シンフォギアと仮面ライダーの思いつき箱 (御簾)
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誰がホントの天羽奏?

ゼロワンシリーズ×シンフォギア。
時系列的にはゼロワンothers完結後。
ネタバレ注意だぞ!

降って湧きました。
頭空っぽの方が読みやすいと思います。


「まだまだ行くぞ──!」

 

 マイクを片手に、私はそう叫んで片手を突き上げた。返事の声ははっきり聞こえない。一人一人の声が聞こえるような状態でもないからな。仕方ないけど、当然といえば当然だ。私は今、10万の観客を前にして立っているのだから。

 

(嗚呼、やっぱり。)

 

 楽しいな、と。思う。胸の中に燻る、赤黒くて澱んだ負の感情とは違う。それに負けず劣らず、あまつさえ上回ってみせるかのように猛々しく燃え盛るこの気持ちは、きっと。今だけは、私を歌手だと思わせてくれる。

 

「さぁ、まだ着いてこられるよな!?」

 

「今だけは!私がルールだッ!」

 

 一曲を終えれば、また続ける。相方にはまだ余裕が見られるし、何より今回は私たちの晴れ舞台。立ち止まってなんか居られるものか。うなぎ登りのボルテージに応えるように、私もギアを上げていく。

 滴る汗を撒き散らし、声を張り上げる。大仰なパフォーマンスをする時、翼のようなストレートヘアが羨ましい。癖毛は色々大変なんだ。それが私みたいなロングなら尚更。何より蒸れる。暑いんだ。

 

 話が逸れたけど、つまるところ私はこの瞬間を楽しんでいた。私だけじゃなく、観客にとっても。人生の中で、特別忘れられない経験になるようにと。そう思って、願って、唄って、踊っていた。

 

「ノイズだぁぁ!?」

 

 あの──化け物共が現れるまでは。

 

 

 

 

 

 

「ノイズ!どうして此処に!」

『分かりません!』

「ど、どうすれば…」

 

 想定外の事態に混乱する会場、そして私。悲鳴と怒号が木霊する会場で、奏だけはずっと冷静だった。慌てふためく観客に向かって、彼女はマイクを構え──叫んだ。

 

「落ち着けぇぇぇぇぇ!」

 

 身体を前に倒し、マイクの音がひび割れそうな程の奏の怒声。それだけで会場が静まり返った、なんてことは無かったが、少なくとも全ての注目は奏に集まった。逃げ惑う人々が、互いに助け合う事が出来るほどに。そう、人々が安全に避難できたのだ。()()ノイズから、安全に。何故それが成せたのか。答えはとても簡単。

 

「こっちに、来いッ!」

 

 コスプレかと見紛うような、オレンジを基調とした衣装へと姿を変えた奏が、殆どのノイズを引き連れているから。殺到するノイズのお陰で観客から見えては居ない。機密を守ることに苦心する必要は無さそうだが、それは奏だけ。私の姿は観客から丸見えだ。ここでシンフォギアを…天羽々斬を纏うことが出来ない。

 

「奏ッ!」

「お前は観客の避難誘導してろ!こいつらなんか…私一人で大丈夫だッ!なんか知らねぇけど私しか狙わねぇし、私に任せろ!翼!」

「え、あ、ちょ!」

 

 そう言い残し、サムズアップした奏は舞台を破壊して会場の裏手へと去っていく。何故か奏だけを狙うノイズ達は、そんな奏を追って勢いよく会場の中から消えていった。残された僅かなノイズから観客を守るべく、私は、私の責務を果たすことにした。

 奏の心配をしないのか、ですって?まぁ、普通ならするでしょうね。時限式で、疲労も溜まってる。オマケにとんでもない量のノイズ。しない方がおかしいとは思うけど、でも。ああ言う時の奏はひょっこり帰ってくるから。L()i()N()K()E()R()()()()()()()()、大丈夫だと思ったのよ。

 

 

 

 でも、結局奏は帰ってこなかった。自信満々に大口叩いたのに、ノイズの群れが()()したって聞いて、避難誘導も放り出して急いで駆け付けた時には。

 

 そこには、砕け散ったガングニールのギアの破片が落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 時は流れ、2年。

 

「ち、遅刻しちゃああああああ!!猫が!猫が!」

「響!?そんな事してる暇ないよ!?」

 

 いつものように物語が始まろうとしていた。

 

「ちっ、仕方ねぇな。」

「へ?」

 

 ──そこに、本来有り得ない人物を加えながら。

 

「よっ…とぉ!」

「凄い、木の上まで一飛びで!」

「あの、響?遅刻しちゃうよ?響?」

「何してんだこんな所で。んん?…いてっ!引っ掻くな!」

 

 遅刻ギリギリに全力疾走していた我らが立花響と、そのパートナーである小日向未来。寄り道しなければ間に合う、といったところで響のお人好しが発動、木の上に取り残された猫を助けようと駆け寄って。そして、黒い影がその猫をかっさらう。

 

「もう乗るんじゃねぇぞ。いてっ!またかコイツ!」

「あのー…」

「あん?」

 

 引っかかれた痕をしきりに擦るその人は、茶髪を揺らして振り返った。野性味溢れる鋭い視線で睨まれた響は、痺れを切らした未来に引きずられながら()()に手を振って去っていく。

 

「猫、ありがとうございました〜!」

「あー、おう。気をつけてな?」

「急ぐよ響!遅刻しちゃうってば!」

 

 スーツのポケットに手を突っ込んだ女性は、もう遅刻確定だろうが、との言葉を飲み込んだ。癖のある長髪を鬱陶しそうに手で払い、彼女はインカムを取り出して誰かと言葉を交わす。

 

「んで?これでいいのか?──そうか、アイツがねぇ。負い目って訳だ。ん?────うるせぇ!音量考えやがれ!耳に悪いだろ!?…ったく、しょうがねぇな。」

 

 ガリガリと頭を掻き乱し、取り出した黒手袋を装備。着崩したスーツと相まって、さながらスパイか何かのようにも見える。インカム越しの声だろうか、そのうるささにキレ散らかしながら彼女は渋々歩き始めた。ブツブツと何かを呟く彼女の声は、聞こえない。

 

「元はお前の撒いた種だろうが。───。」

 

 

 

 

 

 

 そして、時は流れる。

 

「なんで私が、これを…」

「凄い、お姉ちゃん!かっこいいよ!」

「え!?そう!?うぇひひ…」

 

 見慣れぬ機械の鎧を身にまとった響と、彼女に抱き抱えられた少女。周りをノイズに囲まれているが、少なくとも一歩間違えたら死、という状況からは脱却出来そうだ。響の纏う、シンフォギア──ガングニールのお陰で。

 

「逃げるよッ!…うわあああああああ!?」

 

 思いの外ジャンプしてしまった。足をばたつかせる響を抱えたのは、例の女性だった。()()()()()()()()()()()ことを除けば、その姿は昼間に出会った彼女そのままだ。

 

「あ、貴方はあの時の!」

「…猫か。」

「はい!あの時はバタバタしててお礼言えなくて…」

「構わん。それよりも、奴らだ。追われているのか?」

 

 示す先、ノイズの群れ。

 

「そ、そうなんです!というか早く逃げてください!このままじゃ巻き込まれて…って、ちょ!?」

「心配ない。」

 

 そう言って彼女は、腰に何かをあてがった。

 

フォースライザー!

 

「なんですか、それ…」

「貴様には関係の無い事だ。黙って見ていろ。」

 

 黄色と黒の、どこか機械じみたベルトのバックルを腰に押し当てた彼女。右手を真横に伸ばしたかと思うと、今度は手にした長方形の物体、その上部に取り付けられたスイッチを押し込んだ。ポイズン、との音声が鳴り響く。

 

「ポイズン…毒?」

「学力は高くないと聞いていたが…その程度は知っているか。」

 

 なにを、と鼻息荒く睨みつける響から視線を逸らし、彼女はノイズを見やる。既にノイズのターゲットは響ではなく、紫の長方形をバックルに叩き込んだ彼女に移っていた。その理由は、分からない。

 

「変身。」

 

フォースライズ!

 

 

 

 

 

 

 私は、巻き込まれただけだった。ノイズに襲われた女の子を抱えて走っていれば、突然胸の中に歌が響き始めて、それに従えばコスプレ衣装みたいに服が変わって。もう訳が分からないよ!

 

「あな、たは。」

 

スティングスコーピオン!

 

Break Down.

 

「俺は、滅。」

 

 襲いかかってきたノイズを腕の一閃で塵と消したのは、私の目の前に立っていた女性だった人。紫と黒の、まるでヒーローショーに出てきそうな姿に姿を変えて、彼女は名乗った。

 

「仮面ライダー、滅。」

 

 そう言って、滅と名乗った女性はバックルに手を添えて2回動かした。後ろからじゃ何をしたかは分からないけれど、とんでもないエネルギーが足に集中しているのが感じられて…ってここに居たら危なくない!?

 

「消えろ…!」

「うひゃあああああ!?」

 

スティング・ユートピア

 

 

 

 

 

 

 私が現場に到着した時、そこには()()を揺らすスーツ姿の女性と、ガングニールを纏う少女、そして彼女に抱えられた別の少女がいた。既にノイズの姿は無く、炭素の塵が舞い散っている。あの少女が、あの数のノイズを倒せるとは思えないが、まさか?

 

「大丈夫?」

「あ、はい!大丈夫です!」

 

 こちらに背を向けた女性が、腰を抜かせた少女たちに手を差し伸べる。手首に真紅の長方形のアクセサリー?を揺らした彼女は、少女が立ち上がったことを確認するとその場を立ち去ろうとしたのか、こちらに振り向こうとして。そして、やめた。

 

「…君が、風鳴翼か。」

「ならばどうする?」

 

 挙動が不自然すぎるし、何よりガングニールを見られた以上はそのまま帰す訳にもいかない。こちらに同行してもらおうか、と考えたその時、彼女の姿が一変した。

 

バーニングファルコン!

 

「その姿は!?」

「今、僕たちが会うべきではない。」

「ま、待て!その声は!」

 

 止める隙もなく、真紅の長身は夜空へと飛び去って行く。

 

「その、声は…」

 

 伸ばした手の先、不死鳥のような赤い光が空を横切って、消えた。

 

 

 

 

 

 

「ぶつぶつ…フィーネの奴…ぶつぶつ…」

 

 時は流れに流れ、場面は移り変わって廃マンション。銀髪の少女が玄関の跡地らしき箇所に足を踏み入れた時だ。

 

「何か、御用ですか。」

「うっひょうわぁぁぁぁぁぁぁ!?お化け!?」

「いえ、私はここに、生きています。ええ。生きています。」

「なんだよ紛らわしいな!」

「そうですか…申し訳ありません。」

 

 柱の影から現れた人影に文字通り、少女は飛び跳ねて驚いた。そのまま逆ギレして相手をしょんぼりさせるというコンボ付きで。

 

「あ、いや。こっちこそ悪い。」

「話は戻りますが、何故ここに?一応、ここの所有者は私ですが。」

「嘘だろ?こんなボロボロなのに?」

「嘘です。私はここを勝手に間借りして拠点化しているだけの流浪者ですし、貴方に何か言う権利はありません。」

「ないのかよ!」

 

 頷いた、と思われるその影が指を鳴らすと、死んでいると思われたライトがぽつぽつと点灯する。ほんの僅か、足元が見える程度の弱い灯りだったが、少女──雪音クリスにとっては十分だったらしい。

 

「あんがとよ。後はあたし一人で…」

「少しこちらへ。話したい事がありますので。」

「話したい事って?」

「フィーネの事、だとすれば、貴方はどうしますか?」

「…詳しく聞かせろ。」

 

 夜は、まだ更けない。風鳴弦十郎は、まだ到着しない。

 

 

 

 

 

 

「これが、カ・ディンギル…」

 

 リディアンに屹立するは超大型の砲門。月を穿つという大言壮語も可能にするというそれを破壊しなければ、()()()()()してしまいかねない。

 

「人類滅亡だっつって聞いて来てみりゃ、これか。随分身勝手な理由だな。ええ?」

「何だ、貴様は。ここは一般人が遊びで来るような場所では無いのだ。疾く失せろ。」

「危ない!」

 

 フィーネの右手が目にも止まらぬ速さで振り切られ、歩いてきた女性に鞭が襲い掛かる──!

 

「危ねぇな。最近のコスプレイヤーはこんなもん持ってんのか?あん?」

「「「えっ」」」

「馬鹿な!生身の人間が、完全聖遺物を!?」

 

 その前に、黒手袋によってキャッチされて軽々と引きちぎられた。破片を背後に放り投げ、女性は靡く長髪をうざったそうに後ろに払う。その瞬間顕になった顔を見て、翼と響が絶句した。

 

「貴方は…」

「奏…?貴方、天羽奏なの!?」

 

 必死に呼びかける翼の真横を通り抜け、彼女──天羽奏によく似たダレカはフィーネへと歩み寄っていく。

 

「話聞いてりゃ、テメェがノイズを操ってたんだってな?」

「ソロモンの杖の事か。それがどうした?」

「ようやく分かった。倒すべき悪が。()()()の敵が!」

 

バレット!

 

 手に握った長方形──()()()()()()()()を無理やりこじ開け、彼女は青い拳銃のようなデバイスにそれを叩き込む。

 

オーソライズ!

 

KAMEN-RIDER. KAMEN-RIDER. KAMEN-RIDER.

 

「変身ッ!」

 

 引き金を引き、彼女は姿を変える。

 

「お前は、何だ!」

 

 撃ち放たれた弾丸が舞い戻り、突き出された拳にブチ当たる。すると弾は無数のアーマーとなって彼女の身体を覆い隠す。白と青の装甲を身に纏い、オオカミのような仮面を被ったその姿。問いかけるフィーネに対して、彼女は拳銃を片手に名乗りを上げた。

 

シューティングウルフ!

The elevation increases as the bullet is fired.

 

「バルカン。」

 

 怒りを湛えたかのような仮面は、狼を象っているようにも見える。その双眸が睨みつけるのは、黄金の鎧に身を包んだフィーネだろうか。

 

「仮面ライダー、バルカン。それがオレの名だ!覚えとけ!」

 

 異なる世界で戦い抜いた筈の戦士が、再び産声を上げた。




イメージは良太郎とイマジン。
感想とかあれば続くかもしれない。


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馬鹿とご飯と伸ばした手

またまた降って湧いたよライダーネタ。

ライダー側はほんへ完結後です。なんでこの世界に居るのかとかは考えてはいけない。きっとディケイドの仕業なんだ。


「響の…」

「未来の…」

 

 

 

「ばかぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

「あんな事言わなくて良いのに!」

 

 プンプンと擬音を立てても違和感が無さそうに頬を膨らませながら街を歩くは我らが立花響。たった今、同室の小日向未来と大喧嘩して部屋を飛び出してきたばかりである。

 しかしまぁ、喧嘩したとはいえ相手のことをボロカスにこき下ろさない当たりが響の優しさが現れているというか。衝突した時は兎も角、わからず屋、という表現で怒っている所が響らしいというか。

 

「こうなったら気が済むまで食べ歩きしてやるもんね!」

 

 …怒った時の気分転換も、また響らしかった。

 

 

 

 

 

 

「もっきゅもっきゅ…ごくん。おばちゃん、お代わり!」

「今日は一段と機嫌が悪いんだねぇ…」

 

 ドン引きするふらわーの店主に目もくれず、響は容赦なく目の前の食物を食い荒らしていく。ぶっちゃけとんでもない消費量である。1人で何人前食べたのか分からなくなったその時、新たな客がやって来たらしい。

 

「いらっしゃい!」

「あ、どうも。一人で。」

「お好きなところにどうぞ!」

 

 どうも、とまた頭を下げる気配がした。声からして若い男だろうか。響には興味が無い。今は己の欲望に従ってヤケ食いする事が最優先なのだから。

 

「うわぁ…あの、それだけ食べて動けるの?」

「もぐもぐ…」

「あのぅ…」

「あっ、はい!?」

 

 口の周りをソースやら青のりやらでぐちゃぐちゃにした響が見上げると、苦笑いした青年が立っていた。その手に握られているハンカチを差し出して、彼は自分の口周りを指さした。

 

「良かったら…使って?」

「〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

 声にならない悲鳴、とはこの事か。

 

「随分イライラしてるみたいだけど、何かあったの?こんな奴で良かったら話くらいは聞くよ?」

「えーっと、そのー…」

 

 言えない。ノイズとの戦いでまた無茶をして同居人と喧嘩しました、なんて一般人に言えるはずも無い。

 差し出された真っ白なハンカチで口周りを拭い、水を一杯。冷たい感覚に冷静さを取り戻した響は、店主の計らいでこちらに移ってくる青年に問いかけた。

 

「あの、仮に、の話なんですけど。」

「うん。」

 

 手馴れた様子でお好み焼きを焼き上げる彼は、視線だけを響に向ける。揃えた膝の上に両手を下ろし、そこに目を落とす彼女に。

 

「もし、漫画とかアニメみたいな怪物が居たとしますよね。」

 

 彼は何も言わない。響が全て言い終わって、彼女の胸の中に抱えるその疑問が吐き出されるまでは、静かにしていた。

 

「その怪物に襲われてる人がいて、自分が戦える力を持っていて、その人を守るのは…おかしい事なんでしょうか?例え触れられて死なないとしても、私がその人を助けるのは…間違っているんでしょうか?」

 

 言い終わって顔を上げた時、青年は半分ほどお好み焼きを食べた辺りだった。響の瞳を見つめ返した彼の顔は、困ったような笑顔だった。

 

「そうだなぁ…仮に触れられたら死んでしまう怪物が居たとして、君が死なないならそれでも良い…なんて訳じゃない。確かに、助けられる人が居るなら手を伸ばしてもいい。でも、助けられるのは君の手が直接届く距離の人達だけなんだ。」

「私の手が、直接…」

「うん。だってそうでしょ?君が助けたかった人には家族が居ただろうし、友達だって居たかもしれない。でも、君にだって家族が、友達がいる。君が死んじゃったら、そういう人たちが悲しんじゃう。」

「…未来。」

 

 呟いたその名前は、友達だろうか。青年は柔らかく微笑んで切り分けたお好み焼きを口の中に放り込む。ソースとマヨネーズの味が懐かしい。

 

「うん、美味しい。こんなご飯を、一人で食べるなんて味気ないでしょ?だからさ、君の友達も、大切な人を失ってしまったらどうしよう、もう帰ってこなかったらどうしよう、って心配なんじゃないかな。」

「そういう、ものでしょうか。」

「当たり前でしょ!」

 

 最後の一口。

 

「君みたいな優しい子の友達が、優しくない訳がないから!…きっと、君のことを想ってくれてたんだと思うよ。大人になったら、そうやって君のことだけを思って怒ってくれる人になんかそうそう出会えない。君のために怒ってくれる、ってことは、君のことを本当に、心の底から大切に想ってるって事なんだから。」

 

 良い友達だね。そう言ってくれた彼の顔は滲んで見えなかった。

 

 

「すみません、ハンカチはしっかり洗ってお返しを…」

「いやいや、困った時は助け合いだから。大丈夫大丈夫。」

 

 人懐っこい笑みで手を振り、彼はふらわーの前から去っていく。その手に、奇妙な杖を握りしめながら。はて、彼は一体どのような杖を持っているのか。疑問に思った響が視線を上にズラしていくと。

 

「ぱ、パンツ!?」

「え、あ、これ?俺の明日のパンツだけど。」

「あのー、失礼ですがお仕事は…」

 

 響の声に振り向いた青年。その顔に恥ずかしがる、という感情は無く、それどころか少し誇らしげな顔つきだった。外したそれを無理矢理ポケットに突っ込むと、彼はニッコリと笑って言う。

 

「無い。世界を見て回ってるからさ。」

「えぇ!?で、でも荷物とかそんなの…」

 

 ポケットから出した手の中、何かを見つめた後に、彼は両手を広げる。

 

「ない!この身体と、少しのお金と、明日のパンツさえあれば何とかなる!少なくとも、俺はそうやって生きてきたから。」

「…なんというか、パワフルですね。一人だけでも生きていけそうな気がします。」

「いや?そういう訳にも行かない。」

 

 彼の脳裏に過ぎるのは、一体どんな思い出だろうか。

 

「みんなに助けられて、俺はこうしてここに居る。」

 

 でもそれらが、彼にとってかけがえの無い物であることは、響にも感じ取る事が出来た。だって彼の顔は、今──

 

 

 

 

 

 

「響…」

 

 対してこちらは、街中を駆け回る小日向未来。喧嘩した勢いで家を飛び出してしまった響を探すべく東奔西走していたが。

 

「居ない…」

 

 見つからない。この時、未来は慌てすぎてふらわーの存在を完全に忘れてしまっていた。裸足でサンダルをつっかけたままのスタイルで外を探すぐらいには。

 そんなわけで人探しを続ける未来だったが、一向に進展はなかった。元はと言えば自分のせいなのだが、それでも間違ったことは言っていない気がする。しかし見つからない。いよいよ装者の誰かに助力を乞うべきか、と諦めかけたその時。

 

「──!?どこだ!?」

「きゃあ!?」

 

 角から飛び出してきたスカジャン姿の男にぶつかって転倒してしまう。なんとか尻もちで済んだものの、ぶつかった相手が相手であれば自分が無事で居られる保証は無い。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 あわてて頭を下げた彼女を仁王立ちで見下ろしていた男は、何も言わない。腕を組んだままその場で動かないのだが、未来はずっと頭を下げていてその事に気付かない。お互いに不動のまま数分が過ぎた…ように思えた数秒後、前にいた青年が屈んでこちらを見てくる。

 

「大丈夫か?」

「あっ、はい。大丈夫、です…」

 

 思いの外しっかりした対応に胸を撫で下ろす未来。人は見かけによらないのだな、と自分の価値観をアップデートして差し出された手を握って立ち上がろうとして──

 

「あ!俺急いでたんだ!んじゃ!」

「え」

 

 手を打った彼によって、その手を無理矢理外される事となった。

 

 

「痛てぇ…こいつ、下手すりゃ美空よりも強いんじゃねぇのか…?」

「何か言いました?」

「ヴェッ!マリモ!」

 

 何か聞こえた気がしたのだが。握った右手を開いて、未来は眼前の青年を睨む。自分は探し人がいると言えば満面の笑みで肩を叩いてきたので、容赦なく顎を打ち上げてしまった。思ったよりも頑丈で右手がヒリヒリするが、後悔はしていない。反省もしていない。だって相手が悪いんだもん。

 

「ったくよ…俺はこんなところでモタモタしてる訳にゃいかねぇのに…何だ?」

「これは…ノイズ!じゃ、ない?」

 

 互いに睨み合って顔を逸らした二人の前に現れたのは、全身が真っ黒な怪物だった。人型ではあるものの、そのシルエットに見覚えはない。だがそれは、未来だけの話だったようだ。

 

「なんでスマッシュが居るんだよ…!」

「スマッシュ…?」

 

 未来を守るように前に出た青年が、箱状の何かを取り出して腰に当てがった。自動で展開したベルトが、それがバックルだということを教えてくれた。しかしそれにしては妙な形状をしていた。バーの突き出たそれは一体何なのか、未来に推し量ることは出来ない。

 

Wake up!

CROSS-Z Dragon!

 

「へ?」

 

 どこからともなく現れたおもちゃのドラゴンに手にしたボトルのようなものを装填して、ベルトに接続する。

 

「それは…」

「変身ッ!」

 

Wake up Burning!

Get CROSS-Z Dragon! Yeah!

 

 瞬く間に展開されたプラモデルのランナーのような青い枠が青年を両側から挟み込んで彼の姿を変える。スーツとアーマーに身を包んだ彼は両手を打ち合わせてスマッシュと呼ばれた怪物に殴り掛かる。

 

「行くぞオラァ!」

 

 

「…なんか、ありがとうございます?」

「なんで疑問形なんだよ。もうちょっと何か無いのかよ。」

「いや、馬鹿っぽかったので…」

「会って早々失礼な奴だな。」

 

 見事スマッシュを打ち倒した青年に、隠れていた未来が拍手を送る。元の姿に戻った青年が眉間に皺を寄せたところで、彼女は自分の本来の目的を思い出す。

 

「あっ、そうだ!響!」

「響?あぁ、そいつがお前の探してた奴か。…しょうがねぇな、このまま帰るのも何だし手伝ってやるよ。なんかそのー、ねぇのかよ。自称天才物理学者だったりとかドルオタだったりとかヒゲだったりとか。」

「なんですかその色物…」

 

 色物?と首を傾げる青年にため息を一つ。まるで響のようだ。きっとこの人も誰かと喧嘩したんだろうな、と呆れて半目で睨んでいると、彼が急に走り出した。

 

「あ!」

「ちょ、ちょっと何処に…」

「うるせぇ!お前はここで待ってろ!…ってクソ!」

 

 再び姿を変えた青年が、未来に向かって駆け出してくる。そのまま拳を振りかぶり、未来へと突き出し──

 

「危ねぇから待ってろって言っただろ!」

「へ?」

 

 いつの間にか握られていた剣で、未来の背後のスマッシュを撃破した。すると呆然とする未来を肩に抱えて180度反転。全力で逃走を始めた。

 

「なんで逃げるんですか!?」

「お前が居るからだろ!?怪我されたら困るんだよこっちが!主に美空とか戦兎とかの視線とかな!」

 

 ぎゃあぎゃあ騒いでいるうちにスマッシュの姿は後ろへと消え去っていった。ようやく訪れた平穏に深く息を吐いて姿を戻した青年は、放心状態でベンチに座る未来へと振り返る。

 

「お前。なんで響って奴を探してんだよ。方向音痴なのか?」

「…違います。」

「じゃあなんだよ。言えねぇなら良いけど、俺も探してる奴が居るんだ。いつまでもお前の面倒なんて見てられねえぞ。」

 

 確かにそうだ。彼には彼の事情があるのだろう。そう分かっていても、未来の口は勝手に言葉を紡いでいた。

 

「響と、喧嘩しちゃって。」

「喧嘩?なんだよそんな程度かよ。」

 

 拳を握って睨みつけた。遊具の後ろに隠れたようだ。

 

「響は、あのスマッシュみたいな怪物と戦う力を持ってて、でもすぐに人を助けようとして無茶ばかりして。人を庇うのは良いんですけど、自分が怪我したらどうしようもないじゃないですか。」

「…………………」

 

 青年は黙って聞いている。有難いものだ。話を途中でぶった斬るような真似をされてはこちらが困る。

 

「それを指摘したら、喧嘩に…」

「成程な。さっぱりわからん。

「えぇ!?」

「俺は響でもなきゃお前でもねぇからな。」

 

 良いか?

 

「響がその力を持ってるなら、その使い方はアイツ次第じゃねぇか。そこにいちいちケチつけるのは違くねぇか?」

「でも、私は響のことを心配して…自分の身を呈してまで、誰かを助けたい、だなんて。」

「『見返りを求めたら、それは正義とは言わねぇ』。戦兎の言葉だ。響にも、響なりの正義ってものがあるんじゃねぇのか?」

「その結果自分が死んでも、それは正義と言えるんですか?」

「知らねぇ。」

「知ら…!?」

「そいつの選択だろ?それなら文句の付けようもねぇじゃねぇかよ。」

「そんなの…無責任すぎます!その結果、響がどうなっても良いって言うんですか!貴方だって、その力で誰かを助けたりしたんじゃないんですか!それの何と違うって…」

「俺は。守れなかった。力を持ってたとしても、誰かの助けになれるとは思わねぇ。目の前で仲間を失うぐらいなら、自分が傷付いた方が良い。その結果自分が死ななきゃ良いんだよ。」

 

 ぐしゃ、と未来の頭を乱暴に掻き乱して、青年は叫ぶ。

 

「あー!慣れねぇ説教なんかしたくねぇ!何言ってるか自分でも分かってねぇからな!ほら!さっさと探すぞ!」

「え…?」

「あ?響探してんじゃねえのかよ。」

「そうですけど…どうして。」

 

 未来の疑問に、少し照れたように頬を掻きながら。彼は笑う。

 

「愛と平和のため、だな。」

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 

「あの、未来?」

「…ごめんね、響。私、響のこと…まだ分かってなかった。響は、人を助けたいから助けただけなんだよね。そこに深い理由なんかなくて、ただ助けたいと思ったから、自分がそのための力を持ってたから…」

「ううん、私こそ。未来が私の事を心配してくれてた、って。私も分かってなかった。私がいなくなったら未来が悲しむように、私も未来が居なかったら悲しいもん。」

「響…」

「って、優しい人が教えてくれたんだ!」

「──私も、そんな人に会ったよ。ちょっと抜けてて、響みたいな人。でも、響みたいに強かった。」

「えぇ!?そんなに!?」

「うん。あ、でも響の方が強いかな?」

 

 

 

 

 

 

「これで、良かったのかな。アンク。」

 

 ポケットから取り出した手の中には、割れてしまったコアメダル。いつかの明日でまた会おうと、彼──火野映司は、こうして旅を続ける。

 

「まぁ、良いか!未来ちゃんって子、きっと優しいはずだから!」

 

 その手に、明日のパンツと少しの金を握り締めて。

 

 

 

 

 

 

「戦兎ー!?どこだ!?」

「ここだよ馬鹿。」

「痛てぇ!」

 

 まだ探し人を見つけられていなかった青年──万丈龍我は、逆に自分を探しにやってきた青年──桐生戦兎に頭をはたかれていた。質量保存の法則を無視してスマホから変形したバイクに跨りながら、ベストマッチな二人が街を駆ける。

 

「何してたんだ?」

「あ?あー…なんか、人探しを手伝ってた。それより聞いてくれよ!」

「なんだ?お前のズボンのチャックの話か?」

「うぉ!?なんで教えてくれねぇんだよあのガキ!」

「ガキって言うのやめろよこのバカ。」

「バカって言うな!あ、そうだスマッシュがな…」

「残りは俺がやっといた。お疲れさん。」

「なんだとぉ!?見てたんじゃねぇか!」

「こら、揺らすな!」

 

 どこまでも騒がしい二人は、ぎゃあぎゃあ騒ぎつつも何処かへと去っていく。今日もどこかで、世界を守る為に。




次は誰を書こうかね


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