バカとテストと俺の召喚獣 (マジェーレ)
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1話

気晴らしに書いたものなので、結構雑な部分があります。原作もずいぶん昔に読んで、うろ覚えで書いています。
見切り発車で投稿しているので、間違いも多いかと思われますので、先に謝っておきます。
すみません。


「明久ー」

 俺は隣に友人に声を掛けた。

「んー、なにー?」

 明久は目は画面の方へ向いたまま、コントローラーの指を動かしながら適当に相槌を打った。

 横目で壁に掛けてあるカレンダーを見つつ俺は言った。

「明日ってクラス分けの進級テストの日だよな」

「そうだね」

「勉強したか?」

「…………シンは?」

「…………」

 重たい沈黙が全てを物語っていた。

 勉強嫌いの俺にとって、机に座って参考書に向かうだけでも苦痛に等しいのだ。

 俺と明久が通う文月学園のテストが明日——零時を過ぎているのでもう今日なのだが——行われる。一年間を過ごす教室が決まる大事なテストにもかかわらず、俺と明久はテスト対策なんぞせず、こうしてゲームをしていた。

「あっ、てめえ。その嵌め技は汚えぞ」

「お生憎様。これでフィニッシュだ」

 俺のキャラのゲージが一気にレッドゾーンに突入した。ならばと、最終手段を使う。

 あるコマンドを打ち込むと、俺のキャラは明久のキャラの背後に回り込み、腰のあたりに手を回すとそのまま持ち上げて、己の身体を後方に反らした。ジャーマンスープレックスが決まる。明久のキャラのHPがゼロになり、俺の勝利が決まる。

 唸る明久に俺は告げた。

「わりぃな。っつーことで、この金は俺が貰うぜ」

 賭けゲームに勝利した事で、俺は明久から金を分捕った。

 もう寝ないと明日のテストは寝て過ごすことになる。テストなんざどうでもいいが、点数無しになると強制的に『あのクラス』に入れられる事になる。それはあまりよろしくない。

 とは言っても、ろくに勉強もしていないので、既に絶望的ではあるが、嫌だが寝る前に軽く予習ぐらいはして置こう。今更な上に無駄な足掻きではあるが、それでもやって置くに越したことはない。

 自分の部屋へ行こうとしたその時、明久が俺の足を掴んだ。

「何のつもりだ?」

「勝ち逃げは許さん」

 俺の口車に乗せられて生活費を賭け金にしていたこのバカは、次こそ勝って生活費を取り戻すと、どこぞのパチンカスみたいなことを言いだした。

「そもそもお前、賭けるものあんの? 無いなら俺はやんないよ」

「あるさ!」

 そう言って明久が差し出したのは、

「負けたらこの僕の身体を好きに使うがいい——痛ッ!」

「気色悪い事を言うんじゃないよ」

 明久がまたバカなことを言いだしたので脳天にチョップを喰らわす。

 結局、負けたら何でも言う事を聞くということで再戦を受けた。

 そして明久は一カ月間、俺の奴隷となることが決まった。

 夜が明けて、おかげさまでロクに寝てない俺は大きな欠伸をしながら朝の通学路を歩いていた。

「結局あのバカの所為で寝不足の上に予習もできなかった」

 登校中に、俺はたまたま会った友人の木下秀吉に昨晩の事を告げた。

 明久はまだ寝ていたので先に出てきた。一応遅刻しないギリギリの時間に起きれる様に、目覚まし時計を耳元にセットしておいたので大丈夫だろう。

「おぬしらは相変わらずじゃのう」

 呆れる秀吉に俺は言った。

「お前だって演劇の芝居の練習で勉強そっちのけだっただろうに」

「確かにそうじゃが、下らん事で時間を浪費していたおぬしらと同列にしてほしくないわい」

 と、秀吉の顔色が変わった。

「まて、何でお主ワシが昨晩も芝居の稽古をしていたことを知っておるのじゃ?」

 俺は呆れ顔で答えてやった。

「目の下にクマ、あと声が少し枯れてるから大方そんなこったろうと思ったんだよ」

 そう答えると秀吉がなんとも言えない顔で俺を見る。

「どうしてその洞察力を勉学に活かせんのか、おぬしは」

「余計なお世話だ」

 そんな会話をしていると、

「あの!」

 後ろから声を掛けてきたのは見知らぬ少年だった。背負っているランドセルを見ると、この辺の小学校に通っている生徒だろう。

 少年は緊張した面持ちで秀吉を見ていた。俺は少年の様子から何となしに悟り、その場から少し離れる。

 俺が離れたのを見てか、少年は意を決した様に、手紙を取り出して秀吉に手渡した。

 受け取った秀吉は困惑した顔でこちらを見ていた。

「返事はいつでも、それじゃあ!」

 それだけ言い残して少年は去って行った。俺はその背中を憐れみの目で見送った。

「どうすればいいのかのう……」

 困り果てたといった秀吉に、俺は投げやり気味に言った。

「不幸の手紙とか危ないもんじゃないみたいだから、一応中身見て、そんで『ごめんなさい』しておけば?」

「やはりそうなるかのう……」

 秀吉は男とは思えない愛くるしい顔立ちをしている。

 外見だけではなく所作も女らしいので、さっきの少年みたいなのが後を絶たない。中には、男と知ってても告白とかしてくる変な奴もいる。

「お前ってほんと、男殺しだなぁ」

 今までの告白回数を思い出しながら俺は言った。

「お主、人の苦労も知らんで、気楽に言うでないわ」

「ま、俺が見たって可愛い顔してんだ。そのくらい仕方ないだろうよ」

「同じ顔なら姉上だっているじゃろうに」

 秀吉と同じ顔をした姉の優子を思い出す。

「それだけじゃなくて、愛らしさってのかな? 何かこう……男心に来るもんがあるんだよお前には。あの姉ちゃんにそれがあるか?」

 秀吉は間を置くことなく首を振った。

「無い」

 横暴でガサツなあの姉に愛らしさの欠片なんて無いな、と俺と秀吉は思った。

 ともかく、秀吉の受難は暫く続くといいうことだ。




クロスオーバーとか興味あるけど、あまり大風呂敷広げると後で困ることになるから悩みどころ。もしするなら、シンフォギア(作者が知っている作品で比較的新しめなので)のキャラをぶち込んでみたいなぁ。それではまた気が向いたら投稿します。



一応キャラ紹介

シン(本名は作者はまだ決めていない)

得意科目
特に決めていない。

概要(今後変わる可能性あり)
両親が家を不在にしているので、現在は吉井家に居候している。
料理は出来ないので食材の買い出しを担当している。その為、バーゲンとか安売りには敏感。
買い物で知り合った、姫路母と坂本母とは仲が良く、買い物情報を交換し合っている。
勉強は嫌いだが、ギャンブル系に強い。年齢を誤魔化してパチンコに行ったりしている。
高い洞察力を持っており、明久の突飛な行動の真意を見抜く事が出来る。
にもかかわらず男女の機微には疎く、そう言った方面は鈍感。
明久との同性愛疑惑が囁かれているが、その方面の知識が無いため全く理解できていない。
明久とは幼馴染で、高い連携が取れる。
明久の姉の影響で、マイペースで天然気味な所がある。

とりあえずここまで。


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2話

続けて2話です。

さて、この後どうするかが問題です。
他のアニメキャラを出すべきか否か、いまだに迷いながら見切り発車で第2話を投下します。


 その後の振り分け試験はどうなったか、その結果は……あえて語るまい。

 ただ、目が覚めたらすべてが終わっていたとだけ言っておこう——

 

 桜の花びらが降る通学路を俺と明久は歩いていた。

 気楽に進む明久に比べ、俺の足取りは重い。

「どうしたのさ、シン」

「今年から過ごす教室の事を考えたら、なんだか気が重くってなぁ」

 俺たちが通う文月学園では、進級の際に所属するクラスを決定するための振り分け試験を行い、試験の成績が優秀な順からA~Fのクラスに決められる。つまり、成績優秀者はAクラス、逆に成績不振者はFクラス、といった具合だ。

 そして、俺はその試験に見事失敗し、Fクラス行きが確定していた。

「僕はシンとはテストを受ける教室が違っていたからよく分からないけど、ずっと寝ていたんだって? 全く間抜けだなあ」

 テストを鉛筆転がして乗り切ろうとした奴に言われたくないが、今の俺は言い返す気力も出てこない。

「そう言うお前はどうだったんだ? 随分と自信ありげだが」

「僕はシンとは違って真面目に受けたからね。DかCは固いかな」

 絶対にそれは無いと思う。確信を持って俺はそう思った

 取り合えず、明久のドヤ顔がムカついたのでデコピンして先へ進む。

 俺たちを待ち構えていたのは西村教諭——別名、鉄人だった。

 厳つい顔に合った低い声に呼び止められる。

「二人とも遅刻だ」

「すみません」

「おはようございます、鉄じ——ぐはっ! ……に、西村先生、遅刻してすみませんでした」

 あっぶねえ……。今、明らかに鉄人と呼ぼうとしていたので、俺は肘打ちでそれを止めて、なんとか言い直させた。

『ここで迂闊に鉄人と言ってみろ、生活指導の鬼と恐れられる西村教諭に目を付けられる事になるんだぞ』

『そ、そうだね。ごめん、迂闊だった』

「今、俺の事を鉄人と言おうとしたか?」

 鉄人がぎろりと俺たちを睨む。地獄耳め。

「そんなわけないじゃないですか。気のせいですよ、気のせい」

 俺が必死に笑顔で取り繕うと、

「そうですよ! 僕らが『鉄人』の事を『鉄人』だなんて言うはずないじゃないですか。いくら『鉄人』が岩顔面みたいだからって——」

「お前もう良いから黙ってろ……」

 最早、何も言う気力も無かった……。

「……まあ、いい。聞かなかった事にしてやる。お前らこれを受け取れ」

 情けをかけたというより、単に呆れたのだろう。鉄人はそれ以上追及するのを止め、俺たちに封筒を手渡してきた。

「この中に、クラス分けの結果が……」

 明久は若干緊張した様子で封筒を見つめた。結果が分かりきっている俺は気負う事無く封を開けて中身を取り出す。案の定、紙には『F』と書かれていた。

「悪いねシン。別クラスから応援しているよ」

「なあ、吉井」

 鉄人が明久の方を見て、話し出す。

「俺はな、もしかしたら吉井はバカなんじゃないかってずっと疑ってたんだ」

 そうです先生。この男は疑う余地の無い純然たるバカです。

「それは間違いですね。そんな誤解をしているようじゃ、今に節穴なんて言われますよ!」

 何の根拠があってお前はそんなに自信たっぷりなんだ? あと、節穴はお前の方だと思う。

「ああ。だがな今回の試験の結果を見て、自分の間違いに気づいたよ」

 俺は何となく、この後、鉄人が言うセリフが予想できた。

「喜べ吉井、お前は間違いなくバカだ」

 明久の手には『F』と書かれた紙があった。

 

 

 

 3階に辿り着くと、明久が足を止めてAクラスの教室を覗いていた。

 俺も教室を覗き込む。

「大層な教室だねえ」

 皮肉を込めた口調で俺は呟いた。

 まず目についたのは、バカみたいに広い教室と、各人に用意された数々の設備。 およそ教室とは思えない部屋には、ノートパソコン、リクライニングシート、エアコン、しかもそれら全てが個人用に設置されていた。さながら高級ホテル並の設備である。

 担任は知的女性の見本のような雰囲気の女性だった。

 高橋洋子といったか。俺は記憶の底からその名前を掘り起こした。

 凛とした態度と、隙のない佇まいは、そこはかとなく鉄人に通ずるものを感じる。あれも、あんなゴリラ顔で結構頭が良かったりするから不思議である。前に鉄人が難しい問題をスラスラ解いていた姿を思い出しながら、俺は高橋先生を見た。

 簡単な挨拶と案内を済ませると、ある女生徒の名前を呼んだ。

 日本人形みたいな長い髪、透き通る様な白い肌に、整った容姿をしたその少女は、クラス中の視線を物ともせず、堂々とした立ち居振る舞いで彼らの前に立った。

「霧島翔子です。よろしくお願いいたします」

 さすが学年トップは伊達じゃない。俺は感心と共にそう呟いた。

「おい、明久行くぞ」

 長居し過ぎた。俺は明久に声を掛けるが、何か考え込んでいるのか、霧島翔子の方をじっと見ている。

 俺はもう一度声を掛けた。

「明久、行くぞ」

 ようやく明久が我に返ってこっちを見た。

「もう行かねえと不味いんじゃないか」

「そうだね。行こう」

 俺たちは自分のクラスがある、隣の旧校舎へ向かった。

「ここが?」

「そう、みてえだな」

 明久が信じられないものを見た様な目をしている。かく言う俺も同じ心境だった。

 何故なら、旧校舎自体、古い建物なのに、Fクラスの教室はそれに輪を掛けて酷く、廃屋かと見間違う有様だった。

 椅子や机は無く、敷かれた畳の上に卓袱台と座布団があるだけ。窓ガラスは罅割れ、壁には無数の亀裂が走っており、隙間風が吹き荒ぶ。これのどこが教室といえようか。

「僕たち、これからこんな教室で一年を過ごすのか……」

「運命だと思って受け入れる他ないんじゃない」

 教室に入ろうと扉に手を掛けたその時、明久が待ったと俺の手を止める。

「どうしたんだ」

「何考えてるのさシン。いきなり入って悪印象持たれたりしたらどうするのさ」

「悪印象も何も、遅刻している時点で気にしたって仕方ないだろう」

「馬鹿だなぁ。だからこそ、遅刻してしまったことを払拭する為の工夫が必要なんじゃないか」

 こいつほど馬鹿と言われてムカつく奴もおるまい。俺は引っ叩きたくなる衝動を抑えて聞いた。

「工夫ってどんなのだよ」

「愛嬌たっぷりに『すみません、少し遅れちゃいました♪』って言いながら入るんだ」

 俺は天を仰ぎ見た。そのまま数秒程して、再び明久の方を向いた。

「♪の部分は♡にした方がいいんじゃないか?」

 俺の指摘には明久は、

「それはいい考えだね」

「あともっと猫撫で声で言うとバッチリだぞ」

「オーケー。それじゃあ、見ててよ僕の生き様を」

「しっかり見といてやる。頑張れよ」

 サムズアップしながら明久は教室の扉を開くと、愛嬌たっぷりの吐き気も催すような汚い声でクラス中に聞こえる様に言い放った。

「すみません、少し遅れちゃいました♡」

「死ねやコラァあああああああ!!!!!!!」

 だと思った。




2話まで投下できたけど、3話は果たしていつ頃になるか……
うろ覚えと他の作品を見ながらなんとかやってます。


電子書籍にバカテスがあるか見て見よう。


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3話

結局、他作品のキャラを出すことに決めました。
第一弾はSAOのユウキです。

細かい設定とか展開はあまり考えていないので、大筋は変えないつもりです(多分)。
他にも他作品のキャラを出すかもしれませんが、ただ出すだけで元の物語からは大きく変わらないかもしれません。

ではそんなこんなで第3話です。


「ひどい目に遭った……」

「そりゃ、あんな気色悪い声を聞かされたら、誰だって怒りたくもなるわな」

 先ほどのボコられていた様子を思い出しながら、俺は苦笑した。そんな俺を全身ズタボロの明久が恨みの篭った目で見つめる。

「この薄情者め」

「流石に悪かったなって思ってるよ。だからいい加減に機嫌直せよ」

 俺は痛みで動けない明久の身体に傷薬を塗る。染みたのか、明久は若干涙目になっていた。

「ただでさえ、こんな教室を充てられて、皆がピリピリしているって時にあんな舐め腐った事をされたら怒り狂うのも当たり前と言えるな」

 冷静にそう言ったのは、先ほど率先して明久をボコった、悪友の坂本雄二だった。

「おう雄二。やっぱりお前もFクラスだったか。そういや明久から聞いたけど、お前がこのクラスの代表なんだってな」

 挨拶もそこそこに、俺は雄二に聞いた。

「やっぱりは余計だ」

 すると雄二は、気を取り直して、Fクラス全体を見渡した。

「このクラスの最高成績者は俺だ。つまりこのクラスは俺の兵隊ってわけだ」

「その言いぶりだと『戦争』でも仕掛ける気みてえだな」

「追々そのつもりだ。お前もこき使ってやるから覚悟しとけよ」

 相変わらず悪い笑みがよく似合う事。

「その時はお手柔らかに頼んまぁ。はいこれでおしまいっと」

 湿布を叩き貼ると、明久の身体はぴょんっ、と飛び跳ねた。悲鳴を上げる明久を他所に俺は雄二の方に向き直った。

「何はともあれ、また一年よろしくな」

「こちらこそな」

 俺たちは頷き合うと、互いの拳を突き合わせた。

「ワシの事も忘れておらんか?」

 やべ、秀吉のこと忘れてた。俺はこの傷薬を提供してくれた秀吉の事を思い出した。

「もちろん……って痛たたたたたた、首がもげる!!!」

 この野郎! 姉貴譲りの関節技をここぞとばかりに使って来やがった。

「悪かったって。お前とも一緒のクラスになれて俺ァ嬉しいよ! ホントにホントさ!」

「本当か」

 急にしおらしくなったが、それよりも早くこの手を放せ!

「なにしてんのよ、アンタたち」

 このFクラスにも女生徒がいたのかと思ったが、残念、見知った顔の奴がいた。

「なんだ島田か」

 女生徒の正体は島田美波だった。

「なんだとはご挨拶ね。聞いたわよ、シン。あんた、試験中眠りこけてて全教科0点を取ったんだって?」

「うるへー。俺だってなぁ、好きでそうなったわけじゃないんだよ」

「そういえば吉井は?」

「そこで悶えているのがそうだよ」

 今、秀吉が介抱している。いまだに傷口が染みるのか、明久の苦悶の声は途絶えない。

「うわっ、いたそー」

 さっき雄二達に混ざってボコスカ殴ってた人のセリフじゃないと思う。

 見渡すと、島田以外は女生徒がいない様子だったが、代わりに面白い人物を見つける。

「よお、ムッツリーニ」

 俺はそいつに近づき、挨拶をする。

「……シンか」

 カメラの手入れに夢中でこちらを向かないが、一応は反応してくれる。

 相も変わらずって所か。趣味の邪魔をするのも悪いと思い、俺はその場を後にする。俺は他人の趣味に関しては尊重する、たとえそれが女生徒の隠し撮り写真であってもだ。

 俺が席に戻ったと重なるタイミングで、このクラスの担任がやってきた。そしてHRが始まり、クラスの自己紹介となった。

 俺や他の連中が一通り終えた辺りで明久の番となった。

「吉井明久です! 気軽に『ダーリン』って呼んでくださいね♪」

 懲りるという言葉を知らんのかこの男は。

『ダァーリィーン!!!!!』

 汚い男たちの大合唱。思わぬ流れ弾で、俺の精神は一瞬のうちに削り取られる。

「どういうつもりだよ」

「ごめん、まさか本当にやるとは思って見なかったから」

 お陰で吐き気が止まらねえんだが。最早他人の自己紹介など聞く気も起きなかった俺は、卓袱台に突っ伏して時間が過ぎるのを待つ。

「すみません! おくれました」

 先ほどの明久とは違った、鈴の様な声。俺は顔を上げて扉の方を見た。

 彼女の登場に明久、そしてその明久から事情を聞いていた俺を除く全クラスメイトが驚愕していた。

 姫路瑞希。入学以来、試験の時は必ず学年順位一桁台に名前を残している秀才がどうしてここにいるのか。それは、試験の際に体調を崩して途中で退席をしたからだ。振り分け試験では試験中の途中退席は0点扱いとなる。

 それを聞いたFクラス連中は。

『ああそうそう、俺も熱(の問題)が出たせいでこのクラスに…』

『ああ、化学だろ?あれは難しかったなぁ』

『妹が事故に遭ったって心配で……』

『黙れ一人っ子』

『前の晩に彼女が寝かせてくれなくて』

『今年一番の大嘘を有難う』

 こんなことを言いだした。

 自己紹介を済ませると、姫路は明久と雄二の間が空いていたのでそこに座った。

 明久がタイミングを見計らって姫路に話しかけようとしているが、雄二が割って入ってしまい、二人で話すという明久の目論見は崩れた。明久の恨みがましい視線が雄二に向かう。

「明久の奴、可愛い女子が近くにいるせいか浮かれておるのう」

「大方ロクでもない妄想でもしてたんだろうな」

幼馴染で常日頃から行動を共にしているあいつの事は、小学校の通信簿から振られた女の数まで知り尽くしているが、あいつの姫路に対する感情は未だによく分からない。

 何を話しているのか、ヒートアップしてきた3人を担任が教卓を叩きながら注意する。

 が、それがいけなかった。

 元々朽ちかけていた教卓は今の衝撃で崩れ落ち、見るも無残な姿となってしまった。

 暫しフリーズしていた担任は、急ぎ足で替えの教卓を取りに行ってしまい、俺たちはいっきに暇になった。

 すると明久が雄二を連れて廊下に向かった。恐らく、この間言っていたアレを提案する為だろう。

 最初に聞いた時、俺は思わず笑った。理由がなんともこいつらしいなと思ったのと、最底辺クラスが最上位クラスに下克上をかましてやるというだ。ワクワクするじゃねえか。

「この話乗った!」

 ひとしきり笑った後で、俺は明久にこう告げた。

 いきなり笑ったものだから不機嫌になった明久だったが、俺の答えを聞いて表情を明るくさせた。

 明久はクラス代表の雄二を焚き付ける事で『試召戦争』を起こさせるつもりだろうが、下手な小細工が通用するような相手ではない。それどころか勘の鋭いあいつのこと、恐らく明久の行動を訝しみ、その理由すら看破するだろう。

俺は心配していなかった。恐らく雄二は明久の話に乗る。友人の頼みだからとか、そういう浪花節を披露するような男ではないが、今朝の会話から、雄二の方も何かしらの思惑があって試召戦争を望んでいるようだった。

「遅刻してすみません!」

 今日は遅刻者が多いなぁ。

 俺は扉を見て、そしてすぐに目を逸らした。

 なんとなく気まずい相手がいたからだ。

「こ、紺野さん?」

 姫路とはまたベクトルが異なる可愛らしい容姿をした少女の登場にクラス中が再びざわついた。

 姫路が小動物系なら、紺野は明るくて快活な印象の可愛らしさだと思う。

 Fクラスの一人が驚きの声を上げる。

「あれって、紺野木綿季さんだよな。あの子もFクラス?」

 姫路に続き、紺野までやって来たことにクラス内が再びざわつき始める。

 そんな中、俺は身を低くしてなるべく目立たない様にするが、

「シンー! というわけでボクもFクラスだから、一年間よろしくね!」

 だがそんな行為も虚しく、紺野は俺を見つけてしまう。快活な笑顔で俺に向かって手を振る。俺も観念して手を振る。

「骨は拾ってやるぞい」

 秀吉の呟きを背に、俺は覚悟して嫌な気配がする方向に向き直る。

 いつの間にか、目を血走らせたFクラスの男子生徒全員に、俺は取り囲まれていた。

 こうなると分かってたから嫌だったんだ。

「誤解だ。話し合えば分かる筈だ」

『誤解もクソもねえ! 今ここでてめえの息の根を止めてやらぁああああああ!!!!!』

 俺は必死に弁明しようとしたが、聞く耳すら持ってもらえなかった。

 窓ガラスを突き破るほどの怒号が教室中に響き渡った。

 飛び交うコンパスや筆記用具を卓袱台バリヤーで防ぎながら、俺は再度彼らに訴える。

「だからお前らが思うような関係じゃないっての!」

「可愛い女の子から名前呼びされてる時点で重罪じゃああああああ」

「そんなんだからもてねーんだぞお前らは!」

「言ってはならぬ事を貴様ああああああああ!!!!!!!」

 投げる物が尽きたのか、今度は実力行使に出るFクラス男子。

 対して俺は拳と卓袱台ハンマーで応戦する。

「それじゃあ紺野さんも体調を崩されたんですか?」

「うん。ボクの場合は登校中に体調が悪くなっちゃって、それで最初から試験が受けられなかったんだ」

「災難だったのう。今はもう大丈夫かの?」

「今はもう大丈夫だよ。それに試験を受けてたとしても、今の僕の学力じゃあ良いクラスに行けてたかも分からないからね」

「そんな事ないわよ。紺野さん、休みがちだけど頭良いから、調子が良かったらきっと上位クラスにいけたわよ」

「ありがとう。それはそうと、あれ大丈夫なの?」

「何かすごく揉めているみたいですけど……」

「大丈夫よ。多分もうすぐ終わるんじゃないかしら」

 突進し勢いそのままに、顔面のど真ん中に拳を突き入れる。教室の端まで吹き飛ばされた須川は、そのまま音を立てて畳に沈んだ。

 死屍累々となった教室内で、俺はニヒルな笑みを浮かべてポツリと呟いた。

「争いって奴はいつも虚しい……」

「あ、終わった?」

 終わりを見計らって島田が声を掛けてきた。

 俺はボロボロになった卓袱台を、須川のと取り換えてから答えた。

「ようやくな」

「やっほー、シン。お疲れー」

「紺野。てめえのお陰でなあ」

 文句の一つでも言ってやろうと思ったが、微笑む紺野を見て俺は違うセリフを吐いた。

「まあ、とりあえず元気そうでよかったよ」

 俺は振り分け試験の日に、体調を崩してしまった紺野を思い出した。

 今にも倒れそうだった彼女を、おぶって保健室に連れて行ったのは俺だった。幸い大事には至らなかったが、代わりに俺はテストを受けられず0点扱いとなった。

「ごめんなさい」

 保健室のベッドで目覚めた紺野が俺に言った言葉である。俺がFクラス行きになってしまったことを彼女は気に病んでいた。

 俺は気にするなと言い、どうせまともに受けていたったFクラスになっていたと付け加えた。少しは気が楽になったのか、小さく笑ってくれた。

これをきっかけに俺は紺野と話す様になった。

「心配してくれたんだ?」

 俺は少しそっぽ向きつつ答えた。

「ん? まあ、一応……」

「えへへへへ」

 なんで嬉しそうなんだか。

 見れば、女性陣たちはなにか微笑ましいものを見る様な目をしていた。秀吉も何とも言えない顔をしていた。

「どうなってんの? これ」

 丁度戻ってきた明久が倒れ伏しているクラスメイト達を見てうめいた。

「あれ? 紺野、お前もFクラスになったのか」

 紺野を見つけた雄二が言った。

「そゆこと。よろしくね!」

 明るく振舞う紺野だが、姫路と同じく病弱の身なので俺は心配してしまう。

「はしゃぎ過ぎてまた倒れても知らねえぞ」

 そんな俺の呟きを、偶々近くにいた雄二が聞いていた。

 意味深な笑みを浮かべて俺を見ている。

「なんだよ?」

「いや。お前らって似た者同士なんだなって思っただけさ」

 どういう意味なのかさっぱり分からず、俺は首を傾げるしかなかった。

 




この世界線のユウキは病弱ではありますが難病を患っていないという設定で行こうと思います。
なので、悲劇的な展開とかは起きないと思います。

※作者が悲劇とかシリアス系が苦手なので。

ではまた。




読み返してみたら、担任の名前が福原慎で名前が被っていましたが、もういちいち替えるのも面倒なんで今後福原教諭の名前は一切出さず、このまま進めたいと思います。


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4話

お待たせしてすみません。


 その日はクラス分け試験が行われる当日だった。

 木綿季はこの日に向けて準備をしていた。この試験で悪い点を取れば、即座にFクラス行きとなってしまう。劣悪な環境下で一年を過ごすのはまっぴら御免だった。

 そう気合入れて今日というこの日を臨んでいたのだが、

(このタイミングで?)

 昨晩遅くまで勉強をしていたツケが回ってきたのだろう。

 視界がブレる。意識が遠くなっていく。

(どうして、こうなったんだろ)

 木綿季は自問した。

(今日は振り分け試験の日なのに)

 全身から力が抜ける。木綿季はついに立っている事も儘ならなくなった。

「あっぶねえ」

 倒れそうになった瞬間、誰かが自分の身体を受け止めた。木綿季は顔を上げた。

 見覚えのある顔だった。同じ学年の男子生徒で、問題ばかり起こすことで有名な三バカの一人だ。

 彼は嘆息して、木綿季の顔を覗き込んだ。

「しっかりしろよ」

 ペチペチ、頬を叩かれる。木綿季は頷いた。

「大丈夫みたいだが、さてどうすっか……。秀吉の奴を先に行かせなけりゃあよかったな」

 暫く思案顔をすると、よしっ、と何か決めた様に頷いた。 

 彼は木綿季に向けて、皮肉っぽさの残る顔に、不安にさせまいと出来る限り穏やかな表情をして木綿季に告げた。

「ほら、おぶってやるから俺の背中に乗れよ。保健室に連れて行ってやる」

 男の言葉に木綿季は驚いた。

「だ。大丈夫だから。学校ももうすぐだしそこまでぐらいなら自分で歩ける」

 羞恥心と警戒心から彼の申し出を断る。

 すると彼は嘆息した。

「そういうセリフはもう少し平気そうな顔で言えよ。そんな顔色で言われても説得力が皆無なんだよ」

 今のお前の顔、鏡で見せてやりたいぜ。そう言って彼は早く背中に乗るように促した。

 木綿季は観念してその背中に乗った。彼は木綿季が落ちてしまわない様にゆっくりと立ち上がった。

 決して大きくない背中だが、木綿季は不思議と安心感を覚えた。

「少し我慢してろよな」

 彼は学校の方へ歩き出した。

 若干急ぎ足だが、おぶっている木綿季に負荷がかからないような速度だった。

「なんでこんな事してくれるの?」

 不意に気になって木綿季は聞いた。

 彼は横顔で答えた。

「別に理由なんて無えよ。強いて言うなら、俺の知っている奴にこれまたバカで不器用で甘っちょろくてそんでもってバカなのがいるんだが、あいつなら絶対に放って置かなかったと思ったからかな」

 どうしてバカを連呼して強調したのかは知らないが、とにかく似た様な友達がいて、その子と同じようにしたという事なのだろう。

 よく分からない変な奴。だけど悪くないと思う。

 木綿季は心の中にそう呟き、彼の背中に顔を埋めた。

 

 ——これがシンとのファーストコンタクトだった。

 

 

 

「——というわけなんだ」

 姫路と島田から俺との関係を問い質された紺野は、その時の事を振り返りながら彼女たちに話した。

 俺も紺野の話を聞きながらその時の事を思い出していた。

 あの時、秀吉と登校している途中で青い顔で歩いている紺野を見つけた。

 俺は秀吉を先に行かせて、ふらついた足取りで歩いている紺野に近づいた。俺が声を掛けようとしたその時、紺野の身体が倒れそうになったので俺は咄嗟に彼女の身体を支えた。

 血の気のない顔をしていたので半ば焦った俺は彼女を無理矢理おぶって保健室まで向かったのだ。

『てめえ! 俺たちがテストをしている間そんなラブコメみたいな事をしていやがったのか!!』

 紺野の話を聞いていたFクラス連中がブチ切れてまた一斉に襲い掛かってきた。

 先陣を切って来たのは明久だった。

「テスト中ずっと寝てたって聞いてたけど、紺野さんとのことは聞いていなかったよシン!」

 そういや明久にも言ってなかったな。説明が面倒だったんで寝てたとしか言わなかったのを思い出す。俺は事も無さげに言った。

「別にいうほどの事でも無かろうに。それにあいつも言ったように特になにもなかったんだから別にいいじゃねえか」

 それにテスト中寝ていたのも嘘ではない。もう行っても無駄だろうと思い、面倒になったのでそのまま寝ていたのだから。

 明久の手刀を躱してカウンターを叩き込む。だが、明久が戦闘不能になっても嫉妬に狂ったFクラス男子の勢いは止まらない。

『良かねえよこんちくしょうが! 女っ気のない俺らに喧嘩売ってんのかコラァ!!』

 どこから持ち出してきたのかスコップや金属バットを構えてくる。

 この状態のこいつらを相手取るのも厄介だな。

 向かってくるFクラス男子の中に須川の顔を見た俺は、ある手を思いついた。

「でも須川は誰だったか忘れたけど女生徒に告白されて振ったとか言ってなかったっけ」

「須川を殺せえええええええええええ!!!」

 あれ? 逆だっけ。須川が告白して玉砕したんだっけ。まあ、どっちでもいいや。連中の意識が須川の方に向いたので俺は自分の席に戻る。

 いつの間にか仲良くなっている女性陣(+秀吉)。どうやら気が合ったようだ。

 捕まった須川が磔にされる光景が広がる中、あのバカ騒ぎに参加していなかった雄二が話しかけてくる。

「災難だな」

 Fクラス男子が須川を袋叩きにしている中、一人加わっていなかった雄二がやって来る。

「別にどうって事ねえよ。それよか、お前明久から聞いたのか」

「試召戦争の事か、聞いたよ。まあ、俺の方もやる気ではあったしAクラスを倒す秘策もあったんでな。乗らせてもらう事にした」

「雄二がそこまで言うなんて珍しいな。それじゃあ期待させてもらうとするか」

「偉そうに言ってないでお前も働けよな。ところで、」

 雄二が未だに騒いでいる連中の方を見る。

「俺から試召戦争について話したいんだが、これはいつになったら終わるんだ」

 俺は頬杖をついて他人事の様に言った。

「須川の処刑が終わるのを待てばいいんじゃねえの」

 それか担任が戻るまでか。俺はそんな事を考えながら須川が血祭りにあげられる様を眺めていた。

 

 

 担任が戻った事でようやくバカ騒ぎも収まり、再び自己紹介が始まった。

 紺野や他の連中の自己紹介も終わり、遂にクラスの代表である雄二の番となった。手短に自己紹介を終えた雄二は、一つ提案があると言い、Fクラス全体を見渡して断固とした声で告げた。

「俺たちはこれからAクラスに『試験召喚戦争』を仕掛けようと思う」

 誰もが驚きを隠せないといった具合にざわつき始める。

 しかし、Aクラスとは大きく出たなと思う。

 文月学園では独自の教育システムが導入されている。

 それが、オカルトと科学と偶然によって生まれた『試験召喚システム』である。このシステムによって呼び出される己の分身ともいえる『召喚獣』を用いた戦争が『試験召喚戦争』である。

 また、召喚獣はテストの点数がそのまま戦闘力に繋がるので、成績上位者が集うAクラスの召喚獣なら、一体だけでFクラスの召喚獣全てを殲滅する事も可能である。それほどまで二つのクラスには圧倒的な差が存在している。

 しかし、戦争に勝てば負けた相手の設備を奪えるので、現状に不満を持つFクラスの連中ならこの提案に乗るかと思われたが、意外にそうではなかった。

『勝てるわけない』

『これ以上設備を落とされたくない』

『姫路さんがいれば何もいらない』

 と、否定的な意見が多い。

 さて、雄二はこれをどう解決するのだろう。俺は少しワクワクしながら雄二のお手並みを拝見する。

 無理だと主張するFクラスの面々だが、雄二は一切動じることなく余裕の笑みを浮かべる。

「お前たちの懸念は尤もだ。だがしかし、俺だって何も伊達や酔狂でこんな事を言いだしたんじゃない。勝てる算段があってこそ提案をしているんだ!」

 力強い雄二の言葉に、全員が息を呑んだ。

「俺たちには勝てる要素が揃っている。今からそれを教えてやるぜ!」

 まず、雄二が指さしたのは、畳に顔を押し付けて姫路のスカートを覗こうとしている男だった。

「おい、ムッツリーニ。姫路のスカート覗いてないでこっち来い」

「……! (ブンブンブンブン)」

「土屋康太。こいつはあの有名な、寡黙なる性職者だ」

 本名は土屋康太だが、俺たちは主にあいつ事はムッツリーニと呼んでいる。理由は簡単。スケベだから。

「……! (ブンブンブンブン)」

「そして、姫路。こいつの事は説明する間でもない。皆もその実力はよく知っているだろう」

 確かに。今更説明なんかいらないほどに全員知っている。

 姫路効果もあってか、全員の士気が上がるのを感じる。

「Aクラスの木下優子の弟、木下秀吉だっている。それに……」

 そして雄二は最後に明久を見た。

「吉井明久もなぁ!!」

 明久の名前が出たところで、先ほどまでの興奮が嘘だったかのように全員が静まり返った。

「え。誰?」

「ちょっとぉおおおおおお! 何でここに僕の名前が出てくるのさ!!」

 喚く明久を無視して雄二が続ける。

「聞いて驚け、こいつの肩書は『観察処分者』だ!!!」

 その言葉にどよめきが走る。

 紺野が俺に小さく聞いてきた。

「ねえ、観察処分者って何?」

「学校側から問題児に送られる不名誉称号の事」

「観察処分者は、学校生活に問題の多い生徒に対して課せられる処分で、力仕事などの雑用をさせられる、要は教師の雑用係みたいなものだ」

「でも召喚獣は物に触れられないんじゃ?」

 雄二が姫路の疑問に答える。

「観察処分者の召喚獣は、特別に触れられるように調整をしてあるんだ」

「それって結構便利なんじゃないの」

 と紺野が言った。

「実はそうでもないみたいでな。観察処分者の召喚獣は物に触れられるかわりに、召喚獣が受けたダメージが本体にも伝わるっていう仕様になってるらしいんじゃ」

 続けて入った秀吉の補足で、二人は観察処分者について理解したらしい。

「要は簡単に召喚が出来ない足手まといがいるって事だ」

「そこまで言うか! 僕には味方はいないのか!!」

 雄二の言葉に深く傷ついたとばかりに叫ぶ明久。

「でも実際問題使えねえのは事実だし……」

「友達ならそこは慰めてくれるところじゃないの!?」

「え、嫌だ」

「もうヤダ! このドS幼馴染!!!」

「つーわけで明久とシン! お前らDクラスに宣戦布告して来い」

 雄二が早速俺たちに指示を命令してきた。

「Aクラスじゃなくていいのかよ」

 さっきはAクラスを倒すとか言ってたよな?

「ああ、まずは足掛かりとしてDクラスをぶちのめす。宣戦布告の大使としてお前ら行ってもらう」

「ヤダ! めんどくせー」

「それに下位勢力の大使って大抵ひどい目に遭うよね……」

「大丈夫、お前らならひどい目に遭う事は無い。俺を信じろ」

 雄二は力強く断言する。俺はそれに半眼で呟いた。

「じゃあお前が行けばいいじゃねえか」

 そうだそうだ、と続ける明久。

「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと行ってこい!」

 とうとう痺れを切らせた雄二は、俺と明久を廊下に放り出した。顔を見交わせて溜息を吐く俺たち。

「しゃあない、行くとするか」

「面白そうだから、ボクも付いて行っていい?」

 結局行くことを決めた俺たちに、いつの間にか居た紺野が同行を申し出てきた。

「別にいいぞ」

 と俺が即答し、Dクラスへの大使は、俺と明久、そこに紺野が加わった三人になった。

「ね、ねえシン。やっぱり紺野さん置いて行った方がいいんじゃない?」

 話しかけた明久の方を向く。

「よくよく考えたらやっぱりDクラスの連中が僕たちを襲わないなんて保障はどこにも無いよね」

 明久の懸念も尤もだ。俺は紺野を見た。

「紺野、お前やっぱ戻れ」

「なんで!?」

 紺野が驚いた顔で見るので、俺は答えた。

「なんでっておめえ、襲われる可能性のある所に女連れて行けっかよ」

「それなら大丈夫だよ。心配無用!」

 なにが大丈夫なのかは知らんが、紺野は自分の無い胸を叩いて自信満々に言った。

「……なんで俺は殴られたんだ?」

 鳩尾に良いのが入った俺はその場にうずくまった。

「今、失礼な事を考えたでしょう」

 怒れる紺野の目を見て俺は悟った。胸に関しては下手な事を言ったら殺られると。

 DクラスはAクラスと同じ新校舎にある。設備は普通と同じかそれより少し下レベルで、雄二はなんだってこんなクラスに戦争を仕掛けるのだろうか。まあ、あいつにはあいつなりの考えという物があるのだろう。今は見る影も無いが、あれでも子供の頃は神童なんていわれてたらしい。今のあいつを見てると到底信じられないが、子供の頃はさぞや頭が良かったのだろう。

 Dクラスの教室に着くと、扉の前で明久が言った。

「誰が行く?」

「お前行けよ」

 俺は明久を指した。

「イヤだよ! 襲われるかもしれないんだよ!」

「大丈夫だ。もしなにかあっても俺が助けてやる」

「どうせいの一番に逃げ出す癖に!」

 横から言い争う俺たちを見ていた紺野が口を開いた。

「埒が明かないからボクが行くよ」

 え? と思う俺たちを尻目に紺野は教室の扉を開いた。

「たのもー」

彼女の声にDクラスの人間が一斉にこちらを向いた。

「君は?」

 前に出てきたの男子生徒に紺野は言った。

「ボクたちはFクラスから遣わされた。このクラスの代表に話したい事があって来た」

「Fクラス……。分かった、ではウチの代表を連れてくるから待っててくれ」

 毅然とした態度で話を進めている紺野に、後ろの俺たちはたじたじだった。本来任命されていた俺たちよりもあいつの方が大使らしいってどういうことだよ。もう全部あいつに任せて良いような気がしてきた。

 やがてDクラス代表の平賀という男子が現れた。

 取り立てて特徴のないモブキャラ然とした風貌なので彼について特に語る言葉は無い。

 紺野は彼に向けて指差した。

「ボクたちFクラスはDクラスに試召戦争を申し込む!」

 どどん、という効果音が付きそうな勢いで紺野が告げる。

 この宣戦布告にDクラス代表はほう、と呟いた。

「Fクラスが俺たちに戦争を仕掛けるというのか。面白い、受けて立ってやる」

「首洗って待っときなよ」

 なんでこんなに喧嘩腰なんだよ。もしかしてこいつ、俺や明久以上にこの戦争にノリノリなんじゃねえのか。

 そろそろやばそうな気配を感じ取った俺は、これ以上紺野が相手を刺激するような事を言う前に退散するぞと、視線で明久に訴える。明久は俺の意図を読み取ると頷き、話し続けていた紺野を後ろに引っ込めた。

「それじゃあ、伝えることも伝えたんで俺たちはこの辺で帰らせてもらうわ」

「皆さんお邪魔しましたー」

 まだ言い足らなそうな顔をする紺野を引きずりながら、俺たちはそそくさと教室の出入口へ向かう。

「待てよ。せっかく来てもらったのに何もなしってわけにもいかないだろ」

 入り口を塞いだDクラスの生徒が言う。

 気づくとDクラスの連中が俺たちを取り囲んでいた。

「これってもしかして不味い状況かな?」

「もしかしなくてもそうだよね」

 紺野と明久、お前らなんで俺の背中に隠れるんだよ。

「お前たちをFクラスへの見せしめとさせてもらう。悪く思うなよ」

 全員拳を作りながらじりじりと近づいて来ている。そんな連中を見て、俺は何とか逃げる隙は無いかと探る。だがそんなものはどこにも無く、俺は観念して肩を竦めた。

「明久を犠牲にして俺と紺野が逃げるって手を考えていたんだけど、この様子だと通用しなさそうだな」

「さらっと外道発言しないでどうやってこの状況を打破するかを考えてよ。もちろん、僕を犠牲にしない方向で」

「ここは正攻法で行くってのはどうだ?」

「やっぱりそれか……」

 俺の提案を聞いて、明久は項垂れた。

「正攻法って?」

 紺野が疑問符を浮かべて訪ねてきた。

「そりゃあ」

「もちろん」

 俺と明久の声が重なる。

『こういうことさ』

 俺と明久、二人同時に飛び出して、近くにいた生徒の一人に蹴りを浴びせる。

 他の連中も襲おうとするが、俺と明久が机を持ち上げて、それを向けると怯んで動きを止めた。

「今だ!」

 俺は明久と紺野に向かって叫んだ。

「逃がすか」

 先ほどの一撃から回復したDクラス男子が俺に襲い掛かる。完全に油断していた俺は反応が遅れてしまう。そんな俺と相手の間に小さな人影が割って入ってきた。

「させないよ」

 紺野だった。彼女は素早い動きで相手の一撃をいなすと、手刀を浴びせて相手の動きを止めた。

「お前強かったの?!」

 その動きを見た俺は思わず驚愕の声を上げた。

「こう見えてボク剣道やってるんだ。無手でもそこそこやれるよ」

 ウチの学園に剣道部なんてあったのか。それすらも知らなかった。

「あと段持ちだよ」

「うっそだろ!!」

 もうなにがなんだか訳がわからん。

 辛くもDクラスから脱出を果たした俺たちは、Fクラスのある旧校舎で一息入れた。

 流石にここまでは追って来ないようで、背後には誰もいなかった。

「あー! 楽しかった!!」

 興奮気味にそんな事を言ってくる紺野に俺は半眼で呟いた。

「どういう神経してんだよ」

 こいつ、こんなに武闘派な性格だったのか。俺は慄くと共に今後の付き合い方について考え直す事を誓った。

 Fクラスの教室に戻ると、無事な姿の俺と明久を見た雄二が残念そうな顔で言った。

「俺の言ったとおり無事に戻ってこれたみたいだな」

 こいつ一回ど突いたろうか。

 他は秀吉にムッツリーニ、そして島田と姫路が俺たちを出迎えた。

 皆俺たちが無事なのを喜んでくれていた。

 特に島田は明久が心配だったらしく、無事な姿を見ると自分がボコれると、喜びを露わにしていた。

 いやー、心配してくれるいい仲間に恵まれて幸せそうだなー、明久。

「助けてシン!」

 あー、あー、聞こえない。

 



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