大空に映る虹色の光 (月輝)
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誕生日記念特別回
[特別編]近江彼方誕生日記念回


今回は彼方ちゃんの誕生日記念回ということで、本編とは別の特別編として書かせていただきました!!

自分にとって彼方ちゃんは、虹ヶ咲においての最推し(一応は箱推し)にして、虹ヶ咲に興味を持つきっかけを作ってくれた存在です!

彼方ちゃん!お誕生日おめでとう!!これからも応援してるよ!!

それではどうぞ!


「待ち合わせ時間の30分前⋯さすがにまだ来ていないね」

 

今は朝の8時30分、俺は駅のバスターミナルに来ている、今日はここで人と待ち合わせをしている、ただし待ち合わせをしている人は一人ではない、二人いる

 

そう⋯近江姉妹を待っているのだ

 

少し前に父さんが知り合いの人から、新しく出来たばかりの遊園地のチケットを家族分、つまるところ三枚貰ってきたのだが、父さんと母さんの意向で三枚とも俺に渡されたのだ

 

もうすぐ彼方さんの誕生日ということなので、彼方さんにお誘いをしてみたら喜んでくれて、良かったら遥ちゃんも一緒にと提案したら、遥ちゃんとも遊園地で遊べる事がとても嬉しかったようで、彼方さんが喜びすぎて、少し落ち着かせるのに手間取った経緯があった

 

待ち合わせの場所に着いてから10分くらい時間が経った頃、ズボンのポケットに入れていたスマホから音がしたので、取り出して確認すると、彼方さんから「もう少しで着くよ~」とのメッセージが送られてきていた。俺はそのメッセージに短く「了解です!」と返信した

 

メッセージが送られてきてから少し待つと、正面から手を繋いで歩いてくる近江姉妹が見えたので、俺は笑顔で軽く手を振ると彼方さんは、笑顔で大きく手を振り返してくれた。嬉しそうな彼方さんを見て、少しだけ俺の胸が高鳴った

 

「お待たせ~、今日は誘ってくれてありがと~」

 

「お礼を言いたいのはこっちの方だよ、こちらこそ二人とも来てくれて嬉しいよ!」

 

「久しぶりだね、春輝くん!いつもお姉ちゃんがお世話になってます」

 

「遥ちゃん、久しぶりだね!彼方さんから今も頑張ってるって聞いてるよ」

 

「うん!私も春輝くんが頑張ってるってお姉ちゃんからいつも聞いてるよ!」

 

彼方さんが今日のお誘いの事にお礼を言ってきたが、俺もお誘いを受けてくれた二人にお礼を伝えた。次に久しぶりに会う遥ちゃんから挨拶をしてくれたので、俺も挨拶を返し彼方さんから頑張りを聞いてると伝えると、遥ちゃんも彼方さんからいつも俺のことを聞いてると言われて、少しだけ照れくさかった

 

ちなみに、遥ちゃんの方が1歳下だけど、三人とも小,中学校が同じだったため、遥ちゃんとは仲が良く俺の事を慕ってくれているので敬語は抜きになっている

 

「集合したことだしバスに乗ろうか?」

 

「バスはもう来てるのかな~?」

 

「えっと~、あっ!あそこのバスじゃない?」

 

遊園地にはバスで向かうため、乗るバスを探していると遥ちゃんが目的地に向かうバスを見つけてくれた

 

「そうだね、あのバスで間違いないよ!」

 

「じゃあ、早速乗ろ~う!」

 

乗るべきバスを見つけた俺たちは足早にバスへ乗り込んだ

 

「とりあえずバスに乗ったからひと安心だね」

 

「席は空いてるかな~?うわぁ~結構埋まってるね~」

 

「三人では座れなさそうだね、ここなら二人までなら座れるね」

 

バスに乗ってひと安心したが、席が結構埋まっていたため一人だけ座れない状況になってしまった

 

「じゃあ俺が立ってるから、二人とも座っていいよ!」

 

「お姉ちゃんはともかく、私が座るのは気が引けちゃうよ……」

 

「彼方ちゃんはいいから、二人が座りなよ~」

 

空席を見つけたところまでは良かったが、誰が座るか譲り合いになってしまった。だがいつまでも譲り合いをしてる訳にもいかないので俺から一つ提案をした

 

「なら、久々にじゃんけんで決めようか?」

 

「懐かしいね~、じゃあ勝った人が立つってことでいいかな~?」

 

「一発勝負だよ!」

 

俺たちは昔から物事が決まらない時は、じゃんけんをして決めるということをしていたので、俺は久々にじゃんけんをすることを提案したら、二人も覚えてたようで提案に乗ってくれた

 

「それじゃあ迷惑にならないように、小さい声でいくよ」

 

「「「最初はグー、じゃんけん!ぽん!」」」

 

周りの迷惑にならないように、互いに近づき小さい声でじゃんけんをした。出した手は、俺がグー、彼方さんと遥ちゃんはチョキを出していた

 

「俺の勝ちだから、二人とも座っていいよ」

 

「まさかすぐに決まっちゃうとは、彼方ちゃん渾身のチョキが~」

 

「やっぱり春輝くんにじゃんけんで勝てないな~」

 

二人は渋々空いている席に座り、俺は二人と向かい合うように近くの手すりに捕まり立っている。じゃんけんも終わってから間もなく、バスは目的地に向かって出発した。バスに揺られている間に遥ちゃんが会話を切り出した

 

「あのね、今日は私も誘ってくれて嬉しいけど、本当は二人だけが良かったんじゃないの?」

 

「「そんなことないよ!!!」」

 

突然の事に俺と彼方さんは、周りの目を気にせずに大きな声で否定した。当然、周りの視線が集まったので、三人でごめんなさいと言いながら頭を下げてから話を続けた

 

「そんなことないよ、遥ちゃん!俺も彼方さんも遥ちゃんと一緒がいいから誘ったんだよ?」

 

「まあ二人で来たいとも少し思ったけど、やっぱりこんな楽しいことに遥ちゃんを呼ばないなんて絶対に後悔すると思ったから、それに~こうしてまた三人で一緒にお出掛けできるのが彼方ちゃんとっても嬉しいんだ~遥ちゃんはそう思わない?」

 

「ううん、そんなことないよ!私もお姉ちゃんと春輝くんと一緒にお出掛けできてとっても嬉しいよ!!」

 

「それでいいんだよ、俺たちに遠慮する必要なんてないんだからね」

 

 

会話をしている間にバスは何度か停留所で止まり、バスに揺られること30分ほどして目的の遊園地前に到着した。

 

 

「よーし!着いたー!それにしても直接見ると、想像してたより大きいし広いな」

 

「うわあ!!遊園地なんて久しぶりに来たよ~!今日は目一杯遊ぶぞ~!」

 

「あははは……」

 

バスから降りて目の前の遊園地を見て俺は実物の感想を言葉にし、彼方さんはいつもとは違って、一段と元気というか元気すぎて、横で遥ちゃんが少し苦笑している

 

「彼方さん今日は一段とテンションが高いね」

 

「お姉ちゃんは今日のお出掛けが凄く楽しみだったみたいで、いつもより早く寝たおかげで今日は万全みたいだよ」

 

苦笑していた遥ちゃんに小声で、彼方さんのテンションが高いことを聞いてみた。そんな俺たちを置いて、彼方さんはすでに入り口まで進んでいた

 

「二人とも~早く、早く!!」

 

「もう待ってよ、お姉ちゃーん!」

 

「ごめーん!今行くよー!」

 

(あんなテンションの彼方さんはライブの時かそれ以上だぞ、あれだと姉と妹が逆転してるみたいだな~)

 

心の中でそんなことを想いながら、俺と遥ちゃんは急いで彼方さんのいる入り口まで向かい、三人でゲートをくぐり中へ入った

 

「彼方さん、乗りたいアトラクションは考えてきた?」

 

「もちろん!遥ちゃんと一緒に考えてきたよー!ね?遥ちゃん!」

 

「うん!春輝くんにも楽しんでもらえるように考えてきたよ!」

 

「おお!それは楽しみだね、それで最初は何に乗るのかな?」

 

園内に入ってまずゲートで貰ったマップを広げてから、今回は彼方さんの乗りたいアトラクションに付き合うということで、あらかじめ考えてきてもらったプランを二人に聞いた。ちなみに俺は当日のお楽しみということにされていたので、内容は知らない

 

「フッフッフッ、よくぞ聞いてくれました!早速、この遊園地イチオシの三種類のジェットコースターに乗ろう!!」

 

「順番は最初に定番レベルのから乗って、次に一段階上のスリルのあるのに乗ってから、最後に一番長くてスリルもとびっきりのものに乗る予定だよ!」

 

「へ、へーいきなりジェットコースターとはねー、最初から激しいのに行くね……」

 

「あれ?ハルくんあんまり乗り気じゃない?」

 

「ううん!!大丈夫だよ!ちょっと意外だっただけだよ、行こうか」

 

「「おー!」」

 

ジェットコースターに乗ると言われた俺は正直に言うと、気が気ではなかった、実を言うと普通のジェットコースターは大丈夫なのだが、絶叫マシーン系は楽しめることには楽しめるのだが、どちらかと言えば得意じゃない。そんなことは知らないであろう二人は凄く楽しそうにしている

 

「到着!ということでまずは定番のジェットコースター乗っていこう!!」

 

「良かった~まだ開園したばかりだから、そんなに人は並んでないみたいだね!」

 

「これならすぐに順番が来そうだね」

 

開園してすぐに入場したので、ほとんど列も出来ていない状態なのですぐに順番が来た、俺たちは順番に車両に乗り込み、他のお客さんも乗り終えたタイミングで車両が動き出した

 

「これで普通なの?」

 

「うん、この遊園地だとこれが普通らしいよ?」

 

「昔乗ったのより、普通に勾配あるよこのジェットコースター」

 

「春輝くんの言うとおりで少し高いかも、でも楽しそうだよ?」

 

「そうだね……」

 

あくまでも平静を装うが少しだけ顔がひきつっていたと思う、二人がこっちを見てなくて良かったと心の中で思った直後、車両が勢いよく下り始めた

 

「「きゃあああああ!!」」

 

「心の準備がまだあああああ!!」

 

彼方さんと遥ちゃんからは楽しそうな叫び声が聞こえるが、俺は油断していたため、間抜けな叫びが出てしまった。その後も叫んでいたらあっという間に終わってしまった。

 

「いや~楽しかった~!」

 

「うん!最初に乗って正解だったね、お姉ちゃん!」

 

2つ目のジェットコースターの場所まで歩いてる途中で、さっきの感想を言い合っているが、俺は少し後ろをゆっくり歩いていた

 

(心構えしてなかったら、ちょっと疲れた……これであと2つとか俺、グロッキーになるんじゃないか?)

 

歩きながら考えていると、突如両手に握られた感覚がした

 

「人が多くなってきたから、はぐれないようにね?」

 

「えっ?本当だ、人が多くなってきた」

 

「それじゃあ、ペースをあげていこう!」

 

この後も二人と手を繋ぎながら、ジェットコースター巡ったが乗っている間は、感情が消えていたし、よく分からない悲鳴やらをあげていた。

 

「ん~はぁ、楽しかったぁ~!!二人はどうだった~?」

 

「最後のほぼ垂直に落ちたり、ひたすら捻れたコースだったり長くて本当に絶叫って感じだったね!」

 

「うん、凄かったね……あんなの乗ったこともなかったから途中から生きた心地がしなかったよ、アハハハ……」

 

「もしかして絶叫マシーンは苦手だったの?」

 

「苦手ではないけど、得意でもないかな?でも、楽しかったのは事実だよ!」

 

「なら良かったよ~、彼方ちゃん達だけが楽しんでも意味がないからね~、皆で楽しまなくちゃ!!」

 

園内のベンチに座って休憩をしていると、彼方さんが体を伸ばしなから感想を求めてきたので、遥ちゃんも俺もそれに答えたが、

俺が乾いた笑いをしたため、楽しくなかったかと二人に心配されたが、楽しめてはいたのでそれを伝えたら、二人も安心したようだ

 

「もう11時30分か、少し早いけどお昼にする?」

 

「さんせ~い、はしゃいだら彼方ちゃんお腹ペコペコだよ~」

 

「お姉ちゃんもお腹が空いてるみたいだし、お昼食べに行こっか?」

 

「「りょ~かい」」

 

昼食を食べるために、園内に併設してあるレストランに入店し、少し待ってから空いている席に案内され、彼方さんと遥ちゃんは隣同士で、向かいの席に俺が座った。渡されたメニューを見て、それぞれ相談しながら選んだ結果、三人とも種類の違うパスタになった。

 

注文してから20分ほど経ったあたりで、注文した料理が運ばれてきたので、それぞれ受け取った

 

「揃った事だし、食べようか!」

 

「「うん!」」

 

「せーの」

 

「「「いただきます!」」」

 

俺の掛け声にあわせて、いただきますをして食べ始めて少ししてから、俺は彼方さんからの視線を感じた。

 

「う~ん、ハルくんのボロネーゼも美味しそうだね~」

 

「少し食べてみる?」

 

「それじゃあ、あ~ん」

 

「はい、あ~ん」

 

「んー!美味しい~!!」

 

美味しそうに見ていた彼方さんに一口食べさせてあげて、美味しかったようで頬に手を当てながら感想を言っている

 

「遥ちゃんもどう?」

 

「うん!食べる!」

 

「じゃあ、あ~ん」

 

「あ~ん、うわあ!春輝くんの食べてるボロネーゼも美味しいね!!」

 

様子を見ていた遥ちゃんにも一口あげると彼方さんと同じように喜んでいたのを見て、姉妹だから似ているなと思ったのだった

 

「それじゃあ、彼方ちゃん達のもどうぞ~」

 

「お言葉に甘えていただこうかな」

 

「それじゃあまずは彼方ちゃんからだぜ~、あ~んして?」

 

「あ、あ~ん、うん、彼方さんのクリームパスタは野菜が多めで食感がいいね!」

 

「でしょ~!じゃあ次は遥ちゃんだよ~」

 

「う、うん!はい、春輝くん…あ~ん」

 

「?⋯⋯あ~ん、遥ちゃんのは同じクリームパスタだけど、キノコの香りや食感があって、彼方さんのとはまた違って美味しいね!」

 

「キノコが三種類入ってるから色々楽しめていいんだよ……」

 

二人からパスタを一口ずつもらったが、遥ちゃんの様子が少しおかしいのに気が付いた

 

「どうしたの、遥ちゃん?顔が少し赤いよ?」

 

「ううん!何でもないよ!」

 

「それならいいんだけどね」

 

気になって遥ちゃんに聞いてみるも、何でもないと言われてしまったので、これ以上の言及はやめた。その後も楽しくパスタを食べ、店を後にした。

 

「お腹も満たされたし、次のアトラクションに乗る?」

 

「もちろ~ん!次はね~メリーゴーランドだよ~」

 

「メリーゴーランドはお姉ちゃんが乗りたいって言ってくれたんだよ!」

 

「いかにも彼方さんが好きそうというか、想像するだけでも彼方さんにメリーゴーランドって似合いますね」

 

「そうかなぁ~えへへ~彼方ちゃん照れちゃうよ~」

 

「じゃあ早速行こうか」

 

「「おー!」」

 

実はメリーゴーランドに乗ると聞いたときに内心では、かなりホッとしていた。メリーゴーランドの場所まで到着すると待つこともなく乗ることができた。メリーゴーランドといえば、馬のイメージがあるがこの遊園地では羊が回っていた。

 

「あ~メリーゴーランドってこんなに落ち着くものなんだな」

 

「春輝くんがお姉ちゃんみたいに溶けてる!?」

 

「おやぁ~ハルくんもメリーゴーランドの魅力に気付いてしまったのかい?」

 

「今なら彼方さんの気持ちが分かりますよ~」

 

「絶叫マシーンもいいけど、こうやって落ち着けるアトラクションが彼方ちゃんは好きなんだよ~」

 

「お姉ちゃんまで溶け出しちゃったよ⋯⋯」

 

さっきまで休憩を挟んだとはいえ、絶叫マシーンに乗り続けてた俺はメリーゴーランドに安らぎさえも覚えたほど、メリーゴーランドを楽しんだ。この後コーヒーカップにも乗り、ゆっくり回したり速くしたりと気の向くままに遊んだ。

 

「さあ~て、ここからはハル君にアトラクションを選んでもらおうかな~?」

 

「俺が選んでもいいの?」

 

「うん!お姉ちゃんと春輝くんの乗りたいのも入れたいねってなって、でも私達に任せてくれたから当日に決めてもらおう!ってなったんだよ!」

 

「そうだったんだね、二人ともありがとう!そうだね~2つあるけどいいかな?」

 

「ほれほれ~言ってみな~」

 

「まずはゴーカートで、そのあとにこのお化け屋敷だね」

 

「ここのお化け屋敷って結構怖いらしいけど、春輝くん大丈夫?」

 

「うん、ホラー系は得意だからね大丈夫だよ!逆に怖い方が楽しみまであるね!!」

 

「それなら大丈夫だね~それじゃあまずはゴーカートから行こ~!」

 

ゴーカートの場所へ向かっている途中、俺はお化け屋敷がどれくらい怖いものなのかが気になりワクワクしていた。乗り場に到着したが人気らしく少し待つことになった。

 

「ここのゴーカートはレースコースもあるんだね」

 

「なになに、ハルくん気になっちゃったの~?」

 

「うん、ちょっとね」

 

「それなら皆でレースしようよ!」

 

「いいね!!レースか勝負ごとなら負ける気がしないね!」

 

「よ~し!彼方ちゃんも本気出しちゃうぞ~!」

 

「私だって負けないよ!!」

 

順番が来た時には、三人とも気合いに満ちていた。各々乗るカートを選び、一通りの説明を聴いてから、スタンバイしてスタート信号が赤から青に変わったと同時に三人とも走り出した。

 

「おおお!!レースとはいえどこの風を切る感じ気持ちいいな~!!」

 

「ありゃ~?カーブで大回りになっちゃった~」

 

「やったぁ!お姉ちゃんを追い抜いた!!でも春輝くんとの距離はまだある⋯でも追いついてみせるからね!」

 

それぞれ思ったこと、感じたことを声に出しながらレースを楽しんでいた。3周のうちの1周目は俺がリードをしていたが2周目からは二人とも差を詰めてきて、最終周ではほとんど差がない状態になった。

 

「ゴールは目の前だけどこのままだと後ろの二人に追いつかれるな⋯⋯」

 

「このカーブを曲がったら直線だけ、そうなったら追い越せない!」

 

「勝負はここのカーブだね~!」

 

俺達はほぼ同時にカーブを曲がり始めたが、俺はハンドルミスにより予定より大回りになってしまい、遥ちゃんが綺麗にカーブを曲がってトップになったように見えたが、一度カーブで苦戦した彼方さんがスピードを維持したままカーブに成功したため、トップは彼方さんになり、そのままゴールまで走り抜いた。

 

「あー!!ハンドル操作ミスしなければ勝てたのに!」

 

「私がトップになれたと思ったんだけどな~」

 

「彼方ちゃんの華麗なドリフトが冴え渡ったぜ~」

 

「「おめでとう彼方さん(お姉ちゃん)!」」

 

「いやぁ~どうもどうも~」

 

トップでゴールした彼方さんを祝福した後、お化け屋敷に向かった。俺はお化け屋敷の前まで来てあることを思った

 

「ここなお化け屋敷は廃病院がモチーフなのか、中々ホラーな雰囲気が漂ってるね」

 

「うう⋯⋯私少し怖いかも⋯⋯」

 

「彼方ちゃんも少~し怖くなってきた~」

 

「それなら二人とも俺の近くに寄ってもいいよ?離れてるよりは怖くないと思うし」

 

「うん、そうさせてもらうね⋯⋯」

 

「彼方ちゃん、ハルくんの腕にくっついてるね」

 

「いいよ、それじゃあ入るよ?」

 

「「うん⋯⋯」」

 

彼方さんと遥ちゃんは、建物の外観の醸し出す不気味な雰囲気に少し怖くなってしまったらしい、意外と二人とも本格ホラー系は苦手だったのかもしれない、まあそこが二人とも可愛いのだが。

 

 

それはさておき、中へ入り途中で音や手、映像などの仕掛けあり二人は仕掛けが来るたびにビクッとしていたが奥まで進んで半分を過ぎたあたりで、お化け役の人が包帯やら血糊を付けてベッドに寝ているのが見え、そこを通らなきゃ進めない時に、二人が本気で怖がり始めた。

 

「ね、ねぇ⋯⋯あそこ、絶対通ったら起きるよね⋯⋯?」

 

「ううぅ⋯⋯彼方ちゃん、心臓がバクバクしてるよぉ~」

 

「大丈夫だよ、俺が付いてるしあらかじめ分かっていればある程度は覚悟できるからね?」

 

「「う、うん⋯⋯」」

 

「じゃあ行くよ、失礼しま~す」

 

俺達は早歩きで通り抜けて、お化けが起きなかったことに安堵していたその時⋯⋯

 

「貴方たちを逃がさないわよーー!!」

 

突然、背後から起き上がり走って追いかけてきたのだ

 

「「キャアァァァァ!!!」」

 

「うおっ!何だ、追っかけてきてるじゃん!これは新しいな!!」

 

「ハルくん感心してる場合じゃないよ~!!」

 

「ごめんごめん、ついね?早く逃げよう!!」

 

背後から迫ってくるお化けから逃げながら、二人の手を引いて走りながらの様子を楽しんでいた。その後もお化けからの逃走はしばらく続き、途中から5人ほど似たような姿のお化けが増え、さらに二人は悲鳴をあげていた。

 

「もう無理だよ~!怖い~!!」

 

「こんなに怖いと思わなかったよ!私ももう限界だよー!!」

 

「あっ!あそこがゴールみたいだよ!!あと少しだよ!」

 

ゴールの明かりが見えて、最後の力で二人も逃げ切り、お化け屋敷を脱出した。外に出ると二人とも近くのベンチへ移動して疲れた様子で座り、俺は飲み物を買いに行った。

 

「彼方ちゃん、あれを人がやっていると分かっていても怖かったよ⋯⋯」

 

「私も通る時に起きてくると思ったから、安心したせいで余計に怖かったよ⋯⋯」

 

「はい、二人ともお疲れ様!これ飲んで!」

 

「「ありがと~ハルくん(春輝くん)!」」

 

二人に買ってきた紅茶を差し出してからベンチに座った。しばらくしてから次の予定を聞いてみた。

 

「そろそろバスの時間も近くなってきたけど、この後何か乗る予定はあるの?」

 

「うん!最後は観覧車に乗るよ!」

 

「遊園地といえば、最後は観覧車だよね~」

 

「確かにね!それじゃあ観覧車の場所に行く?」

 

「そうだね~時間もないし、乗りに行こう!」

 

バスの時間が18時なので残り1時間を切っているため、少し急いで観覧車へと向かった。

 

 

────────────────────

 

(彼方視点)

 

観覧車の所にたどり着いた彼方ちゃん達はこれから観覧車に乗り込むところだよ。あたりも暗くなってきたからイルミネーションも点灯してきて、遊園地が光でいっぱいになってるよ~。座りは、彼方ちゃんと遥ちゃんが同じ方に座って、向かい側にハルくんが座ったよ~

 

「うわぁ~、キレイだよ!」

 

「これは凄いね、昼間との印象が一気に変わるね」

 

「ここの遊園地はイルミネーションの飾りにも力を入れているみたいだからね~だから最後に観覧車を選んだんだよ~」

 

「確かにこれは一度見てみたくなる光景だね!」

 

園内の木や建物の至るところに電飾が施されていて、電飾のオブジェもあってすっごく綺麗で皆見とれちゃっている。観覧車が半分を回ったところで彼方ちゃんが会話を切り出した

 

「ハルくん、今日は遥ちゃんと一緒に誘ってくれてありがと~!」

 

「私からもありがとう!春輝くん!!」

 

「ううん!全然!!こっちこそありがとうね、最近だと三人とも活動とかで忙しくて、昔みたいに中々お出掛け出来なかったから、一緒に来れて本当に良かったよ!」

 

今日は彼方ちゃんの誕生日が近いこともあって誘ってくれたけど、彼方ちゃんからはまだお礼をしていないから、これからサプライズを仕掛けるよ~

 

「ねえ~ハルくん?少しだけ目を閉じてもらってもいいかな~」

 

「うん?いいけど?」

 

「じゃあ~閉じてね~」

 

「分かったよ」

 

ハルくんが目を閉じたけど、彼方ちゃんの心臓の鼓動速くなってきて、お礼が出来ないと思っていたら、横で遥ちゃんが耳打ちをしてくれた

 

「お姉ちゃん、頑張って!春輝くんにお礼するんでしょ?」

 

「うん!ありがとう、遥ちゃん!彼方ちゃん頑張るよ!!」

 

遥ちゃんが応援してくれたことで、勇気が出た彼方ちゃんはそっとハルくんの前へ近づいて、ハルくんの綺麗なほっぺにキスをした

 

「えっ!?か、彼方さん!?い、今のって」

 

「彼方ちゃんからの今日のお礼だよ~」

 

「やったね!お姉ちゃん!!」

 

「うん、彼方ちゃん頑張ったよ~」

 

ハルくんは突然のことに動揺していて、口をパクパクさせていてその姿がとっても可愛かった。

 

今はまだこれしか出来ないけど、ハルくんを想う気持ちは誰にも負けないよ~、いつかは彼方ちゃんの想いを受け取ってほしいな~

 

────────────────────

 

(春輝視点)

 

観覧車を乗り終わり、バスで集合場所だった駅に戻ってきた

 

「送って行かなくても大丈夫?」

 

「うん、遥ちゃんも一緒だし、お夕飯も買って帰るから大丈夫だよ~」

 

「そっか、分かったよ!じゃあここで解散だね、二人とも気を付けてね!」

 

「うん!春輝くんも気を付けてね!!」

 

「ありがとう!今日はとっても楽しかったよ!」

 

「また三人でお出掛けしようね~ばいば~い」

 

「バイバイ、春輝くん!また今度ね!」

 

「ああ!バイバイ!!」

 

こうして、俺達はそれぞれの帰路に着いたが、俺は観覧車での出来事が脳に焼き付いたまま帰宅して、数日経っても思い出すくらいにはあの時の彼方さんは綺麗だった……




特別編という事でいかがでしたでしょうか!

これからも同好会メンバーの誕生日には書いていくつもりなのでその時はよろしくお願いします!

本編も遅くならないように頑張ります!


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[特別編]中須かすみ誕生日記念回

今回は、かすみちゃんの生誕祭になります。

かすみちゃん、お誕生日おめでとう!!いつも笑顔で可愛いを追い求めるかすみちゃんの放つ輝きは、とっても眩しいよ!これからもかすみちゃんの事も応援してるよ!

それではどうぞ!


 今日はかすみちゃんが家に遊びに来て1日遊ぶことになっている。タイミングが良いのか、父さんも母さんも、今日は1日家を空けているので、かすみちゃんと二人きりという訳だ。

 

 どうして、かすみちゃんが家に遊びに来ることになったかというと⋯⋯

 

 遡ること数日前⋯⋯同好会部室にて

 

 まだかすみちゃん以外の他のメンバーがいない状況で、俺は数日後に誕生日を迎えるかすみちゃんに、プレゼントか何かをしようと暫く頭を悩ませていたのだが、どうしたらいいか分からない状況が続いていた。

 

 一人で考えても埒が明かないので、シュウに相談してみたら『いっそのこと本人に聞けばいい』と言われてしまったので、かすみちゃんに直接聞いてみることにした。

 

「かすみちゃん、もうじき誕生日だけど何かしてほしいことあるかな?」

 

「えっ!かすみんがハル先輩に何かお願いをしてもいいんですか!?」

 

 直接かすみちゃんに聞いてみると、彼女は驚きの後に、期待からか、もの凄い笑顔をこちらに向けてきた。

 

「うん、出来る事はそんなにないかもだけど、極力期待に添うよ」

 

「そうですね~、あれもいいけど、これもいい⋯⋯んー、かすみん迷っちゃいますぅ」

 

 さすがに急すぎたのか、かすみちゃんが困ってしまっている。

 

 でも、迷うほど何かしてほしいことがあるのかな⋯⋯?何をお願いされるか楽しみかも。

 

 かすみちゃんが考えること数分⋯⋯沈黙を打ち破り、かすみちゃんが口を開いた。

 

「あっ!かすみん、またハル先輩のお家に遊びに行きたいです」

 

「えっ?」

 

 かすみちゃんからのお願いが、予想していたお願いよりもシンプルだった為、思わず気の抜けた返事をしてしまった。

 

「ですから、かすみんまたハル先輩のお家で、ゲームとかして過ごしたいです」

 

「うん、分かったよ。それなら、誕生日の日はちょうど休日だし、その日にしようか」

 

「はい!あ~、かすみん遊びに行くのが楽しみですぅ!」

 

 こうして、誕生日の日に家に遊びに来るという約束をした。

 

 そして、現在へ至る⋯⋯

 

 時刻はまもなく午前9時30分⋯⋯もうじき、かすみちゃんが来る時間になる。

 

 俺は今、リビングでかすみちゃんが到着するのを録り貯めたアニメを視聴しながら待っている。

 

 何もしていないように思えるかもしれないが、掃除等の必要な事は済ませてある。それにかすみちゃんから『普段通りでお願いします』と強く念を押されてるので、この通り普段通りにしている。

 

 そして、時間になったと同時にインターホンの音が鳴り、俺は急いで玄関まで移動し、ドアを開けた。

 

「おはよう、かすみちゃん。さあ上がって、上がって!」

 

「おはようございます、ハル先輩!それじゃあ失礼します」

 

 扉を開けると同時に俺が元気良く挨拶をすると、かすみちゃんも元気良く挨拶を返してくれた。

 

 かすみちゃんを家の中へ迎え入れ、自室へと案内した。

 

「かすみちゃん、好きな場所に座っていいよ」

 

「それじゃあ、ここに座りま~す」

 

 俺の部屋は、複数人で過ごす事が多い為、座椅子やクッション等を複数用意している。

 

 かすみちゃんは、その中のテレビの画面が見易い、黄色の座椅子に座った。

 

 俺も普段使っている座椅子を、かすみちゃんの座椅子の横へ移動させた。といってもこれからゲームをするので、多少なり間は空けている。

 

「それじゃあ、早速だけど何のゲームをしようか?」

 

 俺は所持しているゲームのパッケージを机に並べて、かすみちゃんに選んでもらうことにした。

 

「まずはこのパーティーゲームをやりましょう!」

 

「オッケー、それじゃあ準備するね」

 

 かすみちゃんが選んだゲームのディスクをゲーム機本体へと入れ、ゲームを起動した。

 

 起動している間に、空いているコントローラーをかすみちゃんに渡した。

 

「前回は、しず子には勝てましたけど、りな子には勝てなかったから、今日は特訓です」

 

「なるほどね、気の済むまで付き合うよ」

 

 このゲームは1つのすごろくのマップ上のどこかに、4ターンに分けてダイヤが1つずつ出現するので、それを最終的に多く持っていた人の勝ちという単純なパーティーゲーム。

 

 当然、途中にはミニゲームやアイテムでの妨害から、相手のダイヤを奪うということもできるので戦略性も問われるし、運も必要になる。

 

 かすみちゃんが言った通り、以前に1年生の3人を招いた事があるのだ。その時も同じパーティーゲームをしたのだが、ゲームが得意な璃奈ちゃんと俺が勝った為、『打倒、りな子』を掲げたかすみちゃんが特訓をしたいとの事だった。

 

 でも、パーティーゲームってサイコロの出目もあるから、一概に特訓だけでどうにかなる訳でもないんだよな⋯⋯

 

 そう思ったが、せっかくのやる気に水を差すのも無粋なので、口には出さなかった。

 

「やったぁ、またかすみんがダイヤをゲットしちゃいましたぁ!」

 

「何でだ⋯⋯全然、出目が奮わないぞ⋯⋯」

 

 3ターン目のダイヤをかすみんちゃんが獲得した段階での順位は、まさかのかすみちゃんがダイヤ3つの俺が0という、この段階でダイヤが0という絶望的状況だった。

 

 こんな状況なんてものは、初めて見たし、正直勝てる見込みはほぼないよな⋯⋯

 

「このまま、かすみんが勝っちゃいますよ!」

 

「いや⋯⋯!俺だってまだ諦めてないから!」

 

 ゲームは最終の4ターン目に突入し、最後のダイヤが出現した。場所は俺のいる位置の方が近い。このダイヤさえ取れれば、ラストのミニゲームでワンチャン逆転が可能だと俺は考えた

 

 ⋯⋯が、現実は非情であった。なんと、かすみちゃんに運が味方してしまい、スペシャルアイテムであるダイヤの場所まで、瞬時に移動するアイテムを手に入れてしまった為に、俺の負けが確定してしまったのだ。

 

「そんな⋯⋯最後のダイヤまで、取られるなんて⋯⋯」

 

「かすみんも今日の運が絶好調すぎて、自分でも怖いですよ」

 

 最後のダイヤをかすみちゃんが獲得し、最後のミニゲームで俺が勝利してダイヤを3つ獲得したが、最終結果で追加のダイヤを獲得したかすみちゃんに、差を広げられ負けてしまった。

 

「やったぁ!かすみん、ハル先輩に勝っちゃいましたぁ」

 

「うーん⋯⋯微妙に納得いかないけど勝負だから仕方ないか、かすみちゃんおめでとう」

 

「ありがとうございます!」

 

 それにしても、こんなに運が悪い事ってあるんだな⋯⋯

 

「ハル先輩、もう一回やりましょう」

 

「もちろん、今度は負けないからね?」

 

「かすみんだって負けませんよ!」

 

 俺達はもう一度、同じマップで勝負を始め、今度は俺の調子も戻ったらしくかすみちゃんと接戦を繰り広げた。

 

 そして局面は最後のミニゲーム、ダイヤの数は二人とも同じ。この戦いに勝利した方がこのゲームに勝つのは明白だった。

 

 だが、運命はそう簡単には上手くいかなかった。選ばれたミニゲームは、横に土を掘って先にダイヤを見つけた方が勝ちというものだった。

 

 だが、このミニゲームは運次第で、開始早々にダイヤを発見し勝負が決まるということが、頻繁に起こるとされているミニゲームだった。

 

 このゲームに詳しくない、かすみちゃんはこの事を知らないが、こればっかりはどうしようもないので、大人しくミニゲームに挑んだ。

 

「これって、横に掘ればいいんですよね?」

 

「うん、横に掘ってダイヤを見つければ勝ちだよ」

 

 運命のラストゲームが始まり、お互いに掘り始めた。さすがに最序盤にダイヤがあるということはなかった。しかし、ある程度掘った段階で、まさかの両者の目の前にダイヤが出てきた為、どちらが先にそこへたどり着くかの勝負となった。

 

 このゲームの移動は、同じボタンの連打で速く移動できるというものであるが、連射が苦手な人にはとことん不向きなミニゲームである。

 

「うおおおお!」

 

「ぐぬぬぬぬ!」

 

 互いにボタンの連射を行い、気合いからお互い声が出てしまっている。

 

 進行具合はどっちもどっちくらいと言いたいが、最初からフルで連射していた、俺の指には限界が近づいていた。

 

 そして、あと一歩のところで疲労により、連射速度が極端に落ちたため、かすみちゃんが最初にたどり着き、ゲームに勝利した。

 

「あー、最初に全力出しすぎたか」

 

「何とか⋯⋯勝ちましたぁ」

 

 さすがにかすみちゃんも、連打のしすぎで疲労しており、少し息も上がっている。

 

 最終結果はやはり、ミニゲームで勝利したかすみちゃんの勝ちとなり、今日の俺は全敗という形で終わった。

 

 俺もかすみちゃんも少し疲れたために休憩を取り、時間を確認すると、午前11時30分と表示されていたので、俺はかすみちゃんに、『お昼の用意をしよう』と伝え、かすみちゃんと一緒にキッチンへと移動した。

 

 今日はかすみちゃんの希望で、一緒にお昼を作る事になっている。メニューは、俺の得意なチーズオムレツと、かすみちゃんの特製コッペパン。

 

 食材はあらかじめ買っておいたので、すぐに調理が開始出来るようになっているので、早速、調理を開始した。

 

「ハル先輩、包丁取ってもらってもいいですか?」

 

「はい、気をつけてね」

 

 お互い、邪魔にならないように移動を控えめにして、欲しいものは近い人に取ってもらうことにした。そのおかげでスムーズに調理は進み、1時間ほどでお昼の準備は完了した。

 

 その後は、お皿に盛り付けて、テーブルに運んで、向かい合うように座ると、『いただきます』と挨拶をしてから食べ始め、お互いに料理の感想を述べながら、楽しく食事をした。

 

 食べに終わった後は、二人で並んで食器を洗って片付けてから、リビングでアニメの鑑賞を始めた。

 

 これもかすみちゃんの希望で、璃奈ちゃんとせつ菜と俺が部室で話をしていたのを、横で聞いてて興味を持ってくれたらしい。

 

 多分、璃奈ちゃんとせつ菜の会話に混ざりたいんだなと俺は思った。

 

 題材は、簡単に言えば主人公を含めた5人の少女が表ではアイドル、裏では正義の魔法少女に変身して平和を守る作品である。

 

 よく日曜の朝にやっているアニメとは少し異なり、もう少し年齢が上の人達をターゲットにした作品で、男女問わず人気のある作品でシリーズにもなっている。

 

 内容はコメディからシリアスまで様々で男性キャラもいて、主人公を含めたヒロイン達の恋愛描写も人気とされている。

 

 だが、前提としてキャラが死んでしまうような展開はなく、相手を浄化して元に戻したり、相手の組織のメンバーと対峙して、改心させたりという内容になっていて、わりと取っつき易い内容になっているのが人気の理由だと思っている。

 

 このアニメに関しては、同好会ではかすみちゃん以外のメンバーはもうすでに視聴済みで、皆からの評判も上々だった。

 

 かすみちゃんが最後まで残ってしまったのは、偶然タイミングが悪くその話の時に限って、かすみちゃんが不在だった為に、最後まで残ってしまったというわけだ。

 

「ハル先輩もこのアニメ好きなんですか?」

 

「もちろんだよ、あとはシュウも見てるよ」

 

 かすみちゃんは、アニメを鑑賞しながら俺に質問をしてきた。事実、このアニメは話題に出しやすい。

 

 その後はかすみちゃんは、真剣にアニメを見ていた。場面によって表情がコロコロと変わっていて、かすみちゃんの反応を見ているだけでも楽しかった。

 

 途中で、静かにお菓子やジュースを用意すると、一言お礼を述べて、すぐにアニメを見ることに戻った。

 

 勧めた側だけど、まさかここまで真剣に見てくれるなんて思わなかったなー

 

 第1シリーズを見終えて、時間は18時頃を指していたが、今日は遅くなるという事をかすみちゃんは家の人に伝えてあるので、まだ時間は大丈夫。

 

 実際、俺の方も母さん達は遅くなると言っていたので、昨日の夕飯の残りで申し訳ないが、カレーを温め直して食べることにした。

 

「ん~!カレー美味しいです!」

 

「それは良かった、今回は母さんと一緒に作ったから誉めてくれて嬉しいよ」

 

 昼間と同様に、食べ終わって食器を洗い、片付けてからさっきのアニメの感想会をすることにした。

 

「さっきのアニメどうだった?」

 

「かすみん、あのアニメとっても面白かったです!」

 

 かすみちゃんは、せつ菜を彷彿とさせるような興奮の仕方をして、面白かったと伝えてくれた。

 

「皆さんが面白いと話していたのも、納得出来ました!特に主人公が新たな力を手に入れる時に、恋してる男の子からの助けを借りて戦いが終わって告白したシーンは、かすみんジーンときちゃいました!」

 

「あのシーンはまさに名場面だし、俺も好きなんだよ!さすがかすみちゃん分かってるね~!」

 

「かすみんもいつか、あのアニメの主人公の女の子みたいな恋がしてみたいなぁ~なんて思っちゃいました」

 

「かすみちゃんなら、きっと大丈夫だよ。いつか誰かに恋が出来る日が来ると思うよ?」

 

 俺がかすみちゃんにその事を言うと、何か怒らせてしまったのかは、分からないけど頬を膨らませていた。

 

「むー、ハル先輩はそういうところ何ですから全く⋯⋯」

 

「えっ?何かした?」

 

「何でもないですよ!それより、またハル先輩の家にこのアニメの続きを、観に来てもいいですか?」

 

「もちろんだよ!また一緒に観れるなら、俺も嬉しいよ」

 

 かすみちゃんは、このアニメを気に入ってくれたようで、また来てもいいかと言ってくれたので、俺も快く受け入れた。

 

 時間は20時になり、俺はかすみちゃんを家まで送ることにした。

 

 送っている途中でも、今日の出来事で話題が尽きないほど、かすみちゃんにとって、今日という日が楽しい1日になってくれたみたいだった。

 

 話をしていたら、あっという間にかすみちゃんの家に着いてしまい、かすみちゃんが名残惜しそうに家に入っていく直前で、俺は彼女を呼び止めた。

 

「かすみちゃん、待って!」

 

「はい?何ですか?」

 

 かすみちゃんに自分のとこまで来てほしいと頼んで、近づいてもらうと、俺は鞄からあるものを取り出した。

 

「はい、誕生日プレゼント!最後にサプライズだよ!」

 

「ええっ!いいんですか?」

 

 俺はしずくちゃんに以前教えてもらった、アクセサリーショップへ行って、今日の為に黄色いハート型の髪飾りのプレゼントを用意していたのだ。

 

「開けてみてもいいですか?」

 

「いいよ」

 

 かすみちゃんはワクワクしながら、小さい紙袋を開けて中に入っていた髪飾りを取り出した。

 

「ハートの髪飾りですか!かすみん、とっても嬉しいです!ありがとうございます、ハル先輩!!」

 

「喜んでもらえて良かったよ、その髪飾り貸してみて?」

 

 かすみちゃんから髪飾りを貸してもらうと、俺はその髪飾りをかすみちゃんの髪に付けてあげて、鏡を差し出すとかすみちゃんは玄関の灯りが強いところへ行き、鏡でチェックしてこちらに戻ってきた。

 

「ハル先輩、かすみんこの髪飾り大事に使います!」

 

「うん、ちゃんと使ってくれるなら俺も嬉しいよ」

 

 かすみちゃんの満面の笑みを見て、俺はそれだけでもこのプレゼントを選んだ甲斐があったと実感した。

 

 そして、かすみちゃんは俺の方へ手を振りながら、笑顔のまま家の中へと入っていき、それを見送ってから俺も、家へと踵を返した。




いかがでしたでしょうか?

かすみちゃんと春輝くんのやり取りが早く本編でももっと書けるように努力して参りますので、よろしくお願いします。

次は2月のエマちゃんの生誕祭となります。といってもあまり日がないのでそろそろ書き始めます!

感想、お気に入り、読了、お待ちしています。


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[特別編]エマ・ヴェルデ誕生日記念回

間に合わないので一旦、投稿になります!

早めに加筆を加えるので、またお知らせ致します。

中途半端で申し訳ございません。


今日は土曜日、時刻は午前9時。俺は今ゲームセンターに来ている。

 

といっても、俺は1人で来ている訳ではない。今日はエマさんと一緒に来ている。

 

エマさんがこういう場所に来るイメージはあまりないかもしれない。いや実際にないけど⋯⋯でも今日ゲーセンに行きたいと言ったのはエマさんなのだ、信じられないかもしれないがそうなのだ。

 

今日が誕生日という事でエマさんに何かしてほしい事があるかを1週間前に訊いてみたところ、俺が普段行く場所でエマさんが普段行かない場所に連れていってほしいと言われ、パッと思いついたのがゲーセンだったのだが、流石にないなと思っていたらエマさんの方から行きたいと言われたのでゲーセンになったのだ。

 

「ちょうど開店時間ピッタリだ、よしまだ他のお客さんはそんなにいないな」

 

「そうみたい、早く来て良かったね。それじゃあ今日は思いっきり遊んじゃお~!」

 

「「おー!」」

 

俺はエマさんとゲーセンに遊びに行くのが楽しみで仕方なかったのだが、それはエマさんも一緒らしい。

 

お店の中に入ると俺にとっては見慣れた光景が広がっているが、エマさんにとってはあまり見慣れない光景なので目をキラキラに輝かせている。

 

「それじゃあ!まず何から遊びますか?」

 

「そうだね~、うーん⋯⋯アレがいいかな!」

 

エマさんがアレと言って指を指したのはレースゲームの筐体だった。その筐体の周りも違う種類のものがあり、レースゲームコーナーとなっている。どの筐体も共通してハンドルやアクセル、ブレーキがついている。

 

「どれがオススメとかあるの?」

 

「そうですね、初めてならまずは本格的なのより、簡単に楽しめてキャラクターが選べる方が楽しいと思いますよ」

 

「わかった、じゃあこれにしよう!」

 

まずはエマさんに操作を教える為に俺は筐体の座席に座っているエマさんの横から指示を出すことにした。

 

一応チュートリアルもあるけど、それでも分からない事とかあるだろうしこの状態で教えるのがベストだと思う

 

とりあえず1プレイ分を入れてチュートリアルを始める。エマさんはしっかり画面に出る説明を読んでいた、それでも分からない事や状況に応じた対処などは俺に質問してくれた。

 

「エマさん呑み込みが早いですね!この調子ですよ」

 

「ううん、春くんが教えてくれるのが上手だからだよ~」

 

意外と言うと失礼かもしれないけど、エマさんは呑み込みが早くすぐに基礎を身に付けていった。ただエマさんのプレイを見ていて分かっただが、エマさんはカーブで曲がったりする時に体が一緒に動いている。

 

初心者にはよくあることだし仕方ないの事だと思い見ていたが、これが思いの他動いているのだ。特に急カーブだと動きすぎて操作が安定しないところもある。

 

「ああ、また急カーブで体が動いちゃってますよ」

 

「うーん、意識していても動いちゃうな~」

 

「気を落とさずにもう一回やってみましょう!」

 

何度か繰り返していると慣れてきたのか動きが小さくなっていき操作も安定してきた。

 

でも動いている時のエマさんの姿は可愛かったな~、最初なんか特に変なポーズになっていたし。

 

エマさんが上達したところで対戦をしようと言われたので、俺も隣接している筐体の座席に座り準備をする。

 

「それじゃあ春くん、全力でお願いね!」

 

「分かりました、では全力でいきます!」

 

全力といっても俺もレースゲームはそんなに頻繁にプレイするわけでもないし、どちらかと言えば腕前は普通くらいだから下手すると負けるんだよな~

 

ゲーム内容は合計で4レース行い総合ポイントを競うルールになっている。

 

まず1レース目が始まり、お互いに好調な走りで今は俺がトップを走りすぐ後ろにエマさんがピッタリ着いてきている。

 

「エマさん中々着いてきますね⋯⋯」

 

「逃がさないよ~!」

 

そのまま1レース目はアイテムが大したものが出なかった事があり順位の変動はなく、そのまま決着がついた。

 

「まずは俺の1勝ですね」

 

「次は負けないよ」

 

エマさんから物凄いやる気と気迫を感じる。心なしか声のトーンも低い気がしなくもない。

 

続いて2レース目はCOMつまるところコンピュータのキャラに妨害され、先程と順位が逆になった。

 

トップを走っていると妨害されやすいのはあるあるなので、こればっかりはどうしようもない。

 

続いて3レース目はお互いに妨害したり、COMからの妨害を受けたりしてお互い順位が落ちてしまった。

 

現在は総合ポイントが俺とエマさんは同点になっていて、いよいよ最後の4レース目に突入する。

 

「これが最後のレースです。ここは勝たせてもらいます」

 

「ううん、ここで勝つのは私だよ」

 

お互いにもはや遊びという事を忘れたように真剣にゲームをプレイしている。もはや雰囲気だけは決闘そのもの。

 

4レース目が始まると序盤からお互いに一歩も譲らない展開となり、アイテムを駆使して絶妙なタイミングで使用するため大接戦となっている。

 

レースは終盤に差し掛かりゴールまであと1カーブというところで、エマさんが温存していた妨害アイテムのバナナの皮に引っ掛かってしまい距離を離されてしまった。

 

「しまったぁ!!」

 

「やったぁ!このままゴールまで一直線!」

 

俺はもうダメかと思ったが、ここでお助けアイテムのターボが出た事により離されてしまった距離を一気に詰めることに成功した。

 

そしてゴール目前で横一直線に並び立ち、そのままゴールすると結果はまさかの同着。

 

同着により、最終結果は俺とエマさんが総合ポイントが同じの為に二人とも1位という結果に終わった。

 

この結果を見てから顔を見合わせると、お互い緊張が切れたように笑ってしまう。

 

「あははは!まさか同着で二人とも1位なんてこんな事あるんですねぇ~」

 

「うふふっ!そうだね、でも二人1位なんて滅多にないこと何じゃないかな?」

 

「そうですね、確かに珍しいかも~」

 

滅多に起きないであろう同着からの同率1位という結果を残す為にスマホのカメラを使って、エマさんと一緒にゲーム画面を入れた上で自撮りをして、その写真を二人で共有してから別のゲームへと向かう。

 

「次はね~クレーンゲームをやってみたい!」

 

「分かりました、じゃあ行きましょう!」

 

クレーンゲームコーナーへと着くとエマさんはすぐに筐体を選ばずに1周してから決めると言い、一緒にコーナーを1周することにした。

 

1周し終えるとエマさんは顎に手を当てて唸るように考え始め最初に取る景品を決めて、エマさんに引っ張られる形で筐体の元まで移動した。

 

「これ!このヤギのぬいぐるみを取ってみるよ!」

 

「なるほど、確かにこれならそんなに難しくはないしエマさんでも取れると思います!」

 

「じゃあ、早速やってみるね!」

 

エマさんは500円玉を投入し手始めに6プレイ分でコツを掴むつもりの様子。当然、取れるようにいざという時には指示を出すけど極力はエマさん自身の力でプレイするとの事。

 

まずは6回の内3回ほど持ちやすい位置を探すのに使い、残りの3回で穴まで近づけていた。

 

「いい調子ですね、このままゲットしちゃいましょう!」

 

「うん、頑張るよーー!」

 

エマさんは頑張ると意気込んでプレイを再開する。しかしあともう少しで取り出し穴に落とせるところで、ぬいぐるみの向いた方向が悪かった為に落とせない状況がかれこれ2プレイ分続いている。

 

「うーん、上手く動いてくれない⋯⋯」

 

さすがのエマさんも少々落ち込んでしまっているので、ここは俺がプレイを代わることにした。

 

「エマさん、ちょっと代わってもらってもいいかな?」

 

「うん、お願いね⋯⋯でも動かないよ?」

 

確かに今の狙いどころだとぬいぐるみは動かせない。そこで俺は敢えてエマさんが掴もうとしていた頭ではなく、掴みにくい胴体に狙いを変更してプレイをする。

 

「春くん、そこは掴んでも動かないよ?」

 

「見ていてくださいよ、動かして見せますから」

 

そう言って俺はプレイを始める。狙い通りに胴体を掴みぬいぐるみを動かす事に成功し向きが変わって再び頭が狙いやすくなった。

 

「えっ!?凄い!どうやったの?」

 

「敢えて、胴体を狙って少ない掴みで向きを変えたんですよ」

 

「すごーい!」

 

普通に動かしただけなのに、ここまで感動してもらえるのか⋯⋯

 

それからプレイを代わりそこからはすぐにぬいぐるみを取ることが出来た。

 

「取れたーー!ありがとう、春くん!」

 

「いえ少し手伝っただけですから、これはエマさんの実力ですよ」

 

エマさんはヤギのぬいぐるみを抱き締めながらとても喜んでいる。その姿はまるで欲しいものを買ってもらった子供のように無邪気な笑顔をしている。

 

その後は一度分かれて、お互いに好きなものを取りに向かいしばらくしてから合流した。

 

「春くんもたくさん取れたね~」

 

「エマさんも中々ですね!」

 

お互いに成果を見せ合って、それから2人でもう少しゲームセンターでの時間を楽しんでからその場を後にした。

 

 

 

それから今度は(うち)へと向かい、エマさんを家のリビングへと招いた。今日は元々エマさんが家に来る事を母さんには伝えてあり、母さんからの申し出でお昼を用意してくれるとの事。

 

時刻は12時を過ぎ、丁度お腹が空いていた事もあり家へと戻ってきたのだ。

 

「ハル君おかえり~。あら、エマちゃん久しぶりね!ゆっくりしていって~」

 

「希さん、お久しぶりです。お邪魔させていただきます!」

 

エマさんは何度か母さんに会った事があって、こうしてエマさんが家にいるとまるで本当に姉がいるような感じが毎回のようにする。

 

一度自室へと向かい俺とエマさんは鞄や荷物を置いて、再びリビングへと戻ってきた。

 

ちなみに今日のお昼のメニューは母さんに任せっきりなので、何が用意されているかは全く分からないが、逆にそれが俺もエマさんも楽しみになっている。

 

 

 




一旦、ここまでとなります。

早めに加筆します。


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[特別編]上原歩夢誕生日記念回

一旦投稿という形になります。

急いで加筆します


今日は珍しい事に歩夢の部屋にお邪魔している。

 

今この部屋には俺、歩夢、侑の三人がいる。それでこの三人で何をしてるのかって言われたら何もしていない。

 

本当はシュウも誘っていたんだけど演劇部が相変わらず忙しいのと、シュウの方も色々と事情があるから今回は参加出来なかった。

 

ただ歩夢の部屋で三人でお茶をしながら会話をしてゆっくり過ごしているだけなのだ。そんな時間がかれこれ2時間ほど経っている。

 

「侑ちゃん、お茶のおかわりいる?」

 

「うん、お願い」

 

歩夢は侑のマグカップのお茶が残り少なくなっていた事に気付き、侑におかわりの確認を取ってからマグカップに注いだ。

 

こんなやり取りがもう既に何回も発生している。その間に俺はテーブルの上に置いてあるお菓子を1つ手に取り食べている。

 

「ねぇ、歩夢。今更だけど今日は私が居て本当に良かったの?」

 

「うん、いいの。これが私からのお願いだから。それに本当なら秋夜くんも含めた四人のつもりだったからね」

 

「歩夢がそう言うならそれでいいんだけどさ⋯⋯」

 

もう2時間近くのんびり過ごしているのに今更感があるとは思ったけど侑がそう思うのも仕方ないか⋯⋯

 

実は俺と歩夢は紆余曲折あったけど恋人同士なのです。

 

そんな二人のところに自分が居てもいいのかと考えるのは当然の事だと思う。俺だったら耐えられなくて帰っているかもしれない。

 

でも侑がここに居てくれるのはやっぱり大切な幼馴染みとの時間ていうのもあるからだと俺は勝手に思っている。

 

「でも、まさかハルと歩夢が付き合う事になるとはね~」

 

「まあ俺も付き合い始めたばかりの頃は実感なかったからな~」

 

「そうなの⋯⋯?私、頑張ったのに⋯⋯」

 

まずい!歩夢が悲しんでいる⋯⋯確実に誤解されてる!

 

歩夢の表情を見てハッとした俺は横からの視線に気付いた。

 

「⋯⋯ハ~ル~?私との約束忘れたかな?」

 

「忘れてなんかないよ!でもどうしたら⋯⋯」

 

侑が物凄くニコニコしながら話しているけど眼が全くと言っていい程笑ってない。というか怒る寸前の眼をしてる気が⋯⋯

 

ちなみに侑との約束は歩夢と付き合う事になった時に歩夢からの告白を受けた現場に一緒にいた侑から「歩夢を泣かせるような事はしちゃダメだからね!もし泣かせたら怒るから!」と言われ、俺ももちろん泣かせるつもりなんて毛頭ないから「大丈夫!」と言ったのにこの体たらくとは⋯⋯

 

「あの~⋯⋯ごめんね、今のは嘘だよ?ちょっとだけドッキリを仕掛けてみただけだよ!」

 

歩夢は俯いていた顔を上げると全く泣いてる様子もなくそれどころかドッキリが成功して嬉しそうに笑っている。

 

「えっ⋯⋯嘘?なんだ本当に悲しんでいるのかと思っちゃったよ~」

 

「私も本当に悲しんでいるのかと思ったよ⋯⋯ごめんね、ハル!でも珍しいね、歩夢がこういう事するなんて」

 

「いいよ、気にしてないから大丈夫」

 

でも確かに侑の言う通りかもしれない。普段ならこういう事はかすみちゃんとかしずくちゃん辺りがやりそうな事というかやられた事があるんだけどね⋯⋯それはともかく何かあったのかな?

 

「ねぇ、歩夢。訊いていいか分からないけど何かあったの?」

 

「何かあったというよりは今だからこそかな?」

 

「「今だからこそ⋯⋯?」」

 

侑が歩夢に疑問に感じた事を率直に質問すると、歩夢からは明確な答えではなくヒントが出されたが俺達には全く分からない。

 

「今回は私のお願いだけど、こうして一緒に集まってのんびり過ごすのって凄く久しぶりじゃないかな?」

 

「あっ⋯⋯確かに。同好会の活動も忙しいのもあるけど他の部活にも手伝いに行ってるし、やりたい事の勉強もあるからこうして三人で集まる事ってなくなってたね」

 

「そうだね⋯⋯私も同好会の活動と音楽科の勉強であまり時間取れていなかったかも」

 

歩夢はしっかり俺や侑、この場にはいないけどシュウの事も見ていてくれたんだな⋯⋯だからこうして集まってのんびりする時間を作ってくれたのか。

 

やっぱり歩夢は優しい女の子だよ⋯⋯そうだよな、俺はこの優しさに何回も助けてもらったんだよな。だからこそ歩夢から告白された時は凄く嬉しかったし、涙まで出ちゃった。

 

「だから私の誕生日のお願いとして私の部屋に招待してのんびりしているんだよ?それで少しだけがイタズラしたくなっちゃったの」

 

「そういう事だったんだね。何もなくて安心したよ」

 

「そうだね、でもたまにこういう事をするのは歩夢は可愛いところだよ!」

 

それは間違いないね。こういう普段とはちょっと違う姿も歩夢の魅力なんだよ。

 

「それにしても、まさかハルと歩夢がね~」

 

「なんだよ、ニヤニヤして」

 

「べっつに~、ねぇ、歩夢!好きになったのって『あの事』が関係してる?」

 

「それもあるけどでもやっぱり春輝くんと一緒にいるのが楽しいからかな。もちろん、侑ちゃんや同好会の皆との時間も同じくらい楽しくて大好きだよ!」

 

「なるほど、なるほど。それでハルはどうして歩夢と付き合う事にしたの?」

 

流れ的に俺にも訊いてくるよね~うん、知ってた。

 

「これは歩夢には限った事じゃないけど、俺は同好会の皆から何度も支えてもらったし励ましてももらったよね、だから皆には本当に感謝してる。シュウや周りの人にも助けてもらったと思ってる」

 

俺は歩夢の事を語る前に今までの事を話す事にした。

 

「俺が同好会から離れようとした時だって皆は話を聞いて引き留めてくれた。その中でも歩夢には特に間に入って支えてもらったと思ってる⋯⋯そんな優しい歩夢だからこそ好きになる事が出来たんだよ」

 

少し恥ずかしかったけど歩夢への思いの丈を話す事ができた。それを聞いた歩夢が俯いて肩を震わせていた。

 

「どうした⋯⋯歩夢?」

 

「春輝くん⋯⋯嬉しいっ!」

 

「おわっ!?」

 

顔を上げた歩夢は満面の笑みを浮かべて俺の方に抱きついてきた。こんな反応をされると思ってなかったのから受け止める事はできたけど変な声が出てしまった。

 

「おー!大胆!」

 

この様子を見ていた侑は珍しい光景を見れて興奮している。

 

普通ならこういう時って侑が止めに入りそうなものだけど期待できないね。かすみちゃんがいる状況ならすぐ割って入ってくると思うけど、たまにはこういうのも悪くないかな。

 

 

それから少し時間が経ち⋯⋯

 

「歩夢さん?そろそろ離れない?」

 

「⋯⋯うふふ♪」

 

さっき俺に抱きついてからぎゅっとしたままの状態が続いている。俺はそろそろ離れた方がいいと思ってるけど歩夢はご満悦の表情なので対処に困っている。

 

「ねえ、侑どうしたら⋯⋯」

 

「そのままでいいんじゃない?」

 

いや~それはちょっとこの部屋暖かいからこのままだと流石に暑いかな⋯⋯でも無理に剥がすのは可哀想だからそれはなしだ。

 

侑に助けを求めるもあえなく玉砕。これはもう歩夢が満足するまで解放してもらえなさそうだな。

 

それにしても付き合い始めてから歩夢が甘えてくる事が多くなったかも?前だったら同好会で誰かが俺に甘えてきても見てるだけだったのに今では自分から甘えに来てくれるようになった。

 

 

 

さらに時間が経ち⋯⋯

 

「⋯⋯そろそろ離れるね」

 

満足したのかついに歩夢が解放してくれた。

 

やっと解放されたけど離れたらなんとなく寂しさを感じる⋯⋯

 

「やっと解放されたね。でも良かったよ~仲良さそうで!」

 

もしかして仲良く見えてなかった?

 

「もしかして心配してた?」

 

「少しだけね?あと同好会の皆も知りたがってたから」

 

皆も心配していたのか⋯⋯多少はぎこちなかったかもしれないけど心配はいらないよ。



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[特別編]桜坂しずく誕生日記念回

桜坂しずくちゃん、お誕生日おめでとう!

ということで、今回はしずくちゃんの誕生日回となります!

それではどうぞ!


 春は好きだ。

 

 暖かくて気持ちいいし、それに新しい出会いがある。

 

 それに俺の名前にも春が入ってる。そして、俺の誕生日も春(4月)だ。

 

 そして、今日は同じ4月が誕生日のしずくちゃんとのお出掛け!凄く楽しみ!!

 

 そんな訳で今は駅で待ち合わせ中、今回は、お互い誕生日が近い事もあって、しずくちゃんが誘ってくれた。

 

 ちなみに、何を見るかは教えてもらっていない。しずくちゃんからは、「楽しみにしていてください」と言われているけど何かあるのかな?

 

 そんな事を考えながら待っていると、しずくちゃんが駅のホームから出てきた。

 

「おはようございます、春輝先輩。お待たせしました!」

 

「おはよう、しずくちゃん!待ってないから大丈夫だよ」

 

 駅のホームから出てきたしずくちゃんは、小走りしながら俺の元へとやってきた。よく見ると珍しくベレー帽を被っている。

 

 しずくちゃんは、いつも元気よく挨拶してくれてこっちも元気がもらえる。

 

「時間もないから、早速行こっか?」

 

「はい!今日一日はよろしくお願いします」

 

 チケットは予め予約はしてあるけど、発券の事もあったりするし時間も余裕が充分にある訳じゃないから、すぐに映画へ向かった。

 

 移動の途中で会話をしていて、今日見る映画をしずくちゃんに訊いてみる事にした。

 

「そういえば、今日は何の映画を見る予定なの?」

 

「そうですね、そろそろお話しましょうか。今日は見る映画は、先輩が気になると言ってたアニメの映画です!」

 

 しずくちゃんは、タイミングを見計らっていたようで少しキメ顔で教えてくれた。

 

 えっ?!俺が見たいって言っていた映画って、ラブコメのアニメだよ?

 

 確かにしずくちゃんには、以前そのアニメをオススメした事はあったし、見てくれたとも言っていたけど⋯⋯いいのかな?しずくちゃんも見たい映画があると思ってたんだけど⋯⋯

 

「嬉しいんだけど⋯⋯しずくちゃんはいいの?俺に気を遣ってない?」

 

「そんな事ないです!私は春輝先輩とだからこそ、この映画を見たいと思ったんですよ!」

 

 珍しく、しずくちゃんが少し怒っている。そっかぁ、そんな風に思ってくれてたのか。

 

「ごめん、俺の考えが足りてなかったね。ありがとうね、しずくちゃん」

 

「大丈夫ですよ。私も春輝先輩をびっくりさせたくて、内緒にしていたのでおあいこです」

 

 そう言ってくれるしずくちゃんは、やっぱり優しいな。今思えば、ベレー帽を被っているのはそう言う事か。

 

「しずくちゃんも、この映画気になってるの?」

 

「はい!先輩からオススメしてもらって、テレビシリーズ1期、2期を見て凄く気になっているんです!」

 

 おー!しずくちゃんに、オススメした甲斐があったなぁ⋯⋯良かった、気に入ってくれて。

 

「それなら、今日はお互いしっかり楽しめそうだね!」

 

「そうですね!私、主人公とヒロインの恋の行方が凄く気になります」

 

 こんな風に、映画のどこを期待しているかを話いたら、いつの間にか映画館の近くまで来ていた。

 

 中に入って、チケットを発券してから売店で飲み物とチュロスを購入した。

 

「春輝先輩のチュロスは、チョコなんですね。そっちも気になってたんですけど、私は桜味にしちゃいました。」

 

「俺はいつもチョコだね。元々チョコが好きってのもあるから」

 

 チュロスの味はやっぱり揺るがないでチョコなんだよな~。でも、しずくちゃんの桜味も美味しそうに見える。

 

「春輝先輩⋯⋯お互いのを食べさせ合いっこしませんか?」

 

「うん⋯⋯い、いいよ?」

 

 まさかの提案!?しずくちゃんも少し恥ずかしそうにしてるけど、やっぱり味が気になっているのかな?

 

「じゃあ、まずは俺の方を食べていいよ」

 

「それじゃあ、いただきますね」

 

 いただきますと言って食べる時に、しずくちゃんが髪を手で押さえる仕草にドキッとしてしまって、顔を逸らした。

 

「チョコ味、美味しいですね。それでは先輩、私のもどうぞ」

 

「う、うん。それじゃあ、いただきます」

 

 しずくちゃんが差し出してきた桜味のチュロスを一口食べた。その時もしずくちゃんは、こっちを見ていたので恥ずかしかった。

 

「うん!桜味も美味しいね。たまには、違うのもありかもしれない」

 

「そうですね!私も先輩と食べれて良かったです」

 

 食べさせ合ってる間に、時間は過ぎていき上映時間が迫ってきたので、俺達はシアターに移動した。

 

 席に着くと、すぐに上映が始まり俺としずくちゃんは鑑賞モードへと切り替えた。

 

 上映中は、お互い最初はじっくりと見ていたけど、中盤を過ぎたあたりから映画のシーンに感動してしまい、俺は涙を流し始めてしまった。

 

 しずくちゃんの様子は変わらずに、真剣に見続けているように見える。

 

 そして、物語は終盤になり俺はもう完全に涙を隠しきれない程流してしまい、持ってきていたハンカチを使うほど泣いていた。

 

 よかった⋯⋯よかったよ!結ばれて!!でも、先輩ヒロインと幼馴染みヒロインが⋯⋯

 

 そんなこんなで、上映は終わりシアターから出るとしずくちゃんも泣いていた。

 

「しずくちゃんも⋯⋯感動したんだね⋯⋯?」

 

「はい⋯⋯私、メインヒロインを応援していたので、凄く嬉しいです」

 

 そっか、しずくちゃんは王道のメインヒロインを応援していたんだね。

 

「俺も告白シーンで感動しちゃったよ。もっと言うと俺⋯⋯先輩と幼馴染みの失恋から踏み出すところでも、泣いちゃったよ」

 

「分かります!二人が手を取り合って、これからに一歩を踏み出せて良かったですよね」

 

 周囲に配慮しながら、感想を言い合いお互いの感動を共有した。

 

 

 

 場所を近くの喫茶店へ移し、そこでお昼を済ませて休憩していると、しずくちゃんがとある提案をしてくれた。

 

「先輩、せっかくなのでこれから映画の舞台になった街へ、聖地巡礼に行きませんか?」

 

「いいね、東京が舞台だから時間の心配もないね。それじゃあ、すぐに行こう!」

 

 俺達は、すぐに喫茶店でお会計を済ませて、目的地へ移動するために駅に向かった。

 

 

 駅で電車に乗り、揺られる事1時間弱⋯⋯目的の街へと到着した。

 

 移動している間にしずくちゃんと、どこを巡るかを相談していたから、意外と乗ってる時間が短く感じた。

 

「着いたね、早速、聖地巡礼にしゅっぱーつ!!」

 

「はい、行きましょう!」

 

 ヤバい、いざ聖地に来たらウキウキが止まらない!しずくちゃんが提案してくれて本当に良かった!!

 

 まず、アニメの主人公達がよく使っていたチェーンの喫茶店を訪れ、偶然にも同じ席が空いてたからそこに向かい合わせで座った。

 

 二人でメニューを見て、アニメで主人公達が食べていたパンケーキを選び、合わせてドリンクバーを付けた。

 

「主人公達は、いつもこの席で作業とか会議をしていたのか~、窓際のいい場所だね」

 

「そうですね、何だか私達がアニメの世界に来たみたいです」

 

 しずくちゃんが、そう言いたくなるのも分かる。アニメの中で描かれていた風景は、まさにこの席から見える景色と同じで、店内の様子もそっくりなので、思わずアニメの世界に来たと思ってしまう。

 

 注文したパンケーキを食べながら、30分くらい過ごしてそのお店を後にした。

 

 

 お店を出てからは、舞台となった住宅街の方へと向かった。

 

 向かっている間にも、さっきの映画の話題や実際の風景と比べながら歩いているけど、疑問に思っている事が一つある。

 

 

 さっき、しずくちゃんは俺に気を遣っていないと言っていたけど、やっぱり気を遣っているようにしか感じられない。

 

 一応、今回はお互いの誕生日が近いから、二人だけでお出掛けしようという事が始まりだった訳だけど、さっきはしずくちゃんの言い分に納得したが、時間が経つにつれて疑問が再浮上してきた。

 

 仮にしずくちゃんの言い分が本当の事だとしても、まだ何かを内緒にしているように感じている。でも、その事を訊いてしまうのは、しずくちゃんの事を信じていないのと同じ事になるから、しずくちゃんが打ち明けてくれるのを待とう⋯⋯。

 

 

「⋯⋯ぱい、春輝先輩!!」

 

「えっ!?ごめん、ごめん!どうしたの?」

 

 まずい、考え事をしていてしずくちゃんの話を全く聴いてなかった⋯⋯。あちゃ~、しずくちゃんがほっぺを膨らませてるよ⋯⋯これはこれで可愛いからいいか。

 

「先輩⋯⋯私の話聴いてなかったですよね?」

 

「ごめん、ちょっと考え事をして話を聴くのを疎かにしちゃってた⋯⋯それで何の話だっけ?」

 

 ここは言い訳せずに、正直に謝っておくのが得策だろう。下手に言い訳をする方が気を悪くさせるだろうし⋯⋯もう既に気を悪くさせてるのに変わりはないんだが。

 

「もう⋯⋯先輩が何か考え事をしているのは、いつも私達の事だったりするのは分かってますけど、今は私との()()()()ですよ!」

 

「そ、そうだね。今はしずくちゃんとのデートちゅ⋯⋯う?デート中!?」

 

 今、しずくちゃんデート中って言ったよね!?俺も誘われた時に、もしかしてこれはデートなのではと思ったけれど、一人で勝手に舞い上がるのも恥ずかしいから、お出掛けだと認識するようにしてたんだけど⋯⋯そっかぁ、デートだったか~。

 

「もしかして、春輝先輩デートだと思っていなかったんですか⋯⋯?」

 

 今の俺の発言で、さっきまでほっぺを膨らませてたしずくちゃんの顔は、一気に不安や悲しさを感じさせる表情になった。

 

「違う、違う!!俺もデートかもって思ったけど、勘違いして変に思われたくなくて、勝手にお出掛けって思い込んでただけで、本当にデートって言われてびっくりしただけだから!」

 

 とにかく必死になって、しずくちゃんへ心からの弁明をした。

 

「分かりました。春輝先輩、その代わりに⋯⋯手を繋いでください」

 

 手を繋ぐって、本当に言ってる?冗談⋯⋯で言ってる顔でもないし、これは本気だ。こうなったら、誠意をみせるしかないよな!

 

「わ、分かった。はい⋯⋯ここから繋いで歩こうか⋯⋯しずくちゃん」

 

 俺は一度、立ち止まりしずくちゃんの方へ手を差し出す。しずくちゃんは俺が差し出した手を見て、今日一番の笑顔を見せてくれた。

 

「はい、喜んで!こうしていると、まるであのアニメの主人公とヒロインみたいですね」

 

 自分では全く意識していなかった事を、しずくちゃんから言われて、顔がどんどん熱くなってきた。

 

 全く、この子は何で平気そうな顔をして、こういう事を言えるのか⋯⋯というか、手を繋いだ途端に機嫌が良くなったあたり、もしかすると⋯⋯してやられたのか?

 

 まあ、仮にそうだとしてもしずくちゃんの笑顔が見れたから、何でもいいか。

 

 

 手を繋いで歩き出してから、少しすると今日の聖地巡礼で一番の目的地である、両側に満開の桜が咲き誇っている坂道に到着した。

 

 この場所は、アニメの中で主人公とメインヒロインが初めて出会った始まりの場所であり、事ある場面で使われた坂道だ。

 

 ファンにとっては、聖地の中の聖地と言っても過言ではない場所で、俺も一度はこの場所に来てみたいと思っていた。

 

 

「遂に来たね、この場所に⋯⋯」

 

「はい、アニメで運命が始まったこの場所に、来てしまいましたね。主人公は、この場所から坂の上のヒロインに、運命が始まったんですよね」

 

「うん、確かにここから同じ光景を見たら、運命を感じるのも分かるかもしれない⋯⋯」

 

 今、目の前に広がる景色がアニメで見たものと、完全に一致すぎてまともな感想が出ない。

 

 しかも、隣を見ればしずくちゃんがいる⋯⋯この場所に誰かと来るなんて、少し前だったら想像していなかったかもしれない。

 

 今日、聖地巡礼を提案してくれたしずくちゃんには、感謝してもしきれないな⋯⋯。

 

「そうだ!せっかくだから、ここから写真撮ってあげようか?」

 

「はい、お願いします!じゃあ、坂道の上に行ってきますね!」

 

 俺は写真を撮るために坂道の下に残り、しずくちゃんは嬉しそうにゆっくりと坂道を登り始める。

 

 

 スマホのカメラを起動して、角度とかを決めていると、坂道の上に到着したしずくちゃんが、こちらへ振り向いた。

 

「春輝せんぱーい、いつでもいいですよー!!」

 

「分かったよー、それじゃあ、撮るよー!!」

 

 お互い、聞こえるように声を張り上げてやり取りをする。そして、準備の出来たしずくちゃんにスマホを向ける。

 

 それを見たしずくちゃんは、すぐに手を後ろで軽く組んで、ポーズを取ってくれた。それに表情も優しい感じの笑顔でバッチリだし、桜の花びらが程よく舞っていて凄く映えている。

 

「いくよー!せーの!」

 

 せーのの掛け声に合わせて、スマホの撮影ボタンを押してシャッターを切る。

 

「もう一枚撮るよー!せーの!」

 

 もう一度、同じようにシャッターを切った。

 

「終わったから、戻ってきていいよ!」

 

 短かった撮影の時間も終わり、しずくちゃんに戻ってくるように声を掛けると、しずくちゃんは被っているベレー帽を手に取った。

 

「春輝せんぱーい!これ受け取ってくださーい!!」

 

 そう言うとしずくちゃんは、手に持っていたベレー帽を風に乗せるように、俺の方へと投げた。

 

「えっ⋯⋯?ちょっ、ちょっと!?」

 

 慌てて、手に持っているスマホをポケットにしまって、 既に俺の頭上を通りすぎたベレー帽を、地面に落ちる前にキャッチする為に、俺は全力で走った。

 

「あと、少しっ⋯⋯そうだ!」

 

 ここでジャンプをすれば届くと考えた俺は、一旦止まり助走をつけてジャンプをして、しずくちゃんのベレー帽をキャッチした。

 

「よしっ!何とか落とさずにキャッチ出来た。もうびっくりした⋯⋯よ?」

 

 

 えっ⋯⋯?しずくちゃんに後ろから抱き締められてるっ!?

 

 ちょっと待って!状況が全く理解できないんだけどぉ!?さっきまで、坂道の上にいたよね?まさか⋯⋯俺がベレー帽を追い掛けてる間に下ってきたって事だよね?

 

 いやいや、そんな事は分かっている!分からないのは、何で抱き締められてるのかだよ!!

 

 脳内で勝手に混乱していると、しずくちゃんが体勢を変えずに、そのまま話し掛けてきた。

 

 

「春輝先輩、今日の私⋯⋯どうでした?春輝先輩には、どんな風に見えていましたか?」

 

 俺も体の向きを変えずに、恥ずかしさから空を見上げながら答える。

 

「えっと⋯⋯凄く綺麗だったよ。桜吹雪も相まって、理想のヒロインみたいだったよ」

 

 

 あー、もう少し気の利いた事が言えないのか、俺!ありきたりすぎるだろ⋯⋯

 

 

「ふふっ、そう言ってもらえて嬉しいです。では、春輝先輩もう一つだけ訊いてもいいですか?」

 

「うん⋯⋯いいよ」

 

 

 正直、もう何を言われるか予想出来ないから、ここは素直に聞いているのが安定だね。

 

 

「私を⋯⋯春輝先輩の恋人(メインヒロイン)になりたいんです!」

 

「⋯⋯っ!?」

 

 

 まさかの発言に眼を見開き、声がうっすらと漏れた。

 

 表情は見えないけど、とても冗談には聴こえない⋯⋯しずくちゃんから、こんな事を言われるなんて思っても見なかったよ。これは、俺も真っ直ぐな気持ちを伝えないとな⋯⋯。

 

 思いを伝える為に、俺は一度しずくちゃんの手を握ってから、体の向きを変えてしずくちゃんの方を向いた。

 

 

「それじゃあ、俺の方からも一つ言わせてもらうよ。しずくちゃん、これからは先輩後輩だけじゃなくて⋯⋯俺の恋人(メインヒロイン)になってほしい!」

 

 俺もしずくちゃんとは、同じ気持ちだったけどこういうのはやっぱり、俺の方から言いたかった。だから、しずくの顔を見て伝えたくて、しずくちゃんの方に向き直したんだよ。

 

「⋯⋯はい!よろしくお願いしますね、春輝先輩!」

 

 

 しずくちゃんは、俺からの返答を聞いて嬉しそうに返事をしてくれた。その頬は気分が昂っているからなのか、告白の緊張なのかは分からないけど、赤く染まっていた。

 

 

「俺の方こそこれからもよろしくね、しずくちゃん!そして⋯⋯お誕生日おめでとう」

 

 

 俺はしずくちゃんに、今日渡す為に用意したプレゼントが入っているラッピングされた袋を、鞄から取り出して渡した。

 

 中身のプレゼントは、しずくちゃんがいつもリボンを付けている事から、桜色に白の水玉模様のリボンが入っている。恥ずかしながら手作りのものだ。それと一緒に手紙も入っている。その内容は⋯⋯言わなくても分かるよね?

 

 

「ありがとうございます!開けてみてもいいですか?」

 

「うん、開けてみてよ」

 

 

 しずくちゃんは、ラッピングをほどき中からリボンと手紙を取り出した。リボンを少し眺めた後、手紙を開き目を通し始めた。

 

 

 読んでくれるのは嬉しいけど、目の前で読まれるのは恥ずかしいなぁ⋯⋯とりあえず反応を待とうかな。

 

 

 少しして読み終えたしずくちゃんが、俺の方を見てニコッと笑った。

 

 

「春輝先輩も、同じ事を考えていたんですね。私、今⋯⋯凄く嬉しいんですよ、同じ気持ちだったって知る事ができましたから⋯⋯そうだ春輝さん、このリボン付けてもらえませんか?」

 

「分かったよ」

 

 

 しずくちゃんからリボンを受け取り、痛くしないように慎重にリボンを付けた。

 

 リボンを付けてから改めて思ったけど、我ながらよく出来てるし、しずくちゃんによく似合っていると思う。

 

 

「春輝先輩、もう一度このまま写真を撮ってもらえませんか?」

 

「もちろん!」

 

 

 そう言うとしずくちゃんは、また坂道を上りさっきと同じ場所に立った。

 

 俺もすぐにスマホのカメラを用意して、しずくちゃんにピントを合わせる。

 

 

「しずくちゃーん!撮るよー!」

 

「いいですよー!」

 

 

 しずくちゃんがポーズを取るのを確認して、俺はシャッターを切った。

 

 ジェスチャーでOKのサインを出すと、しずくちゃんは坂道を下って戻ってきた。

 

 二人で撮った写真を確認すると、そこには桜の花びらが舞う中に可憐な少女あり、というような写真が撮れていた。

 

 

そして、俺としずくちゃんは来た時と同じ様に、手を繋いで帰路に着いた。

 

でも、来た時とは一つだけ違うことがある。

 

それはしずくちゃんと恋人になったという事実。




これは一つの可能性の物語⋯⋯


ということで、ここまでとなります!読んでいただきありがとうございました。本編との関連はないですが、いかがだったでしょうか?

次は愛さんの誕生日回をお楽しみに!本編の方もしっかり更新していくので、よろしくお願いいたします。


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[特別編]宮下愛誕生日記念回

 

 

今日は5月30日、天気は快晴、程よい風が吹いている。お出掛けには、これ以上にない最適な日だ。

 

そして、愛の誕生日という事で待ち合わせをしているのだが⋯⋯肝心の愛が現れない。そうは言っても、まだ待ち合わせの時間までには、余裕があるからいいんだけども⋯⋯いつもだったら、こういう時は真っ先に来ているから、少しだけ心配だ。

 

 

「ごめーん、おまたせ!」

 

「待ってないから、大丈夫だよ。おはよう、愛」

 

「おはよう!ハルハル!」

 

 

心配をしていると、その心配は不要だったかのように愛が走って来た。

 

時間はまだあるから走らなくても大丈夫だし、むしろ走って怪我をしたらそれこそ一大事だから、急ぐ必要はないと思ったけど、これこそが愛らしさなんだろう。

 

本日の愛の服装は、袖にリボンのついてる白の半袖のトップスに、膝上くらいの黒のショートパンツスタイル。実に動きやすそうな服装であり、それでいてオシャレでもある。髪型はいつものポニーテール。

 

ちなみに今日は愛の方から、動きやすい服装で来るように言われているので、俺も動きやすいようにストリートスタイルで来た。

 

まあ、何をするかはだいたい予想が付いてる⋯⋯。

 

 

「とりあえず、時間はちょっと早いけどもう行くの?」

 

「うん!今日は目一杯遊んじゃうからね~!よろしく!!」

 

 

つまりは、いつも通りという事だな。となると、目的地はあそこか。

 

俺達は目的の場所へと移動を開始し、会話しながら歩いていると愛が今日の事について、話を切り出した。

 

 

「今日はね、まずバスケして、ボウリングして、バッティングして⋯⋯」

 

「ちょっと待て、それ全部、勝負じゃん!!」

 

「えっ?そーだよ?ハルハルとアタシと言ったら勝負でしょ!ハルハルは嫌だった?」

 

 

さっき今日の予定について、予想出来てたと言ったがそれは訂正します。予想以上でした!俺もバスケをするだろうから、服装は動きやすいのにしてと言ったのかと思ったけど、この子本気でスポーツする気だよ!?

 

 

「別に嫌という訳ではないけど、もうちょっと⋯⋯こう、勝負以外の事はしないのかな~、なんて」

 

「もちろんするよ?お昼食べてからは、もっと⋯⋯デートっぽい

ことをね⋯⋯?」

 

「そ、そうだったのか⋯⋯それならいいんだけどさ」

 

 

ちょっと。デートの単語を口に出すのに、そろそろ慣れてくれません?愛にそんな反応されると、こっちまで意識して力が入っちゃうでしょ⋯⋯。

 

気まずい訳ではないが、微妙な空気が流れちゃってるな~これ。どうしたものか⋯⋯そうだ!

 

 

「ところで、今日はお店の方は大丈夫なの?」

 

「うん、今日はお姉ちゃんがお店手伝ってくれてるよ!それに夕ご飯は、うちのお店で食べるよ」

 

「そっか、美里さんも元気そうで良かったよ。それに、久しぶりのもんじゃも楽しみだよ」

 

 

美里さんはあの時以来、自分の夢を追い掛けながら、『もんじゃ宮下』で愛と一緒によくお店を手伝っている。前にお店に行った時にも元気そうにしていた。

 

そんなこんなで、目的のアミューズメント施設に到着した。愛とはいつもここで勝負をしたり、遊んだりしている。

 

 

さあ、ここからは勝負の時間だから、気合いを入れていかないとな!愛との勝負に手加減は不要どころか、手加減なんてしたら負けは確実まであるからな⋯⋯。

 

 

「まずは定番のバスケだよ!いってみよー!」

 

「よっし、受けて立つ!」

 

 

早速、バスケコートへと向かうと流石に時間が早い事もあって、まだ誰も利用している人はいなかった。

 

 

「一番乗りいっただきー!」

 

「やっぱ、誰もいないと広く感じるな~」

 

 

お互いボールを使用して一緒に軽く体を慣らし、その後ゴール下にて1on1のポジションについた。

 

 

「まずは俺の攻めからだ。今日も勝たせてもうよ!」

 

「いくらハルハルでも、そういう訳にはいかないよ!今日は愛さんが勝つよ!」

 

 

今のところの戦績は、1回分だけ俺の方が勝ち越しているが、当然今回も勝てるという保証は何処にもない。だからこそ、愛との1on1は張り合いがあって楽しい!

 

スマホでセットしていたタイマーが鳴り響き、1on1の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

勝負は一進一退の攻防、お互いにシュートが一本も決まらないまま、5戦目。これが今日のラスト。

 

 

「そろそろ、疲れてきたんじゃないか?愛」

 

「アタシはまだまだいけるよー!ハルハルの方こそ、もうバテてるんじゃないのー?」

 

「笑わせないでくれよ。ここが正念場、やってやるぜ!」

 

 

意気がってみたはいいが、正直もう限界が近い⋯⋯やっぱ愛のスタミナ量がハンパなさすぎる。悔しいけど、そこは認めるしかない。だけど、俺もここで負ける訳にはいかないからな、やるだけやってみるさ!

 

 

「ほらほらぁ、足が縺れてるよ!このまま愛さんが勝ちにいっちゃうよー!」

 

 

人が疲れてるのを良いことに、愛は完全に勝ちを確信してるな。最後、一か八か賭けに出るしかない!

 

 

「そこっ!これで愛さん勝ちだよ!」

 

 

愛は俺が見せた隙を突いてゴール下へと向かった。だが、これが俺が本当は作戦のうちという事に、愛は絶対に気付いていないはず⋯⋯。

 

 

「かかったな!これが俺の作戦だぁ!!」

 

 

すかさず、すれ違い様に愛が所持しているボールをカットした。

 

 

「えっ!?ウソッ!!」

 

ボールをカットされた愛は驚きの声を上げ、それと同時にスマホからタイムアップを告げるアラームが鳴り響いた。

 

 

「これで今回は引き分けだな。まだ俺の1勝リードという事で!」

 

「あと少しだったのにぃ!次は負けないんだからぁ!!」

 



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[特別編]朝香果林誕生日記念回

果林さんお誕生日おめでとう!!

今回は特別編なので本編とは、切り離して読んでください。


今日も目覚まし時計が鳴り響き、目を覚ますとカーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。

 

今日は果林さんと大事な予定があるし、起きて準備しようかな~。

 

そう思い、体を起こす⋯⋯事が出来なかった。

 

あれ?左半身が重い⋯⋯というより、何か押さえつけられてる感じがする⋯⋯。

 

違和感を突き止める為に、顔だけ左側に向けると⋯⋯そこには、こちらの事を全く気にせずに、ぐっすり眠っている果林さんがいた。

 

えっ?ちょっ!なんで果林さんが横で寝てるの???しかも、左腕を抱き枕のようにしてるし!そのせいで、当たっちゃいけないところに腕が当たってるし⋯⋯。

 

まずは、落ち着け俺。えっと、昨日の事を思い出してみよう。

 

昨日は、特に用事もなく家でのんびり過ごしていた。それで、エマさんとミアちゃんとランジュが、それぞれお泊まり会に行ってそれで果林さんを起こす人がいないから、うちに来てそのまま一緒に出掛けようってなった。

 

よし、ここまでは思い出した。それで、なんやかんやで寝る時に俺が床に布団を敷いて寝ようとしたら、果林さんに『一緒にベッドで寝ればいいじゃない』と言われて、断ろうとしたけど『私と一緒じゃ嫌なの⋯⋯?』と言われてしまい、仕方なくベッドで一緒に寝たんだった⋯⋯。

 

でも、寝た時はお互いに背を向けあっていたはずだから、こうはならないはずなんだ。なのに、どうしてこうなった?

 

そういえば、起きた時に仰向けになっていたって事は、途中で寝返りを打ったのかな?だとしても、この状態になった経緯が分からなすぎる!!

 

とにかく、今は果林さんを起こして早く腕を解放してもらおう。そうしないと、起きる事も出来ないし、かといって無理矢理に腕を抜こうとすれば色々と問題があるし、それにこのままだと理性も危ない。

 

 

「ほ~ら果林さ~ん、朝だよ起きて」

 

「ん~、まだ朝じゃないわよエマァ~」

 

 

軽く体を揺すって起こしてるのにダメだ。起きるどころか、俺をエマさんと勘違いしているし、まだ朝がじゃないとか言ってる⋯⋯。

 

でも、果林さんの寝顔可愛いなぁ~。いつものキリッとした感じじゃなくて、何処となくあどけない雰囲気がある。

 

これはどうしたものか⋯⋯これがシュウだったら、軽く衝撃とか与えて起こせるんだけど、果林さんじゃなくても女の子相手にそれは気が引けるというか、そんな事出来ない!

 

仕方ない⋯⋯もう少し根気強く粘ってみるかぁ~。

 

 

 

あれから10分が経過し、最初と同じように起こし続けているが、起きる気配はない。

 

はっきり言えば、そろそろ強硬策に出てもいいのではと思い始めてきた。そう考えるといつも果林さんを、遅刻せずに起こしているエマさんって凄かったんだなぁ⋯⋯。

 

いやいや、エマさんが凄いのは確かだけど、今は関心してる場合じゃない!一刻も早く果林さんを起こさないと!

 

こうなったら、もう左腕を無理矢理にでも抜こう。そうすれば起こす為の手数も増えるし、腹を括ってやるしかない!

 

左腕に絡んでいる果林さんの左腕を解いて、後は勢いよく抜く!!

 

あっ⋯⋯果林さんの胸に思いっきり当たっちゃった⋯⋯。やってしまったなぁ~、もし果林さんが起きて何か言われたらすぐに謝ろう。

 

何はともあれ左腕が解放されたので、後はランジュ直伝の大声と布団剥ぎで!!

 

 

「果林さーん!朝だよ、起きてーーー!!」

 

「うぇええ!?何?何なの!?」

 

ふぅ⋯⋯我ながら、渾身の大声だった。おかげで、果林さんもびっくりして起きてくれたよ。ちょっと果林さんに悪い気もするけど、起きなかったから仕方ないんだ。

 

 

「おはよう、果林さん。突然、大声出してごめんなさい」

 

「お、おはよう、春輝。びっくりしたけど、大丈夫よ」

 

 

良かった、果林さんは特に怒っている様子はないみたい。少し動揺してるっぽいけど。

 

 

「それじゃあ、下に行って顔を洗って、ご飯食べましょうか」

 

「そうね、希さんの作る朝ごはん楽しみだわ」

 

 

昨日の寝る前に母さんが、『明日はいつもより気合い入れて、朝ごはんを作るわよ!』と言っていたので、俺も果林さんもそれに期待している。

 

 

二人で洗面所へ行き、顔を洗い終えてリビングに行くと、テーブルの上には目玉焼きにスクランブルエッグ、ウインナーにベーコン、サラダにスープと普段の朝食とは違い、数種類にも及ぶメニューが用意されていた。そして、これらに合う主食として選ばれたのは、当然パンである。

 

 

「お~、確かにいつもより気合い入ってるね~」

 

「ええ、これはちょっとしたバイキングみたいで、何を食べるか迷うわね」

 

「ふっふーん、ママ言ったでしょ?気合い入れて作るって。だから、気合い入れてみたのよ!」

 

 

うわぁ~、母さんめっちゃ得意気な顔してるよ⋯⋯。果林さんが笑っちゃってるじゃん⋯⋯ちょっと恥ずかしい。

 

でも、これだけの量を果林さんがいるとはいえ、4人で朝だけで食べ切れる量ではないような?

 

 

「母さん、これって食べ切れなかったらどうするの?」

 

「そこのところも大丈夫よ!食べ切れなかった分は、お昼にパパとママで頂くから気にせずに、好きなのを食べてね」

 

 

さすが、母さんだね。俺が心配するまでもなかったよ。なら、遠慮なく食べられそうだよ。

 

 

俺と果林さんは、それぞれ食べたいものを選んでお皿に盛り付けて、このちょっとしたバイキング形式の朝ごはんを楽しんだ。

 




一旦、ここまでです。また近いうちに更新します。


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[特別編]優木せつ菜誕生日記念回

8月8日は優木せつ菜ちゃんの誕生日ということで、誕生日記念回になります。

本編とは直接繋がってないので、あしからず。

せつ菜ちゃんお誕生日おめでとう!!


 

「春輝さん、凄く似合ってますよ!さあ、撮影会の始まりです!」

 

「うん⋯⋯ありがとう。せつ菜も似合ってるよ」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

 

はぁ⋯⋯せつ菜の頼みだから仕方ないとはいえ、物凄く恥ずかしいよぉ⋯⋯

 

今がどんな状況か簡単に説明すると、今日はせつ菜からお願いされて、一緒に服飾同好会の部室に来ている。

 

俺はてっきり、衣装の意見が欲しいとかの理由で呼ばれたものだと思っていたんだけど、実際は違くて⋯⋯まさかの一緒にコスプレをして欲しいというお願いだった。

 

前もって、せつ菜は服飾同好会にコスプレ衣装の作成等のお願いをしていたらしくて、それも俺の分もセットで。

 

だけど、採寸もしてないから作れないのではと思ったが、以前お世話になった時に、しっかりと採寸されていたので、それを元に作成したとの事。なので、全くの抜かりはないし、衣装もピッタリ。

 

しかも、ただコスプレをするだけじゃなくて、それを写真部が撮影して服飾同好会と写真部の活動として、使うようで写真も校内の記事等に載るらしい⋯⋯。

 

せつ菜は企画の立案者という事で、凄くノリノリなんだけど⋯⋯俺はコスプレ自体はいいけど、写真が使われるのは恥ずかしくて堪らない。

 

 

「ねぇ、せつ菜さん?あの⋯⋯恥ずかしくないの?これ校内の記事に写真使われるんだよ?」

 

「はい!私はもう正体も明かしていますし、何より春輝さんと一緒にコスプレ出来てそれが嬉しいです!」

 

 

この通り、せつ菜はやる気に満ちているので説得は通用しない。

 

 

「なら、せめてお願いしてきた時に教えくれても良かったじゃん?」

 

「それはその⋯⋯春輝さんがお願いを聞いてくれると言ってましたし、それにサプライズも兼ねていたので⋯⋯」

 

 

ちょっと⋯⋯見るからにシュンとしないでよ。そう言われると何も反論出来ないし、正直お願いを聞くと言った時点で覚悟をしておくべきだったんだな。

 

 

「ああ!俺が悪かったから、そんなに落ち込まないでよ⋯⋯俺もコスプレ自体は楽しみだからさ⋯⋯」

 

「そうなんですか!?それでは、今日という日を目一杯楽しみましょう!!」

 

 

な、何とかせつ菜の機嫌は直ったか。危うく、この後に影響が出るところだった⋯⋯。

 

まあ、ここまで来たら覚悟を決めるしかないよね。せめて、変に写ってしまわないように頑張るか!

 

 

「ええっと、まずは今着ているこのメイドと執事服の撮影か」

 

「はい、まずはコスプレの定番です。主に仕えている気持ちでいきましょう!!」

 

 

メイドと執事と言えば、アニメでも定番だったりするよね。某悪魔の執事とか、ドラゴンなメイドとかね。

 

まあ⋯⋯それになりきって挑めばいいか。

 

 

「はーい、それでは撮影始めまーす」

 

 

写真部の人が準備が出来たので、俺達に声を掛けてきた。いよいよ、これから撮影会が始まる。

 

 

撮影にあたり、立ち位置や基礎は指示をされて、あとの細かい仕草とかは自由にやっていいとの事。

 

俺とせつ菜は、それぞれ思い描くメイドと執事の仕草やポーズを決める。次から次にポーズも変えていき、何種類か撮ったところでこの服装での撮影は終わった。

 

 

「それで次は⋯⋯これか?」

 

「そうです!見ての通り、勇者とお姫様です!」

 

 

今度は、勇者の服装か⋯⋯何か一気にファンタジー感強くなったな。まあ、いいけどね。

 

とりあえず衣装をチェンジして、服飾同好会の人達に整えてもらおう。

 

 

 

「おー、赤と青の2色が入ったドレスか。せつ菜っぽさを感じるね」

 

 

「春輝さんも、勇者服お似合いですよ。黒のマントが白を基調とした服にピッタリですね!」

 

 

白と黒の勇者服っていうのも少し珍しい気がする。このカラーリングだと、勇者じゃない別のキャラを思い浮かべてしまうが、まあいいか。

 

せつ菜のドレスはシンプルなものだが、ちゃんとお姫様感が出ていて、動きやすさも確保されている。これゲームだと、このドレスで、戦闘することを考えられているな。

 

 

「それでは、次の撮影始めまーす」

 

 

今度の撮影は、演劇部から借りてきた小道具を持って行われた。剣や盾を構えたり、せつ菜を庇う動きをしてみたりとバリエーションのある写真が撮ってもらった。でも、最後のお姫様を抱きかかえるシチュエーションは、せつ菜が可愛すぎて直視出来なかった。それに若干だけど、胸元も見えそうだったので尚更ね。

 

 

 

「次の衣装は⋯⋯これは怪盗服か。という事は、あの作品がモチーフなのか?」

 

「そうです。主人公とヒロインの二人で怪盗のあの作品です!」

 

「この服は今までのとは違って、ちょっと豪華な感じがするね」

 

「これを着てしまえば、気分は怪盗になる事間違いなしです!早速、着替えましょう」

 

 

この怪盗服は、あの白い怪盗の服装に近い感じか。でも、カラーリングは全然違うな、俺のは紫とかオレンジが使われているし、ぶっちゃけると派手だな。ただマントじゃなくて、ロングコートなのはカッコいいな。

 

 

着替えて、鏡で見ると紫とオレンジは合わなさそうと思っていたけど、意外と合うじゃん。

 

 

「どう?結構、似合ってない?」

 

「スタイリッシュな感じでいいですね!!ですが、私の方もカッコいいですよ!」

 

「確かに⋯⋯白、黒、ピンクの3色を使ったリボンとかフリフリした服に、黒いパンツが華麗な怪盗感を出してていいね!」

 

 

3着目ということもあり、俺もだんだん気分が上がって来た。お互いの怪盗服を褒め合い、また撮影が始まった。

 

怪盗らしいポーズを決めてみたり、アクションのワンシーンの様なポーズも、銃の小道具を使ったりして決めてみたりした。

 

 

 

「時間的に、あと1着か⋯⋯時間が過ぎるのも早いなぁ」

 

「そうですね、楽しい時間はあっという間に過ぎていてしまいますから」

 

 

それで最後の衣装は⋯⋯これの衣装って、確かせつ菜が大好きだって言ってたアニメの衣装だよな?

 

あのアニメは俺も見ているから分かるけど、男の子のキャラはいない訳じゃないが、多い訳でもないんだよな。しかも、恋人関係のキャラが多かったはず⋯⋯。

 

 

「せつ菜、これが最後の衣装なの?」

 

「はい!これが私が一番やってみたかったコスプレです!」

 

「それはいいんだけど、その⋯⋯このキャラ達の関係を分かってるよね?」

 

「もちろんです!それを考慮した上で、このキャラを選んでいるんですから!」

 

 

マジか⋯⋯分かった上でやるってなら、もうやってやるしかないな。

 

それにこの衣装という事は、今日持ってきたプレゼントが役に立つかもしれないな。

 

 

 

 

お互い着替えを済ませて、また撮影が始まるのを待っている。

 

 

「せつ菜、もしかして緊張してる?」

 

「い、いえっ!そ、そんな事は⋯⋯」

 

 

めっちゃガッチガチに緊張してるじゃん。一番楽しみにしてたって言うのに緊張してたら勿体ないな⋯⋯こうなったら、ちょっと緊張を解してみますか。

 

 

「そんな固くなる必要はないんだよ?さっきまでと同じ様にやればいいんだからさ」

 

「はい⋯⋯分かってはいるんですけど、どうしても緊張してしまいますね」

 

「このキャラ達が恋人関係だから、緊張するのも分かるけど楽しみにしていたんでしょ?」

 

「はい!それは間違いないです!」

 

 

俺は自分の鞄の所へ行き、中から包みを取り出しそれを持って、せつ菜の元へ戻った。

 

 

「はい、これ!プレゼント!開けてみて」

 

「えっ!?ありがとうございます⋯⋯これは!?」

 

「どうかな?今にピッタリだと思うけど」

 

「それはそうですけど、これどうやって手に入れたんですか?確か⋯⋯これの入手方法って⋯⋯」

 

 

せつ菜が驚くのも無理はない。何せこれはカップル限定のコラボペアリングだからだ。

 

じゃあ、それをどうやって手に入れたかって?

 

それはシュウと歌奏ちゃんに頭を下げて協力してもらったんだよ。二人とも、快く引き受けてくれたんだけどね。

 

でも、それはせつ菜にはナイショ。

 

 

「まあ、色々と協力してもらって何とかね。これでしっかりとキャラになりきる事が出来るよ」

 

「もう⋯⋯ありがとうだけじゃ感謝を伝えきれません。ですから、この片方のリングを春輝さんに付けてほしいです!」

 

「分かったよ。それがせつ菜の気持ちならね」

 

「これで真のコスプレ完成です!春輝さん、本当にありがとうございます!!」

 

 

喜んでもらえて何より。せつ菜もすっかり緊張は解けたみたいだし、これでもう心配はいらないかな。

 

 

この後、撮影が始まりせつ菜は今日一番の輝きを見せた。もちろん、俺も負けないように全力を尽くした。

 

 

 

 

撮影会が終わり、その帰り道⋯⋯

 

「今日はありがとうございました。素敵なプレゼントも凄く嬉しかったです!」

 

「それは良かったよ。こちらこそ、ありがとうね!今日は楽しかったよ」

 

「それでその⋯⋯このリングを渡した意味って⋯⋯」

 

 

やっぱり、そこ気になるよね〜。どうしたものかなぁ⋯⋯。

 

 

「まあ、そういう事だよ。という訳でこれからもよろしくね、せつ菜!」

 

「はいっ!これからもよろしくお願いしますね、春輝さん!!」

 

 

満面の笑みで返事をしたせつ菜の笑顔は、真夏の太陽よりも眩しく、そして輝いて見えた。

 

 




ここまでになります。

次回は栞子ちゃんの誕生日になります。


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[特別編]天王寺璃奈誕生日記念回

まだ途中ですが一度更新します。

すぐに内容修正いたします。


今日は璃奈ちゃんの誕生日という事で、俺は招待されて璃奈ちゃんの家に来ている。普通は祝われる側が呼ぶより、祝う側が呼ぶのがセオリーな気もするけど、璃奈ちゃんからのお願いで遊びに来てほしいとの事だったので、こうして遊びに来た。

 

それで今は璃奈ちゃんからオートロックを開けてもらって、璃奈ちゃんの住んでる部屋の前まで移動して来たところで、玄関のドアノブを握り扉を開いて中へと入る。

 

「お邪魔しまーす」

 

「春輝さん、いらっしゃい」

 

玄関を開けると待っていてくれたのか、璃奈ちゃんがすぐに出迎えてくれた。

 

「今日は呼んでくれてありがとね、璃奈ちゃん」

 

「ううん、私の方こそ来てくれて嬉しい。それよりも上がって」

 

「それじゃ改めてお邪魔するね」

 

靴を脱いで揃えてから、璃奈ちゃんの後ろをついていき、リビングへと案内された。

 

「春輝さん、早速ゲームしよ?」

 

「もちろんいいけど、その前に⋯⋯」

 

「?⋯⋯どうしたの?」

 

俺は持っていた鞄からラッピングされたもの取り出して、それを璃奈ちゃんに差し出した。

 

「璃奈ちゃん、お誕生日おめでとう!!これは俺からのプレゼントだよ!」

 

「嬉しい!ありがとう、春輝さん⋯⋯開けていい?」

 

「もちろん!」

 

璃奈ちゃんは丁寧にラッピングを剥いていき、遂にプレゼントの中身を見て喜んでくれた。

 

「これ⋯⋯私が欲しいって言ってたネコのぬいぐるみ!覚えててくれたの?」

 

「当然!記憶力には自信あるし、それに大切な人が言った事は絶対に忘れないようにしてるから!」

 

「あ⋯⋯ありがとう、春輝さん」

 

「いえいえ、どういたしまして」

 

璃奈ちゃんは少し恥ずかしかったのか、頬が赤くなっていた。俺としても選んだプレゼントが、気に入ってもらえてホッとしている。

 

「それじゃあ、ゲームしよっか!」

 

「うん、今日はたくさん遊ぼう!」

 

璃奈ちゃんの言った通り、今日はたくさんゲームで遊ぶ事ができるように璃奈ちゃんの家に一泊する事になっている。これは璃奈ちゃんのお願いではなく俺からお願いした事で、璃奈ちゃんの両親はやはり忙しいらしく、誕生日でも一緒に過ごす事が出来ないとの事だった。それは璃奈ちゃんも了承しているし、俺も仕方ない事だと思っている。

 

その状況を何とかしたいと思った俺は、璃奈ちゃんと璃奈ちゃんの両親に一泊してもいいかと許可を取り快く了承してもらったというわけだ。

 

なので今日はお泊まり用の荷物もあって、鞄も2つ持ってきている。俺が鞄を璃奈ちゃんの部屋に置きに行っている間に、璃奈ちゃんはゲーム機を起動させてプレイする準備を整えてくれている。

 

 

 

 

 



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序章 虹色との出会い
第1話 虹色との出会い その1


初投稿です!
至らない点が多いかと思いますが長い目で見ていただけると幸いです。
少し長いかもしれないですが第1話をどうぞ!


~季節は春、桜舞うこの頃~

 

 

 

最近、俺は毎日のように不思議な夢を見る。

 

 

 

俺はまだ名前も顔も知らない少女たちと互いに競い、支え合い、大好きをぶつけ合い、そして夢を追いかける日々…その少女たちの中に1人、見覚えのあるような少女がいた。

 

「あれは先輩なのか?」

 

少し靄がかかっていてよくは確認できない。それでも夢の中での事とはいえ、彼女たちといると、胸が高鳴り世界が虹色に輝いて見える。

 

 

まるで、何かの学園物のドラマや小説のような光景...

 

 

 

ピピピッ!

 

 

だが夢は目覚まし時計の音により終わりを迎え、起きると不思議な夢を見たというか感覚でしかない。

 

 

 

「んー、朝か…」

 

目覚まし時計を止めてあくびをしながらリビングへ向かうと

 

「ふわぁ~、おはよう母さん」

 

「はーい、おはようハル君!」

 

自己紹介がまだだったな、俺の名前は大空 春輝(おおぞら はるき)、母さんからはハル君と呼ばれてる。

 

「朝ごはん出来てるわよ」

 

「はーい」

 

リビングではいつも通り母さんが朝食の用意をしてくれているのだが、今日はいつもと違うことに気付いた。

 

「あれ?父さんは?」

 

「パパなら会議があるからもうお仕事に行ったわよ~」

 

いつもは父さんも一緒に朝食をとりながら3人で会話するのだが、今日は早々と仕事に行ったようだ。

ちなみに両親の名前は母さんが大空 希 (おおぞら のぞみ)、父さんが大空 翔太(おおぞら しょうた)だ。

 

 

「そっか、それじゃあいただきます。」

 

「召し上がれ~、ハル君は今日から高校1年生!お母さん入学式楽しみにしてるわ!」

 

「やっぱり母さん入学式に来るのか…⋯」

 

「当たり前じゃない、可愛いハル君の高校入学式よ!、見に行くに決まってるわ~!」

 

「そう言ってくれるのはありがたいけどさ、もう俺も高校生だよ?、そろそろハル君って呼び方直してもらえると嬉しいんだけどなー」

 

「それは嫌よ~、だってハル君はハル君だもの呼び方なんて変える必要ないじゃない?」

 

「あーはい、そうですか⋯⋯まあ期待はしてなかったけど」

 

「物分かりよくてよろしい!」

 

 

そう俺は今日から虹ヶ咲学園にライフデザイン学科の1年生として入学する。

 

 

「ごちそうさまでした。」

 

「はい、お粗末様です。」

 

「それじゃあ着替えてくるよ」

 

再び部屋に戻ると、今日から通うことになる虹ヶ咲学園の新品の制服に袖を通す。

 

「よし、これでいいかな」

 

着替えを終えて鞄をリビングに置いて洗面所へ向かった。歯を磨き、顔を洗い、髪を整える。

出発する準備を終え、リビングへ鞄を取りに行く。

 

「じゃあ、俺は先に学校に行くよ。母さんも来るなら遅れないようにね」

 

「はーい、いってらっしゃい!」

 

「いってきます!」

 

 

 

 

母さんに挨拶をして家を出発した。学校に向かってる途中の通学路ではほぼ男子生徒を見なかった。

 

「先輩の話には聞いていたけど、やっぱり男子少ないんだな、でもせっかく先輩が紹介してくれたし大丈夫でしょ」

 

 

そんな事を考えていたら学校に到着した。そしてクラス分けの貼り紙を確認した。

 

どうやらクラス自体は他の学科の生徒と同じようだ。

 

「これなら他の学科の人とも関わりがありそうだな」

 

指定されたクラスに向かい、中に入るとまだ来ていない人もいるが、見事に女子しかいなかった。

 

 

「先輩が言ってたのはこういうことか、確かに男子いないな」

 

教室内の視線が集まるが気にせず、席に着いて配布されたタブレット端末を確認した。

 

(この学校はタブレット端末を配布するのか、何か凄いな)

 

そんな事を考えてると前の席の人が来たようだ。

クラスを確認した時に、前後の人は覚えておいたので名前は知っている。

 

名前は確か、上原 歩夢(うえはら あゆむ)だったはずだ。

 

 

歩夢「はじめまして、上原 歩夢です。これからよろしくね、大空くん」

 

 

その姿は髪型は横にお団子があり、色は赤っぽくて優しそうな雰囲気だった。

 

 

春輝「おう、俺は大空 春輝こちらこそよろしく!、俺のことは下の名前で呼んでもらえると助かるかな」

 

歩夢「いいけど何かあるの?」

 

春輝「いや、大した理由じゃないんだけど、友達に苗字で呼ばれるのがあんまり好きじゃないからさ」

 

歩夢「うん、わかった。じゃあ春輝くんだね!そのかわりに私も名前で呼んでよ!」

 

春輝「わかった、改めてこれからよろしく、歩夢」

 

歩夢「うん!よろしくね!」

 

???「へー、早速仲良しだねー」

 

突然の声に驚き、声のした方を見ると、ニヤニヤしながらこちらに寄ってくる女子がいた。

 

その子は、歩夢とは対称的で髪型はツインテールで毛先が緑、活発そうな感じに、髪型のせいなのか少し幼くも感じる。

 

 

歩夢「もう!侑ちゃんびっくりさせないの!それと茶化さないの!」

 

侑「ごめんごめん」

 

春輝「侑ちゃん?」

 

歩夢「ああ!ごめん、紹介するね。この子は高咲 侑(たかさき ゆう)ちゃん、私とは住んでるマンションのお部屋がお隣で幼なじみなの!」

 

(幼なじみか、どうりで距離が近い感じだ)

 

侑「はじめまして!高咲 侑です、さっきは驚かせてごめんね!、これからよろしくね!」

 

春輝「気にしてないから大丈夫だよ。俺は大空 春輝、苗字以外で呼んでくれると助かるかな」

 

侑「ん?大空 春輝?どこかで聞いた覚えがある様な気がするけど、どうだったかな~?」

 

歩夢「侑ちゃんの気のせいじゃないかな...」

 

春輝「俺もそう思うよ、2人の名前は初めて聞いたからな」

 

侑「そっか~じゃあ私の気のせいかな、ということで!改めてよろしくハル!」

 

春輝「⋯⋯」

 

歩夢「ちょっと侑ちゃん!いきなりハルは馴れ馴れしすぎないかな?」

 

侑「そんな事ないと思うけどな~、ハルって呼んだ方が親しみやすいし、それに何かカッコいいし!」

 

春輝「ハルって呼んでくれて構わないよ、苗字以外ならって言ったのは俺の方だし、この呼び方には慣れてるからな」

 

歩夢「春輝くんがそう言うならいいけど」

 

春輝「そうだ、2人はどの学科なの?」

 

侑「私と歩夢は普通科だよ、ハルは?」

 

春輝「俺はライフデザイン学科だよ」

 

歩夢「春輝くんはライフデザイン学科なんだね、何か選んだ理由はあるの?」

 

春輝「特に理由という理由じゃないけど、俺さ料理するのが好きだから、それで知り合いの先輩に虹ヶ咲を勧めてもらって、見学して選んだって感じかな」

 

侑「なるほど、お料理をするのが好きだからライフデザイン学科を選んだんだね、ちなみに歩夢もお料理が得意なんだよ!、その中でも歩夢の作る玉子焼きは私の大好物!」

 

歩夢「もう侑ちゃん⋯⋯恥ずかしいよ」

 

(歩夢、赤くなってて可愛いな⋯⋯)

 

春輝「歩夢は見た目通りというか、何というか家庭的なんだな」

 

侑「そうなんだよ!、歩夢はこんなに可愛くて料理だけじゃなくて家事全般できるんだから!将来、間違いなくいいお嫁さんになるよ⋯⋯幼なじみの私が保証するよ!」

 

歩夢「うぅぅ...恥ずかしいってば!それを言うなら侑ちゃんだって可愛いじゃん!、ねぇ!春輝くん!」

 

春輝「そうだな、まあ俺から見れば、2人とも可愛いと思うしモテるんじゃ⋯⋯」

 

侑・歩夢「それはないかな」

 

(えっ?マジかよモテると思ったんだけどな~、ていうか息ピッタリじゃん)

 

侑「それを言うなら、ハルの方がモテるんじゃないかな~?、顔立ち整っててメイクとかすれば、女子に見えるくらい綺麗だよ?」

 

春輝「よく言われるよ、別に悪い気はしないけどね」

 

俺の顔つきは、母さんと父さんを足して2で割ったような感じで、周りが言うにはカッコいいの中に可愛さもある感じらしい。

 

(自分ではカッコいいとは思ったことはないけど、母さんと父さんがわりと美形だから、2人の顔も褒められてると考えるとちょっと嬉しいのだ)

 

侑「じゃあ、モテたりするの?」

 

春輝「まあ、な」

 

歩夢「はいはい、それよりさっき、この学校には先輩に勧めてもらったって言ってたけど、その先輩はこの学校の人なの?」

 

春輝「ああ、2年生の同じライフデザイン学科の先輩だよ、それがどうかした?」

 

歩夢「そうなった経緯を聞いてもいいかな?」

 

侑「あっ!私も聞きたい!」

 

春輝「いいけど、面白くもなんともないよ?」

 

歩夢・侑「大丈夫!」

 

(やけに食いついてくるな、こういう時は息ピッタリなのは幼なじみ故にかな)

 

春輝「じゃあ話すよ、俺が特にやりたいことなくて進路に迷ってる時にさ、小,中学校が一緒で仲良かった先輩に相談したんだよ。そうしたら虹ヶ咲を教えてくれてさ、自分もこの学校でお料理とかの勉強してるからどう?って」

 

歩夢「そうだったんだね、じゃあそれが入学した理由?」

 

春輝「そうだね、実際に通ってる先輩の話だったし、この学校は学科とか多いから、進路には悩まなさそうかなって思ったからね」

 

侑「なるほどね、ちなみにその先輩ってやっぱり女の人?」

 

春輝「そうだけど?やっぱりってなんだよ」

 

侑「何となくそう思っただけだよ、特に深い理由とかないから!」

 

春輝「そうか、ただ先輩には感謝してるよ。虹ヶ咲を勧めてくれなかったら進路に悩み続けてたし、こうして2人に出会ってなかったからね」

 

歩夢・侑「そうだね!」

 

こうして3人で笑いあっていたら、放送が流れた。内容は間もなく入学式が始まるとのことなので、移動を開始してほしいという旨の放送だった。

 

春輝「もうこんな時間になってたか」

 

歩夢「いよいよだね!入学式!」

 

侑「これから3年間の学校生活が始まる!」

 

春輝「よし!じゃあ移動しようか!」

 

歩夢・侑「うん!」

 

こうして俺たちは会場になっている体育館に移動を始めた。

 

会場に着いて間もなく入学式が始まり、予定通りに終了した。入学式で分かったことは、今年の1年生は男子がかなり少ないということが分かった。

 

 

 

 

入学式が終わりホームルームも終わって、今日の日程は終了したので帰る準備をしていたところに、突然の訪問者が来た。

 

侑「ハル?ちょっと来てもらってもいい?」

 

春輝「おう、どうした?」

 

侑「彼がハルに用事があるみたいだよ?じゃあ私はこれで!ごゆっくり~」

 

???「良かったよ!隣のクラスに男子がいてくれて!俺のところも、俺以外女子しかいなかったから心細かったんだよ」

 

春輝「お、おう...事情は分かったから、とりあえず自己紹介しない?俺は大空 春輝だ、気軽に呼んでくれ」

 

秋夜「悪い、ついテンションが上がっちまった、改めて俺は宮本 秋夜(みやもと しゅうや)だぜ、よろしくなハル!俺のことも気軽に呼んでくれ!」

 

春輝「じゃあ、秋夜だからシュウかな。ちなみに俺はライフデザイン学科だ」

 

秋夜「その呼び方気に入った!俺は国際交流学科だ!」

 

こうして俺とシュウは友達となり、放課後は侑と歩夢も交えて4人で連絡先を交換したり、雑談をしてこの日は帰宅した。

 

ちなみにシュウは、アニメが好きとのことなので今後とも、仲良くやっていけそうだと思った。

 

後に、周りからは春秋コンビなどと呼ばれるようになった上に、さらに一部の女子たちには⋯⋯この先は言わないでおくとしよう⋯⋯

 

 

帰宅し、リビングに顔を出すと母さんが、もの凄い勢いで寄ってきた

 

希「入学式見てたわよ!、ハル君すっごくカッコ良かったわよ!、お母さん思わず声出ちゃいそうだったもの!」

 

春輝「えぇ⋯⋯ホントよく声出さないで耐えてくれてありがとう、助かったよマジで⋯⋯あんなとこでハル君なんて呼ばれたらどうなってたか⋯⋯」

 

翔太「ただいま!」

 

希「おかえりなさい!いつもお仕事お疲れ様~パパ!」

 

翔太「いつもありがとな!ママ!」

 

春輝「父さんおかえり⋯⋯って、またこれだよ」

 

 

我が家では父さんが帰宅すると、毎回恒例のようにこのやり取りが始まる。

ちなみに、呼び方は互いにパパ、ママである、昔は俺もパパとママと呼んでいたが、流石に呼び方を変えた。

 

正直、俺はずっと見てるからいいが、他人に見られたらと思うと⋯⋯いや考えるのはやめよう

 

 

やや呆れ気味にやり取りを見ていると、何かを思い出したかのように、母さんがビデオカメラを持ってきて映像を流した

 

希「これ見て!」

 

翔太「これって今日の入学式のじゃないか!、くぅ!パパも行きたかったなぁ!重要な会議さえなければ⋯⋯」

 

春輝「はいはい、相変わらずだね、それで母さんは何を見せたいの?」

 

希「母さんが見せたかったのはこれよ、これ!この一緒に会話してる女の子!それも2人よ!誰なの!?」

 

翔太「ホントだ!春輝、初日に女の子2人と友達になるなんてやるなぁ、隅に置けないなぁ!ハハハ!」

 

春輝「げっ⋯⋯嘘だろ、あの時撮られてたかよ⋯⋯」

 

希「どうなのハル君!?」

 

春輝「説明するしかないか⋯⋯こっちの赤っぽい髪にお団子してるのが、上原 歩夢、髪型がツインテールで毛先が緑の子が、高咲 侑だよ」

 

翔太「赤っぽい髪でお団子してるのが歩夢ちゃんで、ツインテールの子が侑ちゃんね~なるほど、なるほど。で、春輝から見て2人はどうなんだ?ん?」

 

春輝「そりゃ、2人とも凄く可愛いと思うよ、歩夢は優しくて家庭的だって聞いたし、侑だって見た感じの通りで、元気でノリがよくてフレンドリーな女の子で、2人とも魅力的だと思うよ...はぁ、こうなるからしばらく隠そうと思ったのに、初日で見つかるとはね…」

 

希「でー?どっちが好きなの?、歩夢ちゃん?侑ちゃん?それとも両方?」

 

春輝「もう!そんなじゃないってば!」

 

そう捨て台詞を吐いて2階の自室に逃げ込んだ

 

翔太「逃げちゃったか」

 

希「少しからかい過ぎたわね」

 

 

 

自室にて

 

 

「あーーー!めっちゃ恥ずかしい!!穴があったら入りたい!」

 

枕に顔を埋めてなが叫んでいると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 

希「ハル君、聞き忘れたことがあるんだけどいいかしら?」

 

春輝「いいよ⋯⋯」

 

ドアを開けて部屋の中へ入ってくるのを待って話を続ける

 

春輝「でもさっきの続きなら答えないからね!」

 

希「違うわよ~ごめんね、ママたちからかい過ぎたわ。それより彼方ちゃんには挨拶できたの?」

 

春輝「今日は時間がなくて探しに行ったけど、もう帰ってた後みたいだったから挨拶はできなかった。」

 

希「それは残念だったわね~、彼方ちゃんに勧められて学校を見学して選んだから、挨拶くらいしないとね?」

 

春輝「うん、分かってるよ。明日のオリエンテーションで、彼方先輩には会うはずだからその時に挨拶するよ」

 

希「それなら大丈夫ね、じゃあね~」

 

そう言い残して母さんリビングに戻った。

 

「明日は彼方先輩に挨拶しないとな、これからまた学科の先輩と後輩になるわけだし虹ヶ咲を勧めてくれた恩もあるし」

 

 

こうして高校生活1日目は新しい出会いがあったり、両親にからかわれたりと賑やかな1日となり、夜には落ち着きを取り戻し終わっていった⋯⋯

 

 

 

 




今回はここまでです!第1話読んでいただきありがとうございます

様々な意見はあるかと思いますが、目を通してくださりありがとうございました!

まずは皆との出会いということでアニガサキ1話より1年前の春です。
一応、出会いを含めた過去は話数少なめにしようと思いますが、もしかすると多くなってしまうかもしれません。
その時は見ていただけると幸いです。

感想、読了報告などお待ちしております!


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第2話 虹色との出会い その2

遅くなってしまい、すみませんでした!

今回は、あの2人が登場します!(だいたい分かってるとは思いますが笑)

最近、寒くなってますが、皆さん体調には気を付けて過ごしてください

それでは、第2話をどうぞ!!





~入学式の翌日~

 

 

「おはよう」

 

「ハル君、おはよ~、今日もしっかり起きてきたわね!」

 

「おはよう、春輝!昨日は先に仕事に行ってしまって、一緒に食べれなかったから、今日は一緒に食べれるぞ!」

 

「わかったよ、先に一旦、顔洗ってくるね」

 

「ハル君、コーヒー飲む?」

 

「飲もうかな、砂糖1個で」

 

「りょ~か~い」

 

洗面所で顔を洗い、リビングに戻り、自分の椅子に座ると母さんも、コーヒーを淹れたマグカップを持って、椅子に座った。

 

「はいこれ、ハル君のね」

 

「うん、ありがとう」

 

「よし!食べるか!」

 

「いただきます!」

 

「召しあがれ~」

 

こうして3人一緒に食べ始め、朝の情報番組を見ながら、会話を弾ませながら朝食の時間を楽しんだ。

 

朝食を楽しんだ後は、それぞれ準備や後片付けを始める。これがいつもの光景なのだ。

 

父さんはいつも準備が終わると、すぐに家を出る。今日も、準備が終わり、出発しようとしていた。

 

「よし!じゃあ、行ってきます!」

 

「いってらっしゃい!」

 

俺はまだ時間があるので、後片付けを手伝って時間になるまで、ゆっくりしていると母さんが話しかけてきた。

 

「まだ昨日しか行ってないけど、学校生活楽しくなりそう?」

 

「そうだね、まだこれから先、色々あると思うけど楽しくなりそうだよ」

 

「侑ちゃんと歩夢ちゃんとも友達になったからね~?」

 

「もう!事実だけど、そこは突っ込まないで!それに秋夜とも友達になったんだから!」

 

「そうだったわね~、きっとこれからも、お友達が増えるとママはそう思ってるわ。皆のことを大切にするのよ。」

 

「もちろんだよ!」

 

(母さんが、これからも友達が増える気がすると言ったけど、なんとなくだけど分かる気がする...)

 

ふと、時計を見ると家を出る時間になりそうだった。

 

「俺もそろそろ学校行くね」

 

「分かったわ。いってらっしゃい、ハル君!」

 

「行ってきます!」

 

 

こうして、今日もまた1日が始まる。

 

 

 

 

学校に到着して、教室に向かうと二人はすでに来ていた。

 

「二人とも、おはよう!」

 

「おはよう、春輝くん」

 

「おはよう!ハル」

 

二人に挨拶をすると席について、準備をしながら会話に参加する

 

「今、何を話してたの?」

 

「今日のオリエンテーションの話だよ」

 

「オリエンテーションは、ほとんど別行動になるな」

 

「そうだね、普通科はそんなに長くはならないみたいだけど、他の学科は長くなるところは、長くなるみたいだね」

 

「間違いなく、うちの学科は長くなるだろうな⋯⋯大まかに分けても、調理関係とファッション関係だからな」

 

「長くなりそうだね、一通り学科の説明を聞いてから、どっちにするか決めるもんね」

 

「でも、俺は調理関係の方って決めてるから迷うことはないかな」

 

「ちなみに今日は、お昼一緒に食べれそう?」

 

「ごめん!、今日はちょっと用事があるから、一緒に食べれそうにないんだ、明日からなら大丈夫だから!」

 

「ううん!謝らなくても大丈夫だよ!じゃあ、明日から楽しみにしてるね!」

 

「じゃあ、今日は二人で食べようか!」

 

「うん!」

 

三人で会話してると、廊下から秋夜がやってきた。

 

「三人とも、おはよう!」

 

「「「おはよう!」」」

 

挨拶をしたところで、秋夜にも同じことを聞くことにした。

 

「シュウ、そっちの学科は、オリエンテーション長くなりそうなの?」

 

「ああ、こっちも長くなりそうだぜ」

 

「国際交流学科は確か、日本語の他に二ヶ国語だったよね?」

 

「そうなんだよ、英語は決まってるんだけど、もう1つをどうしようかなって考えてるところだ」

 

「国際交流学科も大変そうだね⋯⋯」

 

「俺も好きで選んだから、これくらいは覚悟してたさ!」

 

話を弾ませていると、ホームルーム前のチャイムが鳴った。

 

「おっと時間だな、教室に戻るよ。じゃあな!」

 

「またね」

 

「おう」

 

こうして秋夜は自分の教室に戻っていった。

 

「私も席に戻るね」

 

「おう」

 

「うん、またあとで」

 

そして、朝のホームルームが始まり、終わってから二人に声をかけてから、荷物を持ってライフデザイン学科の教室へ向かった。

 

 

 

「えっと、ライフデザイン学科の教室は⋯⋯あった、ここだな」

 

教室に入ると席は決まってないらしく、空いてる窓際の席に座った。

 

今日のオリエンテーションは上級生が担当するようで、調理系は彼方先輩が担当と配られた資料には、書いてあった。

 

(これで彼方先輩を探さなくても挨拶できそうだな)

 

ライフデザイン学科も、複数のクラスに別れてるのだが、男子は俺だけらしい。

 

(またここでも男子いないのか⋯⋯皆、他の学科なのかー)

 

そんな事を考えていたら、廊下の方から話し声とともに、彼方先輩がやってきた。

その後ろにはもう一人先輩がいた。名前を確認するために資料を見ると

 

(朝香 果林(あさか かりん)先輩か、彼方先輩とは仲が良さそうに見える)

 

二人は教室に入ってきて、ボードの前に立つと自己紹介を始めた。

 

「1年生の皆おはよ~。2年生の近江 彼方(このえ かなた)です。今日はよろしくね~、私は調理関系の担当だよ」

 

(相変わらず、彼方先輩は雰囲気がゆるいなー)

 

続くように果林先輩も自己紹介を始めた。

 

「1年生の皆おはよう。私は同じ2年生の朝香 果林よ、今日は1日よろしくね。私はファッション関係を担当するわ」

 

(果林先輩は、落ち着いた雰囲気に余裕がありそうな人だな。頼れるお姉さんって感じがする。)

 

自己紹介を終えると一通り、クラス全員の顔を確認した。

 

「今年もうちの学科は多くの人がきたね~」

 

「そうね、この学校でも人気のある学科の1つだものね、それに今年は、男子の生徒もいるみたいよ」

 

そう言うと果林さんは、こちらを見て軽く微笑んだ。

 

(ん?こっち見て笑った?考えすぎか)

 

「それじゃあ、これからオリエンテーションを始めるわ、号令を掛けてもらいましょう」

 

果林先輩は、手元の名簿を確認して、名前を読み上げた

 

「では大空 春輝くん、号令をお願いするわ」

 

(えっ?指名された?とりあえずやるか)

 

「分かりました。起立!よろしくお願いします!」

 

一同「よろしくお願いします!」

 

「着席」

 

号令が終わると、そのままオリエンテーションが始まった。

 

先にファッション関係の説明から始まり、果林先輩が一通りの説明を終え、質問があるか確認をした時に、1人の女子生徒が手を上げた。

 

女子生徒「直接、関係あるわけではないのですが、果林先輩がこのファッション関係を選んだことに、読者モデルをしてることが理由ですか?」

 

質問を聞いていた俺は、果林先輩が読者モデルをしていることに驚いていた。

 

(えっ、果林先輩って読者モデルなの?マジで?女子は驚いていないということは、女子には有名人なんだな、知らなかった)

 

「そうね、読者モデルになったのは、私がこの学校に入学してからだけど、元々からファッションには興味があったから、この学科のファッション関係を選んだわ、質問ありがとうね」

 

果林先輩は、丁寧に質問に答え、質問してくれたことにもお礼を言った。

 

その後は、質問はなく、お昼休みを迎えた。

 

1人でお昼を食べるのも、アレだったので果林先輩の情報収集がてら、同じクラスの女子たちと食べることにした。

 

女子たちから話を聞いてわかったのは、果林先輩は女子たちにとっては憧れの人で、サインを貰う人もいるとか。

 

果林先輩が載ってる雑誌を持ってた子がいたので、見てみたが、俺が見てもモデルとしての、果林先輩はかっこよく見えたし、憧れるのも分かると思った。

 

情報収集しながら、昼休みを過ごしていたら、あっという間に昼休みは終わった。

 

お昼休みが終わると、彼方先輩が調理関係の説明を始めた。

 

果林先輩の説明をよく聞いていたが、彼方先輩の説明は、選ぼうとしてる調理関係なので、よりよく聞いた。

 

質問の確認をするが、全員が特に疑問もなく、理解したようなので質問は出なかった。

 

 

そして、オリエンテーションは終了した。

 

 

放課後になり、荷物をまとめた俺は、先輩を追いかけた。

 

 

「彼方先輩!待ってください!」

 

「お~、ハルくんどうしたの~?」

 

「あら、確か⋯⋯大空 春輝くんよね?」

 

「あっ、果林先輩、初めましてです。俺はライフデザイン学科、1年の大空 春輝です、これからよろしくお願いします!」

 

「ええ、私はライフデザイン学科2年の朝香 果林よ、これからよろしくね」

 

「彼方先輩を呼び止めたのは、先輩に勧められたこの学校に入学できたので、挨拶しようかなと思って」

 

「そうだったんだね~、気にしなくても良かったのに、ありがとうね」

 

「もし時間あるなら、廊下よりカフェテリアに移動して、話をしたらどうかしら?これから、彼方と行くつもりだったし」

 

「おお!、果林ちゃん名案だよ~!」

 

「はい!俺も、大丈夫です!」

 

「なら、決まりね」

 

果林先輩の提案で、俺たちはカフェテリアに移動し、窓際のテーブル席に座った。

 

「彼方先輩と果林先輩って、こう言うと悪いですけど、意外な組み合わせな気がしますね」

 

「まあ、そう思えるかしらね」

 

「でも、果林ちゃんとは、入学してすぐからの付き合いだからねぇ~」

 

「何か友達になる、きっかけがあったんですか?」

 

「きっかけ、というほどではないけど」

 

「お互いに、ほっとけない感じだったかな」

 

「そうだったんですね」

 

「彼方は、いつもどこかで寝てたりするし、ふわふわしてる感じだから、ほっとけなかったのよ」

 

「果林ちゃんの方は、気付くとよく一人でいるし、クールな雰囲気のわりに、少し抜けてるような所があるからね~」

 

「えっ!?そうなんですか?意外だな~」

 

「例えばだけど、この間も⋯⋯むぐっ」

 

彼方先輩が、話し出そうとした瞬間、果林先輩が、彼方先輩の口を手で塞いだ。

 

「余計なことは、言わなくていいのよ!彼方!!」

 

「ぷはっ⋯⋯ごめん、ごめんついね?」

 

「わざと言おうとしたんじゃないの?」

 

「そんな事ないって~」

 

「ふふ、果林先輩ってクールに見えますけど、可愛いところあるんですね」

 

「でしょ~、こういうところが、果林ちゃん可愛いんだよ~」

 

「ちょっと!二人とも、どういうことよ!」

 

「今みたいに照れてるところが、可愛いんですよ」

 

果林「別に、照れてなんかいないわよ!、それに私が一人でいるのは、あまり大勢で騒ぐのは得意じゃないからよ」

 

俺は、果林さんの言葉に言ってることとは、まるで逆のように、果林さんの顔に、寂しさを感じた。

 

「よし!」

 

「どうしたのよ、急に?」

 

「果林先輩⋯⋯いや、果林さん!俺と友達になってください!」

 

「えっ?ちょっとどういうことなの?」

 

「どういうことも何も、俺が友達になりたいと思ったからですけど?、あとは余計なお節介かもですけど、大勢が好きじゃないなら、彼方先輩や俺となら、こうして騒げるじゃないですか」

 

「お~、確かにそうだね~、果林ちゃん、お友達になってあげたら?」

 

「うふふ、春輝、あなたって面白いわね。いいわよ、友達になりましょう」

 

「じゃあ、改めて果林さんよろしくお願いしますね!」

 

「こっちこそよろしくね、春輝」

 

「はい!あっ、そうだ!、彼方先輩のことも、彼方さんって呼んでもいいですか?」

 

「もちろんだよ~!、ハルくんとはもう友達なんだから、もっと早く彼方さんって呼んでほしかったな~」

 

「ごめんなさい!、年上なんで一応、先輩の方がいいかなって思ってたんですけど、俺には、やっぱり合わなかったです」

 

「うんうん、ハルくんは、気軽な呼び方の方が合ってるよ、ね?果林ちゃん?」

 

「何でここで私に、振るのよ!まあ、確かにそう思うわね」

 

「お二人とも、これからよろしくお願いします!何かあった時は、頼りにします!」

 

「ええ、こちらこそ、相談したい時は私や、彼方を頼ってもらっていいわよ」

 

「私たちも、ハルくんのこと頼りにしてるからね」

 

この後、連絡先を交換したり、お喋りしながら、ゆっくりしていたら、あっという間に夕方になっていた。

 

下校時刻も迫ってたので、果林さんとは寮まで、彼方さんとは、途中まで一緒に帰った。

 

 

夜になって、夕食時

 

「ハル君、彼方ちゃんに会えた?」

 

「うん、会ってちゃんと挨拶してきたよ、それに彼方さんのお友達で、同じ学科の先輩にも、挨拶してきたよ」

 

「おー、もう先輩にも知り合いができたのか、これからの学校生活楽しくなりそうだな!」

 

「そうね~ハル君の学校生活が楽しくなって、色んな話が聞けることを、楽しみにしてるわね!」

 

「ま、まあ楽しみにしててよ、アハハ…」

 

「で、その先輩はどんな人なの?」

 

「名前は、朝香 果林で、髪型はウルフカットヘアーっていうのかな、それで青みがかったような黒髪で、顔立ち整ってて、可愛いというより美人な人で、あと読書モデルもやってるらしいよ」

 

「そんな人と、知り合いになるなんて凄いじゃないか!」

 

「そうね~、ハル君には昔から人を惹き付ける魅力があるって、ママとパパは知ってるからね~」

 

「そんな、俺はただ普通に、友達になっただけだよ、そんな魅力なんてあるわけないって」

 

「そういう魅力ってのはね、自分では分からないものなのよ、ね、パパ?」

 

「そうだな!、春輝にはそういう魅力があるから、周りに友達が多いんだぞ!」

 

「そういうものなのかな~」

 

今日の話をしながら、夕食を食べた。

 

 

 

そして、夕食を食べ終わり、後片付けをして部屋に戻った。

 

「よし、明日からは、いよいよ授業が本格的に始まるな、気合い入れ直していこう!」

 

(それにしても、人を惹き付ける魅力ね~、そんなことあるのかな)

 

部屋に戻ってからも、母さんに言われたことを考えたが、やはり実感はなかった。

 

この先、まだたくさんの出会いがあることを、今の俺が知るはずもなかった⋯⋯

 

 




ということで、今回はここまで!

新たに、果林ちゃん、彼方ちゃんが登場しました!
春輝の周りには、どんどん女の子が増えていきます笑

次回は、歩夢、侑、秋夜との話が、メインになる予定です。

感想、読了報告、評価、待ってます!



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第3話 始まる日常/部活どうする?

遅くなってしまって申し訳ありません!

今までより、一番長くなってしまいました、今回は予告通りに春輝、秋夜、歩夢、侑がメインになります!

それでは3話をどうぞ!



~オリエンテーションの翌日~

 

朝食を済ませ、部屋で準備をしていた

 

春輝「今日から、いよいよ授業が始まる! はりきっていこう!」

 

虹ヶ咲に入学してから、初めての授業、昔から成績は良い方ではあったので、このまま維持をしていきたいと思い、気合いを入れたのだ。

 

春輝「忘れ物はないな、よし!」

 

俺は、鞄を持って2階の自室から、1階のリビングに向かい、今日の自分の弁当を、母さんと準備するために、リビングに鞄を置いて、キッチンに足を運んだ。

 

春輝「母さん、手伝うよ」

 

希「え?ハル君どうしたの?」

 

春輝「どうしたというか、弁当作りくらい一緒にしようかと思ったんだけど⋯⋯」

 

希「本当!?、ハル君と一緒にお弁当を作れるなんてママ感激しちゃう!!」

 

春輝「まあ、毎日とはいかないと思うけど、できる時は作ろうかなって、それに玉子焼きの作り方を、マスターした訳じゃないからさ」

 

希「そうね~、でも焦らなくても大丈夫よ、ハル君も、あともう少しでマスターできるんだから!」

 

春輝「うん、母さんと父さんみたいに、美味しいのを作れるように頑張るよ」

 

希「いつか作れた時は、ママとパパに食べさせてね?」

 

春輝「ああ!期待しててよ!!」

 

 

そんなこんなで、玉子焼きを作り始めてから少し経ってから母さんが、思い出したかのように話しかけてきた

 

希「そうだわ!、今度、久しぶりにハル君の作るオムレツが食べたいな~」

 

春輝「それこそ、どうしたのさ急に?」

 

希「玉子焼きの話をしてたら、思い出したのよ!、パパと前にまた食べたいねって話してたのを!」

 

春輝「へー、そうだったんだ。じゃあ、父さんも休みの日とかにでも作ろうかな」

 

希「やったぁ!パパにも教えておかなくちゃ!」

 

春輝「そんなに、俺の作るオムレツ美味しいの?」

 

希「もちろんよ!ハル君が得意なだけあって、お店で出るのと同じか、それ以上よ!」

 

春輝「それは、大袈裟じゃないかな~」

 

そう、俺はオムレツを作るのが得意なのだ、とはいえ普通に作ってるだけなので、特に何か工夫をしてるわけでもないのだが

 

その代わり、母さんと父さんが作る、家族の味と呼ぶべき、玉子焼きをまだマスター出来てないのだ、なので時間がある時は、マスター出来るように作っているのだ

 

春輝「よし、出来た!食べてみて」

 

希「それじゃあ、いただきます!」

 

春輝「どうかな?」

 

希「うん、前より近くなったじゃない!!あと少しよ!」

 

春輝「本当!?よっしゃ!!」

 

希「て、もうそろそろ行く時間よ!」

 

春輝「うわっ、ヤバい時間見てなかった!急いで、片付けなきゃ!」

 

希「大丈夫よ、後はママに任せなさ~い!、行っていいわよ!」

 

春輝「いいの?、母さん、ごめん助かる!」

 

急いで、作った弁当を鞄に入れて、準備を完了した

 

春輝「じゃあ、行ってきます!!」

 

希「いってらっしゃい、気を付けてね~」

 

春輝「は~い!」

 

少し、急ぎ気味で家を学校に向かった

 

到着したのは、いつもより10分遅れ、登校完了時間の15分前だった。

 

春輝「少し走ったから、何とか15分前には着いたか~」

 

教室に行くと、すでに三人が集まって会話していた

 

春輝「おはよー」

 

秋夜「おはー!」

 

侑「おはよー、ハル」

 

歩夢「おはよう、春輝くん、今日はいつもより遅かったけど、何かあったの?」

 

シュウから、順番に挨拶をしてきて、歩夢には遅かった理由を聞かれた

 

春輝「実は、母さんと一緒にお弁当作ってたら、時間を気にするのを忘れてて、遅れたんだよ」

 

侑「朝からお弁当作りしてたの!?、凄いなー、私なんかお母さんにお願いしてるのに、歩夢はよく作ってるよね?」

 

歩夢「うん、ママと一緒に作ってるよ」

 

秋夜「あー、俺も、お母さんに任せてるな」

 

春輝「ちょうど、作ってる側と作ってない側で別れたな」

 

秋夜「そうだな、俺は朝が苦手だから、弁当作るのはちょっと辛いなぁ」

 

春輝「俺もよく作るわけじゃないし、作れそうな時だけだよ」

 

侑「でも、作ってない側からすると、作ってるってだけで偉いと思うもん」

 

秋夜「高咲さんの言うとおりだな」

 

歩夢「二人とも…、ところで春輝くん、お弁当は何を作ってきたの?」

 

春輝「作ってきたって言っても、玉子焼きしか作ってないけどな、他は母さんが作ってくれたから」

 

歩夢「玉子焼き作ってきたの!?、私も今日お弁当に、玉子焼き作って入れてきたんだよ!」

 

春輝「おー!こんな偶然もあるもんだな」

 

侑「ハルも、玉子焼き作るんだね~、玉子焼き作るの得意なの?」

 

春輝「いや、俺が玉子焼きを、作るのは母さんと父さんの玉子焼きと、同じ味を再現できるようになるために、作ってるんだ」

 

侑「なるほど…、家族の味ってことか」

 

春輝「家族の味というか、母さんと父さんの思い出の味らしいよ」

 

秋夜「思い出の味か、何かいいなそういうの」

 

歩夢「そうだね、きっと、いつの日にか春輝くんの思い出の味にもなるのかもね」

 

春輝「まあ、そんな日が来ればいいけどな…」

 

侑「ちょっと照れてる?」

 

春輝「いやいや!べ、別に照れてないから!!」

 

侑に見抜かれた俺は、思わず言い訳してしまった

 

その直後、始業のチャイムが鳴った

 

春輝「ほら、チャイム鳴ったぞ、戻った方がいいぞ」

 

秋夜「おっと、じゃあまた後で」

 

侑「私も戻るよ」

 

春輝「おう」

 

歩夢「うん」

 

二人が戻って、直に先生が入ってきて、HRが始まり、その後、1限から入学してから、始めての授業が始まった

 

授業は1限から4限まであり、途中で学科の授業もあったが、何事もなく終わり、昼休みを迎えた

 

春輝「これで午前の授業は終わりだな」

 

歩夢「じゃあ、皆でお昼食べよっか!」

 

侑「そうしよう!」

 

秋夜「おっすー、お疲れー」

 

三人「お疲れー」

 

合流した俺たち四人は、教室でご飯を食べることにした

 

各々、持ってきたお弁当を広げる

 

春輝「そうだ、作ってきた玉子焼きを、皆にも食べてもらいたいから、多く作ってきたんだけど、よかったら食べてくれない?」

 

侑「いいの!?朝、話してた時から少し気になってたんだよね」

 

秋夜「おっ!じゃあ、いただこうかな」

 

歩夢「じゃあそのかわりに、私の玉子焼きをあげるね」

 

春輝「いいの?」

 

歩夢「うん、私も今日は少し多く作ってきたから、皆で食べよう!」

 

侑「じゃあ、玉子焼きの食べ比べができるね!」

 

秋夜「どっちの玉子焼きも、美味しそうだな」

 

春輝「それじゃあ、食べるか」

 

四人「いただきます!」

 

春輝「まずは、俺のから食べてみてよ」

 

三人「「「いただきます」」」

 

三人が食べている間を、俺はドキドキしながら感想を待った、そして、一番最初に感想を言ったのは歩夢だった

 

歩夢「うん!凄く美味しいよ!これでまだ、練習中とは思えないくらいだよ?」

 

侑「そうだよね!歩夢の作る、玉子焼きも甘い味付けで、美味しいんだけど、これはまた歩夢のとは、別の甘さを感じるよ!」

 

秋夜「正直、お母さんが作るのより美味しいかもしれねぇ」

 

歩夢「何ていうのかな、優しい甘みって言えばいいのかな?そんな甘さがするよ」

 

春輝「あれ?意外と好評だな」

 

侑「いやだって普通に美味しいよ?お店で売っててもここまでのって中々ない気がするけどなー」

 

春輝「さすがに、それは大袈裟じゃないか?」

 

歩夢「でも、本当にそれくらい美味しいよ!」

 

秋夜「これなら、毎日食べてもいいくらいだぜ」

 

春輝「多分、それは母さんたちのレシピが良かったんだよ、でも美味しいなら良かったよ」

 

歩夢「じゃあ、次は私のをどうぞ」

 

三人「「「いただきます」」」

 

侑「うん!これだよこれ!歩夢の味」

 

秋夜「確かに、同じ甘みのある玉子焼きだけど、違いがある」

 

春輝「美味しい…俺が作るのと違って、しっかりとした甘みがある、侑が好きな理由も分かるかも」

 

侑「でしょ!?ほら、二人も美味しいって言ってるよ?」

 

歩夢「うん!喜んでもらえて良かったよ!」

 

秋夜「ところでさ、話が変わるんだけど、三人は部活ってどうするよ?」

 

シュウが、話題を切り替えたことにより、玉子焼きの話から部活の話に移行した

 

春輝「あー、部活ね~⋯⋯これと言ってやりたいこともないから、入る予定はないかな~」

 

侑「私と歩夢も、特に入る予定ないかな」

 

歩夢「そうだね」

 

春輝「シュウは、入る予定あるのか?」

 

秋夜「おう!俺は、演劇部に入るつもりだ!」

 

春輝「演劇部かー、演劇に興味あるの?」

 

秋夜「将来、役者になりたいと思ってるから、今のうちにと思ってな!中学の時も演劇部に所属してたし」

 

春輝「将来が楽しみだな」

 

侑「今からサインもらっておいた方がいいかな~?」

 

秋夜「それはさすがに気が早いって」

 

歩夢「でも、叶えるつもりなんだよね?」

 

秋夜「それはまあ…そうだけどさ」

 

春輝「そっか、シュウは、もう将来を考えてるんだな…俺はまだどうしたいか分からないな」

 

侑「私もまだ将来は決まってないかな~}

 

歩夢「私も決めてないし、これからゆっくり決めていけばいいと思うよ」

 

秋夜「そうそう、焦っても決めることじゃないからな、きっとハルたちにもやりたいことが見つかるはずだ」

 

春輝「そうだといいな」

 

この後も、会話をしながら昼休みを過ごし、午後の授業が始まった

 

そして6限目の体育のために俺とシュウは、更衣室で着替えていた、ちなみに体育は隣のクラスと合同だ

 

秋夜「まさか、授業が始まったその日に体育があるなんてな」

 

春輝「ああ、ご飯の後って眠くなるんだよな~ふわぁ…」

 

秋夜「あー、分かるわ、それ」

 

春輝「まあ、ボーッとしてたら怪我するからな~、気合い入れ直すか」

 

秋夜「そうだな~、にしてもハルって体細いと思ったけど、意外と鍛えてる感じだな」

 

春輝「まあな、体を動かすのは嫌いじゃないからな、そういうシュウこそ、役者目指してるだけあって鍛えてるだろ?」

 

秋夜「まあな」

 

春輝「んー、こういう会話って女子とかがしてるイメージあるよな」

 

秋夜「確かに⋯⋯アニメとかでもだいたい女子の会話のイメージあるな」

 

春輝「だろ?だからといって、男子がしないわけではないけどな」

 

秋夜「この通り、俺とハルは会話したからな」

 

春輝「違いないな」

 

秋夜「そもそも女子とかこういう会話するのか?」

 

春輝「さあな?してたところでって話だ」

 

秋夜「そうだな、でも想像するとちょっと気になるな…」

 

春輝「気にならないと言えば、嘘になるな…」

 

秋夜「あー、やめやめ!考えるのは野暮だな…」

 

春輝「だな⋯⋯って、もうじき集合時間だ、早くグラウンドに行くぞ!」

 

秋夜「うおっ!やっば!急げ、急げ!!」

 

俺とシュウは、猛ダッシュでグラウンドへ移動し、何とか遅れずに済んだが、歩夢と侑にギリギリになった理由を尋ねられて、ヒヤッとした⋯⋯

 

授業が始まり、軽くストレッチを終えてから、今日は50mのタイム計測をするらしい

 

先に、女子から走り、男子が走る、といっても、俺とシュウしかいないが…

 

俺たちは、女子が走ってる間はタイム計測の手伝いをしていた、途中で歩夢と侑のタイムも計測したが、平均といったところだった

 

そして、女子全員が走り終え、順番が来た

 

秋夜「ハルは足速かったりするのか?」

 

春輝「一応、中学までは体育祭のリレー選手だったからな、シュウはどうだ?」

 

秋夜「奇遇だな、俺もだ」

 

春輝「なら、いいタイムが期待できそうだな」

 

秋夜「ハルもな」

 

お互い、スタート位置に立ち、計測係は、今度は歩夢と侑がやってくれるらしい

 

先生「二人とも準備はいい?」

 

春輝「大丈夫です」

 

秋夜「いつでもいいですよ」

 

先生「なら、始めるよ」

 

先生が、よーいの掛け声のあと、スターターピストルを鳴らし、俺たちは同時に、走り出した

 

お互い、ほぼ同時にゴールし、タイムを確認した

 

歩夢「春輝くんは、6.60だよ!」

 

侑「秋夜くんも、6.60だよ!」

 

二人「「マジか!」」

 

春輝「まさか、同タイムとはな⋯⋯」

 

秋夜「ああ…さすがに予想外だったぜ」

 

春輝「でも、お互い良かったんじゃないか?」

 

秋夜「そうだな!」

 

侑「いや~二人とも速いね!これで、二人とも運動部に入ってなかったなんて、少し信じられないよ」

 

歩夢「うん、本当に速くて驚いたよ」

 

春輝「俺もシュウも、速い自信はあったからね」

 

秋夜「そういうことだ」

 

直に体育が終わり、今日の全ての授業が終わり放課後、四人で下校した

 

 

 

家に帰ってからは、いつも通り家族と夕食を食べ、のんびりしたり、課題をして過ごし、眠りについた

 

 

~授業が始まってから、2週間が過ぎたある日~

 

 

いつも通り、学校へ行く支度を終えて、ゆっくりしていた俺に、母さんが声を掛けてきた

 

希「ハル君、今日は傘を持っていった方がいいわよ~」

 

春輝「えっ?外は快晴で、天気予報も1日晴れの日だったはずだけど?」

 

希「ママの占なったら、今日は雨が降るって結果が出たのよ」

 

春輝「本当?確かに、母さんの占いは当たるからな~、分かったよ折り畳み傘を入れて行くよ」

 

希「そうした方がいいわよ」

 

春輝「ありがとうね、母さん」

 

希「いいのよ」

 

春輝「じゃあ、行ってくるよ」

 

希「いってらっしゃい」

 

俺は家を出て学校に向かった

 

向かってる途中でも、天気のことを考えていた

 

(母さんの占いは当たるけど、本当に降るのかな~)

 

そう思っていたのだが、午後の授業を教室で受けていたら、雨が突然降ってきたのだ

 

(マジか、母さんの占い当たったよ、勢いも強いな~大きめの折り畳みを持ってきて良かった)

 

そして、授業も終わり放課後になったが、雨の勢いは変わらず強かった

 

シュウは、演劇部に入部したので今日は活動があるらしいので、

俺と歩夢と侑の三人で帰ろうかとなったのだが、ここで問題が起きた

 

そう、二人は傘を持ってきていなかったのだ…正確には、ほとんどの生徒が持ってきていなかったのだ

 

購買にも、傘は販売しているが、あっという間に売り切れてしまったようだ

 

侑「放課後までには、晴れててほしかったけど…そうはいかなかったね」

 

歩夢「うん⋯⋯どうしようかな」

 

春輝「実はな…俺、傘持ってきてるんだよ」

 

二人「「本当!?」」

 

春輝「ただし、一本しかないし、二人は入れても、三人は無理だな」

 

侑「だよね⋯⋯」

 

春輝「そこでだ⋯⋯この傘は、二人で使ってくれ!」

 

歩夢「ダメだよ!そんなの!!春輝くんが持ってきたんだから、春輝君が使わなきゃ!」

 

侑「そうだよ!それはさすがに出来ないよ!」

 

春輝「そう言われると思ってたけどさ…でも、いいんだよ、俺は困ってる誰かを助けないで、見ないフリはしたくないんだ…父さんとの約束で、誰かが困ってたら助けてあげるって約束したから」

 

歩夢「でも、それじゃあ春輝君が濡れて、風邪ひいちゃうよ!」

 

春輝「大丈夫!俺、滅多に風邪引かないし、それに家は二人より近いし、この前俺の足が速いのも見ただろ?」

 

侑「それはそうだけどさ…でも」

 

春輝「いいから、いいから!はい!傘渡したからな、ちゃんと使ってくれよ?返すのは明日とかでもいいからさ」

 

歩夢「ちょ、ちょっと!?」

 

春輝「じゃあ、俺は先に帰るから!また明日!!」

 

侑「ハル!?待って!」

 

二人は引き留めようとするが、それを振り切るように、全速力で家まで走った、その間も雨は同じ勢いのままで、着いたころには全身びしょ濡れだった

 

(二人ともちゃんと使ってくれたかな)

 

家の玄関に入ると、タイミングよく、母さんがいた

 

春輝「ただいま⋯⋯、ごめん、シャワー使ってもいいかな…?」

 

希「おかえり⋯⋯って、どうしたの!?びしょびしょじゃない!?」

 

春輝「傘は、歩夢と侑に貸してきたから走って帰ってきたんだ…」

 

希「そうなのね⋯⋯早くシャワー浴びて、お風呂も入っていいから」

 

春輝「ありがとう、母さん」

 

母さんにお礼を言って足早にお風呂場に駆け込んだ

 

春輝「は…ハックシュン!ハックシュン!!ヤバい、くしゃみが出てきた⋯⋯」

 

俺はお風呂から上がり、部屋着に着替えたがどうも寒気がしていた

 

夕食まで、ベッドに横になっていた

 

春輝「ごちそうさま⋯⋯」

 

希「ハル君、もういいの?」

 

春輝「うん⋯⋯食欲なくて、少し怠いかな⋯⋯」

 

翔太「雨に濡れたから、風邪でも引いたかもしれないな、今日はもう休んだ方がいいな」

 

希「そうね、後で体温計と薬持っていくわ」

 

春輝「うん⋯⋯ありがとう」

 

重い足取りで、部屋に戻りベッドに潜ったと同時に、意識を失った…

 

次に目を覚ましたのは、母さんが部屋に来た時、あれから1時間以上が経っていた⋯⋯

 

希「熱、あるわね…薬飲んで寝た方がいいわね」

 

春輝「ごめん⋯⋯母さん」

 

希「いいのよ、ハル君は友達を助けたんだから…気にしないの」

 

春輝「うん、ありがとう」

 

希「じゃあ、おやすみ」

 

春輝「おやすみ」

 

(これは、明日行けそうにないか⋯⋯)

 

寝ようとした時に、スマホが鳴った

 

歩夢と侑と秋夜から、連絡が来ていたが返信しようとしたところで、意識が途切れてしまった⋯⋯

 

 

 




今回はここまでになります!、読んでいただきありがとうございます!!

次回は個人的に書きたかった、お見舞いの回になります!

また時間かかるかもですが、待ってもらえると嬉しいです(早く書けるように努力します!)


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第4話 お見舞いと過去の記憶

大変遅くなって、申し訳ございません!

今回、文量がかなり多くなっています……前後編に分けることも考えたのですが、気づいた時にはかなり進んでたので1話にまとめました

それでは第4話をどうぞ!!


~昨日の雨から一夜~

 

朝の7時前、とあるマンションのベランダには、二人の姿があった

 

歩夢「おはよう、侑ちゃん」

 

侑「おはよう、歩夢」

 

そう二人は、毎日のように朝はベランダに出て会話をしているのだ

 

侑「昨日、ハルに連絡した?」

 

歩夢「うん⋯⋯連絡したけど、既読はついたけど、返事が来てないから心配だよ…」

 

侑「こっちも同じだよ、歩夢の方にも、返事は来てなかったか…心配だね⋯⋯」

 

歩夢「春輝くん⋯⋯やっぱり、昨日の雨に濡れて風邪でも引いちゃったのかな⋯⋯」

 

侑「ハルは大丈夫って言ってたけど、あの後も雨強かったからね…風邪引いててもおかしくないかも」

 

歩夢「そう⋯⋯だよね⋯⋯」

 

侑「とりあえず、支度して学校に行こっか、学校に行けば、ハルが休みかどうか分かるはずたからね!」

 

歩夢「うん、そうだね!」

 

二人は、部屋へと戻り支度をして、いつも通り一緒に学校へ向かった

 

 

その頃⋯⋯

 

 

希「やっぱり、熱が上がってるわね、ママが学校に連絡入れるから、ハル君はゆっくり寝てて」

 

春輝「うん、ゴホッゴホッ、ありがとう⋯⋯」

 

希「ママはリビングにいるから、何かあったら、ママを頼ってね」

 

春輝「わかった⋯⋯」

 

母さんは、リビングに戻っていった

 

(頭が痛い、体が怠い、喉も痛い)

 

俺は、昨日の夜から風邪で寝込んでしまっている

 

家族に移さないようにマスクをして寝ているが、どうも寝苦しい

 

(まさか、本当に風邪引いちゃうなんて…考えが甘かったかな)

 

昨日は、いつの間にか寝ていたらしく、起きたらもう朝だった

 

部屋に辿り着いたところまでは、覚えてるけどそれ以降の記憶があんまりないのだ

 

(歩夢と侑はちゃんと傘使ってくれたかな、二人が風邪を引いてなければいいんだけど…今日、休んだらシュウにも心配かけちゃうな⋯⋯)

 

(考えるのはやめよう、今は早く治すことが一番…寝れるか分からないけど、寝よう⋯⋯)

 

考えるのをやめて、俺は眠るために目を閉じた

 

 

場所は変わり、虹ヶ咲学園

 

教室には、歩夢と侑の姿があり会話をしていた

 

侑「いつもより少し早く来たけど、ハルはまだいないか⋯⋯」

 

歩夢「そうだね…まだ時間もあるから来てくれるといいけど⋯⋯」

 

時間は刻一刻と過ぎ、秋夜がやってきた

 

秋夜「おっすー⋯⋯って、そんな感じでもなさそうな空気だな」

 

秋夜はいつも通りに挨拶をするが、瞬間的に空気が違うことを察した

 

二人「「おはよう⋯⋯」」

 

二人から返ってきた挨拶も明らかに暗かった

 

秋夜「やっぱり、ハルは来ていなかったか」

 

その言葉に、侑は確認をとった

 

侑「やっぱりってことは、秋夜くんもハルに連絡したの?」

 

秋夜「ああ、連絡したんだが返信は来なかったな…ということは二人もしたんだな」

 

歩夢「秋夜くんにも返信が帰って来てなかったんだね⋯⋯」

 

秋夜「だいたい理由は、察してるけどな⋯⋯多分だけど、ハルのやつ昨日は雨に濡れたんだろうな」

 

侑「昨日、凄い雨降ってたじゃん?それで私たちが傘を持ってきてなくてね…」

 

歩夢「それで私と侑ちゃんに傘を貸してくれて、止めたけど春輝くんは、そのまま走って帰っちゃったんだ…」

 

秋夜「そんなことがあったとはな⋯⋯確かにハルが困ってる友達を放っておくわけないな」

 

秋夜の予想通りだったので、秋夜は納得した

 

侑「そこがハルのいいところなんだけどね」

 

空元気で侑がフォローする

 

歩夢「でも、私たちのせいで風邪を引いていたら⋯⋯どうしようって思っちゃったんだ⋯⋯」

 

秋夜「それはハルが自分で選んだことだから、二人が気に病む必要はないって言いたいけど、無理な話だよな⋯⋯」

 

二人「………」

 

秋夜は、自分から話を聞きにいったとはいえ、重い空気を変えるべく、二人に元気を出してもらえるように、話を始めた

 

秋夜「でもな、ハルも自分が風邪を引いたことで、二人を落ち込ませたって聞けば、それこそハルも気に病むと思うけどな」

 

侑「うん⋯⋯」

 

歩夢「そうだね⋯⋯」

 

秋夜「多分この様子だとハルは、風邪を引いたと思う⋯⋯なら、ハルにしてやれることをすればいいんじゃないか?」

 

侑「私たちに⋯⋯」

 

歩夢「出来ること⋯⋯」

 

秋夜「幸い、明日は土曜日だ…なら今日少しくらい遅くなっても問題はない⋯⋯そう!ハルのところに、お見舞いに行けばいい!」

 

侑「お見舞いかぁ⋯⋯」

 

歩夢「迷惑じゃないかな?」

 

秋夜「俺は、ハルがお見舞いに来てくれた二人を無下にするようには思えないけどな⋯⋯それにハルの顔を見て、二人の気が済むなら行った方がいいと思うけどな」

 

侑「うん⋯⋯そうだね、行こう!歩夢!」

 

歩夢「うん!」

 

二人の顔には、元気と明るさが戻った

 

秋夜「俺も行きたいところではあるけど⋯⋯生憎、次の公演が近くて演劇部が忙しくてな⋯⋯」

 

侑「任せてよ!秋夜くんの事もちゃんと伝えてくるから!」

歩夢「うん!だから秋夜くんは演劇部頑張ってね!」

 

秋夜「おう!そっちは任せたぜ!少しは二人とも元気戻ったみたいだし、時間だから俺は戻るぜ」

 

侑「わかった、ありがとね」

 

歩夢「ありがとう」

 

秋夜の言葉で元気を取り戻した二人は、担任の先生から春輝が風邪を引いて欠席したことを知り、帰りに二人でお見舞いに行くことを決め、学校での時間を過ごした

 

 

再び、大空家~

 

 

あれから春輝は眠ることができ、今は目が覚めて時計の針は、11時30分を指していた

 

春輝「今は11時か…眠れたとはいえ、まだ体は怠いな⋯⋯御手洗いにでも行こうか⋯⋯」

 

春輝は怠さで重い体を起こし、お手洗いに向かった

 

(体が怠いせいか、いつもより遠く感じるな⋯⋯)

 

トイレを済ませ、部屋に戻る途中でふらつき倒れ込んでしまったが……春輝の体は、支えられ倒れなかった、確認するために顔を見ると⋯⋯

 

希「大丈夫っ!?ハル君!」

 

そこには、急なことに慌てて、顔が必死な母さんがいた

 

春輝「母さん…どうしてここに?」

 

俺は、力ない声で母さんに尋ねた

 

希「ハル君のために、お粥を作って持ってきたんだけど、お部屋にいなかったから、お手洗いの方を見たらフラフラしてたから、慌てたわよ!」

 

母さんの声は、心配と優しさの両方が感じられる声色だった

 

春輝「ごめん⋯⋯お手洗いくらいなら大丈夫かと思ったけど、思ったより辛かった⋯⋯」

 

俺が申し訳なさそうにすると、母さんは優しく微笑んだ

 

希「いいのよ、怒ってるわけじゃないから無事で良かったわ」

 

俺は、そんな母さんに甘えるようにお願いをした

 

春輝「じゃあ、部屋まで手を貸してもらってもいいかな⋯⋯」

 

母さんは、笑顔で嬉しそうに答える

 

希「もちろんよ!!頼っていいよって言ったじゃない!ハル君のママなんだから!」

 

母さんの笑顔を見たら、俺も少し笑顔になれた

 

春輝「ありがとう、母さん⋯⋯」

 

母さんの手を借りて、ゆっくり部屋まで戻った

 

希「もうお昼だけど、お粥食べれそう?」

 

ベッドの上で上半身を起こしている俺に、母さんが尋ねた

 

春輝「少しだけなら食べれそうかな⋯⋯」

 

体調が優れないので、あまり食欲がないがせっかくなので、少し食べることにした

 

希「分かったわ、じゃあママが食べさせてあげるわ!」

 

突然の事に、俺は思わず声が出た

 

春輝「えっ!?いや、自分で食べるよ⋯⋯」

 

俺は断ろうとしたが、そうはいかなかった

 

希「ダメよ!ハル君は、体調が悪いんだから!大人しくママにお世話されなきゃね?」

 

こうなった母さんには、俺は抗えないというより、抗っても無駄なのだ

 

春輝「分かったよ⋯⋯じゃあお願いします」

 

俺は諦めて、母さんの言うことに従った

 

母さんはニコニコしながら、器に盛られてるお粥をスプーンで掬い、こちらに差し出した

 

希「はい!ハル君、あーーんして?」

 

高校生にもなって、母さんに食べさせてもらうことに葛藤したが、今更なので口を開けた

 

希「召し上がれ~」

 

母さんはゆっくり口にスプーンを運び、その上のお粥を食べた

 

春輝「あむっ」

 

希「どう?」

 

久しぶりにお粥を作ったらしいので、母さんが美味しいかを尋ねてきた

 

春輝「美味しいよ」

 

俺は素直に答えた

 

希「良かったわ~、食べるのはゆっくりでいいわよ」

 

俺はその後も、母さんに食べさせてもらいながら、ゆっくり食べたが、その間も母さんは優しい笑みを崩さなかった

 

お粥は作ってきた分の半分ほど食べることができ、俺は再び横になった

 

希「じゃあママ戻るね、しっかり休んでね」

 

持ってきた器やスプーンをトレーに乗せて、それを持ってドアに向かった

 

春輝「うん、ありがとう」

 

それを聞いた母さんは、笑顔を向けて部屋から出ていった

 

(とりあえず、また休もう)

 

再び、俺は目を閉じた

 

 

時間は過ぎていき、学校は放課後を迎えていた

 

授業を終えた、歩夢と侑は少しだけ秋夜と会話をしていた

 

秋夜「じゃあ授業も終わったし、俺は演劇部に行ってくる あとのことは頼んだぜ」

 

その言葉に侑と歩夢は、朝とは違い明るく答えた

 

二人「「うん!!」」

 

演劇部へ向かう秋夜を見送った二人は、お互い向かい合った

 

侑「じゃあ、私たちも行こっか!」

 

歩夢「うん!」

 

学校を後にした二人は、途中でスーパーに立ち寄り、お見舞いの品を買い、春輝の家へと向かった

 

以前に、春輝から住所と外見などは聞いていたので迷うことなく、家の近くまで来た二人

 

侑「ハルが言ってた住所だとこの辺だよね?」

 

近くまで来たので歩夢と一緒に家を探してると、歩夢が先に探している家を見つけ指を差した

 

歩夢「そうだね~、あっ!あの白いお家じゃない?」

 

歩夢が春輝の住んでいる家を見つけ、侑に教えると

 

侑「そうかも!行ってみよう!!」

 

侑も確信を持ったのか、走ってその家の前まで移動した

 

侑「表札は⋯⋯と あっ!大空って書いてあるよ!」

 

侑は、表札に大空の文字が書いてあるを見て歩夢に教える

 

歩夢「じゃあ、ここが春輝くんのお家なんだね」

 

二人は、大空家の全体を見た

 

侑「立派なお家だね⋯⋯」

 

外壁は白く、まだ新築さの残っていて、周りの家と比べても少し大きい家を見て、侑が感嘆の言葉を発した

 

歩夢「うん…男の子の家にお邪魔するのって初めてだから、ちょっと緊張しちゃうね」

 

歩夢も、初めての男の子のお家に来たので、緊張からか少し声が小さくなっていた

 

侑「ここで待ってても仕方ないから、インターホン押すよ?」

 

家の前に居てもどうにもならないので、侑がインターホンを押すことを歩夢に確認した

 

歩夢「いいよ⋯⋯」

 

緊張してるからか、返事も短かった

 

返事を聞いた侑は、インターホンへ手を伸ばし、ボタンを押し少しすると、インターホンのスピーカーから声がした

 

希「は~い、大空です」

 

声を聞いてから、侑は用件を伝える

 

侑「初めまして 私、ハル⋯⋯じゃなかった春輝くんと同じクラスの高咲 侑です こっちは幼馴染みの上原 歩夢です 二人で春輝くんのお見舞いに伺ったのですが、よろしいでしょうか?」

 

用件を伝え終わったが、返事は返ってこなかった

歩夢「返事が返ってこないよ?」

 

侑「どうしたのかな?まさか迷惑だったりしたかな?」

 

二人が不安になってると、玄関のドアが開いた

 

希「丁度よかったわ!!侑ちゃんに歩夢ちゃん、来てくれてありがとう!!入って入って!!」

 

希の嬉しそうなテンションに、何が何だかよく分からない二人は困惑した

 

侑「えっ?えっ?」

 

歩夢「どういうことですか?」

 

~遡ること、少し前~

 

希は、スーパーへ買い物に出掛けようとしていたが、お昼のこともあり、春輝を一人にしていいかどうか迷っていたのだった

 

希「お買い物に行きたいけど、ハル君も高校生だから大丈夫なのは分かってるけど、さっきのこともあるし不安だわ⋯⋯こんな時にお願いできそうな人が来てくれないかしら⋯⋯」

 

と、そんなことを考えていたら、タイミングよく侑と歩夢が訪ねてきたのだった

 

この事を希は、二人に説明をした

 

侑「そうだったんですね」

 

歩夢「確かに一人にするのは、不安かもしれないですね」

 

説明を聞いた二人は、状況を理解した

 

希「それでなんだけど、ハル君のお友達に頼むのも申し訳ないんだけど、少しお買い物で家を留守にしちゃうから、ハル君のこと頼んでもいいかしら?」

 

希は、失礼を承知で二人に頼んだ

 

侑「はい!元々、ハルが風邪を引いたのも私たちにも責任がありますから」

 

歩夢「私たちに出来ることことなら、させてください!」

 

二人は、それに応えるように返事をした

 

希「ありがとう!!二人とも!!」

 

希は、感激のあまり二人にハグをした

 

侑「うわっ?ママさん!?」

 

歩夢「ひやっ!?」

 

二人は突然すぎて、すっとんきょうな声が出てしまった

 

希「あっ、ごめんなさい!いつもの勢いで、抱きついてしまったわ⋯⋯」

 

希は、恥ずかしさから少し顔を赤くした

 

侑「いえ⋯⋯びっくりしましたけど、嫌ではなかったので」

 

歩夢「大丈夫ですよ⋯⋯」

 

二人も、少し顔が赤くなっていた

 

侑「そうだ!これ、お見舞いの果物とゼリーです!」

 

希「あらあら~、気を利かせてくれたの?ありがとう!」

 

希は、受け取った品をキッチンへ運び、二人を春輝の部屋に案内した

 

希「ここがハル君の部屋よ、ここで待っててもらっていいかしら?」

 

風邪を引いてる春輝の部屋で、待たせていいのかと希は考えたが、二人からの強い要望で、春輝の部屋で待ってもらうことにした

 

二人「「はい、大丈夫です」」

 

希「じゃあ、私は少しお買い物に出てくるから、ハル君のことお願いね」

 

希は、優しい声色で二人にお願いをした。

 

二人「「はい」」

 

二人は笑顔で返事をした。

 

笑顔を見た希は、安心した様子で家を後にした

 

そして、家には侑と歩夢、そしてマスクを着けてベッド寝ている春輝が残っている

 

希が出掛けてから少しの間、沈黙が続いたがそれを破ったのは侑だった

 

侑「ハルのお母さん、綺麗な人だったね⋯⋯」

 

思い出したように、希のことを話し始めた、その表情は憧れのような表情をしていた

 

歩夢「うん⋯⋯魅力的だったし、いかにも大人の女性だったよね」

 

歩夢ですら、侑と同じような表情をしていた

 

侑「紫色の髪は、ツヤがあって綺麗だったし、それに出るとこも出てて⋯⋯」

 

見た目の話を始めた侑

 

歩夢「もう侑ちゃん…春輝くんのママをそんな風に見てたの?」

 

呆れ気味に返答する歩夢に対し

 

侑「違う、違う!思い出したらそうだったな~ってだけだから!!」

 

誤解であると、慌てて訂正する侑

 

歩夢「でも、最初に春輝くんのママを見た時に、お姉さんだと思ったよ」

 

侑「あっ!それ私も思った!!」

 

どうやら二人は、希は外見が年齢より若く見える為、お姉さんに見えていた

 

侑「それにしても、ハルの部屋って広いし、片付いているよね」

 

話題を春輝の部屋のことに切り替えた侑

 

歩夢「うん、本棚の本も倒れたりしてないし、種類ごとに並べてあるよ」

 

二人は、感心したように春輝の部屋を見ていた

 

春輝の部屋には、勉強机、本棚とゲームなどを収納している棚、クローゼット、ベッドがある

 

それでも、春輝の部屋は圧迫感を感じさせないくらい広かった

 

侑は本棚の前に移動して、並べてある本を見た

 

侑「こういう小説ってラノベって言うんだっけ?」

 

侑が見ている段には、数作品のラノベが端から端まで収まっていた

 

歩夢「そうだったと思うよ、普段から春輝くんと秋夜くんが二人で話してるでしょ?」

 

侑「そうだったね、えっと~こっちは色んなゲームが置いてあるね」

 

今度はゲーム等が収納してある棚の前に移動した侑

 

歩夢「春輝くん、ゲームが好きだって言ってたからね」

 

侑「今度、普通に遊びに来ようかな~」

 

侑は目の前のゲームを見て、思い付いたように呟いた

 

歩夢「その時は私も呼んでね?」

 

侑「もちろんだよ!」

 

二人が話していると、後ろのベッドで休んでる春輝から声がした

 

春輝「うぅ……」

 

さっきまで何事もなく眠っていた春輝が、熱に浮かされていた

 

侑「ハル!?大丈夫??」

 

歩夢「春輝くん、大丈夫!?」

 

二人が不安げに声をかけるが、春輝は熱に浮かされたままだった

 

侑「こういう時ってどうしたらいいの!」

 

歩夢「とりあえず、私たちが落ち着こう!」

 

突然のことに焦っている侑と歩夢、だが歩夢は冷静になるために、落ち着くことを提案した

侑「そ、そうだね!ありがとう、歩夢」

 

歩夢の声かけで、侑も落ち着きを取り戻した

 

侑「じゃあ、改めて 歩夢はどうしたらいいと思う?」

 

歩夢「そうだね……私は小さい頃、風邪を引いた時はママに手を握ってもらったら安心したかな」

 

侑の質問に、少し悩みながらも歩夢は答えを返した

 

侑「な、なら手を握ってみる?」

 

歩夢「……やってみよう!」

 

二人は春輝の手を優しく握り、侑は心配そうに春輝を見つめ、歩夢は祈るように目を閉じた……

 

 

現在、眠っている春輝が熱に浮かされているのは、春輝が見ていた夢が原因であった

 

 

「この光景は……俺の過去の記憶……忘れたくても、忘れられない記憶……」

 

春輝に見えている光景には、幼い頃の春輝と同じ歳くらいの女の子が見えていた

 

お屋敷のような家の玄関で、幼い頃の春輝は泣いており、女の子は春輝に背を向けていたが、その身体は震えていた

 

春輝「どうして!どうしてなの!?■■ちゃん⋯⋯」

 

春輝は涙を流しながら、女の子に訴えていた

 

■■「ごめんなさい、はーくん……私はもう……はーくんとは一緒にいる資格がないの……」

 

女の子の表情は見えないが、辛そうに言っていることだけは分かった

 

会話を聞いていた現在の春輝は、幼い頃の春輝がその女の子の名前を呼んだ時、突然の頭痛が襲った

 

春輝「あ、頭が……痛い……それにうまく名前が聞き取れない……」

 

春輝には嘗ての幼馴染みと呼べる女の子がいた、だがある一件によりその女の子から一方的に会えないと言われた過去があったのだ

 

この出来事があった為に、それ以来春輝はその女の子の名前を聞くだけで、ノイズのような頭痛が走り、うまく名前を認識できなくなってしまっている。

 

春輝が頭痛に苦しんでいると嘗ての光景は見えなくなり、周りが暗闇の世界になっていた

 

「そうだ……俺は……二度とあの思いをしたくないから、強くなろうと決めたのに……また弱いところを友達に見せてしまったのか……」

 

春輝は、幼い頃の自分が弱かったから、あの子が離れていってしまったと思っているのだ

 

「また……俺の元から皆いなくなるの?……嫌だ!そんなの絶対に嫌だ!」

 

春輝の体は震え、地面に踞りながらひどく怯えていた

 

その時、優しい感覚を春輝は右手に感じた

 

「この感覚は……!?」

 

その感覚を認識したと同時に、春輝は光に包まれ、少しするとその光が収まり、目を開けるとそこは幼い頃に行ったお祭りの会場と思われる場所だった

 

「この場所は、あの子との事で落ち込んでいた俺を、母さんと父さんが元気づける為に連れてきてくれたお祭りだ」

 

春輝は懐かしむように、その景色を見ていた

 

「確か……この時は俺が途中で迷子になったんだよな、少し歩いてみようかな」

 

春輝はその時あった出来事を思い出しながら、夢の中のお祭りの会場を歩き出した

 

しばらく歩いてると、迷子になっている幼い頃の自分を見つけた

 

「やっぱり迷子になってるな、でもこの時は冒険みたいで楽しくなってたんだよな」

 

記憶の通りに、迷子の春輝も目を輝かせながら、周りを見ていた

 

そして、幼い頃の春輝が少し静か場所に出ると、そこにはピンク着物を着て一人で泣いてる女の子がいた

 

「あっ……思い出した……そうだ、迷子の女の子と一緒にお祭りの会場を歩いたんだった」

 

忘れていた記憶を思い出した春輝は、様子を見守ることにした

 

春輝「ねえ、君も迷子なの?」

 

「うん……お友達とママとはぐれちゃったの……」

 

幼い頃の春輝は、泣いてる女の子に優しく声をかけ、女の子も少し安心したのか事情を話した

 

春輝「そっか……なら、俺も迷子だから二人で一緒に探そうよ!!」

 

「でも……」

 

春輝「大丈夫!!一人でダメでも二人ならなんとかなるはずだから!行くよ!!」

 

「えっ?ちょっと!?」

 

女の子は不安で春輝の提案に頷くことは出来なかったが、春輝は女の子の手を引きお祭りの会場へと戻った

 

最初は戸惑っていた女の子も、次第に楽しくなりその顔には笑顔が戻っていた、そして二人は女の子がはぐれた場所に到着した

 

春輝「ここではぐれたんだよね?」

 

「うん……さっき探したけどいなかったよ?」

 

春輝「今はいるかもしれないから、探してみよう?」

 

「うん!」

 

探し始めてしばらく経つと、少し離れた場所で誰か名前を呼んでいるのが聴こえてきた、その声に女の子が反応した

 

「ママの声!!」

 

春輝「ほんと!?なら、声の方に行こう!!」

 

声がした場所まで移動すると、女の子の母親と友達がいた

 

「ママ!!」

 

「ごめんね、目を離しちゃって怖かったでしょ?」

 

「ううん、あの子が一緒に居てくれたから怖くなかったよ」

 

「うちの子と一緒に居てくれてありがとうね」

 

春輝「ううん、とうぜんの事をしただけです⋯⋯」

 

女の子の母親の言葉に、春輝は照れ気味に答えた

 

再会に喜んでいると近くで、春輝の名前を呼ぶ声が聴こえ、その方向を見ると、希と翔太が春輝を探していた

 

春輝「あっ!ママとパパだ!戻らなきゃ!」

 

走りだそうとした時、女の子に呼び止められた

 

「待って!!最後にあなたのお名前教えて?」

 

女の子に名前を聞かれた春輝は、腕を前に伸ばし手はサムズアップの形にして、名乗った

 

春輝「僕の名前は、おおぞら はるき!!」

 

名前を聞いた女の子は、満面の笑みで感謝を伝えた

 

「はるきくん、ありがとう!!」

 

感謝の言葉を貰った春輝も、満面の笑みで別れを告げた

 

春輝「どういたしまして!それじゃあ、バイバイ!!」

 

そう言い残し春輝は、希と翔太の元へ戻っていった

 

それを見ていた現在の春輝は、さっきまで暗くなってた気持ちが少し晴れていた

 

「この時の出来事があったから、俺は誰かの助けになりたいって思ったんだよな、それが父さんとの約束になった……そうだな……今更落ち込んでいても仕方ない!前を向け、俺!」

 

自分自身に喝を入れた春輝の意識が、夢の中から離れていき目を開けた時には見慣れた天井が映っていた

 

春輝「……んん、懐かしい夢を見てた……」

 

目を覚まし、一言呟くと右手に何かの感触がすることに気づき見てみると

 

春輝「ん?右手に何か……って、二人ともどうしてここにいるの!?」

 

ベッドの右側に春輝の手を握りながら座っている、歩夢と侑を見て思わず声をあげた

 

侑「うわぁ!びっくりした~!目が覚めたんだね、ハル!!」

 

歩夢「おはよう、春輝くん!私と侑ちゃんでお見舞いに来たんだよ?」

 

侑は春輝の声にびっくりしていたが、歩夢は少しだけビクッとしただけで落ち着いた

 

春輝「そっか、お見舞いか……ただ風邪を引いただけだから、大丈夫だったのに……でも、ありがとう」

 

春輝は照れながら、二人にお礼を言った

 

侑「ただ風邪を引いただなんて事ないよ!!ハルが傘を貸してくれなかったら、私達が風邪を引いてたんだから!」

 

歩夢「そうだよ、だからせめてお見舞いだけでもって来たんだよ!」

 

侑「まあ、お見舞いを提案してくれたのは秋夜くんなんだけどね~」

 

二人は、春輝の物言いに異議を申し立て、秋夜が提案したことを伝えた

 

春輝「そっか、シュウが提案したのか……ところでそのシュウがいないけど?」

 

提案者の秋夜がいないことに気付いた春輝は、二人に尋ねた

 

侑「秋夜くんは、演劇部だよ」

 

歩夢「今日も忙しいみたいで、本当はお見舞いに来たかったけど、来れないからよろしくって言ってたよ」

 

春輝「シュウにも迷惑かけちゃったな……」

 

侑「それより!昨日大丈夫だった?メッセージに既読がついたのに返信がなかったから心配したよ?」

 

歩夢「何かあったの?秋夜くんも心配してたよ?」

 

春輝「えっ?俺、スマホなんて見たかな~」

 

春輝は、事実を確認するためスマホのロックを解除してアプリを開くと、そこにはメッセージを既読してある状態になっていた

 

春輝「あれ?本当だ……でも、覚えが……もしかして、昨日の夕飯食べた後の記憶が曖昧だから、その時に見たけど返信出来なかったのかも……」

 

侑「それならいいんだけどさ、本当に心配したんだよ?」

 

歩夢「もし、春輝くんに何かあったらどうしょうって不安だったんだからね……」

 

春輝「ごめん…二人とも……そんなに心配させてたなんて思ってなかったよ、でも心配してくれて嬉しいよ」

 

真剣な顔をして、心配していたと言われた春輝は、二人に対して申し訳ない気持ちと共に、二人の暖かさに嬉しくなっていた

 

侑「うん、ただの風邪でよかったよ」

 

歩夢「そういえば、さっき眠っていた時に苦しそうにしてたけど、何かあった?」

 

歩夢が先ほど春輝が熱に浮かされていたことに対して質問してみた

 

春輝「まあ……小さい頃あった事を夢に見ていたんだよ……」

 

歩夢「それが嫌な思い出だったの?」

 

春輝「嫌というよりは、悲しい思い出かな……でも、その後に楽しかった思い出も見ることが出来たんだ」

 

歩夢「悲しい思い出……」

 

侑「悲しい思い出はともかくとして、楽しかった思い出ってどんな思い出なの!?」

 

侑は夢の内容が気になったようで、内容を掘り下げてほしいと言わんばかりに、聞いてきたので春輝は軽く説明した

 

春輝「小さい頃、お祭りで迷子になった時に、迷子の女の子と一緒にお祭りを楽しみながら、親を探したって夢だよ」

 

侑「小さい頃から、ハルは誰かを助けていたんだね!そういえば、小さい頃に歩夢もお祭りに行って迷子になったことがあったよね?」

 

侑は春輝の話を聞いて、歩夢の幼い頃の出来事を話したが、歩夢からの返事がなかった

 

歩夢「……」

 

侑「どうしたの歩夢?」

 

何かに驚いたような顔をしたまま返事のない歩夢に、侑が顔を近づけて様子を伺った

 

歩夢「えっ?あっ、ごめんね!ちょっとボーッとしてたみたい」

 

侑「歩夢がボーッとするなんて珍しいね、何もないならいいけどね」

 

歩夢は、気の抜けた声を出したあと、我に帰り大丈夫だと弁明した

 

それを聞いた侑は歩夢にしては珍しいと思うものの、気には留めなかった

 

春輝が目覚めてから、話し込んでいた為あっという間に時間は経ち、希が帰宅し春輝の部屋に顔を出した

 

希「歩夢ちゃん、侑ちゃん、留守を任せてごめんね~って、あらハル君起きて大丈夫なの?」

 

侑・歩夢「「大丈夫ですよ」」

 

春輝「うん、だいぶ身体が楽になった気がするけど、母さんもしかして二人に留守を任せて買い物に行ってたの?」

 

春輝は呆れ気味に、希に問いかけた

 

希「だって~ハル君を一人にするの心配だったんだもん!お昼に倒れそうになって、ママを心配させたのは誰だったかしら?」

 

希は素直に春輝が心配だったと答え、逆に買い物に行けなかった理由を作ったのは、誰かを春輝に敢えて質問した

 

春輝「はい、ごめんなさい……俺が心配させたからです」

 

春輝も素直に自分に非があることを認めた

 

希「ところで~三人とも、手なんか握りあってどうしたのかしら~?」

 

希は部屋に入った時から、三人が手を握りあっていることに気付いており、その事を少し意地悪な笑顔で指摘した

 

春輝・歩夢・侑「「「あっ」」」

 

三人は指摘されてずっと手を握っていたことを思い出し、顔を真っ赤にした

 

侑「いや、これは!別にそんなんじゃなくて!」

 

歩夢「そ、そうです!ちょっと苦しそうにしてたから手を握ってあげただけで!!」

 

春輝「えっ?そうなの!?」

 

侑「あちゃ~……」

 

侑は必死に言い訳するも、歩夢が焦ってしまってボロを出してしまい、何も知らなかった春輝は驚いていた

 

希「ウフフ、そういうことにしておいてあげるわね」

 

慌てる三人のやり取りを見て満足したのか、軽く笑って話を終わらせた

 

希「ねえ、歩夢ちゃんに侑ちゃん?まだ時間あるかしら?」

 

侑「はい、もう少しだけなら」

 

希「それなら少し三人でお茶しない?」

 

歩夢「はい、それと聞いてみたいこともあるんですけどいいですか?侑ちゃんも大丈夫だよね?」

 

侑「大丈夫だよ!」

 

希「ええ、もちろん!それじゃあ、下に降りましょうか」

 

春輝「歩夢、侑、今日はお見舞いありがとな、また学校で」

 

歩夢・侑「「うん!待ってるよ」」

 

希の提案に二人は同意し、春輝との会話を終え、希と共に部屋を後にした

 

三人はリビングに移動し、希は先に二人に座ることを促し、紅茶の用意をしてから席に座った

 

希「じゃあ時間もないから、私に聞きたいことあるんでしょ?」

 

歩夢「あの……さっき昔の悲しい思い出を夢で見ていたって言ってたんですけど、昔何かあったんですか?」

 

時間もないことから談笑を挟まずに、本題に入った

 

希「……そうね、昔ハル君には女の子のお友達がいたのよ、その子はパパのお友達の歳が一歳下の娘さんでね、休みの日には遊んでたのよ」

 

希は話を始めるも、先ほどより少しだけ声のトーンは落ちたものの、まだ明るさを保ったトーンで話し出した

 

侑「ハルにも幼馴染みがいたんですね……」

 

希「そうよ、とても仲が良かったのよ……でも、ある日ちょっとした事があったのよ……」

 

歩夢「ちょっとした……こと?」

 

希「その日は山に遊びに行っててね、当時のハル君はまだ身体がそこまで強くなかったのよ、でも二人ともはしゃいでいたから構わず遊んでたら……ハル君がケガしちゃったのよ……」

 

侑「えっ……大丈夫だったんですか?」

 

驚きを隠せない、侑は恐る恐る質問をした

 

希「ええ、全然大したケガじゃなかったのよ、でもその子はハル君にケガをさせてしまった自分が許せなかったみたいでね、その子が一人前になるまでは、ハル君とは会わないって決めちゃったのよ……」

 

歩夢「……春輝くんは、何も言わなかったんですか?」

 

希「ううん、嫌だと言ったわよ……でも、その子の決意は変わらなかったのよ……だから、その事がショックでハル君は、当時その子のを渾名で呼んでたけど、その渾名と名前を聞くだけで頭痛がして、うまく聞き取れなくなったみたいなの」

 

侑「そんな……それじゃあ、二人とも悲しいだけじゃないですか……」

 

希「私やパパもどうしようかと悩んだけど、何も出来なかったわ……でも、その子と直接お話したら、その子がしっかりするまでの間は会わないだけで、また会ってくれると話してたわ」

 

歩夢「その事を春輝くんは……知ってるんですか?」

 

希「ハル君はこの事は知らないわ、あの子から口止めされてるからね、約束は破れないわ」

 

歩夢「それでいいんですか……?」

 

希「ええ、ハル君も自分で強くなって過去を乗り越えようとしてるわ、それにハル君も強くなるって言ってたから……気付いてるのかもね、だから私とパパは、ハル君の意志を尊重するように支えることにしたのよ」

 

侑「そうだったんですね……」

 

希「私からのお願いなんだけど、ハル君の事これからもよろしくね、歩夢ちゃん 侑ちゃん」

 

歩夢・侑「「はい!!」」

 

歩夢「すみませんでした、辛いお話をさせてしまって……」

 

希「いいのよ、二人にはハル君のこと知ってほしかったから!」

 

侑「あの!!今の話をもう一人教えたい子がいるんですけどいいですか?」

 

希「もしかして秋夜くんの事かしら?」

 

侑「そうです、もしかしてハルから聞いてたんですか?」

 

希「そうよ~。じゃあ、秋夜くんにも伝えてもらってもいいかしら?」

 

侑「任せてください!」

 

秋夜にもこの話をするべきだと思った侑は、希に許可を取り、希はそれを快く許可した

 

希「あら、もうこんな時間!二人ともそろそろ帰る時間じゃないかしら?」

 

希が時間を確認すると、17時30分だったため、二人に帰ることを促した

 

侑「本当だ!歩夢そろそろ帰らないとだよ!」

 

歩夢「そうだね!それでは私たちはこれで失礼します」

 

三人はリビングから玄関へと移動した

 

侑「今日は突然の訪問にも関わらず、ありがとうございました!」

 

歩夢「紅茶まで出していただきありがとうございました、とっても美味しかったです!」

 

靴を履いた二人は、それぞれ今日のことについてのお礼を述べた

 

希「いいのよ~!むしろ私も二人に会えて嬉しかったわ~!今度はハル君が元気な時に、また遊びにきてね♪」

 

希もまた、二人のお礼の言葉に対してニコニコしながら、訪ねてきくれて嬉しかったことや、また遊びにきてほしいことを伝える

 

侑「それでは今日はありがとうございました、ママさん!」

 

歩夢「ありがとうございました!」

 

希「帰り道に気を付けてね~あとママさんじゃなくて希でいいのよ?」

 

侑の呼び方に少し納得がいかなかった希は、二人に対して名前でいいと提案した

 

侑「わかりました、希さん!」

 

希「早速、呼んでくれて嬉しいわぁ!」

 

自分の名前を呼んでくれた事に、両手を頬に当てて歓喜する希

 

希との挨拶を済ませ、大空家を後にした歩夢と侑、帰り道の二人の会話は今日聞いた話で持ちきりだった

 




今回はここまでです!

読んでいただきありがとうございます

前書きでも説明しましたが、長くなってしまい申し訳ありませんでした……今後、長くなる時は前後編に分けるつもりですので、お願いします

感想等、お待ちしています!


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第5話 虹色との出会い その3

お待たせいたしました、更新です!

いよいよ今年も終わりますね!年内やり残したことありませんか?

自分は年内にもう1話更新できるといいな~と思っております。

感想、お気に入り登録など待ってます!


侑と歩夢がお見舞いに来た日から、休日を挟み月曜日を迎えた

 

風邪は土曜日の朝にはほぼ完治していて、土曜日と日曜日はゆっくり家で過ごしていたから体調は万全!!

 

そんなわけで今は朝の7時30分を過ぎたところ、今日はいつもよりかなり早くに学校に行くために、俺は朝食も済ませ準備をしていた

 

「よしっ!準備はこんなものかな!早いけどもう学校に行こうかな」

 

俺は自室から母さんと父さんのいるリビングに顔を出した、ちなみに父さんは有給休暇を取ったらしく、今日はまだゆっくり朝ご飯を食べている

 

「じゃあ、早いけどもう学校に行くよ」

 

「今日はまた随分と早いじゃないか、何かあるのか?」

 

いつもよりも早く登校することに、疑問を持った父さんが聞いてきた

 

「ほら……休んで友達に心配させたから、早く行って直接お礼を言いたいんだよ、それに元気も有り余ってるし!」

 

「そういうことなら、早く行くといいぞ!」

 

「ハル君、待って!」

 

「母さんどうしたの?」

 

玄関に向かおうとしたら、母さんに呼び止められた

 

「母さんの占いで、今日は金色に注意って出たわよ~」

 

「えっ⋯⋯金色? よく分からないけど注意してみるよ それじゃあ、いってきます!」

 

「「いってらっしゃい」」

 

占いの結果を聞き、挨拶を済ませて学校へ向かった

 

それにしても金色か、金色の物なんてそうそうないよな⋯⋯

 

学校に着いてからすぐに演劇部で朝練をしている秋夜の元に顔を出した。

 

「シュウ、おはよう!」

 

「おお、ハルじゃん!こんな時間に来るなんてどうしたんだよ?」

 

「先週は風邪引いたことで、シュウにも心配させちゃったからな⋯⋯そのことでな」

 

「何だよ、そんな事気にすんなって! 友達が風邪引いたら心配するのは当然なんだからさ、それよりもう大丈夫なのか?」

 

「ああ、風邪はもうすっかり治ったからな、歩夢と侑からお見舞いを提案をしてくれたのが、シュウだって聞いたよ ありがとうな!」

 

「別にお礼を言われるような事じゃないけどな、本当は俺も行きたかったが、演劇部が忙しくてな⋯⋯」

 

「それこそ気にすることはないよ 心配してくれただけでも、嬉しかったよ」

 

「おう、ありがとうな!」

 

この後、シュウの朝練が終わるまで待ち、一緒に教室の方へ向かった

 

シュウが鞄を自分の教室に置いて、こっちの教室に来たところで1人の来訪者が現れた

 

「春輝、探したぞー!」

 

「えっ?俺?」

 

「探してたってことはハルに何か用か?」

 

同じ1年のバスケ部に所属している友達が、俺の事を探していたのだ

 

「今日の放課後に女子との紅白戦があるんだが、人数が足りなくてさ⋯⋯大丈夫なら、参加してほしいんだけどいいか?」

 

「ああ、今日は特に予定もないから大丈夫だよ!」

 

どうやら試合に人数が足りなくて、過去にバスケの経験がある俺の元に来たらしい。

 

といっても、中学の時も遊びでやってたとはいえ、本格的にやるのは小学生の時以来だから、戦力になるかと言われればどうか分からない

 

「ハル、病み上がりで大丈夫か?」

 

「心配ないよ、今日は元気が有り余ってるからね!」

 

「その様子なら大丈夫そうだな」

 

シュウは病み上がりの俺を心配してくれたが、俺が元気な素振りを見せると安心してくれた

 

「それじゃあ、放課後に体育館で待ってるぞ!」

 

「おう!任せといて!」

 

放課後待ってると言い残し、バスケ部の友達は自分の教室に戻っていった

 

「しっかしな~女子が相手となると、もしかすると噂の子もいたりするのかもな」

 

「ん?噂の子って誰?」

 

シュウが言う噂の子のことについて何も知らないので、俺はシュウに詳しい事を聞いてみた

 

「部活に入ってないからハルが知らないのも無理ないか 実はな、同じ1年の女子で最近だが色んな運動部に助っ人で活躍してる子がいるらしく、部活動に入ってる人の間では噂でな」

 

「へーそんな凄い子がいるんだ、その女子が今日バスケ部にいるかもって事?」

 

「あくまでも可能性があるってだけだからな」

 

「でもそんなアニメやラノベのキャラみたいな存在が現実にいるなんてな~」

 

実際にいるのは分かるが話を聞いても、少し現実味に欠けると思いつい口に出てしまった

 

「そう思うのも無理はないが、まあ現実は小説より奇なりってことだな」

 

そういうものかと納得して話が終わったころに、歩夢と侑が登校してきて、まもなく朝のホームルームが始まった

 

 

それからはいつも通り過ごし、約束をした放課後を迎えた

 

歩夢と侑には事情を説明してあるので、放課後すぐに歩夢と侑に挨拶をして体育館へと向かい、着いた時にはもう何人かの部員が先にいた 俺が着いてから間もなく男子が揃い、女子が揃うまで先にアップを始め、俺は久しぶりのバスケということもあり、動きの確認をしながらアップをした。

 

その間にシュウから聞いた噂の助っ人が今日は来るのかを、部員に確認してみると、どうやらその噂の女子が来るという事でバスケ経験者である俺に白羽の矢が立ったらしい

 

その女子の名前は、宮下 愛(みやした あい)というらしい

 

「やっほー!!」

 

アップをしていると女子達が全員揃って挨拶をして入ってきたが、1人だけ一際大きな声で挨拶をしてきた女子を見て驚いた俺は注目してしまった。

といっても声が大きい事に驚いた訳じゃない、その子の容姿が髪は金髪でまるでギャルのような女子だったからだ。俺は人を見た目では判断しないが、さすがに印象が違いすぎたので驚いてしまったという訳だ

 

俺が1人で驚いている間に周りの男子は皆、次々と挨拶を返していった

 

 

あれ?もしかするとあの子を知らないのって俺だけ?

 

 

困惑しながらも目で追っていた俺はついにその子と目が合うと、その子は勢いよく走って俺のところまでやってきた

 

「ねえねえ!もしかして君が男子の助っ人だよね!初めましてだよね、アタシは宮下 愛!よろしくね!!今日は愛さんも助っ人で来たんだよ!それで君の名前は?」

 

「お、おう⋯⋯お、俺は大空 春輝、よろしくな」

 

「それじゃあハルハルだね!愛さんの事も好きに呼んでよ!」

 

「愛って呼ばせてもらうけど、ハルハルって何!?」

 

「何って君のあだ名だよ?春輝だからハルハル!ダメだった?」

 

「そんなことはないよ、ハルハルでいいよ」

 

愛の勢いと距離感が二重に近いことも相まって、いつもより萎縮してしまった

 

というか本当に近いんだけど!俺も初対面には出来るだけフレンドリーにとは心掛けてるけど、さすがに物理的な距離までは近くならないぞ⋯⋯でもハルハルなんて初めて呼ばれたな~少し嬉しいかも

 

その後女子たちもアップを始め、俺達はその間に休憩やら作戦会議を済ませ、女子のアップが終わってから若干の休憩を挟んでからいよいよ紅白戦が始まった

 

ちなみに、虹ヶ咲の女子バスケ部は全国大会に出場する程の実力があるので、相手に不足はないどころかこちらが負けることもあり得る

 

試合が始まると序盤の展開は、まだうまく連携の取れていない俺達は苦戦していた。その間に連携の取れてる女子は愛を筆頭に、次々と得点を入れていった

 

「悪い、うまく連携取れなくて足引っ張ってるな⋯⋯」

 

「大丈夫、大丈夫!気にすんなって!時間を稼ぐのは俺達に任せて、春輝は動きを掴んでくれ!試合はこれからだから、な?」

 

「そうだな!こっから巻き返していこう!」

 

「そうそう、その意気だ!」

 

仲間に足を引っ張ってることを謝罪をするも、気にするどころか時間を稼いでくれてるとの事だった。俺は期待に応えるべく提案をした

 

「次のリバウンド時に、ゴール目掛けてボール投げてくれないか?」

 

「何か思い付いたんだな?」

 

「任せてくれるか?」

 

「もちろんだ、待ってたぜ!その言葉!」

 

そのことを皆に伝えると、快く賛成してくれた。それから試合は再開し、すぐにその作戦を実行する時が来た。俺は仲間がリバウンドを取ると信じて、相手のゴール目指して走り出した。

 

そしてリバウンドを成功させた仲間から声が発せられ、振り返るとボールをこちらに投げていた。その様子を見ていた愛達は、突然の事に行動が遅れてしまい、その間に俺は受け取ったボールをゴールに向かって、落ち着いてシュートを放った。

 

ボールは弧を描き吸い込まれるようにゴールに入っていった。この得点をきっかけに、試合の流れを変えた。先程まで足を引っ張ってたと思えないほどの動きで仲間と連携し、得点を重ねていき点差はどんどん縮まってきた。いよいよ危機感を感じたのか、バスケ部のエースをマークしてた愛の動きが変わった。

 

「おっと、急にマークがきつくなったな⋯⋯」

 

「あれだけの動きを見せられたら、ねえ?ハルハルをマークしない訳にはいかないでしょ?」

 

「それはどうも⋯⋯でも負けるつもりはないぜ」

 

 

まあ、これも作戦どおりなんだよね~

 

さっきまでは俺以外のマークがキツかったから、中々得点を稼げなかったけど、俺が動きで相手を翻弄するとこで俺へ注意を向けさせ、他のメンバーを動き易くさせる且つ、愛が俺をマークするように仕向けるのが狙いだった。

 

その後も両チーム共に得点を重ねていき遂に僅差まで迫ったが、残り時間は3分を切り、ボールは俺の元にあるが当然のように愛と見合ってる状態だ。

 

「さすがにそう簡単には抜かせてはくれないよな⋯⋯」

 

「もちろんっ!残り時間を守りきれば愛さん達の勝ちだかんね、ここから先は抜かせないよ!!」

 

ここは一度パスを出して賭けてみるか⋯⋯

 

俺は視線と動きで愛にフェイントをかけ、味方へパスをし俺は愛をどうにか躱し、味方二人に愛のマークを任せてその間にボールを貰い、空いてる場所へ移動し急ぎシュートを放った。

 

そう、シュートを放つところまでは良かった⋯⋯が、愛も味方のマークを躱して、こちらに向かって全力で走り、勢いよく跳びシュートをブロックしようとしてきたのだ。だが、高さが足りずに愛が振った腕は空を切ると、愛は勢いのあまり空中でバランスを崩してしまった。

 

「うわあ!」

 

愛は驚いた声を上げながら、こちらに倒れ込んできた為、俺は咄嗟に受け止めた。

 

「愛⋯⋯!

 

 

しまった!」

 

受け止めたはいいものの、俺自身も急いでシュートを放った為に、バランスを崩した態勢のまま受け止めてしまったが故に、俺は愛を受け止めた衝撃で後ろへ倒れてしまった。

 

本来ならバランスを崩しただけでは倒れることもないのだが⋯⋯俺は受け止めた時に愛の大きな胸が当たってしまった事に動揺してしまったのだ⋯⋯

 

仕方ないよね⋯⋯?俺だって男だし、いきなりで身構える余裕もなかったか⋯⋯

 

そして受け身を取れなかった俺は、床に背中から倒れそこで意識が途切れてしまった。

 




今回はここまでとなります!

今回は長くなりそうな予感がしたので、一旦区切らせてもらって次回に続きます!

早ければ年内に、遅くても年始には更新予定なので待っていただけると幸いです。


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第6話 訪問!愛さんの家

新年明けましておめでとうございます!今年もまたよろしくお願い致します!

本来なら年末に更新する予定だったのですが、少し忙しくなってしまい、三が日の終わりに更新となってしまい、すみませんでした。

今年の目標としましては、週に最低1話以上の更新を目標にしますのでよろしくお願いします。

それでは第6話をどうぞ!


アタシは勢いのあまり、空中でバランスを崩して床に倒れるはずだった⋯⋯ でも、現実はそうはならなかったの。

 

ハルハルがね、バランスを崩したアタシを受け止めてくれたの⋯⋯おかげでアタシは何ともなかったんだけど、そのかわりにハルハルが背中から倒れた時に頭を打って、気を失っちゃったの⋯⋯

 

急いで保健の先生を呼びに行って、診てもらったけどただ気を失ってるだけらしくて、じきに目を覚ますはずだって言ってたから、今は体育館の隅っこでアタシが膝枕をする形でハルハルは眠っている。

 

でもね、こんな時に何だけどハルハルは今穏やかな寝顔で眠っているんだけど、さっきまでの闘志ギラッギラッの顔と違って、寝顔は小動物のように可愛いの!

 

ハルハルが気を失ってから20分経つけど、まだ目を覚ます気配はないからアタシはハルハルの頭を優しく撫でながら、ハルハルが起きるのを今か今かと待っているの。

 

試合はハルハルが放ったシュートが決まって同点になって、その後はアタシとハルハルが抜けた状態で再開したけど、両チームとも得点は入らずに同点のまま終わっちゃった。ちなみに皆は今、後片付けをしているよ。

 

「はあ⋯⋯愛さん何やってるんだろ⋯⋯せっかくハルハルと友達になったばかりなのに、いきなりこんな事しちゃって嫌われたりしないかな⋯⋯」

 

 

────────────────────

 

 

(何かの音が聞こえる⋯⋯何の音だろう?

 

さっきまで、何をしてたんだっけ?)

 

(そういえば⋯⋯バスケ部の紅白戦に参加して、それから⋯⋯)

 

僅かながら意識が戻ったが、何をしていたかまではまだハッキリと思い出せなかった。

 

(はっ!そうだ愛がバランスを崩したのを受け止めて、その後⋯⋯愛は大丈夫なのか?試合はどうなった?)

 

少しして何をしていたか思い出した俺は、勢いよく起きようとした

 

「⋯⋯ふごっ!」

 

「きゃっ!」

 

しかし、顔に何かに当たってしまい起きることに失敗し、元の寝ていた態勢へと戻った時に後頭部に何か柔らかいような感触がしたのと同時に少しばかり痛みが走った。

 

「痛っ⋯⋯さっき倒れた時に頭をぶったか⋯⋯というか何?この枕とは違う柔らかい感触と顔に当たった柔らかいものは?それに当たった時に何か声が聞こえたような⋯⋯」

 

「⋯⋯ハ、ハルハル目が覚めたんだね⋯⋯」

 

「えっ⋯⋯?」

 

マジかよ⋯⋯俺は愛の声を聴いて今、確信した。

 

気絶した俺は愛に膝枕をされていた、それで目を覚まして起きた時に当たったのは愛のあの胸だ……そしてこの頭に感じる柔らかいのは愛の太もも⋯⋯

 

俺はやってしまったかもしれない、というか間違いなくやった⋯…周りを見てから起きれば良かったのに、そのまま起きたから突撃してしまったんだ⋯⋯愛に幻滅されてしまっても仕方ないな⋯⋯とりあえず謝ろう!

 

俺は愛の太ももから頭をずらして、上体を起こした。

 

「愛、急に起きて上がって本当にごめん!!」

 

体を起こしてすぐに愛の方を向いて、俺は頭を下げて謝罪した。

 

少しの沈黙⋯⋯愛の反応がないため、俺は頭を下げた状態で少しだけ愛の顔を見た。すると愛の顔は真っ赤まではいかなかったが、赤くなっていた。

 

「い、いや~愛さんもびっくりしたけど、ハルハルもわざとじゃないし、大丈夫!大丈夫!あははは⋯⋯」

 

「良かったぁ~正直、あんな事をしたからもう嫌われたかと思ったよ⋯⋯」

 

「ううん!そんな事ないよ!!それを言ったら、愛さんだってハルハルにバランス崩してハルハルに受け止めてもらっちゃった訳だし⋯⋯愛さんの方こそ、ごめん!!」

 

「そんな事、気にする必要なんてないからな?愛が真剣だったからああなっただけで仕方ないよ、でも愛が無事みたいで良かったよ」

 

どうも愛の方も、嫌われてしまったかもと思っていたらしく、謝罪されてしまった。

 

「うん、愛さんはハルハルが受け止めてくれたから大丈夫だったよ、ありがとう⋯⋯」

 

「う、うん⋯⋯」

 

試合中とはうってかわって、しおらしい態度にこっちまで顔が赤くなってしまう。

 

ふと気になって周りを見ると、後片付けを終えた部員の皆が、俺と愛の方を見ながらニヤニヤしていた⋯⋯この後、当然のように男子部員から言及をされたが、何とかはぐらかした。

 

制服に着替え直した後、一足先に下校しようとした俺は後ろから呼ぶ声に引き留められた。

 

「おーーい!ハルハル!!」

 

呼ばれた方を振り返ると、愛が大きく手を振りながらこちらに走ってきていたので、こちらも手を振り返した。

 

「走ってきてどうしたんだよ、愛?」

 

「愛さんも帰ろうとしたら、ハルハルの姿が見えたからさ、せっかくだから一緒に帰ろうと思って、校舎から追い掛けて来たんだよ!」

 

「校舎から!?なら、途中まで一緒に帰ろうか?」

 

「うん!それじゃあ、行こう」

 

愛は校舎から追い掛けてきたのにもかかわらず、ほぼ息を切らしていなかった。

むしろまだ大きな声を出せる元気が残っていたことに、俺は驚いた。

 

ていうか愛はどんだけ体力あるのさ⋯⋯さすがに俺も体力には自信あるとはいえ、そこまでの元気はないぞ。

 

それから帰りながら、改めて自己紹介したり、入学してからの事などの話をしながら下校した。

 

愛と分かれる予定の場所に近づいたあたりで愛から1つの提案が出された

 

「ねえ、これから愛さんの家でご飯食べていかない?」

 

「俺は別に構わないけど、いきなり行っても大丈夫もんなの?」

 

愛に誘われて嬉しいのは確かだが、急に行ってしまっては愛の家族に迷惑がかかると思い、愛に確認を取った。

 

「大丈夫!愛さんの家、もんじゃ焼き屋だから!」

 

「マジで?俺、もんじゃって食べたことないんだよな~ちょっと気になる」

 

「それならぜひ愛さんの家に食べにおいでよ!」

 

「分かった、ちょっと家に連絡入れる」

 

そう言って、スマホの画面を開くと母さんから何件もの連絡が届いていたのだ。

俺はそれを見て青ざめた、昼間の内に連絡をするのを忘れていた為、いつもならとっくに帰ってるはずの時間に、帰って来ないことで母さんが心配していたのだ。

 

「やっば!遅くなるって母さんに連絡するの忘れてた!!ごめん、愛!この約束、明日とかでも大丈夫かな?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「今日は急いで帰らないとヤバいから、ここから走って帰るよ」

 

「オッケー、それじゃあバイバイ、また明日!」

 

「また明日な!」

 

愛と分かれた後、俺は猛ダッシュで帰宅して、母さんに遅くなった経緯を話して謝ることになった⋯⋯

 

 

次の日、放課後⋯⋯

 

愛と昨日の内に放課後に愛の家に行くと約束したので、俺は先に校門で待っていると、すぐに愛がやって来た。

 

「おまたせー!」

 

「お疲れーそれじゃあ今日はよろしくね」

 

「愛さんに任せなさーい!」

 

それから昨日と同じように下校して、今日は二人で愛の家に向かった。

愛の家の近くに来ると、『もんじゃ 宮下』と書かれた看板があり、一目で分かった

 

「ここが愛さんの家だよ」

 

「おー本当にもんじゃ焼き屋なんだな」

 

感心しながら中に入ると、平日にもかかわらずお客さんで賑わっていた

 

「凄い賑わっているな⋯⋯大丈夫か?」

 

「あれぇ?いつもだったら火曜のこの時間帯は混まないはずだったんだけどなー」

 

愛も想定外だったらしく、頭を掻いていた

 

「と、とりあえず奥の席に座って、待っててもらっていい?」

 

「分かった、それじゃあ待たせてもらうよ」

 

愛に案内された席に座り、俺は客足が落ち着くまで待つことになった。

その間に愛の手伝っている姿を見ていたが、さすがいつも手伝っているだけの手際で注文をさばいていくが、客足が滞ることはなかった。

 

「なあ愛、俺にも手伝わせてくれないか?ただ待ってるのが申し訳なくてな」

 

「それは悪いよ⋯⋯ハルハルはお客さんだから手伝ってもらうわけにはいかないし」

 

愛は俺をあくまでお客で呼んだと言って、俺が手伝う事には消極的だった。

それでも俺は余っているエプロンを手に取り、愛を引き留めた。

 

「やっぱり、ただ見てるなんて出来ないから⋯⋯足手纏いかもだけど、友達として手伝わせてほしい」

 

愛の目を見て、気持ちを伝えた。

 

「ハルハル⋯⋯うん、わかったよ。そこまで言われたら愛さんも断れないよ⋯⋯それじゃあ、お願い手伝って!」

 

「任せて!」

 

愛もやっと手伝う事を了承してくれて、俺は愛から一通りの説明を受けて、手伝いをする事になった。

 

「最初は慣れないと思うから、ゆっくりでいいから間違えなければ大丈夫だかんね」

 

「分かった、やってみる」

 

早速、注文を取りに伺い、受けた注文を厨房にいる愛のおばあさんに伝えた。

 

愛の助言のとおりに、落ち着いてゆっくり対応するも、初めての事をしているだけあって、中々に苦労している。

 

俺が苦労している間にも、愛は手際よく注文を受け、空いたテーブルを片付け、会計もしていた。

 

俺も負けじと作業をしながら、愛の様子を見ていると分かった事がある。

 

愛はお店にやってくるお客さんとは、ほとんどが常連さんだが、初めてのお客さんですら、すぐにお店の雰囲気に馴染んでしまうほどの、キラキラの笑顔で接客をしていた。

 

どんなに忙しくても笑顔を絶やすことなく、接客をする愛の姿に常連の人から初めての人まで皆が笑顔になっていた。これが愛の魅力であり、このお店が愛されている理由なのかと自分なりに思った。

 

愛やお客さんの雰囲気のおかげで、最初は余裕がなかった俺も段々、笑顔で接客が出来るようになっていき、お客さんとの会話も弾むようになった。

 

その後、結局客足が落ち着いたのは夕飯時の時間を超えてからだった。今日は一段と忙しかったこともあり、早くお店を閉めるとの事になったので、俺は再び席に戻っていた。

 

「はい、ハルハルお待たせ~」

 

愛がもんじゃのタネを持ってきて、俺の対面に座った。

 

「お疲れ~、さすがにお腹すいたよ」

 

後半は慣れてきて要領が良くなったとはいえ、初めての事をしていつも以上に体力を使った俺は、既に空腹の限界が近かった。

 

「ハルハルもお疲れ、初めてなのに要領よくやれるなんて、さすがハルハルだね!」

 

「まあ要領よくやるのは得意だけど、あの状況で勝手に要領よく動けただけだよ⋯⋯それより、愛の方こそずっと笑顔で接客してて、その方が凄いと思ったよ」

 

接客している間に俺自身が感じた事を、そのまま愛に伝えた。

 

「そう?愛さんの笑顔は、お店に来てくれる人、皆が笑顔になってほしいと思っているから、自然と笑顔になっているんだよ?それにね、皆の笑顔を見ているとそれでまた笑顔になっちゃうんだよ」

 

「そっか、愛のその気持ちがお客さんを笑顔にして、その笑顔がまた愛を笑顔にしてるんだな。だからこのお店の雰囲気が凄く居心地がいいんだな」

 

愛の言葉を聴いて、俺はここに来てから感じていた事にようやく合点がいった。

 

そんな会話をしながらも愛はもんじゃを焼いてくれて、俺と愛は出来上がったもんじゃを一緒に食べながら会話を弾ませた。

 

「今日はありがとうな、もんじゃ美味しかったよ!今度は家族も連れてまた来ていいかな?」

 

「もちろんっ!また来てくれるの待ってるかんね!それじゃあまた学校でね」

 

「うん、また学校で」

 

愛に今日のお礼と挨拶をして、すっかり暗くなってしまった帰り道をゆっくりと帰った。

 

 




今回はここまでとなります。

次回からは、一気に夏まで季節が飛びますので、次回以降をお楽しみに!

感想、読了、お気に入り登録、お待ちしております。



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第7話 意外な発見

更新です!

ギリギリになってしまい申し訳ないです。

早速、第7話をどうぞ!


 愛の家を訪れた日からしばらくの時が流れ、今は7月に突入して初夏を迎えていた。

 

 今日この日まで定期テストがあった事以外、特に変わった事はなく、いつも通りに学校生活を歩夢と侑とシュウと一緒に過ごしたり、たまにバスケ部に助っ人で行って、そこで愛とまた試合したこともあったかな。

 

 というか最近、愛との遭遇率が高い気がする、だいたい一人の時かシュウと校内を歩いている時に遭遇するかな。おかげでシュウも愛と友達になったみたいだからいいんだけどね。

 

 もちろん彼方さんと果林さんにも授業での疑問点を質問したり、3人でお茶をしたりした事もあった。

 

 そして今、更衣室で着替えながら、7月になった事で学期末のテスト事が近づいている事にシュウがぼやいてる

 

「もうテストか⋯⋯はぁ、期末は頑張らないとな⋯⋯」

 

「シュウは前回のテストの結果が芳しくなかったから、落ち込んでいるの?」

 

「まあ⋯⋯そんなところだ⋯⋯」

 

「でもちょっと意外だったな~シュウが勉強が少し苦手だなんて」

 

「好きな事は率先して学ぶけど、苦手なのは苦手のままにしがちだからな⋯⋯」

 

 シュウは前回の定期テストで、赤点こそなかったがギリギリだったので憂鬱なご様子。

 

「ハルはいいよなー、テストの出来が良かったんだろ?」

 

 

「まあね、昔から勉強は得意な方だし今回もそれなりに良かったよ」

 

「そうだよな⋯⋯よし決めた!なあハル、俺に勉強教えてくれないか?」

 

「もちろん、俺で良ければいつでも力になるよ」

 

「本当か!?なら頼むぜ!」

 

 こうして俺はシュウと学期末のテストに向けて勉強会をする約束をした。今度はシュウが俺の苦手なものを聞き出そうとしてきた。

 

「そういえばハルが『これは苦手だ』ってものを見た事ないけど、何かあるのか?」

 

「確かに今まで見せたことないから、そう思うかもしれないけど、俺にも苦手なものはあるよ⋯⋯」

 

「やっぱりあるんだなー、聞いてみるけど何が苦手なんだ?」

 

「あえて言わないけど、多分すぐに分かると思うよ⋯⋯」

 

「ん?何だ?とりあえずその時が来たらって事だな」

 

「そういうことで」

 

 シュウに苦手なものを問われたが、俺は言わなくてもすぐに知ることになると思い、その時に教えることにした。

 

 そして、その時は予想通りにすぐ訪れた。

 

「次回の体育の授業では水泳を行います。準備を忘れないように」

 

 先生が言った言葉にシュウを含めた周りは歓喜していたが、俺だけは戦慄していた。

 

「いよいよ次回から水泳だぞ、楽しみだなハル!」

 

「⋯⋯」

 

「どうしたハル?って顔色悪いぞ!」

 

「なあ⋯⋯シュウ、体育の前に話した事覚えてるか?」

 

「苦手な事がって話だよな、まさか⋯⋯?」

 

「そのまさかだよ⋯⋯俺、泳げないんだ」

 

「え⋯⋯マジか」

 

 俺が泳げない事をシュウに伝えると、開いた口が塞がらないような表情をしていた。

 

「別に水が怖いとかじゃなくて、泳いでも進まないで沈むんだよ⋯⋯」

 

「それはまた⋯⋯でもハルの弱点ちょっと意外すぎたな」

 

「まあね、運動神経は元から良い方だから、余計に驚かれるんだよ」

 

 大抵の人は、俺が泳げないのを知ると似た反応をするのでシュウの反応も予想通りだった。

 

「泳げるようになりたいとは思うのか?」

 

「それはもちろん泳げるようになりたいけど⋯⋯それでも今まで泳げなかったんだよな」

 

「わかった、じゃあ勉強を教えてもらう代わりに、俺がハルに泳ぎを教えよう!」

 

「シュウ⋯⋯よろしく頼むよ!」

 

「任せとけって!」

 

 こうして俺達はお互いに出来る事を教え合う約束を交わしたのだった。

 

 後日⋯⋯

 

「そこ間違えてるよ」

 

「えっ、マジで?本当だ⋯⋯」

 

「ここは公式に当て嵌めてから、計算するといいよ」

 

「分かった、やってみる」

 

 約束通りに俺はシュウの勉強を見ている。シュウは理解力があるから、説明さえすれば自力で問題を解けるようになるので教える側としても教え易い。

 

 ただ問題は、俺の水泳の授業の方だ。

 

「また体が傾いてるぞー」

 

「あれ?うまくいかないな」

 

「筋はいいんだけど、どうしても途中で崩れて沈むな」

 

「もう一回お願い」

 

「任せとけ!最後まで付き合うからな、その代わりスパルタでいくぜ」

 

「臨むところ!」

 

 俺の方はある程度形になったものの、まだ泳げるまでには至ってない。それでも根気よく俺に付き合ってくれるシュウには本当に感謝をしている。

 

「お疲れ様、春輝くん、秋夜くん」

 

「歩夢の方もお疲れ様」

 

「秋夜くん、ハルの調子どうだった?」

 

「日に日に良くなっているから、あともう少しで多少は泳げるようになると思うよ?」

 

「さすが秋夜くんだね、ハルも頑張ってね!」

 

「うん、ありがとう!」

 

 当然、同じクラスの歩夢と侑にも知られたのでこうして授業の後に成果を問われている。

 

「でも春輝くんが泳げなかったのはちょっと驚いたよね」

 

「うん、ハルって運動神経いいから絶対に泳げると思ったよ」

 

「あはは⋯⋯」

 

「な?だから皆、同じ反応になるんだぜ」

 

 歩夢と侑やクラスの女子達も、例に漏れることなく驚いていた。それと同時に自然と応援されるようになってしまった。

 

 まあ応援されて悪い気はしないけど⋯⋯少し恥ずかしいかな

 

 それからも泳ぎの練習を重ね、最終的には5mほどだけど泳げるようにはなった。

 

 

 時は変わり、休日のお昼すぎ

 

「お、新刊出てる!」

 

 俺は今日はお台場にあるアニメショップへと足を運んでいた。そこでお気に入りのラノベの新刊を発見して、俺は舞い上がっていた。

 

 新刊を手に取り店内を一通り回った後、会計を済ませお店を出て散歩がてら街を歩いていたら、見知った人がスマホとにらめっこをしていた。

 

「あれって果林さんだよな?」

 

 俺は果林さんと思わしき人の元へ近づいて驚かさないように声をかけた。

 

「果林さん、こんにちは」

 

「うわっ!は、春輝!?」

 

 驚かすつもりは全くなかったが、果林さんは余程スマホの画面とにらめっこをしていてこちらに気付いてなかったみたいで、すっとんきょうな声をあげた。

 

「そんなつもりじゃなかったけど、驚かせてごめんなさい」

 

「私の方こそ変に驚いてしまってごめんなさいね」

 

「大丈夫です!それより果林さんはどうしてここに?」

 

「実は⋯⋯雑貨屋を探しているのだけれど、地図を見ても分かりにくくて、春輝は分かるかしら?」

 

 果林さんが差し出してきたスマホの画面を見ると、地図アプリが起動されていて、目的地の場所にはピンが刺さっているのが分かったが、明らかにその場所とは真逆の場所に来ていた。

 

「分かるけど⋯⋯果林さん、失礼を承知で聞くけどもしかして方向音痴だったりする?」

 

「う⋯⋯そ、そうよ何か悪いかしら⋯⋯?」

 

 いつもの余裕ありの感じの雰囲気と違って、今は焦っていてさらに顔も少し赤くなってるので、果林さんの弱点だと言うことが分かってしまった。

 

「そんなことないですよ、むしろ普段の果林さんとのギャップで可愛いですよ!」

 

「もう⋯⋯恥ずかしいわ」

 

 素直に感想を果林さんに伝えると、果林さんはさらに顔を赤くして顔を逸らしてしまった。

 

「それでこのお店に案内すればいいですか?」

 

「ええ、お願いするわ」

 

「分かりました、もし良かったらですけど俺も一緒に行っていいですか?」

 

「いいわよ、と言っても何かあるわけじゃないわよ?」

 

「大丈夫ですよ、用事を済ませてこのまま帰るのも勿体無いと思ったので、こうして休日に会った機会に、お供したいなって思っただけですから」

 

 話題を戻して当初の道案内のお願いされ、果林さんにその後の同行の許可を求め、了承をもらい果林さんの目的のお店に向かった。

 

「ところで春輝は何の用事だったのかしら?」

 

「俺は近くのアニメショップに、ラノベの新刊を買いに来たんですよ」

 

「そういえば前にアニメやラノベが好きって言ってたわね」

 

「それで目的を果たしたので帰ろうとしたところで果林さんを見つけたんですよ」

 

「ということはタイミングよく見つかってしまったのね」

 

 目的のお店に向かいながら、果林さん発見までの経緯を説明していたら、すぐに到着した。

 

「意外と大きい場所ですね」

 

「そうね、早速入ってみましょう」

 

 二人で店内を回り気になったものを手に取ったりして見せあったりしていた。

 

「これ可愛いかも」

 

「ふふ、春輝って意外と可愛いものが好きなのね」

 

「どうしてですか?」

 

「あなたさっきから可愛い小物ばかり手に取っているわよ?自分で気付いてないのかしら?」

 

 果林さんに言われてさっきまで見ていたものを、思い返すと確かに小動物系とかの小物を見ていた事に気づいた。

 

「小さい動物とかって可愛くてついですね」

 

「少し意外ね、でも可愛い春輝も好きよ」

 

「えっ!?いや、その照れます⋯⋯」

 

 突然、果林さんに好きと言われて自分でも分かるほど真っ赤になっているのが分かった。

 

「あらら、顔が赤くなっちゃってるわよ?」

 

「もう⋯⋯からかわないでください!」

 

「ごめんなさい、少しからかいたくなっちゃったわ」

 

「⋯⋯少しなら、いいですけど」

 

 こんなやり取りをしながら、商品を見ていると果林さんがさっきからパンダの小物を気にしていたが、その商品を手に取らずに他の物を手に取り会計をしていた。

 

 果林さんが会計を済ませてから、一旦お店の外に出た。

 

「果林さん、少し待っててもらってもいいですか?」

 

「ええ、いいわよ。買い忘れかしら?」

 

「そんなところです」

 

 果林さんを待たせるのも悪いので、俺は急いでお目当ての物を手に取り会計を済ませた。

 

「何を買ったのかしら?」

 

「はい果林さん、これさっき見てましたよね?」

 

 俺は買ってきた袋から、さっき果林さんが見ていたパンダの小物を取り出した。

 

「どうしてそれを?!」

 

「明らかにさっきから見ていたのバレバレでしたよ、ということで日頃お世話になってるのと今日付き合わせてもらったお礼です。」

 

「悪いわよ、私は特に何かしたつもりはないわよ?」

 

「果林さんがそう思ってても、俺は助けてもらってるので受け取ってほしいです!」

 

「分かったわ、そういうことならありがたく貰うわね」

 

「はい!どうぞ!」

 

 最初は受け取るのを渋られたが、素直な気持ちを伝えたら受け取ってもらえた。

 

「まあ私も気になっていた物だから嬉しいわ、ありがとう」

 

「喜んでもらえて良かったです」

 

 果林さんがふと時計を見ると、ハッとしていた。

 

「あら、もうこんな時間なのね⋯⋯これから読者モデルの撮影があるからここまでね」

 

「分かりました、なら撮影現場まで送りましょうか?」

 

「大丈夫よ、さすがに迷ったりはしない⋯⋯はずよ」

 

「じゃあ時間あるので、送らせてもらいます」

 

 こうして果林さんを撮影現場の建物付近まで送って、名残惜しくもそこで分かれて俺は帰路に着いた。

 




今回はここまでです!

今回は春輝くんと秋夜くんの苦手な事が判明した回になりました。ですが春輝くんにはまだ苦手なものがありますので、それは今後のお楽しみに!

次回の更新は、かすみんの生誕回になります。余裕があれば本編も新たにメンバーの登場回を投稿します。

読了報告、感想、お気に入り登録等お待ちしてます。



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第8話 虹色との出会い その4

更新です。

今回は同好会のメンバーの登場になります。

更新日の今日が誕生日の、あの子です!それに合わせて誕生日回の方も更新してあるので、読んでいただけると幸いです。

それでは本編をどうぞ



 猛勉強の末に、シュウの学期末のテストは無事に終わり、1学期の終業式も執り行われ、俺達は全員無事に夏休みを迎えた。

 

 だが、俺とシュウは今日学校へ登校している。

 

「いやーまさか先生から頼まれるとは思ってなかったぜ」

 

「そうだね、まあ別に何か都合が悪いわけじゃなかったから、シュウも引き受けたんでしょ?」

 

「演劇部の方も少しの間だけど休みになったから、タイミングとしては丁度良かったな」

 

 話にも上がった通りに俺達は担任の先生から、オープンキャンパスの手伝いを頼まれていた。

 

 ちなみに何で俺達なのかというと、『ある程度この学校で知名度があってよく一緒に行動してるから』との事だった。

 

 当然、俺達にはそんな自覚はないし、いつどこで知名度上がったんだと二人で首をひねっていたが、頼られたからには俺もシュウもやると決めていたのでこの話を受けた。

 

「今日は何をするんだ?」

 

「えっとね、シュウが他のメンバーと一緒に中学生に校内を回りながら説明をする係で、俺が待機組で何か問題があれば対処する係だったね」

 

「なるほどねー、でも問題の対処って何するんだ?」

 

「聞いた話によると毎年の校内で迷子になる中学生がいるらしいから、捜索かな?」

 

「確かにうちの学校広いからなー、慣れていないと迷子になるのも分かるな」

 

 集合場所へ向かいながら、今日の内容を確認していた。

 

 集合場所に着くと他にも生徒がいたが、1年生は俺達を入れてもそんなに多くはなかった。

 

 時間になると生徒会の人達、実行委員、先生も集合場所に来て、改めて今日の予定と係分けを説明していた。

 

 説明が終わると、俺とシュウは係も違う事から別行動になった。

 

「じゃあ何かあったら、ハルに連絡するぜ」

 

「了解、何もない事を祈るよ」

 

 俺達は支給されたインカムを装着して、それぞれの場所に移動した。ちなみに俺はシュウの班の担当になっている。

 

 といっても、俺の係は基本的には問題が起きなければ特に動く事のない待機組なのだが、ただ待機しているのも暇だからクラスメイトの女の子と談笑をしていた。

 

 定期的にシュウの方から問題なしの連絡が来て、それに応対するくらいで本当に暇だった。

 

 そう、本当に迷子が出たという連絡が来るまでは⋯⋯

 

「ハル、大変だ!1人迷子が出ちまった⋯⋯少し急いでて確認が疎かになってたみたいだ」

 

「仕方ないよ、それではぐれたと思われる場所は分かる?」

 

「確か、東棟の2階だったはずだ」

 

「了解、その子の名前って分かる?」

 

「ちょっと待ってな⋯⋯中須(なかす)かすみさんだ」

 

 俺はシュウからの緊急連絡を受けて、一緒に待機してたクラスメイトの女の子と一緒に捜索に出た。

 

 真っ先にはぐれたと思われる東棟2階へ向かい、手分けして捜索することにした。

 

 俺は廊下だけでなく、入れる教室一つ一つをドアを開けて探したが、中々見つからなかった。

 

 インカムで連絡を取り合い一度合流してから、今度は1階と3階に分かれて捜索することにした。

 

 1階でも同じように探していると、中庭のベンチに座って俯いている中学生の制服を着た女の子を見かけた。

 

「もしかして、あの子が中須さんかな」

 

 見失ってしまわないように、俺は急いで中庭に繋がる扉へと向かい、女の子に近づいて声をかけた。

 

「ちょっといいかな?」

 

「はいっ!?何ですか⋯⋯?」

 

「そんなに硬くならなくても大丈夫だよ、君は中須かすみさんだよね?」

 

「はい、そうです⋯⋯」

 

「良かった~、俺は大空 春輝です。さっきはぐれたって連絡があって探してたんだ」

 

「そうだったんですね、ご迷惑おかけしちゃいました⋯⋯」

 

 俺が中須さんに探していた旨を伝えると、彼女は申し訳なさそうに頭を下げてきた。

 

「頭を上げてよ、別に中須さんのことを責めてるわけじゃないからね」

 

「本当ですか?」

 

「うん、むしろ何もなく見つけられて良かったよ」

 

 中須さんが頭を下げてきたことに、俺は謝らなくていいと伝えると中須さんの表情が少しだけ明るくなった。

 

 俺は中須さんに少し待っててと告げ少し場を離れ、シュウやクラスメイトの子に連絡を入れて、中須さんの見学の残りは自分が引き受ける事を伝えて、中須さんの元へ戻った。

 

「おまたせ中須さん、残りの学校紹介は俺が担当することになったから、短い間だけどよろしくね!」

 

「こちらこそよろしくお願いします!ええっと⋯⋯大空先輩?」

 

「俺のことは呼びやすいように呼んでいいよ、それじゃあ行こっか!」

 

「分かりました、ハル先輩!その代わりにかすみんの事も、名前で呼んでください!」

 

「分かったよ、かすみちゃん」

 

 ある程度打ち解けた俺達は、学校見学を再開しパンフレットや自分の体験も踏まえながら、かすみちゃんに分かりやすく説明した。彼女も俺の説明をしっかり聞いてくれたので、説明の甲斐があった。

 

 大体の説明を終えて時間を確認すると、お昼時のタイミングだった。

 

「そろそろお昼にしようか?」

 

「賛成です!かすみん、お腹空いちゃいました」

 

 かすみちゃんも空腹だと言うことなので、お昼を買いに購買へと向かった。

 

 ちなみに夏休みなのに購買がやっているのは、利用者が多いのもあり、決まった日の決まった時間帯にのみ開いているのだ。

 

 俺は毎日というわけじゃないけど、何度か購買を利用したことはある。

 

「かすみちゃんはどれにする?」

 

「そうですね~、かすみんはコッペパンにします」

 

「オッケー、じゃあ一緒に買ってくるね」

 

「えっ?ダメですよ!かすみんもお金出しますよ」

 

 自分のと合わせて、かすみちゃんの分も一緒に購入しようとした時に、彼女に待ったをかけられた。

 

「ううん、こうして会えたのも何かの縁だと思うから、ここは俺に奢らせてほしい」

 

「でも⋯⋯分かりました、ご馳走になります」

 

 理由を説明しても納得をしてくれない彼女に、俺は真剣な眼差しを向け説得した結果、俺の意思を尊重してくれた。

 

 お昼を購入した後に場所を移して、カフェテリアの窓際の席に座り、二人で楽しく昼食を堪能した。

 

 その後、残りの紹介を行い全ての日程が終了し、今は再びカフェテリアに戻ってきている。

 

「かすみちゃん、虹ヶ咲のこと分かってもらえたかな?」

 

 俺は彼女に今日の紹介が上手く伝わったかを聞いてみた。

 

「もちろんです!パンフレットに載っていない事や、ハル先輩の体験談を聞けて、かすみん楽しかったです!」

 

 かすみちゃんは笑顔で、今日のオープンキャンパスが楽しかったと答えてくれて、俺も自然と笑顔になった。

 

「かすみん、決めました。この学校を受験します!」

 

 俺はかすみちゃんの突然の宣言に、驚きの表情を隠せなかった。

 

「えっ!?もう決めちゃってもいいの?まだ時間はあるからゆっくり考えても⋯⋯」

 

 俺がもう少し時間をかけて、選ぶことを推奨しようとしたら、かすみちゃんは話を遮るように反論した。

 

「いいんです!それにさっきハル先輩も言ってくれましたよね?『これも何かの縁』だって」

 

 かすみちゃんにさっき自分で言ったことを返されてしまい、思わず納得するしかなかった。

 

「そうだったね⋯⋯うん、分かったよ。かすみちゃんがそうしたいなら、俺も応援するよ」

 

「ハル先輩⋯⋯!」

 

 俺はかすみちゃんの意思を尊重して、彼女の決意を応援することにした。

 

 

 話を終えて、かすみちゃんを校門まで案内して、いよいよ今日のオープンキャンパスが終わりを迎えようとしていた。

 

「それじゃあ、今日のオープンキャンパスはこれで終了だよ。次に会えるのは、かすみちゃんがこの学校に入学した時だね」

 

 最後に校門の前で、次に虹ヶ咲で会えることを楽しみにしている旨をかすみちゃんへ伝えた。

 

「はい!かすみん、お勉強を頑張ります。今度は本当にハル先輩の後輩として、この学校に入学してみせます!」

 

 かすみちゃんの方からも、改めて決意が固い事を俺へ伝えてくれた。

 

 そして、かすみちゃんが帰ろうとした時に校舎から一人走ってくる人物がいた。

 

「おーい、ちょっと待って!」

 

 俺はその人物が発した声に、聞き覚えしかなかった。

 

「どうしたの、シュウ!?まだ残っていたの?」

 

 その人物は案内を終えて、もう帰宅していると思っていたシュウだった。

 

「おう⋯⋯中須さんに一言謝ろうと思って、残っていたんだよ」

 

 シュウは自分のミスで、かすみちゃんを迷子にしてしまった事を謝罪しようと思い、かすみちゃんが校門に来るまで一人で校内に残っていたらしい。

 

 シュウのこういう律儀なところは、友人としてだけでなく一人の人間として、尊敬に値すると思う。

 

「中須さん、こちらの不手際で置いていってしまって、申し訳なかった」

 

 シュウはかすみちゃんの目を見て、いつになく真剣な表情で頭を下げて謝罪した。その真剣な表情からは、反省している事がしっかりと伝わってくる。

 

「ありがとうございます、宮本先輩。でもかすみん怒ってないですよ、それに迷子になったおかげで、ハル先輩とも知り合えて結果的に良かったです」

 

 シュウの謝罪の言葉に、かすみちゃんはお礼を述べ、結果的に良かった事を伝え、シュウの事を許した。

 

「ありがとう⋯⋯中須さん。それにハルも中須さんの事、見つけて案内までしてくれてありがとな」

 

「いいよ、それこそ礼なんていらないよ。これが俺の役割だったんだから」

 

 シュウは、俺にも感謝を伝えてくれたが、俺はやるべき事をやっただけだから礼には及ばないと伝えた。

 

「それじゃあ、ハル先輩に宮本先輩、今日はありがとうございました。かすみんがこの学校に入学した時は、またよろしくお願いします!」

 

「「楽しみにしてるよ(ぜ)!」」

 

 最後に、今日のお礼とまた虹ヶ咲で会えるのを楽しみにしている事を伝えると、かすみちゃんは笑顔のまま帰路に着く。

 

 それを俺達はかすみちゃんの姿が見えなくなるまで、校門から彼女を見送る。

 

 その間に、かすみちゃんは一度こちらを振り向き、手を振ってくれたので、俺達も彼女に見えるように手を振り返した。

 

「これは来年が楽しみだな」

 

「そうだね」

 

 俺達もかすみちゃんの姿が見えなくなってから、校舎へと踵を返す。その道中で、来年の春にかすみちゃんがこの学園に入学してくる事に思いを馳せる。

 

 無論、本当に入学してくると決まったわけではないけれど、俺達は彼女とまたこの学園で会えると、不思議と心の奥ではそう感じていた。




今回はここまでとなります。

かすみちゃんの登場回となりましたが、彼女の次の出番は入学してからになるので、しばらくはまたお休みとなります。

自分としても早くアニメ本編の内容に入りたいとは、思っているのでもう少しだけ、過去編にお付き合いください。


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第9話 偶然の出会い

更新です!

来週のエマちゃんの誕生日までに、エマちゃんを本編に登場させるべく少し執筆ペースを上げています。

今回は少し長くなってしまったので、ゆっくり読んでいただけると幸いです。

それではどうぞ!


 今は夏休みの真っ只中、日数もまだ半分も残っている。

 

 しかし、俺は完全に暇をもて余していた。

 

 課題をすればいいじゃないかだって?課題なら昨日までに全て終わらせたから、あとは終わり頃に休み明けのテストに備えて、復習するくらいしか残っていない。

 

 いつもなら、ゲームやラノベで時間を潰しているのだが、今日は違った。そう、今日は何故か分からないが無性に、外へ出掛けて誰かと遊びたいと思ってしまった。

 

 だが、こんな理由で誰かを誘ってしまってもいいのだろうか、そんな事を考えてしまったら、誰かを誘おうにも連絡出来ない状況に陥っている。

 

「あ~あ⋯⋯シュウが暇だったら、迷わず連絡したのにな~」

 

 しかもタイミング悪く、今日は演劇部が1日活動があるらしく、シュウは部活中である。昨日の段階でこの事を知っていたからこそ、さらにこの状況に拍車をかけてる。

 

 時刻は午前9時30分、じーっとしてても、どうにもならないと思った俺は、一人で街へと繰り出した。

 

 目的地はよく通っているゲームセンター。ショルダーバッグに財布やスマホなどの、必要最低限の物を入れて行くのがいつものスタイル。

 

 今日もいつも通りのスタイルで、ゲーセンへと向かった。途中で野良猫と遭遇し、その野良猫と少し戯れてから、再び目的地を目指す。

 

 ゲーセンに着くと、さすがに夏休みということもあり、親子連れから学生の集団が、それなりに見受けられ店内は、いつもより混雑していた。

 

「うわっ、かなり待ってる人が多いな⋯⋯」

 

 目的のゲーム台も、例に漏れることなく並んでおり、そこそこの人数が待っている状態だった。

 

 そういえば、最近新キャラが追加されたばかりだから、混んでるのも仕方ないか⋯⋯皆、注目してたもんな~

 

 さすがに今は並んでまで、プレイをする気にはならなかったので、俺は諦めてプライズコーナーへと向かった。

 

 プライズコーナーには様々な景品があり、お菓子の景品からフィギュアやぬいぐるみ等の、様々なニーズに応えれる程の種類の多さ。

 

「あっ、これ最近出たばっかりのやつだ」

 

 俺はその中で好きなアニメ作品の、鞄に付けられる程のミニサイズのストラップの台を選び、その台にコインを投入して、プレイを始めた。

 

 取り方はアームで掴んで、持ってくるだけのシンプルなものだった。それなりに経験もあるし、特に苦戦をすることもなく、1000円を使って、3個も取れた。

 

 1つ目は俺の推しキャラ、2つ目は同じ作品を見ている、シュウの推しキャラ、3つ目は俺の推しキャラと公式カップリングであるキャラの3種類を獲得した。

 

 もちろん、シュウの推しキャラのストラップは、今度遊ぶ機会にでも渡すつもりだ。元々、シュウからも頼まれていたので、丁度良かった。というかシュウは、この手のゲームがあまり得意じゃないので、結果的に俺が取る事になるのは目に見えている。

 

 ゲームセンターでの、目的を果たし店を後にし、今度はアニメショップの方へと向かった。

 

 といっても、何か目的があるわけではない。ただ何か面白い事がないかと思い、向かっているだけなのだ。一応、店内を見るつもりではあるけど⋯⋯

 

 到着して、店内へと入りいつも通りに見て回る。

 

 すると、新刊コーナーに興味を引くタイトルと表紙の、まだ第1巻しか発売されていないラノベがあった。

 

 しかも、今このラノベは人気らしく、店内のポップにも『このラノベが熱い!』と書いてあり、明らかに多く仕入れてあったと思われる在庫も、残り一冊しかないという売れ行きである。

 

「へぇ~、気になるし買ってみようかな?」

 

 そう思い、商品取ろうと手を伸ばした時、横から誰かの手が出て来た為、お互いの手が当たってしまった。

 

「「あっ!ごめんなさい!」」

 

 当たってしまったと同時に、お互い謝罪すると、偶然なのかタイミングと謝罪の言葉まで一緒だった。

 

 俺は下げていた頭を上げ、相手の顔をよく見てみると、謝罪された時の声でだいたい察していたが、相手は俺と同年代くらいの女子だった。

 

 その子の容姿は、黒髪のストレートで右の髪を一房くくった髪型で、瞳の色は黒、さほど高くない身長のわりに、出てるとこは出てるし、引っ込むところは引っ込んでいる。

 

 いや、初対面の子に対してどんな感想だよ⋯⋯

 

「大丈夫ですか?」

 

「あっ!うん、大丈夫、大丈夫」

 

 俺は彼女の容姿に少し見とれてしまい、大丈夫かと聞かれて我に帰る。

 

「君はこのラノベを目当てに買いに来たの?」

 

 この新刊コーナーは入口から少しだけ離れた位置にあり、多くの人は他のコーナーを見た流れで見るのだが、彼女は明らかに他のコーナーを見ずに、新刊コーナーへ直行してきていた。

 

 そんな事から、俺は彼女にこのアニメショップへ来た理由を聞いてみた。

 

「はい、実は他のアニメショップや書店などを巡ったのですが、どこも売り切れでして、自分の足で行ける範囲だとここが最後のお店だったんです。」

 

 なんと、彼女は既に他の店舗にもこのラノベを探しに訪れていたらしく、このお店に最後の望みを懸けて来ていたのだった。

 

「なるほど、それならこれは君が買うべきだよ」

 

 そんな事を聞いてしまったからには、俺はこのラノベは彼女が購入するべきだと思い、俺はこのラノベから手を引くことにした。

 

「いえ!とんでもないです。先に来ていたのはあなたの方ですので、私に構う必要なんてないですよ⋯⋯」

 

 しかし、彼女も似たような事を考えていたらしく、彼女の方も俺に購入することを勧めてくる。

 

 俺はある1つの事が思い浮かんだ。今の時代、オンラインで注文すればわざわざ、店舗を巡らなくてもいいはずなのに、それでも彼女は店舗を巡り、このお店に辿り着いた。

 

 だとするならば、こうするだけの理由が他にもあるはずだと俺は思った。そう例えば、お家が厳しいから気軽にオンラインで注文が出来ないとか⋯⋯

 

 そう考えた俺は、彼女に思いきって今考えた事を聞いてみる事にした。

 

「もしかして⋯⋯こうしてお店を回っているのに理由があったりする?」

 

「はい、その通りです⋯⋯でも、どうしてそれを?」

 

 俺の質問に対して、彼女は正直に答えるも、どうしてそう思ったのか疑問に感じたらしく、俺は考えた経緯を彼女に説明した。

 

「今だったら、オンラインで注文できるはずなのに、敢えてそうしないのは理由があるからと思ったんだよ」

 

「なるほど⋯⋯おっしゃる通りです」

 

「だったら、尚更これは君が買うべきだと思うよ?」

 

 説明を終えた俺は今一度、彼女にこのラノベを買うべきだと勧めた。

 

「でも⋯⋯本当にいいのですか?あなたも欲しかったのでは?」

 

 図星を突かれ、さすがに彼女も折れかかっているが、俺も欲しいのではと考えてるらしく、最後の決断に至ってはいない。

 

「俺は今日偶然、見つけてそれで買おうとしただけだから、また重版を待つよ」

 

 気になるし読んでみたいとは思うが、俺は彼女ほどこのラノベに想いがある訳ではないので、次の機会でも大丈夫だと告げる。

 

「分かりました。それではお言葉に甘えさせていただきます」

 

 ついに彼女は購入する事を決意し、そのラノベを手に取った。

 

「この恩は忘れません、よろしければお名前を聞かせてもらってもいいですか?」

 

 彼女は、この事を恩に感じているらしく、名前を教えてほしいと尋ねてきた。

 

「俺は、虹ヶ咲学園の1年の大空 春輝です。よろしくね」

 

 彼女の要望通りに、俺は学校名と学年も含めて、自己紹介をしあう。

 

「私は、虹ヶ咲学園の1年の、な⋯⋯優木(ゆうき)せつ菜です」

 

 まさかの同じ虹ヶ咲の生徒だったらしく、俺は少し嬉しくなった。

 

「君も同じ虹ヶ咲の生徒なんだね!俺の事は春輝って呼んでよ」

 

「それなら、私の事もせつ菜って呼んでください」

 

 お互いに同じ学校という事もあり、名前で呼び合うことになった。

 

「そっか、同じ虹ヶ咲ならまた学校が始まれば、会えるかもしれないね」

 

「そうですね、このような偶然もあるんですね」

 

 いつまでも商品を持ったまま話をしているのも、よろしくないと思いせつ菜は一度レジへ向かい、会計を済ませて一緒にお店の外へ出た。

 

「それじゃあ、俺はこのままもう少し他の場所も見てから帰るけど、せつ菜はどうする?」

 

 俺はこれからの自分の予定を伝えた上で、せつ菜にどうするかを尋ねた。

 

「ご一緒したいのですが、母にお昼までには帰ると伝えてあるので、このまま帰宅します」

 

 時間は午前11時を過ぎており、このまま一緒に行動すると間違いなく、お昼を過ぎてしまうのでせつ菜は帰るとの事だった。

 

「うん、それなら仕方ないね。それじゃあ、またね」

 

 少し残念だったけど、割りきってせつ菜にまたねと告げた。

 

「はい、また近いうちにお会い出来るといいですね。それではまた」

 

 お互いに小さく笑顔で手を振り、せつ菜は自分の家へ踵を返し、俺はそれとは反対の方向へと歩みを進めた。

 

 しばらく歩いてから、ある事に気づく。

 

「クラスと連絡先を聞くのを忘れてたな⋯⋯まあ、学校が始まれば同じ1年生だしすぐに会えるかな」

 

 

 

 

 その後、適当な場所でお昼を済ませてからショッピングモールへと向かう途中で、偶然にも歩夢と侑に出会った。

 

 二人もこれから同じ目的地に向かうとの事なので、俺は二人のショッピングに付き合う事にした。

 

「まさかこんな偶然があるんだね~」

 

「本当だよ、私と歩夢もハルと会うなんて思ってなかったよね?」

 

「そうだね。実は、春輝くんの事も誘おうとしたんだけど、忙しかったら迷惑かなって思って連絡出来なかったの⋯⋯」

 

 偶然に偶然が重なる事なんてないと思っていたが、まさか連絡しようかどうか迷ったところまで一緒とは、予想もしてなかったので驚きを隠せない。

 

「本当!?実は、俺も朝に暇だったから、二人に連絡しようかと思ったけど二人と同じ理由で連絡出来なかったんだよ」

 

「「そうなの!?」」

 

 今日の朝、あの連絡をしようか迷っていた話を二人にすると、二人も驚きから声が大きくなる。

 

 そんな会話をしていると、ショッピングモールへ到着し、それからは歩夢、侑の順番で行きたいお店へと入って、洋服を見たり小物を見たりと二人が楽しそうにしているのを、見ていた俺もつい楽しくなった。

 

 二人ともお気に召したものがあったようで、それぞれ何点か商品を購入して、今はカフェで三人で休憩中。

 

「二人とも、いいものが買えて良かったね」

 

「「うん!」」

 

 二人とも声を揃えて、返事をするあたりご満悦のようで何より。

 

「でも、私達ばかりお買い物をしちゃって、春輝くんは退屈じゃなかった?」

 

 歩夢は、自分と侑は買い物をして楽しかったが、俺は退屈だったのではと心配そうに聞いてきたので、感じた事を素直に答える。

 

「そもそも、あまりこの場所を廻り歩く用事がないから、二人と一緒に来れて新鮮な体験が出来たから、楽しかったよ」

 

 俺の返答を聞いた二人は、『それなら良かったよ』と言って安心していた。

 

 二人ともわざわざ気を遣ってくれて優しいよな⋯⋯というか退屈そうに見えていたのだろうか⋯⋯

 

「そうだ、ちょっと待ってね」

 

 急に、歩夢がそう言うと買ったものが入ってる袋の中から、何かを取り出した。

 

「はい、これ!今日のお礼だよ」

 

 そう言って歩夢が取り出したものは、猫のデザインのキーホルダーだった。

 

「えっ?これ貰っていいの?」

 

 当然何かした訳ではないので、貰う事に対して気が引けている。

 

「うん!歩夢が『四人でお揃いのものを買おう』って、提案してくれてせっかくだから、ハルと秋夜くんにはプレゼントをしようってなったんだよ」

 

「本当に!?」

 

 この話を聞いて、俺はとても嬉しくなりつい大きい声でお礼を言おうとしたが、場所の事もあり声量を抑えた上で、嬉しさが伝わるように改めてお礼を言う。

 

「ありがとう、すっごく嬉しいよ。大切に付けさせてもらうね」

 

「良かった、春輝くんのは私が選んだの」

 

「ちなみに私は秋夜くんのを選んで、デザインは歩夢と二人で選んだんだよ!」

 

 どうやら、俺のは歩夢が選んでくれたらしい。よく見るとデフォルメされた猫で、茶色の体毛で頭の部分に俺と同じで、紫のメッシュが入っている。

 

 そもそも、こんなピンポイントなデザインのものがよく売ってたな⋯⋯

 

 シュウのは全身が赤茶色、歩夢のはピンク色、侑のは体毛が黒色で耳や尻尾の先が緑色のデザインだった。

 

 早速、三人でこの場で今持っている鞄に、キーホルダーを付けて見せ合い、それぞれ感想を言い合った。

 

 その後、もう少しカフェで休憩をしてから、ショッピングモールから帰路に着いた。

 

 その帰り道でも三人の会話は途切れる事はなく、夏休みの間は何をしていたか、課題の進捗はどうかを話しながら、ゆっくりと帰宅した。




今回はここまでとなります。

なんとここで春輝くんは、せつ菜ちゃんと邂逅しました!

彼がいつ、せつ菜ちゃんの正体に気付くかお楽しみに!

前書きでも書いた通りに、少し執筆ペースを上げていますので、もしかすると今週もう1話更新するかもしれないです。(まだ不確定なのでどうなるかは分かりませんが⋯⋯)

感想、お気に入り、評価、お待ちしています。


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第10話 虹色との出会い その5

本編の更新です!

今回はサブタイトルの通りに新たに同好会メンバーが登場します。今回登場するのは投稿日の今日がお誕生日のあの子です!

それではどうぞ


 課題も早くに終わらせて、暇だと言っていた夏休みはあっという間に過ぎ去り、新学期を迎えテストから体育祭などと行事があったおかげで凄い勢いで月日が流れ、もう衣替えの季節となり春以来の冬服に袖を通していた。

 

 今日もいつも通りに登校すると、教室がいつもより騒がしい雰囲気に包まれている。

 

 席に座り準備をしていると、シュウがいつになく急いで俺の元へやって来た。

 

「おい、聞いたか?どうやら2年生に留学生が来るらしいぞ!」

 

 来たと同時に少し興奮気味に急いで来た理由を話し始める。

 

「そうなの?でも、2年生なら俺達にはあまり関係ないんじゃ⋯⋯」

 

 同じ学年ならまだしも、留学生の人は2年生。そう学年が1つ上なのだ。その事から、つい少し冷めた反応をしてしまう。

 

「何だよ、ハルは気にならないのか?」

 

「気にはなるけど、俺達が気にしたってしょうがないと思うけど⋯⋯」

 

「確かに、それは一理あるな⋯⋯」

 

 さっきまで少し興奮気味だったシュウは、俺の言葉に思うところがあるようで、落ち着きを取り戻した。

 

 俺も冷めた反応をしたけど、確かに留学生はちょっと気になるかも⋯⋯彼方さんと果林さんなら、何か知ってるかな?

 

 それから間もなく、歩夢と侑も登校してきたので二人も交えた上で改めて話をするが、同じ結論にたどり着いた。

 

 結局、この話題は俺達の間では有耶無耶になり、改めて話題に上がることはなくなった。

 

 

 

 それから1週間ほど経ったある日⋯⋯

 

 今は授業が終わり放課後⋯⋯部活動に行く生徒、帰宅する生徒と各々の時間を過ごしている時間帯。その中で、俺は果林さんと会う約束もとい呼び出されている為、カフェテリアへと向かっている。

 

 カフェテリアに着きいつも果林さんが座っている席の方を見ると、果林さんの向かいの席に誰かが座っているのが見えた。しかも、果林さんはその人と仲が良さそうに話している。

 

 果林さんって、彼方さん以外にも楽しそうに話す人いるんだ⋯⋯でも、あの人は誰なんだろう?

 

 果林さんに対して失礼な事を思いつつも、俺はもう少し二人の様子を見る為に、近くの柱に隠れそこから少し顔出して様子を窺う。

 

 10分程様子を窺っていると、俺のスマホに何かの通知が来たらしくスマホが振動した。画面を開くと果林さんからメッセージで『まだ来ないのかしら』と送られてきていた。

 

 そのメッセージを見て、当初の目的を失念していた事に気付き果林さんの元へ向かう。

 

「ごめんなさい、遅くなりました」

 

「そうね、確かに少し遅かったわね。でも大丈夫よ、呼んだのは私だしエマと話をしていたから退屈じゃなかったわ」

 

 実際は陰から見ていたからその場にはいたのだが、悟られないようにたった今来たように装って、果林さんに遅くなった事を謝罪をした。

 

 果林さんも遅い事を指摘するも、呼び出したのは自分である事と待っている間も退屈ではなかった為、許してくれた。

 

「ところで果林さん、今日の呼び出しって、もしかするとこちらの人が関係していたりします?」

 

「さすが春輝ね、察しが良くて助かるわ。今日はエマを紹介する為に呼んだのよ」

 

「なるほど。さっき言ってたエマさんという人はもしかして⋯⋯」

 

 果林さんに呼び出された理由を訊いて、その理由と先程の発言を照らし合わせると、果林さんの向かいに座っている『エマ』と呼ばれている人の方に視線を向ける。

 

「エマ、この子がさっき話をしていた春輝よ」

 

「あなたが春輝くんなんだね!?はじめまして、私は国際交流学科2年のエマ・ヴェルデです。つい最近スイスから虹ヶ咲に留学してきたばかりなの。果林ちゃんには虹ヶ咲まで案内してもらって編入してから仲良くなったんだよ、これからよろしくね!」

 

「こちらこそ、はじめましてライフデザイン学科1年の大空 春輝です。果林さんとは同じ学科の先輩後輩として仲良くさせてもらってます!」

 

 俺が視線を向けると、エマさんは自己紹介をしてくれた。どうやらエマさんはスイスからの留学生らしい、しかも留学生とは思えない程に日本語が上手。

 

 見た目は赤毛の髪でショートヘア、それでいて三つ編みのおさげ。さらに青い目と頬のそばかすが特徴的な優しそうな雰囲気のする人という印象を受けた。

 

 あれ⋯⋯?留学生ということは、もしかして1週間くらい前にシュウが言っていた留学生ってエマさんの事かな?ちょっと訊いてみよう

 

「エマさん、つい最近だとここ1週間くらいに編入してきました?」

 

「うん、そうだよ!でもどうして?」

 

「実は俺の友達に国際交流学科の子がいて、その子が少し前に話をしていたのを思い出したんですよ」

 

「それって宮本くんの事かしら?」

 

「そうですよ」

 

 エマさんに1週間前の事を訊くと当たりだったようで、その話を聞いていた果林さんはシュウの事だと分かっていた。

 

「果林ちゃんはその子の事知ってるの?」

 

「ええ。前に春輝と一緒にいた時に会っているのよ」

 

 果林さんの言う通りでシュウとは以前に会っている。たまたまシュウと学食を訪れた時にばったりと会い、それからはたまにシュウも交えて果林さんと会うことが増えた。

 

 呼び方はまだ会った回数も少ない事もあり、お互い名字で呼んでいる。

 

 二人とも、もう少しフランクでもいいと思うけどな~まあ今は一旦置いておこう。

 

「今度、機会があればシュウを連れてきますよ。シュウも喜びますよ」

 

「本当!?楽しみにしてるね!ちなみに彼方ちゃんのともお知り合いだったりする?」

 

「はい、彼方さんにもお世話になっていますし、果林さんも一緒にこの場所で自分の勉強の相談に乗ってもらったりしてますよ」

 

 どうやら彼方さんとは既に面識があるみたいだ。多分、偶然その場に彼方さんが居合わせた可能性が高いかな

 

 この後、エマさんと一緒に三人でお茶をしながらエマさんの身の上の話を聞いたり、世間話をして楽しい放課後の時間を過ごした。

 

 

 

 それから数日後⋯⋯

 

 今日は月曜日。1週間の始まり、そんな日に朝から事件は起きた。

 

 まあ、事件という事件ではないが

 

「大変だっ!春輝!!」

 

 まだ気持ち良く眠っていた時に、父さんが慌てて部屋へ入ってきて俺を起こした。

 

「んん~、何?こんな朝から⋯⋯」

 

「ママが⋯⋯寝坊した!」

 

「マジかぁ⋯⋯」

 

 普通だったら、寝坊したくらいでこんなに騒ぐ事はないのだけど我が家は違う。うちの母さんは頻繁ではないが、それなりに寝坊してしまうのだ。だが、これで問題なのは朝ごはんを作るとお弁当を2つ作る時間はない。

 

 朝ごはんを抜けばいいと思うかもしれないが、家の独自のルールで朝ごはんは必ず食べる事になっているので朝ごはんを抜くのは絶対にできない。

 

「ごめんね~!ママまたやっちゃったぁ」

 

「ママはいつもの事だから大丈夫だよ!」

 

「今日は俺がお弁当なしでいいから、手分けして準備しないと遅刻する!」

 

 急いで手分けをして、支度を済ませて何とか父さんはいつも通りに家を出る事が出来た。

 

 

 

 時は流れ、昼休み⋯⋯

 

 お昼ごはんを買いに購買へと出向こうと鞄から財布を取り出そうとしてある事に気付いた。

 

 

 そう、財布がない。

 

 

 もちろん誰かに盗られた訳ではない。なら財布はどこか?今財布がある場所は家の自室だ。

 

 昨日、少し出掛けた時に財布を別の鞄へ入れていたのを忘れ、そのまま家を出てきてしまったのだ。

 

 財布がないということは当然何も買って食べる事も飲むことも叶わない。

 

「今日、ちょっと行くところがあるから3人でご飯食べてて!」

 

「私達はいいけど⋯⋯何かあったの?」

 

 行くところがあると言って誤魔化してその場から離れようとするも、歩夢に不審に思われてしまった。

 

「えっと⋯⋯勉強の事で先輩に相談があるから、それで今日は学食に行くんだよ」

 

「そっか⋯⋯分かったよ、いってらっしゃい!」

 

「ハルがいないとちょっと寂しいかな~、でも勉強の為だもんね頑張って!」

 

「一緒に食べれないのは残念だが、遅くなるのも悪いだろうから、早く行った方がいいんじゃないか?」

 

 3人とも少し残念そうな表情をするものだから、俺の良心が少し痛む。

 

 ごめん、でもここにいると空腹に耐えられないから⋯⋯皆から貰うのは悪いから今はこの場を離れるしかないんだ⋯⋯!

 

 教室から出て中庭へと移動してきた俺は気を紛らわす為に、寝ることを思いつき前に彼方さんから聞いたお昼寝スポットへ向かっている。

 

 そんな時に正面から見覚えのある人が歩いてくるのが見えた。

 

 あれは⋯⋯エマさん?何でここにいるんだろう?それに紙袋を持っている?

 

 気になったのでエマさんの元へと駆け寄り、ここにいる理由を訊いてみることにした。

 

「こんにちは、エマさん!ここで会うなんて奇遇ですね?」

 

「春輝くん、こんにちは!今日はお天気がいいからせっかくだからお外で食べようと思ったの」

 

 あっ⋯⋯まずい。エマさんもこれからお昼なのか、うぐぅ⋯⋯今ほど財布を忘れたことを恨めしいと思った事はないぞ⋯⋯!

 

「春輝くんはもうお昼食べちゃったの?」

 

「実はそうなんですよ~、すぐ食べ『きゅ~』⋯⋯あっ」

 

 もう一度、誤魔化して逃げようとしたらタイミング悪くお腹が鳴ってしまった。

 

 恥ずかしい⋯⋯誰かにお腹の音を聞かれるってこんなにも恥ずかしいのか⋯⋯

 

「もしかして⋯⋯お昼、食べてないの?」

 

「⋯⋯はい、食べてないです。財布を家に忘れたので何も買えません」

 

 お腹の音を聞かれてしまい、もう言い訳できないと悟った俺はエマさんに正直に今の状況を説明した。すると⋯⋯

 

「それなら私のパンを分けてあげるから一緒に食べよ?」

 

「そんな悪いですよ⋯⋯元々、俺が財布忘れたのが悪いんですから」

 

 正直こうなると思っていたから、静かな場所に逃げてきた訳なのだがエマさんに見つかったのが運の尽きらしい⋯⋯

 

「それでもだよ、春輝くんがお腹を空かせているのに放っておけないよ?だから、一緒に食べよ?」

 

「⋯⋯はい、お言葉に甘えさせてもらいます」

 

 一度断ろうとしたがエマさんも断固として引くつもりがないようなので、ここは潔く諦めて施しを受ける事にした。

 

 二人で近くのベンチに腰を掛けると、エマさんは紙袋いっぱいのパンを1つ1つ取り出した。

 

「春輝くん、好きなのを選んでいいよ!」

 

「どれにしようかな⋯⋯それじゃあ、この2つにします!」

 

 エマさんが取り出したパンはどれも所謂菓子パンと呼ばれるもので、見る人が見ると甘いものばかりだと思うかもしれないが、俺は甘いものが好きだからとてもありがたい。

 

 その中から俺はメロンパンとあんぱんを頂くことにした。

 

「「いただきます!」」

 

 二人でいただきますの挨拶をして、食べ始めてから暫くして横からの視線を感じてその方向を振り向くとエマさんがニコニコしながら俺を見ていた。

 

「あの⋯⋯気になるんですけど」

 

「あっ!ごめんね、春輝くんが美味しそうに食べているからつい⋯⋯」

 

 なんとエマさんは俺が美味しそうに食べていた事に見とれていたらしい。

 

 自分では全く意識してなかったけど、美味しそうに食べてたのかな?でも流石に見られながら食べるのは恥ずかしいよ⋯⋯

 

「でも、それだけでニコニコしながら見入るものですか?」

 

「実は、春輝クンが食べているのを見ていたらスイスにいる妹や弟達の事を思い出して、だから余計に見入っちゃったのかも」

 

 どうやら俺の食べている姿に故郷にいる家族に重なって見えていたから見入っていたらしい

 

「そうだったんですね⋯⋯やっぱり家族と離れるのって寂しいですよね?」

 

「そうだね~寂しくないと言えば嘘になっちゃうけど、私も決心してこの学園に来たんだから大丈夫だよ」

 

「エマさんって強いですね。そんなエマさんだからスクールアイドルとして活動するために行動出来たんですね」

 

 俺はエマさんの心の強さに感心と尊敬の念を抱き、それと同時にエマさんに寂しい思いはしてほしくないと感じた。

 

「あの!俺で良かったらこうしてお昼食べたり、話の相手になったりしますから!もちろん俺じゃなくても果林さんや彼方さんもいます、だから寂しいと思ったらいつでも頼ってください!」

 

「うん!じゃあその時は頼らせてもらうね!でも急にどうしたの?」

 

 当然である。急にこんな話をすれば誰だって理由を訊きたくなるに決まってる。

 

「いや⋯⋯エマさんが家族と離れて寂しくないようにしたいなぁ~と思ったんですけど⋯⋯」

 

 隠さずに理由をエマさんに教えたが途中から恥ずかしくなってしまい、どんどん声が小さくなっていった。

 

「心配してくれてありがとう。果林ちゃんや彼方ちゃんから話に聞いてた通りで春輝くんは優しい子だね」

 

 理由を聞いたエマさんは心配してくれた事に対してお礼を言うと俺の頭を撫で始め、さらに二人から話を聞いたらしく褒めてくれたのだ。

 

 俺は恥ずかしさのあまりに自分でも顔が熱くなるのが分かり、多分人から見れば茹でダコのように赤くなっているはず。

 

 でもエマさんから頭を撫でられるのは嫌ではなく、寧ろ心地良くてまるで自分に姉が出来たような感覚に陥る。

 

「もう頭撫でるのやめてもらっていいですよ?お昼食べましょう?」

 

「まだ時間もあるし、もう少しだけこうしていたいかな。こうしていると妹や弟達の頭を撫でてるみたいでお家にいるみたいに落ち着くの~」

 

「⋯⋯じゃあもう少しだけなら」

 

 恥ずかしくてそろそろやめてほしいと思っていたが、エマさんが落ち着けるというので人目もないし、パンを貰った恩もあるのでされるがままにエマさんが満足するまで撫でられた。

 

 もちろんパンを分けて貰ったお礼はこれとはまた別の形で何かするつもりだからね?

 

しばしの沈黙の後、エマさんが俺を撫でながら沈黙を打ち破る。

 

「ねえ、春輝くん?春輝くんの事を春くんて呼んでもいいかな?」

 

「いいですよ、ぜひお願いします」

 

まさかのエマさんが春くんと呼んでくれるとの事で俺は内心ではかなり嬉しかった。

 

 こうしていつもと違うお昼休みを過ごし、午後からの授業中もエマさんの優しく撫でる感覚が残っていて、時折思い出しながら授業を受けた。




今回はここまでになります。

エマちゃんが今回初登場という事でいかがだったでしょうか?

また近いうちに同好会のメンバーが登場する予定なのでお楽しみに!

アニガサキ本編までは今の予定だと、あと5話前後というところなのでもう少しだけお付き合いいただけると幸いです。

お気に入り登録、感想、読了報告などお待ちしています。


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第11話 虹色との出会い その6

更新です!

今回も新たにメンバーが登場します。

察しの良い方は分かるかと思いますがあの子の登場です!

それではどうぞ。


 俺は今、生徒会室の扉の前に立っている。

 

 普段は来る用事もない場所なんだけど、いつも通り教室にて4人で昼休みを過ごしていたら、生徒会室に来るように放送で呼び出されたからこうして足を運んだ。

 

 当然の事ながら俺は何で呼び出されたのかは知らないし、仮に呼び出されるような事があったとしても全く見当がつかない。

 

 ここに来る前に教室で一緒に放送を聞いていた3人からは心配されシュウには「ハル、何かやっちまったのか⋯⋯?」と言われ歩夢からは「春輝くん呼び出されてるけど何かあったの?」と聞かれ、侑には「気を落としちゃダメだからね」と慰められた。

 

 各々の言葉に返答してから教室を出たけど、俺のせいではないけど余計な気を遣わせてしまったと想いながら移動してきた。

 

 俺だけじゃないと思うけど普段から来ない場所って何でか妙に緊張するんだよね⋯⋯しかも今回みたいに理由が分からない呼び出しだと尚更ね。

 

 正直、このまま考えていても仕方がないので扉の前で一度深呼吸をしてから生徒会室の扉をノックする。

 

 コンコンコンッ

 

「どうぞ」

 

 ノックをするとすぐに中から返事があり、俺は失礼しますと言ってゆっくりと扉を開ける。

 

 恐る恐る中へ入ると見るからに生徒会長の机と思えるものがあり、その前にはテーブルを挟む形でソファが置いてありさらに奥の壁には棚がある。

 

 そして中にいたのは会長の席に座っている生徒会長1人だけ。

 

「お待ちしていました、大空 春輝さん。こちらへどうぞ」

 

 扉を閉めて生徒会長の方を向くと生徒会長が声を掛けてきた。その言葉に従い生徒会長の机の前まで移動した。

 

「どうぞそちらの席にお掛けください」

 

「ありがとうございます」

 

 会長に座る事を促されたので近くのソファへと座ると、会長は机に置かれていた用紙を持って対面のソファへと座りそして手に持っていた用紙を机に置くと会長が自己紹介を始めた。

 

「今日は突然お呼び立てして申し訳ありません。私は生徒会長で普通科1年の中川 菜々(なかがわ なな)です。よろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくね、な⋯⋯中川さん」

 

「私の事は呼びやすいように呼んでもらって構いませんよ」

 

「それじゃあ菜々って呼ばせてもらうね」

 

 あまり名字で人を呼ぶ事を好まない俺は菜々を呼ぶ際に言葉に詰まってしまい、それを察してくれた菜々は呼びやすいように呼んでもいいと言ってくれた。

 

 正直言って助かる⋯⋯やっぱりこういうところまで気が遣えるからこそ生徒会長に選ばれるんだね

 

「それで今日呼び出された理由って何かな?」

 

「実は()()さんにお願いがあってお呼びしました」

 

 俺に何か頼むような事があるのだろうか?それに今、確かに春輝って呼んだよね⋯⋯うーん?何か引っ掛かるけど⋯⋯考えすぎか?

 

「内容次第だけど協力出来ることなら協力させてもらうよ」

 

「ありがとうございます。それで内容ですが春輝さんに生徒会を手伝っていただきたいのです」

 

 えっ⋯⋯?生徒会を手伝う、俺が?

 

 あまりに突拍子もないことを言われ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてしまう。

 

「その理由を訊かせてもらえるかな?」

 

「そうですね⋯⋯今年度の新生徒会が始まって数週間ほど経ちましたが、今年の生徒会役員は私を含め女子生徒しかいないのです」

 

 確かに⋯⋯少し前にあった任命式の時も女子しかいないと思っていたけどそれが何か関係があるのかな?

 

「それで私達生徒会が女子生徒ばかりでは男子生徒の意見が耳に入ってこない可能性を考慮しまして、同じ1年生の男子生徒から1人選ぶ事になったのですが、その候補に挙がったのが春輝さんと宮本さんです」

 

 俺とシュウが候補に挙がっていた?

 

 俺達は新生徒会発足とかには何も関わってない一般生徒なのにどうして⋯⋯?

 

「それでどうして俺が最終的に選ばれたの?」

 

「私達は候補を選ぶ上で人望がある人というのを前提として候補を挙げました。そして春輝さんが選ばれた理由は他の生徒と比べて人望があり、尚且つバスケ部へを始め部活動の助っ人をしていることそれでいて部活動に所属していない事が決め手となりました」

 

 なるほど⋯⋯シュウは演劇部に所属しているからそれで俺に白羽の矢が立ったと

 

「うん、選ばれた理由に納得できたよ。それで俺は何をすればいいのかな?」

 

「春輝さんには男子生徒からの意見、要望などの相談役をお任せしたいと思っています。他には生徒会の忙しい時や力仕事が必要な時にお呼びするつもりです」

 

 これはかなり特殊な立場になりそうかな?一般生徒の立場で生徒会に協力をするってことね

 

「うん、内容は承知したけど正式に返事をするのは放課後まで待ってもらってもいいかな?」

 

「はい、急なお願いですので考える時間も必要かと思いますので、放課後でも大丈夫ですよ」

 

「ありがとう、それじゃあ放課後また来るよ」

 

「お待ちしています」

 

 話を終え生徒会室から教室へ戻っている間も俺はずっと考えていた。

 

 生徒会は俺を指名してくれているけど本当に俺でいいのか?仮に手伝うとしても俺はその役目を全うできるのか?

 

 考えれば考えるほど、どんどん自分の中で自信がなくなっていくのを感じ、それと同時に足取りも重くなっていった。

 

 だがそんな事を考えているといつの間にか教室の前まで戻ってきていた。そして自分の席に向かうとまだ昼休みは終わってないので三人とも先程と同じように座っている。

 

「おっ!戻ってきたか、それで話はどうだったんだ?」

 

「うん⋯⋯生徒会長に協力してほしいって頼まれたんだよ」

 

 俺は三人に菜々から聞いた事を説明してさらに俺がその返事を迷っている事を話すと、それを聞いた三人はそれぞれ思った事を口にした。

 

「私は春輝くんなら出来ると思うよ?春輝くんは優しくて、話し掛け易いからきっと皆も何かあれば相談してくれると思うよ」

 

「うん、私も歩夢と同じ意見だね。今でもハルは頼られているから大丈夫だと思うな」

 

「そうだな、俺もハルの事を信頼してるしハルが助っ人をしていて人当たりが良いからこそ生徒会長達もハルを選んだと思うぞ」

 

 何だろう⋯⋯相談しておいてアレだけど面と向かってそういう事を言われるとこそばゆいかな

 

「三人ともありがとう。少しだけ自信が取り戻せた気がするよ、もう一回考え直してみるよ」

 

「それなら良かったぜ、決めるのはハルだからな。もしハルが嫌なら恐らく第2候補である俺に声が掛かるはずだから無理はするなよ?」

 

「うん、もし俺が断った時はお願いね?」

 

「ああ、その時は任せろ!もしハルが話を受けるなら俺も微力ながら協力するぜ」

 

 やっぱりシュウは頼もしいな。シュウが一緒に居てくれると自然と勇気が出てくる。それに歩夢と侑だって落ち込んでいる時は話を聞いて励ましてくれるし、一緒にいて楽しいと思える。

 

 こんなにも優しい友達がいて俺は本当に良かったと思うよ⋯⋯

 

 それからまもなく昼休みが終わり午後の授業が始まってからも俺は授業の内容を聞き逃さないようにしながら、先程の話と一緒にそれとは別の事も考え始めた。

 

 

 

 そして約束の期限の放課後になり、俺は鞄を持ってすぐに生徒会室へと向かう。

 

 もう俺の心は決まっている。信じてくれる人がいるからそれに応えたい。

 

 昼休みの生徒会室からの帰りの重かった足取りとは違って、今は迷いを振り切り決意を固めた事により足取りは軽かった。

 

 再び生徒会室の扉へ立つと一呼吸置いてから扉をノックした。

 

 だが中からは誰の声も聞こえてこなかった。

 

 あれ?放課後になってからすぐに来たから早すぎたかも⋯⋯とりあえず菜々が来るまで待とうかな

 

「春輝さん?」

 

「うわぁ!びっくりしたぁ⋯⋯」

 

 扉の前から離れようと後ろを振り返るとそこには菜々が立っておりつい驚いてしまった。

 

「驚かせてしまってすみません」

 

「ううん、こっちこそ驚いちゃってごめん。それで昼休みの件だけど中で話いいかな?」

 

「もちろんです。それでは中で伺います」

 

 菜々が生徒会室の扉の鍵を開け一緒に中へ入ると、昼休みと同じように中央にあるソファへと腰を掛ける。

 

「それではお答えを訊かせてもらえますか?」

 

「今回の話、正式に受けるよ」

 

「引き受けていただきありがとうございます!」

 

 菜々は俺の答えを聞くとソファから立ち深々と頭を下げた。

 

「それで今回の話とは別の事になるけど1ついいかな?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

 俺は昼休みに菜々と話した時に感じた違和感⋯⋯もとい事実の確認をする事にした。

 

「菜々と俺って一回どこかで会ったことあるよね?」

 

「えっ!?春輝さんとは今日初めてお会いしたと思いますけど⋯⋯」

 

 やっぱり間違いない。

 

 菜々とは一度どこかで会っている。自慢じゃないけど一度会った人との事は必ずと言っていいほど覚えている。

 

 それなのに覚えていないとなると必然的に今まで会ったことのある人の中に菜々と同一の人物がいるはずだ。

 

「昼休みの時から1つ疑問に思っていた事があったんだよね~」

 

「な、何をですか⋯⋯?」

 

「何でシュウの事は『宮本さん』で呼ぶのに俺の事は『()()()()』って下の名前呼ぶのかなって」

 

「⋯⋯」

 

 予想が的を射ているのか菜々は黙り込んでしまった。

 

「それで気付いたんだよ、一度会った事がある人で俺の事を『春輝さん』って呼ぶ人物が1人だけいる事に気付いたんだよね」

 

「それは⋯⋯誰でしょうか?」

 

 あくまでもまだしらを切るつもりらしい。

 

「それは菜々の方がよく知ってるんじゃないかな?()()()

 

「⋯⋯バレてしまいましたか。そうです、私が優木 せつ菜です」

 

 やっぱりそうだったか。

 

「まあ、どうりで学校で会わないわけだよね。前にあった時とは全く印象の違う姿なんだからね」

 

「そうですね⋯⋯今まで黙っていてすみませんでした」

 

 さすがにこれ以上は悪あがきはしないか⋯⋯それにしても自分でも少し信じられないな~菜々とせつ菜が同一人物とはね

 

「謝ってくれてありがとう。でも菜々の事情を考えれば仕方のない事だから別に気にしてないから大丈夫だよ」

 

「ありがとうございます。そう言っていただけると助かります」

 

「ところで呼び方は当然だけど菜々の方がいいんだよね?」

 

「はい、普段は菜々でお願いします。でも二人の時はせつ菜でも呼びやすい方でいいですよ?」

 

 なるほど、タイミング次第ではせつ菜でもいいのか。時々呼んでみようかな~

 

「それじゃあ、改めてこれからよろしくね菜々!」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします春輝さん!」

 

 お互い握手を交わして、その後は手伝いに関する詳細を菜々から説明されて気付いた時には18時になってしまっていた。そして連絡を忘れていた俺の元には案の定母さんからの連絡が来ていた事により、急いで帰る事になってしまった。




今回はここまでとなります。

いよいよ同好会メンバーもあと少しで全員が揃います。

なるべく早めにアニガサキ本編の内容に入れるようにしますのでお付き合いよろしくお願いします。

感想、読了報告、お気に入り登録お待ちしています。


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第12話 誰かの為に

更新です。

一週間ほど忙しくて更新出来なくてすみませんでした。

これからも忙しさによって更新が遅れる事があるかもしれませんが頑張っていきますのでよろしくお願いします。

それではどうぞ!


 生徒会に協力し始めてから少しの間忙しい日々を過ごし、その後は慣れたこともあり落ち着きを取り戻し普段通りの日々を過ごし、2学期と冬休みがトントン拍子に過ぎていった。

 

 

 そして今は3学期の最後の月である3月も半ばを過ぎている。いよいよ俺達にも後輩ができる事に1年生は少々浮かれ気味の生徒もいる。

 

 それでも俺はやるべき事をやっていつも通りに過ごしているけど、今日はちょっと違う。

 

 俺は生徒会室へ来ている。今日は新入生のオリエンテーションの打ち合わせという事で協力している立場の俺も同席するように菜々から言われていたので、こうして放課後に生徒会室へと出向いている。

 

 そして今はその打ち合わせの最中で主にオリエンテーションの流れ、内容の打ち合わせをしている。打ち合わせ自体は滞りなく進んでいてもうじき終わるところだ。

 

「それでは最後に質問のある方はいらっしゃいますか?」

 

「1つだけ質問というか確認いいかな?」

 

「どうぞ」

 

「このオリエンテーションで俺も登壇するって事でいいの?」

 

「はい、春輝さんにも私達と一緒に登壇してもらいます。その際に簡単な挨拶をしていただこうと考えています」

 

 菜々が打ち合わせの最後に全員に質問を取り、俺は1つだけ質問して菜々はそれに端的に答えてくれた。

 

「わかったよ、ありがとう」

 

「それでは質問がないようなのでこれにて打ち合わせを終了します」

 

 打ち合わせが終わると他の役員達が次々に生徒会室を後にするが、菜々だけは会長席に座ったままで動く気配がない。

 

「あれ?菜々はまだ帰らないの?」

 

「はい、私はもう少し書類の整理をしてから帰るつもりなので先に帰っていただいていいですよ?」

 

 菜々はそう言うと机の上に置いてある書類を手に取り早速作業を始めた。

 

 流石、生徒会長と言うべきか⋯⋯でも菜々を残して帰るほど俺も薄情じゃないからね?

 

「そんな水臭い事言うなよ。二人でやった方が早く終わるだろ?というかこういう時の為の俺でしょ?」

 

「ふふっ、そうですね。それではこちらの書類をお願いします」

 

「任せてよ」

 

 俺が手伝いを申し出ると菜々も俺の言い分に納得したのか、少し微笑みながら了承し俺が見る書類を渡してくれた。

 

 それからお互いに黙々と書類整理を始め、先に終わった俺は菜々に断ってから生徒会室を出て自販機へと向かう。

 

 そして自販機で飲み物を2つ買って再び生徒会室へと戻ると菜々も書類整理を終えて少し体を伸ばしていた。

 

「書類整理お疲れ様。はい、これ」

 

 俺は菜々に労いの言葉を掛けてから手に持っている紙パックのミルクティーを差し出した。

 

 ちなみに俺のはレモンティーだよ。

 

「ありがとうございます。春輝さんもお疲れ様です」

 

「うん、ありがとう」

 

 お互い紙パックにストローを差して飲み始めた。いつも書類整理を二人でやった時は大抵こうして飲み物を飲んで会話をするのが定番の流れになっている。

 

「いよいよ俺達も2年生か~、今年も新入生は多いんでしょ?」

 

「はい、嬉しい事に今年も多くの新入生がこの虹ヶ咲に入学しますよ」

 

 やっぱり虹ヶ咲は人気なんだな~、俺もこれから気を引き締めていかないとな。

 

「そういえば、春輝さんは明日演劇部に行かれるのですよね?」

 

「うん。小道具作りの手伝いと台詞合わせの時の代役を頼まれてるからね」

 

 何ヵ月か前にシュウから助っ人で演劇部にお邪魔した時に、偶々その日の台詞合わせの人数が足りなくて代役で台詞合わせに参加したら部長さんに気に入られてしまったみたいで、たまに呼ばれるようになったんだよな~

 

 この調子だといつか舞台に立たせられそうな感じがするよ⋯⋯

 

「春輝さんも宮下さんの様に助っ人として有名になっていますからね」

 

「まあね、でも流石に愛みたいにバンバン色んなところに助っ人いけるほど、俺は何か出来る訳じゃないから。俺は出来る事を精一杯やる⋯⋯それだけだよ」

 

 愛みたいにどんな部活でもって訳にはいかないけど、俺を頼ってくれる人達がいるならできるだけ助けにはなりたいとは思ってるから頑張れる。それでも出来ない事もあるのは悔しいけどね。

 

「んじゃあ、そろそろ帰ろっか?」

 

「そうですね、今支度しますね」

 

 帰ろうとしてスマホで時間の確認するために画面をつけると連絡が1件きていた。

 

 送ってきたのは母さんだった。

 

 でも今日は生徒会で遅くなるって伝えてあるのはずだから連絡してくる用事もないと思うけど⋯⋯どうしたんだろう?

 

 不思議に思いトークアプリを開くとこう書いてあった。

 

『牛乳買い忘れちゃったから帰りに買ってきて~、お願いね♪』

 

 あー、なるほど⋯⋯母さん買い忘れしたのか。お願いされたからスーパーにでも寄って帰ろうかな。

 

 いつも通り音符マーク付きのメッセージか、もう見慣れちゃったな。最初の頃はちょっと驚いてたけど。

 

「ごめん、菜々。母さんにお使い頼まれたから先に帰るね。またね!」

 

「いえ、お気になさらずに。今日はありがとうございました、それではまた」

 

 菜々に一言断ってから生徒会室を出た俺はいつも母さんが行っているスーパーへと向かった。

 

 

 

 このスーパーには何度も買い物に来ているのでどこに何が置いてあるか把握しているから、物を探す必要がないからすぐに買い物が終わるんだよな。

 

「ええっと、いつも買ってる牛乳はコレだな!」

 

 牛乳の置いてあるコーナーに行き、家でいつも使っているものを手に取るとレジへ向かった。

 

 レジの近くの野菜売場を通った時に後ろから声を掛けられた。

 

「あれ~?ハルくん!?珍しいね、今日はお使いかな~?」

 

 彼方さん!?そっか、今日は彼方さんバイトの日だったのか。前にここでバイトしてるとは聞いていたけど偶然会うとは思ってなかったよ。

 

「あっ!彼方さん、お疲れ様です。母さんに頼まれて牛乳買いに来たんですよ。それにしても偶然ですね」

 

「彼方ちゃんもびっくりだよ~!今日はシフト入れてたからね、こんな偶然もあるものだね~」

 

 やっぱり彼方さんも俺が来ると思ってなかったからびっくりしてる。

 

「そういえば、いよいよ遥ちゃんも4月からは東雲の1年生ですよね?」

 

「そうなんだよ~!遥ちゃんも遂に高校生だよ!それに遥ちゃんがね、スクールアイドルやりたいって言ってたよ」

 

 スクールアイドルって⋯⋯確か高校生が学校を代表してアイドル活動してるんだよな。虹ヶ咲はやってる人はいないけど近くの東雲と藤黄は部活があるって聞いたことあるな。

 

 遥ちゃんがスクールアイドルねぇ⋯⋯絶対似合うでしょ!ていうか間違いなく人気出るだろうし、その内センターになったりするかも!?

 

「それは楽しみですね!あまり彼方さんの邪魔をしてもいけないので俺はこれで。あと遥ちゃんに応援してるよって伝えておいてください」

 

「うん!ありがと~、ハルくん。遥ちゃんに伝えておくよ~!」

 

 仕事の邪魔をしても悪いと思ったので俺は彼方さんと分かれて、レジでお会計を済ませて帰宅した。

 

 それにしても彼方さんは相変わらず遥ちゃんの事になると嬉しそうに話すよな~

 

 というか遥ちゃんのスクールアイドル姿も似合うと想うけど、彼方さんも似合うと想うけどな~、でも流石にバイトもしてるしそんな余裕はないか⋯⋯

 

 

 

 

 

 次の日⋯⋯放課後

 

 

「じゃあ今日はよろしくな、ハル!」

 

「うん、任せてよ!早速行こうか」

 

 放課後になるとシュウがすぐにこっちの教室に来て、俺はすぐに荷物をまとめてシュウと一緒に演劇部の活動場所へと向かった。

 

 今日の助っ人の内容は小道具作りが3割くらいでメインは台詞合わせだったよな。

 

 台本は予めシュウから貰っていたし家でも練習してきたから大丈夫。代役だとしてもやるからにはしっかりとやりたいからね!

 

 まあ、練習していたら母さんが偶然部屋に入ってきて練習しているところ目撃されて、しばらくニコニコしていたって事もあったな⋯⋯あの時は恥ずかしかった。

 

 演劇部が活動している体育館へと移動すると部長さんを含めた他の部員の人達は既に活動の準備を始めていた。

 

「「お疲れ様でーす」」

 

 俺達は他の部員に挨拶をして、奥にいる部長さんの元へ指示を受けに行った。

 

「来たね、それじゃあ秋夜はいつも通りで、春輝はしばらく小道具の手伝いを頼むね。台詞合わせの時にまた声を掛けるから」

 

「「分かりました!」」

 

 部長さんから指示を受けた俺達はそれぞれの活動場所へと移動した。

 

 それから小道具班のリーダーから指示を受けて小道具の製作に取りかかった。

 

 作業に取りかかってからしばらく経ってから、少し離れた場所で活動している部長やシュウがいるグループが慌ただしくなっていた。

 

 結構深刻そうな雰囲気が出てるけど、何か問題でもあったのかな?

 

 その様子を気にしながら作業を進めていると、直ぐに部長がこちらにやってきた。

 

「緊急事態よ!一旦、集合!」

 

 ただならぬ雰囲気で部長が召集をかけた為、全員に緊張が走る。

 

 あの部長さんが焦っているって相当な事態だな⋯⋯

 

 俺達は指示に従い作業を一旦止めて、急いで皆が集まっている場所に向かった。

 

 そして全員が集合したところで、部長さんから事態の内容を知らされた。

 

「今回の舞台のメインである4人の剣士役のうちの1人が、授業で足を挫いた事で今週末の舞台に立てなくなったわ」

 

 えっ⋯⋯それってつまり人員が1人足りなくなったって事だよね?しかも舞台は週末にあるし、今から代役を立てるにしても時間がない⋯⋯

 

 部長は落ち着いて状況を話しているが、俺はその話聞いて動揺せずにはいられなかった。しかも動揺しているのは俺だけではなく多くの部員も動揺している。

 

「それで今回の舞台は4月に入学する新入生にも既に告知してあるから中止にする事は出来ない。だからやむ無く代役を立てて予定通りに行う事にする。」

 

 今から代役を立てるなんていくら何でも時間がないから厳しいと思うけど⋯⋯でもあの部長さんの眼は本気の眼をしているから絶対にやるのか。

 

 それにしても今までの練習だって役がある人以外は道具とかの準備で参加してないはずだから、そう簡単に都合良く代役を立てられないと思うけど⋯⋯

 

 俺の懸念は部員ならば真っ先に思い付くことであるため、他の部員からもどうするのかという声が上がった。

 

 そして、その声に対して部長が口を開いた。

 

「そこで皆に1つお願いがあるんだけど、代役は既に決めているんだけどその子は部員じゃない。当然、部員じゃない人を舞台に立たせるのは皆には耐え難い事だと思う⋯⋯でも、今回はそのお願いを聞いてほしい」

 

 部長さんは話終わると同時に深く頭を下げた。少しの沈黙の後、副部長さんの一言で沈黙を破られる。

 

「分かった、私は部長の意思を尊重するわ。せっかくここまで準備したんだからこのまま中止は嫌だからね」

 

 そして副部長さんの言葉に続くように他の部員もどんどん声を上げていき、最終的に全員が賛成する形になった。

 

「皆⋯⋯ありがとう。それで今回の代役は彼に任せようと思う」

 

 部長さんは部員の皆にお礼を言うと、代役に選んだ人物の方を手を向けた。

 

 その手を向けた方向はどう考えても俺の方へと向いていた。

 

 マジで⋯⋯?

 

 俺は助けを求めるようにシュウの方へ視線を向けると、それに気付いたシュウが慌てて視線を逸らした。

 

 あっ⋯⋯さては部長さんに提案したのシュウだな?

 

「代役、引き受けてくれるかな?大空 春輝くん?」

 

 その言葉と同時に一気にこちらに視線が来た。

 

 すっごく断りづらいんだけど⋯⋯というか断れないよな?仕方ない、やるか⋯⋯

 

「分かりました⋯⋯代役引き受けさせていただきます」

 

「それじゃあ本人からの了承も得たから、残り3日で仕上げるよ!!気合い入れてくよ」

 

 俺が了承すると部長さんは部員達へ改めて気合いを入れ直すように言った。

 

「「「おー!」」」

 

「おー⋯⋯」

 

 他の部員は俄然やる気が出たようで気合いをいれて返事をするが俺はさすがにこの先を考えると少し気が重い。

 

 これはもう覚悟しないとダメかな⋯⋯

 

 再び、それぞれの班に分かれて稽古、作業を再開すると俺はすぐさま部長さんに呼ばれ台詞合わせと立ち回りの練習に入った。

 

 しばらく練習してから15分の休憩に入ってからシュウがこっちに来た。

 

「ごめんな、ハル⋯⋯部長がどうしてもって言うからハルを推薦しちまった。その代わりしっかりフォローする!」

 

「本当だよ⋯⋯まあどうせ週末はシュウ達の舞台を観る予定だったし、それが観客から演者に変わっただけだから大丈夫だよ」

 

 シュウは申し訳なさそうに深々と頭を下げて謝罪をしてくれた。さすがに俺もここまでしてくれた友達を怒ることはしたくないから大丈夫だと伝えた。

 

 まあ間違いなくこれからが大変だろうけどね⋯⋯

 

 こうして残り少ない日々を地獄までは言わないけど過酷な稽古が続いた。

 

 

 

 

 そして週末⋯⋯

 

「何とか形になったぁ⋯⋯」

 

「ここまで出来れば上出来だよ。さあ今日の本番も頼むよ!」

 

「頑張ります⋯⋯!」

 

 今リハーサルも含めて今日までみっちりと稽古を付けてもらったおかげでそれなりの仕上がりにはなったけど、俺は既に満身創痍寸前である。

 

 部長さんはああ言ってくれたけど、台詞を覚えるのは台本の流れをある程度は頭に入っていたから何とかなったけど、立ち回り方とかは1からだったから全ての動き覚えるので精一杯だった。

 

 だけど、ここで力尽きてしまってそれこそ全てが水の泡となってしまうから今一度気合いを入れ直す。

 

 よっし!午後からの本番は死ぬ気になってやるぞぉ!今日は歩夢と侑も観に来るという事なのでより一層気合いを入れなきゃな!

 

 早めの昼食を摂り本番30分前まで休憩していた事もあり、体の疲れは先程より幾分か取れている。

 

「ハル、緊張してるか?」

 

「めっちゃしてる。でも楽しみだよ!」

 

「なら、大丈夫だな。ちゃんとステージの上でも出来る限りのフォローするから気負うなよ!」

 

「うん、俺も頑張るよ」

 

 始まる直前の舞台袖でシュウが俺の事を気遣って話しかけてくれたおかげで、緊張は少しほぐれた。

 

 そして迎えた本番、舞台の幕が上がるとそこには小規模のホールではあるがほぼ満席の状態になっている。客席の中には新入生と思われる人も多く見られ、客席の前方には歩夢と侑を見つける事ができた。

 

 俺はその景色に一瞬だけ圧倒されたけど、すぐに切り替えて演技に集中する。

 

 舞台は順調に進み、いよいよクライマックスを迎える。

 

 最後に剣士役の俺を含めた4人は相手役との殺陣があり、それから最後の台詞で幕引きになる。ちなみに俺の相手役はシュウで、それに一番最初に殺陣をする。

 

 俺達はお互い向かい剣を構える。

 

 アイコンタクトでタイミングを合わせ殺陣を始めた。

 

 何度かの鍔迫り合いの後、俺がシュウを斬り捨てる形で俺達の殺陣は終わりそれに続いて残り3組の殺陣が順番に行われた。

 

「我ら4人!」

 

「悪しき者を斬る剣!」

 

「人々を護る盾!」

 

「この身は正義と共にあり!」

 

 4人の最後の台詞を順番に言っていき、最後の台詞を言い終わると場内からの溢れんばかりの拍手を受けて、最後に全員で整列してお礼の挨拶をして幕を閉じた。




今回はここまで!

いよいよ次回からは春輝くん達が2年生になります!そして1年生組が次回以降本格的に登場すると思うのでご期待ください。

この小説アニガサキ1期の1話の内容に入るまでもう少しとなりました。

そして本日の4thライブでアニガサキ2期の新PVも発表されましたね!

アニガサキ2期が始まるまでには1期の内容に入っていくつもりなので引き続き応援よろしくお願いします。

感想、お気に入り登録、読了報告お待ちしています!


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第13話 2度目の春/虹色との出会い その7

更新です!

今回はいよいよあの子達が登場する回になっています!

それでは早速どうぞ!


再び春がやってきた。

 

1年前のこの日に虹ヶ咲学園に入学した。俺はこの1年間でたくさんの人と出会って、色々な経験をした。そして今日からは2年生に進級し、新たに後輩が入学してくる大事な日だ。

 

今日は学校自体は休みだけど、俺は入学式の手伝いとして学校に来ている。他にも生徒会のメンバーやシュウを含めた、有志で集まった生徒がいる。

 

「ふあぁ~、おはよ~」

 

「どうしたハル、今日はやけに眠そうだな?」

 

「まあ~ちょっとね⋯⋯」

 

いつもなら朝は欠伸をしないけど、今日は顔を合わせてすぐに欠伸をしちゃったからシュウに指摘されてしまった。

 

実は夜遅くまで考え事をしていたんだけど、結局考えが纏まらなくなったから考えるのをやめて寝たんだけど、それが祟ったみたい⋯⋯

 

「詳しくは聞かないけど無理すんなよ?」

 

「うん、気を付けるよ。そうだ、シュウ眠気覚ましに気合い入れてくれ!」

 

「いつも通り背中でいいか?」

 

「いいよ、強さは任せる!」

 

俺はシュウの前に立ってから、軽く腰を落とした態勢で構える。

 

ちなみに気合い入れは俺とシュウの間で時々やっている事で、簡単に言えば背中を平手で叩いてもらうことだよ。

 

シュウも頭でイメージしながら、何度か素振りをしたあと俺の横に立って腕を構えた。

 

「よし、いくぞ!」

 

「いつでも!」

 

シュウが振りかぶった手が俺の背中を叩くと「バチンッ!」といい音が鳴った。

 

「うおっ!いったー!」

 

「よし、こんなもんだな」

 

「ありがとう、シュウ。気合い入ったよ」

 

気合いを入れたところで俺達は今日の仕事の説明を受けてから持ち場に向かった。

 

今日の俺とシュウの仕事は新入生の受付担当になっている。他にも受付担当の生徒はいるけど毎年入学者が多い事から受付の人数が増えるのも仕方ない。

 

内容としては名前を訊いて名簿に丸を付けてコサージュを渡す仕事だから特に面倒な事はない。だが人数が多いので受付の数が多くても長くなりそうな予感はする。

 

ちなみに今年は去年とは違ってクラスに行くのは入学式の後になったらしい。

 

「よし!やりますか!」

 

「頑張るしかないね!」

 

受付の席に座り机に置かれている名簿に一通り目を通した時にある生徒の名前を見て俺とシュウの頬が緩む。

 

名簿に目を通し終わって時間を確認するといよいよ受付開始時間に近づいており俺達は気を引き締める。

 

 

少しすると続々と新入生が受付を訪れ一気に忙しくなってきた。だが忙しくなってきても丁寧に受付を行い、新入生一人一人をお祝いした。

 

ピークが過ぎ去ると、さっきまでの忙しさが嘘のように落ち着いた時間が訪れている。

 

それにしても一気に人が捌けたおかげで俺とシュウも少し気が抜けている。

 

さっきまで忙しかったし、ほとんど来たみたいだから多少はね⋯⋯?

 

と言っても、まだ名簿も全員に丸が付いてる訳ではないから、完全に気を緩めるにはまだ早いけどね

 

「俺達も1年前は入学する立場だったんだよね⋯⋯1年間早かったな~」

 

「そうだな~、今日から俺達も先輩なんだよな⋯⋯まだ少しだけ実感ないな」

 

二人で虹ヶ咲で過ごした1年間に思いを馳せていると、入口に見覚えのある子を見つけるとその子もこちらに気付き足早に近づいてきた。

 

「ハル先輩に宮本先輩、見つけましたよ!」

 

「入学おめでとう!久しぶりだね、かすみちゃん!!」

 

「おめでとう!入学して来るのを待ってたぜ!!」

 

見覚えのある子の正体は去年のオープンキャンパスの時に出会った中須かすみちゃんだった。

 

さっき名簿を見て、俺達の頬が緩んだのはかすみちゃんの名前を見つけたからなんだ~。でも良かったよ、かすみちゃんが入学出来て心の底から嬉しいよ!

 

「かすみん、あれから勉強を頑張ったおかげで無事に虹ヶ咲に入学出来ました!これからお世話になりますね、先輩!」

 

「うん!こちらこそ改めてよろしくね!」

 

「よろしくな!あと俺の事はシュウでいいぜ」

 

「分かりました。それではハル先輩にシュウ先輩また後で!」

 

俺達が返事をする間もなくかすみちゃんは『また後で』と言い残して式場の方へと向かっていった。

 

かすみちゃんは相変わらず元気が良くて感情が顔に出るから見てるのも話すのも楽しいな。

 

「とりあえず良かったよな、かすみちゃんが入学出来て」

 

「うん、俺も安心したよ。これからも楽しくなりそうだね!」

 

「そうだな!」

 

かすみちゃんとの再会を二人で喜んでいるとまた入口の方から新入生がこちらへ向かってくる。

 

赤いリボンに腰まで届くくらいのロングヘアに黒茶のような髪色でどことなくお嬢様感漂う印象の女の子だ。

 

「お名前をどうぞ」

 

「桜坂しずくです」

 

シュウが名前を訊いて桜坂さんがそれに答え俺が名簿に丸をつけていると桜坂さんが続けるように口を開いた。

 

「あの!お二人とも先日の演劇部の舞台に出演されていましたよね!」

 

まさかの発言に俺は固まったがシュウは何かを思い出したかのように声を上げた。

 

「あっ!思い出した!どこかで見たと思ったけどあの日、歩夢達の近くに座っていた子だ!」

 

「本当に!?俺、そこまでよく見てなかったから分からなかった⋯⋯」

 

あの時は緊張していたのもあったから、歩夢達を見つけたらすぐに演技に集中してたから、全然覚えてなかったよ⋯⋯というかシュウもよく覚えてたな。

 

「それで私、先日の舞台でお二人の演技や動きに感銘を受けて一度お話を聞きたいと思っていたんです!」

 

マジか⋯⋯そんな事ってある?シュウは元から演劇部ていうのもあるから分かるからともかくとして、俺は演劇部でもないしそんな事言ってもらえると思わなかったからかなり嬉しい。

 

「それはいいんだけど、俺は演劇部じゃないし何も話せる事なんてないと思うけど⋯⋯」

 

「もちろん、それは承知の上です。その上でお話をお聞きしたいんです、大空 春輝先輩」

 

あれ?俺の事を知ってる⋯⋯?

 

「ちょっと待って桜坂さん、どうして俺の事知ってるの?」

 

「特別出演って先日の舞台のパンフレットに書いてありましたよ?」

 

パンフレット?何それそんなものあったの?

 

俺はすぐさまシュウの方へと視線を向けるとシュウは慌てた様子で答えた。

 

「そうそう!今回パンフレット作ってたからそこに軽く紹介を載せてたのすっかり忘れてたぜ。あっははは」

 

「あっはははじゃないよ!そうならそうと言っておいてよ~びっくりしたじゃん」

 

「悪い、悪い!それはそうとどうすんだよ?」

 

それを踏まえた上で話をするか⋯⋯桜坂さんも聞きたがっているみたいだしそれを無下にはできないか。

 

「いいよ、それじゃあ今は時間がないから後日でもいいかな?」

 

「はい!ありがとうございます!それと宮本先輩、今度演劇部に見学に行ってもいいですか?」

 

「歓迎するよ!もしかして演劇に興味あるの!?」

 

まずい⋯⋯このままだと収拾がつかなくなる!

 

「一旦ストップ!とりあえず今は時間に余裕がないからね?」

 

「すみません、つい⋯⋯」

 

「わりぃ、俺も話広げそうになったわ⋯⋯」

 

とりあえず話が広がる前に収められた⋯⋯もしかすると、この二人が好きな事を話出したら止まらなくなるのかもしれないな

 

「それでは大空先輩に宮本先輩、これで失礼します」

 

「おう、入学おめでとう桜坂さん。次に会うのを楽しみにしてるよ」

 

「入学おめでとう。これからよろしくね、桜坂さん。あと俺の事は名前でいいからね」

 

「分かりました」

 

桜坂さんが式場へ移動する前に、俺達に挨拶をしてから一礼してから俺達もまたねと挨拶をした。その際に俺は次からは名前で良いと付け加えると、桜坂さんは分かりましたと言って式場へ向かっていった。

 

「今年は早くも1人新入部員獲得できそうだね」

 

「ああ!これは部長達にも教えないとな」

 

演劇部の今後が多少は安泰である事に安堵していると、また一人の新入生が歩いているのが見えた。

 

だけどその新入生は緊張からなのか足取りは少々重く顔も少し俯いていた。

 

あの子どうしたんだろう?不安だったりするのかな?ちょっと心配だな⋯⋯

 

そして、その子は俺達の座っている受付の前にやってくるとすぐに名前を教えてくれたが少し声が詰まってしまっている。

 

「て、天王寺 璃奈(てんのうじ りな)です」

 

なんだろう⋯⋯少し不思議な感じがする?

 

天王寺さんは、声では緊張しているのに顔からはその緊張をほとんど感じられない。というよりは、顔に表情がほとんど出ていないのが正しいのかもしれない。

 

でも、よく見れば表情も読み取れて、感情が伝わってくるから心配する必要はないのかな。

 

とりあえず緊張してるみたいだし、少し会話して緊張を解してみようかな。

 

「ねえ、天王寺さん。もしかして緊張してる?」

 

「えっ⋯⋯うん、緊張してる⋯⋯してます」

 

やっぱりか⋯⋯緊張するのも仕方ないか

 

「あー、敬語とか気にしなくても大丈夫だよ」

 

「大丈夫だ、俺達はそういうのは気にしないからな」

 

「あ、ありがとう⋯⋯」

 

やだ⋯⋯天王寺さん照れてるのかな?すっごく可愛いんだけどぉ!!

 

これは守ってあげたくなる可愛さだ⋯⋯ヤバい、俺の中の何かがこの子を守れと言っている気がする。

 

「あっ、俺は大空 春輝だよ。それでこっちが宮本 秋夜ね。俺の事は下の名前だったら呼びやすいように呼んでいいからね」

 

「俺の事も秋夜って呼んでくれ」

 

「分かった、春輝さんに秋夜さん、よろしくお願いします」

 

少し緊張が解けたかな?さっきより声に元気?というか明るさを感じられるようになった。

 

「学年は1個上だけど困ったらいつでも俺達を頼っていいからね、璃奈ちゃん」

 

「って何さりげなく璃奈ちゃんって呼んでんだよ、嫌かもしれないだろ?」

 

「あっ⋯⋯ごめん、俺の配慮が足りてなかった」

 

さっき桜坂さんの時は下の名前で呼ぶ癖を抑えてたけど、璃奈ちゃん相手だとつい出てしまったな。

 

俺達のやり取りを見ていた璃奈ちゃんが口を開いた。

 

「ううん、私、下の名前で呼ばれて嬉しい」

 

璃奈ちゃんが初めて嬉しいって言ってくれた⋯⋯本当に可愛いんだけど。

 

「それなら良かったよ。それじゃあ少し緊張も解けたみたいだしそろそろ式場に行った方がいいよ?」

 

「だな、遅刻はしないだろうけど早く席に着いておいて悪い事はないからな」

 

「うん、それじゃあ春輝さん、秋夜さん行ってくるね」

 

いや~なんだろう、凄い妹感凄い。もはや妹なのではと錯覚するレベルだよ。

 

「「いってらっしゃい!」」

 

式場へ向かっていく璃奈ちゃんを姿が見えなくなるまで俺達は手を振って見送った。

 

これからいよいよ2年生としての1年間が始まる実感が湧いてきたのだった。




今回はここまでとなります。

いよいよ1年生組も登場したという事でこれから1年生組との話も入れていきますのでお楽しみに!

今回、栞子ちゃんが登場しなかったのには、この先の展開が絡んでくるので敢えて登場させませんでした。

この事について活動報告をさせてもらったので詳しいことは、そちらをご一読ください。

お待ちしていた方には申し訳ないですが、登場はしばらく先になりそうですので、それまで待っていただけると幸いです。

早い事にもう3月に入りまして、アニメ2期の放送開始までもう1ヶ月を切ったという事で、どうにか2期が始まるまでには、アニメ1期1話の内容に入っていけるように、執筆のペースをあげる予定でいます!

感想、お気に入り、読了報告、評価等お待ちしております。


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第14話 驚きの人物/同好会発足

更新です!

最近、色々と忙しくて中々書く時間を確保出来なくて、更新が遅れて申し訳ございません!

早速、本編をどうぞ!


先日の入学式からしばらくの日数が経ち、俺達も進級して忙しくしていた日々がようやく落ち着いてきた。

 

今は昼休みなんだけど、いつもの4人で中庭のベンチでお昼を食べている。

 

こうしているのには理由があって、2年生に進級してからのクラス替えでまさかの全員クラスがバラバラになってしまった。

 

これにより今まで通りに教室に集まってお昼を食べるという事が難しくなったから、主に外のベンチ等を利用して集まって食べているけど、4人揃って食べる機会自体がだいぶ少なくなっている。

 

「最近、こうやって揃うのも減ってきた」

 

「やっぱりクラスがバラバラになった影響が大きく出たね」

 

お昼を食べながらシュウが、最近の現状について話を切り出してきたので、俺もその話題を広げることにした。

 

「集まれなくなってるのは残念だと思うけど、それよりもシュウは()()ちゃんとはどうなの?」

 

「まあ何とかな⋯⋯あれからしばらく機嫌を直すのに苦労したぜ⋯⋯」

 

今、侑の発言から出た歌奏って言う子は、シュウの幼馴染みで恋人の音城 歌奏(おとしろ かなで)ちゃんの事なんだよ。

 

いやぁ~、あの時は本当に衝撃を受けたよ⋯⋯シュウに恋人がいたの!?って感じにね。しかも1歳下の幼馴染みとか、それどんな恋愛物語ですか?って思っちゃったよね。

 

それじゃあ、この件について少し時を遡って話そうか。

 

 

 

先日の入学式、あの後に事件(?)は起きた。

 

俺達は受付の作業が終わり、撤収の為に玄関や式場だった体育館の後片付けをしていた時だった。

 

「さっさと後片付けを終わらせて、どっか遊ぼうぜ!」

 

「いいね!それじゃあ作業のペースを上げますか~」

 

早く後片付けを終わらせて遊ぶ為に、ペースを上げ始めた時に玄関撤収作業をしている俺達の元に、教室の方から走って近づいてくる女の子がいた。

 

その女の子が歌奏ちゃんだったんだ。

 

「シュウ、なんかあの子こっちに向かって走ってきていないか?もしかして、知り合いだったりする?」

 

「まさかそんな、あっ⋯⋯」

 

この時シュウは歌奏ちゃんに気付いた途端に、急に黙り込んでしまった。

 

そして、歌奏ちゃんが至近距離まで近づいた時に、シュウの名前を呼んで抱きついたのだ。

 

「シュ~ウく~ん!!」

 

「うおっ!?」

 

「シュウくん!?」

 

シュウは抱きつかれた時に、受け止めきれずに尻餅をついてしまったが、俺は心配するよりも先に『シュウくん』という呼ばれ方に衝撃を受けた。

 

「シュウ⋯⋯大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ。それより歌奏!人前⋯⋯特に学校ではあんまり抱きつかないでくれって言っただろ!」

 

「だってぇ~、シュウくんに学校で初めて会えたから、つい嬉しくて」

 

この時の俺は完全に思考回路がパンクしていた。今、目の前で繰り広げられてるやり取りはなんだ、というかこの子は誰なの?、と一度に複数の疑問が出てきた。

 

「ところで、そちらの子はいったい?」

 

とりあえず、俺は一番の疑問である誰という事を訊いてみた。

 

「そうだった!とりあえず、紹介するぜ。この子は幼馴染みの音城 歌奏だ」

 

シュウが歌奏ちゃんの事を俺に紹介した時に、紹介に不満だったのか歌奏ちゃんは、シュウの隣で頬を膨らませてた。

 

「シュウくん、説明が足りないよ!私はシュウくんの幼馴染みで彼女です!」

 

なるほど、彼女か。それなら今までの行動や言動にも納得が⋯⋯出来るわけないじゃん!

 

そもそも、シュウに彼女がいた事が驚きなんだけど!?確かに演劇部の活動以外にも、休日は予定が合わない事もあったからもしかしてと思った事はあるけど、まさかでしょ⋯⋯

 

とりあえず自己紹介をしないとな⋯⋯

 

「そうだったんだね。俺は大空 春輝、よろしく歌奏ちゃん。」

 

心では動揺してるけど、悟られないように冷静を装って歌奏ちゃんによろしくと伝えた。

 

「はい、シュウくんから話は聞いています。こちらこそよろしくお願いしますね、ハルさん」

 

テンションが高い子なのかと思ってたけど、テンションが高いのはシュウと会話しているだけみたい。普段はわりとしっかりしてるっぽい印象だったよ。

 

と、まあこんな感じで歌奏ちゃんとは出会ったんだけど、問題は入学式の次の日だった。

 

 

次の日は、俺達が入学した時と同じでオリエンテーションが行われたんだけど、この日の昼休みに4人でお昼を食べていた所に、偶然居合わせてしまった歌奏ちゃんが、シュウに事情の説明を求めるっていう事に発展したんだよ。

 

まあ、元から歌奏ちゃんに話しておけば大事にはならなかったんだけど、シュウは言ってなかったみたいで、どうして黙ってたのかを問い質されてたよ。

 

そんな感じな事があったから、シュウは歌奏ちゃんの機嫌を直すのに苦労したって訳なんだよ。

 

 

 

そして現在に至る⋯⋯

 

「それでも、歌奏ちゃんの機嫌が直ったんだから良かったじゃん?」

 

疲れたような顔をしているシュウに、お疲れ様の意を込めて問いかけた。

 

「まあな⋯⋯今回は俺が悪い訳だし、あの時に三人がフォローしてくれたから何とかなったぜ。ありがとな」

 

シュウは空を仰ぎながら今回の一件を思い出し、あの場で俺達がシュウと歌奏ちゃんの間に入って説明した事に感謝してくれた。

 

その時は、俺達もその場にいたからシュウと一緒に、歌奏ちゃんに説明したから歌奏ちゃんも状況を理解してくれた。

 

「でも、いつも強気な秋夜くんが歌奏ちゃんの前だと、あんなに弱気な感じになっちゃうのは意外だったよ?」

 

歩夢は先日の歌奏ちゃんに問い質され、お説教されていた時のシュウの姿を思い出し意外だったと口にした。

 

確かに、歌奏ちゃん相手だとだいぶ下に出てるよな⋯⋯これは将来的にも、歌奏ちゃんの方が立場が上だよね。

 

「それは俺も思ったよ。歌奏ちゃんに圧倒されているシュウは、なんだか新鮮な感じだった」

 

歩夢の言葉に俺が同意すると、シュウはすぐさま口を挟んできた。

 

「そ、その話はいいだろ!歌奏が相手だとどうしても弱くなっちまうんだよ⋯⋯」

 

シュウは慌てて話を止めてきたけど、自分が下に出てしまう事を、照れくさそうに認めている。

 

うんうん、きっと歌奏ちゃんの事が大切だから、弱くなっちゃうんだろうな~

 

いやぁ~お熱いですね~

 

シュウの様子を見て勝手に解釈してると、俺の様子を見たシュウが茶化すように指摘してきた。

 

「おい、ハル?なーに、ニヤニヤしてんだよ~」

 

シュウに指摘されて、思わず手で両頬を押さえる。

 

ヤバっ、顔に出ていたか⋯⋯とりあえず誤魔化さないと。

 

「別になんでもないよ~、ちょっと微笑ましいなって思っただけだから」

 

こちらもシュウが指摘した時と同じように、軽い感じで受け答えをする。なんでもないと言って、その後に少しだけ詳細を付け加えた。

 

「ふーん⋯⋯まあいっか」

 

ふーんと言って、こっちをしばらく凝視した後に、何か納得したのか、それとも諦めたのか流してくれた。

 

この後は、何事もなくいつも通りにお昼休みを楽しみ、午後からの授業へのモチベを上げる事が出来た。

 

 

 

午後の授業を経て、放課後⋯⋯

 

 

今日は、生徒会で書類整理の手伝いがあるから、すぐに生徒会室へ移動してきた。

 

当然、菜々は誰よりも早く来ていて副会長達もすぐに集まった。

 

集合が早いのはさすが生徒会ってところだね、俺も早めに来ておいて良かったよ。

 

書類整理は手際よく進み、残っているのは会長である菜々の最終確認のみとなった。

 

菜々は、副会長達に待っていると遅くなるので下校する事を促し、副会長達は一度渋ったが菜々が終わり次第すぐに下校すると言うと、納得したのか一言挨拶をして副会長達は下校していった。

 

俺が残るのはいつもの事なんだけど、今日はちょっと違う。

 

菜々の方から話があると言われていて、その話をする為に菜々が副会長達を帰宅させた。

 

副会長達を帰宅させたあたり、趣味の話か何かだろうけど少し様子が違う気がする。

 

何と言うか⋯⋯緊張感がある?みたいなそんな感じかな。

 

菜々が書類の確認を終えるのを、ただ待っていても仕方ないので一言菜々に断ってから、飲み物を買いに行った。

 

「俺、飲み物買いに行ってくるね。菜々はいつものでいい?」

 

「はい、お願いします」

 

菜々は書類に向けていた目線をこちらに向けて、軽く微笑みながら短く返事をした。

 

その後いつもの自販機へと向かい、いつもと同じものを買って、すぐに生徒会室へ戻った。

 

戻ると菜々も確認を終えたのか、最後に一通り書類に目を通していた。

 

「ただいま~、もしかして確認終わった?」

 

戻ってただいまと挨拶をした俺に、菜々はおかえりなさいと返してくれた。

 

「おかえりなさい、後は軽く目を通せば終わりですので、すぐに終わるので待っていてください」

 

何だろう⋯⋯自分から挨拶してなんだけど、少し恥ずかしいという⋯⋯

 

戻ってきてからソファに座って、5分くらい待っていると菜々が書類を2枚持って、向かいのソファに腰を掛ける。

 

ソファに腰を掛けた菜々は、手に持っている用紙を机に置きこちらに差し出した。

 

「まず、話を始める前にこれを見てください」

 

俺は、菜々から差し出された書類に目を向ける。

 

1枚目の書類には部活動申請書と書かれていて、部活動の名前は「スクールアイドル同好会」と記入されている。

 

当然、俺はこの書類だけを見て、菜々の意図を理解できるはずもなかった。

 

首を傾げて頭の中を、はてなマークが支配しながらも2枚目の用紙に目を通した。

 

目を通し始めた瞬間に、菜々が2枚の書類を俺に見せた意図を理解した。

 

その2枚目の書類には、スクールアイドル同好会の部員の名前が5人分書いてあり、5人の名前を見て俺は大きく目を見開いた。

 

そこに書かれていた5人の名前は、部長の欄に優木せつ菜、部員の欄には近江彼方、エマ・ヴェルデ、中須かすみ、桜坂しずくと書いてある。

 

いずれも、俺がよく知る人物の名前だった為、開いた口が塞がらない。

 

「菜々、これって本当なの?」

 

あまりの衝撃に、気の入ってないような声で菜々に質問をした。

 

「はい、私が部員の募集をしたところ、こちらの4名が入部を希望してくれました」

 

菜々は、俺からの質問に対して淡々と答える。

 

とりあえず、書類だけ見ていても詳しい内容は分からないから、菜々の話を訊くことにした。

 

「菜々、まずは同好会の設立おめでとう」

 

「ありがとうございます。私もようやくお話出来て良かったと思っています」

 

「それでこの書類を俺に見せたのは、ただの報告って訳じゃないんでしょ?」

 

菜々の事だから意味のない事は絶対にしないはずだから、何かしら俺に話があるのだと思う。

 

「さすが、春輝さんですね。実はお話というのは、春輝さんを同好会に勧誘したいと思ってるんです」

 

「えっ⋯⋯俺を?どうして?」

 

突然の話に思わず、自分で自分を指差しながら菜々に理由を訊ねる。

 

「大した理由ではないですけど、ただ私達が一緒に活動したいと思っているだけなんです」

 

目線を逸らしならがら、少し恥ずかしそうに菜々は答えた。

 

ん?⋯⋯ちょっと待て、今『私達』って言ったよな。

 

「ねぇ、私達って事は他の皆も、そう思ってるって事なのかな?」

 

「実はそうなんです!皆さんにお話したところ賛成との事だったので、代表で私がお誘いする事になったんです」

 

なるほどね~、となると皆が俺と知り合いなのを、菜々は知っている訳か。

 

でも困ったな~誘いは嬉しいけど、今すぐには参加できそうにないんだよな⋯⋯

 

「話は分かったよ。でも、今はバスケ部の助っ人が忙しい時期だから、それが落ち着いてからでもいいかな?」

 

「はい!私達はいつでも歓迎しますので、急がなくても大丈夫ですよ」

 

「分かった。でも、何かあったら相談に乗るからね」

 

菜々もこちらの事情を把握しているので、それを承知の上で話をしてくれていたみたい。

 

「もし何かあれば相談しますので、その時はお願いしますね」

 

「任せてよ!それと最後に1つ、菜々がせつ菜だって事は同好会の皆には内緒なんだよね?」

 

ここで俺は確認の為に、優木せつ菜の正体が中川菜々である事を秘密かどうかを訊いた。

 

「そうです、そこは今まで通りですね。なので、同好会の時は『せつ菜』と呼んでください」

 

「了解。せつ菜の正体がバレないように、俺も最大限に配慮するよ」

 

まあ、そうだよね。さすがにお家が厳しいってのもあるから、そう簡単には明かせないよね。

 

この話の後、菜々と帰り道の途中まで一緒に下校した。

 

 

 

夕食後、自室にて⋯⋯

 

俺は今日の出来事を振り返りながら、ベッドの上で横になっていると昼休みの会話を思い出した。

 

「幼馴染み⋯⋯かぁ⋯⋯」

 

一言呟いた後に、ベッドから起き上がって勉強机の引き出しの、下段奥にしまってある写真立てと1つのお守りを取り出した。

 

その写真には幼い頃の俺と、もう1人髪留めをした女の子がピースをして写っている。写真立てと一緒に取り立したお守りは、その子から貰ったもので、しかも手作りであの子の好きな翡翠色のお守り。

 

この頃はまだ楽しかったなぁ⋯⋯それにこのお守りもあの子がくれたんだよね。

 

でも、もうこの楽しかった頃には戻れないんだよな⋯⋯もしあの子とまた会えたとしても、どんな顔をして会えばいいか分からないし、会えば俺が辛くなるだけだからあまり会いたいとも思えない⋯⋯

 

 

「⋯⋯しーちゃん

 

あれ?今、口が勝手に?

 

写真とお守りを手に取って立ったまま、昔の事を思い出していると母さんが部屋に入ってきた。

 

「あら?ハルくん、懐かしいものを見ているのね⋯⋯」

 

母さんは入って来ると、俺が持っていたものにすぐに気付き、その事で話題を振ってきた。

 

「ちょっとね⋯⋯偶然、幼馴染みの話をシュウ達としたから思い出してね」

 

「そうだったのね。そういえば、そのお守りあの子から貰った時の事覚えてる?」

 

母さんはお守りの事について、変な質問をしてきた。

 

「そんなの当たり前⋯⋯あれ?これっていつあの子から貰ったんだっけ?」

 

あの子から貰ったという事は、確実に分かっている。でも、どういう経緯で貰ったか思い出せない⋯⋯

 

「そっか⋯⋯まだ思い出せないのね。無理に思い出そうとする必要はないわよ、ハルくんが辛いだけだから⋯⋯」

 

「そうなんだ⋯⋯分かった、母さんがそう言うなら無理には思い出そうとしないよ」

 

母さんは普段ならずっとニコニコとしているのに、この瞬間だけは凄く悲しそうな顔をしていた。

 

俺は母さんのその顔を見ただけで、胸が張り裂けそうになる想いになってしまった。

 

この日は、寝ようとしても母さんの悲しそうな顔だったり、嘗ての楽しい日々を思い出して、中々寝付く事が出来なかった。




今回はここまで!

オリジナルキャラの音城歌奏ちゃんが今回より登場致しました!歌奏ちゃんもこの物語にこれから関わっていくので、今後の展開をお楽しみに!

いよいよ2期も今週末よりスタートという事で、自分もモチベが上がっていますので、また早めに更新出来たらと思っています。

次は恐らく、しずくちゃんの誕生日回になると思います。余裕があれば本編も更新します。(エマ、歩夢の誕生日回の修正が滞ってしまって申し訳ありません。もう少し余裕が出来たらそちらも修正します)

お気に入り登録、感想、読了、評価お待ちしてます。


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第1章 終わり、始まる時 ~集い始める色達~
第15話 一人より二人、二人より三人で


更新です!

第15話になります。

それではどうぞ!


 今日は、久々に完全オフの放課後。

 

 

 そんな訳で、昨日バスケ部の助っ人で一緒になった、愛と遊ぶ約束をした。そして、今は愛と合流する為に移動中。

 

 愛と遊ぶ時は、だいたいバスケをするか、ジョイポリに行くかのどっちかなんだけどね。ちなみに、今日はジョイポリに行く。

 

 

 待ち合わせの場所の近くまで、移動してきたが愛の姿が見えない⋯⋯あれ?おかしいな~、さっきいるって連絡あったんだけど、ちょっと探してみるか。

 

 愛を探しに付近を歩いていると、誰かと話をしている愛の後ろ姿が見えた。

 

 

「お~い!愛、どうしたの?」

 

 声を掛けながら近づくと、会話していた相手が見えてきた。そして愛と会話していたのは、なんと入学式の時に出会った璃奈ちゃんだった。

 

「あっ!ハルハル、ごめん!この子が一人で落ち込んでるように見えたから、話していたんだよ」

 

「そうだったのか。この子は1年の天王寺 璃奈ちゃんだよ。こんにちは、璃奈ちゃん。入学式の日以来だね」

 

「うん。こんにちは、春輝さん」

 

 

 あれ?璃奈ちゃんが手に何かを持っている?なんだろう、何かのチケットっぽいように見えるけど。

 

 

「ん?ハルハルは、この子の事知ってるの?」

 

「うん。この前の入学式で受付をしてた時に、友達になったんだよ」

 

 

 愛が知らないのも当然だよな、俺も誰かに言った訳じゃないし。この事を知っているとすれば、当事者の俺と璃奈ちゃん、それにシュウしかいないからね。

 

 

「そうなんだ!ハルハルも意外とやるじゃ~ん!」

 

「いや、何がだよ!そんな事より何を話していたの?」

 

 

 俺を揶揄うのはともかく、本題を何も聞いてないから状況が分からないままだ。

 

 

「そうだった!りなりーから『友達と行ってください』って渡されたんだよね」

 

「なるほど、そういう事だったのか。でもちょうど良かった、これから()()と行く予定だったし」

 

 

 璃奈ちゃんが手に持っていたのは、どうやらジョイポリスの割引券だった。何というか、こんな偶然もあるのか。

 

 しかも、この割引券は複数人での使用が出来る。となればやる事は決まったね!

 

 

「そうだね!それじゃあ行こっか!」

 

「えっ⋯⋯?」

 

「ほーら、璃奈ちゃんも一緒に行くよ!」

 

 

 俺と愛は、璃奈ちゃんの手を引いて目的地へ走り出した。

 

 にしても、さすが愛だね!俺の考えてる事が分かってるね!当然、璃奈ちゃんを置いていくなんて事はしないし、むしろ人数が増えてより楽しくなるからね!

 

 

「いざ、ジョイポリにレッツゴー!!」

 

「ゴー!ゴー!」

 

 

 愛も今日が楽しみだったみたいだな。目的地の方向に指を差して、掛け声なんてそうそうしないと思うし。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「二人とも待って!」

 

 

 学校から少し移動した場所で俺と愛に手を引かれている、璃奈ちゃんが一言声を上げた。

 

 

「「どうしたの?」」

 

 

 あっ⋯⋯ハモった。いや、今はそんな事より璃奈ちゃんの話だ。

 

 

「どうして、私も連れていくの?」

 

 

 璃奈ちゃんは、俺と愛が繋いでいた手を離して半歩下がった。

 

 おっと、この様子だと璃奈ちゃんは、一緒に遊ぶ事にまだ納得がいってないみたいだね。

 

 それに現に、俺と愛が手を引いてるから、余計にそう感じちゃうのも仕方ないか⋯⋯。

 

 

「どうしてって、愛と一緒に遊ぶから、せっかくだから璃奈ちゃんも一緒にって事だよ?」

 

「そうそう!遊ぶのは二人でも楽しいけど、三人だともっと楽しいよ!それに~せっかく、りなりーと友達になったんだから尚だよ!」

 

 そうそう、愛の言う通り⋯⋯あれ?今、愛が言った言葉と似たようなのを、昔どこかで聞いた覚えが⋯⋯誰から聞いたのか、思い出せない。

 

 あの時は⋯⋯『一人より二人、二人よりも三人の方が楽しいわよ』だったかな?

 

 

 

「おーい、ハルハル!どうしたー?」

 

「あっ!ごめん、ちょっとボーッとしてた」

 

 

 いけない、いけない。今は昔の事を考えるよりも、璃奈ちゃんの事だ。

 

 

「誘ってくれるのは嬉しいけど、私と居ても楽しくないと思うよ。表情がうまく出ないから⋯⋯」

 

 

 そっか、その事を気にしていたのか⋯⋯でも、これで1つハッキリした。璃奈ちゃんは決して、俺達と遊びたくない訳じゃない。むしろ、一緒にいると楽しくないと思わせてしまうから、俺と愛に気を遣っている。

 

 だったら、難しく考える必要もない。璃奈ちゃんの不安要因を取り除いてあげればいい。

 

 

「そんな事は関係ないよ。俺と愛は璃奈ちゃんと一緒に遊びたいし、それに一緒に居て楽しくないって事はないと思うよ?」

 

「うんうん、りなりーだって本当は遊びたいって思ってるから、こうして愛さん達に気を遣ってくれてるんだよね?」

 

「うん⋯⋯二人の楽しみを邪魔したくないから」

 

 

 さすがに、簡単には素直になってくれないか⋯⋯この話を始めてから、明らかに璃奈ちゃんの声のトーンが下がってるし、これは過去の苦い体験が、足枷になってるのかもしれないな。

 

 

「だったら、愛さんとハルハルで、りなりーが笑顔になっちゃうくらい、思いっきり楽しませちゃうよ!」

 

「それに、誰かと一緒に楽しく遊びたかったから、ジョイポリの割引券を持ってたんでしょ?」

 

「⋯⋯っ!?」

 

 

 今の愛と俺の言葉は、璃奈ちゃんに届いたみたいだね。さっきまで諦めに近い感じがしていたけど、今ので璃奈ちゃんの心に変化があったのは、間違いない!あと、もうひと押し!

 

 

「「だから、俺(愛さん)達と一緒に遊びに行こうよ!」」

 

 

「⋯⋯いいの?私が一緒でも」

 

「「もちろん!!」」

 

 

 俺と愛は、再び璃奈ちゃんに手を差し出す。そして、ついに璃奈ちゃんの心が動いた。

 

 璃奈ちゃんは、一瞬だけ躊躇ったが俺と愛の手を握ってくれた。

 

 

「行く⋯⋯二人と遊びたい!」

 

 

 やったぁ!!ついに璃奈ちゃんが、自分から俺達と遊びたいって言ってくれた!

 

 璃奈ちゃんも嬉しいみたいで、声が普段の淡々とした感じではなく、弾んだ声になってる。

 

 

「うんうん!それじゃあ、改めてしゅっぱーつ!!」

 

「「おー!!」」

 

 

 愛の掛け声に今度は俺だけでなく、璃奈ちゃんも一緒に反応した。

 

 これで三人の気持ちが今、一つになった。良かった、良かった。

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

 場所はジョイポリスに移り

 

 

 

「愛、援護頼む!!」

 

 

「ごめーん!愛さんも手一杯だよ!」

 

 

 ジョイポリスに到着した俺達は、VRシューティングゲームをやっているんだけど、敵が大量に押し寄せて来て絶賛ピンチの状況⋯⋯愛に援護を頼んでみたけど、愛の方も対処で手一杯の様子。

 

 まずいな⋯⋯このままだと押し切られて、俺は脱落してしまう可能性が大だな。こうなったら、やぶれかぶれだ!やってやるぞ!

 

 

「大丈夫、私がいる」

 

「璃奈ちゃん!?」

 

 

 脱落を覚悟して敵の軍勢と相対している俺の元に、なんと璃奈ちゃんが駆け付けてくれた。

 

 璃奈ちゃん、このゲームやるの初めてって言ってたのに、もうコツを掴んだのか⋯⋯璃奈ちゃん、もしかしてゲームの天才では?いや、天才だわ。

 

 でも、おかげで助かった。璃奈ちゃんが居れば百人力だ!

 

 

「おーい!愛さんも来たよ!これで反転攻勢だよ!」

 

「よしっ!それじゃあ、皆でこの状況を勝ちにいこう!!」

 

「うん、三人揃えば勝てる」

 

 

 愛も合流した事で戦況は一気に持ち直し、俺達は向かってきた敵に対して揃って立ち向かう。

 

 

 ────────────────────

 

 

 最終局面を乗り切るとゲームが終わり、俺達は今回のスコアを確認した。

 

 今回のスコアは、璃奈ちゃんが加入した事により、今までで一番高くなっていた。

 

 

「やったぁ!りなりーのおかげで、ハイスコア更新だよ!イエーイ!!」

 

「イエーイ!ふぅ~⋯⋯楽しかったぁ~。璃奈ちゃんはどうだった?」

 

「私も⋯⋯楽しかった!」

 

 

 三人でハイタッチをして、俺は璃奈ちゃんに楽しめたか訊くと、璃奈ちゃんも楽しめたようで声が弾んでいた。

 

 よしよし、璃奈ちゃんが楽しめたなら何より。ハイスコアも更新したし、今日は良いこと尽くしな気がするぞ!

 

 

「うんうん!りなりーが楽しんでくれて良かったよ!」

 

「そうだね、俺達も璃奈ちゃんと楽しく遊べて良かったよ。ありがとう!」

 

「私の方こそ、ありがとう。また、三人で遊びたい」

 

 

 おっ?璃奈ちゃんがまた遊びたいって、言ってくれた!これは早くも次が楽しみになるな。

 

 そう言ってもらえると俺としても嬉しいし、愛も嬉しそうにしてるな。

 

 あっ、愛と目が合った。全く愛は誰にでも、その眩しい程の笑顔を向けてくれるね。その笑顔を見ると、こっちまで笑顔になるよ。

 

 

「もちろん!俺も早く次が楽しみで仕方ないよ!」

 

「愛さんもだよ!」

 

 

 俺は次を楽しみにしている事を璃奈ちゃんに伝えると、無意識に璃奈ちゃんの頭を撫でていた。

 

 そして、同じように愛も璃奈ちゃんの頭を撫でていた。

 

 

「あっ、ごめん!急に頭を撫でたりして、嫌じゃなかった?」

 

「あっ!アタシもだ!」

 

 

 いや、愛は別にいいんじゃないのか?女の子同士だし。俺はほら⋯⋯男の子ですから、さすがにね?まずい気がする⋯⋯。

 

 

「大丈夫、むしろ嬉しい⋯⋯」

 

「良かった~、嫌だったらどうしようかと思ったよ」

 

「アタシもドキッとしちゃったよ~」

 

 

 まあ、とりあえず璃奈ちゃんが嫌じゃないみたいで、本当に良かった。これで嫌われてたら、立ち直れなくなっていたかもしれない。

 

 

「そうだ!二人ともまだ時間ある?」

 

「俺はまだ大丈夫だよ。璃奈ちゃんはどう?」

 

「私も大丈夫」

 

 

 愛は、急にどうしたんだろう?何か閃いたのか?愛の表情を見ても、変な事をする訳でもなさそうだし、大丈夫そうだな。

 

 

「それじゃあ!せっかくだからもう一回遊ぼうよ!」

 

 

 なるほど。次が楽しみなら、今にでも遊んでしまおうという訳だな。さすが愛、名案だね。

 

 

「私も⋯⋯遊びたい!」

 

「俺も異論はないどころか、ナイスアイデアだよ!」

 

 

 俺より先に言うあたり、璃奈ちゃんもまだ遊び足りないみたいだね。よーし!こうなったら、三人が満足できるまで遊ぶしかないか!

 

 

「そうと決まれば!もう一回遊ぼう!!」

 

「「おー!」」

 

 

 こうして、俺達はこの後満足するまで遊び倒して、VRシューティングだけじゃなく他のアトラクションも楽しみ、実に有意義な時間を過ごした。




今回はここまでとなります。

いよいよ、次回で序章の最終回となります。

そして、物語はアニメ1期本編の話へと突入します。

長らくお待たせしてしまいましたが、これからも変わらずに頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

本日、評価に色が付きました!評価してくださった皆様ありがとうございます。この評価に応える為に、また頑張っていきます!

評価・感想・お気に入り登録・読了報告、お待ちしています。


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第16話 今はまだ

更新です!

かなり間が空いてしまい、すみません。これからまた更新を頑張りますので、応援よろしくお願いします。

それでは、どうぞ!


 

「よし、これでいいかな」

 

現在、俺は調理実習中。これが本日最後の授業なんだけど、この時間の調理実習は作るものによって、嬉しかったり微妙だったりもする。多分、そう思っているのは俺だけじゃないと思う⋯⋯そうだと、思いたい。

 

何せ、お昼を食べた後の実習だから見るからに料理みたいなものは、ちょっとしんどいものがある。だが、今日はそんな心配は必要ない。

 

何故なら、今日の実習はクッキーだからだ!作業の終了は時間帯的におやつの時間、つまり15時前後!そして、今はそれが焼き上がったところ。

 

班の女の子達と協力、分担して調理をした結果とても良い具合に完成した。しかし、1つだけ問題がある。

 

その問題とは、先生が用意した材料が残りそうだったから、俺達の班が沢山使用した結果、大量に焼き上がってしまった。

 

どのくらい多いかと言えば、業務用スーパーで買える1箱に大量のクッキーが入ってるやつが、およそ2箱分に相当する量である。正直、6人いてもこの量を食べるのはキツい。

 

そこで、俺はこの大量に作ったクッキーを小分けにして、色んな人に配る事を提案し皆も賛成してくれた。

 

 

「それじゃあ、今食べる分だけ避けて残りをラッピングしようか」

 

「ラッピングは私達に任せてよ!」

 

「うん、お願い。俺は洗い物を済ませておくよ」

 

 

ラッピングは女の子の方が可愛く出来るだろうから、俺は洗い物の方をささっと終わらせようか。それに、この後渡しに行く順番も考えないとな⋯⋯。

 

 

洗い物を手早く済ませ、ラッピングを担当していた女の子達の方へ行くと、大量のクッキーは小分けされ、リボン等でラッピングする作業も終わっていた。

 

 

「ラッピング、もう終わったの?」

 

「うん!春輝くんが洗い物を引き受けてくれたから、早く終らせる事が出来たよ」

 

「何かごめんね、ラッピング任せっきりにしちゃって」

 

「ううん。私達の方こそ、春輝くんに洗い物任せちゃったから、おあいこって事で!」

 

「そうだね、ありがとう」

 

同じ班の女の子達が、優しくて本当に恵まれてると思う。いやマジで。皆、優しすぎる。

 

小分けする際に避けた食べる分のクッキーを、班の皆で談笑しながら食した。

 

 

クッキーも食べ終わったところで、授業の時間もチャイムが鳴り終わりを告げた。ラッピングされたクッキーの袋を、必要な分だけ持って俺は調理室を後にした。

 

歩夢と侑、果林さん、愛と璃奈ちゃん、シュウと歌奏ちゃんを探して順番に渡し歩いた。

 

最後に今日は同好会の活動日という事で、そこでかすみちゃん、しずくちゃん、彼方さん、菜々、エマさんに渡すつもりだけど⋯⋯流石にあちこち歩き回って疲れたからちょっと休憩⋯⋯さっき自販機でレモンティーを購入し、それを片手にベンチに腰掛けている。

 

 

夏が近付いている事もあり、陽が落ちるまで長くなっている為、空は夕方なのにまだ普通に青い。

 

何も考えずに空だけ見ていたら、後ろの茂みで何か物音がした。

 

 

「えっ、何!?」

 

 

急だった為思わず声まで出た。とにかく物音の正体を確かめる為、茂みに近づくと⋯⋯そこには白い毛玉がいた。いや、語弊があるか。訂正、白い小さな子猫がいた。

 

ちっちゃくて可愛いんだが?たまらんですよ、これは!俺は猫好きとしては見逃せない、いや見逃す理由のない場面に遭遇してしまった。

 

でも、この子まだ小さいのに親猫の気配もないし、もしかして迷子だったりするのかな?ん~、でもどうしたものか⋯⋯。

 

一番は連れて帰った方がいいんだろうけど、親猫が探しに来た場合がなぁ~、かといって学校の敷地で世話をしてると、見つかった時が厄介そうだからな⋯⋯。

 

仕方ない、あまり人目の付かない場所でお世話するしかないな。そうなるとまずは、寝床と餌だよな。寝床はとりあえず学校からダンボールを貰って、タオルでも敷けば一旦はいいかな。

 

ご飯の方も近くのコンビニに行けば、手に入るだろうからとりあえずは大丈夫かな。

 

だけど、それを手に入れる為にここを離れると、この子が何処かへ行ってしまう可能性がある⋯⋯誰か通りかかってくれないかな~?

 

おっ?あれは、彼方さんとエマさん!見るからにランニング中だけど、こっちに来そうだな。あっ、向こうも気付いたみたい。手を振ってくれてる、俺も振り返そうっと。

 

「春くん、こんな所で珍しいね~?どうしたんだい?」

 

「実は⋯⋯この子が⋯⋯」

 

「おやぁ~?ネコちゃんだねぇ~。もしかして、迷子かな?」

 

「そうみたいなんですよ。それで寝床と餌を準備してあげたいのですが、目を離せなくて困っていたんです」

 

 

俺が、事態を説明すると二人も察してくれたようで、納得した表情をしている。

 

 

「それじゃあ、私達が必要なものを準備してあげるよ!」

 

「でも、それは二人に悪いですよ」

 

「いいの、いいの~。彼方ちゃん達はランニングのついでだから、ね?」

 

「では御言葉に甘えて、お願いします!」

 

 

 

この子、意外と毛並みは綺麗だし、人懐っこいな。全然、逃げる気配がない。あと可愛い。

 

二人に任せて猫と戯れながら待っていると、彼方さん、エマさんの順に頼んだ物を持って戻ってきてくれた。

 

物を受け取り、作業をする事十数分

 

 

「これをこうして、出来たぁ!」

 

「お~、急場しのぎにしてはいい出来だね~」

 

「うん、この子も気に入ってくれると思うよ」

 

 

出来た物を俺が手に持ち、子猫はエマさんに抱っこしてもらって、なるべく人目に付かなそうな場所に設置して、ご飯をあげてその場を後にした。

 

 

 

そうだ!元々休憩してたら、部室に向かうつもりだったんだ。この後どうするか二人に聴いてみよう。

 

「二人はこの後、部室に戻るんですか?」

 

「うん、そろそろ切り上げて戻ろうと思ってるよ?」

 

「それなら、俺も付いていってもいいですか?ちょっとした差し入れもあるので」

 

「もちろんだよ~、春くんならいつでも歓迎しちゃうよ~」

 

 

これで許可も貰えたし、気兼ねなく部室へ行けるな。あっ⋯⋯鞄をベンチに忘れてきたぁ!!

 

 

「ごめん、二人とも!先に戻ってて、鞄忘れてきちゃった!」

 

「あらら~。りょ~かい、先に行って待ってるよ~」

 

「すぐに帰らないから、急がなくても大丈夫だよ」

 

 

と言われても待たせるのも悪いので、ひとっ走りしてすぐに部室に行こう!

 

 

その後、すぐさま鞄を回収し走って部室に向かうと、部室前の廊下を歩いている二人に追い付けた。

 

 

「やった、間に合った!」

 

「お~、早かったね~」

 

「急がなくてもいいのに、急いで来ちゃうのも春くんらしいね」

 

 

これって一応、褒めてもらえてるんだよね? うん、そうであってくれ。

 

少し歩き部室の前まで到着すると、先に二人が中に入り後から俺も中に入った。

 

 

「ただいま~」

 

「お二人共、お疲れ様です。少し遅かったですけど、何かありましたか?」

 

「その事なんだけど、実は⋯⋯」

 

 

二人の後ろにいる俺は、横に並ぶように場所を移動した。

 

 

「やっほー、来ちゃった」

 

「「ハル(春輝)先輩!?」」

 

「春輝さん、来てくれたんですね!」

 

 

あれ?そんなに俺が来たことに驚いちゃう?まあ、いっか。

 

 

「今日は少し見学と、ちょっとした差し入れを持ってきたよ」

 

「ちょうど、これから皆さんで休憩にしようと思っていたので、タイミングばっちりですね!」

 

「じゃあ、私は紅茶を用意するね!」

 

 

エマさんが用意してくれた紅茶と、俺が持ってきたクッキーでちょっとしたティータイムが始まった。

 

それぞれ紅茶を飲んだり、クッキーを食べたりしている中で、ある話題を切り出した。

 

 

「そういえば、同好会のお披露目ライブ決まったんでしょ?」

 

「はい!まだ1ヶ月近く先ですが、今はそれに向けて各々が練習をして、近々全体での練習を始めようと考えています」

 

「そっかぁ~なら、これから練習も本格的になる訳だね。1ヶ月後のライブが楽しみだな~!」

 

「彼方ちゃん達、頑張るから応援してねぇ~」

 

「もちろん!しっかり応援しますよ!」

 

 

お披露目ライブの事について話をしていると、かすみちゃんが俺の事について聞いてきた。

 

「そういえば、ハル先輩。同好会への合流は、いつ頃になりそうですか?」

 

「そうだ!それについても、ある程度の目処が立ったよ。助っ人の方も、あと1ヶ月くらいだからお披露目ライブの後には合流出来ると思うよ。だから、それまでもう少しだけ待っててくれる?」

 

「もちろんです!かすみんは、いつでもハル先輩の事待ってますからねぇ~」

 

「かすみんさんだけじゃなくて、私達も春輝先輩の事を待ってますよ」

 

 

いざ面と向かってそういう事言われると、かなり照れちゃうな~。でも、待っててくれるのは正直に嬉しい。

 

 

「ありがとうね。それじゃあ、これから1ヶ月の間お互い頑張っていこうね!次に俺がこの部室に来るのは、本当に同好会に入部する時だよ」

 

「うん!私達もお披露目ライブ頑張るから、春くんも絶対見に来てね!」

 

「はい!」

 

 

この後、練習を再開した5人の様子を見学しながら、下校までの時間を同好会のメンバーと過ごした。

 




今回はここまでになります。

次回からは、いよいよアニガサキ第1話の内容へと突入します!

これから春輝くん達がどんな物語を紡ぐのか、楽しみしていただければ幸いです。


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第17話 衝撃と激唱のステージ

更新です。

いよいよ、今回からアニメ1期の内容です!

それではどうぞ。


同好会を見学した日から1ヶ月が経ち、ついにお披露目ライブの日がやってきた。

 

この1ヶ月の間、同好会の皆とは日常的な会話はしていたが、同好会の事は当日のお楽しみという事で、お互いに話題に出さなかった。

 

なので、俺は今の同好会がどんなパフォーマンスをするのかは全く分からない。でも、それを今日という日にやっと見る事が出来るという事に、朝からこのワクワクをどうにか隠しながら過ごしている。

 

ちなみに、俺の方はというとバスケ部の助っ人は、今日の朝練を以てその役目を終えた。といっても、完全に役目がなくなった訳ではなく必要があれば、また助っ人をすることもあり得る。

 

まあ、それでも今までみたいに頻繁にではなく、1日だけとかの短期の応援と言うべきかな。

 

だから、やっと同好会の活動に参加できる。俺はマネージャーとしての参加だから、サポートがメインになるけど参加する以上はしっかりサポートするつもり。

 

そんな訳で、今はお昼休み。今日は、シュウと歌奏(かなで)ちゃんと一緒にいる。歩夢と侑は後から来るとの事。

 

 

「二人も今日のお披露目ライブ、行くんでしょ?」

 

「はい!待ちに待った虹ヶ咲のスクールアイドルのお披露目ライブですから、これは絶対に見逃せません!」

 

「と、まあ朝からこんな感じで歌奏はテンションが上りっぱなしだ。そして俺も、桜坂さん達がどんなパフォーマンスをするか、結構楽しみにしているぜ」

 

 

この二人⋯⋯特に歌奏ちゃんは昔からスクールアイドルが好きで、よくシュウと一緒にライブに行っているらしい。シュウもその影響で普通の人よりかは、スクールアイドルが好きとの事。

 

俺も今日をそれなりに楽しみにしていたけど、歌奏ちゃんはそれ以上に楽しみにしているっぽいし、シュウも乗り気でいるのは意外だよ。

 

 

「そっか、それならお互い放課後が楽しみだね!」

 

「そうだな!でも俺達にはお披露目ライブ以外にも、楽しみな事がもう一つあるんだぜ」

 

 

何だろう⋯⋯?多分、俺には関係のない事だろうけど、気になるから聞いてみようかな。

 

 

「へぇ~、どんな事なの?」

 

「実はですね⋯⋯今日うちのお店の常連さんが、しばらく会えてなかった大切な人を連れてくると、言っていたのでどんな人なのか楽しみなんです!」

 

 

なるほど⋯⋯確か、歌奏ちゃんの家は喫茶店をやっていて、シュウもよくお手伝いをしているとか⋯⋯そういえば、まだ行った事ないんだよな〜、場所を聞いて今度行ってみようかな。

 

 

「へぇ〜、それは気になるかも。明日どんな感じだったか俺にも教えてよ」

 

「おう、楽しみにしていろよ!」

 

 

この後、歩夢と侑もやって来て5人で昼休みを過ごし、午後の授業の時間もあっという間に過ぎていった。

 

 

 

放課後、俺は今校門にいる。理由はシュウと歌奏ちゃんと一緒に行く約束をしているので、校門を待ち合わせ場所にしている。ちなみに、歩夢と侑はお買い物に行くと言っていたので、二人の事は誘えなかった。

 

 

「悪い、遅れた!」

 

「すいません、遅くなっちゃいました⋯⋯」

 

 

実は、今集合時間をほんの少しだけ過ぎていて、シュウと歌奏ちゃんはそれで走って来た。

 

 

「大丈夫だよ!まだ時間はあるんだし、そんなに急がなくても良かったんだよ?」

 

「やっぱり、ハルならそう言うよな⋯⋯だから走る必要ないって言ったんだぜ?」

 

「シュウくんは良くても私は良くないから!ハルさんを待たせるなんてダメなんだから」

 

 

あー、これ俺も関係してるかな?だとしたら、俺が仲裁しないとね。

 

 

「はいはい、二人ともストップ!二人とも早く来てくれたんだから、それでいいし今は言い合いよりライブだからね?」

 

「そうだな。悪かった、カナ」

 

「ううん、私の方こそごめんね、シュウくん」

 

 

はい、これでとりあえず何とかなったかな。二人が言い合いしてるとこなんて見たくないからね。

 

 

「それじゃあ、会場に向かおう!」

 

「「おー!」」

 

 

 

 

会場に向けて移動しながら、会話をしているとシュウが俺に質問してきた。

 

 

「そういや、ハルはスクールアイドルのライブって見たことあるのか?」

 

「うん、一回だけ親しい人の出てるライブを見たことあるよ。でも5年も前だから、ほぼ今回が初めてみたいな感じかな」

 

「そうだったのか。なら、今日は一緒に見て楽しめるな!」

 

 

あれからもう5年経つのか⋯⋯もうしばらく会っていないし、それにライブに招待してくれたお礼もしてない⋯⋯。

 

 

「⋯⋯さん。ハルさん!」

 

「うぇっ!?ど、どうしたの歌奏ちゃん?」

 

「どうしたの?はこっちの台詞ですよ。急に立ち止まってどうしたんですか?」

 

 

えっ?立ち止まった⋯⋯あっ、本当だ。昔の事を思い出してたせいか⋯⋯。

 

 

「ごめんね、何でもないよ!ほら、行こう行こう!」

 

「ちょっ!待てって!」

 

 

誤魔化すように俺は軽く走って、止まって後ろにいた俺を見ていた二人の先へ進んだ。

 

その様子を見たシュウと歌奏ちゃんは、すぐに走って俺のいる所まで来た。

 

 

 

 

「よぉし、到着!」

 

「10分前だね、待ち時間も丁度いいじゃん」

 

 

あれから少し歩くと目的地の広場へとやってきた。開始10分前の遅くも早くもないくらいの、ベストなタイミングに着けて良かったよ。

 

 

それから待ち時間を過ごし開始時間になったが⋯⋯まだ始まらない。

 

どうしたんだろう⋯⋯何だか、変な胸騒ぎがしてきた。まさか、トラブルじゃないよね⋯⋯?

 

不安に駆られながら、待っているとせつ菜が一人で階段を降りてステージに現れた。

 

 

「あれ?せつ菜ちゃんしかいないよ?」

 

「そうだな、桜坂さん達が出てくる様子もないな⋯⋯」

 

 

二人もこの状況に疑問を感じ、周りの人もざわつき始めた。せつ菜の様子は、やや俯向いた状態だ。表情はよく見えないけど、何か苦しそうにも見える。

 

せつ菜⋯⋯一体、何が⋯⋯。

 

次の瞬間、せつ菜は俯向いていた状態から、顔を上げ前を見据えると歌い始めた。

 

せつ菜が歌い始めた事により、周りは歓喜に包まれるが、俺はこの状況を飲み込めていなかった。

 

どういう⋯⋯事?今日は、同好会のお披露目ライブだったはずじゃなかったの?まさか⋯⋯!?

 

この時、俺の頭には1つの可能性が浮上した。それは同好会の空中分解という可能性だ。それならば、この状況を理解できるが納得は出来ない。

 

この状況でも、せつ菜は楽しそうに全力で歌っている。その様子だけは、スクールアイドルが好きなせつ菜だからこそ、俺も納得出来る。

 

 

今はとにかく目の前のライブに集中しよう⋯⋯考えるのは後からでもできる。

 

 

せつ菜のパフォーマンスを見る事に集中し始めると、あっという間に惹き込まれていった。

 

せつ菜の歌声と歌詞から感じる強い想い。振り付けは歌に合わせたように緩急のついたものに仕上がっている。

 

それらが組み合わさることで、まるで燃え盛る炎の様なパフォーマンスになっている。

 

見る者全てを惹き込むパフォーマンス⋯⋯これがせつ菜の全力なんだ。

 

凄い⋯⋯前に見たライブも確かに凄かったけど、うまく言葉に出来ないけど今日のライブは何か違う気がする。

 

胸の奥から熱いものが込み上げてくる感覚⋯⋯これが胸が高鳴るという事なのかもしれない!

 

そして曲もそろそろ終わりを迎える頃に、せつ菜の全力シャウトが響き渡る。

 

それを聴いた瞬間、鳥肌が立つほどに震えた。今まで感じた事のない衝撃。これがスクールアイドル⋯⋯これが優木せつ菜の真の姿。

 

 

 

せつ菜のパフォーマンスが終わり、見ていた人達から拍手が自然と湧いた。それは俺達も例外ではない。気が付くと全力で拍手を送っていた。

 

せつ菜は深くお辞儀をして、再び階段を昇ってステージから去った。

 

その様子をただ見ていた俺の後ろで、聞き覚えのある声がした。

 

 

「だよね!凄かったよね!!」

 

 

かなり興奮していて、普段の感じとは違うがその声の主にすぐ気付いた。しかも、興奮のあまり早口にすらなっている。

 

後ろを振り向くと、そこには今日も学校で会った、よく知っているツインテールの子と頭の横にお団子を作っている子が居た。

 

紛れもなく、侑と歩夢だった。始まる前はいなかったはずだけど、始まってから来たのかな?

 

二人は⋯⋯特に侑は興奮して歩夢の手を握りながら、熱く語っていてこっちに気付く様子もない。歩夢もそんな侑の事を見ているので気付かなそう。

 

声を掛けようとすると、侑は歩夢の手を引いてお披露目ライブのポスターを見に行った。

 

追い掛けようと、シュウと歌奏ちゃんの方を見ると二人は感動のあまり固まっていた。

 

 

「えっ?おーい、二人とも?」

 

 

二人の目の前で手を振ると、それを見て我に帰ったように反応した。

 

 

「お、おう。悪い、つい見惚れて固まっちまった」

 

「あんなに凄いパフォーマンスを見たのは初めてです!しかも、ソロですよ!ソロ!」

 

 

おー⋯⋯こちらも見事な興奮ぶり。二人は元々スクールアイドルに興味があると言ってたから、さぞ興奮したんだろう。特に歌奏ちゃんは、スクールアイドルが大好きらしいから、興奮具合が侑と同じレベルだよ。

 

 

「二人とも、あそこに侑と歩夢がいるから、行ってみようよ」

 

「おっ?本当だ、二人も見ていたんだな」

 

「そうみたいだね。行ってみましょう」

 

 

俺達は二人の元へ向かい、改めて声を掛けた。

 

 

「やっほー、二人とも。お昼休みぶりだね」

 

「あれ?ハル!それにシュウと歌奏ちゃんも!」

 

「もしかして、春輝くん達の予定ってこのライブだったの?」

 

 

二人の前にいたはずなのに、完全に気付いてなかったのね⋯⋯それだけせつ菜のパフォーマンスが凄かったって事なんだよね。

 

 

「そうだぜ!俺達は虹ヶ咲のスクールアイドルを見に来たんだ」

 

「侑さんと歩夢さんも見ていたんですね!今のライブ凄かったですよね!」

 

 

歌奏ちゃん凄いな⋯⋯これが新しい一面か。

 

 

「うん!凄かったよね!もうトキメキが止まらないよ!」

 

「うん、確かに凄かったよね!でも⋯⋯ポスターを見る限りだと、他にもメンバーがいたみたいだけど⋯⋯」

 

 

歩夢の指摘により、ライブ中に考えるのを放棄した事を再び思い出した。

 

 

「そうなんだよな⋯⋯ハル、何か知っているか?」

 

「いや、俺も皆からは何も聴いてないから分からない⋯⋯」

 

「そっか、ハルが分からないなら、俺らじゃ分かるはずもないな」

 

 

おおよその検討はついているが、これを無闇に言うべきではないだろうから、今は胸の内にしまっておこう。

 

 

「もしかして、ハルってせつ菜ちゃんと知り合いなの!?」

 

「う、うん。1年の時に知り合って以来、友達だけど?」

 

「そうなんだ!どこに行けば会えるとか知ってるの?」

 

「んー、な⋯⋯せつ菜はこっちから会う事があまりないからな〜。いつも向こうから、だから分からないかな」

 

 

危ない⋯⋯思わず、『菜々』って言いそうになっちゃった。多分、大丈夫だよね?

 

 

「そっかぁー、それじゃあ会うのは難しそうだね⋯⋯」

 

「侑ちゃん、会いに行くつもりだったの?」

 

「そうだよ!会ってお話がしてみたかったから!」

 

 

会って話をするか⋯⋯俺も今、まさにせつ菜に話を聞きたい。一体、今日までに何があったのか。これからどうするのかを⋯⋯。

 

 

 

会場を後にした俺達は、これからお茶をしながらライブの感想を話そうという事になったが、俺だけはそれを断った。

 

俺は四人に用事があると、伝えてその場を去ってきた。今なら、まだせつ菜が⋯⋯菜々が近くにいるかもしれないと思い、辺りを探すために。

 

 

だが、その結果は言うまでもなく見つからなかった。

 

それはそうだよね⋯⋯俺がいるのは、知ってるんだから見つかったら話を聞かれるから、避けて帰るよね⋯⋯。

 

 

俺は諦めて家へ帰る事にして、住宅街を通っていると、バイクに乗った女性らしき人が俺の前に止まりバイクから降りた。

 

えっ⋯⋯?誰?年上の女の人の知り合いはいない事はないけど、バイクには乗ってなかったはず⋯⋯。

 

 

その女性らしき人は、被っているヘルメットを取り、頭を左右に振りその後に手で髪を直した。

 

 

俺はそのヘルメットの下の素顔に見覚えしかなかった。髪型は昔とは違うから、気付かなかったけど間違いなく知っている。

 

 

「やぁ、春輝。久しぶりだね!」

 

 




今回はここまでになります。

今回から1期の内容がスタートしました。呼び方が変化しているキャラにも気付いてもらえたでしょうか?

最後に春輝くんの前に現れたのは、誰なのか⋯⋯次回をお楽しみにしてください!

長らくオリジナル展開が続いていましたが、やっとアニメ1期の内容に入る事が出来てホッとしています。

ここまで頑張れたのも、読んでくださっている皆さんのおかげです!ありがとうございます!

これからも変わらずに頑張りますので、引き続き応援の方をよろしくお願い致します。


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第18話 仕組まれたような再会

「Hi,everyone.I'm Mia Taylor」
「你好!鐘 嵐珠よ。って、ミア!栞子がいないわよ!?」
「栞子なら今向こうにいるよ」
「どうしてよ!?」
「Duh.前回の話のラストを見て分からないのか?」
「ランジュには分からなかったわよ!」
「それなら、今回の話で分かるさ。それじゃあ、Episode18 Start!」
「第14話も後半が加筆されてるから、そっちを先に見るといいわよ!」


 

「やぁ、春輝。久しぶりだね」

 

薫姉(かおるねえ)⋯⋯久しぶり⋯⋯」

 

「まだ、私の事をその呼び方で呼んでくれるんだね、嬉しいよ」

 

 

まさか⋯⋯今日、話をした(17話参照)直後に再会するなんて、全く思いもしなかったよ。

 

俺が薫姉と呼んでいる人は、三船薫子(みふねかおるこ)さん。小さい頃は、家族ぐるみで付き合いがあって、俺は薫子さんとも一緒によく遊んでいたんだ。

 

あの時(4話参照)以来、俺と薫子さんも疎遠になって碌に連絡を取ってなかった。と言っても、疎遠になってたのは俺だけで、父さんと母さんは今でも連絡を取り合っている。特に母さんは、薫姉と度々ツーリングに行っているくらいだ。

 

 

「それで⋯⋯5年ぶりにどうしたの⋯⋯?」

 

「別に特別な事はないよ。私が会いたいと思ったから来た、それじゃ悪い?」

 

 

どうにも腑に落ちない。今まで5年も連絡を取ってないのに、急に会いに来るのは何かあるとしか思えない。

 

俺だって会いに来てくれて嬉しい⋯⋯でも、昔の事の負い目もあって、会いたくなかったという気持ちもある。それなのに、『会いたいから来た』なんて言われて、俺の感情が追い付かない。

 

 

「そう⋯⋯なんだ。それでどうするの?」

 

「道路で立ち話ってのも、邪魔になっちゃうから場所を移すよ。ほら、とりあえず後ろ乗りな」

 

 

そう言うと、俺の方へと予備のヘルメットを投げてきた。薫姉の事だから投げてくるとは思ってたけど、本当に投げてきたよ⋯⋯まあ慣れてるからいいけど。

 

薫姉から渡されたヘルメットを被り、バイクへと跨がる。そして、前に座っている薫姉のお腹の方に手を回した。

 

正直、ちょっと恥ずかしい。母さんの後ろなら別に何とも⋯⋯多少は思うけど、薫姉はそれ以上に恥ずかしいというか⋯⋯緊張するというか⋯⋯。

 

 

「よし、それじゃあ行くよ。しっかり捕まって!」

 

 

薫姉の運転でバイクは走り出した。薫姉の運転は、母さんとツーリングに行っているおかげか、安定感のある走りだ。

 

こうしての態勢でいると、小さい頃を思い出すなぁ〜。あの頃は、体力もなかったからだいたい遊び疲れて、帰りは薫姉におんぶしてもらってたっけ。今、思うと情けなく感じるけど、いい思い出だよ。

 

 

 

バイクで移動する事15分、住宅街にある隠れ家のような喫茶店に到着した。

 

 

「ええっと⋯⋯『喫茶 音の家』?薫姉、ここは?」

 

「ここは私の行きつけの喫茶店だよ。今日は春輝と夕飯も兼ねて

来たんだよ」

 

 

 

夕飯も兼ねて⋯⋯という事は、母さんに連絡しないとまずいよね⋯⋯。

 

 

「薫姉、ちょっと待って!今、母さんに連絡するから」

 

「あっ、言い忘れてた。希さんに連絡しなくて大丈夫よ」

 

 

どういう事⋯⋯?まさか!

 

 

「もしかして、母さんも関与してるの?」

 

「さっすが、春輝!正解、今日の計画は私が春輝に会いたいって希さんに伝えたら、喜んで協力してくれたってのよ」

 

 

そういう事だったのね⋯⋯どおりで薫姉が俺の通学コースに現れた訳だ。仮に、情報なしに俺の通学コースに現れたら怖いからね。

 

隣の駐車スペースからお店の入口前まで移動してくると、ドアには準備中の札が掛かっていた。

 

 

「あれ?今準備中になってるよ?」

 

「それなら話はお店の人に通してあるから大丈夫よ。それじゃあ入るわよ」

 

 

そう言うと薫姉は先にお店のドアを開けて、中へと入っていった。中からは『いらっしゃいませ、お待ちしてましたよ!』という、女の子の元気な声が聞こえたけど⋯⋯その声はついさっき一緒にいた子の声にそっくりなんだよな⋯⋯。

 

正直、嫌な予感がする⋯⋯。

 

恐る恐る、後に続いて薫姉の背後から顔を出すと⋯⋯。

 

 

「ハルさんっ!?」

 

「うそっ!ハルじゃん!?」

 

 

やっぱり⋯⋯そうだよね。

 

予想していた通り、声の主は歌奏ちゃんだった。しかも、歌奏ちゃんがいるという事は当然シュウもいる。というか、いた。

 

 

「ふ、二人ともさっきぶり〜⋯⋯」

 

「さっきぶり〜。じゃねえよ!!何だよ、ハル!来るなら来るって言ってくれれば良かったじゃん!」

 

「いやいや、俺もついさっきまで知らなかったよ!むしろ、急に連れて来られて俺も驚いてるよ!」

 

「まさか、薫子さんの大切な人がハルさんだったなんて⋯⋯」

 

 

正直、俺もびっくりしている。まさか自分の事だったとは、露知らず⋯⋯全く、何があるか分からないなぁ〜。

 

というか、俺も入る前にお店の名前を見た時点で、何で分からなかった⋯⋯。

 

 

「まあ⋯⋯確かに薫姉は、大切な人ではあるかな。でも、恋人とかそういうんじゃないからね!」

 

「な〜んだ⋯⋯てっきり恋人関係とか思ってたのに〜」

 

 

そんな事だろうとは思ってたけどさ⋯⋯俺も薫姉の事は尊敬しているし、好きだけど⋯⋯恋人の好きとは違う気がするし、薫姉はそもそも俺の事を弟って感じで見てるだろうから、そういう事に発展する事はないな。

 

 

「もしかして二人とも何か期待していたなら、ごめんね?そういうのじゃなくて」

 

「いえいえ、私もシュウくんもこのお店を選んでもらった事には、感謝しているので全然大丈夫ですよ!」

 

「カナの言う通りです。とりあえず、一旦お席に案内します。話はまたそれからで」

 

 

そう言うと歌奏ちゃんとシュウは、俺と薫姉をいつも薫姉が座っている奥の窓際の席に案内してくれた。

 

こうしていると、歌奏ちゃんとシュウもちゃんと接客が出来ているのが分かる。それに制服姿も意外と似合ってる。もしかして着ている制服は、誰かの手作りだったりするのかな?

 

 

「二人とも、ご注文はどうしますか?」

 

「私はいつものでお願いね」

 

「じゃあ⋯⋯薫姉と同じので」

 

「「薫姉!?」」

 

 

あっ⋯⋯しまった。

 

 

「いや、そんなに驚かなくてもいいじゃん⋯⋯昔からこの呼び方なんだよ」

 

「へぇ〜、ちょっと意外じゃ〜ん」

 

「だね〜。ハルさん、可愛いですね!」

 

「だってさ、春輝?」

 

 

なんで俺だけいじられてるの⋯⋯?ていうか、薫姉も楽しそうにそっち側に回らないで止めてよぉ〜。

 

 

「呼び方に関しては、今はいいでしょ」

 

「はーい、それではお二人とも少し待っててくださいね。ほら、シュウくんも行くよ」

 

「あいよ~、そんじゃごゆっくり」

 

 

全く⋯⋯ここぞと言わんばかりに絡んできたな。いなくなる時もまだニヤついてたし。

 

 

「で、薫姉にもう一回同じ事を聞くけど、本当は何か話があるから、会いに来たんでしょ?俺はさっきの言い分で納得してないよ?」

 

「まあ〜、そうよね。さすがに誤魔化しきれないか⋯⋯」

 

 

やっぱり、何か話があるんじゃん。正直、いい予感はしないよね。

 

 

「まだ私が高校生だった頃に、ライブやったでしょ?その時の事を話そうと思ってね」

 

「そうだ!俺もあの時ライブに呼んでくれた事に、お礼を言えてなくて言おうと思ってたんだよ」

 

 

あの時のライブ⋯⋯薫姉が仲間と一緒に、ラブライブの予選に挑んだステージ。あの時は、俺は乗り気ではなかったけど、母さんに連れられて行ったんだよな。

 

でも⋯⋯結果は本選に出場叶わずだった。あの時に初めて、薫姉が涙を流しているのを見た。でも、あのライブがきっかけで俺は⋯⋯。

 

 

「あら、そうだったの?奇遇ね〜。でも、私は実際ライブ見せただけで、本当にしてあげたかった事を出来なかったんだから、お礼を言われるような事はないと思うけど?」

 

 

本当にしてあげたかった事⋯⋯?薫姉が⋯⋯俺に?

 

 

「薫姉⋯⋯俺にしてあげたかった事って何だったの?」

 

「そうね⋯⋯正確には、春輝と栞子よ。私のライブを通して、仲直りさせてあげたかったの⋯⋯でも出来なかったけどね」

 

 

薫姉の表情がさっきまで笑っていたのに、だんだんと曇り始めてきた。それほど思っててくれたんだ⋯⋯それなのに、今まで知らなかった⋯⋯。

 

 

「そうだったんだ⋯⋯でも、出来なかったかもしれないけど、俺はあのライブを通じて、過去と少しずつ向き合う決意が出来たんだよ。だから、ありがとうね⋯⋯薫姉」

 

 

「春輝⋯⋯私の想いは少しは届いてくれてたんだね。それが聞けただけでも、今日会えて良かったよ」

 

 

薫姉は俺の言葉を聞くと、再び優しい笑顔に戻った。

 

今言った事は本当の事。あの日、ライブを後方から見ていた俺は、前の方にしーちゃんがいたのに気付いていた。ライブを見てた、しーちゃんの様子はとても楽しそうに見えて、俺はまた一緒に話したり、遊んだりしたいと思い、少しずつ向き合う決心をした。

 

はっきり言って、あれから年月は経っているけど、心の整理が出来ているかと言われれば、まだ出来ていない。だから、この先会うのがいつになるのか分からない⋯⋯でも、いつか会いたい。

 

 

「はい、二人ともコーヒーどうぞ!」

 

 

話し込んでいると、シュウがコーヒーを淹れて戻ってきた。なるほど、薫姉はいつもコーヒーを飲んでいるのか。同じのを頼んだけど何が来るか分からないから、ドキドキする。

 

いつもは学校でレモンティーを飲んでいるけど、別にコーヒーも飲めない事はない。何なら、ブラックコーヒーでも大丈夫。

 

 

「待ってた、待ってた」

 

「ありがとう、シュウ」

 

 

コーヒーの入ったカップを受け取り、薫姉は砂糖とミルクを少量入れ、俺は砂糖を少量のみ入れて一口飲む。

 

お互い無言のまま、もう一口とコーヒーを飲み進めた。

 

気付くとシュウは、自分と歌奏ちゃんの分のコーヒーを淹れに戻っていた。

 

 

 

しばらく無言の間が続いている。薫姉はコーヒーをゆっくり味わっている様子。その為、話題を振っていいのか微妙なところで無言のまま。

 

しかし、話題を振ってくるのを待っている可能性もある。ここは意を決して、ちょっと気になってる事を聞いてみようかな。

 

 

「そういえば、薫姉って何でスクールアイドルを始めたの?」

 

 

ライブを通して届けたかった想いは聞いたけど、そもそもの始めたきっかけを知らないからね。

 

 

「始めたきっかけは、栞子を元気づける為よ」

 

 

ん?しーちゃんを元気づける為⋯⋯その時期に何かあったのかな?

 

 

「と、言うと?」

 

「始める少し前に、ランジュが香港に帰っちゃってね⋯⋯それで栞子、元気なかったのよ」

 

 

ランジュ⋯⋯?薫姉の友達かな?それともしーちゃんの友達?

 

 

「その⋯⋯薫姉、ランジュって子は誰なの?」

 

「あれ?春輝もしかしてランジュの事、覚えてない⋯⋯?」

 

 

えっ?俺も会った事がある?一度会った人を記憶する事には、自信あるんだけどなぁ。

 

薫姉もまさかと言わんばかりの驚きの表情をしている。

 

 

「うん⋯⋯ごめん、ちょっと思い出せない⋯⋯」

 

「そっか⋯⋯まあ、無理もないのかな〜。会ったのも片手で数えれるくらいだったからね」

 

「そのランジュって子の特徴は?」

 

「髪は長めで両サイドを結んでて、頭頂部にアホ毛があって、色は薄い桃色ね。それとツリ目で右目の下に泣きぼくろがあるわよ」

 

 

薫姉は口で説明をしながら、自分の髪で髪型を再現してくれた。

 

んーーー?何か思い出せそうな、出せないような……。

 

 

「あと、凄くパワフルって感じね。周りを振り回すタイプで、春輝も振り回されてたはずよ?」

 

 

振り回されてた?⋯⋯あー!思い出したーー!

 

 

「うん、今ので思い出したよ。ランちゃんだよね」

 

 

名前は鐘嵐珠(ショウランジュ)、確か日本人と中国人のハーフだったはず。

 

 

「そうそう!春輝はそう呼んでたね、懐かしいわね〜」

 

 

ちゃんと思い出せて良かった。少しとはいえ、一緒に遊んだ相手を忘れるのはあっちゃいけないから。

 

「そういえば、懐かしいついでだけど髪伸ばしたんだね」

 

「ああ、これね。紫苑を卒業してから髪型変えたのよ。どう?似合ってるかしら?」

 

「うん、似合ってるよ。大人な感じがするね」

 

「嬉しい事言ってくれるじゃない。ありがと!」

 

 

おっと⋯⋯話を逸してしまった。軌道修正しないとね。

 

 

「それで話を戻すけど、もしかしてだけど⋯⋯俺が会ってない間は、ランちゃんがしーちゃんの事支えてくれてたの?」

 

「ええそうよ。たぶん、あの子が元気でいてくれたのは、ランジュの存在が大きかったはずよ」

 

 

そっかぁ⋯⋯ランちゃんが一緒にいてくれたんだ。もしいつか会えたらお礼言わなきゃ⋯⋯でもランちゃんが俺の事を嫌いになってる事もあるかな……。

 

 

「で、ランちゃんが帰っちゃったから、薫姉がスクールアイドルを始めたと」

 

「そうよ。あの頃は、よく栞子も一緒に練習をしてたわよ。『私もいつかスクールアイドルになる!』ってね」

 

「へー、そうなんだ。じゃあ、しーちゃんもスクールアイドル始めるの?」

 

「それはどうかしら⋯⋯私があの結果だったから、きっと栞子をがっかりさせちゃったわよ」

 

 

そうなのかな⋯⋯しーちゃんの気持ち次第か。

 

薫姉に返す言葉もなく、また静寂が訪れたかと思ったが⋯⋯それはすぐに打ち破られた。

 

 

「はーい、お待たせしました〜クリームパスタでーす!」

 

「おお〜、相変わらず美味しそうね」

 

「いい匂い⋯⋯美味しそう!」

 

 

パスタの見た目は、一般的なものと変わらない感じだが、どこか美味しそうな雰囲気と香りが漂っている。

 

 

「シュウくん、私達も食べよー!」

 

「分かったよ、今行く」

 

 

シュウが揃ってから4人で一緒に、同じクリームパスタを食べた。その間はシュウと歌奏ちゃんのおかげか、笑顔の溢れる時間を過ごした。

 

 

 

食事を終えて、間もなくお会計を済まして喫茶音の家から薫姉のバイクに乗り、帰路に着いた。

 

喫茶店を出た時は薄暗かった空も、家に到着した頃には完全に暗くなっていた。

 

 

「薫姉、今日はありがとうね。久しぶりに会えて嬉しかったし、楽しかった。それに色々と話を聞かせてくれてありがとう」

 

「お礼を言うのはこっちよ?最初、春輝に会った時なんて避けられるんじゃないかって思ってたんだから。私も楽しかったわよ」

 

 

お礼を言う俺に薫姉はヘルメットを外して、笑顔で答えてくれた。

 

 

「また私の気が向いた時に、付き合ってもらうからその時はよろしくね!」

 

 

言い終わると、俺にウィンクをしてきた。

 

薫姉のウィンク、久しぶりに見たな〜。昔はよくやってたね。

 

 

「分かったよ。でも今度はちゃんと事前に連絡してよね⋯⋯あっ、連絡先交換してなかった〜」

 

 

完全に凡ミスです。連絡先も知らないのに連絡取れるわけないんだよなぁ、何を言ってるんだ俺は。

 

 

「そうだ春輝、私から1つアドバイスね。高校生活を後悔のないようにしなさい。じゃあね〜!」

 

 

最後に言うだけ言って、薫姉はヘルメットを付けすぐ走り去ってしまった。

 

全く⋯⋯ちゃんとバイバイしてから帰ってよ。あっ、ヘルメット返すの忘れてた⋯⋯連絡だけ入れておこう。

 

連絡を入れようとスマホを見ると、1件のメッセージが来ていた。送ってきたのは、菜々だった。

 

『明日お話があるので、始業前に生徒会室に来てくれませんか?』

 

後悔のないようにかぁ⋯⋯⋯⋯なら、やる事は決まった。

 

菜々へ了解のメッセージを送り、俺は家の中へ入った。




今回はここまで!

重要な回だったので、長くなってしまいすみません。次回も早めに更新するのでお待ちください。

評価・感想・お気に入り登録・読了報告、お待ちしています。


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第19話 間違いだとしても

「Hay.I'm Mia Taylor」
「皆さんこんにちは、三船栞子です」
「栞子、ランジュ見てないかい?何も言わずに急に、どこかに行ったんだよ」
「ランジュなら、先程すれ違いましたよ。はーく⋯⋯春輝さんの所に行くと仰ってましたよ」
「OK⋯⋯何となく予想はついたよ⋯⋯」
「何のことでしょうか?」
「まあランジュの事は置いておいて、ほら栞子お願いするよ」
「はい⋯⋯それでは第19話をどうぞ」


 

『ピピピッ!』

 

「んーー、よし⋯⋯準備しよう」

 

 

いつもより早い時間でアラーム音がなったが、目覚めは良好。仮に眠くても、眠いなんて言っていられないからね。

 

まずは制服を着てそれから歯磨きに洗顔、朝ご飯は⋯⋯食べてる時間はなさそうかな。

 

 

 

洗顔までを終わらせて、鞄を持ってリビングに向かう。

 

 

「おはよう母さん、父さん。今日は朝急ぐからご飯いらないよ」

 

「そんな話ママ聞いてないよ!?お弁当もこれからなのに⋯⋯」

 

「お昼も購買でパンを買って済ませるつもりだから大丈夫だよ」

 

 

母さんは急な事に驚き、朝ご飯の準備の手を止めてしまった。

 

本当は昨日のうちにと思ったんだけど、あの後すっごく疲れが出てお風呂入った後に、すぐに寝ちゃったんだよね〜。

 

そんな訳で話すタイミングもなく今に至る。

 

 

「春輝がこんなに早く出るなんて珍しいな。何か用事でもあるのか?」

 

 

ソファに座って新聞を読んでいる父さんが、俺が早く行く事に疑問を持ったのか聞いてきた。

 

 

「友達とちょっと話があってね⋯⋯」

 

 

俺は敢えて、少し歯切れの悪いように答えた。

 

 

「そうか、なら納得いくまで話をしてくるんだぞ」

 

「うん、分かってる」

 

 

こう言っておけば、父さんなら深くは追及しないはずだから。

 

ありがとう、父さん。

 

二人に挨拶もしたし、そろそろ行こうかな。こんな時間に学校に行っても、恐らく朝練のある部活の生徒だけかも。

 

 

「じゃあ、行ってくるね!」

 

「ハル君、待って!せめて、これだけでも持って行って」

 

 

そう言って母さんから渡されたのは、紙パックの野菜ジュースだった。母さんはこういうところは、きっちりしているから貰っていこうか。

 

 

「はーい、ありがとう母さん。それじゃあ、改めて行ってきます」

 

「「いってらっしゃい!」」

 

 

母さんと父さんに見送られて、家の玄関をドアを開けて家を後にした。

 

 

いつもの時間帯より早いせいか、周りに歩いているうちの生徒は全くいない。

 

とりあえず待たせてしまうと悪いので、ペースアップをして学校へと向かった。

 

 

 

学校へ到着し、すぐさま生徒会室に直行すると歩いている菜々を見つけた。

 

 

「おはよう、菜々」

 

「おはようございます⋯⋯春輝さん」

 

 

いつも通り挨拶をしてみたけど、菜々の方はこれからする話を気にしているのか、様子が変だ。

 

挨拶だけしたものの、一緒に生徒会室に向かう道中での会話は一切なかった。

 

生徒会室に着いて中へ入ると、いつも二人で作業している時と同じ様に、テーブルを挟んで向かい合うようにソファへ座った。

 

 

「単刀直入に聞くよ。今日の話は同好会の事でいいのかな?」

 

時間もないから座ると、すぐに俺から話を切り出した。

 

「はい。昨日のライブを見てもらっての通り、私が一人でステージに立つまでに至った経緯をお話します」

 

菜々は一度深呼吸をしてから、決心したように話を始める。

 

「春輝さんが最後に同好会に来た日から、もう間もなくの事でした⋯⋯合同で練習を始めてから、最初は揃わないのは当たり前と思っていました」

 

「ですが⋯⋯それから日数を重ねても、上手くいかずに焦りが出てしまったんです。その結果、かすみさんの大好きを私の大好きで傷つけてしまったんです⋯⋯」

 

 

確かに始めたての頃は、揃わなくても不自然ではない。でも、回数を重ねても揃わないのは、何か理由があるはず。

 

 

「そこで気付いたのです。私達、全員のやりたい事が違うことに。そしてその事で一度、同好会を少しの間お休みにする事にしたんです。ですが、お披露目ライブを中止にはせず私一人の独断でライブを開催しました」

 

 

なるほど⋯⋯だから、昨日のライブは一人でパフォーマンスをしていたんだ。とりあえず、昨日までの事は分かった。あとはもう1つ聞くべき事がある⋯⋯。

 

 

「だいたいの理由は分かったよ。それでこれから先は、どうするつもりなの?」

 

俺の言葉を聞いて、せつ菜は先程よりも険しい表情をして、これからの事を話し始めた。

 

「その事ですが⋯⋯同好会は廃部にする決定をしました、ですので約束も忘れてください。同好会の皆さんにも連絡済みです。もちろんこれも私の独断です。」

 

 

えっ⋯⋯廃部にする?菜々、何を言ってるんだ?皆が集まったおかげで、やっと同好会が設立したのに⋯⋯どうして⋯⋯。

 

 

「菜々⋯⋯廃部にした理由を聞いてもいいかな⋯⋯?」

 

俺は右手の拳を左手で包むよう握り、顔を俯向かせたまま菜々に話しかけた。

 

「それは⋯⋯同好会がバラバラになる切っ掛けを作ってしまった私がいる状態で、もう一度活動を再開できるとは思えなかったからです」

 

菜々もさっきまでは普段とさほど変わらない声量だったが、今の声量は普段よりも小さく喋っている。

 

 

「⋯⋯分かったよ。それで『せつ菜』はこれからどうするの?」

 

 

同好会をどうするかは分かった。でもまだ優木せつ菜は、これからどうしていくのか聞かなければ。

 

 

「優木せつ菜はもうおしまいです。昨日をラストライブのつもりでやりきったので⋯⋯後悔はないです⋯⋯」

 

 

後悔がないならどうして、そんなに悲しそうな顔をしているの?

 

菜々の顔を見る限り、自分にそう言い聞かせて気持ちを押し殺そうとしている。

 

でも⋯⋯それはいくら責任を果たすにしても、俺は納得出来ない。いや⋯⋯したくない。

 

 

「とりあえずは分かったよ。でも菜々、そんな顔で本当に『優木せつ菜』を終わらせるつもり?」

 

「えっ⋯⋯?」

 

菜々は俺の言うことに、戸惑いの表情を浮かべる。

 

「そんな暗い顔しながら終わりとか、後悔がないとか、言われても俺は納得出来ないよ」

 

ここからは最早、菜々やせつ菜がどうこうじゃない。俺自身の我儘だ。

 

「何を言ってるんですか⋯⋯?」

 

「せめてやりきったなら、笑顔でいてほしい。そんな今にも泣きそうな顔で言わないでよ⋯⋯」

 

菜々は後ろめたいのか、俺から顔を逸らした。

 

「なら、どうすれば⋯⋯いいんですか。私には分かりません⋯⋯」

 

このままだと菜々は確実に、この先自分のやりたい事を抑え込んで過ごす事になるかもしれない⋯⋯だったら⋯⋯。

 

「いつか⋯⋯いつかでいい。状況が落ち着いて、菜々の心の整理がついたら、もう一度⋯⋯せつ菜として満足のできるライブをしてほしい。」

 

あくまで俺が考えられる最上の方法だと思っているけど、この選択は彼方さん、エマさん、かすみちゃん、しずくちゃんを裏切る事になる⋯⋯。

 

それでも今俺の目の前で、独りで苦しんでいる菜々を見ていたら放ってなんておけないし、俺がそんなの認めない。

 

 

「ですが⋯⋯皆さんがそれを許すでしょうか⋯⋯」

 

「それは分からない。でも俺は菜々の背負う責任を、一緒に背負って支えるつもりでいる。もう一度、せつ菜として歌える日まで⋯⋯」

 

この選択が間違っていると分かっていても⋯⋯俺が昔体験した孤独を菜々に知ってほしくない。これは⋯⋯俺の我儘。

 

「それでは春輝さんまで、私と同じ事になってしまいます!どうして、そこまでするんですか!」

 

そう思うのは当然かな⋯⋯でも知った以上は、見てみぬフリは出来ない。

 

「俺も乗りかかった船だからね⋯⋯それに俺はせつ菜の秘密も知っている以上、彼方さん達の味方は出来ないよ」

 

 

彼方さん達の味方をするということは、優木せつ菜の正体を俺の口から喋る必要が出てくるはず。だがそれは菜々との約束を破る事になるから出来ない。

 

「ですが!それだと春輝さんに迷惑が⋯⋯!」

 

「菜々⋯⋯俺の事を気遣ってくれてありがとう。でもね、俺は菜々を放っておけない⋯⋯だから大丈夫だよ」

 

「どうして私の為に⋯⋯そこまでするのですか?」

 

せつ菜の為でもあるけど、これは問題に発展した時に、その場に居る事が出来なかった自分自身への罰でもある。もし1ヶ月前のあの時に、俺が同好会に居たらその後の事を止められたかもしれない。そう考えると、やるせない気持ちになる。

 

一番の理由は⋯⋯そんなの決まってる。

 

「俺は菜々を信じてるから。今回は一人で色々と決めたみたいだけど、それは菜々が意地悪をしたいからじゃなくて、ちゃんと考えがあっての事だと俺は思ってる⋯⋯ここから先は俺も付き合うよ」

 

「全く⋯⋯どれほどお人好しなんですか。でも、その通りです。私が同好会を廃部にしても、かすみさん達ならもう一度同好会を設立すると思っての行動です」

 

俺の言葉を聞いて呆れたのか、さっきまで暗かったせつ菜の表情が少し明るくなった。

 

やっぱりか。その辺は菜々も、皆の事を信用しているからこそだったんだろう。とは言っても、やった事の正当化は出来ないけど、それでも俺の信じた通りでホッとしている。

 

「菜々、もし彼方さん達が、せつ菜の正体を突き止めた時はどうするつもりなの?」

 

「どうするも何も真実を打ち明けるまでです。そこまでして隠そうとは思いませんから」

 

覚悟もしっかり決まってるのが確認出来たし、あとはもう聞く事もなさそうかな。あっ⋯⋯もう1つあるな。

 

「菜々はそういえばご飯食べてきた?」

 

「えっ?い、いえ、いつもより早く家を出たので、今日は食べてないですが、それが?」

 

なら、丁度いいかもしれない。

 

あまりに急に質問の内容が変わったものだから、菜々が珍しく鳩が豆鉄砲を食ったような顔してる。

 

 

「じゃあ、これから一緒に購買にパン買いに行かない?俺も食べてなくてさ、お腹空いてきたんだよね〜」

 

そろそろ空腹を感じて来たので、胃のあたりに手を当てて空腹だと示した。

 

「いいですね。では、時間もないので早速行きましょうか」

 

 

こうして俺と菜々は購買に朝ご飯を買いに行き、その後一緒に食べてからそれぞれの教室へと戻っていった。

 

 

 




今回はここまでです。

せつ菜ちゃんに協力する事にした、春輝くんはこの先どういった行動に出るのかお楽しみに。

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第20話 それぞれの決意

「ミア、栞子戻ったわよ!」
「おかえりなさい、ランジュ。どこへ行ってたのですか?」
「Wait.栞子、それは聞かない方がいい⋯⋯」
「わ、分かりました⋯⋯」
「それよりこれでようやく3人揃ったわね!」
「はぁ⋯⋯ランジュ、君がそれを言うか?」
「何よう⋯⋯いいじゃない!揃った事に変わりないんだから!」
「そうですね、ランジュの言う通りです。それでは始めましょう!」
「全く仕方ないなぁ。それじゃあ、大空に映る虹色の光 Episode20」
「それぞれの決意」
「开始!!」



 

 教室に戻って午前中の授業を受けて、それが終わった今はお昼休みに入ったんだけど⋯⋯これからの事を考えていたおかげで、ほとんど授業聞いてなかった⋯⋯。

 

 最後の数学に至っては、ノートすら碌にとってない有り様⋯⋯これはヤバいかも⋯⋯。誰かに借りて書き写させてもらわないと。

 

 ノートのとり方が綺麗で分かりやすく人は⋯⋯歩夢がいるじゃん。歩夢のクラスは授業でここの範囲やってるかなぁ〜?とりあえず善は急げ、歩夢のところに行こう。

 

 ────────

 

 歩夢のクラスは確かこの辺に⋯⋯あった!それで歩夢は⋯⋯いる!

 

 

「歩夢、ちょっといいかな?」

 

「いいよ、どうしたの?」

 

 

 歩夢の近くまで行って話し掛けると、歩夢はいつもと同じ様に笑顔で返事をしてくれた。

 

 

「実はさぁ⋯⋯さっきの数学の授業のノートを完全に取り忘れてて、それでこの範囲なんだけど授業でやった?」

 

 

 俺は手に持っている教科書を開き、該当範囲のページを開いて訊いてみた。

 

 

「うん。ここの範囲だったら昨日授業で習ったから大丈夫だよ」

 

「そこでお願いなんだけど、ノートを貸してもらえないかな?」

 

 

 俺は両手の平を顔の前で合わせて、歩夢にお願いをした。

 

 

「うん、いいよ!でも、春輝くんがノートを取り忘れるなんて珍しいね。何か考え事でもしていたの?」

 

 さすが歩夢か。ノートを取り忘れた事に疑問を持っていて、しかも考え事だったと推測してるのか。

 

「その通りだよ。ちょっと考え事をしててね」

 

「もしかして春輝くんもスクールアイドルの事で考え事をしていた⋯⋯とか?」

 

 そこまでお見通し⋯⋯ん?俺も?まるで俺以外にもいるみたいな言い方をするね。

 

「その言い方だと、俺以外にもスクールアイドルの事を考えてる人がいるみたいだけど?」

 

「侑ちゃんがね、昨日の夜スクールアイドルの動画見てて、少し寝不足気味だったから」

 

 あーなるほどね、侑の事だったか。昨日はだいぶ興奮してたから、容易に想像はつく。

 

「侑の事だったか。まあ俺も侑と似たようなものだよ」

 

 とりあえず合わせておけば、歩夢にこれ以上探られる事はないだろう。

 

「そうだったんだね。はい、ノート貸してあげるね。明日までに返してくれればいいから、急がなくても大丈夫だよ」

 

「ありがとう、歩夢っ!!この借りはいずれ何かの形で返すよ!」

 

 あれ?歩夢の顔が赤い⋯⋯熱でもあるのか?

 

「は、はるき⋯⋯くん、て、手を⋯⋯」

 

 ん?手⋯⋯あっ、しまった。どうやら勢いでノートと一緒に歩夢の手も握っていたみたい。

 

「ご、ごめん!!あの決してわざとじゃないから、その⋯⋯」

 

「う、ううん!私もちょっとびっくりしちゃっただけだから⋯⋯」

 

「そ、そっか⋯⋯」

 

 

 うーん、凄く気まずい空気になってしまった。歩夢も目を逸してるし、俺も合わせられない。

 

 本当にどうしたものか⋯⋯。

 

 どうしようか悩んでいると、誰かが教室の入口からこちらへ近づいて来た。

 

「おーい!探したぜ、ハル⋯⋯二人してどうした、顔赤いぜ?」

 

「べ、別に何にもないよ!?ねえ、歩夢!」

 

「う、うん!春輝くんとは何もなかったよ!」

 

 

 ダメだ⋯⋯俺も歩夢も動揺してて何かあったのがバレバレじゃん。

 

 

「そ、それよりさ!シュウはどうしたのさ?」

 

「おっと、そうだった!ちょっと話があるから来てもらってもいいか?」

 

「いいけど、ここだと話しにくい事なの?」

 

 別にここでもいい気がするのに、わざわざ移動するって事は何かあるよね。

 

「そうだな⋯⋯ちょっと込み入った話だからな」

 

「分かったよ。それじゃあ歩夢ノート借りていくね、なるべく早く返すよ!」

 

「うん、またね!」

 

 

 ────────

 

「ここら辺でいいかな⋯⋯」

 

 シュウに連れてこられたのは、中庭でも比較的人気の少ない場所だった。

 

「それで本題は?」

 

「手短にいこう。スクールアイドル同好会が廃部になったのを知ってるか?」

 

 

 いつになく真剣な表情だったから、薄々気付いていてはいたけどやっぱりか⋯⋯。

 

 

「もちろん、一応これでも生徒会に出入りしてますから情報は入ってるよ」

 

「それでだ。お前を探していたのは『優木せつ菜』を探すのを手伝ってほしいんだ」

 

 

 マジか⋯⋯それは予想してなかったよ。さて、どうしようか⋯⋯。

 

 

「ごめん、それには協力出来ない」

 

「どうしてだよ!?まさか⋯⋯何か知ってるのか?」

 

 

 勘が鋭いなぁ〜。でもその勘を今働かせてほしくなかったな⋯⋯。

 

 

「それは言えない。それが誰のお願いでもね」

 

「へぇ〜、珍しい事もあるものだな。普段の春輝からは想像も出来ないな」

 

 

 シュウはやや目を細めながら、普段の俺と違う事を珍しいと言った。

 

 普段はここまで隠し事をしたりしないから、珍しいと思うのもその通りだ。

 

 

「ちなみにだけど、廃部の話はしずくちゃんから?」

 

「そうだ。朝練の時に元気がない様子だったから、話を聞いてみたらその話だった訳だ。それであまりの落ち込み様に見ていられなかったから協力する事にしたってとこだな」

 

「なるほど、シュウも優しいじゃん。それで優木せつ菜さんから一方的に廃部通告をされたって事で、その事情を聞く為に探しているであってるかな?」

 

「その通りだ。そこまで事情を知ってるなら、尚更ハルには協力してもらいたかったぜ」

 

 戦力として見られてた分、協力出来ないと分かって少し残念そうな表情を浮かべている。

 

「こればっかりはどうにもならなくてね。ごめん⋯⋯。その代わりにと言ってはなんだけど、果林さんを頼るといいと思うよ」

 

「どうして⋯⋯果林先輩の名前が出てくるんだ?」

 

「果林さんも恐らくだけど、エマさんに相談されて今まさにシュウと似たような立場だと思うよ?」

 

「そういうものなのか⋯⋯とりあえず頼ってみるさ」

 

 絶対の根拠はないけど、果林さんなら動いてくれるはず⋯⋯全くこれじゃあどっちの味方か分からないね⋯⋯でもこれくらいならいいよね。

 

 

「それはそうと、シュウはどうして俺に対して怒ったりしないの?明らかに何かあるはずなのに」

 

 

 俺の言葉を聞いたシュウは僅かに笑みを浮かべると、理由を語りだした。

 

 

「そんなの決まってるさ。人が事情があって隠しているのを、わざわざ聞く事をするべきじゃないって思ってるからだ。それにハルを見ていれば、並々ならない事情を抱えてるのは分かるさ」

 

「そっか。さすがシュウだね」

 

 

 敢えて事情を聞いてくれないのは、こちらとしては非常に助かる。

 

 

「ただし!こっから先は勝負だ!ハルがこの一件に、何かしら絡んでるのは分かってるからそれを解明してやるよ!」

 

「勝負か⋯⋯久々だね!いいよ、乗った!」

 

「そうこなくちゃな!この先何があっても恨みっこなしな。こんな事で拗れるのはごめんだからな」

 

「うん、そうしてくれると助かるよ。真実を知ったらどう思うか分からないけどね⋯⋯」

 

 

 シュウがそう言ってくれるだけで、俺は少し救われた気がする。彼方さん達から、どう思われるか想像もしたくないな⋯⋯それだけの事をしている自覚はある。

 

 この後は久しぶりにシュウと二人きりの、昼食の時間を過ごした。

 

 

 ────────────

 

 

お昼休みの後、午後の授業を経て放課後の学校の中で、俺は自習室で歩夢から借りたノートを見ながら、俺なりに書き写している。

 

歩夢には急がなくていいとは言われているが、早めに返した方がいいと思って夕方まで残っている。

 

それで今しがたそれを終わらせたんだけど、窓の外の景色は薄暗くなっている。そろそろ帰らないと、逆に迷惑になってしまうような時間まで残ってしまった。

 

こんな時間まで残っているのは、生徒会か気合いの入った部や同好会くらいだと思う。

 

別に俺もノートを写しただけで遅くなった訳ではなく、この前に生徒会の用事や打ち合わせ等々を、済ませているから遅くなっている。

 

 

まあそれはともかくとして、ノートを返しに歩夢の家(と言ってもマンションだけど)に行くとしますか。

 

 

俺はほとんど人気のない校内を校門に向かって移動しながら、夜の学校独特の雰囲気を体感した。まだ完全下校時刻ではないけど、結構暗いから夜の学校に忍び込んだ気持ちになって少しドキドキしている。とは言っても所々灯りのついている場所はあったから、完全に真っ暗という事ではない。

 

逆に完全に真っ暗だったら少し怖いくらいだし⋯⋯普通に考えて真っ暗の学校は怖くない!?

 

そんなこんなで校門から敷地内を出て、歩夢の家もといマンションを目指して歩き出す。

 

 

 

しばらく歩いてそろそろ目的の場所という所で、僅かに誰かの歌声が聴こえてきた。それも目的の方向から。

 

万が一邪魔をしてしまわないように、気配や足音を出来るだけ消して声の方へ近付き物陰から様子を窺うと、そこにはマンションの前の階段の上段で歌い踊る歩夢と、それを下から見つめている侑がいた。

 

 

これはどういう状況⋯⋯?もしかして歩夢はスクールアイドルを始めようとしているのかな?だとすると、昼間の話から察するに侑も一緒に始めるはずだよね。

 

そんな事を考えている内に歩夢は歌い終えて、侑の元へと駆け下りる。そして恐らくパスケースと思わしき物を渡しながら、話をしている。

 

このまま待っててもいいけど、それだとちょっと俺も困るからここは自然を装って出ようかな。

 

足音をたてない様に物陰から離れ、あたかも今通りかかったように振る舞いながら二人の前に姿を現す。

 

 

「お疲れ、二人とも〜。歩夢の歌声、少し離れた所まで聴こえてたよ」

 

「えっ!?恥ずかしいよぉ⋯⋯」

 

「ほーら歩夢、スクールアイドル始めるならそんな事も言ってられないよ?それはそうと、ハルはどうしたの?」

 

「そうだった。はい、歩夢。ノートありがとうね」

 

 

頬を赤くして恥ずかしがっている歩夢に、俺は借りたノートを差し出した。

 

 

「もういいの?急がなくても良いって言ったのに」

 

「そうなんだけどね⋯⋯それでも早く返した方がいいかなって思ったから」

 

 

俺と歩夢の会話の経緯が、侑には何の事か分からないので頭を傾げている。

 

 

「それで二人はスクールアイドルを始めるつもりなの?」

 

「うん!でも私はアイドルじゃなくてマネージャーだよ。歩夢のサポートをしたいから!」

 

「そっか。それじゃあ侑は歩夢の事、しっかり支えてあげなよ?歩夢もスクールアイドルとして頑張ってね!応援してるからさ⋯⋯」

 

伝える事を伝えて背を向けて去ろうとする俺に侑が待ったをかける。

 

「待って!ハルも一緒にやらない?」

 

「そうだよ、春輝くんも一緒にどう?」

 

俺は二人に背を向けたまま答えを返す。

 

「誘ってくれてありがとう。でもそれは出来ないんだ⋯⋯ごめん。今はやらなきゃいけない事があって、それに集中しなきゃいけないから」

 

「そうなんだ⋯⋯それなら!やらなきゃいけない事が終わった時は一緒にやろうよ!」

 

今の俺の事情を知らない、侑の言葉が深く心に突き刺さる。

 

『いつか』ね⋯⋯その未来は恐らく訪れない、俺が捨てた可能性だから。

 

 

「そうだね⋯⋯いつかその時が来たら⋯⋯ね」

 

「うん、その時が来るのを待ってるから!」

 

「私も待ってるからね、春輝くん」

 

 

今の自分への怒りなのか、その未来が訪れない事への悔しさなのか、俺はいつの間にか両手で握り拳を作っていた。

 

菜々を助ける事に対しての後悔はない。でも、皆への罪悪感だけが募る一方だ。

 

「分かった。じゃあ、またね」

 

握り拳を開き背を向けたまま二人に手を振る。どうしても二人の顔を見る事が出来なくて、これが今の精一杯だった。

 




今回はここまでです。

いよいよ、それぞれが目的の為に動き出しました。この先、春輝くんに待ち受けている運命をお楽しみに!


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第21話 真実に迫る者たち

「それにしても僕たちが揃うまでに、時間がかかると思わなかったよ」
「すみません、姉さんに色々と事情聴取に行っていたので⋯⋯」
「ランジュもハルキのに問い詰めに行ってたから⋯⋯」
「全く⋯⋯まあ別に僕も怒ってる訳じゃないからいいけどさ」
「「ミア(さん)!」」
「Than that.今回もそろそろじゃない?」
「そうだわ!それじゃあやるわよ!」
「「「大空に映る虹色の光第21話、スタート!」」」



 

 二人がスクールアイドルを始める事を聞いてから丸1日経過した。実は昨日は先生に頼まれていた事を済ませたり、ペンやノート等の買い物に行ったりして生徒会室どころか、碌に人と交流出来なかった。

 

 それで今日は特に用事はないけれど、あんな事(19話参照)を言った手前で2日も顔を出さないのは、申し訳ないから今日はこれから生徒会室に顔を出す事にしている。

 

 一応菜々からは連絡で、昨日はかすみちゃんが生徒会室に侵入して、同好会のプレートを取り返しに来たという話は聞いた。菜々も注意はしたけど、プレートは取り上げなかったとの事。

 

 きっと、菜々にも思うところがあったからお説教だけに留めたんだと思う。それにしてもかすみちゃん、意外と大胆な事をするなぁ〜。

 

 ちなみに、今はもう放課後。という事でこれから生徒会室に向かう。

 

 

 ────────

 

 

生徒会室に向かっている途中で、果林さんを見掛けたけど全くこっちに気付いてなかったし、今声を掛けると問い詰められそうな気がしなくもないので、あえて声を掛けなかった。

 

生徒会室の扉の前に着いた俺は、いつも通りに中へと入る。中では菜々が作業をしていて、いつもと変わらない光景だった。

 

 

「お疲れ。今日は副会長達は?」

 

「お疲れ様です。今日は春輝さん以外の方は、作業を終えているので放課後は来ませんよ」

 

 

パソコンで作業をしていた菜々は、パソコンを打つ手を止めて俺の質問に答えた。

 

なるほど、今日は皆は来ないのか。それなら込み入った話をしても大丈夫そうかな。するつもりはないけど。

 

「りょかーい。それで俺の分の仕事は溜まってる?」

 

「溜まってるという程ではないですが、ある事にはありますよ」

 

「オッケー、じゃあそれを片付けようかな」

 

菜々から指示された仕事を処理するために、いつも通りソファに座って作業を始める。

 

 

作業の途中で必要な書類があって、書類棚まで取りに行った時にある異変に気付いた。

 

あれ?生徒名簿がない⋯⋯?誰か使っているのか?菜々は使っていないし、副会長達も仕事を終わらせてるはずだから⋯⋯どうなってるんだ?とりあえず菜々に聞いてみよう。

 

 

「菜々、ここにあった生徒名簿がないけど、誰が持ち出したのか知ってる?」

 

「いえ、私もそう言った話は聞いていないので分からないですね」

 

 

となると⋯⋯生徒名簿を誰かが無断で持ち出した可能性がある。だけど誰が何の為に?

 

 

「昨日と今日で生徒会室を出入りした一般生徒はいる?」

 

「今日はいませんが、昨日ですと中須かすみさん、それと朝香果林さんが出入りしてましたね。ですが、それがどうかしましたか?」

 

 

かすみちゃんは知っているけど、果林さんが昨日出入りしていた?そうなると⋯⋯持ち出した人って果林さんって事!?

 

だとするとかなりまずい⋯⋯恐らく、シュウは果林さんと協力しているはず。そして生徒名簿を見れば、優木せつ菜が、この学園に存在しないのは間違いなく露見する。そうなれば、せつ菜とやり取りをした生徒会長、つまり菜々が当然怪しまれる。

 

これは決定的な証拠を抑えられた。そうすると皆が、話を聞きに乗り込んでくるのも時間の問題か⋯⋯。後はもう考えてもどうにもならないだろうし、その時が来たら来たで何とかするしかないな。いざという時は⋯⋯。

 

 

 

しばらく生徒会室で作業をしていると、外は夕暮れを迎えており今日は来ないのではと思っていた矢先に、生徒会室の扉をノックする音がして菜々は来訪者を招き入れる。

 

そしてその来訪者は、果林さんを先頭に一団が中へ入ってきた。その中には当然シュウもいた。俺もソファから立ち上がり、会長の机の脇に移動する。

 

 

「やっぱりここにいたのね、春輝」

 

「はい⋯⋯」

 

 

果林さんがそういう風に言うって事は、大方の事情をシュウから聞いて推理した結果といったところか。シュウも俺に何も言ってこないけど、全てが腑に落ちたような表情をしているし、逆に彼方さん達は驚きの表情が出てる。

 

 

「返すわ、生徒名簿。勝手に借りちゃってごめんなさいね」

 

果林さんは勝手に持ち出していた生徒名簿を鞄から出して、菜々の机の上へと置いて、さらに話を続ける。

 

「優木せつ菜という名前はどこにも見つけられなかったわ。なのにいないはずのせつ菜と、やり取り出来たのはどういう事か教えてもらえるかしら?中川菜々さん⋯⋯いいえ、優木せつ菜さん」

 

ついに果林さんは菜々がせつ菜だと言い切り、菜々はそれに対して表情も変えず反応も見せない。果林さんの後ろに立っている彼方さん達は緊張した表情を見せている。だが、シュウだけはいつもと変わらない様子だった。

 

「二人とも否定はしないのね」

 

「元々、私達も隠し通せるものとは思っていませんでした。ですが、同好会のメンバーではない人に指摘されたのは予想外でした」

 

正直な話をすれば、いつ誰にバレてもおかしくはなかった。それが俺の行動から出たボロにしろ、純粋に正体を見破るにしろ。

 

「たまたま同好会に友達が居てね、私としては生徒会長がどうして正体を隠してまで、スクールアイドルをしていたのか気にはなるけど、彼女達が聞きたいのはそうじゃないみたい」

 

同好会に友達がいると言いながら、エマさんと彼方さんの方を見ながら話を続け、ついに同好会の廃部についての話に切り替わる。

 

「せつ菜ちゃん⋯⋯春輝くん」

 

エマさんがせつ菜と俺の名を呼ぶと、菜々は僅かに反応を示し俺は特に反応はしなかった。

 

「少しお休みするだけって言ってたじゃん⋯⋯それに春くんはせつ菜ちゃんの事をいつから知っていたの?」

 

「グループを解散した時に既にお二人で決めていたんですか?」

 

「せつ菜ちゃん!」

 

「優木せつ菜はもういません!!私はスクールアイドルをやめたんです!!」

 

彼方さん、しずくちゃんが今の疑問を俺達にぶつけ、エマさんがもう一度せつ菜の名前を呼ぶと、菜々は皆に背を向けたまま声を荒らげて『優木せつ菜』はもういないと言い放った。

 

そう言い放った菜々は両手で硬く握り拳を作り震えていた。

 

それを見た俺は菜々の側へと近付き耳打ちをする。

 

「大丈夫?無理しなくてもいいよ」

 

一言声を掛けると菜々は返事はしないがちゃんと頷いてくれたので、俺は安堵して再び離れるが先程より菜々に近い位地で見守る。

 

「もし⋯⋯皆さんがスクールアイドルを続けて、ラブライブに出場するのなら⋯⋯皆さんだけで目指してください」

 

菜々は伝えたい事を伝えきると、力んでいた身体が少しだけ緩んだように見えた。そのタイミングを見て、俺は質問に対する答えを話し始める。

 

「それで俺への質問の答えだけど、俺がせつ菜の正体を去年から知っていた。それで俺も菜々から廃部にすると決めた事を告げられただけだよ。でも、そこで俺が止めていたら今の状況にはなっていなかったかもしれない」

 

「なら、どうして止めなかったんだ?」

 

ここにきて今まで黙って、様子を見守っていたシュウがついに疑問をぶつけてきた。

 

「それは⋯⋯菜々の覚悟を無駄にしたくなかったからかな。確かに菜々のやった事は勝手に決めたりで、許される事ではないけれどそれを俺は菜々な考えと覚悟を聞いて、その覚悟を否定したくないと思ったから敢えて止めなかった」

 

「なるほどな。そういう事か⋯⋯」

 

俺の話を聞いたシュウは何か含みのある様な事を呟いた。

 

「だから菜々だけが悪い訳じゃない。俺にもこの事態の責任がある。だから皆の事を手助けをする事が出来なかったんだ⋯⋯ごめんなさい」

 

俺が正直に謝罪するとシュウと果林さん以外は、どうしたらいいのか分からない様な表情をしていた。逆にシュウと果林さんは全ての事情を悟った様な表情をしていて、二人に少しだけ畏れを抱いた。

 

「とりあえず皆が聞きたかった事は聞けたみたいだから、今日は帰りましょう?」

 

「そうですね。これ以上は何も聞けなさそうですからね」

 

「うん⋯⋯」

 

果林さんとシュウは三人に帰る事を促し、エマさんはそれに短く返事をして彼方さんとしずくちゃんは頷いた。

 

「時間取らせてしまって悪かったわね。私達はこれで帰るわ」

 

「いえ⋯⋯それではお気を付けて」

 

果林さん達が続々と生徒会室を退出していき、最後にシュウが出る時に俺は声を掛ける。

 

 

「シュウ!そういえば、歌奏ちゃんはどうしたの?」

 

「あー歌奏なら今はかすみちゃん達と一緒だと思うぜ」

 

 

まさかの答えに俺はすぐに言葉が出てこなかった。

 

もしかして歌奏ちゃんもスクールアイドルを?そうなると歩夢達と一緒なのか⋯⋯疑問ばかり浮かんでくる。

 

「かすみちゃん達ってもしかして歩夢達も一緒なの?」

 

「ああ、そうらしいぞ。昨日かすみちゃんと一緒に活動場所を探しに行こうとした時に、歩夢と侑を見つけて一緒に行動してたんだとさ」

 

「じゃあ歌奏ちゃんもスクールアイドルやるの?」

 

「いや、歌奏はスクールアイドルじゃなくて、()()()()()はマネージャーらしいぞ。本当は今日全員で来るつもりだったんだが、歌奏達と連絡つかなくてな。恐らく練習に集中してるんだろ」

 

「そうなんだ⋯⋯」

 

侑も歌奏ちゃんもマネージャーをやるなら、もう俺の出る幕はないか。そもそもこの前、菜々にも約束は忘れてくださいと言われてたから今更か⋯⋯。

 

「まあ、そういう事だ。二人とも、今日は大人数で押し掛けて悪かったな」

 

「大丈夫だよ。元々の原因はこっちにあるんだから」

 

「宮本さん達は何も悪くないので、お気になさらずに」

 

シュウは律義だからこういう時は、しっかりと言葉にするから何かあっても悪い気がしないな。

 

「ありがとう。それじゃあ二人とも、じゃあな」

 

「うん、じゃあね」

 

「お気を付けて」

 

シュウは挨拶をすると生徒会室から出ていき、再び菜々と二人っきりに戻った。

 

「俺の方も一応一段落ついてるから俺達も帰ろうか?」

 

「そうですね。そうしましょうか」

 

俺達も生徒会室の戸締まりをして、途中まで一緒に下校した。たが、その間にした会話は先程の出来事があったばかりなのか、ほとんど続かずにただ一緒に帰っただけとなった。




今回はここまでとなります。

ついにせつ菜の正体が菜々だと、同好会のメンバーに暴かれてしまいました。菜々の味方をしている春輝が、これからどういう選択をするのかお楽しみに!

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第22話 勇気と切なる願い 前編

「いよいよ話も大詰めとなってきたわね!」
「でもまだ第1章じゃないか。それにここからまだまだ続くんだろ?」
「ですが、ここからが本当のスタートラインなのでよろしいのではないでしょうか?」
「Hmm.とりあえずそういう事にしておくよ」
「それじゃあやるわよ、栞子!ミア!」
「はい(ああ)!」
「「「第22話 勇気と切なる願い 前編。どうぞ!」」」


 

翌日⋯⋯

 

昨日一段落ついたとはいえ、まだ全て終わった訳ではないので生徒会室に出向いて来たんだけど⋯⋯珍しい事に菜々が不在らしい。

 

いつもならいるはずなんだけど、たまにはこういう日もあるのかな?ちょっと副会長に聞いてみようか。

 

「副会長、今日菜々はいないの?」

 

「いえ、会長なら今は困った子もとい、子猫を探しに行ってますよ」

 

「そっか、子猫の捜索ね⋯⋯って子猫の捜索!?」

 

大変だ!あの子猫がついに生徒会に見つかってしまった!最近、あの子猫にご飯をあげに行くと、誰かが先にご飯をあげてた事があったから、その内見つかるかもと思ってたけどこんなに早く見つかるとは⋯⋯。

 

菜々よりも先に見つけ出さないと!まずは寝床に行ってみよう!

 

「春輝さん、どこへ行くんですか!?」

 

「ごめん!ちょっと用事を思い出したから行ってくる!」

 

慌てて生徒会室を飛び出す俺に驚いたのか、副会長が俺にどこへ行くか聞いてきたけど、説明してる時間はないからとりあえず適当に誤魔化して、生徒会室から子猫の寝床へ向かう。

 

 

 ──────────

 

 

子猫の寝床に到着するとそこに子猫の姿はなく、辺りを見渡してもいる気配がないので、今度は中庭の方を目指して走る。

 

中庭を少し探していると、少し騒がしくなっている場所がありそこに行ってみると、虫網を持ったジャージ姿の菜々が子猫を捕まえようと、追いかけている姿が少し遠くに見えた。

 

まずい!本当にこのままだと捕まっちゃう!とにかく菜々よりも早く子猫を保護しないと!

 

急いで保護しようと走り出すと子猫が追い詰められて、菜々が虫網を振り上げていたと思ったら、その奥からはまさかの璃奈ちゃんが現れて、子猫は璃奈ちゃんに飛びついた。さらにその後ろから愛も現れた。そして三人が会話をしているところに、俺も割って入る。

 

「菜々!ちょっと待って!」

 

「春輝さん、どうしてここに!?」

 

「あっ、春輝さん」

 

「やっほー、ハルハル!」

 

菜々が驚くのも無理はないし、璃奈ちゃんも愛も俺に気付いてくれたみたいだ。それにしても元々人懐っこいとはいえ、子猫が璃奈ちゃんに凄く懐いている。もしかして⋯⋯この二人が?

 

「もしかして、璃奈ちゃんと愛はこの子にご飯あげてたりした?」

 

「うん、私と愛さんでお世話してた」

 

「そーなんだよ。本当は愛さんかりなりーのどっちかが飼えれば良かったんだけど、りなりーの家はマンションだからダメで、愛さんの家もハルハルの知っての通りだし、ね?」

 

なるほど、確かに愛は飲食店だから飼えないだろうし、マンションもペット禁止の場所は多いだろうから難しいね。

 

「春輝さん、この子猫を知っているんですか?」

 

「うん、元々は俺が1ヶ月前に見つけて、彼方さんとエマさんと一緒に、ご飯とか寝床を用意してあげたんだよ」

 

「そうだったんですね。ですが、春輝さんも知っていると思いますが、動物の放し飼いは校則で禁じられています」

 

「うん、分かってる。だけどこの子猫を見逃してくれないかな?」

 

菜々には当然の指摘をされたが、でも俺はこの子が連れて行かれるのは見過ごす事は出来ない。

 

何かを思いついたのか菜々はしゃがんで、子猫を抱きかかえている璃奈ちゃんと同じ目線で話始めた。

 

「その子、随分と天王寺さん達に懐いているんですね。名前、何ていうんですか?」

 

「それが名前はまだ⋯⋯」

 

「この子は、はんぺんだよ」

 

「名前は愛さんとりなりーで考えたんだよ!」

 

なんと、名前が決まっていた。俺が名付けようかどうしようか、考えていて結局名付けてなかったのを、璃奈ちゃんと愛が名付けていてくれたのか。

 

「はんぺんさんですね、分かりました。春輝さん、私が先程放し飼いは禁止されていると言いましたよね?」

 

「そうだね、そう言ってたね。それがどうかしたの?」

 

「では、はんぺんさんを生徒会に迎え入れてはどうでしょうか?」

 

「迎え入れてって、それは⋯⋯あっ!もしかして、そういうこと!?」

 

菜々の言葉の意味を考えていると1つ答えが浮かんだ。恐らく菜々は、はんぺんを迎え入れる事で学校の一員だから放し飼いではないとしようとしている。璃奈ちゃんと愛はまだピンと来てないようで頭を傾げている。

 

「えっ?ハルハル、どういう事?」

 

「簡単に言うと学校の一員になれば、放し飼いじゃなくなるって事。正直な話をすると屁理屈だけどね、そうでしょ菜々?」

 

「春輝さんの言う通りです。なので、はんぺんさんには生徒会お散歩役員の任を与えたいと思います」

 

お散歩役員ねぇ〜、まさに猫のはんぺんにはピッタリの役職だね。これで校内を散歩してても問題はなくなった訳か。

 

「後で形だけにはなりますが、任命書を作ろうと思います。それと一緒に首輪も用意しますね」

 

「良かったね、はんぺん。璃奈ちゃんと愛もはんぺんを探してくれてありがとうね」

 

「ううん、はんぺんは友達だから」

 

「そうそう!それにハルハルや生徒会長の協力があったからだよ!」

 

友達か⋯⋯とにかく大事にならなくて本当に良かった。今度はんぺんにはもっといい寝床を用意しようかな。

 

「それでは私は校内の見回りに行くので失礼します」

 

「俺も一緒に行こうか?」

 

「いいえ、少しだけなので大丈夫ですよ」

 

「そっか、分かったよ」

 

菜々は最後に会釈をして、校内へと戻っていった。さてと、これから俺も生徒会室に戻るかな。

 

「それじゃあ、俺も戻るよ。二人とも今日はありがとう。はんぺんも改めてよろしくね〜」

 

「うん、またね」

 

「じゃあね!ほら、はんぺんも」

 

「ニャア!」

 

二人と一匹に見送られながら、俺も校内へと戻っていった。

 

 

 

改めて生徒会室に向かっていると、歩夢が何かキョロキョロしながら歩いていた。

 

あれは誰か探しているのか?侑がいないのを見る限り、侑を探していると思うんだけどちょっと声をかけてみよう。

 

「あーゆーむ!何してるの?」

 

「ひゃっ!は、春輝くん!?どうしてここに?」

 

普段とちょっと違う話し掛け方をしたら、予想以上にびっくりされて俺も驚いてる。

 

「丁度、通りかかった時に歩夢がキョロキョロしているのが、見えたから侑でも探しているのかな〜って」

 

「そ、そうなんだけど⋯⋯だったら普通に声を掛けてくれても良かったのに」

 

「ちょっとイタズラしたくなっちゃって⋯⋯ごめん。でも!今の歩夢可愛かったよ!」

 

「もー!本当に反省してるの!?」 

 

あっ、可愛い。何だろう⋯⋯歩夢はこういうところがあるからちょっとイタズラしたくなるのかも?

 

「うん、してるしてる!」

 

「もう⋯⋯春輝くんまで侑ちゃんみたいな答え方しないの。それより侑ちゃん何処かで見てない?」

 

「いや、俺も侑は今日一回も見てないから分からないな」

 

「そっかぁ⋯⋯侑ちゃん何処行っちゃったんだろう?」

 

歩夢が侑を探しているのは珍しくはないけど、今日は何か探すだけの事情がありそうだ。

 

「歩夢は何か侑と一緒に用事でもあるの?」

 

「うん、ちょっとかすみちゃん⋯⋯て言っても分からないよね、スクールアイドル同好会の⋯⋯」

 

「知ってるよ。1年生の中須かすみちゃんでしょ?実は俺も面識あるんだよ。それでかすみちゃんに呼び出されてる感じかな?」

 

「う、うん!そうなの!それより春輝くん、かすみちゃんと知り合いだったんだね⋯⋯」

 

「まあね。ともかく、それなら早く探さないとな。俺も手伝うよ」

 

ちなみに生徒会の仕事はある事にはあるけど、早急にやらなきゃいけない仕事ではないからこっちを優先しても問題ない。

 

「うん、ありがとう。それで何処を探したの?」

 

「教室と部室棟はもう探し終わったよ」

 

そうなると実習棟と後は生徒会室の方か⋯⋯それなら二手に分かれるか。

 

「じゃあ俺は生徒会室に戻りながら、もう一回教室とか他の場所を探すから、歩夢は実習棟の方を探して。こっちで見つけたら連絡するよ」

 

「うん、分かった!私の方も見つけたら連絡するね」

 

「それと⋯⋯歩夢、スクールアイドル頑張れよ」

 

「うん、ありがとう。私頑張ってみるよ!」

 

歩夢と分かれて再び生徒会室に戻りながら、侑の捜索を同時に行う。なんか今日捜索してばかりな気がする⋯⋯。

 

 

 

ここにもいないか⋯⋯。

 

しばらく探し続けているが中々見つけられないし、歩夢からも連絡が来てないからまだなんだろう。

 

そう考えながら次の場所に向かっているとポケットに入れていたスマホが振動した。

 

えっと⋯⋯歩夢からの連絡だ。

 

『侑ちゃん、音楽室にいたよ。探してくれてありがとう。』

 

とりあえず見つかったみたいだね。これで一安心。それじゃあ俺も戻るとしますか。といっても探していたおかげで、遠回りになっちゃったから時間かかるな。

 

 

しばらく移動して、再び生徒会室に戻ってきて扉を開くと、菜々がパソコンでこの前の自分のライブの動画を流しながら机に伏せているのが見えた。

 

しかも何かを考えているのか、扉を開けた俺には気付いていない様子。いつもだったら扉が開けば、すぐにそっちに目線を向けるのに、そうしないのは気付いていない証拠だ。

 

うーん⋯⋯今は一人しておいてあげようか。仕事は放課後でもいいからね。

 

俺はそっと扉を閉めて、教室へ戻る為に来た廊下を引き返していると、再びスマホが振動した。しかも今度はメッセージではなく、着信だった。

 

慌ててスマホをポケットから取り出して、画面を確認するとそこには『果林さん』という文字が表示されていた。

 

果林さんが俺に電話?前に何度かかかってきたことはあるけど、それでも片手で数えれるくらいだから珍しいな。とりあえず出てみよう。

 

「もしもし、果林さんどうしたの?」

 

『春輝、急に悪いわね。今から電話を繋げたままの状態で、これからする会話を聞かせるから、あなたは私が話を振るまで静かに聞いていなさい。いいわね?』

 

「う、うん。分かった」

 

『今からエマ達と合流するから、静かにね』

 

突然の事でよく分からないけど、果林さんは何かエマさん達との会話で俺に聞かせたいことがあるらしい。それなら会話が始まる前に俺も急いで、人がいないところに移動して会話を聞こう。

 

こうして俺はすぐに行動を開始して、人気のない場所まで移動を始めた。

 




今回はここまでになります!

初の前後編のお話になります。いよいよ次回でアニメ1期3話の内容が終了します。ここからが本当のスタートだと思っているので、これからもよろしくお願いします!

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第23話 勇気と切なる願い 後編

「今回は前話の続編、つまり後編になんですね」
「珍しいじゃないか、前後編に分けるなんて」
「というより、今回が初めてだわ!急にどうしたのかしら?」
「こちらに何か紙がありますね⋯⋯読みます」
『せっかくなので前後編にしてみました。特に意味はないです」
「と書いてありますね⋯⋯」
「つまり単なる気まぐれってわけか」
「いいじゃない!気まぐれでも!」
「そうですね。では、長くなってしまってもいけないので始めましょう」
「「「第23話 勇気と切なる願い 後編、スタート!」」」


 

それからすぐに人気のほとんどない、校舎裏のベンチまで移動してスマホにイヤホンを挿し込み会話を聞く環境を整えた。

 

今は昨日生徒会室に来たメンバーがいるだけで、まだ雑談をしている状況。本題は恐らく昨日いなかった歩夢、侑、かすみちゃん、歌奏ちゃんが揃ってからだと思われる。

 

 

程なくして4人が到着し、本題の会話が始まった。

 

 

『今日4人にも集まってもらったのは、他でもなくせつ菜ちゃんの事で、結論から言うと生徒会長の中川菜々ちゃんがせつ菜ちゃんだったの⋯⋯』

 

『えぇっ!?意地悪生徒会長がせつ菜先輩ぃ!?ていうか!何でかすみんを置いてそんな話をしに行ったんですか!シュウ先輩や部外者のお姉さんはいるのにぃ!!』

 

かすみちゃんが驚くのも無理はないよね。まさか同一人物とは思わないし、なんなら菜々とかすみちゃんはちょっとした因縁?みたいなのもあるし。

 

それはそうと部外者のお姉さんって、十中八九果林さんの事だよね。面識がないんだから仕方ないんだけどね。

 

『へぇ〜、面白い事を言う子ねぇ〜』

 

『ひえぇ〜コ、コッペパンあげるから許してください!!』

 

『フフッ、ありがたくもらっておくわね』

 

ちょっと果林さん怖くないですか?かすみちゃんが完全にビビってしまってますよ。というか肝心な話が進まないな⋯⋯。

 

『学校中探したけどいなくって。スマホにも連絡いれたんだよ?』

 

『ええ?うわっ、ホントだぁ!』

 

昨日シュウが言っていた通り、しずくちゃんの連絡にかすみちゃんは練習に夢中で気付かなかったっぽいね。でも学校にいなかったという事は、別の場所で練習してたのかな?

 

『ちなみに気付いてないみたいだけど、歌奏にも連絡入れたんだぞ』

 

『うそ、私のところにも⋯⋯本当だ、シュウくんから来てる。気付かなくてごめーん!!』

 

『大丈夫だから⋯⋯今は離れろ!!』

 

電話越しだと何か分からないけど、またシュウが歌奏ちゃんに絡まれてるのは分かった。

 

『⋯⋯さらに正体が分かっただけじゃなくて、春輝が彼女に協力していた事も分かったわ』

 

果林さんは咳払いをすると、俺もこの一件に関わっていた事を4人に明かした。

 

『えっ!?ハルが!?歩夢⋯⋯もしかしてハルがこの前言ってたのって、この事だったのかな?』

 

『うん、そうかもね。春輝くん明らかに何かありそうだったから』

 

『ハル先輩が⋯⋯せつ菜先輩と一緒に⋯⋯』

 

『どういう事なの、シュウくん!?ハルさんに何があったの?』

 

侑と歩夢はこの前の態度でちょっとバレちゃってたか。でもかすみちゃんと歌奏ちゃんは動揺している。

 

『ハルは去年から既に、優木せつ菜の正体を知っていたらしくてな。それで今回の件には唯一の理解者として、一緒にいたらしい』

 

『そうだったんだ。でも、これで正体が分かったなら、せつ菜さんとハルさんを説得すればいいんじゃないの?』

 

『その事何だけど、せつ菜ちゃん本気でスクールアイドルを辞めるつもりで、春輝くんもせつ菜ちゃんの意思を尊重するつもりみたい』

 

『ちゃんとお話しようと思ったんだけど、取り付く島もなかったんだよ⋯⋯』

 

『そうだったんですね⋯⋯』

 

『そんな⋯⋯それじゃあどうすれば⋯⋯』

 

かすみちゃんと歌奏ちゃんは、真実を知って各々反応を示す。

 

皆の会話に沈黙が少しの間訪れる⋯⋯。

 

『⋯⋯何か問題があるのかしら?あなた達の目的はもう果たしているように見えるけど?』

 

果林さんは沈黙を破ると、客観的な意見を語り始めた。

 

『部員は5人以上いるみたいだし、生徒会も認めると言ってるなら、今日にも始められるはずよ?本人が辞めると言っているだし、無理に拘る必要はないんじゃない?』

 

果林さんの言う通り⋯⋯何だけど、きっと菜々はせつ菜でいる事を、本当は諦めたくないと思っているはず。

 

『せつ菜ちゃん⋯⋯本当に辞めたいのかな?』

 

『何でそう思うの?』

 

『確かな根拠はありません。けど、皆さんはどう思いますか?せつ菜ちゃん⋯⋯辞めちゃってもいいんですか?』

 

『『『それは嫌だよ(です)!』』』

 

果林さんの言葉に侑が思った事を口に出し、そして皆はせつ菜が辞めるというのを認めたくないと言った。

 

『せつ菜ちゃんはとっても素敵なスクールアイドルなんだよ!それに⋯⋯活動が休止しちゃったのは、私達の力不足もあるから』

 

『彼方ちゃん達、お姉さんなのに皆引っ張っていってあげられなかった⋯⋯』

 

『お披露目ライブは流れてしまいましたが、皆でステージに立ちたいと思う気持ちで練習してきたんです!せつ菜さん抜きなんて、考えられません!!』

 

エマさん、彼方さん、しずくちゃんが今思っている気持ちを次々に語る。

 

『かすみんもそう思います!せつ菜先輩は同好会に絶対必要です!』

 

ついに活動休止の一因となってしまった、かすみちゃんもせつ菜が同好会には必要な存在だと言った。

 

『確かに厳しすぎたところもありましたけど⋯⋯でも今ならちょっとだけ気持ちが分かる気がするんです!』

 

活動休止をしている間に、かすみちゃんの心情に変化があったって事か。

 

『前と同じ事の繰り返しになるのは嫌ですけど、そうじゃないやり方もあるはずで、それを見つけるにはかすみんとは、正反対のせつ菜先輩がいてくれなきゃダメだと思うです!』

 

『大きくなったねぇ〜、かすみちゃ〜ん!』

 

『バカにしてませんか〜?』

 

『本気で褒めてるよぉ〜』

 

そっか⋯⋯もうせつ菜には戻るべき場所があるんだね。それなら俺がやるべき事は⋯⋯。

 

『せつ菜ちゃんは私達に夢をくれた人だもんね!私も一緒にやりたい!』

 

『うん!』

 

『はい!歩夢さんの言う通りです!私もせつ菜さんと一緒に活動したいです!』

 

『これで全員の考えは纏まったって事か。それなら後は本人を説得するだけだな!』

 

ついに皆の意見は、せつ菜を同好会へ連れ戻すという形で纏まった。だがここで疑問を持っている人物がいた。

 

『でも結局はあの子の気持ち次第よね?』

 

『また水を指すような事を⋯⋯』

 

『確かに果林ちゃんの言う通りだよ⋯⋯』

 

『『『⋯⋯』』』

 

果林さんの指摘に、皆は返す言葉がなくなってしまった。

 

だが今の状況なら、果林さんの言う通りだ。本当にせつ菜が戻りたいと思っているのかは、誰にも分からないのだから。きっと果林さんはこうなる事を想定して、わざわざ俺に会話を聞かせたのかもしれない。

 

『はい!私が話してみてもいいですか?』

 

『あら、あなたに何か考えがあるのかしら?』

 

皆が黙り込んでしまった中、何か考えがあるのか侑は自分がせつ菜と話をすると言い出した。

 

『さっき菜々さんと話をした時に、辞める事を躊躇っているように思えたんです。だから、私に任せてもらえませんか?』

 

『侑ちゃん⋯⋯』

 

『へぇ〜、そうなのね』

 

さっきって事はもしかして⋯⋯音楽室で菜々と話をしていたのかな?その中でせつ菜の話題をした時に、菜々の中に迷いが見えたのか。

 

『もしかすると、的外れなのかもしれない……でも、私は自分が感じた事を信じてみたいんです!』

 

『分かったわ。それなら聞いてみましょうか、優木せつ菜の一番近くにいた人に』

 

『優木せつ菜の一番近くにいた人?果林先輩、どういう事ですか?』

 

侑の決意の固さを知った果林さんは、ついに俺に話を振った。当然、シュウはまだ何の事か分からない様子。

 

『良いわよ、春輝。今までの話を聞いてどう思ったか、教えてちょうだい』

 

「分かったよ、果林さん。皆、電話からでごめんね。今の話、最初から全部聞かせてもらってたよ」

 

『『ハル!?』』

 

『どういう事なの、果林ちゃん?』

 

侑とシュウは俺の声に驚き、エマさんは果林さんに事態の説明を求めた。

 

『この話を始める前から、あなた達ならこの結論に至ると思ったから、そうなった時に春輝の意見が必要になると思ってね。こっそり聞かせてた事は謝るわ。ごめんなさい』

 

『何だ⋯⋯そういう事だったんですか。急にハルの声がしたから、俺本気でびっくりしましたからね?』

 

「それでさっき侑の言っていた事だけど、あれは的を得ているよ。菜々は口では辞めるとは言っているけど、態度とかを見ているとそうじゃないっていうのが分かった」

 

俺はさっきの話の補足というか、あくまで憶測だった部分に確実性を持たせるように話をする。

 

『でもそれなら、どうしてせつ菜ちゃんの味方をしていたの?』

 

「それは⋯⋯俺一人じゃ菜々の決意を覆せなかったからだよ。それが本当の願いじゃなくても、俺にはせつ菜の正体を知っている人間として、責任があると思ったから協力していたんだ」

 

『それなら、皆で協力すれば良かったんじゃないんですか?』

 

歌奏ちゃんは俺の言葉に対する、当然の疑問をぶつけてきた。

 

「それは偽りであっても、菜々の決意を踏み躙る事になるから出来なかった。でも今の話を聞いて、菜々⋯⋯せつ菜に帰るべき場所があると分かった。だったら、もう菜々に辛い思いをさせる必要はない、だから俺も手伝わせてほしい!」

 

俺は勇気を出して菜々の本当の願いを叶える為に、協力させてほしいと電話越しに頭を下げた。

 

『彼方ちゃんはいいよ〜?皆はどうかなぁ〜?』

 

『私も春輝くんに手伝ってほしい!』

 

『うん!ハル一緒にやろうよ!』

 

彼方さんが最初に声をあげると、歩夢、侑と続いて声をあげてくれた。

 

『ハルさん、今度は皆で一緒にですよ?』

 

『うん!春輝くんがいてくれたら心強いよ!』

 

『ですね!春輝さん、一緒にやりましょう!』

 

『ま、まあ、かすみんは最初から春輝先輩を信じてましたから!』

 

歌奏ちゃん、エマさん、しずくちゃん、かすみちゃんも続いて賛成してくれた。

 

「みんな⋯⋯本当にありがとう!」

 

『良かったな、ハル!』

 

『どうやら決まったみたいね。それなら時間もない事だし、どうやって呼び出すか決めた方がいいんじゃないかしら?』

 

呼び出す方法か⋯⋯ただ来てと言って菜々は絶対に行かないだろうし⋯⋯そうだ!

 

「だったら、明日の放課後放送で呼び出すっていうのはどうかな?菜々とせつ菜と俺を屋上に呼べば、菜々も動いてくれると思う」

 

『うん、いいと思う!それでいこうよ!』

 

『じゃあ呼び出しは私とかすみちゃんでやるね!』

 

『彼方ちゃん達は、陰からこっそり見守ってるね』

 

『何かあった時はすぐに助けるよ』

 

侑と俺で説得、歩夢とかすみちゃんで呼び出し、残りの皆は陰から見守って緊急時に対応となった。

 

これで作戦も決まった事だし、後は決行するだけだ。だけど、俺のする事は菜々に対しては裏切りに他ならない。だからこれが俺から菜々への手向けで、皆への贖罪だ。これが終わったら俺は⋯⋯。

 

『それなら後は当事者達で頑張りなさい。私と秋夜くんはここまで』

 

『そうですね。じゃあ皆あとは頑張れよ、応援してるぜ!』

 

『仕方ないですね、これ以上二人には頼っていられないですから』

 

『シュウくん、ありがとうね!』

 

こうして俺達は明日の放課後に作戦を決行する事を決め、それまでに各自準備する事にした。

 

 

 

そして次の日の放課後⋯⋯ついに時は来た。

 

 

今は既に生徒会室にて会議が行われ丁度終わりを迎えるところ。

 

「本日はありがとうございました」

 

「「「ありがとうございました」」」

 

菜々の最後の号令で会議は終了した。それと同時に放送のチャイムが鳴り響く。

 

『2年、中川菜々さん、優木せつ菜さん、大空春輝さん、至急西棟屋上まで来てください』

 

ついに作戦通り呼び出しがかかった。呼び出しを担当したのは歩夢だ。

 

「会長、春輝さん呼ばれてますよ?」

 

「ちょっと行ってきますね」

 

「俺も行ってくるよ」

 

菜々が先に生徒会室を出て、俺も後ろからついていく。移動中はお互い無言で歩き、屋上の扉の前で菜々は立ち止まり、深呼吸をしてから開いた。

 

そして屋上を少し歩くと、手すりに腕を乗せて校門の方を見ている侑がいた。菜々は予想外だったのか驚いた様子。俺は万が一を考えて、今入ってきた入口と菜々の間に立ち退路を断った。

 

「高咲侑さん⋯⋯?」

 

「こんにちは、せつ菜ちゃん」

 

「⋯⋯!?」

 

菜々は侑がせつ菜の名を呼んだ事に小さく驚いた。俺はそんな二人のやり取りを見守っている。あくまで侑が説得のメインだから、俺はサポート程度のつもり。

 

「そうなんだけど⋯⋯音楽室に話をした時にそうじゃないかなって」

 

「そうですか。それでなんのつもりですか?」

 

菜々は今呼び出されている状況を、当然快くは思っていないようで、声に少し怒りも混じっているのを感じる。

 

少し目線を奥に逸らすと、皆が物陰から見守っているのが見えた。

 

「ごめんなさい!」

 

「なんですか!?いきなり?」

 

「昨日、音楽室で何でスクールアイドル辞めちゃったのかなって言っちゃったから⋯⋯無神経すぎたかなって」

 

「気にしていませんよ、元々正体を隠していた私が悪いんですから」

 

菜々の声が先程とは違い、穏やかな声色になった。だが、言葉が続かないのか沈黙が訪れた。

 

「話が終わったのなら、これで⋯⋯」

 

「待って、まだあるの!」

 

この場から去ろうとする菜々を、侑は必死に引き留める。

 

「私は⋯⋯幻滅なんてしてないよ⋯⋯スクールアイドルとして、せつ菜ちゃんに同好会に戻ってほしいんだ」

 

今の侑の言葉に菜々は全身で反応を示し、今にも心の内全てを吐き出そうとしているように見える。

 

「⋯⋯何を⋯⋯もう全部分かっているんでしょ!?私が同好会に居たら皆の為にならないんです!!私が居たら⋯⋯ラブライブには出られないんですよ!!」

 

「だったら!だったら、ラブライブなんて出なくていい!!」

 

ついに菜々は心の内を全てを怒鳴るように吐き出した。その姿は今までの菜々からは、想像もつかない姿だった。だが、侑もこれに怯む事なく、すぐに反論しラブライブに出なくていいとまで言い切ってみせた。

 

侑は今日のこの時までに、色々と考えた結果の言葉なんだろう。普通なら出なくていいなんて言えるはずはない。だけど侑のせつ菜へ向ける想いは、凄まじいものだからこその言葉だと思う。

 

菜々は今の侑の言葉に思わず固まってしまい、侑は慌てて今の言葉について説明する。

 

「あ、あのラブライブがどうとかじゃなくて⋯⋯私はただせつ菜ちゃんが幸せになれないのが嫌なだけで⋯⋯ラブライブみたいな最高のステージじゃなくてもいいんだよ、せつ菜ちゃんの歌が聞ければ、それで十分なんだよ!」

 

「そういう事だよ、菜々。何もラブライブだけがスクールアイドルの全てじゃないはずだよ?他にも大事な事があるでしょ?」

 

「春輝さんまで⋯⋯」

 

菜々の心に揺らぎが見えたところで、俺もすかさず侑の横へ移動して、説得のサポートに入る。これで菜々がせつ菜として、同好会に戻ってくれるなら俺の願いも叶ってくれる。

 

「スクールアイドルがいて、ファンがいる!それでいいんじゃない?」

 

「どうして⋯⋯こんな私の為に⋯⋯?」

 

「言ったでしょ?大好きだって!こんなに大好きにさせたのは、せつ菜ちゃんなんだよ?」

 

「そうだよ、菜々。俺も侑と同じ気持ちだよ。俺と侑だけじゃない、もっと沢山の人がせつ菜の歌をずっと待っているんだよ?だから、もう自分の気持ちに嘘をつくのは、終わりにしようよ?」

 

菜々は俺と侑の言葉を聞いて、顔を赤く染めながら少し恥ずかしそうに話し始める。

 

「あなた達みたいな人⋯⋯初めてです。⋯⋯期待されるのは嫌いじゃないです。ですが、本当にいいんですか?私の本当の我儘を⋯⋯大好きを貫いてもいいんですか?」

 

「もちろん!」

 

「もう何も迷う必要なんてないよ。歌って、せつ菜!!」

 

侑と俺の言葉を聞いた菜々は一度目を瞑り、そして開くと前へと歩き出す。

 

「分かっているんですか?あなた達は今、自分達が思っている以上に凄い事を言ったんですからね!」

 

菜々の声色が喋っている間に、どんどんせつ菜の声色へ変わっていく。

 

そして菜々は眼鏡を外し、三つ編みを解き、頭の右側を一房結んで優木せつ菜へと変身した。そして俺達の方を向いて、拳を突き出した。

 

「どうなっても知りませんよ!!」

 

「「っ!!」」

 

その言葉に俺と侑は歓喜の声が思わず漏れた。

 

「これは始まりの歌です!!」

 

俺と侑は顔を見合って、満面の笑みを浮かべた。

 

そして、菜々は優木せつ菜として歌を歌い始める。歌い始めると、学校内の生徒達が、次々に屋上にいるせつ菜に注目し始めた。

 

今のせつ菜は何の柵もなく、自由に思うままに歌っている。この前見たライブよりも、真っ直ぐで心から笑っているように見える。だからこそ今だけはこの後の事を忘れて、せつ菜の歌を楽しむ事ができる。

 

やっぱりせつ菜には、大勢の人を惹き付けるだけの魅力があるんだ。だからこそ、俺達はスクールアイドルを好きになったのかもしれないな。

 

 

 

楽しい時間というのはあっという間にすぎ、せつ菜の歌が終わった。

 

「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会!優木せつ菜でした!!」

 

歌い終わったせつ菜は、最後に挨拶をしてゲリラライブは多くの拍手、歓声の中終了した。気付けばさっきまで雲で覆われていた空は、雲の隙間から光が差していた。

 

せつ菜の挨拶が終わると同時に、隣にいた侑がせつ菜へ向かって走り抱きついていた。

 

それとは別に屋上の扉から、誰かの視線を感じたような気がして扉の方を見たけど、そこには誰もいなかった。

 

皆が侑とせつ菜の元に集まる中、俺は静かに屋上を後にする。

 

そう、これが俺の選んだ結末。今回、事態をややこしくしたり、菜々の味方をするといいながら、最後には皆の意思と勇気に心を動かされ、俺の願いでもある優木せつ菜の復活の手助けをした。

 

だからこそ、俺の出る幕はここまでなんだ。ここから先はあの場所に居ちゃいけないんだ。独りになるのは、あの時以来かもしれない。怖いわけではない⋯⋯でももう少し皆と一緒にいたかった気持ちはある。でもそんな事をすれば、俺は自分自身を許せなくなる。

 

そんな思いを胸に、俺は屋上へ続いている階段を1段、また1段と降りていく。半分くらいまで降りたところで、屋上の扉が開く音がした。

 

「どこへ行くんですか?ハルさん!」

 

俺は敢えて扉の方は見ずにいたが、追い掛けてきたのは、意外にも歌奏ちゃんだった。

 

「どこって⋯⋯俺は帰るだけだよ⋯⋯?」

 

「それはウソです!!」

 

歌奏ちゃんは、俺の嘘を見抜いている様に即座にウソだと指摘した。

 

「じゃあ⋯⋯仮にウソだったとしたら、どうするの?」

 

「私がハルさんを止めます。ハルさんは、かすみん達と約束したんじゃないんですか!!」

 

歌奏ちゃんがなんで約束の事を⋯⋯かすみんと呼んだ事から推測して、かすみちゃんから聞いたのか?だとしても、あの約束は既になかった事になっている。もう何の意味もない⋯⋯。

 

「その約束ならなかった事にしてほしいと言われてから、もう俺には関係ないよ⋯⋯」

 

「でも!だからって⋯⋯ハルさんがいなくなる必要ないじゃないですか!!」

 

「あるんだよ!!これは自分自身へのケジメなんだ⋯⋯だからもう構わないでよ!!!」

 

歌奏ちゃんに図星を突かれた続けた結果、俺はついに今までに友達に出したことない程、怒鳴ってしまった。

 

そして、そのタイミングで再び屋上の扉が開き、今度は皆がやってきたと思われる。

 

「ハルさんの⋯⋯ハルさんの分からず屋ぁ!!」

 

歌奏ちゃんは涙声になりながら、俺に感情をぶつけてきた。どうやら今の言葉と怒鳴り声で、俺は歌奏ちゃんを泣かせてしまったらしい。皆は今の状況に、ついてこれてないのか一言も喋らなかった。

 

その事への申し訳なさで、心が凄く苦しい⋯⋯今にも逃げ出したい。もうシュウにも合わせる顔がなくなっちゃったな⋯⋯。

 

「ごめん⋯⋯でも、もう俺の事は⋯⋯放っておいてよ⋯⋯お願い」

 

最後に一言だけ謝り、もう構わないでほしいと告げ、逃げる様に階段を急いで駆け下りて、廊下を走り続けた。

 

きっと⋯⋯あの時のしーちゃんも同じ様な気持ちだったのかな?⋯⋯今ならしーちゃんの気持ちが痛いくらいに分かる気がするよ。

 




誰かを傷つけて手に入れたのは⋯⋯孤独。



今回はここまでとなります。

急にシリアスな展開になったなと思われた方には、申し訳ございません。ですが、自分としてはこの展開をやりたかったので、満足しています。そして、第1章は次回で最後になります。どんな結末を迎えるのか、お楽しみに。


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第24話 背を押され、手を引かれて

「お邪魔しま〜す」
「Hi.カナ。どうしたんだい?」
「ちょっとミアちゃん達の様子が気になっちゃって⋯⋯どう?いい感じ?」
「ええ!このランジュがいるのよ当然よ!」
「おい、僕達3人だからだろ?」
「そうですよ、ランジュ。私とミアさんを忘れてもらっては困ります」
「そうね⋯⋯ごめんなさい」
「分かればいいさ。まあこんな感じでやってるよ」
「大丈夫そうで良かった!ところで、そろそろ時間じゃない?」「そうですね。それでは歌奏さんもご一緒にどうですか?」
「うん!それでは大空に映る虹色の光、第24話!」
「「「スタート!」」」



 

あれから数日が経ち、風の噂で今日から同好会の活動が本格的に再開するらしい。

 

ここ数日の俺は、学校ではほぼ誰とも関わらずに過ごしていた。あんな事があった後だから、誰も関わろうとしないのは当然だし、俺も関わろうとは思わない。唯一まともに関わったのは、はんぺんだけ。

 

はんぺんには、こちらの事情なんてものは関係ないし、一緒にいても傷つけることも傷つくこともない。はんぺんに会いに行く時にも、愛や璃奈ちゃんと、なるべく接触しないように会いに行っていた。特に愛は、絶対にこっちの心を見透かしてくるはずだから、今はなるべく接触したくない。

 

そう思いながら、ここ数日は明らかに人気のない場所や、校内を散歩したりと誰かに見つからないように過ごしていた。

 

そして、今日はどうしても人の多い場所に行く事になった。そう、お弁当を持ってきていないから、購買に行く必要があった。ただ忘れてたとかではなく、数日の間自分でお弁当を作っていたけど、食べても全然美味しくなかった。料理の腕が落ちた訳ではなさそうなので、気持ちの問題だと思う。

 

そんなこんなで買いに行ったんだけど⋯⋯今日は購買は売り切れだった。仕方なく学食へ行ったところで、シュウに見つかってしまい、現在に至る。

 

はっきり言えば、この状況で見つかりたくなかった人トップ3に入ってるんだけど、もう逃げられないし、そもそもそこまで俺も往生際が悪い事はしないので諦めている。

 

捕まったのはいいんだけど、3分くらい無言なのが怖い。こっちから話題を振りたいけど、地雷を踏み抜きかねないので安易な事は出来ない。

 

 

さらに待つ事3分⋯⋯ついにシュウが口を開いた。

 

「⋯⋯話は全部、カナや侑達から聞いたぜ。何か言いたい事はあるか?」

 

一度深く息を吐くと、シュウはいつも通りに喋り始めたけど、何かが違うような気もする。

 

「⋯⋯うん、歌奏ちゃんには本当に悪い事をしたと思っているよ。反省もしている。シュウにも謝るよ、ごめん」

 

「⋯⋯そうか。はぁ〜、良かったわ〜!」

 

???どういう事?何が良かった?

 

「あのー、状況が分からないんだけど?」

 

「あー悪い、悪い!実はな、ここ数日ハルの事をどうしようか、ずっと考えてたんだよ」

 

「うん⋯⋯」

 

「それでな、俺はハルとは縁を切りたくないと思ったから、ハルの態度次第で決めようと思って、今に至るわけだ」

 

なるほど⋯⋯じゃあここ数日、何もなかったのはシュウも考え込んでいたからか。

 

「それで⋯⋯どうだった?」

 

「どうも何も、ハルはしっかり反省しているみたいだし、俺にまで謝ってくれたんだ。もう俺がとやかく言うつもりはないぜ」

 

良かった⋯⋯シュウは歌奏ちゃんを泣かせてしまった俺の事を、許してくれるのか⋯⋯これだけで救われた気持ちになるよ。

 

「ありがとう、シュウ」

 

「それでな、カナもハルに悪い事をしたと思っているんだぜ?ハルさんに、分からず屋って言っちゃったって大泣きしてたんだぜ?侑から連絡もらって、すっ飛んで行ったらその状況だったから、俺も驚いちまったぜ」

 

歌奏ちゃん⋯⋯元々俺が怒鳴ったせいなのに、自分が言ってしまった事に罪悪感を覚えて、さらに泣いちゃったのか。そんな思いもさせて、本当に⋯⋯あの時の俺は最低だった。

 

「歌奏ちゃんは悪くないよ⋯⋯悪いのは全部俺なんだよ⋯⋯」

 

「そうだけどよ⋯⋯まあとにかくだ!ハルを殴らずに済んで良かったぜ!」

 

あー、反省してなかったら、縁切られて殴り飛ばされてたな、これ。

 

「とりあえず、飯食べようぜ?腹が減って仕方ないぜ〜」

 

緊張が解けたのか、シュウは思い出したかのように、お昼ご飯を食べようと提案してきた。

 

「俺もだよ⋯⋯早く何か食べよ⋯⋯」

 

「あら⋯⋯春輝じゃない、奇遇ね⋯⋯?」

 

声がした方を見ると、コーヒーを片手に持って笑顔の果林さんがいた。が、目が笑っていない。凄く怖い。

 

「⋯⋯と思ったけど、やっぱり歌奏達に報告を先にするから、また後でな!」

 

「ちょっ!?シュウ!?」

 

「春輝?ちょっと時間いいかしら⋯⋯?」

 

これは拒否権はなさそうですね⋯⋯はぁ〜、一難去ってまた一難とはこの事なのか。

 

「はい⋯⋯」

 

 

場所を果林さんがいつも座っている席へと移動して、数分経つけど会話がない⋯⋯っデジャブかな?

 

それは置いといて、会話がないのは辛い。それに空腹の限界です。ご飯買いに行ってきていいかな〜?

 

「ねぇ⋯⋯果林さん、ご飯買ってきてもいいですか?」

 

「あら、まだお昼食べてなかったのね?良いわよ。でも、早く戻ってきなさいね」

 

「分かりました!すぐに戻ってきます!」

 

とりあえず、すぐに注文して出来るもの⋯⋯ハンバーガーでいっか。まだ学食のハンバーガー食べた事なかったし。

 

俺は急いでハンバーガーを買いに行って、5分以内に戻る事に成功した。

 

「⋯⋯早くとは行ったけど、もう少しゆっくりでも良かったのよ?」

 

「大丈夫ですよ。俺が果林さんを待たせたくなかっただけなので」

 

「そうだったのね。それじゃあ、私とお話しましょうか」

 

ついに果林さんが俺を誘った真相語られるのか⋯⋯まあ、だいたい察しはついてるけど。

 

「あなた、同好会に入部しなかったらしいわね?」

 

「そうですね⋯⋯エマさんから聞いたんですか?」

 

やっぱりか。そうじゃなかったら、怖い目をしている事はないだろうし、そんな気はしてた。

 

「そうよ。それで春輝はどうして入部しなかったの?」

 

「それは⋯⋯⋯⋯」

 

「皆への罪悪感から逃げたかったから⋯⋯かしら?」

 

果林さんは的確に、俺が同好会に入部しなかった理由を当ててきた。

 

落ち着け⋯⋯この前と同じ事をしてはいけない。平常心、平常心。

 

「果林さんの言う通りです。でもそれって、果林さんには関係ないですよね?」

 

「そうね、私には()()は関係ないわね」

 

「エマさんの為⋯⋯ですか?」

 

「そうかもしれないわね。でも今回は私の意思もあるのよ」

 

果林さんの意思?エマさんの為だけじゃない、別の行動理由があるって事?

 

「どういう事ですか⋯⋯?」

 

「悪いけど、それは教える事は出来ないわ。でも春輝、あなたは同好会に入るべきよ」

 

「どうしてそう思うんですか?」

 

「だって、あなたは本当は同好会に入りたいと思っているはずよね?ただ罪悪感があるから、皆から逃げる為に入部しないだけ。そうでしょ?」

 

確かに果林さんの言う通りだ。だけど⋯⋯これは俺自身の心を守る為でもある。

 

「そうですね⋯⋯でも⋯⋯もし、誰かに拒絶されたら⋯⋯そう思うと怖くて⋯⋯」

 

「そんな心配は必要ないと思うわ。だって、皆優しいでしょ?それに春輝は皆の事を信じている。そうでしょ?」

 

果林さんの言う通りで皆は優しい。でもその優しさに甘えてしまってもいいのだろうか?

 

「そうですね。でも怒ってないとも言えませんよね?」

 

「そうかもしれないけど、今よりはずっと状況がいいと思うわよ?だから、あなたは同好会に入部しなさい。あなたまで同じ思いをする必要はないわ」

 

「えっ?それってどういう⋯⋯」

 

「あっ⋯⋯い、今のは忘れなさい。良いわね?」

 

「は、はい!分かりました⋯⋯」

 

果林さんは凄い剣幕で、忘れるように言ってきたが咄嗟に返事をしたが、俺は果林さんの言葉が気になって仕方なかった。

 

「いい子ね。一応、今夜エマにあなたが入部したか、どうかを確かめるわ」

 

これで退路も断たれたわけか⋯⋯仕方ない、行くしかないか。

 

それからお昼休みを果林さんと過ごし、午後からの授業に臨んだ。

 

 

 

そして放課後⋯⋯今は部室前の廊下に続く階段が見える、物陰に隠れている。

 

どうしてこんな事をしてるのかは⋯⋯単に一歩を踏み出す勇気がないからだ。果林さんに言われた事通りに来たけど、やっぱりしーちゃんとの事もあって拒絶されたらと思うと、中々一歩を踏み出せずにいる。

 

同好会の皆は、今は新しく割り当てられた部室の掃除や、必要なものの搬入を行っている。もうしばらくやっているから、そろそろ終わりそうな感じはする。

 

本当は手伝ってあげたかったんだけど、どうやって出て行こうかと考えてたら時間が経っていた。それで今も悩んでいる。

 

はあ⋯⋯⋯⋯どうしたものかな〜。

 

「そんなとこで何してんのー?ハルハル」

 

「えっ⋯⋯⋯⋯うわぁっ!愛か⋯⋯⋯驚かさないでよ~」

 

「私もいるよ」

 

「璃奈ちゃんも一緒だったのか、こんにちは」

 

それにしても偶然というか、また面倒なタイミングで愛と出くわすとは。

 

「いやぁ〜驚かしたつもりはないんだけどな〜。そんで、何してんの?」

 

「あー、いやスクールアイドル同好会に用があってね⋯⋯いつ行こうか考えてたんだ⋯⋯」

 

この二人に嘘を言っても仕方ないし、とりあえず本当の事を言っても大丈夫だろう。

 

「えっ!そうなの!?奇遇じゃ〜ん!愛さんとりなりーも、丁度同好会に行こうと思ってたんだよ?」

 

「へっ?そうなの?」

 

「うん、入部しに行くところ」

 

マジか⋯⋯よりによって二人とも同好会に行く用があるとか、この先が嫌な予感しかしないんだけど⋯⋯と思っていたその直後に愛は俺の手を引いて歩き出した。

 

「ちょっ!どこに行くんだよ!」

 

「ん?同好会の部室だけど?」

 

愛⋯⋯何当たり前の事を聞いてるのって顔に書いてあるぞ。全く予想的中とはこうなる気がしてたんだよなぁ〜

 

仕方ない⋯⋯軽く腕を引けば逃げれそうだから、ケガをさせないようにいきますか。

 

せーのっ!!⋯⋯⋯⋯あれ?愛さん握る力強くない?全然、手が外れないですけど?えぇ⋯⋯これ以上強くすると愛もそうだけど、璃奈ちゃんも危ないからなぁ〜、腹を括って連れて行かれるしかないか⋯⋯。

 

愛に連れられ部室前の廊下に続く階段を1段、また1段と上っていく。そして上り終わると、部室の扉の前に皆が集まっているのが見えた。

 

こういう時に限って皆いるよ⋯⋯せめてもの抵抗として愛の後ろにでも隠れようかなぁ⋯⋯。というかこの状況で璃奈ちゃんは何も言わないけど、もしかして呆れられてる⋯⋯?

 

「やっほー!もしかして、スクールアイドル同好会の人達?」

 

「はい、そうですが⋯⋯二人は確か⋯⋯」

 

「情報処理学科2年、宮下愛だよ!」

 

「同じく1年天王寺璃奈、です」

 

「二人とも入部希望です!それと⋯⋯ほーら、隠れてないで出てきなって」

 

二人が自己紹介を終えると、愛が手を繋いだまま腕を小刻みに振って出てくる事を促してきた。

 

はぁ⋯⋯もう出るしかないか。それじゃあ、いつも通りに⋯⋯。

 

「や、やっほー⋯⋯」

 

完全に緊張してるわ、これ。うわぁ⋯⋯めっちゃ見られてるんですけど、どうすんのこれ?

 

「ハル、来てくれたんだね!」

 

「ま、まあね。通りかかったついでというか何というか⋯⋯」

 

「何言ってんの、ハルハル?さっきから陰から見守ってたじゃん」

 

ちょっとぉ!そういうのはバラすんじゃないよ!恥ずかしいでしょ⋯⋯。

 

「えっ?そうなの?」

 

「うっ⋯⋯うん、そうだよ。はぁ⋯⋯皆、この前は本当にごめん。特に歌奏ちゃんには強く当たって本当に悪かったと思ってる」

 

「頭を上げてください、ハルさん!ハルさんは悪くないですよ⋯⋯私が言い過ぎてしまったのが悪かったですし、それにバカって言っちゃいましたし⋯⋯」

 

やっぱり歌奏ちゃんは、この前の事を相当気にしているみたいだ。元は俺が逃げようとしたのが悪かったのに⋯⋯歌奏ちゃんの優しい部分が、逆に自分に責任を感じさせてしまっているのか。

 

「いいんだよ、俺が本当にバカだったんだよ。一度は逃げたけど、シュウ達と話して気が付いたよ。やっぱり俺はここから離れたくないって事にね⋯⋯」

 

「それじゃあ⋯⋯もしかして!?」

 

「うん。もし皆が良かったら俺も同好会に入部させてほしい。皆のサポートをさせてほしい!お願いします!」

 

俺は歌奏ちゃんの期待に全力で応えたつもりで、入部をさせてほしいと皆に頭を下げた。

 

その言葉を聞いた歌奏ちゃんが、俺の前まで移動してきて俺の右手を握ってくれた。

 

「もちろんですよ、ハルさん!ようこそ、スクールアイドル同好会へ!」

 

俺は顔を上げて、歌奏ちゃんや皆の顔を見渡すと皆の笑顔で溢れていた。

 

「ありがとう⋯⋯ありがとう、皆!これからもよろしくね!」

 

「おかえり、ハル!」

 

「うん、ただいま!」

 

皆の優しさに思わず、涙が零れそうになったけどぐっと堪えた。そして侑が満面の笑みでのおかえりに、俺も最高の笑顔でただいまと返した。

 

「これでやっと元通りだね〜」

 

「うん!やっと揃って始められるね!」

 

「そうですね。色々とありましたけど、これからが楽しみですね!」

 

「かすみんも部長として鼻が高いですー!」

 

「それではこれからがスクールアイドル同好会、本当の再始動です!」

 

「私もスクールアイドルとして、頑張らなくちゃ!」

 

皆がそれぞれ思い思いの言葉を口にする。

 

「もちろん、私達でしっかりサポートするからね!」

 

「はい!侑さんと私とハルさんが、どんな事でもお手伝いしますよ!」

 

「そうだね。アイドルだけじゃなくて、マネージャーの俺達も含めてスクールアイドル同好会だからね!」

 

一同で盛り上がっている中、この空気感について行けずに取り残されてる二人がいた。

 

「ところで、今の話も含めてなんだけどスクールアイドルって何をするの?」

 

「私達に教えてほしい」

 

「えっと⋯⋯それはですね⋯⋯」

 

こうして愛と璃奈ちゃんに、今回の件とスクールアイドル同好会の活動を教えるところから新たな活動が始まる。

 

 




今回はここまでとなります。

今回で第1章の内容が完結となりました。次回からは第2章としてアニメ1期4話からの内容になります。早めに投稿したいと思いますので、お待ちいただければと思います。

感想、お気に入り登録、評価お待ちしています。


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第2章 新たな仲間〜同好会のこれから〜
第25話 再始動!そして何をする?


「私そろそろ行くね?頑張ってねミアちゃん、栞子ちゃん、ランジュさん!」
「ああ、頑張るよ。Thanks.カナ」
「歌奏さん、ありがとうございます」
「カナデ、謝謝!」

「また3人になってしまいましたね」
「カナがいなくなっても、また誰かが来そうな気がするよ」
「そうよ!同好会は皆仲良しだもの!」
「ミアさんとランジュの言うとおりですね。では私達も改めて頑張りましょう!」
「That's why 大空に映る虹色の光 Episode25!」
「开始!!」


とりあえず部室の中へ入り、愛と璃奈ちゃんにこれまでの経緯をザックリと説明した。ただ、一度意見の食い違いがあった事はだけは敢えて伏せた。

 

「へぇー、そんな事があったんだねー。だからハルハルは隠れてたんだ〜」

 

「何ニヤニヤしてんのさ、別にいいじゃん⋯⋯行きづらかったんだから」

 

「色々と大変だったんだね」

 

普通に返してくれてありがとう、璃奈ちゃん。それに引き換え、愛は含みのあるような顔をするじゃないよ、全く。

 

「そういえば愛ちゃんと璃奈ちゃん、この前はありがとうね!」

 

「ううん、いいんだよ!愛さん達、この前のライブを見てドキドキしてきちゃってさぁ〜」

 

「分かるよ!トキメいたんだね!!」

 

「うん!そうそう!」

 

侑よ、興奮するのは分かる。けどな、いきなり隣に座ってる人の手を握りに行くとか大胆じゃない?いや、いいんだけどね?というか距離の詰め方が凄い⋯⋯それを言ったら愛も似たようなものだから別にいっか。

 

「本当に凄かった」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

「良かったな、せつ菜。やっぱせつ菜の歌は何か力があるのかもな」

 

「えっ!?そんな事ないと思いますけど⋯⋯」

 

あると思うんだけどなぁ〜、現に俺や侑と歩夢、愛に璃奈ちゃんも影響されてる辺り絶対ないって事はないと思うけどな。

 

「皆さん!盛り上がるのはいいですけど、それよりもっ!今後について話しましょうよ!!」

 

話題が少し逸れ始めたタイミングで、かすみちゃんは声を上げ注目を集める為に、『ライブがしたい!』と書いてあるホワイトボードを叩いた。

 

「それもそうだよね。とりあえず、これからどうするかだよね?」

 

「スクールアイドルですからライブですよね!」

 

「結局、まだやってないしね〜」

 

確かに色々とあったから、ちゃんとしたライブをしたのはせつ菜だけだからな。皆がライブをしたいのは当然だよね。

 

「どんなライブをしたいか、皆さんで意見を出し合いましょう」

 

「かすみん、全国ツアーがやりたいです!」

 

「皆と輪になって踊りたいな〜」

 

「曲の間にお芝居をやるのはどうでしょう!?」

 

「お昼寝タイムも欲しいなぁ〜」

 

「皆の大好きを爆発させたいですね!火薬もドーンと派手に使って!」

 

「火薬はちょっと⋯⋯私はもっと可愛いのがいいな」

 

うーん、ものの見事に全員バラバラ。いや別にバラバラなのが悪い訳じゃない、それぞれがそれぞれのやりたい事をやるのが、一番だからいいんだけど⋯⋯こうも違うかと思ってしまった。一部ツッコミどころのある意見もあったし。

 

「そうだ!マネージャーとしてだけど、歌奏ちゃんは何か見てみたいものとかある?」

 

「そうですね⋯⋯強いて言うなら、私はロックな感じのライブが見てみたいですね!」

 

「ロックか〜。もしかしてロック好きなの?」

 

「はい!私スクールアイドルも好きですけど、ロックも好きなんですよ!!」

 

侑が試しにと、歌奏ちゃんにも意見がないか聞いてみたところ、いつもよりテンション高めで答えた。

 

おー、いつも以上に歌奏ちゃんの声が大きい。余程好きなのが伝わってくるな。でも少し意外だったな〜、まあ人は見た目によらずって言うからな。

 

「白熱してる⋯⋯」

 

「皆言ってる事は違うけど、すっごいやる気だねー」

 

皆が意見の出し合いに白熱していると、それに参加してなかった愛が放った一言により、場は瞬間的に静かになった。

 

「あれっ?なんかマズイ事言った?」

 

「いいえ!」

 

「あはは⋯⋯ちなみに、二人はどう?」

 

「ん〜、なんだろうね⋯⋯とにかく楽しいのがいいなー!」

 

「「「あっ」」」

 

愛の言う通りだな。何をやりたいかも重要だけど、何よりも『楽しいもの』である事が一番大事だからな。

 

「だね、来てくれる人にも楽しんでもらわないとだからな」

 

「それは確かにそうだね」

 

「ええ、最初は人が集まらないかもしれないですが、いつかはたくさんの人の前で歌えるようになりたいですね」

 

「地道な活動がいつかは実を結ぶって事ですね!」

 

そうそう、何でも最初は地道にやっていくしかないからね。無理してもあまり良い事はない。

 

「こほん、ライブの事は追々考えるとして⋯⋯まずは特訓です!!どんなライブをするにしてもパフォーマンスが素敵じゃなきゃ、ファンがガッカリしてしまいますからね!」

 

かすみちゃんはわざとらしく咳払いをして、ズバリと言わんばかりに指を差して、どんなライブにしたいかという話題から、そのライブの為に特訓をしようという話題に切り替えた。

 

「特訓って歌にダンスとか?」

 

「ダンスかぁ……」

 

「私はまず歌の特訓をしたいな〜」

 

「だったらしばらくの間、グループに分かれてやりたい練習をするのはどうかな?」

 

「いいアイディアですね」

 

なるほど。確かに最初から無理に全員で同じ練習をせずに、各々やりたい事をグループになってやるのはいいかもしれない。これならモチベーションも下がらずにやれるはず。さすがはエマさん、いい意見を出してくれる。

 

「ハイハイ!アタシ達、全部参加してもいい?!」

 

「もちろんです!」

 

「すっごく楽しみー!ね!」

 

「うん」

 

愛はまだ入ったばかりという事もあり、璃奈ちゃんと一緒に全ての練習に参加したいと勢いよく手を挙げ、せつ菜も喜んで了承した。

 

「それなら俺も愛たちと一緒に全部参加しようかな〜、マネージャーだけど一応全部見学しておきたいし、それにスクールアイドルもまだよく分かってないから」

 

「ホントに!?やったー!一緒に頑張ろうね、ハルハル!」

 

「おやおや、ハルくんはりきってるね〜」

 

「その⋯⋯皆と出来ることは一緒にやりたい⋯⋯みたいな?」

 

「「「へぇ〜、そうなんだ〜」」」

 

侑と愛それに彼方さん、やめろ⋯⋯やめてください。そんな含みのある笑顔を向けるな!!⋯⋯いいじゃん!俺も色々と学ぶ事もあるだろうし、皆とやれば楽しいかな〜って参加しようとしてるのに!

 

「あの!⋯⋯私もハルさん達と一緒がいい⋯⋯です」

 

「う、うん!もちろんだよ、いいよね二人とも?」

 

「当たり前じゃーん!よろしくね、かなっち!!」

 

「よろしくね」

 

「ありがとうございます!私、頑張ります!」

 

歌奏ちゃんが声を上げてくれた勢いで、三人とも驚いたのか含みのある笑顔をやめていた。ありがとう、歌奏ちゃん!

 

でも、歌奏ちゃん急にどうしたんだろう?スクールアイドルの事ならかなり詳しいはずだし、俺と同じ理由って感じもしないし⋯⋯後で聞いてみようかな。

 

 

こうして、それぞれやりたい練習で分かれた結果⋯⋯エマさんと彼方さんは柔軟、侑と歩夢とせつ菜は歌唱、かすみちゃんとしずくちゃんはスクールアイドル概論なるものに分かれた。

 

これって⋯⋯普通に学年毎に分かれただけじゃない?

 

スクールアイドル概論って要するに、スクールアイドルとはって事かな?かすみちゃん、概論が害論になってるよ⋯⋯。

 

「かすみさん、『がいろん』は『害論』じゃなくて『概論』だよ』

 

『はっ!?やっちゃった!」

 

あっ⋯⋯間違えてると思ったけど、しずくちゃんがボードに書いて教えてあげてるから大丈夫そうかな⋯⋯でもかすみちゃんって、もしかして⋯⋯。

 

 

 

そんなこんなでまずは一度部室を離れて、柔軟組もとい3年生のいる屋上に向かい、着くと二人とも既に準備を済ませて、いつでも始められる状態だったがまだ始めていなかった。

 

「彼方さん、エマさん。始めないんですか?」

 

「実は今は特別講師を呼んでて、来るのを待っているんだよ〜」

 

「特別講師⋯⋯?それは誰なんですか?」

 

「それはお楽しみに!」

 

柔軟に特別講師⋯⋯?言い方がアレなだけで、要するに助っ人だよね?でも、そんな人がいるなんて聞いた事ないけどな⋯⋯。歌奏ちゃんも聞くくらいだし、二人の知り合いか誰かなのかな?

 

待つこと数分⋯⋯件の特別講師は屋上へ姿を現した。

 

「果林ちゃん、こっちだよ!」

 

「待たせたわね、エマ」

 

「あっ!果林ちゃ〜ん!」

 

訂正、知らない人どころか思いっきり知り合いでした。ごめんなさい、果林さん。

 

「あら、春輝じゃない。ちゃんと約束を守ったのね、偉いわよ」

 

「偉いも何もないですよ。あと頭撫でなくていいです!」

 

全く人の事を脅し⋯⋯説得しておいて、からかって頭撫でるとは⋯⋯嫌じゃないけど納得いかない。

 

と考えてた横で一人、震えている人物がいた。

 

「も、も、もしかして、朝香果林さん!?」

 

「ええ、そうよ。あなたは⋯⋯」

 

「は、はい!音楽科1年の音城歌奏です!私、果林さんのファンなんです!雑誌でよく拝見してます!お会い出来て嬉しいです!!」

 

「ありがとう。これからよろしくね、歌奏ちゃん」

 

「うわあぁぁ!こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

おお!まさかの果林さんのファンだったとは、これは初耳だし何か良い一面を見れた気がする。

 

「とりあえず、紹介も済んだからもう始めた方がいいんじゃないかな?」

 

「そうね、それじゃあ始めましょうか」

 

こうして柔軟が始まり、最初は柔軟に自信のない彼方さんと璃奈ちゃんから始まったんだけど⋯⋯その光景を見て俺は驚いた。

 

「うおおおー!」

 

「まだいけそうね⋯⋯」

 

「ムリムリムリ〜!」

 

彼方さんは果林さんに背中を押してもらって、長座体前屈をしているのだけれど、押してもらっても多少しか曲がっていないのだ。それに今なんかピキッて音がしたような気がしたけど⋯⋯うん、聞かなかった事にしよう。

 

まあ、まだ少し曲がってるだけいいんだけど⋯⋯問題は横でやっている璃奈ちゃんかな〜。

 

「うおおおお〜」

 

「それが限界⋯⋯?」

 

「そうみたい⋯⋯」

 

璃奈ちゃんはエマさんに押してもらって同じ事をしているけど、彼方さん以上に曲がってない。というか、もはやほぼ垂直のままなのだ。本当に気持ち曲がっているか、いないかくらいの曲がり具合⋯⋯逆に凄くない?

 

まさか二人がここまで柔軟が苦手だとは予想もしてなかった。そもそも女の子って、身体が柔らかいイメージがあったけど、実際はそうじゃない人もいるって事か。

 

「これは中々大変ですね⋯⋯」

 

「さすがにここまでとは予想してなかったよ⋯⋯」

 

俺と歌奏ちゃんは、この光景に乾いた笑いしか出なかった。

 

「はあ〜⋯⋯」

 

二人が全力を出し切ったのか、マットの上に寝転がると果林さんの視線をこちらに向ける。

 

「そう言ってるけど、あなた達はどうなの?」

 

「俺、柔軟性なら少し自信ありますよ。愛ほどではないですけど」

 

「私も自信あります!」

 

「じゃあ見せてもらおうかしら?」

 

果林さんに柔軟性を見せる為に、俺と歌奏ちゃんは空いてるマットの上に座り、開脚をした状態で地面に上半身を倒した。

 

「なるほどね。言うだけの事はあるみたいね」

 

「二人とも凄いね!」

 

「お〜、見事な柔らかさだね〜」

 

褒められるとは思ってなかったけど、彼方さんも関心してるのはいいけど、もう少し柔らかくならないとだからね?

 

俺はだいたい地面に腕がつくか、つかないかくらい。歌奏ちゃんは腕はついていて、胸の辺りもついてる。

 

ていうか歌奏ちゃん、めっちゃ柔らかいな。もう少し頑張れば愛と同じように上半身全てを地面につけれそうだ。

 

「春輝さんと歌奏ちゃん、凄い」

 

「ハルハルは前から知っていたけど、前よりも柔らかくなってるし、それにカナチはもう少しで愛さんと同じで全部つきそうじゃん!」

 

「まあね、俺もあれから一応柔軟はやってたから。その成果ってところかな」

 

「愛さんは全部つくんですか!?凄いです!」

 

愛の身体の柔らかさはバスケ部に助っ人に行ってた時に、一緒にストレッチをした時に見てたから今更驚かないが、でもあの柔らかさは凄いと言える。

 

まあ、それはいいとして、いまいち果林さんを呼んだ理由が分からない⋯⋯エマさんに聞いてみようか

 

「エマさん気になったんですけど、今日この場に果林さんを呼んで柔軟をしている事に何か理由があるんですか?」

 

「ダンスをやるにはまずは身体を柔らかくしなきゃだから、果林ちゃんに教えてもらおうと思ったの!果林ちゃんも来てくれてありがとうね」

 

「まあ〜時間があるからいいけど。さあ、二人とも続けるわよ」

 

「えっ⋯⋯」

 

「彼方ちゃん壊れちゃうよ〜」

 

果林さんが再開する事を告げると、璃奈ちゃんは戸惑いを見せ、彼方さんは寝ている態勢から勢いよく体を起こした。

 

流石は果林さん。読者モデルとしてストイックな生活を送っている事もあって、自分にも厳しいが他人にもスパルタ指導ですね。

 

彼方さんは限界なのは分かるけど、その状況を知らずに誰かがその台詞を聞くと、とんでもない誤解を生みそう⋯⋯。

 

「大丈夫だよ!」

 

一言大丈夫と言った愛はその場で俺や歌奏ちゃんと同じように柔軟をして身体の柔らかさを披露してみせた。

 

「「「おーーー!」」」

 

「さすがだな、愛」

 

俺以外の皆は感嘆の声を漏らした。俺は久々に見た感想を率直に述べた。

 

「どーも、どーも!それじゃあ、もう一回やってみようか!」

 

二人は恐る恐る愛の言うとおりに、また柔軟の態勢になる。

 

 

「大きく息を吸って~」

 

 

「「すぅ~~~」」

 

 

「ゆっくり吐いて~」

 

 

「「はぁ~~~」」

 

 

愛は二人の様子を見ながら背中を押し、二人が息を吐いたタイミングでさらに深く背中を押すと、明らかにさっきよりも前屈みになっていた。

 

「「あっ⋯⋯!おー!」」

 

「ね?少しでも出来るようになると楽しいよね!続ければ身体も柔らかくなっていくし!」

 

「うん、頑張る」

 

なるほど。苦手な事を苦手意識のままにせず、少しでも出来るようにする事で継続できるようにしたって事か。やるな、愛。

 

「さすがは部室棟のヒーローね」

 

「ヒーロー?」

 

「知らないの?彼女、色々な体育会系の部活で助っ人として活躍してて結構有名なのよ?」

 

「そうなんだ~」

 

「やっぱり愛さんも凄い人なんですね」

 

エマさんが知らないのも無理はないかな。それにしても、女の子にヒーローってのもおかしいような気もするけど、まあいっか。それだけ愛が色々な部活で活躍してる証拠だからな。

 

「そういえば彼方ちゃん、てっきり果林ちゃんも同好会入ると思ってたよ~」

 

「そんな訳ないでしょ。私はただエマが悲しむ顔を見たくなかっただけよ」

 

彼方さんは果林さんが同好会に入らなかった事に言及するも、果林さんはこれをエマさんの為と言って、お昼休みの時に感じた少し寂しげな感情は出てこなかった。

 

やっぱり、アレは俺の気のせいだったのかな⋯⋯?でも、確かに感じたんだけどな~。とりあえず、この事は今は頭の片隅に置いておこう。

 

「「へぇ~~」」

 

「な、何よ⋯⋯」

 

「ありがとう」

 

「あうっ⋯⋯別にいいわよ」

 

「果林さんが照れてる!?これは貴重です!」

 

愛と彼方さんは果林さんの言い分に揶揄い気味な態度、逆にエマさんは笑顔で素直に感謝を伝え、果林さんはこの2つの事に顔を少し赤くして照れているご様子。そして、その様子を見ていた歌奏ちゃんは珍しいところを見てご満悦。

 

普段の果林さんって、結構こんな感じだけど読者モデルの一面しか知らないと貴重なのか。

 

「まあまあ、それはいいとして果林さんもせっかく居るので、もう少し皆で柔軟しましょう?」

 

「春輝の言うとおりね。さあ、今度は皆でやるわよ」

 

「「「はーい」」」

 

「よろしくね、果林ちゃん!」

 

こうして、柔軟を再開し楽しく?した後に、次の場所へと移動したのだった。




今回はここまでです。

前回の更新からかなり間が空いてしまって、申し訳ございませんでした。今年の目標としましては、更新頻度をなるべく空けない事を目標に執筆をしていきたいと思っていますので、皆様よろしくお願い致します。

そして、新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。


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第26話 楽しく練習!

「ランジュ、少しお腹が空いてきたわ」
「僕も〜」
「ではお菓子を持ってきているので、おやつの時間にしましょうか」
「さすが栞子ね!」
「栞子がしっかりしてくれていて助かるよ」
「いえ、私も持っていくべきか迷ってたのですが、春輝さんが持っていった方がいいと言っていたので」
「あー⋯⋯なるほど」
「それならハルキにも後でお礼を言わなきゃね!」
「そうですね。では食べる前に⋯⋯」
「「「第26話スタート!!」」」




3年生組との柔軟会を終えて、俺達4人は一度、部室へ戻ってきた。

 

戻ってきたのは当然疲れたからではなく、次がかすみちゃん主催のスクールアイドル講座で、その講座を受ける為に戻ってきたのだ。ちなみに、受けるのは俺達4人としずくちゃんも一緒。

 

そして今は部室の床に5人で座って、かすみちゃんの講義が始まるのを待っている。

 

「それではっ!これより講義を始めます!」

 

「面白そう!」

 

「かすみん頑張って!」

 

かすみちゃんは指示棒を持ち、さらにメガネまで掛けて張り切っている。というかそのメガネどこかで見覚えが⋯⋯いや、まさかね〜⋯⋯。

 

「かすみさん、そのメガネどうしたの?」

 

「せつ菜先輩に借りました!無断で⋯⋯」

 

「絶対怒られるよ!?」

 

あー、やっぱりかぁ〜。それ菜々のメガネだよね。これはかすみちゃん覚悟した方がいいね、うん。

 

「話の腰を折らない!桜坂君っ!」

 

「ふぇっ!?」

 

「スクールアイドルには何が必要なのか、答えなさい!」

 

「え、えーっと⋯⋯自分の気持ちを表現する事⋯⋯?」

 

「正解!」

 

「あっ正解なんだ⋯⋯」

 

そもそも正解が分からないからか、しずくちゃんは自信のないように答え、かすみちゃんは笑顔で正解と伝える。それを聴いたしずくちゃんは当たると思っていなかったのか、正解したのに困惑気味。

 

まあ確かに何が正解か分からないけど、しずくちゃんの言った事も必要な事だし正解には違いないよね。さてはこの問題、複数解答があるパターンの質問か?

 

「では、天王寺君にも同じ質問です」

 

「あっ」

 

「答えをどうぞ!」

 

「ん〜⋯⋯ファンの人と心を繋げる事?」

 

「正解!」

 

「1つじゃないんだ⋯⋯」

 

やっぱりか。そんな気はしていたけど、本当に複数解答があるパターンだったとは⋯⋯。つまり、スクールアイドルに必要そうな事を答えれば、ほぼ確実に当たりって事でいいかな。

 

「それではマネージャーである、大空くんと音城くんにも同じ質問です!」

 

「ファンの皆と一体になって盛り上がる事!」

 

「ピンポーン!さすが、かな子!」

 

「やったー!当たった!」

 

かすみちゃんは、俺と歌奏ちゃんにも指示棒で差し解答するように求め、歌奏ちゃんは答えを用意していたのかすぐに答え、正解をもらっていた。

 

「ハル先輩はどうです?」

 

「そうだね⋯⋯ファンとの交流を大事にして、皆に応援してもらえるように努力するかな?」

 

「いいですね、ハル先輩も分かってますね!」

 

「何となくだけどね〜」 

 

よし、俺も何とか切り抜けた。やっぱりそれっぽい事を言えば、当たりだっていう見込みは間違えてなかったな。あとは愛だけか。

 

「それでは最後に宮下くん!」

 

「あははっ⋯⋯ごめん、よく分かんないや!」

 

ここでまさかのよく分からないだとっ!?愛だったら普通に答えそうな質問だったのに、分からないと答えるのは余程な気がする⋯⋯。

 

「ピンポン、ピンポーン!それも正解でーす!」

 

「えっ!?なんで?」

 

「あれぇ〜?しず子分からないんですか〜?」

 

「むうぅ〜〜!」

 

愛の分からないという答えもまさかの正解だった。これはさすがに俺も基準がよく分からなくなってきた。しずくちゃんが分からなくなるのも当然。それにしても、かすみちゃんもしずくちゃんの事を煽るな〜、ほらしずくちゃんが頬膨らませて怒ってるよ?

 

「今の質問に、はっきりとした答えなんてないんです!ファンの皆さんに喜んでもらえる事なら、どれも正解って事なんです!」

 

「へぇ〜〜奥が深いんだね」

 

「そうだね。まだまだ追求していけそうだよ」

 

「ですね!改めて、スクールアイドルの奥深さを知りました!」

 

「う~~ん!合格♡」

 

こうして一通り講座が終わり、次の場所へ行く前に、若干拗ねてしまっているしずくちゃんのご機嫌を直す事にした。

 

「まあまあ、しずくちゃん今日分からなかった事も勉強になったと思って⋯⋯ね?」

 

「しず子ごめんってば〜、かすみんが悪かったから機嫌直してよ〜」

 

「しずくちゃん笑顔だよ!笑顔!!にー!!」

 

謝ったり、考え方を前向きに捉えるようにしたり、笑顔を作ってみせたりして何とか機嫌を直そうと試みる。

 

「もう⋯⋯拗ねてませ⋯⋯」

 

呆れたしずくちゃんが言葉を言い終わる前に、部室の扉が開きそこには別の練習に行っていた歩夢、侑、せつ菜の3人が立っていた。

 

俺は咄嗟にかすみちゃんの方を見ると、かすみちゃんはまだメガネをかけていて、そして顔が絶望したような顔をしている。

 

あー、これはご愁傷さまです。まだ気付いてる様子はないけど、まもなく気付くだろうしお説教が始まるね。うん、俺には分かる。俺じゃなくても分かる。

 

「あれ?かすみちゃんメガネかけてたの?」

 

「でも、そのメガネ⋯⋯どこかで見覚えが⋯⋯」

 

「かすみさん、そのメガネもしかして、私のだったりしませんか?」

 

意外に最初にメガネの事に気付いたのは侑だった。歩夢も菜々と何度も顔を合わせているからメガネに見覚えがあるみたいだし、本人はすぐに自分のではと問うくらいには見覚えがあったんだろうね。

 

「ひえぇぇ!せつ菜先輩、ごめんなさい!!黙って持ち出しちゃいました!」

 

「そうですか。皆さん、少しだけ待っててください。それではかすみさん、別の場所でお話しましょうか⋯⋯?」

 

「はい⋯⋯」

 

せつ菜はかすみちゃんに、場所を変えてお説教をするらしく来るように促して、かすみちゃんは観念したのか弱々しい返事をしてついていった。

 

声には優しさを感じるが、目が半分くらい笑ってなかった。だからせつ菜もとい、菜々を怒らせない方がいいのに⋯⋯まあ菜々も怒っても根には持たないから、今回はしっかりお説教されて反省した方がいい。

 

自業自得とはいえ、ちょっと可哀想だからあとで少し慰めて、いつもの調子に戻してあげようかな。

 

 

*****

 

 

数分後、かすみちゃんとせつ菜が部室へと帰ってきた。案の定かすみちゃんは、お説教されたからかへこみ気味になっていた。

 

「お疲れ〜、とりあえず終わった感じ?」

 

「はい、もう大丈夫ですよ」

 

「そっか、なら良かった。まあ⋯⋯かすみちゃんの方は良くないけど」

 

「かすみん、大丈夫?」

 

せつ菜は、既に終わった事として何事もなかったようにしていけど、かすみちゃんは項垂れてる。しっかりお説教されたみたいだから無理もないだろうけど。その様子を見た歌奏ちゃんが、心配そうに近寄る。

 

「うぇ〜ん!かな子〜!」

 

「よしよし頑張ったね〜、かすみんえらいよ〜」

 

「歌奏さん、あまりかすみさんを甘やかさない方がいいよ?」

 

「いいの、いいの。かすみんがへこんでると私が嫌だから⋯⋯ね?」

 

「全く、仕方ないんだから⋯⋯かすみさんは歌奏さんに少しは感謝した方がいいよ」

 

「ありがと〜かな子〜!」

 

おやおや、意外にも歌奏ちゃんが真っ先にかすみちゃんを慰めてる。光景が何というか⋯⋯ある意味奇妙だ。それにしずくちゃんとの会話は育児の方針みたいに聞こえてしまう⋯⋯。

 

というか、かすみちゃんと歌奏ちゃんって、どうしてあんなに仲がいいのか俺はよく知らないんだよな〜。あれかな?廃部騒動の時に、歩夢や侑も含めて4人で行動してた時に仲良くなったのかな?今度、時間ある時にでも聞いてみよっと。

 

「そういえば、歩夢達はさっきまで何をしてたの?」

 

「私達はボイストレーニングをしてたよ。それでこれから収録ブースを使って歌う前に、一回部室に戻ってきたの」

 

「へ〜、収録ブースか。あそこは中々普段入らない場所だからな⋯⋯そうだ!俺達も一緒に行ってもいいかな?」

 

「もちろん!愛さんも行きたい!!歌も自信あるよ〜!」

 

「愛さんが行くなら行く」

 

「ハルさんが行くなら私も一緒に行きますよ」

 

「歓迎するよ!うーん!皆の歌を聴けるなんてトキメくぅ〜!」

 

意外と皆が乗り気だし、侑もトキメくとまで言ってるくらいには楽しみにしているっぽいな。

 

「それでは、そろそろ向かうとしましょうか」

 

「そうだ、かすみちゃんとしずくちゃんはどうする?」

 

「かすみさん、この後はどうするの?」

 

「かすみん、まだ他にやりたい事があるのここに残ります!」

 

「かすみさんがこう言ってるので、私も残ろうと思います」

 

「うん、分かったよ。二人ともまた後でね」

 

二人を部室へ残して、俺達は収録ブースへと向かった。

 

 

*****

 

 

収録ブースに着き中へ入ると、収録用の機材やマイクにスピーカーなどが揃っていた。

 

「うわぁ〜!ここが収録ブースなんですね!色々な機材が揃ってて凄いです!」

 

「どれも最新のものばかり⋯⋯」

 

「うん、こういうのを見ると虹ヶ咲って凄いなって思うよ」

 

歌奏ちゃんと璃奈ちゃんが驚くのも無理もない。入学してから1年以上経つ俺達ですら今でも、普段入らない場所とかに入ったりすると驚く事が多い。

 

「あっ!見てみて、カラオケで見るタッチパネルもあるよ!」

 

「本当だ〜!虹ヶ咲ってない物の方が珍しいのかもね」

 

「そうだね。でもそのおかげで、私達もやりたい事が出来てると思うよ」

 

侑、愛も興奮を隠しきれてないし、歩夢の言う通りこういった設備があるからこそ色々とチャレンジできるのかもしれない。

 

「では!早速、始めちゃいましょうか!」

 

「「「おー!」」」

 

これから順番に歌う事になり、アイドル中心に歌うことになった。そうなると⋯⋯俺達マネージャー組は合いの手かな?

 

 

*****

 

 

せつ菜、愛、璃奈ちゃんと次々に歌っていき、たった今歩夢が歌い終わり皆で拍手をした。

 

「全然ダメだった〜⋯⋯」

 

「そんな事ないって!」

 

「うん、私も歩夢さんの歌声大好きですよ!当面の課題はリラックスして歌えるようになる事ですね」

 

「歩夢さんの歌声は、真心が込められていて真っ直ぐに思いを伝えてる感じがします!」

 

「そうだね。まだ改善の余地はあるかもしれないけど、歩夢が歌声に乗せて届けたい想いが伝わってくるし、俺も歩夢の歌声が好きだよ」

 

「それにちゃんと可愛く歌えてたよ!」

 

「あ、ありがとう⋯⋯」

 

歩夢の歌声は何というか⋯⋯透明感?みたいなものを感じて、凄くいいと思ってる。せつ菜はライブを見た時にも感じたけど、熱い想いが伝わってくるし、愛はたまにカラオケとかで歌っている時も安定していて、それでいて芯もある。それぞれの歌声が特徴があって、一番なんて決められない。

 

「次はどなたが歌われますか?」

 

「愛さん、もう一回せっつーの歌聴きたい!」

 

「せっつー?私の事ですか?」

 

「うん!あだ名!実はハルハルの事は、前からあだ名で呼んでるよ〜」

 

「そうだったね。今思うと、初めましてからすぐにあだ名呼びになった気がする」

 

「いいな〜!私は?」

 

「ゆうゆ!」

 

「じゃあ、私は?」

 

「あゆぴょん!」 

 

「っ!?ぴょんはやめてぇ〜!」

 

「え〜?可愛いのに〜」

 

確かに可愛いよね、あゆぴょん。とにかく響きが良い。俺も侑に同意しちゃうね、本人は恥ずかしそうに両手を頬に当てて顔を赤くしてるけど。

 

「ちなみに、ですけど⋯⋯愛さん、私のあだ名って『カナチ』以外にありますか?」

 

「そうだね〜⋯⋯じゃあ、『かななん』はどう?」

 

「かななん⋯⋯可愛くていいです!それでお願いします!」

 

「オッケー!」

 

おや?歌奏ちゃんの言い方的に、前のあだ名は好みじゃなかったのか。まあ、あだ名は人によっては嫌だって人もいるから仕方ない。俺は余程ヘンテコなのでなければ、全然OKな人間です。

 

「こ⋯⋯これは!?」

 

「新しく始まったアニメのエンディングだよね?」

 

「見てるんですか!このシリーズを!?」

 

「子供の頃からずっと見てる」

 

「うわあぁぁ!!前のシリーズの第29話見ました?!自分を犠牲にしてマグマに飛び込もうとしたジャッカルを、コスモスが抱き締めるところ!!」

 

「激アツだった」

 

「ですよねーー!!」

 

せつ菜が思いっきり人が変わったように、アニメについて語り始めた。正直、俺と話している時くらいしか、こんなにテンションが上がる事はないと思っていたけど、仲間を見つけるとあんなにグイグイ行くのか。ちゃんと自分の大好きに正直になれて良かったな。

それに璃奈ちゃんも少しだけ動揺したように見えたけど、意外と同類を見つけて嬉しそうだね。

 

「せつ菜ちゃんアニメ好きなんだね!」

 

「は、はい⋯⋯家では禁止されているので、夜中にこっそり見てるんですが⋯⋯」

 

「お家、厳しいの?」

 

「まあ⋯⋯どちらかと言えば⋯⋯」

 

「それで正体隠してたんだ〜」

 

「春輝さんには見破られてしまいましたけどね⋯⋯」

 

「偶々だよ。何か前に会った時と雰囲気違うけど、似ているな〜って思った事と、他の人は名字で呼んでるのに、俺を下の名前で呼んだ事かな?」

 

「あの時はつい⋯⋯」

 

多分、せつ菜が言い間違えなければ、気付かなかったかもしれないからホントに偶々だったからね?

 

「正体⋯⋯?んー?あっ!もしかして、生徒会長!?」

 

「はい⋯⋯」

 

「そうだったんだ~水臭いな~!」

 

「この前はありがとう」

 

「あっ、いえ!」

 

愛はせつ菜の顔を覗き込むように近づいて見ると、生徒会長の中川菜々である事に気付いた。

 

やっぱり、じっくりと見れば分かっちゃうのか~。これは遅かれ早かれバレていた可能性もあったかも⋯⋯。

 

「愛さんもせっつーがオススメしてたアニメ見てみるね!」

 

「えっ?」

 

「せっつーのアツい語り聞いてたら、楽しそうだな~って思ったからさ!」

 

「私も見てみます!」

 

「楽しいですよ!」

 

「よぉーし!ここからはアニソン縛りでいこー!」

 

「「「おー!!」」」

 

愛の宣言でアニソン縛りへと移行し、各々知っている曲や好きな曲を選び始めた。ここからアイドルとかは関係なく歌うことになり、俺達マネージャー組も歌うことになった。

 

「はあ~、久々に歌った~」

 

「やっぱり、普通に侑も歌うの上手いね~。なんでこれでスクールアイドルやらないのか不思議なくらいだよ?」

 

「まあ⋯⋯私は柄じゃないというか、自分でやるより誰かを応援したいなって!」

 

「なるほど⋯⋯気持ちは分かるな~、俺もそうだから」

 

「そっか、ハルも一緒なんだね。おっと、次は⋯⋯あれ?この曲デュエットじゃない?」

 

えっ?どれどれ⋯⋯あっ、本当だ。でも、俺の前って確か⋯⋯。

 

「はい⋯⋯それ入れたの私です」

 

「歌奏ちゃん、この曲を歌う相手は誰にする?」

 

「ごめんなさい、侑さん!やっぱり、その曲キャンセルしてもらってもいいですか⋯⋯?」

 

「いいけど⋯⋯本当にいいの?」

 

確かに侑の言うとおりだね。せっかく入れたんだし、誰かと一緒に歌いたかったはずだ。それをキャンセルするなんて⋯⋯。

 

「私が勝手に入れただけなので⋯⋯」

 

「じゃあ⋯⋯」

 

「待った!!その曲、俺が一緒に歌ってもいいかな?」

 

「えっ!?いいんですか!?でも、ハルさんこの次も⋯⋯」

 

「いいの、いいの!俺が一緒に歌いたいから歌うだけだよ!それに俺だと嫌だったかな?」

 

「いえ!むしろ、ハルさんと一緒に歌いたかったので⋯⋯」

 

「よし!なら、決まりだ!」

 

良かった~!これで嫌ですとか言われてたら、ショックで落ち込んでたよ。でも、気になるのはどうしてデュエットにしたのかだよな~。何か理由がありそうな気もする⋯⋯。

 

こうして、俺は歌奏ちゃんとデュエットで熱唱して、連続で選曲した曲も歌いきった。

 

「春輝くん、お疲れ!」

 

「ハルハル、歌声かっこ良かったよ!」

 

「あ、ありがとう⋯⋯」

 

「はい!とても良かったです!それに歌奏さんも歌声が凄く綺麗でしたよ!」

 

「だよね!歌奏ちゃんの声すっごく綺麗だった!トキメいちゃった!」

 

「うん、凄かった」

 

「ありがとうございます⋯⋯」

 

ヤバい⋯⋯素直に褒められると恥ずかしい⋯⋯。歌奏ちゃんも照れちゃってる。

 

「それにデュエットの相性凄く良かったよ!」

 

「初めてと思えないくらい良かったよ」

 

そうだったのか。歌うのに集中していて、あまりそこまで気にしていなかったな~。でも嬉しいな、そう言ってもらえるのは。

 

「一旦、全員歌って時間もいいので切り上げて、部室に戻りましょうか」

 

「そうだね、他の皆もそろそろ戻ってくるかもしれないし」

 

「それじゃあ、部室に戻ったらおばあちゃん特製のぬか漬けを食べて待っていようよ!」

 

「それいいかもね。じゃあ、戻ろっか」

 

俺達は練習を切り上げ、再度他のメンバーと集合するために部室

へと戻ることにした。

 




今回はここまでになります。

次回のお話もお楽しみに!



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第27話 ソロアイドルという壁

「それで栞子はどんなお菓子を持ってきたの?」
「まずは私が選んだもので和菓子と、ランジュの好きな駄菓子にミアさんのを迷ったのですが、春輝さんがスナック菓子がいいかもと言っていたので、スナック菓子をお持ちしました」
「へぇ〜、意外と分かってるじゃん」
「そうだわ!これを3人でシェアしましょうよ!」
「いいですね!そうしましょう!」
「そういえば、飲み物はないの?」
「あっ⋯⋯すみません、完全に失念してました⋯⋯」
「ないのなら仕方ないね、大丈夫だよ栞子」
「フッフッフッ⋯⋯お困りのようだね?」
「あ、あなたは!?」


部室に戻ってきた俺達は、愛が持ってきたお婆ちゃん特製のぬか漬けを食べながら、他の皆が戻ってくるのを待っていた。

ちなみに、せつ菜だけは他のメンバーを呼びに行っているから不在だ。本当は俺も一緒に行こうとしたけど、せつ菜に休んでていいと言われてしまったので部室で待つ事にした。

 

「おいしいな。でも、練習後にぬか漬けってどうなの?」

 

「疲れた後だからいいじゃん!それに美味しければ細かい事は気にしなくていいの!」

 

「それもそうか⋯⋯ごめん、野暮だったね」

 

「それにしても、本当に美味しい!」

 

「本当にお婆ちゃんの味って感じだよね」

 

「ぬか漬けって初めて食べたんですけど、美味しいですね!」

 

「このぬか漬け、いつ食べても美味しい」

 

「でしょ!なんたって、愛さんのお婆ちゃん自慢のぬか漬けだからね〜!」

 

でも中々、学校でぬか漬けを食べるってハードル高いよね。匂いとか気になる人は気になるだろうし。皆は気にしていないみたいだし、俺もそこまで気にならないかな。

 

ぬか漬けを食べながら会話をして待っていると、呼びに行ったせつ菜が皆を連れて戻ってきた。

 

「ただいま戻りましたー!」

 

「うわぁ!?何ですかこの匂い!?」

 

「皆も食べる〜?」

 

「うん!食べた〜い!」

 

「彼方ちゃん、クタクタだよ〜」

 

「今日はもう練習おしまいだね〜」

 

部室に入ってぬか漬けの匂いがしていたら、かすみちゃんみたいに驚くのも当然だよね。むしろ、他の誰も驚いていない事に俺は驚くよ。エマさんは相変わらず食べ物に目がない感じで、彼方さんは疲れ切ったのか、即座に椅子に座り机に突っ伏した。

 

やっぱり、皆が帰ってくると一気に部室が賑やかになるね〜。戻ってきてからタオルで汗を拭いたり、机に突っ伏したり、ぬか漬けを貰いに行ったりと皆行動がバラバラなのも個性が出てる。

 

「あっ、かすみさん。後でお話があるのですが」

 

「ひぇっ!メ、メガネの事なら、何度もごめんなさいしましたよね?!」

 

「いえ⋯⋯その事ではなく⋯⋯」

 

お説教されたのがしっかり効いてしまったみたいだね。またお説教されると思って、凄い焦っているように見える。まあ、せつ菜も鬼じゃないし、一度済んだ事を蒸し返すような事はしないから大丈夫でしょ。ただ、それ以外で何の話をするのかは個人的に興味があるね。

 

「それじゃあ、私達はもう少し休憩したら先に外に出よっか」

 

「そうですね、外でお話しながらでも二人を待っていましょうか」

 

「さんせ〜い」

 

「それなら俺は先に行ってるよ。皆もここで着替えないといけないし、俺も更衣室に行く必要があるから」

 

「もう少しゆっくりしてもいいんですよ?」

 

「大丈夫だよ。俺は軽くしか動いてないから、皆はゆっくりしてていいからね〜。それじゃあ、また後で」

 

「あっ!ちょっと!」

 

はぁ⋯⋯さすがに同好会で男子が俺だけだから、あの場に残るのは少し気が引けるな⋯⋯。これから一緒に活動するんだし、次からは頑張ってみようかな。

 

でも、俺は疲れていないのは事実だし、着替えないといけないのも事実だからね?だから、これでいい。

 

 

部室から逃げ⋯⋯⋯⋯てはないけど、後にして俺は更衣室へと向かった。そして、更衣室に着くと電気がついていて、誰かが使用中だった。

 

使用中とはいえ、俺も着替えないとだから入るけどね?

 

扉に手を掛け、開けるとそこには見覚えのある人物が黙々と着替えていた。

 

「おっ!ハルじゃ〜ん、お疲れ〜」

 

「シュウだったのか、お疲れ〜。今日の演劇部の活動は終わりなの?」

 

俺はシュウへ挨拶をして、シュウの近くの自分のロッカーまで移動して着替えを始める。シュウも着替えながら、俺との会話を始めた。

 

「いや、これからもう少しだけある。もう運動はしないから、制服に着替えてこいって部長がな」

 

あー、なるほど。ランニングか何かをした後で、これから軽い読み合わせとかだから先に着替えに来たと。

 

「それよりハルの方は、スクールアイドル同好会か?」

 

「うん。そうだけど⋯⋯それが?」

 

「ふ~ん、そっか。いやぁ〜良かった、良かった!」

 

???⋯⋯シュウが良かったって言う事なのか?それとも普通に喜んでくれてるだけなのか?何か裏がありそう。

 

「どういう意味?」

 

「そりゃ、ちゃんと収まるところに収まったからに決まってんだろ?」

 

「それはありがとう。で、本当のところはどうなの?」

 

「他意はねぇよ⋯⋯って言いたいけど、本当はある」

 

やっぱりね。俺が夕方まで学校に残っている事を、わざわざ『スクールアイドル同好会』と断定したのは理由があるとしか思えない。他にも生徒会の手伝いとか、バスケ部の助っ人という可能性もあるからね?まあ、後者に関しては可能性は低いけど。

 

「それで何か気になる事とかでもあるの?」

 

「⋯⋯⋯⋯カナの様子はどうだった?何か気になる事とかなかったか?」

 

「歌奏ちゃん?普通に楽しそうに皆と一緒に活動していたけど⋯⋯あっ、ほぼカラオケと化した歌唱練習の時にデュエットしたよ」

 

「そっか⋯⋯その時に何かなかったか?」

 

「そう言われると⋯⋯元々、俺とデュエットする為に選曲してたらしいんだけど、それを間際でキャンセルしようとしたから、俺の方からお願いして一緒に歌ったよ」

 

「そうだったのか⋯⋯でも、何とかなったなら良かったぜ」

 

シュウが何か深刻そうな顔をしているから、ちょっと気になるけどこの事について踏み込んでいいものなのか⋯⋯。

 

「試しに聞いてみるけど⋯⋯歌奏ちゃんの事で何かあるの?」

 

「まあ⋯⋯な。俺の口から話してもいいんだが⋯⋯⋯⋯いや、いずれカナが話してくれると思うから、俺から言える事はほとんどない」

 

「そっか。なら、その時を待つ事にするよ。なんか⋯⋯ごめんね?」

 

「いやいや!ハルは何も悪くないからな!大丈夫だから!でも、俺から話せる事はほとんどないって言ったけど、1つだけお願いしてもいいか?」

 

気を遣わせてしまったみたいで悪いな⋯⋯そのお詫びにと言ってはなんだけど、シュウからのお願いを聞くとしよう。

 

「いいよ。俺に出来る事なら聞くよ?」

 

「同好会で活動している間とか、俺が忙しい時にカナの事を頼んでもいいか?」

 

「うん、いいけど⋯⋯例えば?」

 

「例えば⋯⋯たまにでいいから、カナと一緒に帰ってやってほしいとかだな」

 

なるほど。要するに歌奏ちゃんの警護みたいな事か。あんまりシュウから歌奏ちゃんへアプローチしないのかと思ってたけど、なんだかんだでシュウも歌奏ちゃんの事をめっちゃ心配してるんだね。微笑ましいな〜。

 

「全然!それくらいだったら任せてよ!」

 

「家の方向も違うのに悪いな。で、早速なんだが今日お願いしてもいいか?」

 

「もちろん!歌奏ちゃんの事はしっかりと送って行くから、安心して演劇部頑張れ!」

 

「ああ!ありがとうな、ハル!気を付けてな!」

 

「うん!行ってらっしゃい!」

 

先に着替えていたシュウは、当然俺よりも早く着替え終わり一通り話し終えたところで、シュウは荷物を持って挨拶をして更衣室を出て行った。

 

さてと俺も着替え終わったし、玄関に向かうとしようか。

 

俺もシュウと話しながら着替えを進めていた為、シュウが出て行ってからまもなく着替え終わり、待ち合わせ場所の玄関へ向かった。

 

 

*****

 

 

玄関に到着すると、まだ皆は到着していなかった。

 

俺がゆっくりしてていいと言ったから、皆ちゃんと休んでいるんだろうね。それまでは、ちょっと暇だけどベンチに座って待っていよう。

 

はぁ〜、遂にスクールアイドル同好会に入部したんだな。さすがにまだ初日だから実感はあんまりないかな。でも、これからは皆の事をサポートする立場になるんだから、侑と歌奏ちゃんとも協力しながら皆の力になりたいな。

 

 

ベンチに座り考え事をしていると、ふとした時にどこからか視線を感じた。

 

視線の主が気になって辺りを見回してみたけど、明らかにこっちを見ている人は見受けられなかった。

 

んー⋯⋯気のせいだったのかな?俺自身は誰かに見られたりするような事はしてないと思うけど⋯⋯分からないね。

 

視線は気のせいという事にして、再び皆の事を待っていると今度はスマホから通知音がした。

 

送り主はバスケ部の友達からで、内容は明日の練習で人が足りなくて尚且つ、女子との紅白戦もあるから手を貸してほしいとの事。

 

なるほど、そうなると同好会は遅れて行く事になりそうか。助っ人としての参加は終わったけど、困っているならそれはまた別の話だ。

 

俺はすぐにOKとメッセージを送り、向こうからもすぐにお礼のメッセージが来た。とりあえず、後で皆にこの事を伝えておかないと。

 

 

スマホでのメッセージのやり取りを終えたタイミングで、玄関の方から皆がやって来た。

 

「春くん、お待たせ〜」

 

「遅くなって、ごめんね」

 

「大丈夫だよ。皆、お疲れ様」

 

待っていた俺にエマさんと歩夢が声を掛けてくれた。他の皆も手を振って俺の方に来てくれた。

 

「そうだ!ハルさん、お待たせして喉とか渇いてないですか?」

 

「うーん、そう言われると確かにちょっと喉が渇いてるかも?」

 

「あ~!見てみて!あそこに自販機があるよ〜?」

 

「そうだ!皆で何か飲みながら、もう少しここでお話していこうよ!」

 

えっ、何?歌奏ちゃんはともかく、彼方さんと愛のちょっとわざとらしいような演技は⋯⋯⋯⋯って、もしかして気を遣われてる?

 

「私は賛成だよ!」

 

「うん、もっとお話したい」

 

うん、これは気を遣われてるね。でも、ここで突っ込むのは野暮だろうから流れに任せようか。

 

「なら、決まりだね!じゃあ買いに行こう!」

 

「皆で行くと人数が多いから、半分の人数で買いに行った方がいいかもね」

 

「そうだね。それじゃあ俺と何人か一緒に⋯⋯」

 

「ハルさんは!休憩しててください、いいですね?」

 

「あっ⋯⋯はい、分かりました⋯⋯」

 

歌奏ちゃんの笑顔とウィンクの圧に負けて、思わず敬語が出てしまった。皆は俺に休んでてほしいのか⋯⋯ここは厚意に甘えるしかないか。

 

結局、俺はベンチに座って休む事となり、半ば見張りのように彼方さん、愛、しずくちゃん、璃奈ちゃんが残り、エマさん、歩夢、侑、歌奏ちゃんが飲み物を買いに行った。

 

その際に何か飲みたい物があるか聞かれたけど、喉が渇いてるだけでこれと言って飲みたい物はなかったので、4人に任せる事にした。

 

「は〜い、ハルくんもちゃんと休まなきゃダメなんだよ〜?」

 

「そうですよ。春輝先輩が身体を動かした時間が短いとはいえ、少しは疲れているはずですから、身体を労るのも大切ですよ?」

 

「ご、ごもっとも⋯⋯」

 

彼方さんとしずくちゃんの言葉にぐうの音も出ない。それもそうか⋯⋯皆を休ませてばっかりで、自分を疎かにすると後でどうなるか分からないって事だよね。それで体調を崩したりすれば、それこそ皆に心配かけちゃうはずだ。

 

「でも、そこがハルハルの良いところでもあるよね〜」

 

「うん、春輝さん優しい」

 

「春輝先輩はちょっと優しすぎる気もしますけどね」

 

「困った時は、彼方ちゃん達の事もちゃんと頼ってね?」

 

「うん⋯⋯困った時は力を借りるようにします」

 

急に褒められると素直になってしまうというか、ならざるを得ないというか⋯⋯嫌ではないけどね。

 

「ただいま〜!飲み物買ってきたよ〜」

 

「おかえり〜、皆、ありがとうね〜」

 

丁度いいタイミングで、エマさん達が帰ってきた。彼方さんは帰ってきたエマさん達にお礼を言った。

 

「はい!これ、ハルの!」

 

「ありがとう。ちなみに何を選んだの?」

 

「歌奏ちゃんが前にコーヒーを飲んでたって言ったから、コーヒーにしたよ」

 

「前に⋯⋯あー、あの時か」

 

そういえば、あの時は薫姉と同じものを頼んでブラックコーヒーを飲んだな。つまり、あの時の事を覚えていたって事だよね。

 

「何々、あの時って?」

 

「ちょっと用事があって、歌奏ちゃんのお家の喫茶店に行ったんだよ」

 

「そうだったんだ。ねぇ歩夢、私達も今度行ってみようよ」

 

「うん、そうだね」

 

「歌奏ちゃんのお家は喫茶店なんだね!私も今度のお休みに行くね!」

 

「はい!お待ちしてます!」

 

喫茶店というワードに食いついてくる辺り、さすがエマさんという感じだ。それと歩夢と侑もまだ行った事はなかったのか、ちょっと意外。

 

「そういえば、今週は土曜も集まるんだっけ〜?」

 

「うん、お台場でランニングだよ」

 

「ランニングか〜⋯⋯」

 

「私も一緒に走るから!」

 

「走るのって気持ちいいよ!」

 

「風を切る感じがいいよね!」

 

この様子だと、歩夢はランニングがあまり好きじゃなさそうだね。でも、ランニングはやっぱり体力作りとかに欠かせないからな~、俺達も一緒に走って少しでも楽しんでもらえるといいな。

 

「しずくちゃんはこの後、演劇部?」

 

「大変だね〜、掛け持ち」

 

「いえ、好きでやっている事もですから」

 

「愛ちゃんは今も運動部の助っ人してるの?」

 

「もちろん!だから、明日は同好会に行くのが少し遅れるかも」

 

「あっ、俺も明日バスケ部の助っ人頼まれたから、同好会に行くのが遅くなるよ」

 

「おっ!ハルハルもバスケ部来るんだね!よぉ〜し、これは腕が鳴るね!」

 

愛、ナイスだ。後で言おうかと思ってたけど、これほどベストなタイミングはないでしょ。

 

「皆、頑張ってるね〜、ふあぁ〜⋯⋯」

 

「頑張っているのは、彼方さんも一緒でしょ?バイトと同好会の掛け持ちしているんだから」

 

「まあね〜」

 

いや、本当に俺より彼方さんの方が頑張っていると思うよ。学費免除の為に勉強して、お家の為にバイトもして、それで同好会で活動もしているんだから、それに比べたら全然だよ。

 

「璃奈ちゃんは同好会楽しい?」

 

「楽しい」

 

「うん?」

 

「こんなにウキウキなりなりー初めて見たよー!愛さんも楽しい!」

 

「確かに、いつもより楽しそうだね」

 

璃奈ちゃんの気持ちが、エマさんに伝わらなかったのを見た愛は、すかさずフォローに入り俺もフォローを入れた。

 

「ごめんなさい。私上手く気持ち出せなくて⋯⋯」

 

「ううん、楽しんでくれてるなら良かった」

 

そうそう、楽しむ気持ちが一番だからね。璃奈ちゃんがこれから色々な事を経験して、いつか上手く気持ちを出せるようになるといいな。

 

「でも本当、他ではやってない事ばかりですっごく新鮮!」

 

「全然違うよー!かすみんがアイドルはどれも正解って言ってたけど、実際その通りっていうか⋯⋯皆タイプ違うけど、優しくて面白くてそこがすっごく最高だし!」

 

「このメンバーでどんなライブするかって考えるだけで、めっちゃワクワクするよ!」

 

愛は新しい体験に心を躍らせていて顔を見るからに楽しみなのが分かるけど、まだ愛と璃奈ちゃんには同好会が分裂してしまった話はしていないから、それを聞いて二人がどう思うか⋯⋯。

 

「愛ちゃんは鋭いね〜」

 

「分かってはいるんです⋯⋯私達が先に考えなきゃいけない事は⋯⋯」

 

「えっ?どういう事?」

 

「実はね、さっき俺が隠れていた事で説明したけど、それにはもう少し複雑な事情があったんだ」

 

俺達は、さっき説明しなかった同好会の分裂の経緯を愛と璃奈ちゃんに説明した。二人は俺達の話を真剣な様子で聞き続けてくれた。

 

「それでこの事情があった事を踏まえると、基本はソロアイドルっていう事になるんだよ」

 

「一人でステージに立つ⋯⋯」

 

「ちょっと考えちゃうよね〜。グループなら皆で協力し合えるけど、ソロだと誰にも助けてもらえないからね〜⋯⋯」

 

「あっ⋯⋯」

 

愛は彼方さんの言葉を聞いて何かに気付いたのか、さっきまでの明るい表情ではなくなった。

 

「正直⋯⋯不安です。皆さんに喜んでもらえるだけのものが、私一人にあるのでしょうか⋯⋯」

 

「そう簡単には決められないですね⋯⋯」

 

「うん。俺も難しい課題だと思ってる」

 

きっと部室に残っているせつ菜とかすみちゃんも、同じような話をしているのではないかと俺は思った。

 

この後もう時間も遅い事もあって、このまま解散する事にして、ソロアイドルでどう活動するかを各々が考える事になった。

 

そして、俺はシュウに頼まれた通り、歌奏ちゃんを家まで送る為に皆と別れて二人で帰る事にした。

 




今回はここまでとなります。

更新まで間が空いてしまい、すみませんでした。出来るだけ早めに更新できるように頑張りますので、よろしくお願いします。


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第28話 久しぶりの⋯⋯

「やっほー、飲み物がないと思って持ってきたよ」
「ありがとうございます、春輝さん」
「調子はどう?いい感じ?」
「いい感じだよ。ボク達なら余裕さ。ところでハルキは飲み物は何を持ってきたんだい?」
「えっとね⋯⋯まずは緑茶でしょ。それから烏龍茶にコーラ、オレンジジュース、紅茶だよ」
「謝謝、ハルキ!ランジュ嬉しいわ!」
「喜んでもらえたのなら何よりだよ」
「では、休憩前に始めましょうか」
「大空に映る虹色の光、第28話」
「「「スタート!!」」」



 

今は皆と別れて、歌奏ちゃんを家まで送っている途中。

 

「今日は楽しかったですね」

 

「楽しかったね。でも、それだけじゃなくて新たな課題も見つかったね」

 

「これから皆とソロアイドルとしての課題に挑む事になるんですね⋯⋯」

 

俺達マネージャーはアイドルではないけど、他人事ではないから一緒に悩むのは当然だと思っている。歌奏ちゃんも同じ風に思っているのか、少し黙り込んでしまった。

 

「ところで話が変わるんですけど、ハルさんって今週の日曜は予定空いてたりしますか?」

 

「今週の日曜?うん、大丈夫だけど⋯⋯?」

 

「それなら相談事があるので、私の家に来てくれませんか?」

 

「えっ!?いいけど⋯⋯行っても大丈夫なの?」

 

俺が行くのって、色々と問題があると思うんだよ。歌奏ちゃんはシュウと付き合っているし、それなのに俺が行くのは何かと問題が⋯⋯でも相談事が大事なことだったら⋯⋯どうしたらいいんだ⋯⋯。

 

「はい。シュウくんは演劇部でいませんし、そもそもシュウくんには秘密なので」

 

「そ、そうなんだ⋯⋯」

 

いや、さらに行きづらいんだけど?!最悪、シュウに断わってから行こうかと思ったのに、それが出来ないとは⋯⋯。

 

「もしかして嫌ですか⋯⋯?」

 

「嫌ではないけど⋯⋯シュウに悪いかな〜って」

 

ああ!やめて、やめて!!そんなにうるうるした目で、こっちを見ないで!俺はそういうのに弱いから!!

 

「大丈夫です!相談と言いましたけど、別れ話とかではないので心配はないですよ!」

 

「そ、そっかぁ〜、なら⋯⋯いいよ。日曜日だね?」

 

「はい!お待ちしてます!それでは家に着いたので、ここでお別れですね。送ってくれてありがとうございました!」

 

「うん。また明日、同好会で!」

 

「はい!」

 

歌奏ちゃんは笑顔で返事をして、家の中へと入っていった。それを見送ってから、俺も自宅への帰路についた。

 

 

*****

 

 

歌奏ちゃんの家から自分の家まで、だいたい半分くらいのところまで歩いてきたところで、髪型がツインテールで少し癖っ毛の見覚えのある女の子の後ろ姿が見えた。

 

あれは東雲の制服を着ているから、間違いなく遥ちゃんだな。そういえば、なんだかんだで遥ちゃんが東雲に入学してからまだ一回も会えてないな⋯⋯よし!びっくりするかもしれないけど、声を掛けてみよう!

 

俺は後ろから早歩き気味に近づき、名前を呼びながら左肩を軽く叩くと遥ちゃんは少し驚いた様子でこっちを向いた。

 

「はーるーかちゃん!」

 

「ひゃっ!?⋯⋯は、春輝くん!?どうしてここに?!」

 

「驚かせてごめんね!ちょっと用事があって、それが終わって家に帰ってる途中で遥ちゃんが歩いてるのが見えたから、声を掛けてみたんだよ」

 

「そうだったんだ。も〜!少しびっくりしちゃったよ!」

 

「そんなに驚かせるつもりはなかったんだけど、本当にごめんね?」

 

遥ちゃんは本当に驚いたようで、頬を少し膨らませている。

 

久々に遥ちゃんが頬を膨らませているのを見た気がするな。遥ちゃんにはちょっと悪い事しちゃったけど、良いものが見れた気がする。

 

「ふふっ、謝らなくても大丈夫だよ!私怒ってないよ。ちょっと仕返ししただ〜け!」

 

「そういう事かぁ〜、これは遥ちゃんにしてやられちゃったな〜」

 

遥ちゃんとこういうやり取りをするのも久々だから、普通に怒っているのかと思ったけど怒ってないようで良かった。

 

「それより、この前はありがとうね」

 

「ん?この前?」

 

「お姉ちゃんからこの前聞いたよ。私によろしくって」

 

「ああ!その事ね!遥ちゃん、改めて入学おめでとう!」

 

「ありがとう、春輝くん!」

 

ごめんね、遥ちゃん。言った本人はすっかり忘れていたよ。何せ、ここ最近の事で頭がいっぱいになってたからね。改めて、直接おめでとうを伝えられて良かったな。

 

「ところで、春輝くん⋯⋯さっき場所で曲がらなくてよかったの?」

 

「うん。今日は帰っても一人だし、余程遅くならなければ大丈夫だから遥ちゃんを家まで送ろうかなって⋯⋯もしかして、迷惑だった?」

 

「ううん!迷惑な事なんてないよ!!むしろ、久しぶりに一緒に帰れて嬉しいし⋯⋯そうだ!春輝くん、うちで一緒にご飯食べていかない!?お姉ちゃんに聞いてみる!」

 

「えっ?あっ、ちょっと!⋯⋯行動早いな」

 

遥ちゃんは迷惑じゃないと、首と手の両方を振って大丈夫だと言って、さらに一緒にご飯を食べようと彼方さんに電話をかけ始めた。

 

俺は流石に気が引けるから断ろうかと思ったが、断ろうとした時には既に遥ちゃんは電話を繋げていた。正直、止めても良かったけどここまで来たら、流れに身を任せた方がいいかなと思ってしまった。

 

「うん、分かったよ!ありがとう、お姉ちゃん!」

 

「それで⋯⋯彼方さんはなんて?」

 

「何があっても連れてきてだって!という事で一緒に来てくれる?」

 

「分かったよ。そこまで言われたら仕方ないかな」

 

「やったー!久しぶりに春輝くんとご飯だー!」

 

うん、逃げ場なんてなかった。彼方さんは普通に止めてくれるかと思ったけど、そんな事はなかった⋯⋯むしろ乗り気だった。

 

まあ嫌ではないし、普通に嬉しいからいいんだけどね⋯⋯?

 

「そうだ。それならせっかくだし、遥ちゃんのお祝いにケーキでも買おうか!」

 

「ええっ!?そんな悪いよ!」

 

「いいの、いいの。今日の夕食分のお金は、余ったら好きに使っていいって母さんに言われてるし。それならこういう事に使わないとね?」

 

遥ちゃんは悪いと思って遠慮してしまっているけど、これは俺自身がそうしたいと思っているから大丈夫と伝えて、遥ちゃんの頭をポンポンとした。

 

「あっ⋯⋯懐かしい⋯⋯久しぶりだね、こうしてくれたの」

 

「そうだね。最後にやってあげたのはいつだっけ?」

 

「私が中学2年の時だよ!お姉ちゃんも春輝くんも卒業しちゃって寂しかったんだからね⋯⋯」

 

遥ちゃんは寂しかったのを思い出したのか、俺の右手を軽く握ってきた。

 

そうだった⋯⋯彼方さんが1年前に卒業して、俺の卒業式の日に会った時に涙目になってたんだよな⋯⋯それを慰める為に、頭をポンポンとしてあげたのが最後だったか。

 

 

「そうだったね、忘れててごめん」

 

「ううん、思い出してくれたからいいよ」

 

「ありがとう。⋯⋯よしっ!ケーキを買って帰ろっか!」

 

「うんっ!」

 

俺と遥ちゃんは、リーズナブルで美味しいケーキ屋さんで彼方さん、遥ちゃん、自分、そしてママさんの分を買って近江家へと向かった。

 

 

*****

 

 

他愛もない会話をしながら歩いてたら、あっという間に玄関まで辿り着いた。

 

「お姉ちゃん、ただいま〜」

 

「お邪魔しま〜す」

 

「二人ともおかえり〜、待ってたよ〜」

 

玄関を開けて部屋にいる彼方さんに声を掛けると、部屋のドアを開けてその隙間から顔を出して返事をしてくれた。

 

「お姉ちゃん、何か手伝う事ある?」

 

「ううん、大丈夫だよ。遥ちゃんは先にお風呂入ってきていいよ」

 

「うん、分かった」

 

おお、これが近江姉妹のやり取り⋯⋯昔も見たけどあれから何年も経ってるから、やり取りに成長や時の流れを感じる。

 

遥ちゃんは彼方さんに言われた通りにお風呂場へと行き、俺はその場に立ち尽くしていた。

 

「あっ、そうだ!彼方さん、ケーキ買ってきたから夕食の後に食べよう!ちなみに、ママさんの分も買ってきてあるよ」

 

「えぇっ!?ケーキなんてどうしたの?!」

 

「お邪魔する事だし、せっかくだから遥ちゃんの入学祝いって事で買ってきたんだ〜」

 

「ハルくん、ありがと〜!!あっ⋯⋯お金⋯⋯!」

 

「それはいいよ。今日は遥ちゃんのお祝いだからね?」

 

彼方さんはケーキの代金の事にすぐに気付き、お財布を取りに行こうとしたけど、俺はそれを制止して彼方さんを説得した。

 

「⋯⋯分かったよ。お言葉に甘えさせてもらうね?それじゃあ、ケーキは一旦冷蔵庫に入れておくよ〜」

 

彼方さんは若干渋い顔をしたものの、ちゃんと受け入れてくれたみたい。

 

「彼方さんは、これから夕食の盛り付けをするの?」

 

「そうだよ〜、ハルくんはゆっくりしてていいからね〜」

 

そう言って彼方さんは、台所の方へ行き準備を始めた。

 

だけど、俺はただ待っているというのが正直嫌だ。客人として来ているのは分かっているけど、それでも何かを手伝いたいと思ってしまう。

 

「いいや、俺も手伝うよ。昔は遊びに来た時はお手伝いしてたでしょ?」

 

「もぉしょうがないな〜。はい、じゃあこれにご飯よそってもらっていい?」

 

「分かった。任せてよ!」

 

彼方さんから差し出されたお皿を受け取り、炊飯器の中のご飯をお皿一枚ずつによそっていく。夕食のメニューを聞いていなかったけど、部屋の中に漂う匂いとこの状況を見るとどうやらカレーらしい。

 

「なんだか懐かしいねぇ〜。小、中学生の時はよくお互いの家で宿題やったりしたよね」

 

「やってたね。特に土、日はそのまま遊んだよね」

 

本当に懐かしいな〜。もう彼方さんと遥ちゃんと出会ってから7年くらいか。

 

知り合ったきっかけは、昔俺が大型犬に吠えられて動けなくなってた時に、通りかかった二人が助けてくれたのが始まりだったな。この事があって俺は犬全般が苦手なんだ。特に大型犬、アレは本当に怖い⋯⋯。

 

あの頃は、まだ弱虫だったからすぐに泣いてたりしたっけ。さすがに今は犬に吠えられても、泣いたりはしないけどビビったりはする。

 

「遊んだね、時々双子ちゃんも一緒だったね〜。そういえば、ハルくんには双子ちゃんから連絡来てるの?」

 

「それが⋯⋯二人とも俺と連絡取ると会いたくなるから連絡しないって言われてて⋯⋯」

 

「そうだったんだね。彼方ちゃん達のところには、時々電話が来てお話してるよ〜。この前も連絡が来て、近々こっちに戻ってくるって言ってたよ」

 

そっか⋯⋯遂にあの二人が戻って来るのか。二人がパパさんの転勤で九州に行ってからもう3年か⋯⋯そのうち戻ってくるとは言ってたけど、このタイミングとはね。

 

「そっか。二人とも元気そうだった?」

 

「うん!相変わらず元気そうだったよ〜。さすが従姉妹だから、同じ事を聞くんだね〜」

 

彼方さんの言う通り、その双子と俺は従姉妹の関係で父さんの妹の陽菜さんの子供という訳だ。歳は俺の一つ下、つまり遥ちゃんと同い年だ。

 

「えっ?二人も同じ事を聞いたの⋯⋯やっぱり似るのかな?」

 

「かもね〜。そういえば、ハルくん家に来てから敬語抜けてるの気付いてる?」

 

えっ?まさか⋯⋯⋯⋯いや、抜けてるわ。あちゃ〜、昔の喋り方になってたか⋯⋯。

 

「ごめんなさい、彼方さん。懐かしさで敬語抜けてました」

 

「ううん!彼方ちゃんは、敬語じゃない方が好きだからいいんだよ〜」

 

「もしかして⋯⋯今まで敬語で喋っていた事、気にしてたりする?」

 

「実はちょっと気にしてたんだよ。ハルくんが成長したから、あえて敬語を使ってる事は分かっているけど、でも彼方ちゃんは距離を取られたみたいで悲しかったんだよ?」

 

彼方さんはそう言って、俺の顔を上目遣いで見てきた。

 

うぅ⋯⋯良かれと思って彼方さんにも敬語を使ってたけど、それがあまり良く思われたなかったとは⋯⋯これからは前と同じに戻そうかな。

 

「ごめん!じゃあ彼方さんには前と同じ話し方にするよ」

 

「やったー!ついでに呼び方も戻してほしいな〜?」

 

「そ、それは⋯⋯⋯⋯善処するよ、かなちゃん⋯⋯」

 

「うんっ!かなちゃんだよ〜!」

 

あー!!!恥ずかしい!!中学まではこの呼び方で呼んでたけど、今となっては本当に恥ずかしいんだけど!?

 

ほら!!かなちゃんも横でニヤニヤしてる!!学校でこの呼び方はハードル高いなぁ⋯⋯。

 

かなちゃんと話しながら、夕食の準備していたら意外と時間が経っていた。

 

そして準備が終わると同時くらいに、タイミングよく遥ちゃんもお風呂を済ませて部屋に戻ってきた。

 

それから3人で食卓を囲み、かなちゃんの特製カレーに舌鼓を打った。

 

食事を終えて一度食器類の片付けを3人で行い、終わらせてから冷蔵庫からケーキを出してテーブルに並べた。

 

ちなみにケーキは、俺がチョコレートケーキ、かなちゃんがレアチーズケーキ、遥ちゃんがイチゴのショートケーキを選んだ。ママさんのケーキは、遥ちゃん曰くモンブランが好きとの事なので、モンブランを選んである。

 

「それでは改めて、遥ちゃん入学おめでとう!」

 

「おめでとー!」

 

「二人ともありがとう!」

 

かなちゃんが音頭を取り、それに続いてお祝いした。遥ちゃんは笑顔でお礼を言って頭を下げた。

 

遥ちゃんのお祝いを済ませて、それぞれ自分のケーキを食べ始める。

 

「「「ん~~、美味しい!」」」

 

それぞれケーキを一口食べた時に、丁度同じ言葉が出た。ただ言葉が同じなだけで仕草は違った。俺は目を瞑り少し上を向き、かなちゃんはほっぺに手を当てていて、遥ちゃんは口に手を当てていた。

 

「遥ちゃん、レアチーズケーキ一口食べる?」

 

「一口だけもらっちゃおうかな〜」

 

「それなら俺のチョコレートケーキも一口どう?」

 

「じゃあこの際、皆でケーキをシェアしよう?」

 

「「さんせ〜い」」

 

遥ちゃんの提案により、三人でケーキをシェアして食べる事にした。その結果、ケーキはあっという間に食べ切ってしまったけれど、三種類のケーキを味わう事が出来たので満足だ。

 

食べ終わった後、かなちゃんがお茶を淹れてくれて、それを飲みながら遥ちゃんに聞きたい事を聞く事にした。

 

「そうだ、遥ちゃん。東雲のスクールアイドル活動はどうなの?」

 

「大変な事もあるけど、凄く楽しいよ!やりたい事を出来るって凄く大切だと思うよ。春輝くんとお姉ちゃん達はどうなの?」

 

「こっちは⋯⋯今全員が課題と向き合ってるところだよ」

 

「課題?」

 

「うん。彼方ちゃん達はソロで活動するから、皆ちょっと不安でね⋯⋯」

 

「そうなんだ⋯⋯ところで、春輝くんはスクールアイドルやらないの?」

 

「そうそう!彼方ちゃんもそれ気になってたんだ〜。それでどうなの?」

 

なんか急に話の矛先が、俺に向いたんだけど?俺がスクールアイドルか⋯⋯⋯⋯考えた事はあるけど、あんまりって感じなんだよね〜。

 

「うーん⋯⋯興味はあるけど、まだやってみたいとは思えないんだよね⋯⋯」

 

「そっか⋯⋯ちょっと残念だな〜、春輝くんアイドルやったら絶対カッコいいと思うんだけどな〜」

 

「うんうん、彼方ちゃんもそう思うよ。ハルくん、昔彼方ちゃん達に付き合って、踊っていた時カッコ良かったもん!」

 

また懐かしい話を持ってきたね〜。あの頃は二人と遊ぶのが楽しかったから、つい自分なりに踊ってたりしてたな。

 

「ほら、スクールアイドルは遊びじゃなくて真剣にやるものだからね?だからこそ、今はまだって感じなんだよ」

 

「そうだね〜、でも『まだ』って事は彼方ちゃん達の活動を見て、やる気になるかもしれないって事だよね?」

 

「それなら今度東雲でライブやるから、お姉ちゃんと一緒に見に来てよ!」

 

「絶対見に行くよ!遥ちゃんのステージは見逃せないからね!」

 

「それはもちろん見に行くよ!いつか遥ちゃんがセンターのライブも見たいな〜。あっ、でも遥ちゃんなら近い内にセンターに選ばたりして?」

 

「1年生でセンターになる事はないと思うけど⋯⋯そうなるように頑張るね!」

 

「楽しみに待ってるよ」

 

遥ちゃんは凄いな。まだ入って少しくらいしか経ってないのに、こんなにも意欲的なんだもん。俺達も遥ちゃんに負けない様に、最初の一歩を踏み出す必要があるな。

 

その為にも、俺は出来る事を精一杯やって皆を支えられるようにしないと。

 

 

それからも会話は続き、一口お茶を飲んだ時に時計が視界に入った。時計はまもなく20時30分を指そうとしていた。

 

「そろそろ時間もいいし、お暇しようかな」

 

「そうだね、明日も学校だからね〜」

 

帰る支度を済ませて玄関まで移動すると、二人も一緒に玄関まで来てくれた。

 

「じゃあ、今日はごちそうさまでした。久々に一緒にご飯を食べれて嬉しかったよ!」

 

「ううん、私の方こそ急に誘ったのにありがとうね。また遊びに来てね!あと、学校でお姉ちゃんの事よろしくお願いします」

 

「彼方ちゃんもいつでも待ってるよ〜。また明日もよろしくね〜」

 

「うん。それじゃあ、お邪魔しました。バイバーイ!」

 

「「バイバーイ!」」

 

最後に手を振り合ってから、玄関の外に出て真っ直ぐに帰路についた。

 

 




今回はここまでになります!

今回はちょっとアニメ1期4話の内容の途中ですが、この展開をやっておきたいと思い書かせていただきました。今回のお話の中にも挙がりましたが、オリジナルの新キャラがあと2人登場します。登場時期はもう少し先になりますが、登場した際には活動報告でオリジナルキャラ5人のプロフィールを公開予定なので、もう少しお待ちください。

これからもよろしくお願い致します。


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第29話 悩める彼女

「じゃあ休憩にしよう。飲み物は⋯⋯ミアちゃんはコーラで、ランジュは紅茶、栞子は緑茶で大丈夫そう?」
「さすがハルキ、よく分かってるね。でも僕は先輩だぞ、ミア先輩だろ?」
「そうだったね、ミアちゃん先輩!」
「だからちゃんはやめろって!」
「春輝さん、からかい過ぎるのは良くないですよ」
「ごめん、ついミアちゃんが可愛くてね⋯⋯」
「それに関しては私も同意します」
「ちょっ!栞子まで!?」
「そうね!ミアは可愛いものね!ランジュも好きよ!もちろん、ハルキや栞子の事もよ!」
「ランジュまで乗るなよ!!」
「ありがとうございます、ランジュ。私も好きですよ」
「ありがとう、そう言ってくれて嬉しいよ」
「もー!僕はこの中で一番先輩なんだぞー!!」
(((やっぱり可愛い)))
「という事で第29話スタートです」
「何がという事でだよ!?」


 

今日は約束通り同好会に行く前に、バスケ部の助っ人に行く日で、今は着替えて体育館へ向かっているところだ。

 

今日の紅白戦は男子、女子ともに1年生に動きを見て覚えてほしいという事で企画されたものらしい。それで俺と愛はそれぞれ声が掛かったというだ。

 

試合での動きを見てから実践してみた方が覚えやすいと思うからね、こういう事には同好会の活動に支障が出ない程度で、出来るだけ協力するよ。

 

「お疲れ〜」

 

「おう!春輝悪いな、急に助っ人頼んじまって」

 

「全然大丈夫だよ。それより皆もう揃ってるの?」

 

「ああ⋯⋯揃ってる事には揃ってるが⋯⋯」

 

バスケ部で部長をしている友達は歯切れの悪い返答をすると、ウォーミングアップをしている女子バスケ部の方に目線を向けた。

 

「女子の方がどうかしたの?」

 

「女子達というより宮下さんの様子が変でな⋯⋯何か心当たりあるか?」

 

「愛の様子が変⋯⋯?特に心当たりないけど、具体的にどう変なの?」

 

「何か考え事をしているような感じで、若干上の空なんだよ」

 

愛が何かに悩んでるって事か⋯⋯?うーん、昨日はそういう感じではなかったけど⋯⋯。

 

 

あっ⋯⋯もしかしてソロ活動になるって事で、それで悩んでたりするのか?

 

「ごめん、やっぱり心当たりあった。でも、これはすぐに解決出来そうにないから何とも言えないかな。練習が始まりさえすれば、愛も集中するはずだから大丈夫だと思うけど⋯⋯」

 

「そうか、要するに同好会絡みって事か。なら、俺達にどうこう出来そうにないな」

 

「とりあえず⋯⋯俺達もウォーミングアップする?」

 

「よし!春輝も来たし、俺達も紅白戦に備えてウォーミングアップするぞ!」

 

「「「はい(おう)!」」」

 

部長の指示に皆はやる気の満ちた返事をして、俺達もウォーミングアップを行った。

 

 

 

 

 

男女共にウォーミングアップを終えて、いよいよ紅白戦が始まった。

 

最初は動きの確認が丁寧に行われ、1年生達はその動きを見てメモを取ったりして覚えようとしていた。

 

ある程度動きの確認が終わったところで、いよいよ試合形式での練習に移行した。俺は来た時に話された事で愛の事を心配していたけど、やはり今は動きに遅れは見受けられないから大丈夫だと思った。

 

だが⋯⋯それが間違いだった。

 

紅白戦も始まってから時間が経ち、第4Qに差し掛かっていた。試合が進むにつれて、愛の動きに多少の遅れが目立つようになってきていた。ただ、ここで試合の流れを切る訳にもいかず試合を続行していた。

 

そして女子側がゴールを外し、ボールがコートの外に出て男子側のボールで試合を再開する時に事は起きた。

 

エンドラインよりスローインで再開される時に、スローインでパスが通ったところは問題なかった。この際に俺は指示によりスローインと同時に相手ゴールに向かい走っていた。

 

そして愛はこの時に少し反応が遅れ、走り出すのが遅れていた。いつもであれば、ほぼ同時に動き出してしっかりとマークしてくるのに、ここで集中しきれていなかったのが仇になった。

 

そしてスローインを受け取った味方が、いよいよ俺へのロングパスを出す時にボールから手が滑ったらしく、俺の元ではなく愛の方へ勢いよく飛んでいった。

 

俺はスローインの様子を見ていたからすぐに気付いたが、愛は俺に追い付こうと必死だった為、気付くのが遅れていた。

 

「宮下さん危ない!!」

 

「えっ⋯⋯?」

 

パスを出した男子が声を上げると、愛もボールが迫っているのに気付いた。ただ、ここでボールの方を向いてしまったのがまずかった。もうボールはほぼ目と鼻の先で、このままでは顔に当たるか防いでも腕を負傷する可能性があった。

 

この時既に俺の身体は、ボールと愛の間に割って入ろうと全力で走っていた。

 

ほぼゴール下からコートの真ん中近くまで戻った頃には、もうすぐ当たるところまでボールは迫っていた。そこで俺は右腕を思いっきり伸ばして、ボールをコートの外へ平手で弾き飛ばした。今回は1年前と違い、誰も負傷せずに済んだ。

 

強いて言うなら、ある程度勢いのあったボールを弾いた俺の手は少し痺れていた、ただそれだけの事だった。

 

「大丈夫か!?」

 

「うん、こっちは大丈夫だよ」

 

「良かったぜ。本当にすまなかった⋯⋯」

 

「ケガもないし気にしなくていいよ」

 

パスを出した男子が俺達に怪我の有無を聞いてきた。俺はそれに無事だと返すとその男子は安堵の表情を見せた。

 

「それより愛⋯⋯ちょっといいか?」

 

「うん⋯⋯いいけど⋯⋯」

 

せっかくというか、もうこの際あと少しで終わるから言った方がいいな。それが愛の為でもあるからね。

 

「たぶん昨日の事で悩んでるでしょ?」

 

「⋯⋯分かっちゃう?」

 

「当たり前だよ。明らかに動きは遅れてるし、今のだっていつも通りなら普通に避けれたはずだよ?」

 

「うん⋯⋯ごめん」

 

愛も自分が悪い事は自覚しているはずだから、怒っている雰囲気を出さないようにしないとな。別に怒っている訳じゃないけど。

 

「そこまで愛が、スクールアイドルについて考えてくれてるのは俺も嬉しいよ。でもさ、ここで怪我をしたりして支障が出たら元も子もないと思う」

 

「うん⋯⋯」

 

「だから、試合の間だけでも考えるのはやめた方がいい。後で俺も一緒に考えてあげるからさ」

 

「分かった⋯⋯ごめんね、ハルハル。迷惑かけちゃって」

 

「いいよ。結果的に何もなかったんだから。ほら、あと数分はいつも通りのプレーを見せてよ!」

 

「うん⋯⋯!愛さん全力出しちゃうぞー!」

 

とりあえず、愛の気持ちも上を向いたっぽいしこれで安心かな。さてとあと数分は俺も気が抜けなくなったな。

 

このあと再開した試合は残り時間数分ながら、いつもの調子に戻った愛を中心に女子たちが連携で得点を重ね、最終スコアは俺達が勝ったもののほぼ僅差まで迫っていた。

 

 

*****

 

 

試合が終わった後、俺と愛は皆に挨拶をして一足先に体育館を後にして、同好会の部室へと向かった。

 

向かう途中の会話は、ほぼ雑談がメインだった。これは愛の方が俺に気を遣ってくれたのかもしれない。

 

そして部室に到着して、ドアを開けると他の皆は何人かでまとまって別々の場所で練習しに行っているらしい。部室のホワイトボードにそれぞれの行き先が記されていた。

 

「そっか、皆はしばらく戻ってこないのか。丁度一対一で話をしたかったからタイミングは良かったかも」

 

「そうだね。じゃあ愛さんの相談に乗ってもらっていい?」

 

「うん。元々その約束だからね。えっと、飲み物は紅茶でいい?」

 

「ハルハルのお任せで!」

 

相談を聞くという事なので、俺は飲み物を用意した。部室にはコーヒーも紅茶もあるけど、今の気分は紅茶だったので紅茶を選んだ。

 

紅茶を用意して愛に紅茶を淹れたマグカップを渡して、俺は自分の紅茶の淹れてあるマグカップを持って椅子に座った。

 

「それで愛は自分なりのスクールアイドルについて悩んでるのかな?」

 

「うん。スポーツには必ずルールがあって、テストにも必ず答えがあるでしょ?でも、スクールアイドルの正解は人それぞれ⋯⋯そう思ったら愛さんの正解ってなんだろうってなってさ⋯⋯」

 

「なるほど。確かにかすみちゃんも、スクールアイドルはファンに喜んでもらえるなら全て正解って言ってたからね。そう言われると難しいね」

 

「でしょでしょ!それでハルハルなら、愛さんはどんなスクールアイドルになれると思う?」

 

愛がなりそうなスクールアイドルの姿か⋯⋯あまりここで具体案を出すのもアレだから、イメージを伝えてみようかな。

 

「あくまでイメージだけの話になるけど、愛はいつもニコニコ笑顔で元気ってイメージがあるかな」

 

「ハルハルには愛さんがそういう風に見えてるんだね!ありがとっ!」

 

「あくまでイメージを言っただけだよ。何の解決にもなってないから、お礼を言われる事じゃないと思うけど?」

 

「いいの、いいの!少しハルハルからのイメージを聞いて、少し見えてきた気がするよ」

 

「それなら良かったよ。適当な事を言ってるように聞こえるかもだけど、深く考えすぎずに感じたままでいいんじゃないかな?」

 

「うん、分かった。もう少し力抜いて考えてみるね。よーし!練習やるぞー!」

 

愛は気合いを入れると残っている紅茶を飲み干して、少し急ぎ気味に部室から出ていった。俺も残っていた紅茶を飲み干して、ポーチを持って愛の後を追いかけた。

 

さてと、これでなんとか愛の理想のスクールアイドル像が少しイメージ出来ただろうから、この調子でしっかりとイメージが固まるように俺も何か出来るといいな。

 

 

*****

 

 

「やっほー!」

 

「お疲れ〜」

 

俺と愛は校舎の外へと移動して、ランニングに出ていたメンバーと合流した。ちなみにランニングに出ていたのは、エマさん、かすみちゃん、しずくちゃん、璃奈ちゃんで、サポートに歌奏ちゃんがいた。

 

「ハルさん、愛さんお疲れ様です!」

 

「もしかしてこれから走るの?」

 

「そうだよ。愛さんまだ走り足りなくてさ」

 

「で、俺はそれの付き添い」

 

休憩していた5人に声をかけると、歌奏ちゃんが真っ先に気付き挨拶を返してくれた。璃奈ちゃんは、俺と愛の服装を見て走るのかを聞いてきた。

 

「わざわざハル先輩も走るんですか?」

 

「うん。せっかくだから俺も付き添いがてら走ろうかなって」

 

「お二人ともお疲れじゃないんですか?」

 

「大丈夫!少し休憩してきたし、思いっきり走っちゃうよー!」

 

「でも二人とも無理はしちゃダメだよ?」

 

「はい、そこは俺が気を配るので安心してください!エマさん、ありがとうございます」

 

かすみちゃんは俺も走る事に驚き、しずくちゃんとエマさんは心配をしてくれたりと、それぞれ違う反応をした。

 

「時間も惜しいし、そろそろ走りに行こうか?」

 

「そだね!それじゃあいってきまーす!」

 

「「「いってらっしゃーい!」」」

 

俺と愛は皆に手を振りながら走り出すと、皆は手を振りながら送り出してくれた。

 

俺は愛より少し遅いくらいのスピードを維持して、愛の少し後ろを追従している。

 

やはり愛は普段からランニングしているのもあって、ペースは早めだが一定のペースを保っている。明らかに考えて事をしていた時とは違うのが分かる。

 

 

*****

 

 

しばらく走って信号で並んで立ち止まった時に、愛は突然何かを探し始めた。

 

「あれ〜?おっかしいな〜、タオル持ってきたはずだけど」

 

「部室で休憩した時テーブルに置いて、そのまま忘れてきたんじゃない?」

 

「あちゃー⋯⋯部室に戻るまではこのままかぁ⋯⋯」

 

愛の様子を見て、俺はポーチから予備で持ってきていたタオルを取り出した。

 

「はい、このタオル使いなよ」

 

「えっ?これってハルハルのでしょ?」

 

「そうだけど、心配はいらないよ。まだ使ってないし綺麗だから⋯⋯」

 

「そうじゃなくて!それはハルハルが使うべきでしょ?」

 

「気にしなくていいよ。俺は愛の後ろを走ってたから、そこまで汗をかいてる訳じゃないから。」

 

「でも⋯⋯本当にいいの?」

 

「うん、全然気にしなくていいよ」

 

愛は俺が持ってるタオルを見ながら、少し考えるとタオルを手に取った。

 

「分かった、それじゃあ使わせてもらうね。もちろん、ちゃんと洗って返すから!」

 

「うん、別に急がなくていいからね」

 

こんなやり取りをしている間に、信号は青になり俺達はまた走り出した。

 

信号を渡りきったところで、俺はある事を思い付きそれを愛に提案してみる事にした。

 

「そうだ!学校まであと少しだから勝負してみない?」

 

「いいよー!愛さんまだ体力残ってるから負けないよ!」

 

「そうこなくっちゃ!よし、じゃあこのままスタートでいい?」

 

「いいよ!負けた方は飲み物奢りで!」

 

「いいね、燃えてきたよ!じゃあ、よーい⋯⋯スタート!」

 

俺の合図で愛も速度を上げ、俺も追従していた時のスピードよりも速度を上げほぼ並走くらいになった。

 

距離にしておよそ1km、お互いコンディションは悪くない。勝負を決めるのは体力とスピードだ。

 

 

 

 

 

俺と愛は学校へ到着し、近くのベンチで座って休んでいる。結果はというと⋯⋯。

 

「愛さんの勝ちぃ!ハルハル惜しかったねー」

 

「あー⋯⋯油断してたわけじゃないけど、まさか愛の体力が想定以上とは思ってなかったよ」

 

「普段から助っ人してるからね〜、自然と体力ついたんだよね」

 

「まあ負けは負けだから、何か買ってくるよ。愛は何がいい?」

 

「いいって、いいって!ハルハルを本気にさせたかったから、言ってみただけだから」

 

つまり、愛に乗せられたって事か⋯⋯勝負を持ち掛けたのは俺だけど。

 

でも納得いかないな〜。どうしたらいいか⋯⋯⋯⋯そうだ!いい考えが浮かんだ!

 

「それならちょっと待ってて。自分の分買ってくるから」

 

「はーい」

 

それじゃあ作戦開始!

 

まずは自販機で水を2本買って、それを持ってこっそりと愛の座ってるベンチに近づく。

 

愛の背後から顔に冷たいペットボトルを軽く当てた。

 

「ひゃんっ!?」

 

「うおっ!びっくりしたー⋯⋯」

 

「もうびっくりしたのは、愛さんの方だよ!」

 

「ごめん、ごめん、ちょっとしたドッキリ。はい、俺からのプレゼント」

 

「えっ?愛さんに⋯⋯?」

 

あくまでドッキリは建前みたいなもので、真意は勝負に乗ってくれた事への感謝だからね。

 

「そう。これはプレゼントだから、さっきの勝敗とは関係ないから受け取ってよ」

 

「そういう事なら!ありがとう、ハルハル!」

 

俺は再びベンチへ座り、愛ともう少し休憩してから部室に戻った。

 

 

*****

 

 

数日が経ち、週末がいよいよ近づいてきた。かすみちゃんから同好会のグループに、土曜のランニングについてのメッセージがあった。明日のランニングは、9時にレインボー公園集合との事。

 

開始時間まで余裕あるから、最近あまり走ってなかったから先に少し走ってみようかな⋯⋯そうだ、愛も誘って一緒に走ってもいいかも。

 

とりあえず連絡しよう。

 

『明日の朝、皆より先に少し走りに行かない?』

 

メッセージはこれでいいかな、送信っと。

 

メッセージを送信してから、しばらく別の事をしているとスマホに通知が来た。

 

どれどれ⋯⋯。

 

『オッケー!じゃあ8時頃にレインボー公園に集合で!』

 

『了解』

 

これでよし。今日は明日に備えて早く寝よう。

 

 

 

 

昨晩はしっかりと睡眠を取り、7時に目覚ましの音で起きる事に成功した。

 

 

リビングへ行くと、母さんはいつも通り起きているのはわかっていたが、意外にも休日はゆっくり起きる派の父さんが起きていた。

 

「あれ?珍しいね、父さんが早く起きてるなんて」

 

「まあな、ちょっと今日は朝からやりたい事があってな」

 

そう言った父さんはソファの上に置いてあった物を手に取って、俺に見えるように掲げてくれた。父さんが掲げたのは、学生時代から愛用しているベースだった。

 

「もしかして、またベース引くの!?」

 

「それもあるけど、ちょっとメンテをしようと思ってな。しばらく弾いてなかったから色々とチェックしないとな、それに俺の為だけじゃなく、春輝にも弾いてほしいからメンテをしようと思ったんだ」

 

「もう3年近く弾いてなかったから、そろそろ弾きたいなぁ〜とは思ってたけどいいの?」

 

「もちろんだ。それにこれからは俺よりも春輝の方が弾く機会が増えると思うぞ」

 

「そういう事なら使わせてもらおうかな。でも父さんのベースも今度聞かせてよね!」

 

「もちろん、その時は期待に応えてやるさ!」

 

実は父さんから昔ベースの弾き方を教えてもらって、それ以来練習して弾けるようになったけど、当時使ってたベースは訳あって今は手元にないのでしばらく弾いてなかった。

 

弾けると言ってもガッツリやってた訳ではないから、そこまで上手いとは言えないけどある程度は出来てるはず。

 

それはともかくご飯食べて準備しないと!

 

俺は母さんが用意してくれた朝ご飯を食べ、着替えや歯磨きなど諸々の事を済ませて準備を整えた。

 

ランニング用のポーチを身に着け、玄関でいつものスニーカーではなくランニングシューズを履き、途中で解けないように靴紐を結び直した。

 

これでよし⋯⋯行こう!

 

「いってきまーす!」

 

「気を付けてねー!」

 

「いってらっしゃい!」

 

母さんと父さんに挨拶をして、俺は玄関の扉を開いてレインボー公園まで走りだした。

 




今回はここまでになります。

中々内容に苦戦してしまい、投稿できずに申し訳ございませんでした。これからまた投稿を頑張りますのでよろしくお願い致します。次回でアニメ4話の内容は終わる予定です。その後は5話の内容に入る前に、オリジナルの展開を数話入れる予定ですので、引き続きよろしくお願い致します。


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第30話 笑顔の光

「全くとんでもない目にあった⋯⋯」
「ごめん、ごめん少しやりすぎたね。まあこれでも食べて機嫌直してよ」
「ふんっ、僕の機嫌はこんなので簡単に直らないよ!食べるけど⋯⋯」
「私達も食べましょうか」
「そうね、皆で食べましょう!ランジュはまず梅ジャムせんべいからいただくわ」
「では私は練り切りからいただきます」
「俺はチョコにしよっと」
「そういえばハルキの方は大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。まだ終わってないけど、少し息抜きにね」
「ふーん、まあそれならいいけど」
「とりあえず⋯⋯ランジュ始めましょうか」
「分かったわ。それじゃあ最新話スタートよ!」



 

家から走ること10分ちょっと⋯⋯レインボー公園に到着した。まだ愛は来ていないのか⋯⋯と思っていたら、走ってくるのが見えた。

 

「おはよう、愛」

 

「おはよう、ハルハル!」

 

「今日はありがとう、走るのに付き合ってくれて」

 

「いいの、いいの!愛さんも走ろうと思ってたからさ」

 

それなら良かった。気を遣わせたのだったらどうしようかと思っていたよ。

 

「早速、走りに行こうと思うけど⋯⋯どこに向かって走る?」

 

「それなら愛さんが考えてきたよ。レインボーブリッジまで行くのはどう?」

 

「レインボーブリッジか、遠くないし時間までに戻って来れるね。よし、愛の考えてきたルートで行こう!」

 

「じゃあ、レッツゴー!」

 

俺と愛は並走する形で走り始め、目的地であるレインボーブリッジを目指す。

 

「そうだ、あれから何か理想のスクールアイドル像は形になった?」

 

「うーん、なんとなーくは出来たような出来てないような⋯⋯」

 

「そっか。まあ、そう簡単にはいかないよな⋯⋯ごめん」

 

「大丈夫だって!何かちょっとしたキッカケがあれば、何だか一気に形になりそうなんだけどねー」

 

きっかけ⋯⋯ねぇ。誰かを笑顔にするのが愛の理想だとするなら⋯⋯まずは自分が面白い、嬉しいと思える事を見つけるだよな。しかもそれをライブやMCに取り入れる事のできるものってなると難しいよな。

 

 

それからはお互い走る事に集中し、いよいよレインボーブリッジを走り始める。

 

やはりレインボーブリッジ⋯⋯長いだけの事はある。これを全部渡るのには時間がかかるね。

 

しばらく黙々と走っていたら、橋の途中で見覚えのある人物がいた。

 

「あれってエマさんだよね?」

 

「だよね!ちょっと声掛けてみようよ!おーーい、エマっち!」

 

「あっ!愛ちゃんと春くんだ、おはよう!」

 

「エマさん、おはようございます!」

 

「おはよう、エマっち!もしかして走ってた?」

 

「うん、朝ちょっと早く目が覚めてね。愛ちゃんと春くんも?」

 

「「一緒(です)!」」

 

意外にも俺と愛だけでなくエマさんまで早くから走っていたとは⋯⋯わりと考える事は一緒なのかもしれない。

 

俺と愛も手摺に腕を置き、太陽の光を浴び海を見ながら休憩に入る。

 

「この前はソロアイドルって聞いてびっくりしちゃった?」

 

「あっ⋯⋯確かに驚いたけど、一番驚いたのは自分に対してなんだよね⋯⋯」

 

「えっ?」

 

「同好会の皆が悩んでるのって、自分を出せるかって事でしょ?今まで色んな部活で助っ人やってたけど、皆と力を合わせる競技ばかりでさ⋯⋯⋯⋯いやぁ〜、めっちゃハードル高いよね」

 

愛はエマさんにも今抱えている悩みを、自分から話し始めた。俺はそれを黙って聞く事にした。愛は自分が今までソロの競技をしてこなかった事で、そもそもソロという事に少し戸惑っているようにも感じた。それはつまり自分を出せるか、出せないか以前の問題である。

 

エマさんも愛の言葉にどう返していいのか分からず、黙って聞く事しか出来なかった。

 

「ソロアイドルか⋯⋯」

 

愛の独り言からしばらく沈黙が流れ、エマさんは時計を確認した。

 

「そろそろ走ろっか?」

 

「戻らないと遅刻しますもんね」

 

「おっ⋯⋯?」

 

「9時だしもう行く時間だよ?」

 

愛はエマさんの言葉に反応したが、今度はそのままは固まってしまった。

 

「どうしたの?」

 

「おーい、そろそろ行く時間だよ?」

 

俺も愛の後ろから声を掛けると、愛は突然お腹を抱え肩を震わせながら笑い出した。

 

「ぷぷっ、あはっ、アハハハッ!ウケる~!!」

 

「えっ!?どうしたの!?」

 

「いや、本当にどうした!?」

 

今のにそんなに爆笑するようなところあったか!?分からない⋯⋯俺には愛が何にツボったのかまるで分からない。エマさんも愛の爆笑の理由に心当たりがなく困惑している。そんなエマさんと目が合い、お互い首を傾げた。

 

「アハハハッ!ソロでそろそろ、9時だし行く時間ってダジャレだよねぇ〜!」

 

愛は爆笑しながら何にツボったのかを説明してくれた。

 

「ダジャレ⋯⋯あっ、ああ!」

 

「しかも上手いし!」

 

「全然、気が付かなかったよ〜」

 

「固まったと思ったら急に爆笑するから、本当に何事かと思ったよ。ダジャレかぁ〜⋯⋯本当によく気付いたよね」

 

爆笑の理由はともかく、着眼点は普通に凄いと思うな。まず俺も言ったエマさん自身も気付かない事に気付いたんだからね。

 

「うふふっ!」

 

「はははっ!」

 

その後愛の爆笑はしばらく止まず、俺とエマさんも愛につられて思わず笑った。

 

 

それから気が済んだのか、愛の爆笑はやっと終わった。笑い止んだタイミングでエマさんが話し始める。

 

「愛ちゃんが同好会に入って来てくれて良かったぁ〜」

 

「んえ?何で〜?」

 

「すっごく前向きでいてくれるから!」

 

「そう?今めっちゃ悩んでるけど⋯⋯?」

 

「確かにエマさんの言う通りですね。愛はいつも前向きで、ポジティブの塊みたいな存在ですからね」

 

「そうそう!それに皆といる時いつも楽しそうにしてたよね?」

 

「あっ⋯⋯」

 

愛はいつでも笑顔でその場にいるだけで、周りが明るく賑やかになる太陽のような存在なのは俺も実感してる。バスケ部に助っ人に行った時も賑やかな事には変わりないけど、愛がいると一段と賑やかになっていると思う。

 

「私達色々あって⋯⋯ようやくスタートラインに立ったばかりなんだ。皆が不安で⋯⋯でもそれと同じくらいこれからの未来に期待しているんだと思うの。でなきゃ、悩まないもの。ただ今はその一歩を踏み出す勇気が出ないだけ」

 

最初の一歩を誰かが踏み出さないといけないのは皆が分かってる。ただその一歩を踏み出す足に、プレッシャーという錘が付いてるからこそ踏み出せないでいるはず。

 

「愛ちゃんが同好会に来てから皆の笑顔がすっごく増えてるんだよ!」

 

「自覚ないけど?」

 

「ないから凄いんだよ〜!」

 

「それに同好会だけじゃなくて、バスケ部の皆も愛がいると練習がより楽しかったり、雰囲気が明るくなるって前に言ってたよ」

 

「そうかな〜?」

 

愛は俺とエマさんの言葉に自覚がないせいか、実感が湧かないらしく不思議そうな表情をしていた。

 

「そうだよ」

 

「俺も愛がいると自然と笑顔が多くなる事あるし、もっと自信持っていいと思うよ」

 

「⋯⋯そっか」

 

愛は一言呟くと太陽に手を伸ばし、伸ばした手と太陽を見つめ何かを思い始めた。そして、その手をグッと握ると再び俺とエマさんの方を向いた。

 

「ありがとう、エマっち!ハルハル!走ってくる!!」

 

「あ、愛ちゃんっ!?」

 

「ちょっと、愛っ!?」

 

走ってくると言った愛は迷う事なく走り出し、俺とエマさんは置いていかれてしまった。ただ愛の表情は何か吹っ切れたような感じがした。

 

もしかすると、今のエマさんとのやり取りで何か答えが見つかったのかもしれないな。

 

「とりあえず、俺達も行きましょう!」

 

「うん!でも待って、さっきの愛ちゃんに言った事と被っちゃうけど、春くんも同好会に入ってくれてありがとう。今までも同好会の事を気にかけてくれてありがとう。せつ菜ちゃんの事を支えてくれてありがとう」

 

「いえ、俺はお礼を言われるような事は出来てませんよ⋯⋯むしろ、迷惑をかけてしまったはずですから」

 

「ううん、そんな事ないよ。春くんはせつ菜ちゃんを⋯⋯菜々ちゃんの事が心配だったんだよね?そして最後に自分だけいなくなろうとしたのも、責任を感じたからなんだよね?」

 

「そうです⋯⋯」

 

エマさんの言う通りだ。俺はせつ菜を菜々の事が放っておけなかった。だから、せつ菜の側にいた。そして、責任を取っていなくなろうともした。だけど⋯⋯出来なかった。

 

「でも、そうしなかったよね?今のこうして同好会に居てくれて、私達のサポートをしてくれてる。それで良いと思うよ」

 

「⋯⋯エマさん。もしですよ?もし、俺が本当にいなくなってたら、エマさんはどうしましたか⋯⋯?」

 

自分でも意地悪だと思うような質問をエマさんへしてみた。この質問に意味なんてない。だけど、どうしても聞きたくなってしまった。

 

「私は春くんを連れ戻す為に動いたと思うよ。たぶん他の皆もそうじゃないかな?それにせつ菜ちゃんなら一番最初に行動してたと思うよ」

 

「そう言ってくれてありがとうございます。それと意地悪な質問してごめんなさい。でも聞けて良かったです。結局、俺はあの時いなくなっても、いずれは今と同じ結果になってたって事ですね!」

 

「ふふっ、そうだったかもね!」

 

俺は質問にしっかりと答えてくれたエマさんに、感謝と謝罪の意味を込めて頭を下げた。そして、顔を上げた時にはまた笑顔を作ってみせた。笑顔の俺を見たからか、エマさんも笑顔で返してくれた。

 

「それじゃあ、今度こそ行きましょう!」

 

「うん、行こう!」

 

俺とエマさんは、しばらく遅れてから愛の後を追いかけて、レインボー公園へ走った。

 

 

走り続けレインボー公園に到着すると、そこには公園の真ん中で歌い踊っている愛の姿があった。

 

しかも周りにいた小さい子から大人までもが、パフォーマンスをしている愛を見て笑顔で楽しそうにしていた。

 

俺とエマさんの向かいには、他の皆もいて愛のパフォーマンスを見守っていた。

 

ついに愛は、自分だけの道を見つける事が出来たんだな。皆が楽しそうにしていて、笑顔で溢れている。まさに愛にピッタリだと思う。

 

「やっぱり凄いね、愛ちゃんは」

 

「ですね。愛はこうやって誰かを元気にして勇気づけて、それで自分も笑顔になってるんですよね」

 

これを無意識でやってしまうところが、愛の良さで愛の凄いところ。愛は燦々と降り注ぐ太陽の光のように、周りの人達を笑顔という光で照らしている。

 

 

そして愛が歌い終わると、歓声と拍手が沸いた。すると愛は感極まったのか、周りの人達にハイタッチをし始めた。驚きながらも愛とハイタッチをしている人達は、嬉しそうだったり楽しそうに見えた。

 

 

ハイタッチを終えると、周りの人へ大きく手を振ってから俺とエマさんの元へ戻ってきた。

 

「愛ちゃんの歌と踊りとっても楽しそうだったよ!」

 

「周りの人を巻き込んで、まるごと楽しい空間を作り上げる。これが愛の見つけた答えなんだね」

 

「うん!これが愛さんの見つけた答えだよ!アタシ、今すっごく楽しい!」

 

「愛が答えを見つけられたみたいで良かったよ。さっきの歌と踊り、凄く良かったよ」

 

「ありがとっ!!エマっちとハルハルのおかげだよ!」

 

エマさんはともかく俺は大した事は出来てないけど、それでも愛の答えが見つかってこうして楽しいって言っているなら、これでいいのかもしれない。

 

「愛ちゃん!さっきのパフォーマンス、凄くときめいちゃった!」

 

「私も愛さんのパフォーマンスに新しいものを感じちゃいました!」

 

「先程の愛さんのパフォーマンスから、私達も勇気をもらえた気がします」

 

「そう言ってもらえて、愛さん本っ当に嬉しいよ!よぉーし、これからもっと頑張るぞー!

 

「彼方ちゃんも愛ちゃんに負けないように頑張るぞ〜」

 

「かすみんだって負けませんよ!」

 

「私も皆さんに負けないように頑張ります!」

 

各々が愛のパフォーマンスに触発されて、再度これからの活動を頑張る決意をした。

 

その後は当初の予定通りに、全員で時々休憩を挟みながらランニングをして、今は部室に寄って各自で談笑したりしている。

 

そんな中で一際賑やかなところがあった。

 

「歩夢、最高に可愛いね!高2だけにっ!走るのってランランするよね!ランだけにっ!」

 

「あはははっ!!あはははっ!!!ひー!ひひひっ!!もう⋯⋯許してぇ〜!」

 

愛のダジャレに侑がお腹を抱えて、さらに床を叩きながら笑っている。

 

「凄く⋯⋯ウケてますね」

 

「侑ちゃん、幼稚園の時から笑いのレベルが赤ちゃんだから⋯⋯」

 

「赤ちゃんにしても程があるってレベルで爆笑してないか?まあ、侑が楽しそうでいいんだけど」

 

この先も愛はダジャレを言うだろうし、その度に侑はああやって笑い転げるのか⋯⋯そのうち見慣れた光景になりそうだな。

 

「でもどうして急にダジャレを?」

 

「スクールアイドルの特訓だよ!」

 

かすみちゃんが愛が急にダジャレを言い始めた事に疑問を抱き、それを愛に聞くと愛は何の迷いもなく特訓だと答えた。

 

やはり愛は朝の会話の中で答えを導き出したらしい。今の愛からは、さっきまでの迷いのある表情だったと思えないほど振り切った表情だった。

 

 

キラキラの笑顔を見せる愛が、エマさんも嬉しかったようで微笑んでいた。

 

エマさんの様子を見てると少し微笑んだあと、手に持っていたおぼんに視線を落としてから窓の方を見つめていた。

 

空に何かある⋯⋯というより、何かに思いを馳せてる?

 

「エマさん?」

 

「⋯⋯」

 

エマさん聴こえてないのか返事をしなかった。

 

普通に声をかけて気付かないなら、少し近づいて声をかけてみようか。

 

「エ〜マさんっ?」

 

「わぁっ!?ごめんね、ちょっと考え事しちゃってた」

 

「大丈夫ですか?俺でよかったらいつでも相談乗りますよ」

 

「ありがとう、私は大丈夫。でもその時は相談するね」

 

今はその時ではないって事なのかな。エマさん本人がいいなら、とりあえずいいという事にしよう。

 

 

このあと今日のランニングの振り返りをして、今後の活動について話し合って解散となった。

 

 

 

翌日⋯⋯。

 

 

「それじゃあ母さん、行ってくるね」

 

「はーい。あっ、そうそう!ハルくんこれ持っていって」

 

キッチンで家事をしていた母さんが、何かが入った紙袋を渡してきた。

 

「これは?」

 

「歌奏ちゃんって言ったわよね、お菓子を買っておいたから渡してもらっていいかしら?」

 

「お土産って事ね。分かったよ、ありがとう母さん。それじゃあ、行ってきます」

 

「いってらっしゃい、気を付けてね〜」

 

俺は母さんから渡されたお土産を持って家を出た。家から歌奏ちゃんの家までは少し距離がある。だが、焦らなくていいように余裕を持って出来たので走る事はしない。

 

午前9時40分、街を歩く人の姿や車道を走っている車の数は休日の午前中なので登校する時よりも多い。

 

そんな大通りを抜けて住宅街で入ると、人通りは全くいない訳ではないが極端に少なくなった。

 

えーっと、確かこっちだったよな⋯⋯前に行った時は、薫姉のバイクで行ったから道がうろ覚えなんだよね。

 

それでこの通りを真っ直ぐ行って左に曲がると⋯⋯あっ、見えた!

 

『喫茶 音の家』と書かれた看板が見えた事で、俺の記憶は正しかったという事が証明された。記憶力にはそれなりの自信があるつもりだからね〜。

 

それで今日は喫茶店の方じゃなくて、その隣の家の方に来てほしいって言ってたな。

 

よし、ここだね。それじゃあ呼び鈴を鳴らそうか⋯⋯⋯⋯今思うと、女の子の家に行くのって普通に緊張するな⋯⋯彼方さんの家はもう行き慣れてるから自然に行けるけど、やっぱり初めてだと緊張するものだね。それはともかく、いつまでも突っ立ってるわけにはいかないから鳴らそう。

 

呼び鈴を鳴らそうと手を伸ばしてボタンに押す寸前で、玄関のドアが開かれ中から誰かが出てきた。咄嗟に名乗れずにいると相手の女の人から言葉が発せられた。

 

「⋯⋯⋯⋯キミ、誰?」

 




今回はここまでになります。

次回からオリジナル回が2話入りますので、よろしくお願いします。


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第31話 後輩からのお願い

「前回までのあらすじ、カナの家を訪れたハルは玄関先で謎の女性に会い怪しまれる⋯⋯ってなんだこれ?」
「今、栞子ちゃん、ミアちゃん、ランさんがハルさんと休憩してるので私が代わりにって」
「ほーん、ていうか謎の女性ってカナの⋯⋯」
「あー!!ダメだよ、シュウくん!それネタバレだから!!」
「ネタバレって言ってもすぐ分かるだろ?」
「それでもダメなものはダメ!このままじゃ、シュウくんがネタバレしそうなので最新話スタートします!」


 

「⋯⋯⋯⋯⋯キミ、誰?」

 

中から出てきた人は、ワインレッドのミディアムヘアで右側にヘアピンを付けている女性だった。

 

「えっと、俺は⋯⋯じゃなかった自分は大空春輝って言います。今日は歌奏さんと約束があって伺いました」

 

「カナと約束⋯⋯?あの子に男の子の友達がいるなんて聞いた事でないけど⋯⋯キミはカナの何?」

 

「えっと⋯⋯学校の先輩で同好会の先輩⋯⋯いや、俺の方が入ったのが後だから後輩か?」

 

「ふーん、まあキミが嘘をついている様には見えないね。という事は約束ってのは本当なんだね」

 

分かってもらえたって事⋯⋯なのかな?たぶんだけど、この人歌奏ちゃんのお姉さんだよね?今までお姉さんがいるなんて聞いた事なかったから確証はないけど。

 

「⋯⋯れか⋯⋯てるの?」

 

家の中から誰かの声が聴こえた

 

「カナのお友達だっていう人が来てるよ〜、えっと名前は⋯⋯」

 

「春輝です」

 

「ハルキくんだって!」

 

声の主に状況を説明すると、家の中からの慌ただしい物音がしてそれが玄関まで近づいてきた。

 

「ハルさん、いらっしゃいです!っていうか、お姉ちゃんもハルさんが来てたなら早く呼んでよっ!!」

 

「いやアタシは、アンタから今日友達来るって聞いてたけど、まさか男の子とは思わなかったから、つい色々と聞いてちゃったわ」

 

「もう心配しすぎだって!お姉ちゃんが迷惑かけて本当にごめんなさいっ!」

 

歌奏ちゃんは事情を聞くと、お姉さんの事で何度も頭を下げてきた。

 

やっぱりお姉さんだったんだね。似ているといえば似ているから、そうなんだろうなとは思ったけどね。

 

「気にしなくていいよ。妹の心配をするお姉さんの気持ちも分からなくはないし」

 

俺にも弟や妹がいたら心配するよ、絶対。というか、あの二人が男の子を家に呼んでたら俺も問い質してるかも⋯⋯。

 

「ほらね?ハルキくんもこう言ってるし、アタシのした事は失礼だったけど、間違いじゃなかったんだよ」

 

「ハルさんを免罪符にしないの!でも、とりあえず応対してくれてありがとう、お姉ちゃん」

 

「はいよー。そんじゃ後はお二人でごゆっくり⋯⋯と思ったけど、秋夜はこの事知ってんの?」

 

おっと、さすがに歌奏ちゃんの家族だから、シュウと付き合っているっていうのは知ってるよね。

 

お姉さんは家の中に引っ込もうとして背を向けたが、シュウの事を思い出すと再びこっちに向き直した。

 

「シュウくんには内緒にしてるから、お姉ちゃんも絶っっ対に言っちゃダメだよ!」

 

「内緒って事はやっぱりアンタ達⋯⋯」

 

シュウに今日の事を内緒という事を聞いたお姉さんは、何を想像したのかどんどん顔が引き攣っていった。

 

これって⋯⋯もしかして、浮気と勘違いされてる?絶対されてるよね!?

 

「違いますっ!お姉さんが想像してるような事では断じてないですっ!!」

 

「そうだよっ!真面目な相談だし、私はこれからもシュウくんラブなんだから!!」

 

「あー、ハイハイ相変わらずお熱いわね〜。まあアンタが傷付く事がなければ、それでいいわ。それじゃ、アタシは開店準備に戻るわ」

 

お姉さんは開店準備をすると言って、家の奥へと戻っていった。

 

開店準備の途中だったのか⋯⋯⋯⋯ん?じゃあ何でお姉さんは家の玄関に来て、わざわざ玄関の扉を開けたんだ?まあ、気にしても仕方ないな。

 

「さてと、色々とありましたがようこそです!」

 

「うん。それじゃあお邪魔します!」

 

「どーぞ、どーぞ!」

 

歌奏ちゃんは、俺の手を引いて中へと迎え入れてくれた。家の中は至って普通のお家って雰囲気なんだけど、明らかにその雰囲気から歌奏ちゃんの服装が浮いてる事に気付いた。

 

別に浮いてるからといって悪いという訳ではなく、歌奏ちゃんの好きなものを当然否定するつもりもないけど、ゴシック・ロリータ所謂ゴスロリはミスマッチ感凄い。

 

可愛い洋服が好きと前に聞いてたから、どんな服かな〜とは思ってたけどゴスロリは完全に想定外だったよ!そもそもゴスロリなんて原宿とか、何かのファッションショーくらいでしか見る機会なんてないと思ってたよ?まさか、歌奏ちゃんの家でお目にかかるとはねぇ⋯⋯。

 

お姉さんとのやり取りに気を取られて、歌奏ちゃんの服装に気づくのが遅くなったおかげで、服装について聞くタイミングを逃した気がする⋯⋯。

 

俺は玄関で靴を脱ぎ揃えてから歌奏ちゃんの方を向くと、歌奏ちゃんは着ている服がよく見えるように立っていた。

 

「ハルさん、どうですか!私の私服姿は?」

 

歌奏ちゃんは、その場で何度かくるくる回ったりスカートの裾を軽く持ち上げたりしてアピールして、感想を求めてきた。

 

「凄く似合ってる、ヘッドドレスも可愛いね」

 

「やった!ハルさんに褒めてもらえた!実はこのお洋服、私のお気に入りなんですよ!」

 

俺が褒めると、歌奏ちゃんは胸元で両手を握って喜びを表現した。どうやら今日の服はお気に入りらしく、気合を入れてくれたらしい。 

 

フリフリのロングスカートに、リボンを多くあしらったデザインでヘッドドレスの両側にもリボンが付いている。色はシンプルに白と黒の絵に描いたようなゴスロリ服だった。

 

スカートはふんわりしているけど、肩から腰までは身体のラインが出てるから歌奏ちゃんが着ていると少し目のやり場に困るというか⋯⋯なんというか⋯⋯特に胸部のあたりがね⋯⋯?強調されてるから余計に困る。見た感じ歩夢やせつ菜に負けず劣らずレベルに思える。

 

「あの⋯⋯⋯⋯そんなに真剣に見られると恥ずかしいです⋯⋯」

 

「えっ⋯⋯?あっ、ごめんっ!」

 

しまった⋯⋯。

 

いつの間にか、まじまじと見ていてしまったようだ。変に思われてなければいいけど⋯⋯。

 

とりあえず、この空気を何とかしないと⋯⋯あっ、まだお菓子渡してなかった。よし、これだ!

 

「そうだ!これ母さんが家の人と食べてって」

 

「わぁ!ありがとうございます!ちょっとリビングに置いてきますね」

 

歌奏ちゃんはお菓子を受け取ると、リビングへお菓子を置きに行った。

 

周りを見回すと似たようなドアが取り付けられている中、1つだけ他のドアとは違うデザインのドアがあった。

 

「お待たせしました⋯⋯どうかしました?」

 

「ああ、ごめん。ちょっとあの部屋のドアが他のドアと違うから気になってね」

 

「そういう事でしたか〜、気になるなら中見てみますか?」

 

歌奏ちゃんは納得すると、その部屋の中を見せてくれると言った。

 

確かに見てもいいと言われると気になる⋯⋯ちょっとお言葉に甘えさせてもらおうかな。

 

「じゃあ見せてもらってもいいかな?」

 

「はい!それではどうぞ〜」

 

歌奏ちゃんがドアを開けて続いて中に入ると、そこには色々な楽器が配置されていた。

 

この部屋結構広い⋯⋯ちょっとした音楽スタジオくらいあるのでは?それに置いてある楽器はギターにベース、ドラムセットにキーボード⋯⋯まるでバンドでもしてるのかの様な楽器達だ。

 

「この部屋は?それにこの楽器達は?」

 

「ここの部屋、実は防音室になんですよ!ちなみに楽器は、ほとんどママやお姉ちゃんのですね」

 

まさかの防音室!?これだけ楽器揃えてるって中々に凄いのでは⋯⋯?

 

「もしかして⋯⋯歌奏ちゃんのママさんとお姉さんってバンドでもしてるの?」

 

「正確には昔やってたですね。それでも手入れはしてありますし、お姉ちゃんはよくベース弾いてますよ」

 

「なるほどね。あれ?ギターだけ2本あるけど、ママさんは2つ使ってるの?」

 

唯一ギターだけが白いギターと赤いギターの2種類あり、それが気になったので聞いてみた。

 

すると、歌奏ちゃんは赤いギターを手に取って弾く構えをしてみせた。

 

「実はこっちの赤いギターは私のなんですよ!」

 

「歌奏ちゃん、ギター弾けるの!?」

 

「はい!他にもピアノが弾けますよ!」

 

ピアノは音楽科の生徒だから弾けるのかな〜と思ってたけど、ギターは意外すぎる。でも、ロックが好きって言ってたから意外とそうでもないのかも?

 

「さすが音楽科の生徒って感じだね〜」

 

「いえいえ、私はまだまだですよ。ちなみに、シュウくんの方がピアノ上手ですよ?」

 

「へ〜⋯⋯⋯⋯え?シュウってピアノ弾けるのっ!?!?」

 

「はい⋯⋯さらに言えば、そこのキーボードはシュウくんが使ってますよ?」

 

えーーー!!マジか⋯⋯シュウには悪いけど意外すぎるでしょ。

 

あまりにイメージと離れてるというか、むしろドラムをやってそうなイメージだったよ?しかも歌奏ちゃんよりピアノが上手いのも衝撃だ⋯⋯。

 

「久しぶりにとんでもない衝撃を受けた気がするよ⋯⋯」

 

「それ私とシュウくんは、薫子さんとハルさんが来た時に同じ事を思いましたよ」

 

頭を抱える俺に歌奏ちゃんは、少し笑いながら自分達も先日似たような体験したと語った。

 

「ちなみに、ハルさんはないんですか?内緒の特技」

 

「まあ⋯⋯⋯⋯あるよ」

 

「本当にあるんですか!?気になります!」

 

うおっ、あるって言ったらめっちゃ目を輝かせてるよ⋯⋯。これで微妙な反応されたら、こっちがダメージ負いそう。

 

「えっと⋯⋯ベースが弾ける⋯⋯」

 

「ハルさん、ベース弾けるんですか!?えっ、ちょっとお姉ちゃんのベース使っていいので弾いてみてください!」

 

「最近本当に弾いてないから、下手くそかもしれないけどいい?」

 

「いいです!そんなの気にしません!」

 

こうなったらやるしかないか⋯⋯!

 

「分かったよ。じゃあちょっとだけね」

 

俺は歌奏ちゃんのお姉さんの白いベースを手にとり、イスに座って感触を少し確かめてから弾き始めた。

 

久しぶりのベースだから、てっきり感覚が鈍ってると思っていたけど、思っていたほど鈍ってはいなかった。多少の粗さはあるけどそれなりに体裁は保っていた。

 

弾きながら少し歌奏ちゃんの様子を伺うと、歌奏ちゃんは至って真剣に俺の演奏を聞いててくれた。

 

 

 

演奏を終えてベースを再び台座へ戻して、歌奏ちゃんに感想を伺う。

 

「どうだった?」

 

「凄く良かったです!最近弾いてなかったとは思えないくらいでした!」

 

「あ、ありがとう⋯⋯!」

 

歌奏ちゃんは目を輝かせてながら軽く感想を言ってくれた。家族以外の人前ではベースを弾いた事はなかったから、こうして面と向かって感想を言われた事が嬉しかった。

 

「まさかハルさんが、こんなにベースが弾けるとは思ってませんでした。今日はこの事が知れて良かったです!」

 

「それは良かったよ。ところでさ⋯⋯今日、俺に相談があるって言ってたけど⋯⋯」

 

「あっ⋯⋯すみませんっ!ついこっちに夢中になってました!これも後で紹介するつもりだったんですけど、先に紹介してたら危うく本題を忘れるところでした⋯⋯」

 

「なんか俺の方こそ、順序を変えてしまったみたいでごめん」

 

「大丈夫です!それじゃあ、私の部屋に場所を移しましょう」

 

防音室を後にして今度は2階に上がって歌奏ちゃんの部屋までやってきた。

 

「では、どうぞ〜」

 

「お邪魔します」

 

お部屋の中は至って普通の女の子のお部屋という感じだった。歌奏ちゃんがロックが好きな事や今の服装の事もあり、もっと派手なのかと思ってたけど普通に女の子のお部屋だったから、ある意味では驚いている。

 

「意外⋯⋯でした?」

 

「ちょっとだけね。ロックが好きな人って、お部屋もそういう傾向なのかな〜って思ってたから」

 

「私はロックは好きですけど、カワイイも好きなのでお部屋は可愛くしてるんですよ」

 

「なんというか⋯⋯安心したよ」

 

本当にロックな部屋の可能性もあると思って、実は身構えてました。心配無用でした、ごめんなさい。

 

俺は用意してくれてたクッションに座って、小さめのテーブルを挟んで歌奏ちゃんが向かい側に座った。

 

ここでいよいよ今日の本題に入る事ができる。

 

「早速で悪いけど、歌奏ちゃんが俺に頼みたい事って何かな?」

 

「はい、では言わせていただきますね⋯⋯⋯⋯私を()()()歌えるように特訓してください!お願いしますっ!!」

 

えっと⋯⋯どういう事???あれ歌奏ちゃんって、この前普通に歌ってたよね?

 

あっ、でもその時は俺と一緒だったか⋯⋯だとしても一人で歌う事が出来ないって事なのか?確かに、思い返してみればこの前の練習(カラオケ)もデュエットしかしてなかったな。

 

「気を悪くしないでもらいたいけど、念の為に確認するけど一人で歌えないって事⋯⋯?」

 

「そうです。ただ私はどうしても⋯⋯どうしても()()()()一人で歌えるようになりたい⋯⋯ならなきゃいけないんです!!」

 

歌奏ちゃんは、今までに見たことないくらいに真剣な眼差しで俺に訴えかけてきた。

 

ただ、俺が特訓するにしたって何をすればいいのか全く分からないし、本当に力になれるとは限らない。それにどうして歌奏ちゃんがここまで必死なのかも分からないし、どうして俺を選んだのかも分からない。

 

「なるほど。話は分かったけど、俺からもお願いでこの話を受ける前に、嫌じゃなければ経緯を教えてもらってもいいかな?」

 

「はい!もちろんです!それでハルさんに協力してもらえるなら、どんな事でもお話します!」

 

歌奏ちゃんはそう言うと、一度立ち上がり本棚から1冊取り出してテーブルの上に置いた。

 

そこには『私のアルバム』と書かれていた。

 

「それじゃあ、このアルバムの中の写真を見せながら色々とお話しますね」

 

これから歌奏ちゃんの口から語られる経緯がどんなものなのかを、真剣に聞くために俺の身体が緊張が走った。

 




今回はここまでになります。

次回は歌奏ちゃんの過去編になります。

それではまた次回


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