術式が『百式観音』ってマ? (隣の家に晩飯凸する止まらないゴルシ)
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襲来、変な髪の人。

俺の名前は藤井名入(ふじいないり)。ごくごく普通だった()一般人である。

 

何故()なのか……それを話すと少し長くなるがいいだろう。

 

結論から言うのなら俺は今呪術廻戦の世界で生きている。いわゆる転生というヤツだ。

まぁ転生と言えば特殊能力である。

だが、何の因果か俺にはHUNTER×HUNTERのキャラクター、ネテロ会長の『百式観音』が術式として付属させられたのである。

 

なんだよこれ。基礎呪力量普通なのにこんな呪力馬鹿食いしそうな術式もらっても困るンゴ。

 

だが不幸(?)な事はもっと続く。

 

天与呪縛である。

 

ここで何を言ってるのかわからない人のために簡単な解説をしよう。

 

まず術式。これは家電としてとらえてくれればいい。そしてそれを動かすには電気、すなわち呪力が必要である。

その呪力の量は基本的に人それぞれ決まっている。一応特殊な訓練などで術式使用時の必要呪力量を減らしたりもできるらしい。

 

だがそんなややこしい事をしなくても戦闘時、呪力が爆上がりする方法がある。

いわゆる『縛り』である。

これは自身にとって、不利な条件を付けることで呪力量を一時的に上げるものである。基本的には全て個人が勝手につけたりできる。HUNTER×HUNTERで言う『制約』あたりだろうか。

だが、ごくまれに先天的に縛りが結ばれることがある。

 

それが天与呪縛である。

 

厄介なのが解除できないという事。俺の場合、天与呪縛は『特級以上にしか百式観音は発現しない』というものである。

お陰で呪力はなんとかなっている。補足をつけるならば、この時の特級は、()()()()で判別されるため呪詛師、呪霊、呪術師すべてが対象に含まれる。

また、あくまでも百式観音は特級以上にしか完全発現しないだけであるので、HUNTER×HUNTERの『不可避の速攻』なんかは普通に使えたりする。

 

そして今、俺は東京の呪術高専にいる。

 

更に目の前に髪を切らないヘンな呪詛師兼どっかの変態宗教教祖を捉えている。

 

「え?なにこれ死亡RTAですか??死亡RTAなんですね!?そうなんですね!!??」

 

「あっはっは、君面白いね~。でもその歳で準一級なんでしょ?」

 

「うわこいつ俺の情報まで持ってる。ストーカーかよ」

 

「心の声が漏れてるよー」

 

正直なところ何度か特級呪霊とはやりあったことがあるが呪詛師はまだである。しかも相手は呪霊を扱える『呪霊操術』とかいうあたおか(あたまおかしいの略)術式の持ち主である。

 

「帰っていいですか。早く2ちゃんみたいんですよ」

 

「今の高校生はそんなものまで楽しんでるのか…」

 

すこし引きながら呪詛師―――夏油が言う。

 

「で!?帰っていいんですかァ!?ふじこふじこ!!!」

 

「いや―――――実を言うと、君を殺しに来たんだよね」

 

直後、圧倒的な圧力が藤井を潰す。

 

「あれ?高校2年生で準一級の割にはこんなものかな?」

 

そこには横たわった藤井がいた。

ボロボロの藤井に目もくれず、高専を襲撃した夏油はその場から去ってゆく。

 

一方藤井は

 

(あっぶねぇぇーーーーーー!!!!!なんかバレなかったぁーーーーー!!!!!)

 

この通りピンピンしている。

 

なぜあの圧力から生還してピンピンしているのか。

 

圧力がかかった瞬間、藤井は己の両膝をやってくる圧力と同じ速度で折り、可能な限り衝撃を緩和する。そして地面と圧力の板挟みになった瞬間、反転術式をフル活用し、圧力で体がべきべきに折れようが、回復しながらどうにか体だけは守り、死んだふりをしていたのである。

当然、藤井はこの後奇襲は仕掛ない。

彼は普段合理的に、時に感情的になる人間である。

 

夏油をここで殺し、上層部のDQNから目を付けられるより、殺さず準一級のままいる方がいい。そう考えたのだ。

 

「おふッ…あぶねーあぶねー………敵がバカで助かったぜ…HAHAHA」

 

て笑ってる状況じゃねーわ。

 

奴が高専を襲撃した…俺が知る限り夏油傑が高専を襲撃するのは、まだメロンパンマンになっていない…つまり比較的マトモな夏油傑である。

 

己の心境をバラそう。俺この世界の人生めちゃくちゃ楽しんでる。

 

俺が望むのはただ一つ。渋谷事変で出てくる宿儺と()りあいたい。

 

己の術式を。その全力を持って戦いたい。

 

その為には比較的マトモな夏油には原作通りに死んでもらう必要がある。酷な事だがね。

 

となると今俺がすべきはサボり!!!

 

夏油を追撃せず、美味い地位で美味く金を喰らって美味いこと楽しむ!!!

 

とゆー事で一応家入さんとこ行っとくか。

 

 

 

 

 

 

 

これは、勉強を強要されて、親の前で『ペロッ…これは青酸カリ!』でリアルに自殺した男の、転生譚である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この小説はあくまでも他の連載中の小説を書くモチベを上げるためのものです。その為、そんなに長くは続けません。
本編完結後は、ちょくちょく番外編を投稿すると思います。


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生い立ち

お気に入りってこんな増えるもんなんすかねぇ…


頭が痛い。

 

原因は言わずとも察するであろう五条悟(銀髪イケメソ28歳児)である。

 

昨日は世間一般で言う卒業式なのだが、「三年生になったから〜」ってウォッカを口の中に突っ込んできやがったあの野郎。もう少しでヤロウブッコロシャァァァァァって叫ぶとこだったぜHAHAHA。

 

「ふー………やるかー、正拳突き」

 

ハンターハンターで言う『感謝の正拳突き一万回』。

今の藤井は、それを日課としていた。

そう、ネテロになろうとしているのだ。

だが藤井は『自分はネテロレベルの人間になれる』とは微塵も思っていない。

その原因はスタートラインである。

ネテロは、原作中で己の武に限界を感じたからこそ今までの全てに感謝を込め、一日一万回の正拳突きをしていたのである。

そう、己の武に限界を感じていたのだ。

だが、藤井は唯の呪術師兼高校生である。戦闘は基本的に術式を使うが故、基礎的な格闘能力は低い。とはいえ真希とタイマンができる格闘能力はあるが。

 

だが所詮その程度である。

 

真希とのタイマンだけでは、特級との戦闘に力不足。

仮に術式だけで敵を押し切るにしろ、『零乃掌』を使えば呪力はすっからかんになる。

そして、今藤井は百式観音を使うことは出来ても、100%の出力が低い(その点で言うなら、ある意味藤井も己の限界点にはいるが)。

その100%の出力を上げる事、そして人間としての、個としての限界点を越える為に一万回の正拳突きを日課としていた。

 

 

そもそも彼がこの世界に転生するに至ったのは事故死などとなまやさしい物ではない。

 

 

 

 

 

 

そう、自殺である。

 

 

 

 

 

彼は、前世にて17歳の頃、どハマりした漫画が二つほどあった。ハンターハンターと呪術廻戦である。

『念能力』と『術式』、『呪力』と『オーラ』、『縛り』と『制約』。似たような点をいくつも持つこの二つの作品に彼は惹かれていた。

それこそ己の睡眠時間の大半を削る程どハマりしていたのだ。

勉強はしていた。それこそどハマりする前は学年一位など余裕というほど頭は良かった。

だが、ハンターハンターと呪術廻戦。この二つにあった事で、高校での成績は次第に下がり始めていた。

その原因が漫画にある、と察した両親は彼から生活必需品と参考書、それらを除く一切を取り上げた。

無論、頭の良い彼は抗議した。「成績が下がるのが嫌なら上げてみせる」と。

だが、日常的に良い成績のみを見ていた両親は聞く耳を持たなかった。

だから、彼は自分にできる精一杯の復讐をしようと考えた。ネットカフェで裏サイトに忍び込み、青酸カリを買い、彼は親の目の前でよくネタで使われる「ペロッ…これは青酸カリ!」をリアルに実行して死んだ。

 

 

 

直後、激しい頭痛に襲われながら嘔吐した。

己は何者か。元々いた己は何者か。その両方の記憶を、感情を、その全てを頭は捌き切ることができず、三日間の高熱に襲われた後、頭をフル回転させ、ここが何処なのかを探り始めた。

 

その答えはすぐ見つかった。まず、転生した体の持ち主は4歳の子供で、まだ幼稚園児だった。

その世界での母親に、幼稚園へと送られている最中、非常にグロテスクな何かを見つけた。

前世でどハマりした漫画、呪術廻戦の呪霊だった。

 

転生したならば、原作に介入したいと考えるのはもはや必然だった。

だが、自分の術式すらわからぬ今のままでは、それすら不可能。

かと言って、術式を探る目的で、呪霊と接触するのは当時の彼には危険だった。

故に、1日一万回の正拳突きをし始めた。無論、2度目の両親は目を見開くほど驚いてはいたが、それも次第に落ち着いていった。

そして晴れて小学一年生になり、一人で帰路についた時、淡いながらも自覚し始めた『呪力』と『術式』を使い、三級呪霊を攻撃した。

その時、約二年の正拳突きによって得ることのできた当時の年齢の者にしては驚異的な動体視力は、刹那にすら到達しない速度で、三級呪霊をチリにした黄金の手を捉えた。

 

そして、中学二年生にして、コンタクトはやって来た。

 

無論、彼はその時すでに自分の術式が『百式観音』を呼び出し使役するものである事、天与呪縛の事、それら全てを把握し、原作を変えるという道を取った。



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突撃!隣の新入生!

後書きの方に、いろいろ書いてありますので出来るならご覧ください。


伏黒君がやって来ました。

と言うことはもう後数ヶ月で渋谷事変だな。まぁ十ヶ月近くあるけど。

夏のど真ん中辺りに順平と虎杖が会うわけだから、夏に入るちょっと前あたりに1年ズが結成か。となると本格的な原作まではまだ数ヶ月あるのか。

また胃痛が…

 

藤井は渋谷事変以後の事を色々と考えていた。

まず、秤達を連れ戻す為にも保守派の戦力ダウン&呪術規定の改定がいる。

伏黒の父親、伏黒甚爾もとい禪院甚爾は文字通り禪院家の人間。つまり伏黒(恵の方)も禪院家の血を引いており、禪院家当主になれる素質はある。

藤井が前世で読んでいる限り、禪院直毘人は渋谷事変で死亡し、次期当主を恵に譲る、と遺書を残している。

その為、伏黒が禪院家当主になるのはほぼ確定的と見て間違いない。

問題は虎杖である。

虎杖悠仁、特級呪物である「宿儺の指」を食ったことで元々の魂が宿儺とシェイクされた哀れな人物である。渋谷事変中、その宿儺が敵の策略によって一時的に虎杖の身体を奪取することに成功し、東京の一部を文字通り更地にしてしまう。ここまで来ると虎杖死亡RTAになりかねない。

藤井とて無関係の人間が大量に死ぬのは流石に心が痛むし、何よりクズじゃない原作キャラに死なれるのは困る。

つまり、渋谷事変で宿儺が出てきたら宿儺とタイマンで戦い続け、宿儺を引っ込めるか虎杖が体の主導権を奪取するまで粘らなければならない。

しかし藤井にも問題があった。彼は、前世では渋谷事変で五条悟が封印されたところまでしか見れておらず、それ以降は友人から断片的にストーリーを聞いていたのだ。

故に細かい対策のしようがなく、ここまでの対策しか不可能であった。

 

 

「うぅぅ〜胃が…胃が痛てェよぉ…二年ズ助けてぇ…」

 

「そのままのたうち回っとけ」

 

「高校三年生なら胃痛薬飲むとか方法あるし俺らが助ける意味無くね?」

 

「こんぶ」

 

まず真希からの鋭い(精神的)腹パン!

そしてパンダからの(精神的)ドロップキック!

トドメに狗巻からの(精神的)ジャーマンスープレックス!

酷い連携である。酷過ぎて思わず「酷い三連星…」と呟いた藤井が今度は物理的に連携攻撃をくらったのは内緒。

 

「で何しに来たんだよ」

 

「え?いや凸かましたらどんな反応するかなって」

 

「なぁ真希、こいつどうする?」

 

「豚骨スープならぬ藤井スープにして五条に食わすか」

 

「しゃけ」

 

「お前ら酷過ぎるだろ…」

 

と言い残し、目を逸らさずゆっくり後退して教室を出て行った藤井は一年生の教室へと歩き始めた。

 

「うっす。お前が新入生?」

 

「誰ですかアンタ」

 

「三年生の藤井名入。そっちは伏黒恵、だっけ?」

 

「え?三年生って全員停学じゃ…」

 

アイツらめ!と怒り覚えた藤井だが、まぁ分かりきったことか、と感情をコントロールし普通に接する。

 

「ちがうわい。アイツらが勝手に言っただけだっての」

 

(逆にどんな嫌われ方したらそんなことされるんだ…?)

 

「何か失礼な事考えてるくね?」

 

「気の所為で」

 

スパァッン!!!!!と、教室のドアが勢いよくスライドし、何事かと二人揃ってドアの方を見る。

 

「あー!めwぐwみwんwだーー!」

 

入って来たのは五条悟であった。ドアホの28歳児である。

 

(めぐみん?このす○…?)

 

(めぐみん…?)

 

「来たなら言ってよもー」

 

まるで何を言いたいのかわからない二人が、次に放った言葉は─────

 

 

「丁寧に人を侮辱するのってどうやったら良いんですか?」

 

「うんこ召し上がれ?」

 

であった。

 

 

 




第三話を消して再投稿した理由を、言いたいと思います。
感想欄などで、色々とアドバイスをいただいた結果、幾つか共通の意見がありました。流石に共通した意見を言うと、誰が意見したのかわかってしまいますので、ここでは言いません。
ただ、それらのアドバイスを読んで、「確かにそうだな」と思い、一度第三話を削除し、再投稿させていただきました。

あのままでよかった、あの方が良かった、と言う方、申し訳ありません。
ただ、最近リアルの方が色々と忙しく、どうしても低クオリティなものになってしまったり、おかしくなってしまったりしてしまいます。私もそれらの改善に努めますが、「まぁ、いいんじゃない?」と暖かい目で見ていただけると、幸いです。
長文失礼致しました。


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わぁすっごい!君は高田ちゃん愛がすごいフレンズなんだね!(脳死

皆さんこんにちばんわ、藤井名入です。

 

今日は姉妹校交流の団体戦前日です。

そう、勝手に俺の事をライバル視してくる東堂葵がやってくる日ですね!

はぁ…真衣ちゃんがいなきゃ六千回は殺してるな、東堂は。

おん?五条先生が来た…あっ(察し

 

 

「東京校の皆にはこちら!」

 

「故人の虎杖悠二君でーす!!」

 

「はい!おっぱっぴー!!」

 

瞬間、場の空気が凍りつく。

 

まーそうだよねー。死んだと思ってたヤツが生きてたらそうなるわなー。

 

「あ~…真依ちゃんかわえ~」

 

「え~?でも藤井さんも…ね?」

 

(ヴッ!!!!!)

 

藤井名入、享年18歳。死因は尊死。なんてことにはならないが、割と本気で一瞬意識がトびかけたのであった。

 

(バカップルめ…)と真希。そして(ここでするな…)と伏黒。

 

そう、藤井と真依は皆からうんざりされるほどのバカップルであった。

 

「てかよー、お前ら、もっと面白いリアクションしろよなー。こっちが面白くなくなるだろー」

 

「アンタなぁ…っ!!」

 

おうおう、伏黒がキレてる。

 

「あ、俺は虎杖が生きてること知ってたぞ」

 

「はぁ!?」

 

ここで釘崎がキレる!さぁー2体1!乱闘が始まりましたぁーっ!

 

「えだって、虎杖が死んだってことにしといたほうがお前ら強くなるじゃん」

 

「だからって――――」

 

「アンタいくら三年生だからって限度ってモンが―――」

 

「おい、そこらへんにしとけ。作戦会議だ」と真希が言い、喚く伏黒と釘崎を連れてゆく。

 

「じゃ、藤井さんまたね~」

 

「は~い、またね~」

 

「くくくっ、ほーんと甘いよね~名入」

 

「俺は俺らしく生きるって決めたんで!」

 

「ま、いいか!よぅし観戦席へ移動だーー!」

 

そして五条は歩き出す。少しすると周りには誰もおらず、ただ蒼い空が藤井を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ」

 

「東堂が仕掛けてら」

 

「ア、ン、タ、らね~…!!!観戦しながらポテチ食うなぁ!!!」

 

「うわ歌姫先生キレてる。ちょっと~五条先生~どう思いますアレ~」

 

「キレるのはお肌に悪い(笑)」

 

「いい加減に――――――」

 

刹那、轟音がし、辺りが困惑する。

 

どういうことだこれ―――こんなの、原作になかった――

 

再び轟音。と共に天井が崩れ落ち、約5名の呪詛師が降ってくる。

 

そこからはわずか一瞬だった。

 

敵の襲撃に気づいた藤井はコンマ数秒以下の速さで約三名を気絶させ、残りの二名を五条が気絶させる。

 

「藤井、生徒の安全確認。敵がいたなら出来るだけ気絶で」

 

「かしこまり」

 

「襲撃…」

 

「ま、そういう事だから、歌姫はゆっくりしてな~?」

 

「アンタねぇッ…!」

 

口喧嘩を始める二人をよそに、藤井は走り始めた。

 



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イレギュラー

モチベがああああ

あ、今回ちょっとグロ要素入ってます。
どれくらいが鬱要素だったりグロだったり分からないので、一応…


呪詛師をなぎ倒しながら、戦場を駆けまわる。

 

虎杖と東堂の居場所が分からない――くたばってなきゃいいんだが…

 

 

「ここから先は―――通さない」

 

「…」

 

「お、前はここでしし、ぬ」

 

少女だった。5歳くらいの、少女が、白目をむいてそう呟く。

死んでいた。

その少女は死んでいた。

一目で死んでいるとわかるほど身体を欠損し、そこを補うようにしてチェンソーなどが取り付けられていた。

 

「…………おい」

 

どす黒い殺気を込めつつ、言い放つ。

 

「一度しか言わん、どけ」

 

「…」

 

ごろり、と少女の首が地面に転げ落ち、切断面から血がシャワーのように吹き出る。

 

 

俺は甘く見ていた―――呪詛師を数人、高専に引き渡しただけで満足していた。

殺さなくても、いいんだと、驕っていた。

己に、溺れていた。

 

選択を、間違えた。

 

だから、こうなった。

 

善人ぶってたから、こうなった。

 

 

やることはただ一つ、と唱えて赤く濡れた右手で拳を作る。

 

 

 

 

 

「ブッ殺してやる」

 

 

 

 

もう一度走り出す。走りながら、頭を冷やして、怒りを呪力に変換する。

 

 

敵の術式はいくつか考えられるが、確実に操作系だろう。

あの少女が元から死んでいたのか、どうかはわからない。

それに出てきたのが少女一人である以上、複数人を操作できる可能性がある。

操作系、と言えば傀儡躁術辺りの派生術式だろうな、となると天与呪縛で相当な代償を背負っていない限り術式範囲は精々数十から数百メートルか。

 

 

ガサリ、と音がして後ろの草むらから小さな男の子が出てくる。

もう一度音がして、前からはスーツ姿の男。

二人とも、血だらけだったり、肌は青白かった。

そう観察しているうちに、それらは何体も増え、己を取り囲んでいた。

 

そして――――

 

「いやはや、ここまで来るとは…流石、準一級術師、ですかね。想定外でした」

 

「…お前が術者か」

 

「えぇ!そうです。私、傀儡操術を術式として持っておりまして、いくつか縛りを結んでいましてね…中でも最大のメリットが、傀儡可能な人間に上限が無く、尚且つ術式を持っている場合は、その術式も使わせることができるのです!代わりに傀儡可能な人間は死体のみとなってしまいましたが―――貴方、単純な筋力などの個体性能が素晴らしい!どうか私のコレクションになっていただけませんかね」

 

「………一つ、聞かせろ」

 

「えぇ!えぇ!何ですか!?」

 

「傀儡している死体に、子供が多いのはなんでだ」

 

「決まっているでしょう、そんなの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「子供を殺すと、興奮するんですよ」

 

ただ、その一言だった。ただその一言で、何もかも吹っ切れた。

 

怒りも、悲しみも、全部が消えた。

 

怒りたくても、怒れない。それだけが心に残った。

 

 

刹那、死体の首が飛んだ。

 

「―――え?」

 

ボキン、と骨の折れる感覚が藤井の腕を伝う。

 

「あっ―――」

 

「ああああああぁぁぁああぁぁああぁあああぁああああぁぁぁぁああ!!!!」

 

「黙れよ…うるさい」

 

「あぁぁぁッ―――あ、ああ、何が…何が起こって…」

 

「楽にしたんだよ。全員」

 

「あの…あのっ……一瞬で?」

 

「………お前は、俺みたいだな」

 

「え、え?」

 

「選択を間違えて、間違え続けて、今の自分になっちまった、俺だよ」

 

「やめ、ろっ!やめろやめろやめろ!やめろォーーーッ!!!!!」

 

叫び続ける呪詛師の頭を捻じりきる。

 

どくん、どくんと血が流れ出る。

 

「…行こう」

 

 

青かった空は、いつの間にか夕方のよう、紅に染まっていた。

 




もおおおおおおちいいいべええがあああ


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地獄の中で

告白されました。最高です!!!!!!!


どうしたものか、と藤井は考える。

花御───特級呪霊との戦闘に、百式観音を使うのは構わない。

だが、リスクが大きかった。仮に原作通り花御が何とか逃げおおせたとして、術式の情報をもらされると、渋谷事変時に厄介。

手段は大きく分けて二つ。

 

1.百式観音を使い、確実に花御を殺す。

 

2.百式観音は使わず、体術のみで戦う。

 

前者はさっき語った通りリスクがある。後者に関しては虎杖、東堂が無事であれば、勝てなくはない。

 

・・・鬱憤を晴らすかな…?

 

 

どちらにしろ、全力でやる必要がある、か─────!虎杖!

 

 

轟音。

藤井が見たその瞬間、花御へと繰り出した虎杖の打撃は、黒い火花を散らし、空間を爆ぜさせた。

 

虎杖(ブラザー)!強力な助っ人が来たぞ───」

 

「よう、虎杖、東堂────こっからは任せとけ」

 

「先輩…」

 

「何となくだが、状況は把握してる…………今、ここで、奴を潰すぞ」

 

「ウス!」

 

「それでこそ、ライバルだ…!」

 

「東堂、虎杖を連れて下がれ」

 

「……術式、か」

 

「…ああ」とだけ言い、虎杖と東堂を下がらせ、特級呪霊───花御と向き合う。

 

『…仲間は良いのですか』

 

「…ああ、アイツらが近くにいるとやりにくいんでな」

 

そう言って、()を合わす。

 

 

 

百式観音

 

九十九の掌

 

 

刹那にも満たぬ速度で、いくつかの動作があった。

 

まず、藤井が持てる脚力を全て振り絞り、空へと跳ぶ。

時を同じくして、藤井の背後に発現した金色の観音が、その全ての掌を使い、弾幕のような張り手を花御に浴びせた。

 

それは木々をなぎ倒し、大地をえぐった。

 

それは実にたった数分の打撃だった。だがそのたった数分の打撃は、既に花御を呪力でできた血肉の塊にしていた。

 

 

「…一丁上がり」

 

「んあぁー・・・」、と口をあんぐり開け、変に声を出す虎杖―――を横目に、東堂は感心したように、腕を組みながらうんうんと首を縦に振っていた。

 

「それでこそ俺のライバルだな、藤井」

 

「いやオメーのライバルにいつからなってんだよ俺は」

 

東堂のバカみたいな発言から軽い談笑が始まる。それにのめり込む藤井はまるで、何かから逃げているようだった。

 

ぴくん、と少しだけ動いた気がした。

 

肉塊と化した花御が少しだけ、動いた気がした。無論、それは『気がした』である。だが、原作で五条の茈を喰らっても何とか生き延びたやつである。

 

油断はできない。慢心もしない。

 

その考えが、もう一度金色の観音を呼び出していた。

 

百式観音

 

一乃掌

 

その手刀は既に抉られた大地をさらにえぐり、血肉を赤い霧のように霧散させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




すいません、動画投稿の方に集中してたら遅れました


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事後

ドゥゥゥゥルゥェルゥゥェッルゥェッ
晩凸ゴルシでこざる。
二日連続風邪とかマジ…?


「今回の襲撃、どうしたものか」

 

「我々の遥か想定外をゆく戦力での強襲、やはり目的は例の呪物の回収だったのだろう」

 

「それよりも襲撃に来た特級呪霊だろう。奴は東堂葵、藤井名入、虎杖悠仁によって祓われた。別段これは聞こえがいいが実際は大問題だ。藤井名入…唯一奴の術式について分かっているのは『術式がある』と言う事だけだ……鴉によればトドメは奴一人が刺したそうだぞ」

 

「左様、奴を野放しには出来ん。だが奴は五条悟から巨大なパイプを引いている。奴を殺せば必ずや五条悟が出てくる……どうしたものか…」

 

「あるがままにすることはできん。奴と五条悟がいる限り我々の幸福が最大化されることはない。早急に奴を殺さねばならぬ」

 

「ではどうする。鴉を使うか」

 

「冗談を言うな。鴉程度では奴は殺せん………色仕掛けでもさせるのならまだしもな」

 

「ならばどうする…奴の近くにいる禪院を使うか」

 

「ふん……あそこの直毘人ならば条件次第で命じるだろうな」

 

「奴はあそこの娘に惚れておる…後ろを刺せば良いだろうが…奴は気づくだろうな」

 

「何…?」

 

「奴はあの娘に惚れ過ぎているが故に些細な変化に気づくだろう…策はなかろうて……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶぅぇっくしゅん!!!」

 

「あれ先輩、どしたの?風邪?」

 

「いやなんか…悪寒が………で?何だっけ虎杖、人生相談?」

 

「まぁ、そんな感じ─────俺は、友達を───見殺しにしちまったんだ、自分のせいで」

 

「んー……気負うな、とは言わん。大いに気負え。だが、そのせいで余計自分が原因の人死を増やすな」

 

「でも…」と、虎杖。その顔は俯き、どのような表情かはわからない。

 

「お前は───光を、目指しているか?」

 

「光────?」

 

「自分の希望だよ…あるだろう?推し、だとか守りたい物だとか」

 

「わかんねぇ……有ったのかもしれないけど…思えば、ずっと不思議だったんだ、じいちゃんが死んだ時、悲しい気持ちはあったのに、涙は出なかった。でも、順平が死んだ時、真っ先に出て来たのは涙とか、悲しい気持ちじゃなくて、殺意だった」

 

「……これ、アニメからの引用だがな────『光に向かって一歩でも進もうとしている限り、人間の魂が真に敗北する事など断じて無い』…そんで、こっちは京極夏彦の小説からの引用。『この世には不思議なことなど何もないのだよ』」

 

「俺だけが…光に向かっても、それで順平が帰ってくるわけじゃ…」

 

「そうだ!たとえお前が光に向かおうと、順平が蘇るわけじゃない。たとえお前が泣こうと、お前の爺さんが帰ってくるわけじゃない─────これ、見てみろ」

 

左腕に長く巻いている包帯をほどき、虎杖に見せる。

そこには、縦に伸びた線がいくつもあった。

 

「リスト、カット?」

 

「そーだ、俺が今回の襲撃で救えなかった人間の数だけ、切った。まー家入先生に見つかったけど」

 

「なんで…」

 

「自己満足さ…俺がこうした所で人が蘇るわけじゃない。でも、せずにはいられない。ならそれで良い。俺は今までもこれからも、身勝手に、自己満足を追求し続ける。だが、これからのその行為に少し変化があるとしたら、それは人助けが自己満足の選択肢に追加された事だ」

 

「…」

 

「たとえお前が何百人、何千人、何万人殺そうが、それはお前の責任だ。その責任を投げ出さず、進み続ける限り、お前は心に希望を持っている。それがたとえ、呪霊を殺す事だろうがな。光に向かえず、贖罪するなら、生きろ。生きる事で生じる罪悪感は、お前にとって贖罪になるだろう」

 

「……分かった。もう吹っ切る!だからさ先輩、一回、手合わせしてくれ」

 

「……良いぜ、だが、俺が真に本気を出すまで、精魂果ててくれるなよ」

 

「応」

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、審判僕ね────ルールは呪力なし、術式なしの打撃戦。両者一方が、十秒間ダウンしたらダウンさせた方の勝ち」と、目隠しを外し、サングラスをかけた五条が告げる。

ここは高専の訓練場。今その土俵には、藤井と、虎杖が立っている。

ちなみに一応念の為、保険医である家入硝子も同席している。

その中での、模擬戦。

 

「それじゃー、スタート!」と五条が告げると共に、土俵に立った両者が駆ける。

 

虎杖は個体としての能力が凄まじい───だがまぁ、ゴリ押しでいけるだろ

 

試合が始まって僅か数秒、その間に虎杖と藤井は数度拳を合わせていた。

まず虎杖が藤井の顔面に向かって右ストレートを繰り出し、出来るだけ最小限の動きで藤井が虎杖の懐に入る。懐に入った藤井は出来るだけの全力を振り絞り、右拳を繰り出す。

が、それを本能的に察知した虎杖が左腕と腋を使い、凄まじい力で右拳を挟み込み、体を後ろへと傾けた。

 

すると、それにつられて少し前に出た藤井の腹にもう一度全力の右ストレート。勿論、もとより凄まじい程の筋力等を備えている虎杖の全力の右ストレート。それを妨害しようと、藤井は空いた左手でその右ストレートに横から手刀を繰り出す。

だが、だからといってダメージを無効化出来た訳では無く、藤井の右の横っ腹に掠る。

挟み込まれた右腕を引き抜き、藤井は後ろの方へと跳ぶ。

 

「ふぅッ!」

 

それを見た虎杖はどうやってマットに叩き落とそうか、と策を考え始め、一方藤井は末恐ろしい奴だな、と思い、此方もまたカウンターを繰り出す為どの様に戦うか考え始めていた。

 

 

 




_(:3 」∠)_

吐き気スゲェ


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Get up

虎杖が藤井の腹めがけて蹴りを繰り出す。

もちろん、それをまともに喰らえば一発KO待ったなしなので、右のほうに体をずらし、蹴りを避ける。

 

末恐ろしい奴だな、と藤井は思う。

藤井は準一級術師。対する虎杖は精々二級かそれレベルの呪力。だが、ここまで藤井と対等にわたることができているのは、虎杖に備わった異常なまで常人離れした肉体である。

 

 

頑強、それに加えて怪力。なんてチーターだクソッたれ。

生半可に本気で行くのは、やめだ。

全力でマットに沈めてやる。

 

 

蹴りを避けられ、攻撃に転じるかどうかを考えていた藤井は、その間に虎杖の拳が迫っていることに気づかなかった。対する虎杖は、貰った。と考えているがしかし、こちらもある点では常人離れした人間であった。

虎杖がパンチを繰り出し、あと少しの所でそれに気づいた藤井は左手で虎杖の拳を外の方へと向け、空いた右手で持てる全力を振り絞ったパンチを虎杖の腹へと当てる。

 

ぱん、というまるで拳銃を撃ったかのような乾いた音が鳴り響き、虎杖が約数メートル後ろに吹っ飛ぶ。

 

「か――――」

 

「ま、だまだァ!」

 

吹っ飛び、腹を抑えている虎杖の顔面に、全力程ではないが、そこそこのパンチを繰り出す。

 

「ふぅっ―――」

 

「虎杖ダウン!ワン!」と五条がカウントを始め、藤井はそれに構わずに決着はついたな、と思ったのかベンチへと歩き始めていた。

 

 

 

 

だが、その認識は間違っていた。

 

「ツー!」

 

瞬間、藤井は背後に何かを感じた。

 

殺気とも、悪意とも、憧れとも、執着とも何とでもいえる何かを感じた。

直ぐに後ろを振り向く。

 

そこには虎杖が立っていた。

 

藤井はどこか、暗い表情を隠しきれていないような虎杖をそこに見た。

 

刹那、藤井の眼は、訓練場の天井をとらえていた。

 

「ぐっ―――!?」

 

虎杖がとびかかってきたのだ。

そう、あくまでも勝利条件はダウンさせること――何も、意識を落とさずに地面に10秒間胴体を触れさせれば虎杖の勝ちとなる。

 

 

考えたな―――だが!

 

 

左肘で、虎杖の左肩を殴り、少しだけ拘束が弱くなった所で脱出する。

 

「ち――――」

 

両者共に即座に体勢を立て直し、構える。

先に動いたのは藤井からだった。左手を前に、右手を腰のあたりで拳を作らせ、真正面から虎杖へと向かう。

 

 

またアレをするのか、と虎杖。

 

 

音を置き去りにしたあのパンチ。骨折などの重症には至らなかったものの、藤井から与えられたたった一発のそのパンチは、虎杖に未だ癒えぬ鈍痛を与えていた。

 

 

何をどうすれば、どれ程の時間をかければあんなパンチを繰り出せる。

 

何をどうすれば、常人離れした自分の肉体についてこれる。

 

 

 

 

何をどうすれば―――――

 

 

 

あの人に勝てる

 

 

虎杖は深く自問自答する。

例えそれが僅か数秒の、コンマ数秒程度の隙であっても、藤井の眼はそれを見逃すことなく、視界を電気信号に変え、脳へと伝えていた。

 

つまり、藤井は隙を見逃さなかった。

 

突如として加速した藤井は、そのまま右手で虎杖の腹に音を置き去りにする正拳突き―――の、応用である右ストレートを叩き込む。

ダメージの緩和も、無効化も、回避も出来なかった虎杖は、そのままマットに倒れる。だが、それでもなお彼は立ち上がった。

 

「ふん―――――イカレてやがるぜ、お前」

 

「先輩も中々に、イカレてるよ」

 

「言ってくれる―――!」

 

藤井が跳び、虎杖の上から虎杖の頭に拳骨を入れる。

それをまともに食らった虎杖はぐらぐらと脳が、視界が揺れるような感覚に耐えながら、何とか藤井をとらえていた。

 

「終わりだ―――――」

 

だが虎杖が見ていた藤井は、最早幻覚といっても差支えのない、実体を持たないものであった。

瞬間、虎杖のうなじに衝撃が走り、虎杖が気絶。マットに倒れこむ。

 

「虎杖ダウン!ワン!」

 

「ツー!」

 

 

まだ、届かない。どうすれば、良い。どうすれば、勝てる。どうすれば―――

 

 

その答えは見つからず、虎杖の意識は真っ暗な海の中へと落ちていった。

 

 

 

 




えー、重大な報告です。

第一話の後書きにて「あまり長くは続けない」と言いました。
事実、渋谷事変あたりでハッピーエンドにさせようかな、と思っております。
このシリーズがもっと続くだろう、と思っていた方、もっと読みたかった、という方々、申し訳ございません。
ただ、現在考えが二つございます。

1.渋谷事変で一応ハッピーエンド!にはなるけど、呪霊狩りを続けて書く

2.変なことはせず、ちょくちょく番外編を出す。

これら二つをアンケートにしたいと思います。
ご協力、お願い致します。


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【番外編】相談

今回、少し遅くなりましたがお気に入り数1000を祝して、初の番外編を投稿させていただきます。


「伊地知さん」

 

「はい?」

 

「すいません、いつもの所にお願いできますか?」

 

「ああ―――わかりました、帰りは一人でいいですか?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

いつもの場所、というのはある相談相手と何時もあっているカフェで、チェーン店などではない、個人経営のコーヒーが旨い店のことである。

 

「お待たせしました―――博衛さん」

 

「いや、大丈夫さ。私も今来たところだからね」と、博衛と呼ばれたパッと見20代の男が言う。

 

「それで、相談事は?まさかとは思うがまだ―――」

 

「はい、まだ…ここが現実だと理解できないんです」と、名入。コーヒーをすすりながら博衛は彼の話を聞く。

 

「困ったね…私が()()に来た時も似たような状況ではあったが、君ほどではなかった」

 

「解決方法は―――多大なストレス、ですか」

 

「そうだ。多大なストレスを己にかけることで、ようやくこれは現実だと、脳が理解する。だが、どうにも君はそれができない。だから、以前の相談の時に言っていたよう、信念がないのだろう」

 

「まだ、頭が分かってないんです。心じゃ―――意識じゃわかってる。でも、まだ…頭が…」

 

「…何度も言うが、君はもう傍観者では無い。既に『呪術廻戦』という物語の中にいる登場人物―――もしかしたら、主人公かもしれない、キャラクターだよ」

 

「だからこそ、理解できないんです。俺は、何を見ているのか、が」

 

「答えは簡単。真実さ」

 

「我々という存在がこの世界にいる時点で、既にこの世界はイレギュラーだ、恐らく五条悟に次ぐ最高戦力であろう君に倒れられると困る。君は―――()()()()両親が死んでも、何も思わなかったのかい?」

 

「…はい」

 

「もしかしたら君は主人公かもしれない。もしかしたら()()()()()()()()()()()()()()()。重ね重ね言うが、君は既に傍観者という存在から脱却している。きたる10月31日、その時までに何とかするんだ。…さもなくば、私でも助けられない」

 

 

「そのことについて―――渋谷事変について、相談があります」

 

「ほう」

 

「俺とあなたで――――――――――――――――して、――――の負担を―――――――」

 

「…なるほど、だが……それは、いや、それで行こう。となると、―――は…殺すのかい?」

 

「はい」

 

「であれば…覚悟しなければならないだろう、それ相応の―――君にとっての犠牲が生まれるかもしれない」

 

「それでも、未来に生まれる悲劇を…減らせれるなら」

 

 

 

 

藤井博衛との相談は終わり、夕焼けを背に、名入は歩いていた。

 

 

何が己にとってストレスになるのか

 

自分はまだこの世界の住人として、己を認識できないのか。

 

 

 

わからない。

 

 

 

 

俺は、この世界で、何をしたいんだ?

 

 

 

 

 

わからない。

 

 

自問自答を繰り返す名入の背には、真っ赤に染まった夕日があった。

 

 

 



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開戦

※注意!宣伝です









youtubeにて動画実況をしております。
駄文ならぬ駄動画…?ですが、見て頂けると幸いです。
クソ主のチャンネル↓
https://www.youtube.com/channel/UCruPs3aY9wU6USf7l3mjCWQ


ゆっくりと、ゆっくりと。

 

確実に、足を進めるようにして、10月31日はやって来た。

 

東京メトロ明治神宮前駅B5F副都心線ホーム。

名入も何度か利用したことがあり、割と思い入れがあったりする駅である。

 

そこに邪悪は立っていた。

 

 

「君たちはさ、魂が肉体より先だと思う?それとも肉体が魂より先だと思う?」

 

 

 

()はそれに答えず、ただ黙って、ゆっくりと階段を下る。

 

「21時15分だ。21時15分までに此処を離れるぞ」

 

「解ってる博衛さん。さっさと終わらせて帳を破りに行こう」

 

特級呪霊―――真人は違和感を覚えた。なぜこいつらはさも五条の封印が目的だと理解しているように会話している?

 

だが、それよりも今後ろにいる改造人間を乗せた電車を発車させるのが先決だと真人は考えた。

 

ぷしゅん、と空気の抜けるような音と共に電車が動き出す。

博衛と名入はそれを感知し、すぐさま走り出した。

 

百式観音

 

一乃掌

 

 

金色の観音が名入の背後に現れ、10回の手刀を繰り出す。それは刹那などと云う言葉では表せぬ速さで今にも走らんとする電車に落ちた。

勿論、その様な手刀を10回喰らって無事な電車が有るはずもなく、電車とその中に居る改造人間はその全員が爆死した。

 

無論、これが目的である。

 

―――俺とあなたで改造人間を間引きして、五条先生の負担を減らしませんか?

 

そう持ち掛けられたのは何時だったか。博衛はそんな考えを振り払い、真上に向かって、竜を放つ。

その竜は地上までの全ての障害を削り取り、空へと放たれていった。

 

「名入!」

 

「はいっ―――!」と名入は強く意気込み、博衛の手を取る。

そして博衛と藤井はもう一度現れた竜に飛び乗り、闇夜へとあっという間に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

粟坂二良は夜の東京を見下ろしていた。

あの頃の東京の夜もこんなものだったのだろうか。それを詳しく憶えてはいない。それに、彼にとってはどうでもいい事だった。

あの夏油傑とかいう頭に縫い目のある呪詛師から、金を貰えさえすれば、それでいい。

一番は、このまま平穏に終わることだった。

 

 

 

 

鳴き声がする。何かの鳴き声。

聞き覚えがある。だが、何の鳴き声かは判らない。

 

そして、彼―――粟坂は何と無く上を―――真っ黒な空を見上げた。

 

何かがいる。

点だ。

一瞬仲間の呪詛師かとも思ったが、違う。

そもそも速すぎる。仲間ならわざわざあんなに速度を出してこちらに来る必要は無い筈だ。

となると、

 

 

 

 

敵―――呪術師か―――!

 

 

 

気づいた時にはもう遅かった。

 

竜星群(ドラゴンダイヴ)

 

 

 

そのころには闇夜に浮かぶ点―――竜は、無数の小龍になり、高層ビルを破壊せんと彼らに近づいていた。

 

 

 

 



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そこへ

投稿クソローですみません…
今年から私は受験生ですので、それなりに投稿空くかもどす


遅い。

 

そう思いつつ、目の前の術師を見る。

 

────五条悟、今世紀最強であろう術師。

 

奴を殺せば、我々にとって───呪いの、呪いによる、呪いの世界が訪れる。

漏瑚は嗤う。

 

あと一歩で、あと一歩で手に入るのだ!

 

奴等が支配者の世界など、虫唾が走る!

 

奴等などに───

 

 

刹那、漏瑚の頭上を、数多の瓦礫が襲った。

 

「な───」

 

「邪魔だ」

 

金色の平手が漏瑚を襲い、それをまともに喰らった漏瑚は壁に叩きつけられる。

壁に叩きつけられた漏瑚が見たモノは───

 

 

 

この世界での百式観音が何故そうも呪力を食い潰すのか。原因は幾つかある。まず百式観音自体の構成。例えるならば少し胃もたれがする程度の感覚で構成は済む。

だが問題はここからで、構成自体はそれで済んでも、その百式観音を動かす為更に呪力が必要なのである。これが重い。高度なパフォーマンス───例えば素早い動き───等を実現する際、それ相応の呪力を取られるのだ。

その量が半端で無いほど重い。しかも足りない分は内臓へダイレクトにダメージが発生する形で徴収される。

その大きなデバフを背負い、名入は今ここにいる。

 

己の百式観音に吹き飛ばされた漏瑚を横目に、左足で落下の衝撃を受ける。

 

この様子だと、まだ先生はやりあい始めたところか。となると、何処かに偽夏油が隠れてる。まだ、何とかなる───

 

「…何で名入さ、上から落ちてきてんの?」

 

「いや、これが早かったんで。あ、ちゃんと一般人は避難させてますよ」

 

「そりゃあね」

 

さっさと偽夏油を殺す。それで、チェックメイトだ。

 

「あれー漏瑚、やられてるじゃーん。大丈夫ー?」

 

「たわけ。儂がこの程度で死ぬものか」

 

早いな、予想はしてたが───だが、何故張相がいない?配置が変わっているのか?

 

だがやることに変更はない。

 

 

今ここで、この場で全員を叩き潰す。

 

 

 

―――俺は何で、宿儺と戦ってみたかったんだろうか。

本心は己でもわからない。でも、多分この(術式)を全力でぶつけられる相手にぶつけてみたかったんだろう。

それが叶ったら如何するつもりだったんだろう。

 

わからない。

 

ああ、何て()()()()とした、不安定な人生なんだろう。

 

しょうもない理由で、戦っている。何も背負っていない。他人から見たら「反吐が出る」んだろう。

 

 

「―――でも、人間そんなもんだよな」

 

 

その時名入が何を思ったのかは分からない。

だが一言言えるのは今この時、彼の脳内は異様にすっきりとしている。

何かを完結した―――何かを()()()()()()、清々しい気分に彼は陥っている。

 

そこに、真人が追い付いた。

 

「あれ?漏瑚どうし―――」

 

ツギハギ面はその言葉を喋り終えることなく、吹っ飛ばされる。

補足を入れるならば、今殴ったのは名入である。そしてその名入は素手で殴った。

 

五条はそれを神妙にみて、名入も成長したな、と思った。

 

 



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来やがったな、イカレ野郎!

渋谷事変。

 

10月31日、ハロウィンに起きた大規模呪術テロである。渋谷事変以前の百鬼夜行にて死亡したはずの夏油傑が多数の特級呪霊を率い決起、最終的に多くの術師の健闘によってその日に鎮圧。しかしながら多くの一般人が術師、および呪詛師らの戦闘を目撃したことにより以降、呪霊及び呪術師の存在は白日の下にさらされることになる。

 

 

 

空間が黒く爆ぜる。

その現象は黒閃と呼ばれる。呪力がコンマ1秒よりも更に小さい単位レベルで物理的衝撃と合わさることにより発生し、その時空間は黒く爆ぜ通常の2.5乗のダメージが入る。

だが黒閃一発では特級は沈まない。対特級においては、黒閃を決めた後の「ゾーン」が有効である。

この「ゾーン」では、正に()()()かのような精神状態に陥る。故に、最小限の動作で、最小限の労力で最大限のダメージが引き出せる。

 

そして、今名入が真人を殴り飛ばしたときに発生した黒閃は、確実に名入の精神状態を極限の高みへと引き寄せた。

 

それが意味するのは、無我の境地への到達である。

息をするように蹴り、目で見るように殴る。己の意識しない日常的動作に、一時的であろうと戦闘動作を組み込むことに名入は成功していた。

 

 

一方、真人は困惑していた。

こいつはさっき呪霊列車を破壊したうちの一人であるとは理解していた。

だがその時と違う、明らかに違う点がある。それが何なのか理解出来ない。つまりはその「何か」は恐ろしく自然に溶け込んでいる。

だがその正体が何なのかわからないまま真人の顔に鉄拳が飛んできた。

 

 

 

乾いた音がするそれは己の拳が真人の顔面にぶつかった音だ。そしてその空間は再び爆ぜる。

 

───ああ、俺は今夢中になっている!

 

 

高みは登ることができた。戦闘動作を日常的動作にする事ができた!

これはきっととてつも無い歓喜なのだろう。だがこれで満足はしない。未だ、未だ上がある。もっともっと、もっと高みへ行かなければ。

 

「や、悟」

 

魔性の男が現れた。

聞き覚えのある声。それが何なのか確かめる為に五条悟は振り向いた。己の後ろにいたのはかつての戦友だった。己が殺したはずの戦友───夏油傑だった。

 

「な」

 

そして五条の脳内には数年分の記憶が氾濫を始め、脳内時間の一分は過ぎようとしていた。だが、この場所には偽の夏油が予測できなかったイレギュラーがいる。

 

瓦礫が横から飛んでくる。

咄嗟的に不味いと判断したのだろう、当然のように偽夏油は回避し、横を見る。

 

そこには清々しい顔の(名入)がいた。

 

 

 




タイトルの「来やがったな、イカレ野郎!」は言わずもがなACVDから。
個人的にはめっちゃ脳内麻薬ドバってる名入を比喩したつもりどす


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13話

いる。

 

そこに、奴がいる。

全ての元凶であろう呪詛師がいる。

今ここで殺せば終わる。全て終わる。

俺だけが何も背負っていない。だから、殺せる。今ここで、終わらせる。

 

 

百式観音

 

 

―――想定外の事態が起こった。全くの予想外だ、こんなのは。

一体この呪術師は何者なのか。その思考で羂索の脳は埋め尽くされていた。だがどんなイレギュラーが出たとしてもやることは変わらない。ただ障害をなぎ倒し、人類を進化させる。ただ、ただそれだけだ。

そのためにはまず、このイレギュラーを殺す。

 

「君ー、失礼だね。人にいきなり石を投げつけて何とも思わないの?」

 

「馬鹿言え。テメェを人と呼ぶつもりはねぇよ」

 

そう言い名入は走る。その後ろには金色の観音がおり、数多の手の内一つを今にも振り下ろさんとしていた。

羂索は考える。あの金色の観音、十中八九この術師の式神か術式だろう。どちらにせよまずは最大の脅威たる五条悟を持ち去って―――

そこで思考が止まる。

 

―――何故五条悟が封印出来ていない!?

 

獄門疆。

生きた結界―――源信の成れの果てであるその立方体に封印できないものは無い。

 

『対象を()()()()()()()()一分間獄門疆の半径4メートルの範囲内に留まらせること』

この条件の達成によって対象は獄門疆の開門者が獄門疆を開けない限り永遠に獄門疆に囚われる。

 

先程偽夏油改め羂索に対して名入が瓦礫を投げた際、こっそりと地面に設置されている獄門疆に向かっても瓦礫を投げた。

名入は虎杖とのタイマンで、虎杖の異常な体質が生む超スピードついていけるほどには体を鍛えている。そんな人間の投石の威力は相当なものである。

名入の投石に当たった獄門疆は相当な速度を出して五条悟の遥か後方へと吹っ飛んでいった。つまり五条の脳内時間が一分を超える時、獄門疆の半径4メートル以内に五条悟はいなかった。

 

「何故―――」

 

刹那、空間が爆ぜた。

 

以前説明したように、百式観音には『構成』と『動力』、この二つに呪力を振り分けることで初めて強力な式神として機能する。

だが厳密にいうならば、この『構成』にかかる呪力には特筆すべき点がある。

それが呪力の『密度』である。呪力の密度を上げれば百式観音は頑丈にもなるし、密度を下げれば『構成』に消費する呪力は抑えれるが脆弱になる。

この『密度』をグラフのように数値化すると、面白いことが分かる。

呪力の密度が上がり、百式観音の体として構成されるにはある一定の線が引かれており、その線を越えないことには呪力は未だ質量をもつ実体とならない。

まるで溶解度曲線のようなこの線を見つけた時、名入は考えた。

 

 

―――じゃあ、百式観音で黒閃キメれるんじゃね?

 

 

羂索がその台詞を言い終えることなく下半身が赤い霧になった理由、それが、それこそが百式観音の黒閃である。

 

羂索は未だ状況を吞み込めていなかった。下半身が消し飛んだ反動で羂索は少し後ろに吹っ飛ぶ。

 

 

―――下半身が無い?

 

 

少しの間脳が考えることを放棄し、それでようやく事態を把握できた。

 

 

―――もう、助からない。

 

 

あの観音を操る術師がいるし、何より五条悟もいる。反転術式で己を治す暇などない。

切り札としてとっておいた呪霊1000万体。

 

死期を悟った羂索は、己の出せる手札をすべて出してから、藤井名入に呪殺された。

 

 




因みに、原作ではまだ夏油本人の魂が残ってる的な演出がありましたが…

この時五条はまだそれを知らない…!
そして名入も渋谷事変後半は把握しきっていない…!
だからノーカウント…!
ノーカウントなんだ…っ!


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休みをよこせ

ここから先は完全なイレギュラーになる。

そもそも『藤井名入』というイレギュラーが入り込んだ時点で元々のストーリーは不安定なものになっていた。

そこに名入による羂索の呪殺。

既に元あるべきの世界は歪み、独自の道を歩き始めていた。

 

 

 

「げェッ!」

 

───まだいるのか!

 

藤井は今猛烈に苛立っていた。今からおよそ二十分前、羂索を呪殺した藤井は周辺の術師と共に一般人の避難を行なっていた。

だが、不幸というものはいつもすぐそこにある。

死ぬ間際、羂索は最後の悪あがきと言わんばかりに約1000万体の呪霊を日本各地に放った。

渋谷には内100万体が解き放たれ、渋谷事変は後に言われる『第二ラウンド』へと突入していた。

これだけなら兎も角、不幸は重なってくる事が多い。

渋谷に解き放たれた100万の呪霊の内、現時点で10体前後の比較的()()特級呪霊が出現。現場は混沌を極めた。

京都校、東京校の生徒、フリーの術師、緊急の依頼で参戦した術師。どうにかこれで避難ルートは確保できていた。

一方最強戦力である五条悟はもどかしさを覚えていた。

出来る事ならほんの少し───ほんの少しだけ領域を展開し、呪霊を鏖殺出来るはずが、100万の呪霊の分布がそれなりにあるため、避難中の一般人まで巻き込んでしまう。避難中の一般人の内数割はすでに『社会復帰までに二ヶ月』を要するため、これ以上の範囲攻撃は不味い。

だが動かないわけにもいかないので五条はいつも以上に張り切っている。

その状況で、藤井名入は特級呪霊4体を相手に奮闘していた。

 

目の前から呪力で構成されてるであろう元○玉の様な物が飛んでくる。勿論、被弾するわけにはいかないので避けるが。

 

「いくら何でも多いんだよボケェ!」

 

明らかに準一級術師に負わせていい負担ではない。

今名入の脳内には一つの選択肢がある。それは縛りである。

 

『領域展開の恒常的封印』を代償に、『百式観音の基本性能を上げる』だ。

 

これは中々のアドバンテージにはなる。そもそも通常の攻撃が一撃必殺でさらにほぼ必中な百式観音に領域展開がいるのか───以前から脳裏で考えていた案件が、今ここで究極の選択肢として名入の目の前にある。

 

「オラァ!」

 

呪力を乗せた拳で呪霊の顔面にストレートを叩き込む。

どうやら祓えたようだ、そのまま特級呪霊はぼろぼろと崩れ始めた。

 

残りの呪力は元ある内の2、3割だと言うことを考えるとあまり良い状況ではない。

出来る事なら百式観音を使いたいが、虎杖が宿儺に乗っ取られているのか分からない以上、無闇矢鱈に百式観音を呼び出して呪力を減らすのは得策では無かった。

 

そして───

 

目の前でビルの壁を突き破って何かが出現する。

それは目の前にいた特級3体を祓った。そしてその祓い方には見覚えがあった。

 

「ん?誰だ貴様」

 

そこにいたのは宿儺だ。

名入は事変が終われば兎に角休みを取ろう、と思った。




風邪ひいた〜^


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Fall

宿儺がこちらを向く。

それと同時に身体中からどっと冷や汗が出てくる。

 

───殺気、か。

 

最悪、宿儺と戦って死ぬだろう。だがそれは最悪な場合の話だ。

どちらにせよ損害は避けられない。

 

───いやダメだ。思考をポジティブにしよう。もし宿儺を此処で止めたらボーナスが出るかもしれない。

 

───どうせなら、貰えるだけもらおう。

 

絶対にボーナスをむしり取ろう。その思いを胸に、名入は目の前の宿儺に向き直った。

 

 

───何だこいつは。何なんだこいつは。

 

宿儺は少し困惑していた。今目の前にいるこの術師の体には呪力が宿っていない。いや、正確には宿っているが普通と違って体外に放出していない。体外に放出する───早い話、体外に放出する事で、呪力は体に纏わりつく。するとある程度の防御力増加を見込む事ができる。

この男はそれをしていない。呪力の総てを体内に内包している。これでは攻撃にも転用出来ないし防御にすら使えない。

 

───ただの阿呆か。

 

そう思い術式を発動させるため呪力を流そうとする。

 

この間、僅か0.0001秒。

 

その間に百式観音が顕現。宿儺に2発程壱乃掌をマトモに喰らわせると、縮地で名入が接近。

先程の宿儺が考えた通り、呪力を体内に内包するだけでは攻撃にも防御にも転用する事は出来ない。

しかしあくまでも内包したままの場合である。

拳で殴る時、対象に物理的にその拳が接触する直前に呪力を体内から押し出せばどうなるだろうか。

 

少なくとも、黒閃は出やすくなるかもしれない。

 

黒閃は出なかったが、宿儺は殴り飛ばされ後ろに吹っ飛んでゆく。宿儺が困惑している間に名入はもう一度百式観音を呼び出した。

 

百式観音

 

九十九乃掌

 

掌に呪力を纏わせない単純な打撃が宿儺を襲う。半ば反射行動で呪力による防御を始めたとはいえそれまでに数十発がマトモに入っている。

 

───ダメージは期待できるか?

 

僅か数秒の内に相当なダメージを負った宿儺はそれでも立っていた。そして驚愕していた。

 

「お前…名を何と言う」

 

「藤井名入」

 

「そうか…誇れ───お前はさっき殺した特級4()()より更に強い」 

 

───4匹?

 

一瞬聞き間違いかと思ったが、多分漏瑚辺りを祓ったんだろう。

 

「行くぞ」

 

すると宿儺が走って来ながら術式を発動した。

宿儺の術式は分からない事が多い。切断したりする術式かと思えば炎を出したりする。

だが切断に関してはある程度思う事があった。

あの切断───と言うより斬撃攻撃、あれは恐らく飛んでくるタイプだ。飛ばずにそのまま対象を切り裂いている様に見えるのは斬撃が早すぎるからでは無いだろうか。

半ば賭けに近かったが、その賭けに名入は勝った。

百式観音で宿儺の斬撃を防いだのだ。

 

だが宿儺本体との接近戦は自身の技量が問われる。誤魔化しようのない自身の技量だ。

 

宿儺が右拳で左脇にストレートを入れる。が、此方は姿勢を低くしていた宿儺の後頭部を呪力を込めて思いっきり殴りまくる。

すると宿儺は右足で名入を上空に蹴り飛ばした。

と同時に宿儺自身も跳び、近くのビルに名入を蹴り飛ばす。

ガラスが割れる音と同時に名入の背中に机がぶつかる。

いつの間に入って来たのか宿儺が名入を殴ろうと振りかぶる。

が、その振りかぶる腕を掴むと今度は逆に宿儺の側頭部を右から蹴り飛ばす。そのまま宿儺の腹を何度も殴る。さながらサンドバッグである。

が、宿儺は特級。逆に名入を蹴り飛ばし、体制を整えた。

 

第二ラウンドは中盤に差し掛かっていた。

 



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我慢比べ

スライディングでどうにか術式を避ける。

 

────このままやり合えばこっちがくたばったまう!

 

相手は1000年の間人から恐れられる事で呪力を貯め込んでいる。

一方此方は呪霊列車の破壊、特級3体との戦闘の後の連戦。

呪力の消費はとてつも無い。

既に消耗戦で不利なのは明らかだった。

 

「貴様、本当によくやる」

 

「それ、は…どうも…」

 

名入はその術式の特性上、呪力切れを引き起こしても呪力を使用出来る。ただし、代償として内臓にダイレクトなダメージが発生する。

 

───これ以上は、本当にまずい

 

さっさとキメたい。でも決定打に欠けている。いや、決定打になりうる手札はある。だが必要なのは───

 

「必要なのは覚悟、か…」

 

「何?」

 

「俺に…欠けていたのは、覚悟だ。全てを投げ捨てる覚悟が、俺には必要だったんだな」

 

「決めたよ、俺は───お前をどうにかする為なら───死んでも構わない」

 

 

 

()()()()

 

 

 

「まだまだ構想の段階だったんでな、悪いが名前はない───まぁ、要らねぇよな」

 

名入を中心にした半径100メートルに薄い水の膜が張られ、ハスやスイレンが咲いてゆく。

まだ構想段階だった領域───この領域の真髄は術式の必中では無い。

領域範囲内での百式観音のあらゆるコストが0になる。また、領域内での百式観音の攻撃は名入には当たらない。故に現実空間との遮断は不可能。

此処で削り切る。そう判断したが故の領域展開。だが領域使用前で既に名入の呪力は空っぽである。微塵も残っていない。

つまり、領域の構成に使われる呪力は名入の内臓へのダイレクトダメージによって賄われている。

 

「我慢比べだクソッタレ!は、ははは、ははははは!」

 

「なん───」

 

百式観音

 

九十九乃掌

 

「───ッ!」

 

特段に呪力の密度を上げた百式観音の九十九乃掌。これには宿儺も防戦一方だった。

領域に対抗する方法は主に二つ。此方も領域を展開するか、もしくは領域から脱出する。

宿儺にとって領域からの脱出などハナから不可能に近いし、かといって領域を展開しようとすれば生まれる僅かな隙が致命的なダメージを生む。

正に我慢比べだった。

だがこれでも決定打に欠けていた。宿儺の意識を完全に此方に向けなければならない。完全に防御に集中させなければならない。手段はある。後はその実行だけだった。

 

百式観音

 

零乃掌

 

百式観音が一瞬消え、宿儺の後ろに出現する。そして両の掌で宿儺を包み───

 

 

 

 

次の瞬間、名入と宿儺の視界には光が広がっていた。

 




小説の執筆に必要なものは

紅茶、あとクッキー


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そこにハッピーエンドは無い

序盤MGSVネタです


一定の間隔で電子音が鳴っている。

ここはどこか、その確認のために想い瞼を上げ始める。どうにも視界がおぼろげで、はっきりしない。

 

―――誰だ?

 

ぼうっとした視界の中でどうやら白衣の人間がいることは判った。こつこつと音を鳴らしながら男が近づいてくる。おかげで白衣の男は五条だとわかった。

 

「ええ、ええ。分かっています。貴方が何とおっしゃりたいのか―――ですが、それよりもまず伝えなければなりません。いいですか?落ち着いて聞いてください。貴方が眠っていた時間は―――九年です」

 

「せいぜい一か月かそこらだろぶち殺すぞ」

 

 

 

 

 

 

取り敢えずふざける五条を睨みつけて話を聞いた。

どうやら渋谷の一件で上層部の老人共は政府を介して呪霊の存在を公表したのだとか(あの老人共が素直に公開するとは考えられないので十中八九五条の仕業だろう)。

呪術師・呪詛師に関しても説明をしたようだ。様々な批判はあるが、呪術師はその危険度から比較的高給なせいで、一応民間からの志願者が続出しているらしい。

だが何よりも驚いたのは―――

 

「内閣府所属国家呪術安全保障理事会の最高責任者ぁ?先生が???」

 

「そーそー。腐ったミカン共の悪行垂れ流したら政府のお偉いさん方がポストを用意してくれてね~」

 

政府が直属の対呪霊組織を作ったのだとか。とは言え日本人口の中でもいまだに術式を持っている人間が多い訳でもなく、五条はこれからも教師を続けるそうだ。従って、呪術高専の学生たちもまだまだ仕事に駆り立てる日々が続く。

それと―――九年、とはいかなくとも俺は二か月眠っていたらしい。因みに携帯のメールボックス開いたら真依ちゃんからの別れ話がつづられていた。ぴえん。

 

「…あの時、名入と虎杖が倒れててさ。君から宿儺の残穢の反応があった。恐らく名入はあの時、宿儺との戦闘で瀕死だった。その窮地から宿儺は名入を助けたんだよ。理由は判らないけれど―――ま、あの戦闘狂のことだろうしまた名入と再戦!とか考えてんだろうね」

 

「そっかー。俺、これからどーしよーかなー」

 

少なくともこの世界での目的は果たしたし、これからどうするかを決めなければ。

 

「その事だけどさ名入、特級にならない?」

 

「やだ。特級だなんてそんな危なっかしい肩書欲しくないね」

 

「あっそぉ~。じゃあ一級には問答無用で昇格ね。それと、今現在世界各国で呪霊が大量発生してる。もちろん、その大半は偽夏油が最後に解き放った呪霊共だよ」

 

「ほーん。で?俺に何をしろと?」

 

「名入には、これからそいつらの討伐を行ってもらう。ただまぁ海外のは僕と憂太が主力だから、名入は主に国内だね」

 

「それじゃ!ちゃんと療養してね~」と言い残して五条はどこかへ去っていった。左の窓から、外の景色を見る。ありふれた、変わらない景色だ。二か月間の内に随分とやせ細ったものだ―――また鍛えなおさなければ。

 

 

 

人生にハッピーエンドは無い。どうやっても後悔は心のどこかにある。

人間はその訪れないハッピーエンドを目指して人生を歩む。

月に届くことはないと知らない蝶のように。

 

では、二度目の人生があればどうだろう。

俺は、人でなしだ。自分の都合で人を助け、救う。

その自己満足に浸る事こそが、俺のハッピーエンドなのかもしれない。

 

そう思うと、心が楽になった。

 

これからやることは山積みである。だが、そんな時にも希望はあるかもしれない。

 

俺は訪れないであろうハッピーエンドのために歩き続ける。

もしかしたら、ハッピーエンドはあるかもしれないから。

 

 

 

To Be Continued...?

 




ということで、一応の完結でございます。
いやー疲れましたw。一時期モチベが消えて失踪した時期もありましたね(遠い目
とまぁ完結はしたんですけどたまーに番外編とか出したりするかもですね。
約五か月ほどこのしょうもない駄文を読んでくださった皆様、ありがとうございます!
感謝の極み!
ハンターハンターの百式観音かっけぇ!だけで始めたこの作品もついに完結を迎えれました!
今年から受験生ですが、まだまだ小説は投稿するのでよろしければそちらも見てください…(小並感



最後に、ここまで付き合ってくださった読者の皆様にありったけの感謝を!


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Ifルート
If


「休みをよこせ」からの分岐ルートです。
如何せん文字数が少ないんですが、そこは許してください…(Japanese DOGEZA


名入は走っている。休む暇もなくただ走り、見かけた呪詛師と呪霊を殺している。彼の胸中に渦巻くのは怒りでもなく、虚しさでもなく、ただの興奮であった。

 殺し殺され死に死なせる。そんな空間の中にだけある果てしない闘争。そして無数の可能性。彼はその領域に片足を踏み入れていた。

 胸中の興奮をそのままに、負の感情を更に練りだす。それはすなわち呪力を練りだすに等しい。練りだした呪力を拳にやり、呪いを殴り飛ばし、祓う。

 そんなアルゴリズムの中、不意にある気配が名入りを襲った。

 それは圧倒的強者のみが持つ他者への威圧。彼は本能的に己の本気をぶつけることのできる相手がいるのだと悟った。

 

「誰だ貴様」

「藤井名入―――お手合わせ願おうか」

 

 呪いの王と天賦の才をもつ呪術師が、とうとうぶつかり合った。

 

 

 

 初動は宿儺からだった。つまらんといった様子で小童を殺すように術式を放った彼は、刹那の間見えた観音によりはるか後方へと吹き飛ばされた。言わずもがな、名入の術式である。それをチャンスととらえた名入は即座に間合いを詰め始める。

 一方吹き飛ばされた宿儺驚愕の表情を浮かべていた。

 

 ―――まだあんな術師がいるとはな。

 ―――殺してやる。

 

 その殺意は憎しみのそれではなくただただ憧れや、尊敬といったその感情に類する殺意である。

 たった一撃。されどその一撃は宿儺に衝撃を与え、名入に可能性を見せた。

 そして二度彼らはぶつかる。両者ともに術式を使わぬ肉弾戦。宿儺の拳を左手で受け止め、顔面を右拳で幾度も殴打する。それに音を上げるでもなく宿儺は右脚で名入りを蹴り上げ、己も跳び上がり、更に腹へアッパーを繰り出す。

 はるか上空へと殴り飛ばされた名入はここからどうしたものかと思案する。しかしその思案をかき消すように名入りの更に上空へと跳び上がった宿儺は数百年分の呪いを込めたパンチで名入の背中を殴打し、彼を地面へと叩きつけた。

 薄れゆく意識の中、叩き落された名入は反転術式による治療を開始した。

 上空から落ちてくる宿儺を確認し、名入はただただ素直な尊敬の気持ちを抱いた。およそ己の十数年と天賦の才では到底追いつくことのできぬ武。彼は己の上空から落下してくる呪いの王に尊敬のまなざしを向けると、合掌し祈りを始めた。

 大地に着地した宿儺はただそれをまじまじと見つめて何をしているのかと思い、口に出す。

 

「何をしている」

「感謝だ。ただお前に勝つための祈りと、感謝だ」

 

 最後に名入は告げた。

 

 ―――感謝するぜ、お前と出会えたこれまでの全てに!

 

 直後、名入背後に金色の観音が現れた。

 

 彼らの決闘はまだまだ始まったばかりである。



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続く格闘、終わらぬ決闘

モチベーションをください


 一体いつからだろうか。

 一体いつから圧倒的強者であると誤解したのだろうか。

 いつから、その強さに満足したのか。

 

 違う。

 

 違うだろう。

 

 俺が目指した武の極み(ネテロ)はそんなもんじゃねえだろう!

 

 神速の巨大な手刀が宿儺の意識を刈り取らんと迫るが、それを意にも介さず宿儺は回避して思考する。

 

 奴の術式は十中八九あの観音の具現、操作だろう。だが問題なのは───

 

 瞬間、金色の張り手が宿儺を地面に叩きつけた。一度では終わらず、数多の張り手が迫り、宿儺を叩きつける。

 

 問題なのは、奴の異常なまでの熟練度! 最低でも五年か十年。気の遠くなるような時間をかけ、ただ一つのことに没頭し続けた結果生じるモノに等しい。

 

 張り手の雨はやがて大地を陥没させ、地下の貯水空間へと彼等は落下した。

 

 空から名入が落下しつつ言い放つ。

 

「ここは墓場───貴様のな」

「ふん。小僧風情が偉そうに」

 

 だが奴の観音にも弱点はある。あの観音の繰り出す攻撃は奴の掌打の型と一致している! ならば勝てぬ道理などない、たとえそれが針山に突き刺された無数の針の中の一つに糸を通すようなものだとしても勝てるのだ―――!

 

 僅か一分にすら満たぬ時間の中で彼らがやりとりした拳は千を越え、時が訪れた。

 百式観音の掌打を潜り抜けなんだが、吹き飛ばされる瞬間、宿儺は己の術式で名入の左腕を刈り取ったのだ。宿儺はその口を三日月のように歪ませ、対する名入は絶望的な顔を見せる。

 

「ほれ、もう片腕だ。今ここで逃げ出せ、そうすれば生かしておいてやる。ここまでの術師を見るのも稀だからな」

「はん、呪いの王様が随分と優しいじゃないか…………何を勘違いしてるのかしらねぇがな、呪いの王よ。腕が無けりゃ祈れねぇとでも?」

「は───」

 

 名入の《百式観音 零乃掌》は彼の敬愛するネテロなものとは違う。ネテロは念能力者である以上、その全オーラを攻撃に回してしまえば《纏》に回すためのオーラを練り出すことができず、百歳を超える老人にふさわしい姿になってしまう。だが名入は違う。彼の百式観音は動力源、素材となるもの両方が呪力であるが故に全ての呪力を消耗したところで雑巾のような姿にはならないし、比較的短時間で少しずつ呪力を練り出せもする。

 

「今分かったよ。漸く分かった」

 

 宿儺が神妙な顔つきでこちらを見る。その瞳に映るのは、鬼か果たして観音か。

 

「俺に足りなかったのは勇気じゃない、覚悟だ」

 

 刹那、一秒にすら満たぬ時間の中、宿儺の背後に百式観音が顕現し、彼を慈愛の掌で包み込んだ。

 その後、恒星のような輝きを放つ光弾───名入の全呪力を変換したものである───が宿儺を襲った。



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