SIREN VS. BIOHAZARD(サイレンVSバイオハザード) (ドラ麦茶)
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第一話

美浜奈保子 大字波羅宿/耶辺集落 初日/十一時三十八分三十二秒

 

 

 

「――さあ始まりました世紀の対決『屍人 VS. スーパータイラント』実況はわたくし、世界的アクション女優の美浜(みはま)奈保子(なおこ)、解説は、永遠に村を救い続ける女・安野(あんの)依子(よりこ)さんでお送りします。安野さん、よろしくお願いします」

 

「お願いします」

 

 あたしと安野さんは、お互いペコリと頭を下げあった。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……え?」

 

「……え?」

 

 我に返ったあたしは周囲を見回す。目の前には海が広がり、反対側には家屋がまばらに建つ集落が見えた。海辺の小さな村、という雰囲気だが、海は血のように真っ赤で、家屋は今にも崩れ落ちそうな廃屋だ。空は厚い雲に覆われ、やや強めの雨が降っている。その雨も、海と同じく血のような赤だ。どう見ても、ここは異界である。赤い雨に打たれるのは危険だが、幸いタープテント(たぶん小学校の運動会用テントだろう)が張られているので、とりあえず安心ではある。

 

 あたしは、隣でニコニコ笑うお団子頭に黒縁メガネの女を見た。

 

「……安野さん」

 

「はい」

 

「お久しぶりです」

 

「はい。お久しぶりです」

 

「なぜ、あたしが異界にいるのでしょうか? 一度、安野さんのお力を借りて脱出したはずですが?」

 

 数年前の二〇〇三年八月三日、テレビ番組の撮影で、東京から遠く離れた山間の村・羽生蛇(はにゅうだ)村を訪れていたあたしは、運悪く村の呪いに巻き込まれ、異界に飲み込まれてしまった。その後、さまざまな紆余曲折を経てなんとか異界から脱出することはできたのだが(その辺の詳細を詳しく話すと非常に長くなるので省略するが、知りたい方は一連の『SIREN(サイレン)/小説』シリーズを読んでほしい。なお、現在は『SIREN2(サイレン2)/小説』が連載中だ)、なぜまた異界に来てしまったのだろう?

 

「それは、さっきなぽりんさんがご自身でおっしゃったとおりです」と、安野さん。「『屍人 VS. スーパータイラント』の実況をするためです」

 

「自分でもなぜあんな血迷ったことを言ってしまったのか判らないんです。なんですかそれは? 最初からちゃんと説明してください」

 

「はい。実はですね、この前ネットを見ていたら、某Q&Aサイトで『SIRENの屍人とバイオハザードのクリーチャーが戦ったらどちらが生き残りますか?』という質問を見かけたんですよ」

 

「どちらが生き残るもなにも、屍人はもう死んでるでしょう?」

 

「それを言っちゃあおしまいです。で、それについて三日ほど考えたんです。いろいろな結末が考えられるんですが、これだという結論は出ませんでした。だから、思い切って実際に戦わせてみようと思いまして、バイオハザードの世界からクリーチャーをお取り寄せしたんです。あちらです」

 

 安野さんが手のひらを向けた先には、二メートルを超える長身とムキムキマッチョな身体(からだ)、右肩に大きな心臓がむき出しで張りつき、異様に大きな左手の指先から刀のような爪が生えた化物がいた。それが三体並んで立っている。

 

「よくお取り寄せできましたね」感心2割あきれ8割の声で言うあたし。「例の、うつぼ船というヤツですか?」

 

「そうです。まさか、別のゲームの世界にも移動できるとは思いませんでした」

 

「まあ異界に閉じ込められた安野さんがヒマでしょうがないのは重々承知してますから何をしようと勝手ですが、なぜあたしを巻き込むんですか」

 

「格闘技好きのなぽりんさんなら興味があるかと思いまして、実況および見届け人としてお呼びしたんです」

 

「確かに格闘技は好きですが、異界に来てまで見たくはありません。誰が屍人になる危険を冒してまで見たがるんですか。それに、あたしはもうあの頃の落ちぶれた元アイドルではないんです。ありがたいことにスケジュールがぎっしり詰まってて、安野さんの遊びに付き合ってるヒマは無いんですよ」

 

「もちろん心得ています。あたしもプロの方にお仕事を依頼するので、それなりのギャラは用意しました」

 

「ほほう」と、あたしは挑発するようにあごを上げた。「どれくらい頂けるのでしょうか? いまのあたし、かなり稼いでますよ?」

 

 安野さんは顔を近づけて来て、ごにょごにょと耳打ちする。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……結構な額ですね」

 

「結構な額でしょう?」

 

 ドヤ顔の安野さんだが、あたしは疑惑の眼差しを向けた。「本当にその額なら魅力的なお話ですが、残念ながら信用できません。安野さんがそんなにお金を持っているとは思えませんから」

 

「そんなことはありませんよ。この異界はお金が唸りまくってます。一三〇〇年の間に異界に飲み込まれた家は数知れませんからね。中には、銀行とか郵便局とかも飲み込まれてます。神代家の金庫にも、かなりの額がありました。それらからちょいと拝借すれば、それくらいの額は簡単に用意できます」

 

「……それは、ひょっとして泥棒じゃないでしょうか?」

 

「ひょっとしなくても泥棒です。でも、この異界ではお金なんて紙くず同然ですから、誰も怒りゃしません。異界の肥やしにしておくよりは、現世に持って帰って経済を回した方が有意義ってもんです」

 

「…………」

 

「…………」

 

 あたしは、コホンと咳ばらいをした。「まあ、あたしも忙しい身ですが、大恩人である安野さんの頼みなら断るわけにもいきません。お引き受けしましょう」

 

「そう言ってくれると思いました。ありがとうございます。ただ、何年か後にこういった芸能人の闇営業が大問題になりますので、注意してくださいね」

 

「はい?」

 

「いえ、こちらの話です。では、ルールを説明します。ここは、二〇〇三年八月三日の異界、大字波羅宿(おおあざはらやどり)耶辺(やべ)集落です。試合は三対三の団体戦。勝者が次の選手と戦う勝ち抜き方式で行います。各試合は時間無制限のデスマッチ、どちらかが死ぬまで戦ってもらいます。武器の使用およびフィールドに制限はありません。先に対戦相手を全滅させた方を勝利とさせていただきます。ホントは『エイリアン VS. プレデター』みたいな壮大な戦いにしようかとも思ったんですが、所詮は息抜き程度のお遊びですので、今回はこれくらいで勘弁してください」

 

「あたしの方はそれで構いません」

 

「では、さっそく第1試合を行いましょう。両チーム、先鋒は前へ」

 

 というわけで選手入場。バイオハザード側からは、例のムキムキマッチョの化物が一体前に出た。

 

 安野さんが解説をする。「実はあたし、バイオハザードの方はあんまり詳しくないので、どのクリーチャーが強いのかは全然わかりません。なので、今回は初代バイオハザードより、ラスボスのスーパータイラントを連れてきました。開発ナンバーT-002、生命の危機に瀕したことで身体能力を抑えるリミッターを解除した状態だそうです」

 

 対する屍人側は、草刈り用の鎌を持った人型の屍人だ。いわゆる半屍人というヤツで、数段階進化する屍人の第一段階である。

 

「見るからに勝負ありって感じがしますけど」と、あたしは素直に感想を漏らす。対峙した二体のあまりの体格の違いを見て、そう思わずにはいられない。

 

「とりあえずやってみましょう。実況の方はよろしくお願いします。まあ、実況とは言っても観客も視聴者もいませんので、いつものとおり心の中でぶつぶつ言ってるだけでOKです」

 

「判りました。では、しっかりと見届けさせていただきます」

 

 あたしは備え付けのネイルハンマーでゴングを鳴らした。

 

 ほぼ同時に、タイラントはものすごい跳躍力で屍人との間合いを詰め、巨大な左手で地獄突きを繰り出した。動きの鈍い屍人にかわせるわけもなく、地獄突きは屍人のボディに見事ヒット。腹から背中まで貫通した。タイラントは屍人の身体を持ち上げると、思いっきり振りかぶって投げ捨てた。地面に叩きつけられた屍人は、そのまま動かなくなる。

 

 安野さんが解説する。「半屍人さんは、力は生前と同じですが、知能が低く動きもやや鈍くなってます。なぽりんさんや宮田先生が屍人化したならともかく、普通の村人の屍人では、リミッターを解除したタイラントの攻撃をかわせるはずもありませんね」

 

「まあ、予想通りですけどね。では、第1試合はタイラントの勝利ということで」

 

 あたしは試合終了のゴングを鳴らそうとしたが、安野さんが「待ってください」と止めた。

 

「なんでしょうか?」

 

「この試合はデスマッチ。どちらかが死ぬまで続きます。屍人さんはもともと死んでいますがまだ死んでいませんので、戦いは終わっていません」

 

「言葉は矛盾していますが、おっしゃりたいことは判ります」

 

 あたしは叩きかけたネイルハンマーを置き、屍人を見た。うつ伏せにうずくまった状態でじっとしている。そのまま一分ほど過ぎると、むくりと起き上がった。

 

「シェル化からの復活ですね」と、安野さん。「屍人の身体は完全に不死です。たとえ心臓を撃ち抜こうが首を切り落とそうがバラバラの細切れにしようが、肉片の一片でもあればよみがえります」

 

「そうですね。あたしも、以前は散々苦しめられましたから。しかし、そうなるとタイラント側に勝ち目はないのでは?」

 

「どうでしょうか? 屍人さんの攻撃に注目ですね」

 

 よみがえった屍人は鎌を振り上げてタイラントに襲い掛かった。しかし、振り下ろした鎌はタイラントの強靭な肉体に弾き返される。タイラントは手刀で反撃する。屍人は一撃で首をはねられ、バタリと倒れたが、うつ伏せにうずくまってシェル化すると、一分ほどで首がくっついてよみがえった。今度は拳銃を取り出し、ぱん、ぱん、と、ゆっくりとした動作で撃つ。弾は全てタイラントに命中するが、それでもタイラントには傷ひとつつかない。

 

「リミッターを解除したタイラントの肉体は装甲車のように頑丈です。ショットガンやマグナムですら傷ひとつつけることはできませんから、この村にある拳銃や猟銃なんかじゃ到底倒せないでしょうね。九九式手榴弾なら通用するかもしれませんが、あれはダムの破壊にしか使えませんから」

 

「変な縛りがありますね」

 

「それが異界のルールです。とはいえ、そのルールを取っ払ったとしても、やはりタイラントを倒すのは難しいでしょう。動きの素早いタイラントを手榴弾の爆発に巻き込むのは至難の業です。多少離れた位置から爆風を浴びたくらいじゃビクともしないでしょうから」

 

「しかし安野さん。タイラントは屍人を倒せないし、屍人もタイラントを倒せない。これじゃあ、永遠に決着はつかないんじゃないでしょうか?」

 

「永遠ってことはないでしょうね。屍人さんは不死ですが、タイラントは不死ではありません。いずれ寿命が尽きるでしょうから、そうなると屍人さんの勝ちです」

 

「ここでタイラントが自然死するまで待てとおっしゃる」

 

「なにせ、時間無制限のデスマッチですから」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……では、あたしはこれで失礼します。いえ、お見送りは結構。帰り方は判ってますので」

 

「そうはいきません。因果律を使った帰還方法ならダメですよ? 確かにあの方法なら現世に戻ることはできますが、ここは二〇〇三年の異界だということをお忘れなく。現世に戻っても、またあの頃の落ちぶれた芸能人生を繰り返すことになります。なぽりんさんが売れっ子になった元の世界に戻るには、うつぼ船を使うしかありません。つまり、あたしの力が必要なんです」

 

「くっ……何と卑劣な手段を……」

 

「なんとでも言ってください。一度引き受けた仕事は、最後までやってもらいます」

 

「あたしもプロですからそれくらいの心得はありますが、それも限度があります。タイラントって、どれくらいの寿命があるんですか?」

 

「さあ?」

 

「さあって、あなた、解説者でしょう」

 

「あたしはバイオハザードは1と4しかやったことないので、さっきも言った通りあんまり詳しくないんです。なので、確かなことは言えませんが、人間と同じであれば平均八十年。まあ、どう見てもあれはヤバイ薬で細胞に無理をさせていますので、たぶんもっと早いでしょう。うまくいけば半年から一年くらいで死ぬんじゃないんですか?」

 

「……あたしはここで年を越すつもりはないんですよ。次の仕事が控えているので、なんとかしてください」

 

「大丈夫です。実際は、もっと早く決着がつくと思います」

 

「どういうことですか?」

 

 安野さんは腕時計を見た。「そろそろ時間ですね」

 

 あたしも腕時計を見る。ちょうど、正午になるところだった。ウウゥゥ、と、海の向こうからサイレンが鳴りはじめた。異界では、〇時、六時、十二時、十八時の四回、このサイレンが鳴っている。

 

 サイレンを聞いた屍人はタイラントに背を向け、海の方へ歩きはじめた。そのまま赤い海に身を沈め、姿が見えなくなる。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……彼は何をしてるんでしょうか?」

 

「海送りですね。不死の呪いを受けた屍人さんが、常世へ向かうために現世の穢れを祓う儀式です。今は二〇〇三年の八月三日ですから、村の神様はまだ存在します。なので、サイレンが鳴れば、準備ができた屍人さんは海送りに向かいます」

 

「それは知ってますが、いま戦闘中ですよ?」

 

「そんなのは屍人さんには関係ありません。戦闘中だろうが食事中だろうがトイレ中だろうが、時間が来れば屍人さんは海送りを優先します。まあ、中には強い意思を持って海送りに抗う屍人さんもいますけど、このバカげた試合にそこまでの情熱は無いでしょうね」

 

「自分で始めといてバカげたとか言わないでください。それで、この場合はどうなるんですか?」

 

「戦闘フィールドは無制限ですからリングアウトはありません。このまま海還りまで待ちましょう」

 

 海還りとは、海送りで海に入った屍人が、次のサイレンが鳴ると同時に岸へ上がる行為である。次のサイレンは六時間後だ。ほんと、時間無制限は厄介だな。

 

 

 

 

 

 

 で、六時間後。

 

 

 

 

 

 

 再びサイレンが鳴りはじめた。

 

 …………。

 

 が、海に入った屍人は、戻って来なかった。

 

「帰って来ませんね」と、あたし。

 

「そうですね。どうやら、常世へ旅立ってしまったようです」

 

「海送り海還りって、何回も行うんじゃなかったでしょうか?」

 

「通常はそうです。繰り返すことで少しずつ穢れを祓い、より常世へ近づいた姿になります。犬屍人や頭脳屍人など、屍人の第二段階ですね。そして、全ての穢れを祓い終えたとき、常世へと旅立つんです。一回で終えたということは、それだけ現世の穢れが少なかったんでしょう。よほどの善人だったに違いありません」

 

「この場合はどうなるんでしょうか?」

 

「屍人さんは常世へ旅立った、つまり、死んだわけですから、デスマッチのルールにのっとり、タイラントの勝ちとなります」

 

 安野さんがタイラントの勝利を告げたので、あたしはゴングを乱打した。ようやく第1試合終了か。これは祭が思いやられるな。

 

 

 

第1試合

(先鋒)屍人× ―― ○スーパータイラント(先鋒)

(6時間15分34秒 海送り)

 

 

 

(終了条件達成(エピソードクリア)

 

 

 

 

 

 



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第二話

美浜奈保子 大字波羅宿/耶辺集落 初日/十八時十五分〇三秒

 

 

 

「では、第2試合を行います。屍人さんの中堅は前へ」

 

 安野さんの呼び出しで新たな屍人が前に出る。今度の屍人は、身体は人間だが顔はカニみたに突起したギョロ目になっており、背中にはトンボのような四枚の(はね)が生えている。半屍人が進化した姿・羽根屍人だ。だが、その格好は村でよく見かける羽根屍人とは明らかに違っている。農作業着ではなく防弾ベストを身に着け、膝や肘も各種プロテクター装備、ベルトのホルダーにはコンバットナイフ、そして、肩に大きなロケットランチャーを担いでいる。軍人とか特殊部隊員とかの格好だ。

 

「……なんでしょう、あれは?」あたしは安野さんに訊いた。

 

「ロケットランチャー装備の羽根屍人さんです。屍人さんの身体能力は人間とほぼ同じですから、生前きちんとした訓練を受けた人なら、屍人になってもロケットランチャーを使えるのです。なので、今回特別にバイオハザードのクリス・レッドフィールドさんに死んでいただき、屍人さんになってもらいました」

 

「ずいぶんとムチャなことをしますね」

 

「あらゆる状況で検証しなければ実験する意味がありませんからね。必要な犠牲というヤツです」

 

 にこやかな顔で物騒なことを言う安野さん。完全にマッドサイエンティストの発想だ。いや、安野さんの専攻は民俗学だから、マッドフォークロリストと呼ぶべきか。

 

「でも、いいんですか? バイオ側の登場人物を殺しちゃったりして」

 

「このサイトでは別に珍しいことではありません。ちゃんとタグに原作キャラ死亡を付けてますから、大丈夫でしょう」

 

「なにを言っているのか判りませんが、なにかあった時はそちらの責任でお願いします。ところで、屍人の第二段階になる条件って、はっきりと判ってないんですよね? うまい具合に羽根屍人になって良かったですね」

 

 第二段階の屍人は四種類存在する。羽根屍人の他に、蜘蛛のような姿をした蜘蛛屍人、犬のような姿をした犬屍人、そして、それらの屍人を操る頭脳(ブレイン)と呼べる存在の頭脳屍人である。どれもそのまんまやないかというネーミングだが、この内、男性は蜘蛛屍人、女性は犬屍人になることは判明しているが、それ以外の条件はイマイチ不明だと、誰かが言っていたような気がする。

 

「その辺は、長年の研究でかなり判ってきました」と、安野さん。「概ね、生前学があった人が頭脳屍人、警察官や猟師など銃に関わりが深かった人が羽根屍人、それ以外の人が蜘蛛屍人や犬屍人になるようです。なので、ラクーン市警特殊部隊S.T.A.R.S.所属のクリスさんなら、まず間違いなく羽根屍人になるだろうと思いました。まあ、うまくいかなかった場合は別の人で試そうと思って、ジルさんやレベッカさんにも待機してもらってたんですけどね」

 

 他ゲームの登場人物の命を何だと思ってるんだコイツは。まあいい。とにかく第2試合開始だ。あたしはゴングを鳴らした。

 

 試合開始と同時にタイラントは突進する。第1試合と同じ展開だが、今度の屍人はきちんと軍事訓練を受けた戦闘員だ。屍人は背中の翅ではばたいてタイラントの地獄突きをかわすと、上空からロケットランチャーをぶっ放した。タイラントは直撃を受け、バラバラになって吹っ飛んだ。

 

「バイオ側のクリーチャーはゾンビと呼ばれまていますが、死んでいるわけではなく、T-ウィルスに感染してゾンビのような姿になっただけです」と安野さん。「強靭な肉体を持ってますが不死ではないので、バラバラになったらさすがに生きていられません。ということでこの勝負、屍人さんの勝ちです。第1試合と違い、あっさり勝負がつきましたね」

 

「そりゃあ、屍人にロケットランチャーを装備させるなんてチート技を使えば早く決着するでしょうよ。まあ、早く終わるならあたしはその方がいいんですけど」

 

 あたしはゴングを打ち鳴らした。これで第1試合の遅れを大幅に取り戻すことができた。この調子で、今日中に終わればいいけど。

 

 

 

第2試合

(中堅)羽根屍人(クリス・レッドフィールド)○――×スーパータイラント(先鋒)

(5秒 ロケットランチャー)

 

 

 

(終了条件達成(エピソードクリア)

 

 

 

 

 

 



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第三話

美浜奈保子 大字波羅宿/耶辺集落 初日/十八時二十二分四十八秒

 

 

 

「それでは第3試合を行います。バイオ側の中堅は前へ」

 

 安野さんの呼び出して新たなタイラントが前に出る。ムキムキマッチョの身体に凶器と化した左手という姿は先鋒のヤツと同じだが、右手に土偶のような土人形を持っている。

 

「あれは、宇理炎(うりえん)というヤツではないでしょうか?」

 

「そうです。屍人さんがバイオ側の武器を使うなら、タイラントも異界の武器を使わなきゃフェアではありません。よって、今度はタイラントに宇理炎を装備させてみたんです」

 

 ホントになんでもアリだな。

 

 宇理炎とは、不死なるものを無に還す煉獄の炎を降らせる神の武器である。要するに、何度死んでもよみがえる屍人共を一発で葬り去ることができるのだ。その威力は凄まじく、ラスボスである神様でさえ数発で倒してしまう究極の武器である。

 

「では、第3試合を始め」

 

 あたしはゴングを鳴らした。羽根屍人がはばたき、上空からロケットランチャーをぶっ放す。しかし、今度のタイラントは冷静だ。驚異的な跳躍力でロケットランチャーの一撃をかわす。多少爆風を浴びたが、それくらいではビクともしない。タイラントは宇理炎を目の前に突き出した。地面から青い炎の柱が出現し、宙を舞う羽根屍人を包み込む。羽根屍人は一瞬で燃え尽き、消滅してしまった。第2試合と同じく早々に決着した。あたしはゴングを打ち鳴らそうとした。

 

 が、タイラントがガクンとひざを折り、その場に倒れてしまった。そのままピクリとも動かなくなる。

 

「……何が起こったんでしょうか?」あたしは安野さんに解説を求める。

 

「死んだんです」

 

「はい?」

 

「宇理炎は命の炎を燃やします。早い話が、使った人は死んじゃうんです。タイラントも例外ではありません。これに抗うためには神代(かじろ)家の娘の血を体内に入れるなどして精神を不死にする必要があるんですが、いかんせんタイラントの身体に注射の針が刺さらないんですよ。まあ、ショットガンやマグナムですら傷ひとつつきませんから、当然なんですけどね。なので、宇理炎を一回使っただけでアウトです」

 

「ということは、この試合は引き分けですか?」

 

「そうなります」

 

 というかコイツ、最初から結果が判っていたのにあえて実験したな。まさに外道だ。この試合が終わったら二度と関わらないでおこう。心の中で安野さんを蔑みつつ、あたしはゴングを打ち鳴らした。

 

 

 

第3試合

(中堅)羽根屍人(クリス・レッドフィールド)△――△スーパータイラント(中堅)

(13秒 両者KO)

 

 

 

(終了条件達成(エピソードクリア)

 

 

 

 

 

 



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第四話

美浜奈保子 大字波羅宿/耶辺集落 初日/十八時二十八分十二秒

 

 

 

 三対三の勝ち抜き戦で行われている屍人VS.スーパータイラントの試合は、両者1勝1敗1引き分けとなり、勝負は大将戦へともつれ込んだ。この試合を制した方が勝者となる。手に汗握る激熱な展開である(早く帰りたいから)。

 

「それでは大将戦を行います……と言いたいところなんですが、どうしましょうか?」安野さんが渋るような顔であたしを見た。

 

「どうしましょうって、何がですか?」

 

「ネタが無いんです」

 

「……はい?」

 

「屍人にロケットランチャーを装備させ、タイラントに宇理炎を装備させたので、もうこれ以上ネタが無いんですよ」

 

「ネタなんてどうでもいいですから、早く終わらせてください。あたしは帰りたいって、何度言えば判るんですか」

 

「しかし、普通に始めても第1試合と同じ展開になるだけです。つまり、屍人さんの海送り・海還り待ちです。さっきの屍人さんは一回で終わりましたけど、あれは極めてまれな例でしょう。通常は一週間から十日くらいかかります」

 

「それは困りますね。では、こうしてはどうでしょう?」

 

「なにか良いアイデアがありますか?」

 

「今度は正々堂々自分の世界の最強武器を使うんです。屍人は宇理炎装備、タイラントはロケットランチャー装備。それでいいじゃないですか?」

 

「残念ですが、屍人さんに宇理炎は使えません。精神が無いですから」

 

「というと?」

 

「人間の命は、肉体と精神のふたつから成り立っています。羽生蛇村に関係してる人は、このどちらかが、呪いで不死になっているんです。肉体と精神どちらも不死なのが神様の肉を食べた八尾(やお)比沙子(ひさこ)さん、肉体が滅び精神が不死なのが美耶子(みやこ)ちゃんら神代家の娘、そして、肉体が不死で精神が滅びるのが屍人さんです。宇理炎に必要なのは精神なので、屍人さんには使えないんですよ」

 

「じゃあ、もうひとつの神器はどうでしょう? たしか、神代の宝刀・焔薙(ほむらなぎ)とか。あれなら、屍人にも使えるでしょう?」

 

「そうなんですけど、焔薙は聖獣・木る伝(きるでん)が宿らなければ、ただのなまくらです。タイラントには効かないでしょうし、屍人さんを殺すこともできません」

 

「その木る伝とやらを宿らせればいいじゃないですか」

 

「その条件がイマイチ不明なんですよねぇ。刈割(かるわり)の灯篭に火を灯せば木る伝は解放されるんですが、あの後、どうして木る伝が恭也君に味方したのかが、いまだによく判らないんです」

 

「どうしてって、それは、神様を倒すためじゃないんですか?」

 

「そこなんです。そもそも木る伝は楽園を守る聖獣。なら、常世に侵入して神様を倒そうとする恭也君は、本来木る伝にとっては敵のはずなんです。なのに、木る伝は恭也君に味方して神様の首を斬り落とした。それはなぜなのか? ……この話、長くなりますけど聞きますか?」

 

「いえ、結構。あとでn○teにでもあげといてください」

 

「判りました。まあ要するに、こんな試合に木る伝は味方してくれませんから、焔薙も使えません。実際、屍人化した神代家当主代行の(じゅん)さんが使った時も、木る伝は宿りませんでしたから」

 

「なら第2試合か第3試合と同じでいいです。とにかく、早く終わらせましょう」

 

「しかし、それでは面白みがないですからねぇ」

 

「あんたが面白いかどうかはどうでもいい。あたしは早く帰りたいんだっつーの」

 

 などと、試合の進行について二人で議論していると。

 

「……おや?」

 

 不意に安野さんが試合場を見た。つられてあたしも見る。そこには、第2試合のロケットランチャーでバラバラなになったタイラントの肉片があるのだが、それがモゴモゴと動いていた。そのまま見ていると、やがて手が生え足が生えムキムキマッチョな巨体が生え、すっかり元通りの姿になった。ただし、目からは血の涙を流している。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……うっかりしてましたね」と安野さん。

 

「……ですね。まあ、一応解説をお願いします」

 

「はい。ここは異界ですから、たとえタイラントと言えど、体内に赤い水が入ってサイレンを聞けば屍人化します」

 

 時間はまだ十八時半。サイレンが鳴っている時間だ。ふとそばを見ると、第3試合で宇理炎を使って死んだタイラントもよみがえっていた。

 

「宇理炎って、不死なる者を無に還すんじゃなかったでしょうか?」

 

「それは、あくまでも宇理炎の炎を浴びた人だけです。宇理炎を使って死んだ人まで無に還るとは誰も言ってません。なので、炎を浴びなければ普通に死んで屍人化します。これは余談なんですが、本編で宇理炎を使って死んだ宮田先生のことが、よく『異界で人のまま死ぬことができた唯一の人』と言われていますが、あたしはあの説には懐疑的です。宮田先生は最期に元恋人の美奈さんとその妹の理沙さんに笑顔で迎えられますが、あれを『人として死んで最期に美奈さん理沙さんの幻を見た』と考えるよりは、『普通に死んで屍人になり同じく屍人である美奈さん理沙さんと再会した』と考えた方が、辻褄が合うと思います。屍人さん同士は普通の人間に見えますからね。まあ、今はそんな話どうでもいいんですが……」

 

 大将戦を控えているタイラントを見る安野さん。タイラントは耳を抑えて苦しそうに唸っている。屍人化の兆候だ。

 

「大将のタイラントが屍人化するのも時間の問題でしょうね。ずっと外に立って赤い雨に打たれっ放しですから当然です。屍人化は神様の力なので、人間ごときが作ったウィルスなんかでは対抗しようもないでしょう。つまり、バイオ側からどんなクリーチャーが来ようと、いずれは屍人化することになります。ということは――」

 

「ということは?」

 

「屍人VS.バイオのクリーチャーの勝負は、どうあがいても屍人さんの勝利です!」

 

 安野さんが高らかに宣言した。やっと終わった。これで帰れる。あたしはゴングを打ち鳴らした。

 

 

 

全試合結果

 

 

 

第1試合

(先鋒)屍人× ―― ○スーパータイラント(先鋒)

(6時間15分34秒 海送り)

 

 

 

第2試合

(中堅)羽根屍人(クリス・レッドフィールド)○――×スーパータイラント(先鋒)

(5秒 ロケットランチャー)

 

 

 

第3試合

(中堅)羽根屍人(クリス・レッドフィールド)△――△スーパータイラント(中堅)

(13秒 両者KO)

 

 

 

第4試合

(大将)屍人 ―― スーパータイラント(大将)

(タイラントの屍人化により無効試合)

 

 

 

1勝1敗1引き分け3屍人化により、屍人側の勝利

 

 

 

終了条件達成(エピソードクリア)

 

 

 

 

 

 

 

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第五話

美浜奈保子 大字波羅宿/耶辺集落 初日/十一時三十八分三十二秒 終了条件2

 

 

 

「――さあ始まりました世紀の対決『屍人 VS. スーパータイラント』実況はわたくし、世界的アクション女優の美浜奈保子、解説は、永遠に村を救い続ける女・安野依子さんでお送りします。安野さん、よろしくお願いします」

 

「お願いします」

 

 あたしと安野さんは、お互いペコリと頭を下げあった。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……え?」

 

「……え?」

 

 我に返ったあたしは周囲を見回す。目の前には海が広がり、反対側には家屋がまばらに建つ集落が見えた。海辺の小さな村、という雰囲気だが、海は血のように真っ赤で、家屋は今にも崩れ落ちそうな廃屋だ。空は厚い雲に覆われ、やや強めの雨が降っている。その雨も、海と同じく血のような赤だ。どう見ても、ここは異界である……というか、これは屍人とタイラントの戦いが始まる前と、全く同じ展開だ。

 

 あたしは、隣できょろきょろしている安野さんを見た。

 

「……安野さん」

 

「はい」

 

「何をしたんですか? 試合は、さっき屍人の勝利で終わったでしょう? まさか、結果に納得いかないから時間を巻き戻して初めからやり直そうとか言うんじゃないでしょうね?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 黙り込む安野さん。黙秘してごまかすつもりだな……と、普段なら思うところだけど、いまの安野さんはあごに手を当て、なんだかすごく真剣な表情で考えている。いつもふざけてばかりの安野さんだが、時々こういうシリアスモードになることがある。そんなときは、結構ヤバイ状況だったりするから厄介だ。

 

「……安野さん? どうかしましたか?」恐る恐る訊くと。

 

「……なるほど、そういうことだったんですね」安野さんは納得したように頷き、あたしを見た。「なぽりんさん、本当に申し訳ないのですが、どうやら早く帰るのは難しそうです」

 

「なぜでしょう? あたし、冗談抜きでこのあと大事な仕事が控えているんですけど」

 

「その辺はご心配なく。うつぼ船を使えば時間は自由自在ですので、たとえここで何時間何日何年過ごそうと、お仕事に間に合う時間にお返しします。ただこれは、ちょーっと、すぐに帰れるような状況ではなさそうですね」

 

「どういうことですか?」

 

「さっきなぽりんさんが仰ったとおりです。結果に納得がいかないから、時間を戻してまた最初からやり直すんですよ。ただ、これを仕組んだのは、あたしではありません」

 

「安野さんじゃなければ、誰なんですか?」

 

「それが大問題なんですよね」安野さんは大きくため息をついた。「ポイントは、誰があのタイラントどもをこの世界に連れてきたのか? ということです」

 

「誰って、安野さんじゃないんですか? 最初に『バイオハザードの世界からお取り寄せした』とか言ってませんでしたっけ?」

 

「それはそうなんですが、考えてみたら、あたしの力だけではこんなことは不可能なんです。確かに、あたしはうつぼ船に乗って、時間を移動したり、異なる並行世界に行ったりできますが、それは、羽生蛇村の中、もしくは村に関係している人がいる場所に限られるんです。あたしはこの村の呪いを受けていますので、村から離れることができないんですよ。なのに、今回は村とは全く関係の無い世界へ行くことができた」

 

「なぜ、そんなことが起こったのでしょう?」

 

「今回に限り、呪いの制約が変更されているんです。これはかなりイレギュラーな事態ですね。そんなことができるのは、アイツしかいません」

 

「……アイツというと?」あたしは、ごくりと固唾を飲む。

 

 安野さんは、指を一本立てると、頭上を指し示した。「この村に呪いをかけた張本人――『神よりも上位の者』です」

 

「――――」

 

 安野さんの指につられ、あたしは頭上を見上げる。空は厚い雲に覆われている上にここは運動会用のテントの中だが、それでも、はるか空の彼方から誰かに見下ろされているように気分になる。

 

 神よりも上位の者。羽生蛇村に呪いをかけたのは村の神様ではなく、神様よりもさらに上位にいる存在だ、という話は、以前安野さんから聞いたことがある。神様を倒しても村の呪いは解けなかったから、そう考えざるを得ないらしい。

 

「でも、その神よりも上位の者が今回のことを仕組んだとしたら、何が問題なんですか?」

 

「はい。アイツがただのヒマつぶしでこんなことをするとは思えません。まあ、一連の村の呪いが神々の遊び的なヤツである可能性もあるんですが、たとえ遊びでやってるのだとしても、そこには必ず目的があるはずなんです。その目的を達成できなかったから、時間が戻ったのです」

 

「つまり、さっきの試合結果は神よりも上位の者の意にそぐわなかったから、最初からやり直すことになったと?」

 

「そうなります。各試合が終わるたびに『終了条件達成(エピソードクリア)』って出てたから、なんかおかしいな、とは思ってたんですよねぇ。終了条件1の達成でも、一応次へ進むことはできますが、その先は袋小路。必ずどこかで行き詰り、時間が戻ります。先へ進むためには、終了条件2を満たさなければならないんです。この場合の終了条件2は、間違いなくタイラント側の勝利でしょう。と、いうことはですね――」

 

「と、いうことは?」

 

「この戦い、バイオ側のクリーチャーが勝つまで、永遠にループすることになります」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……はい?」

 

「この戦い、バイオ側のクリーチャーが勝つまで、永遠にループするんです。さっきの戦いは屍人さん側が勝利しましたが、その結果に納得がいかなかったから、やり直しさせられているんです」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……子供じゃないんですから、結果は結果として受け入れましょうよ」

 

「あたしに言われても困ります。文句は、神よりも上位の者に言ってください。もっとも、ヘタに文句を言おうものなら、さらに面倒なことになりかねませんけどね。なにせ、死ぬほどお腹が空いてる人間のところに魚っぽい格好の神様を落としておいて、それを食べたからって一三〇〇年も呪いをかけるヤツですから。相当性根が曲がってると思います」

 

「それで、元の世界に帰るには、どれくらい時間がかかるんですか?」

 

「さっぱり見当もつきません。参考までに、前回ループから抜け出した時は、十万回くらいループしました。いかんせん、アイツの目的が判りませんでしたからね。というか、なぜループを抜け出せたのか、実は今でもよく判ってないんですよ。神様を倒したからなのか、現世へ生還できたからなのか、新たなループを構築できたからなのか……考えられる理由はいろいろあって、これだ! というのが、まだ判らないんです。なので、今回もバイオのクリーチャーが勝てば終わるという保証はありません。目的も判らず脱出方法を探るんですから、ホント、無茶な話ですよ。まあ、安心してください。たとえ何千何万何億何兆回ループしようと、現実には三日しか経っていませんから」

 

「安心できるか。早く元の世界に帰せ」

 

「だから、あたしに言われても困りますってば」安野さんは腕を組んだ。「しかし、どうすればバイオ側のクリーチャーが勝つんでしょうね? 最強のスーパータイラントですら勝てなかったんですよ? ていうか、誰が来ても最終的には屍人化するんですから、バイオ側に勝ち目はないでしょうに」

 

「でも、屍人になるのは人間だけじゃないんですか? バイオハザードには、人間以外のゾンビもいませんでしたっけ? ゾンビ犬とか、ゾンビ蛇とか、ゾンビ植物とか、ゾンビ鮫とか」

 

「お? そうでした。確かに、そいつらなら屍人化はしませんね。さすがなぽりんさん。良いところに気がつきました」

 

「じゃあ、さっそくそいつらを連れてきましょう」

 

「とはいえ、それだけでは無理でしょうね。屍人化は回避できても、不死である屍人さんをどう倒したものやら」

 

「宇理炎は、動物や植物には使えないんでしょうか?」

 

「やってみないと判りませんけど、まあムリじゃないですかね? それが可能だったら、魚とか虫とか微生物とか雑草とかで使い放題のチート武器になりますから。ひとつ考えられる手段としては、美耶子ちゃんの飼犬のケルブにT-ウィルスを投与してゾンビ犬にし、焔薙を使わせることです。木る伝が神様との戦いの際恭也君に味方したのは、神代家の娘に恩があるから、という説があるんです。もしそれが正しければ、ギリ木る伝が味方してくれるかもしれません。もっとも、美耶子ちゃんはブチ切れるでしょうけど」

 

「仕方ないです。必要な犠牲というやつでしょう」

 

「なぽりんさんも、ノリがよくなってきましたね」

 

「あたしは一刻も早く元の世界に帰りたいんです。さあ、行きましょう」

 

 というワケで、あたしと安野さんはうつぼ船に乗り、バイオハザードの世界へ旅立った。

 

 

 

 

 

 

 ……が、事はそう簡単な話ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 この後、あたしたちはなんとかバイオ側のクリーチャーに勝利させることができたものの(それだけでも何百回もループしたけど)、安野さんが懸念した通り、それだけでは終わらなかった。バイオ側の勝利は次のシナリオの解放条件にすぎず、その先にも新たなループが発生していたのだ。しかもそのシナリオにはバイオハザードとは違う世界が関係しており、ループから抜け出すために『デットライジング』という並行世界から登場人物を連れて来なければいけなかった。もちろん、その先にも新たなループが待ち構えていた。

 

 その後、あたしと安野さんは様々な並行世界を奔走し、何万回ものループの果てに、レオンがアシュリーを救出した事件をTKを倒したフランクが世界中にスクープしフィオナのアゾートを入手したタイラントが傘で堕辰子を倒してその首をダニエラが過去へ届けると同時にマスターチーフがリングを破壊したことでどうにかループから抜け出すことができたが、その話はまた機会があれば。

 

 

 

 

 

 

Q:SIRENの屍人とバイオハザードのクリーチャーが戦ったらどちらが生き残りますか?

 

A:バイオ側のクリーチャーが勝つまで永遠にループする。

 

 

 

(SIREN VS. BIOHAZARD(サイレンVSバイオハザード) 終わり)

 

 

 

 

 

 



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