際の処まだ完成していない武装で、『魔力凝縮炉』4基を並列起動する事で、山程度であれば簡単に吹き飛ばせる。

 

 現在、考えられる限りの技術を注ぎ込んだドレイク殿と俺達の、最高傑作だぜ。

 アラン様と軍の上層部が見に来てくれて、俺とドレイク殿が得意満面で各機能等を説明し、早速港湾施設から出て、試乗された。

 アラン様は以前の陸上空母(アイン)の時も絶賛されたが、やはりご自身の乗る事になる、皇帝座乗艦ともなると、感慨深いみたいで、まるで子供が初めての玩具を親から貰ったみたいに、目を輝かせてアラン様自らが、運転用の舵輪を持たれて、自由自在に運転なされた。

 運転を終えられると、ドレイク殿と俺の手を取られて力強く握ってこられた。

 相変わらず、俺の無骨な手より華奢なのに、握力だけで人を殺せそうな圧倒的な力強さだ。

 俺たちが居る港湾施設の力自慢共も、酒の飲み会の余興でやってた腕相撲でも、アラン様はその優勝者の挑戦にアッサリとOKされ、人差し指と中指の2本だけで勝っちまった事があるから、一癖も二癖もある港湾施設従業員も、誰一人アラン様を侮る奴はいねえ。

 つまりアラン様はそのカリスマだけで無く、問答無用の力だけで荒くれ者どもを只の力だけで、有無を言わさない事が出来るんだよ、つくづく凄え御人だぜ!

 



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閑話60「ガトル親父の雑記」⑱(親父、最新技術を学ぶ)

 3月10日(コリント朝元年)

 

 陸上戦艦『ビスマルク』をダウンサイジングした巡洋艦2隻を建造中、アラン様から更に小回りが効く艦船の建造を指示されて、駆逐艦とフリゲート艦を建造する事になった。

 俺たちの弟子や従業員たちは、これまでの艦船の建造の経験を積んだお陰で、独自に建造出来る程に技術が上がったので任せる事にして、俺達とドレイク殿は例の『飛空船』から得られた技術や、思いついたアイデアの開発を進めることにしたぜ。

 

 3月20日(コリント朝元年)

 

 新しい技術の開発と、『飛空船』の眠っていた武装技術の再現に成功した。

 しかし、このグラビトン(重力子)という技術と、龍脈(レイ・ライン)ダイレクト・リンクと云う技術はとんでもねえ代物だ。

 今までの魔導技術を根底から覆し兼ねねえぜ。

 この技術を活かした新たな艦船を今後建造する為に、新たなドッグを建設する許可をマジノ線に向かい行軍中の、アラン様に力説しようとしたら、アラン様は予定していた以上のドッグを2倍以上の規模で建設する様に命令された。

 アラン様は、何かの予感が有るのか、かなり深刻な様子で仰られておられる。

 アラン様が此れほど険しい顔をされているのは、モニターで見せて貰った例の『ザッハーク』以来だぜ。

 今回戦うスラブ連邦とやらは、最初から不気味だとは思っていたが、どうやら想定以上のヤバい敵なようだな。

 俺は、アラン様の言われた通りに2倍以上の規模のドッグ建設を、港湾施設管理の奴等に指示し、早速取り掛からせた。

 

 4月1日(コリント朝元年)

 

 俺とドップそしてドレイク殿とハインツ達は、8ちゃんが特別に見せてくれる、軍用の戦況放送を見せて貰った。

 

 《こっ、これは?!》

 

 思わずゴクリとツバを飲み込んで、その放送を固唾を呑んで見てると、悪夢を見ている様な化け物が画面一杯に映っている!

 8ちゃんがワザワザ、神話に記述の有る化け物の概要を示してくれた。

 

 『テュポン』・・・・・古神『エキドナ』より生まれし、肩に100の蛇の頭を持つ邪神、小神や従属神では勝てず、俗説では『女神ルミナス神』の夫にして最強の戦神である、『武神アラミス』が滅ぼしたとされる。

 

 この情報が真実なら、とてもではねえが人が対抗出来る相手じゃねえ!

 その思いを肯定する様に、『テュポン』の肩に生えてる100の蛇の頭の口から光線が、とんでもねえ距離から放たれた!

 次の瞬間、俺たちの労作で有る、ヘリコプターの大半が爆散し、ワイバーン達も多くが傷付いちまった!

 

 「・・・う、嘘だろ・・・」

 

 とドップの奴はうめき声を上げ、ドレイク殿は目を血走らせ、ハインツ達は歯をカチカチと鳴らせてやがる。

 俺は、この時は気づかなかったが、後で顔を洗って見たら、どうやらあまりにも強く握り拳を作ったらしく、血の跡がくっきりと手の平に残ってやがった。(傷は『ナノム玉』のお陰で治ってたらしいが)

 

 ヘリコプターとワイバーン達には、そのサイズに見合うだけの、防衛手段を講じてたが、まるでその処置は無駄であると言わんばかりに、容易に壊しちまった!

 俺たち技術者の努力を嘲笑う様な攻撃は、ショックだったぜ。

 その直後の極太の光線も、アラン様の適切な指示で、息子の騎竜ガイ達ドラゴン部隊が全力で防衛してくれたから、何とかなったがそんなに保つか判らねえ。

 

 そうしたら、賢聖『モーガン』殿が魔法技術を注ぎ込んで作り上げた、『機龍(ドラグーン)』モードに武装したグローリア殿がビスマルクの後部飛行甲板にせり上がってきた。

 すると、8ちゃんが見せてくれているモニターに有る端のテキスト画面に、

 

 「・・・龍脈(レイ・ライン)へのリンクを確立・・・龍脈遠隔操縦(レイ・ラインダイレクトリンク)プログラム始動・・・対《邪神》迎撃プログラムの限定解除を"武神アラミス"へ要請・・・・・認証中・・・認可成功・・・武装タイプ選択・・・標準(スタンダード)モデル・・・名称『機龍(ドラグーン)』モード・・・対象『グローリア』への武装換装開始・・・換装中・・・・・・換装終了・・・グローリア後部甲板にて出撃準備・・・」

 

 と云う文字列が並んでいる。

 

 おお、これから龍脈(レイ・ライン)ダイレクト・リンクの技術を使った戦闘が見れるのか!

 と感動しながら見てると、その戦闘力の凄まじいレベルは、想定しているレベルを優に越えてやがる。

 特に、『ゼウス(雷神)の裁き』、『ウラヌス(天空神)の怒り』は今までの魔力量では、とても無理な魔法構成だ。

 これは、龍脈(レイ・ライン)からの常時魔力供給が為せる技だろうな。

 この技術は必ず今後の艦船に役立てる事が出来るだろう。

 そんな事を考えていると、『テュポン』を見事にグローリア殿とガイ達ドラゴンが滅ぼしてくれてた。

 全く凄い技術だぜ!

 つまり如何に《邪神》であっても、技術力で克服出来る事が実証出来た訳だ。

 よーし、俺達技術者の面目躍如だ。

 最新の技術を活かした艦船を建造して見せるぜ!

 



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閑話61「ガトル親父の雑記」⑲(親父、超高性能ドローンを見せられる)

 4月5日(コリント朝元年)

 

 アラン様と連絡を重ねて来た結果、ビスマルクを越える大きさの艦船を作る事になった。

 具体的には、攻撃力と防御力に特化しビスマルクが『カイザー砲』を発射する時に、一時的に防御力が減衰するのを強力なバリアーで肩代わり出来、更にその大火力で敵を近付けない事が出来る艦船だ。

 この要望を満たす為に、図面を描きながらドレイク殿と相談し合い、完成予定図をアラン様に8ちゃん経由で送ったら、レーダー(探知魔法)と高度連絡網の強化を図る様に注文されたので、改良版を早速送り直すと、許可されたのでドッグに建造開始の旨を伝えて、もう一つの艦船の図面に取り掛かったぜ。

 

 4月8日(コリント朝元年)

 

 もう一つの艦船である超巨大陸上空母の図面が完成し、アラン様に送ると直ぐに許可が下りたので、こいつも本日のうちにドッグに指示し建造開始する事になった。

 こいつは、今までの艦船と桁が違う大きさで、全長700メートルを越える代物になる予定だ。

 

 4月25日(コリント朝元年)

 

 急遽アラン様が、帝都コリントに帰って来られ、『何でも屋』のメンバーを招集して、様々な指示を出された。

 前回の『テュポン』との戦闘で破壊されてしまった、ヘリコプターは戦闘に向かないという事で、無人で運用出来る飛行する魔道具を作成して貰いたいと依頼された。

 そんな魔道具を作るのには、かなりの技術問題が有るので簡単には出来ないと、率直に言ってみたらアラン様から凄え魔道具の設計図を渡された。

 

 《こっ、これは?!》

 

 と俺とドップは驚愕しながら設計図を穴が開く程凝視した。

 

 偵察用ドローン DR-3020 82機 全長15m、全幅10m、全高4m

 

 水素ラムジェットエンジンもしくはプロペラにより飛行可能。

 

 ジェットノズルは可動式の垂直離着陸機。太陽光により充電、水素は大気中から補給可能。

 

 緊急時には人を数人なら乗せることが可能。

 

 光学迷彩(隠蔽機能)、フレキシブルアーム(自在腕)等を装備

 

 独立起動(スタンドアローン)が出来て、航続距離も大陸を越えてこの星全てをフォロー。

 

 他諸々の能力を披露されて、俺は目眩を覚え、ひっくり返っちまったぜ。

 これだけの凄まじい能力で、何と実物があるらしい!

 アラン様に拝み倒して、現物を見せてもらった!

 凄えええええええーーーーーーー!

 音も無く地面に降り立ち、機内を見せて貰ったり、フレキシブルアーム(自在腕)を使う様子も見せてもらったんだが、『何でも屋』の連中全員で驚愕しながら徹底的に調べまくらせて貰った。

 判った事は、今の俺たちのレベルでは、理解出来ない事が判るくらいだったが、基礎技術が判らなくても、利用する事は出来るから、設計図のブラックボックス部分以外を活用しヘリコプターの能力を底上げした、無人で飛行する魔道具を制作する事に取り掛かる事にしたぜ。

 

 4月28日(コリント朝元年)

 

 3日間缶詰めで工場に詰めて、無人で飛行する魔道具の設計図を書き上げて、自宅に戻ったら、妻のマゼラと娘のカレンに怒られちまった。

 当初は何で怒られてるのかサッパリで、理不尽な口撃に怒りが湧き上がっていたが、段々と息子の嫁のミーシャさんが妊娠した事に理解が行き、漸く2人に謝り、現在ミーシャさんが何処に居るのか聞いてみたら、官舎から出て我が家に来る予定だったのだが、暫くの間クレリア様の皇妃宮で他の妊婦と共に諸事情で滞在する事になっているそうだ。

 早速、宮内庁長官のロベルト老に連絡して、皇妃宮に娘のカレンと一緒に向かった。

 アスガルド城で、何故か衛兵や受付の事務員から丁寧に挨拶を受けながら(後で気づいたが、そう言えば俺は”名誉子爵”だった)皇妃宮に案内され、ミーシャさんとオウカ殿の相部屋に通された。

 俺の来訪にミーシャさんは、驚いていたみてえだが、直ぐに落ち着いてくれて、俺の孫を妊娠した事を報告してくれた。

 俺は事前に聞かされていたにも関わらず、思わず目頭が熱くなっちまった。

 俺に孫が出来る、あのルドヴィークを脱出する時は、今後の未来がまるで見えなくて途方に暮れていたのに、アラン様とクレリア様の頑張りのお陰で、俺たち家族は誰一人欠ける事無く幸せを掴み、更には新しくもう一人家族が増えるんだ、こんなに嬉しい事はねえぜ。

 だから、素直な感謝の言葉をミーシャさんに告げられたぜ。

 

 「ありがとうよ、ミーシャさん。

 俺達家族に新しい家族が加わる。

 そしてアンタは、次の世代への橋渡しをしてくれる素晴らしい人だ。

 必ず、この恩には俺としても全力で応える。

 是非、アンタの願いを言ってくれねえか?」

 

 と言ったらミーシャさんは、はにかみながらも、

 

 「・・・それでは、お義父様には、この子がある程度大きくなったら、この子が望む玩具を作って頂けますか?」

 

 とお願いされたから、「任せとけ、最高の玩具を作ってやるぜ!」と約束したら、「ありがとうございます!」と返してくれた。

 そして暫く雑談したると、ロベルト老が部屋に来られて、挨拶を交わした後にクレリア様に表敬訪問する事になった。

 クレリア様の私室に行く廊下の途上でロベルト老から、耳打ちされてクレリア様が妊娠された事を知らされた。

 おおおおおおっ!やったぜ!アラン様との間の子供だから、優秀な事は誰もが太鼓判を押すだろうし、もし男の子なら人類銀河帝国にとって初の皇子にして、皇太子という事になる!

 横にいる娘のカレンが、伝手の病院情報で既に男女の性別は知っている様だが、頑として教えてくれねえ、親にも教えてくれねえとはケチすぎるぜ。

 そうこうしている内にクレリア様の私室に着き、案内されて入ると女性の華族の方々が勢ぞろいされていて、クレリア様は全員から祝辞を受けておられる。

 漸く自分の番になり、

 

 「クレリア皇妃陛下、ご懐妊おめでとうございます!

 我等、人類銀河帝国臣民にとってこれ以上の慶事は御座いません!

 日頃からアラン様からの、大変なご厚情を頂いておりますので、お二人の間のお子様に対して、永遠の忠誠をここに誓います!」

 

 と宣言する様に述べると、クレリア様は、

 

 「ガトル名誉子爵。

 そなたの我が帝国への献身的な働きは、帝国臣民全てが知る処だ。

 然もそなたの家族全員は、私とアランの親友だし信頼出来る部下でも有る。

 今後も変わらぬ友誼と、頼り頼られる間柄を維持したいと思う!」

 

 と仰られたので、周りの華族の方々も「オオッ!」とどよめく中、

 俺と娘のカレンは、片膝を着きながら、

 

 「ハッ、クレリア皇妃陛下のご意向のままに!」

 

 と返事すると、クレリア様は莞爾と頷かれた。

 



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閑話62「ガトル親父の雑記」⑳(親父、オウカ殿に長刀制作を依頼される)

 5月5日(コリント朝元年)

 

 超高性能ドローンをダウンサイジングした無人の魔道具が完成したぜ。

 量産型ドローンと云う名前になり、基本的に偵察能力に特化したものとなる。

 このドローンを叩き台にして、何れは超高性能ドローン並みの代物を作ってみせるぜ。

 

 5月15日(コリント朝元年)

 

 『トカレフ』と云うデグリート王国の誇る造船技術者の長の息子達5人を、モニター越しにアラン様から俺とドレイク殿に面通しされたんだが、コイツラ全員異様なまでの迫力で俺とドレイク殿を見るやいなや、ガバッと土下座すると、

 

 「お願いします!!

 一生懸命、下働きから始めたいと思います!

 どうか、弟子にさせて下さい!」

 

 と頼み込んで来たんで、俺とドレイク殿は顔を見合わせてから考えてみたが、俺の弟子と言える連中は既に1000人くらい居そうだから、ドレイク殿も構わないと言ってくれたので了解する事にしたぜ。

 トカレフ達5人は飛び上がって喜んでやがるから、ちょっと気になったのでアラン様に頼んで、あらゆる艦船での仕事を体験させてやって下さいと言うと、アラン様もOKとにこやかに笑って請け負ってくれたんで安心したぜ。

 

 5月25日(コリント朝元年)

 

 重巡洋艦『バーミンガム』と超巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』が就役した。

 

 重巡洋艦『バーミンガム』の概要は、

 

 全長・・・・・400メートル

 

 全高・・・・・80メートル

 

 全幅・・・・・180メートル

 

 動力炉・・・・・『魔力凝縮炉』4基

 

 主砲・・・・・46センチ砲4門、副砲2門

 

 パルス魔導速射砲・・・・・両側舷側合計60門

 

 最大収容人数・・・・・5000人

 

 対地浮揚能力・・・・・常時2メートル(最大瞬間浮揚50メートル)

 

 巡航速度・・・・・40ノット(最大巡航速度70ノット)

 

 

 超巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』の概要は、

 

 全長・・・・・700メートル

 

 全高・・・・・120メートル

 

 全幅・・・・・300メートル

 

 動力炉・・・・・『魔力凝縮炉』8基

 

 主砲・・・・・30センチ砲6門、副砲4門

 

 パルス魔導速射砲・・・・・両側舷側合計60門

 

 最大積載機数・・・・・ドラゴン15頭、グローリア殿、量産型ドローン300機、戦闘車両100台他

 

 対地浮揚能力・・・・・常時2メートル(最大瞬間浮揚50メートル)

 

 巡航速度・・・・・40ノット(最大巡航速度70ノット)

 

 この艦船達の就役式を、クレリア様以下帝国の上層部と大勢の一般帝国国民が参列してくれた。

 中でも、アラン様達の留守晩の帝国軍の責任者である、ダルシム中将が感激してくれて、何度もドレイク殿と俺たちに感謝しきりだった。

 何でも、ずっと留守部隊の面倒をしていて、アラン様と一緒に行動する事が出来ず、切歯扼腕していたらしい。

 この重巡洋艦『バーミンガム』ならば、十分過ぎる程アラン様の手助けが出来るし、一方の戦線を維持してアラン様の行動制限を取り払う事が出来るだろうと話してくれたぜ。

 

 超巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』は、恐らく息子のケニーが艦長になるんだろうが、実際の処はアラン様が最終的に命令権を保つ事になるんだろうな。

 

 5月28日(コリント朝元年)

 

 久しぶりに自宅で寛いでいると、妻と娘が息子の嫁のミーシャさんを定期検診の為に、病院に行ってきて昼頃に帰ってきたが、何故かミーシャさんの皇妃宮での相部屋で有るオウカ殿が一緒に我が家にやって来た。

 まあ、仲が良いと聞いていたから、疑問に思う事も無く一緒に昼食を取るために、奮発してレストラン豊穣に向かいランチメニューを味わいながら食べて、様々な話題を出して楽しく過ごしていると、オウカ殿が突然俺に対して深く頭を下げて来たんで、驚いていると、

 

 「・・・ガトル殿、実は某この帝都コリントに来た理由の一つに、貴方の鍛冶師としての腕を後輩と夫から聞かされていて、是非某の刀を作製して貰いたいと願いやって来たのだが、クレリア皇妃陛下の親衛隊の一人としての仕事をしながら、後輩と夫の道場で腕を磨くのが楽しすぎたので、頼みに行くのが遅れてたら今の夫と付き合い初めてそのままの流れで、結婚する事になり更に直ぐに妊娠してしまい、よりガトル殿に会う事から遠ざかってしまったと思っていたが、相部屋になったミーシャ殿の御義父殿が何と件のガトル殿と聞き、今回是非会わせて欲しいと無理に頼み込んで参上させて頂いた。

 今は妊娠中の身なので、某専用の刀を作製して貰うのには、適しておりませんが、何時か元の体に戻り次第、某の技量を見てもらいそれに合わせた長刀を、是非作製して貰いたい、どうかこの通り!」

 

 と再度深々と頭を下げて頼んで来たので、

 

 「喜んで、オウカ殿の長刀を作製させて頂きますよ!

 なんと云っても、シュワルツ殿と同じ剣王たるオウカ殿の長刀を作製出来るとは、光栄ですぜ!」

 

 と答えたら、拝むみ倒された。

 しかし、俺はなんて恵まれた鍛冶師だろうな、剣王2人と元拳王の武器を作製出来るとはな、必ず俺が出来る限りの作品を作ってみせるぜ!

 



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閑63「マゼラママの徒然日記」⑥(高級ブランドチームが組織されたわ!)

 1月5日

 

 『魔導アクセサリー』が軌道に乗り、隣家のマミも成功し始めて、サイラス商会会長の会長で有るサイラスさんもコリント領に居を移し、私達の服飾工場等に本格的に出資してくれたので、より服飾工場が大きくなる事になったわ。

 

 1月15日

 

 サイラスさんが肝いりの、高級服や宝石そして魔宝石と魔導アクセサリーの販売を手掛ける、高級ブランドがここコリント領で立ち上がる事になったわ。

 責任者はアリスタさんが努め、脇はナタリーさんとカリナさんが補佐するみたいで、私達の仲間や服飾工場も組み込まれる事になって、ベルタ王国の貴族達への広報わ始めたわ。

 

 1月31日

 

 ベルタ王国の内乱も終わり、内乱首謀者で有る元宰相ヴィリス・バールケ侯爵に与していた、多くの貴族に搾取されていた平民でも、各種の技術者や単純に仕事が無くて、職を探してコリント領に来たがる人が増えてるらしいけど、流石に全ては受け入れられないから、官僚の人たちが選別してくれてるそうで、かなり腕の立つ服飾職人が私達の同僚としてドンドン加わってくれてるから、仕事分担が出来て助かってるわ。

 

 2月10日

 

 旧スターヴェーク王国国民(約3万人)の第二陣もコリント領に着き、前職に応じた職の斡旋が行われた時に、その人達用の制服も大変な量だったけど、規模を拡充してる服飾工場は余裕で供給出来てるわ。

 サイラス商会は、このコリント領での商業ギルドの繁栄の為に、急成長しているタルス商会と事実上組んで、各分野の得意分野をお互い協力しあう事にしたみたいで、4月初めにグランドオープンする予定の『デパート』内に出店する店舗の大部分に関わるみたいね。

 

 2月20日

 

 私達は、今までの王族の方々や上級貴族から注文を受けてから、作り始める従来型の販売方針から、放送局を通したCM(コマーシャルと云うらしいわ)を積極的に活用し、先に流行を作る方針にシフトすることになったわ。

 実は、クレリア様の主催する女子会で、セリーナさんとシャロンさんから、斬新なデザインの服やアクセサリーが資料として、アリスタさんが受け取ったらしくて、早速、私達高級ブランドチームが作製して見せて、4月初めにグランドオープンする予定の『デパート』のCMの目玉として、放送局で流してもらう予定なんだって、私もスゴくやり甲斐を感じるわ。

 

 3月5日

 

 娘のカレンに新しい親友が出来たみたい、以前話しにあったタルス商会の長女で『タラ』ちゃんというの。

 ハキハキした、話してるだけで元気が出て来る明るい子よ。

 このタラちゃんのお母さんである『ラナ』さんに、今日会うことが出来て色々とお話する内に、気が合ったから今後は、個人的に親しくさせて貰えそうね。

 

 3月15日

 

 例のセリーナさんとシャロンさんから貰った、斬新なデザインの服の中で、水着という物が有って、そのモデルとして子供部門で娘のカレンや、その親友達とエラちゃんが参加してくれて、CM撮影が終わったからレストラン『豊穣』で新製品のスイーツ『リングドーナッツ』を食べる事になって、全ての種類を結構な数を購入して、みんなで賞味してみたの。

 やっぱり、レストラン『豊穣』の新製品であるスイーツね、どれもとっても美味しいわ。

 私は、落ち着いた感じのオールドファッションが好みね。

 娘は、柔らかいフレンチクルーラーが好みのようね。

 エラちゃんは、ケーキドーナツでもクリームをたっぷり乗せた物を、本当に美味しそうに食べてたわ。

 タラちゃんのお母さんであるラナさんも、一緒に食べてたんだけど、4月初めにグランドオープンする予定の『デパート』内にレストラン『豊穣』が出店するから、その際に、この『リングドーナッツ』全種類をラインナップとして出してね!とオーナーのバースさんの奥さんに頼み込んでたわ。

 

 3月25日

 

 ほぼ出来上がった『デパート』の中の、高級ブランドコーナーの4店舗で、高級服専門・アクセサリー専門・水着類専門・宝石専門と分けられているので、それぞれの店員の教育が急ピッチで進んでるわ。

 その傍らで、もう気の早い貴族の奥様方は、アリスタさんに事前に商品を見せて欲しいとコリント領に先乗りして、交渉してるらしいわ。

 その相手をナタリーさんとカリナさんが補佐しながら、こなしてるわ。

 その交渉術が凄いわ。

 決して、全面拒否せずにそれとなく貴方には、他の貴族と違い特別に一部見せて上げる事で、特別感を与えて高額な商品を買わせてるの。

 そうすることで、今後の商売を上手く回そうとしてるのね、こんなに若いのに海千山千の商売人だわ、正直この3人の若い女性を娶る男の人は、絶対に尻に敷かれるわね。

 



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閑64「マゼラママの徒然日記」⑦(『マダムの会』と『ホシ』の恋愛協奏曲)

 4月10日(2年目)

 

 『デパート』の就業時間を終えた後の広場で、成功を祝う祝賀会が内々で行われたの。

 タルスさんとサイラスさんが、従業員達に向かい謝意を述べた後は、宴会に移行して色んなお酒を振る舞われたわ。

 従業員は出来るだけ参加したみたいで、就業している7割の人が参加していて分野を越えてみんなで祝いあったわ。

 そんな中、私達高級ブランドチームのグループに、タルスさんの奥さんのラナさんとバースさんの奥さんのサラさんが合流して来て、全員で盛り上がって来て、その会話中にラナさんの提案で、クレリア様の『女子会』と似た『マダムの会』を母親達で作る事を言われたので、皆で賛成しそのまま会を起ち上げる事になったわ。

 

 4月18日(2年目)

 

 『マダムの会』が起ち上がってそれ程日が経って無いのに、凄い事に会員数が300人に達してしまい、正式な任意団体として、生活ブロックの一つのビルが『マダムの会』の本拠になったの、何とタダで!

 然も隣は、サイラス商会の巨大オフィスビルが有って、専門の事務員や送迎用の運転手までサイラス商会がタダで手配してくれてるわ。

 そしてその従業員達を統括するのは、アリスタさんの片腕であるナタリーさん。

 敏腕過ぎる程の人材なのに、何でたかが一つの任意団体の為に厚遇するのかしら?

 不思議に思ってその疑問をぶつけてみたら、可笑しそうに笑われて、

 

 「皆さん、自己評価が低すぎですよ。

 参加してるメンバーは、現在コリント領での女性団体の集まりとしては、クレリア様の女子会の次に重要な人物が会員に名を連ねてますし、規模としては今後貴族を初め多くの上流階級の奥様の参加が見込まれますし、その様な方々の購買力と、コネクションは我がサイラス商会にとって途轍もない利益を生み出します。

 このくらいの投資は、当然ですね!」

 

 とのたまうの。

 確かに私や友達の平民以外の会員は、大店の奥方や大貴族(ファーン侯爵の奥方等)の親族だったり、元スターヴェーク王国の貴族の方々等、錚々たるメンバーだから納得したわ。

 

 4月25日(2年目)

 

 『マダムの会』の本拠ビルの前で、何だか人だかりが出来ていて、私と親友のマミも物見高く人だかりに近づくと、私の旦那の飲み友達の『ホシ』さんが、やたら大きな花束を持ってナタリーさんに向かって何か言ってるわ。

 聞き耳を立てて会話を聴いてみると、

 

 「・・・・・これで12回目だが、俺は本気だ!

 ナタリーさん!貴方は、俺にとっての一番星だ!

 貴方に会ってから、俺の・・・・・」

 

 と聞こえた所で、ナタリーさんが顔を真っ赤にしてホシさんの腕を掴んで、ビルに入って行ったわ。

 その後をビルの警備員達が慌てて追って行ったから、多分修羅場にはならないだろうけど、騒ぎにはなりそうね。

 すっかり毒気が抜けちゃったから、用である5月1日の『水着大会』の参加者目録を貰い、マミと一緒に家路に着いたわ。

 

 4月28日(2年目)

 

 『水着大会』の最終確認の為に、『マダムの会』の本拠ビルに向かい、応接室でナタリーさんと打ち合わせをして、全ての書類手続きとモデルに選出された女性への水着を提出したわ。

 全部終わって休憩時間になり、ナタリーさんと雑談していたのだけど、先日のホシさんとの出来事をそれとなく聴いてみたの、ただあくまでも言える範囲で良いとは予め言っておいたわ。

 暫くナタリーさんは逡巡した後に、

 

 「・・・・・そうですね、ホシさんの友人のガトル殿を夫に持たれる、マゼラさんには状況を知ってもらい、場合によっては協力して貰おうと思いますので、初めから説明します」

 

 と言われたから、拝聴する事にしたわ。

 

 そもそもの出会いは、ホシとジョナサンがまだトレーラーに乗っていなくて、馬車でスターヴェーク王国の脱出民をガンツに送り届けた頃に遡るの。

 脱出民をコリント領に連れて行く為の、諸手続きと食料品の配給と水の確保等をガンツの商業ギルドに依頼する為に、ホシがやって来て担当に着いたのがナタリーさんなんだって。

 その際に、ホシの愛馬の『一番星』が、アロイス王国の追っ手からの弓矢と魔法攻撃で深手を負っていて、その葬儀をして上げて(普通は馬の葬儀などしない)、粛々と脱出民をコリント領に無事送り届ける為の便宜を図ったり、心のケアを含む怪我や疲労を取り除く為に医者を派遣したそうだ。

 その時は、お互いに名前を教えあった程度だったそうだが、いざコリント領で再会し、ホシとジョナサンがトレーラーを開発し、物流関係の取引やトレーラーの大口の購入等で、折衝する事が増えて行き、度々食事や飲みに誘われたので、失礼の無い範囲で応じていたんだけど、3回めの食事の時に告白されたんだって。

 何でも、最初から容姿がホシにとってど真ん中のストライクで、話し振りやキビキビと仕事をこなす姿に、感動して、俺の終世のマドンナだと確信したそうで、ホシが地方にデコトレで向かい仕事を終えて、その途上などで珍しいお土産を見つけて来る度に、花束とお土産を持ってプロポーズに来るんだそうだ。

 

 何とも微笑ましい話しだが、これが子供や青年なら誰も問題と思わないだろうけど、肝心の求婚者が40を越えたオジサンで、然も個室や自宅ならともかく、往来での大声を上げたプロポーズが度々有り、先日はそのプロポーズを真っ昼間の仕事場前でやられてしまったので、恥ずかしいので止めて貰いたいと釘を指したんだけど、あまり効き目がなさそうな雰囲気だったんで、是非私の夫のガトルに、注意して貰いたいんだって。

 

 うーん、それにどれ程効き目があるか判らないけど、と告げて家に帰ったわ。

 夫に夕飯後、経緯を説明して上げたんだけど、夫も考え込んでしまって良案が無いみたい。

 ホント、恋愛事は難しいわ。

 正解なんて、当事者同士にしか無いから、あくまでも他人は手助けしか出来ないもの。

 



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閑65「マゼラママの徒然日記」⑧(サイラス商会の躍進とデコトレ野郎の心意気)

 5月1日(2年目)

 

 『水着大会』が開催され、放送局がその様子をライブ放送されたわ。

 6月オープン予定の、大規模遊戯施設『温水プール』が、新しく作られてるドーム『生活ブロック2』で基礎工事が終わり、色々な遊具設備の建築を開始した事も放送され、今回の『水着大会』で披露された水着の販売を『デパート』等でされている事も放送したの。

 きっと、事前購入する人が大勢いるわね。

 

 5月20日(2年目)

 

 アラン様とクレリア様達が、セシリオ王国の愚王ルージを成敗して、セシリオ王国を解放して上げたらしいんだけど、何とも陰惨な話しで、セシリオ王国の王都やその周辺の人々は尽くゾンビにされて、愚王ルージに操られていたそうよ。

 何とか、『女神ルミナス』様の使徒である『イザーク』様に救われながら、ここコリント領に避難された女性達自身から聞かされたの。

 この女性達も、住居等の生活基盤を愚王ルージの所為で、全てぶち壊されたから服飾工場で技術を学びながら、仕事をして貰っているのわ。

 こんな女性が大変増えたから、既に服飾工場だけで小型のドームが出来ていて、そのドームをサイラス商会がアラン様から事実上借り上げて、名称も『サイラス・ドーム』になっていて、ここで作られる服以外の衣装関係全てが、現在ベルタ王国どころか近隣の国に向けて席巻する勢いで販売しまくっているわ。

 そういう状況になるのも当然よね。

 だって、ここで作られている衣装関係だけでも、材料で有る生地や縫製方法そしてデザインに至るまで、他国や既存の店では、絶対に真似出来るレベルに無いもの。

 然も、例のホシとジョナサン達デコトレ野郎達は、サイラスさんと娘のアリシアさん達と大変良好な関係を築いていて、デコトレ野郎の中にはサイラス商会と専属契約を結んでいる連中が、200人くらいいて、従来の馬車を使う物流のレベルを遥かに超えたスピードで物を届けてくれるし、馬車と違い野盗や魔物によって物品が無くなる事も無いから、信用も上がって双方winーwinの関係になってるわ。

 

 6月23日(2年目)

 

 『マダムの会』の本拠ビルの応接室で、私とナタリーさんが今後の貴族用の衣装戦略を相談している場に、突然夫のガトルとホシさんが訪問して来たの。

 何事か?と思いながらも、ホシさんだけで無く夫のガトルも居るので、一緒に会うことして資料を片付けて、そのまま応接室で話しを聞くことになったわ。

 

 応接室に入ってきた2人は、何時もの様子とはかなり違い、思い詰めているのが傍目にも良く判ったわ。

 夫のガトルが、

 

 「・・・ナタリーさん、先日俺たちの故郷で有る、スターヴェーク王国を簒奪した憎っくきアロイス王国が、このベルタ王国に対して宣戦布告して来やがったのは知ってると思う。

 このとんでもねえ事実に、俺たち旧スターヴェーク王国国民は、とても我慢が出来ねえ!

 なので、お宅のサイラス商会に所属しているデコトレ野郎の半数の100人に対して、暫く休業させてやって欲しい!

 その代わりの人員は、経験不足だが、見習いの連中をロベルト老が振り分けてくれる事を約束してくれた。

 完全には、穴埋め出来ないだろうが、休業期間が終わり次第、必ず損失補填する仕事をこなすので、許して貰いたい!」

 

 と突然願ってきたので、私とナタリーさんは面食らって呆然としてたら、

 ホシさんが、

 

 「・・・急な願いで驚くのも無理はねえ。

 だが、積もり積もった恨みに加えて、今回のアロイス王国の仕打ちには、おいらの堪忍袋の緒がブチ切れちまった!

 これから、俺たちのデコトレを、ここにいるガトルの親父と一緒に戦闘用に作り変えて、憎っくきアロイス王国の正規軍に正面切って挑むつもりだ!

 そうする事でアラン様とクレリア様の手助けをしながら、憎っくきアロイス王国が滅びるまで、おいらはこのコリント領に帰って来ねえつもりだ!

 その途中で、おいらはもしかするとおっ死んじまうかも知れねえ!

 だから、悔いがねえように、ナタリーさん貴方においらの最後の告白をしに来たんだよ!」

 ナタリーさん!

 貴方は、ヤクザな生き方をして来たおいらの心のオアシスだ!

 ナタリーさんを見てるだけで、おいらは幸せな気分になって、今までアロイス王国の奴等から受けた、様々な苦痛や後悔が癒やされてたんだ。

 だけど、その癒やされた心も、今回のアロイス王国の奴等の仕打ちで、元に戻っちまった!

 必ずおいらは、アロイス王国の奴等をとっちめてくるから、帰ってきたその時にはおいらは、プロポーズする。

 それがおいらの、正真正銘最後のプロポーズだ!

 ナタリーさんが、どんな返答をしてくれようと自由だから、その時までに気持ちを固めてくれ、お願いだ!」

 

 と告白し、夫のガトルと共に、サッサと応接室を出て行ったわ。

 私とナタリーさんは、暴風の様な出来事に呆気にとられていたけど、暫くして漸くとんでもない事が、起こったことに気がついて、慌てて関係している人達に声を掛け初めて、騒然とする事になったわ。

 

 6月25日(2年目)

 

 一昨日の宣言通り、夫のガトルとホシさん達は見事に徹夜でデコトレを戦闘用に作り変えて、次々とアロイス王国との国境線に向けて送り出してるわ。

 私とナタリーさんそして何故かサイラスさんが、最後に出発するホシさんの出発を見送りに出向いたの。

 サイラスさんが、

 

 「おい、ホシよ。

 思い残す事無く暴れて来い!

 男には、許せねえ事が必ず一つや二つは有るもんだ!

 それから、逃げてる奴は男じゃねえ!

 だが、やりきった後は、容赦なくこき使ってやるから、覚悟しろよ!」

 

 と笑いながら、ホシさんの胸をどついてるわ。

 この辺が、私達女性には判らない感覚ね。

 そしてナタリーさんが、

 

 「・・・ホシさん。

 私は、貴方の真摯な告白には、今は心が定まって無いので答えられません!

 だけど、貴方が望みを叶えてスターヴェーク王国を、アラン様とクレリア様の手に取り戻される手助けが出来たら、必ず返事をします。

 だから、無事に帰って来て下さい!」

 

 と言われて、私の親友のマミの旦那が作った『魔導アクセサリー』の中でも、最高の個人防御魔法を封入している腕輪をホシさんに手渡したわ。

 

 「・・・ありがとう、ナタリーさん。

 必ず帰って来ますぜ!

 そして、サイラスの旦那!

 預かった、サイラス商会と専属契約を結んでいる連中は、一人も死なせずに無事に戻させて見せますぜ!」

 

 と宣言すると、専用のデコトレ『一番星』に乗りみ、満艦飾に光らせながら既に出発したデコトレ野郎達に追いつくべく、凄いスピードで爆走して行ったわ。

 夫のガトルは、2日間の徹夜が堪えたのか、ワザワザ、サイラスさんが手配してくれた送迎用の車両に乗った瞬間、大きなイビキをしながら寝てしまったわ。

 夫にしてもホシさんにしても、全てに全力投球ね。

 この人達は最期を迎えるその時まで、悔いが無さそうで羨ましくなるわ。

 



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閑66「マゼラママの徒然日記」⑨(『総合物流株式会社』とスターヴェーク王国復活)

 7月1日(2年目)

 

 サイラス商会は、デコトレ頼りの物流を見直すために、タルス商会や他の商会と連合を組み、商業ギルドとは別の『総合物流株式会社』を起ち上げる事になったわ。

 何でもこの株式会社構想と仕組みは、以前からアラン様とサイラスさんそしてタルスさんが、公私合わせて20回に渡り、会合(飲み会含む)を重ねて、推進してきた組織案らしく、『株券』という物をそれぞれの商会や貴族そして王族が応分に買い取り、それぞれの株券の保有量に応じ権利を持ち、得られた利益もその株券の量に応じた額が支払われるそうなの。

 何だか、私には難しそうな約款や定款が定められる様で、判り難いけど社長とやらに着任して、実権を振るうのはアリシアさんらしいから、私達は今まで通りにしてれば良い様ね。

 

 7月10日(2年目)

 

 本日朝のニュースで、いよいよスターヴェーク王国の奪還戦に向かう様子が報じられたわ。

 アラン様とクレリア様は、一切の被害を受けずに私達が住んで居た、ルドヴィーク辺境伯領に向かってるみたい。

 一度、例のデコトレ野郎の数人がコリント領に帰ってきて、よくわからないけど、物凄く重要な物を運んで来たから、その人達から色んな話しを聞く事が出来たわ。

 何でも国境線での戦いは、ホシさん達デコトレ野郎の大集団(といっても総勢400人で2人ずつがデコトレに乗り込む)が、アロイス王国正規軍5万の軍勢に、真っ正面から突撃して行って、相手の精鋭部隊である戦車(チャリオット)を蹴散らす事から始まり、音響破壊魔法『サウンド・ソニック』をクラクションと共にアロイス王国軍に浴びせたり、車体全体は軍団魔法『オーディン』と同じく風の魔法で保護したまま、デコトレのトゲ付きバンパーでアロイス王国正規軍をなぎ倒していったらしいわ。

 そしてその戦場に、後から合流したアラン様率いる息子の空軍が後方から襲い掛かり、散々な目にアロイス王国正規軍5万の軍勢を蹴散らしたみたい。

 相変わらず、強すぎるくらいに強いわねアラン様の軍勢わ。

 然も、ホシさん達デコトレ野郎の人達も、デコトレ自体は相当壊れたみたいだけど、約束通り一人も死なない処か、怪我人もそれ程出さずに完勝したようね。

 これで、サイラスさんとナタリーさんとの約束は果たしたみたいね、安心したわ。

 

 7月25日(2年目)

 

 『総合物流株式会社』が、推進するインフラ整備の為に、夫の作る『カーゴシップ』を拠点として『魔導列車』用のレールを元スターヴェーク王国の元ルドヴィーク辺境伯領まで延伸する為に、大規模な人数を国境に派遣したわ。

 この分だと、秋にはコリント領と元ルドヴィーク辺境伯領までは、『魔導列車』で行き来出来そうね。

 

 9月2日(2年目)

 

 今日は、朝から仕事にならない事が判っていたから、サイラスさんとタルスさんから元スターヴェーク王国出身者は特別有給日となって、いたる所で宴会等が開催されて、コリント領は騒然とした空気に染まったわ。

 私達にとって特別なニュースは、昨日の夜のニュースで発表されたわ。

 ここ2ヶ月程は、仕事の合間合間に報道されるニュースに一喜一憂して、かなり集中力に欠ける状態だったわ。

 本当に申し訳無いけど、その分ベルタ王国出身者と元セシリオ王国出身者には、この期間随分迷惑掛けてしまったわね。

 必ず後でお礼するから勘弁してね。

 だけど今日まではどうしようもないわ、何と言っても私達の国で有るスターヴェーク王国が復活したんだから!

 これまでの、色んな出来事を思い出されるわ。

 

 スターヴェーク王国を卑怯な手でアロイス王国が簒奪し、惨めな思いでルドヴィーク辺境伯領から、必死な覚悟で脱出し、クレリア様がアラン様と共に切り開いてくれたコリント領に辿り着き、その御恩に報いるべく私達家族は、それぞれの分野で必死に頑張って来て、幸いにも色んな人達からの支援と協力を得られたから、かなりの成果を上げる事が出来て、目に見える形で御恩をある程度返せたわ。

 でもまだまだだから、今後も頑張るわ。

 

 10月9日(2年目)

 

 元アロイス王国国王ロートリゲン・アゴスティーニと、元アロイス王国軍務大臣ロイスの刑が執行されたようね。

 漸く、アロイス王国との因縁に終止符が打たれたのね、感慨深いわ。

 でもそんな事より驚いたのは、私と夫のガトルの両親4人が、息子のケニーと合流していて、今目の前のモニターに映ってるの。

 てっきり王都にいた筈の両親達は、疎開したままか最悪はひどい目に合わせられてるかの二択だと思ってたのに、全然気楽そうな様子で会話して来るの。

 詳しく聴いてみると、一旦疎開したのだけど、支援物資の配給に来たホシさんと出会い、流れで王都に戻って来たんだって!

 相変わらず、突飛な形で私達家族と関係が出来るわねホシさんとは。

 まあ、何にせよ両親達とホシさんは、元気そうだから、ここコリント領に両親達が一度は来るように勧めたわ。

 両親達も喜んでくれたから、近々来る事になるでしょうけど、何故かケニーの隣に居るミーシャさんの顔が、のぼせたように真っ赤だわ、風邪でもひいたのかしら?

 



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閑67「マゼラママの徒然日記」⑩(両親達の歓迎会&ケニーとミーシャさんの婚約会)

 11月3日(2年目)

 

 両親達がコリント領に着いて、ホテルに泊まって貰い歓迎会を開いたの。

 コリント領の先進性に驚いているみたいで、かなり興奮してるけど、私達も両親達の様子に驚いてしまったわ。

 どうやら『ナノム玉』のお陰で、かなり体調も良くなり若返った様になったみたい。

 その『ナノム玉』を両親達に勧めたのは、息子のケニーと同僚のミーシャさんらしいけど、二人は私と夫のガトルの前で神妙な面持ちで、畏まっているわ。

 娘のカレンに、予め話しを聞いていたから話題を察して、話しだすのを待ってると、遠慮会釈ない両親達が囃し立てて二人を促すから、可哀想にミーシャさんは顔を真っ赤にして黙り込んでしまったわ。

 しょうがないから、私とカレンがミーシャさんを別室に連れ出して上げて、夫と息子に後は任せてミーシャさんの気分を落ち着かせて上げたわ。

 ミーシャさんも女性だけになると、落ち着いてくれて、ポツポツと話し始めたわ。

 

 何でもご自身の本当の父母は、生まれて直ぐに村に出没したグレイハウンドの集団に殺されてしまい、叔父夫婦が大切に育ててくれたのだが、その叔父夫婦と一緒に住んで居たダヴィード伯爵領が、アロイス王国の侵攻で攻められ、その時にミーシャさんと叔父夫婦はバラバラに分かれ、敗残兵と共にルドヴィーク辺境伯領に逃れて、ルドヴィーク辺境伯の命令に従い、クレリア様を逃す為の陽動部隊になり、セシリオ王国の辺境都市で他の部隊と合流し、クレリア様との合流を果たしてからは、全力で息子のケニーと共に頑張ってきて、同じ空軍の上司と部下になると、ケニーの朴訥さと何事にも真面目に取り組む誠実性に惹かれ、今回私の両親達の後押しもあり、ケニーと一緒になりたいと望み、私と夫のガトルの了解を得たいと、時々つっかえながら話してくれたわ。

 元々私と夫のガトルは、常々ミーシャさんを気に入ってたし、独り立ちしている息子のケニーは、アラン様とクレリア様の信任も厚く、このコリント領でも無くてはならない人物となってるし、そのケニーの部下と云うより相棒の様なミーシャさんの存在は、私達家族にとってかけがいのない女性だわ。

 なので、私はミーシャさんを安心させる為にも、一も二も無く夫婦になる事に賛成し、ミーシャさんの手を取って息子の事を頼んだわ。

 するとミーシャさんは、大粒の涙を浮かべて私に抱きついて来たわ。

 まるで大きな赤ちゃんね。

 私は、その大きな赤ちゃんの背中を擦り、ゆっくりとあやして上げると、ミーシャさんは大きな声を上げて咽び泣いたわ。

 きっと、今までの色んな想いや辛かった事が、一遍に溢れてきたのね、娘のカレンも感極まったのか、一緒になって大泣きし始めたわ。

 二人を両腕で大きく抱え、暫くなすがままにしてやると、やがて落ち着いて来たので、元の部屋に戻ってみると、息子のケニーが直ぐにミーシャさんに寄り添うと、私達家族全員に向かい姿勢を正すと。

 

 「・・・みんな、俺はこのミーシャと一緒に生きたいと思う!

 どうか許可して貰いたい!」

 

 と相変わらず堅苦しく、愚直なまでの素直な言葉で宣言したわ。

 夫のガトルはこれまた堅苦しく、

 

 「・・・ミーシャさん、今までずっと貴方が隣で見ていたとおりに、俺の息子は堅物で真面目一辺倒の面白くねえ男だ!

 だが、だからこそ、アラン様とクレリア様、更には同僚から信頼されて今のポジションに着いた実績が有る。 

 きっと今後のコリント領に於いて、息子の所属する軍隊は、これまで通り最前線で戦う事になるだろうから、俺たちだけでは、そのフォローが出来ねえと思う!

 そこで、ミーシャさんが息子に寄り添ってくれるのは、本当にありがてえ!

 是非、この朴訥で堅物な俺の息子をお願いする!」

 

 と深々とお辞儀したので、私も同じ位に深々と頭を下げたわ。

 そして挨拶が終わったら、ホテルのレストランで、両親達の歓迎会&ケニーとミーシャさんの婚約会を同時に行ったわ。

 この日は、久々に家族全員+1の楽しいお祝いが出来て、本当に楽しかったわ。

 

 11月14日(2年目)

 

 大規模な女子会パーティーが開かれて、全員でクレリア様をお祝いする事になり、建築中のアスガルド城近くの広場で、娘のカレンと一緒に招待されたわ。

 先日から噂になっていた、アラン様とクレリア様が主導する形の新国家『人類銀河帝国』の事も語られたわ。

 一通りの儀式が終わり、アリシアさん達と私はクレリア様に呼ばれ、『人類銀河帝国』が正式に発足する、来年の1月1日に着る、アラン様とクレリア様の衣装のデザイン案と、当日用に注文される様々な役職の人々の衣装と魔導アクセサリー等のアイテム、そして『人類銀河帝国』での様々な部門での制服案の選定に入るように要請されたわ。

 アリシアさんは、既にその為の試作品案を用意していて、女子会パーティーに参加されている女性達も、様々な意見を出してくれて、大変盛り上がったけど、肝心のクレリア様のウエディングドレスの要望を聞かれた際に、ウエディングドレスのロングトレーン(引き裾)付きが気に入られた様なので、ロングトレーン(引き裾)を引く小姓をどうするのか、聞いてみたら、何と娘のカレンとエラちゃんに頼むみたい。

 なので、カレンとエラちゃんにも新しく衣服をデザインし直さなくちゃいけないわ。

 他にも色んな貴族や王族の方々の、正装依頼が引っ切り無しに来ているから、サイラス商会の高級ブランド部門は全然休む暇が無いわね。

 




 長い閑話も終わり、いよいよ新しい本編の話しに次回から移ります。
今まで一つもまともに触れなかった、『崑崙皇国』が舞台になりますが、当初は帝国の現状と、第三部の主人公達の誕生がメインとなります。
 お楽しみに。


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11月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝元年)《『玉面公主・妲己』との出会い

 11月1日(人類銀河帝国 コリント朝元年)

 

 帝都コリントに帰還しても、先のスラブ連邦の後始末が溜まっていて、一つずつ解決する必要があった。

 先ずは、ルーシア王国のアナスタシア王女が現在一緒に暮らしている、難民用のドームに居るルーシア王国の一団に会いにアラン様と行政官のグループが向かい、新しい形のルーシア王国の体制に対する提案を幾つかだされた。

 そして取り敢えずは、現状『システム・ガイア』が元のルーシア王国の国土の戻すには、最低5年間のスパンが必要で有り、其れまでは此処帝都コリントで様々な事を学び、何れはルーシア王国をアナスタシア王女を頂点とした体制になりたいとの要望に落ち着いたらしい。

 まあ、大体予想通りだったので驚きは無いが、アナスタシア王女自身は元の国民達の前では本当の事は言えないようだが、既にクレリア様には実際の処ルーシア王国は解散し『人類銀河帝国』に編入させ、地名だけ残らせて欲しい様だ。

 本音はそうだろうなと、帝国上層部は判っていたが、スラブ連邦のラスプーチンに虐げられ続けた人々にとって、ルーシア王国の復活を願うのは、恐らく理屈では無い大前提なのだろう。

 その想いを無にすることは、スターヴェーク王国をアロイス王国に簒奪され、奪い返す事に執念を燃やし頑張ってきた我々には痛い程に判った。

 なので、ゆっくりとその心が癒やされ、我ら帝国と共に歩む事が、決して元のルーシア王国を裏切るものでは無く、より大きな集合体になる事でしか無い事を納得してもらえれば良いというのが帝国のスタンスである。

 つまり帝国とは、ある意味国家では無く、セリース大陸そのものであり、何れはこの星、惑星アレス自身であると理解してくれれば良いのだから。

 

 11月5日(人類銀河帝国 コリント朝元年)

 

 先月のスラブ連邦のラスプーチン討伐を終えた後、アラム聖国と崑崙皇国に向けて、外交使節団を其々1隻の駆逐艦に乗せて送り出していたのだが、崑崙皇国にあるかの有名な『長城』を越えて、外交使節団を乗せた駆逐艦は、山海関をくぐり抜けると崑崙皇国の第二都市である『長安』に辿り着く事が出来て、其処の代表たる女性の『則天武后』とモニター越しにコンタクトする事になった。

 アラン様と帝国上層部、そして自分とカトウも参加する事がアラン様に要請された。

 自分とカトウも参加要請するという事は、恐らく何か理由が有るのだろう。

 どうやら外交使節団が上手く交渉出来たみたいで、城内の豪華な応接室で会見をモニター越しに行われる様だ。

 暫くの間は、幾つかの約束事を官僚達が確認しあい、いよいよアラン様と『則天武后』の面談となった。

 どの様な人物なのかと、興味津々で見ていたのだが、アラン様とモニター越しに面談している女性は格好こそ豪華だが、普通に初老の女性で終始穏やかな雰囲気で会見が進んで行った。

 だが、今後の国交樹立の為の交渉をする前に『則天武后』が中座する事になり、一旦休憩を挟む事になった。

 暫く時間が空くので、雑談相手として『則天武后』の娘と名乗る若い女性がモニター前に現れた。

 次の瞬間、自分は背が凍りついた気分に陥った!

 

 《な、何者なんだ?!》

 

 今モニター前に現れた若い女性は、中々の美人である事は認めるが、クレリア様に比べたら絶世の美女というわけでも無く、些か吊り目気味でキツいイメージが自分にはあまり良い印象を抱かなかった。

 だが、そんな表面的な印象とは別に、その女性は途轍もない存在感を醸し出している!

 そう、例えばその人間の体に無理矢理巨大なドラゴンの体を詰め込んだ様な、凄まじい存在感でその周囲が重力篇重が起こり、歪んでいるような違和感だ。

 隣のカトウを見ると、彼も同じ印象を抱いたらしく、自分に対しアイコンタクトをして頷いた。

 そんな中、彼女とモニター越しに正対しているアラン様は、何時もと少しも変わらずににこやかな風情で、笑いながら応対されている。

 そんな態度に、モニター越しの彼女は些か肩透かしを喰らったのか、普通の雑談で応じていた。

 だが、中座していた『則天武后』が戻られると係の者が告げて来たので、彼女がモニターから離れる瞬間にその正体を表すかの様な気配をアラン様にぶつけて来た!

 だがアラン様は、まるで感じていないかの様に、柳の風の如く受け流し、

 

 「・・・楽しい雑談の時間を頂き、大変楽しかったです。

 そう言えば、『則天武后』の娘さんと聞かされましたが、お名前を教えて頂けませんか?」

 

 と質問され、彼女は、

 

 「・・・これは大変失礼致しました。

 私の名は、妲己、『玉面公主・妲己』と申します。

 以後お見知り置き下さい!」

 

 と返事してくれた。

 その後は、『則天武后』との外交交渉がつつがなく終了したが、自分とカトウは『玉面公主・妲己』の存在感に圧倒されてしまい、何時会談が終了したか把握出来ずに居た。

 アラン様が、肩を叩いてくれたので漸く我に返った形だが、アラン様は大変楽しそうだったので、正に狐につままれた気分で崑崙皇国との外交交渉は、無事に終わった。

 

 11月10日(人類銀河帝国 コリント朝元年)

 

 いよいよ明日出産日と云う事で、ミーシャたしち妊婦さん達はアスガルド城の専用医療機関に入院している。

 既に、妊婦達の旦那で有る、アラン様始め、シュバルツ殿、ミツルギ殿、親友のハリー、そして自分がアラン様の私室で、明日の出産日に備えている。

 話題は、先日の崑崙皇国との外交交渉での出来事だ。

 ムービーで再生された映像を見て、全員が息を呑んだ!

 やはり彼等には判るのだ、『玉面公主・妲己』の存在感の異様さに。

 そんな中、アラン様は、

 

 「・・・やはり帝国よりも人口だけで見れば大国である崑崙皇国だ。

 色んな人物が居て、奥深そうじゃないか。

 諸行事が終わり、正式な国交樹立の為に私は、崑崙皇国に赴くつもりだ。

 是非、剣王と拳王の方々には付き合って貰いたいし、ケニーとカトウにも付いてきて貰うぞ!

 嗚呼、凄く楽しみだな!」

 

 と大変嬉しそうな声を上げられた。

 皇帝と云う立場にも関わらず、いたずら好きな小僧の様な表情を見せるアラン様に、この場にいる全員が含み笑いを返してしまい。

 やっぱり、男は死ぬまで小僧のままだなと実感してしまい、ミーシャと産まれてくる子供に向かい、心の中で謝ってしまった。

 



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11月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝元年)《ミーシャ男子出産と皇太子殿下》

 11月11日(人類銀河帝国 コリント朝元年)

 

 昨日からアスガルド城の客室に泊りがけで滞在し、アラン様や同僚達と話し合い、朝からは宮廷付きの医師から様々な説明を受けて、全員で一緒に朝食を摂った。

 クレリア様とミーシャ達は、どうやらお昼近くに出産らしく、朝の内から医務室に用意されている分娩室に入った様だ、

 様だというのは、アラン様以下自分を含む夫達は、魔法大国マージナルから帰還していた賢聖モーガン殿とケットシー128世の説明を朝食後から受けていた所為で、嫁達と朝の顔見せ以外引き離されていたからだ。

 

 賢聖モーガン殿とケットシー128世の説明とは、魔法大国マージナルでアラン様の『ジークフリート』の承認手続きが有った海中神殿で、予想通りの反応が有ったそうだ。

 自分には何の事かサッパリ判らなかったが、アラン様はある程度説明を事前にされていて、想定してたらしいから、賢聖モーガン殿とケットシー128世にはその確認をして貰っていたらしい。

 賢聖モーガン殿が、

 

 「・・・予想通り、『神機』に反応が有ったわ。

 悠久の彼方から、封じられてきた神々(調整者)の遺物である10機!

 この内の5機が龍脈(レイライン)を通して、脈動を開始したわ。

 恐らく貴方達の子供が産まれた瞬間に、かなりの反応を見せる筈。

 この5機は、この世界の方々に眠っているので、近いうちに回収に行かなくてはならないわ。

 貴方達は自分の子供の為にも、回収に向かってね!」

 

 と言われた。

 『神機』と云う言葉が何を指すのか、サッパリ判らないが自分の子供の為に、努力するのは当たり前なので了解した。

 そんな説明を受け終わって、宮廷の職員から呼び出されて分娩室横の待合室に案内された。

 其処には、ケットシー128世と奥さんのマドンナさんが子供の星猫5匹と待機していた。

 更に、内の母親マゼラと妹のカレンが合流し、同僚の親衛隊長で有るエルナ殿とサーシャ殿もやって来て、諸々の赤ちゃんが産まれて来た際の対処法と、嫁さんの産後の対処法を宮廷医師から説明を受け、段々と緊張して来てテンパってきた。

 そんな緊張感に耐えられず、頻繁にお茶を飲み、その所為でトイレに交代交代で行き合っていると、それまで大人しくしていた星猫5匹が、その可愛らしい背中の純白の羽根を羽ばたかせて、待合室から廊下に出た!

 それを契機に、皆がこぞって廊下に出るとまるで子猫の様な鳴き声が、幾つかの鳴き声となり聞こえて来た!

 その瞬間、明らかな光りがアスガルド城の地下から、天まで貫いた!

 その光りは、良く見ると5色有るようだったが、暫くすると落ち着いた様に光りが収まり、職員の指示通りに歩を進めてゆっくりと分娩室に入ると、光り輝く赤ん坊がそれぞれの嫁さん達の腕の中にくるまっていた。

 自分は、迷わずミーシャの側に近寄りベッドで背もたれごしに起き上がり、嬉しそうに腕の中で抱いている赤ん坊を見つめ続けるミーシャに見惚れた!

 赤ん坊は、明らかに青い色の光りを放っていたが、次第に光りは収まりスヤスヤと寝ている事が判った。

 

 《此れが、我が子か!》

 

 と無性に吠えたくなる気持ちをどうにか落ち着かせて、ミーシャに促されるままゆっくりと赤ん坊を抱き上げた。

 

 《なんて小さくて柔らかいんだ!》

 

 と感動しながら、ミーシャが寝ている横に赤ん坊を寝かせ、横にいた母親と妹に後を任せ、アラン様とクレリア様の元に行った。

 

 其処には宮廷医師や宮内庁のロベルト長官が跪いて拝跪しているのが先ず目に入り、シュバルツ殿とミツルギ殿そしてハリーが自分と一緒に近づき、ロベルト長官達と同じく拝跪した。

 

 すると、アラン様がおもむろに口を開き仰った。

 

 「皆、こんな場で跪くのは止めてくれ!

 そんな事より、クレリアが頑張ってくれて産んでくれた息子を見てやって欲しい!」

 

 と言われたので、皆、ゆっくりと顔を上げてアラン様が腕に抱えておられる、皇太子殿下を見せて貰った。

 

 その瞬間の感動をどの様に表現スべきか、皆、声を失った!

 我が子との対面は、ひたすらの喜びと嬉しさの感動が胸の中を駆け巡ったが、アラン様抱かれておられる皇太子殿下を見た瞬間、信じ難い興奮と遥か過去に失われた半身が蘇った様な、やるせない気持ちとして心の奥底を満たす。

 そしてアラン様が、クレリア様の寝ておられる横にゆっくりと皇太子殿下を置かれると、その皇太子殿下にゆっくりと星猫の一匹が近づく。

 すると、其れに気づいたのか皇太子殿下がゆっくりと目を見開かれた!

 そのアイスブルーの瞳の煌めきの深さの素晴らしさよ!

 思わず、アラン様に止める様に言われていたにも関わらず、この場に居た全員が土下座する様に拝跪してしまった。

 アラン様とクレリア様は、苦笑され再度我々を立ち上がらせると、

 アラン様が、発表された。

 

 「・・・此処に発表する!

 この子の名は、アポロニウスと云う!

 正式な名称は、『人類銀河帝国皇太子 アポロニウス・スターヴァイン・コリント』!」

 

 と宣言された。

 この赤ん坊こそが、次代の皇帝陛下となられると問答無用で、全員が理解する事が出来たのだった。

 



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11月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝元年)《家名相続とドラゴン達の決意》

 11月12日(人類銀河帝国 コリント朝元年)

 

 昨日の皇太子殿下の出産が夜のニュースで放送され、帝国の国民全員が喜び、今朝まで帝国の各地で自主的な祝賀会が行われた様だ。

 母子の安全の為に、そのまま恐れ多くもアスガルド城に泊めて頂いたが、アラン様と自分含む旦那連中は、其の夜全員が初子を抱え込んだ身であり、経験が無いことでも一致しているので、全員協力し合う事を約束しながら子供と嫁の無事を祝い祝杯を上げながら喜び合った。

 朝になり、昨日は忙しくて合流出来なかった親父のガトルが、両祖父母達と一緒にミーシャの病室を訪れ、ミーシャの様子と赤ん坊の状態を見て、喜びを爆発させ周りにいた看護師から怒られていた。

 そして、自分とミーシャが依頼していた命名した名を明かしてくれた。

 赤ん坊の名は、

 

 《ケント・マグワイア 》

 

 名前が『ケント』で『マグワイア』が家名となる。

 この家名は、クレリア様がくれた家名で、今から300年前くらい以前に スターヴェーク王国を支えていた由緒正しい貴族だったのだが、旧アロイス王国の卑劣な侵略を受けて断絶してしまったそうだ。

 だが、今回『アポロニウス皇太子殿下』誕生に際し、他の4人の赤ん坊の親達の帝国への献身ぶりを称え、過去にスターヴァイン王家を支えた4家を復活させて報いる事にしたそうだ。

 何とも恐れ多い話だが、クレリア様とアラン様のたっての願いであると、爵位審議委員から説明され、素直に受け入れた。

 なので、自分は今後『ケニー・マグワイア』となるのだが、まあ自分が華族になった事も実感が伴わないので、今まで通りに名前だけのやり取りが同僚との付き合いになるのだろうな。

 

 11月13日(人類銀河帝国 コリント朝元年)

 

 結局、昨日まで諸々の説明が有り、今朝になって漸く全員で我が家の有る『ルンテンブルク館』群の家に戻った。

 『ケント』にとっては初の我が家になるが、まだ産まれたばかりなので、寝た儘の帰宅になった。

 そんな中、母親のマゼラがミーシャの為に、部屋を赤ん坊と過ごせる様に整えてくれたので、ミーシャと『ケント』は直ぐに寛いでくれて、直ぐに就寝した。

 やはり、なんだかんだ云っても、アスガルド城ではかなり緊張していて、疲労が蓄積していたのだろうなと思い、妹と母親に後事を頼み空軍ブロックに有る自分の執務室に向かい、ここ数日の間に溜まった書類仕事をこなしてから、ドラゴン達の宿舎に向かった。

 ドラゴンの宿舎は、それぞれの番いと一緒に作られていて、ガイはサバンナと、グローリア殿はアトラス殿といった具合だ。

 丁度午前の訓練を終えたドラゴン達が、昼食がてらドラゴンの宿舎に戻って来たので、それぞれの調子を確認していると、グローリア殿が興味津々で、自分の子供とアラン様とクレリア様の子供の話しを聞きたがった。

 

 「最初にエラちゃんと会った時も、こんなに小さい人間がいる事に驚きましたけど、色んな人間を見たり、会話してみて、人間は多種多様で中には信じられないくらい素晴らしい人間も居るのを学びました。

 きっとアラン様とクレリア様の子供なら、凄い子供何でしょうね、ねえアトラス!」

 

 と隣に居るアトラス殿にグローリア殿が同意を求めると、アトラス殿が大真面目に、

 

 「当たり前だ!

 あの素晴らしいアラン様のお子だぞ!

 程なく我等ドラゴン達を心服させる程の威を示されて、我等を安んじて下さるだろう!」

 

 と確信を持った物言いをしている。

 なので、自分が『アポロニウス皇太子殿下』との初御目見得に感じた感動を伝えたら、グローリア殿達ドラゴン全員が大きく頷き、アトラス殿が代表して、

 

 「さもあろうよ!

 ケニー殿が感じた、『信じ難い興奮と遥か過去に失われた半身が蘇った様な、やるせない気持ち』は、何となく理解できる!

 我とグローリアは、龍脈(レイライン)とのダイレクトリンクを度々行うので、龍脈を通した『神機』の喜びが何となく伝わるのだよ。

 これから、諸々の行事が落ち着いたら、恐らく『神機』の探索に向かう事になるだろうから、我々ドラゴンもそれに同道する為に訓練に熱を入れねばなるまいよ。

 前回の『ラスプーチン』との戦いで、我等ドラゴンが介入出来ない程の、強大な敵の存在を痛い程理解した!

 我等ドラゴンは、帝国にとって最強の矛として、アラン様とクレリア様、そして『アポロニウス皇太子殿下』の為に強く有らねばならぬ!

 皆、午後の訓練では、課題になっている『光翼竜(ケツアルコアトル)モード』、『リフレクション・ウイング』との連携を中心に、新しい軍団魔法を構築するぞ、気合いを入れろ!」

 

 と激を飛ばした。

 その様子を確認して、アトラス殿が上手くグローリア殿始めドラゴン達を指導している姿を見て、より空軍が強くなれると確信した。

 



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11月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝元年)《『星の涙(スター・ティア)』とスラブ連邦総括》

 11月18日(人類銀河帝国 コリント朝元年)

 

 改めて、ミーシャと息子の『ケント』を伴ってアスガルド城に向かった。

 どうやら職員には、通達が出されているらしく、ノーチェックで新築の皇子宮に通された。

 既に集合していた他の、シュバルツ達の子供達と嫁さんズが寛いでいる。

 子供達の相棒で有る星猫も、兄弟達と戯れていたが、親のケットシー128世がやって来ると5匹共に集まって神妙な様子でケットシー128世の前に並ぶ。

 そしてケットシー128世と一緒に現れた賢聖モーガン殿が、我々全員に説明を始めた。

 

 「・・・貴方方のお子さんは、アラン様とクレリア様のお子で有る『アポロニウス皇太子殿下』と同じく、神々(調整者)から選ばれた存在なの。

 この事実は、覆しようがない事なので、どうしようも無いわ。

 その為にこそ、セーフティーと話し相手として星猫の兄弟が相棒に選ばれたの。

 その一つの証明として、海底神殿に眠っていた遺物『星の涙(スター・ティア)』を渡して置くわ。

 今は、子供達のお母様達が持っていれば良いけど、ある程度の時期、子供達が分別を持ち負担に感じなくなったら、首飾り等にして身に着けさせてね!」

 

 と言われ、非常に綺麗な魔宝石と思われる物をミーシャに預けられた。

 

 「・・・その『星の涙(スター・ティア)』は、貴方方の子供と世界各地に眠るそれぞれの『神機』との道標になる様にカスタマイズしてあるわ。

 ある程度の年齢になって、その『星の涙(スター・ティア)』を介して、それぞれの専用武器たる『星剣(スター・ソード)』を自身の能力で発現出来る様になれば、『神機』とのダイレクトリンクが確立するわ。

 その時を問題なく迎える為に、子供達の乗騎たる『神機』を他の者に奪われない為に、貴方方は親として協力してね!」

 

 と賢聖モーガン殿は言われ、細かい事はよく判らないが、子供の為にも最大限便宜を図るのは、親としての義務だと思い、アラン様とクレリア様が了承したのと同様に、自分を含む全員が了解した。

 

 11月25日(人類銀河帝国 コリント朝元年)

 

 『アポロニウス皇太子殿下』と我が子の『ケント』の為の、諸々の手続きや健康診断等を終え、漸く先のスラブ連邦戦の総括を帝国の上層部と賢聖モーガン殿、そしてオブザーバーとして『魔法大国マージナル』に居る『守護竜アルゴス』殿とのモニター越しでの参加の元で行われた。

 結局、『ラスプーチン』とは一体何者だったのか?そしてその目的と『共産主義』とは?あの戦いの際に呼び出された『ダゴン』と眷属の様な『インスマウス人』と云う半魚人、更に犠牲となってしまった膨大な北方人はどこに行ったのか?

 そして最大の謎であるアラン様の呟かれた『バグス』とは?

 様々な疑問点に対して、アラン様と賢聖モーガン殿は出来る限りの説明をした上で、未だ完全に判明した答えの無い疑問点も多く有る事も説明してくれた。

 

 どうやら以前説明した通り、『ラスプーチン』の正体は奴の残した左手の解析結果から、元は例の農奴が母体だったのだが、天より飛来した円筒状の巨大金属の塊が変貌させてしまった物らしい。

 未だ天より飛来した円筒状の巨大金属の塊の正体は、判明しておらずに今後の解析結果が待たれる様だ。

 『共産主義』と云うのは、以前賢聖モーガン殿が推測した通り、当初スラブ連邦では無くスラブ国でしか無かった頃に、ルーシア正教を乗っ取る為の便宜上の思想だったらしく、しっかりとした思想背景の無い意味不明な思想に過ぎなかった様だ。

 そして億と云う膨大な北方人は、どうなったかと云うと、残念な事に殆どの者がMMにより疑似兵士と疑似魔獣、そしてインスマウス人という半魚人等に変えられ、『ダゴン』や『ハイドラ』を召喚する為の生贄として使用されたり、単に巨大な魔獣を構成する部品の様に作り変えられたそうだ。

 何とも後味が悪い話しだが、恐らくは事実だと考えられる。

 そして最大の謎である『バグス』とは?と云う疑問は、結局『ラスプーチン』自身が作り変えられた存在でしか無くて、純粋な意味での虫との融合体では無くて、あくまでも似せた疑似『バグス』と云う存在ならしい。

 ただ、『ダゴン』や『ハイドラ』、そして巨大な『バックベアード』は何か?と云うと、実はそいつらの本体では無くて、あそこに居たのはあくまでもMMを介した、この世界に存在するための力の一部でしか無くて、奴等の本体は次元を異にした所に有るらしい。

 つまり、『ダゴン』や『ハイドラ』は滅びておらず、何時でも此方の世界に条件を満たせば現れる事が出来るらしい。

 全くとんでも無い話しだが、奴等と相容れないのは、対峙する事になった帝国軍全体の共有認識なので、今後もいざ対峙する事になったら、敵対するしか無いだろう。

 



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12月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝元年)《様々な婚姻の形》

 12月1日(人類銀河帝国 コリント朝元年)

 

 人類銀河帝国の構成国と准構成国が整理された。

 移行期間等はバラバラでは有るが、凡そ30の小国家・衛星国家・従属国家が人類銀河帝国の構成国となり、帝国の総人口は約3億人に及び、教育事情を平均化する為に、帝国から小等部と中等部の教員をそれぞれの各国に派遣し、各教室では大型モニターをメインに一律の教育を行っている。

 そして、高等教育に当たる高等部・大学部は帝都コリントに留学してもらい、各分野のエキスパートを目指し帝国の色々な職種に着いて貰う予定だそうだ。

 

 12月5日(人類銀河帝国 コリント朝元年)

 

 ほぼ人類銀河帝国の構成国と准構成国の主要都市に、カーゴシップでのドーム設置が終わり、徐々に魔導列車用の駅の設置とインフラの構築と整備を其処を起点になっている。

 殆どの王族や貴族は、帝国の華族として帝都コリントでの生活を満喫しているので、今更古い旧態依然とした生活を望まない者がほとんどだ。

 かなりの人数の若年層の華族は、帝国の上級官僚や士官候補生を目指し、日々努力をしているらしく、自分の空軍を志望している者も多いらしい。

 帝都コリントに帰還してから、ベック、トール、キリコ達の中堅幹部連中は、新規に応募してきた空軍兵士の訓練内容の策定に時間が割かれ、自身のワイバーンとの訓練が疎かになっていると、泣き言を云っている。

 来年には、ワイバーン全てがドラゴンへの進化予定なので、ガイやサバンナ達ドラゴン達との訓練を行う様に指示した。

 

 12月10日(人類銀河帝国 コリント朝元年)

 

 昨年の『帝国鉄道公社』の設立から1周年のこの日、代表で有る『クララ・ゼーゼマン』社長が、帝国の魔導列車の環状線が完成した事を帝国の公共放送を通じて発表した。

 つまり、ベルタ公都→スターヴェーク公都→セシリオ公都→帝都コリント→ベルタ公都といった具合に、円環状に魔導列車が走る事になる。

 この環状線は、往還4車線のレールを常時走っていて、貨物輸送に特化した魔導列車も走っている。

 そしてそれに伴い、貨物輸送に使われるコンテナを各地で集配する為の組織で有る、『総合物流株式会社』はドンドン増員していて、凡そ50万人の従業員を抱え、100万人の従業員を抱える『帝国鉄道公社』の次に大きな組織で有る。

 然も、関連組織で有るトレーラーギルドや、各地の商業ギルドを事実上傘下に置いているので、何れは各国の商会も糾合してしまうだろうから、現在一番発展している組織だろう。

 一応、サイラス会長とタルス副会長が代表をしているが、実際の運営をしているのは、サイラス会長の一人娘で有るアリスタ社長と両腕のナタリー、カリナ両取締役が辣腕を振るっているのは、衆目一致している。

 

 そしてそのアリスタ社長は、帝国の上層部や華族の方々にはバレバレだが、帝国の次の宰相候補で有る、運輸省、ギルド管理庁、企業庁を一人で兼任するカトル大臣と良い感じで付き合っているようだ。

 毎日と云ってよいほど同じ場所で仕事として会っているし、夜遅くまで二人だけで一室にこもっているのもザラだ。

 実際に、二人が並んで出歩いている姿と、息の合った様子を見せられる我々としては、何時正式に一緒になるのか、気を揉んでいる。

 まあ、親であるサイラス会長とタルス副会長が、タイミングを図っているのだろうと云う観測が、皆の一致した思いだし、自分の家族の女性陣も同じ観測である。

 

 12月15日(人類銀河帝国 コリント朝元年)

 

 この日、ホシがナタリー取締役との婚約を発表した。

 何でも、ナタリー取締役が出した幾つかの試練にホシが打ち勝つ事で、勝利したらしいが、正に美女と野獣の様なカップルに周りの人間は、ホシの奴が犯罪めいた事でもしたのでは無いか?と不安になったが、ホシの相棒のジョナサンとアルムおんじ、そして自分の親父のガトルが、正々堂々たる交際申し込みとそれを達成するための努力であったと、保証していたので他のナタリー取締役に懸想していた男共も一応納得したようだ。

 

 12月25日(人類銀河帝国 コリント朝元年)

 

 極一部の帝国上層部と、クレリア様主催の女子会メンバーだけが参加する形で、内輪の婚姻式が行われた。

 新郎はアラン様で、新婦はセリーナ、シャロン両准将である。

 この婚姻式は、特に秘密というわけでも無いが、ワザワザ帝国が広報する必要は無いという事で、内輪だけで開催された。

 そもそもは、この婚姻式自体を当事者達は、するつもりが無かったそうだが、クレリア様がアラン様とセリーナ、シャロン両准将を説きつけて、開催される運びとなったらしい。

 何でも、クレリア様とセリーナ、シャロン両准将が相談の上で、『アポロニウス皇太子殿下』の事が落ち着いたら、婚姻式をする事になっていた様だ。

 

 アラン様は帝国軍の正装、セリーナ、シャロン両准将も帝国軍の正装で式に臨み、全然形式ばらずに簡素な婚姻式を済ませ、出席者全員が祝辞を述べる中、正式にセリーナ、シャロン両准将は、アラン様の側妃という立場になられた。

 但し、あくまでもセリーナ、シャロン両准将は、帝国軍の立場が第一義で、側妃という立場は皇宮内の話しなので、今後優先される行事等は帝国軍の立場で出席する事になる様だ。

 まあ、そんな野暮な話しは当人達にとってはどうでも良いらしく、セリーナ、シャロン両准将とクレリア様は、本当に嬉しそうだし、クレリア様の腕に抱かれた『アポロニウス皇太子殿下』も微笑まれていたので、形式などどうでも良くて、皆が幸せならばそれで良いでは無いかと納得した。

 



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12月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝元年)《コリント朝元年最後の日》

 12月30日(人類銀河帝国 コリント朝元年)

 

 様々な重要事件や変化の有った一年が終わろうとしている。

 人類銀河帝国にとっても多事多端であったが、自分個人にとっても非常に重要な変化が有り、思い出に耽ろうと思う。

 まずは、1月1日の人類銀河帝国発足とそれに続くアラン様とクレリア様の御成婚だろう。

 続けて自分の結婚とモーガン殿の来訪と、マジノ線での第一次スラブ連邦戦。

 その戦争後の西方教会圏への歴訪と世界武道大会。

 そして帝都コリントに帰還した後の、クライナ公国の要請による第二次スラブ連邦戦。

 スラブ連邦との戦争を終わらせてから、崑崙皇国とアラム聖国への使節外交。

 帝都コリントに帰還後の、自分の子供の誕生と、アポロニウス皇太子殿下の御生誕。

 そして色んな人の婚姻。

 

 かなり大雑把な起こった事の羅列で有るが、こうやって思い返すだけでも起こった事が多すぎると感じるな。

 来年も、アラン様から内示されている幾つかの命令は、今後の帝国の命運に関わる重要事項なだけに、引き締まる思いだ。

 

 12月31日(人類銀河帝国 コリント朝元年)

 

 今日までに、諸々の軍務に於ける事務作業は終えており、来年1月中旬頃に崑崙皇国に向けて出発する予定の諸準備は整っていて、後は幾つかの引き継ぎと物資を空軍の旗艦で有る『グラーフ・ツェッペリン』に積み込むだけだ。

 空軍用のドームを出て、我が家により妻子を連れ出し、アスガルド城から派遣された送迎車両に乗り込み、そのままアスガルド城の皇子宮に向かって貰った。

 午前中に行われた、明日の人類銀河帝国生誕1周年記念セレモニーのリハーサルを終えて、寛がれておられるアラン様とクレリア様、そして他の赤ん坊と一緒に戯れているアポロニウス皇太子殿下に、挨拶の礼を述べて息子のケントをアポロニウス皇太子殿下と他の赤ん坊の輪に連れて行った。

 このアポロニウス皇太子殿下と他の赤ん坊達は、息子のケントを含め、普段の家の中ではそれ程手の掛からない良い子なのだが、この様に5人が一堂に会すると突然活発になり、何時も大騒ぎである。

 まだ生後2ヶ月足らずなのに、盛んに意思表示を示し、部屋にある玩具の取り合いや、それぞれの相棒で有る星猫の尻尾を掴んで振り回したり、強烈な泣き声を張り上げたりと忙しなくなる。

 かと言って、5人の1人でも引き離そうとすると、赤ん坊全員が火を吹くようなギャン泣きをしてしまう為に、何時も5人全員が寝付くまで離す事が出来ないのだ。

 だから、アポロニウス皇太子殿下付きの専門職員(例のおばさん3人含む)は、元気過ぎる程の赤ちゃんズを目一杯遊ばせて体力を限界まで使わせて、一刻も早い就寝を目指す事を至上命題にしている様だ。

 そんな我が子達を横目に、アラン様とクレリア様を中心に昼食を摂る事になり、大きなテーブルを挟んでそれぞれの夫婦合計10人で昼食を楽しんだ。

 デザートのザッハトルテを頂いて一息着いてから、アラン様から明日の1周年記念セレモニーを終えた後の指針を示して貰った。

 ある程度は知らされていたが、現在崑崙皇国では妖怪(此方での魔物・魔獣の類らしい)の大量発生が有り、皇国各地で討伐の為の軍が編成されて、征伐しているそうだが、その間隙を突くように怪しい術師(此方での魔法使いの様な者らしい)が各地の軍閥を唆して、クーデターを起こそうと云う機運が高まっているそうだ。

 其処で、崑崙皇国上層部の要請とその後の正式な国交樹立を目指し、アラン様自身を中心としたトップ同士の外交を考えた使節団を派遣する事になったのだ。

 いきなりの人類銀河帝国皇帝の来訪は、常識的にあり得ないが、そもそもアラン様を傷つける者など想定出来ないし、例え危害を加えようとしても、いざとなればアラン様は神鎧『ジークフリート』で龍脈(レイライン)を使って、瞬間移動が可能なのだ。

 まあ、アラン様が神鎧『ジークフリート』を装着した段階で、敵対出来る者など存在しないのだが。

 そのような事を考えていたが、アラン様は此の場にいる男達に、崑崙皇国への随行を命じ、当然男共全員は即座に了承し、その場でそれぞれの嫁から了解を得る事に成功した。

 なぜなら、クレリア様がたっての希望で、必ず出張中に於ける1日1回の連絡と状況説明をこの皇子宮で行い、その状況を他の嫁達が見れる事にする事、そして東方の珍しい料理やデザートを一つでも多く持ち帰り、嫁たちと赤ちゃんズが満足する様な成果を上げる事と云う旨を、誓約させたからだ。

 しかし、この帝国どころか大陸に於いて敵無しと思えるアラン様だが、クレリア様とアポロニウス皇太子殿下の前では型無のようだ、帰り道でミーシャにその事を言ってみたら、笑いながら乳母車に入れてあやしているケントを指差し、「貴方だってケントの前では、型無じゃない!」と言われ、「全くその通りだ!」と相づちを打ち、そのまま笑ってしまい、送迎車両を運転する運転手にまで笑われてしまい、非常に幸せな気持ちに浸れた。

 



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1月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝2年)《アトラス殿とグローリア殿の結婚式》

 1月1日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 朝から、ニュースを通す形でアラン様達皇帝一家の現況が放送された。

 今までもアポロニウス皇太子殿下の状況は、ニュースでも紹介されていたが、今日の放送では人類銀河帝国生誕1周年記念セレモニーでの生放送が流され、その際の可愛らしい姿は大多数の帝国国民の心を射止めたに違い無い。

 セレモニーには、自分も参加していたのだが、元王族・貴族の華族の方々が、アポロニウス皇太子殿下始め、息子のケント達に群がる様にやって来て、挨拶を交わすのが大変で、いつの間にかセレモニーが終わっていたので、上手に対応出来ていたのか不安だったが、宮内庁長官のロベルト長官から、「赤ん坊のいる参加者は形式ばった儀礼は気にしなくて良いよ!」と言われ、そんなものかと納得した。

 

 しかし、セレモニーの後の立食パーティーでは何故か自分の両祖父母達が、息子のケントを連れ出し、両祖父母達が主催する『シルバー華族のサロン会』のメンバーと一緒に記念撮影や、年配の華族が率先して息子のケントを抱き上げて喜んでいる。

 何とそんな風に騒いでいたら、嫁さんズもやって来て連れて来た赤ん坊がアイドルと化し、とうとうアラン様とクレリア様、更にアポロニウス皇太子殿下が合流したので、改めて全員集合の記念撮影と個別の記念撮影を行って、式は無事成功裏に終わった。

 

 1月5日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 帝国軍の上層部と空軍総出で、アトラス殿とグローリア殿の結婚式を空軍ドーム内で行った。

 ルミナス教の正式婚姻である為、ゲルトナー枢機卿に来て貰い、幾つかの誓約を誓わせて正式な夫婦となった。

 アラン様は、

 

 「・・・アトラスとグローリアは今後夫婦として、我が帝国の柱石となって、頑張って貰いたい!

 これから、現在ワイバーンである120頭は、順次ドラゴンへの進化を皆希望しているので、アトラスとグローリアはこのドラゴン達を指導する立場となる。

 先達として既に部下となっている、ガイやサバンナ達15頭のドラゴンたちと相談の上で、部隊編成や軍団魔法の構築を考えてくれ、以前からの懸案である能力の向上は、其れ等が完了次第考慮するので、先ずは夫婦して努力して見せろ!」

 

 と厳しい注文を付けられた。

 それに対し、アトラス殿は、

 

 「・・・了解です、アラン様!

 先の戦いでアラン様が示された、異次元から侵略してくる『古きものども』とその尖兵である『バグス』に対抗出来る実力を備える為に、最大限の努力をして、その成果を見せるつもりです!

 どうか、自分達夫婦の今後を見ていて下さい!」

 

 と言うと、グローリア殿と共に深々と頭を下げた。

 そんな姿を見られたクレリア様が、腕にアポロニウス皇太子殿下を抱きかかえたまま苦笑し、

 

 「相変わらず、アトラスは生真面目に返答するし、アランも目出度い席で堅苦しいわ。

 2頭とも正式に私達の赤ちゃんであるアポロニウスには、会っていなかったでしょう?

 どうぞ、ご覧になってくれないかしら」

 

 と言われたので、恐る恐る2頭はその巨大な顔をアポロニウス皇太子殿下に近づけた。

 そんなご自身に比べて圧倒的に大きなドラゴンに対し、アポロニウス皇太子殿下はそのアイスブルーの両目をシッカリと開かれた上で、恐れげもなくその小さい手を伸ばし、2頭のドラゴンの鼻面を触った。

 そうやってアトラス殿とグローリア殿は、好きなだけアポロニウス皇太子殿下に顔を触らせていたのだが、やがて2頭とも同時に身を震わせて、退き感想を述べ始めた。

 

 「・・・不思議な感覚だわ!

 何故、こんなに幸せな気持ちが全身に広がるのかしら?

 とてもただ赤ちゃんに触られただけとは、信じられないわ!」

 

 とグローリア殿が言うと、同調した様に、

 

 「・・・本当にその通りだ!

 こんな感覚は、今まで味わった事が無い!

 やはりアラン様とクレリア様の御子なだけは有る!

 この御子こそが、帝国を受け継ぎ、且つこの星の正当な支配者なのか?!」

 

 と後半は呟く様に語尾をすぼめて、アトラス殿は感嘆している。

 

 此の場にいる帝国上層部と空軍に所属する全員も、そんな感嘆に一つも異論を唱えずに最もだと納得している。

 そもそも生後2ヶ月の赤ん坊が、こんなに巨大な生物を目の当たりにして、少しも泣かずに落ち着いた様子でドラゴンに触る段階で、欠片も疑わずにごく当たり前の光景であると認識しているのだから、傍から見たら異様極まる姿だろうなと、日記として書いている今ならば理解できるが、その時には、気づかなかった。

 

 1月10日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 崑崙皇国に向かう外交使節団と、派遣される艦船が正式に決まった。

 先ずは、アラン様自身が向かう為に帝国総旗艦『ビスマルク』が赴くのは当然だが、てっきり随伴すると思われた、セリーナ、シャロン両准将は帝都コリントに残られ、空軍から自分の乗る巨大陸上空母『グラーフ・ツェッペリン』が随伴する事が決まり、更にアラン様の護衛役として、『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』が加わる事が決まった。

 彼らは、先のスラブ連邦との戦いに間に合わなかった、親父謹製の専用武器を受け取り、是非その能力を存分に示したいらしく、切歯扼腕してたから、傍目にもとても喜んでいるから、その実力を噂に聞く妖怪達にぶつけて貰いたい。

 



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1月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝2年)《ノルデン諸国連合とクライナ公国の未来》

 1月15日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 正式な国交樹立を目指し、アラン様を始めとした外交使節団が此の日出発した。

 帝国総旗艦『ビスマルク』と巨大陸上空母『グラーフ・ツェッペリン』に乗り込む3千人と、積めるだけの物資を積み込み、マジノ線を越えてからクライナ公国を経てから、旧ルーシア王国の南端を通り、カザフ侯国に立ち寄って崑崙皇国に到達すると行った行程である。

 旧ルーシア王国の南端までは、以前に進んだ行程なので問題無いが、カザフ侯国から崑崙皇国までは初めてなので、若干の不安と興味を覚え、結構楽しみだ。

 

 1月18日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 アップグレードを経た『ビスマルク』と『グラーフ・ツェッペリン』は、なだらかに整備されたインフラのお陰で、以前の半分の時間でマジノドームに到達した。

 驚くべき事に、このマジノドームの周辺は、昨年と違い見渡す限りの農地が広がっていて、今現在は冬場にも関わらず、じゃがいも、白菜、そば、カブ、自然薯等が植えられている。

 何でも、MMによる寒冷地仕様の作物への品種改良と、『システム・ガイア』による、土壌改良による成果らしい。

 親父とドレイク殿の『カーゴシップ』による小型ドーム設置と、ノルデン諸国連合各地での魔導列車開通により、ノルデン諸国連合からの入植者が爆発的に増えて、既にこのマジノドームの周辺には300万人に及ぶ人々が生活しているようだ。

 

 マジノ線に駐屯していた、レリコフ元帥とその幕僚達が、久々の再会を祝って宴会を催してくれたが、当然その宴会の席では、昨年収穫した作物を見せてくれて、その食材を使った料理も供してくれた。

 中でも、蕎麦粉のクレープやじゃがいもの料理等は、素朴ながらも郷愁を感じさせる味で、きっと郷土料理として此の地の特産として、将来の特産物としての成功する未来が見えた様な気がした。

 

 アラン様は、レリコフ元帥がしきりに勧めて来た昨年収穫の、じゃがいもで作ったウォッカに感心していた。

 何とこのじゃがいもは、レリコフ元帥の親類の方々が収穫して、アラン様提供の蒸留装置でレリコフ元帥自身が蒸留した物だそうだ。

 然も、レリコフ元帥はこのまま軍人を引退して酒造りに残りの人生を捧げたいそうだ。

 どうして?、と云う疑問にレリコフ元帥自身が答えてくれた内容は、これまで軍人として頑張って来れたのは、あくまでも対スラブ連邦のノルデン諸国連合の国土防衛戦であり、隣国がクライナ公国という、心配する必要の無い友邦国であり、仲良く発展してして行く両国は互いに軍備拡張政策を取る必要は無く、何れは軍人の削減に舵を切るのは目に見えているので、元軍人の再雇用への道筋を切り開く意味合いでも、レリコフ元帥自身が範を見せるそうだ。

 成る程、マジノ線の重要性は対スラブ連邦では限りなく有用だったが、クライナ公国相手には余計な関所という物流に於いての阻害要因でしか無い。

 恐らく早晩には、無用の長物と化すのは規定路線だろう。

 軍人としての自分には、何となく寂しい話だが、レリコフ元帥の第二の人生に対してアラン様と共にエールを送った。

 

 1月20日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 当座のクライナ公国の首都である『リビン』に到着し、直ちにゼレンスク代表始めクライナ公国首脳陣とお会いする事になった。

 改めてゼレンスク代表から、帝国に対して膨大な借款と投資により、凄まじい勢いでインフラ整備が整いつつあり、元のクライナ公国住民が帰ってきても充分過ぎる程の職場環境がある上に、以前の国土より発展しそうな素地が出来そうで有る事を告げてくれた。

 そんな明るい未来を述べるゼレンスク代表に対して、同行してくれたノルデン諸国連合の官僚達とアラン様は、此の程度では無いと云う未来の展望について話しあった。

 つまりどういう事かと云うと、このクライナ公国のセリース大陸に於ける立地条件の良さを説明されたのだ。

 このクライナ公国は西方教会圏にとって、2つの内海と接する唯一の国であり、セリース大陸中央部に進出する為の玄関の様な位置にあり、圧倒的な平野部を国土に持っているにも関わらず、ガデッサと云う今後必須といえるMM用のレアアースの大鉱脈を港近くに持つ、殆ど反則の様な条件を保有しているのだ。

 他国からしてみたら、羨望されるのが間違い無い国なだけに、ノルデン諸国連合の官僚達としては、他国に先駆けて隣国の利として、物流の特約を考えて巨大な拠点を獲得したいそうだ。

 それに対して、アラン様は帝国としては大いに結構な話しで、帝国に対して別段不利益にならない事であれば、妨害する様な事は一切行わない事を、この際3カ国として誓約書を取り交わし、より緊密な関係を築く事を発表する事を決められた。

 益々、ゼレンスク代表とノルデン諸国連合の官僚達は、アラン様の懐の深さと帝国の鷹揚さに感謝された。

 まあ、帝国としては当たり前のスタンスだろう。

 何故なら、この巨大過ぎる取引の現場では、従来のギニーでは煩雑過ぎて取引出来ず、必然的にポイントで取引する事になるから、そのポイントを基軸通貨とすべく動いている帝国としては目先の利益など、心底どうでも良いのだ。

 全く、アラン様と帝国の財政部門を統括する若手の上級官僚の深謀遠慮には、本当に恐れ入る。

 



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1月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝2年)《蚩尤の足音》

 1月25日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 旧ルーシア王国の南端を通りカザフ侯国の国境線に辿り着いた。

 以前のスラブ連邦平定戦を終えた後、接触外交の端緒として駆逐艦をカザフ侯国に向かわせたのだが、驚愕し過ぎて結局入国出来ずに、国境近くを東方に移動して直接『崑崙皇国』国境から崑崙皇国に入国した経緯があり、今回は事前使節を送り2ヶ月の交渉をしてから、今回の外交使節団の入国に漕ぎ着けた経緯が有った。

 だが、先の駆逐艦ですら驚愕されたのに、それを遥かに越えた巨体を有する帝国総旗艦『ビスマルク』と巨大陸上空母『グラーフ・ツェッペリン』は、警戒どころか、凄まじい恐怖を感じさせた様で、5万人と云う数の軍隊が周囲を取り囲む形で、一緒に首都で有る『アスタナ』に向かう事になった。

 正直な処、如何に騎馬主体の軍であろうが、速力に圧倒的な差が有るので、遠慮したい処だが、此れも正式な国交樹立の為の我慢であろう。

 

 1月28日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 結局、騎馬でも艦船の巡航スピードに追いつけなくなり、交代交代で『グラーフ・ツェッペリン』に乗り込んで貰い、首都『アスタナ』に向かっている。

 随行する形となった軍の司令官と幕僚達は、初日こそ我々を警戒して船内に一歩も足を踏み入れなかったが、欠片も我々が敵対行動を取らないばかりか、飲食の提供を惜しみなく与える行動に警戒心も薄れ、帝国の魔導科学力の発展具合に驚愕して、一刻も早く帝国との国交樹立に賛成する事を告げて、今では頻繁にカザフ侯国侯王に対し書簡を鳩による連絡を飛ばしている。

 

 1月30日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 漸くカザフ侯国首都『アスタナ』に辿り着き、今現在ハリー達放送局の面々と帝国軍1部隊が、王宮への通信手段構築の為の作業に向かっている。

 思ったより、事前使節と随行した軍の司令官は良い連絡をしてくれていた様で、かなり円滑に物事は進んでいる。

 だが、首都『アスタナ』の平民の方々は、大変驚かれた様で、険しい山々に疎開している人々も多いらしい。

 なので、自分は『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』を連れて買い出しに出かけ、様々な帝国軍の評判や噂を収集出来た。

 何でも、此処カザフ侯国と云う国にはある伝説が有り、その伝説では終末の日というものが有って、その前兆として昨年の凄まじい地震と地響きが有ったらしい。

 どうやら、昨年のスラブ連邦の首都『エデン』の大破壊による余波の地震と地響きが、ここカザフ侯国にも届いていて、カザフ侯国の国民全員が恐怖していたようだ。

 あまり恐怖の目で見られても困るのだが、アラン様と外交使節団がカザフ侯国の上層部と話しをつけるまで、迂闊な話しも出来ないので、現状は放置するしか無い。

 

 1月31日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 ここカザフ侯国首都『アスタナ』には、カザフ侯国の有力貴族達が集まっているので、その方々全員に集合して貰い、この国の北方にあったスラブ連邦との戦闘の顛末と、時系列を資料と動画で、王宮に設置した巨大モニターでご覧頂いた。

 カザフ侯王『ダラム5世』始め、有力貴族の方々は、先端魔導科学技術である巨大モニターに驚嘆しきりであったが、それよりもそこで映りだされた動画の凄まじさにとうとう絶句してしまい、魂を飛ばしてしまっていた。

 暫くは、時が止まった様な時間が続いたが、やがてカザフ侯王『ダラム5世』が呟いた。

 

 《・・・・・触れ得ざる者・・・・・》

 

 その言葉を聞いたカザフ侯国の有力貴族達は、一斉に蒼白となって騒然とし始めた。

 触れ得ざる者?何とも意味深な称号だと思い、言葉を推考すると、どうやらアラン様が神鎧『ジークフリート』を装着した姿を指している事が判った。

 成る程、賢聖『モーガン』殿の説明にあった、神鎧『ジークフリート』の能力の一つで有る、この次元に於ける攻撃を一切受け付けないと云う項目が有ったのだ。

 しかし、それが何で恐怖に繋がるのかサッパリ判らなかったが、カザフ侯国の有力貴族に混じっていた宗教指導者の一人が説明してくれた。

 

 此処より南方の国に敦煌と云う場所が有り、其処にはある巨大な塚があって幾重にも施された封印が存在するそうだ。

 実は先日の地震によって、一番目の封印である岩の扉が割れてしまい、地元の住民からの申告を受けて、カザフ侯国全体が戦々恐々としていたらしい。

 其処に原因と思われる我々が来訪してきたので、心底から恐怖していたそうだ。

 つまり、その封印を破ってある災厄とでも呼ぶべき代物が、カザフ侯国を襲うと考えている訳だ。

 アラン様が、

 

 「・・・因みに、その災厄というのは?」

 

 と聞くと、宗教指導者の一人が明かした話しは、遥か大昔に封印された魔物で、

 

 《蚩尤》

 

 と云うそうだ。

 其の名を聞いた瞬間、嫌な悪寒が背筋を凍らせた。

 何だか、遥か以前に戦った事のある宿縁の敵であるかの様な気分に襲われたのだった。

 



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2月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『李世民』殿と『岳飛』殿との出会い》

 2月1日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 カザフ侯国と帝国の国交樹立の約款や定款を定め、外交を進める協議を外交使節団が王宮で進められている中、アラン様と自分それに『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』は、例の宗教指導者に連れられてある宗教施設に向かった。

 その寺院と呼ばれる宗教施設には、壁画という形で『蚩尤』の伝説が語られていた。

 

 その姿は、獣身で銅の頭に鉄の額を持ち、四目六臂で人の身体に牛の頭と鳥の蹄を持ち、頭に大きな角を持つ。

 壁画の絵画から見てると、西方教会圏に存在する魔物としては、『ミノタウロス』が近いが、あまりにもその能力と大きさは違い過ぎるし、由来等を聞くと、まるで神々の様だ。

 

 此れは、あのスラブ連邦との戦いで出会った、『ダゴン』『ハイドラ』を優に越える魔物かも知れないと思い、出来るだけの資料を貰い、『グラーフ・ツェッペリン』に帰った後に、帝都コリントにいる賢聖モーガン殿に資料を転送した。

 アラン様が王宮から帰り、夜のミーティング時に諸々の相談を始めた。

 取り敢えず、『蚩尤』の封印は全て破られている訳では無く、緊急の問題では無いようなので、一旦棚上げするが、当然危険は放置する訳にはいかないので、常に状況変化を確認する為に、超高性能ドローンを敦煌の付近に監視モードの状態で配置する事が決定された。

 

 2月5日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 正式な国交樹立がなされて、諸行事もつつがなく行われたので、本日崑崙皇国に向けて我々はカザフ侯国を出発した。

 どうしても、『蚩尤』の危険性を考えると後ろ髪を引かれる思いだが、直ちに状況変化が起こる訳では無いので、やはりミーティングで決定した通りに超高性能ドローンに任せるのが一番だろう。

 

 2月8日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 以前帝国側から送った使節団が辿った所とは別の長城の関門(潼関)を経由して、崑崙皇国に入国して例の則天武后の便宜に従い長安を目指す。

 弘安郡と云う場所らしいが、随分乾いた地形で寂しい所だと思っているとその理由が程なく判った。

 かなりの数の村々が荒らされていて、牛や豚等の家畜が食い荒らされた跡がそこら中に有って、家屋の中には人間も喰われている家が有った。

 途上で、20万に及ぶ崑崙皇国軍と合流出来たが、何とこれから妖怪の軍との会戦を予定している様だ。

 此の軍の司令官は『李世民』と云い、驚いたが今の皇帝(李淵皇帝)の次男に当たり事実上の皇太子だそうだ。

 前に送った駆逐艦の能力を把握されていて、是非、帝国総旗艦『ビスマルク』と巨大陸上空母『グラーフ・ツェッペリン』の参戦を打診され、『グラーフ・ツェッペリン』の中の大会議場で作戦会議を行う。

 

 敵の妖怪軍は凡そ60万の兵力で、名称は『平天大聖』軍と言い、巨大な牛頭を持つ魔物が率い、ありとあらゆる妖怪が参加しているらしい。

 

 こちらの崑崙皇国には、我等空軍によく似た存在の『八大竜王』の内、難陀・跋難陀・娑伽羅・和修吉の四大竜王が参加していて、その巨体を空中で遊弋させている。

 竜とは、我等の空軍所属のドラゴン達と違い、非常に長い胴体で細身のまるで蛇の身体に手足が付いている様で、然も翼も無いのに当たり前の様に空を飛んでいる。

 改めて、魔物はその膨大な魔力で空を飛ぶのだなと納得出来た。

 しかし、本当に大きいな、流石に『守護竜アルゴス』殿程の巨体では無いが、長さだけなら匹敵するくらいに大きい、今回の外交使節団には、敢えて我等空軍の主軸となるドラゴン部隊とワイバーン部隊(多分今頃は半数がドラゴンに進化している筈)は連れて来ておらず、その代わりに多数のドローンを積載している。

 

 この『李世民』と云う指揮官は相当出来る様で、最初から徹底的に洗いざらい自軍の状況を話してくれて、中級以上の指揮官を全員紹介してくれたので、アラン様の指示を受けて我々帝国軍の魔導科学愚術力を説明し、『ビスマルク』と『グラーフ・ツェッペリン』による、崑崙皇国軍そのものをバリアーでフォロー出来るし、全軍では無いがかなりの人数の軍人に、プロテクターを渡す事で個人用のバリアーを張れることを実証実験させて納得させた。

 そして、『李世民』指揮官に、このプロテクターを装備して直接に妖怪軍と切り結ぶ軍勢に引き合わされた。

 その軍の名前は『岳家軍』と言い、全軍に於いて最精鋭と云ってよいほどの能力を持つそうだ。

 そしてその『岳家軍』を率いる将を、『李世民』指揮官から紹介された。

 その将軍の名前は『岳飛』!

 元は地方の豪族出身の義勇軍だったらしいが、度々の妖怪被害に対し、後手後手にしか動かない地方軍閥に嫌気が指し、独自に組織した義勇軍だけで妖怪を退治していき、大功を重ねていたがそれを妬む佞臣達により、殺されそうになっていたのを、『李世民』指揮官が助け出し、自分の軍の懐刀として重用しているそうだ。

 実際一目見て、この『岳飛』と云う将軍の佇まいは尋常ではなく、この人物を越える人間は自分にはアラン様しか思いつかない程だ。

 だが、その感想は『李世民』指揮官と『岳飛』将軍も同様らしく、アラン様と親しく会話される内に、その才能と器に驚愕されている事が傍目にも判った。

 作戦会議が終わって、懇親会といった形の宴会が催される事になり、こちらはアラン様監修の各種の帝国謹製の酒類を提供すると、崑崙皇国側も特産の紹興酒・白酒等を提供された。

 双方共に、飲んだことの無い酒類に喜び、大いに場は盛り上がり、各種の珍味も供されて、互いにかなり打ち解ける事が出来た。

 中でも、アラン様と『李世民』殿そして『岳飛』殿は、大変互いに気に入ったらしく、何れこの軍事作戦が終わったら、どこかで大宴会をして勝利を称え合いましょうと、酒を酌み交わしておられる。

 まあ、この方々にとっては妖怪軍など、心底どうでも良いのだと感じる程で、正に一世の英傑が時代を飛び越えて一同に会する事が出来たのだと感じた。

 



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2月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝2年)《対妖怪軍戦①》

 2月11日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 三日前から、様々な準備を行い妖怪軍『平天大聖』軍を超高性能ドローンを使い、編成・構成や規模を確認して、こちらの体勢と軍の編成を変更した。

 妖怪軍『平天大聖』軍は、総勢60万で数多の種類の妖怪で編成しているのが見て取れるが、主に牛の頭の妖怪が多い事が判った。

 陣の構築と装備の変更も終え、幾通りかのシミュレーションを繰り返し行った、『李世民』指揮官と『岳飛』将軍始め中級以上の部隊長の方々には、『ナノム玉』を飲んで貰い、利便性の説明をしてモニターでの教育も受けて貰った。

 夜には、宴会という程では無いが、シッカリとした食事を全軍に摂ってもらい、英気を養った。

 

 2月12日①(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 朝靄の中、開けた荒野でかなりの距離を空けた戦場で両軍は向かい会った。

 先ず動きの有ったのは妖怪軍!足の早い妖怪達が群れを為して陣形を取って攻撃して来た、その数は凡そ20万。

 陣形は紡錘陣形で、明らかにこちらの中央を突破する意思が汲み取れた。

 だが、当然そんな事は想定内なので、『李世民』指揮官が指揮して独特の防御陣形が取られた。

 

 「・・・符術『土壁防御陣』!」

 

 との指示に従い、西方で云う処の魔術師(東方では方術師と言うらしい)が、四角い紙に筆で文字を書き、目の前に掲げると、高さ5メートルの土壁が横幅2キロメートルに亘って地面からせり上がった。

 此れは帝国軍の戦術教本にも存在し、去りし日のセシリオ王国軍のゾンビ軍を押し留めた氷壁と同じ要領で、事前にその場所に魔石の使い古した物に過剰に魔力を充填させ、先程の方術師の符術によって土壁を作り上げたのだ。

 案の定、土壁によって鋭鋒をくじかれて勢いの無くした妖怪軍20万は、大きく迂回する様に二つに分かれて左右からこちらの陣形に向かおうとする。

 だが、そんな妖怪軍の意図は簡単に崩れ去る。

 土壁の両端から顔を出した妖怪軍は、左に『ビスマルク』右に『グラーフ・ツェッペリン』の強力極まりない砲列が狙っていて、凄まじい魔法弾が妖怪軍を粉砕した。

 土壁で視線を遮られた妖怪軍の後列は、前列がどうなっているかも判らずに殺到し、そのまま壊滅して行く。

 その様子を見ていた、妖怪軍の主力たる中軍(30万)が、奇妙な角を生やした要塞の様な乗り物(全長500メートル程)を中心にゆっくりと進軍してくる。

 すると、その要塞の様な乗り物の先端に、女と思われる妖怪が現れ、やにわに巨大な扇の様な物を振りかざし大きく扇いだ。

 すると、空があっという間に雲に覆われて、2回目の大きな扇ぎで風が吹き荒れ始め、3回目の大きな扇ぎで雹や礫が我々に襲いかかってくる。

 

 「・・・羅刹女の芭蕉扇か・・・!」

 

 と『グラーフ・ツェッペリン』の艦橋で自分と一緒に、戦況を観察していた『李世民』指揮官呻くと、そのままマイクを掴み、『八大竜王』の難陀・跋難陀・娑伽羅・和修吉の四大竜王に命じた。

 

 「お主達は、直ちに芭蕉扇への対抗手段である水神『九頭龍大神』へと变化し、ありとあらゆる天候改変を阻止するのだ!」

 

 と命令が発せられ、四大竜王も、

 

 「「「「承知!」」」」

 

 と了解し、天空で四大竜王がもつれ合う様になると、9つの頭を持つ巨大な竜に变化した。

 

 「「「「「「おおおーーーー!」」」」」」

 

 と崑崙皇国軍と帝国軍が、感嘆を上げて暫くすると、芭蕉扇によって狂わされた天候が徐々に収まって行く。

 

 「今だ!方術師達よ、3段展開方術『水撃符・雷撃符・火撃符』連続投射!」

 

 という命令を『李世民』指揮官が発し、15万人という膨大な方術師達が帝国軍が提供した魔石カートリッジをベルトにくくり、方術を乱れ撃つ!

 その凄まじい方術攻撃で、無理矢理土壁を壊してやって来た妖怪軍を徹底的に叩きのめすと、妖怪軍の最後の軍である後軍が戦場に姿を見せた。

 その軍は、大型の妖怪が主軸で、行軍スピードが遅く漸く辿り着いたといった様子だ。

 その後軍に対しても、方術が乱れ撃たれたが、大型の妖怪達にはあまり効果が無い様だ。

 その様子を確認した『李世民』指揮官は、アラン様の乗る『ビスマルク』に要請した。

 

 「アラン皇帝陛下!

 打ち合わせ通りに、妖力を打ち消す魔法弾の砲撃を頼む!」

 

 との要請にアラン様は、

 

 「了解だ、李世民殿!

 『ヴァルキリージャベリン弾』、大型妖怪達に向け連続砲撃!」

 

 と命令されたので、『ビスマルク』の主砲である46センチ砲から、『ヴァルキリージャベリン弾』が大型妖怪達に向け連続砲撃された。

 流石に『ヴァルキリージャベリン弾』を打ち込まれた 大型妖怪達はもんどり打って倒れて行く。

 

 そのチャンスを見逃す、アラン様と李世民殿では無い!

 

 「『拳王ダルマ』と『剣王カイエン』は親衛隊を率い、妖怪軍の掃討戦に移れ、フォローはドローンがするので思う存分倒しまくれ!」

 

 「岳飛!

 『岳家軍』を率い妖怪軍の息の根を止めろ!

 一匹も逃すな!」

 

 と両指揮官が吠える様な命令を下したので、いよいよ戦場は妖怪対人間の接近戦の様相を帯びてきた。

 



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2月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝2年)《対妖怪軍戦②》

 2月12日②(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』が親衛隊を率い、戦闘車両の後部に乗って妖怪軍の後軍に向かう。

 その部隊と並走する形で、岳飛殿率いる岳家軍5万人が妖怪軍全ての掃討戦に向かう事になったが、帝国軍供与のプロテクターと、ドローンからの支援を受ける手筈なので、帝国愚保有の全てのドローンを戦場に散開させた。

 戦場で、怪我を負いながらも向かってくる妖怪に向けて、『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』が自分の親父に製作してもらった、武器を披露する場が整った!

 

 先ずは、拳王ダルマ殿が戦闘車両の後部から、人間の跳躍力を遥かに越えたジャンプ力で空中を駆けて、妖怪の集団の中央に降り立った。

 いや、降り立ったと云うのは語弊がある、なんと拳王ダルマ殿は足からでは無く、上下逆の逆立ちをする形で地面に降り立ったのだ!

 妖怪達も面食らったのか、数瞬の躊躇があったが、直ぐに拳王ダルマ殿に向かって各々が持つ青龍刀や矛、槍などで打ちかかって来た。

 

 「『逆倒結跏趺坐・紅蓮乱れ蹴り』!」

 

 そう拳王ダルマ殿は呟かれ(レシーバーで聞こえている)て、凄まじい蹴り技が炎を纏って妖怪に乱れ撃たれた!

 実は、拳王ダルマ殿は元々、蹴り技が得意であったのだが、ミツルギ殿に両足を壊されて、両腕を徹底的に鍛える事で、独自の技である『顛倒結跏趺坐』を編み出したのだが、『ナノム玉』を服用する事で両足も完治したので、鍛えた両腕を上手く活かす事で、上下逆転した足技を放てる様になり、自分の親父に発注した武器は、何と脚を覆う形の脚甲(レッグ・ウオーマー)で銘は『風炎脚』。

 その名の通りに、風のスピードと炎の攻撃を持つ、武具だ。

 

 妖怪達は、その紅蓮の炎を纏った蹴り技を受けて、尽く焼き尽くされて、消し炭と化していった。

 

 一方、剣王カイエンは、戦闘車両から静かに降りると、疾風の速さで駆けて、目につく妖怪達を目にも止まらずに惨殺して行く。

 然も、その長い刀の刀身を一目も見せずに「キンッ!」と云う鞘鳴りが聞こえるだけで、妖怪は真っ二つに斬り裂かれて行くのだ。

 剣王カイエンが、自分の親父に発注した武器は、長刀でとても抜刀術には適さない長さである。

 銘は『蛍丸』。

 本来は、その美しい刀身を活かした幻術の技が、真骨頂なのだが、雑魚の妖怪などに見せるのが、勿体ないと感じているのか、手早く終わらせている。

 

 この二人程では無いが、親衛隊の面々も『剣聖ヒエン様』と『拳聖ダンテ様』によって、帝都コリントでみっちり鍛えられているから、多少大きい程度の妖怪など敵では無く、鎧袖一触と言わんばかりに倒して行く。

 

 その様子を見て、負けじと岳飛殿率いる岳家軍5万人が妖怪軍に襲いかかる!

 中でも岳飛殿と岳家8将と呼ばれる方々の戦いぶりは、見事の一言に尽きた。

 西方では見たこともない、武器であるヌンチャク・多節鞭・流星錘・峨嵋刺・六角棒・戟・鐧・朴刀を使い、次々と妖怪達を下していく。

 時折危ない場面では、ドローンが光線(ライトアローの強力版)が敵である妖怪を足止めしてくれるので、殆ど危なげなく戦況は推移していった。

 

 暫くその状況で宣教が推移していたが、いきなり奇妙な要塞の様な乗り物が動き出し、総旗艦『ビスマルク』に向けて突進して来る。

 どうやら破れかぶれで特攻して来るつもりの様だ。

 なので、想定の一つで有る変形型の釣り野伏をやってみる事になった。

 相手の奇妙な要塞の様な乗り物も、何かの魔法を遠距離で放ってくるので、敢えて総旗艦『ビスマルク』は全体を覆うバリアーを強化して、ゆっくりと後退し敵を引き付ける。

 その間に、『グラーフ・ツェッペリン』を左側に移動し、敵の有効攻撃範囲外に待機させ、李世民殿が指揮する方術師の軍団は、右側へ移動し埋伏する形で、先程の土壁の逆で塹壕を掘った。

 充分に奇妙な要塞の様な乗り物を引き付けたと判断されたアラン様は、『ビスマルク』の副砲に装填していた煙幕魔法弾を、敵の乗り物に向けて上部から降り注ぐ形で、撃ち込む事で敵の視界を奪った。

 次の瞬間には、探知魔法で完璧に把握している敵の乗り物に対して、『グラーフ・ツェッペリン』の砲撃とドローンからのファイアー・グレネードの飽和攻撃を仕掛けた。

 その耳をつんざくような砲火によって、慌てて右側の李世民殿が指揮する方術師の軍団の方へ逃げて行き、充分に射程口撃に入った段階で、方術師の軍団からの凄まじい符術攻撃に曝された。

 途端に足の止まった敵の妙な要塞の様な乗り物は、完全に動きを止めて防御に努めている様だが、その横っ腹に向かって、『ビスマルク』が突貫をかました。

 『ビスマルク』の前面部分にあるドリルを回転させて、敵の妙な要塞の様な乗り物の側面を貫いた!

 そしてその突入口から、親衛隊が突入し、羅刹女と複数の妖怪を捕らえ、羅刹女から降伏宣言を出させて戦闘を終結させた。

 だが、あくまでもこの一軍との戦闘が終わっただけで有り、これからが妖怪との抗争の始まりなのだろう。

 



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2月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝2年)《長安攻防戦準備》

 2月13日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 戦場の妖怪達に崑崙皇国の符術師達が、特殊な符術を施した紙を一斉に掲げると、死体ごと魔石に変わった。

 我々帝国軍が驚いていると、李世民殿が説明してくれた、かなり昔に降臨された仙人に教えられた方術で、幾つかの術の体系を崑崙皇国に齎した後に仙人は天に戻って行かれたそうだ。

 何だか、アラン様のと同じ『神人』の様な方だなあと思ったが、多分これから向かう長安ならもっと詳しく判るだろう。

 

 2月15日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 長安城の郊外にある練兵場に総旗艦『ビスマルク』と巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』を繋留し、帝国外交使節団を連れてアラン様は、王宮に向かった。

 この長安城は、その昔には首都だったらしく、現在の首都で有る『洛陽』と繁栄の度合いこそ違うが、それなりの権威を保持する立場にあるそうだ。

 実際の処、住人の人数でこそ半分だが、軍人の数や軍備に於いては甲乙つけ難いレベルにあるそうだ、何故かと云うと崑崙皇国にとっての西と北からの脅威を引き受ける要所であるそうだし、この長安以外にも西と南の拠点として『成都』、東と南の拠点として『南京』が有るそうだ。

 夜には、約束通りに李世民殿と岳飛殿とその幕僚とが主催された大宴会が有り、崑崙皇国軍と帝国軍の兵士全員も件の練兵場で運ばれた酒類と食事に、喝采を上げて仲良く宴を開催している。

 王宮での大宴会には、『則天武后』も参加されて、酒豪ぶりを見せつけるように、飲み比べをされていた。

 不思議な事に、『玉面公主・妲己』殿が顔を見せなかったが、アラン様が「気にするな!」と言われたので、問題無いのだろうと思い、気にしない事にした。

 

 2月17日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 この長安に向けて、新たな妖怪軍がやって来ているらしい。

 今回は、軍というより巨大な魔物といった具合で、僅か3匹らしいが、その体長が尋常では無いので軍と認識しているそうだ。

 作戦会議が王宮大広間で行われ、大型モニターの複数設置と立体プロジェクターの設置により、かなり綿密な作戦会議が出来たのだが、驚くべき事に会議には、先の戦いの捕虜である『羅刹女』が参加しているのだ。

 不思議に思い、疑問を李世民殿にぶつけると、返答して来たのは初めて姿を見せた『玉面公主・妲己』殿だった。

 

 「・・・帝国軍の方々には、こちらの風習と経緯が判らないと思うので、今から説明致します。

 此れは遥か昔に、時の天帝が下した裁定が発端なのです。

 その当時、妖怪達と人間の戦いである『妖怪大戦』が勃発したのですが、強大な力を持つ妖怪達によって、人間は追い詰められ、滅びの一歩手前まで行ったのですが、それを哀れに思った神々を従える天帝は、複数の仙人を人間の味方として降臨させました。

 仙人達はその能力によって様々な技術や方術を人間に教え、更には強大な魔道具『宝貝』を人間の中でも優れた者に渡し、妖怪達に優る状況を作り出しました。

 ですが、妖怪達もそもそも好んで争いをしていた訳では無く、ある神にも匹敵する魔物の所為で、人間に対して牙を剝いていただけでした。

 そのある魔物の名前は『蚩尤』。

 圧倒的な力と能力を持ち、ありとあらゆる妖怪達を意のままに操る、始末に負えない能力を使い、世を混沌の渦に巻き込みました。

 ですが、前述の仙人達の死にものぐるいの死闘の末に、漸く敦煌と云う場所に封印する事に成功し、妖怪達の洗脳を解くことに成功したのです。

 そして天帝は、妖怪もまたこの世界で共に暮らす仲間であると結論を出して、人間と協力し合う妖怪達を人間の組織の中に組み込み、崑崙皇国の役職にも就く事になったのです。

 この羅刹女も元は、則天武后様のお付きの女官でしか有りませんでしたが、突然3ヶ月前くらいに宝物殿に侵入して『宝貝』の一つで有る『芭蕉扇』を持ち出してしまったのです。

 そして地方軍閥の一つで妖怪で編成された『平天大聖』軍を乗っ取り、我等に攻撃を仕掛けて来たのです。

 しかし、帝国から提供された『ナノム玉』のお陰で、正気を取り戻し裏の事情も判明致しました。

 どうやら洛陽から派遣された宦官の一人から飲まされた薬の所為で、この3ヶ月間はその宦官の操り人形だった事が判明し、その宦官も既に拘束しております。

 ですが、この宦官が薬によって誑かした妖怪は他にも居たのです。

 その者達こそ、今現在この長安に攻め込んで来ている者達です。

 その者達の名は、『牛魔王』、『金角』、『銀角』、元は『平天大聖』軍の幹部ですが、今は洗脳状態にあります。

 ここ長安にはこういった事態の為に仙人が用意したある方術が存在し、この方術を駆使する為の勇士を選抜しました。

 ですが、後一人足りなかったので、アラン皇帝陛下にお願い致しましたら、アッサリとアラン皇帝陛下ご自身が志願され、然も帝国の技術を提供して頂き、ドラゴンとのダイレクトリンクを応用する事で、遠隔操作による操作が出来る様になりました。

 なので、これより改良方術である、『二郎神君』『哪吒太子』『斉天大聖』を発動させます。

 皆、準備に取り掛かって下さい!」

 

 と指示されたので、我等もアラン様が成る『二郎神君』の為の準備に取り掛かった。

 



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2月の日記⑤(人類銀河帝国 コリント朝2年)《長安攻防戦》

 2月18日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 「龍脈(レイライン)ダイレクトリンク憑依モード『躯体』スタート!」

  

 帝国軍総旗艦『ビスマルク』の専用シートに座ったアラン様に、ドラゴンとのダイレクトリンクを流用したシステムを使い、艦船外に用意された『躯体』とのリンクが始められた。

 この『躯体』とは、例の仙人達が用意した『宝貝』であり、人間の身でありながら大妖との戦闘を行う為に開発された物だ。

 だがあまりにも巨大である為に、膨大な魔力を消費するから、10万人の方術師がいたとしても、精々1体を1時間動かすのがやっとだった。

 だが、『ナノム玉』を服用し、帝国の魔導技術を積極的に活用する事により、総旗艦『ビスマルク』と巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』に搭載された『魔導凝縮炉』8基を使用出来たので、爆発的な魔力の行使が可能となった。

 『ビスマルク』ではアラン様の『二郎神君』、『グラーフ・ツェッペリン』では李世民殿の『哪吒太子』と岳飛殿の『斉天大聖』の起動に成功し、早速各々が感触と身体の動きのチェックを行っていった。

 充分納得がいった様で、『躯体』がそれぞれ頷くと、次のプログラムが発動された。

 

 「脈(レイライン)ダイレクトリンク第二段階、小周天モード発動!チャクラ励起せよ!」

 

 との命令が、『玉面公主・妲己』殿の口から発せられると、モニターに映った3名の身体の中心線に直列に並んだ身体の7つの部位に突如光る部位が出現した。

 その光る場所は、円形なのだがどうやら回転しているようで蓮の花の様に見えた。

 だがその光る部位が出現した瞬間、爆発的な何らかの力が3人から噴出した!

 その力は、魔力にも似ていたがどちらかと云うと気力や気と呼ばれる力がより近いが、明らかに神聖な気配を纏っていた。

 言わば、『神気』とでも呼ぶべき代物だった。

 その『神気』が『躯体』に注がれると、明らかな変化が『躯体』に現れた。

 予め周囲に配置していた符という紙が大量に『躯体』に纏わり付き、みるみる内に巨大な3人の武将が姿を現した。

 

 アラン様が憑依している躯体が、『二郎真君』。

 手には三尖両刃刀を持っており、何とも涼やかな美男でアラン様にお似合いな武将姿だが、何故か周りを哮天犬がお供するように寄り添っていたが、途中からその哮天犬に乗り空を飛んでいる。

 

 李世民殿が憑依している躯体が、『哪吒太子』。

 三面六臂の姿で、手には乾坤圏(円環状の投擲武器)・混天綾(魔力を秘めた布)・火尖鎗(火を放つ槍)・砍妖刀(かんようとう)・縛妖索(ばくようさく)・降妖杵(こうようしょ)・綉毬(しゅうきゅう)・火輪(かりん)の六種の得物を持っている。

 そして足には何やら火の車輪がくるぶしの辺りで回転していて、空を飛んでいる。

 

 岳飛殿が憑依している躯体が、『斉天大聖』。

 手には如意棒と云う伸縮自在の棒を持っており、筋斗雲と云う雲に乗って空を飛んでいるが、その顔はどう見ても猿のもので、美男の岳飛殿には似つかわしく無いと思った。

 

 そのまま3人の武将は長安を迂回する形で侵攻して来る、『牛魔王』、『金角』、『銀角』を迎撃に向かった。

 そして長安からかなり離れた郊外で、双方睨み合う形で邂逅した。

 それぞれの全長は凡そ100メートル程で、今まで帝国軍が戦ってきた超巨大な魔獣達に比べれば、然程大きくなく迫力も劣る気がするが、大妖怪達は人間の武将と同じ様に武装しており、武器も相当立派な物を装備しているし、どうやら武術も嗜んでいる様だ。

 

 《此れは楽な相手では無いな!》

 

 と考えた。

 何故なら、今までの魔物や魔獣は、あくまでも素のままで敵対して来たので、極論ただの動物と同じで本能で襲いかかるだけであったが、この3匹は人間並みに意表を突いて来る可能性が有った。

 その様な感想を抱いていると、案の定『牛魔王』、『金角』、『銀角』は己の得物を振り回して、アラン様達の憑依している武将に斬りかかった。

 当然得たりと、アラン様の『二郎真君』始め3人の武将もそれぞれの武器で斬り結んだ!

 斬り結ぶ事50合に及び、大体アラン様の『二郎真君』対『牛魔王』、李世民殿の『哪吒太子』対『金角』、岳飛殿の『斉天大聖』対『銀角』といった構図になった。

 

 最初に決着が着いたのは、『斉天大聖』対『銀角』で有る。

 『銀角』は山を動かす術を使い、3つの山を使って『斉天大聖』を押しつぶそうとして来たが、筋斗雲に乗った『斉天大聖』は素早く、山の間をすり抜けて如意棒を山よりも巨大にすると、『銀角』目掛けて振り降ろし、『銀角』を打ち倒す事に成功した。

 

 次に決着が着いたのは、『哪吒太子』対『金角』で有る。

 『金角』は『宝貝』で有る紫金紅葫蘆(しきんこうころ)と琥珀浄瓶を使い、『哪吒太子』を吸い込もうとしたが、当然その『宝貝』の用途を知っている李世民殿の『哪吒太子』は、一切無視して遠距離から乾坤圏で攻撃を繰り返し、火尖鎗で『金角』の足を薙ぐと、止めに縛妖索で動きを止め降妖杵で打ち倒す事に成功した。

 

 最後に決着が着いたのは、『二郎真君』対『牛魔王』で有る。

 『牛魔王』は『金角』、『銀角』が打ち倒されるのを見て、突然体長1,000丈(3,330m)、体高800丈(2,666m)の白牛と化し、アラン様の『二郎真君』に突っ込んで来たが、この程度の大きさの魔獣を何度も倒して来たアラン様が驚く訳もなく、哮天犬に乗って悠々とその突進を躱すと、三尖両刃刀を持って、『コリント流剣術最終秘奥義メテオ・ストリーム』を叩き込んだ!

 その流麗なる舞の様な技は、何度も見た帝国軍の面々にとっても感動を伴う奥義だが、初めて見る崑崙皇国の皆々にとっては、信じ難い程の人智を越えた武技に違いなかった!

 何せ、大きくなったとはいえ僅か100メートルの存在が、30倍以上の大妖怪に向かい手も足も出ない形でアッサリと打ちのめしたのだ。

 然も、何かの能力を使った訳でも無く、純粋に人が修練する事で到達した武技による物で有る事が、少しでも武に携わった者ならば、一目瞭然で有った。

 多くの人々は歓声を上げたが、少なくない武人は嘆息の息を漏らしていた。

 



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2月の日記⑤(人類銀河帝国 コリント朝2年)《対妖怪軍戦③》

 2月20日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 長安郊外での戦後処理を終えて、今後の対策を李世民殿と則天武后を始め長安にいる崑崙皇国の上層部と、帝国軍上層部とで練っていると、首都『洛陽』から下文が則天武后に送達された。

 どうやら、例の『成都』でも妖怪軍の反乱が起こり、それを討伐する事を長安に滞在している李世民殿の率いる軍と岳家軍に求められた。

 本来なら、他の地方からの軍閥や中央軍が出向くべきだが、何故か先程戦ったばかりの我等に出陣しろとの命令である。

 然も、我等帝国軍はあくまでも、外交使節団であるにも関わらず、以前崑崙皇国側が要請した援軍扱いとして、上手く利用しようという底意が透けて見える。

 だが実はこの事は、想定内なのだ。

 何故なら、そもそも本来は国同士の外交事案なのに、国の代表同士の交渉では無く、第二の都市では有るがその代表でしか無い則天武后との交渉を第一に考えたと云うのは、事情がある。

 皇帝李淵の第一婦人に当たる則天武后が、首都の洛陽では無く長安に追いやられているのは、皇帝李淵の愛妾に当たる者が勝手に『西太后』を名乗り、堂々と政権を専横し始めそれに乗じて宦官の類が跋扈している為で有る。

 この事を、帝国の情報機関で有る中央情報局局長のエルヴィン局長が、長年の情報収集で把握して、我等帝国上層部は様々な検討の元で対応策と今後の崑崙皇国の在り方を考えた。

 そして、決定したのは則天武后を中心とした政権を打ち立てる為に、第二皇子の李世民殿と忠臣勇烈な岳飛殿、そして各地方軍閥におられる勇将や軍師、更には忠誠あつき兵士達を糾合して、改めて崑崙皇国を生まれ変わらせてから同盟を組むと云う流れを作ると云う事だ。

 その為には、敢えて首都洛陽から、各地の平定を李世民殿達の軍にやらせる事で、ボロボロ状態に李世民殿達の軍を疲れさせる予定の『西太后』達の意図を逆手に取り、各地を平定しながら軍団の力を増して行き、最後はその軍団でもって、中央軍に戦いを挑むと云う流れだ。

 だが、その目論見に変数として存在するのが『蚩尤』と其れに操られている妖怪たちだ。

 そういった事も踏まえて、場合によっては帝国軍の増援も見据えて行かなければならないだろう。

 

 2月25日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 李世民殿率いる崑崙皇国軍10万人と帝国軍の総旗艦『ビスマルク』と巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』は、漢中と云う場所に陣を構えた。

 此処は、成都を中心とした蜀という地方の中央に出て来る際の要地で、事実上の喉元に当たる。

 この漢中を抑えられた恐怖が理解出来るらしく、案の定成都から妖怪軍は予め進軍してたらしく、早速漢中の要所で有る定軍山に『ビスマルク』、陽平関に『グラーフ・ツェッペリン』が陣取る形で居座り、高所から攻め寄せてくる妖怪軍を迎え撃つ事になった。

 兵法書でも、記されている通り、高所に陣取り遠距離攻撃手段を持つ敵に対して、下方から攻め上がる程被害を出す事は無いと云われる通り、妖怪軍はワザワザ戦力の逐次投入をし続けて、その都度全滅の憂き目に会う事になった。

 こちらは狭い間道が長く続いているので、主砲や副砲を使わずにただパルス魔導砲を効率良く撃っているだけなのだが、策も無いのかひたすらに坂を登る様に押し寄せてくる。

 妖怪軍は当初50万と云う圧倒的な数量差で有ったにも関わらず、みるみる内に数を減らして行き遂には十分の一の5万くらいに減ってしまった。

 士気も明らかに下がり、怖気づいたと判断した李世民殿は、連れて来た『岳家軍』1万人と帝国軍親衛隊200の面々に攻撃の断を下した。

 勇躍、『岳家軍』1万人と帝国軍親衛隊200の面々は、逆落としの勢いで残っていた妖怪軍5万に踊りかかった。

 今回は敢えて、岳家8将や『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』を出陣させずに中級以下の指揮官達に指揮させてみて、成長を促す意味も込めて上級以上の将官には、後方から採点させて見た。

 やはりそうやって、後輩達の指揮振りを観察していると、かなり部隊指揮官としての優劣が見えて来る。

 帝国軍親衛隊200は、元々優秀な者の選抜で成り立っているので、強い事は強いのだがそれほど突出した強さでも無い、これは帝国軍全体にも言えて、平均以上の強さであるのは間違い無いが、極端な優秀さを持つ者は殆どいない。

 これはある意味仕方無い事かも知れない。

 何故なら、あまりにもアラン様と云う、最高の頭脳と武力を併せ持つ稀有な人物がトップにいる為に、アラン様の命令に従えば全て上手く行き、それ以外の行動を取れば直ちに失敗するのだと云う事実が帝国軍には染み付いてしまい、改めようといった機運すら起こらないのだ、然もその考えに上層部程固執している雰囲気があり、この宿痾は今後帝国の弱みになりかねないなと思えた。

 そんな感想を抱いている間にも、妖怪軍は寡兵の我等にあっという間に蹂躙された様だ。

 まあこの結果は、当然と言えば当然である。

 何故なら、今回の妖怪軍には代表となる妖怪が一人もおらず、ただ寄せ集めの妖怪が蜂起していただけだからだ。

 この後、蜂起の震源地の一つである『成都』を鎮める戦せは、今回の様な容易さは無いであろう。

 



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3月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『趙匡胤』という男》

 3月3日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 途中、一切の邪魔もなく『成都』に辿り着いた。

 だが何故か城郭には戦特有の緊張感が無く、普通に往来を人が行き交い、店舗も普通に営業しているので、肩透かしに有ってしまった。

 すると、平服のままの男が市政庁から現れて、李世民殿は驚いた様子で誰何した。

 

 「・・・お主は、『趙匡胤』ではないか?

 どうして此処にいるのか?」

 

 と言われた男は、李世民殿の前で跪き、恭しく奏上して来た。

 

 「・・・此れは、第二皇子殿下、久方振りで御座います!

 朝廷からの指示に従い、赴任地である南蛮の地に向かい、反乱を鎮めておりました処、明らかに不自然な妖怪共の動きを察知して直ちに朝廷から頂いておりました割符を用い、各郡県に駐屯しておりました精兵を糾合して、変に望んでおりますと、成都を荒らしていた妖怪軍が慌てて漢中に向かいましたので、好機と考え妖怪軍の残余していた10万の軍を攻撃して打ち破り、第二皇子殿下が来る前に、成都の市民生活が滞る事の無い様に処置しておりました。

 先程は、市政庁に赴き、平民の不平不満が無いか?確認して参った処です」

 

 と堂々たる態度で、李世民殿に申告して来た。

 その内容に納得された李世民殿は、莞爾といった様子で笑い、『趙匡胤』殿を立たせた。

 

 《こ、此の人物は!》

 

 その風貌は、アラン様、李世民殿、岳飛殿を見てきた自分にとっては、とても整った顔立ちでは無く、どちらかとというと不細工の部類に入ると思ったが、どことない仕草や立ち居振る舞いから、独特の愛嬌がにじみ出ている。

 恐らくは相当な人物であろう事は、先程の会話でも察する事が出来たので、もっと人物を知る為に李世民殿との会話に、耳をそばだてていると、『趙匡胤』殿が李世民殿の隣に立つアラン様に、興味を惹かれた様で、

 

 「・・・失礼ですが、貴方様は何方なのですか?

 その風貌から異国人なのは判るのですが、こんなにも落ち着いておられるのに、少しでも探ろうと意識を向けると、途端に深い深淵に吸い込まれた気分となる!

 今まで此処まで某が、正体を掴めない気分になった人物は居ません!

 信じ難い事だ!」

 

 と嘘でない証拠に、腕を捲りあげ二の腕を晒し、怖気づいて寒気が出た証拠の寒イボが出てる様子を見せる。

 

 「此れ此の通りに、身体が怖じけているのですよ!

 こんな事は、例の牛魔王と対戦した時も感じなかった!」

 

 と言い募ったが、正直コイツはあの牛魔王とも戦ったのか?!と呆れてしまった。

 それを聞いた李世民殿は、クスクスと笑いだし、

 

 「それはそうだろうな!

 何と云ってもアラン皇帝陛下は、あの牛魔王の本性である体長1,000丈(3,330m)、体高800丈(2,666m)の白牛状態を、『躯体』に憑依する形ではあるが、アッサリと打ちのめした御仁だからな!」

 

 と半ば呆れ返った様子で説明された。

 

 「オオッ、それは凄い!

 自分が対戦した事のある牛魔王は、あくまでも標準形態での武術大会の試合ですからな!

 奴がその妖力全開の本性を顕した状態では、敵う訳もない。

 だが、アラン皇帝陛下はそれを成し遂げた。

 正に人中の龍と云うべきお方だ!」

 

 と『趙匡胤』殿はアラン様を絶賛された。

 アラン様は、

 

 「此れは痛み入るが『趙匡胤』将軍。

 私は、優れた『宝貝』である『躯体』で戦ったからこそ勝てたのですよ。

 貴方が『躯体』で戦われても、同じく勝てたでしょう」

 

 と謙遜されたが、その言葉は『趙匡胤』殿に届いていない様だ。

 趙匡胤殿は、ジッとアラン様を見つめるとおもむろに拝跪した。

 

 「自分は崑崙皇国の将軍の位にいるもので、他国の代表である方に忠誠を誓う訳には参りませんが、一個の武人としての自分は、貴方様の指揮下に入りたい気持ちで一杯だ!

 第二皇子殿下の眼前で申し訳無いが、此れが某の素直な気持ちです!」

 

 と言われた様子に、カラカラと李世民殿は笑い、

 

 「構わんよ、『趙匡胤』!

 正直な処、俺も第二皇子と云う立場が無ければ、お前と同じ様にアラン皇帝陛下の幕下に馳せ参じたい気持ちで一杯だからな。

 だが、それはこの妖怪共の反乱劇と、可笑しな命令を発する朝廷の混乱を治めた後の話だ。

 それよりも、今夜は今後の作戦行動を策定した後に、大宴会を行い、互いの武運長久を祝おうじゃねえか!」

 

 と普段の礼儀正しい李世民殿の言動と違い、あっけらかんとした物言いで返答されている。

 きっと李世民殿の本性はこんなにくだけた性格なのだろう、何とも自然体の様に見えた。

 

 その後、様々な取り決めと今後の方針の話し合いが行われ、どういったタイムスケジュールで行動するかが決められた。

 そして、李世民殿の宣言通りに夜は大宴会となった。

 此処、成都は四川省の中心地と云う事で、地元特産の香辛料の効いた辛い料理が中心で、あまり慣れていない帝国軍の面々は閉口したが、アラン様は大変この香辛料に興味を抱かれ料理人を招かれると、盛んに質問されている。

 そんな様子に、李世民殿と趙匡胤殿は可笑しそうに笑い、酒の肴として帝国の料理事情と酒類の話となり、アラン様が秘蔵の極上帝国ワインと大吟醸をお二人に勧めると、その美味さにお二人も驚かれ、是非他の酒も飲んでみたいと申し出られ、アラン様もこの反乱等が無事解決したら、是非帝国に来訪して貰いたいと言われ、お二人も必ず赴くと返事された。

 こんな、大変な事態の最中、こういった息抜きの場が設けられ、将来の事が楽しく会話出来るのは、この御三方がおられる所為に違い無いと酔った頭で思った。

 



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3月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝2年)《長江での戦い》

 3月6日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 成都を趙匡胤殿の弟である趙光義に任せ、その補翼としての幕僚として、文官に蔣琬、法正等を配置し、武官に王平、廖化等を配置した。

 そのまま、趙匡胤殿は精兵と共に李世民殿の軍と合流し、総旗艦『ビスマルク』と巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』に分乗し、交代交代で馬上と艦船での移動となった。

 蜀の桟道と云う難所も、陸上艦船である両艦は、難無く飛び越えて中原にでる要所白帝城で補給を受けて、夷陵と云う要地に辿り着いた。

 此処で、合流する予定の岳飛殿率いる崑崙皇国軍の後続を待つ。

 

 3月10日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 岳飛殿率いる崑崙皇国軍は、岳家軍を中心とした20万人の軍勢と、正気に戻った牛魔王、金角、銀角が率いる妖怪軍10万が軍勢として襄陽に向かっている。

 この間にも、朝廷からは李世民殿に『南京』の攻略が命令されていた。

 まあ、そうなるのは想定内なので、予めそれを逆手に取って、こちらに利が有る様に行動しているのだ。

 さて、『南京』にはどの様な人物がいるのだろうと、自分は半ばアラン様達に協力してくれるであろう、人材に興味があり、討伐する予定の妖怪軍などどうでも良くなってきた。

 

 3月20日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 襄陽と云う土地から、長江と云う大河を船に乗って岳飛殿率いる崑崙皇国軍は東進し、我等は夷陵を東進し鄱陽湖と云う湖に向かった。

 此処で、帝国の艦船に乗せられない人員を、木造では有るが様々な軍船に乗せる事になる。

 ドローンからの情報で、『南京』から出撃した妖怪軍はこちらと同様に、水軍を用意していて、100万に及ぶ軍を進軍させている様だ。

 かなりの大型の軍船が用意されているようで、長江での水戦となりそうだ。

 

 3月23日①(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 大小の軍船が川面を埋め尽くしながら長江を遡って来る。

 どうやら、妖力という我々の魔力に似た力を動力として、進んでいる様でかなりのスピードだ。

 相手はこちらより大軍であり、川面を埋め尽くす程なので、大軍に策略など不要と言わんばかりに、そのまま押し寄せてくる。

 こちらは、岳飛軍と李世民軍に分かれたまま、真っ向からぶつかるのは岳飛軍で、横っ腹と背後から李世民軍が横槍を突く事になる。

 先ずは、矢合わせと符術を使った遠距離攻撃が乱れ飛ぶと、暫くして水中から妖怪(水妖というらしい)が次々と岳飛軍の軍船に乗り移って来た。

 だが其れは、予定通りの行動だったので、軍船を動かしていた最低限の水夫は小さい連絡船に乗り移り、急ぎ後方に去って行った。

 妖怪軍が躊躇した次の瞬間、予め用意していた藁束満載の火船が次々と軍船に体当たりして行く。

 そして岳飛軍の後方に控えていた方術師15万人が、一斉に火系統の符術を火船に向けて投射した。

 次の瞬間、「ゴオッ!」と云う音を立てて、火船は炎を吹き上げながら体当たりしていた軍船ごと燃え上がった!

 前面の軍船が炎に包まれるのを見た、中央にいた妖怪達は水系統の符術を妖力で投射し、火を消そうとし始めた。

 だが当然そういった対応を取る妖怪達に向け、弓矢での攻撃を岳飛軍が仕掛けた。

 すると、大型の妖怪軍側の軍船の舳先に、牛頭の妖怪と馬頭の妖怪が立ち撃ち掛けられる弓矢を、各々の得物を頭上で旋回させると竜巻が起こり、全ての弓矢が薙ぎ払われ、火船で巻起こった炎は全て消されてしまった。

 

 そんな戦いが岳飛軍と妖怪軍の間で行われている最中に、妖怪軍の横っ腹を突くべく突進する李世民軍の精鋭が足の早い小船に乗り、大型の妖怪軍側の軍船に取り付いた。

 その精鋭の先駆けに居るのは、『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』が率いる親衛隊200で有る。

 素早く軍船の舷側を駆け上がり、『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』は、それぞれ牛頭の妖怪と馬頭の妖怪と正対した。

 

 双方物も言わずに、己の得物同士で撃ちかかり、20合程斬りあった。

 中々勝負が着かないと見たのだろう、ある程度の距離を取り、双方が構えをとった。

 

 「牛頭獄卒惨殺斬り!」

 と叫び棘が多く付いた得物で、牛頭の妖怪が唸りを上げて斬りかかって来たが、『拳王ダルマ』殿はまたも逆立ちの体勢となり、

 

 「『逆倒結跏趺坐・旋風回転蹴り』!」

 

 と大喝を発すると、凄まじい回転を始めてアッサリと棘が多く付いた得物を蹴り飛ばし、回転したまま牛頭の妖怪の横っ腹に回転蹴りを叩き込み続けて、牛頭の妖怪は「ガアッ」とうめき声を上げて悶絶した!

 

 その一方で、馬頭の妖怪は、

 

 「馬頭羅刹無惨斬り!」

 

 と叫びながら、大きく横払いに瘤の付いた六角棒を振り回した。

 其れに対して『剣王カイエン』は、長刀『蛍丸』を鞘に納めて抜き打ちの構えを取り、

 

 「『一式・飛燕斬』!」

 

 と静かに呟き、「キンッ」と鍔鳴りを鳴らした。

 次の瞬間、馬頭の妖怪は牛頭の妖怪と同様に、「ガアッ」とうめき声を上げて悶絶した!

 

 そしてその間に、帝国軍親衛隊200の面々も、周りに居た妖怪達を次々と打倒し、妖怪軍の大型の軍船にファイアーグレネードの魔法を撃ち込み、完全に燃え広がった事を確認すると、幹部クラスの妖怪達と、牛頭の妖怪と馬頭の妖怪を肩に担ぎ、やって来た小舟に乗り込み、岳飛軍の後方に向かって素早く移動した。

 

 指揮官を打ち倒された妖怪軍は、指揮系統の断裂により右往左往し始め、統率の効かないまま再度の火船突撃と方術師15万人による一斉の火系統の符術攻撃で、殆どの軍船を燃やし尽くす事に成功した。

 

 だが、実はこの間に『南京』に居た妖怪軍とは別の妖怪軍が、崑崙皇国の東方である『徐州』から南下していたのである。

 その軍に対抗する為に、総旗艦『ビスマルク』と巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』は、長江を『南京』から来た妖怪軍の背後を抜ける様に渡河して、布陣したのだ、

 その軍に合流する様に、正気に戻った牛魔王、金角、銀角が率いる妖怪軍10万が予め渡河して西からやって来ている。

 だが、それでも李世民軍と趙匡胤軍と合わせて30万人の軍勢でしか無いのに、『徐州』から南下して来る妖怪軍は、少なく見積もっても10倍の300万と云う数である。

 然も信じ難い事に、今までの妖怪軍と違い妖怪の種類は1種類のみで、凄まじい速力でこちらに迫っている。

 どうやら、その妖怪軍が視認出来る様になり、自分の隣に立っている趙匡胤殿が呻いた。

 

 「・・・『饕餮』・・・!」

 

 恐らくその妖怪の種類名だろうが、どうにも根源的な恐怖を呼び起こすその姿は、何とも禍々しかった。

 そして、本日の妖怪軍との本戦が開幕しようとしていた!

 



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3月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝2年)《対妖怪軍戦④饕餮との戦い》

 3月23日②(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 長江での戦いもほぼ決着が着き、岳飛軍の勝利で落ち着こうとしている現在、そんな戦況とは一切関わりが無いかの如く、長江の北側の平原で大軍の戦闘が開始されようとしていた!

 ドローンでの情報を全軍で共有する為に、事前に一旦巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』の大会議室に牛魔王を含む妖怪軍の幹部も集合させ、ドローンから随時戦況を把握出来る様にした。

 そしてそのまま作戦会議を行った。

 『饕餮』共は、300万と云う大軍だがどうもかなり指揮系統がシッカリとした様な、統率の効いた動きを示している。

 しかし、そもそも『饕餮』は、限りなく他の妖怪と違い魔獣と言って良い外観をしている上に、指示をしている様な中級部隊指揮官の様な存在は見当たらない。

 そこで、全員で注意して動画の観察をした結果、どうやらたった一匹の『饕餮』が全ての個体を統率しているのが、判った。

 その一匹の『饕餮』は、妖怪軍の最後尾に居るが、何らかの手段で直ぐに最前線にも直ぐに命令が届くらしい。

 そんな女王?とでも呼ぶべき個体の命令で、凡そ100万匹ずつの軍団が3つの塊となって丘を越える形で、進軍して来た。

 こちらの軍は数が少ないので魚鱗の陣を構え、前面に総旗艦『ビスマルク』を配置し、後方に巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』を配置した。

 両脇の左に牛魔王を含む妖怪軍、右に趙匡胤軍を配置している。

 『グラーフ・ツェッペリン』に積載していた、量産型ドローン全機滞空させ、それを予め超高空に待機していた超高性能ドローンが統括して操作させる。

 作戦通り、先制攻撃の『カイザー砲』の拡散攻撃体勢となる。

 

 「『カイザー砲』エネルギー充填90パーセント、セーフティーロック解除、圧力、発射点へ上昇中。

エネルギー充填100パーセント、敵目標へ軸線合わせ、ターゲットスコープオープン、電影クロスゲージ明度20。

最終安全ロック解除、エネルギー充填120パーセント、対ショック、対閃光防御。

 

 『カイザー砲拡散攻撃』発射!」

 

 次の瞬間、十分なエネルギー充填を終えて、総旗艦『ビスマルク』の先端に有る、超巨大なアダマンタイト製のドリルから凄まじいエネルギーが、『饕餮』の中央の塊に向けて拡散状態で発射された!

 

 「ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!」

 

 発射された凄まじいエネルギーは、凡そ20程のエネルギー弾に拡散し、『饕餮』共の空中から直撃し、半分程の『饕餮』を葬る事に成功した。

 続けて巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』の全砲門が火を吹き、各種魔法弾が『饕餮』共に降り注ぐ。

 ドンドンと、『饕餮』を倒して行くが、あまりにも数が多すぎるので、牛魔王を含む妖怪軍と趙匡胤軍が、遠距離攻撃の符術攻撃を開始した。

 だが、こちらの攻撃が届くと云う事は、『饕餮』の攻撃が届くと云う事でも有る。

 曲射されてくる『饕餮』の口から吐き出す火球が我等に降り注ぐが、『グラーフ・ツェッペリン』が張るバリアーで防ぎきる。

 暫く、その状態で迎撃を繰り返ししていると、残余の『饕餮』共が一つの塊となって、我等に近い陣形となった。

 漸く、総旗艦『ビスマルク』のエネルギーが回復したので、魚鱗の陣のままに『饕餮』の塊に向けて突進を始めると、『饕餮』共もこちらに突進して来る!

 

 総旗艦『ビスマルク』のアダマンタイト製のドリルが凄まじい唸りを上げて回転を始め、超巨大な軍団魔法『イフリート』を展開して『饕餮』の塊にぶつかった!

 

 『饕餮』軍の先方は、簡単に蹴散らす事になったが、『饕餮』はしぶとく横から喰らいつく様に攻撃を仕掛けてきた。

 其れに対して、牛魔王を含む妖怪軍と趙匡胤軍が、得物を振り回して『饕餮』を殲滅して行く。

 牛魔王、金角、銀角は、己の妖力を駆使し、趙匡胤殿も大刀を光らせながら『饕餮』を斬りまくる。

 

 2時間程のぶつかり合いと、後方に控えていた『グラーフ・ツェッペリン』からの砲撃により、『饕餮』は殆ど殲滅出来たが、最後方に居続けた女王?と覚しき『饕餮』が丘の上に現れ、雄叫びを上げた!

 

 「sぇjgペツ8hガオオエシrhg!」

 

 何とも聞き辛い雄叫びだが、この雄叫びの直後、モゾリと死んだ筈の『饕餮』のそこら中に散乱している死体が動き、女王?と覚しき『饕餮』に向かって洪水の様に集まって行く。

 やがて、巨大な不定形の塊と化し蠢いている。

 暫くすると、その不定形の塊は形を整えて行き、やがて凄まじく巨大な醜い化け物となった。

 その姿は、巨大な顎が特徴的な身体はドラゴンに似ているが、何ともその眼が大き過ぎる、異様な風体をしている。

 『グラーフ・ツェッペリン』内の作戦司令室にいる自分の隣で、李世民殿が苦々しげな声を上げた。

 

 「・・・・・『トン(犭貪)』・・・・・!」

 

 あの李世民殿が、明らかに震えを帯びた声を上げる。

 その巨体は今までの帝国が戦ってきた、魔獣に匹敵する程の全長5キロメートルを越える巨体を誇り、その顎は遥かに今までの魔獣を越えていて、その眼はまるで飢えた獣の様に貪欲に全てを欲して居る様に見えた。

 

 その姿を目の当たりにした、崑崙皇国の兵士達は、妖怪を含めて怯え切ってしまい、戦意を失った様だ。

 だが、我等帝国軍は違う!

 そう、我等帝国軍は、此の様な場面を幾度も覆してきた、神の如き指導者を推戴してきたのだ!

 そして、何時もの様にアラン様は、総旗艦『ビスマルク』の舳先に向かい、堂々たる風情で『トン(犭貪)』を睨み吸えると、言葉を発した!

 

 「対外敵プログラム"武神アラミス"起動!

 

 モード『異空間からの侵略者』!

 

 『神人』の要請に従い顕現せよ!

 

 神鎧『ジークフリート』!!!」

 

 そう、アラン様の真の戦闘力を此の東方にて披露する、戦闘がいよいよ始まろうとしていた!

 




 今回戦った『饕餮』と云うのは、映画『グレートウォール(長城)』で出て来た怪物で、非常に獰猛な群れ成す恐るべき魔獣です。
 そうだな『グレートウォール(長城)』以外だと、ジュラシックシリーズ定番のラプトルを更に凶暴にした感じかな。
 そして『トン 犭貪』に関しては、『蒼天航路』という漫画の最初のページに紹介されてますね。


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3月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝2年)《対妖怪軍戦⑤『トン(犭貪)』との戦い》

 3月23日③(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 《其は、神々の大いなる遺産、如何なる者も傷付ける事能わず、不滅なる特異点、神々が祝福と共に鋳造せし神の鎧、汝の名は『ジークフリート』!》

 

 最近説明されたが、龍脈(レイライン)とのリンクが確立されている為に、モニターや戦闘用ヘルメットには、問答無用でこのメッセージが、システムの根幹に抵触するので流れるそうだ。

 まあ、誰の迷惑になる訳でも無いので、構わないと思う。

 

 『トン(犭貪)』は出現すると、周りのあらゆる物に齧り付く様に牙を立てて、貪る様に食べ始めた。

 その様子は只々飢えを満たす為の衝動の権化の様であり、その大きな眼はある意思を如実に我等に届けていた。

 其れは、

 (喰う!喰う!喰う!喰う!喰う!喰う!喰う!喰う!喰う!喰う!喰う!喰う!喰う!喰う!喰う!喰う!)

 という生物の原初欲求そのものの、凄まじい意思であった。

 

 この様な理も非もなく、只原初欲求に従う存在と共存出来る筈も無いので、ひたすら恐怖を感じた。

 

 そんな中神鎧『ジークフリート』は、各パーツに分かれ、アラン様の身体の部分に次々と装着して行く。

 アラン様に完全装着した神鎧『ジークフリート』は、まるで歓喜するかの如く、七色の光を煌めき放ち辺りを照らす。

 すると、周りのあらゆる物に齧り付く様に牙を立てていた『トン(犭貪)』が、その大きな眼で神鎧『ジークフリート』を完全装着したアラン様を凝視して来た。

 

 その飢えた眼は、特上な獲物を発見した様に、歓喜に震えながら光らせて、その大きな口からは大きな舌をボロンと出すと涎混じりの舌舐めずりをすると、奇怪な雄叫びを上げた。

 

 「潮江g保⑧是h意w利ごぜウホp地hj⑨jht9意0j-zj-E ja7ygrbyeyguoaopwegz!」

 

 全く意味不明ながら、アラン様を食べたい意思だけは、この場に居る全ての生き物に届いた。

 だが、当然そんな意思に従ってやる道理は無い!

 

 静静と神鎧『ジークフリート』を纏ったアラン様は、空中に浮かぶと右手を天に掲げた。

 

 「光よ!」

 

 と唱えると、たちまち直径10メートル程の光球が出来上がり、『カイザー砲』の拡散攻撃と同様に、20本程の光線が『トン(犭貪)』の全身に向かって発射された。

 だが、最初こそ全身に当っていた光線が、『トン(犭貪)』が大きく開けた口から出た黒球に向けて吸い込まれる様に飲み込まれて行った。

 

 「・・・ほう、その様な能力が・・・」

 

 とアラン様が感想を述べると、『トン(犭貪)』が大きく開けた口から出た黒球をアラン様に向けて吐き出した。

 

 「ディストーション・バリアー(空間歪曲障壁)」

 

 とアラン様が唱えると、高さ3キロメートル、横幅6キロメートルに及ぶ歪んだバリアーがアラン様の前方に現れ、『トン(犭貪)』が大きく開けた口から出た黒球が大きく弾け、黒い光線が我等に降り注ぐのを防いだ。

 

 「次元斬!」

 

 そう言われると、アラン様は手刀の形で片手を二閃させた。

 すると、その二閃によって『トン(犭貪)』の両腕が切り落とされ、地上に轟音を上げて両腕が落ちて行く。

 

 「ドオオオオオオオオオーーーーーン!!」

 

 との地響きを上げている両腕を、『トン(犭貪)』を見つめ続け何故か大きな口を開いて自らの両腕を貪り食う。

 

 「うzsbgオwgpw!」

 

 と歓喜の雄叫びを『トン(犭貪)』は上げながら、自身の両腕を食らい尽した。

 しかし、てっきり今までの再生能力の高い魔獣とは違い、両腕が生えて来る様子が無い。

 その様を確認するとアラン様は、またも次元斬を『トン(犭貪)』の両足と尻尾に放った!

 アッサリと両足と尻尾も斬り落とされ、またも地上に轟音を上げて両足と尻尾が落ちて行く。

 

 此れを見ても、『トン(犭貪)』は苦しみに悶える訳でも無く、歓喜の雄叫びを上げて両腕と同じく貪った。

 何ともマヌケな胴体と頭だけの姿に、全員が呆れ果てて危険が去ったと安堵仕掛けた瞬間、信じ難い事が起こった!

 

 『トン(犭貪)』は、突然天に向かって大きく口を開けると、大きな雄叫びを上げ轟々と何もかも全て吸い込み始めたのだ。

 対象は文字通り全て!

 空気であり、地面であり、川であり、湖であり、沼であり、獣であり、鳥であり、丘であり、山であった!

 

 その凄まじい貪欲さに、一同全員が恐怖に飲まれた時、アラン様が言われた。

 

 「次元封鎖!」

 

 その発言が聞こえると、たちまち『トン(犭貪)』の周囲に8面体の透明な壁が現れ、吸い込まれそうになった全ての物が、途中でキャンセルする形で収まると、凄まじい憎悪に狂った様子で『トン(犭貪)』が8面体の透明な壁に向かって牙を突き立てようとしたが、まるで歯が立たずひたすらもがいている。

 

 「時間鏡面!」

 

 とアラン様が言われると、驚いた事に全く同じ姿の『トン(犭貪)』が8面体の透明な壁の中に現れた!

 

 「「絵sぞgjrピエrhぴえsz!」」

 

 と双方の『トン(犭貪)』は、歓喜の雄叫びを上げてお互いの胴体にその大きな口で齧りついて、互いに貪り食らい会う。

 そのあまりの食欲にげんなりと観察していると、何ともマヌケな事に、互いの身体を喰らい尽くして、最後に大きな口同士が消化しあい、この世から姿を消した。

 

 まるで、欲をかきすぎると人間全てを失い、何も残らないと云う教訓染みた決着の仕方に、一同粛然としてしまった。

 



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3月の日記⑤(人類銀河帝国 コリント朝2年)《南京での会議》

 3月24日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 『トン(犭貪)』との戦いを終え、アラン様の神鎧『ジークフリート』の能力と牛魔王や金角と銀角の兄弟の『宝貝』を行使して、周囲の地形等の整備を始めた。

 かなり『トン(犭貪)』の所為で、この地域全土が荒廃してしまったがアラン様達のお陰で殆ど元に戻せた。

 そのアラン様の姿を見て、帝国軍以外の崑崙皇国軍の方々は、まるで神を仰ぎ見る様子で見られている。

 まあ、あの力を見たらそうなるだろうなと云う納得感はある。

 崑崙皇国軍の人々に確認したら、『トン(犭貪)』と云う魔獣は、崑崙皇国が出来る以前に遥か東方の現在は海しか無い場所に存在していた、超先進文明を誇った『ムー大陸』を滅ぼした、神々さえ食らい付くした神獣を超えた存在らしい。

 つまりアラン様は、かつての神々をすら遥かに超えた超存在と云う訳だ。

 正直な処、我等帝国軍にとっては今更な話しで、既に帝国とその同盟国では事実上ルミナス神と同列に置かれ始めているのである。

 

 粗方の整備が夕方には終わったので、長江の後始末を着けた岳飛軍と合流して、東方の『南京』を目指して出発した。

 

 3月27日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 『南京』に入城を果たせたが、かなり城内と周囲の街や都市は荒廃していた。

 だが、幸いにも距離は有るが近隣の大都市である、『建業』や『柴桑』に『南京』や周辺の平民達を、大豪族の『魯粛』、『諸葛恪』と云う人物が保護していたので、人民の被害はそれ程でも無いので、比較的に復興は楽だと考えられるので、この大豪族の方々に後事を託す事が出来そうだ。

 

 其れよりも驚くべき情報が、『魯粛』と云う人物から伝えられた。

 何と洛陽と許昌と云う崑崙皇国の首都圏に、各地方軍閥から取り上げた300万人もの兵士が皇帝軍として組織されていて、然もその集めた名目が、我等帝国軍と協調している李世民・岳飛・趙匡胤が率いる崑崙皇国軍であると言うのだ。

 言い分としては、

 

 「中央からの命令を拡大解釈して、各大都市への軍事特例を行使して軍需物資や精兵を抽出した挙げ句、勝手にに妖怪軍を味方として糾合して、己の手足として使っている。

 此の様な命令を中央政府としては発しておらず、その意図は皇帝陛下への反逆を示していると思われる、各地方政庁の軍は、直ちに洛陽の禁軍と合流せよ!」

 

 と云う指令が、各地方政庁の通達されている様だ。

 道理で、これ迄の進軍経路の地方都市で、成都での趙匡胤軍以外の人間の軍と合流出来なかった訳だ。

 予め、中央が指示して人間の軍を中央に招集して、これ以上李世民殿達の元に軍勢が集合しない様にしていたのだ。

 この事実が指し示すのは、中央は李世民殿達を奔命に酷使した挙げ句、疲れ切った処を強力な中央軍で倒してしまおうと云う腹積もりの様だ。

 第二皇子で、事実上の皇太子と目される李世民殿をあからさまに敵視し、徹底的に殺そうとしている背景には一体どの様な意図があるのか?不気味ではあるが、どうあれ此方としてはこのまま相手の都合で、滅ぶ訳には行かない!

 直ちに緊急会議をするべく、巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』の大会議室にて集まり、今後の方針を定めるべく討議する事になった。

 だが、そもそもこの崑崙皇国の内情偵察はかなり前からしている上に、常に超高性能ドローンの探知魔法と会話を収集する短針プローブと軍の動きを把握する為の機数(全部で10樹)を、首都周辺で活動させている。

 故に、今現在もリアルタイムで洛陽の宮廷内部の状況と軍隊の様子も判る。

 其の上で、長安に残っている則天武后と妲己殿と、モニター越しで会議に参加して貰い、今後の対応の最終決断を促す会議となった。

 大体の方針は、以前長安での秘密会議で決まっているので、現在の皇帝である『李淵』と第一皇子『李建成』を更迭し、権力を奪い則天武后に帝位に着いて貰い其の上で李世民殿に丞相兼元帥に就任して貰い、岳飛殿に大将軍、趙匡胤殿に驃騎将軍に着いて貰い、各地方の都尉と執政官も全員解雇し、改めて新進気鋭の若手に就任して貰う事にする。

 そして我等帝国との親密な外交関係を築き、何れは強固な同盟関係に昇華する事を正式文章に取りまとめた。

 更に、此処『南京』に龍脈門(レイライン・ゲート)を設ける事が決められた。

 この、今後の崑崙皇国の未来を語る会議に、始めて参加した『魯粛』殿と『諸葛瑾』殿は、目を白黒させながらも、現在崑崙皇国でも使われている通貨であるギニーを、徐々にポイントに切り替えて、何れはポイントで統一したいと云う話しになると、途端に目をギラリと光らせた。

 どうやら此の両人は、大豪族というより大商売人と言った方が相応しい人材の様で、以前ディスカッション形式でカトルとその婚約者であるサイラス殿のご息女アリスタ殿、更に賢聖モーガン殿に教えられた、ギニーでの決算する上でのデメリットと、ポイントに切り替える事でのメリットと、今後起こる経済大変革の概要が判る様だ。

 生粋の軍人である自分には、殆ど判らないが、既に李世民殿、岳飛殿、趙匡胤殿は巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』の中での売店で決済する際にポイントを使用していて、その利便性に馴染んでいたので、全面賛成しているのだ。

 どうやら、『魯粛』殿と『諸葛瑾』殿のお二人は、既にリサーチをある程度しているらしく、会議とは別にアラン様との個別会談を望まれている。

 我等帝国としても、此の様な人材がおられるのは有り難いので、本当に助かると感じたが、全くこの崑崙皇国は人材の宝庫だな。

 



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4月の日記① (人類銀河帝国 コリント朝2年)《龍脈門(レイライン・ゲート)の設置》

 4月1日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 先日の会議で方針が決まった為に、その要件の一つで有る龍脈門(レイライン・ゲート)の設置工事がこの3日間で終了した。

 そしていよいよ今から空間固定し、帝都コリントの特別ドームと空間連結をする事になり、随時では無いが任意に連結して、人・物資・艦船・カーゴシップでの小型ドームなどを輸送出来る事になる。

 その為に、予めアラン様が新鎧『ジークフリート』を装着して、龍脈(レイライン)を使用した瞬間移動を行い、『魔法大国マージナル』の海中神殿に保管されていた、『ムー大陸』が『トン(犭貪)』の飲み込まれる前に回収されていた、『ムー大陸』で使用されていた龍脈門(レイライン・ゲート)を、此処『南京』に瞬間移動させていたのである。

 

 遂に龍脈門(レイライン・ゲート)を起動させる為に、帝都コリントの特別ドームには、賢聖モーガン殿を中心とした帝国の誇る頭脳集団と技術者達、更に転送して貰う帝国の誇る陸上艦船計30隻が何時でも来れる様になっている。

 

 「・・・それでは、龍脈門(レイライン・ゲート)を起動する。

 汝、惑星アレス設置、門(ゲート)NO,02の管理者移譲を確認する。

 前管理者、調整者にして惑星アレス管理者『ルミナス』より、現宙域管理者にして最高指揮官アラン・コリントへの管理者移譲を要請する!」

 

 とアラン様は言われたが、恐らく『ルミナス神』への祈りの様なものなのだろう。

 続いて、親父の所有ボットである8ちゃんの様な言葉が、龍脈門(レイライン・ゲート)から返ってきた。

 

 「(ゲート)NO,02ヨリカクニン、ゼンカンリシャ『ルミナス』ヨリ、アラン・コリントヘノカンリシャケンゲンイジョウセイコウ、コレヨリワクセイアレスニオケルゼン(ゲート)ハ、アラン・コリントヲ『マスター』トミトメマス」

 

 と自分には、『マスター』と云う意味合いは判らないが、きっと責任者等の事だろう。

 

 「それでは、空間連結!

 門(ゲート)NO,01,『帝都コリント』と接続!」

 

 とアラン様が命じると、今の今まで真っ黒だった龍脈門(レイライン・ゲート)の表面が、虹色に光り、次の瞬間懐かしき帝都コリントのドーム群が見える遠望が見えた。

 するとゆっくりと、準備の終わっていた帝国の誇る陸上艦船計30隻が1隻ずつ龍脈門(レイライン・ゲート)をくぐる形で現れた。

 

 先頭は陸上重巡洋艦『バーミリオン』、続いて陸上巡洋艦『ドレッドノート』『ジャンヌ・ダルク』、そして陸上フリゲート艦と陸上駆逐艦が5隻ずつ、更に大型の新造艦船である補給艦10隻と支援艦7隻が龍脈門(レイライン・ゲート)を通過して来た。

 

 取り敢えず『南京』郊外の平野に帝国艦隊を集結させ、新たにやって来てくれたダルシム中将始め帝国軍上層部との合流を果たし、続いて崑崙皇国の現在は反乱軍として中央から扱われている、李世民殿達との紹介を行った。

 そして、補給艦に積んで来て貰った、『ナノム玉』と各種武装用のサポーターを李世民殿達の軍人全員に配布して貰う事になった。

 此の夜、『南京』の郊外で全軍が参加出来る程の大宴会が開催された。

 予め、大豪族の魯粛殿に斡旋して貰い、この地の大商人達から買い付けに動いてもらい、かなりの食材と酒類は用意出来たが、当然50万人もの参加者分の人数分は用意出来なかったので、予め帝国の補給艦に圧倒的な量の食材と酒類を運んで貰っていたので、問題無く準備が出来た。

 乾杯の音頭を取って貰う為に壇上に上がられた李世民殿が、

 

 「・・・アラン皇帝陛下、並びに人類銀河帝国の方々には、大変ご迷惑をお掛けしている。

 此の場を借りて、篤くお礼申し上げる、誠に感謝している、有難う!

 そして、この様な盛大な宴会を催す事が出来たのは、大変辛い目にあったというのに、我が身を省みずに協力してくれた魯粛殿と諸葛瑾殿、そして大商人の方々と頑張ってくれた平民の諸君だ。

 我と我軍は、幾重にも貴方がたに感謝する!

 そして、必ずこの恩に報いる為に、現在の可笑しな中央を倒し、新たな政体の崑崙皇国を再構築して見せる。

 後少し、協力願いたい!」

 

 と頭を下げられたので、乾杯どころでは無くなったが、後を継ぐ形で壇上に上がったアラン様が、

 

 「・・・李世民殿、感謝のお言葉確かに受け取った。

 しかし、全ては中央軍を打倒し、実際に新たな政体を提示し、より良い政治体制を構築してからの話し、魯粛殿と諸葛瑾殿、そして大商人の方々と頑張ってくれた平民の諸君も、李世民殿達が民を思いやる素晴らしい国が出来ると信じての行動です。

 そして、その素晴らしい国と良い同盟関係を構築出来ると信じているからこそ、我等帝国は惜しみ無い協力体制でいるのです。

 さあ、そんな辛気臭い事は、この宴会の場では不要です。

 どうぞ、乾杯の音頭を!」

 

 と促されたので、李世民殿は、

 

 「そうですな、それではこれからの戦いでの勝利を願い、乾杯!!」

 

 と宣言され、

 

 「「「「「乾杯!!!」」」」」

 

 全員が唱和し、手に持った各種の酒類を近くの者達とグラスを合わせ、次々とグラスに入っている酒類を飲み干し、会場に用意された、豪勢な食事に皆がありついた。

 

 最初こそぎこちなかったが、やがて皆酔い始めたので、場も次第に崩れて、そこかしこで愉快な笑い声が聞こえ始めて、皆心行くまで宴会を楽しむ事が出来た。

 明日から、帝国軍が提供する戦闘車両や戦闘バイク、更には魔道具での訓練が始まる忙しい日々が続くが、今宵は多いに楽しもうと、皆同じ思いでいる様だった。

 



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4月の日記② (人類銀河帝国 コリント朝2年)《敵の武将達》

 4月2日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 昨日の龍脈門(レイライン・ゲート)の連結で、今朝から帝都コリントから引っ切り無しの輸送が行われている。

 大きなカーゴシップが小型ドームを4基、『南京』の東西南北に据え付けられ、壊れ尽した南京の街を一旦更地にして、超巨大ドームの基礎工事を始めて帝都コリントにも無い、ドームで覆われた新『南京』都市を構築する為で有る。

 なので現在、建築資材や物資がトレーラーによって、ピストン輸送されている。

 そんな状況を尻目に、帝国軍と李世民殿達の軍は、かなり離れた荒野で実地訓練に勤しんでいた。

 連携訓練をするに当たって、前日に兵士全員に『ナノム玉』を服用して貰っている為に、かなり意思疎通は円滑に行える様になっているが、昨日来た大量の戦闘車両や戦闘バイクとの連携に不安を感じたからだ。

 どうしても、騎馬と魔導技術で生み出された戦闘車両達では、呼吸というかタイミングが合わせづらい。

 なので、戦闘部隊としては完全に分けているのだが、戦闘力に差が有りすぎるので、早々に戦闘部隊として騎馬部隊は陽動と補給部隊に従事して貰う事にして、比較的に騎馬に似ている3輪戦闘バイクに、騎馬部隊の将校と兵士には乗って訓練する。

 その総数は、驚くべき5万台!

 この3輪戦闘バイクは、初期型をセリーナ・シャロン両准将が、徹底的に乗り潰す程駆動させ、親父やハインツ達がその駆動記録から改良点を把握して、量産型3輪戦闘バイクを開発し今回の大量生産に漕ぎ着けた。

 当然、日中は乗車訓練、夜はモニターを使った教習訓練を課す事になった。

 

 4月8日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 李世民殿の軍がかなり訓練に慣れて来たので、帝国軍との実戦に即した紅白戦等を行い、いよいよ中央軍との決戦に向けた準備に入る。

 だが、あくまでも中央軍に所属している兵士は全員人間だし、積極的に此方に敵対意志を持っている者は少ないと考えられた。

 なので、紅白戦でも使用された、敵を殺さずに行動不能にする麻痺魔法を主軸とした攻撃に終始あうる事にしている。

 更に此方の損害を減らす事を主眼にする為、ドローンからの支援連携をより強力にする為に、各ドローンには攻撃では無く防御主体に魔法を味方に常に放出する予定だ。

 

 4月10日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 全ての準備を終えて、我等帝国軍と李世民殿の軍は長江を渡り、徐州から寿春と云う都市に西進した。

 この動きに、敵の中央軍は洛陽から南進して来て、延城と云う平城に入城した。

 明らかに敵の中央軍は、籠城戦は考慮に入れず、野戦を志向しているのが見て取れる。

 この辺りの状況は、逐一ドローンによって情報を得ているので、万に一つも奇襲を掛けられる事は無い。

 そして敵の中央軍の陣容が把握できた。

 

 敵の主将は、崑崙皇国第一皇子『李建成』が任命されているが、問題はその配下にいる人物達だ。

 

 『楊 大眼』

 

 此の名を聞いた李世民殿の軍のほぼ全員が、いきなり押し黙ってしまったのだ。

 実はこの人物の事は、事前に帝国の中央情報局の情報で、帝国軍はある程度把握していた。

 崑崙皇国随一の勇将で、妖怪を含む崑崙皇国の将で彼にかなう者は、ただ一人も居らず。

 片手で、虎や妖怪の頭骨を砕く事が出来、大変な足の速さを誇り、3丈の縄を髷にくくりつけて走り、それで縄が地面につかず、真っ直ぐ張るほどの速度で走る事が出来るそうだ。

 だが、李世民殿始め、素晴らしい将達が、これ程の反応を示すとなると、情報以上の強さが有ると考えるべきだろう。

 

 『蘭陵王』

 

 実名は高長恭と言い、あまりにも顔立ちが優れていて、殺伐とした戦場では不釣り合い過ぎて侮られるので、ワザワザ厳しい仮面を着けて戦うそうだ。

 だが、それでも舞を舞うが如くの美しき剣技に、敵は見惚れてしまって死んだ事に気づかずに、戦闘が終わり『蘭陵王』が居なく成ると、漸く死んだ事に気づくそうだ。

 

 『霍去病』

 

 弓矢での武勇は恐らく崑崙皇国で随一の存在で、符術を駆使する事での弓術は、遥か彼方(10キロメートル)の標的の眉間を必ず穿つと言われていて、この『霍去病』から遠方から狙われたら、死ぬしか無いと言われているそうだ。

 

 全くこの崑崙皇国の人物は、多士済々過ぎて困るぐらいだ。

 敵にまで、ここまで優秀な人物が居るのは、流石に想定外としか言えないな。

 呆れて、同じくモニターを凝視している、他の面々を横目で見ていると、殆どの武将達が苦虫を噛み潰した様な顔でい中、ただ一人喜悦に顔を綻ばせている人物が居た。

 

 そう、敵の武将の強さに意気消沈や、憮然としている者が多い中、当然敵よりも絶対に強い方が我等が陣営には、居られるのだ。

 そう、アラン様は敵の武将のプロフィールを見ても、逆に目を輝かせて物欲しそうに喜んでおられ、恐らくは何れ自分の幕下に加えてやろうと舌なめずりする様にしていると、自分には見えて仕方が無かった。

 




 ytaki33さん以外にも、そろそろある程度の背景説明が無いと不親切と言われまして、それにアラン視点で無いが故に、ケニー君では最後まで明らかにならない、この世界の真実を今後のネタバレを晒す形にはなりますが、開示します。
 ですが、所詮はただの妄想なので、これが原作の真実とは誤解しないで下さい、お願い致します。

 度々出ている、『調整者』に着いて答えます。

 調整者・・・この世界、地球や惑星アデル、惑星アレスを含む次元の文字通りの調整者で、この次元に於ける歪を嫌い、修正する存在である。

 このメンバーの一人に『ルミナス』も居るが、『ルミナス』自身は既に高次元にランクアップしており、惑星アレスには残滓と云える基幹プログラムが有るだけで、此れと接触したイーリスが修復を行い疑似AIプログラムとして活用している。

 『ルミナス』を含む『調整者』は、この次元に於ける最初の知的種族で、別名『始原種族』と言われており、『シード』プロジェクトの名の下に、自分たちの遺伝子を持つ種子を全ての宇宙群にバラ撒いた。
 それがこの宇宙に於ける『人類に連なる者』で有る。
 
 他の設定も少しづつ、開示して行きますので、興味の有る方はこの後書きも読んで下さいね。


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4月の日記③ (人類銀河帝国 コリント朝2年)《李世民殿VS霍去病殿》

 4月12日①(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 帝国軍と李世民殿の軍は、寿春の西方で帝国軍艦隊を外郭に囲む形の陣を組み駐屯した。

 崑崙皇国の中央軍は、何故か殆ど武装を整え無い様子で、将官クラスしか武装をしていない。

 やがて視界に収まる程に近づくと、一番単純な陣形である横陣の陣形となって布陣した。

 すると、中央軍から5人の使者と覚しき武将が進み出て、使者としての旗を掲げて此方にやって来る。

 此方も使者を出して、両軍の中間地点で交渉させると、アラン様と李世民殿に通信で連絡が来て、アラン様と李世民殿の判断で5人の使者を、駐屯地に招き自分の乗る巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』の大会議室にて、会談する事が決まった。

 その内の2人が、『沈光』と『木蘭』であると名乗り、自分達が内々の使者である事を告げた。

 そして、

 

 「・・・実は、この軍は名目上こそ中央からの討伐軍であるが、大多数は元は『洛陽』の平民であり、朝廷の目を誤魔化して密かに、『洛陽』の平民と軍人が入れ替わり、此処に連れ出しているのだが、この軍の指導部である、第一皇子の『李建成』周辺には知らせていない。

 なので、ある芝居をする事で指導部を謀り、負けた形を取り速やかに捕虜として頂き、一切の被害を双方出さない形でこの戦争を終えたいのです!」

 

 と『沈光』殿と『木蘭』殿は言われ、『楊 大眼』、『蘭陵王』、『霍去病』からのそれぞれの内情を記した私信を李世民殿に渡した。

 アラン様と李世民殿はその私信の内容を確認して、改めて我等が持つ現在の『洛陽』の内情と、我等の諜報組織が動いている状況を説明し、この会談に参加している、軍の上層部の面々と善後策を謀った。

 

 そして、お互いに軍の代表者たる武将が、計3回の一騎討ちを行い、その勝敗を以って決着とし、戦闘を終わらせる事とした。

 だが、恐らくは軍の指導部である、第一皇子の『李建成』周辺は納得しないであろうから、その時は直ちに拘束して軍権を『沈光』殿と『木蘭』殿が奪うと云う手筈となった。

 

 約束とその条件を懐に、『沈光』殿と『木蘭』殿達5人の使者は帰られ、此方も状況変化に対応するべく駐屯地から出て布陣を変えた。

 

 暫くして、敵中央軍から3名の武将が進み出て、その内の1人が名乗り出た。

 

 「我は霍去病、崑崙皇国に於いて大司馬の位に立つ者だ!

 我と武勇を競おうと云う者は、名乗り出よ!」

 

 との名乗りに、いきなり李世民殿が応じた。

 此れには、かなり全員驚いた様で、双方の軍の殆どがざわめいた。

 

 「・・・此れは驚いた!

 いきなりそちらの主将たる、第二皇子殿下が名乗り出られるとは、此れでは早々に決着してしまいますぞ?」

 

 と霍去病が訝しげに問うと、

 

 「・・・随分と舐められたものだな、この私が血筋だけで軍を率いれているかどうか、確かめて見るがよい!」

 

 と堂々と李世民殿が言われたので、霍去病殿も武者震いして、静かに槍を構えた。

 それに対して、李世民殿は見事な剣を構え、銅鑼での開始を待った。

 

 因みにこの状況は、空中に浮かんだ超巨大立体プロジェクターにて、全軍がライブで鑑賞出来る様になっている。

 

 「グワワワワーーーーーーーン!!」

 

 と銅鑼が鳴らされると、双方一気に距離を詰めて、己の得物で斬りかかる!

 先ずは霍去病殿が、槍で以って李世民殿の得物を絡め取ろうと技を繰り出すが、その技を見極めて李世民殿は、上手く剣で槍を捌く。

 そう来るのが判っている李世民殿は、霍去病殿の隙を見出して懐に潜り込み、接近戦に持ち込もうとする。

 一方霍去病殿は、槍の利点である距離を活かし、決して李世民殿が懐に入ってこない様に、隙無く応じる。

 そんな事が、30合に及びいよいよ崑崙皇国の武術に於ける奥義を双方が放ち合う!

 だが、双方崑崙皇国の武術に於ける頂点に近い存在なので、お互いの武技が判ってしまう。

 このまま千日手になるかと思われたが、突然李世民殿が距離を取り、今までの構えを止め、我等のよく知るコリント流剣術の構えをとった。

 その霍去病殿にとって未知の構えに、戸惑った霍去病殿は李世民殿に思わず問うた。

 

 「そ、其の構えは?」

 

 それに対し、李世民殿は落ち着き払って答えた。

 

 「此れこそ、私が最高の武人であると認めた方の武術だ、流派はコリント流剣術!

 このコリント流剣術の奥義の一つで、お前を打ちのめしてやろう!」

 

 との宣言に、霍去病殿は怒った様で、

 

 「それでは、見せてみろ!刺突!」

 

 と神速と云うべき速度の突きを李世民殿に放つ!

 しかし、李世民殿は慌てず、

 

 「コリント流剣術奥義『エターナル・ストリーム』!」

 

 と叫び、霍去病殿の神速の槍に向かう!

 其れは、下段からの跳ね上げからはじまった。

 アッサリと槍を跳ね上げられ、一瞬の驚愕を示した霍去病殿は直ぐに李世民殿からの打ち下ろしを受け防御に入る。

 そのまま中段突き、横斬り、柄払い、上段斬り、足払い、下段斬り、中段突き、肘打ち、柄落とし、と続く。

 その間、ひたすら霍去病殿は防御するしか無く、多量に冷や汗をかき始めた様だ。

 そう、これこそコリント流剣術奥義『エターナル・ストリーム』!

 この奥義は、基本5回ずつのコンボ技で、流れる様に繋げる事で無限に繰り出すことが出来る。

 相手が防御では無く攻撃に斬り返そうとすると、一方的に斬られ続けるのだ。

 案の定防御に徹する事に霍去病殿はならざるを得ず、結局50回も斬られ続け(実際は峰打ち)て倒れてしまった。

 そして再び銅鑼が鳴らされ、李世民殿の勝利が告げられ、全軍が拍手をして双方の健闘を祝した。

 



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4月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝2年)《岳飛殿VS蘭陵王殿》

 4月12日②(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 李世民殿と霍去病殿の一騎討ちの興奮が冷めやらぬ中、次の蘭陵王殿が名乗り出た。

 

 「我は、高長恭!

 字は、『蘭陵王』と云う!

 崑崙皇国に於いて右将軍の位を授かっている。

 我の剣技を見たい者は、挑んで参れ!」

 

 其れに対して岳飛殿が、戟を扱いて応じた。

 

 「俺こそは『岳家軍』を率いる、岳飛だ!

 噂に聞く『蘭陵王』の剣技と是非手合わせしたい!

 宜しく頼む!」

 

 との名乗りに、蘭陵王殿は嬉しそうに、

 

 「こちらこそ、有り難い!

 軍を率いては、崑崙皇国随一と云われる岳飛殿の武勇。

 一騎討ちにて、確かめさせて貰う!」

 

 と言い、背に背負っていた見事な双剣を煌めかせながら引き抜いた。

 

 やがて1試合目の時と同様に、銅鑼での開始を待った。

 

 「グワワワワーーーーーーーン!!」

 

 と1試合目の時と同様に銅鑼が鳴ったが、1試合目と違いゆっくりと双方間合いを測って、相手の様子を探る。

 暫く様子を探り合い、構えを変えて間合いを積める。

 得物の長さも有り、岳飛殿が戟を突く形で蘭陵王殿の腹に向けると、ヒラリと空中に舞を舞う様に蘭陵王殿が飛ぶ!

 次の瞬間蘭陵王殿の双剣が閃き、頭上からの攻撃を岳飛殿が得物で捌く。

 信じ難い事に蘭陵王殿は、一度地面に着地すると、圧倒的な滞空時間の中でかなりの回数双剣で、岳飛殿に斬りかかった。

 だが、流石は岳飛殿。

 其れに対して、落ち着いた様子で、体幹を崩さずに冷静な態度で、防御している。

 業を煮やした蘭陵王殿は、距離を取って対峙すると身体を独楽の様に回転させて、仕込んでいた暗器である流星錘を凄まじいスピードで投げた!

 岳飛殿は、意表を突くその攻撃も、己の得物である戟の刃先の鈎部分で絡め取り、流星錘を蘭陵王殿から奪うと、それをそのまま蘭陵王殿に投げつけた。

 それに意表を突かれたのか、蘭陵王殿は姿勢を崩した、その僅かな隙を岳飛殿は見逃さない!

 己の得物である戟を凄まじい勢いで回転させると、その勢いのまま蘭陵王殿に叩きつけた。

 姿勢が整わない蘭陵王殿は、たちまち双剣を取り落とすと、大きく後退して徒手空拳での構えを取った。

 其れに対して岳飛殿も、己の得物である戟を大きく後方にいる自分の部下に投げ渡し、自身も徒手空拳での構えを取った。

 

 双方が、武器を使わない形での勝負に切り替わった為に、ワザワザアラン様が得意の土魔法で、即席の舞台を作り上げ、双方に言われた。

 

 「どうせなら武装を解いて、道着になって思いっきり組み討ちするが良い!

 徒手空拳も双方得意そうだし、気兼ねなく納得するまでやり合うが良い!」

 

 両者納得したらしく、10分程の着替えを済ませると、お互い動きやすい服装となった。

 改めて銅鑼が鳴らされ、両者はそれぞれ得意の拳法の構えを取った。

 

 蘭陵王殿は、まるで演舞を舞う様な優美さを備えた、オリジナルの『八卦掌』に『太極拳』を加えた動きを見せた。

 対して、岳飛殿は『八極拳』と『形意拳』を加えた、これまたオリジナルの構えを取った。

 

 先ずは、蘭陵王殿が双脚からの見事な蹴りを放ち、そのまま見事な足技で、岳飛殿に攻撃させる暇を見つけさせない様に、押し続ける。

 だが、そんな華麗な攻撃を岳飛殿は少ない動きで避けて、処々で有効な一打を放とうとするが、中々蘭陵王殿がその素早い動きで、捉えさせない。

 この一騎討ちもまた千日手となりかけたが、またもその均衡を破ったのは第一回と同じくコリント流であった。

 やにわに、岳飛殿が蘭陵王殿から大きな距離を取り、我々のよく知る帝国軍の正式格闘術であるコリント流格闘技の基本構えを取った。

 恐らくは一度も見た事が無いであろう蘭陵王殿は、崑崙皇国には無い格闘技術に面食らった。

 

 「・・・その構えは・・・?」

 

 蘭陵王殿は、その美女の様な秀麗な顔に驚愕した表情を貼り付けて、狼狽えていた。

 その様子に、岳飛殿は、

 

 「この構えこそ、俺よりも強いと認めるアラン皇帝陛下からの直伝である帝国軍の正式格闘術であるコリント流格闘技の基本構えだ!

 いざ、この構えから放つ奥義を受けてみよ!」

 

 との堂々たる宣言に、蘭陵王殿は武者震いをしながら応じた。

 

 「それでは、我の最高の武技で対抗して見せるぞ!」

 

 と言うが早いか、凄まじい勢いで岳飛殿に突進して来た。

 

 そのままぶつかると思った瞬間、突然蘭陵王殿は縦回転すると、足での蹴りを上下から凄まじい勢いでほぼ同時に放った!

 

 《昇龍脚に降龍脚!》

 

 以前同じ技をミツルギ殿から披露されたので、自分にはどの様な技か判ったが、かなり強烈な技で、上下から龍の顎の様に相手の頭を足先と踵で挟む形に蹴る技で、これを諸に喰らえば殆どの者は一発KOだろう。

 

 だが岳飛殿は慌てずに、両手をX字に構えた。

 

 《あ、あれはコリント流格闘技の奥義の一つ『八方拳』!》

 

 そして蘭陵王殿の放つ昇龍脚と降龍脚が岳飛殿の頭を捉えたと見えた瞬間、目にも留まらぬ速度で岳飛殿の両腕が消えた!

 すると蘭陵王殿は、その蹴りを放った姿勢のまま硬直し、やがて崩れ落ちた。

 

 全く、李世民殿といい岳飛殿も、それ程長くアラン様からの武道指導しか受けて無いのに、あっという間に奥義までたどり着いてしまった。

 才能って奴は凄いと実感した。

 



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4月の日記⑤(人類銀河帝国 コリント朝2年)《趙匡胤殿VS楊大眼殿》

 4月12日③(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 この2連戦の一騎討ちに、全軍の興奮は鰻登りでもはや、3連戦で2回勝って勝負が着いたなどと野暮な事を吐かす人は一人も居ない。

 何故なら、これから最後にして最強の武将の一騎討ちが控えて居るからだ。

 

 『楊大眼』

 

 この男は、崑崙皇国にとって不世出の英雄と言ってよく、過去の英雄が現在に復活しようと、絶対に勝てないと噂されるそうで、実際自分の目から見ても、身長が210センチメートルと雄大な大きさであるにも関わらず、均整が取れているのが傍目にも判り、ごつい筋肉が覆っているのに、身体の動きはネコ科の動物のしなやかさを持ち合わせている。

 恐らくは、『ナノム玉』を服用していない素のままの人間の中では、世界一の強さを誇るのではないだろうか?

 

 そんな怪物の様な武将に挑むのは、趙匡胤殿だ!

 趙匡胤殿も巨漢と言って良い、身長190センチメートルで更に圧倒的な筋肉が全身を覆い尽くしているので、正に人間のオーガと呼んで良いと思われる体格だ。

 双方全く見劣りの無い、巨漢同士の対決に周囲の人々のボルテージは上がり続け、今や遅しと一騎討ちの開始が待ち望まれているのが、判った。

 

 そしておもむろに歩き始めて中央に進み出た楊大眼が、口を開いた。

 

 「兼ね兼ね南方に、趙匡胤と云う勇の者がいると聞いて居たが、成る程中々の力を持っているようだ。

 是非にも、お前には俺の飢えを満たして貰いたいものだ!」

 

 と傲慢なまでの自負が言外に溢れる物言いを楊大眼は、悪びれもせずに言い放つ。

 それに対して、特に怒りもせずに、趙匡胤殿は、

 

 「私も、楊大眼殿の素晴らしい噂を常々聞かされていたが、此処まで噂よりも真実の姿が乖離する程、凌駕する事を始めて体験した。

 出来る限りの力で、楊大眼殿のご希望に添いたいが、如何せん私は李世民殿と岳飛殿と違い、最高の武人たるアラン皇帝陛下との繋がりが短く、今だコリント流を基礎しか学んで居らぬ。

 失望させてしまうかも知れぬが、宜しく頼む!」

 

 と訴え出られた。

 其れに対して楊大眼殿は、李世民殿の横で悠然と見学されているアラン様を見られ、

 

 「・・・先程の2回の一騎討ちでも、最終的な決め手は、コリント流武術の奥義であった。

 然もそのどちらも凄まじいまでの、武術の極みと呼ぶに相応しい技である。

 願わくば、その当人が目の前に居られるのだ、是非、一手指南を乞いたいものだ!」

 

 と嘆息されたので、趙匡胤殿はカラカラと笑われ、

 

 「ならば、某を見事打ち倒され、そのままエキシビジョンマッチとして、アラン皇帝陛下をに挑まれては如何?

 きっと受けてくれると思うぞ!」

 

 との言葉に楊大眼殿は、「そうしよう」と頷かれ、両手に金剛棒を1本ずつ取り身構えた。

 その異様さに、全軍がどよめいた。

 何故かというと、鉄棒を武器とする武将は珍しいが別に居ない訳では無いので、驚くには値しないが、楊大眼殿の持つ金剛棒は異常過ぎた。

 何せ大きすぎるのだ、通常の鉄棒が重いもので精々5キロから7キロなのに、楊大眼殿の持つ金剛棒は優に太さで6倍長さで1,5倍は有る。

 然もそれを片腕ずつに持っているのだ。

 つまり、楊大眼は武器だけの総重量で、80キロを越え、鎧等の武装をあの巨体を隙間なく覆っている事から、武装も込で考えると何と120キロを優に越えているのだ。

 正に超人と言うべきであろう。

 

 一方、趙匡胤殿は両腕で持つ大薙刀(セリーナ殿の冷艶鋸改に似ている)を構えた。

 この大薙刀も、重さで30キロは有りそうな大変な代物だが、あまりの楊大眼殿の金剛棒を見せられると、若干の見劣りがあった。

 武装はほぼ同等の鎧を着込んでいたので、この面はほぼ互角だ。

 やがて、両者が向き合い用意が済んだので、銅鑼が鳴らされた。

 

 「グワワワワーーーーーーーン!!」

 

 その音が鳴り響く中、悠然と楊大眼殿が趙匡胤殿に向かい進み始め、流々と両手の金剛棒を回転させ始めた。

 此れがまだ木製の棒で有れば納得がいったが、総重量80キロとなれば話しは別だ。

 正に死の旋風が両手で振り回されていて、徐々に近寄られると云う、恐怖に向き合わされているというのに、震えもせず構えているだけで趙匡胤殿の、凄まじい胆力が理解できる。

 

 そして双方の得物の間合いが交差した瞬間、颶風となって楊大眼殿の金剛棒が趙匡胤殿の兜に向かって振り下ろされた!

 だが、その凄まじい振り下ろしが兜に触れる瞬間ヒラリと趙匡胤殿は体を躱し、そのまま下段から大薙刀を楊大眼目掛け跳ね上げた!

 其れに対して楊大眼目も触れる瞬間ヒラリと横に体を躱し、そのまま回転して金剛棒を横薙ぎに趙匡胤殿の腹に向かい振り回す!

 得たりと、趙匡胤殿も横薙ぎに大薙刀を振り回し、双方の得物がぶつかり合う!

 

 「ガイイイイーーーーン!」

 

 と云う硬い物が凄まじい勢いでぶつかり合う、独特な衝撃音が辺りを震えさせる中、その音が鳴りやまない内に、続けて双方の得物が交差する。

 

 「ガッ、ガガガッ、キィイーーーーン、ゴガガガーーッドゴッ!」

 

 続けざまの凄まじい衝撃音に、全軍の将兵がシンと静まり返り、皆が息を呑んで立たずを飲む。

 

 双方50合に及ぶ重量級の武器の打ち合いによって、それぞれの得物は見るも無惨に傷ついている。

 次の一撃で武器が壊れると判断した双方は、一旦距離を取り構え直した。

 

 「見事だ、趙匡胤!

 この俺とこれだけ打ち合えるとは、予想もしていなかった!

 褒美に俺の奥義で勝負を着けてやる!」

 

 と楊大眼殿は言い、大きく両手の金剛棒を上段に構えた。

 

 「私も、楊大眼殿のお眼鏡に叶う程打ち合えて光栄だ!

 私も全力の奥義で以って迎え撃とう!」

 

 趙匡胤殿もそう応えると、大薙刀を上段で構えた。

 

 数瞬の静寂が終わると、双方が突進した!

 

 「双天剛撃!」

 

 「旋回颶風斬!」

 

 両者の雄叫びと共に、凄まじい衝撃波が周りにいた人に届いたが、周囲にいる軍人達は一人たりと目も閉じずに両者の決着を見ていた。

 

 やがてゆっくりと趙匡胤殿が倒れ始めたが、ガッシと楊大眼殿はそれを掴み、近くに居た救護隊が直ぐによって来たので、その担架にゆっくりと乗せてやる。

 

 「本当に見事だ趙匡胤!

 これ程の使い手は、俺のこれ迄の戦歴でも居なかった!

 何時かまたやり合おう!」

 

 と楊大眼殿は担架に乗せられたままの趙匡胤殿に、優しげに微笑まれながら言われた。

 

 次の瞬間、割れんばかりの歓声が全軍の将兵から湧き上がり、

 

 「「「「「楊大眼!楊大眼!楊大眼!楊大眼!楊大眼!!!」」」」」

 

 と連呼された。

 何とも凄まじい男だ、崑崙皇国に於いて不世出の英雄であると云う触れ込みに、偽り無しと納得出来た。

 



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4月の日記⑥(人類銀河帝国 コリント朝2年)《アラン様VS楊大眼殿準備》

 4月12日④(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 割れんばかりの歓声と、楊大眼殿への連呼が続く中、楊大眼殿がアラン様も目の前に来て、頭を深々と下げた。

 

 「アラン皇帝陛下。

 不躾では有りますが、是非私とエキシビジョンマッチの形で、一騎討ちでは無く、試合を受けてはくれないだろうか?

 もう既に崑崙皇国中央軍の主将で有る『李建成』第一皇子は、周りから孤立させて事実上の更迭状態にある。

 私は、先程の1回戦と2回戦で見た、コリント流の素晴らしさに目を開かれた思いだ。

 是非、この未知で奥深い武術を味わってみたい!

 此の様な思いは、武将を志した遥か昔の時以来で、心がひりつくような期待で一杯なのだ、何とか私の申し出を受けてくれないだろうか?」

 

 とまるで、始めての告白を想い人にするかの様に、真摯な態度で楊大眼殿は申し出られた。

 フム、と考えられたアラン様には両横に居られる、李世民殿と岳飛殿に目を向けると、両人共に意図を汲んでくれて大きく頷かれた。

 その両者からの了解を受けてアラン様は、頷き返して、

 

 「・・・良かろう。

 だが、その金剛棒も限界だろう?

 なので、素手の徒手空拳での試合としたい、受けるか?」

 

 とアラン様が問うと、楊大眼殿は、

 

 「大変有り難いが、まだ自分の得物である金剛棒は、後二試合位なら大丈夫だと思うが?」

 

 と楊大眼殿が答えると、アラン様が手を差し出したので、「大変重いのだが・・・」と恐縮しながら金剛棒を差し出した。

 

 そんな楊大眼殿の手ずから、軽い手付きで二つの金剛棒をアッサリと受け取った。

 まさか己の重い得物を指先で摘む様に受け取られた事に、楊大眼殿は驚愕した様だが、アラン様がコンコンといった感じで、金剛棒同士を叩くと、バキンッといった音を立てて金剛棒が折れると、更に目を剥いた。

 

 「やはり、芯の部分で完全に折れていたな。

 此れでは、試合途中で得物が折れて、対等な勝負が出来なかった処だ、危なかったな」

 

 とアラン様が何でも無いように周りに告げると、プルプルと楊大眼殿は震えてアラン様に言上した。

 

 「・・・信じられない・・・!

 長年使用して来た自分にも判らなかった得物の状態を、遠くから見ていただけで完璧に把握したのか?!

 何と恐るべき観察力と洞察力なのだ!

 貴方様を李世民殿、岳飛殿、趙匡胤殿が、最高の武人だと評された理由が今は、ハッキリと判る!

 どうか、俺の長年の夢である、掛け値なしの全力全開の力を振り絞らせてくれ!」

 

 との懇願に、アラン様は大きく頷かれ、

 

 「その夢を叶えさせてやろう、但し俺も久し振りに全力を出そうと思うので、壊れるなよ!」

 

 何時もの丁寧な物言いが変わったアラン様に、帝国軍の面々は戦慄した。

 あのアラン様が、人相手に本気になったのだ!

 此れがどれほど異例な事か、帝国軍人ならば誰一人として知らない者は居ない!

 

 そう、これから帝国どころか、この大陸に住む人間にとって、最高な試合を見る事が出来る事実に、此の場にいる全ての人間が、生物としての本能で判り始めていた。

 

 楊大眼殿は、重い武装を全て脱ぎ去り、非常に動き易い様に崑崙皇国独自の武道着に着替え、救護隊から受け取った疲労回復ドリンクと、ヒールの魔法で全回復出来た。

 その効能にも楊大眼殿は驚かれていた様だが、これから行われる試合の事の方が気に掛かる様で、しきりとストレッチしている。

 

 そしてアラン様も着替えを開始したが、其れは直ぐに終わった。

 何故ならアラン様の場合、普段の武装と鎧下を脱ぐだけで済むからだ。

 下着とは違う其の着物は、一切の継ぎ目や縫直し等の無い、一体成型の様で処々のサポーター以外は、完全に皮膚の上に貼り付く様になっている。

 此れほど動きやすい服装は無いであろうが、未だにお袋の最先端の服飾工場でもこの素材を生み出せておらず、事実上のアラン様専用の道着と云える。

 

 それぞれの用意も整い、いよいよ銅鑼の合図を待つのみとなった。

 双方、2回戦目にアラン様が作られた即席の舞台に上り、手足の動きを確認している。

 そして遂に、此の一騎討ち勝負のエキストラマッチにして、人同士の最高の戦いが始まろうとしていた。

 




 未公開設定集②

 惑星アレスの真実

 この惑星は調整者にとっての実験惑星であり、シード計画の一環として、魔素によるサイクル型の循環型環境を実権して来た経緯が有ります。
 この種の実験惑星の例としては、アサポート星系第3惑星アデルがあり、基本的な標準社会形態の惑星で、若干の領土拡大意欲を持ち、宇宙の進出と各星系の併合への罪悪感軽減と、大らかな支配体制を志向する意識を持たせているが、基本物理学しか把握しておりません。
 何故此の様に様々なパターンの進化を望める実験惑星を作ったかというと、調整者にはある強大な敵がいて、その敵と戦う為に高次元に行く必要があった。
 然も、その敵はあまりにも強大であり、元々数の少ない調整者は、残らず高位次元に行かなくてはならず、下位次元のここをある意味見捨てなければならなかった。
 なので出来る限りの遺産ともいうべき、防御措置と幾つかの監視者を残した。
 そして其れ以外にも、ある祈りとでも呼ぶべき措置も講じていた。
 その措置とは、遥かな未来に元々のシード計画の目的であった、因子の違う進化を遂げた『人類に連なる者』同士が結びつき、真の意味での『新人類』が誕生し、何れはこの下位次元での戦いを征して、高位次元での戦いでの味方としてやってきてくれると云う、あまりにも淡い微かな祈りであった。
 
 だが、ある特殊事情によって、天文学的な数字の奇跡で、本来後1200年後にしか交わらない筈の両者が、出会ってしまった。
 それも両者が協力的、且つ友好的であり、然も強制的な結びつけでは無く、『愛』という全ての因果と運命をすら超えた『新人類』が誕生した事になる。

 第三部主人公達は、此等の真実を踏まえた上で、星々の海での戦いに乗り出す事になります。

 (ある強大な敵とは、お判りでしょうが作中度々出て来る、『古きものども』を指します)


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4月の日記⑦(人類銀河帝国 コリント朝2年)《アラン様VS楊大眼殿》

 4月12日⑤(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 「ドガッ!」

 

 いきなりの炸裂音の様な音が、まだ打ち鳴らされた銅鑼の余韻が残る中、舞台の中央から響いた!

 そう、開始の銅鑼が鳴った瞬間、アラン様と楊大眼殿が双方突進し、互いが舞台の中央で渾身の蹴りを放ち合い、それがぶつかりあった音である。

 双方の足裏同士が重なったのだが、即座にアラン様は、後方に跳び、足が着地した瞬間その姿が消えた?!

 本来有り得ないのだが、『ナノム玉2』を服用している自分でも、そのあまりの速度に、アラン様の残像が辛うじて追える程度である。

 

 「ドゴッ!」

 

 と云う鈍い音が楊大眼殿の腹に突き刺さる形の、アラン様の右足の蹴りで響く!

 だが、その凄まじい威力の蹴りを放った、アラン様の右足を楊大眼殿は素早く抱え込み、逆関節で折ろうと、叩きつけようしたが、アラン様の左足が楊大眼殿の右腕を蹴り、アラン様は右足を引き抜いた。

 そのまま体勢が崩れているにも関わらず、アラン様は身を捻りながらバックブローで殴りつけて来たが、楊大眼殿は身を沈めて避けると、素早く距離を取り、立ち上がった。

 その間に、アラン様も体勢を立て直し、お互いに構えを取った。

 すると楊大眼殿はその太く長い足で、横回転しながら連続蹴りを上段、下段と振り分ける様に叩き込んでくる!

 アラン様は、上段をスゥエーで躱し下段は足を浮かす形で躱す、しかし突然スピードのギアを3倍に上げて中断に前蹴りを放たれ、アラン様の腹部に突き刺さる。

 アラン様は、辛うじて腕で防御したが、そのまま後方5メートル吹き飛ばされた。

 

 《あのアラン様を蹴り飛ばすとは?!》

 

 と帝国軍人全員が驚愕したが、アラン様は明らかに喜悦の笑みを顔に刻ませ、楊大眼殿の懐に瞬間移動の様な速度で飛び込むと、凄まじい連打のコンビネーションで拳打を叩き込んだ!

 堪らず亀の様に防御に徹する楊大眼殿を見て、崑崙皇国の軍人達は、「オオッ?!」と驚愕する。

 恐らく今まで楊大眼殿が防御するすがたなど想像もしたことが無かったのだろう。

 暫く、アラン様の連打に為すすべが無いかと思えた楊大眼殿が、瞬間縮こまった様に小さくなったと思えた次の瞬間、楊大眼が爆発的に一気に膨れ上がった!

 それは楊大眼殿の全身から放たれた発勁であった。

 その発勁が諸にアラン様の全身を叩き、アラン様がまたも吹き飛ばされる!

 だが先程と違い楊大眼殿が今度は、颶風の様に突進し大振りの右フックが、アラン様の顔面目指し叩き込まれた!

 何とかアラン様は左の腕を差し込む様な形で防御するが、ピンポン球の様に右横方向に飛ぶ。

 楊大眼殿は容赦なく、左脚での下からの蹴り上げを放つ!

 その左脚での下からの蹴り上げの脚に、アラン様は両手を乗せて逆立ちする様になると、そのまま腕を曲げてから一気に伸ばし空中に跳び、縦回転して踵を楊大眼殿の後頭部にぶち込んだ!

 

 「グウウッ!」

 

 と楊大眼殿が始めて呻き、たたらを踏むと、くるりと振り返りアラン様と向き合った。

 アラン様も着地するとくるりと振り返り楊大眼殿と向き合う。

 

 「「吩!」」

 

 と両者共に同じ体勢で、両手をそのまま突き出す!

  

 「バンッ!」

 

 と双方の中間地点で何かが衝突した音がした。

 続けざまに同様な音が同じ場所で起こったが、最後も鏡合わせの様な動きなのに、楊大眼殿は左真横に頭を殴られた様に揺らす。

 

 《鬼勁か!》

 

 自分も出来る技である発勁のアレンジ技が、楊大眼殿に見事ヒットした様だ。

 

 チャンス!と判断されたアラン様が、楊大眼殿の懐に入り肘打ちを鳩尾に叩き込み、ヨタヨタと楊大眼殿が後ろに後退ると、胴回し回転蹴りをアラン様が楊大眼殿の腹部にぶち込んだ!

 しかし、その蹴りに行った足を楊大眼殿は抱え込み、そのまま一気に折りに掛かる。

 右足を抱え込まれたまま、アラン様は左脚で楊大眼殿の顔面に蹴り込み、右足を楊大眼殿の両腕から引き抜くと、密着したままアラン様は背中を楊大眼殿前面に合わせ、ある技が楊大眼殿に叩き込んだ!

 

 《鉄山靠!》

 

 フラフラとよろけた楊大眼殿は、体勢の整わないまま無理矢理の大振り右ストレートが、アラン様の顔目掛け放たれた!

 そのあまりの無造作な右ストレートを、アラン様はスウェーで躱し身体を後方に反らせる。

 其の腕を下からアラン様は右手で手首を左手で肘の辺りを掴む。

 と、アラン様の両足が地面を蹴り、腰が楊大眼殿の右脇に潜り込み左足が後方から楊大眼殿の首に巻き付き、同時に跳ね上がった右足の膝が楊大眼殿の顔を真下から襲う。

 

 「ゴッ!」と云う鈍い音が響き、縺れる様に両者の体が地面に落ちてゆき、落ちながらアラン様は楊大眼殿の右腕を抱え右に身体を捻る。

 

 「グギッ!」と又も鈍い音が響き、楊大眼殿の右腕を折りながらアラン様は左足の脛を楊大眼殿の首に掛け顔面から地面に叩きつけた。

 

 《こ、虎王・・・!》

 

 あのミツルギ殿との対戦以来の奥義が炸裂したのだが、信じられない事に楊大眼殿は折れた筈の右腕を振り回し、アラン様を引き剥がしてしまう。

 

 《なんて奴だ!》

 

 あのミツルギ殿ですら、悶絶するしか無かった『虎王』を喰らって尚、楊大眼殿は右腕を犠牲にして立って居るのだ。

 

 その姿にアラン様は、口の端に血の跡を残しながら、笑って言った。

 

 「大したものだ、この俺の本気の攻撃に此処まで耐えきるとはな。

 だがこのまま長々と試合を続ける訳にはいかない!

 今から俺の奥義の一つを見せる。

 この攻撃に耐えて見せろ!

 そうすれば、この勝負はお前の勝ちだ!」

 

 との宣言に、口の端に血の跡を残しながら楊大眼殿も大きく頷いた。

 

 「今から俺の放つ奥義の名は『落鳳崩』!

 見極めて受けとめろ!」

 

 「・・・嗚呼、受け止めて見せよう!」

 

 と双方が応答し、アラン様がダランと両腕を垂らした。

 するといきなりアラン様の両腕が消えた?!

 楊大眼殿も戸惑われた様だが、近付いて来るアラン様に段々と恐怖を感じ始めた様で、青褪めながら左の順突きを繰り出した。

 が、その手がアラン様に突き出された筈なのに、空を切る。

 

 「?!」

 

 との意味が判らない様な反応をして前蹴りを放つと、またも空を切る。

 

 「ヌウウウウウーーーーッ!」

 

 と吠えて踵落としを仕掛けて来たが、全く別の所に蹴り落とされた。

 どうしようも無くなったのか、楊大眼殿は顔色を更に悪くしながらアラン様から遠ざかろうとするが、アラン様の目がギラリと輝き、一気に楊大眼殿に近づき掬い上げる様に楊大眼殿を空中に跳ね上げた!

 その空中で、不規則に楊大眼殿は跳ね回る、その間もアラン様の両腕は消えているが、微かに残像で超高速で動いているのが辛うじて見て取れた。

 

 巨体の楊大眼殿が空中でお手玉の様に、自由自在に振り回される姿を見て、悪夢を見ている様に崑崙皇国の軍人達が青褪める中、

 

 「ハッ!」

 

 とアラン様が掛け声を上げると、15メートル程の高さに楊大眼殿を跳ね上げ、ご自身も跳び上がった!

 そして意識を失っていると思われる楊大眼殿に組み付き、まるで鳳凰が翼を広げる様に手を大きく広げさせて、逆さ状態に地上の舞台に叩きつけた!

 

 「ズガアアアン!」

 

 との地響きが上がる程の衝撃音が鳴り響き、仰向けに楊大眼殿は倒れてしまった。

 

 「グワワワワーーーーーーーン!!」

 

 勝負が着いた合図の銅鑼が鳴らされ、アラン様の勝利が確定した。

 

 落命したのでは無いか?と思われる程の技だったので、直ちに救護隊が生死確認をしたが、呼吸と心音が確認されて楊大眼殿の無事が確認されたので、此の場にいる全ての者がホッと息をついた。

 

 そして最初は、帝国軍人の拍手に始まり、やがては此の場にいる全ての者が、割れんばかりの歓声と拍手を上げてアラン様の勝利を祝いだ。

 この瞬間、公式記録としてアラン様は、異国人ながら崑崙皇国の歴史上最強の武人として、崑崙皇国の正式史書に綴られる事になったのである。

 



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4月の日記⑧(人類銀河帝国 コリント朝2年)《崑崙皇国首都『洛陽』攻防戦準備》

 4月12日⑥(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 一騎討ちとエキシビジョンマッチも終え、形として帝国軍と李世民殿の軍が勝ったという事で、事を収めようと行動する事になったが、崑崙皇国第一皇子たる『李建成』を見張っていた『沈光』殿と『木蘭』殿の部隊の兵が、緊急事態発生との報告を上げて来た。

 その尋常ではない慌てぶりに、取り敢えずおっとり刀で双方の上層部が一緒になって赴くと、かなり離れた場所から血臭が漂ってくる。

 アラン様と李世民殿達は、その色まで付きそうな空気に警戒し、腕利きの武人以外を周囲から去らせ、ゆっくりとその天幕に近づく。

 すると突然天幕を引き裂いて魔物が飛び出した!

 その魔物は、以前牛魔王達の妖怪軍にも居た牛頭の魔物で、我等西方の人間にとってはミノタウロスと呼ばれる魔物に酷似しているが、こいつは崑崙皇国の鎧を纏っている。

 そんな魔物が約30匹の数で我等に襲いかかって来た。

 だがこの程度の魔物が、この場にいる強者揃いの武人に勝てる訳もなく、5分程で全て始末した。

 問題はその後である。

 

 そもそもこの魔物は突然何処から現れたのか?

 この天幕に居た筈の崑崙皇国第一皇子『李建成』と、その取り巻きはどうなったのか?

 何故天幕近くに居た警備兵だけが殺されているのか?

 

 この状況を確認精査する為に、救護隊に連れられ怪我をヒール等で癒やされた後に、安静にして貰っていた、『楊大眼』『蘭陵王』『霍去病』殿達に現場に来てもらった。

 

 「な、なんだこの惨状は?!」

 

 楊大眼殿が呻き声を上げ、他の二人も絶句している。

 だが何時までも呆けている訳にはいかず、直ちに人間と牛頭の魔物の死体を全員で調べて行った。

 そして以下の事が判った。

 

 1,外から牛頭の魔物が侵入した形跡は無し。

 

 2,牛頭の魔物が着込んでいた鎧類は、事前に崑崙皇国第一皇子『李建成』と、その取り巻きが着込んでいた鎧類と同じ。

 

 3,崑崙皇国第一皇子『李建成』と、その取り巻きの死体や血等の跡は一切無い。

 

 以上の事から考えられる事は、元々牛頭の魔物が崑崙皇国第一皇子『李建成』と、その取り巻きになりすまし、バレそうになった為に、警備兵を殺して逃げようとしたのでは無いか?と云う線が濃厚そうだ。

 

 となると、敵である朝廷側は、最初からこの中央軍を信じていなくて、偽物の崑崙皇国第一皇子『李建成』と、その取り巻きを派遣していた事になる。

 こうなると逆に『洛陽』で平民になりすまして、朝廷を監視している中央の軍人達が敵の虎口にいる事となってしまった。

 

 その事実に気付いた我々は、此処に居る軍人の振りをしている平民に、順次『南京』への移動を指示して、その為に『南京』とのトレーラーでのピストン輸送と、住居や食料等の生活インフラと対応を、帝国の各大臣にアラン様が指示し、李世民殿達はその帝国との対応を『魯粛』『諸葛瑾』の両者とその属僚に任せると、楊大眼殿達の中央軍所属の武将の方々と共に、直ちに『洛陽』に進撃する事に決めた。

 

 4月15日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 『洛陽』に進撃しながら、度々自分の乗る巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』の大会議室にて将官が集まり、『洛陽』の様子と今後の指針を決める会合をもった。

 現在『洛陽』の中枢たる紫禁城は、一切の外界との接触を断ち、不気味な静けさを保ち外からの情報を得る様な偵察行動が出来ないらしい。

 然も、朝廷で働く2万人に及ぶ宮廷出仕のあらゆる職種の人間が、3日前から家に帰還していないそうだ。

 なので、超高性能ドローンによる高性能な探知魔法と高性能マイクにより、表層部だけではあるが宮廷の様子を探ると、何と牛頭の魔物が宮廷で徘徊している。

 この様子と、牛頭の魔物達が会話している内容がとんでもないものだったので、帝国軍と李世民殿の軍は座乗する帝国艦隊と共に進軍する騎馬隊の進軍するスピードを早めた。

 それと共に、帝国の中央情報局所属のカトウ始め300人のエージェントに伝えて、洛陽にいる中央軍の指導部と連携して、洛陽からの脱出を指示した。

 

 4月17日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 順調に洛陽からの脱出が進んでいたのだが、どうやら気づかれたらしく宮廷から牛頭の魔物の軍隊が、中央軍と衝突し始めた。

 中央情報局所属のカトウ始め300人のエージェントと、洛陽にいる中央軍の精鋭が殿となり、中央軍の脱出を急がせたが、信じ難い人数の牛頭の魔物の軍隊が湧き出てくるのでかなり厄介な様だ。

 なので帝国軍の殆どのドローンを出動させ、中央軍のフォローに全力を上げて行動する事とした。

 他にも進軍スピードの早い戦闘車両と戦闘バイクを、最高スピードで出動させて、脱出する中央軍の援軍に向かわせた。

 後もう少しで洛陽、という距離に到達すると、遠景で洛陽が見えた。

 すると洛陽の上空に漏斗状の黒雲が広がっている。

 明日には洛陽近郊には、帝国艦隊が到達出来るだろう。

 この状況なら明日そのまま戦闘に入るのが確定なので、全軍覚悟を決め戦闘準備を整え始めた。

 



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4月の日記⑨(人類銀河帝国 コリント朝2年)《崑崙皇国首都『洛陽』攻防戦》

 4月18日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 徹夜で一気に帝国艦隊と崑崙皇国軍(もう区分けする必要が無くなったので)は陣形を横陣で向かう。

 既に洛陽郊外でも戦闘が起こっていて、乱戦状態だ。

 当初は劣勢だった崑崙皇国軍も、途中参戦の戦闘車両と戦闘バイク部隊が、牛頭の魔物の軍隊に突撃して行く事で挽回し始めている。

 更に上空からのドローンによる支援のお陰で、被害が少なくなったので此方に向かい撤退する、洛陽滞在の崑崙皇国軍が増えて来た。

 臨時の後方基地を補給部隊と、救護部隊で構築し、其処で洛陽滞在の崑崙皇国軍を受け入れ、怪我等を癒やした上で場合によっては『南京』に輸送する体制を築いた。

 他の攻撃部隊は、やって来る牛頭の魔物の軍隊に対し、後方の洛陽の大門に向け魔法弾の砲撃を集中させ、後続の魔物達の行動を掣肘し、現在洛陽郊外に取り残された牛頭の魔物の軍隊を殲滅に掛かった。

 

 事前に訓練を重ねた5万の3輪戦闘バイクに騎乗する崑崙皇国軍は、李世民殿、岳飛殿、趙匡胤殿がそれぞれ率い、勇躍牛頭の魔物の軍隊に向けて突進する。

 

 既にそれぞれ軍団魔法を習得していて、3つの巨大な塊は、敵である100万を越える牛頭の魔物の軍隊を斬り裂いた。

 それを援護するべく帝国艦隊はパルス魔法弾での支援攻撃を、牛頭の魔物の軍隊に向けて放つ!

 形勢不利と見た牛頭の魔物の軍隊は、巨大な牛の姿に变化するとその角に炎を纏わせ、強烈な突進を仕掛けて来た。

 其れに対して、その突進の鋭鋒から身を躱し、各部隊は正面から対峙せずに側面攻撃を主体に切り替えた。

 訓練通りの連携攻撃と機動攻撃が功を奏し、殆どの郊外に居る牛頭の魔物の軍隊は殲滅出来た。

 一先ず、臨時の後方基地に全軍が集結して、直ちに崑崙皇国軍の再編を行う。

 かなりの人数が傷付いてしまったが、幸い殺されてしまった人数はそれ程居ない。

 しかし、片腕や片足になったりした者は大勢いたので、健常な人数は200万人程なので、怪我人を保護する為に100万人置いて、残りの100万人と帝国軍で洛陽に再度攻め込む事になった。

 

 洛陽の4つの大門は、先程の砲撃で壊されていたが、再度の砲撃を行う事で、木端微塵となって更地と化した。

 その大門跡を乗り越え、それぞれ4つに分散した我等は、都城址の大道をゆっくりと突き進む。

 しかし、先程までの郊外の戦いと違い、何故か都城址には、牛頭の魔物の軍隊どころか動物一匹居らず、不自然なまでの静寂が支配していた。

 

 やがてそれぞれの大門から侵入し大道を通ってきた我等は、洛陽の中心である『紫禁城』を取り囲む事となった。

 普段は喧騒に包まれているらしい『紫禁城』は、カトウの報告通りに3日前から誰も帰還していないとの事なので、不気味な静けさに包まれ、一切の反応を見せない。

 

 この状況にアラン様は、カトウ達中央情報局局員達に『紫禁城』の調査を命じた。

 その間に、異常事態が起こる可能性を想定し、ある程度の距離を取る為に洛陽の四方、5キロメートル程に同心円状に洛陽を包囲した。

 暫くの時間が過ぎ、『紫禁城』の奥を調査していたカトウ達から連絡が入った。

 何とこの『紫禁城』の遥か地下に恐ろしいほどの巨大な空洞が有って、其処から西に向けて回廊が有ると言うのだ。

 よって、この回廊を調べる為に超高性能ドローンを地下に入れて、飛ばして見る事になった。

 幸い回廊の大きさは、充分にドローンが活動出来る太さで、殆ど真っ直ぐにで僅かな傾斜がある程度なので、そのまま直進させる事が出来る様だ。

 

 自分含む軍の上層部は、そのドローンの報告が上がるまでに即応出来る様に、配下の臨戦体勢を維持していた。

 

 だが中々ドローンからの情報が入って来ないので、アラン様から本日中の報告は無いので、、交代制で休憩を取り、食事と就寝に移れと命令が有り、帝国軍と崑崙皇国軍の皆は臨戦体勢を解き、交代交代で休息を取った。

 

 4月19日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 結局日を跨いで、ドローンは今朝回廊の通じている先の情報を取ってきた。

 何とこの回廊の終着先は、距離にして1万キロメートルに及び、崑崙皇国の領土を超えた先に通じていたのだ。

 この時点で、我等帝国軍の面々嫌な予感がしていた。

 

 敵が牛頭の魔物で有る点。

 回廊が西の方角から来ている点。

 カトウの調査で紫禁城の秘宝たる『宝貝』が幾つも持ち去られている点。

 

 どうやら回廊は、つい最近に洛陽に通じた様だが、其れはあくまでも出口がであって、出発点である場所の回廊は遥か昔に掘られ始めていたのが、スペクトル分析で判ったそうだ。

 

 以上の事から、この回廊は遥か過去から、凄まじいまでの妄執によって掘られていたと言う訳だし、その場所は地上での距離と方向から、予想通りにある場所を示していた。

 

 その場所とは、

 

 『敦煌』

 

 我々帝国軍が、この崑崙皇国に辿り着くまでに、寄らせて貰った『蚩尤』が封印されていると言われていた場所であった。

 



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4月の日記⑩(人類銀河帝国 コリント朝2年)《長安での補給》

 4月21日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 2日前にドローンの情報から対応を決め、その日の内に帝国軍と崑崙皇国軍は崑崙皇国の旧都『長安』に向けて出発し、洛陽には守備部隊50万人を置き洛陽とその周辺の平定を『沈光』殿と『木蘭』殿に任せた。

 長安では、則天武后殿と妲己殿から出迎えられ、準備して貰っていた改良版『宝貝』である『躯体』を受け取った。

 そして長安の城址での会議室で、作戦会議を行う。

 例の地下大回廊の終着点である『敦煌』の状況の変化がモニターに示された。

 洛陽での牛頭の魔物の軍隊が暴れまわっている間に、洛陽の上空に起こっていたのと同様に、黒雲が漏斗状に立ち込める状態となっていた。

 どうやら洛陽に存在していた『モノ』が敦煌に運ばれているようだ。

 その『モノ』とは、遥か過去に神々が『蚩尤』を封印する時に使用した、神より預けられた代物だそうだ。

 更に詳しく聞くと、

 

 名は『応龍』

 

 神々から説明され、碑文として刻まれた言葉の一部には、

 

 「・・・遥か未来、何れ『蚩尤』を始め『古きものども』がこの地に災いを齎す。

 それに対抗し得る、『神機』の一体を此の地に残す。

 願わくば其の時までに、正当なる『乗り手』が現れる事を望む・・・」

 

 と記されていたそうだ。

 だが、結局崑崙皇国には、その正当なる『乗り手』が現れる事は無く。

 代々の皇帝家が、神々より預かる形で『応龍』が封じられた巨大な岩を、洛陽にある『紫禁城』の地下に安置していたそうだ。

 ただ、「これは!」という人物達には、試しの意味で安置している所に出向かせ、確認していたらしい。

 結局その目論見は果たされる事は無かったが・・・

 

 その話しを聞いて自分は、思わずアラン様を見た。

 すると同時に自分を見たアラン様は大きく頷いた。

 息子が誕生し、1周間程経って賢聖モーガン殿が『アポロニウス皇太子殿下』と同時に産まれた、4人の赤子に対して『星の涙(スター・ティア)』を渡しながら、言われた言葉が思い出される。

 

  「・・・その『星の涙(スター・ティア)』は、貴方方の子供と世界各地に眠るそれぞれの『神機』との道標になる様にカスタマイズしてあるわ。

 ある程度の年齢になって、その『星の涙(スター・ティア)』を介して、それぞれの専用武器たる『星剣(スター・ソード)』を自身の能力で発現出来る様になれば、『神機』とのダイレクトリンクが確立するわ。

 その時を問題なく迎える為に、子供達の乗騎たる『神機』を他の者に奪われない為に、貴方方は親として協力してね!」

 

 つまり、その『神機』の一体である『応龍』が見つかったのだ!

 まだどの子供の『神機』であるかは判らないが、何れ落ち着けば確認出来るだろう。

 

 そしてここからは推測になるが、恐らくこの『応龍』が封じられた巨大な岩を使って、『蚩尤』が封印されている巨大な塚を何らかの形で壊し、何者かの意図として『蚩尤』を復活させる目的では無いだろうか?

 

 作戦会議の流れとしては、おおよその処、敵の意図はそのようなもので、其れに対処する為に、此方としては現在考えうる、最強の布陣で望む事にした。

 

 なので暫定的に崑崙皇国の最高権力者である則天武后の認可の元、崑崙皇国の守護竜たる八大竜王を全て参戦させる事と、改良版『宝貝』である『躯体』5体を全て投入させる事が決定した。

 

 そしてこの長安で補給を整え、考えうる最強の布陣で敦煌目指し出発する。

 

 4月25日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 かなりの強行軍で、対『蚩尤』決戦部隊が進軍している。

 正直な処、もし本当に『蚩尤』が復活して戦う事となれば、普通の軍隊が対抗出来る筈は無いので、ある程度『古きものども』にダメージを与えられる者でなければ意味が無かった。

 然も今現在、我等帝国軍には重要な戦力であるドラゴン達がいないのである。

 

 アトラス殿とグローリア殿は、産んだばかりの卵を交互に温めながら、ドラゴンとしての特別な魔力を毎日交互に注ぎ込んでいるので、帝都コリントの専用の巣から暫く動けないし、ガイやサバンナ達15頭のドラゴン達とワイバーン達も進化する為のコクーンに入ったままなので、帝都コリントから一歩も出られない。

 

 セリーナ・シャロン両准将も、諸事情で帝都コリントを出られずにいる。

 こうやって考えて見ると、帝国軍は現在全力を出せるとは、とてもではないが言い難い。

 

 だがその代わりに、崑崙皇国軍の最精鋭と言って良い面々が勢ぞろいしているので、まあ贅沢は言えない。

 その様な事を考えながら、敦煌の有る方向を臨む。

 昨日から見えて来た例の黒雲は、より禍々しさを増し、時折雷鳴が煌めく様にまたたいている。

 

 すると何やら、

 

 「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ」

 

 と云う鳴動が進行方向から聞こえて来る。

 その不吉な鳴動に嫌な予感を抱き、軍の上層部は自分の乗艦である巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』の大会議室で集まり、敦煌を偵察している超高性能ドローンからの情報をモニターで確認する。

 

 すると敦煌に有った筈の巨大な塚が、ものの見事に割れて倒れている。

 然もその周辺には、明らかに人では無い遺体が同心円状に倒れていた。

 その遺体は、此方が予想していた通りに全てが牛頭の魔物で、皆、塚の方向を向いて死んでいる様だ。

 

 自分の脳裏には何時ぞやの『インスマウス』人と云う半魚人の行動と同じ、生物としての根源的な違和感を感じざるを得なかった。

 



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4月の日記⑪(人類銀河帝国 コリント朝2年)《蚩尤復活の前兆と対抗の準備》

 4月26日①(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 いよいよ敦煌の領域に入ったが、以前に存在していた途上の村落は全て壊滅していた。

 この辺りは国家など無くて、遊牧民族が移動可能なテントでの生活をしていただけなので、あまり壊滅している村落が少ない点は不幸中の幸いだ。

 だが、カザフ、ブタン、ネパル等の周辺国家は、遠目に見ても凄まじい異常事態に、国境線を閉じて崑崙皇国に対し参戦支援は出来ないが、心よりの応援と帝国との将来の外交取り次ぎをお願いしたい、との報告が上がっているそうだ。

 そう言えば、妖怪軍との支援派遣要請も有ったが、元々は外交使節団が公の立場だったのだが、今の立場は既に外交どころか、半ば運命共同体の同盟関係になっていて、殆ど経済関係と軍事関係はツーカーの仲だ。

 

 その様な事を考えながら、一路、超高性能ドローンからの情報に有った、巨大な塚に向かう。

 同心円状に倒れている牛頭の魔物の死体は、帝国軍艦隊が近くを通り過ぎると、ボロボロと崩れ去り、そのまま風に吹かれて砂塵と化して行く。

 

 やがて中央に有った塚が、一気に陥没した。

 その陥没した広さは、約10キロメートルの直径となり、周囲に存在した山脈の一部までそのクレーターに削られている。

 

 その様子を上空から偵察している、超高性能ドローンが探知魔法で探査した情報が上がって来たが、何やら巨大なクレーターの底に、途轍も無く巨大な骨が鎮座している事が判った。

 

 暫く観測作業を超高性能ドローンが行っていると、空中に集まっていた例の黒雲が漏斗状にその骨に向かって吸い込まれる。

 

 その様子を確認したアラン様は、準備体勢に入っていた『躯体』と、その搭乗員たる武将達に依頼した。

 

 「各登場員は、巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』に有るコックピット(専用シート)に座り、起動を開始してくれ!」

 

 との頼みに、楊大眼殿が、

 

 「承知!」

 

 と言われ、他の4人も大きく頷いた。

 その状況を確認した妲己殿が命令を発した。

 

 「龍脈(レイライン)ダイレクトリンク第二段階、小周天モード発動!チャクラ励起せよ!」

 

 その命令が下されると、モニターに映った5名の身体の中心線に直列に並んだ身体の7つの部位に突如光る部位が出現した。

 

 その光る場所は、円形なのだがどうやら回転しているようで蓮の花の様に見えた。

 

 だがその光る部位が出現した瞬間、爆発的な何らかの力が5人から噴出した!

 

 その力は、魔力にも似ていたがどちらかと云うと気力や気と呼ばれる力がより近いが、明らかに神聖な気配を纏っていた。

 

 言わば、『神気』とでも呼ぶべき代物だった。

 

 その『神気』が『躯体』に注がれると、明らかな変化が『躯体』に現れた。

 

 予め周囲に配置していた符という紙が大量に『躯体』に纏わり付き、みるみる内に巨大な5人の武将が姿を現した。

 

 霍去病殿が憑依している躯体が、『哪吒太子』。

 

 三面六臂の姿で、手には乾坤圏(円環状の投擲武器)・混天綾(魔力を秘めた布)・火尖鎗(火を放つ槍)・砍妖刀(かんようとう)・縛妖索(ばくようさく)・降妖杵(こうようしょ)・綉毬(しゅうきゅう)・火輪(かりん)の六種の得物を持っている。

 そして足には何やら火の車輪がくるぶしの辺りで回転していて、空を飛んでいる。

 

 岳飛殿が憑依している躯体が、『斉天大聖』。

 

 手には如意棒と云う伸縮自在の棒を持っており、筋斗雲と云う雲に乗って空を飛んでいるが、その顔はどう見ても猿のもので、美男の岳飛殿には似つかわしく無いと思った。

 

 蘭陵王殿が憑依している躯体が、『二郎真君』。

 

 手には三尖両刃刀を持っており、何とも涼やかな美男でアラン様にお似合いな武将姿だが、何故か周りを哮天犬がお供するように寄り添っていたが、途中からその哮天犬に乗り空を飛んでいる。

 

 楊大眼殿が憑依している躯体が、『関帝聖君』。

 

 セリーナ准将愛用の武器、『冷艶鋸改』の原点である青龍偃月刀『冷艶鋸』を振るう武神で、非常に大柄で楊大眼殿に似ていて、長く美しい髭をしていて、如何にも威厳が有る。

 

 趙匡胤殿が憑依している躯体が、『毘沙門天』。

 

 右手に宝塔を掲げ、左手には宝棒を持ち、厳しい顔付きをしていて全身を頑丈そうな鎧に包んでいる。

 然も斉天大聖とは違う雲に乗っている。

 

 以上の『躯体』が帝国軍艦隊の前に現れ、各武将が憑依状態を確認している。

 その間にも八大竜王である、難陀・跋難陀・娑伽羅・和修吉・徳叉迦・阿那婆達多・摩那斯・優鉢羅が、それぞれ巨大クレーターを取り囲む上空に8方向から大きく囲み、天候等での支援体制を構築した。

 

 そして人間相手にはまともに参戦出来なかった、牛魔王・金角・銀角・牛頭・馬頭の妖怪達も今回は全力で戦う為に、それぞれの武器である『宝貝』を手に取り準備している。

 

 其れ等を確認して、アラン様と李世民殿は、状況の変化を見逃さない様に、モニターを注視して居られる。

 

 そして例の漏斗状になっていた黒雲が全て巨大な骨に吸い込まれ尽した。

 

 「ドクン!」

 

 と大きな心音が辺りに響き渡る。

 其れはつまり骨と化していた何者かが、生命を取り戻し復活しようとしている事を、如実に示していた。

 

 そう、この敦煌に封じられていた『蚩尤』が復活した、紛れもない前兆であった。

 



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4月の日記⑫(人類銀河帝国 コリント朝2年)《蚩尤との戦い①》

 4月26日②(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 凄まじい振動が起こったが、全ての軍人が陸上戦闘艦に乗っているので直接の被害は無いが、周辺各国には地震被害が相当あったろう。

 

 「各艦、バリアー全開!

 クレーターから距離を取れ!

 『躯体』は戦闘準備!」

 

 とアラン様が緊張した指示を発した。

 そしてクレーターから、途轍も無い足音が聞こえて来た。

 

 「ズン、ズズン、ズズズン、ズシーン、ガ、ガガ、ガガガ!」

 

 と、後半はどうもクレーターを登る為の手掛かりを掴んでいる音らしい。

 

 暫くすると片手がクレーターの淵を掴む様に現れた。

 次のタイミングには、手が3つ現れ、更に次のタイミングには、6本の腕が見え巨大な角も見えた!

 

 「一斉斉射、撃て!!」

 

 とのアラン様の号令で、全ての帝国艦隊の主砲群が火を吹いた!

 最初の一射は『ヴァルキリージャベリン』弾で、『蚩尤』の防御障壁の類を解除させ、各種の魔法弾を浴びせて、『蚩尤』の弱点を早期に探り出そうとする。

 しかし、『ヴァルキリージャベリン』弾こそ効いた様だが、火系、氷系、雷系等の魔法弾を喰らっても『蚩尤』はたじろがない様子で、とうとう全身を地上に表した。

 

 デカイ!今までの『古きものども』と比べても2割増しの、6キロメートルは有る巨体と、四目六臂で人の身体に牛の頭と鳥の蹄を持つ姿。

 更に、崑崙皇国風の鎧と手には、戈(か)・矛(ぼう)・戟(げき)・酋矛(しゅうぼう)・夷矛(いぼう)・剣が握られている。

 この巨体で武器を振るうとは、ある意味インチキの様な気がするが、そんな事に抗議しても現状が好転する訳では無論無い。

 

 この化け物が好き勝手に動き回らなくする為に、予め決めていた方策の一つを取られる。

 

 「八大竜王!

 包囲陣『八陣八卦炉』発動!

 『蚩尤』を閉じ込めて、行動を抑制しろ!」

 

 と李世民殿が八大竜王に号令し、八大竜王がそれぞれの方向から、巨大な半透明な方形の壁を出現させ、周囲200キロメートルに渡って戦場を限定させた。

 この包囲陣『八陣八卦炉』とは、遥か昔の仙人達が用意していた対『蚩尤』用の方策の一つで、『蚩尤』の妖力を半分にするそうだ。

 『蚩尤』も驚いたのか自分の手足の動きの鈍さに気付いた様で、怒りの表情を浮かべている。

 

 その『蚩尤』に向けて『躯体』達が躍り掛った。

 

 霍去病殿が憑依している躯体『哪吒太子』が、乾坤圏を『蚩尤』の顔面に飛ばし『蚩尤』の4つの目を潰そうと狙い、火尖鎗と砍妖刀で接近戦を挑んでいる。

 

 岳飛殿が憑依している躯体『斉天大聖』が、筋斗雲と云う雲に乗って空を飛び周り、如意棒という『宝貝』で伸縮自在に『蚩尤』を叩きまわる。

 

 蘭陵王殿が憑依している躯体『二郎真君』が、斉天大聖と同様に空を飛ぶ哮天犬に乗り、三尖両刃刀を振り回し、『蚩尤』の持つ数々の武器と打ち合い、他の者へのサポートをする。

 

 楊大眼殿が憑依している躯体『関帝聖君』が、青龍偃月刀『冷艶鋸』を上段に構え、正面から大上段に斬り込んだ。

 他の躯体が、蚩尤の相手をしているので、諸に蚩尤はその攻撃を受けてしまう。

 

 趙匡胤殿が憑依している躯体『毘沙門天』が、右手に宝塔を掲げ周りを照らす様に光りを放ち、左手の宝棒で蚩尤の足元を払う。

 

 此の様に、各躯体がそれぞれの役目通りに、行動することで徐々に蚩尤はダメージを蓄積していった。

 

 「ガア嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼!」

 

 との咆哮を上げて、蚩尤は追い詰められて行く自分自身の全身から凄まじい炎を吹き上げた!

 

 その炎のあまりの熱さに、各躯体は一時後退したが、その各躯体を追うように炎は蛇の様にうねって進んでくる。

 其れに対して、予め用意していた方策、其の二を使う事にする。

 

 「『カイザー砲』エネルギー充填90パーセント、セーフティーロック解除、圧力、発射点へ上昇中。

 

 エネルギー充填100パーセント、敵目標へ軸線合わせ、ターゲットスコープオープン、電影クロスゲージ明度20。

 

 最終安全ロック解除、エネルギー充填120パーセント、対ショック、対閃光防御。

 

 『カイザー砲』発射!」

 

 そう、帝国軍の各艦艇のエネルギーの余剰分を結集し、総旗艦『ビスマルク』は、密かに『カイザー砲』の準備を整えていたのだ!

 

 「ドオオオオオーーーーーーン!!!」

 

 と云う凄まじいエネルギーは、轟音を伴って蚩尤目掛けて突き進み、ものの見事に捉えた!

 

 「イエrhbgスghンs!」

 

 と蚩尤は意味不明な雄叫びを上げて、その凄まじいエネルギーに対抗しようとする。

 だが『カイザー砲』の威力に如何に蚩尤と云えど簡単に対抗出来る筈も無く、吹き飛ばされてしまった。

 

 しかし、流石と言うべきか蚩尤は、その『カイザー砲』の直撃を喰らったにも関わらず、猛然と立ち上がって来た。

 だがやはり無傷とはいかず、6本の腕の内3本は無くなり、全身を覆っていた炎も消し飛ばされた。

 眼も4目の内2目も潰れ、戦闘力が激減したのが見て取れた。

 

 「家雨hp座ypZ@エrjy@↓ ツwyg オ!!」

 

 何やら蚩尤が大きな声を上げて、残った3本の腕を上空に向けて差し上げた!

 すると突然その3本の腕を差し上げた上空が歪む初め、黒い穴が広がった!

 

 《あ、あれは?!》

 

 その黒い穴に、我等帝国軍は見覚えがあった。

 其れは半年前の、対スラブ連邦との首都『エデン』での最終決戦での出来事。

 あの時、『ラスプーチン』は『システム・エキドナ』を使い、空間に巨大な穴を開けようとしていたのだ。

 其れに気付いた我等は、『カイザー砲オーバーブラスト』を以って吹き飛ばす事に成功した。

 

 《不味い!》

 

 この事態は、事前に行っていた想定を越えている!

 こんなに簡単に空間への穴を開けられるなど、誰も考えていない!

 図らずも、此の場にいる者達は残らず、唖然とした表情をして事態を見ている事しか出来なかった。

 



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4月の日記⑬(人類銀河帝国 コリント朝2年)《蚩尤との戦い②》

 4月26日③(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 躯体5体が全力で食い止めようと、武器を振り翳し攻撃を再開。

 其処へ魔石を呑みまくって、妖力を限界超えさせ、变化により巨大化した牛魔王・金角・銀角・牛頭・馬頭が参戦した。

 その鬼気迫る攻撃に堪らず蚩尤は、

 

 「ヌイhgbゾbhPgmビ!」

 

 と意味不明な雄叫びを上げ、更に空間に開いた穴を広げようと妖力を集中させている。

 

 そしてアラン様は最後の切り札を切る。

 何時もの様にアラン様は、総旗艦『ビスマルク』の舳先に向かい、堂々たる風情で『蚩尤』を睨み吸えると、言葉を発した!

 

 「対外敵プログラム"武神アラミス"起動!

 

 モード『異空間からの侵略者』!

 

 『神人』の要請に従い顕現せよ!

 

 神鎧『ジークフリート』!!!」

 

 もう此れで帝国軍としても崑崙皇国軍としても、全ての力を使うつもりで投入する事になった。

 

 アラン様はその『神人』としての能力を用い、次元の壁をこれ以上広がらない事に『次元ロック』を掛けた。

 

 明らかに蚩尤は、自分の能力が阻害され、これ以上空間の穴が広がらなくなった事に衝撃を受け、その原因たるアラン様を敵視し、残された2目から極太の光線を放つ!

 当然、その程度の攻撃など神鎧『ジークフリート』を纏ったアラン様に届く訳も無く、アラン様は蚩尤の眼の前に浮かぶと、只の蹴りを蚩尤の突き出た鼻にぶち込んだ!

 

 「ェsキrhbpレアン!」

 

 その巨大過ぎる鼻を押さえながら、蚩尤はもんどり打つ様に倒れ込み、憎悪に歪んだ顔付きでアラン様を睨むと突然自分自身が開けた空間の穴に向かって飛んだ。

 そのまま空間の穴に取り付くと、無理矢理空間の穴を大きくする為に、3本の腕と両足をつっかえ棒の様にしている。

 そのままの形で踏ん張る蚩尤にアラン様も閉口してしまった。

 何故なら、神鎧『ジークフリート』の能力は絶大である。

 だが、絶大であるが故に、この様なポジションを取られると、得意の次元攻撃を使用すると、誤って次元を裂き空間の穴を広げてしまいそうだ。

 

 このままでは不味くなる一方だ、と誰もが思うが、解決策が見つけられない。

 

 重い空気が辺りに漂う中、巨大化した牛魔王・金角・銀角・牛頭・馬頭が、李世民殿達に申告した。

 少し判り辛い話し方だったが、辛うじて翻訳出来、その内容を要約すると、

 

 「・・・我等は妖怪ながら、崑崙皇国の武将である。

 にも関わらず、『蚩尤』の能力の洗脳により、崑崙皇国の無辜の平民を虐殺してしまった。

 なので最後は、崑崙皇国の武人として、自らの矜持を取り戻す為にこの『蚩尤』と刺し違えたい!

 ついては力添えをして頂き、自分達はその力を背景に、空間の穴ごと『蚩尤』を道連れにしたい!」

 

 とかなり聞き取りづらい言葉で、李世民殿達に申し出られたのだ。

 

 この申し入れに、皆が絶句したが、かと言ってこれ以上の現状を変える方策を、皆持ち合わせていない。

 暫く皆が葛藤していたが、妖怪達は止める間もなくそれぞれが蚩尤の身体に、纏わりついた。

 金角は右腕、銀角は左腕、牛頭は右足、馬頭は左足、といった具合にしがみついた。

 このままでは、その目論見まで潰えそうになったので、仕方なく帝国艦隊と躯体から妖怪たちに、魔力と符術による妖力が届けられる。

 その届けられた力のお陰で、より身体を大きく变化させて、蚩尤の抗う力を阻害する。

 そして、やや遠い場所に陣取って力を溜めて、本性である体長1,000丈(3,330m)、体高800丈(2,666m)の白牛になった牛魔王は、まるで闘牛が突進する前の様に足を地面で掻き、土煙を立てている。

 力を溜めるのも充分とみた牛魔王は、その凶暴なまでの角を先頭に地面を蹴立てて、凄まじい突進で蚩尤の胴体に対してぶちかましをかました!

 

 「家rフbガエピr@ザyj@チ!」

 

 と聞き取りづらい雄叫びを上げて、辛うじてそのぶちかましに耐えた蚩尤の顔面に、アラン様の流星の様な軌道の蹴りが炸裂した!

 

 その瞬間、空間の穴のつっかえ棒をしていた、蚩尤の腕と足は見事に剥がれて、空間の穴に落ちていった。

 同じく落ちていく妖怪達は、その顔に満足そうな笑みを浮かべて、崑崙皇国特有の礼儀である、左手で包む様に右手の拳を包み頭を下げて空間の穴に落ちていった。

 我等帝国軍は、右腕を胸の前で掲げる礼を返し、崑崙皇国軍の方々は妖怪達と同じ礼を返していた。

 そんな中、アラン様だけはその空間の穴から見える風景の一部を凝視している。

 その異様な様子に、幾人かが気づきその方向に目を向けた。

 

 どうやら、其処には幾筋もの光り輝く航跡を刻む何かが集結している様だ、だがだとするとその数は凄まじいと云って良い数だ、何故ならその光り輝く物だけで、その背景の一部が星の様に白くなっているのだ。

 概算だが、その数の単位は少なく見積もって億、或いは兆となるだろう。

 そのあまりの数に呆然としていると、

 

 「・・・バグズの方面艦隊・・・!」

 

 と以前にも聴いたことの有る「バグズ」という不吉な言葉を聞き、思わずアラン様に目を向けると、信じ難い事にあのアラン様が、無限の憎悪に顔を歪ませて、唇をかんでいる。

 

 暫くすると、空間の穴も維持出来なくなったのか、消えて行ったが、その消える瞬間までアラン様はその一点を見続けていた。

 自分は、久々にある種の予感に囚われた。

 其れは、今後の帝国の本当の敵と、真の意味で邂逅したのだと云う予感である。

 



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4月の日記⑭(人類銀河帝国 コリント朝2年)《蚩尤との戦い後始末》

 4月27日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 昨日、今回の事態の元凶たる『蚩尤』を、何とか妖怪達の自己犠牲のお陰で、空間の穴(次元の穴)に叩き落とす事が出来た。

 その後、蚩尤が復活した塚の有った地下を確認すると、封印解除に使用した紫禁城からの『神機』が封入された岩を回収し、自分の乗る巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』に積み込む。

 他の痕跡や物品を探索したが、此れ以外の物は一切無かったので、周りに有る砂岩で出来た山脈を帝国艦隊の砲撃によってクレーターの穴埋めに使い、周囲一帯を更地に変えた。

 

 4月30日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 長安に帰還し、諸々の状況の整理と今後の方針を決める大会議を行う。

 長安自体は、周辺の村落はかなりの被害があったが、洛陽やその周辺程の被害は無かった。

 だが、住民を『南京』に移住させて行っていたので、かなり寂しくなった様で街の喧騒は無くなっていた。

 なので今後発展するであろう、『南京』に則天武后と妲己殿にも居を移して貰い、政治・経済の崑崙皇国に於ける制度の見直しとインフラ整備の見直しを図る事になった。

 更に、今更の様ではあるが今後の帝国との外交を考える事に話しが行った。

 しかし、こんなに元の崑崙皇国から政治体制を変えようと云うのだ、いっその事古臭い政治から脱却する為にも、新機軸の政治体制である帝国のシステムを取り入れる提案を、アラン様と帝国上層部が持ち掛け、移行期間を設けて10年程のスパンを考え、徐々に平民達に浸透させる事にして、崑崙皇国の上層部は帝国の役職を兼任させて慣れて貰う事になった。

 つまり、称号等は従来の崑崙皇国のものを踏襲するが、新たに帝国での華族の称号も与えられ、事実上は将来の帝国への統合を目指す事となったのだ。

 

 そういった細々とした政治の話しは、双方の高級官僚達が落とし所を構築する事になり、我等軍人達は、『蚩尤』との戦役の確認をする事になった。

 

 妲己殿とその配下が、洛陽の紫禁城に出向き諸々の痕跡等を精査した所によると、どうやらかなり以前の皇帝の代から、密かに宦官を中心に『蚩尤』による洗脳と乗っ取りが始まっていたらしい。

 らしいと云うのは、6ヶ月位前までは人間であった為か、書類等の痕跡は拾えるのだが、それ以降は一切の記録が無くなり、この頃からは洛陽にいた皇帝であった『李淵』初め大臣とその家族や、宦官達はどうもあの牛頭の魔物と入れ替わっていたようなのだ。

 何故ならこの時から、食事の内容が激変したものになっていたのが、食料の納入業者の出納帳から判ったからだ。

 何とも悍ましい話しだが、今回の戦役で『蚩尤』のくびきから崑崙皇国が永遠に解き放たれたのは、結果的に良かったのかも知れない。

 このまま知らず知らずの内に、全ての崑崙皇国の上層部が『蚩尤』の眷属たる、牛頭の魔物と入れ替わられていたら、どれ程の人民への被害が起こっていたか想像も出来なかったからだ。

 

 然も則天武后と妲己殿が、洛陽の様子がおかしい事に気づき、李世民殿達と重要な『宝貝』を長安に持ち出した事で、最悪になる前に対抗出来る素地が出来て居てくれていたのは、大変有り難かった。

 如何に、アラン様と帝国の精鋭がいち早く駆けつけていたとは言え、反抗への素地が無ければどうしようもなかったのだから。

 

 結局、総括としては今回の戦役は、『蚩尤』による崑崙皇国への侵略であり、その過程で皇帝家も皇帝と第一皇子始め、多数の皇族と貴族達が殺されてしまったが、第二皇子の李世民殿は生き残って居られるし、有力武将の人々はその大多数が無事に健在である。

 そして多少の被害はあるが、兵士達も軍団単位で無事だから、特に困らない。

 

 以上を以って首都と国体は変わる事になるが、帝国の支援を元に崑崙皇国はやり直す事が決まった。

 

 そして暫くの準備を長安と洛陽で行い、新たな首都となる『南京』に向け出発する事になった。

 




 未公開設定集③

 惑星アレスの衛星群(月含む)の正体

 そもそもの『航宙軍士官、冒険者になる』の始まりとなる、アランの乗っていた戦艦[イーリス・コンラート]が超空間航行中に受けた攻撃と云うのは、この月に施されていた防衛システムからのものです。
 この防衛システムは、調整者達が用意していたもので、異次元からの侵略者である『バグス』が無理矢理この宙域に侵攻してきた場合の次元震を感知し、それを自動攻撃する様になっています。
 もし、[イーリス・コンラート]が超空間航行では無く、通常空間での侵入であったならば、この攻撃に晒される事は有りませんでした。
 実はこの攻撃は、[イーリス・コンラート]侵入以外にも過去から行われていて、主な処で例の『ラスプーチン』が生まれる契機となった金属柱も同様に攻撃され、『バグス』達は全滅したが船体の一部は惑星アレスに不時着しました。
 そしてアラム聖国にも、サイヤン帝国の船体の一部が不時着しています。
 それ以外にも、月とその周辺の衛星群には、様々な調整者の遺産が眠っていて、遠くない未来でのアラン達との接触を待っています。


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5月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝2年)《神機『応龍』の真の乗り手》

 5月4日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 漸く『南京』に着いて、郊外の駐屯地に帝国艦隊は駐留する事になり、上層部の方々は『南京』の四方のドームに分散して寝泊まりし始めた。

 『魯粛』殿と『諸葛瑾』殿が中心となり、一旦更地にして超巨大ドームを構築している新『南京』は、基礎工事を大量のボットが行ってくれているので、区画整理の終わった区画から、帝国の技術者の指導を受けた崑崙皇国の人民がドンドン重機を操作して、様々な建築物を建築している。

 やはり、帝国の技術者の指導を受けているとはいえ、外観・内装共にどうしても崑崙皇国風味になるのが、人の意識とは如何に同じ『ナノム玉』を服用していても変わらないなと、妙な所に感心してしまった。

 

 5月5日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 此の日も龍脈門(レイライン・ゲート)を通じて凄まじい数の人員が、帝都コリントと行ったり来たりしている。

 そんな人々に混ざる様に、自分の妻子であるミーシャとケント、更には母と妹がやって来た。

 そして予め来ていた賢聖モーガン殿とケット・シー128世、そして妹が連れてきたカー君とバンちゃんが合流して、アラン様と崑崙皇国の重鎮達との集合場所に向かった。

 そして全員が集まると、新築間もない綺麗な廟に向かった。

 其処には、例の『蚩尤』の復活の封印解除に使用された、神機『応龍』が封じられた岩が厳かに置かれている。

 賢聖モーガン殿が、ケット・シー128世と頷き合い、

 

 「さあ、ミーシャさん。

 息子であるケント君を連れて、この台座まで来てくれるかしら?」

 

 と発言し、その言葉に促されてミーシャがケントを抱いたまま、神機『応龍』が封じられた岩の前にある台座に進んで行った。

 暫くして、息子のケントの産着の懐から、青い光りが輝き出す。

 そして其れに呼応する様に、神機『応龍』が封じられた岩が、脈動する様に青い光りを放ち始めた。

 

 「・・・やはり当たりね、『星の涙(スター・ティア)』が反応したわ。

 ケリー殿、ミーシャさん。

 貴方方の息子さんのケント君の、専用乗機にして神機NO,2『応龍』が確定したわ。 

 この瞬間を私達惑星アレスに於ける調整者派遣の生体監視端末は、どれ程待ち望んだ事か!

 

 我『星人』個体名『モーガンNO.11』

 

 『星猫(スター。キャット)』個体名『ケットシーNO.128』

 

 『レッド・カーバンクル』個体名『フレイムNO.111』

 

 『ブルー・カーバンクル』個体名『アイスNO.123』

 

 以上の者達の完全承認を以って神機NO,2『応龍』の真の乗り手《ケント・マグワイア 》を認証する!」

 

 と厳かに賢聖モーガン殿は歌われる様に、言葉を紡がれた。

 

 重要な事態が判っているとはとても思えないが、我が子ケントは相棒の星猫ベータを纏わりつかせながら、神機『応龍』が封じられた岩に向けて、まだ短いその手を伸ばした。

 

 すると、ケントの懐に有る『星の涙(スター・ティア)』が青い光りを収束させて、一直線に神機『応龍』が封じられた岩の表面に有るレリーフに放った!

 

 「バガンッ!」

 

 と云う音と共に岩が割れて、厳かな青い光りが漏れ出した!

 そして神機『応龍』はその優美な姿を露わにした。

 その姿は正に美しき龍!

 青い鱗を全身に纏い、両の前足に龍玉を掴み、その太い足はシッカリと置かれた台座を踏みしめていて、背には立派な翼を生やしている。

 だが、その全体は透明なクリスタルの様な物が覆っていて、人の手に触れさせる事を、明確に拒んでいた。

 

 「・・・やはり、ケント君が乗れる様に成るまで、完全には開封されないのね。

 まあ、他の4体もこの様な状態でしか出会えないとは、想像出来てるけどね・・・。

 それでも、始めての神機が問題無く封印から出てくれたわ、今後も同様になると良いわね!」

 

 とにこやかに賢聖モーガン殿は言われた。

 

 其れに対して、妲己殿は、

 

 「いや、本当に良かった!

 悠久の彼方から、神機『応龍』を崑崙皇国は神々から預かっていたが、本日とうとうその封印が解かれる佳き日に立ち会えたのは、本当に僥倖と思う。

 ただ残念な事に、肝心の乗り手が崑崙皇国出身者では無かった事だが、しかしそれも愚痴と云うべきだな」

 

 と些か残念そうに言われたが、其れに対して賢聖モーガン殿は首を振られた。

 

 「そんな事は無いのよ!

 妲己殿、偶々神機『応龍』の乗り手は、帝国出身者であるケント君だったけど。

 神機の数は10機で、今現在乗り手が判っているのは5機まで。

 つまり、残り5機の乗り手として、将来崑崙皇国の出身者が選ばれるかも知れないわ。

 私の把握している伝承では、ここ崑崙皇国の伝承と一致する神機は後2機あるの。

 その名は、神機NO,7『伏犠』そして神機NO,8『女媧』この2機はこの地と縁が深いし、恐らくは今後貴方とご主人の李世民殿の間の子も、充分その資格が有ると想うの。

 期待してるわ!」

 

 と言われたので、李世民殿と妲己殿は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 此の場にいた全員はその様子を見て、皆で和やかに両者の間の子が健やかに生まれる事を願った。

 



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5月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝2年)《帝都コリントへの帰還と第二回『世界武道大会』への準備》

 5月10日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 超巨大ドーム『南京』が出来上がり、いよいよ周辺都市への魔導列車等のインフラ整備に重点を置く形で、新しい仕事場用の工場都市や工房都市が、この超巨大ドーム『南京』の周りに建築し始めている。

 かなりの人数がこの都市群と、周辺の都市に集まってくる。

 しかし、この崑崙皇国の人民の数は凄まじいな、もう既にこの地域周辺の人口だけで1億人も居たのだが、仕事を求めてと、新たな首都になると聞いて更に1億人もの人民が、流入してきた。

 なので、帝国からの新しいシステムである会社や公社等の組織、新たなるポイントと云うギニーに代わる貨幣システムの教育を始めている。

 西方教会圏で培われていた様々なギルドと良く似た、行、作、幇(ばん)という組織が有り、その組織の首脳陣と大商人、そして大豪族達に帝国の経済システムを馴致させ、巨大組織の基礎を構築させる事になった。

 その際に、『魯粛』殿と『諸葛瑾』殿は、自分たちの一族や他の有力者の優秀な若者達を推薦し、官僚や武将に育てるべく帝国への留学を打診し、アラン様はそれを快く受け入れた。

 

 5月11日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 大体の今後の帝国との提携の形を構築させたので、超巨大ドーム『南京』の城郭まえの大広場で、3万人の規模となる大宴会が行われた。

 則天武后が主催者となり、これから共に新しい関係を築く帝国との友好を祝して、開催されたのだ。

 いたるところで様々な立場の者が、混じり合い互いのこれからの健勝を祝い合う。

 自分も仲良くなった、崑崙皇国の武将達とその細君に、自分の家族であるミーシャとケント達を紹介する。

 楊大眼殿は、奥様の潘氏殿とその息子達、楊甑生・楊領軍・楊征南を自分に紹介し、是非帝国の士官学校に入学させて欲しいと願われたので、

 

 「勿論ですが、当然厳しい訓練と学習になりますよ」

 

 と答えると、楊大眼殿の息子達、楊甑生・楊領軍・楊征南は、

 

 「「「望むところです!」」」

 

 と元気よく返事したので、楊大眼殿と共に笑い合って場が和んだ。

 

 そんな中、アラン様が壇上に登られてある話題を提供された。

 

 「皆、宴もたけなわで楽しまれている処に、帝国として或るイベントの報告をさせて貰う!

 昨年の6月に第一回『世界武道大会』と云うイベントをザイリンクという都市で、開催して大いに日頃から武術を研鑽していた者達の発表の場として、盛り上がったイベントとなったので、今年も6月に第二回『世界武道大会』を同じザイリンクという都市で、開催する運びになった。

 崑崙皇国の腕に自信のある者達には、是非参加して貰いたい!

 この『世界武道大会』への参加者には、交通費支給、滞在費支給と云う帝国としての優遇措置を図らうので、遠慮なく応募して貰いたい。

 因みに昨年の第一回『世界武道大会』の様子を見せよう!」

 

 と表明されると、超巨大立体プロジェクターが空中に、昨年の第一回『世界武道大会』の試合風景を動画再生し始めた。

 其れは、予選大会でのやり取りに始まり、決勝戦での剣王VS剣王、拳王VS元拳王の達人同士の高度な武術の戦いの記録であった。

 流石にその後で行われた、裏の武道大会とも言うべき、アラン様の憂さ晴らし大会こそ流され無かったが、多角的な方向から映されたその動画は、武人と呼ばれる崑崙皇国の武将達の関心を惹きつけた。

 その第一回『世界武道大会』の動画を見終えると、かなりの人数の武将の方々が、名乗りを上げてアラン様へ質問して来た。

 

 1,剣以外の武器での部門は有るのか?

 

  回答)剣とそれ以外と云う分け方はせず、両手持ち武器部門・弓矢等遠距離部門・近距離武器部門・徒手空拳による格闘部門の4つの部門に分ける。

 

 2,拳聖・剣聖がオブザーバーと審判役を行っているが、彼らとの対戦は無いのか?

 

  回答)拳聖・剣聖との対戦は無いが、後に師弟関係を結んでいる物が多いので、その際に個別に挑む事は出来るから、各々で判断せよ。

 

 3,この『世界武道大会』に参加する事で、帝国軍への仕官に役立つのか?

 

  回答)厳密な意味合いでは無いが、現に成績優秀者の上位20名ずつは皇帝親衛隊となっているので、帝国軍でこそ無いが、所謂皇帝直轄の馬廻衆という立場になる、但しアラン様はいざとなれば最も危険な最前線へと立つので、死傷率も高い。

 

 と言った説明が為されたが、武将の方々の興奮具合は、より増した様である。

 然も、より高位の武将方のほうが参加する気満々の様である。

 アラン様も、やや苦笑いをしている様だが、やはりご自身が非常に武人らしい性格の為か、本当の処は嬉しそうな事が付き合いの長い私は、見て取れた。

 

 5月15日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 諸々のイベントや、契約等の手続きも終え、我等帝国軍は帝都コリントへと帰還する事となった。

 だが事実上、龍脈門(レイライン・ゲート)によって殆どタイムラグ無しで行き交えるので、『南京』と帝都コリントは隣同士の都市も同様だ。

 それ故に、大げさな式典などする事も無く、単にちょっと離れた自宅に帰る様に帝国艦隊を龍脈門(レイライン・ゲート)を通して向かうだけで、双方の物流関係の人々など、日に何度も行き交っている。

 だが、何だかんだと云っても、実に数ヶ月間帝都コリントに自分は帰って居ないので、相棒のガイや親友達に会えるのが楽しみである。

 沢山の土産話と、6月の第二回『世界武道大会』にワクワクしながら、龍脈門(レイライン・ゲート)を通って帝都コリントに帰還した。

 



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閑話68「ミーシャの思い出帳」⑩(セリーナ・シャロン両側妃の婚姻式)

 今回からまた閑話に突入です。
 この閑話シリーズを終えると、世界武道大会と若干短い日の本諸島での話しが有ります。
 そしてまた閑話を挟み、第二部最終章のアラム聖国と謎の大陸編に入ります。
 そしてそれも終わると、いよいよ第三部に突入します。
 乞うご期待!


 私の赤ちゃんのケントが産まれて1週間が経ち、漸く育児にも慣れて来て、落ち着いた時にアスガルド城に妻子で呼ばれ、『星の涙(スター・ティア)』と云う綺麗な魔宝石を渡されたわ。

 何でも息子のケントの専用機体との絆である神々の遺物らしいの。

 『アポロニウス皇太子殿下』と、ほぼ同時に産まれて来ただけでも恐れ多いのに同じ物を戴くなんて、とても光栄だわ。

 何れこの『星の涙(スター・ティア)』が、息子ケントを神機と言われる神々が残した専用機体へ導くらしいけど、そうなるとつまりケントは既に、帝国軍人にして『アポロニウス皇太子殿下』の幕下に加わっている事に成るんじゃないかしら?

 私や旦那のケニーは喜ぶべき事だと想うけど、本人は喜ぶかしら?

 そういったケアを私達夫婦と周りの家族は、考えないといけないわね。

 

 同僚にして同じ女子会メンバーの、セリーナ・シャロン両准将とアラン様の婚姻式が12月25日行われたわ。

 内輪での婚姻式なので、あまり大っぴらに告知してはいないけど、女子会メンバーを通じて帝国上層部と帝国軍には、詳細が通達されてるの。

 何故かと言うと、実は当初のクラン・シャイニングスターが発足して暫くすると、クランメンバー内の男性数人がセリーナ・シャロン殿(当時は副リーダー)に交際を迫る事態があり、コリント領(現在の帝都コリント)での軍の正式編成、更には軍団が構成されて行くと、その争奪戦と言うべき事態は規模が洒落にならないレベルに拡大したの。

 あまりにも大騒ぎになったから、ガス抜きの意味もあって公にならない形で、武人としての解決策として勝ち抜き戦の格闘武道大会が行われたわ。

 結果から言うと、結局決勝を勝ち抜いた代表者2人とのセリーナ・シャロン両者が戦い、脆くも代表者2人が敗れてしまったの。

 続けて何故か、アラン様がセリーナ・シャロン両者から挑まれて、セリーナさんを『紅朱雀』シャロンさんを『千鳥』と云う、コリント流格闘術の奥義で黙らせたので、今後セリーナ・シャロン両者に交際を迫る条件として、《アラン様を倒さなければいけない》と云う、神でも不可能な条件が帝国軍内で不文律となったわ。

 そんな経緯もあって、半ばアラン様の側妃という立場は帝国軍内では、公認と云う事になっていたのだが、それが公式となったのが今回の婚姻式なの。

 

 出席者全員が祝辞を述べる中、クレリア様がセリーナ・シャロン両側妃の前に進まれ、腕に抱かれた『アポロニウス皇太子殿下』を差し出されると、セリーナ・シャロン両側妃は微笑まれ二人で受け取り、大事そうに二人で抱えての、すると『アポロニウス皇太子殿下』はまだ短い両手を懸命に伸ばし、お二人の頬を触られたの。

 その仕草に、お二人は感極まったのか瞳を潤ませて『アポロニウス皇太子殿下』の頬に両側から、とても優しいキスをされたの。

 そのキスを受けて、『アポロニウス皇太子殿下』は「キャッ、キャッ、」と喜ばれたわ。

 その仲睦まじい様子に、正妃と側妃の蟠りは無いようで、帝国の上層部の方々がホッとため息をついたのが、傍目にも判ったわ。

 過去、どれほどの王朝が正妃と愛妾の対立によって滅びたかは、歴史の教科書にいくらでも載っているのだから。

 

 12月31日、アスガルド城の皇子宮に出向き、明日の人類銀河帝国生誕1周年記念セレモニーのリハーサルを終えて、寛がれておられるアラン様とクレリア様、そして他の赤ん坊と一緒に戯れているアポロニウス皇太子殿下に、挨拶の礼を述べて息子のケントをアポロニウス皇太子殿下と他の赤ん坊の輪に連れて行ったわ。

 このアポロニウス皇太子殿下と他の赤ん坊達は、息子のケントを含め、普段の家の中ではそれ程手の掛からない良い子なのだけど、この様に5人が一堂に会すると突然活発になり、何時も大騒ぎなの。

 

 まだ生後2ヶ月足らずなのに、盛んに意思表示を示し、部屋にある玩具の取り合いや、それぞれの相棒で有る星猫の尻尾を掴んで振り回したり、強烈な泣き声を張り上げたりと忙しなくなるわ。

 

 かと言って、5人の1人でも引き離そうとすると、赤ん坊全員が火を吹くようなギャン泣きをしてしまう為に、何時も5人全員が寝付くまで離す事が出来ないの。

 

 だから、アポロニウス皇太子殿下付きの専門職員(例のおばさん3人含む)は、元気過ぎる程の赤ちゃんズを目一杯遊ばせて体力を限界まで使わせて、一刻も早い就寝を目指す事を至上命題にしている様ね。

 

 デザートのザッハトルテを戴きながら、来年崑崙皇国に向けてアラン様自身を中心としたトップ同士の外交を考えた使節団を派遣する事を説明されたの。

 

 この場にいる赤ちゃん達の父親に随行して欲しいとの打診に、夫のケニーとその親友のハリーが応じ、オウカさんの旦那のミツルギ殿と、ターニャさんの旦那のシュバルツ殿は、代わりの人材として、拳王のダルマ殿と剣王のカイエン殿を推挙されたわ。

 何でも、この両者は強い事は強いのだけど、強者との対戦機会が少なくて、来年の第二回『世界武道大会』までに経験を積ませないと、師匠の拳聖と剣聖に恥をかかせかねないと云う事らしいわ。

 と尤もらしい事を申告してるけど、オウカさんとターニャさんから真実を聞かされているのよね私は!

 何とこの二人、両方とも娘が産まれたのだけど可愛すぎたらしく、外見に似合わず子煩悩で暫くの間離れなければならないなど、到底我慢出来ないそうよ。

 正直こんなに親バカで、師範や親衛隊隊長が務まるのか、凄く疑問だわ。

 



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閑話69「ミーシャの思い出帳」⑪(人類銀河帝国生誕1周年記念セレモニーとグローリア殿とアトラス殿の結婚式)

 人類銀河帝国生誕1周年記念セレモニーが始まって、アポロニウス皇太子殿下を始めとしたアラン様達皇帝一家が壇上に現れると、一斉に帝国の軍人・官僚・大臣等がその姿に拝跪したの。

 その直ぐ後に華族の方々も深々と頭を下げられて、帝国の威風が察せられるわ。

 元王族・貴族である華族の方々が、アポロニウス皇太子殿下始め、息子のケント達に群がる様にやって来て、挨拶を交わすのが大変で、いつの間にかセレモニーが終わっていたので、上手に対応出来ていたのか不安だったけど、宮内庁長官のロベルト長官から、「赤ん坊のいる参加者は形式ばった儀礼は気にしなくて良いよ!」と言われ、そんなものかと納得したの。

 それでも、昨年と比べても、元王族・貴族である華族の方々の多さに驚くわね。

 海洋大国デグリート王国・ザイリンク帝国とその従属国・イリリカ王国そして魔法大国マージナルの王族や貴族も来賓として参加されてるから、事実上昨年の倍の人数が居られるわ。

 セレモニー会場のアスガルド城が有る巨大ドームでさえ、将来を見据えると手狭になりそうだから、周辺のドームをカーゴシップで動かし、新たな巨大ドームを3つ華族用に作ってるらしいわ。

 まあ、何れはこのセリース大陸どころか、惑星アレスそのものの首都と成るのだから、当然とも云える事態だと思うわ。

 それにしても両祖父母様達が主催する『シルバー華族のサロン会』のメンバーと一緒に記念撮影や、年配の華族が率先して息子のケントを抱き上げて喜んでいるのは凄いわね。

 結局その流れでとうとうアラン様とクレリア様、更にアポロニウス皇太子殿下が合流したので、改めて全員集合の記念撮影と個別の記念撮影を行って、式は無事成功裏に終わったわ。

 

 1月5日、此の日にグローリア殿とアトラス殿の結婚式が行われたわ。

 帝国軍の上層部と空軍総出で空軍ドーム内で行ったの。

 ルミナス教の正式婚姻である為、ゲルトナー枢機卿に来て貰い、幾つかの誓約を誓わせて正式な夫婦となったわ。

 アラン様とクレリア様更にアポロニウス皇太子殿下も参列しているから、完全な帝国の国事行為なので、素晴らしい式になっていて、グローリア殿とアトラス殿以外のドラゴン達と、ワイバーン達もその厳かな式典に気圧されたのか、非常に礼儀正しかったの。

 まあ、この結婚式にはモニター越しとは言え、魔法大国マージナルに居られる『守護竜アルゴス』殿も出席しているので、竜族にとっては神と呼べるお方なので、緊張するのも判るわ。

 

 「・・・遠い昔、お前(アトラス殿の事)を卵の時に保護して以来、たった2頭の家族として長く生きて来たが、漸く新しい家族が増え、仲間も数多くなり再び竜族と人との仲が修復されようとしている。

 グローリアさん、末ながら孫の事をお願いする。

 そして、アラン殿!

 今後も孫達の事をお頼み申す!」

 

 と『守護竜アルゴス』殿は、その大きな頭を深々と下げられ、アラン様とクレリア様始め帝国の上層部もしっかりとした礼儀を『守護竜アルゴス』殿に返しました。

 その後『守護竜アルゴス』殿は、アポロニウス皇太子殿下と私の息子ケントに視線を移し、

 

 「・・・とうとう星の子達がお産まれになったのだな。

 この子達こそが、真の意味でのこの惑星アレスを次の段階である、星の海に漕ぎ出す世代となるのだな。

 きっとこの星の子達が、我にとっての曾孫達や竜族を、本来の役割である星竜の役目、『ドラグノイド(龍機士)』となって、『古きものども』と戦う事になるのだな・・・」

 

 と最後の方は消え入る様に呟かれたわ。

 

 結婚式も無事終わりドラゴン達が帰還すると、アラン様とクレリア様から旦那と私は内示とする前の打ち合わせを提案された。

 もう少しすると、崑崙皇国への外交使節団をアラン様自らが率いて向かう事が決まっているけど、そのお供として旦那を連れて行く事に決まっていて、その留守の間の空軍部隊の統括と、ドラゴン・ワイバーン達を予定通り進化させる事を進めて欲しいと命令されたわ。

 流石にドラゴン・ワイバーン達の進化の事は、賢聖モーガン殿と一緒に取り組む為に応援人員が欲しいと要請すると、もう少しすると卒業する事になる士官学校生の俊英達を、手配してくれる事になったわ。

 何でも、アラン様とセリーナ・シャロン両准将が監修した教育と訓練をミッチリと3年間受けた、帝国のこれからを担う人材らしいわ。

 然も、帝国軍でも将官クラスしか服用していない『ナノム玉2』を全員が服用しているそうね。

 つまり、私達の様なスターヴェーク王国や他の国家の軍人をそのままスライドして、軍人として活用していたのと違い、純粋な意味での帝国軍人だそうで最初から少尉と云う、それなりの役職から始めるのだって。

 きっと頭でっかちの連中だろうから、現場の厳しさを思い知らせてこき使わせて貰うわ。

 その時が今から楽しみね!

 



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閑話70「ミーシャの思い出帳」⑫(ドラゴンの進化と帝国軍人志願兵)

 いよいよドラゴン達の進化プロセスに入る。

 ガイやサバンナ達15頭は、先年のグローリア殿が入ったコクーンに入り、エルダードラゴンへの進化プロセスをこなし、事実上最後の進化となるわ。

 その他のワイバーン達は、先年ガイやサバンナ達が受けた進化プロセスをするコクーンに入り、120頭全員がドラゴンとなるの。

 ただあまりの頭数なので3ヶ月位の日数が掛かる事になるわ。

 その間、アトラス殿とグローリア殿も、先日産んだ卵の温めと竜族の魔力を浴びせ続ける行動を、夫婦で交代交代でこなしてるわ。

 そんなアトラス殿とグローリア殿に興味本位で、産まれてくるドラゴンの名はどうするの?と聞いてみたら、

 

 「・・・実は、名前は決まっていて、『ミネルヴァ』と言います。

 『守護竜アルゴス』お祖父様が名付けてくれました。

 男女どちらでもこの名で行くつもりです!」

 

 とグローリア殿が答えてくれたわ。

 中々良い名前ね、皆もきっと喜んでくれるわよ。

 と感想を言うと、

 

 「でしょう!

 私も語感が良くて喜んでたら、旦那(アトラス殿)も『守護竜アルゴス』お祖父様に感謝してましたよ!」

 

 と、本当に嬉しそう。

 

 夫婦仲も良いようで、産まれてくる『ミネルヴァ』ちゃんも幸せね。

 

 毎日日課の様に、旦那がモニター越しに報告して来て、息子のケントの様子や家族、そしてアポロニウス皇太子殿下の様子を聞いてくるの。

 私としては、今まで交流の殆ど無い崑崙皇国で難儀していないかと云う、不安の方が大きいのだけど、色々と此方の西方教会圏との違いも物珍しくて、面白いみたいね。

 しかし、実際の処着いて早々に妖怪(こちらの魔物みたいなものかしら?)軍と戦ったとか、スラブ連邦との戦いで出会った、巨大魔獣と同等の奴等までいると、平然と言っている姿を見てると、旦那含むこの人達は危険に対して鈍感過ぎる様な気がするわ。

 空軍の留守を預かる責任者として、時折息子を義母に預けて帝国の軍事会議に参加して、軍務大臣のダルシム中将や帝都守備軍を率いるヘルマン少将と相談していると、新規に志願して来る帝国民や同盟国の帝国兵志望の平民は、現在の帝国軍人の無謀とも呼べる訓練内容(普通に魔法が飛び交い、グレイハウンドやオークを仮想敵として、単独で戦う)に、驚愕しているそうなの。

 よくよく考えてみると、従来の各国の兵士は基本人間を相手とした訓練しかしないし、それも精々軍隊行動もほぼ同数を念頭に置いた行動しか想定してないから、それ以上の敵が現れては前提条件が違い過ぎてパニックになるのが落ちね。

 だけど帝国軍の想定は、そもそも普通の敵など考えては居ないわ。

 相手は神話に登場する化け物だったり、たとえ同じ人間が敵でも普通に10倍以上の人数の場合がザラなんだから。

 やはり帝国軍に志願する以上、今までの国家の軍とは違うのだと周知する必要があるわね。

 そんな事を軍事会議で話し合い、話題としてアスガルド城の皇子宮でクレリア様との定期お茶会で上げたら、放送局のスタッフでも重鎮の旦那の親友ハリー殿の奥さんのハーマイオニーさんが、帝国軍のPR動画の内容をもっと実情に合わせた物にしようと提案してくれて、早速流しても問題無いと思われる取材と訓練内容を撮影する事になったわ。

 今までもある程度の情報は、帝国のニュースや報道番組で取り上げて貰ってたと思うけど、一兵士の一日やインタビューなどは、無かったと思うから、良い取り組みになるかもね!

 

 そんな事が有ってから1ヶ月程経つと、信じられない事により帝国軍人に志願する平民が増えて来たわ。

 結構キツい職業で有り、場合によっては死ぬ事も有り得る点を強調するPR動画だと云うのに、増えるってどういう事かしら?

 試しに空軍に配属された新兵に聞いてみたら、幾つかの内容で納得したわ。

 

 1,帝国軍人になれば『ナノム玉』を服用出来、ヒール等の魔法を直ぐに覚えられる。

 

 2,他国と違い様々な保証体制が整っていて、病院や各保養施設も使用出来る。

 

 3,ルミナス教の完全な後見が有り、実際にルミナス神と使徒のイザーク様が帝国軍を支援してくれる。

 

 こういった事を興奮気味に説明されたわ。

 何だか、覚悟を持っていない平民が軍人を目指さないように意図したのに、更に熱意を持った若者が押し寄せて来た訳。

 結局、良かったんだか悪かったんだか判らない結果ね。

 その事を、クレリア様に息子のケントとアポロニウス皇太子殿下がアスガルド城の、皇子宮でじゃれ合っている時に言うと、やや複雑そうな顔をして考え込んでしまったわ。

 詳しく聞くと、何でも華族の方々のご子息やご息女が、士官学校と官僚養成学校に進学して、帝国軍人と高級官僚になりたがっているそうなの。

 うーん、一昔前の貴族の子供は、働くなんて有り得ないのが常識だったのに、帝国では逆の価値観が当たり前になってきたみたいね。

 



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閑話71「ミーシャの思い出帳」⑬(崑崙皇国への見学ツアー)

 崑崙皇国の『南京』と云う大都市と、龍脈門(レイライン・ゲート)と云う新技術と従来のアーティファクトの融合した、大規模転送ゲートが出来たそうなの。

 最近、帝国でも素晴らしく優秀な人々を輩出している『学校』でも高等教育を教える、『高等部』に進学した義妹のカレンちゃんは、その大まかな概念と利便性が判っているらしくて、時折『高等部』の上の『大学』での賢聖モーガン殿のゼミにも参加し、賢聖モーガン殿の内弟子の様な扱いなんだって。

 そのお手伝いなのか、息子のケントとアポロニウス皇太子殿下の成長記録と、『星の涙(スター・ティア)』の反応具合をレポートを取って観察してるわ。

 余っ程、この同時に産まれた5人の赤ちゃんは、賢聖モーガン殿にとって重要なようね。

 私にとっては、只々可愛い愛し子なだけなんだけど。

 

 そうこうしている内に、カレンちゃんとその親友でもある同期生達が、崑崙皇国側からの打診で、見学ツアーと云う形で来られないか?と誘われたらしいわ。

 実はこの話し、クレリア様の例のお茶会で、私には内示が有って、親衛隊の女性隊員幾人かが同行するのが決まっているの。

 ドンドンと帝国の誇るインフラ整備部隊と、各公社や会社が物流支援の為に龍脈門(レイライン・ゲート)を通じて、崑崙皇国側に向かって行く。

 それに対して、こちらの帝国にやって来る人々が居る。

 何でもあちらの元々は大豪族だったらしいんだけど、現皇帝に睨まれて追い落とされた、旧名族達ごと帝国に亡命して一旗揚げようとしてるらしいわ。

 何でも、元は現在の李朝皇族の前王朝である、『劉家』とその藩屏たる『関家』、『張家』そして『馬家』、『趙家』の人々、更に地元の名家にして今回の超巨大ドーム『南京』の旗振り役にして双璧の『魯粛』殿と『諸葛瑾』殿からも、『周家』、『孫家』、『諸葛家』が親族を率いてやって来たの。

 人数だけで千人に達したので、クレリア様が断を下して、華族専用のドームの中の一角を用意してあげたわ。

 その特別待遇と、西方教会圏にとって珍しい文化と歴史を持っているだけに、今では帝都コリントに大崑崙皇国ブームが起こっているの。

 毎日凄い量の物流が行われていて、先程の亡命以外にも、職や商売の為の交流が盛んに行われてるわ。

 実際、サイラス、タラスの2大商会は、凄い人数の崑崙皇国出身の人を雇用してるし、あちらの豪商とドンドン提携してるらしいわ。

 

 そしてとうとう、カレンちゃんとその親友でもある同期生達が、見学ツアーと云う形で、崑崙皇国に向かったの。

 まあ、それぞれのご家族の内、少なくてもお一人が随伴してるみたいだから、事実上家族旅行に近いわね。

 そんな一団でも目立ってるのが、私達の家族にして『シルバー友の会』代表で有り、帝都コリントに於ける老華族でも一際目立つ、義祖父祖母の4人組で有る!

 何故このパワフル極まりない4人組が、この一団に紛れ込んで居るかというと、ある理由があるの。

 この4人組は、サイラス、タラスの2大商会とも強力な繋がりが有り、何時の間にか魔導列車と旅客用のトレーラーで旅するツーリストの企画運営会社を起ち上げていて、今回は新たな巨大ツーリストのイベントや名所旧跡を開拓する為に、本人達自ら崑崙皇国を現地の有力者から案内させるつもりなの。

 しかし、この人達どんなバイタリティーの持ち主なのかしら。

 とっくに引退して然るべき年齢なのに、むしろこれからが働き時と言わんばかりに、帝国の有力華族からも出資して貰い、先程書いたツーリストの企画運営会社を起ち上げて、放送局にも特番の旅行番組を放映させたり、出版物の発行等をしているわ。

 そのお陰で出資金は既に返済し、それどころか従業員も雇っていて、今回の崑崙皇国旅行にも30人からの随行員も伴っているわ。

 でもそんな人達だからこそ、全然けちくさく無くて、崑崙皇国に着いて早々に各種の珍しい産物等を、実況で放送局を通して、帝国全土にライブで買ったり食べたりしてるシーンを流すから、モニター越しの帝国民にとっては大人気らしいの。

 そんな反響が有っている事も、仲良しのママ友、ハーマイオニーさんから笑いながら聞かされて、何だか恥ずかしくなっちゃったわ。

 

 でも、呑気な話しよね、アラン様と旦那達は今頃、『蚩尤』とか云う凄い敵と雌雄を決するべく、遠い『敦煌』で戦ってると言うのに、もう勝負が着いて勝利後の計画や行動が決まってるんだから、『蚩尤』とか云う敵が可哀想な気がするわね。

 と云っても、崑崙皇国以外の帝国とその同胞たる西方教会圏の人々にとっては、帝国軍が勝つのは当たり前で、其処に疑問を呈する人間が殆ど居ないのも、当然みたいになっている。

 然も、帝国の上層部の人間程、その傾向が強いので、どうしようも無いわね。

 



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閑話72『カレンちゃん日記」㉙(カレンちゃん、オバサンになる事にショックを受ける)

 3月25日(コリント朝元年)

 

 先日以前勤めていた病院の看護師仲間から、極秘情報が上がって来たんだよ!

 兄ちゃんの奥さんになったミーシャさんの健康診断で、どうやら妊娠した事が判ったんだって!

 

 やったー、早くも兄ちゃんの子供が出来たんだって、良かったねえ。

 

 あれ?よく考えてみると、私の立場って新しく産まれてくる赤ちゃんにしてみれば、オバサンにならない?!

 

 うわあ~、ショック!

 

 私まだ10代なのに、オバサンなの?!

 

 その事を友達に言ったら、意外と同じ立場の子がいて、「当たり前だよ!」と言われちゃった。

 

 それもそうか、と納得して母ちゃんと相談して、義姉のミーシャさんのサポートをどうするか?考えたんだ。

 幸い母ちゃんも今は、仕事も忙しく無いから、全面的にフォロー出来るって、タイミングにも恵まれてるね。

 

 4月15日(コリント朝元年)

 

 何だか凄い事になってるよ。

 義姉のミーシャさんの妊娠発覚に始まり、クレリア様の懐妊発表!

 他の親しい義姉のミーシャさんの同僚達の妊娠発覚!

 そして、神様の計らいなのか、出産予定日まで全員一緒なんだって!

 驚きすぎて、帝国中がテンヤワンヤの大騒ぎで、同盟国や関係各国からの祝報や、華族の方々の来訪が多くて、クレリア様は大忙しなの。

 こんな時に、肝心の夫であるアラン様は、西方各国への歴訪中なんだって!

 帝国にとって、とっても大事な事なのは判るけどさあ、何もこんなタイミングは無いんじゃないかなあ。

 思わず、クレリア様に注進しちゃったら、

 

 「カレン、貴方が私を思って言ってくれてるのは判るが、心配は無いのよ。

 アランは、毎日夜のプライベートタイムにはモニター越しに話せてるし、色々と気遣って、同盟国や関係各国からの祝報への返報や、華族の方々への対処は宮内庁との連携で、面子を潰さない対応をしてるわ」

 

 と笑いながら聞かせてくれたの。

 前から思ってたけど、これってクレリア様の惚気なんじゃないかな?

 だとしても折角クレリア様が、喜びながらアラン様との話しをされるのは、帝国人の自分としても嬉しいから、水を差すのは野暮だよね~。

 

 4月25日(コリント朝元年)

 

 カー君とバンちゃんのお陰で、『ルンテンブルク館』群の一角の邸宅に入居する事になったんだよ。

 どうしたらそうなったかというと、ケッちゃんからの申し出から始まったの。

 何でもケッちゃんは、もう少ししたら、『モーガン』さんの飛行船に乗って『魔法大国マージナル』に向かうんだって。

 『魔法大国マージナル』には、守護竜『アルゴス』さんて云うドラゴンさんが居て、そのお孫さんの『アトラス』さんていうドラゴンさんと、私達のドラゴンのグローリア様と今度お見合いをするんだって。

 他にも所要が有るから大体2ヶ月位邸宅を留守にする事になって、是非カー君とバンちゃんにこの際邸宅を譲りたいと、お願いして来たの。

 するとカー君とバンちゃんが、私を見て「クゥーッ」と鳴いたから『ケッちゃん』に訳して貰ったら、「カレン殿とそのご家族と同居出来るなら良い」と教えてくれたんだよ。

 ケッちゃんに良いの?と聞いたら、何でもケッちゃんの奥さんであるマドンナさんは生まれた子猫達と一緒にお里帰り(『ルンテンブルク館』のファーン侯爵邸宅)していて、そこが気に入っているから動こうとしないので、実際の処『ケッちゃん』自身もそこで寝泊まりしてるから、正直使用した事の無い邸宅だったんだって。

 だから気にしないで貰って欲しいと言われたんだけど、名義変更とかでややこしくなるから、一応邸宅は一旦売りに出されて購入したという形で譲って貰ったんだよ。

 

 でもどう考えても、これってカー君とバンちゃんが家主で、私達ってただの居候になるんじゃないかな?

 そんな気分を察したのか、カー君とバンちゃんは私の両肩に乗って、両頬を鼻先でこすって来てくれたの。

 私も付き合いが長いから、カー君とバンちゃんが気にしなくていいよ!

 と伝えてくれたのが、判ったから、

 

 「ありがとうね、カー君とバンちゃん!」

 

 と感謝して、キスを返したら、「クゥーッ」と嬉しそうに返事してくれたよ。

 気持ちが通じてるって、嬉しいね。

 

 5月10日(コリント朝元年)

 

 日頃の努力のお陰なのか、学校での中等部のカリキュラムが全て終わってしまって、最近は同期でもカリキュラムが終了していない人の手助けをしてるんだよ。

 学業の方は、『ナノム玉』と睡眠学習で、かなり早い段階で同じ程度に習得出来るんだけど、魔法関係と身体の動かし方や集中するやり方は、その要領を経験者が教えないと、無理みたい。

 まあ、そうだよね。

 医療魔法のヒールだけでも、骨を折る怪我と打ち身、他にも回復と毒気を抜く等のヒールの掛け方はまるで違うし、イメージは結局自分なりの映像を脳裏に浮かべなければ成功しないから、例を出して自分にとってより良い映像を構築しないと本当の意味で成功しないからね。

 だから、私は自分のかなりの回数掛けてきたヒールに関しては、本職並だと自負してるんだよ、偉いでしょうエッヘン!

 お陰でアスガルド城の宮廷医師や看護師の方達から、時々ヘルプの要請が来たら、即座に対応して上げてるんだよ偉いでしょう!

 



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閑話73『カレンちゃん日記」㉚(カレンちゃん、海中神殿での式典に感動する)

 5月15日(コリント朝元年)

 

 私達の中等部の学生も1万人を越えたので、帝国は生活ブロック1・2の巨大ドームの隣に『学校』ドームが建設する事になったんだって。

 何でもアラン様が今歴訪している西方教会圏の各国からも、帝国の学校に留学を望む貴族や有力者のご子息とご息女が膨大な人数になるらしいの。

 その概算の人数だけでも、軽く万の数になるから、小学部の年齢の場合は各都市に帝国の教育を受けた教師を派遣して、モニターを使ったカリキュラムで教えて、中等部以上の年齢でより高等の教育を受けたい場合に留学を受け付けるんだって。

 この小学部の教師を教育する為に、以前の職業訓練所を拡大させて、魔術ギルドと商業ギルドそして冒険者ギルドと連携していて、様々な人材を推薦して送り出してくれてるんだって。

 例のカールおじさんのクランは、既にクランの規模を遥かに越えていて、人材派遣ギルドって新しい組織を作っていて、サイラス・タルスの2大商会にも人材斡旋してるし、父ちゃんとドレイクさんの仕切る港湾施設にも大量の人を派遣してるから、小学部の教師にも人材斡旋するんだろうね。

 

 6月6日(コリント朝元年)

 

 アラン様や兄ちゃんが滞在している、ザイリンク帝国と云う所で、第一回『世界武道大会』が開催されたの。

 同じクラスの男子達や、アスガルド城で時折会話しているテオ君は、一週間くらい前から凄く楽しみな様で、興奮しっぱなしだったよ。

 やっぱり男の子にとって、武術や剣術で強いって憧れなのかな?私には判らないや。

 ライブで見たいとクレリア様が言われ、エレナさん始め側近の女性達が、胎児の為にと、画像に血が出るシーンや骨が折れるシーンにフィルターの掛かる、全年齢用の5分後編集動画を見る事になったんだ。

 それでも、盛り上がってる様子は判ったんだけど、一緒に観てた妊婦のオウカさんが、しきりに悔しがってたの。

 後で義姉のミーシャさんに聞いたら、オウカさんは妊娠さえして無かったら、参加したかったし、師匠の剣聖『ヒエン』様に諸国での武者修行と、帝国での訓練で段違いに強くなった処を見て貰いたかったんだって。

 だから、来年の第二回『世界武道大会』には、どの様な事が有ろうと、参加したいんだそう。

 あれ?来年と云う事は、赤ちゃんはどうするんだろう?と疑問に思ったら。

 クレリア様達も同じ事を尋ねたら、オウカさんは堂々と、今回徒手空拳部門で優勝した旦那さんの、『ミツルギ』に預けるから問題無しと、答えたんだって。

 え?今回の優勝者が、来年は出場出来ないの?と驚いちゃったんだけど、さも当然そうに言い放ったんだって。

 呆れる話しかも知れないけど、私は女性として唯一の剣王になったオウカさんの、矜持を見せられた気分を感じて、応援しようと思っちゃった。

 

 6月15日(コリント朝元年)

 

 カー君とバンちゃんが、昨日から催促するから、無理を聞いて貰って朝からアスガルド城の皇妃宮に有る、大型モニターの前で『魔法大国マージナル』に有る、海中神殿での式典をモニター越しに観る事になったんだよ。

 モニターには、賢聖モーガンさんとケッちゃんが緊張した感じで現れて、画面を埋め尽くす様に巨大な『守護竜アルゴス』様っていう、偉いドラゴンさんが鎮座してる。

 そしてとても厳かな雰囲気な中、『守護竜アルゴス』様が唱え始めたの。

 

 「基幹プログラム『ルミナス』への承認手続きを要請する!

 

 今此処に、調整者派遣の生体監視端末で有る5個体の完全承認を以って、特記事項『神人』承認を行う!

 

 我『星竜』個体名『アルゴスNO.18』

 

  『星猫』個体名『ケットシーNO.128』

 

  『レッド・カーバンクル』個体名『フレイムNO.111』

 

  『ブルー・カーバンクル』個体名『アイスNO.123』

 

  『星人』個体名『モーガンNO.11』

 

 以上の完全承認を以って此の者個体名『アラン・コリント』を、惑星アレスに於ける基幹プログラム『ルミナス』の、対外敵プログラム"武神アラミス"の実行者たる『神人』として承認せよ!」

 

 何だか意味は半分しか判らなかったけど、『ルミナス』様や"武神アラミス"様のお名前が有った事から、きっと神々への願いなんだろうね。

 

 すると神殿の壁から不思議な色の光線が、アラン様を照らし始めたの。

 

 そして何やら金属を弾く様な音が聞こえると、アラン様の目の前に神々しい光を放つ鎧が現れたわ!

 

 モニター越しに観てる私達も、その神秘的な様子に言葉を失っていたら。

 

 「・・・やはり承認されたな・・・、我が生きている間には無いだろうと考えていたがな。

 アラン陛下!今目の前に有るその鎧こそ、神鎧『ジークフリート』別名《不死の鎧》と呼ばれる物だ!

 この鎧は神代の昔に調整者が、貴方の知る『量子物理学』を3段階超える『イデア理論』により、高次元の物質で出来ている。

 つまり、この鎧はこの次元に於ける特異点そのもので有り、理論上この次元に存在する物はどの様な物であろうと、神鎧『ジークフリート』を傷つける事は出来ない!

 そしてこの鎧は、龍脈(レイライン)とのリンクを常時確立しており、龍脈(レイライン)の拠点であれば、空間跳躍が行える。

 あくまでも貴方だけが出来るのであって、他の者はその凄まじい力には付いて行けないので注意してくれ!」

 

 と私にはよく判らない説明を『守護竜アルゴス』様が言われ、次の瞬間神々しい光を放つ鎧は、アラン様の身体の部分に次々と装着したの!

 

 そのあまりにも神話じみた光景に、モニター越しに観ていた全員が息を呑んでいると、式典が進み今度は賢聖モーガンさんが、アラン様に携えていた黄金色の箱から一振りの剣を渡されたわ。

 その剣も、その刀身を天に翳すと、喜んだ様に光り輝いたの。

 

 式典が厳かに終わったけど、誰一人咳きもしないで感動してるの。

 皆判ってるんだよね。

 アラン様が、王権神授どころか、神々の域に近づいて行っている事に、思わずクレリア様を見たら、クレリア様は愛おしそうにお腹を擦っていたの。

 きっとお腹の赤ちゃんに語り掛けてたんだろうね。

 



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閑話74『カレンちゃん日記」㉛(カレンちゃん、新生『ルドヴィーク』ドームに帰還する)

 6月18日(コリント朝元年)

 

 私達は、魔導列車に乗ってスターヴェーク公国の新生『ルドヴィーク』ドームに向かったの。

 何でも生まれ変わったスターヴェーク公国を見て欲しいと、スターヴェーク公国を統治管理している上級官僚の人達から、通達が有ったんだって。

 たった3泊4日の旅行だけど、何といってもクレリア様は妊婦だから、特注の専用魔導列車で赴くんだけど、一緒に行動する医療関係者30人、クレリア様専用の女性親衛隊20人が同乗して、そのついでに私達スターヴェーク出身の学生を連れて行ってくれるの。

 特注の専用魔導列車は、本当に凄く豪華でまるで震動がしなくて食事を摂れる専用車両も有って、出される食事も帝都コリントのホテルや一級のレストランと同じ料理が用意されてるから、美味しかった~。

 先ずベルタ公国の公都に着いて、スターヴェーク公国出身者から出迎えを受けてから、一気に新生『ルドヴィーク』ドームに向かったの。

 魔導列車から見える車窓には、綺麗な田園風景が広がってるよ。

 今から3年前に私達が、アロイス王国から逃げる様に脱出して、馬車と歩きで見ていた旧ベルタ王国の荒廃していた村や街道は、綺麗になってインフラ整備が行き届いていて、街や村を繋ぐ道も普通に人々が歩いているのが見える。

 以前は、盗賊や魔物が出没して、とてもじゃないけど、隊商や冒険者に同伴して貰わないと、街道は歩けなかったのに、隔世の感が有るね。

 元の国境線もスピードを緩めずに進み、一路新生『ルドヴィーク』ドームを目指してるんだけど、この辺も変わったよねー。

 以前は、各国の国境線には駐屯している兵士と、厳重な関所が有って何時間も厳格な審査が繰り返されたのに、今ではそんな物は一切なくて、横に舗装されてる高速道路を走っているトレーラー達も、減速せずに行き交ってる。

 こういった姿を見てると、元のベルタ王国とスターヴェーク王国は全て過去になって、人類銀河帝国として一つの国として統一されたんだねと納得しちゃった。

 1日掛かって、新生『ルドヴィーク』ドームに到着したら、地域住民から熱烈歓迎をクレリア様は受けたんだけど、何しろ妊婦だから豪華な車両で今夜宿泊予定の、ルドヴィーク迎賓館に案内されたわ。

 私と友達は、別行動させて貰って、元の自分たちの家が有った場所に向かったの。

 だけど、元の家が有った場所には、既に立派な工場が出来ていて、中では次々と魔導列車用の部品やレールが作られてる。

 そうだよね、何時までも古びた工房兼家屋が、壊されもせずに残ってる筈無いもんね。

 自分でも判らなかったけど、無性に悲しくなって涙が溢れてきて、一緒に来たテルちゃん達も当時の事を思い出したのか、私と同様に泣いているの。

 そんな風に、私達が工場前で泣いている姿に、工場の従業員の人達が驚いたらしくて、工場内の大食堂に案内してくれたの。

 すると、厨房から一人の女性が出てきて、

 

 「ア、アンおばさんなの?お久しぶりです」

 

 と私とテルちゃんは、慌てて頭を下げると。

 その女性は、凄く嬉しそうに私達に抱きついて、

 

 「まあ、まあ、すっかり大きくなっちゃって、カレンちゃんにテルちゃんも元気そうで良かったわ!」

 

 と言ってくれたの。

 元の家近くに住んでいて顔見知りのアンおばさんが、工場内の大食堂に勤めて居て、休み時間になったから私達に当時から今までの状況を、お菓子を出しておやつの時間に教えてくれたの。

 

 私達がルドヴィークを脱出した後、かなりの人数の亡命脱出だったから、アロイス王国は残ったルドヴィーク住民に対して、監視活動を徹底し始めて締め付けが凄かったんだって。

 税金も元の4割から7割の徴収が続いていて、とても辛くて餓死しそうな人が続出して、アロイス王国の出先機関に訴え出る人と一緒に、アラム聖国に連行される人が大勢いたらしいの。

 そんな地獄の様な日々が1年半程続いて、いよいよどうしようも無くなって、明日の希望が欠片も見えなくなり何時死ぬか判らなくなっていくと、ある噂が聞こえて来たんだって。

 それは、旧スターヴェーク王国の王家スターヴァイン家の生き残りであるクレリア王女が、アロイス王国軍を遥かに凌駕する精鋭軍を率いて、アロイス王国に攻め寄せていると云う噂。

 結局その噂は事実で、噂が立った次の週には現実にルドヴィークに現れてくれて、アッサリとルドヴィークを解放してくれて、一時ルドヴィークを要塞化してアロイス王国との一大決戦を勝ち抜き、アロイス王国を打倒してスターヴェーク王国を復興してくれたの。

 そしてクレリア様とアラン様は、圧倒的な物流による支援と、量産ボットとアラム聖国の捕虜を働かせて、大規模なインフラ整備を行い、ルドヴィークは生まれ変わり、新生『ルドヴィーク』ドームへと進化して、この工場もその時に出来たんだって。

 

 そんな昔話を教えて貰ったので、オバサンと互いに良かったねと喜び合って、クレリア様の居られる迎賓館に戻ったんだ。

 そのまま、クレリア様に戻った挨拶をする際にこの報告をしたら、クレリア様と側近の方々も涙ぐんでくれて、元の住民達への慰労を、新生『ルドヴィーク』ドームを管轄している官僚達に命じ、帝都コリントへの歓迎ツアーを考えようと仰っしゃられたの。

 



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閑話75『カレンちゃん日記」㉜(カレンちゃん、スターヴェーク公国の公都に到着)

 6月19日①(コリント朝元年)

 

 朝早く起きて、特注の専用魔導列車に乗り込んで朝食を車内で頂きながらルドヴィークを出発したの。

 今日の予定は、スターヴェーク公国の公都に着き次第、クレリア様の歓迎式典が行われて、クレリア様の身体を気遣って、椅子に座ったままの演説がモニターを通して行われ、そのままパーティーになだれ込むらしいけど、クレリア様は城内の私室に行くみたい。

 何でもクレリア様は、突然ルドヴィークへの滞在中にアロイス王国のクーデターが起こった所為で、自分の私物は一切持ち出せなかったので、アロイス王国からスターヴェーク王国を奪還した際には完全に破却されていた、新しく再現されたクレリア様の私室は、現在スターヴェーク公国を管理管轄している官僚達が、出来る限りの再現化を図ってくれたんだって。

 クレリア様も、家臣達が頑張って気遣ってくれてる事実に、とっても喜んでいて嬉しそう。

 

 そうこうしてる内に、魔導列車はスターヴェーク公国の公都が見える様になってきたんだけど、スッゴク驚いちゃった!

 昔のスターヴェーク王国の王都の時に、来た事が有ってその時もとても大きく感じてたんだけど、そんなレベルじゃ無くなってるんだよ!

 何故かというと、王都の周囲を巨大な壁が覆っていて、その周りには小型のドームが10個も配置されていて、そこから陸上警備艦と戦闘車両や戦闘バイクが、出撃して各市町村への警邏に向かっているのが遠目にも判ったの。

 

 私達、学生組が驚いてると、親衛隊の隊長のエレナさんが、

 

 「驚いたでしょう。

 実は、帝国としての大方針で、スターヴェーク公国の公都は、帝国の事実上の帝都コリントに次ぐ、第二都市となるべく、今までで最大の超巨大ドーム『スターヴェーク』として生まれ変わるのよ!」

 

 と教えてくれたんだ。

 それに続いてクレリア様が、

 

 「加えて、このドームはこの地域一帯の防衛と経済基盤都市としての能力を兼ね備え、独立単体での都市運営が出来る様な、スタンドアローンが数年に渡って行える実力を持っているの。

 駐留している軍の総数は約15万人に上り、現在は生活している帝国民は150万人だけど、将来は600万人の都市を目指しているのよ」

 

 とまるで、この超巨大ドームだけで、中規模の国を凌駕するレベルで有ることを、事も無げに説明してくれたんだ。

 

 そんな説明を受けながら、スターヴェーク公国の公都に魔導列車が吸い込まれて行く。

 今までの都市は、都市の外郭に駅が有ったのに、この超巨大ドームでは普通に都市の中に駅が有るんだけど、それどころかプラットフォームが何十個も有って、魔導列車だけで無くて物凄い数のトレーラーが、そのプラットフォームから発着してる。

 それに感心しながら見ていたら、一際立派な駅のホームに沢山の人集りが見えてくる。

 そこに特注の専用魔導列車が、到着すると盛大な歓声が巻き起こって、クレリア様を出迎えてくれたの。

 クレリア様は、にこやかな笑みを浮かべて、出迎えの選出された低国民に手を振って特注の専用魔導列車から降りて、用意された特注の専用車両に乗り込んで、私達も用意された車両に分乗して、案内されるままに中央近くに再建された城郭に向かって進んで行く。

 そのままお城前に横付けして、お城の中を進んで行くと、大広間に通されて壇上に立派な玉座が2つ用意されてる。

 クレリア様は、壇上に描かれているタペストリーの背景に一礼して、皇妃が座るべき玉座の一つに座られたわ。

 すると、大広間の片側に並んでいた楽隊が、厳かな音曲を奏で、それを期に廷臣や上級官僚と、駐留している帝国軍の上級将官の人達が、クレリア様に向かって跪いたの。

 

 「・・・皆の者、顔を上げてくれ。

 今回の私のワガママの為に、この様に歓迎してくれて、ありがとう。

 だが、私としては今回、故郷に眠る父母と兄にどうしても報告したいと思った。

 そう、皆も存じている様に、私は人類銀河帝国初代皇帝にして、私の配偶者で有るアランの初子を妊娠しており、最先端の魔導科学医療のお陰で、その初子は男の子で有る事。

 つまりこの子こそ、人類銀河帝国二代皇帝となる皇太子にして、生まれ変わったスターヴェーク公国の正当後継者としてスターヴァイン公家を継ぐ、運命の子供なのだ。

 この事実を父母と兄の墓前に報告したかったのだ。

 許して欲しい!」

 

 とクレリア様は頭を下げられたの。

 

 慌てて、宮内庁長官のロベルト長官と、ダヴィード伯爵、アルセニー男爵の後継の華族の方々を始め、廷臣の人達は涙を流し、代表してロベルト長官が、

 

 「・・・クレリア皇妃陛下!

 敢えて今は、元の姫様と言わせて頂きますが!

 姫様が、数々の困難をアラン様と共に撃ち破り!

 微力ながら、我々元スターヴェーク王国の家臣がその偉大なる行跡を手伝い、スターヴェーク王国を取り戻せた昨年、そして新たな大いなる国家である人類銀河帝国を発足し、更にその帝国を未来に引き継ぐ御子を、姫様がご懐妊出来た事は、我々元スターヴェーク王国の家臣にとっても最大の慶事で有ります!

 スターヴァイン王家の祖先にその報告をするのは、当たり前の事で御座います!

 当然我等は、スターヴァイン王家の墓前に控えて付き従う所存!」

 

 と言上したから、私達も深々と頭を下げたの。

 するとクレリア様は、コクンと頷かれたので、式典も粛々と進んで、昼食を終えてから、スターヴァイン王家の墓前に皆で向かう事になったの。

 



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閑話76『カレンちゃん日記」㉝(カレンちゃん、スターヴァイン王家墓前での式典)

 6月19日②(コリント朝元年)

 

 盛大なパーティー形式の昼食を終えて、クレリア様は休憩がてら私室に向かわれ、大勢の廷臣と共にスターヴァイン王家の墓前に向かった。

 スターヴェーク公国の公都の全体を望める、小高い丘には昨年に建て直して整備されて、一般人でも参拝出来る様に公園も併設されてるから、かなり大勢でも参加出来るんだけど、今回参加して来た帝国民があまりにも多すぎて丘に登り切れずに、麓まで列が続いていて交通渋滞が起こってた、ビックリだよね~!

 クレリア様は専用の椅子に座りながら、

 

 「・・・お父様、お母様、お兄様、そしてご先祖様、ご報告致します!

 昨年、怨敵アロイス王国を打倒し、スターヴェーク王国を取り戻し、今年スターヴェーク王国とベルタ王国更にセルシオ王国を中心に人類銀河帝国を発足して、西方教会圏の大国を糾合して人口も現在2億人を優に越えています。

 そしてこの強大国家の跡継ぎである、皇太子を妊娠致しました。

 必ず、スターヴァイン王家の血脈を受け継ぐ、丈夫な男の子を産んでみせます、今後もご照覧下さい!」

 

 と魔道具のマイクを使い宣言されたので、墓前での式典を中継しているモニターを通して、帝国全土に放送されたから、きっと旧スターヴェーク王国の出身者は涙を流して感動したんじゃないかな。

 

 式典が終わって、丘からゆっくり降りて行くと、始めてスターヴェーク公国の公都の超巨大ドーム(建築途中)の影に隠れていた、広大な更地が目に入り何か巨大な基礎工事をしてるのが判ったの。

 一緒に私達と行動していた、同じ女子会メンバーのサーシャさんに聞いてみたら、

 

 「ああ、あれはクレリア様から伺っているのだけど、何でも『軌道エレベーター』の基礎工事だそうよ。

 『軌道エレベーター』というのは、今後何十年も掛けて作り続ける事になる、空に輝く星々の世界に私達の子孫達が、出ていく事になる時の出発点になるのだって。

 クレリア様とアラン様は、お二人のお子様が進むべき星々の世界の入り口を、今の段階で用意するみたいね!」

 

 と答えてくれたの。

 ほえ~、星々の世界って、学校の授業で漸くこの私達の住んでいる大陸が、セリース大陸という所でその他の大陸と海を地表部分に持つ代物が、惑星アレスという星でその周りに月とアステロイドベルトが有って、あの太陽を中心に幾つかの惑星が廻っていて、この星系が成り立っているって、天文学の授業で知ったばかりなんだよね。

 父ちゃんや母ちゃん、そして爺ちゃん婆ちゃん達に教えて上げたら、全員目を白黒させて驚いていたんだよ。

 きっとこの世界に住んでいる殆どの人が、同じくらい驚くだろうね。

 だけど、学校では今までの常識が間違っていて、その今までの常識が如何に間違ってるか、理路整然として教えてくれるから、納得出来るんだよね。

 然も、最近は西方教会が、新たな宗教方針と定義の発表をしたのが話題になって、学校の授業でもそれが取り入れられて、みんな驚いているんだよ。

 今までは、ルミナス教の神様は、ルミナス神が唯一神と云うのが一般的だったんだけど、『魔法大国マージナル』が示してくれた数々の資料や、アラン様達と実は私も関係してるんだけど(例のオリハルコンとアダマンタイトの件)、が探索して明らかになった事実で、実は他の神々も居られたのが実証されたんだって!

 ゲルトナー枢機卿が、ルミナス教の特別特集番組で公開されたんだけど。

 ルミナス神とは、この惑星アレスだけでなくて、この星系を含む広大な宙域を管轄される調整者(神様と同義語なんだって)であり、ルミナス神の配下として武神アラミス様や、鍛冶神トール、地母神ガイア等の調整者が居られたんだって。

 ただ、この調整者の方々は、神々の次の段階として高次元に赴かれてしまって、直接惑星アレスの人々を見てくれる事は出来ないんだけど、幾つかの遺産や使徒(イザーク様達)を遺されているの。

 だから『神人』となられたアラン様とその臣下である私達は、調整者の導きに従い、星々の世界に向かわねばならず、その最初の目的地である月に行くために、準備しなければならないんだって。

 そういった、授業の内容やゲルトナー枢機卿のルミナス教の特別特集番組の回答が、目の前に広がる『軌道エレベーター』の基礎工事に繋がるんだね、合点がいったよ。

 

 スターヴェーク公国の公都の城郭に戻り、クレリア様はあることを公示されたの。

 これよりこのお城は、ある程度公開する事にして、歴史上の展示として行き、帝国の歴史を紐解く資料とする。

 時折、クレリア様やアラン様が泊まる宿泊先として利用する以外は、一般市民が観覧するのは自由とするんだって。

 うわ~、このお城が公開されるんだって、きっと観覧しに来る一般市民は一杯いるだろうから、この為だけでもスターヴェーク公国の公都に来る人もいるんじゃないかな?

 特にこういった事に興味津々の私のお爺ちゃんお婆ちゃん達は、早速やって来そうだね。

 

 そして、お城でのパーティー(クレリア様の状態を考えかなり簡素)も終わり、私達学生連中は、私のお爺ちゃんお婆ちゃん達が、何故か下賜された公都のお屋敷に宿泊したの。

 管理人として住み込みで働いているのは、以前爺ちゃんお婆ちゃん達が疎開した時に世話してくれた、遠縁の親類なんだって、私が産まれたばかりだった時に王都で会ったらしいけど、当然赤ちゃんの私は覚えてないや。

 でも、とても良い人達で快く私達学生連中を歓待してくれたから嬉しくなって、「是非帝都コリントの家にも来訪して下さい」と言ったら、「何時か伺います!」と答えてくれて、とても寛いだ気分になれちゃった。

 



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閑話77『カレンちゃん日記」㉞(カレンちゃん、高等部への準備と『マリオン』との出会い)

 7月1日(コリント朝元年)

 

 9月1日から、高等部に移る事になるから新しいドームに通う事になるの。

 その準備で、色々と大変になってるんだ。

 私は、何時の間にかアスガルド城の女官になるのが、半ば当然の様になっていて、他の親友達もそれぞれ歩む道が違うから、基礎分野のカリキュラムは一緒だけど、専門分野のカリキュラムは別になるんだよね。

 テルちゃんは、お父さんとお母さんの関係で服飾とアクセサリー分野だし、タラちゃんは服飾と経営学の分野、サラちゃんは何といってもお父さんのレストラン『豊穣』の暖簾分けで、スイーツ専門店のパティシエを目指すべく、料理分野と果実研究の探究分野を中等部の頃から頑張ってる。

 他の面子もそれぞれ目指してる分野は違うんだけど、みんな近くに居るので安心だよ。

 ただちょっと違うのは、テオ君なんだ。

 テオ君は私より1歳年下なんだけど、前々からアラン様の親衛隊入隊を目指していて、帝国士官学校に9月から入学するんだって。

 妹のエラちゃんも、小学部で神童の誉れ高くて9月からは中等部で勉強するんだって、凄いなあー。

 帝国が発足してから半年しか経って無いけど、人口が何倍にもなってるから帝国全体の就学人数もべらぼうに増えてるの。

 だから、優秀な生徒も多くいるから、これからは凄く優秀な他の生徒との競争が起こるので、帝都コリント生え抜きの生徒としては、各国の優秀な生徒に負ける訳にはいかないんだって、生徒と云うより教師が最近は目の色を変えて熱心になってるから可笑しくなっちゃう。

 

 中でも『魔法大国マージナル』から9月にやって来る、『魔法学校』の生徒に対して凄い敵愾心を抱いてるんだって。

 何でも何百年に渡って西方教会圏に於いて最高峰の学府で、輩出して来た学者や魔法使いは数知れず、そもそも賢聖モーガン様が創立者だから、優秀なのは当たり前なんだけどね。

 相手の立場から考えてみると、『魔法学校』の方が大変なんじゃないかな?

 帝国の『学校』なんて、創立してから僅か3年しか経ってないのに、あれよあれよと云う間に西方教会圏に於いて最大の学業の組織になった挙げ句、魔法分野だけでも賢聖モーガン様がオブザーバーとなっていて、各国の宮廷魔術師も率先して雇用されている。

 多分、何がなんだか判らない内に自分達が過去の遺物みたいな扱いになっていて、憤慨してるんじゃないかな?

 だけど、西方教会圏の流れが帝国に流れているのは、どうしようも無い事実で、ルミナス教会も全面的に帝国を支持しているから、後は帝国に協力するしか無いと思うけど、一部の『魔法学校』の教師と生徒は認められないんだって。

 だから、アラン様とともに陸上艦隊に乗って帝都コリントにやって来るらしいの。

 

 7月10日(コリント朝元年)

 

 アラン様と西方教会圏を歴訪して来た帝国艦隊が帝都コリントに凱旋したの。

 帝国民が凄い人数で全艦隊の到着を大歓声で迎えて、人々は帝国旗たるコリントの紋章を縫い付けた旗を盛んに振ってる。

 私も義姉のミーシャさんと母ちゃんとで、みんなを出迎えてたら、兄ちゃんが直ぐに私達に気付いてこっちにやって来た。

 耐えられなくなった義姉のミーシャさんが、兄ちゃんに向かって歩いて行って大きく両手を広げて抱きつきに行ったから、私達も慌てて後を追って転ばない様にサポートしたんだけど、兄ちゃんがシッカリと抱きしめ返してくれたから、問題無かったよ。

 そして用意していた、送迎用の車両に全員で乗って、アスガルド城の目の前に有る家に帰ったの。

 

 頻繁にモニター越しに連絡を取り合っていたから、然程寂しいとは思わなかったけど、義姉のミーシャさんは想像してたより不安だったみたいで、日頃は気丈な態度だったのに、時折涙ぐんであるから驚いちゃった!

 やっぱり女性にとって妊娠するって、情緒不安定になるって病院や学校でも聞かされてたから、大変なんだね。

 

 爺ちゃんお婆ちゃん達が、シルバー何とか(正直幾つも有りすぎて全く把握出来ない)の会から帰ってきて、親友達も集まってくれて、家で大宴会になったの。

 

 宴もたけなわと云う時に、突然家のチャイムが鳴って、私が玄関に行って来客を出迎えたら、玄関に前アスガルド城の専用送迎車が横付けされていて、チャイムはその運転手さんが鳴らしたみたい。

 何だろう?と疑問に思ってたら、兄ちゃんが慌てて玄関に来て、

 

 「てっきり明日だと思いましたが、本日来たんですか?」

 

 と運転手さんに兄ちゃんが聞くと、運転手さんは、

 

 「いえ、これから学校の寮に向かうのですが、アトラス殿とグローリア殿を含むドラゴンを指揮する空軍の長である方の邸宅が近くに有ると知って、表敬訪問したいと突然言われましたので、急遽来訪する事になりました。

 ご迷惑でしたら、改めて明日に出直しますので、確認を取りにチャイムを鳴らしました」

 

 と答えてくれたの。

 

 「それで本人は、何処に居るのかな?

 まだ車両の中かな?」

 

 と兄ちゃんが聞くと、「エッ!」と運転手さんが驚いて後ろを振り返って慌ててる。

 ハッ、とした顔をして兄ちゃんが上空を見上げ、私も釣られて上空を見上げると。

 ゆっくりと、降下して来る人が見えたの。

 その人は、玄関前にゆっくりと降り立つと、深々と頭を下げて兄ちゃんに謝って来た。

 

 「・・・申し訳無い。

 壮麗なアスガルド城を上空から見たい欲求が抑えられなくてね。

 かと言って、アスガルド城で飛ぶ訳には行かなかったから、少し離れた此処なら構わないだろうと、状況を利用させて頂いた、お許し願いたい!」

 

 と優雅な一礼をすると、顔を上げて来た。

 歳は、私と同じくらいかしら?

 とても特徴的な眼(両目の色が違う)をしている男の子が、人好きのする顔でにこやかに私と兄ちゃんに笑い掛けて来たの。

 これが、『魔法大国マージナル』の至宝にして不世出の魔法の申し子と謳われる『マリオン』と、私カレンの始めての出会い。

 



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閑話78「ガトル親父の雑記」㉑(親父、帝国軍艦隊を見送る)

 7月5日(コリント朝元年)

 

 例の『トカレフ』と云うデグリート王国の誇る造船技術者の長の息子達5人と、イリリカ王国の若手魔法剣技術者が、トレーラーギルド所属のトレーラー野郎達が運転する50台に分乗して、帝都コリントに着いて俺らの巨大港湾施設にやって来た。

 その巨大さと、あらゆる重機や、構造物によって連動して動くさまに、コイツ等驚いて動けねえでやんの。

 こりゃあ暫く教育しねえと使いものにならねえやと、俺の弟子達に命令して2週間、徹底的に従来の技術や魔法の基礎を忘れさせて、最新の帝国の科学と魔法の基礎を叩き込む、通称『地獄の教室』に全員を連れて行かせた。

 何故『地獄の教室』と言われているかというと、中途半端に従来の常識を持っている連中は、魔法学や科学と云う新しい常識について行けずに、半分発狂しちまう奴が居て、しょうがねえからその常識を叩き壊す為に、実証実験を本人の身体に叩き込むんで、その過程が辛いんだそうだ。

 具体的に云うと、魔法は従来教本や魔導書による学習で魔法を覚えるとされていたんだが、帝国では『ナノム玉』を服用した上で、幾つかのイメージ動画を観せて実践させると、学んだ全員が今まで高等魔法とされていた『ヒール』をアッサリと習得してしまうから、魔術ギルドや宮廷魔術師が推進して来た従来の魔法習得方法は、間違いでこそ無いが、ひたすら迂遠な方法で無駄が非常に多い事が判ってしまうのだ。

 こういった事例が幾つも有り、今までその常識で仕事をしていた奴程、これ迄の自分が全否定されたと思ってしまって、場合によっては自殺しそうになっちまったから、何も考えられなくなるくらいに、嫌と言う程に身体wp酷使させて、何度も自分自身で習い覚えたばかりのヒールと市販の『栄養ドリンク』(カーラ殿印の商品)で、その都度回復させると大体2週間程で、認識が改善して使える様になるのが、これ迄の経験則で判ってるから、まだ若いコイツ等なら1週間程で改善するだろうな。

 

 7月12日(コリント朝元年)

 

 予想通りに『地獄の教室』で鍛え上げたら、全員眼の色が変わってやがる。

 『地獄の教室』の教員(何故か鬼軍曹とか云うニックネームが有るそうだ)達は、良い仕事をしてくれたぜ。

 早速、8時からの帝国式柔軟体操を港湾作業員達と一緒に、ミッチリと行う。

 この帝国式柔軟体操は、どの様な職種、立場であろうと早朝にやる事は、半分義務みてえなもんだからな。

 なにせ、皇帝陛下のアラン様と皇后陛下のクレリア様からして、毎朝やっているのは何度もライブで放送されているから、殆どの華族の方々も8時の模範放送時に、行うのが当然の様になってるぜ。

 俺の両親達に至っちゃ、シルバー何とか(あんまり多いからどれがどれだか判らねえ)の会の老華族の方々と、アスガルド城の前の広大な広場で、毎朝一緒にやっていて、そのまま今日は乗馬、今日はお茶会、今日はフィッシングと忙しそうだ。

 あのバイタリティーは一体どこから出てくるんだろうな、謎だぜ。

 

 話しが逸れちまったが、帝国式柔軟体操を終えた新人共に、現場で有る仕事場の清掃をさせて、いよいよ初仕事だ。

 初日は、全員で様々な鋼板を用途ごとに仕分けして、現場に持って行く。

 『地獄の教室』のカリキュラムの一つで、フォークリフト運転講習が有るから、問題無い筈だ。

 案の定、全員直ぐに把握して各部署に鋼板を届けてるから、安心したぜ。

 

 7月24日(コリント朝元年)

 

 西方教会圏の歴訪を終えて、2週間しか経っていねえが、アラン様はスラブ連邦との決着を着けるべく、港湾施設でメンテナンスと補給をした帝国軍の艦艇が出港した。

 いよいよ、重巡洋艦『バーミンガム』と超巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』がその勇姿を見せて出港して行く。

 此れ迄、何百と云う陸上艦船を送り出していたが、やっぱり誇らしさと少しばかりの不安が、胸を去来しちまったぜ。

 何と云っても、今回戦う相手となるスラブ連邦って奴は、例の『テュポン』ていう俺達が折角作ったヘリコプターを根こそぎ壊してくれた、化け物中の化け物を差し向けて来た憎い敵だ。

 憎い敵では有るが、とんでもねえ強さを持つ敵なのは間違いねえ!

 なので、俺とドップにドレイク殿は、思い付く限りの艤装を重巡洋艦『バーミンガム』と超巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』に施して、他の陸上戦艦『ビスマルク』と重巡洋艦『ドレッドノート』『ジャンヌ・ダルク』そして、フリゲート艦と駆逐艦にも出来る限りの強化を施した。

 是非、その能力を如何なく発揮しスラブ連邦を倒して、あの地に平和を取り戻して貰いたいもんだ。

 

 アラン様の演説も終わり、次々と帝国軍艦隊が出港して行く。

 その出発を見送る帝国上層部の中心には、豪華な座席に座られたクレリア様が居られるのは当然なんだが、その知覚に娘のカレンがテオ君とエラちゃんと共に居るのは、何時もの風景で見慣れてるんだが、其処に見慣れない男子学生が娘の横に居る。

 誰だろう?と疑問に思って眺めてたら、どうやらその俺の視線に気付いたらしく、男子学生が深く頭を下げて来た。

 俺も思わず軽く頭を下げて、顔を見直して見たら、随分と特徴的な目で笑顔を向けて来た。

 まあ、夜にでも娘に男子学生の事を聞いてみるかな。

 



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閑話79「ガトル親父の雑記」㉒(親父、若僧と娘カレンの仲を疑う)

 8月1日(コリント朝元年)

 

 先月、アラン様達を送り出した後、ドレイク殿と賢聖モーガン殿それにマリオンとか云う若僧と、賢聖モーガン殿の『大学』内の研究室で1週間の間、ひたすら実験と研究更には討論を繰り返して、ある程度の結果を出せたので、港湾施設の巨大実験棟で作製してみる事になった。

 作製するのは、賢聖モーガン殿所有の『飛空船』を更に強化して、自由自在に空を飛べて、人を100人単位で運搬出来る船。

 そして、帝国軍でも空軍で使用している、パラシュート等の脱出方法の弱点を克服した、個人レベルでの浮遊装置の量産化だ。

 かなりの難問だと思うが、俺は兎も角少なくとも4人の内ドレイク殿と賢聖モーガン殿は、紛れも無い天才だからきっと何らかの成果を上げられると思うぜ。

 

 「・・・其れでは、この浮遊理論はご理解頂けましたね」

 

 と若僧が他の3人に同意を求めて来やがった。

 それにドレイク殿と賢聖モーガン殿が、アッサリと頷いていやがる。

 何とも腹立たしい事に、若僧の構築した理論と研究室で見せられた実証実験は完璧に近い代物で、正に魔法科学と最新の物理理論の融合の良いとこ取りが出来てやがる。

 此れがある程度の経験を持った、大人の発言であれば俺も素直に納得出来たが、若僧は俺の娘と同い年の15歳に過ぎないのだ。

 然も、この若僧は最初に会った挨拶で、

 

 「御初に、お目にかかります、お父さん!」

 

 と、とんでもねえ挨拶をして来やがった!

 何時、俺がお前のお父さんになったんだよ?!

 更に気に食わねえ事に、妻と娘もその事に特に触れもせずに、接してやがる!

 

 その後のアスガルド城でのレセプションで、正式に『魔法大国マージナル』の留学生としての代表として卒なく演説して、クレリア様と帝国の教育関係者が勢ぞろいする中、堂々としていたそうだ。

 なんて小生意気な若僧だろう、15歳のガキなら年相応に詰まったり言葉を噛んでしまって、周りから温かく思われるのが愛嬌という物だろうに、この若僧は信じられないくらい対応を間違えない、なんて可愛くない若僧だ。

 

 8月10日(コリント朝元年)

 

 このマリオンとか云う若僧は、本当にとんでもねえ野郎だ!

 大体、人が使えない事でアラン様と賢聖モーガン殿が、半ば諦めていた浮遊魔法をほぼ独自の研究で物にし、お二人が認めた事で『ナノム玉3』をアラン様直々に貰っていやがる。

 未だにクレリア様以外には、賢聖モーガン殿とドレイク殿しか下されていない、最高の栄誉だぜ!

 ドレイク殿が服用したのだってつい最近の事で、これ迄の帝国艦隊全ての設計と造船をして、今回の艤装を終えての褒美で貰ったと云う経緯が有るからだ。

 ドレイク殿に聞いてみると、何とAR通信とか云う特別な場所に幽体の様な形で行けて、『イーリス』様と云うルミナス神と使徒のイザーク様の中間に位置する様な、知識の神の様なお方と話せる様になったそうだ。

 なんて羨ましい話しだよ、俺だって技術的な疑問で尋ねたい事が山程有るのによ。

 そんな羨望する栄誉を、こんな人生経験が殆どねえ若僧が、貰えてるんだぜ。

 ああ、判ってるよ、俺のこの愚痴はとんでもねえ才能を持った若僧への、醜い嫉妬だという事は痛い程判ってるんだよ!

 然もこの若僧は、これだけの待遇を受けていると云うのに、全然驕り高ぶる事がねえと来てやがる。

 俺達が今現在扱いている、トカレフを始めとした若手達に混じって、同じ作業をこなしてあらゆる知識を、現場で吸収しようとキツい力作業まで率先してやってやがるのだ。

 

 そしてこれが一番気に入らねえのが、時折俺の娘であるカレンが夏休みと云う事もあり、昼時に俺への弁当のついでに若僧の分まで持って来やがるんだよ。

 確かに、若僧は正式に働いている訳じゃねえから、大食堂に行っても食券を買わねえと昼食は食えねえが、そもそも『魔法大国マージナル』の留学生だから、帝国から充分なポイントを貰っている筈だから、余裕で買えるので、娘が気を利かせて弁当を持ってくる必要はねえ筈だよな。

 ちょっと気になって、娘と一緒に昼食を摂っている若僧の近くに座り、弁当の中身を覗いて見た。

 なんてこった!

 てっきり弁当の中身は、俺と同じで妻の作った昨日の夕食の残り物だと思ってたのに、明らかに内容が違い、確認の為に見た娘の物と内容が一緒でやがる!

 つまり、妻がワザワザ二人の為に朝から料理して用意しない限り、娘が二人分の弁当を朝から料理して用意したと云う事になりやがる!

 驚愕の目で二人を見ていると、若僧がいち早く気付いて、

 

 「カレンさんが持ってきてくれるお弁当には、大変感謝しています!

 僕は幼い時に両親を亡くして、賢聖モーガン様の庇護の元で、専門の料理人の作る料理を食べてはいましたが、家庭料理と云う物は食べたことは無かったんです。

 カレンさんが、僕との会話でその事を知って、有り難い事に港湾施設で研修を受ける際に、お父さんへの弁当を届けるついでに持って来てくれると言ってくれて、今日もご相伴に預からせて戴きました。

 お父さんとそのご家族には、感謝してもしきれません、ありがとうございます!」

 

 なんて、ぐうの音も出ねえ回答だよ。

 然もこの若僧、何度もお父さんとごく普通に言って来やがる!

 そんな若僧と俺を見て、娘の奴もコロコロと笑ってやがる、これは一度妻と徹底的に相談する必要が有るな!

 



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閑話80「ガトル親父の雑記」㉓(親父、若僧の暗躍に疑念を抱く)

 8月15日(コリント朝元年)

 

 若僧の奴、何時の間にかトカレフを始めとした若手達を騙して、高等部の学校に夜間教育を申請させやがった。

 トカレフ達は、就業時間中の一杯一杯の作業で疲れてやがるから、夜はゆっくりと寝させてやろうと云う俺の温情なのに、若僧が高等部の教育が如何に素晴らしく、折角帝都コリントで恵まれた環境に居るのだから、少し無理をしてでも学ぶべきだと、焚き付けたらしい。

 お陰でトカレフ達どころか、バイク工場の責任者であるハインツ達まで、夜間教育に参加したいと申請して来やがった。

 着々と若僧は、己のシンパを増やして行き、俺のテリトリーを侵し始めてくる。

 然も若僧は、俺と違って同世代の強みで、休日は例の『南国ドーム』に全員を誘い楽しく青春を味わってやがる。

 それだけなら別に、休日に遊ぶ事を禁じてる訳じゃねえから、自由にすれば良いと思うが、若僧の奴はとんでもねえ事に、娘のカレンを始めその女友だちやサーシャさんやエレナさん等の女子会メンバーや、信じられねえ事に、賢聖モーガン殿まで参加させて遊んだと云う話だ。

 なんて節操のねえ野郎だ、娘だけでは無く他の女子にまで粉をかけて居るんじゃねえだろうな?

 

 8月20日(コリント朝元年)

 

 此の日、娘と妻に強引に誘われて、帝国の学校の生徒と『魔法大国マージナル』の『魔法学校』の生徒による、魔法競技会が開催されたので、無理矢理観覧させられた。

 

 始まると案の定前半の競技で、帝国の学校の生徒の方が、あらゆる魔法競技で、『魔法学校』の生徒を圧倒していったぜ。

 そりゃあそうだ、最先端の魔法習得技術を学んでいる帝国の学校の生徒が、古くせえ魔導書に頼った『魔法学校』の生徒に負ける筈がねえ!

 そんな風に溜飲を下げていたら、後半の競技から若僧が参加して来やがった。

 若僧は、前半戦の魔法競技で負けた原因を魔法発動スピードの差が大きいと説明し、後半戦の『陣取り合戦』と『棒倒し合戦』では魔法発動スピードで勝負せずに、ひたすら硬化魔法と土魔法による防御に徹せさせて、帝国の学校の生徒が、集中力を欠いて来たら得意の浮遊魔法を少し利用して『陣取り合戦』では味方の生徒の跳躍力をまさせて旗を取らせ、『棒倒し合戦』では味方の生徒数人を浮かせて棒に体重を掛けさせて棒を倒させた。

 なんて汚え若僧だろう!

 本当はもっと簡単に、自分一人で勝ててた筈なのに、ワザと自分は表に出ずに後方支援をする事で、全員の協力で勝てたと演出しやがったんだ!

 見る目の有る人間なら若僧が、裏方に徹して前半戦2敗、後半戦2勝にしてイーブンにする事で、どちらの面子も潰さずに、双方の面目を保つ為に良い落とし所にしたと判っただろうな。

 その事に気付いてやがるんだろうな、魔法競技会が無事終わったら直ぐに、娘のカレンが若僧に近寄り市販の『魔力充填ドリンク』(カーラ印)をプレゼントして、二人で楽しそうにしてやがる。

 最近娘のカレンが、大人びた言葉使いをし始めたから、気になって娘の部屋の机に置きっ放しだった日記帳を確認してみたんだよ。

 日記帳の始めの頃は、かなり幼い表現が多かったんだが、最近は息子のケニーの影響か女子会とかで自分より年上と接する機会が多い所為か、子供らしく無い表現が多くなってやがった。

 幸い、若僧の事を特別表現している様な箇所は無かったが、若僧と行動した時は必ず若僧への感想が書かれている事は気になったな。

 

 9月1日(コリント朝元年)

 

 娘が『学校』の高等部に進級したぜ。

 いよいよ帝国の高等教育を学ぶ事になるんだが、実はこの高等教育って奴が物凄え!

 俺が統括している港湾施設にも、7月に卒業して8月から働きだした奴等が幾人か居るんだが、何と艦船の設計図を見せてみると、アッサリと構造計算の不備と矛盾点を指摘して来やがった。

 実はワザとミスった設計図を見せて、気付くかどうかの試験を仕掛けてみてたんだが、こんなに簡単に見抜いた上に訂正して来るとは、想定外だぜ。

 こうなってくると、若僧が扇動して今日から夜間での高等部に入学し、帝国の高等教育を学ぶ事になるトカレフを始めとした若手達は、正しい方向に向かってるのかも知れねえな。

 しかし、今日の入学式では折角、中等部を首席で卒業したから総代挨拶をした娘なのに、その直ぐ後に『魔法大国マージナル』の『魔法学校』からの留学生代表として挨拶した若僧の方が、来賓の拍手が大きかった様な気がするぜ。

 気の所為じゃない証拠に、娘のカレンと俺の隣に座っている妻が誰よりも強い拍手を上げていやがる。

 妻に「拍手が強すぎるぜ!」と言って窘めたら、「娘の総代挨拶を親が喜ばなければ誰が喜ぶんの?」と返されちまった。

 ああ、妻は娘の総代挨拶と若僧の留学生代表挨拶を、一緒の物として拍手をしてたのか、と納得出来たが。

 娘の拍手は別の意味が有る様な気がして落ち着かないぜ。

 普通自分が直前に総代挨拶をしているのに、直後の留学生代表挨拶をあんなに褒めるのは、可笑しくねえかな?

 と妻の反対側に座っている同じ来賓席のタルスさんと奥さんのラナさんは、二人して満足そうにひたすら頷いてる。

 余程お二人の娘のタラちゃんが、高等部に進級した事に、喜んでいるんだろうな。

 俺も、若僧の事がなければもっと喜べるんだけどなと、密かに溜め息を付いちまった。

 



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閑話81「ガトル親父の雑記」㉔(親父、若僧と一緒に武器・武具を作る)

 9月15日(コリント朝元年)

 

 例の艦船の浮遊化計画は、実証実験を繰り返すしか無いから、暫く停滞するしかねえから。

 依頼されていた、武具と武器の製作に入る事にする。

 現在、イリリカ王国の若手技術者は、大量生産の魔法剣を生産するライン行程が確立している工場で、学びながら働いている。

 大量生産品とは云え、ほぼ従来の最高級魔法剣と同等の性能を誇るので、イリリカ王国の若手技術者は、かなり面食らいながらも、帝国最先端の鍛冶技術を必死に学んでいる最中だ。

 お陰で俺は、イリリカ王国の熟年技術者達と各国からやって来た鍛冶職人と共に、ふんだんに有るアダマンタイトとオリハルコンとで、色々と試行錯誤している段階だ。

 そんな風に、楽しく次に作る武具と武器の構想を膨らませていると、何故か嫌な予感を覚えた。

 

 案の定、休憩に珈琲を飲みに向かったラウンジに、熟年技術者達と各国からやって来た鍛冶職人に囲まれている、娘と若僧がいやがった!

 何で若僧がこの工場に来たのか娘に聞くと、聞いてもいない若僧が俺に向かって、やたら熱っぽく武器や武具を見せて貰いたい!と嘆願してきやがった。

 コイツ何でこんなに一生懸命何だ?と疑問に思いながらも、特別拒否する理由もねえから、過去の俺の作品の為の習作(完成品手前の試作品)や、資料を展示している俺専用の工房室に娘と一緒に連れて行ってやった。

 娘はあまり興味無さそうに、ふーん、といった感じでソファーに座り持ってきたジュースを飲んでいる。

 その反対に、若僧は尋常では無い興味を示し、とても15歳とは思えない質問を俺にぶつけて来やがる。

 その質問内容の高度さに驚いちまったが、そのまま図々しい事に俺専用の工房室で資料を読み漁り、結局俺の帰宅時間まで居座り、半分寝ていた娘共々一緒に帰宅する事になった。

 更に図々しい事に、俺の愛車『バッファロー』の後部座席に娘と一緒に座り、娘そっちのけで俺に専門用語で質問してきやがった。

 然も、その内容が俺の今取り組みたいと思っていた研究内容に、ズバリとリンクしてやがる。

 若僧の事だから、娘の気を惹く為に俺の関心を買って、今後の関係を築こうと用意周到な計算を弾いているに違いねえと疑ってバックミラーで、娘と若僧の様子を伺ったら。

 娘は、やや呆れながら若僧を見ていて、逆に若僧は俺の事を尊敬の眼差しで見てやがる。

 若僧にしては、本末転倒な事に娘の為に『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』を地で行こうと、計算したんだろうが肝心の娘から呆れられては意味がねえだろう。

 

 《馬鹿め、お前の計算は根底から破綻しているぜ!》

 

 と半分愉快になって、自宅に招いて夕飯を家族と共に摂らせて、俺の書斎で門限まで武器と武具談義で楽しく過ごしてやった。

 そしてわざとらしく留学生の寮まで、俺の愛車『バッファロー』で送ってやったが、その道中も武器と武具談義で花を咲かせ楽しませて貰ったぜ。

 

 《フフフ、若僧の目論見を根底から覆してやるぜ!》

 

 と道中考えながら、家に帰って来ると。

 何故か、娘からジト目で見られて出迎えられた。

 まあ、仕方ねえな、若僧を可愛い娘から引き離すには、暫くの間娘からは嫌われるかもしれないな、我慢だぜ。

 

 9月22日(コリント朝元年)

 

 この1週間、俺はスラブ連邦に従軍して行った『剣王カイエン』殿と『拳王ダルマ』殿から依頼されていた、専用武器、武具の開発に熱中していた。

 

 「師匠!

 此の構成比率が、魔法導体としてのバランスが最適だと思います!

 今から魔石ケースから魔力を通しますので、導線の確認をお願いします!」

 

 「おう、導線は大丈夫だ!魔力を流せ!」

 

 「了解!

 10、30、50,100マナ。

 師匠!変換効率と抵抗値に問題は無いですか?」

 

 「問題はねえ!前回より変換効率は2倍近く上がってやがる!

 間違いねえ!

 此の構成比率こそが、最適値だぞ!」

 

 「やりましたね、師匠!

 此の構成比率で、魔法武器を打ち直せば魔法をより効率良く使用出来ますから、切れ味と頑丈度合いも格段に上がりますよ!」

 

 「その通りだ!

 明日から此の構成比率のオリハルコン鋼で、『剣王カイエン』殿と『拳王ダルマ』殿の武器と武具を製作するぜ!」

 

 「了解!

 8ちゃんさん!此の構成比率のオリハルコン鋼材を、鋼材工場に発注して下さい!

 そうですね、圧材は5ミリメートルと1センチメートルの物を5枚ずつ、そして中型アダマンタイト球を10個でお願いします!」

 

 「リョウカイイタシマシタ、ハッチュウツウ・・・・・・ハッチュウカンリョウイタシマシタ」

 

 良し、これなら『剣王カイエン』殿と『拳王ダルマ』殿も喜んでくれるに違いねえぜ。

 若僧は、この1週間の間、高等部の授業が終わって直ぐに俺の工場に来て働きに来ている。

 初日に土下座して此の俺の内弟子になりたいと行ってきたので、正式に俺を師匠と呼ぶ様に約束させ、如何なく若僧の知識を絞り出させている。

 その期待を裏切らず、若僧は実に優秀なので俺の研究は凄えレベルで進んでるぜ。

 ハッハッハ、俺自身こんなに上手く行くとは思わなかったので、ドンドン娘と若僧の接触機会を奪えてるから、何だか家に帰る度に娘からジト目を向けられている。

 もう少しの辛抱だな。

 



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閑話82「ガトル親父の雑記」㉕(親父、若僧を今後も扱き使うと心に誓う)

 10月1日(コリント朝元年)

 

 何度も実験を繰り返して、現状最高の武器と武具が出来上がった。

 

 『拳王ダルマ』殿の武具は、何と脚を覆う形の脚甲(レッグ・ウオーマー)で銘は『風炎脚』。

 その名の通りに、風のスピードと炎の攻撃を持つ、武具で有る。

 

 此の武具は、従来の武具では不可能であった衝撃吸収と、その時に吸収した衝撃のエネルギーを魔力に転化して、様々な用途に切り替えられる新機軸の能力を盛り込んでいて、何れは帝国軍のあらゆる装備に使用出来るように、是非実戦データを貰いたいと思っている。

 この新機軸の能力は、若僧が賢聖モーガン殿と独自に研究してたらしく、感心しちまったぜ。

 

 『剣王カイエン』殿の武器は、長刀にしても長く抜刀術には適さないが、非常に綺麗な刀身を誇り銘は『蛍丸』。

 その美しい刀身を活かした幻術の技が真骨頂で有るが、当然此れにも新機軸の能力を盛り込んでいる。

 

 幻術という魔法は、帝国軍には魔法カリキュラムとしても一切存在せず、『魔法大国マージナル』でも昔の資料には有るのだが、賢聖モーガン殿も存在は知ってはいるが使えないそうだ。

 そんなその名の通りに、幻の魔法技術を若僧はその信じられねえくらいの頭脳で、粗方復活させちまって、この『蛍丸』にも一部能力付与しちまった。

 実際、その能力を発動させると、名前の通りに蛍の様な光りが辺りを怪しく舞い始め、夢幻の様な幻想の世界が辺りを包み込んだ。

 いきなり、こんな世界に放り込まれたら、どんな達人でも混乱しちまうだろうから、如何に幻術が恐ろしい魔法技術か判るってもんだ。

 

 この二つの武器と武具を完成させた祝に、工場近くの懇意の居酒屋で打ち上げをする事にしてたんだが、何故か工場の大食堂でする事になった。

 今回の『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』殿の専用武器を製作するに辺り、イリリカ王国の若手技術者と『魔法大国マージナル』からの留学生達が、若僧主導で良い働きをしてくれたから、コイツ等への労いも兼ねてるから結構な人数になっちまい、結局工場の大食堂しか入り切らないんだからしょうがねえ。

 

 改めて、協力者の全員に労いを込めた訓示を垂れてやって、乾杯した。

 俺は当然酒だが、若僧始め学生達はジュースやノンアルコールのシャンパンだ。

 学生連中は、音に聞く『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』殿の専用武器を製作する事が出来たと云う事実に、余程誇りを感じていたのか、熱のこもった称え合いをそこかしこで集まって、顔を真っ赤にして語り合っていやがる。

 全く微笑ましい話しだぜ。

 俺がこの学生連中と同じ年齢の頃は、そんな輝かしい未来なんぞ望めなくて、精々日々の暮らしの為に、ご近所の包丁や農機具の刃先を磨く仕事しか無くて、夢の中だけで何時か魔法剣を磨いてみてえと夢想してたもんだ。

 そんな過去を思わず思い出し、目の前に繰り広げられる若者特有の夢を語り合う姿に、羨望の眼差しを向けちまった。

 

 10月28日(コリント朝元年)

 

 アラン様達、スラブ連邦を討伐に行っていた帝国軍艦隊が帰って来て、アラン様と息子のケニーは直ぐに自分の嫁さんに報告に行ったらしい。

 らしいと云うのは、俺もアラン様と会えるから向かう予定だったのだが、早々に『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』殿が工場にやって来て、己の専用武器と武具を受け取りに来て、その説明を俺と後から合流した若僧とする羽目になったからだ。

 『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』殿は、早速工場裏手に有る武器の練習場で、己の専用武器と武具の使い心地を確かめ始めた。

 事前にお二人から要望された性能を凌駕している自負が有ったから、自信満々でいると、お二人も具合を確かめながら満足している様子だったが、若僧が合流して事態が一変しちまった。

 高等部からそのままやって来たから、学生服のままで若僧はお二人に礼をして、早速専用武器と武具の説明を始め、突然、「落ち着いて慌てないように!」と注意を与えると、徐に目を閉じた。

 すると、突然周りの景色が変わり、何だか殺風景な場所に放り出されちまった!

 

 「此の空間はAR空間と言いまして、疑似投影空間と云う実際には存在しないのですが、イメージを伝えるのに非常に優れた場なので、今回使用させて頂きます!」

 

 と若僧が説明して来て、『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』殿に向かい、それぞれの専用武器と武具の最大能力を使用した実力をイメージとしてAR空間に投影して見せた。

 そのイメージ内の能力は、先程の性能確認の練習とは格段のレベルで差が有り、例えば『拳王ダルマ』殿の『風炎脚』は、跳躍力にして凡そ2倍の高さで翔べて、蹴りの速さも凄まじいの一言に尽きた。

 『剣王カイエン』殿の『蛍丸』は、幻術の発動スピードと蛍の様な光りが生み出す光景空間が、何と3倍に広がっていやがる。

 お二人と俺が呆然としていると、突然AR空間とやらが解除され、元の空間に戻ると、若僧の奴が、

 

 「さあ、今のイメージ通りにお試し下さい。

 お二方の脳に、イメージ記憶として転写してますので、同様の事が可能です!」

 

 と断言しやがった。

 『拳王ダルマ』殿の『風炎脚』は、若干不安気に頷き試し始めた。

 すると、先程のAR空間とやらで見せられた通りに、『拳王ダルマ』殿は2倍の高さで翔び上がり、そのまま凄まじい勢いで回転蹴りを空中で放って見せた。

 『剣王カイエン』殿は、複数の巻藁を同時に抜き打ちに斬って見せると、幻術を簡単に展開して、何とその蛍の様な光体から光線を放ち、巻藁を貫かせた。

 お二人も自分がしたと云うのに、信じられないといった様子で、己の専用武器と武具を見つめている。

 

 「流石ですね。

 私のイメージを更に越えた能力を見せてくれるとは、私も師匠のお手伝いが出来て、冥利に尽きます!」

 

 といけしゃあしゃあと吐かしやがった。

 全く便利な野郎だ、これからも扱き使ってやるから覚悟しやがれよ。

 



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閑話83 「マゼラママの徒然日記」⑪(息子とミーシャさんの結婚と懐妊)

 1月1日(コリント朝元年)

 

 人類銀河帝国がこの日正式に発足し、アラン様とクレリア様が婚姻式をなさったの。

 お二人のご衣装を私達のグループが、この一ヶ月半の間掛かりっきりでやり上げただけに、満足した物ができあがったわ。

 娘のカレンとテオ君とエラちゃんも、私達が手掛けた小姓用の儀典用衣装で参加し、問題無く両方の式典を終えたので、一安心ね。

 

 それにしても私達は、何時の間にか華族の一員になっていて、アスガルド城の華族用の席に着いていて、普通に給仕役の城付きの職員が、お祝い用のカクテルを運んできて、それを手に乾杯の唱和に参加出来るなんて、昔の境遇を考えると夢のようね。

 

 1月15日(コリント朝元年)

 

 とうとう私の息子ケニーが、同僚さんのミーシャさんと結婚したわ。

 以前の婚約時からも、順調にお互いの仲を育んで、より私達家族との仲も深めていたので、私はこの結婚に一も二も無く賛成で、ご近所からも羨ましがられてたんだけど、アラン様とクレリア様の婚姻式の影響らしくて、あんまり結婚を望むカップルが多いから、息子ケニーと同僚さんのミーシャさんの結婚も、他多くのカップルと同時の合同結婚式となったわ。

 

 幸いなのか、ヨハネ教皇猊下とゲルトナー枢機卿が主催してくれる上に、アラン様とクレリア姫様始め帝国の上層部が、短時間とは云え臨席して下さるのだから大変有り難い事ね。

 

 ヨハネ教皇猊下が聖句を唱えてくれて、ゲルトナー枢機卿の牧師席の前に順番に並んで誓約を2人で誓い、それをゲルトナー枢機卿が承認して行き、最後にアラン様とクレリア姫様が祝辞を述べてくれて、一連の儀式は終わり、息子と親友達の合同披露宴を1フロアを借り切ったホテルで盛大に行い、家族や友人更には同僚達も参加してくれたわ。

 

 感慨深いものね。

 今から二十数年前には、私の腕の中で小さい手を思いっきり伸ばして、私の顔を触っていた赤ちゃんが、今では独り立ちして、己の家族を作ろうとしている。

 夫のガトルも感動したのか、涙こそ流さないけど、お酒を飲むピッチが上がってるわ。

 合同披露宴も終わりに近づくと、夫のガトルと相棒のドップさんそして何故か居るホシとジョナサンが、悪ノリして水をケニーとその同僚に掛けまくったので、新郎全員が豪雨にあった様になり、其々のホテルの一室に新婦共々退場したの。

 

 後から聞いたら、何でも旧スターヴェーク王国での因習で、ワザと新郎新婦の時間を作ってやるべく、着替えさせるんだって。

 呆れちゃうわね、自分達の時に何故無かったか聞くと、「結婚式なんてお貴族様しか出来なかったじゃねえか!」と言われたの。

 「そう言えばそうね」と返したら、突然顔を真っ赤にして、「何時も、感謝してるぜ、母ちゃん!」だって、私も多分顔を真っ赤にしてたわね。

 

 3月25日(コリント朝元年)

 

 娘のカレンから、ミーシャさんが懐妊したと云う大ニュースが舞い込んだわ。

 然も同僚の何人かも同様に懐妊してる見たい。

 私の時は、夫のギルドの伝手で産婆さんを手配して貰い産む事になったけど、それまでは特段変わらずに働いていて、いよいよ産み月になってから安静にしたけど、帝国では頻繁に定期検診を受けて、赤ん坊の状態に気を配るんだって。

 凄く恵まれてるわねー。

 娘のカレンと相談して、定期検診に付き添ったり、諸々の準備の手伝いを交替で行う事にしたわ。

 

 4月15日(コリント朝元年)

 

 帝国全土に凄い衝撃が走ったわ!

 息子夫婦の赤ん坊のが男の子という吉報に続いて、クレリア様の懐妊が娘から伝わったのよ!

 娘は大好きなクレリア様が赤ちゃんを懐妊したと云う一事で、ひたすら浮かれまくっているようだけど、私達旧スターヴェーク王国の国民にとっては、真の意味でスターヴェーク王国が復活したと感じたわ。

 何といっても、スターヴァイン王家の正統後継者、そして男児である事が判ったのだから。

 周り近所始め、旧スターヴェーク王国出身者は出会う人全てが喜び合って、今日は仕事が手につかないわね。

 

 4月25日(コリント朝元年)

 

 娘のペットであり、友人のカーバンクルで有るカー君とバンちゃんのお陰で、『ルンテンブルク館』群の一角の邸宅に入居する事になったの。

 

 私も面識の有るケットシー128世と云う、お猫さんが諸事情でこの館を出る事になって、旧知のカー君とバンちゃんに譲渡した見たい。

 まあ、家族の増えた私達には非常に有り難い事ね。

 だからお礼に、カー君とバンちゃんが大好きな、フルーツたっぷりのカシューナッツを、毎回の夕飯後のデザートに上げたら、とてもうれしそうに「クゥー!」と鳴いて頬ずりしてくれたわ。

 喜んでくれて良かったわ。

 



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閑話84「マゼラママの徒然日記」⑫(娘のカレンが『マリオン』君を連れて来たわ)

 5月15日(コリント朝元年)

 

 アリシアさんに帝国からの正式受注で、9月の学年更新の『学校』用の制服が確定したわ。

 以前から『学校』用の制服のコンペティションが行われ、私達の服飾工場が大量生産する事は決まっていたのだけど、正式デザインが決まったの。

 最近は、工場ラインが殆ど人の手が要らなくなって、魔法マニピュレーターを人間が操作して監督する形で動くから、凄い量の大量生産が出来るの。

 ドンドン帝国の傘下や同盟国になる国が増えて、其処に有る商業ギルドからの発注や購入が鰻登りだから、幾ら作ろうが追いつかなかったから、魔法による自動化は本当に有り難いわね。

 

 6月18日(コリント朝元年)

 

 娘が魔導列車に乗って、スターヴェーク公国の新生『ルドヴィーク』ドームに向かったわ。

 私と夫のガトルは、あの脱出行以来、スターヴェークには帰還出来ていない。

 時々、無性に故郷で有るルドヴィークを思い出す事が以前は有ったけど、この帝都コリントでの生活が軌道に乗ってからは、全然気にならなくなったのが正直な気持ちね。

 今は私と夫ガトルの両親も一緒に住んでいるので、本当に今の住居が我が家と感じている所為かしらね。

 然も、私の友だちや娘の友だちと、職場や学校で出会えてるから、異国に居る実感が沸かないからかなあ。

 それに毎日のニュースで、帝国各地が取り上げられて、故郷のルドヴィークが新しく生まれ変わった事が判ってるから、昔の光景は失われているでしょうからね。

 

 7月1日(コリント朝元年)

 

 9月1日から、娘のカレンが高等部に移る事になるから、新しいドームに通う事になるわ。

 服飾工場の方も、専門カリキュラムに進む生徒用の、作業着や制服を用意出来ているから、もうすぐ進学予定の生徒に届く筈よ。

 それにしても凄い数ね。

 帝都コリントを除く形で、小等部と中等部の学生用の制服が、コンテナでトレーラーと魔導列車で帝国と同盟国各地に送られているわ。

 アラン様とクレリア様の方針として、帝国は等しく子供は教育を受ける権利が有って、帝国以外の友好国と同盟国には無償で教育環境を整える事に注力してるわ。

 凄いわよねー。

 普通の国家は、平民の子供に対して教育環境を整えてやる財力が有れば、軍事力や交易に力を注ぐのに、帝国は全ての面で余裕が有るのか、教育に関して一種異様なまでに注力してるわ。

 でも、この教育は何れ必ず帝国の未来を良くすると思うから、私も大賛成だわ。

 

 7月10日(コリント朝元年)

 

 アラン様と西方教会圏を歴訪して来た帝国艦隊が帝都コリントに凱旋したの。

 帝国民が凄い人数で全艦隊の到着を大歓声で迎えて、人々は帝国旗たるコリントの紋章を縫い付けた旗を盛んに振ってるわ。

 息子のお嫁さんのミーシャさんを連れて、娘のカレンとで妊婦で有るミーシャさんを気遣いながら、ケニーを出迎えたら、耐えられなくなったミーシャさんが、ケニーに向かって歩いて行って大きく両手を広げて抱きつきに行ったの。

 気丈な娘さんだと思ってたけど、やっぱり妊娠してる間不安だったのね。

 これからはもっと心を開ける様に、安心させて上げなきゃと決意したわ。

 邸宅に送迎用の車両に全員で乗って帰ってきたら、娘の親友達も集まってくれて、家で大宴会になったの。

 暫くしたら両親ズも帰還して、シルバー何とかの会からの懇意の華族の方からの酒類と珍しい果実をプレゼントとしてケニーにあげてたわ。

 

 その後、なにやらチャイムが鳴って、娘が対応したみたいだけど、大した内容では無かったらしくて、直ぐに来客は帰られた様ね。

 

 7月24日(コリント朝元年)

 

 午前10時頃に娘のカレンが、友だちだと言って男の子を家に招いたわ。

 幼い頃は特に珍しくは無かったけど、帝都コリントに来てからは、エラちゃんのお兄ちゃんのテオ君を招いたくらいで、それ以外としては男の子は始めてね。

 

 「どうも初めまして、お母様!

 カレンさんとは、仲の良い友だちとして付き合っています『マリオン』と申します。

 以後、宜しくお願いします!」

 

 と娘と同年代の割に堅苦しい挨拶をされたわ。

 頭を上げて顔を見せてくれた男の子の顔は、はっとする程に瞳を釘付けにされたの。

 先ず、一番特徴的だったのは目ね。

 左目がブラウンで右目がブルーで、いわゆる虹彩異色と言いオッドアイ又はヘテロクロミアとも呼称される物で、珍しいわ。

 そして整った顔立ちと、にこやかに笑い掛ける口元は、人好きのする雰囲気を醸し出しているの。

 娘が初めて連れて来た男の子という点を差し引いても、じっくり観察したくなる男の子だわ。

 

 リビングに通してお茶を出して会話していても、その品の良さがそこかしこに感じられたわ。

 すると、娘が専用の部屋で寝て寛いでいたカーくんとバンチャンを、リビングに連れて来たの。

 途端に『マリオン』君は、笑顔を更に綻ばせてカーくんとバンチャンに近づいて、恭しくお辞儀したの。

 

 「御初にお目にかかります!

 私は、『魔法大国マージナル』で賢聖モーガン様の弟子として、魔法工学を学ばせて頂いておりました『マリオン』と申します!

 兼ね兼ね話しで聞いていた、カーバンクルのお二人に会えたこの僥倖を、神ルミナスに感謝致します!」

 

 そんな仰々しい挨拶を受けてカーくんとバンチャンは、暫くジッとしてから、その額の宝石から光線を『マリオン』君に浴びせたから、その珍しい行動に私が驚くと、娘が手を私に翳して遮ったの。

 『マリオン』君は、額の宝石から光線を浴びても少しも騒がずに、されるがままになっていて、20秒程の時間が経って光線の精査が終わると、カーくんとバンチャンは『マリオン』君の両肩に乗ると、両頬を舐め上げたの。

 

 すると娘のカレンは、

 

 「やっぱり合格したね!

 ケッちゃんが、太鼓判を押してたから大丈夫だと思ってたけど、これで『マリオン』君は念願の『ナノム玉3』を飲ませて貰える権利を得られたよ、おめでとう!」

 

 「ありがとう、カレンさん!

 君のお陰で僕は、この世の真の叡智に触れられる!

 一生を賭けてこの恩には報いるよ!」

 

 「良かったね、でも一生を賭けては大袈裟だよ。

 今度、『豊穣』のパフェを奢ってくれたら良いよ!」

 

 「遠慮深いなあ、じゃあ出かける度に『豊穣』のデザートを奢るね!」

 

 「やったー!約束だよ!」

 

 と何とも微笑ましい会話を交わす二人を見て、夫のガトルは『マリオン』君に会ったらどんな反応をするのか気になったわ。

 



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閑話85「マゼラママの徒然日記」⑬(『マリオン』君の評価)

 8月1日(コリント朝元年)

 

 何だか夫のガトルの様子がオカシイの。

 この1週間の間、アラン様達を送り出した後に、新しい艦船の構想を考えるからと言って、賢聖モーガン殿の『大学』内の研究室で1週間の間、ひたすら実験と研究更には討論を繰り返していて、頑張っていたのに段々と苦虫を噛む潰した様な顔をしているわ。

 

 夕飯時もブスッとした顔をしているから、最近好物の冷えた『ビール』をグラスに注いで訳を聞こうとしても、

 

 「・・・何でもねえよ、気にしねえでくれ・・・。」

 

 と不機嫌そう。

 きっと何か気に食わない事が有るんだろうけど、この頑固者は女房に弱みを見せられないと云う昔気質の考えが有るから、正直に話さないでしょうね。

 

 と其処にリビングで寛ぐ、嫁のミーシャさんと娘のカレンの団欒する声が届いたわ。

 

 「・・・それでね、先日『デパート』に行って『マリオン』君の水着を選んで上げたんだよ。

 彼は『魔法大国マージナル』でも海で泳ぐ事をしてなかったから、今度の休みに例の『リゾート・ドーム』で波の起こるプールや流れるプールに入れるって喜んでくれたの。

 彼が率いる『魔法大国マージナル』の留学生も、随分くだけて来てみんな一緒に参加する事になったんだ。

 ほんとに『マリオン』君が居るお陰で新しく入学する学生も、学校が夏休みなのに積極的に私達と交流しようと、良い感じなんだー!」

 

 と云う声が一部屋跨いだ食堂まで聞こえたわ。

 最近は娘の話す話題で、例の『マリオン』君が出ない日は無いわね。

 きっととても仲良しなんでしょうね。

 

 そんな感想を持って夫へ振り返ったら、さっきより更に顔を歪めてブスッとしてるわ。

 はは~ん、大体想像が着いたわ。

 夫は、年頃の娘が同年齢の男子の話題を毎日聞かせて来るものだから、焼き餅を焼いているのね。

 娘はこの年特有の反抗期も無く、父親に対して嫌悪感を抱かずに日頃接して来てたから、このまま行くだろうと夫は想像してたに違いないわね。

 

 だけど、いきなり娘が気になる男の子を暇が有れば話すから、困惑してるんだわ。

 でもしょうがないじゃない。

 何時かは娘のカレンも、好きな人が出来て巣立って行くのよ。

 それまでは、親としてシッカリと育てて、何処に出しても問題ない女性にするのが親の勤めだと思うの。

 夫にも、男親としての毅然とした態度で居てもらいたいものだわ。

 

 8月10日(コリント朝元年)

 

 最近の娘は、女の子としての成長著しいわね。

 早朝に起きだしたかと思うと、私と一緒に家族への朝食作りを手伝い出したかと思うと、3人分のお弁当まで作っているの。

 夫の分と娘自身の分、そして誰かさんの分ね。

 今日も今日とて、夫の職場に夏休みと云う事もあり、昼時に夫への弁当のついでに『マリオン』君の分まで持って行くようね。

 夫の目の前であんまり仲良くすると、焼き餅を焼くんじゃないかしら。

 案の定夕方に帰って来た夫は、弁当の事で娘のカレンが作っているのか?確認してきたわ。

 そうよ、と答えると、苦々しそうな顔をして不貞腐れてるわ、私は思わず含み笑いしてしまったわ。

 

 8月20日(コリント朝元年)

 

 夫も誘って、帝国の学校の生徒と『魔法大国マージナル』の『魔法学校』の生徒による、魔法競技会が開催されたので、娘のカレンと観覧したの。

 

 始まると前半の競技で、帝国の学校の生徒の方が、あらゆる魔法競技で、『魔法学校』の生徒を圧倒していったわ。

 まあ、しょうがないわよね。最先端の魔法習得技術を学んでいる帝国の学校の生徒が、古い魔導書に頼った『魔法学校』の生徒に負ける筈が無いわよねえ。

 そう思っていると、後半の競技から『マリオン』君が参加して来たわ。

 『マリオン』君は、前半戦の魔法競技で負けた原因を魔法発動スピードの差が大きいと説明し、後半戦の『陣取り合戦』と『棒倒し合戦』では魔法発動スピードで勝負せずに、ひたすら硬化魔法と土魔法による防御に徹せさせて、帝国の学校の生徒が、集中力を欠いて来たら得意の浮遊魔法を少し利用して『陣取り合戦』では味方の生徒の跳躍力をまさせて旗を取らせ、『棒倒し合戦』では味方の生徒数人を浮かせて棒に体重を掛けさせて棒を倒させたわ。

 流石ね。

 娘の『マリオン』君への毎日の評価を聞いていたから、この結果はごく当然で、寧ろワザと表に出ずに、良い形で勝ち負けなしに持ち込んだ彼の手腕は、空恐ろしい程ね。

 その事に気付いている娘は、魔法競技会が無事終わったら直ぐに、『マリオン』君に近寄り市販の『魔力充填ドリンク』(カーラ印)をプレゼントして、二人で楽しそうにしてるわ。

 その光景を見て、隣に座る夫は『マリオン』君を噛み殺さんばかりに歯軋りしてるわ、親馬鹿ここに極まれりね。

 

 実は夫と息子のケニー以外の家族の間では、密かに娘の彼として『マリオン』君は、合格の判子が押されているのよね。

 先ず、礼儀正しいし、人への気遣いが同世代の誰よりも出来るし、変に気取ってる訳では無くて、ごく自然な態度で習慣付けられてるとは、賢聖モーガン様の教育は素晴らしいわ。

 次にその人への気遣いは、私達の家族だけでは無くて、会う人全てに行われてる様で、年少のエラちゃんや皇子宮で清掃訓練をしている身寄りのないオバさんでも、同じ様に接しているの。

 生い立ちの所為か、若干の家族への憧憬がある様だけど、それも鼻に付く程では無いわね。

 総括として、本当に良い子と夫と息子のケニー以外の家族の間では確定してるの。

 



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閑話86「マゼラママの徒然日記」⑭(熾烈!夫対娘の『マリオン』君争奪戦!)

 9月1日(コリント朝元年)

 

娘が『学校』の高等部に進級したわ。

 然も娘のカレンが、中等部を首席で卒業したから総代挨拶をしする事になったの。

 お陰で私も昨日まで、この総代挨拶の練習に付き合わされたわ。

 まあ、『マリオン』君が娘の総代挨拶文も添削してくれたから、私は娘が緊張で噛まずに喋れるかのチェックをしてただけなんだけどね。

 

 その努力もあって、娘は母親から見ても問題無く総代挨拶をこなし、続いて『魔法大国マージナル』の『魔法学校』からの留学生代表として挨拶した『マリオン』君も、立派にこなしたから来賓席に座っている事も忘れて、誰よりも強い拍手を上げてしまったわ。

 だってしょうがないじゃない!

 あの幼かった娘が、何千人と云う新入生の代表として、挨拶したのよ!

 凄く立派になったわ。

 夫が私を嗜める様に、

 

 「拍手が強すぎるぜ!」

 

 なんて言うものだから、

 

 「娘の総代挨拶を親が喜ばなければ誰が喜ぶんの?」

 

 て、返しちゃった。

 当たり前よね。

 娘の一世一代の晴れの日を喜ばない母親が居る訳無いじゃない!

 夫の隣に座って居るタルスさんと奥さんのラナさんも、二人して満足そうにひたすら頷いてるし、他の保護者の方々も我が子の成長した姿に、喜ばれてるわ。

 

 9月15日(コリント朝元年)

 

 『マリオン』君が娘を誘って、夫の工場に出向くみたい。

 娘はあまり乗り気では無い様だけど、『マリオン』君は凄く楽しみみたいで、凄く目を輝かせているわ。

 やっぱり『マリオン』君も男の子よね。

 夫の管轄する港湾施設と工場に行くのがとても楽しみらしく、娘と云うより、夫の仕事場に行く大義名分を得る為に娘を出汁にしている様な面が有るわね。

 娘もそれに気付いてるのか、その代わりに別の日にはショッピングやフィッシングに行く約束を取り付けているわ、流石は我が娘ね抜かりが無いわ。

 

 暫くして夫と一緒に、娘と『マリオン』君が夫の愛車『バッファロー』の後部座席に乗って帰って来たの。

 珍しいわ!

 夫は余程の事が無いと愛車『バッファロー』には、乗せたがらないんだけどね。

 表面上は、『マリオン』君の事を毛嫌いしている様な態度を取っているけど、実は相当気に入ってるんじゃないかしら?

 その後、『マリオン』君は夕飯を家族と共に摂って、夫は信じられない事に自分の書斎に『マリオン』君を招き入れたわ。

 私ですら滅多に入れさせない書斎に、『マリオン』君を招き入れたの。

 だから、私も気になってお菓子と飲み物を差し入れとして書斎に入ったら、夫は実に楽しそうに『マリオン』君と専門用語を使用して、誰も入れない空間の様に議論してるの、驚いちゃった!

 

 門限に近くなったから、『マリオン』君が留学生の寮まで帰る事になったんだけど、何と夫が送ることになったわ。

 いよいよ信じられないわね、あの夫が送迎するなんて前代未聞の出来事ね。

 途中から、娘の様子が変わり、どうやら『マリオン』君と家に帰って来てから大して話せなくて、夫とばかり会話していた事に不満が有るみたい。

 

 9月22日(コリント朝元年)

 

 何だか妙な事になったわ。

 娘の友人には違い無いけど、『マリオン』君が正式に夫の内弟子に成ってしまったの。

 高等部では、あらゆる部活やクラブが『マリオン』君に参加してくれないかと、勧誘が凄いと娘に聞いているのだけど、『マリオン』君は一切意に返さずに定時の下校時間になると、独自の浮遊魔法でサッサと夫の工場に飛んで行くらしいわ。

 そんな愚痴を娘のカレンは私に告げるの。

 おかしな事になったものね。

 恐らく夫の当初の目論見では、娘から『マリオン』君を遠ざけるつもりだったんでしょうけど、『マリオン』君の優秀さとコミュニケーション力の高さで、夫は知らず知らずの内に『マリオン』君を気に入ったんじゃないかしら。

 実際、『マリオン』君と暫く接して居れば、彼の人柄の良さと素晴らしいコミュニケーション力で、嫌いになるのは非常に難しい。

 私が知る限りで、『マリオン』君を嫌いになっている人は皆無だし、寧ろ信奉者の様な人も居て、娘と同世代の女の子達の間では、『マリオン』君争奪戦が繰り広げられてるみたいね。

 そういう点では、娘は他のライバルより一歩も二歩も差をつけている様に傍目には見えてるらしいけど、実情は娘は自分の父親に『マリオン』君を取られた様な状態である。

 そんな訳で、最近は娘の機嫌は悪くなっている一方で、夫の機嫌は良くなる一方。

 

 何とも複雑な状況だわ。

 明らかに、夫も娘も『マリオン』君を気に入ってるのに、正直に自分の心情を『マリオン』君に吐露しないから、只々ひたすら娘は不満を募らせて、夫は心情を誤魔化して『マリオン』君を娘から遠ざける事に成功してるつもりになっているだけだわ。

 これは何処かで決着を着ける必要が有るわね。

 



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閑話86「マゼラママの徒然日記」⑭(息子のケニー帰還でミーシャさん安堵)

 10月1日(コリント朝元年)

 

 実はクレリア様の妊娠発覚後、様々な妊婦用品や赤ん坊用の子供服始め、様々なグッズが帝都コリントの様々な商店や『デパート』で販売されているの。

 現在帝都コリントは、妊婦ラッシュと云って良いのよ。

 何故かというと、やはりアラン様とクレリア様の帝国発足時の婚姻と、それに続く結婚ラッシュね。

 まあ、息子のケニーも明らかに便乗して合同結婚式を上げたのだから人の事は言えないわ。

 特に各国の王族や貴族、帝国でも華族の方々は、皇太子殿下の学友、或いは同世代の子供を学校に送り込むべく、今でも結婚や妊娠の届けが、ドームに有る役所に届けが来て、ルミナス教のドームでは毎日必ず教会で結婚式が挙げられていて、ゲルトナー枢機卿はワザワザ専用の結婚式場をドーム内に作り、重要な結婚式にはご自身が神前結婚式を執り行うみたい。

 元々ゲルトナー枢機卿は、ベルタ王国王都で司教をしていた頃から、ルミナス神の覚えが目出度く、枢機卿になって『ナノム玉2』を服用した現在では、更にルミナス神のお告げを聞き取れる様になって、様々な神託を受け取る事が出来るから、非常に徳の高い聖職者だと西方教会圏全ての国に知られているので、ワザワザ遠方の王国からの来訪者も多くて、前述の通りに結婚式の執り行いを予約している王族や貴族は大変な数になるらしいわ。

 

 10月10日(コリント朝元年)

 

 後1ヶ月で、クレリア様が出産予定日なので、アスガルド城の皇妃宮と出産する場所で有る医務室周辺の改装が完成したわ。

 そして恐れ多い事に、同日出産予定の息子ケニーのお嫁さんのミーシャさん始め、同僚や友だちの4人の妊婦が常に一緒に要られる様に、ベッド等が用意されているの。

 続いて、建築中の皇子宮の方もドンドン出来上がって行くのが伝えられてるわ。

 きっと子供が遊び回っても大丈夫な様に、なっているんでしょうね。

 既に気の早い華族の方々は、出産祝いの届け物が送られているそうで、専用の部署と部屋が有るそうだわ。

 

 10月28日(コリント朝元年)

 

 長期に渡ったスラブ連邦との激戦を終えて、アラン様率いる帝国軍が帝都コリントに帰還したわ。

 私と娘は、敢えて帝国軍の凱旋を迎える場所には行かずに、アスガルド城の皇妃宮で帰ってくるアラン様と息子のケニーを、妊婦のミーシャさんで出迎える事になったの。

 定期的に皇妃宮に泊まっているミーシャさんは、大分寛いだ様子でいるし私達も慣れて来たから、雑談してその時を待ったわ。

 やがて先触れが来て、全員で待っていた皇妃宮大広間にアラン様以外の、妊婦4人の旦那達が入室して来たの。

 息子のケニーは、何も言わずにミーシャさんに駆け寄って柔らかく抱きしめたわ。

 

 「・・・帰ってきたよ、・・・約束通りに・・・」

 

 ミーシャさんも感動したらしく、息子の胸に頭を埋め、静かに嗚咽してる。

 ミーシャさんは、暫く泣き続けていたがやがて落ち着いてきたのか、何故か笑い始め・・・そして、

 

 「・・・ねえ、触ってみて私達の赤ちゃんの居るお腹に・・・」

 

 と言ってミーシャさんの大きくなったお腹に触らせたの。

 息子の大きな手が、優しくそのお腹を柔らかく触っていると、やがて耳をミーシャのお腹に寄せて行き、突然驚いた顔をして離れたわ。

 どうやらお腹の子に蹴られた様ね。

 

 「驚いたでしょう。

 男の子の所為か、凄く活動的でよくお腹の中で蹴ってくるのよ!」

 

 とミーシャさんが自慢げに話しているから、娘と一緒に微笑んでいると、

 クレリア皇妃様付きの女官が、アラン様の来訪を伝えられたので、クレリア皇妃様以外の全員がお迎える為に、跪いてアラン様を迎えると、アラン様が慌てて、

 

 「何をしているんだ、婦人方は直ぐに楽なリクライニングソファーに座る様に、夫方は自分の妻を介添えする様に!」

 

 と言われたので、これ以上は無粋になると思い、娘共々退出したわ。

 娘とアスガルド城の華族専用の大きな憩いの場所に出向くと、両親達が多数の華族の方々と談笑してたの。

 

 「オオッ、此れはケニー空軍司令官の親族では有りませんか!

 どうぞ、此方の席に」

 

 と、この部屋付きの職員に案内されて、両親達の座る席の隣に座ったの。

 しかし、未だに私は華族として扱われる待遇に違和感が拭えず、あまりこの部屋には来たく無かったんだけど、この後の帝国軍凱旋パーティーに出席するのは、既定路線なので勝手に帰る訳にはいかないのよね。

 

 すると案の定、日頃接触のない華族の方々が、私と娘に群がって来たわ。

 意外かも知れないけど、私は高級服飾デザイナーとアクセサリー関係の専門家として、華族の御婦人方の人気がそれなりに有り、娘はいまや羨望の的の『女子会』メンバーだし、高等部の学校での活躍から華族でも同世代の人からは中々人気らしいわ。

 

 暫く華族の方々と、取り留めの無い雑談に応じていたら、式典会場への移動の通達が来て、両親達と娘と一緒に会場へ出向いたわ。

 帝国軍凱旋パーティーは、クレリア様が出席出来ないし、アラン様も挨拶すると直ぐにクレリア様の元に帰られたので、あまり盛り上がらずに終わってしまったわ。

 まあ、仕方無いわよね。

 スラブ連邦に勝利した事実はかなり前に知らされていたし、帝国としては差し迫っている『皇太子誕生』の予定に、全精力を傾けているのだから。

 でも、漸く息子のケニーが帰って来たから、ミーシャさんが落ち着いてくれるだろうから、その事は素直に嬉しいわ。

 



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5月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝2年)《テオとエラの成長》

 長い閑話も終わり、今日から本編に戻ります。
 この第二回『世界武道大会』と日の本諸島編を暫く続き、因縁のアラム聖国と謎の大陸編へと向かいます。
 どうぞお楽しみに。


 5月20日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 我々が、崑崙皇国で激戦を繰り広げている間に就航した帝国産『飛空艇』初号機で、ザイリンク公国へ向かっている。

 この『飛空艇』は親父達帝国の誇る技術者達が、心血を注ぎ込む事で完成した、初の旅客用の空を飛ぶ乗り物で、何と300人に上る旅客人数を誇り、たった12時間で帝都コリントからザイリンク公国に到着する事が可能で、1日1回の往復をしていた。

 何れは何隻も就航するだろうが、今現在試験を兼ねた運航をこなしている。

 その『飛空艇』には、今回の第二回『世界武道大会』に出場する選手団が搭乗していて、かなり緊張している様子が見受けられた。

 今回の第二回『世界武道大会』は先年の第一回もそうであったが、まだまだ試行錯誤している最中なので、若干手探り状態なのだ。

 なにせ帝国がその版図と同盟国及び友好国が、この1年だけでも3倍は膨れ上がっていて、その都度それぞれの国から参加者を募ったので、後から後から参加者が増えて、結局途中で参加者を打ち切った経緯が有って、来年も同様の事態が考えられて、ルールも流動的になると想定されるからだ。

 それでも、今回の第二回『世界武道大会』が強行されるのは、先ず帝国自身が尚武の気質が強い(其れはそうだろう、何といっても帝国は戦争に勝つ事で版図を広げて来た)ので、当然の様に帝国民自身が向学心と武闘心を至上命題としている処が有る所為であろう。

 お陰で厳密な意味では選手では無いが、小等部・中等部・高等部の代表も演武を公開する為に、この『飛空艇』に搭乗している。

 ただ驚いた事に、そのメンバーにテオとエラの兄妹が代表に選ばれていて、小等部と中等部を代表して今隣に座って居るのである。

 考えてみると、この二人が我々と共に過ごした濃密な時間は、そんじょそこらの子供が体験できるレベルでは絶対に無く。

 然も、アスガルド城や学校現場で受けている教育は、凄まじいばかりの英才教育で有る。

 勉学は、学校の基礎教育を最初期からミッチリと受けて、賢聖モーガン殿から魔法教育の粋と基礎魔法工学を学び、格闘技は拳聖に剣術は剣聖に学んでいるのである。

 本人達も、アラン様とクレリア様のお側使えをする為に、日頃から頑張っているので、その習得スピードは尋常なものでは決して無く、大の大人と比べてすら高いレベルに有るのは知っていたが、まさか帝国中の同世代を代表する程になっているとはね。

 その事を聞いてみるとテオは、

 

 「まだまだ僕は、望むレベルに達して居ませんよ!

 アラン様とクレリア様の恩に報いる為に、お二人のお子様であるアポロニウス皇太子殿下の無二の忠臣になって、お支えするのが自分の望みです!」

 

 と随分と立派な申告をして、エラは、

 

 「その通りです!

 私も、アラン様とクレリア様の近習として恥ずかしくない成績を学校で取り、アポロニウス皇太子殿下の為に役立てる存在になるべく、日々此れ精進あるのみです!」

 

 と年齢からすると、信じられないレベルの受け答えをして来た。

 とても、アラン様を「アニキ!」と呼んで、幼い姿をみせていたクラン・シャイニングスターの頃が、まるで遥か遠い昔の様な成長を見せる二人の姿は、努力とは凄いものだと再認識させられた。

 

 5月23日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 ザイリンク公国の公都にある、第二回『世界武道大会』の会場である”コロシアム”では、各地方から選抜された代表達が大会前の練習に勤しんでいる。

 自分は、本来の職務である空軍の雑務を夜にズラして、日中は趣味と実益を兼ねた選手の安全管理の確認を、中央情報局の職員と一緒にしている。

 と偉そうに表面上の職務を作り、事実上の休暇を楽しめてるのは、ベックとトールにキリコのお陰である。

 この3人は、すっかり自分の留守中の実務を帝都コリントでこなし、ドラゴン達の進化も順調に進めていて、半ば部外者の様な自分より、軍の上層部への報告等は円滑にこなしているのだ。

 この分だと自分の側近として、空軍の軍政を任せられる貴重な存在になりそうだ。

 取止めもなくそんな物思いに耽っていると、「オオッ!」といったどよめきが聞こえて来て、何事かとどよめきの起こった人集りに近づいて行く。

 すると其処では、小等部と中等部の代表による演武の確認をしている剣聖と拳聖が、帝国の代表に模範演武をさせているのが解ったのだが、演武をしている帝国の代表でも二人の演武が特に素晴らしくて、各国の代表とそのコーチや監督が驚いていたらしい。

 何となく、その二人の目星が付く思いで伺うと、案の定テオとエラが模範演武を行っていた。

 二人は当然、帝国の基本剣術と格闘術である、コリント流を披露しているのだが、そのスピードと正確性は明らかに同年代とは一線を画し、段違いの高みに達している事が傍目に見ても感じられる。

 剣聖と拳聖に至っては、二人の演武を当然の様な顔で頷いている。

 いやいやちょっと待ってくれよ剣聖と拳聖様。

 あんたら、この二人に対してどんなレベルで鍛えているんだよ?!

 とてもでは無いが、テオとエラが到達している身体能力は、帝国の軍人レベルでも一般兵では勝てないと思わせるもので、下手をすれば一般親衛隊と同等と感じられた。

 此れは、我々もうかうかしていると、剣聖と拳聖が天塩に掛けた学生に、少なくても格闘分野で追い越されてしまうのか?!

 と有り得る未来を想像して、思わず背筋を冷や汗が流れるのを感じた。

 



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5月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『ロビン・フッド』と云う男》

 5月25日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 突然の雄叫びが起こり、”コロシアム”での飛び入り参加申請の受付所で騒ぎが起こった事が判った。

 どうやら、30人からなる集団が一悶着起こしてる様だ。

 

 「俺達は、ザイリンク帝国で由緒正しい『傲岸不遜流』の師範とその門弟だ!

 何故、著名な流派所属の我等が、予選参加しなければならないのだ!

 当然、『傲岸不遜流』の為にシード枠を提供するのが筋であろう。

 責任者を呼び出せ!」

 

 と何やら妙な連中が因縁を付けて来たようだ。

 そもそもこの『世界武道大会』ではシード枠なぞ存在せず、西方教会圏で知らぬ者の居ない、『神拳流』と『神剣流』の免許皆伝者であろうと、各地方での予選を勝ち抜いて選手として出場が決まっている。

 大体、『傲岸不遜流』などといった流派は聞いた事が無い。

 差詰、この『世界武道大会』に出場して有名になり、門下生を増やそうと画策して、無理矢理予選を戦わずに済ませようとの魂胆なのだろう。

 見かねて自分が取り押さえようと一歩を踏み出すと、間延びした声が聞こえてきた。

 

 「ここが、『世界武道大会』とか云う大会の会場かね?

 予選とやらに出場してえんで、案内してくんろ!」

 

 との声に振り向くと、其処にはノンビリとした顔をした男が佇んでいる!

 

 《馬、馬鹿な?!》

 

 『ナノム玉2』を服用して以来、自分の『探知魔法』の精度と気配に対する感度は、帝国軍内でも上位に位置するとの自負が有ったのに、至近距離に近づくまで一切気づかずに背後を取られたのだ!

 

 《何者?》

 

 思わず地面を蹴ってトンボを切り、コリント流の構えの基礎の一つ『前羽の構え』を取る。

 

 「そげに、警戒せんでも良か。

 おいは、驚かせる事が多いんじゃ、やけん気配を殺すのに慣れちもす」

 

 と、かなりキツい方言で語り掛けて来たので、改めてその声の主である男を見つめた。

 

 《何故だ!こんなに容易に近づけた!》

 

 自分は構えこそ解いたが、心理的な警戒は解かずに、この男に近づき飛び入り参加申請の受付所に案内した。

 その間に、突然の男の出現に虚を突かれた『傲岸不遜流』の30人からなる集団も、ブチブチと文句を言いながらも、飛び入り参加申請を出していた。

 自分は、この男の事が気になり、男が参加申請を出し終わってから、是非自分に同行して貰いたいと頼み、了承を貰ったので自分達の泊まっているホテルに連れて行った。

 男は、どうやら荷物を詰めているらしいズタ袋を肩に担いで自分に付いて来てくれた。

 暫く歩いてホテルに着いて部屋を都合して貰って、腹が減っていると言われたので、ホテルのレストランに連れて行き、好きなだけ食べて良いと話すと、男は目を輝かせて喜びレストランのメニューを幾つか注文して行く。

 

 2人分程食べ終えて、一息ついた男に自身の生い立ちと『世界武道大会』に参加したい動機を聞いてみた。

 

 「おいは、ここより南部の辺境のジャングルで代々猟師をしとった一族でごわす。

 獲物は基本的に、鹿や猪そして熊を獲っていたでごんすが、最近は獲物の数がめっきり少なくなって来たでごわんで、仕方無く奥地に入りオークやヘルハウンドそしてオーガを駆除して、採れた魔石を近場の街に出向いて、冒険者ギルドに売ったでごわす。

 その売って得た金で、一族が欲しがっている品を買おうと、街の雑貨屋に向かって行く途中で、モニターなる珍しい魔道具に人が群がっているのが見えたでごわす。

 何とも不思議なその魔道具を暫く眺めていると、近々『世界武道大会』なる催し物が有ると宣伝していたでごわす。

 然も、その『世界武道大会』では、各部門の1位から5位まで賞金が出て、更にオブザーバーで参加する拳王と剣王に挑戦する権利まで貰えて、もしその拳王と剣王に良い勝負を納めれば、総合優勝者として1億ギニーを貰えると書いていたでごわす。

 こいは、滅多に無いチャンスと思い、一族の長老に許可を願いでち、走ってこのザイリンク帝国の帝都までやって来たでごわす」

 

 と男は話してくれた。

 どうやらこの男の住む田舎は、未だにザイリンク帝国が滅んで、人類銀河帝国に併合された事実も把握して居らず、現在インフラ整備が進んで街同士の行き来も、トレーラーを改装したバスが使用されていて、この『世界武道大会』に参加希望者は、無料で利用出来る事も知らなかった様だ。

 そして先程の気配を断つ技術を尋ねると、猟師として獲物を狩る際に周りの木々や草花に気配を同化させる、一族特有の技術だと判った。

 成る程、世に知られていない技術は此の様に人知れず埋没しているのか!と感心しながら話しを聞いていると、どうやら食事に満足した男が、金を払おうと言い出したので、手を振って押し留めた。

 

 「嗚呼、気にしないで良いよ、このホテルは我々帝国が借り上げているので、全ての飲食は経費として精算されるし、君の技術の話しを聞けただけでも充分な収穫だったよ。

 それに、『世界武道大会』が終わるまでの滞在費と飲食代金は帝国が持つから、遠慮しないでくれ」

 

 と喋って漸く傍っと気付いて、男の名前を聞いてみた。

 

 「こいは、失礼でごわした。

 おいの名前は、『ロビン・フッド』と言うでごんす、これから『世界武道大会』が終わるまで、世話になりもんど!」

 

 と男は、快活そうな笑いを顔に浮かべてくれた。

 



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5月の日記⑤(人類銀河帝国 コリント朝2年)《弓術の神技》

 5月26日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 自分は、朝食を共に摂った『ロビン・フッド』と一緒に、昨日受付た飛び入り参加申請の案内に従い、『弓矢等遠距離部門』の予選に向かった。

 『弓矢等遠距離部門』の予選は、100メートルの距離を開けた的に対して、矢かそれに準じた投擲武器を中心に向けて放ち、その成績順に決勝に残る事になっていて、各地方選抜ではこの予選は既に終えていた。

 しかし、この飛び入り参加だけでも2000人に及ぶ応募者が居て、予選会場は参加者とその関係者でごった返している。

 些か辟易として居る所に、知り合いが訪ねてきた。

 

 「おや、てっきり他の部門の見学に行って居られると思っていましたが、『弓矢等遠距離部門』の見学とは想定外ですな」

 

 と西方教会圏では異装の出で立ちで、やって来たのは先日まで共に轡を並べていた、『岳飛』殿と『霍去病』殿だ。

 

 「お久しぶりです、『岳飛』殿に『霍去病』殿。

 お二人も見学に?」

 

 と聞くと、

 

 「否、我々二人も昨日に飛び入り参加申請をさせて頂き、本日の予選を受けに来たのだよ」

 

 と、アッサリと答えて、予選会場を見回す。

 すると、若干の騒ぎが予選会場で起きている様だ。

 どうやら、『ロビン・フッド』殿が係員に対して注文している様で、係員も困った顔をしている。

 自分も『岳飛』殿と『霍去病』殿を連れて現場に行くと、どうやら『ロビン・フッド』殿が予選内容が簡単過ぎると文句を言っているようだ。

 

 「こがに、簡単な試験では同率1位が多く出すぎて、決勝戦に出る人数が多くなって面倒でかなわん。

 それより、予選を難しか内容にして、最初から絞るのが合理的ぞな!」

 

 と係員と自分に言ってきたが、今回が『弓矢等遠距離部門』の大会部門での初競技なので、次回からは検討する旨を説明すると、不承不承ながら了解してくれた。

 

 「しかし、こげな動かん的に矢を射るのは、おいの誇りが許せんぞな!

 仕方無かが、一遍に射ちもす!」

 

 と『ロビン・フッド』殿が言うやいなや、5本の矢を同時に弓につがえると、禄に的を水に一斉に矢を放った!

 

 エッ!と思う間もなく、5本の矢は5本とも狙い違わず、5個の的のど真ん中に突き立った!

 その神技を見て、周囲に居た予選参加者が一斉に息を呑むのが聞こえる中、無造作に『ロビン・フッド』殿が係員に予選大会用に借りた弓を返していた。

 自分初め多くの関係者が、呆気にとられる中、『ロビン・フッド』殿は、

 

 「やはり、簡単でごわす。

 距離も短すぎるでごわんで、クリアする者が多く出るぞなもし」

 

 と苦々しく呟いていたが、どう考えても今の神技を再現する者が多く居るとは考え難い。

 

 そう考えていると、順番になった『岳飛』殿が笑いながら自分に話しかけた。

 

 「ケニー大佐!

 先程の方とはまた違う技をお見せしよう!」

 

 と言われるやいなや、素早い動きで矢をつがえ無造作に放った。

 矢は当然の様に的の中心を穿つが、『岳飛』殿は素早く第二射の矢を放つ。

 何と其の矢は、矢羽根の尻の部分である矢筈に突き立つ!

 そして、次の的でも同様に第一射の矢が中心に突き立ち、第二射の矢が第一射の矢の矢筈に突き立つ!

 此れが計5回繰り返されて、先程の『ロビン・フッド』殿の神技に感嘆していた面々が、同等の神技にホーッ!と溜め息をついた。

 

 すると続けて順番になった『霍去病』殿が、

 

 「流石『岳飛』殿!

 『神弓』の称号は伊達では無いですね。

 ですが私も『弓聖』の称号に賭けて負けませんよ!」

 

 と呟くと、見当違いの上方に向けて矢を放ち、続けざまにやや左と右、そしてやや上と下に向けて矢を放つ!

 どうして?と疑問が浮かぶが直ぐに答えが出てくれた。

 5射した矢が同時に5此の的の中心に突き立ったのだ!

 つまり最初に上方に射った矢が弓なりに的に突き立つ間に、時間を調節したそれぞれの方向に射った矢が曲射で個別の的に、同時に突き立つ様にしたのだ!

 

 この技も、前の2つの技と負けていない、正に神技と称して良さそうだ。

 周囲が騒然としている中、自分と他の3人は予選会場を退出して、滞在しているホテルに向かう。

 道中歩きながら、先程の神技を褒め称えると、心外だと3人ともに言ってきた。

 疑問に思い、何故か?と問うと、3人共に同じ事を述べた。

 

 「可笑しな事を仰いますねケニー大佐!

 正直、先程の弓矢でやった技を、帝国軍では『ナノム玉』を服用した軍人ならば、殆どの者が攻撃魔法で同様な事が出来るでしょう。

 我々弓使いにとって、その事実を突きつけられた瞬間は、今までの修練を否定された思いで、立ち直るのに苦労しましたよ!」

 

 と『岳飛』殿が言われて、他の2人も「其の通りだ!」と言わんばかりに頷いている。

 考えてみれば、自分でも『ファイアーアロー』等の攻撃魔法を使用すれば、確かに同様な事が出来る。

 但し、其れはあくまでも帝国の魔法技術の習得プログラムの優秀さと、『ナノム玉』のお陰であり、魔力を介在させずに同等の攻撃力で敵を倒せる技術は、決して碑下される物ではない。

 その事を3人に告げると、3人共にややはにかみながら笑ってくれた。

 自分は、何とかこの弓術の良さと発展性を、アラン様と相談してみると3人に伝え、3人も「お願いする!」と同意してくれた。

 



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6月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『徒手空拳部門』の予選》

 6月1日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 『両手持ち武器部門・近距離武器部門』の予選大会も終え、『弓矢等遠距離部門』では案の定『岳飛』殿と『霍去病』殿そして『』ロビン・フッド』殿が決勝戦に出る事が決まっている。

 本日は『徒手空拳部門』の予選大会が行われていて、その様子を知り合いと共に見学に行く。

 

 崑崙皇国や帝国の上層部も先日全員到着し、元の皇城を改装した巨大な迎賓館及び宿泊施設となっていて、連日帝国の華族や崑崙皇国の貴族その他の王族を交えた各種のパーティーが繰り広げられている。

 しかし、やはりそんな上流階級の集まりが、性に合わない連中は自分達の様に予選大会会場に直接来て、現場の雰囲気を楽しんで行くのが最近の恒例になっていた。

 

 そんな我々が予選会場に着くと、凄まじい数の飛び入り参加の予選が行われている。

 考えてみれば、徒手空拳部門への飛び入り参加者は1番多い事は予想された。

 何故なら、例え腕に覚えが無くても徒手空拳部門への応募だと言えば、武器を持たずとも移動費・宿泊費が無料で『世界武道大会』への参加と見学が出来るのだから。

 まあ、帝国としても、そういう輩が一定数居るのは想定内なので、そういう輩用の宿泊施設と大食堂は用意しているから、今のところ問題は発生していなかったが、本当にこんなに飛び入り参加申請するとはな。

 ざっと見て1万人は予選会場に居る様で、帝国から出向して来た係員もてんやわんやだ。

 

 なので予選方式も、各100人ずつのバトルロイヤルを10会場で10回ずつ行う様だ。

 何とも荒っぽいが、決勝戦も同じくバトルロイヤルをするので、この形式で勝ち上がらないのであれば、しょうがない。

 

 そんなごった返す会場で一際騒然としている会場が有った。

 その会場では、例の『傲岸不遜流』とか吐かす流派の師範とその門弟30人程が、同一の会場のバトルロイヤルに出場した様だ。

 其の組み合わせに文句が有ったのか?と確認に出向くと、どうやらそうでは無くて何やら一人の男といざこざを起こしているらしい。

 当初は至近距離で男と『傲岸不遜流』とか吐かす流派の師範とその門弟30人程が、向き合っていると勘違いしていたが、近くに寄ってそれが全くの誤解なのに気付いた。

 そもそも男は立って居なかったのだ!

 正確に言うと座って、『傲岸不遜流』の連中の言い分を聞いてやっていた。

 何故なら、男は大きすぎたのだ。

 どうも、男が大きすぎた所為で、後ろに居た『傲岸不遜流』の連中が係員の説明する仕草が見えず、本来分散する予定だった『傲岸不遜流』の面々が間違えて同じ会場で、戦い遭う羽目に陥ったと云う事らしい。

 だが、そもそも事前に渡されていた参加者用に資料に、バトルロイヤルの規定は書かれていたので、確認しなかった『傲岸不遜流』側が悪いのは一目瞭然だった。

 

 結局大会規定により、『傲岸不遜流』側の言い分は通らず、30人全員が同じ会場で戦い遭う羽目になった。

 

 「ドオオオオオオオーーーーーン!」

 

 と云う太鼓の音と共に、10会場で一斉にバトルロイヤルが始まり、全ての会場が喧騒に満ち溢れた!

 

 そしてそのままの流れで、見ていた件の会場では、当然例の大男と『傲岸不遜流』の連中が対峙する事になった。

 

 最初から喧嘩腰の『傲岸不遜流』の連中は、大男を罵倒しながら弟子達が殴り掛かる。

 しかし大男は何と立ち上がりもせずに、五月蝿い蝿を追い払う様に片手で『傲岸不遜流』の弟子たち5人を払った。

 その瞬間『傲岸不遜流』の弟子たち5人は、何かの冗談のように5メートル程吹っ飛んで、そのまま起き上がらなくなった。

 周りの会場では、大声や奇声が上がる中、この会場の100人(既に5人戦闘不能だが)は水を打ったように静まり返った。

 そんな静寂の中、徐に大男はゆっくりと立ち上がった。

 

 《デ、デカイ!》

 

 大男は、自分が出会ってきたどんな人類よりも大きかった!

 今まで出会ってきた人類で最大と思われる人物は、文句無く崑崙皇国の『楊大眼』殿だが、眼の前に居る大男は明らかに崑崙皇国の『楊大眼』殿よりも一回りか一回り大きい。

 確か『楊大眼』殿は自己申告で、2メートルを優に越えていると言っていたので、大男は少なく見積もっても2メートル40センチは上背が有る事になる。

 かなりその大男の大きさに驚いたのか、『傲岸不遜流』の師範と思われる男は、金切り声を上げた。

 

 「弟、弟子達よ!

 構わないから、このウドの大木を取り囲んで一斉に掛かれ!

 そうすればこのウドの大木も、ひとたまりもなく倒せるに違い無い!」

 

 と、随分情け無い宣言を言い放ち、師範は弟子達の背後に回って指示を出し始めた。

 大男は、如何にも煩わしそうにその太い指で頭を掻き、ぐるりと辺りを見回し、近くに居た『傲岸不遜流』の弟子の一人を掴むと、そのまま『傲岸不遜流』の弟子達に向かって投げ飛ばした!

 何とも無造作で強引な話しだが、そんな事を5回程繰り返すと、30人から居た『傲岸不遜流』の弟子達は一人遺さず倒れ伏している。

 その様子を弟子たちの背後に居て、一部始終見ていた『傲岸不遜流』の師範は、茫然自失の体で立ちすくんでいたが、大男が目の前に迫ると漸く思い出したかの如く、「キエー!」と奇声を上げて大男に殴り掛かる!

 そんな『傲岸不遜流』の師範の両頬を挟み込む様に、大男はその大きな両手で「パンッ!」という音を上げて打ち鳴らした!

 『傲岸不遜流』の師範は、そのままものも言わずにバタンと音を立てて、仰向けに倒れてしまった!

 結局その予選のバトルロイヤル会場は、残りの参加者全てをこの大男が、殆ど苦労せずに99人全員倒してしまった。

 この一連の強烈なインパクトは、会場に設置されたカメラで会場とその外のモニターで中継され、今夜の『世界武道大会』に注目している皆の話題として、酒の肴となった様だ。

 



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6月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝2年)《テオとエラの演武》

 6月2日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 昨日の『徒手空拳部門』の予選も終わって、全ての部門の決勝戦出場者も決まり、人類銀河帝国皇帝にして大会主催国の代表で有るアラン様は、モニターで明日からの第二回『世界武道大会』の主旨と展望を述べられた。

 

 「西方教会圏全ての国家、そして北方諸国及び崑崙皇国とその周辺国家の国民の方々とその代表の方々の協力のお陰で、かくも大規模な大会を開催出来る事を、人類銀河帝国代表たる私アラン一世は大変感謝しております。

 各国の協力のお陰で、先年の様に急遽集合させて無理矢理開催するしか無かった第一回『世界武道大会』と異なり、今回のの第二回『世界武道大会』は西方教会圏だけでも地方大会が行われ、教育機関で有る『学校』でも教育カリキュラムに於いて、この大会を目標としたプログラムが組めました。

 何れはこの様な身体を使った大会だけで無く、科学・魔法・芸術等の分野でも大会を開催したいが、我が帝国に於いても未だ完全な交通インフラや『学校』での教育が行き届いていないので、武道の様に応募者の身体一つだけで開催出来る様な事は出来ておりません。

 しかし、この大陸を覆っていた戦乱も或る程度落ち着いた現状、何時かは今回の第二回『世界武道大会』以上の大会を、文化面でも開催出来る様に我が帝国は努めて参る所存!

 各国の代表に於いては、帝国への協力を今後もお願いしたい!

 その為ならば帝国は、各国に対し惜しみ無い援助を確約しようと思う!」

 

 とアラン様は宣言された。

 此れを受けて各国は、公式な声明を発表し今大会と同様かそれ以上の協力を、帝国に打診した様で、帝国からも返礼を直ぐに打診したそうだ。

 この夜の大会前夜祭には、各国代表以外にも、著名な人物や大富豪そして様々な業界人が列席した、大規模なパーティーが元皇城の迎賓館で執り行われ、自分と家族も招かれて参加した。

 実際の処、そんなにこの様な上流階級だらけのパーティーは、肩が凝るばかりで辟易するので、程よい処で退出させて貰い、ミーシャと息子のケントを連れて空軍が借り上げているホテルで家族水入らずで過ごさせて貰った。

 

 6月3日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 朝9時から開会式が盛大に行われて、直ぐに小等部と中等部による演武大会が始まった。

 小等部は、体格的な面もあり『徒手空拳部門』の演武のみで、各地方の選抜で選ばれた男子女子の20人程が、コリント流と神拳流つまり、『学校』の正式授業項目を一人ずつ演武して行く。

 そしてとうとうエラの番となり、エラの事を良くしる自分と妻のミーシャは、固唾を飲んで見守った。

 すると、エラは子供とは思えない堂々とした居住まいで、”コロシアム”に作られた舞台の中央に進むと、大会主催者の席に座る、アラン様ご夫妻とクレリア様の腕に抱かれたアポロニウス殿下に大きく会釈して、これ迄の演武者と同じコリント流と神拳流の型を演武し始めた。

 

 ”其れは美しかった!”

 

 エラと同じ年齢層の小等部の学生と同様の内容なのに、その躍動感!その素早さ!そして跳躍力!が全て桁外れで、観る者を陶然とさせて、モニター越しの観客が思わず溜め息を零している事が、容易に想像できた!

 

 そして1連の型を終了させて、再度アラン様ご夫妻とクレリア様の腕に抱かれたアポロニウス殿下に大きく頭を下げて舞台から降りてくると、此の場にいる観客は全てといって良いほどの人数が、スタンディングオベーションをして、会場は拍手喝采の渦に巻き込まれ、暫くの間拍手の波は収まらなかった!

 

 続いて中等部による演武大会が始まった。

 中等部は『徒手空拳部門』の演武と『近距離武器部門』の2つで、小等部同様の演武と人体に似た人形に対しての演武も行う。

 

 やはり中等部ともなると、高学年の学生は殆ど大人と変わらない者も居るから、迫力が半端では無くて、型を行っているだけで迫力が有る。

 

 そして人形に対しての演武となると、その迫力は更に増して絶え間ない連打や、力強い打ち込みには観客も、各演武者が演武を終える度に惜しみ無い拍手が巻き起こっていた。

 

 そしてとうとうテオの番が回ってきた!

 テオは顔を紅潮させながらも、シッカリとした足取りで舞台中央に陣取ると、妹と同じくアラン様ご夫妻とクレリア様の腕に抱かれたアポロニウス殿下に大きく頭を下げて、挨拶を終えると「ハッ!」と気合いを入れて演武を開始した!

 

 《やはり兄妹だな、動きがそっくりだ!》

 

 流石と言うべきか、妹で有るエラを彷彿とさせる優美な動きの中にも、やはり男の力強さを見せるその演武は、又も観客の目を釘付けにして、殆どの者がその動きに魅了されていた!

 そして、エラの時と違う人体に似た人形を使う試技をテオが披露する。

 何とテオは人形の頭部目掛けて、凄まじいスピードの回転蹴り、コリント流に於ける蹴り技『旋風』を放つと、そのまま宙を駆けて、昇竜脚と降竜脚を放ち、止めに踵落としを叩き込んだ!

 その流麗と云える動きは、正にアラン様を彷彿とさせて、テオが如何にアラン様に近づくために努力したのかが痛いほど判った!

 続いて、『近距離武器部門』の演武で、テオはオーソドックスな剣を構えると、コリント流の基礎技とも云うべきコンボを人形に叩き込んだ!

 その正確に人体の急所に当ててみせる剣技は、テオがどれ程この基礎技コンボを繰り返して習得したかが判った。

 そして、暫く幾つかの基礎技を人形にテオは叩き込み、突然剣を下段から掬い上げる様に人形を空中へと浮かす。

 次の瞬間!

 テオの目が強い眼差しとなると、テオが或る構えを取った!

 

 《その構えは!》

 

 そう、その構えこそは、帝国軍人がコリント流剣術 の奥義として学ぶ最初の技『ジャスティス・ジャッジメント』!

 上段に構え、己の中にある魔力を剣に通してその凄まじい剣速と共に、剣を地面ごと切る程の勢いで振り切る事を極意とする極め技である!

 シッカリとその極意を理解して放ったコリント流剣術 奥義『ジャスティス・ジャッジメント』は、物の見事に人形を唐竹割りに頭頂部から一直線に真っ二つにした!

 

 「オオオオオーーーーーッ!!」

 

 予めこの演武で使用する剣は、刃の部分を潰していて、通常の方法では人形を斬る事は叶わないと理解している観客は、中等部の学生で有るテオが、完璧にコリント流の奥義を習得している事に喝采を上げて称揚したのだ。

 

 観客が全員スタンディングオベーションを上げる中、テオは全ての演武を終えて満足そうに頷くと、アラン様達家族に向き直ると、深々とお辞儀した。

 アラン様とクレリア様も大きく頷き返していたが、その時一つの事が起こる!

 クレリア様の腕に抱かれ、物珍しそうに学生の演武を見ていたアポロニウス殿下が、明確にその小さな両手をパチパチと叩かれたのだ!

 そのアポロニウス殿下の明らかな意思表示に、1番驚いたのはどうやら褒められた当のテオらしく、直ぐにその場で大きくもう一度頭を下げたが、アラン様とクレリア様がテオを主催者席に呼び、アポロニウス殿下直々にテオを褒めさせてくれた。

 テオはアポロニウス殿下の小さな拍手を目の前で見せられて、耐えられなくなったのか土下座する。

 そのテオをアポロニウス殿下は、「アー、アー、」と言われながら、にこやかな笑顔で見られている。

 アポロニウス殿下のあまりにも愛らしい仕草に、全ての人が和み、全ての小等部と中等部による演武大会が終わりを迎え、昼食の為の休憩時間が取られたが、想像を超える小等部と中等部の演武に、人々は興奮しながら会話してそれぞれが食事を摂った。

 



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6月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『両手持ち武器部門』①》

 6月4日①(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 昨日は午前の小等部と中等部による演武大会と、午後の高等部の演武大会と神拳流と神剣流の年少弟子達の合同演武により、成年以下の若者達の武道を如何無く観客達に観せた。

 そして、今日からは本大会の武道会が各部門で開催される。

 本日は、『両手持ち武器部門』の決勝大会が行われ、優勝者まで決められる。

 各地方の予選と、先日の飛び込み申請を経て選抜された20名が、勝ち抜き戦を戦う。

 『両手持ち武器部門』と云う事で、両手で持つ長物の武器と片手ずつに武器を持つ、武道家が戦い合うのだが、中には珍しい武器を使用する武道家もいる。

 正にその典型と云える試合が行われたのが、勝ち抜き戦の2戦目で、一方は一般的な長さの槍で、対戦側は『ウルミ』と云う武器で有った。

 『ウルミ』と云う武器は、フレキシブルソードとも呼ばれ、柔らかい鉄で作られた長剣であり、普段はベルトのように腰に巻きつけているが、剣として使う場合は幾重にも分かれて波打つ様にうねって巻き付かせる様に使用する。

 この『ウルミ』を使う武道家は、西方・北方・東方で一切見なかった、肌が黒い異邦人で顔も真っ黒でとても珍しい。

 だが、陶然この『世界武道大会』はどの様な人種性別が不問で参加出来る、

 彼は、飛び入り参加の予選を勝ち残っていた。

 

 「ドオオオオオオオーーーーーン!」

 

 と開始の太鼓が叩かれて、空気が震動する中、試合が開始された。

 因みに武器は、自身の武器でも大会運営側が用意しても良いのだが、この”コロシアム”のアーティファクトとしての能力で、全ての武器に殺傷能力を失わせている。

 なので槍は人を貫けないし、ウルミは肉を切り刻む事が出来ない。

 精々、人や武器に巻き付く事が出来る程度だろう。

 だが、如何に殺傷能力が無かろうが、打ち身や青痣を残す事は可能なので、当然”コロシアム”には、相当な人数と腕の確かな医療施設とスタッフが併設された建物に準備万端で、配置して有った。

 

 真っ黒な男は、両手に持つウルミを旋回させて、自身の周りに一種の結界を構築した。

 槍を構えた対戦相手の男は、想定外の武器への対処方法が無いようで、かなり腰の引けた槍の突きを繰り出した。

 そしてそれを見越した真っ黒な男は、ウルミを回してその中途半端な突きを行う槍をたちまち巻き上げて、対戦相手から槍を取り上げた。

 そして得物を取り上げられた対戦相手は、呆然としてる処を審判から、続行するかと聞かれると降参した。

 

 この様な対戦が、幾つか行われて勝ち抜き戦が進み、4人が勝ち抜き準決勝戦となった。

 その面子は、第一準決勝戦『趙匡胤』殿VS『マルコ』(ウルミの使い手の真っ黒い男)。

 第二準決勝戦『シュバルツ』殿VS『蘭陵王』殿。

 

 早速第一準決勝戦が開始される。

 趙匡胤殿は愛用の大薙刀を轟々と頭上で旋回させ、マルコのウルミによる結界に堂々と踏み込んだ!

 マルコは、ウルミを四方八方から趙匡胤殿に向けて放ち、巻き付かせようとした!

 それに対して趙匡胤殿は愛用の大薙刀の先端部分に、敢えてウルミを巻き付かせ、そのまま一気に引っ張りマルコはタイミング悪く趙匡胤殿と武器越しに引っ張り合おうとしたが、力の差が有りすぎて趙匡胤殿に向けて体勢を崩された形で引っ張られる。

 その対戦相手のマルコに向けて、趙匡胤殿は両手を揃えた構えを取り、マルコの腹部に向けてそのまま揃えた両手を叩き込んだ!

 

 「崩拳!」

 

 と趙匡胤殿は呟かれ、マルコはガクガクと震えて地面に突っ伏すと、ビクンビクンと震えている。

 審判は当然趙匡胤殿を勝者と判定し、第一準決勝戦は終了した。

 

 5分間の舞台の清掃の後、第二準決勝戦が開始された。

 シュバルツ殿と蘭陵王殿の得物は、奇しくも双方双剣であり、然も敢えて己の愛剣では無くて大会側が用意した試合用のなまくらで有る。

 なので、双方共に一撃で相手を倒そうとは最初から考えておらず、明らかに武器が保つ限り斬り合おうとの意図が読み取れた。

 

 「ドオオオオオオオーーーーーン!」

 

 との太鼓での合図で第二準決勝戦が開始すると、双方共に一気に突っ込む!

 

 「キキキキキーーーーーーン!」

 

 凄まじいばかりの連続した金属が弾き合う、独特な音が響く中、シュバルツ殿と蘭陵王殿は同じ様な笑みを口元に貼り付けて、50合程斬り結んだ!

 

 双方の技量に明確な差を自分では判断出来ないでいて、決着を予想出来ずに居ると、蘭陵王殿がヒラリと空中に舞を舞う様に跳ぶ!

 次の瞬間蘭陵王殿の双剣が閃き、頭上からの攻撃をシュバルツ殿が双剣で捌く。

 信じ難い事に蘭陵王殿は、一度地面に着地すると、圧倒的な滞空時間の中でかなりの回数双剣で、シュバルツ殿に斬りかかった。

 蘭陵王殿が空中での攻撃による立体殺法を繰り出してきてから、シュバルツ殿は若干追い詰められ始めたようだ。

 なので嵩にかかって蘭陵王殿は、空中からの攻撃に重点を置き頭上からの攻撃を増やす。

 それに対してシュバルツ殿は、防御に専念し始めたと思える様な体勢になり、徐々に身体が小さくなった様に縮こまった様に見えた。

 其処に止めとばかりに、蘭陵王殿は上からの強力な斬撃を放つ!

 しかし、その斬撃がシュバルツ殿に届く瞬間!シュバルツ殿の身体が爆発した!!

 其れはワザと縮こまったシュバルツ殿が仕掛けた罠で、そして其れは或る技の始まりであった!

 

 《あ、あれは?!》

 

 そう、その技は帝国軍の必須取得剣術で有るコリント流剣術に於いて、奥義とされる秘技!

 つまり、神剣流の免許皆伝者である剣王『シュバルツ』殿が、面子や体面にこだわらずコリント流剣術の奥義を繰り出したのだ!

 

 シュバルツ殿の身体が爆発した様に見えたのは、実はシュバルツ殿自身が気をワザと窄ませて、ここぞと云う瞬間に一気に全身から発勁として解き放ち、相手に喰らわせるのである!

 そしてその所為で、空中に縫い留められる様に固定させられた蘭陵王殿に向かい、シュバルツ殿は己の双剣に有らん限りの気を込めてぶち込んだ!

 避ける事も出来ずに蘭陵王殿はそのまま空中高く打ち上げられ、舞台外に落ちた。

 

 「コリント流剣術奥義『ビックバン・バースト』!」

 

 そう確かに今の技は、コリント流剣術奥義『ビックバン・バースト』に少しシュバルツ殿向けに変えた技であった。

 流石に此の様な秘技は、崑崙皇国には存在しなかったのであろう、蘭陵王殿は白目を剝いて気絶していた。

 審判は直ちに判定を下して、舞台脇に待機していた医療部隊に蘭陵王殿を回収させた。

 

 そしてシュバルツ殿にも休憩時間をシッカリと取らせ、30分後に決勝戦を行う旨を宣して、第二準決勝を締めた。

 



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6月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『両手持ち武器部門』②》

 6月4日②(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 2回の準決勝戦が終わり、決勝戦を行う前にアラン様家族の元に向かった。

 アラン様とクレリア様がにこやかに笑って出迎えてくれて、クレリア様の腕に抱かれていたアポロニウス殿下が、いち早くミーシャの腕に抱かれた息子のケントを見つけて、小さな手を懸命に伸ばしてケントと手を握り合おうとして来た。

 それに対して息子のケントも、小さな手を懸命に伸ばしてアポロニウス殿下と手を取り合おうとしている。

 クレリア様とミーシャは、近くに設置されていた木製のベビーコート(2メートル程の囲い)に赤ちゃん同士を入れてあげる。

 アポロニウス殿下と息子のケントは、「キャッ、キャッ、」と騒ぎながらずり這いして、お互いに近づき、お互いの手でお互いの身体をペチペチと叩いたり撫で回している。

 その姿を横目に見ながら、先程の準決勝戦とこれから始まる決勝戦の話題でアラン様と自分は盛り上がり、クレリア様とミーシャは赤ちゃんの話題で盛り上がってる。

 やがて30吩経って、シュバルツ殿と趙匡胤殿が舞台に両側から上がっていく。

 此れ迄の戦いぶりと、今までの二人の戦歴や活躍がモニターを通して紹介されて、観客の興奮は更にボルテージを上げて行くので、”コロシアム”内外の熱気は鰻登りである。

 自分達が見学している場所に、シュバルツ殿の妻であるターニャさんが合流して来て、娘さんのエレンちゃんをそのまま息子達の居るベビーコートに入れてあげている。

 赤ちゃんズの中でも一番小ぶりのエレンちゃんは、息子達の中でもアイドル扱いで、アポロニウス殿下と息子のケントも手荒くしないで、ニコニコ笑いながら与えられた『ミルク・ボーロ』を手渡して来て、エレンちゃんが食べてくれると盛んに喜び合っている。

 そんな場違いに和んだ場に比べて、舞台ではシュバルツ殿と趙匡胤殿が向かい合い、戦意が高まっているのが伝わってくる。

 

 「ドオオオオオオオーーーーーン!」

 

 というお馴染みの太鼓の音が鳴り響き、決勝戦の試合が開始された!

 

 シュバルツ殿と趙匡胤殿は、互いに双方の実力が抜きん出ていて、己と伯仲している事が判る所為か、ジリジリと間合いを測りながら同心円に回っていく。

 やはり得物が大薙刀であるだけに間合いが長い趙匡胤殿が、一歩踏み込んで仕掛けた!

 地摺りの構えから、一気に突き上げる様な斬り上げをシュバルツ殿にみまい、それを後方に下がって避けたシュバルツ殿に対し更に一歩踏み込んで上段から斬り落としを叩き込んで来る!

 それを横に避けてシュバルツ殿は、横回転しながら双剣の片手斬りを趙匡胤殿に仕掛けたが、趙匡胤殿は斬り落とし終わった大薙刀を跳ね上げ気味に、横からシュバルツ殿に斬りかかる!

 それに対してシュバルツ殿は、片手斬りを仕掛けた逆の手の双剣で刃同士を合わせた!

 

 「ギイイイインンン!」

 

 と刃同士が上げる金属音が”コロシアム”全体に鳴り響き、双方が或る程度の距離をとった。

 こんな音を聞いたら、子供にとっては不快極まりないに違い無いと心配し、ベビーコートの赤ちゃんズを見ると何故か赤ちゃんズは3人共興味深そうに舞台を眺めている。

 

 《肝の座った子供達だな》

 

 とやや驚きながら赤ちゃんズに感心し、舞台に視線を戻す。

 普通の手合わせでは、埒が明かないと双方理解したらしく、二人共に轟々と己の武器を旋回させ始めた!

 然も双方共に得物を頭上で旋回させているのだ、シュバルツ殿に至ってはワザワザそうする事が出来る様に柄の部分が繋げられる様にして固定し旋回させている。

 すると充分勢いが付いたと見たのか、ほぼ同時に双方が突っ込んで行く!

 大薙刀をその旋回させてたスピードのまま、横薙ぎに趙匡胤殿はシュバルツ殿に斬りかかり、シュバルツ殿は横に旋回させてた双剣を縦方向にずらし、大薙刀目掛けて叩きつけた!

 

 「ガギイイインン!」

 

 と云う凄まじい音を上げて、大薙刀の刃部分と双剣の片刃が同時に壊れてしまい、またも双方距離をとった。

 しかし当然の様に、二人は壊れた部分を根本から外して、趙匡胤殿は大薙刀では無く棒術に、シュバルツ殿は双剣では無く片手剣として得物を振るい始めた。

 やはり双方共に、戦場を生きてきた戦人だけに、臨機応変に武器に固執せずに最善を選択して行動出来る様だ。

 暫くの間、剣技と棒術での技を存分に使用した武器同士の叩き合いを重ね合わせていたが、このままでは勝負が着かないと察したのか、双方がそれぞれ構えを取り、大技に掛かろうとしている事が、観客全員が理解した。

 

 「ハアッ!」

 

 と気合いを入れた趙匡胤殿は、身体の周りに棒自体を纏わせる様な動きをさせて、徐々に間合いを詰めて行く。

 それに対してシュバルツ殿は、神剣流には無い構えを取った。

 一見すると神剣流の基本型である中段の構えの様だが、実は全然違うのだ!

 この構えをコリント流剣術を学ぶ者は全てと言って良いほど知っている!

 何故ならコリント流剣術を学ぶ者は全ての者は、この技を習得する事を悲願としていて、常にこの最初の型から練習するのだから!

 先ずは、神剣流ではシッカリと剣を握り締めて構えるのだが、この技は逆に剣を軽く握り次の動作に繋ぐ為の予備動作とする為だ!

 案の定、シュバルツ殿は剣先を小刻みに揺らし始め、次の動作に繋ぐ為の予備動作を始めた。

 そして間合いが詰まった瞬間、趙匡胤殿の棒が予想出来ない背中に隠れて、思いもよらない右脇からシュバルツ殿に突き出された!

 しかし、このコリント流剣術の技の前には、意表を突く事はほぼ無理である!

 ガチガチに構えていない分、柔らかく剣先がその棒を払うと、そのままシュバルツ殿は技を発動させた!

 その柔らかい動きは、たちまち回避不能の連撃に置き換わり、趙匡胤殿は何時の間にか必死の防戦に徹し始めた!

 其れはそうだろう。

 何故なら、この技の型に巻き込まれた段階で対戦者の負けは確定しているのだから。

 そう、その技の名は『メテオ・ストリーム』!

 コリント流剣術最終秘奥義にして24連撃のコンボ技が繰り出される、回避不能の無敵の技で有る!

 未だにアラン様とセリーナ・シャロン両准将の3人しか、完璧に使いこなせないと思われていたが、やはり剣王たるシュバルツ殿は厳しい鍛錬と研究の末に習得したのだ!

 

 そして最後の鋭い打ち下ろしが終わると、まるで当然のように趙匡胤殿は舞台中央で倒れ伏していた。

 全く趙匡胤殿にとっては不幸な話だ。

 西方教会圏の者ならば、習得こそ出来ないがモニターでの特集番組でも取り上げられた程、有名なコリント流剣術最終秘奥義『メテオ・ストリーム』だが、まだ良好な関係になって日の浅い崑崙皇国では、殆どの人間がこのコリント流剣術の凄まじさを知らないだろう。

 

 そして、審判がシュバルツ殿に対して優勝を告げて、”コロシアム”が割れんばかりの喧騒に包まれた。

 自分達も拍手で以て、シュバルツ殿を褒め称えていると、隣から小さなパチパチと云う音が聞こえた。

 見ると、ベビーコートの中で3人の赤ちゃんズが、3人共懸命な様子で両手で拍手しているのだ、それに気付いた放送局のスタッフがカメラを赤ちゃんズに向けて、恐らくはハリーの指示で超大型モニターに赤ちゃんズが大映しになり、それが判ったシュバルツ殿は舞台から、自身の妻であるターニャさんと娘のエレンちゃんに向けて大きく手を振り喜びを伝えている。

 それが判ったターニャさんは、娘のエレンちゃんを抱えあげると舞台に向かい、シュバルツ殿も意図を察してターニャさんを娘のエレンちゃんごと抱えて舞台に引き上げ、家族で優勝を喜んだ。

 その姿は、非常に好感を持って迎えられて、その後のインタビューも家族で応じたので、皆顔を綻ばせてインタビューしていた。

 



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6月の日記⑤(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『弓矢等遠距離部門』①》

 6月5日①(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 昨日は、あの後3位決定戦も行われて、結局3位は蘭陵王で4位はマルコとなった。

 此等の成績への労いと敢闘を祝う優勝祝賀と、2位以下にもメダル(金・銀・銅・白)が与えられ、大会が終わり次第賞金の授与が行われる事が発表された。

 そして本日は、『弓矢等遠距離部門』の決勝戦が行われる。

 各地方の予選と、先日の飛び込み申請を経て選抜された20名が争い、成績上位者4名が準決勝を行い決勝戦で優勝を決める事となる。

 行う競技内容は、『クレー射撃』。

 左右と中央からのクレー(素焼きの円盤)がランダムに打ち出せれるので、それを射抜くか壊す事で点数が点く。

 

 殆どの者が、弓矢で出場しているが、一人のまたも肌の黒い男が何やら円形の武器で挑むらしい。

 モニターで紹介された資料によると、『戦輪』(チャクラム)という武器らしく、円盤の中央に指を入れて回しながら投擲するか、円盤を指で挟み投擲する武器だそうだ。

 中々変わった武器だと感心していたが、いざ競技が始まってその使い方を見ると、侮れないと認識を変えられた。

 その軌道が従来の遠距離武器である弓矢と異なり過ぎるのだ!

 投擲の仕方も変わっているが、一度として真っ直ぐに飛ばずに、常に楕円軌道を取って元の所有者に帰って来るのだ。

 此れは厄介だ。

 つまり『戦輪』(チャクラム)が壊れるか、得物に突き刺さったままで無い限り、何度でも同じ武器で攻撃される羽目になるので、単独同士の戦いでは、遠距離近距離での立体攻撃を警戒しなければならず、新しい教本が必要となると、軍人としての対策を考えてしまった。

 

 そうこうしている内に、成績上位者が決定した。

 案の定、選出されたのは。『岳飛』殿、『霍去病』殿、『ロビン・フッド』殿と『カッサバ』殿(『戦輪』使い)。

 この4人が準決勝を行う事になった。

 

 暫くの休憩の後、”コロシアム”の能力の一つで有る戦場変更が行われて、舞台が無くなり観客も2階席の防御バリアーがされた安全な席のみとなり、一階席は全て突起物だらけの障害物フィールド(戦場)となった。

 つまり、出場者は障害物を利用して、相手を欺きつつ攻撃するという特異な環境で戦うのだ。

 

 そして1回目の準決勝戦が始める。

 て1回目の準決勝戦は、『岳飛』殿VS『カッサバ』殿で両者が障害物フィールドの両端に姿を現す。

 

 「ドオオオオオオオーーーーーン!」

 

 開始の太鼓が叩かれて、空気が震動する中、試合が開始された。

 すると両者は直ぐ様に、自分の有利なポジションを取るべく突起物を背に、障害に成らない場所取りを探索している。

 この準決勝戦からは、観客と試合場の音とモニター観戦は遮断されていて、選手は己の感覚でしか相手を捕捉出来ない様になっている。

 観客は、2階以上の高さとモニターの状況説明で、選手の状態が把握出来ているので、落ち着いて観察出来ているが、当の本人達はどうやら双方共に1流な所為で、相手の居場所を把握出来ずに中々焦っている様だ。

 その状況に『カッサバ』殿は耐えられなくなったらしく、持っている『戦輪』の幾つかを、囮と牽制の為に投げる!

 恐らくは偶然であろうが、その1枚が『岳飛』殿が潜む突起物を破壊したので、『岳飛』殿は素早く身を翻す。

 しかし、チャンスと見た『カッサバ』殿は、残りの『戦輪』を1枚残して全て投げて来た!

 上下左右から迫る『戦輪』を、『岳飛』殿は持っていた弓を使い、棒高跳びの要領で跳躍した!

 

 「オオッ!」

 

 選手にこそ届かないが、『岳飛』殿のそのまるで芸術の様な美しく飛翔する姿は、観客全てを魅了し溜め息をつかせた。

 そして空中から、見事な身体能力で身を捻って矢をつがえると、『岳飛』殿は素早く放った!

 しかし、此れを読んで残していた『戦輪』で『カッサバ』殿は払うと、そのまま投擲しようと身構えた!

 だがその瞬間、審判が『岳飛』殿の勝利の裁定を下した!

 一瞬”コロシアム”全てが騒然となりかけたが、モニターに『カッサバ』殿の胸当てに刺さる1本の矢がクローズアップされたお陰で、納得いった観客の輪が広がり、鎮静していった。

 『カッサバ』殿も当初は気が付かなかった様だが、自分の胸当てに刺さっている矢を見て、驚愕しながらも納得して負けを認め、潔く会場から退場した。

 

 そして続く2回目の準決勝戦が始まる。

 『霍去病』殿VS『ロビン・フッド』殿の準決勝戦で有る。

 双方共に弓矢でのオーソドックススタイルだが、どちらも超一流の遣い手だけに、どの様な技が見れるか楽しみだ。

 

 「ドオオオオオオオーーーーーン!」

 

 という何時もの開始の太鼓が叩かれた。

 

 『霍去病』殿と『ロビン・フッド』殿は、一回目の準決勝戦と異なり、互いに居所を隠しもせずに積極的に矢を放ち、一見手数で相手を圧倒しようとしてる様に見えた。

 しかし、双方要所要所で障害物に見を潜めて矢の攻撃を躱し、障害物に刺さったままの矢を回収しながら攻撃するので、双方ともに矢弾が尽きず長期戦の様相を帯びてきた。

 だが、決着は誰もが予想しなかった形で迎える事になった。

 

 若干の停滞と云うより小休止の時間が流れて、『霍去病』殿は切り札と思われる、曲射の連続射撃を放った!

 しかし、確かに今までその場に居た筈の『ロビン・フッド』殿が、逃げ場も無く矢衾になったと誰もが幻視したタイミングで、忽然と『ロビン・フッド』殿が消えた?!

 

 「エッ?!」

 

 と会場に居た殆どの者が驚く。

 確かに消える前まで、『ロビン・フッド』殿はその場に居たと、観客も上からの俯瞰とモニター情報で把握していたのに、いきなり消えたのだ!

 一番混乱したのは、恐らく勝利を確信していた『霍去病』殿だろう。

 信じられない思いから、今の今まで居た筈の場所に走って確認に向かう。

 だが其処に有ったのは、人の大きさの障害物があるのみ。

 そして次の瞬間、僅かに2メートル離れた場所からの弓矢を受けて、呆気なく勝負が着いた。

 

 矢に射られるても信じられなかった様だった様で、審判に促されて『霍去病』殿は退場して行きながらも、しきりと首を傾げていた。

 実際、殆どの観客は、狐につままれた気分で、勝負が着いた事実に納得が行かず、そこかしこで皆騒然としている。

 だが、自分と幾人かの武道家は、その絡繰りとでも呼ぶべき、技術に気付いていた。

 まあ、自分の場合は初めて『ロビン・フッド』殿に会った時に教えられた、『隠形の術』で推測がついたのだが、殆どの人間にとっては怪しい手妻にしか感じられないだろうと思った。

 



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6月の日記⑥(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『弓矢等遠距離部門』②》

 6月5日②(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 午後からの決勝戦も同様の障害物フィールドでの試合なので、会場はそのままで行われる。

 昨日と同じ様に、子供達を木製のベビーコートに入れて、昼食後のデザートで有る『フルーツワッフル』を食べながら決勝戦の予想を、アラン様と昨日優勝したシュバルツ殿と共に語り合う。

 『岳飛』殿の実力は、自分とアラン様にとっては一緒に戦った仲間なだけに良く判っているが、『ロビン・フッド』殿の『隠形の術』の凄まじさは、先程の集団観戦を以ってしても見破れないレベルである。

 この事実にアラン様とシュバルツ殿と云う、帝国でも屈指の武道家が驚愕しきりで対策を中々立てられず、困惑しているのが全てを物語っていた。

 つまり、此の二人にして予想がつかないのだ。

 

 大人が難しい顔をしている中、ベビーコートに入れられている赤ちゃんズは、周りにクレリア様始め母親とお付きの女性陣から見守って貰いながら、楽しげに与えられた玩具を振り回して遊んでいる。

 周りの女性陣は、その赤ちゃんズの愛らしさに喜んで「キャー、キャー!」と騒ぎ、また側に群がる華族や貴族の観客も嬌声を上げて羨ましがっている。

 その声を聞いていると、鹿爪らしく今後の帝国軍の技術教員として『ロビン・フッド』殿を採用しようと、考えている自分達が、半分馬鹿らしくなって、昼ではあるがアルコールの入ったシャンパンを振る舞い酒として、周りの華族と貴族に提供し、ご婦人方にはアルコールの入らないシャンパンを勧めて、お祭り気分に浸る事にした。

 

 そして決勝戦の時間が来て、会場の両端に『岳飛』殿と『ロビン・フッド』殿が現れた。

 双方、弓矢を装備しているが、どうやらサブウェポンも装備している様だ。

 規定により、サブウェポンも近距離武器は禁止で、遠距離武器を選ばなければならないので、『岳飛』殿は『流星鎚』、『ロビン・フッド』殿は投げナイフを装備している。

 

 ドオオオオオオオーーーーーン!」

 

 開始の太鼓が叩かれ、選手二人は素早く障害物の間に姿を消した。

 まあ、ここは定石通りに動くだろうとは、皆が予想した通りなので驚きは無い。

 しかし、二人のあまりの隠れっぷりに、上から俯瞰している観客どころか、モニター上にも何処に潜伏しているか判別不能の?(クエスチョンマーク)が出たままなので、会場内外の観客が困惑してしまった。

 そのまま、緊張感に包まれた5分間が過ぎて、誰かがクシャミをして注意が削がれた瞬間、観客席の音が聞こえないはずの両者が、いきなり撃ち合った!

 距離は30メートルの近距離で、互いに複数の矢を相手に放ったが、双方相手に当てる事が出来ず、直ぐにまた隠れてしまった。

 中々心臓に悪そうな攻防だ、突然現れて攻撃しあい直ぐに消えてしまうのだから、戦場では厄介極まりない敵になるだろう。

 またも静寂が会場を支配していたが、出し抜けに障害物の幾つかが倒れると、『ロビン・フッド』殿がその障害物に紛れて姿を現した!

 すると、隠れていた『岳飛』殿も現れて共に矢を放つ!

 今回は、双方過たずに矢がお互いに突き立ったと見えた!

 だが、其れは早計に過ぎて、実際の処本人に見えたのは同じ大きさの障害物で、本人では無い。

 そして本人が近くにいるに違い無いと、『岳飛』殿が警戒しながら現場に姿を現すと、地面から投げナイフが突然投擲された!

 何と、『ロビン・フッド』殿は例の『隠形の術』を駆使して地面に潜り、『岳飛』殿が近づくのを虎視眈々と待っていたのだ!

 勝負あった!

 誰もが、『ロビン・フッド』殿の勝利を確信した次の瞬間、突然『流星鎚』が『ロビン・フッド』殿の背後から襲いかかり身体に巻き付く!

 

 《エッ!》

 

 観戦していた誰もが、目を疑ったのと同じか其れ以上に『ロビン・フッド』殿は驚愕した顔で、姿を表した『岳飛』殿と『岳飛』殿と思われた物を見比べた。

 姿を後から現した『岳飛』殿は、上半身に鎖帷子のみを着ていて、当初『岳飛』殿と思われた物は崑崙皇国の軽装鎧を着ていたが、何と鎧の下は紙が人の形を保っている!

 

 《符、符術か?!》

 

 人の形を保っていた紙は、暫くするとハラハラと人の形を失ってしまう。

 この術は、崑崙皇国での滞在等をして、知識として持っていなければ判らないだろう。

 審判が、『ロビン・フッド』殿の戦闘継続不能を確認し、『岳飛』殿の優勝を宣言する。

 

 その後、後3位決定戦も行われて、結局3位は『霍去病』殿で4位は『カッサバ』殿となった。

 此等の成績への労いと敢闘を祝う優勝祝賀と、メダル授与が行われ『弓矢等遠距離部門』の大会が幕を下ろした。

 



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6月の日記⑦(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『近距離武器部門』①》

 6月6日①(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 『近距離武器部門』の予選をくぐり抜けた20人が、決勝戦大会に臨む。

 またそれとは別の決勝戦が進行している。

 何と言っても、他の武器部門に比べても参加人数が多いし、帝国軍では無くても神剣流を学ぶ女性は多い。

 なので此の部門だけは特別に女性だけの部門が有って、既にこの時点で4人の準決勝進出者が決まっていた。

 

 その4人は、剣王『オウカ』殿、『花木蘭』殿、『エルナ』殿、『サリー』(ジャマダハル使い)の4人で有る。

 その面子が発表されたタイミングで、アラン様家族と我らの居る所にミツルギ殿がやって来た。

 腕の中に剣王『オウカ』殿との間の娘『サクラ』ちゃんを抱いている。

 赤ちゃんズが、「キャー!」と一斉に奇声を上げて両手を広げて来たので、直ぐに赤ちゃんズが居るベビーコートにミツルギ殿が入れると、赤ちゃんズは全員ずり這いして近寄り、「キャッ、キャッ」と喜び合う様に手を握り合っている。

 その姿に癒やされながら、ミツルギ殿に尋ねた。

 

 「確か、ミツルギ殿は明日の決勝戦の為に、郊外の演習場で特訓する筈だっただろう?

 あちらにも特設のモニターが有るので問題無いと、昨日の夕食時に言ってたじゃないか、何か事情があるのかな?」

 

 と聞いてみると、

 

 「いやあ~、俺はそのつもりだったんだが、娘の『サクラ』が朝に『オウカ』を見送る時に愚図り始めて、しょうがないから先程迄控え室で一緒に居たんだが、流石に決勝大会会場横に居てセコンドに着く訳にもいかないし、どうしたものかと悩んでいたら、テオとエラが気付いてくれてここに案内してくれたという訳さ」

 

 と答えてくれて、後ろに目をやるとテオとエラが手を振っていた。

 本当に良く気がつく子達だ、何れはこの二人がアポロニウス殿下達の側近になるだろうから、安心と云うものだ。

 アラン様がミツルギ殿に席を勧めて、シュバルツ殿と自分の何時もの武道家座談会の面子になり、これからの男女『近距離武器部門』の決勝大会の予想で話題に花を咲かせた。

 

 第一準決勝戦『オウカ』殿VS『サリー』と発表されて、両者が舞台に上がる。

 

 「ドオオオオオオオーーーーーン!」

 

 と開始の太鼓が叩かれて、空気が震動する中、試合が開始された。

 『オウカ』殿は長剣、『サリー』はジャマダハルと云う珍しい武器を構える。

 ジャマダハルは、切るよりも刺す(突く)ことに特化した形状を持つ武器である。その特徴は、通常の短剣の柄とは大きく異なったその握りにある。この握りは「H」型をしており、刀身とは垂直に、鍔とは平行になっており、手に持つと拳の先に刀身が来る様な造りになっている。従って、あたかも拳で殴りつけるように腕を真っ直ぐ突き出せば、それだけで相手を刺すことが出来る。そのため力を入れやすくなっており、他の短剣に比べて鎧を貫通しやすいとされる。

 そのジャマダハルを右手に、丸い盾を左手に構え『サリー』は対戦相手の『オウカ』殿の様子を伺っている。

 対する『オウカ』殿は、長剣を『八相の構え』で対峙している。

 二人の間に緊張が満ち、観客席にもその緊張が伝わって静かになると、突然『サリー』が前につんのめるように体勢を崩すとそのまま前転した!

 間合いが詰まった!

 と思った瞬間!盾を前面に立てて下から『サリー』が『オウカ』殿に襲いかかる!

 盾に隠れながらジャマダハルを突き上げる様に繰り出された『オウカ』殿は、そのジャマダハル目掛け八相の構えから長剣を振り降ろし、武器同士の金属音が「キィーーン!」と硬質な音を立てた!

 そのまま『サリー』は、ジャマダハルを横に払い横面に付いている刀身で『オウカ』殿を薙ごうとしたが、『オウカ』殿はそれを長剣で弾く。

 暫くその体勢での打ち合いを繰り返すが、体勢が不利とみたのか『サリー』は後天宙返りをして、一気に距離を取ろうとした。

 だが、簡単に距離を取らせないと『オウカ』殿は、瞬速の詰め寄りで『サリー』に迫り上段から長剣を打ち下ろした!

 慌てた『サリー』は盾で防ぐが、盾は『オウカ』殿の素早い打ち下ろしで、『サリー』の左手から弾き飛ばされた。

 そのままゴロゴロと横に回転して距離を取り、起き上がった『サリー』はハアハアと息をつくと、ジャマダハルを持つ右手を突き出して、後のない構えを取った。

 その覚悟の構えを見て『オウカ』殿は、『八相の構え』から更に長剣を高くとる『蜻蛉の構え』を取った!

 つまり、双方完全な攻撃の構えを取り、一切の防御を捨てた事になる。

 

 「「キエエエーーーーッ!」」

 

 双方とても女性が上げる声と言い難い、叫び声を上げて突進した!

 一瞬の交差!

 だが直ぐに決着が着いた事が判る。

 『サリー』がそのまま右腕を抱える様に俯せたのだ。

 明らかにその右腕はダランと垂れているので、折るか脱臼しているのだろう。

 審判が『オウカ』殿を勝者と判定し、直ぐに医療部隊に『サリー』を運ばせる。

 その様子を見ていて、シュバルツ殿は、

 

 「いやはや、オウカ先輩は相変わらず女性とは思えない程の豪剣だ!

 嫁に貰い子供をもうけたミツルギには、感服するしかないな!」

 

 と呆れた声を上げ、嘆息している。

 その声を聞きながら、娘の『サクラ』を抱き上げて試合を終えた『オウカ』殿に、娘共々手を振っていたミツルギ殿は、

 

 「まあ、そう言うな。

 あれでも、母親として恥ずかしく無いように、家事と育児に頑張ろうと毎日四苦八苦しているんだぜ!

 今回の『世界武道大会』は良い息抜きさ。

 気晴らしも兼ねて、日頃の鬱憤ばらしが些か力を込めちまったのさ」

 

 と笑いながら受け答えしたので、シュバルツ殿は肩をすくめて苦笑いしている。

 確かに、剣王『オウカ』殿を御せる人間は、世界広しと言えど少ないと思えるので、ミツルギ殿に若い内に出会えて娘を授かれた『オウカ』殿は、運が良かったと他人事ながら思えた。

 



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6月の日記⑧(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『近距離武器部門』②》

 6月6日②(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 第二準決勝戦『エルナ』殿VS『花木蘭』殿と発表されて、両者が舞台に上がる。

 

 「ドオオオオオオオーーーーーン!」

 

 と開始の太鼓が叩かれて、空気が震動する中、試合が開始された。

 

 二人の主武装は共に剣だが、サブウエポンは『エルナ』殿が投げナイフ、『花木蘭』殿が峨嵋刺で有る。

 しかし、皇后親衛隊長団長のエルナ殿が帝国に於ける、女性軍人での武道大会で3位になったビデオを見せて貰ったが、従来の神剣流とコリント流剣術の高いレベルでの融合を果たしている姿は、どれ程の鍛錬の賜物か容易に想像出来るので、称賛以外無い。

 (因みに女性軍人での武道大会の1位はセりーナ准将、2位はシャロン准将であるが、現在お二人は体調不良との事で帝都コリントの留守居を買って出て、帝国軍の再編成案の策定をダルシム中将とヴァルター少将と共に携わっている)

 

 エルナ殿が中段の構えから素早い突きを花木蘭殿に放ち、それを僅かに剣で軌道を逸らすと花木蘭殿は、袈裟斬りに振り降ろして来た。

 だが、その行動を読んでいたのだろう、エルナ殿は身体を横に回転させてそのまま横に剣で薙ぐ。

 その動きを前転して花木蘭殿はそのまま水面斬りの要領で、下段にエルナ殿の足元を斬って来たがエルナ殿は跳んでそれを避け、距離を取る。

 二人が同時に立ち上がると、エルナ殿は神剣流の歩法で距離を詰め、コリント流剣術のコンボに移る。

 それに対して花木蘭殿も、崑崙皇国の剣術と覚しき型を繰り出して来た。

 暫くの間、双方共に技を遺憾無く繰り出し、観客の目を楽しませたが、段々と双方共に消耗していき、距離を取って息を整えた。

 そしてエルナ殿は、神剣流奥義『極刃斬』の構えである上段斜めに剣を構え、素早く振り降ろして真空波を花木蘭殿に放った!

 花木蘭殿は、剣で真空波を受け止めたが剣は受け止めきれずに「バキッ」と云う音と共に折れる。

 慌てて花木蘭殿はサブウェポンの峨嵋刺を構えるが、エルナ殿も両手にナイフを構えて花木蘭殿の懐に潜り込んでいた!

 其処からエルナ殿の連撃が発動する!

 明らかに5回ずつの連撃が繰り出され、それが幾つかのバリエーションに分かれているので、花木蘭殿も次の技が読めずに防戦一方になってしまった。

  

 《此れはもしや『エターナル・ストリーム』?!》

 

 そう其れは、本来は剣を用いるコリント流剣術の奥義『エターナル・ストリーム』であった。

 だがエルナ殿は、従来の『エターナル・ストリーム』を己なりに変化させて、ご自身が得意な上に鍛錬を積み重ねたナイフの技に昇華させたのだ!

 必然至近距離で繰り出される技の数々は、スピードが早く対処が難しい。

 結果、花木蘭殿の峨嵋刺は弾き飛ばされてしまい、武器を全て奪われた花木蘭殿は降参した。

 そして第二準決勝戦はエルナ殿の勝利で幕を閉じた。

 

 「・・・・・見事なものだ、某は未だにコリント流剣術を己の中で消化しきれず、まだ真似る事しか出来ていないのに、エルナ殿は神剣流の良い面を組み込む事で、己の物としている!」

 

 とシュバルツ殿は慨嘆し、続けてアラン様が、

 

 「全くだな、然も自分のコリント流はあくまでも我流としてアレンジをしている面が多々有り、女性には向いていない箇所が随所に有る。

 その弱点を克服したエルナは、正に皇后親衛隊長団長の面目躍如と言うべきだ!」

 

 と硝酸したので、クレリア様も、

 

 「でしょう!

 エルナは、アランが帝国軍の精鋭が外征に行く度に、私や帝都コリントの民を守る重責をこなす為に、拳聖と剣聖に願い出られて、徹底的に自分に向いた技を磨いて来たの!

 事実上、剣王に近い実力だと思うわ!」

 

 と堂々と言い放ったのだ。

 この場に居る者全員が、思わずその言葉に絶句した。

 

 《ちょっ、ちょっと其れは羨まし過ぎる環境だろう?!》

 

 自分とシュバルツ殿にミツルギ殿は、あまりの事実に開いた口が塞がらないでいる。

 しかし、良く考えてみると、帝国に於いて最重要とも呼べる皇后と皇太子の身を守る親衛隊団長には、そのくらいの武術の実力が必要な気がする。

 まあ、あまり羨ましがるのも可笑しな気がして、この話題は棚上げして、男性部門の結果をビデオで放送されたので、注目した。

 

 やはり、予想通りと言うべきか、剣王『カイエン』と『沈 光』殿が選ばれていた。

 この二人は、当然のように勝ち抜いてきたのだが、残りの二人が全く判らない面子なので些か興味深い。

 一人は、あまり特徴の無い普通の剣の使い手で、常にギリギリで勝ち上がった。

 もう一人は、またも真っ黒な肌をした異邦人で、武器も珍しい物でヌンチャクと独鈷杵で有る。

 もう少しして、この4人による準決勝2試合が行われて、午後から女性部門の決勝戦と男性部門の決勝戦が行われる運びで有る。

 周りにいる全員が、優勝は誰か?と予想し合って盛り上がっているので、きっと観戦している全員が今頃口角泡を飛ばして、議論し合っているのでは無かろうか?

 その様子を思い浮かべて、口元がにやけてしまっていたようで、隣にいたミーシャから胡散臭い目で見られてしまった。

 



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6月の日記⑨(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『近距離武器部門』③》

 6月6日③(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 剣王『カイエン』VS『トビ』との第一準決勝戦が始まった。

 

 剣王『カイエン』は、明らかに通常より長い長刀を腰に下げ、自身の武器で有る『蛍丸』に寄せていた。

 『トビ』も剣王『カイエン』程ではないが、長い刀を腰に下げていて、何だか真似ている様に感じる。

 双方が舞台の両端から登壇し、かなり離れた間合いで互いに礼をした。

 

 「ドオオオオオオオーーーーーン!」

 

 と開始の太鼓が叩かれて、空気が震動する中、試合が開始される。

 

 双方共に左手を刀の鞘口に添えて、抜き打ちの体勢になったので、双方が共に斬撃を放つつもりなのが判った。

 案の定、双方が少し揺らぐ様に動く度に間合いの中央の空間で、双方の斬撃がぶつかり合う。

 

 「ザザザザザンン!!」

 

 と連続した音と同様に、連続した斬撃を双方共に飛ばしたが、やはり同じ結果に終わった。

 昨年の剣王同士の戦いも似たような撃ち合いになったので、剣王『カイエン』はともかく『トビ』もかなりの実力者だろう。

 

 双方が実力を確かめたのだろう。

 警戒する様に、時折斬撃を放ちながら、同心円状に間合いを保ち隙を伺っている。

 だが、どうやらそれは叶わないと見たのか、両者は足を止めて踏ん張った。

 次の瞬間、いきなり双方共に姿を消すと、舞台の中で金属音の連続音が響き渡る!

 

 「キキキキィーーーーン!」

 

 との音が会場に響き渡り、その都度瞬間だけ両者が刀で受ける場面が陽炎の様に浮かぶ。

 暫くその攻防が続いたが、やがて双方舞台の両端に姿を現し、共に肩で息をしていたが、大きく深呼吸をして息を整えた。

 つまり、両者は神剣流の歩法に於ける奥義『縮地』を、何と連続でこなしていたのだ!

 正直剣王『カイエン』が昨年では、単発でしか出来なかった奥義『縮地』を、連続で出せた事も驚きだが、それに付いて行ける『トビ』とやらも、凄まじい技倆の持ち主だ。

 それを痛いほど実感したのだろう、剣王『カイエン』は得意技を披露する。

 そう、その技こそは昨年の大会で見せられた神剣流奥義『影法師』で有る!

 

 「ブオーン」

 

 という音とともに4つ身に分身して見せる剣王『カイエン』に、観客が、

 

 「オオオオオーーーーーッ!」

 

 と歓声が上がる。

 

 しかし、それに対しても信じられない事に、『トビ』も剣王『カイエン』と同じ構えを取り、4つ身に分身してみせた!

 

 「オオオオオオオオオオオーーーーーッ!!」

 

 と更なる歓声が観客席から上がり、会場は興奮の坩堝と化した!

 その4つ身同士が高速戦闘を開始した。

 奥義『縮地』程では無いが、時折の剣を合わせた硬直以外は、身体が揺らいで陽炎の様になり全体像が見えにくい。

 そんな奥義を尽した技の数々が繰り出される中、剣王『カイエン』がギラッと音が鳴りそうな程に目を光らせた!

 その瞬間、剣王『カイエン』のそれぞれの4つ身がいきなり、更に4つに分かれて『トビ』に襲いかかる!

 流石にここまでの技を真似る事は出来なかった様で、たちまち『トビ』は打ちのめされた。

 審判が、剣王『カイエン』の勝利を宣したが、双方全力を尽くし過ぎたのか、二人共暫くの間四つん這いになって蹲った。

 なので医療部隊が両者共に担架に乗せて、”コロシアム”併設された病院に収容される事になった。

 シュバルツ殿と共に、剣王『カイエン』の状況を確認に行くと、かなり疲労をしているだけでそれ程深刻ではなさそうで安心した。

 そして同時に連れられて行く『トビ』を確認すると、何と良く顔を見ると『カトウ』であった!

 どうやら、変装していたがあまりの高速戦闘に、変装用の仮面(魔道具らしい)が外れた様だ。

 

 《エッ!?》

 

 と驚くと、どうやら自分の反応で気付いたらしく、『カトウ』は自分に対して目配せして来た。

 そしてその意図を把握してから、其処を離れてアラン様の脇に侍り小さい声で確認すると、アラン様が含み笑いをして、教えてくれた。

 どうやら『カトウ』が望んだらしいのだが、自分達の技術である忍びの技を発展させた『影技』の完成具合を確認する為だったらしい。

 その『影技』の奥義の一つに、相手の技をほぼ完璧にコピーする物があるそうで、此れを剣王に対しても通用するか試したそうだ。

 まあ、『カトウ』が中央情報局の実戦部隊の長なのは、かなり帝国の関係者には有名なので、正体を隠さなければ警戒されて実力を隠される可能性が有ったらしい。

 となると、剣王『カイエン』は勝ったとは云え、かなり技を盗まれた格好だ。

 

 そして『沈 光』殿VS『セリ』(ヌンチャク使い)の第二準決勝戦が始まった

 

 「ドオオオオオオオーーーーーン!」

 

 と開始の太鼓が叩かれて、空気が震動する中、試合が開始される。

 開始早々に、『沈 光』殿が側転して『セリ』に近づくと短い『棍』をいきなり地面に刺し、その『棍』を足場に跳躍しサブウェポンとしている脚甲で『セリ』の頭を蹴る。

 想定をかなり外された攻撃方法に、『セリ』は相当焦ったらしく慌てて避けたが、体勢を崩しているので転がってしまう。

 だが、『沈 光』殿がそのチャンスを見逃す筈もない!

 何と『沈 光』殿は、脚甲で『棍』を蹴り飛ばして『セリ』に叩きつける!

 必死に『セリ』はヌンチャクを振り回して『棍』を弾き飛ばした。

 だが、『沈 光』殿は脚甲で旋風蹴りを放ち、ヌンチャクを蹴り飛ばす!

 そして空中に有った『棍』で突きを繰り出し、『セリ』の鳩尾を突き悶絶させた。

 

 第一準決勝戦に比べてかなりアッサリとした形で勝負が着いた。

 まあ、こんなに立体的な攻撃は、想定を越えすぎていて、どうしようもなかったのだろう。

 そして男性部門の決勝進出者が決定した。

 



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6月の日記⑩(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『近距離武器部門』④》

 6月6日④(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 終に『近距離武器部門』女性部門の決勝戦が行われる。

 

 剣王『オウカ』殿と『エルナ』殿は、舞台の両端に登壇し、中継するモニターには二人の事績が流れる。

 両者の様々な武勇伝や学んだ流派などが紹介され、会場全体が大きく盛り上がった。

 

 「ドオオオオオオオーーーーーン!」

 

 と開始の太鼓が叩かれて、空気が震動する中、試合が開始される。

 その瞬間、共に上段に剣を構えた!

 然も、両者の構えは共に神剣流の上段の構えで、所謂『火の構え』と呼ばれるものだ!

 何故『火の構え』と言うかというと、心に火を灯しそれを燃やし続けなければ構え続けられないからだ。

 上段とは、敢えて胴を相手に晒した上で其処を斬りに来る相手の頭上を、諸共に砕く様に振り下ろすので、一切相手に対して気迫の面で気後れせずに、上回る気概で臨まなくてはならない。

 

 正直、剣王『オウカ』殿が上段かトンボの構えで臨むのは予想していたが、『エルナ』殿が真正面から受けて立つとは想像の埒外だった。

 

 やがて双方の気合が満ちて、場の緊張が急激に高まった!

 

 「キエエエーーーー!」

 

 裂帛の気合を込めた声を上げて、双方が一足で間合いを跳ぶ!

 

 「ガッ!」

 

 と双方の剣がかち合い、鍔迫り合いになる。

 

 「エヤアアアアッ!」

 

 と剣王『オウカ』殿が叫び、上段からの連打を『エルナ』殿に見舞うと、『エルナ』殿はシッカリと防御し、返しの胴薙ぎを放った!

 だがそれを想定していた剣王『オウカ』殿は、一気にバックステップして攻撃を避けると、先程と打って変わって中段の構えになる。

 それに対して『エルナ』殿は、抜刀術の構えを取り相手の出方を伺っている。

 試しのつもりか『エルナ』殿が抜き打ちの斬撃を放つと、剣王『オウカ』殿は長刀を最小の動きで振って斬撃を打ち落とす。

 すると、エルナ殿は連撃の斬撃を放ち、それに対してオウカ殿は長刀を円形に回して防御した。

 そしてエルナ殿は抜き打ちの構えから、オウカ殿に迫り胴を薙ぐ!

 その剣に合わせオウカ殿は柄でエルナ殿の剣を叩き落とすと、エルナ殿は手が痺れた様で硬直した。

 次の瞬間、オウカ殿は長刀を振り下ろすと下段から斬り上げた!

 

 「ギイイイインンン!」

 

 との金属音が鳴り、クルクルとエルナ殿の剣が宙を舞う。

 

 「・・・・・燕返し・・・・・!」

 

 シュバルツ殿が呟く、燕返しとは虎切りとも言われる、先に刀を振り下ろし、踏み込んできた相手を、刀を瞬時に返して切り上げる神剣流の技である。

 エルナ殿は、後方宙返りをしてサブウェポンのナイフを逆手に握った。

 オウカ殿はそれを見ても警戒を解かずに、『八相の構え』を取る。

 暫く双方が間合いの外で同心円状に回る。

 すると、ゆっくりとオウカ殿は長刀を円を描く様に回し始めた。

 

 《この様な構えは神剣流に無いが?》

 

 と疑問に思い横にいるシュバルツ殿に目を向けると、やはり疑問に思ってるらしく首を傾げ注視している。

 

 《とすると、オウカ殿の独自技か!》

 

 と痺れを切らしたのか、エルナ殿が左右に身体を振ってフェイントを掛けながら踏み込む。

 その踏み込みに対し、オウカ殿は剣速を上げて目まぐるしい回転となった。

 何とかその回転の下からエルナ殿は襲うべく、水面蹴りをオウカ殿の足元に放ち、それをバックステップで避けたオウカ殿目掛け、下からのナイフの突き上げをする。

 それを横回転して捌いたオウカ殿が、その間も回していた長刀を回転の軌道に乗せて斬りかかる!

 どうしてもリーチの差がある長刀とナイフの所為で、必死に距離を取って避けようとするエルナ殿に対し、オウカ殿が上手く長刀の回転に身体を乗せて来て、信じ難い事に体ごとの連続回転斬りを仕掛けて来た!

 横に8の字を描く様に身体を動かしながら斬りつけて来る動きに、徐々にエルナ殿は追い詰められて行き、長刀を受け続けていたナイフもボロボロになる。

 だが、容赦なくオウカ殿が攻め続けた結果、やはりナイフは保たに「ギイィィン!」と言う音とともに折れてしまった。

 そして首筋に長刀をゆっくりと突きつけられて、エルナ殿は降参を宣言した。

 審判がそれを確認して、オウカ殿の優勝を認めた。

 すると、会場全体から称賛のスタンディングオベーションが、決勝を戦った二人に浴びせられた。

 自分もその中の一人だし、周りに居た面々も大きく立ち上がって拍手している。

 特に大きく拍手しているのはクレリア様だ。

 然も涙を流して拍手している。

 判る様な気がする。

 我らが『クラン・シャイニングスター』を結成する前から、クレリア様とエルナ殿はシャイニングスターメンバーとして、苦難を共にしていた事は帝国の人々にとっては当然の認識だし、そのお陰で皇后付き親衛隊団長であると判っている。

 だが、今回の『世界武道大会』で見せた実力は、剣王に迫るものだと世界中に示したので、皆の認識も塗り替えられた事だろう。

 その証拠に、舞台から降りてくるエルナ殿は、やりきった顔をしてとても晴れ晴れとしている。

 

 《素晴らしいな、実力を出し切って満足している姿は!》

 

 そう思い一層にボルテージが上がった拍手の渦の中、クレリア様の元に歩み寄るエルナ殿は、非常に輝いて見えた。

 



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6月の日記⑪(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『近距離武器部門』⑤》

 6月6日⑤(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 いよいよ『近距離武器部門』の男性部門決勝戦が行われる。

 

 剣王『カイエン』と『沈 光』殿は、舞台の両端に登壇し、中継するモニターには二人の事績が流れる。

 

 両者の様々な武勇伝や学んだ流派などが紹介され、会場全体が大きく盛り上がって行く。

 特に二人の崑崙皇国での様々な戦歴は、殆どの帝国民にとって目新しい事実で、相当に興味を引いたようだ。

 

 「ドオオオオオオオーーーーーン!」

 

 と開始の太鼓が叩かれて、空気が震動する中、試合が開始される。

 

 剣王『カイエン』は、明らかに通常より長い長刀を腰に下げ、自身の武器で有る『蛍丸』に寄せていた。

 対して『沈 光』殿は、短い『棍』を持ちジリジリと間合いを狭めて行く。

 いきなりカイエンが、鍔鳴りを連続で響かせて来て、それに対して沈 光殿は棍を縦横無尽に閃かせて、飛んできた斬撃を叩き落とす。

 そして最後に飛んできた斬撃二つを両足の脚甲で蹴り返し、それをカイエンは長刀で斬り落とした。

 

 「ブオオオーーーン!」

 

 と鈍い回転音を立てながら棍を振り回し、一足で間合いを詰めると沈 光殿は、頭上から棍をカイエンに叩き付けて来た!

 それに対してカイエンは、身体を揺らす。

 次の瞬間2メートル離れた横手に瞬間移動したように現れると、鋭い抜き打ちを沈 光殿の胴に放ったが、地面に這いつくばる様に長刀を躱して、そのまま水面蹴りをカイエンの足元目指して放つ!

 その蹴りを跳んでカイエンが避けると、明らかにその動きを読んでいた沈 光殿が逆立ちの体勢に成り、弛めていた脚を伸ばす様にカイエンの顔面めがけ蹴り上げた!

 

 「ガッ!」

 

 とカイエンが慌てて顔の前に翳した長刀で防御すると、その長刀を押し上げる様にカイエンごと沈 光殿は蹴り上げた!

 

 「ムウ?!」

 

 とカイエンは唸るが空中なので、それ以上動けない。

 

 《ン?それ以上動けない?!》

 

 そう空中だと、カイエン得意の神剣流奥義『影法師』が使えない!

 何故なら、あくまでもあの技は地面にシッカリと両足を踏んでいないと、踏ん張りが効かずに技を発動出来ないのだ。

 その事に気付いたらしいカイエンは、空中で顔を歪ませる。

 しかしその僅かな時間に、沈 光殿は次の技に移行している。

 沈 光殿は棍を地面に立てるとそれに乗って、空中に跳ぶ!

 まともに身体を空中では動かせずに、カイエンは下から鋭く貫いてくる沈 光殿の脚甲での蹴りを腹にまともに喰らった。

 かなりの滞空時間の蹴り飛ばしに合い、舞台端まで蹴り飛ばされたカイエンは、痛む腹を撫でてダメージを確かめている。

 

 正に空中と云う自分の独壇場での戦いに持ち込ませる沈 光殿の駆け引きの上手さは、まだ若いカイエンには相性が悪い様だ。

 沈 光殿は、両足をコンパスの様に動かして側転しながらカイエンに襲い掛かる。

 脚甲と棍を変幻自在に使い、立体的に攻め立てる沈 光殿に、防戦一方となるカイエン。

 このままジリ貧か? 

 と半ばカイエンの負けを予想していた処、カイエンが再度地面に蹴り落とされた瞬間、いきなりカイエンの眼が赤光を帯びた!

 次の瞬間カイエンが消えた?!

 

 「ヒィィィーーーン!」

 

 異様な高い音が舞台に響き渡るが、カイエンの姿は殆ど見えない?!

 

 《こ、この加速は!》

 

 そう帝国軍人が会得していて、「ナノム玉1」以上を服用している者が、イメージと絶え間ない訓練によって行使出来る様になる、帝国軍人の切り札『加速術』である。

 しかし、「ナノム玉1」で2倍速、「ナノム玉2」で3倍速までしか加速は出来ない筈で、アラン様ですら断続利用で辛うじて5倍速なのに、「ナノム玉2」服用のカイエンが3倍速を明らかに越えて、4倍速以上のスピードでの連続加速を行っている!

 沈 光殿も流石にこの速度には、驚いたらしく警戒の構えを取って、必死にカイエンの動きを掴もうとしている。

 だが音はすれど残像すら残さないそのスピードは、明らかに常軌を逸する物で、会場全体の緊張はピークに達して行く。

 

 「ギン!」

 

 金属音が鳴った。

 いきなりの事だったので慌てて注視すると、どうやら沈 光殿が突然繰り出された斬撃をギリギリで棍で弾いた様だ。

 だがそれは端緒であった様で、続け様に斬撃が四方八方から沈 光殿に襲いかかり、それの対処に沈 光殿は忙殺され、必死に棍を回転させて弾きまくる。

 そうこうする内に、弾き飛ばせない斬撃が身体に当たる様になり、徐々に沈 光殿はダメージが溜まる。

 肩で息をし始めた沈 光殿の前に、出し抜けにカイエンが姿を現すと袈裟斬りを沈 光殿に食らわす。

 急な袈裟斬りにも、その反射スピードで何とか防御した沈 光殿に切り返しの下段突き上げが襲う。

 これも防御出来たが、直ぐに面打ちがやって来る。

 それも防御すると、すかさず小手打ちが来る、際どくそれも避けると次には胴斬りが来る。

 

 《此れはもしやエターナル・ストリーム!?》

 

 そう、それは確かにコリント流剣術奥義エターナル・ストリームである。

 しかし、従来のエターナル・ストリームよりも明らかに切り返し速度が早く、恐らくは2倍以上である!

 その切り返しに付いて行ける沈 光殿も凄いが、やはり繰り出しているカイエンの方が凄い!

 よく見ると、カイエンの肌の見える箇所はミミズ腫れと毛細血管からの出血で、凄絶な有り様だ。

 恐らくは限界を越えた上に、更に限界を越えた代償であろうが、あまりにも無茶過ぎる!

 この技が不発に終われば後がないと覚悟した、正に背水の陣でカイエンは臨んだのだろうが、凄まじすぎる。

 やがてそのスピードに耐えられなくなった沈 光殿が、深々と胴を薙がれ舞台場で突っ伏した。

 

 そして審判が確認の為に舞台に上がり、沈 光殿の失神を確認し、カイエンの優勝を宣した。

 会場全体がスタンディングオベーションの波にさらわれていると、突然「バタンッ!」とカイエンがひっくり返った。

 ずっと残心の構えのままであったので、怪訝に思っていたのだが、どうやらあれ以上動けなかったと云うのが真実なのだろう。

 そのまま、過呼吸になってしまい双方共に担架で移動させて病院に向かわせる事になった。

 どうも、腕は確かなのだが全力を尽くし過ぎてしまうようで、些かカイエンのバランスの危うさに危機意識を持った。

 



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6月の日記⑫(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『徒手空拳部門』①》

 6月7日①(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 『徒手空拳部門』の準決勝に出場する4人は、ミツルギ殿、拳王『ダルマ』殿、パヤット(褐色の男)、ヘクトール(例の大男)である。

 

 そして1回目の準決勝戦が始まった。

 

 「ドオオオオオオオーーーーーン!」

 

 と開始の太鼓が叩かれて、空気が震動する中、試合が開始される。

 登壇したのは、ミツルギ殿とパヤット。

 ミツルギ殿は、最近正式採用された帝国軍人用のインナースーツの上に道着を羽織り、自然体の儘だ。

 対するパヤットは、どっしりと腰を落として右半身に開き、右拳を突き出し左拳を後ろに引いている。

 ミツルギ殿は、神拳流に於ける『無の構え』、パヤットは、『半身上下の構え』と云った構えである。

 暫く双方が見合った後、かなり無造作にミツルギ殿がまるで挨拶を告げる様に、パヤットに近づく。

 パヤットの間合いに入った!と思った瞬間。

 

 「ハッ!」

 

 という気合いと共にパヤットが左拳を突き出し、それをミツルギ殿は半身に避ける。

 

 「吩!」

 

 その避けたミツルギ殿に向けてパヤットの右拳が襲いかかる。

 それを横に捌いてミツルギ殿の裏拳がパヤットの顔面に叩き込まれる!

 その右拳の裏拳をパヤットの右腕が受け止めて。

 

 「ケヤアッ!」

 

 との声と共にパヤットの左蹴りが横薙ぎにミツルギ殿の腹を狙う!

 

 「フヒュッ!」

 

 との呼気音を上げてミツルギ殿が空中に浮いて身を縮こまると、次の瞬間右脚と左脚の2段蹴りがパヤットの上半身を襲う!

 

 パヤットは両腕を十字にクロスしてブロックして受けるが、押されたやや後退した。

 その開いた間合いを一瞬で詰めると、ミツルギ殿の左右の拳の連打がパヤットに襲いかかる!

 それを必死の形でパヤットは両腕で捌くが、どうしても幾つかの拳がパヤットの身体に届いた。

 連打が終わったと同時にパヤットは大きく距離を取り、右拳を大きく後方に引いたやや変形の『半身の構え』を取った。

 その構えを見てミツルギ殿は、『前羽の構え』を取った。

 

 すると不思議な事が起こる。

 いきなりその姿勢を変えずにパヤットが吠えたのだ!

 

 「吩!」

 

 その短い気合いを込めた声が上がった次の瞬間、ミツルギ殿が『前羽の構え』のまま両手を突き出し発勁を放った!

 そしてミツルギ殿の直前の空間でミツルギ殿の放った発勁が、何かと衝突して衝撃音を立てた。

 

 「バンッ!」

 

 との音が起こると、パヤットは続け様に吠えた。

 

 「吩!吩!吩!吩!吩!」

 

 この連続の気合いに合わせてミツルギ殿はかなり威力のある発勁を前面に放つ!

 

 「バババババンッ!!」

 

 とのやや鈍い連続音がミツルギ殿の前面で鳴った。

 どうやら、発勁では無いがかなりの距離に飛ばせる遠当ての打撃を、パヤット放っているようでミツルギ殿は敢えて発勁で迎撃した様だ。

 

 見事に受けられたパヤットは、助走を始めると突然跳躍した!

 そして空中で大きく前転するとその回転と共に踵落としをミツルギ殿の頭頂部に叩き落とす!

 その強引なまでの攻撃にミツルギ殿は、これまた前転して躱す。

 いや、躱しただけで無くそのまま攻撃を放っていた。

 つまりその前転して躱す動きをそのまま攻撃に転用し、空中に有るパヤットの腹部目掛けて踵蹴りをぶち込んだのだ。

 

 「グムッ」

 

 とのうめき声を上げてパヤットは腹を抑えて後退したので、チャンスと見たミツルギ殿はパヤットの顔横に旋回蹴りを連続で浴びせ続ける。

 それをパヤットは腕で受けようとするが、腹を片腕で抱え込みながらなので受け止めきれずに、こめかみに諸に蹴りを喰らう!

 

 「ヌウウウッ!」

 

 と呻きながらゴロゴロと舞台の上で横に回転して避けると、ゆっくりと立ち上がる。

 往生際が悪いと最初は思ったが、パヤットの瞳を見てその感想を取り下げた。

 瞳は語っていた。

 

 「最後まで力を尽くして戦う!」っと。

 

 その覚悟を見たミツルギ殿は、大きく頷くと気を溜め始める。

 やがて気が十分に満ちたと判断したミツルギ殿は、ゆっくりとパヤットに近づく。

 その動きにパヤットは、何の衒いもなく更にはフェイントも交えずに真正面の中段突きを打ち込んだ。

 だがその中段突きをミツルギ殿は、やや屈む形で潜り込むと一本背負いの形で肩に乗せる様に腕で抱え込む。

 そしてそのまま背中に背負う形でパヤットを担ぎ上げた瞬間にそれは発動した!

 何とミツルギ殿は、背中に背負う形でパヤットを担ぎ上げた瞬間に『靠』を放ったのだ。

 然も十分に気を込めた靠である!

 恐らくパヤットは、全身に車両が正面衝突して来た様な衝撃を喰らったに違いなく、ミツルギ殿の背中からズルズルと崩れ落ちた。

 やはり流石の実力である。

 ミツルギ殿は、それ程の消耗をする事無く、決勝戦に駒を進めたのであった。

 



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6月の日記⑬(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『徒手空拳部門』②》

 6月7日②(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 2回目の準決勝戦が始まろうとしている。

 拳王『ダルマ』殿とヘクトールが舞台に上がってきた。

 

 「「「「「オオッ」」」」」

 

 と会場がどよめく。

 当然だろう、人類社会がモニター放送や帝国発の『新聞紙』や『雑誌』の発行により、色々な情報の繋がりが出来た昨今、大体の人間の身長・体重等の平均は判ってきて、それ程の他国との差は無いと周知されたいたのに、ヘクトールの身長は驚異以外の何物でも無い。

 身長240センチメートル、体重150キログラム。

 正に巨人と言って差し支えない巨体は、それだけで十分な脅威で、その太い腕と脚は、まるで丸太のようでこれが振り回されるだけで死人が出そうである。

 

 それに対して、これまた太い手脚を持つダルマ殿は、素直な顔をしてそのヘクトールを見上げ、莞爾と微笑んでいる。

 その微笑みは、どういう意味なのか判らずに首をかしげていると、準決勝を終えて愛する妻子に会いに来たミツルギ殿が、愉快そうに解説してくれた。

 

 「なに、ダルマの奴は嬉しくて堪らないんだよ。

 俺達のレベルとなると、あまり身体の大きさは関係無くて、それよりもスピードや技倆の差こそが問題となる。

 勿論、双方が同レベルだと、当然リーチや重さは重要になるがな。

 だがそれよりも、大きな相手に思いっきり己の磨いて来た技を叩き込めると思えると、想像しただけでワクワクしちまったんだろうよ!」

 

 と自分もそうだと言わんばかりに、やや興奮しながら語ってくれた。

 何とも救いようの無い程の武道馬鹿だと、嘆息してしまったが、若干自分にも近い願望が有る様な気がして憮然としてしまった。

 

 「ドオオオオオオオーーーーーン!」

 

 と開始の太鼓が叩かれて、空気が震動する中、試合が開始される。

 

 ダルマ殿は神拳流『天地の構え』を取り受ける体勢になる。

 其処へヘクトールは無造作に近づき、そのまま強烈な前蹴りを放つ!

 しかし、その様な真正面な蹴りが通用するダルマ殿では無い!

 その強烈な前蹴りを太い腕で脇に捌くと、その太い脚で横蹴りを放つ。

 ヘクトールは自分の蹴りが捌かれて、尚且つ反撃の横蹴りが自身の脇腹に叩き込まれたので、驚いた様に怯んだ。

 

 《成る程》

 

 ここまでの流れで、大凡ヘクトールの今までが察せられた。

 恐らくヘクトールは、その恵まれすぎた体格と身体能力で、全ての勝負に難なく勝っていたのだろう。

 反撃を喰らった事など無かったに違い無い。

 だが世の中は広く、強い者はゴロゴロ居る。

 実際、対戦相手のダルマ殿は、ヘクトールよりも大きい妖怪の牛頭を崑崙での戦いで破っているし、時折帝都コリントに有る『魔の大樹海』に武者修行の為に出掛けて、体長5メートルになるオーガを倒してくるのだ。

 如何にヘクトールが大きいと云っても、所詮は人間の域に過ぎず魔獣や魔物の上位種の大きさと強さに比べれば大した事は無い。

 どうやら力では圧倒出来ないと分かったらしいヘクトールは、やや慎重になってダルマ殿の周囲を周り隙を伺い始めた。

 しかし、当然ダルマ殿は一切の隙を見せずに天地の構えを崩さない。

 その様子に業を煮やしたヘクトールは、低い姿勢からダッシュして右肩からのショルダータックルを仕掛けた。

 ヘクトールの突進は大迫力で、観客もその迫力に感嘆したが、ダルマ殿は簡単にいなしてしまい、ヘクトールは進行方向を逸らされてたたらを踏んで5歩進んでから向き直ると、ダルマ殿の連打が襲いかかる。

 右左上下、上段・中段・下段に叩き込まれる神拳流の連打は、恐らく武道を学んでいなかったヘクトールにとっては、捌き方が判らずにひたすら亀のように縮こまって耐え忍ぶしかなかった。

 だがそのままでは、何れジリ貧になるのは自明の理なので、ヘクトールは強引に対処する為に、両腕を回転させ始めその丸太を思わせる腕を身体ごと大回転させた。

 しかし、その太い腕目掛けてダルマ殿は飛びつき、そのまま引き込んだ形の腕がらみを仕掛ける!

 

 「グワッ!」

 

 とヘクトールは吠えると、そのまま三角絞めに縺れさせようと図るダルマ殿を、必死に振りほどき無理矢理な体勢ながら蹴りを放つ!

 その蹴りに対して、ダルマ殿は同時に蹴りを放ち迎撃した。

 

 「ゴッ!」

 

 と重いものが激突し合う音が起こって、双方その反動で後方に下がり、程よい間合いが開く。

 今まで待ちの構えに徹していたダルマ殿が、助走を付けて走り一気に間合いを詰めると、突然前転した!

 その予想していなかったであろう動きに、ヘクトールは面食らいたたらを踏む。

 そのヘクトールの戸惑いを一切無視して、ダルマ殿は技に入った!

 

 「『逆倒結跏趺坐・旋風回転蹴り』!」

 

 と大喝を発すると、凄まじい回転を始めてそのまま逆立ちしながら、回転蹴りを猛スピードで連打した!

 堪らずヘクトールは、防御するがこんな猛打を受け止めきれる筈もなく、腹部・頸部・頭部・脚に満遍なく蹴りを喰らい、棒立ちのまま「バターン!」といっそ小気味よく倒れ伏した。

 

 審判が直ちに舞台に上がり、ヘクトールの様子を伺い確認を終えると、ダルマ殿の勝利を宣した。

 つまり、これで去年と同じ人物同士での決勝戦が行われる事が、決定したのである。

 



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6月の日記⑭(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『徒手空拳部門』③》

 6月7日③(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 昼食を観客席近くの場所でテーブルの上に、軽い食事(サンドイッチやワッフル、デザート等)が用意されていて、華族や貴族と王族の方々が摘んで行く。

 午後から始まる決勝戦が終わると、閉会式が行われて、選手も招いた打ち上げパーティーが迎賓館で行われる。

 なので、昼食は皆軽い量で済ませている。

 

 その横では赤ちゃんズと相棒の星猫兄弟5匹が遊んでいるので、華族達の女性陣が代わる代わる赤ちゃんズと星猫を抱き上げたり撫でて微笑ましい場が出来ている。

 

 暫くして、決勝戦の時間が来たので皆が観客席に戻って観覧する姿勢をとった。

 

 拳王『ダルマ』殿とミツルギ殿が舞台の両端に現れ登壇した。

 この二人は昨年も決勝戦を戦っていて、然も元々は同じ神拳流の兄弟弟子で、ミツルギ殿は元拳王、ダルマ殿は現拳王である。

 そしてミツルギ殿が神拳流を出奔して拳王から退いた理由は、ダルマ殿との同門同士の私戦の際にダルマ殿の両足を折ったと云う事である。

 そんな因縁の二人は今では同じ帝国の親衛隊長となり、例のダルマ殿の両足の怪我も『ナノム玉2』と病院での念入りのヒール治療で完治し、今や怪我を負った以前より強靭な脚に生まれ変わり、様々な蹴り技を帝国軍人に教授する師範として尊敬を集めている。

 方やミツルギ殿は、アラン様の作った帝国式格闘術を独自に発展させ、投げる・打つ・極めると云う総合格闘術を編み出し、言わばミツルギ流とでも言うべき流派を起こして内弟子を育てている。

 それぞれ別の方向で帝国軍に貢献しているので、アラン様は大いに評価していてこの大会が終わって帝都コリントに帰還した際には、それぞれの道場と親衛隊兼任の部隊を創設させる内示を出している。

 つまり今回の決勝戦は、今後創る各々の道場のある意味PRの側面もあるな。

 と、自分は局外の立場なので、暢気に考えた。

 

 やがて二人が中央の停止線で構えを取る。

 そして、

 

 「ドオオオオオオオーーーーーン!」

 

 と開始の太鼓が叩かれて、空気が震動する中、試合が開始される。

 

 いきなり双方が構えを解いて、蹴りをぶつけ合う!

 

 「ゴッ!」

 

 と鈍い音が弾けると、そのまま連続して双方の遠慮会釈無い連続蹴りが繰り出され、凄まじい連続音が会場の空間を埋め尽くした!

 

 「ドゴガガガガガガガガガッ!」

 

 とても人が出す蹴り同士の音とは思えないが、一通りの蹴り技を双方繰り出し尽くすと、ミツルギ殿が呻くように言葉を洩らす。

 

 「・・・まさかここまで出来るとはな。

 一年前までまともな蹴りが出来ない脚だったのが、信じられないぜ!

 ダルマよ、お前は脚を完治させただけでなく、徹底的に蹴り技を練り直して昇華させたんだな・・・!」

 

 「・・・一年前は、不自由な両足をある意味捨てて、両腕と拳を鍛え上げて技を練り上げましたが、やはり歪な所為で先輩に敗北しましたが、その直後にアラン様にもアッサリと負けたのですが、アラン様の心遣いと導きによって私は新たな武の道を示されたお陰で、何段階ものステップアップをこなして、この段階まで到達出来ました。

 その意味では、去年の敗北は私にとって益になる事が多く、先輩には感謝しております。

 なので、その感謝の念も込めて、この一年の自分の成長を先輩には受けて貰いますぞ・・・!」

 

 と二人はニヤリと笑い、楽しげに言い合った。

 

 次の瞬間、二人は全身を叩きつけ合うかの様な猛打を浴びせあった!

 

 「ドドドドドドッ、ゴガガガガガガッ!!」

 

 顔、腹、腹、肩、脚、腰、顔、顔、顔、腰、腕、肩。

 様々な部位と、急所目掛けて、突き、蹴り、肘打ち、回し蹴り、諸突き、踵落とし、手刀、肘振り上げ、唐竹割り、蹴り上げ等の技の限りを尽した猛打を双方繰り出しあった!

 

 至近距離の猛打の応酬は、たちまち双方の身体の表面にミミズ腫れと引っかき傷、そして打ち身を作るが、致命的な一撃を相手に叩き込めないでいる。

 

 暫くの撃ち合いで、二人共このままでは決め手に欠くと判ったのだろう、二人で申し合わせたかの様に、同時に後方に跳び距離を取る。

 双方呼吸を整える為に息吹を行い、大きく肺に息を吸い込む。

 

 そしてミツルギ殿は、頭上で両腕を交差させるとそのまま身体の前面でX字に構える!

 

 《あ、あれはコリント流格闘術奥義『八方拳』!》

 

 そうこの奥義は、あまりの習得の難しさの故に、正式な帝国式格闘術には取り入れず。

 コリント流格闘術を極めようとする、ごく一部の人間にのみ伝授している言わば必殺の奥義である。

 自分も何時かは習得したいと念じている。

 

 そのある意味極限の奥義の構えを見て、ダルマ殿はある種の覚悟を決めた顔をすると、無の構えを取る。

 

 意を決してダルマ殿は助走をして大きく跳躍する!

 そして大喝を発した。

 

 「『逆倒結跏趺坐・旋風縦回転蹴り』!」

 

 準決勝で見せた技の縦回転を、速度を増してミツルギ殿の頭頂部目掛け、ぶつけて来た!

 

 「カッ!」

 

 ミツルギ殿とダルマ殿が交差し、いきなり会場全体の時間が止まった様な気がした。

 上から襲いかかってきたダルマ殿が、宙に縫い留められるように動きを止めている!

 そしてそのダルマ殿の顔面の急所の『人中』に右拳の中立ち拳が、身体中央の急所『鳩尾』に左拳が叩き込まれていて、ダルマ殿の右脚の蹴りが、ミツルギ殿の肩口に乗っていた。

 

 実は瞬間の場面だったのであろうが、そのままダルマ殿は崩れ落ちて舞台中央で倒れ込み、ミツルギ殿は蹴りを入れられた右肩口を抑えているが、立っている。

 審判が、ダルマ殿の様子を確認して悶絶している事を確認し、ミツルギ殿の勝利を宣した。

 やはりミツルギ殿は強かったし、ダルマ殿も明らかに昨年よりも強かった。

 この様な高レベルの攻防が見れるとは、来年の『世界武道大会』も楽しみだ。

 と自分としては、非常に満足な大会であった。

 



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6月の日記⑮(人類銀河帝国 コリント朝2年)《第二回『世界武道大会』後始末》

 6月8日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 昨日の『徒手空拳部門』の結果を以って第二回『世界武道大会』は終わり、その後それぞれの分野と部門の成績優秀者を称賛する閉会式が行われ、そのまま閉会式に参列した面々と華族・貴族・王族等の方々を連れて迎賓館でのパーティーが盛大に開催された。

 

 然も、清掃が行われた”コロシアム”とその周辺を会場とした、『世界武道大会』後夜祭が行われ、大会予選から出場した面々始め、物見遊山で来訪した人々も全食事と全飲料・酒類の無料が伝えられ、観客や露天販売をしていた人々も挙って参加してくれた。

 

 そして昨年行われた、裏の『世界武道大会』は、今回は非常に少ない面々で行われ、数試合だけしたらしい。

 したらしい、と云うのは自分は参加せずに家族と迎賓館でのパーティーに参加し、アラン様も参加しなかったので、そもそも参加した面々も判らない。

 まあ、血の気が多い奴らが羽目を外した程度の話しだろう。

 

 本日は朝から、帝国軍では入隊希望者の登録で忙しい。

 何せ、飛び込みで参加した者や、観客しただけの者まで、尚武の気風強い帝国軍に入隊したがっているのだ。

 仕方が無い話しかもしれないなと、半ば諦めた気分で3万人と云う人の波を眼下に、ホテルのモーニング・ティーをゆっくりと飲む。

 

 何と言っても、前回と今回も結局優勝者と成績優秀者の殆どが帝国軍関係者で、それ以外の認められた面々が親衛隊に加わっている事実が有る。

 そして、大会前から半ば公然の事実として、大規模な帝国軍公募と大会出場者の優先入隊(これは若干事実と異なる)が噂となっていたからだ。

 ただ、本当に大会成績優秀者のスカウトは事実で、実は自分が懇意にしていた『ロビン・フッド』殿には昨日の内に話しをして、了解を貰っていた。

 他にも、拳王『ダルマ』殿がヘクトールをスカウトしたそうだ。

 何でも、素質が素晴らしいのに、まるで基礎が出来ていないので帝国に連れ帰って鍛えてみたいそうである。

 恐らく、自分の師匠の拳聖と共に扱くつもりだろう。

 

 6月11日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 この日に、アラン様御家族と帝国の首脳陣、そして帝都コリントに向かう上流華族の方々が、例の『飛空船』で帝国に帰還する。

 この便には、赤ちゃんズとその両親全員が搭乗していて、相棒の星猫と護衛の親衛隊が周りの席に座り、万全の護衛体制だ。

 少し離れた窓際に座って雲の上から下界を見下ろしていると、1年前はドラゴンのガイに搭乗して戦っていたのに、今では空軍の責任者と超大型空母『グラーフ・ツェッペリン』の艦長を兼任している所為で、すっかり空の上での戦いに駆り出されなくなっている身の上だ。

 久し振りに見る下界は、空での戦いを懐かしむ自分を気が付かせてしまった。

 何とも言えない気分を味わっている自分に、隣席のテオが声を掛けてきた。

 

 「・・・ケリー空軍大佐は何で『世界武道大会』に出場しなかったんですか?

 ミーシャさんや他の女子会メンバーとアラン様から、ケリー空軍大佐の武術の腕前は、帝国でも屈指で拳王・剣王に次ぐ実力だと聞いていますよ。

 是非その実力が見たかったですよ!」

 

 とやや不思議そうな顔で、テオは疑問符を頭に浮かべている感じで聞いて来た。

 それに対して、

 

 「簡単な理由だよ。

 先ず、自分は軍人であって武道家では無い!

 確かに武術は好きだし、己を鍛える事や精神修養に非常に向いているから、今後も続けて行きたい。

 しかし、それはあくまでも人と争う為では無くて、己との戦いと思っているよ」

 

 と答えてやった。

 テオは、判ったような判らないような顔をして黙ったが、その横に座るエラは心底納得したらしく。

 

 「そうですよね!

 私もクレリア様とアポロニウス殿下の為ならば、身命を賭して戦いますが。

 それは必要に差し迫っての事で、日頃から争いの手段とは考えていませんし、己を磨く手段として最適として、習得しています!」

 

 と、とても10歳に届くかどうか?と云う年齢の子供としては信じられない受け答えに、驚いてしまう。

 昔の『クラン・シャイニングスター』の本拠地での食堂で、危なっかしい感じで自分達の元に、冷えたエールを運んでいた可愛い給仕役の姿はそこに無く、将来の女官長にして親衛隊団長を目指す目標を見据えた一人の少女の姿であった。

 今回の『世界武道大会』の模範演技、そして学校での素晴らしい学習成績とを合わせると、それが決して叶わない夢では無い事が伺える。

 テオは、エラに比べればやや単純にアラン様とクレリア様、更にアポロニウス殿下の為に武官への道を選択している様で、かなり学業の方はおざなりになっているのでは無かろうか、これからの武官は武術一辺倒では務まらなくて、自分も日々更新され続ける帝国の新技術や、帝国に併合されたり同盟を結ぶ各国の情報を精査する為に、必死に学習しているのだ。

 実際、最近『士官学校』出身の新人の空軍軍人は、頭脳の面では素晴らしく優秀で、事務手続き全般を新人なのに任せているのが実情で有る。

 何れは軍人そのものが、軍務畑と実戦畑に二極化するかも知れないなと、テオとエラを見ていて考えた。

 



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6月の日記⑯(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『ドラゴン軍団』の訓練》

 6月13日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 アラン様と共に久々に空軍ドームに出向き、ドラゴン達の状態確認を行う。

 実際の処、ザイリンク公国の公都でもモニター越しに情報リンクしていたので、ドラゴン達と連絡を取り合っていて問題無く把握していたが、いざ140頭近くのドラゴンが並ぶと洒落にならない迫力が有る。

 

 「アラン様、ケニー空軍大佐。

 無事のご帰還、おめでとうございます!

 我等、新しく編成された『ドラゴン軍団』137頭は、毎日の実戦訓練と魔法訓練を繰り返し、何時でも出動出来る体制を整えております!」

 

 とアトラス殿が言上してきて、アトラス殿の後ろに控えていたドラゴン達共々、一斉に頭を下げた。

 

 《何ともこれだけの数のドアゴンが頭を下げると、壮観なものだ!》

 

 と云う思いを抱きながら、訓練の成果を見せて貰う為に、付きっ切りで訓練指導していた部隊隊長のベック、トール、キリコ達20人に命令させ、各種軍団魔法や連携攻撃を空軍ドーム内の訓練場で見せて貰った。

 

 15頭の『エルダー・ドラゴン(老竜)』に進化したガイやサバンナ達が、凡そ8頭ずつの『ドラゴン・パピー(幼竜)』を率いる形で部隊を形成して、時に部隊毎に時に軍団全員で軍団魔法や一斉攻撃をこなす。

 

 そして仮想訓練としてアトラス殿が敵役となり、武装を『ケツアルコアトル』モードになって、全ドラゴンと実戦訓練をさせてみた。

 

 『ケツアルコアトル』モードの100枚を超える羽による反射攻撃や、ビーム攻撃にも元ワイバーンのドラゴン達はしっかりと対応して行く。

 

 そして強烈無比な135頭のドラゴンによる一斉火炎攻撃にも、アトラス殿はリフレクターフィンでの反射をしてみせた。

 これならば、今後の同格以上の魔獣や魔物にも対処出来そうで、自分的にはかなり満足出来る訓練内容だった。

 だが、アラン様はまだまだだと感じたらしく、小声で自分に、

 

 「・・・訓練を見る限り、ある程度の敵ならば余裕で対処出来るだろうが、ケニーも知っての通り、我々は過去にも数多の『古きものども』との対戦があり。

 『古きものども』のボスクラスには、まだまだ攻撃力で不十分だ。

 一撃必殺とまでは望まないが、奴らに有効な大打撃を与えられる攻撃力は欲しい!

 何故なら、今後『古きものども』のボスクラスが複数現れる事態は容易に想像出来るし、当然その場合は神鎧『ジークフリート』を纏った私だけでは、対処出来ない可能性は大いに有り得る。

 是が非でも、ドラゴン達のこれまで以上の攻撃力増加を果たして欲しい!」

 

 と深刻な顔で述べられた。

 確かに、例の『古きものども』のボスクラスには、今のままでは有効な打撃にはなり得なさそうだ。

 親父達の工場謹製のドラゴン用の武装のお陰で、オリハルコンとアダマンタイトをふんだんに利用した武装は、防御力に於いてほぼ心配する必要が無い程強化されたが、攻撃力の面では『フレキシブル・キャノン』による各種強化魔法の攻撃しか無いのが現状で、アトラス殿とグローリア殿の強化武装しか、『古きものども』のボスクラスには、通用しそうにない!

 今後は親父や賢聖モーガン殿との相談で、何らかのドラゴン全員の攻撃力アップを図ろうと考えた。

 

 6月25日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 アラン様の要望を叶えるべく、親父達の専門プロジェクトチームが総力を上げて頑張っている中、アラン様から或る命令が超大型空母『グラーフ・ツェッペリン』艦長で有る自分に、出動命令が下る。

 内容は、物資を満載の上でアラン様とカトウ以下一族全員を連れて、日の本諸島に向かうと云うものであった。

 その命令書を携えてやってきたカトウが、表の命令とは別の内容が有ると言ってきたので、アスガルド城に有るアラン様の執務室に夜更け参内した。

 

 アスガルド城の裏門から、カトウの案内でアラン様の執務室に向かい、衛兵たちに誰何される事も無く入室すると、アラン様が応接用のソファーを自分に勧めて来たので、恐縮しながら座らせて頂くと、カトウが給仕役をして珈琲を入れてくれて、アラン様と自分そしてカトウの分がソファー前のテーブルに並ぶ。

 実は、こういった3人での秘密会議は、これまでも何回か開かれている。

 何故ならこの3人は、アラム聖国の実力者『カルマ』との面談の際に、アラン様が『神人』であると看破した時に居た者であり、他にも『神人』に纏わる事項を話し合う時の必須メンバーなのだ。

 

 「・・・ケニーは知っているから説明は省くが、このカトウの故郷である日の本諸島を裏で支配する魔物が、いよいよ活動を開始した様で、日の本諸島の祭司兼王族に対し様々な要求を叩きつけた様だ。

 私は、例のカトウとその一族との約定通りに、日の本諸島に向かい件の魔物を倒そうと思う。

 その為に、崑崙皇国の『南京』滞在時に、駆逐艦1隻にカトウの一族数名と帝国軍200人を載せて、先遣及び折衝部隊として日の本諸島に派遣していたのだ」

 

 とアラン様は言われ、カトウも頷いている。

 

 「それでは先方から我々を受け入れるとの返信が?」

 

 と自分が聞くと、カトウが、

 

 「問題無いです。

 日の本諸島の『大王(オオキミ)』は快く、アラン様の来訪をお待ちしているとの返答をしてくださいました。

 ただ、何分例の魔物にバレない為にも、表立って迎えられないので、ギリギリまで魔物を騙して行動する事になりそうです!」

 

 と答えてくれた。

 いよいよかと、カトウ達が旧ベルタ王国で秘密工作活動をしていて、それを取り押さえた思い出と、服従する取り決めをした場面を思い出しながら、感慨にふける。

 



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7月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『日の本諸島』到着》

 7月1日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 崑崙皇国の『南京』ドームに龍脈門(レイライン・ゲート)を通って到着し、直ちに皇宮に向かう。

 西方教会圏とは違う、東方独特の作りの皇宮は非常に神秘的で優雅な趣に満ちていた。

 現在は『則天武后』様が、皇帝の立場に就いておられるが、何れは皇太子である『李世民』殿が跡を継ぎ皇帝となるそうで、実質政務と軍務を有能な配下と共に司っているそうだ。

 今回の来訪は国事行為では無いので、親しい友人の来訪という形となり、皇宮の中の庭園にある『翠微亭』と呼ばれる素晴らしい作りの邸宅に招かれた。

 崑崙皇国側は、『則天武后』様・『李世民』殿・『妲己』殿と幾人かの使用人。

 帝国側は、アラン様・カトル大臣・カトウ・自分の4人。

 

 会見は双方共に公的なものでは無いので、ざっくばらんに始まったが内容は逆にかなり濃密なものとなった。

 

 懸案の一つがやはり貨幣問題である。

 崑崙皇国は、人口が多いだけにべらぼうな数字での商取引が行われていて、かなりギニーを基礎とした手形や証文取引が行われており、その価値基準に新たなポイント決済と、帝国が発行するカードでの取引と個人認証、更には給与支払いや税金徴収まで含めるシステムを入れるには、かなりの移行期間と混乱が予想され、その為にカトル大臣が自身の省庁に配属された優秀な官僚数百人を今回連れてきていて、彼らには今後10年は此処崑崙皇国にて働いて貰う予定で有る。

 まあそんな事を言っても、いざとなれば数時間で行き帰り出来るのだから、それ程身構える事も無いだろうし、常にモニター越しに帝国の中枢と確認し合えるので、業務もタイムラグは無いだろう。

 

 大まかな政務絡みの取り決めを決めて、今回の来訪の本題に移った。

 崑崙皇国も、カトウの故郷である『日の本諸島』の存在と概要は、ある程度把握してはいたが、その昔若干の貿易と交流が有った程度で、細かい事情は知らないそうだ。

 今回、我々が『日の本諸島』に行くに辺り、将来の交易を期待して数十人の使節団派遣を帝国として願った。

 『則天武后』様・『李世民』殿・『妲己』殿全員が、即座に賛成してくれて、その場で使節団派遣と献上品の進呈を約束してくれた。

 その即断即決にアラン様は感謝され、そのまま今後の帝国との貿易やインフラ整備、そしてこの『南京』ドームに開設される『放送局』の話題を楽しげに語られた。

 現在、帝国の『放送局』からの放送が一方的に流され続ける事は、お互いに良く無くて、相互理解と文化・文明発展の為に、崑崙皇国側からの放送は必須であると考えられていたからだ。

 非常に和やかな雰囲気の元で、重要な話し合いが決まって行く姿に、お互いが信じあっていることが伺えて、2国の今後一層の発展が目に見える様だった。

 

 7月10日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 崑崙皇国側の準備も整い、超大型空母『グラーフ・ツェッペリン』を中心として、6隻の駆逐艦と10席の輸送艦が『日の本諸島』目指し昨日出港した。

 最初の寄港地は、『日の本諸島』の九州と云う所の博多と言う港である。

 此処には、『大王(オオキミ)』が代表の大和朝廷の地方政庁である国衙が有り、そこには既に大和朝廷からの指令が届いていて、本日問題無く寄港出来た。

 そして『大王(オオキミ)』からの親書がアラン様に渡された。

 例の魔物を騙す為の策を講じる為に、次の寄港地に『大王(オオキミ)』の代理人が『グラーフ・ツェッペリン』に乗り込む事が判った。

 

 7月12日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 淡路島と云う大和朝廷の都である『奈良』の直前にある島に寄港した。

 一旦輸送船はこの淡路島に停留して、『グラーフ・ツェッペリン』と駆逐艦3隻で『奈良』に向かうことが乗り込んできた『大王(オオキミ)』の代理人である『中臣鎌足』と云う人物との会談で決まった。

 この『中臣鎌足』と云う方は、恐らく相当の切れ者なのだろう、超大型空母である『グラーフ・ツェッペリン』を見ても、あまり驚かずにアラン様と会うなり、しっかりとした礼儀を述べて、今回の来訪に至る経緯と事前に帰還していたカトウの配下との打ち合わせに従い、例の魔物に感づかれても大丈夫な様に幾つかの方策を構築している旨を説明してくれた。

 だが、そう上手く事が運べるかは、やって見なければ判らないので、策が破れた場合の次善策として、我等帝国への王子と王女の亡命を許可して欲しいとの願いを申し出てきた。

 確かに、どれだけ事前に想定していたとしても、物事はこちらに都合良く運ぶとは限らない。

 その為に、例え自分達家臣と現『大王(オオキミ)』が犠牲になろうとも、次代の血筋が生き残ればそれで良いと云う、凄まじいまでの覚悟を以って事に当たろうとしている彼に、自分は非常に共感し、共に事に当たろうと思う。

 



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7月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『大和朝廷』の秘密》

 7月13日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 我々は河内の港に寄港して、そこに超大型空母『グラーフ・ツェッペリン』を停留させて、大和朝廷から遣わされた使者と共に車両5台で『奈良』の都に向かう。

 川筋に沿って比較的広い道を進み、山に囲まれた『奈良』の都に向かって行く。

 道中の田園風景は非常に美しく、田圃と説明された畑には水がはられ、稲穂と説明された黄金色の草は吹き渡る風に光っている様に見えた。

 ただ気になったのは、道中で見る民衆の姿だ。

 従順そうに農作業をしている様だが、何とも元気が無い様に見える。

 日頃見ない筈の車両を見ても、一瞬興味を示すが直ぐに俯いて黙々と農作業に戻る。

 此れが少数ならばそういう人も居るかなと、気にしなかっただろうが子供を除く全員となると、異様な話しである。

 敢えて気付かない様にして、『奈良』の都に入る。

 『奈良』の都は、別名『平城京』というらしく入る時に、大きくて妙な山門(鳥居と云うらしい)を潜る形で入り、幾つかの儀式をしてから『大王(オオキミ)』の居られる拝殿に向かう。

 その間も非常に気になったのが、蛇を模した石像が至る所に配置され、然もその石像が異様な気配を発している事実だった。

 事前の取り決めで、『大王(オオキミ)』にわざとアラン様が謙り御簾の前に座す形で面会する。

 

 淡々と型通りの儀式を行い、『大王(オオキミ)』との対面が終わり、我々は指示された宿舎に車両で向かう事になったのだが、或る人目につかない曲がり角で小部屋に滑り込んだ。

 その小部屋には、カトウともう一人の男が居た。

 男は崑崙皇国の魔法術である『符術』に似た紙を人形にしたもの2つに、「フッ」と息を吹きかけた。

 すると、驚いた事に2つの人形に切った紙は、たちまちアラン様と自分そっくりとなり、そのまま小部屋から出て行った!

 呆然としている自分にカトウが、

 

 「ケニー大佐急ぎましょう!」

 

 と話しかけてきて、小部屋の床に空いた階段を指し示し、率先して階段を降りていった。

 アラン様が、一切惑わずに階段を降りて行くので、自分もそれに続く。

 薄暗い階段を降りて行くと、やがて厳重そうな扉が見えてくる。

 先頭を進んでいたカトウが、何やら合言葉らしき言葉を発すると、中側の錠前が上がる音がして厳重そうな扉が開く。

 その扉を素早く全員が潜り、最後に潜った先程の術を使った男が、何やら呪文の様な言葉を唱えると厳重な扉がゆっくりと閉じた。

 

 すると通された部屋の明かりが一斉に光りを増して、部屋の中が一気に明るくなった。

 其処には、先程拝殿で対面した『大王(オオキミ)』と家臣の方々が勢揃いしている。

 

 突然『大王(オオキミ)』と家臣の方々が、一斉に頭を下げてアラン様に謝って来た!

 

 「・・・大変申し訳なかったアラン皇帝陛下!

 奴の監視を欺くには、あの様な形での対面をするしかなかったのだ、どうかお許し頂けないだろうか?」

 

 と『大王(オオキミ)』が述べられ、アラン様は判っているといった様子で頷き、『大王(オオキミ)』に歩み寄られてその手を掴んで頭を上げて貰い語りかけた

 

 「カトウと出会い、『日の本諸島』の窮状をつぶさに聞かされて、ずっと心が傷んでおりました。

 だが、当時私の力と勢力はとても小さく、とても『日の本諸島』をお助けに行く余力は御座いませんでした。

 しかし、3年の時が流れ、東の大国で有る崑崙皇国とも同盟を結び、現状後顧の憂いは殆ど無くなりましたし、私の力も当時に比べ格段のレベルアップを果たし、我が帝国も順調に国力を増し、十分に『日の本諸島』をお助けするだけの地力を得ました。

 さあ、お互いに協力しあって『日の本諸島』の長年に渡る厄災を倒しましょう!」

 

 そのアラン様の力強い言葉に、『大王(オオキミ)』は今の今まで被っていた仮面を顔から剥がした。

 そう、ずっと大和朝廷の面々は、それぞれが素顔を晒さずに仮面を被っていたのである!

 『大王(オオキミ)』は、

 

 「先程まで、私は奴の傀儡でしかなかったので、本当の気持ちや行いを一切出来ずにいましたが、この部屋ならば堂々と己の言葉で話す事が出来ます。

 どうかお話しを聞いて下さい!」

 

 『大王(オオキミ)』(天智大王と言うらしい)は、『日の本諸島』の昔々からの伝承を話し始めた。

 

 「昔々『日の本諸島』の地方に出雲と云う場所が有り、其処には八岐族という人々が住んでいて、その人々はある魔物を神として祀っていたそうで、その魔物に一定期間毎に供物として生娘を奉納していたらしい。

 だが、大陸から渡来した錬金術師の一団がやって来て、この魔物を退治しようとして様々な魔道具や呪物で以って倒そうとした。

 そして目論見は不完全ながらも成功し、退治こそ出来なかったが封印に成功したようです。

 そして500年間程経って、この大陸から渡来した錬金術師の一団と『日の本諸島』の諸族が合流し、現大和朝廷が作られて行ったのだが、被支配者となった八岐族はその事を恨み、封印されていた魔物を持ち出し、『日の本諸島』の霊山である『蓬莱山』の龍穴に投げ入れました。

 すると信じられない事に、その魔物は『蓬莱山』の霊力との融合を果たし、神々に匹敵する力を得てしまった。

 そしてその力で大和朝廷に襲いかかって来たのだ」

 

 と遠い目をして天智大王は話し続けていった。

 



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7月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝2年)《天智大王の話の続き》

 7月14日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 朝、沐浴を済ませ精進料理(肉、魚を除いた料理)を摂り、用意された白装束を着せられ、出発の時を待つ。

 その若干の空白の時間に、昨日の天智大王の話の続きと出来事を思い出した。

 

 「・・・・・『蓬莱山』の龍穴に投げ入れられた魔物とは、厳密に云うと魔物というより魔物の核とでも云うべきもので、実体では無くて封じられた『勾玉』という玉で、下手に壊すと復活してしまうので『出雲大社』という社に祀って居たのだそうだ。

 だが、その『出雲大社』を八岐族は、『土蜘蛛』(身体は蜘蛛だが頭からは角が生え、鋭い牙も持ち合わせた鬼)数匹に乗り襲い、『勾玉』を奪いそのまま『蓬莱山』の龍穴に投げ入れた。

 こちらも追っ手を出して、凄絶な戦いの末に八岐族と『土蜘蛛』を滅ぼす事には成功したのだが、『蓬莱山』の龍穴に投げ入れられた『勾玉』を回収は出来なかった。

 仕方なく『蓬莱山』の龍穴の周りを取り囲む形で社を作り、全体を封印する事にして数十年の時が経った。

 人々がその事を忘れかけた頃に、出し抜けに『日の本諸島』の全土を大地震が襲った。

 殆どの者の家屋は壊され、人々が呆然としていると、突然人々の前に巨大で白い蛇の霊体が出現した。

 白い蛇の霊体は、人々に告げた。

 「毎年8人の生娘を『蓬莱山』の龍穴の社に奉納し、それぞれの地方の国衙には、これより遣わされる使い魔(白い蛇)を祀って、その使い魔の要望を全て叶えよ、反抗した場合は『土蜘蛛』と『牛鬼』を差し向けて尽く殺し尽くしてやろう!」

 と宣言したのだ。

 当然それに反発した大和朝廷と人々は対抗したのだが、あまりの数の『土蜘蛛』と『牛鬼』によって、敗れてしまった。

 其れ以降、事実上大和朝廷は魔物の支配下となり、魔物の命令に唯々諾々と従うしか無くなったのだよ。

 だが、『伊勢神宮』という大社に居る最高位の巫女が、7年半前にある宣託を神から受けたのだ。

 

 「此れより3年半後、西の国にて星々の欠片が多く地に落ち、その星々と共に『神人』が天より降る。

 

 『神人』は神の化身(アヴァターラ)にして、強大な力を持ちその傘下には神の使徒が数多存在する。

 

 『神人』は数年の後、降り立った西の国にて君臨し、その力でもって周辺の国々を平らげ豊かに治める。

 

 そして東の大国を平定した後、この島国を訪れ我等の苦難を取り除くべく、かの魔物を退治される」と」

 

 其れはカトウが、今から2年半前にアラン様に仕える時に聞かされた文言であり、其れ以降『神人』に関わる全ての話しを自分とカトウのみが、管轄する羽目になる言葉であった。

 

 続けて天智大王は言葉を続ける。

 

 「その託宣を得て我々は、魔物の監視を掻い潜りカトウとその一族である忍びの者達を、大陸に派遣する事に成功しました。

 そしてカトウは、見事に『神人』であられるアラン皇帝を今此処に導いて下さった!

 (此処で天智大王と家臣の方々はカトウに向き直り)

 カトウ!この困難極まる任務をよくぞ果たしてくれた!

 余とこの『日の本諸島』に住まう全ての民が、お主達一族の献身と努力に敬意を表する!」

 

 と天智大王と家臣の方々は、一斉にカトウに対し頭を下げた。

 それに対してカトウは慌てて、

 

 「天智大王と家臣の方々、どうか頭をお上げ下さい!

 あくまでも我々忍びの者達は、『神人』であられるアラン皇帝陛下を『日の本諸島』にお連れしたまでで、かの魔物を倒した訳では御座いませんし、寧ろこれから如何にかの魔物に気付かれずに倒す手立てを考え実行するかが懸案です。

 しっかりとした対抗策と、次善の策や破れた場合の方策も練らねばなりません!」

 

 と答え、天智大王と家臣の方々も納得され頷いた。

 そして幾つかの方策を話し合い、帝国側の来訪している戦力は魔物を油断させる為の少数で、既に崑崙皇国『南京』ドームから帝国の動員可能な全戦力が準備されていて、本日中に出港する事になっていると伝えた。

 その情報を元に、この場にいる全員で幾つかの方策を決め、納得がいった処で全員にアラン様が手を差し出し、当初戸惑われた天智大王と家臣の方々もカトウが促すと、アラン様と手を握り合う。

 

 そんな事を思い出していると、係の者から声を掛けられ正気に戻る。

 そのまま係の者の案内にされて、宿舎から出てアラン様と共に車両に乗り込む。

 車両をゆっくりと走らせ、大和朝廷から派遣された武者が護衛する中、『伊勢神宮』に向かう。

 道中護衛の武者と話す事になった。

 そのリーダーは、『源 頼光』と言い他の面々は、渡辺綱・坂田金時・碓井貞光・卜部季武という名前の武者でかなりの剛の者なのが雰囲気で判った。

 彼らは何でも度々、妖怪等の怪異や盗賊等を退治していて、大和朝廷も我々の道中の無事を保つ為に彼らを派遣したらしい。

 そして『伊勢神宮』に夕方に着いて、用意された宿舎に入り明日の最高位の巫女との対面に備え、早くに就寝した。

 



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7月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝2年)《伊勢神宮の真実》

 7月15日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 初めての『伊勢神宮』の朝、顔を白い布で覆った女の子が準備が出来たと部屋前で言って来たので、沐浴と朝食を済ませ、玄関に出向きアラン様とカトウと合流し、『伊勢神宮』の新宮に向かった。

 新宮に至る階段を進みながら、階段から少し離れた所に立つ膨大な石柱を見かけて、案内をしている巫女に「あれは何ですか?」と聞いてみると、「私には答えられません」と素気なく返されてしまった。

 かなり気になったので、これから会う事になる最高位の巫女へ質問するとしようと考えて、階段を登る。

 

 やがて、白木で造営された木造の、非常に趣のある家屋に通された。

 この家屋が新宮と云うらしく、四方を開け放たれていると云うのに、神聖な気配に満ち満ちていて不思議な空間を其処に作り出していた。

 やがて、巫女に伴われて一人のやや年配の女性が、奥の建物からやって来た。

 その姿を見た瞬間カトウは、深々とひれ伏してしまい、この方こそが託宣を受けた最高位の巫女その人なのだろうと直感した。

 その女性は、最高位の巫女と云う割には、ゴテゴテとした身なりはして居らず、非常にこざっぱりとした白装束を身に纏い、人の身でありながら神聖な気配を全身から発していた。

 

 そして新宮に入ってきた年配の女性とアラン様は、向き合い共に『正座』と呼ばれる座り方で礼をし合う。

 

 「私は、この『伊勢神宮』を司る巫女にして、『日の本諸島』の全土の神社を総括する『倭姫』と申します!」

 

 と年配の女性は言い、アラン様は、

 

 「此れはご丁寧に、私は『人類銀河帝国初代皇帝 アラン・コリント一世』と申します。

 ですが、どうぞ親しみを込めてアランとお呼び下さい」

 

 と初対面の筈なのにアラン様は、ファーストネーム呼びを願われた。

 その受け答えに『倭姫』様は、

 

 「大変恐縮ですアラン皇帝陛下!

 では、親しみを込めてアラン様と呼ばせて頂きますね」

 

 と柔らかい物言いで『倭姫』は言われ、アラン様もその答えに頷いた。

 『倭姫』は、視線を転じて自分の横でひれ伏したままのカトウに、

 

 「カトウ!

 長きお務めご苦労でした。

 貴方方忍びの者達は誰一人欠ける事無く完璧に任務をこなし、我々『日の本諸島』の希望を連れて来てくれた事は、幾重にも感謝します」

 

 と深々と『倭姫』様はカトウに頭を下げ、カトウはひれ伏したまま肩を震わせて嗚咽し、涙を流している事が察せられた。

 『倭姫』様は、視線を戻してアラン様に、

 

 「アラン様は、既に理解されている様ですが、お判りの通りに神域であるこの『伊勢神宮』、更には新しく魔の気配を断絶させたこの新宮は、魔物は一切近寄る事は出来ず、伺うことも不可能です。

 つまり此処でなら全ての秘事を明かしても、かの魔物には一切漏れない事を保証致します!」

 

 と力強く言い切った。

 アラン様は莞爾として笑われ、質問された。

 

 「それでは、幾つかの質問をお許し下さい。

 先ずは1番知りたい魔物の目的です。

 『倭姫』様はどう推察しておられますか?」

 

 と聞かれ、『倭姫』様は、

 

 「・・・・・あくまでも私個人の考えですが、恐らくは『蓬莱山』の龍穴で力を取り戻している事から、『蓬莱山』の持つ霊力と龍脈自体の魔力を集め、以前よりも強大な身体の構築と魔力の保持を狙っている事は確実で、現在『日の本諸島』の支配を果たしている事から、更に強大になる事で大陸にまで支配を広げるるつもりではないでしょうか?」

 

 と答えた。

 続けてアラン様は、

 

 「其れでは、次の質問です。

 この新宮に向かう途中の階段横で見れた、膨大な石柱は何ですか?」

 

 と聞くと、『倭姫』様は顔を曇らせて、

 

 「・・・あれは、今まで例の魔物に供物として奉納されてしまった生娘と、他にも魔物の所為で生命を落とした被害者の簡素な慰霊碑です。

 この者達は遺体が無いので墓が作れなかったので・・・。」

 

 と痛ましい内容を語った。

 

 《・・・やはり、思った通りか・・・》

 

 自分の予想していた通りの答えだった。

 アラン様も想定通りだったらしく、一つ頷くと、

 

 「そうですか・・・。

 其れでは、次の質問です。

 此処『伊勢神宮』は、あまりにも神聖な気配に満ちています。

 然もこの気配には覚えがあります。

 もしやと思いますが、此処には『神機』が存在するのでは?」

 

 とアラン様は明らかな期待を込めた瞳で、『倭姫』様に尋ねられた。

 『倭姫』様は静かに頷くと、我々3人を促して新宮を出て先程『倭姫』様がでてきた奥の建物に案内した。

 

 その建物は、とても頑丈な作りで相当に『伊勢神宮』でも重要な物が安置されている事が察せられた。

 『倭姫』様が、何やら呪文の様な言葉を紡ぐと、ゆっくりと頑丈極まりなさそうな門扉が開いていく。

 

 その建物の室内に踏み込むと、圧倒的なまでの神聖な気配が場に満ちた。

 其れは、崑崙皇国で見た『神機応龍』と同様に、岩石の封印がされていて、周りは七五三縄と呼ばれる結界で囲っていた。

 

 『倭姫』様は厳かに仰っしゃられた。

 

 「アラン様が推察された通り、この岩石の封印がなされている代物は、且て魔物を封印する際に使用していた先人の遺産にして、真の乗りてを悠久の彼方から待ち続ける『神機』!

 

 その名は、『神機天照』!」

 

 そう我々は、此処『伊勢神宮』にて帝国が探し続ける『神機』の『応龍』に続く2体目『天照』を見出したのである。

 



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7月の日記⑤(人類銀河帝国 コリント朝2年)《魔物との対決①》

 7月16日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 昨日の『伊勢神宮』での諸々の出会いと行動指針を託されて、我々は車両5台での旅を続け夕刻に『蓬莱山』の麓に辿り着いた。

 説明を受けていたが、実に美しい霊峰だ。

 左右均等に稜線を描き、周りに比肩する山々は一切無く、頂上にかかる雲は薄く棚引いている。

 正に『日の本諸島』を代表する霊峰で、魔物の件が無ければ拝みたい程だ。

 我々一行は、麓の『駿河』という所で大和朝廷が用意した宿舎に向かった。

 その宿舎に着いて一歩玄関を潜った瞬間、背筋が凍る。

 体長5メートル程の白い蛇が、10メートルくらい離れた庭先で、此方を伺っていたのだ。

 事前に此奴こそは例の魔物の使い魔であると、説明を受けていなければモンスターとして攻撃していたかも知れない。

 極力、白い蛇を見ない様にして宿舎に入ると、宿舎に有る『温泉』に入って旅の疲れを落として、夕食を全員で摂ったが、殆ど会話せずに早々と就寝した。

 その間、どうも冷たい視線を常に感じていたが、恐らく気の所為では無いだろう。

 

 7月17日①(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 早朝から最近は習慣の様にやらされている沐浴と、精進料理を食し白い服を着せられた。

 そして我々一行は、予定通りに車両に全員乗って『蓬莱山』へ向かう。

 そして山門らしき鳥居に着くと、いきなり雰囲気が変わった。

 まるで空気そのものが変質した様で、粘つき絡め取る様な重く冷たい空気だ。

 車両から出て歩き始めた我々一行は、この非常に不快な空気の層を泳ぐように階段を登る。

 時折、階段脇に白い蛇が姿を現し、睨めつける様な視線を我々一行に向ける。

 敢えてそれを気にせず、目的地である『蓬莱山』の龍穴の有る社に向かう。

 やがて信じられない程の瘴気を放つ社が見えて来た。

 この頃には周り全てが白い蛇に囲まれていて、足の踏み場も無い程である。

 蛇が居ない一筋の道を進み、やがて巨大な穴を囲む形で作られた建造物が見えてきて、一際高い壇上が見えて来た。

 予め説明を受けていたアラン様が、淀みなく歩を進め壇上の階段を登った。

 

 暫くすると、龍穴から一段と凄まじい瘴気が立ち上った!

 自分とカトウそしてお付きの武者である源頼光と、その配下の方々も顔を顰めている中、欠片も驚かずにアラン様はその瘴気を見つめている。

 

 1分程経っただろうか、龍穴からゆっくりと巨大な蛇の頭が鎌首をもたげて出てきた。

 但し、その姿は半透明で恐らくは『霊体』だと推測される代物だ。

 

 やがて、その『霊体』は我々一行を見渡すと、アラン様に向けて人間の言葉を話し始めた。

 

 「貴様が、大陸の覇者か?

 何ともちっぽけで小虫の様な生き物だな、とてもあの『蚩尤』が敗れたとは信じられぬ!

 大方、あの忌々しい『魔法大国マージナル』に巣食うドラゴンと、奴に協力する錬金術師達、そして我等の不倶戴天の敵である『調整者』の遺物ででも使ったのであろう。

 真に忌々しい事よ!

 まあ良い、此れより貴様は我に大陸の覇権を譲り、貴様の持つ『調整者』の遺物、大陸に存在する龍脈とその噴出孔、そして全ての人民の生殺与奪権を我に渡せ!

 さすれば、この『日の本諸島』の代表者と同じく、我に仕える使い走りとして酷使してやる感謝せよ!」

 

 と傲慢極まり無い宣言をアラン様に向かって突きつけた。

 

 その宣言を聞いたアラン様がどの様な反応を見せるかと、自分とカトウは内心興味津々で伺っていると、自分の想像とかなり異なり、アラン様は怒りもせずにやや失望している様に見受けられた。

 その様子に、『霊体』は不審に感じたのかアラン様に対し詰問してきた。

 

 「どうした虫けらよ。

 返答するが良・・・」

 

 との言葉に被せ気味にアラン様は答えた。

 

 「この程度か・・・。

 折角、『古きものども』との接触で、知性を持って会話出来る貴重な機会で有ったのに!

 然も、正式な記録としては、俺が尊敬する『イーリス・コンラート准将』と『古きものども』の尖兵である『バグス』が、会話してきた時以来だと云うのに!

 本当に、この程度の知性しか無いのか!

 まさか何の疑いもなく俺を呼び込むとは、自分の喉元に武器を突きつけられているのに、何の警戒もしていないとは、間抜け過ぎるにも程がある!」

 

 と最後にはアラン様は、激昂して吠えている。

 その今までの落ち着き払って、思慮深い態度のアラン様に似つかわしくない姿は、周りの人だけでなく『霊体』も当惑させた。

 

 「何だ?虫けら、恐怖で狂ったの・・・」

 

 と『霊体』は問うたが、またも被せ気味にアラン様は答えた。

 

 「黙れ!

 全く馬鹿馬鹿しい話だ!

 仮にもお前が言うように、大陸の覇者と呼ばれる存在が、大した人数のお供も付けず武装もせずに、お前の様な奴と対面すると思うのか?

 少しは疑ってみろ!

 まさか、唯々諾々としてお前如きに頭を下げると、本気で思っていたのか?

 傲慢極まり無い限りだよ!」

 

 と心底軽蔑しきった様子で、『霊体』をアラン様は見下した。

 どうやらその事に漸く気付いた『霊体』は、周囲を埋め尽くす量の蛇達に命令を下す。

 

 「虫けら共を殺せ!」

 

 その言葉と同時に、万を越える数の白い蛇が津波の様に我々一行に襲いかかった!

 だが、白い蛇質は我等に近付く10メートル手前で、空中からの光の乱舞で、殆どが消滅してしまう。

 

 「な、何だと?!」

 

 突然の上空からの攻撃に、『霊体』は明らかに驚き慌てる。

 

 その姿に心底ガッカリした様子で、アラン様は嘆息した。

 

 「結局は力押しのバカに過ぎないか、粛々と処理してやる。

 大人しく滅びろ!」

 

 アラン様は、泰然自若とした様子で『霊体』に向かって宣告した。

 



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7月の日記⑥(人類銀河帝国 コリント朝2年)《魔物との対決②》

 7月17日②(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 「D1からD5は、傘下の量産型ドローン100機ずつで白い蛇共を殲滅し続けろ、D6からD10は傘下の量産型ドローン100機ずつで各地から集結してくる『土蜘蛛』共を退治しろ、我等はその間に駿河湾にまで後退する!」

 

 アラン様は予定通りの命令をカトウから手渡されたインカムで行い、直ちにこの場に同行した自分とカトウ、其れに武者達と襲いかかる白い蛇を武者は刀、我等は魔法(アラン様と自分そしてカトウは武装出来なかったので)で蹴散らし、車両まで戻ると全速力で『蓬莱山』から下り、駿河湾を目指す。

 その姿を『霊体』は憎々しげに睨み、突然フッといった様子で消えた。

 

 やがて、かなり大きな地響きが起こり、微震が地面を揺らし始めた。

 

 「D1からD5は、『蓬莱山』の頂上部と龍穴を警戒!

 恐らくは出て来ないとは思うが、無理に出て来ようとした場合は、『多重結界陣』を展開して出現出来なくさせてしまえ!

 ダルシム中将!重巡洋艦『バーミンガム』と駆逐艦30隻の準備はどうだ?」

 

 と日の本海溝より南方の海上で、準備を整えているダルシム中将にアラン様はインカムで確認を取った。

 そのアラン様の問に、

 

 「アラン様、ご心配なく。

 予定通りに、日の本海溝から出現するであろう魔物が、南方に逃げない様に防御結界陣を展開済みです。

 どの様な魔物であろうと、通らせません!」

 

 と車両内のスピーカーからダルシム中将の力強い返答が返る。

 

 「良し!

 想定外の異変に警戒しつつ、我々は駿河湾の海岸線で状況の推移を見守る。

 武者達は、済まないが身辺警護を引き続き頼む!」

 

 と源頼光とその配下の武者達に、アラン様は依頼されると、源頼光は、

 

 「お気になさらずにいて下さい!

 我等『奈良』の都を守っていた武者は、此れまで意に染まない命令をあの魔物に指示され、血の涙を流して従っていました。

 しかし、あのアラン様の『霊体』に対して啖呵を切った姿で、幾分かの鬱憤が晴らせた気分です。

 当然、全力でアラン様を守らせて頂きます!」

 

 と愉快そうに請け負ってくれた。

 その姿にアラン様は頷かれると、車内で諸々の部隊・艦隊に指令を下す。

 その間は、自分とカトウは源頼光とその配下の武者達と共に、周辺の警戒を徹底する。

 時折、巨大な白蛇や『土蜘蛛』が襲いかかってくるが、上空からのドローンによる支援と、車両に積んでいた改良型バズーカで倒して行く。

 源頼光とその配下の武者達にも、予備の改良型バズーカを渡すと、器用に片手に改良型バズーカと刀をそれぞれに持ち、体長20メートルはある『土蜘蛛』を次々と倒して行く。

 余程鬱憤が溜まって居たのだろう、かなり愉快そうに笑いながら倒していく姿は、いっそ清々しい程だ。

 

 暫くその状態が続いていると、やがて駿河湾の遥か南の海上が波立ち始め、やがて駿河湾に波が押し寄せて来る。

 すると、今まで上空から我々を支援していたドローンが、かなり高度を落として来た。

 D1からD5の傘下として動く、計500機の量産型ドローンである。

 その量産型ドローンが、防御シールドを駿河湾とその周辺に展開し、陸上に被害の出ない様にしている。

 

 その状態が暫く続いていたが、海上が一層波立ち、突然巨大な水柱が吹き上がる!

 然もその数は8本もあり、それに伴って巨大な津波が駿河湾に押し寄せる。

 だが、これも想定通りなので量産型ドローンの防御シールドが一気に規模を拡大し、巨大津波を押し返す。

 やがて巨大な水柱が収まると、その海上からかなり離れた場所にある筈の駿河湾沿岸からも見えてきた物があった。

 

 其れは巨大で有った。

 最初天地を繋ぐ8本の柱に見えた。

 しかし、雲を貫いた柱の上方から鎌首をもたげる顔が我等を見下ろすように覗いている。

 

 《あり得ない!どれほどの距離があると思うのだ!》

 

 と自分は戦慄したが、アラン様は鼻を鳴らして嘲った。

 

 「何時も思うが、『古きものども』は巨大であれば有るほど、我々が怯えるとでも思っているのか?

 我等帝国軍は、数々の巨大な敵を尽く滅ぼしているのだ!

 つまり巨大であると云う事は帝国軍にとっては、アドバンテージでは無くて単なる的でしか無い!

 その事実を判らせてやろうではないか!」

 

 と堂々たる態度で言われたので、何だか巨大な割には強そうに感じなくなって来た。

 アラン様は、

 

 「此れより奴の名称は、『八岐の大蛇』とする!

 元々、奴を崇めていた八岐族が呼んでいた名称は、神に由来するものだったのだが、あの程度の魔物に神の名を冠するのは、勿体無い。

 精々、信じていた民の名称を付ける程度で良いだろうさ」

 

 と言われたので、此れ以降魔物の名は、『八岐の大蛇』となったのである。

 



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7月の日記⑦(人類銀河帝国 コリント朝2年)《魔物との対決③》

 7月17日③(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 『八岐の大蛇』は確かに凄まじい大きさでこそ有るが、何だか存在感と言える実体感が薄いので、アラン様が言う通り何だか強そうに感じない。

 D6からD10の傘下の量産型ドローン100機ずつ計500機が、『土蜘蛛』を粗方殲滅し『八岐の大蛇』の東方の海上に陣取り、『多重防御結界陣』を壁の様に展開した。

 八岐の大蛇は当初『多重防御結界陣』を甘く見て、無造作にその巨大な身体でぶつかってきたが、重巡洋艦『バーミンガム』と駆逐艦30隻の張る『多重防御結界陣』がその身体の攻撃を、簡単に弾き飛ばした。

 驚いたのは八岐の大蛇で、慌てた体勢を直すとその8つの顎から、極太のビームを吐いてきた!

 しかし、その極太のビームはあっさりと『多重防御結界陣』が吸収してしまった。

 あまりの事態に呆然自失となっている八岐の大蛇を、南方方面から『多重防御結界陣』を壁として、重巡洋艦『バーミンガム』と駆逐艦30隻は押し込む。

 その鉄壁の壁にタジタジと追いやられ、八岐の大蛇は駿河湾方向に向かおうとするが、当然其処にはD1からD5の傘下の量産型ドローン100機ずつ計500機が、同様の『多重防御結界陣』を張っている。

 前後を塞がれている状態になり、左右を八岐の大蛇が確認すると、東方はD6からD10の傘下の量産型ドローン100機ずつ計500機が、鉄壁の壁を構築している。

 完全に東方、南方、北方を付塞がれていることに漸く気付き、唯一塞がれていない西方に8本の首を向けると、雲間越しに大型立体プロジェクターで映し出されたアラン様が浮かんでいる。

 

 「漸く状況が判ったのか。

 お前は本当に馬鹿なのだな、心底呆れてしまったよ。

 さあ、仕方がないからお前が存分に暴れ回れる戦場に誘導してやる、付いて来い!」

 

 とアラン様は言い放ち、地面に降ろしたD1に自分とカトウと共にアラン様は乗り込み、源頼光とその配下の武者に車両を託し、駿河の安定に努める様に依頼した。

 D1に乗り込んだアラン様は、ワザと挑発しながら八岐の大蛇を西方に誘導する。

 完全に怒り狂い遮二無二、アラン様の乗るD1に追いすがろうとする八岐の大蛇は、何度か極太のビームを吐くが、素早いD1の旋回力に少しも極太のビームを当てられないので、怒りのあまり己の眷属を喚び出した。

 

 「あぉwhfピワイpgハイ!」

 

 相変わらず『古きものども』の発声は、聞き取りにくいし意味も判らないが、此れが彼奴等の特有な召喚魔法である事は、数々の経験則で判っている。

 案の定、八岐の大蛇の周辺の海面から、ゾロゾロと這い出して来る化け物がいた。

 その姿は、牛の首をもち蜘蛛の胴体を持ち顔は崩れた人面、体長は30メートル程である。

 

 「・・・あれが『牛鬼』か・・・。

 『土蜘蛛』と似てるが、海でも活動出来る訳か厄介だな」

 

 とアラン様が呟く様に感想を述べ、重巡洋艦『バーミンガム』のダルシム中将に指令を出す。

 

 「ダルシム中将、今召喚された『牛鬼』と云う化け物は、八岐の大蛇の純粋な意味での眷属だから、属性は『古きものども』なままだ。

 よって普通の討伐対象となるので、重巡洋艦『バーミンガム』を中心として駆逐艦30隻と共に艦砲射撃にて駆逐せよ!」

 

 「了解!

 目標、八岐の大蛇周辺に湧き出た化け物群、名称は『牛鬼』!

 艦砲種別は、ファイアーグレネード魔法弾を装填。

 攻撃対象への無駄撃ちを避ける為に、バーミンガムとの攻撃リンクを同期せよ。

 準備が出来次第攻撃に移れ!」

 

 とのダルシム中将の攻撃命令が駆逐艦30隻に飛び、程無く重巡洋艦『バーミンガム』を中心として駆逐艦30隻と共に艦砲射撃が始まる。

 ファイアーグレネード魔法弾は、攻撃対象が『古きものども』かその眷属の場合は、目標を完全殲滅する為に、対象の身体内部に潜り込んで内部から爆発する様にプログラムされているので、対象が海中に沈み込もうとあまり威力の面で地上と大差がない。

 次々と海中に沈んだ『牛鬼』が、ファイアーグレネード魔法弾で爆散し、海上に水柱を上げ続ける。

 折角召喚した『牛鬼』が、何ら我等に有効な攻撃も出来ずに、鴨打よろしくやられて行く姿に怒りながら、速力を増して我等が乗るD1目指して八岐の大蛇は必死に追ってくる。

 

 やがて、海を渡りきり『伊勢神宮』を左手に見ながら、八岐の大蛇は地上に姿を表した。

 

 その姿は、我等も戦った事の有る『ヒュドラ』に良く似ていて、頭と尾はそれぞれ八つずつあり、眼は赤い鬼灯のようであった。

 だが、何よりも特徴的なのはその体長であろう。

 恐らくは約12キロメートルに達すると思われる全長は、今までのどの『古きものども』の怪物達と比べても、最大であろう。

 

 しかし、やはり自分はどうしても違和感を感じざるを得なかった。

 その身体の表面は光り輝いていて、綺麗とすら感じるのだが、逆にやや薄ぼんやりと見えて、存在感の希薄さが伺えた。

 

 《この辺の、八岐の大蛇の存在のあやふやさが、アラン様と天智大王の例の作戦に繋がるのだろうな》

 

 と、先日行った作戦会議の内容を思い出しながら、D1を必死で追いかける八岐の大蛇を見ながら、目的地の『奈良』の都を目指し、我等は突き進んで行った。

 



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7月の日記⑧(人類銀河帝国 コリント朝2年)《魔物との対決④》

 7月17日④(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 我等がD1に乗ったまま『奈良』の都に入り、暫くそのまま八岐の大蛇を待つ。

 既に『奈良』の都たる平城京には、殆ど人が残って居らず、一部の作戦に必要な関係者がいるだけである。

 やがて淡路島に停泊させていた、輸送船に偽装させていた戦闘艦が2隻と超大型空母『グラーフ・ツェッペリン』、更に計50隻の駆逐艦が海岸線から上陸し平城京を囲む様に向かってきている。

 

 準備も整い後15分程で八岐の大蛇が到達する状況になり、三輪山麓に陣取った超大型空母『グラーフ・ツェッペリン』にD1で乗り付けて作戦指揮所に向かった。

 作戦指揮所では、全ての戦闘艦とドローンとのリンクが確立されていて、中でも今回初戦闘をする事になる戦闘艦と常に状況確認をしている。

 そんな中,正面の大モニターに楊大眼殿が現れ、興奮気味に話し出した。

 

 「オオッ、アラン陛下!

 作戦通りに葛城山麓に到達したが、山々を越えて移動したと云うのに殆ど揺れずに移動出来た。

 然も此の戦闘指揮所の素晴らしさはどうだ!

 此処に居れば現在の全ての情報が手に入る!

 お陰で崑崙皇国とのやり取りも随時出来るから、ワザワザ上層部に報告する必要も無い!

 真に凄いな此の重巡洋艦『定遠』と『鎮遠』は!」

 

 と楊大眼殿は、まるで子供が与えられた玩具の素晴らしさに、歓喜の声を上げている様だ。

 今回初戦闘をする事になる重巡洋艦『定遠』と『鎮遠』は、帝国の誇る重巡洋艦『バーミンガム』の同型艦であり、それぞれが25隻の駆逐艦を率いて、援軍に来てくれたのだ。

 現在、全面改修工事する為に帝国のドッグに入っている、戦艦『ビスマルク』と巡洋艦『ジャンヌ・ダルク』と『ドレッドノート』を除くと、この『日の本諸島』に大陸に於ける戦闘艦の主力が集っている事になる。

 正直、この戦闘艦群の大火力を諸に受け続ければ、小国程度の国土だと消滅しかねないと思う。

 そんな事を考えていると、やがて山の稜線を越えて八岐の大蛇が平城京に侵入して来た。

 

 八岐の大蛇が、その巨体をくねらせながら平城京の建物・家屋を踏み砕き全身を奈良の盆地に侵入させた。

 そして今の今まで空中に浮かんでいたアラン様の空間投影映像が突然消えて、八岐の大蛇が当惑した様子を見せて周囲を不安そうに伺う。

 

 「作戦プランA終了!

 作戦プランBに移行するので、全ての将兵は各々の役目を果たせ!」

 

 「「「「「了解!」」」」」

 

 アラン様の命令が飛び、帝国の全将兵と援軍に来てくれた崑崙皇国の将兵が唱和して答える。

 D1からD10が傘下の1000機の量産型ドローンを盆地の周囲に配置し、例の『多重防御結界陣』を積層型に展開する。

 暫く呆然としていた八岐の大蛇は、自身がこの盆地に完全に閉じ込められた事に気付いた様で、逃れようと『多重防御結界陣』に体当たりして来た。

 だが、当然此れを想定していた『多重防御結界陣』の強度は、簡単に八岐の大蛇を跳ね返してしまった。

 

 「作戦プランB終了!

 作戦プランCに移行する、各戦闘艦は艦砲に浄化魔法弾『インディグネーション』を装填。

 目標である八岐の大蛇に浴びせ続けろ!」

 

 「「「「「了解!」」」」」

 

 アラン様の再びの命令が飛び、帝国の全将兵と援軍に来てくれた崑崙皇国の将兵が唱和して答え、全ての戦闘艦から艦砲による魔法弾が、満遍なく八岐の大蛇に降り注ぐ。

 

 「ガアアアアッ!!」

 

 と八岐の大蛇は、大量に降り注ぐ浄化魔法弾『インディグネーション』に、苦痛の声を上げながら身を捩る。

 実は、現在の八岐の大蛇自身を構成している身体と云うのは、肉体と呼べる様な実体では無く、龍脈を流れる魔力を利用した仮初の身体でしか無くて、かなり存在があやふやなのだ。

 然も、定期的に八岐の大蛇が生贄として奉納させていた生娘には、特殊な処置を施した御神酒を飲ませていて、特殊な波長に八岐の大蛇自身の身体を構成する事に成功していた。

 この辺の事情は、天智大王と倭姫に伺っていた。

 なので浄化魔法弾『インディグネーション』はその波長に合わせる形に調整しているので、効果は覿面であった。

 暫くの間八岐の大蛇は七転八倒していて、平城京の建物・家屋は殆どが倒壊し地面が均されてしまった。

 八岐の大蛇は殆ど何も出来ずにやられて行く自分自身に、衝撃を受けて、

 

 「な、なぜだ!

 此れだけの魔力を吸収して、此れほどの身体を構成出来て最強の存在となった筈なのに、まるで対抗出来ずにやられて行くとはどうしてなのだーーー!」

 

 と八岐の大蛇は絶叫していたが、もう既に何も興味が無くなったのかアラン様は作戦指揮所で呟いた。

 

 「まあ、此れまでの会話で判っていたが、八岐の大蛇はただひたすらに龍脈の魔力を吸収しさえすれば、無敵の存在になれると考えていたようだが、馬鹿馬鹿しい話だそんな訳がある筈が無いのにな。

 魔力だけで身体を構成する事は、帝国の先端魔法技術でも現段階では不可能なのに、やはりあの馬鹿な八岐の大蛇には無理だった訳だ」

 

 そんな風に誰にともなくアラン様は呟くように感想を述べていたが、その間にも八岐の大蛇に浄化魔法弾『インディグネーション』が降り注ぎ続き、とうとう八岐の大蛇は断末魔を上げる。

 

 「ち、畜生!

 畜生ーーーー!

 虫けらのくせに、虫けらのくせにーーーー!」

 

 と八岐の大蛇は絶叫し、徐々に透き通って行き、最後は煙の様に消えて行った。

 何とも呆気なく、此れまでで最大の『古きものども』の魔物は、退治されたのであった。

 



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7月の日記⑨(人類銀河帝国 コリント朝2年)《魔物との対決後始末》

 7月18日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 昨日の戦闘で戦場となった平城京は、完全な廃墟となったので予定通りに封鎖区域とした。

 平城京とその周辺の避難民は、摂津の港に急遽用意した難民用ドームに退避させていたので、家屋等の資産は無くなってしまったが、『山城』という地域に新しい超大型ドームの都を作る予定なので、其処に今回の被害補填として家屋と十分な額のポイントを渡す事になっている。

 

 荒廃しきった平城京をアラン様含む帝国軍人で探索すると、案の定八岐の大蛇が倒された中心点に、1メートル程の大きい勾玉が無造作に転がっていた。

 これが八岐の大蛇が封印されていた勾玉であろう事は自明であった。

 だがその勾玉は、割れている上に魔力の痕跡すら存在しない様であった。

 

 「ふむっ」

 

 とアラン様が呟くとその勾玉に手を伸ばすと、「パリーン!」との音を立てて粉塵と化し空中に霧散していった。

 次の瞬間、周囲から半透明な白い影が膨大な数現れた!

 その影は明らかに人の姿をしていて、良く観察すると先日来訪した『伊勢神宮』で見た巫女の格好をしているのが判った。

 その大勢の白い影達は、アラン様と我等に向かって一斉に頭を下げると、ゆっくりと空中に浮かび上がり、最初はゆっくりと、徐々にスピードを上げて平城京の南東方向、つまり『伊勢神宮』に向かい飛んでいった。

 呆然とその一連の出来事を見ていたが、ふと横を見るとアラン様が手を合わせて、『日の本諸島』特有の拝むと云う姿勢で目を瞑っていたので、自分と他の帝国軍人も同じ姿勢で拝んで彼女らを見送った。

 

 7月20日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 先日の平城京の出来事を踏まえて『伊勢神宮』に向かう。

 例の新宮で『倭姫』と面会し先日の大勢の白い影達の話しを、アラン様が『倭姫』に報告した。

 特に驚くことも無く倭姫は話しを聞き終えると、我々を新宮から連れ出し、登ってきた参道の脇にある石柱のある場所に案内された。

 そして一つの石柱の前に立たれると倭姫は我々に向き直り話し始めた。

 

 「先日までは、この石柱は名前のみの只の柱に過ぎませんでしたが、今では全ての石柱に御霊が宿っているわ。

 なので、遺族や子孫の方々に連絡を取り、出来る限りの神事による御霊鎮めを行いつつ、何れは魂魄の大掛かりの鎮魂祭を行うつもりです。

 どうぞ、アラン陛下と帝国軍人の皆さんには、皆の御霊に良かったねと語りかけて下さいね」

 

 と柔らかい物言いで倭姫が我々に語られたので、アラン様始め帝国軍人は先日と同じ様に手を合わせて拝み、心の中で御霊に良かったねと語りかけた。

 すると、幻聴なのかも知れないが、

 

 「・・・ありがとうございました・・・!」

 

 と囁かれた様な気がした。

 不思議に感じたが、別に怖く思う事も無く胸が温かくなった。

 

 7月25日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 『山城』という地域に新しい超大型ドームの都を作る為に、草深かった野原を更地にして輸送船がピストン輸送する形で、資材を摂津の港に積み上げている。

 新たな都の造営と避難民の新たな住居の増築と新機軸の物流拠点となるドームである。

 帝国からのドーム建設指導員と、各種の量産型ボットが凡そ1万体が到着し、凄まじい勢いで建設基礎となるポーリング作業が行われている。

 現在、繰り返し『日の本諸島』各地に有る行政機関の国衙を通して、八岐の大蛇が葬られて今後生贄の生娘等を差し出す必要が無くなり、500年間の悪夢が大陸の事実上の代表たる国家『人類銀河帝国』が晴らしてくれた事、そして新たな秩序を構築する為に協力してくれる事、更には職を求めたり新たな事業に加わりたいと願う者は、是非参画して貰いたい旨を通達させた。

 お陰で先ずは、近隣の住人が摂津や河内・兵庫の港にやって来て、『山城』の玄関口にあたる『山崎』や『鳥羽』『伏見』の地で、『ナノム玉1』と職業訓練を受けて貰い、超大型ドームの建設に協力して貰い始めていた。

 同時に各地への道の整備を進める為に、帝国のインフラ整備を始める為の都市計画プロジェクトが始動した。

 

 7月30日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 八岐の大蛇の軛から解放された、『日の本諸島』の民は元々は勤勉で努力と向上心のある民族なのだろう、様々な大陸からの新技術と『日の本諸島』の魔法技術とは別の、新しい帝国発祥の魔法技術を積極的に学ぼうとあらゆる階層の人々が日の本全国から集結して来た。

 そんな中、八岐の大蛇を倒した当日から寝込んでいた天智大王が身罷った。

 今日になるまでの間、彼は様々な伝言を我々に遺していて、そして未来の『日の本諸島』の民が今後同様の被害に合わない様に、アラン様に全ての権限を移譲されて逝かれた。

 つまり今後『大和朝廷』は帝国の出先機関としての行政執行機関となり、『日の本諸島』の民への権威機関と精神的支柱は『伊勢神宮』が担うと云う事になった。

 以上の事を、天智大王は後の行政機関長たる弟の天武王子に言付け、アラン様の承認と共に帝国の正式な移譲書類が発布された事を確認すると、静かな笑みと共に安らかに大往生出来たのであった。

 此の日の夜の通夜の席で、天武王子がアラン様と我々に説明してくれた。

 

 「実は、私の兄者『天智大王』は、幾度も八岐の大蛇を倒すべく、様々な手段で戦いに挑み、その都度殺されていたのですが、毎回『変若水(おちみず)』と呼ばれる霊水を飲まされて無理矢理生き返らされていました。

 本来既に兄者は、死人でなければならなかったのです。

 しかし、八岐の大蛇によって無理矢理生きさせられて、兄者にとっては死よりも辛い己の民を生贄として、捧げなければならない境遇に置かされていて、毎晩兄者は血の涙を流して居りました。

 だが、全ての悪夢はアラン陛下と大陸の兵士の方々によって吹き払われました。

 きっと今頃兄者は、先に逝った友と再会されて喜んで高天原の喜びの野で宴に参加されている事でしょう。

 皆様、どうぞ兄者の望みが果たされた事を祝い、冥福出来た事を「お疲れ様でした!」と送り出して下さい!」

 

 と一筋の涙を流して天武王子は頭を下げた。

 事実上此の日を以って、『日の本諸島』は『人類銀河帝国』の直轄領となり、東方の要としての役割を割り振られる事が決まったのである。

 



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8月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『神機天照』の運び出し》

 8月1日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 此の日正式に『日の本諸島』は『人類銀河帝国』の直轄領となり、大陸国家の一員となり帝国の物流経済ブロックの拠点の一つとなった。

 式典は、『日の本諸島』の重要人物として、天武王子改め天武執政長・中臣鎌足改め藤原鎌足行政長官・倭姫神祇長・源頼光侍所別当・賀茂忠行陰陽寮頭等が出席した。

 まだ『山城』という地域に新しい超大型ドームの都を造営している途中なので、『山崎』という場所に作られている小型ドームの中で式典が行われ、式典終了後はドームの周囲に作った野外パーティー会場で様々な人々が宴に参加していた。

 そんな中、自分の艦である超大型空母『グラーフ・ツェッペリン』では、帝国軍と崑崙皇国軍の面々が宴を開いていた。

 皆楽しく、地元である『日の本諸島』の酒、日本酒や焼酎を飲み比べ、様々な酒の肴をつまむ。

 料理も、海産物を中心に大陸では見ない日の本料理が出され、皆も珍しそうに箸をつける。

 

 そうやって同僚と崑崙皇国軍人の面々と楽しんでいると、帝国からのお客の一団のグループに紛れ、ミツルギ殿とオウカ殿そして赤ちゃんズの一人『サクラ』ちゃんの家族がやって来た。

 

 「よおケニー殿、元気そうで何よりだ。

 しかし、この『日の本諸島』と云う所は良い所だな!

 風光明媚だし酒につまみも最高だぜ!

 妻は名産の料理とお菓子に夢中で、『サクラ』とお供の星猫『デルタ』は珍しい風景に御満悦だぜ!」

 

 とミツルギ殿は、大層気に入ったらしく『芋焼酎』なるクセはあるが、慣れるとやみつけになるという酒を片手に自分の横の席に着いた。

 自分も気に入った『泡盛』という、此れまたクセが有って度数の高い酒でお互いに酌み交わした。

 

 お互いに近況と、武道の話しをしていると、食事の終わったオウカ殿が武道の話しに興味が湧いた様で、『日の本諸島』の伝統武術の話題に場が盛り上がり、帝国と崑崙皇国の武道家連中も混ざり始めて、諸問題が解決すれば、源頼光始め武者の方々が帝都コリントに来訪予定なので共に語り合おうと言うと、皆是非その場に居たいと言い、大いに今後が楽しみになった。

 

 8月5日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 朝からアラン様と自分とカトウ更にミツルギ一家は、精進潔斎して『伊勢神宮』の新宮の奥にある建物に向かう。

 其処には、倭姫殿と陰陽師『賀茂忠行』殿が居られ、周りを大勢の巫女が取り囲んでいた。

 そして倭姫殿がオウカ殿に指示された。

 

 「此れより、『神機天照』と『サクラ』殿の照合確認を行います。

 オウカ殿は『サクラ』殿と共に其処の壇上に上がって下さい」

 

 その指示に従い、オウカ殿が懐に『サクラ』殿を抱き、肩には星猫を載せて壇上に上がった。

 すると、暫くして、オウカ殿が懐に抱いた『サクラ』殿の産着の懐から、やや白い桃色の光りが輝き出す。

 そして其れに呼応する様に、『神機天照』が封じられた岩が、脈動する様にやや白い桃色の光りを放ち始めた。

 

 「アラン様から報告された通り、『神機天照』の真の乗り手はその赤子、『サクラ』殿で間違いなさそうね!

 遥か過去にどの様な経緯があって、この『神機天照』が『日の本諸島』に有ったのか判らないのだけど、只邪悪な物に対してはかなりの効果が有ったらしいので、例の八岐の大蛇に対しても効果が有ったのだけど、やはり真の乗り手が居なかった所為で、決定的な対抗手段になり得なかったわ。

 だけど漸く真の乗り手が現れたのね。

 アラン様、どうぞ帝国にて『神機天照』を預かって頂き、然るべき時に封印を解除して、この世界に対しての侵略者『古きものども』への対抗手段として活用して下さい。

 ミツルギ殿にオウカ殿!

 どうか、『サクラ』殿を健やかにお育て下さい。

 私共『伊勢神宮』の者にとっては、『サクラ』殿は御神体たる『神機天照』の乗り手なので、半ば『サクラ』殿は御神体と同等の存在なので、此れからは貴方方を全面的にバックアップ致します!」

 

 と祈る様に倭姫殿と周りに居た巫女達は『サクラ』殿を拝み始めた。

 その姿に、赤ちゃんズの一人『サクラ』殿はにこやかに笑い、倭姫殿と周りに居た巫女達も厳かな雰囲気を和らげて笑い始めたので、全員が柔和な表情で儀式を終え、空からやって来たD1からD5の5機が降りてきてフレキシブルアームを伸ばし、『神機天照』が封じられた岩を空へと運び出し、遥々と鳥居の近くに停泊していた超大型空母『グラーフ・ツェッペリン』に運び入れた。

 このまま帝都コリントに輸送して、然るべき場所に保全して行くことに決まっているので、自分が責任を持って運ぶので、ミツルギ殿の家族毎一緒に帝都コリントに帰還する事になった。

 



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8月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『神機天照』の封印解除》

 8月15日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 『日の本諸島』の各地に有る国衙に小型ドームを設営して、其処に帝国の治安維持部隊として、警備艇と戦闘車両と戦闘バイクの3部隊以上が常駐して警察機関となり、行政庁と司法庁も国衙に置き、帝国のシステム税法としての消費税徴収となり、其れ以外の税徴収は一切廃止となった。

 インフラ整備と物流システムの普遍化を帝国準拠として、完全に帝国並の先進国家となる事となった。

 お陰で八岐の大蛇が支配している間、少しも発展出来なかった『日の本諸島』の民達は、安全な生活基盤を手に入れて、前向きに生きていこうとする人々の表情には以前の無気力な雰囲気は消え、喜びの感情が伺える。

 漸く『日の本諸島』の民達にとっての、八岐の大蛇からの支配からの脱却が図れたと、安心出来る光景であった。

 

 8月20日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 様々な施策とインフラ整備の基礎工事の端緒も終わり、我々帝国軍と崑崙皇国軍も帰還する。

 『摂津』の港を出港する際には、『日の本諸島』の重要人物と平民の方々が見送ってくれた。

 帰還する間も、崑崙皇国軍がまだ帝国が提供した戦闘艦に慣れて無い面を訓練する為に、帝国軍人が教員役として同乗して諸々の戦闘訓練をしていった。

 そして崑崙皇国の『南京』までの中継地点である『博多』に着き、新しい国際的な港湾都市として発展して行こうとする喧騒が辺りに充満していて、人々の生まれ変わろうとするかの如き目の輝きは素晴らしい物が有った。

 

 8月22日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 崑崙皇国の『南京』で今回の援軍に対してのアラン様からの謝意、崑崙皇国側からの帝国製の戦闘艦供与を感謝する旨の式典が開かれた。

 今後崑崙皇国には、帝国とほぼ同等の戦闘艦を配備して貰い、南方とアラム聖国への睨みを効かせて貰わなければならなからだ。

 既に崑崙皇国の有力者の子供や、優秀な若者は帝都コリントで英才教育され始めていて、何れは両国にとってより良い形での技術官僚(テクノクラート)として役立つ事になるだろう。

 自分の空軍にも、士官学校出身の優秀な若手が多く配属されて来ていて、その優秀さには目を見張るものが有る。

 先日まで居た、『日の本諸島』の平民達の目の輝きを思い出し、この世界の未来は明るいと断言する事が出来る。

 堅苦しい式典も終わり、『南京』の大広場で開催された10万人規模の壮大な宴、『満漢全席宴』は歴史に残るのでは無いか?と思う程の絢爛豪華な大宴会となり、その様子は帝国関係の全ての国にも生中継され、両国の仲の良さと、帝国と崑崙皇国の豊かさを見せつける事となった。

 

 8月25日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 昨日、帝都コリントに帰還しまたも凱旋式典をこなしてアラン様もお疲れであろうに、本日は大事な儀式が有ると云う事で、皇帝一家始め帝国中枢部の方々や赤ちゃんズとその両親達が集合している。

 場所はアスガルド城が有る中央のドーム内に設けられた、神殿で有る。

 そして自分と妻のミーシャ、そして乳母車に乗せた息子のケントも、皆と同じ所で待機する。

 赤ちゃんズが勢揃いしたので、途端に赤ちゃんズと星猫達が喜びのあまり騒がしくしている。

 そんな中、賢聖モーガン殿とケット・シー128世、そして妹が連れてきたカー君とバンちゃんが合流して来た。

 賢聖モーガン殿がにこやかに笑い、

 

 「・・・みんな元気に育っている様で、本当に嬉しいわ!

 何と言っても、貴方方の存在こそが私達この世界の住民の希望そのものになるのだから・・・」

 

 と感慨深い様子で赤ちゃんズに視線を送りながら、話している。

 そして以前の『神機応龍』の時と同様に、『神機天照』が封じられた岩前にある台座にオウカ殿と懐に抱いた『サクラ』ちゃんが進まれた。

 暫くして、『サクラ』ちゃんの産着の懐から、やや白い桃色の光りが輝き出す。

 

 そして其れに呼応する様に、『神機天照』が封じられた岩が、脈動する様にやや白い桃色の光りを放ち始めた。

 

 「予定通りに『星の涙(スター・ティア)』が反応したわ。

 『サクラ』ちゃんの専用乗機は神機NO,3『天照』と云う事が確定したわ!

 私達惑星アレスに於ける調整者派遣の生体監視端末は、この事実を承認します!

 

 我『星人』個体名『モーガンNO.11』

 

 『星猫(スター・キャット)』個体名『ケットシーNO.128』

 

 『レッド・カーバンクル』個体名『フレイムNO.111』

 

 『ブルー・カーバンクル』個体名『アイスNO.123』

 

 以上の者達の完全承認を以って神機NO,3『天照』の真の乗り手《サクラ・イチジョウ 》を認証する!」

 

 と厳かに賢聖モーガン殿は歌われる様に、言葉を紡がれた。

 

 すると、『サクラ』ちゃんの懐に有る『星の涙(スター・ティア)』がやや白い桃色の光りを収束させて、一直線に神機『天照』が封じられた岩の表面に有るレリーフに放った!

 

 「バガンッ!」

 

 と云う音と共に岩が割れて、厳かなやや白い桃色の光りが漏れ出した!

 そして神機『天照』はその神秘な姿を露わにした。

 その姿はまるで優雅な女性を象っていて、崑崙皇国や『日の本諸島』に有った、我等と違う宗教体系の立像、菩薩像と良く似ていた。

 やはり神機『応龍』の時と同じく、その全体は透明なクリスタルの様な物が覆っていて、人の手に触れさせる事を、明確に拒んでいた。

 

 「・・・やはり、『サクラ』ちゃんが乗れる様に成るまで、完全には開封されないのね。

 まあ、此れは神機『応龍』の時にある程度想像出来ていた事だから驚きは無いけど、此処帝都コリントに安置出来た事は良かったわ。

 時々で良いからミツルギ夫妻は『サクラ』ちゃんを連れて、神機『天照』に会わせてあげてね」

 

 と賢聖モーガン殿は言われ、ミツルギ夫妻は頷かれて了承した。

 

 こうして神機2体が、真の乗り手と対面を果たして我等帝国の管轄下に入ったのであった。

 



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閑話87「ミーシャの思い出帳」⑭(息子ケントの専用機体発見の報)

 さて、本日からまたも閑話シリーズが始まります。
 この閑話シリーズが終わりますと、いよいよ第二部最終章の『アラム聖国と謎の大陸編』が開始されます。
 そして諸々の設定を開示し、世代が交代してケニー一家の物語が終わり、第三部にして違う物語が始まり、文体も変えて再出発する事になります。
 どうかお楽しみに。


 崑崙皇国の『南京』という超巨大ドーム周辺にも、10個程の小型ドームが帝都コリントから運ばれていて、取り敢えずの政庁と商業取引等の事務が行われているわ。

 そのドーム群の一つに『華族ドーム』が有るの。

 『華族ドーム』では義祖父祖母の4人組が、『シルバー友の会』のメンバー募集を崑崙皇国の貴族の方々にしているの。

 この『シルバー友の会』のメンバーには、各国の年配の王族や帝国の老華族の方々でも位の高い人々が参加していて、一種のステータスにまでなっていたわ。

 『シルバー友の会』のメンバーに登録すると、帝国の発行する『カード』にメンバーシップマークが付き、諸々の特典(旅行情報や最新の宮廷情報に各種イベント情報等)が提供されるのだって。

 この辺りの情報サービスは、サイラス・タラスの2大商会とアリスタさんの総合会社が連携していて、お金の有り余っている方々に、最新のトレンドを紹介して一種の購買活動支援をしている様だわ。

 実はこの活動に、義妹のカレンちゃんとそのお友達も積極的に関与していて、今回の崑崙皇国見学ツアーのレポートを『放送局』と一緒に紹介する事で、結構な額のポイントを貰っているみたい。

 本当に逞しいわね。

 

 そんな風に見学ツアーを楽しんだ面々が、一旦帝都コリントに帰還して、様々なお土産を私と息子のケントに渡してくれたのだけど、まだ生まれて半年未満の赤ちゃんである息子は、「あー」や「うー」とか言って口に入れようとするから、困るわね。

 

 そして義妹のカレンちゃんと共に、宮廷からのお迎えのハイヤー(最近はこの送迎用の車両はこう言われている)に乗り、アスガルド城の皇子宮専用門を通り、皇子宮のクレリア様とアポロニウス様のお部屋に向かったわ。

 皇子宮親衛隊の面々に案内されて部屋に通されると、偶々同じく来ていたらしいオウカ殿とその娘『サクラ』ちゃんが居られたわ。

 

 「いらっしゃてくれてありがとう、ミーシャにケント君。

 私とアポロニウスも歓迎するわ」

 

 とクレリア様が仰っしゃられたので、深々と頭を下げて、

 

 「お呼びとあれば、参内するのは帝臣として当然ですし、此処に来るのは私と息子ケントにとって喜びでしかありません。

 どうぞお気兼ねなく!」

 

 と返事したのだけど、アポロニウス様と『サクラ』ちゃんが遊んでいるベビーサークルに入れられた息子が、「キャーッ!」と叫んでずり這いしながらアポロニウス様と『サクラ』ちゃんに向かい、3人共に手を握ったり合わせたり軽く叩き合っているので、私の挨拶も有耶無耶になってしまい、クレリア様とオウカ殿もクスクスと笑いそのまま談笑し始めたの。

 

 カレンちゃんがお土産に持ってきた、崑崙皇国のお菓子である『月餅』と『胡麻団子』と云う、西方教会圏では見ない珍しいお菓子を美味しく食べながら、カレンちゃんの崑崙皇国への見学ツアーの内容を聞きながら楽しんでいて、そろそろお暇しようと、席を立とうとしたら、突然部屋に有る大型モニターの喚び出しベルが鳴り、クレリア様が「映して」とモニターに命じると、アラン様と私の旦那のケニーが映し出されたの。

 アラン様は兎に角、旦那のケニーが映った事に疑問を抱きながらアラン様に向かい頭を下げる。

 私と息子のケントに気付いたアラン様は、

 

 「クレリア、今日の報告だけど・・・お客様のようだね、構わないかな?」

 

 とクレリア様に聞き、クレリア様が、

 

 「構わないわよ、昨日の件でしょ。

 オウカ殿とミーシャも関係者と言えるから、このまま話して頂戴!」

 

 と何の事か判らないのだけど、どうやら私達も関係者らしいので待機していると、アラン様の話しが始まったわ。

 要約すると、どうやら以前説明された、赤ちゃんズの専用機体と教えられた『神機』の一体が封印された岩が見つかって、然もその封印岩から漏れ出す光の色は、青色で有ると仰っしゃられたわ。

 

 《青色!》

 

 思わず息子のケントの産着の中に有る、『星の涙(スター・ティア)』の首飾りを確認すると、見事に青色に淡く発光しているのが確認出来たわ。

 

 その私の反応を見越した様に、アラン様が頷かれながら話されたの。

 

 「そう、あの時に確認した色である、ケニー大佐とミーシャ中佐のご子息であるケント君の青に該当する『神機』である事が確認出来たのだ!

 だからこそ、ケニー大佐にミーシャ中佐の所にも連絡させるつもりだったんだが、手間が省けたな」

 

 とやや苦笑しながら、アラン様は話されて私と息子のケント、そしてカレンちゃんにカーバンクル夫妻と、ケット・シー128世に崑崙皇国の『南京』に出向いて来て欲しいと依頼されたので、当然御意に従う旨を伝えてモニター通信が切られたわ。

 

 そしてクレリア様とアポロニウス様に別れを告げて、自宅に帰還する途中のファーン侯爵邸にハイヤーでたち寄ったの。

 久し振りに会うケット・シー128世に、崑崙皇国のお土産をカレンちゃんが渡しながら、アラン様の言伝てを伝えると、ケット・シー128世は感慨深そうに、

 

 「・・・そうか、いよいよ『神機』が見つかったのであるな。

 悠久の彼方に『調整者』から此の惑星に託された神の機体!

 我等『生体監視端末』にとっては、『調整者』たる神々との約束事の一つでも有るな・・・」

 

 と遥か過去に想いを馳せている様な遠い目をしていた。

 



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閑話88「ミーシャの思い出帳」⑮(神機『応龍』の取り扱いと第二回『世界武道大会』女子出場選手)

 崑崙皇国での一連の儀式で、息子ケントが神機『応龍』の真の乗り手として認定されて、息子ケントの扱いは正式に帝国としての管轄となる事になり、準帝国軍人になったわ。

 まあ、そんな事言っても本人は赤ちゃんに過ぎないから、殆ど生活は変わらないんだけど、将来はアポロニウス様の供回りとして、帝国軍に入隊する事が確定してしまったの。

 息子の将来を親が勝手に決めて申し訳無いけど、アラン様も常々アポロニウス様は、

 

 「どの様な事があろうとも、次期皇帝となるからには帝国軍の先頭を切って進まなければならない!」

 

 と言われていて、必ず自らの子孫は何れ士官学校に入学し、帝国人民の平和の為に働くべきだと、従来の王族や貴族達とは、一線を画す信念をお持ちなので、帝国でも帝国軍人全てが皇帝家に対し無条件の忠誠を捧げてるわ。

 なので、息子のケントにも両親が共に帝国軍人である以上、我が身の不幸と思って貰うしか無いわね。

 

 息子の専用機体と確認された神機『応龍』の管理は、崑崙皇国の方々にお任せして、あちらの神殿で『御神体』扱いされる事に決まったの。

 何れ息子が成人して、帝国軍人として入隊する時に再度儀式を執り行い、完全な封印解除を行うらしいわ。

 

 一連の儀式と取り決めを策定して、崑崙皇国から帝都コリントに戻ったのだけど、龍脈門(レイライン・ゲート)で転移するだけだから、何だかまるでご近所さんにお邪魔していて、そこから帰っただけみたいで、5千キロメートル以上離れているとは信じられないわね。

 

 戻ってきての一大ニュースが、久し振りに開催された女子会で発表されたの!

 昨年末に内々で発表されていた、セリーナ、シャロン両准将の懐妊がわかったのよ!

 当然彼女達は、長期の母体安全確保の観点から、戦場や戦闘に向かう事は却下なので、暫くの間の軍務は事務作業のみとなったの。

 まだ妊娠初期だから、子供の性別は判らないけど、アポロニウス様の弟か妹が一年違いで産まれる事になるから、きっと賑やかな兄弟姉妹の皇帝一家が形成されるわね。

 

 ただ一点、問題が浮上してしまったわ。

 もう既に準備と告知が始まっている第二回『世界武道大会』に、二人共出場予定だと云う問題なの。

 何と言っても二人共、帝国軍に於いて事実上アラン様に匹敵する武道家にして武人なので、帝国での女子部門の予選会でも優勝者と準優勝者で、出場選手として登録しているのだから.

 

 女子会では最初にこやかにアラン様のお子の懐妊発表に、下腹部を撫でて喜んでいたセリーナ、シャロン両准将は、その事を指摘されると途端に悲しそうな顔をして、二人はとても残念そうになったの。

 セリーナ准将は、

 

 「・・・昨年の大会も、諸事情で参加出来なくて面白く無かったのに、満を持して挑みたかった今回の大会に参加出来ないなんて、運が無さすぎるわよ!」

 

 と先程までの嬉しそうに下腹部を撫でていた様子が、嘘のように慨嘆してる。

 一方のシャロン准将は、

 

 「・・しょうがないわよ、私達は立場としては帝国軍の准将として、率先して崑崙皇国の内乱にも関与する必要が有ったのに、体調不良を理由に参加出来なくて、例え世界同時中継されて、帝国の威信を問われる大会だと言っても、所詮は武道大会でしか無いから、帝国軍人としての責務を放り出す訳にもいかないし・・・」

 

 と言われ、現在推進している帝国軍再編成案の組織案の取りまとめに邁進するのが、将官としての責務だと姉妹でもあるセリーナ准将に訴えたわ。

 

 セリーナ准将も本意では無かったのであろう、肩をすくめると其れ以上の文句は無い様だった。

 しかし、お陰で予選大会で3位だった『エルナ親衛隊団長』が、繰り上げされて武道大会の出場選手になったことに、二人とそれ以外の女子会メンバーが気になっていると、クレリア様とアポロニウス様が健康診断をアスガルド城の医務室で受診している間の身辺警護をしていた『エルナ親衛隊団長』が、女子会に合流したの。

 途端に他の女子会メンバーが、上記の説明と意気込みを求めたら、エルナ親衛隊団長は情報を既に得ていたのだろう、落ち着き払って話してくれたわ。

 

 「・・・その話しは、大会執行委員会から通達されたわ。

 セリーナ、シャロン両准将お二人にとっては残念でしょうけど、貴方達の無念も背負い、帝国軍人代表として私そして特別枠の『オウカ』さんは、しっかりと帝国の武威を見せつけるつもりよ!」

 

 と力強く大会への意気込みを語って見せたの。

 その宣言を聞いてクレリア様は、

 

 「良くぞいってくれたエレナ!

 セリーナ、シャロン両准将二人は残念だったが、このアポロニウスの弟か妹を懐妊しているのだから、是非も無い。

 この際、エレナの健闘を願い、我々女子会メンバーは全面的に応援しようではないか!」

 

 と傍らに置いた揺り籠内のアポロニウス様をあやしながら仰っしゃられたので、女子会メンバー全員は各々頷き一人ずつエルナ親衛隊団長に「頑張ってね!」と応援メッセージを伝えたわ。

 

 エルナ親衛隊団長は、一層の研鑽と技の鍛錬を誓いみんなに向かい、期待に応えて見せると断言してくれたわ。

 



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閑話89「ミーシャの思い出帳」⑯(第二回『世界武道大会』開催)

 第二回『世界武道大会』が始まり息子のケントと共に夫と合流する為に、ザイリンク公国に『飛行艇』で向かったの。

 でも本当に凄いわよねー、300人と云う人数を載せて空を飛んで、遥かザイリンク公国の公都に僅か8時間で着くなんて、一昔前には想像出来ないわ。

 昔は、それこそ軍隊並みの傭兵団を雇って大規模な隊商を組み、馬車でゆっくりと進みながら街道を行くんだけど、当然魔物や山賊の類も現れるし一々各国の関所も通過しなければならず、その都度通行税がかかるし、場合によっては各国の上層部に上納金まで取られるから、あまり小さい商会やギルドはそれぞれの国の中でしか商売したがらないのは当然だったの。

 だけど、『人類銀河帝国』の存立以来、インフラ整備と物流システムの大変革が起こり、世界の常識は根底から覆ったわ。

 今や帝国の主要公都は、魔導列車で完全に円環で結ばれて、1時間毎に次の魔導列車が発着して、人と貨物がひっきりなしに動いているし、高速道路もその脇を通っているから、物流の利便さは加速的に良くなってるわ。

 

 そんな物思いに耽っていると、隣の席に揺り籠毎載っている息子のケントが、「ダア、ダア」と言いながら短い両腕を精一杯伸ばして抱っこをせがんで来たから、抱きかかえて上げたら窓からの景色を見たがるので、高空からの見事な景色を見せて上げたの。

 すると息子は、少しも怖がらずに高い空から見える、雲の絨毯や澄み切った青空を見て、目を真ん丸くして嬉しそう。

 私と夫も、最初に『グローリア』殿に乗せて貰って、空の素晴らしさと風を切って進むスピード感に、感動してしまい、空軍が組織されると同時に一も二も無く志願して、幸い適正とワイバーン達に気に入られて、いきなり体長と副隊長に任命された経緯があるから、もしかすると息子も空を飛ぶ事が好きになり、空軍に入りたがるかも知れないわね。

 

 『飛空艇』内の、ビュッフェ形式レストランで昼食と息子の離乳食を食べさせていると、小等部・中等部選出の選手達がレストランに入室し来て、その中にテオ君とエラちゃんの姿があったの。

 私が手を振ると、気が付いた二人が近づいて来て、私に挨拶すると息子のケントをあやしてくれながら、近況を話してくれたわ。

 何でも、最近同盟国になった崑崙皇国の留学生が、大量にやって来ると云う打診が、学校側にあってからと云うもの、教師の方々の気合いの入り方が凄くて、学業は圧倒的に上だと自認しているから問題は無いけど、運動特に武術関係の訓練が凄まじい事になっているらしいわ。

 それもそうよね。

 学業分野は、他の大陸国家に比べ圧倒的な差を帝国は誇り、この差は殆ど埋める事は無理で、根本から帝国で学ばねばならないが、体力面では極論『ナノム玉』を服用さえすれば、簡単に差を埋める事が出来る可能性があるのだから。

 実際、崑崙皇国にも西方教会圏とは別系統の体術や武術が、連綿と受け継がれていて、その実力は私達軍人の間では例の崑崙皇国の武人同士の一騎討ちや戦闘シーンで、嫌と言うほど見せられて、帝国でも取り入れるべき部分が有ると検討した程だ。

 きっと今回の世界武道大会でも、その実力者が出場するだろうから、みんな驚く事になるわね。

 そういった会話をして二人と分かれて、暫くするといよいよ到着するから、『飛空艇』の高度が下がり始めたわ。

 その頃には、息子のケントもお腹いっぱいになった所為かぐっすりと眠っていて、そのまま到着して夫の居るホテルに着くまで、眠ったままだったの。

 夫も折角ぐっすりと就寝している息子を、無理に起こさせずにホテルの自室に案内すると、私と息子を休憩させて数日後の第二回『世界武道大会』の開催準備に出掛け、結局夕飯時に帰ってきた時に息子と再会して、お風呂に一緒に入り五月蝿いくらいにはしゃいでいたわ。

 

 満を持して開催された第二回『世界武道大会』は、昨年の規模を遥かに越えて出場選手の人数・種目・観客動員数も凄い事になったわ。

 中でも、私と女子会メンバーが応援していたテオ君とエラちゃんの演武と、エルナ親衛隊団長と剣王オウカ殿の女子部門決勝戦は見事だったわ!

 アラン様とクレリア様そしてアポロニウス様の皇帝一家に対し、まるで奉納するかの如く演武し終わってテオ君が最敬礼すると、クレリア様の腕に抱かれ、物珍しそうに学生の演武を見ていたアポロニウス殿下が、明確にその小さな両手をパチパチと叩かれたの!

 そのアポロニウス殿下の明らかな意思表示に、1番驚いたのはどうやら褒められた当のテオ君らしくて、直ぐにその場で大きくもう一度頭を下げたんだけど、アラン様とクレリア様がテオ君を主催者席に呼び、アポロニウス殿下直々にテオ君を褒めさせてくれたわ。

 

 テオ君はアポロニウス殿下の小さな拍手を目の前で見せられて、耐えられなくなったのか土下座したの。

 そのテオ君をアポロニウス殿下は、「アー、アー、」と言われながら、にこやかな笑顔で見られているわ。

 

 そしてエルナ親衛隊団長が惜しくも剣王オウカ殿に負けて、準優勝者としてクレリア様の元に戻ってくると、クレリア様始め現場に居た女子会メンバーは大いに祝福したわ!

 何と言っても、あの剣王オウカ殿に肉薄する程の剣技を見せて、会場全体から称賛のスタンディングオベーションが巻起こったんだから、クレリア様や初期の『クラン・シャイニングスター』の女性陣にとって誇らしい気持ちになったのわ私だけでは無かった筈。

 本当にこの第二回『世界武道大会』は成功だったと思うわ。

 



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閑話90『カレンちゃん日記」㉟(カレンちゃん、改めてマリオン君を紹介される)

 7月15日(コリント朝元年)

 

 今日『学校』の職員室から呼び出されて、教頭先生と共に『学校』にある応接室に向かったの。

 応接室の扉を教頭先生が「コン、コン」と叩き、室内から「入りなさい」と応答が聞こえ、徐に教頭先生と私が入室すると、部屋の中には3人の人物が座っていたの。

 その内の一人で私も良く知る校長先生が、

 

 「良く来てくれたねカレン君。

 紹介しよう、君も知っているだろうがこの方こそは『賢聖モーガン』様!西方教会圏最高峰の学究の徒にして、我等が学業に携わる者にとって目指すべき最高位に座すお方だ!」

 

 と非常に興奮しているのか、顔を紅潮させながら校長先生は大ぶりに手を振って妙齢の女性を紹介してくれたの。

 でも私は実は会った事があるんだよね、兄ちゃんの関係で空軍のドラゴン絡みのイベントや、父ちゃんの陸上艦船の就役イベントの時にちょっと遠くで見てるの。

 苦笑しながら『賢聖モーガン』様は、

 

 「そんな大げさな紹介しないでくださいな、校長先生。

 初めましてカレンさん、以前に何回かお目に掛かったわね。

 私はモーガン、貴方のお兄さんとお父上と懇意にさせて頂いているわ!

 今回は、貴方御自身にお願いしたい事があって、ご足労頂いたの」

 

 と言われて、隣に座っていた今一人の訪問者を紹介する。

 

 「この子の名前は『マリオン』!姓の方は勘弁してね。

 実は、貴方にこの子の『学校』案内と、帝国の事情説明、そして出来ればだけど友人になって貰いたいのよ」

 

 と説明されると、マリオンと呼ばれた私と同年代に見える男の子に自己紹介する様に促したわ。

 すると男の子は自己紹介し始めた。

 

 「先日は突然御宅に訪問してしまい、大変ご迷惑をお掛けして申し訳無い!

 『賢聖モーガン』様が紹介して下さった通り、僕の名は『マリオン』と申します。

 『魔法大国マージナル』から留学生として、今年9月から高等部の学生として在籍させて頂きます。

 昨日は、此処に居られる校長先生と教頭先生に、『学校』の案内をして頂けたのですが、やはり教師目線ですとどうしても学生目線との乖離もあって、僕が知りたい情報が知り得なかったので、是非生徒の生の声を知りたいとお願いしたら、貴方が校長先生と教頭先生から推薦されたので、自分勝手で申し訳無いのですが、ご案内いただけますか?」

 

 と言われたので、校長先生と教頭先生に向き直ると、

 

 「カレン生徒!

 君は学業成績に於いて中等部を首席で卒業し、高等部への新入代表として総代挨拶をする事が決まっている我が校の代表だ。

 幸い既に中等部のカリキュラムを君は終えているし、もう直ぐ学校は夏季休暇に突入する。

 この際君は残りの中等部生活は、マリオン君の学校案内と帝国の生活案内に費やしてくれないかね?

 学級担任と学年指導部には、話しを既に通しているので、快く応じて欲しい!」

 

 と頼んで来たので、別に断る理由も無いので承諾したら、あからさまにホッとした様子を校長先生と教頭先生は顔に浮かべられたので、余っ程私に断られると困る事態だったのかしら?

 

 それから幾つかの取り決めと夏季休暇中の過ごし方を話し合い、私とマリオン君は応接室を一緒に退室して、早速私の教室に連れて行ってクラスメイトに紹介したの。

 みんなは、以前から話題になっていた、留学生の話題と来月に行われる対抗戦の当の本人が現れたので、マリオン君を質問攻めし始めたの。

 それに対してマリオン君は、とても嬉しそうに質問に答えて行き、然も如才無く面白可笑しく自分の経験や『魔法大国マージナル』での生活、そして『魔法学校』での風景を話してくれたので、殆ど全員のクラスメイトが会話に参加してくれて、時間を忘れる程だったわ。

 

 「キンコーン、カンコーン!」

 

 と非常に分かり易いチャイムが鳴り、昼休みになった事が判ったわ。

 たちまちクラス全員会話を止めて、マリオン君も誘って学生食堂に向かったの。

 

 学生食堂に着いたら、各々が学食チケットを購入する為に並んで、食べたいメニューを選択して行ったの。

 マリオン君は、

 

 「昨日、校長先生に説明されましたが、この『学校』の学食制度は凄いですね!

 自分の所属していた『魔法学校』でも昼食は有りましたけど、あくまでも全員の食事は同じで選択権など無くて、然も種類は3種類でそれがサイクルしているだけなんですよ!」

 

 と話してくれたので、私と友達は学食チケットの券売機のメニュー表を説明して、私とマリオン君の選んだ学食チケットを校長先生から持たされたカードでポイント支払いしたわ。

 そして受取サービスの場所で、学食チケットと選んだメニューの料理を交換して、確保していたテーブルに運んでみんなで揃ったら一緒に食べ始めたの。

 私が選んだのは日替わりランチ定食で、マリオン君は私推奨の『スペシャル・ランチ』。

 私は、日替わりランチ定食の野菜ジュースを飲み終わり、食事を終えたんだけど、マリオン君は『スペシャル・ランチ』を食べ終わった後も、ボーッとして心此処にあらずと言った感じ。

 私が、

 

 「どうしたの?」

 

 と聞いたら、突然ハッとした様子で、テーブルに居た全員に話し始めたの。

 

 「皆さん、こんなに美味しい料理を普通に食べてるんですか?

 信じられない!

 こんな料理は『魔法学校』では提供される訳は無いし、それどころか『魔法大国マージナル』の王族でも滅多に食されていないと思いますよ!」

 

 と興奮気味に話すので、テーブルに居た全員が言われてみればと、回想したの。

 そう、考えてみればここ帝都コリント以外の所に行くたびに、食事面で満足した試しが無いんだよね。

 ごく普通に毎日学食で食べていたから、当たり前になってたけどこの食事一つとっても、他国とは違い過ぎるんだよね、マリオン君の反応を見ててその事実を久し振りに思い出しちゃった。

 



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閑話91『カレンちゃん日記」㊱(カレンちゃん、デパートで水着を買う)

 7月18日(コリント朝元年)

 

 マリオン君は帝国の用意した学生寮に住んでいて、其処には『魔法学校』からやって来ていた付添の人も居て、その人の了解を得てマリオン君を連れ出してデパートに私の親友達と向かったの。

 目的は、帝国の物流システムと世界の物産の勉強と云う事にして、『学校』側が用意してくれたバスで行ける様にして、沢山の買い物をしても運べる様にして、いざ出発!

 

 ドームを跨いで移動して行くから、途中の『牧場ドーム』や『工場ドーム』も見れて、マリオン君は興味津々にその景観に喜んでくれたわ。

 

 そして『生活ドーム』の一等地に有る『デパート』に到着して、従業員用の入り口からゾロゾロ入っていくと、専門スタッフがやって来てくれて私達とマリオン君を案内してくれる事になったの。

 実は、親友の一人でありタルス商会の長女のタラちゃんが根回しして、『デパート』案内してくれる事にしたんだよ。

 何だか鹿爪らしい小等部の低学年用の『社会見学ツアー』のようだけど、実はこれにはメリットが有って、最新トレンドの商品やフルーツ等の確保、そして此れが最重要のレストラン『豊穣』の予約と選んだメニューの準備をしてくれるんだ。

 

 だから専門スタッフが渡してくれた『専用パスポートカード』を首から下げて、様々な店舗の案内をしてもらったの。

 やっぱり日頃来店する時は、行かない店舗の説明を受けると、結構知らない知識や珍しい品物を見れて、面白いよね。

 暫くの間、本当に社会見学のつもりで色々と珍しい文化に触れていたら、タラちゃんが専門スタッフに目配せしたので、専門スタッフもタラちゃんの意を汲んで、私達の本当の目的地で有る『水着売り場』に案内してくれたんだ。

 早速『水着売り場』の有る4階に行って、色とりどりの最新の商品コーナーに向かったの。

 うわ~、あるある母ちゃんの所属している服飾関係の紹介しているモニターでCMしている、今夏の最新トレンドの水着が一杯あるー。

 私達が熱中して新商品の水着に殺到していると、マリオン君も男性用の水着を興味深そうに触ってた。

 一通りの商品を確認して目当ての水着を選んで満足してから、マリオン君の側に行って「どうしたの?」と声を掛けたの。

 すると水着の生地を確認していたマリオン君が答えてくれたわ。

 

 「『魔法大国マージナル』も海沿いの国なので水着は有ったんですが、あくまでも海での作業用だったり、子供用のお遊び程度でしか無かったんですが、此処に有る水着は素晴らしくデザイン性が有って、然も此の最新商品の水着は魔法化処置がされていて、少し程度のサイズ違いは補正によって自動リサイズする様ですね。

 こんな処置が行われている衣装は、王族レベルの上流貴族くらいしか所持していないでしょう。

 本当に帝国は凄い!

 単に軍事力や経済力での先進性だけでなく、文化面でも素晴らしい!

 『魔法大国マージナル』が、打ちのめされるくらいショックを受けたのも判るなー!」

 

 と感嘆しながら言ってくれたの。

 

 何となくそんなものかなあと、思いながらマリオン君以外のもう直ぐやって来る留学生の分の水着を選んで上げて、デパート側に学生寮に送ってくれる様にタラちゃんが専門スタッフに指示してくれたわ。

 

 お昼時間になったから専門スタッフに案内されて、予約してもらっていたレストラン『豊穣』に行き、店舗奥の予約席に着き、席に座ると直ぐに料理が運ばれて来たの。

 やっぱり美味しそうな香りが漂ってきて、凄く食欲をそそって来る!

 マリオン君も、左右の色が違う綺麗な目をキラキラと輝かせて、目の前にセットされた『コロッケとメンチカツ定食』を見てる。

 みんなで一斉に、帝国の『学校』の学食での食事マナーの『頂きます!』を唱えて、食べ始めたの。

 私はマリオン君と同じ『コロッケとメンチカツ定食』を頼んでいたので、マリオン君にテーブルに用意されている『ウスターソース』と『デミグラスソース』の2つから、好みの方を選んで適量掛けさせて、同じく選んだライスと一緒に食べて行くと、マリオン君は「美味しい!!」とうめき声を上げて、モリモリと見事な食べっぷりを見せてくれたの。

 最初に紹介された時のマリオン君のイメージと違い、普通の学生の反応を見せるマリオン君に私達は、とても親近感を覚え、最後のデザートを食べながら、来週来る予定の『魔法学校』の留学生と一緒に『リゾート・ドーム』に、今日買った水着を着て泳ぎに行かない?と誘うと、マリオン君は、

 

 「僕は是非行きたいんだけど、『魔法学校』から一緒に来る予定の教師に確認してみますよ!

 その時は、カレンさんもお付き合いしてくれて、口添えをお願いしてくれませんか?」

 

 と頼んで来たので、私も『魔法学校』の留学生とは仲良くしたいから、協力する事は吝かでは無いので当然口添えして上げようと思う。

 だから、

 

 「うん、判ったわ!

 協力して上げるね!」

 

 と返答したら、マリオン君は私の手を取り感謝してくれて、私も「頑張ろうね!」と手を握り返したの。

 



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閑話92『カレンちゃん日記」㊲(カレンちゃん、イベントを楽しむ)

 7月25日(コリント朝元年)

 

 3日前『魔法大国マージナル』から留学生として『魔法学校』の生徒30人と、付添の教師5人が到着して、モニター越しにクレリア様も参加される歓迎式が行われて、昨日は『学校』の案内と、帝国の主要施設の案内が『学校』関係者によって行われ、途中での学生目線の案内も頼まれて、私も参加してたの。

 まあ隣にマリオン君が居て、場所場所で私に質問してくる形だったから、その質問に答えるだけで済んで楽だったんだけどね。

 ただ、休憩中の飲み物やおやつそして昼食のフードコートでは、マリオン君を通さずに私に直接質問して来たから、余っ程知りたかったみたいだわ。

 

 そんなこんなで、本日は予定通りに『リゾート・ドーム』での体験学習よ!

 此れは、『学校』側に私達が捩じ込んで企画された物で、鹿爪らしい案内だけでなく心に余裕の有る、肩の荷を降ろしたお遊び的な体験学習を挟む事も、『学校』の器の大きさを見せるものだと、我ながら詭弁の効いた企画だと自覚しながら、提案してみたの。

 私の提案を聞いた当初、校長先生始め教師陣はあまり乗り気では無かったんだけど、或る人物が現れてくれてから、雲行きが一変したんだ!

 その人物とは、元ベルタ王国国王にして現『ベルタ公アマド殿下』!

 この御方は、アラン様とクレリア様が帝国の軍事と政務を担う中、どうしてもおざなりとなる文化面の担い手にして、アラン様とクレリア様が不得意と言える各国の王族・貴族との交流や折衝も担われているの。

 今回の留学事業も、大きな視点で言えば文化交流には間違いないので、『ベルタ公アマド殿下』の意見は、帝国上層部の意見として凄く影響が有るんだって(後で女子会メンバーでアマド殿下の奥さんで有るヒルダ様から聞いたの)。

 

 然も、折角だから各国の王族・貴族そして帝国の華族でも年若い人々を招いて、世界へ放送する事で泳ぐという文化を一大ブームにしたいんだって。

 アマド殿下は、以前は下半身が毒の影響で不随だったんだけど、例の『婚姻式の奇跡』で使徒の『イザーク』様からの『祝福の光』を浴びて、前よりも頑健な身体を取り戻しているから、『学校』のスポーツイベントに参加されたりしていて、とても理解があるんだよね。

 

 「アラン皇帝陛下が、いよいよスラブ連邦との決着を着けるべく、帝国軍の機動戦力を北上させている現在、不謹慎かも知れないが帝国は世界の民に対して、スラブ連邦の様な世界の民に恐怖と憎悪を振り撒く存在と違い、友愛と豊穣そして楽しみを与えるのだと示す必要が有るのだ!

 そしてこの事は既にアラン皇帝陛下とクレリア皇妃陛下の承認を得た国家プロジェクトでも有るのだ!

 関係各位は、是が非でも協力して欲しい!」

 

 と大真面目に宣言してくれたから、それからはあれよあれよと進んで、凄い人数での『リゾート・ドーム』を貸し切った一大イベントになっちゃった。

 

 お陰で日頃は難しい顔をしている、校長先生や教頭先生もお子さんやお孫さんを連れて来ていて、本当に楽しそう。

 そんな中でも、メインのお客様である留学生して来た『魔法学校』の生徒30人と付添の教師5人は、面食らった様に『リゾート・ドーム』の『波打つプール』と『流れるプール』そして『ウォータースライダー』を眺めてる。

 その気持ちは判らないでも無いなあ。

 他の国で、たかが遊興施設に此処まで大掛かりに資金を投下して、本気で一大文化として振興させようとする国家なんて無いだろうからね。

 そんな一団からマリオン君が出て来て、

 

 「どうぞカレンさん、始めてでどう遊べば良いかも判らない自分達に、指南してくれませんか?」

 

 と苦笑されながら言われたから、私と友達全員で『魔法学校』の生徒30人を誘い、先ずは『波打つプール』と『流れるプール』に連れて行って、プールに慣れさせてから『ウォータースライダー』に2人一組で大きな浮き輪に前後に乗って、初心者用の高さのコースの挑んだの。

 

 何回か初心者用の高さのコースを楽しんだら、段々中級者用の高さのコースまで挑み始めて、『魔法学校』の生徒30人も嬌声を上げて楽しみ始めたわ。

 私もマリオン君と、中級者用の高さのコースを何度か楽しむと、休憩用のスペースに行って、此処の名物の『トロピカル・かき氷』を頼んで頭をキーンとさせながら美味しく頂いたの。

 すると、マリオン君(彼は此れも名物の『トロピカル・ジェラート』を食べながら)は、

 

 「ありがとうカレンさん!

 君がこの企画を通してくれたお陰で、少なくとも『魔法学校』の生徒達は、肩ひじを張らずに留学生活を送れば良いのだと理解してくれたと思う。

 僕達、この惑星アレスに生きる人間にとって、国家間のプライドややっかみなんて、本当に意味のない話しでしか無いからね。

 僕達は、今を精一杯学習して体験して遊ぶ事で楽しみを覚え、何れはそれを後世に伝える事で、しっかりと未来を繋いで行くんだよ。

 この信念を持って、セリース大陸をより良く導いて行こうとしている、アラン様と帝国には頭が下がるよ。

 僕は、この帝国に留学出来て本当にありがたいと思っているのさ。

 どうか、もっともっと帝国の素晴らしさを、僕の仲間たちに教えてくれないかいカレンさん!」

 

 と頼んで来たから、私は言って上げたの。

 

 「いいよ、教えてあげる!

 だけど、其れには私も聞いて貰いたい事があるの」

 

 と言うとマリオン君が「何を?」と聞いて来たから言ってあげたの。

 

 「何時までも語尾に、さんや君と付けるのは他人行儀じゃない?

 此れからは、お互いに名前呼びだけにしようよ!

 その方が『親友』になった気がしない?」

 

 と言ったら、マリオン君は最初目を丸くして驚いた様だけど、やがて破顔して、

 

 「判ったよ『カレン』。其れでは此れから僕の事は『マリオン』と呼んでね!」

 

 「うん!それで良いよ!」

 

 と返事した。

 こうして、私とマリオンは『親友』になったんだ。

 



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閑話93『カレンちゃん日記」㊳(カレンちゃん、お弁当作りを頑張る)

 8月5日(コリント朝元年)

 

 留学生達も帝都コリントでの生活に慣れ始め、漸くその手伝いに奔走する必要が無くなり、マリオンは本来の目的のドレイク様と賢聖モーガン様、そして私の父ちゃんとの新技術ディスカッションに望むんでから、アラン様とクレリア様からの許可を取って、賢聖モーガン様とケッちゃんそしてカー君とバンチャンの承認の元、『ナノム玉3』を服用した上で賢聖モーガン様の研究室に有る、特別製の『コクーン』(ドラゴン達の進化用の物を人間用にカスタマイズの上、龍脈との個人でのダイレクトリンクとか云う私では判らない、凄い処置をしたんだって)に入り、1日掛けて調整したんだって。

 

 8月6日(コリント朝元年)

 

 心配でお昼にマリオンが、『コクーン』から出てくると知らされて、賢聖モーガン様の研究室に向かったら、調整用の溶液をお風呂で洗い流したマリオンが、備え付けのソファーでボーッとしてたの。

 

 「大丈夫?」

 

 と私が声を掛けたら、突然涙をボロボロと流して来たから、私は慌てて持っていたハンカチで涙を拭って上げたの。

 そうしたら、興奮気味にマリオンは私の手を握って来て、

 

 「カレン!聞いてくれるかい!

 僕は、今日程生まれて来た事を神に感謝した日は無いよ!

 何と僕は、本当の神に会えたんだよ!

 それどころか、自分が望んだ時に望むまま、神はこの世の全てと言って良い程の知識に触れる事を許可してくれたんだよ!

 然も、神ですら把握してない新技術や魔法技術に、僕が挑む為に最大のバックアップを約束してくれたんだ。

 こんなに栄誉な事は無いよ!

 僕は、こんな素晴らしい待遇と機会を与えて下さった、アラン様とクレリア様そして『人類銀河帝国』に今後の人生全てを捧げる事を誓うよ!」

 

 と言ってきたから、

 

 「良かったねマリオン。

 だけど、落ち着いて話してくれないと、私も何の事か判らないよ。

 もしかして、女神『ルミナス』と会えたの?」

 

 と質問したら、マリオンも少し落ち着いて話してくれたんだ。

 

 何でも『ナノム玉3』を服用して、賢聖モーガン様の研究室に有る特別製の『コクーン』に入り、暫くして眠り始めると夢の世界に入って行き、やがて光り輝く部屋に通されたんだって。

 其処には、幾つかの神々しい『柱』が立っていて、何故か判らないけどマリオンには此れこそ神の『御柱』である事が判ったんだって。

 その内の一つの柱から、やがてゆっくりと降臨して来る女神様が有って、その神は口から言葉を発さずに頭の中に言葉を述べてくれて、マリオンに話し掛けたの。

 その女神様は、

 

 「私は、貴方方の概念で云う所の神格の一つに当たり、『イーリス』と申します。

 貴方は此の惑星アレスに於いて、7人目の『ナノム玉3』の服用者にして『適格者』となります。

 『適格者』は、従来の『ナノム玉2』までの服用者と違い、身体的な優遇措置だけに留まらず、この世の深奥たる科学と魔法双方の精髄に触れる事が出来ます。

 ただ、如何に神格といえどこの世の全てを知っている訳では無く、あくまでも広大な知識と此れまでの情報を得ているに過ぎません。

 マリオン、貴方には千変万化する情報や知識を基に、より優れた科学技術と魔法技術の発展を担える頭脳と素養が有ります!

 どうか、今後貴方に続く『適格者』達の為に、研鑽に励まれ偉大な足跡を人類の為に刻まれる事を願います!」

 

 と告げられたんだって!

 然も、その女神『イーリス』様は、マリオンが望めば何時でも頭の中に現れて、知識や現在の世界情勢も教えてくれるんだって、凄いなあー!

 

 その後、賢聖モーガン様と一緒にアスガルド城に出向いて、クレリア様に無事成功した事を報告して、丁度来ていたミーシャ義姉さんやオウカさん達妊婦仲間の方々と、夕食をご馳走になったの。

 

 その際に、マリオンの事をミーシャ義姉さん達が、ニヤニヤと笑いながら、

 

 「カレンちゃんの彼氏?」

 

 と質問して来るから、

 

 「そんなんじゃないよ、親友だよ!」

 

 と笑って答えたら、凄く怪しまれながら観察されちゃった。

 

 隣に居たマリオンも、何だか複雑そうな表情だったけど認めてたから、その場は収まったの。

 でも、マリオンのあの表情は何だったのかしら?

 

 8月10日(コリント朝元年)

 

 今日も私の父ちゃんの仕事場で有る、港湾施設の技術開発室に向かったの。

 最近は、同じく『ナノム玉3』の服用者にして『適格者』のドレイク様との共同研究と、父ちゃんの現場作業にマリオンはとっても興味を持って、毎日通い詰めてるの。

 

 だから、その親友の頑張りに感銘を受けた私としては、応援する為にも今日も母ちゃんと一緒に昼食用のお弁当を作って上げたんだよ!

 お弁当を作るのは自分用に作った事が何回も有るけど、男の子用はマリオンが始めてだったから、母ちゃんのアドバイスを受けながら作ってるんだよ。

 大きなバスケットに、私とマリオンの分のサンドイッチを詰め込んで、父ちゃんの分は母ちゃんが別に作って他の容器に入れて包み、バスに乗って父ちゃん達の元に向かったんだ。

 

 丁度、お昼前の時に着いたから、父ちゃんに母ちゃんから預かったお弁当を渡し、一緒にやって来たマリオンにも私の作ったお弁当を渡して、港湾施設職員が食事を摂る食堂の一角で3人で場所取りして、食べる事にしたの。

 何故か、ムスッとしたままの父ちゃんにお茶を差し出しながら食べ始めたら、父ちゃんがマリオンのお弁当と私のお弁当を見比べてる。

 するとマリオンが、

 

 「カレンさんが持ってきてくれるお弁当には、大変感謝しています!

 僕は幼い時に両親を亡くして、賢聖モーガン様の庇護の元で、専門の料理人の作る料理を食べてはいましたが、家庭料理と云う物は食べたことは無かったんです。

 カレンさんが、僕との会話でその事を知って、有り難い事に港湾施設で研修を受ける際に、お父さんへの弁当を届けるついでに持って来てくれると言ってくれて、今日もご相伴に預からせて戴きました。

 お父さんとそのご家族には、感謝してもしきれません、ありがとうございます!」

 

 と言ってくれたから、私も親友の頑張りに協力出来ている事が再確認出来て嬉しくなっちゃった。

 



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閑話94『カレンちゃん日記」㊴(カレンちゃん、総代挨拶する)

 8月20日(コリント朝元年)

 

 帝国の学校の生徒と『魔法大国マージナル』の『魔法学校』の生徒による、魔法競技会が開催されたの。

 

 始まると案の定前半の競技で、帝国の学校の生徒の方が、あらゆる魔法競技で、『魔法学校』の生徒を圧倒して行ったわ。

 だけど此れは予定通りの状況なの。

 何故なら実は『魔法学校』から来ている付き添いの教師以外の留学生達と、私達帝国の学生は既に仲良くなっていて、共同戦線を張ってるんだよ。

 そして目論見通りに前半戦は、帝国の『学校』の生徒が勝ち、留学生側の付き添いの教師が焦った様子でマリオンに必死にお願いしてるようだったわ。

 此れも実は予定通りで、マリオンは如何にもしょうが無いと行った様子で、留学生達に幾つかの指示を出すと、留学生達は頷いて後半戦に挑んで来たの。

 後半戦に入りマリオンは、前半戦の魔法競技で負けた原因を魔法発動スピードの差が大きいと説明し、後半戦の『陣取り合戦』と『棒倒し合戦』では魔法発動スピードで勝負せずに、ひたすら硬化魔法と土魔法による防御に徹せさせて、帝国の学校の生徒が、集中力を欠いて来たら得意の浮遊魔法を少し利用して『陣取り合戦』では味方の生徒の跳躍力をまさせて旗を取らせ、『棒倒し合戦』では味方の生徒数人を浮かせて棒に体重を掛けさせて棒を倒させたわ。

 

 良し、此れで双方共に2勝ずつ勝った形だから、引き分けよね。

 競技途中で、留学生側の付き添いの教師達も我々が、何とか引き分けに持ち込んでいがみ合うことなく、今後の『学校』生活を上手く行くようにしてる事に気付いたようで、一つも意見を言わなくなった見たい。

 

 そして、賢聖モーガン様の講評が終わり競技会も終わり、私はマリオンに近寄り市販の『魔力充填ドリンク』(カーラ印)をプレゼントして上げたの。

 マリオンは、喜んで受け取ってくれて美味しそうに飲んでくれたんだ。

 ただ、一緒に観覧していた家族の元に帰ったら、何だか父ちゃんが苦虫を噛み潰した様な顔をして、ずっとぶすっとしていて気になったんだけど、母ちゃんは笑いながら「気にする必要無いわよ!」と言ってくれたの。

 

 9月1日(コリント朝元年)

 

 今日は、『学校』の高等部に進級する日で、私は中等部を首席で卒業したから総代挨拶をしする事になってるの。

 だから、此の日までにこの総代挨拶の練習に母ちゃんに付き合って貰ってたんだ。

 まあ、マリオンが総代挨拶文も添削してくれたから安心してるんだけどね。

 お陰で総代挨拶を緊張で噛まずに喋れたから良かったよ。

 

 続いて『魔法大国マージナル』の『魔法学校』からの留学生代表として挨拶したマリオンも、卒なく挨拶文を読み上げたので、会場の誰もが拍手してくれたわ。

 

 ただ、一際来賓席の方で母ちゃんが大きな拍手をして、涙を浮かべてる姿には閉口しちゃった。

 

 明日からは私もいよいよ高等部に進級かー、何だか夢心地だよ。

 この帝都コリントで暮らし始めてから、私の感想としては、正に疾風怒濤と言って良かったと思うの!

 元々は、私なんてスターヴェーク王国のルドヴィーク辺境伯領と云う片田舎の、何処にでもいる平民の娘でしか無かったのに、あの日アロイス王国の非道なクーデターによって、平和な日常は奪われてしまい、故郷を奪われた私達家族は、旧スターヴェーク王国の家臣ネットワークで、クレリア様の存命とスターヴェーク王国の復活の狼煙を上げているとの話しを信じ、当時の私達にとってとんでもない遠距離の逃避行が始まったの。

 幸い、アラン様とクレリア様が綿密な難民誘致体制を構築してくれていたから、移動に伴う苦労はそれ程無くて、一番凄かったのは直ぐに住む所と、働く体制が出来てた処だね。

 当初は、本当に手が足りなくて、子供だった私も病院で『ヒール』を掛けて手助けしてたけど、徐々に人も集まって来て、それ程私が頑張らなくても良くなったんだけど、その病院でクレリア様と他の女子会メンバーに会えた事は、私にとって運命だったと思うの。

 だってその女子会初期メンバーの一人が、今では私の義姉でもう少ししたら私の甥っ子を産んでくれるんだよ!

 そんな中、私の相棒であるカー君とバンちゃんにも会えて、そのお友達のケッちゃんにも会えた。

 暫くしたら、故郷の親友達とも再会出来て、新しい親友とも此処帝都コリントで出会えたの。

 十分力を蓄えた私達旧スターヴェーク王国の者達に、悪逆非道のアロイス王国はとんでもない言い掛かりを付けて来たから、アラン様とクレリア様率いる帝国軍(この時はまだ帝国軍じゃ無いけど)は堂々と返り討ちにした挙げ句、逆にアロイス王国を滅ぼしてスターヴェーク王国を復活させる事に成功したわ!

 本来は其処で終わりなんだけど、世界は既にそれで終わらない状況になってたの、大陸の動静を見極めたアラン様とクレリア様そして上層部は、スターヴェーク王国・ベルタ王国・セシリオ王国の3国を統合して、『人類銀河帝国』を誕生させたの。

 そしてあらゆる困難と出会いを繰り返して、帝国は現在大陸の大国としての地位を確立させたわ。

 

 きっと、これからもまだまだ帝国の敵は、現れるんだろうけど、どんな敵が現れようとアラン様とクレリア様が指導する帝国は大丈夫だよね!」

 



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閑話95「ガトル親父の雑記」㉖(親父、自分の孫の誕生に喜ぶ)

 11月11日(コリント朝元年)

 

 俺の孫が無事生まれたぜ!

 男の子で、俺と妻のマゼラが考えた名前は『ケント・マグワイア』(そう言えば俺もいつの間にか華族になってて、姓が与えられてたんだよな、忘れてたぜ!)、然もアラン様とクレリア様の間にお生まれになった初子で有る皇太子殿下とほぼ同時にだ、なんて目出度え話しじゃねえか!

 本当は俺もアスガルド城に向かいてえんだが、あまりにもアスガルド城に押し寄せる華族と、他国の王族や貴族が多すぎて(凡そ5千人くらい)集まったらしいので、入城規制されたらしい。

 あの巨大なアスガルド城でも、流石に華族のサロン室や控室だけでそんな多くの人を迎え入れれる訳ねえし、城付きの職員も捌ききれ無かっただろうな。

 でも、早速に皇太子殿下ご誕生のニュースは、あらゆる場所のモニターを通して全世界に伝わり、帝国でも瞬時と言って良いほど知らされたから、色んな場所でお祝いの歓声と乾杯が繰り返されてるぜ。

 気の利いたニュースでは、俺の孫や剣王の子供もほぼ同時に生まれた事を報じてくれて、何だか俺の孫を帝国国民が祝ってくれてる様で、ありがたかったぜ!

 

 俺が港湾施設の大食堂に備え付けの巨大モニター越しに、ニュースを見てたから、仕事を休んで見てた作業員・技術者・事務員等の全員が、祝辞を述べてくれたよありがてえな!

 中でも、若僧(マリオン)は凄え勢いで喜び、ワザワザ『ナノム玉3』服用者の特殊能力で有る、AR相互通信をモニターで見せてくれて、俺達は帝国民の誰よりも早く皇太子殿下と俺の孫達を見れたんだよ。

 

 全く便利な能力だよな、俺も例の賢聖モーガン殿とドレイク殿、そして若僧の技術ディスカッションの場で度々技術的な疑問や行き詰まりが有った場合、『イーリス』様がモニター上に現れてくれて、全ての問題や疑問をたちまち解決してくれるから、俺もすっかり『イーリス』様の信者になっちまって、『トール』鍛冶神と同じレベルで私室の神棚に祀っているくらいだよ。

 

 11月12日(コリント朝元年)

 

 早朝から、俺達の家族は総出でアスガルド城に有る、孫とミーシャさんが居る医療施設の病室に向かった。

 大勢で朝から出向いたにも関わらず、特別ルートで護衛兵まで付けてくれて、件の場所まで案内してくれた。

 思わず恐縮しちまったが、一緒に来た俺の両親とマゼラの両親は、ごく当然といった様子で護衛されてやがる。

 どうしても俺と子供達は未だに、自分達が華族であると云う事実に慣れないんだが、両親達は華族と云う立場を普通に享受してるんだから、肝が据わってやがると自分の親ばがら感心しちまった。

 

 暫く護衛されながら案内されると、親衛隊の方々が厳重に警備している一角に通されて、俺は始めて自分の孫と対面した。

 遥かな過去の記憶で、息子のケニーと娘のカレンを妻のマゼラが産んでくれた感動を反芻しながら、ミーシャ殿が抱える産着の中を覗き込む。

 孫は、すやすやと気持ち良さそうに寝ていて、何とも健康そうな肌艶をしていて、とても元気そうだ。

 家族全員で、孫をこんなに健康な身体で産んでくれたミーシャ殿に感謝し、俺は近くに控えていた産婦人科の医師の手を握り、お礼を述べた。

 

 暫くそんなやりとりをしてから、家族全員が落ち着いた頃に、孫の名前を発表してやった。

 その名は、

 

 『ケント・マグワイア』

 

 名前が『ケント』で『マグワイア』が家名となる。

 

 この家名は、クレリア様がくれた家名で、今から300年前くらい以前に スターヴェーク王国を支えていた由緒正しい貴族だったのだが、旧アロイス王国の卑劣な侵略を受けて断絶してしまったそうだ。

 

 だが、今回『アポロニウス皇太子殿下』誕生に際し、他の4人の赤ん坊の親達の帝国への献身ぶりを称え、過去にスターヴァイン王家を支えた4家を復活させて報いる事にしたそうだ。

 (他の家名としては、ミツルギ殿とオウカ殿の貰った『イチジョウ家』がある)

 何とも恐れ多い話だが、クレリア様とアラン様のたっての願いであると、爵位審議委員から説明され、素直に受け入れた経緯がある。

 

 11月13日(人類銀河帝国 コリント朝元年)

 

 結局、昨日まで諸々の説明と今後の健康管理を言い渡されて、今朝になって漸く全員で我が家の有る『ルンテンブルク館』群の我が家に戻れたぜ。

 

 孫の『ケント』にとっては初の我が家になるが、まだ産まれたばかりなので、寝た儘の帰宅になったな。

 

 妻のマゼラがミーシャ殿の為に、部屋を赤ん坊と過ごせる様に整えてくれたので、ミーシャ殿と孫の『ケント』は直ぐに部屋に向かって荷物を解くと寛いでくれて、直ぐに就寝しちまった。

 やっぱり、アスガルド城に居る間は緊張していて、我が家に帰ってきて漸く安心できたんだろうな。

 

 お昼になって、若僧の奴が生意気にも孫の誕生祝いと称して、幾つもの赤ん坊用の玩具を車両一杯に満載してやって来やがった。

 俺にもよく判らない様な何やらクルクル回る、天井から吊り下げる玩具や、とても柔らかい素材で出来た鍵盤付きの楽器、木製で突起が無い形の木馬、他にも俺が今まで見たことの無い代物ばかりだ。

 

 「何処で手に入れたんだこの玩具達は?」

 

 と若僧に聞いてみると、若僧は、

 

 「全て、僕が『イーリス』様に聞いて、赤ちゃんの知育玩具としての資料を見せて貰い、手が開いている時間に、トカレフ達と誕生祝いとして製作してたんですよ。

 どうぞ、受け取って下さい師匠!」

 

 とアッサリ答えやがった。

 全くなんて野郎だ!

 『イーリス』様にこんな個人的なお願いを通すとは信じられないぜ!

 そんな風に、玄関先で話していると、娘のカレンが、

 

 「マリオン、ありがとう!

 どうぞ上がって行ってね!」

 

 と俺を無視して、若僧の手を引いて家に連れ込んじまった。

 まあ、折角のプレゼントだし、目くじらを立てる必要も無いかと考えながら家に戻った。

 



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閑話96「ガトル親父の雑記」㉗(親父、孫のケントの肝の座り具合に驚く)

 12月1日(人類銀河帝国 コリント朝元年)

 

 此の日、人類銀河帝国の構成国と准構成国が発表されたぜ。

 凡そ1周間前から、帝国の現在の経済状況と、西方教会圏との経済ブロックに於ける推移データ、各国とのインフラ整備に於ける物流システムに於ける輸送コストの軽減、新たな産業の成長データが議題に登り、帝国の公開する数値を何処まで出すかが決められたんだ。

 何で俺の様な、政治何ぞちんぷんかんぷんな人間が興味を持ってるかと云うと、俺とドレイク殿が中心として進んでいる新艦隊建造計画が有るからだ。

 よって帝国の陸上艦船の建造数と配備状況を把握する必要が有り、帝国軍上層部と膝詰めで会議していた。

 そして現在の建造規模では、今後の帝国とその構成国と准構成国の国力維持と、警察力を備える意味でも小さすぎると云う結論が出た。

 そんな訳で現在の港湾施設と同規模の物を、並びの場所に建築する事が決まった。

 然もそっちには、かなりの規模の実験棟も併設されるという事で、今から楽しみだぜ。

 

 しかし最初にも書いたが、現在の人類銀河帝国の構成国と准構成国の規模は半端がねえぜ!

 ほぼ1年前に比べて、人口比で凡そ3倍、経済規模に至っては5倍に達するらしい!

 この分だと、来年には更に国土と同盟国等が増えるだろうから、事実上の大陸の覇者となるんじゃねえかな?

 そうなると、いよいよ俺達の陸上艦船の需要が増えるだろうから、俺は半分趣味の武器製作を慎む必要があるかもしれねえな。

 

 12月25日(人類銀河帝国 コリント朝元年)

 

 セリーナ、シャロン両准将の内輪の婚姻式が済み、娘のカレンが酔った様に頬を赤くさせて帰宅した。

 どうやら両准将の帝国軍の正装が凄く決まっていた上に、アラン様の帝国軍の正装にときめいたらしい。

 まあ、元々娘はアラン様の大ファンだったし、皇帝一家と周辺の方々とは縁が深えから、きっと相当感激したんだろうな、想像出来るぜ。

 ただ、問題なのは、

 

 「私も、早く結婚出来るかなあ?」

 

 という台詞が、娘の口から何のけなしに出た事実だ!

 思わず晩酌で飲んでいたお気に入りのワインを吹いちまったぜ、勿体無え事をしちまった。

 確かに娘ももう直ぐ16歳になるから、昔のスターヴェーク王国では結婚適齢期だし、帝国法でも結婚可能年齢となる。

 だが、まさか、まさかだとは思うが、誰か意中の男性が居るんじゃねえだろうな?

 気になっちまって、娘に聞いてみた。

 

 「・・・カレン!

 まさかとは思うが、学生の身空で彼氏が居て学業を疎かにする、恥ずかしい事はしてねえだろうな?

 父ちゃんは信じてるぞ!」

 

 と問いただすと、娘は顔を真っ赤にして否定してくれたぜ。

 

 「何言ってるのよ父ちゃん!

 そんな人は居ないし、あくまでも結婚式って素敵だから、私もしたいなあって思ってしまっただけで。

 特定の男子が居る訳じゃないよ!」

 

 と意つてくれたので一安心したぜ。

 だが、吹き出したワインの分を注いでくれた、妻のマゼラが何やら言いたそうなそぶりを見せた事だけが気になったな。

 

 1月1日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 朝から人類銀河帝国生誕1周年記念セレモニーに参加したんだが、アポロニウス皇太子殿下が備え付けの大プロジェクターに浮かび上がると、周りに参列している華族と他国の王族・貴族の方々が、嘆息の吐息を漏らしてた。

 まあ、気分は判るぜ。

 アポロニウス殿下の可愛らしさは、帝国民にとっては今や最大の関心事の一つに数えられる程だからな。

 毎日のニュースでも、今日のアポロニウス殿下と云うコーナーが有るほどで、もはや帝国民の殆どが熱狂していると言って良いくらいだぜ。

 当たり前と言えば当たり前だよな。

 両親であるアラン様とクレリア様は、共に美形を絵に描いた様な存在だし、双方の溢れかえらんばかりの生命力の輝きは、完璧に受け継がれていて、アポロニウス殿下の圧倒的な生気の迸りは、モニター越しにでも嫌という程感じるからな。

 しかし、セレモニー後の挨拶会は閉口する程の身分の高い方々の殺到で参ったぜ。

 アポロニウス殿下の近くに居る様に命じられた、孫のケントとそれを抱くミーシャさんそして息子のケニーにまで挨拶がひっきりなしに来て、大変だったぜ。

 幸い、アポロニウス殿下と孫のケントは、群衆に巻き込まれて驚いてはいても、特に泣き出したりはしないから、参拝の様に集まって来た方々も、大方満足してくれてた様だ。

 それは、セレモニー後の立食パーティーでも続き、孫のケントに至っては何故か俺の両父母達が、孫のケントを連れ出し、両父母達が主催する『シルバー華族のサロン会』のメンバーと一緒に記念撮影や、年配の華族が率先して孫のケントを抱き上げて喜んでいるんだから脱帽もんだ。

 此処まで来ると、孫のケントの肝の座り具合は、とても生後一ヶ月半のものとは思えねえぜ。

 そんな事を思ってたら、嫁さんズもやって来て連れて来た赤ちゃんズがアイドルと化し、とうとうアラン様とクレリア様、更にアポロニウス皇太子殿下が合流したので、改めて全員集合の記念撮影と個別の記念撮影を行って、式は無事成功裏に終わった。

 本当に幸福を絵に描いた様な日だ、今後の帝国の未来を暗示してる様で素晴らしいな。

 



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閑話97「ガトル親父の雑記」㉘(親父、『飛行船』の開発に勤しむ)

 1月10日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 凡そ2ヶ月間を掛けて、帝国総旗艦『ビスマルク』と巨大陸上空母『グラーフ・ツェッペリン』の改修が終わった。

 今までは、ちょっとした高低差の丘ですら越える事が出来ずに、回り込むか破壊しなければ通れなかったのだが、幾つもの追加システムのお陰で余程の峻険な山脈以外は越える事が出来る様になった。

 帝国総旗艦『ビスマルク』には、専用武装の『カイザー砲』の効率化と収束化そして分散化が図れた。

 巨大陸上空母『グラーフ・ツェッペリン』では、ヘリコプターの搭載が無くなり、広大なペイロードが余ったので、其処に量産型のドローンを大量の積載と簡易的な修理が出来る様にしたのだ。

 更に2つの艦には、より探知魔法と通信設備の性能アップと、ドラゴンとのダイレクトリンクが出来る装置の拡充が図られた。

 その辺りの改修部分の説明と運用を、これから3日間レクチャーする事になるんだが、俺とドレイク殿はどちらかと云うと理論畑の人間じゃねえから、どうするか?と頭を悩ませてたら、何と若僧(マリオン)の野郎がアッサリと引き受けてくれたんだが、いくらなんでも学生でしかねえ若僧の手に負えるもんか!と言ってやったら、息子のケニーの幕僚と帝国軍の士官学校出のエリートさん達は、「それは素晴らしい!」と手放しで賛成してやがる。

 何でも、若僧の作る『マニュアル』という手引書は、非常にわかり易くて、詳細に知りたい場合は別の資料が用意されていて、微に入り細に入り素晴らしい『マニュアル』なんだそうだ。

 まあ、便利な野郎ではあるからその点は認めてやっても良いかも知れねえな。

 

 1月20日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 いよいよ、『飛空艇』の開発に取り掛かるぜ!

 既に基本コンセプトと、外装や船内の設計は終えていて、残すはエンジン部分と制御ユニットのバランス作業だけだ。

 此処で問題なのは、例の龍脈に沿ってしか『魔法大国マージナル』が保有する『飛行船』は飛べない。

 だが、帝国の今後を考えると広大な国土を移動する必要のある『飛空艇』は、龍脈に沿わない場所にも飛んで行けなければ不便極まり無い訳だ。

 これを打開する方策を、賢聖モーガン殿と若僧が出してくれた。

 賢聖モーガン殿がこれまで研究して来た『飛行船』の飛行魔術理論と、ドラゴンやワイバーンの魔力による飛行魔法の研究。

 そして若僧が独自に作り上げた人による『浮遊魔法』、そしてそれを発展向上させた人が飛べる『飛行魔法』。

 此等を更に効率化して、アダマンタイトに封入させてそれを四隅に配置して、互いにバランスを取る魔法講式を構築した上で、『イーリス』様が作動させる強力な『飛行魔法炉』の設計図が出来た。

 

 この『魔法炉』を実際に組み上げて、実験するのが俺とドレイク殿の役割だ。

 張り切って始めるぜ!

 

 1月27日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 何十回と云う試行錯誤により、何度も設計図を改訂し漸く満足が行く物が出来たので、実験機を作り上げた!

 縮尺10分の1の模型を作って、実際に飛ばせて見た。

 かなりのスピードを出した飛行をこなした上で、何処まで高度を取れるか?といった実験をひたすら繰り返す。

 この作業を、若僧のシンパ(トカレフ達学生連中が主軸な集団50人程)がやたらと興味を持って取り組んでくれて、様々なデータが取れたぜ。

 

 若僧とそのシンパのお陰で、貴重なデータが大量に蓄積したのでいよいよ初号機の作製に入った。

 

 1月31日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 漸く『飛行魔法炉』の初号機が出来上がり、空軍の留守部隊との防御耐久実験や、バリアーの最大展開時間実験を行う。

 この徹底的な実証実験を繰り返したお陰で、自信が着いたから何度も帝都コリントに一番近い都市で有るガンツとの往来を、貨物搭載で試す。

 そして希望者による、搭乗実験をこなして行って、いよいよザイリンク公国の公都までの飛行訓練を行う。

 最初は、スピードを抑えて1日掛かりで往来してみたが、全然問題を起こさずに往来出来たので、公式航路を人や物の出来る輸送路として活躍させる事になった。

 帝国としても、『第二回世界武道大会』が迫る中、魔導列車やトレーラーを最大限使っても、5日掛かる現状をたった8時間で向かえる交通手段は、喉から手が出る程欲しかったんだろうな。

 

 だが俺にとっては、漸く『飛行船』の開発に拘束されていた期間が終わり、半分趣味の武器開発が出来そうで思わずにやけてしまったぜ。

 



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閑話98「マゼラママの徒然日記」⑮(孫のケントと皇太子殿下との出会い)

 11月11日(コリント朝元年)

 

 私と娘のカレンはミーシャさんの出産状況を、アスガルド城の医療施設にある待合室で知らされてたんだけど、現在は賢聖モーガン様と息子のケニー達が出産に立ち会っているらしいわ。

 息子のケニーと他の旦那連中が、もう直ぐしたら出産となって待合室に戻ってきて、諸々の赤ちゃんが産まれて来た際の対処法と、お嫁さんの産後の対処法を宮廷医師から説明を受け、段々と緊張して来て息子のケニーと他の旦那連中はテンパってきたみたい。

 息子のケニーと他の旦那連中含む皆は、頻繁にお茶を飲み、その所為でトイレに交代交代で行き合っていると、それまで大人しくしていた星猫5匹が、その可愛らしい背中の純白の羽根を羽ばたかせて、待合室から廊下に出たの。

 皆がこぞって廊下に出るとまるで子猫の様な鳴き声が、幾つかの鳴き声となり聞こえて来たわ!

 

 その瞬間、明らかな光りがアスガルド城の地下から、天まで貫いたの!

 

 その光りは、良く見ると5色有るようで暫くすると落ち着いた様に光りが収まり、職員の指示通りに歩を進めてゆっくりと分娩室に入ると、光り輝く赤ん坊がそれぞれのお嫁さん達の腕の中にくるまっていたわ。

 

 ミーシャさんの赤ん坊は、明らかに青い色の光りを放っていたが、次第に光りは収まりスヤスヤと寝ている事が判ったわ。

 

 ミーシャさんは腕の中の赤ん坊を、息子のケニーに抱かせて上げると、満足そうにベッドに寝そべって「フーッ」と息を吐いて身を沈ませたわ。

 まあ、出産と云う女の一大事をこなしたばかりだから、無理も無いと思い私はミーシャさんの額に浮かんだ汗をハンカチで拭って上げて、

 

 「さあ、ミーシャさん、お疲れでしょうから休んでね」

 

 と言ってあげると、

 

 「ありがとうございます!」

 

 と答えてくれたの。

 

 そして息子のケニーがミーシャさんが寝ている横に赤ん坊を寝かせてあげたわ。

 その後息子のケニーはアラン様とクレリア様の元に行ったわ。

 他の旦那さん達もアラン様とクレリア様の元に向かい、皇太子殿下との対面を果たしているわ。

 

 暫くの後に、私と娘は皇太子殿下と一緒に休まれているクレリア様の元に伺わせて頂いたの。

 ゆったりとした大きなベッドの上で、神々しい美しさを辺りに振りまいている様な姿のクレリア様に、私と娘は絶句してしまったわ!

 その姿は正に慈母と云う形容詞そのものの姿で、一服の宗教画がそのまま現出している様にしか思えなかったのだから当然だわ。

 かなりの時間ボーッと呆けていたみたいで、近くに居られたエルナ親衛隊団長から揺さぶられて、漸く正気を取り戻し、改めて皇太子殿下の無事のご誕生とクレリア様の体調良好に対し、お祝いを述べたの。

 するとクレリア様が、

 

 「ありがとう、マゼラにカレン!

 無事にアランの子供と、正統なスターヴァイン王家の跡継ぎを授かり、私は今大変に誇り高い気分で一杯なのだ。

 どうか帝国民であり且つスターヴェーク王国の国民でもあった者として、『人類銀河帝国皇太子 アポロニウス・スターヴァイン・コリント』を見てやってくれ!」

 

 と大変恐れ多い言葉を受けてしまったわ!

 私達などそんなに高い地位の華族では無いし(一応、華族ではあるけど)、こんないの一番に皇太子殿下に対し拝謁するなんて、身分違いじゃないかしら?

 そんな風に思って恐縮していると、エルナ親衛隊団長が、

 

 「どうぞ、遠慮なさらずにいて下さい!

 マゼラ殿とカレン殿そしてガトル技術長、更にケニー空軍大佐とミーシャ空軍中佐を抱える『マグワイア家』は、形式的にもまた帝国への貢献度に於いても、数ある華族の方々の間でもトップクラスに位置して居ります。

 また、先程のアラン様の宣言で、ケニー空軍大佐とミーシャ空軍中佐の間のお子様は、アポロニウス皇太子殿下の朋輩として、特別待遇が約束されました。

 今後は、準王族並みの扱いが、帝国に於いて保証されます、どうぞ気兼ねなく帝国家臣をお使い下さい!」

 

 と、とんでもない事を言われてしまったわ!

 準王族並み?!

 華族ですらどう振る舞えば良いのか、サッパリ判らなかったのに、突然準王族並みと言われても、意味が判らないわ。

 そんな風に混乱していると、クスクスとベッドの上で笑われたクレリア様が、

 

 「そんなに鯱張る必要は無いよ、今まで通りに接してくれれば良いし、あまり身分を持ち出して隔意を持たれるのは私自身好まない!

 もうこの議論は不要だから、ただ純粋に私の赤ちゃんを見てくれ!」

 

 と再度言われてしまい、恐る恐る皇太子殿下を拝見させて戴いた。

 

 なんて綺麗な赤ん坊だろう、まだ若干肌にシワがよっているが、見ている間にもシワが少なくなっているのが見て取れる。

 そしてどうやら浅い眠りから目を覚まされたのか、小さい瞼をゆっくりと開けられたの。

 

 「うわ~、綺麗!」

 

 と娘のカレンが思わず声を出した事に、私も嗜める処か見入ってしまったわ!

 皇太子殿下の瞳はアイスブルーに煌めき!

 その瞳を見つめて居るだけで、引き込まれてしまい時が経つのも忘れてしまいそう。

 

 この出会いこそが、私と同僚の服飾関係者、そして大陸の服飾関係者達が、赤ん坊のファッションと云う分野を、抜本的に見直し、文化面でも赤ちゃんグッズ産業と云う新たな産業が勃興する瞬間だったと、思い知らされる出来事であったと、後に述懐する出会いだったの。

 



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閑話99「マゼラママの徒然日記」⑯(孫のケントの帰宅と、娘達の成長)

 11月12日(コリント朝元年)

 

 朝になり、昨日は忙しくて合流出来なかった夫のガトルが、両父母達と一緒にミーシャの病室を訪れ、ミーシャの様子と赤ん坊の状態を見て、喜びを爆発させ周りにいた看護師から怒られていたわ。

 そして孫の姓名が全員に発表されたの、

 

 《ケント・マグワイア 》

 

 名前が『ケント』で『マグワイア』が家名となるんだって。

 

 この家名は、クレリア様がくれた家名で、今から300年前くらい以前に スターヴェーク王国を支えていた由緒正しい貴族だったのだが、旧アロイス王国の卑劣な侵略を受けて断絶してしまったそうなの。

 

 だが、今回『アポロニウス皇太子殿下』誕生に際し、他の4人の赤ん坊の親達の帝国への献身ぶりを称え、過去にスターヴァイン王家を支えた4家を復活させて報いる事にしたそうね。

 

 何とも恐れ多い話だけど、クレリア様とアラン様のたっての願いであると、爵位審議委員から説明され、素直に受け入れたようだわ。

 

 となると私の姓名は今後『マゼラ・マグワイア』となるのね。

 何だか、華族になったのも実感がないのに、とうとう家名が出来てしまったわね、畏れ多い話しだわ。

 

 11月13日(人類銀河帝国 コリント朝元年)

 

 今朝になって漸く全員で我が家の有る『ルンテンブルク館』群の家に戻ったの。

 孫のケントにとっては、初のご帰宅になるわね。

 ただ、まだ産まれたばかりなので、寝た儘の帰宅になってしまったわね。

 なので、私と娘のカレンが準備していた部屋に入って貰い、直ぐにミーシャさんとケントには寛いで貰い、就寝して貰ったわ。

 やはり、なんだかんだ云っても、アスガルド城ではかなり緊張していて、疲労が蓄積していたのね。

 

 私と娘のカレンが、今日来訪予定である人数分の食事を用意していると、娘のお友達が来訪して来たわ。

 しかし、娘のお友達も随分大人びて来たわ。

 もう16歳になって、結婚可能年齢に達した所為か、身体つきが既に大人の女性と言っても良い程の子も居るし、かなり理知的な雰囲気を発している子も居るわ。

 そんな子達に比べると、娘のカレンはまだまだ子供で、直ぐに興味を持った物には飛びついてしまい、落ち着きが無いからちょっと将来が心配ね。

 そんな未来を何となく案じていると、家のチャイムが鳴って手の離せない私と娘の代わりに、休日なので家に居る夫のガトルが玄関に出たわ。

 

 暫くの間、何やら夫と来訪者がガヤガヤと、話し込んでいるみたいで気になったから、娘に玄関先に行ってもらったら、マリオン君と夫そして娘が幾つかの大きな玩具らしき物を家に運び込んで来たの。

 娘の友だちも手伝ってくれて、リビングに玩具らしき物を運び込んで、珍しそうにみんなで玩具をいじり始めると、マリオン君が玩具の使い方と用途、更にその目的まで説明してくれたわ。

 

 しかし、本当に凄い男の子だわマリオン君は!

 如何に『知恵と知識の神』と帝国で噂され始めている、『イーリス』様の薫陶が厚いと言われていても、たかが一人の赤ん坊の為に知育用の玩具を新たに作れるものかしら?

 カレンのお友達も、やっぱり驚いたらしく、しきりに「凄い、凄い!」とマリオン君を誉めてるわ。

 そのお友達の褒め言葉に、何故かマリオン君では無くて娘のカレンが鼻を高くして、

 

 「エッヘン!凄いでしょう、私の親友のマリオンは!

 アラン様とクレリア様からも、しょっちゅう褒められているし、最近は自分のオリジナル魔法の『浮遊魔法』を改良して、普通の『ナノム玉1』を服用した人でも使える様に完成させたんだから!」

 

 と娘は平然と、もしかすると帝国の機密扱いかもしれない情報をバラしてるわ。

 呆れてマリオン君を見ると、やや苦笑している程度なので、機密扱いと云う程でも無いのかなと安心したわ。

 

 やがて正午になったから、ミーシャさんを起こしに行き、孫のケントと一緒にリビングに来て貰ったの。

 案の定、娘の友だち達は、黄色い声を出して赤ん坊のケントを覗き込んだの。

 その黄色い声に驚いたのか、孫のケントはお目々をパッチリと開けたんだけど、まだ生まれたばかりだから目の前の対象が判らないらしくて、しきりに目を瞬いていて特に泣きもせずに娘の友だち達を見つめて来る。

 その愛くるしい姿に、感動したらしい娘の友だちの一人が、指先を孫のケントの小さい手に触れさせると、孫のケントはその可愛い手で握ったわ。

 途端に娘の友だちは、身を震わせて感動したらしく、顔を紅潮させて指を握らせ続けたの。

 すると、他の友だち達が、我先に次は自分だと順番を譲らせようとしたけど、私が窘めて孫のケントをミーシャさんの手づから揺り籠に入れて、娘の友だち達に触らせずに、食事を終えて手を洗ったら触れても良いと通達したから、途端に孫のケントから離れて、大人しく席に着いてくれたわ。

 

 そして昼食を大勢で楽しく食べて、食べ終わった女連中は食器を全員で洗って、清潔に手を洗い直して孫のケントの周りに集まり、ミーシャさんの許可を貰って孫のケントにおっかなびっくり触っているわ。

 こうやって、赤ちゃんを実際に触ったりあやす事で、子供だった娘達は己の中にある母性を知って、やがて自分の子供を持ちたいと思い、子供時代から卒業するのね!

 と私自身の経験を思い出してしまったわ。

 



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閑話100「マゼラママの徒然日記」⑰(『紙オムツ』爆誕!)

 1月10日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 諸々の行事を終えて、私達が所属するアリスタ社長の総合商社(アリスタ社長とカトル副社長の合弁会社)の系列会社として新たな会社が立ち上がったの。

 元は、他の服飾会社と同じ規模の会社だったのだが、昨年からの皇太子殿下ブームに乗ろうと、一種のベビーブームが起こり、赤ちゃん用の産着やベビーグッズ、そしてその華族や王族・貴族用の高級品の需要が爆上がりで、事態をチャンスと考えたアリスタ社長は、カトル副社長と相談の上で大規模な資本を投下して、専用の工場を15も作って新しい産業と位置づけて発足するんだそうよ。

 私も昨年の11月から、新しい生地や新しい素材を活かして、様々な製品案を創出したの。

 

 中でも自信作は、『紙オムツ』と云う製品よ!

 

 この『紙オムツ』と云う製品は、読んで字の如く紙製品のオムツで、従来の布オムツと違い天然植物素材で出来た、完全自然分解する有機素材でも有るの。

 なので布オムツと違い、赤ちゃんが使用したら、そのままゴミとして廃棄して、各ドームの地下に有るリサイクルMM(マイクロ・マシーン)廃棄物処理施設で処理されて、そのまま有機肥料として帝都コリントの農業ドームや、『魔の大樹海』の周囲に開拓した広大な農場、他にも北方のマジノ・ドーム周辺の巨大農場、クライナ公国の放棄農場の再建、崑崙皇国の荒れ果てた農地改良等に散布する事で、肥沃な農地が確保出来るんだって。

 元の材料で有る天然植物素材は、帝都コリント付近の広大な『魔の大樹海』の開拓による間伐材が主な材料で、この間伐材を利用しないと『魔の大樹海』は、他の森や林と違い圧倒的なスピードで木が生えてしまうので、今までは帝国軍が演習や魔法標的として利用してたけど、勿体無いからこの際素材として有効活用する事が決まったの。

 

 この素材活用も、娘のボーイフレンドであるマリオン君に依頼したら快く応じてくれて、何と『イーリス』様に相談されて、素材処理する方法まで教わったらしいわ、何だか畏れ多い話しね。

 

 ともあれ、『紙オムツ』は出来上がり、試作品を孫のケントに履かせてみて使い心地を試したら、ミーシャさんから絶賛されたので、他の赤ちゃんズのお母さん方に勧めてみたらまたも大絶賛されたから、満を持してクレリア様に奉納して、アポロニウス殿下への献上品として使用して戴いたの。

 此れがまた予想を越える大好評!

 直ぐに大量発注されたかと思うと、次の日には『帝国国立病院』や他の医療施設からも、赤ちゃんサイズ以外の成人用サイズまで作って欲しいとの要望まで発生したわ。

 

 考えてみれば当然だわ。

 重症患者やナノム玉やヒールで治せない、重病患者の長期入院には、下のお世話が医療業務で大変な負担だもの、洗濯しなくて済むなら好都合よね。

 そんな経緯もあって、15有る工場の内10工場が各サイズの『紙オムツ』工場となったわ。

 

 1月25日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 ベビーグッズ会社が正式に発足して半月経って、あまりにも発注が多すぎるので、クライナ公国にも支店が出来る事になったの。

 クライナ公国が選ばれた理由は、巨大な港湾施設とその横に有るMM用のレアアースの大鉱脈の存在。

 この事は、帝国の大臣でもあるカトル副社長とアラン様達帝国上層部の考えと、クライナ公国のゼレンスク代表の未来構想を併せたセリース大陸の物流を考慮した、大計画の一端らしいわ。

 

 その代表としてナタリー常務が選出されて、他に社員100名が出向するのが決まったんだけど、当然のようにトレーラー野郎のホシさんとトレーラー・ギルドのギルド員千人が向かう事になったの。

 もう此れまでの経験で、会社側としてもホシさんがナタリー常務に迷惑を掛けない限り、どう行動しても構わないけど、業務に支障を来たすなと云う誓約を誓わせ、念書まで書いて貰ってるわ。

 まあ、此れについては他人が介入しようが無いから、後は2人に任せるしか無いわね。

 

 そんなこんなで、来月の支店開業を目指して出向する社員は、準備に追われてるみたいね。

 

 1月31日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 クライナ公国に向かう社員とトレーラー・ギルドのギルド員千人、そしてその働く場所そのもので有るドームを運搬する巨大カーゴシップ、そしてそれに随伴する陸上警備艇4隻、その船団の後ろを追いかける様に付き従うデコトレ(デコレーション・トレーラー)計500台が、帝都コリントから出発する。

 現地では、ゼレンスク代表が用意した敷地と、現地従業員千人が今や遅しと待って居るらしいわ。

 きっとこの支店を軸として、新生クライナ公国は豊かな未来に羽ばたく筈よ。

 

 そう信じているからこそ、クレリア様がモニター越しにアリスタ社長とカトル副社長を両脇に従えて、激励して下さったわ。

 

 「・・・クライナ公国は、先のスラブ連邦との大戦で、かなりの痛手を被ってしまった!

 だがクライナ公国国民は、ゼレンスク代表を中心として力強く蘇ろうとして居る。

 今回の支店開業と、物流拠点開設はその端緒である!

 皆、帝国の代表であると誇りを持って行動して欲しい!

 クライナ公国国民とともに未来へ向かい、努力する事を願う!」

 

 と仰って戴けたので、私達は有り難く拝聴して、出向する人員はそのお言葉を胸に勇壮に出発して行ったわ。

 



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9月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝2年)《帝国軍再編成》

 此の300話を以って、第二部最終章が始まります。
 此の第二部最終章で、事実上この惑星アレスでの戦乱は終わります。
 そして幾つかの補足説明と、惑星アレスの状況説明を開示して、物語は終焉を迎え、第三部はタイトルも変えて、次世代の主人公達(オリジナルと同じく複数視点の物語)が紡ぐほぼ別物の物語になります。
 どうぞお楽しみに。


 9月3日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 久々と言って良い程の安閑とした日々を、家族と共に過ごせていて自分は満足であった。

 何故なら今年は、その大半が崑崙皇国の大乱と第二回『世界武道大会』、そして『日の本諸島』の魔物騒ぎと、国外での出来事が多く、折角生まれてくれた息子ケントとの触れ合いがおざなりになる時間が多かった所為で、息子のケントはすっかり我が家の女性陣に懐いてしまい、自分と親父には笑いかけてくれるが、母親で有るミーシャに向ける無条件の笑顔とは違う様な気がするのは、自分の勘違いでは無い気がするのだ。

 

 その事を妻のミーシャに夜、それとなく話すとやや呆れ顔をされて、

 

 「なら帝都に居る間は、貴方が極力抱いて上げて行動しなさいよ!」

 

 と怒られてしまった。

 なので自分は日中の空軍ドームのお勤めを終えると、一切同僚と飲みにいったりせずに家に帰り、息子ケントとの触れ合いを日課としている。

 だが、其れは自分にとっては天国の様なご褒美だった。

 何故なら、最初の言葉こそ「マンマ!→ママ!」と母親に奪われてしまったが、掴まり立ちからの二足歩行と始めての離乳食は、自分がみている前だったので、始めて出来た時は頬ずりして褒めて上げたので、母親としてのミーシャと父親としての自分を、息子ケントの中でほぼ同等にまで好意対象として認識させれたから、自分が勤務を終えて夕方家に帰って来ると、よちよちと必死に歩きながら相棒の『星猫ベータ』と共に玄関先までやって来てくれる様になったのだ。

 世の父親も、こんな風に自分の子供から歓待されるのか、家族とは素晴らしい!と再認識させられる思いだ。

 

 9月10日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 漸く空軍の再編成の骨子が纏って来た。

 大分原案を改訂して、今後の増員を見越した案になっただろう。

 どう考えても、空軍が帝国軍に於いて一番広域展開する場面が多いので、事実上最新の情報が上がるのは空軍となるから、帝国総旗艦『ビスマルク』と巨大陸上空母『グラーフ・ツェッペリン』の完全な情報共有の同期は不可欠で、アラン様の指揮下に於いて直属軍に空軍はなるしか無いので、此れまで通り命令権第一位はアラン様でその次は自分で更に次がミーシャ(現在育児休暇中)となるのは致し方ないと言える。

 しかし、此れはある意味仕方がないが、つまり自分はアラン様の指揮下以外の、他の方面軍の様な長期に渡る別行動は如何にモニターでのやりとりが出来るとはいえ、瞬時の判断や指示は難しいのでやはり直属軍で居るのが妥当だろう。

 

 9月17日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 正式に全帝国軍の刷新が発表された。

 

 全帝国軍軍人の此れまでの貢献を考慮して、2年以上在籍の帝国軍人と将官・佐官の全員が昇進する事になった。

 具体的には、

 

 アラン様が、大将→元帥 帝国軍の総帥にして条約に於ける事実上の同盟国の盟主

 

 ダルシム伯爵が、中将→大将 中央軍たる帝国軍30万の総指揮官にして、陸上重巡洋艦『バーミンガム』の艦長

 

 ファーン侯爵が、中将→大将 東方方面軍50万人の総指揮官にして、陸上重巡洋艦『ヴィルヘルム』の艦長(息子のカイン少佐→中佐の重装機動軍1万傘下)

 

 ビクトール侯爵が、中将→大将 北方方面軍50万人の総指揮官にして、陸上重巡洋艦『ケーニヒ』の艦長

 

 ヴァルター子爵が、中将→大将 南方・西方方面軍80万人の総指揮官にして、陸上重巡洋艦『フリードリヒ』の艦長

 

 ヘルマン伯爵が、少将→中将 帝都守備軍10万人を率い、陸上巡洋艦『ベイオウルフ』の艦長

 

 セリーナ伯爵が、准将→少将 高機動軍10万人を率い、陸上巡洋艦『ドレッドノート』の艦長

 

 シャロン伯爵が、准将→少将 高機動軍10万人を率い、陸上巡洋艦『ジャンヌダルク』の艦長

 

 そして自分はと云うと、

 

 ケニー子爵が、大佐→准将 空軍10万人を率い、陸上巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』の艦長

 

 妻は、予備役となり騎竜のサバンナは自分が預かり、ガイと共に管理するが、いざという時は緊急で騎乗してもらう。

 

 大体の将官及び佐官の扱いは此の様になり、各軍には駆逐艦・フリゲート艦・護衛艦・突撃艦等が配置されていて、他にも補給艦・輸送艦・揚陸艦・修理艦等の補給や兵員輸送に携わる艦船の配備が、順次行われている。

 つまり、とうとう帝国軍は全ての帝国軍人が、自分の足や軍馬と車両等に頼らず、全ての軍事行動を陸上艦船で行動出来る様になり、一切の遅滞無く一律の軍事行動が可能となったのである。

 

 因みに、空軍の尉官である三羽烏のベック、トール、キリコの3名も昇進し、全員大尉となり。

 

 そして、自分の以前乗っていた陸上空母のアイン、ツヴァイ、ドライのそれぞれの艦長となったのだ。

 

 些か早すぎる抜擢かも知れないが、考えてみると自分が艦長になった年齢と、そう変わらない年齢となっているし、彼らも十分に戦歴を重ねているので安心しても良いだろう。

 

 こうして帝国軍の陣容は再編成され、もう直ぐ2年が経つ『アラム聖国』との不可侵条約へ対抗出来る陣容が整えられたのである。

 



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9月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『アラム聖国』の真実》

 9月25日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 辞令を受け取り、久々の家族や一族との休暇を楽しんで居る、各方面軍の将士達と違い、帝国軍上層部と帝国の大臣達は、難しい顔をして大会議室で一同に会していた。

 

 其れは、『アラム聖国』という現在のセリース大陸に於いてほぼ唯一、帝国との接触を断っている国家の状況変化を示す情報であった。

 

 実は、アラム聖国に対し、帝国はありとあらゆる方向からの諜報戦術を行使して、更に例の『カルマ』殿(アラム聖国の三聖人が一人)を通し、数々の情報を仕入れて居たのだ。

 

 中央情報局局長のエルヴィン長官と、工作活動指揮官であるカトウ、そして隻腕に多数のギミックを仕込むハインツ副長官が代わる代わる説明を始めた。

 

 「・・・アラン陛下の命令に従い、この2年半の間に出来る限りの諜報活動をして参りました。

 幸い我等には、ミツルギ殿とカトウの一族と云う元々『アラム聖国』と繋がりの有る人物達と、『カルマ』殿と云う有力な後ろ盾が有り、かなりの『アラム聖国』の情報を得る事が出来、然も各地方まで習俗や民度そして教育等の、民間レベルの状況まで網羅する事が出来たのです。

 しかし、いざ『アラム聖国』の中枢である宗教関係の中央と、最南端に有る広大な軍事施設には近寄る事すら出来ませんでした。

 ですが、帝国技術部(親父が所属する帝国の最先端魔法と科学の研究部門)と帝国空軍の協力で、例の超高性能ドローンのスペクトル分析と、透過センサーと探知魔法による解析により、かなりの謎が調査出来たのです。

 それによると、『アラム聖国』の中央部には巨大な地下空洞が有り、その中には異様なエネルギーの偏在が確認されているらしい。

 しかし、それよりも問題なのは最南端に有る広大な軍事施設の先に有る、巨大なトンネルの存在であった。

 何とそのトンネルは二股に分かれていて、その巨大なトンネルは南方の2つの大陸と繋がっていて、更にはその大陸には広大過ぎる地下空間が有ったのです・・・」

 

 と3人が代わる代わる説明し、一旦説明を途切れさせ大会議室に備え付けの大型モニターに、『アラム聖国』と其処から繋がるトンネルの位置と、大陸に広がる広大過ぎる地下空間の概略図が示された。

 

 《此れは、まさか?!》

 

 と自分は思わず絶句してしまった!

 恐らくこの自分の思いは、大会議室に集っていた殆どの人間の考えと一致していたに違いない。

 何故なら、誰の目にも明らかな様に、本来の『アラム聖国』の領土と呼べる範囲は、セリース大陸の中央と南部の凡そ20%で有る。

 しかし、このトンネルの存在と2つの大陸、更にそれぞれに存在する広大過ぎる地下空間を全て合わせると、セリース大陸全ての面積を越えていて、然も超高性能ドローンのスペクトル分析と、透過センサーと探知魔法による解析により、其処にはかなりの構造物とエネルギー偏差による生命体の反応まで有るのだ。

 そしてそれを、この惑星アレスに於ける生命体の分布図と云う大きな範囲での偏差確認を行い、エネルギー総量の総合量等を比較するデータも示された。

 

 そして、総面積だけでは無いデータが我々の前に展開された。

 

 惑星アレスには、大凡5つの大陸とその周辺に点在する諸島が存在するのだが、2つの大陸である南北アメリア大陸はセリース大陸から遠く離れている上に、殆ど生命体反応は無い。

 残りの暗黒大陸と言われる『アフリカーナ大陸』そしてストリア大陸は、セリース大陸と距離が近く船での往来も有るのだが、人が住んでいない事は確認されていた。

 だが人が住んでいないだけで、動植物と魔物・魔獣の天国だとされていた。

 しかし、今回のデータとより詳細な調査で、今までの常識は覆された。

 

 エルヴィン長官が再度説明し始めた。

 

 「このデータを元に、潜ませた諜報員により詳細な調査を始めたのですが、1年経っても中々進展せずに困っていたのです。

 ですが、『カルマ』殿とその協力者が教えてくれた場所、そしてその場所を超高性能ドローンでの徹底的な調査をする事で、或る興味深い調査結果を得る事が出来ました」

 

 そしてエルヴィン長官が口を噤むと、後を継いでハインツ副長官が或る単語を喋った。

 

 「・・・『獣化兵(ゾアノイド)』・・・この言葉をアラン陛下はご存知では無いですか・・・?」

 

 その言葉を聞いた此の場にいる全員が、アラン様に視線を移すと、アラン様は非常に険しい顔つきをして、明らかに『獣化兵(ゾアノイド)』と云う単語に思い当たる様子であった。

 



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9月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『アラム聖国』との此れ迄》

 9月28日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 現在帝国軍は、『魔の大樹海』の外縁部の大山脈に有る盆地で大規模演習を繰り返している。

 此の場所は将来の帝国軍の用地として、大規模に更地にする必要が有り、かなり『アラム聖国』の国境線に近く敢えて此の場所で演習を行うのは、当然『アラム聖国』への牽制で有る。

 

 自分の空軍からは量産型ドローンを出動させ空中からの情報収集と、『アラム聖国』からの偵察行動を見守っている。

 

 《・・・『アラム聖国』か・・・》

 

 自分は刻々と積み上がる演習のデータと、『アラム聖国』の現状データを見ながら、思いを馳せる。

 

 そもそも自分の出身である旧スターヴェーク王国は、『アラム聖国』に遥かな過去から侵略を受けていた、謂わば因縁深き敵対国家だった。

 然も、旧スターヴェーク王国が一旦滅ぶ憂き目を見た、悪逆なアロイス王国によるクーデター自体が、『アラム聖国』がアロイス王国をけしかけた結果であり、その後も我等旧スターヴェーク王国残党を追い詰めるべく、ベルタ王国やセシリオ王国を走狗として使い、我等に牙を剥いた!

 だが、我等の元には神の如き存在で有る、アラン様が天より降臨されていた!

 アラン様は、あと一歩で死ぬ寸前だったクレリア様を救われ、徐々にベルタ王国で地歩を固められて、旧スターヴェーク王国残党とベルタ王国の良心的な人々を迎え、確固たる地盤を始めての領地で有る『魔の大樹海』を切り開くと、数々の戦功を重ねベルタ王国の常識の有る貴族達と協力して、ベルタ王国を我が物としようとするヴィリス・バールケ宰相一派を退治し、あわや弑逆されそうだったアマド陛下の救出に成功した。

 そのヴィリス・バールケが起こした内乱にも、『アラム聖国』は裏で動いていて、走狗のアロイス王国から兵士数万人と強力な魔道具・アーティファクトで、我等を脅かした。

 しかし、アラン様に率いられた我等は、そんな独善的な野望を撃ち破るべく行動し、ベルタ王国をアマド陛下の元に戻す事が出来た。

 その我等の行動に、業を煮やした『アラム聖国』は、セシリオ王国の王太子であったルージを篭絡した挙げ句、ベルタ王国への再度の侵略と己の国民をゾンビに変えるという、人倫を犯す外道の行為をさせた上で、そのゾンビと変えた国民を尖兵とした攻撃を、我等と協力を願い出たセシリオ王国貴族達と義勇軍に向かい仕掛けてきた!

 その神をも愚弄する愚かな行為は、正に神の怒りを買ってしまい、『女神ルミナス』様が遣わした使徒『イザーク』様がアラン様に協力し、見事にゾンビと変えた国民諸共浄化し、塵一つ残さずに消滅した。

 尽く目論見を潰された『アラム聖国』は、半ば意地となって走狗たるアロイス王国を使い、我等への全面対決の道を進ませた。

 その行動そのものが、綿密な計画に基づいたものでは無いので、アラン様と我等は当然此の日が有ると考え準備していた為に行動を粛々と進め、呆気ない程簡単に自分の生まれ故郷で有るルドヴィーク辺境伯領まで軍を一気に進める事が出来た。

 此処に至って『アラム聖国』は、形振り構わずに軍隊を派遣した上に、切り札の一つである『双頭の暴虐竜ザッハーク』を投入し、我等との決着を図った!

 しかし、アラン様と我等は旧スターヴェーク王国を、どの様な事があろうと取り戻してみせるとの復仇に燃えていた!

 ベルタ王国で旧スターヴェーク王国を復活させようと、我等に有形無形の援助を行う旧スターヴェーク王国の元貴族や難民、そしてベルタ王アマド陛下や味方の貴族や将帥の方々、そしてアロイス王国を離脱し元の旧スターヴェーク王国に復帰した貴族や義勇軍によって、ルドヴィーク城を以前より遥かに強固な要塞へと変貌させる事が出来た。

 そして我等仮称スターヴェーク王国復興軍はルドヴィーク城で、アロイス王国と『アラム聖国』の連合軍との一大攻防戦を繰り広げた!

 凄まじいばかりの、魔法と砲弾そして銃器による遠距離砲撃戦を制し、空戦に於いてもドラゴンとワイバーンの総力を結集したアラン様と自分の空軍は、災厄の化身とも云うべき『双頭の暴虐竜ザッハーク』との激戦を戦い抜き、倒すことに成功した。

 その流れで、旧スターヴェーク王国の王都を解放し、一連の戦乱の終焉を迎えた。

 しかし、ぞもぞもの元凶である『アラム聖国』は一軍と『双頭の暴虐竜ザッハーク』こそ失ったが、自身の国土は一片たりと失っていないばかりか、旧スターヴェーク王国・ベルタ王国・セシリオ王国そして西方教会の秘蔵の倉庫から、諸々の魔道具とアーティファクトを没収しており、収支は五分と見て良いと思われる。

 アラン様と我等も、一連の戦乱に総力を傾け過ぎて、かなり疲弊してしまっていたので、一旦は『アラム聖国』との間に期限付きの不可侵条約を結んだのであった。

 その後、アラン様と我等は3国を統合し、『人類銀河帝国』を誕生させて西方・北方・東方を統合或いは同盟を結ぶ事で、事実上セリース大陸の覇者の立場を手に入れる事が出来た。

 然も魔法科学の発展と、様々な仲間と巡り会う事であの頃と、比較にならない程の力を蓄える事が出来ている。

 アラン様の指導の元で、我等は一致団結して行動する限り、そうそう『アラム聖国』からつけ込まれる事は無いだろうと、自信が持てる我等は幸せだと思う。

 



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10月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『獣化兵(ゾアノイド)』の概要》

 10月10日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 合同大演習も終えて、様々な講評を互いに評論しあい、今後の改善点や新しい戦術等の提案や新技術への要望を伝え合い意見が出尽くした処で、『アラム聖国』の新しい情報が齎された。

 

 大会議室の立体プロジェクターに浮かび上がったのは、5体の異形の死体であった。

 中央情報局局長のエルヴィン長官が説明し始めた。

 

 「此の5体の異形の死体は、『アラム聖国』での軍隊訓練中に出た犠牲者が、回収する運搬馬車から街道に転げ落ちた物を、此方の超高性能ドローンの光学迷彩魔法を上空から掛けて、超高性能ドローンが回収した物です。

 あまりにも人間から逸脱した形状をしている死体なので、賢聖モーガン様と魔法研究室、そして帝国魔法科学技術局に鑑定を依頼し、この程鑑定結果が出ましたので、アラン様の許可が下りて報告致します」

 

 とエルヴィン長官がアラン様に向き直り、頭を下げるとアラン様も頷き返した。

 エルヴィン長官は続けて、

 

 「見ての通り、この5体の死体は明らかに普通の人間のサイズを逸脱し、5体全てが身長3メートル以上体重200キログラム以上。

 身体の特徴はグレイハウンド、オーク、オーガ、サーペント、フロッグと酷似していて、まるで魔物と人間の融合体と思われたので、検証してもらった処、やはりそれぞれの魔物との有機的な結びつきが確認された上に、恐るべき検証結果が出て参りました。

 此の融合体は、後天的に融合させた物では無くて、最初から此の様な融合体となるべく生育した物らしいのです。

 つまり『アラム聖国』は、こういった融合体からなる軍隊を初めから誕生させようと、企図した上で訓練出来るまで漕ぎ着けているのです」

 

 とエルヴィン長官が説明した処で、幾人かの者が挙手したので、アラン様が代表としてダルシム大将を指名し、質問させた。

 

 「あのルドヴィーク籠城戦で確保した『アラム聖国』の捕虜は、その後の検査や捕虜自身の説明から、複製体(クローン)で有ると説明され、元はたった一人から培養して最大10万人を複製し得ると聞かされた。

 という事は、同じ技術から作られたのだとすれば、此の5体だけでも既に50万以上の軍団が居ると想定される訳か?」

 

 との質問にハインツ副長官が

 

 「いえ、その程度では有りません!

 あくまでも、現物として手に入れて、検証出来たのが5体だけで、超高性能ドローンの探知魔法と探査システムを通したセンサースキャンのお陰で、此等と類似する個体の判別と概算の総数も、大まかに掴んでいて、想定される数字はかなりのもので有る事は判っているのですが、確定している数字は出せませんのでご了承下さい。

 なので、自分の想定数でお話ししますが、最低の数でもこの『獣化兵(ゾアノイド)』の軍団は、1000万を遥かに越えると考えています!」

 

 と、とんでもない数字を言われ、帝国上層部は殆どの者が絶句してしまった。

 1000万と云う数字は、正直只の人間であれば帝国にとっては、正に鎧袖一触で驚異に一切なり得ない。

 しかし、立体プロジェクターに描き出されている、個々の『獣化兵(ゾアノイド)』のスペックが我等の認識を安易と断じる事を許さなかった!

 そのスペックは、今まで敵対して来た数々の兵士や魔物、そして『古きものども』の尖兵や崑崙皇国の妖怪や『饕餮』等の個別の能力を遥かに越えていた。

 恐らくは、帝国軍人の現在のフル装備と同等か少し上で、然も訓練で運用している銃器や大砲、更には『獣化兵(ゾアノイド)』が体内に、基本内蔵されているらしい各種の武装を考慮すると、明らかに帝国軍人のフル装備を上回った。

 今まで、帝国軍が不敗な上で殆ど損害と呼べるものが無かったのは、帝国軍人が敵よりも装備と武器が上回っていたからであり、其れは帝国にとっても圧倒的な自負でもあった。

 だが、その自信が今完全に過去のものになろうとしていた。

 その事実は、会議の雰囲気を重くしてしまい、何時もの闊達な意見が出されず、沈黙の時間がひたすら続く。

 このままでは不味いと考えた自分が、唯一個別でも勝てると考えられる空軍のドラゴン達による、ヒット・アンド・アウェイによる遊撃戦法を提案しようとしたタイミングで、自分の背後に有る巨大モニターからコール音が鳴り、アラン様の許可が下りて、パッと画面がついた。

 

 其処には、親父の愛弟子にして妹の彼氏の『マリオン』魔法技術師が映し出された。

 『マリオン』魔法技術師は、その特徴的な色違いの瞳を輝かせ、満面の笑みでアラン様と我等に頭を下げてから、報告して来た。

 

 「アラン様!

 師匠と賢聖モーガン様達に依頼されていた物の、試作一号機が完成しました!

 その概要をアラン様の個人アドレスにメール添付として、既に送信しましたが取り敢えずはご注進させて頂きます!」

 

 との言葉に、非常に珍しい事にアラン様が、ガタッと席から立ち上がり、興奮しながら『マリオン』魔法技術師に確認した。

 

 「ほ、本当なのか?!

 とうとう『アレ』の試作一号機が完成したんだな?

 冗談や偽りでも無く、『アレ』が!」

 

 と画面の中の『マリオン』魔法技術師に、詰め寄る様にアラン様が言われ。

 その様子に驚きもせずに『マリオン』魔法技術師は頷き、言葉を紡ぐ。

 

 「そうです!

 アラン様が、我等に最優先で望まれ期待して居られた物!

 『パワードスーツ』の試作一号機が完成したのです!

 提示されたオリジナルの70%しか出力は出せませんが、他の面である防御力等はオリジナルを越えております!

 きっと、ご期待に添えると思いますよ!」

 

 との報告を受けたアラン様は、身体を震わせて無理矢理興奮を抑えようとして居られる。

 『パワードスーツ』という代物が何かは判らないが、アラン様の様子を伺うに、恐らくは今後の対『アラム聖国』に於けるゲームチェンジャー的な代物で、『獣化兵(ゾアノイド)』に対抗出来る物に違い無いと考えられた。

 



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10月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『パワードスーツ』の仕様》

 10月17日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 あの大会議室での発表から一週間の間、帝国軍の上層部では徹底的な情報統制の元で、『パワードスーツ』の情報共有と、帝国軍上層部全員の『パワードスーツ』試着と、実戦練習が行われた。

 その実戦練習を特に熱心に取り組んだのがアラン様だった。

 

 「そうだ、ダルシム!

 其処でピックターン(足底横から出る刺突上に出るピックで高速ターンする)をして、振り向きざまに『ヘビィマシンガン』による『パルス・ブラスター』を連射!

 敵を確殺後、『ホバー・ダッシュ』を再開し、その場から離れ一気に次の敵との距離を詰めろ!」

 

 ダルシム大将と云う、アラン様以外では最高峰の立場に居る軍人が、自ら志願して『パワードスーツ』に搭乗しているのだ、帝国軍上層部が如何に重要視している兵装なのか判るというものだ。

 アラン様は続けて、

 

 「次は固定武装の、『電磁ブレードソード』を展開!

 接近戦にて目標を切断せよ!」

 

 とダルシム大将にアラン様が指示し、ダルシム大将の乗る『パワードスーツ』は、右手腕部の手の甲側に格納されている1メートル程の『電磁ブレードソード』を飛び出させた。

 そしてそのまま『電磁ブレードソード』を固定させて、目標である鋼鉄製のターゲット(『獣化兵(ゾアノイド)』サイズ)に一気に近づき、刃先を煌めかせながら切り刻んだ!

 その凄まじいばかりの切れ味は、鋼鉄製のターゲットをまるでバターの様に抵抗無く切り刻ませた。

 

 『電磁ブレードナイフ』の切れ味は、我等帝国軍人ならば常識として知っているが、『電磁ブレードソード』も負けていない。

 

 一連の実戦練習を終えて、ダルシム大将が『パワードスーツ』から降りてきたが、頬を紅潮させて興奮したまま、アラン様に報告を始めた。

 

 「アラン様、此の『パワードスーツ』と云う代物は、既存の戦争概念を完全に過去の物にしてしまう凄まじい兵器ですな!

 極端な話し、『パワードスーツ』が10機有れば、現在の戦場の局面を変えてしまうでしょう!

 この兵器ならば、件の『獣化兵(ゾアノイド)』にも十分対抗出来ると確信致しました!」

 

 この報告に、アラン様は、

 

 「その通りだ!

 此の『パワードスーツ』と云う兵器は、現在の戦闘行為を完全に逸脱し、1機だけである程度の範囲の戦場を制圧し、此れが部隊、軍団と規模を拡大すれば、戦場そのものを支配する事が可能だろう。

 故に私は、新たな兵種として『宙兵』という兵種を創設し、取り敢えずは私とクレリア直属の親衛隊の猛者の中から、選出した者を割り当てるが、何れは『パワードスーツ』を大量生産して、現在の歩兵全てに行き渡せられた段階で、歩兵と云う兵種を廃止し全て『宙兵』に置き換えるものとする!」

 

 言いながらアラン様は、非常に感慨深げな顔をして、天を仰いだ。

 何だか天を見上げながらアラン様はもっと遠く、つまり空を遥かに越えた『宇宙』と呼ばれる場所を、臨んで見られている様であった。

 

 此の日は将官(自分を含む)全てが実際に乗って見て、『パワードスーツ』の凄まじさと、新機軸の兵器で有るという事実を身を以て体感した。

 

 10月25日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 ほぼ1週間が経ち、中級以上の帝国軍人が『パワードスーツ』の凡その概念と、仕様を把握する事が出来た。

 『パワードスーツ』の仕様は、

 

 全高・・・・・5メートル(武器や装備の換装で変化)

 

 重量・・・・・3.5トン(武器や装備の換装で変化)

 

 基本巡航速度・・・・・80 km/h(武器や装備の換装で変化)

 

 限界巡航速度・・・・・120 km/h(『ホバー・ダッシュ』を使用時)

 

 駆動機関・・・・・超小型魔法炉(陸上艦船等に使われている魔法炉の小型版)

 

 基本外装・・・・・オリハルコンとミスリルによる複合素材の合板

 

 マッスルシリンダー・・・・・バイオ・マッスル(ドラゴンの筋組織を培養且つカスタマイズ)

 

 固定武装・・・・・『電磁ブレードソード』(電磁ブレードナイフを大型化し、右腕腕部に内蔵)

 

 外部武装・・・・・基本的に五指のマニピュレーターで保持し、持ち替えを容易にしている。

 

 武装例・・・・・ヘビィマシンガン(パルス・ブラスターを超小型魔法炉から供給される魔素から生み出し、魔力が補填される限り撃ち出せる)

       

         バズーカ砲(従来の帝国軍仕様の物を大型化し、魔導砲並の火力を実現)

 

         粒子砲(スマッシャーと呼ばれる最新武器にして、超小型魔法炉からの直結を必要として、膨大な魔力を消費するが、圧倒的な火力を誇る)

 

         リニアカノン(ランドセルに装着するタイプで、射程が5キロメートルに達する実体弾)

 

 此等の装備とは別に、『パワードスーツ』1機に付き、量産型ドローンが1機サポートとして上空に滞空する。

 用途は、『パワードスーツ』への情報提供と、中央司令部とのリンケージを確立の上、適切な中央からのフォローを受け取る為。

 そして最大の目的は、常に張られている『バリアー』への魔力供給バッテリーでも有る。

 

 これが、現在の『パワードスーツ』試作一号機の概要で有り、今後の量産化はこの能力を基本とする事になるだろう。

 

 



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11月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝2年)《高級デパート『アリスタ・デパート』グランドオープン》

 11月1日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 久しぶりの帝国軍公休日と云う事で或るイベントに参加する為に、アラン様とクレリア様そしてアポロニウス様のご家族と、自分の家族含む赤ちゃんズの家族全員、更にその一団を護衛する親衛隊達が付いてくる。

 この場合によっては帝国軍1万人と対等に戦えそうな面子と、首都ドームに新しく出来た『アリスタ・デパート』のグランドオープンに招待されていたので特別送迎車両で向かったのだ。

 此のデパートのコンセプトは、帝国の華族と他国の王族や貴族の御用達で、生活用品を含め殆どが高級品で占められている、完全な要人向けのデパートで有る。

 

 一連の放送局と連動したグランドオープンイベントが終わり、我々はデパート側から派遣された案内店員により、赤ちゃん用の様々な玩具や衣服そして猫用の玩具売場に案内された。

 このデパートの売りの一つが、アポロニウス様始め、華族や貴族の方々の間で相当な数生まれている、赤ちゃん用の様々な玩具や衣服で有り、ペット用の餌や器具の圧倒的な品数だそうだ。

 

 そもそもこのデパートでは生鮮食品は扱わず、精々酒類が置かれている位で食品の類は存在しない。

 何故なら、王城と華族そして他国の王族と貴族しか居ないこのドームでは、食料を買い込む必要が無くて、それぞれの家が予め他のドームから新鮮な野菜や肉類と魚介類を、直接契約していて毎朝配送されていて、使用人等が買い物に出向く必要が無いのである。

 

 だが、こんな形での営業形態を取れるのは、あくまでもこのドームだけで、他の庶民用の生活基盤ドームではデパートでは無くてスーパーと云う、より庶民の生活に寄り添った総合的な買い物が楽しめる施設が作られ始めている。

 そのスーパーと云う新しい総合店舗を立案・計画し、商業ギルド等の様々なギルド達と更に様々な国家の商会と交渉し、新たな物流と販売ルートの確立を誕生させたのは、カトル大臣とアリスタ嬢の婚約カップルなのだが、如何に2人が優秀とは言え身体は一つしか無いので、信頼出来る経営者として白羽の矢が立ったのは、我々がその昔に始めてベルタ王国の王都(現在は公都)に滞在するにあたって、なにくれと便宜を図ってくれて、その後のコリント領が始まる時にも、食料の買い付けや馬車等の斡旋を瑕疵無くこなした、カトル大臣の叔父さんにあたる『ターナー』殿と云う御仁である。

 

 このターナー殿と云う御仁は、タルス殿の五歳年下の弟で、現在はサイラス・タルス商社に於ける役員の一人にして、大陸に於ける穀物流通の総元締めと言える程の人物で、この御仁が1週間風邪をひいたら帝国も風邪をひくと噂されている。

 然もこの御仁の息子である『タロス』君と云うカトル大臣にとっては従兄弟にあたる、新進気鋭で学校出たての高級官僚は、かなりの人物らしく、様々な施策をカトル大臣に提言し、周囲を驚かせているそうだ。

 何でも、このスーパー構想も彼タロス君が最初に提唱したらしく、それを形にしたのがカトル大臣とアリスタ嬢らしくその表向きの経営者として、他国にも名が通っているターナー殿を据えたというのが真相らしい。

 

 そんな今後の帝国の生活スタイルに纏わる諸々を考えて、同じ様に所在無げに休憩所で有るラウンジで雑談していたミツルギ殿にシュバルツ殿そして親友のハリーと、共に飲んでいた珈琲を飲み終えたタイミングに、案内されていた赤ちゃん用品とペット用品の専門店から帰って来た奥様ズと赤ちゃんズは、非常に御満悦な様子だった。

 

 そしてカトル大臣とアリスタ嬢との折衝を終えられた、アラン様とクレリア様そしてアポロニウス様のご家族とカトル大臣とアリスタ嬢の婚約カップルが合流し、このデパートの目玉の一つでも有るパーティー会場に全員で向かった。

 

 此のパーティー会場は、とても品のある作りに成っていて、様々な彫刻や絵画そして幻想的な音楽が掛かっていて、非常に居心地の良い空間で有る。

 其処に立食パーティー形式と、崑崙皇国の飲茶形式等が混在する、様々な憩いの場が用意されていた。

 何ともカオスな会場な筈なのに、一種の力と云うか覇気とでも云うか、異様な迫力がある空間であるにも関わらず、招待された華族や貴族達は此れも一興とばかりに、各々が好む形式の憩いの場に向かい、楽しみ始めた。

 我々も、此の場のコンセプトは敢えてカオスな会場に仕立てて、無礼講を地で行く場であると示している事に気付き、赤ちゃんズの安全を確保した上で、日頃食べた事の無い崑崙皇国の飲茶形式の食事を注文し、カップに御茶をワザと溢れさせて喫する形式の飲み方で、崑崙皇国の皇帝茶なる珍しい御茶を戴く。

 その間奥様ズと赤ちゃんズは、赤ちゃんズ用に用意された崑崙皇国の離乳食を、赤ちゃんズに食べさせている。

 何とも幸せな光景で、この様な幸せな時間が長く続けば良いなと願わずには居られなかった。

 



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11月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝2年)《アポロニウス様と赤ちゃんズの誕生会》

 11月11日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 帝国軍の再配置計画と、崑崙皇国へのベック・トール・キリコの三羽烏と旗下の空軍部隊の人員の割り振りが決まり、新たな補充人員である崑崙皇国と日の本諸島の軍人達が空軍に配属された。

 此の新たな軍人達は、『ナノム玉1』と特別催眠学習、そして短期集中の士官学校の詰め込み教育を受けて、軍人となった新進気鋭の若者達だが、当面は日中は軍務で夜間は士官学校の残りのカリキュラムを受ける忙しい日々をこなす事になる。

 だが、本日は旅立つベック・トール・キリコの三羽烏と共にアスガルド城でのパーティーに全員招かれているので、壮行会も込みだなと納得して、アスガルド城中庭の野外パーティーに夕方向かった。

 

 本日は、アポロニウス様の御誕生日で有るのは当然だが、自分の息子と同僚達の子供の満一歳の誕生日でも有る。

 アスガルド城では、宮内庁のロベルト長官が此の日の為に準備していた、豪勢な食事と酒類にジュース等の飲料が用意されている上に、様々な芸人やパフォーマーそして音楽家(最近はミュージシャンと云うらしい)が受け付けでごった返す列の人々が退屈しない様にと、各々の芸や音楽を披露している。

 その様子は、アスガルド城中庭に設置されている諸々のモニターに映し出され、様々な場所で観ることが出来る様になっている。

 

 パーティー会場では、既に様々な各界の代表者達がグラス片手に、そこかしこで談笑している姿が散見されていて、皆がリラックスしてこのパーティーを楽しまれている事が判った。

 自分とミーシャそして息子のケントは、壇上の席の一つに誘導されて畏まっていると、息子のケントは隣に座っているミツルギ殿の娘の『サクラ』ちゃんと、片言ながら言葉で会話している様だ。(勿論内容はサッパリ判らない赤ちゃん語だが、当の本人達は意思疎通出来ているらしく「キャッ、キャッ、」と笑い合っている)

 

 やがてアラン様御家族が現れて壇上に上がってきた。

 皆が軽く頭を下げて、アラン様が頷き返し壇上に準備されたマイクを取って話し始めた。

 

 「本日は、息子アポロニウスとその友人達の誕生日記念日のパーティーに出席戴き感謝する。

 だが、このパーティー自体が当然帝国の国事行為では無いので、皆気楽にそれぞれの望む理由でパーティーを楽しんで欲しい!

 特に崑崙皇国と日の本諸島の皆様には、是非帝国のパーティーを味わってくれ!

 帝国の華族や廷臣達も同様だ、節度を守った上で無礼講に楽しんでくれ!」

 

 と帝国に留学生や帝国軍人として所属する事になった、崑崙皇国と日の本諸島の人々と帝国の臣民に向けて話された。

 崑崙皇国と日の本諸島の人々も、アラン様に頭を下げて礼を返し、次々に宮内庁の職員に案内されて、壇上のアラン様の御家族の元に出向き、アポロニウス様の誕生日へのお祝いと帝国の長久を祈る祝辞を述べて行った。

 同じく壇上に並んで居た自分の家族の元には、崑崙皇国の有力な貴族達が息子ケントに祝辞を述べに来る。

 どうやら息子ケントが、崑崙皇国で崇められていた神機『応龍』の正式な乗り手と認識されているので、気にかけて貰っている様だ。

 同じくミツルギ殿とオウカ殿の娘で有る『サクラ』ちゃんには、日の本諸島の人々が神機『天照』の正式な乗り手として、祝辞を述べに来ているようだ。

 

 ある程度の人々の祝辞参りが終わり、場がくだけて来たので自分の家族と共に壇上を降りて、同僚や友人達と宴会モードに切り替えてとても盛り上がった。

 アラン様からの無礼講の許可が下りているので、節度を守った上で日頃中々会えない別の部署に配属されている、『クラン・シャイニングスター』の面々とも久闊を叙して、互いの帝国軍に於ける飛躍と、帝国の発展を祝い合ってグラスに注がれる様々な酒を飲み干し合う。

 そして、詳しく近況を語り合っていると、何と自分達と同じく結婚して子供を授かるメンバーがアラン様の婚姻式以来増加の一途だそうで、赤ちゃんズとミーシャの様子が知りたくて、奥さんを同伴して来たメンバーも来ているらしい。

 自分はミーシャ達奥さんズに了解を取って、『クラン・シャイニングスター』の面々とその配偶者を、赤ちゃんズと奥さんズに引き合わせ、女性特有の嬌声が上がり場が大いに盛りあがった。

 その様子に、漸く来賓客を捌き切ったアラン様とクレリア様が、アポロニウス様を連れてやって来られた。

 思わず我々は跪こうとすると、アラン様が手で制して来たので、御意に従い場の中心に迎え入れると、アラン様とクレリア様は顔を綻ばせて、

 

 「皆、公務では良く顔を会わせているのだが、他の者の目も有り中々近況を尋ねる事が出来ずにいたが、こうやって無礼講の場を設ければ、気兼ねなく近況を語れると楽しみにして居たんだよ!

 やはりこうやって『クラン・シャイニングスター』の面々と全員で会うと、懐かしくてあの頃を思い出すな、なあクレリア!」

 

 とアラン様が、アポロニウス様を抱えられたクレリア様に同意を求められたのでクレリア様が、

 

 「そうね、だけど皆も判ってると思うけど、セリーナとシャロンは今は大事な時期なので、参加出来なかったけど、来月には出産する事になるので、皆、セリーナとシャロンが無事に出産出来る様に願ってね!」

 

 と言われたので、この場にいる全員でグラスを掲げ、セリーナ殿とシャロン殿の無事な出産を願った。

 



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11月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『パワードスーツ』での魔物退治》

 11月15日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 先月の『パワードスーツ』試作一号機の試用運転訓練から始まり、専用の工場が始動して先行試作量産機20機がロールアウトし、帝都コリントからかなり離れた場所に有る秘密軍事訓練用ドーム、通称『ブラック・ドーム』で模擬訓練が行われていた。

 此処では、新しい兵種の『宙兵』に志願した帝国軍人の内、より優れた人員凡そ100名が、入れ替わりで乗り換えし、先行試作量産機の実用実験と、耐用試験を繰り返している。

 先行試作量産機は、ほぼ試作一号機と同等の能力を持ち、幾つかのバリエーションを製作した事で、より実戦に向いた仕様の模索が行われている。

 そして様々なフォーメーションを試した処、最適解として判ったのは『パワードスーツ』を運用する最小単位としては、3機によるフォーメーションが良いと云う判断となった。

 先ずリーダー機が居て其れが後方指示及び情報収集を行い、次に支援攻撃機が長距離・中距離の砲撃支援を行い、最後に接近攻撃機が中距離・至近距離の攻撃を行う事にするのだ。

 当然様々な局面が想定され、必ずしもこの通りの行動が出来ない場面は幾らでも有り得るだろうが、基本はこのフォーメーションで望むのが、間違いないと訓練を繰り返す内に共通認識となった。

 

 この『ブラック・ドーム』での『宙兵』訓練が始まってから、アラン様が帝国での公式行事や公務が無い時間帯は、なるべく『宙兵』訓練に参加される事が多くなった。

 まあ、アラン様自身が最高峰の帝国軍人であられるので、訓練している姿を帝国軍人に見せるのは大いに結構だが、本来皇帝陛下の剣にならなければならない帝国軍人が、皇帝陛下一人に誰も敵わないと云う事実は、些か情け無い限りで有る。

 なので、帝国軍上層部も暇さえあれば、『宙兵』訓練に参加していて、かくいう自分も空軍での仕事を終えたらアラン様に付き合い、昔の『クラン・シャイニングスター』での訓練さながら、ランニングやストレッチを基礎として『パワードスーツ』を乗り回し、最近鈍っていた身体に活を入れ直し、最前線で敵と戦う根性を取り戻して行った。

 

 11月20日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 『宙兵』の存在がいよいよ帝国軍の尉官以上の軍人に知れ渡ったタイミングに、帝国軍内に公式な発表を行った。

 つまり、今後歩兵と云う兵種は少しづつ『宙兵』と融合させ、何時かは吸収させる事となると云う予定であり、全ての帝国軍人はどの様な役職であろうと、『パワードスーツ』を乗り回せる技倆を習得する方針が示された。

 その為に、帝都コリントから外れた『ブラック・ドーム』近くに、大規模な『パワードスーツ』製造拠点となるドームを3基つくる工事が始まっていて、50万人に及ぶ工員を帝国の同盟国等から募集していて、従来の職業訓練ドームの脇にもう一つの職業訓練ドームを作り、養成する準備に入っている事が発表された。

 

 11月25日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 先行試作量産機の様々なデータを取り入れて、先行量産機50機がロールアウトし早速『宙兵』部隊に配備された。

 『宙兵』はまだまだ発足したばかりの組織なので、臨時的にアラン様の直轄部隊なので、事実上の直轄組織である自分達空軍の1部隊の扱いになった。

 まあ、『パワードスーツ』1機に付き量産型ドローン1機を配置しているので、空軍と連携するのは規定路線だから、元々のドローン実戦経験豊富な空軍が指導するのは当然だろう。

 『パワードスーツ』では無いが、戦闘車両や戦闘バイクとの連携を、帝国成立前から経験してきたので、それを踏襲した戦術をレクチャー出来るのだから。

 

 先行試作量産機の運用データから、先行量産機50機には平均的な能力に統一したので、どの機体でもリーダー機・支援攻撃機・接近攻撃機に成れる。

 此の50機を元に、実際の戦闘経験をさせて行く事になった。

 

 11月30日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 今、自分はアラン様と共に巨大陸上空母『グラーフ・ツェッペリン』で、『魔の大樹海』の深部に向かっている。

 

 以前『フェンリル』がアーティファクトに操られていた時の情報で、凶悪な『サイクロプス(単眼の巨人)』の1団との遭遇が有ったのだが、支配出来ずに見逃さざるを得なかった事実が有ったそうなのだ。

 体高が最低でも5メートルを越える『サイクロプス(単眼の巨人)』は、以前にも妹のカレンが『魔の大樹海』に向かった際に、現在では帝国でも最大の冒険者クラン『疾風』(所属人数は既に5千人)のリーダーであるカール殿(アラン様に自由に面会出来る様にする為に、《名誉男爵》の地位であるが、本人は華族の地位であると認識していない)が、『疾風』メンバー100人で3頭の『サイクロプス(単眼の巨人)』を倒している。

 中々の強敵なので、今回の『パワードスーツ』の実戦相手として、悪く無いと考えられた。

 

 ドローンからの情報で、50頭の『サイクロプス(単眼の巨人)』の1団が居る集落が確認されたので、先行量産機50機全てを、グラーフ・ツェッペリンから出撃させ、ワザと警告の為の花火を集落上空に打ち上げる。

 当初は、花火に驚いて右往左往していた『サイクロプス(単眼の巨人)』も、木々の間から現れた『パワードスーツ』を見て、全員が棍棒を握ると戦闘体勢を整えて迎え討とうとしている。

 

 『パワードスーツ』には今回、敢えて一切の武装をさせずに本体のみで戦闘してもらう。

 何故なら『サイクロプス(単眼の巨人)』は、基本腕力のみの接近戦しかして来ないので、飛び道具の類を使用するのは訓練にならないと判断されたからだ。

 

 やがて睨み合いに業を煮やした『サイクロプス(単眼の巨人)』達が、

 

 「「「「「ゴオオオオオオーー!」」」」」

 

 と叫びながら、手に持った棍棒を振りかざして、『パワードスーツ』に迫ってきた!

 

 その雄叫びを受けても『パワードスーツ』達は、慌てる様子も無く広く拓けた集落の中央に向かって突進する!

 衝突する!

 そう見えた瞬間、『パワードスーツ』達は『サイクロプス(単眼の巨人)』達の棍棒を掻い潜り、其れ其れがアームパンチや足払いそして肩からのタックルを喰らわせた!

 『サイクロプス(単眼の巨人)』達の前面に居た奴らが倒れ伏すと、突進速度が無くなった『サイクロプス(単眼の巨人)』の周囲に『パワードスーツ』達は散開すると、一斉に接近戦を仕掛けた!

 其れ其れが、一対一の対戦相手を決め戦闘状態に入った!

 『サイクロプス(単眼の巨人)』達は、必死に棍棒を振り回して『パワードスーツ』に当てようとするが、『宙兵』として選ばれた帝国軍人の選りすぐりの人員は、流石の運転技術で『パワードスーツ』を縦横無尽に取り回し、殆ど人間の動作と遜色ない動きを再現させて、中には武術の技と同等の動きで倒していく。

 30分もすると、『サイクロプス(単眼の巨人)』は全て討ち取り、尽く集落の中央に死体が積み上がった。

 そして崑崙皇国の符術魔法と帝国の先端魔法の融合である、『魔物分解魔法』がグラーフ・ツェッペリンの砲塔から斉射されると、『サイクロプス(単眼の巨人)』は巨大な魔石を残して土へと分解された。

 

 此れで、第一段階の体格が同等の魔物に対しても、接近戦で十分勝てる見込みが着いたので、第二段階の射撃・砲撃訓練を演習形式で行う事になる。

 



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12月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『アフリカーナ大陸』の一端》

 12月5日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 不思議な事件が帝国の同盟国と友好国で10件発生した。

 細かい事件概要までは判らないが、どうやら帝国が各国上層部に配布した『ナノム玉1』と、農場等に蒔くMM(マイクロ・マシーン)の散布用の多数の袋が盗まれたらしい。

 こんな事件は、掃いて捨てる程発生していて、必ずと言って良い程犯人は簡単に見つかり、重犯罪者として最低15年に及ぶ労役が課されるので、全く旨味の無い犯罪として帝国では当たり前だが、同盟国と友好国でも忌避されていた。

 なのに珍しく10件も立て続けに発生した上に、帝国国内で無いとはいえ、同盟国と友好国でも都心部で犯罪が行われた上に、犯人の行方が判らないとは、非常に珍しい。

 

 この事実に、中央情報局局長のエルヴィン長官は、帝国の上層部による情報共有の為の臨時会議の招集をアラン様に訴え出て、アラン様もこの事を非常に危惧して臨時会議を開催させ、各地方方面軍の幕僚達もモニター参加させる運びとなった。

 冒頭エルヴィン長官は、

 

 「ご存知の通り、『ナノム玉』を略奪した場合には、ドローン経由のマーカーで追跡出来ますので、異常行動を取った際には、直ぐに中央情報局で把握出来るので此れまでは長くても3日の内に回収出来ていました。

 ですが、今回の一連の盗難事件では、そのマーカーが一切機能せずに追跡が出来ず、痕跡を追う事も出来ませんでした」

 

 と非常に悔しそうに顔を曇らせて報告した。

 我々も、この臨時会議に臨む前にある程度の情報で知っていたが、改めて聞かされると事の重要さが思い知らされる。

 

 帝国の繁栄の素地は『ナノム玉』に有る、と断言出来る程『ナノム玉』の恩恵は素晴らしい!

 何故なら、余程の病気や毒物等の外的疾患で無い限り、殆どの怪我や病状は時間は掛かるが治してしまう上に、教育に於いてもモニターで放送された内容等を一度でも見れば、脳内で何度でも反芻出来るし、記憶の劣化も無い。

 更に、身体能力の向上と身体生理の調整が可能で、任意に身体の瞬間的なブーストを掛けたり、同じ反復動作を長時間行う場合の身体的負担を効率的に行う事も可能だ。

 加えて、ドローンと連携すれば自分が何処の場所に居るか、今が何時か等の状況把握を帝国の『中央情報処理施設』で集中管理されているので、例え本人の意識が無くても『中央情報処理施設』では状況が把握出来る。

 此の様な、ほぼ完全な情報管理システムを組んでおける『ナノム玉』は、体内に入れる前の段階でも位置情報は判る様になって

いるのだが、今回はどういった手段を取ったのか、完全に隠蔽された様だ。

 

 エルヴィン長官は続けて、

 

 「なので、こういった場合の次善の手段としてアラン様と協議して、超高性能ドローンによるセリース大陸の動向分布図を熱探知とスペクトル分析等のセンサーで、各時間に於けるスキャンを掛けて見ました。

 すると、かなりの数の不自然な動向を示す組織だった部隊と覚しき者達が確認出来たのです。

 御覧ください!」

 

 と言い終わると、背後の大型モニターを指し示す。

 大型モニターには、かなりの数の光点が帝国以外の国家の中心地域で集まると、一斉に集団となって動き始め、最も近い海岸線に出ると一気に速力を増して或る海域に向かう。

 その或る海域で集団は動きが収まり、その後ゆっくりと集団は一塊となって、或る地上へ到達した。

 その地上地点がモニター上で指し示されて、我々は呆然とした。

 無理も無い、その地上地点が有る場所とは、遥か昔からセリース大陸の近くに有りながら、余りにも過酷な土地柄と厄介極まりない魔物の宝庫として、人の住めない土地、所謂『ノーマンズランド』として信じられていた大陸、『アフリカーナ大陸』だったからだ。

 

 しかし、先日の『アラム聖国』の実体が知らされてより、かの大陸が警戒対象である事も判っている。

 だが、長年の常識がこうも容易く覆させられると、今までの常識とは砂上の楼閣でしか無かったと再認識させられる。

 

 そしてモニター表示が、世界地図の光点では無く現実の映像に切り替わると、とんでもない構造物がその姿を現した。

 其れは大きかった。

 最初は山と思った。

 だが、山と言うには不自然な穴が無数に開いていて、寧ろ別の物である事が暫くすると判ってきた。

 そして誰かが呟いた。

 

 『・・・・・蟻塚・・・・・?』

 

 その呟きで正体が判らず、ひたすら胸の中が靄ついていた気分が晴れた。

 そう、其れは凄まじい規模の蟻塚に酷似していたのだ!

 その規模は、山処か正に山脈と言って良く、海岸線から大陸の中央部にまで達する、長さ2千キロメートルを越える代物で有った。

 

 我々は、暫くの間ポカンとした表情を浮かべて、呆然としてしまった。

 此の様な信じ難い規模の構造物を、『アラム聖国』は作っていたのか?

 一体何時から?

 どの様な建築技術で?

 其処には何が住んでいるのか?

 中の構造は?

 等々。

 

 疑問は次から次へと浮かび、背筋に戦慄の震えが走る!

 我々は、帝国が強者で有る事を疑っていなかったが、其れはあくまでもアラン様達のお陰であって、今後は我々も一層の努力と研鑽を積まねば、此の強大過ぎる国家と対抗出来ないと感じられたからだ。

 



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12月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝2年)《セリーナ・シャロン両少将と『ヒルダ』殿の出産》

 12月15日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 現在我が空軍は、ドラゴンとパワードスーツの連携訓練を行っている。

 パワードスーツはドローンと連携している為に、情報面と防御面は問題無いのだが、量産型ドローンは超高性能ドローンと違い攻撃面では不安があるので、その辺りを埋める為にもドラゴン達がフォロー出来ると良いと考えたからだ。

 攻撃訓練は順調に進んでいる。

 まあ、ドラゴン達はワイバーンの頃から、地上部隊との連携を数多く熟していたので問題無い。

 

 只、肝心のパワードスーツの最大火力である粒子砲(スマッシャー)と、ドラゴンの最大火力である『ドラゴニック・バスター』(現状でのドラゴンの最大火力技で、ドラゴンの最大魔力での破壊光線、ほぼ粒子砲と互角)による、地上と空中からの立体交差同時攻撃は、中々タイミングが合わず、要練習である。

 

 12月19日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 漸く、ドラゴン・ドローン・パワードスーツの三位一体の合体飛行形態が完成した。

 魔法技術開発室が、以前より製作していたドラゴンとドローンの合体高速飛行形態を改めて見直して、パワードスーツを空輸及び空中からの攻撃を可能とする為の形態である。

 此れまでもドラゴンとドローンで、戦闘車両や戦闘バイクを運ぶ局面は多々あったのだが、やはりネックとなったのは積載量と安定した飛行状態であった。

 なので、前々からこの辺りの問題を解決する為に、ドラゴンが着込む形の武装にドッキング機能を追加した『ドラゴン・フライヤー』と言う名の、フォートレス形態を取れる三位一体の合体飛行形態が出来上がったのだ。

 此れからは、此の『ドラゴン・フライヤー』での戦闘訓練と、換装する時の問題点等の洗い出しを行う事になる。

 

 12月25日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 此の日、セリーナ・シャロン両少将と『ベルタ公アマド殿下』の配偶者である『ヒルダ』殿の出産日であった。

 アスガルド城の医療施設で最高の状態で出産して貰う為に、3日前から完全な体制で準備していた様で、毎日クレリア様とミーシャ達女子会メンバーが訪問して、様子を見に行っていた。

 

 予め判っていたのだが、3人共に健康で順調な出産が出来そうなので、控室に集まっているアラン様とクレリア様にアポロニウス様の皇帝一家と、ミーシャ達女子会メンバーにその付添の自分そしてアマド殿下が、落ち着いた様子で控えていた。

 アラン様と自分そしてアマド殿下は、遠征して来た崑崙皇国と日の本諸島での様々な風景の話しや、芸術作品や珍しい食べ物・飲み物等の話に盛り上がった。

 アマド殿下は、帝国でも1、2を争うほどの文化人として帝国では知られていて、幾つもの文化専用番組のレギュラーコメンテーターとして、帝国に於ける皇帝一族として文化面で貢献されている。

 いよいよ、その皇帝一族に一気に3人も増える事になるので、帝国民としても嬉しい限りだ。

 そんな中、ミーシャ達女子会メンバーは、妹の連れてきたカーバンクル夫妻とその赤ちゃん3匹にメロメロだ。

 今から凡そ半年前に生まれたカーバンクルの赤ちゃんは、実は8匹も生まれたのだが、既に5匹は貰い手が決まり、残った3匹を此の場に持ってきたのだが、当然其れには理由が有る。

 

 そうこうしている間に、いよいよ正午近くになって医療スタッフから、もう直ぐに生まれそうだとの連絡が来て、皆に緊張が走る。

 

 やがて、小さくもしっかりとした子猫の様な泣き声が響き、先程と同じ医療スタッフが興奮気味に、

 

 「・・・・無事、お生まれになりました!

 3人とも健康な女の子です!

 帝国万歳!!」

 

 と大声を上げたので、控室は一気に熱気を帯びた万歳三唱が起こり、医療スタッフに導かれて、アラン様皇帝一家とアマド殿下が母子の休憩室に通された。

 20分程の時間が流れて、我々は医療スタッフに呼ばれて休憩室に通された。

 

 其処にはゆったりとした豪華なベッドに、セリーナ・シャロン両少将と『ヒルダ』殿が其れ其れの赤ちゃんと共に休まれていた。

 

 その脇にはアラン様皇帝一家とアマド殿下が立っていて、セリーナ・シャロン両少将と『ヒルダ』殿を労っている。

 セリーナ・シャロン両少将と『ヒルダ』殿は、顔をやや紅潮させていて火照った様子だったが、非常に満足或いは達成感に満ちた表情を覗かせて、女の幸せに満ちた様子が伺えた。

 そんな中、アポロニウス様が興奮した様子で、セリーナ・シャロン両少将の赤ちゃんに興味津々なのか、しきりと手を伸ばして「あーっ、あーっ、!」と言葉を発して居られる。

 その姿に、セリーナ・シャロン両少将は共に頷かれたので、クレリア様がアポロニウス様をベッドに近づけて赤ちゃんを見せてあげられた。

 2人の赤ちゃんを交互にご覧になられて、興奮気味なアポロニウス様はやがてウンウンと頷かれて、ミーシャが腕に抱いている息子のケントに振り向いて、両手を大きく広げて何かを訴えている様だ。

 其れに対して息子のケントも、何故か手足をばたつかせて意思表示をしていた。

 そう、此れがアポロニウス様と息子のケントが、帝国のツインズと恐れられる二姫と始めて邂逅した瞬間であった。

 



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12月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝2年)《 コリント朝2年の決算》

 12月26日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 昨日の出産から、3人共用意されていた医療棟の専門病室に移されて、母子共に万全な体制で見守られる中、昨日夕方のニュースでは3名の新たなる皇室一族の参加が発表された。

 帝国皇帝一家のお子様は、

 

 セリーナ側妃のお子様のお名前は、

 

 『セラス・コンラート・コリント』姫殿下。

 

 順番として皇帝家の長女となる。

 

 シャロン側妃のお子様のお名前は、

 

 『シェリス・コンラート・コリント』姫殿下。

 

 順番として皇帝家の次女となる。

 

 ベルタ公のお子様のお名前は、

 

 『フレイヤ・ベルティー』姫殿下。

 

 現在唯一のベルタ公のお子様となる。

 

 以上の公表が、帝国と他の同盟国及び友好国に対して行われた。

 此の報道が帝国で流されてから、本日の夜までの様々な個人経営の飲食店やデパート等で無料のお菓子等の配布、そして美術館や動物園そして公的なイベントホールの入場料は1周間無料となって、帝国全土がお祝いモードに包まれた。

 

 12月28日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 本日、帝国及び帝国軍による来年度の大凡の方針が決められた。

 来年の10月には、『アラム聖国』との不可侵条約の期限が切れる。

 其れまでに帝国としての体制を万全に整えて、不可侵条約の更新か破棄を『アラム聖国』が選択する際の、何れの選択肢を選ぼうと対応できる様にする為だ。

 現在、ファーン大将がスターヴェーク公国の『アラム聖国』との国境線に、陸上重巡洋艦『ヴィルヘルム』を中心とした駐留艦隊100隻を擁して、要塞型の『軍事用ドーム』3基に駐屯していて、此の東方方面軍50万人が帝国の対『アラム聖国』最前線である。

 そして、ビクトール大将が乗る陸上重巡洋艦『ケーニヒ』は、以前演習場として利用した北方の山脈中心にある盆地に北方方面軍50万人と共に駐屯している。

 其処は、クライナ公国から弱冠東方の場所なので、クライナ公国には要注意の警戒警報を出していて、ゼレンスク代表からは「了解!」のメッセージと、いざとなった場合の補給を出すとのメッセージも頂いている。

 例の『アフリカーナ大陸』からの、侵入者に対しての警戒と対抗を念頭に、ヴァルター大将がザイリンク公国を中心として陸上重巡洋艦『フリードリヒ』と駐留艦隊200隻、そして南方・西方方面軍80万人と各同盟国と友好国の警備軍を統括して、警戒行動を取っている。

 当然、此等の配備している方面軍に、『アラム聖国』がちょっかいを出してきた場合は、ダルシム大将が陸上重巡洋艦『バーミンガム』を中心とした中央軍30万人と共に後詰に入り、即応軍としてアラン様直轄の我等空軍が、各方面軍の援軍として赴ける様になっている。

 

 此の体制が基本的な帝国の対『アラム聖国』への体制である。

 これからの帝国の体制に同調する様に、崑崙皇国とその従属国群も『アラム聖国』を警戒していて、その情報が直ぐに帝国に伝わる様な伝達網を構築するべく、崑崙皇国の『南京』に帝国並の中央情報局の支部を用意して、周辺の国家にインフラ整備を波及させながら、近代的な伝達網を構築する事になった。

 

 この様な方針が公式に採択されて、ヴェルナー国務大臣とブリテン警察庁長官が軍部との間に、包括的な情報共有体制を今後構築する事を確認しあい、帝国としてのコリント朝2年の締めを行うべく皆がアラン様に向かい、来年も我等家臣団は粉骨砕身で帝国の為に働きます!と誓うと。

 アラン様は笑われて、

 

 「皆の忠誠は本当に有り難いが、私は皆とより親身に喜べる国家である事を、帝国の体制として望む!

 ただひたすら、国力を上げる為に無理をしたり、軍事力を上げる為に無理に徴税したり徴兵するつもりは、今後も一切無い!

 『人類銀河帝国』とは、今までそしてこれからも、天に対して恥じる事無く、堂々たる国家で有り続ければそれで良い!

 容赦無く叩き潰す相手は、『古きものども』とその眷属であって、同じ人類である国家では無いのだ。

 どうか皆も、その事を念頭に置いて、人生を謳歌しながら働いてくれれば其れで良い!

 決して無理をせず、互いに相手を思いやって行動してくれ!」

 

 とアラン様は結ばれて、帝国コリント朝2年の締めを行った。

 

 12月31日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 昨年と同じく、アスガルド城で明日の行事のリハーサルと打ち上げが行われた。

 今回は息子のケントが、歩ける様になっているので、式の間にウロチョロしそうなので、同じ悩みを持つクレリア様筆頭の奥様ズが、皇子宮で先日生まれたセリーナ・シャロン両側妃のお子様と、ベルタ公のお子様を集めて預かる事が決まっているので、其処で女子会メンバー達も集合させて、女性陣が面倒を見る事が決まった。

 

 《・・・しかし、いよいよ明日で帝国は発足して3年目となる訳か・・・。》

 

 やはり、此処までの道程を思うと、色々と胸に去来するものがある!

 アラン様とクレリア様を軸として、このセリース大陸に覇を唱えるとの計画を聞かされてからは、5年以上の時が流れた。

 あの時は、たった5年で国家を立ち上げて、スターヴェーク王国を取り戻し、アロイス王国に復讐して復仇をやり遂げる事など、夢の又夢でしか無かった筈だ。

 だが、アラン様とクレリア様の思いと努力に感銘を受けた我々は、お二人の望みを叶えるべく、指導に従って東奔西走する事で、ほぼその望みを果たせて、最後の詰めである仇敵『アラム聖国』との決戦を考える事が出来る処まで来れた。

 来年も、どの様な事が起こるのか、油断できない情勢では有るが、日々アラン様とクレリア様の指導の元で頑張ろうと、年末の綺麗な夜空をアスガルド城のテラスから見上げて誓った。

 



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1月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝3年)《コリント朝3年の幕開け 》

 1月1日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 3年目となれば最早恒例と言って良いだろう。

 恒例の人類銀河帝国生誕2周年記念セレモニーが執り行われた。

 そして朝からは、アラン様達皇帝一家と皇族であるベルタ公の現況が放送された。

 何と言っても、皇族にとって年末に3人の新たなる姫殿下が参加した事は、帝国としても非常に嬉しいニュースであるのは、帝国民全てが理解している。

 凄まじいばかりの国力と軍事力を誇る帝国だが、肝心の皇帝家の姻戚関係が殆ど無いと云う事実は、想像したくも無い話しだが、アラン様とクレリア様が何かの事故でお亡くなりになった場合、帝国は簡単に瓦解してしまうからだ。

 正直、ベルタ公アマド殿下では此処まで大きくなった帝国を、維持管理する事は不可能だし、カリスマでも役者不足で早晩帝国は崩壊してしまう。

 つまり、純粋な皇帝家の人数が増える事は、帝国として死活問題と言える。

 幸い、アポロニウス皇太子殿下と云う完全無欠の後継者が居られるが、如何せんまだ一歳の赤子である。

 何れは年齢が進むに連れて、素晴らしい後継者となられるだろうが、なるべく皇帝家には増えて頂きたいと云うのは、帝国民全ての願いだろう。

 

 しかし、自分の此の様な思いとは別に、非常に性急な考えを持った他国の王族や貴族が居て、セレモニー後の際に聞かされたのは、アポロニウス皇太子殿下達に対しての婚約斡旋の依頼である。

 帝国華族は、当然皇帝家に対しての尊崇が強く、此の様なあからさまな行動は控えているが、他国としては己の国家の浮沈が掛かっていると思うのは、人の業として仕方無いのかも知れないが、自分にまで依頼して来るのには、困惑するしか無い。

 その事を、帰り道に妻のミーシャに言うと、驚くべき話しを聞かされた。

 予定通りにミーシャと息子のケントそして妹のカレンは、皇子宮で赤ちゃんズをあやして居たのだが、控室に大勢の赤ちゃん連れの王族・貴族の奥様方が来訪され、クレリア様達にお祝いを寿ぎに来られたのだが、その際にそれ程あからさまでは無いにしても、アポロニウス皇太子殿下達へのお近づきの為に、クレリア様以外の奥様ズに接近して来たらしく、息子のケントにもお近づきになりたいので自宅に都合の良い時に、お伺いしたいと申し込んで来たそうだ。

 何とも断り辛い申し出なので、どうしようかと思いながら自宅に着いてリビングで話していると、両祖父母が『シルバー友の会』の華族の方々からも、似たような申し出が有ったと、苦笑しながら話して来て、頭を抱えていると、両祖父母達がにこやかに笑いだして「じじとばばに任せなさい!」と快く請け負うと言ってくれた。

 どういう風に解決してくれるのか判らないが、独自のコネクションや会社を幾つも持っているので、その方面からの対応を考えてるのかも知れないな。

 

 1月5日①(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 同盟国のイリリカ王国の魔法剣を大量に積んだコンテナを荷台に載せたデコトレ20台が、イリリカ王国から帝国に続く街道で襲われた。

 此のイリリカ王国の魔法剣は、帝国の警察組織の職員や警備員が携帯する短剣タイプで、従属国に派遣している陸上警備艇にも常備している物で、標準装備である。

 襲われた場所が直ぐに特定出来たのは、超高性能ドローンが超高空からセリース大陸全域を網羅する、状況管理システムと、量産型ドローンを怪しい動きが有った段階でその地域に派遣していたからだ。

 

 最新の『空軍アビオニクス・システム』で確認しながら、『ドラゴン・フライヤー』10部隊を帝都コリントから出動させ、早速自分の乗艦である陸上巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』も帝都コリントから出港させた。

 此れを端緒として戦乱が、またも西方教会圏に吹き荒れるかも知れない。

 帝国の上層部は、あらゆるレベルで警戒体制に入った。

 何故なら、帝国のデコトレとは洒落にならない戦闘力を持っていて、正直一昔前の軍隊では騎馬隊を含む1中隊に匹敵するだろう。

 そのデコトレが20台破壊された様なのだ、相当な組織で無ければそんな攻撃力を保持している筈が無く、この時点で帝国は確定では無いが、敵を特定していた。

 だからこその『ドラゴン・フライヤー』部隊の派遣であり、光学迷彩を施した量産型ドローンの大量配備である!

 後1時間程で、現場に『ドラゴン・フライヤー』10部隊が到着、と云う段階で大凡のデコトレ20台破壊の前後状況が判明した。

 2時間前にデコトレ20台が、インフラ整備で舗装されたイリリカ王国から帝国を繋ぐ幹線道路を、規定の時速60キロメートルで走行していると、いきなり天候が変わり雷鳴を伴った豪雨に晒されたのだ。

 この段階で、超高性能ドローンによる超高空からの監視が不可能になり、直ちに量産型ドローンが現場に向かったのだ。

 幸い、現場の過去動画の履歴から、現場が急変する15分前の動画で、幹線道路脇に待機する怪しい馬車の群れが確認出来て、荷台から出て来て何やらアーティファクトと思われる魔道具を使うシーンが動画に収まっている。

 恐らくは、以前の『ナノム玉』と『MM』の強奪事件も此の様な方法で行われたのだろう。

 

 雷鳴を伴った豪雨が打ち付ける現場は、如何に超高性能ドローンでもリアルタイムでは、サーモグラフィーと探知魔法を駆使しても、状況把握は難しい。

 辛うじて量産型ドローンの接近による動画で、豪雨の中何か大きな生き物が、動作しているのが漸く判る程度で、非常に現場は混沌としていた。

 だが、漸く『ドラゴン・フライヤー』10部隊が現場近くに到着し、『パワードスーツ』がホバーダッシュで現場に向かい、ドラゴンとドローンはそれを上空から追尾して現場に向かう。

 

 現場まで1キロメートルに迫り、戦闘体勢を整えた『パワードスーツ』達が速度を落とし、警戒しながらゆっくりと現場に近付く。

 するといきなり現場の天候が晴れた!

 そう、突然雷鳴を伴った豪雨が消えたのだ!

 その不可解な状況を訝しむゆとりもない光景が、現場には現出していた!

 

 何せ、体長5メートルを越えた魔物の群れが凡そ100頭、『パワードスーツ』達を迎え撃つべく戦闘体勢を整えて身構えて居たのだ。

 そして、やはりと言うべきかその姿は、我々帝国軍が想定していたものであった。

 

 「獣化兵(ゾアノイド)!」

 

 そう、此の瞬間に『アラム聖国』との総力戦の火蓋が切られる前哨戦が、始まろうとしていた!

 



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1月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝3年)《対『アラム聖国』前哨戦》

 1月5日②(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 強烈な殺気が、先程までの豪雨で泥濘んで泥と化した周囲の土地に比べ、幹線道路はアスファルトと工業用MMのお陰で水はけが良く、綺麗な道が顔を覗かせていて、この睨み合いの場でやや相応しく無い様な気がする。

 

 「グギャヤヤヤギャ!」

 

 と奇怪な叫び声が、獣化兵(ゾアノイド)のリーダーと思われる個体から発せられた!

 次の瞬間、30体程の獣化兵(ゾアノイド)達が前に進み出ると、その獣化兵(ゾアノイド)の両肩から奇妙な突起物が飛び出した。

 

 《んっ?》

 

 と思っていると、突如その突起物が「バクンッ!」と開いて、中には奇妙な光が収束して見えた!

 

 「カッ!」

 

 と言葉にならない音がモニター越しに聞こえ、モニター画面に光が満ちた!

 

 《上位光魔法か?!》

 

 そう、其れは上位光魔法の『ブラスター』を収束させて放った際の現象に酷似していて、効果も同様らしく幹線道路のアスファルトを飴細工の様に溶かし、パワードスーツ10体の内の半分に直撃した!

 

 しかし、如何に強力な『ブラスター』であろうと、ドラゴンとドローンからの魔力供給を受けた『バリアー』の前には、殆ど効果は無い。

 

 当然パワードスーツもやられっぱなしで済ます訳もなく、直ぐ様ホバーダッシュで高速移動を始めると、メイン武装の『ヘビィマシンガン』による『パルス・ブラスター』を連射し始めた。

 

 そのパワードスーツの雨あられの様な猛攻撃に、獣化兵(ゾアノイド)も先程の『ブラスター』を収束させずに連射させて来た。

 

 だが、最初に比べて収束せずに連射する『ブラスター』攻撃は、パワードスーツの表面を舐めるだけで、一つもダメージを与えられずに居た。

 

 「ガッカカカカカッ!」

 

 と新たに獣化兵(ゾアノイド)のリーダーと思われる個体が、別の指令と思われる雄叫びが発せられて。

 遠距離攻撃をしていない獣化兵(ゾアノイド)達が走り出して、パワードスーツに突進して来る!

 

 余りにも単純な対応に、自分始め周囲に居る空軍の幕僚が苦笑し始め、空軍管轄のドラゴンとドローンに支援攻撃を命令した。

 

 此の初戦を問題無く勝利するために、敢えてドラゴンには自分の騎竜たるガイとそお伴侶であるサバンナを派遣しているので、ガイとサバンナは命令通りにドローンと連携して、見事な支援攻撃でパワードスーツに近付く獣化兵(ゾアノイド)の足を止めさせ、パワードスーツの『ヘビィマシンガン』による『パルス・ブラスター』で穴だらけにされて5体の獣化兵(ゾアノイド)が沈んだ。

 

 すると獣化兵(ゾアノイド)の中から、犀の様な体表を持つ奴らが出てきて、他の獣化兵(ゾアノイド)の前面に出て防御態勢を取ってきた。

 

 どうやら防御重視の個体らしく、土魔法まで駆使して他の獣化兵(ゾアノイド)達を守ろうとしてきたが、巨体の獣化兵(ゾアノイド)達の全てを全天で守れる筈もなく、ドラゴンとドローンそしてパワードスーツによる立体的な連携攻撃で、防御の隙間に攻撃されて行く。

 

 だが、やはり獣化兵(ゾアノイド)達は『バリアー』こそ無いが、予想通りに頑丈でそのタフな体力を利用し、再度接近戦を挑むべく土魔法を解除すると、一斉にパワードスーツに飛びかかってきた。

 

 此れも想定していたので、パワードスーツ達はホバーダッシュを上手く使い距離を取り、遠距離での射撃戦を選択し、1体ずつを集中して倒して行く。

 やがて接近戦を挑もうとする獣化兵(ゾアノイド)が居なくなった処で、パワードスーツ達は足を止めて、ランドセルに装着しているリニアカノンを次々と発射した。

 しかしその強力な攻撃も、犀型の獣化兵(ゾアノイド)が土魔法を併用した防御陣が防いでしまった。

 

 それを見たパワードスーツ達は、肩にオプションパーツとして装着している、スモーク弾(煙幕魔法弾)を獣化兵(ゾアノイド)達の防御陣周りに発射し、奴らの目を奪った。

 次のタイイングに、ドラゴンとドローンでの空中からの攻撃を集中させ、獣化兵(ゾアノイド)の注意を上空に向けさせる。

 その間に攻撃を一切せずにパワードスーツ達は、奴らの防御陣に肉薄し厚い土魔法での壁に、肩にバリアーを集中させたショルダータックルで突っ込んだ!

 

 「ドオオオオオオオーーーン!」

 

 その地響きを伴う破壊音を上げ、土魔法での壁が崩壊し犀型の獣化兵(ゾアノイド)5体が露わになった。

 そしてその犀型の獣化兵(ゾアノイド)達に対し、1体につき2機のパワードスーツが至近距離まで接近すると、左腕に装着していた盾の突起部分を押し当てた。

 

 「貫け!」

 

 パワードスーツ部隊の隊長が命令すると同時に、盾の中に仕込んである杭が爆発音と共に射出された!

 

 「ガアアアアーーー!!」

 

 と犀型の獣化兵(ゾアノイド)5体が苦悶の絶叫を上げた瞬間、雷撃魔法が犀型の獣化兵(ゾアノイド)に食い込んだ杭から内部に向けて放たれた!

 

 ズズンッ!

 

 という音と共に犀型の獣化兵(ゾアノイド)5体が、突っ伏すようにその場に倒れる。

 

 《・・・パイルバンカー・・・!》

 

 今使用した武装の名前であり、パワードスーツの隠し武器の一つでも有る。

 左腕に装着している盾の突起部分を、盾内部に仕込んでいる射出装置に弾倉(カートリッジ)部分に、ファイアーグレネード弾を仕込む事で爆発させて、凄まじい威力での貫通力を持つ杭打ちを行う。

 そして杭打ちを行った後に、パワードスーツ側から盾を通して雷撃魔法を相手の内部に叩き込む。

 この一連の攻撃こそが、隠し武器『パイルバンカー』で有る。

 

 そして防御陣が崩壊したので、残りの獣化兵(ゾアノイド)は中距離・遠距離に特化したような奴らのみ。

 其奴らに対し、パワードスーツ達は右腕腕部に内蔵している『電磁ブレードソード』を展開、そのまま『電磁ブレードソード』の刃を煌めかせて斬りかかる!

 

 其処からは簡単だった。

 中距離・遠距離に特化した獣化兵(ゾアノイド)達は、接近戦が苦手なようで『電磁ブレードソード』に対抗出来る武装も無く、次々と切り刻まれて行く。

 やがて戦場にはパワードスーツ以外に立っている者は無く、全ての獣化兵(ゾアノイド)達は倒れ伏して、その巨大な軀を晒している。

 

 そう、帝国と『アラム聖国』の前哨戦は、帝国勝利で幕を閉じたのだ。

 



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1月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝3年)《獣化兵(ゾアノイド)との戦闘確認会議》

 1月10日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 あの戦闘から5日経って、様々な状況と後始末そして検証が行われ、会議が開かれた。

 中央情報局エルヴィン局長が、情報の説明を始めた。

 

 「過去の人の動向調査のモニター履歴を確認し検証を行っていましたら、今より半年前にイリリカ王国に船で入港した、ザイリンク公国の従属国所属の船からやって来たと称する人々が、今回の事件当事者でした」

 

 と言うと、モニターにその船と過去の航路を示した。

 だが、その航跡は有り得ない事に、イリリカ王国の港からの50キロメートル沖で突然途切れていた。

 

 「此の航跡を見ても判る通り、半年前にこの船は突然西方教会圏とアフリカーナ大陸との間の海域の途中で出現し、そのままイリリカ王国の港に入港しています。

 その事を不審に思い、ザイリンク公国の従属国に船籍照会と来歴を確認した処、約1年前に此の船は行方不明となり、船主と船員の家族等は今も無事を祈って帰りを待っていました。

 しかし、イリリカ王国の港に入港した船員達は、船長以下船員全員が従来の人間と異なっていて、イリリカ王国側からザイリンク公国の従属国に問い合わせもしていなかったので、その事に疑問を持つことも無く、普通に船の入港税も支払われていた上で船の係留料も予め支払われていて、イリリカ王国の港は不審に思わなかったそうです」

 

 とエルヴィン局長は説明し、その船員達が今回の襲撃事件に関与している資料をモニターに映した。

 

 「・・・2周間前にこの船員達が、商業ギルドを通して30台の馬車を期間借りをして、今回の襲撃に使用したのは残された馬車と馬の登録記録で判明しました。

 そして馬車の荷台には、幾つかの不審物と重要なアーティファクトが残っていて、此等の確認作業と例の盗難されたアーティファクトの照合が進められます!」

 

 と今回の襲撃事件の裏とり状況を説明し終わった。

 

 続けて軍務大臣を兼任するダルシム大将が司会を努めて、獣化兵(ゾアノイド)とパワードスーツの戦闘の記録をモニターに出して、反省点とこれからの教訓を得るべくディスカッションする事になった。

 

 此の戦闘では自分やパワードスーツ部隊のリーダー、そしてドラゴン達を率いていたガイとサバンナにもモニターでの参加をしてもらう。

 

 先ずは『ヘビィマシンガン』による『パルス・ブラスター』の攻撃だ。

 

 実は当初、獣化兵(ゾアノイド)達の防御力が判らず、様子見で最弱の10%で攻撃させて居たのだが、どうもバリアーに類するもので遮蔽していない事が判り、30%に上げてみたのだがどうも相当近づかなければ効果が無いことが判明し、途中からは50%に上げて連射速度は下がったが、効果を上げる事は出来た。

 

 次にドラゴンとドローンによる支援攻撃だ。

 

 此れについては、攻撃当初から効果が薄い事に気付いたとガイとサバンナが発言する。

 実際に、動画で遡っても明らかに頭上と背中の防御力は、腹部や身体の前面部分より厚く頑丈であった。

 此れを見て、モニター参加のヴァルター大将が意見を述べた。

 

 「この様子を見るに、アラム聖国は上空から、つまりドラゴンからの強力な攻撃に対して、相当な対抗措置を獣化兵(ゾアノイド)を作る際に課していたのでは無いでしょうか?

 恐らくは、我等の『故国奪還の役』(現在では旧スターヴェーク王国復興戦争を帝国ではこの様に呼ぶ)でアラム聖国は、帝国のドラゴン達によって徹底的に痛い目にあっており、半ばトラウマになっていると思われますので、その為の防御力強化を上空からの攻撃に備える形にしたのでしょう」

 

 と推測を述べられたので、一同からも賛同の呟きが漏れる。

 この意見には自分も賛成だ!

 何故なら、恐らくはアラム聖国の切り札の一つで有ったであろう、『双頭の暴虐竜ザッハーク』を堂々と迎え撃ち、帝国側(この時はまだ帝国では無いが)に疲労以外の損害を与えさせなかったのは、紛れもなくグローリア殿とアラン様のコンビと自分達空軍のドラゴンの誇るべき戦果なのだから!

 

 此の事実がアラム聖国の中枢を揺り動かしたのは間違いなく、後に不可侵条約締結の為に来訪された『カルマ』殿も認めていた(もっとも此の交渉団の表向きの代表は別の人間だが)。

 

 最後にランドセルに装着しているリニアカノンによる長距離攻撃だ。

 

 この攻撃は完全に犀型の獣化兵(ゾアノイド)が土魔法を併用した防御陣で防いでしまった。

 つまり、実体弾の攻撃であるリニアカノンによる長距離攻撃は、アラム聖国が完全に対策している事が判った。

 恐らくはアラム聖国での兵器である、銃器や大砲での練習や訓練をこなしていたのでしょう。

 こうなると魔法系統の武装に、比重を置く必要があるのかも知れないな。

 

 この様に、問題が有ったと思われる攻撃を反省し、効果が有り良かったと思う『パイルバンカー』と『電磁ブレードソード』での攻撃には、より効果を上げるべく研究する事となった。

 

 此の様に戦闘に於ける反省点とこれからの教訓を得るべくディスカッションを終え、会議は終了した。

 

 さて、明日からは此の事を踏まえた訓練を、カリキュラムを組んで空軍訓練を行おう。

 



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1月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝3年)《『ミネルヴァ』ちゃんデビュー》

 1月20日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 かなりの数のパワードスーツが工場からロールアウトして配備されて来た。

 先の戦闘での結果と、後の検証で得られた教訓を元に少しの改良を行っている。

 空軍のドラゴンとドローンとの合体形態である『ドラゴン・フライヤー』と、予備のパワードスーツが配備され部隊数も常時120部隊となり、其れ以外は補充部隊となる。

 

 そしていよいよ操縦技能を磨いた人員が揃い始めたので、中央軍にもパワードスーツとパイロットが配備されて行く。

 その部隊と交代で中央軍の歩兵部隊の面々が、パワードスーツの訓練に入った。

 この流れを、中央軍を直接統括するダルシム大将が加速させていて、自らが率先して訓練を行っている。

 この分では軍団規模のパワードスーツ部隊が出来るのは、相当な速さで成立出来そうであった。

 

 1月25日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 アトラス殿とグローリア殿の娘である『ミネルヴァ』のお披露目が行われた。

 彼女は卵の頃からの特別措置と、孵化されてからもコクーンでの特別培養により、ドラゴンとしての質的に最高の状態を最初から備えている。

 

 アラン様とクレリア様、其れにアポロニウス様が参加されるべく、親衛隊とともに参列している。

 そして空軍のドームのドラゴン区画から、135頭のドラゴンが飛び立ち、空中で滞空状態で列を作る。

 その列の前を3頭のドラゴンがゆっくりと羽ばたきながら進む。

 当然その内の2頭は、巨大な体格のアトラス殿とグローリア殿であるが、1頭は見慣れない極端に小さい姿の幼竜であった。

 

 そう、この小さいドラゴンこそは、アトラス殿とグローリア殿の娘である『ミネルヴァ』ちゃんで有る!

 新たな帝国の仲間であり、幼竜ではあるが種族的に古龍(エンシェントドラゴン)に分類されるドラゴンで、帝国の期待の仲間だ。

 

 アトラス殿とグローリア殿がゆっくりと地上に降り立ち、その2頭の間に体長3メートルの『ミネルヴァ』ちゃんが降り立った。

 

 アラン様とクレリア様が、アポロニウス様を伴ってその3頭の前に進むと、アトラス殿とグローリア殿そして『ミネルヴァ』ちゃんがひれ伏すように頭を下げると、その両親に倣ったのか『ミネルヴァ』ちゃんもチョコンといった感じで頭を下げる。

 その仕草が、何とも可愛くて場が一気に和み、アラン様とクレリア様も微笑ましく表情を崩す。

 そしてアトラス殿が、

 

 「此の度は、我が娘『ミネルヴァ』の為にお披露目式を設けて頂き、恐懼しております。

 どうか、我等ドラゴン達同様に、我が娘『ミネルヴァ』をお引き立て頂ければ望外の喜びです!」

 

 と言うと、グローリア殿も続けて、

 

 「アラン様にクレリア様!

 私の娘『ミネルヴァ』ちゃんが、つい先日飛べる様になり、早速お披露目してくれるなんて本当に有難う御座います!

 然も、アポロニウス様と面会させてくれるなんて、有り難いです!」

 

 と本当に嬉しそうに感想を言われたので、とうとうクレリア様が笑ってしまった。

 クレリア様が、

 

 「グローリア!

 本当におめでとう!

 貴方と初めて会えた時には、本当に驚いてしまったのだけど、それと同時にとてもワクワクしてしまって興奮してしまった事は、今でも大切な思い出なのだけど、何とあれから4年も経ってしまったのね。

 その間にも様々な出会いと、色々な出来事が有ったのだけど、私達は仲間として試練を共に乗り越えて、共に生涯の伴侶を得る事が出来て、その伴侶との間に何事にも代え難い至宝の子供を授かったわ。

 そして今、その私達にとっての至宝同士を引き合わせ、新たなドラゴンと人との友誼を結ぶ事を願うの!

 どうかこの願いを聞いて貰えないかしら?」

 

 と聞かれたので、アトラス殿とグローリア殿はまたも大きく頷かれると、娘の『ミネルヴァ』ちゃんを促し前へ進ませた。

 

 すると、アラン様とクレリア様も同様に、歩ける様に成って日も浅いアポロニウス様を促し前へ進ませた。

 

 アポロニウス様は、怖がる様子も見せずにヨチヨチとだがしっかりと歩まれ、『ミネルヴァ』ちゃんの前に進み、珍しそうに自分より遥かに大きいドラゴン達を見回すと、正面に居る『ミネルヴァ』ちゃんに近付く。

 その様子に『ミネルヴァ』ちゃんも近付き、アポロニウス様の顔に自身の顔を近付けた。

 双方が匂いを嗅ぐように鼻をヒクヒクと動かして、アポロニウス様はその小さい手を必死に伸ばして『ミネルヴァ』ちゃんの顔を触りまくる。

 無造作に触りまくられて擽ったかったのだろう、『ミネルヴァ』ちゃんがクシャミをして、そのクシャミの勢いにアポロニウス様はコロンと転がってしまったのだが、直ぐに立ち上がると、

 

 「キャーッ!」

 

 と叫ばれ、今度は『ミネルヴァ』ちゃんの足元に突進し、その足元の鱗を物珍しそうに触りまくり、『ミネルヴァ』ちゃんも嬉しいのか、身体を地面に倒すと自分の翼や尻尾をアポロニウス様に撫でさせて行く。

 

 やがて双方満足したのか、正面に双方向き直り、同時に片手を伸ばし合い柔らかい握手をしあった。

 赤ちゃん同士の他愛も無い仕草と言ってしまえばそれまでだが、我等帝国空軍にとっては、非常に大きな儀式であった。

 

 何故なら、如何に幼かろうとドラゴンと人とが、お互いを認めあったのだ!

 つまりは、ドラゴンと人との契約がなされた事を意味し、此れからアポロニウス様は『ミネルヴァ』ちゃんを騎竜とする契約した事になったのである。

 



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2月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝3年)《パワードスーツのカスタマイズ》

 2月2日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 久し振りに我が家に赤ちゃんズの面々が、奥様ズと共にやって来てお茶会をしていたのだが、夕刻になると赤ちゃんズの父親である自分の親友と同僚が参加して来た。

 夕飯を共にして、男同士の話しをしていた際に、ふとミツルギ殿とシュバルツ殿が話題を振ってきた。

 その話題とは当然パワードスーツの事で、いよいよ帝国軍全体で目下注目の的であり、この話題に触れない帝国軍人は居ないと呼んで差し支えないと断じられる程だ。

 パワードスーツに付いて、親友のハリーも帝国軍のPR動画の撮影で、来月には公共放送を流す動画内に、大っぴらに公開する場面を盛り込んでいると話してくれた。

 つまり、帝国軍も既にパワードスーツは秘匿兵器では無くて、広報PRに出す程の物であると判断した様だ。

 だが、ミツルギ殿とシュバルツ殿が聞いてきた内容は、通常のパワードスーツの話しでは無かった。

 

 《・・・やはりその事か・・・》

 

 実は自分は、二人がこの話題を振ってくる事を半ば判っていた。

 

 其れには或る事情が有ったのである。

 実は、このパワードスーツを作るに当たって、大きく2つの流れが有った。

 

 一つ目は当然量産化の流れだ。

 パワードスーツを量産化するには、色々な部分を最適化して、より帝国軍人全てが運転しやすく、直ぐ様同種の機体であれば、乗り換えても問題無く同等の戦力として使えなければ意味が無く。

 極端な話し、魔力欠乏や機体の故障が発生すれば、乗り捨ててでも構わないと云った、設計思想の機体に特化した流れで有る。

 

 二つ目はその逆である、個人用にチューンナップされたカスタマイズ機体(特化型)の流れだ。

 以前から、帝国軍に於いて戦闘車両と戦闘バイク、そして武装でも個人用にカスタマイズする動きが有り、特に腕に自信が有ったり、場合によってはその個人だけで戦局がひっくり返せると認められる場合は、寧ろ積極的に推進されていたりする。

 

 例としては、セリーナ・シャロン両少将の専用戦闘バイク『ディアブロ号』と『ジャッジメント号』、ファーン大将旗下の重機動軍の代表機体『ドリル・バイク』等の、軍団を代表する戦闘マシーンとでも呼ぶべき一騎当千の機体は、正にその軍団の顔でも有る。

 

 現在帝国軍は、パワードスーツの量産化を全面的に推し進め、其れは着実に進んでも居るが、やはりカスタマイズ機体の要望は根強く、実際に其れの研究は続いている。

 

 そして何故この二人がその事を話題にして来たかというのも、推測が着いていた。

 実はその為のテストパイロット達は、この二人の直弟子達なのである。

 

 第一回世界武道大会で、徒手空拳部門と武装部門での準決勝まで勝ち残り、帝国軍に入隊志願した20名は、その後親衛隊に入隊し様々な局面で通常の帝国軍人とは異なる、特殊任務に就く事が大変多くて、非常に融通の効く軍人になっていて、また『剣聖』と『拳聖』の門下生となった結果、素晴らしい存在にレベルアップし、パワードスーツのテストパイロットに自ら志願しているのだ。

 

 彼らの武道家としての素晴らしい能力を活かすべく、パワードスーツを其れ其れがカスタマイズし、主に格闘と剣戟に特化した機体が現在素晴らしい発展を遂げていて、恐らく帝国の内部事情が判っているこの二人なら大丈夫だと、情報を漏らしたのだろう。

 

 まあ、もう少ししたらこの二人には協力して貰うつもりだったし、若干早くなっても問題無いだろうと考えて、明日にでもアラン様にお伺いを立てる事を約束した上で、ハリーには何れ教えてやる事を約束し、当面秘密にする事を誓わせた。

 

 2月3日①(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 空軍ドームでの用件を幕僚達に任せ、緊急内容以外は己の裁量でこなす事を命じ、ミツルギ殿とシュバルツ殿と共に昼食を摂って、アラン様が詰めているパワードスーツ開発用の専用ドームに向かう。

 パワードスーツ開発研究所と云う御大層な名前の、巨大な建造物の駐車場に親父の愛車『バッファロー』と、賢聖モーガン殿の最近の一人乗りの乗り物で有る『飛行器』が並んで駐機してあった。

 此処までは、何時もの光景なのだが一台の珍しいバイクが目についた。

 そのバイクは、非常に特徴的な外見をしていて、先頭部分がアダマンタイト製のドリルになっているのだ!

 帝国広しと言えど、こんな独特な形状をしたバイクを駆る人物は一人しかいない。

 そんな事を考えながら、パワードスーツ開発研究所の中枢部である区画に案内されると、予想通りに『ドリルバイク』の乗り手であるカイン中佐が熱心に研究職員と話し込んでいる姿を確認出来た。

 

 だが、我々が相談すべき相手は、当然彼では無いので、現在パワードスーツのシミュレーターに乗っている人物が降りてくるのを待った。

 その人物は、パワードスーツのシミュレーターにどれだけのコリント流の格闘技が再現可能か?と云う実験を、此処1周間程徹底的に試しているのだ。

 やがて、かなり過酷なパワードスーツの関節部に負荷を掛ける動作を行い、限界と表示が出てから致し方ないといった様子で、パワードスーツのシミュレーターから専用ヘルメットを脱いで此方に歩み寄る人物こそは、我等が主君アラン様である。

 自分達が、跪こうとするとヒラヒラと手を振ってその動作を牽制すると、部屋にある応接用のソファーに全員を誘導し、研究職員に全員分の紅茶を用意させて、皆が落ち着いた段階で話し始められた。

 

 「・・・君等3人が連れ立ってやって来たと云う事は、つまりそういう事だろう?」

 

 どうやらアラン様は、我等の要望を完全に想定していて、その確認をしたい様だ。

 

 「・・・恐らくは、アラン様の予想通りだと思います!

 我等3人も、アラン様同様にパワードスーツのシミュレーターに乗って、自分の習得した格闘技をフィードバックした自分専用のパワードスーツを、カスタマイズしたく願います!

 どうかアラン様に置かれましては、この非常に我儘且つ僭越な申し出を叶えて戴きたく上申しに参りました!

 必ず、この御恩には以降の軍功で以って報いますので、お願いします!」

 

 と自分を含む3人が深々と頭を下げていると、何故か並んでカイン中佐まで頭を下げている。

 その4人の姿に、アラン様は愉快そうに笑い出し、我等4人に頭を上げさせて。

 

 「非常に良く判った!

 だが、君たちが懇願する必要はそもそもの処必要無かったんだよ。

 何故なら、元々君たちクラスの軍人には、其れ其れにカスタマイズされた専用機を用意するつもりだったし、その際には当然各々の実力に応じた機体を用意する為に、このパワードスーツのシミュレーターに乗って調整する予定だったからな!」

 

 と言われ、パワードスーツのシミュレーターに振り向き、専用のスタッフに労いの言葉を投げかけられている。

 専用のスタッフも溌溂と云った様子で、返事している。

 しかし、こんな風にざっくばらんに下の者と接する皇帝が、歴史上居たのかと疑問に思うばかりだ。

 



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2月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝3年)《八仙との再会》

 2月3日②(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 パワードスーツのシミュレーターに4人で、交代交代乗り込み色々な試行錯誤を繰り返してみた。

 幾つかのコリント流剣術・格闘術、神剣流・神拳流の基本動作をパワードスーツにはインストールされていて、理に叶った動作が信条の其れ其れの流派なので、殆ど無理無くインストール出来ていて、武器を使用したり回避したりする動きは全て流派通りの動きである。

 だが、問題は此処からだ!

 

 基本動作そのものは良いとして、いざ技や奥義の動作をシミュレートしようとすると、当然人間とパワードスーツとでは関節部の可動域、『気』を通す事で可能な奥義に至っては、不可能に近い事は判っていた。

 

 《・・・やはり無理か・・・》

 

 と全員で落胆していると、賢聖モーガン殿と妹の彼である『マリオン』、そして独特な着物を着た人達が奥の研究室から現れた。

 マリオンが自分を見つけて、笑いながら話し掛けて来た。

 

 「ケニー兄さん、お久しぶりです!

 先程のパワードスーツのシミュレーターでの操縦見せて貰いました。

 流石ですね!

 ドラゴンの高機動飛行に慣れていた身体は、体幹と三半規管の耐久値は常人を遥かに越えていて、パワードスーツを限界速度で旋回させた際の目の動きと、平衡感覚はアラン様に次いで2位の記録が出てましたよ!」

 

 と褒められてしまい、何とも面映ゆい気分だ。

 そしてマリオンは周りに居た、ミツルギ殿とシュバルツ殿、更にカイン中佐に目礼をすると、

 

 「しかし驚きましたよ!

 セリース大陸でも屈指にして、世界武道大会連覇中のお二方と、戦闘バイク乗りとして帝国で3本の指に入るカイン中佐が、こぞってパワードスーツのシミュレーターに乗ってくれるとは、開発者冥利に尽きますね!」

 

 とマリオンはやや興奮気味に話すので、3人も自分と同じ気分の様だ。

 そんなマリオンを落ち着かせる様に肩に手を載せていると、アラン様と賢聖モーガン殿が別室から戻ってきて、全員で応接区画のソファーに座った。

 賢聖モーガン殿が司会をするように立ち上がり、独特な着物を着た老人達を紹介してくれた。

 

 「貴方方は、初顔合わせだと思うけど、この方々は崑崙皇国に於いて最高峰の魔法技術者で『符術師』の権威で有る『八仙』の方々よ!」

 

 と紹介され、次々と名前と経歴を帝国発行のカードで示され、自分の個人端末に入力した。

 名前を確認すると、李鉄拐(りてっかい)・漢鍾離(かんしょうり)・呂洞賓(りょどうひん)・藍采和(らんさいか)・韓湘子(かんしょうし)・何仙姑(かせんこ)・張果老(ちょうかろう)・曹国舅(そうこっきゅう)と、如何にも崑崙皇国らしい名前だった。

 

 そして、自分はその中の二人の人物に覚えが有った。

 呂洞賓老師と藍采和老師で有る。

 

 「お久しぶりですね老師方!」

 

 と挨拶をすると、お二人も礼を返して、

 

 「本当にお久しぶりですな。

 例の『蚩尤』との最終決戦の際に、貴方の艦で宝貝の『躯体』の調整と起動をして以来ですな!」

 

 と返答されて来た。

 そう此のお二方は、自分の艦で有る『グラーフ・ツェッペリン』で『躯体』を調整していたのだ。

 

 「あの時に、従来の『躯体』を遥かに越えた能力を引き出す為に、此の帝国の最先端魔法技術を使わせて貰い、我等『八仙』はいたく感心し、是非帝国の最先端魔法技術を学ぶべく、アラン様に懇願してみた処、アラン様は快く受け入れてくれたばかりか、共に新しい魔法技術を開発しようと言われてな!

 此れ此の通り、賢聖モーガンと新鋭のマリオン君と共に、日夜新技術の開発に精を出しているのだよ!」

 

 とカラカラと笑われ、残りの六仙も同様に笑っている。

 

 この方々は、確か崑崙皇国でも尊敬の的であった筈で、信者と呼べる程の弟子が数万人は居た筈だが、その弟子達はどうしたのだろうか?

 

 その事を尋ねると、八仙は事も無げに言って来た。

 

 「嗚呼、問題無しじゃよ。

 儂等の弟子達は、全てこの帝国の魔法技術職員としてアラン様に雇用されていて、現在この研究所以外にも、港湾施設や戦闘車両・バイクの製造工場、他にはカーラ殿の魔法製薬研究所等で学びながら働いて居るよ!」

 

 と答えてくれた。

 そうなると、半端でない数の魔法技術者が崑崙皇国から抜けて帝国に来ている事になる、崑崙皇国側はそれで良いのだろうか?

 

 と素直に質問すると、またもアッサリと八仙は答えてくれた。

 

 「大丈夫じゃよ、崑崙皇国の現在の首都で有る『南京』と、此処帝都コリントは龍脈門(レイライン・ゲート)によって殆どタイムラグ無しで行き来出来ているし、崑崙皇国にも帝国からの研究者が大勢『符術』という西方教会圏にとって珍しい魔法技術を学ぶべく、出向いているからのお互いさまじゃ!」

 

 との事だ。

 全く帝国と崑崙皇国の間は、殆ど垣根というものが無く、学術交流どころか物流と人的交流も問題になった事が無いなと呆れた面持ちでいると。

 

 そんな自分に、マリオンが自慢げに話し始めた。

 

 「ケニー兄さん!

 実は、この八仙の方々の協力のお陰で、画期的な操縦システムがシミュレーターで完成したんですよ!

 早速先程アラン様に見せた処、大絶賛されましてね、是非ケニー兄さんにも見せたく思います!」

 

 と隣室に有る研究室に我等4人を連れて行く。

 そして其処には、パワードスーツのシミュレーターとは似ても似つかない代物が鎮座していた。

 

 「此れは?」

 

 とマリオンと八仙い問いかけると、自慢気にマリオンが、

 

 「此れこそは、帝国と崑崙皇国の魔法技術の融合!

 『モビルトレースシステム』の試作機です!」

 

 と答えてくれた。

 その言葉にやや気圧されながら、呆然とそれを自分は凝視している事しか出来なかった。

 



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2月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝3年)《アラム聖国からの外交交渉団の先遣隊》

 2月24日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 沈黙を続けていたアラム聖国から、帝国に対して外交交渉団の先遣隊が来訪する旨が、ファーン大将の居るスターヴェーク公国のアラム聖国との国境線から齎された。

 どうやら、今年10月の不可侵条約締結期限を前に、事前協議として前提条件や更新内容の変更等を話し合いたいらしい。

 実際の処は、帝国とアラム聖国は水面下での小競り合い真っ最中だが、公的に表明している訳では無いので、未だ戦争状態に突入しているとは、国の内外には知らせていない。

 しかし、物資の略奪やテロ活動を西方教会圏で、アラム聖国側が起こしているのはほぼ間違いなく、後はアラム聖国側がそれを認めるかどうかだ。

 帝国は、和戦何れに状況が転ぼうと、対応出来る体制を既に構築しているつもりだが、例の『獣化兵(ゾアノイド)』や『故国奪還の役』の際にアラム聖国が使用した重火器類が、どの様に発展しているか予断を許さない面も有る。

 外交交渉団の先遣隊が、どの程度の権限を委託されて来訪するのかは判らないが、なるべく突っ込んだ交渉が出来ると良いなと漠然と思った。

 自分は、一人の帝国軍人としてこの様にどっちつかずの状態は、帝国と同盟国そして友好国にとって中途半端な警戒状態を今後も続けて行くのは、辛いだろうと想定出来るので、いっその事はっきりと敵国認定してくれた方が清々すると思った。

 

 2月27日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 魔導列車を経由して、アラム聖国からの外交交渉団の先遣隊が帝都コリントに到着した。

 様々な身体検査を受けてそれらをクリアして先遣隊は、帝国の外交交渉団と交渉に入る。 

 しかし、アラム聖国からの外交交渉団の先遣隊は、具体的な話し合いにはアラン様が出席しなければ、話せないと申し込んで来たそうだ。

 帝国の上層部としては、正直たかが外交交渉団の先遣隊に過ぎない分際で、皇帝陛下に対して無礼極まり無い!

 なので、モニター越しでの交渉を提案したのだが、アラム聖国側は渋っているようだ。

 

 2月28日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 結局、昨日の交渉では埒が明かないので、ありとあらゆる対策を施した上で、アラン様と周りに護衛の人員を配置した形で、臨時に用意した大会議室での外交交渉が行われる事が決まった。

 その大会議室の室外で、自分とカトウは幾つかの準備をして、待機している。

 

 改めて身体検査を終えた、アラム聖国からの外交交渉団の先遣隊メンバーは、周りを警護する帝国軍兵士の間を通って入室して来た。

 

 アラン様も護衛の人員と共に入室してきて、我等はその様子を中継されたモニター越しに見ている。

 アラン様が、

 

 「・・・さて、貴方方の望む形で、私が交渉の相手をさせて頂く。

 当然貴方方は私と交渉するに辺り、突っ込んだ内容での交渉が出来る権限を、アラム聖国上層部から付託されているのかな?」

 

 と発言されると、先遣隊メンバーは全員が突然笑い始め、

 

 「こんなに帝国の皇帝が愚かだとはな!

 あまりにも間抜け過ぎて信じられない程だよ!

 こんな奴に、聖なるアラム聖国の聖徒が犠牲になっていたとはな。

 精々地獄に堕ちて悔いるが良い!」

 

 とリーダーと思われる者が、アラン様を指差し戯言を吐いた。

 直ぐ様、アラン様の周りを護衛する様に親衛隊の精鋭が固め、他の親衛隊員が先遣隊メンバーを取り押さえようと迫ろうとした時、アラン様が押し留める様に指示し、先遣隊メンバーを遠巻きに取り囲む。

 その様子に、やや訝しんだ先遣隊メンバーだが、意を決した様に口から何やらシリンダーの様な容器を吐き出すと、10人全てが己の首筋にシリンダーの様な容器から出ている突起を突き刺し、その中に入っていた溶液を流し込んだ!

 

 「フフフッ、この時点で帝国の皇帝が死ねば、我等はアラム聖国の英雄として、未来永劫語り継がれるに違いない!

 オオッ、神よ感謝致します!!」

 

 と絶叫混じりに宣言すると、先遣隊メンバー全員が急速に膨張し始め、纏っていた服をアッサリと引き裂き巨大で異形な存在へと変貌していった!

 

 当然我等は、アラン様と帝国の要人を護衛して安全地帯へと向かおうとするが、元先遣隊メンバーの異形の一体が、出入り口に素早い動きで回り込み、我等の退避ルートを遮断した!

 

 そうこうしている内に、先遣隊メンバー全員の変化が完了し、その姿が確認出来た。

 その姿は数種類に分けられるが、この数カ月間に渡って我等帝国軍人の頭を占めていた存在、『獣化兵(ゾアノイド)』の姿であった。

 

 そして獣化兵達は、一気にアラン様とその護衛に向かって接近し、捕まえようと手を伸ばして来た!

 しかし、如何に体長5メートルという巨体で有りながらも素早く動くとはいえ、所詮は魔物のオーガを強化した程度の存在に過ぎない。

 アッサリとその掴みかかってきた手を掻い潜り、アラン様と護衛の親衛隊は出入り口に向かわず、すぐ側の壁を蹴り抜いて大会議室から出ると、

 

 「良し!

 想定通り正体を現したぞ!

 予定通り拘束せよ!」

 

 とアラン様が命じると、空中待機していたパワードスーツが一気に降下し、獣化兵を拘束する為に無力化しようと『電磁ブレードソード』を展開する。

 計画が狂ったと理解したのか、獣化兵の内5体が無理矢理パワードスーツ達に突っ込むと、突然自爆して来た!

 だが、当然その程度の事は想定していたので、やすやすとバリアーに防がれると他の5対は狂ったように手足を振り回し、パワードスーツを攻撃して来たが、簡単に四肢を切り落とされて無力化してしまった。

 化け物の顔のままであるが、何だか呆然自失している様子の獣化兵を尻目に、アラン様は命令を下す。

 

 「良し!

 此れでアラム聖国側が、帝国に戦端の口火を切った証拠としての動画が取れたし、ワザワザ獣化兵の生きた標本が手に入った。

 ファーン大将に臨戦態勢への移行を指示し、アラム聖国国境線に東方方面軍は布陣せよ!」

 

 との命令に我等は一斉に動き出した。

 しかし、如何に帝国の情報統制のお陰で、生の情報が手に入らないとは云え、外形的な事実として例のザッハークが討ち取られた事実から、帝国の凄まじい実力と舐めて掛かれない相手だと判らないとは、アラム聖国の上層部の傲慢さが透けて見える様だった。

 



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3月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝3年)《大戦への秒読み》

 3月1日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 此の日、『人類銀河帝国』はアラム聖国の行為と行動に非を鳴らし、是正と帝国への謝罪を求めた公文書を全世界に公表した。

 当然この公文書を公開すると共に、アラム聖国の此れまでの悪事と不正、更に帝国に対しての不誠実な態度を時系列と様々な証拠、そして誰にでも判る動画での今までのテロ行為を流した。

 此の、今までは噂の範囲に留めていたアラム聖国の不実は世界中を駆け巡り、若干なりとアラム聖国への好意を寄せていた国家群は、たちまちアラム聖国への友好姿勢は影を潜め、帝国に対して表と裏での協力表明が打診されて来た。

 

 3月2日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 案の定アラム聖国から帝国への弾劾請求と、宣戦布告が発布された!

 だが、アラム聖国から帝国への弾劾はあくまでも文書での物で、然も単に帝国の発表を非難しアラム聖国は此れ迄テロ行為をした事が無いとしているが、証拠となる様な物は一切提示せずに、ただひたすら帝国を誹謗中傷するだけで有った。

 まあ、帝国の様に論理建てて時系列に纏めて動画で説明する事などアラム聖国側に出来る筈も無く、情報戦に於いて帝国が他国に負ける事など有り得ない。

 此の一点に於いてもアラム聖国側は既に負けていて、如何にアラム聖国が抗弁しようと、他国が心底納得が行く筈も無い。

 そうすると、アラム聖国は只々力による現状変更を推し進める他無く、アラン様と帝国上層部が企図した通り、アラム聖国は選択肢を絞られてしまい、より短絡的な行動を起こしやすくする事に成功した事になる。

 

 3月3日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 量産型ドローンの前線での大量投入により、リアルタイムでのアラム聖国軍の進行ルートが判明した。

 どうやら進行ルートは大きく3ルートで、やはり帝国との直接の国境線目掛け、凄まじい数の軍隊を派遣してくるようだ。

 其れとは別に、北方方面のそれ程道幅が広くない街道を、それなりの数で進軍している軍が有る。

 そして2番目に多数の軍団が、崑崙皇国の従属国であるビルマ仏国の国境へ進軍していた。

 

 恐らくは、帝国との直接の国境線ルート以外の進軍は、牽制の派遣であるだろうが、場合によってはその方面の敵が弱かったり無警戒ならば、そのまま攻め込んで来る事も有り得るので、安心は出来ない。

 

 刻々と目まぐるしく状況が変わり、大体のアラム聖国軍の概要が掴めた。

 

 其れによると、北方方面に進出して来るアラム聖国軍は、凡そ200万で、武装も軽装な肩から吊るす携行銃器ばかりで、大砲の様な重武装は持ってきていない。

 

 そしてビルマ仏国方面に進軍しているアラム聖国軍は、凡そ300万で、かなりの大砲類が配備されていて、かなり鈍重そうだがそれ故に手強そうだ。

 

 最後に帝国との直接の国境線ルートを進軍して来るアラム聖国軍は、凡そ400万に上る大勢力で後続の輜重隊も100万に達し、此の軍団だけで人数だけで帝国軍全軍を凌駕している。

 進軍スピードは各部隊にバラツキが有って、恐らく合流にはもう少し掛かるだろう。

 

 3月6日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 アラム聖国軍がかなり帝国との国境線から離れた場所で集合し、隊列を整え始めているが、些か距離が有りすぎて帝国東方方面軍50万人は、国境線に有るドーム近くで待機しながら、陸上艦船に全軍乗り込んで布陣している。

 帝都コリントに何時も駐留している帝国中央軍も、直ぐに駆けつけられるようにスターヴェーク公都に駐屯しているし、中央軍と共にアラン様と自分の直轄軍たる空軍も同行している。

 そして本来は西方と南方の方面軍で有るヴァルター大将が、範囲を帝都コリント周辺まで広げて警戒体制を構築している。

 ヘルマン中将は、中央軍の抜けた帝都コリントの安全を確保する中核軍となり、帝都守備軍10万・セリーナ少将の高機動軍10万・シャロン少将の高機動軍10万を統括する。

 

 そういった軍容の配備状況を帝国軍の上層部が確認し、改めてアラム聖国軍の状況を確認しようとしていると突然!

 

 「ビーッ!ビーッ!」

 

 と緊急警戒警報が、自分が乗っている陸上巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』の作戦会議室に鳴り響く!

 すると、作戦会議室に備え付けの巨大モニターにアラム聖国の、峻険なヒラマヤ山脈が映された。

 何事か?と疑問に思いながら、モニター画面に釘付けになっていると、やがてヒラマヤ山脈の一部が開き始めて、ポッカリとヒラマヤ山脈の山肌に巨大な空洞が出現した!

 

 《何だ?》

 

 と不審な思いで、その巨大な空洞を伺っていると、

 

 「カッ!」

 

 と実際には音が響かない幻聴を聞き、モニター画面が白く染まった!

 

 5秒ほどの時が流れ、或る場所のモニター画面が凄まじい振動と音で激しく揺さぶられた!

 

 その場所とは、アラム聖国との国境線に有る帝国のドーム群で有る。

 その中型ドーム10基の内3基のドームが、完全に破壊され無惨な姿がモニター画面に大写しされた!

 何が起こったのかサッパリ判らないが、恐らくは先程の巨大な空洞からの攻撃だとは思うが、どの様な攻撃方法なのか検討が着かない!

 自分は、今まであまりの帝国の強大さに、傲慢な勘違いをしていた事に思い至り、アラム聖国の底知れない実力に恐怖を覚えたのであった。

 



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3月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝3年)《一大会戦の直前》

 3月8日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 最初の攻撃が有ってから2日経ち続けて2回、計3回の同様な攻撃が有った。

 1回目はドームを直撃したが、2回目は人の寄り付かない荒野に大きな穴を作り、3回目は遥かに距離の開いた海に攻撃自体が逸れた。

 此の事はアラン様が説明してくれたが、超高性能ドローンが弾道計算した上で、最大出力の粒子砲を砲弾そのものに直撃させ、最大出力のバリアーを張らせた1番近い量産型ドローンに弾道を逸らさせる事を、3回に渡って行わせ、帝国に被害が及ばぬ様にしたのだ。

 

 つまり、当初こそ対処のしようが無かったが、2射目と3射目でほぼ無力化する事が出来たのだ。

 だが、問題の大砲はヒラマヤ山脈山肌の巨大な空洞に有る事は判っているのだが、超高性能ドローンからの全力攻撃でも中々被害を与えられないでいるのである。

 どうも、アラム聖国が保持しているアーティファクトをフル活用した防御装置が存在している様で、それを何らかの形で攻略しなければ破壊は出来そうに無い。

 

 この事態を解決する為に、アラン様は臨時帝国軍会議をモニター越しに全軍の上層部参加で行った。

 

 「レールガン(電磁投射砲)と云うのですか?」

 

 と全員の疑問を代弁して、ダルシム大将がアラン様に聞いた。

 

 「そうだ、この大砲は並行に置かれた2本のレールとなる電極棒の上に弾体となる金属の砲弾を乗せて電流を流し、電磁力により金属の砲弾を駆動し射出するというもので、磁場を与えるために磁石やコイルが追加される必要が有り、大砲の持ち運びは事実上不可能に近いので、固定砲塔として利用するしか無く、この規模のレールガン(電磁投射砲)を利用する為の電力は、膨大にならざるを得ず。然も此れまでの状況を見るに、ほぼ連射を行うだけの電力を随時準備するのは不可能なのだろう」

 

 とアラン様が、モニター画面にレールガン(電磁投射砲)の概要を示しながら説明された。

 

 つまり、アラム聖国はかなりの無理をしてレールガン(電磁投射砲)を運用しているらしく、その意図をどの様に解釈して戦略を組むかと云う事が、臨時帝国軍会議の議題となる。

 

 ダルシム大将は現状の睨み合う状態を変更したいのではと意見を述べ、ビクトール大将はレールガン(電磁投射砲)を抑止力として戦線を膠着状態にしていのでは?と推測を述べ、ヘルマン中将はアラム聖国の地へと帝国軍を誘き寄せる為では?とアラム聖国側の真意を測り、ヴァルター大将はこの攻撃で帝国軍の目を引いて裏をかいて別方向からの攻撃を企図しているのでは?と疑い、自分は以前と同じく帝国内でのテロ行為をするつもりでは?と考えを述べる。

 この様に、其れ其れの考えを述べてその都度、皆で賛同したり否定意見を述べ、全員で考察して大体の方針が決まった。

 アラム聖国の国境線に布陣していた東方方面軍と中央軍、そしてアラン様の直属軍である空軍、更に大規模な補給部隊と修理部隊が合流して、一気に国境線を突破して、アラム聖国軍が此方方面に進軍する為に集合している地点近くの平野に進出する事となった。

 様々な状況が錯綜する中アラン様は、超高性能ドローンを主軸とした情報網でリアルタイムの情報収集を怠り無くする事で、臨機応変の体制を維持しつつ、罠が有れば食い破る気概の元で進軍すると指示した。

 

 3月11日①(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 カシミール地方と云う地域のジャンムという平野に向けて帝国軍は進軍して行く。

 帝国軍の総勢は約130万人で、アラム聖国軍は約500万人で有る。

 しかし、帝国軍は人間の数で有るがアラム聖国軍は全軍が獣化兵(ゾアノイド)で構成されている。

 獣化兵(ゾアノイド)は全員が5メートルを越える体長なので、人間の軍隊の規模の3倍程の大きさで、まるで山がそのまま移動しているようだ。

 其れに対して帝国軍も、全ての兵員が陸上艦船に搭乗しており、そしてその陸上艦船には様々な戦闘用のマシーンが搭載されているので、それ程アラム聖国軍の規模に対して遜色ない大きさである。

 双方が、生きた山の様に巨大な為、かなりの距離を開けた場所に布陣して、お互いに警戒しながら陣形を構築して行く。

 アラム聖国軍には、帝国軍の様な艦船の類は無い様で、大きな車両等も存在しないようだが、大砲や野砲其れに獣化兵(ゾアノイド)が使用する程の巨大な銃器を携行している様子が見て取れる。

 恐らくは、当初の戦いは其れ其れの砲による遠距離戦が繰り広げられるに違いない。

 

 自分の指揮する空軍は当然、事前に戦場を俯瞰させて戦況を優位に進める為に、予め超高空と高空に超高性能ドローンと量産型ドローンを配置している。

 いよいよ、帝国軍とアラム聖国軍の一大会戦が戦端を開こうとしていた。

 



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3月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝3年)《会戦1日目》

 3月11日②(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 広大な戦場の空を覆い尽くす様な、立体プロジェクターの映像が浮かび上がる。

 其れは、今までの帝国や西方教会圏に行われた、アラム聖国のテロ行為や戦争行為の数々で有る。

 そしてそれらを背景にアラン様が現れて演説を始めた。

 

 「・・・アラム聖国よ・・・、この背景に流れる動画の通り、貴国は我等帝国と西方教会圏に対し、不当な国内干渉とテロ行為や戦争行為を繰り返し仕掛けてきた。

 その事を我等帝国と西方教会は、様々な証拠と共に弾劾する公式文書を、正式な使者を通して送り続けた。

 だが、この3年間貴国からは公式な返答が無いばかりか、帝国と西方教会圏に対し不当な国内干渉とテロ行為や戦争行為を繰り返す頻度は些かも衰える事が無く、この度は先制攻撃と言わんばかりの大砲での攻撃が繰り出された。

 最早、帝国と西方教会はアラム聖国と東方教会を許す事は出来ないと判断し、力による現状変更に対抗し跳ね返させて頂く!

 よって、今より帝国はアラム聖国に対し改めて宣戦布告する!」

 

 と堂々とアラン様は、アラム聖国に対し改めて宣戦布告した。

 

 次の瞬間、アラム聖国側から凄まじい爆音と共に大砲と野砲、更には大型カタパルトと大型マンゴネルからの火薬兵器が雨あられとなって帝国軍の陸上艦船に降り注ぐ!

 

 しかし、この様な攻撃を発足当初から繰り返しされて来た帝国軍は、少しも慌てずに何時も通りの対処法でバリアーを展開し、全て防いで見せるとお返しと言わんばかりに、其れ其れの陸上艦船に備え付けの砲塔から、各種の魔法弾と実体弾をアラム聖国軍に撃ち込んだ!

 

 だが、案の定アラム聖国軍も帝国と同等のバリアーでその攻撃を跳ね返す。

 やはり、故国奪還の際にルドヴィーク城の攻防戦で、アラム聖国軍が使用したバリアー発生装置は、帝国軍と同様に改良されてパワーが増し、あらゆる魔法攻撃と実弾攻撃を防ぎきった。

 予想通りでは有るが、苦々しい事には変わり無い。

 結局は、奴らの防御手段を潰す必要が有り、それを可能にするには至近距離に近づいて強力極まり無い攻撃を繰り出すしか無い!

 その事はアラム聖国軍側も判っている様で、遠距離攻撃主体の陣形を急速に切り替えて、鶴翼の陣での『獣化兵(ゾアノイド)』の包囲攻撃を企図した様で、前面に防御力重視の獣化兵(ゾアノイド)部隊が展開する。

 それに対し、帝国は鶴翼の陣に対する当然の陣形である魚鱗の陣を取らず、横陣に陣形を構えて土魔法による壁を3つ作り出した。

 その3つの壁は3重に出来ているが高さは7メートル程で、精々獣化兵(ゾアノイド)達の視線を遮る位でしか無かった。

 なので獣化兵(ゾアノイド)達は殆ど警戒無く、1段目の土魔法による壁に目掛け防御力重視の獣化兵(ゾアノイド)部隊が突っ込み、壊し始めた。

 それ程時間も掛からずに土魔法による壁の1段目は崩壊し、2段目の壁に挑み掛かろうと防御力重視の獣化兵(ゾアノイド)部隊が構え直した瞬間、2段目の壁はアッサリと解除され、3段目と思われた土魔法の壁は幅のある土魔法による台場の上に、3000機に上るパワードスーツが巨大な砲を肩に担ぎ獣化兵(ゾアノイド)に対し構えている!

 

 「スマッシャー(粒子砲)斉射!」

 

 とファーン大将の命令が下り、一斉にパワードスーツが肩に担いだスマッシャー(粒子砲)を撃つ!

 至近距離からの大口径のスマッシャー(粒子砲)が、圧倒的な光の束を吐き出し防御力重視の獣化兵(ゾアノイド)部隊を吹き飛ばした!

 

 「ズガガガガガガガガーーーーー!!」

 

 と遥か後方の獣化兵(ゾアノイド)を薙ぎ倒しながら光の束は止んで、3000機に上るパワードスーツ達は土魔法による台場から飛び降りて、陸上艦船に次々と収容された。

 続いてカイン中佐のドリルバイクを先頭に配備した重装機動軍が、ファーン大将の旗艦である陸上重巡洋艦『ヴィルヘルム』の格納庫から飛び出て、土魔法による台場の後ろで鋒矢の陣に隊列を組む。

 やがて組み上がった鋒矢の陣で、ドリルバイクを先頭に重装機動軍がアラム聖国軍に突貫する!

 

 当然、重装機動軍は得意の戦法で有る軍団魔法『オーディン2』で、混乱しきりのアラム聖国軍に突っ込んだ!

 しかし、何時もは此れでほぼ戦闘の大勢が決する筈が、流石は獣化兵(ゾアノイド)で構成されたアラム聖国軍は、前面の部隊をある意味捨てて、軍団の中程で強固な防御陣形を編み上げると、その直前に十字砲火出来る様な『殺し間』を作り上げて、重装機動軍を完全に壊滅する罠を構築した!

 此れに直ぐ様気付いたアラン様は、ファーン大将を飛び越してカイン中佐に退避する様に命じると、その為の時間を作る為に、陸上艦船群からの牽制砲火をアラム聖国軍に浴びせる。

 アラム聖国軍は、強固なバリアーを軍団で張る為に行動が鈍り、その間にカイン中佐率いる重装機動軍は素早く突進の方向を変えて、帝国軍の艦船の格納庫に収容されて行く。

 

 暫し、帝国軍とアラム聖国軍は遠距離攻撃の応酬を続けたが、お互いに有効な被害を相手に与えられ無いまま、初日の会戦は幕を閉じた。

 



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3月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝3年)《会戦1日目夜戦と2日目》

 3月11日③(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 帝国軍とアラム聖国軍は、其れ其れ10キロメートル程後退し相当な防御陣形を構築して滞陣した。

 日も落ちて帝国軍は土魔法とバリアーによる強固な防御陣形を構築し、アラム聖国軍も同様に土魔法とバリアーによる強固な防御陣形を構築した様だ。

 自分が指揮する空軍のドローン部隊は、空に有って何層にも渡る警戒網を展開しているので、虚を突く夜襲は出来ないと思われるが、物事には絶対は無いので、シフト制の交代体制で人員を配置して警戒に当たる。

 交代交代で夕食を摂り、休息に帝国軍が順番で入っていると、量産型ドローンからの情報が入ってきた。

 その情報は直ちに帝国軍上層部で共有され、アラン様以下全員がその情報に接する。

 量産型ドローンからの情報と云う事で、自分が報告を上げる。

 

 「・・・ドローンの探知魔法と赤外線センサー及び地面振動の微弱な偏位方向から、どうも地下を進んで帝国軍の下からの攻撃を企図しているみたいで、かなりの数の獣化兵(ゾアノイド)がやって来ている様です。

 然も、山脈に伏せていたらしい獣化兵(ゾアノイド)部隊が、例のテロ行為で使用していた光学迷彩と音を消す技術を使用し、ゆっくりと闇夜の中進んでいる事が、敵のアーティファクトを解析し改良したセンサーで発見出来ました。

 つまり、この進路方向と進軍スピードそしてタイミングから、時間差を付けた夜襲を企図しているのだと推測されます!」

 

 と報告し、自分の考えた推測も述べた。

 帝国軍上層部は、この情報を元に様々な事前に策定した作戦案の内の幾つかを採用し、迎撃作戦を練り上げて中級以上の尉官に周知させた上で、行動指針を徹底させた。

 

 0時近くになり帝国軍陣営近くの地面に「ドサッ!」と大きな穴が空き、地面からゾロゾロと獣化兵(ゾアノイド)部隊が地表に現れた!

 

 だが、その大きな穴の直上にいきなり巨大な閃光弾が撃ち込まれ、凄まじい光量で辺り一帯を照らし出す。

 

 不意の巨大な閃光弾の打ち上げに、面食らった様子の獣化兵(ゾアノイド)部隊に、帝国軍の艦艇から容赦ない艦砲の猛攻が繰り出される!

 どうしても地下を進む関係上、大型の重火器やバリアー発生装置を携行していない獣化兵(ゾアノイド)部隊は、帝国艦艇による十字砲火の猛攻撃になすすべなく兵力を減らしていく。

 

 それからやや時間差を置いた後に、山脈に伏せていた獣化兵(ゾアノイド)部隊が光学迷彩等の隠蔽手段を解除して、帝国艦艇目掛け突っ込んで来た。

 だが、事前にその獣化兵(ゾアノイド)部隊の存在と、位置関係を把握していた帝国軍は、その獣化兵(ゾアノイド)部隊の側面にパワードスーツ部隊3000を伏せさせていたので、獣化兵(ゾアノイド)部隊が帝国艦艇に攻撃を仕掛けた瞬間に、パワードスーツ部隊は横槍を付ける形で、至近距離からの改良された『ヘビィマシンガン』による『パルス・ブラスター』を連射し、獣化兵(ゾアノイド)部隊が怯んだと同時に、『電磁ブレードソード』で接近戦を仕掛けた。

 

 暫くの激戦が繰り返されたが、どうやらこの夜襲はアラム聖国軍本隊との連動作戦では無かったらしく、それなりの数の獣化兵(ゾアノイド)部隊は屠れたが、軍団規模の数は殲滅出来なかった。

 

 だが、早朝に戦場が明るくなると、思ったより多くの獣化兵(ゾアノイド)部隊が殲滅出来ていたので、帝国軍としては大きな戦果であった。

 

 3月12日①(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 昨夜の夜襲が失敗したにも関わらず、アラム聖国軍本隊は朝から性懲りも無く遠距離攻撃を繰り返して来た。

 帝国軍は、昨日の状況から殆ど遠距離攻撃は意味が無いので、エネルギーと魔法力そして弾薬の無駄をせずに、バリアーでその攻撃を凌ぐ。

 

 だが、当然帝国軍はこの状況に対して無策な訳もなく、着々と反撃の準備を整えていた。

 

 アラム聖国軍が間断無く遠距離攻撃を繰り返して来ていたが、当然物量にも魔力にも限界点は有るし、大砲や野砲が火薬という物理現象を利用した遠距離武器である以上、熱反応による消耗は加速度的に広がる。

 恐らく、アラム聖国は帝国軍の様に限界まで消耗する戦いを経験した事は無く、如何に帝国を研究しようとどうしても経験上、上目線からの視点となりかなり自軍の見積もりは甘くなる。

 このアラム聖国軍の物量枯渇と、魔力欠乏、更には武器の消耗に対する見通しの甘さは、予想出来た。

 

 そして帝国軍は、反撃に転じる!

 

 其れ其れの艦艇の主砲には朝の段階から、予め用意していた新戦略級魔法『コキュートス2』を封入した魔法弾が、装填されていたのだ。

 

 アラム聖国軍側からの、遠距離攻撃が途絶えたタイミングに、各艦艇が一斉に新戦略級魔法『コキュートス2』を封入した魔法弾が、アラム聖国軍の頭上に降り注ぐ!

 

 一気に戦場を、極寒のブリザードが吹き荒ぶ北の大地へと変貌させる、新戦略級魔法『コキュートス2』が炸裂した!

 

 しかし、その凄まじい新戦略級魔法を無効化するべく、アラム聖国軍の各所に設けられたバリアー発生装置は全力で運転している様だ。

 

 その全力運転しているバリアー発生装置に、各艦艇が時弾として装填していた『ヴァルキリー・ジャベリン弾』が発射されて、見事にバリアーそのものを解除してしまった。

 

 この事態に余程驚いたのか、アラム聖国軍側に沈黙の帳が落ちる。

 しかし、当然帝国軍艦艇がこのチャンスを逃す筈もなく、全速力で艦砲を撃ちながら突進して行く!

 戦闘局面は、新たなターニングポイントを迎えようとしているのであった。

 



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3月の日記⑤(人類銀河帝国 コリント朝3年)《会戦2日目② アラム聖国の切り札》

 3月12日②(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 帝国軍艦艇は、総旗艦『ビスマルク』を先頭に全艦隊を引き連れてアラム聖国軍に突貫した!

 ビスマルクはその先端に有る超巨大アダマンタイト製のドリルを、唸りを上げて回転させて雷撃系の魔法を閃かせながら、帝国軍艦艇全体をコクーン(繭状態)の様に包み、攻防一体の陣形を取っている。

 

 その間にも帝国軍艦艇は、あらゆる魔法弾を艦砲で進路上のアラム聖国軍の頭上に降り注がせる。

 それなりの数を減らしていたとは言え、アラム聖国軍は補給軍を含めても400万以上残存していたのだが、大砲や野砲は使用出来ずにいる所為で、有効な打撃力が精々獣化兵(ゾアノイド)の固有武装で有るブラスターと音波兵器やビームしか無く、それらも帝国軍艦艇を覆うコクーン(繭状態)を貫けず、必死に抵抗している様だがどうしようも無く引き裂かれて行った。

 

 20分程で帝国軍艦艇は総旗艦『ビスマルク』を先頭にアラム聖国軍を中央突破した。

 その直後に『中央突破背面展開』と云う軍事的に最高の高等戦術を帝国軍艦艇は見事に行い、そのまま二筋に展開してアラム聖国軍を包囲し始めた。

 流石にこの展開は不味いと考えたらしいアラム聖国軍は、二筋其れ其れの先頭を突き進むアラン様の乗る総旗艦『ビスマルク』とファーン大将の乗る陸上重巡洋艦『ヴィルヘルム』に襲いかかり、何としても完全に包囲される事態を避けようとして来た。

 しかし、如何に獣化兵(ゾアノイド)が人よりも大きいとは言え、所詮は5メートル程の全長しか無いので、帝国軍艦艇は最小の艦艇でも全長150メートル以上なので、殆ど障害とならずに蹴散らされた。

 

 やがて抵抗が無駄と判断したのか、アラム聖国軍はなけなしの魔力で土魔法を使用し、強固なドーム型のシェルター(防護壁)を構築しその中に籠もり、籠城状態となった。

 それに対し、帝国軍は完全な包囲網を構築しおわり、降伏勧告の呼び掛けをスピーカーと立体プロジェクターでの放送で促す。

 1時間に渡る降伏勧告をアラム聖国軍は完全に無視し、帝国軍は更に1時間の期限を設けて、戦闘待機の状態に移行してその間に、補給と故障や魔力充填等の業務を行い始めた。

 

 そして30分程経ち、いよいよ包囲殲滅戦に移行する準備に入ろうとしていると、いきなりアラム聖国軍全体を覆っていた土魔法によるドーム型のシェルター(防護壁)から、触手の様な植物の蔓が伸びてきて、あれよあれよと言う間に、ドーム型のシェルター(防護壁)表面を覆い尽くした。

 

 何らかの魔法であろうと、帝国軍艦艇からの火魔法系の魔法弾が放たれ、一瞬植物の蔓に火は燃え移るが、次の瞬間には火はアッサリと鎮火されるので、この植物の蔓が尋常ではな代物なのは直ぐに判った。

 暫くの間幾つかの魔法攻撃や実弾攻撃を繰り返していたが、どうも相当に強力な戦術級以上の攻撃でないと効かないと判断し、帝国軍全体で準備に掛かろうとした瞬間、

 

 「ビーッ!ビーッ!」

 

 とのアラーム音が帝国軍全体に鳴り響いた。

 お次は何が?と此処まで状況が変転すると、最早アラム聖国軍が我々の想像を越える状況を作り出してくれると、楽しみで仕方ないと云った非常に良くない思いが湧き出してしまい、その感情を抑え込むのに苦労する程だ。

 帝国軍上層部が全員、モニター上で全員参加する中、アラム聖国の首都である『マーラーヤナ』からかなりの速度で飛行して来る1000体程の物体が有った。

 

 《もしや?!》

 

 と自分が期待を込めてモニター画面を凝視していると、やがて超高性能ドローンからの詳細なデータ込みのリアルタイム画像が映し出された。

 其処には全長10メートルから30メートル程の異形な飛行タイプの魔獣が1000体程存在している。

 そしてその後方には、他の飛行魔獣と一線を画す200メートルに及ぶ巨大なドラゴンが飛んでいる。

 

 《あれは!》

 

 そう、自分と空軍に所属する軍人にとって、非常に見慣れた姿を晒しているドラゴンで有った。

 自分は、今から丁度2年前に賢聖モーガン殿から聞かされた、アラム聖国の誇る空軍部隊と切り札と呼べる存在の情報を教えて貰った場面を思い出す。

 

 「・・・そうね、明確な比較は出来ないから難しいけど、空軍だけで云っても、アラム聖国の『聖獣騎士団』の《光翼隊》、スラブ連邦の『機械魔獣軍団』の《魔空旅団》、崑崙皇国の『天龍八部衆』の《八大龍王》、といった連中は貴方方と同等か凌駕しているわね・・・。」

 

 「そのドラゴンの名は、『破滅竜ジャバウォック』。

 貴方達が、何とか倒した『双頭の暴虐竜ザッハーク』よりも恐らくは強いドラゴンよ。

 理由としては、ザッハークは見た所老竜(エルダー・ドラゴン)でしか無いけど、ジャバウォックは明確に古竜(エンシェント・ドラゴン)に該当するわ。

 如何に貴方達の相棒達がオリハルコンの装甲を纏おうと、ザッハークによってグローリアちゃんの装甲は、ボコボコにされてたわ。

 どう見てもグローリアちゃんの装甲より、防御力が下がる貴方達の相棒の装甲では、保って1、2回の攻撃でオリハルコンの装甲は砕けてしまうでしょう」

 

 と賢聖モーガン殿は教えてくれて、『破滅竜ジャバウォック』の姿を詳細に帝国軍に伝え、帝国空軍は2年前から仮想敵としてこの破滅竜ジャバウォックを想定して、特訓を繰り返していたのだ!

 

 アラム聖国と戦うと決まってからは、当然この『聖獣騎士団』の《光翼隊》と『破滅竜ジャバウォック』と敵対するのは当たり前なので、今までの戦闘に一切ドラゴン軍団は投入していなかった。

 

 いよいよ、温存していた空軍の最強戦力で有るドラゴン軍団を迎撃に向かわせる局面になりそうだ。

 



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3月の日記⑥(人類銀河帝国 コリント朝3年)《会戦2日目③『聖獣騎士団』《光翼隊》との戦い》

 3月12日③(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 アラム聖国軍の『聖獣騎士団』《光翼隊》と『破滅竜ジャバウォック』と思われる一団は、アラム聖国の首都である『マーラーヤナ』から出撃すると、一路戦場を目指して飛行して来る。

 その速度は音速に達していて、戦場に程無く到達して来る事は確定である。

 帝国軍は、植物の蔦に覆われたドーム型の防御壁に籠城したアラム聖国本隊の包囲を解除し、全力で『聖獣騎士団』《光翼隊》と『破滅竜ジャバウォック』を迎え撃つ事に決めて、直ちに迎撃用の布陣を取る。

 その間に、自分が統括する空軍はアラン様と共に出撃準備に入った。

 今此処に参陣している空軍は、全体の5割で他の5割は、北方と東方に振り分けているが主力のドラゴン軍団は120頭が、此処に居る。

 ドラゴン軍団は、各々最強の空戦形態に武装を換装させ、次々と準備を終えたドラゴン達は帝国軍艦艇の上空に飛び立ち滞空し始めた。

 そして自分の乗艦である巨大陸上空母『グラーフ・ツェッペリン』から、両サイドに有るカタパルトデッキに、専用の装備に身を固めたアトラス殿とグローリア殿が迫り上がってきた。

 アトラス殿が気合いの乗った声を上げる。

 

 「アトラス及びグローリア!

 『光翼竜(ケツアルコアトル)モード』増装タイプにて出撃する!」

 

 と2頭共に通常の『光翼竜(ケツアルコアトル)モード』は両翼に100枚の羽根を装着しているのだが、その羽根部分も増加装甲に覆われ、胴体部分にも武器が幾つか増加している。

 そしてその増加した装備の重量分を賄う為に、胴体下部には量産型ドローンに使用されている『スクラムジェットエンジン』が取り付けられていて、ドラゴンとしての飛行能力以上の推進力が確保されている。

 

 魔力による飛行推進で静静と音も無く全ドラゴンが帝国軍艦艇の上空で一塊の戦闘集団に固まった。

 

 やがて地平線の彼方に、『聖獣騎士団』《光翼隊》と『破滅竜ジャバウォック』が目視で見えてきた。

 奴らも戦闘集団としてかなのかは判然としないが、大きな塊となってやって来る。

 量産型ドローンからのカメラで細かい『聖獣騎士団』《光翼隊》の構成が判ってきた。

 種類は、

 

 キマイラ、ワイバーン、フライングワーム、マンティコア、虹蛇、ロック鳥、ヒポグリフ等の帝国の『魔の大樹海』でも見られる飛行魔獣達だが、一様に通常の魔物よりも身体が大きく、種類によっては3倍はありそうだし、全ての飛行魔獣が頭に光輝く兜と翼にも光輝く皮膜を被っている。

 どうも此れが、《光翼隊》の異称の由来の様だ。

 

 構成されている飛行魔獣は多岐に渡る様だが、ドラゴンは『破滅竜ジャバウォック』だけらしく、ドラゴン特有の反応は他に無い。

 

 ならば分断は容易いと見た自分は、ヘルメットでの龍脈(レイライン)を通した遠隔感応システムで、ドラゴン達に命令を下し『聖獣騎士団』《光翼隊》と『破滅竜ジャバウォック』を分断した上で、先ずは『聖獣騎士団』《光翼隊》を殲滅する戦術を取る様に指示し、その間はアトラス殿とグローリア殿が『破滅竜ジャバウォック』を牽制するように命じた。

 

 「「承知!」」

 

 と云うアトラス殿とグローリア殿の返事の感応波がヘルメットに届くと、アトラス殿とグローリア殿は一気に高空に舞い上がり、両肩に装着している大口径ブラスター砲で超遠距離に居る『破滅竜ジャバウォック』の胴体に攻撃をぶち当てた!

 

 「シャギャアアアアーーー!」

 

 『破滅竜ジャバウォック』は明らかに戸惑い、そして痛みに驚愕した様な絶叫を発した。

 もしかすると奴は、まともな攻撃を一度も受けたことが無かったのでは無いだろうか、実際アラム聖国軍の戦い方にも現れている通り、同格以上の戦闘の経験が皆無の印象を常に受けていた。

 それ故に、敵に対しての読みが常に上から目線で、正確な見積もりが出来ないでいる。

 恐らく其れは『破滅竜ジャバウォック』にも当て嵌まり、きっと帝国にドラゴンが居る事は把握しているだろうが、決して同格とは思わずに容易く倒せると捕らぬ狸の皮算用をしていたのだろう。

 その格下の相手から、超遠距離攻撃を受けた上に少なく無いダメージを被り、『破滅竜ジャバウォック』は怒り心頭に発しているに違い無い。

 

 案の定『破滅竜ジャバウォック』は、高空に居るアトラス殿とグローリア殿目掛け大きく羽ばたいて、《光翼隊》を残したまま移動して来る。

 

 《想定通りだ》

 

 と思わず声を出さずに自分はほくそ笑み、ドラゴン軍団の先頭に居るガイとサバンナに命令した!

 

 「直ちに新軍団魔法『ファイアートルネード3』を以って、『聖獣騎士団』《光翼隊》を一匹残らず殲滅せよ!

 地上から帝国軍の艦艇による艦砲支援も有るので、バリアーは胴体下部を厚くして、くれぐれも被害を受けないように!」

 

 と指示すると、

 

 「「了解!」」

 

 と2頭からの返答が返ってきて、ドラゴン軍団はガイとサバンナを先頭とした紡錘陣形を取る。

 紡錘陣形が出来上がったドラゴン軍団の周囲に透明な膜が出来上がり、次の瞬間猛烈な炎がドラゴン軍団の周りに吹き上がった!

 そしてその炎は、ゆっくりと旋回し始め暫くすると尋常でない回転となり、戦場の空を赤く燃え上がらせる!

 その信じられない程の猛火に、あからさまに《光翼隊》は怯み、散開して避けようとしたのだが、それを帝国軍が許す訳もなく、《光翼隊》が逃げようおする空域には艦砲による弾幕を張り、一切の逃走ルートを断つ!

 

 やがて充分過ぎる火力と回転力を得たドラゴン軍団は、紡錘陣形を維持した上でその凄まじい炎を纏った螺旋回転で、約10倍の《光翼隊》に突進する!

 逃れようのない状況に、半狂乱となりながら《光翼隊》は炎を吐いたり魔法を唱えたり毒液を吐いたりと、ありとあらゆる攻撃をドラゴン軍団に対して放った!

 だが、そんな攻撃が『ファイアートルネード3』に通用する筈も無く、攻撃が届く遥か手前で「ジュッ」と云う音を残して雲散霧消する。

 

 そしてドラゴン軍団の『ファイアートルネード3』は《光翼隊》の先頭部隊と接触する。

 いや、接触したと見えただけで、実体はまるで其処には最初から《光翼隊》の先頭部隊など居なかったかの様に、抵抗無くドラゴン軍団は進んで行く!

 5秒程で《光翼隊》を呆気なく貫くと、直ぐ様ドラゴン軍団は踵を返し、180度進路を変更すると《光翼隊》の後方部隊に向かって突進する!

 同様の行軍を5回ドラゴン軍団が繰り返す事で、7割の《光翼隊》が燃え尽くす形で地面に落下して行き、落下した《光翼隊》は当然帝国軍艦艇が回収して行く。

 

 頃や良しと自分は判断し、ガイとサバンナに最後の命令を下す。

 

 「トルネード・スパーク発射!」

 

 「「了解!」」

 

 直ぐに訓練通りの返事が2頭から返り、ドラゴン軍団は突進する方向を斜め上に変え、ファイアートルネードだけは《光翼隊》の残り部隊目掛け直進する!

 

 「「スパーク!」」

 

 ガイとサバンナを始めとしたドラゴン軍団が、戦場に轟く咆哮の様な叫びを上げると、ファイアートルネードが《光翼隊》の残り部隊の中心部辺りで、一気に爆散した!

 

 この凄まじい爆発で、辛うじて飛行していた《光翼隊》の残り部隊は全て炎に包まれて落下して行った。

 此処に、周辺各国を蹂躙し続けたアラム聖国自慢の『聖獣騎士団』《光翼隊》は、一匹残らず殲滅の憂き目に遭ったのであった。

 



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3月の日記⑦(人類銀河帝国 コリント朝3年)《会戦2日目④ジャバウォックとの決着》

 3月12日④(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 アラム聖国自慢の『聖獣騎士団』《光翼隊》を殲滅し、超高空で凄まじい戦いを続けるアトラス殿とグローリア殿が超スピードで飛行する姿が、太陽に煌めいて燦然と輝いて見えた。

 

 『破滅竜ジャバウォック』は、盛んに口からアシッドブレス(酸の息で様々な状態変化を引き起こすブレス)を吐くが、アシッドブレスは速度が遅いのでまるでアトラス殿とグローリア殿に当たらないが、正直当たったとしてもバリアーでアッサリ防げそうだ。

 

 恐らくジャバウォックは相当舐めていたのだろう、どうにも当たらないアシッドブレスから別のブレスに変えて来た。

 

 所謂レーザーブレスと言われる光線状のブレスなのだが、通常のレーザーブレスと違いジャバウォックの放つレーザーブレスは色が黒く、極太の光線であった。

 

 黒いレーザーブレスは相当な威力で、例の獣化兵(ゾアノイド)が伏せていた山脈にアトラス殿とグローリア殿が避けた黒いレーザーブレスが当たると、何と山が切断されて暫くするとずれ始めた。

 幸いな事に、この戦場に使われた地域は人家は無く、近くに人が居ない事も確認している。

 なので、山が崩落しても人に被害がないのは救いだった。

 

 しかし如何に山が切れようが、穴を開けれようと、当てられなければ意味が無い!

 どうしても攻撃を当てられないジャバウォックは、激怒し始めて全身から異様なオーラを立ち上らせ出して、突然全身から瘴気を吹き出した。

 

 その様子を見てアトラス殿とグローリア殿は、かなりの距離を開けて遠距離攻撃の両肩に装着している大口径ブラスター砲で収束させた粒子砲を、2頭同時に斉射した!

 

 その強威力の粒子砲は、ジャバウォックの胴体を覆うアラム聖国謹製の鎧を破壊し、その鎧に装着していたらしいバリアー発生装置が、地面に落ちて行く。

 

 その状況を確認し、自分はドラゴン軍団の補給と魔力充填を終えていた事もあり、アトラス殿とグローリア殿への援軍として参加させる事をアラン様から許諾を戴き、ドラゴン軍団を参戦させる。

 

 ジャバウォックは遠巻きに100頭を越えるドラゴンが、自分に対し遠距離攻撃を掛けて来たので、牽制するつもりらしく黒いレーザーブレスを吐いてきたが、距離がある上に量産型ドローンが遠隔で飛ばして来た幾重ものバリアー壁のお陰で減衰したので少しもドラゴン軍団に被害を与えられない。

 

 「ガアアアアアアアア!!」

 

 苛立ちと焦燥からだろう、絶叫を上げ続けるジャバウォックは身悶えしながらひたすら全身から瘴気を吹き出している。

 

 そういった戦闘状況を繰り返していれば、何れは如何にジャバウォックと言えど疲労して来るだろうから、倒せると思ったがアラム聖国は幾度も予想を越える隠し玉を出してきたので、なるべく早く決着を着けましょうとアラン様に進言し、アラン様も進言を受け入れてくれてアトラス殿とグローリア殿に、特訓して来た必殺技の一つを繰り出す事を命令した!

 

 アトラス殿とグローリア殿は、ドラゴン軍団と帝国軍艦艇がジャバウォックを牽制している内に、成層圏まで一気に上昇すると、2頭の翼下部に収納していた100枚ずつの羽根が展開し、200枚の羽根が円形を形作り魔法による重力レンズを作り上げた。

 当然太陽光が収束し始め焦点をジャバウォックに向けると、魔力による凝縮と物理的な理論で数百万度のレーザーがジャバウォックの身体を容赦無く焼いていく!

 

 「グギャアアアアーーー!」

 

 と叫びながらジャバウォックがもんどり打つ様に空中で暴れている。

 

 その間にアトラス殿とグローリア殿は、各々の翼を大きく広げて太陽エネルギーを吸収し、両肩に装着している大口径ブラスター砲から2頭の間に凝縮したエネルギーの槍を創り上げる。

 

 やがて燦然と輝くエネルギーの槍が完成し、グローリア殿がジャバウォックとの間にエネルギー誘導の道を創り、アトラス殿が魔法で構築した手でエネルギーの槍を掴んで大きく振り上げる!

 そして狙いを定めたアトラス殿が叫ぶ!

 

 「プロミネンス・ジャベリン!」

 

 次の瞬間アトラス殿はエネルギーの槍を投擲した!

 

 「ガッ!」

 

 と堅い物に鋭い刃物が突き立つ音がしたかと思うと、ジャバウォックの頭頂部にエネルギーの槍が突き立っている。

 数瞬の間が開き、ジャバウォックの身体が大きく傾いて行くと、突然ジャバウォックの首から上の頭が爆発した!

 

 「ドオオオーーーン!」

 

 という轟音が戦場に鳴り響くと、ジャバウォックの身体はそのまま地面目掛けて落下していく。

 

 《終わったか》

 

 と安堵の息を吐きつつ、自分が座っている作戦室の座席の背もたれに寄りかかり、ドラゴン軍団に地面に落ちたジャバウォックを警戒しつつ待機せよと命じた。

 

 やがて、成層圏に居たアトラス殿とグローリア殿が帝国軍の上空に姿を現し、帝国軍全体が弛緩した空気に満ちて、確認の為に落下したジャバウォックを見る。

 何と、運が悪かったのかジャバウォックが落下した場所は、アラム聖国本隊が籠城した植物の蔦に覆われたドーム型の防御壁で有り、あまりの衝撃の所為かドーム型の防御壁は大きく凹んでいる。

 

 此れは被害が大きいだろうなとのんびりと考えていると、次に起こった事態は帝国軍の誰もが想像していた埒外で有った!

 信じられない事に、ドーム型の防御壁の周りを覆っていた植物の蔦が、ジャバウォックの首が無い身体を飲み込む様に覆い尽くすと、其処に巨大な花を咲かせたのだ!

 

 あまりの事態に、帝国軍がアラン様を含めて呆然としていると、轟々とその巨大な花は周囲の空気を吸い込み始める。

 事態の急変にアラン様が、帝国軍全員に退避の命令を下し、帝国軍艦艇は10キロメートル程後退し、地面にアンカーを打ち込んでバリアーを最大出力で展開する。

 

 それから5分後、周囲の空気を吸い終わった巨大な花は突然大爆発を起こし、帝国軍艦艇はその衝撃波に耐え忍ぶ。

 

 その途轍も無い大爆発に戦場一帯が粉塵で覆われていたが、やがて粉塵が収まると其処には巨大なクレーターが地面に出来ていた。

 自分の想像した結末を戦闘前は色々と思い描いていたが、現実はあまりにも予想外過ぎて、呆然として巨大クレーターを眺めるしか無かった。

 



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3月の日記⑧(人類銀河帝国 コリント朝3年)《第3都市『ムンバイ』到着》

 3月13日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 昨日の激闘と出来上がってしまった巨大クレーターの跡地近くで駐屯し、戦闘後の後始末と精査を行っている。

 本来なら、アラム聖国の首都の『マーラーヤナ』に向けて進軍すべきなのだろうが、昨日起こった幾つかの想定外の事態を確認しないと、これからのアラム聖国との戦いを優位に進められるか帝国軍上層部が不安に思ったからだ。

 

 3月16日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 色々な痕跡やドローンで撮影されていた動画を確認して、幾つかの事実が確認された。

 若干残っていた植物の蔦を精密検査した処、どうも獣化兵(ゾアノイド)が変異した物である事が判明した。

 つまり、土魔法で防御壁を作って籠城したと思われていたが、実はその段階で獣化兵(ゾアノイド)は植物の蔦に変異していた様だ。

 そして『破滅竜ジャバウォック』が其処へ落ちて行ったのも、偶然などでは無く最後の力で植物の蔦で覆われたドームに向かったらしい。

 そして植物の蔦から巨大な花が咲く直前に、空気が吸い込まれたと思われていたのだが、厳密に言うと吸い込まれていたのは二酸化炭素らしく、逆に酸素濃度が付近一帯に満ちていたらしい。

 らしい、と言うのは自分は今までしらなかったのだが、植物と言うのは光合成とやらをする際に、二酸化炭素と云う空気中に含まれる物質を吸収し、酸素と云う空気中に含まれる物質を精製するそうだが、自分には判らない(何でも『学校』では小等部で教わるそうだ)。

 

 自分はその当時他の方向を見ていたので気付かなかったが、どうやらジャバウォックを中心に構成された『種子』の様な物が形成されていて、次の瞬間巨大な花が大爆発を起こしてその『種子』を放出したらしいのだが、その規模が常識外過ぎていて、何とその『種子』は此の惑星から飛び出して、宇宙へ放出されたらしい。

 信じ難い話しだが、そもそもそんな事をしてまで何をしたかったのか理解不能なので、一旦棚上げにしてアラム聖国攻略に力点を置こうと決断した。

 

 3月20日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 準備を整えて、アラム聖国攻略する為に帝国軍艦隊は、主要幹線道路をゆっくりと東方に進軍する。

 此れまでの帝国軍の道程はしっかりとインフラ整備を行い、カトマンズには巨大なドームを建設する為に、小型のドームが20基カーゴシップで輸送されて来ている。

 現在、帝国でのインフラ整備を統括する超巨大省庁である国土交通省大臣は、ファーン大将の長男であるレオン財務省・総務省大臣が此れまでは兼任していたのだが、カトル大臣(運輸省・ギルド管理庁・企業庁)とアベル(元ベルタ王国宰相ヴェルナー卿の息子)外務大臣と共に協力し、ヴェルナー国務大臣が全体を統括している。

 まあ、実際の処はアラン様の指示の下、優秀な高級官僚が事務を推し進め、各企業体と一緒に活動している。

 お陰で、此の超巨大省庁である国土交通省には、帝国の官僚と地方職員だけで10万人に及び、実際に仕事を熟している関連の企業体とギルド職員を含めると500万人を越えるので、帝国軍と帝国警察機構に次ぐ巨大組織に今では成長している。

 恐らくは、現在組織化され始めた崑崙皇国の『土木工事共同体』とも関係を密にするだろうから、遠からず帝国最大の組織となるのだろうな。

 

 3月22日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 アラム聖国の3番目の都市である『ムンバイ』に到着した。

 此処は、アラム聖国の内陸に有る商業都市としては最大の都市で、帝国の宣戦布告を受けてからは早々に中立宣言をだして、事実上アラム聖国からの独立をした国家となった形だ。

 元々、アラム聖国の首都である『マーラーヤナ』は、人口では『ムンバイ』の30分の1しか居ない純粋な宗教都市で、経済活動等の人の生活に根ざした基盤を持たずに、周辺の都市や宗教的な利権でしか成り立たない都市なので、3番目の都市である『ムンバイ』と2番目の都市である『デリー』は不満を募らせていたのだ。

 此の点に着目していた帝国中央情報局は、エルヴィン局長が最重要と考え密かに三聖人の『カルマ』殿の協力の元、予めムンバイの上層部に働き掛けて帝国とアラム聖国が戦争状態に入り、アラム聖国が国内の締付けが緩んだ段階で、ムンバイに居た軍隊を三聖人の『カルマ』殿がワザと命令を出して『マーラーヤナ』の援軍に向かわせた事で、事実上軍事力の存在しない無抵抗都市となっていたのである。

 そして帝国軍が、ムンバイに到着して早々に東方教会の宗教指導者達は、アッサリとムンバイから放逐されてしまい、かなりの人数が『マーラーヤナ』目掛け退去していく。

 

 どうもアラム聖国と云う国は、聖と云う言葉を冠している割には宗教色がそれ程浸透していないと感じる。

 その事を疑問として、会議の時にカトウに質問すると、カトウが説明してくれた。

 

 「帝国始め西方教会圏では、『ルミナス神』の前では全ての民は皆平等な信徒でありますが、アラム聖国の東方教会圏ではカースト制と呼ばれる階級制度が存在していまして、『ルミナス神』を同じく信仰していますが、順位のある階級制度で神の恩寵がある事になっているのです」

 

 と、自分を含む帝国人にとっては想像出来ない論理を開陳して来た。

 

 《それでは何か、『ルミナス神』が人の階級によって差別する事を容認する社会体制だと言うのか?!》

 

 とてもでは無いが、あの優しげに常に微笑まれている『ルミナス神』が人を差別すると云う、信じ難い事を東方教会圏では信仰しているというのか!

 カトウは続けて話してくれて、

 

 「実は、アラム聖国とその従属国では階級によって、『ルミナス神』を信仰する度合いは全く違い、より階級の上の者ほど信仰心は強く、平民はそれ程信仰しておりません。

 そしてその階級が上とされている者達の、アラム聖国での人口比率は3%程で、大多数の平民はそもそも国がどうなっているのかサッパリ判らない状態が、アラム聖国が始まって以来疑問にも思わずに過ごしています」

 

 との説明をされて、自分は此れまでのアラム聖国に侵攻してからの道中、アラム聖国の平民から一度も敵意を向けられず、ただ帝国軍の艦艇を物珍しそうに見ている風景が思い出された。

 



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4月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝3年)《『ムンバイ』での政治交渉》

 4月1日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 アラム聖国の3番目の都市である『ムンバイ』にて、アラン様は広場に設えた壇上でアラム聖国の国民に対しての演説を始めた。

 

 「・・・アラム聖国の民に告げる!

 我は人類銀河帝国初代皇帝アラン一世である。

 人類銀河帝国は、此れまでのアラム聖国上層部による様々な帝国と西方教会に対するテロや暗殺行為、そしてアーティファクトと魔道具頭の略奪行為に対し、アラム聖国の代表たる『パウロ法皇』と指導部へ詰問の使者を此れ迄幾度も差し向けたが、全ての使者が手酷い形で追い返されてしまった。

 常識的な外交チャンネルでの折衝も、にべもなく玄関払いされてしまい、一切の交渉を打ち切られた!

 

 よって我等人類銀河帝国と西方教会は、力による問題解決を図らなければならなかった。

 しかし、其れはあくまでも宗教指導者と一部の支配層に限られる。

 当然アラム聖国の平民と政策決定に関わっていない方々には責任が存在しないので、人類銀河帝国は責任を追求しないし、今後の新しいアラム聖国の指導者との友好関係を進める為にも、人類銀河帝国は全面的に支援して参りたい!

 なので、何か困った用件や事情がお有りならば、どうぞ人類銀河帝国の出張機関をムンバイの政庁に併設していますので遠慮なく相談して戴きたい!」

 

 最後の方は、アラム聖国の国民に対してのリップサービスの様で、にこやかな笑いを零しながら話された。

 

 その演説は、予め中立宣言をしたアラム聖国の主要都市に設置していた、大型モニターを通して放送されかなりのアラム聖国の国民が見てくれて、放送が終わってからかなりの反響があったらしくて、帝国から連れてきた行政職員達がてんてこ舞いになった様だ。

 

 4月8日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 あのアラン様の演説がアラム聖国の全土を駆け巡ってから1週間経ち、主要都市以外の地方都市や様々な市町村からの反応が多数有り、其れ其れの都市からの有力者が『ムンバイ』に集合して来た。

 そんな中、アラム聖国の2番目の都市である『デリー』から、過去に藩王と云う立場に居た『クリシュナ・ラージャ』と云う方がアラン様に会うべく来訪した。

 彼は既に70歳の老境にあったが、まだまだ矍鑠としたものでしっかりとした足取りで、ムンバイの政庁の階段を自分の両足で登り、5階にあるアラン様の執務室で今後のアラム聖国を話しあったそうだ。

 

 この様な、事実上のアラム聖国の戦後処理と思われる様な話しがされているのも、其れ其れの都市に駐留していた、獣化兵(ゾアノイド)を含む軍隊が、先の会戦でアラム聖国軍での敗北が伝わると、どうやら南方に有る巨大な軍事基地に撤退したらしい。

 そうなると、事実上東方教会の教団が無理矢理軍事力で以って支配していた各地方都市は、アッサリと教団から都市の支配権を取り戻し、昔の封建政治とは違い其れ其れの都市で相談の上で、有力者や顔役の様な人物を選出して代表者として『ムンバイ』に来て、教団の強権的な政治体制に各地方都市はうんざりしていた事もあり、いち早く帝国の統治システムを聞くべくやって来ているらしい。

 

 しかし、まだアラム聖国は全ての都市が帝国に靡いた訳では無いし、まだアラム聖国軍は半分以上の兵力を残している事は判っていて、近く戦争状態に入る事になるだろうと噂されていた。

 

 4月15日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 アラム聖国の北部に存在する首都の『マーラーヤナ』から、三聖人の一人で有る『カルマ』殿から此の日の夕刻に緊急の通信が入った。

 内容は、アラム聖国の代表たる『パウロ法皇』と一部の宗教指導者が殺されたと云う報告で有った。

 その状況と様々な目的が有り、『ムンバイ』に帝国軍艦隊を駐留させたまま、アラン様と自分其れに親衛隊の手練達は、ドラゴンの輸送カーゴに久し振りに乗って直ちに首都『マーラーヤナ』に向かった。

 

 その間にも、北方方面からの牽制をしてくれていた、ビクトール大将の率いる北方方面軍は直ちに南下してくれているが、如何せん山脈の間の細い道をなるべく壊さない形で、陸上艦船を移動させねばならずに行軍スピードは圧倒的に遅い。

 ただ、元々対峙していたアラム聖国軍はサッサと撤退してくれていたので、何の抵抗も無いのでその辺の苦労は無い様だ。

 

 しかし、どう考えても首都の『マーラーヤナ』に北方方面軍が到達するには後1週間は掛かるので、空中移動の早い空軍がサッサと移動を開始したと言う訳だ。

 かと言っても、如何に空軍が早いと言っても準備に時間も掛かり、後の引き継ぎにも時間が掛かった。

 よって、『ムンバイ』を出立したのは夜の23時を回っていたので、早くても明日の早朝にしか首都の『マーラーヤナ』には着けないだろう。

 其れにしても、どういう事なのだろうか?

 アラム聖国の代表たる『パウロ法皇』とは、今時の大戦と今までのアラム聖国が関与する様々な犯罪行為の責任者に他ならず、当然公の場で此れまでの事実を認めさせて、罪を償わなければならない張本人と、帝国側は考えていたのだ。

 一気に混迷を深めた情勢に、自分は不安を抱かざるを得なかった。

 



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4月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝3年)《アラム聖国の変事》

 4月16日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 早朝にアラム聖国の首都『マーラーヤナ』に、アラン様と自分其れに親衛隊の手練達は、ドラゴンの輸送カーゴに久し振りに乗って到着した。

 始めての来訪で以前の賑わいを知らない所為かも知れないが、早朝の為か人っ子一人いない路上と人が居れば当たり前の喧騒と炊事の煙が無く、まるで廃墟の様に閑散とした都市で有った。

 

 そんな中、予め此の『マーラーヤナ』に潜入していて、三聖人の一人で有る『カルマ』殿に協力している帝国中央情報局の職員が、片腕に包帯を巻いた状態でドラゴンが着陸した広場に出迎えた。

 帝国中央情報局の職員は直ちに跪くと、

 

 「陛下!申し訳ありません!

 私共の任務である『パウロ法皇』と一部の宗教指導者の身柄保護と云う、最重要任務を果たす事が出来ませんでした!」

 

 と報告して来たのだが、直ぐにアラン様は職員を立ち上がらせると答えられた。

 

 「いや、其処まで謝る必要は無い。

 あくまで最重要任務とは云え、出来ればと云う程度の話しでしか無くて、お前たち帝国人の生命を脅かしてまで保護する必要は無いよ。

 其れに、概略として報告された状況では、小型の獣化兵(ゾアノイド)もかなりの数襲撃に参加していた様だし、無理をして全滅する方が余程帝国にとって損失だ。

 生きて私に報告出来ているそなたの判断は間違えていない」

 

 と断じられたので、帝国中央情報局の職員は涙ぐみながらも「ハッ」と返事した。

 

 そして職員の案内の元で、アラン様と我々は『マーラーヤナ』中心部で存在感を否応無く放っていたであろう壮麗な建造物に向かう。

 その建造物の名は『タージマハール』と言い、東方教会圏に於ける最高権威を象徴していて、膨大な信者の寄進により維持運営されていたらしい。

 らしいと云うのは、現在此の『タージマハール』は明らかに半壊していて、其の特徴的な屋根部分には穴が空き、横に有ったと思われる礼拝所は完全に崩壊している。

 

 ある程度原型を保っている聖職者用の宿舎から、褐色の肌で体格の良い上半身裸の男が出てきて、アラン様と我等を迎えてくれたが、何だか自分は此の男に見覚えが有った。

 

 《何時か出会っていたかな?》

 

 と疑問に思いながら、その男から案内されて室内に入ると、2年半前の不可侵条約を締結する為に、帝国に来訪された外交交渉団に身分を偽り参加していた、三聖人の一人で有る『カルマ』殿が複数の男女を引き連れて現れた。

 何故か、その従者の様な男女にも見覚えが有り、自分の中で疑問が広がる中アラン様と『カルマ』殿は互いに歩み寄られ握手された。

 『カルマ』殿が、

 

 「良くこんな不躾な喚び出しに応じて頂き、有難うございますアラン陛下!

 もう少し物事が片付いて来訪して貰う予定だったのに、突然の事態の所為で緊急の呼び出しに応じて貰うしか無かったのだ。

 此の様な形での来訪要請に応じて頂き、且つ礼をわきまえない対応を寛恕して貰いたい。

 話しを進めさせて頂くが、事前連絡した通り、アラム聖国の代表たる『パウロ法皇』と一部の宗教指導者が殺されたのだ。

 犯行は、昨日の朝の三聖人と各部門の宗教指導者7人による、定例会議中に起こった。

 何時もの様に、今後の帝国との関係修復と戦後の事後処理を議題としていたのだが、此処最近は和平に傾いていた『パウロ法皇』と宗教指導者7人に対し、私『カルマ』は敢えて中立の立場で対立しない様にしていたのだ。

 しかし、三聖人の一人にして教団内NO,2に位置する『アグニ』が、徹底抗戦を以前より主張し、全く歩み寄ろうとしなかったので、昨日とうとう『パウロ法皇』と宗教指導者7人は『アグニ』を無視して、停戦交渉に入ろうと決定した。

 すると『アグニ』は突然静かになると、会議室を断り無く出て行き、暫くすると小型の獣化兵(ゾアノイド)を含む兵士を伴ってやって来て、我々を殺そうとする凶行に走った!

 本来、獣化兵(ゾアノイド)や聖国の兵士は、調整培養の段階で絶対的な服従が、聖国の宗教関係者に対して施されていて、此の様な犯行が出来る筈も無いのだが、恐らくは『アグニ』が子飼いの獣化兵(ゾアノイド)や兵士を事前に調整培養していて、此の日の為に近くに伏せさせて居たのだろう」

 

 と長い溜息をついて、『カルマ』殿は嘆息すると続けて話し出した。

 

 「いきなりの凶行に、私以外の『パウロ法皇』と宗教指導者7人はアッサリと殺されてしまったが、私は隣室に控えさせていた『十二神将』の懸命な奮戦と、帝国の情報局の職員の頑張りのお陰で無事虎口を脱すると、奴らが知らない隠れ家に籠もり貴方方との秘密回線を通し連絡を取ったのだ。

 だが、その間に『アグニ』とその一派は、此の『タージマハール』に存在する、膨大な数のアーティファクトと魔道具、そしてアラム聖国の最秘奥の遺物にして法王庁地下に眠る『聖なる頭脳』が奪われてしまった!」

 

 それを聞いた途端アラン様は、傍目にも判る程の怒りを示されて拳を握り締めている。

 恐らくあの時に『カルマ』殿が話された、『サイヤン帝国』由来の遺物を奪われた事に、相当怒られているのが察せた。

 



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4月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝3年)《隠れ里『ラサ』》

 4月17日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 昨日は色々な状況整理と『タージマハール』と法王庁地下の探索が行われた。

 その際に、自分とカトウは『カルマ』殿の側近で有る『十二神将』の幾人かと、グループになって探索を行った。

 その時に、『十二神将』の方々に会った当初から感じていた、モヤモヤとしていた疑問をぶつけてみた。

 

 「・・・変な話しに思われるかも知れないが、どうも貴方方とは以前に出会っている気がしてならないのだが、はっきりと思い出せないので出来れば私に会ったことがあるのであれば、その場所やタイミングを教えて頂きたい!」

 

 と尋ねると、「嗚呼っ」と一人の『十二神将』が頷かれると、右手に嵌めていた魔道具えお思われる指輪を己の顔面に翳し、「変装タイプA」と唱えると顔が変貌した。

 驚いてマジマジと顔を見ると、その顔に自分は見覚えが有る事に気付いた。

 そうその顔は、今から10ヶ月前の第二回『世界武道大会』の『徒手空拳部門』で、1回目の準決勝戦にてミツルギ殿と見事な戦いを繰り広げた『パヤット』殿の顔であった。

 

 「あの時は、立場がバレる訳にはいかなかった事と、アラン陛下から我等『十二神将』の力量を見せて欲しいと要望されたので、顔を変えて出場しました。

 しかし、流石ですね空軍指揮官ケニー准将!

 出来る限り、気配等を偽って行動していたつもりですが、見破られるとは!」

 

 とパヤット殿が種明かしと、あの時の背景を教えてくれたが、厳密に言えば自分は見破ってなど居らず、違和感を抱いた程度なので、買いかぶりも良い所だ。

 その事を伝えても、パヤット殿は「いやいや、大したものです!」と称賛してくれた。

 成る程、あのミツルギ殿と見事な戦いを繰り広げた方ならば、そんじょそこらの兵士ならば相手にならないだろうし、獣化兵(ゾアノイド)とは言え小型のタイプであれば対抗出来ただろう。

 諸々の疑問点が解消し探索作業に集中すると、やがて法王庁地下に有ったと言われたアラム聖国の最秘奥の遺物『聖なる頭脳』が、鎮座していたと思われる廟所の横壁に空けられた大きなトンネルが発見できた。

 かなり深いトンネルらしく、ライトの魔法が使える魔道具『カンテラ』を翳しても、終着点が照らせなかった。

 少なくともこのトンネルは、2キロメートル以上の地下道である事が判明した。

 そして此のトンネルが作られていた年代は、壁の状況を確認すると100年以上前なのが壁の滑らかさから判った。

 

 他のグループの探索チームも殆ど収穫が無くて、本日は持ち寄った証拠類とドローンによる探知魔法と地下探査から、ある程度の現状が把握出来た。

 

 どうやらトンネルを遡った地下通路は途中で破壊されているらしく断絶していた。

 なので此れ以上のトンネルからの情報や証拠は押さえられなかった。

 

 ただ掘られた地下道の方向は南方方向なので、恐らくは例の『アフリカーナ大陸』の巨大地下都市に繋がっているのだろう。

 

 4月20日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 アラン様と『カルマ』殿の合意の元、アラム聖国の首都『マーラーヤナ』からやや北方にある、アラム聖国の原点とも言える隠れ里の様な場所に向かう事になった。

 其処の地理を教えて貰うと、直ぐ近くにはあの『レールガン(電磁投射砲)』が存在する山脈が有る。

 必ず関係が有ると思われるので、『マーラーヤナ』に滞在していた空軍と親衛隊は全員向かう事にして、入れ替わりにビクトール大将の率いる北方方面軍が到着したので、『マーラーヤナ』の治安維持と占領を任せた。

 

 2時間半程のドラゴンでのフライトを、『カルマ』殿と側近で有る『十二神将』に輸送用のカーゴタイプでしてもらい、アラム聖国の原点とも言える隠れ里『ラサ』に到着した。

 隠れ里『ラサ』は、隠れ里と称するに相応しくまるで人っ子一人いない廃墟の様な所で、主要幹線道路からも離れていて、余程の用が無ければ誰も立ち寄らない場所に有った。

 しかし、其れは表向きの話で或る壊れかけた家屋に入り、巧妙に隠された地下室を下ると、やがて非常に立派な扉が見えて来た。

 『カルマ』殿が其の扉に近付くと、何やらくぐもった声で扉側から符牒を問うて来たので、『カルマ』殿が静かに答えるとゆっくりと扉が開き、我々は扉の中に入る。

 

 其処には、思っていた以上の人々が働いていて、やたらと忙しそうにトロッコの様な車両に良く似た物で、容器に入った液体を運んで行く。

 

 良く判らないが、人々の間を抜けて我々は暫く通路を進み、やがて途轍もなく広大な空間に出た。

 其処でも人々が忙しく働いて居るのだが、人々は基本的に広大な空間の真ん中にまるで埋まっているかの様な建造物から伸ばされている、奇妙なチューブから出てくる液体を容器に移して搬出する作業が大半の様で、他はチューブの途中や時折建造物の出入り口らしき場所で出入りしていた。

 

 暫くその作業を見ていると、隣に佇んでいたアラン様が震えて居るのが伝わり、驚いてアラン様に視線を移すと、明らかにアラン様が興奮して居るのが見て取れた。

 

 《こんなにアラン様が興奮されるとは!この建造物は一体何なのだ?》

 

 我等が不審げに建造物を見やっていると、どうやらこの作業場の責任者を引き連れて『カルマ』殿が戻ってきて、我等に説明し始めた。

 

 「驚かせてしまった様だが、先ずは説明させて欲しい!

 この建造物こそが、現在のアラム聖国の繁栄の礎にして未来への道標そのものなのだ!

 その名は・・・」

 

 「・・・サイヤン帝国第18宇宙艦隊所属、コーラス級護衛艦コーラスⅢ・・・」

 

 アラン様は、『カルマ』殿の言葉を奪う様に言われながら、建造物の一点を凝視している。

 其処には、我々には読めないが文字と覚しき記号が刻まれていて、どうやらアラン様はその文字を読んだらしかった。

 



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4月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝3年)《アラム聖国軍支配の秘密》

 4月23日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 2日前に帝国から、魔法技術局の最新鋭の『飛空艇・魔法技術局専用機』がやって来て、山脈の開閉口から入って貰い、今は半ば地面に埋まっている船の探索と詳細な調査を行っている。

 やって来たのは、賢聖モーガン殿を中心に魔法技術局の職員と、帝国の艦船開発の総責任者ドレイク殿とその愛弟子トカレフ達若手の技術者達だ。

 現地の管理責任者や研究員と、早速様々な情報交換をやっていて、凄まじいばかりの熱気に満ちたやりとりが近くを通る度に聞こえて来る。

 そんな中、カルマ殿とアラン様はお互いの幕僚達と共に、アラム聖国の軍隊の状況とアラム聖国の代表たる『パウロ法皇』と一部の宗教指導者を殺害し、雲隠れをしている三聖人の一人にして教団内NO,2に位置する『アグニ』が、潜伏していると思われる『アフリカーナ大陸』の地下都市に対して、どう対応するかの会議がぶっ通しで行われている。

 あまりにも膨大なアラム聖国の全土に配備されていた軍隊と其の武器、そしてアラム聖国の従属国に駐留させていた軍隊の動向、其れ等の行軍進路をどの様に阻害するかの方針が検討されているのだ。

 

 《しかし、本当にアラン様には頭が下がるな》

 

 普通、此の大陸に於ける王族や皇族と云う国のトップは、ワザワザ危険極まりない戦場には近づかずに、安全な城の奥で軍人に戦を任せているものなのだが、子供を産む前までのクレリア様とアラン様は当たり前の様に、軍隊の最前線で指揮をするどころかアラン様に至っては、どの様な戦だろうと我こそは帝国の軍人であると言わんばかりに、我々帝国軍人にその雄々しい背中を見せながら先頭を駆ける!

 そのあまりの当然であると云う態度に、何時しか帝国の軍隊は設立以前からアラン様の先陣が当たり前になっていた。

 今も、アラン様が国家の方針と作戦を練るにあたっての状況把握を、率先している姿は正に帝国の指導者としての、凄まじいばかりの覚悟がお有りなのが良く判る。

 此のアラム聖国との戦乱が終われば、事実上セリース大陸どころか、我々の住む此の惑星アレスの運命が決まり、漸くの平和な日常が皆で謳歌出来るに違い無い、そうなればアラン様も愛する奥方様達と御子様達に囲まれて平穏な暮らしを営める筈だ。

 その日が一刻も早く訪れる事を念じて、我等帝国軍人一同は勝利の日に向かい邁進しようと思う。

 

 4月25日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 アラム聖国の従属国たるビルマ仏国から撤退して来るアラム聖国軍を、ゆっくりと追う形でビルマ仏国を通過して崑崙皇国軍がアラム聖国に入国した。

 その崑崙皇国軍総司令官である『楊大眼』殿とモニター越しに、アラン様とカルマ殿は3者会議を行い、アラム聖国の2番目の都市である『デリー』で合流する事が決まった。

 

 どうもアラム聖国軍は、獣化兵(ゾアノイド)を中心に従属国やアラム聖国各地の軍を全て糾合しながら、南方の『アフリカーナ大陸』と地下で繋がる大地下トンネルが有る基地に向かっている様なのだが、しきりと崑崙皇国軍に対して遊撃戦を加えて来ては、進軍スピードを落とす事に腐心しているらしく、何らかの意図を考えざるを得ず、その事も相談したいそうだ。

 

 此のアラム聖国軍の比較的しっかりとした指揮統一が図れている状況は、カルマ殿によって説明されていた。

 今から凡そ2年8ヶ月前の捕虜となった25万以上のアラム聖国軍は、『複製体(クローン)』という存在であり、例のアーティファクト『テンプテーション』と『聖水』の服用で命令通りにしか動かない、事実上の奴隷兵であったが、あれから『聖水』の改良と『テンプテーション』に頼らない形の『複製体(クローン)』達を操る魔道具が生み出され、更に新しい『聖水』を利用した獣化兵(ゾアノイド)を培養する技術が確立し、『複製体(クローン)』から獣化兵(ゾアノイド)を主体とした軍隊に移行させていた様だ。

 更に此の獣化兵(ゾアノイド)達はアラム聖国の宗教指導者に対しての絶対服従が、培養する段階から刷り込まれている。

 然もその絶対服従の順位は、アラム聖国の『カースト制度』と同様に身分に基づく順番なのだ。

 つまり、アラム聖国の代表たる『パウロ法皇』が殺された現在、獣化兵(ゾアノイド)に命令出来る最上位者は、自動的に三聖人の一人にして教団内NO,2に位置する『アグニ』が手にしている。

 然も、アラム聖国の最秘奥の遺物『聖なる頭脳』を略奪する事で、其の命令権限の解除が出来なくなっていて、恐らくはロックされている。

 

 その事を確認する作業を何度か、アラン様とカルマ殿はあらゆる方向のトライアルで試したそうだが、全て通じなかったそうだ。

 なので仕方ないから、『アグニ』の所在が判らない現在、獣化兵(ゾアノイド)達と戦わなければ、恐らく『アグニ』が潜伏していると思われる『アフリカーナ大陸』の地下都市に向かう事が出来ない。

 一から製造された生命とは云え、殺さなければ前に進めない現状は、中々辛い話しである。

 



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5月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝3年)《3大国作戦会議》

 5月1日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 アラム聖国の2番目の都市である『デリー』にて崑崙皇国軍と合流出来て、帝国軍との併せた総兵力は凡そ300万人と云うとんでもない数となった。

 帝国は此の時までに、帝国に残して来た兵力の内、ヴァルター大将が率いる西方・南方方面軍以外の全てと言って良い軍団が、アラム聖国に駐留している。

 ビクトール大将が率いる北方方面軍50万人は、アラム聖国の治安維持の為に各地の都市に駐留し、諸々の変事にも備えており、自分の空軍のドローンから入る情報によって、適切な対応に出れる様になっている。

 新たにアラム聖国にやって来た、セリーナ・シャロン両少将が率いる高機動軍10万人と重機動軍10万人。

 それに、今まで一度として帝都コリントから動かなかった、ヘルマン中将率いる帝都守備軍10万人が、帝国軍の布陣に加わっている。

 作戦当初からの帝国軍、ダルシム大将率いる中央軍30万人、ファーン大将率いる東方方面軍50万人、自分率いる空軍10万人。

 つまり、『デリー』に集まった総兵力300万人の内、帝国軍は合計120万人で、崑崙皇国軍は180万人となる。

 ただ、陸上艦船の数とパワードスーツそして戦闘バイク、戦闘車両の数は明らかに帝国軍が勝っている。

 それに比べると崑崙皇国軍は攻撃軍と云うより、符術士や回復魔法要員其れに補給部隊の数が7割に達していて、事実上支援軍といって良いだろう。

 だが、この陣容を円滑に動かす為には、この位の支援部隊は当然必要となるので、予めこの編成の軍を派遣してくれた李世民皇帝には感謝の言葉も無い。

 

 昼に開催された作戦会議で、モニター越しにアラン様と李世民殿そしてカルマ殿が集まり、先ずは大国3者会議が行われそのまま全軍事上位関係者によるディスカッションが始まる。

 どうやら獣化兵(ゾアノイド)を中心としたアラム聖国軍は、『アフリカーナ大陸』に繋がる大トンネル手前の基地に籠城し始めた様で、明らかに防御陣を強固にするべく土魔法でトーチカの様な要塞を幾つも構築している。

 然もそのトーチカと土壁の表面は、植物の蔦の様な物がびっしりと覆っている。

 此の植物の蔦は先の戦いで、似たような防御陣を組まれた上に、最後には爆発した挙げ句に戦場にクレーターを作ってしまったとんでもない代物だ。

 

 この植物の蔦を見ていて、カルマ殿が顔色を悪くし始めた。

 カルマ殿は此の事実を知らなかったらしく、モニターと書類に記載された詳細な資料を食いいいる様に見ていると、突然手を上げて発言を求めたので、司会をしていたダルシム大将が許可を与えたので、その場で発言し始めた。

 

 「・・・此の植物の蔦は『草体』という特殊な植物で、2種類の生物との共生関係を営む生物相の存在です。

 信じられないかも知れませんが、此の『草体』と2種類の生物は、例の『サイヤン帝国』が此の惑星に持ち込んだ、言わば宇宙からの外来生物で全く此の惑星アレスの生物とは、異質の生き物であります。

 此の『草体』の強靭さと危険性は、対戦された帝国軍の方々が一番肌身に感じてる事でしょう。

 一刻も早く『草体』だけの段階で始末を着けてしまわねばなりません!

 もし、他の2種類の生物が育ちますと、手がつけられなくなります!」

 

 と、深刻そうな顔をされてカルマ殿は説明され、続けざまに、

 

 「アラン陛下!

 今現在推進している、『玄武』復活プロジェクトを全力で進めて、これ以上の『アグニ』による暴走を止めねばなりません!

 奴は禁忌として封じられたあらゆる遺物と技術を際限無く使用する気でいる。

 此の儘では、奴の所為で此の惑星は滅びを迎え、更に多くの惑星を巻き込んだ破滅を齎しかねない!」

 

 とあまりにも想像がつかないレベルの話しをされた。

 すると、崑崙皇国軍の一将校が質問をした。

 

 「・・・あまりにも規模の大きな話しなので理解し辛いが、兎に角我々軍人は目の前の敵を屠って行くしか無い!

 カルマ殿!

 取り敢えずは、此の『草体』と2種類の生物を敵として相手するのは理解した。

 せめて此の共生関係を営む生物の名前を教えて頂けるだろうか?」

 

 との訴えに、カルマ度は諳んじる様に答えた。

 

 「・・・アラム聖国に昔居られた聖人のお一人に、『マルコ』と云う預言者が居て、其の方が言われた予言書が東方教会には秘伝として伝わっている。

 この御方は、アラン様の出現と由来、其れに様々なこれから起こる事態を予言されていたのだ。

 その予言内容の一節にこの共生関係を営む生物の名前が記載されている。

 

 《天降る神人は、其れ等を目にし粗奴らを指差し言われた、「汝らは何者ぞ?」と。

 其れに対して粗奴らは、奇怪な叫びを上げるだけであったが、粗奴らを使役する者は得意気に宣言した。

 「此の者共は、『レギオン』!大勢で有るが故に」と笑いながら神人に挑んで来た》

 

 と云う内容なので、此れを引用して『レギオン』と名付けて貰いたい!」

 

 と質問に答えた。

 

 『レギオン』

 

 通常軍隊や軍団を指し示す言葉だが、何とも嫌な印象を与える言葉で有った。

 



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5月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝3年)《獣化兵(ゾアノイド)と複製体(クローン)の始末》

 5月7日①(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 我々、帝国軍と崑崙皇国軍の連合軍はアラム聖国の2番目の都市である『デリー』を南下し、『アフリカーナ大陸』に繋がる大トンネル手前の基地前に広がる広大な平野の端に到達した。

 対してアラム聖国軍(厳密には既に国軍とは言えないが、カルマ殿達現指導部は軍隊を持っていないので)は、基地前の平野の中央部分で既に陣を張っていて、我々を迎撃する満々の様だ。

 予め、公開する形で『アグニ』とその一派の反乱軍に帝国とアラム聖国正統政府としての降伏勧告と恭順を呼び掛けていたのだが、一つも反応が無いので諦めざるを得なかった。

 仕方無いので、宣戦布告は相手では無く、周辺各国と世界に対して正統な手続きとして行われた。

 

 連合軍の布陣は全て帝国製の陸上艦船でも有るので連絡と連携は問題無く、中央に横陣で布陣している帝国軍は中心に連合軍総旗艦『ビスマルク』が鎮座し、両脇にダルシム大将の陸上重巡洋艦『バーミンガム』とファーン大将の陸上重巡洋艦『ヴィルヘルム』が脇を固める。

 後方には自分の乗る陸上巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』が、何時でもドラゴン軍団を出撃出来る様に待機していて、更に後方にはヘルマン中将が陸上巡洋艦『ベイオウルフ』で警戒している。

 横陣の両端には、左側にセリーナ少将の陸上巡洋艦『ドレッドノート』、右側にシャロン少将の陸上巡洋艦『ジャンヌダルク』が高速の戦闘艦を旗下に待機している。

 

 崑崙皇国軍の布陣は帝国軍の左右に分かれて、左側に楊大眼が乗る陸上重巡洋艦『定遠』、右側に趙匡胤が乗る陸上重巡洋艦『鎮遠』が中心となって、支援攻撃と補給行動をする為に布陣している。

 

 そのまま包囲する布陣でアラム聖国軍を半包囲していくが、一切の動きが獣化兵(ゾアノイド)が主軸のアラム聖国軍凡そ600万には無い。

 だが、カルマ殿から知らされた獣化兵(ゾアノイド)と複製体(クローン)の真実のお陰で、純粋な意味での生物では無いと知って、この反応の薄さの理由が判るが、生命の有る生物には違い無いし、帝国の捕虜になり『ナノム玉』を服用して教育を受けた約30万人は、今現在帝国の国営企業で有る『帝国鉄道公社』のインフラ整備職員として働き、世界各国でのレール敷設等に貢献していて、今では婚姻している者もいて幸せに過ごして居る。

 前の戦いでは、例の『草体』の所為で全ての兵隊が爆発に巻き込まれて吹っ飛んでしまった。

 今回は、何とか出来る限り救助したいが、全ては『アグニ』の考え次第なので、なるべく連絡の着かない様にして、引き剥がさなければならない。

 

 それも有って、早々に連合軍総旗艦『ビスマルク』から戦闘開始の合図としての発光弾が打ち上がり、アラム聖国軍の直上で綺麗な光と乾いた音が鳴り響いた。

 

 次の瞬間、先の戦いの教訓の元準備していた魔力吸収の戦術である魔法陣がアラム聖国軍の直上で展開される。

 奴らの持つ『バリアー発生装置』は、基本魔力で動いているのだから、直接魔法や実体弾を浴びせてバリアーを張らせるのでは無く、魔力そのものを吸収してしまえば良い。

 元々、魔石に魔力を吸収させて充填する技術は、帝国では当たり前の技術で、当然敵がその攻撃を予想して防御手段を取るに違い無いと、この方法を先述の念頭に置いていなかったのだが、アラム聖国ではこの防御手段を取って対応していた軍の指導者は、つい先日の『アグニ』によるクーデター騒ぎで殺された上層部の一人で、然もそれを司る大規模な魔道具はアラム聖国の首都『マーラーヤナ』に置かれたままで有った。

 そしてカルマ殿に確認すると、どうやら『アグニ』と云う男は獣化兵(ゾアノイド)と複製体(クローン)を使役する魔道具は持ち去ったが、防御用の魔道具の詳細を知らない様なので、この戦術は効果的だと考えられた。

 

 空間に直径30キロメートルに及ぶ魔法陣が光り輝いて展開される。

 その展開された魔法陣は、一昔前ならば見慣れない魔法陣で物珍しかったに違い無い。

 しかし、帝国がセリース大陸の同盟国や友好国に惜しみなく、魔法技術を伝播させた結果、実生活で何処の家庭でも見る事になる、使用頻度が一番多い魔法陣である。

 もし、アラム聖国の上層部が傲慢にならず、ごく当たり前の態度で素晴らしい魔法技術として接していれば、この様に間抜けな結果にならなかったに違い無い。

 

 案の定、魔力が枯渇した『バリアー発生装置』は、バリアーが発生させられずに無用の長物となり、アラム聖国軍は殆どの防御手段は無くなった。

 

 そして、連合軍陸上艦船の主砲に全て装填されていた、新戦略級魔法『コキュートス2』を封入した魔法弾が、発射された。

 

 一気に戦場を、極寒のブリザードが吹き荒ぶ北の大地へと変貌させ、獣化兵(ゾアノイド)と複製体(クローン)は徐々に動きが鈍くなり、やがてアラム聖国軍が全員身体が霜に覆われて氷漬けの様に、その場の彫像と化した。

 

 予定通りに事が進んだので、後は崑崙皇国軍の回収部隊として用意していた補給軍が、物資を兵站に集積した後に空のトレーラーと巨大輸送艦で、霜に覆われて氷漬けの獣化兵(ゾアノイド)と複製体(クローン)を『デリー』にて蘇生作業と支配解除の処理をする事になっている。

 

 そして戦闘部隊の陸上艦船は布陣を変える事無く、そのまま移動して『アフリカーナ大陸』に繋がる大トンネル手前の基地を半包囲する。

 

 その全てが植物の蔦に覆われたトーチカと土壁の合間から、どう見ても獣化兵(ゾアノイド)と複製体(クローン)には見えない、虫としか思えない2メートル程の身体を持つ敵兵が見え隠れする。

 

 《・・・あれが、恐らくは『レギオン』なのだろうな・・・》

 

 とその姿を確認した自分は、空軍のドローンに命令して『レギオン』と思われる虫共の状況を、全軍に情報共有させるべく指示した。

 

 此れからの戦いこそが、恐らく予言書に書かれていた惑星アレスに於ける、『最終戦争(ハルマゲドン)』なのだと、連合軍は覚悟を決めて臨むのであった。

 



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5月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝3年)《対『レギオン』戦①》

 5月7日②(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 植物の蔦に覆われたトーチカから見たことの無い光線が、かなりの距離が有るにも関わらず放たれ始めた。

 帝国軍が『レギオン』の居る基地に対して、若干近い形で包囲していた所為か光線攻撃に晒される。

 その光線攻撃は、一点に集中される方式では無くて、薙ぎ払われる様に攻撃してきて、幾重にも光線が重なって光線攻撃が乱舞する様に空間を埋める。

 

 「ドオオオオーーーン!」

 

 と陸上艦船でも駆逐艦以下の戦闘艦が、バリアーを張って居るにも関わらず光線攻撃が甲板に届き、砲塔が壊されている。

 相当な威力の攻撃で有る事が判り、直ぐ様陸上巡洋艦以上の艦船の後ろに後退し、バリアーを重ねる形で対抗する。

 ドローンによる観測と探査データから、どうやら魔法攻撃では無く然もレーザー(熱線)やスマッシャー(粒子砲)の類では無くて、良くは判らないがマイクロ波を収束させた強力な破壊光線という事らしい。

 此の様な種類の破壊光線には、あまりバリアーが有効では無いので、対抗するには結局歯には歯をで攻撃には攻撃で向かうしか無い。

 よりバリアーに余裕の有る陸上重巡洋艦と戦艦が、比較的有効だと思われるファイアー系の魔法弾を艦砲で攻撃し始める。

 

 植物の蔦に覆われたトーチカ群には、どうも一切のバリアー頭の防御手段を講じていないらしいが、そもそも半端でない再生力で植物の蔦が復活してしまうので、ひたすら不毛な消耗戦に突入してしまった。

 

 暫くの間、遠距離攻撃同士の繰り返しを重ねていると、突然トーチカからの破壊光線が止む。

 

 《エネルギーが尽きたか?!》

 

 と訝しむと、トーチカと土壁の間からワラワラと『レギオン』と思われる巨大な虫が現れる。

 かなりの数が出現してきたので、此れ迄トーチカには効果無しとして控えていた、陸上巡洋艦以下の駆逐艦やフリゲート艦クラス以下の艦船が、一斉に艦砲で攻撃し始めた。

 

 どうやら『レギオン』は単体としての防御力は大した事が無いらしく、次々と艦砲攻撃で蹴散らされて行くのだが、1時間程経つと連合軍全体に或る懸念が生まれ始めた。

 何故なら『レギオン』が出現するスピードが、一切変わらずにまるで噴出する様に湧き出て来るのだ。

 段々と艦砲をすり抜けて『レギオン』が、帝国軍の艦船に到達する個体の割合が増えて来た。

 あまりに死体が積み重なり、とうとう浮いている陸上艦船の船体に取り付き、船殻を攻撃し始めた。

 

 「ガガガガガガッ」

 

 と『レギオン』の鋭い鎌の様な両足と、鋭角的な頭頂部に有る角を駆使して船殻に穴を開け始めた!

 その『レギオン』達に向かい、甲板上から帝国軍の戦闘員が完全装甲状態で、アラン様の持っていた『M151パルスライフル』の完全コピー版である『パルスレーザーライフル』を装備して、掃射攻撃による水際での防衛を行うが、数が時間が経つ毎に累積して行くので、段々とジリ貧になり始める。

 

 この非常に不味い状況に、アラン様が温存していた切り札の一つを切る!

 

 「・・・今から『ビスマルク』の『カイザー砲』による、植物の蔦に覆われたトーチカ群と基地攻撃を行う!

 『カイザー砲』の射線上から退避せよ!」

 

 との命令が下ったので、連合軍総旗艦『ビスマルク』が布陣の先頭に進み出たので、自分の指示で上空に滞空しているドローンのバリアー投射で、幾重にも『ビスマルク』の防御を肩代わりする。

 かなり強固な繭(コクーン)状態にバリアーが構築され、『ビスマルク』はエネルギーを『カイザー砲』に全て振り向ける。

 

 「『カイザー砲』エネルギー充填90パーセント、セーフティーロック解除、圧力、発射点へ上昇中。

 

 エネルギー充填100パーセント、敵目標へ軸線合わせ、ターゲットスコープオープン、電影クロスゲージ明度20。

 

 最終安全ロック解除、エネルギー充填120パーセント、対ショック、対閃光防御。

 

 『カイザー砲拡散ブラスト』発射!」

 

 次の瞬間、十分なエネルギー充填を終えて、連合軍総旗艦『ビスマルク』の先端に有る、超巨大なアダマンタイト製のドリルから凄まじいエネルギーが発射され、直進していたエネルギーがトーチカ群と基地の直前で拡散され、トーチカ群と基地に其れ其れの拡散されたエネルギーが直撃した。

 

 その凄まじいエネルギー拡散により、巻き込まれた『レギオン』群は一斉に葬られ塵一つ残さないレベルで掃除された様だ。

 

 この『カイザー砲拡散ブラスト』のお陰で、トーチカ群と基地そして群がっていた『レギオン』群は滅んだのだが、ドローンによる探知魔法ではトンネルを通って新たな『レギオン』群が押し寄せて来ているそうだ!

 だが、その『レギオン』群の行動は、事前に行われた情報共有のお陰で或る程度想定していたので、既に機動軍としてのパワードスーツ部隊と戦闘バイク部隊、そして戦闘車両部隊が展開を終えている。

 

 暫くすると、またも『レギオン』群が湧き出る様に押し寄せて来る。

 やはり同じ様に、すり抜けて来る『レギオン』群を、事前に布陣させた機動軍が迎え撃つ!

 いよいよ、戦闘の第二局面に戦場は移行したのだった。

 



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5月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝3年)《対『レギオン』戦②》

 5月7日③(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 帝国軍と崑崙皇国軍の連合軍が布陣している戦闘艦の戦列は、トンネルの出口に半包囲する形で陣取り艦砲による徹底的な十字砲火を繰り返す。

 しかし、そのあまりの『レギオン』達の数にどうしても零れ落ちる様に、すり抜ける『レギオン』達が出てしまう。

 其れに対して、中央にパワードスーツ部隊5千機とシャロン少将の重機動軍(重戦闘バイクと重戦闘車両)2万が配置され、シャロン少将の乗る『ジャッジメント号』を中心に、溢れ出てくる『レギオン』の群れを強力な遠距離攻撃により、尽く殲滅して行く。

 

 だが、その凄まじい攻撃でも、トンネルを出て死体の山を利用して、横側から襲おうと左右に走る『レギオン』達が存在した。

 

 そんな『レギオン』達に対して、左側方面でカイン殿率いる重装機動軍2万が何時もの様に、カイン殿が乗るドリルバイクを先頭に突っ込んで行く!

 右側方面では、セリーナ少将の高機動軍(高速戦闘バイクと高速戦闘車両)2万が、左側方面と同様にセリーナ少将が乗る『ディアブロ号』を先頭に突進する。

 どうやらこんな接近戦で挑まれても、遠距離攻撃の類が一切来ない事から、やはり『レギオン』は接近戦に特化した生体兵器の様な存在なのだろう。

 ただ、半端でない数の暴力は尋常でなさ過ぎる!

 既に、この時点までで滅ぼした『レギオン』は、優に500万匹を越えているのだが、まるで勢いを落とさずにトンネル出口から溢れ出てきている。

 凡そ2時間の攻防戦にも関わらず状況に変化が無いので、アラン様は再度切り札の一つを切る!

 

 「此れより、戦略級魔法『メテオストライク』を使用する!

 各隊はそのまま現状維持で推移させながら、各自のバリアーを最大出力で出せる様に確認せよ!」

 

 とのアラン様の号令が下り、自分はドローンに戦闘部隊の魔力残量を確認させ、減り過ぎている戦闘部隊には遠隔で魔力補填をさせた。

 かなりの魔力が底を尽きかけている部隊がいて、ドローンの魔力が無くなり、ドローンへの魔力補給をさせる為に各空母に帰還させて、休息魔力充填作業に入らせた。

 

 20分程の時間が過ぎて、用意が出来たらしいアラン様が命令を下す。

 

 「戦略級魔法『メテオストライク』を此れより発動させ落下させる!

 目標地点は、『セリース大陸』と『アフリカーナ大陸』を繋ぐ地下トンネルの『アフリカーナ大陸』側の入り口である。

 恐らくは此方側出口は殆ど影響が無いとは思うが、爆発の影響での津波や地震による被害が想定される。

 連合軍は全員、最大防御体勢に移り自分自身を守れ!

 其れでは、戦略級魔法『メテオストライク』発動!」

 

 次の瞬間、遥か上空から白熱した巨大な火の玉が『アフリカーナ大陸』の方向に、轟音と供に落下して行くのが観測された。

 

 その落下の衝撃波は、空震を引き起こし巨大な津波が周囲一帯を襲う!

 だが当然津波を想定していた我々は、例の『日の本諸島』での教訓で培われた津波対策で、予めドローン部隊による消波対策で、此方から同程度の波を起こし津波を抑える事に成功した。

 同じ行動を西方の沿岸部でも西方・南方方面軍傘下のドローンにさせたので、西方教会圏の沿岸部でも防げたが、『アフリカーナ大陸』の沿岸部は壊滅状態の様だ。

 その間にも『レギオン』の群れは、トンネルの出口から此方に押し寄せてくるが、時間が経つにつれて数は少なくなり、やがて出現しなくなった。

 如何に大群であろうと、入り口が無くなればどうしようもないのだろう。

 

 漸く戦闘状態が終わり、連合軍は一息つける事が出来たので、交代交代で休息に入りながら損傷や枯渇した魔力を充填する為に、パワードスーツと戦闘バイクそして戦闘車両を回収し、補給行動を開始した。

 

 連合軍の艦船の半数近くが何らかの被害を受けているので、最初の布陣した場所に戻り修理艦と補給艦からの修繕と補給を受け始めた。

 この作業に入るだけで6時間も掛かり、夕方を迎えてしまったので警戒をドローン部隊に任せ、作業が終わった人員から完全休息に入った。

 

 正直な処、艦船の損傷や戦闘機体の被害を詳細に把握するに従い、此れまでの敵と較べて連合軍側にも全く余裕が無い事に戦慄を覚えた。

 しかし、このまま『アグニ』とその一派を放置して置くと、あの『レギオン』の群れだけでも我々人類にとって途轍もない脅威である。

 恐らくそれ程の猶予は、戦略級魔法『メテオストライク』での入り口潰しだけでは稼げなかったと思われる。

 なので、生き残った『レギオン』の掃討と探索を兼ねたパワードスーツ部隊を、交代交代でトンネルに侵入させて、確認作業をさせている。

 超高性能ドローンには、現在徹底的な『アフリカーナ大陸』の調査を行わせているが、どうにも全ての施設が有ると思われる場所は広大な地下都市に存在するらしく、然も何らかの阻害方法で殆ど空からは探査出来ない。

 苦戦、史上空前と言える連合軍でありながら、我々の頭の中でこの言葉が重く伸し掛かって来た。

 



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5月の日記⑤(人類銀河帝国 コリント朝3年)《敵本拠『アフリカーナ大陸』への旅路》

 5月10日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 連合軍は昨日までに補給と修繕を終えて、早朝からトンネルの有る方向とは90度異なる方向に進発した。

 つまり、アラム聖国にとってもセリース大陸全体としても最南端に当たる地を、そのまま南下する。

 それは当然海洋に出ると云う事だが、帝国製の陸上艦船はそもそも浮いているので、波の影響をまるで受けずにアッサリと港を経由する事無く外洋を進んで行く。

 

 連合軍が進発するに当たり、アラム聖国の留守部隊として進駐している、ビクトール大将率いる北方方面軍50万人の内、10万人が例のトンネル出口を封鎖して、何時でも崩落させて『レギオン』が再度侵攻される事を防げる様に処置して置いた。

 

 暫くの間、何事も無く外洋を進みアフリカーナ大陸の東岸部を臨みながら、ゆっくりと連合軍は進んで行く。

 『レギオン』の死体を回収し、身体の構造上海水に潜る事も泳ぐ事も出来ないのが判っているので、『レギオン』は襲って来ないだろうが、他の生体兵器に類する物は出てくるかも知れないので、ドローンが徹底的に進路上の海面及び海面下を探査している。

 

 自分の乗艦である巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』には、同僚であり武術仲間であるシュバルツ殿とミツルギ殿そしてカトウが同乗していて、全員が自分の幕僚達が上げてくる様々な提案を、自分とともにオブザーバーとして推敲してくれる仲間でも有る。

 

 「・・・此のまるで死の大地の様な大陸を見ていると、正直とても同じ惑星の大陸とは思えない風景だな。

 だからこそ、此れ迄このアフリカーナ大陸には人が住めなかったのかな?」

 

 とシュバルツ殿はドローンから上がってきた情報を、動画と紙での資料で見ながらゲッソリとした顔で確認している。

 

 「・・・全くひたすら気が滅入る光景だ!

 こんな砂漠だらけの大地は、まさか遥か大昔からなのかな?」

 

 とミツルギ殿が感想を述べると、

 

 「いえ、どうもこの砂漠化は恐らく、100年程まえからゆっくりと進行していたらしいのですが、此処5年位前から一気に進んだらしく、それを裏付ける証拠が此れです!」

 

 とカトウがモニターに映る画面を幾つかに分割して、様々な動物の骨の画面を指し示す。

 その分割された画面に映る動物の骨は、化石と化している物やまだミイラ化の段階の物、が散見された。

 カトウが続けて、

 

 「つまり、遥か大昔から死の大地であれば、此の様に状態の年代が異なる動物の骨が有る訳が無く、明らかにアラム聖国が侵攻して干渉した証拠に、同心円状に砂漠が広がっているのが上空からのドローンによる観測で判ります!」

 

 その言葉通り、アフリカーナ大陸の全体図をモニターで見ると、確かに同心円状に砂漠が広がっているのが判った。

 アラム聖国は遥かな過去から、ある意味アフリカーナ大陸を食い物にする事で、強国になっていた様だ。

 

 何とも胸糞悪くなる話しである。

 

 とても、同じ『ルミナス神』を信奉する国家とは思えない思考で、違和感が有る。

 真実は、カルマ殿自身が自嘲気味に話してくれた様に、アラム聖国の代々の指導部と組織は『東方教会圏』と名乗っていたのだが、実際は『ルミナス神』を信奉する体に国民を騙して、例のサイヤン帝国とやらの遺物であるアーティファクト、そして信じられない程に高度の科学技術で以って、何れは西方教会圏を侵略すると云う野望を培って来たのだ。

 

 このアフリカーナ大陸の現実を眺めていると、代々のアラム聖国の指導部よりも先鋭化した存在である『アグニ』がこのまま、サイヤン帝国の遺物であるアーティファクトと、『レギオン』等の生体兵器を支配下に置いている状況を許して置く事はすべきで無いと判る。

 

 5月15日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 連合軍はアフリカーナ大陸の中部の東岸に拠点を確保して、此処に補給ルート用の兵站基地を作り上げる。

 ここから内陸部の砂漠を通過して、アフリカーナ大陸の地下に存在する大空洞に向かう。

 恐らくは、凄まじい数の『レギオン』が『アグニ』の尖兵として敵対して来るだろうから、相当な反撃が想定出来る。

 其れに対して、『レギオン』の死体を解剖する事で、幾つもの対抗手段を用意する事が出来ている。

 しかし、『レギオン』だけが『アグニ』の兵力では無いだろうから、新たな生体兵器等のサイヤン帝国由来である兵器が、連合軍に敵対して来る事が想像出来る。

 その都度、臨機応変に対処する事が連合軍に求められていて、帝国軍上層部と崑崙皇国軍の綿密な作戦案が練られている。

 そうやって、出来る限りの用心を重ねて連合軍は、アフリカーナ大陸に上陸して初の夜を迎える。

 

 《いよいよ、『暗黒大陸』と称されるアフリカーナ大陸の夜か!》

 

 些か用心のし過ぎかも知れないが、ドローンの警戒網を何時にも増して頻繁にした上に、ドラゴン軍団は空戦装備の上で待機状態にして置いた。

 そしてその状態を確認しにアラン様が、グラーフ・ツェッペリンに来られた

 そのまま自分もアラン様と共に、警戒しながら夜を迎える事になり、夕食をアラン様と共にしながら話し込んだ

 

 「・・・ケニー、虫の知らせなのか、今夜襲撃が有ると私の勘が囁くんだよ!

 君もそうじゃないか?」

 

 とアラン様が、非常に珍しくナーバスになっているのに内心驚きながら、

 

 「・・・確かにドラゴン軍団を何時でも出撃出来る様に待機させた理由は、この嫌な胸騒ぎが有る所為です。

 ですが、我々はきっと充分に対抗出来ると云う予感もまた有るのです!

 アラン様も同じ予感が有るのでは無いですか?」

 

 と進言すると、アラン様も鷹揚に頷かれた。

 そしてアラン様と自分は警戒を解かずに、恐らくやって来る襲撃に備えた。

 



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5月の日記⑥(人類銀河帝国 コリント朝3年)《巨大な鳥に似た怪物の襲来》

 5月16日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 日付が替わり、自分も私室のベッドに潜り込んで浅い眠りにウツラウツラとしていると、

 

 「ビーッ、ビーッ!」

 

 との警戒警報が鳴り響き、ベッドから素早く飛び起きて作戦指揮所に急ぐ。

 自分の後ろからアラン様とシュバルツ殿そしてミツルギ殿が続き、当直の順番だったので準備していたらしいカトウから、整理された敵襲の報告を我々は受け取った。

 プリントアウトされた紙の資料と、モニター上に映し出された深夜の闇に浮かび上がる映像。

 其れは、砂漠しか無い死の大地に、殆ど唯一の様に特徴的な山肌を幻想的に魅せる山脈であった。

 便宜上『キリマンジャロ山』と呼ばれる山脈から、最高の高さにある頂上部から、幾つもの巨大な影が飛び立っていた!

 どうやら、其れ其れの巨大な影はドローンの詳細な探査で、凡そ鳥に良く似た全体像で全長は80メートル、翼長は150メートルに達する代物で、然もその数は50に及んだ上に相当な速度で近づいて来る。

 最初のアラム聖国軍の戦いで相手となったアラム聖国自慢の『聖獣騎士団』《光翼隊》の魔物達は、こんなにも巨大では無いしそれに此処まで速くなかった!

 寧ろ、その後に戦ったアラム聖国の切り札だった、『破滅竜ジャバウォック』に近い力を持つと想像出来る怪物だろう。

 

 直ちに、全連合艦隊に戦闘体勢に移る様にアラン様は命令され、自分と他の面子はドラゴン軍団を出撃させて迎撃体制を取る。

 アトラス殿とグローリア殿以外のドラゴン軍団は、基本武装で有る『機龍(ドラグーン)』モードで出撃させてフォーメーションを取る。

 アトラス殿とグローリア殿は前回同様の『光翼竜(ケツアルコアトル)モード』増装タイプで出撃した。

 やがて、漆黒の闇に溶け込む様な黒い巨大な鳥らしき怪物が、センサーの暗視装置で確認され、ドラゴン達の鋭敏な感覚でも捉える事が出来た。

 モニター上に映るそのシルエットは正に鳥そのものだが、特徴的な部分として非常に鋭角的に尖った頭頂部が見受けられた。

 此の鳥の様な怪物は、禄にフォーメーションも取れないのか、てんでバラバラに飛んで来るのでドラゴン軍団は見せつける様に見事な戦列を組むと、迎撃魔法の準備に入った。

 殆ど無警戒に鳥の様な怪物は、無造作にドラゴン軍団の射程距離に入ってきたので、ドラゴン軍団は軍団魔法の『ファイアーサイクロン2』を展開し、鳥の様な怪物はどうやら予想していなかったのか、ファイアーサイクロンの炎の渦に次々と突っ込んで行き、たちまち10羽が翼に炎が燃え移り落下して行った。

 当然連合軍の艦隊も、射程距離に入った鳥の様な怪物に対し曳光弾を含んだ実体弾で、次々と撃ち落としていった。

 思ったより楽に討ち取れそうだとの感想を持ったが、其れがあまりにも甘い感想だったのを思い知らされた。

 

 残っていた鳥の様な怪物達20羽が、ファイアーサイクロンの炎を迂回すると、何故か叫び声を上げ始める。

 そしてその叫び声が、ドンドン高い金切り声を遥かに越えた高音域を更に越えた!

 するとその高音域を越えた叫び声を、直接浴びたドラゴンのオリハルコン製の鎧が斬れて鎧下のドラゴンの肉体が傷ついた!

 

 《な、何ッ?!》

 

 と起こった現象に、理解が及ばずに呆然自失してしまったが、自分と違いアラン様は直ぐ様にドラゴン軍団に指示を与えた。

 

 「ドラゴン達よ!

 直ちに敵から距離を取り、ブラスター砲による遠距離攻撃での牽制攻撃に移行せよ!

 敵の使用して来た攻撃は、『超音波メス』と云う300万サイクルの衝撃波を利用した、魔力を伴わない攻撃だ。

 故にバリアーが殆ど意味を成さないので、距離を取り敵の攻撃から避ける事を優先せよ!」

 

 とアラン様は説明し命令した。

 

 だが、そうすると連合軍としては決め手に欠く事となる。

 先程から、遠距離攻撃しか出来なくなったドラゴン軍団の代わりに、超高性能ドローンからのビーム攻撃や艦船の艦砲による攻撃が繰り返されているのだが、それ程決定的なダメージを与えられず、ジリ貧状態となった。

 このにっちもさっちも行かない状態に、アラン様はまた切り札を切ろうと用意し始めたが、緊急の連絡がアラム聖国の首都である『マーラーヤナ』から来た。

 何用だろうと疑問が浮かぶが、モニター越しに深夜にも関わらず意気軒昂そうなカルマ殿が現れた。

 カルマ殿が、何だか興奮気味に話し始めた。

 

 「アラン様!

 帝国の新技術で完成した『ポゼッション(憑依)システム』のお陰で、『玄武』復活プロジェクトは成功し、早速復活した『玄武』は既に連合軍と合流すべく高速で飛行して居ります!

 現在の状況は我々も知らされていますので、どうぞ『玄武』を有効活用して下さい!」

 

 とカルマ殿が、『ポゼッション(憑依)システム』と『玄武』の詳細な資料を提示してくれた。

 

 《こ、此れは?!》

 

 自分は、名称しか知らなかったが、今始めて『玄武』の詳細な資料が連合軍に明かされた。

 

 凡そ、30分程の時間が経過し膠着状態の戦場に、突然巨大な火球がかなり離れた距離から高速で飛んできて、一羽の鳥らしき怪物に見事にぶち当たり、爆発炎上した!

 

 《此の火球が、『プラズマ火球』なのか?!》

 

 と我々がやって来た東方から、急速に近づいて来る物体がレーダーで観測された。

 いよいよ、『玄武』の登場に何故かワクワクして来る自分に訝しんでしまう。

 



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5月の日記⑦(人類銀河帝国 コリント朝3年)《最終戦争(ハルマゲドン)①》

 5月17日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 「ドドドドドドッ!」

 

 凄まじい『プラズマ火球』の連射が飛んできて、鳥らしき怪物の幾羽かにぶち当たって爆発を起こして落下していった。

 完全にこの攻撃を警戒しだした鳥らしき怪物は、やって来る『玄武』に向かい迂回しながら、『超音波メス』を『玄武』に向かって叩きつける!

 其れに対して『玄武』は、其の亀の様な姿で前腕部を翼の様に広げて飛行していたのだが、甲羅の中に畳み込むと後足部と同じく、ジェット噴射を始めながら回転仕出して甲羅部分を推進方向に向ける。

 すると、連合軍のバリアーでは防ぎ切れなかった『超音波メス』を、その堅い甲羅で見事に防ぎ切った。

 それを確認し、アラン様が命令した。

 

 「直ちに、ドラゴン軍団は『玄武』の後方に回って、その防御の後ろから今までバリアーに廻していた魔力を攻撃に振り向けて、最大攻撃力で敵を倒せ!」

 

 その命令に従い、ドラゴン軍団は『玄武』の後方に回り遠距離兵装での大火力攻撃を仕掛けた!

 カルマ殿達が操る『玄武』は、連合軍の意を汲んで防御に専念してくれて、攻撃はドラゴン軍団に任せてくれた。

 鳥らしき怪物はドラゴン軍団による熾烈な攻撃を受けて徐々に数を減らして行き、最後の1羽は『玄武』とドラゴン軍団の火球による集中攻撃で爆散していった。

 

 後続の敵襲は無かったので、ドラゴン軍団と『玄武』を自分の乗艦であるグラーフ・ツェッペリンと他の空母が回収した。

 アトラス殿とグローリア殿はグラーフ・ツェッペリンの船倉に回収し、『玄武』はグラーフ・ツェッペリンの甲板に着陸して貰った。

 

 『玄武』はゆっくりとジェット噴射を弱めて、四肢を噴射口から出して来て甲板上に用意したネットに掴まらせて、衝撃を吸収する形で降りて貰った。

 

 改めて『玄武』のその大きな姿を仰ぎ見た。

 

 《・・・やはり亀だなぁー・・・》

 

 身体の大部分を覆い尽くす甲羅に、その甲羅に四肢を収納出来る処が亀そのものだが、牙や突起物の有る甲羅は、崑崙皇国で見学した国立の動物園に居た『噛みつき亀』と『鰐亀』をより凶悪にした感じだ。

 

 『玄武』は恐らく全力でドラゴン軍団の盾代わりに必死に防御してくれたので、相当疲弊したのだろう。

 直ぐに目を閉じると微動だにせず休憩状態になる。

 

 朝になって連合軍の被害実態を確認すると、ドラゴン軍団の10%程の武装に敵の『超音波メス』による切り傷が相当な深さで刻まれ、5体のドラゴンは傷を負っている。

 更に連合艦隊の一部の船体には、『超音波メス』によって船殻に深い切断面が残る艦が有った。

 ドラゴンも艦船も常時バリアーを張っているし、戦闘状態に有った際は常時よりもバリアーは強度を増していた筈だ。

 それなのに、『超音波メス』には殆どバリアーは役に立たなかった。

 前の『レギオン』戦でも、マイクロ波を収束させた強力な破壊光線が、強力なバリアーでしか対抗出来なかった。

 明らかに連合軍の張るバリアーは、『アグニ』が支配する生体兵器群に対してあまり有効ではない。

 今後はその事を念頭に対応するべきだろう。

 

 5月20日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 『キリマンジャロ山』を迂回して、ドローンの観測で推定出来た『アグニ』達が蟠踞する地下都市に通じる出入り口と思われる巨大な洞窟目指して連合艦隊は進んで行く。

 ドローンの探知魔法や様々なセンサーにより観測された情報によると、凄まじい熱量がその巨大な洞窟の周囲を囲む様に存在している、その熱量のパターンを解析するとどうやら『レギオン』と『草体』である事が確認している。

 その熱量の高さを考えると、恐らくは前回戦った『レギオン』の規模の数を軽く10倍以上と観測された。

 この大群と真っ向から対決すると、連合軍の疲弊は相当なものと簡単に予想出来るし、もし『アグニ』が幾つもの隠し玉を準備していたら、連合艦隊の被害は尋常では無くなるだろう。

 そういった諸々の状況を把握した上で、昨日このグラーフ・ツェッペリンの大会議室で、連合軍の上層部全員が集合し最後の作戦会議を行った。

 その作戦会議で、様々な作戦案が幕僚から提示され、全員での作戦案の練り直しや見直しを繰り返し、幾つかの納得出来る作戦案が出来上がった。

 

 そして『キリマンジャロ山』の山脈を横に臨みながら、巨大な洞窟が見えて来た。

 どうやら既に我々の到来は完全に把握されているらしく、『レギオン』と『草体』は膨大な数が洞窟前に屯っている。

 

 「・・・A作戦始動!」

 

 との命令が総旗艦『ビスマルク』から下されて、崑崙皇国軍の『定遠』と『鎮遠』から甲板上に用意された『飛翔誘導弾(ミサイル)』が発射された。

 一旦高空に飛び立った『飛翔誘導弾(ミサイル)』は、『レギオン』と『草体』の直上から急角度で落下する。

 そして『飛翔誘導弾(ミサイル)』は、凡そ500メートルの高さで爆発し中に封入されていた沢山の『符』が散布された。

 

 暫くすると『符』はその役割通りの効果を発揮する。

 その効果とは『腐り』。

 此れまでの研究で、『草体』の組織構造は暴き出したので、従来の『符術』を発展させて『草体』に効果的な魔法を開発した結果、継続的に効果を与える『符術』が最適と判断して使用したのだ。

 

 案の定、『草体』は一旦腐り落ちたが、その圧倒的な再生力で復活するが効果が続いているので、復活する度に腐っていく。

 此れで、『草体』の防御力を効果時間が続く限り削る事が出来た。

 

 その間にも連合艦隊は布陣を整えつつ進軍する。

 こうして最終戦争(ハルマゲドン)の序章が幕を上げた。

 



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5月の日記⑧(人類銀河帝国 コリント朝3年)《最終戦争(ハルマゲドン)②》

 5月20日②(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 「ゴゴゴゴゴゴッ!」

 

 正に地鳴りと言える音が、地響きと共に轟く!

 想定していたとは言え、その5千万匹を越える『レギオン』が進軍して来る姿は、津波そのものでとてもこの世の物とは思えない光景だ。

 だがこの大群に対しても連合軍には対抗手段を準備している。

 

 『レギオン』という生体兵器には幾つかの特徴が有る。

 その特徴を逆手に取った戦術を実行する。

 

 「・・・B作戦始動!」

 

 との命令が総旗艦『ビスマルク』から下されて、直ちに作戦は発動した。

 各軍団の旗艦に当たる巡洋艦以上の艦は、A作戦で使用した『定遠』と『鎮遠』と同じく甲板上に用意された『飛翔誘導弾(ミサイル)』を発射する。

 ただA作戦で使用した物と違い、『飛翔誘導弾(ミサイル)』は然程の高度に上がらずに戦場の左右に飛び、砂漠の地面に20本が爆発もせずに突き刺さった。

 

 『レギオン』達は全く戦場から左右に逸れた『飛翔誘導弾(ミサイル)』を無視し、連合艦隊目指し突進してくる。

 連合艦隊は砲列を『レギオン』の前面に照準し、実体弾が3連で一斉射された!

 

 「ドオオオオーーーン!」

 

 と戦場に巨大な爆発の花が3回花開いた!

 そのまま連合艦隊は中距離での艦砲による連続発射に移行し、みるみる『レギオン』の死体の山が出来上がる。

 死体の山のお陰で射線が段々と遮られ始め、効果的な砲撃が難しくなる。

 そのタイミングに、戦場の左右の地面に突き刺さったままの『飛翔誘導弾(ミサイル)』から、強力な電磁波が発生した。

 途端に連合軍に襲いかかっていた『レギオン』の大群は、いきなり方向転換し戦場の左右の地面に突き刺さったままの『飛翔誘導弾(ミサイル)』に向かって行く。

 此れこそが、『レギオン』という生体兵器が持つ幾つかの特徴の一つで有る。

 『レギオン』は、『アグニ』達からの指令を電磁波で受けているらしいので、それよりも強力な電磁波を受けてしまえば、混乱してしまってその強力な電磁波を発する対象に近付く習性が有るのだ。

 そして20本の地面に突き刺さった『飛翔誘導弾(ミサイル)』に集まっていく『レギオン』群を尻目に、連合艦隊は弾薬の補充と魔力の充填を行いつつ、『レギオン』の死体の山の前に布陣を整え死体の山そのものを背後の壁とする。

 

 準備が整ったので『飛翔誘導弾(ミサイル)』からの電磁波が発生するのを止めると、途端に連合艦隊に突進し始めた。

 そして先程と同じく、連合艦隊は砲列を『レギオン』の前面に照準し、実体弾が3連で一斉射された!

 全て前と同じく『レギオン』の死体の山がたちまち出来上がる。

 この同じプロセスを5回繰り返し、被害を極力避ける戦術で『レギオン』の大群を殲滅する事に成功した。

 5個の巨大な死体の山を後方に置き去りにし、連合艦隊は大洞窟に進軍する。

 

 大洞窟の前で枯れ果ててしまった『草体』が、うず高く積み上がっている大洞窟の手前で妙な地震が起こった。

 

 《な、何だ?》

 

 『草体』の残骸がその地震で崩れ去ると、突然巨大な突起物が地面から出現すると、続いて似たような巨大な突起物が4本現れた。

 その計5本の巨大な突起物は、やがて再度地震を起こしながら徐々に全身を地表に現した。

 

 《此の巨大な怪物は?!》

 

 凡そ体高が100メートルで、尾を含めると全長150メートルの怪物が4体で、体高が200メートル尾を含めると全長300メートルの怪物が1体。

 基本的なフォルムは『レギオン』に酷似しているが、幾つかの部分(特に角等)は異なっていて、触覚等が大変立派だ。

 

 つまり恐らくは『レギオン』が育ちきるとこの怪物になるのだろうと理解出来たが、あの厄介な『レギオン』がこんなに巨大になったとなると、その強さは尋常ではないだろうと想像できた。

 

 巨大レギオン達は、突然その立派な角を開き何らかの破壊光線を放つ!

 

 「ズガガガガガガガガーーー!」

 

 その5本の破壊光線は、連合艦隊全体を薙ぐ様に攻撃して来たが、予め最大出力のバリアーを張っていたので、かなり減衰させる事が出来たがどうしても小型の艦艇はバリアー出力が弱くて、それなりの被害を受けている。

 

 その破壊光線での攻撃を受けた連合艦隊は、直ぐ様布陣を変えて大型艦が外側に配置し、小型艦を内側に配置する完全防御布陣となり、多重バリアーを張る事で破壊光線での攻撃を受け切る。

 だが此の儘では、巨大レギオン達を攻撃する事が出来ない!

 なのでアラン様は、作戦を切り替える。

 

 「C作戦に移行せず、D作戦始動!」

 

 この命令が総旗艦『ビスマルク』から下されて、直ちに巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』の甲板が左右に全開し、『玄武』とアトラス殿そしてグローリア殿が戦闘準備を終えた武装状態で立ち上がった!

 

 「玄武!『北極佑聖真君(増加装甲)モード』、アトラス・グローリア!『光翼竜(ケツアルコアトル)モード』増装タイプにて出撃せよ!」

 

 との命令がアラン様から下り、

 

 「「「オオオオオオオオオオーーーーー!!!」」」

 

 との雄叫びが3頭から上がり、3頭全員から凄まじい戦気が立ち上る!

 

 いよいよ戦局は想定を越えた段階に入り、混迷を極め始める事となった!

 



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5月の日記⑨(人類銀河帝国 コリント朝3年)《最終戦争(ハルマゲドン)③》

 5月20日③(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 巨大レギオン達は、マイクロ波収束破壊光線を『玄武』とアトラス殿そしてグローリア殿の3頭に浴びせかけたが、多重バリアーによりかなり手前でマイクロ波収束破壊光線を防ぎきり、3頭全員が顎の前に巨大な火球を創り上げ徐々に大きくして解き放った!

 

 5キロメートル程の距離を一直線に飛び、巨大レギオン達は自身の前に電磁波を利用したフィールドバリアーを張る。

 巨大な火球は、巨大レギオン達の電磁波を利用したフィールドバリアーで、防がれてしまった。

 

 此のやり取りの儘では消耗戦になるので、玄武とアトラス殿そしてグローリア殿の3頭は些か危険だが、連合艦隊の防御陣から飛び立ち高空を飛び回る。

 その3頭に対して巨大レギオン達はマイクロ波収束破壊光線を放つが、高空で飛び回る3頭には当たらない。

 そして3頭に攻撃に集中した結果、当然連合艦隊の艦砲による実体弾攻撃に防御が疎かになった。

 その隙に乗じた実体弾攻撃はかなり防がれてはいたが、巨大レギオン達の防御を上回る飽和攻撃で、いくつかの触覚や脚を破壊する事に成功した。

 その状況を見て連合艦隊は、様々な魔法砲撃を仕掛けて巨大レギオン達の防御体勢に負荷を掛け続ける。

 

 その状態を敢えて維持させている間に、玄武とアトラス殿そしてグローリア殿の3頭は、玄武が顎の前に創り上げた『プラズマ火球』に魔力を注ぎ込む事で、従来の5倍の大きさの『巨大プラズマ火球』が出来上がり、巨大レギオン達の若干小さい個体に狙いを定めて発射された!

 

 「ドオオオオーーーン!」

 

 との轟音を上げて巨大レギオンの一体に『巨大プラズマ火球』がぶち当たり、完全な防御が出来なかった巨大レギオンの一体は爆散してしまった。

 この事態に大型の一体以外の3体は、連合艦隊に接近戦を挑むつもりらしく、突進しながら破壊光線を放出しまくってきたが、当然接近を許す訳も無く連合艦隊は距離を保ったまま防御を固めて後退して行く。

 その3体の巨大レギオンの背後に高空から、玄武とアトラス殿そしてグローリア殿が『プラズマ火球』と両肩に装備しているブラスターを連射して、3体の巨大レギオンはたちまちボロボロになった。

 案の定破れかぶれだったらしく、殆ど身動き取れなくなった3体の巨大レギオンに連合艦隊は集中砲火を仕掛け、木端微塵にしてしまった。

 その間にも玄武とアトラス殿そしてグローリア殿は、残った大型の巨大レギオンに攻撃を仕掛けるが、この大型の巨大レギオンは防御がほぼ完璧で、ダメージを与える事が出来ないでいる。

 しかし、巨大レギオン一体に対象を絞れる事で、全ての艦が高火力の攻撃の集中砲火を浴びせた。

 なのにである、信じ難い事にたった一体の巨大レギオンには、有効な打撃を与えられない。

 

 《・・・なんて防御力だ・・・!》

 

 此奴が防御に徹底し大洞窟に、我々を突入させまいと行動しているのは、明らかに此処を通さないと云う意図と時間稼ぎをしているからに違い無い!

 じわじわと、連合軍側に焦りの思いが募って来た時、モニター越しにカルマ殿から提案が有った。

 そしてアラン様とカルマ殿そして楊大眼殿の、三者会談で手筈が整い決まった作戦案を実施する事になった。

 

 作戦案に従って、カルマ殿達に操られた玄武は地面に降り立つと、ゆっくりと巨大レギオンに向かって歩き出した。

 亀に良く似ているにも関わらず2足歩行しながら、上空から滞空しているドローン達からの魔力提供を、まるで底なしの様に受け続ける。

 その玄武の不気味な歩みに、巨大レギオンは訝しんだのだろう、その巨大な角を玄武の顔に向けて突き刺す様に繰り出した!

 その攻撃はそれほど速くなかった所為か、アッサリと玄武は掴む。

 しかし、その角はまるで灼熱した高炉の様に白熱していたので、たちまち玄武の両手は白煙を上げるが、玄武は意にも介さず角をへし折った!

 

 「キシャアアアアーーーー!」

 

 凄まじい絶叫を上げて、巨大レギオンが倒れ伏す!

 

 《やったか?!》

 

 と思わずモニター画面を凝視しながら、手を握り込んだ。

 しかし、次の瞬間その思いは過ちだと思い知らされる。

 

 巨大レギオンのそれまでは緑色だった眼が、いきなり灼光を放つと、飛び上がる様に上体を起こし玄武を睨む。

 玄武もへし折った2つの角を投げ落として、巨大レギオンを警戒する。

 

 巨大レギオンの角が折れた後から5本の赤く輝く触手が出現する。

 その触手は暫くのたうつ様に動いていたが、生えている根本に引っ込む。

 

 5本の触手は纏まると突如一直線に触手が射出された!

 その触手は何と簡単に多重バリアーを貫き、そのまま玄武の頑丈な装甲と甲羅を貫通していった!

 

 「「「な、何だと!!!」」」

 

 モニター越しに聞こえてくる、アラン様以下連合軍の上層部とカルマ殿の驚愕の声!!

 自分に至っては、呆然自失になり声も出なかった。

 

 玄武はタジタジと後退し、ドンドンと叩きつけられる赤い触手は、玄武の武装と身体を斬り刻む!

 もんどり打つ様に転がるように倒れる玄武を、追い打つ様に赤い触手は長いリーチで薙ぎ払ってくる。

 次の瞬間、巨大レギオンに2つの炎のジャベリンが貫く!

 

 巨大レギオンがいきなり地面に縫い留められて動きを止めたので、上空を確認すると。

 アトラス殿とグローリア殿が投擲した後の姿勢を取っているのが見えた。

 恐らく『プロミネンス・ジャベリン』を2頭で同時に放ったのだろう!

 

 暫くジタバタした挙げ句、巨大レギオンは漸く炎のジャベリンを赤い触手で斬り刻み解放されると、玄武に視線を向けた。

 

 玄武は、その間にも提供され続けた魔力を増加装甲である『北極佑聖真君』に溜め続け、漸く己の最終必殺技を放てる量に達したのだ!

 玄武の腹部に有る装甲が砲塔の形に変化し、玄武の腹部にある甲羅も開口した。

 開口した玄武の腹部には、信じ難いほどに灼熱したエネルギーが垣間見えた!

 

 「『ウルティメイト・プラズマ』発射!」

 

 カルマ殿が絶叫して、その最終必殺技名を吠えた!

 その咆哮と同時に、凄まじいまでの巨大なプラズマ光線が巨大レギオンに、問答無用で突き刺さった!

 

 先程まで完璧な防御をしていた巨大レギオンも、アトラス殿とグローリア殿の『プロミネンス・ジャベリン』と玄武の『ウルティメイト・プラズマ』という、これ以上無い最強の攻撃には耐えられなかった様だ。

 

 『ウルティメイト・プラズマ』は暫くの間、巨大レギオンにプラズマ光線を浴びせ続けたので、耐えられずに木端微塵に巨大レギオンは粉砕してしまった。

 

 あまりにも強力なプラズマ光線は、そのまま大洞窟も吹き飛ばして地下都市への道を地表に晒す。

 

 漸く手強すぎた巨大レギオンを葬れた事に、連合軍全体から歓声の声がモニター越しに湧き上がる。

 まだまだ、戦争途中ではあるが取り敢えず今は強敵を倒せた安堵感に浸ろうと思う。

 



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5月の日記⑩(人類銀河帝国 コリント朝3年)《最終戦争(ハルマゲドン)④》

 5月21日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 昨日の激戦を終えあまりの連合軍全体の消耗に、後方に残してきた兵站からピストン輸送での補給を受ける。

 その間も、ドローン部隊は周囲と地下都市の探査を行っているが、不思議な程『アグニ』達側の動きやエネルギーの集まりが見えない。

 暫くは玄武の傷も有るから、培養槽の準備と補給そして修理や傷の治療をこなすしか無い。

 

 ドローンで探れない地下深部の探索を、パワードスーツで幾つかの通路跡から潜り込み、様々なセンサーで行うが有力な手掛かりを見つけられなかった。

 

 例のアラム聖国からの地下トンネルが復旧されて、補給線は短くなった上に安定したので、一番大変だった玄武の培養槽に使用する遺跡の船からの聖水が、安定供給出来ている。

 だが、流石に直ぐには玄武の傷は治らないので、暫くはこの状態だろう。

 

 5月25日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 漸く玄武の傷が殆ど治り、培養槽にあと数日浸かっていたら完治する処まで来た。

 その間に連合艦隊は、『アグニ』達が居ると思われる大陸中心部に進行し、布陣を整えてドローンとパワードスーツによる探索を進めた。

 3日程前から大陸中心部を起点とする微震が起こり始めたので、連合艦隊を再編成して培養槽に入っている玄武と補給部隊を残したまま進行していたのだ。

 

 微震は大陸中心部に近付くに連れて振動は大きくなり、かなりの深さの地下から衝き上げる様な振動だ。

 連合軍は直ちに戦闘態勢に移行出来る状態を維持しながら、ドローンとパワードスーツによる探索の結果を待つ。

 帰還したパワードスーツ部隊に、探索結果を報告してもらうと、ある程度の深さまで潜ると全ての通路で厚い壁に阻まれ、20メートル程破壊しながら進んでも果てが判らないので、諦めて引き返したそうだ。

 つまり、『アグニ』達は明らかに地下都市に籠城していて、何らかの行動をし続けてその行動により振動が発生しているのだろうと連合軍の作戦会議で結論が出た。

 その『アグニ』達の状況を知る為に、カイン中佐のドリルバイクを改造して、急遽小型掘削マシーンの製作に入った。

 

 5月26日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 昨日から改造したドリルバイクを中核とした小型掘削マシーンを、比較的大きな地下に繋がる通路に投入した。

 朝から始動させたにも関わらず12時間掛けたのに、凡そ100メートルしか進めなかった。

 ドリルバイクを中核とした小型掘削マシーンは、人を乗らせない形の遠隔操作タイプだから人的資源の消耗は無いのだが、機械の消耗がどうしても存在する。

 なので同じ機構を持つ代替品と2時間毎に交代させ、休ませながら掘削させる。

 

 5月27日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 早朝にかなり掘り進んだ小型掘削マシーン越しに探査すると、あと数メートルで突破出来る事が判った。

 そして巨大空母『グラーフ・ツェッペリンに有る』作戦会議室にて、モニター越しに連合軍の上層部が集結し、型掘削マシーンが壁を突破するシーンに立ち会った。

 いよいよ突破できると専門の技術官に言われ、モニター画面を凝視する。

  

 「ゴガン!」

 

 と頑丈な壁が突き崩されると、小型掘削マシーンに取り付けられた各種センサーとカメラは、とんでもなく巨大な空洞に躍り出た事を知らせてくれた。

 

 そして何やら凄まじく巨大な物体が地に伏せて居る事が判った。

 

 《何だ?》

 

 何だか巨大な空洞の中に、何故かなだらかな山脈が存在する様な景色が広がっていて、奇妙な気分を味わっていると、その山脈の上に人らしき存在が認められた。

 すると、突然そのモニター画面を見ていた全ての人間に、声が聞こえて来た。

 

 ”はじめに声ありき

言葉は彼なりき

人は皆、彼の言葉につき従い、これを拝せん

 

されど地に住むものども

虚栄と傲慢、奸智と壟断により

あまたの塔の頂きを天へと達することを試み、地上の富を積む

 

人心地上に散りて荒れ荒び

人、彼の声に耳を貸すことなし

彼、人に悔い改むる機を与う

 

焔と煙と獅子の吼ゆる大きな声とが地に降り下り

諸々の徒を踏みにじらん

災い過ぎ去れど己が業を看過し、なお耳のあるもの無くば

彼と共に歩む忠実なる聖にて真の証人よ

地と地に住むものをして報いを与え、新しき天地へと導け

 

願わくば人々を罪より解き放ち

栄光と尊きと、裔限りなくあらんことを”

 

 とのルミナス教に於いて『女神ルミナス様』の仰られた語録を、記録したと言われる聖人の書物に有る一節が唱えられたのだ。

 すると突然自分の身体が硬直し、所謂金縛り状態になった!

 

 《こ、此れはもしかすると、洗脳聖句か?!》

 

 頭では今の状態が危ないのは判っているのだが、身体が言う事を聞かない!

 だが次の瞬間、以前妹の彼氏で有る『マリオン』君が引き合わせてくれた、知識の神『イーリス』様が脳裏に現れ解除の魔法を脳内の話しだが掛けてくれて、無事金縛り状態が解除された。

 

 『女神ルミナス様』の同僚に当たる知識の神『イーリス』様が、此の様に我らを支援してくれている現実が、『アグニ』達の不当性を証明していると言えた。

 




 申し訳無い・・・orz
 朝7時の投稿が出来ませんでした(涙)

 実は九州在住で消防団にボランティアで所属してるので、今さっき迄18時間拘束されていまして、投稿する前に招集されていたんですよ~orz

 何とか1年間の毎日投稿は、果たしたいと考えていますので宜しくお願いします。


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5月の日記⑪(人類銀河帝国 コリント朝3年)《最終戦争(ハルマゲドン)⑤》

 5月27日②(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 恐らく見た瞬間から、洗脳を仕掛けてきて居たのだろう。

 当初は違和感を感じなかったその姿。

 改めてなだらかな山脈の上に立つ人を眺めると、とても普通の人間には見えなかった。

 何故ならその頭頂部はとても普通の人間とは異質過ぎた。

 何と額の部分に不思議な色に輝くクリスタルが埋め込まれているのだ。

 ファッションとして見ても奇抜に過ぎると感じたが、同じくモニター画面を見ていたカルマ殿が驚愕の表情を浮かべて、

 

 「・・・『アグニ』、貴様まさか、禁断の遺物で有る『聖なる頭脳』の中枢、『ゾア・クリスタル』との禁断の融合を果たしたのか!」

 

 激怒と評して良い顔をカルマ殿は示して、モニター越しに『アグニ』に食って掛かる。

 そのカルマ殿を見て、『アグニ』は軽蔑の眼差しを向けてカルマ殿に鼻を鳴らす。

 

 「フン!・・・カルマか・・・お前、惨めにもあの時他の有象無象と一緒に死ななかった様だな。

 どうやら、アラム聖国本土にまだ居るらしいが、何らかの方法で覗いている様だ。

 お前の言う通り、此れこそ『ゾア・クリスタル』!

 偉大なる『サイヤン帝国』の全てを記録している『聖なる頭脳』、そしてその中枢回路を統括する『ゾア・クリスタル』は、この世における秘宝中の秘宝だ!

 その秘宝と融合した我こそは、『ルミナス神』を越えた最高神としてこの世を永劫に支配してやろう。

 精々我を崇め奉り、忠誠の限りを尽くせ!」

 

 と、痴人の夢としか言えない妄言を繰り返す。

 改めて、狂人としか形容出来ない男だが嘲笑え訳が無い!

 今まで戦ってきた獣化兵(ゾアノイド)・レギオン・鳥の様な怪物、そして強すぎた巨大レギオンと云う生体兵器は、あまりにも此の『惑星アレス』の技術としては異質過ぎる上に、存在すべきでは無いと感じる。

 

 じっと、『アグニ』とカルマ殿の罵り合いを聞いていたが、当然歩み寄る事は無く完全決裂すると、いきなり『アグニ』が消えた。

 恐らく最初から立体プロジェクターか何かだったのだろう。

 

 するとまたも例の振動が起こり始めたので、大事を取る為に連合艦隊はドリルバイクを中核とした小型掘削マシーンを回収すると、一気に全速力で後退する。

 だが、振動の規模は今までと桁が違い、まるで天地がひっくり返ったかの如く際限が無い。

 

 連合艦隊は、ブーストを使い一気に地上100メートルの空を飛び、10キロメートル後退した。

 先程まで居た地点は地下に崩落し、地下から迫り上がる物体が有った。

 今までにも、様々な巨大な敵が居たが、今回は趣が違う上に巨大さの桁が違う。

 

 先ず勢いが違い、ゆっくりと迫り上がって来る物体はとても静かで、あくまでも巨大過ぎるから振動が半端で無かった事が判った。

 未だその巨大な物体の全貌が全然見えないが、殆ど山脈にしか見えない巨大な物体は迫り上がり続ける。

 

 そんな山脈にしか見えない巨大な物体は、奇妙な事に金属的な部分や生物的な部分が有り、何とも統一性に欠ける。

 連合艦隊はしっかりと防御陣形を講じた上で、超高性能ドローンによる探査の報告を受けた。

 その内容を確認すると、何と山脈にしか見えない巨大な物体は、途轍も無く巨大で50キロメートルに及ぶ巨体で、然も内包するエネルギー量は今までの敵を遥かに凌駕している。

 数値の資料だけで圧倒されてしまうが、なるべく平静を装いながら細かい情報を精査していると、どうやら全体の端の部分に噴射口と思われる物が3つ有った。

 もしかするとこの巨大な物体は、この噴射口から何らかの推進剤を放出して飛び回れるのだろうか?

 そんな疑問を抱いていると、突然巨大な物体の側面から触手が幾つも生えて来た。

 ただ、山脈にしか見えない巨大な物体から出現した触手は、本隊のあまりの巨大さにまるで髭の様だ。

 何の役割が有るのか疑問で注視していると、その触手の先端からビームの束が飛び出し、連合艦隊とドローン群に照射された。

 幸いこのビームはバリアーで防ぐ事が出来たので大過無かったが、此方側も攻撃に軸足を移せず巨大な物体が徐々に迫り上がるのを見ている事しか出来ない。

 やがて完全に迫り上がり、空中に躍り出た巨大な物体は何とも歪な形では有ったが、船体の体を成している。

 

 すると、巨大な物体の前方にまたしても立体プロジェクターの様な方法で『アグニ』が再度現れると、額の中に埋め込まれた『ゾア・クリスタル』を輝かせて宣言する。

 

 「此の雄大な船体を持つ巨艦こそは『方舟』、我とともにこの惑星アレスを支配し、何れは天の星々の世界へと飛び出し、失われた『サイヤン帝国』の権威を遍く星々に刻み込んでくれる!」

 



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5月の日記⑫(人類銀河帝国 コリント朝3年)《最終戦争(ハルマゲドン)⑥》

 5月27日③(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 正直な処、こんな狂人と相手するのは本当にうんざりするのだが、相手が力を持っている上に世界征服の野望を抱いているのだから相手せざるを得ない。

 

 「ビーッ、ビーッ、!」

 

 との警戒警報が鳴り、モニター上には正面に『方舟』を臨みながら、サブモニターには『キリマンジャロ山』の火口が映った。

 ドローンがその『キリマンジャロ山』の火口をズームアップすると、鳥のような怪物達が姿を見せる。

 然もその数が尋常では無く、次々と飛び立っている。

 その姿を見たカルマ殿が、

 

 「あ、あれはまさか『ギャオス』なのか?!まだ居たのか?

 不味い、不味過ぎるぞ、『ギャオス』は『サイヤン帝国』の生体兵器にして、高速移動に特化した兵器である上に攻撃力も凄まじい。

 然もこの数は、恐らく量産化に成功したな!」

 

 そのカルマ殿の言葉に、疑問を持ったらしい幕僚の一人が、

 

 「巨大レギオンの方が厄介でしたが?」

 

 その問いに、カルマ殿は頭を振って答える。

 

 「確かに巨大レギオンの方が攻防のバランスが取れていて厄介だったが、それ故に大事になるのが育成期間が長い事だったので、量産化は難しかった。

 ギャオスはその遺伝子情報の簡素さ故に一旦成功してしまえば、育成期間が短くて済むので量産化は容易だと推測出来た。

 もし、あのまま量産化していたとなると其の数は・・・」

 

 そうこう議論をしている間にも『キリマンジャロ山』の火口からは、際限が無い程の数のギャオスが飛び立っている。

 そのギャオス達は、大きくキリマンジャロ山の上空を旋回している。

 やがて、出尽くしたのかキリマンジャロ山の火口は蓋の様な物に覆われた。

 ギャオス達は、暫くの間キリマンジャロ山の上空を旋回していたが、方向を見定めたらしく、此方の方向に向いて飛行し始めた。

 

 その数は、概算で1万羽程でこのクラスの怪物が、此処まで多いとその戦力の凄まじさに目眩がして来る。

 だが当然連合軍は、この脅威に対して放って置く訳には行かない!

 

 この危機にアラン様は、予備の航空戦力として準備していた、アトラス殿とグローリア殿を除いたドラゴン軍団を投入する事にして、自分と空母艦隊はバリアーをしっかりと張りながら、ドラゴン軍団と予備の量産型ドローンを全て発進させる。

 此れでほぼ予備全ての航空戦力は出し尽くす事になる。

 空軍としては、後の無い乾坤一擲の戦闘になるので、巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』と配下の空母艦隊は、徐々に現場から回頭して後方から近付くギャオス群に対処すべく動く事になった。

 

 その空母艦隊の内、初期型空母『アイン』『ツヴァイ』『ドライ』の艦長となっている、ベック少佐・トール少佐・キリコ少佐が、己の艦と共に自分の乗る巨大空母『グラーフ・ツェッペリン』の左右と後方に陣取り、立派に操艦しているのが目に入る。

 

 考えて見れば、彼らも立派な歴戦の軍人となった。

 年若い彼らだが、其れ其れドラゴン部隊5頭と30機の量産型ドローンを指揮する部隊長だ。

 艦長になる際に、『ナノム玉2』の服用と専用の催眠学習をこなし、先年から崑崙皇国に派遣されてからは3人の息の合った操艦と部隊運用を見て、崑崙皇国軍副司令官の『趙匡胤』殿から是非このまま崑崙皇国の指導官として赴任して欲しいと要請が来ている程だ。

 

 此の未来に素晴らしい栄達が待っている若者達を、無事に連れ帰ってみせると誓いながら、彼らが機敏に己の部隊に命令している姿を監督した。

 

 やがて全てのドラゴン軍団が空中に飛び立ち隊列が組まれたタイミングで、遠い山脈の稜線からギャオス群が目視出来た。

 ドラゴン軍団135頭は、予め定められた作戦案に則り、新軍団魔法『ソニックインパルス3』の隊列に移行した。

 ドローン部隊は、遥か高空に超高性能ドローンが10機、そしてややドラゴン軍団の高空に量産型ドローンが2千機で、ドラゴン軍団を完全サポートする。

 

 いよいよギャオス群が此方に接近してきたが、相も変わらず隊列など整えずに突進してくる。

 

 双方共に遠距離攻撃の有効射程距離が近づいたので、ほぼ同時に攻撃行動に移った!

 

 双方共に口から音を発し始めたのである。

 ギャオス群は己の最強の攻撃手段である『超音波メス』への準備であるが、ドラゴン軍団は全くそれとは異なり、ひたすら音量を上げて行った。

 

 ギャオスの超音波メスとは、300万サイクルの衝撃波超音波メスを、遠距離から対象に対して浴びせるのだが、連合軍のバリアーはこの攻撃手段に防御出来ず、前回は非常に苦戦した。

 

 しかし、カルマ殿から得た情報と前回回収したギャオスの死体から、超音波メスの理論が判り、対抗手段を賢聖モーガン殿とマリオン、そして八仙の方々が編み出してくれたのが、現在ドラゴン軍団がやっている方法である。

 

 ギャオス群が浴びせて来た超音波メスは、ドラゴン軍団が上げ続ける声量とそれを増幅する量産型ドローンが作り上げた、音の断層によって何のダメージも与えられずに終わった。

 

 しかし、その原因を確かめもせずにギャオス群は超音波メスを浴びせつづける。

 その間にもドラゴン軍団は声の声量をひたすら上げ続け、やがて其れは物理限界を越えて衝撃波となり言わば破壊叫となってギャオス群に襲いかかった!

 

 「「「「「グギャアアアアアアアーーー!」」」」」

 

 という断末魔を上げながら、ギャオス群の内数百羽が墜落して行く。

 

 この技こそが、新軍団魔法『ソニックインパルス3』の最終段階である、『ブラストヴォイス』!

 攻防一体のこの技は、ギャオスへの対抗策として生まれたが、現段階でドラゴン軍団にとって最強の攻撃でもある。

 

 想定通り対抗できた事で、連合軍本隊に向かわせずに済みそうで、愁眉を開く事が出来た。

 



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5月の日記⑬(人類銀河帝国 コリント朝3年)《最終戦争(ハルマゲドン)⑦》

 5月27日④(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 新軍団魔法『ソニックインパルス3』の陣形で『ブラストヴォイス』を放ちまくるが、やはり限界に達してしまい、ギャオス群を3千羽撃ち落とした段階で、『ブラストヴォイス』を使えなくなった。

 

 暫くは、魔力と身体的負荷からの回復に時を掛ける必要がある。

 なので、2次的な防御手段である音響断層を、ドローン部隊が展開しドラゴン軍団は両肩に装備されている、ブラスター砲で攻撃しまくる。

 しかし、ギャオス群が高速移動出来るのに対し、ドラゴン軍団は高速で移動すると音響断層での防御手段が取れなくなってしまう。

 ドラゴン軍団の利点である高速移動が出来ない現状は、非常に不味い。

 何故なら、ギャオスも超音波メスだけが攻撃手段では無く、爪や牙更には其の巨体を利用した体当たり等の攻撃方法がある。

 やがて、その事実に気付き始めた一部のギャオス達が、高速での体当たりを始めてドラゴン軍団にぶつかってきた!

 そんな奴らにはブラスター砲での集中砲火で追い散らすが、もしバラバラでは無く纏まって体当たりして来たら、対応出来ない可能性が高い。

 ジリジリとした時間が過ぎて行く。

 ドラゴン軍団は、超高性能ドローンからの超効率の魔力補填とヒールによる回復魔法での、一刻も早い魔力と咽喉部分の癒やしに急いでいるが、此処までギリギリまで負荷が掛かってしまっていると、中々治らない。

 その間にも、ドラゴン軍団を防御する為に全力を尽くさせている量産型ドローンには、ギャオス達の攻撃によってかなり損害が出てきていて、凡そ3割の量産型ドローンが破壊されてしまった。

 いよいよ、不味くなって来たので空母艦隊に備え付けの艦砲で、あまり効果が無いのは判っていたが、牽制にはなるので攻撃し続けた。

 やはりその牽制攻撃をし続けた為に、ギャオス達は空母艦隊に攻撃を仕掛けてきた。

 次々とバリアーを貫通して、ギャオスの超音波メスが空母艦隊に被害を与える。

 そんな中、格納庫から未だ聖水に満たされた調整槽に浸かっている、アトラス殿とグローリア殿から緊急通信が入った。

 アトラス殿は、

 

 「まだ完全な調整が出来て無い上に、『アグニ』との最終決戦まで温存したかった気持ちも判りまが、此の儘では全てが水泡に帰します!

 此処は調整不足であろうが、対『古きものども』に特化した神の武装である星間戦争用武装『雷電(ライディーン)』を使用すべきでしょう!」

 

 そしてグローリア殿も、

 

 「夫アトラスの言う通りです!

 此処でグラーフ・ツェッペリンが沈めば、全てがご破産です!

 どうか決断を!」

 

 と2頭の嘆願を受けて、切り札を此処で使うべきか悩む。

 しかし、直ぐにその懸念は振り払われた。

 何故ならアラン様が事前の命令を撤回し、新たな命令を我らに下したからだ。

 

 「当初の命令を破棄し、新たに命令を下す!

 直ちにアトラス、グローリアの両名は、星間戦争用武装『雷電(ライディーン)』に『フェード・イン』し、『神音轟壊(ゴッド・ボイス)』を使用せよ!」

 

 とのアラン様の新たな命令に従い、格納庫に鎮座していた謂わばドラゴンの神機である2体の巨神が、甲板を割って姿を現した。

 そして自分は最善と思える指示を出した。

 

 「良いか!アトラス殿とグローリア殿!

 知っての通り、此の2体の『雷電(ライディーン)』とのお二人のシンクロ調整は、未だ確立しきれていない!

 なので、『フェード・イン』しても動き回る事は出来ない!

 アラン様の命令通り、『神音轟壊(ゴッド・ボイス)』を一回使うのが恐らく限界だ!

 よって、グラーフ・ツェッペリンに固定したままで使用する、くれぐれも意識をしっかりと保てよ」

 

 と最後はアドバイスを添えて指示した。

 

 「「了解!!」」

 

 とアトラス殿とグローリア殿は返事すると、調整槽から出て用意されていた腕輪を其れ其れの右腕に通した。

 するとその腕輪は、サイズを微調整するとアトラス殿とグローリア殿の右腕にジャストフィットする。

 それを確かめたアトラス殿とグローリア殿は、其れ其れの巨神の前に歩を進め唱えた。

 

 「「『フェード・イン』!!」」

 

 そう唱えるとアトラス殿とグローリア殿は、巨神の胸の部分に存在する巨大なクリスタルから照射される光に乗ってそのまま吸い込まれた!

 

 すると、今まで欠片も生気の無かった巨神に精気が宿り、眼が光り始めた。

 

 「二人共大丈夫か?」

 

 とアトラス殿とグローリア殿に尋ねると、巨神が此方を向いて頷いた。

 恐らく声を出すような繊細な調整は出来ていないのだろう、あまり時間の猶予が無い事を把握し、準備を整えていた、ドラゴン軍団と量産型ドローンに命令を下した。

 

 「今より、グラーフ・ツェッペリンの甲板に固定した『雷電(ライディーン)』から、『神音轟壊(ゴッド・ボイス)』を使用する、各ドラゴンとドローンは指令に従ったポジションに移動し、ギャオス達を一定の範囲に押し留めろ!」

 

 その指令に従い、溜め込んだ魔力とある程度治った咽喉で、音響断層を作り出してギャオス達の進行方向を制限して、目論見通りギャオス達を一定の範囲に押し留めろ事に成功した!

 

 「今だ!」

 

 と自分が命令を発すると、2体の『雷電(ライディーン)』は各々の構えを取った。

 

 アトラス殿が『フェード・イン』した青・黃・赤のトリコロールカラーの巨神は、3つの穴を開口させた!

 

 グローリア殿が『フェード・イン』した全身が黄金色の巨神は、手に持つ黄金の錫杖を構えた!

 

 次の瞬間、グローリア殿の『雷電(ライディーン)』が黄金の錫杖から不可思議な波動をギャオス達に叩きつけた!

 その瞬間、約7千羽のギャオス達は空間に縫い留められる様に固定され、微動だに出来なくなる!

 

 そしてアトラス殿の『雷電(ライディーン)』に出来た3つの穴から、アトラス殿の絶叫が轟く!

 

 「『神音轟壊(ゴッド・ボイス)』ゴッド・ラ・ムー!」

 

 その凄まじい音響は、容易く『ブラストヴォイス』のレベルを凌駕し、信じ難いレベルの超音波を衝撃としてギャオス達に浴びせた!

 

 音が聞こえなかった・・・。

 

 まるで其処には何者も居なかったと思える程に、呆気なくギャオス達は痕跡も残さずに消滅した。

 あまりの『神音轟壊(ゴッド・ボイス)』の威力に、空母艦隊の皆は茫然自失してしまい、言葉を無くしてギャオス達の居た空間を見続けた。

 



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5月の日記⑭(人類銀河帝国 コリント朝3年)《最終戦争(ハルマゲドン)⑧》

 5月27日⑤(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 ギャオス達との死闘により、空母艦隊とドラゴン軍団とドローンの空軍戦力は、ほぼ全ての戦力を使い切り、ギャオス達との戦場跡で補給と修理行動に全力を上げるしか手が無くなっていた。

 必死だったので、連合艦隊のその後は把握していなかったのだが、モニターで確認するとパワードスーツと戦闘バイクそして戦闘車両の数々が、何処からか現れた『レギオン』に良く似た2足歩行の、蟷螂や蟻にも似た身長2メートルほどの武器を持った虫の群れと激闘を演じている。

 

 何とか、無事な超高性能ドローンと量産型ドローンを援軍として向かわせたが、空軍としては此れが精一杯でドラゴン軍団は身動きが取れない程疲弊していた。

 

 そんな中、虫の群れの中に異様な人間とも虫とも言えない、5匹の凄まじい戦闘力を持つ個体が見えた。

 其奴らを相手に、連合軍の猛者が戦いを挑んで居るのが判った。

 恐ろしく素早い上に小回りがきくようで、武装に身を包んだ武将達と親衛隊の精鋭が複数名で戦っている。

 しかしそれでも追い詰められないらしく、超高性能ドローンの精密射撃の連射支援で漸くスピードに陰りが見えて、5匹の個体は空を飛んで空中に浮かんで居る『方舟』に逃げて行った。

 

 すると、それまで小煩い程の頻度で連合艦隊にビーム攻撃を繰り返していた『方舟』が静かになってしまい、その間に残存していた虫の群れは、パワードスーツと他の戦闘部隊によって殲滅された。

 

 それでも、中々動き出さない『方舟』に違和感を感じていると、突如『方舟』の船体上部の一部分が割れて、其処から巨大な怪物が姿を現した。

 

 しかし、今まで対戦して来たあらゆる怪物と違い、背中と足元に『方舟』の船体から伸びるチューブの様な管が幾つも繋がっている。

 まるでまだ未完成の生体兵器で、無理矢理出して来たとしか思えなかった。

 

 すると、怪物の頭部の額部分が開閉した。

 其処には何と『アグニ』が乗り込んでいて、此方を睨みながらその姿を例の立体プロジェクターの様な方法で空間に映し出した。

 「おのれー、何故だ!

 何故貴様ら程度、人の分際で神を凌駕した我の軍団を倒せる?!

 如何に、我の為の実験体とは云え、『ゾア・クリスタル』の劣化複製品を組み込んでいたのだぞ!

 人如きが対抗出来る存在では無かった筈だ!

 憎い!憎くて憎くて心が張り裂けそうだ!!

 『柳星張(りゅうせいちょう)』よ、此の我の憎悪を糧として、奴ら人の分際で神に逆らう愚か者を葬ってしまえ!」

 

 と怨念じみた憎悪の言葉を我ら連合軍に叩き付けて来た。

 

 恐らく『柳星張(りゅうせいちょう)』と云うのが、この未完成と思われる怪物の名前なのだろう。

 その柳星張(りゅうせいちょう)の背後から伸びる、4本の触手が前方に回されて来て矢尻状の鋭く尖った先端が、連合艦隊に向いた!

 瞬間、その4本の触手の先端から、ギャオスが放っていた『超音波メス』が放たれ、連合艦隊を薙いだ!

 

 「キューーーン」

 

 何とも奇妙に乾いた高音が鳴り響いた。

 その結果を知りたくて、連合艦隊の様子をドローンからのカメラで確認した。

 

 「・・・えっ・・・」

 

 という戸惑った声が自分の耳朶に聞こえて来た。

 もしかすると自分の呟きを自らの耳が拾ったのかも知れないが、多分その様子を見た殆どの者の感想は似たり寄ったりだったに違い無い。

 何故ならモニター越しの映像には、帝国軍製の陸上艦船が真っ二つに切れていた。

 

 当然どの艦種にもバリアーが張ってあるし、防御壁は相当な物だ。

 しかし、その船体をアッサリと切断した挙げ句、爆発等の破壊音が殆どしなかったのだ!

 其れは、怪物が放った『超音波メス』がギャオスのそれよりも遥かに出力が有る事を示している!

 

 「・・・まさか、その触手は『テンタクランサー』?!

 そ、其れではその未完成の怪物は、あの『朱雀』なのか?!

 そんな馬鹿な、『朱雀』はサイヤン帝国に於いても作り上げる事が出来ず、幻の『四聖獣』となっていた筈だ!

 如何に『聖なる頭脳』の中枢である『ゾア・クリスタル』と融合したとは云え、作り上げられる筈が無い!」

 

 とカルマ殿が、モニター越しに音量を上げて絶叫したので、『アグニ』にも聞こえたらしく。

 空間に投影されている『アグニ』は、

 

 「ん、その声はカルマか?!

 ふん、新たな神である我にとっては造作もない事、と言いたい所だが、優しい神で有る我が愚民たる汝に教えを垂れてやろう。

 サイヤン帝国があの時点で『柳星張(りゅうせいちょう)』を完成出来なかったのは、膨大に過ぎる戦闘情報の整理と統括をするには、従来の生体兵器に使用していた生体頭脳では処理が追いつかなかった。

 だが、『ゾア・クリスタル』を備えた『獣神将(ゾア・ロード)』を四肢の副脳として利用すれば、問題はクリアされたのだ!」

 

 と得意気に言い放つと、怪物の四肢の根本に埋め込まれた物をズームアップして見せてきた。

 

 その部分を良く観察すると、何やら人の顔と思える物が怪物にめり込む様にはめ込まれている。

 カルマ殿が、

 

 「その顔は、まさか『アグニ』!お前と共にアラム聖国に反旗を翻した、お前の同僚達か?!

 とすると、『アグニ』お前は自分の同胞を人体実験した挙げ句、生きた副脳として『朱雀』に取り込んだのか?!」

 

 その糾弾に、『アグニ』は酷薄そうな笑みを浮かべて答えなかった。

 何とも気分が悪くなる話しで、より『アグニ』に対して嫌悪感が増していった。

 



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5月の日記⑮(人類銀河帝国 コリント朝3年)《最終戦争(ハルマゲドン)⑨》

 5月27日⑥(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 未完成の怪物『柳星張(りゅうせいちょう)』は、4本の触手である『テンタクランサー』を振りかざして『超音波メス』を発射しようとしたが、『柳星張(りゅうせいちょう)』は突如上空を振り仰ぐと『テンタクランサー』からの『超音波メス』を遥か高空に照射した。

 

 暫くしてから、かなり離れた距離の高空が突然赤く染まると、灼熱した『プラズマ火球』が『柳星張(りゅうせいちょう)』目掛けて飛んで来る。

 

 「ドゴオオオオオオーーン!」

 

 と轟音を上げて『プラズマ火球』が爆発したが、『柳星張(りゅうせいちょう)』のかなり手前で炸裂した。

 『柳星張(りゅうせいちょう)』の『テンタクランサー』が5キロメートル程伸びて、『プラズマ火球』をその鋭い先端部で弾いたのだ。

 『プラズマ火球』という事は、つまりそういう事だ。

 『玄武』が間に合ったので有る。

 カルマ殿が、

 

 「間に合って良かった!

 漸く調整槽を出れて、改良した『北極佑聖真君(増加装甲)モード』を装備して前線に急行させたのだが、ギリギリと云ったタイミングだったな!

 連合軍の方々には、心配させてしまい申し訳無い!」

 

 と謝って来て。

 その一部始終を見た『アグニ』は、

 

 「やはり、それが『玄武』なのだな!

 おのれ、お前達こそ『サイヤン帝国』の遺産を自分勝手な都合で利用する偽善者ではないか!

 『サイヤン帝国』に於いて門外不出の遺産を、利用するとはな!」

 

 と罵って来たが、正に『柳星張(りゅうせいちょう)』を己の独善で利用しておいて、どの口がほざくのかと呆れてしまった。

 

 その間にも確実に『玄武』は接近して来ていて、盛んに『柳星張(りゅうせいちょう)』は『テンタクランサー』先端から『超音波メス』を照射し続ける。

 

 しかし、対ギャオス用に改良した『玄武』の『北極佑聖真君(増加装甲)モード』は、遠距離での『柳星張(りゅうせいちょう)』の『超音波メス』を見事に防ぎきり、着実に『柳星張(りゅうせいちょう)』とそれが乗る『方舟』に近づいて行く。

 

 『アグニ』の注意が完全に『玄武』に向いた所為か、連合艦隊に一切の攻撃が来なくなり、被害の大きかった艦船から乗務員を他の艦艇で収容し、急いで安全と思われる距離を取った上で、土魔法による強固な遮蔽物を作り上げて連合艦隊はそれを盾にした。

 

 そして漸く『玄武』が戦場に肉眼で視認出来る程近づくと、カルマ殿の指示が飛び、先程までの前足を翼状にして滑空するのを止めて、四肢からジェット噴射させると回転し始める。

 

 この状態は、相当な防御力を備えているようで、ギャオスに比べかなり強力な『柳星張(りゅうせいちょう)』の『超音波メス』も防御する事に成功している。

 

 だが、その防御体勢では、当然『プラズマ火球』を発射する為の攻撃体勢には移れない。

 

 暫くの膠着状態が続いたが、アラン様からの指示が各連合艦隊の艦船に飛んだ。

 

 「・・・どうやら、超高性能ドローンによる詳細な探査により、『方舟』に使用されている幾つかの箇所に、『古きものども』の関与が確定したので、神鎧『ジークフリート』の使用権限が承認された!

 此れより俺の最高武装で有る、神鎧『ジークフリート』の全力戦闘に入る。

 全ての連合軍軍人は、其れ其れの指揮官の指示通りに戦場から距離を取って、防御に専念せよ!」

 

 との命令を受けて、連合艦隊は現状より強固なバリアーを重ね掛けすると、完全防御体勢となりアラン様と『玄武』に全てを託す。

 

 やがて、連合軍総旗艦『ビスマルク』の甲板の上に歩を進めたアラン様が、ふわりと舳先に立たれた。

 そしてアラン様が唱えた。

 

 「対外敵プログラム"武神アラミス"起動!

 

 モード『異空間からの侵略者』!

 

 『神人』の要請に従い顕現せよ!

 

 神鎧『ジークフリート』!!!」

 

 と叫ばれると、アラン様の眼前に神々しい光を放つ鎧が現れた!

 

 そしてモニター上に文字が綴られていく。

 

 《其は、神々の大いなる遺産、如何なる者も傷付ける事能わず、不滅なる特異点、神々が祝福と共に鋳造せし神の鎧、汝の名は『ジークフリート』!》

 

 たちまち神鎧『ジークフリート』は、各パーツに分かれ、アラン様の身体の部分に次々と装着して行く。

 

 アラン様に完全装着した神鎧『ジークフリート』は、まるで歓喜するかの如く、七色の光を煌めき放ち辺りを照らす。

 

 そしてアラン様は、神鎧『ジークフリート』を纏ったまま防御壁を越えて、やって来た『玄武』と合流して『方舟』正面に静静と浮かび上がった。

 

 その一連の一幕の間、何故か『方舟』と『柳星張(りゅうせいちょう)』の攻撃は、不自然に止んでいて静かでさえあった。

 

 その神鎧『ジークフリート』のあまりの神々しさに驚愕したのか、『アグニ』が信じられないと云った体で、

 

 「な、何だその鎧は?!

 此の様な鎧の存在を我は知らぬ!

 どうしてこんな鎧が存在するのだ!」

 

 と絶叫しながら狼狽え始める。

 まあ、特に帝国としては秘密にしていなかったが、『アグニ』の様な自己顕示欲と傲慢な思考の持ち主ならば、他人の事を見下す事は有っても、慎重に相手の事を分析する事は無いだろうから、恐らく帝国の情報を精査する事などしてはいまい。

 今、そのツケが払われようとしているのだった。

 



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5月の日記⑯(人類銀河帝国 コリント朝3年)《最終戦争(ハルマゲドン)⑩》

 5月27日⑦(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 神鎧『ジークフリート』は『玄武』の頭上に降り立つと、『玄武』は大きく息を吸い込んで行き『プラズマ火球』の発射体勢に入る。

 そうはさせまいと『柳星張(りゅうせいちょう)』は、『テンタクランサー』をアラン様に1本、『玄武』に4本貫くように直進させる。

 しかし、そんな事を許す筈もなくアラン様は直進して来た『テンタクランサー』5本に対し、手を翳しながら。

 

 「・・・固定・・・」

 

 と呟くと、アッサリと『テンタクランサー』5本は、いきなり空間に縫い留められるように固定された。

 

 「な、何だと?!」

 

 『アグニ』が信じられない光景に絶句して、続く言葉につまると。

 『玄武』が充分に溜めた『プラズマ火球』を『柳星張(りゅうせいちょう)』の『テンタクランサー』5本に直撃した。

 

 「ズガガガガガガガガーーー!」

 

 との爆発が起こり、ボロボロになった『テンタクランサー』5本を、『玄武』は両手で手繰り寄せると、豪快に引き千切った!

 

 「キシャアアアアーーーー!」

 

 との絶叫を『柳星張(りゅうせいちょう)』は上げて、『方舟』の上で身悶えている。

 

 『アグニ』は苦虫を噛み潰す様な表情を顔に湛えて、悔しそうな様子を見せており、相当焦っているようだ。

 ゆっくりと『玄武』は『方舟』の上に降り立ち、アラン様と共に『柳星張(りゅうせいちょう)』に歩み寄る。

 その悠然とした姿に我慢ならなかったのか、複数のチューブを引き摺らせながら『柳星張(りゅうせいちょう)』は『アグニ』の指示の下、鋭い槍の様な両腕で策も何もなく『玄武』の腹目掛け貫いて来た!

 

 その鋭い槍の様な両腕を腹に届く前に、『玄武』は自身の両手で掴みギリギリと捻りあげて行く。

 

 モウモウと煙を上げながら、『玄武』は自身の両手で『柳星張(りゅうせいちょう)』の両腕を掴み続け凄まじい力比べが、やがて限界に達する。

 

 『玄武』の両手が突然灼熱し始めて、『柳星張(りゅうせいちょう)』の両腕を焼き折った!

 

 フラフラとよろめいた『柳星張(りゅうせいちょう)』の両肩に、灼熱した『玄武』の両手が突きこまれる!

  

 「『爆熱拳(バニシング・フィスト)』!」

 

 カルマ殿の声が聞こえてその強烈な技の名称が判り、我々はその結果を見やる。

 爆熱拳(バニシング・フィスト)を引き抜いた『玄武』は、その元に戻った両手が握り込んでいた手の平に、『ゾア・クリスタル』の複製2個が現れる。

 その途端に『柳星張(りゅうせいちょう)』の両肩が垂れて、持ち上げられなくなる。

 同じ様に爆熱拳(バニシング・フィスト)を使って、2個の『ゾア・クリスタル』複製を『柳星張(りゅうせいちょう)』の腰にある脚の付け根から取り出す事に成功した。

 すると両肩と同じく未完成の両脚が身体を支えきれなくなって、うつ伏せに『柳星張(りゅうせいちょう)』は倒れ込み、起き上がる様子が無い。

 

 暫くの沈黙が有り、やがて『柳星張(りゅうせいちょう)』背中に存在した『ゾア・クリスタル』複製を手に持ちながら、『アグニ』が出てくると。

 突然『ゾア・クリスタル』複製を自身の腹に埋め込んだ。

 

 《何のつもりだ?!》

 

 と訝しく思い、『アグニ』の様子を見守っていると、震えていることが判る。

 

 どうやら喜びに震えているようで、『アグニ』は狂喜した声で叫び始めた。

 

 「嬉しい誤算だ!

 こんなに『ゾア・クリスタル』の複製を身体に取り込んだだけで、一気に力のレベルが飛躍的にアップしたぞ!

 こんな事なら、早く取り込んで入れば良かった。

 まさかな此処まで・・・・・。

 ぐがががが、ががががが・・・。

 テヘヘへhぃdvpwrジャペzぎゃぎゃぎゃ絵zpkhp!」

 

 と言葉の後半は、意味不明の言葉の羅列となり、やがて『アグニ』は俯いて黙り込んだ。

 

 暫くの空白の時間が流れ、突然ガバっと『アグニ』は顔を上げた。

 すると、異様な違和感が身体の奥底から湧き上がった。

 

 何故なのか理由を探す為に、『アグニ』の顔を凝視すると直ぐに原因が判った。

 『アグニ』の眼だけが、人と異なり単眼では無く複眼なのだ、然も複眼な所為か眼だけがグルングルンと動き回る。

 

 《・・・以前にも似た様な事が有ったな・・・そうか、『ラスプーチン』の時と似ている!》

 

 そう帝国軍には、対スラブ連邦の最終局面に起こった、『ラスプーチン』が『バグス』と同一化して、アラン様と対峙した事実の記憶が生々しい。

 あの時もその凄まじい戦闘で、アラン様が相当な能力の行使が有ったのだから、恐らく今回も凄惨な戦闘が起こるだろう。

 

 アラン様は『方舟』の上をゆっくりと進み、『アグニ』を指差すと推理の結果を話し始めた。

 

 「やはり推理した通り、『サイヤン帝国』の基幹科学技術には、『バグス』つまり『古きものども』の痕跡があった事から、恐らく『人類銀河帝国』への憎悪が強すぎて本来敵でしか無い『古きものども』と手を組んだのだろう。

 悍ましい話しだ・・・。」

 

 アラン様は話し終わると、やれやれと嘆息して戦闘準備に入る。

 いよいよ最終局面に戦場は入り、緊張感が『方舟』の上部に漂い始めた。

 



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5月の日記⑰(人類銀河帝国 コリント朝3年)《最終戦争(ハルマゲドン)⑪》

 5月27日⑧(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 いきなり『アグニ』の顔がズルリとズレた。

 そのズレて顔面が足場である『方舟』の上部に落ち、「ベチャッ」と嫌な音がする。

 

 其れは、明らかに虫で有った。

 其れも蟻や蟷螂の様に、黒光りする巨大な顎が両開きで備わり、眼球は人間の4倍は有ってやはり複眼だ。

 そして、細かく動く触覚が左右に存在する。

 そんな元『アグニ』が、両開きの巨大な顎で、ギチギチと聞き取りにくい声を発した。

 すると、何やら元『アグニ』の足元である『方舟』から、ブクブクと泡立ち其処から奇妙に節くれだった杖が現れ、元『アグニ』がその奇妙な杖に手を伸ばして引っ掴む。

 元『アグニ』は奇妙な声を発し、

 

 「ィウェfhニアr!」

 

 と虫の顔なのに、何故か感情が自分には読み取れて、元『アグニ』は満足そうだ。

 

 その様子を確認し、アラン様は両手を前面に突き出すと、

 

 「招来、『レーヴァテイン』!」

 

 と唱えられ、次の瞬間、突き出された両手の中に、神器『レーヴァテイン』が出現した。

 

 アラン様は、神器『レーヴァテイン』を両手で握りしめると、手に馴染むかどうかの確認か、手指の感触を確かめている。

 やがてアラン様は納得したのか、徐に元『アグニ』を見据え宣言する。

 

 「さあ、俺自らが相手してやる!

 全力で挑んで来い!」

 

 その宣言に理解を示したのか、元『アグニ』は奇妙に節くれだった杖を振りかざし、アラン様に突進して来た。

 それに対して、アラン様は得たりや応と神器『レーヴァテイン』で迎え撃つ。

 

 「ガッ!」

 

 と元『アグニ』が持つ奇妙に節くれだった杖は、あの『ラスプーチン』が持っていたアーティファクト『ティルフィング』と同等以上らしく、アラン様の神器『レーヴァテイン』とぶつかり合っても、折れたりせずに受け止めきった!

 

 そのまま、アラン様と元『アグニ』は凄まじい速度で、斬り結び始めた。

 

 「キキキキキキーーーーン!」

 

 と甲高い音を立てて、両者の武器はお互いを斬ろうと交差し続ける。

 

 暫くの攻防が続き、元『アグニ』は半ば放置されていた、『柳星張(りゅうせいちょう)』を蹴飛ばしてアラン様にぶつけて来たが、それを察して予め動いていた『玄武』が身体全身で『柳星張(りゅうせいちょう)』を受け止めた。

 しかし、その『玄武』を無視して元『アグニ』はアラン様に向けて、魔法と覚しき技を繰り出した!

 

 「セイrンhgbパエウィrhン!」

 

 との意味不明な言葉を並べて奇妙に節くれだった杖から、

 

 「ブシューッ!」

 

 と周囲に腐食性と思われるガスが吹き出した!

 たちまち、周囲にある『方舟』の上甲板は、腐食して穴が開き始める。

 その範囲は急速に増して来たので、アラン様は神器『レーヴァテイン』を持ったまま。、

 

 「収束!」

 

 と唱え、腐食性ガスを空間の或る一点に収束させると、アラン様は神器『レーヴァテイン』を上段に振り上げて、技を繰り出した。

 

 「次元切断!」

 

 上段から鋭い振り下ろしを元『アグニ』は喰らい、左片腕を失った。

 しかし、再び剣戟を繰り返しているアラン様と元『アグニ』を観察して見ると、何時の間にか元『アグニ』の左片腕は復活している。

 此の再生能力は、非常に厄介だと感じた。

 

 アラン様も同じ思いなのだろう、いよいよ大技に入るらしく、己の魔力を練り上げ始めた。

 やがて充分に魔力を練り上げ終わったアラン様は、連合艦隊に命令を発した!

 

 「此れより、俺の奥義の一つを放つ!

 全軍、対ショック、対閃光防御!」

 

 と命令されたので、連合軍全艦隊はアンカーを射出して艦艇を固定し、バリアーを最大出力で展開し、バイザー等を下ろして対閃光防御を整えた。

 アラン様は徐に唱えた。

 

 「”武神アラミス”認可奥義『ドラゴン・ファング(竜牙)』!」

 

 と叫ばれると、アラン様の背後から黄金色のドラゴンの頭が八つ出現し、凄まじい勢いで元『アグニ』に襲い掛かった!

 

 其れを見た元『アグニ』は、必死に逃れようとしたのだろうが、呆気なく四肢を八つのドラゴンの顎に喰らいつかれ、ものの見事に拘束された。

 

 元『アグニ』は相当に焦った様で、

 

 「l制rghピrgjッ!」

 

 と意味不明ではあるが、明らかに焦燥に駆られながら、何とか逃げようと四肢をバタつかせる!

 そんな元『アグニ』に対しアラン様は、

 

 「”武神アラミス”認可秘奥義『ディストーション・クライシス』!」

 

 と叫ばれると、元『アグニ』目掛け真一文字に突っ込まれ、左鎖骨部分から袈裟斬りに斬りつけ、股間に到達すると『レーヴァテイン』を握り返して逆に右肩まで斬り上げた!

 

 丁度、Vの字に斬られた元『アグニ』は、

 

 「セウbyゴア!!!」

 

 と聞き取りづらい絶叫をしたが、技はこれで終わらない!

 

 アラン様は、そのまま上段に『レーヴァテイン』を構え直し、唐竹割りに元『アグニ』を両断する!

 

 すると元『アグニ』の背後に虚ろなる穴が空間に出現し、そのまま元『アグニ』は虚無の穴に吸い込まれ始める。

 

 しかし、敵もさる者で何やら言葉を唱えて、『方舟』に命令して虚ろなる穴に突っ込ませた。

 『方舟』の50キロメートルと云う信じられない巨大さで、次元に開いたままの虚ろなる穴は塞がれたが、そもそもVの字に斬られた元『アグニ』は、かなり衰弱したらしく再生が一向に始まらない様だ。

 

 トドメをさすべく、アラン様が技を繰り出そうと構えを取り始めたその瞬間、突然元『アグニ』は言葉を発した!

 

 「クトゥルフ神、生贄召喚!」

 

 我々と同じ言語を唱えて元『アグニ』は、先程落ちかけていた虚無の穴をワザワザ大きく開き直し、『方舟』そのものを虚無の穴に落とした。

 

 完全に虚無の穴に『方舟』を落とすと、最果てと思える虚無の穴の奥底から、巨大な存在がやって来るのが、どうしようもなく原初の動物が持たされている恐怖の感情が、心底沸き起こった!

 

 つまり、虚無の穴の奥底からやって来る存在は、それ程の相手なのだと自分は否応無く理解した。

 



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5月の日記⑱(人類銀河帝国 コリント朝3年)《最終戦争(ハルマゲドン)⑫》

 5月27日⑨(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 『クトゥルフ神』、今まで敵として相対して来た『古きものども』の主神格で、以前敵対した『ダゴン』等の上の存在と知識の神『イーリス』様から知識として帝国軍では教えられた。

 『イーリス』様からの教えによれば、どうやら此の惑星アレスを含む、星系に侵略の手を伸ばしている者達の主神らしい。

 

 其奴が、元『アグニ』の生贄召喚とやらで、虚無の穴の奥底からやって来ようとしているのだ!

 

 其れに対してアラン様は或る手段を取るべく、神人権限を行使して『ルミナス神』を始め調整者の方々に或る申請を口頭で述べた。

 

 「神人権限にて、星系防衛機構『ADAM』の対『古きものども』プログラム、『戦場限定』の最上位機能で有る『異空間転移』の行使を申請する!

 直ちに此の次元にやって来ようとしている、クトゥルフの分身体を『異空間転移』せよ!」

 

 との申請を『ルミナス神』を始め調整者の方々に上げて、許可を待つ。

 その間にもアラン様は、我々に指示を与える。

 

 「此れより俺は、此の惑星アレスを脅かし続けた『古きものども』の首魁で有るクトゥルフの分身体との戦闘に入る為に、神々が用意してくれる此処では無い、『神の戦場』とでも呼ぶべき場所に向かう。

 とてもでは無いが、この惑星上でクトゥルフの分身体とは戦えないからだ。

 『神の戦場』で戦闘に参加出来る者は、俺と『玄武』そして複製『ゾア・クリスタル』にダウンロードした残りの『朱雀』『青龍』『白虎』の四聖獣だ。

 彼らは実体を持たないが、各種の能力で俺をサポートしてくれる。

 連合軍全員は補給と治療を受けた後に、海峡を渡って帝国に帰還し帝都コリントにて待機していてくれ、事実上この戦争は此の戦闘を以って終結する。

 俺は必ずこの最終戦争に勝って、帝都コリントに帰還する!

 信じて待っていてくれ!」

 

 と我等に指示された。

 淡々とした口調ながら、ごく自然に《俺》と自称しているし、その目付きから相当な覚悟を決めて指示されているのが判った。

 当然帝国軍人全てが『神の戦場』に同行したかったが、どう考えても我等では実力不足で有る。

 その我等の思いを代表し、ダルシム大将が、

 

 「・・・了解致しました・・・。

 必ず指示通り此の『アフリカーナ大陸』から退去し、帝都コリントに帰還します。

 なのでアラン様に置かれましても、必ず無事にお帰り下さい!

 クレリア皇妃陛下を始め、アポロニウス皇子とセラス皇女そしてシェリス皇女も首を長くして、アラン様のお帰りを切望している事でしょう。

 アラン様がお留守の間、我等は皇帝家とそのご家族を、絶対にお守り致しますので、心置き無く存分に戦って下さい!」

 

 と不安な内心を隠して、快く送り出した。

 

 その言葉に頷いて、アラン様は許可が下りたらしい神人権限を行使して、星系防衛機構『ADAM』の対『古きものども』プログラム、『戦場限定』の最上位機能で有る『異空間転移』を使用した。

 

 虚無の穴の奥底からやって来た、クトゥルフと覚しきモノの手と思われる触手が、虚無の穴の縁にあてがい此方側に出現しようとする。

 

 次の瞬間、遥か空の彼方から半透明の壁の様な檻が、虚無の穴を囲む様に取り囲んだ。

 そしてその半透明の壁の様な檻が、上空にゆっくりとまるで釣り上げられる様に上がって行く。

 何処までも上がって行くと思われたが、突然白い空間が現れて、半透明の壁の様な檻は其処に吸い込まれた。

 其れを確認して、アラン様と『玄武』は我等に向かって頷くと、『玄武』と共に其の白い空間に飛び込んで行った。

 

 するとアラン様と『玄武』を吸い込んだ白い空間は、ゆっくりと閉じて行きその後は、まるで元々其処には何も無かった様に痕跡を残さず消え去った。

 

 やや呆然と我等は空中を見据えて居たが、アラン様が直ぐに戻って来れる様な甘い相手な訳も無いので、アラン様の指示通り連合軍は補給と軍人達の治療を最優先にして、撤収作業に移行した。

 

 『柳星張(りゅうせいちょう)』の超音波メスで真っ二つにされた艦船の幾つかを廃棄して、比較的艦船の部屋数に余裕のある艦に分乗させたり、倉庫にしていた場所を改装したりして乗せる事にした。

 

 5月28日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 昨日中にアラン様が帰還出来なかった事を考えると、『神の戦場』と云う場所では時の流れも特殊なのかも知れないので、我々は粛々と撤収作業を行い、夕刻には戦場跡から帝国に向けて出発した。

 

 5月30日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 『アフリカーナ大陸』とセリース大陸の海峡を渡り、アラム聖国を経由せずに直接帝国のスターヴェーク公国の海岸線に到着し、帝国への帰還を果たした。

 そして此の段階で、帝国の上層部と留守部隊の帝国軍に、アラン様の最後の命令と指示を動画と共に報告し、今後の方針をクレリア皇妃陛下と相談したい旨を連合軍の総意として伝えた。

 

 その際、クレリア様はかなりショックを受けられていた様だが、気丈にも面に出さずに我々の報告をしっかりと受け取られた。

 

 恐らくは、不安で仕方がないだろうが、隣で不安そうに母親を見上げるアポロニウス皇子に気付いて、その様に対応したのだろう。

 家臣としては、クレリア様が狼狽えずに対応してくれた事に感謝した。

 



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6月の日記①(人類銀河帝国 コリント朝3年)《真実の最終戦争①(ハルマゲドン)》

 6月1日①(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 帝都コリントに帰還した我等は、直ちに全ての連合軍艦船を港湾施設に収容させようとしたが、如何せんほぼ全ての艦船が被害を負っているので、取り敢えずは『魔の大樹海』周辺の空き地にも停泊させ、修理の順番待ちをさせる事にして、重傷の軍人達を帝国国立病院に搬送させたり、連合軍の上層部はアスガルド城に報告する為に、専用の車両に分乗して出向く事になった。

 

 何とも気が重くて、誰かが肩代わりして報告して貰いたいと、上層部の軍人誰もが思う中、気が進まないのに専用車両は何の妨げもなく、アスガルド城に着いてしまった。

 

 そして帝国軍上層部でも一部の軍人が、アスガルド城の地下に有る、特別会議室に通された。

 其処は、本当の意味で重要な者しか存在を知らされない場所で、自分の妻で有るミーシャも将官で有るのに知らされていない。

 

 其処には、クレリア様と賢聖モーガン殿そして妹の婚約者マリオンが居て、ダルシム大将と呼び戻されたヴァルター大将そしてセリーナ・シャロン中将、其れに加えて自分が同室した。

 

 特別会議室の入り口付近は、エルナ親衛隊団長とその部下達が地下に続く廊下で警備している。

 そして防諜対策が完璧だと判断された賢聖モーガン殿が話し始めた。

 

 「皆さん、無事のご帰還ご苦労様でした。

 改めて後日式典が行われるから、其の際には色々と演技してもらう必要があるので、今の内に真実の情報を共有して貰いたいのでこの場を設けたの。

 此れから見てもらうのは、『神の戦場』でのアラン様と敵の首魁であるクトゥルフとの戦いの全てよ!」

 

 と全ての連合軍人が見たいであろう戦闘の記録を、我等だけに見せると云う説明だった。

 

 そして特別会議室に備え付けられている、AR空間を立体プロジェクターに再現する装置が起動した。

 

 我々と別れ、『神の戦場』と呼称される白い空間にアラン様と『玄武』が侵入した処から、その動画は始まった。

 

 アラン様と『玄武』が侵入した段階で直ぐに空間は閉じた様で、例の半透明の壁の様な檻以外にはひたすら白く広大な地面と、薄暗いが光源が判らない空間が果てが見えない程空を覆っていた。

 

 半透明の壁の様な檻が、アラン様と『玄武』から1キロメートル程の距離離れた場所に、無造作に放置されている。

 

 やがて、半透明の壁の様な檻の周囲に紫電の火花が散り始める。

 

 暫く紫電の火花が散っていたが、突然轟音を上げて半透明の壁の様な檻が破壊され、虚無の穴からズルリといった様子で巨大でまるで蛸の脚の様な触手が、幾つも虚無の穴の縁に掛かり真ん中から不気味な六眼の頭部が飛び出て来た。

 

 《・・・ンッ、何だかサイズに違和感が有るな・・。》

 

 そう当初は蛸の脚の様な触手は、クトゥルフの手か脚だと考えていたのだが、どうやら頭のサイズと繋がりから触手は、クトゥルフの顎髭である事が判った。

 更に頭部の全体が出て来たのだが、どう見ても虚無の穴はクトゥルフの続く身体が出てくるには小さすぎた。

 その事が判っているらしいクトゥルフは、その頭部に有る六眼から何やら奇妙な波動が発せられて、虚無の穴が10倍以上に広がった。

 

 そしてゆっくりとクトゥルフの全身が姿を現す。

 

 クトゥルフは頭足類(タコやイカ)に似た六眼の頭部、顎髭のように触腕を無数に生やし、巨大な鉤爪のある手足、水かきを備えた二足歩行の姿、ぬらぬらした鱗かゴム状の瘤に覆われた数百メートルもある山のように大きな緑色の身体、背にはドラゴンのようなコウモリに似た細い翼を持った姿をしている。

 

 今までの『古きものども』の『ダゴン』達に比べれば、かなり小さいサイズでしか無かったが、感じる存在感は圧倒的で、少しも侮る事が出来ない!

 

 全身を現したクトゥルフは、大きく伸びをする様に巨大な鉤爪のある手を伸ばすと、人の神経を逆撫でするオーボエのようなくぐもった声を張り上げた。

 

 此の人間に取って原初の恐怖を促す姿と、狂いそうになる声、に思わず助けを求める様に、特別会議室にいる人々を見渡す。

 

 一番気になっていたクレリア様は、セリーナ・シャロン中将に両脇を支えられて恐怖に耐えているのが見え、賢聖モーガン殿とマリオンも手を繋いでいるし、ダルシム大将とヴァルター大将は気丈にも両脚を踏みしめて耐えている。

 

 此の場にいる全員が、クトゥルフに対し恐怖を感じているのが如実に判ったが、実際に対峙しているアラン様は、微塵も恐怖を感じていなさそうだし、寧ろ全身から凄まじい闘気を発し続けている。

 

 流石はアラン様だ!

 

 アラン様は、どの様な敵であろうと怯えた事も無ければ、弱気になった事もない。

 そして、我等帝国軍全てを必ず背後に庇いながら、敵に相対している。

 

 過去、アラン様程のお方が存在したのだろうか?

 歴史上ありとあらゆる王侯貴族、指導者、英雄、勇者、色々な呼称に彩られた偉人は居たのだろうが、此処まで偉大な人物が居たとは思えないし、我々が崇める神々でさえアラン様を超える存在はいないに違い無い。

 そう、アラン様は『玄武』の頭上に仁王立ちしてクトゥルフと対峙し、クトゥルフもまたアラン様と『玄武』を侮る態度を見せずに対峙している。

 

 いよいよ、真の最終戦争が始まろうとしていた!

 



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6月の日記②(人類銀河帝国 コリント朝3年)《真実の最終戦争②(ハルマゲドン)》

 6月1日②(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 クトゥルフは突然オーボエのようなくぐもった声を張り上げて、何か聞き取りづらい発音で唱え始めた。

 

 「キウェフィウgテャh8オb!」

 

 その瞬間、この『神の戦場』に存在していなかった水が大量に湧き出し、アラン様と『玄武』に大波として襲い掛かった!

 

 しかし、臨戦態勢だったアラン様と『玄武』は、殆ど間を置かずにジャンプし大波を避けると、『玄武』の後ろ脚の付け根からジェット噴射させて、前脚は平べったくなって滑空体勢で空を駆ける。

 

 其れに対してクトゥルフは、その巨大な蝙蝠のような翼を羽ばたかせ、アラン様と『玄武』を追いかけ始めた。

 

 「ケrgハウェッpWNtgビ!」

 

 聞き取りづらい奇怪な叫び声が、クトゥルフの悍ましい口から放たれると、アラン様と『玄武』の前面に巨大な壁が現れて進行方向を塞ぐ。

 然もその壁は、獰猛そうな魚がびっしりと埋まっていて、その魚の口からはどう見ても汚辱に塗れた様な汚水がアラン様と『玄武』に向けて吹き出された。

 

 「次元断層!」

 

 アラン様は、神鎧『ジークフリート』の権能で有る『次元干渉能力』を用い、一切の攻撃を無効化する。

 そして持っていた3つの『ゾア・クリスタル』の複製を空中に投げた!

 

 「召喚!四聖獣が三聖!

 『青龍』『白虎』『朱雀』!

 来たりて我が命に従い、我とともに此の次元への侵略者を滅ぼせ!」

 

 と天に向けて唱えられた。

 

 すると、その呼び掛けに応えて神聖な光の柱が、アラン様と『玄武』の周りに屹立した!

 

 其れは3色の神聖な御柱!

 

 一つは、青い色の全身の両手に玉を握った龍!

 

 二つは、白い色の全身の猛々しい猛虎!

 

 三つは、赤い色の全身の炎を纏った鳳凰!

 

 『玄武』以外の四聖獣は、顕現すると己が司る方向に飛んでクトゥルフを牽制し始めた。

 

 クトゥルフもその四聖獣の牽制を煩わしく感じたのか、己の皮膚上にある瘤から緑色に濁った汚水を、まるでビーム光線の様な勢いで飛ばし始めて、周囲に乱舞する様に撒き散らす!

 

 しかし、『玄武』以外の四聖獣はそもそも実体を持たず、謂わば光がその実体を象っているに過ぎない。

 つまり、如何に凄い攻撃力を誇ろうと物理的な攻撃は、意味を持たない。

 

 暫く、同じ攻撃を繰り返したクトゥルフだったが、無意味な事に納得したのか、四聖獣の牽制攻撃を無視してアラン様と『玄武』に攻撃を集中させて来た。

 

 クトゥルフは巨大な鉤爪を振りかざし、その周辺に濁った水泡が無数に出現して、振り下ろすと濁った水泡がアラン様と『玄武』に殺到する。

 

 「歪曲空間(ディストーション・フィールド)」

 

 アラン様が呟くと、アラン様と『玄武』の周りに空間の膜とも呼ぶべき繭(コクーン)が出来、殺到して来た濁った水泡を簡単に弾き飛ばす。

 弾き飛ばされた濁った水泡は互いにぶつかり合うと、空間が爆砕される様に爆発の連鎖が起こった。

 

 「ドゴオオオオオオーーン!」

 

 と凄まじい爆音が鳴り響く中、アラン様が歪曲空間(ディストーション・フィールド)を纏ったままクトゥルフの背後に回り、蝙蝠の様な翼に『レーヴァテイン』で斬りかかる。

 

 「ガッ!」

 

 という鈍い音が響いただけで、あの神器『レーヴァテイン』の刃が通らなかった!

 

 続いて『玄武』が極大の『プラズマ火球』をクトゥルフの正面に叩きつけた!

 しかし、クトゥルフはまともに喰らったにも関わらず、欠片もダメージを負った様子が無い!

 

 その間もクトゥルフは、音波や超能力による精神攻撃を、アラン様と『玄武』に対し続けていて、四聖獣は常にそれを阻害している。

 

 クトゥルフは、やはり今までの『古きものども』と格が違い過ぎる!

 此奴に傷を付ける事など、出来るのだろうか?

 

 当惑しながら観察していて、或る一つの事実に気がついた。

 クトゥルフの攻撃は、必ず何らかの水分を介在して攻撃している。

 つまり、奴の根源的な力の種類は水精であるという事だ。

 

 鋭いアラン様も案の定弱点を点くべく、行動を開始した。

 

 四聖獣の内でも火精の『朱雀』を活用する事にしたのか、『朱雀』をクトゥルフの直上に配置して、他の『青龍』と『白虎』がその支援の為か、精霊力を『朱雀』に注ぎ込む。

 

 次の瞬間『朱雀』は凄まじい灼熱の炎を纏い、クトゥルフの周囲に炎の竜巻を巻き起こし、火炎地獄を出現させた。

 直ぐ様クトゥルフは対抗する様に大波を巻き起こし、炎の竜巻を鎮火させようとしたが、精霊力で引き起こされている火炎地獄は実体を持た無いが、熱と風で引き起こされた熱波は容赦無くクトゥルフの全身を炙る。

 全く抵抗出来なくてイライラが募ったのか、クトゥルフはオーボエのようなくぐもった声を張り上げて、少なくとも攻撃が当たるアラン様と『玄武』に突進してきた。

 

 そのタイミングを図っていたのか、アラン様は虚空に向けて唱えた。

 

 「神人権限にて、星系防衛機構『ADAM』の対『古きものども』プログラム、『空間固定』を行使せよ!」

 

 とアラン様が唱えると、突然クトゥルフはアラン様と『玄武』の直前と言って良い500メートル前で、空間に縫い留められた!

 

 そのタイミングに、『玄武』が溜めに溜めていた精霊力を限界迄使い、『玄武』の最終奥義を解き放った!

 

 「ドドドドドドドーーーー!」

 

 其れは、巨大『レギオン』にトドメを刺した『ウルティメイト・プラズマ』で有る!

 

 その凄まじい威力のプラズマ光線は、信じ難い程の灼熱温度でクトゥルフを炙り続ける!

 

 「kァwhrイアエウィh!!」

 

 とクトゥルフは、漸く苦悶の声を上げた。

 このままで行けば、このクトゥルフの分身体は倒せると思えた。

 



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6月の日記③(人類銀河帝国 コリント朝3年)《真実の最終戦争③(ハルマゲドン)》

 6月1日③(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 かなりクトゥルフの分身体にはダメージが重なったらしく、その圧倒的な存在感が薄まり目に見えて動きが悪くなった。

 

 それを見て取ったアラン様は、神鎧『ジークフリート』の権能を以って攻撃しまくる。

 

 「暗黒孔(ブラック・ホール)」

 

 「次元斬(ディメンション・カット)」

 

 「次元乱流(ディメンション・タービュランス)」

 

 「次元牢獄(ディメンション・プリズン)」

 

 と連続で技を繰り出し、クトゥルフの身体に孔や切断面を作り出し、その身体を捻りあげた上に身体を固定させて、その白い地面に受け身を取らせずに叩きつけた!

 

 当初は、素早い回復力で身体に開いた孔と切断面を治していたが、繰り返される攻撃により徐々に回復力が衰えたのだろう。

 ゆっくりとしか、回復して行かなくなった。

 

 「イアwhッビbhbピ!」

 

 幾度もクトゥルフは、似た叫びを繰り返していたが、何も変化が無い。

 それに対して、アラン様が、

 

 「無駄だ、クトゥルフよ!

 この『神の戦場』には、お前の眷属や同族を召喚する事は一切出来ない!

 何故なら、お前よりも上位の『アザトース』が承認して、『ヨグ=ソトース』と『ナイアーラトテップ』が此の次元での決着を、俺とクトゥルフで着けると調整者との間で条約を結んでいる。

 よって追加の援軍を呼ぶ事は神々のルールに抵触する。

 つまり、お前は己のみでしか戦えないのだ!

 大人しく敗北を受け入れるが良い!」

 

 と宣言した。

 良くは意味が判らないが、恐らく『女神ルミナス』達とクトゥルフ側の神々とで、ルールを設けて此の『神の戦場』で決着を着ける事になっているのだろう。

 

 「異FH絵をうHooゆえ!」

 

 と相変わらず聞き取りづらい言葉をクトゥルフは呻いた様だが、自分の感じた雰囲気では苦々しく吐き出した言葉の様だ。

 

 アラン様と『玄武』そして其れに相対するクトゥルフは、凡そ3キロメートル程の距離で対峙すると、凄まじい闘気を双方放出して次の一撃が大技である事を伺わせた。

 

 アラン様が徐に神器『レーヴァテイン』を大上段に構え、神々への真言を唱えた。

 

 「神人権限にて武神アラミスへの真言を奉る!

 神器『レーヴァテイン』に調整者の御力を宿させたまえ! 

 神剣『ラグナロク(神々の黄昏)・ブレード』発動!!」

 

 その神々への真言を唱えた瞬間、神器『レーヴァテイン』に神聖な気(オーラ)が纏わりつき始め、やがて神器『レーヴァテイン』の刃は金色に輝き始めた!

 

 其れは、立ち塞がる者は神であろうが魔であろうが、全てを滅ぼす正に神魔滅殺の超越者の武器だ!

 その神聖な気(オーラ)の余波を受けて、『玄武』の全身も金色に輝き出した。

 

 それに対してクトゥルフは、

 

 「機↑HG火ういTHT!」

 

 とまたも聞き取りづらい声を上げて、何らかの手段を講じ始めた。

 アラン様が神聖な気(オーラ)を放っているのに対し、まるで対極の此の世を汚し穢し尽くす闇そのものの気(オーラ)を放ち始めた。

 

 やがて双方が放つ気(オーラ)が『神の戦場』を二分する様に満ちた。

 

 先手はクトゥルフで、アラン様を貫く様に右腕がその鉤爪毎直線に飛んで行く。

 しかし、其れを『玄武』が両腕をクロスさせて阻み、その右腕に沿う様にアラン様は駆けてクトゥルフの頭上に神器『レーヴァテイン』が振るわれたが、クトゥルフは左手の鉤爪で逆に襲い掛かる!

 

 「キィーーーーン!」

 

 と鋭い音と共にクトゥルフの左手の鉤爪が全て、アラン様の神器『レーヴァテイン』の刃先によってアッサリと切り落とし、返す刀でそのままクトゥルフの左腕はアラン様によって切断された!

 そのままクトゥルフの全身が切り刻めると幻視したが、唐突にクトゥルフはその場から消えて、かなり離れた空中に現出する。

 

 しかし、クトゥルフは左腕を喪失したにも関わらず、些かも闘志を失わずにアラン様に右腕を振りかざして突進して来た。

 

 その鉤爪がアラン様に届くと見えた瞬間、今度はアラン様の姿が「ブオン」と云う音と共に消える!

 

 《何処に?!》

 

 と自分が見失うと、アラン様はクトゥルフの背後に姿を現し、バッサリとその蝙蝠の様な翼をクトゥルフの背中から完全に切り落とした。

 

 「↑RGVフRホS!」

 

 とクトゥルフは絶叫を上げて、もんどり打って倒れ込んで転げ回る。

 其れに対し、アラン様と四聖獣は次の大技の準備に入った。

 

 実体の『玄武』と『青龍』『白虎』は三角形の形で次元断層による結界で、クトゥルフを身動き取れない様に地面に固定された。

 

 そしてアラン様は、残る『朱雀』と半ば重なる様になり、クトゥルフの直上で技の体勢になった。

 そのままアラン様は『朱雀』との合体技に移行した!

 

 「征くぞ!『鳳凰天舞』!」

 

 その言葉通り、アラン様は空中で鳳凰を象った炎を纏い、一気にクトゥルフに向かって落下し、まるで乱舞するようにクトゥルフを斬り刻む!

 

 その凄まじい連続斬りに、クトゥルフは必死に耐えていたが、やがて限界に達したのか、

 

 「家SHBチウHSHぶいTP!!」

 

 との絶叫を上げながら、物理常識を覆して次元断層を崩すと『玄武』を抱きかかえ、アラン様に残った右手の鉤爪で捕まえようとしてくるが、残像を残してアラン様は距離を取って退避した。

 

 捕まえられた『玄武』は『青龍』『白虎』『朱雀』と違い実体なので、クトゥルフの凄まじい膂力と脚に絡み取られて逃げられなくなった。

 

 そしてクトゥルフは、その六眼を嫌な目付きに歪ませると、全身から汚辱に満ちた瘴気を吹き出させ、『玄武』の身体を侵していく。

 

 『玄武』は暫くの間耐え忍んで居たが、やがて限界と判断したのか、「グルルッ」と唸るとアラン様に視線を向けて頭を頷かせる様に上下した。

 

 その動作に理解を示したアラン様は大きく頷くと、此れ迄の凄惨な戦いと比してさえ、凄まじいと表現するしか無い闘気を立ち昇らせて、神器『レーヴァテイン』を突きの構えで固定させると、全身の闘気を伴って咆哮した!

 

 「征くぞ!!

 此れが、人が一生に唯一度だけ放てる、真の最終秘奥義!!!

 『超新星爆発(スーパーノヴァ)』!!!!!」

 

 その瞬間、アラン様は正に太陽と化した様な存在となり、最早、生物の枠を明らかに逸脱して神人どころか神を超えた!

 

 クトゥルフは明らかに、その六眼を瞬いて信じられないモノを見ていることに驚愕し、アラン様に怯んだ!

 

 そんなクトゥルフを完全に無視し、アラン様は捕らえられている『玄武』の背中の甲羅目掛け突っ込み、そのままクトゥルフの身体まで、神器『レーヴァテイン』の刃を深々と貫かせ、真の最終秘奥義『超新星爆発(スーパーノヴァ)』を解き放った!!

 

 その時、『神の戦場』は音を失った!

 そして唯ひたすら白い世界が、立体プロジェクターを染めていた。

 恐らく人が認識出来る限界を遥かに凌駕していたのだろう、やがて落ち着いた画面はその『神の戦場』に唯一存在し続ける、突きの姿勢で固まっているアラン様を映し出した。

 

 特別会議室に居る面々は、言葉もなくその余りにも想像を超えた戦いの終末を見続ける事しか出来なかった。

 



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6月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝3年)《真実の最終戦争(ハルマゲドン)のその後》

 6月2日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 昨日の神々の争いとしか言えないレベルの終結を見せられ、我々は暫くの間茫然自失してしまったが、我に返ると最も重要なアラン様の安否をクレリア様に尋ねた。

 

 すると、クレリア様は、

 

 「大丈夫よ。

 あの戦いの後、アランは全ての魔力と生命力を燃焼してしまった結果、生命の危機に陥ったのだけど、知識の神『イーリス』様が、この惑星アレスに於けるアステロイドベルト(小惑星帯)に構築してある施設に収納して、現在特別製の調整槽で完全調整を受けているわ。

 でも、心音始め呼吸も安定しているから生命の危険は無いのだけど、まだ意識の回復には至っていないの。

 もう少し容態が安定したら知識の神『イーリス』様が、帝都コリントに送って下さるそうよ」

 

 と答えてくれた。

 しかし、自分とダルシム・ヴァルター両大将は、セリーナ・シャロン両中将が支えているクレリア様の手が震えている事に気付き、恐らくは気丈に振る舞っているだけで、クレリア様も不安なのだと理解し、敢えてその辺に触れない事にした。

 

 だが、当面自分達には何もアラン様の回復には寄与できないので、他の面での仕事をこなす事でアラン様とクレリア様の負担を減らそうとの合意を皆と取り付けた。

 

 皇室一家と神々の諸事情は、賢聖モーガン殿とマリオンに任せ、我等軍人は色々とやり残して来た様々な後始末に奔走する事になった。

 

 6月7日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 本来ならアラン様が主導していたであろう『第三回 世界武道大会』は、代理人として皇族のアマド・ベルティー公に主催して戴き、拳聖と剣聖にオブザーバーとして統括して貰い、恙無く閉幕する事が出来た。

 ただ今回の大会には、昨年優勝した拳王・剣王そして連合軍として従軍していた軍属の人々が参加して居なかったので、かなり規模が縮小した上に盛り上がりに欠けた様だ。

 

 6月10日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 漸くアラム聖国の上層部で有るカルマ殿以下の要人と、新しく藩王の位を引き継いだ若者が帝都コリントに来訪した。

 

 ビクトール大将が率いる方面軍がそのままアラム聖国の駐留軍となり、各地域の治安と行政を担っているので、当面はこのままの体制を維持して行くしか無いが、何れは帝国並の国家体制を構築して貰う必要が有る為に、新しく藩王の位を引き継いだ若者には、帝国のシステムを学んで頂く。

 

 6月15日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 西方教会圏の宗教指導者にして、帝国の擁護者を自認されている『ヨハネ教皇』が、暫定の東方教会圏の代表であるカルマ殿との歴史的な会談をするべく、帝都コリントに来訪された。

 

 遥か800年前に、本来一つで有ったルミナス教を元の一つの教義に戻し、今までの対立を解消して信徒達にも、一つの宗教なのだと理解させた上で納得して貰う為だ。

 恐らくは、分断の歴史が長かっただけに、相互理解と様々な風習を改めるには長い年月が掛かるい違い無い。

 しかし、何事も始めなければ何も前に進まない。

 困難であろうとも、進み続けるしか無かった。

 

 6月20日(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 帝国が、此れ迄正式に発表して来なかったが、一週間後にアラン様がクトゥルフを倒して帝都コリントにご帰還される事が、帝国民と全世界に発表された。

 

 帝国上層部とその関係者には周知されていたが、いよいよ此の惑星アレスに迫っていた、『古きものども』と云う外宇宙からの侵略者との最終戦争(ハルマゲドン)が、一旦の終結を迎えた事が報告されたのだ。

 

 6月27日①(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 一週間前に発表されてから、世界各国の代表や要人が帝都コリントに向けてやって来られ、帝国の最先端の文化と文明に触れて、帝国のシステムへの理解を深めていた。

 

 そして此の一週間の間に、新しく祭壇を用意したルミナス教ドームに、早朝から帝国の皇族を始めとした華族の全てと同盟国の王族と貴族の方々、そして世界各国の代表や要人が集結した。

 

 朝9時半までの間に全ての要人には、予め通達して於いた西方教会代表『ヨハネ教皇』と東方教会代表『カルマ法王』との調印式への見届け人としての、了解を戴いている。

 

 そして朝10時から始まった調印式は、此れまでの宗教に於ける歴史の説明と、西方教会と東方教会に分かれる原因となった背景に、遥か外宇宙からやって来た『サイヤン帝国』によって齎された文明と様々な遺物、そしてそれを隠れ蓑にした『古きものども』の侵略が有った事が説明され、其れ等の除去が済んだ今現在は、同じ惑星アレスに住んでいる同胞同士がいがみ合う必要が全く無くて、共に未来を目指す同朋であると説明され、此の調印式の正当性を周知させた。

 

 調印式は恙無く、全ての列席者の賛同を得られて、正式に全ての国家から承認された。

 

 そして、いよいよアラン様のご帰還を受け入れる為の準備に入り、ルミナス教ドームの天蓋が大きく開放され迎え入れる準備は整った。

 



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6月の日記⑤(人類銀河帝国 コリント朝3年)《アラン様の帰還》

 6月27日②(人類銀河帝国 コリント朝3年)

 

 ルミナス教ドームの天蓋が大きく開放されて、帝都コリントに煌めく陽光が柔らかく差してくる。

 そして世界中の人々が、帝国からの放送でリアルタイムに、その荘厳な後世神話となる全てを見ることとなった。

 

 柔らかく煌めく陽光が徐々に薄くなって行き、やがて雲間から黄金に輝く大きな雲が、ゆっくりと降りて来た。

 

 其の黄金の雲には、幾人かの神々が乗っているのが遠目にも見えた。

 やがて近づいて来た黄金の雲に乗る神々が誰なのか、判別する事が出来た。

 

 神々しい後光を背負って降臨されたのは、中央に『女神ルミナス』様、左に『武神アラミス』様、右に『知識神イーリス』様の三神で有った。

 

 神々は我々全てが、認識出来る距離まで降臨されると其処に留まり、ルミナス教ドームに集う全ての人々が拝跪する中、厳かにお言葉を述べられた。

 

 「・・・惑星アレスに住まう全ての人々よ、聴くが良い。

 我等、善の神々(調整者)と闇の神々(古きものども)との約定により、此の次元での争いは今後は高位次元からの干渉は禁止する事となった。

 よって此の次元での争いは、現在存在する者達が決める事と相成った。

 全ては此の者、『人類銀河帝国皇帝アラン』の命を賭した願いによるものだ。

 先の『神の戦場』で此の者アランは、人の身としては不可能な筈で有った、『古きものども』の首魁クトゥルフを撃ち破ると云う快挙を成した!

 其の偉業は我等『調整者』のみならず、敵対する『古きものども』の長で有る『旧神』達の心すら動かしたのだ。

 人を超え、神人を超え、我等に匹敵する程の域にまで達する事を証明して見せた!

 我等『調整者』は、汝ら『人類に連なる者』を祝福する、良くぞ此処まで己を高められた。

 何時の日か、我等の居る高位次元に到れる時を、我等『調整者』は心待ちしている!」

 

 とのお言葉を『女神ルミナス』様は手向けて下さった。

 

 そして、『知識神イーリス』様が腕に抱いていた繭(コクーン)を、目に見えない力でゆっくりとルミナス教ドームに設えられた祭壇上に降ろされた。

 

 その繭(コクーン)は、降ろされたと同時にゆっくりと開いて行き、神鎧『ジークフリート』を纏ったままのアラン様が起き出された。

 

 アラン様は、長い間療養されていたとは思えぬ程矍鑠とした様子で、繭(コクーン)から出られると、三神に向かい厳かに拝跪した。

 

 其れに対して三神は満足そうに頷かれると、黄金に輝く大きな雲に乗ったまま遥か高空に昇って行かれた。

 

 静かな時が過ぎ、祭壇上でアラン様は祭壇下で拝跪したままの我等に向かい、

 

 「・・・大変待たせて申し訳無かった。

 『初代人類銀河帝国皇帝アラン』は、只今帰還する事が出来た!

 全ては、帝国と其の同盟国による連合軍が、己の命を顧みずに尽力したお陰である。

 其の類稀なる行為をご覧になられた神々は、辛うじてクトゥルフに勝つ事が出来たが、帰って来る余力の無かった私を哀れに思われ、『神の戦場』からの無事な帰還を請け負って戴けたのだ。

 大変感謝している。

 漸く、此れにて此の惑星アレスに巻き起こった大乱は終息し、全人類は未来に向けて旅立てる事が出来る事になった。

 だが、今だけは此の大乱の終結を祝い、楽しもうではないか!」

 

 と宣言され、ルミナス教ドームに集う全ての人々が、歓喜の声を上げて喜び合い皆が手を取り合っている場に、アラン様が降りて来られるとクレリア様とアポロニウス皇子殿下を始め、セリーナ・シャロン両側妃とセラス・シェリス両皇女殿下が駆け寄り、皇族一家が集結しアラン様の無事な帰還を喜び合われた。

 

 暫くの喧騒を終えると、ルミナス教信者と職員の案内により、祝賀会場の用意の整ったアスガルド城とその大庭園に、此の場にいる全ての要人を要領良く誘導し、祝賀会場に向かう。

 

 自分と自分の家族も祝賀会場に向かい、アラン様と皇帝一家への挨拶を家族全員でアラン様の無事な帰還に祝賀を述べ、今後の帝国と全ての国家の弥栄を祝いだ。

 

 其れに対して、アラン様は自分を招き寄せると、

 

 「・・・ケニー、君は私にとって家臣であると同時に、共に苦難を歩んだ仲間であり、更には武道家仲間にして飲み友達でもある。

 これからも、私の家族と一緒に末永く仲良くして欲しい!」

 

 と耳打ちしてくれた。

 思わず恐れ入りそうになると、無理矢理自分の両手を取るとご自身の両手を差し出して、有無を言わさず両手での握手をして戴いた!

 

 周りの人々も、アラン様の最大級による親愛の証に騒然となる中、自分が泣いている事を妻のミーシャに指摘され、慌てて無作法をアラン様に詑びたが、アラン様はにこやかに送り出してくれたので、あまり恥をかかずに済んだ。

 

 自分にとっても帝国にとっても、最良の日であった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 此処で、此の紙媒体の私文録は終わる。

 

 此の後は、『マグワイア家』の公式記録は、執事が代々電子記録として記録しているが、かなり無味乾燥な代物で、私こと帝国図書館司書AI(ガンマ)の仮想感情プログラムを刺激する物では無かった。

 

 しかし、私が見つけ出し考察していた此の私文録を、同じ量子演算プログラムの同僚達が、勝手に編纂しその後の帝国史も編纂し始め、然も『帝国ライブラリ編纂史』として、非公式帝国史として公開した上に、皇帝家にまで配布したらしい。

 

 すると、予期しなかった事に皇帝家から、非公式の私文録を提供され、此れも編纂して欲しいと依頼を受けた。

 

 ならば、帝国図書館司書としては断れる筈も無いので、全力を上げて編纂しようと思うが、『マグワイア家』とは関係無くなるので、別の題名で編纂しよう。

 

 題名は、本人が付けている原題である『皇太子はツラいよ!』で行こうと思う。

 




 今回で、第二部『帝国拡大編』は終了しました。

 以前から宣告してましたが、次回から第三部に入ります。

 但し、本文でも書いてありますが、ケニー君と其の家族視点では無くなりますので、別の題名作品となります。

 文体も変わりますし、視点も複数となりより原作に近づきます。

 只、散々挿入していた閑話を気に入ってくれた、一部ファンの為に時折此処に投稿すると思うので、時々覗いて下さいね。

 其れでは此処まで読んで戴き、大変感謝して居ります。

 次の『皇太子はツラいよ!』も宜しくお願い致します(願)


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