サマナー?の日常 外伝 (むむむ)
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1話

「当然現れた不詳のサマナー…か」

 

 上司いわく監視及び随時報告。もし人民に危害や犯罪の意思が見られれば……殺せ、と。

 

 それは別に構わないが……。

 

「……何もないな」

 

「空気は美味いけどな。ってアイツどこ行った?」

 

 なんだってこんな辺鄙なところに行かなきゃいけないんだ。

 

 連れのデカラビアがつまらなそうな顔をしている。

 

 もう一人の連れがいつの間にか居ない。どこで道草食ってんだが……。

 

 最近は悪魔召喚プログラムをスマホにダウンロードできるらしいから別に増えてもおかしくねぇだろ。

 

 寧ろ従来のCOMPよりも高性能と来たもんだ。自動アナライズにデビルオークション。更にはスキルクラックシステム。

 

 他にもまだまだあるが初心者が使うには持ってこい。本来のCOMPにそんな機能は備わっていない。

 

 初見の悪魔に反射する攻撃をしてしまう事故死など起きなくなるし交渉でふんだくられる心配もなくなる。

 

 デビルオークション自体はあるにはあるが会員制だし会場は東京でも数件しかない。だがスマホなら会員手続きなしサクッとできるなら話は変わってくる。

 

 しかも悪魔の技や魔法を使うことができるなんて夢にも思わないだろう。スキルクラックシステムで捕捉した悪魔を倒さないと使えない条件を除けば。

 

 サマナー自身に魔法を扱う術はない。一部のサマナーは神降ろしをして魔法を使うやつもいるらしいが一般人には無理だ。

 

 自分だって悪魔に対抗するために銃火器を使用する。

 

 正確にはプログラムが技や魔法を複製して攻撃をするらしいがそれでも物理攻撃の効かない悪魔には有効。

 

 属性弾に任せ切りになるからな。

 その度に金がカツカツになる。

 この仕事が終わったらスマホに変えるのもありか。

 

「目的のサマナーはどこにいるんだ?」

 

「この町のどこかに住んでるらしい。見た目よりも小さな町みたいだから探すには時間はかからな━━」

 

「けーき! けーき! けーえっき!」

 

「分かったから少し落ち着こうピクシー」

 

「さまなー! たべたい!」

 

「だーめ。ここで食べたらお家でみんなと食べられないよ?」

 

「う、うぅ……さまなーのぶんを」

 

「……お家で食べるなら半分あげ」

 

「わかった!」

 

「…全く」

 

「はやくいこー!」

 

「はいはい」

 

 ……いたー。ハイテンションなピクシーと何の変哲もない少年。

 

 コイツがサマナー、か。

 

「……あれがサマナー?」

 

「ピクシーがサマナーと言っていたから間違いないだろ。しかしとても良質な生体マグネタイトだ。……デビルサマナーで無ければとっくに死んでいただろう」

 

 あーなるほどな。生きる為にやむなく、か。

 

 でもなんつうか人畜無害な会話を聞いていたから違和感しかない。

 

 ピクシーに向けているあの笑顔の裏には何があるのか。

 

 そんなこと知らずのピクシーは笑顔で少年のポケットに飛び込みモグラのように頭だけ出した。

 

 COMPらしきものを身に付けていない。

 てことはスマホか。

 

 見るから見るに無害そうだが少年が言ったことを聞き逃さなかった。

 

 ()()()()()()()()()()

 ピクシー以外にも仲魔がいるのか。

 

「……どうしたデカラビア?」

 

 デカラビアの一つ目が少年の持つ箱へと向けられている。

 

「サマナー」

 

「分かった。ケーキだろ」

 

「……友の分も」

 

 照れくさそうにそっぽを向く。

 はいはいフォルネウスの分も買うから安心しろい。

 

 買うなら全員分買うさ。

 仲魔はデカラビアとフォルネウスしか居ないけどな。

 

 例の少年はこの町に住んでるし悪魔とも良好な関係。目離しても何かが起こることもないだろ。

 

「ケーキ買ったら適当に報告書書いて撤収す」

 

「サマナー! デカラビア!」

 

「遅いぞ、フォルネウス!」

 

「悪い!」

 

 丁度よくフォルネウスと合流できた。

 怒るデカラビアに詫びを入れるフォルネウス。

 

 仲良いよなお前たち。

 

 ……よく見たらフォルネウスにたんこぶができてる。

 

 おいお前……厄介事に手出してないよな?



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2話

「はぁー……空気が美味しいわ」

 

「それで今回はどういったご用件なんでしょうか?」

 

「……元老院(ジジイども)直々の依頼」

 

「どうりで落ち着きがないと思いました。これも神のお導き……と考えていいのでしょうか」

 

 なわけないでしょ頭おかしいだけよ。

 

 幾らなんでも新米テンプルナイト一人をよく分からない町に駆り出さなくてもいいじゃない。

 

 悪魔と遭遇することがなかったからいいもののこっちは私とアークエンジェルしかいないのよ。

 

 悪魔の群れになんか出会うものなら人生詰んでるところだわ。

 

 ……人員不足だから仕方ないかもしれないけどせめて一人くらいは付けなさいよ。

 

「この町のサマナーと接触することが目的よ」

 

「サマナーですか」

 

 なんでも突然現れた謎のサマナーとか。……どうやってそのサマナーを見つけ出したのか謎で仕方ないわ。

 

 気になるならあんた達で行けばいいのに。

 

「ええ、とにかくそのサマナーと接触。としか言われてないのよね」

 

「……元老院は何をお考えなんでしょうか」

 

 首を捻るアークエンジェル。

 

 何も考えてないんでしょ? 

 老い先短いんだから大人しくくたばるか隠居でもしてればいいのに。

 

 別にサマナーが一人を生えただけじゃない。何を考えているのかしら。

 

 スマホで悪魔召喚プログラムをダウンロードできる時代。

 誰でもなれるんだからそこまで気にする必要ある? 

 

 初めから仲魔が居るわけじゃないしデビルオークションはマッカ以外の通貨は使えないから肝心の仲魔を見つけるのは一苦労だし命懸け。

 

 一部の違法COMPは仲魔が付いてくるらしいけど倒さないといけない。負けたら? 惨殺されるに決まってるでしょ? 

 

 そう考えたら悪魔召喚プログラムを持っただけのサマナーはごまんと居るのよね。

 

 悪魔を召喚できないサマナーとかサマナーに失礼だわ。

 

 ……今後は負け犬(ルーザー)とでも呼びましょう。

 

「とにかくそのサマナーに接触を」

 

「びふてき! びふてき! びっふてき!」

 

「ビフテキ! ビフテキ! ビッフテキ!」

 

 …………………………。

 

「サマナーは見つかりませんでしたが悪魔は見つかりましたね」

 

「え、ええ」

 

 さも当たり前のように悪魔が歩いていた。

 ピクシーとコボルトね。

 

 コボルトは買い物袋を腕にぶら下げている。

 

 買い物……? 

 悪魔って買い物するのね。

 

 おかしくはないと思うけど……おかしいわよ!! 

 

 普通表立って悪魔を出す!? 

 東京なら大騒ぎになってるわよ!? 

 

 肝心のサマナーはいないし。

 放し飼いでもしてるの? 

 

 犬や猫じゃないのよ。

 ましてや家政婦でもない。

 

 少しだけサマナーに興味が湧いてきたわ。

 

 どれぐらい頭のネジがぶっ飛んでるのか見物(みもの)ね。

 

「でざーと! でざーと! でっざーと!」

 

「デザート! デザート! デッザート!」

 

 ちゃんと買い物してるのよね。もしかしたらその店もこっち側の可能性があるわ。

 

 にしても溢れんばかりのデザート。……いいなぁ。

 

「……悪魔達の後をつければいいのでは?」

 

「そうね」

 

 ピクシーとコボルトなら私たちでも対応できそうだし。

 

 あ、そうだ。あとでデザート買おっと! 

 

 帰りにデザート買っても罰は当たらないわ。

 それよりも私をこんな辺境に送った元老院(ジジイども)の毛根が死滅しますように。

 

「ねぇ」

 

「……ん?」

 

「お姉さんなにしてるの?」

 

 子供? 外国人かしら? 

 

「ッ!? 今すぐ離れてください!」

 

「え? ……ちょっと!?」

 

「?」

 

 まだ後をつけて……ああもう! なんで飛んでるのよ! 

 

「ひゃ!? どこ触ってんの!? 変態天使!!」

 

「文句は後で幾らでも聞きます!」

 

 アークエンジェルに担がれその場を去ることになった。

 サマナーに会えなかったし絶対に元老院(ジジイども)にグチグチ言われるじゃないの。

 

 はぁ……なんなのよもう。

 

 

「……?」

 

「こんなところに居たのか。……ふむ」

 

「赤おじさん! さっきね! お姉さんが天使さんに連れていかれちゃったの!」

 

「そうか。もう遅いから帰ろう。今日は鍋だ」

 

「鍋!?」

 

「キムチ鍋だ」

 

「……! あのピリピリするやつ!」

 

「そうだ」

 

「やった! おゆはん〜」

 

「……ネビロスに言っておくか」

 

「赤おじさん?」

 

「なんでもないよ。行こうか」

 

「うん!」



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3話

「定期報告だったの忘れてたわ」

 

 問題ないと思うんだが上司は警戒しろといってきかねえ。

 

「あそこまで悪魔と共存できる人間いないぞ」

 

 ……だからこそなのかもしれないが。

 しかもメシアの連中も目をつけ始めたとか。

 

 味方なら頼もしい事この上にないが敵に回れば最悪だ。

 

「サマナーも大概だが」

 

「だな」

 

「引っこめるぞ?」

 

 ここまで来るのに有り金溶かしたからマグネタイトを買う金もない。

 

 交通費ぐらい出してくれよ。

 

 末端のデビルサマナーに厳しすぎやしないか。

 

 これならあの少年と同じようにのんびり暮らす方がまだ楽できるぞ。

 

 どうでもいいか。

 稼ぐために仕事をやってるだけだ。

 

 問題なく金貰えるだけ今はマシ。

 ……今はな。

 

「腹減った」

 

 腹の音が鳴る。

 朝からなんも食べてない。

 

「何か食べたらどうだろうか?」

 

 そうすっか。コンビニぐらいはあんだろうし握り飯でも適当に買って……。

 

 ……フォルネウスが顔で訴えてくる。……はぁ。

 

「……買ってやるから」

 

「流石はサマナーだぜ」

 

 調子いいな。……ったく。

 

「……サマナー」

 

「みんなの分買うから安心しろ」

 

「……助かる」

 

 デカラビアは可愛いなー。

 

 これで帰りは徒歩確定……か。

 ……どうせなら散財すっか。

 

「肝心のコンビニは……」

 

 あ? 

 

「でざーと! でざーと! でっざーと!」

 

「悪魔におつかいさせるなんて変わったサマナーだよね〜」

 

「たくさんかってたくさんたべるよ!」

 

「………………サマナー、か」

 

 見覚えのあるピクシーと見覚えのないピクシーが二匹。

 

 へぇ……ピクシーが群れてるところなんて初めて見たな。

 

 ……ん? なんて言っていた? 

 

「おつかい? おいおい……」

 

 悪魔がおつかいだって? ……ピクシーならなんとかなるか? 

 

 デカラビア……はまだなんとか。フォルネウスなら警察案件になるだろうな。

 

「……人は見かけに寄らないな」

 

「そうだな」

 

「あん?」

 

 フォルネウスは見てないんだったな。

 パッと見なら一般人だからな。

 

 ピクシーを連れてなきゃ絶対に分からなかった。

 

「なに〜? ……もしかして気になってんの〜?」

 

「はぁっ!? んなわけないでしょ!?」

 

「素直じゃないんだから〜」

 

「…………うるさい」

 

「はやくこんびにいこー?」

 

 お、コンビニに行くのか。

 丁度いい。少年のピクシーってことで監視しつつ飯買うか。

 

 

「……はっ! いかんいかん」

 

 居眠りしていたか。

 ……居眠りができるぐらい暇だと考えたら頭痛がする。

 

「ここだよー!」

 

「ほ〜ここがコンビニか〜。入ったのは初めてかも」

 

「なんで普通に入ってるのよ……」

 

 む? ……前に大量のデザートを買いにきた少女ではないか。

 

 他にも似たような少女がいる。

 

「今日はあの犬と一緒ではないのだな」

 

「こんにちは!」

 

「どうも〜」

 

「ゆっくりしていきたまえ」

 

「はーい!」

 

「なるほど。こっち側の人間なんだね〜」

 

「……ふんっ」

 

 こっち側? なんのことを言っているのだ? 

 

「あ! かれーのるーってありますか?」

 

「カレー? ふむ、案内しよう」

 

「おねがいしまーす!」

 

 気にしても仕方あるまい。やることはただ一つだ。

 

 ……明日はカレーにしよう。

 

 

 ピクシー達の後をつけコンビニの前で立ち止まる。

 

 流石に出しっぱなしは不味いからな。……と思っていたんだ。

 

「食後のデザートか。ならこれはどうかね?」

 

「これなに? しゅーくりーむ?」

 

「似ているが違う。これはマリトッツォだ」

 

「まりとっつぉ?」

 

「これって今人気のスイーツだよね〜」

 

「詳しいのだな。他には台湾カステラとかもオススメだな。せっかくだ。試食として持っていきたまえ」

 

「ほんと!?」

 

「こんごともご贔屓に。という意味でもある」

 

「ありがとう!」

 

「勝手にそんなことしていいの〜? 怒られちゃうよ〜?」

 

「店長だ。問題ない」

 

 なんか店員と楽しく会話してんだけど。

 

 ピクシーでも一般人からすりゃ脅威。

 見た目に騙されて……みたいな例は幾つもある。

 

 この店員はどうだろう。

 悪魔相手に堂々と会話をしている。

 

 ……完全に黒だ。

 

 なにもないと思っていたらまさかの収穫か。

 

「ワンチャンお前たちが入っても大丈夫か?」

 

「警戒されるのではないか? 様子からして例のサマナーとあの店員は繋がりがあるだろう」 

 

 冷静に返された。……そうだよな。

 協力関係にあるのは間違いない。

 

 このまま中に入れば直ぐに少年の耳に届くことになんだろう。

 

 しゃーないか。大人しく中かここで待ってもら……。

 

「おいフォルネウスどこいった?」

 

 声が聞こえないと思ったらいない。

 

「コンビニには入ってないようだ」

 

 ……てことはだ。

 

「迷子だな」

 

「また迷子か。はぁ…フォルネウス」

 

 ため息を吐くデカラビア。

 なんで一緒にいるのに迷子になるんだよ。

 

「先に探すか」

 

「すまないサマナー」

 

「GPSでも付けるか?」

 

「……検討しようと思う」



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4話

「……火事ですか」

 

「そうだな」

 

「焼死体じゃ使い物になりませんね」

 

「……そうだな」

 

 ネビロスと茶を飲みながらテレビを見る。……近辺で火事、か。確実に悪魔の仕業だろうな。

 

 こんな僻地に来る物好きもいるのだ。

 だが……こう騒ぎを起こされてはたまったものではない。

 

「アリス……なにしてるの?」

 

「死体ごっこ! 縁側でぐでーってするの!」

 

「……寒くないの?」

 

「寒くないよ!」

 

「そ、そう……」

 

「モー・ショボーもやろう!」

 

「……分かった。……つべたい…」

 

「微笑ましいものですね」

 

 安息の地を手に入れたのだ。

 我々の障害になるのであれば容赦しない。

 

 度が過ぎたら我直々に引導を渡してやろうか。……その前にサマナーがなんとかすると思うがな。

 

「気になりますか?」

 

「……多少は」

 

「私も気になりますよ。魔力の痕跡を辿るぐらいはできますが……どうです?」

 

「遠慮する」

 

「そうですか。……彼がいる以上私たちが動く理由はないですよね」

 

「……動くとすれば、だ」

 

 理由は一つ。

 

「アリスやアリスのご友人に危害を加えようとした時……ですよね?」

 

「……ああ」

 

「触れる前に完膚なきまでに嬲り殺せばいいだけですよ。それが私とベリアルなら可能ですから」

 

「当たり前だ」

 

 テレビから縁側へ視線を移す。

 仲良く遊んでいるアリスたち。

 

 同年代? の友達ができたのだ。

 

 彼の仲魔、だが……我やネビロスには与えられないものをアリスは得ることができる。

 

 デビルサマナー……彼もそうだ。

 

 この地に腰を落ち着かせることができるのは彼が気を利かせてくれたおかげだろう。

 

 ……これでも元は天使。ネビロスもか? 

 メシア教や天使に追われる原因は幾らでもある。言わずもがなメシア教は相変わらずだ。それゆえにタチが悪い。

 

 ガイア教は知らん。今になっては興味の微塵もない。悪魔として貶められた身ではあるが多神教に平和はない。

 

 デビルサマナーもそうだ。金や権力欲しさに群がることは珍しくない。

 甘い蜜を啜るために無様に命を散らすのだ。散らしたのは我らなのだがな。

 

 ……彼は違った。悪魔相手に動じない精神力、立ち回れる柔軟性。

 

 環境に対する適応能力が悪魔のそれを越えている。……その全ての根源が彼の生き方なのだろう。

 

「……前にメシアの者がこの町にきたようですね」

 

 テレビを消し真っ直ぐ我を見る。

 

「天使の気配があった。アリスも見ているから間違いないだろう」

 

「……目的は彼でしょうね」

 

 確信を示す声。

 

「それ以外なかろう。……鼻だけは効く連中だからな」

 

「彼の守護天使が」

 

「ないな」

 

 ネビロスの推測を切り捨てる。

 あの天使が彼のことをメシアに漏らすわけがない。

 ……あの()使()が、な。

 

「……確かに仲魔が自分のサマナーの首を絞める行為はしないでしょうね。天使なら尚更です」

 

 天使としては終わっているがな。よく堕天しないものだ。

 末端の天使が私情で守護者に接触など神の名のもとに罰せられる。

 

 買い物袋を片手に嬉々として彼の家に入っていく姿を見た時は思わず目を疑ったぞ。……天使までも魅力するということだな。

 

「……それ以外にもあるんだが…」

 

「ふむ?」

 

 ネビロスは知らんみたいだがあの天使は━━

 

「赤おじさん! 黒おじさん!」

 

「どうしたんですかアリス」

 

「どうしたんだ?」

 

 ……過ぎたことよ。

 

「お兄ちゃんのところに行ってきていーい?」

 

「サマナーのところに帰るっていったら来たいって」

 

「お兄ちゃんに会いたいの!」

 

「……どうします?」

 

 仕方ない。アリスのお願いとあれば……! 

 

「ネビロス頼む」

 

「赤おじさんはいかないの?」

 

「……すまない」

 

 野暮用ができてしまったんでな。

 

「では行きましょう」

 

「また来るね。えーと……()()()!」

 

()()()だ」

 

「いってきます!」

 

「黒おじさんのいうことをちゃんと聞くんだぞ?」

 

「うん!」

 

 ネビロスに連れられアリスたちは部屋から出ていった。

 

 ……行くか。

 

 

「……困りました。時間稼ぎが無駄になってしまうじゃないですか」

 

 おかげで救世主探しは中断されましたし良かったとは思いたいです。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 いつバレてしまうかハラハラのドキドキです。

 実はバレていて泳がされているかも知れませんがね。

 

 そんなことよりも救世主探しを中断させるほどの問題が起きていることです。

 

 大問題ですね。……突然現れた悪魔。ただの悪魔ならまだしも……()()()。そんな悪魔が私の守護するあなたの近くに潜んでいる。…………大問題ですよ。

 

「……仕方ありませんね」

 

 体質から狙われる可能性はほぼ確実です。幾らあなたでも苦戦を用いられるでしょう。その時は━━

 

「私はあなたの守護天使。……例え主の言葉に逆らおうとも…お守りします」

 

 私の……私だけの救世主(メシア)様……。



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5話

「……ふむ」

 

 新聞を広げる。火事のことが一面を飾っていた。

 

 廃病院で火事。放火の疑いもある、か。……ご冥福をお祈りする。

 

 仕事? ただえさえ暇なのだ。

 朝から人が来るわけなかろう。

 

 外は相当冷え込んでいる。

 たまにくるご老人にはキツいことだろう。

 

 ……その代わりといってはなんだが。

 

「おじさん人こないよー」

 

 甘い匂いが事務所に漂う。

 

「……また勝手に食べたのかね」

 

「美味しかった」

 

「……なにを食べたのだ?」

 

「チョコレート!」

 

 人ではない存在が住み着くようになった。頭上でぬいぐるみみたいなのがふよふよと浮いている。

 

 よく分からないが……害はないのだろう。

 

 深夜の店内で急に物が勝手に動き出したとバイトから連絡を受けて来てみれば……いたのだ。

 

 バイトは辞めてしまった。ポルターガイスト現象を見てしまったからな。

 

 ……なんの関連性があるか知らないがこのぬいぐるみの名前もポルターガイストというらしい。

 

 悪魔だと説明された。……もしかしたらたまにくる少女と犬も悪魔なのだろうか。

 

 このポルターガイストしかり恐怖といったものは感じない。訳を聞けば寒くて中に入ったのがコンビニだったとなんとも、な。

 

 外に追い出すほどのことではない。

 

「ちゃんとゴミは捨てたのかね?」

 

「うん!」

 

「……なら別に構わんよ。客が来たら静かにするのだぞ?」

 

「はーい!」

 

 手を振りながら応えてくれた。

 

 ……しかし……ん? 

 

「鳴ってるよ」

 

「電話か。……お電話ありがとうございます。こちら━━」

 

 新聞を机に置き受話器を手にとった。

 

 

「……しくった。満月って……今日じゃない…の」

 

 子供から聞き終えたところで体に違和感を感じた。肌がピリピリと熱を感じる。

 

 視界が歪み足元が覚束ない。息苦しくて荒い呼吸を繰り返す。

 

 ……朝からこれとか最悪。夜になったら意識が飛びかねないわ。

 

 分かったことは悪魔の容姿くらいだけど。それでも有益な情報。

 

 二足歩行で歩くウマで背中には孔雀みたいな羽根。上尾筒(じょうびとう)のこと。

 

 日本にそのような悪魔はいない。海外には疎いから全く見当もつかないわ。

 

 容姿が容姿だから見つけさえすれば一発ツモなんだけど。

 

「……寝…ない、と…」

 

 店長が良い人で良かったわ。月齢管理を怠ったわたしの自己責任なのに当日欠勤を快く許してくれた。……そのせいで来週は完全フリー状態。

 

「……んっ…ふぅ……」

 

 まっずい。これ……誰か呼ばなきゃ…。

 人並みの羞恥心はある。さっきからジロジロ見られてる。

 

 そんなに見るなら助けてくれてもいいのに……。人間はそんなもの。()()()()()()()()()()

 

「ぅ…ふっ…はぁ…」

 

 みんなが羨ましい。ちゃっかりサマナー作っちゃって……仲間外れはわたしだけ。

 

 エンジェルは満月の影響受けないし。

 ……早く…早く彼の仲魔に……。

 

「ふふっ……新刊……買っちゃった。サマナーさんと一緒に……。あ……ネコマタさん?」

 

「……あ……リリ、ム…?」

 

 紙袋を抱きかかえたリリムが……電話する手間が省けた。けど……安心したら…。

 

「……ちょう…ど、よかった……わ…」

 

「え…ネコマタさん!? 救急……お、おねえちゃん呼ばないと……!」

 

 慌てた様子でスマホを取り出すリリムを最後に意識を落とした。

 



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6話

「悪魔討伐」

 

 ……クリスマスなのに。

 テンプルナイトには有給もないのね。

 

「あーもう! やってられないわ!」

 

 押し返された有給届けをびりっびりに破く。

 

 ……本気(マジ)でどうしてくれようかあの元老院(ジジイども)

 

「落ち着いてください。今回は人員も増えていますし大丈夫でしょう」

 

「……確かに人員増やせと言ったけど…」

 

「……クリスマス。……あなたとのクリスマス。………はぁ…」

 

 どんよりとした空気を纏う天使。

 

「……()()()()()()()()()()()()()

 

 テンプルナイト増やせって言ってんの! エンジェルとアークエンジェルでどうしろっていうのよ!? 

 

 凶悪な悪魔って聞いてんのよ! 

 こんなの犬死じゃないの!! 

 

 しかもここが発生地なんでしょ……! 

 一度行ったことあるからとかふざけた理由付けて派遣したくせに! 

 

 ……出会わないことを願うわ。

 まだ死にたくないもの。

 

「全国各地でテンプルナイトが派遣されているんです。流石に厳しいかと」

 

教徒(メシアン)がいるでしょ!!」

 

 一応戦えるじゃない! 

 下手すればテンプルナイトよりも強い奴いるわ!! 

 

 ロザリオを握った拳や聖書で悪魔殴ってたの見たことあるわよ!? 

 

「悪魔討伐はテンプルナイトの仕事です。仲魔が増えただけでもありがたいと思った方がいいですよ」

 

 なによそのブラック企業は。

 ……転職した方がいいじゃないの。

 

「あの一ついいですか?」

 

「……なによ」

 

 ゆっくり歩くエンジェル。

 ……揺れる大きな脂肪。

 

 ……あ、私より……ある。

 ま、まぁ……天使だし? 

 

 ペターンとか言った奴は殺す……。

 

「仲魔になるとはひとことも言ってないですよ」

 

「……は?」

 

「あくまで協力関係です。そこのところは忘れないでください」

 

 丁寧なのに刺々しい。

 このエンジェルとは仲良くなれそうにないわ。

 

 ……脂肪(それ)も含めて。

 

「エンジェル。それは()のお言葉を逆らう行為ですよ」

 

「逆らうもなにも私には仕える()がいるのです。任務のため指示は受けますがそれ以上の干渉は不要です」

 

 変態天使(アークエンジェル)よりも扱いにくいじゃない。

 これ面倒なエンジェルを押し付けられただけよね。

 

 ……帰ったらただじゃおかないわ。

 

「ふぅん……サマナーがいるのね」

 

「サマナーではありません。がとても素敵なお方です。……ふふっ」

 

 あーエンジェルって個人を守護するんだっけ? 

 

 ……その人間に恋した、みたいな? 

 守護って確か人間一人にエンジェル一人を付けるのよね。……恋愛モノにありそうなシチュエーション。

 

 私のエンジェルってどんな子なんだろう。……気になるわね。

 

 教えてくれないんでしょうけど。

 

「守護する者を主と同位に見るのは粛清対象になりますよ」

 

 ここまで言わせるって相当よね。

 珍しくアークエンジェルが怖い。

 

「変態天使にいわれても痛くも痒くもありません」

 

 ……どこ吹く風で返り討たれたわけなんですが。

 

「なっ……!」

 

 あー……アンタのセクハラばらまいたんだったわ。……なんかごめん。

 

「与太話は終わりましょうか。テンプルナイト様如何なさいます?」

 

 反論させる隙を与えず翼を広げ浮く。

 

「例の廃病院に行くわよ」

 

「ぐっ…分かりました」

 

 やっぱり天使も女が強いのね。

 悔しそうなアークエンジェルを見てしみじみ思う。

 

 ……天使に性別あったっけ? 

 どうでもいいか。

 

「先に行きます」

 

 速攻で単独行動(ソロプレイ)、と。

 ……前途多難だわ。

 

 

 監視をつけられるのは予想通りです。

 

 新米テンプルナイトとアークエンジェル。最悪の場合は……ですね。

 

「……はぁ」

 

 今日はクリスマス。あなたのクリスマスは毎年欠かさず見守っておりました。

 

 プレゼントも用意しました。

 今すぐにでも会いに行きたい。

 

 あなたとクリスマスを過ごしたい。

 

 ……憂鬱です。

 お正月ぐらいは一緒に過ごしたいですね。……過ごせればいいんですが。

 

「過ごせれば苦労しませんよね」

 

 確実にバレてます。

 メシアのやり方は分かってるつもり。

 

 それよりも大きな問題のせいで構ってる余裕がないだけでしょうけど。

 

 逃げても構いませんがあなたに矛先が向いてしまうのが怖い。……流石に私一人でメシアを相手取るのは無謀というもの。

 

 最悪頼る術はありますが……危険(リスク)を負いたくない。……元は天使ですし実力は折り紙付き。なのに()()()()なんですよ。

 

 ……堕天した理由じゃないですよね? 

 

 ロリコンは置いといて問題は……一緒にいる少女。()()()()()()()()()()()

 

 源氏物語でもするつもりなんでしょうか? 

 

 ……人のこと言えませんが。

 

 誰かに頼る……難しいですね。

 ネコマタたちに頼るのも気が引けます。

 ……頼りたくないのが本音。

 

 ……知ってるの多分…()()()です、よねぇ。

 

「……はぁ…」

 

 先ずは情報収集。犠牲者が出る前に……なんとかしなければいけない。

 

 ━━なにより

 あなたが平和に過ごせる世界を作るために……。



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7話

 違法COMPを回収したことが評価され上司から仲魔をもらった。

 

「やーい! ざーこざーこ!」

 

「こんのガキ……」

 

 ━━押しつけられたの間違いだな。

 

 適当な理由付けてコイツを手放したかったんだろうよ。……ふざけてやがる。

 

 ……褐色の少女の妖精。

 手にGUNPを持ち見下しながらひたすら煽る。

 

 まさか盗まれるとはな。

 大人しそうだったから油断しちまった。

 

 人の形をしてようが悪魔ってことか。

 フォルネウスとデカラビアが変わり者だからな。

 

 大丈夫だろう、と軽い気持ちでいた。

 仲魔には恵まれてたんだな。

 

 はぁ……拳銃じゃないだけマシだと思うべきか。

 

「弱い弱ーいに妖精なんかにCOMP取られるってどんな気持ち? ねぇどんな気持ち?」

 

 ……眉間に風空けてやろうか? 

 

 壁に穴が空く未来が見える。

 ムショにぶち込まれる未来もな。

 

 冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出す。

 

「……後で返せよ。ったく……んぐっ」

 

 プシュッとプルタブを引き抜く音。

 勢いに任せ喉に流し込む。

 

 …久々の休み。

 三賀日の最後だけ休みとかふざけんな。

 ガキに構ってられるか。

 

「逃げるんだー? しっぽを巻いて逃げるんだー? ぷふっ、雑魚サマナーじゃん」

 

 ……うるせぇな。

 

「……はいはい雑魚だ雑魚。雑魚は雑魚らしくひれ伏しとくから起こすんじゃねぇよ?」

 

「うわぁー雑魚って自覚あるんだぁ。……サマナーやめちゃえばぁ?」

 

 無視だ無視。

 

 飲み干した缶ビールをゴミ箱に投げる。

 外したか……後で入れりゃいいだろ。

 

 新調したソファに寝転がる。

 ……なにがクリスマスプレゼントだ。

 

 こちとらガキの世話したくてサマナーになったつもりはねぇっての。

 

 突っ返してもいいが…………クソッ。

 

 妖精は珍しい種族だ。強いか弱いかといわれれば弱い分類だな。

 

 ピクシーなんかは初心者入門向け悪魔とも言われてるが間違い。滅多に出会えないし大体がやスライム、餓鬼辺りを初期仲魔にすんだろう。

 

知る限り複数体仲魔にしてるサマナーは()()()()しかいない。

 

 当たり前のことをいうが悪魔召喚プログラムはあくまで召喚をするプログラム。制御できるわけじゃねぇ。

 

 気まぐれの妖精がいうことを聞くかといわれれば正に本人次第だ。……スライムと餓鬼も怪しいところだがな。

 

 交渉成立なんて夢のまた夢、よしんば仲魔にできても逃げられるってことは珍しくない。

 

 それ故に裏で高額で取引されたりする。

 現金ではなくħでだ。ピンキリだが定価でピクシーが50000ħぐらいか。

 

一番安い()()()()でだ。

 

 1ħのレートは100円。

 ……面倒な悪魔押しつけやがって。

 

「……面白くないの。あ…えいっ! …きゃっ!?」

 

「ん? なんだサマ」

 

 あん? 呼んでね……っ!? ……なんだなんだ!? 

 

 轟音が響き強い揺れが起こる。

 ……止まったか。地震にしては……違和感が……? 

 

 ……立ち上がる。

 褐色の少女……()()()だったか。

 一点を見つめ尻餅をついていた。

 

 視線を辿れば━━

 

「……は?」

 

 なんで壁にフォルネウスがめり込んでんだ。……そういうことか。

 

 ナジャが落としたGUNPを拾う。

 

「…ぁ」

 

射出召喚(コール)しやがったな。……まぁ死にはしねぇからいいか。……後で謝っとけよ?」

 

 短気じゃねぇから大丈夫だろうが殺し合いに発展したらデカラビア呼ぶだけだ。

 

「……はい」

 

 事の重大さに気づいたのか項垂れる。

 

 ……パスワード設定しとくか? 

 旧型のせいでルーン文字になっちまうけど零距離なんてされりゃ流石のフォルネウスも木っ端微塵だ。

 

 もうやんねぇだろうけど。

 

 さっきの威勢はどこにやら。

 黙りをきめている。……自分もされると思ってんのか? 

 

 アレ見ればビビるか。

 ……しゃあねぇな。

 

「安心しろ」

 

 ナジャの頭に手を置く。

 ……風呂入れた方がいいか? 

 

「んっ」

 

「あんな召喚しねぇから。……フォルネウス以外は」

 

「……弾切れしたら」

 

「GUNPで殴り倒せばいい。……風呂入ってこい。臭うぞ」

 

 COMP全般にいえるが頑丈だからな。並の刃物なら傷一つ付かねぇよ。

 

「っ! ……へんたーい」

 

 気になるのか臭いを嗅ぐ。

 ……悪魔でも女の子か。中途半端に寄ってるから割り切って扱えねぇな。

 

「男はみんな変態だ。着替えは洗濯機に入れとけ」

 

「そういって脱ぎ捨てた服に変なことするつもりでしょうー? ローリコン」

 

 減らず口は変わらない、か。

 

「ちんちくりんに興味はねぇよ。グラマラスになって出直してこい」

 

「……ふーんだっ! 変なことしたら警察に通報するんだから」

 

「その()()なんだが」

 

 停職食らってるけどな。

 

「え…? ……今度から嘘つきって呼んであげる。……ふんっ」

 

 …………ガキは嫌いだ。

 なんでコイツを渡したのか分からねぇ。分かりたくもねぇ……。

 

 どうせ面白そうとかそんなクソみたいな理由だ。

 ……クソが。

 

「サ、サマナー……引き抜いて…く、れ…」

 

 ……忘れてたわ。

 

「すまんすまん」



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8話

 ……ニンゲンは大嫌い。

 

 悪魔を物みたいにぞんざいに扱うニンゲンが。

 

 ただ平和に暮らしていただけなのに……ニンゲンは━━

 

 あの時からずっと……ずっと……。

 暗い檻の中にいた。……ニンゲンの声が遠くから聞こえる。

 

()()()()()()。その言葉が頭の中に響く。

 ……夢も現も関係ない。今もずっとこびり付いている。

 

「…………変なニンゲン」

 

 湯船に浸かる。

 あったかい。……何時ぶりだろ。

 

 こんなに心安らぐの……。

 

 ニンゲンは大嫌い。……助けてくれたあの()()()()()()()だって私を物の様に見ていた。

 

 まだ覚えている。オンナと一緒にいた悪魔たちが同じニンゲンや悪魔を皆殺しにするところ。

 

 おかげで助かったけどあのオンナといる時は最悪だった。

 

 今は━━

 

「……マシ、かな」

 

 うん、謝らないと…………。

 

 

「……友…痛むか?」

 

「大丈夫だ。イテテ……」

 

 デカいたんこぶ作ってて大丈夫はねぇだろうよ。

 

 フォルネウスの頭にペタペタと薬草を貼るデカラビア。念の為に召喚はしといた。

 

 まだ壁だけで済んでるからな。

 家が崩壊すればアットホームな職場に移住することになる。

 

 ……最近になって気づいた。

 ()()()()()()。……何をやってるか知らねぇが関わらない方がいい。

 

 キリが良い時にでも……な。

 独り身で良かったわ。これが妻子持ちなら……。

 

 もしも(IF)の話なんてしょーもねぇな。

 

 しかし━━

 

「どうすっか」

 

 仲良くなる。

 ……ってのが理想なんだが。

 

 無理だろうな。

 

「その妖精はお風呂にいるのか?」

 

「ああ、臭うから入ってもらった」

 

 風呂ぐらい入れとけ。

 ……上司(アレ)がそこまでするわけねぇか。

 

 他人に無関心だからな。

 

「……まさか言ったのか?」

 

「言ってたぞ。仮にも女に言うことじゃないよなー」

 

 揃いも揃ってなんだ。

 憐れむような顔で見んなよ。

 

「……うるせぇ」

 

「正直過ぎるのも困りものだぞ」

 

「オレ様でも気を使うぜ」

 

 なんで気遣わないといけねぇんだよ。

 こちとら煽り倒されてんだぞ? 

 

 ……面倒くせぇな。

 

「……わーったよ。後で謝りゃいいんだろう」

 

「おうよ!」

 

「それでこそサマナーだ」

 

 お前たちはなんで堕天したんだ。

 天使よりも天使らしいだろ。

 

「サマナー」

 

「どした」

 

「妖精の着替えは用意してるのか?」

 

 ……やべっ。

 

「忘れてたな。適当に持ってくか」

 

「……服も買わないといけないぞ」

 

「オレ様とデカラビアは兎も角、妖精は人型だしなー」

 

 なろうと思えば人型になれんだろ。

 ……なられても困るか。

 

「あいあい」

 

 ……自分の服を着せる性癖なんて持ち合わせてねぇんだが。

 

 明日にでも買いに行かなきゃな。

 金は珍しく潤ってる。

 

 少しは良いもんを、な。

 

 あー……これぐらいしかねぇ。

 

 適当なワイシャツ。

 下着……までは無理だな。

 

 ……謝る。後で謝る。よし、行くか。

 

 

「ありがとなデカラビア」

 

「友のためだ。そうだサマナー。少し聞きたいことが……サマナー?」

 

「サマナーか? サマナーなら風呂場に行ったな。妖精の着替えを━━」

 

「変態! ロリコン! 強姦魔!!」

 

「だから着替えを持ってきただけだって言ってんだろ!!」

 

「そんなこといって覗きでもしようとしてたんでしょ!? やっぱりロリコンじゃん!!」

 

「だーっ! うるせぇな! お前の身体に興味なんてねぇよ! 安心しやがれ!!」

 

「…むぅ!! 嘘つき変態雑魚サマナー!!」

 

「なんだと!?」

 

「……止めるか」

 

「全く手間のかかるサマナーだぜ」



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9話

「暇だ」

 

 夜中は冷える。

 わざわざ外に出てコンビニ来る者はいない。

 

 前に比べれば客数は増えた。

 八割方人ならざるものだが売上が上がったことには変わりない。

 

 どんな姿であろうと客には変わらん。

 

「おふぃひぁん。……ひょうひふぁの?」

 

 頭上にはポルターガイスト。

 口にいっぱいお菓子を頬張っていた。

 

「なんでもない。が食べるならせめて一言言ってくれたまえ」

 

「ふぁーい」

 

「食べるまで黙っておくのだ」

 

 お菓子の欠片がボロボロと落ちてくる。……何故頭上に居るのか。

 

 これならまだ隣にいる方がマシだ。

 欠片を払いため息を吐く。

 

 ……来たか。

 

「いらっしゃいませ」

 

 入店音を合図に顔を上げる。

 

 落ち着きのない女性がキョロキョロと見渡していた。

 

「あ、はい。お邪魔します」

 

 戸惑いながらも律儀に返事を返す。

 ふむ……外国人、か。

 

 流暢な日本語を話す。

 かなりの期間滞在しているのだろう。

 

 不思議な容姿をしている。

 おとぎ話の赤ずきんみたいだと思ってしまったのは仕方ない。

 

「なにかお探しかね?」

 

「え? あ、その……林檎を」

 

 林檎……? 

 

「カットフルーツならあるが」

 

「そうなの……」

 

「ご期待に応えられず申し訳ない」

 

「大丈夫よ」

 

 眩しい笑顔。

 

「何かあれば聞いてくれたまえ」

 

「ありがとう」

 

 客は彼女一人だけ。

 しかしこんな夜更けに女性一人とは。

 

 治安は比較的悪くないがあの事件のこともある。がそこまで見きれないか。客がきて困ることはない。

 

「……目の保養にはなる、か」

 

「めのほよう?」

 

「美しいものを見て楽しむことだ」

 

 暇ができたら山登りもいいかもしれん。

 山から見える景色は格別だからな。

 

 

 ……見つからない。

 この町に向かったとオーディン王から聞いたのに。

 

 ロキったら……。

 日本観光行ってくるーとか言って急に居なくなるし……。

 

 オーディン王もオーディン王で天津神に目をつけられたくないからか内密にロキを連れ戻して来いって……。

 

 ……林檎も置いていけって……はぁ。

 ロキはいないし太陽は沈んでしまった。

 

 夜を明かすことになってしまったわ。

 その宿もないし運良くこんびに? を見つけて中に入ったんだけど……。

 

「流石に迷惑よね」

 

 ……悪魔召喚師(デビルサマナー)の男の子。

 あの子に事情を話しておけば良かったかも。

 

 でも眠っていたしあの妖精さんに嫌われちゃったから難しかったかな? 

 

 面白い子だったわ。

 妖精達にあれだけ愛されていて膨大なマグネタイト。……まるで()()()ね。

 

 ロキの興味を引きそうに見えたけど……本当どうしようかしら。

 

「なにしてるのー?」

 

「わっ……悪魔?」

 

「うん」

 

 お菓子を食べながら宙に浮いている。

 この町には悪魔が多いみたい。

 

「ちょっと困っていて」

 

「困ってるの? 待っててー」

 

 お菓子を食べ終えた悪魔はふわふわと店員さんに向けて飛んでいく。

 

 会話が始まった。

 聞こえないけどあたしのことよね。

 

 店員さんが一瞥する。

 小さく頷き悪魔と共に歩いてきた。

 

「困っているとのことだが」

 

 ……そうね。背に腹はかえられない。

 この店員さんも悪魔召喚師(デビルサマナー)みたいだし。

 

 

「……貴女は女神でこの町に居るであろう神を探しに来た」

 

 悪魔の次は女神かね。

 もう驚かんぞ。

 

「……ええ」

 

「たが見つけることは叶わず夜が更ける。途方に暮れていたところ此処を見つけたと言うわけだな」

 

「そうなの……」

 

 この辺りに宿泊施設などはない。

 隣町に行けばまだ希望があるが……。

 

 終電も過ぎている。タクシー……は流石に酷だろう。ふむ……。

 

「おひふぁん。ングッ…助けてあげようよ」

 

 だから頭上で菓子を食べるのはやめろ。

 

「……わかっている。一晩明かすことができればいいのだな?」

 

「ええ。その後ならどうにでも」

 

「では事務所を貸そう。粗末なソファしかないが疲れは癒せるだろう」

 

「……いいの?」

 

 良くなければ言わん。

 

「嫌なら別に」

 

「お願い!」

 

 ……女神も人と変わらないか。

 

「では案内しよう」

 

「ありがとう!」

 

「ぼくもいくー」

 

 事務所に招き入れる。

 女神はポルターガイストに任せることにした。

 

 名前を聞き忘れたがつかの間。気にしても仕方ない。

 

 ……ホット飲料の補充でもするかね。



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10話

「ふわぁ……デカラビぁ…」

 

 お昼過ぎ。

 ベッドで眠っていたナジャが起きる。

 

 あれから四苦八苦したがサマナーと呼ぶぐらいには丸くなった。

 

 初めは変態、ロリコン、強姦魔など散々言われていた。

 

 ……色々あった。

 それ故に今がある。

 

 分かりきっていたことだがやっぱりサマナーはサマナー。

 

 喜ばしいことだ。

 

「どうした?」

 

「サマナーわぁ?」

 

「ついさっき仕事に行った」

 

「……フォルネウスもぉ?」

 

「そうだ」

 

 といっても喧嘩(けんか)仲裁(ちゅうさい)らしい。

 

 意気揚々としたフォルネウスに反し青筋を立てながら怒りの形相(ぎょうそう)で出ていったサマナーを見送ったばかり。

 

 睡眠中に半ば無理やり起こされた挙句駆り出されたのだ。

 

 ……自業自得だが仲裁という名の処刑を下される人間に一抹の不安を覚えた。

 

「ご飯…ふわぁ…」

 

「カップ麺がある」

 

「んみぃ……はーい」

 

 目を擦り脱衣所へと消えていく。

 ……サマナーが買った可愛らしい洋服を抱えて。

 

 湯を沸かすとしよう。

 料理はできないがこれぐらいは。

 

 ……今日は()()()()()()だったな。

 あー……そういうこと、か。

 

 暫くは戻ってこない。

 戻ってこれないだろう。

 

「サマナーも大変だな」

 

 

「助かったわ()()()

 

 キャバドレスに身を包んだ美しい女性。

 魔女と言った方がしっくりくるか。

 

「……下僕ぐらいちゃんと管理し━━」

 

 伸びた男共を見下ろす。

 人の睡眠を邪魔した罪は重い。

 

「……殺すか」

 

「どうどうサマナー」

 

「もう、ちょっと愛が重かっただけじゃない」

 

 ちょっとどころじゃねぇし愛でもねぇよ。

 洗脳の間違いだろ。

 

 なによりチョコが欲しいが為に店内で暴れるとかしょうもねぇよ。

 

 愛に群がり欲しようが別に構わねぇ。

 だが睡眠の邪魔だけは許さねぇ。

 

 現役なら現行犯でしょっぴいてた。

 

「次は殺すって言っとけ」

 

「はいはい。お礼にご馳走するわ」

 

 ……ご馳走、か。

 飯を食い損ねてるから魅力的だが……。

 

「いいのか!?」

 

 フォルネウスが食い気味に反応する。

 

 おいフォルネウス……。

 残ってる二人に悪いだろ。

 

「断る」

 

「二名様ご案内よ」

 

 人の話を聞け。

 

「はーい!」

 

 裏から少女たちが現れた。

 あー……()()()、だな…。

 

 少年の仲魔にいた。……二体も。

 ……よくこんな悪魔を仲魔にしたわ。

 

 見かけによらず……ってか? 

 人様のこと言える立場じゃねぇけど、よ。

 

「っておい。……クソが」

 

 前後左右と囲まれる。

 無理やり椅子に座らされた。

 

「次いでに()()()の練習相手になってくれると助かるわ」

 

 ……そっちが本命(メイン)だろ。

 帰してくれそうにねぇな。

 

「……わーったよ」

 

「宜しくお願いしま〜す!」

 

 元気な声が眠気を覚まさせる。

 

「飯をくれ!」

 

「はーい!」

 

 もう頼んでやがる。

 全くフォルネウスは……。

 

 ……適当に飲んで帰るか。

 

 

「……ここ?」

 

 ネオン街の片隅。

 路地裏に隠れた怪しげな店。

 

 ナジャは訝しげに見ている。

 妖精を連れて来るのは躊躇われるのだが……。

 

「……行こ」

 

 扉を開けズカズカと中に入っていく

 逞しい妖精だ……。

 

 放ったらかしにされた怒りに身を任せているのかもしれないが。

 

 ……この後の光景を見れば拍子抜けすることだろう。

 

 後に続き中へ入ると驚くべき光景が━━

 

「力み過ぎだ。型崩れてんぞ」

 

「こ、こう……?」

 

「さっきよりはマシだな。他は……おい、チョコを何処にやった?」

 

「? レンジ〜……ひゃんっ!?」

 

「爆発してんじゃねぇか! レンチンすんな! 湯煎(ゆせん)しろ!」

 

 ある訳がない。

 チョコの爆発に多少驚きはしたがそれだけだ。

 

「大変だなー」

 

「ふふっ、そうね」

 

「テメェらは飲んでんじゃねえ!!」

 

 夢魔たちに囲まれチョコを作るサマナー。それを酒の肴に飲むフォルネウスと女性。

 

 ナジャはあんぐりと口を開けて動かない。

 

 仕方ないことだ。

 ……我はもう慣れた。

 

「あらお客さん?」

 

「デカラビアじゃないか!」

 

「遅いから迎えに来た。……久しいな()()()()

 

「ええ、何時ぶりかしら? この子は……例の妖精ね。アダムから聞いてるわ。こんにちは」

 

「………こんにちは…」

 

「警戒されちゃったわね」

 

()()()……。

 サマナーも面倒な悪魔に好かれたものよ。

 

「相変わらず良い男よ。娘たちを引き取って欲しいくらい。……また()()に戻るのもありかしら?」

 

「御遠慮願おう」

 

「あら残念」

 

 サマナーが過労死してしまう。

 

「ママ〜お客さ〜ん?」

 

 夢魔の一人がやってきた。

 

「大切なお客さんよ」

 

「その子も〜?」

 

 ナジャに興味を持ったか。

 じっと見つめる夢魔。

 

「あ……私、は」

 

 ナジャと同じ少女の姿をした悪魔。

 慣れてないのかしどろもどろになっていた。

 

「ねね! チョコ作れる?」

 

「……作れない」

 

「じゃあ手伝って!」

 

「作れないって……ちょっと」

 

 夢魔に連れていかれる。

 ……大丈夫だろう。

 

「じゃあ作ひんっ!?」

 

 サマナーのデコピンが炸裂した。

 痛そうに鼻を押さえる夢魔。

 

「調理中に離れんな。あん? ……ナジャか。…なんで此処に……」

 

「……遅かったから」

 

 怒るに怒れないか。

 夢魔たちにチョコ作りを教えているだけに過ぎない。

 

 帰ろうとしたところをリリス嬢が理由をつけて留めたんだろう。

 

「あー悪い。チョコの作り方を教え……砂糖入れ過ぎだ! ちゃんと計って入れろって言ってんだろ!」

 

 自由な夢魔たち相手には流石のサマナーもたじたじだな。

 

「……はぁ…ナジャも作るか?」

 

「あ、うん。……作る」

 

「おう。材料用意するから待っ…ん? おい、大丈夫━━」

 

 他の夢魔が躓き抱えていたボウルを離す。

 ボウルの中には溶けたばかりのチョコ。

 

「あっちぃ!?」

 

 綺麗な軌道を描いていきサマナーに襲いかかった。

 頭から被り全身チョコだらけのサマナー……。

 

「サマナー!?」

 

「ごめん〜大丈夫〜?」

 

「……大丈夫だ」

 

 ……チョコ、作れるのだろうか。

 

「デカラビアも飲もうぜ!」

 

 寝泊まりも視野にいれておこう。

 

「……そうしよう。適当に頼む」

 

「はいはい。少し待ってて」

 

 改めて思う。

 サマナーの仲魔になって良かったと。



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11話

「……やっとできた」

 

 額の汗を拭う。

 あとは箱に詰めて綺麗にラッピングをするだけ。

 

 悪魔にしてはよくやった方がよね。

 バレンタインなんて祭事(イベント)に興味なかったし。

 

 ハロウィンとクリスマス、あとはお正月。集まって飲むぐらい。

 

 料理ならまだしもお菓子作りは専門外。

 本当は誰かに頼みたかった。けどサマナー持ちは気が引けるし、エンジェルは仕事尽くし。

 

 電話越しに有象無象たちにチョコを配らないといけないとか荒れた様子で教えてくれた。

 

 有象無象って……天使が使っちゃダメな言葉でしょ。

 

 前に愛しい彼と神のどっちを取るかと聞い時一寸の迷いもなく彼と言ったぐらいだし許される……? 

 

 しかし勧誘目的でチョコを配る、ねぇ。

 

「メシアってなんでもやるのね」

 

 ……チョコから始まる勧誘術。

 愛を祝う日に勧誘を持ち込むなんてどうかしてる。この場合は入信? どうでもいいか。

 

 聖人への冒涜でしょ。

 エンジェルも言いなりにならないでこの日ぐらい愛する彼のところに行けばいいのに……。

 

「これには同情するわ」

 

 本当に嫌ならとんずらするだろうし気にしても仕方ない、か。エンジェルにもエンジェルなりの考えがあっての行動でしょうし。

 

 てっきり自分自身にリボンを巻いて食べてください、とか言いながらその彼を襲うなりすると予想していた……。

 

「わたしがやったらただのヤバい奴よね」

 

 仲魔じゃないし。

 変態悪魔認定とか洒落にならない。

 

 そのポジションはエンジェルだけで間に合ってるわ。

 

「ん、んー。……学校、か」

 

 時計を確認すれば午前九時。

 前日に材料を用意し朝早く起きて……。

 

 なんだかんだ平和な日常。

 

 平和に甘えていたわけじゃない。

 例の悪魔のことは忘れてない。

 

 探しても見つからないのよね。

 今年に入ってからは音沙汰の一つもない。

 

 ……この町から移動した? 

 なら好都合。

 

 わたしが守りたいのはあのサマナーだけ。

 馬面悪魔だけに構ってられない。

 

 悪魔の間で有名になりつつあるから変な悪魔が来ないとも限らない。

 

 つい最近だと()()()()()と遭遇した。……事務所のソファで眠っていた時はうっかり殺しかけた。

 

 店長も店長で人が良過ぎるわ。

 女神がコンビニに入ってきたら警戒どころじゃないでしょ。あー……オニとか天狗が買い物に来てる時点で今更かもしれない。

 

「サマナーに興味はないみたいだし別にいいけど」

 

 来た理由が神探し。

 見つけたら直ぐにでも帰ると言っていた。とっととその神を見つけて帰って欲しいわ。

 

 ……はぁ…。

 

「これでよし」

 

 あとは溶けないように冷蔵庫にいれて━━

 

「……誰?」

 

 インターホンが鳴る。

 こんな朝早くに? 

 

 何か頼んだ覚えはない。

 家賃は払ってるから大丈夫よね。

 

 ……宗教勧誘は前に丁寧にお断りした。

 出たら分かるか。

 

 の前にチョコを冷蔵庫にいれて、と。

 

「はーい。どちらさ……」

 

「シャワー貸してくれない?」

 

「……あぅ、ネコマタさん……」

 

 甘い匂いを漂わせる夢魔姉妹だった。

 ……なんで頭からチョコを被ってるの? 

 

 あー……はぁ。

 

「あとで聞くにゃ」

 

 風呂は貸してあげる。

 新聞紙敷くから待ってて。

 

 

 ふ、ぅ……気持ちよかった。

 

 ネコマタさんの服は一回り大きくて少しブカブカ。

 袖を鼻に当てるととてもいい匂いがした。

 

 ……お母さんみたいな落ち着く匂い。

 お母さん……元気にしてる、かな。

 

「……ドラム缶をひっくり返してチョコをぶちまけた、と」

 

「は、はい」

 

「……全然意味がわからないにゃ」

 

 頭を抱えるネコマタさん。

 ……サマナーさんのためにチョコを作ってて……その……。

 

「チョコ作りにドラム缶を使う理由を教えて欲しいにゃ」

 

「そ、それは」

 

「等身大チョコを作るためだって」

 

 お風呂を上がったばかりのおねえちゃんが代弁してくれた。

 

「……止めなさい」

 

「いやー面白そうだったし? そのせいで部屋中チョコだらけ。アタシの手作りチョコも巻き添いを食らってパーよ」

 

「……ごめんなさい」

 

 なにも言えない。

 材料をダメにしてサマナーさんに何も渡せなくなっちゃった。

 

 あたしのせいでおねえちゃんも……。

 

「暇だし掃除は手伝ってあげる。……材料余ってるしウチで作る?」

 

「いいの?」

 

「い、いいんですか…?」

 

「年に一度のバレンタイン。お世話になってるサマナーに渡したいんでしょ? 余った材料を処分するより全然いいわ」

 

 ネコマタさん……! 

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「んにゃ!? ……いきなり抱きつくのはやめなさい」

 

 だ、だって……嬉しくて……。

 苦笑いしつつ頭を撫でてくれる……。

 

 おねえちゃんよりおねえちゃんみたい……。

 

「ネコマタはもう作ったの?」

 

「ついさっき終わったにゃ」

 

 ネコマタさんも渡すんだ……。まだサマナーさんじゃないんだよね。

 

 ……ネコマタさんだもん。絶対仲魔になれるよね。そしたらお互いのサマナーさんの色んなことをお話したい、な。

 

「……先に掃除の方がいい?」

 

「その方が良さそうね。匂い染み付いたら困るしー。床一面チョコだらけ……フローリングなのがまだ救いよ」

 

 あ、ぅ……。

 

「……ならマーメイド呼んで洗い流してもらった方が早いわ。あとケットシーも呼びましょうか」

 

「ケットシー?」

 

 おねえちゃんが不思議そうに聞いている。ケットシーさん……中性的で……抱きしめたらもふもふで……。

 

 ぬいぐるみみたいな愛らしさが……。

 

「お菓子作り得意なのよ。ウチで食べてるお菓子は殆どケットシーの手作りだし」

 

「そ、そうなんですか……!?」

 

「……まさかー……マジ? てっきりネコマタが作ってるのかと」

 

 あ、あたしも……。

 

「わたしが作れるのは飯とつまみだけよ。甘いものあんま好きじゃないし」

 

「猫だから?」

 

「ならケットシーはなんなのよ」

 

「……あっちの方が猫らしいか」

 

 二足歩行のネコさん……。

 

「雑談はここまで早く行きましょ」

 

「はーい」

 

「は、はい」

 

 ……今度ケットシーさんにお菓子作りを教えてもらおう。

 

「いつまでくっついてるの?」

 

「ふぇ?」

 

「歩きづらいし……」

 

「あ、えと……ごめんなさい!」

 

 渋々ネコマタさんから離れる。

 そして改めてネコマタさんの腕に抱きついた。

 

 こ、これで……大丈夫、ですよね……? 

 

「アタシの知らぬ間に百合ってた?」

 

「わたしにそっちの気はないわ」

 

「ふーん。まぁいいんじゃない?」

 

 といっておねえちゃんもネコマタさんの腕に抱きついた。

 

「……アンタまでくっついて何がしたいの?」

 

「いいじゃんいいじゃん! 減るもんじゃないし」

 

 ……なんか、嫌だなぁ。

 

「むぅ」

 

「……腕が痛い」

 

「はわっ…ご、ごめんなさい!」

 

 そ、そんなに強く握ってたかな……。

 

「……面倒くさい姉妹だにゃ」

 

「だって夢魔だし?」

 

「この姉妹を仲魔にしたサマナーはご苦労さまにゃ」

 

 ため息を吐いて外に出ていくネコマタさんに合わせてあたしとおねえちゃんも……げ、玄関が…狭い……。

 

「……一度離れるにゃ」

 

 うぅ……はい…。



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12話

今回は本編になんの関係もない学生サマナーさんのお話です。1話で完結するのでその後のことは分からないです()


「……んっっ…朝……」

 

 ……寒い。

 嫌々ベッドから起き上がる。

 

 閉ざされたカーテン。

 少し開いたら━━

 

「…雪、降ってるんだ…」

 

 銀世界が広がっていた。

 眠っている間に降ったのかな。

 

 凄い……積もっている。

 

「おはよう」

 

 真っ白なエプロン姿の獣人……が入ってきた。

 

「おはよう……()()()()()

 

「もう十一時よ? 幾ら冬休みでも寝すぎじゃないの?」

 

 女性的な体躯をした犬の悪魔。出来の悪い妹を見る姉のような表情をしている。

 

 わたしにとったらお姉さんみたいな存在。ここに引っ越してからもずっと一緒にいる。

 

 仲魔……なんて言葉じゃ片付けられない。家族、かな。

 

「……寒いし」

 

「寒いのは分かるけど朝起きれなくなるわよ」

 

「努力しまーす……ふわぁ…」

 

 手探りでスマホを探す。……あった。

 目を擦りながらアプリを開いた。

 

 ……()()()()()()()()()。キッカケは些細なものだった。ここに引っ越してくる前……都内の学校中で噂になっていたから。

 

 このプログラムをインストールをすると願いが叶うというもの。願い、はなかったけど好奇心はあったんだ。

 

 同時に怪死事件が起きたり悪魔を見た人が後を立たなかった。

 偶然にしてはでき過ぎていた。

 

 ……噂は噂だったんだよね。入れても何かあった訳じゃない。よく分からないコマンドが沢山あっただけ……。

 

 ……悪魔は噂じゃなかった。

 

 わたしが悪魔に襲われていた時に助けてくれたのがドアマース。

 

 あの時は死を覚悟した。……だって本当に悪魔が存在するなんて思ってなかったから。

 

 初めはドアマースも怖かった。

 

「……どうしたの?」

 

 今? 全然怖くないよ。

 わたしことを本気で心配してくれた。

 

 出会って間もないわたしを抱きしめてくれて……家まで送ってくれた。

 

 その時に悪魔やデビルサマナーを知った。……そして今があるんだ。

 

 家族には教えてある。

 ドアマースを……悪魔を初めてみた家族はとても驚いていた。

 

 けど━━

 

「ご飯できたわよー」

 

 お母さんの元気な声が聞こえてくる。

 

「だって。着替える着替える」

 

 ……もう家族の一員なんだ。

 

 デビルサマナーとして活動はしている。

 

 いつ死んでもおかしくない。

 悪魔との殺し合い。……時には同じサマナーとも刃を交える。

 

 ……()()()()()()()()()()()

 

 最近は近くにある高校の学生が謎の火災事故で亡くなっている。……ドアマースが言うには悪魔の仕業らしい。

 

 とても強い悪魔でわたしとドアマースだけじゃ……死にに行くようなものだと言われた。

 

 ……もしその悪魔と遭遇してしまったら。

 ……もし家族が巻き込まれてしまったら。

 

「……ドアマース」

 

「どうしたの…?」

 

 思っきり抱きついた。

 もふもふであったかくて柔らかい。

 

「……いつもありがとう」

 

 初めて人に手をかけた時……ドアマースはわたしを抱きしめてくれた。一緒に寝てくれた……。

 

 ドアマースは割り切るように言ってくれたけど…………わたしには無理だよ。

 

「……どういたしまして」

 

 ギュッと抱きしめてくれた。

 

「……まだ……怖い」

 

 悪魔を、人を殺すのが……例えどんな理由があっても……。わたしは……殺したくない。

 

「……そう。…大丈夫。もし……ううんサマナーが無理なら……あたしがしてあげるから安心して」

 

 赤子をあやす様に頭を撫でてくれる。

 

「……ドアマースにも…殺して欲しくない……」

 

「全く。わがままなんだから……わかった。でも……」

 

「……でも…?」

 

「サマナーやお母様たちに手を出そうとする輩は……食いちぎるから」

 

 ……ドアマース。

 

「……わ、わたしも…ドアマースになにかあったら…その時は……むきゅっ」

 

 顔に胸が……。大きいし柔らかい……いい匂いがする。っ! あ…あ、の…その……。

 

「言わなくていいの」

 

 ……はい、なにもいいません。

 

「ご飯できてるって言ってるじゃな……」

 

 お、お母さん!? 

 

「まるで姉妹ね。…ドアマースも娘みたいなもの…娘だし今更ね。乳くりあうのは後にしてご飯食べなさい」

 

「はーいお母様」

 

「ぷはぁ……お母さん! 別に乳くりあってな」

 

「そっちでも全然問題ないわ」

 

 そうじゃなくて……! 

 ……あ、言いたいことだけ言ったら行っちゃった。

 

「お着替えは後にしてご飯食べましょ」

 

「……ドアマースぅ…」

 

「怒った顔しないの」

 

「もう! ……ドアマース」

 

「なーに?」

 

「大好き」

 

「……あたしもよ」



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