TS魔法少女リュネール・エトワール! ~星月の魔法少女は気の赴くままに行動する~ (月夜るな)
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第一章『爆誕?! イレギュラーなTS魔法少女!』
Act.01:魔法少女にならない?



なろう等にも投稿していたリュネール・エトワールになります。
あちらで読んでくださった方も居ると思いますが、こちらにも投げます。

よろしくお願いします!


「魔法少女にならない?」

「はい?」

 

 宝くじで1億円を当てて今やニート生活を謳歌している俺こと如月司(きさらぎつかさ)は喋るぬいぐるみにそんな事を言われていた。

 いや、魔法少女ってなんだよ。俺男だし、少女じゃないんだが?

 

「いや、俺男なんだけど」

「そんな事知ってるわよ。でもね、あなたから非常に強力な力を感じるわ」

「力、ねえ」

 

 そんな事いきなり言われても何と言えば良いんだ? と言うか、魔法少女ってあれだよな、政府に所属していて魔物が出現したらその対応をするっていう。

 

「てか、魔法少女ってあれだよな。魔物を退治している、不思議な力を持つ女の子」

「ええ、そうよ。大体は政府の魔法省っていう組織に所属してる子たちね。魔法少女って突発的に誕生するものだから」

「でだ。何で俺の所に来たんだよ」

 

 魔法少女探しなら他に当たれ……と言いたい所だけど、魔法少女については実際俺はあまり納得してない。

 対抗できる唯一の手段とは言え、年端も行かない女の子を戦わせるんだから。その分、国からは特別な支援がされてるらしいけどな。

 

「さっきも言った通り、あなたから非常に強力な力を感じるのよ。だからなれるわよ、魔法少女」

「……男なんだがなあ」

「それについては私も分からないわよ……普通こういうのは10代前半の少女に多いんだけど、あなたは特殊すぎてね」

 

 俺も分からん。と言うか、力を感じるつったって俺自身は何も感じないし。

 

「それでどう? なってみない?」

「どうって言われもな」

 

 仮に魔法少女となったとして、俺はどうなるんだ? 政府に所属する羽目になるのは勘弁してほしいぞ。女の子しか居ない中に俺みたいなやつが居たら犯罪だろ。

 

「政府には行きたくないぞ」

「それは分かってるわよ。魔法少女って言ったって全員が魔法省に属してる訳じゃないんだから」

 

 話を聞く所では、魔法少女には主に二種類あるようだ。

 一つがさっきも言った通り魔法省に属する、魔法少女たち。これはテレビとかSNSでも結構話題になるから知ってるだろう。

 で、もう片方っていうのが野良の魔法少女。要するに組織には属していない魔法少女たちである。自分の意志で動いて、魔物を倒したりしてる少女も居るそうだ。

 

 ただ、野良の魔法少女と言っても色々なパターンが有る。

 魔法少女として覚醒はしたけど、戦いたくもないので魔法については忘れ、日常を過ごす少女や、自主的に力を奮って魔物を倒す少女など。

 

 ただし、野良というのは当然国からの支援も何もなく、ただでさえ命がかかっているのに、支援なしだと更に危険度は増すので好き好んでやる人はレアだ。

 

「なるほどなー確かに野良なら自由に動けそうだな」

 

 女の子たちを助けられる力は手に入る……確かに魔法少女については納得してないし、絶好の条件だろう。

 

「まあ、あなたを魔法少女にしようとしているのには、もう一つ理由があるのよ」

「もう一つ?」

「ええ。魔物というのは魔力に惹かれるのよ。つまり、魔法少女たちに襲いかかるのはそれが理由。一般人でも女性は魔力を多めに持ってるから狙われやすい」

「ほうほう」

 

 魔力に惹かれる、か。

 

「それは男性にも言えることなのよね。男性も女性よりかは少ないけど魔力を持ってる……だから魔物の狙いの対象にもなる。そしてあなたの魔力は非常に多い」

「多いのか……」

「ええ、近年稀にすら見ない逸材よ。で、魔物は魔力に惹かれると言ったわよね?」

 

 その言葉に頷く。そこで、俺も理解することとなる。

 

「要するに俺は狙われやすいってことか」

「察しが良くて助かるわ。魔物は魔力を取り込んで自分のものとする。魔力が多ければ多いほど、魔物は強くなる」

「……」

「狙われやすいっていうのもあるけど、あなたのその魔力を悪用される可能性が考えられる。だから守るためっていうのがもう一つの理由よ」

 

 なるほどな。理解は出来た……狙われやすい、悪用される可能性。確かにこれは襲われたら厄介な事になりかねないな。

 

「でもさ、魔法”少女”だよな? 俺男なのに少女って可笑しくないか」

「いやまあ、それはそうだけど……物は試しってことでどう、やってみない? 魔法少女になったからと言って無理やり戦わせたりはしないわよ。ぶっちゃけ、自衛できるようになれば安心できるんだから」

 

 自衛が出来るか出来ないかなら確かに、出来た方が良いな。俺だってニート生活満喫してるけど、死にたくはないし。

 

「まあ、やってみるか」

「良かった。じゃあこれが変身デバイスね」

 

 そう言ってラビが俺に渡してきたのはどう見てもスマホな四角いやつだった。

 変身デバイスがスマホってまた現代的だな。まあ、他の魔法少女の変身デバイスを見たことはないから何とも言えないんだが。

 そうそう、この兎のぬいぐるみの名前はラビっていうらしい。ラビットのラビだったら凄い安直だな……。

 

「スマホじゃん」

「一番馴染み深そうな物を選んでみたわ」

「うん、確かに馴染み深い。ってか、アンテナ5本立ってるのか」

 

 スマホ型デバイスの画面を見ると、電波の強度を示すアイコンが5本立っていて非常に良好だということが分かる。

 まんまスマホである意味凄いわ。普通にブラウザも使えるって、どういう原理だよ。

 

「見た目だけじゃないわよそれ。普通に電話番号入れれば繋がるし、ブラウザも使えるわ。ゲームも出来る。そして容量は無限大よ」

「魔法ってスゲー」

 

 俺スマホは解約してるから丁度良いのかも知れないな。何処の回線を使ってるのか気になるけど。

 

「で……このデバイスをどうすれば良いんだ?」

「デバイスを握って、心を落ち着かせて目を瞑って深呼吸するのよ。そして変身したいと思うの。そうすると、変身するためのキーワードが浮かび上がるはずよ」

 

 ラビの説明を聞き、俺はデバイスを握る。心を落ち着かせて、深呼吸……そして変身したいって思うのか。

 自分を守れる力もほしいが、やはり他の魔法少女たちも守れるような力も欲しいよな。

 

 すると――

 

「――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

『SYSTEM CALL "CHANGE" KEYWORD,OK――LA LUNE ET L'ETOILE――』

 

 ラビの言う通り、自然と思い浮かんだキーワード。それを口にすればデバイスの方からも何か音が聞こえてくる。

 

 そして次の瞬間、俺の視界は真っ白に染まったのだった。

 

 

 



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Act.02:TS魔法少女、爆誕!

 

 視界が真っ白に染まり、身体が勝手に動く。

 どう動いているのかは分からないが、自身の意思では今は身体を動かせないようだ。

 

 これが変身するということなんだろうか?

 

 しばらくして、自分の体に感覚が戻ってくるのを感じる。試しに動かしてみれば、今度は自分の意思で動かせるようになっていたが、何か視線が低いな。

 

『SYSTEM CALL "CHANGE" SUCCESS!!――GO!』

 

「うわーまじかよ」

 

 何となく予想はしていた。

 そりゃ、魔法”少女”だもんな……当たり前だ。鏡に写るのはまるで俺の面影のない、15歳位の少女である。

 

「似合ってるじゃないの!」

「性別が変わるってどんな仕様だよ!?」

「それは私にも分からん!」

「いっそ清々しいなっ!!」

 

 短髪だった黒髪は、背中に届くくらいの長さになり色も青みの帯びた銀色に変化し、青と銀のグラデーションのようになっている。

 加えて、瞳の色も黒から金色となり、瞳の中には何か星みたいのが見えるんだが? キラキラ目ってやつか? そこまでキラキラしてる訳じゃなくて、瞳の中に星が見えるってだけだが。

 

 頭には魔女っ娘が良く被ってそうな黒いとんがり帽子に、赤いリボンが付いている。帽子の方には三日月のような絵が、リボンには星が描かれていた。

 

 衣装はと言えば、白と青を基調としたマントにノースリーブのセーラーワンピーススタイル。

 マントは留める所には星のエンブレムのような物があり、セーラーワンピースの方は胸元に赤いリボンが可愛らしく付いていて、スカートの裾には青と水色が使われたフリルがあしらわれている。

 腕と言うより手には紺色のシュシュ。このシュシュにも小さいながら星の絵が描かれている。

 足はと言えば、黒いタイツに襟付きの白いショートブーツ。タイツには三日月の絵が白く描かれ、ショートブーツの方には水色で星が描かれている。

 

 そして全体的に見て、星や月の絵が色んな所に描かれているんだが、何か意味があるのだろうか?

 

 でもって、スマホ型デバイスは消えていて替わりに手に持っていたのは先端が月を中心に、周りを星が囲んでいるようなデザインのステッキだ。これがデバイスだったのだろう。

 

「何か魔法少女って言うより、占星術師の魔女っ娘みたいだなこれ」

「魔女も魔女っ娘も、魔法少女みたいなもんでしょ」

「まあそうだけど……」

 

 一言感想を言うなら凄くこの容姿に似合っている。変身前の面影が一つもないが……声も当然見た目相当の物に変化している。

 

「とにかく、変身は無事できたみたいで安心したわ。早速、魔法とかを使ってみましょ」

「でもよ、何処でやるんだ? 外でやるにしても目立つのは嫌だぞ」

「そこは安心しなさい。あれを使うわよ」

「あれ?」

「今から言うキーワードを唱えなさい」

 

 ラビは耳元によってきて、一つのキーワードを俺に伝えてくる。どういう物なのかは分からないが、言ってみるとするか。

 

「えっと……エクスパンション(反転領域展開)!」

 

 刹那――世界が歪む。

 いや、正確には俺の視界に映る世界が歪み始めたと言うべきか。上手く言えないが、こう現実世界から切り離されたようなそんな感覚が襲う。

 

 しばらくして、目を開けばそこは……俺の部屋だった。いや、確かに俺の部屋だが何かが違う、そんな事を感じさせる。

 

「俺の部屋……?」

「ええ、一応あなたの部屋ね。ただここは現実ではない世界よ」

「現実ではない世界?」

 

 確かに俺の部屋なのだ。窓を開けて見える外の景色も、変わらないのだが何かが違う。良く分からない。

 

「この世界は、私たちはこう呼んでいるわ――反転世界、と」

「反転……世界?」

「そうよ。ここは現実世界を元に作られた偽りの世界。簡単に言えば、異次元かしら」

「……異次元も大分難しいと思うぞ」

「まあ、要するに現実世界とは別の世界よ。現実世界そっくりだけど、ここでどれだけ暴れようとも、現実世界に影響は出ないわ」

「これも魔法なのか?」

「そういう事。魔法少女たちの練習空間として使われるのよ。そして魔法少女毎に別に存在する。ここはあなただけの世界ね」

「何でもありだな……」

 

 改めて魔法という力がとんでもないと実感する。自分だけの世界って、響きが良いな。

 

「ここなら思う存分、魔法を試せるわ。早速やりましょ」

 

 そんな訳で俺の魔法少女としての力の練習もとい、魔法の練習と言うのが始まるのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「はぁはぁ……疲れた」

「お疲れ様。それにしても……」

 

 ラビが周りを見回すのがみえる。俺も釣られて見てみたのだが、これは酷い。

 ……ビルの一部が全壊し、アスファルトも陥没。周囲の家屋も瓦礫となっていて、無事な場所が自分の家周囲だけと言う地獄絵図となっていた

 

 反転世界じゃなかったら、大惨事待ったなしだ。

 

「やっぱりあなたの力はえげつないわね」

「そうなのか? あまり良く分からないんだが」

「この光景が物語ってるじゃないの」

「まあ確かに……」

「星を落としたり飛ばしたり、重力操ったり、回復したり出来るって滅茶苦茶ね……」

「それは俺も思った。これただの戦略兵器じゃん」

 

 俺が使える魔法というのは分かったのだが、それがどれも結構やばいやつだった。

 まず一つ目が、星を操る魔法。原理は分からんが、星を召喚して落としたり飛ばしたり出来る。もれなく直撃したら爆発するとか言うとんでも魔法。

 二つ目は重力を操作する魔法。一定範囲もしくは対象の重力を重くしたり、軽くしたり出来るし、何ならブラックホールのような物も召喚出来る。何でも吸い込むのでかなりえげつねえ……。

 三つ目は姿を消す魔法。気配や姿を消して、見つからないようにする魔法だ。どうも、俺が使えるやつっていうのが月とか星に関係する物っぽいんだよな。

 姿を消すっていうのも月で言えば新月ってあるじゃないか? あれだよ。

 で、四つ目が謎である。

 怪我とかを治癒できる魔法なのだが、これについては何処に星と月の要素があるのか分からん。

 

「私の判断は間違ってなかったわね……こんなの使われまくったら世界崩壊するわよ」

「せ、せやな……」

 

 俺も実感する。

 最初魔法少女って聞いた時は、はい? って思ったけど、実際変身したらこの威力に使える魔法の種類……素人でも規格外って分かるわ。

 

「でもまあ、これなら自衛も余裕じゃない? むしろ過剰な気もするけど」

「まあ、大分魔法の使い方は分かった気はするよ」

 

 魔法とは思いとイメージの力……らしい。

 とにかく、イメージが大事で定まらない状態だと不発に終わるようだ。そして忘れていけないのが魔力の存在である。

 魔法を使うには魔力を消費する。使い過ぎは戦闘続行が出来なくなるという最悪な状態になるので、そこは自分の魔力を感じて調節するのだ。

 当たり前だけど強力な魔法ほど消費も激しくなる事を覚えておいて欲しい。

 

 完璧……とは言えないが、最低限戦うことは出来るようになったと思う。魔法自体も強力だから火力オーバーの方が心配かもなあ。

 取り敢えず、魔力のコントロールは上手く出来るようにしないと。いくら魔力が多いからと言って無限という訳じゃないので、使いすぎご用心である。

 

「それじゃ、今日は終わりにする?」

「だな……そうするよ」

「了解。あと、魔法の練習だけど毎日した方が良いわよ」

「毎日、か」

 

 ニートなので時間はいっぱいあるから問題ないか。

 

「出来る限り毎日するつもりだ。で、どうやって元の世界に戻るんだ?」

「簡単よ。リベレーションと唱えるのよ」

「ほうほう……リベレーション(反転領域解除)

 

 言われた通り唱えれば、再びこっちの世界に来た時と同じように世界が歪み始める。

 しばらくして、現実という世界に引っ張られたような感覚に襲われ、目を開ければ見慣れた俺の部屋が視界に入ってくる。

 今度は変な感じはしないし、違和感もないので戻ってきたんだと思う。

 

リリース(変身解除)

 

 戻ってきたと感じたら、俺はラビに予め聞いておいた変身を解除するキーワードを唱える。すると、衣装などは消えていき、元の体へと戻る。

 

「おー……ちゃんと戻るんだな、安心したよ」

 

 鏡を見れば見慣れた冴えない男が映り込み、戻ったと実感する。これで戻れなかったら困る所だった……いや、俺今ニートだし別に何も変わらんか。

 

 まあでもやっぱり、自分の体が一番落ち着くって事で。

 

 



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Act.03:命名……魔法少女リュネール・エトワール!

 

「という事で、魔法少女の名前を決めましょ」

 

 ある日の昼下がり、ラビにそんな事を提案される。

 戦うことを強制しないし、政府にも連れてかないとはいえ、何かしらしていると他の魔法少女と出会う可能性は高い。

 名前がないのは不便なので、作ろうって事だ。政府の魔法少女は大体、自分で命名してるそうだ。

 

「名前ならあれで良いな……リュネール・エトワール」

「思いつきにしては中々良い名前ね……」

「まあ、リュネールは月、エトワールは星って意味だけどな」

 

 どっちもフランス語である。英語だとなんかこう、いまいちピンと来なかったので敢えてフランス語にした。

 

「それで良いなら、それで名乗ると良いわ。あっさり決まったわね……」

「こんなもん、考えるだけ無駄じゃんか」

「そうかしらね……」

 

 周りがなんと言おうとも、シンプルが一番。フランス語ってシンプルなのか分からんけど。

 そんな訳で俺の魔法少女としての名前はリュネール・エトワールとなった。

 

「あと、変身中は言葉遣いを変えたほうが良いわね」

「変えるって言ってもなあ……」

「折角だし、練習よ、練習。ほら、変身する!」

「分かった、分かったから体当たりすんな!」

 

 全く……仕方がないので俺はデバイスを手に取り、変身のキーワードを紡いだ。

 

「――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

『SYSTEM CALL "CHANGE" KEYWORD,OK――LA LUNE ET L'ETOILE――』

 

 一瞬にして視界が真っ白になり、そして気が付けば変身が完了し、魔法少女リュネール・エトワールとなる。

 

『SYSTEM CALL "CHANGE" SUCCESS!!――GO!』

 

「それで? どうするんだ?」

「まずはその男口調を変えましょ」

「えぇ……」

「えぇ、じゃない! まず一人称はその容姿からだと僕とか俺は合わないわね……わたしでどうかしら?」

「わ、わたし?」

 

 ちょっと抵抗があると思ったが意外とないものだな。

 ってか、良く考えたら俺今ニートだけど、少し前までは社会人やってたし、別に私って一人称使ってたしな。何かニュアンスは違うが。

 

「コホン。わたしはリュネール・エトワール」

「良い感じじゃない?」

「いやまあ……一応、少し前は社会人してたし」

「そう言えばそんなこと言ってたわね。それにしても宝くじって本当に当たるものなのねえ」

「それについてはお……わたしも驚いてる」

 

 ただただ当たったら良いなって思って買っただけなのだが、当選発表見たら一致してるし。

 何度も何度も確認したけど、間違いはない。実際、銀行に持っていけば1億円……そりゃあ、驚いたよ。

 

 気分はもう最高潮だけど同時に恐ろしくも感じてしまったが……取り合えず、そそくさと口座に入れてもらって現在に至る。

 別に無駄遣いも何もしておらず、普通に生活をしている。その為、全然お金は減らないのだ。使いたいものもなかったしな。

 

「それで今は自由気ままに過ごしてるのね……羨ましいわね」

「今はラビも同じだろ」

「まあ、確かに……って口調戻ってるわよ」

「一人称はあまり抵抗なかったが、やっぱ口調は難しい。何処でボロ出るか……」

「それなら、こんなのはどう?」

「ほうほう……確かに良さそうだな?」

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

「じゃあ、質問するわね」

「ん」

 

 ラビの提案と言うよりアドバイスで出来上がった口調の練習だ。これは簡単なものでラビが質問する内容をリュネール・エトワールとして答えるだけだ。

 

「あなたの名前は?」

「リュネール・エトワール」

「年齢は?」

「15歳」

 

 まあ、実際に聞かれた時は答えるつもりはない。個人情報だし。今は練習で、ラビ相手に話してるので問題はない。15歳って言うのはこの身体(リュネール・エトワール)の推定年齢から出した物だ。

 実際は27歳の良い年したおっさんではあるが、そんな事この姿で言える訳ないので、予め設定を決めておくのだ。

 

「今は何をしてる?」

「家でのんびりしてる」

「好きな食べ物は?」

「ミートスパゲティ」

 

 何となく、分かると思うがラビの提案ていうのは無口キャラとか言うやつだ。言葉数が少ないので、ぼろを出しにくい。

 それでもやっぱり口調を変えるのは難しいと思った。そんな簡単に変えれるものじゃないしな。

 

 それに、あくまで魔法少女リュネール・エトワールとしての口調なのでこちらにばっか仮に慣れてしまうと、今度は本来の姿でも喋ってしまう恐れがある。

 

 その後も幾つかの質問をラビにされ、それに対して俺はリュネール・エトワールとしての口調で返答していった。

 

「受け答えは大丈夫そうね」

「そうかな?」

 

 で、何回か思ったのだが無口キャラって結構難しい。言葉数を最低限にしないといけないし。

 

「じゃあ、自己紹介してみて」

「ん。わたしは魔法少女リュネール・エトワール。野良で活動してる、よろしく」

「中々良いじゃない」

「ん。でもこの演技疲れる」

 

 普通の会話自体もリュネール・エトワールとしての口調で返すように意識する。意外と演技って言うのか、これ疲れるんだよな。

 

「あなたの目的は?」

「自由気ままに生きる、ただそれだけ」

 

 正直、短時間の練習で大分慣れたと思ってる。まだたどたどしい所はあるが……でも相手がラビって言うのもあるのかもしれない。

 

RP(ロールプレイ)してる気分」

「実際そうじゃない」

 

 良くネトゲとかで、そのキャラになりきって喋ったりするあれだ。確かにRPしてるよねこれ。ゲームじゃなくて現実ではあるが。

 

「まあ、口調はこれで行けそうね」

「ん。頑張る」

 

 頑張る……良く考えたら、今更だけど正体がばれるのは非常に不味いなコレ。男が女になるってまず、そこが謎だしモルモットにされかねないのでは。

 口調を変えて別人としておかないと、確かに不味いかもしれん、と改めて思う。

 

「最後に一つ、良い事教えてあげましょうか」

「良い事?」

「ええ。魔法少女は魔力を纏って姿を変えてるのは何となく分かるわよね?」

「うん」

 

 変身時は、若干の面影を残して別人になるのだが、俺の場合は男が女になるとかいう前代未聞の変身だから面影も何もない。

 で、姿が変わるのは魔力を纏ってるから。それが装甲の役割も果たしてるから魔法少女は、魔物の攻撃を受けても簡単には怪我しないのだ。

 

「試しにその状態で魔力を抑えてみなさいな」

「魔力を抑える……?」

 

 いや、いきなりそんなこと言われもな。

 

「目を瞑って。感じるはずよ、自身が纏う魔力を」

「自身の魔力……」

 

 ラビの言わるまま、目を瞑る。

 そして自分の身体中を駆け巡り、守ってくれているその魔力を思う。すると、どうだろうか? 不思議な力が身体を駆け巡っている、その気配を感じる。これがが魔力を感じるという事なのだろうか?

 

「感じれたみたいね。じゃあ、その魔力が出ている場所……そこの栓を締める感じにしてみなさい」

 

 駆け巡る魔力を辿り、何処からそれが出ているのかを探る。

 

「ここ」

 

 魔力が出ている場所、それは血液とかと一緒で”心臓”だ。心臓……心、ラビが言った通りにそこから出ている魔力を水の例え、蛇口を締めるイメージをする。

 効果はあった。締めていけば徐々に魔力が抑えられていく……完全に止めてしまうと変身解除になってしまいかねないので、自分なりの最低限の辺りで止める。

 

「え?」

 

 するとどうだろうか。変身を解除した時のように、魔法少女としての衣装が消えていくではないか。しかし、服が消えても身体が戻る気配はない。

 

「え、何これ」

 

 気づいたら下着姿になっていた。男の物ではない……リュネール・エトワールそのものの身体で下着姿となっている。

 

「それはちょっと魔力抑え過ぎね。もう少し増やしてみて、衣装もイメージしなさい」

 

 という訳なので魔力の蛇口をひねって魔力量を増やす……イメージ。

 

「良いわね」

 

 今度は下着姿ではなく、衣装を着ていた。それは魔法少女の衣装ではないが……何というか、可愛らしい白のワンピースだった。

 

「一体何が……」

「もう何となく分かってるんじゃないの?」

「何となく、は」

「要するに変身状態でも暮らせるという事ね。まあ、その状態を維持するにも魔力は使うけど、完全変身状態と比べれば圧倒的に消費は少ないわ」

「これ、本物?」

「触ってみれば?」

「え、いや、それは流石に……」

「あら、恥ずかしいの? 自分の変身した姿なのに」

「……」

 

 そういう問題じゃないっつーの!

 

 

 



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Act.04:初実戦

 

「要するに魔力次第では何でもできる?」

「そんな所ね」

 

 変身状態ではあるものの、ちょっと変わったあの状態についてラビに聞いていた。まさか、あの状態でも過ごせるとは……魔法スゴーイ。

 

 姿はリュネール・エトワールだが、衣装は普段着だ。普段着と言っても魔力で作られた何てことない白いワンピースだが。

 この状態の事を簡単に言えば、省エネモード? いや魔力に省エネと言ってもなあ……とにかく、限りなく普通の人間に近い魔法少女の状態だ。

 この姿では魔力も最低限しか使ってないので、力も強くない。そんじょそこらのチンピラ程度相手ならできるようだが。

 

「それにしても、大分その姿気に入ったみたいね?」

「別に、気に入ってない。色々試してるだけ」

 

 まず一言で言おう。

 この状態の俺は完璧に女の子である。相棒も居ないし、小さいながらも胸もある。感触もあって、感覚もある。

 何だこれ、と言いたいがこの姿を変身前の状態として認知させれば本当の正体は誰も分からないって事になるだろうって話だ。

 まあ、人前で解除とかしないけど、緊急事態で解除するしかなかった時とかはこれで凌げるのではないだろうか。そんな場面遭遇したくないが。

 

「全然魔力使わない」

「そこまで行けるって結構凄いわね。あなたまだ魔法少女になってほんの数日なのに」

「慣れた」

 

 魔法少女となって、まだ四日程度しか経ってないが毎日練習はしてる。リュネール・エトワールとしての口調とかについてもね。

 ただ未だに魔物の発生は確認できない。と言うより、この地域一帯はぶっちゃけここ数か月間、魔物の魔の字もない場所なのだ。

 

 他の地域……人が多い所とかではちまちま観測されいるのだが。

 

「一度は実戦しておきたい」

「それには同意だけど、全然魔物の気配がないわね」

「この地域はここ数か月間、魔物は観測されてない」

「そうみたいね」

 

 平和なのは良い事だが、あまり平和が過ぎると出現したときの対応が遅くなる可能性が高い。適度に来た方がぶっちゃけ良いと思う。

 

「他の地域に行く?」

「うーん?」

 

 他の地域。魔物が多い地域って言うのは存在する。例えば首都の東京とかは人口が一番多いから魔物が良く出てくる。

 ただその分、待機している魔法少女もかなりの腕利きだから被害も最小限に抑えられてるのだという。

 

 この地域の担当の魔法少女はどうしてるかは気になるな。暇してそうだ……。

 

 他の地域に行くというのも一つの手段だが、ピンチでもないのに途中でやってきたら横取りとか言われそうだ。

 魔法少女の助けはしたいと思ってるが、現状俺が介入する余地はない。

 

「ん。この地域で待ってる」

 

 結局、その日ずっとこの姿で居たのだが魔物の発生はなかったのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

『◣◥◣◥◣◥WARNING!!◣◥◣◥◣◥』

 

 それはある日の事、唐突に起きた。

 

「何だ!?」

 

 けたたましい警報が聞こえ、慌てて音の発生源を確認する。俺の変身デバイスからのようだった。

 

「これは……魔物よ。魔物が近くに発生したわ。推定脅威度はA!」

「はあ?!」

 

 いやね? 確かに実戦をしたいとは言ったけど、いきなり脅威度Aの魔物って何だよ!

 

「脅威度Aって……」

「ええ、思ったより強力な個体ね」

 

 魔物には脅威度と言う物が存在する。

 一番下からF、E、D、C、B、A、AA、S、SSとなっている。脅威度Aというのは、Aクラスの魔法少女数人で倒せると言う認識だ。少なくとも二名以上は出動する。

 

 魔法少女にもクラスって言うのがあり、一番下がCクラス。そこから順にBクラス、Aクラス、Sクラス、SSクラス、Lクラスとなっている。

 

 普通の魔物より強力と言うのは分かると思う。大体出現頻度の多い魔物はFからD当たりだ。この脅威度ならCクラスの魔法少女で余裕だろう。

 

「魔法省の方は、全然でなかった地域から突然の脅威度Aの魔物が発生って事で対応がちょっと遅れてるわね」

「いや、なんで分かるんだ……」

「妖精だから」

 

 それ理由になってない。

 しかし、対応が遅れてるか、か。魔法省もきちんとしないと駄目だろうに……。

 

「行くの?」

「ああ。一般人に被害が出る」

 

 変身デバイスを取り出し、キーワードを唱える。

 

「――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

『SYSTEM CALL "CHANGE" KEYWORD,OK――LA LUNE ET L'ETOILE――』

 

 ふわっと浮遊感と同時に視界が真っ白になるという、もう慣れた感覚に襲われ目を開ければ、魔法少女リュネール・エトワールに変身完了である。

 

『SYSTEM CALL "CHANGE" SUCCESS!!――GO!』

 

 そして意識を切り替える。

 俺ではなく、わたしリュネール・エトワールへと。窓から外へ出て、そのままラビの案内に従い、出現場所へ向かった。

 

 

 

「大きい」

 

 実物を見るのは初めてだ。

 向かった先には如何にも怪獣映画に出て来そうな巨体の得体のしれない生物。あれが魔物なのだろう。しかも脅威度Aと結構高めの奴らしいし。

 

「ラビ、他の魔法少女は?」

「まだ来てなさそうね」

「このままだと被害が出る……やる」

「OK、初実戦ね」

 

 超人並みに強化された身体能力で、家の屋根とかを使い魔物に近づく。見た感じだと、馬みたいな魔物だ。角が生えてるし、何か禍々しいオーラを出してるが。

 

「グラビティ……アップ」

 

 対象は魔物。

 ゴォっと音がすると同時に、動きを進める魔物が足を止める。否……動けなくなったのだ。

 

「#%$&!?」

 

 言葉にも聞こえない、叫びを上げる。

 

「スターシュート!」

 

 動きを止めた魔物に対して魔法のキーワードを紡ぐと同時に、ステッキを振りかざす。すると、先端から良く絵で描かれるような星が飛び出し、魔物へ直撃。

 

「うわ」

 

 これが星を操る魔法の一つ。杖先から星を飛ばして、ターゲットにぶつける単純な攻撃魔法だ。ただ、追尾するっていうおまけ仕様付きだ。

 とはいえ、今回は動きを止めてたので追尾も何もないのだが。

 

「あれ、居ない?」

 

 爆発と同時に上がった煙で魔物の姿が見えなくなっていたが、晴れたと思えばそこに居るはずの魔物は跡形もなく消えていた。

 周りを警戒する。しかし、何処にもそんな魔物の気配はなく本当に消滅してしまったという感じだ。

 

 恐る恐る魔物が居たであろう場所に向かうと、そこには壊れたブロックと赤い宝石のような物が落ちているだけだった。

 

「もしかして、倒した?」

「そうみたいね」

「あ、ラビ」

「これは魔物が落とす魔石っていう物よ。魔力を内包する石と言えば良いかしらね」

 

 ラビの話では、魔物を倒すと必ずこの魔石を落とすらしい。そしてこの魔石は魔力を内包しており、貴重な資源となっているとのこと。

 この世界では魔法少女くらいしか使わないが、ラビが居た世界……妖精世界って言うらしいのだが、そこではよく使われているとの事。

 

「流石は脅威度Aの魔石ね……」

「それどうするの?」

「使い道は多数あるわ。魔法少女なら身体を癒やせたり、魔力を少し回復させたり、一時的に魔法の威力を上げたりとか。ただし、使いきりだけどね」

 

 なるほど。

 要するにサポートアイテムって感じなのかな? 回復薬にもなるし、バフにもなるって事か。妖精世界では一つの動力源らしい。

 

「倒したのはリュネールだから、これは渡しておくわね」

「それ必要?」

「まああなたの場合は規格外だから必要ないかもしれないわね。でも、念の為に持っておくのも良いかもしれないわ」

「分かった」

 

 ラビがそう言うなら貰っておこう。でもこれ、何処にしまっておけば良いんだ? 家に置いとけば良いのか……自分で持っておくのが一番なんだろうけど。

 

「そのステッキに掲げてみなさい」

 

 そんなこと考えてると、ラビがそう言ってくる。ステッキに? とは思ったが、取り合えずやってみる。

 

「おお……」

 

 いかんいかん、つい素が出てしまったが、許してほしい。

 魔石を掲げると、ステッキの中に吸い込まれるように消えていったのだ。何だこれ……。

 

「これで魔石はデバイスの中に入ったわ。取り出したい時はステッキに手を当てて念じるのよ」

「凄い」

 

 何だろう。謎の感動を覚える。

 ステッキの中に格納できるとは思わなんだ。でも、これなら保管場所には困らないな。魔法ってスゲー。

 

「これは……」

 

 そんな事呑気に考えていると、第三者の声が耳に入ってくる。ふと声をした方に目向ければ、そこには青い衣装を身にまとった一人の少女が浮かんでいたのだった。

 

 

 




主人公ちゃん(笑)の強さの片鱗が出ましたね。



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Act.05:青い魔法少女

 

「失礼しました。これは貴女が?」

 

 そう問いかけてくるのは、青いドレスのような衣装を着た子だった。どうみても魔法少女です、ありがとうございました。

 

「ん」

 

 まさか初実戦で別の魔法少女に会ってしまうとは……というかこの子見た事あるぞ。確かこの地域の担当をしてる魔法少女だったよな?

 

「そうですか……。私は魔法省所属の魔法少女、ブルーサファイアです。あなたの所属と担当をお聞きしても?」

「所属してない。だから担当もない」

 

 そうだそうだ。ブルーサファイアって名前だった。

 魔法少女の名前って良く分からん。花だったり色だったり、物だったりするし。大抵は魔法少女本人が決めるものって言うのは聞いてるが、数が多かったら名前のネタが切れそうだな。

 

「なるほど、野良ですか。……取り合えず、ご同行願えますか?」

「断る」

「ええ……」

 

 さっきまでの大人っぽさはどこ行ったし。

 

「わたしは帰る」

「あ、ちょっと!!」

 

 いやね? 同行した先で変身解除してくれって言われたら困る。あの状態なら大丈夫だが……どうせ同行先って魔法省だろ。

 という訳で、その場からせっせと立ち去る。姿を見えなくする魔法をも使って念入りにするのだ。

 

 

 

「あー行っちゃった……」

 

 もう姿が見えなくなってしまった野良の魔法少女を見て呟く。ここ数か月、魔物の出現が確認されてなかった地域に脅威度Aの魔物が出現した時は驚いた。

 

 他の地域では良く出現するのに、今回に限ってはこの地域で、それもあって出動が遅れてしまった。

 正確には他の地域の支援をしていたからなのだが……。

 

「ブルーサファイア! 魔物は何処だ?!」

「遅れてごめん!!」

 

 そんな事を考えてると、他の二人が追いついてくる。急ぎ過ぎた……とはいえ、もう魔物は居なくなってたのだが。

 

「あれ。何もいない?」

「もう倒されましたよ」

「ええ?! ブルーサファイアが倒したの?」

「いやいや、それはないでしょ」

 

 今回現れたのは脅威度Aの魔物だ。Bクラスの私が一人で敵うような相手じゃない。

 本来ならAクラスの魔法少女が来るべきなのだが、やはり都合とタイミングが合わず、何とか間に合いそうな私たちが出向いてきた。

 私たちの役割は、応援の魔法少女が駆け付けるまでの時間稼ぎ、足止めと言った所だった。そして危ないときはすぐ逃げろ、と言われてる。

 

「それじゃあ、誰が……」

「知らない魔法少女だったよ。所属を聞いたらしてないって」

「つまり、野良の魔法少女がやったってことか」

「うん。野良の魔法少女は何人かは顔を知ってるけど、さっきの子は知らないかな」

 

 きれいな銀髪をしていて、いかにも魔女っ娘って感じのスタイルの魔法少女だった。とんがり帽子が特徴だった。

 

「新しく誕生した、とか?」

「分からないわ。でも、同行を願ってみたけど綺麗にお断りされたよ」

 

 別に同行させる必要はないのだが、野良の魔法少女も出来れば連れてきて欲しいっていう話だから言ってみただけだ。

 別に魔法少女は魔法省に所属するって言う決まりはないから、強制はできない。けど、野良の魔法少女も魔法少女……保護したいって言う考えなのだろうと思う。

 

 それにあの子は野良でありながら魔物と戦ってた訳だし。

 野良の魔法少女が魔物と戦う事例はなくはない……けど、国からの支援も何もない上に命がかかってる。普通なら戦わないか、魔法省に所属するんだけど……。

 

「うーん……取り合えず、報告しないとね」

「だな」

「うん」

 

 あ、あの魔法少女の名前聞いてなかった。まあ、教えてくれそうな雰囲気はなかったけど……。

 

 とにかく私たちは魔物が倒されたという事を報告する為、魔法省に戻るのだった。

 

 

-------

 

 

「初討伐お疲れ様」

 

 家に戻ると、ラビが労りの言葉をくれる。

 変身を解除し、元の姿に戻れば俺は意識をわたしから俺へと切り替える。

 

「何かあっけなかったが……」

「まあ、あなたが規格外なだけよ」

「規格外って……」

「多分だけど、実力と言うか強さだけならリュネール・エトワールは最低でもSクラス以上ね」

「まじか……」

 

 何でも脅威度Aの魔物をあんなあっさりと単体で倒すのは、現役Aクラスでも難しいとの事。

 前にも言った通り、脅威度Aの魔物は普通はAクラスの魔法少女が二人以上で取り掛かる魔物だ。Aと言っても個体差もあるが。

 

「それにしても、あの時に駆け付けてた青い魔法少女は、Bクラスくらいかしらね」

「分かるのか」

「ええ。何となく、だけどね。あと結構後ろの方にもう二人ほど居たかしら」

「居たのか……ってことは、Bクラスの魔法少女三人が駆け付けたってことか。でも、脅威度Aの魔物だろ?」

「恐らく応援の魔法少女が来るまでの一時的な対応ね」

「なるほど」

 

 それにしても、やっぱり対応が遅れてるな。

 もし俺が行ってなかったらどうなってたことやら……初実戦だけど、相手は脅威度Aとかいう結構高いやつだったのはびびったが。

 

「あれ、何してるのかしら?」

「ん? 良くあるPCのMMORPGだよ。これが結構面白くてな……まあ、だからといってそこまで課金はしてないが」

 

 少しはしているけどな。主にアバターに。

 

「ゲーム内では女の子使ってるのね」

「こういうゲームって、女性アバターの方が種類があって良いんだよ。それに操作するなら可愛いキャラが良いだろ」

 

 画面に映るのはこのゲームで俺が使っているアバターだ。プレイヤーネームはルナ……まあ、在り来りな名前だと思うが。

 サービス開始日からやってたから同じ名前は使えません、という事はなく問題なく使えた訳だ。

 

「あら、このキャラ……何処となくリュネール・エトワールに似てるわね」

「ん? あーそう言えばそうだな。完全に俺の趣味で作ったアバターだが」

 

 改めてゲーム内のルナを見ると確かにリュネール・エトワールに似てる。流石にグラーデションのかかった髪ではないけど、銀髪のロングの金色の瞳。

 今着せてるアバターも魔女っ娘風で、色は違うけどリュネール・エトワールの衣装に似たデザインだ。

 

「もしかしてこれがリュネール・エトワールの容姿を作ったのかも知れないわね。ほら、自分の理想の姿に変身するって言ったじゃない?」

「そう言えばそんな事言ってたな」

「これがあなたの理想の姿なのかしら」

「どうだろうなー別にイケメンになりたいとは思ってないけど」 

 

 良い年したおっさんの理想の姿が少女っていうのも結構アウトな気もする。あくまでこのアバターは趣味で作ったものだしな。結構良く出来たとは思ってる。

 

「さて、日課も終わりっと。じゃあ今日も魔法の練習をするかな」

「良い心がけね」

「まあ、見ての通りニート生活満喫してるからな……時間ならいっぱいある」

 

 仕事もせずに、好きな事が出来るのがニートの良い所だ。世間体では悪いイメージが強いみたいだが、本当にそうだろうか?

 ぶっちゃけ働く必要はあるのか? 働かないとお金がなく、何も食べれないし買えないが、お金があるならどうだ?

 

 今じゃ、Youtuberだとか、Vtuberだとか、仕事しなくても稼げるのはある。いや、正確には面白い動画を投稿するという仕事なんだろうけど、好きな事やって稼げるって良いよな。

 他には投資とかで稼ぐやつは稼ぐ。ニートだろうが、お金があるなら別に働く意味はないと俺は思う。

 

 全く、ニートの何が悪いんだって。

 いやまあ、働かずに家族の乞食になってるってんなら話は別だが、自分で生活できているなら文句を言われる筋合いはないと思うぞ。

 

 まあ、そんな理屈が通らないのがこの世の中だが。

 

「じゃあ、行くか。――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

『SYSTEM CALL "CHANGE" KEYWORD,OK――LA LUNE ET L'ETOILE――』

 

 

 



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Act.06:気になる噂①

※実在する地名が出てきますが、この物語はフィクションです。




「何じゃこりゃ」

 

 俺は一枚の紙を見ながら呟いた。

 

「どうしたのよ?」

「いやこれを見てくれ」

「えっと何々、噂の星月の魔法少女?」

 

 記事にはそんな見出しが書かれており、更にぼやけてはいるけど、空を飛んでいる少女の写真も載っていた。

 

「これ、どう見てもあなたよね」

「多分な……」

 

 ここ最近、俺達が暮らすこの地域に魔物が良く出現するようになったのだ。今までは何もなかったのに、どういう風の吹き回しなのか。

 とはいえ、他の場所でも魔物の出現頻度が上がってるとの噂もある。魔法少女たちも結構忙しく飛び回ってるらしい。

 

「この辺は最近までは魔物の魔の字もなかったのになー。魔物って良く分からん」

「その分、あなたも実戦経験積めるようになったんだからマイナスばかりではないじゃない」

「まあな」

 

 魔物の出現が増えたことにより、俺はリュネール・エトワールとして実戦経験を積むためにあちこちで魔物を倒して回っていたのだが……。

 

「結構有名人になってるわね」

「やめてくれ……」

「野良なのに魔物を倒してるっていうのまた話題になる原因よね。SNSとかでもちらほら、あなたのことが書かれてるわね。謎の魔法少女! だとか」

「星月の魔法少女って何だよ……」

「あら素敵じゃない。それにリュネール・エトワールにはピッタリじゃない?」

 

 確かにリュネール・エトワールは月と星だ。衣装もステッキも靴も、どれにも星と月が描かれてるんだし。

 

「魔物倒すだけでもすぐ話題に挙がるのは解せぬ」

 

 一体何処から見てるんだ。

 多分、この地域に暮らす人たちがSNSとかで話題にしてるんだろうな。正直な所、恥ずかしいよこれ。

 

「魔法少女の駆けつけも早くなったわよね」

 

 この地域でも魔物が良く出るようになった影響か、魔法省の対応の速さも加速してる。魔法省所属の魔法少女と出くわす回数が割と増えてる。

 

「何か会う度に同行願えないかとか言われるんだよなあ」

 

 前に脅威度Aの魔物を倒した時に会った青い魔法少女とも会う事が増えている。決まって、俺を誘おうとしてくるんだよな……他の魔法少女もそうだ。

 

「何度か脅威度Aの魔物をあっさり倒してるからかしらね。それだけの実力があって野良をしてる……」

「魔法省に所属しないと駄目っていう決まりも何もないから良いが……」

 

 多分、そんな強さがあるから俺のことを勧誘してくるのだろう。元の姿が俺である以上、魔法省には絶対に行きたくないぞ。

 

「よいしょっと」

「あら、何処か行くのかしら?」

「もう昼だしな。昼飯を食べにでも行こうかと」

 

 カップ麺ならいくつか蓄えは有るが、そんな毎日食べるような物ではない。というか、毎日食べてると絶対飽きる。

 

 運転免許証と車のキー、財布、スマホ型の変身デバイスを揃え、庭に止めてある車の場所へ向かう。

 

「そう言えば、ここってあなたの家なの?」

 

 車に乗り、シートベルトをした所でラビに問いかけられる。

 

「一応、な。基本俺しか居ないがな」

 

 俺が暮らしているのは、一軒家だ。というより、実家である。ただし、両親は既に他界しているから暮らしているのは基本俺一人である。

 

「基本?」

「ああ。両親は既に居ないが、妹が一応居るんだわ」

「へえ……意外ね。あなたに妹さんが居るなんて」

「まあ、あいつは上京して一人暮らししながら大学行ってるからな……一応、俺も唯一の家族だから仕送りはしてるぞ」

「宝くじ当たったって事は知ってるの?」

「いや、知らない。言ってないからな」

 

 1億円だぜ? あまり言いたくはない。妹なら大丈夫だろうが、他人の耳に入ったら入ったでなんか嫌な予感もするから伏せてある。

 因みに妹が大学に行けてるのは奨学金もあるが、やはり一番は両親の残した遺産のお陰でも有る。

 

 仕送りとは別に学費等はその遺産から出している。

 まあ、俺は今ニートだが妹には好きな事をして就職してほしいと思ってるのも有るからな。

 

「意外とシスコンね」

「言うなや」

 

 今じゃ唯一血の繋がった家族だ。そうなるのも仕方がないだろう。因みに妹との仲は良好だと思う。

 

「妹さんは大学を謳歌して、兄であるあなたはニート……あれ、仕事辞めたって事は伝えてるの?」

「一応な。心配されたが」

「そりゃそうよね」

 

 そんな会話をしながら俺は車のエンジンを掛け、アクセルを踏み、家の庭から道路へと出る。

 

「お昼のニュースです。……今朝、また魔物の出現が確認されました」

 

「茨城県土浦市で魔物出現だってよ」

「本当に増えたわね」

 

 俺が住んでるのは県北だが、県南や県央、県西よりかは数は少ない。前まではこの県全体にしても魔物なんて滅多に出なかったのだが……。

 

「県庁とかも対策で大忙しだな」

「まあ、この辺りの魔法少女たちに仕事が増えたんだから良いんじゃない?」

「唯一の対抗できる手段とは言え、女の子を戦わせるってのは気が引けるがな」

「気持ちは分かるけれどね」

 

 とは言え、魔法省も魔法省で何とか他に手段がないかを模索しているみたいだが。例えば戦車砲に魔導砲を付けるとか。

 既にその計画はされてるみたいだが……ただ魔力が必要なのはどうしようもない事実でやっぱり魔法少女に頼るしかないのだろう。

 でもまあ、魔法少女自身が生身で戦う必要がなくなれば、若干は安心できるか。

 

「所で、何処に向かってるの?」

「ファミレス」

「一人でファミレスって何か寂しくない?」

「良いじゃんか。安いぞ、サイゼだし」

 

 一般市民の大救世主であるファミレスだ。安いし美味しいよ。その後も、ラビと話をしながら道路を走っていくのだった。

 

 

 

■■■■■■■■■■

 

 

 

「星月の魔法少女、ね」

 

 一枚の記事を見て呟く。

 星月の魔法少女……彼女の通り名のようなものだ。衣装とかには星や月の絵が描かれている事から誰かがそう呼び始め、それが広がった感じだ。

 

 脅威度Aの魔物を単体であっさりと倒すその実力はAクラス以上だろう。

 

「その子、最近話題の野良の魔法少女ですよね?」

 

 私にそう話をかけてくるのは、魔法省所属茨城地域担当の魔法少女の一人……ホワイトリリーもとい、白百合雪菜(しらゆりゆきな)だ。

 彼女はSクラスの魔法少女で、実力はそのクラスに恥じない。脅威度A程度の魔物なら簡単に倒せる、ぶっちゃけこの地域最強の魔法少女だ。

 

「ええそうよ。出会った魔法少女は何人も居るけど、直ぐに居なくなっちゃうわ」

「話を聞いた限りだと、脅威度Aの魔物をあっさりと倒すみたいですね。使える魔法も強力、と」

「現状分かってるのは、重力を操作できること、星を放てる事ね」

「それだけでもとんでもないですね……」

 

 重力を操れるというのは結構聞くが、星を放つって何よ、という話だ。報告を聞いた限り、ステッキから五芒星の形をしたオブジェクトを飛ばすとか。そして当たると爆発するらしい。

 

「大体がその五芒星を飛ばす謎の魔法で一発撃沈、ですか」

「ええ……本当何者よこの子」

「一発撃沈とかAクラスではなく、最低でもSクラス以上はありそうですね……」

「そうね、ただ、これ以外にも何か使える場合はもっとやばいわね」

「流石にそれは……」

「切り札みたいなのを持ってても可笑しくないし、ない話ではないわね。……何で野良で戦ってるのかしらね」

 

 魔法少女は突発的に誕生する。詳しい事は現在も分かっていないが、10代前半の少女が多いと言うのはグラフのデータから見ても分かる。

 それは魔物に襲われて、死の恐怖に襲われた時に覚醒したり、のほほんと過ごしていたら何か覚醒したり、パターンは様々だ。

 

 本人の意志を尊重するので、戦わないを選んで日常を送る少女も居るし、戦うっていう少女も居る。

 戦う場合は、基本的には魔法省に所属し、国からの手厚い支援を受けながら魔物の対応を行って貰っているのだ。

 本当は年端も行かない女の子に命をかけて戦うなんて、納得できないけど唯一の対抗手段であり、対抗できなければ多くの人が犠牲になるのは必至。

 

 勿論、魔法省もただ見ているだけではない。

 どうにか出来ないか、日々研究だってしてる。最近では自衛隊の戦車砲に魔力を使って放つ魔導砲を乗せる計画も有る。

 結局は魔法少女たちに頼るしかないのだが、それでもこれが運用されれば生身で戦う必要はなくなるだろう。

 他にもミサイルに魔力を乗せるとか。考えてはいるのだが、やはり色々とチェックしたり調節したりしないといけないからすぐっていうわけにも行かないのだ。

 

「主な出現地域は県北、らしいわね」

「その辺りに住んでいるって事ですかね? 彼女が所属してくれればかなりの戦力にもなりますね」

「そうね……けど、可能性は低いわねえ」

 

 正直、魔法少女は人手不足だ。

 この地域の魔法少女だって、彼女……ホワイトリリー以外ではBクラス以下が殆どだ。脅威度A以上の魔物は実質彼女一人で対応してるようなもの。

 

 幸い、現状はB以下の魔物が多いから良いのだが、時々Aの魔物も出る。油断はできない。

 

 この星月の魔法少女が本当にSクラス以上ならば……かなりの力になってくれるだろう。

 一応、魔法少女たちには出会った場合は魔法省に来て貰うように言っておいてとは言ってあるけど、全部断られてるし。

 

 そういう決まりもないから強制というのも出来ない。

 とりあえず、現状は様子見……と言った感じだろう。少なくともこの星月の魔法少女は魔物を倒してくれているのだから。

 

 

 



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Act.07:気になる噂②

※繰り返し、実在する地名等が出ますがフィクションです。


 

「そーれ」

 

 ドーン。

 放たれた星は容赦なく魔物を蹂躙する。脅威度Cの魔物が三体出現し、まだ魔法少女も来てなかったので倒している感じだ。

 

「本当に恐ろしいわね、あなた……」

「それ程でもない」

 

 他と比べて出現する魔物は少ないとは言え、県北でもやはり出現はする。今回は脅威度Cと低い魔物だったが、三体居たし。

 

「え、また?」

 

 三体とも葬った後、またすぐにデバイス……今はステッキだが、警報が鳴る。つまり、近くにまた魔物が出現したという事だ。

 

 やっぱり増えてる、よな。とにかく、魔物のいる場所へと向かうが、既に魔法省の魔法少女が駆け付けていたので出番はなさそうだ。

 

「あの子、強いわね」

「ん?」

 

 今度出現したのは脅威度Bの魔物二体だが、それを一人でいとも容易く相手している少女を見てラビが呟く。

 

「あれはホワイトリリー」

「ホワイトリリー……あれ、聞いたこと有るような」

「ん。この地域最強のSクラスの魔法少女」

 

 魔法少女ホワイトリリー。

 名前の通り、白百合がモチーフな衣装を身にまとう、Sクラスの魔法少女だ。茨城県所属の、最高戦力である。

 

「あー」

 

 そういう事もあり、良くテレビやSNSでも話題に上がる。この辺りの人ならまず知らない人は居ないだろう。

 

 主な魔法はステッキから白百合の花弁を放つ遠距離攻撃魔法。俺の星を飛ばすっていうのとちょっと似てる感じ。

 それだけではなく、飛ばした花弁を操ることも出来るし、複数召喚することも出来る。

 

「行こう」

「そうね」

 

 丁度魔物を討伐し終えたホワイトリリーを見て、その場を静かに去る。しかし、その時彼女がこちらを向いていたという事は俺が知る由もなかった。

 

 

 

 

 

「……あの子が噂の星月の魔法少女ですか」

 

 彼女が居たであろう場所を見ながら呟きます。

 如何にも魔女っ娘と言った可愛らしい衣装でしたが、恐らく実力はかなりのものです。

 この距離からも伝わってくる程の、魔力の圧……あの身体にはかなりの魔力を保有しているのは間違いないですね。

 

「……ちょっとお話してみたかったですね」

 

 見た感じでは、私とそう変わらないくらいの年齢だと思いますが、変身後の姿は元の姿と大きく変わるので断言は出来ませんね。

 

 魔法省内でも噂が絶えない、星月の魔法少女。その正体は謎で、名前も不明。そして野良で戦っているという。

 分かっているのはステッキから星を飛ばすと言う魔法と、重力を操作できる魔法が使えるという事くらいです。

 

 ステッキから星を飛ばすって言葉だけ見ると、意味わかりませんよね? いえそれを言ったら、私の魔法もステッキから花弁を飛ばすという物ですけどね……。

 

 野良ではありますが、県北に良く出没するらしいです。

 偶に県南や県央等でも目撃されることもあるみたいですが……少なくとも、魔物を倒してくれている点では味方と思って大丈夫だと思いたいです。

 とにかく、この子は茨城県に居るという事だけは確かかなと思いますね。

 

 純粋な強さとしては、脅威度Aの魔物を大体一撃で倒しているのが、結構目撃されているみたいです。

 つまりそれは少なくともAクラス、Sクラス以上の力があると見て良いと思います。

 

「何で野良で戦ってるんでしょうか?」

 

 考えても分かりませんね。

 私は倒した魔物の魔石を回収し、もう一度あの魔法少女が居た場所を見てから、その場を去るのでした。

 

 

 

 

 

 

「今日倒した魔物は六体か。……やっぱり多いな」

 

 これ以外にも、魔法省の魔法少女が倒した魔物もそれなりに居る。そのうち、倒したのが四体だ。

 俺は自宅に帰り、今日倒した魔物について考えていた。

 

「脅威度Dが一体、Cが三体、Bが一体それから、Aも一体ね」

「ニュースとかで本日発表された魔物の数は全部でおおよそ50体。ほとんどがDかCばっかみたいだがな……」

 

 魔物の強さ自体は問題ないが、やはりいきなりここまで増えるのは謎ではある。県南が10体、県西が15体、県北が5体、県央が20体というとの事。

 

「相変わらず県北は少ないのね」

「だな。つい最近まででは0ばっかだったんだが。これってさ、俺が原因とかあり得るか?」

「うーん……ないとは言い切れないわね。前にも言った通り、あなたの魔力は異常だから」

「そうか……」

 

 魔物は魔力に惹かれる習性を持つ。

 大きな魔力を持つ者ほど、魔物を惹きつけやすくなる。そして俺の魔力は異常らしいので、可能性とは0ではないとの事。

 

 だから多くの人が集まる場所ほど、狙われやすい。だが俺は単体で異常な魔力を持つ……何人分かは分からないが、茨城という地域全体での魔力量が増えたから現れ始めたという可能性がある。

 

 県央には茨城の県庁所在地である水戸市がある。あそこはそれもあって人が多く集まる場所……だから魔物出現数も多めだ。

 

 ここ一週間で茨城全土の出現数は上がりつつある。まだ一応落ち着いていると言うレベルではあるものの、増えてるのは紛れもない事実。

 現状茨城県に属する魔法少女は30人程だ。対する魔物は50体前後……まあ、人手不足ではあるよなあ。

 

 何とかなってるのはやはりSクラス魔法少女のホワイトリリーの存在が強いのかも知れない。

 この地域にはSクラスのホワイトリリーを筆頭に、AクラスとBクラス、Cクラスの魔法少女が居る。

 

「いくらSクラスがいるとは言え、人手不足すぎやしないか」

「人手不足っていうのは何処の都道府県にも言えることよ。東京都だって100人以上は居るけど、魔物の数も多いし」

「まあそうだよなー」

 

 首都とは言え、やはり魔法少女は不足しているのだ。

 覚醒したからと言って戦う義務もないので、誰もがなるというものでもない。本人の意志が尊重されるから。

 

「まあ、この地域はあなたが居るからもしかすると、首都より安全かもしれないわね」

「それはちょっと言いすぎだろ」

 

 いくら俺がラビの言うように強いと言っても、限度はありそうだ。脅威度Aなら確かに相手できるが、魔物にはまだ脅威度AAやS、SSもある。

 近年では滅多に確認されてないが……最近だと3年前に脅威度Sの魔物が出たきりだな。

 世界全体で見ても、やはり数年前に出現したきりで、今は最高でもAまでしか確認されてない。

 

 脅威度AAはまだしも、Sの魔物は強い。Sクラスの魔法少女複数で相手をするレベルだ。この辺りになるとSSクラスの魔法少女も出始める。

 で、その上を行く最高脅威度であるSSの魔物は災害級。

 SクラスやSSクラスの魔法少女が出ても倒せるかは怪しい。そういったやばい魔物が出た場合はLクラスの魔法少女が出動する。

 

 Lクラス……並外れた力を持つ魔法少女で簡単に言えば世界最強の魔法少女たちだ。確認されているのはたったの7人。そしてこれは世界全体で見た場合の人数。

 

 原初の魔法少女に匹敵する。一人で国を滅ぼせるとも言われてるけど、詳しいことは分からん。

 あまり表にも出ないしな……ただ魔物を倒しているのは確かだと魔法省は言ってるが。

 

 そんなLクラスの魔法少女なら脅威度SSの魔物にも対抗は出来るだろう。まあ、脅威度SSの魔物が出たのは全てが始まった魔物出現の日、今から15年前の西暦2005年の3月20日のみだが。

 幸い、出現したのは別の国だったがそれでも現れた国は半壊にまで追いやられたという。原初の魔法少女たちが倒したからそれ以上の被害はなかった。

 その日から各地でも魔物が出現し始めたのである。それと同時に魔法少女なる存在も誕生したのだ。

 

 Lクラスが一番強いのだが、そんな理由もあり、SクラスやSSクラスの魔法少女の方が話題に出やすいのだ。というより出まくる。

 

 そして俺みたいな野良で戦う魔法少女も結構話題になりやすい。とはいえ、知る限りじゃ俺くらいしか居ないかも知れないな……。

 

 

 

 



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Act.08:ショッピングモールのTS魔法少女①

 

「良い感じね」

「ん。魔法凄い」

 

 魔力を抑えた状態、限りなく普通の人間に近い状態の魔法少女の姿での話である。いい加減、何か良い名前がないものか?

 省エネモードだと、何処かの家電みたいじゃないか。

 

「服の参考がMMORPGって言うのがあれね……」

「それくらいしかない、仕方ない」

 

 で、何をしてるのかと言えばこの状態の服装を変えていた。この白いワンピースは魔力で出来ていると言ったと思う。

 そして魔法少女は魔力を纏って姿を変える。要は、この状態でもこれは当てはまるのだ。

 

 女の子の服には詳しくないので、全部MMORPGのアバターを参考にしてる。試してみた感じでは問題なく服が変えられる。

 

 取り合えず学生風なスタイルだったり、セーラー服だったり、巫女服だったり……アバターは豊富なんだが、実際着るのは凄い変な感じしかない。

 それに俺は男だ。リュネール・エトワールには似合ってるが、中身が俺であるため、何とも言えない気分になる。

 

 まあこれもイメージや魔力コントロールの練習だと思えば良いか。

 

 あとは、仮にであるが何度も変身前(偽)の姿を見せる必要があった場合とか、ずっと同じ服ばっか着てる訳にもいかない。

 

 念には念を入れよ、とは良く言ったものだ。

 

 しかし、ゲームのアバターを参考にするのは良いが、普通に着る物としてはあまり実用的じゃない気はする。と言うか、こんな格好で歩いたら恥ずかしいだろ。

 

 一番無難なのがブラウスにスカートの、如何にも女学生っぽいアバターくらいだ。そんな訳で今その制服スタイルで居るんだけど……。

 

「アバター頼みじゃ駄目っぽい?」

「まあ、ゲームのアバターだからね……ゲーム内なら良いけど、実際着るのは確かにあれかもしれないわね」

 

 PCのブラウザで某有名な通販サイトを開く。

 イメージできれば良いのなら、商品を見れば行けるかなと思った感じ。でも、服に俺が詳しいはずもなく……。

 

「良く分からない」

「もうこういうのは、コーデとか載せてるブログを見るのが一番じゃないかしらね」

「確かに」

 

 ラビと話しつつ、何か良い感じのサイトを覗く。

 

「これとか良さそうじゃない?」

 

 それは白いTシャツの上から黒のパーカーを着て、下は黒のジーンズにグレーのスニーカー。そして黒いバックパックなスタイルのコーデだった。

 全体的にストイックな印象を与える。黒を基本としてるから俺としても、問題なさそうな感じ。

 

「やってみる」

 

 早速、これをイメージする。目を瞑り、精神を集中させる。良い感じにイメージが固まったらそれを魔力へと流し込む感じだ。

 

 すると、今着ている服が光り形を変えていく。

 

「成功ね」

「やった」

 

 素直に喜ぶ。

 記事に載ってる物そのものではなく、ちょっとだけ俺の趣味が混じってるが問題ない。このスタイルなら良いかもしれんな……。

 

 その後も俺は、イメージや魔力コントロールの練習を続けるのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「それで、どうしてこうなった」

「良いじゃない!」

 

 所変わって俺は今、近くのショッピングモールにやって来ていた。ただショッピングモールに来るだけなら何の問題もないが、今回は問題があった。

 

 それはリュネール・エトワールの姿で来ているという事。省エネモード……いや、もう決めてしまおう。この状態の事はハーフモードと命名しよう。

 半分魔法少女、半分普通の少女と言う事でハーフモード……安直だって? シンプルイズベストだよ。

 

 てな訳でそんなハーフモードでやって来ているのだ。

 この姿ではさすがに車は使えないので、最寄り駅から電車に乗って県北から県央へとやって来た。

 

 そして今の格好は黒いパーカーのあれだ。

 

 それで何でこの姿でわざわざ人の多い場所に来たのか……ラビのせいである。ハーフモードで人前に出る事に慣れろとか言う無茶ぶりを言い出してきよった。

 肝心な時に話せなかったり、緊張したり、恥ずかしがってしまったりすると挙動不審で変な目を向けられてしまうので、前もって慣れろと。

 

 因みに銀色の髪と言うのは非常に目立つので、ハーフモードでの髪色は黒としてる。長さは同じでロングな感じ。

 

「はあ」

 

 ラビはと言うと、兎のぬいぐるみとなってバックパックの中に居る。ラビの姿が見えないって事はなく、普通に他の人に見える。

 なので、ラビの身体がぬいぐるみっぽいのでぬいぐるみとして扱えば不審がられないだろう。

 

「でも久しぶりに来た」

 

 結構長い事来てなかったけど、お客は多い。流石は有名なショッピングモールである。

 エスカレーターを使って一階から二階へ、そしてまた乗って二階から三階へ。無難に本屋さんにでも行くかと思い、三階にある書店へ向かってる最中だ。

 こういう所の書店って大体三階にあるよねー……。

 

「ここ広いわね」

「ん。昔増設されたこともあって多分県内では一番大きい」

 

 増設って言うのもあって、県内じゃ一番大きい所だと思う。どうでも良いけど立体駐車場は俺は好きじゃない……今回は電車だがな。

 

「あった」

 

 目的の書店に辿り着いたので、早速中へ。ライトノベルやら漫画やら、参考書やら色々とあるが、俺が向かったのは漫画エリア。

 これでもアニメとかライトノベルとかも読む方だと思ってる。見渡す限り、立ち読みしてる人はそこそこ居るな。

 

 適当に気になった漫画を手に取り、中を開いてみる。こんな姿だけど、こういう日常って言うのも良いよな。

 平穏が一番……魔物もいつ居なくなることやら。今もどこかで魔物は出現してるんだろうなあ……。

 

 そんな事を思ってると、俺の変身デバイスも警報を鳴らし始めた。あれ、俺何処かでフラグ建てた……?

 館内にもアラームが鳴り響く。これは魔物の出現や接近を知らせる警報だ。色んな場所に設置され、避難誘導を行う感じだ。

 

「司!」

「ん、分かってる」

 

 モール内の人々が小走りやら走りやらで、避難していくのを見つつ近くの場所に隠れる。

 抑えている魔力を開放し、体全体に回すようにすればたちまち俺の姿は魔法少女リュネール・エトワールとなる。

 変身キーワードを使う必要がないので、変身する手間が省ける点ではこのハーフモードは良いのかもしれない。

 

 姿を見えないようにした後、素早くショッピングモールの外へ出る。大きく飛び上がり、屋上へ着地し魔物を見やる。

 距離はまだ離れているがこちらに侵攻中。でかいカタツムリのような魔物だな。

 

「あれは……」

「既に一人魔法少女が駆け付けてるわね。あら、あれはホワイトリリーじゃない?」

「うん、多分そう」

 

 以前に見た事のある衣装を纏ったSクラスの魔法少女ホワイトリリーがそのカタツムリな魔物を食い止めていた。

 

「これならわたし必要ない?」

「かもしれないわね……でも一応様子を見ときましょ」

 

 相変わらず、Sクラスって事だけあって動きも俊敏だ。真っ白な白百合の花弁を召喚して放ったり、放った花弁から伸びた線がホワイトリリーまで伸びていて、それを持って動かすと、放った花弁も動きを変える。

 

「ハンマー投げみたいね」

「うん」

 

 実戦経験の数も違うのだろう。

 流石と言った感じだけど、カタツムリの魔物は自分の殻に身体をひっこめたっぽい。

 

「効いてない?」

「ええ多分……あいつの殻は相当硬そうね」

「推定脅威度は?」

「うーん、本体自体はBくらいだと思うけど、Sクラスの魔法少女の攻撃を防いでるあの殻は厄介ね。硬さだけならSあるんじゃないかしら」

 

 今度は魔物はスピン攻撃みたいなの繰り出す。ホワイトリリーも慌てて避ける。何度か攻撃してるみたいだけど、殻には傷一つない。

 

「加勢した方が良いかな」

「あのままじゃジリ貧になりそうね」

 

 それならまあ、加勢するとしようか。

 俺は再び高く飛び上がり、ホワイトリリーとカタツムリの魔物が居る場所へと向かうのだった。

 

 

 




本作のメインヒロイン(?)のホワイトリリーさん登場です。
……既に別の話でちらっと出て来ましたけどね!


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Act.09:ショッピングモールのTS魔法少女②

反省はしている、後悔はしていない!


 

「あの殻、硬すぎませんか……」

 

 県央に出現した脅威度Bの魔物相手に私は少し手こずっていました。最初は攻撃がそこそこ通っていたのですが、ある程度ダメージを与えた所で殻に籠ってしまったのです。

 カタツムリの殻は硬いと聞きますが、これは流石に硬すぎではないでしょうかね。

 

「リリーショット!」

 

 ステッキを魔物に向け、キーワードを紡ぎます。

 白色の魔法陣からいくつもの、白百合の花弁が召喚され魔物をめがけて飛んでいきます。

 

 しかし、当たったのは良いのですが、殻には傷一つありません。これが脅威度Bってちょっとおかしくないですかね。

 

「きゃ!?」

 

 魔物は今度は殻に籠りながら、高速に回転させこちらに迫ってきます。あまりにも早かったのでちょっと慌てましたよ。

 

「って、そんなのありですかっ?!」

 

 避けたと思ったら、殻の中から何本かの触手が出てきて、私に襲い掛かってきます。

 

「リリーバリア!」

 

 襲ってくる触手を避けていきます。回避しきれない物についてはバリアで対応します。カタツムリが触手を出すなんておかしいですよ!!

 

 ……いえ、相手はカタツムリではなくそれに似た形をしているだけで魔物なのですけどね。

 

「しまっ!! うっ!?」

 

 少しできてしまった隙を狙われ、一本に触手に足を絡めとられました。いやです、気持ち悪いです!

 他の触手も引き続き私に迫って来て、両手と、もう片方の足も拘束されてしまい、逃れようと動きますが、びくともしませんね。

 更に残った一本がわたしの口の中に……うえ。まずいです、まずいですよこれ!!

 

「んー!! んー!」

 

 こいつ、魔法を使わせないようにしてますね。

 キーワードが出せないと魔法が使えませんし、どうしましょう。いや本当に……。誰か助けてください!

 

「スターシュート!」

 

 刹那。

 魔物が大爆発しました。かなりの威力のようで、魔物もひとたまりもなかったのか、触手の力が緩みました。今がチャンスですね!

 

 身体を強く動かせば、さっきまでびくともしなかった触手より抜けることに成功しました。

 

「ケホッケホッ」

 

 まだ口の中に感触がありますね。

 

「大丈夫?」

「何とか……有難うございます」

「良かった」

 

 あの爆発を引き起こした張本人……その子は話題の星月の魔法少女でした。以前見た時よりも、直ぐ間近です。

 噂通り、魔法少女としての衣装には星や月の絵が描かれていました。綺麗な銀髪に金色の瞳、瞳の中には星のようなものが見えます。

 

「あれやっちゃっていい?」

「お願いします……今ちょっと疲れてしまったので」

「分かった」

 

 そう言って魔物に向かっていく噂の少女。実際話すのは初めてですけど、言葉数が少ない女の子、そんな感じですかね?

 年はやっぱり私と同じくらいな感じがします。断言はできませんが……しばらくして、カタツムリ魔物が動き出しました。

 

「……凄いです」

 

 私の攻撃では傷一つ付けられなかった殻には大きなひびが出来ていました。それでもひびが入った程度なので、やっぱり硬すぎませんかね。

 魔物も魔物で殻に傷をつけられて、驚いたのか顔を出しました。どうやら私ではなく彼女にヘイトが向いたみたいですね。

 

 噂の魔法少女と魔物の戦いを私はただ眺める事しかできません。

 

 

 

 

 

 

 

「硬い」

「あなたの魔法でも一発破壊は出来ないみたいね」

 

 俺が駆け付けると、ホワイトリリーが触手に拘束されていて何だこれと思ってしまった。いやね? 現実で触手プレイとか見る羽目になるとは思わなかったぞ。

 俺は慌ててスターシュートをカタツムリの魔物に飛ばし、爆発。効果はあったみたいで、触手から逃れたホワイトリリーは地面へ。

 

 取り合えずあの魔物は倒していいとホワイトリリーに許可をいただいたので、やるしかない。

 

「スターシュート!」

 

 ドカーン。

 もう慣れた爆発が起こり、更にひびが入る。むう、二発でも壊せないか……別の魔法の方が良いか。

 

「なら……ちょっと痛いのをお見舞いする!」

 

 俺はステッキを高く掲げる。

 虚空に浮かぶ無数の星々よ、魔を砕く星となれ――

 

「メテオスターフォール!!」

 

 天高くに展開された魔法陣が輝きだし、そして無数の光を落とす。否……光ではなく、これは星……隕石だ。

 実戦で使うのはこれが一応初めてだ。範囲が広くてぶっちゃけ戦略兵器と言ってもおかしくない魔法なのだが、範囲を縮小させて魔物一点に集中させてる。

 

 落ち行く星々は意思を持ってるかのように、カタツムリの魔物へと飛んでいく。その数は俺でも分からない。

 無数の星に貫かれ、星が止むと、そこに残ったのは魔物の魔石のみだった。殻が硬過ぎたカタツムリの魔物は星の中倒されたのだった。

 

「大分疲れた」

「あんな魔法使えばそりゃそうよ。それにしてもやっぱりあなたおかしいわ」

「酷い言われよう」

 

 あ、そうだ! ホワイトリリーは大丈夫かな。慌てて彼女がいるだろう場所に目を向ける。良かった大丈夫そうだ。

 

「凄い、です」

「そう?」

 

 呆けた様子で魔物が居た場所を見ながらホワイトリリーは呟く。

 

「どうして、そんなに強いのですか?」

「分からない」

「そうですか……」

 

 どうして強い、か。

 正直なところ俺も謎が多すぎて分かってない。男でありながら魔力量が異常であり、覚醒……魔法少女としての力もそれに比例して強力だったし。

 

「あの……星月の魔法少女」

「リュネール・エトワール」

「え?」

「わたしの名前。リュネール・エトワール」

「リュネール・エトワールさん……」

「ん。呼び捨てで良い」

「リュネール・エトワール……はい、覚えました」

 

 その星月の魔法少女って言うのはちょっと恥ずかしいから、この際だ、名前を教えておこう。そう言えば魔法少女名を考えたは良いが、実際名乗るのは初めてかもしれない。

 

「立てる?」

「はい。さっきの魔法凄かったです」

「それほどでも」

 

 ぶっつけ本番だったというのは内緒だ。

 今までの練習や、積み重ねられた実戦経験の賜物と言っても良いかもしれない。でも、やっぱりあれは強すぎるよな……うん、どうしようもないとき以外は使わないようにしよう。

 それに消費する魔力もかなり大きいしねあれ。

 

「知ってると思いますが、私はホワイトリリーです」

「ん。知ってる。茨城地域の最強魔法少女」

 

 茨城地域のSクラスの魔法少女だ。知らないはずがない。

 

「最強と言うのは私にはまだ相応しくありません。こんな様でしたし」

「誰でも失敗はある」

「……そうですね。改めて、助けて頂きありがとうございます」

「ん。ヒール」

「え?」

「念の為」

 

 見た感じでは大丈夫そうだが、念の為に回復魔法をかけてあげる。ホワイトリリーの身体が淡く光ったところで終了だ。

 

「回復までできるんですね……」

「一応」

「そうですか」

 

 それにしても、ホワイトリリーは随分と大人っぽい雰囲気を感じさせる。やはりSクラスと言うのがあるからだろうか。

 

「じゃ、わたしはそろそろ行く。魔石は好きにして良いよ」

「あ……」

 

 軽くホワイトリリーの頭をポンポンと撫でてあげた後、俺はその場を後にする。

 最後何か言いたそうにしてた気がするが、気のせいと思って去るのだった。

 

 魔石については今回はホワイトリリーにあげよう。それに最初戦ってたのは彼女だし。

 

 

 

 

 

 

「あ……」

 

 撫でられました。でも、嫌な気はしません。むしろ、もっとして欲しいと思ってしまいました。まだ若干残る温もりを感じます。

 

 トクン。

 

 何なんでしょうかこの不思議な気持ちは。実際話すのも面と向かって会うのも今回が初めてです。ですが、何かこう落ち着きません。

 

 また……話が出来たらいいな、と思います。

 

「リュネール・エトワール……」

 

 彼女はそう名乗りました。

 何というか、不思議な感じがしますね。英語でもなさそうですし……でも、良い名前だと思います。

 

「……報告しないといけませんね」

 

 私は不思議な気持ちの正体が分からないまま、魔法省に帰還するのでした。

 

 




メインヒロインですし、調子乗りました。反省はしていますが、後悔はしてませぬ……。



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Act.10:エピローグ

1章のエピローグみたいなものとなります。


 

 

「リュネール・エトワール……」

「はい。彼女はそう名乗ってくれました」

 

 私こと北条茜(ほうじょうあかね)は雪菜こと、魔法少女ホワイトリリーの報告を聞いていた。

 水戸市にある某有名なショッピングモールの近くで魔物の出現を感知し、偶々一番近くを見回っていたホワイトリリーが向かったのだ。

 

「やっぱりあったわね……切り札」

「そうですね。あれは……強力で綺麗でもありました。ただあれが彼女の切り札かは分かりませんが」

「そうねぇ……」

 

 魔法少女リュネール・エトワール。

 巷では星月の魔法少女と呼ばれている、謎が多い野良の魔法少女。そんな彼女の名前が今判明したのである。

 そして、今回出現した魔物……大きなカタツムリのようなものだったが、脅威度はB判定。しかし、殻の硬さは常軌を逸する物だった。

 ホワイトリリーの攻撃も全く通らず、傷も付けられなかったそうだ。

 

 これにはホワイトリリーも苦戦し、最終的にはピンチに陥ったところ、件の魔法少女リュネール・エトワールがやって来て、助けてくれたそうだ。

 

 そんな彼女の星を撃つ魔法ですら、ひびを入れられる程度だったみたいね。

 脅威度は魔物が出現した場合に発生する、瘴気のエネルギーや魔力からコンピューターが演算し、過去のパターンを探り、推測される物なので、ぶっちゃけ絶対とは言えないのだ。

 

 今回のカタツムリの魔物は演算上では脅威度B判定だった、と言う事。一度出現して倒された魔物ならデータが残っているが、今回のは新手のようだった。

 

「星を降らす魔法……」

 

 今回の件で特に気になったのはリュネール・エトワールの新たな魔法だ。報告を聞いた限りでは、空から無数の星を降り注がせるという戦略魔法と言わざるを得ないものだった。

 範囲は広く、更に全ての星が意思を持ってると言わんばかりに魔物目がけてホーミングしていたそうだ。

 

 ――もし、一つ一つの星をリュネール・エトワールが操れていたら?

 

 魔法の特性で追尾するのならまだしも、仮に全ての星を彼女が操作していたら、真面目に規格外……それこそもうLクラスの魔法少女級ではないだろうか。

 

 それを考えるとぞっとする。Lクラスとなれば、国一つを単体で壊せてしまう。今回彼女の使用した魔法……あれがもっと範囲を広げられるなら――

 

「末恐ろしいわね」

「何か言いましたか、茜さん」

「いえ、何でもないわ」

 

 この星を降らす魔法が彼女の切り札なのかしら? いえ……何となくではあるけど、他にも魔法を使ってないだけで使える強力な魔法がありそうな、そんな気がする。

 

 とにかく、魔法少女リュネール・エトワール。

 彼女は頼もしくもあるが、その反面要注意人物でもあるだろう。これはもっと慎重になった方が良いかも知れないわね。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「はあ……」

 

 何故でしょう。ため息が出てしまいました。

 

「どったの雪菜」

冬菜(ふゆな)ですか。……いえ、ちょっと」

 

 そんな私に声をかけてくるのは、双子の妹の冬菜でした。私にも分からないんですよね……何故か出てしまいました。

 

「雪菜がそんな深いため息するなんて珍しいね。何かあった? 相談に乗るよ!」

「ありがとうございます。良く分からないのですが……」

 

 話をしながら冬菜を見ます。

 私たちは一卵性双生児である為、見た目が非常にそっくりです。と言っても、性格は何というか、反対っぽくなりましたが。

 ただ、冬菜の方は魔法少女としては覚醒していません。10代前半が多いみたいですが、全員が全員覚醒をする訳ではないのです。

 私と冬菜は今年で13歳を迎えます。今は中学生ですが魔法少女である以上、魔物が出た時は対応しないといけません。

 

「ふむふむ。雪菜はそのリュネール・エトワールと言う魔法少女の事を考えると、そうなると」

「何でしょうかこれ。なんかこう、変な気分になるんですよね」

 

 魔法少女リュネール・エトワール。

 この前、ショッピングモール近くに魔物が出現した時、助けてくれた少女です。いえ、話だけなら前から聞いていました。それに、遠目ですがこの目でも見た事ありますしね。

 

 カタツムリの魔物の触手に捕まり、何も出来ない状態は今でもちょっと怖かったですね。大分、落ち着いてきましたが。

 

「吊り橋効果かー」

「え?」

「何でもなーい。とにかく、雪菜はその子に助けられて撫でられて……ドキドキしたと」

「ドキドキ、はしてませんが……」

「似たような物よー。だって、その子のこと思い浮かべるとため息が出る。そして気付いてないかもだけど、話してる間……雪菜さ顔がちょっと赤かったよ」

「ふえ!?」

 

 あの時、助けてくれたのは本当に感謝しています。あのままだったら……と考えると、ぞっとしますね。

 

「まー何となく分かった」

「それはどういう……」

「ふっふっふ! 雪菜、ずばり君はその子に恋をしている!」

「っ!?」

 

 カァっと顔が赤くなるのを感じます。

 あれおかしいですね……さっきまでは何とも感じなかったのですが、急に恥ずかしく……。

 

「で、でも彼女は同性ですよ!?」

「恋に性別なんて関係ないよ、雪菜」

「……」

 

 恋、ですか。

 まさか私の初恋が同じ魔法少女って何ですかね。でも確かに、そう考えると何だか納得してしまいました。

 

 ただ助けてもらっただけなのに……私って単純だったりするんですかね。Sクラスの魔法少女として、恥じないようにしてきたつもりですが……。

 

「まあ、恋っていきなり始まる物だしねー」

「ふ、冬菜は居るんですか、好きな人」

 

 これ以上話すと、おかしくなりそうだったので話を変えます。多少強引ですが致し方ありません!

 

「居るよ」

「えっ?」

「誰だと思う?」

 

 誰でしょうか。

 冬菜の性格なら色んな人とコミュニケーション取れてますので、候補が多いですね。学級委員長とかですかね?

 

「えっと、分かりません」

「もう、雪菜ったら! こんなにも見てるのに!」

 

 そんな冬菜は私の事を見て言ってきます。え?

 

「私は雪菜が好きなのです」

「ええ!?」

「勿論、魔法少女ホワイトリリーとしてもね。だから雪菜が恋してしまったから妬けてる」

 

 ええ……冬菜が私を、ですか。冗談かと思ったのですが、一瞬だけした表情がちょっと引っ掛かります。

 

「冬菜……」

「冗談だよ、冗談。私は雪菜の恋を応援するよ」

 

 その後は、何事もなかったかのように元通りになった冬菜でした。

 

 本当に冗談だったのでしょうか?

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「はあ、疲れた」

「お疲れ様~」

 

 カタツムリの魔物を倒してからホワイトリリーと少し会話した後、家に戻ってきていた。

 魔物の出現で電車は一時的に止まってしまってたので、魔法少女としての力を使って屋根とかを移動して帰ってきた感じだ。

 魔法少女の身体能力はやっぱり強くて、結構距離があったのにも関わらず30分もかからずに家に着いてしまった。因みに姿は見えないようにしてた。

 

「ショッピングモールに行った意味……」

「魔物が出てきたから仕方ないわね。それに、何か買うつもりだったの?」

「特に買う物はなかったけどな。強いて言えばゲーセン行きたかった」

「また今度行ければ良いわね。勿論、リュネール・エトワールのハーフモードでね!」

「ええ……」

 

 実際、今日はハーフモードで電車乗ってショッピングモールまで足を伸ばしたが、割とどうにでもなるもんだなって思ったわ。

 

「そう言えば魔石は回収しなくて良かったの?」

「ん? まあ、あれはホワイトリリーが最初戦ってたんだから、良いかなって。それに俺は既にいくつか持ってる訳だしな」

「それもそうね……」

 

 最初から最後まで相手した魔物の魔石だけ貰うようにしている。横取りって言われても困るし、魔石には困ってない。

 

「にしても、俺がショッピングモールに居た時に魔物が現れたよな……やっぱり俺のせいか?」

「うーん……それに関しては今の所何とも言えないわ。今日の魔物出現は偶然っていう可能性もある訳だしね」

 

 それなら良いのだが……仮に俺が原因であるならば、どうするべきだろうか。

 魔物を倒すというのはもう確定だが、この場合だと俺のいる場所には魔物が出るって事になる。

 要するに何処へ行こうとも、魔物が出現する。どうしようもない状態だ。あまり考えたくはないが……。

 

「イマイチ、魔物はよく分からんな。……これ言ったの何度目だろ」

「それは誰にも分かってないわ。一説では世界中の負の感情が魔物を生み出している原因っていうのもあるわ」

「負の感情、か」

 

 負の感情は表に出してないだけで、誰もが心に持っていると俺は思う。それが原因ならば、この戦いに実質終わりがないと言える。

 

「それだと、実質終わりがない戦いになるな」

「ええそうね……」

 

 俺も……今は何も思ってないが、もしかすると心の何処かにはあるかもしれないな。

 その点についても、気をつけよう。気づけないかも知れないが、そう思っておくこと自体に意味があると思いたい。

 

 

 




これにて一章『爆誕?! イレギュラーなTS魔法少女!』は終わりになります。


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Act.XX:データVer.1.0

※これはデータベースのようなものです。見なくても問題はありません。
※主人公の変身後の姿、リュネール・エトワールのイメージイラストがあります。(とある方に描いて頂きました)





□プロフィール

名前:如月 司

読み:きさらぎ つかさ

性別:男性

年齢:27歳

身長:167.2cm

誕生日:11月15日

備考:

本作の主人公。

宝くじで1億円を当て、絶賛ニート生活を満喫している男。

両親は他界しており、唯一の血縁は妹のみ。

突然目の前に現れたラビとの出会いで、魔法少女となってしまった。

しかもかなり強い。

 

黒髪の短髪、黒目で、特に何もしてない、何処にでもいるような青年(自称おっさん)

 

□プロフィール

名前:リュネール・エトワール

推定魔法少女クラス:S

身長:153.0cm

変身キーワード:「――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

備考:

主人公、如月司が魔法少女に変身した時の姿。

姿も性別も変わってしまい、身長も10cm以上小さくなっているが、極めて強力

な魔法を扱う魔法少女。

 

髪は基本は銀色だが、青が若干混ざり上から下へとグラデーションとなっている。

目の色は金色で、瞳の中には星がある……キラキラ目。なお言うほどキラキラはしてない。

ラビがすっぽり収まる位のとんがり帽子が特徴。

 

衣装としては

頭には魔女っ娘が良く被ってそうな黒いとんがり帽子に、赤いリボンが付いている。帽子の方には三日月のような絵が、リボンには星が描かれている。

白と青を基調としたマントにノースリーブのセーラーワンピーススタイル。

マントは留める所には星のエンブレムのような物があり、セーラーワンピースの方は胸元に赤いリボンが可愛らしく付いていて、スカートの裾には青と水色が使われたフリルがあしらわれている。

手には紺色のシュシュ。このシュシュにも小さいながら星の絵が描かれている。

足はと言えば、黒いタイツに襟付きの白いショートブーツ。タイツには三日月の絵が白く描かれ、ショートブーツの方には水色で星が描かれている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

※とある方に描いて頂きました!

 

□使用する魔法(現段階で登場している物)

Magic-No.01:スターシュート

魔法キーワード:「スターシュート」

星を放つ。追尾機能付き。威力はヒットすると爆発を起こす。脅威度A以下なら基本ワンパン。

 

Magic-No.02:メテオスターフォール

魔法キーワード:「メテオスターフォール」

虚空より無数の星を呼び出し、空高くから降り注がせる広範囲魔法。

範囲の調節可能。ターゲットを定めれば全ての星がターゲットへと飛んでいく。

 

Magic-No.03:ハイド

魔法キーワード:「ハイド」

自身の姿を闇夜に溶かす。(見えないようになる)

発動中は常に魔力が消費される。

 

Magic-No.04:グラビティアップ

魔法キーワード:「グラビティアップ」

対象または、一定範囲に重力を加重する。

 

□プロフィール

名前:ラビ

性別:不明

年齢:不明

身長:不明

誕生日:不明

備考:

主人公である司を魔法少女にした妖精。

見た目は兎のぬいるぐるみで、性別は不明だが、女性口調で喋る。

身体能力は謎パワーで浮いたりできる。その為、リュネール・エトワールについていける。

基本は人目に付かないようにする為、リュネール・エトワールのとんがり帽子の中に居たりする。

 

特殊能力(?)としてラビレーダー(主人公命名)と言う物を持っていて、一定範囲の魔法少女や魔物が居る場所を特定できる。

なお、特定できるのは魔法少女か魔物かだけであり、魔法少女の場合どの魔法少女かまでは分からない。魔物の場合はその魔力や瘴気から推定脅威度を出せる。

 

※この命名の話が出るのは二章ですが、先に出しておきます。何故ラビが魔物とか魔法少女が来ることを分かるのか、疑問に思ってる方々の為。ネタバレと言えばネタバレかもしれないですが、物語の重大なネタバレにはなりません。

 

 

□プロフィール

名前:白百合 雪菜

読み:しらゆり ゆきな

性別:女性

年齢:13歳

身長:149.5cm

誕生日:12月12日

備考:

本作のメインヒロイン(予定)

黒髪でちょっと肩にかかる程度。目の色は黒。

 

基本的に丁寧語を話す、大人びた少女。

双子の妹が居る。

リュネール・エトワールと会ってから少し変わった。

彼女に対して恋をしている様子……果たしてどうなるやら?

 

□プロフィール

名前:ホワイトリリー

魔法少女クラス:S

身長:150.0cm

変身キーワード:「???」

備考:

白百合雪菜が魔法少女に変身した時の姿。

魔法省茨城地域支部所属Sクラス魔法少女。

身長が微妙に0.5cm伸びてる。

 

桜色の髪をサイドで結び、白のグラデーションが上から下へかかってる。

実際の髪の長さは変身前と同じくらいで、目の色は髪色と同じで桜色。

白百合の髪飾りが特徴。

 

衣装としては

胸元は少し開けている、白百合色を基調としたフリル付きの長袖ワンピースに、首には白百合の花を象ったリボンチョーカー(フリル付き)、そして足には膝上まで来る白いニーソックスに、白百合の花が描かれたショートブーツ。

ニーソックスにも白百合の花の絵が描かれている。

サイドテールに結んでいる紐にも、花のデザインがなされている。

 

□使用する魔法(現段階で登場している物)

Magic-No.01:リリーショット

魔法キーワード:「リリーショット」

白百合の花弁を魔力で作成し、飛ばす。

数も増やすことも可能で、それぞれの花弁を操る事もできる。

放たれた花弁は、ロープのような物でホワイトリリーのステッキと繋がってるので、ぶん回したりすることもできる。

 

Magic-No.02:リリーバリア

魔法キーワード:「リリーバリア」

目の前に白百合の花弁を召喚し、攻撃を吸収する。

大きさを変える事も可能。

 

 

 

□共通魔法

No.01:反転領域展開

魔法キーワード:「エクスパンション」

反転世界に入る為の魔法。魔法少女毎に別空間が生まれる。

 

No.02:反転領域解除

魔法キーワード:「リベレーション」

反転世界から現実世界へ戻る為の魔法。

 

No.03:変身解除

魔法キーワード:「リリース」

変身状態を解除する魔法。

 

 

□その他の人物(現段階)□

 

北条茜(ほうじょうあかね)

→魔法省茨城地域支部長

 

・???/ブルーサファイア

→魔法省茨城地域支部所属Bクラス魔法少女

 

白百合冬菜(しらゆりふゆな)

→白百合雪菜/ホワイトリリーの双子の妹

→雪菜の事が好きらしい?

 

・???

→如月司/リュネール・エトワールの妹

→兄妹仲は良好




衣装描写に乏しい作者なので、これが限界です。
せめてものイメージの元になればな、と思います。大体こんな感じです。


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第二章『魔法少女を襲撃する者』
Act.01:不穏な噂①


「大分、気温が下がってきたわね」

「だな。そろそろ本格的に冬に入るしな」

 

 現在は11月。本格的に冬が始まる月だ。外に出ればもう、一瞬で分かるほど気温が低くなっていた。

 

 年末というものも近付いてくるこの季節。

 相変わらず、魔物はあっちこっちで出現しては世間を騒がせている。ただ幸いなのが、増加傾向だった魔物の数が停滞状態になった事だろう。

 このまま増えていくのかと思いきや、停滞状態となった。地域によっては少し数が減ったと言う所もあるらしい。

 

「魔物も微妙に落ち着いてるよな……」

「そうねえ……9月が異常だったのよ」

 

 俺が魔法少女となってから約二ヶ月。リュネール・エトワールとしても、かなり慣れてきたと思ってる。

 ハーフモードも慣れた物で、普通に出かけるくらいは出来る。ただ無口設定で有るため、人とはあまり会話してない。する相手も居ないしな……おいそこ、ボッチじゃないぞ。

 

「魔物にも冬眠があったりしてな」

「冬眠ね……一部の魔物はそうかも知れないわね」

「え、そうなのか?」

「魔物って、姿形は動物に近いから、それに似た習性があっても可笑しくはないわ」

「ほー……」

 

 そう言えば最近、ホワイトリリーと出会う事が増えた。出会う事自体はもう慣れたから良いのだが、時々彼女から熱い視線を感じる事があるんだよな……。

 何か顔が赤い時もあって、調子が悪いのかね? 魔法少女とは言え、変身しなければ普通の少女なのだ。そっちの身体で不調が出てしまえば、変身後にも影響が出してしまうだろうし、無理しないで欲しいな。

 

「そう言えばさ、最近魔法少女が襲われるっていう事件が結構あるみたいなんだが、何か分かるか?」

「魔法少女を襲う? 力の差があるのに?」

「詳しくは分からん。最近、ホワイトリリーから聞いた事なんだけどな」

 

 小耳に挟んだだけなのだが、最近魔法少女が襲撃されるという事件が何件か立て続けに起きているみたいなのだ。

 変身前なら分かるが、変身後の姿の少女を襲うというのはちょっと考えられない。魔力という装甲があるのに、無謀すぎる気がする。

 

「何か一般人に成りすまして、近付いてきた魔法少女を刺すそうだ」

「刺されるって……」

「何か良く分からないが、黒い短剣のようなものでこう、サクッと。で、刺された魔法少女はその場で力なく倒れるんだってよ。ただ命に別条はないみたい」

 

 実際刺された魔法少女も、次の日には回復していて普通に活動できているみたいなのだ。

 

「そんな倒れた魔法少女に犯人は特に何もせず、そのままその場から消えるみたい」

「なにそれ」

「さあ? でもホワイトリリーが言ってたから実際に起きてるみたいなんだよな」

「目的が分からないわね」

「本当にな」

 

 黒い短剣という物が謎すぎる。

 刺されると力を失って倒れる? 何か特殊な力がその短剣にはあるという事くらいしか予想できないな。

 

「でも何かしらね。その黒い短剣……嫌な予感がするわ」

「嫌な予感は当たりやすいんだよなあ……俺も見回りをちょっと強化するか」

「それが良いわね。でも、良いの? 魔法少女たちと会う確率が今まで以上に上がるわよ」

「そこは承知の上だ」

 

 魔物ではない、魔法少女を襲う存在。何が目的なんだか知らないが……女の子たちを傷つけて良い理由なんて無いしな。

 幸い、命に別条はないとは言え、力を失って倒れてしまうというのは凄い気になる。俺が刺された場合も同じ事が起きる可能性もあるしな。

 

 少し気を引き締めるとするか。

 

「と言っても、今すぐ何が出来るというわけじゃないがな」

 

 俺は魔法省には所属してないし、実際のところは不明。かと言って、ホワイトリリーが嘘付いてるようにも見えないから、起きたという事にしておく。

 

「実際その場を目撃しないと、何も分からないしね」

 

 ラビの言葉に同意する。

 しかし……やはりその黒い短剣は危険な臭いがプンプンするぞ。そしてそれを使ってた一般人に装ってた男もな。

 

「――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

『SYSTEM CALL "CHANGE" KEYWORD,OK――LA LUNE ET L'ETOILE――』

 

 ふわっと白い光に包まれ、意識は俺からわたしへと変わる。あくまで、表と言うか建前上だけど。

 

『SYSTEM CALL "CHANGE" SUCCESS!!――GO!』

 

「いきなり変身なんかしてどうしたのよ」

「ん。これから少し回る」

「またいきなりねー、良いわ、行きましょ」

 

 そう言ってラビは俺の肩に乗ってくる。この家に魔法少女が住んでると思われるのも面倒なので、姿を消してから窓から飛び出す。

 その後はすぐに解除する。何て言えば良いか、こうサァっと消えてスゥっと出現する感じ。

 実はこの姿を消す魔法、消してる間は魔力を消費するんだよな。あまり長時間は使ってられないのだ。

 なので、使い所は結構少なかったりする。まあ、咄嗟に姿を消せるから便利と言えば便利。魔力が無いと当然発動しないけどな。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「確かここだったかな」

「何が?」

「襲撃があった場所」

 

 魔法少女が襲われたという場所。この一か所しか聞いてないが、他の場所もあるのかもしれない。

 人気(ひとけ)がある場所から少し離れた川原。この近くで魔物が発生し、数名の魔法少女が駆け付けたが、一人が件の男を発見。

 一人の魔法少女が逃げ遅れたのだと思い、近づいたところで刺されたと言う事だ。その後、男は逃走、魔法少女が追いかけるが見失う。

 

「魔法少女の速さを撒けるとは思えないわよね」

 

 魔法少女は超人並みに強化された身体能力がある。勿論、それは走る速さも含まれるはずだ。それを撒けるとは、確かに思えない。

 

「転移、とか?」

「転移魔法……確かにそれなら見逃すのは納得だけど、でもそれだと男は魔法が使えるって事になるわよ」

「確かに」

 

 俺が実例ではあるが、その男は別に変身とかしてないようだ。なのに魔法が使える……と言うのは確かにちょっと考えにくいな。

 

「でも、魔法が使える存在がバックに居る可能性もあるわね。無いと思いたいけど」

「魔法少女が、敵?」

「分からないわよ。でもその可能性もあるって事」

 

 男が魔法を使うのがおかしいと思うなら、その男の後ろに魔法少女が居たらどうか。予め計画を立てて、その見失った場所に来たら魔法少女が転移させる。

 

 何度も言うが、魔法少女の力は強力だ。

 そして魔法省に所属する義務がない。所属しないなら基本は普通の日常に戻るが、中には悪意に使う魔法少女もいる、と言うか過去に少ないながら実例がある。

 

「ラビなら魔法少女の場所特定、出来ない?」

「無理ね。私の場合は自分から一定の範囲内に居る魔物や魔法少女が分かるってだけで、実際見ないとそれがどの魔法少女かまでは分からないわ。それに魔法少女の場合は変身して無いと感知できないし。まあ、近付けば何となくは分かるけどね」

「そっか」

 

 ラビレーダー(勝手に命名)では、一定範囲内の魔法少女がどの場所に居るかという事は分かるが、その魔法少女が誰なのかまでは分からないらしい。そして変身もしてないと感知も出来ない。

 魔物は常に魔力や瘴気を放出してるから感知しやすいそうだ。

 

 この地域には魔法少女が少なくとも30人は居る。しかしこの30と言う人数は魔法省に所属している魔法少女の人数となる。

 野良などを含めばもっと居るはずだ。そして今はあちこちで魔法少女は活動してるため、ラビレーダーでバックに居る魔法少女を感知するのはちょっと厳しいだろう。

 

 ……それに、まだ後ろに魔法少女が居るという事が確定してる訳じゃないしな。

 

「そんな私からお知らせよ。こっちに近づいてくる魔法少女が居るわよ」

「え?」

「もうすぐ視認できる範囲になるわね。どうする?」

「ん。逃げる……」

「あ、リュネール・エトワール!」

「……」

 

 時すでに遅し。

 声のした方を向けば、そこには魔法少女ホワイトリリーが笑顔でこちらに近付いて来ていたのだった。

 

 



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Act.02:不穏な噂②

「今日も会えましたね」

「ん」

 

 最近のホワイトリリーは何処かおかしい。

 妙に距離が近いし、俺と会うといつも笑顔である。笑顔は良いんだけど、何なんだろうな? 俺何かしたかな? 心当たりはショッピングモールの時に助けたくらいなのだが。

 

「Sクラスの魔法少女が野良に会って良いの?」

「問題ありません。今の所、魔物は居ませんしね。リュネール・エトワールは何をしてるんですか?」

 

 今は魔物が居ないのは確かだ。ホワイトリリーの方はそもそも何をしてるのかと問えば、見回りの強化中だそうだ。魔物の警戒は勿論、この前の魔法少女襲撃の事件もあったからみたいだ。

 

「ここって魔法少女が襲撃された場所ですよね」

「ん。ちょっと色々調べてた」

 

 手がかりと言う手掛かりはないのが現状であるが……。

 

「やっぱりリュネール・エトワールも気になってるんですね」

「一応」

 

 俺も元の姿はあれだが、一応魔法少女である。狙われる可能性は高いし、その短剣も謎が多い。力が抜けるって割と危ないよね。

 

「この前の事件以降、現在までに同様の事は発生してません」

「そういうの言って良いの?」

「はい。別に口外禁止って訳じゃないですし」

 

 まあ、事件についてはニュースや新聞でも既に取り上げられてる所を見ると、箝口令が敷かれている訳でもなさそうだしな。

 

「因みに何件発生した?」

「えっと、5件程度ですね。どの子も同じ感じです。これはあくまでこの茨城地域の件数ですけどね」

 

 この茨城地域以外にも、栃木地域や群馬地域、東京地域とかでも発生してるようだ。件数までは分からないが、複数件は起きていると見て良いかもな。

 犯行手順は同じで、油断して近寄ってきた魔法少女に黒い短剣を刺す、と言う物。他の地域でも出てるとなると、犯人は一人じゃなさそうだなあ。

 

「他地域については分かりかねますけど……この地域だけで起きている訳では無さそうです」

「なるほど。……組織的な何か?」

「多分、ですけどね」

 

 バックに魔法少女がいるとか、組織になっているとか、何だかちょっと話が大きくなってる気がする。どれも信憑性は低いが、現状分かってるだけだとこんな感じになる。

 

 この地域だけで起きてたら起きてたらで、それも中々あれだなと思うけど。

 

「!」

 

 そんな会話をしていると、急にサイレンが鳴り始める。これは……魔物だ。

 

「ラビ」

「ええ。分かってるわ。推定脅威度はBね」

 

 リュネール・エトワールが被ってるとんがり帽子の中にラビは今待機してる。他の魔法少女に見られると面倒だし。

 幸いとんがり帽子は大きいのでラビくらいのサイズならすっぽり収まる。

 

「私は行きますね。また!」

「ん」

 

 サイレンを聞き、ホワイトリリーも素早くその場を去っていく。B程度ならホワイトリリーでどうにかなりそうだが、この前みたいな事が起きないとも限らないので、付いていくことにする。

 勿論、問題なく倒せてるなら俺は手出しはしない。いつものように高く飛び上がって、こっそり? とホワイトリリーの後を付いていくのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「問題無さそう」

「そうね……流石はSクラスの魔法少女」

 

 心配っていうのもあったが、ホワイトリリーは特に何事もなく魔物を捌いていた。今回出現した数は三体で、そのうち一体がBの魔物。

 この前のカタツムリの魔物ではなく、狼のような姿をした魔物だった。普通の魔物よりは小さいが、素早いみたいだ。

 

「また?」

 

 ホワイトリリーの戦ってる光景を見ていると、再び魔物が出現したという警報が鳴り響く。

 

「今度は脅威度Cね。行く?」

「うん」

 

 ここから近いみたいなので、向かうことにする。ホワイトリリーは三体相手にしてるから向かえなさそうだしな。

 

 狼型の魔物が出現した場所からこの身体能力で向かうこと三分程度。警報の原因である魔物を確認する。

 

「あれか」

「ええそうね」

 

 見た所、魔法少女は駆け付けてない様子。という訳で、早速加速して魔物の目の前に近づく。

 すると、あら不思議。進む方向をこちらに変更して来るではないか。これが魔法少女を攻撃するという魔物の特性。

 正確にはその魔力に反応しているようだが……取り敢えず、放置はできないので相手になって貰おう。

 

「トゥインクルスターリボン!」

 

 そこ、名前に笑わない。

 ステッキから一つのリボンのようなものが飛び出す。先端には星のオブジェクトが付いており、それを先頭に魔物へと飛んでいく。

 リボン部分は星と月の描かれた帯だ。何でこう、無駄に星と月の演出が多いのか……可愛いけどさ、俺男だよ?

 

 飛んでいったリボンは目にも留まらぬ速さで魔物を拘束する。グルグル巻きって言えば良いのか? 魔物のグルグル巻きって誰得だ。

 

「それっ」

 

 拘束を確認したら後はステッキを振りかざせば、たちまちリボンの締め付けは強くなり、最終的にリボンと同時に魔物は弾けた。星のエフェクト付きである。

 

「えっぐ」

「うわぁ……」

 

 おい、ラビ引くなや。

 別に俺は星を飛ばす魔法だけじゃないぞ。こういう魔法も使えるのだ。ただ、何かと星と月の主張が激しいのが欠点だろうか。

 

 消滅した魔物の居た場所へ近づき、いつものように魔石を回収する。他の魔法少女の反応がこちらに近付いてきたようなので、そそくさと去る事とする。

 

「また貴女なんですね、リュネール・エトワール……」

「ん?」

 

 魔物が出た場所から離れたはずなのに、何か目の前に魔法少女が居るのだが? ブルーサファイアじゃん。

 

「ブルーサファイア……」

「また会いましたね。貴女の活躍は魔法省でも結構話題になってます。……魔物を倒してくれる事自体は人手不足なので有り難いんですけど、尚更野良でやってる理由が分かりません……」

 

 それは俺の変身前の姿が27歳のおっさんだから……とは言えない。理由はこれ一つなのだが、こればっかりは絶対バレては駄目だ。社会的にも死にそうだ。

 

「ん。こっちにも事情はある」

「分かってます。義務がない以上、私達は貴女を連れて行くことは出来ませんが……一度で良いので、魔法省に来て貰えないでしょうか?」

「何故?」

「それは貴女に助けられた魔法少女たちがお礼を言いたいって言ってるからです。いつも何も言わずに行っちゃうそうじゃないですか」

 

 ……うん。

 確かに魔法少女たちを何度か助けてるのは覚えている。助けたのは良いが、あまり会話はしないようにそそくさとその場を去ってる事も。

 え? ホワイトリリーの時は喋ってたって? いやあれは、声をかけるべきだったし仕方がない。何にせよ、魔法少女との会話は最低限にしたいのだ。

 無口設定とはいえ、ぼろが出ないという絶対的な保証はないのだから。

 

「別に。お礼はいらない」

「本当に一度だけでも良いんですが……とは言え、今回の所は引きます。……でも、感謝しているというのは本当です。なので、気が向いたらで良いので、お願いします」

 

 ペコリと頭を下げるブルーサファイア。

 そう言われてもな……いや本当にね、正体が俺である以上は魔法省にはあまり近付きたくないんだよ……。

 

「ん。気が向いたら」

「はいお願いします。それでは……」

 

 とそれだけ言ってブルーサファイアは去っていくのだった。

 

「先回りされた」

「行動はお見通しって所かしらね。……でも、一度だけなら良いんじゃないの?」

「でも、わたしの正体はバレてはいけない」

「別に変身解除した状態で来てとは言われてないでしょ」

「ん。確かにそうだね」

 

 変身状態でも良いという事ではあるんだろうが、それでもやはり不安が残る。もう少し考えさせて欲しい。

 

「まあ、私はリュネール・エトワールの意思を尊重するわよ」

「ありがとう、ラビ」

 

 俺を魔法少女にしたのがラビで良かったと、改めて思う。まあ、そもそも他の魔法少女にラビみたいな存在が居るのかはわからないが。

 

 その後は特に警報は鳴らず、ラビレーダーにも引っかからなかったが、簡単に県北を見回りした所で、自宅へと帰るのだった。

 

 

 



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Act.03:不穏な噂③

 

「スターライトキャノン!」

 

 両手で前に大きくステッキを振りかざすと、月やら星やらの模様の入った魔法陣が現れ、一筋の光を放つ。

 

「……これ何処に星要素あるの?」

「もう名前にスターとかムーンとか、ルナとかステラとかつければ何でも発動しそうね貴女……」

 

 ここは反転世界の俺の家がある地域だ。練習や試したい魔法があると、ここにやって来ては滅茶苦茶にしてたりする。

 

「まあ、レーザーって光だから、星とか月と関係なくは無さそうね」

「確かに」

 

 月の場合は太陽の光を受けて光ってるだけなのだが。

 星なら、自ら光を放つ恒星と言う物があるので、関係あるっちゃあるんけどな……星と月関係って言っても大分曖昧過ぎるよなあ。

 

「攻撃魔法ばっかり増える……」

「手数は多い方が良いからダメとは言わないけど、他の魔法も試してみない? 重力とかは最近あまり使ってないじゃない」

「重力、か」

 

 そう言えばスターシュートとかで終わるから、他の魔法はあまり使ってないな。重力を操れる魔法とか、強いはずなのだが使ってない……いや、使う機会がない。

 

「グラビティボール!」

 

 そうキーワードを紡ぐとステッキから小さな黒い球体が発射される。速度はそこまで速くない。

 そのまま狙った場所へ飛んでいき、障害物にあたるとそこで静止しバチバチと何か放電する。そして周囲にあった物は凹んだり、あらぬ方向に曲がったり等の現象が発生。

 

「うわあ」

「……」

 

 気づけば球体は消え、残ったのは形が変わってしまったブロックや街灯たちだった。

 

「これも結構えぐい」

「そうね……」

「でも、思ったより範囲は狭い」

 

 範囲は狭いが、その効果は中々えげつない物だった。

 

「ブラックホール!」

 

 がしかし、更に上を行くえぐい魔法を俺は使える。それがこのブラックホールだ。本物の大きさではないと思うが、その吸引力は何もかもを飲み込む。

 発動させた俺本人は何の影響も受けない不思議仕様だが、このブラックホールは設置された場所から一定の範囲にも影響を与える。

 近ければ近い程、重力場が乱れ魔法の中心に引っ張られてしまうのだ。まあ、ブラックホールだからね、当たり前だ。

 

 さらに、これは練習してる内に気付いたのだが、このブラックホールには出口があって、別の魔法を使えばブラックホールで吸い込んだものを吐き出せる。

 

「ホワイトホール!」

 

 すると白いブラックホールが出現する。白いブラックホールって何か変だな。とりあえず、ブラックホールの白バージョンなホールだよ。

 このブラックとホワイトなホールは同時に存在することができる。存在している間は魔力が消費され続けるが思ったよりは少ない。

 

 で、今、二つのホールが存在している状態を見て欲しい。

 ブラックホールで吸い込まれた物が、形はどうであれホワイトホールから吐き出されている。

 

 要するにこの二つの魔法は対になる存在だ。

 ブラックホールは吸い込むが、ホワイトホールはその反対の重力場を発生させる。

 

「これ面白い」

「相変わらず、規格外ねえ……」

 

 失礼な。

 で、何が言いたいのかと言えば、この二つのホールは使えるのではないかと言うことだ。ブラックホールで吸い込んだ物はどういう原理かしばらくの間は残ってる。

 何処にしまってるのか知らないけど、PCでいう一時記録メモリ的な? まあ、そんな訳で何処かで予め吸い込んでおいた物をホワイトホールから発射させるって言う事も出来そう。

 

 とりあえず、同時に二つ存在させてると流石に魔力の減りも速いので一旦どちらも閉じることにする。

 

「これ、魔物も吸い込めるんじゃないの?」

「多分。でも、影響範囲が広い」

 

 この反転世界なら問題ないが、現実世界で使うとなると周囲にある建物やらも影響を絶対受けるだろう。強力ではあるが、そんなほいほいとは使えない。

 

 まだメテオスターフォールの方がマシだと思う。あっちは範囲を狭められるし、狙いを定めればそこに向かって落ちて飛んでいくから。

 

「そう考えると強すぎる魔法も問題ね」

「うん」

 

 だから、魔物相手に使える重力魔法って限られるんだよな。

 魔物にかかる重力を強くして動きを鈍らせたり、或いは自身の身体にかかっている重力を軽減すればふわっと飛べるだろう。

 後はさっきのグラビティボール……あれは範囲も狭いので魔物にぶつければ、魔物だけが影響を受けるかもしれない。

 

 魔法の種類は多いほど良いとは思うが、強過ぎるのは問題なので程ほどかそこそこっていうのがあれば……曖昧過ぎるか。

 

 その後も重力魔法を中心に、練習や試し撃ちをするのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「やっぱり、来たく無さそうなのね」

「はい。理由は本当に不明ですが……」

 

 私はブルーサファイアこと色川蒼(いろかわあおい)の報告を聞いていた。彼女は茨城地域のBクラスの魔法少女で、ホワイトリリーの後輩にあたる少女だ。

 

 報告の内容と言うのは魔物とか、その形態とかについてだが、それ以外にも一つあった。

 それは魔法少女リュネール・エトワールという人物についてだ。野良で活躍をしている、Sクラス以上の力を持つであろう魔法少女。

 

 この前、ホワイトリリーを助けてくれた時には星を降らす魔法を使っていた。今回は何かリボンみたいな物で締め付けて魔物を爆散させていたそうだ。

 

 ――何だそれ。

 

 うん、彼女を普通の魔法少女と見るのはやめた方が良さそうだ。

 

 で、そんな魔法のことではなく……いえ魔法も大事だけど、今回は違う件だ。別に私たちは彼女を強制的に魔法省へ所属させる気はない。

 しかし、この地域の魔法少女たちを少なからず助けてくれてるリュネール・エトワールへお礼をしたかったのだ。

 いつも、何も言わずに去ってしまうので、お礼を言えてない魔法少女が多い。ホワイトリリーは直接言えたようなのだが、何か最近様子がおかしい。

 

 ……問題なく魔物を倒してくれてるし、適度に休息も取ってるみたいなので大丈夫だとは思うが、なんて言えば良いのかしら。何かいつもより明るくなった? 笑顔も心なしか増えてる気がする。

 

 良い事ではあるんだろうけど、うーん。

 

 まあそれはさておき。

 

 そんなリュネール・エトワールだが、うちの魔法少女たちを助けてくれている。本人にはそのつもりは無いのかもしれないけど、それでも助けられた少女は多い。

 野良ではあるが、魔法少女たちからの好感度は高いようだ。それでも、規格外な魔法を扱うので依然要注意人物となっている。

 

 それでも助けられたのは事実なので、この地域を管理する者として、ちゃんとお礼を言いたのよね。でも、全部断られるのよね……。

 

 頑なに魔法省へ来ることを拒む理由は分からない。もしかすると、魔法省が嫌いなのかもしれない。それなら断り続けてるのも理解できる。

 仮にそうだとすると、魔法省と彼女の間で何が起きたのか? って言う事になるんだけど、過去の資料とかを見ても特に関係ありそうな物は無かったのよね。

 

「魔法省との間で何かあったのかな……」

「分からないわね。過去の資料を見ても特にこれと言った物は無かったし」

 

 抹消されている場合はこれに限らないけど。

 

「毎回思うけど、蒼ちゃん。喋り方変えるのは大変じゃない?」

「うっ……それはそうなんだけど」

 

 ブルーサファイアこと蒼ちゃんは、ホワイトリリーの影響か、喋り方がちぐはぐしてる。ブルーサファイア時はホワイトリリーのような口調になる。

 

「ホワイトリリーの影響かしらね……あの子、異様に大人っぽかったし。今は何かあったのか、結構子供っぽい所を見せることが増えた気がするけど」

「あ、それは私も思ってました」

 

 何か良い事でもあったのかしら。

 リュネール・エトワールに助けられたときから……リュネール・エトワールとの間に何かあったという所までは何となく分かるけど……。

 

 まあ、本人が楽しそうならそれで良いんだけどね。

 

 私は引き続き、野良の魔法少女であるリュネール・エトワールの事を考えるのだった。

 

 

 



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Act.04:ブルーサファイアとリュネール・エトワール①

 

「え? ブルーサファイアが?」

 

 俺こと如月司こと、リュネール・エトワールはもういつものようにホワイトリリーと話をしていた。

 そして前に起きた魔法少女が短剣に刺されるという事件がまた発生したようで、しかもその被害者はブルーサファイアだという。

 

 昨日のお昼ごろに、魔物が出現して近くに居たブルーサファイアが駆け付けて対応したそうだ。 魔物の脅威度はCが一体。Bクラスの魔法少女であるブルーサファイアとしては、余裕な魔物だ。

 出現した場所はそこそこ人が居た場所で、逃げていた人の中に逆走していた男を見ては戻るように言おうと近付いた際に、刺されたようだ。

 

 油断した……という訳ではない。

 一般人を装ってる以上、誰がこの一連の犯人なのかを特定するのは難しい。魔法少女は逃げ遅れた一般人を誘導するのも一つの仕事だ。ブルーサファイアはそれに則って行動したのだ。

 

 やはり一般人に紛れているのは厄介すぎるな。

 その後、近くに居た魔法少女も駆け付け、倒れていたブルーサファイアを発見。魔法省へ戻ったようだ。

 

「今日はもう目が覚めてまして、やっぱり他の魔法少女と同じで普通に動けるようになってましたね」

 

 この事件は総じて外傷がない。それもあって、あまり重要度と言うか、そう言うのは低めなのだ。

 でも、既に何件かの同じような事件が起きているのもあって、上がることはあっても下がることは無い。

 

「刺されたらたちまち力が抜けていく、と口々に言うんですよね。ブルーサファイアも同じです」

 

 力が抜ける。

 ふむ……

 

「ラビ、魔力を急激に消費した場合はどうなる?」

「何度か経験してるんじゃない?」

 

 魔力は自身を守っている力でもあり、魔法と呼ばれる魔法少女の力にも使われる物だ。当然、強力なものを使うと消費量も大きくなる。

 

 では、魔力が無くなった場合はどうなるのか?

 変身状態の魔力というのは、体内にもあるが装甲の役割も果たしているため、外側にも巡らされている。

 なので変身を維持している魔力自体には外側なので何の影響もないが、体内の方は魔法や、装甲の補填とかに使われる。

 攻撃を受けたらまず装甲の役割をしている魔力がダメージを吸収する。魔力の装甲も無限ではないため、ダメージを受け続ければ削られていく。で、その削られた分の魔力を体内からまた吐き出していると言えば良いかな?

 

 でだ。魔力を消費すると当然ながら疲れる。その疲れるというのは魔力がもう少しで無くなるという合図だ。

 

 その状態で使い切った場合……力が抜けてその場にへたり込んでしまう。

 

「……ラビ」

「ええ、あり得るわね」

 

「どうかしたんですか?」

「ん。ちょっと気になったことがあっただけ」

「この事件にですか?」

「うん」

 

 もし、その短剣が魔力を奪っているのだとしたら。

 刺されても何も跡が残らないって言うのも謎だが、魔力を奪っているのであれば、倒れるという事もあり得る。

 

 何故そんな事してるかは分からないが、それは直接聞くしかないだろう。でもって、黒い短剣についても、だ。

 もし魔力を奪える短剣なのだとしたら? 刺されたら俺も奪われる可能性が高い。更に言えば、一般人に紛れ込んでるって言うのも本当に厄介。

 

 どういう物かは分からんが、短剣は一瞬にして魔力を奪える道具だという事だ。

 

「なるほど、魔力を奪ってるという事ですか?」

「ん。でもまだ分からない」

 

 そういう可能性があるというだけでまだ確証は出来ない。しかも過去に複数の場所でも目撃されてる事から、その短剣は複数あると見て良いだろう。

 

「そうですか……あの、この事を報告しても良いですか?」

「別に良いけど……確証はない」

「はい分かってます。ただ、そういう事を伝えたいだけなので」

 

 まだ予想にしか過ぎないから、報告してもあまり意味ない気はするけどな。

 

「それでは私はこれで……」

 

 若干名残惜しそうに、こちらを見るホワイトリリー。最近のホワイトリリーはちょっと分からない。

 

「ん」

 

 最後にもう一回こっちを見て、そして飛び去って行くのだった。

 

「貴女、懐かれてるわね」

 

 ホワイトリリーの姿は見えなくなると、とんがり帽子からラビが姿を現してそんな事を言ってくる。

 

「何かした?」

「貴女に向けてる感情、あれは……恋ね」

「え」

 

 恋ぃ!?

 ちょっと待ってくれ……俺魔法少女ではこんな(ナリ)だが元は27歳のおっさんだぞ!?

 

「熱い視線やら、顔を赤くするやら、どう見ても脈があるじゃないの。罪な男……いえ、女ね」

「おい」

 

 つい素が出てしまった。

 しかし、恋ってなんだ。俺との年齢差も考えたら完全に犯罪じゃん! 俺別にロリコンとかそういうのじゃないぞ。

 

「まあ、恋なんていつの間にか突然落ちる物よ」

「どうしよ」

「向こうが告白してきた際に、ちゃんと答えてあげないとね」

「……うん」

 

 恋に落ちた原因が分からないな……俺何かしたっけ? カタツムリの魔物の時に助けたくらいだぜ? あれが原因か……いや、別に悪い気はしないが年齢差が駄目だ。

 それに、俺は俺でもあれはリュネール・エトワールの方が好きなのだろう。外見だけ見ると……同性か。

 

 取り合えず、俺は今は考えないことにしてその場を去るのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「あれ、司じゃない!」

「ん? 茜じゃん」

 

 某有名なファミレスで、ドリンクバーから飲み物を持って来ようとした所で、聞き覚えのある声がした。

 

 声の主の方を見れば、私服姿の女性……俺の高校の同級生だった北条茜(ほうじょうあかね)が立っていた。

 

「偶然ねー」

「本当になー、確かお前就職して東京行ってなかったか?」

 

 確か東京の方で就職したと聞いてる。実家はこっちにあるらしいが、帰省と言う奴だろうか。

 

「うーん、何て言うのかな。本社は東京だけど配属されたのはこっちって感じよ」

「なるほど……良いじゃん、実家から行けるんじゃねえの?」

「うん、まあそうなんだけどねー」

 

 何の仕事かは聞いていないが。東京に行ったと思ったらこっちに配属って、運が良いのか悪いのか分からんな。

 

「何の仕事してるんだ?」

「守秘義務があるから詳しくは言えないけど、魔法省って言えば分かる?」

「魔法省!?」

「ど、どうしたの、そんな大きな声を出して」

「いや、すまん。ちょっと驚いた」

 

 マジかよ。

 魔法省……でこの地域に居るって事は、茨城地域支部って事だよな。つまりはホワイトリリーやブルーサファイアが所属している所だ。

 

「いや、まさか魔法省とは思わなかったよ」

「最近はこの地域の魔物が増えてきてるし……仕事が増えたわね。でも、定時では帰れてるわよ」

「ほう、それは良かったな」

「と言うより、茨城地域は比較的少ないからってのもあるんだけどね」

 

 魔法省茨城地域支部といえば、確か水戸にあったかな。今はそこに就職してるらしい。何の職業かまでは分からんが。

 確かに増加はしたが、他の地域と比べると少ないと言うのも事実だ。

 

「内容については流石に教えられないわね」

「だろうな……一応政府機関だもんな」

「ええ」

 

 しかし、高校の同級生が魔法省って。俺がリュネール・エトワールだって事絶対ばらしたらいけないな。

 

「最近はちょっとした事件も起きてるしね」

「確か魔法少女が襲撃されたって奴だっけ?」

「ええ、まあ知ってるわよね。その対応もあってね……」

「まあ、何だ……がんばれ」

「ところでそっちはどうなのよ」

 

 そう聞かれ、一瞬だけどもってしまう。

 

「まあ、ぼちぼちかな」

 

 野良の魔法少女、リュネール・エトワールをしてます、なんて口が裂けても言えない。ニートっていうのも取り敢えず隠しておく為に、適当にはぐらかす。

 

「ふーん。そう言えば妹さんも居たよね」

「おう。まあ真白は大学生活楽しんでるっぽいよ」

 

 時々CONNECTとかで近況報告してくれるのだ。ただ俺はスマホは解約してるから、そういうやり取りはPCでやってるんだがな。

 CONNECTはスマホが主流だが、PC版もあるしな。ただ……割と妹の真白にはスマホ契約してよ、電話できないじゃん! とか言われるんだけどな。

 

 いやいや、家に電話かければ良いだろって思うのだが……今は変身デバイスというスマホがあるが、当然これを言うつもりはない。

 

「妹さん……真白ちゃんだっけ? 帰ってくるとかあるの?」

「さあな……でも、長期休暇の時はもしかすると戻ってくるかもしれんな」

 

 大学の春休みは長い。

 まだ冬だけど、その時期が来たら多分帰ってきそうなんだよな。帰ってくるのは良いのだが、俺魔法少女してるし、どうするかな。

 

 ……まあ、今考えても仕方がないか。でも考えておく必要はあるな。

 

 そんなこんな考えながら、俺は茜と談笑を続けるのだった。

 

 

 



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Act.05:ブルーサファイアとリュネール・エトワール②

 

「魔物……でも今回はスルー」

「そうね。今回目的は魔物じゃないし」

 

 俺ことリュネール・エトワールはハーフモードにて、魔物の出現した場所近くを歩いていた。

 魔法少女を襲っている犯人は一般人を装ってる。だから普通に探すのは無謀であり、それなら向こうから出てくる所を抑えれば良い。

 この方法でも問題はある。犯人が何処に出現するかというのは分からないからだ。これまでの経緯からするに、犯人は魔物が出現した場所に出てくる。

 そして、逃げ遅れとかそういうのを装って魔法少女を誘き寄せるのだ。それが全て共通した手口。

 

 ラビレーダーで魔物を感知したら素早くその近くに移動し、そしてハーフモードに切り替えて一般人に紛れ込む、そんな状態が今だ。

 今回出現するとも限らないので、この方法では根気良くやらないと駄目だ。それに犯人らは一時、現れなくなっていた時期もあったしな。

 

 既に数名の魔法少女が魔物を相手しているのを民衆の中から確認する。逃げ遅れが居ないかもチェックする。

 

「……居なさそう」

「そうねえ……」

 

 特に怪しいと思う人物は居なかった。今回は外れ……と思い、その場を立ち去ろうとするが、その行く手を阻む者が居た。

 

「ん?」

「似てますね……」

 

 目の前に居るのは一人の少女。

 見た感じ、中学生くらいだろうか。確かに今日は休日ではあるが……何だろうか、何処かで会ったことあるような……。

 

「(その子から魔力を感じるわ。これは変身できるレベルよ)」

「(この子、魔法少女?)」

「(多分ね)」

 

 どの魔法少女かは分からない。だが、この既視感からして、魔法少女として何処かで会ったのかもしれない。

 

「何か用?」

「その喋り方も……」

 

 黒髪のセミロングの女の子はこちらを探るような視線を向けてくる。あれ、向こうも同じこと感じてるのか?

 

「ちょっと、良いですか?」

「別に良い、けど。何?」

 

 そう言うと俺の手を掴み、そそくさに近くにあった建物の裏へと連れていかれる。あれこれって、体育館裏に来いっていう、良くあるあれなのでは? 俺何かした?

 

「リュネール・エトワール」

「……」

 

 その言葉にドキッとする。

 あれ正体ばれた? まあ、髪色は違うけど、リュネール・エトワールの姿のままだもんなー。

 

「やっぱりそうなんですね。……すみません、探る事してしまって。でも安心してください、別にどうこうするつもりはありませんから」

「もしかして、ブルーサファイア……?」

「その通りです。やっぱり分かりますか」

 

 パチンと、ブルーサファイアと少女の姿が重なる。

 ブルーサファイア……Bクラスの茨城地域の魔法少女で、前回被害に合った魔法少女だ。何でこんなところに?

 

「何でこんな所に?」

「何となく察してるんじゃないですか?」

「まあ、ね。犯人捜し」

「正解です」

 

 魔法少女ではなく、変身前の普通の人の姿でこの場所に居る。魔物が近くに居るのに変身もしてない。

 

「同じ仲間の魔法少女を囮にするのは気が引けますが、でも犯人が捕まらないと続くと思いますし、ね。あ、勿論魔法省からの許可は貰ってますので」

「なるほど、ね」

「! いきなり何するの!?」

 

 気付いたら俺はブルーサファイアの頭を撫でていた。いや、本当何してんだ俺。いやまあ、襲われたって言うのは聞いてるから心配はしてたけど。

 

「襲われたんでしょ」

「……はい」

 

 それを言えば急にしおらしくなってしまう。

 

「怖かった?」

「……少し」

 

 本当に少しかは知らないが、まあ、そりゃあ怖いよな。

 いくら、外傷がないとはいえ守るべき一般人に短剣を刺されるって。しかも、急に力が抜けるらしいからな。

 そして何より、魔法少女とはいえまだ年端も行かない女の子のはずだ。

 

「どんな感じだった?」

「刺された直後は何とも無かったんですけど……少ししたら急に体が倒れて。逃げようにも手も足も全然動かなくて、何もできなかった、です」

 

 今にも泣きそうな顔してる。これ、どうするかな……何かした方が。うーん……リュネール・エトワール、今だけこの身体を使わせてもらうぞ!!

 

「……っ!?」

「大丈夫」

 

 若干俺の方が身長が高いけど、やはり小さい。10センチ以上は下がってるんじゃないかこれ。

 そんな身体ではあるが、ブルーサファイアを抱き寄せる。これが本来の姿なら犯罪待ったなしだが、今はリュネール・エトワールなので、大丈夫だ、多分。

 

「何も……出来なくて」

「うん」

「体も言う事聞いてくれなくて……近くには気味悪い顔で笑う男がいて、どうしようも無くて怖かった」

 

 ただ襲ってくる魔物ではなく、明確な悪意を持って危害を加える一般人……ぶっちゃけ魔物より(タチ)が悪い。

 

「このまま死ぬかなって思って……」

「うん」

 

 肩を震わせながら、言葉を紡ぐ彼女。俺はただただ背中をさするくらいしかできないが、しないよりはマシかね。

 

 少ししてついに静かではある物の、泣き始めるブルーサファイアだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「ごめんなさい」

「落ち着いた?」

「何とか」

 

 魔物はとっくに討伐され、外は少し静かだ。

 建物裏にブルーサファイアに連れていかれ、リュネール・エトワールってバレたという。そして泣いたせいで目が赤くなってる少女ことブルーサファイア。

 

「実は、私がこの場に居たのは犯人を見つける為というのもあるけど、実際は休養なんだ」

「休養?」

「うん。噂の短剣で刺された時の事を思い出すと、凄く怖くなってその場にしゃがんじゃうんだよね、今」

「……」

 

 何か喋り方変わってるのは突っ込むべきなのだろうか。まあ、今ここで突っ込むのはKY過ぎるのでやめるが、こっちが素なのかもしれないな。

 

「そんな訳で休養。変身は特に禁止されてないけどね。犯人捜しについて許可貰ってるって言うのも一応本当だよ」

「なるほど」

 

 妥当な判断だとは思う。

 早く言えば、ブルーサファイアはその時のことがトラウマとなってる。だから思い出すと恐怖でしゃがみ込む……変身してもその状態になったら危険だしな。

 

「でもその状態で、犯人捜しは危険」

「うん、分かってるんだけど……」

 

 また同じことされたらどうするのか。

 いやまあ、今は変身してない一般人状態だから向こうも気付かないかもしれないが……。

 

「犯人捕まえたら治るかなって」

「……無謀」

「うっ……でもそんな事言ったらリュネール・エトワールも野良で魔物と戦ってる。それも結構無謀な気がする!」

「わたしは強いよ」

「強いのは分かるけどね……」

 

 かといって慢心はするつもりはないが。

 

「後、この姿で魔法少女名を呼ぶのはNG」

「そ、そうだったね……私は色川蒼(いろかわあおい)、蒼って呼んで」

「名前ばらしていいの?」

「魔法少女同士だし……こっちは教えたんだからそっちも教えてよ!」

「勝手に自己紹介されただけ」

「うっ」

「冗談……わたしは如月司。呼び方は好きにして」

 

 つい本名を名乗ってしまったが、まあ、ありがちな名前だし大丈夫だろう。でも、名前を魔法省に知られたら拙いか?

 

「大丈夫、名前は誰にも言わないから」

「分かった?」

「うん。野良で戦ってるのには理由があるんだってもう分かってるし。魔法省もそう思ってるから詮索はしないと思うよ。ただ魔法が強力過ぎるから要注意人物としては見られてるかも」

「要注意人物……」

 

 うん。

 前に見せたあのメテオスターフォールはやばいもんな。ただでさえ脅威度Aの魔物を普通にスターシュートでワンパンもしてる訳だし、自分の事だが結構やらかしてる気がするな。

 

「あはは! 司もそんな顔するんだね」

「?」

「(あなた、自分では気付いてないと思うけどリュネール・エトワール状態だと表情無いわよ)」

「(そ、そうなの?)」

 

 無口キャラは表情をあまり出さないって言うのを意識してたらそれが反映されてしまったのだろうか?――

 

 

 

 

 



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Act.06:ブルーサファイアとリュネール・エトワール③

 

「口調」

「え?」

「蒼の口調はそれが素?」

「!」

 

 自分が素で喋ってるのに気付いたのか、慌てて口をふさぐ。と言ってももう手遅れだが。

 

「もう手遅れ」

「……うん。そうだよ、これが私の素」

 

 素直に白状する蒼。魔法少女の時に喋り方変えてるのには理由があるのだろうか。いやまあ、俺も変えてる方だけどな。

 俺の場合は、性別が違うという前代未聞の魔法少女だ。バレたら世間にどう見られることやら。考えただけでも悪寒が……。

 

「そっちは、全く同じなんだね」

「ん」

 

 そもそも、この姿も実は本当の姿じゃないし、言ってしまえばこの状況は蒼だけが本当の姿をさらしたという事になる。

 勿論、この事を誰かに言おうなんて考えてない。そんな事は絶対しないと約束しよう。

 

「うわ、曇ってきた……」

 

 そんな事考えてると蒼が空を見て呟いた。俺も釣られて空を見ると、さっきまでは太陽が姿を見せていたのに、いつの間にか現れた雲によって見え隠れし始めていた。

 

「天気予報、午後から雨」

「そうなの!?」

「ん。見てないの、天気予報」

「あははは……」

「笑って誤魔化した……」

 

 今日の天気予報では午後から雨が降ると言っていた。降水確率は90%とほぼ降るだろうって話だ。

 

「うわわ! 降ってきた!?」

「うん」

 

 本当は雨降る前に帰りたかったんだが、そういう訳もいかなくなった。俺は蒼の手を取って走り出す。

 冬の雨は冷たい。俺は良いが、蒼が雨に打たれて風邪ひいたら大変だ。原因が雨に打たれたから、だったら休養なのに何してんのって話になる。

 

「いらっしゃいませ。二名様ですね、席へご案内いたします」

 

 走って辿り着いたのは俺の良く知るファミレス。ここはお値段も安く、お財布に優しい一般市民の味方である。

 

「ここって……」

「ファミレス」

「いや、それは知ってるけど……私たちだけで入って良いの?」

「問題ない」

 

 夜なら大問題だが、今はまだ昼間だ。それに俺は今こんな感じだが、27歳だしな。まあ、リュネール・エトワールは15歳くらいなのだが。

 でも、15歳くらいなら一人で入っても多分大丈夫だと思う。今回は二人だが……蒼の方は何歳か知らないが。

 

「好きなの頼んで良いよ。奢るから」

「え!?」

「お昼は過ぎたけど、まだ昼食取ってない」

 

 時刻は13時半を回ってる。

 お昼としては若干遅いかな? いや13時半ならまだお昼って言っても良いよな。ランチタイムとやらも15時まではやってるんだし。

 

「……いいの?」

「ん」

 

 そう返せば蒼は恐る恐る、メニューを開いて中を見始める。

 

「(ラビ、この身体で食べるとどうなる?)」

「(別に普通の状態と同じよ。だから食べれば実際の身体にも反映されるわ)」

「(そう。なら良いか)」

「(ただ、身体の方に引っ張られるから、男の時よりは入らないかもしれないわ)」

「(なるほど)」

 

 まあ、その時は適当に軽い物を元の身体で食べれば良いか。俺もメニューを手に取り、料理を探すのだった。

 

 

 しばらくして、運ばれてきたペペロンチーノを一口。蒼はどうやらミートスパゲティを頼んだみたいだ。そしてドリンクバーも。

 

「美味しい!」

「ん。良かった」

 

 年相応の表情を見せてミートスパゲティを食べる蒼。ここはイタリア料理がメインだからな。

 俺はペペロンチーノに更に唐辛子フレークを入れて食べる。味覚はどうやら変身前を引き継いでいるようなので安心はした。

 

「司って、なんかお父さんみたい」

「げほっ」

「だ、大丈夫?」

 

 蒼の口から出た言葉に思わず吹いてしまった。

 

「(鋭いわね)」

「(……)」

 

 お父さん、か。

 変身前の姿なら確かにそうかもしれんな……と言っても俺は独身だが。それをまさかこの姿で言われるとは思わなかった。

 

「変だよね。司は女の子だし」

「ん」

 

 実は男です、とは言えるはずもなく。

 しかし、何だ。直感ってやつか? 確かに子供は地味に鋭いというか、直感が強いというか、あれだけど。

 どうでも良いが、今の服装は以前の黒パーカースタイルである。これが一番こう、しっくり来るんだよな。

 今の所、何度もこの姿で会う相手は居ないから一種類でも十分だ。勿論、候補としてはいくつかイメージしてる。

 

「あのさ……今日はありがとう」

「それは何に対するお礼?」

「全部だよ」

「どういたしまして」

 

 特に大それたことはしてないつもりだが……いや、したと言えばしたか……撫でたり、抱き寄せたり。言葉だけ聞くともう俺犯罪者だわ。

 

「司が魔物と戦う理由って何?」

「また唐突に」

「あれだけ強いんだし、気になるよ」

 

 戦う理由、か。

 俺何で戦ってるんだ? 魔物を減らすためか? それも確かにあるな……俺の実家がある地域だし、滅茶苦茶にはされたくない。

 

 後なんだろうな。

 少しでも戦ってる魔法少女たちの負担を減らしたいからかな? 別に誰かに役立てたいというのは無いが、魔法少女だって傷つく。

 今のこの蒼みたいに。魔法と言う不思議な力を使えるとはいえ、元は10代前半の女の子な訳だ。

 

 ……。

 

 本当なら他の地域の負担も減らしたいが、俺は俺一人しかない。そんなに手が伸ばせるはずがなく、ならせめてこの茨城地域だけでも、と。

 

「この場所が好きだから」

「……そっか」

 

 それらしい言葉で返すと蒼も納得と言った顔をする。しかし、言っておいてなんだけど、今の凄い臭い台詞だよな……何か恥ずかしくなったわ。

 

 その後も、軽く話をしながらファミレスで時間を潰すのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「ありがとう」

「ん」

 

 外へ出ればすっかりと晴れて、さっきまでの大雨は何だったのかと言いたい所だった。

 そんな私は隣に居る少女に再びお礼を言う。司もとい、魔法少女リュネール・エトワール。茨城地域ではもうかなり有名な野良の魔法少女だ。

 

 そんな彼女の名前は如月司。名前に入ってないけど、苗字には月って入ってるんだなと、どうでも良い事を考えた。

 

「家まで送ってく?」

「え。いいよそこまでは!?」

 

 私の素……魔法少女ブルーサファイアの時とは違う本来の喋り方で答える。既にもう知られてしまったので今更取り繕う必要は無いと判断。

 ぶっちゃけ、魔法省のほとんどが知ってる訳だし。何で口調を変えてるのかと言われたらやっぱり、ホワイトリリーに憧れているんだと思う。

 

 魔法少女ホワイトリリー。

 魔法省茨城地域支部所属のSクラス魔法少女だ。もうこの地域で知らない者は居ないと思う。リュネール・エトワールよりも有名だ。

 以前、魔物に襲われた時に助けてもらったことは今でも覚えている。だから真似をしてるだけに過ぎない。私はBクラスだからホワイトリリーとは力量が違う。

 

 勿論、そんな彼女の事を尊敬しているのは間違いない。でも、正直な所、リュネール・エトワールの方も気になってはいた。

 魔法省にも所属せず、単独で行動する。命がかかっているのに、どうして何の支援も無い野良でやってるのか。むしろ何でやっていけるのか……。

 

 実際会っても言葉数が少なく、何を考えているのか分からない。表情もあまり見せないし……少し怖いとも思ってた。

 

 でも、実際は……。

 

「そう? 危ないよ?」

 

 普通に気を使ってくれる、私と同じくらいの女の子であった。

 ただ本人に年齢を聞いたらこれでも15歳と言われて驚いた。三つも年上だったの!? ってね。

 

「へーきだって」

「それなら良い、けど」

 

 確かに言葉数は少ないけど、悪い子には全然見えない。魔法省内では要注意人物とされてるけどね。でもそれは彼女の魔法がどれも規格外だから。

 感情が無い……? それも実際話してわかった。確かにちょっと乏しいけど、普通に表情を見せる。

 

「うん。じゃあ、行くね」

「ん。無理しないで。何かあったら出来る限り駆け付ける」

 

 そう言って司は笑顔を見せる。

 

「……っ!」

 

 ドキッとした。

 それを自覚すると、みるみる顔が赤くなっていくのが分かる。え、何……まあ、あの笑顔は反則だと思うけど。

 

「それじゃあ、また!」

 

 これ以上はいけないと思い、私はその場から素早く去って行くのだった。

 

 

 

 




第二ヒロインの登場?!


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Act.07:ラビとエーテルウェポン①

 

「あーらら。慌てて走ってっちゃったわね」

「ん」

 

 どうしたのだろうか。

 まあ、見た感じでは元気そうで安心できたし、良しとしよう。でもトラウマについては不安があるな。

 

「あなたも罪ね」

「何故」

「え。気付いてないの?」

「?」

「……鈍感系主人公ってこういう事を言うのかしらね」

 

 おいこら待て。鈍感系主人公って何だし。

 

「何かあったら出来る限り駆け付ける」

「え?」

「あんな言葉言われたらねえ……」

 

 はて。何かおかしい言葉だっただろうか……何かあったら出来る限り、俺も駆け付けたいってだけだ。

 

「まあいいわ。それで、これからどうするの? ……って、現れたようね」

「ん」

 

 もう聞きなれた警報が鳴り響く。ラビレーダーにも反応があり、魔物の出現を知らせてくれる。

 ハーフモードからフルモードのリュネール・エトワールとなり、魔物が出現したであろう場所へと飛んで行った。

 

 

 

 

「推定脅威度はBね。そして三体」

「ん」

 

 駆け付けた先には、以前にも見た事がある狼のような姿をした魔物だった。こちらにすぐに気づき、襲い掛かってくる。

 

「グラビティアップ」

「#$%!?」

 

 すばしっこいって言うのは微妙に面倒なので、奴らの重力に加重する。すると、突然体が重くなったからか、俺を見て吠えてくる。

 

「さようなら。スターシュート」

 

 ドカーン!

 次、次、次と一体ずつスターシュートをヒットさせる。加重された状態で動けない魔物が避けることは叶わず、無慈悲に爆発する。

 

 脅威度Aの魔物すら、大体ワンパンするこの魔法にBである魔物が耐えられるはずもなく、魔石へと姿を変える。

 Bと言っても、この前のカタツムリの魔物みたいな奴が出ないとは限らないから、一概には言えないけどね。

 

「本当にサクッと倒すわよね」

「ん」

 

 スターシュートが強いのがいけないのだ。単純な攻撃魔法なのに、威力がおかしい。脅威度Aをワンパンってもう奥義じゃないのこれ。

 

 でも聞いて驚け。

 スターシュートはこの威力だが、最も消費する魔力が少ない魔法なのだ!

 

「今回も出なかった」

「そうね」

 

 今回も某短剣男は出なかった。魔石を回収した後、俺はその場を後にする。

 

 

 

 

「……何なんだあの化け物は!」

 

 脅威度Bの魔物三体をもあっさりと倒す魔法少女に、怒りと恐怖を覚える。正確には聞いたことがあるが……。

 

 魔法少女リュネール・エトワール。

 魔法省茨城支部所属のSクラス魔法少女であるホワイトリリーに次いでこの辺りではかなり有名になっている野良の魔法少女だ。

 

 またこの魔法少女に邪魔をされたのだ。あんなにあっさりと倒してしまわれると、こっちも何も出来ずに終わってしまう。

 魔法省の魔法少女も最近では、複数行動が基本となってるし、中々誘き寄せることが難しくなってる。

 

 魔法省の方まだ良いが、あのリュネール・エトワールは駄目だ。魔物の出現に便乗しようとしても、即倒される。

 

「……ちっ」

 

 今日は引き上げるとする。

 だが、リュネール・エトワールも魔法少女だ。魔力を纏ってるに過ぎない。ならば、同じようにしてこの短剣で刺せば無力化も出来るだろう。

 しかも、あの魔力……一瞬にしてかなりの量を奪えるかもしれん。

 

 しかも野良だ。魔法省に所属してないなら、別に無力化した後にそのまま連れ去っても問題ないだろう。

 

 魔力はだいたい、一日で回復すると言う。それならあの膨大な魔力を持っているリュネール・エトワールがいれば無限に魔力を奪える。

 

「……」

 

 これは良い感じなのではないだろうか。

 取り敢えず、計画を実行する前にあの忌々しいリュネール・エトワールをどうやって誘き寄せるか考えねばな。

 

 待っていろ、星月の魔法少女。

 

 

 

 

「っ!?」

「どうしたのいきなり身体を震わせて」

「何か悪寒がした」

「風邪にでもかかった?」

「それはない……と思う」

 

 特に風邪らしい症状はないし、本当に急に悪寒がしただけだしな。何というか、凄い嫌な予感がする。

 ちょっと色々と備えた方が良い気がしてきた。と言っても、備える物って何かあるだろうか。

 

 例えば件の短剣の対処方法とかか?

 仮に犯人と対面した場合、恐らく短剣を使って無力化を狙ってくるはず。まあ、逃げるという事も有るだろうが……。

 でだ。避けるとしても、当たってしまった場合とかはどうするか? 魔力を急激に奪われるということは、その場で他の魔法少女のように倒れてしまう恐れがあるという事。

 

 ただその黒い短剣がどのくらいの魔力を奪うかが分からん。

 魔力量っていうのは人によって異なる。多い人も居れば少ない人も居る。全く無いって人も居るだろう。

 流石に魔力を奪うと言っても、キャパシティみたいな物があるはずだ。無いんだったらもうどうしようもないが。

 

「どうしたの、そんな考え込んじゃって」

「例の短剣の対策方法を考えてる」

 

 ブルーサファイアこと蒼の経験から分かるように、男が持つ黒い短剣は普通ではない。間近で見た蒼の話だと、何処と無く禍々しいオーラがあったようだ。

 でもって、刺された瞬間体から何かが抜けていく感覚に襲われた。自分の纏う魔力が弱まっていくような感じもしたらしい。

 

「魔力が奪われてるっていう可能性は高くなったわね」

「ん」

 

 魔力を奪われた魔法少女たちは一溜まりもない。力の源でもある訳だから、それは俺やSクラスのホワイトリリーにも当て嵌まる。

 急激な魔力減少は体にも負担をかける。変身状態自体は、体外を巡っている魔力装甲なので、攻撃を受けなければ解除は基本されない。

 

 体外ではなく、体内の魔力が一番重要なのだ。

 以前にも言ったと思うが、体内の魔力は魔法を使ったり、体外を巡る魔力への補填に使われる。

 体外の魔力は装甲だ。攻撃を受ければ当然、装甲もすり減っていく。それを補填するのに体内の魔力があてがわれる。

 なので、変身中は基本ダメージを受けなければ魔力消費は起きない。受けたら受けた分、補充される感じ。

 

 装甲の役割を持つ体外の魔力は置いておき、様々な所で使われる体内の魔力は重要。これが無くなれば魔法も使えないし、装甲も削られ行くのみ。最終的には体外の魔力もなくなり、変身解除に陥る。補充されないわけだし当然である。

 

 短剣が奪ってるのは多分、内側の魔力。何に使うつもりかは分からないが……きっと碌でもない事に決まってる。

 

 一番の対処方法は短剣に刺されないことだが……というかもしかしてそれしか対策無い?

 と言うか、装甲があるのにそれを貫通して内側を奪える物なのだろうか? でも、気を失って倒れていた蒼は魔法少女の状態だったと聞いてる。

 

 つまり外側の装甲の魔力には影響がないって事になる。でも、刺された魔法少女は貫通されたとは言え、本来の肉体の方には何も外傷はない。装甲が機能しているって事になるが……。

 

「魔力装甲貫通して体内から奪うって可能なの?」

「魔力装甲貫通する魔法自体ならあるけど、でもそれの場合は装甲が役に立たないから肉体に外傷が残るはずよ」

「貫通する魔法は有るんだ……」

「ええまあ。ただ物凄く使いにくいけど」

「そうなんだ」

 

 ってそんな話ではなく……装甲は働いているが、体内の魔力を奪ってる。何だそれ……一体何なんだその短剣は。

 

「……エーテルウェポン」

「エーテル?」

 

 少し考える素振りをした後、はっとしてラビは一言口に出す。

 

「でも何でそんな物が……」

「ラビ?」

「あ、ごめんなさい。ちょっと驚いてしまったわ」

「そのエーテルなんちゃらって何」

 

 ラビが珍しく動揺している事から、普通ではないって言うことだけは分かる。とにかく、そのエーテルなんちゃらについて詳しく。

 

「エーテルウェポンよ。エーテルウェポンっていうのは――」

 

 




エーテルウェポン!
ネーミングセンス? そんな物は捨ててきました。


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Act.08:ラビとエーテルウェポン②

 

「エーテルウェポンっていうのは、妖精世界にあった魔力の武器の事よ」

「魔力の……武器?」

 

 魔力の武器……魔力が武器?

 

「そう。見た目は普通の武器、だけどそれには魔力が流れてる。更に自身の魔力を使うことで剣なら切れ味……武器の攻撃性能等を底上げできる、要はゲームとかで言う特殊武器みたいなものよ」

 

 魔力が流れている武器、か。ゲームでの例えで何となくは分かる。特殊効果の付いた武器とかそういう類の物ということだろう。

 

「そして何より……魔力解放(エーテルバースト)が使えるのよ」

魔力解放(エーテルバースト)……?」

「ええ。名前の通り、纏っている魔力を解放して――何て言えば良いかしら。そうね、奥義を放つような感じよ。その力は武器によって千差万別」

「なるほど」

 

 ラビの説明をまとめるとこんな感じだ。

 まず、エーテルウェポンと言うのは魔力を持つ武器の事で、普通に使ってもそれなりには強い。見た目はファンタジーとかでよく見るような、剣やら杖やらみたいな物だ。

 で、自身の魔力を武器に流す事によって武器の性能を一時的に向上させる事が可能な武器のようだ。

 

 そして奥義。

 名前で察する通り、武器の持つスキルを放つことが出来る。武器の纏っている魔力を全部消費し、一撃必殺なスキルを撃つ。

 使用後はしばらくの間何も使えない状態となる。まあCT(クールタイム)みたいな物だ。

 因みに自身の魔力を流した状態で使うと、更なる威力向上が見込める。ただし、本来の武器の魔力を更に増加させた状態……キャパオーバーで放つため、CTも長くなるそうだ。

 

「そのエーテルウェポンがどうしたの?」

「エーテルウェポンは特殊な武器よ。……実体を持たない刃の武器だって有る」

「!」

 

 実体がない武器。

 短剣の刃がその実体のない物ならば、魔力装甲を無視できる。実体がないから体に刺さっても特に何の影響もない。

 

「……その武器、結構危険?」

 

 実体がない。

 それはまだ良いが、仮にだ……誰かを刺した状態で何かしらすると、刃が実体化するとしよう。魔力装甲は意味を成さずに殺せてしまうのではないだろうか。

 

「うーん、それは流石に大丈夫だと思うわ。実体がないから魔力装甲が何の意味をも成さないだけで、実体化したら弾かれるはずよ、装甲に」

「そっか」

 

 ラビを見た感じでは大丈夫そう?

 

「まあそれで話を戻すわね。その武器が魔力を吸収するのに特化したエーテルウェポンなら、可能性はある。装甲を無視して体内の魔力のみを吸収する事が出来てもおかしくはないわ」

「……」

「それともう一つ。あなたが持っているそのステッキもエーテルウェポンの一種よ」

「そうなの!?」

 

 自分の持っているステッキを思わず見る。

 魔法少女が持つのはお約束なステッキ……普通ではないとは思ったけど、確かに魔石とか保管できてたしな。

 

「その中に魔石を保管できているのが証拠よ」

「この収納は武器スキルみたいな物?」

「そういう事。後は魔法少女の魔力の補助等を担ってくれてるのよ。ステッキ無しで一度魔法使ったこと有るわよね? どうだった?」

 

 それは少し前の事だ。

 ステッキがなくても魔法少女の状態なら魔法を使えるのか? というふとした疑問から試したことだ。

 結果的には使えた。使えたのだが、ちょっと魔力の消費とかが大きかった気がする。あとはステッキがある時よりもコントロールが難しかった印象がある。

 

「魔力消費が大きい。コントロール少し難しい」

「そういう事。そういった物を調整補助してくれてるのがステッキなのよ」

「なるほど……」

 

 何らかの補助機能か何かがステッキにはあるのだろう、とは何回か思ったことはある。

 ステッキよ、お前はかなり大事な事とかをしてくれていたのか……ついついステッキを撫でてしまう。何か点滅したようだ。何処となく、嬉しそうな感じがした。

 

「それでエーテルウェポンなんだけど、魔法少女ならまだしも、そんな男たちが持ってるなんておかしいわ。妖精世界の武器なのよ?」

「……妖精世界と言えば他の魔法少女にはラビみたいな妖精がいる?」

「それは……」

 

 そう言えば他の魔法少女たちにはラビみたいな存在が居るのかなと思っていたのだが、何となく居なさそうなんだよな、ホワイトリリーもそうだし、ブルーサファイアもだ。

 今まで気にしてなかったが、ちょっと気になってしまった。後、妖精世界と言う場所も。ちらほら言ってたけど、詳しい事は聞いてなかった。というより、無理に聞くつもりは無かった。

 

「……そうね、隠すのは良くないわ」

「? ……ラビが言いたくないなら無理して言わないで良い」

 

 ラビは俺を魔法少女にしても、戦いとかを強制はしてこないし、俺の意思を尊重してくれる。普通に生活もできてるし、ラビレーダーも役に立っている。

 まだ二ヶ月あまりしか経過してないが、相棒と言っても良いと思ってる。だから言いたくないことは別に言わなくて良い。いつか教えてくれたらそれは嬉しいが。

 

「いえ、話すわ。……まず、他の魔法少女に妖精が居るのかって話ね。率直に言うと居ないわ」

「居ない?」

「ええ。居ないわよ。むしろ、この世界の何処にも妖精は居ない。私しか居ないわ」

「それってどういう……」

「そのままの意味よ。妖精と呼ばれる存在は私のみしか居ないわ」

 

 そういうラビの表情は悲しそうだった。こんな顔をするラビは初めてかも知れないな。

 

「何か、あった?」

 

 まあ俺でも流石に分かる。ラビの身に何かが起きたという事くらいは。ラビを両手に持ち上げ、目の前に持ってくる。

 傍から見れば女の子が兎のぬいぐるみを抱いているような可愛らしい状態だと思う。

 

「私が居た世界――妖精世界(フェリーク)はもう無いのよ」

「もう、無い……?」

 

 それってつまり、妖精世界は滅んだという事だろうか? 一体何で……それじゃあ、ラビは?

 

「ええ。滅んだ……正確には滅ぼした、かな」

「滅ぼした? 誰が……まさか、妖精?」

「正解よ」

「! どうして」

「簡単よ。技術の発展には犠牲は付き物……犠牲ってレベルじゃないけどね。私たちの住んでいた妖精世界は魔法という力が普及していたっていうのは前に話したわよね?」

 

 その言葉に俺は頷く。魔法がある世界で、魔石と呼ばれる物を主なエネルギーとして使っていたという事は聞いている。

 

「魔法は生活する上で、もう切っても切れない関係となってたわ。魔石というエネルギーも要は魔力だし」

「わたしたちの世界で言う科学?」

「ええ。科学の発展にも犠牲はあったでしょう?」

「うん」

「何か結果を得るには、犠牲になるものもある。それが技術の発展の宿命」

 

 この世界だって今じゃ、本当に便利になっているが、この状態になるまでにいくつもの犠牲を払ってきたはずだ。それは魔法でも同じ事が言えるのだろう。

 

 しかし、世界を滅ぼすって一体何が起きた? そんなやばい何かを研究とかしていたのだろうか。

 街一つが滅んだとか、一部の場所が滅んだとか、そういうのであればまだ? 考えられなくもない。いやまあ、これでも十分やばいんだけどさ。

 この世界にもあったよな。放射線が溢れ出てしまい、一部地域が長い間閉鎖されて居たという事件が……。

 

「世界を滅ぼすって一体何を……」

「そうね、そういう反応になるわよね。……でもあれは今の世の中を更に良い物にしようとした結果なのよ。そこに悪意はなく、本当にただ純粋な世の中を良くしたいという気持ちで行われていたわ」

 

 悪意はない。

 つまり、世界が滅んだ原因は本当に世の中を良くしたいと思ってた上での研究で起きた不幸な事故。とは言え、世界を滅ぼすって規模が違う。

 

「私たちが行っていた研究……それは――」

 

 ――()()()()()()()()()

 

 

 ラビはただそう静かに言うのだった。

 

 




衝撃の事実!!


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Act.09:ラビと妖精世界

 

「世界を複製……」

「そうよ。世界をコピーし、全く同じ世界を生成する。複製した世界なら何をしても私たちの住む世界には影響が出ないと考えたのでしょうね。その世界でなら迷惑をけかけずに魔法の研究が行える」

「世界を複製……あれ?」

 

 世界を複製する魔法って何かあった気がするぞ。

 

「気付いた? ……反転世界よ」

「!」

 

 そうだよ、俺達が普通に魔法の練習とかで使ってるあの世界。って事は魔法自体はもう完成していた?

 

「皮肉なことにね、妖精世界を犠牲に魔法は生まれたわ」

「……」

 

 思わずラビを抱き寄せる。

 

「世界を複製する魔法を発動するには膨大な魔力とエネルギーが必要だったわ。あちこちからそういうエネルギーになるものをかき集めて発動実験を行った。安全性とかの確認も出来ていたはずなんだけど……」

「それでどうなったの?」

「発動実験を行った時、どういう訳か世界を複製するつもりが、別の世界を呼び出してしまった」

「世界を呼び出す……ちょっと待ってスケールが……」

 

 世界複製に、世界を呼び出す……何だかスケールがでかくなってる。

 

「呼び出してしまった世界は二つ。一つはこの世界よ」

「!」

「そしてもう一つは、魔物と呼ばれる化け物が蔓延っている世界」

「それって……」

 

 魔物が蔓延っている世界……あれ、まさかこの世界に魔物が出現し始めた原因はそれなのか?

 

「この影響で三つの世界が隣り合わせになってるって感じね」

 

 今俺達の暮らしているこの世界と、魔物のいる世界、そして妖精世界が隣り合わせ、か。んーと分かりやすくするなら□◇□と言った感じか。◇は俺達の世界な。

 

「それで、そんな世界を呼び出した影響で妖精世界は反動で崩壊、草木も無い世界となったわ」

「それじゃあ、妖精世界の住人は……」

「恐らく全滅ね」

「ラビはどうして?」

「私の場合は運が良いのか悪いのか、歪に吸い込まれて気付いたらこの世界に居たって感じよ。確か15年前かしらね」

「15年前……」

 

 ちょっと待て。

 15年前って言ったら魔物出現の日じゃないか? いや、何月かまでは分からんけど、そうだとするとラビは原初の魔法少女が居た時期に居たという事になるが……。

 

「……崩壊と同時に妖精世界に漂っていた魔力が歪みの影響でこの世界に流れてきたのよ。これは幸いというべきかしらね……もし魔物の世界の方に流れてたら魔法少女なんて現れなかったわ」

「え、どういう事?」

 

 何か話が大きいぞ。

 ラビの話を簡単にまとめるとすると、まず、妖精世界の魔法実験……世界を複製するという魔法が失敗し、何故か二つの世界が呼び出されてしまった。

 二つの世界の内、片方が俺たちが暮らすこの世界。そしてもう片方が魔物の蔓延っている世界。

 それに妖精世界が入り、三つの世界が隣り合わせ状態となっている。そして反動で妖精世界は崩壊、充満していた魔力がどういう訳か俺たちの世界に流れ込んできた。

 

「妖精世界の魔力がこの世界に流れ込んできた、そのお陰で魔法少女という特殊な力が使える少女が誕生したのよ。魔力は人間たちに入り込み、そして何らかのきっかけで魔法少女として覚醒する」

「それが魔法少女が突発的に発生する理由?」

「そう。大体は命の危機とかが多いわね」

 

 なるほどな。

 今この世界にはそんな妖精世界にあった魔力が充満している。それは時には魔法少女として覚醒させる源となる。

 

「それで、魔物はこの魔力を取り込み、そしてそれを欲しがるようになった。突発的に発生する歪によって魔物はこの世界に出現、そして魔力を持つ者を襲う」

「それで……」

「ええそうよ。この世界に魔物が現れた原因は私たちにあるの。謝って済むレベルではないけど、本当にごめんなさい」

 

 確かに……魔物による被害は結構な打撃を与えているのは確かだが、それに対抗する力が生まれたのも妖精世界のお陰でも有る……難しいな。

 でも、ラビは悪くないと思う。誰にも失敗は有る……と言うにはちょっとスケールとかが大きすぎるけど、悪意があってやったわけじゃないってのは分かるさ。

 

「ん。大体分かった」

「……」

 

 俺はぬいぐるみでは有るが、ラビの頭を静かに撫でる。ぬいぐるみという事もあって触り心地は良い。

 

「話してくれてありがとう。一つ聞いても良い?」

「ええ」

「15年前にこの世界に居た、という事は原初の魔法少女は……」

「あなたの考えてる通りよ。原初の魔法少女たちは私が誕生させたわ」

「やっぱりか」

 

 原初の魔法少女たちは、非常に強力な力を持っていたと言われてる。今何処で何をしているのかは分からない。もしかしたら既に死んでいる可能性もある。

 

「魔物に詳しかったのは15年間居たから?」

「そうね。15年も近くで魔物を見てれば詳しくもなるわよ。と言っても分かってないことが多いけどね。何せあいつらは、別世界の生物だから」

 

 まあそれもそうだよな。

 話を聞いた感じだと、魔物ってまず違う世界の生物。それが魔法実験の影響でこの世界に出てくるようになった訳だし。

 同じ世界ならまだしも、別世界の事なんて誰も分からんよなあ。俺だって妖精世界だって知らなかったし。

 

 いや、そもそも世界ってそんないくつも有るのか? って話だ。まあ、平行世界だとか、そういうのは聞いたことは有るが。

 行動の一つ一つに分岐点があって、例えば別の世界では俺はラビと出会わずに普通に暮らしている、とか、元々存在しないとか、性別が違うとか。

 でもこれはあくまで同じ世界の中であった出来事の分岐によって生まれる世界。根本的な世界は同じだ。

 今回の話だと、まず世界そのものが別である。平行世界とは言えない。

 

「ここまで色々と話しちゃったけど、話を戻すわね」

「ん」

 

 結構壮大な話になってしまったが、本来の話はエーテルウェポンについてだ。まあ、聞いた俺が悪いのだが、そっちの話に戻すとしようか。

 

「妖精世界はもう無い。いえ……正確には存在はしてるけど、とても生物が過ごせるような環境ではなくなってしまったわ」

「一応行けるの?」

「どうかしらね。でもエクスパンションは反転世界に入れる魔法。これを使えばもしかすると行けるかも知れないわね」

 

 まあ、聞いた限りじゃ行った所で死にそうな場所だから行く気は起きないが……だが魔物の世界に行けるならそこで根絶やしにすればもう出てこなくなるのではないか?

 でも、瘴気が蔓延ってるよな多分。身体に悪そう……悪そうっていうレベルではないか。それにどれだけ居るかも不明だ。

 

「それで妖精世界に存在した武器であるエーテルウェポンがこの世界にあるのは実際あり得ない事よ。世界崩壊と共に消え去ったはず。でもエーテルウェポンじゃないと、魔力を奪う方法は思いつかないのよね。魔法で吸収するならまだしも、短剣でやってるようだし」

「ラビと同じようにこの世界に飛ばされた妖精がいる可能性は?」

 

 歪に吸い込まれたって言ってたし、他にも吸い込まれて気付いたらこの世界に来ていたっていう妖精が居ても可笑しくはない。

 ただこの場合だと、魔法少女を襲ってるのはラビと同じ妖精という事になる。各地で現れているのを聞いた感じだと組織的何かである可能性も。

 

「有り得なくは、無いわね。ただそうなると、妖精が何で魔力を奪ってるのかって話よね」

「魔力を使って何かを成そうとしてる?」

「そうね……それからそうなると、私とあなたと同じように強い力を持つ魔法少女が向こうにも居る可能性も出てくるわね」

 

 ……妖精が関わった魔法少女は基本的には群を抜く力を持つことが多いらしい。原初の魔法少女たちが強かったのはラビが居たから。

 それは俺も例外ではなく……他にも妖精が居るなら同じように魔法少女を誕生させてる可能性もある。

 

 ……何か厄介な気がしてきたぞ。

 

 

 



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Act.10:狙われたリュネール・エトワール①

 

「……」

 

 水戸市にあるビルの屋上、そこに俺は立っていた。生憎天気は曇り……何というかどんよりとした感じだ。

 

 そんなビルから北の方角を見ると、ここからでも良く見える大きな魔物が視界に映る。豆粒サイズくらいにしか見えないが、数人の魔法少女たちが戦闘しているのは分かる。

 爆発したり、花みたいなものを飛ばしていたり、蔓を操っていたりなど。この距離でそういうのが認識できる事自体、流石は魔法少女状態だなと思う。

 

 今回出現した魔物は脅威度A。久しぶりにこの脅威度の魔物が出現したのだ。しかも一体ではなく、二体。

 そう、魔法少女たちが戦ってる方とは別に南の方角にも魔物が確認できた。そんな訳で魔物に向かおうと思っている。見た感じ、現状こっちにはまだ誰も来てないっぽい。

 

「行こう」

「ええ」

 

 帽子の中に身を潜めるラビと一緒に、ビルから飛び降りて魔物の場所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 今回出現した魔物はどうやら、以前のカタツムリ……に似てるが、亀だこれ!? って事はあの甲羅も硬いよな。

 

 俺が魔物の近づけば、やはり魔力に敏感なのか、こちらに気付く。手始めにお馴染みの魔法を放つことにする。

 

「スターシュート!」

 

 もう見慣れた星がステッキから放たれる。亀と言う事だけあって、動き自体は結構鈍い。

 星が飛ぶ速度は一応、目で認識出来るくらいだからやばいほど早いって訳ではない。それでも亀の魔物を凌駕するのは当然で、放ったらすぐに着弾する。お馴染みの星のエフェクト付き爆発が起きる。

 

「身の危険を感じた?」

「まあ、本能的に食らったらやばいと判断したんじゃないの?」

 

 煙が晴れた所で見える亀の魔物は無傷だった。顔の方を甲羅に引っ込めたみたいで、それで身を守ったのだろう。

 これはカタツムリ並みに面倒だな。しかも今回はBではなく、Aの魔物だ。どんな攻撃手段を持ってるか分からない。

 

 亀の顔を見ると何処となく『ふっ、防いでやったぜ。その程度か?』って挑発されているように見える。

 魔物の言葉とかは分からんが。

 

 さて、どうするか。

 メテオスターフォールを使うか? だが、カタツムリの魔物の殻はスターシュートでひびが入ったが、こいつの場合は一切の無傷だ。

 メテオスターフォールは強力だが、前にも言った通り結構疲れるし魔力も消費するしな……。

 

「おっと」

 

 どうするか考えていると、魔物は何か棘みたいな物をこちらに向けて放ってきた。何処から出したんだよ!?

 

「リュネール、回避して!」

「え?」

 

 慌てたように叫ぶラビの言う通りに、回避行動をとる。すると、さっきまで俺が居た場所に向けて棘が集まっていた。

 

「あの棘、追尾性能付きね。ただ精度はあまり良くないっぽいけど」

「少し危なかった。ありがとう、ラビ」

「どういたしまして。また来るわよ」

「ん。グラビティアップ」

 

 魔物は続けて第二射を放ってきた。自分の周辺の重力場を弄る。飛んできた棘は特定領域内に入ると同時に、動きを止め落下する。

 亀にかかる重力を大きくした所で、そもそも最初から動き鈍いからあまり意味無いだろうし、身を守る為に使うのが良さそうだ。

 

「スターライトキャノン!」

 

 第三射を放たれても面倒なので、スターシュートではない攻撃魔法を使う。相変わらず星と月の模様の入った魔法陣は目立つよな。

 亀の魔物は甲羅に再び身を隠す。そして俺の放ったスターライトキャノンが命中すると、スターシュート以上の爆発を引き起こす。勿論星のエフェクト付き…ここ大事。

 

「お」

「傷つけられたっぽいわね」

 

 甲羅に隠れ、魔法を受けた亀だが、さっきとは違い無傷ではなかった。大分、甲羅のあっちこっちに傷が付いてたのである。

 と言っても、傷をつけられた程度なのだが。しかし、向こうは向こうで効いたのか、悲鳴のようなものを上げていた。

 大地を揺るがすような、振動を発生させる叫び声に若干顔をしかめる。魔物の叫び声って結構種類にもよるけど、耳に悪い。いや、正確には何て言えば良いのかな……ぞわぞわするような、この世の物とは思えない何かのような物だ。

 

 魔物自体、別世界の生物だからこの世の物ではないって言うのは合ってるか。

 

「硬いの厄介」

「あなたの魔法も微妙な効き目ね……どうする? 他の魔法少女に任せる?」

「……北側で忙しいはず」

「そうよね……」

 

 今更ではあるけど脅威度Aの魔物はAクラスの魔法少女が数人、少なくとも二名以上で対処する魔物である。

 この地域のAクラスの魔法少女って現状9人しかいないんだよな。Sクラスのホワイトリリーを入れて10人。

 残りのおおよそ20人はBクラス以下だ。その為、脅威度Aの魔物に対応できる人数は限られている。ホワイトリリーはどうしてるのだろうか、やっぱり北の方に居るのかな。

 

「うーん」

「何する気?」

 

 俺がステッキを前に向ける。その先に居るのは亀の魔物。スターライトキャノンでは傷はつけられたが、威力不足だ。ならば――

 

「――サンフレアキャノン」

 

 刹那。

 ステッキから極太の熱線が放たれる。俺からしても結構熱いが、魔法少女状態だから耐えられないレベルではない。

 

「#?#!?」

 

 熱線が魔物にヒットする……そして燃え上がる。その炎、実に数千万度に到達する。一瞬にして炎は消え去り、魔物も消え失せた。

 

「ふう」

「今の何……?」

 

 何、か。

 スターライトキャノンと同類の魔法のはずだが、サンフレアキャノンは熱による光線と言えば良いのかな?

 星関係、恒星とかも含まれるならば、わが太陽系に存在する恒星の太陽……あれを魔法にできないかと思った。

 流石に太陽を呼び出すとかは考えてない。そんなことしたたら地球が滅びそう。そもそもできるかもわからないし、する気も無い。

 

「んー太陽?」

「えぇ……」

 

 良く分からないが、星とか月に関係する魔法って酷く曖昧なのだが、こう使いたいと思ったりすると、自然と魔法のキーワードが思い浮かんでくるんだよな。

 自分が使える魔法すらまだ把握しきれてないのは事実。リュネール・エトワールはどういう魔法少女なんだろうか。

 

「リュネール!」

「ん? っ!」

 

 何だ、何が起きた? ラビの焦燥した声と同時に、俺は身体に違和感を覚えた。

 

「何が……」

 

 違和感とかそういうレベルじゃない、明らかに可笑しい。何故俺は()()()()()に地面を見ているんだ? 身体にも力が入らないし、何が起きた?

 

「ふん。やはり効いたようだな」

「だれ……」

 

 身体が全然動かないけど、何とか首だけを動かして聞き慣れない声の男の方に目を向ける。そこでは白衣を着た一人の男が気味悪い笑顔で俺を見下ろしていた。

 

「くっくっく、実に凄い魔力だ! この量に質……これは良い意味で予想外だ」

 

 更にその男が片手に持っている、黒い短剣に目が止まる。

 

「ま、さか」

「気付いたか? まあ、それは良い。お前の魔力は非常に良い物だ。それに野良らしいじゃないか? なら連れて行っても構わないだろう」

 

 なっ!

 こいつ、俺を連れて行こうとしてる? まずいな……男だっていうのがバレるのもそうだが、今の状態じゃ何も出来ない。これが魔力を奪われた感覚っていうやつか。

 

 ブルーサファイアが体験してしまった感覚。確かに何も出来ない状態で、これは怖いだろう。俺はまだ男でしかもおっさんだからそこまでの恐怖はないが……。

 

「さ、わるな」

「おー怖い怖い! だがその状態じゃ何も出来ないだろう? 安心したまえ、命は取らんよ」

 

 そう言って俺を担ぎ上げようとする男。いやどうする? 何か方法……あ! 大丈夫だ、ステッキは持っている……俺は動かない身体を何とか、無理矢理動かし、一旦男と距離を取る。大分きつい……動けて良かった。

 

「ほう、その状態でもまだ動けるか……一体どれだけの魔力を持っているんだ」

「お前には、関係ない」

「くっくっく! 動けたとしてもそんな状態で何するつもりだ? そうやって膝付いてる状態だって相当きついだろう?」

 

 男の言う通り、かなりきつい。魔力を急激に減らされるとこうなるのか……初体験と言えば良いのか。男はそんな俺を見て随分と余裕そうな顔でジリジリと近付いてくる。

 

 だけど――

 

「……チャージ」

 

 ステッキの持ってる手とは反対の手で触れ、そしてキーワードを唱えた。

 

 すると……ステッキが眩い光を放ち、周囲を一瞬だけ照らす。それと同時に体中に駆け巡る魔力を感じ、さっきまで力が入らなかった身体に力が戻ってくる。

 

「何!?」

 

 残念だったな、ツメが甘かった。

 

 俺たち魔法少女は確かに魔力を使って変身したり、魔法を使ったりする。変身は問題ないとして、魔法を使う時は魔力を消費する。

 魔力が無くなれば戦闘不能になるが、回復する方法もあるのだ。まあ、魔法ではないけどな……取り敢えず、コイツを捕まえる。

 

「覚悟して」

 

 俺はそう言い放ち、ステッキを男に向けるのだった。

 

 

 

 




持ってて良かった魔石さん!


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Act.11:狙われたリュネール・エトワール②

 

 ――魔石。

 魔物を倒したときにドロップする、魔力の持つ石だ。その効果は一時的に魔法の力を強化したり、傷を癒やしたりなど様々な事が可能だ。

 

 そして魔力の回復も可能である。

 

「何故魔力が復活している!?」

「さあね」

 

 教える訳無いだろ。

 この男、魔力を奪っているという割には魔石の存在を知らなかったとか、お粗末様だな。まあ、俺も忘れかけていたが……思い出せて良かったよ。

 

「トゥインクルスターリボン!」

「!?」

 

 取り敢えず、逃す訳には行かないからこの魔法のリボンで縛り上げる。締め付けすぎると、殺ってしまう可能性があるのでそこは調節している。

 今まで倒した魔物の魔石、一つも使わずに持っているので全回復も容易い。回復してしまえば後はこちらの物である。リボンによる拘束を解こうともがいているようだが、これは魔法のリボン。そう簡単には解けないだろう。

 

「あまり時間はかけたくないから手短にする」

「くそ、解けない!」

「……」

「ひぃ!?」

 

 今の俺は多分、世界一良い顔をしていると思う。自分の表情はわからないけど、ラビが青くなっているのが見えるから効果はありそうだ。

 男の目の前にステッキの先端を突きつける。さっきまでの余裕そうな顔は何処かに消え、ただただ青い顔をしてこちらを見てくる。おいおい、男が情けないんじゃないのか?

 

 元の身体ならまだしも、今の俺はリュネール・エトワールだぜ? 女の子を見て青い顔するって……まあ良い。

 

「質問に答えろ」

「だ、誰が……」

 

 にっこり。

 男は更に顔を青くする。何か、これ楽しいな……っといかんいかん。変な性癖に目覚めてはいけない。

 

「まず、その短剣は何?」

「……」

 

 あまり時間はかけたくないんだよなあ……他の魔法少女たちに見られたらどうなるか分からん。泣くかも知れないし、とっとと終わらせたい。

 

「それ」

「あが!?」

 

 ステッキを軽く振りかざせば、リボンの締め付けが強くなり、男は変な声を漏らす。再びステッキを目の前に突きつける。

 

「答えて」

「ひい!? 渡されたんだよ! お前くらいの女の子にな!」

 

 ジロリと男を見る。

 依然顔は青いままではあるが、嘘は言ってなさそうだ。しかし、女の子? 俺くらい……15歳位って事か? そんな少女が何故こんな短剣を? 後でラビに調べてもらうか、エーテルウェポンかどうかとか。

 

「そう。じゃあ次の質問。何故魔法少女を襲う?」

 

 そう次はこれだ。

 何故こいつは魔法少女を襲うのか? 短剣で魔力を奪っているっていうのは分かるが、何のために? 何より……ブルーサファイア、いや蒼という一人の女の子にトラウマを植え付けさせたのは許せない。

 他の魔法少女については聞いてないが、怖かったはずだ。何度も言うが、魔法少女の本来は10代前半の年端も行かない少女たちだ。まだ子供である。

 

「早く答えて」

 

 そんな事考えてると余計に怒りが湧いてくる。ステッキを更に近づけると、男はもう青を通り越しで真っ白になっている。ちょっとやり過ぎたかな。

 

「い、言われたんだよ! その少女にこれで魔法少女を刺せって! 本当だ!!」

 

 少女に言われた、だと? そんな噓が……いや、これもまた嘘を言ってるように見えないし必死だな。短剣を渡したのも少女、刺せと言ったのも少女……まさか?

 

「そう。……嘘ではない?」

「ほ、本当だ!! 信じてくれ!」

「分かった。嘘言ってるようには見えなし。その少女について聞かせて?」

 

 一つの可能性が上がってくるが、まだそうと決まった訳ではない。取り合えず、その謎の少女について聞いてみる。

 

「分からないんだ! 一応お前みたいな感じの変わった服を着ていて手には杖みたいのを持ってた!」

 

 俺みたいな変わった服……うん、魔法少女の衣装って全部変わってるからな。可愛いからかっこいい系みたいな感じで。

 ホワイトリリーとブルーサファイアについては可愛い系だと思う。後は名前は知らないが、戦ってる魔法少女の中には騎士みたいな衣装の子もいたな。あれはかっこいい系か?

 

 いやまあ、それは置いとくとして。

 つまり、その少女と言うのは……やっぱり魔法少女なのか? バックに魔法少女が居るって言う説が正しかったのか?

 

「明らかに普通ではない頼みを、なんで聞いたの」

「し、仕方がないだろっ! あの少女は変な力を持ってるんだっ! 杖から魔物を出したり、変な魔法を使ったりしてたんだよっ! あれで脅されたんだ」

 

 魔法……なるほどな。やはり魔法少女か……でも、何だって? 魔物を出した?

 

「魔物を出した……?」

「ああそうだよ! 今回二体出ただろ? あれはそいつに出して貰ったんだよ」

 

 脅威度Aの魔物を二体も、出すって何者だ、その魔法少女!? いや、そもそも魔法少女なのか?

 

 ラビの話だと魔物は別世界からやってくると言ってた。それを、意図的に行えるだって? つまりその少女は世界を移動できるのか?

 ……いや、移動できるってのは言い過ぎかもしれない。そうではなく、他の世界から魔物を呼び出せるって事か?

 

「ありがとう」

「へ?」

 

 聞きたいことを聞けたので、拘束を解きステッキも離す。すると、男は呆けた顔をしていた。別にどうこうするつもりは無い。後は魔法省の仕事である。

 

 噂をすればほら。

 

「後は魔法省に任せる」

 

 見慣れた魔法少女が一人、こちらにやって来てるのが見える。軽く後は頼んだ的な感じのジェスチャーをした後、その場を立ち去ろうとしたが……。

 

「あ、待って!!」

「離して」

「離したら逃げるでしょ!」

 

 誰かに肩を掴まれる。これまた新しい魔法少女だな。

 ブルーサファイアを赤バージョンと言えば良いのか……その他にホワイトリリーと数名の魔法少女も居る。完全に包囲されてる件について。

 

「……何」

「すみません。リュネール・エトワール、話を聞かせてください」

 

 代表としてホワイトリリーが前に出てきてそう言ってくる。何の話? と思うが、まあおおよそ分かってる。そこの男についてだろう。

 

「分かった」

 

 最初の俺が刺された所を見てなかったら、俺がこの一般人の男に一方的に危害を加えたと捉えられてもおかしくない。

 仕方がないので、さっきまでの出来事を簡単に話す事にした。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「なるほど、事情は分かりました。こちらの調べでも白状しましたし……いえ、疑ってた訳ではないのですけど、こういうのも仕事なのですみません」

「ん。問題ない」

 

 男も素直に白状したので俺に対する疑惑と言うのは消えた。と言うより、この場に居る魔法少女たち全員がそんな事は無いだろうと思ってたみたいだ。

 ……あれ? 俺野良なのにそんなに信じて良いのか?

 

「前に言いましたよね。魔法少女たちは皆あなたに助けられてお礼を言いたいって」

「ブルーサファイア……大丈夫なの?」

「ええ。お陰様で……っ」

 

 ブルーサファイアも居たようで、俺と目が合うと顔を赤くして慌てて目を逸らす。ん? 何かあったかな?

 

 それにしても、素を知ってると違和感がするな。でもまあ、理由があるんだろうし何も言わない事にする。それ言ったら俺も全然違うしな。

 

「そうよ、お礼言いたかったのにすぐ居なくなっちゃうんだから! だからこの場を借りるわね。助けてくれてありがとう」

 

 何処か強気な感じを見せる赤い少女がお礼を言うと、それに続いて他の少女たちにもまた同じように感謝される。

 ……確かに、何処かで見覚えのある魔法少女たちだった。

 

 因みに赤い子はレッドルビーと言うみたいで、真面目にブルーサファイアの色違いやん! と突っ込みたくなった。まあ性格は違うけどな……ツンデレになり切れてないようなそんな感じ。

 赤いヒロインってツンデレっていう傾向が強いが……でもあれアニメとかの世界だし。クラスはブルーサファイアと同じでBだった。

 

 それでそんな二人以外にも、ホワイトリリーを含み5人ほど居るのだが、全員がAクラスの魔法少女。

 茨城地域の精鋭しかいねえ……逃げようとしたらどうなった事やら。まあ、俺には姿を消せる魔法があるけども……。

 

「後は任せてください」

 

 ホワイトリリーがそう言って、男を連行するように、と他の魔法少女たちに指示を出す。魔法省に連れて行き、取り調べを受けるのだろう。

 

「この短剣は?」

「それはあなたが持っててください。本来は私たちが回収するのが道理ですが、私たちよりリュネール・エトワールの方が分かるかなと思いまして」

「分かった」

「その代わり何かわかったら教えてください」

「ん」

「ありがとうございます、リュネール・エトワール」

 

 それで会話が終わったと思ったのだが、何故かホワイトリリーはじっとこちらを見てくる。

 

「……何」

「いえ。先ほどブルーサファイアと仲良さそうに見えたので」

 

 あ、そうだった。

 ホワイトリリーは俺と言うかリュネール・エトワールの事が好きなのだ。他の少女と話していたら気になるのは仕方がないか。

 

 相変わらずじーっと見てくる。因みにブルーサファイアたちは既にこの場にはいない。男と魔法少女たちと一緒に魔法省へ戻って行ったから。

 この場に居るのは俺とホワイトリリーだけだ。

 

 さてさて、どうするかな。

 

 

 




激おこなリュネール・エトワールさん。


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Act.12:ホワイトリリーとリュネール・エトワール①

ホワイトリリーの……ターン!



「この姿では初めましてですよね! 私、白百合雪菜って言います」

「ん。……司」

「司さんって言うんですね」

 

 さて、今の俺は何をしているのかと言えば、ホワイトリリーこと白百合雪菜と会っていた。もうお気付きだろうか? 魔法少女としてではなく、本当の姿で、だ。

 俺の場合はこの姿も偽物なのだが、本当の姿を見せる訳にもいかないから仕方がない。ハーフモードで、前に着ていた黒いパーカースタイルである。

 この姿でホワイトリリーと会うのはこれが初めてなので、問題ないだろう。

 

「あまり変わってないんですね」

「うん。そういう事」

 

 蒼にも言われた気がする。喋り方とか、統一してるからそりゃあそうか。それにこの姿もぶっちゃけ変身と同じ様なものだしな。

 

 何故こうなったのか……それは簡単で、雪菜に蒼と会ったという事を話した為だ。ただ抱き寄せたり、蒼が泣いた事については伏せてある。

 それを言ったら雪菜は『ずるいです!』と抗議の声をあげたのである。後そのまま流れるようにこうやって会う事になってしまった。

 

 別に嫌という訳ではない。ただ本当の姿がばれると言う事を恐れていると言えば良いか……はあ、ぼろが出ないように気をつけねば。

 

 そんな訳で今俺たちは某有名なショッピングモールに来てるらしい。何故ここなのか……まあ確かに色々あるけどな。

 

「やっぱ迷惑でしたか?」

 

 そんなこんな考えてると、不安そうにこちらを見る雪菜。別に迷惑とは思ってない。これは俺の問題だしな……本来の姿っていうのが一番の問題だ。

 

「ん。別に迷惑とは思ってない。何処行くの?」

「あ……特に決めてませんでした」

「え」

「す、すみません! 近い所で出掛けられるのはここくらいしか思い浮かびませんでしたし、司さんと出掛けられるって事が嬉しかったので……」

 

 お、おう。

 まさかの無計画。まあ、ショッピングモールで計画って言っても特に無いよな。でも、せめて行きたい所くらいはリストアップしようぜ……。

 

「適当に回ろう。……何処が良い?」

「えっとえっと……」

 

 時刻は10時半。土日という事もあってお客の数はかなり多い。県内で一番広いって言うくらいだし、当然といえば当然か。しかも県庁所在地である水戸にあるし、前も言った通り増設されたから本当デカイよなここ。

 

「あ、あそことかどうでしょうか!」

 

 そう言って指を向けた先にあるのはゲームセンターだった。雪菜、ゲーセンに興味があるのかな? いやまあ、俺も好きだけどよ。

 

「ん。行こう」

「はい!」

 

 そんな訳で俺と雪菜はゲームセンターへ足を運ぶのだった。

 

 

 

 

 

「ふふ」

「ん? どうかした?」

 

 私は今日は本当にわくわくしています。ついつい、嬉しくて笑いが出てしました。……少し恥ずかしいですね。

 

「いえ! 何でも無いですよ」

 

 何故そんな嬉しいのかと言えば、やっぱり隣りにいるこの子ですね。彼女の名前は司さんと言うみたいです。苗字までは教えてくれませんでしたが、名前が分かっただけでも良しとします。

 そして皆さん、驚いて下さい。この子こそ、この地域では有名な野良の魔法少女である、リュネール・エトワールの正体だったりします。

 

 そして私の好きな人でもあります。

 同性なのに、可笑しいかもしれませんが、好きなものは好きになってしまったのだから仕方が有りません。でも好きなんですけど、未だに告白とかは出来てません。

 

 振られるのが怖いというのもありますが、やっぱり同性だからでしょうか。

 

 それは今は置いとくとしましょう。いつか、告白できたら良いなって思います。

 

 そんなリュネール・エトワールこと、司さんと今居るのは水戸市にある某有名なショッピングモールの中です。どうしてこんな所にいるのか? それは私が誘ったからです。

 

 だって、司さん、ブルーサファイア……いえ蒼ちゃんとリアルで会ったらしいじゃないですか! 仲良さそうに会話してたのを見てちょっともやっとしました。

 いえ、もやっとというのもありますが、やっぱり素直に羨ましいというのが強いですね。それにですよ? 蒼ちゃん、司さんのこと話そうとすると顔を赤くするんです。

 

 ……もしかして、蒼ちゃんも司さんが好きなのでしょうか?

 

 いえいえそれはない……とは言えませんね。会った時に何をしていたかまでは流石に教えてくれませんでした。でも、蒼ちゃんと司さんの接点ってあまり無かった気がします。

 

 でも、最初にリュネール・エトワールと出会ったのは蒼ちゃんだと聞いてます。そそくさとその場から居なくなってしまったらしいですが。

 その時点では特に、蒼ちゃんは何もなかった気がします。やっぱり、出掛けてたという時に何かあったのでしょうか?

 

 いえ、私がどうこういう資格はありませんね。妹の冬菜の言う通り、恋とは突然落ちるものです。それがたとえ、同性であっても恋は恋なのです。

 

 ですが! 私も司さんが好きなので負けていられません! そんな訳で私は半ば強引にこうして出掛けているのですが、後々考えると、これは大分迷惑な行為ですね。

 

 そんな不安もあり、ついつい司さんに聞いてしまいました。でも、司さんは別に気にしてないという感じで返してくれました。私的の見え方では、本当にそう言ってくれてるのだと思えました。

 

 そんな事考えてると、私はゲームセンターのあるクレーンゲームの前に止まっていました。中を覗くと、そこには可愛らしい兎のぬいぐるみがありました。

 色は三種類はありますね。キュートな目もまたかわいいです。

 

 それを見て私は素直に欲しいと思いました。でもこういうのって結構難しいんでしたよね? 1プレイ100円で6プレイ500円となってました。

 

「どうかしたの? ……欲しい?」

「い、いえ! た、ただ可愛いなと思いまして」

 

 すぐ隣りにいた司さんにそう言われ慌ててしまいました。と言うか、近いですね! ……別に悪い気はしません。もっと近付いてくれても良いのですよ?

 

「なるほど」

「え?」

 

 私の言葉を聞いた司さんはズボンのポケットからおもむろにお財布を取り出しました。黒い、シンプルな感じの財布ですね。あと星と月の絵もあるみたいです。

 よくよく見たら司さんの着ている黒いパーカーにも小さく星と月が描かれてますね。その下までは流石に見えませんが……ズボンは特に何もない普通なものでした。

 

 もしかして司さんは星とかが好きなのでしょうか? 魔法少女の時も衣装とかは殆ど月とか星関係が描かれてましたし。

 

 司さんがお財布から取り出したのは500円玉でした。それをクレーンゲームのコイン投入口へ入れます。すると、6という数字が赤く表示されました。

 

 二つのボタンを使い、司さんは一番取り出し口に近い位置にある白色の兎さんの所でクレーンを止めました。正面以外にも、横からも見たりして位置を把握してるみたいです。

 

 そして二つ目のボタンを押し終えた所で、クレーンがゆっくりと降りていきます。二つのアームが兎さんを掴み、そして持ち上げました。

 しかし、途中で落ちてしまいました。結構良い感じになってたと思うのですが、駄目だったのでしょうか。

 

「ん。こういうのは何回かしないとアームが弱い」

「そうなんですか?」

 

 何でも一定回数プレイしないとアームが弱い感じらしいです。良く分かりませんが……。

 

 残り回数が1になり、最後となります。司さんも思った以上に集中していて、話しかけにくかったですね。同じように白い兎さんを狙っています。

 

「取れた」

 

 凄いです。今度はちゃんと兎さんが取れ、素直に私は感心してしまいます。

 

「はい」

「え?」

 

 そんな取れた白い兎さんのぬいぐるみを司さんは私へ、差し出してきます。

 

「欲しかったんでしょ?」

「そ、それは……で、でも良いのですか?」

「うん」

 

 そう言ってあまり表情を見せない顔が笑います。

 

「っ!?」

 

 ドキッとしました。

 リュネール・エトワールはあまり表情は見せません。それは元の姿でも同じでしたが、それでも全く無いという訳ではないのです。

 今見せた笑顔……あれは流石に反則だと思うですよ!

 

「ありがとうございます……」

「うん」

 

 流石に受け取らないという選択はできませんね。それに欲しいと思っていたのも事実ですし……私は司さんにお礼を言ってから受け取るのでした。

 

 

 

 




女の子とぬいぐるみって良いよね、可愛い(かわいい)


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Act.13:ホワイトリリーとリュネール・エトワール②

まだ続くぜ、ホワイトリリーのターン!


 

「そう言えばどうして白い兎さんを選んだのですか?」

 

 兎のぬいぐるみのあったクレーンゲームを後にすると、雪菜に聞かれる。雪菜の方を見ればさっき取った白い兎のぬいぐるみを両手で大事そうに持っていて、素直に可愛いと思った。

 やっぱり女の子なんだな、と思う。何か少しだけ顔が赤いのは気になるが、体調自体は問題なさそうだ。

 

「白百合、ホワイトリリー」

「え?」

「雪菜の、色」

「私の色……」

 

 並んでいたカラーは水色、白、ピンクの三色だったし、その中で一番合うのは白かと思っただけだ。魔法少女ホワイトリリーは基本的に白い衣装だし、名前にも白と入ってるから、と言う単純な考えからだ。

 

「ん」

「ありがとうございます……」

 

 あれ何か悪いこと言ったかな? 俯いちゃったけど。

 

「(やっぱり無自覚ねぇ)」

 

 今回も同じく、バックパックの中にラビが入ってる。時折、俺にしか聞こえないくらいの声で話しかけてきたりとかしてくる。

 

「嫌だった?」

「いえ! そうではないです! えっと、凄く嬉しいです!」

「お、おう」

 

 おっとついつい、素に近い感じで反応してしまった。やっぱりぼろ出すのは怖いな……無口キャラとは言え、喋るのだからミスがあるのは仕方がないんだけどな。

 

 一人称を間違えなければ、取り敢えずは大丈夫かなーとは思いつつ。

 

 で、雪菜は俺の言葉に顔を赤くして慌てて答えてくれる。嘘ではないっぽいかな? まあ、雪菜が嘘を付くとは思えないけど、好みだってあるはずだろうし。

 

「ゲームセンターってあまり来ないんですけど、色んなのがあるんですね」

「まあね」

 

 気を取り直し、俺たちは適当にゲーセンの中を見て回るのを再開する。コインゲームや、太鼓のゲーム、シューティングにスロットなど、豊富である。

 でもやっぱり一番多いのはクレーンゲームで、中身は人気のアニメや漫画関連のおもちゃだったり、ぬいぐるみだったりとかだ。ラジコンのヘリコプターとかもあるな。

 

 当然だが、ゲーセン内は騒がしい。俺は別に大丈夫だが、雪菜はどうなんだろうか? 見た感じでは大丈夫そうに見えるけど。

 

「結構煩いけど、雪菜は大丈夫?」

「え? あ、はい。確かに結構あれですけど、問題ないですよ!」

 

 そういう訳で雪菜に聞いてみた所、問題ないようだったので安心した。とは言え、ずっとここに居るのも耳に悪いかもしれない。

 

「あ、あれやってみたいです」

「ん? ……良いよ」

「本当ですか! ありがとうございます」

 

 それは多分知らない人は居ないっていうレベルの有名な太鼓のゲームだった。ルールは簡単で、曲を選んでその曲に合わせて譜面が出るからそれを叩くのだ。

 二つのバチで同時に叩くものもあれば、太鼓の外側を叩くものもある。で、必ず二つ置いてあるんだよね。二人プレイまで可能である。二人プレイ限定な譜面も出てきたりする。

 

「あの、一緒にやりませんか」

「わたし、下手だよ?」

「大丈夫です! 一緒にやりたいだけですし」

 

 この手のゲームはあまり触れたことがないんだよな。でもまあ……やってみても良いかもしれないな。

 

 俺はそんな訳で、雪菜の隣の太鼓に立つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は有難うございました。楽しかったです……」

 

 ショッピングモール内にある、フードコートにあるテーブルに座って、目の前にいる司さんにお礼を言います。時間は既に12時半を回っていて、このフードコートは結構な人が集まってますね。テーブルを取れたのは運が良かったです。

 

「ん。良かった」

 

 言葉数は相変わらず少ない子ですが、こうして一緒に居ると普通の子だなと思いました。

 太鼓のゲームを一緒にしようと思ったら、下手だよって言ってましたけど、実際一緒にしてみると大分”良”を取っていた気がします。十分上手だと思いましたね。

 

 一曲程度ですけど、司さんと居るのは楽しいです。

 やっぱり好きな人だからなのでしょうか? 同性ですけど、それでも好きになってしまったのでどうしようもないですよね。

 ですが、ブルーサファイア、いえ蒼ちゃんと言うライバルも居ます! これは負けていられませんよね……でもどうすれば良いのでしょうか。

 

 やっぱり思いをぶつけるのが一番なのでしょうけど……私は目の前にいる司さん……リュネール・エトワールを見ます。綺麗な黒髪は肩まで伸びていて、肌の色も白いです。

 若干ハイライトのない目をしていますが、黒い瞳をしています。リュネール・エトワールの時は銀色の髪に金色の瞳でしたが、変身前は黒なのですね。

 

 ――きゅるるる

 

「っ!?」

「お腹すいた?」

 

 そんなこんな考えてると、私のお腹から音が鳴ってしまいます。司さんはにはその音が聞こえてしまったのか、苦笑いをしてこちらを見てます。

 カァっと赤くなってるのが分かります。好きな人の前で空腹の音聞かれちゃうなんて、恥ずかしいじゃないですか! でも、嘘をつけないのが身体なので仕方が有りませんね。

 

「何か食べる? 奢るよ」

「え!? わ、悪いですよ!? 自分で払います!」

「そう?」

 

 そんな不思議そうな顔で首を傾げないで下さい。可愛いじゃないですか。

 私は中学生ですけど、魔法少女として魔法省に所属しています。魔物を倒すという仕事の上、お給金というものがあります。普通よりは多く持っていると思いますよ。

 

 魔法省に所属している魔法少女たちは国から支援を受けます。それは医療関係だったり、保険だったりとかです。そして魔法少女の居る家族には相応の保証金は出るのです。

 何せ、命と隣り合わせな仕事ですからね。だからこそ、強制できないし本人の意志が尊重されます。

 

 そう言えば、司さんには家族は居るんでしょうか。いえ、こういうのは聞くべきではないと思いますが、気になります。家族に内緒でやってるのであれば、それはそれでちょっと心配です。

 考えたくはないです、が……もし司さんが死んでしまったら家族の方はどう思うのでしょうか。内緒にしているという事は気付いたら死んでいたという事になってしまいます。

 

 それは、辛い事だと思います。いえ、それ以上ですね。

 

「あの、司さん」

「ん」

「司さんのご家族は居るのですか?」

 

 やっぱり聞いておくべきでしょう。私は意を決して、司さんに聞いてみます。すると、司さんは静かにこちらを見ていました。やっぱり聞かない方が良かったのでしょうか。

 

「……気になる?」

「はい……ですが、聞いておいてなんですが、無理して言う必要はありません」

 

 私も無理矢理聞きたいとは思ってません。でも気になってしまうのです。

 

「いいよ」

「え?」

 

 自分で聞いておいてあれなのですが、司さんはそう答えてくれました。

 

「まず、両親については居ない」

「えっとそれは、遠くに居るとかですか?」

「んん。既に他界してる」

「っ! ご、ごめんなさい、私……」

「気にしないで」

 

 驚きを通り越して私は少し泣きそうになってしまいました。つまり司さんにはもう親は居ないと言う事です。それがどれだけ辛い事か……。

 

「そ、それじゃあ、親戚の方とかは?」

「……」

 

 静かに首を横に振る司さん。感情が読み取りにくいですが、それでも悲しそうに見えてます。

 

「司さん!」

「!?」

 

 やってしまいました……あまりにも見ていられず、司さんを抱きしめてしまいます。すると、司さんはピクリと肩を動かしました。しかも、こんな人の多い所でです……少しだけ視線を感じて恥ずかしいですが、今は離せません。

 

「あの、私では頼りないかもしれませんが……いつでも相談して下さい」

 

 魔法少女としてだけではなく、本来の姿でも、です。

 

「ありがとう……雪菜」

「いえ……あの、私とお友達になってくれませんか?」

 

 好きなのは間違いないですが、そう言えばまだ友達って言えてませんでした。まずは友達から、という事で私は司さんにそう聞きました。

 

「いいの?」

「はい!」

 

 勿論大歓迎ですよ!

 

「うん。良いよ、友達」

 

 その答えに私は嬉しくなりました。まだ好きとは言えませんが、まずはもう少し司さんの事を知りたいですし、ここからがスタート、ですね。

 

 ただそんなタイミングを見計らってか……モール内に警報が鳴り響くのでした。

 

 

 

 

 

 



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Act.14:ホワイトリリーとリュネール・エトワール③

 

「司さん」

「ん」

 

 ショッピングモール内に鳴り響くその警報は、魔物が近くに現れたという物を知らせるものです。折角、司さんと一緒に過ごせていたのに、邪魔するなんて許せません。

 

 警報によってお客さんたちは避難誘導に従い離れていきます。私たちはその流れに溶け込み、そそくさに外へと向かっていきます。

 以前もこのショッピングモールの近くで魔物が出ましたよね。最新の調べによると、魔物は人の多い所の近くに出現する傾向が見られているそうです。

 

 それは確かに納得できます。この茨城地域の中心である県央では、他と比べて多くの魔物が観測されていますしね。

 

 そして日本の首都である東京では毎回トップの数の魔物が出現しているそうです。とは言え、東京地域の魔法少女たちは少なくとも100人以上居ますけどね。

 

『出現した魔物は脅威度Bよ! あなたなら大丈夫だと思うけれど、気を付けてね』

『はい、分かりました、茜さん』

 

 魔法省の茜さんからの連絡で、出現した魔物は脅威度Bという事が分かりました。隣に一緒に走っている司さんを見ます。

 

「司さん、今回は私が行きますね! Bらしいので」

「ん。分かった。……気を付けてね」

「! ありがとうございます」

 

 やっぱり司さんは良い子です。

 いえ、私のほうが年下なのに何を言ってるんでしょうか……でも司さんって15歳と聞きましたが、時折凄く大人っぽくなるんですよね。

 

 両親が居ないからっていうのもあるんでしょうけど……。

 

 そんなこんなでショッピングモールから外へと出た所で、私は首にかけているペンダントを取り出し握ります。わたしの魔力に反応したペンダントがキラリと少し光りました。

 

「――ラ・リス・ブロンシュ・フルール!」

 

 変身のキーワード……それを唱えれば、私の視界が光りに包まれます。ふわっと浮遊感に襲われますが、別に嫌な感じではありません。何度も経験している感覚ですし、今更ですよ。

 

 しばらくして、私の姿は魔法少女ホワイトリリーとなりました。側に居る司さんを見ます。目が合うと、司さんは頷き、私も頷き返しました。

 

「行ってきます」

「うん。行ってらっしゃい」

 

 その言葉に私は嬉しくなりますが、今はこの気持は抑えましょう。思いっきり飛び上がり、一瞬にしてショッピングモールの屋上へと辿り着きます。

 

「あれですか……絶対に許しません!」

 

 出現した魔物を見て、私は睨みつけました。少しお腹が空いているというのもありますが、ちょっと……いえ、かなり今の私の機嫌は悪いですよ、覚悟しなさい。

 

 屋上から加速して魔物の近くに飛んでいきます。今回出現した魔物は馬みたいな魔物で、新種ではありませんね。ここ最近、新種も結構見られてきてますが……カタツムリの魔物は最悪でしたね。

 

 思い出しただけでも身体に悪寒が走ります。いえ、魔物自体はカタツムリですけど、触手がちょっとトラウマになってます。別にフラッシュバックして混乱とかはないですけどね。

 

「リリーキャノンッ!!」

 

 私の楽しい時間を奪った罪は重いですよ! 喰らいなさい。

 

 私の目の前に現れた白百合の描かれた魔法陣より、桜色のビームが放たれます。一瞬にして魔物に着弾しますが、大ダメージ……とは行きませんでしたね。

 

 まあ、リュネール・エトワールの攻撃魔法が異常なだけです。脅威度Aの魔物はワンパンって何の冗談ですか。いえ、実際この目で見てるので信じざるを得ないのですけどね。

 

「リリーショット!」

 

 私の一番の得意な魔法を放ちます。白百合の花弁が飛んでいき、そして魔物に当たります。それだけではないですよ! この花弁は私のこのステッキと繋がっているのです。

 

「そーれっ!!」

 

 手前にステッキを大きく引くと、飛んでいった花弁が戻ってきますが、そのままもう一度今度は反対側に振ります。すると、再び花弁は魔物へと飛んでいきます。

 

「リリーボム!」

 

 そして二回当てた所で、別のキワードを紡ぐとさっきまでの白百合の花が花びらを吹き上げて、爆発を起こします。すると、魔物は消えていき、その場には魔石だけが残りました。

 

「一丁上がりです」

 

 全く、私の邪魔をするのは許しません。

 

 

 魔石を回収して私は、司さんの待っているであろう場所へと戻っていくのでした。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

「お帰り」

 

 暫く待っていると、雪菜が戻ってきたのでお帰りの言葉をかけてあげる。思ったより早かったな……まあ、Sクラスの魔法少女だし、脅威度B程度じゃ相手にはならんか。

 

「はい、ただいまです」

 

 何か凄くすっきりした笑顔を見せてる。何かあったのだろうか? 取り敢えず、軽くその頭をなででやると、くすぐったそうに目を細める。

 なんか俺、撫でてばっかだな……変質者って思われてたら嫌だわ。でも、今のこの見た目ならただのじゃれ合いにしか見えないから問題ないか。

 

 ただ嫌がらない所……いやむしろ喜んでる……所を見ると、やっぱりリュネール・エトワールが好きなんだなと思う。雪菜は今13歳で、俺の今の見た目よりは年下だ。まあ、俺の実際年齢は27歳なので、かなりの年の差があるけどな。

 

 しかし、こんな子に俺が抱き締められるとは思わなかった。両親について聞かれたので、別に隠す必要もなく答えたらそうなった。もしかして、勘違いされてしまったか?

 

 いやまあ、両親が他界した時は俺も真白も泣いたけどな。お父さんもお母さんも優しかったし……突然死んだって聞いた時は本当に驚いて、そして泣いたのだ。

 

「友達、か」

 

 ぼそりと俺は呟く。

 雪菜は告白ではなく、まずは友達から始めたいと言っていた。友達……高校の頃を思い出す。俺はどっちかと言うと陰キャラ? に分類される方だと思うが、まあ、そこそこの友達は居たと思う。

 

 27歳の俺が13歳の女の子と友達っていうのも何か変だが、見た目は15歳だし可笑しくはないのかな? でも尚更、これだと本当の正体を見せられないな。

 

「あの……お腹すきました」

「ふふ。それもそうだね」

 

 そうこう考えてると、雪菜がそう言ってきた。そう言えば、お昼食べようとした所で魔物が出たんだったな。そりゃあ、お腹空くよな。

 

「魔物は倒されたから店も再開してると思う。戻る?」

 

 魔物を倒したので、ショッピングモール内のお店も多分再開し始めてるはずだ。出たばっかりで戻る人って結構居ないと思われてるけど、居るんだよな。

 まあ、実際問題、大きな被害って出てない訳だから平和ボケ? っていうのも無理はないんだけどな。

 

「そうですね……」

「ん」

 

 人が多い所に魔物は出やすいから、あれではあるが……取り敢えず、お腹が空いてるので何か口に入れたいよな。俺の場合はハーフモードだけども。

 

 はぐれないように雪菜の手を握る。すると、雪菜は雪菜で予想外だったのか驚いた顔をする。いきなり手を繋げばそりゃそうなるか。

 既にもうお客さんとかも戻ってきてて、人が多くなってる。はぐれる可能性も考慮して、こうした方が良いだろうと思っただけだが……。

 

「(やっぱり無自覚ね)」

 

 ラビは毎回そんな事言ってくる。何が無自覚だ……確かに雪菜が俺のことを好きだっていうことには気付けなかったけど……。

 

「ごめん。嫌だった?」

「いえ、そんな事はありません。むしろ嬉しいというか……」

「そう?」

 

 照れたように返す雪菜は年相応で可愛いと素直に思ってしまった。いかんいかん……俺は27歳だ、こんなの犯罪以外の何でも無い。

 でもなあ、雪菜はリュネール・エトワールの事が好きなんだよな。告白……はまだされてない、というか友達からって事になってるけど、されたらどうするべきか。

 

 いや……答えは決まってるか。

 

「じゃあ行こうか」

「はい!」

 

 今考えても仕方がない。でも考える必要もあるだろうけど、今はその時じゃない。

 

 俺と雪菜はそんなこんなで、フードコートの方へ戻っていくのだった。

 

 

 




好きな人との時間を邪魔されておこなホワイトリリーちゃん。


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Act.15:吸魔の短剣①

 

「間違いないわ……エーテルウェポンね」

 

 雪菜と出掛けた日から少し経過した日の頃、俺はラビに預かった魔力を奪う短剣を見てもらっていた。雪菜とは今まで以上に少し仲が良くなったかな?

 まあ、そもそも向こうはこちらに恋をしているため、好感度というのはカンストしてそうだが……あ、因みにお昼はちゃんと食べられたよ。

 俺は普通に醤油のラーメンで、雪菜は蕎麦を食べていた。え、蕎麦、とは思ったけど、人の好みにケチをつける気はない。

 俺も俺で、ラーメンを食べている訳だしな……どっちも同じ麺である。

 

「分かるものなのか?」

「ええ。妖精世界にあった武器よ? 妖精である私が何も感じないはず無いじゃない」

「それもそうか」

 

 今は久しぶり? に本来の姿で家に座ってゆっくりしている。なにか最近、それなりに忙しくてな……魔法少女だから仕方がないんだろうけど。

 

 でだ。

 俺に託されたと言うべきか、件の短剣をラビに見せているところである。ラビの判定ではやっぱり、エーテルウェポンだそうだ。

 

「やっぱり実体のない武器よ。これ見てみなさい」

 

 そう言ってラビは短剣の刃の部分を指差す。俺もそう言われたので目を向けると、何というか普通ではなかった。刃の部分が半透明っていうのか? 薄い感じに見える。

 預かったのは良いけど、良く見れてなかったんだよな……刺された時は、何とかしようと考えるのが精一杯だったし、短剣を詳しく見てる暇はなかった。

 

「魔力で出来た刃よ。これが実体がないって事よ。こうやって触っても何とも無いじゃない?」

「確かに……」

 

 ラビが刃に普通に触れたのでちょっと驚いたが、触れた部分は特に何とも無かった。俺も触ってみるが、そこにあるようでないみたいで、スゥっとすり抜ける。

 本当に実体がないんだなあ、と実感する。こんな武器が妖精世界にはあったという事か。魔力吸収するくらいしか力はないみたいだが……魔法少女からすると天敵だな。

 

「それで、あの男はリュネール・エトワールくらいの少女に渡されたって言ってたのよね」

「ああ。あいつが嘘ついてなければだがな……まあ、ついているようには見えなかったけどな」

 

 男が白状したのはまず、この短剣をくれたのが15歳位の少女だという事。そして不思議な感じの衣装を着ているらしく、どうも俺たち魔法少女の衣装に近いとも言ってたな。

 

「そして魔法少女みたいな衣装を着てたと」

「うん。何か黒っぽいドレスらしいよ。知らんけど」

 

 黒いドレス……うーん、この何というか、禍々しそうな……いやまあ、実際見てないからまがまがしいかどうかは知らないけどな。男も別に禍々しいとか言ってなかったし。

 

「やっぱり向こうにも魔法少女がいるのか?」

「うーん、あまり考えたくない結論ね……でも、魔法少女だとすると向こうにもやっぱり妖精が居る可能性が……」

 

 仮に妖精が居るとすると、俺並かそれ以上の魔法少女の可能性が高いな。そうなると、俺と戦った場合、同格かそれ以上か……実際会わないとわからないが。

 

「でもさ、妖精と魔法少女が居るとして、なんで魔力なんてものを集めてんだ?」

 

 集める理由が見えない。

 と言うか、集めた所でどうするというのか……他人の魔力を自身に使うってか? でもそんなの出来るのか? まあ、吸魔の短剣(ラビが命名)は一つはここにあるわけだが。

 因みにラビが見た感じではかなりの量の魔力を蓄えてるみたいだ。ほとんどが俺の魔力らしいが……そう考えると、やっぱ俺は異常か。

 

「うーん。考えられるのは取り敢えず二つね」

「二つ?」

 

 ラビが考える素振りを見せ、そう言ってくる。どうやらラビには二つほど考えられることがあるみたいだ。

 

「ええ。まずは一つ目。これは単純に魔力を集めて自分の物とする為ね」

「他人の魔力って使えるの?」

「まあ、魔力は魔力でその違いは無いわ。魔石のように魔力タンクとして使おうと考えている、と言う事ね」

「あーなるほど」

 

 そう言えば魔石も、自身の魔力を回復できるんだよな。あれって魔物から出た魔力だから、他人とでも言うべきか。しかし、魔物の魔力って何か響きが悪すぎる。ラビが言う感じでは特に害はないみたいだけども。

 それに、魔石に俺は助けられたしな……まさか魔力を奪われた時ってあんなにきついのか、と初めて知った。ブルーサファイアには聞いていたけど、実際体験すると結構ヤバイやつだったわ。

 

 今まで使ってなかった魔石が大分溜まってたので、本当に運が良かった。どのくらい使ったかは分からんが、一桁後半以上……二桁? は使った気がする。元より俺の魔力が異常なほど多い訳だしな。

 それによって蓄えていた魔石がかなり減ったようだ。ただ全く無くなった訳ではないが……魔石集めもコツコツしておくか。こういう時とかに役立つし(実体験)

 

「二つ目は?」

「ええ。一番考えたくないけど、妖精世界(フェリーク)の復活」

「!」

 

 妖精世界の復活……世界を複製するという大魔法に失敗し、滅んでしまったラビたちが暮らしていた世界だ。この話を聞いたのは割と最近で、スケールが大きくなってびびったのは印象に残ってる。

 妖精世界とこの世界、魔物の世界の三つが隣り合わせで存在しているこの状態。勿論、この世界の人達が気付いているという訳もない。魔法省や魔法少女ですら知らないだろう。

 

 そもそも、向こうには妖精が居ないしな。妖精世界にあった魔力はこの世界に今は充満してる。その影響で、魔法少女が突発的に発生するのだ。ただ、何故10代前半が多いのかは謎だが。

 

「でも滅んだんだよな? 復活ってそんな事出来るのか?」

「考えたくはないけれど、魔法少女の魔力は元は妖精世界の物よ。それを集めて妖精世界で何かしようと考えてるっていう可能性もあるのよ。妖精世界の魔力を戻せば確かに復活できるかもしれないわね」

「でもそれ、物凄くとてつもない道のりになるよな?」

「ええ。どれだけかかるか分からないわ」

「うーん」

 

 世界を復活ね。そんな事が可能なのだろうか? 確かにこの世界にある魔力は元は妖精世界なのだろうけど……それを戻すって結構無謀な気もする。

 

「ただ、そうやって集めるだけなら良いんだけど……特に怪我をした魔法少女は居ない訳だし。そうではなく、何か大規模な魔法を行使しようとしてる可能性もあるわ。二つじゃなくて三つね……」

「大規模な魔法?」

「ええ。どんな魔法かは分からないけど……それが良い物なのか悪い物なのか」

 

 妖精世界だって世界を複製するというとんでも魔法を研究していた。その発動には大規模な魔力が必要で、集めた所で失敗。世界は崩壊した。

 良い物でも悪い物でも、そんなレベルの魔法をこの世界で使おうとしている? 仮に失敗したら今度はこの世界が吹っ飛ぶんじゃないのか?

 

「駄目ね。あまりにも手掛かりが少なすぎるわ。とにかく、その黒い魔法少女? には注意しないといけないわね」

「だな……」

 

 魔物を呼び出せるってだけでもかなり危険だと言うのに、一体その少女は何者なんだ? 魔法少女……あまり考えたくないけど、俺たちと同じ魔法少女がそんな事をしてるのは嫌だな。

 

 まだ魔法少女と決まった訳じゃないけど、それでも不思議な力を使うって、普通じゃありえないし、やっぱり魔法少女として考えたほうが良いのかな。

 

「そう言えば、魔物を呼び出したとも言ってたわよね」

「ああ。魔物を呼び出すなんて可能なのか?」

「聞いたこと無いわよそんな魔法。でも、謎が多い少女だし何か別の力を持ってる可能性もゼロではないわね」

「……」

 

 魔物を呼び出す。

 つまり、魔物が存在する世界から呼び出しているという事になるよな? それとも、その黒い少女が作り出した魔物のような物って可能性もあるが、どの道厄介というか恐ろしいのは変わらないな。

 

 取り敢えず……魔法少女かは分からんが、黒い少女については警戒しておくか。後はこれをホワイトリリーにも伝えられれば良いな。

 

 俺はそんな事考えながら、窓の外を見た。

 

 

 

 



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Act.16:吸魔の短剣②

 

「なるほどね……」

 

 私はホワイトリリーの報告に耳を傾けながら、そう返す。

 短剣のようなもので刺されるという事件が、また発生したのである。しかも、今回の被害者は件の星月の魔法少女リュネール・エトワールだという。

 

 野良だから私が気にかけるなんて可笑しいけど、彼女は何度も言う通りこの地域の魔法少女を何度も助けてくれてたし、魔物の討伐も行っていた。先にこちらが辿り着いていれば、危ない時以外は特に乱入する事も無いのだ。

 

 本当に謎の多い魔法少女ね。

 

「すみません、茜さん。短剣については……」

「まあ、確かにそれを渡したのはあれね。しかも、あなたの独断……一回連絡してくれても良かったのよ」

「すみません。何となく、リュネール・エトワールの方が分かる気がして……」

 

 ホワイトリリーが独断で動くのは初めてかもしれないわね。

 何をしたのかと言えば、短剣をリュネール・エトワールに渡してしまったという事。怪我とかそういう実害はないものの、あの武器は事件の重要参考物である。

 

 と言っても、全然私たちには分からないんだけどね。でも、わからないなら調べれば良いのよ……一応、そういう事を担当する部署もある訳だし。

 

 まあでも……魔法省は確かに政府機関ではあるけど、地域ごとに独立しているのよね。言わば、自分の地域は自分で対処しなさい、と言う感じだ。

 ぶっちゃけ、国は支援はするけど魔法関係については魔法省に一任している。いえ……押し付けられてると言えば良いのかしらね。

 本当これで良く組織として動いてるなとは思うけど、確かに魔物なんて謎の生命体。他の省庁じゃ役に立たないわね。あるとすれば防衛省くらいじゃないかしら。

 

 自衛隊の兵器とかは全く魔物には効かないのはもう分かっていることなので、防衛省もちょっと怪しいわね。でも、防衛省と魔法省は現状協力関係にあるけどね。

 だから自衛隊の戦車とかに、魔力の兵器? を載せるとかそういう試行錯誤がされている状態だ。進展はないけれどね……。

 

 魔法についても分からないことが多いわ。

 

「まあ、魔法省は地域ごとに独立しているしね……重要参考物が何よって話よね」

 

 この茨城地域の支部長は私だし、上は居ない訳だ。正確には東京の魔法省が一応上ってなるのかな? とはいえ、さっきも言った通り、地域ごとに独立してるので、他の地域が関与することはあまりないけれど。

 それに東京も東京で魔物数が一番多い地域だし、こっちまで見る余裕なんて無いわね。

 

「でも、リュネール・エトワールは返してくれると思います」

「へえ……随分と信用してるのね」

「はい」

 

 素直に驚いた。

 あのホワイトリリーこと雪菜ちゃんがここまで信頼しているなんて。いえ、もう私もここ最近の雪菜ちゃんを見て確信はしているのよね。

 

「余程、彼女の事が好きなのね」

「え!? いえ……いえでもないですね、はい……好きなんだと思います」

 

 リュネール・エトワールの事を話す時はとても楽しそうになるし、時々顔も赤くする。流石にこれは分かるわ……雪菜はリュネール・エトワールが好きなんだろうってね。それは友達としてではなく、本当に好きな人……Loveの方ね。

 

「やっぱり可笑しいでしょうか?」

「何言ってるのよ。恋っていうのはいつ落ちるか分からないものよ。その対象が同性であれ異性であれ、好きなんだから仕方ないのよ。私は別に同性愛と言うのに嫌悪とかを覚えてる訳じゃないからね」

 

 そう、恋なんて、突然に落ちるもの。私もそうだったし。

 ……まあ、残念ながら私の初恋は成就しなかったんだけどね。振られた時はちょっとショックだったけど、それでもまあ、その後関係が崩壊するなんて事はなく、友達として交流は出来てたから良い方かしらね。

 

 久しぶりに会えたのは予想外だったけれども。 

 

「私は雪菜ちゃんの恋を応援するわよ。と言っても、ライバルが居るみたいだけれど」

「それは……いえ、負けません」

 

 思い浮かぶのはブルーサファイアこと、蒼ちゃんだ。彼女も、どうも最近リュネール・エトワールの事を話す時に顔を赤くするし、雪菜ちゃんと同じように何処か楽しそうなのよね。

 

 ……二人も惚れさせるなんて、リュネール・エトワールちゃんは天然たらしなのかしら?

 

 いや、下手するとこれからも増えるかもしれないわね。仮にそうなったとして、彼女が誰を選ぶのかはちょっと気になるわね。

 

「大分話が逸れちゃったわね。短剣についてはまあ、雪菜ちゃんを信じるわ。でも、仮に……仮に彼女がその短剣を使って暴れた時とかは、雪菜ちゃんにも責任が行ってしまうわよ?」

「それは承知の上です。仮に……考えたくはないですけど、その時は私は必ず止めてみせます」

 

 強い意志のこもった目でこちらを見てそう言い放つ雪菜ちゃんは、とても輝いて見えるわね。想い人が間違った道を歩んだ時、それを止めるその勇気……。

 

 何が彼女をここまで変えたのかしらね。リュネール・エトワールが原因なのは分かるけど……恋の力は予想外に働くという事かしら。

 

「そう……そこまで言うならもう何も言わないわ」

「はい! ありがとうございます」

 

 ここは信じましょう。

 仮に何かあったとしても、どうせ報告した所で自分たちで何とかしろとか言ってくるんだろうしね……ぶっちゃけあまり気にしてなかったりする。

 

 とは言え、重要参考物を野良の魔法少女に預けたとか言うのが広がれば、面倒な事になるだろうしこれは伏せおくべきね。後はリュネール・エトワールが本当に返してくれるか、よね。

 

「……私も一応信じては居るんだけどね」

 

 何せ彼女は悪い噂と言うか、悪い事をしたなんてことは一切ない。もしかしたら、してて隠してるっていうのも考えられるけど、仮にそんな事をしたら噂になるはずよね。

 いえ、見えない所でやってたらもうどうしようもないけど、少なくとも調べてみた結果ではほとんどがプラスな行動だけだ。魔法少女を助けたり、間に合わなかった魔物を倒してくれたり。

 

 にしても、彼女はどうやって魔物を感知してるのかしら?

 いえ、警報は確かになるけど、あまりにも駆け付けが早すぎるわ。移動できる魔法が使えるのか……それともまだ何かあるのか。

 

「はあ……実際会うしか無いのよね」

 

 私はこの目で実際見た事は今まで一回もない。と言うより、彼女は魔法省に来るのを非常に嫌がってる傾向にある。つい最近、これまでの犯行を行っていた一人であろう男が拘束された時、ホワイトリリーとブルーサファイアを除いた数名の魔法少女がお礼を言えたらしい。

 それ自体は良かったと言うべきか……でもやっぱり、私も直接会ってお礼を言いたいし、聞きたい事もある。勿論、無理矢理聞こうとはしないつもりだ。

 

 リュネール・エトワールが良く見られる場所は、県北なんだけど、県南や県西、県央そして鹿行でも見られてる。茨城地域全体を活動範囲をしてるのは分かるのよね。

 彼女を探そうにもその近くに居る魔法少女くらいしか会えない。範囲が広すぎるし、こっちから会おうとしても難しいのよね。

 

 でもこんなに色んな場所で目撃されてるけど、彼女は学校とかどうしてるのかしら。15歳って本人が言ってたらしいんだけど、15歳といえばまだ中学生よね。

 

 しかも、受験とかで忙しい中学3年生だ。

 

「……」

 

 一体、どうしてるのかしら。

 気にはなるけど、調べようもないわよね……この地域の学校とか何十個あると思ってるのよ。目撃される範囲も県域全体よ? お手上げだわ。

 

 県北に住んでるという可能性は少し高めだけどね。県北での目撃が一番多いってだけだけど……。

 

「はあ……難しいわねえ」

 

 雪菜ちゃんは既に退出しており、この場にいるのは私のみとなってる。そんな静かになった執務室の中に、私の声だけが静かに響くのだった。

 

 

 

 



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Act.17:エピローグ

 

「はいこれ、返す」

「え?」

 

 俺は男が使っていた吸魔の短剣をホワイトリリーに差し出す。ラビによる調査は終わったので、もう必要がない。それに、本来なら魔法省が持つべき物だろうし。

 まあ、先立って分かったのは良かったが……取り敢えずこれはエーテルウェポンだ。ただ、この武器について教えるかどうかなんだよな。エーテルウェポンは妖精世界の武器だし、これは言わない方が良いか。

 

「なにか分かったんですか?」

「ん。これは吸魔の短剣で、やっぱり魔力を吸収して蓄積する力を持ってる」

「やっぱり……」

「でもそれくらいしか分からない」

 

 妖精世界の事を教えた方が良いのかなとは思ってるが、ラビと相談した結果、今は取り敢えず伏せおくことにした。そもそも妖精は現状ラビしか居ないしな。

 

「そうですか……でもやっぱり、魔力を奪う短剣だったんですね」

「ん。取り扱いには気を付けて」

「分かりました。ありがとうございます。……これについて報告しても大丈夫ですか?」

「ん。問題ない」

 

 結局妖精世界が関わってる物なので、調べた所で多分分からないとは思うが……そもそも、別世界があるなんて普通は信じられないだろうし。

 それよりも問題はやはり、黒い魔法少女だろう。いや、魔法少女と決まった訳ではないが、魔物を呼び出したり、エーテルウェポンを持ってたりとか、普通ではないのは分かる。

 

 ただ、何故か最近ではそんな魔力が奪われるという事件がパタリと止んでしまった。いや、良い事なんだろうけど腑に落ちない。

 と言ってもまだ一週間程度しか経過してないから何とも言えないのだが……。だって前も一時期パタリと止まった時があったしな。もうしばらくは様子見になるだろうと思う。

 

 男が拘束されたのは良いとして、他にも人が居る可能性もある。だって、別の地域でも起きていた事件だぜ? その別の地域でもパタリと止んだみたいなんだけどな。

 男一人でやったって事になるのか? でも、どうやってそんなあっちこっち行けてるんだ?

 

「あ、そうでした。件の犯人の取り調べで分かったんですが……どうも、瞬間移動できる存在が居たみたいです」

「瞬間……移動?」

 

 え、何それ羨ましい……じゃなくて、瞬間移動って実在するのか……まあ、魔法は割と何でもありが多いからあっても可笑しくはないけど。

 

「はい。やっぱり魔法少女のような存在が居るみたいですね」

 

 ふむ、俺が尋問した時と変わらずに話したのか。

 瞬間移動が出来る魔法少女……結構厄介じゃねこれ。それで逃げられたらどうしようもないよなぁ……まだ確定ではないけど、そんなのが使えるならやはり魔法少女説が濃厚だよな。

 

 しかし、何が目的なんだ? ラビの言う通り妖精世界の復活とかなのかね? でもそうなると、向こうにも妖精が居るって話になるよな。妖精世界を知ってる時点でね。

 

 何らかのきっかけで知った可能性もあるが、妖精が居ると考えた方が色々と納得だ。

 

「もし本当に魔法少女だとすれば、止めないといけませんね……」

「ん」

 

 それには同意見である。

 でも、この話が本当なら転移できるって事だし、一筋縄では行かないよなあ。話し合いで解決できるのが一番だが、そう上手くは行かないだろうな。

 

 とにかく、警戒を怠らないようにするか。実際俺は一度刺された訳だし。

 

 そんなこんな、ホワイトリリーと話した所で解散するのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「……」

 

 どうしたんだろう、私……。

 

 ちょっと大きめなクマのぬいぐるみを抱きながら、自分の部屋のベッドの上に寝転がる。最近ちょっとおかしんだよね……。

 

「リュネール・エトワール……っ!?」

 

 名前……名前を思い浮かべるだけであの時の笑顔まで思い出して、何回もドキドキする。これが分からない。緊張してる? それはないか。

 何で名前思い出すだけで緊張するんだって話だよね。このドキドキ……緊張した時の物ではないよね、やっぱり。

 

「はぁ……うー何なの本当に。クマさん教えてよ」

 

 そう言って私はぬいぐるみに顔をうずめる。

 自分でも良く分からないこの感情は何なのかな……悪い物って訳でもなさそうだけど。撫でられたり、肩をさすってくれたりしてくれた、あの時の事を思い出す。

 

 今思えば、恥ずかしい所を見せてしまった。素の口調もついついでバレちゃったし、何やってるんだろ。でも、嫌な気持ちはないんだよね。

 最近ではリュネール・エトワールがホワイトリリーと仲良く話してる所を見ると、少しもやっとする。何故もやっとするのかは分からない。

 

 病気なのかな。

 

「……」

 

 本当に何やってるんだろ。

 でも、リュネール・エトワールも何をしてるんだろう。また……何で、そんな事気になるの!?

 

「うぅ……あぁ……」

 

 分からない、分からないけど……この気持ちは。

 

「今日はもう寝よう、うん」

 

 いつもより早いけど、仕方がない。これ以上考えたらおかしくなりそうな気がする。こういう時はもう寝るのが良いよね!

 

 未だにドキドキは収まらないけど、でも目を瞑れば不思議と直ぐに夢の世界に旅立てた。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「真白っち、冬休みはどうするの?」

「うーん、実家に帰ろうかなって」

「実家かー……確か茨城だったよね」

「うん」

「あ、後確かお兄さんも居るんだっけ?」

「うん、そうだよ。実家ではお兄が暮らしてる」

 

 私の実家は茨城にある。この東京からは電車一本で取り敢えずは行けるけど、県北だから結構遠いんだよね。魔物の出現も増えてるからいつ止まっても可笑しくはない。

 でも、全然お兄に会えてないから会いに行きたい所なんだよね。

 

 電話しようにも、お兄は携帯解約してるし……家電にかければ良いって言ってくるけど、そういう問題じゃないんだけどなぁ……。

 まあ、無料のCONNECTっていうアプリでチャット会話はしてるけどね。

 

 元気そうではあるけど、実際この目で見るまでは信用できない。というか、お兄から聞いたんだけど仕事辞めたって言ってたし、それも心配だよ。

 それでも仕送りは送ってきてくれてるんだよね。大丈夫なのかな……無理しないでほしいけど。それに最近は反応が遅くなってるんだよね。それもまた心配。

 

 何故そこまで心配なのかって? そんなの当たり前だよ。お兄は今では唯一の血が繋がってる家族なんだ。お兄まで居なくなるのは考えたくない。

 

 それに、茨城地域でも魔物は増加してるみたいだし。

 

「そっかー」

 

 ふふ、いきなり帰ったら驚くだろうなお兄。

 

「何か楽しそうだね、真白っち。お兄さんのこと好きなの?」

「うーん、家族としては好きだよ」

「ほうほう」

「な、何?」

「いーや別に!」

 

 この子の名前は恵利(エリ)と言って、同級生で選択してる単位も同じで、気付いたら仲良くなっていた感じだ。席が隣なのが多かったのもあるけどね。

 

「恵利は、実家も東京だもんね」

「まあね。だから冬休みになっても変わらないなー」

「ふふ」

 

 とにかく、お兄、元気だと良いな。よし、驚かせるために内緒で帰ろう。どう反応するか楽しみだなー。

 

「あー真白っち、悪い顔してるー」

「え、そんな事無いよ?」

「ほんとう~?」

 

 そんなこんな、話している内に、次の単位の時間がやってくるのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「……そう、失敗したのね」

 

 たった今、男が魔法省に拘束されたと言う情報を聞き、静かに呟く。

 

「はあ……」

「大丈夫かい」

「うーん、微妙」

 

 私にそう話しかけてくるのはララだ。見た目は黒いうさぎのぬいぐるみだ。自分の事を妖精と名乗っていたけど、それが本当かどうかは分からない。

 

「だから言ったじゃん。そんな面倒な方法使うなって」

「いやだって、変な事したくないし」

「君はそういう子だよね……」

 

 うるさいわよ、ララ。

 悪い事なんてしたくないって普通じゃないの。だからこうやって、誰も怪我させない方法を使ったんだけど……男が捕まってしまい、続行はできなくなった。

 いや、男を助ければ良いだけなんだけど、逮捕者を助け出すとか犯罪じゃない。

 

「いや、既に魔法少女を刺してる時点で君も犯罪者だからね? 教唆ってやつ」

「うっ」

「まあ、魔力を集めるというのを協力してくれてるのは嬉しいけどね」

 

 ララはある日突然、私の前に現れたのだ。開口一番『魔法少女にならないかい?』だよ? 凄い怪しい勧誘かと思って追い出そうとしたんだけども。

 取り敢えず、話だけは聞いてみようと思って聞いて、私が選んだのはイエスだったわ。

 

「あーそれと、例の協力者? あの男、野良の魔法少女のリュネール・エトワールを連れて行こうとしたみたいだよ」

「え……何それ聞いてない」

 

 何してくれてんの、あのバカ。

 いやまあ、もう捕まってるけどさ……魔法少女を攫うって何考えてんのよ。私はそんな事頼んだ覚えはないわよ。

 

「まあ、君の説明が悪かったんじゃない?」

「……」

 

 いや、私は魔力を集めてくれって頼んだんだけど……何でそこから攫うなんて発想出るの? 女の子を攫う? ええ……もしかしてあの男、やばいやつだった?

 

「それだけじゃ説明不足だろう? 魔力を集めてくれって曖昧過ぎる。手段も問わないって言ってるようなものだよ? しかも半ば脅しのような感じでさ」

「ぐっ」

 

 ええ、そうね。

 確かに私が悪かったかもしれない……リュネール・エトワールって言ったらあの噂の星月の魔法少女って呼ばれる野良の子だよね? 大丈夫かな……いや、男を捕まえたのも彼女だって聞いてるから無事かしら。

 

「魔力を集めてくれるのは良いんだけど、方法とかもっと良く考えようよ。ボクは別に方法は問わないって言ってるから君の思うままで良いんだけど……犯罪者になっちゃってるね」

「そうね……」

 

 まあ、自業自得なんだけども。

 でもまあ、魔法少女だし、対応するのは魔法省になるのかしら。この地域の魔法省が少し優しかったら良いなーと思いつつ。

 

「こうなるなら自分でやるべきだったわね」

「誰かに頼むとか、その時点で変だって気付こうよ」

「まあ良いわ……取り敢えず、魔力を集めるまでは捕まるつもりはないわよ」

「うん。ありがとう……ブラックリリー」

 

 魔法少女に変身している時の状態は、通常の時と大きく変わるのが幸いよね。若干の面影は残るものの、それだけでは特定も何も出来ないわ。

 それに、私は野良だから余計にね。野良と言えばこの辺では星月の魔法少女って呼ばれてるリュネール・エトワールが有名よね。聞いた話だと、とんでも魔法ばっか使うらしいじゃないの。

 

「まあ、君も規格外だけどね」

「……」

 

 いちいちうるさいぬいぐるみである。

 確かに、空間を操れるって中々やばい魔法だと思ってるけど……でも消費する魔力が結構大きいのが難点よね。とは言え、瞬時に場所を移動できるのは本当に便利だけれど。

 名前と魔法が全然結びつかないっていうのも変よねえ……気にした所で、使える魔法が変わる訳じゃないけど。と言うより、名付けたの私自身だから何を言ってんだって話。

 

 何故ブラックリリーなのかは、聞かないで欲しいわ。

 

 それはそれとして、リュネール・エトワールには悪い事したわね。会う機会があったら謝っておこうかしら。でも、彼女って目撃場所の範囲が広いから狙って会うのは難しいのよねね……。

 

「別の方法を考えるわ……」

「是非そうしてくれ」

「……テレポート」

 

 一瞬で景色が変わり、私たちはさっきの場所から遠ざかったのだった。



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Act.XX:データVer.2.0

 

□プロフィール

名前:如月 司

読み:きさらぎ つかさ

性別:男性

年齢:27歳

身長:167.2cm

誕生日:11月15日

備考:

本作の主人公。

宝くじで1億円を当て、絶賛ニート生活を満喫している男。

両親は他界しており、唯一の血縁は妹のみ。

突然目の前に現れたラビとの出会いで、魔法少女となってしまった。

しかもかなり強い。

 

黒髪の短髪、黒目で、特に何もしてない、何処にでもいるような青年(自称おっさん)

 

□プロフィール

名前:リュネール・エトワール

推定魔法少女クラス:S

身長:153.0cm

変身キーワード:「――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

備考:

主人公、如月司が魔法少女に変身した時の姿。

姿も性別も変わってしまい、身長も10cm以上小さくなっているが、極めて強力

な魔法を扱う魔法少女。

 

髪は基本は銀色だが、青が若干混ざり上から下へとグラデーションとなっている。

目の色は金色で、瞳の中には星がある……キラキラ目。なお言うほどキラキラはしてない。

ラビがすっぽり収まる位のとんがり帽子が特徴。

 

衣装としては

頭には魔女っ娘が良く被ってそうな黒いとんがり帽子に、赤いリボンが付いている。帽子の方には三日月のような絵が、リボンには星が描かれている。

白と青を基調としたマントにノースリーブのセーラーワンピーススタイル。

マントは留める所には星のエンブレムのような物があり、セーラーワンピースの方は胸元に赤いリボンが可愛らしく付いていて、スカートの裾には青と水色が使われたフリルがあしらわれている。

手には紺色のシュシュ。このシュシュにも小さいながら星の絵が描かれている。

足はと言えば、黒いタイツに襟付きの白いショートブーツ。タイツには三日月の絵が白く描かれ、ショートブーツの方には水色で星が描かれている。

 

 

□使用する魔法(現段階で登場している物)

Magic-No.01:スターシュート

魔法キーワード:「スターシュート」

星を放つ。追尾機能付き。威力はヒットすると爆発を起こす。脅威度A以下なら基本ワンパン。

 

Magic-No.02:メテオスターフォール

魔法キーワード:「メテオスターフォール」

虚空より無数の星を呼び出し、空高くから降り注がせる広範囲魔法。

範囲の調節可能。ターゲットを定めれば全ての星がターゲットへと飛んでいく。

 

Magic-No.03:ハイド

魔法キーワード:「ハイド」

自身の姿を闇夜に溶かす。(見えないようになる)

発動中は常に魔力が消費される。

 

Magic-No.04:グラビティアップ

魔法キーワード:「グラビティアップ」

対象または、一定範囲に重力を加重する。

 

Magic-No.05:ヒール

魔法キーワード:「ヒール」

傷を治す。自分又は、対象の軽度の怪我を治療することが可能。

 

Magic-No.06:トゥインクルスターリボン

魔法キーワード:「トゥインクルスターリボン」

星のリボンを召喚する。対象を縛り付けたり、締め上げたり出来る。

ある意味脅威

 

Magic-No.07:スターライトキャノン

魔法キーワード:「スターライトキャノン」

ビームを放つ。着弾すると星のエフェクトで爆発を起こす。

 

Magic-No.08:グラビティボール

魔法キーワード:「グラビティボール」

黒い球体を召喚し、飛ばす。

何かに当たると放電し、周囲に重力場を発生させる。

 

Magic-No.09:ブラックホール

魔法キーワード:「ブラックホール」

ブラックホールを召喚する。

近くの重力場を乱し、周囲の物を飲み込む。

 

Magic-No.10:ホワイトホール

魔法キーワード:「ホワイトホール」

ホワイトホールを召喚する。

ブラックホールとは対になる重力場を発生させ、

ブラックホールで吸い込んだものを吐き出す。

 

Magic-No.11:サンフレアキャノン

魔法キーワード:「サンフレアキャノン」

ステッキから高熱の熱線を放つ。

その温度、実に数千万度となり、あらゆる物を燃やす又は溶かす。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

□プロフィール

名前:ラビ

性別:不明

年齢:不明

身長:不明

誕生日:不明

備考:

主人公である司を魔法少女にした妖精。

見た目は兎のぬいるぐるみだが、性別は不明だが、女性口調で喋る。

身体能力は謎パワーで浮いたりできる。その為、リュネール・エトワールについていける。

基本は人目に付かないようにする為、リュネール・エトワールのとんがり帽子の中に居たりする。

 

特殊能力(?)としてラビレーダー(主人公命名)と言う物を持っていて、一定範囲の魔法少女や魔物が居る場所を特定できる。

ただし、特定できるのは魔法少女か魔物かだけであり、魔法少女の場合どの魔法少女かまでは分からない。魔物の場合はその魔力や瘴気から推定脅威度を出せる。

 

なお、ラビの暮らしていた妖精世界――フェリークは魔法実験により滅びている。

また、原初の魔法少女を生み出したのもラビである。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

□プロフィール

名前:白百合 雪菜

読み:しらゆり ゆきな

性別:女性

年齢:13歳

身長:149.5cm

誕生日:12月12日

備考:

本作のメインヒロイン(予定)

黒髪でちょっと肩にかかる程度。目の色は黒。

 

基本的に丁寧語を話す、大人びた少女。

双子の妹が居る。

リュネール・エトワールと会ってから少し変わった。

彼女に対して恋をしている様子……果たしてどうなるやら?

 

□プロフィール

名前:ホワイトリリー

魔法少女クラス:S

身長:150.0cm

変身キーワード:「――ラ・リス・ブロンシュ・フルール!」

備考:

白百合雪菜が魔法少女に変身した時の姿。

魔法省茨城地域支部所属Sクラス魔法少女。

身長が微妙に0.5cm伸びてる。

 

桜色の髪をサイドで結び、白のグラデーションが上から下へかかってる。

実際の髪の長さは変身前と同じくらいで、目の色は髪色と同じで桜色。

白百合の髪飾りが特徴。

 

衣装としては

胸元は少し開けている、白百合色を基調としたフリル付きの長袖ワンピースに、首には白百合の花を象ったリボンチョーカー(フリル付き)、そして足には膝上まで来る白いニーソックスに、白百合の花が描かれたショートブーツ。

ニーソックスにも白百合の花の絵が描かれている。

サイドテールに結んでいる紐にも、花のデザインがなされている。

 

□使用する魔法(現段階で登場している物)

Magic-No.01:リリーショット

魔法キーワード:「リリーショット」

白百合の花弁を魔力で作成し、飛ばす。

数も増やすことも可能で、それぞれの花弁を操る事もできる。

放たれた花弁は、ロープのような物でホワイトリリーのステッキと繋がってるので、ぶん回したりすることもできる。

 

Magic-No.02:リリーバリア

魔法キーワード:「リリーバリア」

目の前に白百合の花弁を召喚し、攻撃を吸収する。

大きさを変える事も可能。

 

Magic-No.03:リリーキャノン

魔法キーワード:「リリーキャノン」

桜色のビームを放つ。

着弾すると、花吹雪を上げて爆発する。

 

Magic-No.04:リリーボム

魔法キーワード:「リリーボム」

自分が放った白百合の花弁を任意で爆発させられる。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

□プロフィール

名前:色川 蒼

読み:いろかわ あおい

性別:女性

年齢:12歳

身長:145.6cm

誕生日:9月15日

備考:

本作のヒロインの一人。

黒髪黒目のセミロング。

 

砕けた口調で普段は喋るが、変身すると丁寧語になる。

リュネール・エトワールに慰められて以来、ドキドキしてるらしい。

 

□プロフィール

名前:ブルーサファイア

魔法少女クラス:B

身長:145.6cm

変身キーワード:「???」

備考:

色川蒼が魔法少女に変身した時の姿。

魔法省茨城地域支部所属Bクラス魔法少女。

 

変身前と違い、背中まで伸びる青い髪を伸ばす。上から下へと、水色混じりのグラーデーションカラー。

ツインテールとなり、髪を留めている場所にはサファイアを模した飾りがある。目の色はサファイアブルー。

 

衣装としては

背中と首元あたりが少しだけ開けている、サファイアブルーのドレス。

袖も付いているが、薄く中が見えるくらいで首にはドレスと同じ色の可愛らしいリボンが巻かれている。

胸元にはサファイアの宝石がついていて、若干煌めいてる。

スカート丈は膝よりちょっと下くらいで、フリルがあしらわれている。

足には、水色のニーソックスに同じ色合いの襟付きショートブーツ。ショートブーツの方にもリボンがあって、結び目の中央には胸元の物とは比べ小さいサファイアの宝石が付いている。

 

□使用する魔法(現段階で登場している物)

不明

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

□共通魔法

No.01:反転領域展開

魔法キーワード:「エクスパンション」

反転世界に入る為の魔法。魔法少女毎に別空間が生まれる。

 

No.02:反転領域解除

魔法キーワード:「リベレーション」

反転世界から現実世界へ戻る為の魔法。

 

No.03:変身解除

魔法キーワード:「リリース」

変身状態を解除する魔法。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

□その他の人物(現段階)□

 

北条茜(ほうじょうあかね)

→魔法省茨城地域支部長

→主人公、司とは高校の同級生

 

・???/レッドルビー

→魔法省茨城地域支部所属Bクラス魔法少女

→リュネール・エトワールに助けられたことがある

 

白百合冬菜(しらゆりふゆな)

→白百合雪菜/ホワイトリリーの双子の妹

→雪菜の事が好きらしい?

 

如月真白(きさらぎましろ)

→如月司/リュネール・エトワールの妹で東京の大学に通ってる

→兄弟仲は良好で、仕事を辞めたという兄を心配している

 

恵利(えり)

→真白の大学の同級生で友達

 

・???/ブラックリリー

→黒い衣装を纏う魔法少女(?)

→一連の事件に関連がありそうだが……?

 

・ララ

→ブラックリリーと一緒に居た黒色の兎のぬいぐるみ

 

 

 



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第三章『真白襲来!?』
Act.01:年末月の訪れ①


 12月に入り、周りはすっかりとクリスマスムードを醸し出しているこの時期。俺はスマホ型のデバイスの画面を見ていた。

 流行りと言うか最早一般常識となっている、CONNECT(コネクト)という会話アプリ。連絡先を交換しておけば、電話できたりチャットを送信したりのやり取りが出来る物だ。

 相手が未読が既読かの表示機能もある為、確かに便利なアプリだと思う。他にも有名なSNSとしてはツブヤイッターっていうのもあるな。あっちは全世界と繋がる事が出来る方だ。

 

 当然ながらこのデバイスにも入っているのだが、残念ながら連絡先は0件である。おいそこ、ボッチとか言うな。これはあくまで変身デバイスだから交換はしてないのだ。

 

 まあ、交換する相手が居ないのも事実だけど。

 

「すっかり、クリスマスムードね」

「だなー。もう12月だもんな」

 

 更に冷えてきたこの時期。今年ももう終わりを迎えようとしているのも事実。1年って早いんだなあとこの時期になると毎度のように思う。

 相変わらず時期関係なく、魔物は出現しているけどやはり停滞状態で増加はしてない。むしろ減ってる所が増えてきてるようだ。

 まだ油断できないけど、このままかなり少なくなったら良いなと思いつつ。

 

 ただ、クリスマスムードであるから人が多くなってるのも事実で、むしろ増える可能性がある。各地ではクリスマスイベントが開催予定でもあるしな。

 

「なあ、凄い今更な事聞くけど、反転世界に魔物を連れて行くって出来ないのか?」

 

 いやむしろ何で今まで考えてなかったのかという話だ。

 

「あーそれね。昔に何度か試した事あるんだけど、どうも魔物を連れて行くのが出来ないのよね。魔物を巻き込んで反転世界に移動しようと思ったら弾かれたのよ」

「それは何でだ?」

「分からないわ。ただ別世界の生物っていうのがもしかすると原因かもしれないわ。複製する世界はあくまで発動者がいる世界だからね。良く分かってないわ」

「そうなのか……」

 

 ふむ。

 原因不明か……だよな、もしそんな事出来るなら最初からやってるはずだし。

 

「この反転世界もまだ完璧じゃなくてね。一度作った世界から抜け出すと、その世界は消えるのよ」

「えっとそれはつまり……」

「未完成魔法……ではないけど、妖精世界を犠牲に誕生した魔法の劣化版みたいな物よ。だから消費する魔力も少ないでしょ」

「確かに……」

「今使ってる反転世界はもう一度入ると、全てがリセットされてるでしょ?」

「確かに」

 

 何をやっても一旦世界を抜けた後に、もう一度中に入ると全てが元通りとなってるな。後は、自分がいる場所を参照してるっぽくて、移動した所で使うとその場所を起点に世界が形成された気がする。

 復元魔法的なのが発動してるのかと思ったが、なんか違うみたいだ。

 

「あれは一から作り直してるからよ。要するに一度出るとその世界は消えて、次入る時はまた新しく生み出されるって感じね。一時コピーみたいなもので中に発動者がいる間だけ存在できるのよね」

「なるほど……」

 

 少しややこしいけど、まあ、簡単に言えばラビの言う通りで一時コピーだ。一時的にデータのコピーを作成し、抜けるとデータは消える。

 

「あれ、でも世界を作成するには膨大な力が必要って」

「その通りよ。でも反転世界っていうのは周囲をコピーするだけだから少なく済んでるの。遠くに移動するとその分、後ろの世界が消えていって新しく先が読み込まれる感じ」

「えーとそれって、オープンワールドゲームみたいな?」

「ええそうね。発動者を起点に周囲を常に読み込む感じね。発動者が移動するとその分、消えて行って進んだ先がまた読み込まれる感じ」

「完全にオープンワールドゲームだな……って事は、遠くに移動すると魔力消費する?」

「するわね。ただ読み込む範囲にもよるけど、そこまで大きな消費ではないわね。進んだ分消えてるわけだしね」

 

 新しい事実。

 反転世界ってそういう仕様だったのか……俺はぶっちゃけ、その場周囲でしかやらないから全然気にしてなかったな。

 

「なるほどなー新たな事実を知ったわ」

「まあ特に気にする必要もないしね。あなたの場合、反転世界内で遠くなんて行かないし」

「だな」

 

 わざわざ遠くに行く必要がないと俺は思ってる。

 

「そう言えば、以前魔法少女たちが練習する空間って言ってたが、魔法少女は皆使えるのか?」

「魔法を知っていれば、ね。原初の魔法少女たちは私が居たから知ってたわよ」

「あーそっか、他の魔法少女……魔法省側にはラビみたいな妖精は居ないもんな」

「ええ。だから使えるって事自体知らない可能性もあるわね」

 

 そうなると、ホワイトリリーやブルーサファイアは知らないのかな? 何処で練習とかしてるのか分からないが、魔法省内にそういう場所があるのかもしれない。

 

 それは魔法省に行かないと分からないから何とも言えないが、多分あると思うんだよな。練習できる訓練場みたいなのがね。

 

 それは置いとくとして。

 最近、ホワイトリリーもそうなんだが、ブルーサファイアもちょっとおかしいんだよな。俺と会うと(勿論リュネール・エトワール)顔を赤くしたりとか色々と。

 もしかしてブルーサファイアもリュネール・エトワールが……? いやいやそれはない……とも言い切れないんだよな。ホワイトリリーと言う前例もあるし、その反応とかにもデジャヴがある。

 

「なあ、ラビ。最近、ブルーサファイアもちょっとおかしいんだけど、もしかしてホワイトリリーと同じか?」

「あら、今更気づいたの? どう見てもあなたに気があるじゃないの」

「マジか……」

「モテモテね!」

 

 えー……まじか。

 一体俺が何をしたんだ? うーむ……でも多分ブルーサファイアもリュネール・エトワール何だろうな。晒すつもりはないけど、本当の姿は本気で言えんな……隠し通さねば!

 

「はあ、まじかあ」

「ブルーサファイア……いえ、蒼ちゃんの事もちゃんと考えないとね」

「そうだな……」

 

 はあ、俺大丈夫かな。いっそのこと、リュネール・エトワールが本当の姿だったらとか思っちゃうよ。って、何てこと考えてんだ!?

 いやまあ、ハーフモードは実質そんな感じだもんな。

 

「割とあなた無自覚で色々とやらかしてるしね」

「え、そうなの?」

「まず、撫でたり抱き締めたり……慰めたり」

「……」

 

 わーい、凄い身に覚えがあるぜーって、改めて見ると俺何してんの!?

 

「うん。何かごめん」

「私に謝られても困るわよ。取り敢えず、ちゃんと気持ちに答えてあげることが大事よ。放ったらかしなんてしないでしょう?」

「ああ。そこはちゃんと考えるつもりだ」

 

 勿論リュネール・エトワールの姿でな。むしろ向こうじゃないと駄目だろ。

 

「……魔物か」

「ええそうね。近いわ……推定脅威度は!?」

「ど、どうしたんだ?」

 

 いつものようにデバイスから警報が鳴り、ラビが推定脅威度を出そうとしていた所で、ラビがいつもと違う反応を見せる。

 

「推定脅威度は……AAよ!」

「!?」

 

 脅威度AA……最高でもAまでしか観測されなかったのに、その一つ上の脅威度の魔物か観測されたという事か。AAって確かそれなりに強いんだったよな?

 

「AA、か。でもSクラスのホワイトリリーなら対処はできるか?」

「一応出来ると思うわ。ただ魔物の種類にもよるけどね」

 

 既に何人かの魔法少女が到着しているようだ。だがAAってという脅威度だし、不安もあるので俺はデバイスを手に取る。

 

「行くのね?」

「ああ。念の為にな」

 

 大丈夫だとは思うが、念の為にである。ホワイトリリーやブルーサファイアたち魔法少女に何かあっては駄目だ。

 

「――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

『SYSTEM CALL "CHANGE" KEYWORD,OK――LA LUNE ET L'ETOILE――』

 

 変身のキーワードを紡ぐ。ふわっと浮遊感に襲われ、魔法少女リュネール・エトワールとなる。

 

『SYSTEM CALL "CHANGE" SUCCESS!!――GO!』

 

 そして意識が俺からわたしへと切り替わり、毎回のように姿を見えなくしてから窓から飛び出すのだった。

 

 

 



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Act.02:年末月の訪れ②

 

 脅威度AAの魔物が観測された場所より、少し離れたビルの上から俺はそれを見る。今まででは見ないタイプの魔物だった。

 まず、空飛んでるし……今までで飛べる魔物は居なかったよな? 見た目は大きな蝶な感じだ。普通の蝶なら可愛いが、これは流石にでかすぎるし……。

 

「新手か……」

「そうね。空を飛ぶタイプなんて15年前以来ね」

「15年前……。そう言えば、その日に出現したのはドラゴンみたいな……」

「ええそうよ。良く創作とかで出てくる感じのドラゴン。まあ、禍々しく黒かったけどね」

 

 魔物出現の日。その日に出現した魔物は脅威度SSで国を半壊にまで追いやったやべー魔物だ。当時のことは凄く話題になっていたので俺も今でも覚えている。

 ファンタジーとかの創作に良く登場するドラゴンのような魔物だった。まさか、現実世界にドラゴンが出てくるとは思わなんだ。

 

 それはさておき、今出現している魔物はさっきも言った通り蝶を模したような姿形をしている。蝶……なのだが、これがまた大きくてな。魔物は大きいのが多いよな。

 その姿の通り、空を飛んでるようで、口から超音波みたいなのを出しているようにも見える。他にもそのでかい羽を使って突風みたいなのを出したりもしてるようだ。

 

 ホワイトリリーも居るし、ブルーサファイアも居る。他にも何人かの魔法少女もいて対処している様子。魔法少女側が有利っぽいが、どうだろうか。

 

 しばらく様子を見ることにする。変に介入して逆に不利にしては元も子もないしな。

 

「あなたは参加しないのね?」

「ん? ……誰?」

 

 戦闘の光景を見ていると聞き覚えのない声が聞こえる。声の方を向くと、そこには黒い衣装を纏った魔法少女? っぽい少女が浮いていたのだ。

 いや、浮いているではなく、空中に見えない何かを出してその上に乗ってる? とにかく、普通ではない。

 

「私? 私は別に名乗るほどでもないわ。丁度良かったわ、リュネール・エトワール」

「……名前知ってるの?」

「ええ、それはもう噂になってるし、この辺の地域ならもう知らない魔法少女は居ないんじゃないかしらね」

 

 どうやら向こうは俺のことを知ってるっぽい。警戒度を少しだけ引き上げる。

 

「警戒するのは分かるけれど…今回は謝りに来たのよ」

「謝りに? 何の事?」

「黒い短剣」

「!」

 

 先月起きていた魔法少女が刺される事件だ。いやまあ、それは普通にニュースでもやってるから知ってる人は居ると思うが、この子からは別の何かを感じた。

 

「あの男があなたを連れ去ろうとしてたわよね。あれの謝罪よ」

「……君、首謀者?」

「まあ、そうとも言えなくはないわね。……ただ、信じてほしいとは言わないけど、私に魔法少女たちを傷つける気はないわ」

「……」

 

 まあ確かに刺されたと言っても、魔力を奪われただけだったけど、だがあの男は俺の事を連れて行こうとしてたよな? 何か野良だからとか言ってたが。

 

「あの男の行動は予想外だったのよ。私は別に攫うつもりなんて無かったわ」

「それを信じろと?」

「こればっかりは信じてもらうしか無いわ」

 

 黒い魔法少女は静かに言う。俺はそんな彼女を警戒しつつ、見やる。確かに奥が掴めないが、嘘を言ってるようには見えない。でも、やってる事は一応傷害事件だよな……。

 

「分かった。その謝罪だけは受け取る。……でも」

「ちょ、何でステッキをこっちに向けるのよ!?」

 

 俺が手に持つステッキを少女に向けると、さっきまでの雰囲気をぶち壊すような慌てぶりを見せる。うん……やっぱり中身は女の子だよな。

 

「ごめん。首謀者だという事を知ったから拘束する」

「え!?」

「……トゥインクルスターリボン」

「え、ちょ!?」

 

 ちょっと申し訳ないけどトゥインクルスターリボンで黒い少女を拘束する。まあ、きつくはしてないから大丈夫だろう。リボンから抜け出そうともがくが、そう簡単には解けない。

 

「君には聞きたいことがいっぱいあるから」

「うわーごめんって! 本当にそんなつもり無かったのよー!!」

 

 うん、嘘は言ってないとは思う。それとこれとは別である、ぶっちゃけ攫われそうになったのはそこまでではない。まあ、変身前の姿がバレるかもっていう怖さはあったが。

 

「こっち」

「ちょ、引っ張らないでー!」

 

 ごめん。この状態だと引っ張るしか無いから諦めてくれ。

 

 出来る限り優しく、身を隠せそうな場所へと着地する。建物の裏に移動し、その場で拘束を解除する。別にどうこうするつもりはなかったが……単に聞きたいことがあるだけだ。

 

「はあ……酷い目にあった」

「(あなた中々良い趣味してるわね)」

「(勘違いしないで欲しい)」

 

 何が良い趣味だよ。逃げられると困るし、仕方ないだろ! 相手は魔法少女だし、油断はできない。

 

「それで? 君は何の為に魔力を奪ってた?」

 

 一番聞きたい事はこれである。魔力を奪って何にするのか……それが悪意ある物なら俺は止めるしか無い。

 

「……ごめん、言えないわ」

「……だろうと思った」

 

 まあ、そう素直には教えてくれないとは思っていたが……さて、この子をどうするか。

 

「悪意も何も無いってば! 信じられないのも分かるけど! と、取り敢えず今回は謝りに来たのよ」

「ん。謝罪はもう受け取った」

「なら、良いわよね。ごめんなさい……話せたらいつか! ――テレポート!」

「あ!」

 

 しまった。

 そうだよ、転移が使える可能性があるって考えてただろ……一瞬にしてその場から消えてしまった黒い魔法少女を見て、油断した、と思った。

 

 もう後の祭りだが……さっきまで少女の居た場所を見ながらため息をつく。

 

「油断したわね」

「ん」

 

 うん、こればっかりは俺のミスだ。

 

「まあでも、一応私から見ても彼女は悪意を持ってそうには見えないわね。しばらく様子見する?」

「ん。そうする」

 

 気がかりではあるが、取り敢えず今の所悪さするつもりはないっぽいし。でも、転移魔法が使えるのはかなり厄介ではあるな……さて、どうしたもんかな。

 

 俺は既に倒されかけている蝶の魔物の方を見ながらそう思うのだった。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「はあ、危なかった……」

「いや、君なら拘束されてても転移で飛べただろう? もしかしてそういう趣味があるのかい?」

「ん? そういう趣味って何?」

「あ……うん、何でも無いよ」

「そう?」

 

 変なララ。

 それにしてもいきなり拘束されるとは思わなかったわ。いや、そういうレベルのことをやらかしているんだから納得ではあるんだけどね。

 

「あの星月の魔法少女から、ボクと似た何かの気配があったよ」

「え?」

 

 星月の魔法少女っていうのはあの子の二つ名みたいなものだ。衣装や使う魔法が星とか月関連が多いから、誰かがそう言ったのが一気に広まったという感じね。もう知ってるとは思うけど。

 

 リュネール・エトワールっていう名前が分かってなかった時はほとんどこう呼ばれていたのよね。でも、名前が判明した今でもこっちで呼ばれるのが結構あるわね。

 まあ確かにぴったしな名前ではあるよね。魔法省もそう呼んでるみたいだし……。

 

「ララと同じ気配って、もしかして妖精?」

「分からないけど、そうかもしれない。でもそれなら確かにあの子が強力な魔法を使えるのは納得行くね」

「それはどうして?」

「妖精に魔法少女にされた子たちは皆強力な力が使えるんだよね。原理はわかってないけど。原初の魔法少女も多分妖精が誕生させたんだと思う」

 

 確かに原初の魔法少女は非常に強力な魔法が使えたって話だけどね。脅威度SSの魔物を倒せたくらいだもん。

 

「だから君もボクがやったから強力な魔法が使えるでしょ?」

「うん、確かに……」

 

 私が使える魔法は空間を操る魔法だ。それは転移だとか、見えない壁を出したりとか……名前には似合わない魔法だけど、どれも強力なのよね。

 転移魔法は本当に凄いと思う。何処にでも一瞬で行けるって、某国民的アニメのロボットが出す道具みたいよね。ただ、移動距離に応じて消費する魔力が増えるからここから例えば九州とかに行ったら多分、魔力が空になるわね……。

 

「だからもしかすると彼女にも……」

「妖精がいるかも知れない、って事ね。でも他に居るの?」

「分からないよ。ボクは歪に飲み込まれて運良くここに来たけど」

「あー確か世界が云々」

「うん。歪に飲み込まれた妖精が他に居ない、とは断言できないしね」

「確かに」

 

 ララの話では妖精世界は魔法実験の失敗により、崩壊してしまったっていうのは聞いてる。驚いたのは事実だけど、こうなんていうか現実味がなくて衝撃、としか思えなかったけど。

 でも、ララの話とか表情から悟れないほど鈍い私ではないわよ。

 

「……取り敢えずあの子にも注意しないとね」

「そうね」

 

 夜空を見上げながらそう呟くのだった。

 

 

 

 



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Act.03:それはある日常風景の一つ①

⚠TS百合注意報⚠

まあ、そこまでではないですが……。


 キーンコーンカーンコーン。

 

 教室内にチャイムが響き、先生が机に教科書を置きます。

 

「今日はここまでですね」

 

 6時限目の授業が終わり、皆さんは放課後ムードとなります。

 

「雪菜ー!」

 

 教室を出ると、隣のクラスに居る双子の妹である冬菜が手を振りながら、やって来ました。

 

「あ、冬菜。お疲れさまです。授業中寝てたりしてませんか?」

「もう! 雪菜は私のこと何だと思ってるのさ! ……少ししか寝てないよ」

「寝てるじゃないですか……」

 

 私はやれやれと両手をあげます。まあ、冬菜が良く寝るのはもう既に周知の事実ですので今更なんですけどね。それにしても、そんな寝てるのにどうして成績は割と上位にいるんでしょうか……不思議です。

 

「一緒に帰ろ!」

「はいはい、いつも通りですね」

 

 ふふ、っと笑います。

 この中学校は珍しく、部活とかは強制ではないのです。私は魔法少女っていうのもあって部活には入ってません。それを真似たのか、冬菜も入ってませんね。

 

 いつものように私たちは二人で帰路につきます。

 校舎を出て、校門を出て後はそのまま家まで歩くだけです。大体歩いて15分くらいでしょうか? そのくらいの距離に私たちの家はあります。

 

「大分日も短くなってきたねー」

「ですね。もう12月ですし」

 

 まだ冬至にはなってないですが、既に年末月です。日が短いのは当たり前ですね。

 

「12月と言えば、雪菜は彼女とは上手くやってるの?」

「か、彼女って! まだなってませんよ!」

「まだ、ね。つまり、なる気はあるということだね」

「うっ」

 

 彼女、とはリュネール・エトワールこと司さんの事です。私が好きな子……お友達にはなれたので、そこは素直に嬉しいです。

 でもまだそれだけですけどね。好きなったのは助けられた時だと思います。正確にはその後に撫でられた時も含まれますかね? あの時はもっとして欲しいと思ってしまってました。

 

 あー、分かります。思い出すだけでも顔が赤くなりますね。

 

「でも、雪菜、ライバルも居るんじゃなかった?」

「ええ、まだはっきりとは分かってませんけど……多分あの子も」

「もたもたしてると取られちゃうんじゃない?」

「ううぅ……」

 

 し、仕方がないじゃないですか。

 誰かを好きになった事なんてこれが初めてなんですから。どうしたら良いか分かりませんよ……でも、取られてしまう可能性もあるというのはもう承知の上です。

 でもお友達になれたのは私としても結構な前進だと思っています。ここからが本番、という事なのでしょう。告白をするにしても、もう少し仲良くなってからじゃないとあれですし。

 

「もう、思い切って一目惚れしましたって告白したら?」

「そ、それは……」

 

 急すぎませんかね。

 一目惚れ……なのかは分かりませんけど、初恋なのは確かです。最初は何とも思っていませんでした。何故、魔法省にも所属せず、ソロで活動していたのか、それだけしか気にしてませんでしたし。

 むしろ、何でソロで活動できるんだろうっていう気持ちがありましたね。それもそうじゃないですか? 魔法少女は魔物と戦うという命と隣り合わせな仕事です。支援もなしにやって行けるのかと言う話です。

 でも、彼女は実際一人でやって行けてます。両親も居ないと聞きましたが、どうしてそこまで強いのでしょうか。

 

 本当に今でも謎が多いです。

 でも、実際本当の姿で会った時は、彼女もやっぱり普通の女の子なんだな、と思いました。表情や口数は少ないですけど、それでも実際は素直で良い子だと思います。

 

 まあそれは置いとくとしましょう。

 彼女のことを恐らく、蒼ちゃんも好きだと思ってます。まだ断言は出来ませんが、実際に私と同じような状態っぽく見えてますし。

 負けてはいられませんが……どうすれば良いでしょうか。

 

「うーん。やっぱりそれならもっと仲良くなる為に色んな所に行くべきじゃない?」

「それもそうなんですけどね……連絡先分かりません」

「え?」

「連絡先分かりません……」

「えええ!? 友達になったのに連絡先が分からないって……」

「私も連絡先教えてませんでしたし」

「駄目じゃん!」

 

 うぅ……そうですよ、何で私、実際お出かけしたのに連絡先交換してなかったんでしょうか。私のバカバカ! でも、リュネール・エトワールの事ですから魔物が出た時に高確率で会えそうですけどね。

 

「魔物が出ると良く会いますし、大丈夫かなと」

「はあ……雪菜、連絡先くらいは交換しよう。まずはそこからじゃない?」

「そう、ですよね」

 

 連絡先さえ、教えてもらえればいつでも都合が良ければ連絡取って出掛けられるはずですし。よし……今度会った時は聞いてみましょう。負けてはいられません、と私は両手を前にガッツのポーズを取るのでした。

 

「やる気だねー」

「はい」

「頑張って」

「ありがとうございます、冬菜」

 

 まあ、教えてくれるかはまずわからないですけどね。

 そんなこんな考えながら、時に冬菜と話しながら家へと向かうのでした。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「蒼~休みだからって寝過ぎよ~」

 

 ママの声が聞こえて私は布団から出る。時計を見ると、既に10時を回っていて、自分でも思ったより寝ていた事に驚いた。

 思い出すのはやっぱり昨日の夜のせいだ。リュネール・エトワールいや、司のせいだ……いや、違うのは分かってるけどね。まあここまで来たらもう自覚してない程、馬鹿とか鈍感ではない。

 

 司の顔を思い出すと、ドキドキするし、何らなまた会いたいとも思ってる。これは私の気持ちだ。姿見に映る自分の顔を見れば、やっぱり赤い。

 

「好き」

 

 たったその一言だけで顔がさらに赤くなるし、心臓の鼓動も早くなる。嗚呼、間違いない。私は司に恋しているのだろう。昨日の夜も分かっては居たけど、認めたくなかったのかもしれない。

 いや、司が嫌いという訳じゃない。そうではなく、彼女は同性なのだ。私はつまり同性に恋をしてしまったという事。恋に落ちるのは突然、とは良く言われているし、本当にそうだと思った。

 

 この恋が許されるものなのだろうか。私はそんな事を考えながら着替えを済まし、一階へと降りる。

 

「ママ、おはよう」

「ふふ、おはよう蒼。今日は随分とお寝坊さんね」

 

 クスクス笑うのは私のママである。パパは休みの日もしょっちゅう留守にしてることが多いから、会える方がレアだったりする。

 でも、ママもパパも仲がかなり良い。偶々休みだった日なんか、出掛け先でもイチャイチャするし、こっちも恥ずかしい。

 

「うん、ちょっとね」

 

 この事、相談しようかな。でも……どうだろう。同性の子を好きになるって、ママも流石に引いちゃうかな?

 

「何か悩み事?」

「ママ……」

 

 いつの間にか隣りに座っていたママを見てちょっと驚く。やっぱり分かっちゃうよね……。

 

「えっと、変な話なんだけど……」

 

 この際だ、正直に話そうと思う。ママに隠し事は出来ないしね……今までもすぐバレちゃうし。私はとある少女の事が好きだということを素直にママに話した。

 

「なるほどねーふふ、蒼も恋したかー」

「おかしい、かな?」

 

 何処か嬉しそうに話すママ。

 

「可笑しくないよ。恋ってそういう物でしょ。いつ落ちるかなんて誰も分からない。それがたとえ同性でも、恋は恋なんだから」

「引かない?」

「私が蒼を? そんな事絶対あり得ないわよ。蒼は私がお腹痛めて生んだ大切な娘なんだから。パパも同じだと思うよ。同性の恋は確かに世間的には良く見られてない所もある。けど、外国では同性婚を認めてる国もあるくらいよ? おかしくないわよ」

「……ママ」

 

 その言葉は暖かく感じる。うん、何かママに話したらちょっとすっきりしたかもしれない。

 

「まあ、何はどうであれ……蒼、その子の事好きになっちゃったんでしょ?」

「うん」

「応援するわよ」

「ありがとう!」

 

 良かった……というのもなんか変かもしれないけど、ママは普通に話を聞いてくれたし、特に何もなかった。引かれたりとかしたらちょっと怖いなと思ってたけど。

 

 うん、認めよう。私はリュネール・エトワールいや、司が好きだということ。そう認識すると今までのモヤモヤも消えていく。ホワイトリリーにもやっとしたのは、好きな子と一緒に居たからだろうし。

 

 ……でも、これからどうしようかな?

 

 

 

 

 

 




他者視点って結構難しいですよね……どうも、上手く書けてるか不安です。



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Act.04:それはある日常風景の一つ②

今回も視点が違いますが、次回から漸く主人公に戻ります()


 

 すっかり12月に入り、世間一般ではクリスマスムードに包まれているこの時期。私は相変わらず、魔法省の執務室に座っていた。

 魔法省内部も、徐々にクリスマスムードに飲み込まれつつあるわね。毎年恒例のパーティーもあるから仕方が無いんだけれど。

 

「AAの魔物が出るとはねー」

 

 ここ最近、今までで観測されたのでも最高はAの魔物だったが今回は突然AAの魔物が観測されたのだ。報告によると、その魔物は大きな蝶のような見た目をしており、空を飛んでいたという事だ。

 手元にある画像を見て確かにこれは蝶ね、と思ったけど、流石に大きすぎてむしろ気持ち悪とも思ってしまったわね。ただそれは他の魔法少女たちもおおよそそんな反応をしていたらしい。

 

 ホワイトリリー含み、Aクラスの魔法少女たちが全員駆け付けられたので、苦戦無く討伐はできたみたいで安心したわ。今回はリュネール・エトワールは見かけなかったみたいね。

 

「まあ、何処かで隠れて見ていたかもしれないけれどね」

 

 聞いた感じのリュネール・エトワールの人柄からして、何処かでこっそり様子を見ていたと思う。他に魔物は居なかったしね……いつも誰よりも早く駆けつける彼女が気付かないはずもないだろうし。

 

 それにしても、結局会うことのないまま12月になってしまったわね。この調子だと、今年はもう会えなさそうかしら? でもまあ、他の魔法少女……まあ一部だけど、お礼も言えたらしいからどっちかと言うと良いのかな。

 

 個人的にお礼を言いたいと言いつつ、全然言えてないからなあ……魔法省を嫌ってるかどうかはさておき、何処かで会えないかと思いつつ結局は成果なしね。

 

「はぁ」

 

 まあそれは良いわ。

 何処で会えたら良いなっていう感覚で居るしか無いわね。リュネール・エトワールの目撃範囲は広いし……取り敢えず今日は帰りましょ。

 

 すっかり日が暮れ、私は着替えをしてから帰路につく。魔法省の茨城支部があるのはこの水戸駅の近くだ。流石は県庁所在地の駅というべきか、周辺は結構ビルがある。

 東京の都会と比べたらちっぽけなものかもしれないけど、個人的にここは好きかな。家があるっていうもそうだけど、やっぱり人が多すぎるのも何かあれだしね。

 

 魔法省の建物を後にすると、仕事終わりの人とか学校帰り? のような子たちが歩道橋や歩道を談笑しながら歩いている光景が映る。

 駅も近いという事もあるから、この時間帯は結構賑やかだったりする。いつもの見慣れた光景ではあるけど、こういう普通っていうのは大事よね。

 

 魔物は依然と出現はするけど、何とか処理はできている。と言っても私自身は全然何も出来てない。魔物と戦うのは、10代の女の子たちなのだ。あまり気が進まないけど、仕方がないのかな。

 

「魔物、ね」

 

 15年前に突然現れた謎の生命体。その姿形は様々なものであり、虫だったり動物だったりとかだ。ただし、今まででは人型のようなものは確認されていない。

 脅威度がそれぞれ振られていて、一番危険なのがSSだ。これは魔物出現の日に現れた魔物がこれに当て嵌まる。一つの国を半壊にまで追いやった魔物だ。

 

 その姿はファンタジーとかでよく描かれている、ドラゴンのような容姿をした魔物であり、口から火を吹いたりもしていたとされる。

 他にも氷のブレスのようなものまで放てていて、複数の属性を持っている魔物だった。火器類は全く意味を成さず、それは今の現代兵器でも同じ事が言える。

 

 その時に現れたのが原初の魔法少女と言われる7人の魔法少女たちだ。彼女らがその強力な力を使って魔物を倒してくれたお陰で、その国は半壊で済んだのだ。

 半壊というのは確かにかなりの被害だろうけど、彼女たちが居なければ全壊していただろう。そこだけには留まらず、他の国も追いやられていたと考えられてる。

 

 原初の魔法少女は今何処で何をしているのか……それは私でも分からない。既に亡くなっている可能性もあるし、何処か平和に暮らしているかもしれない。

 東京でも多分、分からないんじゃないかな。そもそも、日本には原初の魔法少女は居なかったし。

 

 まあ、こんな事考えても分からないものは分からないから、無駄かもしれないわね。私は背伸びをして空気を身体に取り込み、再び歩き始める。

 

「……ん?」

「ん?」

 

 駅に向かって歩いていると、すっと横を女の子が通り過ぎていく。私は何か既視感みたいなものを覚え、振り向くと向こうの少女もこちらを見ていた。

 

「え?」

 

 その少女の容姿。

 銀色の髪を背中まで伸ばし、金色の瞳をしている。更に瞳の中には星のようなものが見えるが、ハイライトがあまりない。見覚えがある……星や月が描かれている衣装も。

 

「リュネール・エトワール?」

「……誰?」

 

 彼女の反応は最もだろう。

 と言うより、やっぱりこの子リュネール・エトワールだわ! 何という偶然? いや、奇跡? それにしても……うん、確かに凄い可愛い子だとは思うわ。表情がないのはちょっと怖いけど。

 

「それもそうよね。私は北条茜……といえば分かるかしら? 魔法省の者よ」

 

 支部長という事は伏せておく。別にバラしても大丈夫だとは思うけど、まずはここから。

 

「……魔法省」

 

 うん、今嫌そうな顔したわよね? 表情がほとんどないからうっかりすると見過ごすくらいだけど。

 

「あなたが魔法省を嫌ってるのは分かってるつもり。ねえ、ちょっと話をさせてくれないかしら?」

「このままで良いなら」

「ええ、良いわよ。ここだと人目が多いし、離れましょ」

 

 星月の魔法少女リュネール・エトワールは結構有名人となっている。だからほら、周りの視線が彼女へ向いているのが分かる。彼女もその視線を感じ取ってたみたいね。

 

 私とリュネール・エトワールは更に人が集まる前に、そそくさにその場から立ち去り移動をした。

 

 

 

 

 

 

 だいぶ離れた場所にぽつんとある自動販売機の近くで、私は再び少女を見る。ここなら人目もないし、ゆっくり話せそうね。

 

「それで?」

「うん。そうね、まず単刀直入に。ありがとう、リュネール・エトワール」

 

 頭を下げて私は彼女にお礼を言う。そうすると、向こうは驚いた顔(表情は乏しいけど)を見せて、思わずくすっと笑ってしまう。

 まあ、突然謝られたら驚くわよね。私も驚く。

 

「それは、何のお礼?」

「茨城地域の魔法少女たちについてよ」

「別に、好きでやってること」

 

 それはつまり、助けようとして助けた訳ではないという事だろう。まあ、それはもう知っているわ。それでも結果的に助けられてるし、お礼を言うのは間違いではない。

 

「ええそうね。でも、結果的に助かってる子たちが居る。ホワイトリリーもそうだし……だからお礼を言わせて頂戴」

「ん。分かった。その感謝は受け取る」

「ええ、ありがとう」

 

 良かった。

 偶然だか何だかはわからないけれど、こうしてリュネール・エトワールと出会えて良かったと思う。彼女には他にも、一部の情報とかをホワイトリリーを通して教えてくれたりとか、本当に助けられているしね。

 

「ねえ。これは興味本位なのだけど」

「ん」

「貴女は何で魔法省が嫌いなの? 別にこれは言いたくなければ、言わなくても良いわ」

 

 でも、教えてくれたらこちらでも何とか出来るかもしれないし。

 

「……」

 

 私が問えば、彼女は静かにこちらを見てくる。でもその視線から嫌なものは感じてないけど、それでもやっぱり警戒しているというのが見て取れる。

 

「別に」

「え?」

「別に魔法省が嫌いという訳じゃない」

「それならどうして?」

「それは言えない。ごめん。でも、これだけは言わせて欲しい」

「何かしら?」

「現状、わたしは敵対する意思はない」

 

 そう答えた彼女は真剣そのものだった。嘘を言っていない……それは本当だろう。

 

「後は出来る限りは魔物を倒すつもり。勿論、横取りもするつもりはない」

「……そっか。ダメ元で聞くけど、魔法省に所属するつもりはない?」

 

 魔法省に所属してくれれば、私も貴女のことを全力でサポートが出来る。他の魔法少女たちも、助けられてる子を含み、リュネール・エトワールに対しては好印象だしね。

 彼女が何で一人で戦っているのか、それは分からないけど……それでも。

 

「ごめん、それはない」

「だよね。ごめんなさい。……時間取らせてごめんね、これで終わり」

「ん。……そっちも身体には気を付けて」

「っ!」

 

 何よこの子、そんな顔もできるのね。確かにその顔は反則よね……雪菜ちゃんとか、蒼ちゃんがやられるの無理はない。私ですら今一瞬だけドキッとしたし。

 

「ええ、ありがとう」

「ん。それじゃ」

 

 そういって彼女はその場から立ち去るのだった。

 

 

 リュネール・エトワールが何を抱えているのかは分からないけれど……いつか、分かりあえたらなと思うのだった。

 

 

 

 

 



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Act.05:真白襲来!①

漸く、進みます。

これで、章名詐欺とは言わせないゾ()


「お兄、次これはどうかな!」

 

 さて、俺は今どうなっているのか?

 目の前に居るのは唯一の血縁で妹である、如月真白(きさらぎましろ)である。真白は紙にさっきから色んな服の絵を描いては、俺に見せてくる。勿論、全部女性ものである。

 

 12月の後半に入り、ますます周りはクリスマスムードになりつつある時期。何故真白が目の前に居るのか? それはとても簡単なことで俺に秘密で帰ってきたのだ。

 

 それだけなら良い。

 もう察する通りだと思う。今の俺はハーフモードで真白の前に居る。この意味が何を指すのか……はいその通り。魔法少女やってることがバレました。

 

 でもって、その姿を見られ今や着せ替え人形のようにされていた。と言っても、真白の描く絵の服を俺がイメージして、衣装を魔力でチェンジしているのだが。

 

 

 さて何でこんな事になってるのかと言えば、2時間くらい前に遡るのだが……うん、あれは本当にタイミングが悪かったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

「ねーねーそう言えば、あなたの妹さんってどんな感じなの?」

「何だ藪から棒に」

 

 いつも通りの日常……周りはクリスマスムードで溢れているが俺は別に何とも思ってない。おいそこ、ボッチとか言うな。……いや、クリぼっちなのは認める。

 あ、俺やっぱりボッチかもしれないわ。いやでも、一応今年はラビが居るし、ぬいぐるみだけど喋れるし、二人って事で!

 

「いや、ちょっと気になっただけよ。どんな感じのなのかなってね」

「うーん……まあ、一つ言うなら可愛いと思う」

「うん。シスコンね」

「言う程か? まあ、最近会えてないけどな……CONNECTでやり取りするくらいか」

「まあ、取り敢えず可愛いっていうのは分かったからどういう感じなの?」

 

 どういう感じ、か。

 妹……真白は名前の通り、綺麗な白銀色の髪を持っていてぶっちゃけ、お世辞抜きでも可愛いと思う。さて、銀髪という事は外国人なのか? それはない。

 真白も母さんから生まれた立派な日本人だ。銀髪碧眼っていう、物凄いレアと言うか日本では滅多に見ない容姿をしていたから学校でもかなりの人に告白されたと聞いている。ただ、とある諸事情により、全て断っていたけど。

 

 母さんの先祖にそういう容姿をした人が居たらしく、言うなれば隔世遺伝というやつだ。俺は普通に黒髪黒目で生まれたのだが、妹の時は隔世遺伝が起きたっぽい。

 

 俺の魔法少女としての姿であるリュネール・エトワールの容姿にも近いかもしれない。ただこっちの場合は銀髪ではあるけど、金の瞳だしな。

 

「へえ」

「だから結構な人に告白されてたみたいだ」

「凄いわね。とは言え、確かに日本じゃ銀髪碧眼なんてまず見ないものね」

「ああ」

 

 その代わりと言っては難だが、一部から嫌がらせとかを受けていたのも知ってる。真白は頭も良いから、嫉妬してたんだとは思う。でも、そういう事する奴らは真白の行動によって犯行が暴かれ、こっぴどく怒られたらしいが。

 

「まあ、機会があったら会えるとは思うぞ。何となくだが、長期休暇には戻ってきそうだしな」

「東京の大学だっけ? どういう学校に行ってるの?」

「イラストレーターだな」

「イラストレーター……」

「ああ」

 

 真白は昔から絵を描くのが好きで、暇さえあれば絵を描いていたと思う。俺や、父さん母さんたちを含んだ家族の絵も描いてくれてたな、しかも可愛らしいアニメ風な感じで。

 ツブヤイッターでも、アイコン描きます的な感じで活動もしていたな。結構依頼が来てて、流石だなと思った。

 

「これが新しい絵だな。CONNECTで送ってきてくれた」

「おお!」

 

 偶に描いた絵を送ってきてくれるんだよな。

 今回のテーマは魔法少女らしい。で、この絵をよく見て欲しい。銀髪に金色の瞳、衣装も星とか月がメインで描かれているこの絵。

 

「あれ? これリュネール・エトワールに似てない?」

「思っただろ? 微妙に違うけど、リュネール・エトワールに似てるんだよな……」

「すごい偶然ね……」

 

 そうなのだ。この魔法少女の絵だが、全部ではないもののリュネール・エトワールに似ている部分が多く有る。衣装もにてるし、星や月がメインなのもそっくり。とんがり帽子までな。

 

「これ、バレてるとかじゃないよな?」

「流石にないでしょ。だって真白さんだっけ? 妹さんは東京じゃない」

「まあそうなんだけどな」

 

 これが送られてきたのは大体、一週間前だ。茨城地域の魔法少女の噂が東京まで飛んで行ってたとかかね? そんな飛ぶものか? まあ良いや。

 

「それにしても、真白さん、絵が凄いわねえ。可愛いし」

「ああ。俺も、ここまで上達しているとは思わなかったよ。誇らしいな」

「まあ、当の兄はニートだけどね」

「うぐ」

 

 それはそうなんだけどね。真白にも心配させてしまったし、反省はしている。だから今度戻ってきた時に、正直に宝くじを当てたっていう事は伝えておかないとな。

 

「しかも魔法少女だものね……いえ、まあ魔法少女にしたのは私だけれど」

「取り敢えず、魔法少女だって言うことは伏せておかないとな」

 

 どう思われるか怖いっていうのもあるが、巻き込みたくはないしな。

 

「さてと。そろそろ」

「いつもの見回りの時間ね」

「ああ」

 

 スマホ型の変身デバイスを手に取り、いつものように変身キーワードを紡ぐ。

 

「――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

『SYSTEM CALL "CHANGE" KEYWORD,OK――LA LUNE ET L'ETOILE――』

「え、お兄?」

 

 ただ、今回はそのタイミングで第三者の声が聞こえたのである。慌てて声のした方を向くと、そこには見覚えのある少女…銀髪碧眼の、俺の妹真白がこちらを驚いた顔で見ていた。

 既に変身キーワードを紡いでしまったので、変身は止まらず、そのまま俺はリュネール・エトワールへとチェンジする。

 

『SYSTEM CALL "CHANGE" SUCCESS!!――GO!』

 

 そして無慈悲に告げる変身完了の音。そう、これが2時間前に起きたハプニングだった。そして時間は冒頭へと戻るのだ。

 

 

 

 

「お兄、可愛い!」

「嬉しくない」

「ふふ、そう言わずに!」

 

 バッチリ変身シーンというか、した所を見られてしまい真白には魔法少女であることがあっさりバレてしまった。だけど、別に真白は俺を軽蔑したりとかはせず、こうやって構ってくる。ちょっと安心だな。

 

「真白は、引かないの?」

「え? それってお兄が魔法少女してるって事に?」

「ん」

 

 例え真白の前であるとしても、素は出さず、リュネール・エトワールとして話す。というかもうこの姿だとこっちが安定してしまったわ。解除すると戻るんだけどな。

 

「私が引くと思う? 私がお兄のこと恋愛的なもので好きだったっていうのは知ってるでしょ」

「ん……」

「叶わない初恋だけど、それでも私はやっぱりお兄が好きだよ」

「ありがと」

 

 そうなのだ。

 ある事情というのは、真白は俺の事が好きだったという事だ。だから、どんな人が告白しようと、動じなかった。既に好きな人が居たからだ。

 

 でも、知っての通り俺と真白は血の繋がった家族。だからこれは叶わない恋なのだ。それは真白も分かっていて。俺にこう頼んできた。

 

 ――私、お兄に告白するから振って欲しい。

 

 そうすれば、この気持にケリを付けられるから、と。真白は真剣で、俺はその頼みを引き受け、出来る限り優しく振ったのである。

 

「それにしても、宝くじ1億円を当ててたなんてね」

「ん」

「言ってくれれば良かったのに。でも、道理で仕送りを出し続けてられてた訳だ、納得ー」

 

 うん、まあ真白には伝えようかとは思っていたんだよな。でもやっぱり、当選した日はちょっと周りが怖くて、秘密にしてすぐに口座に入れてもらったんだけどね。

 

「ん。ごめん。ちょっと怖かった」

「うん、それは聞いたよ。宝くじって当たるんだね」

「ん。それはわたしも驚いた」

「そっかー」

 

 そんなこんな、俺と真白は話を続けたのだった。

 

 

 




という事で、妹来襲でした。
そしてあっさりバレる、司。

そして、新たなライバル?()


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Act.06:真白襲来!②

 

「そう言えばお兄は魔法少女になってるけど、魔法省に所属してるの?」

「いや、流石にしてないぞ。本体がこれだぞ? やばいだろ」

「ふふ、それもそっか。でも、それだと何の支援もなく戦ってるって事だよね? 心配だなー」

「大丈夫だって」

 

 真白が家に帰ってきた日の夜。俺は元の姿で真白と話していた。

 相変わらず、綺麗な髪をしているしシスコンって言われても良いから素直に可愛いと思う。絵も講師には結構褒められているようで、やっぱり凄いなと思う。

 

「真白はいつまで居るんだ?」

「うーん。冬休みが大体2週間程度だから、1月かな? ふふ! お兄とクリスマスとか、元旦とか過ごせそうだよ」

「そうか。そんな嬉しいか? こんな俺だぜ? 今じゃニートだしな」

「どんな感じであれ、お兄はお兄!」

 

 嬉しいことを言ってくれるじゃないか、妹のくせに生意気だ。

 

「く、くすぐったいよお兄!?」

 

 真白の頭をもみくちゃにしてやる。凄いサラサラで、どんだけ手入れしてるのかが分かるな。俺は男だから、良く分からないんだけどな。

 

「っと悪い悪い」

「もう子供じゃないんだから……嫌って訳でもないけどね」

「(シスコン極めてるわね)」

 

 ラビめ……いや、シスコンなのは認めよう。でも良かった。真白も真白で元気にやってそうで安心した。CONNECTで連絡は取ってるから、元気なのは間違いなんだがな。

 それはあくまで、CONNECTのチャットで見た感じだから実際会うまではやっぱり、わからないよな。無理して元気を装ってる可能性だってあるわけだし。

 

「お兄こそ、魔法少女してて大丈夫? 何かあったりしてない?」

「おう、そこは大丈夫だ」

「それなら良いんだけどね」

 

 ニートで無支援状態の魔法少女をしているから、まあ心配されるのはご尤もなんだけどな。とは言え、俺にはラビっていう心強い味方も居る訳だし、大丈夫だ。

 ただ、あの襲撃していた男についてはちょっとやらかしたが。魔石持ってて良かったわ、本当に。

 

「クリスマスさ、一緒に出掛けない?」

「何処に?」

「うーん、特に行きたい所はないんだけどね……家で過ごすのも良いけど、やっぱりお兄と出掛けたいし」

「ふむ。ならドライブでも行くか?」

 

 まあ、確かにクリスマスの日に家に籠もってるのはあれだな。いや、ニートだから家に籠もるも何も無いのだが。

 

「え? 本当? うん、行く!」

「まあ、そこまで遠くにはいけないが高速使えばそれなり遠出できるだろうしな」

「わーい! お兄大好き!」

「いきなり抱きつくなって。お前もう大人だろ」

「そんなの関係ないもん」

 

 もんって何だ。

 真白は確か身長は156くらいだったよな? それが本当かどうかは別として、平均に近いのかな。妹とは言え、抱きつかれるのは流石に恥ずかしいと言うか……。

 

 身長差としては大体10cmくらい俺のほうが上である。ただ、リュネール・エトワールになると逆転する。容姿も似てるので、周りから見れば妹と見られても可笑しくないな。

 さっきは、着せ替え人形みたいにされて疲れたぜ……正確には着せ替えられてると言うか、魔力で服を変えてるのは俺なので、やらされていると言えば良いかな。

 

「……」

「どうした、真白? いきなり大人しくなったけど」

 

 そんな事考えていると、真白が俺の方をじっと見てくる。

 魔法少女という事はバレたのだが、ラビについてはバレてない。バレても別に大丈夫だけどな……どうせ、魔法少女ってバレてるんだし今更だよ。

 

「ねえ、お兄」

「ん?」

「お兄はさ、魔法少女になってるよね? 今更だけど身体とか性別変わってて違和感とか無いの?」

 

 違和感、か。

 確かに最初はバリバリあったのだが、今じゃすっかり慣れてしまってる。口調も板についていると思う。ちょっぴりくらいしか無いな。

 

「んー、最初はあったけど、大分慣れたな」

「そっか」

「どうしたんだ?」

「ううん。性別変わるって普通考えられないからさ……二つの性別を持ってて、そのうちどっちが本当か分からなくなっちゃうんじゃないかなって思ったら、ちょっとお兄が心配で」

「なるほどな」

 

 現実では考えられないような現象だよなー魔法少女。そもそも、何で男である俺がなれたのかって話になるんだが。真白の心配は分かる。

 本来とは違う性別になってるし、創作とかでは良くそっちの身体に心とかが徐々に変わっていくとか、あるよな。それを考えると、俺ももしかすると……。

 

 いや、考えるのはやめよう。

 

「ま、大丈夫だろ。こうやって普通で居られてるしな」

「うん。それなら良いんだけどね。もし……もし仮にお兄がそうなったりしても私は味方でいるからね」

「考えすぎだろー……でも、そう言ってくれると嬉しいな」

「ふふ。私にとってお兄は欠かせない人だからね! もしお兄まで居なくなったら私は……」

 

 真白の頭に手を乗せる。

 

「ふえ?」

「大丈夫だ。俺は居なくならない……絶対だ。お前を残して消えたりしないよ」

 

 不安そうにする真白を優しく撫でる。

 大切な家族だ。残して行くなんてできる訳がない。寿命で死ぬその時まで……絶対一人にはしない。あれ、何かこれ恥ずかしいな?

 

「うん。お兄ありがとう。やっぱり優しい」

「そうか?」

「うん」

 

 そう言って笑顔になる真白。

 安心させられたなら良かった。

 

 仮に、仮にだが俺が真白の言う通りとなってしまったとしても、守ると誓おう。魔物と戦える力は誰かを助ける為にあるんだからな。

 偽善者と言えるかもしれないが、俺は俺の目の届く範囲では誰も傷つけさせるつもりはない。それはホワイトリリーやブルーサファイア、他の魔法少女もそうだ。

 

 他地域は無理でも、せめてこの地域だけは守りたいなと思ってる。とは言え、俺一人じゃ限界っていうのがあるけどな。魔物も結構増えてるし。

 今は前にも言った通り、停滞状態。ゼロではないけど頻度は落ち着いている方ではある。それに出現する魔物もA以下がほとんどだしな、この前はAAが出てビビったけど、問題なく対応できてたっぽいし。

 

 そう言えば魔法省といえば、この前リュネール・エトワールの姿で茜と遭遇してしまった。何の偶然だよ、と突っ込みたくなった。

 まあそれで、茜に呼び止められて少し話をした感じだ。あの時は偶々、見回りルートだった訳で……人目がなかったので姿を消す魔法を一旦止めていたんだよな。

 

 ハイドは姿を消せるけど、その状態だと魔力が常に減るからずっとは発動させられないんだよね。俺の魔力は膨大だが、それでも使えば減るんだから。

 

 話したと言っても、感謝されただけだが。

 ホワイトリリーもブルーサファイアも言ってたな……お礼を言いたい人が魔法少女以外に居るって。多分、これが茜なのだろう。

 お礼は受け取ったけど、最後に魔法省に勧誘はされた。でも、当然所属は出来ないので断った。

 

「守られるだけ、は嫌だけどね」

「なにか言ったか?」

「ううん。何でも無い! お兄、クリスマスドライブ忘れないでね!」

「おう」

「そういう訳で、お兄、もう一回ハーフモード? とやらになってよ」

「なんでやねん!」

 

 さっきまでの真面目な感じは何処行ったし。

 

「久しぶりに一緒に寝たいなって思って」

「……本気か?」

「うん。お兄のままでも良いけど、あの姿のお兄は抱き心地も良さそうだし!」

「おい……」

「お願い、今日だけで良いから!」

 

 はあ……あのな、真白よ……俺は男だぞ? 男と寝るってやばいだろう。いくら兄であっても……子供の時は確かに良く寝てたけど今はどっちも成人済みで大人だ。問題しか無いだろ……。

 

「俺、男だぞ?」

「うん知ってるけど、どうせ兄妹なんだし大丈夫でしょ」

「……」

 

 と言うか、あの状態で寝たら変身解除されたりしないか? そう言えば、魔法少女の状態で寝るとどうなるんだろうか。全然気にしてなかったし、わざわざその姿で寝るっていう選択肢はなかったな。

 

 さて、どうするか。ラビに聞けるかな?

 

 

 

 

 



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Act.07:真白襲来!③

後半、ちょっぴり切ないシリアス風味です。
申し訳ないですっ!


 

「ふふ、その姿だとお兄、私の妹みたいだね。髪色は違うけど、そこは一緒だけどね」

 

 ハーフモードになり、真白と向き合う形で布団の中へ入っている。凄く不本意ではあるが、真白自体は全然気にしてない様子だった。少しは気にしようぜ……。

 

 でだ。俺のこのハーフモードは髪色は黒だが容姿自体はリュネール・エトワールである為、確かに兄ではなく妹だろう。そもそも、性別違うしな。

 

「この姿で寝たこと無い、から、変身が解除されるかも?」

「ふふ、それもそれで良いよ。今だけこうやって居られれば」

「……抱きつかないで」

「えー良いじゃん!」

 

 真白のスキンシップが何か激しい気がする。

 いやまあ、俺の事好きだった訳で、しかも家族だから納得できない訳ではないけど、やっぱり何というか……うん、やっぱりちょっと照れくさい。

 

「お兄ってその姿だと、その口調で徹底してるよね。かなり慣れてるみたいで驚いちゃった」

「ん。長いことやっているから」

 

 長いと言っても、まだ数ヶ月なんだけどな。慣れっていうのは恐ろしいもので、気が付くと最初感じてた違和感なんて無くなるんだよな。

 

 バレないようにしてる訳だから割と本気でやってたらこうなった。何ていうのかな、変身するとこう意識が切り替わる感じ。あくまで外面的な感じだけども。

 

「そっちも、かなり絵とか上達してて驚いた」

「ふふ、ありがとう。結構本気でやってるんだよこれでも。講師にも何度か褒められてるよ! アドバイスもしてくれるし、良いところ」

「ん。それは良かった」

 

 何処か嬉しそうに話す真白は可愛かった。まるで子供の時に時間が戻ったようなそんな感じだ。

 

「お兄は、再就職とかはしないの?」

「今の所は考えてない」

 

 働かなくても十分暮らせるしな。無駄遣いをしても、それなりには持つと思う。無駄遣いするつもりもないけどな。真白は真白で大学行きつつ、今でもツブヤイッターでイラストの仕事やってるみたいだ。結構稼いでるみたい。

 

「そっか……」

「ん」

 

 そこで真白の声が聞こえなくなり、顔を少し上げてみるとそこには目を瞑っている顔が見えた。

 

「真白?」

「……すぅ」

 

 寝ちゃったみたいだ。

 今なら抜け出せる! と思うだろ? それは出来ないのだ。何故なら、真白が俺の事を抱き枕のようにがっちりホールドしてるからだ。

 

 慎ましやかな胸があたって俺は心臓がバクバクだよ。

 

「ふふ、随分仲が良いわね」

「ラビ」

 

 そんな状態の中、寝たのを見計らってかラビがそう言ってきた。ラビのことはまだ真白にはバレてないけど、そのうち簡単にバレそうだな。

 

「まあ……昔、俺の事好きだった訳だからな」

「なるほどね。でも見た感じ、今でもあなたの事好きそうよ」

「ん。分かってる」

 

 頼まれて振ったとは言え、真白は確かに涙を流してすっきりした顔を見せていたが、それでもやっぱり視線がこちらに良く来るのは分かっていた。

 俺だって真白を妹として好きだ。ただそこには恋愛的な感情はない。

 

「どうしたら良い?」

「さあ……そこはあなたが考える事よ。無関係な私が口だすのは変よ」

「だよね」

「ホワイトリリーやブルーサファイアの事も、ね」

 

 考えるべき事、か。

 俺は頭の中で、どうしたら良いかを考え続けたが、自然と眠気が襲って来た所で、俺の意識は夢の中へと落ちていったのだった。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

「お兄……私はお兄が好き。だから付き合って下さい!」

 

 それはもう結構昔の話になる。

 告白スポットとして有名な、高台にある一本木。その下で結ばれた者は、幸せな時間がずっと続くであろうと言われている場所で、俺は当時の真白に告白されていた。

 

 空は快晴、雲ひとつ無く、心地よい風が俺たちの間を通り抜け、桜の花びらが散りゆく。

 

 嗚呼、これは夢だ。昔の夢。

 真白に予め、告白するからと言われ、断って欲しいと言う頼みを受けたあの日の事だ。真白は可愛らしく、顔を赤くして目を瞑っていた。

 

「真白……」

「お兄、お願い」

「ああ」

 

 本気で好きだった、それはもう分かっていた。だからこそ、真白の頼みを引き受けたのだが、俺には酷く振る事はできない。

 

「真白、ごめん。その気持ちには答えられない」

「……うん」

 

 ゆっくりと真白に近寄り、俺は手を伸ばして頭の撫でる。

 

「でも、俺の事を好きになってくれてありがとう。気持ちには答えられないけど、妹としてはこれからも好きで居るよ」

「お兄……うん、ありがとう」

 

 恋人としては見れないけど、家族としては真白を好きでいる。そんな返答をしたのが俺だった。俺としても好きになってくれて嬉しかったのも事実だ。

 

「やっぱりお兄は優しすぎるよ」

「そうかな?」

「うん。そんな調子だと、これから先苦労するかもよ、ニシシ!」

 

 さっき流していた涙はもう無い。笑顔を見せる真白だけど、でも好きな人に振られたという気持ちは辛いのではないだろうか。俺とは言え。

 

「うーん、そんなつもり無いんだけどなー」

「無自覚すぎるのは良くないよ、お兄」

 

 でも確かに、誰に対しても優しくしてしまう傾向にある気はするんだ。それは俺の性分なのかもしれないけど……うーん。

 

「そう、だな……気をつけるよ」

「うんうん、それが良いよ」

 

 真白にそう言われてしまい、俺も考えるようになったのだが、結局優しくしてしまうんだよなあ……やっぱこういう性分なのかもしれない。

 

「そう言えばさお兄は知ってる? この木の伝説」

「確か、ここで結ばれると末永く幸せになれるって……」

「うん、それもあるんだけど、もう一つあるんだ。ふふ」

「もう一つ?」

 

 はて? 俺が知ってるのはそれだけなのだが、他にもあるのだろうか? 取り敢えず、真白を見てみる。

 

「うん。ここで告白して、断られたら、その人たちは新しい光を見つけられるっていうね」

「新しい光、か」

「うん。その光は色々あると思うけど、とにかく、ここでは結ばれても振られてもどちらにしろ、幸せになれるんだって」

「へえ」

 

 それは良い言い伝えだな、と思う。

 本当にそうなるかどうかは別として、それなら振られてもきっと大丈夫……実際、そういう人たちはどうなってるかは知らないが、幸せに暮らせているなら良いなって思う。

 

「私の初恋は叶わなかったけど……新しい光、見つけられると良いな」

「見つけられるさ、きっと……真白ならね」

「うん。お兄、本当ありがとう。やっぱり、お兄のことが好き」

「そうか……」

 

 もし……もし、俺たちが兄弟では無かったら。俺らが付き合う未来も何処かの世界であるのかもしれない。平行世界って良く言われる物があるしな。

 

 ……それは、もしの話だけどな。

 

「うん。帰ろっかお兄!」

「おう」

 

 気持ちを入れ替え、俺たちは高台を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……懐かしい夢を見た気がする」

 

 私は目を覚ます。

 目から何かが出ている、そんな感覚を覚え手を触れてみる。

 

「私、泣いてたんだ」

 

 理由は……まあ、夢のせいだろうと思う。

 はっきりと覚えている、昔の出来事だ。私はお兄が好きだった……それは兄としてとか家族としてとかではなく、一人の異性として好きだった。

 

 お兄とゲームしたり、遊んだりしてる時は本当に楽しくて……いつの間にか私は恋していた。分かっては居るんだ……私たちは血の繋がっている家族。叶わない恋だって言うことは。

 

 でもさ? 好きなってしまったのは仕方ないじゃない?

 お兄と一緒に居る時は本当にドキドキもしてたし、暖かくて居心地が良かった。いつからだろう? 私がお兄を好きになったのは。

 気付いたら恋してたんだよね……今でも好きっていう感情は消えてないけど、諦めはついてる。

 

 仕送りもしてくれて、本当に優しくて大好きなお兄。きっとこれは忘れることは出来ない。

 

「ふふ。こんな可愛らしい姿になっちゃって」

 

 魔法少女になってるって言うのを知った時は物凄く驚いた。丁度、変身する所に私が入ってきてお兄も驚いてたなー。魔法少女状態だと私と同じ銀髪になるんだよね。

 それで今のお兄の姿は黒髪のロング……色が違うと思うけど、何でもハーフモード? っていうらしい。使用する魔力を抑えてるって言ってた。

 

 何より、衣装がイメージで変えられるっていうのが凄いよね。ついつい、私が描いた服の絵を見せて、着せ替え人形みたいにしちゃったけど。

 

 お兄は引かないのかって聞いてきた。

 確かに普通に考えれば、そういう人が多いと思う。男が魔法少女だもんね。でも、私にとってお兄はお兄、姿形が異なっていても引くなんてことはないよ。

 仮にそんな事言ってくる人が居たら私が許さないんだから。

 

「……お兄。本当にありがとね」

 

 眠っているお兄に向けて、心からお礼を言って私は起き上がるのだった。

 

 

 

 

 

 




妹の真白にも好意を抱かれていた司の、ちょっとした過去話。


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Act.08:とある日の前日①

前回がちょっぴりシリアス風味でしたが、今回は明るいはずです。

真白がもうヒロイン?
魔法少女の……ターンだ!←


 

 クリスマス・イブ。

 クリスマスの前日の日の事を指す。今年もこの日がやって来て、周りはもうクリスマスムードである。外出れば分かるけど、あちこちでイリュミネーションとかが設置されている。

 

 俺の住むこの地域もまた、同じような感じとなっている。そして人が多く集まる日……明日が多分一番だろうけど、今日もそこそこ多いと思う。それの何が心配なのか?

 

 知っての通り魔物の事だ。

 

 人が多い所を好む傾向にある魔物。クリスマス・イブとかクリスマスとかの賑やかになる日は注意しないといけない。

 

「真白、ちょっと行ってくる」

「うん。気を付けてね」

「ああ」

 

 真白に見送られ、俺は魔法少女リュネール・エトワールに変身し、外へと抜け出す。真白にはもうバレてるので、堂々と目の前で変身している。

 時間は13時頃。真白と昼食をとって食休みしてからの見回り時間である。クリスマス・イブなので、イベントとかもあって人が多く集まる所を重点的に周る予定だ。

 

「大分賑やかねー」

「ん。もうクリスマス・イブだから、当たり前」

「魔物が出るのに良くやるわよね」

「むしろ、やらないとどうにかなってしまうのかもしれない。……魔物については魔法少女が駆け付けて基本的には倒してくれるから」

 

 だからこそ、大きな被害もでていない。東京だってそうだ。守られているという、安心感があるのだろう。でも、戦ってるのはまだ子供な女の子である。果たして……。

 

 これについてはもう何度も考えてる。どうしようもない……唯一対抗できる力なのだから。でもやっぱり、心配だよな……過去に命を落とした魔法少女だって居る訳だ。

 屋根を使ってぴょんぴょんしながら移動しつつ、周囲を見ていく。イリュミネーションを付けている家庭や、施設等様々である。

 昼なので、明かりは付いていないが、夜になったらこれらもぴかぴかするんだろうな。家にも些細ながらも、簡単なイリュミネーションっぽい物を付けていたりするし。今回は真白も居るからな。

 

「ん?」

「どうかしたの?」

「ん。あそこ」

「どれどれ……あら」

 

 俺が向けた方向にラビも視線を向ける。

 

「こんな所で何してるの?」

 

 そう、そこには見覚えのある魔法少女……ブルーサファイアが立っていたのである。俺が声をかけると、ハッとなってこちらに気づく。

 

「リュネール・エトワール……。ひ、久しぶりですね」

「ん」

 

 言うほど久しぶりか?

 あーでも、ここ最近はあまり会わなかった気がする。それはホワイトリリーにも同じ事が言える。というより、俺は横取りとかはする気がないので、既に駆け付けていて余裕そうであればその場から立ち去るから、会わないも何も無いんだが。

 むしろ今まで頻繁に会ってた方が珍しい気がするぞ……。

 

「どうかした?」

「えっと、その……」

 

 何やら顔を赤くしてもじもじする、ブルーサファイア。魔物も居ないのに、何故変身してこんな所に突っ立っていたのか? もしかすると、俺と同じで見回りかもしれないけど。

 

「この時間なら会えるかなと思って、ここでちょっと待ってました」

「……わたしを?」

「はい」

 

 確かにこの時間はいつも見回りをするが……あ、因みに俺が見回りする時間ってまずこの時間帯と、他には夜の晩ごはん後の二回。あとは結構気分で回ってたりする。え? どうでも良いって? まあ、そう言わずにな。

 

「そのですね。クリスマスの日……空いてませんか。時間はいつでも大丈夫なのですが」

 

 クリスマスの日か。

 そう言えば、真白とのドライブに行く時間とか決めてなかったな。午前中はまあ、大丈夫だろうか? 午後から夜にかけてでも大丈夫かな? むしろ夜のほうがイリュミネーションとか見れそうで良いしな。

 

「午前中なら少し」

 

 こちらの返答を何処か不安そうに待っているブルーサファイアに、そう返すとぱあっと顔が明るくなる。

 

「あの、それなら、一緒に出かけませんか!」

「何処へ?」

「えっと、何処でも」

「……」

「う、そんな顔で見ないで下さい。行き先とかは後で考えれば良いやって思ってたのは事実ですけど」

 

 バツの悪そうな顔をするブルーサファイアを申し訳ないのだが、ちょっと笑ってしまう。まさかそれだけを言うために待ってたとは……ここを俺が通らなかったらどうしてたんだ。

 

「あー! ブルーサファイア、狡いですよ!」

「へ?」

 

 そんなやり取りしてると、またまた聞き覚えのある声が耳に届き、声のした方を向くとそこには今度はホワイトリリーがこちらに向かってきていた。

 

「ほ、ホワイトリリー……」

「わ、私もリュネール・エトワールとクリスマスに出かけたいのに……」

 

 何という事でしょう。俺……いや、リュネール・エトワールに好意を持っているであろう二人の魔法少女が居合わせているではないか。

 

 ……ってふざけてる場合じゃないな。

 

「(これは修羅場かしら?)」

「(修羅場は結構……)」

 

 いや本当に修羅場になりかねないかもしれないが、今はまだ大丈夫そうだ。

 

「あの、リュネール・エトワール……私とも午後に出かけて下さいっ!」

「ん……明日は午前中しか無理」

「そんな……うぅ」

 

 明らかに落ち込んでるホワイトリリーを見ると罪悪感が……でもなあ、真白との約束もあるし、午後はちょっと分からないんだよな。

 

「なら、三人で出掛ければ良い」

「「え?」」

 

 一人ずつが無理ならば、一緒に出かけるのが良いと、俺は思っただけだ。まあ、お互いにとってはライバルという事もあって、ちょっとあれだけど、でも時間が取れないし仕方がない。

 何より、クリスマスに出掛けるというのが大事なんだろうし……まあ、そうだよな、クリスマスと言えば好きな人と一緒に居られるのが一番良いよな。

 

 まあ、俺はクリぼっちだが……真白とラビが居るので今年は三人だけどな。え? ラビは人じゃないだろって? いやいや、ラビは大事な相棒だから、数に入れてやらないと。

 

「それは……」

「うーん……」

 

 ブルーサファイアとホワイトリリーがお互いを見合う。

 

「嫌なら……後でまた時間をとっても良い」

「それは……クリスマスの日以外って言うことですよね?」

「ん」

 

 ホワイトリリーの問いかけを俺は肯定する。午後は無理、と言うのはもう変えないので、別の日にという事になるな。

 

「いえ……今回の所はやめておきます。流石にそこまで図々しくなりたくないですしね……」

 

 色々と考えたようで、結論が出たみたいだ。別の日なら俺は基本ニートなので時間はある。と言っても、真白も居るから完全にフリーという訳でもないのだが。

 

「それに、私よりもブルーサファイアの方が先でしたしね。えっと、ブルーサファイア……割り込んでしまってごめんなさい」

「い、いえ……私の方も、ごめんなさい」

 

 お互い謝った所で、一段落が付いたようで安心する。

 

「あの、最後に良かったら連絡先とか交換できませんか? あ、嫌であれば大丈夫です」

 

 そう来たか…んーでも連絡先なあ……俺スマホとか今持ってないんだよな。あるのはこの変身デバイス何だけど、今の状態だとステッキになってるし。

 

 実はスマホ型デバイスについては、真白にはバレているので登録が0だったアドレス帳には、真白の名前が追加されている。試しに通話してみた感じだと、普通に使えててラビの言った通りだった。

 

 しかし、どういう原理なんだ? 魔法は良く分からんな……回線も気になるし、まあ、悪くは無さそうだったが。

 

「(スマホ型になれる?)」

 

 自分の握っているステッキに声を聞いてみる。いや、何となく意思がありそうだったし分かるかなと思ったんだけど。

 

「おっと」

 

 すると、声が届いたのかステッキがぴかりと光って、その形がスマホへと変わっていく。

 

「え、何が起きたんですか?」

「内緒」

 

 俺にもわからないので、そこは秘密ということで。本当に姿も変えられるのか……いや本当に魔法って凄いな。でもこれで一応連絡先の交換は出来るかな?

 

 本当は連絡先を増やすつもりはなかったのだが……断るのも気まずいしな……うっかり、元の姿で電話に出ないよう気を付けないとなあ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




季節外れ?
気にしたら負けですよ←


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Act.09:とある日の前日②

 

「ただいま」

「あ、お兄、お帰り!」

 

 ざっと3時間くらい経過した所で、俺は家に戻ってくる。今は一人ではなく、真白が帰ってきているので、俺の言葉に返ってくる声がある。

 

「何かあった?」

「ん。あったと言えばあったような」

「ぷ、なにそれ」

 

 あったのは、魔法少女の二人……ブルーサファイアとホワイトリリーと会って何やかんやあったくらいだろうか。

 

「それにしても……やっぱりその姿だと妹みたい!」

「まだ言う」

「だって、本当にそっくりじゃない?」

 

 まあ、それは認める。ハーフモードでは黒髪だけど、完全状態だと銀髪だしな。髪の長さも同じくらいだろうか。違う点はやっぱり瞳の色くらいか?

 いや、変身状態の髪って青のグラデーションみたいなのがかかってるんだよな。普通ではありえないカラーだし、そこも違うか。

 

「まあ、そうだけど」

「でしょ! そう言えば今日はイブだけど、お兄は恋人とか居ないの? 居たら妬けるけど」

「妬けるって……居ると思う? わたし今ニート」

「ぷ!」

「何」

「いや、その姿でニートって言うと可笑しくて」

 

 真白のやつ……でも確かに15歳位の女の子が自分ニートとか言ったらそれは可笑しいな。

 

「確かにそうだけど……」

 

 しかし、いきなり恋人ね。

 居ない……のだが、俺と言うかリュネール・エトワールに対しては好きな人が居る。さっきも上げたブルーサファイアとホワイトリリーだ。

 

「ふふ、ごめん。それで、お兄、明日は何時頃にで出す予定なの?」

「ん。午後かな」

「午後かー、了解! 楽しみにしてるね!」

「ん。でもただのドライブ、だよ?」

「私はお兄と居られればそれで良いんだよ」

 

 この妹、ブラコン過ぎる。

 それを言ったら俺もシスコンだから、どっちもどっちか。もう認めるよ、妹は可愛いし守ってあげたくなるくらいだ。伊達にずっと一緒に居た訳じゃないしな。

 

 これじゃあ、お互い様だなー。

 

「わたしより、真白はどうなの?」

「え? 私?」

「ん。好きな人とか出来た?」

 

 俺の事を好きだって言うのは知ってるが、血が繋がってるから叶わないものだ。俺ではなく、大学とかで他に好きな人とか出来たりしたのだろうか?

 

「告白なら2回位されたけど……」

「流石」

 

 大学でも、真白は告白されたらしい。大学って事はその人たちも、絵とかが上手い人なのかな?

 

「うん。二人共、優しい人だったよ。片方は先輩で、もう片方は同学年だね。絵とかも上手かった。私はアニメ調なイラストを描くけど、二人は如何にも芸術? な感じの絵を描く凄い人だった」

「へえ」

 

 流石はそういう関係の大学だなと思う。やっぱり、凄い人は居るもんだな……真白も凄いと思うけどな。俺としては、絵を描く人って女性が多いイメージだったんだけど、男性も居るのか。

 

 あ、でも良く考えたら世の中、男性のイラストレーターだってたくさんいる。これは俺の偏見だったな。

 

「でも、好きにはなれなかったかな……やっぱり」

「真白……」

「お兄、その姿でそんな顔しないで……可愛いけど、何か罪悪感がある」

「こら」

「ごめんね。でも大丈夫……」

「それなら良いけど……」

 

 真白、やっぱりまだ引き摺ってしまって居るのだろうか。

 好きになる……俺は未だにその気持が分からない。俺は誰かを好きになった事がない……だからどんな気持ちなのか、それは分からない。

 

 昔、何度か告白されたことがあった。俺みたいさえない男を好きになる物好きが居るんだな、とその時は思っていた。断る時も出来る限り優しくしていた。

 改めて思ったが、確かに俺は……いや、やめておこう。

 

「お兄はやっぱり……」

「ん?」

「んーん、何でも無い。そうだ! お兄、今日の夕飯は私が作るよ! 何か材料ってあるの?」

「また唐突な……」

「良いじゃない。私が料理できる事くらい知ってるでしょ。まあ、お兄もそうだけどね」

「ん」

 

 真白は頭が良いに加えて、家事の才能も併せ持ってる。運動神経は人並み(真白談)らしいが、それでも十分反則な才能を持ってると思う。それもあるのだから、そりゃあ、人気でるよな。

 そう言えば、お弁当忘れたときとか持ってきてくれた時があったな……あの時はクラスの連中にも羨ましがられてたな。

 

 そんな訳で真白は容姿も良く、家事才能もあり、頭も良い……何だこのチート級な才能は、と思う。そんな真白が俺の事を好きになった理由は何だったんだろうな……。

 

「材料……多分無い」

「ええー!」

 

 確か昨日の分でもう色々と切れてた気がする。今日は外食にでもしようかと考えていたしな……因みに昨日は俺が作っていた。真白も久しぶりにお兄の料理が食べれたって喜んでくれたのはちょっと嬉しかったな。

 

「買いに行こう! 今すぐに!」

「え?」

「ほらほら、お兄! 行くよー! あ、その姿でね!」

「え、ちょ……」

 

 何やかんやされるがまま、俺は真白に連れ去られたのだった……リュネール・エトワールの姿のままで。

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

「そーれ! スペースカット」

 

 魔法のキーワードを唱えると、目の前に居た巨体の魔物は空間ごと真っ二つに斬れる。空間ごと斬ってしまうため、どんなに守りが堅くても意味がない。

 

「うっわ。相変わらずえぐいね、君」

「この魔法の力をくれたのはララじゃないの」

 

 右肩に載っている黒い兎のぬいぐるみ……ララに言われて、私はそう返す。魔法少女にしたのはララだし、この力の元凶もララじゃないの?

 

「いや、確かに魔法少女にしたのはボクだけどさ……使える魔法自体はその人の素質によって変わるからね?」

「ふーん」

「空間を操るとか……」

「でも、私魔力自体はそこまで多くないんでしょ。何となく自分でも分かってる」

「うん。君の魔力は人並み以下、と言っても過言じゃないよ。でもその魔力量で空間を操れているんだから大したものだよ」

 

 そうなのだ。

 私は空間を操るという強力な魔法が使えるのだけど、私自身の魔力量が普通の魔法少女と比べて低い。だからそうホイホイ連発も出来ないから、戦い方にも工夫が必要なのだ。

 

 現に、今使った空間ごと斬る魔法だって今ので半分くらい使った気がする。だから私はあまり魔物とは戦ってない。弱い魔物を倒しては魔石を集めてる程度だ。

 因みに転移魔法は何故かそこまで消費しない。というより、距離によって変わるから一概には言えないけどね。近い街間程度なら普通に移動できるくらいね。

 

「魔石のお陰でもあるけれどね」

 

 魔石は魔力を保有している宝石だ。だからその魔力を使って魔法の補助にする事も可能だ。魔力を回復させる手段としても使えるわね。と言うより、魔力を回復する手段はそれしか無いと思う。

 

「結局魔力集めは微妙ね。ごめんね、ララ」

 

 私も少し反省している。他の誰かに頼むなんて卑怯過ぎるし、一般人を巻き込むなんて以ての外だった。今更許してほしいとは言わないけれど……出来れば許してほしいな、なんてね。

 

「大丈夫さ。元よりかなり時間がかかるのは既に分かってた事だしね。それに今すぐって言うわけでもないから」

「そっか。……うん、私もっと頑張るわね」

「ああ……でも、無理はしないで欲しい。君は強力な魔法が使えるけど、魔力は少ないし、元の体も……」

「分かってるわ。そこはもう自分の事だし」

 

 元……まあ、変身前の姿のことよね。私って生まれつき身体が弱いから、しょっちゅう熱とか出したり風邪引いたりして、お父さんにもお母さんにも迷惑かけてたな。

 

「それでも、そこそこは溜まってるじゃない?」

「そうだね……」

 

 ステッキとは別にもう一つ、ララが持っている魔法の道具にはキラキラ光ってる何かが入っていて、メーターのようなものがちょっと上がってるのをみて、そう言う。

 このキラキラしているのは魔力で、私が地道にコツコツ集めていた物でもある。残念ながら男に渡していた短剣は、失ってしまったのであの魔力を期待することは出来ない。

 

「ねえ。ララはさ、あの星月の魔法少女についてどう思う?」

「どう思う、か。うーん……特に何もないかな、妖精みたいな力を感じるのは気になるけど」

 

 野良で無支援に活動している魔法少女。私も危うく捕まりかけたが、彼女は別に私を責めようとは思ってなかったみたいだった。

 

 一体何で野良で?

 

 まあ、そう思うのは私だけじゃないと思う。とは言え、自分も野良みたいなものだけれどね。

 

「正直に言ったらさ、協力してくれると思う?」

「それは……分からない。でも何となくではあるけど、協力してくれそうではあるね。ただ向こうについている妖精がどうかは分からないけど」

「そっか」

 

 彼女の魔力を借りられれば結構集まるんじゃないかなって思ったんだけど、向こうの事を私は全く知らないし、いきなりそういうのは駄目よね。

 

「何悩んでるんだい。君のやりたい方法でやるのが良いよ。ボクは何も言わないから……あでも、前みたいなやつは勘弁ね」

「分かってるわよ!」

 

 そんな他愛の無い会話をしながら、時間は過ぎていくのだった。

 

 

 

 



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Act.10:それは一冬の出来事

 

 時刻は午前9時頃。

 俺は、ハーフモードにて水戸駅の北口のロータリーに待機していた。バスや一般自動車とかが結構見える。特の目の前の交差点は、通勤時間や退勤時間になると非常に混雑する。今の時間帯は普通だが。

 

 待ち合わせの時間は9時半だったのだが、ちょっと早く来てしまったようだ。ブルーサファイア……蒼の姿はまだ見えない。

 何でも、車で行くらしいのだ。え? 俺の車? 違うぞ、蒼の親の車らしい。何処へ行くかまではまだ聞いてない。昨日の時点では決まってなかったようだが……。

 

「あ! もしかしてあなたが司ちゃん?」

 

 しばらく待っていると、聞き慣れない女性の声が聞こえる。目を向けるとそこには、こちらに手を振っている女性と、その後ろにこちらをこっそり? 見ている見慣れた少女、蒼が居た。

 

 どうやら、この女性は蒼の母親みたいだ。蒼をそのまま大人にしたかのように、そっくりであった。見た感じからすると、結構若く見える……。

 

「うん。そう」

「そっか! おまたせ。娘から話は聞いてるわ! ささ、乗って乗って」

「ん」

 

 促されるまま、俺は車の後ろ座席に乗り込む。すぐ隣には蒼が乗り、シートベルトをした所で、車が発車する。

 

「おはよう、司」

「ん。おはよう」

「今日はありがとね……」

「気にしないで」

 

 若干顔が赤い蒼は俺にそう言ってくる。別にお礼を言われる程ではないさ……誘ったのは蒼だが、約束したのは俺だしな。

 

「大丈夫? 顔赤いけど」

「だ、大丈夫、だよ?」

「何故疑問形?」

「うっ」

 

 何か蒼のママ上が、こちらを見てニヤニヤしているのは気の所為だろうか。うん、気の所為にしておこう。取り敢えず、蒼を落ち着かせる為に背中を擦ってあげる。こうすると良いって何かで聞いた気がする。

 

「落ち着いた?」

「うん……ありがと」

 

 それなら良かった。

 さて、俺達は今何処に向かっているのだろうか? 行き先は聞いてないんだよな……。

 

「何処向かってるの?」

「ちょっとした場所だよ」

「ちょっとした?」

「うん」

 

 これ以上は教えてくれ無さそうだ。

 正直に言うと、俺の暮らしている場所は県北だからこっち方面のスポットとかには弱いんだよな。因みに、俺が一番知っている所は茨城でも有名な国営の海浜公園……そう、ひたち海浜公園である。

 あそこは海も近いし、良い所だぞ。中に入れば観覧車は勿論、ジェットコースターなどなど盛りだくさんだ。花も綺麗だし、サイクリングコースもある。

 

 まあ……一人で行ったことがある程度なのだが。

 

「着いたわよ~」

 

 そんな事考えてると、どうやら目的地に着いたみたいだ。思ったより近くだったみたいで、俺たちはそのまま車から降りる。車から出れば、もう12月の後半であるため寒さが肌を突き刺す。

 と言っても、俺の場合は魔力によって服を作っているので薄着でも少し寒いくらいなのだが、流石に可笑しいと思われるのもあれなので、真白の絵を使って服も冬着にしてきた。

 

 あまり女性のコーデとか知らないから、何て言えば良いか分からない。取り敢えず、上は無難な白色の長袖ワンピースに、その上から灰色のジャケットを着ている。このジャケットが結構もこもこしてるんだよな。

 で、何故か星や月のデザインがあしらわれている。そこまで派手という訳でもないけど……まあ、星とか月は俺も結構好きだから良いんだけどな。実際、俺の財布はシンプルだけど星とかの模様が入ってるし。

 

「うわあ……」

 

 案内というか、後をついていくと湖のような所に出たのだが、その光景を見た俺は自然と口から声が漏れていた。湖にはたくさんの白鳥が居たのだ。何処と無く楽しそうに見える。

 

「ふふ、驚いた? 蒼が一晩悩んで選んだ場所なのよね」

「ちょっと、ママ!」

「ふふ! まあ、後は二人で行ってらっしゃいな。私は近くで待ってるわ」

 

 そんな事を言って去っていく、蒼のママ上様。そんなママ上の言葉に、顔を赤くして声を上げる蒼は素直に可愛らしいと思った。

 

「ここって……」

 

 そんなママ上が居なくなり、二人だけが取り残される。正確には遠くを見れば家族と一緒に遊びに来ている子たちや、恋人らしき人たちが仲良く歩いていたりしているのだが、この辺りは俺と蒼しか居ないようだった。

 

「うん。司も知ってるよね? 結構有名な場所だし」

「ん。千波湖」

「そう。昨日、あの後何処に行こうか考えたんだけど……ここが良いかなって思ったんだ。季節も丁度良かったしね」

 

 千波湖。

 水戸市にある、有名な観光スポットだ。いや、有名といえばすぐ近くに偕楽園があるが、それは置いとくとして、ここも結構有名だと思う。

 

 なるほど、良い場所を選んだな蒼。

 

「あ……」

「ごめん。嫌だった?」

「ううん……もっとして良いよ」

「そう?」

 

 ついつい蒼の頭を撫でてしまう。慌てて手を離すが、蒼は別に嫌じゃないらしい。それどころか、もっとして欲しいとねだってきたのである。

 ……うん、分かってるさ。蒼が俺……いや、リュネール・エトワールが好きだって言うことはな。

 

 ――うん。そんな調子だと、これから先苦労するかもよ、ニシシ!

 

 ふと、昔真白が俺に言ってきた言葉が蘇る。確か俺が優しすぎるとか……その調子だとこれから先苦労するだろうって言われたな。今なら実感できる……でも本当に俺はそんなつもりは……これじゃただの言い訳か。

 

「本当は、夜に来たかったんだけど……司の都合が悪そうだったから」

「ん。それはごめん」

「ううん! 私の方も急に誘ったりしてごめんね」

「問題ない」

「ありがと。……司は優しいね」

「そう?」

「うん。あまり優しすぎると、これから先結構大変になるかもよ?」

「……」

「っふふ! ごめん」

 

 まさか、真白と同じような事を言われるとは。

 

「それじゃ、あまり時間もないし、行こ!」

「ん」

 

 俺はそんな蒼に手を引かれて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ど、どうしよう!?

 勢い余って司の手を引いちゃったけど、嫌われてないよね? 

 

 昨日、私は思い切って司を誘った。途中、私の憧れでもあるホワイトリリーこと、白百合先輩ともちょっとあったけど、先輩のほうが引いてくれたのだ。

 ……きっと、先輩も司のことが好きなんだろと私でも察せられる。だって、司と会話している先輩は本当に楽しそうだったから。前は、結構距離感があったんだけど、今はあの時の距離感は何処に行ったのかといった感じになった。

 

 何が先輩を変えたのかな? と思ったことも結構あった。変えた人は恐らく、目の前のこの子、リュネール・エトワールこと司なんだろうなって。

 

 私も最初は何も思わなかった。だけど、私も司のことが好きになってしまった……同性なのに可笑しいよね。でも、ママに相談したらそんなこと無いって言ってくれたから、自分の気持ちを認められた。

 先輩も同じように司を好きになっていたし、可笑しいことではないんだって思えるようになってた。

 

 でも……先輩とは言え、憧れてる人とは言え、負けたくはない。

 

「ん? どうかした?」

 

 そんな事を考えていると、司が心配そうにこちらの顔を覗き込んでくる。うん、その顔は反則だからやめよう。

 

「な、何でも無い! ねね、あれ乗ろう!」

「ん? 貸しボート?」

「そう!」

「いいよ」

 

 っ! だからその笑顔は反則だって!?

 

 何か調子狂っちゃうなあ……好きになるってこういう事なんだろうか? 分からないけど、これは私の初恋……例え叶わないとしても、最後まで諦めたくない。

 

「?」

「う、ううん。何でも無い。行こう」

「ん」

 

 

 ……好きな人。

 私の好きな人は司……うん、それはもう理解できた。でもやっぱり、まだ告白とかする勇気もない。それに、今更だけど私はまだ彼女のことをそこまで知ってる訳じゃない。

 

 だからいつか……この気持ちを口に出せたら。

 例え振られても……それでもこの初恋の気持ちは忘れることはないと思う。だから……もう少しだけ時間を下さい。でも、のんびりしてたら先輩に先を越されるかもしれない。

 

 いや、何を言ってるのよ蒼。さっき諦めたくないって言ったでしょ! 今は無理でも、いつか告白できれば良いなと思ったのだった。

 

 これ以上考えると、私自身おかしくなりそうなので、気持ちを切り替え、私はそそくさに貸しボートの乗れる場所へ、司と一緒に向かうのだった。

 

 

 

 

 



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Act.11:シスター✕クリスマス①

再び戻って妹のターン()


 

「ただいま」

「お帰り、お兄!」

 

 蒼とのデートと言えば良いのかな? を終えた俺は、自宅へ帰宅していた。蒼の母には送っていきましょうか。と言われたが水戸駅で良いとやんわり断った。

 

 流石に家までバレてしまうのはよろしくない。

 

「待った?」

「ううん! それで、もう出発するの?」

「ん。ちょっとまってて」

「了解!」

 

 という訳で俺は自分の部屋へ、一度入る。部屋に入った所で、ラビを机の上に置きそして解除のキーワードを唱えれば、瞬時に纏っていた魔力装甲が消え、元の姿へと戻って行く。

 

「ふう。流石にあの姿じゃ運転はできねえしな」

 

 いや、するつもりもないけど。

 

「お疲れ様。これで、ブルーサファイアともデートしたわね……罪な男ねえ」

「ラビ……いや、あの子たちが好きになったのはあくまで、リュネール・エトワールだからなあ」

「そうね。仮にこっちの姿だったら犯罪よ」

「そうなんだよなあ」

 

 答えはもう決まっているが、こちらから言うのはおかしいし、やはり待つしか無いな。

 

「いっそのこと、リュネール・エトワールが本当の姿だったら悩まずに済んだか?」

「あら、そんな事言うなんて珍しいわね」

「いや、仮にそうだったら、どうだったんだろうなって」

 

 前にも言った通り、平行世界っていうものがある訳だし、そんな世界もあるのかもしれない。とは言え、平行世界っていうは本当に存在するなんて根拠は無いが。仮説と言えば良いか。

 まあ、ラビの言う妖精世界や魔物の居る謎の世界なんて物がある訳だし、今更平行世界があると言われても驚かないとは思うけどな。

 

「さてと、着替えるか」

 

 変身すれば衣装が変わるので、ぶっちゃけ変身前の俺はいつも着ている服である。何も珍しくもない、白いTシャツにジーンズ、上には白と黒のチェック柄のパーカーに、外で出る時は季節にもよるが今だと黒いジャンパーだな。

 

 簡単に準備を終えた所で、俺はスマホ型の変身デバイスと車のキーと財布を手に取り、部屋を後にする。

 

「またせたな」

「ううん! 全然」

 

 リビングへ降りると、真白はもう準備万端な状態で待機していて、少し待たせたかなと思ったが気にしてない様子だった。

 

「忘れ物とかはないか?」

「うん、大丈夫!」

「じゃあ行くか」

 

 時刻は午後13時頃。

 俺も真白も、お昼はまだ食べてないので、何処かで食べようかと考えていたのだが……。

 

「なあ、真白もお昼まだ食ってないよな? 何食べたい?」

「そう言えばお腹すいたかも。うーん、何でも良いよ、お兄が連れてってくれる場所なら」

「それなら適当な場所にするか」

 

 適当って言っても、決まっているけどな。

 やっぱり、あのファミレスが一番だろう。安いし美味しいからな。それに家からもそれなりに近いしな。なるべく早い方が良いだろうし。

 

 という訳で俺たちはまずは、お昼を食べる為に某有名なファミレスへと向かうのだった。

 

 

 

「いらっしゃいませ~お二人様ですか? 席へご案内致します」

 

 入店すると早速店員さんに声をかけられ、席へと案内される。案内に従ってテーブルへと向かい、正面で向き合う形で席につく。

 

「お兄、ここ好きだよね」

「そうか?」

「うん。昔も良くここに来てたじゃない?」

「そう言えばそうだな……まあ、良いじゃないか。ここは安いし美味しいんだから」

「まあね」

 

 昔、両親がまだ居る時もここに来たいと言ったような気がする。何でだろうな? ここ勿論料理も美味しいけど、何ていうか居心地も良いんだよな。俺だけかもしれないが。

 

「そう言えばお兄、午前中は確か同じ魔法少女の子と出かけたんだっけ?」

「ん? まあな……」

「事情とかは聞いてるけど、やっぱりお兄は変わってないね」

「やっぱそう思うか?」

「うん。誰にでも優しすぎるって所……まあ、そこがお兄の良い所でもあるんだけどね」

 

 真白にはぶっちゃけ、本当のことを言っている。どうせ、いつかばれるだろうし、それならもう最初から説明しておいて相談に乗ってもらったほうが良いと思っただけなんだがな。

 

「私の見立てはもう完全に、お兄にメロメロねその二人は」

「う……まあ、気付いては居たんだがな」

 

 まあ、正確にはラビが気づかせてくれたのだが。

 

「とにかく、ちゃんと答えてあげないと駄目だよ、お兄」

「ああ、分かってるさ」

「私の事も惚れさせて、本当に罪なお兄だよ」

「うぐ」

「ふふ、ごめん」

「いや良い……本当の事だしな」

 

 俺だって馬鹿じゃない。

 真白にも、雪菜にも蒼にも俺を好きにさせてしまった責任はあるのだ。濁すのは駄目だ、ちゃんと答えるのが道理だろう。

 

「だから言ったじゃない、その調子だとこの先苦労するって」

「ああ、本当にな。真白の言う通りだ。でも大丈夫……答えはもう出ている」

「本当にそれで良いの?」

「?」

 

 真白がそんなことを聞いてくる。

 この答えであっているはずだ……だって向こうの姿は偽物で本当の俺の姿ではない。演技もしているし、偽ってるだけ。いや、違うな……俺が俺である事がバレるのが怖いだけだ。

 

 もし本当の姿を見せたら、あの二人は幻滅するだろうか。気持ち悪いとか思うだろうか……そういう不安もあるんだよな。関係を壊すのはもっと嫌だ。

 

 ……あれ?

 

 関係を壊したくない……なんて俺はいつから思っていた? 最初は本当に自分の好きで魔法少女になった。ラビは強制的にしようとはしてきてない。最終的には俺の判断だ。

 全部は無理でもせめて、茨城地域の魔法少女たちの負担が減れば良いなと思って行動していた。

 

 いつからだろうか?

 最初は会話なんて全くせず、その場からそそくさと去っていた。だけど、最近はどうだろうか……いくらでも逃げようとすれば逃げられたのに、ついつい話をしてるように思える。

 

「お兄?」

「……」

 

 そう言えば他の魔法少女とも割と遭遇しては、最低限話すようになった気がする。どういう心変わりが俺に起きたのだろうか。考えても分からないか。

 

「お兄!」

「!! な、何だ」

「どうしたの、ボーッとして。具合悪い?」

 

 知らぬ内に俺は考え込んでいたようだ。真白がこちらを心配した顔で見ていた。

 

「大丈夫だ。ごめん」

「ううん。何でもないならそれで良いんだ……どうしたのお兄、そんな考え込んじゃって」

「ああ、ちょっとな……」

 

 俺にも分からない。

 とにかく、考えたところで何が変わるわけでもないので、俺はメニューを開いて料理を探す。俺の食べる物は大体決まっているので、そのページを開き紙に料理の番号を書く。

 何か、最近注文方法が変わったんだよな。いや、ブザーを押して店員を呼ぶのは一緒なのだが、直接店員に料理を伝えるのではなく、テーブルに置いてある紙にメニューに載ってる料理の番号と、その数を書いて渡すようになってる。

 

 俺が頼むのは前にも頼んだであろう、ペペロンチーノとドリンクバーである。やっぱり、ペペロンチーノは良いよな。ただそのまま出てくるやつだと、物足りなさがあるから追加で唐辛子フレークをかけて食べるんだが。

 

「相変わらずお兄は、ペペロンチーノ好きだねー」

「ああ。好物だしな」

 

 というより、パスタ全般が好きである。ペペロンチーノではなく、ミートスパゲティも好きだぞ。

 

「真白はどうするんだ?」

「うーん、ちょっと考え中、ごめんねお兄」

「気にするな。ゆっくり選んでていいぞ」

「ありがとう、お兄」

 

 そんな真白と横目に、俺は天井を見上げる。

 そう言えば、もう今年も終わりなんだなーと思い始める。今年は結構色々あったな。今年は今年だけど、厳密に言えば9月からだけども。

 

 ラビが現れて魔法少女になって、魔物を倒し始めて……それにしても、男である俺が魔法少女ってやっぱり可笑しいよなあ。そもそも何故変身できるんだ……いやまあ魔法少女だからと言われたら、そうとしか言えないのだが。

 

 でもさ? 考えてほしい。

 俺以外の魔法少女は、完全に女の子だぜ? いや、全員の変身前の姿を見た訳ではないが、仕草とか言動とかで分かる。俺みたいに男で魔法少女になり、演技している可能性も無くはないが。

 

 俺みたいな例が他に居るのだろうか。居たら居たらでそれは……何というか、同じ男として頑張れとしか言えないな。

 

 よし! と、気持ちを切り替える。

 色々と問題はあるけど、それでも守れる力があるというのは良い事だと思おう。性別が変わるのは、もうそういう仕様ってことで今更気にする必要もない。

 

「お兄、決めたよー!」

「じゃあ、頼むか」

「うん!」

 

 

 

 



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Act.12:シスター✕クリスマス②

そろそろ第三章も終わり目です。
もう少し続きますが、宜しくお願いします。


 

 ファミレスにてお昼をとった後、俺たちは再び車へと乗る。運転席には俺が、助手席には真白が座る形だ。特に目的地もないが、ドライブだしそんなもんだろう。

 

「お兄、何処に行くの?」

「ドライブだしな、行き先なんて無いさ」

「それもそうだねー」

 

 車を走らせ、道路を進んでいく。特に向かう目的地はないが、ひたすら進んでいくだけ。同じ道路でも、ずっと進めば景色も変わってくるし、そういうのも良いだろう。

 

「ふふ」

「何だ、真白楽しそうだな」

「うん! お兄と二人で出掛けるのは久しぶりだなって思って、ついつい」

 

 確かにそうだな。

 真白は大学に行ってしまったから、あまり会えないしこうやってのんびり出掛けるのは久し振りかもしれない。対する俺はニートであるのは突っ込まないでくれ。

 

「取り敢えず北の外れまで行ってみるかー」

「北の外れって言うと、北茨城市?」

「だな。中に入れば他にも外れはいくつもあるけどな」

 

 特に理由はないが、まあ、ドライブだしこういうのも良いよな。国道を走り抜け、見慣れた景色が続く。やっぱり国道なので、混んでいるのは仕方がないか。クリスマスだしな……。

 

「この辺はあまり変わらないね」

「まあ、国道沿いだしなー。でも潰れた店や新しく出来た店も一応はあるな」

 

 昔はやっていた店が気が付けば、閉まっていたり、新しいお店になっていたりとか良くあるよな。仕方がない事とは言え、実際行ったことある所とかだと、何か寂しくなる。

 

「……」

 

 しばらく道なりに進んで行けば、周りの風景も変わっていき、数時間ほど走らせた所で茨城県の北の外れ、北茨城市へと入る。そこで一度、近くにあったコンビニへと入る。

 ちょっと疲れたしな……それに、喉も少し乾いたし。

 

 しっかし、長距離を車で移動するなんていつ振りだろうか? 車は良く乗るけどそんな遠くには行ったりしてなかったし、結構久し振りかもしれない。

 まあ、一人でドライブなんてちょっと寂しいしな。いや、そういうのが好きな人も居るし、これは俺の感覚か。

 

「真白、喉乾いただろ。ここで一旦休憩しよう」

「うん!」

 

 駐車場に車を止めて、降りる。

 

「うぅ、寒っ」

「だな。すっかり冷え込んじゃってな」

 

 真冬、と言えば良いだろうか。

 何か喋ったり、口を開けたりすると白い息が出る。これもまた冬の風物詩だよな……流石にずっと外にいるのは寒いので、そのまま真白と一緒にコンビニの中へと入るのだった。

 

 

 

□□□

 

 

 

 コンビニの中に入ると、暖房が効いていてさっきまでの寒さは無くなる。と言っても、外に出ればまた寒くなるんだけどね。

 私のちょっと前を進むお兄を見る。いつ見てもぱっとしない服装を好むなあと思う。でもそれがお兄には似合っているんだけどね。

 

 お兄は昔からあまり変わってない。

 何ていうのかな……自己評価が低いとかそういう感じ。お兄は自分の事今じゃ冴えないおっさんとか言ってるけど、流石にそれは言い過ぎだと思う。

 

 ぱっと見では、おっさんではなくまだ十分青年と言えると思う。顔も普通よりは上だしね。そして何より、誰に対しても優しい。

 

 これはお兄の良い所でもあるけど、反対に悪い所でもある。実際、お兄って何人かに学生時代に告白されたって聞いてる。その中に同級生の子も居たらしい。

 ……本当にお兄は。

 

 今も、私の歩幅に合わせて歩いてくれているし、無自覚なんだろうなぁ。お兄はそういう人だもんね……でもだから私はお兄を好きになった。

 

 ゲームだって、私が負けてばっかりで泣きそうになった時とか、しっかり見ておかないとわからない感じでわざと負けてくれてた。それを適度にやって如何にも良い勝負してますという雰囲気を出していたし。

 昔、私が迷子になった時だって真っ先に私を見つけてくれて……他にもナンパにあっていた時とかも、いつも助けてくれていた。

 ナンパくらい、よくされてたから対応は出来たと思う。でもお兄が助けてくれた時は嬉しいって思った。

 

 小さい頃からずっと、そばに居てくれたお兄。勿論、今はもう居ないけど……お父さんやお母さんも好きだったけど、いつの間にか私の中でお兄という存在が大きくなっていた。

 

 お父さんとお母さんが亡くなった日だって、お兄は自分も悲しいはずなのに私の事を心配してくれてた。でも知ってる、お兄もこっそり部屋で泣いていたという事を。

 

 そう言えばお兄の学生時代の話って、あまり聞かないな。

 告白されたって事とかは、聞いてたけど……。

 

「真白は何にする? 買ってやるよ」

「いやお兄、私も一応それなりのお金はあるからね?」

「知ってるけど、兄としてな? それに久し振りに会ったんだから飲み物くらいは買わさせてくれ」

「ふふ。ありがとうお兄」

 

 本当にお兄は優しい。

 まあ、だから魔法少女の二人にも好意を抱かれたんだよね。やっぱり、予想通りというか……それでちょっと苦労してるみたいだね。

 

 でも、お兄を好きになる気持ちは分からなくない。私も好きだった……いや、まだ好きなんだから。

 

 リュネール・エトワールの時は無口キャラを演じてるみたいだけど、お兄本来の性格は全然変わってない。だから二人も恋に落とさせちゃったんだろうな、罪なお兄だよ。

 

「じゃあ、私もこれで」

「俺と同じ物で良いのか?」

「うん」

 

 私が選んだのは無糖のカフェラテである。お兄も同じのを選んでたみたい。別に、お兄が選んでたから私も選んだという訳じゃないよ? 私も無糖のラテ結構好きなんだよね。

 

「コンビニもクリスマスだねー」

「だなー」

 

 商品をカゴに入れて、私たちはレジへと向かう。思ったよりお客さんが多く、並んでいてレジも二台稼働しており、更に二人ずつ店員が着いているというフル稼働状態。

 コンビニの中は賑やかで、クリスマスソングやクリスマスのBGMとかが絶え間なく流れている。商品棚とかにも邪魔にならない程度に飾り付けもされている。

 

「帰りに残ってたらクリスマスケーキでも買おうか」

「いいねそれ! でも、当日って残ってるのかな?」

「むしろ当日の方が残ってそうな気がする」

「あー確かに」

 

 確かに当日よりも、前日の方が結構売れてるよね、ケーキって。勿論、当日も売れてるけどさ。

 

「他に買うものとかはないか?」

「大丈夫!」

「そうか。それならレジに行くか」

 

 私とお兄の飲み物以外にも、いくつかの商品をカゴに入れたお兄は、並んでいる列の後ろに続けて並ぶ。二人も並ぶと邪魔になりそうだから私は出入り口近くでお兄を待つ。

 

 しばらくして、レジ袋を持ったお兄が戻ってきた所でコンビニを後にする。

 

「うー寒い!」

「暖房が効いているところから出るとこうなるよな。とっとと車に行くか」

「うん」

 

 と言っても、車はすぐ近くなのでもう目の前にあるけどね。

 

「ん?」

「お兄?」

「真白、見てみろ」

「え?」

 

 車のドア近くに来た所で、お兄が足を止める。

 空を見上げていたので、私もお兄に促されるまま空を見上げれるとさっきまで太陽が出てた気がするのに、いつの間にか太陽が見えなくなっていて、代わりに厚い雲に覆われていた。さっきまで晴れてた気がするけど……あれ?

 

 ふと、空から何かが振っているのに気づく。雨……ではないね。これは……雪?

 

「雪……」

「おう。お前雪とか好きだっただろ?」

「うん」

 

 雪が積もった日は、お兄と一緒にいつものように雪だるまを作ったり、雪合戦したりしてたのを思い出す。でも、この辺でクリスマスに雪が降るって珍しい。

 

「この時期に雪が降るとはなー。いつも、2月くらいなのに」

「そうだね……って事は今年のクリスマスはホワイトクリスマスって事になるのかな?」

「まだ降り始めたばかりだから、今日中には流石に積もらないだろうけどな」

 

 積もらなくても取り敢えず、雪が降ったんだからホワイトクリスマスでいいよね?

 ふふっ……お兄と二人で出掛けたクリスマスがホワイトクリスマスになるって、ちょっと嬉しいかも。滅多に見られないよねこう言うのは。

 

「それっ!」

「って、真白!?」

「ふふっ、お兄大好き!」

 

 お兄の腕をがっしり掴んで私は、そう言ったのだった。

 

 

 来年も……良い事ありますように。

 

 



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Act.13:月下の会話①

 

「あら、もう良いの?」

「ん」

 

 ドライブデート? という物を真白と行ったクリスマスの深夜。真白は疲れたのか、もう自分の部屋で眠っている。俺はと言えば、リュネール・エトワールとなってラビを連れ、屋根の上に寝転がる。

 元の体でこういう高所に来るのはちょっと怖いからな……。

 

 ドライブの帰り……ケーキ屋に寄った所、やっぱりというか何というか結構売れていたけど、何個かは残っていて俺はティラミス、真白はショートケーキを選んで買ったのだ。

 

 リビングで他愛のない雑談をしつつ、一緒に夜ご飯とケーキを食べてデートは終わり。ちょっと物足りなかったかなと真白に聞いてみたけど、楽しかったと言ってくれた。

 本当ならもっと色んな事ができる場所に行かせたかったけど、時間がね。

 

 例えば海浜公園とか、水族館とか。まあ、真白は冬休み中は家に居るらしいから、行けたら良いなとは思っている。

 

 時間はもう23時半を回っている。

 もう一日が終わる時間帯に、俺は屋根の上で空を見ながら寝転がる。特に意味はないが、こうやって空の星を見るとやっぱり良いなって思う。

 

 雪はいつの間にかやんでしまって、ちょっと残念というか何というか。

 

「最近、あなたその姿多いわよね」

「そう?」

 

 まあ確かに、結構この姿で居る時間というのが増えている気はする。特に何も感じてなかったが……思い返すとそうだなって思う。

 

「魔法少女になってもう三ヶ月過ぎるけど……身体とか大丈夫?」

「ん? うん、特にこれと言ったのはないかな。元気」

 

 最初は結構戸惑っていたのは嘘のように、もうリュネール・エトワールは自分のもう一つの姿のように感じる。

 

「それなら良いんだけれどね。正直、性別が変わるって結構な負担だと思ってね」

「今更」

「それもそうね」

 

 確かに性別が変わるっていうのは色々と問題があるだろう。性別が変わるって言っても自由に切り替えられるし、別に問題はないか。

 

 ――ううん。性別変わるって普通考えられないからさ……二つの性別を持ってて、そのうちどっちが本当か分からなくなっちゃうんじゃないかなって思ったら、ちょっとお兄が心配で。

 

 ふと、この前真白に言われた事を思い出す。

 性別が二つ、そのうちどっちが本当かわからなくなる、か。俺は自分の胸に手を当て、目を瞑る。大丈夫、俺は俺だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

「でも」

「でも?」

「ん。何でも無い」

「そう?」

 

 これに気付いたのはいつだろうか。

 何というか、可愛いものについつい目が行ってしまう事に。無意識にそういうのを見てしまう癖のようなものがついてしまっている。

 ……そしてラビの言う通りハーフモードにしても、フルモードにしても結構この姿になる頻度が微妙に増えている事。見回りに行く前とか、変身したくてちょっとうずうずしていたという事。

 

 前の俺にはなかった何かがある。

 

 身体に違和感がない。それ自体も、良く考えればちょっとおかしいだろう。いくら慣れたとは言え……ここまで違和感が全く無くなっているのは、おかしい。

 

 駄目だな、考え過ぎるのは良くない。でも確かに魔法少女リュネール・エトワールとなって、俺自身の心境に変化が起きているのは何となく分かっている。

 

「……ラビは」

「何かしら?」

「妖精世界を復活させたいって思った事とかはない……?」

 

 これ以上考えると、沼に嵌りそうなので半ば無理矢理ではあるものの話題を変える。

 妖精世界は滅んだ、とラビは前に言った。それはつまり、ラビの故郷が無くなってしまったという事だ。いや、正確にはまだあるが、とても生物が生きていけるような環境ではなくなってしまっている。

 

 故郷が無くなる……それは、ラビにとっても辛いものではないだろうか。

 

「……そうね。ない、とは言えないわ」

「そっか」

「ええ。故郷だもの、そう簡単に割り切れないわ。でも、気付いたわ」

「何に?」

「仮に、仮に妖精世界が復活したとして……その世界にはもう誰も居ない」

「ラビ……」

「私にも優しいわよね、あなたは」

 

 暗い表情になってしまったラビを両手で抱き、慰めのつもりで撫でる。余計な事かもしれないが、変な事聞いた俺の責任だしな。

 妖精世界は魔法実験によって滅んでしまった……その世界に居た他の妖精も、もう誰も居ない。ラビは運が良いのか悪いのか歪に飲まれて俺たちの世界に来た。

 

「変な事聞いた。ごめん」

「いいわよ別に。……私よりも、そっちが心配よ」

「何故?」

「気付いてないかもしれないけど……あなた仕草がもう女の子っぽくなってるわよ」

「……」

 

 一瞬何を言われたか分からなかったが、ふと今の姿勢を見てみる。うん、見事に女の子座りしてるな……え? 何これ俺無意識でやってるのか?

 

「それも演技なら良いけど……違うわよね」

「ん。無意識だった……」

「以前は変身して女の子になってても、無意識にそんな仕草はしてなかったわ。元の姿でやらかしてないだけ、良い方だけど……」

「……」

「魔法少女にしたのは私だけど……本当に大丈夫? 今頃になって身体に違和感とか、変な感じとか無い?」

 

 ラビが心配そうに聞いてくる。

 変な感じとか、違和感はないと自信持って言えるはずだ。でも、さっきも言ったようにここまで違和感が無いと言うのは変なのかもしれない。

 

「むしろ違和感がない事に違和感」

「それは確かに……」

 

 慣れたの一言で済ませられるなら良いが……何かそういう問題でも無さそうな気がする。

 

「ラビ、聞いてくれる?」

「え? どうしたのよ改まっちゃって」

「ん。思い過ごしなら良いけど実は……」

 

 さっき思ったことや、最近のことをラビに言ってみる事にする。

 

「なるほどね」

「ん。おかしいかな?」 

「まだ何とも言えないわね……でも普段のあなたとは違う感じなのよね」

「ん」

「それは元の姿でもあることなの?」

「多分」

「そう……」

 

 元の姿。つまり、男の状態でもそうなるのかと聞かれれば、肯定である。ハーフモードやフルモードの状態ならば良いが、これについては元の姿でも時々無意識で起こってしまう事だ。

 

「やっぱり、魔法少女の方に染まってる?」

「うーん……そもそも、男性が魔法少女になれるなんて、初めてだからね。何とも言えないわ……聞いた限りではまだ大丈夫だと思うけど」

「そっか」

「あまり、衝撃とか受けないのね?」

「ん。実のところ、何となくは……分かってる」

 

 自分の変化自体に。

 ただそれはまだ、よく分からないっていうのが本音である。このままいると、いずれは大きく変わってしまうのだろうか? あまり実感湧かないのだが……。

 

「他にも、この姿だと色々着たいって思うこともある」

 

 男の姿で出掛けた時とか、女性物の服が視界に入るとリュネール・エトワールに合いそうだな、とか考えたりするんだよな。勿論、今までこんな風に無意識に思ったことはない……はずだ。

 

「司自身の本音はどうなの?」

「ん。良く分かんない」

 

 まだ、分からない。

 

「少し気をつけるつもり」

「そう。でも何かあったら言って頂戴ね。私にも責任があるのだから」

「ん。ありがとう、ラビ」

 

 俺は再び空を見上げる。

 闇夜に煌く星と月……星と月。星月と言えば俺……いや、リュネール・エトワールのシンボルのようなものだ。そう言えば未だに星月の魔法少女って言われているよな。

 

 別にどう呼ばれても良いのだが……。

 

 魔物を倒して、魔法少女たちの負担を減らす……どうなったとしても、これだけは俺のするべき事だと、断言する。とは言え、問題は他にもあるのだ。

 ホワイトリリーやブルーサファイアの事もあるし、真白の事も。過去に振ったとは言え、真白がまだ俺に好意を抱いているのは今でも分かるさ。

 

「話は変わるけど……ラビはあの黒い魔法少女の事、どう思う?」

 

 あまり考えても、あれなので俺もう一つの懸念事項である黒い魔法少女についてラビに聞いてみる。

 

「うーん……悪意は感じなかったわ。あくまで私の感覚ではだけどね」

「やっぱりそう思う?」

「ええ」

 

 あの時、彼女は本当に謝りに来ただけのようだったしな。ちょっと悪い事をしたかもしれないが、まあ、そこは仕方ない。そういうことをしてしまっていたんだし。

 

「後は……いえ、私の勘違いかもしれないわね」

「ん?」

「……うーん。これは本当に私が感じただけだからあれだけど、実はあの子から私と同じ気配を感じたのよね」

 

 そう言うラビを、月明かりが静かに照らすのだった。

 

 

 

 

 



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Act.14:月下の会話②

 

「え? それって……」

「ええ。向こうにも妖精がいる可能性があるわ」

 

 妖精。

 妖精世界フェリークに暮らしていたという者たち。ただ、既に知っての通りフェリークは滅んでしまっている。その影響で生物も草木も無い世界と化してしまった。

 ラビは運良く、歪に飲み込まれ、この世界へ。そして原初の魔法少女を誕生させたのだ。そのお陰で魔物出現の日に現れた脅威度SSの魔物を倒し、何とかその国も半壊で済んだのだ。

 

 話を戻すが、向こうにラビの言う通り妖精が居た場合、その妖精もラビと同じく歪に飲み込まれたという事だろうか。滅んだと同時に妖精も、恐らく消滅してしまったとラビは言っていた。

 

 まあ、エーテルウェポンの事もあったので、向こうに妖精が居るという可能性だけは考えていた。あくまで、あの時は可能性としか考えてなかったので、頭の片隅に入れておくだけにしていたが……。

 

「ただ、さっきも言ったように、私の感覚……私が感じただけだから、断言は出来ないわ」

「……ラビ以外にもやっぱり歪に飲み込まれた妖精が居たってこと?」

「もし居るならそれしか考えられないわ」

「そう言えば、今更だけど……歪ってぶっちゃけ何?」

 

 歪って言葉はラビから何度も聞いていたが、今更ながらそれについてまだ聞いてなかったな。飲み込まれる……ブラックホールみたいな感じなのだろうかと、予想はしているが。

 

「今更ね……いえでも、確かに話してなかったわね。歪っていうのは名称通り、歪よ。空間が歪み、重力場が著しく乱れ飲み込まれたり、その逆……吐き出されたりする」

「それってブラックホールみたいな?」

「そうね……あなたの場合はブラックホールとホワイトホールの例えの方が分かりやすいわよね」

 

 歪。

 それは、時々発生する空間の歪みの事だそうだ。魔物もこの歪みから出てくる。この俺たちの世界に発生している歪は、言う所のホワイトホール。要するに吸い込まれた何かが出てくるという事だ。

 その何かというのが知っての通り魔物である。時々とは言ったが、普通ならそうなのだが今のこの世界は魔物が頻繁に現れている。それはつまり、歪が発生しまくっているということだ。

 

 ただ歪から魔物が出てくるというのはそうだが、それは二つのパターンが有る。

 まず一つは、一つの歪で複数の魔物が出てくるパターン。これは文字通り、一回の発生で複数の魔物が同時に出現する。同じ地域にほぼ同時に複数の魔物が観測された場合は大体このパターンになるだろう。

 

 二つ目が一つの歪で一体の魔物が出現するパターン。これも文字通り、一回の発生で一体の魔物が出現する。脅威度が高いほどこっちのパターンの場合が多かったりする。B以上はこちらが多いかな?

 と言っても、時々このパターンで脅威度の低い魔物が出てくる場合もある。

 

「地球でもよく神隠しとか聞くでしょ? あれの原因はこの歪の場合が多いわね」

「なるほど」

 

 突然消える。

 昔は結構よくあったらしいが、文明が発達した今ではあまり聞かない。だが、稀に居なくなる時はある。捜索隊が探しても、痕跡すら見つけられなかった、とかニュースで聞いたことがある。

 

「詳しくはわからないけれど、どうも三つの世界が横並びに並んでしまっている影響なのか、歪が頻繁に発生しているわ。ただこの世界ではホワイトホール……つまり、吐き出される側の歪がほとんどなのが幸いだけれど」

「魔物が増えてるのもそれが原因てこと?」

「まだはっきりとは言えないけれど、こうも魔物が良く出るようになったのはそうとしか考えられないわ。今は停滞状態だけれど、魔物は出ている。つまりそれだけ歪も発生しているってことになる」

 

 9月は異常なほど魔物が出現していたが、今となっては停滞状態。減った所も少なくないが、それでも出現している。それだけ歪が発生しているって事は分かる。

 

「何か……嫌な予感もするのよね」

「ラビ……」

「あ、ごめんなさいね、不安にさせる事言って」

「ん。大丈夫。嫌な予感はわたしもあるから」

 

 まだ何がとははっきり言えないけど、何か起きそうな予感はしている。9月、10月の魔物の異常数、11月から徐々に落ち着いていって現在では、そこまで多い数は観測されてない。

 いや、普通に見れば多いと言えば多いけど9月10月と比べれば明らかに魔物の数の減りがおかしいと思ってる。嵐の前の静けさってやつだ。

 

「あ。日付が変わった」

 

 何となく、そう直感する。

 スマホの形になってもらい、時間を確認すると数分ほどずれていたが日付が変わっているのを確認する。

 

「そうね」

 

 色々? とあったクリスマスが終りを迎え、日付は26日へと切り替わる。屋根から見た家は大体は明かりが消えていて、寝ているのだろうと予想する。

 ここから見えない側の部屋とかで起きてる人も居るかもだけど、見える範囲では数件くらいしか電気はついてない。

 

「ラビ。わたし、もう少し頑張る」

「あなたは既にかなり頑張ってくれているわよ。それ以上何をするのよ」

「今でも確かに強い……一人くらいなら余裕かもしれない。でも複数の人を守る時とかはまだ足りない気がする」

「司……」

 

 実際問題、俺は気をつけると言いながらあっさりとあの短剣に刺されたわけだしな。油断していたか? そんなつもりはないが、何処かではそう思っていたのかもしれない。

 それに、守るべき存在が増えたからな……茨城地域の魔法少女たちは勿論、今では唯一の家族の真白もだ。パートナーとも言えるラビも。

 

 

 実際俺はもう気付いているのだ。

 ホワイトリリーやブルーサファイアに真白。そして茨城地域を守る魔法少女やその魔法少女に支援を行っている魔法省、それと魔法省で務めているであろう、高校の同級生の茜。

 

 何度も言うが、俺は魔法省を嫌っている訳ではない。むしろ、魔法少女たちを全力で支援している事に好意を持っているのは確かだ。

 魔法少女たちを戦わせているという責任を負っているのだから当たり前だが。茨城地域の魔法省に対しては悪い噂とかはほとんど聞かないからな。

 

 時々魔法省への批判的な話を聞くことはあるがな。ただ少数だけども。

 

 一つあげるなら……魔法少女ばっかり優遇するな、だろうか。

 

 その意見に俺はこう言いたい。

 魔法少女が狡い? ふざけるな、この日本が魔物の侵攻から守られているのは魔法少女がいるからだ。いや、正確には日本だけじゃない。全世界に居る、命をかけても良いと決断した魔法少女たちのお陰だ。

 

 魔法少女が居なかったら既にこの国はない。

 俺は確かに年端も行かない少女を戦わせるっていうのには否定的ではある。でも魔法少女となって魔法省に所属するかは各自の意思を尊重する。

 それに唯一対抗できる力でもあるのだ。どんな否定的であっても魔物を倒せる唯一の方法なのだから、どうしようもないのだ。

 

 それに魔法省とかもただ見ているだけではない。前にも言った通り、どうやったら現代兵器とかを活用できるのかとかが今でも考えられている。

 魔石をエネルギーとして魔導砲を作る計画が進行しており、つい最近東京で、試作魔導砲が完成してそれを試しに魔物へ撃ったというのもある。その結果、手も足も出なかった現代兵器? の攻撃が魔物に打撃を与えた。つまり効果ありだ。

 

 その有効性もあり、この計画は承認され本格的に作成され始めている。

 

 ……まだ、人類は諦めていない。

 

 今はまだ魔法少女に頼りきりではあるがそういう計画だってあることを考えて欲しい。それに優遇するな? 命をかけてる少女たちにそんな事を言うのか。

 

 まあ、少数意見だからもみ消されていくのだが、それでもそういう人が居るってことも忘れないで欲しい。

 

 あまり考えたくはないが、そう言う者たちが敵対するという事も頭に入れておくとやはり、もっと力がほしい所だ。一般人と魔法少女では相性が最悪だしな。

 

「程々にね」

「ん。分かってる」

 

 俺は静かに夜空を見上げたのだった。

 

 




主人公は何のために戦うのか?
魔法少女たちを守るため? 世界を守るため?

既に主人公には守るべきものがいくつもあります。
そして変化も……



人類だってまだ――諦めていません。


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Act.15:エピローグ

 

 ――魔法省、技術開発部

 

 そう書かれた部屋へ、私は足を踏み入れる。中は色んなコンピュータとかが設置されていて、大分部屋が埋め尽くされている。

 

「あ、支部長。ようこそおいでくださいました」

「そういう堅苦しいのは良いわよ」

「そうでしたね。……それで今回は例の計画についてですか?」

「ええ。どんな感じかしら?」

 

 例の計画。

 それは魔法省と防衛省で研究開発を行っている魔石式魔導砲についてである。この間、東京地域で試作型が作られ、試射が行われた所、魔物に対しての有効性が確認され、計画が本格的に承認されたのだ。

 

「一応、試作型なら完成しましたよ。これです」

 

 技術開発部所属である彼女……アリス・フェリーアは海外より、日本に移住してきた技術者である。そして魔法省に所属し、この地域へと配属された。

 欧米特有の金髪碧眼の女性なんだけど、見た目からではまだ10代といっても過言ではない感じなのよね。ただこれを言うと拗ねてしまうので禁句とされている。

 

 アリスがコンピューターを操作して、目の前の大きなスクリーンに一つの映像を映し出す。そこには44口径120mmの試作型魔導砲T-MAG-C120Mと表示されている。

 

「これが……」

「はい。東京で使われたものより強化されてますがほぼ同じ物です」

 

 ――T-MAG-C120M

 Test Magic Canon 120mmの略称らしい。名前は何というか、そのままって思うけどまあ、下手に変な名前つけられるよりはマシよね。

 

「動力と言うか、エネルギーについては魔石を使用する感じですね。この一番後ろの部分にセットします」

「なるほど。発射する時は?」

「魔石をセットしたらそのすぐ近くにあるボタンを押すことで、エネルギーを放ちます」

 

 アリスはスクリーンに映っている映像でシュミレートしてくれる。

 ボタンを押下すると、魔石が光り、エネルギーが出力され、それが砲身を辿ってそのエネルギーが砲口より放たれる。

 

「もう実際に使うところまでは完成しているので、茜さんの指示があればいつでも試運転が可能です。どうしますか?」

「そうね……そこまで来ているなら効果も確認したいし、次魔物が出た時とかに試せるかしら?」

「問題ありませんよ。すぐに使えるように上に用意しておきますね」

「ええ、ありがとう」

 

 魔法少女の負担を減らしたいというのが私の願いである。もしこの魔導砲が魔物に有効打を与えられるのであれば、魔法少女たちの負担も減るはずよね。

 ただまだ試作段階っていうのもあって、不安もあるけれど。試運転する時は何人かの魔法少女たちを呼ばないといけないわね。

 

 でも魔物はいつ現れるか分からないから次って言っても今すぐ現れたら無理ね。取り敢えずなるべく早い段階で試運転を行いたいわね。

 この魔導砲は魔石をエネルギーとして放つ兵器で、もし完成すればこれを戦車に乗せたり小型化して人が持てるサイズにする事も出来るはず。

 

 ただ小型化した場合は威力が弱くなる可能性が高いわよね。

 

「ふう」

 

 近くにあった椅子に座り、一息つく。

 

「茜さん、お疲れですか。これお茶です」

「ありがとう。うーん、何ていうのかしらね……疲れたっていうか何ていうか」

 

 今更ながら魔物について考えていた。

 魔物は一体どういう存在なのか? 解明はされてない。ただ人の多い所に近付いてくるっていうのはこれまでのデータから分かっている。

 ただ出現する時はランダムで良く分からない。魔物が出現する時はその場の空間が歪んでいるということも観測されている。空間が歪む……現実味のない話よね。

 

 魔物が出現した際は前にも言ったと思うけど、各地に設置されているレーダーが瘴気や魔力を感知し、そのデータがコンピューターに送られて過去のパターンなどを照らし合わせ、脅威度を出す。

 ただこれは確実ではなく、Bと観測されてもCだったり、Aだったりする場合もある。過去に観測された魔物なら良いのだが、新しい物だとそういうのが起きるため、脅威度があまり当てにならない。

 

 あくまで目安と言った感じなのよね。

 

 魔物個体に脅威度が設定されてるのではなく、そういうデータから推測しているのよ。個体ごとに設定してたらきりがないもの。

 

「9月と10月の魔物の数は知ってるわよね」

「はい勿論ですよ。異常な数でしたよね」

「ええ。でも11月に入ると徐々に停滞・減少傾向になったでしょう?」

「そうですね……12月は更に減ったっていう地域もありますね」

「ええそうなのよ。いえ減ること自体は別に問題はないんだけど、何ていうのかしらね……なーんか嫌な予感がするのよ」

「茜さんもですか……実は私もそう思ってるんですよね」

 

 あの2ヶ月は異常な数の魔物が各地で観測されていた。それは茨城地域だけではなく、東京や大阪といった別の地域でも同じだった。

 それが今はどうだろうか。11月に入ると停滞期に入り、そこから徐々に減少傾向になっていた。12月に入ると月初めにAAの魔物は出たけど、その後は通常通りに戻っていた。

 そして今、12月後半……更に減ったという地域も増えていた。この茨城地域はもとより少なめだったからあれだけど、グラフを見た感じでは微妙に減少している。

 

 何か大きな事が起きそうな、そんな嫌な予感がするのだ。しかもそれは遠い未来ではなく、すぐ先の未来で。私の考えすぎなら良いんだけど、どうも引っかかる。

 

「アリス、あの装置はどう?」

「あれですか。一応、既に量産して一部地域に設置してありますが……」

「そう……気休め程度だけど無いよりはマシよね」

「そうですね。何も起きないのが良いのですが」

「本当にね……」

 

 嫌な予感を感じつつも、私たちは会話を続けるのだった。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

「ねえ、ララ。この状況どう考える?」

「なんだい突然。……ふむ、魔物の減少傾向か」

 

 家から少し離れた場所にあるビルの屋上で私はララに一つのデータを見せていた。それは、魔物の出現数を日別や月別にグラフ化したものだ。

 8月までは平年通りの推移だったけど、9月になって異常な数まで増えていた。桁が変わるくらいだ。これはただ事ではないと思う。

 

「9月と10月、この2ヶ月だけおかしいわよね」

「そうだね……桁が違う所もある」

「でも11月に入り、パタリと止んで停滞期になったわね」

「うん。そこから徐々に減少傾向……そして今月は更に減少している」

 

 この茨城地域はもとより少ないから変わってないように見えるけど、9月と10月は目で見て分かるように上昇している。そして9月と言えば丁度星月の魔法少女リュネール・エトワールが登場し始めた月。

 

「これ、リュネール・エトワールが関係しているとかあるかな?」

「どうだろうね……でも彼女が何かしたって感じはしないけど」

「まあね。魔物って魔力に引かれるんだよね?」

「うん、そうだね。だから魔力が多いほど魔物が寄ってくる」

 

 リュネール・エトワールは膨大な魔力を持っている。それはララも言っていたことだ。それに強力な魔法を何発も撃てる事からして多いのは事実だと思う。

 

 魔物はそれに引かれたのかもしれない。

 

 でも、魔物は空間の歪みから出現すると言われていていつ出てくるかは分からない。魔力の多い魔法少女が新たに登場したからと言ってそんな頻繁に歪が発生するとも思えないんだよね。

 

「それには同感だね。いくら膨大な魔力を持っていても、魔物は別世界の存在だしどうやってそれを感知するのかって話だよ」 

「だよね。ねえ、ララ。私凄い嫌な予感がするのよ」

 

 2ヶ月だけ異常数の魔物が出現、11月から停滞、徐々に減少し12月の今、おかしなくらい数が減っている。茨城地域は元から少ないとは言え、減っているのも事実。

 

 嵐の前の静けさ……そう、何でか分からないけど嫌な予感がする。

 

「ボクも感じてた。何が起きるかわからない……ブラックリリーも無理しないい程度に気を付けて」

「言われなくても、そのつもり」

 

 まだ予感がすると言うだけで何でも無いけど、ララも感じてるっていうのはやっぱり何かありそうだなと思う。私は魔力が少ないからあまり戦えない。

 でも、用心はしておかないと……気を引き締めないとね。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

「ねえ、蒼ちゃん」

「白百合先輩、どうかしましたか」

「蒼ちゃんは司さんのこと好きなんですよね?」

「っ! ……バレてますかやっぱり。でもそれは先輩も同じですよね」

「う……そうですね」

 

 反論も何も出来ません。

 好きというのは事実なのですから。ただ蒼ちゃんも彼女のことが好きだっていうのはもう分かっています。私たちは今、公園のブランコに二人で並んで座っている感じです。

 

「「……」」

 

 何というかちょっと気まずいですね。

 

「先輩は何処が好きになりましたか?」

「ふえ!? いきなりど、どうしたのです?」

「ふふ、慌て過ぎです」

 

 自分の顔が赤くなるのを感じます。

 何処を好きになった……ですか。やっぱり言葉数は少なくても優しい所でしょうか。あとはあの時に助けてくれた時も、良く分からない何かを感じた時がありましたね。

 

「そうですね……優しいところでしょうか。蒼ちゃんはどうなんですか?」

「先輩と同じですよ」

「へ?」

「優しいところです」

 

 そう言えば最近の司さんは、良く私たちと会っても逃げたりしませんよね。前は逃げようと動いてたことがほとんどなのですが、少しは近づけたのでしょうか。

 

「そうなのですね……」

「はい。気付いた時には好きになってました」

「蒼ちゃんも同じですか」

 

 私も色々ありましたが、気が付いた時には司さんの事が好きになっていました。恋は突然落ちるものと、冬菜も言ってましたが本当にそうですね。

 

「何ていうのかな……お父さんみたいな感じがする」

「あー、それ分かります! 何か親みたいな感じもしますよね司さん」

 

 ゲームセンターに行った時とか、私が欲しいと持っていた兎のぬいぐるみさんを取ってくれましたし、色々と配慮してくれてる所とか、何ていうかお父さんみたいな感じがしましたね。

 でもおかしいですよね。彼女は女の子なのに……でもお母さんとって言うのも何か違う感じがしますね。

 

「同じ女の子なのに、おかしいですよね」

「そうですね……近くに居ると安心も出来ます」

 

 好きっていうのは一度置いておいて、彼女の側はとても暖かく感じるのですよね。居心地が良いとも言いますか。何ていうか、何処か安心できるとも言えば良いのか分かりませんが。

 

「同じようなところが好きになってしまったようですね」

「はい。でも、私は先輩には負けませんから」

「それは私も言える事ですよ。蒼ちゃんには負けません」

 

 そう言って目をぶつけ合ったところで、私たちはついつい笑い合ってしまいました。

 

「一つ約束しませんか、蒼ちゃん」

「約束、ですか?」

「はい」

 

 私たちは同じ女の子を好きになってしまいました。周りからどう見られるかは分かりませんが、好きになってしまったのは仕方がないのです。

 そして同じところに惹かれました。だから……

 

「司さんがどちらを選んだとしても、恨みっこなしです」

「そうですね。選ぶのは司だから」

 

 そう、私たちが好きになったとしてもそれに答えるのは司さんなのです。まだ私は告白とかしていませんが、告白した際に答えるのは司さんです。

 司さんが蒼ちゃんを選ぶかもしれませんし、私を選んでくれるかもしれませんし、どちらとも振られるかもしれません。それでも好きになったのですから、どんな結果であれお互い恨みっこなしです。

 

 どちらも振られたなら、二人で一緒に泣きましょう。

 

「はい、恨みっこなしです」

 

 私と蒼ちゃんは手の小指を絡ませます。

 

「指切りげんまん」

「嘘ついたら」

「「針千本のーます」」

 

 指切りをした後、私たちはまた笑ったのでした。

 

 

 

 




あまり面白みのない章だったかもしれませんが、ここまでお読みいただき有難うございました!

次回より、大きく変わる第四章となります。
宜しくお願い致します。


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Act.XX:データVer.3.0

 

□プロフィール

名前:如月 司

読み:きさらぎ つかさ

性別:男性

年齢:27歳

身長:167.2cm

誕生日:11月15日

備考:

本作の主人公。

宝くじで1億円を当て、絶賛ニート生活を満喫している男。

両親は他界しており、唯一の血縁は妹のみ。

突然目の前に現れたラビとの出会いで、魔法少女となってしまった。

しかもかなり強い。

 

黒髪の短髪、黒目で、特に何もしてない、何処にでもいるような青年(自称おっさん)

 

□プロフィール

名前:リュネール・エトワール

推定魔法少女クラス:S

身長:153.0cm

変身キーワード:「――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

備考:

主人公、如月司が魔法少女に変身した時の姿。

姿も性別も変わってしまい、身長も10cm以上小さくなっているが、極めて強力

な魔法を扱う魔法少女。

 

三人の女の子を落としている天然たらしである。

 

髪は基本は銀色だが、青が若干混ざり上から下へとグラデーションとなっている。

目の色は金色で、瞳の中には星がある……キラキラ目。なお言うほどキラキラはしてない。

ラビがすっぽり収まる位のとんがり帽子が特徴。

 

【容姿】

髪:銀髪、背中の中央まで届くくらいのロングストレート、上から下にかけて青のグラデーション

目:金(瞳の中に星がある)

服装

頭:赤いリボンの巻かれている黒いとんがり帽子。帽子には三日月、リボンには星の絵。

上:白と青を基調としたマント。マントを留める部分には星のエンブレム。

上下:マントと同様、白と青を基調としたノースリーブのセーラーワンピース。胸元に赤いリボン。

   スカート丈は膝より下で、青と水色の裾にフリル付き。

手:手首の部分に紺色のシュシュ。小さいながらも星の絵有。

靴下:黒いタイツに三日月と星の絵(白)

靴:白い襟付きショートブーツ

 

 

□使用する魔法(現段階で登場している物)

Magic-No.01:スターシュート

魔法キーワード:「スターシュート」

星を放つ。追尾機能付き。威力はヒットすると爆発を起こす。脅威度A以下なら基本ワンパン。

 

Magic-No.02:メテオスターフォール

魔法キーワード:「メテオスターフォール」

虚空より無数の星を呼び出し、空高くから降り注がせる広範囲魔法。

範囲の調節可能。ターゲットを定めれば全ての星がターゲットへと飛んでいく。

 

Magic-No.03:ハイド

魔法キーワード:「ハイド」

自身の姿を闇夜に溶かす。(見えないようになる)

発動中は常に魔力が消費される。

 

Magic-No.04:グラビティアップ

魔法キーワード:「グラビティアップ」

対象または、一定範囲に重力を加重する。

 

Magic-No.05:ヒール

魔法キーワード:「ヒール」

傷を治す。自分又は、対象の軽度の怪我を治療することが可能。

 

Magic-No.06:トゥインクルスターリボン

魔法キーワード:「トゥインクルスターリボン」

星のリボンを召喚する。対象を縛り付けたり、締め上げたり出来る。

ある意味脅威

 

Magic-No.07:スターライトキャノン

魔法キーワード:「スターライトキャノン」

ビームを放つ。着弾すると星のエフェクトで爆発を起こす。

 

Magic-No.08:グラビティボール

魔法キーワード:「グラビティボール」

黒い球体を召喚し、飛ばす。

何かに当たると放電し、周囲に重力場を発生させる。

 

Magic-No.09:ブラックホール

魔法キーワード:「ブラックホール」

ブラックホールを召喚する。

近くの重力場を乱し、周囲の物を飲み込む。

 

Magic-No.10:ホワイトホール

魔法キーワード:「ホワイトホール」

ホワイトホールを召喚する。

ブラックホールとは対になる重力場を発生させ、

ブラックホールで吸い込んだものを吐き出す。

 

Magic-No.11:サンフレアキャノン

魔法キーワード:「サンフレアキャノン」

ステッキから高熱の熱線を放つ。

その温度、実に数千万度となり、あらゆる物を燃やす又は溶かす。

 

 

 

□プロフィール

名前:ラビ

性別:不明

年齢:不明

身長:不明

誕生日:不明

備考:

主人公である司を魔法少女にした妖精。

見た目は兎のぬいるぐるみだが、性別は不明だが、女性口調で喋る。

身体能力は謎パワーで浮いたりできる。その為、リュネール・エトワールについていける。

基本は人目に付かないようにする為、リュネール・エトワールのとんがり帽子の中に居たりする。

 

特殊能力(?)としてラビレーダー(主人公命名)と言う物を持っていて、一定範囲の魔法少女や魔物が居る場所を特定できる。

ただし、特定できるのは魔法少女か魔物かだけであり、魔法少女の場合どの魔法少女かまでは分からない。魔物の場合はその魔力や瘴気から推定脅威度を出せる。

 

なお、ラビの暮らしていた妖精世界――フェリークは魔法実験により滅びている。

また、原初の魔法少女を生み出したのもラビである。

 

 

 

□プロフィール

名前:白百合 雪菜

読み:しらゆり ゆきな

性別:女性

年齢:13歳

身長:149.5cm

誕生日:12月12日

備考:

本作のメインヒロイン(予定)

黒髪でちょっと肩にかかる程度。目の色は黒。

 

基本的に丁寧語を話す、大人びた少女。

双子の妹が居る。

リュネール・エトワールと会ってから少し変わった。

彼女に対して恋をしている様子……果たしてどうなるやら?

 

□プロフィール

名前:ホワイトリリー

魔法少女クラス:S

身長:150.0cm

変身キーワード:「――ラ・リス・ブロンシュ・フルール!」

備考:

白百合雪菜が魔法少女に変身した時の姿。

魔法省茨城地域支部所属Sクラス魔法少女。

身長が微妙に0.5cm伸びてる。

 

桜色の髪をサイドで結び、白のグラデーションが上から下へかかってる。

実際の髪の長さは変身前と同じくらいで、目の色は髪色と同じで桜色。

白百合の髪飾りが特徴。

 

衣装としては

胸元は少し開けている、白百合色を基調としたフリル付きの長袖ワンピースに、首には白百合の花を象ったリボンチョーカー(フリル付き)、そして足には膝上まで来る白いニーソックスに、白百合の花が描かれたショートブーツ。

ニーソックスにも白百合の花の絵が描かれている。

サイドテールに結んでいる紐にも、花のデザインがなされている。

 

□使用する魔法(現段階で登場している物)

Magic-No.01:リリーショット

魔法キーワード:「リリーショット」

白百合の花弁を魔力で作成し、飛ばす。

数も増やすことも可能で、それぞれの花弁を操る事もできる。

放たれた花弁は、ロープのような物でホワイトリリーのステッキと繋がってるので、ぶん回したりすることもできる。

 

Magic-No.02:リリーバリア

魔法キーワード:「リリーバリア」

目の前に白百合の花弁を召喚し、攻撃を吸収する。

大きさを変える事も可能。

 

Magic-No.03:リリーキャノン

魔法キーワード:「リリーキャノン」

桜色のビームを放つ。

着弾すると、花吹雪を上げて爆発する。

 

Magic-No.04:リリーボム

魔法キーワード:「リリーボム」

自分が放った白百合の花弁を任意で爆発させられる。

 

 

 

□プロフィール

名前:色川 蒼

読み:いろかわ あおい

性別:女性

年齢:12歳

身長:145.6cm

誕生日:9月15日

備考:

本作のヒロイン

黒髪黒目のセミロング

 

砕けた口調で普段は喋るが、変身すると丁寧語になる。

リュネール・エトワールの事が好きになり、クリスマスの日の午前中、デートに誘った。

 

□プロフィール

名前:ブルーサファイア

魔法少女クラス:B

身長:145.6cm

変身キーワード:「???」

備考:

色川蒼が魔法少女に変身した時の姿。

魔法省茨城地域支部所属Bクラス魔法少女。

 

変身前と違い、背中まで伸びる青い髪を伸ばす。上から下へと、水色混じりのグラーデーションカラー。

ツインテールとなり、髪を留めている場所にはサファイアを模した飾りがある。目の色はサファイアブルー。

 

衣装としては

背中と首元あたりが少しだけ開けている、サファイアブルーのドレス。

袖も付いているが、薄く中が見えるくらいで首にはドレスと同じ色の可愛らしいリボンが巻かれている。

胸元にはサファイアの宝石がついていて、若干煌めいてる。

スカート丈は膝よりちょっと下くらいで、フリルがあしらわれている。

足には、水色のニーソックスに同じ色合いの襟付きショートブーツ。ショートブーツの方にもリボンがあって、結び目の中央には胸元の物とは比べ小さいサファイアの宝石が付いている。

 

□使用する魔法(現段階で登場している物)

不明

 

 

 

□共通魔法

No.01:反転領域展開

魔法キーワード:「エクスパンション」

反転世界に入る為の魔法。魔法少女毎に別空間が生まれる。

 

No.02:反転領域解除

魔法キーワード:「リベレーション」

反転世界から現実世界へ戻る為の魔法。

 

No.03:変身解除

魔法キーワード:「リリース」

変身状態を解除する魔法。

 

 

 

□その他の人物(現段階)□

 

・北条茜(ほうじょうあかね)

→魔法省茨城地域支部長

→主人公、司とは高校の同級生

 

・アリス・フェリーア

→魔法省技術開発部所属、部長の金髪碧眼の女性

→見た目は10代半ばの少女のような姿だがそれを言うのは禁句となっているらしい。

 

・???/レッドルビー

→魔法省茨城地域支部所属Bクラス魔法少女

→リュネール・エトワールに助けられたことがある

 

・白百合冬菜(しらゆりふゆな)

→白百合雪菜/ホワイトリリーの双子の妹

→雪菜の事が好きらしい?

 

・如月真白(きさらぎましろ)

→如月司/リュネール・エトワールの妹で東京のイラスト関係の大学に通ってる

→兄弟仲は良好で、仕事を辞めたという兄を心配している

→兄のことをお兄と呼び、かつて実の兄である司に恋をしていた。今でも好きというのは変わってない様子

 

・恵利(えり)

→真白の大学の同級生で友達

 

・???/ブラックリリー

→黒い衣装を纏う魔法少女(?)

→一連の事件に関連がありそうだが……?

→空間を操れる魔法が使えるらしい。

→身体が弱いらしい

 

・ララ

→ブラックリリーと一緒に居た黒色の兎のぬいぐるみ

→どうやらラビと同じで運良く歪みに呑まれたようだ。

 

 



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第四章『星月の選択』
Act.01:変化①



第四章と最終章は話数がかなり多いため、一括ではなく、1日4話投稿したいと思います。

投稿予定時間は
0時、6時、12時、18時になります。



第四章――星月の選択、開始です。
今までとは雰囲気がガラリと変わるかと思いますが、宜しくお願い致します。


 

「お兄~朝だよ。いくら仕事が無いからって寝過ぎだよ!」

 

 微睡みの中、真白の声が聞こえてくる。俺はその声に、目を覚まし起き上がる。

 

「お兄……って、その姿どうしたの!?」

「ん?」

 

 まだ眠い目を軽くこするが、そこで違和感を感じた。

 こすった手を目の前に広げてみると、俺の手ではなく白い肌の小さい手になっていた。まだ寝ぼけてるのか? と思いつつ、もう一度目をこすってから見るが変化はない。

 

「何これ……」

「お兄、だよね?」

「ん。そのはず」

 

 俺は慌てて起き上がり、洗面所へ向かい鏡と対面する。するとそこには一人の少女が映っていたのだ。俺ではない……いや、俺でもあると言えば良いのか。

 そう鏡に映っている少女は、何と完全に見覚えのあるリュネール・エトワールそのものだった。ただ服はダブダブな俺が寝る時着ている服のままだ。

 

「……何これ」

「ねえ、お兄。その姿って魔法少女の時の姿だよね? ハーフモードじゃなくて完全に」

「ん」

 

 ハーフモードとは違う、これは完全に変身したリュネール・エトワールの容姿そのものだ。銀髪に金の瞳、背中まで伸びる長い髪。

 ただ変身時と違うのは魔法少女の衣装を着ていないところと、髪に青いグラデーションがかかってないということ。

 

「一体何が……無意識の内に変身してた?」

「お兄、変身時に使うデバイスは?」

「ん。部屋にあるはず。ちょっと解除してみる」

 

 何が起きたのかさっぱりわからないが、俺はまた部屋に戻り変身デバイスを探す。いつも通り机の上に置いてあるのを発見し、手にとって見る。

 

「ステッキ、じゃない?」

 

 そこにあるのはステッキではなく、変身前と同じスマホ型のデバイスであった。いや、まだ形がスマホに変わっているだけっていう可能性もある。

 

「取り敢えず……リリース」

 

 デバイスを手に取り、変身解除のキーワードを唱える。しかし、何の反応もない。

 

「あれ?」

 

 何故反応がないんだ?

 何度か試してみるが、結果は変わらず何も変化が起きない。デバイスが故障した? いやそれならラビがなにか気付くはずだ。

 

「……ラビ」

「ええ、聞こえてるわよ」

 

 近くに置かれているラビに俺は声をかける。真白は今は下にいるので、聞こえてないはず。まあ、聞こえたとしても魔法少女ってのはバレてるんだし、些細な問題か。

 

「デバイスが反応しない。故障?」

「いえ、ちゃんと動いているわ。試しに変身してみなさい」

「変身? もう変身してない?」

「良いから」

「ん」

 

 ラビが強くそう言ってくるので俺はデバイスをまた手に取り、いつもの変身キーワードを紡ぐ。

 

「――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

『SYSTEM CALL "CHANGE" KEYWORD,OK――LA LUNE ET L'ETOILE――』

 

 ふわっと、浮遊感に襲われ一瞬にして姿が変わる。いや、正確には衣装がリュネール・エトワールの物となり、髪にも蒼いグラデーションがかかる。そしてデバイスは見慣れたステッキへと変化する。

 

『SYSTEM CALL "CHANGE" SUCCESS!!――GO!』

「え……」

 

 どういう事だ?

 変身ができた……? 変身できたという事はさっきのあの姿は変身前の……?

 

「何が……ラビ」

「ごめんなさい。私にも分からないわ。あなたが寝ている間に光ったっていうのは見たんだけど」

「寝てる間に……」

「ええ」

 

 一体何が起きたんだ? 変身している姿ではなかった……つまりそれは、あの鏡に映っていたリュネール・エトワールそっくりな銀髪少女は俺自身だって事か?

 

「お兄、どうだった? って、ぬいぐみが喋ってる!?」

 

 ドアを開けっ放しだったため、真白が普通に中へ入ってくる。またあっさりバレたな。別に隠すつもりもなかったけどな。

 

「真白。……どうしよう」

「へ?」

 

 俺は真白にラビのことと、そしてさっきの事を全て話すのだった。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

「なるほど……つまりお兄は元の姿に戻れなかったと」

「ん」

「ええ、そういう事になるわね」

 

 一階のリビングに俺と真白、ラビが座り、話をしていた。変身デバイスを使って解除しようと思ったが、何の変化もなく、さらに言えばあの姿で変身ができたという事もだ。

 そしてラビの事も話した。真白は『早く言ってくれれば良かったのに!』って言っていたが、仕方がない。

 

 因みに変身した後、解除をしたんだけど男の姿ではなく、あの姿に戻った。銀髪に金色の瞳の少女にね。服も俺が着ていたぶかぶかなやつに戻ってた。

 

「何が起きたかわからないんだよね?」

「ええ。原因が不明よ。ただ、その姿の司は魔力を一切纏ってないっていうのは分かるわ。ハーフモードのような微力な魔力すらね」

「どうしよう……」

「お兄……大丈夫! 今は私が居るんだから!」

 

 俺が不安そうな顔をしたからか、真白は俺を励ましてくれる。

 

「ラビ、魔力を一切纏ってないっていうことは今のお兄は……」

「ええ。本物の身体と言っても過言ではないわ」

「そっか……」

 

 魔力を一切纏ってない。ハーフモードだって微弱ながら魔力を纏っているのに、それがない。認めるしか無いだろう……本物の身体の方が何かの原因でこうなってしまったっていう事を。

 

「ニートだからあまり困る事はないけど……」

 

 これがもし、就職中だったりしてたらどうなっていたんだろうか? この姿では流石に行けないし、その時は休むしか無かったな。それに原因も不明と来た。

 再び俺は自分の身体を見る。目で見ても分かるくらい白い肌に、男のときとは違う小さな華奢な手。そして身長もリュネール・エトワールと同じくらいになっている。

 

 ニートだから会社とかそういうのは気にしないで済むのは幸いだったか。しかし、何が起きたんだ? 俺昨日は普通にしていたはずだし……。

 自分の記憶を辿ってみるが、特にこれと言ったものはなかった。今日は12月の28日……クリスマスの日より三日が経過している。

 三日間の記憶を思い返すけど、特に何もなかったよな。普通に魔物の対処をしたり、真白と話したり……見回りをしたり。うん、通常通りだな。

 

「お兄には心当たりとか無いの?」

「ん……一応記憶を掘り起こしてみたけど、思い当たる節はない」

「って、お兄、その喋り方なんだね」

「ん」

 

 魔法少女にはなってないが、何故か意識が切り替わらないんだよな。まあ、それに何がどうであれこの姿で元の喋り方はおかしいからこのままで良い。

 いつ戻れるかわからないし、仮に誰かに会ってしまった時とかに不審がられないようにするのが一番。

 

「どういう訳か意識が切り替わったって感じがしない」

 

 起きた時からもちょっと違和感あったんだよな。寝ぼけているのだろうって勝手に思い込んでいたけど。

 

「私の方でも色々と探ってみるわね。しばらくはその姿で居るしかないかも」

「だよね……」

「でもお兄、一応魔法少女にはなれるんだよね?」

「うん。一応は」

 

 これもまた幸いと言うべきか。

 変身はできるし、今まで通りに動けるのも確かだ。本当に元の姿の方が変わってしまっているようで、いくらこの状態で魔力を使って衣装を作成しようとしても、全然手応えがない。

 変身した状態であれば、魔力で衣装の形状とか色々と変えられるんだけどな。

 

「ラビの言う通り、原因が分かるまではそのままで居るしかないよね……お兄、大丈夫?」

「ん。身体自体は特におかしな感じはしない」

「それだけでも安心できたよ」

 

 リュネール・エトワールで慣れてしまっている影響か、違和感らしい違和感は感じてない。これも結構おかしいことではあるけどな。

 

「一体何が起きたのかしら……」

「本当にね。……お兄、その姿だと魔力で衣装変えられないんだよね?」

「ん。そうみたい」

「そうなると……取り敢えず、服とかを買いに行った方が良いかな?」

「え」

「え、じゃないでしょ。その服はぶかぶかじゃない。それに、お兄の身長も変わってるんだから今までの服は当面は着れないでしょ」

「それはそうだけど……」

「行くときは、私の服が部屋にあるはずだからそれで行こうか」

「……着るしかないか」

 

 真白の言う通り、この服では流石に出歩けない。ちょっと恥ずかしい気もするが、原因が分かるまではそうした方が良いか……。

 

 ……はあ、俺どうなっちまったんだこれ。

 

 

 

 ――その問いに答えられる者は、居ない。

 

 




主人公の身に何が起きたのか!?


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Act.02:変化②

 

「お兄、大丈夫?」

「ん。すーすーする」

「うーんそこは我慢してもらわないとね……」

 

 何故か銀髪金眼少女……リュネール・エトワールの姿そっくりな状態になってしまった俺は、真白の服を借りて出掛ける所であった。

 シンプルなTシャツにその上にコートを着て、下はスカートとなっている。スカート丈は膝よりも少し下までで、白いニーハイソックスを履いている。

 

 ハーフモードの時に着ていたのはズボンがほとんどだったので、スカートはフルモードの時以外ではこれが初めてだったりする。

 魔法少女リュネール・エトワールの状態だと、全然気にしなかったんだが今の状態だと凄い気になる。スカートってこんなすーすーするのか。

 

「運転は私がするから大丈夫」

「ん。ありがとう」

「ううん。私だってお兄には色々とお世話になってるんだしね」

 

 一応真白も運転免許証自体は持っているのだ。ただ東京では使う機会が全然ないってぼやいていたな。

 

「でも、運転するの真白は久し振りでは?」

「そうだね。東京じゃ全然使わないし、持ってる方がぶっちゃけ損する感じだね。一応、シミュレーションとかで運転してたから大丈夫だと思う……安全運転で行くよ」

「ん」

 

 ちょっと心配であるが、俺が今の姿で運転するのは厳しいな。運転はできるかもしれないが、仮に免許証を見せて下さい的な事言われたら大変なので、ここは真白を頼るしか無い。

 いや今回ばかりは、真白が居て助かった……この姿で真白と並ぶと不本意ながら双子と言われても可笑しくないくらいだ。と言っても、身長は若干真白の方が上なんだよな、この状態だと。

 

 服は良いのだが、下着関係が当然のように俺は持っていない。リュネール・エトワールの時は魔力で構成されていたし、全く気にする必要もなかったのだ。

 しかし……今はどうだ。この姿では魔力は意味を成さず、本物の身体である。流石に下着まで真白のを借りるのは無理なので、下は男物のを着ている。ちょっと違和感がある感じだ。

 

「う……慣れない」

「リュネール・エトワールの姿では余裕なのに、どうしたのお兄……」

「分からない。でも何か変な感じ」

「まあ、魔法少女の姿とリアルの身体では結構違うから、それもあるかもしれないわね」

 

 そんな話をしながら俺たちは車に乗り込む。俺は後ろの座席に乗ろうと思ったが、真白に助手席に乗るように言われたので大人しく助手席へラビを抱き抱えて乗ったのである。

 

「お兄……その姿可愛すぎる」

「からかわないで……」

 

 これである。

 真白が何処かいたずらっぽい顔で俺のことを見ながら言ってくるものだから、何というか居心地が悪い。でも確かに真白の言う通り、この姿勢って完全に……いややめておこう。

 

「じゃあ、出発するねー」

「ん」

 

 シートベルトをしたところで真白の運転により、車が発進する。庭から道路へでて、そこから大きな道路へと出て、出発と言った感じとなるのだった。

 

 

 

「お兄、身体は大丈夫?」

 

 直線の道路を進んでいるところで、真白にそう問いかけられる。

 

「ん。特には……強いて言うならやっぱり変な感じ」

「それはそうだよ。お兄の身体がそうなってるんだから……こればっかりは流石に私も驚きだよ」

「ん。心配かけてごめん」

「ううん。一番不安なのはお兄なんだから、謝らなくていいよ」

「ええそうね。謝るべきは私かしらね」

「……ラビ。ラビは悪くない」

「でも魔法少女にしたのは私よ? それが原因かもしれないし」

 

 身体に違和感というのはない。

 ただやっぱり、本物の身体の方が変わっているからか、変な感じはする。真白もラビも心配してくれているのは分かっている。

 

 何が原因か?

 それはわからない。でも前兆と言うか兆しはあった。俺の心境とかの変化だ。可愛いものに目が行ってしまったり、リュネール・エトワールに似合いそうだなと無意識に服を見たり。

 

 ――それが原因なのか? 

 それはまだ分からないけど、少なくとも何らかの関わりがありそうな気はする。もしくは、知らぬ間に魔法をかけられたか……あまり考えたくないが。

 

「ラビもあまり自分を責めないようにね」

「真白は私の事怒ってないの?」

「うーん、驚きはしたけど、お兄が選択した事だし、私が言うのは何かおかしいでしょ」

「……変わった兄妹よね」

「そう?」

「そうかな?」

 

 俺たちそんな変わってるかな?

 まあ、普通に見れば確かに少し変わってるかもしれないな。魔法少女している兄を持つ妹って。反対ならまだ分かるが……。あーでも、真白が仮に魔法少女になったら東京の方になるのかな?

 

「私も何とか原因を探るわ。何か分かれば良いのだけど……」

「ん。わたしが言うのも何だけどラビも無理しないで」

「ええ、分かっているわ」

 

 俺が言えた義理ではないんだがな。そんな話をしている内に、俺たちは某有名な服屋へ到着するのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「うーんと、この辺りかな」

 

 服屋の中へ入り、ます俺らがやって来たのは下着のコーナー。勿論、女性のである。いや待て待て、いきなりここに連れてくるか普通!?

 

「どうしたのお兄、顔赤いよ?」

「何で……いきなりここに」

「ふふ、もしかして恥ずかしいの?」

 

 恥ずかしいと言うか、そういう問題ではない。今はこんな姿だが元は28歳のおっさんだぞ? それ以前の問題じゃないか。

 どうでも良いが、先月に誕生日が過ぎたから俺の年齢は1つ増え、28となった。だから何だという訳でもないが、この年齢になると何というか何も感じない。

 

「う」

「大丈夫だって。今のお兄は可愛らしい女の子だし」

「そう言う、問題、じゃ……」

「でも、その姿でお兄って呼ぶのはおかしいよね。えっと……司姉!」

「っ!」

 

 おい馬鹿やめろ……真白の言うことも一理あるんだがすごい違和感しかねえぞ。

 

「お姉って言うと何かアレだから、司姉。うん、これで良いよね!」

「……」

 

 駄目だこの妹。

 でもまあ、確かにこの姿でお兄って呼ぶのも変だよな。司姉っていうのも大分変な感じがするが、取り敢えずはそういう事にしておこう。

 

「うーん、司姉のサイズはこの辺りかな? 多分私と同じはず」

「……そんなのわたしに言って良いの?」

「え? 別に司姉になら知られても問題ないよ!」

「……そう」

 

 うん、もう何も言わないでおこう。

 因みに、リュネール・エトワールの胸のサイズはぶっちゃけ、ほぼ無い。ぺったんこである。貧乳はステータスと言われているが、確かにその通りである。

 

 ……って何を言ってんだ。

 

 とにかく、カップ? だっけ、あれのサイズはAらしいんだよね。良く分からないが。

 

「これとかどう?」

 

 そう言って真白が取ったのは、シンプルな白いブラジャーである。そして下もまた白で、何ていうか……清楚な感じ? 真白の事だから変なのとか持ってくるかと心配したが、考えすぎだったか?

 

「良く分かんない」

「まあ、そうだよね。うん、取り敢えず司姉の好きな色は?」

「白か黒……もしくは水色」

「うん、変わってないね司姉」

 

 変わらない方が良いだろう?

 

「それならやっぱり、これで良いかな、あとは予備に何着か……あ、一応司姉、サイズ図らせて」

「え?」

「え? じゃない。ほら、試着コーナー行くよ!」

「ま、待って……」

「待たない!」

 

 ってな感じで俺の抵抗虚しく、試着室へと真白に連れて行かれるのであった。そして何処から取り出したのか、メジャーを手に持っていた。

 

「何処から出したの……」

「ふふふ……さ、測ろうか。バンザイして」

「ん」

 

 どうせ抵抗しても無駄だろうと思い、俺はバンザイした状態になる。上着は脱がされ、Tシャツ上から胸の部分にメジャーを当て、測る真白。真白の顔が近く、ちょっと照れくさい。

 

 ちょっぴりくすぐったい感じが終わったところで、測り終えたみたいだ。

 

「うん、Aカップだね。私と同じ」

「そう……」

「という事でブラと下着はこれで良いかな」

 

 何着か取ったセットをかごに入れる真白。

 

「後は服も見ないとね」

「ん」

 

 そのまま、俺たちは今度は服のコーナーへと向かうのだった。

 

 

 

 



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Act.03:変化③

 

「結構買った買った~」

「うんそうだね……」

 

 どっと疲れが回ってくる。

 服のコーナーに行った時が俺としては一番の災難だった……真白に片っ端から服を試着させられ、着せ替え人形にされたのである。

 もう後半からは無心で居たと思う。でだ、俺のだけではなく真白も自分の物をいくつか購入していた。代金は俺が出すよって言ったのだが、それは真白により却下された。

 

 そして今の姿。

 長袖の白いワンピースに星の絵が小さく描かれている物の上から、厚手の灰色のコート、首元には真白とおそろいのマフラーが巻かれている。

 

「ふふ。こう見ると双子だね~」

「ん」

 

 まあ否定はしない。

 同じ銀髪で、髪も長いからな。目の色は違うが、それ以外は真面目に真白にそっくりである。ただし身長は負けているのが解せぬ……男の時なら勝ってるのに。

 

 グゥ~

 

「っ!?」

「ふふ、真白、お腹減った?」

 

 真白にちょっと弄られていたら、真白の方からそんなお腹の音が聞こえた。ついつい笑ってしまったが、そこは許して欲しい。さっきまでは弄られっ放しだったのだから。

 

「(こくこく)」

 

 顔を赤くして頷く真白。お腹が減るのは生理現象なのだから、何も可笑しくない。それに俺も少しお腹減ってきてるしな。

 

「何処行く?」

「運転するのは私だけどね。うーん今14時かー結構時間かかっちゃったね」

「ん。真白が着せ替え人形にしたのがいけない」

「うっ、それを言われるとちょっと痛いな。でもその姿可愛いよ」

「……そう」

「あれ、それだけ?」

 

 ……可愛いと言われれば元の俺なら否定するだろうが、何故か今回ばかりは思わず否定が出来なかった。と言うより、ちょっとこう何か高ぶる感じになったのは気のせいだろうか。

 

「嬉しく……ない」

「顔赤くしちゃって、司姉は可愛いね」

「……」

 

 まただ。この感情は一体……。

 

「それで、何処に行くの?」

 

 取り敢えず半ば無理矢理ではあるが、話題を変える。この時間帯だと何処も空いていそうではあるが……同じ所に行くのは流石に真白も飽きるよなあ。

 

「久し振りにハンバーガーが食べたい」

「ハンバーガー……わたしもしばらく食べてない」

「司姉も? よし、今日のお昼はこれで決まり!」

「ん」

 

 ハンバーガーか……最後に食べたのはいつだろうか。最近は全く食べてないなって思う。色んな種類が期間限定で登場したり、常設もリニューアルされたり……CMでも良く見るな。

 うん。久し振りにハンバーガーが食べたいって思ったし、真白もそうみたいなので俺たちのお昼はそれで決まり、再び車に乗って移動するのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「うへえ……司姉、また辛いの食べてるね」

「ん。味覚は変わってないみたい」

 

 幸い、と言うべきなのか味覚自体に変化は起きてなかった。今まで通り辛いもの普通に食べれるからな。ただ甘い物も食べたくなるって思う事はしばしば。

 

 今回俺が頼んだのは期間限定の、旨辛バーガーである。中にある辛味のあるソースが絶妙で、チーズもちょっと赤くなってるな。

 で、スパイシーナゲット……要するに辛いナゲットに辛いソースも選んで、見事に辛いもの祭りである。

 

「幸せ~」

「ぷ! 司姉、その表情可愛すぎるよ!」

「え?」

「ええそうね、私もちょっとドキッとしたわ」

「ええ?」

 

 好きな物を食べる時はこんな感じじゃないか普通。好きな物を食べてる時と、やっぱり寝ている時が一番幸せを感じていると思う。

 

 因みにだが、俺たちは国道沿いにある某有名なチェーン店で、持ち帰りを頼んで車の中で食べている。真白は無難にダブルチーズバーガーを頼んだようだ。飲み物はファンタグレープだったかな? 俺はコーラである。

 ラビはそもそも食べれるのかって話だが、食べないでも良いけど食べる事も出来るらしい。そう言えば、今までラビが何か食べてた所は見てないな。

 

 食べれるって事なので、ハンバーガーをラビの分も買ってきていた。因みに支払ったのは俺ではなく真白だ。今度こそ払うよって言ったらまた却下された。解せぬ。

 

 ……改めて自分を見る。

 さっき買った服を着ていて、下はスカートである。まさか着る羽目になるとは思わなかったが……リュネール・エトワールの時だってワンピーススタイルだったのに、何故こっちだとこうも落ち着かないんだろうな。

 

「どうしたの司姉、急にぼうっと黙り込んじゃって」

「ん。何でこうなったかを考えてた。でも何も分からない」

「司姉、ううん、お兄……大丈夫、私が居るんだから」

「ん。ありがとう」

 

 不安そうには見えないだろうが、これでもかなり不安になっているのは確かだ。だってそうだろ? 元の姿がこうなってるんだぜ? 理解が未だに追いつけていない。

 真白は優しくそう言ってくれる。ちょっとだけ、不安が減ったかもしれないがそれでもやっぱり……。それに真白は一時的に今帰ってきているだけで、冬休みが終わったら戻るだろう。

 

 そうなると、俺とラビしか居なくなる。いや、ラビが居るだけでも安心できるけどな。

 

『◣◥◣◥◣◥WARNING!!◣◥◣◥◣◥』

「っ!?」

 

 そんな時だった。

 変身デバイスからけたたましい警報が鳴ったのは。

 

「これは……魔物?」

「ええ……捉えたわ。推定脅威度はAA」

「AA……」

 

 AAの魔物と言えば、12月の初めに出現したっきりだったよな? それがまた出現したという事か。

 

「近くに魔法少女は?」

「今の所は居ないわ……行くの?」

「ん」

「お兄……大丈夫?」

「大丈夫……ありがとう真白。行ってくる」

「うん……気を付けてね」

「ん」

 

 デバイスを手に取り、俺は変身のキーワードを紡ぐ。

 

「――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

『SYSTEM CALL "CHANGE" KEYWORD,OK――LA LUNE ET L'ETOILE――』

 

 視界が白く染められ、浮遊感に襲われる。魔力が集まってくる感覚と同時に、俺は一瞬にして魔法少女リュネール・エトワールへと変身する。

 

『SYSTEM CALL "CHANGE" SUCCESS!!――GO!』

 

 変身完了の音が流れ、ラビの案内のもと、魔物の出現した場所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

「あれは……また蝶?」

「のようね。形状とかそういうのも大体同じ感じがするわ」

 

 駆け付けた先では既に避難活動が行われている。まだ一般人のいる場所からは離れているのだが、あいつは空を飛んできている。すぐにでもこっちに着いてしまうだろう。

 そしてその蝶の魔物は12月初めに出現した、あの魔物とほぼ同一個体である事がラビによって分かる。周りに魔法少女の気配はない。ならば……行くしか無いだろう。

 

「スターシュート!」

 

 おなじみの攻撃魔法を魔物に向けて放つ。ホーミング機能がついているので、魔物が回避しても追尾する。案の定、追尾によって蝶の魔物は避けきれず、爆発する。

 

「あぶない!」

「!?」

 

 そのラビの叫びで嫌な予感がしたので素早く回避する。

 さっきまで俺の居た場所に何か毒々しいビームのようなものが通過する。危なかった……俺は魔物の方を見る。

 

「あまり効いてない?」

「ええそうね……あの魔物、AAというだけあって装甲も硬そうよ」

 

 無傷……と言う訳ではないが打撃を与えたようには見えなかった。空も飛べて攻撃も結構エグくて、更に硬いって流石はAAだな。

 でも、茨城地域の魔法少女だけで対応は出来てたんだよな。まあ、向こうは一人ではなく何人も居るわけだけどな。

 

「スターライトキャノン」

 

 それならもっと強い攻撃魔法を使うのみ……ただこの魔法は追尾しないのでちゃんと狙わないといけない。今までの魔物は陸上だったし、空中の魔物は実際これが初めての戦いになるのか?

 

「ん。効いてる」

 

 それでも飛んでいく速度が早いので、そう簡単には避けきれないはず。見事に着弾して、爆発を起こし、魔物に打撃を与えたように見える。

 

「#!#$#$」

 

 相変わらず分からない叫びだ……。

 

「でも……ダメージは与えられたけど決定打にはならない」

「まあ、あの魔物はAAだからね……それなりには強いはずよ」

「ん」

 

 ステッキを魔物に向ける。

 

「――サンフレアキャノン」 

 

 数千万度を超える極太の熱線が放たれる。以前、使ったあの太陽を元にした攻撃魔法だ。宙を駆け抜け、避けようとしている蝶の魔物を容赦なく貫いた。

 一瞬にして火が回り始め、魔物が燃える……いや燃える所ではない。熱によって溶け、灰すら残らずに茨城地域上空より姿を消したのだった。

 

「うん。やっぱりこれ強い」

「はあ……規格外なのは変わりないわねえ」

 

 他に魔物とかが居ないかどうかを確認した後、俺はその場を後にするのだった。途中、魔法少女の反応をラビが感知したが既に俺はもう居ない。

 

 真白の元へ帰るのだった。

 

 

 

 

 



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Act.04:遠出にて①

 

 ガタンゴトンガタンゴトン……。

 

 

 翌日、俺は一人、電車に揺られながら外の景色を眺めていた。何の目的もなくただただ揺られていた。でも、目的と言えば目的でもあるのか? 俺はちょっと遠出をしたいと思っていた。

 

 真白は今日は友だちと会う約束をしていたようで、家には居ない。ラビにアドバイスされつつ、服を着て今に至っている。長袖のワンピースに厚手のコート、首にはこの前買ってもらった真白とおそろいのマフラーを巻いている。

 電車の中は暖房が効いているから、そこまで寒くはないが今日の気温は昼間ですら氷点下という。外出た瞬間ぶるって震えたわ。

 

 リュックではなく、今回は肩から掛けられるショルダーバッグを持ってきているのだが、今回は珍しくラビが居ない。ラビはラビで俺がこうなった原因を探してくれているからな。

 てな訳で、今の俺はボッチと言うかまあ、一人しか居ない。急に遠くに行きたくなった理由は特にない……色々ありすぎて、ちょっと気分転換したいと思ってはいるが……。

 

 でもって、今の俺は特に変身も何もせず変わってしまった姿のままだ。魔力を使った偽りの姿ではなく、何も使わない状態で出掛けたかった。リフレッシュの意味もある。

 問題なのがこの容姿……真白並に非常に目立つし、駅で待ってる間にもかなりの視線を感じていた。女性は視線に敏感とは言うけど、ここまでとは思わなかった。

 

 この姿では車は流石に使えないし、移動手段は電車とかバス、後はタクシーくらいしか無い。強いて言えばヒッチハイクなんて言うのも有るが、流石にそれはね。

 

 何故こうなったかは分からないが、いつ戻れるか分からない以上、この姿でも不自由なく出歩けるようにはしておかないと。ただやっぱり落ち着かない。

 

 一応、変身デバイスは持ってきているが、正直今は戦いたい気分はあまりない。勿論、危ない状態であれば戦うつもりだが今回は基本的には一般人として居たい。

 

「……」

 

 電車のガラスに映る自分の姿。

 リュネール・エトワールにそっくりではあるけど、魔法少女特有のオーラとか、そういうのは全く感じさせない。これが今の姿なんだって改めて思う。

 

 何となく……心当たりのようなものはあったんだ、実際。

 可愛いものに目が行ってしまう事や、服を見るとリュネール・エトワールが着たらどうかなと無意識に考えてしまうっていう事も。

 

 それが原因かは分からないけど、無関係とは思えない。

 

 県北から県南まで行くって結構な距離だよな……遠出には丁度良い。未だに視線を若干感じつつも、俺は電車に揺られて県北、県央を抜け県南へと入って行くのだった。

 

 

 

 

 

 県南と言えば何かと聞かれたらあまりパッと思い浮かばない。某有名な袋田の滝や、花貫渓谷は県北側だし、海浜公園もまた県北。

 俺が知っているのはそういったレジャー施設ではなく、土浦にあるショッピングモールくらいだ。あそこは水戸にもある所と同じな有名なショッピングモールで、増設された水戸よりは広くないかもだがそれでもかなり広い。

 

 ぶっちゃけ、県北に住んでる俺が県南に来るなんて滅多にない。魔法少女リュネール・エトワールとして来たことなら何回もあるが、何処に何があるかまで把握はできてない。

 

「……」

 

 そして俺がやって来たのは土浦にある方。駅から直通バスがでているので、楽々移動である。立体駐車場は無く、一階(地上)と屋上に駐車場があり、そしてどちらもかなり広い。

 

 正直言うと、俺は立体駐車場が苦手だったりする。嫌い……とまでは行かないけど、やっぱり狭いって言うのもあるし時々どっちの方面に出るか分からなくなる時があるんだよな。俺だけかもしれないが。

 

「大分遠くまで来た」

 

 この辺りの住んでいる人としては普通に近所のショッピングモール的な感覚なんだろうけど、県北とかからだと遠いよな。それは水戸にあるショッピングモールにも言えるんだけどな。

 県南ならここ、県央・県北だったら向こうって感じか? まあいいや。

 

 気分転換とは言え、ちょっと遠出し過ぎたかなとは思う。それに今回は俺一人しか居ないし、リュネール・エトワールの姿で慣れてるとは言え、まだ微妙に違和感のあるこの姿でもある。

 

「来ちゃったものは仕方がない」

 

 ここまで来て何もせずに引き返すっていうのもあれなので、俺は早速中へと入る。そしてやっぱり人の数が多い……今冬休み期間でもあるから学生っぽい人もちらほらいる。

 仮に平日のこんな時間に来てたら補導ものだろう。俺の今の姿も補導に掛かる可能性が非常に高く、冬休み期間で良かったとは思ってる。

 

 別に行きたい店とかは……ない。

 

「……」

 

 まただ。

 色んな服が売っている店を見ると、そちらに目が行ってしまう。駄目だ……ちょっぴり名残惜しい感じを残しつつも俺は店をスルーしエスカレーターに乗って上へ行く。

 

「それにしても……」

 

 うん、向こうにも負けないくらいのお客の数だなって思う。

 後やっぱり視線を感じる。こっそりと感じたほうを見てやると、何人かの男性がこちらを見ていた。だけど、他にも女性も何故か顔を赤くしてこっちを見ている人も居る。

 

「……」

 

 気にしない……気にしない。

 とっととエスカレーターを登っていき、二階へ。そしてさらに三階へ行き、俺は通路を歩く。吹き抜けとなっている場所からは二階の様子が見えるし、ソファーとかがあるところには何人かが座っていたり、特に珍しくもない光景が広がる。

 

 そのまま周りを見ながら歩いていると、騒がしい音が聞こえる店……一応店で良いのかな? そう、ゲームセンターである。ゲーセンが目に入ったので、行ってみることにする。

 

「ん。ここも結構ある」

 

 ゲーム好きな俺からすると思わずニッコリしてしまう所だ。というか現在進行系で多分ニッコリしていると思う。

 

「そう言えば雪菜ともゲーセンに行った」

 

 ふとホワイトリリーこと、雪菜と出掛けた時を思い出す。あの時は向こうの方だけど、ゲーセンに寄って兎のぬいぐるみを取ってあげたっけ。

 

 大事そうに持っていたのを見た時は、ちょっと嬉しいなと思った。やっぱり誰かに喜ばれるのは、こっちも嬉しくなる。

 

 店内にあるクレーンゲームを流し見する。同じような兎のぬいぐるみのクレーンゲームは流石に無かったけど、くまのぬいぐるみの入ったケースなら見つけた。

 

「……」

 

 周りを見て誰も見てないのを確認した後、俺はこっそりとそのクレーンゲームに近づく。

 白、茶、黒の三色があって、大きさは大体あの時の兎のぬいぐるみを同じくらいか。白いやつなら真白に取っていくのも良いかもしれないな。

 

 俺は財布から500円玉を取り出し、コイン投入口へと入れる。1プレイ100円で500円だと6プレイ出来るのはもう普通なクレーンゲームだな。

 

 横から見たり、正面に戻って見たり一を把握しながら俺はクレーンを動かす。まずは白いくまさんぬいぐるみを狙う。取り出し口に一番近い物をターゲットし、そして決定。

 

「良い感じ」

 

 と言っても、この手の物は何回かしないとアームが弱いっていう仕様なんだがな。でもその弱い状態でも取ってる人を見ると、これもあまり確実とも言えないか。

 

「今回は運が良い……ふふ」

 

 自然と笑いが出てしまう。

 何故かと言えば、今回は3プレイ目で目的のくまのぬいぐるみを取れたからだ。正直俺も驚いている……ただまだ回数が3回残っているし、勿体ないのでもう一体狙おう。

 

「……これかな」

 

 普通の茶色のくまのぬいぐるみに目をつける。クレーンを動かし、そのぬいぐるみを狙う。同じように横から見たりとかして位置を調節してOK。

 アームが降りていき、がっしりと掴むが、途中まで上った所で落ちてしまった。まあ、そんな連続で上手くいくことなんて無いよな。

 

 チャレンジ二回目、ちょっと移動したけど取り出し口には落とせなかった。

 チャレンジ三回目……あとちょっと、あとちょっとだったのに!

 

「う、悔しい」

 

 取れないだけでこんなに悔しいとは。

 ……あれ? 何で俺はこんなにも悔しいと感じているんだ? 別に欲しくは……。

 

「もう一回だけ」

 

 500円ではなく、100円の方でプレイ。四回目のチャレンジとなるが、惜しくも上手く行かず、俺は追加で100円玉を入れる。

 

「やった!」

 

 五回目でようやく茶色のくまのぬいぐるみが取れる。思ったよりかからずに済んだのは、やっぱり運が良かったのかもしれない。これで白と茶色が取れた。

 

「ふふ……」

 

 自然と笑みが溢れる。

 あーでも二体になっちゃったな。何か袋とか貰うとするか……そう決めて、俺は近くにあった人の居るカウンターに向かうのだった。

 

 

 

 

 

 




わざわざ県南まで来るって司よ……その姿で良く行けたな←

そろそろ物語が動く、はず。


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Act.05:遠出にて②

 

「ふう」

 

 茶色と白、そして黒のくまのぬいぐるみを袋に入れてもらい、ゲームセンターを抜けてフードコートに座って一息つく。まだ11時半ではあるが、それなりの人たちが座っている。

 

 え? 黒を何で持ってるのかって?

 ……ついつい、二種類も手に入れたらコンプしたい衝動に駆られ、追加でプレイしてしまったのだ。だけど、黒のくまのぬいぐるみは3回プレイした所で取れた。

 

 そんな訳でコンプリートしてしまったのである。

 

「……」

 

 そして俺はさっきの事考える。

 くまのぬいぐるみ……最初は真白に白のくまを持って帰ろうと思ってやっただけだった。でも、気付いたらどうだろうか……茶色のくまのぬいぐるみを取れなかったのが凄く悔しかった。

 

「はあ」

 

 何だかな。

 まあ、良い。気にしていたらきりがない……全く気にしてないとは言えないが、取り敢えず落ち着け俺。紙コップに入った水を一口飲む。

 

 ぼうっとフードコートの景色というか風景を見る。がやがやと騒がしく、子どもたちの声や泣き声、雑談とかの話し声がスゥっと耳を通り抜けて行く。

 別に珍しくも何とも無い光景だが、県南にも沢山の人が居るという事だ。何を当たり前なこと言ってんだって言われるかもしれないけど、実際同じ県でも距離が離れてたらそっちのことは分からないじゃないか?

 だからこうやって実際見ると人がたくさん居るっていうのが実感できるのだ。どうでも良い話をしたか……でもちょっと気を紛らわせたかった。

 

 魔法省があるのは水戸だが、当然ながら魔法少女たちは全員同じ所に住んでいる訳ではない。茨城という地域で見れば同じ所だけど、もっと見れば県南県央、県北県西に分かれ更に町や市等がある。

 

 俺が良く出会うのは大抵は県央や県北に暮らす魔法少女だろうと思ってる。今回ここまで来ているのでもしかすると県南に暮らすであろう魔法少女に会うかもしれないな。

 

「お昼なにか食べて帰ろ」

 

 あーだこーだ考えていると、気が付いたら30分くらい経過していたみたいで12時を回っていた。まだそこまでお腹が空いているという訳ではないが、食べずに帰ったらきっと空くだろうという事で何か軽いものを食べて行こうと考える。

 

 しかし、一人しか居ないから席を離れた瞬間取られそうではある。何か置いておくっていうのも手だが、置いても大丈夫そうな物が無い。

 

「あの」

 

 これは大人しく持ち帰りで買って行った方が良いかな? それにこの場所を30分も占領しているというのも何かアレだしな。

 

「あの!」

「っ!? んえ?」

 

 そんな事考えているとすぐ近くから声が聞こえ、はっとなる。近くどころかもう目の前に居るよ。やばい、考え過ぎていたかもしれない。

 

「突然ごめんなさい。えっと、相席しても良いでしょうか」

 

 目の前に居たのはリュネール・エトワールと同じくらいかそれ以上かくらいの少女が立っていた。知らない人に声をかけるって結構勇気居る気がするんだが……コミュ力おばけかな?

 

「ん。良いよ」

「本当ですか? ありがとうございます!」

 

 俺が居る席は四人まで一応座れる場所なのだが、仕方がない。ここしか空いてなかったし……でも良く考えたら一人なのに四人席に座るのは迷惑だったかもしれない。

 

「すみません。席が空いていなかったので……」

「ん、別に良い。わたしも四人席に一人で座ってるのは迷惑だったかもしれない」

 

 向き合う形で座る少女は、やはり黒髪だ。ちょっと茶色も混ざってるけど、黒が多く背中まで伸びているロングだ。大体今の俺と同じくらいか。年齢まではわからないが、15歳以上な気はしてる。

 

 しばらく沈黙が続くがそこで俺は一つ疑問が。

 

「あなた一人?」

「え? あ、はい。一人で来ています。まあ家が近いものなので」

 

 まあ、家が近ければ確かにちょい出感覚でここに来れるか。

 

「……」

「ん? どうしたのじっと見て」

 

 向かい合った状態で、彼女の方は何故かこちらをじっと見ていた。そう見られると落ち着かないから勘弁してくれ。なにか顔に付いているのだろうか。

 

「いえ、ごめんなさい。えっと、何処かでお会いしたことありませんか?」

「えっと」

 

 うーん、この子と俺は今日が初対面だと思うのだが。俺も向こうを良く見てみるが、特に思い当たる節がない。となると、魔法少女として会ったことがあるか?

 うーむ……雪菜や蒼とは違って髪が長い子だし、完全に黒っていう色でもないからあの二人ではないのは確かだ。仮に二人だったら俺に気付かないはずないしな。

 

「なんでそう思ったの?」

「うーんとですね、ちょっと知ってる人に似ていたので……」

 

 やっぱり見覚えはないな。この辺の近くに住んでるって事は県南に暮らしている魔法少女なのは間違いないが……時々県南までリュネール・エトワールで来たことはあったし、何人かの魔法少女とも会ってるが……。

 

 変身前と変身後では面影が少しだけ残るとは言え、大きく変わるから会ったことないかと聞かれてもさっぱりだ。こういう時、ラビが居れば何かを感じてくれたかもしれないが、今は俺しか居ないしな。

 

「ごめん。記憶にない……似てる人って?」

「私がちょっと悪い事しちゃった人なんですけどね。その髪色や金の瞳まで似てるのでつい。すみません、こちらの思い違いかもしれません」

 

 そう謝ってくる少女。

 

「こっちこそごめん」

「いえ! あ、私黒百合香菜って言います。香菜って呼んでください」

「ん。司」

 

 女の子ってどうしてこうもコミュ力が高いのだろうか。と言うか初対面だよ? そんな自己紹介して大丈夫なのか?

 

「司さん、ですね。ここで会ったのも何かの縁ですし、よろしくおねがいします」

「ん。よろしく」

 

 まあ……同じくらいの少女って感じで見られたんだろうな。と言ってもこの姿一応今本物なので、間違いではないが。本当なんでこうなったんだろうな?

 

「司さんはお昼は食べたんですか?」

「まだ。買おうと思ったけど席が無くなりそうだから持ち帰りにしようかと思ってた」

「あー確かに、この時間帯は込みますもんね……」

 

 そう。まだ12時になったばかり……人はこれからどんどん増えてくるだろう。そうなれば、席を外した瞬間空いていると思われ、取られてしまう可能性が非常に高い。ならば、もう持ち帰りにした方が良いかって思ってたのだ。

 

「それなら、私と交換でどうですか? 司さんが買ってる間は私が居て、私が買ってる間は司さんが居ると言った感じで」

 

 ふむ、悪くはないか。

 今は二人な訳だし、一人が買いに行ってる間はもう一人は席で待っている。二人以上で来てた時に使える戦法であるが、そもそも行く相手が居ない俺としては使えない方法だったが……真白が居れば使えるか。

 

「ん。分かった。じゃあ、黒百合さん先に」

「え? 良いんですか?」

「ん。レディーファースト」

「ふふ! それを言ったら司さんも女の子ですし、対象ですよね」

「そうだった」

 

 ついつい、中身のせいでレディーファーストなんてぬかしてしまったが、今の俺もその対象だった。

 

「あと、私のことは香菜って呼んでください!」

「分かった……えっと香菜」

「はい!」

 

 笑顔が眩しいことで。

 それはともかく、俺は後でも大丈夫なので先に行ってどうぞと言えば、少し申し訳無さそうな顔をしたが香菜はそのまま、何処かに買いに行ったのだった。

 

「……わたしは何にしようか」

 

 軽めのものとは言ったが、見た感じあまり軽そうなのはないよな……一応、有名なハンバーガーの店ならあるけど。昨日真白とラビで食べたけど、まあ、一応軽いか?

 

 まあ、色んなメニューがあるから別に同じ店でも、違うものが食べれるんだし問題ないな。そうだな……今日は辛いのではなく、ロングセラーなダブルチーズバーガーにするか。

 大分今も並んでいるが、香菜が戻ってくるまでは席は離れられないので、座って待つ。この間に減ると良いのだが、むしろ増えそうな気がするよな。別に時間はあるから良いが……。

 

「あ、帰りのバスの時間調べとかないと」

 

 帰りのバスを確認し忘れていたので、スマホ型のデバイスを取り出しバスを調べる。もし乗れなくても、最悪タクシーで駅まで行けば良い。更にそれも駄目だった場合は、変身してその身体能力を使って移動すれば良いだろう。

 

 そんな遅くまで居るつもりはないけどな。

 

 

 



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Act.06:遠出にて③

今回、久し振りに戦闘シーンが混ざります。


 

「ねえ、ララどう思う?」

「どうって、あの子だよね?」

「うん」

 

 土浦にある某有名なショッピングモールに出かけていた所、凄く見覚えのある容姿をしていた少女を偶々見つけ、怪しまれないように相席したのだけど……。

 

「確かにそっくりだよね……変身時は面影少し残るけどあそこまで似てるって初めてかな」

「変身している状態?」

「いや、それはない。彼女から魔力を一切感じなかったから纏ってないよ」

 

 偶然にもある魔法少女にそっくりな容姿をしている女の子……銀髪金眼。まず、日本じゃ見ない容姿だけど、そうではなく、その容姿がリュネール・エトワール……星月の魔法少女である彼女にそっくりなのよね。

 

「ただのそっくりで別人ていう可能性もあるね」

「うーん……」

 

 向こうには見覚えは無さそうだった。でも確かにそれはそうだって思う。会ったことがあるのは魔法少女に変身している状態の時だし。

 魔法少女を特定するのは結構難しい。何せ変身してない状態では、何も感じないから。しているのであれば、その身に纏っている魔力で分かるんだけど。

 

 まあ、特定されないようにという仕様になっているって事なんだろうけど。それにまだ魔法少女についてなんて、そこまで分かってないしね。

 

 ただ、もし仮に彼女がリュネール・エトワールなら……調べる体で近付いてみたいと思ってるけど、人違いだとただの迷惑だし。

 

「分かってるとは思うけど、リアルで特定するのは難しいよ」

「ええ、分かってるわ」

「それはともかく、早く何か頼んだ方が良いのでは?」

「……そうね」

 

 フードコートに並ぶ複数のお店を見ると、何処も結構並んでおり時間がかかりそうな感じだった。この時間帯だから当たり前なんだけど、あまり時間を掛けすぎると彼女に迷惑がかかってしまう。

 

 そんな訳で、比較的空いていて、自分が食べられそうなお店へと向かおうと思った瞬間だった。

 

「!? ララ……」

「ああ、魔物だ」

 

 店内にサイレンのようなものが鳴る。これはもう、何回も聞いたことあるであろう魔物を知らせるために各地に設置されている、警報。

 そしてララも魔物が出現したことを感知する。ララは魔物が出現した所を感知できる不思議な力があるみたいで、いつも魔物が出た時とかはララに教えてもらって向かっている。

 

「取り敢えず向かうわ」

「彼女は?」

「避難してくれてると良いんだけど……それよりも魔物よね。他の魔法少女がもう駆け付けてるかな」

「それは流石に分からないけど……」

 

 司さんの事も気になるけど、ちゃんと避難誘導に従ってくれているはず、と思い私は指につけている指輪に触れ、軽く口をつける。

 

「――ラ・リス・ノワール・フルール・エスパース!」

 

 避難誘導のされている側とは違う方向で、周りを見つつ誰も見ていない所で私は変身する。ふわりと浮遊感に襲われ、気が付くと既に私は魔法少女……ブラックリリーとなる。

 

「テレポート!」

 

 このくらいの距離なら大して魔力を使わないので、テレポートにて一番状況の把握しやすいショッピングモールの屋上駐車場へと転移する。

 

「あれね……脅威度は?」

「恐らくAかな。問題なく行けるはず」

「そう」

 

 魔物の居る方を見ると、そこには何というかゴジラ? をイメージするような怪獣がゆっくりではあるがこちらに近付いてきていた。

 

「他の魔法少女が居ない?」

「のようだね……」

 

 どういう事? 普通ならすぐに駆けつけているはずなのに……県南にも魔法省の魔法少女は居るはずなんだけどね。仕方がない……あまり戦うのは苦手だけど、対処しないと。

 

 私はそんな怪獣の魔物へと向かうのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 ――時遡ること、警報が鳴る前。

 

「……何か嫌な予感がする」

 

 この場所で出会った香菜の事を待っている間、何の根拠もなく、俺はそう感じた。周りを見ても、平和そうに食事とかをしているのがほとんどだったが、もう少し警戒しようぜと思う。

 

「このご時世、気にし過ぎるとやってられないのは確かだけど」

 

 何せ、毎日のように魔物が出現するのだから仕方がない。それに警戒しところで、何にもならないしな。魔法少女しか対応が出来てないし。

 

「それにしても遅い……何かあった?」

 

 気が付くともう30分弱経過していて、何かあったんだろうかと不安が募る。しかし、ここを動けば席が無くなってしまうだろうし、それに特に何もなく、すれ違いになってしまう恐れもある。

 

「もう少し、待つ」

 

 1時間経っても来なかったら、探しに行こうと思った所だった。

 

「!」

 

 聞き覚えのあるサイレンの音が店内に響き渡る。魔物出現を知らせる警報……つまり、近くに魔物が出現したという事。ラビが居ないから推定脅威度は分からない。放送によればAとの事だった。

 

「……」

 

 どうする?

 避難誘導に従って逃げるか? 確かに今回ばかりは戦うつもりはないと思ってたが、香菜の事も心配である。会ったばっかりの子に何言ってるんだと思うが、逃げ遅れていたら大変だろう?

 

「仕方、無い」

 

 既に避難誘導が行われているが、俺は席を立ち上がり、そそくさに見えない場所へと移動する。持ってきていた変身デバイスを手に取り、いつものキーワードを紡ぐ。

 

「――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

『SYSTEM CALL "CHANGE" KEYWORD,OK――LA LUNE ET L'ETOILE――』

 

 ふわりと、変身時特有の浮遊感を感じる。もう毎回のように経験しているから、もう何とも思わなくはなっている。そして気付けばもう変身が完了する。

 

『SYSTEM CALL "CHANGE" SUCCESS!!――GO!』

 

 変身完了の音声を聞いた所で、俺は素早く屋上へと移動する。こういう時、あの黒い魔法少女の使う転移する魔法が使えると便利なのだが、まあ、無い物ねだりはしない。

 それに、もぅ十分以上な力がリュネール・エトワールにはある。何故かはラビでも分からないが、とにかく、これ以上何を願うんだって話だよな。

 

 そして俺はさっきの嫌な予感のことも思い出す。

 嫌な予感の原因はこの魔物……じゃなければ良いんだがな。そんな事はあまり考えたくないが、取り敢えず屋上へと向かう。

 

 既に魔法少女が駆け付けているかもしれないが、その時はその時だ。

 

 数分程度でショッピングモール内を抜け、俺は屋上の駐車場へと辿り着く。魔物のいる方向が分からないが、取り敢えず東西南北全部見れば分かるだろって事で、まずは東を見る。

 

「ビンゴ」

 

 一発チェックメイトである。

 

「……ゴジラ?」

 

 いや、だってあの見た目完全に某有名なゴジラじゃん! え、何、魔物ってそういうのもあるの? 現実に存在しないよ?

 

「……」

 

 変な事考えるのは止めにし、魔物の方を見る。

 

「一人?」

 

 見える感じでは、魔物に対処しているのは一人だけだ。魔法省の魔法少女? でもあんな子居たかな……俺が覚えてないだけかもしれない可能性が高いけど。

 

「取り敢えず向かう」

 

 何となく、魔法少女の方が押されているように感じる。これは行った方が良いだろう。俺の記憶からして、あの魔物は新しいな。という事は魔法省の脅威度は当てにならないかもしれない。

 

 そんな俺は、屋上より高く飛び上がり魔物の方へと向かう。本当にこの身体能力えげつないよな……飛行機も目じゃないぞ。

 

「! 危ない!」

 

 魔物の尻尾の攻撃を喰らい、ふっ飛ばされる魔法少女を見て俺は全力で加速する。彼女は地面に叩きつけられ、更には地面をえぐる。

 動けないでいる魔法少女にとどめを刺そうとばかりに魔物が、その驚異的な爪で一突きしようとしていた。くそ、もっと早く! 間に合え!

 

「間に……合え!」

 

 そんな願いが届いたのか、ギリギリの所で間に合い、素早く魔法を発動させる。

 

「……スターバリア」

 

 五芒星を描く、半透明な壁が爪を受け止める。俺のスターバリアと、魔物の爪がぶつかり合う。かなり強力な一撃だが、バリアは壊れてない。

 

「#$?#”!」

 

 突然の乱入者である俺を睨みつけてくる魔物。一旦爪を離し、距離を取る。

 

「なるほど、少し知能が高め、か」

「うっ……リュネール・エトワール?」

 

 後ろでボロボロな姿で背中を後ろに倒れている魔法少女見る。彼女はこちらを見ると、驚く顔を見せるが、痛みのせいか表情を歪める。

 

「……ブラックリリー?」

 

 魔物と戦っていたのは、魔法省の魔法少女ではなく以前の襲撃事件の裏に居た魔法少女……ブラックリリーだった。

 

 

 

 



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Act.07:星月と黒百合共闘戦線①

 

「大丈夫? ヒール」

「ありが、とう……」

 

 色んな所が擦り切れてしまってるブラックリリーに回復の魔法をかける。何気にこの魔法を使ったのは久し振りかもしれない。流石に衣装までは治らないけど、そっちは体内の魔力が勝手に充てがわれて、再生するはずだ。

 

「他の魔法少女は?」

「いえ、私だけしか居ないわ……何故か」

「……」

 

 周りを見た感じ、確かに未だに魔法少女の姿がない。一体どうしたのか……普通なら駆け付けても良いくらいだけど。

 

「後ろ!」

「……スターバリア」

 

 ブラックリリーが叫ぶが、大丈夫だ。背後で動いた気配はあったからな……スターバリアにより、魔物の攻撃をもう一度防ぐ。

 確かに来ないのは気になるが、今は他の魔法少女の事を考えている場合ではない。こいつを何とかしないと、被害が広がるだろう。

 

「待ってて」

「そいつ強いわ」

「ん。何となく分かってる」

 

 ブラックリリーがここまで押されてる訳だしな。ただ、俺は彼女が使える魔法をテレポート以外知らないからな……どのくらいの強さなのかは判断しかねる。

 ただ、野良でやっている以上、それなりには戦えるはずだろうし……そんな彼女を追い詰めているので、取り敢えずこの魔物の警戒度を上げておく。

 

「スターシュート!」

 

 ステッキからホーミング付きの星が放たれ魔物に飛んでいくが、その星を魔物は手で弾き飛ばす。ええ……そんなのありかよ。

 軌道がずれた星は空高く飛んで行ってしまうが、ホーミングによってまた戻ってきて今度は着弾し、爆発を起こす。しかし、あまり効いて無さそうだった。

 

「スターライトキャノン!」

 

 ビームがステッキから放たれ、魔物へ飛んでいく。スターシュートよりは強いはずだが、果たして……星のエフェクトを出して爆発を起こす。

 

「”$#”!”」

 

 どうやら少しは効いたみたいだ。それでも、傷がついた程度だったが……やっぱり、魔法省の脅威度システムはもう少し改善した方が良いのではないだろうか。

 まあ、ラビに頼っていた俺が言えた物でもないのだが……それにしても、改めてラビが居る重要性を感じたよ。俺一人ではこんなにも微妙なのか……。

 

 居ない物は仕方がない。それにラビは俺がこんな姿になってしまっている原因を探してくれているのだから、何も言えまい。

 

「スターライトキャノン」

 

 もう一発放つと、同じ爆発が起きさっきよりもダメージが通ったように見える。それでも、大きな打撃にはなって無さそうだ。こうなると、やっぱりサンフレアキャノンの方が良いか?

 

 少しずつ小出しにしている理由は色々とあるが、例えば攻撃を吸収する魔物とかだったら強力な魔法を吸収されると厄介になりかねない。

 今の所、そんな能力の魔物は遭遇したことがないが、もし遭遇してしまった場合の事も一応考えて行動しないとな。魔物は未知の生命体だし。

 

「サンフレアキャノン」

 

 取り敢えずそんな厄介な能力は無さそうなので、現状最強と言っても過言ではない攻撃魔法”サンフレアキャノン”を魔物に放つ。

 見慣れた極太の熱線が放たれ、魔物を貫く。それと同時に、魔物の身体は火に包まれ、溶ける……はずなのだが。

 

「え」

 

 魔物はまだそこに存在していた。かなりの深手を負っている感じだが……溶けない自体は初めてだ。

 

「火に耐性がある?」

 

 どのくらいの耐性かは分からないが、普通ならこれで溶けてしまうはず。AAの蝶の魔物だってこれで消えたんだぞ? そうなるとこいつは……。

 

「!」

 

 魔物が怒っているのか、咆哮を上げる。そしてこちらを睨みつけ、同時に口が光りだす。エネルギーのようなものが口に集まって行く。

 

「これは、ブレス……?」

 

 しかも狙いは俺じゃない。

 ブラックリリーの方見ている……俺も彼女を見るが、避けるのはちょっときつそうだ。そうなると俺がどうにしないといけない……しかし、どうする?

 スターバリアで耐えられるか? こんな事考えてる暇もない。

 

「スターバリア!」

 

 魔力を多めに消費し、範囲を広げ、強度も上げる。更に五重にしておく。ただ、どれだけの威力かが分からないのが不安だが、守るしか無い。

 

 ついに魔物からブレスのようなものが吐き出され、俺たちの方へ襲ってくる。やはりブラックリリーの方を狙ったみたいだ。しかし、俺のスターバリアがその攻撃を防ぐ。

 

「っ……」

 

 直撃を受けたバリアは、まず一重目が破壊される。続いて二重目がブレスを防ぐ。バリアが壊されると結構こっちにも衝撃というか、反動のようなものが襲ってくるが耐えられない程ではない。

 

「くぅっ!?」

 

 二枚目も破壊されると、身体に衝撃が襲ってくる。全く痛くないと言えば嘘になるが、それでもまだ大丈夫だ。まだバリアは三枚残っている。

 

「リュネール・エトワール!?」

「大丈夫。そこに居て」

 

 俺がそんな呻き声のようなものを出したからか、ブラックリリーが焦燥した声で俺の名前を呼ぶ。彼女も魔法少女だ……傷つけさせはしない。

 

「でも!」

「つぅっ……」

 

 三枚目も壊された。後二枚……耐えてくれよな。俺も全力で魔力を送り込む。そうすると残り二枚のバリアが力強く輝きだし、ブレスを完全に受け止める。

 

「#”#”#!?」

 

 そして遂にブレスが消える。砕けそうな状態だった四枚目のバリアがポロポロと崩れるように、光の粒となって消えていく。

 

「防ぎきった」

 

 何とかブラックリリーに被害が及ばずに済んだことに安堵し、俺は魔物を睨みつける。向こうはそれに気づいたのか一瞬だけ怯む。

 

「負傷している魔法少女を狙う、卑怯な魔物め」

 

 そう吐き捨てた後、天高くにステッキを掲げ、魔法のキーワードを紡ぐ。

 

「二度も同じのを撃たせる訳ない。――メテオスターフォール」

「##”!>#」

 

 天空に無数の魔法陣が生み出され、それぞれから星が降り注ぐ。それぞれの星は意思を持っているかのように、あの時みたいに魔物へと向かって落ちて行く。

 無数の星たちが魔物にぶつければ、たちまち星のエフェクトと同時に爆発をその音が響き渡る。耐えられるものなら耐えてみろ!

 

「凄い……」

 

 後ろでそんな呟きが聞こえる。俺は凄いなんて言われる大層な存在じゃない……でも、そう言われるのも悪くない。

 

「倒した……ふう」

 

 煙が晴れると、さっきまで居た巨体のゴジラみたいな魔物は姿を消し、そこには大きめな赤い魔石が複数転がっていた。

 

「……5個もある?」

 

 そこに転がっていた魔石の数は5個。どれもそれなりの魔力を含んでいると思われる魔石だった。今まで複数個も出たことはなかった気がするのだが、一体……。

 

 考えられるとすれば、一体の魔物が四体の魔物を取り込んだとかだろうが……そんな事あるのか? 取り敢えず、魔石を回収してブラックリリーの側に戻る。

 

「リュネール・エトワール……」

「大丈夫? 結構深手だったけど」

「ええ。あなたの回復魔法のお陰で大分楽になったわ」

「それは良かった」

 

 ブラックリリーを見れば、確かにさっきよりはマシになっているようで、安心する。

 

「?」

 

 俺はステッキの先端に手を触れる。それを見たブラックリリーは不思議そうに顔を傾げる。魔石5個を取り出し、それをブラックリリーへ差し出す。

 

「え?」

「これブラックリリーにあげる。戦ってたのはあなただから」

 

 先程の魔物から取った5個の魔石。それを見たブラックリリーは驚いた顔をしていて、ちょっと笑ってしまう。今回俺は戦うつもりはなかったしな。

 

「でも倒したのはリュネール・エトワールよ」

「わたしはそこまで困ってないから。ブラックリリーは魔力を集めてる、魔石、必要」

「それは……」

 

 俺がそう言うと彼女は戸惑った表情を見せる。魔石については結構俺だってストックしているし、そこまで欲しいという感じではない。

 

「でも流石に全部はもらえないわ。せめて半分はリュネール・エトワールが持って」

「……分かった。でも5個だから半分には出来ないよ?」

「知ってるわ。でもこの魔石大きいじゃない? 一つだけ半分にしても良いでしょ」

「その発想はなかった……」

「ふふ」

 

 魔石を半分にするという発想は流石に考えなかったな。でも、割ったら使い物になるのだろうか……まあ、良いか。そうでもしないと彼女は受け取ってくれなさそうだし。

 

「ん。分かったそれで良い」

「じゃあ、この一番大きめなのを半分にしましょ」

「ん」

 

 そんなこんなで、俺とブラックリリーはお互い半々にして、魔石を取ったのだった。

 

 

 



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Act.08:星月と黒百合共闘戦線②

 

「っ!」

「また警報!?」

 

 ついさっき、ゴジラに似た魔物を倒したばかりだと言うのに、魔石を分けていたらまた魔物出現の警報が鳴り響いた。俺はまだ平気だがブラックリリーはどうだろうか。

 

「私も戦うわよ……流石に。魔石のお陰で魔力は回復したし」

「大丈夫?」

「ええ」

 

 魔石の効果もあったようで、ブラックリリーは完全に元通りとまでは行かないもののかなり、マシにはなっていた。ボロボロになっていた衣装も修復されている……のだが、まだ所々に傷のようなものが残っている。

 

「私魔力が少ないのよ。だからちょっと戦うだけでも枯渇するのよね」

 

 俺がその様子を見ていたのに気がついたのか、ブラックリリーはそんな事を言い始める。

 

「だから魔石による補助がないと余り戦えないわ。この通り、装甲に補填する魔力も少なくてね」

「そんな事ばらしていいの?」

「どうせ、何れバレるだろうと思ってね」

「……そう」

 

 魔力が少ない、か。

 俺は異常な魔力を保有しているから気にしたことはなかったが、そういう魔法少女も居るって事を実感させられる。しかし、量が少ないのにどうして魔法少女を……。

 

 いや、今聞くべきことではないな。

 

「行こう。あなたはわたしが守る」

「っ!」

 

 野良で敵対? していた相手だけど、同じ野良で活動する魔法少女だ。目的なんてそれぞれ違うだろうし、今は取り敢えず一緒に協力するのが良いだろう。

 一番良いのはブラックリリーには待機してもらうことだが、見た感じ言った所で意味がないようにも見えるのでこのまま行こうと判断する。守りきれれば良いが……いや守る。魔石も、今の残りの魔力も余裕はある。

 

「どうかした?」

「な、何でも無い!」

「?」

「早く行きましょ」

「ん」

 

 何かちょっと挙動がおかしかった気がするが、大丈夫そうだったので気にしないことにした。

 

 次なる魔物はまたこのショッピングモールの近くに居たようで、探す必要がなかった。さっきの魔物よりちょっと離れた位置に今度は熊のような容姿をしている魔物を発見。多分あれが二体目だろう。

 

「ん。やっぱり魔法少女たちが居ない……」

「そうね……」

 

 さっきもそうだけど、普通なら駆け付けてくれても良いと思ってるのだがこっちの魔物にも魔法少女たちの姿がない。一体どういう事だ?

 

「もしかして、他の場所にも魔物がいる?」

「その可能性は低くないわね。そっちに出払っていてこちらに来れてないのかも」

 

 でも、いくら人手不足とは言え、茨城地域にだって魔法少女は30人は居るはずだよな?

 まさか、その数では対応しきれないほどの魔物が出現している? それとも、かなり強力な個体が現れていてそっちの対応をしているとか?

 

 ここは県南だ。

 県南の魔法少女もまた向かわないと対処できないくらいの何かが現れた? あーもう良く分からんが、とにかくこの魔物も対応しないと。

 

「あの熊の魔物は私に任せてくれる?」

「ん。無理しないように」

「ええ、分かってるわ」

 

 ブラックリリーがそう申し出てきたので、危ない時は加勢することを条件に任せることにする。俺はその間、周りを警戒する。もしかしたら他にも魔物が出てくるかもしれないしな。

 

 俺は周りを警戒するのと同時に、ブラックリリーの方にも目を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

「大丈夫? ブラックリリー」

「ええ、大丈夫よ……」

 

 正直言うと、ちょっとだけ辛かったりする。魔力量が少なく、さっきの魔物を相手にしたときもズタズタにされてしまったし。

 空間ごと斬る魔法を使えば良かったのだが、前にも言った通り空間系の魔法が使えるとは言え、私自身の魔力量は少ない。一発で倒せそうな相手ではない場合は、中々使えないのだ。

 

 今回の魔物はAとなっていて、しかも新種。だから様子見しながら戦っていたんだけど、やっぱり魔力量が少ない私に長期戦は無理。思い切って空間を斬る魔法を使えば良かった。

 

「それなら良いけど……」

 

 心配そうにするのは、右腰に付いているポーチの中から顔を出したララだ。このポーチは魔法の力を持っており、中は見た目よりも広くなっていて、それなりの数の物を入れることが出来る。なので、ララも中に入れる訳ね。

 空間魔法……確かに強いんだけど、肝心な私の魔力量が少ないため、100%の力を発揮できていない。多分、私はBクラスかそれ以下くらいなんじゃないかしらね。

 

「テレポート」

 

 熊の魔物に近づくと、直ぐに私に気づいたようでその大きな手を大きく振り回して私を狙ってくる。手には鋭い爪もあり、あれにやられたら一溜まりもないだろうけど、私は転移で回避する。

 

「この短距離程度ならそんなに魔力は使わないわね」

 

 回避程度ならある程度無限にできそうかな?

 

「”#$”$!」

 

 魔物は言葉にもならない叫びを上げるが、正直言って耳障りな声だ。この世の物とは思えないその声は不快にさせる。

 

「クリエイト”スクエア”!」

 

 前方に正方形の空間の箱を生み出す。どういう原理かは私にもわからないけど、私が使える魔法は空間操作。生み出す事も出来るっぽい。

 

「シュート!」

 

 そしてこの生み出した正方形の箱を、全力で魔物目掛けて、投げるようにふっとばす。

 

「#$!」

 

 直撃した反動により、魔物が一瞬よろめくが直ぐに立ち直る。余り打撃は与えられてないみたい……これくらいは予想していたけどね。

 

「クリエイト”トライアングル”!」

 

 今度は三角形の空間を生み出す。三角形の先端は尖っているので、ぶっちゃけ四角形よりは殺傷力とかは高いと思うんだけど。

 

「シュート!」

「”!##?」

 

 今度は結構なダメージを与えられたみたいで、熊の魔物はそのまま後ろに倒れる。その巨体もあって凄い音がするがもう慣れているからスルーね。

 

 倒れて動けないでいる魔物を見て、私は自分のステッキを大きく上に振り上げ、そして魔法のキーワードを紡ぐ。

 

「――スペースカット」

 

 そのまま上から下へと大きくステッキを振り下ろすと、一瞬だけ空間がずれ、魔物とその周囲が真っ二つになる。ずれた空間が再びくっつくが、そこにはもう魔物の姿はなかった。

 

「はぁはぁ……」

「大丈夫かい!?」

「な、んとか……」

「いや、全然大丈夫そうに見えないよ? 汗も……」

 

 大分魔力残量が持ってかれた。魔石を取り出す手もおぼつかない。最初から空間斬れば良かったかな? ってこれじゃさっきと同じじゃないの。駄目ね、もう少し考えないと……。

 

「あ……」

 

 ふらり視界が揺れる。

 あ、これは倒れるなと一瞬で察した私は目をつむる。だけど、いつになっても地面にぶつかった衝撃のようなものが来ず、目をゆっくり開けるとそこには……。

 

「無理しすぎ。魔力量、少ないんでしょ?」

 

 銀髪金眼の魔法少女……リュネール・エトワールはこちらを覗き込んでいた。どうやら私は彼女に抱き抱えられてるみたいだった。

 ララのことバレたかな? と思ったけど、どうやらポーチに隠れたみたい。リュネール・エトワールの方を見ても特にバレているようには見えなかった。

 

「でも、お疲れ様」

「……ありがとう」

 

 そんな彼女の言葉に素直にお礼を言う。

 私はある意味、あなたと敵対しているような存在なのにどうして、そんなに優しいの? 聞きたい気持ちは強いけど、中々口には出せずに居た。

 

「今のうちに魔石」

「そうね……」

 

 あまり力が入らない手でポーチから魔石を取り出す。取り出せたのは先程の魔物の赤い大きめな魔石だったが、どの魔石でも良いだろうって事でそのまま使うことにする。

 

「チャージ」

 

 すると、スカスカに近い感じだった魔力が回復していくのを感じる。体中に魔力が駆け巡り、さっきまでの動けない状態から復活するのだった。

 

 リュネール・エトワール……今更だけど何でこんな場所に居たのかな? 確かに各地域で目撃はされているけど一番多いのは県北だったわよね。

 仮に他の地域でも魔物が現れていたら、そっちに居たのかもしれない。その場合だと、私はどうなっていたのかな……急に体が震える。

 

「大丈夫?」

「え、ええ……」

 

 魔法少女たちが来ない理由が……分からない。何かが起きているのは確かなんだけど……あの時の嫌な予感が当たってそうで、何処か怖い。

 

 私はそんな不穏な空気を感じながら空を仰ぎ見るのだった。

 

 

 



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Act.09:星月と黒百合共闘戦線③

 

「大分、落ち着いたわね」

「ん」

 

 ブラックリリーがあの魔物を倒してから、また近くで魔物が出現したのだが今回は俺が対処した。別にゴジラの魔物みたいに強い魔物ではなかったので、スターシュートやスターライトキャノンで十分だった。

 

「こんな短い間隔で魔物が現れるなんて……」

「ん。初めてかも」

 

 今まではそんな短い間にどんどん出現するなんて事はなかった。連続して現れる事自体は珍しくないが、問題はその間隔である。

 最初のゴジラの魔物を含めて三回も警報が鳴ったのだ。しかも、同じ地域ですぐ近く。歪とやらが発生しまくっているのだろうか。

 

 そして依然にも魔法少女の姿はない。

 

「一体何が……」

「分からない。ねえ、ブラックリリー」

「何かしら?」

 

 ちょっと他の地域も心配だ。

 

「テレポートって二人でも使える?」

「え? ええ、問題ないと思うわよ」

 

 それならちょっとブラックリリーに頼ることにするか。さっきまでの戦闘で疲れているはずなのに、申し訳ないけど……ホワイトリリーやブルーサファイアたちも心配だ。

 

「魔力を渡すから各地域に転移できる?」

「……分かったわ。私もちょっと気になってるから」

「ん。ここは協力ってことで」

「そうね」

 

 いくら魔法少女の身体能力があるとは言え、普通に移動してもそれなりに時間がかかる。魔力が少ないなら、そこは俺の魔力を譲渡すれば良さそうだ。

 

「それじゃあ、まずは魔石を回収しましょ」

「ん」

 

 そう言えばさっき倒した魔物の魔石をまだ回収してなかった、と思い出し俺とブラックリリーは魔物が居た場所へと向かう。

 

「また複数個? こんな落ちたかしら」

「ん。わたしの知る限りでは一体の魔物から複数個の魔石は見たこと無い」

「そうよね……」

 

 魔物一体につき、魔石一個。これが今まで魔物を倒した時の普通だった。そして強力な個体ほど魔石の大きさや内包する魔力が大きい。

 

 ただ今回は続けて三体の魔物が出現し、三体とも撃破後は複数個の魔石が転がっていたのだ。最初のゴジラのような魔物は5個、二番目のブラックリリーが対処した熊のような魔物からは3個。

 そしてついさっき俺が対処した魔物も、熊みたいな容姿をしていたが色が違った。強さ自体はそこまでではなく、あのゴジラのような魔物が異常だっただけだ。

 

 でだ。そんな三体目の魔物から落ちたのは少し大きめな感じだけど、最初の魔物よりは小さく、数は3個。二体目とほぼ同じくらいだな。やっぱり同種なのかね?

 

「どうする?」

「どうするって何が?」

「魔石の分配よ。どうせ全部受け取ってと言っても受け取ってくれなさそうだし」

 

 それはそうだ。

 俺一人で倒した訳ではないし、そもそも最初に戦っていたのは彼女だしな。むしろ、そっちこそ全部受け取って欲しいと思うんだが、まあ受け取らないだろうな。

 

 ゴジラの魔物の魔石は2.5個で分けたが、二体目と三体目で合わせて6個の魔石についてはどうするか。

 

「半々で良い。数も丁度良い」

「はあ……まあ、そう言うとは思っていたわ」

 

 そんな訳で3個ずつで分配し、魔石の回収は終わりだ。さて本来の目的を達成しに行くとするか……まあ、俺じゃなくてブラックリリーの転移頼りなんだけどな。

 

「それじゃ、行きましょ」

「ん。まずは魔力を渡す」

 

 俺はブラックリリーの背中に両手を当てる。魔力の譲渡については、一応ラビからは聞いていた。他人の魔力を使う事自体は不可能ではなく、譲渡の仕方も思ったより簡単だった。

 誰にでも出来る……らしい。取り敢えず、渡すには相手の身体の何処かに触れるしか無いんだよな。だからこうやって無難に背中を選んだわけだが。

 

「ひゃあ!?」

「ごめん、くすぐったかった?」

「い、いえ……ちょっと驚いただけよ」

「そう? 続けるね」

「ええ」

 

 ハーフモードになった時の事を思い出す。

 全身に駆け巡る魔力を感じ、それを今回は外へ出す感じだ。魔力装甲の方ではなく、内部。体内の魔力を腕を通して、目の前のブラックリリーへ送り込む。

 

「あっ……」

 

 何か凄い色っぽい声出してないか、ブラックリリー!? 慌ててブラックリリーを見ると、顔が赤く、何処かぼうっとしている感じだった。

 

「うっ……何か、凄い、変な、感じがするわ」

「大丈夫?」

「ええ……な、何とか」

 

 んーやっぱり、他人の魔力を受け取るとそうなるのだろうか。ラビの話では魔力自体は同じ物って言ってたし……取り敢えず、十分渡したと思うから一旦止める。

 

「あ……」

「これで大丈夫?」

「え、ええ……フル回復したわ。ありがとう」

 

 少し時間がかかってしまったが、これでようやく移動ができるだろう。うーん……魔力譲渡よりやっぱり、魔石の方が良いかな? ちょっと辛そうではあったしな。

 

「まずは何処へ飛ぶの?」

「ん。取り敢えず県西か鹿行?」

「分かったわ。まずは鹿行にしましょ」

「ん」

 

 何故最初がこの二つなのかは、特に理由はない。強いて言うなら県央とか、県北は多分優先順位が高い。だから魔法省の魔法少女が居るはず……と思いたい。勿論、後で俺たちも向かうけどな。

 でも良く考えれば、県南も日本の首都とかに近いしこっちの優先度も高い気もする……でも魔法少女の姿はなかった。この地域で一体何が?

 

「行くわよ」

「ん」

 

 今はそんな事考えてる時間はないな。

 

「テレポート!」

 

 ブラックリリーに促されるまま、手を繋げば彼女はおもむろに魔法のキーワードを紡ぐ。すると、一瞬だけ視界がぐにゃりと歪むが、直ぐに元に戻る。

 

「ついたわ」

「これが転移……」

「ええ。私の得意な魔法よ。最も、魔力量の事もあるからそこまで好き放題移動できる訳じゃないけどね」

 

 ショッピングモールではなく、全く別の景色に切り替わったことで、移動したっていうのを実感する。もうここは鹿行なのだろう。

 

「ここからじゃ、良く見えないわね……」

「ん。あの鉄塔が丁度良いかも」

「あ、確かに」

 

 この位置では、あまり良く見えない。なので、俺はすぐ近くにあった高い鉄塔を指差し、上から見ようと提案する。あの高さならそこそこ先までは見えるはず。

 

「テレポート」

 

 ブラックリリーが再び、転移の魔法を使用すると一瞬にして俺たちは鉄塔のてっぺんに移動する。

 

「そんな使って大丈夫?」

「この距離ならほぼ魔力は使わないわ」

「そっか」

「ええ。それよりも……」

「うん、分かってる」

 

 鉄塔の上から見た先。

 目視で視認が出来る大きな体躯の魔物……見た目は何か恐竜みたいな感じかな? 首が長い、クビナガリュウみたいな。言うて恐竜なんて図鑑とかでしか見たことないからはっきり分からないが、取り敢えず首が長い。

 

「こっちの魔物には一応、魔法少女が駆け付けてるわね」

「ん。でも少ない」

 

 見える範囲では二人くらいしか居ない。魔物の脅威度は分からないが、苦戦しているようには見えない。良かった、一応魔法少女たちも居るってことに安心する。

 だって、県南では影すら無かったんだぜ? そりゃ、心配になるだろ……もしかしたらやられていたかもしれないし。まだ分からないけど。

 

「どうする?」

「一応行ってみよう」

 

 普通に対応できているなら俺たちは、次の地域へ向かうつもりだ。県南と鹿行で出現確認……やっぱり、各地域で魔物が出現しているのかもしれない。

 取り敢えずまずはあの魔物に対応している魔法少女に近づく。

 

「ハイド」

「え?」

 

 お、どうやら上手く行ったみたいだ。

 ブラックリリーにもハイドの効果があったようで、俺と同じように空気に溶け込むように姿が消える。ただ、お互いも見えないみたいだからこれはちょっと、使い勝手難しいか?

 

「ん。お互いも見えないから手を繋ぐ」

「え? ええ。分かったわ。……こんな魔法も使えるのね」

 

 この魔法は俺の常用している物の一つだしな。自分自身にしか使ったことないから分からなかったが、他人にもかけることが出来るみたいだ。

 ただ消費する魔力も人数に比例しているようで、明らかに一人の時よりも消費が激しい。余裕はあるが、早めに済ませておこう。

 

 

 そんなこんなで、ブラックリリーの手を掴み、見えない状態のまま俺たちは魔物の方角へと向かうのだった。

 



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Act.10:星月と黒百合共闘戦線④

 

「スターシュート!」

 

 ホーミング付きの星が放たれ、魔物へと飛んでいく。着弾すると、毎度おなじみの星のエフェクト付きで爆発を起こし、煙が晴れると、魔物の姿はもう無かった。

 

「流石ね……」

「ん。魔物が弱かっただけ」

「弱いと言っても今の魔物、Bだったと思うんだけど」

「そうだね」

「まあ良いわ……噂通りとんでもないわね」

「それ程でも」

 

 自分の魔法が強力過ぎることについては、俺も何回か思うことがあるがそれを考えた所で何かの答えが出るわけでもない。たまたまこの力を授かったと考えるしかない。

 

 さて、俺が今倒した魔物だが、県西地域に出現していた魔物だ。狼のような容姿をしていて、一体ではなく三体くらい居たかな。ただ、その魔物自体は見たことあるし、戦ったこともあるので別に苦戦するようなことはなかった。

 狼のような姿をしている魔物は脅威度Bで、大体出現する時は少なくとも三体は居る。すばしっこいという厄介な点もあるのだが、戦い慣れていれば普通に対処できるくらいだ。攻撃方法も単純なものが多いし。

 

 鹿行地域については、魔法少女たちが戦っていて苦戦しているようにも見えず、大丈夫だろうと判断して県西に移動した感じだ。で、移動した瞬間魔物に襲われたという事だ。

 

 鹿行地域も一通り、見回った感じではあの魔法少女が戦っている魔物以外は確認できなかったので、心配ないだろう。ただ移動する前に気休め程度だが回復魔法であるヒールライトを、戦っていた魔法少女にかけておいた。

 

 ヒールだと射程が短い。結構近くで使わないと効果がなく、もっと言えば触れて使うのが一番である。なので、今回使用したのはヒールライト。

 ヒールとほぼ同じ効果だが、違うのはその射程。ある程度離れていても有効な魔法で、言うなら遠距離型ヒール? と言っても、あまり離れ過ぎるとヒールと同じく効果がなくなる。

 

 取り敢えず鹿行地域は大丈夫と判断し、魔力譲渡を行い県西に飛んできたって感じだ。最初譲渡した時と同じく、妙に顔が赤くなっていたのだが、やはり魔石にするべきか。次は魔石にしてみるか……。

 

「こっちも片付いたわ」

「やるね」

「あなたほどではないけどね……」

 

 ブラックリリーは保有する魔力量が少ないらしく、あまり魔法を連発すると直ぐに魔力枯渇を起こしてしまうらしい。ただ魔力量が少なくても使える魔法が結構エグい……。

 見てただけだけど、まずテレポートは移動で見たと思うが一瞬で移動できる魔法。他にも空間を作り出し、それを自在に操れるっていうのも強い。

 

 対象を空間の箱に閉じ込めるって事も可能らしくてもしかして俺よりやばい魔法なのではと思ってしまった。中でも一番やばいのはやっぱり、空間ごと斬るあの魔法だろう。あれを食らったら一溜まりもないな。

 

 ただ、俺はまだ使ってない魔法が幾つかあるんだよな。

 正確には反転世界では練習の一環として使っているが……ほら、ブラックホールとかね。あれ、影響力がやばそうだから封印しているんだけど……もしかすると使うしかない時が来るかもしれないな。

 

 嫌な予感と同じでそんな感じがするだけなので、何とも言えないんだがな。

 

 でだ。県西地域に魔物は俺が今倒した三体とは別に、もう三体居たんだよね。そっちはブラックリリーに対応してもらってた。俺の魔力譲渡の影響もあるっぽくて、最初よりかなり良くなっていたと思う。

 

 それでも油断禁物だ。いくら脅威度が低めな魔物とは言え、油断したら取り返しがつかない事になりかねないだろう。魔力装甲がある分には、大丈夫だとは思うが……。

 

「片付いたわね」

「ん。でもまだ他の場所にいるかも知れない」

「確かにね。二手に分かれる?」

「それも良いかも」

「……」

「どうかした?」

 

 俺がブラックリリーの意見を肯定すると、何故かこちらをじっと見てくる。

 

「私が逃げる可能性とか考えないの?」

「なるほど。別に逃げても良い」

「え?」

「付き合わせてるのはわたしだから」

 

 確かに逃げる可能性もあるだろうけど、別に逃げても良いと思ってる。それに、今のこの状態は俺のほうが無理矢理? 付き合わせている感じだしな。

 時間はかかるが、自分の足であっちこち回るのも出来るしブラックリリーが付き合う必要は正直ない。それに共闘と言ったものの、その詳しい期間とかも決めてないしな。

 

「そう……これを機に私を捕まえるなりすれば良いのに」

「わたしは別に魔法省じゃないから。捕まえる義務もない」

「……」

 

 ちょっとホワイトリリーたちには悪いが、俺は彼女をとっ捕まえて魔法省に連れて行く気はない。明らかに悪意ある行動をしていたら別だが、彼女は違うしな。

 何を根拠に言ってるって? それは特にない。強いて言うなら俺が根拠。俺が大丈夫と判断しているから大丈夫って感じだな。一応、人を見る目は普通よりあると思ってる……。

 

 仮に本当に悪意のある行動をしているなら俺はそれまで。責任持って俺が彼女を捕まえるさ。今の所、彼女から悪意は感じてないし、ラビもそう言ってた。

 まあ、様子見という感じである。止める必要があったらちゃんと、止めるさ。

 

「はあ。最後まで付き合うわよ」

「本当?」

「ええ」

「ありがとう」

「っ!」

 

 多分上手く笑顔ができているはずだ。

 ラビにリュネール・エトワールの時だと表情がほとんどないと言われたけどな。まあ、自分では見れないので、何とも言えないのだが、おかしな反応は無さそうなので、一応出来てたかな?

 

「?」

「なんでもないわ」

 

 ただ、顔を赤くしてたような? 気の所為だったかな。

 

「取り敢えず、この地域をもう少し見るんでしょ?」

「ん。わたしは向こう、ブラックリリーはあっちを頼める?」

「ええ、任せときなさい」

「わたしが言うのもあれだけど……一応気をつけてね?」

「ええ」

 

 俺が言える側ではないのだが……取り敢えず、お互い気をつけるという事で俺たちは、一度二手に分かれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「何なのよあの子本当に……」

「ふふ。ブラックリリー、顔赤くしてたね」

「してないわよ」

「そうかな? 今も赤いよ?」

「う」

 

 ええ、認めるわよ。

 多分今の私は顔が赤くなっている。理由はわからない……訳ではないけど、あの笑顔は反則よ。前に会った時とか、表情がわからない感じだったのに……。

 

「まあ、あの顔は反則だね。普段表情出さない子の笑顔は破壊力があるって聞くよ」

「何処の話よ……」

「え? この世界に良くある話じゃないか」

「……ライトノベルのこと言ってる?」

「ああ、そうだったね! そうそれ!」

 

 ライトノベルと現実を一緒にするのはどうかと思うけれど。というか、ララ……ライトノベルなんて知ってたのね。そっちに驚いたわ。

 私も少し読んだことあるけど、結構面白いわよね。色んな世界観があって色んなキャラが居て……魔法や剣もたくさん。魔法については現実に存在してるけど。

 

「はあ……」

 

 でも。

 あの子と居るのは別に悪い気はしない。敵であろう私のことを助けてくれたし、回復までしてくれた。魔石だって……何か思ったのと違ったなあ。

 

 県南に彼女が居て……そのそっくりな女の子とショッピングモールで会った。やっぱり、彼女はリュネール・エトワールなのかな?

 そうでなかったら、ちゃんと避難してるかな? 初めて会った子で、言葉数は少なかったけど普通に話せば話してくれるし……無事だと良いな。

 もし、リュネール・エトワールなら一緒に今居るわけだけど……そう言えば喋り方とか雰囲気も似てるわよね。

 

「……」

「どうしたんだい?」

「ええ。リュネール・エトワールについて考えたのよ。ショッピングモールで会ったあの子にやっぱりそっくりで」

「確かにね……雰囲気も喋り方も」

 

 ここまでそっくりな子が居るだろうか。

 でも、仮に彼女がリュネール・エトワールなら変身前とほぼ容姿が一緒って事になる。それはララの話からしても、異例な魔法少女だ。

 

「まあ、今は魔物じゃない?」

「そうね。今考えることではなかったわね」

 

 何はどうであれ、今は共闘関係なのだから。

 

 

 

 

 



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Act.11:異常事態①

久し振りのホワイトリリーが登場します。
むしろ、ほとんどホワイトリリー視点です←


 

「スターライトキャノン!」

 

 シュンっと静かにステッキからビームが放たれる。それはまっすぐ魔物を捉え、そして貫く。正確には貫くと言うか、着弾して爆発しているのだが。

 

 一度二手に分かれ、他に魔物が居ないかを確認していた所、魔物を発見。案の定、誰も駆け付けてなかったので、俺が今倒した所だ。

 魔物自体はそんなに強く無さそうだが、数が異常である。こうなると他の地域も怪しいかもしれないな……県南にもまた新たに出現している可能性もある。

 

 見た感じでは、県央と県北がもしかするとやばいのかもしれない。それで、魔法少女たちが総動員されている……それなら納得だが何人かをこちらに充てがうことは出来ないのだろうか。

 

 まあ、来てない以上、対応できるのは俺たちくらいか。

 

「……真白、大丈夫かな」

 

 真白だけではなく、ホワイトリリーやブルーサファイアも心配だ。彼女らは恐らく県央かな? 真白は友達と会っているが、危ない目にはあってないだろうか。

 その真白の友達も、無事だと良いのだが……うーん、こればっかりは県央と県北に魔法少女たちが居る事を祈るしかないか。

 

 勿論、今すぐ向かっても良い。

 でもそれだと、この地域はどうなるか? 俺の住む地域が何処であろうと、破壊されたりとか滅茶苦茶にされるのは見たくない。

 

 倒した魔物の魔石を回収した後、足に力と魔力を込め、思いっきり上へと飛び上がる。超人的身体能力によって、一気に空高く飛び、近くにあった鉄塔のてっぺんに着地する。

 

 さっきの魔物以外は、居なさそうかな? 地上を見た感じでは、もう魔物の姿は見えない。一旦落ち着いたって所だろうか。

 

 ブラックリリーの方はどうだろうか? ここからじゃ分からないけど、向こうにも魔物は居そうな気がする。

 空を見ると、さっきまで晴れていたのにいつの間にか太陽が厚い雲に隠れ、天気はすっかり曇り。今にでも雨とかも降りそうだ。

 

 風も徐々に強くなってきている気がする。……それはまるで、今の状況を伝えているかのように。

 

「……茨城地域で何が」

 

 その答えを知るものはこの場には居ない。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「何が起きているんでしょうかね……」

 

 私は茜さんから聞いた今の状況にそう呟きます。

 何が起きているのかと言えば、これは私もさっぱりなのですが魔物が一斉にこの茨城地域全体で出現したそうです。それぞれの個体はそこまで強くないみたいなのですが……私はどうもハズレを引いてしまったようです。

 

 目の前……というより空中に居るのはクラゲのような見た目をしている大きな魔物です。無数の触手をくねくねさせていて、正直見ているだけでも気持ち悪いです。

 一度、前に触手に捕まったことを思い出しますがあれがまだマシだと思うほどです。あの時はリュネール・エトワール……司さんが助けてくれたので良かったのですが。

 

『気をつけて、その魔物は脅威度S並よ』

「はい、分かってます……」

『その魔物は過去のデータと不一致です。つまり、新種ってことになります』

 

 連絡端末から茜さんではない、別の女性の声がはいってきますが彼女はアリスさんと言って、魔法省の技術開発部……つまり、技術関係を担っている方です。

 普段は部屋から出てきませんが、通信は良くしてたりします。今回は異常事態でもあるので、結構表立って出てますね。

 

「つまり……」

『ええ。魔法省の感知による脅威度はあまり当てにならないわ。ただ過去のデータを参照した感じでは、その魔物はS並となってるそうよ』

 

 県央に出現した、クラゲのような魔物。データでは脅威度S……それは長らく出現していなかった魔物の脅威度です。Sの魔物が出たのは3年ほど前だと聞いています。

 他の魔物と違うのは、そのクラゲの魔物はただただ中央の空中にふわふわ浮きながら、何をする訳もなく触手をうねうねさせているだけなのですよね。こちらに気付いた様子もありません。

 

「他の地域はどうなってるんですか?」

『さっき報告した通り、各地域に魔物がかなり短い間隔で出現しているわ。それぞれの魔物の脅威度から判定して魔法少女たちを散りばめてるけど、それでも不足してるわ』

 

 聞けば、県南にも魔物が出現したらしいのですが、他の地域と時差があっての出現だったため魔法少女が向かえてなかったそうです。

 

「県南は大丈夫なのですか!?」

『落ち着いて。丁度偶々県南に居たリュネール・エトワールが対応したそうよ』

「リュネール・エトワールが……」

 

 そうですか、司さんがやってくれたんですね。流石です。でも、司さんは野良……本来なら私たちが対応しなければ駄目なのに、本当に申し訳なささがあります。

 人手不足なのは承知してしますが……。

 

『それと、黒い魔法少女も一緒に居たそうよ』

「黒い魔法少女ですか?」

『ええ。魔法省のデータベースには居なかったから彼女も野良ね。リュネール・エトワールと行動しているそうよ』

 

 何だかちょっとモヤッとしますが、今は我慢です。とにかく、その黒い魔法少女にも感謝しないといけませんね。

 

『ただ、その黒い魔法少女の特徴が以前あった、襲撃事件の時の話に聞いた魔法少女の容姿に近いのよね』

「え……」

『まだそうとは言い切れないけど……』

「そうですか……」

 

 リュネール・エトワールが向こうのサイドに付いたのでしょうか。いえ、それは無いはずです……司さんは良い子ですし、悪い人に付いていくとは思えません。

 

 あくまで私個人の考えですけど……あまり信じたくないです。

 

『まあ、黒い魔法少女については情報も全くないから今考えても時間の無駄ね。話を戻すけど、他にも県西や鹿行、県北にも魔物が大量に出現しているわ。魔法少女総動員で対応してるけど、足りない状態ね』

 

 県南の魔物はさっき言ったように、リュネール・エトワールと黒い魔法少女が倒したみたいで、今は魔物の姿はないそうです。ただ、県西地域に魔物を観測しているみたいですね。

 県西には魔法少女が向かってますが、現状魔法少女が居らず、魔物が野放しになってる状態のようです。幸い、今の所一般人に被害はないようですが、家屋には若干の被害が出ているそうです。

 

『他にも自衛隊が避難誘導を行っている感じよ。ただ知っての通り彼らの武器は魔物には効かない……』

 

 今回ばかりは、自衛隊も出動し避難誘導や避難者の支援を行っているそうです。ただ、魔物が現れた場合、彼らの兵装は役に立ちません。魔法少女の救援要請も出ているみたいです。

 

『もう、あっちこっちドタバタしてるわ。本当に何が起きているのよ……それで、ホワイトリリー、魔物の様子はどう?』

「依然変わらず、空中でふわふわしてます」

『そう……様子見って感じなのかしら』

 

 襲って来ない魔物なんて初めてですよ。何をしているのか分かりませんが……かと言って、下手に刺激するのも悪手ですよね。私も魔物の対応を行いたいのですが、Sの魔物が居る以上、ここから離れられません。

 何故なら対応できる魔法少女は私しか居ないからです。脅威度Sの魔物は本来なら、Sクラス魔法少女が複数人で対応する敵ですからね。最低でも二人です。

 

 ですが、残念ながらこの茨城地域にSクラス魔法少女は私しか居ないのです。野良ならリュネール・エトワールと言う魔法少女が居ますが……。

 

『新しい情報が入ったわ。県西地域に出現した魔物も討伐されたそうよ』

「魔法少女が到着したのですか?」

『いえ、向かってる途中で入ってきた情報ね』

「え、それでは誰が……」

『リュネール・エトワールと、黒い魔法少女よ』

「また?」

 

 あまりにも対応が早くないでしょうか?

 そんな早く移動できますかね……いえ、彼女は想像を覆す程の魔法少女ですし、今更ですかね? もしかすると、黒い魔法少女のお陰なのかもしれませんが。

 

「むむむ」

『気持ちは分かるけど、今は抑えなさいな……』

「はい、すみません」

 

 またムッと来てしまいました。その黒い魔法少女は何者なんですかね……リュネール・エトワールと一緒に行動しているなんて、羨ましいです。

 

『これで残るは県北と県央ね。鹿行は数が少なく倒せたみたいよ。ただもう少し警戒するって今、鹿行地域に居る子から連絡が来たわ』

「そうですか……茜さん、何が起きているんでしょうか」

『それはわからないわ。ただ少なくとも……』

 

 ――茨城地域で何かが起ころうとしている。

 

 そう、茜さんは静かに言いました。

 

 

 

 



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Act.12:異常事態②

 

「アリス、現在の対応状況は?」

「はい。えっとですね……まず、県南地域、県西地域、鹿行地域では落ち着いている感じです。新たな反応は今の所なしです」

「リュネール・エトワールと黒い魔法少女のお陰ね……」

 

 はあ、とため息を一つつく。

 

「茜さん、ため息すると幸せが逃げますよ」

「とっくに幸せな日々は終わってるわ……学生時代に戻りたい」

「嫌な予感の正体はこれだったんですかね?」

「違う……気がするわ。もっとこう、何かやばいことが起きそうな感じがしているのよね」

 

 ただの予感でしか無いけど、実際今の状況は異常よ。

 こんな魔物が一気に出現する例なんて、過去になかったわ。特にこの茨城地域ではね。

 

「県南と県西にも魔法少女を派遣したいんだけど……」

「こっちの対応で手一杯ですね……特にAクラスの魔法少女は」

「そうね。Sクラス魔法少女のホワイトリリーは、あのクラゲの魔物の監視を頼んでるし」

 

 鹿行地域も、今居る子はBクラスの子が二人だけ。B以下の魔物には対応できると思うけど、Aとかが出た場合はどうなるかわからない。

 かと言って、別の魔法少女を向かわせるのも今の状況ではきつい。何故なら県央と県北はAの魔物が大量に出現している。それの対応に追われているのだ。

 

 県南にもAの魔物を感知したけど、時差もあって向かわせられる魔法少女が居なかった。これは本当にまずい状況と思ったけど、偶然なのかわからないけどリュネール・エトワールが県南に居たお陰で被害はほぼなし。

 

 でもこの状況は駄目ね。野良の魔法少女を頼ってしまってる。聞けば、県西地域の魔物も彼女たちが対処したと言うじゃない。

 

 でも、そんな早く移動できるものなのかしら。

 あーでも、リュネール・エトワールなら何か色々と持っていそうよね……彼女がそういう力を持っているって可能性もあるし、今更かしら。

 

 分からないわね。

 そして……そんなリュネール・エトワールと一緒に居た黒い魔法少女。この子についても謎が多いわ。魔物を一緒に倒しているし、イマイチ分からないわよね。

 それにリュネール・エトワールと行動している……リュネール・エトワールが敵に付いたとも考えにくいし……となると襲撃事件の時の魔法少女とは別なのかしら。

 

 いえ、今はそんな事ではなく、魔物の大量出現の方が重要よ。リュネール・エトワールと黒い魔法少女については、今の所は魔物倒しをしてくれているから、そのままにしておきましょ。野良に頼るしか無いなんて、魔法省としてはあれだけど、人手不足なのはどうしようもないわよねえ。

 

「試作型の魔導砲……試せてないのよね」

 

 流石にこんな異常事態に試作型魔導砲を使う訳にも行かず……というより、後ちょっとで準備が整う所だったのにこの有り様よ。

 

「仕方がありませんよ。突然の異常事態ですから」

「そうだけどねえ……」

 

 私たちには現状何も出来ないのがもどかしいわ。

 

「今はただこうして見守るしか無いです」

 

 そんな事話していると、通信が来ている事を知らせるアラームが鳴る。その回線に繋ぐと、画面に現れたのはブルーサファイアだった。

 

「ブルーサファイア、どうかしたの?」

『はい。実は県北地域の魔物の数が減少傾向です。結構余裕が出てる子たちが増えています』

「そう……良かったわ。残党数はどのくらいかしら?」

『そうですね、これからまた出現する可能性もありますが、今のところでは残り20といったところです』

「結構減ったわね」

 

 県北地域には現在、12人の魔法少女が派遣されていて、県央は15人。残り3人のうち、一人はホワイトリリーだけれど、彼女にはさっきも言ったと思うけど推定Sの魔物の監視をしてもらっている為、対応が出来ない。

 そして残り二人が鹿行地域に待機している状態ね。ただ、県央と県北の魔物の出現数が異常だったから県南と県西まで手が回らなかった。そこは反省しているわ。

 

「本当に人手不足ね……くう」

「今回は本当にリュネール・エトワールのお陰ですね……」

「本当にね。彼女にはもう感謝しきれないわ……最も、彼女にはその気はないみたいだけれど」

「そう言えば、茜さんは彼女と会ったんでしたっけ?」

「ええ。表情が少ない子だったけど、話した感じでは普通ね。まあ、ホワイトリリー以上に大人っぽかったけどね」

 

 後、言葉数も少なかったわね。見た目的にはホワイトリリーとかブルーサファイアに近いけれど……。まあそれで、その時やっとお礼が言えたところよ。

 向こうは助けているつもりはないみたいだけど……後、魔法省の事を別に嫌ってないとも言ってた。それが本当かは分からないけど、少なくともあの時見た感じでは本当そうだったわ。

 

 ……ま、今は置いておきましょ。考えても謎だらけなんだし、無駄よね。

 

 私は再びモニターの方を見るのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「うーん……」

 

 私は空中で何もせずに浮いている魔物を見て唸ります。

 一体何が目的なのでしょうか? 何ていうか、魔物は良く分かりません。それは前々より思っていることですけどね……そもそも、魔物自体、魔法少女と同じで謎が多い生命体です。

 人が多い所を好み、出現するとその人が多い所に向かって大半の魔物が侵攻してくるのですよね。そういう習性があるという事だけははっきりしています。

 

 ただ、今県央上空を陣取っているクラゲの魔物は更に謎です。人がいっぱいいる所に向かう事もなければ、その場で暴れる事もなく、静かに浮いています。

 

 最新の情報ですが、どうやら県北地域の魔物がようやく減少傾向になったみたいです。頻度も徐々に収まりつつあるようで、魔法少女にも余裕ができた子が何人か。

 もうしばらくは様子見のため、待機してるみたいですが問題なければ県北地域の魔法少女たちを各地域に分散できるそうです。と言っても、県南と県西、鹿行地域は現状魔物の出現は止まってるそうですが。

 

「ホワイトリリー、大丈夫?」

「え? あ、ホワイトパール……こっちに来てたんですね」

「はい。一応、県央地域も魔物が落ち着いてきてるので余裕ができてます。と言っても、まだ油断できない状況ですけどね」

 

 そんな事を考えていると、見知った魔法少女のホワイトパールが直ぐ側に居ました。彼女は数少ない茨城地域のAクラス魔法少女で、県央地域の対応を行っていました。

 どうやら県央も最初よりはマシな状態になってるそうで、ちょっと安心しました。まだ完全に安心という訳にも行きませんけどね。あの魔物とかもありますし。

 

「ホワイトリリーの方は今どんな感じかな?」

「特に変わりないですね……あの魔物が全然動きませんし」

「あー……」

 

 空に浮かんでいる魔物を見ながらそう言うと、ホワイトパールもその魔物を見る。

 

「この辺には魔物が出ないんですよね。……多分、あのクラゲの魔物が居るからだと思いますが」

 

 こうやって監視をし続けていますが、この辺には魔物が全く出現しません。いえ、出現しない方が都合が良いので、そこは良いのですが。

 仮に魔物が出現して戦ったら、あのクラゲの魔物も動き出すかもしれませんしね。

 

「なるほど。……あれ何なんだろうね」

「うーん。クラゲとしか言えませんね」

 

 ……仕方ないじゃないですか。クラゲとしか言えませんし……触手の数は無駄に多いですけどね。そしてくねくねさせています。

 

「ホワイトパールはこれから何処か行くんです?」

「一応、県西地域と県南地域に向う予定かな。現状なら数人くらい抜けても大丈夫っていう感じで、茜さんから」

「なるほど。あれ、数人って言うことは他にも?」

「うん。私と後ブラックパール、それから県北地域に居るブルーサファイアと数人かな?」 

 

 蒼ちゃんも向かうのですね。

 私はずっとここにいるしか無いので、ちょっと他の地域に行けるのが羨ましいですね。

 

「っと、そろそろ行ってくるね」

「あ、はい。気をつけてください」

「ありがと! ホワイトリリーもね!」

「はい」

 

 ホワイトパールの言葉に返事をした後、彼女はその場を去っていきました。

 

「……はあ」

 

 全然何も出来てなくて、申し訳ないです。他の魔法少女たちは戦っているのに、私はここで見ているだけです。そういう指示なので仕方がありませんが。

 

 とにかく、この異常事態が早く収まると良いなと思いつつ、監視を続けるのでした。

 

 

 

 




ぽっと出る新たな魔法少女()
これからの出番はあるのか! ……←


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Act.13:異常事態③

 

「どうやら、話を聞いた感じだと県北地域と県央地域に大量の魔物が出現したそうね」

「だね。だから他の地域のに魔法少女が居なかった……」

「ええ」

 

 俺たちは今、県西からは移動していて現在県央地域にやって来ている。ちょうど良い感じに見渡せそうなビルの屋上にて、話を軽くまとめていた。

 手に入った情報では、ほぼ同時に各地域に魔物が出現したらしい。それは俺も何となく、察していたが問題なのがここからでも見える、あの空中に浮いている魔物だ。

 

 クラゲにも見えるし、クラゲにも見えるようなそんな大きな魔物が水戸市上空にふわふわと浮いている。タコ、には流石に見えないな。

 でだ。あの魔物はああやって空中にただただ居るだけで、何も行動をする気配もない。繰り返し流れる、魔物の放送では空中のクラゲは脅威度Sと判定されているようなのだが、新しい個体ということでまだ正確には分かってない。

 

 見て分かる通り飛行能力は備わっているみたいだ。何をしたいのか、さっぱり分からん。魔物って普通、襲ってくるようなもののはずなんだが。

 

「そしてあの魔物よね」

「ん。未だに動かないみたい」

 

 あのクラゲの魔物は要注意対象だが、今の所何もして来ないため、魔法省も監視だけなのかな? まあ、そこら辺は直接聞かないと分からないのだが。

 

 それで、他に情報があって県北地域での魔物の出現頻度が落ち着いてきているみたい。これはひとまず、安心と言えば良いかな? 真白も無事だと良いが。

 

 残るはこの県央地域。

 最初よりは落ち着いてきているようだが、依然出現頻度が高く、魔法少女たちも対応にあたっている。BとかC以下の魔物ならともかく、AとかAAの魔物もちまちま出現しているようで、Aクラス魔法少女も総動員してるそうで。

 

 正直、俺も何が起きているのか謎だらけだ。

 自分の事もそうだが、この同時多発に出現した魔物……聞けば、他の千葉地域だとか東京地域とかではこういう事は起きてないらしい。それでも、あの辺は出現する魔物の数も多いから、起きていても気付かないってパターンも考えられるけど。

 

 加勢、はしなくても大丈夫そうなんだよな。

 県央と県北については、多分大丈夫……今は出現していないけど、俺たちがやるべき事は……魔法少女の手が届いてない所の対応くらいか?

 

「どうするの? 加勢するなら私は流石にパスしたいんだけど」

「うん。そうだね……ブラックリリーは魔法省に手配されてる」

「う……」

 

 そんな事言うと、ブラックリリーは何も言えなくなる。ちょっと悪い事したかな? だけど、ブラックリリーが手配されているっていうのは嘘でも本当でもない。

 ただ、要警戒対象として魔法省が扱っているのは知っている。ホワイトリリーが言ってたしな……毎回思うが、そんな事を俺に教えて大丈夫なのか?

 

 一度聞いたことがあるんだが、その時の答えが許可もらってるっていうものだった。いやいや、ホワイトリリー……魔法省のどんな人物と関わりがあるんだ? 分からん。

 そういう許可を出せる人って結構上位の職位の人じゃね? って思うんだよ。ただそれについては聞いても、教えてくれなかったが……まあ、当たり前だよな。

 

 でも良く考えたらホワイトリリーって茨城地域の唯一のSクラス魔法少女だし、そういう偉い人と関わりがあるのも納得かもしれない。主力と言うべきか、一番の実力者? な訳だしな。

 

「冗談。手配はされてないと思うけど、間違いなく要警戒対象にはされてると思う」

「まあ、そうよね……」

 

 ブラックリリーも自分がした事に思うことがあるのか、俺の言葉に納得といった顔をする。やっぱり、悪い子ではない……と思うんだよな。

 

「あ」

「どうしたのよ? 魔物でも出た?」

 

 そんな事考えていると、ふと俺は思い出す。

 以前の魔法少女襲撃事件で実行犯? をしていた男は、黒い魔法少女に脅されたと言われていた。そして、魔物を二体召喚したっていう事も。

 

「一つ、聞きたいことがある」

「それは私に?」

「ん」

「……良いわ。答えられるものならこの際答えるわよ。ただ、前にも言ったけど目的は教えられないわよ」

「分かってる。聞きたいことは……」

 

 今さっき思い出した事を、ブラックリリーに聞くことにした。

 

 

 

 

 

「え? 魔物を召喚?」

 

 何か改まってリュネール・エトワールが、私に聞きたいことがあると言ってきたので、その話を聞くだけなら聞くって感じで答えたんだけど……。

 

「ん。男は魔物を二体召喚したって言ってた」

 

 はあ!? 何よそれ、私そんな事した覚えないわよ。いやそもそも、魔物を召喚ってそんな事私ができる訳ないじゃないの! 空間操作できるだけの魔法少女よ? 召喚って全く違う魔法じゃないの。

 

「何よそれ、私覚えがないんだけど? 魔物を出すって何よ……」

 

 こればっかりは私も怒って良いわよね。

 と言うか、あの男そんな事言ったの? 確かに脅しに近い何かをした自覚はあるけれど、魔物を呼び出すとかしてないわよ、本当に。

 そんな魔法があったとしても、私が使う訳ない。ララも多分止めるわよ?

 

「その言葉に少し安心」

「こればっかりはちょっと、私も訳分かんないんだけど? どういう事なの?」

「ん」

 

 話を聞けば、その男は黒い短剣で魔法少女を刺せ、と脅されたと供述したらしい。短剣を渡したことは認めるわ。ララが用意していた短剣は、魔力を吸収する効果があるもので、実害自体は無いけど、魔力を回収できる短剣ね。

 ララはこの短剣のことをエーテルウェポンの一つって言っていたわね。エーテルウェポンの一つ、と言ってる通り他にもこう呼ばれるものがあるらしい。

 

 妖精世界に存在していた魔力を宿す武器……それがエーテルウェポン。エーテルウェポンは魔力を宿していて、普通の武器とは異なり、特殊な力を備え持っているみたい。

 

 何かファンタジーのライトノベルとかに出てきそうな設定の武器よね。というか、ララはライトノベルを知ってたし、そこから持ってきたとかじゃないわよね?

 

 流石にそれはないか。

 だって、私は実際そのエーテルウェポンっていうのを受け取っていた訳なんだし。

 

 残念ながらそのエーテルウェポンは、魔法省に回収されてしまったみたいだけれど。男と一緒にね……じゃなくて、エーテルウェポンの事ではなく、本題は魔物よ。

 

「そんな事を……でもこれだけは言わせて。魔物を呼び出したり出来る魔法なんて私は出来ないわよ」

 

 そんな魔法、初めて聞くわよ。空間操作……確かにテレポートとかで魔物を飛ばす事は出来るけど、魔物って巨体が多いじゃない? あんな物にテレポート使ったら私の魔力が持たないわよ!

 

「そっか。……だとすると男は何でそんな事を」

「それは私の方が聞きたいわ」

 

 普通に考えられるのは私に全て擦り付けようとしているって事よね。いえ、そもそも私がそうさせたのだから擦り付けも何も無いわよね。

 

「うん。ごめん。ちょっと思い出したから」

「別に気にしてないわよ。最も、私の言葉を信じるかはあなた次第だけどね」

 

 今は共闘関係なのはそうだけど、実際は敵なのだし信じられるかと言われたら、普通は信じられないわよね。普通ならね……。でもこの子は普通じゃないのよねえ。

 

「信じてるよ」

「……あまり人を信じすぎるのどうかと思うけれど」

「ん……それは言われたことある」

 

 あるのかーい!

 って、この子ににいちいち突っ込むのも疲れるわね……でもまあ、確かにそれが出来るほどの実力は持っているものね。私は魔法少女としても魔法が強いだけで自身はそこまでじゃないし、本来の元の体も普通じゃない。

 

 何かちょっとだけ羨ましいかも。リュネール・エトワールとなら仲良くなれるのかな? 魔法省の魔法少女たちとは、多分敵対しているから出来ないわよね。でも彼女は野良……。

 

 って、私は何を考えているのよ!?

 

「とにかく、次何するか考えましょ」

「ん」

 

 さっきの事は忘れる事にしよう。うん、それが良いわ。

 私は少しだけ無理矢理ではあるけれど、思考をリセットし話題を変えるのだった。

 

 

 

 

 

 



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Act.14:妖精書庫①

 

「真白、大丈夫だった?」

「あ、お兄! 良かった、うん、私は大丈夫だったよ!」

 

 茨城県全体において、発生した魔物の同時発生の異常事態。県北地域と県央地域では未だに魔物が、出現しているものの大分落ち着いてきているようで、現状では各地域に数名の魔法少女が待機・対応している状態となった。

 

 県南地域や県西地域に魔法少女が居なかった理由は、県央と県北に於いて異常な数の魔物が発生していて対応が回らなかったということだった。魔法省は正式にその事を謝罪しているが、別にそれを非難する者は居なかった。

 今回のこの発生の事件については、県庁も一緒に謝罪し、それの効果もあったのかも知れない。ともかく、荒れないで済んだのは良かったと思う。

 

 最も、魔法少女という年端も行かない少女たちを戦わせているという自覚が、皆あるからっていうのもあるだろう。それに今回の大量発生については完全に想定外の事だった。

 

 まあ、陰ながら非難している者もいるかも知れないが、公にそんな事をする者は居なかった。他にはやっぱり、大きな被害がなかったというのもあるだろう。

 何軒かの家屋が壊れてしまったが、運が良いのか悪いのかほとんどが人が住んでいる建物ではなかったと言う。最も、人が居ないとは言え、倉庫とかだと中に入っていた物とかが壊れてしまっている可能性もあるが。

 

 人的被害はなく、こんな突然の異常事態発生にも関わらず被害が少ないのは本当に幸いしたと思う。

 

 壊された建物とかについては、県や国が支援してくれるのでそこは問題ないかも知れない。あとは、魔法少女の力で済むならそれで直すっていうのもある。

 一応、回復系に特化した魔法少女も居るのだが、言葉通り回復に特化しているため、戦闘面ではあまり活躍できないというのものある。

 因みに、こう言った回復系の魔法少女は大体が後方支援に回ったり、後は魔法少女の一編成の中に組み込まれたりする。

 

 で、話を戻すのだがそんな経緯もあって俺はブラックリリーと一旦別れ、真白を探す……つもりだったのだが、家に戻ったら真白が居た。無事な姿で。

 

「良かった」

「心配してくれたの?」

「ん。……当たり前」

「そっかー……うん、ごめんね心配かけて」

 

 そりゃあ、真白は唯一の家族だからな。心配するのは当然だ。それに、他にも色々と助けられてるしな……。今のこの身体とかね。

 

「でも、私からするとお兄の方が心配なんだよ」

「ん」

「そんな姿になっちゃって、魔物と戦って……今回は異常事態だし、お兄が戦ってるのを思うとね」

 

 真白の言う事はご尤もだと思う。

 真白からしたって俺は唯一の家族だし、それはお互い様だよな。しかも俺の場合は、今何故かこうなってしまってるし……魔法少女として戦う分にはあまり変わりがないから良いんだが。

 

「ごめん」

「お兄も無事で良かった」

「って、撫でないで……」

「えー、お兄可愛いんだもん!」

「もん、じゃない」

 

 結局そう言っても真白が俺の頭を撫でるのをやめることはなく、しばらく撫で続けられたのだった。でも、別に嫌な感じではない。ちょっと恥ずかしいと思っただけだ。

 

 

 

 

「それにしても、何が起きたの?」

「分からない。各地域で魔物が大量出現したくらいしか言えること無い」

「まあ、そうだよねー。お兄も魔法少女だけど、魔法省じゃないもんね」

「ん」

 

 少した所で、真白がそんな事を聞いてくるがぶっちゃけ俺にも分からない。ホワイトリリーかブルーサファイアに聞けば分かるだろうが、二人は今回の魔物の対応に追われてそうだし会えるかも分からん。

 まあ、連絡先交換してるわけだし、それで聞けば良いのだがそれもそれで何だかな。因みに、連絡先を交換しているもののそこまで会話をしている訳ではない。

 

 正直、あんなの無くても見回りとかしていると、割とよく遭遇するんだよな。多分、実際あって話している方が多い気がする。

 まあ、それでも確実に会える訳じゃないけどな。CONNECTで話すのは時々といった感じ。それはブルーサファイアも同じで、そこまでガンガン、チャットしている訳じゃない。

 

 多分、二人に聞けば詳しく教えてくれるかも知れないが……俺一応野良だしな。

 

「取り敢えず、この茨城地域全体に魔物が大量発生したって所だよね」

「うん」

 

 そう。言ってしまえばもうそれだけである。

 

「年末ももう間近なのにね……」

 

 本当にそれである。

 後数日でもう年末の大晦日となり、それを過ぎれば新年となる。こんな時期に、魔物の大量発生なんて言う異常事態が発生しているのは幸先が悪い。

 

 それに、未だに嫌な予感がしているのだ。

 嫌な予感の原因は今回のこれかと思ったのだが、一向にこの予感が消えることはなく、むしろ強くなってきているとさえ思える。

 

 これじゃないとすれば、一体何が起きるのか? それは分からない……だが、出来る限り何があっても良いようにしておく必要もあるだろうな。

 

「お兄、そんな悩んでどうしたの?」

「……未だに嫌な予感が消えない」

「そう言えば、お兄言ってたよね。嫌な予感がするって」

 

 俺はその真白の言葉に頷く。

 

「あまり気にしないほうが良いと思うけど……お兄、考えすぎも良くないよ」

「ん。分かってる……でもどうしても消えなくて」

「お兄……」

 

 これから何かが起きるというその不安もある。それもしかすると、世界を揺るがすような事だったら? 俺はそんなの立ち向かうことができるのだろうか。

 

「何、辛気臭い顔してるのよ」

「ラビ?」

「ええ。今戻ったわよ」

 

 そんな事考えていれば、ラビがいつの間にか俺の右肩のぽつんと座っていた。

 

「あ、ラビ。お疲れ様……それでお兄の事って何か分かったの?」

「まだ全然よ……過去の事例を確認したりとかしていたんだけど、一致する現象は見つからなかったわ」

「過去の事例?」

「ええ。そう言えば、これについては言ってなかったわね」

「?」

 

 ラビは何処から取り出したのか、一つの鍵のようなものを手に持っていた。金色の鍵で、何か妖精の羽みたいなデザインが付いてる感じで、キラキラしていた。

 

「何これ、キラキラ光ってる……鍵?」

 

 真白がその鍵に近付いて、そんな事を言う。

 あのキラキラしているのは……間違いない。魔力だ。つまりあの鍵には魔力があるという事だろうか?

 

「そのキラキラって魔力?」

「正解よ。これは妖精書庫に行ける魔法の鍵」

「妖精書庫……?」

「妖精書庫についてはまた後で。とにかく、ここに行って色々と探したんだけど……」

「やっぱり何も分からなかった?」

「全くという訳じゃないんだけれどね……」

 

 そう言いつつ、ラビは鍵を空中に差すような動作を行う。何やってるんだと思ったが、ラビが手を離すと何とその鍵は空中に浮いたままだったのである。

 

「何を……」

「まあ、見てなさい」

 

 空中に浮いた鍵は自動的にくるりと回転する。それと同時に、ドアの鍵を開けたときのようなガチャッという音が鳴り、眩い光を放つ。

 一瞬にして、俺と真白、ラビは光に包まる。あまりにも眩しかったので、俺は咄嗟に目をつむる。

 

「もう大丈夫よ」

「え、何ここ!?」

 

 ラビの声と、真白の驚いた声が聞こえ、瞑っていた目を開ける。すると、どうだろうか。

 

「え……」

 

 天高くまで、重なる大きな本棚。

 

 ガラス張りの天井。

 

 ガラスから入り込む優しい光。

 

 周囲を流れる、小さな小川。

 

 いっぱいに広がる自然。

 

 

 

 

 ……まるで、幻想世界の中に入り込んだような光景が目の前には広がっていた。心なしか、空気も綺麗に感じる。一言で言い表すなら自然図書館だろうか。

 何処から流れているのか湧き水のようなものが小川へと、たらたらと静かに落ちていく。

 

「ここは……」

 

 大自然の中にある書庫? いやいや待て、こんな所聞いたことも見たこともないぞ。

 

「驚いたかしら?」

「凄い……けど、ここは一体」

「お兄、凄い凄い! この水とか本物だよ!」

 

 向こうの方ではしゃぐ真白が見える。微笑ましくなるが、今はそれよりもこの場所のことだ。さっき、ラビが使ったあの鍵の影響か?

 

「ここは妖精世界のありとあらゆる記録が残された本が集まる場所……」

 

 

 ――妖精(アルシーヴ)書庫(・フェリーク)、よ

 

 

 ラビは静かにそう言うのだった。



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Act.15:妖精書庫②

 

妖精(アルシーヴ)書庫(フェリーク)……」

「ええ。さっき私が言った場所よ」

 

 俺は再び周りを見る。

 書庫とは思えない、自然豊かな空間だ。何というか、静かで……気持ちも落ち着くようなそんな空間。居心地も良く、ずっとここに居たいとも思う程だ。

 

「ここにはね、妖精世界のありとあらゆる歴史とかが残されているわ。最も……この空間に来れるのは、今は恐らく私だけでしょうね」

「お兄! 何話してるの! ねね、こっち来てよ!」

「ふふ。ちょっと息抜きしても良いわね。しながら説明するわ」

「ん。分かった」

 

 真白が物凄く楽しそうにしていたので、ラビも笑い俺も笑う。

 

「これ、本物?」

「触った感じだと本物そのものだったよ。冷たい」

「本当だ……」

「この空間にある全てのものは本物よ。ただ、全てに魔力が混ざっているけれどね」

 

 目の前にあった小川に手を入れてみると、かなり冷たかった。しかも、実際に濡れる事から本物だっていうのはもう分かるよな。

 

 更に近くにあった、キラキラ光っている木も触ってみるが……うん、特に何のあれもない普通な木だった。しかし、光っているのはどういう原理なんだ?

 

「言ったでしょ。全てのものが魔力を宿してるって」

「ん。この空間自体も魔力が強く感じられる……」

 

 伊達に魔法少女として、魔法を使ってない。魔力くらいは感じることは出来るぞ。真白はどうか分からないが……。

 

「うん、確かにここの感じ結構心が落ち着くねー!」

 

 どうやら、真白も俺と同じような事を感じているようだ。そこはやはり兄妹だからなのだろうか? まあ、それはさておき……。

 

「ここにあるもの全部、本であってる?」

「ええ。全て本よ。ありとあらゆる事が記述された本たち……他にも魔法とか、過去の天気だとか幅広い情報が詰まっているわ」

 

 すげーな、真面目に。

 天高くまでそびえ立つこの本棚もそうだが、それぞれに入っている物が全て妖精世界の事が書かれた本っていうのもな。全部が本物で偽物など無い。

 階段もあって、上にも行けるようになってる。まあ、行けなきゃ上にある本が見れないし当たり前だろうけど。

 

 一番気になるのは、その上に登ったとしてもそのラウンジ? っていうのか分からないが、そこにも木が生えているっていうのが何とも、現実離れしてるなと思いつつ。

 

 湧き水のように流れている物は、一番高くて天井のガラスから。え、それどこから水出てんの? これも全部魔力とか魔法の影響なのかね。

 

「それで、ここに連れてきた理由なんだけど、さっき全く無い訳じゃないって言ったじゃない? あれについてなのよ」

「それってつまり、お兄について何か少し分かったってこと?」

「一応ね。ただ関係があるかはわからないわ」

「それってどういう」

 

 ラビにしては今まで以上に自信が無さげだな、と思いつつ見る。この書庫の本に俺に起きたこの現象について何か見つかったって事か?

 でもそれは、関係があるかはわからない……でもまあ、何か手掛かりのようなものが見つかったならそれを知っておきたい。例え関係がなかったとしても。

 

「まず、この木を見て欲しいわ」

「木?」

「このキラキラしてる?」

 

 少しラビと歩くと、目の前にあるのはさっきも見たきらきらと光りを放つ神秘的な木だ。木の周りには丸い光? がいっぱいふわふわと浮いている。

 

「ええ」

「この木が何かあるの?」

 

 木は分かったが、この木が俺に起きた変化とどういう関わりがあるのだろうか? うーん……良く見てみるが、当然何もわからない。

 

「これは妖精世界に生えている、願いの木(スエ・アルブル)

願いの木(スエ・アルブル)……?」

「そうよ。妖精世界の特に魔力の多い場所にしか生えない。しかも、生えたとしても一本のみ。その近くに同じ木が生えることはないわ」

 

 願いの木(スエ・アルブル)……もう一度良く見てみる。無数の光の玉がふわりと、木の周りに浮かびあっち行ったりこっち行ったり、まるで意思を持っているかのように動いている。

 

「最も、ここにあるのはレプリカのようなものだけれどね」

「この木がお兄の変化に?」

「関係があるとは言い切れないけれどね」

「この木は一体何なの?」

 

 ただの木ではない、というのは確かだ。日本というか地球にこんな木はないだろうし……少なくとも俺は見たことないのだが……。

 

「それで、この願いの木……名前でわかると思うけど、この木の下で願い事をすると叶うと言われているわ」

「願い事が叶う……」

「ええ。実際叶った妖精も居るくらいね」

 

 願いの木……また何処かファンタジックな物が出てきたもんだ。でも待てよ……見たことないってさっき言ったのだが、よくよく見ると何かデジャヴと言うか、見た事あるような……?

 

「あれ?」

「真白?」

 

 願いの木をじっと見ていた真白が、突然そんな声を出す。俺とラビはそんな真白へと視線を向ける。

 

「どうしたのかしら?」

「うん。何かこの木、何処かで見たことあるような気がして……」

「え?」

「真白も? わたしも、何かあるような気がした」

 

 この木の形……いやまあ、形なんて木によって違うけども。そうではなく、昔見たこと有るような気がしてるんだ。いつだったかは流石に思い出せないが……。

 

 どうやら、真白も同じ感じっぽいんだ。俺と真白が見たことがある木……俺と真白が一緒に居た時だろうか?

 

 しかし、真白と一緒に居た時とか、今を除くと結構前だよな。

 あ、でも言うほどそんな昔で無いか。一番近くて一年前だ。真白は毎年、春休みとか、年末とか夏季休暇とかの休みの日とかに帰ってきてたしな。因みに今年は何か色々忙しかったみたいで春も夏も帰ってきてない。

 

 となると、俺と真白が一緒に居た時期というのは一番近くだと去年の年末だな。その時に見たことがある? いや待て。さっきも言った通り毎年帰ってきているから去年ではなく一昨年だったりの場合もある。

 

 まあ……俺と真白が別々の場所で見たっていう可能性もあるけどな。

 

 とにかく、見たこと無いはずなんだけど何でか、見たことあるような気もしている。自分でも何言ってるかわからないけど。

 

「でもこれは妖精世界の、しかも限られた条件下でしか生えない木よ? あなたたち二人が見たことあるって……」

「うん、そうなんだけどね。……何処だったかな」

 

 そっと木に触れてみる。

 刹那――俺の頭に一瞬だけフラッシュバックが起きる。その光景は今からかなり前、俺がまだ学生の頃の光景。目の前には真白が立っていて涙を流していた。

 

 いや、それだけではない。

 その近くに生えている一本の木……これは俺が真白に告白された、あの高台だ。一瞬だけだけど、それで俺ははっと思い出す。

 

「真白」

「お兄?」

「高台の一本木」

「!!」

 

 俺はそう言うと、真白もはっとする。

 

「どうしたのよ、二人揃って」

「ラビ。もしかすると、わたしたちの世界にも生えてるかも知れない」

「え? それってどういう」

 

 見たことがある。

 今思い出した。あの時、真白に告白されたあの高台に生えている一本木。確かにあの木は他と違って不思議な感じがしていたのを覚えてる。

 

 そしてあの木の言い伝え……結ばれる。幸せが続く……それは、告白したものたちの願いなのではないか? 誰だって好きな人と付き合えたら幸せになりたいだろう。

 俺は残念ながら恋愛をしたことがないが、少なくとも俺ももし付き合うならば幸せな方が良いに決まっている。

 

 その人々の願い……それが願いの木が叶えていたのかも知れない。だが、あの木と俺の変化と何が……? 俺がこの姿になりたいと願った?

 

 そんなはずはない……というか、あの時以来あの高台に行ったことが無い。今もあるかすら分かってない……でも、あそこにあったあの木が願いの木だとすると……。

 

「真白がわたしに告白をしたあの高台」

「うん。あの木に似ている気がする」

「まさか……妖精世界じゃないのに。分かったわ、とにかく行ってみましょ」

「ん」

 

 あの木が原因で俺がこうなったという事は、誰かがあそこで願った? でも誰が? 真白? 俺自身? 分からない。だが、もし本当に願いを叶える力があるなら……。

 まだその願いの木が原因かはわからないが、確かにそんな力があるなら……それの影響でなったということも考えられなくもない。

 

 いや、そもそもラビは何でこの木の事を? それは、後で聞くとしよう。本当に関係があるか分かってないってラビは言ってたしな。

 

 まずは……高台の一本木に行ってみるとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 



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Act.16:願いの木①

 

 翌日。俺たちは、ある場所へと向かっていた。

 

「ここだよね」

「ん」

 

 うろ覚えではあるものの、あったであろう近くにやって来れば町中にある高台を発見する。うん、昔見た時と少し変わってる気がするけど、見覚えのある場所だ。

 

 真白も見覚えがあるっぽいし、多分間違いないはず……。

 

 高台へ続く道の両端には、桜の木が植えられており、今は冬だから何も咲いていないが、春になれば綺麗な桜の木のトンネルが出来そうだ。さぞかし、凄いことだろう。

 

「この道も変わってないね」

「ん。わたしはあまり覚えてないけど……」

「えーお兄、酷い! 私が告白した場所なのに」

「一本木は覚えてる」

「ここも一緒に歩いたのになー」

「ごめん」

 

 ちょっと不満げな真白に俺は素直に謝ることにする。正直な所、一本木は存在感もあって結構印象的に残っているけど、この桜の木の道はあまり覚えてない。

 確かに桜のトンネルをくぐったような気はしてるのだが……まあ、結構前の話だしな。

 

「ふふ、冗談」

 

 俺が謝れば、いたずらっぽい笑顔を見せる真白。

 

「今は冬だから何も咲いてないけど、桜の木は残っててちょっと嬉しいかな」

「そっか」

「うん! ここで花見とかしたいね」

「ん」

 

 花見か。

 両親がまだ生きていた時は結構、花見とか色んな場所に行ってたけど、亡くなってからは何処にも行ってないな。真白は東京に行っちゃってるしな。

 

 最後に花見をしたのはいつ頃だろうか。

 まだ両親がいて、俺も真白も学生だった頃。俺の今の年齢は28歳で、高校も卒業し、専門学校にも行った。俺が行ってたのは主にゲームプログラマー関係の所だったのだが就職先はそれなりに大きな待遇の良いIT企業である。

 専門学校では結構頑張ったほうで、それのお陰もあるのか採用されたのである。専門学校に2年通い、21歳に就職、それから6年までは行かないけど、働いて宝くじを当てて辞めた感じだな。

 

 真白に告白されたのはそんな専門学校に通っている時期。専門学校ニ年生の頃、俺の年齢は20歳であり、当時の真白は15歳。見ての通り、真白とは5歳ほど離れている。

 真白はデザインの大学に進学するつもりであったが、両親の死などがあり色々とあったため高卒からすぐに大学に行けた訳ではなかった。

 今真白はそんな大学の三年目。来年には四年目……要するに最後の大学生活が始まる。そっか、もう真白も23歳か……でも真白はまだ誕生日が来てないから22歳か。

 

 大きくなったもんだ。

 

 って、そんな話をしてる場合ではなかった。

 この道は緩やかに坂となっていて、最後がちょっと急になる。それを超えるとようやく色んな言い伝えのある一本木の生えている場所にたどり着く。

 

「……感じるわ」

「ラビ?」

 

 勿論、当然ながらラビも居るが、一応見られないようにショルダーバッグの中に入ってもらっているが、今そんなラビはバッグの口から顔をちょこんと出していた。

 

「向こうの方から魔力を感じるのよ」

「この先?」

 

 この先と言えばもう、一本木しか無いはず。

 そうなると、ラビが感じると言った魔力はその木から? やっぱりあの木は、普通ではないという事だろうか。

 

「やっぱり何かあるって事だよね」

「多分」

 

 あくまで、感じると言ってるだけでそれがさっきの妖精書庫にあった願いの木であると言うことを決定付ける物ではないが、それでも魔力を感じるということは何かがあるという事。

 

 この世界全体に魔力が漂っているのは確かだが、それを感じられるのは魔法少女くらいだ。一般人は魔力を感じ取ることは出来ないが、魔力持っているという不思議な感じ。

 それもそのはずで、長い間漂っていた魔力は空気と一体化し、世界中に散らばっている。一般人にとっては空気と一緒で、何の疑問も持たずに体内に取り込んだり、体外に出したりしている。

 

 だから普通なら感じることは出来ない。

 だけど、魔法少女はそれらを感じることが出来る。自分の魔力は特に強く感じられ、今の自分の魔力残量はどのくらいかとか、何となくで分かってる子がほとんど。

 

 それは俺も同じで、自身に駆け巡っている魔力を強く感じれている。だからこそ、譲渡したり魔法を使ったり等色々出来るのだ。

 

 空気と一体化した魔力は何度も吸い込まれては吐かれてを繰り替えし、吸った者は徐々に魔力が蓄積されていく。それが続き、今ではほとんどの人が気付いていないものの、体内に魔力を宿している。

 

 それはつまり、魔力を欲する魔物の格好の餌。

 その魔力に惹かれ、魔物たちは人が多い所へ近付いてくる。魔力を吸収するため……普通の人より多くの魔力持つ魔法少女が良く狙われる要因でもある。

 最も、そんな魔物に対抗できるのが魔法少女なので、一般人を襲われるよりはマシなのかも知れない。年端も行かない女の子ではあるが、普通の人とは違う力があるから。

 

 かと言って、達観しているような人類ではない訳で。

 

 話が逸れたが、魔力を感じれるのは妖精であるラビもそうだ。というより、そもそも魔力というのはラビの暮らしていた妖精世界にあった物だ。

 妖精世界ではそういう魔法が当たり前のように使われていた訳だし、感じれないはずがない。

 

「……確かに何か感じる」

「え? お兄も? あ、お兄も魔法少女だもんね……変身しなくても感じれるの?」

「一応は」

 

 魔力を感じれる条件はあくまで魔法少女だけという事。変身が必須というわけではない。

 ただ、俺が魔法少女になる前はそんな物一切感じた事はなかったので、もしかすると一回変身するのが条件なのかも知れない。

 

 魔物と同じくらい謎の多い魔法少女だしな。

 

 ただ、前にラビが言った通り、魔法少女になる条件は魔力があるということ。しかし、それなら人間全員が魔法少女になれると言うことになってしまうが、実際その通りだ。

 中でも特に体内に強い魔力を持っていて、尚且つ自分の身に危険が迫ってきているような危機的状況下において、覚醒するパターンがほとんどの割合を占めている。

 

 他には突然覚醒したという例や、強い思いがあった時などに覚醒することもある。要は条件は一つではなく、それぞれという事だ。他には知人や友人が危険な状態の時に覚醒する子もいる。

 

 魔法少女が10代前半に多い理由は、ラビも分からず謎のまま。10代前半が多いと言うだけで、10代後半や、20代の人が覚醒したという例も少なからずある。

 ただ、その全てが女性であるという事。男の例は今の所確認されてないが、良く考えたら男が魔法少女になるという事例が公になると何言われるかわからないし、秘密にしている可能性もある。

 

 まあ、俺はそんな男で魔法少女になった例の一つだが。

 100歩いや、1000歩譲って魔法少女になるのは良いとしても、俺の年齢はもう30に近いおっさんだぞ。なのに、魔法少女って……これは良く考えると恥ずかしい以前の問題だよな。

 

「そうなんだ。私も感じれるのかな?」

「どうだろ?」

「うーん……一応真白からもそれなりの魔力は感じるけれどね」

「え、それって私も魔法少女になる可能性があるって事?」

「まあ、無いとは言い切れないわね。それに、司とは血の繋がった家族だし、なる可能性はあるわ」

「この歳で魔法少女ってちょっと恥ずかしいんだけど」

「そんな事言ったら司は28歳よ?」

「ラビ……」

 

 おいこら、ちょっとだけ気にしていることを言うんじゃない。 

 

「でも、今のお兄はこんな可愛らしい姿だけどね」

「そうねえ……」

 

 二人してじっと俺を見てくる。

 そんなジロジロ見ないで欲しい、恥ずかしいだろうが。何故かこんな姿になってるが、中身は男だっつーの!

 

「そう言えば、何でラビはその願いの木だっけ? それが原因かも知れないって思ったの?」

「まだ書庫全てを調べ切ってないからあれなんだけど、こんな現象妖精世界でもなかったし、こんな現象を起こせるのは願いの木しか思いつかなかったって所ね。未だに手掛かりは皆無だし」

 

 まだあの妖精書庫の全てを見た訳ではないとラビは言うが、あの量を短時間で見れる方が凄いと思う。ラビがどのくらい読んだかは分からないが……。

 

「大体、3分の1って所かしら」

「あの短時間でそんなに!?」

 

 ついつい、驚いてしまう。

 でもラビは妖精だし、あんな凄い書庫に入れるっていうのは何か普通とは違う気がする……いや、妖精って言うだけで普通じゃないけど、それは除くとする。

 

 今更だけど、ラビは妖精世界での自分の事をあまり話したこと無いよな。妖精世界で魔法実験があって、それが失敗して魔物が出るようになったというのは聞いたけど、それはあくまで妖精世界のこと。

 

 ラビは一体何者なのか、と思う事はあるが別に話したくないなら話さなくても良いとも思ってる。勿論、話してくれたら嬉しいけどね。

 

 

 いつか教えてくれるだろうか。

 

 

 

 

 



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Act.17:願いの木②

 

「これね?」

「ん」

 

 桜の木が植えてある道を登り、俺たちはようやく高台にある一本木の元へ辿り着く。周りには落下防止のための鉄柵と、危険と書かれているプレートが設置されている。

 鉄柵の方の高さは、おおよそ1メートルちょい。柵を越えるには、若干よじ登る必要がある感じかな。まあ、こんな所でよじ登る人なんて居ないだろうが。

 

 真白に告白された時の光景とほぼ同じで、あまり変わってないんだなと思う。

 俺たちの間を吹き抜けていく風が、その先にある一本木の枝や葉っぱを揺らす。冬ということもあり、風は冷たくまともに当たるとぶるっと震える。

 

「懐かしいね、ここ」

「ん」

 

 いつの間にか直ぐ側にやってきていた真白が柵に手を載せ、高台から見える景色の方に目を向けながらそんな事を言ってくる。

 昔の事ではあるが、真白に告白されたと言うあの出来事は結構印象に残っている。予め真白に振って欲しいと言われてたから振ったのだが、あの事を思い出すとちょっと胸が痛い。

 

 実の妹で、叶わない恋だとしてもやはり好きになってくれた。こんなしがない兄である俺をな……それは嬉しくも思っていた。俺としても真白と一緒に遊んだ時は楽しかったと今でも思い出せる。

 この高台は町の中にあるから、ここから下を見れば住宅街が広がっていて、その先には海が見えている。天気は良好で、快晴とは言えないが、晴れと言えるだろう。

 

「少しだけ、町並みとか変わってるけどおおよそ昔と同じ感じだよね」

「うん」

 

 流石に全部は覚えてないが、景色自体何となくではあるものの変わってないと思える。細かく見れば至るところが変わっているだろうけど、そんな細かく見る事なんて無いし。

 

「ラビの方に戻ろっか」

「だね」

 

 俺がそんな言うと、真白も頷いてみせる。

 振り返れば、言い伝えのある一本木が見え、その根元付近にはラビが浮きながら色んな方向から見たり、手でペタペタと実際触ってみたりなどしていた。

 

 俺と真白がそんなラビの近くに来れば、ラビの唸り声が聞こえ、独り言なのか上手く聞き取れないが、何か喋っている感じだった。

 

 結構懸命に調べてるようで、声をかけるのは気が引けた。

 なので、俺たちは邪魔しないように、と少し後ろに下がり、ラビが調査する様子を静かに眺めた。この辺りは静かだからか、そうしていると遠くから風と共に流れてきているのか、車や電車の音が小さいながらも耳に入る。

 

「この木もあまり変わってないね」

 

 小さな声で、一本木を見上げながら真白が喋りだす。

 俺もそれにつられて、見上げると特にこれと言った特徴がない普通の木な感じだ。ただ、さっきから感じる魔力……間違いなくこの木から来ている感じだ。

 

 やっぱり普通の木ではないのかも知れない。

 

「――パッセ」

 

 そんな事話していると、ラビの方から一つの言葉を紡いたのが聞こえる。

 ラビの方を見ると、その言葉に反応するかのように、ラビの触れていた部分が光り出す。触れた部分から幹へ、枝へ、葉へと伝って行き、最終的には願いの木全体を光らせた。

 

 数秒程度光り続けた後、今度は逆の順番に全体、葉、枝、幹と順番に光が消えて行き、そしてラビが触れていた部分を残して光は消えたが、その部分も最終的には静かに消えていった。

 

 何をしたのか。

 いや、もう分かっている。ラビがさっきの言葉を紡いだ瞬間に周囲に魔力を感じた。木のものはなく、空気中のものでもない意図的に放出された魔力。

 つまり、ラビは魔法の言葉……妖精世界はどうかわからないが、俺たちで言う魔法のキーワード。魔法を発動させるためのキーワードを紡いだということだ。

 

 それが何を意味するのか。

 もう分かってると思うが、ラビは魔法を使ったのだ。ここまで一緒に居て一度もラビの魔法を見たことはなかったが、やはり妖精……魔法も使えるよな。

 

「なるほどね」

 

 一人頷くラビを見て、俺たちは近寄る。

 

 さっきラビ……いや、木が思いっきり光ったのを俺たちは目撃している。魔法を使ったのは確かだが、何の魔法かまではわからない。そもそもラビが魔法を使う所なんて見たことないしな。

 

「ラビ? 何か分かったの? 今光らなかった?」

 

 何をしたのか、と聞こうと思ったが真白が先に聞いてくれたので俺は口を閉じる。

 

「ええ。魔法で詳しく調べてみたのよ」

「魔法……」

「知っての通り、私は妖精世界の住人よ? 魔法は使えるわよ」

「ん。初めてみた」

「そう言えば司の前で使ったのは初めてね」

「ん」

 

 初めてではあるが、ラビは妖精。

 ラビが言った通り、魔法くらいは普通に使えるだろうとは思っていたが、実際見るのは初めてなので気になったのは仕方がない。

 

「それで、何か、分かったの?」

「ええ。まず、この木だけれど……間違いなく願いの木(スエ・アルブル)よ」

「!」

「しかもつい最近、発動した痕跡があるわ」

「え?」

 

 発動?

 それはつまり、願いの木が誰かの願いを叶えたということか? まあ、この場所は言い伝えもあってそこそこ? 有名な所だし、人が訪れるというのは普通に考えられる。

 真白のように告白するためにここに呼び出したりする人も居るだろうし……ただ今日は誰も居ない。居たら居たらで調べるのに時間かかっていただろうから、そこは良かったか。

 

 この高台はまず中央に一本木が生えており、それを中心に周りが円状に作られている。他にも一本木の下にはベンチが三つほど、景色が見える側を向いて設置されている。

 それ以外は特になし……まあ、良くある休憩所? まあ、屋根とかはないけど散歩ついでにこのベンチで休む人とかは居るだろうと思う。

 

「それっで誰かが願いを?」

「恐らくはね。その痕跡を辿った所、発動したのは二日前……12月の28日。つまり、司がその姿になった日と一致しているわ。しかも夜」

「え」

「それだと、この姿になりたいと願ったのはお兄自身?」

「知らない……わたしそんなの願った覚えない」

 

 27日が終わり、28日になった深夜……その時間帯に発動したとラビは言う。それはつまり俺の身体が一瞬だけ光ったという時間帯に近い?

 そうなると、俺がこの姿になりたいと願った? そんなはずない……それに家に居たんだぞ? 願いが叶えるのにはこの木の下で願う必要があるって言ってなかったか?

 

 俺がこの高台に来たのは5年前が最後。それ以降、来た覚えがない……それなのに何故?

 

「偶然一致しているだけの可能性もあるわ。でも確かに被っているのも確かね……」

「……」

 

 本当に偶然? だが、真面目な話、俺はこの高台に最近に来た覚えがない。さっきも言ったが、最後にここに来たのは5年前の真白の告白の時。

 

「でも、お兄は家に居たよね? ラビも見てるって言ってたし」

「ええ、そこなのよね。夜に司の身体が光った所まで目撃してるわ。でも、願いの木が原因ならいつ、司はここに来たって話になるわ。それに過去の記憶を覗いてみたけれど、この木の下に発動した時は誰も居なかったわ」

「そもそも、ラビは何を……?」

 

 それである。

 何らかの魔法を使ったのは分かる。恐らく、何かを探るためのラビが使う魔法なのだろうが、それの効果は聞いてない。今ラビは過去を覗いたと言っていたから、過去を見れる魔法? そんな物があるのか?

 

 でも良く考えたら世界を複製するっていう魔法を研究しているくらいだし過去を見るくらいは簡単なのかも知れない。

 

「この願いの木の過去を覗いたのよ」

「過去、を覗く?」

「ええ。さっき私が使った魔法は対象の過去の記憶を見る魔法。ま、要するに、過去が見れると言えば良いのかしら。限定的ではあるけれどね」

「過去を……?」

「そう。さっき私がやったのは願いの木の過去を見ていたのよ。それで発動したことが分かったって感じね」

 

 まじか。

 妖精世界半端ないな……聞けばこの魔法は遡るほど消費魔力が膨大になるという燃費の悪い魔法らしい。一日二日程度ならそこそこで済むが、一週間とかになると数倍くらいになるようだ。

 

「願いの木は間違いなく発動していたわ。そうなると、誰が願ったって話になるんだけれど。司は私の見える範囲に居たわけだし……真白は分からないけど」

「え? いやいや、流石に今のお兄は可愛いとは思ってるけど、私そんな願いしてないよ!?」

「うーん……取り敢えず、二日前に発動したっていうのが分かっただけでも良かったのかしらね。最も、これが司と関わりがあるかまではわからないけれど」

 

 謎が多いが……手がかりが全く無かったんだし、今回の外れだったとしても仕方がない。ラビも一生懸命探してくれてたみたいだし。

 

 本当に何が起きたんだろうか。

 

 

 

 

 



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Act.18:願いの木③

次回よりまた大きな変動が起きる予定です。
第四章はそんな変動の章。よろしくおねがいします!


 

「じゃあ行くわよ」

「ん」

 

 願いの木……高台にあった一本木の場所から家に戻り、自分の部屋にてラビと俺は対面していた。何をしているかと言えば、まあ、さっきの続きのようなものだ。

 

 ラビが使ったあの魔法は過去を見れる魔法。願いの木の場所では二日前に発動したということが分かったが、そこまでだった。それに願いの木が発動した形跡があったからとは言えそれが俺をこの姿にした原因とも分かってない。

 

「それじゃ……パッセ」

 

 ラビが俺の寝るのに使っているベッドに向けて、願いの木に使った魔法と同じものを発動させる。見るのは俺の身体が光ったとされる28日の深夜だ。

 その時の光がもしかすると願いの木と関係があるかも知れない、と思い至ったラビが提案した。対象の過去を見る……それは別に生物や植物などにしか使えない訳ではなく、こういった家具とかにも使える。

 

 それなら俺が寝ていたこのベッドなら当時の事が見れるのではないか? となった。ラビの魔法は発動すると、ベッドが光り始め、高台の一本木と同様数秒ほど光った所で、消えて行く。

 

 最後の光が完全に消滅した所で、ラビはこちらに向き直る。

 

「どうだった?」

「ええ。見れたわよ……あなたが光ったあの時のこと」

「何か分かりそう?」

「そうね……光の元はやっぱり司ね」

「わたし?」

「他にもあの時の光……あれは魔力。しかも、ついさっき見たことのあるもの」

「え……それって」

 

 まさか願いの木?

 俺はそう思ったのに気付いたのか、ラビは静かに頷いてみせる。

 

「ええ、酷似しているし、ほぼ間違いないと言って良いと思うわ。あれは願いの木の魔力……高台の木の発動時に見えた光と一致しているわ。そしてほぼ同時刻に光っていた」

 

 ほぼ同時刻に同じ魔力の光……ここまで来るともう否定できないな。

 だが、どうしてだ? という疑問が大きく残る。何時俺は願いの木の魔力を体内に? それ以外にも、もしそれが本当だとすればこの姿になった原因は俺自身である可能性が極めて高くなる。

 

 真白が願った可能性? いや、真白は明らかに否定をしていた。今は離れては居るものの長年一緒に居た妹である。嘘ついているか付いていないかなんて分かる。

 

 ならば第三者? ……しかし俺と関わりがある人なんて、そんなに居ない。ホワイトリリーやブルーサファイア、茜、他の魔法少女たちとの関わりは薄いながらあるが、誰がそんな事願うというのだろうか。

 彼女たちは俺の本当の姿を知らない。そもそも俺は誰にも本当の正体を明かしていない。解除後の姿っていうのだって、あれはハーフモードだ。変身状態なのは変わりがない。

 更に言えばあの姿を知っている魔法少女だってホワイトリリーとブルーサファイアの二人のみ。他には見せてない。偽りとは言え、女の子であるその姿に対してこの容姿になってほしいとか、願うだろうか。

 

 消去法で行ったとしても自分自身が原因という結論に至る。

 魔法少女リュネール・エトワールとして行動しているうちに、自身の変化にも気付いていた。可愛いものに目が行ったりとか、くまのぬいぐるみを取るのに必死になったりとか。

 

 そう言えばあのくまのぬいぐるみ……まだ真白に渡せてないな。

 一応あの三つのぬいぐるみはステッキ……デバイスの中に収納されている。あれさ、魔石だけかと思ったんだけど普通に他のものも入れられた事に今更気付いた。

 ラビに聞いたら「普通にできるわよ」と返されてしまった。いや、そこは説明して欲しかったのだが……俺がそう言ったら「言ってなかったけ?」と言われる始末。

 

 まあ、聞かなかった俺も悪いんだろうが……。

 

 ともかく、あれはかなり便利だ。あの中に物を入れたら何も気にせずに移動できる……後、変身しなくてもデバイス状態で取り出しが可能って言うことも後から知った。

 スマホ型デバイスの中にアプリとして入ってるんだもんな……魔法何でもありすぎる。

 

 それはさておき、そんな便利な魔法のお陰でくまのぬいぐるみは無事である。折角取ったんだし、早いうちに渡しておきたいな。

 

「うーん、こうなるとやっぱり関係はありそうね。司、あなたに魔法を使っても良いかしら」

「え?」

「ベッドで過去は見れたけど、その魔力までは正確には確認できてないのよね。あくまで対象の過去だから、今回の場合はベッドの過去。ベッド自体にはそんな異変は起きてないわ」

「確かに……」

 

 それもそうか。

 ()()の過去を見る魔法なので、あくまで見れるのは()()。今回の場合はベッドの過去を見たってだけで、ベッド自体が光ったりした訳ではないから、詳しくは見れないらしい。

 なので、今度は俺に魔法を使おうとしているっぽい。この魔法の対象というのはほぼ全ての存在するもの……人間は勿論、動物や物などもそうだ。

 

 だからこの魔法を人に使って人の過去を見ることも出来るらしい。もっとも、生きている生物に対して使う場合は物とかと比べて消費する魔力も増えるらしいが。

 

「分かった。使ってみて」

「ええ」

 

 二日前に俺が起きたことを知るチャンスだ。

 もし、これで本当に願いの木によるものだったら……つまりそれは、俺自信がこの姿を望んだということになる。俺自身が……。

 

「――パッセ」

 

 ラビに触れられ、魔法が発動する。

 俺の身体が光り始め、広がっていく。魔法を使われているという感覚……そして数秒ほど光った後、徐々に消えて行く。これはベッドや木の時と同じだ。

 

「ふう」

 

 光が完全に収まった所で、俺から一歩くらい離れ、一息つく。見た感じでは、上手く見れたらしいな……。

 

「どうだった?」

「ええ……司。言いにくいんだけれど」

「?」

「願いの木が光った時の魔力と、あなたが光った時の魔力は同一のものだったわ」

「……」

 

 ラビの答えに俺は言葉をつまらせる。

 俺が……俺がこの姿を望んだ? わたし? 俺? あれどっちが本当の一人称だったっけ? あれ……わたしが望んだ姿? でも俺は願いの木に近づいた覚えはない……俺は……わたしは……。

 

「落ち着きなさい」

「!」

 

 ラビに大声にわたし……いや俺ははっとした。どうやら凄い顔をしていたようで、ラビも慌てて止めてくれたようだ。でも、俺が望んだという事になるよな?

 

「願いの木は願った者の願いを叶える……これが発動したということはその姿を願ったのは司の可能性がかなり高くなったわ」

「わたしが……」

 

 何時願ったのだろうか?

 

 いや待て……思い出せ俺。

 

 俺はリュネール・エトワールとして活動していた。その活動の中で、魔法省所属の魔法少女、ホワイトリリーとブルーサファイアに出会った。

 他にも少し危ないと思った魔法少女たちに加勢もし俺は、いやリュネール・エトワールはその強力な魔法もあって話題を呼んだ。

 

 ホワイトリリーたちとは本当の姿と出会った。俺自身は偽りではあったものの、一緒に居た時間は嫌なものではなかった。むしろ、楽しいとも思っていた気がする。

 

 しまいには、何時からかはわからないが、可愛いものだとかファッションだとかそういう物にも興味が湧いてきていた。本来の俺であればそんなの気にしてなかった。しかも女性物のである。

 

「……わたしは」

 

 そして思い出せ。

 俺はこんな事を何回か思っていなかったか?

 

 ――リュネール・エトワールだったら良かったのに。

 

 真白もそうだが、様々な交流をしている内に、偽りの姿しか見せてない俺自身に嫌気が差していた時もあったはずだ。魔法省が嫌いな訳ではなく、本来の姿が問題だったから、行きたくなかった。

 本音を言えば、魔法省はどうなっているのか見てみたい気もあった。だけど、事情が事情であり、ホワイトリリーやブルーサファイア、他の魔法少女に茜に誘われても断っていた。

 

 所属しなくても一度来て欲しい、お礼を言いたいと言われた際、俺はそれらをつっぱねている。

 

 世間に男が魔法少女だと知られたら、どう見られるかも怖かったし……。

 

 だからこそ、過ごしていく内にそんな事を思う時が度々あった。

 

「……」

「司?」

「ごめん、ラビ……ちょっと一人にして」

「司……ええ。分かったわ」

 

 俺がそんな事を言ってもラビは何も文句を言わず、静かに部屋から出ていく。本当にラビで良かったって思う。

 

 これは俺自身と向き合う必要があるだろう。

 それでどういう結論に至っても……いや、まだそれは良い。俺自身の願い……納得と思う自分も居ればそんなのありえないと思う俺も居る。

 

 今は……一人が良い。

 

 

 



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Act.19:災厄の大晦日①

さらなる変動。
主人公はどうするのか。


 

「お兄はまだ部屋から出てないんだね」

「そうね……」

 

 12月31日……今年最後の日を迎える。

 私はラビと一緒にリビングに座り、テレビを見ながら昨日の出来事を聞いていた。お兄はそんな出来事があった時からずっと部屋に閉じ籠もっている。

 と言っても、お兄のことだから夜とかいつもの習慣もあるし見回りに行ってそうだけどね……一人にしてと言われたようで、昨晩ラビは私の部屋にやって来た。

 

 話を聞くと、願いの木が発動した時の光と魔力がお兄が光った時のものと一致してたみたいで、あの姿になってしまった原因はお兄自身にあるという可能性が高くなったとのことだった。

 

 つまり、お兄が望んでいた姿という事になる。

 それを聞いたお兄は百面相を見せていたという。ラビはそんな取り乱したお兄を静止させ、冷静さを取り戻させたようで私も安堵した。

 

「まだ確定とまでは言えないんだけれどね」

「でも、確率は高いんでしょ?」

「ええ。あそこまで一緒なものが同時に発動したのはそれくらいしか考えられないわね。ただそうなると別の疑問もあるのよね」

「それってあれだよね。お兄は5年前以来行ったこと無い……何でそんなお兄が願いの木の効果を受けたのかっていう」

「その通りよ」

 

 何でも願いの木は、その木の下で願うと叶うとされているらしくて、普通なら離れた場所から願っても意味がないみたい。お兄は私が告白した5年前以来、訪れた覚えはないらしい。

 それが本当かどうかは分からないけど、少なくともラビの過去を見る魔法によって分かったのは、その光った日にお兄は願いの木の場所には行ってないということだね。

 

 それなのに何で発動したのか、それが謎とラビは言っていた。

 

「ほぼ同一だったから発動したのは多分間違いないのよね。でも、司は願いの木には行ってない……そこが分からないのよねえ」

 

 妖精書庫でも、願いの木はその木の下で願うのが基本となっているみたいなんだよね。でもお兄は木の下には行ってない。それならどうして発動したのかが、ラビにもわからない。それが現在の状況。

 

 妖精書庫は最初見た時は凄く驚いた。まるで幻想世界に入ったかのような場所で、流れていた川や天井から流れている水も全てが本物だった。天井はガラス張りになっていて、優しい光が差し込んできていた。

 天高くまで届く本棚に、それぞれにぎっしりと保管されているたくさんの本。その本一冊一冊に様々な妖精世界の伝説や、出来事、歴史などの情報が詰まっているとラビは言ってた。

 

「誰かが願った可能性もあるけれど、高台で過去を見た時に願っていた人影とかは見当たらなかったわ」

「そんな事言ってたね、そういえば」

「そうなのよね」

「でも願いの木の下で願うのが基本ってだけで、叶わないっていう根拠も無いんだよね?」

「ええ。少なからず願いが叶ったという事実もあるって言ったわよね?」

「うん」

「それらの例は全て木の下で願った場合しか無いわ。あくまで例がないだけで本当は離れていても発動するかも知れない。でもその例はない。と言っても、説明には基本的には木の下で願うってだけしか書かれてないわ。そもそも、願いの木は妖精世界でも結構謎が多いものだったしね」

 

 基本的には、とだけ書かれてるだけで近くに居ないと叶わないと言う記述もない。それはつまり、離れていたとしても何らかの条件で発動する可能性もあるっていうことだよね。

 私はあまり詳しくはわからない。ただラビの居た妖精世界は滅んでしまい、今や草木も生えない場所となっているって聞いてる。別世界と言われてもあまりピンとは来ないけど、ラビという存在が実際目の前に居るわけだ。

 

 正直、スケールが大きすぎて一般人な私には理解が追いつけてない。ただお兄が魔法少女となっているのは紛れもない事実だけど。

 

 そんなお兄が昨日から部屋に閉じこもったっきり。

 いきなり、その姿になったのは自分自身が原因と言われれば、戸惑うのも無理はない。私がお兄と同じ立場だったら、多分同じような事になってたと思う。

 

「お兄、大丈夫かな」

「大丈夫だとは思うけれど……ね」

 

 部屋にいるお兄のこと考えながら、私はそうつぶやいた。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 ――遡ること一日前の夜。

 

「……」

 

 自分の部屋にあるベッドの上に、仰向けて倒れながら天井を見上げる。今この部屋には俺一人しか居ない。というのもラビには一人にしてと言ったからでもあるけど。

 

 俺が願った姿。

 嗚呼、認めよう。俺は心の何処かでこの姿だったら良かったのにと願っていたのだろう。それも冗談とかではなく、本当に。それなら今までの関係も壊さずに済むから。

 

 元より兆しはあったんだ。

 徐々に自分の中が変わってしまっていくような、そんな感じ。それは怖いとも思ったし、そのまま変われれば良いな、とも思った。

 

「はあ」

 

 俺は近くにあったデバイスを手に取り、画面を覗き込む。電源を入れてないその真っ黒な液晶に映っているのは、銀髪金眼の少女。

 

「わたし、か」

 

 電源を入れると、画面が光りさっきまで映っていた少女は見えなくなる。

 

「もうこんな時間……」

 

 思ったより一人で色々と考えてしまっていたようだ。真白もラビも心配してるだろうか……取り敢えず、いつも通りの見回りに行く時間だな。

 

「――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

『SYSTEM CALL "CHANGE" KEYWORD,OK――LA LUNE ET L'ETOILE――』

 

 ふわりと宙に浮く感覚。真っ白に染まる視界……もう見慣れた変身。

 

『SYSTEM CALL "CHANGE" SUCCESS!!――GO!』

 

 変身完了の音声が流れ、俺は静かに窓を開ける。ハイドの魔法を使用し、姿を消した後窓から外へと飛び出る。

 一旦落ち着いたとは言え、未だに茨城地域の全体の魔物の数は多い。そして県央の上空を陣取るクラゲはまだ滞在しており、本当何が目的なのか分かってない。

 テレビでもまだ上空に魔物が待機しているって事が報道されていて、魔法少女と魔法省、防衛省等が監視を続けている。最初はSクラス魔法少女のホワイトリリーを待機させていたが、流石に一日中監視させる訳にも行かないので交代制となってるようだ。

 

 本当はSクラス魔法少女を交代で待機させるべきなのだが、知っての通りこの地域にSクラス魔法少女は一人しか居ないのでAクラス魔法少女が数名程選出されてる。

 もしクラゲが攻撃してきたら大変だしな……一応魔法省のデータでは脅威度Sとされている。なので、本来はSクラス魔法少女が一番なんだけどさっきも言った通り、一人のみしか居ないから仕方がない。

 

「スターシュート」

 

 さて、見回りをしていると魔物を発見する。魔法少女が居ない事を確認し、星を飛ばせばこれもまたもう見慣れた星のエフェクトの爆発とともに、魔物は消え去る。

 これは多分脅威度B以下かな? いやもっと低いかも知れない。ラビは居ないから推定脅威度とかも不明だが、一発で撃沈した感じでは弱い魔物だったのかな。

 

「スターシュート!」

「スターシュート!!」

「スターシュート!!!」

 

 次々に魔物はスターシュートの魔法の犠牲となっていく。魔石の回収も行い、次の場所へ。

 ただ、自分でも分かるくらい声が荒くなっている。多分、俺はまだ迷っているのだろうと思う。色々考えすぎて疲れていたのもある。

 

 色々と鬱憤を晴らしたいというのもあるのだろう。自分の事だから良く分かる……これは宜しくないっていうのも自覚している。だけど今だけはちょっと許して欲しい。

 

 未だに上空にいるクラゲの魔物は何をしてくるか分からない。それに以前の嫌な予感もまだある。それは何となくではあるけど、明日……大晦日にやって来そうな気がしているのも事実。

 

 備えないといけないんだろうが、何をどう備えろという話だ。とにかく今は、こうやって魔物を処理するくらいしかやれることはない。

 

 

 

 ただの気にしすぎでありたい。

 

 しかし、現実というのは無情であり、嫌な予感の正体をすぐ知ることとなった。

 

 だが、この時の俺が知る由もなかったのだった。

 

 

 

 

 



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Act.20:災厄の大晦日②

 

 それは大晦日のお昼頃、突然起こった。

 

「!?」

 

 物凄く大きく、全体に響く警報……今まで聞いたものとはレベルが違っていた。明らかに普通ではない……俺は慌てて昨日から籠もっていた部屋を出て、下へと降りる。

 

「お兄、大変だよ!」

「このサイレン?」

「司、大変よ。魔物が出現したわ」

「?」

 

 魔物が出現するのは別に珍しくない。だけど、真白とラビの表情は焦燥。

 

「脅威度Sの魔物が現れたわ。そして県央上空に待機していたクラゲの魔物も動き出した」

「!」

 

 脅威度S。

 SS程ではないものの、その魔物の強さは圧倒的。AAよりも遥かに強く、町一つくらいなら余裕で破壊できてしまうとされている。

 

 最後に脅威度Sの魔物が現れたのはクラゲを除き、約3年前だ。それ以降、全く出現していなかった。そんな魔物が今、茨城地域に出現したってことだ。

 

「嫌な予感の正体はこれ、か……」

 

 今回ははっきりと分かる。

 今まで感じていた嫌な予感の正体……脅威度Sの魔物の出現だ。しかも二体……一体はずっと空中に居たクラゲだが、奴も行動を開始したらしい。

 

 一体だけであれば、ホワイトリリーとAクラス魔法少女全員でなんとかなるかも知れないが、今回は二体。もしかしてクラゲの魔物はこれを待っていたのかも知れない。

 手にあるデバイスを握る。脅威度Sの魔物か……俺でも対処できるだろうか。いや、するしか無いだろうな。むしろ、何もしないでいたら……。

 

「行くのね?」

「ん」

「お兄……無理しないでね」

「うん」

 

 無理はしない……つもりだ。

 ただ今回の魔物はSであるため、分からないっていうのが本当の所だ。今まで戦ってきたことがある魔物はAAまでで、大体が地上、一部が空を飛んだりする魔物だ。

 

 クラゲの方は知っての通り、空を飛ぶ能力を持っているのが分かる。もう片方はまだ分からないが、Sである以上居威力魔物であるはず。

 

 デバイスを握り、いつもの変身を済まし真白に見送られながら外へと飛び出す。勿論、ハイドの魔法も忘れずに使っている。

 

 しばらく離れた所で、ハイドを解除し屋根の上へ。戦闘時以外はなるべく、誰にも見られないようにはしているものの目立った服装でもあるし、一目見れば分かる人も多いだろうな。

 

「ラビ、昨日はごめん」

「気にしてないわよ。それよりも、司は大丈夫なの?」

 

 ラビの問いかけに「大丈夫」と答えたかったが口が開くことはなく、言葉をつまらせる。

 

「……」

 

 大丈夫とはまあ言えないよね。

 まだ頭の中とかごちゃごちゃしているし、気持ちの整理だって出来てない。認める俺も居るし、認めない俺も居てもうめちゃくちゃだよ!

 

「司?」

「魔物」

 

 視界に先に見えるのは、大きな巨体の魔物。大昔の恐竜で、最強ともされていたティラノサウルスのような見た目をしている魔物だ。

 奴が一歩進むたびに、辺りが激しく揺れ木が倒れたり、交通標識が斜めになったりなど起こる。進んでいる方向は水戸駅方面か。このまま行かせると不味いな。

 

「気をつけて。あれがSの魔物よ」

「そっか……」

 

 クラゲが動き出したのと同時に現れたもう片方の脅威度Sの魔物。新種だろうか? そもそもSの魔物自体そこまでいっぱい出現した訳ではないからデータも不十分。

 クラゲの魔物だって新種っぽいから魔法省の感知システムでは、確実な事は測れない。ラビのものだって推定脅威度ってそのままの意味で完全なものではない。

 

「他の魔法少女は?」

「居ないわね……ただクラゲの方にはかなりの反応があるの感じれるわ」

「向こうか……」

 

 クラゲが居るのは県央、そして水戸駅の上空。あそこは人がいっぱい居る場所だ。そんな所にあのクラゲの魔物が居るのだから。優先度は恐らく向こうの方が上。

 茨城地域の魔法少女は30人で、Sクラス魔法少女はホワイトリリーのみ。Aクラス魔法少女が9人、他20名はB以下となっている。

 要するに脅威度Sに対応できる魔法少女が居ない。ホワイトリリー一人しかSクラス魔法少女は居らず、どう考えても人手不足である。

 

 ホワイトリリーを筆頭にAクラス魔法少女9名を総動員、他20名の魔法少女も後方支援や支援を行っていると思われる。これで対応出来るかは分からないけど、するしかないだろう。

 

 ならば俺は、もう片方のこっちを対応しようじゃないか。

 脅威度Sの魔物にどれだけ通用するかはわからないが、やれれるだけはやろう。

 

 

「まずは……スターシュート!」

 

 手始めにおなじみの星を飛ばす魔法を使用。まず、あいつの注意をこちらに引きつけるのが先だ。そうしないと、どんどん人が住んでいる区画まで行ってしまう。

 この辺りも十分家とかあるけど、幸いな事にあの特殊なサイレンのお陰か、下を見る限りでは一般人の姿は見えない。

 

 ステッキから放たれた星は魔物に普通に直撃。そして爆発を起こす。しかし、予想通りティラノサウルスのような魔物には傷一つついてない。

 でも、俺の攻撃に気付いたのかこっちをギロリを見てくる魔物。そして進行方向を変え、俺の方へ向かってくる。どうやら上手く注意は引けたようだ。

 

 まあ、俺の魔力に惹かれた可能性も高いだろうが。

 

「っ!」

 

 そんな魔物は一度足を止め、何のスパンもなく、俺に向けて炎のブレスを放ってきた。少しだけかすったが、何とか回避出来たが、まさかいきなり撃てるとは。

 

「大丈夫?」

「ん」

 

 身体の方は魔力装甲があるので、何とも無い。ただ、かすったので少しは削れてるかも知れない。

 

「メテオショット!」

 

 スターシュートは全く効いてなかったのはもう目に見えてわかるので、違うものを試す。またブレスを撃たれても困るし。

 ステッキからは星ではなく隕石が飛び出す。これは俺が使える広範囲魔法のメテオスターフォールを元に考えた魔法で、空から無数の隕石を降らすのではなく、ステッキからスターシュートのように単発で飛ばせる魔法。

 

 威力自体はメテオスターフォールの一発と同じくらいだと思うけど、そこは分からない。実践ではまだ使ってなかったからね……。

 ステッキから飛んでいった隕石は、まっすぐ迷いなくティラノサウルスへ向かっていく。そして着弾し、スターシュートよりもちょっと派手な爆発を起こす。

 

「#”!$$#」

 

 煙が晴れると、ちょっとだけ魔物に傷を付けられたようだ。魔物特有の言葉とは思えない叫びが響く。

 

「少しは、効いている、か」

 

 大したダメージは与えられていないけど、攻撃自体は効いたっぽいかな?

 

「また!?」

 

 再び、ブレスを放ってくるティラノサウルスもどき。

 慌てて回避するも、また微妙にかすってしまうが、特に影響はない。ただ違うのはさっきのブレスが炎だったのに対し、今度は水……あいつ、複数のブレスを撃てるのか?

 

 俺が回避したのを見てご機嫌斜めなのか、魔物は地団駄を踏む。それにより、周囲がまた激しく振動し、地面を抉ったり木が斜めになったり倒れたり、近くの建物のガラスが割れたりする。

 たったそれだけで、様々な被害が出る。流石は脅威度Sの魔物と言うべきか……今までの魔物でも、若干の被害は出ていたけど、ここまでではなかった。

 

 今更ながら思う。

 こういう魔物を率先して倒しているのが魔法少女……弱い魔物はともかく、強い魔物相手では命を落とす可能性もあるだろう。まあ、弱い魔物でも油断したらやられるだろうが。

 

「スターライトキャノン!!」

 

 今度はステッキからビームを放つ。毎回思うけど、この魔法は何処が星とか月なのだろうか? ビーム自体は光や電子とかの粒子が一定方向に流れるという物だから、光に当て嵌まるのかな? 自ら光を放つ恒星っていうのがあるしな。

 

 そんな事は今はどうでも良いか。

 

 ビームがティラノサウルスもどきにヒットし、爆発を起こす。おなじみの星とかのエフェクト付きであるが、もう気にしないことにしてる。

 

「####!」

 

 さっきよりもダメージは大きそうだ。このまま、威力を上げていくのが良さそうだな。俺は怒りを顕にしている、魔物を見ながらステッキを構えるのだった。

 

 

 



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Act.21:災厄の大晦日③

 

 ――県央、水戸市。

 

「クラゲの魔物が動き出しましたか」

 

 緊急避難警報が鳴り響く中、私は空を見上げてそう呟きました。

 魔物出現の警報には三つあります。一つは避難警報……魔物が出たら鳴る普通の警報ですね。これはどんな魔物が出現しても鳴ります。

 これが鳴った場合は、近くのスタッフさんたちが避難指示を行います。可能であれば、近くに居る魔法少女も引率するようにとなってますが、それについては出現した魔物にもよりますけどね。

 

 二つ目が緊急避難警報です。

 これが今鳴っている警報です。これが鳴った場合、直ちに避難して下さいというものです。近くにスタッフさんとかが居なくても、自宅に居ても各自その場から逃げろ、と言う事です。

 脅威度Sの魔物が出現した場合に鳴るもので、この地域では観測されていませんので一度も鳴ってませんね。ですが、今回初めて脅威度Sの魔物を観測しました。

 

 一般人もそうですが、魔法省内もかなり慌ただしくなっているようです。私も結構焦っていますけどね。

 

 最後に三つ目ですが、それは緊急圏外避難警報です。

 名前の通り、直ちに現圏内より避難してくださいの意味を持ちます。要するに茨城地域より避難しろ、って事です。これはまだ過去に一度も鳴っていませんが、それもそのはずです。

 この警報が鳴った時、それは脅威度SSの魔物が地域内に出現したって事ですからね。

 

 脅威度SS……現状、一番災厄の魔物とされている物に分類されます。記録では、今から15年前の魔物出現の日に出たとされていて、それ以降現在まで観測はされていません。

 当初は一つの国が半壊してしまったと記録されています。そんな魔物が出たらもう、今居る地域全体が危険です。なので、圏外への避難となっている感じですね。

 

 鳴ったこと無いので、あれですけど。

 

「……」

 

 今回はそんなSSの魔物ではないですが、それでも一つ下のSの魔物です。どれだけ強いのかは分かりませんが、相手するのは結構大変でしょうね。

 

「雪菜……」

「冬菜ですか」

 

 玄関から外へ出ようとした所で、後ろから見知った声が聞こえ振り向きます。そこに居たのは、不安そうな顔をしてこちらを見てくる私の双子の妹、冬菜でした。

 

「雪菜……行くの?」

「はい、それが仕事ですからね。冬菜も早く避難して下さい」

 

 この家からはまだ距離がありますが、あの魔物は空を飛べます。クラゲのような見た目をしていて、多くの触手を持ってます。上空にずっと待機していたようですが、今回動き出したみたいですね。

 ただ、今の所被害は出ていませんがそのうち出てきてしまうでしょう。何せ、今回のは3年前以来姿を見せてなかった脅威度Sの魔物ですからね。

 

「でも、今回の魔物はSの魔物なんだよね? 大丈夫なの?」

「……正直、分かりません」

「……」

 

 魔法省の感知システムは過去のデータを参照します。過去にデータがない場合はそれに近い物を検索し、様々なパターンをコンピューターが分析して脅威度を割り出します。

 精度は既出の魔物であれば強いのですが、新しい物であると少し信頼性に欠けます。今回はSの魔物であり、一致するデータは存在してません。要するに新しい物に当たります。

 

 こうなると、Aと出たとしても、実際戦うとSだったり逆にBだったりと、振れることも多々あります。

 

 実際戦ってあのクラゲの魔物は予想通りのSなのか、それともAなのか……後者ならラッキーですけど、そんな都合良い話なんてありませんよね。

 あまり考えたくないのが、上振れした場合です。今回はSですので、上振れするとSS……15年前以降出現したことのない災厄の魔物と同等となります。

 

「行ってきますね。お母さんにも宜しくおねがいします」

「……分かった。絶対帰ってきてね?」

「はい」

 

 確約はできません。

 本来ならSの魔物はSクラス魔法少女複数で対応する魔物なのですから。茨城地域に居るSクラスは私しか居ません……正確には野良ではありますが、リュネール・エトワールが同クラスとされているくらいですかね。

 

 リュネール・エトワール。

 いえ、司さん。私の好きな人ですが、まだ告白とかはしてません。蒼ちゃんというライバルも居ますが、選ぶのは司さんです。誰が選ばれても恨みっこなしと約束もしてますしね。

 

 そう言えば最近全然会えてませんね。

 それは蒼ちゃんもそうですけど、異常事態とか魔物の数が増えている為、その対応に追われているのが原因ですけどね。一応、連絡先は交換してますし、CONNECTで話したりは出来るでしょうけど、直接会いたいのが本音です。

 

「今回会えるでしょうかね?」

 

 いえ、今なこんな事思ってる場合ではないですね。

 

「――ラ・リス・ブロンシュ・フルール!」

 

 私の変身デバイス……ペンダントのような感じですが、それに軽く触れキーワードを紡ぎます。

 

「魔法少女ホワイトリリー……行きます」

 

 一瞬の浮遊感と真っ白に染まる視界。全てが終わると、私は魔法少女のホワイトリリーとなりました。そして連絡端末を取り、茜さんと連絡を取るのでした。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「ママ……行ってくるね」

「蒼」

 

 緊急避難警報。

 それは脅威度Sの魔物が出現した時に鳴る警報。そんな警報が鳴り響く中、家を出ようとした所でママに呼び止められる。

 

「どうしたの?」

「蒼が何をしているか、分かっているけど……でも今回の魔物はSなのよね?」

「うん。だからママは早く避難してね、パパと一緒に」

 

 そう今回の魔物は3年前に出現したっきりの、脅威度Sの魔物だ。AAよりも強く、町一つを簡単に破壊できるとされている魔物。この上にSSっていうのが居るけど、そっちは15年前の魔物出現の日以降観測はされてない。

 

 県央上空に停滞していたクラゲの魔物。あれが動き出したと連絡もあった。あの魔物は、魔法省のシステムで脅威度Sと判定。ただし、新種であるため上下に振れる可能性があるけどね。

 普通ならSの魔物はSクラス魔法少女複数で対応するんだけど、茨城地域に居るSクラス魔法少女はホワイトリリー……白百合先輩のみ。戦力的にももしかすると、少しきついかも知れないけど私でも力になれるなら……。

 

 多分、ホワイトリリーを筆頭にAクラス魔法少女全員が出撃すると思う。それでも対応できるかは分からないらしいけど、それでもやらなければ決して小さくない被害を受ける。

 

「引き止めた所で蒼は行くわよね。だから……絶対に帰ってきなさい」

「ママ……うん、頑張るね」

 

 私はBクラス魔法少女で、そこまでの戦力はない。魔力は同クラスの中では多い方だけど、多いだけじゃどうしようもない。Aクラス魔法少女は出ると思うけど、Bクラスはどうなんだろう?

 

 後方支援とかになるかな。それでも、力になれるなら……頑張りたいと思ってる。ただ今回は相手が相手なだけで、駆り出される可能性もあるから確約が出来ない。

 

 まだ完全にSと断定された訳じゃないけど、そういう判定が出たということは強いってこと何だと思う。一番良いのはAAとかAだったら、何だけど、流石にそれはないよね。

 

 まあ、AAでもAでも私一人では対処できないと思うけど。

 

 もしかしたら死ぬかも知れない……まあ、覚悟は出来てる。

 それに私よりもホワイトリリーやホワイトパール、ブラックパールたちAクラス魔法少女の方が命の危険が多い。誰一人欠けてほしくないって思ってる。皆優しいし、面白い人たちだから。

 

 勿論、B以下の魔法少女たちもそうだ。

 

「はあ」

 

 らしくないなあ、私。何か弱気になっちゃってる。

 

「そう言えば司とも会えて無いなあ」

 

 野良の魔法少女で、かなり強い。それこそホワイトリリーに匹敵するかそれ以上かの子だ。そして、私の好きな人でもある。実際にデート……何か恥ずかしいな。一緒に出かけたこともある。

 

 魔物の対応で会えてないから、正直寂しいと思ってる。

 連絡先は知ってるから、CONNECTで話すことは出来るかも知れないけど、やっぱり直接会いたいよね。今までだって直接会って方が多いし。

 

「今回は会えるかな?」

 

 そんな事を今考えるべきではないのは分かっているけど。彼女は私たちと違って野良だから、出てこない可能性もあるしね。

 

「よし!」

 

 両手で自分の頬を軽くぱちんと叩いて、気持ちを切り替える。これから戦場に向うのだから、余計なことは考えるべきじゃない。後方支援だって怠れば前線に影響を出しちゃうしね。

 

 気持ちを入れ替え、サファイア色の宝石が嵌まっている指輪に手を触れ、一つの言葉を紡ぐ。

 

「――ラ・サフィール・エタンスラント!」

 

 指輪が眩しく光り出し、浮遊感に襲われる。視界は真っ白に染まり、体中に魔力が流れて行くのを感じる。しばらくそんな状態が続き、光が収まれば私の変身な完了する。

 

「魔法少女ブルーサファイア。行きます」

 

 魔法少女の衣装を身に纏った所で、私は魔物がいる場所へと向かうのだった。

 

 

 

 



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Act.22:災厄の大晦日④

 

「っ!」

 

 このティラノサウルスもどきの魔物、今までと比べてやっぱり強いな。まず、ブレスの間隔が早いし、何よりあの巨体で結構な速度で突進もしてくる。

 突進してきたかと思ったら、鋭い爪で俺をひっかこうとしてきたが、それは何とか回避。ただその次にまだ炎のブレスを放ってきたものだから、かすったというか被弾した。

 

 魔力装甲もあるので、そこまでではないがそれでも衝撃のようなものは来る。流石は脅威度Sの魔物と言うべきか、真面目に強いな。徐々に威力の高い魔法を使ってたりしてるのだが、ダメージは与えられてるけど大きな打撃では無さそうだ。

 

「サンフレアキャノン!」

 

 ステッキを魔物に向け、魔法のキーワードを紡ぐ。

 魔法陣が現れ、そして極太の赤い熱線が放たれ、まっすぐティラノサウルスもどきへ飛んでいく。危ないと直感で感じたのか、回避行動をしようとするが、こっちのほうが早い。着弾と同時に燃え上がる。

 

 太陽系の恒星、太陽の熱……耐えられるか? いやでも、こいつ炎のブレスを使ってるし、耐性はありそうか? あのゴジラもどきの魔物と同じで。

 

 炎が消えると、本来なら消滅してしまうはずなのだがやはりというか何というか、ティラノサウルスもどきの魔物はそこに立っていた。ただし、身体には大きな火傷痕が複数付いているため、結構なダメージは与えられたっぽい。

 

「硬い」

「そうね……流石はSなだけあるわ。リュネール・エトワールは大丈夫?」

「ん」

 

 一応大丈夫ではある。身体は別に魔力装甲のお陰で異常はない。

 

「それなら良いけれど」

 

 少しラビは心配し過ぎだと思う。

 いやまあ、そんな行動をしたのは俺なんだけどな……まだぐちゃぐちゃではあるけれど、大分落ち着いてきている。戦闘には支障がないから取り敢えず大丈夫だ。

 

「####!#$%%$」

 

 大ダメージを受けたであろう、ティラノサウルスもどきは大きな声で吠える。距離は少し取ってあるものの、この距離で聞くと耳の鼓膜が破れそうだ。

 ティラノサウルスもどきの魔物が強いのは分かった。だが、もう片方……クラゲの方はどうなんだろうか。あっちも一応Sとなっているし、空も飛べるからこの魔物よりは強いのかな?

 

 今までの魔物と比べても明らかに戦闘力の高い魔物。向こうも俺の威力に警戒しだしたのか、いきなりブレスや突進等はしてこなくなり、こちらを睨んでくる。

 

 俺も負けじと、そいつを睨みながら牽制する。そんな中、俺はふと思う。

 

 ……ホワイトリリーやブルーサファイアは無事だろうか。

 大丈夫だとは思うが、やっぱり心配ではある。前にも言った通りこの茨城地域の魔法少女は30人。しかも、Sクラス魔法少女はホワイトリリーただ一人。他は皆A以下となっている感じだ。

 更に言えばそんなAクラスの魔法少女だって9人しか居ない。残り20人はB以下となっていて、明らかに戦力が足りてない。もともと、魔物の出現数が少ない地域だったので仕方がない、と言えれば良いんだがな。

 

 確かにこの地域で出現した魔物はB以下がほとんどで、Aは時々出る感じだった。だがしかし、最近になって魔物の数が増加……つい先日だって異常事態が発生していた。

 俺やブラックリリーが居なかったら、県南や県西地域は大きな被害が出ていたかも知れない。既に少しは出てしまっていたが、それでも何もしないでいたら大きな被害に繋がっていただろう。

 

 もう少し人手を増やすべきだとは思うが、まあ、突発的に誕生する以上、難しいのだろう。それに魔法少女に覚醒したとしても、魔法省に行くかは各自の意思によるしな。

 

 だからこそ、今回主力として対応しているであろうホワイトリリーが心配だ。ブルーサファイアももしかすると、駆り出されているかも知れない。魔法省も無茶振りはしないだろうが、それでもやっぱり不安だな。

 

 あれ?

 俺……こんなにあの子達を心配している? いや、心配自体はもう前からしているはずだ。でも、こんなに考えるようになったのはいつからだろうか。

 

 魔法少女を守りたい……確かにそんな事も思っていた。

 

 

 

 俺は……

 

 

 

 一体どうしたいんだ?

 

 

 

 

 ――分からない……だけど、リュネール・エトワールとして交流していく内に、確かに楽しいと思ったり、もう少し話をしたいと思ったりそんな風に思えるのが増えていた。

 

 それはもう自覚もしている。自分の中で何かが変わっていく……それは怖いとも思えるし、むしろこのまま変わってくれとも思ってしまっている。

 

 

 

 俺が、俺自身がわからない。

 

 

 

 

 

 俺はどうしたい? 俺は何をしたい? わたしは何を?

 

 

 

 

 

 

「リュネール・エトワール!」

「!?」

 

 ラビの焦燥しきった声にはっと我に返る。

 

 目の前にはさっきまで距離があったと思っていたティラノサウルスもどきの魔物。

 

 いつの間に!?

 

「”#$$#$$%!」

 

 まずい!

 

「スターバ……間に合わない!?」

 

 もうすぐそこまで迫ってきている、ティラノサウルスもどきの魔物の鋭く尖った大きな爪。回避は無理……バリアを張ろうと思ったがそれも間に合わない。

 

 これは……駄目だな。自分を守ってくれている魔力装甲に全てを託すことにする。俺は来るであろう衝撃に目を瞑り、備える。俺の膨大な魔力なら大丈夫だ、自分を信じろ。

 

 ふっ飛ばされるのは覚悟の上だけど、実際俺は攻撃をまともに喰らい、ふっ飛ばされたことがない。だからどんな感じなのか、分からない。痛いのだろうか? 衝撃は来るだろうけど……。

 

 ブラックリリーがふっ飛ばされていた時の事を思い出す。

 

 地面に叩きつけられ、地面をえぐりながら後方数十メートルくらい飛ばされていた。あの時のブラックリリーの姿は非常に痛々しかった。

 あれくらいは覚悟するべきか?

 

「……?」

 

 だけど、そんな事を考えているとふと気が付く。とっくに衝撃とかが来ても良いはずなのに、何もないのだ。魔力装甲が全てを吸収した? いやそれでも、衝撃は来るはずだ。

 

 違和感。

 それと、近くに別の人が居る気配。

 

 俺は、恐る恐る目を開くと、何故か空が見えた。え? 空が見えるのはおかしくないか? そんな事を思い始めると、自分自身の体勢にも違和感がある。

 背中には自分の物ではない、誰かの手の感触。

 

「はあ、危なかったわね」

「え?」

 

 聞き覚えのある声。

 

「まさに間一髪ってとこだね」

 

 今度は聞き覚えのない声。何処か中性的な印象を感じるようなその声。俺は慌てて、声のした方を向いてみる。すると、そこには黒い衣装を身にまとい、俺と似たような黒いとんがり帽子を被っている少女と、その少女の肩に乗っている黒い兎が見えた。

 

「ブラックリリー……?」

「ええそうよ。全く何をしているのよ……あなた結構危なかったわよ?」

 

 と言うか俺の今の体勢って……。

 

「ちょっと何顔を赤くしているのよ! こ、これはこうするしか無かったから仕方なかったの!」

 

 ……いやそういうブラックリリーも赤いんだが? いやこれは今はどうでも良いか。

 

 俺、人生はじめてお姫様抱っこなんて見たぞ。しかも俺はされる側かよ!? 普通はする側だろうが……いや、今の姿でそんなこと言ってもあれか。と言うか、これめっちゃ恥ずかしんだが?

 

「あーこら、暴れないでよ! 危ないでしょ」

「ご、ごめん」

 

 取り敢えず、恥ずかしいのでおろして欲しい。

 

「だ、大丈夫だから下ろして……」

「そ、それもそうね」

 

「お仲がよろしいことで」

「ララ!?」

 

 取り敢えず、近くの建物の屋根に下ろしてもらったのは良いが、今ブラックリリーはなんて言った? ララ? いやそれも気になるが、俺さっきまでティラノサウルスもどきの目の前に居たよな?

 

「あの脅威度Sの魔物ならあっちよ」

 

 ブラックリリーの指差す方角へ目を向けると、少し離れた場所にさっきの魔物が見えた。どうやら俺が突然消えたからか、周りを警戒している様子。

 

「ブラックリリーが助けてくれたの?」

「ええ。間に合って良かったわ。全く……戦闘中に考え事とは随分余裕で」

「う……ごめん。それとありがとう」

「まあ、あなたくらいの魔力があるなら攻撃受けても大丈夫な気はしてたけれど……言っておくけど、ふっ飛ばされると結構痛いわよ?」

「魔力装甲が攻撃を吸収してくれるとは言え、攻撃を受けたらその威力にもよるけど反動があるからね。痛みとかはかなり軽減されているはずだけど、それでも痛いものは痛いよ」

 

 ブラックリリーと、その肩に乗っているララと呼ばれた兎? が交互にそんな事を言ってくる。なるほど、痛みはあるのか……って納得している場合じゃなかった。

 

「えっと……」

「聞きたいことはいっぱいあるだろうけど、まずはあの魔物だね。あれを始末してから話そう。君のそのとんがり帽子の中にいる、ボクと同類もね?」

「!」

 

 帽子の中でラビが反応したのが分かる。

 

 同類……ということはあの黒いうさぎも、妖精ってことだろうか? いや、今は言われた通り魔物が先だ。俺は向こうにいるティラノサウルスもどきの魔物へ向き直るのだった。

 

 

 



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Act.23:災厄の大晦日⑤

 

「さて、あの魔物をどうするのかしら?」

「え?」

「え?」

 

 なんかやる気満々なブラックリリーを見て、つい。

 

「ブラックリリーも戦うの?」

「駄目かしら? さっきやられそうになってたし」

「う……」

「冗談よ。とにかく、今のあなたはちょっと心配だから加勢させてもらうわよ」

「分かった。……ありがとう」

「! ふ、ふん」

「おやおや……」

 

 何かおかしかっただろうか? それよりも、あの魔物だな。サンフレアキャノンなら大ダメージを与えられているような気がするから、繰り返して使うのが良いかな?

 いやむしろ、ブラックリリーの空間斬りでやってもらったほうが早いか?

 

「あいつ、硬いしブレスの間隔も短い。ブラックリリー、スペースカットは使える?」

「え? ええ、一応魔力は残っているわよ。一回は大丈夫だけど、二回目は怪しいって所ね」

 

 空間ごと斬ってしまえば、流石にあの魔物も一溜まりもないと思いたいが、相手は未知の脅威度Sの魔物だ。そんなに上手く行けるだろうか。

 もしかしたら、ブラックリリーに被害が出てしまうかも知れない。やっぱり俺がやるべきか? 使える手はまだまだあるが、長引かせると長引かせた分、地上に被害が出るよなぁ。

 

 そもそも俺だって、最初から強力な魔法を使ってないから何言ってんだって話か。一応攻撃を吸収してしまうような魔物とかに警戒した上での判断だけどな。しかも今回は未知のSだし、怖いだろ?

 

「えい!」

「いたっ!? 何するの!?」

 

 そんな事考えていると、ブラックリリーにデコピンを食らってしまった。地味にそれ痛いんだから辞めてくれ……。

 

「また考えてるじゃないの。さっきもそうだったけど、本当にどうしたのよ?」

「……」

 

 確かに。

 今日の俺は無駄に考えすぎている気がする。しかも、戦闘中にだ。俺は一体何をしているんだ? 何でここまで……駄目だな、何か弱気になってる気がする。

 

「はあ。何な悩み事でもあるのかしら? つい最近、私を助けてくれたリュネール・エトワールはどうしたのよ」

「それは……」

「いえ。良いわ。私たちはまだそんな仲じゃないものね……むしろ敵対関係だった訳だし」

「無理に聞くつもりは無いけど、それは今考えることかい?」

「そう、だね」

 

 ララ……黒い兎のぬいぐるみにも、そう言われてはっとする。

 そうだよ、今考えるようなことではない。ブラックリリーだって野良だが魔法少女だ。そして魔物とも戦っている……危険を承知の上なはずだ。俺はそんなに気にする必要はないはずだ。

 

 守りたいとか言っておいて、俺が守られてどうするんだって話だ。

 今は今……あのティラノサウルスもどきの始末が先。俺は自分自身に強く言い聞かせる。

 

 ホワイトリリーとブルーサファイアについてもそうだ。彼女らは魔法少女として、戦う覚悟があるに決まっている。魔法省に所属して魔物と戦う……強制でもなく、意思が尊重されているんだ。

 

 それを知ってなお、戦うと決めたのは彼女たちだ。俺が心配するのはお問違いであるだろう! まずは、自分自身を守れ。魔力装甲があるとは言え、ブラックリリーに助けられた。何やってんだよ、俺は!

 

「ありがとう」

「どうやら大丈夫そうだね。それでどうするんだい?」

「ん。ブラックリリーのスペースカットを試して欲しい」

「分かったわ」

 

 別に長引かせるつもりはないのだ。相手の特性とかそういうのを把握してから本格的に攻撃をしたいだけで、長引かせたいとは思ってない。長引かせればその分、さっきも言ったが被害が広がる。

 だからこそ、理想は速攻で倒すこと。だけど開幕、相手の力量を確認せず、強力な魔法を使った場合……弱い魔物なら大丈夫だが、今回のような脅威度の高い魔物だと、何か特殊な能力を持っていてもおかしくはない。

 

 以前にも言ったように、攻撃というか魔法を吸収してそれを反射する力を持っていたらどうだ? 開幕大ダメージの魔法を使用した場合、それが跳ね返ってくる。

 回避できるなら良いが、そもそもそんな力持っているかわからない状態での攻撃だ。避けれる可能性は低いと言えるだろう。そうすると自分ではなった強い魔法が自分に返ってきてしまう。

 

 他にも色々と考えられることは多く、そんな開幕ホイホイ大魔法を使うのはちょっと怖い。

 

 それ言ったら今、ブラックリリーに言ったこと……スペースカットは大魔法じゃないのかって話になるが、あのティラノサウルスもどきとは、俺が戦っていた。奴に反射能力はなく、こっちにリスクが有るような物もないと判断。

 

 ただ、妙に素早いし短い間隔で強力なブレスも放ってくるのは厄介か。

 因みに、火と水以外にもう一つ、あいつのブレスがあった。なんて言えば良いのかな? こう、口から土のようなものを放ってくる……うーん、一応土ブレスって言えば良いか?

 

 土ブレスとかまた新しいなと思いつつ、取り敢えずあいつは三つのブレスが使えるのは分かってる。当然、身体も硬く簡単な魔法では大打撃は与えられないのも分かる。

 

 耐性についてはサンフレアキャノンを使っても生き延びているし、多分ある。恐らくは水と土? にも耐性があると俺は思ってる。まあ、どっちも俺は使えない魔法なので関係ないか。

 

「あれを斬れば良いのね?」

「うん、お願いする。魔力が危なかったらまた譲渡する」

「ええ、その時は頼んだわ」

 

 ブラックリリーのスペースカットと言う魔法。名前の通り、空間を切断するとんでも魔法だが、彼女自身の魔力が少ないのもあってそんなに連続しては使えず、満タンな状態で二回だけ使っただけで空に近い状態になってしまう。これは結構致命的なデメリットだ。

 魔力が無くなれば戦闘継続も難しくなるし、最悪の場合は変身が解除されてしまうだろう。そんな状態で魔物の攻撃をまともに食らったら、まず無事では済まない。

 

 現状俺の最強? の魔法であるサンフレアキャノンでも倒しきれない相手だ。いや、そもそもは今まで一発で倒せていた事自体がおかしいのだろう。そのせいでちょっと感覚も狂っている気はする。

 

 グラビティボールや、ブラックホールっていう未だに実践では使ってない魔法もあるけどな。これらの魔法の一番の懸念はその影響力の高さ。

 ブラックホールは周囲の重力場を著しく乱し、ありとあらゆる物を吸い込んでしまう魔法だ。多分、実践で使ってないのを入れてもこの魔法が一番強く、そして危険だと思ってる。

 グラビティボールについても、ブラックホール程ではないが着弾場所周辺に少なくない影響を及ぼす。これも重力と関係しているようで、吸い込みはしないけど影響を受けた物が、あらぬ方向に曲がったりとかそんな事が起きる。

 

「ただこの距離じゃ流石に使えないわね。意外とこの魔法って射程が短いのよね」

「そうなの?」

「ええ。取り敢えず、近付きましょう」

「分かった。最後まで守るね」

「べ、別に守って欲しいなんて……」

「ブラックリリー、素直になりなよ」

「ララは黙らっしゃい!」

 

 コントかな?

 いやそんな事言ったら失礼か……でも、何だか俺とラビみたいだな、互いを信用していると言うか、仲が良いのは何となく分かる。ラビに似た容姿でもあるし、妖精なのだろうか。

 

 ラビが反応していたし、妖精だろうなあ。

 

「念の為、今も魔力譲渡しておく」

「へ……きゃっ!?」

 

 大丈夫とは言えども、俺を助けるためにテレポートを使ってたし、ここに来るまでの間にもしかしたら魔物と戦っていたかも知れない。なので、念の為、力を譲渡したのだがブラックリリーはビクッと肩を跳ね上がらせる。

 

「ちょっと、いきなり何をするのよ!」

「ごめん。でも一応、今も譲渡した方が良いかなって」

「はあ……それは助かるけれど、せめてひと声かけて」

「かけたよ?」

「いや君、かけると同時にやったよね?」

「?」

「……まあ良いわ」

 

 何か微妙な顔されたけど、良いか。

 俺とブラックリリーは気を取り直し、ティラノサウルスもどきの魔物へと近付く。途中でばれるのも面倒なので、ハイドによって姿を消す。

 

 そしてブラックリリーがここで良いと言った距離まで近づいた所で、一旦止まる。割と近いが、魔法の効果なのかこっちには気付いてないように見えるが、こっちに何度か目を向けてくるんだよな。

 

 魔力の反応でも感じたか? 取り敢えず、今の所は問題ないな。

 

「よろしく」

「ええ任せなさい。――スペースカット」

 

 ブラックリリーがティラノサウルスもどきに狙いを定め、ステッキを大きく上に振り上げる。魔法のキーワードを紡ぐのと同時に、高く上げたステッキを振り下ろす。

 

 刹那。

 ティラノサウルスもどきの居た空間が、真っ二つに割れるのだった。

 

 

 

 



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Act.24:災厄の大晦日⑥

 

「えっぐ」

「それをあなたが言うのかしら?」

 

 ティラノサウルスもどきの魔物……サンフレアキャノンでさえ、結構耐えていたがブラックリリーのスペースカットによって、あっさりと消滅する。

 ティラノサウルスもどきの居た空間が真っ二つになり、そしてまた空間がくっ付く……うん、ある意味凄い光景だよなこれ。

 

 俺がそこそこのダメージを与えていたのもあったのかも知れないが、今回はブラックリリーのお手柄だな。俺は戦闘中なのに変なこと考えて、気付いたらもう魔物の爪が目の前に迫ってきていたし。

 

「大分被害が広がった」

 

 魔物の居た場所周辺に目を向ければ、あっちこっちにある崩壊した家屋や、倒れている電柱、切れている電線が見え、切れた電線については火花を散らしている。

 ティラノサウルスもどきの魔物が暴れた結果でもあるか、出現してから俺が駆けつけるまでにも時間があったしその間にも被害は出ていただろう。そして戦闘時だって、あいつがジャンプとかしたりすると周りが物凄く揺れたりとかしていた。

 

 仕方がないとは言え、もう少し何とか出来たんじゃないかと思ってしまう。でも、住民たちは既に避難しているっぽくて人影が見えないのは幸いだったか。

 

「仕方がないわよ。今回の魔物は脅威度Sなんだから。それよりも、魔石は回収しないのかしら?」

「ん。今回はブラックリリーが倒したから、受け取って」

「え? でも最初戦っていたのはあなたでしょ」

「わたしは戦闘中なのに色々と考えていたのもあって、危なかった。それにわたしの中では一番強い魔法でも倒しきれてなかった」

 

 サンフレアキャノン。

 太陽の熱をイメージして発動させた魔法で、普通ならこの数千万度以上の温度に耐えられるような物は存在しないだろう。AAの魔物ですら一発で葬り去った魔法だ。ゴジラもどきはAでも耐えてたが、火に耐性があったんだと思う。

 今回相手にしたティラノサウルスもどきも、耐性があったんだろうか? 何せ脅威度Sの魔物が出現したのはこの地域では初めてだからそこの所は良く分からない。

 

「いやいや、普通はそんなもんでしょ……」

 

 何処か呆れた顔を見せるブラックリリー。

 

「脅威度Sまで一撃で倒せたら逆に引くわよ」

「ええ……」

 

 すぐに倒せる方が被害も少なく済むのではないだろうか? まあ、でも確かに今まであっさり倒せてたのがそもそもおかしいという自覚はあったよ、うん。

 取り敢えず、ティラノサウルスもどきの魔物は倒せた。後は魔石の回収なのだが……俺はちらりとブラックリリーを見る。俺の視線に気付いた彼女はこちらを見返してくる。

 

「どうかしたの? 私の顔に何かついているかしら」

「何もついてないよ?」

「そう? それじゃあ何かしら?」

「魔石」

 

 話が逸れてしまっていたので戻す。

 魔物が居た場所に近付くと、そこには大きな魔石が二つほど落ちていた。いや、落ちていると言うか……設置されている? 高さは大体今の俺の身長の半分くらい。思ったより大きい。

 

 普通の魔石と違うのはもう分かるが、他にもこの魔石の色が普通じゃない。上から赤色、青色、緑色の三色の色と持っているようで、淡く光っている。

 

「これ、凄く大きいわね」

「うん、この大きさはボクも初めて見るかも」

 

 ブラックリリーとララがそんな事を言うが、確かにこの大きさの魔石は俺も初めて見る。大きさだけではなく、内包されている魔力量も今までのものとは比べ物にならないくらいだ。

 

「(これは凄いわね……ここまでの大きさと魔力。)」

「(ラビ? 何かもうバレてるみたいだけど?)」

「(ええ、分かってるわ。間違いなくあのララって子は妖精よ)」

 

 魔石についてはラビからしても凄いものらしい。

 ただラビの場合は初めてではないみたいで、15年前の脅威度SSの魔物を倒した後に出てきた魔石というのが、一番でかくで魔力量も多いと言ってた。

 15年前に出現したドラゴンのような魔物。以前にも言ったと思うが、国一つを半壊にまで追いやった恐ろしい存在だ。当時は原初の魔法少女たち7人のお陰で、何とか被害は半壊で済んだとされている。

 あのまま魔法少女たちが居なかったら国一つは愚か、周辺諸国まで狙われていたかも知れないと言われている。それだけではなく、羽も持っていたため、空を飛んで移動することも出来たとされてる。

 

 当時は空を飛ぶという行動をすることはなく、ただただ周辺の建物や木などに対して破壊の限りを尽くしていたらしい。更にその頃は警報なんてものは当然なく、魔法省のような組織もなかったため、避難も遅れた。

 その影響もあり、数千以上の死傷者が出てしまったそうだ。ドラゴンは口から火を吐いたり、その巨体を大きく動かし周囲を激しく揺らしたり、しっぽを振り回したりして破壊行動をしていた。

 

 火のブレスは周囲を焼き払い、その火が他の建物や木などに引火し、更なる火災を引き起こした。他にも地震のような被害もあり、その国はもう滅茶苦茶だったそうだ。

 それでも、原初の魔法少女たちのお陰で半壊で済んだ。空を飛べる能力もあるとされていたので、距離が離れている国でも油断はできない状況で、世界中を戦慄させた事件でもある。

 

 で、また話が逸れてしまったが、そのドラゴンの魔物が倒された時に見つかったのが物凄く大きな魔石だった。ラビの話によると、大体二メートルから三メートル以上の高さにもなる魔石だったそうだ。幅も広かった。そして内包している魔力量も桁違い。

 

 まあ、ラビはそんな魔石を見ているのだからこの程度では驚かないのは当たり前だよな。

 

「分配どうする? 個人的には全部ブラックリリーがもらって欲しい」

「何言ってるのよ。ちょうどニつあるんだから一つずつに決まってるでしょ」

「え、でも……」

「えもだってもないわよ。とにかく、一つずつね」

「……分かった」

 

 このまま何を言ってもブラックリリーの意思は変わらないと判断した俺は、素直にもらうことにした。それにしても、この大きさ……収納しきれるのだろうか?

 片手では普通に持ち上げられそうだ。まあ、今は魔法少女状態だし力とかは大きく上がっているはずなので、このくらいは持てるか。ステッキよりも明らかに大きいが、魔石をステッキに近づけてみる。

 

「普通に収納できるんだ……」

「(そりゃそうよ、それはエーテルウェポンよ?)」

 

 俺が素直にそんな事を言うと、ラビに突っ込まれた。

 というかラビ、もうララだっけ? あっちの妖精にはバレているんだし、とんがり帽子に隠れる意味なくないか? それに向こうは普通に隠すこともせず、堂々に俺らに見せてくるし。

 

「(もしかしたらカマ掛けてるかも知れないじゃない?)」

「(まあ、確かに……)」

 

 たしかにその可能性は考えてなかったな。

 でも、ララという妖精は何処か確信じみた感じで言っていたから、そこが気になる。何かを感じたというところか? 同じ妖精なんだし妖精特有の何かがある可能性はあるな。

 

 まあ、相手の出方を見るのが一番が。

 

 それに、魔石を回収したとしてもまだ終わっては居ない。まだ、水戸の方にはクラゲもどきの魔物が居るはず……倒されているならそれはそれで良いのだが……。

 

「ん。わたしは水戸に行く。ブラックリリーは?」

 

 俺は向かうつもりだ。やっぱりなんだかんだで、あの二人が気になる。怪我とかしてなければ良いが、まずは行ってみるしか無いな。問題がないのであれば、特に手出しはしないで済むってだけだし。

 

 ただブラックリリーは所謂、お尋ね者のような存在となっている。公にはされていないものの、密かにブラックリリーを探していると聞いてる。毎回思うけどそんな情報を流して良いのだろうか。

 それはさておき、そんな訳でブラックリリーは行かないほうが良いと思ってるが、そこの所はどうだろうか。

 

「そうね……本当なら行きたくはないけれど少しだけ嫌な予感がするのよね。それにあなたも、なんか危なっかしいし」

「嫌な予感?」

「ええ。まあ、私だけかも知れないから何とも言えないけど。取り合えず今回はついていくわ」

「大丈夫?」

「さあ? むしろ、あなたのほうが大丈夫って言いたい所だけど」

 

 それを言われると弱い。

 今回ばっかりは猛反省しよう。

 

「冗談よ。さ、行きましょ」

「ん」

 

 俺はブラックリリーの差し出してきた手を掴む。

 

「テレポート」

 

 そして俺たちは水戸へと向うのだった。

 

 

 



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Act.25:崩壊した町①

 

「こ、これは……」

「何よこれ……」

 

 俺たちは目の前に広がっている、光景を見て大きく目を見開く。

 

 半壊したビルに、全壊した家屋。ヒビの入ったアスファルト……あまりにも現実離れしている物を見て何も言えないでいた。駅からはそこそこ離れている場所ではあるものの結構賑やかな場所だったはず。

 

 ここで一体何が起きたのか?

 十中八九、あのクラゲの魔物のせいだとは思うが、ここまで酷くなっているとは思わなかった。所々に無事な場所や、あまり壊れてない場所などが見えるが……。

 

 恐らくは魔法少女たちが戦っていた跡だと思う。バリアみたいなやつで防がないと、ならないような形で残っている場所もあるし。魔法少女が戦っていたのは確かだと思う。

 

「……これクラゲがやったの?」

「ん。それしか考えられない」

 

 他の魔物が出現した可能性も考えられるが……これ、他の魔物が荒らしたようには見えないな。丁度、クラゲの居た場所のすぐ近くのはずだし、あいつの周囲には魔物が出てなかった。

 まあ、確定というか確信している訳ではないが、取り敢えずクラゲもどきの魔物がやった可能性のほうが高いというのが俺の考え。他の魔物が原因なら、俺の考えは外れということ、それだけだな。

 

「肝心な魔物は何処に……」

「見た感じでは、確認できないわね」

 

 クラゲもどきの居た場所の近くだ。ここから見えても良いと思うが、空を見ても特にそれらしき姿は見えない。

 

「何か天気も不気味ね」

「ん」

 

 さっきまで青空だった気がするが、今はただただ不気味な明るさの空。分厚く、灰色の雲が覆い隠している。世紀末のような感じさえさせる。

 一体何があったのか? クラゲもどきの魔物との戦闘があったのは確かだ。それなら、戦っていた魔法少女たちは何処に居るんだ?

 

「瓦礫が多いわね。……ここまで被害が出ているのを見たのは初めてよ」

「それはわたしも」

 

 今までの魔物出現では、全くの被害がないとは言えないが、ここまで酷いのは初めて見る。俺たちはそんな悲惨な状態となってしまっている町の中を警戒しながら歩く。

 水戸駅はこの先をずっと真っ直ぐに行った所にあるはずだが……この調子だと向こうも荒れていそうだ。崩壊した町並み……まさか、現実の世界でこんなものを見る羽目になるとは思わなかった。

 

 取り敢えず、先に急ぐべきか?

 いや、それよりも少しこの辺りを調べるほうが先か? でも、調べると言っても何をと言う話になるな。もしかしたら魔法少女や一般人がいる可能性は考えられる。

 

「どうするの?」

「進もう」

「分かったわ。テレポートする?」

「いや、最初は良いかな」

「了解」

 

 テレポートで一気に行ってしまっても良いが、戦闘中とかだったらいきなり現れた俺たちに戦ってる人が注意を逸してしまうかも知れないし、それは危ないかな?

 

 ただ気になるのは魔物の姿が見えないこと。

 空を飛んでいたし、その図体も大きかったはず。向こうの方に居るのであれば、見えてもおかしくないんだけどな……それとも、見えない距離まで移動している? 空路を使えるわけだし、その可能性もあるか。

 

「今にも崩れてきそうなのもあるわね」

「ん。気を付けて」

「そっちこそね」

 

 破壊されてからあまり時間が経ってないように見える。半壊しているビルについては、ボロボロと上から破片とかが落ちてきているし、危なそうだ。ただ、こっちは魔法少女の状態なので大丈夫だとは思う。

 電柱とかも倒れていたり、完全に壊れていたりしている感じだ。恐らくこの辺一体のライフラインは停止しているものと見える。とは言え、人影はなく避難はできいるのかも知れない。

 

「スターシュート!」

「え? きゃ!?」

 

 放たれた星が空中にあるコンクリートのブロックを打ち砕く。

 

「驚いたじゃないの。まあ、助かったけれど」

「ん」

 

 ビルの上からブロックが丁度、ブラックリリーのいる場所へ落ちてきていたので咄嗟に魔法で砕いちゃったが、間に合ったようだ。魔力装甲があるとは言え、割と痛いと言ってたしあのコンクリートブロックにぶつかったらそれなりに衝撃も来るだろう。

 

 周囲に気を配りつつ、俺は進んで行くのだった。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

「……」

 

 私は魔物の戦闘の影響なのか、悲惨な状態になってしまっている町を見る。あっちこっちで戦闘をしたであろう跡が残っていて如何に激戦だったのかが見て取れる。

 空は酷くどんよりとしていて、不気味な色合いになっている。ビルや、建物の窓ガラスは完全に割れていて、一部は全壊している物もある。道路だった場所は凹んでいたり、ヒビが入っていたりなどの有様。

 

「ララ。これはやっぱりあのクラゲの魔物の仕業なの?」

「他の魔物が出現してやった可能性もあるけど、まあ、クラゲの仕業の可能性が高いね」

 

 少し先で周りを見ているリュネール・エトワールを見る。

 またこんな形で、一緒に行動するとは思わなかったけれど……何か今日の彼女は挙動不審と言うか、何か違う感じがする。と言っても、私もそこまで一緒に過ごした訳でもないし、以前の共闘の時のみくらいだ。

 

 でも、そんな私でもあの時と比べて本調子には見えない。それでも十分強いっていうのがちょっと妬けるけれどね。

 

 だって、戦闘中に止まるんだもの。顔もなんかあれだったし……彼女の魔力装甲はかなり強靭なのは分かってたけど、ついつい見ていられなくて助けちゃったけれど。

 

 というか何で私こんなにも、あの子のこと気になってるのかしら? 確かに助けてもらったのは感謝してるんだけど……。

 

「? ブラックリリー? 何か顔赤いよ?」

「へ……!?」

 

 ララに指摘されると、急に自覚する。顔が更に赤くなっていくのを感じる……何で? 何で? ふと、さっき落ちてきたブロックを素早く魔法で砕いてくれたリュネール・エトワールを思い出す。

 

 素直にかっこいいと思ってしまった。

 

 あれ? あれ? あれ?

 

「!」

 

 不意打ちに直ぐ側に人の気配を感じ、身構えるがそこに居たのはさっきまで向こうに居たはずのリュネール・エトワールだった。

 

「大丈夫?」

 

 ちょっと、近いわよ!?

 

「?!」

 

 次の瞬間、リュネール・エトワールが顔を思っきり近づけてくる。更に私の顔は赤くなっていくのを感じるけれど、もうどうして良いか分からず目を瞑る。

 

「熱は、無いみたい」

「へ?」

「顔赤かったし、体調悪いのかなって思って」

 

 その言葉にどっと疲れが襲ってくる。本当に何なのよこの子は……そんな私も何かさっきから気持ちが落ち着かないけど。これは一体何なの?

 彼女とはまだ会ったばっかりだし、何も分からない。でも一緒に居るのは何処か安心ができるのも事実なのよね。私がおかしいのかしら……はあ。

 

「だ、大丈夫」

「そう?」

 

 それなら良いけど……とリュネール・エトワールは続ける。毎回思うけど、この子魔法少女状態ではあるけど容姿とかずば抜けてる気がするわよね。銀髪金眼……まず、日本じゃ見ないわよね。

 とは言え、魔法少女状態は魔力を纏っているから元の姿をは大きくかけ離れるのが普通だけど。僅かではあるけど、元の姿の面影も残るわね。

 

「それよりも、先に行くんでしょ」

「ん」

 

 このままだと、何かおかしくなりそうなので気持ちを切り替える。未だにドキドキしているのが止まらないが、それはもう気にしないことにした。

 

 本来の目的はクラゲの魔物よ。

 あそこまで大きかったし、空を飛んでいたのだから近くにいれば普通に見える気はするんだけれど……生憎空を見上げて向こうの方を見てもそれらしき姿は確認できないのよね。

 

 見えない距離に移動したか、それとももう討伐できたのか。

 後者はまだな気がするわね。もし倒したのなら、この辺の復旧作業等をしているはずだし、この場に誰も居ないのはちょっと変だと思うわ。まだ手が届いてないって可能性もあるけれど……。

 

 そうなると、前者? 空を飛べるのだし既に県央ではなく別の地域に行ってる可能性もあるわよね。

 

 後は考えたくないけれど、全滅もしくは撤退せざるを得ない状態にまで被害が出たか。でも、仮に全滅したとしても魔物は残るはずよね。撤退だってそうよ。

 

「……」

 

 何が起きたのかはわからないけど、とにかく今は情報を集めないと。でもこの辺には人影は全く無いし……どうしようかしらね。私は同じようにして考えているリュネール・エトワールを見た。

 

 

 

 

 

 



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Act.26:崩壊した町②

 

 崩壊した町の中を進むこと、数分経過した頃。

 特に魔物も居らず、平和だった。まあ、周りの景色というか風景は平和とは言い難い状態だが。ただ魔物が居ないというのと同時に、人影も全く無い。

 

「うわ、歩道橋も酷いわね」

「ん」

 

 道を渡るために設けられている歩道橋が見えたが、他の建物と同じように悲惨な状態になっていた。

 

「それにしても、全然魔物の気配がしないわね」

「うん。やっぱり遠くに行った?」

「どうかしら……」

 

 結構進んだはずなのだが、一向に魔物は見当たらない。クラゲの魔物は一体何処へ行ったのか……そんな事を思っている中、ブラックリリーが何かを見つける。

 

「ねえ、あれを見て」

「え?」

 

 ブラックリリーの指差した方向に目を向けると、瓦礫の山に背中を向けて倒れている人を発見する。慌てて俺たち二人はその倒れてる人の元へ駆けていく。

 

「大丈夫?」

 

 声をかけるが、少女からの反応はない。念の為、脈の確認をしてみた所、生きているようで安心した。

 

 ん? ちょっと待てよ? この衣装……それからこの子から感じる魔力……。

 

「これ、魔力の装甲よね」

「ん。魔力を纏ってる……という事はこの子は魔法少女」

 

 魔法少女の衣装特有の独特な衣装を身に纏ってるし、更には魔力も感じ取れる。変身はまだ解除されてないようだが、魔力残量の方が大分少ない。このまま放っておけば変身が解除される可能性があるな。

 周りには誰も居ないが、万が一解除した状態で魔物とかに襲われたら大変だろう。そもそも、こんな所に女の子放っておける訳がない。

 

「魔法省の子?」

「ん……分からない。わたしも魔法省に所属している魔法少女全員を知ってる訳じゃないから」

「それもそうよね……」

 

 人手不足とは言え、茨城地域の魔法少女は30人も居る訳だ。そんな全員を知ることなんて出来ない。最も……最近はドタバタしているようで、遭遇すること自体少なくなってしまってるが。

 

「取り敢えず魔力譲渡する」

「分かったわ。何があったかも聞きたいしね」

「ん」

 

 気を失ってしまってるので、話が聞けないがそもそも今の状態のままだと解除されて本当の姿の方がバレてしまうだろう。俺は知ったとしても言いふらす気はないが、それでも意識のない内にばれるなんて言うのはこの子も本望ではないだろう。

 気を失っている少女のおでこ辺りに手を触れる。魔力譲渡は別に、場所が決まっている訳ではないので何処触れても可能だ。一番無難なおでこに触れた所で、徐々に魔力を送り込む。

 

「っ」

 

 一瞬だけ少女の身体が動くが、目が覚めた訳ではないようだ。うーん? 俺の知らない魔法少女だよな? いやでも、何処かで見た事あるような。

 白い髪に、白い衣装……目は閉じているのでわからないけど、白が基本な感じの魔法少女だ。ホワイトリリーに近いかも知れない。まあでも、明らかにホワイトリリーとは衣装が違うし、彼女ではないのは確かだ。

 

 そこそこの魔力を譲渡した所で、止める。これで大分この子の魔力は回復したはずだ。まず、変身解除が起きる事はないはず。

 

「ヒール」

 

 次に使うのは、傷を癒やす魔法のヒール。少女の衣装はあっちこっちがぼろぼろになっていて、肌が出ている場所についてはそれなりの切り傷やかすり傷などが見られる。

 まあ、俺がさっき魔力譲渡で魔力を流したのでそれを使用して衣装の自動修復が始まってる。しばらくすれば、衣装は元通りになるだろう。

 

 後は、今俺が使ったヒールで傷を癒やしていく。傷を負っているということは、魔力装甲が少し破られたのかな? 魔力装甲が残っていれば直接生身にダメージはないはずだしね。まあ、衝撃とか反動で痛みは感じると思うが。

 

「ふう」

「どう?」

「魔力自体は回復したと思う。後は目を覚ますのを待つだけかな」

「そっか……」

 

 相変わらず、どんよりとした空のままだ。

 

「これは……ララ」

「ああ。間違いないね……これは」

 

 気を失っている魔法少女の治療をし終えた所で、少し離れた場所からブラックリリーと、ララのの驚いたような声が聞こえる。何かあったんだろうか。

 

「うん? どうしたの、ブラックリリー?」

「この辺り」

「ん?」

「この辺り周辺に魔法が使われた痕跡が残っているのよ」

「痕跡? ここで戦っていたからそれは普通では?」

「ええ、確かに普通なら良かったんだけれど」

「?」

「……ここで使われた魔法は、空間の魔法よ」

「空間? ブラックリリーが使える魔法と同じ?」

「同じかまではわからないけど、同類ね」

 

 ブラックリリーの話をまとめるとこんな感じだ。

 今俺らが居るこの一体の区画全体に、空間系統の魔法の痕跡があるとのこと。俺は何も感じないが、同じ魔法を使う者同士なら分かるのかな?

 それは置いておき、つまりブラックリリーのように空間の魔法を使える存在が他にも居るということだ。

 

「空間のどの魔法?」

「うーん……流石にそこまでは分からないわね。でも私が使うテレポートに似ている気もするわ」

「つまり瞬間移動?」

「ええ。確信した訳ではないけれどね」

 

 テレポートの魔法。それは瞬時に場所を移動できる、普通の人から見れば喉から手が出る程欲しい力だろうと思う。だって、それが使えれば出勤とか通学とかで、満員電車とか満員バスとか乗らずに済むし、何より一瞬なので家でゆっくりしてから行けるというのもある。

 いい事ずくめではあるな。ただ、そんな瞬間移動に頼りきりだったら肉体が衰えて、歩けなくなる可能性がありそうだが。

 

 っと、話が逸れたな。

 要するにここで使われた魔法はテレポートに似た何かということ。しかも、この辺全体と来た。なにか引っかかるな? 何かまでは分からないが……。

 

「それに、あっちの方を見てみなさい」

「ん」

 

 ブラックリリーに言われた方向を見る。向こうと言えば、水戸駅の方角だな。それがどうしたのかと思ったが、俺はそこではっとなる。

 視線を戻し、今居るこの場所周辺を見て、また向こうを見る。それを繰り返した所で気付いた。

 

 俺達がいるこの場所に比べて、あっちの方は被害が少ない。

 全くの無傷とは言えないが、崩壊した建物はなく、あったとしてもガラスが割れてたり、少しだけ凹んでたりヒビが入っている程度がほとんどだ。

 更にその向こうを見れば、無傷な建物すら見えてくる。つまり、この先には被害があまり出ていない? 俺とブラックリリーがテレポートした場所からこの辺りまでが、大きな被害を受けてる。

 

 そしてこの近くには転移系統かも知れない魔法の発動痕跡。残念ながら俺には感じれないから何ともえ言えないが。ブラックリリーを見る限りでは本当っぽい。それに一緒に居るララという兎も同じらしい。

 

「(ラビは何か感じる?)」

「(ええ一応はね。確かにこの辺りには魔法が発動した痕跡があるわ。何かまでは分からないけど)」

 

 ラビも言ってるし、そうなんだろう。

 

「何こそこそ話してるのよ。既にバレているんだから大人しく出てきなさいな」

 

 どうもカマをかけているわけでは無さそうだ。向こうはこっちにラビが居るということを確信している感じ。それに今思ったんだが、ラビの過去を見る魔法で何が起きたか見れるのでは?

 

「はぁ……分かったわよ」

「おや、ようやく出てきてくれたようだね」

 

 観念したのか、ラビが俺のとんがり帽子からそろりと出てきて、この場にいる全員にその姿を晒す。

 

「! ラビリア様?」

「え?」

 

 完全に姿を晒したラビを見て、ララと呼ばれている黒い兎が驚いた顔でラビを数回見る。ブラックリリーも何でそんなに驚いているのか分かっていない様子。

 

「ん? ラビリア様?」

 

 ブラックリリーが首をかしげる。

 

「ララだっけ? その話は一旦置いておいて」

「ああ、了解した。ごめん、ちょっと取り乱したよ」

「ラビ?」

「ごめんなさい。今は話せないわ。でも後できちんと話すから待っててくれないかしら?」

 

 ラビリア……もしかしてそれがラビの本名なのだろうか? 気になるが……まあ、無理に聞くようなことはしないさ。

 

「うぅ」

「!」

 

 そんなこんな話をしていると、どうやらさっきの魔法少女が目を覚ましたっぽい。俺とブラックリリーはお互いの目が合ったと同時に頷き、少女の元へ戻るのだった。

 

 

 

 



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Act.27:崩壊した町③

 

「う……ここは?」

 

 先程の魔法少女がゆっくりと目を覚まし、起き上がる。

 

「大丈夫?」

「え? あれ、あなたは……リュネール・エトワールさん?」

 

 起き上がった少女に俺が声をかけると、こちらを向くと同時に俺を見た瞬間驚く顔を見せる。ん? 俺のこと知ってるのか? そうなると、俺も何処か出会ったことがある訳だが……うむ、思い出せない。

 白い半袖ワンピースを元にしたような衣装に、白手袋。白く長い髪に、ほんのりと赤みのあるグラデーションが上から下にかかっている。緑色の目はこちらをじっと見ている。

 

「? 会ったことある?」

「あ、いえ。多分私自身が会ったことはないかと……後方支援がメインなので。ただ魔法省内では結構有名なので、それで聞いた容姿と似ていたのでもしかしたらと思ったんですが……」

 

 なるほど。

 魔法省内で話が広がっているのはまあ、ホワイトリリーたちに聞いたことあるから知っている。容姿とかの話が出ていても何もおかしくないだろうしな。それに、何となくだが俺のこともマークしてそうな気はする。

 

 かと言って、魔法省に所属は今の所する気もない。今の状態ならリアルの容姿がバレても、大丈夫だろうが……。

 

「なるほど」

「はい。えっとそれから……そちらの方は」

「ブラックリリーよ。今はリュネール・エトワールと行動している感じね」

「そうなんですね……」

 

 ブラックリリーがそう言うと、さっきまで俺を見ていたようにブラックリリーの方もじっと見る。

 

「私の顔に何か付いてる?」

「あ、いえ……ちょっと」

「?」

 

 流石にホワイトリリーやブルーサファイアのようには言わないか。多分、彼女を見たのは魔法省内でも話になっているであろう、黒い魔法少女の容姿に似ているから、と思う。というより、実際この子が犯人ではあるが。

 

 とは言え、恐らく男の証言のみしか今の所ブラックリリーの容姿とかは分からないから確信が持てないのだろう。そもそも、黒い魔法少女って他にも居ると思うんだよな。

 

「それで何があったの?」

「それが……」

 

 とにかく、ここで何があったのかを俺は聞きたい。魔物の行方もそうだが、戦っていたはずの魔法少女たちも何処に居るのか。それにブラックリリーが言ってた空間魔法の痕跡も気になるよな。それは流石にブラックリリーしか分からないだろうけど。

 

「消えた?」

「はい。この辺りで戦闘していたのは確かで、最初は良い感じに相手を出来ていたんですけどね」

 

 

 彼女の話を聞いてみると、まず、この辺りで戦闘をしていたのは間違いなく、しかも総勢で相手していたようだ。だからティラノサウルスもどきの魔物の方には誰も来てなかったのか。

 まあ、物事には優先順位があるのは仕方がないのだが……あのティラノサウルスもどきが居た場所よりも、こちらのほうが都心と言っても良い場所。優先度はこっちのほうが高いのだろう。

 

 しかも相手は脅威度Sときた。ティラノサウルスもどきも同じくS……そしてこの地域にいるSクラスの魔法少女は一人のみ。仮に分散させたとしても片方の戦力が絶対足りないだろう。

 それにSの魔物はSクラスの魔法少女複数で対応するのが基本な魔物だしな。これはもう知っての通りだろうが……脅威度AならAクラス魔法少女数名って感じで脅威度1:魔法少女クラス2みたいな感じ。

 

 脅威度に対して該当する魔法少女複数で、相手するのが基本ということになってる。

 あくまで基本ってだけなので、別に単体で倒せる魔法少女も普通にいると思う。これは安全性とかを考えた上での基本的な考えだからな。

 

 話が逸れたが、クラゲの魔物は空中からビームのようなものを撃ってきたり、自分の触手を使って攻撃してきたりなど、見た目から考えられる行動パターンで襲ってきたみたいだ。

 ティラノサウルスもどきや、ゴジラもどきとは違ってブレスのようなものは吐いてこなかったらしい。使ってないだけかも知れないから何とも言えないが。

 

 それで最初は善戦していたようなのだが、それなりにダメージを与えられた時に事は起こった。

 

「見えない壁と言えば良いのか、そんな物が出現してこの辺りを包んでました」

「見えない壁……」

「中から外へ出ようとしてもその見えない壁にぶつかって出られないと言った感じです。私は、見えない壁の範囲外? に向かっていたところだったので免れました。異変に気付いて慌てて向かおうとしたんですが、どうも外からも中に入れないようで弾き返されてしまったんです」

 

 見えない壁がこの辺を囲った、か。

 中に居た魔法少女は閉じ込められ、外に居た魔法少女は近付こうとしても弾かれたらしい。何だそれは……でも何かこんな事できそうな魔法を知ってるような……。

 

「空間の魔法ね。恐らく一定範囲の空間を作って中に閉じ込めたって所かしら」

 

 そうだ。

 ブラックリリーの空間操作の魔法の中に、任意の形の空間を作れるっていうとんでも魔法があったな。でも、ここで使われた空間魔法の痕跡は転移系統って言ってたような。

 

「あれ? でも空間魔法の痕跡は転移のものって言ってなかった?」

「言ったわね。あれは、まだ確証がある訳では無かったし。と言っても空間を作ったっていうのものまだ確信できないけれど」

「?」

「閉じ込めたなら、何でここに誰も居ないのって話よ。それにさっきその子も言ってたじゃない? 消えたって」

「そう言えば……ねえ、消えたっていうのはどういう事?」

「見えない壁が生成されてしばらくした所で、一瞬にして魔物と壁の内側に居た魔法少女たちが消えました」

「……転移の魔法はこれかしらね」

 

 わざわざ空間作って、転移させたという事になるが魔物目的は何なんだろうか。やっぱり、魔法少女の持つ魔力か? 一箇所に集めてまとめて? でも魔物も一緒に消えたって言ってたし、わざと連れて行ったように見えるな。

 魔法少女たちが無事なら良いのだが……しかし、それだと困ったな。何処に飛んでいったかが分からないし。

 

「内側に居た魔法少女たちが、ってことは、外側にはあなた以外にも魔法少女が居たのかしら?」

「はい。私を含めて5人ですね。今は周囲の見回りと魔法省と連絡をとってるかと思います」

 

 肝心な何故ここで気を失っていたのかと言えば、これは何と言えば良いんだろうか……辺りを散策中に瓦礫が落ちてきたり、コケたりとかしたのが原因で……うん、不幸な子だ。

 瓦礫とかそういうのでも、魔力装甲は削れる。脅威度Sの魔物と戦っていたわけなので、その時点で結構消耗していたはず。不幸が重なったって感じだな。

 そもそも、一度離れたのも後方に行って回復してもらうためだったそうな。

 

「あ、すみません。私は魔法省茨城支部所属Aクラス魔法少女、ホワイトパールです」

「ホワイトパール……」

「直接、は会ったこと無いと思います。ただ遠回りに助けられたのは事実です。ありがとうございます、リュネール・エトワールさん」

 

 ホワイトパール、か。

 いや、Aクラス魔法少女で名前だけなら何となく知ってたが、姿までは見たことなかったし。というか待て、Aクラス魔法少女?

 

「一応聞きたいけど、他の4人のクラスは?」

「えっと、ニ人がBクラス、もうニ人がCクラスの魔法少女ですよ。後方支援で偶々、外側に居たので免れた感じです」

「なるほど」

 

 Aクラス魔法少女は茨城地域には9人だから……今、魔物と一緒に居るのは8人と言ったところか。それからホワイトリリーも恐らくそうだろう。こればっかりは、ホワイトリリーも一緒っていうのは安心出来る。

 でも相手はSの魔物だし、心配は尽きない。Bクラス魔法少女が二人ということは、もしかするとブルーサファイアが含まれている可能性があるな。まだわからないが。

 

 そうなると、今クラゲもどきの魔物と一緒に居るであろう魔法少女は25人か。

 

「あの」

「ん?」

 

 そんな事を考えてると、ホワイトパールに何処か遠慮がちに声をかけられる。

 

「あの。リュネール・エトワールさん……皆を助けて下さい! 野良であるあなたにこんな事言うのは間違いなのは分かってますが、私たちでは何も分かりません」

「それを言ったらわたしも状況把握しきれてないよ?」

 

 何せ、当時の事を見た訳ではないしな。ティラノサウルスもどきを相手してたから。そしてそれはブラックリリーも。ただまあ、ブラックリリーの場合は空間魔法の痕跡とかが分かるらしいが。

 

「それは分かってます。私たちも出来る限りやります……どうか手伝ってもらえませんか。そちらの魔法少女の方も」

「だそう。ブラックリリー」

「私は別に……リュネール・エトワールが決めれば良いじゃないの」

「わたし?」

「ええ。少なくとも今は協力関係だし、情報が少ないのも事実よ」

 

 まあ、俺も気になるし、答えは決まってるさ。ブラックリリーもこう言ってる訳だし、ね。

 

 

 俺はホワイトパールに向き合い、答えを告げるのだった。

 

 

 



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Act.28:協力関係

 

「まずは、協力してくれるってことで、お礼を言うわね。リュネール・エトワールと、ブラックリリー。それからもう一体の魔物を倒してくれて本当に感謝しているわ」

「ん」

「別に……」

 

 魔法省所属のAクラス魔法少女ホワイトパールに遭遇し、一時的に協力するという答えを告げた後、何故か茜たちがやってきていた。いや、茜が魔法省に勤めているっていうのは分かってたけど……。

 なんか色んな人に、指示とか飛ばしていたしかなり偉い地位なのでは? と思ってる。幹部かそれ以上か……まあ普通ではないのはもうお察しの通りである。

 

「まずは情報共有って言いたい所なんだけど……こちらも何が何だか分かってないっていうのが現状よ」

 

 崩壊していた町から少し離れた場所……水戸駅付近に止まっている魔法省の車の中で茜がそう切り出した。やっぱりあの町だけが特段に大きな被害を受けていたっぽくて、水戸駅の方はそこまで酷くはない。無傷な所もあるしな。

 

 そんな水戸駅周辺には魔法省の人や、自衛隊の人たちなど多くの人が集まっていた。今回の脅威度S魔物の出現について、重く捉えており自衛隊も派遣されているとのこと。

 テントがあっちこっちに設置されていて、そこには陸上自衛隊や警察、消防とかも待機してる。パトカーや消防車以外にも陸自の96式装輪装甲車や、10式戦車等の兵器も投入されている様子。空にはヘリコプターとかも飛んでいるみたい。

 

 活動としては崩壊した町の調査や、逃げ遅れてしまった一般人とかが居ないか等様々で、自衛隊と魔法省が連携をとってる。後は周囲の哨戒とかかな?

 今の所、魔物の出現は確認されてないからある程度自由に行動ができている状態か。いくら自衛隊といえども、魔物には攻撃が効かないからどうしようもない。

 ただ今回、どうやら噂の魔導砲の試作型を搭載している戦車も数台居るっぽい。実際使ってどういう感じなのか、そういうのを実験している所での今回の魔物である。

 

「ホワイトパールから話は聞いてると思うけれど、一瞬にして見えない壁の内側に居た魔法少女たちが消えてしまったのよね。免れた魔法少女たちもそう言っていたから」

 

 他の4人の魔法少女たちも同じ所を目撃していたようで、消えたというのは本当みたいだ。今は、自衛隊たちと協力して辺りの捜索や、見回り、哨戒等を行ってるそうな。

 

「そんな訳で現状お手上げなのよね。辺りの捜索をしているけれど、これと言った手がかりは見つかってないわ」

 

 そんな訳で茜もとい、魔法省も手こずっている様子。

 

「ん。大体は理解した。次はこっちの番」

「ええ、宜しく頼むわ」

「と言っても、こっちもそこまで情報を持ってるわけじゃないけど」

「今は何か分かればそれで良いわ」

 

 俺たちもそこまで情報があるわけじゃないからな。

 あるのはブラックリリーが感知した、転移系統の魔法の痕跡があるという事。まだ確証がある訳ではないものの、俺もそれが濃厚かと思い始めてる。

 だって消えたって言ってるんだぜ? それから思い浮かぶのはテレポートの魔法だ。一瞬にして移動ができるあの魔法は、傍から見れば消えたように見えるだろう。いや、実際その場からは消えているんだけどな。

 

 そんな訳で俺とブラックリリーはその魔法についての事を茜に話す。

 

「転移の魔法……そんなのもあるのね」

「ええ。ただまだ確実とは言えないから分からないけれどね」

「ん。仮に転移の魔法として、行き先が分からないと助けに行くことが出来ない」

「そうね……」

 

 そうなのだ。

 さっきも言ったのだが、テレポートのような魔法であった場合、それはつまり別の場所へ移動しているということ。行き先が分からない以上、こっちから迎えに行くのは難しい。それにテレポートのような魔法ではない可能性だってまだある。

 

「ブラックリリーはその転移が使えるんだったわよね? どんな感じなのかしら」

「やってみる?」

「ええ、お願いするわ」

 

 茜がそんな事を言うので、ブラックリリーは立ち上がりそしてキーワードを紡ぐ。

 

「――テレポート」

 

 すると、一瞬にしてブラックリリーの姿が消える。

 

「消えた……」

「ん。これがテレポート、らしい」

 

 最初はまあ、驚くよな。一瞬で姿が消えるわけだし……そんな事を言ってると、ブラックリリーがこの場に戻ってくる。

 

「どう?」

「ええ……驚いたわね。確かに消えたと言っていた現象と同じね」

「それで、これからどうするのかしら」

 

 確定という訳ではないが、そんな事考えていても分からないものは分からない。まずは行動しないと何も始まらない訳で、ぶっちゃけ転移の魔法を使ったっていう事前提で動いた方が良いと思ってる。

 俺たちでも、何処へ飛んだとかまでは流石にわからない。だが、こっちには他にもラビとララという妖精も居るわけで、もしかしたら何か分かるかも知れない。

 

「そうね、私たちももう少し調べるわ」

「ん。わたしたちはどうすれば良い?」

「今の所はうーんって感じね。出来れば周りの捜索とかに協力してもらいたい所だけど、野良だからそこは強制できないし……」

 

 協力するのは別に良いのだが、野良の魔法少女について他の人がどう思っているのかって所だな。全員が全員、野良に対して好意がある訳ではないだろうしな。

 

「それなら私たちは私たちで調べることにするわね。多分これが一番だとは思うわ」

「そっか……でも確かに、全員が野良に対して良い印象を抱いてるとは言えないし、それが一番かしらねえ」

 

 結局協力と言っても、情報が互いに不足していることもあって進展はなし。でもまあ……俺たちは俺たちで行動したほうが都合が良いのも確かだ。ラビやララがいるから、他にはあまり見せたくないしな。

 

「協力と言っておいて進展無くて申し訳ないわ」

「ん」

 

 とりあえず、俺たちは別で調べるという事にしたのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「はあ……」

 

 車内のモニターを見ながら、私はため息をつく。その原因はやっぱり、消えてしまった25人の魔法少女たちだろう。クラゲもどきの脅威度Sの魔物が動き出して、それに対抗するために魔法少女たち30人総勢で出動した。

 

 同時に、別の場所でも魔物が観測されていてそちらも脅威度Sと判定。でも茨城地域に居る魔法少女は30人しか居らず、Sに対抗できるのは一人しか居ないのよね。

 ホワイトリリー……大人びていた女の子だったけど、最近では年相応の表情とか言動とかを見せるようになった。それ自体は良いことなのだけど。

 

 脅威度Sの魔物は本来Sクラス魔法少女複数人で対応する魔物。でも、私たちのところには一人しか居なくて他はA以下。Aクラス魔法少女も9人しか居ない。

 もう片方の魔物に対しては、分散させてしまうと彼女たちに危険が及んでしまうだろう。だから今回は優先度の高い、都心へ戦力を集中させた。これでも散々悩んだ結果でもある。

 

 それに仮に分散させたとして、Sクラス魔法少女はホワイトリリーしか居ないので片方が戦力不足になるのは必至。勝ち目がないとは言い切れないけれど、勝率は格段に低くなるだろう。

 

 そんな事もあって私は片方を切り捨てた。

 本当にこの判断で良かったのかと何回も思ったけど……ただ今回もまた件の魔法少女に助けられた形となった。リュネール・エトワール……未だに謎多き魔法少女。

 

 そして今回もまた一緒に居た黒い魔法少女……名前はブラックリリーと言っていたわね。最初、彼女が以前の事件の男が言っていた魔法少女なのかと思ったけど、実際会ってみた感じでは悪意を感じることはなかった。

 

 おまけに、リュネール・エトワールと一緒に協力してくれている。新たな情報として、件のエリアで空間魔法が発動した形跡があったと言ってた。

 魔法については私もまだまだ知らないことが多いけど、そんな魔法があるんだなと思ったわね。実際見せてもらったけど、あれは反則な気がするわ。

 

 一瞬で目的の場所に飛べるわけでしょう? 反則よね。

 

 お互い情報が不足しているのもあって、今回の話し合いでは進展はなかった。でも、見つけ出さないといけない……茨城地域の魔法少女たちだ。私には見つけ出して助ける義務がある。

 

 今も何処かで戦っているかも知れない。

 後方支援……回復とかの魔法が使える魔法少女が居るとは言え、相手はSの魔物。長期戦になったら間違いなく、彼女たちが不利になるわ。

 

「無事で居てくれるわよね」

 

 こちらにはリュネール・エトワールとブラックリリーという野良の魔法少女が加わってくれた。リュネール・エトワールは魔法の威力が桁外れで良く分からない私でも強い、と思ってる。

 ブラックリリーについては今回が初めてだから何とも言えないけれど、テレポートという一瞬で移動する魔法を使える。この二人が居るだけでもかなり心強いわね。

 

 私たちも負けてられないわね。

 今は自衛隊と協力して情報収集や、逃げ遅れた人が居ないかの確認等を行ってる状態。今魔物が出現すると、結構きついかも知れないけど、幸いな事に魔物は観測されていない。

 

 ただ油断はできないのよね。いつ出現するか分からないのだから。空も何だかどんよりしていて、嫌な感じだし、勘弁してほしいわよね。

 

 今回は試作型の魔導砲も用意しているけど……一部の戦車砲に試験的に搭載している感じね。何もないよりはマシだと思ってるけど、何処まで通用するか。

 

「今は……懸命に調べるしかないわよね」

 

 ええ、そうよ。

 それしか今はない。何か……あれば良いんだけれど。私はそんな事を考えながら、アリスへと回線を繋げるのだった。

 

 

 

 

 



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Act.29:魔法少女たちの行方

そろそろ、奴はおしまいだ()


 

「どう?」

「駄目ね……やっぱり流石に行き先までは特定出来できないわ」

 

 再び俺とブラックリリーは、崩壊した町の方へ戻ってきていた。近くからヘリコプターが飛ぶ音とかが聞こえてくる。多分陸上自衛隊のヘリか、報道関係のヘリだと思う。

 

 魔法の発動痕跡から行き先が辿れないか、もう一度ここに来てみたのは良いけど結果は同じ。やっぱり、特定はできないっぽい。まあ、これで分かったら苦労も何もないな。

 

「せめて発動直前なら分かるかも知れないけれど」

「発動直前?」

「ええ。発動直前なら探知出来るかも知れないわ。これはまだ言ってなかったと思うけれど、テレポートは空間を歪めて移動する魔法よ。要するにテレポートの魔法を使用すると、発動者の周囲に一時的に空間の歪みが生じるのよ」

「歪み……」

「うん。空間を歪めて移動する。自分が居る空間と、目的地の空間を繋げるのよ。簡単に言えば、点と点が繋がるという感じね。ほら、良くワープとかあるじゃない? あんな感じね」

 

 なるほど。

 いやまあ、まだ完全に理解しきれている訳ではないが何となくは分かってる。空間を歪めて距離という概念を消している感じだろう。あくまで俺の想像では、だが。

 それに近いのは確かだと思う。歪んだ空間を移動するのは一瞬で、人間では感じることが出来ない。実際テレポートで移動した時、特に何のあれもなく、気付いたら目的地に移動してたし、一瞬だけ視界が歪むっていうくらいしか分からない。

 

 その視界が歪むというのが、恐らくさっき言っていた空間の歪みなのだろう。空間の魔法なんて俺にはさっぱりだな。

 

「その歪みを調べられれば、転移先を割り出せたかも知れないわ。でも既に発動して移動しちゃった後だものね……」

 

 そうか。

 転移元と転移先は、一時的に空間の歪みで繋がっている……確かにそれを考えると、ブラックリリーの言う通り発動直前なら分かるかも知れないのか。

 

 がしかし、既に移動済みだからそれは無理だよな。

 

 ん? でも待てよ……ラビなら、過去を見れる魔法なら或いは?

 

「ねえ、ラビ」

「言わなくても分かるわ。過去を見る魔法よね」

「ん。それならもしかしたら分かるかも知れない」

「可能性は高いわね……やってみましょう」

 

 ラビもやってみる気はあるようだ。

 

「何よ? 何か分かったのかしら?」

 

 ラビとそんな話をしていると、それに気付いたのかブラックリリーも近づいてくる。そう言えば、ラビが居るということはバレたがラビがどんな魔法を使うかまでは知られてないな。

 それはこっちも同じで、向こうのララという妖精がどんな魔法とかを使えるかは分かってない。ここはお互い様という事で。まあ、今からラビには過去を見る魔法を使ってもらうからそれは知られるだろうけど。

 

 現状、それしか良い案もないし行動しなければ何も始まらないのだ。

 

「ん。今からラビが過去を見る」

「過……去?」

「ん」

 

 流石のブラックリリーもこれには、信じられないと言うか驚いた表情を見せる。対してララの方は特に驚いた様子はない……やっぱり、この二人は妖精世界で何かしらの関わりがあったのだろう。

 ラビを見た瞬間驚いていたし……ラビは何でかは教えてくれなかったが、さっきも言ったように無理に聞くようなことはしない。ただやっぱり、隠し事されると複雑な気持ちになるよな。

 

 それは俺だけに言えたことではないが。

 

「過去を見るって、本当に?」

「ん。見てれば分かる。もしかしたら何かつかめるかも知れない」

「え、ええそうね……今更驚いた所で何だって話だものね」

 

 そんな訳でラビは、願いの木の時と同じように過去を見る場所を探す。ブラックリリーの言っていた発動痕跡がある場所……この町全体なので、何処で使っても行けそうな気はする。

 

「――パッセ」

 

 魔法のキーワードをラビが唱えると、その周辺が光りだす。願いの木を見た時と同じように、徐々に光は広がっていき一定の範囲を光らせた後、再び徐々に光が消えていく。

 そしてラビが触れていた場所だけ光が残り、しばらくしてからその光も消え去っていく。

 

「どうだった?」

「ええ。ブラックリリーの言った通り、ここで使われたのは転移系統の魔法。しかも……規模がちょっと違うわ」

「え?」

 

 ラビの話によれば、ここで使われた魔法は転移系統なのは間違いないとの事。

 ただ、ブラックリリーが使用しているテレポートよりも、規模が大きいものであるらしい。転移の魔法の規模っていうのは良く分からないな。空間歪めて別の場所に行くってだけじゃないのか?

 

「この規模は少なくとも町や県に転移するレベルのものではないわ」

「それってどういう?」

「言葉通りの意味ね。県とか町を移動するだけにこんな規模な魔法は使わない。別の国に行くとしても、大きすぎる」

「えっと、つまり……国移動で使うよりも規模が大きい? まさか……」

「あなたにも馴染みがあるはずよ」

「……反転世界?」 

 

 ラビは俺の言葉に静かにうなずく。

 世界規模の移動でも使わないならもうそれは、惑星間移動かもしくは別世界への移動レベルということになる。惑星間移動は置いとくとして、別世界への移動については心当たりがある。

 

 そう、反転世界に入るための魔法だ。

 あそこは発動者のいる世界を一時的に複製し、その中へ入り込むというもの。現実世界ではない別の世界……抜けるとすぐに消えてしまうとは言え、別世界なのは変わりがない。

 

 そうなると、クラゲの魔物が使ったのは反転世界に入る魔法? まだ確実とは言えないが、その可能性が高くなったか。

 

「ちょっとちょっと! 私にも分かるように説明して頂戴」

「ブラックリリー。もしかしたら場所が分かったかも知れない」

「へ?」

「まだ確実という訳じゃないけど……」

 

 ホワイトパールたちは、一瞬にして姿を消えたのを目撃している。

 魔法省の魔法少女たちは恐らく、反転世界という存在を知らない。魔法省にはラビのような妖精は居ないため、使えるとしても魔法自体を知らなければそれは意味がない。

 

 反転世界に入る魔法と世界を複製する魔法は二つで一つ。この魔法のキーワードを一回紡ぐだけで移動と複製を行う訳だ。わざわざ空間を作って閉じ込めたのも、魔法の範囲外に逃さないためだと思う。

 

 そういう判断ができる……どうやらクラゲの魔物は思ったよりも知能が高そうだ。

 

「反転世界?」

「ん。やっぱり知らない?」

「え、ええ知らないわね。ララは知ってた?」

「ボクかい? 一応知ってたよ」

「何で教えてくれなかったのよ!」

「だって教えた所でブラックリリーは魔力量が少ない。下手したら移動中に魔力切れを起こしてしまうかも知れないだろう?」

「そ、それはそうだけど……」

 

 反転世界の魔法は自分の周辺をコピーして複製する。オープンワールドゲームのように、進むにつれて生成されていくようで、その場合は魔力が追加で消費されて行くのだ。これはもう知ってると思う。

 

 魔法を発動した時だって、一応範囲は狭いものの世界をコピーするわけなので魔力も消費する。俺にとっては全然、消費したという感じがしなかったがそれは俺の魔力量が異常だから。

 普通の魔法少女が使った場合は不明である。そもそも、反転世界なんて存在を他の魔法少女は知らない訳だからな。もしかすると知ってる人も居るかも知れないが、とにかく知らない方が多いとは思う。

 

「リュネール・エトワールとラビは行けるのね?」

「ん。何度も行ってるから」

「そうね。この子の魔力は異常だから」

「それは知ってるわ。散々思い知らされたわ」

 

 何処か呆れ顔で言うブラックリリー。解せぬ。

 

「私の魔力量ではきついかしら? 反転世界は」

「それは分からない。ラビ」

「そうね……多分大丈夫かもしれないけれど、確証はできないわ。反転世界に移動した後に魔力切れを起こして倒れる可能性も否定できない」

「ちょっと待って」

「ララ?」

「反転世界の魔法は確か、個人ごとに別のはずだよね? クラゲもどきの魔物が使ったってことは、それはあの魔物の反転世界。こちらから入れないのでは?」

 

 そう言えばそうだった。

 発動者ごとに別の世界が作られるって言ってた。あ、でもそれだけしか聞いてないよな? 他の人の反転世界に入れないともラビは言ってなかったような。

 

「でも、クラゲもどきの魔物は魔法少女たちを連れて反転世界に入ったって事でもあるわよね。何か矛盾してない?」

 

 そう疑問にを口に出すのはブラックリリー。

 

「別に他人の世界に入れないとは言ってないわよ」

「へ?」

「他人の世界に干渉できる魔法はあるわ。ただ……問題なのは普通に反転世界に行くよりも魔力が激しく消耗するって所ね。まあ、個人空間のような場所に無理やり入るような魔法だから当たり前なんだけど。最も、これを見つけたのも割と最近なんだけどね」

「あー妖精(アルシーヴ・)書庫(フェリーク)

「ええ。そこで知ったわ」

 

「また話に追いつけないんだけど」

「ごめん、ブラックリリー。もしかしたら行けるかも」

「ララ?」

「ラビリ……ラビが言ってるからね」

「そうなの?」

 

 ラビリアって今言いかけたよね?

 まあ、突っ込むのは無粋なので辞めておくが。

 

 何はともあれ、もしかすると魔法少女たちをを助けられるかも知れない。まだ分からないが、何か可能性があるなら動くべきだ。あまり時間をかけたくないというのもあるが、焦っても良い結果は得られないだろう。

 

 ホワイトリリー、ブルーサファイア……頼むから無事で居てくれよな。

 

 

 

 



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Act.30:インターフェア(反転領域干渉)

 

「準備は良いかしら?」

「ん」

 

 ラビの言葉に俺は頷く。

 今から行くのはクラゲの魔物が居るであろう、反転世界だ。まだ居ると決まった訳ではないが、可能性は高い。そしてもし、居るのであればそこに消えた魔法少女たちも居るはずだ。

 

「何か私たちの方が何も出来てなくて申し訳ないわね……」

 

 そう申し訳無さそうにするのは、男の司での高校の同級生であり、魔法省に所属している茜だ。詳しい所まではしらないけど、色んな人に指示ができる立場からして、かなり上の役職? だろうと思ってる。

 

「ん。大丈夫、今回はわたしたちも分からなかったから」

「でもこうやって、手がかりを見つけてくれてるわ。本当にありがとう」

「ん」

 

 そう真面目にお礼を言われると、ちょっと恥ずかしいと言うか照れると言うか何というか。

 

 それにまだ、その場所に彼女たちが居るとも限らない。居たら嬉しいが、居なかったらまた振り出しに戻ってしまうだろう。可能性が高いのは確かなんだけどな。

 

 反転世界……これについては、やっぱり魔法省も知らなかったらしく、茜やホワイトパールは驚いていた。それはそうだろう、別世界を作れるなんて空間魔法よりもやばいと思う。

 

 別世界と言っても、発動者の周囲をコピーして中に入るだけだけどな。魔法少女たちの捜索の事もあり、反転世界については一応茜たちには教えてある。

 ただ、教えた所で使えるかまでは分からない。オリジナルよりも消費魔力が少なくなってるとは言え、世界をコピーする訳なので、多いのは確かだ。

 俺の場合は、何度も言ってる通り魔力量が尋常ではないから、全く気にしないで反転世界に出入りしていた。ブラックリリーは魔力量が少ないからララがあえて伝えないでいたっぽい。

 

「本当なら私も行きたい所だけれど、今回はやめておくわ」

「ん。ブラックリリー、こっちをお願いね」

「ええ、任せておきなさい」

 

 反転世界に行くのは俺とラビのみ。

 ブラックリリーも連れていければ良いのだが、魔力量の関係上怪しかったしそれにこちらの世界で魔物がでてくる可能性がある。今この茨城地域の魔法少女はたったの5人しか居ない。

 25人はクラゲとともに何処かに行ってしまった。だから今この状態で魔物に襲われでもすれば、危険であるのは間違いない。魔導砲だって試作型だから、データ不足なのもあるだろうし効き目の確認も出来てないだろう。

 

 一人増えた所で、あまり意味ないのではないか? と思うかも知れないけど、ブラックリリーは魔力量は少なくてもその使用する魔法はS並かそれ以上かと思ってる。

 空間ごと斬ったり、瞬間移動できたり、空間を作ったりとか出来る訳だからな。

 

 クラゲの魔物はSだ。上下する可能性も無くはないが、それでも強敵なのは確かだ。

 脅威度Sの魔物はSクラス魔法少女複数人で対応するのが基本。今は恐らくホワイトリリーは先陣を切って戦っていると思う。その他にも24人居る訳だから、Sの魔物とは言え、相手するのは容易なはず。

 

 でも長期戦になれば恐らく不利になるのは魔法少女たちだろう。魔石を幾つくらい持っているかは分からないが、魔力が無くなれば戦い続けられなくなる。

 そうなると、魔力切れの子をカバーするために別の魔法少女が負担する。それを繰り返せば最終的に、魔法少女側は負けるだろう。

 

 幸い、まだそこまで時間は経過してないはず……反転世界の時間の流れが違うとかそういうのがなければだが……ラビは別にそんな事は言って無かったはずだ。

 

 まあ、考えても仕方がない。今大事なのは早めに行くこと、それだけだ。外れの場合もあるかも知れないがその時はその時だ。

 

「気を付けていってきなさい」

「ん。ありがとう、ブラックリリー」

「っ!」

「どうかした?」

「な、何でもないわよ」

 

 また顔を赤くしてるな……具合でも悪いのかな? いや、さっきまで普通に話してたし具合が悪いようには見えないな……まあ、それは今はおいておく。

 

「あの、野良であるあなたにこんなのを言うのは変ですが……皆さんをお願いします」

 

 ブラックリリーの次はホワイトパールが、頭を下げてそう言ってくる。任せろ……と言いたい所だが、まだ居るとは決まってないからなんとも言えないが……だが、もし居たら助けるから安心しろ。

 

「ん。任せて。まだ確定ではないけど……もし居たら助ける。だからホワイトパールはこっちをよろしくね」

 

 不安を無くせるように、出きり限りの笑顔を見せておく。ちゃんと出来ているかは分からない。

 

「は、はい!」

 

 変では無かったみたいかな? ホワイトパールもなんか少し赤いけど……。取り合えず、周りを見た限りでは変な顔にはなって無さそうだな。

 

「私からもお願いするわね。魔法省茨城地域支部支部長として」

「ん。……え?」

「あら、どうかした?」

 

 ちょっと待て茜。今なんて言った?

 

「今何て言ったの?」

「うん? あ、そう言えば私の事は知らなかったわね」

「?」

「私の名前は北条茜。この茨城地域の支部長よ。改めてよろしくね?」

 

 おいおい……マジかよ。かなり上の役職だとは思ってたが、支部長だって? この地域で一番偉いじゃねえか!? 何、茜そこまで上り詰めたのか?

 

「支部長……」

「ふふ、驚いたかしら? これでも私は偉いのよ」 

 

 なるほどなーホワイトリリーの情報源は茜だったか。一番偉い人と関わりがあるなら、そりゃあ色んな事知ってるよな。

 

「ん。驚いた」

「隠すつもりはなかったんだけどね。わざわざ明かす必要もないかなって思ってね」

 

 今日一番の驚きだよ、参ったぜ。

 

「まあ、それはともかく。野良である貴女に頼るしかないのは、魔法省としては不甲斐ないけれど……お願いします」

「ん」

 

 支部長なのは驚いたが、まあ、それは今は重要ではないな。

 

「行きましょう」

「うん」

 

 茜たちには見られないように、帽子の中に隠れたラビがそう言ってくるので、俺も肯定する。今回は自分の世界ではなく、他者の反転世界だ。上手く行くと良いが……。

 

「不安なのかしら? 大丈夫よ。あなたは強い……それは私が保証するわ」

「ありがとう、ラビ」

 

 じゃあ行くとしますか。

 

「――インターフェア(反転領域干渉)

 

 刹那――世界が歪む。

 反転世界へ入る時と同じように俺の視界の世界が歪み始める。それと同時に消費される魔力……確かに普通に反転世界に行くよりも消耗している気がするな。

 

 反転世界だというのなら、ここで使ったというのなら……世界だけが異なり、場所は変わってないはずだ。移動しているかも知れないが、その時は探すしかない。何よりあの魔物はでかいし、空を飛んでいる……目立つはずだ。

 

 現実世界より切り離されたような感覚に襲われ、しばらくしてから目を開くと……。

 

「ここが……」

 

 ああ、この感じ……反転世界と同じだ。間違いなく俺は反転世界に入れたようだ。

 

「反転世界ね。間違いないわ」

「そっか」

 

 ただ俺の見た世界とは異なり、何処か薄暗い。周辺の建物は現実世界以上に崩壊しており、建物もアスファルトも道路も何もかもがもう滅茶苦茶になっている。

 かなりの激戦なのだろうか……。

 

「! リュネール・エトワール」

「何かあった?」

「あの建物の方向から反応ありよ。魔法少女らしき反応複数と、魔物のらしき反応。推定脅威度はS」

「良かった、ここに居る?」

「ええ恐らくはね。ただ、魔法少女側の魔力が弱まっているわ……後動けないでいるような感じの魔法少女も」

「!」

 

 魔力が弱まっている……まずいな。間に合うか?

 

「行くよ」

「ええ!」

 

 間に合うか? じゃない、間に合わせるんだ!

 全身に力を入れ、魔法少女の超人的身体能力を活用し、自分の出せるだけの速度で反応のあった場所へと向かうのだった。

 

 




ネーミングセンスは捨ててきました。


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Act.31:反転世界の戦い①

 

「これは……」

 

 ラビの感知を頼りに、その場所へ来てみるとそこには複数の魔法少女の姿が見えた。ただ、その光景は普通ではなく……そう魔法少女たちは何かに巻き付かれて拘束されている状態だった。

 

 いや、何かじゃないな。あれはクラゲの魔物の触手だろう。一部、まだ触手に捕まってない魔法少女も居るけど、あれも時間の問題だと思う。危ないギリギリなところだったか……早く助けないとな。

 

「あの触手……」

「ん?」

「あの触手、魔法少女の魔力を吸収しているわ。性格が悪いのかじわじわと言った感じにね」

「魔力を……?」

「ええ」

 

 もう少し良く見てみると、確かに何かを吸っているように見えた。ここからでは感じ取れないが、ラビが言っているのが正しければあのクラゲもどきは魔力を吸収しているって事か。

 

「ちっ」

 

 魔物のくせに、小癪な真似をする……魔物と今戦っているのは数名のみ。だがこのまま行けば、間違いなく魔法少女が負ける。何故魔力を吸収しているのかはわからない。されている魔法少女もこのままでは魔力がなくなり、変身状態を維持できなくなるだろう。

 

「危ない!」

 

 一人の魔法少女が飛ばされるのを見て、俺は咄嗟に猛スピードで向かう。しかし、間に合わず、その魔法少女は木にぶつかりそのまま後方へ何本かの木を巻き込み飛んでいく。

 

「大丈夫?」

「ぐぅ……え? リュネール・エトワール……?」

 

 ん? 俺はその声に聞き覚えがあり、目を向けるとそこに居たのはブルーサファイアだった。良かった! 無事だったか。いや、結構傷ついてるし、相当痛いはず……無事ではないよな。

 

「ブルーサファイア?」

「来てくれたんですね……すみません、こんな有様です」

 

 自分のぼろぼろになった姿を見て、彼女はそう言ってくる。何言ってんだよ、お前が謝る必要はないだろ。命あっての物種だ。生きていて良かったよ。

 

「!」

「良かった。ブルーサファイアが謝ることなんて何処にもない」

 

 ブルーサファイアの頭を優しく撫でながら、俺はそう言う。そうだ、ブルーサファイアが悪い事なんて何もない。全てはクラゲもどきが悪いんだからな。

 

「身体は大丈夫そうだけど、念の為。――ヒール」

 

 魔力装甲があるからそんな簡単に怪我はしないだろうけど、念の為だ。

 

「ありがとうございます……」

「ん。気にしないで」

 

 もう少し早く来れれば良かったのだが、まさかクラゲもどきが反転世界に行く術を持っているとは思わなかった。それ以外にも、見えない壁……多分空間関係の魔法だろうと思うが、それも使ってたしな。

 

「状況は……ん。何となく分かる」

「はい、恐らく想像通りです。結構ピンチですね……。触手に捕まった人を助けようとしてもクラゲの魔物が容赦なく攻撃してきますし、助けられてないのが現状です。何とかホワイトリリーやAクラスの方が相手してくれてますが」

 

 クラゲの魔物は、その無駄に多く持っている触手を満遍なく使ってる。しかも、捕まえた魔法少女から魔力を奪っている……何とか今はホワイトリリーが前に立って戦っているそうだが、何処まで持つかわからない。

 彼女まで捕まってしまえば、Aクラスの魔法少女も捕まって全滅だろう。ただ、殺すとかそういうのはせず魔力だけを奪ってるようだ。しかも、ラビの話によればじわじわと。

 

「分かった。ここで休んでて」

「そうします……結構消耗してて辛いのが本音です。……またあなたに助けられてしまいましたね」

「気にしないで」

「ありがとうございます……」

 

 弱々しそうにするブルーサファイアを見て、俺ははっとなる。

 無事で居てくれて心から良かったと思っている……ホワイトリリーも戦っているとは言え無事で居るという事にも安心できた。俺は彼女たちの負担が減れば良いなと思って色々とやっていた。

 

 だけど、それは今になって変わって来ているのが分かる。

 負担を減らすではなく……守るため。そう、いつからこう思い始めたのか……何となく分かってる。彼女たちと交流していく内に、そうなっていたのだ。

 

 良く考えてみれば、男の時よりもリュネール・エトワールとしての守るべき存在が増えてしまった。むしろ、男の時に守るものなんてあったか? ニートをしていたのだ俺は。

 

 リュネール・エトワールとなってから人との関わりも増えている……主に魔法少女関係ではあるが、増えているのは事実。そして元の俺はそれと比べてどうだった?

 

 宝くじを当ててから仕事を辞め、ニート暮らしをしていた。俺はずっとその暮らしで良いと思っていたはずだ。でも今は……魔法少女リュネール・エトワールとなってからはどうだった?

 

「あ、そっか」

 

 ここに来てようやく俺は自分自身を自覚する。

 リュネール・エトワールとして活動していく内に、わたしは確かにこう思っていたんだ。この関係は壊れるのは嫌だ、と。だけど、本来の姿は28歳にもなる男である俺。

 

 そもそも、魔法省に行かないというのもその姿がばれるのが嫌だったから。もし、バレてしまえば周りからどう言われてしまうのか……男が魔法少女。今までの関係もそれで全てが壊れてしまうのではないか?

 

 あーあ。

 なーんだ……確かにこれは俺が望んだものだろう。今の関係を壊したくない……そう思うのは元が俺だから。それなら元すら変われればどうだ? リアルでも魔法少女としても関係を壊さずにやっていけるだろう。

 

 バレるのが怖い、周りから冷たい目で見られるのが嫌、関係を壊したくない等全ての願いが叶う。それが今のこの姿だ。

 

「それじゃ、行ってくる」

「はい。気を付けて下さい……野良である貴女に頼るしかないのは何とも情けない話しですが」

「だから、気にしないで」

「はい」

 

 少しブルーサファイアを見た後、俺はクラゲもどきの魔物が居るところへ向かった。

 

 

 

 

 

 

「きゃ!?」

「ブラックパール! 大丈夫ですか?」

「何とか!」

 

 クラゲの攻撃を受け、飛ばされたブラックパールを見て私は声を上げます。

 既に何人もの魔法少女たちが、あの触手に捕まってしまっています。何とか助け出したいのですが、しようとするとクラゲもどきは容赦なくそれを邪魔してきます。

 

 そんな戦いが続いて気付けば、既に戦える魔法少女は私とブラックパール、それからAクラスの魔法少女数名となってしまいました。厄介なのが、あのクラゲもどきは攻撃を当てたとしても何かで阻んでいるのです。

 

 バリアみたいなものだとは思いますが、私の攻撃を何回放ってもその、バリアらしきものに防がれてしまうんですよね。突破口も見当たりませんし、こちらは魔力も大分使ってしまってます。

 

「リリーショット!!」

 

 白百合の花弁を飛ばしますが、やっぱり何度やっても同じで何かに阻まれてしまいます。せめて、攻撃が届けば良いのですが……あれが何なのかを分からないと通らないでしょうね。

 

「エメラルド・レイ!」

 

 近くに居たAクラスの魔法少女、エメラルドグリーンもまた攻撃魔法を放ってくれてますが、結局あの謎の壁に阻まれてしまいます。

 

「全然駄目! 何なの、あの壁……」

「バリアみたいなものだと思うけど……」

 

 バリアのようなものなのは間違いないんですけど、それにしても硬すぎませんか? これが脅威度Sの魔物なのでしょうか……Sクラスに及ばないとは言え、Aクラスの魔法少女たちの攻撃をあんなに食らっているのに……。

 

「! 何か来ます!」

 

 そんな事を考えていると、エネルギーのようなものがクラゲもどきへ集まっているのが見えます。

 

「退避……って、間に合わない!? 皆さん、出来る限り強力なバリアを!」

 

 一度退避しようと思いましたが、あっという間に何かのチャージが終わったようで、そんな暇すら与えてもらえず、無慈悲にクラゲもどきのレーザー? のような攻撃が放たれてしまいました。

 

 防ぎ切れるかは分かりません。それでも、使わないよりはマシなはずです……この場にいる全員が自分の使えるバリア系の魔法を発動させます。

 

 そして来るであろう衝撃に備えます。

 

「っ」

 

 正直、怖いです。

 バリアが破られて、この身に攻撃を受けたらどうなるでしょうか。魔力装甲があるとは言え、ただでは済まないでしょう。そして何より、他に皆がそんな風になるのも怖いです。

 

 魔力装甲に攻撃を受けたらその威力にもよりますが、衝撃のようなものが来ます。それが割と痛かったりするんですよね。ただ痛いだけなら良いですが、今回は脅威度Sの強力な攻撃……。

 

 いえ……そんな弱気になってはいけません。弱気になっては魔法も弱くなってしまう気がします。いかなる時も諦めない……絶対防いでみせます。

 

 

 

 しかし、そんな事を思っているものの大分時間が経過しているはずなのに未だに衝撃が来ません。私はその違和感に、閉じていた目を開けました。

 

「え?」

 

 そこに居たのは……私たちの代わりに攻撃を防いでくれている、見覚えのある魔法少女。

 

「リュネール・エトワール……?」

 

 そして私の初恋の相手でもある、そんな彼女が居たのでした。

 

 

 



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Act.32:反転世界の戦い②

 

「スターバリア」

 

 フルパワーだ。

 魔石は十二分持っているし、贅沢に魔力を使っても大丈夫だろう。それに中途半端では守りきれない場合がある……五芒星のバリアを三重に大きく展開する。

 一重目のバリアがクラゲもどきの魔物のレーザのようなビームのようなとりあえず、光線? を受け止める。軽い衝撃が来たが、別にそこまで気になるようなものではない。

 

 今回は三つ全てに魔力を多めに注ぎ込んでいるので、そう簡単には破れないだろう。

 

「リュネール・エトワール……?」

 

 後ろから聞き覚えのある、ホワイトリリーの声が聞こえた。ホワイトリリーたちも、バリアを張っていたようだが、防ぎ切れるかは分からない。だから乱入した形ではあるが、俺もバリアを展開させた。

 

 今回は一枚目だけで攻撃を防ぎきれたようだ。ゴジラもどきの攻撃より弱いか? 一枚目は破壊されるかと思ったが、あっさり防げたことに逆に驚く。

 ここの魔法少女たちでは、防ぎきれないだろうと油断したか? まあ、考えれば俺の乱入は、クラゲもどきにとっては予想外の出来事だっただろうから、それのせいでもあるかな。

 

「ん。ホワイトリリー、無事で良かった」

 

 無事な姿を見れた俺は、それに安堵する。無事だということはブルーサファイアとの会話で分かってたが、実際この目で見るまでは信じられなかったしな。

 

「はい……」

 

 俺がそう声をかけると、ホワイトリリーは明らかに安堵の顔を見せる。やっぱり怖かったのかも知れない。本当の事はホワイトリリー自身にしか分からないが、それでも不安になっていたのは確かだろう。

 

 俺はぎろりとクラゲの魔物を見る。

 一瞬だけ、向こうが怯んだように見えたが気の所為だったかな? まあ、それは良い。ホワイトリリーやブルーサファイア……茨城地域の魔法少女たちをこんな目に合わせてただで済むと思うなよ。

 

「(まずは魔法少女たちを捕まえてる触手をやった方が良いわね)」

「(ん)」

 

 最初にそうしたいのは山々だったが、飛ばされたブルーサファイアに、さっき大きな攻撃を受けそうになっていたホワイトリリーたちを見たらまずはこっちを助けるべきだと思ったので、申し訳ない。

 

 一人ずつやるのは効率が悪すぎるし、時間がかかる。クラゲもどきの妨害も入るだろうから、ここは一気にやらせてもらう。

 

「――メテオスターフォール」

 

 反転世界上空に無数の魔法陣が展開する。虚空より隕石を呼び出し、降り注ぐ。一つ一つの魔法陣から召喚されるのはたった一つではない。その数に上限はないのだ。魔力がある限り、星は降り注ぐ。

 

 俺……いや、()()()は自分の魔法に願う。捕まってしまっている魔法少女たちを助けて欲しい、と。

 

 すると、その願いに応えてくれているかのように星たちはそれぞれの、魔法少女の元へ落ちていく。本体はわからないが、この拘束している触手自体は弱いのか、一発当たるだけで消滅する。

 次々と拘束されてしまっている魔法少女たちを解放していく。クラゲもどきが自慢の触手と使ってこちらを妨害しようとしてくるが、一部の星たちがそれを許さない。

 

「す、凄い……」

「これが、噂の魔法少女の魔法?」

 

 ホワイトリリーではない、他の魔法少女たちの驚いた声が聞こえる。何度か魔法省の魔法少女たちには会ったことがあるが、実際話すことは少ない。

 それもあって、全員の名前や顔を覚えている訳ではないのだ。でも、前はそもそも話すら聞かずにその場から去って行ってた。その事については今更ながら申し訳ないと思ってる。

 理由はもう知っての通り本当の姿を知られたくなかったから。会話をしたら会話途中で、もしかしたらボロを出してしまうかも知れない。そんな不安が強かった。

 

 でも、今は……。

 この身に起きているこの現象はわたし自身が願った物。最初言われた時は受け入れられなかったけど、冷静に今までのことを振り返ってみたら、わたしはこうなりたいと思っていたんだ。

 

 わたしであれば、このままずっと何も変わらずに居られる。そんな強い願望が、願いの木を発動させたのかも知れない。近くで願うのが普通みたいだけど……。

 

 まあ、願いの木についてはまだ調べる余地はあるかな。ラビと一緒に。

 

「さて」

 

 多分、全ての魔法少女を解放できたはず。未だに隕石たちが降り注いでいるけど、クラゲもどきの本体には全然ダメージが入ってないように見える。

 わたしの使うメテオスターフォールは、未だに謎が多い。自分自身がまだ理解できてないって事なんだけど、謎なものは謎だからどうしようもない。

 隕石を広範囲に降り注がせるのは分かるのだが、問題はその隕石。わたしが操作してる訳ではなく、願ったりこうして欲しいと思うとその通りに勝手に動くのだ。あ、一応操作に入るのか?

 

 それは置いておこう。

 

「ホワイトリリー」

「は、はい!?」

「落ち着いて。えっと、多分今ので捕まってた魔法少女は解放できたと思うから、動ける魔法少女たちと一緒にサポートしてきてあげて」

「分かりました。リュネール・エトワールはどうするのですか?」

「ん。わたしはあのクラゲもどきを相手する」

「一人で、ですか?」

「そう」

 

 どれだけ強いかはわからないが、奴を倒さなければ解決にはならない。まあ、この反転世界から抜ければ良いんだろうけど、クラゲもどきは入る力を使えるのだから、出ることも出来るだろう。抜けた所で、追ってくるだけだ。

 ホワイトリリーたちは、あのクラゲもどきを長く相手していた。無理はさせられないし、ここからわたしが相手してやる……自分でも分かるくらい怒りという感情が出てきてる。

 

「私が何を言っても変わりませんよね。分かりました、サポートしてきます」

「ん。それにホワイトリリーはもう長く戦ってる。今はわたしに任せて」

 

 上手く笑えてるかは分からないけど、多分笑ってるはず。

 

「! はい!」

 

 他の魔法少女の元へ向かうホワイトリリーの背中を見送り、再びクラゲもどきと対面する。どうやらわたしを脅威と見たようでこちらに矛先を向けてきてる。

 

 わたしの居る場所より一定の範囲は、メテオスターフォールの領域。魔力は惜しまない……この降り注ぐ星とともに相手してやる。

 これは少し前に知った事なんだけど、このメテオスターフォールという魔法は、常に展開させることが出来るみたいなんだよね。そう、今のこの状態と同じ。

 勿論相応の魔力は消費していくけど、最初に発動させる時よりは少ない。

 

「サンフレアキャノン!」

 

 長引かせるつもりはない……魔法のキーワードを紡ぐと、極太の熱線が放たれる。それだけではなく、メテオスターフォール領域の影響なのか、一部の星が熱線とともに並列して魔物へ飛んでいく。

 これは少し予想外だが、威力が上がるなら別に何でも構わない。

 

「(効いてないわね)」

「本当にね……」

 

 サンフレアキャノンは単体相手なら一番強力な魔法なのだが、クラゲもどきに着弾して爆発しても傷すらも付けられてない。何かの阻まれている……バリアのような何かだとは思う。

 

「厄介」

 

 バリアなのかは分からない。でも、攻撃を防ぐ何かしらのギミックと言うか能力か何かがあるのは確か。

 

「スターシュート!」

 

 そのバリアのようなものがどんな感じなのか、スターシュートを放ってみる。そうするとまた、星が並列して一緒に飛んでいく。着弾して爆発はするものの、やっぱり何かに阻まれてる。

 

「(今一瞬空間が歪んだように見えたわ)」

「空間が?」

「(ええ、はっきりとは見えなかったけど)」

 

 つまり、空間を歪めて攻撃を防いでいるのか。まだ確定ではないけど、空間が歪むならそういう事だよね?

 

 ブラックリリーみたいな空間魔法を使えるのか、このクラゲもどきは。流石は脅威度Sと言えば良いのか……まあ、見えない壁で閉じ込めてたんだし、そう言う系譜の力があっても何もおかしくないか。

 

「面倒」

 

 この一言に尽きる。

 空間の魔法なんてわたしにとっては未知だよ。ブラックリリーが居れば何とかなったかも知れないが……。

 

 って、弱気になっちゃ駄目だ。

 さっきわたしは決めたはずだ……わたしはわたしのこの魔法で、自分の大事な人たちを守ると。ホワイトリリーやブルーサファイア、ブラックリリーもそうだ。

 

 魔法少女を守る、そうだろう?

 

「やってやる……」

 

 脅威度Sが何だ、わたしだって推定ではあるけどSクラス並の力はあるんだ。

 

「覚悟は、良い?」

 

 わたしは気持ちを整え、静かにそう呟きながらクラゲもどきを見るのだった。

 

 

 

 



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Act.33:反転世界の戦い③

主人公が更に恐ろしい魔法を発動させます。()


 

 空間を歪めて攻撃を防ぐ。

 何してるのか分からないが、ただ面倒なのは確かだ。ブラックリリーのように空間を操る術をクラゲもどきの魔物は持っている。今までこんな魔物を見たことはあっただろうか?

 

 まあ、無いよね。

 

 魔物ではなく魔法少女なら、ブラックリリーという空間操作を可能とする者が居るけど。他に居るかは分からないな……茨城地域には居ないか? 他の地域はわからないけど。

 

「スターシュート!」

 

 いつもの攻撃魔法を使うが、知っての通り奴はあんな感じに攻撃を防いでいるのだ。スターシュート程度では何にもならない。かといって、サンフレアキャノンも効かなかったのでやっぱりあのバリアのようなものを壊すか無効化するかしないと本体には届かない。

 

 本体の耐久はどれくらいかはわからないが、少なくともバリアさえなければダメージは与えられるはず。

 

「っと」

 

 クラゲもどきは早速わたしに向けて触手を伸ばしてくる。

 しかしそれは今も尚、展開されているメテオスターフォールによって無意味なものとなる。わたしの所に届く前に、触手は破壊される。触手自体には特殊なバリアのようなものは無さそうだ。

 

「#$#%!!」

 

 触手を砕かれたからか、クラゲもどきは大きな叫び声を開けてくる。魔物の言葉は共通して意味不明で、それ言葉なのか? というレベルだ。そして無駄に頭に響くし不快に思う方が大多数。

 知能はあるっぽいが、クラゲもどきも例外ではなく、意味不明な声を上げている。逆に、日本語とか英語とか話せたとしても変な感じではあるが。

 

「どうする?」

 

 手がない訳ではないが……いや、悩んでる暇は無さそうだな。時間をかけるつもりはないと、言ったのはわたし自身だ。それならもうやってやろうじゃないか。

 

「ラビ、ブラックホールを使う」

「(分かったわ。確かにそれなら……)」

「ん」

 

 ブラックホール。

 反転世界では何度か練習で使っていた、一番強力な魔法だ。宇宙空間に存在しているような、大規模なものではないものの本質はブラックホールと同じだ。

 

 ありとあらゆる物を吸い込む。

 ただ吸い込むだけではなく、周囲の重力場を著しく乱れさせる。現状、わたしは使える魔法の中で、空間にも影響を及ぼす魔法はこれとホワイトホールくらいしか無い。

 

 重力場を乱し、空間すら歪めてしまうこのブラックホール……本来なら余り使う気は無かったが、今回は仕方がない。それに影響範囲が広いから、現実世界では使用を控えていたが今この場所は反転世界。

 

「別に使ってもいいよね」

 

 逆に言えば、これくらいしか奴に攻撃が通る可能性のあるものが思い浮かばない。ただ、そう言ってもあくまで、効くかも知れないってだけで、効くという確証はない。

 

「やるしかない」

 

 考えてたって現状が変わる訳ではない。

 

「行くよ」

 

 実戦で使うのは初めてなので、少し怖いというのはあるがそんな事は気にするな! わたし自身の力を信じろ! わたしの魔法は強いんだ!

 

「――ブラックホール!!!」

 

 ターゲットはあのクラゲもどき。

 わたしは魔法のキーワードを紡ぐと、クラゲもどきの周辺の空間や重力場が乱れ始める。近くにある砂や石、岩、瓦礫などが宙を浮き始め、そしてクラゲもどきの方へ……いや、ブラックホールの方へ飛んでいく。

 

 吸い込む力は次第に強くなっていき、最大となった所で周辺のものを吸い込む。空間も歪み始め、クラゲもどきは何やら慌てているような感じがする。

 

「この機を逃しては駄目……」

 

 ブラックホールとクラゲもどきのバリアが今、丁度ぶつかり合っている。歪みに対しては歪み……若干、クラゲもどきを守っている壁が揺らいでいるように見える。今なら攻撃が通るかな?

 

 これから使う魔法は恐らく強力……わたしは念の為にラビより教えてもらった位置にいる25人全員の魔法少女に対し、スターバリアを展開させておく。

 スターバリアは別に場所さえわかればそこにバリアを付与できる。わたしだけでは無理だったかも知れないけど、今回はラビが居るから。だからこそ、魔法少女の位置が分かる。

 

 わたしはゆっくりと、ステッキの先端をクラゲもどきの魔物へと向け、静かに目を瞑る。恒星や惑星、星に月……などがイメージとして頭の中に浮かぶ。

 

 

 

 ――わたしは星と月を司る星月の魔法少女。

 

 

 

 

 星は生まれてはやがて寿命が尽き、消滅する。

 

 

 

 

 月は満ち欠けを繰り返す……まるで死と再生。

 

 

 

 

 

 

 さて、星は寿命を迎えるとどうなるか? 

 有名な話であるし、知ってる人は多いだろう。特定の大きさを持つ星の寿命が尽きる時、重力崩壊という現象が発生し、巨大な爆発を引き起こす。

 

 その爆発の名前は――

 

「――スーパーノヴァ(超新星爆発)

 

 音のしない無音の世界が一時的に出来たかのように、音というものが聞こえなくなる。

 

 空気が、

 

 空間が、

 

 全てが収束していく――

 

 そして次の瞬間、眩い光とともに耳を劈くような爆発音が反転世界に響き渡る。全てを飲み込むブラックホールと、星の終わりを告げる大爆発。

 

 ゆっくりと目を開き、魔法を発動させた方向を見る。星の終わり……超新星爆発。魔法キーワードは『スーパーノヴァ』

 わたしの見た方向にはクラゲもどきの魔物は居らず、周りを見ても姿が見えない。爆発により発生する超新星残骸のようなものがただただ残っているだけ。

 

 魔物の居た周囲にあった建物は跡形も残らず消滅し、地面にはここから見るだけでも深いと思われる大きな穴がポッカリと空いていた。

 穴はそこだけに留まらず、ずっと向こうの方まで続いている。恐らく向こうの方の建物とかも消えてるだろうと思う。

 

「……」

 

 その光景を見て、わたしは唖然とする。わたし自身が使った魔法ではあるが、ここまでの威力だったとは。いや、予想は出来ていたはずだ……本物では無くたってそれにやばい爆発を引き起こす訳だ。

 超新星爆発の本物の威力はこんな物ではないだろう。それこそ、この反転世界全てが吹き飛ぶはずだろうし、これだけで済んでいるのはマシなのかも知れない。

 

 ブラックホールにしたって、本物とは違うし、仮に本物だったらこれも同じようにこの反転世界ごと飲み込んでしまうだろう。まあ、発動者には何も影響がないという謎仕様もあるけど。

 それに反転世界で起きたことは全て現実世界には何の影響も出さない。

 例え反転世界が飲み込まれたり崩壊したとしてもここで起きただけ。まあ、わたしたちは反転世界に居るから影響を受けてしまうだろうけど。

 

「(あなたは何を目指しているのかしらね)」

「さあ?」

 

 最早呆れることすらしなくなった、ラビの声が聞こえる。正直、このタイミングで新魔法というのは驚いた。わたしが使える魔法は星と月に関係するものだっていうのは、何となく分かるけど実際どんな魔法が使えるのか? と言われると分からない。

 

 新しい魔法については、いきなりぱっと思い浮かぶパターンが多めなんだよね。自分で考えた末に、使えたっていう魔法もあるけど、やっぱりぱっと思い浮かぶことが多い。

 それらしい近いイメージをすると、自然と魔法のキーワードも思い浮かぶ。そんな感じで、詳しくは分かってない。

 

「まあ、それは良いか」

「(魔石、回収できるかしら?)」

 

 魔物の居た場所には深い穴が開いてる。魔石は大体、魔物の居た場所近くに落ちるのでもしかすると、穴の中に落ちてしまっているかも知れない。

 

 ゴゴゴゴ……

 

「何?」

 

 そんな事考えていると、何処かから地響きのような音が聞こえてくる。反転世界でも地震が起きるのか? と思うかも知れないが、これは違う。直感がそう教えてくれる。

 

 良く考えるんだ。

 この反転世界を作ったのは誰? そう、わたしでもなければ他の魔法少女でもない……あのクラゲの魔物だ。そのクラゲの魔物は? たった今わたしが消滅させた。

 

 反転世界は発動者が居る限り残り、居なくなると消える。

 

「反転世界の消滅?」

「(察しが良いわね……その通りよ。発動者である魔物が消えて、消滅が始まってるわ)」

 

 やっぱりか。

 ここが他人の(魔物だが)反転世界だということを失念していた。発動者が居なくなれば、世界は消える……それは魔物でも例外でないのだろう。

 

「猶予は?」

「(5分、と言った所かしらね)」

「5分……こうしてる場合じゃない」

 

 魔石回収なんてしてる暇はない。

 まずは、この世界にいる茨城地域の25人の魔法少女たちを集めるのが先。5分で行けるかはわからないが、場所ならラビの感知で分かる。

 

「(運が良いわ)」

「え?」

「(どうやら魔法少女の誰かが、一箇所に集合させているみたい)」

「!」

 

 それは本当に運が良い。わたしは少し、にやりとする。

 誰がやったか……分からないけど、何となくだけどホワイトリリーやブルーサファイアがやってくれたのかも知れない。

 

「(急ぎましょう)」

「ん」

 

 わたしは、急いで魔法少女たちの居る場所へと向かうのだった。

 

 

 

 





オーバーキルゥ!?


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Act.34:帰還

 

「本当にありがとう」

 

 そう深く頭を下げならお礼を言ってくるのは、茨城地域の支部長である北条茜だった。

 あの後、わたしも魔法少女たちが集まっている場所へ向かい、予めラビに教えてもらっていた、他人の反転世界から出る魔法……エスケープ(干渉領域離脱)を使用して、何とか脱出ができた。

 

 当然だけど、魔石の回収はできてない。わたしもわたしで結構、あの反転世界の中で大判振る舞いしたので、現状そこそこ辛い感じ。エスケープもそこそこ魔力を消費した。それに一人とかじゃなくで自分も含めて26人を移動させたからね。

 

 今までは特に魔力枯渇なんて起こさずに、戦闘が終わっていたけど今回は中々。魔石は使ってないけど、異常な量の魔力を持つわたしがここまで使ったのは初めてかも知れない。

 ブラックホールにメテオスターフォールの常時展開、サンフレアキャノン……そして今回使用した新魔法であるスーパーノヴァ。少しいや、結構暴れすぎたかも知れない。

 

 とは言え、茨城地域を守ってくれている魔法少女たち25人をあんな目に合わせてたんだから仕方がない。反転世界に行くのを免れた5人もそうだ。

 

「ん。気にしないで」

 

 怒って暴れたのは内緒にしておく。

 ただ、わたしの戦っている光景を25人は見ているので、怒っているとかそういうのは分からなくても自分が使ったあの魔法たちについてはそのうち魔法省内で広まりそうだ。

 

 魔法が別にバレるのは良い。

 敵対する気はないのだし、バレた所で何とも無い。というか、戦っていれば誰もが魔法を使うことになるんだし、隠すことは出来ないだろう。

 

「リュネール・エトワールさん、皆を助けてくれてありがとうございます!」

 

 茜に続いてそう言ってくるのは、ホワイトパール。崩壊した町で気を失っていて、最初に情報提供をしてくれた子でもある。身長はホワイトリリーよりちょっと小さいくらい。

 

「ん」

 

 わたしからしても、助けられて良かったと思ってる。

 まさか、魔物が反転世界なんて使うとは思わなかったしな……ラビが居なかったら真面目にお手上げ状態だったかも知れない。ラビの謎はまだあるけど、今はそれを究明するのは大事ではない。

 

 エスケープで反転世界から脱出した後、一部の魔法少女は魔力消費によって疲弊もしていたので、魔法省の方へ戻っていった。30人中、25人……まあつまり、反転世界の中で戦っていた魔法少女全員が行ったという事になる。

 ホワイトリリーとブルーサファイアも、お疲れ様。わたしは心の中でそう言っておく。あまり会話はできなかったけど、仕方がない。ゆっくり休むのも大事だろう。

 

 そういう訳で、この場に居るのは茜とホワイトパールだけだ。少し前までは、残りの4人の魔法少女たちも居てそれぞれにお礼を言われた。正直、素直にそうお礼されると照れくさい。

 

 周りを少し見回してみるが、ブラックリリーの姿は見えない。

 何だかちょっと残念かも。まあ、ブラックリリーもブラックリリーで何かしらの目的で野良として活動しているし、仕方がないのかも知れないな。

 

「ん。わたしはこれで」

 

 ここにわたしはずっと居てもあれだろしね。

 

「あ、待って」

「ん?」

 

 その場を去ろうと思い、飛び上がろうとした所で茜に呼び止められる。わたしは茜の方に振り返り、首を傾げる。何だろうか? また魔法省への勧誘とかかな?

 いや、流石にこの状況でそれはないと思いたいが。それに、わたしは今結構疲れてるから休みたい気が強い。

 

「今回の件、本当に感謝しているわ。ありがとう。それで、出来れば後日魔法省に来て欲しいのだけど」

「?」

「ここまでお世話になって何もしないっていうのはね。だからちょっとしたお礼をしたいなって」

「別に必要ない」

「この前、魔法省が嫌いという訳じゃないって言ってたわよね? 本当に一回で良いからお願い」

 

 魔法省が嫌いじゃないって言ったのは確かだが……うーん、どうするか。

 

「勿論、変身した状態で良いわ」

 

 ……まあ良いか。一回だけなら。

 それにもしかしたらホワイトリリーとかブルーサファイアとも会えるかもしれないし……変身した状態でも良いと言うなら。まあ、今のわたしは解除した所でリュネール・エトワールに似た容姿なんだけど。

 

「……分かった。一度だけ。いつ?」

「本当? ありがとう。時間は何時でも良いわ。でも明日は年始だから色々と忙しいだろうし……1月4日以降かしら?」

 

 あーそう言えば、今日大晦日なの忘れていた。

 今日は色々とありすぎて、忘れそうになる。そっか……もう今年が終わるのか。周りが明るいからあれだったけど、既に日は沈んでいて空は暗い。星は見えないので、曇っているのだろう。

 

 この場所には魔法省以外にも、自衛隊や消防とかの車両や隊員が居るし、照明もそこそこある。それにこの辺りは無傷が殆どなので街灯とかも付いてるから暗くない。

 水戸駅やその駅ビルの電気も付いてるしな……利用者は居ないだろうけど。

 

「分かった。4日以降の何処かで行く。連絡とかは?」

「それは大丈夫。私が受付に伝えておくから」

「ん。了解」

 

 まあ、支部長なんだしそれくらいは普通にできるか。

 

「それじゃ今度こそ」

「ええ。本当にありがとう」

「ありがとうっていう言葉は何回も言うと効果薄れる」

 

 それはごめんなさいとか、すみませんとかそういう言葉にも言えることだが。

 

「そうね……それなら、さようなら」

「ん」

 

 わたしは、足に力を入れてその場から飛び上がるのだった。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

「良かったのかい? 彼女に会わなくて」

 

 日が沈み、夜という時間になった中、私は自分の家の屋根の上に立っていた。そんな私に声をかけてくるのは、すぐ近くというか肩の上に乗っているララ。

 

「ええ。良いのよ。私たちは所詮は一時的な共闘関係なんだから」

 

 リュネール・エトワールが反転世界と呼ばれる場所へ向かって、魔物を倒し25人の魔法少女を助けたのは既に知ってるわ。実際、彼女が戻って来た時も離れた場所で見ていたし。

 

「本当に?」

「う……」

 

 ララに再度問われると、何故か言葉が詰まる。リュネール・エトワール……嫌いではないのは確かよ。そうじゃなければ、助けたり共闘したりなんてしないもの。

 

「ブラックリリーは本当は、彼女と仲良くなりたいんだろう?」

「……」

 

 ララめ……的確に気にしてることとかを突いてくるわね。

 ええ、そうよ。何時からは分からないけれど……私はリュネール・エトワールと仲良くなりたいという気持ちがあるわ。敵のはずなのに助けてくれた事、捕まっても仕方がないと思っていたのに見逃してくれてる事。

 

 気を遣ってくれていることだって分かるわ。彼女と一緒に居る時は、何処か楽しいとも思ってた。規格外な魔法や力を使うけれど、実際話してみれば言葉数が少ないだけの、普通の子。

 

「ララも、彼女というより向こうの妖精と話すと言って話してないわよね」

「そうだね……」

 

 リュネール・エトワールは無理にこちらの事を聞こうとはしてこない。だからせめて私も同じようにしたいと思って結局は、話さずに終わってしまう。

 

 ララの反応も気になったけど、今の所は教えてくれなさそうよね。ただラビリア様って様付けしていたという事は、あちらの妖精は身分的な何かが上なのかも知れない。

 

「はあ、何やってるんだろ私。本当は仲良くなりたいんだけど」

 

 言っておくけど、私だって普通の女の子のつもりだからね? 普通に友だちが欲しいという願望はあるのよ……ただ諸事情によりそれは叶わないんだけれど。

 それに、リュネール・エトワールは優しいし……叶うなら彼女に本当の事を話して協力して欲しいなって思ってるのも確かなのよね。でも思ってはいても切り出せないでいる。

 

 何となく分かってる。

 本当の事を話したらリュネール・エトワールが私の事を嫌いになるかも知れない。実際、私はそういう事をしたのだから。でも彼女は特に私を責めるわけでもなく、普通に接してくれる。

 

 だから怖いのかも知れないわね。

 

「……」

 

 あー、会わなかったの今更ながら後悔してるわ。

 行ってらっしゃい的な事言ったのに、帰りは居ないって……本当に何してるのよ。嫌われたかしら? それはない……わよね?

 

「全く後からいつも後悔するんだから君は」

「う、何も言い返せないわ」

 

 また会えるわよね?

 

 

 

 



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Act.35:星月の選択①

そろそろ終盤です。


 

「お兄、良かった無事で……」

「ん。ごめん、心配かけた」

 

 色々あったのが終わり、わたしは自分の家に帰ってくる。

 県北地域については魔物はあの時以降、出現してなかったので別に避難警報のようなものはなく、避難することはなかったみたいだ。だから家には真白が居る。

 

 今回魔物が出現し、大きな被害が出てしまったのは県央、水戸市……と言っても、わたしとブラックリリーが向かったあの町くらいしか完全崩壊してる箇所は無いみたい。

 あの町については残念だと思うが、反対に考えればあの町だけで済んだのは魔法少女たちが戦ってくれていたからだ。あの町に住んでいたり、居た一般人たちは既に避難は完了していて、人的被害はない。

 

 まあ、あそこまで崩壊してしまっているといくら国や県が補償してくれるとはいえ、復興までは時間がかかるだろう。建物は使い物にならないので、一度壊してから建て直すしか無いだろうし。

 

「真白?」

「本当に良かった……」

 

 そんな事を考えていると、急に真白がわたしを抱き寄せる。突然のことでわたしは固まる。だけど、真白の言葉には何処か震えもあって、わたしははっとなる。

 

 わたしは何をしてた?

 今日のお昼の警報がなる前まで、昨日から部屋に閉じこもっていた。途中、いつもの習慣で見回りに出ていたけど、それは別として真白とは顔を合わせてない。

 お昼の警報の時に部屋から出たのは良いものの、真白に心配されつつその場からすぐに現場に向かっていた。それから何時間も居なかった訳だ。

 

 真白がどれだ心配していたのか。

 それは分からないけど、今のこの現状を見る限り、そういう事なのだろう。真白には悪い事しちゃったな……。

 

「ごめん」

「うん、良いの。こうして無事に帰ってきてくれてだけで嬉しい」

 

 本当に心配をかけてしまった。これは後で猛反省しよう。だけど、自分の行動に後悔はしてない。あのままだったら、茨城地域の魔法少女は5人になっていたかも知れないから。

 

「お兄、何か雰囲気変わったね」

「え?」

「何て言えばわからないけど、こう何処かすっきりしたような感じがする」

「なにそれ」

「さあ?」

 

 二人で笑う。

 雰囲気が変わった、か……心当たりが無い訳じゃないけど、多分ごちゃごちゃしていた気持ちが無くなったからかな? そうとは言い切れないけど。

 

「はいはい、仲が宜しいのは良いことだけど、もう少しで今年が終わるわよ」

「あ、そう言えば今日は大晦日だったね。何か色々あって忘れてたかも」

 

 どうやら真白もわたしと同じだったようだ。

 まあ、今日一日で色々ありすぎだったのは確かだな……脅威度Sの魔物二体出現に、反転世界に行けるクラゲもどきの魔物。うん……今日は異常だな。

 

 嫌な予感も的中したし……。

 

 それは何とかなったから良かったな。それにしても、大晦日か……そんな事もあってゆっくりなんて出来なかったし、掃除も出来なかったな。でも掃除については、わたしが定期的にやってるからそこまでで汚れてないと思う。見落としはあるかも知れないけど。

 

『さあ、今年も残り僅かとなりました。千葉県の成田山では――』

 

 丁度、大晦日の恒例のテレビ中継がやっているようで今回撮影してるのは、千葉にある成田山。まあ、あそこは人が多いよなあ……にしてもこうして見ると、茨城地域だけなんだなあって思う。

 茨城にも有名な場所としては鹿島神宮や大洗磯前神社とかがあるが、大洗については多分無理かもな。一応あそこって県央だし、避難警報が鳴っていたはず。

 

 鹿島神宮の方は鹿行地域の方だから、大分離れているので普通にやっていそうだな。あそこは出店とか結構良く並ぶし、人もそれなりに集まる。出店なら他の神社とかでもあると思うけど。

 

 今年の年末は家で過ごす事になりそうだ。どうせなら鹿島神宮とかに連れていけたら良かったのだが、今のわたしだと車の運転ができない。真白が運転するというのも手だけど、それはそれでうーん。

 この前、服とかを買いに行った時は真白が運転で行ったけど……だいぶ吹っ切れたと思うが、問題は山積みである。

 

「来年もよろしくね、お兄」

「ん」

 

 もう今年も終わりを告げる……8月までは特に何もなく、普通な年だったと思う。カオスになったのは9月からだよな……男なのに魔法少女に変身して、野良として活動していた。

 魔物の異常出現もそうだし、エーテルウェポン事件もあった。更には今のわたし……本来の姿まで変わってしまったというとんでも事件もあった。

 

 かなり濃い後半だったな?

 

「話を変えて申し訳ないのだけど……司」

「ん?」

 

 そんな事を話したり考えてたりしていると、ラビが声をかけてくる。ラビの方を向けば、真剣な顔が伺えた。

 

「あなたを元に戻す方法だけど、もしかしたら出来るかも知れないわ」

「え? ラビそれは本当?」

「ええ。ただ確実とは言い切れないんだけれど」

 

 元に戻れる?

 リュネール・エトワール似の少女から男の姿に……?

 

「……」

「どうしたのよ、急に黙り込んじゃって」

「あ、ごめん」

 

 元に戻れる。

 それは確かにわたしが望んでいる事……でも何だろう。嬉しいはずなのに、嬉しくない。原因は……まあ、反転世界での出来事だろうな。そんなのはもう分かってる。

 

 この姿は自分自身が望んだ理想の姿。この姿であれば、今までの関係なんて壊さずに過ごせる。隠す必要もなくなり、自由にホワイトリリーやブルーサファイア、ブラックリリーたちとリアルでも会えるだろう。

 

 

 

 わたしは――

 

 

 

 わたしは、どうしたい?

 

 

 

 

 

「……戻れる方法っていうのは?」

「願いの木よ」

「え?」

 

 願いの木と言ったらわたしをこの姿にした元凶……100%とはまだ言い切れないけど、ラビの過去を見る魔法や、わたし自身の願いから限りなく100%に近い。

 

 でも確かに、願いの木なら戻りたいという願いを叶えられるかも知れない。

 

「でも、願いの木は……」

「ええ。同じ人が二回叶ったという事例は過去にはないわ」

 

 そう。

 ラビのあの時の話から、願いの木は一度叶えた者の願いを叶えることはない。何度か叶った者が、また願いの木に来て願ったという事例があるらしいが全て叶わずに終わってる。

 

 妖精書庫の情報にもそうきちんと記載されているようだ。

 

「でも、今の司は元の司とは別の姿となってる」

「!」

 

 今のわたしは男の時とは全く別な人間となってる。中身は同じではあるが、中身のことを正直に誰かに伝えたとしても信じる人が居るだろうか?

 

「女の子としての司の願いなら、もしかすると叶うかも知れないわ」

 

 この姿を望んだのは男の司だ。確かに何か単純ではあるけど、別人という事になる。

 

「えーと、良く分からないんだけど、流石にそう都合良く行くの?」

「そうなのよねえ。だからこそ、もしかしたら、って付けてるのよ」

 

 願いの木がそう簡単に騙されるのだろうか? そもそも、叶えた者のデータというか記録というか……何か持ってそうな気がする。

 

「今の司は、男の時と比べて更に魔力量が増えているわ。魔力の質も心なしか更に高くなっている……男の時と比べて魔力自体も微妙に違うし、可能性はあるはずなのよねぇ」

「増えてるの?」

「まあ、以前言ったと思うけど魔力っていうのは何故か女性の方が高いし、質も良い。その法則みたいなものにあなたも乗ったのかも知れないわね」

「……」

 

 これ以上増えてどうするの? まあ、多いのに越したことはないのは確かだが……正直、自分が怖くなってきたぞ。

 

「まあ、だから試す価値はあるかも知れないわ」

「そっか……お兄、やるだけやってみよう?」

「……ん」

 

 複雑な心境だ。

 確かに戻りたいと思っていたのは確かだが、今はどうだろうか? 守るべきモノがリュネール・エトワールの方が多くなってる。本当に戻って良いのか? と問いかけてくる声も聞こえる。

 

 わたしは何を望んでいる?

 

 確かにこの身体では不便な事が多い……元に戻った方が良いのかも知れない。だけど、そうなると、わたしはまた偽りのキャラを演じるしかなくなるだろう。

 今までだって演じてきてるんだから何を今更という話になるけど。

 

 願いの木……願いを叶えてくれる木。

 わたしの願いは……この女の子としての司の願いは何だ?

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 あ、そっか。

 

 

 

 

 そうだよね。

 

 

 

 

 うん。願いはある。

 

 

 

 

 

 わたしの願いは……

 

 

「ん。試してみる」

「そうね、駄目ならまた別の方法を探せば良いのだし、やるだけやりましょ」

「え? 今から行くの?」

「ん。今日は何処にも行けなかったし、せめて変わった場所で年を終えたいでしょ?」

「それは確かに……まあ、あそこは景色も良いもんね。まあ寒いけど」

「それは仕方ない」

 

 わたしは、いやわたしたちは再び願いの木の場所へ向かうのだった。

 




司の願いとは?



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Act.36:星月の選択②

 

 願いの木(スエ・アルブル)の元へ、再びやってきたわたしと真白、ラビ。外は当然のように寒く、今の格好でもまだ寒い感じがする。時間は既に23時半……こんな時間にここにやって来るとは思わなかった。

 

 いやまあ、行くと言ったのはわたしなのだが。この場所で年明けを待っても良いかも知れないというのもあったし……本当なら鹿島神宮とかに行ければ良かったけど、知っての通り色々あってそんな暇はなかった。

 

「また来たね」

「ん」

 

 高台の一本木。

 昔から告白スポットとしてそこそこ有名な場所で、言い伝えのある木。この木の下で結ばれた者たちは、幸せな日々がずっと続くと言われている。

 その正体が、妖精世界にあると言ってた願いの木(スエ・アルブル)だとは誰も思わなんだ。そもそも、妖精世界という存在自体知らなかった訳だし。

 

 ただそんな妖精世界の木が、何故この世界にあるかは分からない。大分前からずっとあったはずだし、もしかすると昔この世界やってきた妖精世界の住人が植えたのかも知れない。

 

 まあ、真相は分からないが……ラビの過去を見る魔法では、流石に昔過ぎて魔力が絶対足りない。多分わたしの魔力でもあやしいかもしれない。

 そもそも、その魔法が使えるかはわからないけど……一週間前にしたって結構使うってラビは言ってた。それなら一ヶ月前は一週間よりも更に増えるだろう。そして数年前数十年前……と来たらどれだけ消費するか分かったものではない。

 

 それもあるので、誰がここに埋めたかを調べるのは恐らく無理。仮に知れたとしても、知った所でどうするのって話になるのだが……まあ、謎が消えるのはすっきりするじゃない?

 

 まあ、それはともかく……。

 

 願いの木にやってきたわたしは、その木を見上げる。夜であり、ライトアップがされている訳でもないので当然ながら暗い。周りに街灯はあるけどね。

 そして木から感じる不思議な感じの魔力……こう魔法を使った時や魔物とは違う、不思議な魔力。何が不思議なのか……分からないから不思議だとも言える。

 

「司……」

「……お兄」

 

 木の幹に軽く手を触れる。

 触り心地は普通の木とそう変わらないけど、やっぱり違うのはさっきも言ったようにこの木から感じ取れる魔力だろうか。

 

 ラビと真白に心配そうな顔をされながら、わたしは目を瞑る。願い……男の司ではなく、今のこの姿……女としての司の願い、叶えてくれるだろうか?

 

 男に戻りたい?

 確かに最初は、そんな気持ちが一番強かった……この姿では色々と不便だし、戻りたいと何度思っただろうか。そもそも、どうしてわたしはこんな目に? とまで思ったくらいだ。

 

 だけど、今はどうだろうか?

 戻りたい気持ちというのはいつの間にか、薄くなっていた。むしろ、戻りたくないとまで思ってしまう始末。関係とかが壊れてしまうのを恐れている。

 いや……恐れているというのも間違いではないが、一番は……リュネール・エトワールとして守るべき存在が増えてしまったから。もっと仲良くなりたいなんて欲も出てきた。

 

 最初は負担を減らせれば良いなと思っていたけど、交流していく内に守りたいと思い始めていた。今はもう、出来る限り魔法少女たちを守りたいという気持ちが強い。

 

 確かに元に戻っても、リュネール・エトワールとしての活動はできる。ハーフモードになれば、リアルでの交流もできるだろう。でも、違う……偽りの姿ではなく本当の姿で交流したい。

 

 男であるということがバレてしまうリスクを背負うのはもう嫌である。何時からこう思い始めたんだろうな……そもそも男の時だって変化があった。あのまま変化し続けたら……。

 

 だから決めた。

 わたしは戻らない……戻るつもりもない。この姿がわたしの理想の姿……もう知っている。このままであれば、これから先も変に隠したりせずにやっていける。

 

 全てはわたしが望んだ事だ。認めよう。わたしは……わたし自身がこの姿を望んだ。今更何を言うんだ。そう、これがわたしの理想の姿……普通に考えればおかしいのかも知れない。でも、おかしくたって自身が望んだんだ。誰にも文句は言わせないさ。

 

 だからこそ……わたしとしての願いは一つ。

 

 

 ――俺をわたしにしてくれ。

 

 

 もうわたしはわたしであって俺ではない。

 

 

 わたしは……わたしはこのままでいることを望む。

 

 

 わたしの中に俺は……もう要らない。これがわたし()自身の願いだ!

 

 

 

 刹那。

 願いの木が眩い光を放つ。眩しすぎてわたしは目を瞑るが、それでも眩しい。

 

 

「こ、これは!?」

「お兄!?」

 

 真白とラビの声が聞こえるが、何が起きているのか……目を瞑っているわたしには分からない。だが……何かが変わる。それだけは確信する。

 周りが、町が、国が、世界が……変わって行くようなそんな謎の感覚。わたし自身もどうやら木と同じように光ってるらしい……らしいと言ったのは目を瞑っていて分からないから。ラビと真白の反応から予想しただけ。

 

 謎の浮遊感、不思議な感覚……色んなものをわたしは今感じているけど、不快という気持ちはなかった。むしろ何処か心地が良い。そのままわたしは流れに身を任せ、自然の意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

「あれ……わたしは」

 

 結構長い間、わたしは眠っていたような気がする。外から入り込む日差し……どうやら夜が明けてしまってたようだ。

 

「今何日……」

 

 そこではっとなって、近くにある変身デバイス兼スマホを手に取り、日付と時間を確認する。

 

「1月1日……12時」

 

 わたしは何があったのかを思い返す。

 すると、思ったよりすぐに理解できた。昨日の夜遅く、元に戻れるかも知れないとラビに言われ、真白とラビとわたしの三人で願いの木の所へ向かった。

 そこでわたしは願ったんだ……元の姿に戻るではなく、別の事を。それが叶ったかは分からないけど、その後気を失った……ここは自分の部屋だから真白がここまで運んでくれたのかな?

 

「お兄……良かった」

「ん?」

 

 昨日の出来事を思い出して居ると、聞き慣れた真白の声が聞こえたのでそちらを向く。それと同時に、真白はこちらに駆け寄ってきては、昨日と同じようにわたしの事を抱き寄せる。

 

「真白?」

「良かったよぉ! 突然倒れて、心配したんだから!!」

「……」

 

 新年早々、真白を泣かせてしまった。

 目の前で突然パタリと倒れたら、もう心配どころではないだろう。逆に真白がわたしの目の前で倒れたらきっと、冷静には居られないかも知れない。

 

「ごめん、真白……」

「うぅぅお兄、お兄……良かった良かったよぉ」

 

 これはしばらくは泣き止まないだろうなあ。

 二日連続で真白に辛い思いをさせてしまった……猛反省すると言っておきながら次の日でもやらかすなんて、わたしは馬鹿だ。でも、わたし自身何故気を失ったのかわからないんだよね。

 

 あれからどうなったんだろうか?

 あの時感じた、あの不思議な感覚は……願いの木が発動したのかな? 分からないけど、あの時何かが変わった……そう直感した。何がと聞かれたら分からないけど……。

 

 真白を見た感じでは特に変わったことはなさそう。

 不発に終わったのだろうか? それならあの時のあれは何だったんだ? いや、まだ結論を急ぐのは良くない。色々と確認とかしたい所だが、今は真白に抱き寄せられているので動けない。

 

 まあ、わたしは悪いから何にも言えないんだけど。

 

「ラビ、居る?」

「ええ、居るわよ」

 

 顔を動かせないので、何処に居るかまでは分からないけど近くにいるのは確かか。

 

「何か変わったことは?」

「……あるわ。でも今はそのままで居てあげなさい。後で話すから。あ、これについては真白も知ってるわ」

「真白も……」

「ええ」

 

 やっぱり、何かが変わったのは確かなようだ。

 でも今は……ラビの言う通り、真白が優先だ。わたしが悪いんだから……ごめんねと言って、許してくれるかは分からないけど泣き止んだらしっかりと謝らないと。

 

 

 わたしは、そう決めるのだった。

 

 

 

 




主人公の選択。

そして願いの木の効果は……?

既に他サイトでお読み下さっていた方は分かっていると思いますが……()


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Act.37:選択の果て

 

 真白を泣かせてしまった出来事から1時間過ぎた頃、真白も大分落ち着いてくれた。二日連続で泣かせてしまうのは兄として失格だな。

 あの後、泣き止んだ真白に自分なりに心から謝ったところ、真白は「お兄が無事で良かった」と、一言だけ言って許してくれた。怒っても仕方がないと思っていたから、何というかどこか拍子抜けだ。

 

 でも泣かせてしまったという事実は消えないので、例え真白が許してくれても、猛反省しないと。

 

 それで今、鏡の前に来ているのだが……そこに映っていたのは銀髪碧眼の少女。ここであれ? となるだろう。そう、金眼ではなく碧眼になっているのだ。

 

 まずこれがラビの言っていた変わったことの一つ。何故こうなったのか? それについては、次の変わった事に繋がる。

 

 鏡のある洗面所からリビングに移動し、そこで見たのはテーブルの上に置かれた書類。

 繋がるって言った二つ目の変化というのがこれだ。書類自体は特におかしな所は無いが、その内容が変わっていた。

 

「如月司……15歳、性別女性……?」

 

 おわかりいただけただろうか?

 これは少し前に取得した戸籍謄本なのだが、そこに記載されている内容が変わっていた。まず、生年月日が変わっており年齢は15歳となっている。そして性別も女性となっていた。

 

 驚いたのはわたしと真白の関係が逆転している事。つまり、真白が姉、司が妹となっているのだ。これはいったい何が起きたのだろうか?

 

 ただ誕生年は変わっているものの、誕生日(11月15日)自体は変わってない。他にも両親や住所についても変化はなく、本当に自分の所だけが変わってしまっている。

 

 誕生日が過ぎているので、今は16歳というのが正しいが、それは今は置いておこう。変わったのは他にもまだあり、免許証が消えてしまっている事。

 いや、16歳じゃバイクの免許しか取れないから普通自動車免許を持ってたらおかしいんだけども。

 

 とにかく、免許証は消えてしまっていて、どこを探しても見つからないのだ。車自体は庭にそのまま止まっているのだが……まあ、ローン自体は払い終わっているはずだ。

 そうなると自動車税の請求先が気になると思うが、去年の自動車税の請求書を見てみると、真白宛となっていた。

 

 健康保険についても、戸籍謄本と同じように生年月日や性別が変わってしまってる。わたしが使っている保険は国民健康保険というもので、まあ、会社に居たときは社会保険だったが、辞めたので国民健康保険に切り替えたのだ。

 

「他にもこれも変わってるんだ」

 

 そう言って真白が取り出したのはアルバムだった。そのまま、一つのページを開いてわたしへ見せてくる。

 

 そこにあったのは、容姿そっくりな二人の少女が仲良くゲームをしている場面。あれ? これは確か……そうだ、真白とゲームをしていた時の写真だ。

 その時、母さんがこっそり写真を撮っていたのを思い出す。でも、写っているのは俺ではなく、真白そっくりな少女。

 

「……わたし?」

「多分。私、お兄以外とゲームした事ないはずだから」

 

 写真に、戸籍……色んなものに対して、上書きのようなものが行われている。これはやっぱり、願いの木に願ったのが原因なのだろうか? そうなると、わたしの願いは叶った?

 懸念事項だった、書類関係がまるで都合の良いようにわたしとしての物に上書きされている。願いの木は人一人のデータというか人生? を変える事が出来るという事なのか。

 

 他の写真を見た感じでは、勝っているのはわたしの方で、悔しそうな顔をする真白が写っている物もある。なるほど、結果は変わってないのか……俺としての司の部分が、わたしとしての司に入れ替わっている感じだ。

 

  ……俺をわたしにしてくれ、と願ったのは自分。その願いを願いの木は、叶えたという事なのか?

 

「司。あなたがあそこで願いをした時、今までにない大規模な魔力反応を願いの木から感知したわ」

「魔力とかは分からないけど、物凄く光ってたのはわたしも見たよ」

 

 ラビと真白がそれぞれ、あの時に自分で感じたことや見たことを教えてくれる。大規模な魔力反応に、物凄く光った木……確かにわたしが願った時、眩い光が放出されたのは覚えてる。だからわたしは目を瞑ったんだけど……そのまま、気を失ってしまった。

 

「ねえ、司。司は……願いの木に一体何を願ったの?」

 

 そう聞いてくるラビの声は真剣そのもの。そしてすぐ近くに居る真白も、こちらをじっと見てくる。

 

 言うべきなのか? 言うべきなのは確かだが、言ってしまったらラビと真白との関係に亀裂が入ってしまわないだろうか? これは間違いなくわたしが選んだ結果なのだ。

 

 わたしの本当の意思。

 ホワイトリリーは勿論、ブルーサファイアや面識のある魔法少女たち、そして支部長という立場に居る茜。ブラックリリーもそうだ。

 何時バレるか分からないし、バレたら今までの関係が一瞬で壊れてしまうのではないか? それが怖い。だからこそ、わたしはそう願ったのだ。俺をわたしにして欲しい、と。

 

 いつからそう思い始めたのか……何となくは分かってる。それに、実際わたし自身にも変化があったし、男のままで変化し続けたらどうだろうか?

 

 全てにとって、今のわたしが一番都合が良いのは確かだ。

 変身解除でバレたとしても、この姿なら特に何の影響もない。自分に都合の良いように書類関係だって書き換えられている。正直、ここまでとは思わなかったが、願いの木が叶えてくれたのだろう。

 

 そうなると、今の司は別人として見られたって事か。木に意思があるかはわからないが、植物も生きている。意思があってもおかしくはないだろう。それに、地球の木ではなく妖精世界の木だし。

 

 

 ……。

 何を悩んでいるんだろう。これはわたし自身が決めた結果だ。それならば、自信を持てば良い。これが……これこそがわたしの意思であるという事。

 真白やラビに隠し事はしたくないというのもある。

 

 だから……素直に言おう。

 うん、受け入れてくれるかは分からない。もしかすると嫌われるかも知れないし、変な目で見られるかも知れない。だけど、これはわたしの選択。

 

 そうなったとしても辛いのは確かだが、後悔はしていない。

 

 

 

 深呼吸をしてから二人を一瞥する。

 

 勇気を出せ。

 

 自分自身の選択だろう?

 

 後悔はしてないんだろう?

 

 それなら何を恐れる必要がある?

 

 

 

 わたしは、自分の意思と思い、願いとともに全てを正直に話すのだった。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

「……なるほどね」

「お兄……」

 

 一通り話し終え、二人を見る。

 変な目で見られるかな? 男だったわたしが、女になりたいなんて思うのはおかしいし……。自分で決めた事だから後悔はしてないが、でもやっぱり覚悟しているとは言え、二人に変な目とかで見られるのは辛いかも知れない。

 

「うん。だからこれはわたしが決めた事……ラビもごめん。折角、戻れるかも知れない手がかりまで見つけてくれたのに」

 

 後悔はしてない。

 だけど、ラビはわたしが元に戻れる方法を一生懸命探してくれていた。妖精書庫の本も読み漁ってたみたいだし、それらが全て水の泡になってしまったのはわたしのせい。怒られても文句は言えない。

 真白もそうだ。兄としてのわたしを好きになってくれて、今もまだ好きなんだっていうのは鈍いわたしでも分かる。それなのに、この選択を選んだわたし……嫌われたかな?

 

「薄々何となくは、気付いていたけどね」

「それがお兄の選んだ選択なら……私が何か言うのはおかしいかな」

「真白、ごめん」

「謝らないで、お兄」

 

 真白は静かにわたしに近づいてくる。そして、わたしの頭の上に手を置くと、そのまま優しく撫で始める。

 

「真白……?」

「物凄く悩んだんでしょ?」

「ん……」

 

 悩んだ……のは確かだ。戦闘中にすら考え事をして、ブラックリリーに助けられる始末。本当に何をしているんだって話だ。

 

 真白はそのまま静かに撫で続ける。恥ずかしいという気持ちもあるけど、ついつい目を細める。撫でられる感覚っていうのはこんな感じなんだなってどうでも良いことを思い始める。

 

「引かないの?」

「え? 誰が? 私が?」

「ん」

「引くわけ無いよ。前にも言ったよね、私だけはお兄の味方になるって。あの言葉は嘘じゃないんだからね」

「真白……」

 

 本当に良い妹を持ったと思う。

 シスコンかと言われるだろうけど、もうそれは認めているので言われても、そうです、としか言えない。引いたり嫌いになられても辛いものはあるけど、仕方ないと割り切るつもりでは居た。

 

 でも、真白は……。

 

「たくさん悩んで、お兄が決めた事なんだから。姿形が変わってもお兄はお兄。変わらない」

 

 真白はそう優しく言ってくる。

 あれ? おかしいな、視界がちょっと歪んでる? 誰か空間魔法でも使ったのかな……。

 

「ありがとう……」

「ふふ、お兄泣いてるの?」

「え?」

 

 そう言われて気付く。

 目から何かが流れているような感じはあったけど、どうやら涙を出していたようだった。さっき、視界が歪んだのはこれのせいか……そっか、わたし泣いてるのか。

 

 今もまだ流れているように感じる。だから手でそれを拭ったりするけど、止まる事はなかった。それと同時に、何かが心の奥から込み上げてくるような……。

 

「泣いて良いんだよ、お兄」

「……っ」

 

 真白の優しい言葉が突き刺さる。涙を止めようとしても、止まらない。そんな状態で優しい言葉をぶつけられたら……わたしは遂に我慢できなくなり、泣き出す。

 自分ではもうどうにもならない状態だ。止めようとしても止まらず、むしろ止めようとすればするほど涙は流れる。涙の堤防が決壊しているかのように、流れる。

 

 そう。

 わたしが選んだ選択だ。でも、やっぱりこういうのを言うのはいくら妹とは言え、怖いものがあった。それはラビにも言えるし、むしろもう相棒と思っているラビに変な目で見られるのはかなりきついだろう。

 

 真白だって大事な妹だし、わたしの事を好きで居てくれた。そんな彼女に嫌われたら、どうなるだろう? 間違いなくわたしは立ち直れないかも知れない。

 

 だから本当の事を言うのには実際抵抗があった。

 変な目や冷たい目で見られるのもそうだが、この選択によってラビと真白の関係が壊れてしまうのではないだろうか? という不安と恐怖……口からはそんな事が次々と吐き出されていく。

 

 涙と同じで止めようにも止まらない。

 

「……全く。私がそんな事であなたを嫌いになったりする訳無いでしょ」

 

 ラビはそう言って、その小さい手を使ってわたしの背中を擦る。妹に撫でられ、妹の胸で泣き、ぬいぐるみに背中を擦られる……傍から見たら中々カオスかも知れない。でも、そんな事はどうでも良かった。

 

 ただただ、そう言ってくれるのが嬉しくて。

 

 ……ラビも真白も変わらない。悩んでいたのが馬鹿みたいである。

 

 

 そのまま一通り泣いたのは確かだけど、泣いている間の記憶は曖昧だった。

 

 

 

 

 




いつも読んで下さり、本当にありがとうございます。
評価や感想、ブクマ等凄く励みとなっております。

さて、今回の話ですが、
賛否両論があるという事は予想していました。
ですが、最初からこうするというプロットの上で書いたためこういう結果となっております。

期待されていた方々、申し訳ありません。

これからも宜しくして下さると幸いです。


ここまでお読み頂きありがとうございました。


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Act.38:これからの事

 

 まるで子供のように泣きじゃくってしまったわたしは、最初は凄く恥ずかしくて二人の顔をまともに見られないでいたのだが、何とか落ち着いてきた所で、ラビの話を聞いている。

 まさか、大泣きしてしまうとは思わなかった。しかも、妹とラビの前で……恥ずかしいったらありゃしない。しまいには真白に「泣いてるお兄、凄く可愛かったよ」とか言われる始末。

 

 ……。

 いや、思い出すのは辞めておこう。

 

「司が願いの木に願った時に倒れた原因は、魔力の急激減少ね」

「急激減少? あれ、前にもあったような……」

 

 魔力の急激減少。

 急激に体内の魔力を失ってしまう事の総称。大体は、自分の魔力量を超えるようなでかい魔法を撃った時とかになる。徐々に減るのは自分自身でも減っているというのを感じれるのだが、一気に消費した場合は感じる前に倒れる。

 

 そういう急激な魔力消費は身体にも負担をかけてしまうのだ。

 

「あ」

「思い出したかしら? 以前の魔法少女襲撃事件の時よ」

 

 そうだ。

 魔力を奪うとかいうとんでもエーテルウェポンに刺された時を思い出す。あの時は結構焦った……急激に減少するとあそこまで辛くなるんだなって実感したよ。

 何とか、魔石のお陰で窮地を脱したが嫌な記憶でもある。わたし自身が油断していたのも原因なので、何も言えないのだが。

 

「今回の願いの木が発動させた事象は世界的に影響のある物よ。一人のデータと言うか人生を書き換えている……流石にここまで影響のある事例は妖精書庫にもないわ」

「世界的? でもわたし、日本出身だよ?」

「ええ。書類とか戸籍だけを見れば日本だけに影響があるように見えるけど、もしかすると海外にもあなたのデータがあるかも知れない。そうなると、それも書き換えていると考えるのが普通よ。あの時の魔力量は尋常ではなかったし」

「……」

「世界全体に影響を与える……流石にそれは願いの木でも難しかったんだと思うわよ。だから、近くに居たあなたの尋常ではない魔力量も使った。それによって、願いは叶ったけどあなたは急激な魔力減少によって、その場に倒れた」

「なるほど」

「と言ってもまだ、確実という訳ではないけれどね。あなたの事についての変化が何処まで影響を及ぼしたのかも、まだ詳しく分からないもの」

 

 世界中のデータを見るなんて流石に無理だしね。妖精書庫には妖精世界の事についての記録はあるけど、別世界である地球についての記録は無い。世界が違うのだから当たり前だ。

 

 なので、全て知ることは出来ない。ただ少なくとも、日本という国の中では書き換えがされている。戸籍謄本とか、国民健康保険とかが証拠である。

 書類関係は変わっているのは分かった。ただ気になるのは、俺としての司を知っている人はどうなのだろうという所だ。上書きされているという事は、俺という司はもう消えてしまっている……そこが気になる所。

 

 ただ、ラビと真白を見ると普通に覚えているように見える。そうなると、何処かで何か矛盾が発生しないだろうか? 少し不安ではあるけど、仮に元の司を覚えていたとしても、名前自体はそこまで珍しくない。

 知らないフリをすれば、特に何もないと思う。それに、知ってる人に「わたしがその司です」と言っても信じないと思うし、変な子と見られるだろう。

 

 と言っても、俺としての交友関係はあまり無いんだけど。おいそこ、可哀想な目で見るんじゃない。

 

 まあ、それは置いておこう。

 俺としての意識は確かに、こうして残って居るけどわたしになると決めたのは自分自身。なら、自分で決めたのだからそのまま突き進めば良いだけの話だ。

 

「とは言え、謎は多いけれど全てを解き明かすのは現状では無理よ。司の願いは叶ってる、少なくともこの国で暮らす事には困らないようにね」

「ん」

 

 免許証は消失しているが、保険はある。しかも今のわたしとしてのデータに変わっているので、身分証としては申し分ない。それに、年齢も丁度良い。中学生だったら義務教育期間なので、平日とかに出掛けた場合補導にあう可能性は高い。

 でも、16歳なら高校だし、高校は行ってない人も居るので大丈夫……と思いたいが、保険証見せた所で分かるのは年齢とか住所くらいなので、補導に捕まると面倒になる場合はある。

 

 まあ、身長も低めだし基本出歩かないのが一番なのだが、どうしても出掛ける必要がある時は土日とか祝日を使うのが一番かな? とは言え、もう少しは真白が居るので一緒であれば問題なく出歩けるだろうが。

 

 というかそもそも、今は冬休み期間なので問題はないだろうけど。

 

「それにしても、お兄が妹になるって何か変な感じだね」

 

 どうせなら、同じ年齢だったら良かったが流石にこの見た目で28歳は無理か、と思ったけど良く考えたら真白は今のわたしより少しだけ身長が高いだけで20を超えているのでおかしくはないよね。

 それに、合法ロリというワードがある。見た目は中学生かそこらではあるけど、実際は既に成人済み。身長が低いからってその年齢とは限らない訳で……。

 

 まあ、でもこれで良かったのかも知れない。

 ホワイトリリーやブルーサファイアには15歳って言ってしまってるし、年齢については秘密にしておいて欲しいとかも言ってないので、魔法省内でリュネール・エトワールは15歳っていう事が知れ渡っているかも知れない。

 

 それに魔法少女は10代に多い。28歳という年齢で魔法少女してたら何か恥ずかしいかも知れない。仮に都合が良いように年齢の記憶とか書き換えられていても何か恥ずかしいな。

 

 ……未成年からやり直しか。

 まあ、この姿は自分で望んだ事だし嫌というわけではない。ただリアルバレしても問題なくなったとは言えこっちの姿での自由度は下がったかも知れないな。

 魔法少女リュネール・エトワールに変身していれば、問題なく自由に動けるだろうけど。

 

 それにしても、何故目の色だけ変わったんだろうか? どうせならハーフモードのような黒髪黒目だったら良かったんだけど……黒髪黒目でホワイトリリーやブルーサファイアに会ってるからそこはどうなるんだろうか?

 

 いやまあ、本当はこの髪色であの時は染めていたとでも言っておけば通用するかも知れないが……。

 

 あれれ? 身分証とかは問題はなくなったとは言え、別の問題が出てきてるな?

 

「どのみち、問題が残っているというのは分かっていたけど」

 

 おいおい考えていくしか無いか。

 

「改めて思うと、あの願いの木は少し危険かもしれないわね」

「ん」

「一人の人生を書き換えてしまうほど強力……魔力を感知した時から、疑問には思っていたけど」

 

 世界すら変えてしまう力を持つ木。

 確かにかなりやばい代物だろう。幸いなのは、この木がそういう木だと言うことは地球で知ってる者は居ないという事。別世界のものなのだから、まあ知らなくて当然なんだけど。

 

「あの木についてはもう少し調査が必要ね……」

「お兄……っていうのはもうおかしいかな? 司って呼ぶべきなのかな?」

 

 難しい話にしびれを切らしたのか、真白が話題を変えるべく乱入する。

 調査が必要なのは同感だけど、今すぐ何が出来るのかと問われれば難しい所だろう。ラビもそれを分かっているのか、少し難しい顔をしている。

 

 そして真白の話だが……確かに今は姉妹という事になってるし、しかもわたしは妹。でも真白との思い出自体は消えておらず、ただ単にその時のわたしが俺ではなくわたしという存在に変わっているというだけだ。

 そう考えると、本当に都合良いように変えたな……あの願いの木、一体何なんだろうか? 何時、誰が植えたのか? 過去にでも行かない限りこの謎は一生解けないだろう。

 

「ん。真白の自由にして良い。ただそうなるとわたしは真白のことをお姉ちゃんと呼べば良いのかな?」

「っ! お兄、もう一回言って!」

「え? 嫌だよ」

「そこを何とか!」

「……お姉ちゃん」

 

「私もう死んでも良いかも……」

「真白!?」

 

「なあに、巫山戯てるのよ」

 

 そんな様子にラビが突っ込む。

 でも、妹となってる以上、呼び方も改めないと駄目だよねえ……お姉ちゃん……う、何か恥ずかしい。でも慣れないと変だし、うーん……後でビデオデータとか見てみよう。

 

 写真とかが変わっているなら、ビデオも変わっているはずだし。

 その時のわたしはどういう話し方とか、呼び方をしていたのか……あると思いたい。

 

 何にせよ……自分で選んだ以上、突き進むしか無い。わたしはもうわたしなんだから……。

 

 

 

 



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Act.39:エピローグ①

1話にしようとしたら長くなりそうだったのでエピローグは分割します。


 

「あら、もう元気になった?」

 

 私が魔法省内を歩いていると、茜さんに声をかけられます。

 クラゲの魔物との戦いで私たちは疲弊していたので、魔法省にすぐに送られました。といっても、魔力枯渇が殆どの原因なのですけどね。

 

「茜さん。はい、魔力も回復しましたし身体も元気になりました」

 

 元気いっぱいとまでは言えないですが、少なくとも普通に動けますし問題は無いです。ゆっくり休んだのも良かったのでしょう。

 

「それなら良かったわ」

 

 そう言いながら茜さんは私の方に向かって近づいてきました。目の前まで来たところで、頭に手を乗せられそのまま撫でられます。

 

「茜さん?」

「無事で良かったわ、本当に……」

「茜さん……」

 

 司さんもとい、リュネール・エトワールに撫でられた時は違いますが、それでもほんのり温かい気持ちになります。

 

「私たちが無事だったのはリュネール・エトワールのお陰です」

「そうね。また彼女に助けられてしまったわね」

 

 リュネール・エトワール。

 星月の魔法少女と呼ばれる、野良の魔法少女です。以前に私も彼女に助けられたことがあって、いつの間にか好きになっていた子でもあります。

 実際リアルの姿でも会ってました。ただこれについては、茜さんにも内緒にしていますが。彼女もリアルの姿が知られるのは望んでいないでしょうし。

 

 リアルでのリュネール・エトワールは、司さんという私と同じくらいの女の子でした。身長は私よりも少し高く、年齢も15歳と1歳上という近さでした。

 髪の色や瞳の色は違っていて、最初印象が違いましたが、実際話してみると殆ど変わりません。優しいというところも変わってませんでした。

 

 そんな彼女に私たちはまた助けられました。

 本当に感謝してもしきれませんね……一度会ってお礼を直接言いたかったのですが、残念ながら当日はここに送られてしまったので会うことは叶いませんでした。

 ただ、ホワイトパールと茜さんはリュネール・エトワールと話したと言ってましたね。ちょっとずるいです。

 

 失礼しました。

 ずるいのは確かですが、私も大分疲弊していたので仕方がありません。でも、今は回復しましたし、会いたいですね……。

 

 CONNECTで連絡とるべきでしょうか。

 でも、司さんも忙しいかも知れません。そう思うと中々連絡が取れないっていうのが、私の駄目なところですね。

 

 大体魔物が出現した時とかは、良く会えたりします。勿論、会えない時もありますが。後は、彼女は定期的に見回りをしているらしいので、もしかすると偶然ぱったり会える場合もあるかもしれませんね。

 

 でも、偶然にばかり頼るのはやっぱり駄目ですよね。

 私は司さんが好きなのですから。蒼ちゃんも好意を持っていますし、こっちからアプローチをしないと先手を取られてしまいますよね。

 

 でも最終的に決めるのは司さんです。

 もしかしたら、司さんはどちらも選ばないかもしれません。その時はその時ですが、やっぱりいっそのこと当たって砕けろで、突っ込んだ方が良いのでしょうか。

 

 ……。

 自分の胸に手を当てます。やっぱり、司さんの事を思い浮かべると、鼓動が早くなりますね。本当に好き、なのですね。

 

「何か悩み事かしら? ふーん、見た感じだとリュネール・エトワールの事ね」

「! やっぱり分かりますか……」

「ええ。伊達にあなたたちと顔を合わせている訳じゃないわよ。というか、分かりやすいわよ」

「そ、そうなのですか?」

「顔に出ているもの」

「うぅ……」

 

 茜さんには知られてるとはいえ、実際こう言われると恥ずかしいですね。

 

「そんな雪菜に朗報よ。1月4日以降の何処かで彼女が来るわ」

「え?」

「今回もそうだけれど、あの子には何度も助けられているわ。だからこそ、魔法省茨城地域支部長としてお礼をしたいのよ。今回ばっかりはちゃんと言ってみたわ。そしたら若干渋々ではあるけれど、魔法省に来てくれるそうよ」

「!」

 

 リュネール・エトワール……司さんが来る?

 話によれば1月の4日以降に来てくれるという約束をしてくれたらしいです。司さんが約束を破るという事はしないはずですし、来てくれるのでしょう。

 

 ……。

 

「彼女と会ってどうするかは、あなた次第ね。私はあくまでお礼をするだけだからその後は、自由にしなさい」

「茜さん……」

 

 どの姿で来るのでしょうか?

 いえ、魔法少女の姿に決まってますよね。わざわざリアルの姿で来るとは考えられませんしね。

 

 でも来てくれるのであれば……司さんと話をしたいです。それにさっきも言ったように、直接お礼も言いたいですし……いつ来るのでしょうか。

 1月4日以降と言うことは、少なくとも1月5日が最速ですよね。もしかしたら4日に来るかも知れませんが……どっちにしろ、司さんと会えるのは嬉しいです。

 

 魔法少女の姿で来るはずでしょうから、呼び方はリュネール・エトワールにしておかないとですね。間違えて司さんって呼んでしまったら大変ですし。

 

「まあ、頑張りなさい」

「ありがとうございます、茜さん」

「良いのよ。あなたたちは私の家族のようなものなんだから」

 

 茜さんは、この茨城支部の支部長というこの地域では一番偉い地位の方ですが、所属している魔法少女たちにとても優しくしてくれます。地位なんて関係ないとも言っていましたね。それもあって、皆さんは支部長とは呼ばずに茜さんとかで呼ぶ方が多いです。

 というのも、茜さん自体が支部長っていう堅苦しい呼び方はしないで良いと言っていたからなのですけどね。他の地域は分かりませんが、茜さんは多分少数な部類なのでしょう。

 

 何はともあれ、茜さんが支部長で良かったと思います。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「……」

 

 ベッドの上で起き上がった状態で、窓の外をじっと見る。

 クラゲもどきに謎の空間に連れて行かれ、そこで25人の茨城地域の魔法少女で魔物を相手していたけど、長期戦になり次第にこちらが追い詰められてしまったことを思い返す。

 

 攻撃を食らって後方にふっ飛ばされたことも。思ったより、あれは結構痛かった。魔力装甲が守ってくれているから生身の身体の方は無事ではあるものの、それでもやっぱり攻撃を受ければ衝撃が襲ってくる。

 

「リュネール・エトワール……」

 

 また、助けられてしまった。あの時、撫でられた事を思い返す。

 今回ばかりは私たちでやるしか無いと思っていた不安の中、彼女は現れた。ちょっとだけ様子が変ではあったけど、それでもボロボロになった私の事を助けてくれた。

 

 正確には回復魔法をかけてくれたんだけどね。

 あんな姿を見せてしまって、咄嗟に謝ってしまったけどリュネール・エトワール……いや司は優しく宥めてくれた。そして私が無事であるという事を自分の事のように喜んでくれていた。

 

 それが嬉しかったなー。

 

 自分の頭に手を乗せれば、まだあの時のぬくもりが残っているような気さえした。

 うん、私結構重症かもしれないな。こんなに司の事が好きだったなんてね……思えば、襲撃された時だって優しくしてくれたし、あの時も撫でられたな。

 

 いつから好きになったなんて言うのはもう分かっているから良い。

 同じ女の子とは言え、私は好きになってしまった。もっと話をしたいし、一緒に遊びたい。でも彼女は野良の魔法少女だから、普通では会えない。

 

 CONNECTで連絡先交換しているのだから、それで連絡取れば良いと思うかも知れないけど司だって、何かをしているはず。忙しそうにしているかも知れない。それを考えると中々自分から連絡が出来ない。

 

 だって迷惑はかけなくないし。

 

 こういう所が駄目なんだなとは思ってる。

 こっちから積極的にアプローチを仕掛けなければ、司は私のこの想いとかには気づいてくれないのも分かってる。いっそのこと、もう突撃しようかという思いもあったけど、結局は何も出来ないでいる。

 

 それに、リュネール・エトワールこと司を好きな人は他にも居て、ホワイトリリーもとい白百合先輩というライバルも居る。結局、選ぶのは司だから私たちにできるのは交流を繰り返して、向こうにもこちらを好きになってもらうように頑張ることくらい。

 

 でも、さっきも言った通り彼女は野良の魔法少女で普通に会うのは結構難しい。何せ、リュネール・エトワールの目撃されている地域は茨城県全体である。鹿行、県央、県北、県西、県南……全ての地域だから。

 

 県西とか県北とかの地域の中に、更に町や市がある訳で……選択肢が多すぎて、真面目な話、会うには運が必要。

 

 だから一番確実なのはCONNECTでの連絡。折角、連絡先があるんだから使うべきなんだろうけど……。

 

「はあ」

 

 毎回、彼女のことを思う度に心臓がバクバクいってる。そこまで好きだというのはもう認めざるを得ない。まあ、既にこうやって自覚しているから認めるも何もないんだけどね。

 

「いっそのこと、魔法省に所属してくれれば良いのに」

 

 なんてね。

 彼女にだって事情はある。だから魔法省ではなく、野良で行動しているんだっていうのはもう分かってる。私自身ももう少し、頑張らないと。

 

 

 そんな事を思う私に、茜さんからリュネール・エトワールが来るという知らせが届いた時、ドキッとしたのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 



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Act.40:エピローグ②

第四章のエピローグです。
また今回もおなじみ、データベースと同時投稿なのでご注意下さい。


 

 元旦の夜。

 昼間は物凄く恥ずかしい出来事があったものの、今はもう落ち着いている。そんなわたしは、いつものように夜の見回りという事であっちこっちを回っていた。

 

「何も元旦の日まで見回りなんてしなくても良いんじゃないの?」

「それはそうだけど……癖になってる」

 

 もう定位置となっているわたしの肩の上にラビが乗りながらそんな事を言ってくる。ご尤もであるが、魔物はいつ出現するかわからないし見回りしても問題はないはず。

 まあ、今までの出現時間を見ると夜はかなり少ないんだけどね。ただ今日は全く茨城地域内で魔物は観測されていない。一日中未観測っていうのはここ最近では初めてかも知れない。

 

 平和なのは良いんだけども。

 

 この反動で明日以降、魔物がまた頻繁に出現する可能性も考えられるが対策なんて無いし、出現したらそれを魔法少女が倒す……現状これくらいしか無い。

 だって魔物は突然出現する訳だし……こっちの都合なんて関係なく。しかも別世界から来てる訳じゃない? どう予防しろって話だ。地球が世界移動の技術を完成させでもしないと、無理だよ。

 

 大体、ほとんどの人が別の世界なんて言う存在を信じてない。

 そりゃそうだ。自分たちは自分たちのこの世界しか知らない。他に世界があるなんて言われても、ピンとも来ない。平行世界とかそういう諸説は多くあるとは言え、実際行ってみなきゃ、証明できない訳だしね。

 

「今日は一体も観測されてないんだっけ?」

「ん。茨城地域では今日は観測されてない」

 

 他の地域ではまあ、いつも通り観測されているみたいだけど、数は少ないみたい。

 

「魔物が居ないのは良い事だけどね」

「ん」

 

 それでもわたしは、癖になってしまってるし、習慣にもなっているから見回りしないと変な感じになる。職業病? ……野良の魔法少女って職業なのかな?

 

 そんなどうでも良い事を考えていると、少し先のビルの上に見覚えのある少女が見えた。向こうもこっちに気づいたみたいで、わたしの方を見てきている。

 

「また会ったわね。リュネール・エトワール」

 

 見覚えのある少女……そう、わたしと同じで野良の魔法少女をしているブラックリリーだ。彼女は空間操作という、結構とんでも魔法を扱うけど、魔力量が少ないらしくそんなホイホイとは使えないらしい。

 

「ブラックリリー?」

「見ての通りよ」

 

 反転世界から戻った時は、居なかったから残念だったし、心配だったけど調子は良さそうかな? 何ともなさそうなブラックリリーを見てちょっと安心する。

 

 と言うか、ブラックリリーはここで何をしてたんだろうか? 偶然かは分からないけど、このビルはわたしが見回りの際に、全体の様子を見るために良く使う場所だ。

 流石に全部見える訳ではないけど、魔物は良く見える。基本的に魔物の躰は大きいからね。小さい魔物も居るのかは分からないが、少なくともわたしは見たこと無い。

 

 ラビに聞けば分かるかも知れないが。

 

「こんな所でどうしたの? 結構時間遅いけど」

 

 実際見たことがないから何とも言えないが、ブラックリリーはホワイトリリーより少し上くらいだと思ってる。15歳~18歳くらいかな?

 18歳ならともかく、15~17歳だと普通に考えればこんな時間には出歩かないよね? 個人的な意見だけど。そんな事言ったら今のわたしは16歳で、その範囲に入ってるが……ほら、わたしの場合は特殊だしそもそも仕事もしてないし、仕方ない。

 

「私の事は気にしないで良いわよ。今日ここに居たのは貴女に謝りたいから」

「?」

 

 そんな事言われると気になる。

 まあ、聞くつもりはないけど……でももし悩んでいるなら、相談して欲しいなとは思ってる。今は16歳ではあるがこれでも中身は28年間生きているのだから。

 

 生年月日とか変わっていたので今、そんな事言っても身分詐欺とか言われるだろうが。

 

 それは置いとくとして、わたしに謝りたいことって何だろうか? わたし、ブラックリリーに何かされたっけ? むしろ、助けられてばかりだったような気がする。

 

「反転世界の事よ。帰ってきた所は、実は少し離れた場所で見ていたのよ。行きはあんな事言ったのに帰りは居なくてごめんなさい」

 

 なるほど。

 確かにブラックリリーは行きの時は、声をかけてくれたけど帰りは居なかった事を謝っているのか。でもそれは別に、謝るほどのことじゃないよね?

 彼女だって野良の魔法少女だ。やるべき事があるはずだろうし……仕方がないと思ってたけど。

 

「気にしないで」

「!?」

「ブラックリリーも野良の魔法少女だから、やるべき事があっただけ。謝る必要ない」

 

 ブラックリリーの頭を帽子の上から優しく撫でる。

 確かに少し残念だとは思ったけど、仕方がないと思っていた。それに、わたしとブラックリリーは一時的な共闘関係だっただけで、そこまでする義理もないはずだ。

 

 だから、彼女が気にする必要はない。

 むしろ、付き合わせてしまったわたしの方が謝るべきだろう。

 

「それに謝るのはわたしの方。付き合わせてしまってごめんなさい」

 

 反転世界の戦闘にはブラックリリーは参加してないけど、わたしの油断で魔物の攻撃を受けてしまいそうになった時にテレポートで助けてくれた上に、魔物の討伐にすら協力してくれた。更に言えば、そのまま魔法省の方へ一緒に向かったし、何かわたしの方が迷惑かけてる。

 ブラックリリーからすると、魔法省なんて行きたくなかっただろう。でも一緒について来てくれた訳で。実際、魔法省の一部の人からは怪訝そうな視線を向けられていたし。

 

 まあ、あの襲撃事件の時の男の証言に似た見た目をしているのだから、仕方がないんだろうけど……いやまあ、実際彼女が犯人なのは事実だけど。ただ、魔物を呼び出したという事についてはブラックリリーは否定している。

 そうなると、何故そんな事を男が言ったのかって所だが……見間違えた? でも実際、魔物は二体出現していたし……。

 

 出来る事なら、魔物を召喚してないっていうのを証明してあげたいが……現状無理か。数ヶ月前の事だから、もしかするとわたしの魔力ならギリギリ「パッセ」で過去を見れるかも知れないけど、あの魔法をわたしが使える保証はないし。

 

「べ、別に良いわよ。それこそ謝る必要ないわ。付き合ったのは私が決めたことなんだから」

 

 何処か恥ずかしそうに言い放つブラックリリー。

 まあ、それもそうか……わたしだって、本人が嫌だったら付き合わせるつもりはなかったし、一緒に来てくれたのは彼女の意思ということなのだろう。

 

「それよりいつまで撫でてるのよ……別に嫌じゃないけど」

「あ、ごめん」

 

 どうも最近、こうやって撫でてしまう癖が出てしまってるらしい。結構やばいやつなのではないだろうか……ま、魔法少女の時だから問題ない……か?

 

 いや、あるだろ。

 

 まあ、真白には今日撫で返されたが……。

 

 閑話休題。

 

 ブラックリリーを撫でている手を離すと、彼女は何処か物足りなさそうな表情を見せる。もっと撫でてほしかったのだろうか? うーん……。

 

「もしかして本当はもっと撫でて欲しい?」

 

 なんてね。この発言……変態だろうか。

 

「そ、それは……」

 

 え?

 真面目にもっと撫でてほしかったの? ブラックリリーの反応はまさに、それだったので正直驚く。普通年頃の女の子ってこういうの、嫌がるんじゃないかって思ってたけど。

 

「……」

「うぅ……」

 

 ブラックリリーをじっと見る。

 わたしと同じような黒いとんがり帽子を被っていて、黒いマントの下には黒っぽいドレスのようなものを着てる。黒髪黒目……一般的に日本人に多く見られる色だけど、変身した姿だよね? 

 

 それ言ったら今のわたしだって、そこまで変化がないっていう。

 何故か元の姿は銀髪碧眼になってるけど……魔法少女リュネール・エトワールの時は銀髪金眼になる。しかも、目の中に星みたいなのが見える。後は変身後は髪に青いグラデーションが掛かってるけど。

 

 因みにブラックリリーも良く見ないと分からないくらいだが、白いグラデーションが黒髪にかかってる。魔法少女って髪にグラデーションとかかるのがお約束なのだろうか?

 ブラックリリーのリアルの姿が気になるっちゃ気になるけど、彼女はそんなのは望んでないだろうし、心の中に留めておこう。それに、リアルの姿がバレるのは宜しくない。

 

「ふふ」

「あっ……」

 

 そんなのは今はどうでも良いか。

 撫でて欲しいとは、ブラックリリーも子供っぽいな。話し方とかからして大人っぽさを感じさせていたけど……やっぱり女の子なんだなと。

 

 何言ってんだおっさんとか言われてそう。

 

 それは置いといて、わたしは期待に答えるべく、もう一度ブラックリリーの頭に手を載せてゆっくりと撫で始める。すると、気持ちよさそうに目を細めるのが見える。

 

「お二人さん、仲が宜しいのは良い事だけど、ブラックリリー、本題忘れてない?」

「! ララ」

 

 ララの声が聞こえ、ブラックリリーは一瞬にして顔を赤くする。

 

「あなたも大概よねえ」

「あ、ラビ」

 

 それに続いて今度は帽子の中から顔を出したラビが言ってくる。大概って何が? わたしは疑問を浮かべる。とりあえず撫でるのを辞め、わたしとラビはブラックリリーとララに向き合う。

 

「それで本題っていうのは?」

 

 てっきり、今のが本題かと思ったけどどうやら違うみたいだ。

 

「……。私の目的についてかしらね」

「え?」

 

 覚悟を決めたように言うブラックリリー。

 彼女の目的……いや、何かしら目的があるのは分かってたし、こっちとしても無理矢理聞くつもりもなかった。気になっていたのは事実だけど。

 

 その目的? 今から話すって事だろうか?

 

「ボクたち二人が魔力を集めていたのは知ってると思う」

「ん」

 

 魔力を奪う短剣すら出してきた訳だし、目的が魔力だったのは分かってたが……それを何に使うかまではわからない。ろくな事ではないと、予想はしてたけど。

 

「私たちの目的を達成するには膨大な魔力が必要だったから。それこそ、世界中から一回魔力をとってもまだ足りないくらいね」

「……そんな魔力を集めてる理由は?」

 

 世界中から魔力をとっても足りないってどんな目的だ……まさか世界を滅ぼすつもりとかか? その場合はわたしも全力で止めるけど……。

 

「別に世界をどうするって訳じゃないわよ。私たちの目的は……」

 

 ブラックリリーは静かに口を動かしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 




無駄に長くなってしまいましたが、四章をお読みいただいてありがとうございました!
これにて、四章が終わりと鳴ります。

次回からようやく新章になります。

ここまでありがとうございます!


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Act.XX:データVer.4.0

 

□プロフィール

名前:如月 司

読み:きさらぎ つかさ

性別:男性

年齢:28歳(四章終了時点)

身長:167.2cm

誕生日:11月15日

備考:

本作の主人公。

宝くじで1億円を当て、絶賛ニート生活を満喫している男。

両親は他界しており、唯一の血縁は妹のみ。

突然目の前に現れたラビとの出会いで、魔法少女となってしまった。

しかもかなり強い。

 

黒髪の短髪、黒目で、特に何もしてない、何処にでもいるような青年(自称おっさん)

 

 

□プロフィール

名前:如月 司

読み:きさらぎ つかさ

性別:女性

年齢:16歳(四章終了時点)

身長:153.0cm

誕生日:11月15日

備考:

本作の主人公。

如月司の理想の姿。

願いの木(スエ・アルブル)によって変わってしまった事件。自分が望んだものであるとようやく分かる。

最終的に選んだのは、男の時の司を今の司に変えることだった。

 

なお、資産等はそのまま引き継いているのでリッチガールである。

また、願いの木によって彼女の関わる書類全てが都合が良いように改変されている。

 

銀髪碧眼で、背中の真ん中くらいまで伸びるロングストレート。

 

 

□プロフィール

名前:リュネール・エトワール

推定魔法少女クラス:S

身長:153.0cm

変身キーワード:「――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

備考:

主人公、如月司が魔法少女に変身した時の姿。

元の姿も変わってしまったため、特に大きな変化がない。

ただし、魔力量が増えたり魔力の質まで高くなったため、以前よりもやばい子に。

極めて強力な魔法を扱う魔法少女。

 

無口系無自覚天然たらし。

 

髪は基本は銀色だが、青が若干混ざり上から下へとグラデーションとなっている。

目の色は金色で、瞳の中には星がある。

ラビがすっぽり収まる位のとんがり帽子が特徴。

 

【容姿】

髪:銀髪、背中の中央まで届くくらいのロングストレート、上から下にかけて青のグラデーション

目:金(瞳の中に星がある)

服装

頭:赤いリボンの巻かれている黒いとんがり帽子。帽子には三日月、リボンには星の絵。

上:白と青を基調としたマント。マントを留める部分には星のエンブレム。

上下:マントと同様、白と青を基調としたノースリーブのセーラーワンピース。胸元に赤いリボン。

   スカート丈は膝より下で、青と水色の裾にフリル付き。

手:手首の部分に紺色のシュシュ。小さいながらも星の絵有。

靴下:黒いタイツに三日月と星の絵(白)

靴:白い襟付きショートブーツ。

ステッキ:三日月を模したオブジェクトに、星がくっついている。

 

 

□使用する魔法(現段階で登場している物)

Magic-No.01:スターシュート

魔法キーワード:「スターシュート」

星を放つ。追尾機能付き。威力はヒットすると爆発を起こす。脅威度A以下なら基本ワンパン。

 

Magic-No.02:メテオスターフォール

魔法キーワード:「メテオスターフォール」

虚空より無数の星を呼び出し、空高くから降り注がせる広範囲魔法。

範囲の調節可能。ターゲットを定めれば全ての星がターゲットへと飛んでいく。

 

Magic-No.03:ハイド

魔法キーワード:「ハイド」

自身の姿を闇夜に溶かす。(見えないようになる)

発動中は常に魔力が消費される。

 

Magic-No.04:グラビティアップ

魔法キーワード:「グラビティアップ」

対象または、一定範囲に重力を加重する。

 

Magic-No.05:ヒール

魔法キーワード:「ヒール」

傷を治す。自分又は、対象の軽度の怪我を治療することが可能。

 

Magic-No.06:トゥインクルスターリボン

魔法キーワード:「トゥインクルスターリボン」

星のリボンを召喚する。対象を縛り付けたり、締め上げたり出来る。

ある意味脅威

 

Magic-No.07:スターライトキャノン

魔法キーワード:「スターライトキャノン」

ビームを放つ。着弾すると星のエフェクトで爆発を起こす。

 

Magic-No.08:グラビティボール

魔法キーワード:「グラビティボール」

黒い球体を召喚し、飛ばす。

何かに当たると放電し、周囲に重力場を発生させる。

 

Magic-No.09:ブラックホール

魔法キーワード:「ブラックホール」

ブラックホールを召喚する。

近くの重力場を乱し、周囲の物を飲み込む。

 

Magic-No.10:ホワイトホール

魔法キーワード:「ホワイトホール」

ホワイトホールを召喚する。

ブラックホールとは対になる重力場を発生させ、

ブラックホールで吸い込んだものを吐き出す。

 

Magic-No.11:サンフレアキャノン

魔法キーワード:「サンフレアキャノン」

ステッキから高熱の熱線を放つ。

その温度、実に数千万度となり、あらゆる物を燃やす又は溶かす。

 

Magic-No.12:ヒールライト

魔法キーワード:「ヒールライト」

傷を治す。ヒールとほぼ同じだが、そこそこの距離の対象にかけることが可能。

ただし、射程が少し長いってだけで離れすぎていると効果はなくなる。

 

Magic-No.13:スーパーノヴァ

魔法キーワード:「スーパーノヴァ」

目標範囲に、超範囲大規模爆発を引き起こす。

下手すると世界を滅ぼしかねない。

 

 

□プロフィール

名前:ラビ

性別:不明

年齢:不明

身長:不明

誕生日:不明

備考:

主人公である司を魔法少女にした妖精。

見た目は兎のぬいるぐるみだが、性別は不明だが、女性口調で喋る。

身体能力は謎パワーで浮いたりできる。その為、リュネール・エトワールについていける。

基本は人目に付かないようにする為、リュネール・エトワールのとんがり帽子の中に居たりする。

 

特殊能力(?)としてラビレーダー(主人公命名)と言う物を持っていて、一定範囲の魔法少女や魔物が居る場所を特定できる。

ただし、特定できるのは魔法少女か魔物かだけであり、魔法少女の場合どの魔法少女かまでは分からない。魔物の場合はその魔力や瘴気から推定脅威度を出せる。

 

ラビの暮らしていた妖精世界――フェリークは魔法実験により滅びている。

そして原初の魔法少女を生み出したのもラビである。

 

妖精(アルシーヴ・)書庫(フェリーク)という謎の空間に入ることが可能。

ララにラビリア様と呼ばれていたが、果たして?

 

 

□プロフィール

名前:白百合 雪菜

読み:しらゆり ゆきな

性別:女性

年齢:14歳(四章終了時点)

身長:149.5cm

誕生日:12月12日

備考:

本作のメインヒロイン(予定)

黒髪でちょっと肩にかかる程度。目の色は黒。

 

基本的に丁寧語を話す、大人びた少女。

双子の妹が居る。

リュネール・エトワールと会ってから少し変わった。

彼女に対して恋をしている様子……果たしてどうなるやら?

 

□プロフィール

名前:ホワイトリリー

魔法少女クラス:S

身長:150.0cm

変身キーワード:「――ラ・リス・ブロンシュ・フルール!」

備考:

白百合雪菜が魔法少女に変身した時の姿。

魔法省茨城地域支部所属Sクラス魔法少女。

身長が微妙に0.5cm伸びてる。

 

桜色の髪をサイドで結び、白のグラデーションが上から下へかかってる。

実際の髪の長さは変身前と同じくらいで、目の色は髪色と同じで桜色。

白百合の髪飾りが特徴。

 

【容姿】

髪:桜色、サイドテール、上から下へと白のグラデーション。

目:桜色

服装

頭:白百合の髪飾り、サイドテールに結んでいる紐にも白百合のデザイン。

首:白百合の花を象ったフリル付きリボンチョーカー。

上下:胸元が少し開けている白百合色を基調としたフリル付き長袖ワンピース。

手:白百合色の手袋

靴下:膝上まで来る白いニーソックス。白百合の花の絵。

靴:白百合色のショートブーツ、白百合の絵。

ステッキ:白百合の花弁をモチーフとしたデザイン

 

 

□使用する魔法(現段階で登場している物)

Magic-No.01:リリーショット

魔法キーワード:「リリーショット」

白百合の花弁を魔力で作成し、飛ばす。

数も増やすことも可能で、それぞれの花弁を操る事もできる。

放たれた花弁は、ロープのような物でホワイトリリーのステッキと繋がってるので、ぶん回したりすることもできる。

 

Magic-No.02:リリーバリア

魔法キーワード:「リリーバリア」

目の前に白百合の花弁を召喚し、攻撃を吸収する。

大きさを変える事も可能。

 

Magic-No.03:リリーキャノン

魔法キーワード:「リリーキャノン」

桜色のビームを放つ。

着弾すると、花吹雪を上げて爆発する。

 

Magic-No.04:リリーボム

魔法キーワード:「リリーボム」

自分が放った白百合の花弁を任意で爆発させられる。

 

 

 

□プロフィール

名前:色川 蒼

読み:いろかわ あおい

性別:女性

年齢:13歳(四章終了時点)

身長:145.6cm

誕生日:9月15日

備考:

本作のヒロイン

黒髪黒目のセミロング

 

砕けた口調で普段は喋るが、変身すると丁寧語になる。

リュネール・エトワールに好意を抱く一人。

クリスマスの午前中にはデートに誘っている。

 

□プロフィール

名前:ブルーサファイア

魔法少女クラス:B

身長:145.6cm

変身キーワード:「――ラ・サフィール・エタンスラント!」

備考:

色川蒼が魔法少女に変身した時の姿。

魔法省茨城地域支部所属Bクラス魔法少女。

 

変身前と違い、セミロングの髪は背中まで伸びるサファイアブルー色の髪になる。

また、その髪をツインテールになっていて髪を結んでいる所には、サファイアを模した髪飾りがある。

 

【容姿】

髪:サファイアブルー、背中まで伸びる髪、ツインテール、水色が混ざったグラデーションカラー。

目:サファイアブルー

服装

頭:青が強めの銀色のティアラがちょこんと乗っている。また、青い宝石がはめ込まれている。

  ツインテールに結ばれている所には、サファイアを模した髪飾り。

首:サファイアブルー色のリボンが巻かれている。

上下:背中と首元が少しだけ開いているサファイアブルーのドレス。やや透明な袖が肘くらいまで。

   胸元部分にサファイアの宝石。フリルの付いてるスカートは、膝よりちょっと下程度。

手:白い手袋、青い花のようなものが付いている。

靴下:水色に更に白が足されたようなニーソックス。

靴:靴下と同じ色合いのリボンと襟付きショートブーツ。

ステッキ:サファイアの宝石をモチーフとしたデザイン。

 

 

□使用する魔法(現段階で登場している物)

不明

 

 

 

□プロフィール

名前:ブラックリリー

魔法少女クラス:不明

身長:--

変身キーワード:「――ラ・リス・ノワール・フルール・エスパース!」

備考:

時々リュネール・エトワールの前に現れる黒い魔法少女。

空間を操作する魔法が使えるが、魔力量が少ないため連発できない。

 

また、魔法少女を襲撃していた黒幕だが、自分のした事とかが駄目だということは理解しているようで、男が捕まった時以降、彼女がそのようなことをしている情報はない。

魔法省も彼女の事を探しているようだが、男の証言だけしか彼女の容姿についての情報は無く、似ている、怪しいとは思っているものの確証がないため様子見している。

 

リュネール・エトワールと一時的に共闘関係となる。

でも、一緒に行動している内にどうやら……?

 

リアルにも事情があるようだが……?

 

【容姿】

髪:黒髪、背中まで伸びるロング、良く見ないと気付かないくらいの白のグラデーション。

目:黒

服装

頭:紺色のリボンを巻いた黒いとんがり帽子。リボンには黒百合の花、帽子には時計のような絵。

上:黒色のボレロに、赤い大きめなリボン。

上下:黒いワンピースにラッパ状の姫袖。袖の部分には赤いリボンが左右どちらも付いている。

   フリル多めのスカートの裾の部分にちょっとしたリボンが付いている。

靴下:足を隠すような黒いタイツに、黒百合の絵柄。

靴:黒いぺたんこ靴

ステッキ:黒百合をモチーフとしたデザイン。

 

 

□使用する魔法(現段階で登場している物)

Magic-No.01:テレポート

魔法キーワード:「テレポート」

空間を歪め、現在地と目的地を繋ぎ、距離を無視して移動する魔法。

なお、移動する距離によって消費する魔力が増加する。

また、複数人を移動させることも可能だが、人が増える分、魔力消費も大きくなる。

 

Magic-No.02:クリエイト”スクエア”

魔法キーワード:「クリエイト”スクエア”」

正方形の任意に大きさの空間を生み出す。また足場としても使える。

 

Magic-No.03:クリエイト”トライアングル”

魔法キーワード:「クリエイト”トライアングル”」

三角形の任意の大きさの空間を生み出す。また足場としても使える。

 

Magic-No.04:シュート

魔法キーワード:「シュート」

クリエイトキーワードで生み出した空間を飛ばす。

 

Magic-No.05:スペースカット

魔法キーワード:「スペースカット」

ブラックリリーの真骨頂で、奥義とも言える魔法。

対象を空間ごと斬る。空間ごと斬ってしまうため、普通の防御では防げない。

 

□プロフィール

名前:ララ

性別:不明

年齢:不明

身長:不明

誕生日:不明

備考:

見た目はラビに似ているが、色は黒。

ラビと同じ妖精世界で暮らしていた妖精で、ブラックリリーという魔法少女を生み出した。

運良くララも歪みに飲み込まれ、この地球という世界に飛ばされたようだ。

ブラックリリーと行動を共にしている。

男とも女とも取れる中性的な喋り方をする。一人称は”ボク”

 

ラビの事をラビリア様と呼んでいたが……何かを知ってるようだ。

 

 

□プロフィール

名前:如月 真白

読み:きさらぎ ましろ

性別:女性

年齢:22歳(四章終了時点)

身長:156.0cm

誕生日:1月15日

備考:

主人公、司の妹及びヒロイン。

祖先の隔世遺伝の影響を大きく受け、銀髪碧眼という日本では滅多に見ない容姿をしている。

デザイン関係の大学に就学しており、基本は東京で一人暮らしをしている。

昔、司のことを異性として好きになったがそれは叶わない恋だった。実の兄妹である為。

司に予め告白するから振ってほしいとお願いし、ケリを付けたつもりだったが、やはり好きなのは変わらない。今もまだ司を好きでいる。

 

願いの木によって変わってしまった司の影響で、妹ではなく姉になる。

司との思い出の写真とかも変わっているが、ただ置き換わっているだけで大きな変化はない。

 

女の子という司の選択を、真白は肯定する。

性別が変わっても好きなのは変わらないようだ。

 

ラビによれば、真白からも魔力を感じるようだ。

 

 

□共通魔法

No.01:反転領域展開

魔法キーワード:「エクスパンション」

反転世界に入る為の魔法。魔法少女毎に別空間が生まれる。

 

No.02:反転領域解除

魔法キーワード:「リベレーション」

反転世界から現実世界へ戻る為の魔法。

 

No.03:変身解除

魔法キーワード:「リリース」

変身状態を解除する魔法。

 

No.04:反転領域干渉

魔法キーワード:「インターフェア」

他者の反転世界へ干渉する為の魔法。

普通に反転世界に入る時よりも魔力の消費が大きい。

 

No.05:干渉領域離脱

魔法キーワード:「エスケープ」

干渉した他者の反転世界から離脱する魔法。

インターフェアと同様、通常よりも魔力消費が大きめ。

 

 

□その他の人物(現段階)□

 

・北条茜(ほうじょうあかね)

→魔法省茨城地域支部長

→主人公、司とは高校の同級生

 

・アリス・フェリーア

→魔法省技術開発部所属、部長の金髪碧眼の女性

→見た目は10代半ばの少女のような姿だがそれを言うのは禁句となっているらしい。

 

・???/レッドルビー

→魔法省茨城地域支部所属Bクラス魔法少女

→リュネール・エトワールに助けられたことがある

 

・白百合冬菜(しらゆりふゆな)

→白百合雪菜/ホワイトリリーの双子の妹

→雪菜の事が好きらしい?

 

・恵利(えり)

→真白の大学の同級生で友達

 

・ホワイトパール

→魔法省茨城地域所属Aクラス魔法少女

→リュネール・エトワールの事は間接的に知っており、今回助けを求めた。

 

 




因みにブラックリリーのイメージですけど、ちょっと分かりにくいかも知れませんがとりあえず黒ロリをイメージしてもらえれば分かりやすいかも知れません。

黒ロリ+とんがり帽子……うん、何か良く分からないコーデですね!
文章力鍛えないとなあ


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最終章『妖精世界』
Act.01:魔法省茨城地域支部①


 

「それじゃあ、私は行くね」

「ん」

「ふふ、司、そんな不安な顔しないで」

 

 その日、わたしは玄関で真白の見送りをしていた。冬休みももう終わりが目の前にやってきているこの時期。真白もまた例外ではなく、大学が再開するので、余裕を持って東京に戻るようだった。

 

 真白には本当に色々と助けられた気がする。服もそうだし、わたしがこの選択を選んだことも引かずに、肯定をしてくれた。それはラビにも言えることだけどね。

 

 だからこそ、真白が居なくなるのにちょっと不安が残る。

 自分で選んだとは言え、真白なしでやっていけるだろうか? 他にも真白にはトイレの仕方だとか、お月さまの事だとか教えてもらったけど……あれ聞く方も恥ずかしすぎる。

 

 というか、そういうのを普通に平然な顔で説明できる真白も大概だと思う。

 

 拭き方まできっちり教えられたよ。聞いて思ったのは、女の子って大変なんだなあ、という素直な感想。これからわたしも、そうしていく必要がある訳なので他人事ではないんだけど。

 

「次はいつ戻ってくる?」

「うーん、春休みかな? ほら、大学の春休みって凄く長いから」

 

 大学の春休みは非常に長い。2月の初句から3月末までの、約ニヶ月間が休みになる所がほとんどだ。真白の通ってる大学も同じで、2月の初めの頃から休みになるっぽい。

 

 2月初句から休みってことは、割とすぐ来るな……。

 

「短い間ではあるけど……司も頑張ってね。何か困った事とか、分からない事とかあったらCONNECTとか電話で連絡してね」

「ん。分かった……真白姉、ありがとう」

「ふふ、気にしないで」

 

 頼れる妹……いや、頼れる姉か。真白には感謝しきれないな……いつか恩返しできたら良いけど……わたしに出来ることってなんだろうか? 少し考えておこうかな。

 もう気付いていると思うが、呼び方を変えている。恥ずかしいのはあるけど、真白と呼び捨てにするのはこの姿ではちょっとおかしいだろうし、慣れるしか無い。

 

 まあ、人目の付かない所なら問題ないと思うが、何時、何処で、誰に、見られるかわからないので普段より使用して、慣らしておく必要がある。

 既に願いの木によって俺という存在はわたしという存在に、置き換えられている。だから、それに合わせるのは大事だろう……どうせならこの自分自身も変えてくれたら良かったけど。

 

 あ、でもそうなるとあれか。

 

 取り敢えず、慣らす必要あり。

 でだ。ビデオデータとかでわたしと真白の記録を探して見てみたのだが、司は真白の事を真白姉と呼んでいたことが判明した。そんな訳で真白の事はこれからは真白姉と呼ぶようにしている。

 

 少し違和感があるけど、そのうち慣れるだろうと思ってる。

 

「髪の手入れとか、肌の洗い方とか気を付けてね」

「わ、分かってる……」

「まあ、最初よりは大分マシになってるから大丈夫だと思うけどね。ラビも、しっかり見張ってね」

「ええ、任せて」

「……」

 

 逃げ道は何処ですか?

 それはさておき、知っての通り身体の洗い方や髪の手入れの仕方とか、こっちについてもみっちりと真白に叩き込まれた。最初は以前の感覚で洗っていたけど、どうもそれは駄目みたいで。

 

 しかも、今のわたしは背中の真ん中まで伸びているロングストレートである。洗うのも結構時間がかかる……切ろうかなと思ったけど、そこはラビと真白に反対されてしまった。解せぬ。

 

「またね、司」

「ん。行ってらっしゃい、真白姉」

「っ! 私死んでも良いかも」

「はいはい」

「司が何か冷たい」

「同じこと繰り返すから」

「えー?」

 

 わたしが真白姉と呼ぶ度に、こんな反応されてはたまったものではない。そんな訳で、同じ反応をする時は基本スルーするようにした。まあ、時々反応しても良いかもね。

 

「それじゃね」

「ん」

 

 そう言って真白は、玄関から外へ出る。

 冷気が家の中に入り込み、その冬の寒さにわたしは身体を少し震わせる。一応、長袖ワンピースにコートを羽織って、更に首には真白に前買ってもらったマフラーを巻いてるんだけども。

 

 庭から道路に繋がる所まで一緒に歩く。真白が居なくなるのはちょっと寂しいけど、真白だって夢に向かって頑張っているのだからわたしがどうって言える訳でもない。

 天気は一応晴れてはいるけど、それでもやっぱり寒い。まあ、わたしは夏より冬の方が好きなんだけどね……夏か冬の二択ではなく春夏秋冬の四択ね。

 

「気を付けてね」

「司もね」

 

 門まで来た所で、今度こそお別れとなる。

 駅に向かって歩きだす、真白に手を振ると真白も振り返してくれる。そのまま振りながら真白が見えなくなるまで、わたしはその場で見送ったのだった。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

「よし、行こう」

 

 魔法少女リュネール・エトワールとして変身を終えて、呟く。

 何処へ行くのか? それはもう分かってると思うが、わたしの目的地は水戸市にある魔法省茨城地域支部の建物だ。茜と、約束してしまったしそれを反故にする訳には行かない。

 

 これでもわたしは約束は守る方なのだ。

 

 リアルの姿も変わってるとは言え、その姿で行くのはやっぱり抵抗があるので取り敢えず、リュネール・エトワールになって行く事に決めた。支部長直々にお礼を言うらしいんだけど……。

 

 相手は茜とは言え、少し緊張してきたかも。

 

 大丈夫。わたしはリュネール・エトワール……自信を持てば良いんだ。今までだってリュネール・エトワールとしてなら、色んな人と交流していたはずだ。

 と言っても魔法少女関係がほとんどだけど。

 

 とにかく、魔法少女とは話すようになったし大丈夫のはず……。

 

「よし」

 

 もう一度自分の体に気合いを入れる。

 

「行くのね」

「ん」

 

 ラビはいつものように肩の上に乗る。

 今から向かうのは魔法省の茨城支部だ。実際、あそこに行くのはこれが初めてになる。まあ、普通に考えて一般人は行かない場所だろうしね……。

 

 何度か通りかかったことはあるけど、そこそこ大きめだったかな? 中までは流石に見えないけどね。

 

 茜の話によると、受付で自分の名前を出せば良いんだったかな? もし、入れなかったらどうすれば良いんだろうか……流石にないとは思いたいけど。

 

 取り敢えず、準備も出来たことだし魔法省に行くとするか。

 

 「ハイド」

 

 もう既にお決まりの姿を消す魔法で、自分の姿を見えないようにする。これは絶対に怠ってはいけない。この家に魔法少女が居るとか思われたくないし、そうなると面倒になりかねない。

 特に野良であるわたしにとってはね。

 

 魔法省茨城地域支部は、水戸駅から徒歩で10分くらい行ったところにある。あの辺に住んでる人ならすぐに行けるだろうけど、わたしの場合は県央ではなく県北に位置する日立市だからなあ。

 それはあくまで、普通に移動する場合だけどね。今回は魔法少女に変身した状態なので、この距離でもすぐに向かえる。改めて思うけど、魔法少女状態の時の身体能力は馬鹿げてるよね。

 

「しょっと」

 

 そんな事を考えながら、ハイドの状態で窓から外へと飛び出す。後は屋根とかを伝って進んでいくに限る。家からそこそこ離れた場所まで移動した所でハイドを切る。

 前にも言った通りハイドは発動中、常に魔力を消費するので、ずっとは使えない。なので、家からそれなりに離れた所で解除するのが基本である。

 

 自分の魔力量だとどのくらい発動させてられるか気になるけど、タイミング悪く魔物とか出たらどうしようもないのでやめてる。ただラビの推測では丸々一日展開していても有り余るくらいだそうだ。

 

 ……うん、やっぱり異常だわ。

 

「あれね」

「ん」

 

 そうこうしている内に、魔法省の建物が見えてくる。

 それなりに広い駐車場に、そこそこ大きな建物。そして屋上には何か凄そうなアンテナのようなものが幾つも設置されている。実際中に入らないと分からないが、外見からして三階建てくらいだろうか?

 

 ビルとか建物が結構密集している場所に、広い面積を持つ建物があるっていうのもシュールだな。まあ、一応国の機関なのでこれくらいは普通か。むしろ、これでも小さい方なのかも知れない。

 

 少しだけ緊張してきた。

 

「よし……」

 

 今更緊張してどうする。自分に気合を入れ直し、入り口へと足を進めるのだった。

 

 



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Act.02:魔法省茨城地域支部②

 ざわざわ……。

 

 わたしが魔法省の中に足を踏み入れると、周りがなんか騒がしくなる。一般人っぽい人は居ないけど、職員と思われる人はあっちこっちに居るみたいだ。職員が居るのは当たり前だけど。

 

「こ、こんにちは。ご用件をお伺い致します」

 

 明らかになんか顔を引きつらせてる事務員であろう女性。いや、受付なんだからしっかりしようぜ。

 

「ん。リュネール・エトワールって言えば良いって聞いた」

「! 少々お待ち下さい!」

 

 お、ちゃんと話は通ってるっぽい? 受付の女性は奥に向かっていった。恐らく通話というか通信するんだ思うが……通ってなかったとかじゃなくて良かった。

 

 しかし、さっきから視線を感じる……周りを横目で見やると、案の定視線がわたしの方に向いているのが分かる。そんなに珍しいんだろうか? そもそも、わたしの事知ってるのかな。

 いや、魔法省内でもリュネール・エトワールの話は良く出るってホワイトリリーやブルーサファイアが言ってた気がするので、知ってるのだろう。この様子だと、容姿とかも広がってるのかな?

 

 改めて魔法省内を見ると、まあ何処にでもあるような会社の受付のような場所だなって思う。テーブルとか椅子も置いてあるし、観葉植物も置いてある。

 

「(結構視線向けられてるわね)」

「(ん。そんなに見て、何がしたいんだろう?)」

「(単純に好奇心とか、珍しいって感じじゃないかしら? あなたの事は魔法省内で噂になってるんでしょう?)」

「(ん。ホワイトリリーとかブルーサファイアはそう言ってた)」

「(結構目立つ容姿だから、一発で分かるわね)」

「(うん)」

 

 周りに聞こえない程度の声で、帽子の中に隠れているラビをそんな事を話す。

 二人の話だと、リュネール・エトワールっていう魔法少女については結構話題に上がっているそう。それは、単純に強いとかそういうのもあるが、その力の強さ故に不安に思う人、魔法省に所属しないのかなと疑問に思う人等々。

 

 確かにこの力についてはわたしも、異常だと思っているから納得だが……魔法省に所属しないかっていうのに関しては、NGという事で。リアルの姿がああなっているとは言え、所属するのはちょっとね。

 

 やっぱり、野良で気の赴くままに行動するのがわたしには合ってる。それに、リアルバレしても大丈夫なようにはなっているものの、まだ魔法少女たちの中に紛れ込むのはちょっと無理。

 

「お待たせしたわね」

「ん?」

 

 そんな事を考えていると、聞き覚えのある女性の声が聞こえる。そちらに目を向ければ、この茨城地域の支部長である北条茜その人が立っていた。

 支部長が直々に来るのか……でも周りを見た感じだと、そこまで驚いているような人は見当たらない。という事は、茜は割と頻繁に魔法省内を歩いているのかね?

 

 何も知らなければ、見たことのない魔法少女に支部長が話をかけているという光景に驚くはず。

 

 全体に伝わっていたのかも知れないな……まあそれは置いておき。

 

「別に大丈夫」

「そう言ってくれると助かるわ。それじゃ、案内するわね」

「ん」

 

 そんな訳でわたしは、茜の後を追いかけるように歩き始める。

 

「あ、そうだ」

 

 歩き出すかと思ったら、足を止める茜。そのまま受付の方に行って、さっき対応してくれた女性と何か話しているみたいだ。ここからでは良く聞き取れないが。

 一分くらい? 経った所で茜は女性から首から下げるタイプのカードホルダー? みたいな物を受け取ってる。受け取った後、こちらに戻ってくる。

 

「はい、これ。一応付けておいてね」

 

 さっき受け取っていたカードホルダーをわたしに渡してくる。ホルダーの中に入っているカードには、来客者と漢字で三文字書かれていた。あーなるほど。会社とかに外部から人がやってきた時のあれか。

 素直にそれを受け取り、首からぶら下げる。魔法少女の衣装の上からこれをぶら下げてるって、結構シュールなのではないだろうか。まあ、それは良いか。

 

「それじゃあ、今度こそ行きましょ」

「ん」

 

 茜の後に付いていき、エレベーター前にたどり着く。茜がボタンを押すと、下方向の矢印が光りだしエレベーターが動き出す音が聞こえてくる。

 

「ふふ。ここに来るのは初めてよね。まあ、そもそも普通では来ない場所だものね」

「ん。何かさっきから視線を感じる」

「それは仕方ないわよ。貴女、結構有名だから。後は野良の魔法少女と私が一緒に居るのも珍しいのかもね。一応、魔法省内には伝達したはずだけどその時に居なかった人も居る訳だし」

「そんなに?」

「ええ。一部、貴女の存在を危険視している人も居るわね」

「それは理解してる」

 

 魔法省側から見れば、野良でしかも強力な魔法を使うわたしの存在は、目に余る存在だろうしね。とは言え、茜が言うには、そういった人も居るけど、実際の数は少ないっぽい。

 

 それはつまり、大体の人が特に危険視なんてしてないという事だ。それはそれで、どうかと思うけど……。

 

「別に貴女は何もしてないし、むしろ助けてくれてるのが殆どだからね。そもそも、人手不足だっていうのは皆が承知の上よ。野良にも頼りたくなるって所ね……魔法省としてそれはどうなのかっていうのは置いておくとして」

 

 だろうね。

 現状、普通に見ても茨城支部は人手不足だ。特に魔法少女は30人しか居らず、Sクラスの魔法少女もたった一人しか居ないし、Aクラスの魔法少女も九人しか居ない。

 

 明らかに対応できる数に限界がある。

 でも、ここ最近はパタリと止んだように茨城地域には魔物が観測されてない。元旦の日も観測されてなかったけど、その時はその日だけだろうと思っていた。

 だけど、その日から今日に至るまでの期間も魔物の出現がなかった。出現しないのは良い事なのではあるが、また何時爆発するかわからないっていうのも怖い。ただ、今の所嫌な予感とかは感じてないんだけどね。

 

 降りてきたエレベーターに茜に続いて乗り込む。中は何処にでもあるような普通のエレベーターの内装である。ただ後ろに鏡が設置されている。

 ふと、出入り口の隣に付いているボタンを見てみる。この建物は何階建てなのか、気になったからだけど……えっと、一番上が四階で、一番下が地下三階、合計で七階あるってところか。

 

 と言うか、地下あったんだ。

 

「やっぱり魔法少女の状態で来たのね」

「ん。それで良いと、言った」

「まあそうなんだけどねー」

 

 リアルの姿で来るのはちょっと今は無理だ。

 今じゃなくても、これから先その姿で来ることはないだろうけど……ただホワイトリリーやブルーサファイアとは実際リアルの姿で会ってるので、彼女たちと何かする時はそれで行っても良いかも。

 

 ただ、問題なのがわたしの容姿だ。

 彼女たちと会った時は、黒髪黒目のハーフモードの状態だった訳で……それならハーフモードで会えば良いだろうって? それはそうなのだが、でもやっぱりこの道を選んだ手前、偽りの姿で会うのはどうかと思ってる。

 

 今と前では状況も違ってるし。

 

 都合よく、二人の記憶も銀髪碧眼であるって事に変わっているなら良いんだけど、真白……いや真白姉は男の司を覚えているようだったし、どうなんだろうかって感じだ。

 

 あれ? そうなると、司と茜の関係性はどうなってるんだろうか。年齢が変わっているって事は、茜と同級生ではなくなったという事だ。うーん?

 

 気にはなるけど、わたしが聞くのは何かおかしいだろうし、変に思われるのも嫌なので置いておくとする。

 

 ピンポーン。

 そんな事を考えていると、”4”と書かれた所が点灯しドアが開く。目的の場所は四階だったみたいだ。

 

「こっちよ」

「ん」

 

 エレベーターから降り、そのまま後を付いていくと一つの部屋に案内される。ドアを開いて、わたしが先に入るように促す。一応関係としてはお客と店員みたいな感じなので、そうなるよね。

 

 部屋に入ると、茜も入ってきて椅子を引いてくれる。何かこの扱いは慣れないな……というか、支部長が普通するものか? 一番偉い人でしょ。

 

 茜の性格からして仕方がないのかも知れない。

 

 そんな訳でわたしは、その引かれた椅子に座り、茜と対面するのだった。

 

 

 

 



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Act.03:魔法省茨城地域支部③

 

「まずは、皆を助けてくれてありがとう」

「ん」

「あのままだったらどうなっていたか分からなかったわ」

 

 茜と対面すると、まず彼女は深く頭を下げてお礼を言ってくる。支部長がそんな頭下げて良いのか……と思うが、それだけ感謝しているということなのだろう。わたしも、助けられて良かったと思ってるけど。

 

 今回はちょっとだけ苦戦というか、面倒だったけどね。ブラックリリーが居なかったら詰んでたかも知れない。

 

「支部長が野良の魔法少女にそんな頭下げて良いの?」

「魔法少女たちを助けられなくて、何が支部長よ。今回の件で私たちの無力さを改めて痛感したわ」

 

 苦しい顔をする茜。

 それもそうか……支部長という立場ではあるけど、普通の人間が魔物が出現した時に出来ることは限られてる。それに、茜はこの支部の一番偉い人だ。所属している魔法少女に何も出来ないっていうのもあるんだろうなあ。

 

「それは仕方がない。でも、魔導砲の試作型があるんじゃ?」

「一応、試作型は完成しているのよ。ただ……今回は予想外の出来事だったし、脅威度Sの魔物相手に使う訳にも行かないでしょう? 魔法少女たちに負担をかけてしまうわ」

 

 普通の人間は魔物の前では無力だ。

 だから、仮に試作型を使おうとしても必ず護衛として魔法少女が居ないと危険だろう。試作型の魔導砲が何処まで通用するかわからない訳だしね。

 

 実際テストしようという計画はあったらしいけど、今回の騒動でやむなく断念。ただ、念の為という事で自衛隊の一部戦車には魔導砲の試作型が搭載されてたようだ。結局使う機会はなかったので、効果は不明。

 

「なるほど」

「とにかく、今回は本当に助かったわ。それでお礼の方なのだけれど」

 

 ありがとうというだけで終わるかと思ったら、違うらしい。

 

「貴女が何を欲しいかは分からないけど、魔法少女なら魔石かしら?」

 

 そう言って、茜が取り出したのはそこそこ大きめな魔石。ただ一つではなく、複数個あって単純に数えた感じでは10個くらいあるな。しかも、何か結構強い魔力を感じる。

 

「この魔石は魔法省内で鑑定した結果、A級魔石と出た物よ。まあ、強い魔力を持っているのは確かね」

「A級?」

「あ、野良だものね、知らないわよね。魔石は魔法省では等級分けされているのよ」

「等級?」

「ええ。一番下がD級魔石、一番上がS級魔石となってるわ」

 

 茜の説明からすると、魔石には等級と言うものがあるらしく、一番下がD級魔石となってるそうだ。そこから順に、C級、B級、A級、S級となるようだ。そして、魔石の魔力量、その魔力の純度を元に算出されるそう。

 

 大きさは重要ではない。

 大きくても魔力が少ない魔石というのも存在しており、大きさ=魔力量ではない。鑑定方法については教えてくれなかったが、取り敢えず専門のチームが鑑定し、先程述べた二つを元に等級を出すようだ。

 

 大体脅威度と比例するようで、脅威度がAの魔物から出る魔石はB~A級が多いらしい。

 

 へえ。魔法省では魔石に等級を付けてるんだね。これについてはわたしも初耳だったけど……別に気にする所ではないか。で、そんな等級がAの魔石を茜はわたしに渡そうとしてくるが、正直魔石は結構有り余ってるんだよね。

 

 むしろ、その魔石を魔導砲とか、技術関係に役立てて欲しいっていうのがわたしの本音である。

 

「魔石は、要らない。わたしに渡すくらいなら技術関係に役立てて」

 

 それで技術が進み、普通の人間でも魔物にダメージを与えられるようになれば彼女たちの負担も減るだろうし。でもまあ、それはやっぱりただの妄想でしかないのだろうか?

 でも一応、魔導砲の試作型が魔物に効いたっていう話は流れてたし、希望はあるか。

 

「え、でも……」

「ん。生憎、魔石は割と持て余してる」

「それもそうよね……」

 

 普通に考えれば魔石は嬉しいのかも知れないけど、わたしはちょっと特殊だし。ブラックリリーと行動していた時の魔物の魔石とか、今まで出現していた魔物の魔石とか、思ったより手持ちが多いんだよね。勿論、横取りとかはしてない。

 まあ、それは多分わたし自身の魔力量が多いからなんだろうなとは思ってる。最初、ラビと出会った時に「近年稀にすら見ない逸材よ」と言われていたからね。

 

 そして今は更に魔力量も増えているし、魔力の質も高くなっているという事。今まででも十分異常だったのに、更に上に行くのか……自分自身の事ではあるけど末恐ろしいな。

 

「そうなると、私に渡せるのがないわね……あ、お金とかなら」

「……」

「うっ……そんな目で見ないで頂戴」

 

 普通見た目15歳かそこらの子にお金とか言うか?

 いやまあ、魔法少女たちは国からの支援金が出ているはずなので、その発想が出てもおかしくはないのか……いくらくらいかは分からないけど、決して少なくないと思う。

 

 と言うかあくまで魔法省に所属している魔法少女に対してである。わたしは見ての通り、野良の魔法少女なので国からの支援金などは貰えない。

 支援金がなくても、宝くじのお金がそのままあるから別にあれだけど……良く考えたら、わたしって財産とかも引き継いでいるからリッチガール? 下らない事を考えるのはやめておこう。

 

「何も要らない。お礼だけで十分」

 

 本当である。

 別にわたしは何かを貰いたいという欲はない。お金だって、それもまた技術系の予算にでも回してほしいよね。助けているのは完全なるわたしの意思だから。

 何かの対価を得ようとしてやっている訳ではない。

 

「欲のない子ね……」

「ん」

「でもまあ、そこまで言うのだったら無理矢理渡すことはしないわ。でも、これだけは受け取って欲しい」

 

 そう言って今度取り出したのは、一枚の紙だった。ただ普通の紙ではなく、中には感謝状と書かれている。え? 感謝状?

 

「感謝状?」

「ええそうよ。貴女は茨城地域の魔法少女を多く助けてくれた。だからこれが渡されて当然じゃない? 野良だから扱いとしても民間人だしね」

「なるほど」

「取り敢えず、これは最低でも受け取ってほしいわ」

「……ん。分かった」

 

 感謝状を受け取る日が来るとは思わなかったが……一応野良って魔法少女でも民間人なのか。いやまあ、確かに未所属だしそうだよね。茜もこう言ってる訳だし、感謝状は受け取っておこうかな。

 

 素直に感謝状を受け取る。

 ただ手に持っているとあれなので、ステッキさんの出番である。受け取った感謝状をステッキに近付ければ、スゥっと中に入っていった。これ、真面目に便利だよね。

 

「ふう。さて、これだけでは足りないのは確かだけれど……取り敢えず私の用はこれで終わりね」

「ん」

 

 かかった時間は思ったより短く、30分くらいだった。わたしは何も受け取らないっていう意思を見せた影響かな? 感謝状だけは受け取ってるけど、これはむしろ受け取らないと失礼だろう。

 

「そうそう。リュネール・エトワール」

「ん?」

 

 椅子から立つと、茜に名前を呼ばれる。

 

「ホワイトリリーとブルーサファイアが貴女と会いたがってるわよ」

「二人が?」

「ええ。まあ、実際はもっと会いたい子は居るだろうけど、特に二人はね。はい、入ってきなさいな」

 

 そう言って茜はドア付近に移動し、閉まっていたそのドアを開く。

 

「「え? きゃあ!?」」

 

 すると、何という事でしょう。

 女の子二人がバランスを崩して部屋の中に倒れてきたではないか。

 

「ホワイトリリーに、ブルーサファイア?」

 

 倒れてきたのはもう見覚えのある二人だった。しかも変身している状態だった。見回りの帰りとかだろうか? 魔法省も見回りはしているはずだろうし、あり得るか。

 

「ひ、久し振りですね、リュネール・エトワール……イタタ」

 

 ぶつけたであろう場所を擦りながら起き上がるのはホワイトリリー。

 

「大丈夫?」

「はい何とか。魔力装甲があるので」

 

 変身しているから転んだ程度では、傷はつかないか。でも、一応衝撃とか痛みはあるはずなので、念の為ヒールをかけておく。勿論、ブルーサファイアの方にも。

 

「ありがとうございます……」

「ん。気にしないで」 

 

 さて、二人は何でそこに居たのだろうか? まあ、茜を見た感じでは大分前から気付いていたっぽいけど。でも、良かった。二人共元気そうで。

 

「あの、お、お話しませんか?」

「私も!」

 

 二人揃って同じ事を言う、ホワイトリリーとブルーサファイア。

 お話、か……時間はあるし、別に問題ないかな。それにわたしも、二人と久し振りに話したい気持ちもあるし。

 

「ん」

「三階の休憩室を自由に使って良いわよ」

「ありがとうございます、茜さん!」

「ふふ。ごゆっくり」

 

 そう言って悪戯っぽい顔をしてみせる茜。あーこれは、二人がわたしに対して好意を抱いているの気付いてるみたいだ。意外と鋭いからなあ、茜。

 

「行きましょう!」

「ん」

 

 そんな訳でわたしは二人に手を引かれて、その場を後にするのだった。

 

 

 

 

 




今回、結構久し振りに二人と主人公が登場です。
あーでも、思ったより久し振りではないのかな。


善き哉善き哉……


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Act.04:三人集まれば……

 

「やっとこうして話せますね。リュネール・エトワール……いえ、司さんと呼べば良いでしょうか?」

「誰かに聞かれるかもしれませんし、やめた方が良いかもです」

「あ、そうですね。えっと、リュネール・エトワール」

 

 二人に手を引っ張られて向かった先の休憩室は、それなりの広さがあった。自動販売機もざっと六台くらい設置されていて、中にカップ麺の自販機もある。

 他には流しや、給湯器等も設置されている。お昼休みとかに結構人が来そうな場所ではある。でもまあ、既にお昼休みの終わっている午後に魔法省に来ていたので、現状はわたしとホワイトリリーとブルーサファイアの三人しか居ない。

 

 とはいえ、本来の名前で呼び合うのはここを通りかかった職員たちとかに聞かれてしまう恐れがある。二人は問題ないだろうけど、わたしは出来れば隠しておきたい。

 自身の名前を公表するのは本来の姿で来た時だ。来る事がそもそもあるのかって話になるが、念の為ね。

 

 そんな休憩室の椅子に三人で座ってるのは別に良い。問題なのは、二人ともわたしの隣に座っているという事だ。要するにわたしを挟む形で左右に座っている。

 ギリギリ三人座れるくらいなので、そこそこ窮屈な感じがするしめっちゃ密着するんだよね。魔法少女の状態とはいえ……。

 

「何故二人とも左右に……」

「それは勿論、リュネール・エトワールの隣に居たいからですよ」

「私もです」

「……」

 

 そう言ってさらに身体を寄り付かせてくる二人。

 いやいや……一応、吹っ切れたとはいえまだそんな密着するのは慣れてないって!? 魔法少女の姿でもやっぱり女の子特有の甘い香りがする。

 

 って、何言ってんだ。

 

 いや、確かにそういう感じの香りはする。よく、女の子と密着するとそういう香りがするって言われてるよね。実際の所は分からなかったけど、あれは本当だったのか。

 

 って、そんな下らないこと考えるのはよそうか。

 

「リュネール・エトワールは、魔法省に所属しないのですか? もっとお話とかしたいです」

「野良でやっているのには事情があるっていうのは分かってますけど……」

 

 魔法省に所属する。

 まあ、確かに普通は所属するを選ぶよね。魔法少女として戦うつもりはないという少女たちは除くとして。

 

 以前は、中身が問題だったけど今はそれはない。

 とはいえ、やっぱり二人には申し訳ないけど、今の所は魔法省に所属する予定もするつもりもないのが現状だ。

 

「CONNECTがある」 

「それはそうですけど……ほら、忙しい時とかだったら迷惑じゃないでしょうか」

「テキストチャットがある」

 

 何も通話しなくても、テキストチャットがあるのだから、忙しくても大丈夫だと思うが……電話だったら何かしてる途中にかかってくると迷惑かもしれないが。

 

「え? でもテキストでも忙しい時とかに送らても迷惑じゃないですか?」

「テキストなら別に迷惑じゃない。忙しい時に文が届いても後から見れるし」

 

 何かしている時に送られても、別に一旦保留にして後から見れば良い。もし、緊急連絡だったらその時は電話でかけるのが一番だ。

 

 テキストに迷惑要素はないと思う。まあ、スパムみたいなやつとか、あまりにもしつこいのは流石にNGだけど。

 普通に話したいのであれば、別に問題はない。もし、電話で話したい時とかは、緊急以外はまずテキストで今の状態を聞くのも良いだろう。

 

 とりあえず、彼女たちが迷惑だと思う必要はない。それにわたしって、ニートだし……16歳ならバイトとかもできるから、やってないならニートって言っても良いよね。

 学生だったら学生だけど……わたしは通ってないし。

 

「良いんですか?」

「ん」

 

 わたしは別に二人と話したくない訳ではない。だからそんな事気にせずに、CONNECTを使って送ってくれて良いんだ。

 忙しい時もあるだろうけど、テキストであれば後から見れる。全然迷惑ではないのだ。

 

「ありがとうございます」

「ん。別にお礼を言われる程ではない」

 

 わたしがそう言えば、二人とも何処か明るい顔になる。いや、別にさっきまでが暗かったとかではなく、目に見えて明るくなったという感じだ。

 

「……」

 

 話が続かない。

 いや、わたしから話題を出せれば良いのだが、出せるような物がないのも事実。相変わらず、二人揃ってわたしにくっつくように座っているが……。

 

 でも、別に嫌と言う感じではない。

 改めて思う。魔法少女という存在ではあるけど、中を見れば普通のまだ年端の行かない女の子なんだなって。最初こそは、負担が減らせれば良いなと思っていたけど、それは気付かぬ内に守りたいという気持ちに変わっていた。

 

 だからもう一度誓おうじゃないか。わたしはわたしの目の届く範囲では、魔法少女たちを守ると。勿論、全てを救える自信はない。大きく離れた二箇所に出現する場合も考えられるから。

 出来る限り……わたしは守れたら良いなと思う。魔法省ではない魔法少女もね……勿論、悪意で魔法を使ってる人に関してはわたしも止めに入るよ。

 

「そう言えば、黒い魔法少女ブラックリリーでしたっけ? 彼女と行動していたそうですけど」

「あ、それは私も聞きました。あの魔法少女は何者ですか?」

 

 二人揃ってわたしを見てくる。

 うーん、ブラックリリーか……まあ何となく話に出てくるとは思ったけど……魔法少女襲撃の犯人です、とは流石に言えない。普通は言うべきなんだろうけど……。

 

 ――妖精世界を元に戻してあげたい。

 

 あの日、ブラックリリーが告げた目的を思い返す。

 妖精世界を戻してあげたい、という彼女の純粋な願い。これが魔力を集めていた目的だった。勿論、彼女たちも仮に元に戻せたとしても誰も居ないというのは理解している。

 

 だけど、と彼女はそこで言葉を止め続ける。

 

『ララたちの故郷があのままなんて辛いじゃない?』

 

 と。

 そう言ったブラックリリーの目には強い意志が宿っていた。あれは単純にやめようと言った所でやめるつもりはないという事を暗に言ってたと思う。わたしも少し気圧されしまった。

 

 ただ、誰も居ないと言ってたけど、今回は向こうはラビという妖精を、こっちはララという妖精をお互いに知れたのは良かった事だとは思ってる。ラビは一人じゃないって事が分かったから。向こうだってララが一人じゃないって事が分かったはずだ。

 

 さて、じゃあどうしたら戻せるのか?

 それは、わたしたち魔法少女や地球上に今や充満している魔力だ。これは元は妖精世界の物だから、この魔力を戻せば可能かも知れない。そう言ってた。

 

 道理で世界中の魔力を一回集めても足りないって言ってた訳だ。それもそのはず……世界一つを元に戻すなんて想像を絶する長い長い道のりだ。ブラックリリーもわたしも生きている内に達成できるか怪しい所。

 

 それは承知の上で行動している。例え何十年かかろうとも。何が彼女を動かしているかは分からないけど……でも、それならわたしが止めたり捕まえたりするのはおかしいかな。

 

 別に悪い事ではないのだから。でも、実害はないとは言え襲ったのも事実だし、うーん……どうすれば良いんだろう。ブラックリリーの事についても考える必要があるなあ。やる事いっぱいだ。

 

 ただ、そんな事ならもっと早く言ってくれれば良かったのにと思う気持ちもある。わたしの魔力程度で良いなら、喜んで協力したと思う。ブラックリリーも吸魔の短剣なんて使わずに言ってくれば良かったのに。

 

 でもそれは無理か。その時点では、まだわたしとブラックリリーは面識がない訳だし、相談できるはずない。もう少し早く彼女と会えてたら何か変わってたのかなあ? ……まあ、過ぎた事を今更考えても意味がないし、今の事を考えようか。

 

「ん。ただの友達」

 

 何ていうかちょっと苦しい返しだったかも知れない。

 友達……そう言ってしまったが、向こうはわたしの事をどう思ってるんだろうか? 一緒に行動したり、話したりした感じでは別にわたしは嫌われてないようには見える。

 

 分からないけど。

 

「友達、ですか……新たなライバルでしょうか」

「ですね。これは、その子にも話を聞かないといけませんね」

「え?」

 

 あれ? 何か予想していたのと違うぞ? 何でお二人さん、そんな燃えてるの?

 

「リュネール・エトワール! その子を紹介して下さい」

「さい!」

「えぇ……」

 

 二人が顔を近付かせてわたしに言ってくる。

 紹介して、と言われも困るかも……いや、一応会うことは出来る。連絡先も住んでる所も知らないけど、今日の夜に会う約束をしているので、そこで会えるのは確かだ。

 

 どうしたものかな……わたしはホワイトリリーとブルーサファイアの二人を見る。何でそんなに燃えてるのかは分からないが、別に悪いことをしようという感じではなさそう?

 

 うーむ。

 

「ん。会えたら言っておく。けど、会ってくれるかは分からない」

「はい、そこは大丈夫です。その時はその時です」

「ん」

 

 取り敢えず、今日の夜に会った際にこの事を話してみよう。向こうが応じるかは分からないけど……。

 

 

 

 



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Act.05:妖精世界と魔力①

 

「ふう」

 

 魔法省を後にし、一息つく。

 ホワイトリリーとブルーサファイアとの会話は、まあまあ楽しかった。と言っても、何か二人共ブラックリリーに対して興味津々と言うか、何か対抗心を燃やしているような感じだった。

 

「妖精世界ね」

 

 空を見ながらこの前のブラックリリーの事をまた思い返す。

 妖精世界という世界があるのは、ラビからも聞いてる。既に教えてもらってるからね。魔法実験の失敗というか……一応失敗って事かな? その影響で世界自体はまだ残ってるけど、草木も生えることのない世界になってしまった。

 

 そしてブラックリリーはそんな妖精世界を戻したいという意思によって行動をしていた。彼女の目的はララの故郷をせめて、戻してあげたいという純粋なもので、全然野望とか陰謀とかはなかった。

 あったらあったで、ちょっと困ったかも知れないが、それでもブラックリリーに悪意がないというのは分かった。以前からないとは思ってたけど、あくまでそれはわたし視点での話。

 

 ブラックリリーが嘘をついているという可能性も捨てきれないが、少なくともあの目と覚悟は本物だと思った。何なら気圧されたからね、その強い意志に。

 

 でも、実際問題わたしが何もしないと言うだけじゃ意味がないよね。いつかは……魔法省に行く必要はあると思う。そうしないと、永遠に解決しないままだから。

 

 多分、本当の事を言えば魔法省も大目に見るとは思う。何せ、茨城地域の支部長はあの茜だから。お咎めなしという訳には行かないだろうけど、酷い事にはならないと思いたい。

 仮にブラックリリーが魔法省に全て話すのであれば……その時はわたしも一緒に行ってあげられたら良いなと思ってる。まあ、わたしも野良の魔法少女なので、わたしが何か言った所で変わらないかも知れないけど。

 

 

 閑話休題。

 

 ブラックリリーの目的は分かった。その本気度も。

 ただここで疑問になるのが、妖精世界に行く方法があるのか? という所だ。あの時は聞きそびれたけど、魔力を集めたりしても行けなければ意味がない。

 それとも、この世界から間接的に目的を達成できるのだろうか? いや流石にそれはないか。

 

 今日の夜に会う約束があるし、その時に聞いてみるか。

 

「ラビはどう思う?」

「ブラックリリーとララの事よね」

「ん」

 

 この場所なら人目もないのでラビが出てきても大丈夫かな。帽子の中に隠れていたラビが姿を表し、わたしの肩に座る。見回りとかする時に良く来る場所だからね、ここ。

 

「あの時の予想の二つ目が的中したわね」

「だね」

 

 ブラックリリーの目的については、前にラビが幾つか予想を出していた。その時の一つが的中したという事になる。

 

 そう、妖精世界の復活という物だ。

 まあ、悪い事をしようと考えている訳ではなかった事については正直、安堵してる。彼女とは今回、共闘したりとか助けてもらったりとか、色々あったから。

 

「可能なの?」

「不可能、とは言えないわ。私たちの世界は前にも言ったと思うけど、魔法と魔力と共存していたわ。植物や生き物も魔力とともにあった。常に世界中に魔力が流れていたから、妖精世界は維持されていた」

「地球で言う空気がそっちでは魔力って事?」

「その通りよ。魔力があるからこそ、植物も生き物も私たちも暮らせていた。魔力がないことなんて考えられないくらいね」

 

 地球で言う空気とかと同じような役割を担っていたのが魔力。だからこそ、妖精世界に住む人たちは魔力を持ち、そして魔法という力を巧みに操っていた。これによって文明が発達していった。

 

「そしてあの事件が起きたわ。反動で世界にあった魔力が外へと流れ出してしまった。世界が滅びた原因は、妖精世界にはなくてはならない物だった魔力が消えてしまったこと。あの時は言ってなかったわね」

「ん。実験に失敗して世界を呼び出して、反動で滅んだってだけだね」

「地球でも空気とかがなくなれば、大変な事になるでしょう?」

「ん」

 

 地球上から空気が消えればどうなるか。

 地球上で呼吸をして生きている人間を含む、全ての動植物は生きていけなくなるだろう。更に言えば、オゾン層も消え、有害な紫外線が直接地表へと降り注ぐ。

 

 まあ、率直に言えば空気がなくなってしまえば地球は滅ぶ。それだけだ。

 

「だから魔力を戻せば、確かに元に戻せるかも知れない。どれだけ必要になるかは皆目見当もつかないけれどね」

「なるほど」

「ただ妖精世界については分かったけれど、どうやって行くつもりなのかしらね」

「それ、わたしも疑問に思ってる」

 

 魔力が妖精世界の再生に重要だというのは分かった。

 では、さっきも言ったけどどうやってその妖精世界へ行くのか? という所に戻る。こればっかりは、ブラックリリーとララに聞かないと分からない。

 

 もしかすると、行く方法については考えてない可能性もある。でも、ブラックリリーは空間操作が出来るから、もしかしたらテレポートであっさり行けるのかも知れない。

 でも、彼女は魔力量が少ないと言ってたし、戦っているところを実際見た感じでは、本当の事だと思ってる。あの魔力枯渇の状態が演技だったら凄いけど、そうは見えないし。

 

「まあ、どうせ夜会う予定なんだからその時に聞けば良いじゃない」

「ん」

 

 そのつもりである。

 

「さ、家に戻りましょ」

「うん」

 

 妖精世界……あまり想像がつかないけど、どんな世界だったんだろう? ふと、ラビを見る。見た目は兎のぬいぐるみだから、性別が分からないな、そう言えば。

 喋り方とか、声からして女性っぽいけど……そもそも妖精に性別があるのかが分からないけど。ララは何か中性的な喋り方と声だから余計分からない。

 

 まあ、今考える事じゃないか。

 

「妖精世界ってどんな場所だったの?」

「そうねえ……」

 

 ビルから移動し、家に向かいながらわたしはラビに訪ねてみる。そう言えば、妖精世界についての説明は聞いたけど、どんな世界でどんな場所とかがあったのか、そういうのは聞いてなかったなと思い出す。

 

「違いはあるけど、生活自体は特に地球とあまり変わらないわ。お店があって、物を売る人が居て、物を買う人も居て……一応王様も居たわね」

「王様……」

「簡単に言えばファンタジーな世界ね。地球にはライトノベルと言うものがあるでしょ? あれに出てくるような感じね」

「なるほど。物凄く分かりやすい例えをありがとう」

 

 わたしもそこまでたくさん読む訳ではないけど、ライトノベルを読んだ事は何度かある。ファンタジー系がかなり多いよね。人気のある物だとアニメにもなってるし。

 

 そして必ず出てくるのが魔法とか剣。作者の趣味全開な魔法名とか詠唱も結構好きである。魔法なんて、夢のような物だと昔は思われてたけど、今だとこの世界にも存在している。

 魔法少女という特殊な人限定だけど。

 

「幾つかの国もあるわ。一部の国同士は結構戦争というか争っていたけど」

「確かに良くあるファンタジーな世界……」

「ええ。それにしても地球のライトノベルは凄いわね。良くあれだけの発想が出てくるわ。妖精世界にも言えるようなのもあったし……むしろ、妖精世界のことを書いたのかと思えるようなのもあったし」

「ファンタジーが多いから」

 

 勿論、普通に現実世界の恋愛とかラブコメのラノベもあるけど、やっぱりファンタジー系はかなり多いし、読む人も多い。だからまあ、今でも新作がどんどん出ているんだろうね。

 

「まあ、わたしはあまり外には出られなかったけれど」

「え?」

「あ、何でもないわよ。妖精世界がどんな場所なのか、言葉では説明しきれないわね。でも地球と同じで、国があったり海があったり森があったり、生き物が居たりしてたわよ」

「へえ」

 

 ちょっと見てみたいかも知れない。

 もし……妖精世界が元に戻ったら。その時は、ラビと一緒に見て回りたいなと思うのだった。

 

 

 



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Act.06:妖精世界と魔力②

 

 魔力とは。

 魔法少女の力の源である不思議な力の名称だ。誰が名付けたのか……恐らく原初の魔法少女がそう言ったのだと言われてる。

 

 魔力は魔法少女の力を使う為に必要不可欠な力だ。魔法と呼ばれる力を行使する時も魔力を消費して、発動させている。この魔力がなくなれば当然、魔法は使えなくなる。

 他にも魔法少女になった少女たちは、変身と呼ばれる力を使う。そうそれが魔法少女と呼ばれる状態だ。変身前は普通の少女と変わりがない。

 

 その変身した状態を作り出しているのも魔力。

 一般的には魔力装甲と呼ばれ、攻撃を受けた際に魔法少女を守ってくれる物だ。勿論、反動はあるが実際の身体には影響を及ぼさない。

 

 受けた攻撃分、装甲は削れるが、すぐに体内魔力がその削れた分を補填する。これが体外の魔力装甲と体内の魔力の役割。

 

 魔法少女の魔力には二つあり、一つが体外の魔力。つまりさっき言った魔力装甲だ。そしてもう一つが体内魔力。これは魔法の力を使う際に消費される物。

 そして削れた魔力装甲を補填する役割も担っている。一番重要なのがこの体内魔力で、これがなくなると魔力装甲の補填ができなくなり削られていくだけとなる。更に魔法という力も使えなくなる。

 

 装甲を全て削りきられれば、変身状態を維持できずに解除されてしまう。そうなると、普通の人に戻ってしまうためその状態で攻撃を受ければひとたまりもないだろう。

 

「魔力、か」

 

 わたしは魔力という物について改めて考えていた。

 ラビの話を聞き、魔力という物は妖精世界では空気のような役割を持っていたと知る。これがなくなってしまったから妖精世界は、滅んでしまった。

 世界自体は残っているが、草木すら生えない環境と化してしまっている。

 

 妖精書庫にある本をわたしもわたしで読みながら考える。あ、もちろんラビの許可をもらってるよ。普通に読めた事には驚いたけど……。

 

 本に書かれてた文字は日本語でも英語でも、それこそフランス語だとかイタリア語とかでもなく、見たことのない言語だった。なのに、何故か普通に読めていた。

 ラビが言うにはわたしが、ラビによって魔法少女になった存在であるため、読めるとの事だった。ラビについての謎は多いから、良く分からなかったけど……。

 

 でだ。ブラックリリーの目的はこの魔力を妖精世界に戻すことだ。

 そうすれば、時間はかかるだろうけど徐々に回復していくと思っているのだ。確かにそれはあり得ると思ってる。空気と同じ役割を持つ魔力がなくなったから、世界は滅んでしまった。

 なら、それを戻せれば……。

 

 どれだけかかるかは分からないけど。

 ただ地球だって元々は魔力がない世界だった。それが気付けば、もう地球上全てに魔力は循環している。それは、呼吸する動植物の影響が大きいだろう。

 

 空気と一体化した魔力。

 それを植物は吸収し、魔力を取り込む。そして光合成を行い、酸素を生み出す。その時に酸素だけではなく魔力も生み出すようになった訳だ。

 

 まあ、一気に世界中に広がったのは妖精世界の魔力が一気に流れ込んだからっていう影響もあるだろうけど、そういう変化が地球には起きた。

 そして魔力は一度宿ると、消える事はなく、消費しきっても自然回復するようになる。それもあり、地球は植物がある限り魔力がなくなることはないという世界になった。

 

 それを妖精世界でも同じようなことが可能ならば……動植物は再び命を芽吹き、妖精世界を戻せるかもしれない。

 

 地球は何度も変化して進化してきた。それは動植物たちにも言える。今回は魔力という新たな力が地球上に広がり、それに合った変化が発生したのだ。

 

 さて、話を戻すが何故わたしは妖精書庫に居るのか?

 その理由は別に特別な事はなく、家に帰ったけど、ブラックリリーとの約束した時間まではまだまだあったので、ラビに聞いて妖精書庫の本を読んでも良いかと訪ねたのだ。

 

 さっき許可をもらったって言ったと思うけど、そういう事である。

 

 初めて妖精書庫に来た時から気にはなっていた。ただ色々とあったので、こうして読む機会がなく、今になってようやくと言った感じだ。ここは静かで、読書にも適した場所だと思う。

 

 どういう原理で構成されているのかは分からないけど、空間系統の魔法が関わってそうかな? 空間を作り出すという魔法を、既に使える人が居る訳だし、こういう空間があってもおかしくない。

 

 それに魔法については謎がまだ多いから。

 魔法って一言で言ってもかなりの種類や数がある。魔法少女毎に使える魔法が様々であるというのがその証拠だ。勿論、ダブる事もあるが、それはそれで同じ魔法を使える子を別の場所に派遣できるというメリットが有る。

 

 中でも回復系統の魔法はたくさんあっても困らないしね。人数が居る分、手が色んな所に届くから。

 

「うーん」

 

 一冊の本を読むのにかなり時間がかかる。それだけの情報が、この本一冊一冊に詰まっている。これを、あの短時間で三分の一読み終わらせたラビはやっぱ、おかしい。貶している訳ではなく、逆である。

 

 妖精世界の成り立ちとか、魔力についてとか、魔法についてとか……様々だ。

 

「気分転換しよ」

 

 わたしにはラビのような速読力なんてないので、休憩とか挟まないときついものがある。そもそも、ラビの読む速度は異常だ。今も信じられない速度で読んでるっぽい。

 魔法を使ってるのか、本たちが何冊も浮かんでラビを囲っているような光景だ。

 

「前にも思ったけど……」

 

 ここは本当に綺麗だ。居心地も良いし、循環している魔力も新鮮な感じがする。何というか、落ち着けると言うか癒やされると言うか……ここに居るだけでストレス解消とかもできそうな気がしてる。

 

 これ、空から太陽の光みたいなのが差し込んでるけど、外に出れるのかね? この書庫自体もかなり広くて、移動するのにも結構一苦労だ。更に上へ上へと、続いている。

 流れる小川も本物で、触ると冷たい感触がある。掬い上げることも出来るし、飛ばすことも出来る。当然、濡れるが。

 

「妖精世界の復活。わたしに出来ることはあるかな?」

 

 魔力を集めているなら、わたしのこの異常なほど多い魔力が活用出来るかも知れない。

 

「それに、ラビの故郷でもあるしね」

 

 復活を望んでないと言えば嘘になる、とラビが言ってたのを思い出す。ただ、復活したとしても誰も居ない世界。ラビしか居ない世界になる訳で、そんな世界に一人だけというのは、余計に辛いだろう。

 

 ただ状況は変わってる。ララと呼ばれるラビと同じ妖精が居たということ。とは言え、それでも世界に二人だけというのも何か寂しいかもしれない。

 まあ、ブラックリリーの目的はそこではなく、故郷を戻してあげたいという物だったから、妖精世界の復活とはちょっと違うかな? 復活も元に戻すもどっちも同じだけど。

 

 復活させてララを妖精世界に戻したいとは言ってないしね。

 

「えっと時間は……」

 

 この空間に居ると時間が過ぎているって感覚がしないんだよね。

 スマホ型のデバイスを取り出して、待機画面を表示させる。時間は……結構経ってるな。そろそろ、ブラックリリーに会う準備をしないとかな。

 

 準備と言っても特にすることは変身するくらいだけど。

 

「ラビ、そろそろ」

「え? あ、もうそんな時間なのね、ちょっとまってて」

「ん」

 

 別の場所で本を読んでいたラビに声をかけると、そう返ってきたので待っている間にスマホ型デバイスを取り出す。

 

「――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

『SYSTEM CALL "CHANGE" KEYWORD,OK――LA LUNE ET L'ETOILE――』

 

 変身のキーワードを紡けば、いつものように浮遊感が襲ってくる。そして体中に魔力が走っていくのを感じた所で、わたしはリュネール・エトワールへと変身を終える。

 

『SYSTEM CALL "CHANGE" SUCCESS!!――GO!』

 

 そしていつも通りの変身完了を知らせる音声が流れた所で、丁度ラビが戻ってくる。

 

「それじゃ、行きましょ」

「ん」

 

 定位置となった肩にラビが乗った所で、わたしたちは妖精書庫を後にするのだった。

 

 

 



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Act.07:魔法の瓶(マギア・フラスコ)

 

「お待たせ」

「来たわね」

 

 待ち合わせ場所にわたしがたどり着くと、既にブラックリリーが待機していた。約束した時間よりも、10分以上早い。

 

「早いね」

「そっちもね」

 

 お互いを見て軽く笑う。

 早いと言ったら、わたしだって、この時間にここに来た訳だし。お互いに、少し早く合流したようだ。別に前倒しになる事自体は問題ないけど。

 

「早速本題?」

「ええ。早い方が良いでしょ。そっちもこっちもね」

 

 ブラックリリーの目的は既に聞いている。

 なので、今回こうやって会っている訳はその目的を達成するために何をしているのか、何をする必要があるのか、そういった話をするためでもある。

 

「まず、私の目的についてね。前にも言ったと思うけれど……」

「妖精世界を戻したい」

「ええ。その通り。そしてそれを達成するための工程として魔力を集めていたのが、今までの経緯ね」

 

 そう。ブラックリリーは割と突然に、自分の目的についてをわたしとラビに聞かせた。わたしたちに聞かせた理由は、協力をお願いしたいからだった。

 妖精世界を戻す。そのためには魔力を妖精世界に戻す必要がある。戻すというか、妖精世界にも地球と同じように魔力が世界中に広がるようにしたいという事だ。

 

 地球でも起きたように、魔力が継続的に生まれていくような環境にする必要がある。ただ妖精世界の魔力ってどう生まれていたのか、分からないんだよなぁ。

 妖精書庫には書かれているはずだけど、全部読める訳もなく。そっちについてはラビとララに聞いた方が早いか。

 

「魔力を集めてるのは、妖精世界にその集めた魔力を放出させるため?」

「いいえ、違うわ」

「え?」

 

 予想外の返答にわたしは驚く。てっきり、その集めた魔力で妖精世界を戻そうとしているのかと思っていたのだが、違うっぽい?

 

「それもあるけど、集めている本当の理由は別よ」

「?」

「魔力を集めているのは、妖精世界を戻すためではなく、妖精世界に行くためよ」

「妖精世界に……行くため?」

「まあ、戻すための工程だから一応、前者も当てはまると思うけど、本来は後者」

 

 妖精世界に行くために魔力を集めていた。妖精世界を戻すためではなく、その場所へ行くための魔力……行くために世界中の魔力があっても足りないという事だろうか。

 

「目的は確かに妖精世界を戻すことだけど、その前に移動するために魔力を集めていたのよ」

「世界中の魔力を一度集めても足りないって言ってなかった?」

「それは目的。到着地点。妖精世界の復活なんて、世界中から一回集めても足りないでしょうし」

「なるほど……あたかも行き方は知ってかのように言ってるけど、あるの?」

「ええ」

 

 やっぱり行き方を知っているのか。

 それはブラックリリーが知ってるのか、それともララか……どっちも知ってるか。情報共有はしているはずだし。情報元はララな気はするけどね。

 

「世界移動の魔法はぶっちゃけある。だけど、それを使うには尋常ではない魔力を消費する」

 

 ブラックリリーの言葉に続けてララが説明しながら、話に入ってくる。

 

「あるの?」

「エクスパンションならもしかしたら行けるかも知れないと前言ったと思うけれど、後から妖精書庫を調べたら見つかったわ。ララの言う通りかなりの規模の魔法よ」

 

 肩に乗ってるラビに聞くと、そんな答えが返ってくる。

 あーそう言えば、前、ラビについて聞いた時にそんな話をしていた気がする。あの時は曖昧だったが……。

 

「世界を複製する魔法を作っていたのだから、複製した後、その世界に行く方法も用意しているさ」

「確かに」

「話を戻すけど、魔法の存在はある。だけど、それを発動させるにはブラックリリーの魔力では到底不足している。だからこそ、集めていたんだ」

 

 ブラックリリーの魔力は少なく、ララもそこまで多くはない。だからこそ魔力を集めていた……移動するその魔法を使うために。なるほど……と納得する。

 

「そしてこれが、魔力を一定の量蓄積できる道具さ」

 

 ララが何処からともなく、目の前に出したのはわたしの身長の半分よりちょっと高いくらいの、大きなフラスコだった。あの理科の実験とかでよく使われる、あの容器。

 ただ、真ん中辺りにゲージのようなものがくっついてる。まだニ割程度しかゲージは伸びてないようだった。

 

「これは……魔法の瓶(マギア・フラスコ)ね」

魔法の瓶(マギア・フラスコ)?」

 

 名前にもそのままフラスコって付いてるのか……。

 

「魔力を溜めておくことが出来る魔道具で、妖精世界の道具よ。地球でそれを見れるとは思わなかったわね」

「無駄に大きいサイズだけどね、これは」

 

 良く分からないけど、サイズがあるっていうのは何となく理解できた。で、これは大きいサイズだって言う事も。一番大きいサイズかどうかは不明だが。

 

「集めた魔力は全てこの中に入れてある。魔石の魔力も、一度ブラックリリーに使ってから入れてた」

 

 わたしはその中を覗いてみる。

 きらきら光っている不思議な液体? が中に入っているのが分かる。そして近付くと、そこから感じる馴染みのあるもの……間違いなく、これは魔力だな。

 

「どれだけ必要かは分からないけど、とにかくこのゲージを満タンにしてから試そうと思ってたんだ。この集めて魔力を使ってさっき言った魔法を使うつもりだった」

「私も毎回、魔力が回復したら少しだけ、この中に入れてるのだけど、見ての通り全然ゲージが上がらないのよね」

 

 魔石も使って、魔力を入れ続けているけど、どうやら全然ゲージが進まないらしい。そして今までの結果が、この二割ということになる。これも結構大変だな……。

 

「そんな訳で貴女にも頼みたいのよ」

「なるほど」

 

 わたしの魔力量は異常だからね。

 ほいほいと、結構強力な魔法を撃っている姿を魔法少女たちに見られているので、魔法省内でも魔力量が異常に多いというのは話になってるみたいだし。

 いやまあ、自分でも思ってるけどね。

 

「ん。今やっても良い?」

「え? 勿論、こちらからお願いしたいくらいよ」

「了解」

 

 協力するというのは決めていたので、別に拒否することはない。

 それにこれは、ラビにも関わりがあることだしね……ラビの事は相棒と思ってるので、そんな相棒の故郷が、そのままっていうのは確かに嫌かもしれない。

 

 魔法の瓶(マギア・フラスコ)に手を触れ、自身の魔力を感じ取る。

 どのくらい入れるべきか……わたしの魔力が異常とはいえ、それでも上限値はあるのだ。この前のクラゲもどきと戦った時みたいに、使えば魔力枯渇はする。

 

 今日は姿を消すためにハイドを使ったくらいしかないので、満タンに近い状態になってるはず。というか、もう時間も経過してるので自然回復もしてると思う。

 

「……よし」

 

 五割くらい入れてみるとしようか。

 かなり多いかも知れないけど、半分もあればある程度普通に戦えるし。それに、魔石もあるから問題はないはず。

 

「魔力を注ぐ……」

 

 魔力を、この容器に入れるようにイメージをする。体中を駆け巡っている魔力の進行方向を変え、そのまま流し込む。魔力譲渡と同じ感じだな。

 

 ごっそり減った感覚に襲われ、無事魔力を出せたことが分かる。

 

「す、すご」

「ん?」

 

 流し終わったような感じがしたので、目を開く。ララもブラックリリーも驚いた顔を見せていて、ラビに関しては呆れたような顔をしていた。

 気になり、魔法の瓶(マギア・フラスコ)の方に目を向けるとゲージが二割だったのが五割近く辺りまで伸びていた。中身も、さっきと比べて大分増えているみたいだ。

 

「一気に三割近く……なるほど、これは規格外だ」

「ええ?」

「私がやっても一割も増えないし、何なら0.5割も増えなかったのに……」

「今まで集めてた魔力がこんなあっさりと抜かれるとは……どのくらい注ぎ込んだんだい?」

「五割くらいかな」

「数ヶ月間の魔力集めは……何だったのか」

 

 ララがどれくらい入れたのかを聞いてきたので、取り敢えず五割くらいをイメージして入れたので素直に五割と答える。

 

「……」

「彼女は異常よ。良い意味でも悪い意味でも、気にしたら負けね」

「ラビ」

「本当の事じゃないの……」

 

 ラビの台詞にわたしは頬をふくらませる。

 いやまあ、確かに異常なのは認めるけど……そんな異常、異常と言われると流石に傷つくぞ。

 

「これは流石に予想外……これならもう、満タンにできそうだね」

「そうね。でも満タンにした状態で使っても、発動できるかはわからないんでしょ?」

「まあね……足りなかったらどうしようかな」

 

 どうやら、仮にこの容器が満タンになっても足りるかは分からないようだった。

 

「それならリュネール・エトワールの魔力譲渡も合わせれば良いんじゃないかしら」

「わたし?」

 

 でもそうか……魔力譲渡で送り続けていれば、わたしの魔力がなくなるまでは使えるよね。それでも足りなかったら意味ないけど……とは言え、取り敢えず、まずはこの魔法の瓶(マギア・フラスコ)を満タンにするほうが先かな。

 

 

 

 

 

 

 



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Act.08:目的を達成するために

 

「魔法を使うのに魔力を集めるのは分かった。それで移動した後はどうするの?」

 

 魔力を集めて、移動するための魔法の補助として使うのは分かったが、移動した後はどするのかという話だ。仮に成功して妖精世界に行けたとしても、何もなしじゃいけないよね。

 

 それに、わたしたちが行っても大丈夫なのかっていう所も……。

 

「ええ。妖精世界に行けたら後は、地道に魔力を送り込むだけよ。時間がかかるのは承知の上でやっているのだしね」

「それって行き来してやる感じなの?」

「その通りよ。行ければ後はこっちの物だからね」

 

 なるほど……と思うが、そこで疑問が思い浮かぶ。

 妖精世界に行き来するとしても、それってその度に移動の魔法を使う必要があるのではないだろうか? 発動にかなりの魔力を消費する魔法らしいから、毎回集めるの?

 それって妖精世界に魔力を戻す以前に中々厳しくないだろうか。移動するために魔力を毎回集めるしかないという事になる。一回使うと魔力消費が減るとか?

 

 いや、流石にそれは……でも妖精世界の魔法だもんなあ。

 

「その疑問は、当然ね。安心して良いわ。今回ララが使おうとしている魔法は、一度使えば魔法を解除しない限り残り続けるわ。そうよね、ララ」

「ああ。今回使う魔法はゲートと呼ばれるもので、現在位置と行き先を繋げることが出来るんだ。だから一度繋いでしまえば、解除しない限りは繋がってる」

「なるほど……」

「一々、移動するのに魔法を毎回発動しないといけないなんて効率が悪いだろう? だからこそ、この魔法が生まれたんだ。向こうとこっちを行き来できるように。これなら、一度設置しておけば消すまでは残るからね」

 

 確かに。

 世界を複製するにあたって、複製された世界の方は魔法の実験とか、技術の開発とかで使うだけであって研究員? たちの家とかは元の世界の方にある訳だもんね。

 有事の時に、一々発動させるのは面倒なのは納得出来る。だけど、設置型であれば、自由に行き来できるから何があっても対応ができるというのが強い。

 

 設置型か……それもあって消費する魔力も多いのかな?

 取り敢えず、わたしの魔力の五割を入れればこの魔法の瓶(マギア・フラスコ)は三割くらいは増えるというのは分かった。一日一回五割ほど注入しておけば、今週中には満タンにできそうかな。

 

「何かララは色々詳しいけれど、もしかして研究者だったりするの?」

「……」

 

 ラビよりもなんか詳しいような気がする。まあ、ラビの場合は妖精書庫という物があるから、純粋に比較するのはできないか……何というか、魔法について何か何処か詳しいような気がする。

 そう思ったのはわたしだけではないみたいで、ブラックリリーがララに問いかけている。しかし、ララの方は沈黙してしまっている。

 

「それは……うん。まあ、何れはバレるだろうから、もう話してしまって良いかな」

「ララ?」

「ブラックリリーの質問の答えだけど……答えはイエスだ」

「!」

 

 つまり、ララは研究者だったという事か?

 でも確かに、何か経験しているかのように話していたから、不思議とその答えには納得できる。それなら、ゲートという魔法を知っていても可笑しくないもんね。

 研究者という事は、恐らく魔法実験の際も立ち合っていたはずだろう。まあ、研究者と言ってもどの分野かにもよって細かく分かれているから、そうとは断言できないけど。地球の研究者だって種類があるし。

 

「ボクはあの実験の時に、その場に居合わせていた。だから移動する魔法の事は知っていたんだ。一々移動するのは大変だし、何より結構な魔力を使う。そんな頻繁にやれないから、設置型の魔法が生まれたんだ」

 

 発動者が解除するまでは、常に目的地と繋がっているという魔法は事前に用意されていたという。

 ただし、その魔力量が膨大だというのもあり、その前にもちまちまと世界中から魔力を集めていたとのこと。なるほど、妖精でもきついくらいの魔力量なのか。

 まあそもそも、妖精の魔力量の平均とかは分からないんだけど。

 

「と言っても、ボクはただの研究員。指示された仕事をやっていただけだけどね」

「道理で色々と詳しい訳ね……」

「隠すつもりはなかったんだけど……言うの遅くなってごめん」

「別に良いわよ。私だって無理に聞くつもりなんてなかったし。何か隠していることは何となく分かっていたけど」

 

 やっぱりわたしとラビみたいな関係だなって改めて思う。

 うーん、ラビも隠していることが結構あるような気はするんだけど……無理に聞くつもりはない。気にならないと言えば、嘘になるが……話してくれる日は来るだろうか。

 

「話を戻すけど……とにかく、このゲートという魔法があれば一々発動させる必要がなくなる。ただ、問題は設置場所なんだ」

「ブラックリリーの家じゃないの?」

「それも考えたんだけど、ゲートは目で見える訳で……一般人でも見れちゃうんだよ。だから、ブラックリリーの家に置いたら家族に見つかる可能性が高い。部屋に設置してもそうだ」

「そうねえ……私の部屋も見つからない保証はないわね」

 

 ふむ。

 ゲートという魔法は、普通の一般人でも見ることが出来る……確かにそうなると、見つかってしまうのはあまりよろしくないか。誤って一般人が妖精世界に入っちゃう可能性も考えられなくないし。

 

 それに、仮にブラックリリーの家に設置したら、わたしに彼女の家の場所がバレてしまう。それは多分望んでないと思う。それはわたしにも言えることだけど……。

 

 一応、ブラックリリーの事は信用しているんだけど、リアルで会うのが流石に無理かなあ……。

 

「だから、何処か良い場所とかないだろうか?」

「ん……」

 

 設置型は設置型で、別の問題があるなあ。

 ララに良い場所はないかと聞かれるけど、正直思い浮かばない。何処に設置しても人目につく可能性は高い。一般人には目に入らず、大丈夫そうな所……。

 

 うーん、難しいか。

 わたしの家を使うか? わたしの家なら誰も居ないし、裏庭にでも置けばまず、見られることはない。何なら家の中においても大丈夫だろう。

 真白が多分、2月頃にまた帰ってくると思うけど、その時はまた説明しておけば良いだろうし。

 

 ただ、そうなるとブラックリリーにわたしの家の場所を教えてしまう事になるが……。

 

「ん。わたしの家はどう?」

「え?」

「わたしの家ならわたしとラビしか居ないし、見られることもないと思う」

 

 良い場所が思い浮かばないから仕方なし。

 家がバレるのはあれだけど……でも、それしかないような気がする。反転世界に置くとか言う事も考えたけど、反転世界は発動者が居なくなれば消滅してしまうので、無理。

 

 そのへんに設置したら設置したで撤去される恐れもあるし、その撤去しようとした人が妖精世界に行ってしまう可能性もある。人が住めるような環境ではないはずなので、命の危険に晒されるだろうし。

 

「あ」

「? どうかしたの?」

「ん。今更だけど、妖精世界ってわたしたちが行っても大丈夫な場所?」

 

 凄い今更である。

 でもこれは忘れてはいけない……妖精世界は草木も生えない世界となっているし、生き物が生きていけるような環境ではないのは確かだ。そんな場所に、わたしたちが行っても大丈夫なのだろうか?

 

 実際どうなってるかはわからないけど、まず普通ではないのは確かだし。

 

「大丈夫のはずだよ。魔法少女なら。魔力装甲があるだろう?」

 

 その疑問に答えたのはララだった。

 魔力装甲は、魔法少女が受けるはずの攻撃等の自分を害するものから守ってくれるものである。毒だって、自身が飲みでもしない限り、魔力装甲が弾く。

 

「そうなの?」

「ええ。魔力装甲は別に攻撃だけを防いでいる訳じゃないのよ」

 

 念の為、ラビにも聞いてみる。ララを信用していない訳ではないが、複数の意見が欲しいから。それにぶっちゃけ、ララのほうが研究員だったらしいので、詳しいと思う。

 

「分かった。ありがとう」

 

 そこまで言うなら信じようと思う。いや、最初から信じていなかった訳ではないが……。

 

「ん。話を戻す。わたしの家なら大丈夫」

「でも、それだとリュネール・エトワールは自分の家の場所を教えてしまうことになるわよ?」

「ん。大丈夫……信じてる」

「……私が言うことではないけど、信じ過ぎるのは良くないと思うわよ」

「それは分かってる。それとも、ブラックリリーはわたしの家を知ったらそれをバラしたりする?」

「……しないわよ。するつもりもない。というか誰にバラすのよ」

「第三者」

「はあ。……大丈夫よ、私はそんな事をするつもりはない。協力してくれる貴女に害を与えるとか、恩を仇で返すようなものじゃないの」

 

 それなら良かった。

 なら、場所はわたしの家で決まりかな。

 

「場所も決まったみたいだし、後は魔力だね」

「ん」

 

 肝心の魔力集めが終わってないから、場所が決まったとしても今すぐ使える訳じゃない。まあ、毎日わたしが五割くらいずつ入れれば良いかな。

 

「じゃあ今日はこれで終わりね。また明日もこの時間で良いかしら」

「ん。問題ない。あ、そうだブラックリリー」

「どうかしたの?」

「ん。実は……」

 

 解散という雰囲気になったが、わたしにはまだ聞かないとけない事があったので、それを話すのだった。

 

 

 

 

 

 



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Act.09:予定調整と金色の少女

 

「これで良しっと」

 

 CONNECTのアプリを立ち上げ、とあるメッセージを送信しておく。相手は雪菜と蒼の二人である。というかそもそも、登録しているのが雪菜と蒼と真白の三人だけである。

 そこ、可哀想な顔で見ない。まあ、登録する相手が居ないっていうのは事実だけども。今までだって別に登録とかしてなかったし、あくまでこのスマホは変身デバイスだしね。

 

 ブラックリリーと別れる前に、ホワイトリリーとブルーサファイアが何故か会いたがっていたと、伝えた所、大丈夫という答えが返ってきた。本当に大丈夫なのか? って聞いてけど、大丈夫みたい。

 

 普通に考えて拒否するものだと思っていたけど。

 ブラックリリーについては、男の証言で一応容姿とか見た目は魔法省内でも伝えられているはずなので、二人に会うのはリスクがあるんじゃないかって思ってる。

 

 ホワイトリリーに関しては、この茨城地域唯一のSクラス魔法少女だし、支部長である茜との繋がりも強いはずだ。ホワイトリリーの情報源は茜だと思うし。

 一番偉い人と関わりがあるなら、そりゃあ、色んな情報を持っているよね。

 

 ブラックリリーの見た目は、その証言の物と一致している。だからこそ、魔法省に行った時も少々怪訝そうな目を向けられていたのだ。だけど、確信がないから無闇に接触しようとはしてなかった。

 そこについては、申し訳ないけど良かったと思ってる。もうしばらくは、ブラックリリーは自由に動けるからね。ただ、何処から情報とかが漏れるかはわからない。

 それによって、確信を得た魔法省が魔法少女を出動させてブラックリリーを捕まえるかもしれない。

 

 素直に応じれば、そこまで酷い扱いにはならないと思うが……そもそも、トップが茜だからなあ。

 

 話が逸れたが、そういう訳で個人的にはブラックリリーが二人と会うのは、危険だと思うんだけど……。それに対して、ブラックリリーは『変に探し回られるよりは、直接こっちから会った方が良いでしょ』と言うものだった。

 

『それに、下手に向こうも動かないでしょうし』

 

 まあ、ブラックリリーの言い分には確かに一理ある。彼女の容姿が似ているってだけで、捕まえたりする事はできないだろうし、要は警察のように証拠がなきゃ逮捕できないという感じだ。

 

 因みに、魔法少女については魔法省に一任されている。下手に警察とかに任せると余計な被害が出かねないためである。なので、悪事を働いた魔法少女が居た場合は、魔法省が捕まえて事情聴取などをするらしい。

 詳しい所までは分からないけどね。

 

「ん」

 

 わたしの送信したメッセージに既読がついたので、向こうも読んだ事がわかる。

 日程については、今度の土日というようにしてる。わたしはともかく、雪菜も蒼も学校があるはずなので平日は駄目だろう。ブラックリリーは分からないけど、学生のはず……ともかく、それも踏まえて今度の土日という事にした。

 

 土日と二つ挙げている理由は、単にどっちが都合が良いかを確認するためだ。ブラックリリーも土日ならどっちも大丈夫という答えをもらっているし、わたしの場合は何時でも大丈夫だ。

 なので、これらは雪菜と蒼の都合の確認でもある。どっちも駄目であれば、また別の日に変えるつもり。その時は、またブラックリリーと話さないといけないけど。

 

『私はどちらでも大丈夫です。出来れば午後が良いですが』

『個人的には午後かな? 日にちはどっちでも大丈夫』

 

 雪菜、蒼の返信が届く。

 二人共、土日ならどっちでも大丈夫のようだ。そして午後のほうが良い……と。まあ、午前中は人によっては寝てるかもしれないし、忙しいかもしれないから納得である。

 

 ブラックリリーも特に何も言ってなかったので、大丈夫かな。わたしも、午前だろうが午後だろうが夜だろうが時間はあるので何時でも大丈夫である。

 そうなると、土日のどっちかの午後が一番かな。

 

「うーん。土曜日かな」

 

 日曜日はゆっくりしたいだろうし、土曜日の午後かな。後は時間だけど……まあ、15時位が丁度良いかな。明日もブラックリリーと会う予定があるので、その方向で決めておこう。

 

「メッセージのやり取りは終わったのかしら?」

 

 ラビがそう聞いてきたので、一応仮ではあるけど決定したという事を伝える。

 

「ん。一応。後は明日、またブラックリリーと会って確認して終わり。今度の土曜日の15時位」

「丁度良いわね」

「ん」

 

 12時はお昼なのでまず論外。13時は、お昼食べてる人も居るはずだし、食休みと言うか休憩もあるだろうし、ここも除外。14時は、大丈夫だと思うけど、念の為除外して15時を選んでる。

 

 二人にも15時は大丈夫なのか聞いてみた感じだと、問題なさそうだった。後はブラックリリーかな。多分、何時でも大丈夫と言ってたし問題ないだろうが……。

 

「それなら、司」

「?」

 

 ラビがわたしの名前を呼ぶ。いや呼ぶこと自体は、可笑しくはないけど……何だろうと思い首を傾げる。

 

「付いてきてくれるかしら」

「ん」

 

 そう言ってラビが取り出したのは、妖精(アルシーヴ)書庫(フェリーク)へ入るために使う金色の鍵だった。空中に差し込むと、自動的にくるりと回り鍵が開く音と同時に視界が光りに包まれる。

 

 光が収まれば、もうそこは妖精書庫の中である。

 

「ラビ?」

「こっちよ」

「ん」

 

 後で話すから今は付いてこい、というような雰囲気をラビから感じたのでそのまま、後を追いかける。

 

「ここで良いかしらね。ごめんなさい、座って良いわよ」

「ん」

 

 ラビの後を追いかけ、付いたのは大きな丸テーブルが置いてあり、それを囲うように椅子が複数設置されている場所だった。何ていうか、円卓会議みたいな感じだ。

 椅子が複数あるけど、わたししか座らないから物凄い寂しいと言うか、シュールである。取り敢えず、ラビの言う通り適当な場所に座ると、ラビはわたしの目の前にやってくる。

 

「ラビ?」

「うん、気になるのは分かるわ。あなたはここに呼んだ理由は……そうね、そろそろ隠すのは良くないと思ってね」

「?」

「ララの事もあるし……これから妖精世界に行くというのもある。これ以上は隠せないわね」

「ラビ? 何のこと?」

 

 いきなりでちょっと頭が追いつかないが、ラビが何かをわたしに教えてくれるということかな? ラビについては、前から気になってたし、何者なのかも気になってた。けど、無理に聞くことはなかった。

 

「ララの言ってたゲートという魔法は、設置型で自由に行き来することが出来るわ。それの発動に成功し、妖精世界に行けばいずれはバレるだろうから。それにこれ以上、隠すのはあなたにも申し訳ないと思ったから」

「嫌なら良いんだよ?」

「ふふ。やっぱり、あなたは優しいわね。でも、決めたから……」

 

 ラビがわたしを見るその目は、真剣というかもう何かを決意したような感じだった。

 

エクスチェンジ(変化)

「え?」

 

 ラビはそう言って、テーブルの上から床に降りた所で、何かしらの魔法を発動させる。ラビの身体が白い光に包まれ、それが段々と高くなりわたしと同じくらいまでになった所で、止まる。

 その白い光は、数秒ほどそのまま光り続け、その後、徐々に消えていった。そして、さっきまでラビが居た場所には見覚えのない、少女が一人立っていた。

 

「ラビ……なの?」

「この姿では初めてですね」

「ラビ、なんだね」

 

 全く違う感じなのに、何となくこの子はラビだと直感が告げる。わたしがそう言うと、少女は軽く笑い、そして口を開いた。

 

「――改めまして。私の名前はラビリア・ド・アルシーヴ・フェリークと申します。以後お見知り置きを……というのはちょっと変ですね、ふふ」

 

 そう言ってくすりと笑うのは、金髪碧眼で背中の真ん中辺りまで髪を伸ばし、頭にはティアラのようなものを載せている、何処か雰囲気の違う一人の少女だった。

 

 

 

 

 

 




ついにラビの正体が……


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Act.10:ラビリア・ド・アルシーヴ・フェリーク①

「ラビリア・ド・アルシーヴ・フェリーク……?」

「はい。長いのでいつものようにラビとお呼び下さい」

「……やっぱりラビなんだ」

「はい。今まで隠していて申し訳ありません」

 

 そう言って驚くほど綺麗に頭を下げるラビ。いや……まさか、女の子になるとは思わないでしょ! いや、喋り方からして女性っぽいとは思ってたけど。喋り方も変わってるじゃないか。

 

「この姿が私たちの本当の姿です。妖精と呼ばれているのは、昔よりそう言われてきていたからですね」

「……」

「驚くのも無理ありませんね。ですが、順を追って説明いたしますね」

「ん……お願い」

「はい」

 

 そう言ってまた笑うラビ。

 今までのラビと違った、丁寧な言葉に喋り方……正直、困惑しているけど、ラビなのは間違いない。ティアラを付けているという事は、やっぱりラビは身分が高い存在なのだろうか。

 ララと初めて? 会った時とか、ラビリア様と呼んでいたのもあるし、身分が高いというのは何となくではあるものの、予想していたが……。

 

「まず、私についてですね。私の本当の名前はさっきも言った通り、ラビリア・ド・アルシーヴ・フェリークです。ララがラビリアと呼んでいたのは本名の方だった訳です」

「二人は面識が?」

「はい。最も、そこまで頻繁に会っていた訳ではないですが……」

「ララもその姿に?」

「可能でしょう。私たちは元よりエクスチェンジ……私がこの姿になるのに使った魔法ですが、妖精なら誰もが使えます」

 

 なるほど。

 いや、色々とまだ謎が多いけど、取り敢えず、その人間のような姿の方が実際、本当の姿という事なのは分かった。良く見てみると、彼女の耳は少しだけ尖っている。

 

 ……エルフ。

 ふと、それを見てその言葉思い浮かぶ。良くファンタジーな話には出てくる、エルフという種族。自然の中で暮らしているというのが多い。だけど、そういったもので見たエルフと比べると、耳がそこまで尖ってない。

 

 まあ、魔法については存在しているが、エルフという種族については流石に地球上には存在してないから何とも言えない。それに、明らかにエルフとは違う、透明な羽のようなものが見える。

 

「私たち妖精は、以前も言ったように妖精世界(フェリーク)で暮らしていました。色んな国や、色んな人たちが居ます」

「地球とあまり変わらないっていうのは……」

「はい。全てを含めてあまり変わらないって事ですね。基本はこの姿で出歩いているので」

「なんで、そんな二つの姿を持ってるの?」

「それは、生まれつき、としか言えません。どっちの姿で居ても魔法自体に支障はなく、普通に過ごせます。当然ですが、あちらの姿ですと身長もかなり低くなりますし、不便ではありますね」

「生まれつき……」

 

 地球で言う人間っていうのが、妖精世界では妖精というものだって事は分かった。まさか、そんな姿になれるとは思わなかったけど。

 

「そして私はどういう存在なのかと言うのは、気になっているでしょう」

「ん。ララに様付けで呼ばれてたから、偉い人?」

「偉い人ですか……ふふ、間違ってもいないですけどね」

「?」

「私の名前を一度読み返してみて下さい」

「ラビリア・ド・アルシーヴ・フェリーク……ん? ()()()()()()()()()()()?」

 

 そこではっとなる。

 アルシーヴ・フェリーク……それは、ラビが行き来できるあの不思議な空間である妖精(アルシーヴ)書庫(フェリーク)と同じ名前だ。

 何故、妖精書庫の名前が付いてるんだ? 国の名前とかなら王女様とかそういうのに当てはまるけど……もしかして、アルシーヴ・フェリークという国?

 

「私の名前に付いているアルシーヴ・フェリークというのは、妖精書庫と同じものです。その名前が私に付いている理由……それは私があの書庫の全権管理者(アドミニストレータ)だからです」

「全権管理者……」

「あの書庫内において、全ての権限を私が保有しています。記録の抹消や、記録の追加、内容の修正等ですね」

 

 という事は、あそこにあった本とかって全部ラビが?

 

「それは違いますね。確かに私が追加した物や修正した物はありますが、全権管理者というのは昔より代々引き継がれています。私の場合は二十代目となります」

「二十代目?」

「はい。なので、全部私が記録した訳ではないです」

 

 ニ十代目か……妖精の平均寿命は分からないけど、日本の男性の平均寿命である81……中途半端だから80として計算すると、80×20で1600……つまり1600年前から存在していたという事になる。

 

 ラビの話では妖精世界の天気や歴史、成り立ちや出来事などの全ての記録を残しているみたいだったし、あそこにはその1600年分の記録があるという事か。

 

 ちょっと数値の桁が……まあ、地球も何億年とかだからそれを比べると、何でもない年数なのかもしれない。

 

「私たちの役割は妖精世界の出来事を記録する事です。その時代には何が起きたのか、どんな魔法が生まれたのか、どういう事があったのか、そしてその時の天気はどうだったのか等、実際に起きた事を記録し、末代へと残す記録者(スクレテール)です」

記録者(スクレテール)?」

「はい。そのまま記録者という意味ですね」

「ラビは、妖精世界の記録を残していたって事?」

「そうなりますね。ただ、私の代ではそこまで大きな事件とか変化はありませんでした。あの妖精書庫内に私が書いたものは一応ありますが、本棚ニつ分くらいですね」

「それでも多いね……」

「そうでしょうか?」

「ん」

 

 まあ、天気とかの記録まで残す訳だし、本棚二つ分は少ないのかもしれない。そうなると、ラビの年齢が気になるけど……ラビとは言え、この姿を見てしまったら女の子に年齢は聞けないな。

 

「私の年齢が気になりますか?」

「いや……」

「ふふ、顔に書かれてますよ」

「……ん」

「私と司の仲じゃないですか。それくらいは教えますよ。そもそも、私の方はずっと色々と隠していたのですから」

 

 ラビ……なんだけどその姿で言われるとちょっとなんか変な感じがする。

 

「見ての通り人間ではありません。私の年齢は160歳になった所ですね。人間で言うと16歳辺りです」

「!」

 

 待て待て。160歳? そうなると、さっきの男性の平均寿命の計算が全然意味がないじゃないか。いやまあ、妖精の寿命を知らなかったから暫定的に計算しただけなのだが。

 

「妖精の寿命は平均で800歳前後です。地球の年齢に例えると80歳辺りになります」

 

 桁が違うけど、地球の年齢の例えの方を見ると地球とあまり変わらないのね。そうなると、800×20になるのか……いや、二十代目がラビだから19の方をかけるべきか。

 

 そうなると、15200年……お、おう。暫定計算の数値より、おおよそ十倍近くになっちゃったよ。

 

「160年で見ると本棚二つというのは少ない方ですね。平和だという証拠ですが」

「なるほどね」

「はい。私はそういう存在って事になります」

「ちょっと整理する」

「承知しました。まだ話してない事もありますし、ゆっくり話していきますね」

「ん」

 

 ここまでのラビからの情報を頭の中で整理する。結構な情報量……妖精というのは、地球で言う人間って事。そして見知ったあの兎のぬいぐるみのような姿と、今の女の子の姿を変える事が出来る事。

 今の姿の方が本来の姿らしい。何故、向こうの姿で地球に居たのかは分からないけど、でも彼女の耳は少し尖ってる。髪ではギリギリ隠せないくらいだから、確かにその姿で居るのは注目されるか?

 

 でも、喋るぬいぐるみもあれだけどね。これは、後で聞く事にしよう。

 

 ラビの本当の名前がラビリア・ド・アルシーヴ・フェリーク。そして妖精世界の様々な記録を代々残していく記録者(スクレテール)。ラビは二十代目。

 

 ラビの正体は記録者(スクレテール)

 あれでも、じゃあ、魔法少女を生み出したっていうのは……いや、これも後から聞こう。今はあくまで情報の整理だから。これだけでも大分多い情報量だな。

 

 何とか、整理できた所で再びラビを見る。すると、ラビはわたしに気付き軽く頷く。そして、話の続きに入るのだった。

 

 

 

 

 



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Act.11:ラビリア・ド・アルシーヴ・フェリーク②

ちょっと長くなってしまいました。


 

「私が記録者(スクレテール)というのは分かったと思います」

「ん」

記録者(スクレテール)がどういう身分なのかと言えば、特にこれと言ったものはありません。ララが様で呼んだのは、研究員からすればあらゆる記録を残す私は上の存在だからですね」

「つまり、一般人?」

 

 妖精なので一般人というのはおかしいかな? 一般妖精と言えば良いだろうか……。

 

「一般人とも違うんですよね」

「えっと?」

記録者(スクレテール)の身分は継承者によって異なります。この記録者(スクレテール)の継承がまた特殊でして、家族代々引き継ぐ訳ではないのです。当代の記録者(スクレテール)が死亡または、辞めた場合においてランダムで選出されるようになっています。どういう原理なのか、分からないのが殆どです」

「ランダムって」

「はい。規則性もなく、ランダムなのですよね。ただ魔力が多い者や質の高い者に継承する事が比較的高い傾向のようなものはあります。継承した者は、名前の後半がアルシーヴ・フェリークと変わります」

 

 ランダム継承の上に、名前の後半が変わるってなんか凄いな。あれ? そうなるとラビは継承する前に別の名前があったって事になるけど。

 

「私の旧姓と言うか生まれた時に付いていた姓としては、エステリアです。ラビリア・ド・エステリアでした。これでもエステリア王国第一王女です」

「第一王女……?」

 

 ちょっと待って。

 王女ってあれだよね? 王族っていうか、王様の王妃の一人目の娘……良く語られるファンタジーで出てくる王族は、王子の方が王位継承順位が高いけど、王子が居なかったら王位継承権第一位になるよね。

 

「名前こそアルシーヴ・フェリークになってますが、公の場ではエステリアを名乗ってました。記録者(スクレテール)になったからと言ってずっとその名前を名乗る必要はありませんからね」

「つまり、王位継承権を持ちながらも、記録者(スクレテール)としても過ごしていた……」

「その通りです。と言いましても、王位継承権第一位の兄が居ましたので、私は第二位ですけどね」

 

 王女+記録者(スクレテール)……何だか、ラビも複雑だなあ。本当は驚く所だろうけど、既にもう驚かされているのでもうこれ以上驚いてどうするのって所である。

 と言うか兄が居たのか……。

 

「ん……王女って事はそんな自由に動き回れないよね? 記録者(スクレテール)として活動できた?」  

記録者(スクレテール)になったのは家族全員が知っていましたので、ある程度は動けましたね。と言っても、おっしゃる通り、あまり自由には動き回れませんでしたが」

 

 それはそうだろうなあ。

 だって、王族でしょ。あまり詳しくは分からないけど、王族がそんな簡単に色んな所を自由に回る事は出来ないだろうし。まあ、これについては、良くあるライトノベルからの知識になるけど。

 実際は分からないが、ラビはこう言っているし、当たってるのかもしれない。所謂経験談というやつだ。

 

「なるほど……」

「私の正体についてはこんな所ですね」

 

 これがラビの隠していた自身の正体か。

 

「ありがとう、話してくれて」

「いえ。元はと言えば隠していた私が悪いのですから。もっと最初の頃に言っておくべきではありました」

「ん。隠したい事は誰にでもある」

 

 隠したい事は誰もが一つはあるはずだ。ないっていう人も居るだろうけど、大体は一つくらい隠し事はあると思ってる。

 

「やっぱり優しいですね。……何か質問とかありますか?」

「一番気になるのが魔法少女について」

「それは最もですね」

 

 魔物については、別世界の生命体っていうのが分かってるから置いとくとする。だって、ラビも魔物については何も分かってないと言っていたし。

 そうなると、やっぱり気になるのは魔法少女だよね。妖精世界にはそんな魔法少女のような存在は居ないみたいだし……強いて言うなら妖精全員が魔法少女のような感じか。魔法使えるし、二つの姿をチェンジできるし。

 

「魔法少女についてですが、これは地球に魔力が流れ込んだ際の副作用的なものになります」

「副作用?」

「はい。15年前……いえ、年が変わってるので16年でしょうか。魔物出現の日より少し前の話になりますが、一人の少女が殺されそうになりました」

「え?」

「人目の付かないような、薄暗い場所でしたね。周りに人の姿はなく、少女とその襲撃犯しか居ませんでした」

「……」

「実のところ、魔物出現の日以前にも魔物は存在していました。ただ強い物ではなく今の脅威度でみるとC以下の魔物でしょうか」

「あの日よりも前にも魔物が?」

 

 それは初耳だ。

 15年……いや、ラビの言う通り年が変わったから16年前というべきかな? ドラゴンのような魔物が出現し、国を半壊に追いやり、かなりの数の死傷者を出し、世界を戦慄させた事件。

 今の脅威度で判定すると、SSの魔物であるとされている。これはもう誰もが知っている事だけど、それ以前にも魔物が居たという。

 

「襲撃犯……いえ、それは魔物でした」

「!」

「脅威度が低いとは言え、何の力もない一般人が襲われればあっさりと死んでしまうでしょう」

「確かに」

「話を戻しますが、その少女を助けようと思いましたが距離があり、向こうはもう襲われる寸前でした。間に合わない……それで私は完全に運頼みで自身の魔力を彼女へ飛ばしたんですよ」

「魔力を……?」

「はい。多分私は、半分は諦めていたのでしょう。魔力なんか飛ばした所で何になるという話です」

「その子は……?」

 

 間に合わない。それで、ラビがした行動は自身の魔力をその子に飛ばす事。確かに魔力は何が起きるか分からない物だから、もしかしたらその子を助けれくれるかもという願いがあったのかもしれない。

 

「はい、その瞬間でした。少女が眩く光ったんですよ」

「え?」

「私も何が起きたのか分かりませんでしたが、光が消え、そこに居たのは変わった衣装を着た少女でした」

「もしかして、魔法少女……?」

「はい。その魔法少女の名前は……アリス・ワンダー」

「アリス・ワンダー……?」

 

 アリス・ワンダー、だって?

 その名前何処かで聞いた事あるような……。

 

「アリス・ワンダー。原初の魔法少女にして、地球上一人目の魔法少女です」

「!」

 

 そうだ。原初の魔法少女の一人にその名前があったはずだ。確か不思議の国のアリスのような衣装で、トランプやら剣を主に使い、戦っていたとされてる。

 他にもぶら下げている懐中時計を使用して、時間を止める事が出来たとも言われていた。時間を止めるとか、それチートじゃね? まあ、原初の魔法少女は異常な強さを持っていたらしいので、それくらいは普通なのかも。

 

「今は何処で何をしているか分かりませんが……私があの姿で居たのは彼女の助言からです。こっちの姿ではこの耳がどうしても目立ってしまいますからね」

 

 そう言って尖っている耳を見せるラビ。

 やっぱり、その耳が目立つからあっちの姿になっていたのか……あっちもあっちで喋るぬいぐるみっていうのも何か変な気はするが……でも、良く考えればぬいぐるみとして居れば特に怪しまれないか。

 

「アリスは私が助けようとしていた事に気付いていたみたいで、私に接触してきました」

「それで?」

「何やかんやありまして、彼女と一緒に過ごす事になりましたね」

 

 何やかんやって……。

 しかし、ここに来て原初の魔法少女の名前が出てくるとは。

 

「そこから彼女との魔物退治が始まりました」

「魔物出現の日より前に居たんだね」

「はい。地球では16年前でしたが、歪に呑まれた影響なのか、妖精世界で起きた魔法実験失敗の時間と少しばかりずれが生じていたみたいです。魔物がその時に居たのも、歪の影響の可能性がありますね。分かりませんが」

 

 という事は、原初の魔法少女は脅威度SSのドラゴンの魔物が出た時に誕生した訳ではないって事か。

 

「それで、色々と確認した所、どうやら私の魔力の影響でアリスは魔法少女になった事が分かりました。恐らく、私たち妖精のように二つの姿を切り替えられるようになったのでしょうね。それが幸いして、彼女は助かりましたし、その後に起きたSSの魔物にも対処できた訳ですけど」

「なるほど……他の六人も?」

「はい。私が干渉した事によって魔法少女となりました。そして魔物出現の日、丁度その時に妖精世界の魔力が一気に流れ込んできたようです。その頃から各地で魔法少女が突発的に誕生するようになり、魔物も出現するようになりました」

 

 それで魔法少女が生まれ始めたという事か。

 

「ただ知っての通り、私が干渉してない魔法少女と干渉した魔法少女では、その強さとかが違ってます。今の司と魔法省の魔法少女のような感じです。色々と試した上で出た結論は、私たち妖精が干渉すると強力な魔法少女が生まれるという物でした」

「ふむ」

「少し長くなりましたが、それが魔法少女と言うものです。名前をつけたのは私ではなくアリスなんですけどね……それが今やこうやって世界的に呼ばれるようになりました」

「やっぱり原初の魔法少女の影響だったか。もしかして、魔力って呼んでいたのも?」

「魔力についてもそうですね。私が妖精世界での呼び方をアリスに伝えてから、広がりました。こっちについてはちゃんとした名前です。まあ、地球上にはなかった物ですが」

 

 少し前にも言ったように魔力という名称は、原初の魔法少女がそう呼んでいたから広がったのだ。今ではもうそういう名称で辞書とかにも書かれてしまってる。

 で、魔法少女についてはちゃんとした名前はなくアリス・ワンダーがそう名付けたのが広がったみたいだ。こっちもこっちでもう、今では普通に辞書とかにも乗ってるし、そう呼んでる人しか居ない。

 

 原初の魔法少女ではなく、主な原因はその一人目だったか……どういう人物なのかは分からないけど、ラビを見る限りでは悪い子とかではないみたい。

 

「ん。理解した……ありがとう」

 

 魔法少女と言うものの謎が解けたので良しとする。

 思ったより、何ていうか適当な……と言ってはアリス・ワンダーには申し訳ないけど、その彼女から広がったっていうのは分かった。

 

 大きな謎の一つは取り敢えず、解けたと思うけど……うーん、やばいな。情報量が多くて頭がパンクしそうだ。さっき整理したばかりなのに。

 

「少し、休ませて」

「そうですね、結構長くなってしまいましたし、一旦休憩しましょうか」

「ん」

「隣、失礼しますね」

 

 そう言ってわたしの隣に座るラビ。

 しかし、ぬいぐるみの時の姿とはかけ離れてるなあと思いつつ。それを言ったら、魔法少女だって現実の姿から離れてるから、なるほど、そこがそっくりだ。

 

 わたしの場合は目の色以外変わらないけど。とは言え、細かく見れば結構変わっているけどね。

 

 もう少し聞きたい事があるので、休憩してから続けよう。今はちょっと疲れたので、休憩させて欲しい。

 




ついに原初の魔法少女の一人目の名前が明らかになりましたね。


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Act.12:ラビリア・ド・アルシーヴ・フェリーク③

 

「エステリア王国第一王女で、記録者(スクレテール)で、全権管理者(アドミニストレータ)で、妖精で……何か凄いね」

「あはは……改めて見てみると、確かにこれはあれですね」

 

 休憩を終え、再び隣に座るラビと話し始める。

 何というか、肩書が多いなと思いつつ……ティアラを付けていたのは、王女だったからなんだね。というか、王女って事はわたしのこのラビという呼び方はまずいのでは?

 

「妖精世界はもうありませんし、誰も気にしませんよ。記録者(スクレテール)についても、その記録する世界がありませんし……今の私にあるのは妖精(アルシーヴ)書庫(・フェリーク)全権管理者(アドミニストレータ)だけです」

 

 記録する対象がなくなってしまえば、確かに記録者(スクレテール)として記録する事が出来ない。王女についても、その国があった世界自体がなくなってしまってる。

 そうなると、もう記録する事が出来ないのではないだろうか? ……いや、正確には滅んだという記録を残す事は出来るか。

 

「もう記録者(スクレテール)としての活動はできない?」

「そうですね……対象となる世界が滅んでしまってますから。ですが今回、妖精世界が元に戻ればまた記録はできます」

 

 それもそうか。

 もとに戻せるかどうかは分からないが、戻す事が出来たのなら……確かに記録は続けられる。だけど、記録は続けられるとしても世界には誰も居ない訳だが……。

 

「例え何があっても記録する。それが記録者(スクレテール)の役割です」

「ん……」

 

 ラビのその強い意思を感じれる。

 これはもう彼女が決めた事だって言うのは分かったので、わたしが口出すつもりはない。仮にわたしが口出した所で、何も変わらないだろうしね。

 それならわたしは、ラビ自体をサポートできれば良いと思う。

 

「滅んだっていうのも記録したの?」

「はい。魔法実験の事、失敗して世界が三つ隣り合わせになった事等、起きた事は記録してますよ」

「まあ、そうだよね」

 

 記録者(スクレテール)とはそういう仕事なのだし。

 

「ん。大体は理解できた」

「そうですか?」

「ん。あ、そうだ。魔石って言う名前が広がったのは。それもやっぱり?」

「魔石はそうですね。こちらは魔力と同じで、私が魔石の事を話したので、それが原初の魔法少女を通して広がったのだと思います」

 

 魔法関係については、大体は原初の魔法少女から広まってるみたいだし、まあ予想通りではあった。それに、魔石については妖精世界にあった訳だから。

 

「魔石って、魔物から出るよね? なんで?」

 

 疑問に思うのは、魔石というのが魔物から落ちるという事。

 妖精世界に魔物がいて、その魔物が落とすならまだ分かるが、妖精世界には魔物は居ないみたいだし、奴らは別世界の生命体。何故そんな別世界の生命体が、妖精世界にあった魔石を落とすのだろうか。

 

 まあ、魔物については謎が多いしラビですら分かってないのが多いから聞いても意味がないと分かってるけど……。

 

「以前にも言った通り、魔物については謎が多いのです。何せ妖精世界にも地球にも存在しない生命体ですから、調べようがありません。なので、どうしてそんな魔物が妖精世界にあるはずの魔石を落とすのかは、分かってません」

「だよね。分かってた」

 

 でもやっぱり気になるよな、魔物という生命体。魔力を狙っているというのは分かってるが、魔物の根本的な所は分かってない事が殆どだ。宇宙のように……宇宙だってまだ1%すら解明されてないみたいだし。

 ただ、今、対魔物以外にも、魔力の使い道とかが考えられているようなので、もしかすると宇宙の理解に一歩進むかもしれないというのもある。

 魔石という物を車とか、飛行機とかに仮に使えるとなれば劇的に環境は変わるだろうし……と言っても、魔石の管理は魔法少女たちと同じで、魔法省に一任されているが。

 

 そして当然だが、魔法少女や魔物優先である。魔石は、魔法少女の魔力を回復させたり魔物相手に有効打を与えられるかもしれないとされてるので、優先順位は圧倒的にそっちの方が高くなる。

 

「ただ考えられるのは、前にも少し言ったかもしれないですが、魔物も妖精世界の魔力を取り込んだからかと思ってます」

「そう言えばそんな事を前に言ってた」

「これは仮説ですけどね。大半の魔力は地球に流れ込んで来てますが、少しはもしかしたら魔物の世界にも流れたのかもしれません」

「なるほど」

 

 それなら、妖精世界の魔力を取り込んだ魔物が何らかの変化を起こして魔石を落とすようになったと考えられる。

 

「魔物についてはいくら考えても分かりません」

「まあね」

 

 取り敢えず、一通り理解できたかなと思う。

 中々、複雑だったり細かったりとかしたが、大きな謎が少し解けたと思う。魔法少女の誕生や、原初の魔法少女。ラビの正体もそうだ。後はララもそうかな? ララは研究員だったみたいだし。

 

 一先ず、これで一旦全てを整理する事にしたのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「今何処で何をしてるのかなぁ」

 

 ぼんやりと、スクリーンを見ながらふとそんな事を呟く。

 

「日本に居そうな気がしたんだけど」

 

 まあ、あくまでそんな気がしただけだけど。

 今の私はかつての私ではない。魔法省の一人の技術者……と言っても、最近はこの地域での魔物が確認できてないので暇なのも確かだったりする。暇だからこそ、魔導砲の研究が進められるという利点もあるけど。

 

 魔導砲。

 魔石をエネルギーとして放つ大砲と言えば良いか。人類が魔物に対抗できるかもしれない一つの希望である。試作型のテストが以前、東京地域にて行われその有効性が認められた。

 魔法少女と比べれば些細な物になってしまうが、それでも今まで手も足も出せなかった私たちが、魔物に対してダメージを与えられたのだ。

 

 威力はまだ要研究だけど、それでも対抗手段が生まれるかもしれない。それだけでも、私たちとしては大きな一歩だ。依然と魔法少女たちに頼りきりではあるけど、いつかは私たちも共に戦えるようになるかもしれない。

 

「まあ、私は技術者だから前線には立てないかも知れないけど……」

 

 技術者というのは、何処の国でも貴重な存在だ。

 今や普通に走っている車や、空を飛ぶ飛行機や船……それらの便利な物があるのも技術者が居たからこそである。更なる発展を目指す事も出来るしね。

 

 そんな技術者が戦いの場に出るのは、失うリスクが高いだろうし、何より技術は財産だから。

 

「少しでも彼女たちの負担が減れば良いな」

 

 戦いには出られないだろうけど、技術で魔法少女たちを支える事は出来る。

 魔導砲の試作型も出来上がっているので、後はテストなのだが……色々とあってまだ運転できてないのが現状。つい最近、Cの魔物が出たのでその時に魔法少女と共に一度だけ試運転が出来たくらいだ。

 

 ここ最近、この地域の魔物は劇的に減少している。全く出現しない日も続いていたし……大晦日とか、以前のあの時の魔物の数は一体何だったのかという話だ。

 でもまあ、前はこの地域では0体というのも普通にあったので、その時に戻ったという事でもあるけど。大晦日に出現した脅威度Sの魔物二体が影響しているのだろうか。

 

 まあ、当然油断は出来ないので、引き続き警戒はしているけども。

 

 因みに魔導砲の効果はそれなりにあったようで、脅威度Cの魔物には結構な打撃を与えられた。と言っても、データが一個しかないので何とも言えないけど。

 

 同じ魔物でも特性が違ったり、耐性があったりとかある事が分かってるのでより多くの実験データが必要である。他の地域では減少傾向ではあるものの、普通に魔物が出現しているのでこの地域もまた後で出現し始める可能性は十分ある。

 

「備えあれば憂いなしってね」

 

 油断できない状況。

 時間がある今だからこそ、より良いものを作れるように頑張らねばならないだろう。

 

「ん? ……リュネール・エトワール、か」

 

 偶々開いていたデータベースにその名前があり、操作を止める。

 星月の魔法少女……隕石を降らせたり、熱線を放ったり、大爆発を起こしたりとてつもなく異常な強さを誇る野良の魔法少女。と言っても、聞いた情報でしか分かってないからあれではあるけど。

 

「あの子にそっくりだなー」

 

 一人の魔法少女を思い浮かべる。

 そう言えば彼女も、隕石降らせたりしてたな……他にも色々とやってた気がする。今も元気にやってるみたいだけど、何処かで暴れてないか心配。

 

 大丈夫だと思いたいけど。

 

「アリス居るー?」

「居ますよ」

 

 この地域の支部長の声が聞こえたので、私はそちらに向かうのだった。

 

 

 

 



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Act.13:日本に来た理由

 

 原初の魔法少女。

 16年前に起きた魔物の出現の際に、魔物を倒したと言われている地球最初の魔法少女たちである。その人数は七人と、今のLクラスの魔法少女と同じ人数である。

 その事から、Lクラスの魔法少女はその原初の魔法少女たちではないのか? と考えられているが、世界魔法機関は何も言わないので謎のままである。

 

 世界魔法機関。

 簡単に言ってしまえば、魔法省の世界的組織と言えば良いかな? 魔法省という名前は、日本でのものであり他の国では同じような組織はあるけど、名前は国によって違う。

 それらをまとめて管轄するのが世界魔法機関。と言っても、ただあるだけのような組織である。世界の情報共有とかそういうのを目的として、作られた組織である。

 

 魔物の対応は、それぞれに任されているからね。

 

 ラビの話に出てきたアリス・ワンダーというのは、そんな原初の魔法少女のうちの一人で、更に言うと地球初の魔法少女だ。原初の魔法少女の中でも最初に生まれた魔法少女である。

 そして今の魔法少女という呼び名を広めたのはこのアリス・ワンダーっていうのがラビとの話で分かった。魔力や魔石については、それ自体を広めたのは原初の魔法少女だが、その大元はラビが教えたからだ。

 

 一人目の魔法少女アリス・ワンダーは、不思議の国のアリスのような水色のワンピースに白いエプロンドレスを身に纏い、武器としては片手剣を使用し、懐中時計を使う事によって時間を止められたらしい。

 時間を止めると言っても、無制限っていうのは無理だったようだが……それでも十分強い。攻撃を食らいそうになった時とかに時間を止めて移動して回避したり出来るし、止めて近付くなんて事も可能だろう。 

 

 データでは、片手剣と時間停止を組み合わせて戦っていたという。剣という武器と時間停止は、割と相性が良さそうだ。

 

「ラビはアリス・ワンダーに会いたい?」

「そうですね……会いたくないと言えば嘘になりますが……今何処で何をしてるか分かりませんね」

「ん……」

 

 原初の魔法少女については、現在消息不明となってる。これは世界魔法機関が隠蔽しているのか、それとも本当にわからないのか。もしくは、原初の魔法少女たちに言わないで欲しいと言われてるのか……。

 どっちにしろ、原初の魔法少女については謎である。もしかすると、死んでいるかもしれないし。

 

「と言っても、確かに会えないのはあれですが、今は司が居ますし」

「う、うん」

 

 そんなキラキラした笑顔を見せないでくれ。一瞬ドキッとしたわ。

 

「そう言えば、司のように隕石を降らせる原初の魔法少女が居ましたね」

「え?」

「司ほど曖昧ではありませんが、似たような魔法を使う子が居ました」

「ん。それって、ノア・アストラル?」

「確かそうですね。星の魔法を使う子で、隕石降らしは勿論、司みたいに謎のビームとかも放ってました。かなり強力でしたね」

「ほへぇ……」

 

 ノア・アストラル。

 原初の魔法少女の一人で、星を操る魔法少女だ。確かにわたしに似ているかもしれない……同じように隕石を降らせたり、爆発を起こしたり、何なら星を召喚して自在に操ったりもしていたそうで。

 要は星に関する魔法を使えていたと言われてる。と言ってもわたしのように回復魔法が使える訳ではなく、完全に攻撃特化の後衛魔法職みたいな感じだ。

 詳しく載っている訳ではないので、データとして載ってるもの以外にも使える魔法はあったと思われる。代表的な魔法を記載しているだけだからね。

 

「そう言えば……話を変えるけど、妖精世界って酸素とかあるの?」

 

 今更ながらあの時、聞いてなかった事を思い出す。魔力装甲があるから有害な物質とかからは守ってくれるのは分かったが、それ以前に人間は居られる環境なのか? という点になる。

 

「そう言えばそれについては、何も言ってませんでしたね。私たちなら問題ないと思いますが、人間は酸素というものがないと駄目でしたね」

「ん。人間と言うか、呼吸する動植物全てに言えるかな」

 

 人間含む動物や、植物は酸素がかなり重要というか必須レベルである。それは魔法少女になっていても変わらないと思うが……曖昧なのは、そんな事誰も試したりしていないからだ。

 

 酸素のない所に魔法少女を連れて行った場合どうなるのか? そんな人体実験のような事が出来るはずがないので、謎のままである。考え自体は、幾つかあるけども。

 例えば魔力装甲は、魔法少女を守るための物だ。それなら酸素がない所に行った場合、その魔力が酸素を生み出すかもしれないとかね。魔法少女を守ってくれているなら、それも考えられるという事。

 

「先に行くのは私たちなので、大丈夫だと思いますよ。ただ確かに酸素とかそういうのがない場合は困りますね……」

 

 妖精世界は空気の代わりに魔力があった。そういうのもあり、妖精にとっては魔力が酸素のようなものになってるらしい。周囲に魔力がなくても、自身の魔力で大丈夫みたいだ。

 勿論、そんな自分自身の魔力がなくなれば危険になるが。

 

「ん」

 

 もし魔力装甲が魔法少女を守るために酸素を生み出したりしてくれるなら良いのだが、あくまでそれは一つの諸説に過ぎない。そのまま行くのはちょっとリスクがある。

 そこの所、ララとブラックリリーは考えているのだろうか。

 

「こういう時、あの子が居てくれると強いんですけどね」

「あの子?」

 

 こういう場合に対処できる魔法少女なんて居ただろうか。

 ブラックリリーは空間を操作できるけど、酸素とかそんなのに干渉出来るとは考えにくい。ホワイトリリーは白百合の花弁を自在に操っていたり、ビーム撃ったり出来るが、酸素とは全く関係ない。

 ブルーサファイアに至っても、身を守るために宝石のサファイアをモチーフとしたバリアを張ったり、それらを操って飛ばしたりも出来るし、おなじみのビームのようなものも撃ったり出来るけどやっぱり酸素とかとは全く関係がない。

 

 と言うか……魔法少女全体に言えるけど何で皆普通にビーム撃てるのか。いやそれ言ったらわたしも、人の事言えないんだけどね。

 

 ビームが基本攻撃手段という事だろうか。ただ、ビームの色とか威力は人によって異なるみたいだけど。

 

 でもラビがあの子と言ってるから、魔法省の魔法少女ではないだろう。そうなると考えられるのは……原初の魔法少女か。ラビと直接関わりのある魔法少女たちだしね。

 

「フィア・エレメンタル。聞いた事ありますよね」

「ん。原初の魔法少女……」

「はい、その通りです。彼女は元素というものを生み出したり操ったり出来ました。恐らく七人の中では最も汎用性の高い魔法少女だったかと思います」

 

 確かにその子が居れば、酸素を生み出したり出来たかもしれない。しかし、フィア・エレメンタルか……元素というものを操れた魔法少女。ラビの言う通り、一番汎用性や応用性の高い魔法少女だろう。

 

「と言ってもアリスと同じで、何処で何をしているか分かりませんけどね」

「ん。そう言えば、どうしてラビはアリスの所から離れたの?」

 

 そう一番の疑問はそれだ。

 話によれば、ラビは16年前は原初の魔法少女のアリス・ワンダーと一緒に過ごしていた。何故、わざわざ離れて日本にやってきたのだろうか。原初の魔法少女は日本には居なかったはずなので、原初の魔法少女は間違いなく海外の子だ。

 

「そうですね……アリスに言われたというのもありますが、地球という世界を見ておきたいという私的理由もありました。そして行き先で魔法少女を生み出そうという目的もありました」

「ふむ」

「私は知っての通り、魔法も使えますし空も飛べるので移動には困りません。妖精という存在が目立つのも良くないので、姿を消したりとかしてましたね。それで、資質のあった子たちに問いかけて、任意で魔法少女になってもらってました」

「そうなんだ……あれ、ラビが干渉した魔法少女って事は……」

「他の魔法少女より強力な子がほとんどですね。そうしていく内に、私が干渉すると強い魔法少女になるっていうのが分かってきました。理解してからは、ちょっと控えめにしてました」

「なるほど」

 

 ラビの色々と確認っていうのはそういう事だったか。

 実際に魔法少女を生み出した実体験の元で、出した結論。それがラビが干渉すると周りとは異なり、強力な魔法少女が生まれやすいという事が分かった。

 

「私があなたに干渉したのは、既にその時に言った事が理由です」

「ん。魔力が多いっていうあれ?」

「はい、その通りです。まあ、まさかこうなるとは予測できませんでしたが……」

 

 そう言ってわたしを見てくるラビ。

 うん。自分も、こうなるとは予測できなかったよ。

 

「でも司が決めた事ですから」

「ん。迷惑かけた」

「いえ、大丈夫ですよ。それで、日本来た理由は流れですね」

「回っている内にここに来た、と」

「そうなります」

 

 なるほどねえ。

 疑問が解けてすっきりした。

 

 ラビについてはもう大分理解できたと思うし、話を戻すが妖精世界の状況がわからないのが今だよね。滅んだっていうのは分かってるし、それを復活させようとしているのがブラックリリーとララっていうのも分かってる。

 

 先に行くのはラビたちみたいだけど……うーん。

 次会う時に、そこも含めて聞かないとね。後、ホワイトリリーとブルーサファイアと会う日の確認もしないと。

 

 今度の土曜日の15時頃……集合場所はどうするかっていうのも考えなくてはいけない。まだ、やる事は多いな。

 

 




次回ようやく、進む予定です。
今回も何だか少し長くなってしまった……。




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Act.14:ブラックリリー①

「ん」

 

 ラビと色んな話をした日の翌日。

 窓から差し込む光に照らされ、自分の部屋のベッドの上で目を覚ます。ただそこで、違和感に気づく。

 

「……」

 

 何か妙に窮屈だなと感じ、慌てて布団をめくるとわたしの方に顔をうずめてるように寝ている、一人の少女がそこには居た。金髪碧眼……そのティアラ、どうなってるの? 横になってるのに外れないって。

 

 って、そうじゃなくて。

 

「ラビ……?」

 

 そう。

 そこに寝ていたのは昨日、妖精書庫内でわたしに見せた本当の姿の少女状態のラビだった。しかも、さっき思わず突っ込んでしまったように、彼女の付けているティアラが、横になっていてもピッタリくっついているかのように、落ちる気配がない。重力無視してるよ、このティアラ!

 まあ、妖精世界のティアラだから何らかの細工がされているのだろうけどね。ティアラについては確かに気になるけど今は、それ以前の問題である。

 

「んぅ。おはようございます」

「ん。おはよう。……何でわたしのベッドに居るの?」

「え?」

 

 ラビを軽く揺すると、眠そうな顔をしつつ起き上がる。そこで、わたしの気付いたようで、挨拶してくるけどそうではなく、何故わたしのベッドに居るのかという話だ。

 そう言えばラビが寝る所は見た事ないな……ぬいぐるみの姿だったから、知らない内に寝ているんだと勝手に思ってたが、今回は別である。今のラビはぬいぐるみではなく、人型だ。

 

「あわわ!? ご、ごめんなさい!」

「ん……」

 

 ラビよ、ぬいぐるみの時のキリキリ? した感じの性格は何処行ったんだ。昨日初めて見たばかりだから、今のラビの姿にはまだ慣れてない。

 

「……別に良いけど」

 

 普通ならこちらも慌てるかもしれないけど、何故かそんな事はなかった。ラビと過ごしていた時間が長いからかな? まだ数ヶ月だけど……アリス・ワンダーとはどのくらい一緒に居たんだろうか?

 間違いなく、魔物出現の日までは一緒に居たとは思うけど……。

 

「久し振りにこの姿になったので、アリスと一緒に居た時の感覚で、ベッドに入っちゃったみたいです」

「ふむ。一緒に寝ていたと……その姿で?」

「はい……すみません。司は何だかアリスと同じ感じがするものですから」

「そうなの?」

 

 魔法少女アリス・ワンダーという名前は原初の魔法少女だから誰もが知ってると思うけど、その性格とかは実際その時に一緒に居た人じゃないと分からない。

 どういう人物なのか分からないが……そんな彼女と同じ感じがする、と。

 

「はい……不思議と居心地が良いんですよね」

「でも、アリス・ワンダーって女の子だよね?」

「そうですよ。変身前も普通に」

「何か可笑しくない? わたしは確かにこの道を選んだけど元は男だよ?」

「それはそうなんですけどね……」

「別に悪い気はしないけど……」

 

 自分で選んだ道とは言え、元は男である。異例な例だろうし、アリス・ワンダーと同じ感じがすると言われてもいまいち何も感じない。そもそも、そのアリス・ワンダーがどういう人物なのか、不明だけど。

 

「ん。取り敢えず起きようか」

「はい」

 

 それは一旦置いとくとして、わたしはベッドから立ち上がる。原初の魔法少女の名前が三人出てきたのは意外だったけど、まあでもラビが生み出した魔法少女な訳だし、出てきても可笑しくはないか。

 

「慣れてる自分の適応力が謎」

 

 一度一階にある洗面所に向かい、顔を洗ってから再び自分の部屋へと戻ってくる。

 今着ているパジャマを脱いで、適当に選んだ服を着た所で鏡の前に座る。パジャマも服も、わたしが選んだ訳ではなく、ほぼ全て真白が選んだものになってる。

 だけど、それが割と災難というか……何というか。色とかはわたしの好みに合わせてくれてるみたいだけど、他は完全に真白の趣味で選ばれている。その結果、何ともまあ女の子っぽい服が揃ってる訳で。

 

 ズボンとかもあるけど、数は圧倒的に少ない。

 うん、自分が選ばなかったのが悪いんだけどさ……後で、自分なりの服も買おうかなと思いつつ。今は取り敢えず、いつものように着替えをしてから髪を梳かす。

 

 手入れもちゃんとするようにと真白に言い聞かせられてるし、ラビが居るからやるしかないのだ。

 

「大分慣れてきてますね」

「ん……まあ」

 

 櫛で自分の髪を梳かしていると、ラビにそう言われる。自分でも驚くほど慣れるのが早い事に少し驚いているが、悪い事ではないので別に気にする所ではないか。

 

 それにしても、毎回思うけどこの髪、かなりサラサラしてるな……いや、自分の髪なんだけどさ。男の時とは全然違う感じ……ふむ、これが女の子というものなのだろうか?

 

 ……まあそれは良いとして。

 

「髪とかは結ばないんですか?」

「ん……こっちが気に入ってるから」

「そうですか」

「何故そんな残念そうな顔する……」

 

 面倒っていうのも確かにあるけど、ほらリュネール・エトワールの時だって結んでないし、こっちの方が自分的には良いんだ。それを言ったら、何故か残念そうな顔を見せるラビ。

 

 結びたかったんだろうか。

 

「と言うか……ラビ、その姿でずっと居る感じ?」

「そうですね、久し振りにこの姿になれたので。ただ知っての通り目立つので、外に出る時は向こうの姿になりますよ」

「そっか」

 

 気持ちが分からない訳ではない。

 折角元の姿に堂々となれた訳だから、その身体で居たいというのは同感。しかし、ぬいぐるみの時との差が凄いな……いやまあ、向こうは演じていたのかもしれないけど。

 

「全然性格違うよね……違和感がある」

「それは自覚してます。アリスにも違和感凄いと言われました。アリスの場合は向こうの姿の口調に、ですけどね」

「わたしとは逆だね」

 

 わたしの場合は今の口調に違和感がある。

 アリス・ワンダーと会った時は、今の姿らしいし、わたしの時は向こうの姿だったからだけど。

 

「今日もブラックリリーと会うんでしたよね。また夜とかですか?」

「夜にしようと思ったけど今日は昼間かな。14時位」

「珍しいですね」

「ん。と言っても、まだ時間あるのは変わらない」

 

 今はまだ朝の8時だしね。

 身だしなみを揃え終えた所で、わたしたちは部屋を後にする。そのまま階段を使って一階へと降りるのだった。

 

 

 

□□□

 

 

 

「香菜、おはよう。今日は体調とか大丈夫?」

「うん、今日は結構良い方かな」

「良かった。じゃあ、母さん仕事に行ってくるから、気を付けてね。何かあったらすぐ連絡してね」

「ありがとう、お母さん」

「いいのよ」

 

 そう言ってお母さんは仕事に出ていき、家の中には私だけが残される。いつものようにベッドに寝ながら天井を見上げる。うん、今日は結構良い方かな。

 

「大丈夫かい?」

「まあね……大分慣れてる。慣れちゃいけないんだけどね」

 

 すぐ近くに居るララが私に気を遣ってくれる。

 こんな生活が続いてどのくらい経ってるだろうか。今に始まった事ではないから別に、どうという訳ではないけど。体調が良い時とかは普通に外出したりしてるしね。

 

「今日も彼女と会う予定があるんだろう?」

「うん」

 

 リュネール・エトワールの事を思い浮かべる。

 良く分からない子である。並外れた魔法とかを使って魔物をバッサバッサと倒している、野良の魔法少女。この茨城県ではかなり有名だと思う。

 

 この間、思い切って協力をお願いしたらあっさりと承諾されて拍子抜けである。むしろ、もっと早く言ってくれれば良かったのにと言ってくれる始末。

 

 何度か一緒に行動したりしたけど、あの子、かなりのお人好しだ。

 将来が結構心配なのが本音。勿論、承諾してくれたのは本当に嬉しかったし、何なら魔力もその時に入れてくれたし。私たちがこれまで集めたものの量をあっさりと一回で超えられたのには流石に度肝を抜かれた。

 

「規格外だよね」

「彼女はそうだね……原初の魔法少女にすら届くんじゃないかな」

「原初の魔法少女、ね」

 

 推定Sクラス魔法少女と言われてるけど、多分あの子もっと上の方だと思う。

 SSクラス魔法少女よりも、更に上……Lクラス魔法少女並なのではないだろうか。でもLクラス魔法少女って謎が多いんだよね……野良だから情報にも限界があるんだろうけど、それでもLクラス魔法少女については、誰もが謎と言ってる。

 

 ネット上を見ても分かるように、話題にならない。驚くほどならない……本当に存在しているのかと疑う人も居るし。

 

 SSクラス魔法少女やSクラス魔法少女は頻繁に話題になるんだけど、やっぱりLクラスは滅多に話題にならない。過去の情報とかを見ても曖昧だったりしてるし。

 

 そんな謎のLクラス魔法少女よりも、原初の魔法少女と例えた方が良さそうだ。ただ気になるのは、そんな原初の魔法少女とLクラス魔法少女の人数が同じ七人という事。

 これについては様々な議論があったりなかったり。Lクラス魔法少女は、原初の魔法少女なのではないか? とかね。原初の魔法少女だって並外れた力を持っていたとされてる。ただし、現在の消息は不明。

 

 消息不明な原初の魔法少女と、謎多きLクラス魔法少女。何か引っかかるのは私も同じである。

 

「考えても仕方ないかな」

 

 分からないものをいくら考えても結果は変わらないだろう。取り敢えず、身支度を済ませようと思い私は起き上がるのだった。

 

 

 

 



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Act.15:ブラックリリー②

 

 私は生まれつき身体が弱かった。

 それは今も変わらず、ちょっとした病気でも倒れたり寝込んだりする程だ。昔と比べれば、結構マシな方になってきているけど、それでもやっぱり身体が弱いのは変わらない。

 

 そのせいでお母さんには結構迷惑かけてしまってるし、申し訳ない気持ちでいっぱいになってる。でも、お母さんは「気にしないの」といつも言ってくれる。

 

 学校に行っても、しょっちゅう身体を壊したりしていたし、大体は保健室にいたと思う。それでも、何とか義務教育である中学校は卒業できるように私なりに頑張っていたつもりだ。

 

 結果的には、中学校は無事卒業できたから良かったと思ってる。高校については、この調子で行っても単位不足になりかねないので、断念した。それでも、一応勉強とかはしていたけど。

 

 ……仲良くしたいなあ。

 

 再びリュネール・エトワールの事を思い返す。

 私はそういう事もあって、友達と呼べる存在は居なかった。僅かな絡みのある子は居たけど今では何をしているか分からない。連絡先交換している訳ではないので、当たり前なんだけどね。

 

 色々とやらかしてしまってるけど、彼女だけは何故か優しくしてくれる。いや、あれはもう優しいとかじゃなくて単にお人好しなだけなんだろうけど。

 それでも、一緒に居た時とかは嫌な感じはせず、むしろもう少し一緒に居たいと思い始めてしまっていた。

 

 本音を言ってしまえば、友達になってほしい。

 そういう存在に憧れていたというのもあるけど、何故だかあの子に惹かれる。

 

「はぁ」

 

 あーだこーだ考えていると、自然とため息が漏れる。

 友達になりたいというのは、私の紛れもない本心なのはもう分かってる。私が前にやらかしている事を知っていても、彼女は何事もなかったように接してくれている。

 こればっかりは、彼女が野良の魔法少女で良かったなって思ってる。もし、リュネール・エトワールが魔法省に所属していたらどうだったろうか。私の事やっぱり捕まえるだろうか。

 

 今日会う時に思い切って言ってみようかな?

 

「さっきから何考えているのさ。まあ、彼女の事だと思うけど」

「ぅ……分かる?」

「うん。分かりやすいし、君がそこまで悩むのは彼女の事だろうし」

「そっか……ねえ、あの子友達になってくれるかな?」

「どうだろうね。向こう次第じゃないかな……というか既に向こうは君の事友達だと思ってそうだけどね」

「ん? 何か言った?」

「ううん。大丈夫じゃない?」

「そうかなあ」

 

 何かさっきララが後半、何か言ってたような気がするけど……気のせいかな? 向こう次第……まあ、それはそうだよね。私が友達になりたいと思ってるだけで向こうは、そうじゃないかもしれない。それがちょっと怖い。

 

「君の場合、肝心な事を言う前に、止めてしまう傾向にあるからそれをどうにかした方が良いかもしれないよ」

「う……」

 

 そうなのだ。

 聞いてみたいとか話したいとか思っても、それを口に出せない。こういうのなんて言うんだっけ? コミュ障? でも確かに私はコミュ障なのかもしれない。

 身体が弱い事もあって、あまり教室に居ない。入学式の時だって、途中で体調を崩してしまい、そのまま家に帰ったくらいだから。次の日に登校してみれば、既に知り合いは知り合い同士で一つのグループのようなもの出来てたし。

 

 同じ小学校の子も居たけど、小学生の時は今よりもかなり酷いレベルで身体が弱かったので、ほぼ保健室か早退だったから絡む事はあまりなかったし。

 まあ幸いなのは、いじめというものに合わなかったという所だろうか。私みたいな人は良くいじめの対象になりやすいっぽかったし……身体が弱いのは真面目な話だったので、それの影響もあったのかな。

 

「早い所、自分の気持ち伝えた方が良いんじゃないかな」

「そう、だね……」

 

 こんな私でも仲良くしてくれそうな子だ。

 断られるのは怖いかもしれないけど、言わない事には何も始まらない。ララの言う通り、ズバッと言った方が良いのかもしれない。

 

「それに、他の二人の子とも会う予定あるんでしょ」

「まあね」

 

 リュネール・エトワールを介して、私に会いたいと言ってた魔法省の魔法少女の二人。何故か分からないけど……彼女と行動していたからかな?

 行かないという選択肢もあったけど、魔法省側は私の事をリュネール・エトワールと行動していた事以外は知らないというのもあるし、変に探られるよりはこちらから堂々と出迎えた方が良いと思ったから行く事にした。

 

 リュネール・エトワールには、行かない方が良いんじゃない? と心配されたけど、正直、心配されている事がちょっと嬉しいと感じていたのも事実。

 

 魔法省は男の証言だけしか、私の容姿を知らないからそれも行って大丈夫な理由の一つかな? それに今回のは、魔法省側からではなくその魔法省に所属している魔法少女の二人個人からの話。

 

 もし確証を得て私を捕まえるのであれば、たった二人では来ないだろうし。二人は異常な強さの魔法少女ならまだしも……片方はSクラス、もう片方はBクラスという魔法少女だ。

 そんな中途半端な組み合わせで来るとは思えない。それもまた、一つの理由である。それに、リュネール・エトワールを介している時点で変だしね。わざわざ野良の魔法少女を介して、そんな事するとは思えない。

 

 あくまで私の考えだけども。最悪の場合は、テレポートで逃げるのも手かな。

 

「よっと」

 

 ベッドから立ち上がる。

 

「考え事はもう良いのかい?」

「うん。決めたよ。次会う時、言ってみるね」

 

 既に二人に会うという事はリュネール・エトワールにも伝えている。今更撤回はできないし、するつもりもない。こちらから堂々と会ってやろうじゃないの。

 それも大事だけど、他にも今日の14時、リュネール・エトワールと会う時に自分の本心からに言葉を言いたい。どういう答えが返ってくるか分からないのは少し不安だけど、進まないとね。

 

「そっか。……まあ友達以上の感情を持っているように見えるけどね」

「え?」

「いいや、何でもないさ。それなら頑張って」

「うん、頑張るね」

 

 妖精世界を戻すという目的も大事だけど、私にとってはこれも大事。

 協力してくれるし、魔法省に私の事を無理には連れて行かないし、普通に接してくれる優しい人。やっぱり私は、仲良くしたいのかもしれない。

 

 妖精世界を戻すのはかなりの時間がかかるのはもう覚悟の上だ。

 魔力を貯めて、ララの言うゲートという魔法を使えるようになれば、妖精世界と行き来できるようになるので、後はそこから地道に色々やってくしかない。

 

 妖精世界に酸素とかそういう物があるか分からないから、それに対する対策も考えてはある。私が考えた訳じゃなく、ララが考えていたんだけども。そう言えば、そこについてはリュネール・エトワールから聞かれてないな……何か手段を持ってる事を分かってたのかな?

 最初に向こうに行くのは私たちではなくララだ。妖精世界の状況をまず、確認してもらってそこからどうするかを考える。何があるか分からないような場所に私たちは最初に行くのは、リスクが高い。

 

 それに今回はリュネール・エトワールを巻き込んでしまってるんだから安全に行きたい。

 

 完全に私の目的なのに、協力を承諾してくれたのだ。お人好しであるのは確かだけど、それでも協力を願った身としては、彼女には余計な負担をかけたくない。

 そうは言っても、私はこんな身体だし、魔法少女になったとしても魔力量が少ない。私自身が出来る事には限りがある。これが一番の問題点だよね。

 

 身体が弱いから魔力量も少ないとかなんだろうか? 魔力については、今でも謎が多いから何とも言えないんだけどね。

 

 出来る限り、私が出来る事は私がやって、本当に無理な時はリュネール・エトワールを頼るような感じで行こうかと思ってる。ララには無理するなと言われてるけど。

 

 うん。無理はしないつもりだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 




ブラックリリー(黒百合香菜)の事が少し分かりましたね()

さて、リュネール・エトワールは彼女の友達になってくれるのでしょうか。


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Act.16:ブラックリリー③

 

「なるほど」

「まあ、そういう訳で一応大丈夫のはずよ」

 

 待ち合わせをしていた14時頃。わたしとブラックリリーは、いつもの場所で合流する。これまたいつものように時間も10分くらい早いと言うね。

 

「最初に行くのはララだからね」

「ああ。多分、この中ではボクが一番そういうのには詳しいだろうしね」

「確かにそうね……私の場合は妖精(アルシーヴ・)書庫(フェリーク)を見ないと分からないのが多いし」

 

 まあ、ラビは妖精(アルシーヴ・)書庫(フェリーク)全権管理者(アドミニストレータ)で、記録者(スクレテール)ではあるけど、書庫内にある物全てを書いた訳ではないので、仕方がないだろう。全部書いてたのなら覚えているだろうし……。

 あ、でもあの量を覚えるのは流石にラビでもきついか? いやそうでもなさそう……だって速読してたしね。書庫内全ての三分の一を読んだって言ってたし……。

 

 それはちょっと前の話なので、今はもっと読んでいる可能性があるけど。

 

「地球に来てから魔力についての研究や、この世界にある元素とかも調べていたからね。魔力は、正直妖精世界でも謎が多いんだ。こっちで言えば空気のような存在ではあるけど、空気については既に分かってるだろう?」

「ん。まあね」

「魔力は長い間研究されていたけど、解明しきれてないんだ。様々な物に変化したり、エネルギーとなったりと色々あるけど」

 

 魔力。

 地球にはなかった物ではあるが、妖精世界から流れ込んだ事により、今では空気と一体化している物だ。魔力は魔法という事象を起こす源であり、魔法少女の力の源とされている。

 それはあくまで地球での事だ。妖精世界では地球と比べて遥かに長い年月を魔力と共存しており、地球よりも解析は進んでいたんだけど、それでも謎が多いままのようだった。

 

 魔力は時に不思議な現象を引き起こす。誰かの強い願いに反応して、そういう事象を起こす事があったりなかったり。願いの力とも言われるのはその所以らしい。

 良く考えれば願いの木の魔力も、わたしをこういう風にしたという実績がある。願いの木が反応したのは確かではあるが、事象を引き起こしたのは木ではなく魔力だ。

 

「ブラックリリーに協力してもらって魔力装甲についても調べてたんだ。結果を言えば、魔力装甲は有害な物から守るだけではない事が判明した」

「そうなの?」

「ええ。少し前に試しに魔力装甲を纏った状態で水の中に潜った事があるのよね」

「何故水の中……」

「水中でも戦えるのか試してたのよ。気にならない?」

「ん……確かに」

 

 それはちょっと盲点だった。

 そうか……魔物によっては水中を動ける魔物も居るんだった。わたしは遭遇した事ないから考えた事なかったし、主な戦闘は陸上だったしね……時々空中戦と言った感じだ。

 

 水中を移動できる魔物は、主に水辺の近い所で出現するらしいのだが、今まで見た事がない。わたしの活動範囲がほとんど陸上だっていうのが原因かもしれないが。

 もしかすると、魔法省の魔法少女たちなら水中の魔物と戦った事あるかもしれないな。分からないけど……。

 

「常に魔力装甲は削れてたけど、息は出来てたのよね」

「ふむ。じゃあ、魔力装甲は空気も生み出せる?」

「それは分からないわ。でも、息ができてたからそうなのかも?」

「装甲がじりじり削れてたのは恐らく水圧から魔法少女を守っているからだろうね」

「あ、なるほど」

「他にも水に入ったのに濡れなかっただろう?」

「そう言えばそうね……」

「試してないから確実ではないけど、恐らく火の中に入っても大丈夫だ。あらゆる物から守っているからね」

「魔力装甲凄い……」

 

 素直にそう思った。

 魔法少女の受ける攻撃を肩代わりしてくれているのは分かっているが、そこまで行くと防護服だな。いや、魔法少女の衣装も魔力で出来ているのだから防護服と言っても可笑しくないか。

 

 防護服と言っても、そんなレベルよりも遥かに上な気はするけど。

 魔法少女に害がある物全てに対して、機能しているという事か……でも流石に全てを試せる訳ではないので、ただの仮説に過ぎないらしいけど。

 

 それはそうだ。人体実験のような物だしね。もし失敗したら、その魔法少女は命の危険に晒されてしまうだろうし。

 

「それでもやっぱり、確証がないから念の為酸素ボンベとか持っておく方が良いかな。もし行くのなら」

「なんか宇宙旅行みたいな感じね……」

「確かに」

 

 言い得て妙である。

 世界と惑星、という規模は違うものの地球という世界から火星という世界に行くようなもんである。宇宙的に言えば妖精星とか? 単純な名称だけど、まさにそんな感じだ。

 

 そもそも、世界という言葉も割と曖昧だよね。

 

「リスクは確かにある。だから、行くのはボクだけでも良い。魔力はこっちで貯めてボクが運べば問題ないし」

 

 ララの話は確かにその通りだろう。

 わたしたちが行くのは少しリスクがあるけど、妖精であるララなら問題はない。魔力にしても、言う通りでわざわざわたしたちが行く必要はない。

 

 でもなあ、妖精世界……気になってはいる。好奇心に身を任せて突っ込むのは良くないので、やっぱり念入りに準備をしておく必要があるな。

 

「とりあえず、最初にララが行くのだからその後考えても良いわよね」

「そうだね。それに今はまだ魔力がないし」

 

 昨日、魔力を魔法の瓶(マギア・フラスコ)にわたしが注いだ感じでは、三割程度増加したのが分かっている。なので、現在は五割くらいになっているので、少なくと今日入れてあと二日で終わる感じかな。

 

 まあ、最後の方でメモリの上昇が変わらないければ、だが。

 

 フルで入れてしまえば一番、手っ取り早いのだがそれだといざという時に戦えない場合があるから、それはやめている。

 九割程度なら入れても大丈夫かな? 流石に全部注ぐと変身状態が解ける恐れがあるし、急激な魔力減少によってその場に倒れる可能性も十分あるし。

 

 時間はあるから別に急ぐ必要はないか。

 ブラックリリーたちは時間がかかるというのは覚悟の上でやっていたのだし、急いでいるようにも見えない。それに仮にこの場で終わらせても、次の段階があるしね。

 

 まあ、気長にやろう。

 

 それに、ホワイトリリーとブルーサファイアとの事もある。何をするのか分からないが、何故か二人は燃えているように見えた。

 ブラックリリーに対して闘争心を燃やすような何かがあったのだろうか? でも、二人は会った事ないはずだし、うーん謎だ。

 一応行かなくても大丈夫とも伝えてあるけど、ブラックリリーは行くつもりらしい。リスクが少しある気はするが、彼女が決めた事なら肯定しよう。

 

 で、話は戻るが今日もまた魔法の瓶(マギア・フラスコ)にわたしが魔力を五割程度入れると、同じように三割前後ゲージが上昇する。

 

「本当に凄いわね……」

「ん」

 

 それを見ていたブラックリリーはそんな言葉を漏らす。

 ゲージは八割前後まで上昇し、瓶の中もかなり量が増えてきているのが確認できる。どれくらいこれは魔力を入れられるのだろうか?

 

 わたしの五割の魔力で三割程度となると、わたしの1.5人分くらいは入りそうかな? 1.5だと、九割で一割余るから、うーむ、中途半端である。1.6以上2.0未満って所かな。

 そう考えると、この瓶かなりの量が入るな……わたしの異常な魔力量を少なくとも一回は全部入る訳だから。

 

「とりあえず今日はこれで終わり?」

「ボクは終わりだね。ただブラックリリーが君に言いたい事があるみたいだよ?」

「言いたい事?」

 

 わたしは首を傾げながら、ブラックリリーの方を見る。ん? 心無しか、何処か顔が赤いように見えるが……大丈夫かな?

 

「えっと、その……」

 

 さっきまでのきりっとした感じ? の性格のブラックリリーは見当たらず、顔を赤くして口をもごもごさせ、身体ももじもじしているブラックリリーがそこには居た。

 

「あの!」

「ん?」

「わ、私と……」

「私と?」

 

 そこでブラックリリーの口が一度止まる。

 こっちをチラチラ見ながら、何かを考えているようだ。いや、大丈夫? さっきまでと全然雰囲気が違うけど……ブラックリリーの言いたい事って何だ?

 

「私と……と」

「と……?」

 

 私と共に? いや違うか。

 

「友達になってください!!」

「ふえ?」

 

 予想外の言葉に間抜けな声が口から出てしまう。

 ブラックリリーを見ると、涙目になりながらさっきよりも顔を真っ赤にした状態でわたしの方を見てくる。え? 何この破壊力。不覚にもドキッとしてしまった。

 

 って、破壊力って何言ってんだ。

 それはともかく、ブラックリリーはわたしと友達になりたいって事?

 

「ダメ、ですか」

「ん。そう言う訳ではないけど……」

「?」

 

 わたしの言葉に首を傾げるブラックリリー。

 

「友達も何も、もう友人と思ってたからちょっと」

 

 何度か共闘もしたし、彼女には何度か助けられているし、わたしの中では既に仲間というか友達というか……とりあえず友好的な感じに見ていたのだが……。

 まあ、一方的にわたしが思っていただけなのでブラックリリーはどう思っているか分からないけど。

 

「え? それじゃあ……」

「ん。これからもよろしく、ブラックリリー」

「っ!」

 

 でもそっか。

 わたしだけが思っていても向こうが違うのは当たり前。なら、今から始めようじゃないか……友達としての関係を。

 わたしは精一杯の笑顔を作り、ブラックリリーにそう言ったらまた顔を赤くする。上手く笑えているかは分からないが……。

 

「うん、よろしくお願いします」

 

 ぺこりと頭を下げるブラックリリー。

 今までとは全然違うような雰囲気にちょっと驚くけど、間違いなく彼女はブラックリリーなのは分かる。そう直感が告げてるし。

 

 自分の直感が当てになるかは別として。

 

「ん。ブラックリリーの言いたかった事はそれ?」

「う、うん……いやええ、そうよ」

「無理しなくて良いよ?」

「ぅ……」

 

 この感じからして、さっきのが素であるのは間違いなさそうだ。ブルーサファイアのように、変身前と変身後で口調を変えていたパターンの魔法少女だったか。

 この場にはわたしとラビ、ララしか居ないし素で話しても大丈夫だろう。無理して取り繕う必要はないさ。ララは当然、一緒に居る訳だから知っているだろうし。

 

「うん。そうだね……もうバレてると思うけどこっちが私の素になるよ」

「ん」

「まあ、だから何だという話になるけど……友達になってくれてありがとう。私そういう存在に憧れてたんだ」

「そうなの?」

「うん。……ねえ、明日は空いてるかな?」

「明日? 空いてるけど……というかまた明日も会うんじゃないの?」

「そうだった……それで、明日大丈夫ならここじゃなくてこっちに来てほしい」

「え?」

 

 そう言って見せてくるのは一枚の地図。

 この場所は……この辺じゃないな。わたしとブラックリリーが待ち合わせに使ってる場所は、水戸なのだがこの地図は県南地域……土浦市内のある場所を示してる。

 

「リュネール・エトワールとしては遠いかもしれないけど……どうかな」

「ん。別に良いけど……どうして?」

「ちょっとね」

「? 分かった。明日はこの場所に行く」

「ありがとう」

「ん」

 

 何故かは分からないけど……まあ、別に大した変化ではない。これでも、県内全域を実際移動したりしてたのでね。その時に言ってくれるだろうし、今は聞かない。

 

 そんな訳で今日のわたしたちの話は終わるのだった。

 

 



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Act.17:ブラックリリーの真意

 

「送信っと」

 

 今日もまたブラックリリーと会って話をして、家へと戻ってきている。

 今、何をしたのかと言えば、今度の土曜日の情報を二人に送信しただけである。今度の土曜日の15時頃と予定を立てていたので、それをブラックリリーに話した所、彼女も問題ないという事で日程が確定したのだ。

 それをホワイトリリーとブルーサファイアに伝えるためにCONNECTでメッセージを送った感じだ。

 

 これで、ほぼ決定したという事になるだろう。

 

「それにしても」

 

 ブラックリリーに渡された一枚の地図を見る。

 明日はここに来て欲しいと言われた。この場所は、特にお店とかの場所でもなければビルや、裏通りとかそう言う所でもない場所だ。

 

 ネットのマップを見ても同じで、一つの家がある場所だった。そんな家を集合場所にするという事は……ここは多分、恐らくブラックリリーの家なんじゃないかと思ってる。

 赤の他人の家の前っていうのは、考えられないし……そうなると、何故自分の家を場所にしたのか? まだ彼女の家だっていうのは決まってないが。

 

『分かりました』

『了解』

 

 そんな事を考えていると、二人から返信が来る。

 大丈夫だっていうのは前もって知っていたので、このメッセージは確認用というべきか。取り合えず、予定に変更はなく、二人も問題ない事を確認出来たので、この予定は決定となる。

 

 ただ集合場所っていうのが、魔法省のビルの屋上なんだよね。

 え、そんな場所使って良いの? と思ったんだけど、どうやらホワイトリリーが茜にお願いしたら、気を遣ってくれたのか、使ってOKとなったらしい。

 

 ホワイトリリーとブルーサファイアの二人が屋上を選んだ理由は分からないが、受付通って建物内に入ると以前のわたしのように目立つだろうし、それも踏まえてるのかな?

 当日は受付から入らなくても、直接屋上に行って大丈夫だそうだ。普通は屋上から入るとか、あり得ない話だが、魔法少女の身体能力は中々えぐいので、余裕で行けるだろう。

 

 それに、すぐ近くに丁度良い感じの建物があるからそこに登ってから、飛び移ることも可能だろう。

 

 ただ多分、わたしの場合は一回のジャンプで行けそうな気はする。というか、あの辺にあるビルなら全部一回で飛べるし。他の魔法少女は分からないけど、身体能力はラビが干渉してもしてなくても、同じくらいっぽいし余裕で行けるのかもしれない。

 

 まあ、ホワイトリリーとブルーサファイアの場合は魔法省内から普通にエレベーターと階段を使って登れるだろうけど。

 

 ブラックリリーについては、あの子テレポートというチートな魔法を使えるので、それで一瞬だろう。他にも空間を作って足場にして登るという事も出来るだろうし。

 

 そうなるとわたしだけ、何とも言えない手段だな……いやまあ、別に気にしてないけど。

 

「どうかしましたか? あ、司。そんな体勢で居ると見えますよ」

「ん……」

 

 あ、そうだった。

 今のわたしはスカートを履いているから、こんな体勢してると見える。何がとは言わないが。体勢を直して、スカートを手で押さえて整える。

 

「髪もちょっとぼさぼさになってますね。私がやりましょうか」

「別に……ん、よろしく」

 

 自分で出来るから断ろうと思ったらラビが何か悲しげな顔を見せたので、ついついOKを出してしまった。すると、ラビの顔が一転してパアッと明るくなった。そんなやりたかったの?

 いつの間にか手に持ってた櫛を使って、わたしの長い髪を整え始める。自分でやっていたときは何とも感じなかったけど、他人にやってもらうと何かくすぐったさがある。

 

「ん」

「やっぱりサラサラしてますね。手入れも慣れたみたいですし」

「あれだけみっちり言われたら、嫌でも慣れる」

「あははは。真白は、思ったよりスパルタでしたね」

 

 そうなのだ。

 真白の指導というか、教えというか……結構スパルタだった。日常の中でも常に真白が居たし、時には隠れていて、わたしが何かミスするとスッと出てきて注意してくるし……うん、気が抜けなかったよ。

 

 でもまあ、わたしを思っての事だったし、これを選んだのもわたしだったので何とか頑張ったけど。そうしているうちに、もう慣れた。慣れって怖いよね……知らぬうちに身についてるし。

 

「ちょっとくすぐったい」

「それは我慢してください」

 

 くすぐったいけど、別に嫌な感じではない。というか、他人にやってもらうと言うのが何処か心地良さがあって、ついついウトウトしてしまう。

 

「って、何やってるの」

「いえ、髪型変えたらどんな感じかなと思いましてついつい、好奇心が勝ってしまいまして」

「……」

 

 そう言いながら手で髪型を作るラビ。

 仕方がないな……ツインテールにしたり、ポニーテールにしたりとか色んな髪型を試しているようだ。というか、ラビってお姫様だよね? 何でそんなに上手なの?

 

 だってほら、王女とかってメイドさんにやってもらうようなイメージが強いし……偏見だけど。

 

「王女とは言え、私はどちらかと言うと変わってる方の王族ですからね。確かに大体はやってもらっていましたが自分でも出来るようにしてましたよ」

「自分で言っちゃうんだ」

「まあ、本当の事ですしね」

 

 確かに王族が自分で色々するのは変わっているのだろう。

 と言っても、そういった王国とか王様とかの話なんて地球ではないし、大体がライトノベルとかでの知識でしかない。後は昔あった絶対王政の事くらいか?

 

「うーん」

「どうかした?」

 

 髪を梳かしながら、何かに悩んでいるようなラビの声に首を傾げる。

 

「いえ、司の髪型、色々試してますけどどれもしっくり来ないですね」

「ん」

「何というかこれじゃない感というか……」

「ふーん?」

「どの髪型も似合ってるとは思いますけど、一番はやっぱりストレートですねえ」

「そう? まあ、ストレートが一番楽だし」

 

 髪型変えるのが面倒だし、考えるのもちょっと面倒。一番簡単なのはそのままのストレートだろう。まあ、長い髪なので時々邪魔と感じる事はあるけど、個人的にはストレートが一番好きである。

 魔法少女に変身したとしても、髪は結ばれずストレートのままだしね。そもそも、とんがり帽子なんだよなあ……とんがり帽子を被ってる状態で髪を結ぶのはありなのだろうか。

 

「自分の好みですからね、髪型なんて」

「ん」

「っと、終わりました」

 

 途中、髪型で遊ばれたが、ちゃんと梳いてくれていたので、さっきのボサボサした感じはなくなっている。自分でやる事も慣れたから出来るけど、たまに他人にやってもらうのも案外良いのかもしれないな。

 

「ありがとう、ラビ」

「いえいえ!」

 

 それで話を戻すけど、ブラックリリーがこの場所を選んだ理由が分からない。仮にここが彼女の家だとすると、わたしに正体をバラすつもりなのだろうか。

 

「どうかしましたか? ああ、彼女の事ですね」

「ん」

「何故、明日はこの場所にしたんでしょうね……」

「分からない」

 

 明日ここに行けば全て分かるだろうけど……ふと、ブラックリリーがわたしに友達になって欲しいと言っていた時の事を思い返す。あの時の彼女は何処かいつもとは違う感じだったな。

 今までの喋り方とかでついていたイメージが、崩壊したよ。いや、別に駄目という訳ではなく、あまりの変わり様にちょっと驚いていた。

 

 友達という存在に憧れていたとも言ってた。

 ……過去何か、あったんだろうか? ブラックリリーのリアル事情は分からないけど、もし何かあるのであれば……相談して欲しいな。折角友達になったんだから。

 

 烏滸がましいかもしれないけど、わたしとしてはブラックリリーも守るべき対象の一人だ。だからこそ、何かあるのであれば話して欲しいなとは思ってる。

 と言っても、こちらから無理に聞き出すような事はしないし、するつもりもないけど。

 

「明日行けば、分かりますか」

「だね」

 

 理由は分からないけど、彼女がこの場所を指定したのであればわたしはそれに従おう。別に拒否する必要もないしね……ここからは少し遠くなるけど、魔法少女になっていればあまり変わらない。

 

 気にはなるけど、明日本人から聞くまではこの疑問とかは仕舞っておこう。

 

 

 

 



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Act.18:黒百合香菜①

「っと……来たのは良いけど」

 

 翌日、わたしはブラックリリーに指定された場所にやって来ていたが、周りを見た感じでは彼女の気配を感じない。家の中に、人が居る感じはするけど……。

 今の所、第三者というか一般人は居ないけど……どう見ても住宅街だし、そのうち人が歩いたりしそうだ。なのであまり長居したくないのだが……。

 

「リュネール・エトワール、こっちだ」

「え、ララ?」

 

 上から声が聞こえたので、そっちを見ると二階の窓からわたしたちを見下ろす形で、覗いているララを発見する。家の中に上がってこいという事だろうか?

 この家はやっぱり、ブラックリリーに関係している場所なのかもしれない。じゃなければ、ララが家の中に居るのは可笑しいし……不法侵入って可能性もあるけど、あの様子ではそういう訳でもなさそうだ。

 

 いやまあ、ララがそんな事するとは思ってないけどね。

 

「ハイド」

 

 とりあえず、今のわたしは魔法少女リュネール・エトワールなので、この姿で家の中に入る所を見られると、面倒になりそうなのでハイドを使って姿を一度消す。

 あまりよろしくない行為だけど、一階からではなく、ララが居た二階の窓から直接中へと入る。土足ではあるが、魔法少女の状態の衣装や靴は魔力で出来ているので汚れることはない。

 だからいつも自分の部屋で変身してから外に出たりしている訳だし。

 

「すまない。ちょっとこっちでもアクシデントがあって」

「アクシデント?」

「うん。まず、これから見た事は他の人には内緒にして欲しい」

「それってつまり……」

「君の予想通りだと思うよ」

 

 この先に居るのはブラックリリーなのは間違いない。だけど、それは魔法少女としてではなく恐らく、リアルの方の姿だ。

 まあ、既にホワイトリリーとブルーサファイアについてはリアルの姿見てるし、それをばらすような事はしないし、するつもりもない。神様に誓っても良い。

 

「ん。大丈夫、神様にも誓う」

「ふふ、神様か。分かった……それならこっちへ」

「ん」

 

 そう言われた案内されたのは、さっき入った部屋の向かい側にある部屋。そこのドアには”香菜”の部屋と書かれたプレートが、ぶら下がっていた。

 

 香菜? 何処で聞いた事あるような……。

 

「入るよ」

「うん、いいよ」

 

 ララが軽くノックをすると、部屋の中から少女の声が聞こえる。うん、この声……ブラックリリーに似ているし、やっぱりここはブラックリリーの家なのか。

 

「体調は大丈夫かい?」

「うん……さっきよりはマシになったかな。あ、リュネール・エトワール……こんな姿でごめんね」

 

 部屋に入ると、ベッドに寝かされている一人の少女がこちらを見ていた。頭には冷えピタが貼られており、見ただけでも体調が悪いのは分かる。

 いや、それよりも……この子、前にショッピングモールで会った子じゃないか? あの時と、服装こそ違うものの、そっくりだ。

 

「香菜?」

「え?」

 

 ショッピングモールで会った子の名前は確か、黒百合香菜だ。この子の名前も香菜……苗字はまだ分からないが……。

 

「黒百合香菜、であってる?」

「う、うん。合ってるけど……何で私の名前を? あ! もしかしてあの時の!?」

 

 向こうも何かを思い出したみたいだ。

 

「司さん?」

「……リリース(変身解除)

「! やっぱり……」

「ん」

 

 わたしが変身を解除すると、それを見た香菜は、はっきりと思い出したみたいだ。何故ばらしたのかと言えばまあ、別に良いかなと思ったからだ。向こうもリアルの姿を見せたのだからお互い様という事だ。

 

「やっぱり、司さんがリュネール・エトワールだったの?」

「見ての通り」

「そっか……あれでも、あの時は金眼だったような?」

「ん。ちょっとそれには事情があった」

「そうなの? 念の為確認。あの時私は、何をした?」

「ん。『突然ごめんなさい。えっと、相席しても良いでしょうか』と声をかけてきた」

「!」

「他にも『すみません。席が空いていなかったので……』と言ってたし、わたしを見て『いえ、ごめんなさい。えっと、何処かでお会いしたことありませんか?』とも聞いてきた。後は……」

「す、ストップ! うんうん、間違いなく、司さんです!」

「信じてもらえた?」

 

 そう言うと香菜はこくりと頷く。

 

「良かった。それで……香菜、どうしたの? 調子が悪いならまた今度に……」

「ううん。リュネール・エトワール……司さんにはもう少し私の事知って欲しかったので」

「香菜の事?」

「はい。その、と、友達になったんですから……」

「でも、リアルの姿をばらすのは宜しくないのでは?」

「それを言ったら司さんもじゃないですか。……それに言いふらさないと分かってるので」

「ん。する気もないしするつもりもない」

「私の事だって色々あったのに見逃してくれてるし、協力もしてくれるし……司さんには感謝しかないです」

 

 そう言って体調が悪いながらも、笑って見せる香菜。

 まあ、確かに普通は見逃さないだろうし、協力なんて以ての外か……彼女が以前にやっていた事を知らない人なら協力するかもしれないけど。

 

「ん。気にしないで。体調は大丈夫なの?」

 

 わたしはそっと、香菜に近寄り目線を合わせる。香菜がベッドなので、わたしの方がしゃがむ形である。

 

「あまり近づくと病気移っちゃいますよ」

「ん」

 

 それもそうか……でもまあ、大丈夫だろう。

 

「昨日、この子、君と友達になれた事が嬉しかったのか、結構はしゃいでてね。多分その反動が来たんじゃないかって思ってる」

「あ、ララ!」

 

 ララの言葉を遮るように声を出す香菜。だけど、体調が悪いからか、そこまでの覇気は感じれない。

 

「嬉しかった?」

 

 香菜の方を見て、わたしはそう問いかける。すると、香菜は少し赤かった顔を更に赤くしながらコクコクと静かに頷く。

 そっか……嬉しかった、か。何だろう、ちょっと恥ずかしいぞ。

 

「ん。それではしゃいだ、と」

「ぅ……お恥ずかしながら」

 

 友達という存在に憧れていた、と言ってた。それもあるんだろうか?

 

「あ……」 

 

 そう考えると、自然とわたしの手は香菜の頭に伸び、そして軽く撫でる。すると、目を細めて気持ち良さそうにする香菜。

 何があったか分からないが……でも、友達に憧れていた、か。

 

「ごめん、嫌だった?」

「いえ……むしろもっとして欲しいというか」

「ふふ」

 

 自然とそんな笑みが出てしまう。

 香菜がそんな事言うので、もうしばらくだけ続ける事にしたのだった。

 

 

 

□□□

 

 

 

 ……。

 頭を撫でてくれたのは、お母さん以外に誰か居たかな? ベッドで横になりながら、大人しく撫でられる私。そんな私を撫でているのはお母さんではなく、リュネール・エトワール……いや、司さんだ。

 

 以前、ショッピングモールに行った時に出会った銀髪の子……司さんがやっぱりリュネール・エトワールだった事を今知る。

 あの時は金色の瞳をしていた気がするけど、今の司さんは綺麗な碧眼だった。何か事情があったらしいけど……そこを聞くのはまだ私には早いかな。

 

 それに、あの時の事をしっかり覚えているみたいでその時の言葉も覚えている。間違いなくあの時の子だ。雰囲気も何処かそっくりだし。

 あの時はまだリュネール・エトワールという確証がなかったけど、今回は確証を得れた。というか目の前で変身解除するものだから、驚いた。

 

 私の初めての友達。

 昨日は嬉しかったのか、自分でも驚くくらいはしゃいでしまっていたのを思い出すと、顔が赤くなる。初めての友達っていうのあったからかな?

 そのせいで、今こんな状態になってるんだけど。

 

 身体全体が少し怠い。熱も測ったら高熱ではないけど、微熱はあった。私は身体が弱いので微熱でも、そこそこきつい時がある。今回はそこまできついという訳ではないけど、調子が出ない。

 私の事をもう少し知って欲しいし、お話もしたい。でも、身体が弱いというのはこういう時に困る……生まれつきだからもうどうしようもないんだけどね。

 

 でも、私はお母さんを憎んだことはない。例えこんな身体でも産んでくれたお母さんには、感謝しかないし、仕事で忙しいけど、時間がある日はいつも一緒に居てくれるんだ。

 

 それに、昔と比べれば大分良くなってきてるんだしね。

 

 それは置いとくとして、司さんに撫でられるのは嫌な感じはしない。むしろ、ずっとそのままで居て欲しいとまで思う始末。

 他人に撫でられるとこんな感じなのかな。お母さんに撫でられる時とは、ちょっと違った感じだけど……相手が司さんだから? 分からないけど。

 

 ……このまま時間が止まれば良いのになあ。

 

 って、私は何を考えてるんだろう。司さんとは友達になれた……でも何だろう、何だかこうすっきりしないような、何というか。

 

 何だろう、この気持ち。

 

 まだ、分からない。

 

 

 私はそのままウトウトとしながら考えるけど、この状態ではまともに頭は働かない。司さんの撫でる感じが結構心地よく、眠気を誘ってくる。

 

 そのまま、何だか分からない気持ちを持ちながら、私はついに意識を手放したのだった。

 

 

 

 




何かブラックリリーの話ばっかだなこの人()

すみません。
これともう一話、黒百合香菜ことブラックリリーの話が続きます。
その次からはようやく、あの集まりの日に……。


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Act.19:黒百合香菜②

 

「香菜?」

 

 声をかけても返事がない。気になり、香菜を見れば、すぅすぅと規則正しい寝息を立てながら目を瞑っているようで、軽く揺すっても起きる気配がなく、寝てしまった事が分かる。

 

「寝ちゃった」

「昨日はしゃいでたのに、今日も無理するから余程疲れたんだろうね」

「そっか」

 

 それならこのまま寝かせてあげた方が良いかな。

 

「今日はどうしようか」

「取り合えず、魔法の瓶(マギア・フラスコ)はここでも出せるし、入れてくれるかい?」

「ん。あ、変身した方が良い?」

「大丈夫さ。魔力は体内にある訳だからね。変身状態はあくまで魔力装甲を纏った状態なので、その姿でも魔力を入れられると思うよ」

「そうなんだ」

 

 ララが用意した魔法の瓶(マギア・フラスコ)に近づく。この姿で魔力なんて使った事ないけど……いつもの感覚でやれば問題ないかな? わたしは魔法の瓶(マギア・フラスコ)に手を触れ、目を瞑る。魔力装甲はないけど、体内魔力はあるはずなので、それを思い浮かべる。

 

「ん。感じる……」

 

 なるほど、リュネール・エトワールの時とあまり変わらないな。

 体内をめぐっている魔力を感じ、それを魔法の瓶(マギア・フラスコ)へと注ぎ込む。ゲージが満タンになったのを確認し、注ぐのを止める。魔力の注入は問題なさそうだけど、この姿では魔法は使えないんだよね。やっぱり謎だ。

 

「流石だね……もうこれで満タンだ」

「これで使える?」

「ああ。使えるはずだよ。ただ以前にも言ったように、もしかするとこれでも足りない場合があるけど」

「そんな事言ってたね。その時は、わたしが魔力を譲渡する感じでやるって」

「だね。まあ、今日はやめておこう。こっちも準備とか必要だし」

「じゃあ、今日もこれで終わり?」

 

 香菜は気持ち良さそうに寝ているし、わたしがここに居ると邪魔してしまうかもしれない。折角寝ているのに起こしてしまうのはちょっと罪悪感があるし。

 

「終わり……だけど、この後もし時間があるならもう少しこの子の側に居てあげて欲しい」 

 

 そう言って、ベッドで眠っている香菜に目を向けるララ。

 

「後からこの子からも言ってくれると思うからボクとしては簡単に説明する」

「?」

「彼女……黒百合香菜は、身体が生まれつき弱いんだ」

「身体が……弱い?」

「ああ。昔よりはマシになったって言ってるけど、それでも軽い病気でも寝込んでしまう事は珍しくない」

「……」

 

 香菜の方を見る。

 そっか、生まれつき……友達に憧れていたというのはもしかして?

 

「多分想像通りさ。何とか義務教育である中学校は卒業してるけど、中学では結構保健室に居る方が多かったらしい」

 

 なるほど……いやまだこれが当たっているかは分からない。身体が弱い事もあって保健室に居る事がほとんどだった彼女には、そういう友達と呼べるような存在が居なかったのかもしれない。

 香菜が友達に憧れていたと言っていたのは……そういう事なのかな? これはあくまでわたしの勝手な想像に過ぎないけど……でも身体が弱いっていうのは辛い物だろうなあ。

 

「ん。時間は大丈夫。分かった、もう少し居る事にするよ」

 

 ベッドに寝ている香菜の頭を、また優しく撫でる。

 親……と言う訳でもないし、友達と言っても昨日なったばっかりなわたしだけど、こういう時くらいは大人ぶらせてくれ。まあ、元は28年も生きているんだから別に問題ないか。

 

「ありがとう。ボクはちょっとラビと話してくるよ」

「ん」

 

 そう言って、ラビと一緒に向こうの部屋へ向かっていった。この部屋にはわたしと眠っている香菜だけが取り残される。

 

「身体が弱い、か」

 

 どうしてそんな状態なのに魔法少女になったんだろうか? 香菜にも香菜なりの理由があるんだろうな……そこにわたしが触れるのはちょっと早いかな。

 

 そう言えば、真白も昔は良く寝込んでたな。

 今はもう元気だけど、実の所、真白も以前は身体が少し弱いところがあった。ただの風邪でも寝込んだ時もあった。その時はわたしがいつも看病していたかな。

 父さんと母さんも看病してくれていたし、心配だってしていた。でもやっぱり仕事が忙しかったのか、中々時間が取れなかったからわたしが代わりにやったのが多かったかな。

 

 真白はその後、元気になったけど……香菜はずっとそんな状態なのか。

 でも、前よりはマシになったとララは言ってたから、少しずつ良い方向に向かってるのかな? 香菜の年齢は分からないけど……見た感じでは16~18歳くらいかな? 前にも考えてたけど。

 

 少なくとも中学校は卒業してるから、一番低くても15歳辺り。うん、やめよう。女性の年齢を探るのは、失礼だろうし……。

 

「んぅ……お母さん」

「……寝言かな」

 

 一瞬起きたのかと思ってドキッとしたが、起きる様子はない。ただの寝言だったようだ。わたしがそのまま優しく撫で続けると、何というか気持ち良さそうな表情を見せる。さっきまでも結構気持ち良さそうだったけど。

 

 もしかして、お母さんとかによく撫でられてたのかな?

 

 やっぱり、子供なんだよね。女の子……そんな女の子が魔法少女になって魔物と戦っている現状……それしか方法がないとは言え、やっぱりわたしの考えは変わらなさそうだ。

 

「色んな勉強関連の資料がある……」

 

 香菜の部屋を少しばかり見回すと、本棚の中には受験勉強のすゝめだとか、過去問題集とかそういうのが思ったより多くあった。

 ライトノベルやコミックも少なからず、本棚に綺麗にしまってある。香菜が整理してるのかな? それともお母さんとか?

 

 まあ、それは気にする所ではないか。

 

 そんな勉強の資料だけど、大体が公立高校だったりとかなんだよね。ララの話では、中学校は卒業したが高校には行ってないらしいのだが……。

 

「!」

 

 何か手に違和感を覚え、目を向けると香菜が何故かわたしの腕を掴んできていた。ただし、本人はまだ眠っている様子。しかも思ったより、強めの力だこれ。

 

「ん……これは抜けられないか」

 

 腕を軽く引っ張ってみるが、香菜の掴んだ手は離れる様子がない。

 

「お父さん……」

「……」

 

 わたしの手を掴んで、そんな事呟くものだから、少しびっくりした。

 何か……ブルーサファイアいや、蒼にもそんな事言われたような……お父さんみたいとか。当たらずと(いえど)も遠からずではあるけど。

 

 そんなお父さんっぽく感じるのかね? いや、香菜の場合は夢の中にお父さんが出てきているだけなのかもしれないけど。

 

 まあ、実際結婚はしてないし、独身なのだが。

 

 あれ、今のわたしだと恋愛対象って男になるのか? いや、それはちょっと無理かもしれないな……うん、このまま独身を貫こう。

 16歳が独身貫くとか言うのは非常にシュールではあるが。

 

「高校、行く気はあったのかな?」

 

 話を戻そう。

 別に誰かと話している訳ではないのだが……高校のパンフレットとかもいくつかあるから一応、高校に行く気はあったのかもしれない。

 

 断念した理由は何なのか……何となくは予想できるけど。

 

「ただいま」

「ん。おかえり」

 

 そんな事考えていると、ラビたちが戻ってきたようだった。

 

「あら、仲良いわね」

「ん。……これは不可抗力というか香菜が掴んできた」

 

 いたずらっぽい笑みを見せるので一応言い訳しておいた。

 

「冗談よ。それにしても、懐かれているわね」

「そうだね。眠っていても初めての友達の事を感じれるのかもね。なんてね」

 

 何かあり得そう。

 それはさておき、わたしはこんな状態なのでこの場を離れる事が出来ない。今の所、トイレとかは大丈夫だけど……これ離してくれるだろうか。

 

「それで、ゲートの魔法何だけど、使うのは一週間後くらいにしたわ」

「くらい?」

「ブラックリリーは今調子が悪いし、様子見も兼ねて、かな。それに明日は土曜日だし、件の二人に会うんだろう?」

「ん。でも、大丈夫かな、香菜」

「何とも言えないね……無理して行くようであればボクは止めるつもりだけど」

「ん。それが良い」

 

 体調が悪いのにそんな状態で行ったら何が起きるか分からないし、それが一番かな。その時は、わたしから二人に事情を話すつもりだけど。

 

 ただ連絡手段がないんだよね。

 香菜もCONNECTやってるのであれば、それを登録出来れば良いのだが……見ての通り当の本人は眠っているので、聞こうにも聞けない。

 

「それならこれを登録できるかい?」

「スマホ?」

「香菜のスマホなんだけどね」

「勝手に登録して大丈夫?」

「友達なんだから連絡先交換するのは普通じゃないか? まあ、大丈夫さ……ボクから話しておくから」

「それなら良い……良いの?」

「いざという時に連絡取れなかったら元も子もないだろう?」

「ん。そうだね」

 

 後でわたしも謝ろうかな。

 取り合えず、ララに言われるまま香菜の連絡先を交換する。やっぱり香菜もCONNECTは入れてるみたいだったので、それで登録した。

 ララが何故パスワードを知っているのかは突っ込まないでおこう。

 

「明日、香菜の体調が危ない感じだったら連絡するね」

「ん。了解」

 

 これでひとまず、明日は大丈夫かな。ララが連絡してきたら、その時はわたしが二人に事情を説明する。

 

「まあ、離れられないんだけど」

「そうだね……時間とかは大丈夫かい?」

「ん。別に大丈夫」

「それなら良いが」

 

 今の所、わたしに今日の予定はないので別に時間は大丈夫だ。

 

「あ」

「おや?」

 

 わたしの腕を掴む力が弱くなったので、そこを逃さず優しく香菜の手から逃れる。

 

「台所は勝手に使っちゃまずいよね」

「何か作るのかい?」

「ん」

 

 もうお昼になるし、何か食べないとお腹空いてしまうだろうし……うーん、一度家に帰って作ってくるか? それはそれで結構面倒かもしれないが、他人の家の台所を勝手に使うのは流石にまずいよねえ。

 

「そう言えば司って料理も作れたんだったわね」

「まあね」

 

 家に基本一人で暮らしているんだから、それくらい出来ないとね。

 時間がなく、作ってる暇がなかったりした時は外食したりとか、近くのコンビニでお弁当買ったりとかしているが。

 

 まあ、香菜は体調が悪い訳だし、そんながっつりした物は駄目なので無難にお粥を作ろうかと思ったんだけどね。

 うん。やっぱり、家に帰って作って持ってくるか。

 

「ん。一旦家に帰る」

「了解」

 

 ここから家まで魔法少女の状態なら20~30分くらいだし。往復考えると一時間かかってしまうが、時間も丁度良い感じになるし。

 

 そんな訳で一度家に戻るために魔法少女状態になるのだった。

 

 

 

 



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Act.20:約束の日

 

 翌日。

 今日は知っての通り、二人とブラックリリーを会わせる日となっている。ただ、ブラックリリーの体調が優れず、危ないと思ったらララが連絡してくれるようになってる。その時は、わたしが二人に説明する感じだ。

 

 今の所、連絡はないので予定通りかな。

 

「……」

 

 鏡を見ながら慣れた手つきで、髪の毛を梳いていく。ほんのりと昨日のシャンプーの香りがする。こうやって髪の毛を梳くのも、シャンプーするのもかなり慣れてきたなと思いつつ。

 

 昨日は、一度家に帰りお粥を作って香菜の家に持って行った。丁度良い感じにその時、香菜は目を覚ましていたので、作ってきたお粥を食べてもらった。

 

 ただのお粥であって、別にこれと言った特別な事はしてないが、美味しいと言ってくれたのはちょっと嬉しかったかもしれない。

 

 お粥を食べた後に、ララが言ってた通り彼女の方から色々と話してくれた。

 まず、身体が弱いという事。これは生まれつきで、今もまだ同じという事。ただ、良い方向には進んでいるらしくて、それを聞いて少し安心した。

 

 小学生の時は、今よりももっと酷かったらしくほとんど教室に居ない状態だったらしい。中学校はほんの少しはマシになったけど、それでもやっぱり保健室に居る事の方が多かった。

 そして何とか中学校は卒業したけど、この調子で高校に進学しても単位不足になるかもしれない、そんな訳で断念してしまったみたい。

 それでも一応、勉強はしていたし、高校についても調べていたみたい。だから部屋にはそう言った過去問題集とか、パンフレットとかがあったという訳だ。

 

 香菜は今年の誕生日が来れば17歳になるが、まだ来てないので16歳、そう自分からわたしに話していた。わたしが聞いた訳じゃないよ!

 

 ……ブラックリリーも色々あるんだなって思った。

 結構驚いた事があったけど、取り合えず彼女については少し分かったと思う。

 

「何だかな」

 

 ホワイトリリーやブルーサファイアにも何かあるんだろうか。

 まあ、あの子たちは自分の意思で選んで、魔法省にも所属している訳だけど……内側なんて言う物は誰にもあまり見せたくないものだろう。

 それはともかくとしても、仮に二人にも何かあるのであれば……出来る限りは支えてあげたいとは思ってるし相談もしてくれも良い。

 

「偽善者かな?」

 

 偽善者、なのかもしれない。

 と言っても、わたしはやらない偽善よりやる偽善って思ってるけど。

 

「ん。まだ時間ある」

 

 予定時刻まではまだまだあるので、その間に何をするべきか。

 これと言ってやる事はないかな? 因みにラビについては、家に居る時は基本的には本来の姿で居るみたいなので、部屋は空いてる部屋を使ってもらってる。

 

 真白の部屋でも良かったのだが勝手に使うのはあれだし、今のラビの事を文章て伝えるのはちょっと難しいので、真白に教えるのは次帰ってきた時かな。

 

 と言っても、2月の初め頃だからもう結構すぐなんだけど。

 

 それにしても、ここ最近のこの地域は平和である。前の状態に戻ったというべきか……魔物の出現数が目に見えて少ない。

 数日間、出現しなかった時もあったし……出現したとしても、以前より大幅に弱くなってC以下の魔物がほとんどだ。更に数も少ないから、わたしが行く事なく終わってしまう。

 

 一応、ラビが感知してくれるんだけどすぐに魔法少女の反応もあって、あっさり倒されてしまうようだ。

 

 脅威度Sの魔物を二体倒したその影響なのかな? 魔物については謎が多いから何とも言えないが……とにかく数が減っているのは確かだ。

 

「平和なのは良いけど……」

 

 異常事態もあったし、脅威度Sの魔物の事もあったし……休めるのは良い事だと思うけど、この状態が結構怖かったりする。

 唐突にまた大量出現したら……と考えるとね。勿論、わたしも油断してないつもりだし魔法省もあんな事があった後なので、未だに警戒を続けているけど。

 嵐の前の静けさって言うやつだ。今思えば、魔物の大量出現が起きた前も、減少傾向が続いていたしそれに似ているから要警戒かな?

 

 わたしは、そんな事を思いながら時間近くまで何をするかを考えるのだった。

 

 

 

□□□

 

 

 

「今日、ですね」

 

 誰も居ない自分の部屋で、私は一つ呟きます。

 何が今日なのかと言えば、噂のリュネール・エトワールと共に行動していた黒い魔法少女の子と会う日なのです。リュネール・エトワールもとい、司さんにお願いしてその子の都合を聞いてもらってました。

 もし会えないのであれば、その時は仕方ないという事で何処かでまたチャンスがないか待機して居ようと思いましたが、その必要はなくなりました。

 

 司さんからのCONNECTでのメッセージ。

 今度の土曜日の15時頃、黒い魔法少女も大丈夫という返答が来ました。集合場所については、私の方で茜さんに話して、屋上を使わせてもらえるようになりました。

 

 屋上にした理由ですが、その黒い魔法少女も野良だからです。

 魔法省の中ではちょっと目立ちますし、以前の魔法少女たちが襲撃された事件の時に、捕まえた(正確にはリュネール・エトワールが捕まえた)男性の証言に出てきた黒い魔法少女の容姿に似ていると言われてます。

 リュネール・エトワールと行動していた黒い魔法少女が怪しい目で見られてしまうのはちょっと可哀そうというのもありましたし、リュネール・エトワールの友達という事もあったからです。

 

 と言っても、彼女が疑われているのは間違いないです。

 ただリュネール・エトワールと一緒に居たという事と、一緒に魔物を倒してくれていた事、そして反転世界に連れていかれた私たちの事を助けるために茜さんたちと協力してくれていた事などもあって、魔法省は強気に出られないというのもありますし、証拠というかまだ確証もない状態です。

 

 もし別の子であったら、その子に多大な迷惑をかけてしまうでしょう。魔法省とて、冤罪というのは警察と同じでやってはいけません。

 リュネール・エトワールが向こう側に付いたと考えると可笑しくないのですが……彼女がそんな敵と組むでしょうか? 私としてはあまり考えられません。

 

 何か事情がある可能性もありますが……そもそも、リュネール・エトワールの事もまだそこまで知らないのも事実です。変身前の姿は見ましたが……。

 

「はあ」

 

 それは別として、やっぱり野良同士だと良く会えるんでしょうかね?

 私ももっとリュネール・エトワール……司さんと話したいし、また出かけたいです。ちょっとだけ黒い魔法少女というか野良に嫉妬してしまいますね。

 

「……」

 

 まずは今度会う時に、黒い魔法少女と話さないといけません。

 リュネール・エトワールの事が好きなのかどうか……もし好きなのであれば、新たなライバルです。違うのであればそれはそれで良いのですが、何かこう、前者なような気がしてならないです。何故でしょうかね?

 

 そう思うと気が気でならないですね。

 うーん……やっぱりこっちからもっとアタックしなくていけませんね。こんな引っ込み思案じゃ、いつまで経っても変わりません。

 

「よし……」

 

 私は自分の手で頬を軽く叩きます。

 何となくではありますが、蒼ちゃんもこれから行動を開始しそうな気がするので、私も覚悟を決めましょう。例え断られたとしても、私は司さんが好きなのですから。

 

「その前に黒い魔法少女ですね」

 

 仮にその子も好きなら、恐らく何気なくアタックしそうな気はします。

 まだ黒い魔法少女の子がどんな子なのか、分かりませんが……リュネール・エトワールが友達と言っていたので、それなりに関係は強そうです。

 

 私しか居ない部屋で一人、考えに耽ます。 

 どうしたら、もっと司さんと一緒に居られるか。私は魔法省に所属してますが、彼女は野良。まずそこの違いもあるでしょうね。

 後はリアル都合というのもそうですね。平日は学校がありますし……休みの日は特に何もなければ暇ではありますが、魔物が出てきたりとかすると行くしかないです。

 

 とはいえ、魔物が出現した際は、全員に連絡が行きますが一番近い子が向かうのは基本となってます。魔物の脅威度にもよりますけど。

 それで戦力不足であれば、近い順に向かう感じです。

 

 やっぱり、休みの日に司さんに連絡するのが一番でしょう。

 一緒に居る分には、別に私が魔法少女だって言うのは分かってるのですから、魔物が出ても変身が普通にできます。まあ、周りの目は気にしないといけませんけどね。

 

「やっぱりこっちからアプローチしないと駄目ですね」

 

 司さんもメッセージなら、いつ送ってきても良いと言ってましたし、緊急時は電話しても良いとも言ってました。

 

 後手では駄目ですね。

 

 頑張れ、私。

 私は心の中で自分を応援した所で、約束の時間まで何をするかを考えるのでした。

 

 

 



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Act.21:約束の時間①

 

「少し時間より早いけど……」

 

 早く着くのは別に悪い事ではない。

 まあでも、早すぎるって言うのも問題だけど。今回は20分前に着いてしまった。当然、屋上にはまだ誰も居ない。いつもよりも早く着いちゃったな。

 

「んっ」

 

 吹く風が、わたしの髪や帽子、服を大きく揺らす。

 屋上に設置されている魔法省の物であろうアンテナも少し揺れていた。思ったより強い風だったが、ふと思い出す。……そういえば、今日はちょっと風が強いとニュースで言ってたな。他にもここは屋上だからっていうのもあるのかな。

 

 空を見上げれば、僅かに雲はあるものの晴れといった天気だ。若干雲の移動する速度も速い気がする。今日は各地で晴れの日が多いらしいけど、気温は上がらないとの事。

 道路を走る車の音や、作業をしているような音が風を伝ってわたしの耳に届く。

 

「今日も平和、か」

 

 平和なのは良い事だ。

 だけど、魔物という脅威が居る以上、気は抜けないだろう。屋上から見下ろした魔法省には、休日ではあるものの多くの車が駐車場に止まっている。

 全てが職員の車とは言わないが、大半はそうだろう。後は社有車も多分数台は置いてあるはず。魔法省の場合は、社有車っていう表現で良いのか分からないが。

 

 あれからブラックリリーというか、ララからの連絡はなし。つまり、予定通り来れるという事だろう。体調は心配だが、ララが止めてないと考えると、無理に来るとかはないよね?

 もし、ララのストップをスルーして無理に来るのであれば、わたしが家に帰すしかないかもしれない。

 

「早いですね」

「ん?」

 

 後ろから声が聞こえたので振り返ると、そこには声の主である、ホワイトリリーが立っていた。わたしが振り返ったのを見ると、そのままゆっくりとわたしのすぐ隣までやってくる。

 

「そっちも大分早い」

「そうですか? あーでも、確かに15分前に来るの早かったかもですね」

 

 時計がないので、体感では10分くらい経過したかと思ってたが、まだ5分しか経過してなかったようだ。というか、ホワイトリリーの事だからブルーサファイアと一緒に来るかと思ってたが……。

 

「今のままでは駄目だと気付いたのです」

「?」

「こちらからアプローチするべきだと」

「ええと?」

 

 ホワイトリリーの様子がいつもと違うような気がする。気のせい? 

 

「リュネール・エトワール」

「近い」

「承知の上で近づいてます」

 

 何だ? 今日は妙にアグレッシブというか、何でそんなグイグイとわたしに近づてきてるの? 隣だったのがもうすぐ目の前という所まで来ていた。

 

「素直言います! もっと私に構ってください!」

「んぇ?」

「それは野良と魔法省所属では、違うでしょうけど、それでも私はもっとリュネール・エトワールと居たいですし、出掛けたいとも思ってます」

 

 お、おう……。

 

「他の人が来たようなのでここまでにしますね。ふふ、でも私は諦めませんから」

「ん……」

 

 それだけ言ってホワイトリリーは少し離れる。

 それと同時に、向こうからはブルーサファイアがやって来るのが見えた。

 

「あれ? 集合時間って15時ですよね?」

「ん」

「ホワイトリリーもリュネール・エトワールも早くないですか……」

「私は思ったより早く着いてしましました。でも、リュネール・エトワールは私よりも前に居ましたよ」

「そ、そうなんですか?」

 

 そう言ってわたしを見るブルーサファイア。

 うん。20分も早く着いてしまったのは事実である。これを早すぎるか普通か、遅いかと取るのは人それぞれかな。流石に遅いはないと思うが……。

 

「ん。早めに出てきたら20分早く着いた」

「そうなんですね。あ、でも……リュネール・エトワールはこの辺ではないんでしたっけ? それなら納得ですけど」

「ん。それは想像に任せる」

 

 遠いと思えば遠いだろうし、近いと思えば近いと思う。

 いやでも、普通に見たら日立市と水戸市では結構距離があるか? まあ、それはさておき、彼女たちに家バレは流石に避けたいのでそこは誤魔化しておく。

 

 まあ、家をばらしてもリアルの姿を実際知ってるので問題ないと思うが、それが魔法省内に広がるのはちょっと遠慮したい。

 今のわたしと茜の関係性が不明なので、それもある。

 

「三人揃って早すぎじゃないかしら」

「あ、ブラックリリー」

「待たせてしまったわね」

 

 そんな会話の中、ブラックリリー声が聞こえ、二人が一斉に彼女を見る。わたしはいつも通りの対応をする。

 

「体調は大丈夫なの?」

「お陰様でね……」

「それなら良かった」

「それよりも、あの二人こちらをじっと見てきてるんだけれど」

 

 ブラックリリーが見ている方向にわたしも目を向けると、ホワイトリリーとブラックリリーじとーっと言った感じにわたしたち二人を見てきていた。

 

「いえ、仲が良さそうだなと思いまして」

「ですね。それから体調がどうこうって、もしかしか何処か具合が悪いんですか?」

「ええまあ、ちょっとね」

「それなのに来てくれたんですか?」

「今は何ともないから大丈夫よ」

「それなら良いですが……」

 

 取り合えず、これで全員揃ったかな。

 ホワイトリリー、ブルーサファイア、ブラックリリー、そしてわたし。さっきまで静かだった屋上が、一気に賑やかになった。

 

「また会えました」

「ん」

 

 そんな中、ブラックリリーとの会話を終えたのかブルーサファイアがやってくる。ホワイトリリーとブラックリリーはまだ何かをお話し中の様だ。時々こちらをチラチラ見て来ているが。

 

「この前はありがとうございました」

 

 そう言ってぺこりと頭を下げる。

 

「何の事?」

「人が悪いですね。それをわざわざ言わせますか」

「え?」

「ふふ、冗談です。反転世界で飛ばされていたわたしを助けてくれた事、あの魔物を倒してくれた事……全部ですよ」

「間に合ってなかったけどね」

「それでも、回復の魔法はかけてくれたじゃないですか」

「ん。でもそれを言うならあの時、魔法少女たちを一ヶ所に集めてくれてありがとう。あれ、ブルーサファイアとホワイトリリーがやってくれたんだよね?」

 

 そう。

 反転世界崩壊時、急いで皆を集めようと思ったけど既に誰かが一ヶ所に集めてくれていたのだ。そんな事を咄嗟に出来るのは、あの時捕まらずにまだ戦っていた一部の魔法少女くらいだろう。

 触手を破壊して自由になったとはいえ、あの状態で捕まっていた子たちが動けたとは思えない。魔力を奪われていて弱っていたはずだし。

 

 まあ、動けた子も居たかもしれないけど。あと、戦っていた魔法少女はホワイトリリーとブルーサファイア以外にも居たので、わたしの憶測なのだが。

 

「正確にはホワイトリリーですけどね。皆にホワイトリリーが指示を出していました。何故一ヶ所に集めようとしていたのかは分かりませんが……結果としては正解でしたね」

「そっか、ホワイトリリーが……」

 

 ちらっとブラックリリーと話しているホワイトリリーに目を向ける。視線に気づいた彼女は、こちらに軽く笑って見せた。

 

「でも、ブルーサファイアもありがとう」

「いえ」

 

 あの時一ヶ所に集めてくれていなかったら、既にわたしたちはこの場には居なかったかもしれない。反転世界の崩壊に巻き込まれてしまうと、どうなるか分からない。ラビもそう言ってた。

 

 永遠に何もない虚無の空間に取り残されるか、崩壊と同時に消えてしまうのか……はたまた、歪が発生すればもしかしたら何処かに出られるかもしれない。

 

 怖。

 いや、真面目に良かった、本当に。わたしだけならともかく、魔法少女たち全員がそうなってしまったらと考えるとぶるっと肩を震わせる。

 

 命にかかわることは別に魔物との戦いだけではないな。

 

「あの?」

「ん?」

「何で撫でてるんですか? べ、別に嫌という訳ではないですけど」

「あ、ごめん」

 

 丁度良い高さの位置にあったからつい撫でてしまっていた。

 慌てて手を離すと、ブルーサファイアは何処か物足りなさそうな顔を見せる。もっと撫でて欲しいとか? 

 

「ぁ……」

 

 一度離した手を再びブルーサファイアの頭に戻し、優しく撫でると気持ち良さそうに目を細めるブルーサファイア。くそう、可愛いな……って何言ってんだ。

 ホワイトリリーにも言える事だけど、何というか小動物みたいな感じだな……いやそんな事言ったら二人に失礼だけど。

 

「って、私たちが話している間に何してるんですか!」

「あ、ホワイトリリー」

「こ、これは……」

「ずるいですよ! 私も撫でてください!」

 

 そう言って頭をこちらに差し出してくる。今日のホワイトリリーが何かやっぱりいつもより、アクティブ過ぎないか? 

 助けを求めてブラックリリーを見るが、何故か彼女も何かして欲しそうにもじもじしながらこちらを見ていた。え? もしかして君もなの?

 

「えぇ……」

 

 味方が居ない。そうだ、ラビは……。

 

「(モテモテね。私も後で混ぜてもらおうかしら)」

「……」

 

 味方は何処ですか。

 

 

 




イチャイチャしよってからに()
はい。今回ようやく四人集まりました。


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Act.22:約束の時間②

 

 さて、一通り三人が満足するまで撫でてあげたことでようやく解放された。ブルーサファイアもホワイトリリーもブラックリリーも、何だっていうんだ。結構疲れた。

 

 両手使ってやったものだから、今あまり力が入らないくらい疲れているようだ。

 

「お互い頑張りましょうね」

「え、ええ」

「誰が勝っても恨みっこなしですからね!」

 

 そしてそんな原因である三人はというと、少し離れた場所でお互い楽しそうに会話している様子。どうやら打ち解けたというか、仲良くなったみたいで良かった……のか?

 

「複雑」

「(そうねえ、あの子たち本来は敵対関係なのに)」

「ん」

 

 ブラックリリーは件の魔法少女襲撃事件の犯人だし、二人は魔法省所属の魔法少女。知らないのだから仕方がないとはいえ、こう見るとやっぱり複雑。

 仮にバレてしまった場合、どうなってしまうのか不安もあった。わたしとの関係はあまり壊したくはないが、でもそれよりも折角仲良くなった三人が敵対するのは、心苦しい物がある。

 

 会わせない方が、正解だっただのろうか?

 

 今更何考えても後の祭り。わたしとしては、仲良いまま居て欲しいな……三人の関係が壊れないように祈るばかりである。

 それはちょっと高望みだろうか?

 

「三人の未来に幸あれ」

 

 なんてね。

 何言ってるんだろう、と自分に突っ込み空を見上げる。

 

「あ、月」

 

 そう言えば、月って昼間も見えるんだったか。

 昼間はただ光らないってだけで、月自体は良く見ると見つかったりするものだ。当たり前な事だけど、そんな月に感心する。

 

 でも、青空に見える月は何処か孤独。太陽はあるけど、月と一緒に輝く星は昼間では見れない。

 

「……孤独、か」

 

 両親が居ないわたしは孤独なのか? いや、唯一の家族である真白が居るからまだそうは言えないが、真白が誰かと結婚してしまえば、そっちに行ってしまうだろう。

 

「何、ぼうっとしているのよ」

「痛い」

 

 そんな事考えていると、おでこに痛みが走る。それと一緒にブラックリリーの声がしたので、まだ痛みのある場所を手で抑えながら目を向けると、いつの間にかすぐ側に来ていたブラックリリーが呆れた顔をしていた。

 

「今のリュネール・エトワール、何だか何処か辛そうな顔をしていました」

「何かあったのですか?」

「別に……」

 

 孤独について考えていた、というのは何か恥ずかしいので誤魔化す。しかし、三人は納得いかないといった顔をしていた。というか、いつの間に二人も近寄っていたんだ……。

 

「リュネール・エトワールにも事情があるのは分かります。ですが、何かあるのであれば相談してほしいです。力になれなくても……話し相手くらいにはなりますよ?」

「そうね。愚痴でも聞くわよ。色々とお世話になったし」

「私たちはリュネール・エトワールに助けれてばかりですから、こういう時くらいは頼りないかもしれませんが……少し頼って欲しい、かな」

「……」

 

 静かにわたしを見る三人。

 伝わっている……伝わってるさ。彼女たちが本心からわたしを心配してくれている事。少し予想外な言葉たちにわたしはちょっと気圧されてしまう。

 

 そんな顔していたのか?

 いまいち、自分の顔は分からないものである。鏡とかがあるなら別だが。

 

 ……相談、か。

 特に相談する事はないけど……というかそんな辛い事あったっけ? 真白が結婚して居なくなってしまうのは確かに寂しいけど、家族として将来を応援するつもり。

 いやまあ、真白にそんな相手が出来たらだけど……何度か告白はされているようだけど、どれも断ってるようだし。

 

 まだ、わたしの事が好きでいるのだろうか。ああ、居るんだろうな……今の姿になっても真白から感じる気持ちは、変わってなかったし。

 そう、ホワイトリリーやブルーサファイアのように……ブラックリリーはどうかは分からない。でも、何か友達になってからは今までに見せなかったような顔とかをするようになった気がする。

 

 ……気の所為ではなければ。

 

「ありがとう。その時はよろしく」

「「はい!」」

「ええ」

 

 今の所は特に、そういった事はないのでお礼だけしておく。

 でも、何故だかわからないけど、こう言われると何処か暖かく感じる。これが仲間っていう事なのだろうか? いや、仲間はどうなんだろう? 友達か?

 わたしは野良で、ホワイトリリーとブルーサファイアは魔法省。ブラックリリーは野良だが、魔法省とは一応敵対関係と言った感じだろう。

 

 なんだろうね、このメンバー……。

 

 わたしはどっちにも付いてない中立なつもりだが……三人はどう思ってるんだろうか? まあ、わたしは自由気ままに気の赴くままに行動するのが性に合ってるから、こういう立場が一番かな?

 

 でも、わたしにはラビが居るので、第三勢力? 妖精とつながっている魔法少女……いや、それはブラックリリーにも言える事だ。彼女にだってララという妖精が居る訳だし。

 

「そっちはだいぶ仲良くなったね」

「はい! 色々話しました。負けてられませんね」

「? 何かで競うの?」

 

 ホワイトリリーのその言葉に首を傾げる。

 負けてられないって、何かの競争でもしているのだろうか。

 

「まあ、ある意味では競ってますね」

「ブルーサファイアも?」

 

 わたしの疑問に答えたのはホワイトリリーではなく、ブルーサファイアだった。つまり、ブルーサファイアも何かで競っているという事だろうか?

 

「?」

 

 じっと、三人してわたしを見てくるので再び首を傾げる。

 

「わたしの顔に何か付いてる?」

「「「はあ」」」

「??」

 

 え、何? 何で三人してわたしを見てため息ついてるの? 何かしたっけ? ……記憶を探ってみるが、思い当たる節はない。では何故ため息をつかれたのか。

 

「(鈍感ねえ)」

「(ええ?)」

 

 何だか良く分からないが、ラビにも呆れられたのは分かった。解せぬ。

 

「まあ良いです。……えっと、リュネール・エトワール」

「? これは?」

「後で見て下さい」

 

 こそっと一枚の紙を渡してきたホワイトリリー。

 ブルーサファイアとブラックリリーは特に気付いてない様子だが、取り敢えず受け取っておく。後で見て欲しいとの事だったのでステッキの中に収納しておく。

 

「それで、話は終わったようだけど……」

「はい。今回はありがとうございます。ブラックリリーも」

「良いわよ。自分で来ただけなのだし」

 

 ブラックリリーは来ないという選択肢もあった訳だしね。それでも来てくれたので、二人にとっては良かったと思う。ただわたしとしては、あまり知られるのは問題なのではとも思ったんだけど……。

 

 まあ、ブラックリリーが会うという選択肢を選んだのだから、わたしが止めるというのも変だろう。結果的には、仲良く? なったっぽいので、良かったと言えば良かったかな。

 

 でも、さっきも言ったと思うけど、彼女たちが本当の事を知ったらどうなってしまうのかという懸念がある。ブラックリリーは魔法省と敵対しているし……。

 敵対というか、探されているはずだし。

 

 バレなければ問題ないかもしれないが、もしもという可能性がある。

 

「ん」

「また何か考えてますね? 大丈夫ですか?」

「ホワイトリリー……」

 

 考え事ばっかじゃどうしようもないか……考えている時の顔、わかりやすいかな? でも、わたしって結構無表情と言うか、そういう風に見えるって言われるけど。

 

「どうして分かったっていう顔してますね。これでも結構見ているんですよ。まあ、リュネール・エトワールは何というか……無表情なことが多いので分かりにくいと言えば分かりにくいのですが」

「やっぱり無表情?」

「はい。……時々見せる笑顔は反則ですが」

「?」

「何でもないですよ」

「そう?」

 

 何か最後に言ってたような気がするけど……。

 

「本当に悩んでないのなら良いけれど」

「ブラックリリー……」

「ですね。悩みとか聞くくらいなら出来ますよ?」

「ブルーサファイアも……」

 

 さっきもそうだったけど、何故こうも暖かく感じるのだろうか? 分からないけど……心配してくれているのが嬉しくも感じる。わたしはこう言われるのを望んでいた?

 

 分からない……。

 

 

 

 

 でも、この場所は……居心地が良い。

 

 

 

 

 




Twitterによるアンケの結果ですが、以下のとおりです。
1位:リュネール・エトワール
2位:ブラックリリー
3位:ホワイトリリー
4位:ブルーサファイア


投票ありがとうございました!
https://twitter.com/Lunar_eclipse75/status/1429114541674168325?s=20

何か番外編とか閑話とか書こうかなあ……。
いつもお読み頂きありがとうございます!



※他サイトにて投稿当時の後書きです。


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Act.23:一枚の手紙

 

 何処か暖かい気持ちになった後、わたしたちはその後も軽く雑談とかをして時間を潰していた。しばらく続いた所で、解散という形になった。

 あの時のあの気持は何だったのか? 分からないけど嫌なものではなかった。むしろ、嬉しく感じたと言うまである。

 

「……」

 

 自分の胸に手を当てる。

 何故か、ドキドキしている……この感情は?

 

「ん。分からない」

 

 考えた所で答えが出る訳もなく……わたしは、この良く分からない感情については一旦無視する。既に魔法省の建物からはそれなりに離れた場所までわたしはやって来ている。

 

 そこで、あの時にホワイトリリーに渡された紙について思い出し、ステッキから取り出す。適当に人目の付かなさそうな、丁度良さそうな場所に移動し、そこで紙を見る。

 

「手紙?」

 

 あの時は良く見てなかったけど、どうやら一通の便箋のようだった。可愛らしい感じのデザインだ。

 

「ホワイトリリーらしい」

 

 まあ、女の子だもんね。

 破かないようにシール剥がしてみると、中には丁寧に折りたたまれた紙が一枚。それを取り出し、開いていく。

 

 ――司さんへ。

 いきなりこのような手紙を渡してすみません。

 明日の今日と同じ頃、魔法省の屋上で待ってます。

                 白百合雪菜

 

 開いた手紙には、綺麗な文字で書かれた文が二行程。そして名前はリアルネームの方が書かれている。

 

「何だろう?」

 

 今日と同じ頃って事は15時くらいって事かな。

 そのくらいならわざわざ手紙に書かなくても、CONNECTで送ってくれれば良いと思うけど……何か別の意図でもあるのかな? 良く分からないが……一応予定はないし、問題ない。

 

 やっぱり今日のホワイトリリーはいつもと違う気がする。

 何がとは具体的には言えないけど、何かを決めたと言うか吹っ切れたというか……妙に行動的になっていたし。彼女の身に何が起きたのだろうか? 見た感じでは、悪い事が起きた訳ではなさそうだからそこは安心だけど。

 

 冬の日は短い。

 冬至は過ぎたとは言え、既にもう暗くなってしまっている。街灯が点灯し始め、建物の電気や看板やらにも光が灯る。車のライトも光り始め、夜になったという感じがする。

 

「……」

 

 空を見上げると、星と月が見える。

 星と月……星月。それはわたしリュネール・エトワールの別名。正確には星月の魔法少女だが、この呼び方が結構されているのだ。日本人としては日本語の方が分かりやすいと言うか、言いやすいからなのかは分からないが。

 

 ぼうっと夜空を見ていると、冬の夜の冷たい風がわたしを吹き抜けていく。

 

「何黄昏れているのよ」

「ラビ」

 

 黄昏れていたのだろうか? まあ、何の意味もなく空を見上げているのは確かにそうか。

 

「それ、ホワイトリリーからの手紙よね」

「ん。CONNECTで送った方が良いんじゃないかって思ったけど」

「馬鹿ね。本当に何かを伝えたい時は手書きの方が印象強いでしょう。ラブレターみたいにね」

「そう? ラブレター、ね」

 

 ホワイトリリーがわたしに、直接手渡しした手紙。でも確かに、わざわざ手間をかけて書いたんだからメッセージでやり取りするよりは、特別な意味がある、そんな感じになるね。

 

「案外、ラブレターかもしれないわよ」

「……」

 

 ラブレターか……。

 もう一度手紙を見る。魔法省の屋上で待ってます……学校ではないものの、屋上というキーワードがあってラブレターとしても見れるかもしれない。

 

 ホワイトリリーがわたしに好意を持っているのは分かってる。だから、ラブレターを出しても別に可笑しくはないか……実際はどうなのかは分からないが、そこは明日行けば分かるだろう。

 

「前とは状況が変わっているわよね。答えは変わってないの?」

「それは……」

 

 変わらない、と言いたかったのに何故か口から溢れた言葉は曖昧なものだった。答えは決まっていたはずなのに……わたしは迷っている?

 

「迷っているのね」

「そう、なのかな?」

「以前ははっきり言っていたのにそんな曖昧になっているのは、そういう事だと思うわよ。まあ、私の勝手な想像というか判断だけれどね」

 

 そこでさっき感じていた暖かさを思い返す。

 ホワイトリリーにブルーサファイアそして、ブラックリリー……彼女たちは、敵だろうが魔法省だろうが何だろうが、魔法少女である。わたしが守るべき存在。

 

 勿論、他の子もそう。

 

「分からない」

「迷うのは悪い事ではないわ。あなたは変わった……だからこそ、迷うのは当然よ」

 

 迷うのは当然、か。

 わたしはあの子たちをどうしたい? 守りたい? 仲良くしたい? それとも、別れたい? ……別れたくはない。出来ればもう少し仲良くなりたい……のかも。

 

 でもそこに特別な感情は……特にないと思う。でも本当にそうだろうか?

 

「まあ、今ここで悩んでも意味ないでしょう」

「ん。そうだね……帰ろっか」

「ええ……と言いたい所だけど」

「……あー」

 

 帰ろうと思った矢先に鳴り響くサイレン。

 避難警報……魔物出現の際になるサイレンの一つで、例外なく魔物が出現すると鳴るものだ。サイレンと言うか警報にはこの避難警報を含め、三つのレベルに分かれている。

 

 一つがレベル1で避難警報。今鳴っているこの警報の事で脅威度関係なく魔物が出現したら鳴るものだ。

 二つ目がレベル2の緊急避難警報。これは脅威度Sの魔物が観測された際に鳴るもので、過去に鳴った事例はこの前の大晦日以外にこの地域ではない。安全な所に避難するようにというものだ。

 

 そして最後がレベル3の緊急圏外避難警報。

 これは脅威度SSの魔物が観測された際に鳴る警報だが、SSの魔物が出現したのは16年前以降はなく、鳴った事はない。名前で分かる通り、これが出たら茨城県より離れるように、と言うものだ。要するに別の県とかに避難するしかない。

 

「脅威度Bの魔物と、Aの魔物ね。Bの方が既に魔法少女が駆けつけてるみたい」

「Aの方は?」

「今の所はないわね。ここからすぐ近くね」

 

 久し振りに動く時かな?

 

「行ってみる」

「そういうと思ったわ。向こうよ」

「ん」

 

 ラビレーダーの案内に従い、脅威度Aの魔物の方へ向かう。

 もしかしたら、向かう途中で魔法省の魔法少女が来るかもしれないが、その時はその時。こっそり様子を見ておき、大丈夫そうなら引き上げるし、危なかったら援護に入るつもりだ。

 

 建物や道などを、駆け抜け魔物が出現している現場へと向かう。途中特にトラブルもなく、目的の場所へわたしたちは辿り着く。ただ、そこに居た魔物が……。

 

「あれ?」

「ええ、そうよ。あら、見た事ある面ね」

「だね」

 

 そう、そこには、以前見た事のある魔物……火に耐性があるであろうゴジラもどきの魔物がそこに居た。全く同じかは分からないが、同種である。

 

「あいつにはサンフレアキャノンが微妙なんだよね」

 

 前に土浦の某ショッピングモール近くに出現した脅威度Aのゴジラもどきの魔物。ブレスを使ってきたり、火に耐性があるのかサンフレアキャノンを食らっても立ち上がれていたあいつだ。

 

「やっぱり魔力に敏感なんだね」

「そうね」

 

 わたしがゴジラもどきに近づけば、まだそれなりに距離はあったはずだがこちらに気付く。魔力に反応するって事自体はもう魔物の習性というか特性なのは分かってる。

 

「リベンジと行こうか」

「リベンジではないわよね。再戦じゃない?」

 

 それもそうか。

 リベンジだと復讐って意味だもんね……つまり、負けた相手にリベンジするといった感じか。

 

「スターシュート!」

 

 まずは様子見の一撃だ。同種とはいえ、もしかしたら別の能力や特性とかを持っているかもしれないから。ステッキから放たれた星はゴジラもどきにを目掛けて飛んでいく。

 見た目通り、あの大きな体躯は鈍い。避けようとしてもこちらの星の方が向こうに到達し、爆発を起こす。おなじみの星のエフェクトが周りに散らばり、晴れるとそこにはあまりダメージを受けてなさそうなゴジラもどきが見える。

 

「まあ、効かないよね」

 

 やっぱ同種だし。

 その後も数発程度、放ってみるも特に特殊な能力はなさそう?

 

「よし」

 

 それなら、終わりにさせてもらおう。

 目を瞑り、ステッキを高く振り上げる。サンフレアキャノンを二発打てば行けると思うが、何か耐性ある魔法でやるのはあれなので、こっちを使う事にする。

 

「――メテオスターフォール」

 

 魔法のキーワードとともに目を開く。

 空から降りそそぐ隕石が、次々とゴジラもどきに襲いかかる。回避したとしても、この隕石は意思があるようで、スターシュートのように追尾するんだよね。

 まあ、今回は魔物の大きさが巨体なので避ける暇もないと思うけど。

 

 襲いかかる星たちにゴジラもどきは何も出来ず、爆発の中に飲み込まれていくのだった。

 

 

 

 



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Act.24:改めて考える事

 

「相変わらず、酷いわねえ」

「仕方ない」

 

 ゴジラもどきの魔物の討伐が完了し、魔石を回収しその場を去ったわたしに、そう言ってくるラビ。わたしが悪い訳じゃない……使える魔法がおかしいだけだ。

 わたしが戦闘中に、魔法少女の反応があったようだけど、しばらく様子見のように止まっていたみたい。恐らくわたしが戦っている事に気づいたのだと思う。

 

 わたしは横取りするつもりもないしする気もないので、先に魔法省の魔法少女が駆けつけているなら同じように様子見する。

 ずっとそうやっていたので向こうもその気がないって事は分かってるはず。それを踏まえて同じような行動をしたのかもしれない。

 

 うーん、もう少し待っていたら魔法少女が駆けつけていたって事でもある。ちょっと悪い事したかな? でもまあ、早い対応が一番良い。

 脅威度Aとなれば、油断出来ないしね。その上にAAとS、SSもあるけど、そっちが出るのは稀だし。大晦日に

Sの魔物が二体出たのやばかったが。

 

 脅威度Sであれだから、SSになったらどうなっていたのだろうか。

 考えただけでもちょっと恐ろしいが……でもSSの魔物って言ったって16年前のドラゴンくらいしかデータがないから、他に居るかは分からない。

 

 魔物の謎はまだ多い。

 

「ふう」

「お疲れ様です」

「ん。ありがとう」

 

 そんな訳で帰宅して一息つくと、ラビが本来の姿へ戻って労りの言葉をくれる。何気ない些細な言葉でも、やっぱり言ってくれる人が居ると嬉しいものがある。

 

「この地域で久し振りに脅威度Aの魔物が出ましたね」

「ん。やっぱり油断できない」

 

 パタリと収まったからと言って気を抜けば、こうやって突然出てきた時の対処に時間がかかってしまう。忘れていけないのが、魔物は突然出現すると言う点。

 何の前触れもなく、突然出現する。それが今までの魔物という存在だ。警報は鳴るけど、魔物の出現自体は変わってない。

 

 だから、本当に何時何処で魔物が出現するか分からないという事を覚えておいて欲しい。

 

「油断できないのは事実ですけど、司も無理だけはしないでくださいね。いくら魔力量とか魔法が強くても、今のあなたは女の子なのですから」

「……ん」

 

 丁度、近くにあった鏡に映りこむ自身の姿に目を向ける。

 背中の真ん中辺りまで伸びている、艶のある綺麗な銀色の髪に、全てを見透かしているかのような青い瞳。華奢な体躯に白い肌。頬の部分はほんのりと赤みを帯びている。

 

 うん。

 毎回思うけど、本当に前の面影すらないなこれ。そして真白に瓜二つ……こちらの方が身長が若干低いのは納得できないが……。

 低くなった身長にはもう慣れたけどね。

 

「魔法少女の状態なら問題ないと思いますが、生身の方は他の子と同じですからね」

「うん、それは分かってる」

 

 男の時ほど、力がないという事は実は少し前から既に気付いていた。まあ、当たり前なのだが……ともかく、この姿でのわたしは恐らく弱い。

 こっちの姿でそんな戦う事なんてないから分からないが……多分そう。

 

「護身術でも習っておいた方が良いかな」

「それはどうでしょうね。司が必要だと思うなら習った方が安全な気はしますが」

 

 まあ、護身術については一旦置いておこう。

 今すぐ何かがあるとは思えないし……いや、こんな事言うとフラグが立つって言われるな。護身用スタンガンくらいは持っておくべきだろうか。

 

「何見てるんですか? スタンガン?」

 

 スリープモードから立ち上がった自分のPCでスタンガンを調べていると、ラビが画面を覗き込んだ来る。そういえば、真白もスタンガン持ってたっけ? 

 いや真白が持ってるのは痴漢撃退用スプレー……催涙スプレーだっけ? もしくは両方か。

 

 とにかく自分の身を守れる道具はあった方が良いのは確かだと思う。

 

「念の為、何かあった時用に持っておくべきかなと思って」

「なるほど。それにしても、結構高いですねこれ」

「まあ、仕方ない」

「電撃を出す道具、ですか。魔法みたいですね」

「まあ、確かに。でもこれは魔法ではなく科学」

「地球の科学は凄いですね」

「わたしからしたら魔法の方が凄い」

 

 理論だとか化学式とかそんなの関係なく、様々な事象を起こす魔法。そっちの方がわたしとしては凄いというか現実味がないというか……。

 

「お互い様って所ですね、ふふ」

「だね」

 

 ラビとわたしは違う世界に生きている存在。

 こうやって違う世界の存在同士が、こうやって話しているのは普通に考えると凄い事なんだよね。妖精世界は滅んでしまってるけど、それでも違う世界で暮らしていた事は間違いないのだから。

 

 地球外生命体、宇宙人……別の世界の場合この表現が正しいかは分からないが。

 

 ある意味、わたしとラビの出会いは奇跡なのかもしれない。

 そしてそれはララとブラックリリーも……あっちはどういう経緯で出会ったかは分からないが、それでも別世界の存在同士が出会ったという事に間違いはない。

 

 わたしの場合は、いきなり「魔法少女にならない?」って言われた所から始まったが。

 

 わたしが魔法少女として戦う理由……前までは戦っている子たちの負担が少しでも減れば良いと思っていたけど、今じゃ変わってる。

 根本的な所は変わってないけどね。魔法少女を守る……負担を減らす。文字は違えど、守る行動をすれば負担も減るだろう。

 

 ……と言っても、わたしが対処できる事に限りがあるのも事実。

 全てには対応できないって事も理解してる。二か所に魔物が現れた場合、わたし一人が行けるのはどっちか片方だけ。

 

 わたしという存在は一人しかいない。

 

 同じ場所にまとまって出現するなら良いが、ランダムで突発的に出現する魔物にそんなのを期待する事は出来ない。

 

 考えないといけない。

 魔法少女の時も、こっちの姿の事も。

 

 来週はゲートの魔法の実行予定週だ。妖精世界と言う場所へと繋がるかもしれない。どういう場所か分からないからわたしたちが行くリスクは高いが。

 

 まあ、ララが先に行くみたいだからそれ次第にもなるな。それに、発動できないかもしれないという事も言ってたし。

 

 もし仮に発動できた場合……ララの言う通りなら間違いなく妖精世界と繋がるだろう。

 そしてその魔法発動の次は、その妖精世界の環境の確認。わたしたちが行っても大丈夫なのかどうか。駄目そうならララとラビに頼るしかない。

 

 ララは研究員として妖精世界で働いていたからか、調査したりするのが好きなようで地球についても色々と調べているみたいだ。

 そんなララがまず、繋がった場合は先に妖精世界へと入って調査してきてくれるそうだ。その結果次第でわたしたちの行動は変わるだろう。

 

 わたしも流石に別世界って言うのは怖いものがあるので、慎重になってしまう。

 

 興味はあるものの、同時に恐怖というものもある。滅んだ世界なんて、ぱっとイメージ出来ないし。イメージ出来るのはそういった荒廃した世界を舞台にしたゲームとかだろうか。

 

 ゾンビゲーとか。

 いや、あれにも色々とあるから何とも言えないけどね。

 

 まあ、ともかく、だ。

 ブラックリリーとララの目的を達成するための準備は進んでいる。中々気の長い目的だが、わたしも協力すると言った以上、出来る限りの事はしてあげたい。

 それにララだけでなく、ラビの故郷でもあるのだ。ブラックリリーの言う通り故郷が、滅んだ状態なんて確かに嫌だろうし、戻してあげたいという気持ちには同感だ。

 

 と言っても。

 

「その前に雪菜の事があるけど」

 

 その前に、明日の事がある。

 ホワイトリリー……雪菜から手渡された一通の手紙。ただただ明日の15時くらいに待ってるとだけ、書かれていた手紙。

 わざわざ手紙にして渡した理由は何なのか? それは雪菜にしか分からない。だけど、様子の違ったホワイトリリーは何かを決心したという何というかか……そんな感じがしていた。

 

「明日、会いに行けば分かる」

 

 何を伝えたいのか。

 わたしはそのまま天井を見るのだった、

 

 

 

 



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Act.25:白百合の●○

 

「あ、来てくれたんですね、嬉しいです」

 

 わたしの姿を確認するや否や、そう言ってにこっと笑顔を見せるホワイトリリー。不覚にもドキッとしてしまった。

 

「ん」

「まずはすみません。手紙なんかで呼び出してしまって」

「問題ない」

 

 何故手紙にしたのかは分からない。

 でも、手書きという手間をかけてるからこそ、それには特別な意味がある……まあ、ラビが言っていた事だけどね。

 

「少し出ませんか」

 

 ホワイトリリーは屋上から、遠くの空を見ながらわたしにそんな事を言ってくる。それに対し、わたしは静かに頷くと、彼女は魔法省の屋上から別の建物へと飛び移る。わたしもそれについていくように飛び移る。

 

 何回か飛び移ったりして、移動した所でホワイトリリーは移動を止める。

 

「ここなら大丈夫でしょう。……リリース(変身解除)

「え?」

 

 周りに誰も居ない事を確認したホワイトリリーは、(おもむろ)に自身の変身を解き、ホワイトリリーではなく白百合雪菜という一人の少女となる。

 

「リュネール・エトワール……いえ、司さんに伝えたい事があります。差し支えなければ司さんも変身解除してくれませんか」

 

 真っすぐと、そして静かにわたしを見つめるホワイトリリー。

 

「ん。……リリース(変身解除)

 

 ふざけている雰囲気もなく、真面目な話だっていうのがひしひしと伝わってくる。まあ、ホワイトリリー……いや雪菜がふざけた事はわたしの記憶では一つもないけどね。

 わたしも、周りを確認して誰も見ていない事を確認してから変身を解除する。ただそこで一つ、忘れていた事がある。

 

「あれ? ……司さん、ですよね?」

「ん。見ての通り」

 

 そう、雪菜と会った時は黒髪黒目のハーフモードだ。今回ハーフモードではなく、変身を解除したので当然、銀髪碧眼になっている方の姿になる訳だ。

 

「でも、以前会った時は、黒髪黒目だった気がします。でも、リュネール・エトワールですし……えっと、あれ?」

 

 おっと、ちょっと雪菜が混乱してしまったようだ。

 

「落ち着いて。わたしはわたし。司……如月司。以前、雪菜に会った時はこの目立つ髪を隠す為に、髪は黒く染めていた」

 

 まあ、嘘である。

 ハーフモードになっても良いが、あれだと変身状態なので解除という魔法のキーワードを言う必要がない。そしてキーワードを言ってしまうと魔法が発動してしまう。

 目の前に雪菜が居る状態でハーフモードで居たら変に思われるだろう。だって、変身解除のキーワードを言わないのだから。それに、こっちの姿の方を認識してほしいなって思ってるし。

 

「そうなんですか?」

「ん。疑うならあの時の事を一つ。白い兎のぬいぐるみ、白を選んだ理由は白百合、ホワイトリリー……雪菜の、色」

「よ、良く覚えてますね……は、恥ずかしいですよ」

「信じた?」

「いえ、最初から疑っていなかったです。目の前で変身解除してますしね……ですが、以前の時と容姿がかなり違っていたので……」

「ん、ごめん」

「謝らないでください。でも、目立ちたくないから髪の毛を染めていたんですよね? 私に曝け出して良かったのですか?」

「ん。雪菜には本来の姿を見せたいと思って。それに友達だし」

 

 嘘で申し訳ないが、これが一番ありがちな理由なのでホワイトリリーに騙されてもらおう。

 というか、そもそも元男で、今はこうなりましたなんて言った所で信じられないだろうし、本当の事を知るのはわたしとラビ、真白だけで良い。

 

 ただ、ちょっと、友達という言葉を使うのは卑怯なかもしれないけど……ごめんよ。

 

「友達……そ、そうですよね。私たちは友達……」

 

 何か凄い申し訳ないと思う。でも……偽りの姿ではなく今の本来の姿を見せたいというのは本当だ。

 

「ん」

「それはそうとして、司さんの苗字は如月なんですね」

「うん」

「名前にも月が入ってるって凄いですね」

「そう?」

 

 まあ確かに。

 全てに通して月という名前が入ってる。リュネール・エトワールって言うのは自分でつけた名前ではあるけど……でも使える魔法は星と月に関係するもの。ここにも共通点がある。

 星は本名の方にはないけどね。

 

「それで、司さん」

「ん」

 

 改めて雪菜はわたしの事を見る。

 

「すーーはーー」

 

 自身の胸に手を当て、大きく深呼吸をする雪菜。

 

「司さん。私はあなたの事が前から好きです」

「!!」

「友達としての好きとかではなく、恋愛的に私は司さんが好きです」

 

 雪菜の告白。

 わたしは良く分からない、衝撃のようなものを感じた。面と向かっての好きという言葉……いざ、告白されるとこんな感じなのか。

 

「同性なのに、可笑しいですよね。でも、私は司さんが好きです!!」

 

 顔を赤くして、瞳をうるうるさせながらわたしの方を上目遣いの形で見てくる雪菜。その様子はとても可愛らしく、好きな人は好きな表情かもしれない。

 

 いや、そんな現実逃避な事を考えるのよそう。

 

「好きなんです……以前、助けてもらった時からずっと」

「雪菜……」

 

 ああ、それは知っている。

 正確にはわたし自身は最初は気付いてなかったけど、ラビが教えてくれた事によって知ったと言うべきか。

 

「好きです。私と、付き合ってくれませんか、司さん」

 

 さっきと変わらない表情で見てくるけど、それが決して嘘偽りではない雪菜の本当の、心からの告白であるのはわたしでも分かる。

 

「それとも、やっぱり同性は可笑しいでしょうか?」

「……そんな事はない」

 

 わたしは別に同性愛について否定するつもりもないし、する気もない。愛というのは人それぞれなのだ。例え好きになった相手が同性だからと言って軽蔑する事もない。

 

「本当、ですか?」

「ん。少なくともわたしは可笑しいとは思ってない」

「司さん……」

「だから、軽蔑なんてしない。安心して」

「はい」 

 

 わたしがそう言うと、笑顔になる雪菜。

 良かった。でも、まだ終わりではない。告白されたらきちんと返さないといけない……それは分かっている。だけど、どうしてもはっきりと言えないのだ。決めていたはずなのに……。

 

「えっと、わたしは……」

 

 何か返さないといけないと思い、口を開くが言葉が出てこない。

 

「お返事は今じゃなくて大丈夫です。でも、私は司さんの事、恋愛的な意味で好きです。これだけは本当の気持ちです」

「雪菜……」

「この気持ちはきっと変わらないです。それだけ司さんの事が好きですから。だからブラックリリーやブルーサファイアたちと一緒に居るのと見ると嫉妬してしまいます。私って嫌な女でしょうか」

「そんな事はない……」

「ふふっ。やっぱり司さんは優しいです。その優しい所も好きですよ」

 

 ……。

 雪菜の本当の気持ち。

 

 好きであるという事は知っていた。だから告白もされるかもしれないとも思っていたけど、それに対する答えは予め決めていたはず。

 なのに、今のわたしはどうだろうか?

 

 迷っている。言葉を出せずにいる……何故なのか分からない。分からない……。

 

「お返事については少し期待していますね、ふふ」

「ん……」

 

 今すぐはどうしてか、返事が出せない。

 雪菜がそんな事言うものだから、更に意識してしまう……これは慎重に返事をしなくてはいけない。まだ分からないけど、今は言葉が出せないでいるから。

 

 自分は、わたしは……どうしたいのか?

 司として、雪菜の事をどう思っているのか? 嫌い……ではないのは確かだ。それなら好きなのか? 好きかもしれないけど、その好きはどういう好きなのか。

 友達として好きなのか、雪菜のように恋愛的に好きなのか……そこはやっぱりまだ分からない。

 

 だけど、少なくともわたしは雪菜の事を嫌いとは思ってない。 

 

「一緒に、駅まで歩きませんか」

 

 この話題は一旦終わりと言わんばかりに、雪菜はそう言って手を差し出す。暗に手を繋がないかって言ってるのだろうか?

 ここから駅まではそこまで遠くはないから、駅まで歩く事自体には問題ないけど……。

 

「分かった」

 

 断る事もないだろうし、わたしはそれだけ言って彼女の手を掴むのだった。

 




遂に……。

サブタイの●○ですが、これに入る言葉は告白です。
●黒(くろ)○白(しろ)
読み方を変えて、告白(こくはく)です。

漢字ではなく読みを見る感じですね。

はい、どうでも良いことでした……。


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Act.26:告白の後

 

「司さんは、えっとその……外国人だったんですか?」

 

 告白された場所から駅までの道を歩いている中、雪菜が何処か遠慮がちにそう聞いてくる。

 

「違う。わたしは生粋の日本人。英語はそこまで喋れない」

「そなんですか?」

「うん。この髪と目の色は、隔世遺伝って言われてる」

「隔世遺伝……」

「うん。母方の先祖にそういう人が居たらしいから、それが遺伝した」

「そうなんですね……」

 

 まあ、本当かどうかは分からない。

 ただ真白は隔世遺伝だし、その妹であるわたしも隔世遺伝していると考えるべきだろう。だって、父さんも母さんも黒髪だしね。

 

 血の繋がってない子供、という可能性も考えられるが血の繋がっている家族だっていう証明もあるので間違いない。

 

「? どうかした?」

 

 雪菜がちらちらと、わたしの髪を見て来る。

 髪の毛に何かついているのだろうか? それとも、何処かそれともおかしくなっているのかな? 一応、いつも通り髪は手入れしたはずなのだが……。

 

「い、いえ……綺麗な髪だなと思いまして。それにしても、リュネール・エトワールの時に結構近いんですね……」

「そう? ありがとう。……ん、そうだね、魔法少女の時と似てるのは確か」

 

 自分の髪を褒められるのは、悪い気はしない。というかちょっと嬉しいかも。

 髪色とかがリュネール・エトワールの時に似ているっていうのは、まあ事実なんだけどね……せめて黒が駄目なら金とかでも良かったんだよ?

 

 今更そんな事言っても意味ないけど。

 容姿が似ているってだけで、魔法少女と結びつけるのが出来ない。だって、変身後は大きく変わるっていうのが常識になってる訳なので、むしろ、そっくりな方が安全まである。

 

「……」

「……」

 

 急募。この沈黙を打開する方法。

 二人して、手を繋いで歩く……傍から見れば微笑ましい光景だろうけど、実際本人であるわたしたちとしては沈黙が続いているので、気まずい。雪菜に関しては、ついさっき告白された訳だし。

 

「司さん。今回の告白、驚きましたか?」

「……うん」

 

 正直言って驚いてる。

 何時か来るだろうと思ってたけどね。

 

「何かすみません。ですが、私は司さんの事が好きです」

「うん」

「この気持ちに嘘偽りはありません。それだけは知って欲しいです」

「うん……」

 

 分かってるさ。

 

「さっきも言ったように今すぐじゃなくて大丈夫です。……司さんの返事、待ってますから」

「うん」

 

 その後は、何事も無かったように気持ちを切り替えた雪菜と、簡単な世間話というかそんなものをしながら、駅へと歩くのだった。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

「本当にラブレターでしたね」

「うん……」

 

 駅で別れ、自分の家に帰ったわたしは、ラビと雪菜の告白の事について話していた。

 何時かは来ると思っていたけど、このタイミングで告白が来るとは思いもよらなかった。だが、告白されたからには、きちんと返さないといけない。

 

「迷っているんですね」

「うん……何故か分からないけど」

 

 関係を壊したくない?

 断ったとして、これから先どういう風になってしまうのか不安なのだろうか? 分からない……第一にわたしは雪菜の事をどう思っている?

 

「……嫌い、ではない」

 

 嫌いではない。これだけははっきり言える事だ。だが、そこに特殊な感情があるかどうかと聞かれたら、何とも言えない。

 

「そんな、焦って答えを出さなくても大丈夫ですよ。彼女は待ってくれているんですから……もちろん、返事をしないと言うのは駄目ですが。ゆっくり考えて、答えを出すのが良いと思います」

「ラビ……うん。そうだね」

 

 ぬいぐるみ姿ではなく、その姿でそんな事言われると結構恥ずかしいというか照れるというか。でも、そう。雪菜は待ってくれてるのだから、わたしも良く考えて、自分を向き合ってから答えを出したい。

 

「彼女も色々と迷った末で、さっきの行動を起こしたはずです」

「ん」

 

 告白はした事はない。

 でも、告白するという決断を出来るのは中々凄いものだと思ってる。勇気がなければ多分、出来ない。

 

 仮にわたしだったら、多分……そんな勇気はないから陰から見てるような感じになってるんじゃないだろうか? この姿になる前の、更に高校の時に告白された事はあるけど、今みたいに悩む事はなかった。

 

 ……思えば、あの時の対応が正解だったかは分からないな。出来る限り傷つけないように、優しく断ったつもりでいる。

 ……もう、結構昔の事だけどね。あの時の子は、今何処で何をしているだろうか。幸せに過ごしているなら良いけども。

 

「だから司も、悩みに悩んでじっくり考えて、答えを出しましょう」

「ん」

「それに、彼女だけじゃないですしね」

「……そうだね」

 

 告白こそ、雪菜が初めてだが他にもわたしというかリュネール・エトワールに好意を抱いている子が居る。そう、ブルーサファイアこと色川蒼である。

 

「あの子も、近々行動を起こすかもしれませんね。それともう一人」

「え?」

「気付いていないのですか? もう一人……」

 

 ホワイトリリーとブルーサファイアの事は知ってる。だが後一人……いや、心当たりはある。

 

「ブラックリリー……」

「そうです。彼女もあなたに好意を抱いていますよ。そもそも、反応が既にあれじゃないですか」

「……」

 

 ブラックリリーの事を思い返してみる。

 そう言えば今までの素振りにも、何処か可笑しいというか、こちらを意識しているというかそんな行動をしていた事が多々あった気がする。

 

 四人で集まった時も……。

 

「こう言うのなんて言うんでしたっけ……タラシでしたっけ」

「何故そんな言葉を……」

「ふふふ……それに私だって」

「?」

「何でもないですよ」

「そう? ……タラシとか言われたのは初めてだ」

「本当ですか? 真白に聞いたら、高校生の時でしたっけ? その時も何人かに告白されてたそうじゃないですか」

「真白……」

 

 いつの間にそんな事を……。でもそれは、あくまで前の自分の高校時代。今の自分は、年齢は高校生だけど、行ってないのでまずそこから違う。

 

「でも今の自分は違うけど……」

「確かにそうですね。でもこれを見てください」

「ぇ?」

「何枚かの手紙がしまわれてますね。そして内容は……」

「勝手に何してるの……というかこれ、ラブレター?」

「恐らくそうですね。多分全部司宛です」

「……」

 

 屋上とか校舎裏とか、体育館裏とかで待ってます、と言う文が綺麗に手入れされている箱の中に数枚ほど入っている。

 

「もしかしなくても、中学校で何回か告白されてるんじゃないですかこれ」

「うーん……」

 

 全然心当たりがない。

 でも……そういえばこの姿になった原因は願いの木だったよね。そして、今の司としての願いを聞いたのか、周りが都合良く書き換えられていた。

 

 だが……流石に都合良すぎやしないだろうか。怖いくらいにしっかりと、過去の基盤まで出来上がっている。最初から真白の妹として生まれたというように。

 間違いなく、今のわたしは妹となっているが……。

 

「ねえラビ。願いの木は本当に世界を書き換えたんだろうか?」

「唐突ですね。でも……確かにここまできちんと過去まで作られているのは、改変というのを飛び越えているような気がします」

 

 改変ではなく一から作った? ……いや、それは流石に。 

 

「一から新たな世界を作った?」

「もしくは、私たちが世界を移動したか」

「ん? 移動?」

「はい。この地球にもありますよね、同じような世界が複数あると言う説が」

「……並行世界(パラレルワールド)

 

 わたしの口から自然と出た単語に、ラビは静かに頷く。

 

「それです。まあ、と言っても全くの机上の空論なので何とも言えませんけどね」

「まあね……仮に世界移動したとしても、証明できる方法がないし……」 

 

 仮に移動して居たら元の世界に戻れば証明できるだろうが、原因が願いの木という地球の物ではない以上、何とも言えない。

 

「本当に書き換えただけかもしれませんし……司の言う通り一から作ったという可能性もありますね。他には作り直したとか」

「ん……どれにしても、スケールが違いすぎる」

 

 まず並行世界って……既に妖精世界と魔物の世界の二つがあるのにそこに更に並行世界って。もう何が何だかわからん!

 

「ですね。考えても仕方ありませんね」

「ん」

 

 そうである。

 証明できる方法なんてないし、移動してたとしてもどうすれば良いって話になる。考えるだけ、無駄かもしれないな。

 

 そんなこと思いつつも、少し考えてしまうのだった。

 

 

 



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Act.27:ゲート①

やっと動き出す()


 

「ここが司さんの家ですか」

「ん。何もないけど、上がって」

「お邪魔します……」

 

 雪菜の告白から数日経過した今日。

 あれから未だに答えが出ていない……でも、絶対返事はするつもりだ。だけど、あまり待たせるのも良くないとも思ってる。だから、自分自身と向き合ってどうしたいのか考えないとね。

 

 今日はゲートを繋ぐ魔法を使用する日。

 というのも、一昨日にブラックリリーとララと再び会い、そこで今週の何処でやるのか? という話し合いをしたのである。その結果が今日という訳だ。

 

 ブラックリリーは、目立つのも駄目かと思って、わざわざ変身せずに身体が弱いはずのリアルの姿で、交通機関を使って来てくれたようだ。前もって、家の場所については教えていたから。

 

 ララ曰く、今日の香菜の体調とかはかなり良い方みたいだった。

 

 え? 家がバレるのは嫌だったのではないかって? 確かに、嫌ではあるがそれはあくまで魔法省に知られるのが嫌という訳だ。出来るなら雪菜や蒼だって家に来てもらいたいとは思ってるけど……。

 

 香菜については、野良なので問題ないと思ってる。

 

「お邪魔するよ」

「ん。ララもいらっしゃい」

 

 二人には家に入ってもらい、そのままリビングの方へと通す。何時までも玄関に居てもあれだろうし、取り合えず上がってもらう。

 

「ひ、広いね……」

「そう? ……でも普通の家よりは少し広いかも?」

 

 家を買ったのは両親なので詳しい事は分からないが、広いかな?

 わたしとしては昔からこの家に居る訳だから、この家の感じが当たり前だと思ってるし、特に何とも思ってない。ただ、香菜がそう言うなら広いのかもしれない。

 

「まあ、座って」

「うん」

 

 何処か緊張しながら座る香菜を横目に、冷蔵庫のあるキッチンに向かう。

 冷蔵庫の中にあるのは、料理とかに使う食品類に飲み物、調味料とか色々だ。冷凍庫には冷凍食品とか、氷とか……まあ、普通に一般家庭にある冷蔵庫だ。

 

 出せる飲み物としては、麦茶かコーヒーだけど……無難に麦茶にしておくか。

 

「えっと、お客用のグラスは……あった」

 

 コップ等がしまってある棚から、お客用のガラスのグラスを取り出し、シンクで軽く洗い流す。後は氷を幾つか入れてから、冷蔵庫から2Lペットボトルの麦茶を取り出して注ぐ。

 

「どうぞ」

「あ、ありがとう……」

「ん」

 

 ララにも飲むか分からないが、同じように麦茶を出す。

 

「ボクもお客扱いなんだね」

「ん。飲まない?」

「いや、頂くよ」

 

 そう言って静かにグラスを取り、飲み始めるララ。香菜もそれを見てか、同じようにして飲み始める。沈黙というか静かな時間が過ぎていく。

 

「今日はラビは居ないの?」

「居るよ。ラビ」

「え?」

 

 わたしがそう返すと、向こうのドアが開かれ、少女……本来の姿のラビがリビングに入って来る。

 

「ラ、ラビリア様?」

「ララ、そうですよ。何時までも隠すのは良くないと思いまして、司にはもう話しました」

「そ、そうなんですね」

「えっと?」

 

 いきなり見知らぬ少女がやってきて、それをララがラビリア様と呼ぶものだから、香菜が困惑している。わたしも最初は驚いたというか……。

 

「えっと、香菜さん。この姿では初めましてですね。私はラビ……ラビリア・ド・アルシーヴ・フェリークです。以後お見知りおきを」

「ラビリア……」

 

 香菜は驚いた顔でラビを見る。

 

「まあ、話すと長くなるのですが……」

 

 そう前置きをした後、ラビはわたしに語った時のように説明を始めるのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「アリス・ワンダー……原初の魔法少女……」

「ふふ、ちょっと話過ぎてしまったかもしれませんね。少し休みましょうか」

 

 一通りラビが説明をした所、香菜の頭はオーバーヒート寸前のようだった。元より身体が弱いので、無理させる訳にもいかないので、一旦休憩に入る。情報量が多いのは、同感だ。

 

「大丈夫?」

「何とか……ラビは妖精世界にあったエステリア王国の第一王女で、記録者(スクレテール)で、妖精(アルシーヴ・)書庫(フェリーク)? の全権管理者(アドミニストレータ)……」

「肩書多いよね。わたしも最初はそうなった」

「うん……と言ってもそれ以外の情報にも驚いてるけど」

「ん。無理しなくて良いよ」

 

 そう言って未だに情報の渦に呑まれている香菜の頭を撫でる。

 

 この話で、ララにも本来の姿があるという事は香菜も分かったはず。というか、ララがもう認めてるしね……ララは中性的な話し方するから真面目に、どっちの性別か分からないんだよね。

 ララについては別にこちらから本来の姿を見せろとかは言わない。ララはわたしではなく、香菜のパートナーというか妖精なのだから。

 

 気になるのは確かだけどね。

 

「ありがとうございます、司さん。少し落ち着きました」

「それは良かった」

 

 さて、香菜も落ち着いたところでラビの説明の続き……と行きたい所だが先に本題に入らないと。わたしの家でゲートを使うと言うのは決まっているが、問題は何処に設置するかだ。

 家の中……は何かあった時が怖いので、やっぱり外になる。ただ外って言っていっても、中庭と裏庭、正面の三か所がある訳で。

 

 ただ中庭は、ほぼ屋内のような位置にあるので保留かな。

 中庭を除くと正面か裏庭になるが……正面は、お客さんとかが来る時があるので設置するのはまずいな。そうなると、消去法で裏庭かな。

 

 庭を含む、家全体を囲うように塀が作られているからまず見られる心配はない。いやまあ、塀を登ってくるような侵入者が居たら見られるが……。

 

 流石にそれは勘弁。

 

「ゲートの場所なんだけど、ここは司の家だから、何処が良いとかあるかい?」

「ん。屋内は少し怖い。中庭も屋内のような場所だから保留」

「中庭があるって言うのも結構凄いけど……」

「そうかな?」

「普通の家に中庭なんてないでしょ!」

「でも、そこまで広くないよ?」

「広さじゃなくて……ある事自体がおかしいの!」

 

 香菜が何か元気だ。まあ、元気なのは良い事かな? 彼女は身体が弱いのだから、元気な姿が見れると何というか安心出来るよね。

 

「こほん。そうなると普通に庭になるかな?」

「ん。ただ庭も正面と裏庭がある。正面の方が少し広い感じかな。でも……正面だと訪問者とかが来た時に見られるかもしれない」

「なるほど。それなら消去法で裏庭って感じかな」

「ん。裏庭が一番安全……だと思う」

 

 あの高い塀を登ってこなければ、だが。

 取り合えず、現状裏庭が一番見られるリスクも低いので、そこが一番かな。

 

「了解。それじゃ、行ってみるか」

「ん」

「私も行きますね」

「あ、ちょっと! 私も行くから」

 

 少し残っていた麦茶を飲み干した所で、グラスを水につけてからわたしとラビ、香菜とララで四人揃って裏庭へと向かう。場所はわたしかラビしか知らないだろうから、わたしたちが先導する。

 

「ねえ、司さんってもしかしてお金持ちなの?」

「他にもこの前、言ってたけど司しか居ないって言ってたが……」

 

 向かっている途中、ララと香菜にそんな質問を投げかけられる。

 お金持ち……はどうだろうか? 1億円当ててるから、それだけ見るならお金持ちだけど、その宝くじを除くとどうかな?

 両親はそれなりの良い所に勤めていたと思う。わたし? わたしは普通の会社だよ。と言っても、それは前の話だけど……。

 

 今は16歳にしてニートである。

 

「お金持ちかは分からない。両親については……もういない」

「え?」

 

 まあ、隠したとしてもそのうち、居ない事に疑問を覚えるだろうし、素直に言ってしまおう。

 

「両親は既に居ないから、基本わたし一人」

「! ご、ごめんなさい」

「ん。気にしないで」

「でも……」

「大丈夫だから」

 

 悲痛な顔をする香菜を安心させるように、撫でる。大丈夫である。確かに男の時も両親が、死んでしまった時は泣いたが、もうそれは過去の話。

 今はもう立ち直れているから、大丈夫。立ち直れてなかったらそもそも、言わないしね。

 

「そうだったのか……すまない、これはボクの責任だ」

「ララも気にしないで」

「君がそう言うなら良いが……」

 

 それに今は一人ではなく、ラビが居るしね。他にも今のわたしには友達がいるし……ね。雪菜には告白されてしまったが。

 

「この話は終わり。ララ、ゲートの準備しよ」

「司さんがそう言うなら……分かりました。ララ、何処に設置するの?」

 

 半ば無理やりではあるが、暗くなっている雰囲気を消すために話をぶった切る。何処か納得いかなそうな表情をするが、切り替えてくれたようだ。

 

 そんな訳で、わたしたちがゲートの魔法の発動準備を行うのだった。

 

 

 




やっと動き出した物語。
完結まで後少し……


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Act.28:ゲート②

 

「この辺りかな」

 

 取り敢えず、色々? あったけど今は四人で裏庭の方にやってきている。何をしているのかと言えば、まあ、見ての通り、これからゲートの魔法を使う準備をしている所だ。

 使う準備というか、ゲートは設置型の魔法らしく、一度発動すると消さない限りその場に残るというものだ。更に言うと、一度設置すると、移動させることが出来ないので適当な場所では使えない訳だ。

 

 移動させたい場合は、一度発動させた魔法を解除し、再び魔法を使うしかないみたい。知っての通りゲートは距離にもよるが、かなりの魔力を消費するとララも言っているし、ラビも言ってた。

 それを移動させるだけにまた使うのは確かに面倒というか大変というか……。

 

 でだ。

 裏庭とは言え、そこそこの広さはあるのでそのスペースのどの辺りに設置するかを考えている所だ。発動出来ないかもしれないとは言え、発動するかもしれないとも言えるので場所は決めとかないとね。

 

 家から近い場所は中庭と変わらないので、そこはやめておきたい。あまり端っこすぎるのも、あれなので、まあ、程良い感じの位置……中央くらいだろうか?

 

「家に近すぎず、端っこにも近すぎない。結構良い位置じゃないかな」

「ん」

「ここにするの?」

「ここで良いかな」

 

 場所が決まり、ララはわたしが魔力を注ぎ込んだりしていた魔法の瓶(マギア・フラスコ)を何処からか未だにわからないけど、取り出して、庭に置く。

 多分、魔法か何かで収納しているんだと思うけど……どんな魔法かは分からないな。ファンタジーに良くある小説の異空間に収納できるとかそういうやつだろうか?

 

 まあ、何でも良いけど、やっぱり魔法は便利というか不思議な力だなって思う。妖精世界ではそんな魔法を当たり前に使って暮らしていたと言うし、もしかすると地球よりも文明は高いのかもしれない。

 科学ではなく、魔法を使った乗り物とかもあったみたいだし……。

 

 科学技術がなくても、魔法技術でどうにかなるのであればそれは地球より遥かに文明が高くなっていても、可笑しくはない。何せ、地球には今では魔法少女だけだけど魔法が存在するが、元々はそんなのは無かったのだから。

 

 妖精世界……二つの姿を持つ者たち。

 と言っても、メインは人型の方らしいけどね。でもって、耳がエルフとまでは行かないが少し尖っているし、背中には半透明な羽もあるので、明らかに人間ではないのは分かる。

 いや、向こうの世界ではその姿が当たり前なので向こうからしたら地球人も可笑しく見えるかもね。それに、妖精世界の場合は人間ではなく妖精と呼ばれているっぽいし。

 

 滅んでしまう前はさぞ、凄かっただろうなと思う。 

 

「よし、これで行けるはず……」

「ララ、大丈夫?」

「香菜、心配してくれるのかい?」

「それはそうだよ……」

「ふふ、嬉しいね。でもまあ、大丈夫なはずさ。仮に失敗しても不発に終わるだけだから、何ともないよ」

 

 思い返されるのは、妖精世界が滅んだ経緯。

 ラビから聞いた事ではあるけど、複製する魔法の発動に失敗し、どういう訳か二つの世界を引き寄せてしまった。その反動で妖精世界は滅んだ。そして妖精世界にあった魔力が地球になだれ込んできた。

 

 その影響で地球には存在しなかった魔力が充満。植物たちがそれらを吸い込み、何らかの変化が発生し酸素以外にも魔力を作り出すようになった。まあ、植物も動物も環境に適応するために進化するからね……生命にも割と謎は多いものだ。

 

 今回の魔法は、妖精世界とこの場所を繋ぐ魔法。言葉だけで言えば簡単だが、知っての通り妖精世界はこの世界とは別の世界。そんな世界とこの世界を繋ぐのだから、魔法自体の規模はそれなりに大きいものとなる。

 消費する魔力もそれに倣って膨大、とララもラビも言っている。魔法の瓶(マギア・フラスコ)に貯めた魔力でも足りるかわからないし、わたしが魔力を譲渡した場合でもどうなるか不明。

 

「妖精世界、か」

 

 雲一つない快晴の大空を見ながら呟く。快晴と言っても、季節が季節なので寒いのだが……今こうして話している時だって口から白い息が出てるし。

 

「どうしましたか、司」

「ラビ。いや、妖精世界の事を考えてた」

「私たちの世界ですか」

「ん。前に言ってた。地球とそう変わらないって」

「そうですね。建築技術とかは地球ほど高くないですけど、あまり変わりませんね。雰囲気とかは。魔力で動く、地球で言えば車のようなものもありましたしね」

「そうなんだ……」

 

 魔力を動力とした車……ちょっとロマンがあるね。

 まあ、そんな話も、地球では出来ているんだけどね。魔石というものがあるからそれを使えば、可能ではないかという事。地球の車の技術はかなり高いと思うから、既にそこまで到達している車に魔石という新たな要素を入れるのは難しい所ではある。

 

 それに、今は対魔物が最優先。

 魔導砲やら、魔導銃やら色んな案はあるけど、実現するのはだいぶ先になるだろうなあ。

 

「もし、妖精世界の魔法の技術があったら地球も、魔物に対抗できてたと思う?」

「何か話題変わりましたね。そうですね……魔法については妖精世界の方が進んでいましたし、魔石の活用方法もありました。なので、もしそれらの技術があったら、地球は科学と魔法の入り乱れた高度な魔法科学文明に成長していたかもしれませんね」

「高度魔法科学文明、か。何かかっこいいね」

「ふふ、そうですね」

 

 魔法科学文明か……どんな世界なんだろう? ちょっと考えるだけでも結構楽しいねこれは。

 

「あくまで、魔法と科学を共存させて進化した場合の話ではありますけどね」

「ん。そうだね」

 

 仮に最初から魔法が存在してた場合、地球はここまで成長できただろうか。魔法の方にばかり研究し、もしかすると妖精世界と同じになっていたかもしれない。

 

 誰かが共存という道を進み、それが浸透すれば或いは。

 

「準備出来たよ。今から使うけど、良いかい?」

 

 そんな事を考えていると、一通りの準備は出来たようでララがわたしたちに教えてくれる。特に特別な準備はなく、魔法の瓶(マギア・フラスコ)だけが置かれているだけみたいだ。

 まあ、魔法を使うだけだしね……他に何が必要なのかという話である。魔力があれば魔法は使える……妖精はそれが普通のようだが地球としては魔法少女の状態でしか現状使えない。

 魔法少女の人が変身せずに、魔法を使えるのか試した事も多くあったみたいだけど、使えなかったみたいだ。

 

 それはさておき、妖精はそんな訳で変身なんてせずに魔法を使える。ラビが過去を見るための魔法を使う時だって、特に特別な作業はしてなかったし。

 

「ん」

 

 ララの言葉にわたしは頷く。すると、ララもララで頷き返す。その後、香菜とラビとも頷き合った所で、ララは前を向き手を前に差し出す。もう片方の手は魔法の瓶(マギア・フラスコ)の方に触れてる。

 

 良く分からないが、手を伝って魔力を受け取ってるのかな? わたしが魔力譲渡する際に、触れるみたいに。わたしの場合は特に、身体に触れていれば、何処であろうとも譲渡できるが……。

 まあ、今回譲渡する側は魔法の瓶(マギア・フラスコ)っていう、道具だから一緒に出来ないか。人とかであれば、ララも同じように何処に触れても譲渡できるし受け取る事も出来るのかもしれない。

 

「――ゲート」

 

 一つ、深呼吸をした後、ララは一つのキーワードを紡ぐ。ララが手を差し出した所に、光が、魔力と思われるきらきらしたものが集まって行く。

 魔法の瓶(マギア・フラスコ)の方を見れば、魔力量を表しているゲージが徐々に減少しつつある。つまり、ララの魔力では足りなかったという事だろう。わたしは魔法の瓶(マギア・フラスコ)の近くまで移動する。

 

 後から気づいたのだが、別にララに譲渡しなくても魔法の瓶(マギア・フラスコ)を使っているのだから、こちらにわたしが注げば良いのでは、と。

 

 ゲージはまだ七割近く残っているが、それでもまだ減少しているのでまだ足りないのだろう。しばらくして、ゲージが五割を切ったところで、ゲージの動きが止まる。

 同時に、ララの前に白く光る、四角形状の何かが作り出される。

 

「上手く行った?」

「多分、成功していると思いますが……」

 

 しかし、ララの魔力+この魔法の瓶(マギア・フラスコ)の五割……中々の消費だな。ララの魔力量は分からないけど、少なくはないと思ってる。

 そしてわたしの魔力の半分を入れて三割進むくらいの容量のある魔法の瓶(マギア・フラスコ)の五割の量。そうなると、ゲートの魔法はわたしならもしかして使えてたのだろうか? いやまあ、星とか月とかと関係ないから、そもそも使えないだろうけど。

 

「何と行けたようだよ。かなり疲れた」

「大丈夫、ララ」

「大丈夫……多分成功したから繋がってるはず。今すぐ行きたい所だけど、少し休むね」

「ん。そうした方が良い」

 

 見ただけでも結構疲労しているのが分かるし。

 しかし、繋がったか……あの四角形というか長方形? の門のような物の先は妖精世界って事だろう。遂に世界と世界を繋いだ……まだ分からないが。

 

 詳細は、ララが戻ってきてから、かな。

 

 

 

 

 



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Act.29:妖精世界に行くために

すみません。
0時の予約投稿忘れていました。本当に申し訳ないです……。


 

 ――妖精世界『フェリーク』

 かつて、魔法文明が築かれていた妖精と呼ばれる存在が暮らしていた世界。しかし、世界を複製する魔法の発動に失敗し、崩壊。世界にあった魔力は、一気に外へ流出してしまい、最終的には草木も生えない世界になった。

 

 その魔法発動の失敗が原因かは、実の所詳しくは分かってないが、とある二つの異世界を呼び出してしまった。一つは魔物と呼ばれる未知の生命体の暮らす世界。

 もう一つは人間と呼ばれる存在が文明を築いている地球という世界。草木も生えない世界となったものの、世界自体が消滅している訳ではないため、まだ妖精世界は残っている。

 

「だから実の所、滅んだ原因が複製の魔法の発動が失敗したからなのかは、分かってない。もしかしたら世界を複製ではなく、呼び出す魔法を誰かが使ったという可能性も否定できないんだ」

 

 そう語るのは、ラビと同じく妖精世界に暮らしていた妖精のララ。

 妖精世界は、世界を複製する魔法を発動させて、それに失敗して滅んだ。そういう事にしてあるそうだが、実際はそれが原因なのかははっきりしていない。

 

 複製する魔法が失敗して、どうして別の世界が呼び出せるのか?

 誰かが、あの場に居た誰かが複製ではなく、呼び出す魔法もしくはそれに似た何かの魔法を、わざと発動させたという可能性も否定できないそうだ。

 

「結局の所、本当の原因は分からないままだね」

「そうなんだ……」

「本当に失敗して、呼び出した可能性もやっぱ否定できないしね」

 

 わたしからすると、非常にスケールが大きくて何とも言えない状態である。

 妖精世界、魔物の世界、地球……そんな三つの世界が隣り合わせでくっついていると言われても、いまいちピンと来ないしね。この地球という世界しかわたしたちは知らないのだから。

 

 あーでも、地球って世界なのかな? 世界っていう言葉は曖昧だ。

 別の世界から見たら、こちらの世界というのは本当に地球だけだろうか? 地球というのは太陽系に属する一つの惑星なのだし、更に言えば、太陽系だって天の川銀河に属する星系である。それら全てを含めて宇宙なのだ。

 

 別世界というのはどういう存在なのか?

 並行世界を例に挙げてみるが、同じような世界が幾つかあり、それぞれの選択によって結果が分岐すると同時に世界も分かれる。互いの世界は交わる事なく、ずっと平行線上に続いていく。そんな感じだったよな。

 

 範囲を大きくすれば、宇宙で起きた事によっても、分岐すると考えられる。そうなると、世界というのは地球だけではなく他の惑星や星系、銀河全てを含めてこそ世界という感じになるのではないか。

 

 うーん。何か変なこと考えちゃったな。

 

「長い間、地球に居たから妖精世界が今どうなっているかは分からない。もしかしたら、自然再生しているかもしれない」

「あーそうだよね。時間の流れとかも、違う可能性もあるもんね」

「ああ。だから……どうなっているか確認できるこの時が来て、良かったと思ってる。リュネール・エトワール……いや、司にラビリア様。協力してくれて心から感謝しているよ」

 

 そう言って、頭を下げるララ。

 いやいや、まだ終わってないさ。協力というのは再生するという事に協力しているのだから、世界が繫がったからと言って、協力関係が終わる訳ではない。

 

「司に協力してもらいたかったのは、魔力についてだ。今、君の魔力のお陰でゲートを無事発動できた。だから、これ以上先については、好きにして良い。無理に先の長いこの目的にまで協力する必要はないよ」

「そうだね。これより先は私たちの目的だから。司さんには、魔力についての協力しかお願いしてないからね。と言ってもここにゲートを設置したからちょくちょく来るのは許してね」

 

 そんな事を言う二人。

 確かに……二人はわたしに対しては、魔力についてしか言ってなかった気がする。目的は話してくれたけど、その目的に加わってほしいとは言ってないね。

 

 でも。

 

「ん。最後まで付き合うよ」

「え? でも……」

「わたしにもラビが居るし、戻してあげたいという気持ちには同感」

 

 そんな中途半端で放り出したりするつもりはない。

 妖精世界で何が起きるか分からない。そんな所にいくらララが居るとは言え、ブラックリリー一人だけに向かわせるのはね……ただでさえ、身体が弱いのだし。

 

「それに。魔力だって、わたしが居ないと集まらないよね」

「……それはそうだね。集める事自体は出来るけど、時間がかかるだろうね」

「つまり、魔力についての協力でもまだ終わってないという事。期限だって決めてないよ?」

「それはそうだけど……でも良いの?」

「ん」

「……ありがとう」

「気にしないで」

 

 と言っても、わたしも今はないと思うが、忙しい時とかがあったら無理な日とかはあるかもしれないが……基本的には、家に居いるし暇である。

 今の暮らしで良いのかっていう疑問は残るけど、今考えてもね。ただ……宝くじのお金とか、両親の遺産とかがあるとは言え無限ではない。わたしも、何か働く事とかを考える必要もあるかもしれないなぁ。

 

 でも、中卒だからどうだろう。アルバイトくらいなら出来るか? ……いや、今考えるのはやめておこう。

 

「それじゃあ、早速ボクは行く準備をしようか」

「もう大丈夫なの?」

「結構魔力を持っていかれたが、何とか復活というか最低限は動けるくらいにはなったよ」

「最低限じゃ、ちょっと危険じゃない?」

 

 香菜の言ってる事はご尤もだと思う。

 いくら、妖精が大丈夫だろうとは言え、向かう先は何があるか分からない妖精世界だ。万全な状態で行くのが望ましい。この場合なら、ララの魔力が完全に回復してからの方が良いと思う。

 

「ん。完全回復してからの方が良いと思う、わたしは」

「司さんもそう思いますか? いくらララでも、最低限回復したからって行くのは危険すぎるよ。向こうは何があるか分からないんでしょ?」

「それはそうだが……」

「それに急いでないでしょ」

「ん。無理しない方が良い」

「そうですね。今はどうなっているか分からない妖精世界ですし、万全を期した方が良いと私も思いますよ」

「ラビリア様まで……」

 

 危険がないと、はっきり分かっているなら良いがそれが分かってない。

 滅んだという事しか分からないし、世界は残っているものの今どうなっているかはラビやララでも分からない。そんな未知な場所に、不完全な状態で行くのは命の危険にもなる。

 

 今どのようにになってしまっているか、気になるのは分かるけども。

 

「分かった。……今日はやめておくよ。明日になれば完全に回復するだろうし」

「それが良いよ、ララ」

「どうしても気になると言うなら、私が見てきましょうか?」

「え……ラビリア様に危険な仕事を任せる訳には……」

「ほら、ララも危険だと分かってるのでしょう? やっぱり、準備を整えてからの方が良いと思いますよ。確かに今妖精世界はどうなっているのか気になるのは私もですが」

「うっ……。はあ……確かに妖精世界に行くのは危険だろうね。何があるか分からない。地球と同じように、魔物が出現している可能性もある。幸い、地球は文明を築いている人間という存在が居て、魔法少女が誕生したから魔物が出てきても、対応できている。初めて出現した時だって、こう言っては悪いかもしれないが、一つの国が半壊しただけで収まった」

 

 ララの言っているのは確かにそうなんだよね。

 未知の生命体である魔物……しかも、今の脅威度で言うならSSの魔物が出現したのに半壊で済んだのだ。まあ、原初の魔法少女のお陰というのが大半だろうが……。

 

 そんな原初の魔法少女を生み出したのはラビだ。

 当時はどんな感じだったのか、検討もつかないが……SSの魔物との戦いは結構激闘と言ったものだったらしい。直接見た訳じゃないから何とも言えないけど、原初の魔法少女もそれなりに苦戦したという事だろう。

 

「魔物という存在が、もし妖精世界にも居たら……既に崩壊してしまった世界だし、対処できる存在は恐らく居ない。そうなると、徐々に魔物は増えていくだろう」

「妖精世界が滅んで、私たちが地球にやって来てからもう16年も経過していますしね……この地球での16年が、妖精世界ではどのくらい経過しているのか分かりませんが……」

「仮に時の流れが同じだとしても、16年間、妖精世界は誰も居ない状態で存在している……」

「そんな状態で、魔物が現れたら……」

 

 地球は魔法少女と人間が居るから、まだ無事だ。死傷者も少なからず出ているが、それでも世界は機能している。

 だけど、妖精世界には誰も居ない。そのような世界に魔物が現れたらどうなるか? 想像するのは容易い。対処できる存在が居ないのだから。

 

「最悪乗っ取られているかもしれないね」

 

 そのララの言葉に全員が頷く。

 想像するのは容易いからね……対処できる魔法少女や人間というものは今の妖精世界には存在しない。完全に魔物の無法地帯となっている訳だ。

 

 まあでも、魔物が居ない可能性も考えられるけど。

 

「取り敢えず、万全を期すに越したことはないですね。私もある程度は魔法が使えますし、ララ一人で行かせるのもあれなので付いていきます」

「ラビリア様……王女であって記録者(スクレテール)でもあるあなたが行くのは……」

「王女についてはもう、世界がありませんし古い肩書です。記録者(スクレテール)についてはそうですね、この出来事を見届ける役目がありますので」

 

 仮に妖精世界を再生させた場合、その記録をするのは確かにラビの記録者(スクレテール)としての役目だろう。でも、ラビって戦えるのだろうか? いやまあ、王女だし戦いについては何か経験なさそうだし……失礼かもしれないが。

 

 まあ、それは良い。

 取り敢えず、今は休むのが一番だし、準備が整ってから行くのが妥当だろう。と言っても、わたしたちが最初は行けないのだが……もし、わたしたちが行ければ魔物が居ても対処できるんだがな。

 

 妖精世界……果たして今はどうなってしまっているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 




いつもお読み頂きありがとうございます!
なんか最終章は色々と混ざって退屈な話ばかり多くてすみません。

ようやく、妖精世界に行く準備が整うという、どれだけ時間かけてんだって感じですが生暖かい目で見てやってくださると幸いです。

次回より、大きく動くという事で終わりに近づいています。
最後までよろしくお願い致します。



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Act.30:妖精世界『フェリーク』①

 

「じゃあ行ってくるよ」

「私も行ってきますね」

 

 翌日。

 再びわたしの家に集合し、裏庭に設置したゲートの前でララとラビがそう言ってこちらを向く。

 

 昨日、発動に成功したゲートという魔法。それは、一度発動させれば、消すまでは残り続けるという設置型の魔法だ。魔法については、わたしも自分のだって把握しきれてないから、良く分かってないが、ララとラビがそう説明したのでそうなのだろう。

 

 魔法にも色んな種類があるのは分かっているが……やっぱり、こうなんというかイマイチ、ピンとこない感じだ。地球にももう魔法は存在しているものの、それは魔法少女限定である。

 魔法に関する技術が浸透している訳ではない。魔法少女しか使えない魔法という力を使うよりも、今まで築き上げてきたこの科学という技術を更に発展させた方が地球としては良いのだろうし。

 

 ただ、魔法と呼ばれる力が科学に及ぼす影響がどれ程なのか? 魔法は確かに使えないが、魔石と呼ばれる新たなエネルギーは誰でも使える訳だ。いや、使えるというのは語弊があるか。

 

 魔石は魔力を内包する石だ。魔力と呼ばれるエネルギーを様々な科学の発展に使えた場合……地球は大きく進化するのではないか? 昨日も言ったように、魔法と科学の共存した文明……あながちこれは不可能ではないと言えるのではないか?

 

 とは言え、魔石の獲得方法が魔物を倒す事しか現状ないので、現実的ではないだろうとも思う。

 地球は……この魔物と魔石、魔力や魔法の存在でこれから先どうなっていくのか……想像できないが、少なくとも変わっていくのは分かる。魔力は既に空気中に存在する物となっているから、消える事はないだろう。

 

 まあ、植物の伐採とかが進んで供給量が減ってしまった場合はこの限りではないが。

 

「ララも、ラビも気を付けて」

「ああ、気をつけるさ」

「大丈夫です、危険だと判断したらすぐ戻りますよ」

「ん……」

「ふふ、司、そんな不安そうな顔しないでください」

「そんな顔してた?」

「はい、してましたよ。前と比べて表情も結構でてきましたね? 良い事ではありますけどね」

「そっか……」

 

 それは喜ぶべきだろうか?

 ラビ曰く、わたしは基本は無表情らしい。ただ完全に感情のない冷たい無表情という訳ではなく、どちらかと言えば表情が硬いと言うか、表情の変化に気付きにくいらしい。

 時々見せる笑顔は破壊力あるとか言ってた気がするけど……どういう事だろうか? 変な顔過ぎて空気を破壊しているような感じだろうか? うーん。

 

「心配しないでください。私もこれでもそれなりには強いんですから」

「うん……そうだね。分かった。ラビ、行ってらっしゃい」

「はい、行ってきます」

 

 それだけ言って、ラビはララに続いてゲートの中へ入って行き、姿が見えなくなる。この場に残っているのは、わたしと香菜の二人だけとなった。

 

「行ってしまいましたね」

「ん」

 

 香菜がわたしに聞こえるくらいの声で、ぽつりと呟いた。わたしもそれに肯定の意味を込めて相槌を打つ。何というか、二人が居なくなっただけでここまで静になるんだなと思う。

 

「私たちはどうしますか?」

「ん……今やれることはないし、一旦家の中に戻る? ここは寒いし」

 

 ここと言うか、何処も寒いけども。

 ただ後少しでこの場所の日陰になりそうなので、今よりも寒くなるのは確かだ。快晴ではあるけど、気温はそこまで高くないしね。ラビとララはどれくらいで戻ってくるかはわからない。

 

 でもまあ、家の中に居るというのは分かるはずなので問題ないかな?

 

「分かりました」

「ん」

 

 何事もなければ良いけど……でも、妖精世界に魔物が出現しているというのは確かに普通にあり得る話だ。ララもラビも言ってた通り、地球と妖精世界の時間の流れが一緒とは限らない。

 仮に一緒であった場合でも、16年という年月が経過してしまっている。そして魔物は地球に突発的に現れるのだから、同じようにくっついている妖精世界に魔物が来ても何ら可笑しくない。

 

 戦う事が出来る存在……地球で言うなら魔法少女という存在も妖精世界には居ないのだ。そんな誰も居ない世界に、魔物が現れたら……あっさりと陥落してしまうだろう。

 

 マイナスな事ばかり考えているが、プラスで考えるのであれば16年の年月で、もしかしたら妖精世界は自然回復しているかもしれない、というのもあり得ない話ではない。

 それに、全ての魔力が流出したとも言い切れないしね。もしかすると、少しの魔力は妖精世界にも残っているかもしれない。その残っている魔力が何とかしている可能性はゼロではない。

 

 それにもっと、プラス思考で考えるなら妖精が生き残っている可能性もある。全員が居なくなってしまったとは言え、それをその目で確認した訳ではないしね。

 他にもララとラビ以外にも歪とやらに飲み込まれて、何処か別の場所にいるという可能性もゼロとは言い切れない訳だ。

 

「流石にこれはプラス思考過ぎるか……」

「何か言った?」

「ん。何でもない。中に入ろうか、香菜」

「そう? 分かりました」

 

 そんな訳でもう一度だけゲートの方を見た後、わたしたちは家の中へと戻るのだった。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

「これは……」

「これは、流石にボクも予想外だな」

 

 ゲートという魔法をくぐり抜けた先に見えたのは、一面の緑。草木が生え、優しい光が空から照らしていました。これは、流石に予想外ですね……私もララも驚きます。

 

「一体どうなってるんでしょうかこれは……復活した?」

「いや……空を見ると分かると思いますが、向こうの方は真っ黒な雲が見えていますよ」

「ララ、敬語は必要ないですよ」

「それは……」

「普通に接してくれると嬉しいです。私はもう王女ではないです」

 

 記録者という役割は残ってますけど、王女というのはもう今はないものです。なので、普通に接して欲しいですね。

 

「う……分かり、分かった。普通に接することにするよ」

「それで良いです、ふふ」

 

 とまあ、それは置いておきましょう。

 ララが今言ったように、空を見てみると向こうの方が真っ黒な雲が覆い尽くしているように見えます。ではここは一体……。

 

「先に進もうか」

「そうですね……」

 

 この場に居ても、何も分かりません。

 ですが、何でしょう……この場所は何故か不思議と心が安らぐ感じがします。滅んだと思っていた妖精世界に、自然がまだ残っていたからでしょうか。

 

「! これは一体……」

「何がどうなっているんだ?」

 

 少し進むと、さっきの場所とは打って変わって、荒廃した土地が続き、空は真っ黒な雲に覆われ、地上には影のようなものが彷徨いている景色に切り替わりました。

 

「……」

 

 驚いて今私たちが来た方向に振り返ると、木や草が生い茂っているのが見えます。何でしょうか……この一定のラインから向こうは自然が残っていて、こちら側になると草木もない土地が広がってます。

 まるで、真っ二つに綺麗に割れているかのようです。

 

「あの彷徨いている影……多分魔物だ」

「やっぱりそう思いますか?」

「ああ。一旦引き返そうか」

「そうですね……何故か魔物はこちらには寄ってきませんし」

 

 何が起きているというのでしょうか。

 妖精である私たちには魔力がありますので、魔物は襲ってきても可笑しくはないはずです。でも、こちらに気付いているようには見えますが寄ってくる気配はありませんね。

 

 取り敢えず、森の方に一旦戻りましょう

 

「やっぱりこっちは新鮮というか、空気も綺麗な感じがする。魔力も結構感じ取れるね」

「ですね。自然があるからでしょうか? ですが……これはどうなってるんですか?」

「分からない……何かがこの森を守っているように見えるが……念の為、反対側にも行ってみよう」

「分かりました。反対側ですね」

 

 何かが森を守っている。

 守られているから、自然がまだ残っているのですね……いえ、まだそうとは言い切れないですが、明らかにこの状態は何かが干渉していると言っても可笑しくないでしょう。

 

 あんな綺麗に分断されているのも謎です。

 魔物が寄ってこなかった理由は、この森を守っている何かが魔物をこっちに来れないようにしているのではないでしょうか? 私の憶測ですが。

 

 そうなると、反対側はどうなっているのか気になりますね。反対側だけではなく、左と右もそうです。この守っている範囲がどれくらいなのか……今の所では見当がつかないですし。

 

「少し時間がかかりそうですね……」

 

 地球に残っている司の事を考えます。

 あの子は、何というか本当に天然タラシですね。元が男だからというのもあるのでしょうけど……優しすぎます。他の魔法少女についてもそうですし、私に対してもそうです。

 

 本当に……。

 

「……」

 

 何だかアリスと居た時を思い出しますね。

 そう言えば、アリスも超の付くお人好しでしたね……真面目に司は彼女の家族なのではと思うくらい。今は何処で何をしているのか分かりませんけど、元気にしてますかね。

 

 私にも好きな人、出来たみたいですよ。

 

 

 

 そんな事考えながら、私は森の反対側へと向かうのでした。

 

 

 

 




いざ、妖精世界……!


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Act.31:妖精世界『フェリーク』②

 

「どうやら、何らかの力が一部の領域を守っているようだったよ」

 

 そう話を切り出すのは、先発として妖精世界に向かったララだった。ラビもその説明に頷いている。

 

「何らかの力……」

 

 思ったより時間がかかっていて、心配になったけど無事帰ってきてくれたのは良かったと思う。

 で、だ。ララとラビの話では、妖精世界には自然が残っていたという。ただしそれは、全ての場所という訳ではなく、ゲートの繋がった先の周辺の一部領域のみとの事。

 

 一定範囲を超えると、想像通りの荒廃した大地が広がっていて、そこには黒い影のようなものがうろついていたらしいのだ。

 その影は、魔物だとララは言っていた。

 

「つまり、妖精世界にも魔物が居たと言う事?」

「ああ。全部見れた訳ではないけど、その無事に自然が残っている領域より、外側には本当に草も木もなく、空も真っ黒な雲が覆っていたよ」

「ん……」

 

 何かがその森の一区間だけを守っている、という事は妖精世界にはまだ生き残っている何者かが居ると言う事だろうか。

 

「それは分からないです。辺りを一通り散策しましたが、何の気配も感じ取れませんでした。ただ、あの領域内は魔力が正常に循環していて、居心地も良い感じでした。外に出ると、何て言うんでしょうか? こう、どんよりとした気分になりましたね」

 

 ますます分からないな。

 

「まだ確証を得れてませんが、あの領域内であれば司たちが来ても大丈夫だと思います。ただ、念の為魔法少女の状態で行った方が良いでしょうね」

 

 それはそうだね。

 生身で行くのは、ただでさえリスクがあるのに更に跳ね上がってしまう。魔法少女の状態なら少なくとも、有害な物とか、魔法少女に危険をもたらすものとかは魔力装甲が弾いてくれるし。

 それに話を聞いた限りでは、魔物も居るみたいだし、余計に魔法少女状態以外で行くというのは、考えられない。

 

「これからどうするの?」

「ひとまず、もう少しあの領域について調査しようかと思ってる。その後は、少々危険だが外の様子も探りたい」

「そっか。ん……今度はわたしも行く」

「え? でも、まだ大丈夫と決まった訳では……」

「承知の上。何か可笑しいと思ったらすぐ戻る」

 

 確かに少し怖いっていうのはあるけど……その領域は大丈夫、そんな気がする。何処からそんな自信が出て来るかは謎だが、魔法少女の直感というものだろうか。

 

 直感に魔法少女は関係ないか。

 

 まずは、わたしが行ってから大丈夫そうなら香菜を連れていく感じが良いかな。

 

「そこまで言うなら止めはしないが……いいのかい?」

「ん」

「了解。それじゃあ、ボクらの後をついてきて欲しい」

「任せて」

「司さん……行くの?」

「ん。香菜は一旦ここで待ってて。先に行ってくるから」 

「でも……」

 

 何処か不安そうな顔をする香菜。

 まあ、確かにわたしが行けるのか分からない場所だし、そんな顔をするのも無理はない。でも、だからこそ、わたしが先に行って大丈夫かどうかを確認するのだ。

 

 それに、別にわたし一人で突っ込む訳ではない。ラビとララも居るのだから。それの事を含め、大丈夫と言って香菜の頭に手を乗せて、軽くぽんぽんする。 

 

「大丈夫。――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

『SYSTEM CALL "CHANGE" KEYWORD,OK――LA LUNE ET L'ETOILE――』

 

 それだけ言って、わたしはリュネール・エトワールに変身する。もう何時ものように浮遊感とかの、不思議な感覚に襲われつつ、気が付けば変身が完了する。

 もうずっとこうやって変身しているから、慣れたと言うか当たり前というか……そんな感じになってる。

 

『SYSTEM CALL "CHANGE" SUCCESS!!――GO!』

 

 変身が終了したことを伝える音声が聞こえ、無事に変身できたのを確認する。これから向かうのは妖精世界……地球とは違う別世界。

 そう、未知の場所だ。何があるか分からない……慎重に、そして警戒を強めて向かおう。

 

「ん。香菜、行ってくる」

「……はい。気を付けて」

「ん」

 

 まだ少し不安そうにしているけど、それでもまあ、さっきよりは良くなったかな? わたしはそんな香菜に少しだけ笑って見せ、そしてラビたちに続きゲートの中へと入るのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「ここが、妖精世界?」

 

 ゲートに入ると、一瞬だけ視界が歪み、気付くと見知らぬ場所に立っていた。ブラックリリーのテレポートで移動した時みたいな感じだな。

 それもそうか……一応、この魔法も行先は別世界だけど移動する魔法だしね。それに、別に他の場所に繋げる事も出来るだろうし。

 

「司、身体の調子とかは大丈夫?」

「ん。特に今は何ともない」

 

 特に息苦しいとか、変な感じがするとかそういうのはなさそう。酸素がなく息が出来ないと言う感じもしないし、大丈夫そうかな? 今の所は、だけど。

 

「それなら良かったです」

「少なくともこの領域内は大丈夫そうだね」

 

 ラビとララが言ってたように、今居る場所は自然が豊かだった。暖かい日も差し込んでおり、本当に滅んだのかと言うくらいに。

 確かに感じる、魔力。そして何処か心が安らぐようなこの感じ。何処だろう? 何処かで似たような事を感じたような気がする。

 

 ……そっか、あそこに似ているんだ。

 妖精(アルシーヴ・)書庫(フェリーク)。あそこに居た時と同じような感じがする……何故だろうか? ここは妖精(アルシーヴ・)書庫(フェリーク)なのか? いや、それはないだろう。

 ここは妖精世界なんだろうけど、妖精書庫ではない。本がそもそもないのだし。

 

「ん。この感じ……妖精(アルシーヴ・)書庫(フェリーク)みたいな」

「やっぱり司も感じますか」

「うん」

妖精(アルシーヴ・)書庫(フェリーク)ではないはずですが、何でこんなにも似ているんでしょうか……」

 

 妖精書庫に似ている理由は分からないが、この場所は確かに良い感じの場所だと言うのは分かる。これなら香菜を連れて来ても大丈夫かな。

 

「香菜を連れて来る?」

「そうだね……一人だけ残っていると言うのもあれだろうし、大丈夫そうなら」

 

 少なくともこの場所は大丈夫そうなのが分かったし、香菜が来ても問題はないはず。それに、残してきたのはわたしたちとは言え、一人ぼっちというのは流石に寂しいだろうし。

 

 それにしても不思議だ。

 言われた通り、空を見上げるとこの部分は確かに明るく、暖かい日が差し込んできているのは確認できる。だが……向こう側はどうだ。

 

「凄い、真っ黒な雲……」

「どうかしましたか? あ、あの雲ですね。あっちがさっき言った、黒い影のようなものが居る場所ですね。反対側もまた同じです。周りは荒廃した土地なのに、ここだけはこうなっているのですよ」

 

 この不思議な領域の周囲は、真っ黒な雲に覆われた荒廃した大地。ラビとララはそう言っていた。この場所だけの取り残されたように、ぽつりと生き残っている。

 とは言っても、わたしはまだその荒廃した大地を見てないんだけどね。でも、二人が揃って言うのだから間違いはないのだろう。

 

「この領域の周辺は、同じ感じさ。黒い雲に覆われている……そして動く影。魔物だと思うけど」

「この様子では、この場所を除いて魔物に乗っ取られていると考えた方が良いでしょうね」

「……」

「司、そんな顔しないでください。16年も居なかったんですし、何かが起きてるとは思ってましたよ」

「そうだね。この妖精世界ではどれくらいの時間が経過しているかは分からないけど……普通ではないのは確かだ」

 

 妖精世界に蔓延る魔物。

 あまり当たって欲しくない予想が的中してしまったみたいだ。

 

「とにかく、調査しないと。司はブラックリリーを頼む」

「ん」

 

 まずは、ブラックリリーをこっちに連れてこないとね。そんな訳でわたしは、一度ゲートを潜り地球に戻るのだった。

 



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Act.32:妖精世界『フェリーク』③

 

「凄い空気が重く感じる」

「外側はこんな感じになってしまっている」

 

 不思議な領域の外れ、すぐ目の前には黒い雲に覆われ、日の光もない荒廃した大地が続いていた。一方、反対側……わたしたちが来た方向を見れば、自然が残り明るい光に照らされている森。

 

「これがララも言ってた謎の領域なのね」

「ん、そうらしい」

「確かにこっちは凄く変な感じがするけど、森の方は心が落ち着くような感じがするわね」

「ブラックリリーも?」

「ええ」

 

 わたしだけではなく、ブラックリリーも森の方に居るとやっぱり良い感じだそうで。一体、この領域は何なのだろうか?

 口調で察する通り、ブラックリリーも変身して来ている。どうせ、わたしとラビとララしかこの場には居ないのだから素の方で喋れば良いのに。まあ、時々素が出る時があるけど。

 その辺りは一応徹底? しているらしい。

 

「こんな感じに、ここから先は何もない」

「ん。この領域は一体……」

「分からないね。ただ事前調査した感じでは、この森の領域はここを中心に半径おおよよ3キロメートルは続いている」

「3キロ……思ったより狭い?」

「さあ? でも、そもそもこんな領域がある事自体可笑しいからね」

「確かに」

 

 うーむ、謎は深まるばかりだな。

 とは言え、わたしとブラックリリーの場合は妖精世界に来たのはこれが初めてなのだから、謎ばかりでも何ら可笑しくはないんだけど、それでも二人を見る感じでは可笑しいのだろう。

 

「取り合えずボクとブラックリリーは空中から周りを見渡してみるよ。ラビリア様とリュネール・エトワールはどうするんだい?」

「そうですね……わたしたちは地上から調べてみます」

「了解。領域外は何が起きるか分からないから、気を付けて」

「もちろんですよ。領域外に行く事になった時は、まずは私から行きますし」

「無理しないようにね」

「分かっています」

 

 そこで話が終わり、ララとブラックリリーはブラックリリーの空間を生み出す魔法で宙に足場を作り、それを登っていく。やっぱり空間魔法便利過ぎない?

 気付いたらもう見えないくらいの高さまで行ってしまったようで、この場にわたしとラビだけが残される。

 

「さて、わたしたちも動きましょうか」

「ん。でもどこから行くの?」

「確証はありませんでしたので、まだララには言ってないのですが……この不思議な領域について一応心当たりがあります」

「え?」

「わたしの国……エステリア王国は、周囲が森に囲まれた大国でした」

「?」

「もちろん、道路とかは整備されていますが、それは別として王国を囲う森の一つに精霊の森(フォレ・エスプリ)と呼ばれていた森がありました」

精霊の森(フォレ・エスプリ)……?」

 

 急にエステリア王国について話し始めたラビに、少し驚きつつもその話をわたしは静かに聞く。精霊の森(フォレ・エスプリ)と呼ばれる森が、ラビの暮らしていたエステリア王国を囲う森の中にあったらしいのだ。

 

「はい。他と比べで良い意味での異常な魔力が漂っていた森でして、あまりの濃度に魔力を多く持つ者以外が入ると気分が悪くなったりするくらいでしたね」

「良い意味なのそれ……」

「魔力が強い濃度が濃い、というのは確かにあまり魔力を持たない人だときついでしょうけど、多くを保有する者にとっては、良い物なのですよ」

「そうなんだ……」

「まあ、魔力については置いとくとしますが、精霊の森(フォレ・エスプリ)……わたしたち妖精の上位存在とされている精霊が住まう森と言われていまして、別名としては聖域(サンクテュエール)というものがあります」

聖域(サンクテュエール)、ね。なるほど、聖域……聖なる領域? つまり、ここがそうだと言う事?」

「そうです。ですが、周りは既に荒廃していますので、ここが聖域(サンクテュエール)であるかは分かりません。なので、確証がないと言った感じですね」

「なるほど」

「それかどうかは分かりませんけどね」

「でも、魔力が強いなら、それこそ魔物が寄ってきそうだけど」

 

 わたしたちはそんな話をしながら移動する。

 方角的には北かな? そちらの方向にラビの後をついていきながら進んでいく。この森は半径約3キロ程の広さがあるみたいで、中央から歩くのは割と遠かったりする。

 魔法少女の状態なので、すぐに着くだろうけどね。ただ、今はラビの後をついて行っているので、そこまでのスピードはない。何処向かっているのか分からないけど。

 

「そうなんですよね。この森には何故か分かりませんが、そんな強い魔力が循環しています。司も感じませんか?」

「ん。さっきから、結構感じてる」

 

 変身している状態なので、元の姿の時よりも魔力には敏感になっているのもあって、確かにこの辺りには魔力を感じ取れるのだ。

 ラビが言う通り、その魔力も何処か力強いものを感じるし、地球で感じる物とは違って濃いと言うか何というか……とにかく、普通ではない感じだ。

 ただ、居心地が良いのは変わらない。空気も何処か、地球よりも新鮮に感じるしね……森だからかな? でもその広さは半径3キロ程度しかない訳だが。

 

「普通なら魔物がやってきそうですが……来ないでいる。何らかの力が守っていると考えられるのですが……」

「ん……」

 

 何らかの力。

 つまりは、まだ分からないと言う事だろう。ただ魔物が寄ってこないようにする力って、あるのだろうか? そこは気になる所だな。

 

「うーん、そもそも魔物なんて、妖精世界にも居なかったですし、そんな力がある訳ないんですよね。まあ、妖精世界にあった何かが魔物に有効だったって言う可能性もありますが」

 

 そう言えばそうだった。

 魔物は、別世界の生命体だ。妖精世界はもちろん、地球にも存在してない。妖精世界については、ラビとララが言っていただけで、わたしが見た訳ではないけどね。

 見れる訳がないじゃないか。だって、別世界だし……ラビと会う前は、そんな世界が存在しているとか考えてもしなかったんだし。

 

 魔物についても突然現れるってだけしか分からなかったし、どうやったら別世界の生命体だって判断できるんだよって話。

 

 今は、ラビが居るから段々と分かってきているような感じだけど。

 この地球は今や、魔力が存在する惑星だ。空気と魔力が一体化しているため、生き物たちは知らぬうちに吸い込み、吐き出す。

 

 それらが繰り返されていった結果、魔力を持つ存在となる。まあ、一般人には魔力は感じれないのだが。

 

 で、その魔力の影響もあって魔法少女という特別な存在も生まれた訳だ。ラビが言うには副作用的なものらしいけどね。

 魔力は何を起こすか分からない。本当の原初の魔法少女……地球上一人目であるアリス・ワンダーは、ラビの魔力によって変身した。これは直接見たラビが言ってた事なので、間違いないだろう。

 

 まあ、それを言ったらわたしもラビによって魔法少女になった存在ではあるが。

 

 魔物と魔法少女……共通点はどちらも魔力。

 魔物は魔力に惹かれて襲ってくるし、魔法少女は魔力を駆使して魔法を使ったりして、魔物を倒す。まあ、魔物は何故魔力を欲するのか謎ではあるが……。

 

 話が逸れたが、魔物という生命体は妖精世界にも居ない存在で、対抗する手段はない。手段がないと言うか、手段を作る必要がない訳だ。存在してない生命体なのだから。

 

「話が逸れましたね。ここが精霊の森(フォレ・エスプリ)かどうかは分かりませんけど、もしそうなら不思議な事が起きても可笑しくないのですよね」

「不思議な事?」

「はい。精霊が住まうとさっき言っていたと思いますが、あれは別に迷信だとか、ただの想像だとかそういうのではなく、度々不思議な現象が起きたりしていた森なんですよ」

「願いの木みたいな?」

「願いの木のように願いが叶ったりとかではないですが、何度か自然災害がやってきてもにエステリア王国は無傷だったりとか、地球で言う台風の場合は軌道が逸れたりとかありました。正確には精霊の森付近が無傷というのが正しいでしょうか」

「妖精世界にも台風あるんだ」

「そこですか? まあ、私たちは魔力嵐と呼んでいます。時折、魔力が乱れて嵐を起こすと言う事があったんですよ。どんな物かと言えば、地球の台風とそう変わらない感じですね。ただ地球のように、海上で発生する訳ではなく突発的に、陸地でもなんでも発生しますが」

「……台風より質が悪くない?」

「何度か起きていますし、対処方法もあります。台風のように当たり前という意識が妖精にはもうありましたからね」

「なるほど」

「また少し逸れてしまいましたが、精霊の森はこのように時折不思議な現象を起こすのですよ。だから、本当に精霊は居るのではないか? という風潮が出来た訳です」

「つまり、こうして一部領域が無事なのは精霊が何かをしていると言う事?」

「そう考えていますが、確証がある訳ではないので何とも言えない状態ですね」

 

 まあそれもそうか。

 聞いた感じだと、精霊の森は不思議な現象が起きているだけで、妖精たちが実際会ったと言う訳ではないみたいだしね。

 

「何がこうして守っているのかは、不明ですが……問題はやっぱり魔物ですね」

「あー……荒廃した土地の方に居るんだっけ?」

「はい。と言っても、この領域から見ただけなので詳しい事は分かりませんが……でも、間違いなくあの影のような物は魔物だと思ってます」

 

 妖精世界を再生するにあたって、魔物の存在は確かに邪魔である。だからと言って、全部倒そうにもどれくらいいるか分からないし。

 

「地道にコツコツ調査していくしかないですね。その時は……」

「ん。もちろん、手伝う」

「ふふ、ありがとうございます」

 

 ただその前に、この領域は大丈夫だけど外は大丈夫なのかというのが気になる。そっちについても、調べないとね。

 

 



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Act.33:妖精世界『フェリーク』④

 

「うわ、温度差というか雰囲気差がひどい」

「でしょう? ここがこの方向の終着点ですね。特に木しかありませんでした」

「ん、だね」

 

 一応方角的には北に向かっていたのだが、そこの終着点にいまわたしとラビは到着していた。そして、そこから先はガラリを雰囲気が変わり、真っ黒な雲に覆われた暗闇の世界が広がっていた。

 夜というものであればまだ良かったが、空を見ても月も星もなく、本当に暗闇の世界と言う感じだ。そんな荒廃した大地にうごめく影も見える。

 ラビとララが魔物と言っていたやつだと思う。地球で見る魔物よりもかなり小さいけど、大きいのも居る。何というか大きさはばらつきがあるみたいだ。

 

 そして綺麗にこの領域と真っ二つに分断されている。

 

「あ、司。危ないので、今は指一本でも外に出さないでくださいね。外側についてはまだ何も分かってないですから」

「ん、分かった」

 

 ちょっと気になって、外に手を出しそうになってたみたいだ。危ない危ない……慎重にすると言ったのはわたし自身なのに、何やってんだって話だ。

 森の外については、この後ララとブラックリリーを合流した時に再び相談というか、会議? するみたいだ。外も大丈夫なら、魔物を倒すのは出来るだろうけど……。

 

 どうなんだろうか?

 調べない事には分からないし、今考えても意味ないか。

 

「本当にこの場所だけなんだね」

「そうですね。何が原因かは分かりませんけど、今はこの領域内が安全と言えるでしょう。ただ、この領域も分かってない事が多いですし、突然消えると言う事も考えられます。早めに外についても調べる必要がありそうですね」

「突然消えるのは流石に勘弁願いたい……」

 

 突然この領域が消えた場合、どうなるかは分からない。

 ただでさえ、ここは未知の世界なのである。ラビとララからすれば妖精世界に帰ってきたと言う感じだろうけど、二人が居た時の面影はもうないだろう。

 

「今度は別の方向に行ってみましょうか」

「ん」

 

 そう言って、また歩き出そうとした所で二つの影がわたしたちの目の前に降りて来る。

 

「居た居た。端っこまで行ってたのね」

「あ、ブラックリリー」

「少し探したよ」

 

 空から降りてきたのは、ララとブラックリリーだった。二人は、空から様子を見ると言う事で空間魔法で空間を作ってそれを足場にして上に登って行ったのだが……。

 

「それにしても、向こう側は確かに酷い有様よね……これ」

 

 ブラックリリーが、領域の外側を見て呟く。

 まあ、雰囲気が阿呆なくらい、ガラリと変わっているから気持ちは分かる。わたしだって、そう思ったのだから。

 

「建物のようなものは見えるが、そこも多分魔物の巣屈になってるだろうね」

「こちらはまだ何も分かっていませんが……そちらはどうですか?」

 

 二人は空から見ていたはずなので、わたしたちよりも良く見えたのではないだろうか。ラビが二人に問いかけると、二人はお互い顔を見合わせて頷く。

 

「ここから南の方向に気になるものを見つけたんだ」

「気になるもの?」

「ええそうよ。何かこう……塔みたいな?」

「塔?」

「そう。うーんと何て言えば良いのかな……」

「素が出てる」

「あ! コホン。何て言えば良いのかしら」

 

 今更直さんでもとは思うが、そう突っ込むのは野暮なのでやめておこう。

 

「ファンタジーのライトノベルに時々出て来る、試練の塔的な何かと言えば分かりやすいかもね」

「ララ……」

 

 ほうほう。ララもライトノベルを読む、と。何だか馴染んでるな? いや、悪い事ではないけどね。そう言うのに出て来る塔と言えば……ふむ。

 確かに下手な例を出されるよりは、イメージしやすいけど。

 

「ま、まあ。そんな感じの塔よ。実際見た方が早いわね。で、その塔なんだけれど……」

「空から見た感じではかなり高そうだったね。他にも何だか禍々しい煙のようなものが上の方を覆い隠しているように見えた」

 

 天高くまで聳える塔。上の方は黒い雲のような煙のようなもので覆われている……いきなりファンタジー感が増してないか? 黒いけむというか雲に覆われた高い塔とか、それどこのダンジョン……。

 まあ、ただの塔ではないのは確かな気がする。

 

「それ、どのくらいの位置にあったんですか?」

「正確な距離は分からないが、かなり遠い位置だと思う。ここから見て結構小さく見えていたから。天まで伸びているのに」

「なるほど……そんな塔、妖精世界に昔ありましたっけ?」

「ボクの記憶上では、ないね」

「そうなると、私たちが居ない間に出来た物と考えた方が良さそうですね。もしかしたら、私たちが忘れているだけかもしれませんが……少なくとも私もララと同じで記憶にはないですね」

 

 ラビとララでも見た事がない塔、と。

 それはつまり、ラビの言っている通り二人が地球に居る間に新しくできた物って言う事になる。ただし、忘れていると言う可能性もある。

 二人が居ない間に出来たって言うのも大分気になる話である。だってそうだろう? 妖精世界にはもう誰も居ない可能性が高いのに、塔を建てられる存在が居ると言う事になる。

 もちろん、ララとラビは歪に飲み込まれた訳だから、妖精世界を最後まで見ていない。だから生き残りが居ても可笑しくはないとも考えられる。

 

 謎が謎を呼ぶ……妖精世界はどうなってしまってるのだろうか。

 ただ一つ言えることは、その謎の塔には何かがあると言う事くらいかな? ないというもの考えられるけど、聞いた限りでは明らかに異質だし。

 

「まあ、取り合えず見てもらえれば良いわ。さ、行くわよ」

「へ?」

「空からじゃないと見れないから、ほら早く」

「ん」

 

 こちらに手を差し出してくるブラックリリー。

 何となくさっきの話でイメージはついたけど……まあ、折角こう言ってるんだし見せてもらおうかな。私はその手を掴む。

 

「足場を作るから、気を付けてね」

「ん」

 

 そう言って、ブラックリリーは空中に空間を二つ作ってくれる。片方にブラックリリーが乗り、もう片方にわたしが乗る。そして念の為なのか、手はしっかりを掴んでいる状態だ。

 バランス崩してそのまま地面に急降下とか、いくら魔法少女の状態だからと言ってそれは怖い。トラウマになる人も居るのではないだろうか……。

 

 そのまま、ブラックリリーに続いて空間の足場に次々と飛び移っては高度が高くなっていく。ラビは人型になっているからまだ辛うじて見えるが、ララはもう小さくなりすぎて見えない。何かが居るって言うのは分かるんだけどね?

 

「この辺りで良いかしらね。それで、さっき言ってた塔って言うのがあれよ。見えるかしら?」

 

 一定の高さまで、登った所でブラックリリーは止まり、指を指して塔の場所を教えてくれる。その場所に目を向けると、そこには言われた通り、確かに何かに出てきそうな塔が見えた。

 てっぺんは見えない。ただ、二人が言ってた通りの黒い雲のような煙のようなものが、その塔の上部を覆い隠していた。

 

「あれが……ん。確かに何かファンタジーに出てきそうな塔」

「こう、何て言うのかしらね。伝えにくいのよね。ララの言った説明の方が伝わるって言うのもあれよね……もしかしてライトノベルとか読んでるのかしら?」

「多少は、ね」

 

 そんな多くを読んでいる訳ではないが、読んでない訳でもない。時々息抜きというか、気分転換というか……まあ読みたい時に読む感じだな。

 

「そうなのね……」

 

 多分、読んだ事ある人とかならララの例えの方が恐らく伝わる。

 ともかく、あれが塔。距離は大分ありそうかな? 何かあるかもしれないのけど、まだあそこまで行けるかなんて分からないしなぁ。

 

 取り合えず、外に出ても大丈夫なのかの確認が先だろうね。この領域の外に出ても行動できるのであれば……良いんだけどね。

 そうすればあの塔を目指せるかもしれない。でも問題は時間だよな……こっちでいろいろしている間にも、地球では時間は過ぎているはず。

 

 時間差はどれくらいだろうか。

 ブラックリリーを連れてきた時は、あまり経過してなかったから分からない。一旦地球に戻った方が良いかな。

 

 体感で1時間半くらいは経過している気がする。

 まあ、わたしは学校も何もないから良いが……ブラックリリーは親が居るはずなので居なかったら疑問に思われるだろうし。

 

 うん、一旦帰って時間の経過を確認すべきか。

 

 

 

 

 



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Act.34:妖精世界『フェリーク』⑤

 

「あまり時間は変わってないね」

「みたいですね」

 

 あの後、一度地球に戻り時間の経過の確認をしていた。どうやら、時間については地球とほぼ一緒みたいでそこまで気にする必要はなくなった。

 時間が一緒とは言え、わたしは問題ないがブラックリリーについては家族が居る訳なので、時間を見て帰らないと駄目だろう。

 

 ララは妖精なので、一人で動けるだろうけど聞いてみた感じではブラックリリーと一緒に居るとの事。要するに、ブラックリリーが帰る場合はララも帰ると言う事だ。

 

「ブラックリリー……香菜は無茶する時があるからね。心配だし、彼女が帰る時は一緒に帰るよ」

 

 わたしとラビにだけ聞こえる声で、そう言ってくるララ。ララの心配する気持ちは分かる。香菜は身体が弱いっていうのもあるし、魔法少女の状態でも魔力が少ない。

 

「ん」

 

 魔力が少ない事については、譲渡や魔石等でなんとかやれるだろうけど、身体が弱いと言うのは先天的な物であって、魔法少女の力ではどうしようもない。

 本体……本来の姿、変身前の姿での体調というのは魔法少女になっても変わらないので、香菜が体調を崩すとブラックリリーになっても同じという事だ。

 

「時間の差はない事が分かったし、また戻ろうか」

「だね」

「ですね」

「ん」

 

 まだ今日は時間があるので、再びわたしたちはゲートを抜けて妖精世界へ戻る。まあ、時間を確認するためだったし、時間の流れが一緒と分かれば地球感覚で調査とかができる。

 

 ゲートを抜けると、再び謎の森に出る。

 日の光が差し込み、緑がある場所……だけどこれは、妖精世界全体ではなく、このゲートがある場所を基準に半径約3キロ程の範囲のみなのである。

 

 何故か魔力があり、周りに居る魔物は襲ってくる気配はない。何ともまあ、摩訶不思議な場所だなと思う。ラビの話では精霊の森(フォレ・エスプリ)かもしれないとの事。

 なんでも妖精の上位存在である精霊が住まう森と言われているようで、ちょくちょく不思議な現象が起きていたそうだ。

 別名としては聖域(サンクテュエール)と言うらしい。聖域(サンクテュエール)……要するに精霊は妖精たちにとっての神様と言う感じだろうか?

 

 因みに、滅ぶ前の森はもっと広くかなり広範囲だったっぽい。

 それでも、16年間もこの一部領域だけが残っているのは確かに謎だよね。最初は精霊の森(フォレ・エスプリ)全体が残っていたけど徐々に狭くなって行き、今の範囲になったと言う可能性もある。というかラビはそう考えているみたいだ。

 

 でも、知っての通り確証がない。

 何せ、周りは既に滅びの地……荒廃している土地しかなく、精霊の森(フォレ・エスプリ)だと言う事を特定できる要素がない。だから、ここが精霊の森(フォレ・エスプリ)であるかどうかは分からないままだ。

 

「本当に不思議としか言えませんね」

 

 この森以外にも気になる所もある。それが、ブラックリリーとララが空中で見た時に発見した謎の塔。ずっとずっと南の方にそびえ立つ、上部が黒い雲みたいな煙みたいな物に覆われててっぺんが見えない塔。

 現状、あれについては何かありそうな塔とだけしか分からない。それに行くにしても、この森の領域から出る事になる。

 

 今居るこの場所は大丈夫だが、外が安全という保証はない訳で。

 

「そう言えば別名で聖域(サンクテュエール)? だっけ? 精霊って妖精にとっては神様みたいな存在?」

「そうですね……精霊と一言で言っても色々ありますからね。例えば火の精霊とか水の精霊のように、それぞれに精霊が宿っているとか、魔法は精霊が力を貸してくれているとか、そんな感じです」

「ん……」

「これは記録されていた事ですが、エステリア王国の初代国王と王妃は精霊王と会った事があると言われています」

「精霊王……?」

「はい。妖精書庫にそう記されていました。初代国王と王妃は全ての精霊を統べる存在である精霊王と出会った、と」

「それだけ?」

記録者(スクレテール)は全員が私みたいに王族とかではないので、当時の記録者は見る事がそもそも出来なかったのではないでしょうか。初代の国王と王妃だけしか会えてないとありますしね」

「なるほど」

「最も……記録されているとは言え、本当に会えたかは当時の本人しか分からないですけどね。それ以降、精霊王が姿を見せる事はなかったようです」

「見捨てたとか?」

「それも分かりませんね。初代国王と王妃は会えたってだけで会った時に、何を話していたかまでは流石に記録されてませんでした」

 

 まあ、それもそうか。

 記録者(スクレテール)って言うのは、当代の記録者が死亡または辞めた場合においてランダムで選ばれるって前、ラビが言ってたし。

 死亡した時に引き継がれると言うのは分かるけど、辞めた場合っていうのは良く分からない。ランダムで選ばれるのに、任意で辞められると言う事だろうか。

 

「あーそれですね。これも原理が不明ですが、一応辞める事も可能です。とあるキーワードを妖精書庫のある場所で唱えると、辞められます」

「そうなんだ……」

「ただ暗黙の了解というか、ルールとして最低でも1年は全うするようにという風潮が出来てます。一応、記録者(スクレテール)っていうのは一般人なら一般人ですが、一応特殊な位置付けですし。記録者(スクレテール)と言う事を周りに言うか言わないかは当代の者の自由です。ひっそりと記録する者も居れば、記録者(スクレテール)になったと言って大々的に言う人も居たようです」

「なるほどね」

「中には全く記録しない人も居たようですが、その時は強制的に記録者(スクレテール)という役割をはく奪されてます。何だか良く分からないシステムと言うか原理ですね。作った人は何者なのでしょうね」

「はく奪もあるんだ……それも全部、その謎の原理と言うか妖精書庫の?」

「ですです。正直、これを作ったのは神様なのではないかと思うくらいですよ」

 

 まあ確かに。

 ランダムで選ばれる、自由に辞められる、サボっていると強制的に辞めさせられる……なんだこの、万能な自動システムは。

 どういう基準でサボっていると判断しているのかも気になる。こんなのを作れるのは確かにそんな存在くらいかもしれないね。魔法が便利な力とは言え、流石にこれを魔法の一言で片付けるのは無理だな……。

 いやまあ、魔法や魔力については妖精世界でも謎が多い訳だけど。

 

「大分話が逸れてしまった気がしますが、精霊って言うのは……確かに地球で言う神様みたいな存在かもしれませんね。特に日本のように」

「八百万の神々?」

「はい。あらゆるものに神様が宿っていると言うそれです。妖精世界でもそういう考えを持つ人は少なからず居ましたから」

「何か何処か似ているようで違う感じだね、地球と妖精世界」

「ですね……」

 

 あれこれ話している内に、今度は方角的には西かな? この方向の終着点が見えて来る。領域の端っこを超えるとガラリを雰囲気が変わるから分かりやすい。

 

「本当何もないね……」

「そうですね。真っ暗な荒廃した大地が続いているだけみたいです」

 

 こちらも同じように、綺麗に分断されている感じだ。この領域の外はやはり、全部こうなってしまっているのだろう。

 因みにブラックリリーとララはさっきと同じように、また空中から色々と調べているみたい。今回はそこまで高い位置には居なく、地上からでもちょっとではあるけど見える感じの位置に居る。

 

「やっぱり、この領域内の木は元気ですね」

「分かるの?」

「触ってみれば分かりますよ。ですが、一つ先に行ったら枯れ木……」

 

 わたしが触った所で分かる気はしないけど……一応、触ってみる。

 うん、普通の木である。でも確かに……何かこう、何て言うのかな? 言葉じゃ言えないけど、何か生きている感じがする。ラビはこれの事を言ったのかな。

 

「司、これを見てください!」

「ん?」

 

 そう考えていると、ラビが何かを見つけたようで声を上げたので、わたしはラビの居る場所へと移動する。何を見つけてんだろうか?

 

「石碑?」

「っぽいです」

 

 向かった所にあったのは、わたしの身長よりも高い石碑のようなものだった。文字みたいなのは書かれているけど、掠れ過ぎているのもあって読めない。

 ……そもそも、ここは妖精世界なので日本語で書かれている可能性は低いよね。

 

「うーん、読めませんね」

「ラビも?」

「はい。触った感じだとそこまで古い感じはしないんですけどね」

「ん。確かに……」

 

 見た感じでもそこまで古いようには見えないし。

 

「「!?」」

 

 その時だった。

 わたしの手とラビの手が石碑上でぶつかると、眩い光が石碑から放たれた。その光はさらにわたしたちを包み込んでいく。

 

 わたしはラビの手を離さないように掴んでいたが、徐々に意識が薄れていき……そのまま気を失ってしまったのだった。

 

 

 

 



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Act.35:精霊王①

 

「起きなさいって」

 

 声が聞こえ、徐々に意識が浮上してくる。目を開けた所に居たのは、黒い衣装を身に纏う魔法少女……ブラックリリーだった。

 

「ん……」

「はあ、やっと起きたわね」

「……ブラックリリー?」

「そうよ。何があったのかと聞きたい所だけど、あっちも起こさないとね」

 

 そう言って目を向けた先に居るのは、人型の姿で気を失っているラビと、人型ではないがすぐ近くで気を失っているララだった。

 あれ、わたしは何を……あ、そうだ。ラビが見つけた石碑を調べてる時に突然石碑が光って、そのまま気を失ったんだ。

 

 ブラックリリーとララが居ると言う事は、あの光は二人にまで影響を及ぼしたと言う事だろうか。というか、何で急に石碑が光ったんだって話だが。

 

「ラビ、起きて」

 

 ラビの肩を持って、軽く揺らしてみるも、目を覚ます気配はない。ブラックリリーの方も、ララを揺らしたりなんやかんやしているものの、起きる気配はないようだった。

 

「ん。そのうち起きるかな?」

 

 これより強くするのは、ラビがかわいそうなので取り合えず揺らして起こすのはやめる。再び立ち上がり、周りを見渡してみる。

 

「何処ここ……」

 

 大地を覆いつくす、真っ白な花に、所々に生えている立派な木。

 森……とは言えないが、花畑って言うのかな? まあ、白い花の方が圧倒的に数が多いし、何よりも地面にはその白い花しか生えてない。

 

「綺麗だけど……」

 

 綺麗なのは認める。

 でも、わたしたちはさっきまで森の中に居たはずで、こんな花畑に来た覚えはないし、こんな場所はなかったはず。

 自然が一部の範囲だけ残り、魔力とかも普通にあったあの森とは程遠い景色だ。木は生えているけど、さっきも言ったようにお世辞でも森とは言えないほどの数の木だしね。

 

 空を見上げると、雲一つない快晴。そして暖かな日差しがわたしたちを照らし、気持ちの良い風が吹き抜けていく。

 

「どうだった?」

「駄目ね。全然起きないわ」

「そっちも? ラビも起きないんだ」

「そうなのね……」

「……何処だろうここ」

 

 もう一度見回しても、見えるのは先ほどと変わらない一面真っ白な花に染まっている大地と、所々に生えている木だけ。

 

「私が知りたいわよ。と言うか、何かしたのかしら?」

「んー……」

 

 心当たりはある。むしろ、あれしか考えられない。

 あの大きな石碑をラビと調べていたのだが、その時に突然光りだしたのである。何がトリガーになったかは分からないが、ラビと手がぶつかった時に光ったような気がする。

 

「なるほど、その石碑とやらが怪しいわね」

「ん。でも良く分からない」

「そうねえ……二人は目を覚まさないし、周りを見ても花の地平線しか見えない。何なのかしらここ」

 

 石碑を触れた瞬間、別の世界に飛ばされたとか? なんてくだらない事を考える。でも、こんな場所地球ですらないし、妖精世界でもないだろうし……。

 

「ねえ、あそこ」

「ん?」

 

 そんな中、ブラックリリーがわたしの事を軽く突っついてくる。何か見つけたのかな? と思い、ブラックリリーが向いている方向にわたしも目を向ける。

 

「……建物?」

「建物と言うか何か鳥籠みたいな。でもあんなのさっきあったかしら」

「なかったと思う」

「そうよね」

 

 うん。確かに何て言うの? 鳥籠みたいな形をしているこう、お嬢様とかのお金持ちとかの家の庭にあるような休憩場所? みたいなあれに見える。

 

「行ってみる?」

「そうね、誰か居るかもしれないし」

 

 ぱっと見ここからでは見えないけど、もしかしたら誰か居るかもしれない。ただそれが人なのか魔物なのか、妖精なのかは分からないけど。念の為、何時でも戦えるようにはしておいた方が良いかな。

 

 ラビとララを置いていくのもあれなので、わたしは人型のラビを背中に乗せ、謎の建物に向かう。ブラックリリーはララを運んでいる。まあ、向こうは人型じゃないから軽そうだよね。

 いや、ラビが重いと言っている訳でない。むしろ、人間としては軽いくらいだと思う。魔法少女の力の補正が入っていたとしても、軽い気がするよ。

 

 それはさておき。

 気を失ったままのラビとララをブラックリリーと一緒に連れ、その謎の建築物の場所まででやってきた。しかし、確かにそこにはイスとテーブルは置いてあるが、誰も居ないしテーブルにも何も置かれてない。

 ただの移動損だったかな? 特に手掛かりのような物はない。ちょっと困った……確かにここは綺麗だけど、何時までも居る訳にもいかないし、どうにか外と言うか妖精世界に戻れないだろうか?

 

「ようこそ、別世界の方々」

「「!?」」

 

 ここから出るにはどうすれば良いか等、考えていると聞き慣れない、けれど、何処か神秘的な? 女性の声が響き、わたしたちは驚く。

 さっきまで、誰も居なかったイスに誰かが座っている事にも気が付く。

 

「いつの間に……」

 

 全く気配を感じなかった。何時、イスに座ったんだろうか? というか、何か半分透明になっていないか? なるほど、幽霊って事だろうか。

 

「失礼ですね、私は幽霊なんかじゃありませんよ。諸事情によってこのような姿になっているだけです」

「心読める?」

 

 それとも口に出していただろうか。

 

「いえ、口には出してませんよ」

「……心読んでるね」

「ふふ。取り合えず、お二人とも座ったらどうです?」

 

 そう言って丁度空いている二つのイスを指し、わたしたちに座るよう促す。一応、警戒しつつも敵意は感じないので、お言葉に甘えて座らせてもらう。

 

「失礼するわね」

 

 わたしが座るのを見ると、ブラックリリーも座る。そしてわたしたちは、謎の半透明の女性と対面する形となる。

 さて、目の前のこの女性は何者なのだろうか? 敵意とかは感じないが……でも、普通の人ではないのは確かだ。何より、彼女からあふれ出ているこの異様な魔力……。

 少しだけ警戒度を上げて女性を見る。

 

「そう警戒しないでください。あなた達に危害を加えるつもりはありませんよ……と言っても、初対面でしかも普通ではないような私に話しかけられたらそうなりますか」

 

 あ、自覚あるんだ。だって身体が半透明って言う時点で既に普通からはかけ離れているし、仕方がない。

 

「ん……あなたは何者?」

「そうですね、まずは自己紹介から始めましょうか。……私の名前と言っても、これと言った呼び方はないのですが、かつてはこう呼ばれていました――ティターニア、と」

「ティターニア……?」

 

 ティターニア。

 一般的には妖精女王とかそんな感じの意味や名前に使われるが……妖精って言うのはラビとかララの事だし、それに妖精世界には複数の国もあったと言ってた。

 妖精世界に住んでいたラビたちは妖精と呼ばれている訳だし、妖精の誰かが国王になれば妖精王とか、妖精女王って呼んでも可笑しくないよね。

 

 ……まあ、そもそも一般的と言ったのは地球での話なので妖精世界と言う別世界でそれが通用するかは分からない。なので、これはあくまで地球感覚でのわたしの偏見というか考えである。

 

「うーん、ティターニアだけでは伝わりにくいですか。あ、因みに私の事はティタでもニアでもお好きに呼んで大丈夫ですよ」

「ん。それでティターニアは何者?」

「釣れないですね。うーん……あ、こういえば伝わるでしょうか? ――精霊王」

「!!」

 

 つい最近聞いたばかりの言葉だ。

 ブラックリリーは何が何だか分からないと言う感じで、頭にはてなマークを浮かべているように見える。そっか、ブラックリリーは聞いてないもんね。

 

 ラビとわたしで地上を調査していた時の話だし。

 

「どうやら、あなたは察したようですね」

「……エステリア王国の初代国王と王妃が出会ったと言う精霊王?」

「エステリア王国……ふふ、懐かしいですね」

「えっと、どういう事? 話について行けないんだけれど」

「ん」

 

 何も分からないままじゃブラックリリーも嫌だろうし、ラビと話していた時の内容を簡単に伝える。少し驚いていたようだけど、納得と言った顔をする。

 

「なるほどね。精霊の森に精霊王……エステリア王国」

「そちらの方にも伝わったようで何よりです」

「でも、何で精霊王たるあなたが?」

「話すと少し長くなってしまうのですけど……」

 

 そう前置きし、ティターニアは何が起きたのかを話し始めるのだった。

 

 



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Act.36:精霊王②

 

「うーん、何から話しますか。まずは私についてですかね? あ、でもさっき話しましたっけ」

「ん。名前だけは聞いた。あと精霊王」

「そうでしたね。改めまして、私の名前はティターニア。さっきも言ったと思いますが精霊王とも呼ばれてます」

 

 改めて自己紹介をするティターニア。

 精霊王……ついさっき、ラビからも聞いた、エステリア王国の初代国王と王妃が会ったと言われている、全ての精霊を束ねると言うか、統べる存在の事だ。

 これを聞いたのはさっきのが初めてだけどね。

 

「ん。リュネール・エトワール」

「え、えっと、ブラックリリーよ」

「ええ、存じていますよ。こちらの世界にやって来た時から見ていましたからね」

「え?」

「全然そんな気配は……」

「ふふふ、精霊王なので」

 

 この世界に来た時から……ゲートを繋いだ時から見ていたという事だろうか? 全く見られていた気配は感じなかった……多分、ラビとララもだ。

 それだけでティターニアが只者ではないのは確かだろう。まあ、精霊王って言ってるし普通ではないのは確かなんだけどね。さっきも感じたけど、ティターニアから感じる不思議だけど只者ではない魔力。これがそう物語っているし。

 

「それで、一番気になっていると思われるこの半透明な姿になっている理由なのですが、あなた達も知っている通り、外側……精霊の森が徐々に小さくなってきているからです。というのも、私の力が弱まってしまってきていると言えば良いでしょうか」

「力が?」

「はいそうです。やろうと思えば半透明ではない状態にもなれますが、力が弱まっているので無駄な所に使えないと言った所でしょうか」

「えっとつまり、あの森を守っているのは……」

「お察しの通りです。私が今力を使って何とか維持させている感じですね。体感的には15、6年でしょうか。あなたたちも知っていると思いますが、この妖精世界は滅んでしまっています」

「ん……」

 

 それはもう分かっている事だ。その原因もラビやララから聞いている。でも、魔法実験の失敗とは言っていたけど、正確にが分かってないという事も聞いた。

 

「この世界の魔力が消えていく時、何とか一部を私がここに留めさせ、この森を維持させていました。ですが、私の力も無限ではありません。最初は森全体を守れていましたが、今ではかなり縮まってしまっているのが証拠ですね」

「……」

「今の範囲であれば、恐らく半永久的には守れると思いますが、私自身がこちらに専念しているので外への手が出せません。精霊たちには魔力の薄い外は有毒なのでこの森の中に留まって居ます。見えないと思いますが……」

「ん……精霊が森にいる?」

「居ますよ。ただ魔力を抑えるために透明または半透明の状態で居るので、普通では見えません」

「そうなんだ……という事は、ゲートの近くにも」

「居ましたね。とても興味深そうにあなた方を見ていましたね」

 

 そうだったの?

 気配も感じなければ視線も感じなかったのに……いやまあ、ティターニアも言ってたように、透明また半透明で居るらしから見えないのは当たり前か。

 でも、透明ならともかく、半透明なら見えても良い気がするけど……わたしたちでは半透明も見れないという感じだろうか。でも、ティターニアは見えてるけど。

 

「うーん、なんと言いますか。結構人見知りな子が多いので、半透明な子も隠れていたのだと思いますよ」

「なるほど……」

 

 人見知りなら仕方がないね。それに、わたしたちはこの世界の住人ではなく地球の住人だし……。

 

「精霊たちについては一度置いておきますか。この森があのように維持できているのは私の力によるものだというのは理解してもらえたかと思います」

「ん」

「難しい話はわからないけれど……森が無事なのはあなたのお陰というのは分かったわ」

 

 しかし、範囲は縮まってるとは言えあの森を維持できるというのもかなり凄い事だと思う。これが精霊王の力という事なのだろうか……何というか、更に凄い存在が出来たなぁ。

 

「わたしたちはどうしてこの場所に? と言うよりここは……」

「そう言えばそれは言ってませんでしたね。ここは簡単に言えば、私の世界です。世界というのにはちょっと大袈裟ですが」

「世界?」

「固有空間とでも言えば良いですか……取り敢えず、世界から切り離されている場所です。なのでここで過ごしている間は外の時間は経過しません。もちろん、あなた方の世界もです」

 

 うん。

 何だろうね……妖精もそうだけど、何故そうも普通に世界の常識を覆せるのだろうか……いやこれは突っ込んでも別世界です、とか人間ではない存在です、とか言われたらそれで終わりだけども。

 取り敢えず、とんでもない存在だというのは再認識した。

 

「(ブラックリリーの空間魔法でも出来る?)」

「(流石にそんなの無理よ……いや、もしかしたら出来るかも知れないけど多分魔力足りないわね)」

「(ん……だよね)」

 

 空間魔法が使えるブラックリリーなら似たような事が出来るのでは? と思ったけど、流石に無理か。いやもし使えたとしても、どうするんだって話になるけどね。

 でも、そんな空間が作れたら時間とかを気にせずに話をしたりとかが出来そうだよね。あーでも、維持するにも結構えぐい魔力を消費しそうな気がする……。

 

「それで、ここに来る際に石碑を触ったと思いますが……」

「ん……触ったね」

 

 あの掠れていたけど、古いようには見えない石碑。あれを調べていた時に、何か急に光りだしてわたしたちは気を失ったから。やっぱりあれがここに来た原因なのだろうか。

 

「実はあれ、私が設置した物です」

「え」

「あの石碑にはここに転移させる魔法を組み込んでいました。因みに発動条件は二人の手が石碑上で重なった時、ですね」

「何故二人……それにわざわざ面倒な発動条件を……」

「簡単に発動しないようにしていたので。それにあれを設置したのも大分前ですしね……ここに転移してきた人に今起きていることを伝えるつもりでした」

「でも、精霊王なら直接ここに飛ばすことは出来るような気がするけれど」

「力がなくなっていくという、先を見据えて設置した物なのですよ。確かに私がここに直接呼ぶことは出来ますが、そうすると森を維持している力が弱まってまた狭くなる可能性がありますから。まだ余裕がある時ならそれでも良かったんですけどね」

「それで……」

「今回、あなた方が見つけてくれたので良かったです。第三者の協力が必要でしたし……ようやく来たチャンスを無駄にはしたくなかったのでもし、石碑を見つけてくれなかった時は、自分の力でここに呼んでたかも知れませんね。その際、また森が小さくなってしまうと思いますが」

 

 まあ、ここ妖精世界だもんね。

 世界自体は滅んでしまっているから、生き残りが居ない限り永遠に第三者は現れなかっただろうと思う。だけど今回は、運が良かったのかわたしとブラックリリー、ララとラビという4人が来た訳だ。

 

「という事はわたしたちに何か協力して欲しいという事?」

「率直に言うとそうなります。と言っても、そんな面倒な事ではありません」

「んー……」

 

 協力するかは別として、精霊王の頼みってなんだろうか? 面倒な事ではないと言ってるけど……うーむ。

 

「協力してくれるかは別として、何をして欲しいのかを先に言えば、森の再生を手伝って欲しいと言う所でしょうか」

「森の……再生?」

「はい。この森は現在、何とか維持できていますし、最初よりは大分狭くなってしまっていますがこの範囲であれば、私の力で半永久的に持つと思います。ですが、こちらに私が専念しているので他には手を出せません。この周囲には何やら影のようなものが彷徨いているのは見たと思います」

「ん」

「ええ、そうね……」

 

 この精霊の森の周辺は真っ暗な世界が広がっており、何かの影(恐らく魔物)が彷徨いているのは何度か見ている。ブラックリリーも空から見ていた訳なのでそれを当然認識しているだろう。

 

「そちらも知っている通り、あの影……いえ、魔物でしたね。あの魔物はこの世界の存在ではありません。魔力に惹かれるという特性を持ちますが、魔力がなくても魔物は動けます。当然、普通よりは弱くなるでしょうが」

「魔物をどうにかして欲しい?」

「いえ、魔物については今は良いのです。私の力が今弱くなってしまっているので、これがある程度戻ればあんな魔物程度ならいくらでも葬れます。あなたたちにお願いしたいのは、私の力を……魔力を回復させて欲しいと言う事です」

 

 いくらでも葬れる……流石は精霊王というべきか。

 しかし、魔力を回復? どういうように?

 

「(あなたの使う、魔力譲渡があるじゃない?)」

「(あるね。あれで良いのかな)」

「(じゃないの? だって魔力って今言ったじゃない)」

 

 魔力と言っても、精霊との認識が同じかはわからないし……。

 

「魔力については、あなた方の認識で合っていますよ」

「聞こえてたの?」

「と言うより、ティターニアは心とかが読めるらしい」

「何それ、反則じゃない」

「ふふ、精霊王なので」

 

 何でも精霊王だからと返しても、納得できないと思う。

 まあ、力が異様なのは確かなので、わたしとしては納得しているけれどね。

 

 それは置いておき。このティターニアの話……受けるべきか受けないべきか。しかし、手掛かりにもなる。わたしは未だに気を失ったままのラビとララを見る。

 

 そう言えば、ここまで起きないのは何か奇怪しいよね……もしかして……いや、それは後で聞こうか。

 

 さてどうするか?

 

 

 



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Act.37:精霊王③

 

「っ……あ、ぅ……。はあはあ。中々これ、凄いですね」

 

 何処か色っぽい声を出すティターニアに、ちょっと困惑しつつわたしは魔力譲渡で流し込む。魔力というのは精霊とも共通認識だったみたいで、この力の事で良かったようだ。

 

 でだ。ティターニアの話については受ける事にした……っていうか、もう終わりそうだ。

 

「ふう……失礼しました。それにしても、私の魔力をこうも簡単に全快できるって……地球人というのは皆そうなのですか?」

「いや、リュネール・エトワールが異常なだけよ」

「そうなのですね……当初の予定とは別の意味が狂いましたが、これならバリバリ動けそうですよ」

 

 そう言って、半透明な状態からはっきり見える状態になってあっちこっちを飛び回るティターニア。姿だけ見れば、子供っぽい。というより身長も立った時に気付いたけどブラックリリーより少しだけ高い程度だった。

 思ったより低かった……。

 

「また失礼な事を考えていますね」

「?」

「はあ、まあ良いです。身長が低いのはもう認めてますし。とにかく、魔力をありがとうございます」

「ん」

 

 力になれたならそれで良い。

 確かに、さっきよりも元気そうな感じがする。元よりかなりの力を感じていたけど、わたしが譲渡した今は更に凄い感じになっている。言葉では言い表せないけど。

 

「これなら精霊の森を元に戻せるかも知れません。外に行ってみましょうか……っと、そちらの気を失っている妖精さんも一緒に」

「さっきから全然目を覚まさないんだけど……どうなっているの?」

 

 そうなのだ。

 ブラックリリーが言っている通り、だいぶ時間も経過しているのにラビとララは一向に目を覚まさない。石碑を触れたのはわたしとラビだけど、ブラックリリーとララも一緒にこの場にやって来ている。ティターニアが何かしたのかと思うんだけど、違うのかな。

 

「彼女たちは妖精ですから。この場所は結構きついでしょう。精霊は妖精の上位的な存在なので、そんな精霊の王である私のこの空間は、妖精には強力過ぎたのかと。心配しなくとも、ここを出れば目を覚ますはずですよ」

「それならわたしたちは何でこうやって普通に居られる?」

「それは簡単です。あなた方は妖精ではなく、別世界の住人です。そして人間という妖精世界には存在しない種族です。私たちの影響はほぼ皆無でしょう」

「なるほど」

 

 それもそうか。精霊と妖精はこの妖精世界に存在する者たちだ。それに対して、わたしたちは地球という別の世界で、しかもこの世界には存在しない人間という種族だ。

 別世界の影響は受けないって事なのだろう。とは言え、それでもティターニアから物凄い力を感じているけれども。

 

「簡単に言ってしまうと、この場所は妖精にとっては魔力が強すぎると言うか濃すぎるという感じです。膨大な魔力を持つ妖精であれば、問題ないですが、並の魔力量ではここはきついでしょうね。と言っても、そちらの妖精のお二方からはかなりの魔力を感じますけども。後何処か懐かしいと言うか、知っているような魔力も感じます」

 

 そう言って、ラビとララの方に目を向けるティターニア。

 恐らくそれはラビの事だろう。ラビはエステリア王国の第一王女だ。そしてそのエステリア王国は、精霊の森がすぐ近くにある国で、初代国王と王妃は、精霊王と会った事がある、と妖精書庫に記述されていたと言ってた。

 つまりエステリア王国初代国王と王妃は、ラビの先祖にあたる訳だ。その血を受け継いでいるのであれば、同じような魔力を感じるのは当たり前だろう。

 

「確かにこの子から感じます……なるほど、この子があの時のお二人の子孫なのですね」

 

 ティターニアはそう言いながら、ラビの近くにやって来て優しくその髪を掻き分ける。

 子孫と言うなら、ラビの父親や母親も当たるだろうけど、どうなってしまっているかは分からない。妖精世界は今や、実際この目で見たあの荒野になってしまっているのだから。

 

「いえ、正確には子孫の一人ですね。しかし、今や他の子孫はどうなってしまっているかは分かりません……こうやって生き残りに会えたのは奇跡なのでしょうね」

「初代国王と王妃に会ったというのは本当?」

「本当ですよ。とても聡明な方でしたし、肝も据わっている方々でしたね。精霊王である私という存在に対しても恐れを抱かず、対話を望んできましたし」

「それは確かに……でも初代国王と王妃だけにしか会わなかった理由とかはあるの? 国が腐っていたとか?」

 

 ラビの国を悪く言うつもりはないけど、ここは素直に聞きたいところ。

 

「いえ。そんな事はありませんよ。この目で見ていましたからね。エステリア王国は、むしろかなり良い国ですよ。初代国王と王妃には及ばないものの、非常に優秀でした。国も栄えていたのはそれらが理由でしょうね」

 

 ちゃんと見ないと分からないが、話しているティターニアは何処か楽しそうだった。そっか、良い国だったか……国のこと悪く言って申し訳ない気持ちになる。

 

「もちろん、一部には黒い者も居ましたが、ちゃんと対応もしていましたね」

「ん。そうなんだ」

「それで、私が初代国王と王妃以外に会わなかった理由でしたね。それは、国が非常に良かったからですよ」

「?」

「私は精霊王という存在である以上、とてつもない力を持っているのは自負しています。そんな私が平和な国に干渉するのは逆に、悪い方向になる可能性がありますからね」

 

 確かに。もし、国王と毎回会っていたらその力を利用しようと考える輩も出てくるだろうし、平和な国を危険に晒すのはティターニアも本望ではないか。

 

「ふふ。ですが、定期的には見に来ていましたよ? 誤った方向に進んでいたら、その時は私が干渉するつもりでもありましたし。でも今回はまだ行けてなかったので今が初めてになりますね」

「そうなんだ」

「見に行こうかと思っては居たのですが、件の事件で行けなくなってしまいましたね」

 

 件の事件。十中八九、魔法実験失敗の事だよね。本当に失敗して、二つの世界を呼び出してしまったのか、そこは定かにはなってないけども。

 

「少し長く話してしまいましたね。外に行きましょうか」

「ん」

「もう良いかしら?」

 

 ティターニアと話が止まった所で、ブラックリリーが間に入ってくる。

 

「あ、ブラックリリー。ごめん、置いてけぼりにして」

「大丈夫よ。何となくは分かったから」

「ん」

 

 またブラックリリーを置いてけぼりにしてしまった。

 うん、ちょっとそこは気を付けないとな……何となくは理解できたみたいだけど。本人は気にしてない感じだけど、それでもやはり置いてけぼりは駄目かな。

 

 まあ、精霊王だとか精霊の森とか……これまた結構な情報量だよね。

 

「それでは行きましょうか。――デプラセ」

 

 聞き慣れない言葉。だけど、魔法のキーワードのようなものを紡いだのは確かだと思う。ただ聞き取れないと言うか、聞いたことがないような?

 うーん。魔法少女の状態で魔法を使う時とは何か違う感じがする。どっちかと言うとラビみたいな感じだけど、ラビたちの方は普通に聞き取れるし。

 

 精霊語的な何かだろうか?

 そんなこんな考えていると、わたしの視界は真っ白に染まり始め、そして一瞬だけ歪む。これ、ブラックリリーのテレポートみたいな感じだ。

 

 移動する魔法なのだろうか?

 

「え?」

 

 目を開けると、わたしたちは空を飛んでいた。

 何を言っているか分からないと思うが、本当なのだ。下には森らしきものの全貌が見えるし、森以外の場所は暗く、荒廃した大地が見えている。

 

「お、落ちる!?」

「安心してください。私の力で落ちないようになってますよ」

 

 ブラックリリーが悲鳴のような声を出すが、ティターニアがそう答えた。周りを見ると、わたしとブラックリリー以外にもラビとララが空で気を失っている。いや、言葉だけ見るととんでもないけど、そうなのだから仕方がない。

 

 足場を作っている訳でもなく、普通にわたしたちは浮いている。魔法少女の状態でも空は飛べないのに……まあ、ジャンプ力はかなり強化されてるけどね。

 

 これが精霊王の力……改めて、わたしはティターニアを見るのだった。

 

 

 

 

 



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Act.38:精霊王の力

 

「やはり、かなり狭くなってしまってますね」

 

 下に見える、精霊の森(フォレ・エスプリ)……わたしたちが調査をしていた場所を見下ろしながらティターニアは呟く。

 それに釣られてわたしたちも下を見る。地上に居る時は、半径三キロと言うのは結構歩くのもそれなりの距離があったと感じていたが、この高い位置から見ると当たり前ではあるけど小さく見える。

 

 そして、そんな森を囲う暗黒な世界。流石にこの高さだと、あの小さめの魔物を見る事は出来ないが、まあ、居るんだろうね。

 

「んぅ……」

「おや、お二人が目を覚ましたみたいですよ」

「ん」

 

 一緒になって森を見下ろしていると、後ろから呻き声のようなものが聞こえ、振り向けばさっきまでずっと気を失ったままだったラビとララが目を覚まし始めていた。

 

「あれ……ここは? って、空!? お、落ちます!」

「ラビリア様、落ち着いて。良く見ると分かる」

「え?」

 

 まあ、いきなり空中で目を覚ましたらそりゃあ驚くし、落ちると思うよね。悲鳴のような声を出していたラビをララが宥める。

 

「これは……」

「どうやら、ボクたちは浮いているようだね」

「そうみたいですね、失礼しました。所で……」

 

 落ち着いたラビはちらりと、わたしたちを見た後、ティターニアの方を見る。

 

「どちら様でしょうか……あれでも、この感覚……」

 

 今まで気を失っていたので、ティターニアの事は知らないか。知ったら知ったで更に驚きそうな気はするけど言わない訳にもいかないだろう。

 そんな訳で、わたしたちは、目を覚ましたばかりのラビとララに現状を伝えるのだった。

 

 

 

 

 

「精霊王様……」

「そんな畏まらないで大丈夫ですよ。エステリア王国の末裔さん。私の事は気軽にティターニアでも、ティタでもお好きに呼んでもらって結構ですよ」

「それは……いえ、それならば。初めましてティタ様、私の名前はラビリア・ド・エステリア。エステリア王国の第一王女をしていました」

 

 そう言って、カーテシーをするラビ。

 カーテシーで良いんだよね? そこあまり詳しくないからなあ……とりあえず、身分の高い人とかの女性が挨拶する時のあれである。

 

「そして、記録者(スクレテール)としてはラビリア・ド・アルシーヴ・フェリークと申します」

「懐かしい感じとは別に、何か違うものも感じましたが、なるほど……記録者(スクレテール)でしたか」

 

 何処か興味深そうにラビを見るティターニア。

 記録者(スクレテール)……妖精世界の事を記録する、ランダムに選ばれる謎の職種。いや、職種って言って良いのか分からないけど。記録者(スクレテール)については、ティターニアも知ってそうだった。

 

記録者(スクレテール)……もまた懐かしいですね。それは置いておきましょうか」

 

 記録者(スクレテール)も懐かしい? あれ今何か結構大事というか重要そうな事、言ってなかった? ティターニアを見ると、わたしが見るのを先読みしていたのか口に人差し指を当ててウィンクをしてきた。

 

 つまり、今は秘密、もしくは内緒って事かな。うん……間違いなく何かに関わってそうだ。

 

「事情は先ほどの説明で理解しましたが……どうするんですか?」

「魔力は頂けたので、これから精霊の森を再生させます」

「再生……そんな簡単に出来るのかい? いや出来るんだろうね……精霊王様なのだから」

「ふふ、まあ見ていてください」

 

 ラビは結構あわあわしていたけど、ララはそんな事なく、ティターニア相手にいつも通りに話している。何と言うか、結構肝が座っているというか……。

 本人がそう言っているのだからっていうのもあるだろうけど。わたしもティターニアって呼んでるし……。

 

「集え精霊よ、我が元へ」

 

 無数の光がティターニアの周りに集まって行く。その光景は思わず、息をのむほど幻想的なものだった。あの光はもしかすると、精霊なのかもしれない。

 精霊王たるティターニアの元に集っている……そういう事なのだろう。

 

「大地の恵み、自然の力……失いし自然を今ここに。再生せよ、我が名は精霊王ティターニア」

 

 ティターニアの言葉と共に、地上には大きな魔法陣が姿を現す。未だに無事に残っている森は愚か、その場所を含み、かなり広範囲に渡って魔法陣の範囲内に収まっている。

 それだけではなく、わたしが『メテオスターフォール』を使った時のように、魔法陣が上空にも出現する。こちらも、かなりの範囲だ。何となくだけど、下の魔法陣を同じ大きさなのではないだろうか?

 

「これは……凄まじい魔力だな」

 

 魔法の反動なのか、風がびゅうびゅうと強く吹き荒れている。ティターニアが今使おうとしている魔法が何なのかは分からないけど、普通ではないのは確かだ。

 

「――レズュレクシオン」 

 

 静かにティターニアが唱える。

 すると、一瞬だけ音が世界から消えたような感覚に襲われ、少しすると音が戻って来る。空と地上に描かれた魔法陣は輝きだし、空の魔法陣は覆っていた黒い雲を吹き飛ばし、地上の魔法陣は荒廃した大地を輝かせる。

 

 そこからはもう圧倒的と言うか凄まじいとしか言えなかった。

 魔法陣の範囲内の大地を、緑に変え、枯れていた木は元気を取り戻していく。枯れ木すら残らず消えてしまった木も、その姿を取り戻し、再生していった。

 空は黒い雲が消え、暖かな日差しが暗闇だった大地を照らす。

 

 言葉通り、精霊の森はティターニアの魔法によって再生を果たしたのだった。

 

「ふう。上手く行きましたね」

 

 そう一息つくティターニア。

 

「もしかして、この範囲が……」

「お察しの通りです。精霊の森の全貌と言うか本当の広さです」

「広いね」

「ふふ、まあ、広いのは認めますよ。精霊たちもどうやら元気を取り戻したみたいです」

「え?」

 

 ティターニアの視線の先をわたしも見れば、光の玉のようなものが森に無数に確認できた。その影響なのか、森全体がキラキラしているように見える。

 

「本当にありがとうございました。リュネール・エトワール。精霊王として感謝します」

 

 そう言って、深々と頭を下げるティターニア。ちょ……あなた精霊王でしょ! そんな頭下げて良いの?

 

「精霊王でも、礼儀は忘れませんよ。国王だって感謝する時はするでしょう」

「ん……わたしの国に国王は居ないから分からない」

 

 まあ、物語の中では良く登場するけど。確かに国を救ってくれた主人公たちとかに非公式の場では、頭を下げるシーンとかが結構あるし。

 

「そうなのですね。なるほど、別世界には妖精世界の常識は通用しませんか」

「ん。それ言ったらこっちの世界での常識も妖精世界では通用しないよ」

「こうやって別世界の方と巡り会えたのも、奇跡なのですかね」

 

 奇跡なのかな? でもそう言う事にしておこうかな。それに、ラビに会えたから、ララに会えたからこそ、こうやって別世界に来れている訳だし。

 別世界に来ている……中々凄い事だよなあ。

 

「それにしても、あなたの魔力は凄まじいですね。まだまだ私の中に残ってますよこれ……何か魔力の回復速度も何処か上がった気がします」

「そうなの?」

 

 魔力量が異常なのは自覚しているけど、回復速度が上がるってどういうこった。

 

「はい。と言っても、体感ですけどね」

「ふむ……」

 

 良く分からないが、わたしの魔力は他にも奇怪しい所があるのかもしれない。本当、自分自身が怖いなこれ。

 

「あなた方のお陰で精霊の森は再生されました。これほどの魔力が戻れば、そう簡単には同じようにはならないでしょう。本当に感謝します」

「ほとんどはリュネール・エトワールだけどね……ボクとラビリア様はさっき目を覚ましたし」

「あ、頭を上げてくださいティタ様。私たちは何もしてませんし……ララの言う通り全部リュネール・エトワールのお陰です」

「そうねえ……私は空気だったし」

「そうですか? ですが、この世界へ連れて来てくれたのはあなた方です」

「それはそうだけど……」

 

 この世界に来れたのはララのお陰である。

 ララがゲートと言う魔法を使ったからこそ、地球とこの妖精世界を繋げる事が出来たんだし。ゲートを知らなかったら多分、行き方の時点で手詰まりだったと思うし。

 

「お礼と言っては些細なものですが……私たち精霊はあなたたちに協力しましょう」

「え?」

「ふふ」

「でも、ティターニアはこの森を維持するのに忙しいのでは」

 

 いくら、魔力回復したとはいえ維持する必要はあるよね。

 

「今回の魔力で、精霊の森は完全に再生しました。植物や精霊たちが完全に復活しましたので、魔力の循環も正常に戻るはずです。そう簡単には魔力は消えないでしょう。そして、魔力に惹かれる魔物を近寄らせないために張っていた結界も張り直したので、しばらくは問題ないと思います」

「魔物がこの森に近付かなかったのは……」

「結界のお陰ですね。森を維持するための力と、魔物を退けるための結界。二つを私が何とか維持していましたが、今回ので他の精霊たちも元気になりましたので彼女らに任せても問題ないでしょう。だからと言って、私が精霊の森から完全に離れると言う訳ではありませんけどね」

「なるほど」

「そういう訳で問題無いですよ。是非お礼させてください」

 

 精霊王ティターニアが仲間になった! とかいうテロップが流れそう。

 でもこれは大きな一歩だ。一歩所か数百歩くらい進んだのではないだろうか? わたしたちの目的はこの妖精世界の再生。ティターニアの力を借りればもしかすると。

 

 取り合えず、まずはこちらの事情を話さないとね。

 

 

 



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Act.40:蒼からのメッセージ

 

「ん? CONNECTに通知が来てる」

 

 妖精世界で精霊王と会い、森の再生を目撃しこれからの事を考えていたが、現状、やれるだけやると言う事だけしか言えないで一度解散と言う事になった。時間も時間だったしね。

 

 何かティターニアがこっちの世界に来たがっていたけど、今はやめてくれと言う事で抑えたけど、多分諦めてないよあれ。

 地球にも魔力があるから恐らく、精霊もティターニアも普通に来れるだろうけど。

 

 そんな訳で自宅に居るのだが、CONNECTに通知が来ていた。魔法少女の状態だと、このデバイスはステッキなのが基本なので、通知とかが来ても分からない。スマホ型になれるけど、わざわざそれにする必要はないし……魔法少女の状態の時は。

 

「相手は……蒼?」

 

 送信者を見てみると、蒼である事が分かる。丁度今から一時間くらい前のようだ。

 

『いきなりすみません。今度の土曜日に二人で会えないですか?』

 

 ただその一文だけのメッセージが残されていた。土曜日か……直前で何もなければ、問題はないが……何故二人?

 

「……」

 

 そこで思い浮かぶのが、この前の雪菜の告白。

 わたしは答えられずに居たが、雪菜は待ってると言ってた。だから、わたしは答えなければならないのに。

 

 いや、雪菜の告白の返事も大事だが、今考えるのはこの蒼の呼び出しと言うか、会えないかと言うメッセージだ。

 色川蒼……魔法少女ブルーサファイアの正体であり、ホワイトリリー同様魔法省茨城地域支部に所属する政府機関の魔法少女。

 

 そしてわたしに対して好意を持っているであろうもう一人。何か、あの大晦日の時からかは分からないけど、何かとは言えないけど変わっていると言うか、最初よりも違う印象になりつつある二人。

 

 主にホワイトリリーは本当に変わっていた。何か前よりもアグレッシブ? と言えば良いのか……積極的になっている。

 そして件の告白。

 

「……」

 

 妖精世界の事ばかりでは駄目だな。こちらに向き合わねば……でも、わたしは一体どうしたいのだろうか?

 

 おっと、話が逸れてしまった。今の本題は蒼からのメッセージである。あえて二人で、と書いている所を見ると、まあそのままなんだろうね。

 

『土曜日は大丈夫だと思う。時間は?』

 

 蒼のメッセージにわたしはそう返信する。

 特に特別な予定はないし、急用的な何かがなければ問題ない。わたしが返信して3分くらい経過した所で、メッセージに既読が付く。

 

 ふと思う。

 そう言えば、雪菜とは告白もされたし、話したりしたけど蒼とはあまり会話出来てないな。この前の、香菜も行った集まりで少し話した程度だ。

 あーでも、それ言うと雪菜ともあまり話してないのか。告白の時くらいしか。

 

 最近は、香菜とラビ、ララとしかあまり交流してないなと思う。目的が目的なので、仕方がないんだけど魔法省の魔法少女とも少しは仲良くしたい所。

 特に、わたしに深く関わりのある雪菜と蒼とは。

 

 別に魔法省の魔法少女たちを蔑ろにしている訳ではなく、ぶっちゃけ交流があるのがホワイトリリーとブルーサファイアばかりだから、他の子が薄いと言うか……。

 でも、嫌いと言う訳ではない。そこまでの交流はないけど、出会う事自体は、魔物を倒した後や向かう途中とかにちょくちょくあったから、雰囲気程度は何となく分かる程度。

 雰囲気もその時その時で変わるようなものだし、精度は期待できないかな。

 もちろん、全員と会った訳ではないが……ホワイトリリーとブルーサファイアを除いて28人……わたしが会った事あるのは20人くらいだろうか?

 

「ん」

 

 正確な数は分からない。

 以前は以前で、問題が別にあったからそれもそれで仕方がなかった。わたしは極力、他の魔法少女と会うのを避けていたから。

 

「蒼と話せる良い機会かもしれない」

 

 まあ、蒼がなんで二人で会わないかと言ってきたのは分からないけど、取り合えず彼女と話せる機会が出来るのは良いと思う。

 

『良かったです。14時頃はどうですか? もちろん、そちらの都合が良ければ、ですが』

 

 14時頃か……別に午前中とかでも良いのだが、やっぱり皆午前中は忙しいのかもしれないなあ。予定はないので大丈夫と返しておく。

 

『ありがとうございます。また土曜日に』

『うん』

 

 それだけ送り、既読が付いたのを確認した後、CONNECTのアプリを閉じる。すると当たり前だが、ホーム画面に戻る。

 

「今度はブルーサファイアもとい、蒼からですか」

「ん。何だろう?」

「それは実際会わないと分からないですけど。二人でって書いてある所が気になりますね」

「やっぱり?」

「メッセージ自体は別に可笑しくないですけどね」

「だね」

 

 気にした所で、どうしようもないので考えるのはやめておこうと思う。何かわたしに用事がある、だからこうやって誘ってきたと言うか、聞いてきたと言う事だ。

 

「それで、これからどうしましょうか」

「ん。妖精世界の再生っていうのはやっぱり長い道のりだね」

「そうですね。まさか精霊王が出て来るとは思いませんでしたが……」

「ん。でも精霊王が仲間? になってくれたからかなり前進したと思う」

 

 彼女……ティターニアは精霊王であるからその力は絶大。あの森をあっさりと再生させてしまった光景を見ればそれはもう明白。

 

「それはそうですが、気が気でありませんよ……」

「そう? 結構、話しやすかったけど」

「確かに話しやすい雰囲気ですけど、やっぱりティタ様からはかなりの力を感じます。どうしてもそれに気圧されてしまいますよ……」

 

 ラビの言う通り、ティターニアからはとてつもない力を持っているのは確かだけど正直、そこまで気圧されるような感じはしてない。ティターニアが力を抑えている可能性もあるけど。

 うーん、時々見せる子供っぽさが、打ち消してしまっているのかな。

 

 身長とかはあの時も言ったように、ブラックリリーよりほんの少しだけ高いくらい。ブラックリリーの方がわたしよりも微妙に身長があるので、ティターニアはわたしよりも高いって事になるけど。

 

 透き通るような水色の髪に、緑色のオーラのようなものがかかっている感じ。髪の長さは腰に届きそうなくらいだったかな。

 そして何より、一番気になったと言うか目立つのが金色と緑のオッドアイ。まず地球では見ないような色の組み合わせである。

 いやもしかすると、地球にも居るのかもしれないがわたしは見た事がない、それだけである。

 

 喋り方は何処か大人っぽさがあるのだが、時々子供っぽくもなる。

 

「ラビ。結界って地球でも使えるのかな?」

「どうでしょうね……ですが、結界の使い方が分かればもしかすると使えるかもしれませんね。生憎、私は知らないですが……」

「そっか。ティターニアに直接聞くしかないか。あれでも、妖精書庫には?」

「うーん、どうでしょうか。私が読んだ限りでは結界と言う名前の魔法はありません。まだ全部を読んだわけではありませんが」

「結界は魔法じゃないって事?」

 

 でも魔力を使って張っていたよね。

 あー……そうは言っても、魔力ってまだ100%解析されている訳ではないし、それに魔力を消費するのは魔法のみとは限らないか。

 精霊なら精霊だけが使える何かとかがあるかもしれないし。

 

「分かりませんね……やはり直接ティタ様に聞く以外はないかもしれませんね」

 

 そっかー……。

 もし結界が使えれば、地球も魔物が出現しても少しは安全になるのではないか? と思ったんだけど。あ、でも地球の魔物は突発的に出現するのは変わらないけど、倒す存在が居るから留まる事はあまりない。

 結界を張って、その結界内に魔物が出現した場合はどうなるんだろうか?

 

 そもそも結界って何なのだろうか? ティターニアが言うには魔物を退けるものらしいが、妖精世界に魔物は居なかったはずなので、魔物に対する魔法があるとは思えないんだけど。

 

 精霊だけが使える特殊な力とかなのかな。

 ……うん、考えても分かるはずもないので、今度ティターニアに聞いてみる事にしよう。

 

 



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Act.41:結界





 

「結界と言うのは元々は私たち精霊が身を守るために使っていた魔法です。範囲の調節も自由に出来ます」

「魔法少女の魔力装甲みたいな?」

 

 お茶菓子を口にしながら、ティターニアは話を続ける。

 

「当たらずと(いえど)も遠からず、ですかね。ただ魔物に効果があったのは予想外でしたが」

 

 なるほど。

 魔力装甲に近いのだろうけど、違うと言う事かな。ちょっと良く分からないが、取り合えず、身を守るための魔法だって言うのは理解できたかな。

 それとやっぱり、魔物に効果があった事についてはティターニアも予想外だったようだ。結界と言う魔法……あって良かったと言うべきか。

 

「って、司!? 何でティタ様がこちらに居るんですか!?」

「あ、ラビ。いや、こっちに来たいって言ってたから……こっちはこっちで聞きたい事あったし」

「……」

 

 驚いた顔でわたしとティターニアを交互に見るラビに、説明する。

 まあ、正確には教えるからこっちの世界に来たいっていう交渉というか交換条件なのだが……。

 

 精霊たちにとって魔力のない場所や、薄い場所は有害でそれはティターニアにも言える事だ。地球は魔力が既に循環しているので、来る事自体は問題無かった。

 十分な量の魔力があるしね。精霊の森程ではないけど、それでも普通に居られるくらいはあるっぽい。ティターニアがこっちに来た時に言ってた。

 

「(大丈夫なのですか? 地球は一応魔力はあるとはいえ精霊の森程は無いですけど)」

 

 そう耳元でわたしにだけ聞こえる声でラビが話してくるが、多分それ意味ないよ。だってティターニアは心読めるみたいだし、多分この会話も聞こえてるんじゃないかな。

 

「問題ありませんよ。確かに精霊の森よりは少ないですけど、別に支障が出るレベルではありませんし、むしろ程良い感じですね」

「……そう言えば心が読めるんでしたね」

「読めない時もありますけどね」

 

 ほらね。

 

「精霊の森の魔力が正直な所、異常なだけですよ。精霊たちが住んでいますし、植物も元気なので」

「異常って、精霊王が言うの……」

「一応事実ですしね。あそこまでではなくても、普通に暮らせますよ。地球のこのくらいの魔力は丁度良い感じですね」

「そうなんだ」

 

 魔力が丁度良いとか、わたしには良く分からないけど、少なくとも精霊王のティターニアにとっては丁度良い感じらしい。

 

「話を戻しますが、結界は一度張ると、壊されるまではその場に残り続けます。ですが、定期的に手入れをしないと、自然と消えていってしまいます。結界の維持と言うのはこの手入れの事ですね。まあ、特に難しい事ではなく、魔力を注ぐ感じですけどね」

「へえ……」

「今回精霊たちが元気になったので、そう言った手入れについては彼女たちに任せられると言ったのもそう言う事です」

「結界については分かった。それで、その結界ってこっちでも使えるの?」

 

 結界については理解できた。定期的に魔力を注ぐことで、半永久的に張り続けられる。ただ魔力を注がずにおいておくと、自然消滅してしまうと言うのも分かった。

 そんな結界は、魔物を退ける効果がある……これはティターニアも言っていた通り、予想外ではあるものの魔法少女以外に魔物に対抗できる手段とも言える。

 魔石を動力にして、張ることも出来るかもしれない……それが本当であれば、地球の魔物への対抗手段が増える事になる。

 

 更に言えば、魔力を寄り付かせない。つまり結界を家とかに張っておく事で魔物の被害を防げるかもしれないというのもある。

 

 と言っても、問題なのが結界はわたしたちでも使えるのかと言う所。使えるのであれば、さっき言った事が実現するかもしれないが、使えないのであれば意味がない。

 ティターニアが張れるので、彼女に張ってもらってそれらをわたしたちが維持するって言うのも可能だろうけど、それだとティターニアに依存する形になってしまう。

 

「張れるとは思いますが、使えるかは別ですね」

「だろうね」

 

 何となく予想はしていた。

 張れるとしても、結界と言う魔法を使えるかはまた別の話になる。魔力があれば、一応誰でも使えるかもしれないが、魔法は現状魔法少女しか使えない。

 

「その魔法少女しか使えないって言うのが、こちらとしては不思議ですね」

「ん」

「魔法は本来、魔力さえあれば練習する事で使えるはずなんですけどね……妖精世界では誰もが普通に使ってましたし」

 

 妖精世界の魔法についてはラビとララに少し聞いた事がある。

 まず、大前提として魔力を持っている事が条件となる。妖精たちは全員魔力を持って生まれて来るので魔力がある=普通、というのは共通一般常識となっている。

 

 だが、それは妖精世界での話。

 別世界である地球には、魔法なんてなかったのでそんな常識があるはずもない。むしろ、魔法なんて迷信と言う感じだし。

 なので、まず魔法を使える大前提は”魔力を持っている”事にある。

 

 昔は魔力なんて存在してなかったが、今では地球全体に魔力が空気と共に回っている。そして空気と一体化しているので、その空気を吸う動植物は知らぬうちに体内に魔力を蓄積している。

 既に地球人は全員、魔力を持っていると言っても過言ではないと思う。だから一応、その大前提はクリアしているはずなのだが、現状魔法少女しか使えないと言う感じだ。

 

「地球人が魔法を使えないのは、魔法と言う存在を信じてない、使えないだろう、という意識が原因かもしれませんね」

「え?」

「魔法少女しか使えない。そんな認識があるから、使えないのだと思ってますよ。まあ、実際見た訳ではないので、先ほどまでの話から推測しただけですが」

「魔法少女しか使えない……」

 

 確かに。

 魔法と言うのは、魔法少女しか使えないというのが常識になっている。だから、一般人とかは魔法が使えないでいる。

 魔法少女も変身しない姿では、魔法が使えない。それだって、変身しないと魔法は使えないと言う常識があるから……ティターニアが言ってる事は一理あるのかもしれない。

 

「地球は科学という文明を築いてましたし、魔法なんていうのは信じてないでしょう。今では信じてると言うか実際存在しているので、違うでしょうが、それでも魔法を使えるのは魔法少女だけ、っていう共通認識があるのではないですか?」

「あるね」

 

 わたしもそうだ。

 魔法少女しか、魔法は使えない。変身しないと魔法は使えない……それらがもう常識として頭の中にある。

 

「でもまあ、それで良いのだと思いますよ?」

「?」

「もし、魔法が使えていたら……一般人がその力を使って国を襲うかもしれませんし、反対に国が国民たちを脅したりするかもしれません。そして戦争でも、恐らく魔法は使われるようになるでしょう」

「……」

「調べた限りでは、兵器というものがあるようですが魔法はそんなのは必要なく、魔力さえあれば使えます。それに中には広範囲を爆発させる魔法だってありますし、戦争自体も魔法メインになるかもしれません」

「それは確かにそうだね」

 

 と言うか何時調べたのだろうか。気にするだけ無駄かな?

 

 魔法少女の使える魔法が、一般人が使えたらどうなるか……回復系ならまだ良いが攻撃系のものだったら確かに大変なことになってるだろう。

 今はまだ魔物が居るから良いが、そのうち今度は魔法少女を利用して何かを起こす、なんてことを考える輩も出て来る可能性も考えられる。

 

 魔物が消えたら魔法少女の力も消えるとかなら、良いのだがそのまま残るとなると……うん。考えるのはやめよう。

 

「なので、魔法が普通に使える世の中にはならなくて良いと思います、地球は。今までの科学技術でここまで来たのですから」

 

 地球は科学を築き、ここまで発展してきた。

 確かにここまで折角来たのに、その文明が崩壊してしまうのは望ましくない。魔石とかだって、魔物からしか確認出来てない訳で、魔物が居なくなったら手に入らなくなる。

 ただ、地球は魔力を持つ惑星になっているので妖精世界みたいに、あっちこっちで魔石が手に入ると言う時代が来るかもしれないけどね。

 

 今後、地球はどうなるのかは分からない。

 仮に魔石が手に入るようになったら……それを科学を組み合わせてより便利な世界になるなら良いけどね。それ言うと魔導砲とかも普通に戦争で使われるようになるのかな。

 

 それを考えると、ちょっとばかし魔物はもうしばらく居て欲しいと思ってしまうのは、おかしいだろうか。

 

 

 

 




※念の為記載しておきます。


中らずと雖も遠からず
当たらずと雖も遠からず
当たらずといえども遠からず
あたらずといえどもとおからず

上記は問題ないですが、これを、当たらずとも遠からず、とするのは間違いになります。
調べていただけると分かるかと思います。


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Act.42:二人の少女の独白

「……」

 

 スマホの中に入っている、CONNECTと言うアプリのメッセージ画面を開いたまま胸の部分にスマートフォンを移動させる。

 

「思い切って二人で会えないかってメッセージを送れたのは、私の勇気の証だと思いたい」

 

 メッセージの送信相手は、リュネール・エトワール……いえ、如月司という一人の少女。そして私の好きな子でもある。それは友達とかそういう感じではなく、恋愛的な方の好き、だ。

 同性なのにおかしいと思われるかもしれないけど、好きなってしまったのはどうしようもないよね。まあそれで、この前、ホワイトリリーこと白百合先輩が私にこう告げてきた。

 

『私、司さんに告白しました』

 

 その言葉に、打撃を受けたような感覚に襲われた。

 とはいえ、私たちは同じ人を好きになってしまったライバルだし、告白については別に気にしてない。告白をした所で、答えるのは司なのだから。

 

 わざわざ言う必要はない事だと思う。だけど、それをあえて言ったと言う事は私に対しての宣戦布告と言う事なのだろうか?

 

「宣戦布告……か」

 

 まだそうと決まった訳ではないものの、わざわざ私に言ってきた事には意味があるのでは? と私は思ってしまう。

 それとも……私も早く告白しろ、と暗に伝えてきたのだろうか。白百合先輩は普段は、大人しく言葉遣いも丁寧でありクラスの中でも人気があると言うのは友達の話で聞いた事がある。

 随分と大人っぽいなとは思っていたのだけど、司が介入してからかなり変わったと思う。何より、以前より笑顔を見せるようになったし、表情も増えてるし。

 

 ……司が変えたと言う事なのかな? それを言ったら私も大分変ってるような気がする。

 

 司とは最近はあまり話せてない気がする。この前の司の友達と言っていたブラックリリーと言う魔法少女と会う時に少し話したくらいだろうか?

 後間違いなく、ブラックリリーも司の事を好いている。本人は自覚はないようだけど、間違いはないと思う。白百合先輩もそう言っていたし。

 

 向こうは私たちと違って野良なので司と会うのは結構自由だ。そしてこの前の異常事態の時、彼女と一緒に行動をしていた。

 少し妬けてしまったけど、そんな彼女の協力があったから司が反転世界にやって来れたし、手の回らなかった地域の魔物をいち早く倒し、被害を抑えられたのも事実。

 

 ブラックリリーの使うテレポートの魔法。あれがなかったら……移動に時間がかかっていたと思う。時間がかかるという事は、もっと被害が広がっていたかもしれないと言う事。

 そして野良であるにも関わらず、魔法省の協力してくれた、と茜さんが言ってた。支部長である茜さんがそう言ったのであれば、間違いないのだろう。

 

 魔法省の中には、そんなブラックリリーの事をちょっと怪訝そうに見ている人も居たらしく、彼女はそれには気付いていたようで、それでも何も言わずに協力をしてくれたとの事。

 ブラックリリーがそんな目で見られてた理由って言うのが、以前の魔法少女襲撃事件の男が証言した第三者の容姿に似ているから、なんだよね。

 

 確かに似ていた。だから私も白百合先輩も少し警戒はしていたものの、実際話せば普通の少女。私たちよりは年上な気はするけど、悪い事をする子には見えなかった。

 ただそんな裏で暗躍していたと言われる黒い魔法少女は、あれっきり全然目撃もされてなければ、事件も発生していない。魔法省に怖気づいたのかは分からないけど、全然情報がないものだから忘れている人も居るかも。

 

「ううん、今考える事じゃないかな」

 

 もう一度スマートフォンを見る。

 

「ふう」

 

 このままでは駄目だ。

 それはもう分かっている事なんだけど、どうしても一歩を踏み出せなかった。仮に告白したとして、振られた場合、今までの関係が壊れてしまうのではないか? という不安。

 

 ……動かなければ何も変わらない。

 そう、何も変わらない。だからこそ、私は今回は決心した。白百合先輩がわざわざ言った事は、宣戦布告として捉えよう。それならば……私も動くしかないよね?

 

「頑張れ、自分」

 

 土曜日はまだ先なのに、緊張しているのか心臓がバクバク言ってる。そんな自分を落ち着かせるために、気合を入れ直す。

 

「白百合先輩……その宣戦布告、受け取りましたからね」

 

 私しか居ない部屋に、私のそんな声が響くのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「……?」

「どうかしたの?」

 

 いきなり動きを止めたからなのか、妹の冬菜に首を傾げられました。

 

「いえ、何でありませんよ」

「そう?」

「はい。すみません、冬菜」

「大丈夫だよー」

「ふふ」

 

 双子の妹である冬菜の髪を再び梳かし始めます。

 今さっき、誰かに宣戦布告のような事を言われたような気がします。いえ、宣戦布告って何だよと言う話になるんですけどね。

 

 蒼ちゃんでしょうか? この前、私は蒼ちゃんに対して告白したことを告げましたし、人によっては宣戦布告に聞こえるかもしれませんね。

 とはいえ、蒼ちゃんに対しての宣戦布告というのもあながち間違いではないのですけどね。どっちが選ばれても恨みっこなしと約束もしましたし。

 二人とも振られたその時は、一緒に泣こうとも言いましたね……私たちに出来るのは告白くらいですし。それに答えるのは司さんなんですから。

 

 ですが、もう一つだけ懸念事項も増えましたね。

 それはやっぱり、ブラックリリーという司さんの友達? らしい子の事です。彼女の雰囲気からして、間違いなく彼女も司さんに好意を持っています。本人には自覚がないようですけどね。

 

 つまりライバルが一人増えたことになります。自覚ないって言うのも結構厄介ですが、彼女は野良。つまり、時間は私たちよりもあるでしょうし、同じ野良である司さんとは自由に会えるのではないでしょうか?

 この前の異常事態の時も共闘したと言う事ですし。魔法省にも協力してくれたって、茜さんも言ってましたので、間違いはないですね。

 

 少し妬けますが……。

 

 ただ一つ気になるのが、そんなブラックリリーは魔法少女襲撃事件の時の男が言っていた、黒い魔法少女に似ていると言う事です。

 魔法省の人も、それもありちょっと注意深くブラックリリーを見ていたと言ってましたね。実際話した感じでは何の変わりもない普通の女の子な感じがしますし、悪い事をするようには思えなかったんですよね。

 最初は警戒していましたが……。

 

「ありがとう、雪菜! 今度はわたしが雪菜の髪を梳かすね」

 

 そうこう考えている内に、冬菜の髪を梳かし終えるとお礼を言われますが、別にいつもの事ですしお礼の必要はないと思うんですよね。と言うより姉妹なのですから。

 

「どういたしまして。いえ、私は別に良いですよ」

「だめ!」

「えぇ……」

 

 今度は冬菜が私の髪を梳かすと言ってきたのですが、私は別に一人でもやれますし大丈夫と言いたかったのですが、冬菜に却下されてしまいました。

 

 でもまあ……別に断る必要もないですし、ここは大人しくやってもらう事にしますか。と言うかそうしないと冬菜が解放してくれなさそうですね。

 

「それならお願いしますね」

「任せて!」

 

 あ、冬菜の名誉のために言っておきますが、冬菜も自分で色々できますよ。私が居ない時とか、忙しい時とかは頼んできませんし、自分でやりますから。

 

 ふと思います。

 ブラックリリーは分かりませんが、仮に彼女も司さんに告白した場合……司さんは誰を選ぶんでしょうか。私だったら嬉しいですけど……。

 

「……」

 

 今更ながら結構、緊張しますね……。冬菜の何処か心地良い感じの髪の梳かし方に目を細めながら、私はそんな事を考えるのでした。

 

 

 



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Act.43:部分再生

 

「あの辺を試しに再生してみますか」

 

 再び妖精世界にやって来たわたしたち。しかし、今日はブラックリリーも居ないし、ララも居ない。その理由と言うのが、ブラックリリー……香菜が体調を崩したからである。

 ララからの連絡が来たのは朝。どうも熱を出してしまったらしくて、今日は行けないとの事だった。そこまで重い訳ではないけど、ララは看病のために香菜に付き添うみたい。

 香菜のお母さんも、心配して仕事を休もうとしたのだが香菜がそれを止めたみたい。香菜としてはお母さんにあまり負担をかけたくないんだなと何となく分かる。

 

 そんな訳で、今回この妖精世界に来ているのはわたしとラビのみ。

 まずはお試しということで、精霊の森の近くの何処かを再生しようかと思い、わたしたちは今精霊の森の出口……結界が守っている範囲ギリギリの場所にやって来ている。

 

「やっぱり魔物が居ますね」

「だね」

 

 そこから先に広がる荒廃した大地……そこには、やはり彷徨っている影が複数確認できる。魔物だろうけど、地球の魔物よりは小さいようにわたしには見える。

 まあ、地球にも小さい魔物っていうのは存在するけど、そこまで多くない。脅威度が低くても図体だけはでかい魔物が多いし、小さい魔物の方が珍しいというレベルだ。

 

 なんで妖精世界の魔物は小さいのか?

 それは分からないが、わたしたちは一つだけ仮説がある。これはわたしやラビではなく、ララが言った事なんだけどね。

 

 妖精世界はこの精霊の森を除き、他の場所は魔力が薄かったりなかったりしている場所があるだろう、と思ってる。魔力がない場所では、魔物は魔力を取り込む事が出来ない。

 魔物の生態とかについては、解明出来ていない。それもそのはずで、魔物は倒すとそのまま魔石を残して消えてしまうから研究しようにも研究が出来ないという厄介な感じなのだ。

 そして個体によっても攻撃方法だとか、移動方法だとか色々と変わっているためこれと言い切れない。

 

 話を戻すが、そんな生態不明である魔物という生命体については分かってない方が多い。しかし、妖精世界のこの荒廃した土地の蔓延っているのを見た感じでは、魔力がなくても動けるというのは分かる。

 

 最初は大きかったかもしれない。しかしこの世界は滅んでしまっており、恐らく生命はティターニアを含む精霊を除き、何も居ないだろう。魔物は何を食べるのかは分からないが、餌なるものがなければ生き物と同様に死んでいくのではないか?

 

 まあ、何が言いたいのかと言えば簡単で、餌がないから魔物は小さくなってしまったのではないか、と言う事だ。

 

 後は魔力が薄いからかも知れないというのもある。魔力についても分からない事が多く、結局これと言った原因というのは不明。だがしかし、魔物の世界に魔力があったならばどうだろうか?

 妖精世界の魔力が流れずとも、最初からその世界に魔力があって、その魔力で生きていたら……当然魔物は魔力のないこの世界では魔力を蓄えることが出来ない。

 

 まあ、謎は多いけど……小さい理由というのは環境の違いっていう線が濃厚なのは確かだろう。

 

「ん。そう言えばこの状態で外行っても大丈夫なのか分からない」

 

 ここで一つ思い出す。

 いや忘れちゃダメな事ではあるが、うっかりしていた。今までわたしたちが居たのはこの精霊の森の内側だ。精霊の森の中なら問題なく過ごせていたが、外はどうなのか……これについてはまだ調べてなかった。

 

 ティターニアの話からして、外は非常に魔力が薄いという事は分かったが、わたしたちは別に魔力で生きている訳ではない。確かに魔力が混ざってはいるけど、大事なのは空気である。

 

 まあでも、精霊の森の中で普通に過ごせているので空気はあるのかもしれない。精霊の森にだけあるという可能性も否定できないけど。

 

「私たち精霊は魔力がないとあれですが、あなたは地球人ですし問題なさそうですが……実際、ここは精霊の森ではありますが、この場所では普通に過ごせています。それに一応同じ世界ですしね」

 

 それはそうなんだけどね。

 さて、どうするか……思い切って出てみるか? でもなあ……ちょっと怖いというのもある。魔力装甲が守ってくれるとは思うけど……。

 

「ん……」

 

 だがしかし。

 ここで止まるのもあれなので、まずはちょこっとだけ結界の外に手を出してみる。数秒ほど伸ばしてみたが、特に何も感じない。同じように足も出してみるが、特に何もなし。

 

「……よし」

 

 ちょっと怖いというのもあるが、何かあったらすぐに結界内に引っ張ってもらえるように、ラビとティターニアと手を繋いだ状態で、徐々に外へ出てみる。

 

「っ」

 

 反射的に目を瞑ったりしてしまうが特に何もなかった。

 ただ強いて言うなら結界内よりも、何だか身体が重いようなそんな感じだ。しかし、自分を守ってくれている魔力装甲が削られているような感じはしない。

 

「大丈夫……かな?」

「そのようですね……それにしても、結構勇気がいると思うのですが」

「ん。怖かったのは事実」

「ふふ、司でも怖い事はあるんですね」

「それは勿論……」

 

 怖いものがない人なんてむしろ居るのかな? 居るのかもしれないけど、大体は一つか二つは持ってそうだが。

 

「ラビも大丈夫?」

「一応大丈夫ですね。ただあまり長居は出来ないかもしれませんけどね」

「ん」

 

 まあ、ラビは妖精だからね。

 精霊と似ていて、魔力がない場所は妖精にとってもそこまで良い場所とは言えないのだ。確か体内の魔力で、どんな場所でも行けるんだったっけ? 流石に火の中とかそういう場所は無理かもしれないが。

 

「早速再生してみますか……と言いたい所ですが、ここは結界の外ですから」

「ん。そうだね。……というかティターニアは大丈夫なの?」

「精霊たちにはきついでしょうけど、私はこれでも精霊王なので」

「そっか」

 

 精霊王だから……何回その言葉言ってるんだろうか。まあ、本人が大丈夫と言うなら大丈夫なんだろうけどね。

 

「来ましたね」

「ん」

 

 そう忘れていけないのが、ここは結界の外だという事だ。

 さて、魔力に惹かれる魔物たちが、魔力を多く持っているわたしたちが結界の外に出たらどうするか? 誰でも分かる通り、魔物はこちらに向かってくる訳だ。

 

「丁度良いですね」

「え?」

 

 応戦しようと思ったのだが、ティターニアが前に出てくる。その行動に、わたしとラビはきょとんとする。

 

「私の力を見てもらいましょう」

 

 いや、あなたの力は既に精霊の森の再生で見ているから、どれだけ強いかは察してるけども。……とは言え、やめるつもりはないみたいで、ティターニアが戦闘態勢に入ってしまった。

 仕方がないので、他の魔物が来ないか周りを警戒することにした。

 

「雷鳴よ鳴り響け。――アークサンダー」

 

 刹那。

 天空より一筋の光が大地に向けて落ちる。迸る雷光……光は物凄い轟音と共に地面に到達。そして辺り一面を眩い光が照らし、白く染め上げる。

 

 しばらくして、光も消え、眩しく瞑っていた目を開くと、さっきまでこちらに向かってきていたはずの魔物は見当たらず、その場所には魔石が複数落ちているだけだった。

 

「少しやりすぎましたかね?」

「……」

 

 うん。

 さっきの轟音と言うか雷を放ったのはティターニアなのは間違いないだろう。そしてその威力……魔物が小さいので何とも言えないのだが、決して弱くはない威力だろう。

 

「再生以外にも私は戦えるというのは分かってもらえたでしょうか」

「ん。……既に森を再生させている時点でとてつもないというのは分かってたけど」

 

 ちょっと呆れた感じにわたしは言う。

 そもそも、精霊を統べている精霊王が戦えないなんて誰が思うだろうか? 中には居るかも知れないけどね……ティターニアの姿はぶっちゃけ人間の一人の女の子にしか見えないし。

 

 まず見ない目の色の組み合わせでもあるし。

 

「取り敢えず、周囲に居た魔物は一掃したので、再生させてみますね」

「ん」

 

 もう何も言うまい。

 

 そんな訳でティターニアは精霊の森を再生させていた時のように、詠唱を始める。空と大地に大きな魔法陣が姿を表し、光を放つ。後は精霊の森を再生した時と同じように超常現象が起き、再生を果たすのだった。

 

 ……うん。やっぱりとんでもないね、流石は精霊王。

 彼女に協力したのは、正解だったかもしれない……でもまあ、それでも妖精世界の再生というのはとてつもなく長いだろう。わたしたちが生きているうちに終わるかは分からないが……協力すると決めたのはわたしなのでこのまま頑張ってみるつもりだ。

 

 ……ホワイトリリーやブルーサファイアにも協力してもらうべきだろうか? いや、彼女たちに手伝ってもらっても何も変わらなさそうだし、保留かなぁ?



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Act.44:蒼き宝石の■□

 

「……」

 

 時間、かな?

 時計の針は、13時を指している。約束の時間は14時……待ち合わせの場所はまた魔法省。うーん、あそこを待ち合わせ場所にするのが最近は流行っているのだろうか?

 

 巫山戯たこと考えるのはやめて、向かうとするか。とは言え、今から行くとまた早く着いちゃうだろうが、まあ、良いかな? 何時も通りだし。

 

 蒼が呼んだ理由は分からないが……行ってみればそれは分かる事。わたしは近くにあったデバイスを手に取り、ササッと変身を済ませる。

 魔法少女リュネール・エトワール……大分この名前も至る所に広まっているなとは思う。魔法省の魔法少女25人を助けたというのもあるからだろうけど。

 

 ただその助けた事については、あまり大っぴらにしないで欲しい言っておいたので、そこまでではないが。

 

「魔法少女、ね」

 

 改めて色々とあったなと思う。

 男ながらも魔法少女になった事は、恐らくわたしが史上初なのではないだろうか? いやまあ……他の男性が魔法少女になっている可能性もあるからそうとは言い切れないが、何となくだけど隠しているとは思うんだ。

 

 だって、男だとバレたらあれだし……。

 そもそも、居るかどうかも分からないけどね。わたしのように演技をして、隠しきっていればその人を追跡でもしない限り、本当の姿までは分からないから。

 もし、わたしと同じで魔法少女になった男性が居るのであれば、頑張れとしか言えないけどね。わたし自身は色々と特殊なので、何とも言えない。

 

「この世界は……謎が多い」

 

 魔力や魔物と言うものが地球に現れてから、世界の謎は深まるばかり。

 このわたしたちの居る世界の隣には、魔物の世界や妖精世界があるという事。その二つの世界の存在を認識しているのは、わたしたちくらいだろうけどね。

 

 別世界なんて一般人が聞いても、疑問に思うだけでしょ?

 この世界しか知らないのだから、他に世界があるなんて考える人なんて、科学者とかそういう人くらいではないだろうか。後はお年頃の少年少女たちとか。

 

 並行世界という定義自体は、仮説として存在しているけどそれを証明する術はない。証明するには実際に、その世界に行かなくては駄目だろう。それを言うと、わたしたちは妖精世界という世界に行く事に成功しているが。

 果たして、その世界の事を言ってどれだけの人が信じるだろうか? 実際その目で見せれば、信じるだろうけど言葉だけでは信じない人の方が多いだろうね。

 

 しかし、このご時世……魔法や魔力、魔物という存在が既に常識一つに入っている。別世界の事も浸透すれば、常識となる事もあるだろうが、まあ今はあり得ないかな。

 

 よし。変なことを考えるのはやめにして、向かうとするか。

 

「ハイド」

 

 家から出る時は、必ず使うこの姿を消す魔法。

 魔法少女が家に居るって思われると、面倒な事に絶対になるのでそれを防ぐためにもここは徹底する。この魔法、便利で強いんだけど問題点は常に展開中は魔力は減るという事。

 

 わたしの魔力は尋常ではないので、そこまで重大な欠点ではないが普通の魔法少女とかが使ったら逆に、苦しめてしまう結果になるかもしれない。

 

 念の為、毎回裏庭側の部屋に行ってその窓から出ている。その後は、自分の家の屋根に登り後は他の家の屋根を伝って、目的地へと向かう訳だ。

 何時もと変わらない光景。まあ、前と違うのは、ここから裏庭にあるゲートが見える事くらいかな。

 

 家を後にして、一定の距離まで離れた所で何時ものようにハイドの魔法を解除する。そうすれば当然、わたしの姿は見えるようになるがまあ、屋根の上を移動しているから、屋根を凝視している人位じゃないと見えないかな。

 

 と言うか、身体能力も高くなっているのでまず目で追えるのかって所。そのまま、屋根の上などを使って、わたしは目的の場所へと向かうのだった。

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

「……やっぱり、早いですね」

「え」

 

 魔法省の屋上。最近は何度か訪れているのでだいぶ見慣れた場所となっている。そして今回もやって来たのだが、時間は恐らく20分くらい早いかもしれない……と思ったのだが、先客が居た。思わず、驚いてしまう。

 

「どうしたんですか、そんな驚いた顔をして。あなたでもそんな表情するんですね、ふふ」

 

 何処か楽しそうに、わたしを見てくるのはここにわたしを呼んだ本人……ブルーサファイアなのだが、その姿は変身前の姿だった。てっきり変身してくるかと思ったけど……良く考えればブルーサファイアとかホワイトリリーは変身する必要はないか。

 

 だって、魔法省ではどっちの姿も分かっているはずだし。

 

「遅れた?」

「いえ、そんな事ないですよ。予定時刻より25分くらい早いですね」

 

 ……あ、うん。

 思ったより、早く着いていたようだ。これ記録更新してないか? 25分は流石にないわ……25分も早く来る? いやまあ、会社とかで交通機関の都合上仕方がない場合はありだけど、普通だったら早すぎるよね。

 

「ん」

 

 でもまあ、遅刻するよりは良いという事で考えておこう。今日の天気は特に崩れもなく、全国的に晴れが多いとの事。それでもまあ、冬の太陽は弱いので、いくら昼間とは言え寒い時は寒いのだが。

 

「早いですけど、このまま本題に行きますか。まずは、今日来てくれてがあとうございます」

 

 そう言ってペコリと頭を下げる蒼。別に忙しくもなく、予定もないし感謝されるような事ではないが、まあ、その御礼を受け取っておこうかな。むしろ受け取っておかないと、失礼に当たるだろう。

 

「それで……ここに呼んだのは?」

「そうですね。宣戦布告を受けてしまったからですかね」

「んぇ?」

「ふふ! 冗談ですよ。いえ、宣戦布告というのは当たってるんですけど、そんな戦闘とかバトルとかじゃないですよ」

 

 またもや楽しそうに笑う蒼。

 あれ、蒼ってこんな子だっけ? 何ていうか小悪魔的な……いや、これは失礼かな? いやでも、いたずらっぽい顔をもするし蒼には小悪魔属性があったのだろうか?

 

 馬鹿なこと考えるのはやめておこう。小悪魔的と言うなら、雪菜もそんな感じだなと思う。なんだろう? 最初会った時よりも変わってるよね、二人共。

 

「そうですね。冗談はこのくらいにしておきます」

 

 それだけ言って、蒼は一旦わたしから離れ、屋上から落ちないように設置されているフェンスの近くまで移動する。わたしもそれに続き、フェンスの方へ向かう。出入り口がある方ではなく、反対側のようだ。

 

「……リュネール・エトワールいえ、司。司が嫌ではなければ変身を解いてくれないかな」

 

 意を決し、わたしにそう言ってくる蒼。

 なんかデジャヴを感じる……雪菜の時もそんな事言われたような気がする。別に変身解除する分には問題ないのだが……どうせ、蒼と雪菜にはハーフモードを見せてるし。それに、雪菜に関しては今の姿を知ってるし。

 

「ん。リリース(変身解除)

 

 蒼が雪菜から聞いているかは分からないが、取り敢えず今の姿を見せる事にする。自分の周りを包んでいた魔力装甲が消え、変身が解除される。

 

「あれ……司、ですよね?」

「ん。やっぱりそういう反応する」

「雰囲気も喋り方も同じですし、司なのは間違いなさそうですね……以前会った時は黒髪だった気がしますが」

「ん。それについては、あの時はこの容姿が目立つから染めてただけ。目にはカラコンをつけてた」

 

 ブラックリリーこと香菜相手だと、カラコンという嘘の理由は使えないが、蒼や雪菜に対してはカラコンと染めているというので通るはずだ。

 香菜の場合、会ったのが銀髪金眼の時だったからね。その後、何故か青くなってしまった。なので、目立つのが嫌だからと言って金色のカラコンなんて付けたなんて言うのは通用しないだろう。……むしろ、金は目立つだろって話。

 

「そうなんですね……でもまあ、目の前で変身解除してたので本人なのは間違いないですね」

「ん」

「もしかして、白百合先輩相手にもその姿を見せました?」

「うん」

「……なるほど。同じ事を私はしたという事ですね」

「?」

「気にしないで下さい。話を戻しますね……えっと司」

「ん」

 

 蒼はわたしの名前を言って、こちらを見てくる。

 蒼との距離は手を伸ばすと普通に届くくらい近い。わたしの方が一応身長は高いので、若干上目な形でわたしを見ている形になる。これは雪菜にも言えるけど、上目遣いは破壊力がある。

 

 ……また何言ってんだ。

 

「率直に言います。私、色川蒼は前からあなた……如月司のことが好きです」

「っ!」

 

 雪菜とは違い凛々しく堂々と言ってくる蒼。だけど、若干目が潤んでいるのが見える。

 

「友達とか、そういった意味ではなく……一人の女の子として、あなたの事が好きです。恋愛的な感情での好きです」

「蒼……」

 

 ……。

 まさか、蒼まで告白してくるなんて。つい最近に雪菜にも告白されたのに……いや、告白される事なんてとうの前から予想していたじゃないか。そして答えも決まっていたはずだ。

 

 だが。

 

「……」

 

 これでは雪菜の時と同じではないか。

 言葉で出ない。出そうと思っても、何故か出せないのだ。予め決めていた事が言えない……雪菜の時と全く同じだ。どうしてしまったのだろうか?

 

「恐らく白百合先輩もこう言ったと思いますが……返事は今直ぐではなくて良いです。ただ私が、司の事が好きなのは事実だっていうのを知ってほしい。本当に好きなんです。この鼓動、聞こえますか?」

「蒼!?」

 

 突然、わたしの手を自分の胸の元へ引き寄せてそんな事を言う蒼に、わたしは驚く。いや、驚くと言うか……ほんのり柔らかな感触が伝わってくる。ちょ、何!?

 

「女の子同士なのですから気にする必要ないですよね? 聞こえますか、あなたの目の前にいる時のこの私の胸の鼓動を」

「……」

 

 確かに。

 手を伝って感じる蒼の胸の音……緊張している時のようにバクバクと脈を打っているのが分かる。

 

「本気です。私も負けてられないので」

「蒼……」

「今日はこれだけを伝えたかったです。私はあなたの事が好きです。同性なのに可笑しいですか? でも好きになってしまったのだから、司が責任とって下さい」

 

 そう言って、胸から手を離してくれる蒼。いきなりの事でちょっと頭が回らなかったけど……それでも、本気で好きだっていうのは伝わったよ。でも何故か言葉が出せないんだ……ごめん。

 

「ふふ。冗談です。でも好きなのは事実なので、それだけは忘れないで下さい」

 

 そう、蒼は小悪魔的な笑みをわたしに見せるのだった。

 

 

 

 

 

 



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Act.45:妖精の本音と気付いた事

 

「はあ」

 

 特に何もないのにため息をついてしまう。

 何もないと言うのは噓になるか……ついさっき、ブルーサファイアこと色川蒼に告白をされてしまった。告白される事なんて予想していたのに、結局は雪菜の時と同じで言葉が出ないで居た。

 

 雪菜よりちょっとアグレッシブだった気がする。蒼ってあんな子だったかな?

 

 そんなどうでも良い事を考えるのではなく、どうするのかを考えるのは先だろう。雪菜と蒼……わたしはどうしたいのだろうか?

 雪菜についてだって、告白されてから少し経ってしまっているのに答えを見いだせないままだ。駄目だな……わたしは。

 

「これからどうしたら良いかな?」

 

 夜空に向けて、そう問いかけるが当然答えは返ってこない。月と星はただただ夜空を明るく照らしているだけだ。

 

「ここに居たのですね」

「ラビ……」

「やっぱり、蒼さんからの告白でしたか」

「ん」

 

 そんなわたしの側にやって来るラビ。もちろん、家なので人型の姿で。

 自分の家の屋根の上……何時もなら変身してから来る所だけど、今回は変身は特にせず、この姿のまま座っていた。

 どうでも良い事だけど、うちの屋根って二階から普通に簡単に登れるようになってるんだよね。登るために設計したかは分からないけど、取り合えず比較的簡単に屋根に登れる。

 だから、アンテナが変な方向になった時とか梯子とか用意しなくても、屋根に登れる。

 

「何時か告白されるかなとは予想していたけど、実際されるとこうなるんだなって」

「……」

 

 答えを出すべきなんだ。だけど、口から言葉が出せないのである。何故か? 関係が壊れるから? まあ、それもあるのかな?

 断ってしまうと気まずくなるから? それはどうだろうね。彼女たちは、わたしでも分かるくらい決心したような雰囲気を持っていたし、断られる覚悟もあるのだろう。

 肝心なわたしが答えを出せてないのが一番、駄目なのだ。

 

「それなら、司」

「ん?」

「反対に考えて見ませんか」

「反対?」

「はい。反対に……司の好きな人は誰ですか?」

「!」

 

 わたしの好きな人……。

 考えても見なかったな……わたしの好きな人は誰だろうか? 自分の胸に手を当てて目を瞑る。蒼? 雪菜? それとも……。 

 

 今までの中で関わりのある人たちを思い浮かべてみる。

 

「……分からない、かな」

「そうですか……」

 

 誰を思い浮かべても、同じだった。

 わたしに好きな人は居ないと言う事なのだろうか? でもまあ、良く考えればわたしは元はいい年したおっさんだった訳だし、そんなのに縁はなかったな。

 

「でもまあ、それならば……この場で言うのはどうかと思ったのですけど」

「?」

 

 あれこれ考えていると、ラビがわたしの事をじっと見て来る。

 

「気付いてないですか? 実は私も好きなのですよ」

「へ?」

 

 唐突に何の話題? ちょっと話についていけない。え? 何が好きだって?

 

「違う世界の存在なのに……私は最初色々と隠していましたが、それでも無理に聞こうとしてこなかったり、こんな私にも優しくしてくれたあなたが。今ではブラックリリーやララが発端ではありますけど、私の故郷である妖精世界の事だって……本当に」

「ラビ?」

「ここまで言っても分かりませんか? もう良いです、はっきり言います」

「……」

「私こと、ラビリア・ド・エステリア又はラビリア・ド・アルシーヴ・フェリークは如月司の事が好きです。優しいあなたが結構前から好きで居ました」

「っ!?」

「何時から、ですかね。こんな気持ちを抱き始めたのは……でも、私は気付いたら司の事が好きになってました。それは今までの相方や相棒というものではなく、彼女たちと同じく、恋愛的の意味での好きです」

 

 誰が、ラビが、わたしを?

 ちょっと待って……蒼に告白されたばかりなのに、今度はラビ? まってまって……ちょっと頭が付いて行けない。

 

「司に好きな人が居るなら、これを言う事はしませんでした。ですが、居ないようでしたので、私も素直に言う事にしました」

「ラビ……」

 

 ラビとの関係は、恐らく一番長い。

 わたしも、最初はあれだったけど今では普通に相棒と言えるくらいになっているし。ラビはどう思っているのか気になっていたけど……。

 

「答えを急かす事はしません。まだ一人、居ますからね、ふふ」

「え?」

 

 最後何て言ったのか聞き取れなかった。

 

「何でもありませんよ。驚きましたか?」

「ん……」

「でも、これは本当の事です。私は司の事が好きですし、ずっと一緒に居たいとも思ってます。例えあなたが元が男であったとしても、私はその姿も知っている。全てを含めて、司と言う人柄に惹かれました。今の性別でも変わりません。私は司が好きなのですから」

 

 流石にそこまで言われると恥ずかしい。

 ……わたしが、好き、か。

 

「……」

「更に悩ませてしまいましたかね? ふふ」

「ぅ」

「大丈夫です。私は司がどんな選択をしても恨んだりなんてしません。ですが、私を選んでくれたら嬉しいですね」

 

 ……。

 わたしの好きな人、か。

 

 わたしは、どうすれば良いのだろうか?

 

「唐突に告白した私が言うのも、可笑しい気はしますが……誰を選ぶかは司次第です。私たちは司が好きになったから告白したのですから。振られる事も考えてますし、全員が選ばれない可能性だって皆考えているはずですよ。全ては司次第、と言う事です」

「それは、分かってる……」

 

 ぶっちゃけ言ってしまえば、好きなった人は告白やアプローチをするくらいしかやる事はないのだ。告白したとしても、選ぶのは告白された側なのだから。

 

 そう、つまりわたしだ。

 そんなわたしは、答えを未だに出せずに居る。彼女たちは勇気を持って告白してきたはずだ。それに対してわたしは……。

 

「司が一緒に居たいと思える子を選ぶのが皆にとっても良い事です。もちろん、誰も選ばないと言う選択肢だってあるのですから」

「ん」

「あはは……私が言う事ではないですけどね。私は司を好きになった側の人……妖精ですし」

 

 一緒に居たいと思える子、か。

 確かにわたしはラビが来る前は基本、家に一人だったな。長い休みの時に、妹である真白が定期的に帰ってきてたから、ずっと一人と言う訳ではないけど。

 

 如月真白。

 前はわたしの妹、今は姉である。この姿になったわたしの事を特に気にする事なく色々と教えてもくれたし、本当に真白が居て良かったと思うくらいだ。

 

「あ、一人ではなく二人でしたね……」

「え?」

「なんでもないですよ」

 

 何か今ラビが呟いたような気がしたけど、気のせいだったかな? ……まあ良いか。

 

 一緒に居たい人、好きな人。

 分からない……正直、わたしは皆が好きだから。最初こそ、避けていたのはあったけどそれでも、今では変わってきてる。

 一人より二人、二人より三人……。

 

 そっか。

 

 だから、わたしは選べないのか。

 

 皆が、好きだから。

 

「……」

 

 何か、ようやく分かった気がするよ。

 分からない分からない言ってたのが馬鹿らしくなる。でも、皆が好き何て言うのは答えにはならないか……蒼や雪菜が変わったとか言ったけど、一番変わってるのはわたしなのではないだろうか?

 

 人の事、言えないな。

 

「その顔は、何かに気付いた感じですかね?」

「ん。でもこれは答えじゃないから」

 

 そう、答えではない。

 皆が好きなのは間違いないが、求められている答えはこれではないだろう。では、わたしはどう返せば良いのか?

 

 ……。

 

「そうですか。ゆっくり悩んで、その答えを聞かせてください。答えを待っているのは私だけではないですから」

「うん」

 

 ごめん、雪菜に蒼、ラビも。

 もう少しだけ、わたしに時間をくれると嬉しい。きっと、答えを出して見せるから。告白されたからには、その答えを出すのが男の使命だ。まあ、今は違うけど……そこは置いておいて。

 

 わたしは……。

 

 

 

 

 

 

 

 




こんな所に、思わぬ伏兵が!?
はい、すみません()




描写自体は少なかったラビですが、一応作中内には主人公に対して違うことを思っているような場所がチラホラあったと思います。
他の二人と比べて、ちょっと存在感が薄い彼女ですが、まあ一番関係が長いですしそんな気持ちも抱きますね。

さて、これで三人に告白された主人公はどうするのか!?



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Act.46:禁断の塔

 

「来ましたね」

「ん。ティターニア、再生した所はどんな感じ?」

 

 色々あった昨日から一日が経過し、わたしたちは再び妖精世界へやって来ていた。今回はブラックリリーもラビも居る。

 

 以前、一部分をお試しに再生してもらった場所にやって来ると、見事に自然が復活しているのが見える。わたしは既に見ているから驚く事はしないが、ブラックリリーとララはちょっと驚いている様子。

 

「言われた通り、結界を張らずに置いておきました。あの時から魔物は一体くらいしか来ませんでしたね」

「そうなの?」

「はい。少し私がやり過ぎたのかもしれませんね……この近くには今の所、魔物は再出現してませんので」

 

 あれが少し……? よし、気にするのはやめておこう。

 

「どうだった?」

「そうですね、やはり結界がない方が外へ魔力が広がるのでやはりこちらの方が再生は早いかもしれません。ほら見てください」

「?」

 

 そう言ってティターニアが指さした場所に見えるのは、再生した場所の外にある一つの花。荒廃している土地に、一本の花が咲いていたのだ。

 

「花……」

「私が特に手を加えた訳ではないのですが、いつの間にか咲いてましたね。この外に」

 

 そっか。

 この再生した場所の魔力がこの花を咲かせたのだろうか? 良く見たら周りにも、枯れている花や木が見えるが、何だか少しだけ元気になっているように見える。

 

「このまま結界を張らずに、再生を進めればもしかしたら思うより早く再生するかもしれませんね」

「だね。……でも」

「ええ、分かっています。魔物ですよね」

 

 ティターニアの言葉に頷く。

 確かに結界なしの効果なのかもしれないが、このまま進めていくには一つの問題点がある。それがティターニアが言ったように魔物の存在。

 結界がなければ当然魔物は、魔力の豊富な場所にやって来るだろう。そしてそれを蓄えて、大きくなるかもしれない。

 

 魔物が暴れだしたら、折角再生した森も台無しになる。だから、魔物の対策が必要なんだけど……この世界にはどれだけの魔物が居るのか想像がつかない。

 魔物を倒す組織もなければ、倒す人も居ない。そんな世界で、魔物が出現し続ければ……もうあっちこっちに居るだろうね。

 

「取り合えず、まずはこの精霊の森の周辺を再生していきますか」

「そうだね。範囲を広げても、手が回らなくなるだろうし」

 

 地道にコツコツと。これがやはり一番、確実だろう。

 精霊の森を拠点にして、そこから徐々に広げていく……と言う訳ではなく、まずは精霊の森周辺の再生を行うつもりだ。

 

 精霊の森が拠点なのは間違いないけどね。

 何かあっても、精霊の森なら結界もあるので安全だしね……何かはあって欲しくはないけど。本当、どれだけかかるんだろうね。

 でも、こうやって再生できる手段……力は整っている。主にティターニアのお陰ではあるけど、準備は整っているのだ。だから再生は可能……それがどれだけかかろうとも、再生ができると言うのは良い事ではないだろうか。

 

「あ、そうだ」

「どうかしましたか?」

「ん。ちょっと聞きたい事があって」

「聞きたい事ですか?」

 

 ふと思い出す。

 ブラックリリーと見た、南の方にあった謎の塔。天まで届く塔で、上部は煙のような雲に覆われていて見えない。何と言うか、禍々しい塔だなって思ってた。

 

 もしかすると、ティターニアなら知っているかなと思ったのだが。

 

「ん。……精霊の森から南の方角にずっと行った先に何か禍々しい塔があったけど、ティターニアは知ってるかなって」

「南の方角……空まで伸びている塔ですか?」

「ん。上部の方は雲で見えないけど」

 

 煙のような雲で上部は覆われてる。なので、当然てっぺんは見えない。ただ異様に存在感を放っていたから気になるんだよね。

 

「……なるほど、見えるのですね」

「え?」

「あ、すみません。恐らくその塔は禁断(トゥール・)の塔(デファンデュ)です」

禁断(トゥール・)の塔(デファンデュ)……?」

 

 禁断(トゥール・)の塔(デファンデュ)……? 何か名前からして良い物じゃないような気がする。

 

「良い物ではない……まあ確かにそうかもしれませんね。あの塔については、実は私もそこまで分かっていないのです。この名称も精霊の中で呼んでいるものですしね」

「そうなの?」

「はい。あの塔は地球で言うと南極の部分にあるのですが、塔周辺は著しく魔力が乱れ、天候も不安定な場所です」

 

 南極の部分、か。

 あれ、そうなるとラビの国は南極に近い位置にあったと言う事か? いや、それは今どうでも良いか……まあ、空から見てもかなり遠くにあるように見えてた。

 ただ気になるのは、そんな塔にラビたちが気付いてないと言う事。いくら遠くても、空からは遠くに見えた訳だし、お城とかの高い建物からも見ようと思えば見える気はするが。

 

「魔力乱れが激しい上、天候も不安定。魔力嵐もこちらには出てきませんが、塔周辺では何度も繰り返し発生しています。はっきり言って、危険地域と言っても過言ではありません。魔力の薄い場所よりも危険かもしれませんね」

「怖」

「それで、妖精たちが気付かなかった、見覚えがないって言うのはあの塔、どういう訳か妖精には見えないようになっていたようです」

「妖精には見えない……」

「原理は不明です。そもそも、魔力乱れの激しい所に行くのは精霊では少々リスクが高いですからね。魔力の薄い場所よりも危ないかもです」

「そんなに……」

 

 そもそも、魔力嵐とか魔力の乱れって言うのが良く分からないけど。

 ただ何となく想像は出来る。魔力嵐についてはラビが話していたからね。地球で言う台風みたいなものって。ただ、地球の台風と違うのは海上で生まれるのではなく、突発的に生まれると言う点。

 魔力がある場所なら何処でも発生する可能性はある。海上云々関係なく、地上でも発生するようだし、地球の台風よりも質が悪い。

 

「ですが、そんな塔が妖精にも見えるようになっていると言うのは少々気になりますね」

「ん」

 

 妖精には見えないようになっていた(らしい)けど、ララとブラックリリーが空で見たのだから、間違いなく妖精も見えるようになっているのが分かる。どうして今になって見えるようになったのか。

 

「まあ、今の所は特に何もないのでそっとしておくしかありません。下手に塔に向かった所で、何が起きるか分かりませんからね」

「ん。わたしたちの目的はあくまで、妖精世界の再生」

 

 手がかりが全くなかった時は、あの塔に行っていたかもしれないが、精霊王であるティターニアとの出会いによって手がかり所か、再生にかなり近付けた訳だ。

 今更、行こうとは思わない。ただこちらに何か害を及ぼすようなものなのであれば、対応するしかないのだが……。

 南極の位置にあると言う事だが、そうなると反対側の北極にも同じような塔とかあったりするのだろうか。ここからでは流石に確認はできないけど。

 さっきの話で、エステリア王国があった場所、精霊の森のある場所は南極よりだって言うのは分かったし。

 

「塔については今これ以上考えても意味はありませんね。再生の方、進めて行きましょうか」

「うん」

 

 ティターニアにすら不明な変な塔の事を、地球人であるわたしが考えた所で何が分かる訳でもないし、時間の無駄になる。この時間は、再生の方に充てるべきだろう。

 

 結界なしの試運転……試運転って言うのは変かな?

 ともかく、結界なしの再生については上手く行ったと言えば良いだろうか。再生した所から魔力が生み出されて、荒廃した大地の方へも流れて行ったからか、再生してない場所にも花が咲いたのだ。

 ティターニアの言っていた事は正解なのかもしれない。結界で魔力を外に出さないようにするよりも、こうやって出した方が連鎖効果? で周りも徐々に元気を取り戻すかもしれない。

 

 流石に再生ではないから、枯れ木すら残っていない木については効果がないかもしれない。でも、これによって活性化が進めば……。

 

 先は長いけど、コツコツやっていくしかないね。

 

 

 

 



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Act.47:悩める司

 

「……」

 

 再生の進む妖精世界を、精霊の森の中でも一番高い木の上で立って見渡しながらわたしは考える。この一番高い木は、精霊樹と言うらしいけど、特に周りの木と変わった所はない。

 まあ、強いて言うなら一番高いと言う所だろうか? 後は確かに他の木と比べると強く魔力を感じれる。

 

 最初、この世界にやってきた時よりも広がっている自然。それは精霊の森が再生したから……そして今はそんな精霊の森の外側にも徐々に伸びて行っている。

 精霊の森は当分は結界で守っておくようだが、もし周りが安全になったら結界を解除するとか言ってたかな。結界がない方が、魔力の循環も広がるから。

 

 と言っても、現状安全とは言い難い。

 魔物が周囲に結構いるから。これでも大分片付けたのだが、やはり何処かから湧いているのか……それとも、見えない範囲に居た魔物が寄って来ているのか分からないが、ともかく魔力のある場所目指す魔物が多い。

 

 わたしたちもずっと妖精世界に居られる訳ではないから、わたしたちが居ない間はティターニアと精霊が対処してくれているみたい。

 ただティターニアはともかく、精霊たちは魔力の薄い場所は危険なので、森からの支援や遠距離攻撃で対応しているそう。

 

「どうしたの? そんな所でぼうっとして」

「ん……アウロラ」

「疲れたの? まあ、本当に色々としてるものね……普通は疲れるわ」

 

 そう言いながら、わたしの手のひらに収まる程度の小人サイズの少女、アウロラがわたしの周りを飛び回る。

 

「疲れてはないけど、ちょっと色々と考え事」

 

 少し疲れているのは事実だが、別にそこまでのものではない。

 これまでの事を振り返っていた。一番わたしを悩ませているのはやはり、雪菜、蒼、ラビに告白された事だろうか。告白自体ではなく、その告白に対する答え。

 

 わたしは皆が好きだ。

 だから、誰なんて選べない……でも、これは答えにはならない。皆が好きだから……全員の告白を断る事は簡単だ。ただそうした場合、皆との関係はどうなるのだろう。

 ラビは覚悟できているからこそ、皆告白したと言っていたがそれでもやはり……。

 

 怖い。

 まあ、これなんだろうな。自分でも分かっているけど……だがこのまま答えを出さずに居るのはもっと駄目だろう。

 

 わたしが一緒に居たい人……好きな人。皆が好き……それは、どういう意味での好きだ? 恋愛的か? 友達的か?

 

「なるほど。ズバリ恋の悩みね!」

「!」

「その反応、図星だったみたいね。誰か好きな人でもできたの?」

「ん……なんて言えば良いか」

 

 わたしに好きな人が出来たのではなく、好きになった人が告白してきたと言う事。それに対してわたしは答えが出せないで居る……何故だか自然とアウロラに対して零してしまった。

 

 アウロラ。

 彼女は人でもなければ妖精でもない。それなら何か? 精霊である。そう、つまりティターニアの直轄と言えば良いのかな? 取り合えず、精霊と言う存在である。

 少し前に、わたしの前に姿を現してはティターニア同様、お礼をしてきた感じだ。力も回復し、余裕も出来たので姿を現したと言ってた。

 

『他の精霊はまだ恥ずかしがってるみたい。まあ、人見知りだからねえ……』

 

 アウロラから聞いた感じでは、他の精霊たちもお礼を言いたそうにわたしたちの事を隠れて見ていたようだったが、人見知り? らしく恥ずかしがっていたそう。

 精霊がどういう感じなのかは分からないけど、人見知り……何というか意外だった。

 

 アウロラは正直絡みやすいと言うか話しやすかったので、何時の間にか普通に会話する所まで来ていた。

 ただアウロラは精霊だけど、普通の精霊ではない。どういう事かと言えば、精霊は精霊でも精霊王みたいな全てを統べる存在も居る訳だ。

 

 でも、精霊王だけでは手が回らないとかもあるだろう。

 会社とか国だって、一人がやっている訳ではない。つまり、アウロラは会社で言うなら中間管理職的な存在であると言う事。一部の精霊を指揮するリーダー的な存在だ。

 

「なるほどねえ。もてもてだね」

「……」

「冗談だって。でもそれについては、やっぱり他者がとやかく言うのは出来ないかな。誰を選ぶのか、選ばないのか……選択するのはされた側だから」

「分かってる、んだけどね」

「そうよね。ただ一つ言えることは……本気で選ぶならお互いが幸せになれる相手を選ぶと言う所かな? ま、つまり君が一緒に居て幸せだと思える人を選ぶ事だよ」

 

 一緒に居て幸せと思える相手、か。皆と居る時が賑やかで楽しく、幸せな気がするよ。

 

「恋愛は複雑ねえ……妖精もそうだけど。もういっその事全員もらっちゃえば?」

「いやいや、それは流石に……」

「そう? 妖精世界の国なんて、一夫多妻が普通よ? ……あ、でも君の場合同性だもんね。一妻多妻?」

「ふふ、何それ」

 

 思わずクスリと笑ってしまう。

 それを言うなら、一夫多妻の漢字を変えて一婦多妻とかじゃないかな? いや、凄いどうでも良い話だけど。

 

「なるほど、君の笑顔は確かに破壊力があるね」

「え?」

「何でもないよ。悩みに悩みぬけば良い。そこに答えを見いだせるはず。時にははっきりと言わないと駄目な事もある。中途半端では駄目。ちゃんとどっちかを選ぶ……それが一番大事」

「ん」

 

 この場合において、中途半端と言うのは駄目な答えだろう。断るか、付き合うか。その二択のみが選べる選択肢だ。

 断っても断らなくても、恐らくわたしたちの関係はちょっと変わるだろう。ちょっとと言うレベルで済むかは分からないけど。

 

 でもまあ……そうだよね。こればっかりは、わたし自身で答えを出すしかない。他者に相談した所で、当人の問題なのでどうしようもないのだ。

 

「悩む事は別に悪い事じゃないわ。まあ、悩み過ぎて体調不良とかを起こしたらそれは流石に悪いけど」

「体調は一応大丈夫」

 

 今の所は、ね。

 特に身体から感じる異常はないし。それに無理はしないつもりである。わたしよりも、ティターニアの方が心配なんだけど。

 

「あはは! まあ、ティタ様は張り切っているからね。大分再生も進んでいるし」

「ん。何故そんな張り切ってるの?」

「それは分からないけど、多分、今までずっと話し相手が居なかったからじゃないかな? 私たちも森の再生前は、あまり余裕もなかったからティタ様とも話せてなかったしね」

「そっか」

「ずっと一人でこの森を維持してくれていたから。私たちを守るためにね」

 

 そっか。

 ティターニアはわたしたちが来るまではずっと森を維持して居たんだもんね。力だも大分失っていたし、油断も出来ない状態。話し相手も居らず、ずっと。

 

「ん」

「改めて私からもありがとう。おかげで森は再生したし、私たちも徐々に元気を取り戻せているわ」

「再生したのはティターニアだけどね」

「それでも、ティタ様を助けてくれたのは君たちだから」

「ん。気にしないで」

 

 乗りかかった舟だしね。

 それに、こちらとしてもティターニアや精霊たちが協力してくれているは何とも心強い。精霊の森の周辺にも緑が戻りつつある。

 

 再生とかそう言うのはティターニアたちがやっているので、わたしたちの主な役割は魔物退治に、周辺調査。それからもしもの時の魔力供給とかである。

 周辺の調査については、精霊たちは森の外には出られないからね。魔物についても、精霊たちでも十分対応できるが彼女たちは再生した森を守ったりしているので無駄な負担をさせたくないし。

 魔力供給については、その名称通りだ。精霊も魔力がなければ何も出来ないし、最悪魔力がなくなれば消滅してしまう。

 ティターニアも魔力は無限ではないから、何かあった時に魔力を渡せるように備える感じだ。まあ、それについてはララの魔法の瓶(マギア・フラスコ)が活用できる。魔石も使えるしね……。

 

「世界の再生って、最初聞いたときは何言ってるんだって思ったけど、実際こう見ると何かやれそうな気がするわね」

「ん。ティターニアやアウロラたち精霊のお陰」

「褒めても何も出ないわよ。でも、私たちだけでは無理だったかもしれないわね」

 

 時間がかかるのは承知の上さ。

 どれだけかかるかは、分からないけど……それでもこうやって実際進んでいるのも事実。何時か……きっと完全に再生した妖精世界が見えれればよいな。

 

 最も、わたしが生きている内に終わらない可能性もあるし、むしろそっちの方が高いかもしれない。

 

 今、出来る事をするだけ。

 そしてわたしも……考えなければならない。これからの事を。

 

 

 

 



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Act.48:選択の時

 

「……」

 

 妖精世界の再生は、そう簡単には終わらない。だけど、再生させる術はある。精霊の森を起点にし、徐々に周りを再生して行く方針で今後は進めて行く事になる。

 ティターニアや、精霊たちの協力のお陰で目的達成へは確実に進んでいる。元々はブラックリリーとララが計画していた事だが。

 

 そう確実に前に進んでいる。

 このまま行ければ、時間がかかったとしても最終的には目的達成へと到達できるはず。魔物は邪魔ではあるものの、地球の魔物よりは弱くて体も小さい。地球よりかは対応できるはずだ。

 それに、ティターニアたち精霊が居る訳だから。

 

 魔力の多い場所が増えれば、精霊たちの行動範囲も広がる。仮に妖精世界が再生された場合は、全ての場所に精霊が行けるようになる訳だ。

 そうなれば、魔物の対処など簡単にできるだろう。とは言え、精霊がどれだけ強いかは分からないが……魔物とは戦えるくらいの力は持っていると思う。

 ティターニアは精霊王って言うのもあるし、強いのは明白。この目で見ているからね。あの時使った雷以外にも、風とか火の魔法? を使ったりもしている。

 

 いくつの魔法が使えるのやら……ティターニアの本当の力は計り知れない。

 

「わたしも決めないと、ね」

 

 雪菜に蒼そしてラビに告白をされた事を思い出す。

 結局の所、どの告白に対してもその時に答えは出せないで居たのだ。そして答えを出せないまま今に至る。ちゃんと答えを出さないと。

 

 わたしにとって、皆はもう大切な人だ。そこにはブラックリリーとララも含まれる。

 だけど、皆が大切な人だとしても、それでは意味はない。曖昧なまま時間をかけるのは駄目だ。だから、答えを出すしかないのだ。

 

「わたしにとって一緒に居て幸せだと思える人、か」

 

 色々と特殊なわたしだからっていうのもあるんだけども。

 今までの自分を顧みれば、真白を除き、わたしは周りと交流する事はあまりしてなかったし……そう思える人は居なかった。

 

 それは以前の自分。では、今はどうなのか?

 

 昔より大分変っていると思う。一人で居る方が良いと思っていたのに、今では誰かと一緒に居た方が楽しいと言うか、良いなって思ってるくらい。

 だから……皆と居るのが一番良い。皆が好き……これは本当なのだ。

 

「……ふう」

 

 三人との思い出……記憶が頭の中をぐるぐると回り始める。そこに三人以外の香菜や他の魔法少女との出来事とか、今まで起きた事全ても加わり始める。

 

 ホワイトリリーこと雪菜は丁寧な喋り方をする少し大人っぽい雰囲気がある女の子だ。だけど、それでも年相応の顔を見せたり、反応をしたりとやっぱり普通の女の子。

 白百合の花をモチーフとした魔法少女で、この地域では一番強いSクラスの魔法省所属の魔法少女だ。主な戦闘スタイルは、モチーフにしている花……白百合の花弁を放ったり、バリアを張ったりなどだ。

 今更ではあるけど、ホワイトリリーの魔法少女としての戦いについてはわたしもあまり知らないかもしれないな。一緒に行動するって事はなかったし……。

 多分他にも魔法を使えると思うけど……伊達にSクラスになっている訳ではないはずだ。知らない事……割と多いかも。

 

 彼女と初めて会ったのは、星月の魔法少女と言う名前が出始めた頃。あの時は、戦闘している所を見ていただけなので直接話す事はなかった。

 直接話したのは、カタツムリの魔物が出た時かな。あの時はまさか、リアルで触手プレイなんてものを見せられるとは思わなかったが。

 

 ブルーサファイアこと蒼については、ブルーサファイアとしての戦闘を一切見た事がない。反転世界では吹っ飛ばされてしまっていた所を見ただけで戦っていた所は見てない。

 ……わたし蒼の事知らなさ過ぎてるな。蒼についてはブルーサファイアとしてではなく、蒼として一緒に居た方が多い気がする。

 色川蒼。変身するとブルーサファイアをモチーフとした魔法少女になり、口調もホワイトリリーの丁寧語? になる。しかし、変身前は砕けた感じの話し方をする。時々、混ざってしまう時があるけどね。

 

 蒼と会ったのは初討伐の時だったかな……あの時は、そそくさに逃げたけど。本当に話するようになったのは魔法少女の襲撃事件の時からか。

 ついつい頭を撫でてしまったのはわたしの失態だったかもしれない。でもやっぱり、怖い物は怖い……蒼もまた普通の女の子だ。

 

「何だか懐かしいな」

 

 ラビについてはわたしが魔法少女になった要因。まあ、自分でなると選択したのだから何も言わないが。そしてその時からずっと行動を共にして一番付き合いの長い存在。

 兎のぬいぐるみのような見た目をして、それで喋るものだから驚いたな。でも、そんなラビは妖精世界にあったエステリア王国の第一王女かつ、特殊な役目を担う記録者(スクレテール)だって教えてくれた時は更に驚いたものだ。同時に、話も色々と難しかったけど……。

 それ以前に、人型の姿になれる事にも驚いたし、ラビには驚かされてばかりだった気がする。でも、姿形が違うとしても、ラビはラビだって分かったけど。最早ラビについては驚き疲れた。

 

 人型のラビの容姿には大分慣れたよ、うん。それに人型の方が本来の姿らしかったしね。最初はラビには悪いけど、違和感が結構あった。

 

「ラビも、ね」

 

 二人については何時か告白して来るかもしれない、とは思ってたがラビについては盲点だった。何時も普通に話していたし、特に可笑しな所もなかった。

 散々言われているけど、やはりわたしは鈍感みたいだ。雪菜が好意を抱いているって言うのはラビに言われたからだったし、蒼についてはもしかして? とは思ったけど、結局はラビに聞いてたし。

 

「……何だかな」

 

 他にはブラックリリーこと香菜。

 香菜については特に告白とかをされた訳ではないものの、何だか最初よりは変わってるような気がする。最初はザ・悪役的な雰囲気を持っていたのに、蓋を開けて見ればやっぱり身体が弱い普通の女の子。

 大人っぽい感じはするものの、何か友達になると言ってからの変わり具合はかなりのもの。ブラックリリーとしてはいつも通り振舞っているけどね。まあ、時々素が出てしまう事もあったけど。

 

 ……良く考えるとラビの次に、一緒に居る時間が長いのってブラックリリーか?

 

「同じ野良同士っていうのもあるのかな」

 

 前にも言ったと思うけど、野良で活動する魔法少女は少ない。むしろ、数えるくらいも居ないのではないだろうか?

 全く居ないとは言い切れないものの、大体魔法少女は魔法省に行くし。魔法省に行かずに、普通に生活すると言う子も居る。

 まあ、それはそのはずで命がかかっている仕事だからね。

 

「……」

 

 真白。

 わたしの現在唯一の血の繋がった家族であり、妹。今はわたしの方が妹になってるけど……真白については昔告白された事もあり、それを断ったと言うのも今でも覚えている。

 叶わない恋と言う事で、真白本人も分かっていた。わたしに対して告白するから断って欲しいと言ってきて、それで断ったのだが……。

 

 それは今は関係ないか。

 そんな彼女は、わたしがこの姿になった事に特に何も言わず、あれこれ色々と教えてくれた。本当に良い子だよ、真白は。

 シスコン? 上等……認めるさ、わたしはシスコンである。そんな馬鹿な事考えるのはやめよう。

 

 大学生と言う事もあって、真白は東京に行っている。年末年始に一度帰って来て、再びまた東京へと帰って行った。次は春休みに来ると言ってたな。

 真白が東京へ戻る時、どうしようもない不安があったけど……何とかやって行けてる。ラビたちのお陰かな。

 

「はっ! ……少し物思いにふけすぎてたかな」

 

 時計を見ると、時間は18時を示していた。考える前は17時くらいだった気がするのだが……1時間も考えてたのか。それに気づくと身体がちょっと痛くなってくる。

 

 ずっと同じ体勢で居たらそりゃこうなるよね。

 

「イタタタ……」

 

 だけども。

 何か色々と纏まったような気がした。さっきより頭の中はすっきりしているし。

 

「わたしの、答えは……」

 

 



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Act.49:エピローグ①

 

 妖精世界の再生は始まったばかりだけど、それでも徐々に進んで行っている。大分、範囲も広がり魔物も減ってきたような気がする。

 

「本当に感謝しかないわね」

「そうだね。ブラックリリーも何かお礼をすれば?」

「お礼って言ってもね」

 

 妖精の森の再生。

 それは私とララが目的としていた事。最初は全然先が見えないようなものだったけれど、今ではここまで来たのよね。

 

 空中から見下ろせば見える、妖精世界に再生し始めた自然。精霊の森を拠点として、徐々のその範囲を広げて行っているのが今の状況よ。

 精霊王のティタさんの話もあって、結界は張らずに広げていると言う感じね。それは新たな魔力が、周りに広がるようにしていると言う事。

 

 結界を張ってしまうと、魔物からは守れるけれど魔力が外に出られないのでどうしても封鎖空間的な感じになってしまう。再生して結界を張るという作業に次いでその結界を維持すると言う作業も追加されるから、どうしても効率が悪い。

 結界もそれなりの数が必要になるし、維持するのにもそれなりの魔力が必要になる。維持が一番の問題で、結界は手入れをしないと自然消滅してしまうらしいのよね。

 

 だから数が少ないうちは良いけれど、多くなってくると回り切れない。そういう理由もあって、結界を張らずに進める方針に決まった。

 それに、それだけではなく魔力を外に放出する事で循環効率を上げていく狙いもあるわ。現に、結界なしで再生した場所の近くにあった枯れ木が元気を取り戻している。

 

 その枯れ木とかがあった場所は再生範囲外。つまり、自力で回復したと言う事になる。

 

「希望が出来たわね、ララ」

「そうだね。魔力が増えれば、再生する必要がなくなるかもしれない」

 

 でも、やっぱり一番はティタさんたち精霊の力があってこそよね。そしてそんなティタさんに、協力して仲間? にしたリュネール・エトワールの功績でもあるわね。

 

 彼女には感謝してもしきれないわ。

 

「……」

「ん? 顔赤いけど、体調でも悪いのかい?」

「え?」

 

 ……あれ? 私どうして。自分の顔に手を当ててみると、確かに若干熱いような気がする。

 

「体調は大丈夫よ」

「そう?」

「ええ」

 

 体調は問題ないけれど、どうしたんだろう。何故かリュネール・エトワールと言うか、司さん事考えるとこう、変な感じになる。

 

「はあ」

「ため息つくと幸せが逃げていく、って聞くよ」

「そうね……」

 

 本当かどうかは知らないけれど。

 ほとんどが私ではなく、司さんや精霊たちのお陰で私は全然何もできないないのが、ちょっと辛いわね。もちろん、私も色々する時はするんだけどね。

 私の目的であるはずなのに、頼りっぱなしね……そんな私にお礼を言う資格なんてあるのかしら。

 

 もちろん、感謝しているのは変わりようのない事実よ。彼女が居なければここまで行けなかったかもしれないし、行けたとしてもかなりの時間がかかっていたかもしれないわね。

 

「……」

 

 そう言えば、今更だけど私の扱いってどうなっているのかしらね。魔法省では……確か探しているというだけは聞いているけれど、進展とかあったのかしら。

 あったらあったで私としては困るけれど……でも、正直もう目的達成への道は開かれているのよね……精霊や精霊王の協力もあって、驚くほど順調に進んでいるのだから。

 

 このまま逃げ続けても良いのだけど……そろそろ潮時かしら?

 いや……それはまだ早いわね。ララと約束しているのだから……再生するまでは。

 

「でも、少し人手不足な気はするわね」

 

 今の範囲ならまだ、そこそこ余裕で手が回るから良いけれど……近くの魔物を倒したからか、再生した場所に襲撃して来る魔物の数は減っている気がするし。

 だけど、あくまでそれはこの周辺だし、妖精世界の魔物がどう出現するのか分からないから、油断も何も出来ないわね。

 

 このまま範囲を広げていけば、また魔物が襲い始めるだろう。この世界にどれだけの魔物が居るかは分からないけど、魔物が居るって事は何らかの影響でこの世界にやって来ているはずだから。

 

 地球のように、不定期に突発的に出現する可能性だってある。そうなると、いくら周辺の魔物を倒してもまた出現する可能性は十二分ある訳だし。

 

 私とリュネール・エトワール、ララとラビ、そして精霊と精霊王だけで何処まで対応できるか、よね。

 幸い、この世界の魔物は地球ほど強くなく、私でも時々一回で倒せる事がある。リュネール・エトワールは当たり前のように、ワンパン基本で倒しているけれど。

 リュネール・エトワール以外にもティタさん精霊王なだけあって強い。一瞬にして広範囲の魔物を蹴散らすんだもの。精霊たちも、魔力のある場所からは出られないものの、その攻撃の威力は中々のもの。

 

 対応は今の所出来ているのは良い事なのだけどね。

 とは言え、やっぱり魔物についての不安は残る。魔物も基本的には弱いけど、もしかすると何処か別の場所には強い魔物が居るかもしれないしね。

 現状のメンバーだけでやっていけるのか? ってなるけれど……私は事情が事情だし。でも、ホワイトリリーとブルーサファイアについては良い子だった気がするわ。

 

 私の事を時々、じっと見てきたのは気になったけれど……取り敢えず、話とかも普通にできるくらい。あの感じからすると、一応私が襲撃犯の裏で動いていたという事についての疑いは消えてるかしらね。

 

「でも……」

 

 良い事なのだけれど、折角の交流できたリュネール・エトワール以外の同性の子だから仲良くもしたい。勿論リュネール・エトワールとももっと仲良くしたいって思ってる。

 

「お礼、言わなくちゃね」

「それが良いよ」

 

 色々と考えたけれど、仲良くしたいならもっと交流すべきね。今回の件については本当に感謝しているし、お礼は言いたいわ。多分まだこの妖精世界の何処かに居るはずだけれど……。

 

 そう思い、私はリュネール・エトワールもとい、司さんを探すのだった。

 

 

 

 

□□□□□□□□□□

 

 

 

 

「白百合先輩、私も告白しましたからね」

「!」

 

 魔法省にやって来て早々、後輩である蒼ちゃんにそう告げられました。私はちょっとその言葉に衝撃を受けましたが、正直私がそうさせたっていうのは否定できないので、何も言えないのですが。

 宣戦布告みたいな風に、蒼ちゃんに告白した宣言をしたのでこうなる事は予想できていたはずです。

 

「白百合先輩のあの告白しました宣言、正直宣戦布告としか思えませんでしたよ」

「ふふ……そうですか。その意味もあったと思います」

 

 宣戦布告のつもりはなかった……はずなんですが、私の言い方が悪いのも事実ですし、受け取る人からすれば宣戦布告に聞こえるでしょうね。少し反省します。

 

「でも、そのお陰で動けたのでそこは感謝しますね」

「……」

 

 そう言って蒼ちゃんは挑戦的な笑を私に見せます。

 

「約束、覚えてますよね」

「覚えてますよ。誰が選ばれても恨みっこなし、ですよね」

「それ以外にも、両方とも振られた時は一緒に泣こうと言ってたのもです」

「それも、ありましたね……」

 

 結構前に、私たちは一つの約束をしました。

 それは、誰が選ばれても恨みっこなしという事。そして両方とも選ばれなかった時は一緒に悔しがって泣こうというもの。振られるのは怖いですが、選ぶのは司なんですから。私たちは答えを待つしかないのです。

 

「司さんは、選んでくれるんでしょうか」

「それを私に聞きますか? でも……きっと答えを出してくれるはずですよ」

「そうですね」

 

 私が告白してから、それなりに時間が経過していますが答えはまだもらってません。

 まあ、私が今じゃなくても良いですと言ったのもありますし、特に期限も設けてなかったので仕方がないのですが、私としてはしっかり考えて欲しいななんて思ってますので、これで良いのです。

 それだけ悩んでくれているという事でしょうか? いえ、蒼ちゃんも告白したらしいのでそれもあって、色々と悩んでいるのでしょうか。

 

「でも、あの子が居ますし分かりませんね」

「あーそうですね……ブラックリリーですよね。この前、会ったリュネール・エトワールの友達の魔法少女」

 

 ブラックリリー。

 本名は分かりませんが、リュネール・エトワールと同じで野良の魔法少女です。大晦日の異常事態の時とか一緒に行動していたとも言っていました。

 私たちにとっては新たなライバルですね。話した感じでは、少し大人っぽい感じの普通の子でしたが……。

 

 彼女が告白しているかは分かりませんが、それでも強敵だと思ってます。同じ野良って言うだけでも、大分向こうにはアドバンテージがある訳ですからね。

 私たちよりは結構頻繁に会えるのではないでしょうか。本人は気づいていないようですが、リュネール・エトワールの事が好きなのは確かです。反応もそうでしたし、私の直感がそう教えてくれます。

 

 とは言え、はっきりとは言い切れないですけどね。もしかすると、そんな事は思ってないかもしれませんし、もしかすると反対にリュネール・エトワールの方が彼女の事が好きだったりする可能性も考えられます。

 どの道、ライバル……なのは確かですね。

 

「魔法も汎用性高いですしね」

「あの魔法は反則だと思いますよ……一瞬で移動できる魔法なんて、誰もが欲しいと思います」

 

 有名な国民的アニメのドアみたいに、一瞬で目的地に移動できる彼女の魔法は汎用性が高いですよね。あれがあったら、確かに便利ですし戦闘でもかなり役立ちますね。

 その魔法とリュネール・エトワールを組み合わせたら最早、無敵なのではないでしょうか? この地域に二人も強い魔法少女が居るというのは、結構凄いのでは?

 

「あはは、そうですね。私たちの面子が丸つぶれになっちゃいますよね」

 

 二人共、何故野良なのかは分かりませんけど……事情があるのでしょうね。無理に聞くつもりはありませんが……いつか教えてくれるんでしょうか。

 仮に私か蒼ちゃんと付き合った場合は、教えてくれたりするのでしょうか。

 

「いくら考えても仕方がありませんね。司さんが答えを出してくれるまでは気長に待つしかありません」

「私たちにやれることは。告白とかだけですからね」

 

 蒼ちゃんの言う通りです。

 好きになってしまった側の私たちに出来る事は、交流したりとか告白くらいですからね。

 

 

 司さん。

 

 司さんは、誰を選んでくれるのでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 



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Act.50:エピローグ②

 

 まだまだ油断は出来ないものの、妖精世界の再生が順調になっている中、わたしは妖精世界に居る魔物と対面していた。再生範囲を広めていくと、当然他の場所に居た魔物にも遭遇し始める訳だ。

 

「ん。やっぱり小さい」

 

 近くで見ても、やはり地球の魔物と比べて小さいのがほとんどな妖精世界。もちろん、個体差もあるがそれでも今まで遭遇した魔物からして、平均的にその体は小さい。

 そして何より、地球の魔物と比べてもそこまで強くない事。わたしたちとしては、それは好都合と言うか良い事なのだが……。そうは言っても、まだ全部を見た訳ではないのもまた事実。

 

 そもそも、まだ再生している範囲がそこまで広くないし。

 なので、妖精世界にも強力な生物がいる可能性は否定できない訳で……たまたまわたしたちが遭遇している魔物が弱くて小さいってだけで世界全体で見たら、大きい魔物や小さくても強い魔物とかが居ても可笑しくない。

 

「スターシュート」

 

 魔法のキーワードを紡ぐと、ステッキから星が放たれる。それは真っ直ぐわたしを狙って走ってくる魔物に直撃する。避けようというような動作は確認できたけど、無理だったみたいだ。

 星のエフェクトを出して爆発し、魔物は消滅する。魔物が居た場所には、やや小さめで少々鈍色な魔石が一つだけ転がっていた。

 

「品質は地球ほどは良くないかな?」

 

 既に何回か、妖精世界の魔物は倒しているので分かっていたが、やはりと言うか何というか、どの魔物も倒してもそこまで品質が良くない魔石ばかり落とす。

 妖精世界の魔物は、ララの言う通り魔力がないから弱いし、その蓄える魔力もないから倒したとしても、品質の低い魔石を落とすのかもしれないな。

 

 まあ、これについては謎のままではあるけどララがそう言う風に考えているみたい。あくまで、ララが考えているだけで、それが事実かは不明である。

 何度も言う通り、魔物は謎が多いから仕方がない。そしてこっちの魔物については、地球ではないっていうのもあるから地球でのデータとかが参考にならない場合もある。

 

「まだまだやるべき事はある」

 

 妖精世界の真っ黒な空を見上げる。

 再生した場所はちゃんと日が照っていて、とても穏やかな気分になるけどこっちはどんよりする。そしてやっぱり、この外側に居る時は身体が少々重く感じる。

 別に動きに支障が出るレベルではないけどそれでも、違和感が結構するのもある。思わぬ事故に繋がる可能性もあるかもしれない。いくら妖精世界の魔物が弱いと言っても油断は出来ない。

 

「……戻ろ」

 

 この辺りの魔物は倒したので、一旦拠点としている精霊の森に戻る。

 一応、帰る前に回りを少しだけ見て、特に魔物も居ないし異常もない事を確認した後、精霊の森の方面へと歩き出す。魔法少女の状態なので、あっさりと辿り着くけどね。

 

「あ、戻ってきたようですね」

「ティターニア」

「いつもありがとうございます」

「ん。わたしとしてはティターニアに頭が上がらない」

 

 精霊の森に戻れば、ティターニアが出迎えてくれる。

 今日この世界にいるのは、わたしとラビとブラックリリーにララだけど、各自それぞれ別行動をしている。ララは主に周辺の調査等をしていて、ブラックリリーはそんなララと行動している。

 

 ラビはと言うと、この今の出来事を記録者として記録するって言ってたかな。

 

「いえいえ、これくらいどうってことないですよ」

 

 本当にティターニアが居なかったらこんな順調に行く事はなかったと思う。

 再生の魔法は良く分からないけど、取り敢えず普通ではないっていうのは誰も理解しているだろう。このまま行ければ、いつかきっと、この妖精世界も息を吹き返すだろう。

 

 どれくらい先になるかは想像がつかないけれど……それでも希望は見えている。ラビたちの故郷が元に戻る……ただ世界は確かに戻るかもしれないが、妖精世界は一度滅んでいる。そして生存者も今の所、確認できてない。

 だから復活したとしても、妖精世界には誰も居ない……ティターニアたち精霊は居るけれどラビたちのような妖精は居ない。そこだけがやっぱり、一番残念な所かもしれない。

 

 ……。

 本当に妖精の生き残りは居ないのだろうか? まだ探索できている範囲がそこまで広くないし、もしかしたら何処かで生き延びているかもしれない。他にもラビやララのように歪みに飲み込まれて別の世界に居る可能性もある。

 

 その別の世界というのが地球とは限らないが……。

 

 妖精世界や魔物の世界と言った、別の世界が実際存在しているのだ。他の世界があったとしても、何ら可笑しくない。地球ではない世界だと、結局はそんな世界に行ける方法など分からないから結局はどうしようもない。

 

「ティターニアは、この妖精世界や地球以外にも世界があるって思う?」

「また唐突ですね。この妖精世界と地球と、それからあなた方から聞いた魔物の世界の事しか知りませんが、可能性はあるでしょうね」

「ん」

「実際この世界と地球という世界がこうやって繋がっているのですから。魔物の世界については、行った事もないので何とも言えませんけどね」

「まあね。魔物の世界っていうのは聞いただけだから。でも行ける方法とかあるのかな?」

「あるかもしれませんね……」

 

 仮に魔物の世界に行けたとしてもどうするのかって話だけど。

 その世界にいる魔物を全て倒すとか? そうすれば確かに地球と妖精世界に魔物が来る事はなくなるかもしれないが、そもそも魔物の世界の環境が分からないし、行けたとしてもまずはそこからだよねえ。

 

「好き好んでいく気はないけど」

「それが一番です。と言っても、確かに魔物の世界で魔物さえ倒せれば、平和になるかもしれませんね」

「そうだけどね。まあ行けても向こうの環境は分からないから」

「あーそれもそうですね。魔力が全くない世界だったら私たちはどうしようもなくなりますね」

「ん」

 

 魔物の世界なんて考えても分からないし、今わたしたちに出来る事は出てくる魔物を倒すだけである。それは地球でも同じだけどね……地球には魔法少女が居るからまだ良いけど、妖精世界には誰も居ないからやれるのはわたしたちくらいだ。

 

「そろそろ時間じゃないですか? 大丈夫です?」

「ん。……あ、そうだった」

 

 この後、地球で会う約束しているんだった。

 ……自分の答え、それも伝えないといけないし。ステッキを一度、スマホ状態にして時間を確認する。まだ大丈夫だけど、今から行った方が良さそうだ。

 

 余談だが、妖精世界では流石にスマホは繋がらないので、時計はインターネット同期ではない。まあ、そう簡単にずれないので時間確認ついては問題ない。

 流石の魔力さんも、異世界という別世界までは適応してないようだ。でも元々は妖精世界のものなのに……。

 

 そもそもこのスマホがどういう条件で動いているのかわからないけども。

 

「行ってくる」

「はい。応援してますね」

「ありがとう」

 

 やることは多い。

 だけど、そもそもどれくらいかかるか分からない妖精世界の再生だ。ゆっくりと、だけど確実に……地道にコツコツやって行けばいずれは目的も達成できるだろう。

 

 妖精世界だけではなく、地球の魔物も対処しないとね。

 確かに全体的な数は減ったけど、それでもゼロになった訳でない。それに、以前の異常事態に時のように少なくなる傾向になると、何処かでまた異常事態が発生する可能性だって考えられる。

 

 それが茨城地域なのか、他県なのか……それとも海外なのかは分からない。

 だけど、常に妖精世界も地球も魔物という脅威と隣り合わせだ。魔物という未知な生命体が、やって来てから地球ではもう16年……皆、日常は取り戻しているもののそれでも危険がある。

 

 何せ魔物は突発的に出現するのだから。

 だから、これから先も魔法少女と魔物の戦いは地球で続くだろうね。もちろん、わたしも……野良ではあるけど魔物を倒す事自体はやめないさ。

 

 妖精世界の魔物と、地球の魔物……両方に対応しないとね。そしてこの世界の再生も……まだ先は長い。

 

「うん。まだまだやることはある」

 

 改めてそれを認識し、わたしは妖精世界を後にして地球へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

TS魔法少女リュネール・エトワール! ~星月の魔法少女は気の赴くままに行動する~

共通世界 END

 

 

 

 

 

 

新たな世界が確認されました。

世界へ移動しますか?

 

白百合の世界◀

???

???

???

???

 

 

決定 キャンセル




ここまでお読み頂いて本当にありがとうございました。
Twitterでも告知した通り、一度これにて完結となります。
実質的な処女作で、色々と拙い所はあったかと思いますが、生暖かい目で見て下さると幸いです。

なお、まだ回収しきれてない内容が幾つかあるのは認識しております。


一番下にも何やら変なのを書いていたと思いますが、
これより先は分岐します。
今までのものが共通世界という認識で大丈夫です。

なお、ここまで毎日投稿をしていましたが一度本編と言うか共通世界の内容については完結となります。そのため、分岐する先については外伝的続編な感じとなります。

外伝的続編については不定期となります。
本作品も元々は不定期更新でしたが、ここまで書けました!
これも、皆様の応援のおかげです。改めて本当にありがとうございました。

どんな世界に分岐するかは秘密です。
(まあ、一つは既にもう作中でバレてますが)

また、外伝的続編で会えたら嬉しいです。
ここまでありがとうございました。m(_ _)m


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Act.XX:データVer.5.0

 

□プロフィール

名前:如月 司

読み:きさらぎ つかさ

性別:男性

年齢:28歳(最終章終了時点)

身長:167.2cm

誕生日:11月15日

備考:

本作の主人公。

宝くじで1億円を当て、絶賛ニート生活を満喫している男。

両親は他界しており、唯一の血縁は妹のみ。

突然目の前に現れたラビとの出会いで、魔法少女となってしまった。

しかもかなり強い。

 

黒髪の短髪、黒目で、特に何もしてない、何処にでもいるような青年(自称おっさん)

 

 

□プロフィール

名前:如月 司

読み:きさらぎ つかさ

性別:女性

年齢:16歳(最終章終了時点)

身長:153.0cm

誕生日:11月15日

備考:

本作の主人公。

如月司の理想の姿。

願いの木(スエ・アルブル)によって変わってしまった事件。自分が望んだものであるとようやく分かる。

最終的に選んだのは、男の時の司を今の司に変えることだった。

 

なお、資産等はそのまま引き継いているのでリッチガールである。

また、願いの木によって彼女の関わる書類全てが都合が良いように改変されている。

 

銀髪碧眼で、背中の真ん中くらいまで伸びるロングストレート。

 

 

□プロフィール

名前:リュネール・エトワール

推定魔法少女クラス:S

身長:153.0cm

変身キーワード:「――ラ・リュヌ・エ・レトワル!」

備考:

主人公、如月司が魔法少女に変身した時の姿。

元の姿も変わってしまったため、特に大きな変化がない。

ただし、魔力量が増えたり魔力の質まで高くなったため、以前よりもやばい子に。

極めて強力な魔法を扱う魔法少女。

 

無口系無自覚天然たらし。

 

髪は基本は銀色だが、青が若干混ざり上から下へとグラデーションとなっている。

目の色は金色で、瞳の中には星がある。

ラビがすっぽり収まる位のとんがり帽子が特徴。

 

【容姿】

髪:銀髪、背中の中央まで届くくらいのロングストレート、上から下にかけて青のグラデーション

目:金(瞳の中に星がある)

服装

頭:赤いリボンの巻かれている黒いとんがり帽子。帽子には三日月、リボンには星の絵。

上:白と青を基調としたマント。マントを留める部分には星のエンブレム。

上下:マントと同様、白と青を基調としたノースリーブのセーラーワンピース。胸元に赤いリボン。

   スカート丈は膝より下で、青と水色の裾にフリル付き。

手:手首の部分に紺色のシュシュ。小さいながらも星の絵有。

靴下:黒いタイツに三日月と星の絵(白)

靴:白い襟付きショートブーツ。

ステッキ:三日月を模したオブジェクトに、星がくっついている。

 

 

□使用する魔法(現段階で登場している物)

Magic-No.01:スターシュート

魔法キーワード:「スターシュート」

星を放つ。追尾機能付き。威力はヒットすると爆発を起こす。脅威度A以下なら基本ワンパン。

 

Magic-No.02:メテオスターフォール

魔法キーワード:「メテオスターフォール」

虚空より無数の星を呼び出し、空高くから降り注がせる広範囲魔法。

範囲の調節可能。ターゲットを定めれば全ての星がターゲットへと飛んでいく。

 

Magic-No.03:ハイド

魔法キーワード:「ハイド」

自身の姿を闇夜に溶かす。(見えないようになる)

発動中は常に魔力が消費される。

 

Magic-No.04:グラビティアップ

魔法キーワード:「グラビティアップ」

対象または、一定範囲に重力を加重する。

 

Magic-No.05:ヒール

魔法キーワード:「ヒール」

傷を治す。自分又は、対象の軽度の怪我を治療することが可能。

 

Magic-No.06:トゥインクルスターリボン

魔法キーワード:「トゥインクルスターリボン」

星のリボンを召喚する。対象を縛り付けたり、締め上げたり出来る。

ある意味脅威

 

Magic-No.07:スターライトキャノン

魔法キーワード:「スターライトキャノン」

ビームを放つ。着弾すると星のエフェクトで爆発を起こす。

 

Magic-No.08:グラビティボール

魔法キーワード:「グラビティボール」

黒い球体を召喚し、飛ばす。

何かに当たると放電し、周囲に重力場を発生させる。

 

Magic-No.09:ブラックホール

魔法キーワード:「ブラックホール」

ブラックホールを召喚する。

近くの重力場を乱し、周囲の物を飲み込む。

 

Magic-No.10:ホワイトホール

魔法キーワード:「ホワイトホール」

ホワイトホールを召喚する。

ブラックホールとは対になる重力場を発生させ、

ブラックホールで吸い込んだものを吐き出す。

 

Magic-No.11:サンフレアキャノン

魔法キーワード:「サンフレアキャノン」

ステッキから高熱の熱線を放つ。

その温度、実に数千万度となり、あらゆる物を燃やす又は溶かす。

 

Magic-No.12:ヒールライト

魔法キーワード:「ヒールライト」

傷を治す。ヒールとほぼ同じだが、そこそこの距離の対象にかけることが可能。

ただし、射程が少し長いってだけで離れすぎていると効果はなくなる。

 

Magic-No.13:スーパーノヴァ

魔法キーワード:「スーパーノヴァ」

目標範囲に、超範囲大規模爆発を引き起こす。

下手すると世界を滅ぼしかねない。

 

 

□プロフィール

名前:ラビ

性別:不明

年齢:不明

身長:不明

誕生日:不明

備考:

主人公である司を魔法少女にした妖精。

見た目は兎のぬいるぐるみだが、性別は不明だが、女性口調で喋る。

身体能力は謎パワーで浮いたりできる。その為、リュネール・エトワールについていける。

基本は人目に付かないようにする為、リュネール・エトワールのとんがり帽子の中に居たりする。

 

特殊能力(?)としてラビレーダー(主人公命名)と言う物を持っていて、一定範囲の魔法少女や魔物が居る場所を特定できる。

ただし、特定できるのは魔法少女か魔物かだけであり、魔法少女の場合どの魔法少女かまでは分からない。魔物の場合はその魔力や瘴気から推定脅威度を出せる。

 

ラビの暮らしていた妖精世界――フェリークは魔法実験により滅びている。

そして原初の魔法少女を生み出したのもラビである。

 

妖精(アルシーヴ・)書庫(フェリーク)という謎の空間に入ることが可能。

ララにラビリア様と呼ばれていたが、果たして?

 

□プロフィール

名前:ラビリア・ド・エステリア/ラビリア・ド・アルシーヴ・フェリーク

性別:女性

年齢:160歳(最終章終了時点)

身長:-

誕生日:不明

備考:

ラビの人型状態であり、本当の姿。

金色の髪を背中の真ん中辺りまで伸ばし、綺麗な碧眼を持つ少女。

妖精世界に存在したエステリア王国の第一王女で、記録者(スクレテール)

妖精年齢としては160歳だが、地球で言うと見た目は16歳ほどであり、司(現在)と同じくらいの身長。

基本的には、うさぎの姿と変わりなく、魔法もなんでも普通に扱うことが出来る。

耳が少し尖っており、髪ではぎりぎり隠せないくらい。

 

そして、司に好意を抱いていた。

 

 

□プロフィール

名前:白百合 雪菜

読み:しらゆり ゆきな

性別:女性

年齢:14歳(最終章終了時点)

身長:149.5cm

誕生日:12月12日

備考:

本作のメインヒロイン(予定)

黒髪でちょっと肩にかかる程度。目の色は黒。

 

基本的に丁寧語を話す、大人びた少女。

双子の妹が居る。

リュネール・エトワールと会ってから少し変わった。

彼女に対して恋をしている様子……果たしてどうなるやら?

 

□プロフィール

名前:ホワイトリリー

魔法少女クラス:S

身長:150.0cm

変身キーワード:「――ラ・リス・ブロンシュ・フルール!」

備考:

白百合雪菜が魔法少女に変身した時の姿。

魔法省茨城地域支部所属Sクラス魔法少女。

身長が微妙に0.5cm伸びてる。

 

桜色の髪をサイドで結び、白のグラデーションが上から下へかかってる。

実際の髪の長さは変身前と同じくらいで、目の色は髪色と同じで桜色。

白百合の髪飾りが特徴。

 

【容姿】

髪:桜色、サイドテール、上から下へと白のグラデーション。

目:桜色

服装

頭:白百合の髪飾り、サイドテールに結んでいる紐にも白百合のデザイン。

首:白百合の花を象ったフリル付きリボンチョーカー。

上下:胸元が少し開けている白百合色を基調としたフリル付き長袖ワンピース。

手:白百合色の手袋

靴下:膝上まで来る白いニーソックス。白百合の花の絵。

靴:白百合色のショートブーツ、白百合の絵。

ステッキ:白百合の花弁をモチーフとしたデザイン

 

 

□使用する魔法(現段階で登場している物)

Magic-No.01:リリーショット

魔法キーワード:「リリーショット」

白百合の花弁を魔力で作成し、飛ばす。

数も増やすことも可能で、それぞれの花弁を操る事もできる。

放たれた花弁は、ロープのような物でホワイトリリーのステッキと繋がってるので、ぶん回したりすることもできる。

 

Magic-No.02:リリーバリア

魔法キーワード:「リリーバリア」

目の前に白百合の花弁を召喚し、攻撃を吸収する。

大きさを変える事も可能。

 

Magic-No.03:リリーキャノン

魔法キーワード:「リリーキャノン」

桜色のビームを放つ。

着弾すると、花吹雪を上げて爆発する。

 

Magic-No.04:リリーボム

魔法キーワード:「リリーボム」

自分が放った白百合の花弁を任意で爆発させられる。

 

 

 

□プロフィール

名前:色川 蒼

読み:いろかわ あおい

性別:女性

年齢:13歳((最終章終了時点))

身長:145.6cm

誕生日:9月15日

備考:

本作のヒロイン

黒髪黒目のセミロング

 

砕けた口調で普段は喋るが、変身すると丁寧語になる。

リュネール・エトワールに好意を抱く一人。

クリスマスの午前中にはデートに誘っている。

 

□プロフィール

名前:ブルーサファイア

魔法少女クラス:B

身長:145.6cm

変身キーワード:「――ラ・サフィール・エタンスラント!」

備考:

色川蒼が魔法少女に変身した時の姿。

魔法省茨城地域支部所属Bクラス魔法少女。

 

変身前と違い、セミロングの髪は背中まで伸びるサファイアブルー色の髪になる。

また、その髪をツインテールになっていて髪を結んでいる所には、サファイアを模した髪飾りがある。

 

【容姿】

髪:サファイアブルー、背中まで伸びる髪、ツインテール、水色が混ざったグラデーションカラー。

目:サファイアブルー

服装

頭:青が強めの銀色のティアラがちょこんと乗っている。また、青い宝石がはめ込まれている。

  ツインテールに結ばれている所には、サファイアを模した髪飾り。

首:サファイアブルー色のリボンが巻かれている。

上下:背中と首元が少しだけ開いているサファイアブルーのドレス。やや透明な袖が肘くらいまで。

   胸元部分にサファイアの宝石。フリルの付いてるスカートは、膝よりちょっと下程度。

手:白い手袋、青い花のようなものが付いている。

靴下:水色に更に白が足されたようなニーソックス。

靴:靴下と同じ色合いのリボンと襟付きショートブーツ。

ステッキ:サファイアの宝石をモチーフとしたデザイン。

 

 

□使用する魔法(現段階で登場している物)

不明

 

□プロフィール

名前:黒百合 香菜

読み:くろゆり かな

性別:女性

年齢:16歳(最終章終了時点))

身長:154.8cm

誕生日:9月15日

備考:

本作のヒロインの一人。

ブラックリリーの変身前、本来の姿。

黒髪黒目で、背中まで伸びている。

 

雪菜とは何処か異なる感じの大人っぽさを持つが、身体が弱い。

司と友達になった時は、子供っぽさ全開になっていた。

 

 

□プロフィール

名前:ブラックリリー

魔法少女クラス:不明

身長:--

変身キーワード:「――ラ・リス・ノワール・フルール・エスパース!」

備考:

時々リュネール・エトワールの前に現れる黒い魔法少女。

空間を操作する魔法が使えるが、魔力量が少ないため連発できない。

 

また、魔法少女を襲撃していた黒幕だが、自分のした事とかが駄目だということは理解しているようで、男が捕まった時以降、彼女がそのようなことをしている情報はない。

魔法省も彼女の事を探しているようだが、男の証言だけしか彼女の容姿についての情報は無く、似ている、怪しいとは思っているものの確証がないため様子見している。

 

リュネール・エトワールと一時的に共闘関係となる。

でも、一緒に行動している内にどうやら……?

 

リアルにも事情があるようだが……?

 

【容姿】

髪:黒髪、背中まで伸びるロング、良く見ないと気付かないくらいの白のグラデーション。

目:黒

服装

頭:紺色のリボンを巻いた黒いとんがり帽子。リボンには黒百合の花、帽子には時計のような絵。

上:黒色のボレロに、赤い大きめなリボン。

上下:黒いワンピースにラッパ状の姫袖。袖の部分には赤いリボンが左右どちらも付いている。

   フリル多めのスカートの裾の部分にちょっとしたリボンが付いている。

靴下:足を隠すような黒いタイツに、黒百合の絵柄。

靴:黒いぺたんこ靴

ステッキ:黒百合をモチーフとしたデザイン。

 

 

□使用する魔法(現段階で登場している物)

Magic-No.01:テレポート

魔法キーワード:「テレポート」

空間を歪め、現在地と目的地を繋ぎ、距離を無視して移動する魔法。

なお、移動する距離によって消費する魔力が増加する。

また、複数人を移動させることも可能だが、人が増える分、魔力消費も大きくなる。

 

Magic-No.02:クリエイト”スクエア”

魔法キーワード:「クリエイト”スクエア”」

正方形の任意に大きさの空間を生み出す。また足場としても使える。

 

Magic-No.03:クリエイト”トライアングル”

魔法キーワード:「クリエイト”トライアングル”」

三角形の任意の大きさの空間を生み出す。また足場としても使える。

 

Magic-No.04:シュート

魔法キーワード:「シュート」

クリエイトキーワードで生み出した空間を飛ばす。

 

Magic-No.05:スペースカット

魔法キーワード:「スペースカット」

ブラックリリーの真骨頂で、奥義とも言える魔法。

対象を空間ごと斬る。空間ごと斬ってしまうため、普通の防御では防げない。

 

□プロフィール

名前:ララ

性別:不明

年齢:不明

身長:不明

誕生日:不明

備考:

見た目はラビに似ているが、色は黒。

ラビと同じ妖精世界で暮らしていた妖精で、ブラックリリーという魔法少女を生み出した。

運良くララも歪みに飲み込まれ、この地球という世界に飛ばされたようだ。

ブラックリリーと行動を共にしている。

男とも女とも取れる中性的な喋り方をする。一人称は”ボク”

 

ラビの事をラビリア様と呼んでいたが……何かを知ってるようだ。

 

 

□プロフィール

名前:如月 真白

読み:きさらぎ ましろ

性別:女性

年齢:22歳(最終章終了時点))

身長:156.0cm

誕生日:1月15日

備考:

主人公、司の妹及びヒロイン。

祖先の隔世遺伝の影響を大きく受け、銀髪碧眼という日本では滅多に見ない容姿をしている。

デザイン関係の大学に就学しており、基本は東京で一人暮らしをしている。

昔、司のことを異性として好きになったがそれは叶わない恋だった。実の兄妹である為。

司に予め告白するから振ってほしいとお願いし、ケリを付けたつもりだったが、やはり好きなのは変わらない。今もまだ司を好きでいる。

 

願いの木によって変わってしまった司の影響で、妹ではなく姉になる。

司との思い出の写真とかも変わっているが、ただ置き換わっているだけで大きな変化はない。

 

女の子という司の選択を、真白は肯定する。

性別が変わっても好きなのは変わらないようだ。

 

ラビによれば、真白からも魔力を感じるようだ。

 

□プロフィール

名前:ティターニア

読み:てぃたーにあ

性別:女性

年齢:不明(最終章終了時点)

身長:155.2cm

誕生日:不明

妖精世界で出会った、精霊を統べる存在、精霊王。

見た目は少女だが、その持つ力は周囲を圧倒する。

透き通るような水色の腰に届くくらいの髪に、金と緑のオッドアイ。

 

司が出会った当時、魔力が全然なく、何とか精霊の森の一部を維持していたが司たちがやって来た事により状況が一変。

魔力は回復し、精霊の森を再生させた。

そして、その御礼として司たちに協力すると明言した。

 

 

□共通魔法

No.01:反転領域展開

魔法キーワード:「エクスパンション」

反転世界に入る為の魔法。魔法少女毎に別空間が生まれる。

 

No.02:反転領域解除

魔法キーワード:「リベレーション」

反転世界から現実世界へ戻る為の魔法。

 

No.03:変身解除

魔法キーワード:「リリース」

変身状態を解除する魔法。

 

No.04:反転領域干渉

魔法キーワード:「インターフェア」

他者の反転世界へ干渉する為の魔法。

普通に反転世界に入る時よりも魔力の消費が大きい。

 

No.05:干渉領域離脱

魔法キーワード:「エスケープ」

干渉した他者の反転世界から離脱する魔法。

インターフェアと同様、通常よりも魔力消費が大きめ。

 

 

□その他の人物(現段階)□

 

・北条茜(ほうじょうあかね)

→魔法省茨城地域支部長

→主人公、司とは高校の同級生

 

・アリス・フェリーア

→魔法省技術開発部所属、部長の金髪碧眼の女性

→見た目は10代半ばの少女のような姿だがそれを言うのは禁句となっているらしい。

 

・???/レッドルビー

→魔法省茨城地域支部所属Bクラス魔法少女

→リュネール・エトワールに助けられたことがある

 

・白百合冬菜(しらゆりふゆな)

→白百合雪菜/ホワイトリリーの双子の妹

→雪菜の事が好きらしい?

 

・恵利(えり)

→真白の大学の同級生で友達

 

・ホワイトパール

→魔法省茨城地域所属Aクラス魔法少女

→リュネール・エトワールの事は間接的に知っており、今回助けを求めた。

 

・アウロラ

→精霊

→ただの精霊ではなく、一部の精霊を統べるリーダー的な存在で司に最初に姿を見せてお礼を言った。また、司の相談にものっていた。

 

 



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