トレギアだけど、元の宇宙に帰りたい (鵺崎ミル)
しおりを挟む

タイガ編
前世×私×闇堕ち私=俺


注意と説明

原作トレギアは言い逃れできないレベルのヤンデレです。対象がタロウ(とその関係者)なので一歩間違えばヤンホモです。タグのBLは扱うキャラの都合上レベルで別にBL成立はしません、多分。タロウ妻子持ちだし……。

ここのトレギアは明確に原作と差異を作っていますが、タロウへの感情は変わってません。


 

 宇宙人がひっそりと侵入し、暮らしている事があまり知られていない……そんな地球がある世界。

 実感をもって住んでいる地球とは僅かにズレたような、それでも明確に違う地球、パラレルアース。

 

 その、パラレルアースより若干離れた宙域。

 アステロイドベルトが形成されていたはずのそこで、破壊の限りが尽くされている。

 強力なエネルギーが破壊の荒波として放射状となって広範囲を飲み込んでいた。不幸な小惑星を割り、岩を砕き、石を粉砕し、砂を塵と化し、消し飛ばす。

 それは宇宙で起きる自然現象などではない。全てを塵へ変えるほどの力には自然にはない、強い感情が込められている。

 

 たった1人の蒼い巨人により、この宙域は破壊の限りをつくされているのだ。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ!!!!」

 

 吠え猛りながら、光とも闇ともつかぬ力の波動をまき散らし、物質を寄せ付けない世界を広げていく蒼き巨人。

 激昂している事は見てわかる。しかし、彼を知る者からすればそれは『滅多にない光景』であった。

 

「クソが!! クソがああああ!!!!」

 

 癇癪同然の咆哮と共に更に破壊のエネルギーが強まり暴れ出していく。宥めるものもおらず、文字通り消滅する小惑星が少しずつ増えていく。

 怒りのままに吠える巨人は、『彼』としてありえない言葉を吐き出す。

 

「許さんぞグリムドオオオオオォォ!!!!」

 

 もはや狂乱と言えるほどの怒りが向いた矛先は、彼の力の源たる邪神グリムドだった。

 彼の体内に封印されている邪神は、巨人から零れる闇の帳のようなオーラでもってなんらかの意思表示をしているようだった。だが、情動なき邪神から感情というものを読み取ることは不可能だ。

 

「この役立たずな邪神があああああ!!!!」

「(´·ω·`)」

 

 そう、原初の混沌たる邪神の思考回路に、人間が求める理屈や思考性は存在しない。それがあると勘違いするのは、矮小なる人間が無理矢理理解の範疇に収めようとして解釈した産物に過ぎない。

 この邪神が放つオーラより漂う困惑とも動揺とも取れる雰囲気は誤解なのである。多分。

 

「何がグリムドだ、この愚理無吐が」

「(´;ω;`)」

 

 邪神が本気でしょげているようにみえるが重ね重ね言おう。誤解である。おそらく。

 巨人が一通り罵倒をばらまき、出ていたオーラがついに涙のようなエネルギーを放出して体内へ収まった時、ようやく彼は若干の落ち着きをみせた。

 頭をがしがしとかき、苛立っている所作を示している様はまるで人間のそれである。

 

「ああクソ、どうにかして帰りたいのに……!!」

 

 

()の宇宙に……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 私の名はウルトラマントレギア。

 ……いや、落ち着かんわ。やっぱ混ざってんな? いいや、俺で通そう。

 トレギアとは母星の言葉で『狂おしい好奇心』を意味する。名は体を表すを体現しすぎてしまった俺は、その胸に宿った熱い好奇心を原動力に探検冒険実験と様々な行動に身を投げ出していた。具体的に言えば【立入禁止】の看板見ると立ち入らずにはいられない。

 こんな名前をつけておきながら両親からは呆れられ、「あいつハジけてんな(ウルトラ語)」と善良なる同輩たちからもちょっと距離を置かれる俺だったが、そんな俺にも親友がいた。

 

『トレギア! 次の冒険先を決めたぞ!』

『早いなタロウ! 当ててみよう、ウルトラの星内なら神秘の碑かな。外の星々だと候補が多すぎて絞れないが、冒険してない近隣惑星だとケドゥあたりとみた!』

『タトゥイーンだ!』

『ごめん、マジでどこかわかんないんだけど。それ本当に私達の知ってる宇宙にある星なのかい?』

 

 ウルトラマンタロウ。小学生時代からの得難い親友であり、俺のハジけた好奇心を受け止めながら、ノってくれるばかりか率先して引っ張ってくれる最高の男だ。『勇気があり正義を愛する者』を意味する素晴らしい名前である。俺の両親も見習ってほしい。いや、この名前気に入ってるけどさ。出会いそのものはちょっと気まずいので割愛しよう。タロウと出会う前の俺、好奇心に傾きすぎてド陰キャだったし。もっと言えば、俺の好奇心に巻き込む形で色々問題児扱いされたの本当にすまない。多分俺居なくてもハジけてただろうけどお前。

 

 いかんタロウについて語りだすといくらでも長くなってしまうな。

 ともかく幸せな青春時代を過ごしていた俺とタロウだが、ある日、惑星ティカ=ドゥにて人生最大の危機(1度目)を迎えた。

 ティカ=ドゥの伝説上に記されていた怪物、ガゴゼに襲われたのだ。1体は俺をネトネトと取り込み、1体は村を襲おうとしていた。

 この時、タロウは2択を迫られた。遠方でガゴゼに取り込まれつつある《親友》を救うか、村にいる《他の誰か》を救うか。俺なら、タロウに恨まれてでも《親友》を選ぶしそうした。その上で、タロウの名も心も汚したくなかった俺は《親友》を見捨てるように叫んだ。正義とは多数を救ってこそだと。しかし、タロウは俺の予想を超えたんだ。《両方》救った。できないからこその2択だったはずなのに、救ったんだ! 

 ああタロウ!! 俺の太陽!! いかん、落ち着け俺。これ回想にして自己再認識なんだよ落ち着け。

 

 タロウへの熱い憧れと、常にタロウのそばに居たいという想いを力に変えて、俺は不向きと悟りながらも宇宙警備隊の道を目指したものの見事に落ちた。本気で落ち込んだし本気で泣いた。

 どうしようもなく理性が「知ってた」とか抜かすのが悔しかった。

 

 結局、宇宙科学技術局に務めることになったが、ここはここで天職だったのがなんか悔しい。支える道は戦うことだけではないと示した長官には救われた。タロウの為に色んなアイテムを開発もしたし、知識面でのサポートにもなると好奇心に従って様々な情報も確認した。

 タロウの次に敬愛する長官。そんな彼が第三魔法の技術確立(命の固形化)に成功したことで戦争が勃発、それで出奔したのはショックだったけど。今にして思うと、長官も自分に負けず劣らず感情的だよな。

 

 地球人との絆を熱く語るタロウにちょっと引きながらも、タロウの開発協力もあって、アストラル粒子*1の研究から『タイガスパーク』も完成して。自分の研究が一段落したところで、闇に関する情報をかき集めた。光と闇は表裏一体ならば、闇についても知らなければならないという建前の元で好奇心ぶっ放しただけである。俺のタロウが地球人というものをやたら持ち上げていたのも大きい。アーカイブ見る限りでは、他の侵略宇宙人たちと大して変わらない精神構造に思えたからというものだ。こうして振り返ると自分のことなんもわかってなくて草。

 

 そんなところで、長官が闇堕ち(復讐鬼化?)したニュースを知ってしまった俺は、地球人を見下せるほどウルトラ族も別に精神性は高くないのに正義を御旗に掲げて好き勝手していると早計な判断をしてしまい、理想への絶望と自己嫌悪とここんとこ全く会えてないタロウ分不足(だいたいヤプールのせい。許さん)のトリプルパンチで無断欠勤&失踪をやらかしてしまう。OK、俺の馬鹿さ加減への自己嫌悪はスルーしよう。

 

 その後、別宇宙の惑星チュツオラにて隠遁しながらも孤独に耐えられなかったのか、俺はガゴゼの原始生命のプールともいうべき性質を参考に有機物のゴミから疑似生命体を生み出し……思い返したくもない悲しみと絶望を味わってしまい、苦しみの末【光と闇が表裏一体なら、光も闇も行きつく先は同じ】と極論に至って、邪神を求める果てなき虚無の旅へ向かった。

 

 ってところである日ふっと自覚した。それは狂い果てながらふと脳裏をよぎったキーワードがきっかけだった。

 

 

【光と闇が備わり最強に見える】

 

 

 あれ、俺前世地球人じゃん。

 

 

 

 摩耗しきって永続発狂寸前の状況から、信じられない程急速にメンタルが回復していく。冷めた、いや、覚めたと言って良い。高2病乙ですわ。あぶねぇ、タロウのそばにいたいって原初の想い踏みにじるとこだったわ。太陽の影になって傍扱いは解釈違いなんですわ俺。タロウが光を極めるなら私は闇を極めようとか、それは共闘前提だろうが。明らかに敵対ルート入ってる思考だったぞ怖っ。

 というか? M78星雲人が本当に精神性脆弱だったら27万年前の恒星大爆発事件より10万年以上前から犯罪発生率0とかいう地球人価値観で信じられない善性経歴生み出せんわ。地球人との交流増えて、地球人的感性にちょっと寄りだしたのが現代ウルトラ族って感じだな。ゆとり乙。

 つうか地球のアーカイブ見ただけでは思い出せない俺なんなん。前世の記憶なんてそんなもんか。

 

 散々己を罵倒しながらも慎重に前世の記憶を漁ったところ、我々の宇宙の出来事をインスピレーションとして受け取り創作として世に送り出していた宇宙出身だとわかった。『宇宙の出来事は、別の宇宙の創作物』というのは別段珍しくもない話だが、こうも直結した例が自分に来るとは思わず大変驚いた。

 実際交流自体も相当困難なのだが、『ウルトラマンが創作扱いになってる宇宙』の存在は既に報告にあげられ証明されている程度には既知だ。そもそも俺、多次元宇宙も研究してたし理解はより容易い。すんなり呑み込めた。

 そんで創作における俺はどういう描写なのか、ひょっとしてモブとして終わってたりするのかとビクつきながら確認した。なんとこのまま狂うところまで狂ったあげく、時空すら歪む深淵の果てたる惑星ボルヘスの遺跡に赴き、ティカ=ドゥに記されていた古代宇宙文字より邪神復活呪文を唱え、混沌を力として覚醒、生も死も無い存在と化し闇堕ちムーヴ全開で暴れまわった末にタロウの息子にボコられるらしい。絶句ものである。

 

 ……これはこれで悪くないとか一瞬思ったけど。

 

 ともあれ記憶を思い出したことにより、その前世人格とちょっと混ざった自覚はあるものの、私は俺であると再認識し、思い留まることができたことを喜んだ。

 あれだな、俺は誰かに相談するということをしなかったからこうなったんだろうな。前世の視点のおかげで異なる意見が強制的に取り込まれたことで、正気に返れたというのもわかる。それにしたって開き直る勢いで回復しすぎだとは我ながら感じたが。

 正気に返れば、当然現実現状にも理解が及ぶ。

 

『タロウに会いたい、帰ろう』

 

 タロウ成分が枯渇していると自覚したとたん、狂おしい程の寂しさと飢餓を覚えた。

 このままでは死んでしまうとすら感じた俺は全速力で光の国に赴いたのである。

 

 

 

 

 ウルトラ族最新(出奔時)の航行技術でもめっちゃ時間かかりました。どんだけ遠くまで飛んでたんだよって話である。

 この時カラータイマーが危険信号を鳴らすのも厭わず、突き進んで見えた母星の輝きの感動は忘れない。

 なにより嬉しかったのは。

 

『トレギア!! お前どこに行ってたんだ!!!』

 

 俺の生体反応を科学局あたりがとらえてくれたのだろう。タロウが、最愛の親友たるタロウが真っ先に出迎えてくれたことだった。

 

『タロウ……!!』

 

 熱い抱擁を交わし、タロウ成分を急速補給違う、友情の暖かさを噛みしめる。

 

『心配していたんだぞ……!!』

『すまないタロウ……馬鹿な衝動に駆られてしまったんだ……今回ばかりは反省している』

『君がか? いや、反省のことじゃなくてだな!』

『お前は俺を高く評価しすぎだ。元から馬鹿だよ、だからお前と冒険を楽しめたんじゃないか』

『懐かしい話だ。さ、ともかく光の国に帰ろう。ボロボロじゃないか、治療も受けないと』

『ああ、そうだな』

 

 

たとえ混沌が宇宙を混ぜ返し

闇も光も虚無に飲まれたとしても

太陽のような君がそばにいてくれたら

俺は惑わない

だからそばにいておくれ

 

 

『タロウ』

『なんだトレギア』

『ありがとう』

 

 

 

トレギア(俺)物語 ~完~

 

 

 

 

 

 

 

「ってなってればよかったのになあああああああ!!!!」

 

 いや、実際にそうなったしけっこう甘い一時を堪能してたんですよ俺。一人称が変わった事をタロウにからかわれたから「お前だって僕から私に代わって久しいじゃないか」と言い返したり、失踪してた間にベリアルが脱獄大暴れしていたり並行宇宙航行論の研究が更に進んでいたりしてたことに驚いたり、タロウの息子が前世記憶にある通りタイガだと名付けられたの知って悶絶したり(つまり俺が名付け親みたいなもんだもんな!!)、タロウの嫁に改めて挨拶したり、その際添削しまくったラブレター引っ張り出されて吹き出しそうになったり、闇落ちしてたはずの長官がなんか当たり前の顔して帰還復帰してて滅茶苦茶複雑な感情になったり……。

 まぁ長官……もといウルトラマンヒカリ(なんか警備隊に転職してた。俺への当てつけかと八つ当たり気味に拗ねたが、本質は科学者なのは変わらんらしい)に続いて俺も復職したら、1年も経たないうちにベリアルが一大軍団引き連れて複数の宇宙を巻き込んだ全面戦争始まったんだけどな!! 

 

「というかタロウたち大丈夫かな。前世記憶信じるなら、クライシス・インパクトが起きてキングがジャンボチートして、十数年後にジードの物語が始まるそうだけど」

 

 俺はヒカリ主導の元に科学局職員として共に逆転のキーアイテム『ウルトラカプセル』を開発していて、試作品に力を込めていたところだった。

 油断、というかどうしようもなかったんだと思う。俺は前世の記憶からセキュリティシステム強化すべきか、見過ごして新たな勇者の誕生を見届けるかで悩んでたところだった。

 完成したトレギアカプセルの試運転をしようとした寸前、背後から混沌の渦が生じたかと思うと、俺は同僚たちの目の前で引きずり込まれ消えてしまった。

 

「あああああ帰りたい!! マジ余計な事しやがってここの俺、マジ死ね!! あ、死んでるんだったクソが!!」

 

 そんで今に至る。この宇宙の闇堕ちトレギアが死亡した際に、スペアボディとしてよりにもよって俺を引っ張り出し強制融合したのである。なんで闇堕ちしてない俺の身体使うんだよマジふざけんなよ。

 本来なら問答無用で俺の人格の方が取り込まれて消え去っているはずなんだが、どうにも闇堕ちトレギアにとって俺は異物すぎたというか、邪神にとっても想定外だったようだ。爆死寸前に余程のメンタルダメージ受けていたのだろう、追撃のように俺の精神が入って受け止め切れずに逆に取り込まれ、意識の奥底で眠ってしまっている。目覚めたところで俺を直視する羽目になるので事実上の永眠である。

 俺が私を殺してしまったようなもんだが、先に殺しにかかったのはそっちということで。俺だって前世による不思議なレベルでの精神強度補強なかったら同じ立場に堕ちてたのは自覚してるし、同情ぐらいはする。だが許さん。

 

 しかも邪神の能力によって統合されたのもあって、元の肉体は俺のものなのになんか闇堕ち状態になっている。この拘束ベルトクッソきついんだけど!? どんだけ無茶して邪神封印してんの!? 

 トドメとばかりに、速攻で元の宇宙に戻ろうと邪神の能力を把握したら『別宇宙別次元にはたやすく渡れるが、平行世界の存在をスペアボディにする能力は完全無作為だから元の世界がどこかもわからん』という事実が発覚。ぶち切れである。役立たず呼ばわりぐらいはする。

 

 俺の世界は『前世の記憶を取り戻し、光の国に帰還したトレギアがいる世界』と明確な差異があるはずだが、無数にある宇宙&平行世界の仕様でビーコンでもないとたどり着ける保証がないのだ。同化の影響で元の宇宙との繋がりは役割を終えたように途絶えている心折設計である。救いがあるとすれば、きっとタロウたちは捜索してくれることだろう。戦争中だから終わるまでは無理だろうけどな!!! 

 

「癇癪ってのも大事なんだなぁ、暴れまわったことで結構スッキリした。……うん、ウルトラマンの恥ですねこれは。反省しよう」

 

 キレ散らかして暴れた結果今いる宙域がすっからかんだが、力尽きた感覚はない。恐るべしは邪神のエネルギータンク性能である。感心してるとなんか体内の邪神がドヤ顔してるような気がしたので調子に乗るなと念じておいた。お前のせいやぞ、永劫反省しろ。

 

「(´;ω;`)」

「さて、どうしたものか。途絶えているのが問題なのであって、とっかかりさえあればあとは時間と科学と努力でなんとでもなりそうなんだけど」

 

 流行の転生者掲示板とかないのか。今からでも繋がってくれ転生Wi-Fi。

 やっぱダメかな。俺転生の自覚持ったの1万年以上かかってるし。混ざった自覚はあれど所詮前世ぐらいには割り切ってるつもりだし。

 

「……いや待て、この世界はありとあらゆる可能性を内包した多元宇宙論が成り立っているうえに、無数の平行世界が許容されている。だから俺のようなトレギアが存在し得たわけだ」

 

 ならば、『転生者Wi-Fiが繋がる宇宙』にも、『俺の宇宙に帰る方法がある宇宙』にも、希望が持てる。

 無限の平行世界と無限の宇宙を永遠にさまようようなものなのがすごく辛いし病みそうだが……。

 

 

 それでも俺は帰りたい。

 俺を巻き込んだこのクソ俺と同じように、俺だって親友に強く焦がれているのだから。

 ここのタロウに会っても嬉しいことは嬉しい。きっと太陽はどの宇宙でも太陽だ。だが俺のタロウ(太陽)ではないんだ。

 誰でもない、俺が友として歩んだタロウは俺のいた宇宙にしかいないんだ。

 

「ああ、タロウ……! 大丈夫、必ず帰るから……!」

 

 なんか勝手にアプデ闇堕ちさせられてこんな姿になってるけど、タロウなら気付いてくれるし助けてくれる。ね、タロウ。

*1
(正確にはアストラル粒子転化システム。言ってしまえば、ウルトラマンの他生命との一体化の際に『混ざる』ことを防ぎ、法則の異なる別宇宙での活動すら可能にする。融合した現地民とお互いの個を守りながら絆を深め、守ることができるシステムである)




トレギアに転生したSSとか見たことないから書いてみよう!で書き始めてます。
「ただの人間が転生してもこいつに邪神憑りついた時点でSAN0確定するやんけ」
「闇堕ち後に憑依しても詰むやんけ」
「邪神と関わり絶ってもヒカリに出番食われるかタルタロスに誘惑されるだけやんけ」
はい、書き出そうとしてなんでトレギアに転生するSSがないのかよくわかりました。結果色々混ざったトレギアさんになっちゃいましたが、屁理屈と解釈こねくり回して頑張ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

整理とこれから

 ふーむ。

 

 俺が闇堕ち合体して地球時間で5日程経過した。

 その間に何をしていたかというと、自分のスペック確認、そして力の根源である邪神グリムドの把握だ。

 

 無数の邪神の集合体にして総括。封印されし深淵の奥底にあっても、あらゆる知生体が持つ無意識の海より自らの存在を示し続けた原初の邪。こう書くとヤプールなどが可愛い虫けらにしか見えなくなるほど規格外かつ常識外の存在である。その為、単純に純粋悪的な存在と伝説で解釈されたりもするこの邪神だが、権能と規模が桁違いなだけでやってることは一生命体の生態で解釈できる存在だった。

 まぁガゴゼからしてそんな感じだったからな。宇宙古代文字が記された洞窟に存在した怪物だし、無関係ではないだろう。

 

 全ての知性体に対して『邪神』のイメージを無意識から発生干渉したり、取り憑いた相手の虚無感を煽ったりこそするが、そこに所謂悪意はない。無論我々からすれば悪意にしかみえないが『生態』に過ぎないし、抜け出し実体化して地球がやばいことになったのも同じように自分が棲みやすい世界にしてるだけだ。というか、自我と呼べる精神構造がないようである。道理で前世記憶描写ではトレギアのやることなすことに異を唱えたりしないばかりか、完全復活後取り込んだトレギアの影響受けまくっていたわけだ。

 まぁ、グリーザなんて例もあるのでそんなもんだろう。原初の混沌で生きた最古の概念性生命体というのが邪神の正体なのかもしれない。規格外すぎて、ただ在るだけで今を生きる生命体にとって害悪になるから封印または討滅するしかないが。

 

 わかりやすい悪党は、光も闇もないんだとか言いながら悪徳積み重ねてたトレギアだけである。同じ俺と思いたくないわ、なる寸前だった身で言うのもなんだけど。ちなみに統合の影響か、闇堕ちトレギアの悪行記憶も一応ある。もうなんていうか、気持ち悪い。『私の中の邪神たちが力あるものを引き寄せてくれるから、運命や宿命に関わるちょっかいかけやすい』とさらっと邪神のせいにしつつ、自分の足で洒落にならない干渉をしている。

 

「ぐ……嫌悪を抱いてる分否定できるが、覗きすぎて同調でもしたら危険だな。『深淵をのぞき込む時、深淵も覗き返している』か……タロウの忠告に感謝だな」

 

 俺が前世の記憶と割り切るように表現徹底してるのは混ざり過ぎないようにする為なのだが、この闇堕ち記憶も割り切らないと混ざってきて大変なのだ。アストラル粒子転化システムの応用でお互い自我保持は極めて強固なはずなのだが、前世記憶は『元々存在していたもの』であり、別の魂が宿ったわけではない点。闇堕ちトレギアは『邪神による強制同化』&『同一人物』の2点。これによってどうしても影響は受けてしまうのである。

 そんなわけでこいつが取った行動と共に生じていた狂気、暗い喜び、激しい自己嫌悪、親友への感情といった強い情動は俺にとって毒だ。俺はあくまで前世の記憶と照らし合わせて時系列確認や違いの有無を検証したいだけなのに滅茶苦茶クる。

 

「かといって、これ消去や排除すると良くないんだよなぁ」

 

 邪神グリムドが明らかに相性の悪い俺の精神を気にしてないのは、この記憶ありきだというのもなんとなくわかるのだ。そもそも俺はトレギアだが邪神に身も心も捧げて契約したトレギアではない。邪神が俺に力を与える道理がないのに、こうして自在に扱えている。

 つまり闇堕ちトレギアそのものがまだ俺の奥底に存在しているからだと推察できるわけだ。この記憶に耐えきれず虚無に飲まれれば元通りだし、抵抗している今もまた、鮮度の高い虚無の情動を糧にできる。いやぁ、実に効率的だな。本能でしか考えてないくせに。

 

「ともあれ能力は把握したし、扱い方もバッチリだ。超絶強化されてるが、所詮は借り物の力、慢心だけはしないようにしないと。これは宇宙すら破壊できる力と言えるだろう」

「(ノ゜∇゜)ノ♪」

「なるべく短い付き合いでありたいもんだねまったく」

「(ノ;∇;)ノ」

 

 なんかしょげるような感情をカラータイマーから感じたのだが気のせいか? 我々知性体と同質の自我はない、はずだよな? 

 ともかくタロウの元に帰ったら、グリムドを切り離して再封印する必要がある。この力を維持できたら宇宙警備隊に入ってタロウの隣で……いや、誘惑に負けてはいけない。

 

「それに最初に片付けないといけない問題がある。この宇宙でどうするかだ」

 

 記憶のおかげで把握できたんだが、このトレギアがぶっ殺されたタイミング、前世記憶で言う16話。つまりトライストリウムお披露目回なんだよね。羞恥と自己嫌悪と嘔気で胸をかきむしりながら確認したが、タイガの絆に計画破綻させられて動揺しまくりながら吶喊、返り討ちにあっている。この状態で復活したらボディが俺だったんだから、まぁ追い討ちだよなぁ……。

 

「で、前世記憶によれば……むぅ」

 

 過去の記憶で未来を知るのはなんとも言えない違和感を覚えるが、大雑把に把握した創作通りなら、この後より拗らせた俺はタイガに執着し、あげく、新たな計画は打ち崩され、決して消えることのない思い出を想起し爆死……何が腹立つって「わかる」ことなんだよなぁ……。

 そんで俺がなぞるように動けば間違いなくその通りにシナリオが進むことは断言できそうだ。トライストリウムに殺されたってことはそういうことなんだろうし、前世記憶と闇堕ち記憶を照らし合わせて差異なければ確定だ。

 ただ、タイガは俺がこれ以上介入しなくても、真っ当に成長していく事だろう。地球人との確かな絆を得たのだから。運命が与える試練など切り拓くに違いない。ぶっちゃけトレギアが介入しない方が悲劇はぐっと減るだろう。さっさとこの宇宙から離れて故郷探索を始めた方が良いに違いない。

 

 しかし、トレギアが介入したせいで失われる命が多い一方、介入しないと救われない命が1つだけある。

 

「大量廃棄物の海から意志を抱いてしまった疑似生命体、ウーラー……」

 

 わかっている。ウーラーは俺のトラウマとは無関係だ。

 俺が生み出してしまった疑似生命体……スナークはもういない。救える道すらなかった。俺はタロウではなかったから。

 だが、それでも。無視する事はできない。見捨てる事はできない。

 

 俺はタロウにはなれないが、タロウの親友として恥じない俺でありたい。そばにいてくれる事が、苦しくない俺でありたい。

 やろう。俺なりに、運命をなぞりつつ、最終回を迎えさせよう。

 

「俺がやるなら犠牲者も減らせるはず……と傲慢ぶる気はないが、努力は尽くすさ。すまないタロウ、帰還は少し遅れてしまうようだ」

 

 決して褒められた事ではない。怪獣が暴れれば、不幸になる人は決して少なくない。わかっていることだ。ウルトラマンは完璧ではない。だから、その罪を敢えて背負おう。

 みててくれスナーク……と決意を固めてたらなんか闇堕ち記憶流れ込んできたんだけど。まぁシナリオとの差異確認には……。

 

 …………は? 

 

 よりにもよってチビ助と名付けられたキングゲスラ虐殺してんだけど、なんなん? お前本当に俺か? 狂いすぎて引くわ。前世記憶の映像とも併せてダブルパンチで気持ち悪い。つらい。

 

「ゲボまき散らしそう、俺本当に耐えられるんか……?」

 

 タロウ、助けて!!!




スナーク:光の国の言葉で小さきものを意味する。これをペットに付けると意味合いは「チビ助」に該当する。つまり2話でトレギアがやらかした事は、どこまでも悪逆非道であると同時に、自分自身をも甚振っているに等しい所業だった。永続発狂しているからしょうがないでは済まされない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

シナリオ引継ぎを初心者にやらせるな

トレギアさん、闇堕ちトレギアの所業を頑張って引き継ぐ回。
なお、初GMの模様。


 TV番組『ウルトラマンタイガ』。

 記念すべき令和最初の物語であり、あのタロウの息子の物語として描かれたウルトラヒーロー特撮作品だ。

 光の勇者ウルトラマンタイガ、力の賢者タイタス、風の覇者フーマ。そして地球人工藤ヒロユキを加えたチーム・トライスクワッド。彼らの絆の物語でもある。

 トレギアの襲撃と陰謀により、栄えあるデビュー戦で全滅というえげつない扱いを受けた3人がアストラル粒子体のまま『宇宙人が密かに侵入し暮らしている地球のある宇宙』へたどり着き、12年の時が流れてから物語は始まる。

 地球人ヒロユキは幼少期にタイガと一体化していたが、青年となって初めてコンタクトすることとなりタイガに変身。話の後味悪くするマン、トレギアの嫌がらせに対応しながらもタイタス、フーマが合流し物語は進む。

 ヒロユキが所属する民間警護組織E.G.I.S.*1には過去に公安の立場で宇宙人と何度も関わってきた経験を持つ女社長佐々木カナ、元宇宙人ギャングだったアマヤルム星人の実働部隊員宗谷ホマレ、実は滅茶苦茶重大な役割を背負った惑星エオマップ製アンドロイド(女性型)のオペレーター旭川ピリカといった頼もしく大切な仲間達もいる。……純地球人ヒロユキ除いたら社長だけでは? 

 ともかくそんな彼らの絆とトライスクワッドの絆……その全てを紡いだ先に求めるハッピーエンドがあるわけだが、トレギアのせいでその結末までの道中は割と後味悪い展開が目立ち、その辺がファンの間で賛否両論だったこともあるらしい(by前世記憶)。

 

 だが、そのトレギアと俺は別人だ。そしてこの番組は俺からすれば頼もしいシナリオブックだ。存分に活用して、ウーラーを救おう。その為ならば、望んで道化をやってやるさ。俺は俺の宿命を全うする。

 

 宇宙警備隊落第のくせに光の戦士()らしくカッコつけたが、そもそも闇堕ちしてるのは俺だけど俺じゃないのでいいんだこれで。俺は、ウルトラマンだ!! 

 まぁこれからやるのはタロウの息子たるタイガに試練与える鬼畜の所業なんですが。ごめんタイガ、少なくとも前世記憶にあるような真似は必要最低限しかしないから……だから俺のことトレギアおじさんと呼んでくれないか。俺、タロウの親友だよ? タロウの息子からおじさんと呼ばれたら俺もっと頑張れる。

 

 地球にひっそりと降り立つ。前世故郷は地球……な訳だが思ったより感動なんかはしなかった。まぁアーカイブ読んでも戻らなかった程度には前世は前世だった俺だ。そこまで引っ張られなかったのは良いことだろう。

 だが、不思議と懐かしさを覚える。これは、前世によるものか、ウルトラ族だからかはわからない。

 美しい星だと思う。侵略宇宙人が週刊単位でやってきたのも頷ける。

 

 さて、今回元凶トレギアが何する気だったかをもっかい確認しておくか。前世記憶で言う17話に該当する。

 アーカイブから引き出すように記憶を探っていくと、脳内にあらすじとして浮かび上がる。混ざり過ぎないようにする為だが、シナリオプランになるし便利な技になったと自画自賛している。自画自賛よりはタロウに褒められた方が気持ちいいのだが。

 

【17話 ガーディアンエンジェル】

【E.G.I.S.にやってきたセモン星人ミード。E.G.I.S.社長佐々木カナの昔馴染み(主に昔逮捕したされた関係)である縁を頼り、悪党宇宙人の組織ヴィランギルドの追撃から身を守ってほしいと依頼してきた。

 詐欺や泥棒で4度も逮捕されているどうしようもない小悪党だが、それでもその内の善性を信じて母星に帰るまでの護衛依頼をカナは引き受ける。

 だが、ミードはヴィランギルド*2から怪獣誘導装置を盗んでおり、その転売計画を狙っていたのだった。

 ヴィランギルド所属ペダン星人は本気を出して追撃、取引先もまた悪党でミード共々カナは危機に晒される。あげく怪獣誘導装置により怪獣デマーガも出現。街を破壊していく。

 トレギアは語る。「仲間と民衆どちらを選ぶ?」ヒロユキとタイガの決断は……!?】

 

 まぁ要するにタイガと地球人の絆によって温め続けた計画が破綻した挙句、メンタルに大ダメージ負った後、地球人ヒロユキに嫌がらせするようになったわけだ。

 で、周囲の仲間と民衆を同時に危機へ追いやり、「正義の味方」の限界と欺瞞を突きつける……と。

 

 タロウはできたぞって考えてるよなこれ? 俺のタロウなら両方を救えるし救ったもんな? 

 とち狂ってるからこそ、計画の根底にどこまでもタロウがいるんだなぁ。

 早々やる気無くすムーヴだが、やるしかないか。でも、俺本人は別に闇堕ちしてるつもりないんでなるべく死者だしたくないなぁ。シナリオ通りに台詞もしゃべった方がいいんだろうか。余計つらい。

 

 気を取り直して、えーっと……人間態にならないとな。変身解除、デュワッ!! 

 

「……なんだ、前世の人間態じゃあないのか」

 

 これは前世記憶にもあった霧崎という姿だろう。闇堕ちトレギアのとっていた姿だ。

 どういう姿かちゃんと確認していないが、これなら前世の姿が良かったなぁ。霧崎の姿は、より同一人物であると突きつけられて気分は良くない。だがこっちの方がイケメンなのは間違いないだろう。

 

「では状況探知だ。コソ泥が懲りずに窃盗転売を行っていたのだったかな。セモン星人ミード、と……」

「(  ・`ω・´)ノ」

「おお、もう特定してしまったぞ? 知性体である限り、グリムドの探知からは逃げられないということか」

 

 邪神の力は実に便利だ。ウルトラ一族の超能力よりも場の把握が極めて容易い。

 顔と名前はわかっているのだから、特定も容易だった。

 まだ出所したばかりのようで、窃盗はしていないらしい。盗難時にはE.G.I.S.の元まで無事に誘導する必要がある。

 

「まだ時間はあるようだ。なら、やることは決まっている」

「(・ω・)?」

「地球のご飯だ! ゾフィー隊長を放っておくレベルの美味、前世や闇堕ち俺だけずるいぞ!! 俺も味わわなくてなんとする!!」

「Σ( °ω° )!?」

 

 守るべきもの(食への好奇心)がある! 俺は、ウルトラマンだ!! 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 めっちゃ美味かったわ。

 目についたチェーン店でハンバーグ食べただけで涙がこぼれ落ちたほどだった。ドリンクコーナーに向かってたお客さんに見られてドン引きされるぐらいに泣きながら食べた。

 これが本当の食事か……。今度、タロウと食べたいな。2人で、地球の夜景を眺めながら……。

 

 そうこうしてるうちに、あのコソ泥が一度捕まりそうになってたから助けておいた。

 いやー不気味だっただろうね。めっちゃ怖がられたよ。一瞬で追手3人を無力化したんだから当然か。

 こいつを餌に、ヒロユキの同僚たちを危機に陥れ、更に怪獣を暴れさせ2択を迫るわけだが、ここまでは忠実に再現しようと思う。

 

 怯える彼に優しくねっとりと、「君の知り合い、佐々木カナさんを覚えているかな? 彼女を頼ると良い。今、彼女はE.G.I.S.という組織を立ち上げていてね……」と情報提供。こちらへの警戒心こそ隠さなかったが、彼は全速力でそこへ向かっていった。

 

「小物だな……」

 

 わざわざ星間外交が未成立な地球に不法侵入しておきながら、地球の宇宙人受け入れが厳しいことを言い訳に悪事に手を染めるような男だ。佐々木カナが、彼の釈放後職業斡旋したりと再犯防止に努めていたがその全てを無為にしている、彼がどうなろうが同情の余地はないのだが……。

 今回〆の、「ヒロユキ君追い詰める為の2択強要後カナちゃん狙撃(ここまで計画名)」で、佐々木カナ庇ってセモン星人死ぬんだよなぁ。前世の俺は後味の悪さを与えつつも1つの贖罪描写であると納得したようだが、そんなもん作品として見てるからにすぎない。本人は救えない悪党だろうが、こいつの死で善人佐々木カナが悲しむのはいただけない。後味悪い真似俺にできるか。俺のタロウが聞いたら俺がそんなことした点で悲しむだろうが。太陽は水をかけようが闇で覆う真似しようが不変だが、わざわざする事もないんだ。

 そんなわけで、威力を極限にまで抑えた銃で殺意だけばら撒いて狙撃しようと思う。死にさえしなければ宇宙人収容所へ再収監されるが、また会うこともできるだろう。俺は科学者だからな、非致死性武器に改造するなどお手の物だ。

 

 そんなこんなで俺による救出劇から一夜明け、ミードは無事にE.G.I.S.へ依頼することになった。

 滅茶苦茶酷いダダ捏ねて、社長を護衛依頼に選ばせるのには呆れたが。

 腐れ縁なのも本当なのだろう、迷惑をかけながらも彼女が気にしている過去を口に出しつつ「地球人を少しは信じてみたい」「宇宙人である俺たちにとって天使なんだよ」などと喜びそうな言い回ししている。伊達に詐欺の経歴持ってないなあいつ。悪党だわ。

 しかし、ショッピングモールを取引現場に選ぶのは合理的なのか非合理的なのか悩むなぁ。さっきミードが食べてたシュークリーム俺も食べようかなぁ。

 

『カナちゃん危ない!!』

「!」

『3時と6時、9時の方向から来るよ!』

「ミ~ツケタァ~♪」

 

 そんな風に気をそらしていたら、襲撃イベントが発生した。

 E.G.I.S.本社の方から全体索敵していたピリカの警告がなかったら、初撃で終わっていたレベルだ。

 それでも危ないって一言だけで、よく的確に射線回避したものである。

 

「ヒロユキ、ホマレ!」

 

 カナの指示で2人が襲撃宇宙人たちへ即時対応を取る。ホマレは2階から飛び降りて介入してるがこいつ宇宙人であること隠す気ないんか? 

 カナの方はすぐに安全圏へ護衛対象を誘導しつつ目的地にも向かう。プロだなぁ。

 

 道中襲ってきたペダン星人にはスタンガンとトンファー合わせたような武器であっさり昏倒させている。

 ミードがはしゃいでいるが、俺も結構見てて楽しい。ち、違うんだタロウ! 闇堕ち精神が勝手に!! 

 俺が太陽に向かって懺悔している間に、カナとミードは予定ポイントに到着していた。

 やがて現れたのは迎えのセモン星人……ではなく、クカラッチ星人。

 

「カナちゃんごめんな! 俺ちゃん嘘ついてたわ!」

「どういうこと……!?」

 

 ク、クズ~~~~~!!! 

 母星に帰ると嘘ついて盗品転売ですよ。善性を信じて命がけで守った相手にこれはない。

 ウキウキで「怪獣誘導装置を盗んで、転売する計画。金目当てでやった」とネタ晴らしして、呆れ果てさせている。多分何度もこういう裏切りと逮捕の経験があるのだろう。心なしか「今回もだったか」といった顔をしている。だが、取引成立寸前にペダン星人が復帰し追いついた。このままでは撃ち殺されるとミードは怪獣誘導装置を投げ捨てながらカナへ駆け寄る。

 ク、クズ~~~~~!!! 

 

「投げるバカがあるか!」

「よこせ、これは俺のだ!!」

 

 激昂する宇宙人たちの争いに、このままでは死者が出ると慌ててカナとホマレが介入。

 転がった怪獣誘導装置を回収してほくそ笑むはミード。

 ク、クズ~~~~~!!! 

 

「(・ω・;)ノシ」

「っと、ヒロユキ君が危ない!」

 

 ポップコーン片手に観戦してたら、ヒロユキ君の方は宇宙人に押されていた。

 気付くの遅れてごめんよ!! 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─ショッピングモール駐車場─

 

「ここは大丈夫です!」と息巻いてホマレ先輩を社長の元へ送ったのはいいものの、相手は思った以上に強敵だった。民衆を人質に取られないよう、こうして駐車場まで誘導はできたが、人気がない所は向こうも望んでいたことだったようだ。鈍器と銃器が一体化したような奇妙な武器で一層激しく攻撃してきた。

 なんとか無力化までもっていこうと電磁警棒でいっきに押していくも、力の差もあって跳ね除けられてしまう。

 

「ふん!」

「くっ!」

 

 力強い一撃で、電磁警棒も弾き飛ばされてしまった。

 衝撃で膝もついてしまう。まずい、絶体絶命だ。

 

「手こずらせやがって!」

 

 銃口を向け、此方を撃ち抜こうとする宇宙人。

 だが、僕の視線は彼ではなく、その背後に向いていた。

 

 空間から染み出すように蒼い闇が現れ、そこから腕が伸びたのだ。

 宇宙人の方はまったく気づいていない。だからそこから飛んできた蒼い雷撃になにも抵抗できなかった。

 

「ギャアアアアアア!!!!」

「おっと、危ない危ない……」

 

 焼き尽くされたかのように黒こげになって倒れ伏す宇宙人。だが、殺してはいないようで呻き声が漏れている。

 至極邪魔であるかのように、蒼い闇から現れた彼はそれを蹴り飛ばし、此方に目を向けた。

 

 白と黒のツートンカラーなブラウスを着込んだ青年。かつて自分に霧崎と名乗った人だ。

 

「こんなところで死なれたら、面白くないじゃないか。工藤ヒロユキ君」

「き、霧崎さん……!?」

『ヒロユキ、こいつから離れろ!!』

 

 タイガから警告が入る。言われなくてもわかる。彼から強い感情を感じる。見開いた目から、流れ込むように刺してくるこれは、きっと敵意だ。

 

「今日は君に……ちょっとしたゲームを用意した」

 

 霧崎が指を弾く。僕はこの時知らなかったことだが、ミードが持ち込んだ怪獣誘導装置が作動したんだ。

 大気ごと震えるように地鳴りが響く。やがて遠くから地面を割って出現したのは。

 

「グルゥアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「怪獣……!」

 

 街中に出現した怪獣は、ゆっくりとこちらに向かってきている。

 街の人々はもちろん、ショッピングモールの皆もパニック状態で逃げ惑っている。

 すぐに止めないと!! 

 

「いいのかぁ? 大事な仲間が危険なんだろぉ?」

「!!」

 

 思わず足を止める。そうだ、社長たちは今ヴィランギルドに襲われているんだ! 

 

「お前が行かなかったら、死んじゃうかもなぁ♪」

 

 霧崎を強く睨む。だが、意味のない行為だった。時折腕を摩るだけで、この人は全く動じていない。

 そうしている間にも怪獣は迫ってくるし、激昂したヴィランギルドたちは社長たちの命を狙っている。

 

「大勢の人間か……大事な仲間か……」

『なにしているヒロユキ!! 躊躇している場合か!! 怪獣を止めるぞ!!』

「ああ……。みんな、無事でいてくれ!!」

 

 タイガの後押しがなければ、立ち止まり、悩み続けて、致命的な遅れになっていたかもしれない。

 僕は、霧崎のねっとりとした視線を背中に受けながら、怪獣を止める為走り出した。

 みんなのことは心配だ。でも信じている! 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─ショッピングモール屋上─

 

 やべぇ、あれがタイガ。タロウの息子か……! 

 怪獣デマーガを相手に果敢に立ち向かい、奴の闇雲な火炎、火球攻撃を身を挺して防いでいる。

 ああ、タロウ……! 君は、良い息子を持った……!! 煽った自己嫌悪でメンタルダメージ受けてたが、おかげで少し持ち直したよ。つい凝視してヒロユキ君のインナースペースでアストラル化してるタイガに興奮したり、煽りムーヴで蕁麻疹やばくてずっと腕摩ってたけどバレなかっただろうか。演技するって大変なんだな……。

 

「(`・ω・)ノシ」

 

 それはそうと、ショッピングモールを守るためとはいえ、割と適当に火球を弾いているのはいただけない。

 1発弾きそこなってるし。なので、遠方へ飛んだ危険弾はバレないように邪神パゥワで相殺している。

 便利だよね。俺は私情のみで歪んだ評価をするのは好きじゃないんだ。グリムドの恩恵で褒めるべきところは褒めるべきで認めるべきところは認めるべきだろう。

 

「(・ω・)♪」

 

 おっとっと。

 タイガに夢中になって、E.G.I.S.のメンバーへ注意をそらすのもよくないな。万が一があってはならない。煽った以上、仲間の命は守らねば。

 現場の方にも目を向ける。ふむ、苦戦しているようだ。まぁ怪獣誘導装置を盗んだあげく、転売未遂してトドメに起動してる(犯人俺)わけだ。ヴィランギルドもキレるだろう。転売側も巻き込まれてお冠のようだ。

 どうしようもなくなった時は、さっきと同じように背後から邪神パワー(※非致死性)を叩き込むとしよう。殺さずに済むなら無暗に殺す必要もない。地球の対宇宙人組織だって今回のは情報が欲しいだろうからな。怪獣誘導装置なんて劇物である。

 

「ごめんよぅカナちゃん! こんなことになっちまって……俺、星に帰るのにどうしても金が必要だったんだ!」

「あんたは、悪党だけど悪人じゃない! ズルくて、ウソつきだけど、でも本当のあんたは、悪いヤツじゃない……!」

「!?」

「あんたは、私が守る!!」

「カナちゃあん!!」

 

 聖人かな? 裏切られ続けて「それでも!」と言い続けるのは並大抵のものではない。アーカイブを通してでは見れない、人間の強い心を見せてもらって俺は強く感動している。ミードは永劫反省しろ。

 いや、流石に心を動かされたらしい。危うくといった場面で、クカラッチ星人へ吶喊して鎮圧の良い切っ掛けを作り出していた。これには俺もにっこりである。介入しなくてよかった。

 

 タイガの方は、トライストリウムに変身してデマーガを圧倒しているようだ。てかフルボッコにしてる。

 それオーバーキルちゃうんか? トライストリウムにならなくても勝てたと思うんだ。

 

「事態解決……。じゃ、あまり気は進まないが」

 

 タロウの息子が大活躍したというのにため息をつきそうになる。耐えろ、頑張れ俺。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 あれからすぐに外事X課*3が駆け付け、無力化した宇宙人たちを取り押さえた。

 ヴィランギルド所属ペダン星人、転売屋クカラッチ星人たちは当然逮捕。

 そしてミードも逮捕される。詐欺行為はE.G.I.S.側が訴え取り下げれば済むかもしれないが、怪獣兵器の転売はシャレになっていないからしょうがない。それでも大人しく手錠に収まった事から、刑事側の態度は柔らかい方である。

 

「カナちゃん、色々あんがとな」

「今度こそ、やり直すのよ」

 

 吹っ切れた様子のミードに、何度裏切られても更生を祈り笑顔をみせるカナ。心温まる光景だ。

 この場面に狙撃で台無しにしなきゃいかんの俺??? 

 え、クズでは? 闇堕ちトレギアと同じ業をここまで背負う必要なくない?? 

 

「いや、これ非殺傷だから……ミードをカッコつけさす意味で、やるか」

 

 銃を構える。撃てば派手なビームが飛ぶが、直撃しても痺れる程度だ。ただ、脳天に当たると万が一の失神とか失明とか怖いんで、狙いは佐々木カナのお腹あたり。

 殺意を放つ。

 

「カナちゃん、危ない!!」

 

 ミード、よく気づいてくれた! 今だ!! 

 

 バシュン!! 

 

「あ」

 

 バシュバシュバシュバシュ──ン!! 

 

「いっ!?」

「うわぁ!?」

「きゃあっ!??」

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………ちゃうねん。

 

 初弾外して焦って乱射しただけなんや!! 

 そのせいで本来怪我しなくて済んだはずの人々が撃たれる形になってしまった。

 俺が外すという可能性を全く考えてなかったけど、そういや俺光線技ならともかく別に射撃上手くもなかったわ。なんで闇堕ちトレギアは射撃スキル高いんだよマジふざけんなよ。

 

「( ° ω ° ; )」

「そうか、闇堕ち後の暗躍期間の長さと邪神による補正か。失念してたな、同化しても経験全てを取り込んでるわけではないということか」

 

 つまりグリムドの餌以上の価値がないわけだ。使えねぇな闇堕ち俺!? 

 お前の記憶から溢れる狂気に苦しめられてんのに、お前の技能経験は活かせないとかふざけんなよ!! 

 

「俺ちゃん、カッコよかったっしょ……(失神」

「ミードオオオオオ!!」

「あそこだな、許さねぇ!!」

「いっつ……」

『あの乱射でよく皆死ななかったな』

『本命は初撃だったのだろうな……危なかった』

 

 大騒ぎだし、ホマレがぶち切れ顔でこっち来てるんでそそくさと退避する。殺す気なかったことバレると厄介だから普通のビームガン置いていこう。

 ……あれだな、今夜菓子折り持って謝罪しよう。じゃないと俺の心が死ぬ。助けてタロウ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─夜・E.G.I.S.本部─

 

「あれは恐らく、社長を狙ったものだと思う」

『ああ、ミードが庇ってくれなければ、恐らく……』

「ミードのおかげであの初撃が外れたんだ。他の弾は逃走用の牽制だよね。あれが当たっていたら……社長は死んでいたのかも」

 

 結局、あの乱射の犯人はわからなかった。だが、現場に捨て置かれていた銃は人一人殺すには十分なものだったことがわかっている。

 怒りと戸惑いと、社長が無事だったことの安堵で心が今でも落ち着かない。

 

「ミードくんのことは残念だった(逮捕的な意味で)ねぇ……工藤ヒロユキくん♪」

「霧崎ッ!?」

 

 いつのまに!? いや、どこから!? 

 霧崎は社長の椅子でリラックスしている。なんなんだこいつは!? 

 

「今日は君の事をじっくり観察させてもらった」

 

 観察、何が目的で……。

 

「君は迷ったね」

 

 !! 

 

「目の前の仲間と大勢の人間……どちらを守るべきか」

 

 思わず目を逸らす。あの時、タイガの後押しがなければ、僕は……。

 

「悩むよな、うんわかるわ。それでもあの場で最善を尽くしたと思うよ。決断も早い方だったさ」

 

 ……。

 

 …………? 

 

「ンン゛ッ!! だが、君は大事な仲間を危険にさらす選択を取った……ウルトラマンタイガなのに」

「ッ! なぜそれを!!」

「私は君に興味がわいてきた……だから、君にも私の事をもっとよく知ってもらいたいんだ」

 

 霧崎の身体が歪む。蒼い闇に覆われる。そして闇から抜け出したその姿は。

 

 みんなをずっと苦しめてきた蒼い巨人。忘れるわけがない。僕たちの敵、トレギア……!! 

 

「私の名はウルトラマントレギア!」

「まさか……!」

『お前がトレギアだったのか!!』

「フハハハハハ! これからも、私を楽しませてほしいなぁ……君と、君の大切な仲間……絆の物語をね」

 

 E.G.I.S.のパソコン画面が歪む。すべての画面からトレギアが覗き込んでいる。

 そんな不気味な演出をもたらした僕らの敵はいつのまにか、画面の向こうへ溶け込んでいた。

 

「では、本日はこの辺で。あ、これあのショッピングモールで買ったんだけどマジ美味かったんでどうぞ」

「あ、はい」

 

 無意識に両手で菓子折り箱を受け取ると、E.G.I.S.は元の姿を取り戻していた。

 トレギアの姿はどこにもない。でも菓子折りだけはなんかちゃんとある。無駄に包装もちゃんと贈答用だった。

 だがこれは明らかな挑発だ。怒りで手が震えながらも絞り出すようにあいつの宣戦布告へ言い返した。

 

「僕は、僕たちは、絶対に負けない……!!」

『菓子折り持ってても締まらんな』

『わけわかんねぇ!? トレギアああいう奴だったか!?』

 

 

 悔しいことに、もらった菓子折りは美味しかった。

 食べた後に『トレギアから貰ったものだぞ罠とか考えろよ』とフーマに叱られた。

*1
(Enterprise of Guard and Investigation Service。民間警護組織なのにめっちゃ少数精鋭過ぎて、経営が色々心配になる。社長が過去に繋いだ縁で仕事には困らないっぽいが)

*2
(地球に不法侵入してる宇宙人たちの中でも、悪党寄りな連中が集まって悪だくみしたり荒稼ぎしたりしてる非合法組織。組織なだけあって幹部クラスなどあるようだが、本質は寄合に近いらしく、割と個々で動きがちらしい。連携不足だろうが地球における最悪の犯罪組織には違いない。劇中では日本でばかり活動してるが世界各国に根を張ってることがわかっている)

*3
(警視庁公安部公安外事課内にある対宇宙人犯罪専門部署。佐々木カナの古巣。その縁でE.G.I.S.とは持ちつ持たれつの関係にある。宇宙人を公的には認めてない割にやることはやってる政府であった。最もタイガ本編では宇宙人たちが超活発化するせいで隠蔽処置間に合わずやがてバレることとなる)




Q.タイガの試練だなんだと言ってますが、ヒロユキへの煽りや狙撃まで原作再現する必要あったんですか。

A.ない。単に前世知識のシナリオ通りに動けば、ウーラーまでの道筋は保証されているという理屈以上のメリットはない。運命論や世界の修正が絶対だとしても、そもそもあそこで狙撃しなくても流れには問題はないし、原作でトレギアが煽った「君の選択は仲間を危険にさらした」は実はいくらでも反論できる。そもそもタイガに変身しなかったら火球直撃して全滅していた。つまり、この煽りをしたかった為に、事態解決直後にE.G.I.S社長を狙撃したにすぎない。よってここまでやる意味などなく、ただ宣戦布告だけすればよかった。一歩進んで考えなかった、このトレギアが間抜けなだけである。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トレギア、運命を検証す

原作知識持ちあるある。
知識に縛られがち、自然と原作知識を未来知識扱いにする。
検証と行動は大事です。


 地球を回る衛星、月は良いものだ。

 月の光は暖かみこそないが、不思議な優しさを覚える。しかし地球の信仰には月は狂気を促す魔力が宿るという。ならば俺が抱く感傷はなんなのだろうか。単なる俗説に過ぎないのか、本当に魔力が宿っているのか。

 

 ただ間違いないのは、惑星から見上げる衛星はいずれも美しいということか。

 

 月と見つめ合う。

 月光を受け入れる。

 

 …………月では詩が浮かばないな。やはり太陽が一番だ。

 

 月への考察を切り上げ、ほう、と息を吐く。

 深淵を覗き過ぎてはいけないように、月も見つめ過ぎてはいけないと実感した。別に狂気に触れる恐怖を覚えたからではない。タロウとの冒険を思い出して寂しくなったからだ。

 

「まぁ、美味しいものを食べた故の情動とも言えるな」

 

 郷愁をもたらす月から目を逸らし、夜道を歩きながら先に味わった夕食に意識を向ける。

 中華料理玉蘭……良いお店だった。こうして思い返すとじんわりとした満足感がある。少し凍えていた心が安堵するように落ち着くのを感じる。暖かい料理に、ちょっとした心配りが嬉しい店員の優しさ。振り返るだけで得られる熱。これが人間の光なんだな、タロウ。

 

「(^∀^♪」

 

 なにやら体内にいる邪神が上機嫌なように感じる。

 存在し得ないはずである邪神の意志をぼんやりと感じるのはなんとも不思議だが、俺の感性が無理矢理理解しようとして生み出している幻覚とは思う。思うが……ふむ、グリムドも美味しかったのだろうか? 

 転移同化直後こそキレ散らかしたが、全ての元凶は闇堕ち俺の仕業だし、元の宇宙に帰るためには力は必須だし、と邪神の扱いを改めている。無論しつこいようだが、こいつに知性体が解釈できるような意志や情動はないはずなので、闇堕ちトレギアのように潰える時まで利用しつくすのが正しい扱いなのだろう。だが、俺はそもそも契約すらしてない立場だ。同一人物扱いだから、まだ闇堕ちトレギアが内にいるから、契約適用されているだけである。怒りは未だにあるが、付き合い方は意識するべきだろう。それが力を借りている者としての最低限の礼儀だ。

 

「もし食事が美味かったとグリムドも感じているならば、お供え意識して食べるということでいいのだろうな」

 

 前世記憶から引っ張り出した神々との付き合い方(ソースはサブカルチャーなど)で「気持ちが大事だ」「荒魂にも礼は尽くすべき」などといった情報から、先程の食事ではグリムドも楽しんでほしいと思いながら味わっていた。

 幻覚だとしても効果はあるようなので今後もそうしよう。考えてみれば、闇堕ちトレギアは自らを生贄に捧げつつも、呪法とウルトラマンの力をフル活用して邪神の力を全部体内に封印、獲得しているのだ。これ、ちょっとした詐欺じゃなかろうか。安住の地で微睡んでるところを叩き起こされてこき使われる……俺のせいじゃないけどなんか申し訳なくなる。

 

「(・ω・)?」

「ふ……考え込むのは昔からの悪癖だな。それよりも次だ次」

 

 そう、次の計画である。また前世記憶からあらすじを引っ張り出してみよう。

 前世記憶が眠る位置からつまむような感覚で引き出せば脳内に文字が浮かんでくる。

 

【18話・新しき世界の為に】

【ある日、休暇を満喫していたホマレは、偶然地球人に扮した宇宙人・小森セイジ(バット星人)に出逢う。棲みづらい地球での苦労を分かち合えた彼らは、この縁を喜び意気投合。しかし小森は地球における宇宙人の境遇に不満を抱えており、未だ表向き受け入れを認めていない地球人に対して憤りを覚えていた。その不満の爆発を後押しするようにトレギアによってゼットンを与えられていた小森は、ホマレや同居している水野ヒトミ(ピット星人)の制止も振り切り、ついに革命と称してゼットンを君臨させてしまった】

 

 いやいやいやいや、ゼットンてお前!! 本当どうしようもねぇな闇堕ちトレギア!!? 

 しかもよりにもよってバット星人とかふざけんなよこいつヒカリ長官の命の固形化技術狙って戦争吹っ掛けてきたクソ種族じゃねぇか!!! 俺が帰還後みたアーカイブでも、別の地球完全支配して地球人を餌にハイパーゼットン育成計画とか実行してたぞ!!! 

 ……いや、落ち着け俺。種族で見て個人を見ない、これはよくないことだ。このバット星人、わざわざ地球に隠れ住んでるってことは星では異端側だったのも伺えるし、トレギアが余計なことしなければ我慢して隠遁してたはずだ。

 

 ちなみにこの話では事態解決後にホマレ狙撃して重体に追い込むらしいぞ俺。やだよこないだの乱射事件トラウマなんだよ誰が実行するか。

 

「それに宇宙人の待遇改善部分も気乗りしないな……」

 

 作品としては各国の不法移民問題や移民・外国人差別問題に警鐘を鳴らす話なんだと思う。それらを宇宙人に置き換え、正義とは何かという点を突いていきたいらしい。地球に不法侵入してる宇宙人問題だな。

 前世から得た作品としてのエピソードと、実際の地球における現状からみて、根が深い問題であると感じる。同時に「危険因子持ち込んでの不法侵入しといて権利要求は駄目なのでは?」と俺は思わずにいられない。

 光や闇、正義と悪とは何かについて発狂するまで考えた俺は、こういう互いの持論や主張に正義の枠組みを当てはめてはいけないという結論を得ている。当てはめるべきは法なのだ。

 

 例えば、かつて、種族全体の高齢化が極めて深刻になった星人がいた。彼らは自らの種族、星を救うために地球人の新鮮な生体エネルギーの確保を求め暗躍した。それは地球防衛軍、ウルトラ警備隊に知られることとなり、最終的に生体エネルギーを封じたものは回収され、命乞いするも射殺されている。

 正義の話をするならば、彼らには彼らの正義があったのは確かだ。絶滅問題が関わっているのだから。

 だが、彼らが行ったことは侵略行為であり、地球人たちに対する命の略奪である。ここで地球人側が譲歩し、共に問題を解決しようと言えるだろうか。言うべきなのだろうか。そう、ここまで考えた時点で正義という表現は捨て去るべきなのである。あるのは互いの誇りと法、そして力だ。ま、俺のタロウなら両方救うだろうがな!!! 

 

 基本、我々ウルトラ戦士が介入するのは侵略や破壊行為だ。文明、政治、思想には踏み込まないことを良しとするので、ここで宇宙人代表を気取って地球文明に宇宙人待遇改善交渉することはない。

 ウルトラマンが介入すればより良い道になるとしても、これを認めれば最終的に行き着くのは宇宙の独裁だからな。根本的に善人思考の種族がトップに立って1種族基準の法や理念を敷いたら碌なことにならないと結論づけた論文もあるので、これはウルトラ戦士の統一見解となっている。

 ……前世記憶にある、こっそり文明の自滅を誘導促進するような悪党がいたら後手以前に中々気付けない問題もあるがな。我々は神にはなれんよ。

 

「そもそも今回のシナリオ、放置した方が幸せなのでは? 街に被害でて、それで地球人は宇宙人の仕業だと看破して反宇宙人思想が高まるわけだし」

 

 元々地球に住んでたデマーガとはわけが違うぞ。次の話に連鎖してるのはわかるんだけど……うん、やっぱないな。

 そもそもエピソード内の描写を信じるならば、俺が関わらなければあの2人も静かに暮らし続けるだろう。

 無論、劇中でホマレが言及していたように宇宙人の待遇改善が進まない限り、トレギアが介入しなくても誰かがバカをやらかすだろう。ベムラー操ってたフック星人の方は、独断の可能性あるしな。

 

 というかですね? 

 

そもそも俺、ベムラーはもちろん、ゼットンなんて持ってないんだよ!!!! 

 

 あいつヴィランギルドかなんかから盗んだだろあれ!! どこまで罪重ねてるんだよあの闇堕ち野郎!!! 

 よし決めた。放置だ放置。

 むしろ介入しなくても小森にゼットンが渡るならば、この世界に見えざる修正や因果律を確認できるんだから損はない。因果の確認が取れたら、諦めてシナリオ通りに動けばいいだけだ。より後味が良い方にな。

 

「よって選択肢は1つだ」

「(・ω・)?」

「新しきを知る喜び、未知に飛び込む快感、更なる上を求める欲求……しばらく娯楽と食事に邁進しようじゃないか!」

「(・ω・)!」

「いくぞグリムド、俺たちの好奇心は止まらない!!」

「(*'▽')♪」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─数週間後─

 

「ゼットーン……」

「シェアッ!!」

 

「見えざる修正あんのかよクソァ!!!」

「(; ・`д・´)」

 

 はい、ゼットンが暴れまわっている中、少しでも民衆を守るため現在全力で駆け回っているトレギア(人間サイズ)です。

 怪獣が出現する世界では、割と民衆や体制は逞しいもので、命さえ無事なら生きていくことができる。愚かな行為も悪目立ちしがちだし、光にも闇にも容易く傾く精神性だが、悲しみに打ちのめされても立ち上がれる強さは眩しさしか感じない。だから、その命を守ることで正義の使者として最低限の使命は果たす。

 ご都合主義? 違う。そうでもしなければ滅びるからだ。やがてウルトラマンがいなくても大丈夫になっていく星であることを俺は知っている。劇中で当たり前のように怪獣速報が流れ、それに対してやたら他人事じみた呑気さをE.G.I.S.メンバーが見せていたりしたのは、本当に『慣れてしまっている』からだろう。

 あ、逃げ遅れた人々はちょっと不思議な空間に飲まれて安全圏に転移するという奇跡体験するけど、気にしないでね。

 

「建物保護のバリア技術、磨かないと駄目だな……タロウがかつてガゴゼから俺を救ってくれたように」

 

 既に倒壊した建物や吹き飛んだ車はどうしようもない。俺は神ではないのだから。だが次はより上手く守り抜いてみせる。

 色々考えながらも、手を止めることなく、人命救助と消火活動、守れる建物の保護に勤しむ。

 ミードが死なずに済んだように、俺の行動や判断は無意味ではないはずだが……少なくとも怪獣が暴れる類は介入の有無問わず発生する可能性が確認できた。

 となると次回のエピソードで俺が何もしなかったとしてもゴロサンダー出現するなこれは……。

 

「ピポポポポポ……」

「テェヤッ!!」

 

 タイガ、気にせず戦ってくれ。おじさんも頑張るから。今も流れ弾をかき消すことでビルを守れたぞ! 

 タロウが怪獣や侵略者を打倒し、俺がアフターケアに務める……うん、いいなぁ。街中での戦闘は、本当に大変だからな。この経験は活かせるぞ、将来タッグを組んだ時にタロウに提案しよう。ふふふ……その時は足手まといにならないよう、アイテム開発にも力を入れなくては。

 

「ん? 運命が敷かれているならば……」

 

 俺のタロウとの素敵な未来プランを夢想して上機嫌だったが、ふと気づいた。前世記憶のシナリオレベルに強制力あるんなら、ホマレどうなるんだ? 

 まだ確認こそ取れていないが、今回のゼットンはおそらく宇宙人待遇改善を狙ったテロ集団の誰かにより、小森へ手渡されたと思われる。ゼットン養殖技術はゼットン星人差し置いてバット星人が随一だからな、ありうる話だ。

 

 俺が動かなかったことで、ホマレの重傷はおそらくその手渡したテロ集団が報復すると推測できる。当然、小森も失敗の責任や、革命脱退の報復対象問題が……。

 

「俺が直接動かない方が不味かったのか、これ……!」

 

 いかん、戦いが終わったら後始末も急がなくては。

 革命闘士とか名乗るテロ集団ボコって、小森の安全を確保しつつ、ホマレを上手に怪我させる。やるしかないのか畜生!! 

 やりたくないけど、俺がやらないと最悪ホマレが後遺症ある怪我負うかもしれないからな! ごめんタイガ! ごめんヒロユキ! 許してくれタロウ────!!! 

 

 

 




運命を検証するとか言いつつサボったと言われても言い訳できないトレギアさん。

Q.運命は絶対なんですか?
A.そんなわけない。ジードが証明してる。因果律こそ働いてるが、こいつが数週間遊ばないで芽を潰しておけば発生しなかった。つまり足りなかったのは改変努力。放置するからこんなことになった。もっと言えば、ホマレを凶弾から守ればいいだけである。堂々と守る形で「私がいなければどうなったかなぁ?」と煽ればよかっただけである。アホである。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雷撃よ自重しろ!

「…………」

「(;´・ω・)」

 

 俺は今、絶賛落ち込んでいる。土手に体育座りでぼんやり黄昏ている。

 加害者側のくせに何を、と思うかもしれないが、『運命が最悪に傾かないように、軽減してなぞってるだけ』という対処法は自分の抱える罪悪感を全く軽くしてくれないんだ。あかん、これ飲まれると俺も闇堕ちしてしまう。

 心なしか、体内にいる邪神が心配そうにしてる気がするが、この苦しみの情動が糧なんじゃなかったっけお前ら。

 

「シナリオよりは確実に死者も家屋被害も少ないのはわかってるんだけどな……ホマレも決して致命傷にも重傷にもしてないし(なお病院側は重傷患者扱い)」

 

 あの後、テロ集団は残らずボッコボコにして邪神パワーで適当な惑星に転移させておいた。不法侵入騒ぎで大変かもしれないが、殺すよりはマシな処置したと思ってほしい。別に殺してもいいんだけどな。倒すべき相手は倒せる時に倒すべし、というのは鉄則なわけで。ただ気乗りしなかっただけである。八つ当たりの感情で殺すのは違うからね。

 そしてホマレを狙撃。銃だとまた外しかねないので、指先から光線技を使用。数日意識は飛ぶだろうが、命に別状ないはずだ。

 ヒロユキくんに滅茶苦茶睨まれたのが辛かった……。ヒロユキ君に指摘されて気づいたけど、別に当てなくても大まかなシナリオとしては問題なかったのでは? と気づいた時の心的ダメージやばかったねマジで。俺アホちゃうん? 科学者にして哲学者を名乗っておきながら運命論に振り回されて道化に走り過ぎだろ。

 

 ちなみに闇堕ちトレギアはヒロユキくんを盛大に煽り、ペロペロキャンディーをいやらしく舐めながら「私と同じ絶望を味わえ」と彼の心に深い傷を与えるのだが、俺はそんなことしたくない。というかできません。もちろん、ヒロユキの仲間たちが彼を助けてくれるのは承知の上でだ。

 なので、油断大敵だったことと、これからもやらかしちゃうけど頑張ってねという俺なりの激励を送って立ち去った。

 

「( -ω-)/」

「そうだな、こういう時は気分転換が一番だな」

 

 グリムドになんか慰められてる気がする。お前本当に邪神か? 

 気分転換に、川を眺めながら、宙に文字を描く。

 

ああ やがて訪れる断罪の闇が

宇宙の総意を以て俺を咎めようと

太陽のように美しい君が在り続けるのなら

俺はつらくない

だからそばにいておくれ

 

 そうだ、俺のタロウ。タロウが待っているんだ、へこたれてはいけない。挫けてはいけない。

 なによりこれは俺が選んで進めた物語だ。悩み苦しんだとしても、断罪されたとしても、その道を自ら選んだ事を悔いてはいけない。

 ふふ、俺が挫けそうになった時に、いつも支えてくれるのは君だ、タロウ……! 

 

「よし、ちょっとタロウフィギュアと日本百景2ショット取りまわるか! 未来のタロウとの地球旅行予行演習にピッタリじゃないか!!」

「(;゚Д゚)!?」

 

 俺が1から造型した至高のウルトラマンタロウアーツフィギュアを手に走り出す。

 タロウを空に掲げ、風を一緒に感じることがとても気持ちいい。

 道中の人々から感じる奇異の視線や、体内の邪神が『ナイワー(古代宇宙言語)』と蠢く感触も今は全く気にならなかった。

 

 

 

 2時間ぐらい経ってからゴロサンダー呼んでないことに気付いて慌てて招来した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─宇宙科学開発局附属病院─

 

 病室で眠るホマレ先輩を前に、僕は自分の無力さと不甲斐なさが辛くてしょうがなかった。

 あいつが言ってた言葉がフラッシュバックする。

 

『いけないなぁヒロユキ君。油断しちゃあ……』

 

『君にこうして嫌がらせをする存在が警告していたのだから、君はもっと注意を払うべきだった』

 

『次はどうする? これで終わると思っているわけじゃあないんだろ?』

 

『何故こんなことを……?』

 

『いや、うん……考えてみれば当てる必要は……でも、もうやっちゃったし……』

 

『つ、つけ狙われる悪意に、君がどう対応するのか。それに興味があるのさ。では、今回はこの辺で……』

 

 なにかもごもご言っていたけど、それは聞き取れなかった。聞いたところで僕にとってロクな内容ではないはずだ。

 自分はもちろん、霧崎への怒りを前にE.G.I.S.に退職願を叩き付けてあいつの居場所を懸命に探した。仕事どころではないし、僕がE.G.I.S.にいたらまた霧崎に大事な皆が狙われてしまうという恐怖が強かった。

 奴と取引していたらしい宇宙人に対し恫喝同然に情報を聞き出しても結局足取りを掴むことはできず、こうして眠っているホマレ先輩に謝罪の報告しかできなかった。

 

 タイガ達は『トレギアと敵対している俺たちがお前たちを巻き込んだ』と本当に申し訳なさそうに謝ってきたけど、タイガ達が悪いとは全く思っていない。悪いのは霧崎で、そして油断していた僕にあるんだ。

 

「ホマレ先輩、許してくれなんて言いません。目を覚ましてください……!」

 

 ただ眠っているように見える先輩は、僕がこうして呼びかけても全く目を覚ましてくれなかった。

 

 失意を顔に出さないよう努めながら、看護師さんに頭を下げて病室を出る。

 今度こそ霧崎を見つけ出さなくては。

 

 丁度病院を出た時、目に入ったのは、今僕が一番見つけたい人物ではなく、今僕が一番見つかりたくない人物だった。

 

「社長……」

「ちょっと顔貸してもらえるかな、不良少年くん♪」

 

 あ、これ怒ってる。やっぱあんな退職願*1じゃダメだったかな……。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ベンチに座り、話し込んでいるヒロユキ君と佐々木カナ。

 遠目で監視しているのはタロウフィギュアを首元にひっかけてる俺トレギアです。

 退職願に書かれた内容を「見え透いた嘘」と看破し、何かあるという事情に踏み込む社長に対し、巻き込みたくないという想いから「僕がケリをつけなきゃいけない問題なんです」と遠ざけようとするヒロユキ君。

 だが、沈むヒロユキ君への佐々木カナの返事はなんと胸倉掴み上げての発破だった。

 

「いい加減にしろ工藤ヒロユキ! 世界の不幸を独りで背負ったような顔して! 何様のつもり!?」

「!」

「あなたは独りなの? そうじゃないでしょ……!!」

 

 胸倉から手を放し、ぽつりと語りだしたのは佐々木カナが人生で学んだこと。

 

「昔、無力な自分が大っ嫌いで……許せない時期があった。でも思ったの、何もしなきゃ誰も救えない」

 

「もし、1つでも救える命があるなら……自分に賭けてみたい。だからE.G.I.S.を作ったの」

 

「それからE.G.I.S.にホマレがきて、ピリカがきて、君がきて……たくさんの命を救えるようになった。私は、仲間たちのおかげで夢を叶えることができたの」

 

「君は独りじゃない。いつだって私達を頼っていいのよ。この地球には、助けなきゃいけない命がたくさんある。たとえ自分を犠牲にしても……」

 

「お願い、戻ってきて」

 

 自分の過去を、夢を、教訓を語り、真摯に訴える佐々木カナ。

 俺の胸にも響くものがある。ただ元凶側で動いてるせいで滅茶苦茶刺さるけどな!!! いや、頑張ってるんだよこれでも。

 ヒロユキ君も、胸を打たれたように、意を決して立ち上がった。

 

「社長僕は……!」

 

 はい、雷鳴演出。衝撃演出。登場演出~~~(溜息)。

 すんごい良いところで邪魔するように割って入ったのは赤い雷神の姿に間抜けなアヒル顔(カモノハシ顔とも言う)をくっつけたような、おっさん腹の怪獣だ。

 

『ヒロユキ、まずい……ゴロサンダーだ!』

「知ってるのか……!?」

『雷を司る神だ……。姿を見たものには必ず死が訪れるという厄災の神!』

『戦うことが生き甲斐の獣神だ、いったい誰が呼び寄せやがった』

 

 解説ありがとうトライスクワッド!! ちゃんと座学も修めてたんだな偉いぞタイガ!! 

 

「女ァ! 気に入った!!」

「!? キャアアアアアア!!」

「社長──ー!!」

 

 ゴロサンダーは佐々木カナを掌底の穴より吸引、己のへそにあるカップに彼女を捕縛してしまった。

 頭を抱える。路線変更してぇ……。

 いや、闇堕ちトレギアもピリカを傷つける予定から路線変更してるんだけども。

 派手に巨大化した後、半端に相撲の真似事をして構えるゴロサンダー。俺が招来した時にやりがいある相手と戦えると話したから気合入っているようだ。四股を踏む際派手に車が跳ねているが、中に人がいないのはわかってるので黙認する。

 ちなみにこんな傍迷惑な厄災を運命論に投げず、自ら招来したのは理由がある。

 

『いいかゴロサンダー、暴れるのは構わない。だがやりすぎるな』

『?』

『存分に戦える相手は、下手に煽らずとも来ると言っているんだ。私の仕事を増やすなよ』

 

 招来した時、このようにゴロサンダーに最低限の歯止めをかけておいた。

 こいつが勝手に現れて暴れまわられたら被害が大変なことになる。なので元凶側に回る必要があったんですね(したり顔)。

 

『変身だ、ヒロユキ!』

「でも……あいつを攻撃したら、カナさんも」

『彼女が言ってただろ! お前が行動しなきゃ、誰も救えない! もし1つでも救える命があるなら……!』

「ああ……やるしかない!!」

 

Come on!! 

 

「光の勇者、タイガ!!」

 

キュイイイイイイイン! 

 

キュピコーン! 

 

『ハアアアアアアアア!!』

「BUDDY GO!!」

 

Ultraman Taiga!! (それっぽい発音と声で」

 

 

 おお、今回じっくり観戦してたのもあって、初めてちゃんと変身するところまで観れたぞ。ミードの時は煽りRP意識しすぎて変身部分拝めなかったし、ゼットンの時は人命救助に必死だったからな。

 実質人質作戦使ってるようで実に汚い雷神野郎だが、迷うヒロユキ君に今学んだことを口にしながら変身を促すタイガにはすごく良い笑顔になる。人の輝きを糧に前へ進む……ああ、タロウの息子だなぁ……。

 

 ゴロサンダーが取り込んだ人間がどうなるかについてだが、実のところ俺もよくわかっていない。

 取り込んだ時点で何かしら神経が接続しているらしく、安易に切り離すのは危険だが、彼女の生命力に賭けるしかないという言及も劇中でされていた。

 だが、最悪を想定しないままにあんな危険な奴を呼び寄せたりはしない。万一に備え、邪神テレポーテーション&邪神パワーで彼女の心身ともに保護した状態で救う手立ては十全に備えているのだ。

 わざわざピリカのところまで足を運んで暗躍する必要がないので、浮いた時間で存分にフォローできるのはいいな。

 

「ゴロロロロ……かかってこい」

「シェアッ!!」

 

 ゴロサンダーの胸部には雷太鼓のようなゴロ発電胸筋(命名俺)が2つあり、それをドラミングすることで強力かつ急速に発電しながら両肩のゴロ発電突起(命名俺)に充電、両掌底部分にあるゴロ放電孔(命名俺)から一気に発射する「サンダースパーク」という必殺技がある。片腕から射出するだけでも強力なのに、両掌底とあるように、もう片方から発射して追撃、威力上乗せするという見た目にそぐわぬ強豪怪獣だ。

 雷エネルギーを物質化してゴロン棒(公式名称)とかいうトールハンマーみたいなのを作ってぶん殴るなど、格闘性能にも優れている。

 

 いつのまにかタイタスにバトンタッチしているが、やはりゴロン棒の攻撃は相当効くようで大苦戦している。

 俺は俺で攻撃の余波から人々を守るのに大苦戦している。ゴロサンダーてめぇ自重しろって言っただろ!!! 

 

「(; ・`д・´)ノシ」

「いつもすまんなグリムド! 助かる!!」

「(*ノωノ)」

 

 霧崎の姿では限界があるのでトレギアアイで元の姿(人間サイズ)に戻っての避難テレポート&町々の保護バリアだ。スキル上げの成果が出て、かなり習熟したと自負する発動速度。それを上回る勢いで弾けるゴロサンダーの雷撃。

 だから自重しろ言ったろうが!!! 

 

「くそ、高速道路が……!!」

 

 無惨に崩落する高速道路の惨状に歯噛みする。幸いにして、死者はいない。切り替えていこう。前世記憶で見た、ゴロサンダー爆死時の幼稚園か何かが爆風で吹き飛ぶのとか個人的に全力で防いでおきたい。特撮演出としては最高なのだが、現実に起きるとあってはやはり嫌だからな!! 

 

「頑張って……!!」

「カナさん……!!」

 

 佐々木カナがいつの間にか目を覚まし、頑張ってと言ってくれている。うん、頑張る!! 

 ……いやうん、俺に対して言ってるわけじゃないのはわかってるよ。わかってるけど奮起したくもなる!! 俺はタロウの親友、トレギアだ!! 

 そして観戦しているからわかる。きっとヒロユキ君の心には今、大切な仲間の言葉や想いが正しく伝わったはずだ。出るぞ、トライストリウムが!! 

 

『いくぞヒロユキ!』

「タイガ、トライブレード!!」

 

「燃えあがれ、仲間と共に!!」

 

「バディイイイイイ ゴ────!!」

 

 

Ultraman Taiga Tri-Strium!! (それっぽい発音と声で」

「!!?」

 

 ……いや、前世記憶にあったウルトラマンZやウルトラマントリガーの変身タイプの名前入るのが俺も気に入っててね? 

 変身タイミングに併せてちょっと呟いたつもりが割と大きかったらしく、タイガに声拾われた臭い。

 ゴロサンダーに切りかかりながらもちょっと動揺してるのがわかる。ごめんて。実はさっきのウルトラマンタイガって部分も俺が言いました。

 

「テヤァッ!!」

「ゴロッ!!?」

 

 お見事!! 

 佐々木カナが閉じ込められていたゴロサンダーへそ(命名俺)を斬り飛ばし、ナイスキャッチ! 

 もはや遠慮は無用だろう、決めるがいい!! 周辺地域の防御はまかせろ──!! (バリアバリア)

 

「タイタス バーニングハンマー!!」

「ゴロォッ!?」

 

 自らの雷撃を奇麗に跳ね返され、文字通りハンマーのごとく頭から全エネルギーを叩き付けられたゴロサンダーはコミカルに地面へ陥没!! 爆発四散!!! 

 そんでその爆風から家屋全てを守るウルトラマン、トレギアーマッ!!! 

 

 いかん、興奮したせいか、前世記憶の影響を受けすぎているぞ俺……闇堕ちトレギアの記憶より混ざった恐怖ないけどさ……タロウに見られたら恥ずかしいし気を付けないと。湧き上がる羞恥心を頬を描くことで誤魔化しながら成果を確認する。

 うん、自転車とかは無理だったが建物は全部無事だ。よかった。

 

「ちょっと至近距離過ぎたのもあって邪神パワーのバリアが派手だったかな? 爆炎で目立たなかったとは思うが」

「(*'▽')」

「ん、大丈夫か。ありがとな」

 

 もう幻覚幻聴では誤魔化されないぞこれ。

 原初の邪神と意思疎通って在り方が違いすぎてまずできないはずなんだけど、本当どうなってんだろうな? 多分、長年トレギアの中に封印されていた影響で知性体の精神構造と多少波長合う交流法を学習獲得したとかそんなところだろうが。でも感謝が素直に伝わっているとするならば悪い気はしない。……これ含めてトラップだったりするのだろうか? いやないな、そういう真似するなら闇堕ちトレギアの破滅はもっと早かったはずだ。

 あ、ゴロサンダーのリングは変な細工してません。頑張ってるタイガへおじさんからのプレゼントです。存分に使ってくれ。

 

「ヒロユキ……?」

「カナさん、よかった……!」

 

 佐々木カナも無事で一安心だ。今回はハッピーエンドと言えるのではないだろうか。

 仲間の絆を改めて確信し、また1つ成長したヒロユキ君を後方おじさん面で見守る俺。バレたら問答無用で殴られる自覚はある。

 

 ホマレ君も無事に目を覚ましたとのことで俺が余計な茶々さえ入れなければいい雰囲気で終わるだろう。俺自身の為に、後日退院祝い送る位はするが。

 佐々木カナとヒロユキ君の微笑ましい退職願撤回のやり取りを口角つり上げながら見守った後、静かに場を離れる。

 ヒロユキ君が覚悟を示したように、俺ももう1つ覚悟を決めることにした。

 

 介入レベルの引き上げだ。佐々木カナの言葉で踏ん切りがついた。

 頼もしいシナリオブックとして前世記憶を利用しているならば、多少のズレを飲み込んで強く動くべきだろう。悲劇の演出はもう捨てるべきだ。運命の修正力を理解した今、代償は正直言って怖い。

 すぐにタロウに縋りたくなる俺は相変わらずゴミのようなウルトラマンだと自嘲してしまうが、それでもウルトラマンだ。ウルトラマンであることを諦めてはならないんだ。

 

「見ててくれタロウ……俺は、やり遂げてみせるぞ……」

 

 

 

 

 

 それはそうと、タロウとの地球旅行計画真面目に検討したいから今度こそ百景回ろうね。

 

「(;゚Д゚)」

 

 

 

*1
要約すると、もうこんな危険な仕事やってられないから辞めますあと頑張ってね! である。「貴社のご発展を、皆様のますますのご活躍をお祈り申し上げます」じゃないんだよ。面接落ちたお祈りメールか。




今回トレギアさんはあらすじ引っ張り出していませんが、割と話自体はシンプルというかヒロユキ君成長回とゴロサンダーという強豪怪獣初登場回に集約されます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

光の国のセキュリティと隠蔽工作は下の下

怪獣の死体がテーマの映画が来年公開されますが、本当特撮世界における社会って逞しいですよね。私達の地球で言う、自然災害が怪獣として可視化されているだけという意見もありますが、怪獣が暴れる場所って大都市ど真ん中も珍しくないわけで。
そしてこういうの考察しすぎると、怪獣の人的被害が強く意識されて、特撮の素晴らしい破壊描写が一層ひどい惨劇として目に映ってしまう模様。


 怪獣が跋扈し、災害として君臨する地球。

 その強大な力はもはや怪獣自身の責任能力すら越えた現象であり、悪意の有無など関係なく人間社会で育まれる日常を蹂躙し、嘲るように積み重ね広げた営みを破壊する。

 それでも人々は逞しく、再び立ち上がり日常を取り戻す。否、怪獣(非日常)すら日常という社会体制へ内包していく。この輝きに、俺は何故気づくことができなかったのだろうか。

 

 当時闇への好奇心に傾いたのは、光の事を知り尽くしたと傲慢にも思ったのかもしれない。だから、あの日地球のアーカイブを開いた時、戦争や環境破壊といった闇ばかり見つめて地球の光を見ようとすらしなかった……タロウが熱く地球で得た経験と感動を語ってくれていたのに、理解すら放棄していては心に響くはずもない。

 

 俺は強く反省している。彼らの為にできることはしてあげたい。ウーラーの為だけに巻き込んでしまっている贖罪だけではない、感動からくる衝動だ。

 前世の記憶からの親近感でもない、本当に、俺は地球人に敬意を抱いている。

 

 怪獣災害にも負けずに営業を再開し、訪れた民に安寧と感動、期待を打ち込む朗らかな店内。優しく、それでいて主張しすぎずに落ち着きを与える音楽。店員は人を選ばぬ歓迎の笑顔と共に、相手の歩幅に併せて案内する配慮の精神。メニューを選ぶ間にそっと置かれるコップや手拭きのサービスも嬉しい。写真と名前だけでも心を躍らせてくれるメニューから、この領域の主イチオシを選択。そわそわとしながらも期待は高鳴り、口内は想像上のそれだけで受け入れを万全にしている。待ち望んだ希望の輝き──長年の品種改良の成果を最大限に活かす収獲と保存が成された逸品の数々をふんだんに使用、素材の魅力を決して損なわず、しかしそれだけと思われないように計算しつくされた配置、磨き上げられ一片の曇りすらない容器は素材から来る期待を十全に受け止め昇華している。

 

 

 そう、地球人は、フルーツパフェは素晴らしい!! 

 

 

「ああ、地球は、地球人は素晴らしい……!!」

 

 俺は地球人の忍耐と不屈の精神に感動しているのだ。

 断じて、今食べているシャインマスカットをふんだんにつかったとかいうウルトラフルーツパフェで情が傾いているわけではない……!! 

 

「なんという美味! なんという研鑽! タロウ……! 俺のフルコースのデザート……決まりだ!!」

「(;・∀・)」

「いやうん。美食1点が滅茶苦茶後押ししてきているのは否定しないですはい」

 

 なんか体内の邪神がちょっと呆れた感じで見つめてきてる気がするのでちょっと正直になろう。

 セブンが過労死するまで地球の為に戦い続けたの、食事要素も絶対無視できない割合が占めていると思うんだ。

 マジで美味しいです。本来3名ぐらいで食べる奴らしいけど、パクパクいけてしまう。

 

 1口1口をたっぷりと堪能し、感謝しながら食事を終えた。これらすべてのもてなしひっくるめてのお値段にしては安く感じてしまう。色を付けたいが、このお店はそういうのはお断りらしい。残念だ。

 今度タロウと一緒に食べることを決意しながら、前世記憶からシナリオを引っ張り出す。これを終わらせないと元の宇宙に帰るという本命へ移れないからな。

 

【20話・砂のお城】

【E.G.I.S.に外事X課より護衛依頼。対象は東都大学工学部の元宮サチコ。彼女は幼少期に宇宙人の友人がおり、離れ離れになった彼を探す意味も込めて地球人と宇宙人の判別装置「CQ」を開発していた。当然こんなものが邪魔になるヴィランギルドは彼女を狙う。そして彼女を狙う凶弾をとっさに守った謎の青年の正体は……!?】

 

 はい、前世記憶から引っ張り出したウルトラマンタイガ20話あらすじがこんな具合だ。

 宇宙人判別装置、地球人と宇宙人の友情、ヴィランギルドの悪行、必要だから開発しただけですぐに判別装置が不要となる未来を望む外事X課とE.G.I.S.……大変濃いお話である。宇宙人判別装置は劇中懸念されていた通り、差別助長や新たな騒乱になる危険性を秘めているのだが、ヴィランギルド所属の宇宙人らは各企業に潜入しては技術盗難だの横領だのやらかしているので必須な実情がある。一部悪党のせいで全員が損をする、嫌な社会だが、悲しいかな宇宙共通の問題だ。

 ちなみにこの話ではヴィランギルドはサチコ暗殺だけでなく、超獣アリブンタに破壊活動させて株価操作する最低最悪な金儲けをしていた。

 

 そしてこの話、なんとトレギアが介入していない。次の話では盛大に介入するんだけど、実は次の話は俺のせいでとっくに破綻してたりする。まぁこれについてはまた後日という事で。

 

 結論から言えば、俺は今回のシナリオは最低限しか動く気はない。

 先日佐々木カナの言葉で奮起したのは事実だが、それはあくまでも闇堕ちトレギア介入部分に関すること。

 この話を放置しても何も問題ない。サチコはかつての友人ミスティと再会できるし、街に根をはっていたヴィランギルド幹部ゼットン星人ゾリンもこの話で捕まってヴィランギルド勢力はかなり沈静化するのだ。

 介入した結果、サチコとミスティの再会が潰されたりミスティが命を失うオチになったりロクな事にならない気もするので放置がいい。なんでもかんでも関われば良い結果になるなんてありえない話なのだから。

 

「( ・ω・)?」

「では何をしているか? 簡単だ、エネクロン社の被害軽減だよ」

 

 新エネルギー産業メインの電力会社。今回における最大の被害者と言って良い。

 物語ではさらっと流されているが、連日の被害と最後のアリブンタ大暴れからみてもよく倒産しなかったなと言えるレベルで大打撃を受けている。まぁこの辺なんとかなってしまうのが怪獣世界の基本ではあるのだが。

 地下ケーブルが破損したり、配電施設に備蓄施設まで崩壊が立て続けに起きるというのはいくら災害に強い体制していようが傾くだろう。宇宙人案件には手厚いフォロー入っているのは間違いないが。

 

 だが、あえて未然に防ぐことはしない。俺がやることはアフターフォローと反宇宙人思想に対する軽減行為だ。

 ヴィランギルドがあれだけ暴れているのに、地球の為に動いている宇宙人が少なすぎるとみられるから問題が根深くなる。外事X課やE.G.I.S.は宇宙人であることを承知で重用したりしているが、表沙汰にしないことでその功績が目立たないのはよろしくない。無論、複雑な事情や政策方針あってのことなのも重々承知だ。

 

「( ・ω・)??」

「ふむ、わかりにくかったか。つまり、個人で動く宇宙人が善意で動いたという奇跡をわかりやすく示すのさ」

 

 シナリオとしては『エネクロン社の被害を宇宙人の仕業とみて懸念した宇宙人が超技術で助けた』といったような具合だな。

 フルーツパフェの向こう側にタロウがいることを幻視する勢いで地球人評価がうなぎ登りになっている俺としては、少しでも地球が良い未来へ進んでくれたらいいなと思っている。だからこの地球の問題は少し手を入れたいんだ。

 無論、革命闘士達が暗躍してた際にウルトラ戦士としての心構えをわざわざ持ち出したように、文明への基本スタンスを投げ捨てる気はさらさらない。だが、切っ掛けぐらいは良いのではと思い直している。文明監視員あたりがキレそうな自覚はありますはい。ウルトラマンマックスに殴られたら首から上が消えてなくなりそうで怖い。

 

「ただ、今の段階でトレギアがやったとバレると今後に色々差し支えるし、ヴィランギルドが手を引いて半端に終わる可能性もある。なので、別の宇宙人が個人的にやったと判断される技術で助ける形になる。グリムドの力は使えないな」

「Σ( ̄ロ ̄lll)」

 

 ウルトラ戦士達は基本、偽装工作が不得手というか自分たちがやるという発想にないので、こういうことするのは更にバレにくいだろう。ただでさえ隠蔽も嘘も下手な連中ばかりなので思いついてもやらないのが正確かもしれない。光の国の科学力は万能だから、あまり他に頼ることしないからな……。

 

「ペダン星人はヴィランギルド所属が大半だし、面倒だな……そうだ、ペガ星人の技術にしよう」

 

 アルファ・ケンタウリ第13惑星の誇り高い宇宙人で、他星人との交流も控え気味な文化だから足もつくまい。発電施設倒壊事故発生直後に、この宇宙人の復興技術で「良い宇宙人」アピールをするとしよう……。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ここはヴィランギルド幹部、ゼットン星人ゾリンの一室。

 いつもは外事X課に尻尾を掴まれることを恐れて公園でさりげなく計画について話し合う決まりだが、緊急事態の為こうして幹部の部屋に集合していた。

 重苦しい雰囲気の中、本題となる内容がTVに移る。

 

『本日午後2時ごろ、エネクロン社の発電施設が倒壊しましたが、それがわずか10分で修繕されるという事件が発生しました。大規模な停電も発生しましたが、修繕された施設が運用に問題ないと調査、判断され次第、復旧する模様です……』

 

 TVから流れてくる映像。防犯カメラでは崩れ落ちる施設が怪しい輝きから巻き戻すように戻っていく不可解な様子が撮られていた。

 室内は一層重苦しくなり、息を詰まらせる構成員も出始めた。

 プレッシャーを放っている幹部、ゾリンは人間態の擬態すら解いて怒りに声を震わせる。

 

「どういうことだね」

「工作員がまだ近くにいた為、探らせました。我々の知る技術ではありませんでした。ただ、施設の腐食した金属修繕にアルファ・ケンタウリ星系産の宇宙金属が確認されました」

「馬鹿な、あそこの採掘はペガ星人が取り仕切っているはずだ。円盤に使用することはあっても地球の一施設修繕に使うほど安い感覚で使っていいものではないぞ」

 

 とんでもない修復技術だけでも驚愕するのに、アルファ・ケンタウリ星系産金属が使用されていたことで全員が少なからず動揺する。報告したペダン星人自身も信じられない様子だ。

 

「もし安く使える立場だとするならば、ペガ星人本人かと……」

「もっとありえない話だ。奴らは気圧が極めて低い環境下でなければ生きていけない。地球環境では宇宙服無しには即死する。そして奴らの宇宙船が地球に来た経歴など過去にあったか? 密航にしても、ヴィランギルドの目をかいくぐれるのか?」

「で、ではこれは一体……」

 

 ペガ星人である可能性を否定されれば、完全に未知の宇宙人が犯人ということになる。

 それも、ゾリンが温めてきた計画を把握しきっている相手という事実に、もはや動揺と困惑を全員が抑えられないでいた。

 だが、ゾリン本人だけは確信をもって犯人を断定する。

 

「事情を知るものからすればすぐ理解できる矛盾で自己の存在をチラつかせるなど、トレギアしかいないだろう……我々を揶揄っているのだ、ふざけた真似を……!!」

 

 トレギアはあらゆる宇宙でちょっかいをかける厄災として認知されており、ヴィランギルドにとっても遭遇即撤退が基本指針となっているほどの劇物だった。

 ゾリンにとっても、同胞が主催したオークションを無残に潰されたりと受けた被害は一度や二度ではない。暗躍を好む割には、最終的には自己を示さねば気が済まない劇場型犯罪者に近い思考回路だとも分析していた。だから、今回の犯人はトレギアなのだと彼は断言したのだ。

 

「トレギア……引きますか」

「馬鹿を言え、ここで引いたら長年の準備が水の泡だ。CQ完成も阻止せねばならない。おい、マブゼに伝えろ。前から欲しがっていた材料をくれてやるからトレギアを潰せとな。いい加減目障りだったんだ」

「かしこまりました」

 

 トレギアと直接相対しても勝ち目は薄い。しかし、それは純粋な火力の問題だとゾリンは考えている。

 宇宙最高の頭脳を自称するチブル星人がベリアル因子の研究を進めている。彼の研究を後押しさせ、かの最強最悪のウルトラマンを蘇らせ、手駒にすることができればトレギアだろうが敵ではないと試算した。成功した暁には、主導権を奪ってマブゼは排除するべきとまで皮算用を進めていたが。

 

「これ以上泥を塗られてたまるものか。地球は我々のものだ!」

 

 この数日後、外事X課を甘く見過ぎたのかあっさり全員逮捕されることになるのだが、トレギアへの憎悪へ燃える彼らはそんな可能性つゆほども考えていないのであった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「貴重なアルファ・ケンタウリ星系金属を多用したが、あれでペガ星人の仕業だと断定してくれるだろう。いやぁ我ながら完璧な偽装工作だったな。ついでに地球人にも復興技術のきっかけを得られるように痕跡を残しておいた。解明には苦労するだろうが、モノにした暁には、対怪獣復興体制も盤石になるはずだ」

 

 母星ならまだしも、他惑星環境下では円盤内の異常が死に直結するペガ星人は施設修繕技術が極めて高い。ふふふ、一研究者としてこの技術は是非とも確保しておきたくて苦労して手に入れた過去があるのだよ。過去に環境に合わないくせして地球侵略目論んだバカが種族内で出て、それをセブンに討滅されたことがある。そこを交渉材料に使ったのも懐かしい思い出だ。セブンが最後まで母星に帰るよう警告した経緯も伝わっていたからな、大分容易だった。

 ペガ星人も善行が地球で広まって悪い気はしないはずだ。非常に良いことをした。

 

「(^▽^;)」

 

 なんだ、何故かグリムドから呆れたような雰囲気を感じるぞ。俺、なにかやっちゃいました? 

 ……あー、宇宙人印象改善行為はまだしも技術提供も同然の真似は光の国の基本方針に反しているなこれ。確かに、文明監視員辺りが観たら言い訳できないやらかしかも。怪獣危機や侵略者への防衛には力を貸しても、文明発展や復興には手を貸さず見守ることを是としている。俺のやっている事は運命をなぞって生じる被害への罪悪感を軽減させようとしてる偽善行為に等しいと言われても反論はできない。だが、他惑星の技術解明そのものは悪ではないぞ。それに解明努力は必須だし、俺はきっかけを与えただけに過ぎない。だから査問会議はやめてくれ長官!! 

 

「(・_・;)」

 

 あれ? そういうことじゃない? じゃあもしかして未来に地球人とペガ星人が技術盗難疑惑で争う可能性のことだろうか。その時は真犯人として俺の名前を出すしかないだろうが、そんな話はずっと先の事だろう。ウーラー助けた後の善行バレなら気にしないさ。はっはっは。

 

「(一_一;)」

 

 グリムドから感じる呆れのようなものは減るどころか増した気がするが今日の俺は機嫌がいいから気にしない。

 

 

 この後、アリブンタをタイガ達が撃破した後も滅茶苦茶修繕した。

 やっぱり良いことって気持ちいい!! タイガの活躍も見れて気持ちいい!! 今日はいい夢みれそうだ、タロウと冒険する夢また見たいな!! 

 

 

 




【悲報】ニセウルトラマンベリアル 強化確定

Q.トレギアのやってる事、明らかにウルトラマンの文明や技術不干渉方針に抵触してるけどええんか?
A.よくない。破壊された施設を直すことや生命救助はまだ問題ないが(勿論やり過ぎると所謂依存懸念問題に繋がるから、怪獣退治迄に留める方が実はお互いに良いとする考えもある)、意図的に他星技術解析チャンス残すのはギルティ。悪影響まで理解に至っておきながら楽観視してるのでバレたら普通に怒られる。この「ちょっと干渉する」というニャル様じみた行動については闇堕ちして干渉しまくってる方の影響思いっきり受けてる。当初は暗躍棚上げしてしっかり基本方針守る気だったのがその証拠。フルーツパフェのせいじゃないよ、多分。

Q.地球人は異星の科学力解析できるの?
A.特撮世界における地球人達の解析能力エグいからいける。だいたい1組織に10人ぐらいいる天才と、1時代に1人の超天才がやってのける。

Q.このトレギアなんか頭悪くない?
A.わかりきってることですが、このトレギアさんはアホです。勉強はちゃんとして、天才的頭脳もあるのにケアレスミスや問題の読み間違いで絶対に満点取れないタイプのアホです。加えて前世記憶&原作トレギア記憶の浸食抵抗にも相当意識割いているので深読み思考が無自覚なまま取れてません。
実は原作トレギアも割と考え足りてないポカやらかしたり、好奇心に逆らえない上に頭良すぎて独りで考え込んで鬱になっちゃうタイプなんでこれでもマシな方。勝手にSAN0になってしまうネガティブ部分をアホのビンタで塗り替えたらこうなります。タロウへの愛は増えても減ることないので原作通りです。ヤンデレおじさんです。

Q.ペガ星人、そんな技術あるの?
A.すまん独自設定や。宇宙船が割と頑強だったのとマイナー宇宙人話題にしたくて選びました。
基本的に侵略宇宙人を容赦なくぶち殺すセブンが説得を試みたとか、地球環境下では生きられないくせに侵略企てたとか地味にネタあるペガ星人ですが、そのせいかセブンで初登場したきり、掘り下げないまま出番がありません。侵略の仕方が暗殺やら催眠尖兵やら悪辣だったり語る要素多いんですが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この地底ミサイル、何に使うのかな

劇中ではメッセージ性からずれるためか流されたが、本来はもっと強く言及されるべきな超ヤバイ兵器のお話
今回、ゴース星人の台詞が大変わかりにくいですが、原作でも地球言語単独では喋れないのでご了承ください


 先日、ゾリンとかいうヴィランギルドの幹部が「許さんぞトレギアアアアアア!!!」とか叫びながら連行される映像がTVで流れ、自分の偽装工作が全く効果なかった事をなんとなく悟ってしまったトレギアです。

 ひょっとしてペガ星人、この宇宙にはいなかったとか? いやそんなはずはない……ヴィランギルドの調査能力をなめていたな……反省しなくては。

 

「だが闇堕ち俺が散々悪行やらかしているから、急にトレギアが善に目覚めたなんて扱いにはならないだろう。うん、俺の計画に不具合はないはずだ」

「(-ω-;)」

「だから言ったのにみたいなオーラを出すのやめてくれないかグリムド」

 

 毎日食事という道楽を得ているせいだろうか、グリムドの感情表現のような訴えがバリエーション豊かになっている気がする。

 だが不具合はないというのは嘘ではないぞ! そもそも俺がどう思われようが最終目的を考えれば関係ない事なのだから。

 

 霧崎の姿を取り、目的の人物を邪神パワーで探索、特定する。

 後は捕まえるだけなので今のうちに今回の話を例によって前世記憶から引っ張り出そう。今回のは俺にとって重要だ。

 

【21話・地球の友人】

【ゼットンが暴れた結果、母親が傷つき深い恨みを抱いた田崎オサム。彼は霧崎の心理誘導に惑わされ、E.G.I.S.に仮入社した後、CQを持ち出してしまう。CQで発見した宇宙人ゴース星人へ恨みをぶつけるオサムだったが、主人のピンチにパンドンが出現する。恨みの応酬となってしまった宇宙人と地球人の和解はなるのか、そしてトレギアの目的とは……!?】

 

 物語のメッセージ性としては色んな問題を訴えかけるいい話だったと思うのだが、残念ながらここは現実である。

 テーマ性を重んじての悪行に俺が手を染めることもない……そう、このシナリオはここにおいて既に破綻していたりする。

 というのも俺全力で人命救助したのでオサム君の母親は無事なんだよね。しかも彼らはテレポーテーション救出という明らかに地球外技術で救われたような形になってたので、俺が前回行動した「良い宇宙人もいる」アピールと同じ効果を生んでいる。

 オサム君はゼットンを暴れさせた宇宙人にこそ怒っているが、母親を救ってくれた宇宙人がいるとわかっているので冷静な判断をしている。

 劇中では復讐心に染め上げられ、見た目露骨な宇宙人を前にしての偏見、差別意識を全開にしていた(見た目人間だった霧崎たちにはCQを向けていない辺り、かなり恣意的な描写だったと思われる)とはいえ、そんなもん知性体は大なり小なり抱く感情だ。それをどう乗り越えていくか、または受け止め、問題解決へ1歩踏み出せるかが肝要なんだ。

 だからゴース星人と和解することができた彼は元々良い子なんだよね、洗脳まがいに誘導した闇堕ち俺の罪は深い。

 

 念の為、原作トレギアが心理誘導に使ったであろう時間も一部利用してフォローもしているので、大丈夫だと思う。オサム君以外が同じことをするという運命の修正力も懸念して、グリムドの探知能力も用いて候補を選定、メンタルケアやフォローに邁進した。

 多分、前世記憶におけるトレギアが前回介入しなかったのはこの心理誘導に全力尽くしたり、ウーラーの誘導方法について摸索していたからだと思う。

 

 そう、このトレギアの目的はウーラーを地球へ誘導することだ。それにゴース星人が地球に持ち込んだ地底ミサイルを利用して地球のエーテルを刺激、宇宙にエーテルの波紋を響かせビーコンとしてウーラーに地球を気付かせるというのが戦略。

 普通に力押ししてミサイル奪えばいいものをわざわざタイガたち巻き込んでゲームにしてるせいで回りくどく面倒臭い話になってるだけである。絆ぶっ壊しつつ主人守りたいだけのパンドン殺させて煽りたかったというの性格悪すぎてドン引きですわ。

 まぁ、闇堕ち俺が劇中で口にしていたジグソーパズルは、確かに地球人が生んだ素晴らしい発明だと思うがね。この俺が言おう、完璧だ。

 

 ところで疑問なんだけど、なんでゴース星人は地底ミサイルなんか持ち込んでいるんだ。口では地球が好きだとか言っていたが侵略の意志ありと疑われてもしょうがないぞ。パンドンをペット枠扱いで持ち込みといい、実はお前悪党だったりする? もし発見者がウルトラ警備隊だったら問答無用で円盤ごと木っ端みじんにされるぞ。

 

「そう思わないかい? なぁゴース星人」

ちがう、これはごしんようなんだ! 

「地底ミサイルが護身用? 地下から放てばあらゆる地上都市を妨害なく爆破できる最悪の対都市兵器だぞ」

それは、そうだが……! 

 

 はい、あらすじと考察脳内に垂れ流している間に件のゴース星人はとっ捕まえてます。というか骨董市開催宣伝でひょっとこ面つけて街中走り回るとか悪目立ちしすぎである。

 やりすぎたらパンドンがキレて襲ってくるとは思うが、出現したら容赦なくボコる腹積もりである。殺しはしないが。

 今回はオサム君はもちろん、タイガたちにも介入させない。全部俺だけで片づけるつもりだ。

 

「それに君、あの革命闘士と称する連中と連絡を取っていただろう? 君も賛同者だった……違うかな」

あれは、いかくのためだときいていた。なのに、やつらはあばれさせたんだ! おれはしらなかったんだ! 

「君は地球が好きだからこの星で静かに暮らしていたと言う。だが怪獣に地底ミサイルは、地球の法で考えてもアウトだと思うんだ」

「……」

「パンドンは君の家族だろうから……無理は言わない。だがあの兵器は、地球における宇宙人の立場を悪くするだけだ。あれは私が処分する、いいね?」

わ、わかった。あれはてばなす

 

 ほら、話せばわかるじゃないか。

 あの革命を自称するテロリスト集団の計画全容を知らなかったというのを鵜呑みにできはしないし、侵略目的で地球に降り立った可能性も否定できないが、パンドンを可愛がっている点を信じれば暴れさせる気はなかったはずだ。

 本音を言えばあいつらの暴走をしっかり止めてほしかったけどな。数週間遊び惚けたことを本気で後悔したんだぞあれ。

 

 ちなみに声帯の都合、ゴース星人は地球言語を喋れない。俺はこれも結構疑問視している。喋ることができる個体を催眠で操り、代用したりしてるわけだが、こいつらの科学技術考えれば、発声装置ぐらい簡単に再現できるからだ。

 つまり、態々開発する必要がないと考えているわけで、本質が他惑星を見下し侵略する宇宙人思想そのまんまにしか見えないのである。作品としては、言語の違いをわかりやすくしたかったで済むが、ここは現実だ。オサム君はもっとキレていい。

 

 まぁ、ちゃんと処分に同意してくれてるこのゴース星人はなんだかんだ優しい方なのはわかっているつもりだ。

 

しょぶんというのは、どうやって? 

「今は地上にあるんだろう? 地底に向けて射出し影響外にて起爆させる。宇宙までもっていってもいいが、それをすると君の事が他の宇宙人にもバレるだろうからね」

ちていに!? それはきけんだ、どんなえいきょうがあるか……!! 

「持ちこんだ君が悪い。だが、仮に地球が捜査したとしても使用したのは私、霧崎だ。私が持ち込んだことにするさ」

 

 本命について話すと流石に反対されるだろうから、嘘は言ってない表現を使う。

 前世を思い出してからは私という一人称に違和感しか覚えないはずなのに、口に出すときはすらすら出るのだから不思議な感覚だ。

 両手を広げ、互いに損はないとアピールする。この身振りも妙にしっくりくるのはなんだろうな。

 

「君は安寧を守りたい、私は危険物を処理したい。何も問題はないじゃないか」

「……」

「なにかあっても、責任は私が取る」

 

 これは本音だ。劇中では上手い事エーテルのみを刺激することに成功したが、あれで星の核に致命的影響があってはならない。

 ウーラーについての責任も取る気しかないので誠心誠意を込めて断言できる。

 

わかった、ちていミサイルはまかせる

「ありがとう」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 円盤とパンドンを隠している岩山へ向かう。

 別に急いではいないので、ゴース星人とは雑談をしながらハイキングコースを歩いている。

 作品の都合と言ってしまえばそれまでだが、街から離れて結構歩いてるので、全力で逃げるゴース星人をパンドンがいる近くまで追いかけ続けたオサム君相当強いな。

 

「もともと地球を去る気だったのかい?」

そうだ。あいつらをしんじたおれもわるかった。もし、ひがいしゃにせめられてもべんめいしかできないだろう

「それは……そうだろうね」

 

 随分罪悪感に苛まされていたようだ。無理もないし気持ちもわからなくもない。

 前世記憶にある劇中のゴース星人は、決して自分から強い抵抗はしなかった。罪悪感があったのは本当だろう。

 ホマレの声帯を借りる為に彼を昏倒させたのは色々不味かったと思うが。

 

「地球から離れるから地底ミサイルは手渡さない、と言わなかったのは何故かな」

そんなこといってみろ。いいのがれできずにおまえにころされる

「違いない。その時は侵略の意志ありと見做すつもりだったさ」

しんようされないのはわかっていたからな。だからてばなすのは、おれをしんじてもらうためだよ

「わかった。全額とは言わないが、多少の補償はしよう」

いいのか!? 

 

 信用されなかったらそのまま殺される危険性は自覚していたようで、地底ミサイルの所有権放棄は誠意の証に近かったようだ。誠意にはなるべく応えたいので幾ばくかの補填をすることを約束する。

 地底ミサイルの相場なんて俺は知らないが、随分喜んでいるので結構高かったのかもしれない。

 罪悪感に付けこんで交渉した自覚はあるから元から何かしら便宜は図るつもりでいたが、安請け合いだったかもな。

 ちょっと後悔したが顔には出さず、地球の何を気に入ったのかとか、苦労したことなんかを話題に楽しんだ。

 俺が地球の駄菓子を絶賛すると、彼もわかると頷いて何が美味しかったかを熱く語ってくれて大変気分がいい。やはり、話し合ってお互いを知ることが友好の1歩だな! 

 

「それで彼は耐えきれずについに訊ねたんだ『どうして赤い洗面器を頭に乗せているのですか』とね。やがて男は答えた。『それは……』っと着いたようだね」

ちょっとまってくれ、おとこはなんといったんだ

「それはまた後で話そうじゃないか。さぁ、円盤を出してくれないか」

 

 話の続きが気になる様子だが、到着したのだからさっさと仕事を済ませよう。

 宇宙へ帰る前に彼と1杯楽しむのも悪くないと思っているのでその時にオチを提供しようと考える。

 ゴース星人はそわそわしていたが、俺が笑顔で促したのでため息をついて円盤を遠隔操作しはじめる。

 

 ……パンドン同様、岩山の中に隠していたのは色々どうかとも思うが。まぁ円盤失うと大変だもんな。ゴース星の科学力考えるとこれそこらの円盤より高性能なのは間違いないし。

 岩山が崩れ落ち、パンドンと円盤両方が姿を現した。円盤を守らせるには打ってつけだろうな。あれで結構頭も回って強いんだパンドン。

 

「コッコー」

だいじょうぶだパンドン。うさんくささはひどいがこいつはおれのてきではない

「コケー?」

 

 パンドンは主人の隣にいる俺に警戒心マックスだが、ゴース星人が説得している。

 戦闘ないのは嬉しいが、俺を前に「うさんくさい」とか「ぜったい裏があるだろうが」とか言うのはひどくない? 

 否定できないので苦笑いしながら説得が終わるのを待つ。

 

ほら、おれがこうしていろいろいっても、かれはおこらない。それにちゃんとまってくれている

「コッコー」

おれたちがなにもしなければ、かれもなにもしないさ

 

 5分ぐらいしてようやくパンドンも納得したらしい。大人しくしている。

 

「一応確認しておくが、この地底ミサイルが深く進み過ぎて内核を破壊する可能性は?」

ない。がんばんのはかいや、ちていかいじゅうをせんてでたおす、そしてちていからちじょうとしをばくはするのがしようもくてきだ。ほしをはかいするいりょくはない

「星の破壊には至らない、それだけ聞ければ十分だ」

 

 トレギアアイを装着し、元の姿(サイズは人間大)に戻る。蒼い闇が身を包んで悲しくも馴染み深い姿へ元通りだ。

 ゴース星人は思いっきりのけぞり、パンドンも両嘴をあけっぴろげにしている。かなり驚かせてしまったようだが、影響を最小限まで抑えるのに必要なんだ。霧崎の姿では流石に制限がある。

 

「すまない、だがミサイルの悪影響を抑えるにはこの姿でなくては難しくてね」

え、おまえ、トレギア!? 

「コッコー!?」

 

 やべ、元のトレギアの信用度全宇宙でもマイナス底辺なの忘れてた。

 霧崎としては上手く交渉できたから問題ないと思い込んでたけど、霧崎=トレギアの情報知ってる前提じゃないと成り立たん、やらかした!! 

 自分の軽率っぷりに自己嫌悪しているが、ゴース星人たちは意外にも動揺こそすれ敵意はみせてこなかった。

 

いや、だいじょうぶだ。むしろ、おまえならおれとパンドンりょうほうをころしてうばえただろうになぜだとおもっている

「確かに私ならそこのパンドンの首を刎ね、お前を爆殺して宇宙船を奪うのは容易い。それは事実だ」

「……」

「だが私は話し合いで済むならそうするべきだと思っている」

 

 しばし見つめ合う。数多の言葉は不要、この曇りなき眼(邪神内包してるせいで澱みまくってる模様)で信じてほしい。

 

なるほど、うわさどおりではないということか。すまない

「コッコー」

「噂の否定はしないさ。だが一面に過ぎないと言っておこう」

 

 よかった、信じてくれた。このゴース星人ちょろすぎないか。そんなだからテロリストに騙されたのかもしれないな。

 だが嫌いではない。正直ハイキングを共にした短い付き合いだけでもう彼を傷つけたくない思いが強い。

 

「この周辺地域が震度2程度で済む深さまで頼むよ」

わかった

 

 ゴース星人が自らの円盤に思念波を用いてアクセスを開始した。

 一応、万が一ゴース星人が不意に俺の方に地底ミサイル飛ばしたり、パンドンをけしかけたりしてもいいように邪神パワーの備えも万全だ! 

 

 角ばった形の円盤に備え付けられた、ドリルのついた浪漫溢れる形状のミサイル。

 シンプルだがその掘削能力と爆破の威力は凄まじいものであり、かつてはこれを大量に用いた地球人皆殺し計画という最大の侵略作戦を決行したこともある。

 そんなおぞましい実績ある兵器は、今、地上から地底へ向かうという逆方向へ発射された。

 一瞬で地中深く潜っていくその速度は驚嘆に値する。

 

「あ?」

ごめん、せっていまちがえた。このままだと、とちゅうターンして、まちにむかう

「おい!!?」

 

 目標設定間違えただと!? このままだとUターンして街で起爆とかふざけんなよてめぇ!! 

 やっぱりこれ侵略目的じゃねぇか!! なんでデフォターゲットが街なんだよ!!! 

 

た、たた、たのむ! なんとかしてくれ!! 

「コッコー!」

「ああもう!! お前後でぶん殴るからな!!!」

 

 邪神パワー全開で急いで地底ミサイルが掘り進んでいる穴に飛び込んだ。

 恐ろしい速度だが、追いつけない程ではない。

 すぐに目標を確認、幸いにしてまだ軌道は地底一直線のままだ、いける!! 

 

「グリムド、ネットワーク干渉と同じ要領で地底ミサイルの目標変換できるか!?」

「(・ω・)ゞ」

「よし頼む!!」

 

 電子仮想空間や知性体のインナースペース、そして魔術による固有の空間……そういったものにもグリムドは遠慮なく干渉、乗り込むことができる。

 別宇宙別次元へ容易く足を運べるこの能力トレラ・スラーの本質は『接続』ではなく『干渉』だ。

 憎悪増幅光線(イスキュロス・ダイナミス)といった凄まじく要らない技もあるのだが、これも結局はトレラ・スラーの応用のようなものだ。

 要するに、機械に対する干渉能力は凄まじく高い。

 

「(・ω・)ノ」

「うまくいったか! ありがとう!」

「(・ω・)♪」

 

 地底ミサイルは真っすぐ地底の奥へ進んでいっているままだ。これなら……! 

 ん? ちょっと待て。地底ミサイルの爆風が逃げる位置ってこの掘り進んだ通路一択だよな? エーテル波導もモロに食らうよな? 

 

「……この位置まずくない?」

「(;゚Д゚)」

「やばい脱出──」

 

 ああ、光が、光が逆流する──!!? 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 地響きがする。想定通りの震度、()()()()()()()()()()()

 爆炎が穴から噴き出していないということは、あの男は本当に最小限に抑えたようだ。

 つまり、俺がやった事は杞憂であり、裏切りだったということか。

 

……すまない、こわかったんだ

 

 トレギアだとわかるまでは本気でそのまま地底廃棄でいいと思っていた。

 だが、彼があの蒼い悪魔だとわかってからは、強い恐怖が蛇のようにまとわりついてきた。

「用済みと殺されるのでは?」「地底ミサイルに干渉し、Uターンさせ、街を破壊するのでは?」「もっと恐ろしい狙いがあるのでは?」

 そんな考えが浮かんだきり消えてくれない。また新たな業を背負わされてしまったのではないかという疑惑が俺の心を潰していく。

 

 だから、嘘をついた。

 発射後に設定を間違えたなどと言って、反応で見極めたかった。

 もし動かなければ、奴の企みは街の破壊であり、俺はそれを潰せたことになる。

 もし動いたならば、奴は全速力で起爆位置に向かい、地底ミサイルの火力を全身で受けることになる。運が良ければ倒せるだろう。だが爆炎は吹き出すはずだ。

 最初から被害を最小限に抑える気だったなら、元から爆炎を抑える為に穴に飛び降りるかなんらかの行動を起こしていたことになる。結果は見ての通り。

 

 恐怖と疑念のあまり、とんでもない間違いを犯してしまった。

 見極めるも何も、そんな真似をすれば自分の命がないことは冷静に考えればわかることだっただろうに。

 最初に一度信じたのに何故俺は裏切ってしまったんだ。無事かはわからないが、戻ってきたら俺は殺されるに違いない。

 

「コッコー」

 

 パンドンが労わるように鳴いてくる。

 なんとかお前だけでも生きられるようにお願いしよう。

 

「シェアッ!!」

 

 ああ、奈落の孔から蒼い悪魔が飛び出してきた。

 すまないパンドン、俺はここまでのようだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 あっぶねぇなぁ!! 

 邪神パワーによるバリア(イスキュロス・イーバ)なかったら重傷だったかもわからんぞ!! 

 結果的に爆風爆炎を抑えることできたからヨシ! だけどさぁ……。星の叫びたるエーテルの波紋にダメージ判定なかったことが救い。バリア素通りしたし。面白い特性だなエーテル波動。片手間に研究させてもらおう。

 

「(; ・`д・´)」

「おつかれグリムド、助かった」

「(*・▽・)」

 

 グリムドに感謝の念を忘れずに送った後、なんか呆然としてるゴース星人の前に着地する。膝ついて何度も謝ってきてるんだけど気まずいからやめてくんないかな。

 パンドンだけは殺さないで、とか言わないでくれ。対処直前は割とキレたけど、なんとかなったわけだし今はそんな怒ってもいないぞ? 

 

「ゴース星人、頭を上げてくれないか」

すまない、すまない

「いやほら、ダブルチェックしなかった私も悪かったところあるから……」

 

 寧ろ対処できるタイミングで言ってくれて助かったまであるわ。街が燃え上がってから言われたら最悪だぞ。

 これはヒヤリハットで報告させてくださいよ長官。え、ダメ? 

 

「地底ミサイルは無事に処理できた、それでいいじゃないか」

ゆるしてくれるのか……おれを

「許すとも。アフターフォローは任せろと言っただろ、責任の範疇さ」

 

 ここまで本気で申し訳なく思っているなら、本当に今は侵略の意志無しとみていいだろう。

 だからそんな露骨に怯えないでくれないか。やっぱ闇堕ち俺の信用度が低すぎるな……。

 

「おいパンドンからも何か言ってくれないか」

「コケコッコー」

そうだな……ありがとうトレギア。うわさはうわさだったとやっとかくしんしたよ

「パンドンの一言で納得されるとそれはそれで腹立つな……」

 

 ともかくこれで問題は解決した。ウーラーも今頃察知したころだろう。

 タイガに告知した方が良いのかなぁ、いや、到着してからでもいいかな? 

 ま、今度考えよう。

 ようやく落ち着いたゴース星人の前で霧崎の姿へ変わる。あまりトレギアの姿でいすぎてタイガに感知されたらややこしくなるからな。

 

「このまま帰るのか?」

ああ

 

 地底ミサイルの処分も終えたし、やはり地球からは離れるらしい。

 劇中でもそうだったな。じゃあなんであんな姿で街にいたんだこいつは。ふんぎりつかなかっただけなんだろうか。

 

「ならお別れだな。お土産の用意はできてるかい? 例えば、地球人が発明したものに真空を利用して貼り付いたり流水を生み出す魔法の棒があるんだが……」

な、そんないっぴんがあったのか!? 

「ああ、すっぽんとかラバーカップと呼ばれているようだが、優れものだ。ゴース星に持っていくと良い」

トレギア、きみはいいひとだ! 

「コッコー」

 

 お別れということで、宇宙の価値観で素晴らしい特産物を彼に次々と渡していく。

 地底ミサイルの代金になるほどではないだろうが、喜んでくれているからいいことだろう。

 品物1つ手渡すたびに泣いて喜ぶ彼とはしゃぐパンドンにこちらも笑顔がこぼれる。

 そして地球の夕焼けがもっとも美しく夕闇を伸ばす時、地上から空へ消える流れ星を笑顔で見送った。

 

 赤い洗面器の男のオチを話すのを完全に忘れていたが、まぁ些末事だろう。

 

 

 

 

 

 

オチききわすれた────!! 

「コッコー」

 

 

 

 




Q.グリムドは地底ミサイルの目標正しかった事気付かなかったの?
A.確認しないままに不正規なやり方で上書きしたので気づいていません。ゴース星人の感情読み取ってたら気づいてた。

Q.ゴース星人、裏切るなんてひどい
A.SAN削れて選択肢間違えただけです。あとトレギア相手に盲信しないだけの理性と知識があったと言える。つまり悪行三昧のトレギアが悪い。
ちなみに地上で直接トレギアを狙わなかったのは簡単な話です。爆心地にいたらパンドンはともかくゴース星人は死ぬ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

タッコングよりも少年の方が謎だ

感想にあった本作トレギアさんを指すのに「オレギア」という表現天才かと思いました。
来週トリガーにウーラー亜種みたいなの出てますが、ウーラーの新情報とか出ませんよね?そうなら嬉しい一方、プロット修正レベルのネタとか来ると困ってしまうジレンマ……


 ─ヒロユキのインナースペース─

 

 俺、タイタス、フーマは定期的に会議を行っている。

 ヒロユキに聞かせられない、または話しにくい部分を含んでいることもあるので話す場所はインナースペースで3人だけだ。ヒロユキには申し訳ないけどな……。

 だけど今日の議題だけはあいつには迂闊に聞かせられない。十分巻き込んでしまっているが、ヒロユキが怒りと悲しみに囚われる姿はもう見たくないんだ。話すときは俺たちが意見を統一してからでもいい。

 

 そう、議題はここ最近のトレギアの話だ。

 ヒロユキすらターゲットに巻き込んだと宣戦布告こそしてきたが……妙なところであいつらしくない感じを受ける。民衆と仲間の2択を強制するやり方はあいつらしい厭な手口だったが、死者は出ていないし、あの人の感情を逆なでする煽りが弱かった。フォローしてくるとか意味不明で逆に怖かった。その後はホマレを銃撃したぐらいで、信じられない程介入が弱い。ゴロサンダーはリング化したからあいつの仕業な気もするけど。

 

「どう思う?」

「トレギアだぞ? なんか企んでるはずだ」

「そうだな。だが違和感がある」

 

 皆言葉少なだが、それだけでお互いの言いたいこと、考えている事がわかる。

 俺はトレギアに何か変化が起きている事について訊ね、フーマはトレギアの悪辣さは変わっていないと判断していて、タイタスはその上でトレギアらしくない部分を認めている。

 お互いの考えがわかったところで、話を進める。

 

「最近、怪獣と戦った際の街への被害が少ないよな? 俺たちも気を付けているけど」

 

 俺たちと怪獣が暴れると街の被害はひどいものになる。

 もちろん、俺たちもむやみやたらに被害が拡大するような戦い方は避けているし、ウルトラマンとして守る戦い方でもって倒すべきだと考えている。それにしても被害が少ない。

 怪獣だって俺たちが止める前に散々暴れる。その被害すら、かなり抑えられている。

 

「トレギアが守っているとでも?」

「……だと思う」

「他に良い宇宙人がいる可能性の方が高いんじゃねーのか?」

 

 フーマの意見は尤もだし、俺も最初はそう考えた。ゼットンの方は、その可能性でいいかもしれない。

 あのバット星人たちの考えに反対した宇宙人だっていたはずなんだから。でも、ゴロサンダーの時は違うと断言できる。

 

「……ゴロサンダーを倒した時、確かに奴の気配があった」

「ああ、それは私にもわかった。トライストリウムと叫ぶ声が聞こえたが、あれはトレギアだろう」

「ゴロサンダーがあんだけ派手に爆発したのに、周囲の建物はガラス1つ割れなかったってよ。世間は俺たちのおかげってことになってるけどさ」

 

 爆発時の影響だけじゃない。ゴロサンダーがまき散らした雷撃被害も微少なんだ。いったいどれほど街全体に気を配って、あの雷撃を防ぐだけのバリアを張れるんだ? 今の地球で、トレギア以外にそれができる宇宙人が本当にいるのか? 

 

「俺は直接戦ったからわかったんだけどさ。爆発の煙でほとんど見えなかったけど……一番近い建物を守った時のエネルギー、あれはトレギアのものだったんだ」

「なんだと?」

「どういうことだ、やっぱりタイガの言う通りトレギアに何かあったのか!?」

「何があったか……わからない。でも、信じたくなる行動ではあるんだ」

 

 トレギアのやり口が変わったきっかけ、あるとすれば俺たちが初めてトライストリウムに変身した時。

 錯乱したように暴れるあいつを倒した時だろうか。あの時、トレギアに何か変化が起きた? 

 

「今度はそうやって俺たちを騙して貶める算段かもしれねぇぜ」

「それもありえる話だ。奴は絆の破壊を好む」

「それを言われると反論できない。けど……」

 

 あれだけ光を拒絶し、絆を嫌悪する様子を見せていた男だ。時間をかけて、策謀を進めていくというフーマやタイタスの推察に否定を挟むことはできない。わざわざ遅効性の毒のように俺に闇を蝕ませた*1からな。

 それでも、方向性が大分違うというか……。

 

「タイガの言いたいことはわかるぞ。やつが好む策謀は絆を試すような煽動と、情報を秘匿して心の罠に嵌める暗躍が基本だ。そして力押しする際は、他の強大な怪獣や闇をけしかける事を好んでいる。この善行のような行動は策謀としては毛色が違うな」

「お、おう……タイタスが言葉にしてくれて助かった。そういうことなんだよ」

「タイガお前なぁ……」

 

 しょうがないだろ! 俺はまだ直感的なものを言葉に変えるのはそこまで上手くないんだ! 

 だけど、フーマも俺の言う違和感については納得してくれたようだ。

 

「あの時のヒロユキには気を使って言えなかったけどさ、あの一撃はホマレを殺すものではなかった」

「……いつか絶対にトレギアとはまた相対する。だからその時、聞こう」

「ああ」

 

 結局は本人に追及しない事には確証も何も得られない。罠だと言うなら全力で迎え撃つ。俺たちの絆は負けない! 

 でも、罠じゃないなら、俺たちはどうすればいいんだろうか。

 

 父さんが言っていた言葉がふと思い出される。このタイガスパークのこと。

 

『かつて、友と一緒に作った。仲間との絆を深めるものだ』

 

 怪獣リングがタイガスパークを介して発動することといい、俺に執着する一方で父さんを見ていた事といい、トレギアはもしかすると……。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 温泉は素晴らしいなぁ!! 

 全身がぽかぽかと心地よいままに、ふっかふかのバスタオルで身体を拭く幸せよ! 

 しかもこのタオルは前世記憶を元に俺が手ずから作り上げたウルトラマンタロウバスタオルだ!! 俺のタロウが、俺の身体を拭き上げてくれると考えると不思議とぞくぞくしてしまう。許せ友よ、未だお前に会えない悲しみを少しでも癒したいだけで他意はないんだ。ああタロウ……!! 

 

「(;´・ω・)」

「パパー、あの人へん」

「あっちをみるんじゃない」

 

 脱衣所から遠巻きに変質者を見るような眼で睨まれているのは何故だろうか。宇宙人だとバレたのか? 地球人の排斥意識は根深いのかもしれないな、俺の姿はどこからみても地球人だというのに。

 

 仕方がない。ここは完璧な地球人ムーヴで違和感を拭い去るとしよう。温泉からあがったあとの地球人が取るべき礼儀作法はアーカイブで得ているんだ。

 まずピット星で大人気なボディオイルでさっと保湿した後、ヘアドライタオル(タロウの笑顔刺繍)で吸水だ。地球人の髪というのは意外と傷みやすいらしいからな。

 そして成分が我が髪と体質に問題ない事を確認したら備え付けの化粧水と乳液を使用、温泉側が自信をもって提供しているものはなるべく使ってみたい。美容効果が丁寧に書かれた可愛らしいポップの気配りが嬉しい。綿棒で両耳の水滴も拭き取り……ここで我慢できなくなったので自動販売機で牛乳を手に入れ腰に手を当て一気飲み。うまい!! 

 改めてゆっくりヘアケアした後にカーミラ星でも大人気なトリートメントでそっと保湿、最後はドライヤーで完璧だ。ちなみに俺は冷風〆がお気に入りである。

 どうだ地球人たちよ、もはや俺を宇宙人とは思うまい。訝しむ目線が消えたのがその証拠。勝ったな……。

 

「あんちゃん」

「?」

「顔と髪に拘るのもいいけどさ、着替えてからやってくんねぇか」

「え、着替えてからやるもんなの」

「いやここあんちゃんの家じゃないんだからさ……」

 

 

 

「(((・ω・)))」

「あ゛~~~~~」

 

 マッサージチェアというのもバカにできないものだな。光の国における治療施設は固い床みたいなカプセルタイプが大半だし新鮮だ。身体が丈夫というのも考え物だ、こういう素晴らしい設備を生み出す発想に結び付かないのだから。肉体が脆弱であることは、決して悪いことではないのだと痛感するな……先の肌や髪のケア作法も面白かった。脆弱でなければ生じない文化だ。

 光の国にもないことはないのだが、赤子を除けば元から超頑丈な肉体故に、自然要因で表皮が老化するということがない。加えてその気になれば自分たちの能力だけでいくらでも美容効果高められるレディたちばかりだから馴染み薄いんだよ。ま、俺はそれを完璧にこなせたわけだが! 見ているかNo.6! 俺は地球に馴染めているぞ!! 

 

「まぁ、おっさんに指摘されたのは要反省だがな……」

 

 完璧だったのだが、腰巻きタオルだけでやってはいけなかったらしい。馴染めているつもりだが、まだまだ地球文化に疎いな。前世地球人なのに。

 ふと、この前世記憶が本当に地球人なのかちょっと疑問を抱いてしまったが、そろそろ恒例のあらすじ確認といこうか。

 マッサージチェアを堪能したまま、TVに目を向ける。

 

『怪獣災害速報……世田原湾に怪獣が出現しました。10分後には市街地に到着する模様です』

 

 映像に映るのはオイル怪獣タッコング。球体の身体にタコの吸盤が無数についており、申し訳程度の手足と頭、長い尻尾がついている中々ユニークな姿の怪獣だ。イメージしにくい人はポケモンのゴローニャを思い出せばいい。あれにタコの吸盤模様で塗り替えて尻尾つけたのがタッコングだ。

 

【22話・タッコングは謎だ】

【ある夜、世田原湾にタッコングが出現し、市街地に向かって歩き始めた。ヒロユキはタイガへ変身して迎え撃つが、防戦に徹したタッコングの前に時間切れに終わり、上陸を許してしまう。タッコングは沿岸施設の重油こそ食い荒らしたが、しばらく進んだ後に眠りだした。政府側の調査では興奮状態にあるわけでもなく周囲は困惑に包まれる。ヒロユキは何か目的があるのではと考えるも答えは出ない。そこへ謎の少年シンジがヒロユキの前に現れた。彼は言う。「タッコングを助けておくれよってばさ、このままだと大地の怒りギーストロンが暴れるんだ」】

 

 はい、俺無関係です。

 この話では、海の化身タッコングと大地の怒りギーストロンが登場する。人類が大地を汚して、それを清める為に怒りのままに暴れようとするギーストロンと、それを抑えようとするタッコングというわけだ。

 人類に警鐘を鳴らす存在として描かれているタッコングとギーストロンだが、まぁ地球人=悪って話なわけでもない。言ってしまえば生存競争の一環だ。星も生きているのだから。

 すごく雑に言ってしまえば、表皮が痒く感じたら掻きたくなる心理に近い。気が狂うほどの痒みや、表皮が壊死するレベルだと洒落にならないので本気で治療するだろうが、無視できる程度の痒みなら案外その程度で済ませてしまいがちだ。だからその程度で済むように、気を付けておかないと諸共に滅ぶぞという話である。正しく警鐘だな。

 

 ところで、よくこの手の怪獣とか地球意思自称する輩とかは「環境破壊する人類おこだよ! (意訳」と破壊活動に勤しむが、街中で暴れるのはともかく街と共存してる自然も破壊してるの凄まじく矛盾を孕んでる気がするんだがなんなんだろうな。汚染された大地を浄化して崇められつつ人類から妥協を迫るとか、強行策にしても森の拡大を急速浸食させて街を飲み込むとかやらんのかな。

 まぁこういうのは考察を楽しんでも答えはでないというか、それを向こうに伝えても逆ギレされるだけなので煽りにしかならなかったりするしいいか。

 

 タッコングはギーストロンを封印してたわけだが老いてしまったことでその維持が困難になったと劇中では説明されていた。しかしこのタッコング、相当個体値が高かったのか長く生きてる分経験値稼いでたのか中々の強豪怪獣となっている。怪獣としてはオーソドックスな姿のアーストロンを両腕を刃のような棘で武装してレーザー攻撃まで身に着けたギーストロン相手に大健闘しているほどだった。

 だからそんなタッコングが老いたからといって急に封印が解けて暴れ出すのもなんか違和感がある。劇中でのシンジ少年によればあれでも弱体化してたのは間違いないっぽいが……もしかしてだが、ギーストロンが我慢の限界迎えて暴れ出した原因、先日の地底ミサイルのせいなのでは? 

 

「(;・∀・)」

「やばい、なんかそれ以外考えられない。エーテル刺激って地球ぶん殴ったようなものだし……」

 

 ただでさえ地下核実験やら地下水汚染やらで似たような事やらかしている人類だ、地球が地底ミサイルも人類のせいと勘違いしてギーストロン覚醒させたとしてもなんらおかしくない。

 しまった、シナリオ通りだとか喜んでたが、その影響を深く考えてなかったのはよくないぞ!! 責任を取らなければ!! 

 

「だがどうする……? いつものようにタイガに任せアフターフォローに徹するのが最善だろうが……」

 

 タッコングもいる乱戦状態に加え、ギーストロンはマグマを活性化させる電磁波を展開するのでそのアフターフォローをするとなると、絶対バレる。隠しながら行動するにはあの怪獣の力は恐らく強すぎる。自重しろと指示を出せたゴロサンダーの時とはわけが違うぞ。

 

 ……佐々木カナの言葉を思い出す。そうだ、1つでも多くの命を救う為に行動するんだ俺。

 

「既にウーラーが降り立つ条件は整っているんだ。次回の話がうまく動けばタイガと共闘できるぞやったーとか思っていたが、そうする気なら今回動いたっていいはずだ」

「(-ω・)/」

「すまないグリムド、力を貸してくれるか」

「(*・▽・)」

 

 

「でもギーストロン襲撃は明日だ、気合入れる為に今日はステーキといこう!」

「(・ω・)♪」

 

 日々のストレス発散(タロウ成分の代替行為)は大切だ。それができなくて闇堕ちしかけたからな俺は!! 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─タッコング上陸した翌日─

 

 昨日現れた怪獣の上陸を阻止できなかった僕は、呑気に鼻提灯を膨らませている怪獣を遠くから眺めていた。

 あの怪獣が何を考えているのかわからない。上陸した理由もわからない。答えが出ないまま、やきもきしていた時、「タッコングを助けておくれよ!」と不思議な少年に声をかけられた。

 

 半ば強引にお願いされたし、ギーストロンが出てくるとかタッコングはそのために来たとか言っている意味がよく呑み込めなかったが、少年……シンジ君は僕の中にいるタイガたちのことを看破し、協力をお願いしていることはわかった。

 

 立ったまま話すのもなんだし、近くの座れる場所に座って改めて話を聞く。

 あの怪獣、タッコングというらしいけど、シンジ君はどこまで知っているんだろう。

 

「タッコングのこと……何か知ってるの?」

「タッコングは年寄りなんだ! もうギーストロンの攻撃に耐えられないかもしれない」

 

 うん、話がちょっと飛んだかな。会話のキャッチボールが妙にずれているというか、結論を先に話しちゃう子なのかも。

 ギーストロンという怪獣については最初に話を聞かされた。大地の遣いで、人類の行動に怒っているという。

 タッコングは、ギーストロンに勝てないかもしれないから手伝ってほしいということなのかな。

 昨夜、タッコングの上陸を阻止しようとして失敗したから「そこそこ強かったよ」と言ったら「全然歯が立たなかったじゃないか」と直球で返された。ちょっと凹む。

 

「タッコングは強い、けどギーストロンはもっと強いんだ!」

 

 ギーストロンは大地を汚されたことによる怒りで人類に報復するつもりだとシンジ君は言う。

 報復とは攻撃のことかな? と訊けば当たり前じゃないかと怒られてしまった。

 

「いいから来ておくれよ! タッコングを助けておくれよ!!」

 

 そう言って走り出してしまうシンジくんを慌てて追いかける。少年なのにすごい速さだ。

 

「シンジ君待って!?」

 

 声をかけてもシンジ君は止まらない。人混みをひょいひょいと避けながらも一切減速しないで走る動きはちょっと人間ではないように感じてしまう。

 異質と感じたら直ぐに『別物』のレッテルを嵌めたがる自分を叱咤する。そういう考え方では駄目なんだ!! 

 しばらく走っていると、彼はようやく足を止まってくれた。

 けど、どこか呆然としているような、残念がっているようなそんな雰囲気だ。

 

「……来ちゃった」

 

 大地が震える。怒りの表れを示すような揺れと同時に、激しく土が吹きあがった。

 そこから敵意をむき出しにした怪獣が現れる。以前戦ったデマーガよりもはるかに狂暴そうな姿だ。

 街のど真ん中に現れたから大変だ! このままじゃ大きな被害が……!!? 

 まずい、近くを飛んだヘリを狙っている!! 背中が赤熱して、角に強いエネルギーが集約していく。駄目だ、間に合わない。

 

 そう思った時。

 

『はぁ!?』

『なんだと!?』

『ナンデ!?』

「トレギアッ!?」

 

 怪獣、ギーストロンが角に集約したエネルギーを放出する寸前。

 そいつの頭を蹴り飛ばしてヘリを守ったのは、僕たちでもなく、未だ眠っているタッコングでもなく、僕たちを執拗に狙い続ける仇敵、トレギアだった。

 

「タァーッ!!」

「グルゥアアアアアアア!!!」

 

 あいつが、どうして!? 

 僕もタイガたちも、僕たちに助けを求めたシンジ君ですらも、鼻提灯を弾いてようやく起きたタッコングも、絶句していた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ふふははははは!!」

「キシャアアアアアアア!!!」

 

 決まった、しっかり決まった!! 

 タロウ、俺やれたよ!! 変身直後のスワローキック!! 

 今すごい心臓バクバクしている。邪神パワーの恩恵でこの貧弱なブルー族の肉体でも多少の格闘戦ができる程度にはパワーアップしているということだ。まぁ、いくらブーストされていると言っても元が元だから耐久力はそれほどでもないが。だから無限残機の加護なんだろうな……そのせいで今このざまだと思うとなんかまた腹立ってきたわ。

 

「(´・ω・)」

「悪いのはアレだから、気に病むなグリムド」

「( ;∀;)」

 

 ギーストロンの斬撃を纏うようなパンチをいなし、カウンターのように手刀を打ち込む。

 少しよろけたところに首筋へ連撃チョップを叩き込むが、あまり効いている感じはしない。硬いな。

 反撃で挟むように両拳が迫ってくるがバックステッポゥ! して回避。生じた隙を狙ってハイキック……避けられた!? 

 

「ぐはっ!?」

「キシャアアアアアアア!!!」

 

 回避に併せて尻尾による足払いだとぉ!? こいつ戦い慣れて……痛い!!? 踏みつけやめれ!! 

 追い打ちにレーザー!? 待って待っておいやめろ馬鹿……!! 

 

「タコタコー!!」

「ギアッ!?」

「タッコング!?」

 

 危うく直撃を受けるところだったが、タッコングが大ジャンプ突進しかけて助けてくれた。おおマジか。

 俺てっきり共倒れ狙って静観すると思ってたわ。闇堕ち俺の事把握してただろうし。

 

「トレギア!」

「げぇっタイガ!?」

 

 変身してくるの早くない!? 予定では華麗にギーストロンを追い詰めて、途中参戦したタイガに煽りムーヴかませば誤魔化せると思ってたんだけど!? トレギアが出たら様子見すると思ってたのに!! ヒロユキ君とかは絶対変身嫌がったでしょ!! どうやって説得したん!!? 

 しかもピンチ場面見られてておじさん恥ずかしいんだけど!! 

 慌てて立ち上がり、土埃を払う。ギーストロンとタッコングは怪獣ファイトしてんな。お、タッコングの体当たりが顎にクリーンヒットしてる。やるやん。

 

「トレギア、お前! 何が目的だ!?」

「何が目的……?」

 

 ごめん、予定とはちょっとだけ違うんで適切な言い訳がとっさに思い浮かばないんだが……誤魔化そう。

 

「ふん、タイガ。私に意識を向けて光の戦士としての使命は捨てるつもりかな?」

「なんだと!?」

「みろ、タッコングが押されている。やはり老い過ぎているのだ。あれが負け、ギーストロンがマグマを活性化させれば地上は崩壊するんだぞ」

「!!」

 

 劇中でも言われてるけど、やっぱり優位なのはギーストロンだなぁ。むしろあれを今まで抑え込んでたわけだからあのタッコング全盛期はえぐいぐらい強かったんだろうな。

 さて、『話は後だ』誤魔化しムーヴの〆だ! タッコングも倒れ込んで猶予がない。

 

「やることは私と話す事か? 怪獣を倒す事か?」

「……! 後で問い詰めてやるから逃げるなよ!!」

 

 タイガ君いい子! 乗ってくれてありがとう!! 

 

「トレラケイルポス!!」

「ゲギャッ!?」

 

 指先より邪神パワーを込めた破壊電磁波で、タッコングを切り裂こうとするギーストロンを撃ち抜く。

 怯んだ隙に突撃して飛び蹴り2連撃だ!! 

 

「タコタコターコ」

「先の礼だタッコング。私は貸し借りは作りたくない主義でね」

 

 物語ではタッコングは無事だったが、俺がこうも派手に介入したのもあって保証ができない。守護らねばならぬ。

 突進してくるギーストロンをかるくいなす。勢い余った分に併せるように膝蹴りを顎へ叩き込んだ。再びレーザーを放とうとしてきたので懐に潜り込み、再び顎へアッパーカットのように掌底を叩き込む。

 あの巨体が一瞬宙に浮く。身体を捻りながら更に顎へ裏拳だ。これで3連発、顎へ強力な一撃を加えたはずだが……昏倒した様子がない。こいつ首全部骨とかなんじゃあるまいな? 

 

「グルゥアアアアアアア!!!!」

 

 昏倒するどころか効いてないのか!? 

 ギーストロンが怒り狂ったように殴りかかってきたので蹴りで返しつつ距離を取る。

 少し離れたが、今度は突進してこずに両の手を合わせエネルギーを集中、それを斬撃にして飛ばしてきた。芸達者な怪獣だな本当! 直撃はまずいとわかる、防がねば。

 

「イスキュロス・イーバ……なっ!?」

「(>_<)」

 

 カーブした!? バリア避けるとかずる……痛いッ!!!? 

 めちゃくちゃ痛いんですけど!!? 

 

「シェアッ!!」

「ギャオオオオオオオオ!!!!!」

 

 思わず膝をついてしまったが、ギーストロンの追撃をタイガが防いでいる。やだ嬉しい。

 そんなことされたらタロウ思い出して胸がときめくからやめて。って、タイガの攻撃撥ね退けて斬りつけやがった!? 俺のタロウの息子になにしてくれとんじゃクソ怪獣!! 

 気合を入れて立ち上がり、再びトレラケイルポスを撃ち放つ。結構な威力あるはずだが、あいつにはスタンぐらいにしかなってないぞ。手強いな。

 

「はなれろタイガ」

「うわっ! 助けてやったのに!」

 

 怯んでいたタイガを案じているのをバレないように、肩を掴んで押しのけるように後方へ追いやる。すまんな、あまり露骨に味方ムーヴすると支障ありそうで怖いんだ。だが内なる感情は本物だ。

 怒りのままにギーストロンを蹴る。蹴る! 蹴る!! トリプルキックだ!! 

 おどれ人の大事な甥っ子も同然の子になにしてくれとんじゃ。え? 闇堕ち俺が一番ひどいことしてる? ごもっともです!! 

 

「タッコング、挟撃作戦だ!!」

 

 なんかどっかから少年の声が届いてきた。シンジ君か。

 タッコングが言われるままに保護色を用いて姿を消す。なるほどね。

 

「イリュージョンなら得意分野だ、助けよう」

「ギアッ!?」

 

 ギーストロンの察知能力を惑わすように、かく乱攻撃をしかける。

 空気を読んだようにタイガも加わってギーストロンの意識が完全に此方を向いた。

 隙だらけな背中へ向けて、タッコングが口から火炎放射をぶっ放す!! 

 

 いや効くんかそれ。

 

「キシャアアアアアアア!!!」

 

 効いとらんやんけ!! 

 鬱陶しいとばかりにギーストロンが先程のめっちゃ痛い斬撃をタッコングへ飛ばした。

 まずいと思ったが、なんとタッコングは炎を吐きながら、超回転してファイアーシールドを展開、斬撃をはじき返した。

 

「「「!!?」」」

「タコタコー」

 

 俺もタイガもギーストロンも仰天していると、タッコングはそのまま炎を纏ってギーストロンを跳ね飛ばす。これが本命の攻撃だったようで、あの堅かった怪獣が強く吹き飛び倒れ込んだ。

 

「タイガ、決めるぞ」

「ああわかってる!!」

 

 大きく怯んだ時にこそ、必殺技を撃ち込める。

 拘束ベルトで隠されたカラータイマーに宿る邪神の力を引き出し、両腕へ纏わせる。

 邪神グリムドよ、原初の混沌よ、光も闇も許容する力よ、俺に眼前の敵を討伐する破壊の矢をもたらせ! 

 

「トレラアルティガイザー!!」

「ストリウムブラスター!!」

 

 蒼い闇が作り出した渦、その奥に輝く5つの紅き闇より放つ邪神の殺意。それが破壊の奔流となってギーストロンへ放たれる。

 そして図らずも隣でタロウのように輝くタイガのストリウムが併さり、凄まじい一撃となって大地の怒りを消し飛ばした。

 わずかに耐えることすら許されず、一瞬でその全身が砕かれ、爆炎爆風と共に肉片が散らばっていく。

 当然悪影響たる爆風被害は邪神アフターフォローによって最小限に抑えている。飛び散った肉片が直撃して凹み傷できた車とかはごめんなさい。そこまで気が回れませんでした。

 

「タコタコー!」

「……」

「……」

 

 強敵は打ち倒した。

 はしゃぐタッコングを横目に、タイガから敵意と困惑がにじみ出る。俺も誤魔化したくて真似するように敵意をにじませる。そうでもしないとタイガと共闘できた喜びでどうにかなってしまいそうなんで。

 勝ったうえに内なる心は狂喜乱舞してるというのに、空気がじわじわ悪くなっていく。

 

「トレギア、お前……」

「タコタコー」

「うおっ!?」

 

 勝ったんだぜ喜べよとタッコングが俺とタイガの肩を叩いた。その体型と腕で頑張ったなおい。

 だがお互い、タッコングに救われた。タッコングを間に挟み、それぞれタッコングを介すように勝利のハイタッチを交わす。

 そしてタイガに話しかけられる前に、トレラ・スラーで転移逃走を決める。

 手を伸ばされるがこの転移発動はとても速いのだ。残念だったなタイガ!! おじさんは今感情制御が難しいので会話するわけにはいかないんだ!! 

 

「あ、トレギア!!」

「タイガ、地球の危機はまだ終わっていないぞ」

 

 せめてウーラー襲来が迫っている事をちらっと示しておく。

 次のウルトラビッグマッチでまた会いましょう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 夕焼けが溶け込む海に消えるタッコングと、シンジ君を笑顔で見送る。

 人類がやりすぎないように監視してよと言われても、タイガたちも困った事だろう。僕も地球環境を考えるという、小さなことから始めていく事ぐらいだ。

 

『ヒロユキ、すぐに動いてくれてありがとな』

 

 タッコングが完全に見えなくなってから、タイガが僕にお礼を口にする。ちょっと気まずそうなのは、やっぱりトレギアを助けるようなタイミングでの変身を頼んできたからだろう。

 僕はあの時、トレギアの狙いがわかるまで様子見するべきじゃないかと迷ったのは事実だ。でも、わからないからこそ、放置して街の皆が苦しむことになったらと思えば、動かないことは絶対にやってはいけなかった。だからタイガが言うまでもなく、僕は変身した。お礼を言われる事じゃないんだよ、相棒。

 それに、確信できることがある。

 

「タイガ、トレギアだけどさ……街の人を守ったよね?」

『ああ、間違いない』

 

 僕やタイガを付け狙い、仲間を傷つけようとする絶対に許せない存在。それがまるで人類を守るように動いたことは今でも納得はいってない。怪獣の爆風から、周囲の建物を薄く蒼いバリアで保護するように守っていたのは僕の目にも映った。

 

『初めてトライストリウムに変身して奴を一度倒した時からだ。今までのトレギアとは何かが違っている』

「タイガの言うことはわかるよ。だけど……」

 

 社長を狙い、ホマレ先輩を襲ったことからは悪意以外の何も感じられない。

 ただ、何故か菓子折りくれたりと挙動が一貫していないのもわかる。挑発だと思ってたけど、今なら本当にお詫びの意味があったのではとすら思えてくる。ホマレ先輩の退院祝いとして、匿名で宇宙人が好むジュースやお茶(マンダリンジュースと眼兎龍茶)が箱詰めで送られたけど、あれもひょっとしたらトレギアだったのかも。ホマレ先輩が関わった宇宙人なら匿名はおかしいって先輩も言ってたし。

 だから余計にわからない。あいつは本当に僕らの知るあのトレギアだったのだろうか。

 

『ああ、わかってる。俺も今回それを問い詰めるつもりだったんだが……結局逃げられた』

『次こそはぶん殴って無理矢理話させようぜ!』

『まず肉体言語は大事だろうな!』

「そうだね、わからないことばかりだけど。次こそは」

 

 トレギアは消える前、地球の危機は終わっていないと告げた。シンジ君も同じように、空を見上げて地球の危機を口にした。

 きっとそれが、トレギアの変貌に関わっていると僕は思う。

 

「帰ろっか」

『ああ!』

 

 例え全てがトレギアの罠だとしても、僕たちは負けないと決意を固め、E.G.I.S.に帰った。

 書類仕事ほったらかしにしてどこに行ってたんだと滅茶苦茶怒られた。

 

 

*1
(『ウルトラマンタイガ』前半部分でトレギアが進行していた計画。使用する度に心の闇が増幅していく怪獣リングを手に入れさせ、多用させることでタイガの心を変質させ、一度は闇に堕としている。この時のトレギアの狂喜とヤンホモっぷりは必見。この計画は少なくとも10年以上の時をかけて温められたものだったが、絆の力の前に完全敗北。散々後味悪くしてきたトレギアは狂乱したあげく突撃するもしっかり対応され蹴り飛ばされたあげくトライストリウムバーストが直撃して泣き言と共に爆死する。トライストリウムお披露目はもちろんの事、1クール以上積み重ねた悪役の清算を1度済ませてくれるので爽快感はバッチリ)




タイトルでしかネタにされていないが、タッコングの遣いみたいなポジだったシンジ君は本当に謎。タコ足あったし、タッコングが寿命迎えたら次代のタッコングになるのかもしれない。ノンマルトの使者みたいに墓とか水死したとか情報なかった分、亡霊も確証ないんですよシンジ君。

・【朗報】オレギアさん、やっとまともに戦う。
トレギアの戦闘能力はその大半が邪神の恩恵であることは割と有名ですが、トレギア自身が完全に雑魚というわけではありません。
ブルー族だなんだと言っても、M78星雲人であることに変わりはなく、宇宙警備隊試験に落ちたのも実はギリギリ不合格という辺りで、血の滲む特訓は重ねていました。合格に至らなかったのは身体能力1点のみだったのかも。平行同位体トレギアはタルタルソースの恩恵受けて大暴れしてるし、戦闘センス自体はあったんじゃないかなぁ。
原作トレギアもゼロと殴り合える程度の格闘能力はありますが、やはり基本は相手に本領を発揮させないムーヴや、回避&カウンターをメインなように思います。暗躍も相当長いので、それによる経験成長もあるでしょう。そんな闇堕ちトレギアの経験値を一切継承してない本作トレギアがゼロと殴り合えば1分後にうつ伏KOされることでしょう。トレギア絨毯の完成である。

・【悲報】オレギアさん、ボロがでまくってる。
最初中途半端にシナリオに忠実なRPしようと頑張ってたせいで、余計混乱の元になっている模様。
後から善行隠さない真似するぐらいなら最初から味方ムーヴ決めつつシナリオ調整した方が色々な意味で楽だったとは気づかないし、気付いたら後悔でタロウフィギュア弄り始める。

・タイガ、トレギアの変質を確信し、揺れる。
温室育ちの根が優しすぎるウルトラマン。タイガはウーラー戦後にトレギアに「お前がどれだけ否定しようと、お前はウルトラマン」と説得しようとした程に超が付く善人です。
若すぎる故か策謀に乗せられやすい単純さはありますが、決して馬鹿ではない上、相談できる仲間もいるので違和感を口に出せばしっかり考察できる。だから最初から土下座する勢いで心を入れ替えたとか言い出して後は行動で示せば割とあっさり信じてくれたと思われる。疑い続けたり試すのはフーマやタイタスの役割。

あ、次回は11月5日に更新予定です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歪んだビッグマッチ!(前編

バトルシーン真面目に入れようとするとどうしても長くなるので分割投稿します。
続きは明日、明後日といった形になりますご了承ください。


 星々は瞬き、月は見降ろし、街の灯りは夜更かしに耽る。

 静寂と喧騒が同居している矛盾を心の片隅で楽しみながらも、俺は成果を得られぬ散歩に肩を落としていた。

 

「……駄目だ、マブゼの秘匿アジトがわからない」

「(´・ω・)」

「グリムドが謝ることじゃない。防諜対策にかなり特化したアジトなのだろう。腐ってもチブル星人か、天才だな。邪神の精神系探知すら妨害するのは予想外だったが」

 

 そう、俺が今回方々を歩き回っているのはチブル星人マブゼのアジトを突き止め、破壊してニセウルトラマンベリアル誕生を可能ならば阻止する為だ。全力でシナリオ破壊する腹積もりである。前回別れ際タイガにした挨拶が完全に無駄になってもやる価値ありと判断しなおした結果だ。

 

 破壊予定のシナリオがこちら。

 

【23話・激突! ウルトラビッグマッチ!】

【宇宙人が経営する美蘭フーズ本社をアジトに構えるザラブ星人、ゴドラ星人、スラン星人は今日もウルトラマン達を倒すという議題を前に会議を躍らせていた。そこへチブル星人マブゼが通信してくる。彼は最強の手札を得たという。ベリアル因子からベリアルそのものを生み出そうという計画は、彼の研究の集大成として成功し街はニセウルトラマンベリアルにより蹂躙される。タイガはすぐに止めようとするがニセウルトラマンベリアルはベリアル本人に迫る力があり苦戦を強いられる。トレギアも乱入し、事態が悪化していくなか、あのウルトラマンゼロが降臨した!闇の巨人2体と光の巨人2体によるビッグマッチが今始まる。】

 

 このように、実はニセウルトラマンベリアルがどこで誕生するかまではわかっている。

 そっちは網を張っているし、仕込みも終えているので併せて動ける算段だ。だが、先に連中を潰してもニセウルトラマンベリアル誕生は阻止できない。なぜならベリアル因子はチブル星人が保有しているからだ。逆に言えばあいつさえ仕留めれば今回のシナリオは破壊完了できるのである。

 

 まぁ、それが上手くいかなくて頓挫しているわけですが。なんでこう俺って物事上手く進められないのかね。というか特定できないのが想定外すぎる。15話における研究施設は割とザルだった方だが*1、本人がいる場所は分からずじまいだったのは確かだ。邪神グリムドの探知すら誤魔化せるとはどれほどガチ潜伏してるんだ?

 

「ニセウルトラマンベリアルは両手とトサカにバナナついてるような滑稽さと裏腹に滅茶苦茶強いのは理解している。前回で図らずも共闘は楽しめたから、遠慮なしに破壊する気だったが……」

 

 邪神センサーからも逃げられている以上、諦めるしかない。当然ながら、ニセベリアル&俺 VS タイガ&ゼロなんてやりません。ゼロそこ替われ。

 幸いにして、暴れる場所がわかっているのでペガ星人の施設修復技術をまた利用できる。自動発動にすることで、多少の被害は防げるはずだ。ベリアルの火力の恐ろしさはこんな身体になる前に戦争仕掛けられてるのもあって身に染みている。救うことが間に合わない命も出てくると思う。辛いが、ウルトラマンは神にはなれない。ここを履き違えると、身を滅ぼしてしまう。

 

 そういえば、先日のギーストロン戦でタイガに真意悟られまいとしたわけだが、あれは正直失敗だったと思う。まだシナリオに意識引っ張られてたと反省した。

 あそこで介入するぐらいならもっと開き直っておくべきだった。そもそもあんな動きになったのは、闇堕ち俺として動く場合への備えのつもりだったんだ。

 元々あいつの悪行で周囲から嫌われまくっているわけだが、悪党RPしやすいとも言える状況でもあった。ウーラー救う過程で必要に応じて嫌われ役で動いたり、成功した後に上手くこの宇宙から消える理由付けになるだろうと狙っていたのが本音である。うん、いちいち変な伏線貼ろうとするぐらいなら素直に動けやという話だ。

 自分のアホ加減に割と落ち込んだが、タロウ抱き枕で一晩熟睡することでなんとか回復した。

 

「グリムド、頑張ろうな」

「(・ω・)ノ」

 

 とりあえずより回復する為、気合入れに何か食べよう。

 この時間だと、コンビニになるだろうか。おでん、いいかもな。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─数日後・美蘭フーズ本社─

 

「我々が地球征服を行うには、どうしてもウルトラマンが邪魔だ!」

「さようさよう」

「奴らを根絶し、この星を我らの手に!」

「さようさよう」

「おいザラブ、お前船降りろ」

「!?」

「落ち着きなさい」

 

 資料だけはちゃんとある会議室。誰が描いたか中々凛々しく納まっているタイガやトレギアの絵姿もある。

 そこで話されているウルトラマン抹殺計画は、議題だけは大層なものだったが実情は暗澹たるものだった。

 

 メンバーはザラブ星人、ゴドラ星人、スラン星人。

 地球人に化け、暗躍した共通点もあるが、戦闘の実力という意味ではスラン星人が1歩上を行くような面子だ。事実、この議会ではスラン星人が緩衝の役どころを担っているが、実力不足であったら跳ね返されていただろう。だが、別に有益な提案を出せているわけでもない。結果、ザラブ星人がふざけた提案を出し(本人は真面目なつもり)、ゴドラ星人が怒りに震え、スラン星人が宥めるという天丼が繰り返される惨状であった。

 

 こういう結果になるのも、全員が『ウルトラマンタイガ、トレギアに直接挑んでも勝てない』ということを理解しているからだ。スラン星人はまだチャンスがあるかもしれないが、こいつが本気出せるのはマックスが相手の時です。

 

「そもそもあいつら消そうとして、光の国に目を付けられたらどうすんだ」

 

 単体でも凄まじく強いせいで忘れられがちだが、ウルトラマン達は事実上の軍隊持ちだ。彼らは別に侵略意識など皆無だが、侵略行為が茶飯事のスラン星人達からすれば『ただの恒点観測員が無双できるような一族が宇宙警備隊と称して100万人の精鋭選抜して別宇宙にすら介入してくる存在』であり、タイガ1人消せたら解決するというわけではない。寧ろ本気出されたら最悪母星すら滅ぼされる危険性のある相手だ*2

 頭の片隅ではやりすぎてはいけないと考えているわけだが、だからといって懲りずにこうして暗躍するのが侵略宇宙人の性である。

 

「その光の国すら今でも倒せていないトレギアを仕留めれば、手出しもできないのでは?」

「じゃあいっそVIP待遇するとか? 光の国の人達、何食べるんだろう」

「ザラブ! お前は話にならん!!」

 

 ザラブ星人の案を全否定するゴドラ星人だが、仲間に引き入れるというのは可能だったならば魅力的な案だとスラン星人は内心考える。即座に頭を振って否定するが。結局は、ウルトラマン全員を返り討ちにできるような戦力が欲しい。こういう結論になってしまう。

 ちなみに光の国の住人はそもそも食事を必要としない生命体だ。光(ディファレーター光線)さえあれば生きていける。食事に娯楽以上の意味を持たなくなっているからこそ、人間態となって美食に執着する事が目立ったりする。ゾフィーのことなんかいいよ(迷言)。

 

「お前はもう喋るな!」

「まぁまぁ色々アイディアを出してるだけじゃないか。ブレインストーミングとかいうあれだよあれ」

「そうそう! そうだ、今夜の晩御飯なにがいいかなぁ」

「お前の晩飯とかどうでもいいだろうがあああああ!!」

 

 怒るゴドラ星人をスラン星人がなだめるも、ザラブ星人が余計な事を言い結局取っ組み合いになってしまう。

 後何度これを繰り返すのだろうかと思うとスラン星人が腹部にキリキリとした痛みを覚える。

 

 この踊り狂った会議を止める救世主が欲しい。なんで捕まったんですかゾリンのばかやろー。

 

 マウント取られてボコボコに殴られるザラブ星人と宇宙忍法タコ殴りの術を披露するゴドラ星人の間に入りながら、スラン星人が救いを求めた時。

 

『私に考えがある!!!』

 

 威勢のいい声が、通信機器より響き渡った。

 

「その声は、チブル!!」

『光の国を恐れさせるのに一番ふさわしい存在があります』

 

 投射映像で姿を現したのは、知能指数1万から5万*3を誇るという、知能特化の宇宙人チブル星人。巨大な頭脳に貧弱な3本足がくっついた極めて極端な肉体をしている。

 極端に肥大化した頭脳の端っこへ埋め込むようについているぎょろ目にたらこ唇からはとても知性など感じられないが、本当に宇宙有数の超天才種族だ。

 

「ふさわしい存在?」

『ウルトラマンベリアルです!』

「「「ベ、ベリアル!?」」」

 

 チブル星人のあげた名に3人が驚愕する。恐れおののくのも無理はない。

 光の国に対する侵略が本命ではあったが、ベリアルの起こした戦争は複数の宇宙すら巻き込んだ大規模なものだったからだ。その被害を受けた宇宙人は決して少なくない。ゴドラ星人など、地球で暗躍していたら邪魔だと言わんばかりに殺された同胞がいるほどだった。

 

「だが、あいつはウルトラマンジードに敗れたはずでは」

 

 巻き込まれたトレギアがいた宇宙平行世界では今もベリアルは大軍勢を引き連れ大暴れしているが、この世界ではその限りではない。既に過去のものとなり、ベリアルの息子であるウルトラマンジードが彼に引導を渡して眠らせたことは宇宙において周知の事実となっていた。

 ゴドラ星人の指摘に対し、チブル星人マブゼはニヤリと笑う。

 

『とっておきの秘策があるのです!』

 

 

 

 ◇

 

 

 

「(・ω・)!」

「ふむ、そろそろか?」

 

 邪悪な気配を感じる。この背筋を冷たい闇で握り潰されるような感覚は、ベリアルのものだ。ベリアル因子を集束、覚醒させようとしているのだろう。

 もっとじっくり牛タン・ハラミ定食を堪能したかったが仕方がない。

 急いで食べ終えて、また来ることを決意する。

 

「すいません、お勘定!」

「あいよー」

 

 電子決済で手早く済ませて、外に出る。

 通行人に不審がられないよう、歩きながら裏通りへ回りつつトレラ・スラーで転移。美蘭フーズ本社近くにやってきた。

 

「タイミングが勝負だな。ギーストロンと同じだ。初撃の蹂躙を許すな」

 

 のうのうと街を破壊させる気など毛頭ない。今美蘭フーズを変身して潰さないのは、ベリアル因子集束装置の誤作動を嫌ったことと、チブル星人マブゼが直接来ることを期待しているからだ。あいつは仕留めないとロクなことにならない。興奮すると慎重さを失う性格のようだし、原作のように直接来る可能性は高いはずだ。

 

 スマホ(宇宙人仕様。トレギア&タロウケース)でTVを確認する。

 電波ジャックで宣戦布告してくるはずだ。出現タイミングを教えてくれる最良の告知と言えるだろう。

 

 しばらく立ちスマホの状態で待っていれば、映像が乱れ、チブル星人の異形な姿が映された。投射映像を直撮りはどうなんだとつい思ってしまう。

 しかしこいつら、本当に地球人の反宇宙人感情増幅するような真似ばかりするな? 静かに暮らしてる宇宙人の気持ち考えてくれ。何蝶ネクタイ付けてるんだよ。

 

『ご機嫌麗しゅう! この度我々の存在を脅かすウルトラマンを、奴らの同胞の力をもって、抹殺することに致しました!!』

 

 威勢のいいチブル星人の言葉に続いてカメラが動く。

 スラン星人が窓を開けてザラブ星人が、機材の射出器を用いてベリアル因子を発射。

 放たれた災厄の種は、スマホの映像ではなく、俺の目に直接映っている。

 

『さぁ、ウルトラマン狩りの始まりだ!! 出てきなさい、醜きウルトラマンたちよ~~~!!』

「言われるまでもない、いくぞ」

 

 トレギアアイ、装着!! デュワッ!!!! 

 

 ……お手軽だけど、なんか専用の変身バンク作りたいなぁ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

『デモンストレーション前に攻撃するなどなんたる無粋な!! トレギアァ!!』

『突発的に動くからそうなる。計画というのはもっと慎重に、綿密に練り上げるべきだ。勉強になったね』

『おのれええええええ!!!』

 

 E.G.I.S.本社に備え付けられた大画面には、登場直後にトレギアに頭を蹴り飛ばされ地面に叩きつけられる黒いウルトラマンが映っている。

 先程映った宇宙人が怒りの声を上げ、トレギアは悪い意味で慣れたあの厭な煽り口調で彼を嘲笑っていた。

 

「なんだこれ、ヒール同士の争いか?」

「あの黒いウルトラマン、手がバナナみたいですね」

「わかる」

 

 皆が驚いている隙に、本社から抜け出し、現場へ向かって走る。

 というか皆落ち着きすぎでは!? あれトレギアが止めなければ街に向かって破壊光線放ってましたよね!? 

 

「タイガ、あいつはいったいなんなんだ」

『ベリアル……親父たちを昔てこずらせた光の国の大罪人だ。いくぞ、ヒロユキ!!』

「ああ!!」

 

Come on!! 

 

「光の勇者、タイガ!!」

 

キュイイイイイイイン! 

 

キュピコーン! 

 

『ハアアアアアアアア!!』

「BUDDY GO!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「デヤアアアアアアア!!」

「!?」

 

 おお、ウルトラマンレオを彷彿とさせる超高度からのメテオキック。赤熱化し炎を噴き上げる勢いの一撃が見事にニセベリアルの脳天に決まった。並の怪獣であれば、あれで決まっていた事だろう。素晴らしい、日々成長しているなタイガ……! 

 この隙に、避難が遅れている人々を邪神テレポートで安全圏へ運ぶ。実に理想的なスタートだ、考え得る限りの最速で登場してくれたことに喜びを隠せない。前回共闘もしたことだし歓迎を表に出して声をかける。

 

「やぁタイガ。よく来てくれたね」

「ベリアルは放っておけないし、お前の狙いもまだわからないからな」

「強いて言うならば、今回はこんなふざけたゲームを開始した愚かな宇宙人を裁くためだが」

「これのどこがゲームだ!!」

 

 ……あれ、コミュニケーションミスったかな。ゲームに例える事の何が……いやこれ闇堕ち俺の言いそうな表現だわ、ごめん。 

 タイガが睨んでくるショックと自己嫌悪で固まりそうになるが、立ち上がったニセベリアルを見て気を取り直す。

 こっちに意識を向いているタイガへ不意打ちをかまそうとしても無駄だ。

 

「トレラケイルポス!!」

「うわっ!?」

「チィッ!!」

 

 タイガに当たらないようにしつつニセベリアル目掛けて破壊電磁波を放ったが、あいつ弾きやがった! ギーストロン相手に全然効いてなかったから予想できたけども。

 親友の息子との語らいを邪魔する無粋の輩め!! なんだ睨んできやがってやんのかお前!! 

 

「ハァッ!!」

 

 ちょっと待って攻撃速度おかしい何その飛ぶ斬撃3連発おかしいでしょまってタイガあぶないまにあえ!! 

 

「グハッ!?」

「トレギア!?」

「フハハハハハハハ!!」

 

声も本物のように鬱陶しい笑い声だな。そんなことを思いながら俺の身体は情けなく地に沈んだ。

*1
(新たな生命を誕生させるという目的のために作られたラボ。研究素体として色々な小型怪獣を捕まえていた。レアなものではコスモスに出てきた幼体バデータなんてものもいた。スカルゴモラを生成する際に崩落する前提だった為か、めっちゃザルだった上、警備員要員であるチブロイドもわずかな数だった。科学者を自称する割には研究材料達への扱いが粗雑だが、多分ベリアル因子というゴクジョーを手に入れたせいで他の価値が暴落してしまったのだと思われる)

*2
一応今は公式でなかったことにされているが、バルダック星人はウルトラマンジャックのブレスレットで無双されたあげく、母星を文字通り消滅させられている。ウルトラ戦士は冷凍技使ってくる敵にはオーバーキル傾向にあるが、やっぱり弱点と言われるだけあって冷気攻撃受けたらキレてるのだろうか。

*3
(参考までに、フーディンの知能指数が5000。こういう創作に使われる知能指数は、単純に頭の良さを数値化した解釈だと思われるので元来の知能指数で捉えてはいけない。ただし創作においても高い知能指数持ちがアホなのは珍しくない模様。)




オレギアさん、そんなこと思うってことはまだまだ余裕あるよね。ニセベリアル強化します。
同じ攻撃受けた原作タイガも同じく倒れ込みましたが、復帰もそこそこ早かったです。見た目はすごく凶悪な斬撃技だったので、ニセベリアルの出力が低かったのかタイガが頑強だったかの2択。

・美蘭フーズ
ヴィランギルド所属の宇宙人たちが隠れ蓑にして経営してた企業。
ゼットン星人ゾリンのペーパーカンパニーと違ってちゃんと展開されており、健康食品をメインに取り扱っていた。宇宙人向け製品もこっそり取り扱っていた節があり、不法侵入宇宙人たちにとっては必須な企業だったかもしれない。原作では本社ごと破壊されて終わる。
個人的に味わってみたい商品は『遺伝子組み換え健康食品 飲みやすい赤汁』。地球産大麦若葉を100%使用し、タッコング粉末が配合されている。海の化身さんが怒りの再上陸しないか不安になる。

・チブル星人マブゼ
倫理投げ捨てた鬼畜マッドサイエンティスト。実はトレギアに負けず劣らずの暗躍宇宙人でもある。劇中では特定されたラボにすら直接現れる事がないほど慎重であり、優位を確信して直接観戦しにきた以外では全て立体映像だった。
つまり本拠地または円盤がどこかにある筈だが、明らかにされる事はついになかった為、本作でもガチガチに隠蔽させている。
具体的には、ゼットン星人ゾリンに「トレギアを潰せ」と要望していた研究材料を全部貰えたので、本格的に対トレギアを意識して凡ゆる探知から逃れるよう専用宇宙船を改造した。宇宙最高の頭脳を自称するんだから、警戒すればそれぐらいはできるでしょう。
下手な介入は裏目だとか言いながら、マジで裏目になりまくってるオレギアさんは泣いていい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歪んだビッグマッチ!(中編

中編です。
奇麗に二分割できませんでした。

今回に繋がるあらすじ
オレギア「地球の為にヴィランギルドの計画妨害しちゃうぞ!」
ヴィランギルド「もう我慢の限界。絶対にあいつ潰すわ」
チブル星人マブゼ「全力支援あざーっすwwwwwww」
オレギア「嘘でしょ一番放置できない奴が特定できなくなってる……」


「おおやったぞ!!あの憎きトレギアを一撃でノックアウトだ!!」

「やったやったーい!!」

「ビデオビデオ!!」

 

 ニセウルトラマンベリアルによる強力な飛ぶ爪撃(技名称不明)により、地に沈むトレギアに大はしゃぎする宇宙人3人。

 ゴドラ星人はガッツポーズをとり、ザラブ星人は無邪気に喜び、スラン星人はスマホでカメラ撮影する。

 アジトの隣で戦闘が起きているわけだが逃げる素振りすらない。トレギアの苦しむ姿に夢中のそれは完全に慢心していたが、それだけ煮え湯を飲まされた証拠とも言えた。

 

「ざまぁありませんねぇトレギア!!」

「お、チブル」

「直接見に来ましたよ。チブル星人の頭脳を愚弄した輩の断末魔を聴くためにね!!」

 

 煽られた怒りが歓喜に代わる美酒を味わおうと、チブル星人も最前席に現れる。

 チブル星人の隣には、ベリアル因子集束機とは別に新たな機械も鎮座していた。

 

「チブル、それは?」

「ダメ押しの要素ですとも!天才は幾重も備えをするものだと奴に教えてやるのです!!」

 

 

 

 

 

 

「トレギア、しっかりしろ!」

「オルァア!!」

「くっ……こいつ本当にベリアルなのか!?」

『パワーでいくなら、私に任せろ!!』

 

「ウルトラララララララララ!!!!」

「ベリベリベリベリベリベリ!!!!」

 

 タイガがタイタスにバトンタッチしてなんかおらおらラッシュと無駄無駄ラッシュやり始めてるなか、俺は地面をのたうち回っていた。

 クッソ恥ずかしいしめっちゃ痛い。無意識にかばってしまったけど、こういうことすると自分が防御するって難しいんだな……勉強になったよガフッ。

 ニセベリアルとタイタスによる激しい殴り合いは、ニセベリアルがタイタスの両拳を受け止め、捻り上げたあげく腕を起点にドロップキックで蹴り飛ばすことで終わった。ニセウルトラマンベリアルというのは、本人の魂が入っていないため、実質バーサーカーのようなものだったはずだが、戦闘センスもDNAに刻まれてるとでもいうのか? チブル星人の調整か? くそ、わからん……! 

 

「知性も感じさせないくせに、力だけはあるようだな木偶の坊が……!!」

「ア゛ア゛!?」

 

 立ち上がりながら挑発すれば、タイタスへの追撃をやめてこちらを睨んでくる。やりやすくて助かるよ。

 忌々しいが、闇堕ち俺のような戦い方は俺にもよく合っているようだ。あいつの経験を得られていない以上、陳腐な真似にすぎないが、使える手は使う。

 

「オゥルアァ!!」

「フン!!」

 

 突進しながら殴りかかってくるニセベリアル。挑発に乗ったような攻撃などさばくのは容易い。直撃すれば仮面の1つは余裕で砕けそうだが、払いのけてカウンター気味に膝蹴りを打ち込む。さらに首にクロスチョップ、トドメに後ろ廻し蹴りだ!! 

 

「……フハハハハ!」

 

 効果はあまりないみたいだ……。かゆいと言わんばかりに食らった位置を掻いている。いや硬すぎんだろ!? ギーストロンより硬いぞどうなってやがる!! 

 そらタイガが見事に蹴り決めたのにダメージ引きずってないわけだ。

 

「ア~ン?」

「あ゛?」

 

 効いてないぞとせせら笑うニセベリアル。クッソムカつくんだが? 

 ならこれはどうだおら、そのバナナみたいな指蹴り砕いてやる!! 

 

「いやお前が挑発乗ってどうすんだよらしくないな」

「む……フーマか」

 

 こっちから突撃しようとしたら肩を抑えつけられた。

 タイタスからバトンタッチしたらしい。なんか久々に見た気もするのは気のせいだろうか。

 

「うわ気持ちわる、なにその反応」

 

 失礼なこと考えたかなと思う前に、すぐに手を放して自身の身体を抱えて震えるもっと失礼な真似をされる。喧嘩なら買うぞ? 

 放置プレイが嫌だったのか、ニセベリアルが突進してきた。俺が対処する前に、フーマが光波手裏剣を乱射して牽制する。斬撃系は甘く見るべきではないと本能だけで悟ったらしく、足を止めて全弾を爪で弾いている。

 

「フン!」

 

 一度距離を取るように離れると、ビルを取り……ちょ、待て待て!! ビルもぎとって即席の盾とかふざけんなよ!! 崩落とかでなく、もぎとられたらペガ星人の修復技術効かないじゃん!! 

 フーマも手裏剣乱射するんじゃねぇよ!! 中に人いないかわかっててやってんのか!? 周辺一帯は避難テレポートかけたが万一あったらどうする!?

 慌てて邪神探査かけて、ビルがとっくに無人であることを安堵するが、そんな隙を見逃されるはずもなく。

 

「オラァ!!」

「「グハァッ!?」」

 

 ビルごと吶喊してきたニセベリアルによってフーマ共々吹っ飛ばされました。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「いいぞいいぞ、圧倒的ではないか!!」

「うわすごいジャンプしたかと思ったらフーマの顔面に両ひざ叩き込んだよー!」

「やれやれー!!」

「立ち上がれないフーマを置いてのトレギアへのラッシュパンチだ! 2対1でも圧倒的じゃないか」

「む、しかし奴も雑魚ではない。全部いなしてカウンター気味に足払いからの首に踏みつけだ。ぬぅ」

「うわぁ、痛そう……」

「いえ、ベリアルがその足を掴んで直接エネルギー攻撃を流しましたよ! トレギアたまらず転倒です!!」

「フーマがタイガに切り替わったが、完全にあしらっている、いいぞいいぞ!!」

「あ! タイガに放ったパンチをトレギアに絡めとられた! 捻って倒してる!」

 

 完全に単なる野次馬と化している侵略宇宙人3名。

 一進一退の攻防に両腕を振り回しながら楽しんでいる。電波ジャック中のカメラしっかり回っているが大丈夫か。

 

「ちょっと皆さん、そろそろダメ押しと行きましょう」

 

 お茶の間に醜態をさらす宇宙人組を放っておきながら、新たに持ち込んだ機材の準備を終えるチブル星人。

 スイッチを押したところで、興奮しっぱなしの同胞へ声をかけた。

 

「ダメ押し?」

「どうみても優勢だぞ。勝てるのにやるのか」

「でも勢いを維持するのは大事ですよね。で、何を?」

「私の最高傑作であるあのベリアルにさらに因子を注ぎ込み、加えてもう1体召喚します!!」

 

 自信満々に頭を張るチブル星人を前に、3人のスットコ組はドン引きを隠せない。

 ベリアル因子は劇物である。あのニセウルトラマンベリアルを発現させる前に、準備の完了していない因子をわずかに吸っただけのザラブ星人が泡を吹いて昏倒する事故すらあったほどだ。

 加えて、複数の宇宙を巻き込む大戦争を引き起こしたあげく、宇宙そのものを崩壊させかけたような実績を持つのがウルトラマンベリアル。その複製体により力を注ぎこむことは、暴走フラグではないか。はしゃいでいた心も正気を取り戻すほど、チブル星人の提案は危険なものに感じたのだ。

 

「え……やりすぎでは」

「何を言うか!! 私が受けた屈辱は徹底的に返してやらねばなりません!!」

 

 やんわりと止めようとするも、強い言葉で跳ね返される。

 それだけでスラン星人は諦めた。元々あのニセウルトラマンベリアルを生み出したのはこのチブル星人だし、明らかにトレギアが最初にした挑発への怒りがおさまっていない。つまりこの逆さパイナップル宇宙人は、思い通りにならないことを激しく嫌い、かつ侮辱と感じた事には苛烈な報復を行うタイプだ。下手に抵抗したら後に処分される危険性すら孕んでいた。

 

「わかった、乗るよ。で、これなに?」

「ゼットンの遺伝子とペダニウム、キングジョーのバトルデータですね。ゼットン星人からいただきました」

「「「えっ」」」

 

 やばい、安請け合いした。

 そう3人が悟るも、チブル星人は全く意に介さず、3本の足をばしばしと床にたたきつける。

 

「ほらさっさとしないか!! 私の研究の集大成よ、今ここに!!!」

「「「は、はい!!」」」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「チッ、追い討ちのつもりか」

 

 ニセウルトラマンベリアルのカラータイマーに更にベリアル因子が撃ち込まれ、より一層強化されていく。

 隙を見出せなかったのが本音だが、チブル星人がやってきた気配を察した時点であのビルを叩き壊しておくべきだった。

 ニセベリアルの両手のバナナが更に強く伸び、凶悪なものに変わる。外見の変化はそれだけだが、ただでさえ厄介なバーサーカーのステータスが跳ね上がったのは間違いない。

 

「まぁいい。手強いのは事実だが、所詮は1体……」

「はっはっは、トレギア!! これで終わりだと誰が言ったぁ!!」

「は?」

 

 ニセベリアルの隣に新たなベリアル因子の結晶が放たれる。なにそれそんなの前世記憶にないぞ。

 今まで生じなかった明確なイレギュラーの発生に一瞬呆ける。発生までに撃ち落とせばよかったと思うも後の祭りだった。

 力が集束し、弾けて混ざる。ぼふんと白い煙が噴き出す中、それを掃う様に現れたのは。

 

「ゼットーン……ワジャ、ワジャ……」

 

 ゼットンにキングジョーの武装が食い込んだような怪獣。だが頭や両肩から飛び出る角は禍々しい紅、両手は本物のベリアルを思わせる5本爪。なるほど、ベリアル、キングジョー、ゼットンの要素を併せ持つ複合怪獣か。

 隣のニセベリアルにも負けない威圧感に、前世記憶が危険信号を発するかのように奴の情報を流れ込ませてくる。

 

 怪獣コンピュータチェック! (CV:青野武)

 チェックします! (CV:赤木優)

 

名前:ペダニウムゼットン

種別:ベリアル融合獣

身長:65メートル

重さ:3万4000トン

能力:山1つ消し飛ばす火球

 

 いやなにこれ!? アーカイブとしての利用しすぎたせいか、前世記憶が変な挙動をしてくる。怪獣コンピュータってなんだよ!? 

 イレギュラーな事態が起きた衝撃も忘れる勢いで己の記憶に激しく困惑する。それをみて、チブル星人は俺が絶望を前に絶句しているとみたのだろう。

 高揚を隠さない様子で勝利宣言している。

 

「ペダニウムゼットン、ニセウルトラマンベリアル、みたかトレギア!! チブルの科学力は宇宙一イイイイイイイ!!!」

「タイガ、気を付けろ。簡単にいくのは難しくなった」

「わかってる。いくぞ!!」

 

 地球の神秘の力を宿した輝かしい鎧を身にまといつつ、タイガが吶喊する。

 いや素直すぎない? 聖人かお前。

 先のコミュニケーション失敗したんだが、なんで素直なの? もっとこう疑ってきてもいいんだぞ。それはそれでおじさん辛いけど。

 

「ハァッ!!」

「オラァ!!」

「フン!」

「ピポポポポポ!!」

 

 フォトンアース形態となったタイガと凶悪さが増したベリアル、ペダニウムゼットンと俺がそれぞれ激突する。

 鈍重そうな見た目と違って、ペダニウムゼットンの挙動は速く、攻撃は荒々しい。

 前世記憶がおかしな警告を発するほどだ。俺だけならば、苦戦は免れないであろうスペックを宿しているのは間違いないだろう。

 

「(/・`ω・)/」

「いいサポートだ!」

「!?」

 

 体内に蠢く邪神の力が、俺の腕を通してペダニウムゼットンへ襲い掛かる。神経を焼き切らんとばかりに蒼い炎が燃え広がり、慌てたようにその巨体が距離を取った。炎はすぐに掃われたが、相当警戒したように唸っているのがわかる。

 そう、俺は独りではない。強化されたニセベリアル相手にも引けを取らないタイガと、有難いことに手を貸してくれる邪神グリムドがいる。元来の契約者である闇堕ち俺のように純然たる力として使うのが非効率的と感じるほどに協力的で今更ながら吃驚する。

 

「ゼットーン……」

「_φ( ̄ω ̄ )」

 

 わかりやすく、ゼットンのワープ能力を利用し消滅するペダニウムゼットン。恐らくは背後にでも回ろうとしたのだろうが、そのワープにグリムドが干渉した。転移先は俺の目の前だ。

 

「こんにちは」

「!?」

 

 わかりやすく動揺するペダニウムゼットンに、トレラケイルポスの重ね撃ち技であるトレラアルディガを撃ち放つ。

 ゼットンに光線技は禁物だが、超至近距離からの速射技には対応できまい!! 

 想定通りに直撃を受け、ばちばちとスパークを弾けさせながらペダニウムゼットンが仰向けに倒れ込む。機能停止したわけではなさそうだが、少しは時間を稼げただろう。機械を混ぜたのは失敗だったようだな?破壊電磁波がしっかり効いて嬉しい。なんでギーストロンやニセベリアルは効かないんだよ邪神の力だぞおかしいだろ。

 

「ともかく、今がチャンスだな」

 

 ゆっくりと、美蘭フーズ本社へ目を向ける。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「おい、トレギアがこっち見てるぞ!!」

「あ、まずいのでは? あんな光線技食らったらここはひとたまりも……!!」

「ウルトラマンが人間サイズの俺たちに光線技放つなんて暴挙するのか!?」

「いえ、ウルトラマンジャックが人間サイズのブラック星人をハンドビームで爆殺してますね」

「え、なにそれこわい!! 逃げよう!!」

 

 ダメ押しで勝ったと確信したら、追加要因のペダニウムゼットンが返り討ちにあい、トレギアがフリーになるという緊急事態。ようやく自分たちが死地にいると自覚した宇宙人たちはパニックに陥った。

 

「落ち着きなさい! 私がここに来るにあたって防御の備えを疎かにしたとでも!?」

 

 だがチブル星人だけは冷静だった。目の前のコントを見ていられないとため息をつきつつ、持ち込んでいた機材のボタンを押す。

 機材にあるランプが怪しく輝き、どこかのパソコンで聞いたような特徴的な起動音と共に美蘭フーズ本社がピラミッド型の青いバリアに覆われた。

 

「「「おお~!!」」」

「見たか! ゼットン星人ゾリンは私に最高の支援をしてくれたのです!! その名も『ゼットンシャッター』!!」

 

 ゼットンシャッター。かつてウルトラマンマックスの抹殺計画においてゼットン星人が差し向けたゼットンが使用した鉄壁のバリアである。

 瞬時に展開される上、防いで消耗した分も張り直す度に全回復する高性能バリアで、マックスの攻撃を悉く跳ね返し、援軍としてきたウルトラマンゼノンの必殺光線すら無効化した。弱点は展開中1歩も動けない為、万一割られてしまうとゼットンシャッターを砕くほどの攻撃が直撃してしまうことぐらいだ。ちなみに自動展開もされており、不意打ち気味に放たれた攻撃に対しても発動している。

 マックスは、ゼノンより託されたマックスギャラクシーの超貫通必殺光線ギャラクシーカノンによりこのゼットンの討滅に成功したが、ゼノンが来なければ詰みであった。

 

 今回展開されたゼットンシャッターは、そのデータをゼットンの遺伝子ごと提供されたチブル星人が完全再現したものである。

 

「これでトレギアも怖くないな!」

「や~いや~い!!」

「これだけではありませんよ! このフロア1つ借り切っての完璧な防御陣です!」

「え、なにそれ聞いてない」

 

 ここの管理してるの俺たちのはずなんだけど、というスラン星人のぼやきも今のチブル星人には入らない。自ら組み上げた防衛措置を力強く、そして誇らしく語りだす。

 

「ゼットンシャッターの内側には高密度バリア24層、高エネルギー炉3基、猟犬変わりのチブロイド数十体、無数のトラップに、廊下の一部は四次元空間化を施しています!!」

「え、それ僕たちちゃんとお家帰れるの?」

「ま、まぁ仮に侵入されたとしても対策は万全ということだな!!」

「その通りです!! ふはははは、ペダニウムゼットンも再起動しますよ!! ざまぁみろトレギアアァ!!」

「スゥ──……」

 

 もはや勝利は揺るがない地球は我々のものだとテンションを最高潮へと運ぶチブル星人。

 退勤時にちゃんと防衛システムの機能をオフにしてくれるのか心配なザラブ星人。

 トレギアの視線が正直怖いが情けない姿は見せたくないから強気に振る舞うゴドラ星人。

 そしてチブルの言動に言いようの知れない嫌な予感を強く覚えて今からでも撤退したいスラン星人。

 

 哀しきかな、スラン星人の直感は正しく働いており、そしてもはやどうしようもなかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 なんかすごいバリアが張られてるけど、よくあんなもの再現できたな。腐っても天才かチブル星人。

 あれを砕くのに力を使い切ってくたばれという狙いもまぁあるのだろう。

 

 関係ないけど。

 

「アジト特定されてるのに、地下の対策作らないのは駄目だったね」

 

 邪神の力を指先に宿し、パチリと鳴らす。

 エーテルの波動を再現するように生じた波は仰々しいバリアを容易く素通りし……奴らのビル地下に隠された爆弾にスイッチが入った。

 

 起爆。

 

 閃光。

 

 轟音。

 

 美蘭フーズ本社の底より凄まじい爆炎爆風が発生し、バリア内の全てを飲み込む。

 出口を失った結果、内部を荒れ狂う破壊のエネルギーは飲み込んだ全てを崩壊させた。

 

「!?」

「!!?」

「ピポポポポポ……?」

 

 ピラミッド型のバリアが砕けるように消滅していく。守るべき中身は何一つ残っていない。バリアが消えると同時に強い風が起こり、残骸と思わしき塵を派手に散らしている。文字通り消滅したこの結果に犯人ながらちょっと震えている。

 

「Oh」

 

 想定以上の破壊力だった。基盤破壊して崩落させる程度を想定していたが、建物全てを消し飛ばしている。爆発の指向性持たせてたはずだけど、多分意味なかったレベル。

 あの張られていた強固なバリアが爆風を防がなかったら、周辺被害が出たかもしれない。結果的に助かったな。というかあのバリア、内側からも働くタイプだったのか。爆発の威力完全に閉じ込めきってたから、対象の全てを焼き尽くす結果になっている。あれは助からないだろう。

 

「トレギア、今のはなんだ!?」

「昔ウルトラ戦士に向かって使用した爆弾と同じ奴だよ。対ウルトラ戦士用のトラップ爆弾だったから建物1つ潰すには過剰だったようだね」

「あれか……!」

 

 闇堕ちした俺、勢い余って単騎で光の国へ襲撃かける無謀行為をかつてやらかしたらしく、その時案の定複数のウルトラ戦士たちに大苦戦している。不利な立ち回りの中、逆転に成功したきっかけがトラップだ。ウルトラ戦士たちが着地した小惑星に無数の強力爆弾をしかけており、それで一網打尽にしている。

 今回使用したのはその余りである。今更だが、俺が散財している資金や物品は全部闇堕ちした俺が四次元空間に溜め込んでいたものだ。慰謝料代わりに全部使わせてもらっております。

 

「さぁ、飼主は仕留めた。残るは貴様らだけだぞ!」

「アァン?」

「ゼットーン……!!」

 

 憂いは絶った。あとはタイガと共にこいつらを仕留めれば大勝利だ!! 見ているかNo.6!! お前の息子と親友が共に戦っているぞ!!! 

 

 

 ピコーンピコーン。

 

 

「えっ」

 

 ちょっと待ってくれタイガ。もう時間なの? 

 え、やばくない? ゼロはまだなの!!? ちょっと────!!?




ウルトラマンたちのカラータイマーは割と気分で鳴ってるところがある。
なんなら昼から戦って夕焼けになるまで戦闘してたこともある。

・オレギアさんの戦い方
邪神グリムドと共闘するような戦法。
スペック確認などはしているがそもそもグリムドを宿してまだまだ日が浅い上に、より効率的な力の引き出し方を元来のトレギアから得ていないから実はスペック上は元来のトレギアより劣っている。経験値も足りてないから当たり前。
しかしどういうわけかグリムドが非常に協力的なので、街にバリア貼りながら戦ったり、グリムドが直接支援するような戦闘が可能になっている。

・愉快な侵略宇宙人達全滅
原作ではチブル星人が慢心しまくって防御の全てを疎かにしてたのもあり、ヴィランギルドアジトたる美蘭フーズ本社があっさり崩落したので、ちょっと強化させました。ただ原作の哀れな退場はトレギアが上手かったと評価するべきでしょう。自ら攻撃しようとしたらバリアぐらい貼ったかもしれません。ニセベリアルに誤爆誘発させたからこそ間に合わなかったとみています。
本作は材料も資金も全て豊富だからこのくらいはやるはず。ペダニウムゼットンも繰り出せるならゼットンの因子持ってるだろうしゼットンシャッターの再現とかやってくれるという信頼。
でもケイネスムーヴやらかしたせいで即死しました。是非もなし。

・ケイネス
型月作品のfate/zeroに出てきた魔術師。様々な実績を順調に積み上げていた稀代の天才にしてエリート。得意分野に篭っていれば死ぬまで栄光を買い物に行く感覚で手にしていたと思われるが、戦績という箔を求めて聖杯戦争に手を出した結果、文字通り全てを失った色んな意味で不幸な人。
チブル星人の防御自慢は彼の台詞をパロったもの。自信満々に語った防衛システムの全てが爆弾で陳腐化する悲劇。ただ元ネタのケイネス先生は爆破されても生き残りはした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

歪んだビッグマッチ!(後編

3つに分割する事になるとは思わなかった……


 タイガのカラータイマーが鳴っている。

 つまり残り僅かな時間でニセベリアルとペダニウムゼットンを倒さなくてはならない。

 焦りが全身を支配する勢いで駆け巡った。こんなプレッシャーをウルトラ戦士たちが日常的に受けている事が信じられない思いだ。というかゼロはまだなのか!? 

 ゼロ──!! 早く来てくれ────!! タロウ──!! 助けて────!!! 

 

「フン! オラァ!!」

「ウワァッ!?」

 

 まずいまずいまずいまずい!! 

 ニセベリアルにタイガが押されている。援護したくても、ペダニウムゼットンが許してくれない。

 俺のやり口を学習したようで、安易にワープを使わず、距離を置いて火球を乱打してくる。初手のあれで仕留められなかったのはあまりに痛手だった。火球1つ1つが内包している威力は邪神の加護あっても恐ろしいものであり、直撃を許すわけにも街へ落とすわけにもいかず迎撃を強いられている。

 もしペダニウムゼットンに突撃すればタイガを救援に向かえず、放置すれば火球乱打がタイガと俺を纏めて襲ってくる。前者が正解か!? でもタイガが心配だ!! どうするどうするどうすれば!!? 

 

「(`^´)」

「! そうだなグリムド、焦れば勝てない」

 

 グリムドの叱咤に我に返る。これだから落第するんだ、落ち着け俺。

 闇堕ち俺も、敗北要因がだいたい動揺だぞ。落ち着くんだ。

 

 俺の本領は、トレギアの得意技は何かを忘れてはならない。絡手、策だろう! 

 俺はタロウのようにはなれない。だが、タロウとは違う形で同じ結果は生み出せるはずだ!! 

 

「タイガ!」

 

 ペダニウムゼットンに背を向け、声をかけながらタイガへ向かって走る。

 両腕に邪神エネルギーを集束。蒼い闇がまとわりつき、誰の目にも攻撃をしかける腹積りだと見えるだろう。

 

「ハッ!」

「ぐっ!?」

 

 ニセベリアルは此方を嘲笑うとタイガの首を掴み、強引に俺の前へ突き出した。盾代わりなのだろう、最善手には違いない。俺が攻撃を躊躇してもしないでも、ペダニウムゼットンが最大火力を打ち込もうとしているのだ。誕生して間もないくせに実に息のあった挙動をしてくれる。

 

 読み通りで助かる!! 

 

()を信じろ!」

「!?」

 

 邪神の力をタイガへ向けて撃ち放つ。あわせるようにベリアルがタイガを突き飛ばした。元より盾として突き出された体勢、避けられるわけもなくタイガは邪神の力に覆われ、蒼い闇に全身を飲まれた。一拍遅れて、俺もその闇に飛び込む。

 

 闇が消える。後に残るは膨れ上がった火球を俺の背に向けて放ったつもりのペダニウムゼットンと、高笑いをしていたニセベリアルだけ。

 

「!?」

「!!?」

 

 山1つ消し飛ばす火球(ペダニウム・メテオ)が、ニセベリアルを逃すことなく飲み込んだ。

 

 

「グオワアアアアア!!!」

「ゼットーン!?」

 

 激しく燃え上がるニセベリアルと、まさかの事態に混乱したように腕を振り回すペダニウムゼットン。

 最大火力の一撃は放つ際にペダニウムゼットン自身にもダメージを与えていたのか、激しいショートもみられる。

 隙だらけもいいところに、俺が必殺光線を撃ち放った。

 

「トレラアルティガイザー!!」

 

 背中から邪神の破壊光線を受けて無事に済むものなどいない。

 元来のシナリオに現れなかったイレギュラーは、木っ端微塵に爆散した。

 

 俺が放ったのは確かに邪神の力だ。だが、その用途は転移。トレラ・スラーだ。便利な転移技であると同時に次元の穴へ放り込むような悪用もできるこの性質を活かし、タイガを射線上から安全圏へテレポートしたのだ。併せて自分も飛び込めばダブルテレポートで避難完了である。

 

 転移先はわざとラグを生むようにペダニウムゼットンの背後にすれば、完璧だ。ところでタイガが隣でめっちゃ睨んでるけど、なんで? 

 時間もないし、スルーで構わないか……。

 

「さぁタイガ、一気に決めるぞ!」

「……ああ!」

 

 ニセベリアルがようやくまとわりついた炎を振り払う。ぶすぶすと焼き焦げているのがわかる。寧ろあれで死んでいないのにびっくりだが、あと一歩のところなのは間違いないだろう。

 炎が消えて、視界が晴れた先の光景に絶望するがいい! 

 

 トライストリウムと化したタイガの必殺光線だ! 

 

「トレラアルディガ!!」

「トライストリウムバースト!!」

「スゥ──……ハアアアアァァァァァァ!!!!」

 

 ニセベリアルも光線技で迎え撃ってくる。だがな、2対1だ。

 ペダニウムゼットンの方に最大火力を打ち込んだ都合、俺の第二射はトレラアルディガにせざるを得なかったが、タイガと合わされば十分すぎる火力差と言える。

 お前にもはや勝ち目はない! 俺とタイガの絆の力を前に破れるが良い!! 

 

 光線を放ちながら勝利を強く確信する。だがじりじりと追い詰めるはずの衝突線が進まない。

 疑問を覚え、光線で見えにくい中、ニセベリアルを見る。デスシウム光線と思われる光線を放ちながら、奴の口が開いていた。

 紫電を纏うような黒い靄を、勢いよく吸い込んでいる。なんだあれは。

 

「ハアアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!」

 

 ニセベリアルの光線威力が跳ね上がった!? な、なんで!? 

 まさかチブル星人が生きて……違う! あの靄はペダニウムゼットンに使われた因子か!! 倒した仲間の残滓食らってパワーアップとか知らないぞ!! ずるい!!! 

 

「馬鹿な……!!」

 

 あろうことか、俺とトライストリウムの合体光線と完全に拮抗した。中間で激しくぶつかり続けたエネルギーは、やがて行き場を求めるように膨れ上がる。

 

 膨れ上がってからは一瞬だった。空気を入れ過ぎた風船と同じように、限界を超えると同時に爆発した。

 

 これまでで最大の爆風が吹き荒れ、俺とタイガは耐えられずに膝をつく。だが、ニセベリアルは耐え抜いた。街に施していたバリアが砕け散る程拡散したエネルギー波を全身に受けたというのに、奴は光線を放った体勢のまま耐えている。

 

 それは、単体のタフさに関して言えば、俺やタイガを上回っている事を意味する。

 信じられない。あの火球をモロに受けたダメージがいつの間にか消えている。あのバナナのようなトサカと爪が赤黒く変わっている。

 まさか、魂が備わっていないだけの本物のベリアルになったとでも言うのか。そんなのありか。

 

「ハァ~……」

 

 首をゴキゴキと鳴らしながら、静かに此方を見つめるベリアル。

 数が増えただけのイレギュラーだと思っていたが、見誤った。俺はニセベリアルを強化したベリアル因子の一部を用いてペダニウムゼットンを生み出したと考えていた。だが違ったんだ。チブル星人は【強化分とは別に、2体目を用意できるほどのベリアル因子を保有していた】。単純に、原作よりも多くあったのだ。

 推測に過ぎないが、この戦いに併せて因子が更に活性化し、このような結果になったのだろう。運命を改変しようとした跳ねっかえりと解釈してもひどい嫌がらせだ。

 

「本物のベリアルが蘇ったというのか!?」

「いや……魂は入っていない。だが、強さは本物と言ってもいいレベルだろうな。想定外だ」

 

 ベリアルが光輪を出す。あまりの巨大さに絶句する。

 前世記憶がウルトラマンオーブトリニティのトリニティウム光輪をフラッシュバックさせてきた。

 あんなもんと同威力だったら防ぎようがないぞ!! 

 

「トレギア!?」

 

 立ち上がり、タイガの前に陣取る。邪神のエネルギータンク性能には感謝しかない。光線を断ち切る力に長けている可能性を考えると、最大出力でバリアを展開するしかないだろう。

 トライストリウムのトライブレードなら上手く弾けるのではないかと思うが、タイガは未だに膝をついている。やはり限界だ。

 ここは、俺がふんばるべきだ!! 

 

「邪神グリムドよ、私に光も闇も飲み込む混沌の守りを!!」

「( `・ω・´)ノ】】】」

「ウオラァッッ!!!!」

 

 地面を激しく削りながら、俺よりも巨大な八つ裂き光輪が迫ってくる。

 両手を突き出し、何重にも備えた邪神バリアを急速展開。衝撃に負けぬよう、力をもって抑え込む。

 金属が削れる音を幾倍に跳ね上げた不快な衝撃音がけたたましく響く。邪神グリムドの力を最大出力で絞り出して作ったバリアなのに、全く衰えを見せない光輪に恐れを抱いた。こんなものが当たったら確実に死ぬ!!! 

 

「(;` ・д・´)ノ】】」

「うおおおおおおおおお!!!」

 

 1枚、また1枚と削られる感覚が恐怖をあおっていく。

 俺が死んだらどうなるんだ。邪神の加護で新たな俺が犠牲者となって復活するのはわかる。だが、この肉体を失った俺は俺でいられるのか。新たな俺と融合して、俺は正気を保てるのか。嫌だ死にたくない。俺は帰らなくてはならないんだ俺の帰りを待つ俺のタロウの為にも!! この身体を失ったら俺は死ぬと思え!! 

 死の恐怖を自覚しつつ、それを糧にするようにバリアへ力を籠める。

 

「トレギア、なんで俺達をそこまで……!?」

 

 タイガがなんか言ってるけどごめん割と自分の為に今全力出してる!!! 

 もちろんお前を守らないとタロウにも顔向けできないし、ウーラーも救えないしで守らない理由なんてないんだけどね!!! 

 7割ぐらいは死にたくない一心で全力出してます!!! 

 

「(;;` ・д・´)ノ】」

「グゥッッ……!!」

 

 まずい、破られる。

 なんてやつだウルトラマンベリアル。魂無き状態で邪神グリムドの力をも上回ると言うのか。

 全力を尽くしているというのに、光輪の勢いは僅かに衰えた程度で俺ごと断ち切ろうと最後の1枚を削りだした。

 もはや死そのものより、俺のタロウに会えなくなる可能性に何よりも強く恐怖したその時。

 

 巨大な光輪が、幾枚もの刃で横から殴られ、トドメとばかりにエメラルド色の光線が直撃し砕け散った。

 

「!?」

「今のは!!?」

 

「だらしないぜ、タイガ!!」

 

 力強い声が響く。

 ようやく立ち上がったタイガ、渾身の一撃が砕かれ動揺するベリアル、今にも腰が抜けて座り込みそうな俺が、声のする方へ顔を向ける。

 

 飛び回ったスラッガーたちが収まった地点より荒れ狂う虹色の輝き。

 地面より生じる美しい光の渦。その中心点から覇気溢れるウルトラ戦士の身体がゆっくりと伸びてきた。

 

 腕組みをした状態で地面よりせりあがり、やがてその全身が露になる。

 

 ウルトラマンゼロがついに現れたのだ。

 

 ……。

 

 …………。

 

 そんな登場の仕方ある??? 

 

「ったく、妙な気配がしたと思ったら趣味の悪いことを考える奴もいたもんだ」

 

 絶句する俺達の感情がわかってないのか、ゼロは下手すると俺よりも動揺しているベリアルを軽く睨む。

 

「ゼ、ゼロ! なんでここに!?」

「久しぶりだなタイガ!! ほらよ!」

 

 ベリアルを視線で牽制しつつ、ゼロがカラータイマーから光球を生み出した。

 そこはかとなく口に放り込んだら美味しそうな雰囲気を感じるそれは、素早くタイガのカラータイマーへ溶け込み消えていく。枯渇寸前に点滅を繰り返していたタイガのカラータイマーが再び青く輝いた。

 なにそれ便利だなおい。光エネルギーの回復技まで覚えてるのかあいつ?タロウだってできるだろうけどなんかずるいし腹立つわ! 

 

「ウオオオオアアアアアアアアアァァァ!!!!」

 

 怒り狂うように吠えるベリアル。

 ゼロとの因縁があるのは俺も光の国に帰還した際、アーカイブで把握していたが、因子にまで刷り込まれるレベルなのか。

 

「ジードがせっかく成仏させたってのに、余計なことしやがって……で、お前トレギアだったか? なんでタイガ守ってた?」

「フン……守ったのはお前だろうに」

 

 そういえば闇堕ちな俺ともゼロはすれ違っても戦闘したことはないのだったか。

 タイガを守ったとか言われても実質守れてなかった俺からすれば凄まじく落ち込む言葉の刃だからやめてほしい。

 色々言いたい感情をぐっと抑え込み、必要最低限の言葉で返す。ベリアルは健在なのだから、軽口叩き合う余裕などない。

 

「? まぁいいさ、いくぞタイガ!!」

「ああ!!」

 

 敵意と怒りを爆発させているベリアルに、ゼロとタイガが吶喊した。

 その間に俺は、街に向かってバリアを貼り直す。バリアを破砕するほどの爆発でダメージを負った建物たちや、地面を深くえぐりまくった光輪の痕があまりにも痛々しいが、この国の復興パワーを信じることにする。

 

 ゼロとタイガは随分息の合ったように、ベリアル相手に互角の戦いを演出していた。

 蹴りと爪撃を巧みに駆使して暴れるベリアルに対し、タイガはトライブレードで爪撃を弾きつつ、強く振るって牽制。そこにゼロがゼロスラッガーやキックを打ち込む。苛立ったように、ベリアルが範囲攻撃ばりに両の爪を振るって飛ぶ斬撃を何本も生み出すが、ゼロスラッガーを両手に持ったゼロがなんと全て弾き落とした。なんなんだあいつ。

 

「セヤァッ!」

「クッ!」

「ゼロツインシュート!!」

「グオッ!?」

 

 タイガがベリアルを強く蹴り飛ばし、怯んだ隙を突いたゼロが光線技を放った。ゼロスラッガーをカラータイマーに装着し放つ、ブレストファイヤー、もといゼロツインシュートがベリアルに直撃する。凄まじい威力だったように思うが、それでもベリアルは倒れない。あいつのタフさ頭おかしい。

 

「タイガ、今のお前なら、俺の力も使いこなせるはずだ!!」

「!!」

「俺の力を込めたブレスレットだ!」

 

 ゼロがタイガへまた何かを投げる。同じようにカラータイマーへ吸い込まれたそれは、タイガの新たな力になるものだった。

 いいなぁ、俺も何かタイガにあげたい。でも怪獣リングは前科ありすぎたせいか、あんま使ってくれないんだよね。ゴロサンダーリングは1回使ってくれたけど。

 てかさぼってたらいかんな。支援に動こう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「これが、ゼロのブレスレットか……!」

 

 左手に装着されたプラズマゼロレットから感じるすさまじい力にヒロユキが唸る。

 だが、ゼロが俺を信じてくれて渡してくれた力だ。今の俺達ならいける!! 

 

Come on!! 

 

Plasma-Zero-let! Connect on!! 

 

「タイガ ダイナマイトシュートォ!!!!」

 

 プラズマゼロレットを介して跳ね上がった光のエネルギーを、全身を使って射出する。

 ゼロツインシュートとウルトラダイナマイトの威力が融合したような凄まじい一撃だ。

 

 威力を察したあのベリアルは逃走を試みたが、トレギアが邪魔をする。

 いつの間にか接近してベリアルの身体を掴み、射線上へ強引に突き出したのだ。

 

「グアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァッッ!!!!!」

 

 あれだけタフだったベリアルも、光線の全てを受け止め切れずについに爆発する。ベリアルを爆散させてなお余りあるエネルギーは上空へどこまでも伸びていくほどだった。本当に、ゼロの力はとんでもない……!! 

 

「これが、プラズマゼロレットの力……」

「俺たちの力が、200万%共鳴したのさ」

 

 誇らしげに頷くゼロだけど、200万%共鳴ってなんだ……? 

 というかトレギアは大丈夫なんだろうか。敵であるはずなのについ心配してしまう。今回、明らかに助けられたのもあるからおかしなことではない、よな? 

 

「フー……」

 

 トレギアは無事だった。爆発で生じた埃を鬱陶し気に掃っている。

 よかった。あれで巻き込まれて死んでいたら、いくらなんでも気分が良くない。

 

「タイガ、やっぱりトレギアはお前を助けたのか?」

「ええ……でもどうしてかわかりません」

「そうか、丁度いい。聞いてみようぜ」

 

 え、軽っ。

 止める間もなく、ゼロはトレギアへ歩み寄っていった。

 トレギアはそんなゼロを睨むように見ている。

 

「よぉ、タイガが世話になったようだな。お前の狙いはなんだ?」

「……」

 

 俺が言えたことじゃないけど直球すぎないか!? 

 

「そうだな……私には私の狙いがあっただけだ」

「狙いね……命を懸けてまでタイガを守るほどのことか?」

「ああそうさ。その価値がタイガにはある。それはそうと、ゼロ。私もお前に言いたいことがあったんだ」

「あん?」

 

 聞き逃せない部分だ。トレギアがトレギア自身の命を懸けてまで俺を守る必要があったってなんだ? 

 だが、考えてみれば奴は俺の命を奪ったことはない……いや12年前のアレは本気で殺されたと思ったけど、でもあれもやつの計画の内だったことも今ではわかる。トライスクワッドがこの地球で一堂に会するなんて奴の作意なしには起き得ないことは理解している。

 俺を闇に堕とそうとした事は、俺の命を奪うことではなかったとも言える……俺は奴にとってなんなんだ? 

 

 もっと踏み込んで聞くしかない。そう思っていると、トレギアは不意にゼロの肩に手を置いた。

 次の瞬間。

 

「主役遅れてくるにも程があるわ!!! タイガに何かあったらどうするんだお前!!! あぁ!?」

 

 うわ殴った! 思いっきり殴った!! 

 あまりにも不意打ちだったのだろう、ゼロがモロに食らって膝をついている。

 いきなり激昂したトレギアはそんなゼロに向かって指をさしながら荒れ狂っていた。

 

「な、なにするんだ! 間に合っただろ!?」

「やかましいわ!! 地面からぬるぬる出てくる演出で遊ぶぐらいならもっと早く来やがれ!!!」

「いやあれは、単にワープ場所間違えたというか」

「セブンも風来坊気取って遅れて駆けつけた事あるけどその真似か? いい親子だなぁおい!!」

「おいこら、親父を出汁にするなら喧嘩買うぞ」

「おーおー買ったらどうだ? たかだか12年と思うかもしれないが、地球人感覚でタロウの息子12年放っておくってのがどれだけ罪深いことか教えてやるわ!!」

「いやそれ元凶お前だろうが!!!」

「きこえませーん!! 元凶だろうが捜索できてないお前らが悪いわ!! 次元転移私並に自由なお前が見つけられないのが意味わからん!!」

「いくらなんでも責任転嫁すぎるだろ!!?」

 

 トレギアが、おかしい。絶対おかしい。

 あいつにいったい何があったんだ。

 

『絶対にトレギアじゃないんだけどトレギア、なんだよな?』

『二言目にはタイガの安全について言及しているが何故なんだ』

 

 タイタスやフーマも大混乱だ。

 ただ、俺に執着していたことは、ひょっとしたらという答えはある。

 

 やっぱりあいつ、父さんの友人だったんじゃないだろうか。

 

 結局、俺が変身限界迎えるまで2人は言い争いと取っ組み合いを続け、ゼロにげんこつを食らったトレギアは「バーカバーカ!!」と今どきの子供でも言わないような捨て台詞と共に消えていった。情緒不安定すぎて割と引いてる。父さん、アレ本当に父さんの友人なのか……? 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ヒロユキ、トレギアはベリアルより何を考えているかわからない食えない奴だ、気を付けろ」

「よくわかってます」

「あ、はい」

 

 ひりひりするおでこを抑えながら、こっそりとゼロとヒロユキ君たちの会話を聞く。

 くそぅ本気で殴りやがったなゼロめ……。あまりのストレスでつい素全力でやってしまったことへの反省はしている。

 本当に危なかったからな……もっと早く来てくれれば俺もあんな死の恐怖味わわなくて済んだのに。

 

 まぁ、俺が死んだ後助けても良かったろうにあそこで助けてくれたことから、なんだかんだ善人だよねゼロ。

 タロウには負けるがな!!! 

 

「タイガ! 協力してくれる仲間を守れ! そして、必ず勝つんだ!」

『はい!』

「ベリアル因子……あれの他にもデビルスプリンターってのもあるんだが、それらを利用して、悪さをする奴がいる。俺はそれを探しに行く。ここはタイガ、いや、お前たちに任せるぜ!」

「はい!」

 

 次元の穴をあけ、そこを通って消えていくゼロ。

 タイガ達を信じていると言えば聞こえはいいけど、ウーラーもうすぐ来るんですが。

 作品としてはゲスト出演ポジだったのかもしれないが、ここは現実なんだからもうちょっと滞在してほしかった。

 

 なにせ、ウーラーをちゃんと救えるのかは断定できないのだから。

 イレギュラーが起きていた以上は、俺も最善を尽くさねば悲劇が成り立ってしまうことだろう。

 決意を新たに空を見上げる。

 

 

「タロウ……全部上手くいったら、帰るからな」

 




Q.なんでトレギア、コピーベリアルに出力負けしてんの? 
A.邪神グリムド本人がやってるならともかく、トレギアを通して出すなら当然最大出力は絞られます。というか原作でも光線撃ち負けたりしてるんで、出力限界は明確にあります。チートラマン達が色々おかしいだけ。
もっと言えば町を守るためのバリアに少なくない力割いてたせいで出力落ちてます。街の保護全力は「そういう技術あるならやるべき」なのも事実ですが、それで負けたら地球は壊滅するのだからある程度は割り切って戦いに全力出した方が良い。ちゃんと避難努力を怠らない人々を信じているし、その星の救助組織や対怪獣組織を軽視しない。だから信じて戦える。オレギアさんはもうちょっと地球人信じましょう、だいたいのウルトラマンはその辺わかって戦ってる(無論、守るべきものを見捨てて戦う真似は絶対にしないし、戦場に逃げ遅れた子供などいたら全力で庇って大ピンチに陥るのも常。ゾフィーに至ってはそれが原因で死んだ。光の国と地球を往復して消耗してる直後に病院を守りながらバードン倒せとか無理ゲーである)。

・ニセベリアルさん頑張る。
一応、劇中でも知性皆無な代わりに戦闘力は本物同然、らしいです。実際、戦闘センスはとても高い強敵です。光線技も強かったし。
それでももっと強く描写してもええやろ!!で、劇中ベリアル本人が散々見せつけたあの謎のタフさを再現させました。引き換えにペダニウムゼットンをもっと活躍させられなかったのは反省点。

・ゼロが今回使った回復技
ウルトラの父とかがカラータイマーから光エネルギーを分け与えウルトラ戦士を復活させたりしてるので、やろうと思えばゼロもできるでしょう……ごめん、裏設定的にはゼロの力ではありません。仲良くなった女の子からもらったアメちゃんです。
別名グリージョチアチャージ。ウルトラ戦士たちのいる前線にヒーラー1人いるだけでえげつないことがよくわかる回復性能。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ウーラー、襲来

オレギアさんは特に意識してないのでここで野暮なツッコミを1つ

ウーラーの体重、50万トンですってよ。
しかも外宇宙から地球ピンポイントで狙って落下してんですよ。

スカイドンの時といい、特撮世界の地球はとっても頑丈である。


 

 理不尽な転移と融合に巻き込まれ、早くも数ヶ月の時が経った。

 最速で元の宇宙へ帰るという狂おしい程の望郷の念を抑え、こうして地球に身を置いていたのも全てはウーラーの為。あの憐れな擬似生命体に、満腹の喜びを与える為に俺はいる。

 

 俺のエゴに巻き込んでしまった地球、地球人、宇宙人、そしてこの宇宙のタイガたちには本当に申し訳ないが、元来の運命よりはマシな道へ突き進めたという言い訳だけはさせて欲しい。この偽善ないと心折れそうだったし。

 

 だが、それも今回で終わる。俺はついにここまで辿り着いたのだ。

 

【24話・私はピリカ】

 

【ついに宇宙爆蝕怪獣ウーラーが地球に落下した。ウーラーの地球襲来を察知したピリカはE.G.I.S.を離れ、アンドロイドピリカ03としての使命『ウーラーと生命リンクし自ら命を絶つことで、ウーラーも滅ぼす』事を強く自覚する。アンドロイドピリカとしては無駄なバグである思い出や感情を消去しろという電子頭脳からの指令に抵抗するピリカ。霧崎は葛藤するピリカを嘲笑うも、逆に言い返され、寧ろ彼女の決意を固める結果に終わる。海に落ちたウーラーを誘導する為、霧崎はギャラクトロンMark2を召喚、街で暴れさせる。タイガはギャラクトロンと戦うが、餌として召喚されたギャラクトロンは地中に引きずり込まれ、無惨に食い荒らされる。地上に出てきたウーラーは、タイガの光エネルギーすら食い尽くし敗北へ追いやった。このままでは地球も食い尽くされる。ピリカは、みんなの決断は……!?】

 

 

 

【25話・バディ ステディ ゴー!!】

 

【マグマ星人とマーキンド星人がいるヴィランギルドアジトに乗り込み、脳波コントロール装置を利用して、心を保ったままピリカはデータ体となってウーラーの中へ入る。しかしウーラーの生命機能は停止しないままだった。その真意、彼女が最後の力を振り絞って伝えた内容は「満たされないウーラーの心を救ってほしい」というものだった。心があるからこそ気づけた奇跡を叶えたいが、地球側にはそれを満たせる手段がなかった。そこに名乗りを上げるのはヴィランギルドのマグマ星人、マーキンド星人。「ここは共同戦線といこうじゃねぇか」地球人と宇宙人、そしてウルトラマンの共同作戦が実行された! だが全てを嘲笑うトレギアがタイガの邪魔をする。果たしてウーラーを救えるのか!? ピリカ、地球の運命は!?】

 

「いよいよこの回まで辿り着いたわけだな。感慨深いものがある」

「( ・ω・)ノシ」

「箸を止めるなって? しょうがないな……うん、美味い」

「( ・∀・)♪」

 

 サザエのつぼ焼きに舌鼓を打ちながら、前世記憶から引っ張り出したあらすじを眺める。

 この話通りにいけばウーラーの永久飢餓は解消され、心安らかに眠りへつく事だろう。満たされないまま命を終える事だけは絶対に避けたい。

 結局死なせる事に違いはないのかもしれないが、ウーラーにとっての終着点は満たされる事だからな……個人的には生かしたいのだが、それは俺の勝手な感傷だ。スナークを重ね合わせているに過ぎない。現実問題として、体内の擬似ブラックホール問題を恒久的に解決することができない限り、満たされた瞬間に眠る事がウーラーにとっての最良なんだよな。

 

 で、ウーラーを救うために必要なキーは「ピリカが心を保ったままウーラーに接続する」「タイガがウーラーに光エネルギーの味を覚えさせる」「ウーラーの餌を用意する」「擬似ホワイトホール発生装置をウーラーの体内に撃ち込む」「擬似ホワイトホールが効いている間にウーラーの腹を満たす」以上だ。うん、1つしくじればアウトなの酷いな。

 

 タイガの光エネルギーの味を覚えさせる、という部分に関しては俺の推察も入っている。劇中、タイガは初戦、次戦共にウーラーに光エネルギーを食い尽くされて変身解除に追い込まれているのだ。その後、タイガの光線には期待するように口を開けているのであれは自分の飢えを満たせる可能性に縋っていたと思われる。原作トレギアは明らかに邪魔してあげく蹴り飛ばしていたので、嫌われて当然である。

 

「まぁこの原作と違って俺は最初から協力体制なのでかなりスムーズにいくはずだ」

 

 ちなみに原作通りに事を運ばせると、街に結構な被害が生じる。ウーラーは地殻を食い荒らすため、日本沈没よろしく街が次々と陥没していくのだ。これを軽減するのが、俺の役割になるだろう。

 落下してしばらくは活動開始しないのは、まだ眠っているからだろう。餌に気付いた時点で動き出すはずだ。だから原作ではギャラクトロンという高エネルギーを餌に活動開始を早めさせたとみる。

 街には上陸させたくないのだが、海底の地殻を食い荒らされる方が影響やばいし海中戦は色んな意味で地獄かつ詰み要素なので上陸させるしかない。地球人のみんなすまん、アフターフォローは頑張ります。

 

「(・ω・)!」

「来たか、ウーラー。ようこそ地球へ」

 

 まるで助けを求めるような唸り声が宙より地上へ響き渡った。

 直後、海上に巨大な隕石が衝突する。

 落下の衝撃は港はおろか内陸部の街にまで届き、地球が死を感じたかのように悲鳴を上げる。

 棚上げするけど本当滅亡危機に晒される惑星だな地球。

 

 そして俺は。

 

「(;´・ω・)」

「~~~ッッ!!」

 

 衝撃に耐えきれず、派手に転んで頭を打ち付けていた。あまりの痛みに悶絶している。

 ウーラーの落下ポイントは東京湾岸地区で確定だったから、海の見える位置から眺めようと思ったらこのざまである。七輪も倒れるし最悪だ! 

 後始末大変だし、目がちかちかするし、涙も出てきたがこんなことではへこたれないぞ! 

 

「ピリカはもう動いているはず……まずは彼女と接触するぞ」

 

 いそいそと片付けながら決意を固める。

 闇堕ち俺みたいな煽りはしないぞ! もうあのRPはこりごりだ!! 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 佐々木カナが外事X課所属時代に、よりにもよってゴミ捨て場に落下したアンドロイドピリカ03を見つけ、助け、名と心を与えた。それが旭川ピリカだ。

 心を与えたというのは語弊がある言い回しだが、感情がインプットされてなかったはずのアンドロイドに感情や思い出といったきっかけを与えたのは紛れもない事実なので、そう評価させてもらう。元から心を宿せていた特異個体かどうかはエオマップ星の科学者に直接聞かないとわからないけどな。

 

 彼女はすぐに見つかった。

 なにをするでもなく、ウーラーの落下ポイントから生じているオーロラを眺めている。

 

 ウーラーは伝説上の怪獣とまで言われるほど永きにわたって星を食い荒らしてきた怪獣なだけあって、誕生経緯はもちろん、その食事習性や特徴まで明らかになっている。

 発展した文明から廃棄された集積物から生じた疑似生命体であること、最初に地殻から食べて最後に内核を食らうということや、体内に疑似ブラックホールがある為、決して腹が満たされない性質があること。加えて、あのオーロラあるところにウーラーがいるということもわかっている。映像資料にもなっているのでタイガも光の国で学んだ事だろう。

 

 そして討滅手段も用意されている。時期は不明だが、エオマップ星の科学者が怪獣の生命活動を停止するデバイスを開発、それを搭載したアンドロイドを宇宙へばらまいた。あらすじにも書かれていた通り、アンドロイドごとウーラーを殺すシステムだ。機械人形1体で星を食らう怪獣を殺せるなら儲けものという考えは否定できないし合理的とまで言えるだろう。

 

「……」

 

 しかし、こうしてぼんやりとウーラーが放っているオーロラを見つめている彼女を見ると、残酷な手段だと改めて感じる。

 

 ただの機械にすればまだ良かったのだろうが、効率性とデバイスの生命リンクが確実に作動する為にアンドロイドが要求されたのだろう。ウーラーのコアと接続し、自らの生命維持システムを停止し道連れにする流れなので、心を宿せるほど高性能なアンドロイドが最大の妥協点だったと推察できる。これ以下では作動できないし、これ以上だと専用に調整された有機生命体になってしまう。

 

 同じ科学者として擁護しておくが、エオマップ星の科学者は相応に苦悩したと考えられる。

 ウーラーを目視した時点で強制的に思い出や心を削除して使命遂行するプログラムを導入していない。推奨指令こそ出すが、実行はアンドロイド本人に委ねているのだ。非情になり切れなかった証拠と言える。

 

「できない。今の私は旭川ピリカだよ……」

 

 記憶初期化命令が電子頭脳内に響き渡っているのだろう。拒否の姿勢を口に出している。

 同時に、自分に課せられた使命の重さも強く理解している葛藤が伺える。

 

 ここで闇堕ち俺がピリカを派手に煽ったり嘲笑ったり「この世界には光も闇もない、全ては虚無だ!」とかつて邪神を求めたあの破滅願望を隠そうともしなくなるわけだが、それが彼女の決意を逆に固める結果になっている。

 

 いややらんよ? 最悪発破かけるためにやらざるを得ないとは思ってるけど。

 

「星の終わりを告げるオーロラだ。美しいものだな」

 

 声をあげると、初めてピリカは此方に気付いたように振り向いた。

 困惑を浮かべた後、すぐに敵意へと塗り替えられる。なんでそんな睨むの。闇堕ち俺みたいに脳天に電撃流したりしなかったし、今回が実質初邂逅のはずでは。敵意抱かれるのは俺がもっと説明してからの予定だったんだけど。

 

「ウーラーを知っている……貴方が呼んだのね」

 

 あ、なるほど。

 飲み込みが早いのは流石アンドロイドということか。

 ウーラーを呼び寄せた元凶と見抜いてるなら、そら怒るわ。ごめん恨まれる要素しかなかった。

 

「ああ、私が呼び寄せた」

 

 だが計画に支障はない。

 ここから、色々頑張って練り上げた理由付けの開始だ……!! 

 嘘は言ってない話術の力を見よ!! 

 

「なんで、こんなこと」

「旭川ピリカ、お前に気付いてこの計画は始まった……。星を幾つ食い潰しても腹が満ちることのない憐れな怪獣……その終わらない業を止めることができる存在がここにいた。君だ」

「!!」

 

 開幕嘘スレスレの事を口にするウルトラマンがいるらしい。俺ですごめんなさい。

 でも嘘じゃないんですよ、原作でトレギアが方針変えたのはピリカの正体に気付いたからなんで。

 

「エオマップ星が宇宙中にばらまいたアンドロイドの数は私も知らないが、君の性能や開発費用を思えば100体前後だろう? 伝説に語られるまでに星々を食らいつくしてきたウーラーが未だに食い尽くせぬ広大な宇宙……そこにばらまかれた解決策はたったの100体……わかるかい?」

「私以外のアンドロイドを探し出すより、私のいる場所にウーラーを呼びこむ方が確実だったってことね」

「そういうことだ」

 

 これも嘘じゃない。

 本音を言えば、心を宿してウーラーの心に気付けるアンドロイドとなると旭川ピリカしかいない可能性がある。だからピリカのいる場所以外にウーラーは落とせない。俺が介入しなければ救えないとはそういうことだ。

 

「ウーラーは無事に地球に着いた……無論このまま放置していれば奴は地球を食い尽くしてしまう。だが、君が使命を果たせば地球はもちろん、未来の星々も救われる」

「……」

「だというのに、君は何故まだ使命を実行しないのかが気になっている。私は最高の御膳立てをしたと思うんだが」

 

 ちょっと闇堕ち俺っぽい言い回しだが、俺の狙いが『ウーラーの生命活動を停止させる為』という認識を持ってもらう為には必要な言い方だ。

 嫌がっている中で強制2択叩きつけたあげく「はよ」と促してるの我ながら最低だけどごめんなさい。「感謝しろよ最高の死に場所を用意したぞ」とか原作みたいな煽りされるよりマシと思って!! 俺が君の心情を把握してるのはおかしいからそこは悟ってない振りしないと駄目なんだ!! 

 

 ピリカは俺をじっと見据える。その目から、この後罵声や批難が飛ぶのが予想できる。完全に想定内だ。使命を投げ出すのか?と論戦で戦いながらも上手く説得誘導してみせよう。

 

「私はもうピリカ03じゃない、旭川ピリカ」

「うん」

「……」

「……」

「あの……」

「え、なに!? 今の私が何か返すべきだったか!?」

 

 旭川ピリカと言われてもそうだねとしか返せないんですけど。あ、使命を果たす気がないって意味? いやいやいや、それならこんなところに彼女はいない。いやそうか、俺があくまで自分をただの機械人形と見做していると指摘したつもりだったのか!! ごめんちょっと説得用台本意識しすぎてそれは頭回ってなかったよ!! 

 

「ふふっ」

 

 NGカット食らったようなテンパリ具合出したせいか笑われてしまった。

 素で動揺したとはいえ失礼じゃないかこのアンドロイド。

 

「おいなんで笑った」

「ううん、私が勘違いしてたのかなって」

「なにを」

「貴方、タイガと……ヒロ君と争ってる人でしょ」

 

 思わず目を見開く。流石に驚いた。

 ヒロユキ君が正体バレしてることにではない。言っちゃ悪いが彼は隠し事が下手すぎる。割と早期にバレてたし、ホマレなどはさっさと認められるようにボロを出させようとすらしていた。みんな気を使ってヒロユキ君から告白するまで待っていただけだ。優しい。

 驚いたのは、俺をトレギアだと気づいていたのに、今まで向けてきていた敵意を霧散させたことにだ。

 

 流石に俺がうろたえた姿見て肩の力抜けたとかそんな安直な信じ方はしてないよな? 

 だとしたら佐々木カナといい、お人好しがすぎるぞ。逆に心配になるわ。

 ともかく、バレているなら余計に嘘は言えないな。オーロラの方へ目を向け、ピリカの指摘を認める。闇堕ち俺のせいであって俺のせいではないんだとか言ったら滅茶苦茶胡散臭いし。

 

「否定はしない。私は確かにタイガを始め、君たちE.G.I.S.にも危害を加えた存在だ」

「そんな貴方がわざわざウーラーを呼びよせる意味……地球を犠牲にするか、私を犠牲にするかでヒロ君たちを苦しめるつもりだったんじゃないかなって」

「……」

 

 まぁ普通そう思うわな。実際、そんな意図が強くあったと思われる。

 後味悪くするの大好きだからな闇堕ち俺。確か、「目的なんてないさ。ただその方が面白そうだからやったんだ。すべては虚無に還って意味などないのだから! 壊れる瞬間こそが美しい(要約」とかほざいてたはず。

 前世記憶で映像確認してげんなりする。永続発狂してるからと言い訳したいけど、本当この俺ってどうしようもねぇな。

 

「そんな悲しそうな顔しないでほしいんだけど……。貴方の目的はそうじゃないってことなのはわかったから」

「顔に出したつもりはないんだが……エオマップ星のアンドロイドは表層心理でも読み取る機能がついているのか?」

「言ったでしょ、私は旭川ピリカ。これは私が心を得たからできること」

「む、すまない」

 

 さて、どうしよう。今のやり取りのせいで想定してた台本が吹っ飛んだんだけど。こういう時、闇堕ち俺の話術経験が無いのが痛い。

 上手に焚き付けて、心を宿したままでもできる選択肢があることを促すAプラン。

 闇堕ち俺が考えてた内容を指摘されるような言動で振舞い、敵視されて、「あなたの思い通りになんかさせない」と言われるBプラン。

 全部ゲロってしまうのはプランから外したつもりなんだけど、話の流れ的に……多少は話した方がいいのだろうか。

 よし、アドリブでいってみよう。やれるやれるやってみせる。

 

「貴方の目的はなに?」

「現状、苦しませてしまうことになるので君が疑ったものが答えでも良いと思うが……確信してるようだから少しだけ話そう。最初に語った部分がそのまま本音だ。ウーラーを飢えの苦しみから解放することだよ。無論、地球を食わせる気はない」

「……飢えの苦しみ?どういう事?」

「今は分からなくても良い」

 

 ウーラーに心がある事を、今はまだ誰も知らないんだったな。教えてもいいが、あえて流す。直接触れ合ってこそ生じる願いだと思うからだ……嘘ですシナリオ崩壊怖いからですごめんなさい。

 思わせぶりにまたオーロラへ目を向けておこう。ほら、なんか伏線っぽい!

 

「……これは私1人ではできない」

 

 たっぷり間を作ってからオーロラから目を逸らし、ピリカへ向き直る。すごくクサいムーヴだし、事実意図した行動だが、これはまぎれもない本音だ。

 

 殺すだけなら、グリムドの力でもって可能かもしれない。だがそれは、スナークと同じ目にあわせてしまうだけだ。

 狂乱して光の国を出奔した俺が、有機廃棄物から生み出した疑似生命体スナーク。あれは、星間連盟が大量に廃棄したゴミを吸収し続けてやがて巨大な怪獣へと変貌し、理性すら失って暴れ出した。当時クソザコだった俺では止めることはできず、説得も通じず、結局スナークを生み出した際に万が一の為にと組み込んでおいたバグを作動させた。

 

 本当に思い返したくない、トラウマだ。俺の孤独を癒してくれた可愛いスナークが、断末魔をあげながらもがき苦しみ、変異と縮小を繰り返した果てに1輪の花と化して最後はチリとなったのだ。救いもなにもあったものじゃない。

 駄目だ、あの悲鳴を思い出したら泣いちゃうんだよ。ここで泣きだすとかマジでただの情緒不安定不審者になってしまうので耐える。

 

「タイガの力、地球人の力、宇宙人の力……そして君の力がいる」

 

 今度はピリカが目を見開いた。

 結局、使命を果たせと促しているわけだからショックかもしれないが、本当に君の力は必要なんだ。

 ウーラーの心は、永続飢餓と、食われた星々やそこに生きていたものたちの負の感情によって常に苦しんでいる。それをわずかな間でも傍で癒せるのはピリカしかいない。あれ無しでは、素直に腹を満たせるかもわからない。

 

「旭川ピリカ、君は君のままで成せる事があるのを知っているはずだ。今全てを初期化しなくてもできる方法に君は気づいている。違うか?」

「ええ」

「酷な事を言っているのはわかっているが、そのまま実行してくれ。下手な希望は言えないが、君に心を宿させた皆を信じればいいさ」

 

 語った言葉は少ないが、真摯な思いは込めたつもりだ。それでもピリカはしばらく逡巡した様子を見せてくる。

 しかし、やがて決意が固まったように力強く頷いてくれた。ありがとう。

 

「あなたはどうするの?」

「ウーラーがあの位置のままだと色々問題がある。餌を使って呼び出して……持久戦かな」

「持久戦?」

「ちょっとタイガに頑張ってもらう必要があるけど、そこは信じてほしい。可能な限り、地球は守るさ」

「わかった」

 

 ……鵜呑みにしすぎじゃない? 

 

 あの、俺、トレギアだよ? 散々悪徳行為を地球で見せたし、タイガ闇堕ちさせてはしゃいでた様子って確かE.G.I.S.側も見てたよね? 言ってて腹立ってきたわ、闇堕ち俺一発殴りてぇ。

 ともかく、そんな俺を信じるのが早すぎる気がする。

 

「私が言うのもなんだが、信じすぎでは?」

「ちゃんと疑ったうえで、信じたよ」

 

 つい問い質してしまったが、返ってきたのはまた困惑するものだった。

 疑ったら止まらないレベルでやらかしたと思うんですが、闇堕ち俺。

 

「こないだ街とタイガを守った分だけ信じてるだけだよ」

 

 ……なるほど。

 

 ニセウルトラマンベリアルとの戦いは、信用底辺だったトレギアに僅かながらの回復を与えたらしい。チョロいと呆れるべきなのか、俺が私ではない事を悟っているのか……。信用の積み上げがいかに難しいかを知っている身としては、心底有難い話だ。

 

 あと俺が俺としてやってのけたことが良い結果をうめてたってことだよね! ちょっと喜びのタロウダンスしてもいいですか!! 

 

「貴方すぐ顔に出るのね。そんな子供みたいに喜ばれるとは思わなかったかな」

「馬鹿な、私はそこまでわかりやすい宇宙人ではないぞ」

「はいはい。じゃ、行ってきます」

 

 そんなわかりやすいか俺? 

 

 首を捻りながらも、歩き出した旭川ピリカを見送る。ヴィランギルドへ赴くのだろう。怪獣を操る脳波コントロール装置を使って、旭川ピリカとしての心と思い出を維持したまま、ウーラーのコアへデータ体として向かうつもりだ。

 色々ぐだついた気もするが、これで俺も次の段階へ進められる。

 

「怪獣リング怪獣リング……ギャラクトロンMarkⅡか。起動しよう、グリムド頼む」

「(`・ω・´)」

 

 リングに力が集約する。

 ギャラクトロンへの命令は、暴れる素振りをみせてタイガをおびき出し、体内の高エネルギー炉でウーラーもおびき出す事だ。

 神秘的な魔法陣が宙に浮かぶ。そこから転送されるように出現した竜頭の巨大ロボット。

 

「アア~~~」

 

 ギャラクトロンの降臨だ。

 

 さぁ、軽い朝食は用意した。目覚めろ宇宙爆蝕怪獣ウーラー!! 

 

 

 

 




・エオマップ星のアンドロイド数

総数は実は不明。めっちゃ数ばら撒き続けて数万体いる可能性もありますが、本作では100体前後にしています。まぁ宇宙全域の広さを思えば100体も数万体も変わらない。あんま無数にばら撒きすぎるとエオマップ星の侵略行為とか言いだして侵略してくる宇宙人とか出そうだし。地球人が外宇宙に探査機飛ばしただけでキレて地球に来る宇宙人や生命体いた程度には、みんな敏感。

話戻しまして、タイタスの映像付き解説の光のみで勘定すると下手すると50にも満たないレベルですが、ピリカ03から製造番号99まであると勝手に解釈しました。ウーラーの居場所がわからぬままにばら撒いたと思いますが、宇宙で100体前後のアンドロイドがウーラーに偶発的に遭遇できる可能性って絶望的に低いです。予想ポイント狙ったぐらいはしたはずですが、決まれば儲け程度で考えていたと思います。エオマップ星からすれば母星に落っこちてきた時に確殺できるで十分と言えば十分。仮にピリカのみに生じたバグだとしても、特攻用アンドロイドがここまで人間的な成長を有するほど高性能なのは、使命叶わなかったアンドロイドに使命以外の未来を与える為だったんじゃないかなー。

ちなみにタイガ超全集だと、ピリカ03は感情を持つバグが発生し、破棄され地球に来たなんて書かれてたりするがそれは劇中描写と矛盾するので、これは採用していません。市野監督のインタビュー読む限りでもエオマップ星はかなり良心的ですし。というか破棄ってなんやねん、宇宙へ放逐するなら他個体と同じ扱いだろうに。

 

・【朗報】トレギアさん、ちゃんと活動みられてた。

流石にギーストロンとニセウルトラマンベリアルでの人々強制避難や建物保護バリアは直接見られてるし撮られている。これまでがこれまでなので信用最底辺からちょっとあがった程度だが、ここの地球人たちは良くも悪くもチョロいのでその「ちょっと」が大切だったりする。一度認識されれば、ゼットンやゴロサンダーが暴れた時もトレギアの仕事だと推察は及ぶ。もっと言えば、タイガに一度ぶっ殺されてる場面あるので、生まれ変わった説ぐらいは飛ぶ。
ウーラー呼び寄せた元凶だと露見したらあっさり最底辺に戻ると思うが、ピリカはオレギアさんの目から、本音を悟っている。データ化してウーラーの心に触れたら確信するので拡散の心配はない。一般市民視点では、ウーラーが故意に来たか偶然かわからないのでバレないよ!

ちなみに一番周囲から評価受けてたのは、死にたくない一心で頑張った時のバリア。はた目からだとタイガの為に命張ってるようにしか見えない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

原作でも一度は派手に殴られるべきだった

今回ちょっと短めですすいません。


 ギャラクトロンが無惨に食い荒らされている。

 

 極めて頑強なボディが容易く噛み砕かれ、飲み込まれ、消えていく。

 

 宇宙爆蝕怪獣ウーラーの目覚めは、そんな軽い食事から始まった。

 

「あれがウーラー……!?」

「Woooolaaaaaaa!」

 

 トライストリウムと化したタイガが、ウーラーと対峙している。かなり動揺しているが、あれがウーラーであることは理解しているようだ。討滅しなければ地球が滅ぶと本気で戦っている。

 

 そんな世界を滅ぼす厄災扱いなウーラーの姿ははっきり言って不格好で歪んだ怪獣だ。

 様々な怪獣や無機物の破片をくっつけたようなくすんだ表皮、つぶらながら常に何かを求める瞳、申し訳程度についた両手と突進力に優れた足……しかし最大の特徴はやはり、巨大な口だろう。

 

「光線を、食ってる!?」

「~~~~♪」

 

 胴体周りとほとんど変わらないほど大きく開けられる奈落の穴は、トライストリウムの必殺光線をジュースでも味わうかのように滑らかに飲み干している。吸引力も強いのだろう、光線を胴体へ逸らすこともできない。

 

「な!? うわぁ!!」

「Glug♪ Glug♪」

 

 このままでは光エネルギーを食い尽くされると、やむなく光線を止めた隙をついて、ウーラーがタイガに齧り付く。そのまま彼の光エネルギーを激しく吸収していき、タイガは強制的に変身解除へ追い込まれてしまった。

 

 よく耐えたタイガ、ヒロユキ君。俺も飛び出して食事の邪魔したくなったのをぐっと耐えたぞ。

 

「ぐ……!!」

 

 道路の金網に叩きつけられるように投げ出されたヒロユキ君。

 ウーラーに噛まれた腕を痛々しく摩っている。タイガ、ヒロユキ君へのフィードバックはもっと抑えないと駄目だぞ。

 ちょっと厳しい採点をしつつ、支えるように彼の体を引き上げた。あまりの不意打ちに彼は目を見開いて驚愕を露わにしている。

 

「霧崎!?」

「選手交代だ、ヒロユキ君。君は旭川ピリカに会った方がいい」

「何を言って……!? あれはお前の仕業じゃないのか!?」

 

 はい俺の仕業です。

 頷いても煽りにしかならない自覚はあるので、敢えて回答を避ける。

 美味しい餌が急に消えたことにきょとんとしてるウーラーがちょっと可愛いが、飢えの本能によって地殻を食い荒らす前に手を打たねばならない。

 

 新たな怪獣リングを取り出し、力を与えて起動する。

 

「元来の役割を果たす時だ、ギガデロス」

「ギュオウィーン」

「Woooolaaaaaaa」

 

 召喚されたギガデロスを見て、ウーラーは地面へ潜ろうとする動作を止めて突進を開始した。あのロボット怪獣も高エネルギー炉を持っているから、多分先程喰らったギャラクトロンの同類と思っているのだろう。

 だがギガデロスは分身技を保有している。焦らせる餌……囮役としては最良の活動が期待できるだろう。

 惑星守護神としての役割をもって作り出されたのだから、今こそ本当の使命を果たせる時だぞ!! その役割歪ませて台無しにしたの闇堕ち俺だけどな!! 

 

 惑星守護神がウーラーとぶつかり合いながらも、街を壊さぬよう戦う姿にヒロユキ君も驚いているようだ。ギャラクトロンも落下後は待機させていたしタイガ相手に防戦一方にさせていたので2体とも俺の意思により動いていると確信したに違いない。

 

「ギガデロス……霧崎、お前の狙いは一体」

 

 まぁ素直に街を守りつつウーラーを救うなんてハードゲームに挑んでいるなんてわからないよな。ただ、その目には葛藤が窺えた。信じたいが、過去の所業のせいでやはり悩むのだろう。

 

「私を信じる必要はない。何より私が何を言おうと、君はもう揺るがないし、迷うこともないだろう?」

 

 正直、闇堕ち俺の所業まで許さなくても構わないというか俺を理由にアレを許されるのは不本意だし、俺は俺で序盤やらかしてしまっている。だから俺への態度なんて気にしないでほしいという意図のつもりでなるべく柔らかく話す。

 

 ピリカには心配になるレベルであっさり信用されたが、そもそも一番の被害者たるヒロユキ君が俺を信用するのは彼がド聖人でもなければ難しいだろう。ヒロユキ君が愛犬家だとして、俺も愛犬家だよと返しても「奇遇だね! でもくたばれ!!」とトライブレードで脳天叩き割られてもしょうがないレベルには彼に悪いことしてる。

 

「……」

「それでいいんだ。君の行動と決断を信じる」

 

 ヒロユキ君は安易に肯定も否定もしない。ただ無言でこちらを伺うように見るという姿勢が、彼が本来人を憎むということが心底苦手な善人であることを示している。

 そんなヒロユキ君ですら本気でぶち切れた相手がいるそうですよ、トレギアって言うんだって! はぁ~(溜息)

 

「ああ、君に対して行ってしまった所業の数々について謝る気はないし、言い訳もしないので恨み言は存分に聞こう」

「いや、そんなこと今言われても」

 

 一転して困ったようにも見えるが、嘘ではないぞ。ぶっちゃけ支えに入ったところで殴られるぐらいは覚悟してたからな。

 闇堕ち俺が全部悪いんですと叫びたいけど絶対に理解されないのもわかってるのでしゃーない。あんなんでも俺が至った可能性として背負うぐらいはしてやらないと。

 

「Woooolaaaaaaa!」

「ギュイーン!?」

 

 ところでウーラー、なんかもうギガデロスの片腕食いちぎってんだけどどうなってんだあれ。分身技はどうしたおい。

 あ、光線技吸収してのカウンターだっけか分身。しくじった……次の怪獣リング起動した方がいいな。そうだ、怪獣リングと言えば、ヒロユキ君にお願いしないと……。

 

「ヒロユキ!? 離れろてめぇ!!」

 

 ヘブゥ!!? 

 

「あっ」

「大丈夫かヒロユキ!!」

 

 E.G.I.S.の頼れる宇宙人ホマレによるマジ殴りが直撃して派手に転がる俺。思わず俺に手を伸ばす優しいヒロユキ君。そんな後輩の顔みて一瞬で、「慌てて助けたつもりがなんかやらかしたっぽい」ことに気付く聡いホマレ。

 

「……あれ、俺余計な事した?」

「えっと……」

「痛ったぁ……!」

 

 忘れてた……ホマレがすぐに駆けつけて来るんだった……。鼻っ面を思い切り殴られてすごく痛い。俺を殴るのはヒロユキ君だと思ってたのに……彼も普通に俺殴り飛ばす権利ありますねはい。闇堕ち俺の所業は勿論、意識数日奪った張本人だし。

 送った退院祝いは流石に匿名にしてたからなぁ。

 

 金網掴んでぐいっと立ち上がる。

 あまりにも鋭い横槍だが、話を切り上げるには丁度いいタイミングでもあった。リング回収のやりとりで無駄に時間を浪費したくない。なんかギガデロスがさっきからすごい破砕音立ててるし。

 というわけですまないが、怪獣リングを回収させてもらう。プレゼントしたつもりのゴロサンダーリングは後で返すつもりだが。

 

 うん……無事なら。

 

「お願いするつもりだったが、このままでは時間がない。強奪になるが許してくれ」

「怪獣リングが!? いつのまに!?」

 

 手品です。

 片手に収まるは、ヘルベロスリング、ナイトファングリング、ゴロサンダーリングだ。

 闇堕ち俺も所有を許し続ける気はなかったんだろうな。作成者権限で回収機構が備わっていたので容易だった。

 ここにきて露骨な力の強奪に多分不信感マシマシだろうけどすまない。当初の予定ではもっと悪役ムーヴ維持して強奪に違和感なくするつもりだったんだ!!

 

 はい、ブレブレの行動しまくったせいで当初描いてたシナリオとかRPはとっくに破綻してて、今更どうやっていけばいいのかわからないままにここまできました!正直だろタロウ、褒めてくれていいんだぞ!! 

 

 俺が内心アホ丸だしな思考を走らせている中、ヒロユキ君がこちらをじっと見据えてきた。

 やはり、怒るだろうか。申し訳ない、自覚はしている。

 

「そうか、お前が僕の前に現れた理由はリングの回収だったんだな」

「そうだ」

 

 嘘ではないし、肯定する。

 ギガデロスが中破するまで忘れてたとは言うまい。

 

「それでウーラーを止めに行くのか?」

「そうだ。まぁ信用はできないだろうが今は」

「わかった、霧崎。今は信用する!」

 

 力強く頷くヒロユキ君。その目に迷いは感じられない。

 本当に、信じていてくれるのがわかってしまう。

 

 いや、だから君たち信用するのが早いんだって!! 

 今のは普通「やっぱりお前は信用できない!」とか怒っていい場面だぞ!! 

 地球アーカイブ閲覧当時、いがみ合ったり疑い合ったりするのが地球人の基本だとか考察してたのがすごく恥ずかしくなる!! 佐々木カナといい、もうやだ聖人たちこわい!! 

 

 この動揺と困惑と罪悪感の全てを目の前の善良なる地球人に叫びたくなるが、猶予がない。

 さっさと行くように促すことにする。

 

「……ほら、仲間も来たんだ、早く行けヒロユキ君。その間ウーラーは任せてくれ」

「……わかった! 行きましょうホマレ先輩!」

「お、おう。なんかすまん」

「いいです、僕殴り損ねたんで!!」

「!?」

 

 走り去るヒロユキ君とホマレ。

 最後の最後で爆弾落としていったなヒロユキ君……覚悟してたはずなのにかなり驚いてしまったが……し、信用とは??? あ、それはそれこれはこれですねはい。全て終わったら土下座した方がいいかもしれない、マジで。

 

「(-ω-)/」

「うんありがとうグリムド。大丈夫、俺は負けない」

 

 余りにも真っ当すぎる鬱憤と怒りが彼にはあったはずだからな。

 あらためてトレギアアイを用いて変身する。ここからは複数戦で相手をしよう。

 脳内で原作にあったトレギア登場BGM流しながら参上だ。

 

「? ??」

 

 ギガデロスを頭からバリボリと噛み砕き飲み込むウーラーは、続けて現れた巨人をみて流石に困惑を隠せない様だった。というかヒロユキ君と会話してる程度しか持たないってどういうことだよ。食らい尽くす力以外だとせいぜい突進と顎ぐらいしか特筆するべき強さなかったはずだが。惑星守護神さぁ……。

 いや、たった1機でよくここまで持ったと思うべきか。ゆっくり眠ってくれ。闇堕ち俺のせいで未だ暴走してるであろう同機種の正常化は発見次第実行することを約束しよう。

 

「Woooolaaaaa?」

「安心してくれウーラー。あまり邪神の力を食わせる気はない。いくら君でも食べすぎれば腹を壊す可能性があるからな」

 

 全部体内のブラックホールで圧縮消滅しているのは把握しているが、邪神エネルギーの塊はラストにタイガの光エネルギーと併せて食わせるべきだろう。闇のエネルギーというよりは混沌のエネルギーなので大丈夫とは思うが、この力食いすぎてメツオーガとかに変貌されようものなら俺は発狂する。

 つまり、地殻の代わりに食わせるのは怪獣たちの放つ強力なエネルギーだ!! 

 

 リングに封じられた怪獣たちの魂と力を呼び起こす。

 活性化し輝くリングは俺の手元から浮かび上がり、元の怪獣の姿となって地上に君臨した。

 

紅き鎧を纏いし地獄の使者

─最凶獣ヘルベロス─

 

蝕むは炎、燃え移るは毒

─毒炎怪獣セグメゲル─

 

夢みる命は全て餌

─悪夢魔獣ナイトファング─

 

雷撃の厄災

─雷撃獣神ゴロサンダー─

 

 

「Wooooolaaaaaaa」

「キシャアアアアア!!」

「プケプケー」

「クトゥルルルル」

「ゴロロロロ……」

 

 ウーラーの前に4体の強豪怪獣たちが君臨した。

 このまま囲んでこの場から逃がさずにメインディッシュまで我慢させる。時折放出エネルギーを喰わせれば逃走防止にもなるはずだ。

 

「さぁお前たち、地球で暴れた贖罪の機会を与えてやる。主賓を退屈させるなよ!」

「イア イア!」

「プケプケー!」

「キシャアアアアア!!」

「ゴロゴロー!!」

 

みんな気合十分なようで何よりだ。

ナイトファングはどっしりと構え、セグメゲルは両腕を打ち鳴らす。

ヘルベロスやゴロサンダーは角やら背中やら派手に雷撃を散らし、地面を踏み荒らす。うん、信号機や電柱が直撃してへし折れたな。駐輪場の自転車たちも吹っ飛んだ。

 

「街に雷撃撒き散らすな馬鹿野郎ども!!」

「キシャアアア!?」

「ゴロォ!!?」

 

思わず2体ともぶん殴ってしまった。

こいつらでちゃんと町を守りながらウーラー押し留められるのだろうか。不安になるが、やるしかない。

さぁいくぞ!!




ギャラクトロンMarkⅡ・ギガデロス「俺たちも同じ演出ないんですか」

すいません、ありません……。

・オレギアさん全力で殴られる。
オレギアさんは狙撃や奇襲ぐらいしかしてないが(充分すぎる)、ホマレは霧崎によって割と散々な目にあっている。原作でこのぐらい派手に霧崎をぶん殴ってくれたらスカッとした人は割と出たかもしれない。ただ、ホマレはこれでも暴力では何も解決しないということを学んでギャングから足を洗った宇宙人なので、仕事や必要に応じた戦い以外で暴力性ある場面をわざわざ描く必要性はなかった。え?事あるごとに掴みかかったりしてる?私のログには何もないな……

・ヒロユキ、霧崎を信じる。
善人ですから。行動で示しておきながら過去の所業について言い訳を一切していないので、これを疑い続けるのにも疲れるしストレス溜まるのでそういう意味でもぶん殴りたかった。相棒たるタイガも守られたと認識してるので、「今のこいつなら信じたい」ぐらいに好感度を稼いだ。
オレギアさんはあっさり信じ過ぎと言うが、散々疑ったし怒りも抱いたし悩んだ上で判断してる。佐々木カナが見込んだ青年は、光を信じる心も強いのである。

ぶっちゃけあの宣戦布告RPやホマレ狙撃しなかったらもっと早く信じる事ができた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ウーラーVS怪獣軍団

すごく今更ですが、怪獣の鳴き声は再現簡単な部類以外かなり適当です。
真面目に音再現しようとしたら、なんかそれはそれでしっくりこなかった。
そのほとんどが自分の名前が鳴き声状態のアニポケが如何に優秀な判断だったかわかりますね。

誤字報告、いつもありがとうございます!!
「未だ」を「今だ」だの「世界征服」を「世界制服」だのなんで誤字ってんの気づかないかなぁ!!


「Wooooolaaaaaaa!!」

「キシャアアアアアアアアアアアア!!」

 

 ウーラーとヘルベロス、巨体同士が激しくぶつかりあう。

 地獄からの使者とすらうたわれる最凶獣が競り負け、倒れ込んだ。

 そのまま腸から貪ろうと牙を向けるが、ヘルベロスの鋭利な尻尾が待ったをかける。

 

「!」

 

 斬撃を纏った尻尾の一撃は、口を切り裂かんばかりの勢いで叩きつけられたがウーラーに効果はない。

 ウーラーの肉体で、何よりも頑強にできているのがその大きな口なのだ。

 トライブレードの一撃すら噛んで受け止められるのに、効くわけがない。

 

 ヘルベロスの尻尾はただ御馳走として飛び込んだだけに終わる。

 

「キシャアアアアア!?」

「♪」

 

 剣も同然であるはずの尾が、鋭利な刃がいくつも生えているにも関わらず無残にも噛み砕かれ、引きちぎられる。

 ぽきぽきと飲み込んでいくウーラーは上機嫌だ。

 美味しいかはともかく、間違いなく高カロリーだしな。

 

「次、次鋒出ろ!」

「グオゴゴゴ」

 

 このままではあっさりヘルベロスがやられてしまうので、控えさせておいたナイトファングを突撃させる。

 一斉にかかってもいいのだが、俺は別に優秀な部隊指揮官というわけでもないし、この怪獣たちは共闘や連携が上手いわけでもない。こうして使役こそしているが俺はレイオニクス*1でもないからな。

 個々の力でただ暴れることが一番効果的な存在だ。これを軍団としてまとめ上げて光の国へ侵攻してきたエンペラ星人やウルトラマンベリアルがおかしいだけである。

 

「Wooooolaaaaaaa」

「ギャー!!」

 

 突撃させたナイトファングが馬鹿正直に催眠かけようとして、全く効かないまま頭から食われてるんですが。個々の力で暴れさせるのが一番の戦法って言ったばかりなんだけど?てかお前でかい火球技とか触手使った拘束技とか色々あっただろ!? 

 良いとこなしで終わるにはあまりにももったいないレベルの強豪怪獣だというのに、あっさり沈んでしまった。なんということだ。

 というかウーラーに催眠音波効かなかったのは何故だろうか。疑似生命体とはいえ、眠らないわけではないのは落下直後しばらく活動しなかった点が証明しているはずだし、なによりウーラーには心がある。ナイトファングはもっと善戦出来ていいはずだったのに。

 

「……ああ、それほどまでに食欲が強いのか」

 

 恐らく催眠は効いた。だが、あらゆる欲求を塗りつぶすほどの飢餓感が、眠りに負けることを許さなかったのだろう。

 星を食い尽くした後の移動は長期のものになる。だからそれを少しでも軽減するために休眠する。だが星に降り立ち、一度空腹を意識してしまえばもはや睡眠など歯止めにならない。目の前に食えるものがある限り眠ることすらできなくなる。移動時にのみ許される眠りも、空腹に苛まされながらのもので決して良いものでもないのだろう。

 

 なんという悲しい怪獣だろうか。

 

「ゴロゴロゴロゴロ、ゴロロロロロロ!!!」

「Glug♪ Glug♪」

 

 ナイトファングを瞬く間に食い尽くしたウーラーは、今度はゴロサンダーのサンダースパークを美味しそうに飲み込んでいる。ちょっとしたドリンク感覚かもしれない。

 

「ゴロ……!? トレギア、こいつやばいぞ!」

「わかっている。お前の無限に生み出せる雷撃は生命線だから絶対食われるなよ」

「ゴロォ!!」

「プケプケー」

 

 サンダースパークの射出が止まったタイミングで、セグメゲルが続けて毒性の火炎セグルフレイムを放った。

 当然ながらあらゆる有機物無機物エネルギーを食らい尽くすウーラーにとって、『毒』という概念は存在しない。すべては餌であり、炎の熱も一切気にすることなく、別の味わいを楽しんでいる。

 星のコアエネルギー食い尽くせるやつがたかだか数百万度程度の熱に火傷することもないだろう。

 

 殺す気でかかってやっと持て成せるとは困った主賓だ。

 

「キシャアアアアア!!」

「Wooooolaaaaaaa?」

 

 セグルフレイムが止まれば今度はヘルベロスが再び組み付く。良いとこなしで終わってしまったナイトファングの敵討ちとばかりに暴れる巨体を抑えこむつもりだ。そうしている間にゴロサンダーやセグメゲルが再度ごちそうを振舞えるようにチャージする。ヘルベロスが食われてしまったら、あの抑えつけ役は俺の仕事になる。

 

「想定よりも長くはもたないかもな……」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─ヴィランギルド・マーキンド星人とマグマ星人のアジト─

 

「やめてピリカ! 貴方はもうピリカ03じゃない、旭川ピリカなのよ!」

「ありがとうカナちゃん、アンドロイドだった私に、人間の名前をくれて」

「人間もアンドロイドも関係ない……! 私達はチームでしょ!!?」

 

 怪獣を操る脳波コントロール装置に乗り込み、これから使命を果たそうとする私に、大切な仲間達が辿り着いて止めようとしてくれている。こんな時だというのに、自分が愛されている事を強く感じて思わず笑顔がこぼれてしまった。

 

「これが私の、使命なの」

「待ってください! 今まで何があってもみんなで、仲間と乗り越えてきたじゃないですか!!」

「聞いてくれピリカ! 不良宇宙人だった俺は、社長に宗谷という名前をもらってE.G.I.S.の一員になった。いろんな出会いがあって俺は変わった! お前だって、変わったはずだ! 運命は変えられるんだよ!」

「一緒に帰ろう……!」

 

 皆の想いはとても優しい。私が生み出された理由、運命そのものを投げ捨ててもいいと言ってくれている。本当は、私はこれに怒るべきなのかもしれない。私がどれだけ悩んでここにいるのか、ウーラーを今止められる可能性が一番高いのは私しかいない現実をわかってて言っているのか。そう受け止めて言い返してもいいのかもしれない。

 

 でも、彼らの言葉は私の本音を悟った上の言葉だってわかってる。

 私はもうピリカ03じゃない。死にたくはない。怖い。みんなとずっといっしょにいたい。投げ出せるものなら投げ出したい。

 私がそう叫びたい気持ちを、皆は口にしているだけだ。

 

 だけど、それに頷いて、運命から背を向けるのは間違いだ。

 運命は変えられるとホマレ君は言った。変えるために戦うのではなく、ここで使命を捨てて地球や皆と運命を共にするのは、変えていない。逃げているだけだ。

 

 だから私は、皆の想いと私の願いを受け止めた上で、運命と対峙する。

 

「私はE.G.I.S.の旭川ピリカ。旭川ピリカとして、使命を果たします」

 

 つい遺言のように3人に話しかけると、ヒロ君たちはバリアに突撃してまで止めようとしてきた。

 それでも、もう決意は揺るがない。私の記憶が消えたとしても、皆の思い出の中に私はいる。

 

「リンクが始まりました。リンク率、15%……」

「機械を止めろォ!!!」

「もう止められません!!」

「まだわかんねぇのか! ウーラーを倒すのはな、あいつの覚悟だ!存在意義なんだよ!!」

「んなもん知るか!! 止めろ、止めろォォォォ!!!」

 

 このアジトの所有者であるマグマ星人とマーキンド星人は、バリアで遮断されている空間に無理矢理入ろうとするE.G.I.S.の皆を必死に止めていた。時間が無くて手荒にすませ、一方的に地球を救う為に協力してと言うだけ言って装置を起動したのに、私の意志を汲んで動いてくれることに感謝しかない。

 お人好しすぎないかなとすら思う。多分、根っからの悪人じゃない。地球で商売する為に、ヴィランギルドに所属していただけなのかもしれない。

 カナちゃん、私がいなくなったら彼らを採用してくれないかな。

 

 ああ、そうだ。

 タイガやヒロ君たちと敵対していたはずの彼もいいかもしれない。

 あの人も、根っこが悪人でない事は話して分かった。

 急に出てきてはタイガ達と戦って、皆を苦しませていた蒼い巨人だということもわかってたのに不思議だ。

 でも素っ頓狂な反応されたり、あんな寂しそうな、悲しそうな表情をされたら誰だってわかる。少なくとも、今の彼は悪い人じゃない。何か、意味のあることをしているんだとわかる。

 ウーラーに対して、彼は何を想っていたのだろうか。

 

 ヒロ君たちに伝えようかちょっと悩んで、やめる。伝えなくても、ヒロ君たちならわかると思うから。

 

 こうして色々考えている間にもウーラーへの同期が進んでいく。

 記憶や感情が障害となってしまうが、脳波コントロール装置の応用で脳波を増幅することでウーラーと強制的に接続、アンドロイドとして元から備え付けられていたリンクシステムも作動しているから、リンク率が100%に届けば、私は電子粒子体となってあの怪獣の中に入れる。

 

「リンク率90%……彼女の初期化と同時に100%になります」

 

 同期が高まっていくにつれ、記憶が薄れるように消えていくのがわかる。わかっていたことだ。

 感情すら初期化して初めて実行できるプログラム。いくらこの装置を補助に使っても、リンク率を100%にする為にはこれまで得た記憶の全ては、守れない。

 だから私が願うのは、皆の思い出に私が居続ける事。

 

「みんな、私を忘れないで」

 

 加速度的に増えていく、思い出せない記憶に別れを告げる。

 こんな残酷なシステムにした創造者だが、感謝もしている。私は、涙すら流せるのだから。

 

「どけ!! うおおおおおおおおおお!!!」

 

 いよいよという時に、ヒロ君が張られたバリアを強引に突破してきた。

 予想外で驚いてしまう。なんて無茶するの。

 

「ピリカさん!」

「ヒロ君……!」

 

 伸ばされた手に、ほとんど無意識で手を伸ばした。

 けれど、掴む前に私の身体が光となって消えていく。リンクが100%に達したからだ。

 どんな感情で私は彼の手を掴もうとしたのか。自分でもわからないまま、私は、ウーラーの中へと飛ばされていった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「Wooooo!?」

「! 攻撃停止!!」

 

 僅かに残ったヘルベロスの腕を飲み込んでいたウーラーの様子が変化した。

 止めないはずの食事を止めて、虚空を見つめるように動作を停止している。

 間違いない、旭川ピリカがウーラーの中に入り込んでいる。

 

「今余計な事をすれば、何があるかわからん。動き出すまで様子見だ」

「ゴロ!」

「プケプケー!」

 

 ゴロサンダーはまだまだ動けるが、セグメゲルは限界だな。疲労困憊といった様子だ。しかしやる気は不思議なほどに満ちている。

 惑星侵略用として酷使されまくった怪獣だが、元々はセゲル星の守護神のような存在だったらしい。当時は美しい女神のような怪獣だったそうだが、侵略兵器として使われるようになって今のような悍ましい姿に変貌したと言われている。他惑星を滅ぼすのではなく守るためというのは、この怪獣にとっては本懐なのかもしれないな。ならば、すまないがもうちょっと頑張ってくれ。

 

 ギガデロス、ヘルベロス、ナイトファング。お前らは役割を果たした。ゆっくり眠ってくれ。

 ウーラーに食われてしまったので、ギャラクトロンと同じくリングに戻ることなく消滅しているが、その魂は怪獣墓場で今度こそ安眠していることだろう。

 

「……」

「Grrrrrrr……」

 

 ウルトラ念力を用いて透視しているが、よくわからない。

 一番怖いのが、ピリカが原作と違って使命全開でウーラーの生命活動を停止させることだが……。し、信じてるぞ旭川ピリカ。

 

「セヤァッ!!」

 

 ウーラーを見守っていると、タイガが降臨してきた。

 吸い尽くされた光エネルギーの回復も終わってないだろうに無茶をする。

 ピリカのことで居ても立っても居られずに飛び出して、そのまま変身してきたのだろう。

 

「タイガ……」

「トレギア、街を守ってくれて感謝する! ここからは、俺があいつを止める!!」

『ピリカさんを絶対に助けてみせる!! いくぞタイガ!!』

 

 ナチュラルに俺を労ってくれてテンション爆上がりだが、性分なので一応突っ込ませていただきたい。

 

「それはいいが、お前ちゃんとプランあって動いているのか」

「……」

 

 ですよね。

 救うと言ってもどう救えばいいのかまだはっきりしてないよね。多分、ウーラーを最速で殺害して、データ体のピリカを無理矢理掴み出す荒業を狙っているのだろう。タイガスパークにより強固なアストラル体を有することのできるタイガ達だからこそ、粒子の状態となったピリカを掴み助けられる可能性はある*2

 問題はそんな状態でウーラーを倒せるのかという話である。見ての通り、俺達が5体がかりでかかっても持て成すのが精一杯な腹ペコ怪獣だ。

 その勝ち目の見えない大怪獣。動作を停止して虚空を見つめていたはずのウーラーだが。

 

「!! Wooooolaaaaaaa!!」

「!?」

「タイガ!?」

 

 タイガを視界に入れるなり再稼働し、俺やゴロサンダーたちを放置して真っ先にタイガへ突進してきた。

 間違いない、一番の大好物がやってきたと思っている。疑似ブラックホールをもってしても、満たされる期待をもたらす何かがタイガの光エネルギーにはあったのだ。

 助けに入りたいのをぐっと抑える。二度も味わえば、次も喜んで食ってくれるに違いない。

 

「ストリウムブラスター!!」

「Glug♪ Glug♪」

 

 噛みつかれ、光エネルギーを急激に吸い取られる中で発射した光線も「ゴクジョーだ!」と言わんばかりに飲み干されていく。ピリカのことがあったから冷静じゃないのはわかるが、ちょっと落ち着いてほしい。

 1分も経たないうちにタイガの姿は消えてしまった。

 

「……ゴロサンダー、頼む」

「ゴロゴロゴロゴロゴロロロロロロ!!!」

 

 ウーラーが逃げ出さないように追加のサンダースパークを放ってもらう。

 好物がもうなくなって少し寂しそうだったが、用意されたものを食べない程選り好みするような怪獣でもない。

 すぐに雷撃に食いつき飲み込み始めた。

 今のうちに、俺がやるべきことは、タイガたちへの助言だ。

 

「聞こえているかタイガ! 焦るな! お前たちは絆の力で私すら討ち倒した事を忘れるな!!」

 

 ヒロユキ君の名前も上げたいが、流石にそれは公開ネタバレに程があるので自重する。

 旭川ピリカを救う手立てはあるとも伝えたいが、今それを口にするのは彼女の覚悟に水を差してしまうかもしれない。もどかしいが、今は激励に留めよう。

 

「宇宙人だけでも、地球人だけでも、ウルトラマンだけでも駄目だ! だが全員が協力して成せぬことなど何もない!!」

「トレギアお前キャラ変えたゴロ?」

「うるさいよもっと雷撃だせ馬鹿!」

「ゴロォ!?」

「プケプケー」

 

 

 ◇

 

 

 

「時間稼ぎは任せろ! 大食漢のもてなしはまだまだ品切れしていない!」

『トレギア……』

『あれだけ絆を馬鹿にしてた奴が言うじゃねーの』

『絆を嘲笑うということは、絆があることを信じている事と同義だったということだな』

 

 焦りのままに変身し、あっさり返り討ちにあってしまった僕たちへ、トレギアからの声が響く。

 ピリカさんを救えずに叫んでいた僕も、彼の言葉に切り替えざるを得ない程だった。トレギアの言葉だというのに、なんて頼もしいんだとすら感じてしまう。あの時、湧き上がる不信と怒りの全てを飲み込んで、信用したのは間違いじゃなかった。今のトレギアなら信じられる。

 

「おーおー、あのトレギアがあんなこと言うとは思わなかったなぁ」

「私今でもまったく信じられないんですけど……幻覚とか幻聴とかザラブ星人が変身した姿とかの方が安心できるのですが」

「貴方達は……!」

 

 切り替えて立ち上がった僕の前に、さっきヴィランギルドにいた2人の宇宙人が現れる。

 2人そろって呆れたようにウーラーを足止めするトレギアを見上げていた。

 うん、すごく気持ちわかるよ。

 

「地球人と宇宙人、ウルトラマンが協力すればできないことはない、ね。ウルトラマンも宇宙人だろって野暮なツッコミは置いといて、共同戦線といくかいあんちゃん」

「いいんですか!」

「おう、あいつに触発されたわけじゃねーぞ。あのお嬢ちゃんの決意に免じてだ……俺たちを動かしたのはお前らE.G.I.S.だよ」

「なんとかする為のプラン、作れるかもしれません」

 

 

 

*1
(怪獣使いのこと。かつて宇宙を数万年にわたって支配してきたレイブラッド星人の因子が入っているのが特徴。レイブラッド星人の後継者となるべくレイオニクス同士で戦いまくったせいであちこちの星で被害が出た。ギャラクシーレスキューフォースボイスドラマ18話でそのレイオニクスが再登場したので今後の出番に期待大。ちなみにベリアルもレイオニクスだが、彼はこの後継者争いには一切関与しておらず、自分の野望に集中している)

*2
(そもそもウルトラマンたち、実はデータ体にもなれる。万能かよ。ウルトラマンメビウスは、電子仮想空間内で暴走したゼットンを倒す為、自らプラグインして戦闘したこともある)




・ピリカの決意とのやり取り。
正直外すかめっちゃ悩んだ部分。このSSはオレギアさんが主役であって、ピリカ達に必要以上に出番与えだすと「ただの原作じゃん!」現象が起きるんですよ。ゼットン回やアリブンタ回を原作部分実質全カットしてたのはそういう拘り故です。オレギアさんにも影響ある佐々木カナの叱咤と説得シーンや、いくらでも掛け合い原作から書き換えられる愉快な宇宙人達は別でしたが、ここはね……。
ただ、場面転換の必要性や、ピリカの想いを読み取り考えながら書いていきたかったのもあり、入れました。

本編とほとんど差異はありませんがピリカが前を見据えて言った「だから私の存在に意味はあった。宇宙のあらゆるものには意味がある!」という台詞は外しています。ウーラーを含めて意味はあるという、一番大事な部分なんですが、これは霧崎がピリカに対して「すべての存在に意味はない」と語った事への返しであり、彼の思い通りにはならないという意志も込められているからです。
オレギアさんは別にピリカ煽ってないですからね。


・オレギアさんボロがry
原作トレギアも割と孤独さを隠しきれない様子を見せていたが、もはや止まれない狂気と挙動のせいで色々伝わらなくなっていた。オレギアさんは正気なので、感情はわかりやすい。というかRPがガッタガタなのに、自分の感情を隠せるわけがない。うまく隠せたのは単にトレギアの悪行によるフィルターのおかげである。

・怪獣リング総進撃
本作でやりたかったこと。16話や劇場版でトレギアがやった事を、地球を守るために行うオレギアさん。
でも全員悪党面してるんで、登場した瞬間は地球側軽くパニックに陥ってたと思われる。そして味方だとわかる戦い方で一瞬安堵したところへ襲いくるむしゃむしゃグロ映像。お茶の間がピンチ。
本人プレゼントしたはずのゴロサンダーリングは使うべきかめっちゃ扱い悩みましたが、会話できる怪獣がこいつしかいなかったのと、サンダースパーク連射できる性能が優秀過ぎるので回収されました。
原作通りのギャラクトロンや(原作と違って街を破壊してない文字通りの餌なのでタイガと戦闘する以外なにもしてなかったが)、霧崎が会話中ソロで頑張ったギガデロスはともかく、2話構成ボスであるナイトファングの扱いが大変悪いのはすまない。ウーラーの悲劇性を描こうとしたらネタ退場になってしまった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外・消えたトレギア

今日は番外編です。短いですが。
オレギアさんがいた世界についての現状。


 ベリアル率いる一大勢力『テラー・ザ・ベリアル』と光の国による、複数の宇宙を巻き込んだ全面戦争【オメガアーマゲドン】。

 

 宇宙1つでも果てしなく広大だというのに、別宇宙にまで戦線が拡大したこの戦いはもはや光の国とベリアル勢力だけに留まらず、あらゆる勢力もその波に飲み込んだ。

 数多の戦士が散り、数多の星が滅び、無数の命が失われた。ベリアルは、かのエンペラ星人の勢力ですら成していなかった偉業に手をかけたといって良いだろう。最も、そんなものを偉業として認める光の戦士など誰1人いなかったが。

 

 敵勢力の幹部クラスは難敵であったが、ウルトラ戦士達ならば決して勝てない相手ではなかった。だが、この広大過ぎる戦線は光の国にある限界を突き付けていた。

 

 ──守り切れない。

 

 無論、光の国にいる戦士たちに、『1人でなんでもやってみせる』と粋がる者はまずいない。該当するとしても、余程の世間知らずな若者程度で、それは経験で失われる一過性のものだ。

『ウルトラマンが人間を救うのではない。人間と力を合わせ戦ってきたのだ!』かつて暗黒の魔神(ダークルギエル)を前にそう啖呵を切り、人類と共に戦ったウルトラマンタロウを筆頭に、彼等は現地勢力や他の正義を心に宿す者たちと共に、巨悪と戦い続けた。

 

 それでも足りないのだ。こればかりは宇宙の広大さが恨めしく感じてしまう。

 光の戦士達が向かった先では、助けることができる。共闘することができる。そして、勝つことができる。向かえなかった先では、悲劇と絶望が支配していた。

 

 ウルトラマンは神ではない。

 誰もが自覚し、そして戒めにしていたことだったが、この戦争を前にその事実は彼らの心を傷つけていた。

 

 余談だが、この元凶であるベリアルですら、宇宙の広大さにため息を溢していた。側近からあげられる戦線報告書の数と、積みあげる傍から失われていく物資に顔を顰めていたりする。

 宇宙の全てを手に入れてやると配下へ偉大な夢を見せる悪のカリスマだが、現実は広大過ぎる宇宙にて攻勢を仕掛け続けることに苦労していた。

 レイブラッド星人とか本当に宇宙数万年も支配してたのか疑問符すら浮かぶレベルである。あのエンペラ星人ですら全宇宙の支配には至らなかったというのに。

 

 こんな具合で敵も敵で苦労していることなど知るよしもないが、現実としてこのままでは果てしない戦乱がいつまでも続いてしまう。この為、光の国は逆転のキーアイテム作成を急いでいた。

 

 ウルトラマン達で数が足りないならば、その力を少しでも貸せるようなアイテムを生み出せばよい。

 

 光の現地勢力はもちろん、宇宙警備隊隊員でも実力の足りない者などに、前線で戦い続けるウルトラ兄弟などの頼もしい力がサポートとして機能すれば、多くの命を救えるという発想からウルトラマンヒカリが主導で開発を進めた。

 

 幸運なことに、かつてヒカリの復讐鬼化報道以来失踪していた、有望な局員であったトレギア*1も正気に返って復帰していた為、開発は予定より早く進んでいた。

 

 タロウは、帰還して傷も癒した友人が、戦争勃発早々から目覚ましい功績を積み上げているのを噂で聞いて、我が事のように喜んでいた。

 キングブレスレットという強力なアイテム*2を保有している為、トレギアが開発したアイテムの恩恵を得る機会にないのは残念だったが、共に戦う仲間たちが彼のアイテムを活用してくれているだけで嬉しかった。

 

 唯一保有しているトレギア謹製のアイテム……かつてトレギアから直接譲り受けた、共同制作の完成品『タイガスパーク』はいつか息子へ譲るつもりである。キングブレスレットが万能すぎるのも考え物だ。水の入ったバケツにすら変身する万能性を有し、純光エネルギーの集積機構に加え、何気に光エネルギーを常に一定に保つコントロール機能すら内包している為、タイガスパークの恩恵を得るまでもなく別宇宙の活動を容易にしてしまっているのだ。

 

 だが、思わぬ凶報がタロウの元へ届けられた。

 

「トレギアが……消滅した!?」

 

 光の国でも厳重な警戒が取られていた区画にて、トレギアが逆転のキーアイテム『ウルトラカプセル』の試運転を行おうとしていた際、見ただけで心を削ってくるような悍ましき闇が彼へ襲い掛かり、助ける間もなく彼の姿ごと消失してしまったのだという。後に残ったのは、起動するはずだった彼の力が込められたウルトラカプセルだけ。

 

 ベリアル軍の仕業であることに疑いようはなく、情報漏洩が起きていた事や直接的妨害行動があった事実に、光の国に強い衝撃が走った。

 

 トレギアはウルトラカプセル開発組の中でも、最もウルトラマンヒカリに近く、それでいて最も弱かった為狙われたのではないかと推測が立った。その為、彼は殺されたのではなくウルトラカプセルの精製方法を得るために攫われたのだという結論が出るのは早かった。

 

 後方から支援してくれる仲間の悲劇に誰もが拳を震わせたが、特に憤ったのはウルトラマンタロウである。

 自分の立場を理解した上でなお抑えられない衝動から、ベリアル軍の前線基地でも惑星級の規模だった要塞へ単騎で突撃する無謀に走った。

 

「私の友人をどこへやった!!」

「知るわけないだろ!?」

「貴様たちがトレギアを攫ったのはわかっているんだ!!」

「いやマジで何言ってるかわから……うわああああああああ!!」

 

 タロウが吶喊した惑星要塞は壊滅した。昔ならいざ知らず、今のタロウは宇宙警備隊の筆頭教官。更に磨きあげられた実力だけではなく、安否すら分からない友を想っての行動を前に、敵など存在しなかった。

 タロウは基地の最高司令であった幹部すら鎧袖一触で消し飛ばし、その基地内に残されていた全データを回収し、無力化され降参した宇宙人達から情報収集も行った。仲間たちが応援に駆け付けた頃には、事後処理しか残されてない始末だった。

 だが、そこまでしても結局トレギアの居場所を得るような情報すらなく、タロウは失意に首を垂れることとなる。

 

 タロウの勇猛な働きは瞬く間に宇宙をかけめぐった。何も知らない人々はやはりウルトラ兄弟はすごいのだと歓喜に沸き、彼をよく知る同胞たちはタロウの想いを察して心を痛めた。そしてその中でもウルトラセブンは、タロウの気持ちを十全に理解していた。理解した上で、このままではいけないとすぐに動いた。

 セブンはタロウの元へ真っ先に飛んでいき、彼を全力で殴り飛ばした。

 

「タロウ! なんだそのふぬけた姿は!! お前の友人にそのザマを見せるつもりか!!」

「セブン兄さん……!」

 

 宇宙を平和に近づけた偉大な戦果に対する労いなど一言もかけなかった。

 筆頭教官としてあるまじき軽挙な単騎行動へ走った事を叱咤し、その上で友人を想っての無謀な行動は、それを知った友人が苦しむ事に繋がる愚行であると厳しく指摘した。

 優しさの欠片も感じないセブンの言葉だったが、タロウはセブンの真意を間違うことなく受け止め、彼に頭を下げた。

 

 セブンは心の底からタロウを心配している。自分が間違った行動に走ってしまって、その結果みんなが苦しむ未来が来て、そして更に自分が苦しむという負の悪循環が来ないように最速で止めに来てくれた。友人が戻ってきた時、また暖かく迎えられるような恥じない己であるべきだと言ってくれているのだ。

 

 戦うことも探すことも、間違った方法で行えば意味はない。

 

 頭をあげたタロウの目をみたセブンは、安堵して頷いた。そして彼の肩を叩いて、改めて労った。

 

 なお、偶然現場に居合わせたモブトラマンはドン引きであった。

 

 

 

 タロウは反省した。そしてトレギアの生存を信じ、また再会した時にお互いの無事を喜び合うことを決意した。改めて胸に宿った輝きを強くする。悲劇を前にしてなお、光は光であった。

 

「一度は帰ってきたんだ。また帰ってくるよな、友よ……」

 

 

 

 

 こうして、突如発生したトレギア消失事件の影響は、大なり小なり広がっていった。

 光の国はこの一件からセキュリティを強化する意識を高め(活かせるとは言ってない)、ウルトラカプセルの開発は秘匿性も重視されヒカリ1人に委ねられて予想よりも遅れていくことになる。タロウも、単騎吶喊の反省から一度光の国へ帰還することになった。

 

 トレギア消失の影響が1番あったのはタロウだったが、最も悪く響いたのは、タロウではなく他にいた。

 

 

 

 完全にとばっちりを受けたベリアル軍である。

 

 

 

 惑星要塞1つ丸々失う大損害について、元凶であるタロウがあそこまで暴れた理由を報告書で受け取った『テラー・ザ・ベリアル』最高幹部ダークネスファイブ*3の面々は困惑に包まれた。

 

「なあスライ、俺達そんな計画聞いたことねーぞ」

「私もです。というか光の国の新兵器強奪計画はあのストルム星人が一任されていたはずですよ。彼は潜入には長けていますが、ウルトラ族1人拉致るなど不可能です」

「ヴォー ヴォー」

 

 つまりは事故または第3勢力の仕業であるとダークネスファイブ筆頭格たるスライは結論付ける。

 そのせいで結果としてとんでもない損害と、別で進行していた作戦に支障が出る懸念まで生じるなど頭を抱える事態であった。

 

「完全な濡れ衣とばっちりかよ……理不尽すぎるだろ! てかタロウまじやべぇな!!」

 

 唸るデスローグはもちろん、グロッケンも表示される損害報告書の数字にめまいすら覚える。

 あろうことか基地内に集積してあった資料なども処分すら間に合わず、根こそぎ奪われたのだと言う。

 基地責任者を処断してやりたいところだが、とっくにタロウによって殉職しているのでそれすらできない。

 

「というかこれ、まずくないか? 光の国の防諜対策は腑抜けもいいところだったのに、こんな事件があってはストルム星人も苦労するぞ」

 

 嫌でも悪い予測を考えてしまうヴィラニアス。

 なんかベリアルに心酔してるだけの弱い宇宙人なので、彼等からすれば別に捨て駒もいいところなのだが、作戦失敗の危機を容認できるかは話が別だ。

 ただでさえ最大規模の計画を進行しているところに、悪い報告など連続して聞きたくないのが本音である。

 

「ストルム星人も現状把握はしているでしょう。こうなればいっそ完成前に勝負を付けるしか……」

 

 スライが口にしているのが、まさにその最大規模の計画だ。

 超時空消滅爆弾による宇宙の崩壊。それを地球圏で行い、ウルトラ戦士達に完全敗北を突き付ける壮大な計画である。

 光の国がある宇宙は消失ではなく支配したいので、崩壊させる宇宙は隣接したサイドスペースが検討されている。

 

「超時空消滅爆弾計画か……地球を餌に、宇宙1つ丸ごと消し飛ばして一網打尽……だが陛下が地球で囮になるのが気に入らねぇんだよな」

「陛下でなければ、光の国は総力を結集してくれませんからね。悔しいですが」

 

 グロッケンの懸念は尤もな話だが、スライは現実を受け止めている。これを最大限に活用するには特大の餌が2ついるのだ。「地球」と「ベリアル」だ。

 だからこそ、成功すればベリアルの悲願を達成できるに違いないが、あくまで兵器を利用する都合、事前に阻止されたりベリアル本人が討たれたりしたら水の泡と終わる危険性もはらんでいた。それを理解しているから、このベリアル肝入りの計画には、ダークネスファイブも命の賭け時であるとして気合を入れている。

 

「だが、この計画成就の為ならば、我らも捨て駒になる決意もある!」

「そうだなヴィラニアス。死ぬまで陛下の為にあるってのを証明してやろうぜ!!」

「ヴォー!!」

 

 悪には悪の絆がある。

 それを憎き光の国の連中へ証明してやると昂る彼らに対し、その仲間たる地獄のジャタールの一言は彼等を現実へ引き戻させた。

 

「ギョポ……で、誰が陛下にこの要塞失陥報告するんだ? 自分たちとは関係ない事故でとばっちり受けましたって内容だよなこれ」

「「「「「……」」」」」

 

 そう、壮大な計画をネタに彼らは現実逃避していたにすぎない。

 最近なんかウキウキで自分の息子を生み出す計画を練り上げている我らが総大将へ、この報告を入れたくないのだ。

 敗北は敗北である。あの要塞が失陥したことで、あらゆる計画に悪影響が生じることは必然であり、よりにもよってその原因が濡れ衣。

 全員、静かになった後。

 5人中、4人がスライへ目を向けた。

 

「スライが適任だ」

「よろしく頼むわー」

「言うと思ってましたよ畜生!!!」

「ヴォー ヴォー」

「ギョポポー」

 

 邪悪なる軍団『テラー・ザ・ベリアル』。

 この日、その本拠地の一部が崩落することになるが、始末書に書かれた名前は名誉の為、秘匿された。

 

 

*1
(実はトレギア、めっちゃ優秀。科学技術局副長官の席が提案された程である。ただし提案された当時はタロウが長期遠征でいない+ウルトラマンヒカリ出奔中で、出世への喜びを感じられない程に寂寥感が胸にあったのか辞退している。曰く「タロウがいない光の国ってなんかぼやけてる」)

*2
(名前はいかにもキング由来っぽいが、宇宙科学技術局製。ウルトラメタリックガード超合金とかいう素材でできてる)

*3
(メフィラス星人魔導のスライ、テンペラー星人極悪のヴィラニアス、ヒッポリト星人地獄のジャタール、グローザ星系人氷結のグロッケン、デスレ星雲人炎上のデスローグ。ペット枠にヴィラニアスの相棒タイラントもいる。滅茶苦茶人気出た敵役グループで、ベリアルとの主従としての強い絆が明確に描かれた面子でもある)




オメガアーマゲドンの仔細っていつか描写されたりするんですかね。
ウーラー編決着は明日投稿されます。

・オメガアーマゲドン
実際の戦争地帯は要所要所に絞られたり、なんだかんだで規模は宇宙1つにつき銀河系1個分以内に収まっていたりするのでしょうが、複数の宇宙巻き込んでるなら大して変わらない。ベリアルがクライシスインパクトを引き起こした理由については、明らかに打ち解けていた「仲間」であったダークネスファイブを戦争で失ったからとか、キングが動く事を見越した壮大な計画だとか、色々ありますが、案外戦争に疲れていたのかもしれない。

・ウルトラマンタロウ
下手すると1万年ぐらいいなくなっていた友人と再会して嬉しかったのに、その友人が再びいなくなって流石にメンタルに響いた。ベリアル軍の惑星要塞1つ単騎で制圧するほど大暴れしてまでトレギアを探していたが、見つからず。このまま危うい戦いを続けていたら光を見失う恐れすらあったかもしれないが、そんなフラグが芽生える前にセブンがいつもの叱咤激励を飛ばしたことで復調。トレギアを探すことはやめないが、トレギアの生存を信じてウルトラ兄弟No.6としての使命を今日も果たしている。

見事に成長したタロウがこういう短絡的な行動するかについては意見が分かれるところでしょうが、今回はそれほどショックだったということで……。
なお、内山まもる先生の描いたウルトラマンタロウの話に「友情は永遠に…タロウとエルフ」というものがあり、そこではバルタン星人の首領となった幼馴染のエルフというウルトラ族を説得するためにバルタン星人の本拠地(てか母星)へ単身乗り込むというクッソ無謀なことやらかしていたりします。

・ウルトラセブン
どこぞのキン肉マンのお兄様より手厳しい事をしているが、深い愛を持つウルトラ戦士であることに変わりはない。愛ゆえにその手厳しさが凄まじく苛烈になりがちなだけである。レオにやらかした中の人ごと殺しかける特訓は有名だが、流石に今の時代ではシナリオに組み込めない。なお、セブンだけがこういう一面あるわけではなく、割とウルトラ族全般が大なり小なりこういう一面を持つ。心身ともに頑強すぎる種族なせいだと思われる。
でもリブットに「手荒な特訓になるよ!」と言われてもまだ挑めるが、セブンに「手荒な特訓になるよ!」と言われたら死を覚悟する。

・ウルトラマンヒカリ
描写されてないだけで実は滅茶苦茶凹んでる。ベリアル軍の侵入を許してしまったせいで大切な部下が失われたと嘆いている。まぁメビウスがメンタルケアするから大丈夫。

・ダークネスファイブ
今回最大の被害者。濡れ衣だーーー!!と太陽へ向かって吠えている。

・ストルム星人
難易度跳ね上がったけど後にやり遂げた。クライシスインパクト時のどさくさに紛れて盗む事に成功。ベリアルの指示に従い新たな計画を進める。

・ベリアル
ちゃんと始末書書いた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

さらばウーラー

オレギアさんはウーラーの腹を満たす作戦邪魔しないから原作よりもスムーズだぞ!勝ったな、ウルトラマンタイガ、完!!


 ─E.G.I.S.本社─

 

 E.G.I.S.本社に備え付けられた大画面の向こうでは、ウーラーの暴食が一向に止まらない様子が映し出されていた。

 ついにセグメゲルが力尽き、その身体はウーラーの口の向こうへ消えていく。毒炎も出せなくなり、最期は自ら奈落へ飛び込んでいく姿に、外事X課の佐倉警部も思わず息を呑んだ。

 

「地球の為に、そこまでやってくれるのか……!」

 

 怪獣たちが身を挺して地球が齧られる事を防いでいる様子は全国に中継されている。タイガが消えた後の怪獣一斉登場はパニックを生んだが、今ではみんながTVの前で応援している。機械怪獣はともかく、ヘルべロス達が食われる様はだいぶトラウマ与えそうだが大丈夫だろうか。

 

 怪獣だけではない。一般市民にとってはもはや3度目となる蒼い巨人の『正義』は、一部の反宇宙人派にも胸を打たれるものがあった。彼等はTVではなく、戦闘が行われてる側でデモをしていた為、今では彼等の行動に衝撃を受けつつ眺めている。

 困ったことに原作でも彼らは戦闘区域同然の場でデモをしていた。ちゃんと避難しろ。というかみんな避難してるのにそこでデモして何になると突っ込める人はいなかったらしい。

 当然「今更許せるものか」「騙されない」「なんのつもりだ」と不信を露わにする地球人たちもいる。仮に本人が耳にすれば「せやな」と真顔で同意することだろう。寧ろ、多数の人々に感謝される方に困惑する。

 

 これはトレギアが地球人にどう認識されてきたか、ということが大きい。

 そもそもこの地球は宇宙人が不法侵入してきたり、オークションなどと言って街中で怪獣のデモンストレーションを始めたり地球人達がマジ切れしてしょうがない状態にあった。裏社会に至っては必ず宇宙人の影がある始末だ。MIB(メンインブラック)でも過激派が支配するレベルでやらかしていると言っていい。

 そんな時やっと現れた、誰の目にもわかりやすく映る正義の巨人。地球を守ってくれる「ウルトラマン」に人々は強く感謝したし、そんなウルトラマンと明確に敵対していた蒼い巨人は敵なんだと認識していた。ちょっかいかけるように姿現しては街を壊していたし、怪獣召喚もやったし巨悪認定余裕である。

 

 外事X課に至っては所属している宇宙人の同輩や、とっ捕まえたヴィランギルド構成員から得た情報で、蒼い巨人がトレギアという宇宙のあちこちで洒落にならない悪行を重ねるクソ野郎であることを詳細に把握している。霧崎は霧崎で裏社会で暗躍する危険人物として別項記録されている始末。

 

 だが、地球人達はもう1つ知っている。

 

 それは彼が、新たな姿となったタイガによって敗北、どっからみても爆死していたことだ。

 

 平行世界の身体をスペアにして復活できるという理屈などは知らない。知る由もない。

 重要なのは、彼はタイガに倒された後に、急に善行を始めたことにある。

 

 外事X課は慎重に見守っていたが、TV越しに見ていた民衆からすれば、「一度死んで改心したのでは?」と安易に転がるのも無理のない話だ。だって悪いあいつは倒されたんだから。きっとタイガに倒されて目覚めたんだ! と人間の醜さを知るものからすれば反吐が出るような理屈が簡単に蔓延した。

 極め付けは、彼の戦い方だ。タイガたちよりもわかりやすく、明確に街の保護を優先し、あげく未知の手段で戦闘区域の民衆を安全圏へ移動していることもわかっている。なにより共に戦う「ウルトラマン」を守ったこと。

 

 誰からも嫌われて当たり前だった蒼い巨人は、少なくない人々にちょっとだけでも信じてもらえるようになった。彼らをチョロいと言ってはいけない。少なくとも捏造された映像を検証すらせず鵜呑みにしてオートボットを地球追放してディセプティコンを受け入れた初代アニメトランスフォーマー世界のアメリカ市民よりは疑い深い方である。

 

 そして今、命がけで守っている姿が報道されている。

 怪獣たちは文字通り命を捨ててウーラーの餌となり、蒼い巨人は必死にウーラーを抑え込んでいた。心に響かない人などいなかった。

 

 こうしてTV画面を通してトレギアを応援する地球人達が大勢現れつつある中、ここE.G.I.S.本社にいる人達は動揺していた。トレギアに対する信用などは別問題。それよりも重視されるべき事実があるからだ。

 今もこうして彼等が命を張り続けているのはおかしい事をE.G.I.S.のメンバーは、佐倉は知っている。

 ピリカが決死の覚悟で飛び込んだのに、ウーラーは今も食べているなどあってはならない。

 

「何故、怪獣の動きが止まらない?」

 

 佐倉から困惑の声が零れる。

 彼がここにいるのは、佐々木カナからの連絡で、旭川ピリカが命を賭してウーラーの元へ飛び込んだ話を聞いたからだ。みんなの反対を押し切ってまで使命を果たしに行った彼女の件で、元同僚が心を痛めているのは間違いなく、心配で駆け付けた。

 画面上で電撃を飲み込み続ける怪獣の動きが停止することは、ピリカの死を意味する。

 それを目視した時の悲しみを少しでも支えてあげようという彼なりの計らいだった。

 

 しかし怪獣は一向に動きを止めない。

 まさか、という最悪の予想が脳裏をよぎるのも仕方がない事だった。

 

「ピリカ……」

「ただいま戻りました……」

「ヒロユキ、大丈夫か」

「僕は大丈夫です。ですが、ピリカさんが……」

 

 ヒロユキもE.G.I.S.本社へと帰還するが、その表情は晴れていない。

 助けられなかったという声を寸でで飲み込み、画面を見つめる。

 

 その時、画面が歪む。

 

 現れたのは粒子体となったはずのピリカだった。

 

『もう時間がないので手短に言います。私はウーラーの中です……』

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ピリカさんは、ウーラーの心と接触し、わかったことを話していた。

 永遠に途絶えることがない飢えの苦しみから助けを求めていた事。

 星々を食らい続けたことで、その星に生きた文明のエネルギー、生命の恨みや憎悪をも食べて、今のような禍々しい姿へ変わった事。

 ピリカさんは、生命維持停止システムを作動できなかったわけじゃない。

 このままでは、ウーラーがあまりに可哀想だから実行できなかったんだ。

 

 驚いたのが、トレギアの狙い。今でもウーラーの暴食を止めるべく必死に戦っていたけれど、まさかウーラーの心を救いたくて行動していたなんて。ピリカさんは、トレギアとも話していて、こうしてウーラーの心に触れたことで彼の願いも確信したそうだ。

 

 だからウーラーの飢えを、心を満たすために力を貸してほしいとピリカさんは切実に訴える。

 

『この子の心を満たせたら、そのあと私は、この子と一緒に……』

「全てを終わらせるってことか……」

『この子と出会えたことは奇跡なのかもしれない。私だから、この子の心をわかってあげられるんだと思う!』

 

 ウーラーの代わりに、精一杯の想いを言葉に変えたピリカさんの通信がついに途絶える。

 僕も、社長も、ホマレ先輩も、受け取った想いと願いにしばらく言葉が出せなかった。

 

「……」

 

 やがて、ピリカさんが残した円柱の形をしたドライブをそっと撫でながら、社長が口を開く。

 

「……私は、ピリカの想いに応えたい」

「そう言うと思ったよ」

 

 社長は続ける。

 アンドロイドだったピリカさん。

 彼女が奇跡的に心を宿して、地球に訪れた意味。それはウーラーの心を救う為だったのかもしれないと。

 

「でも、それだとピリカさんは……」

 

 でも僕は、まだ受け止め切れない。

 いくら奇跡だと、運命だと言ったって、仲間を失う理由にしていいとは僕は思えない。

 だけど僕の考えは、ピリカさんの想いに応えていないのもわかっている。

 僕はどうすれば……。

 

『ヒロユキ、ピリカの覚悟をお前が受け取れ』

「!」

『お前の覚悟を、俺が受け取ったようにな』

 

 悩む僕に相棒から飛んできた言葉は、ひどくずるいものだった。

 かつてトレギアによって闇に飲まれてしまった相棒を救う為に決めた覚悟。

 確かに、自分だけが覚悟を投げ渡しておいて、受け取らないのは駄目だ。

 

「みんなこれをみて」

 

 ピリカさんのドライブから、社長がウーラーのデータを引き出して画面に表示する。何気にすごいことしてませんか社長。それ別惑星のドライブなんですよね? パスワードとか大丈夫だったんですか。

 

 社長が言うには、ウーラーの体内にある疑似ブラックホールをまずなんとかする必要があるという。

 

「なんとかって、え、ブラックホールを!?」

「うん」

 

 佐倉さんが驚くのも無理はないと思う。普通は不可能だ。

 だけど、今の僕たちにはまだまだ協力してくれる人たちがいる! 

 

「なんとかなるぜ」

「どうも」

 

 マグマ星人、マーキンド星人の2人が準備を整えて来てくれた! 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 作戦。

 まず、マグマ星人の宇宙船に備え付けられた高エネルギー照射システム『マグマウェーブ』をウーラーの餌として提供、口の向きを固定させる。エネルギーの問題は佐倉さんが手配して世界各国からマイクロウェーブ輸送することで解決。

 次に、擬似ホワイトホール生成ミサイル『ヴァイスストライク』。マグマ星人の宇宙船に同乗したホマレ先輩が照準を定めて発射、ウーラーに飲み込ませ起爆することで擬似ブラックホールを中和することができる。ただしこのホワイトホールは数分間しか持続しない上に1発限りなので失敗は許されない。

 

 そして腹を満たす手段。

 

「トレギアもウーラーの腹を満たしたいんだろう?今戦っているトレギアに広域放送でタイミングを伝達すればいけるか」

「いや、戦闘を見る限り相当消耗しているぞあいつ。ゴロサンダーも疲弊して鈍くなってるのがわかるし、ウーラーの腹を満たさせることができるかわからねぇ」

『戦闘区域にバリア張りながら長時間戦闘など、少なくとも地球圏だと我々では無理だな』

『活動限界ないのずるいよなあいつ』

『ああいうことする闇の陣営なんていなかったからわからなかった部分だよな……』

 

 今戦っているトレギアは、僕の目からでも明らかに動きに精彩を欠いていた。

 何度もウーラーに跳ね飛ばされてグロッキー状態だ。あ、バリアで防ごうとしたらバリアをせんべいみたいに齧り割られた。ゴロサンダーが体当たりしなければ危なかったかもしれない。

 

「タイガがいる!」

 

 トレギアを心配するというちょっと前の自分だったら絶対しない事を繰り返してる自分に驚いていたら、社長がタイガの名前を挙げた。

 ホマレ先輩もタイガの光線エネルギーならいけると納得の表情だ。

 

「しかしウルトラマンにどうやってそれを頼む!?」

 

 言われなくてもいけますけど、どうやってタイガに伝えたって誤魔化そうかな。

 そう考えていると、社長とホマレ先輩が笑顔で僕に近づいてくる。

 

「頼んだわよヒロユキ!」

「えっ」

 

 えっ。

 

「ナ、ナンノコトダロウ……」

「お前本当とぼけんの下手だな」

「純粋というか、素直というか、馬鹿正直というか……」

 

 えっ。えっ。ホ、ホマレ先輩まで!? 

 

「し、知ってたんですか……?」

「「うん」」

「ずっと!?」

「「うん」」

 

 い、いつから……。

 当たり前のように言われてすごくショックだ。

 ちゃんと隠せてたと思ったのに……。

 

「ヒロユキ」

 

 思わず頭を抱えそうになった僕を、社長が見つめる。

 

「ピリカの最期の願い……叶えてやって」

「……」

 

 まだ、わずかに逡巡する気持ちがある。

 ホマレ先輩が察したように背中を強く叩いてそれを追い出した。

 ピリカさんも、社長も、ホマレ先輩も僕たちを信じてくれている。なら、応えるだけだ! 

 

「はい!!」

「え、どういうこと? (マグマ星語」

「えっ、あっ、えっ?? (マーキンド星語」

「今君たち、凄いことを、凄いさらっと言ったね??? (地球語」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「Wooooolaaaaaaa」

「ゴロロロ……」

「ε-(´ω`; )」

「エネルギーは尽きずとも肉体疲労は別か……勉強になったよ」

「言ってる場合か? ゴロロ」

 

 クッソ疲れてる! 

 心なしかグリムドも疲れてる!! あ、俺が疲労してるからその感情で疲れてるのか! ごめん!! 

 対するウーラーは疲弊知らずだ。邪神エネルギーを食わせすぎないようにと気を配っていたが、セグメゲルが倒れた今、解禁せざるを得なくなりゴロサンダーと共に攻撃という食事を加えている。

 

 自分がこんな疲れるとは全く考えてなかった。

 邪神のエネルギータンクが無尽蔵だから自分も無制限に動けると思い込んでいたらまさかの肉体疲労問題である。盲点だったなぁ、もっと検証するべきだったと反省しても時すでに遅し。

 

「ゴロロロ、最後の雷撃を飛ばすから少しでも休むんだな」

「ゴロサンダー……すまない、助かる」

「タイガやタイタスという最高の戦相手を用意してくれた礼だ」

 

 アヒル顔のくせに格好いいことを口にするじゃないか。

 戦神としての側面も強かったが、そうか、タイガ達との激闘はそんなに楽しいものだったか。

 ところでフーマも入れてやってくれないか。あ、戦ってないなそういえば。

 

「ゴロゴロ! ゴロゴロゴロ! ゴロロロロロロ!!!」

 

 これまでで最大の勢いで激しいドラミングをみせるゴロサンダー。

 最大限の雷が両肩に蓄積され、溢れた電が飛び散った。

 まさに雷神といった風格を見せているその隣で、流れ雷がいくつも俺に直撃している。

 

「いった!?」

「あ、すまん」

 

 格好いいこと言っててこれだよ!! もうこいつと共闘なんて二度としてやるか!! 

 ウーラーはすっかり学習してるのか大口あけてスタンバイ状態だ。

 ピリカも言っていたが、悪気があって暴れているわけではないからな。空腹に耐えられないだけで。俺達が少しでもその空腹を抑えようとしていることを理解してくれているのだろう。

 

「ゴロロロロ────!!!」

「Glug♪ Glug♪」

 

 最大出力でサンダースパークが放たれた。

 街に放たれれば全てを破壊しつくす神の怒り。その全てを元気よく飲み込み、癒されない空腹をわずかでも抑えようと必死なウーラー。

 10秒、20秒ととんでもない持続力で穴へ落ち込む雷。だが、無尽蔵に思えた雷の力は、とうとう全て無限の胃袋に収まってしまう。

 全ての雷撃を放出し、燃え尽きた様に真っ白になるゴロサンダー。

 

 まだか、タイガ……!! 

 

『伝達、蒼い巨人と赤い怪獣は対象より距離を取ってください』

「!!」

 

 防災スピーカーより聞こえたこの言葉は!! 

 そうか、準備が整ったのか!! 

 わざわざ此方に連絡までしてくれるとはありがたい!! ありがとう地球人!! 

 

「離れるぞ、ゴロサンダー」

「ゴロォ……」

「ゴロサンダー?」

 

 己の身体を構成する力まで絞りだして放ったのだろう。ゴロサンダーの色素が抜け落ちた身体は砕けるように粒子となって消え去ってしまった。

 リングは残ったが、力を取り戻すまで使うこともできないだろう。

 

 …………助かった、ゆっくり休め。

 

 距離を置けば、マグマウェーブが成層圏からウーラーへ向けて照射されはじめる。

 高エネルギーの塊なのに周囲にあまり破壊効果を出さないあれがなんなのかよくわかっていないが、ウーラーが食いつくほどのエネルギー波であるのは確かだ。

 

「Glug♪ Glug♪」

 

 そのマグマウェーブの中を突き進んでいくミサイルが1発。マグマウェーブは誘爆させないよう、しっかり中心部が空洞になっているから

 あれが疑似ホワイトホールを生み出す兵器だろう。あれ、実は結構有益な『移動用兵装』だったりする。

 ブラックホールの近場を航行する必要に迫られた際、あれを放ってブラックホールを一時的に無力化して安全に突破するのが本来の使用目的だ。

 その使用機会の乏しさと製作費の高さから1発当たりのお値段が凄まじいものになっている。1発でもあることに感心するほどだ。

 

「!!」

 

 ウーラーがミサイルを飲み込んだ!! 

 体内で起爆したのだろう、疑似ブラックホールが中和され、今までなかった感覚に不思議そうに首をかしげている。

 

 いける。いけるぞ!! 

 

 高揚のままにこぶしを握る。

 近くで地球人達が不思議そうにウーラーを見上げているが、これだけでも奇跡ということはわかるまい。というか避難させたのになんでわざわざ近くに来てるんだ危ないから帰れ。

 

 ふと肩に手を置かれる。

 やっとたどり着いた奇跡を前に、気付くのが遅れてしまった。

 3度目の正直だな、タイガ。

 

「トレギア」

「ああ、わかっている」

 

 奇跡を積み重ねてきたからこそ、ここで1歩をしくじるわけにはいかない。

 

「タイガ、ウーラーを、旭川ピリカを救えるな?」

「ああ!!」

「ならば良い!! 併せろ!!!」

「(`・ω・´)!」

 

 俺と同じく気合を入れ直したグリムドから力を貰う。

 両の腕に光と闇を混ぜ合わせた混沌が迸った。全てを綯交ぜにしてしまう力に、俺の願いも強く込める。

 

 満たされてほしい、救われてほしい。

 その為に、俺はこの地球に降り立ったんだ!! 

 

「トレラアルティガイザー!!!!」

 

Plasma-Zero-let! Connect on!! 

 

「ワイドタイガショットォ!!!!」

 

 お互いの全力を込めた輝きを、全霊をもって飲み干していくウーラー。

 その身体から、あの美しいオーロラのような輝きが次々と放たれる。

 

 打ち終えた光線の全てを受け止めたウーラーが口を閉じる寸前。

 

「いけ!!」

「おう!!」

 

 タイガがウーラーの口へと飛び込んだ。ピリカを救うための決死行、間に合うかどうかは賭けだが俺はタイガを信じている。

 息を詰めて見守る中、ウーラーから放たれる輝きが増していく。

 

「Wooooolaaaaaaa……ahaha,ahahahaha!」

 

 全てが白く染まった瞬間、ウーラーの身体がついに爆発した。

 爆風と爆炎が周囲を駆け抜けた後、輝く光球が静かに空へ昇っていく。

 

 飢餓の象徴と化した身体を脱ぎ捨てて飛び立ったそれは、本当に幸せそうで。

 

 一際輝くと、それは美しく霧散し、輝きをそのままに大空へ広がっていった。

 

 

 

 ……これだ。

 

 

 

 俺はこれを見たかった。塵となって消え去ったあの子の時とは違う。

 間違いなく、ウーラーの心は満ち、その感謝の想いを星全体に伝えてくれている。

 

「暖かい……良かったな、ウーラー……」

「俺1人のパワーじゃ不可能だった」

 

 空の輝きに見惚れていると、ウーラーがいた場所にタイガが立っている。

 その手は大切そうに握られており、無事に旭川ピリカの大切なものを掴めたのだろう。

 万々歳だな。

 

「俺とお前、ウルトラマン2人の力が、あの怪獣の心を救ったんだ」

「……」

「トレギア、今なら確信を持って言える。お前なんだろう? 光の国を離れた、父さんの友達は……」

 

 ああ、タイガ。君は本当に優しい。

 

「お前がもう一度、光を守護する者として歩みたいなら……!」

 

 だが頷けない。

 俺が帰りたいのは、この光の国じゃない。

 俺が歩みたい場所は、この宇宙じゃない。

 

 そして、この宇宙でやるべきことを俺は全て終えた。

 さよならの時間だ。

 

 タイガに別れを告げるべく、しかしどう答えたものか悩んだ時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『満足したならそろそろ消えてくれないか、私』

「!?」

 

俺の身体から、闇が噴き出した。




ウルトラマンタイガの物語のラスボスはトレギア、常識である。
次回、オレギアさんVSトレギア フィールド:インナースペース
片や情緒不安定、片や永続発狂。お互い打たれ弱いから急所突かれた方が負ける。


・疑似ホワイトホール生成兵器ヴァイスストライク
ブラックホールとホワイトホールの関係性は現実ではまだまだ仮説の塊だが、SFや特撮では色々答えがある。タイガ本編では中和できるという特性があることになっている。で、マグマウェーブは元来の使用意図がよくわからないが、そういう特性あるならこの兵器の利用はだいたい想像できる。というわけで、本作では宇宙航行用の安全確保アイテムとして解釈している。

・特撮やヒーロー世界の地球人達
前回も少し触れているが改めて。
現実世界に住む我々も散々デマや偏向報道、奇麗ごとに理想論と面白いくらいに騙され続けるので、ぶっちゃけあまり他所の世界に住む同種族たちを悪く言えないのだが、それにしたって「めっちゃ釣られる」のが彼らの特徴である。これまでどれだけ傷つきながら戦い抜いたヒーローだろうが勘違いした子供とかの煽動1つであっさり敵視して迫害に走ったり、ヴィラン側が民衆を煽る策謀を練れば初動成功率100%を誇る始末である。マスメディアに影響力持つ悪党は大抵これのおかげで無双する。
人類に絶望するヒーローや読者が出てくるのもしょうがない。トレギアみたいなキャラが世に現れたのは必然だろう。だが、そんな彼らだからこそもう一度信じた時のブレなさは凄まじく、それによって生み出された光は理不尽なほどに強いのだ。

・ウーラーの最期
心を救えたからこそあの最期だったというのは、トレギアが救えなかったスナークとの対比でも明確でしょう。どうせなら命も救ってほしかったとも思いましたが、それがウーラーの救いになるかというと違うんですよね。伝説になるほど宇宙を食い荒らしていたウーラーに寿命があったかはわかりませんが、恐らく無いです。満たされた歓喜を抱えて天に昇らせたのは、ウーラーが求めた長い旅路の終着点でもあったと思います。そもそも擬似ブラックホールがある限り、ね……。
死なせるのも勝手ならば生かすのも勝手だ!どれも所詮は死じゃないか!と狂乱したトレギアが騒ぎそうですが、原作では暖かな光を前にそんな皮肉を繰り出せなかったのが、全てだと思います。

・タイガがピリカを救ったのか
尺の都合という凄まじく悲しい現実の前にカットされてますが、まぁ察する程度にはピリカ救済の行動みせてますねタイガ。
あれがどうなってるかと言いますと、ピリカが「お昼寝しよっか」と、満たされ歓喜に震えるウーラーの心と一緒に眠る(システム作動する)寸前、旭川ピリカの構成する因子を素手掴みしました。
その後タイガスパーク辺りに一度格納してると思われます。トレギアとガチ戦闘してるし。
で、その因子をヒロユキ君がピリカの保有してたあの円柱型ドライブに入れたところ、ピリカの記憶と意識が復活。アンドロイドならではで実はバックアップもドライブに押し込んでいたらしい。肝心のボディがない問題は外事X課が解決してます。なんとエオマップ星と通信して「ウーラー倒せた功労者ピリカ03の代替ボディくれ」と連絡。エオマップ星人は快諾して空ボディを転送。あとは意識と記憶をインストール。こうして無事ピリカ完全復活となりました。ソースは超全集にある市野監督のインタビュー。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トレギアとトレギア

よし、お前ら喧嘩しろ。
最近お約束になりつつある精神世界とかインナースペースとかで起きる殴り合い。


「ぐあっ!?」

「トレギア!!?」

 

 自分の声が不気味な音調で脳裏に響いたと同時。

 蒼い闇が俺の身体から噴き出した。突然生じた我が身の変調に頭がパニックになる。

 

 なんだこれは!? グリムドの力ではない!! 

 

 混乱しながらもグリムドによる力ではない事に気づいたが、そのグリムド自体の力を上手く動かせない。

 噴き出した闇が炎のように揺らめきだすと俺の身体にまとわりついていく。

 

「随分長く好き勝手してくれたようだ。グリムドの加護にこんなイレギュラーが生じるとは思わなかったよ」

「ぐあああああっ!?」

 

 熱い! 身体じゃない、俺の精神が焼かれている!! 

 まさか、まさか!! 

 

 こいつ()か!! 

 

「大丈夫か、トレギア!?」

「近づくなタイガ!!」

 

 想定外の事態にタロウの息子を巻き込せてたまるか。

 

 ()がいる場所はわかっている。心の奥底に封じ込めていたのだから。

 ならばやることは1つだけだ。俺は激痛に耐えつつ意識をインナースペースに向け、飛びこんだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 混沌のサイケ色が渦巻く俺の心象風景。

 闇の炎で全身を焼かれ続けている俺の前には、蒼い闇が人型を象っている。

 爛々と輝く紅い両目は興味深そうに、しかし敵意を隠さないまま俺を睨んでいた。

 

「改めて初めましてだな?私よ」

「くっ……」

 

 どうにかしようと精神世界に飛び込んだというのに、俺を焼き尽くそうと舐め回す炎が一向に消えない。目の前のこいつの仕業なのは明白だが、それは既にここまで領域を支配されている事を意味する。目覚めたばかりだろうに行動が早いな畜生!

 だがこの炎、俺を焼き尽くすには足りていない。激痛こそ消えないが、俺の心が壊れてしまうほどでもない。耐えられる。ウルトラ戦士ならば気合でいけるレベルだ!

 全力で気合を入れて耐える。そんな俺をジロジロと眺めた()は、わざとらしくため息をついた。

 

「さっさと燃え尽きればいいのに何を抵抗しているんだ。君の願いであるウーラーは死んだのだろう?」

「は?死んだんじゃない、救ったんだよ。あの光を見てないのか」

「詭弁だな、死なせたことになんの違いがある」

 

 嘲笑う様に肩を震わせる蒼い影。

 

 開幕殴ってきやがるなクソが!

 あの光を直接見ていないなら、そう言えるのも無理はなく、そして俺が「それでも生かせるものなら」と僅かにでも考えていた事を見抜いている。仮にも自分自身に対して容赦なさすぎて笑うわ。いや自分自身だからか。自己嫌悪の塊なのは知ってるからな、俺だし。

 

「お前が何と言おうが、所詮は当事者の枠外からの戯言にしかならんな。ウーラーの本音を訊くために今から怪獣墓場にでも行くか?」

「……ふん、これぐらいでは折れてはくれないか」

 

 あーはいはい、やっぱりそういう狙いか。

 俺を焼き尽くせないということは、このままでは結局肉体奪取すら叶わないのだろう。

 そして焼き尽くすために、俺の心に罅を入れようとしている。()からすれば、さぞ楽しい瞬間だろうな。

 

 だがタロウの傍へ帰れた俺を嘗めるなよ。俺は、()と違って太陽と共に在るのだからな!!

 

 ()が支配する闇の炎を、気合だけでなく折れない心の芯を盾にして、耐え抜く。このまま続けていたところで意味はないぞと睨み返してやれば、()は呆れたように再びため息をついた。

 さぁ、何を言ってくる?貴様のせいで味わった絶望以上のものでなくば、俺には通じんぞ!!

 

「信じられないぐらい強固な精神……魂だな? 私とは思えない。いや、私ではないだろうお前」

「なに?」

 

 予想外の言葉が来た。

 ここぞとばかりに自分殺しに全力出すのが()だろうと思っていたのに、嫌味が通じないから俺をトレギアと認めない路線に切り替えたのか?

 

 ……まぁ、言いたいことはわからんでもないがな。そもそも俺もお前を俺だと思いたくないわ。

 それでもどうしようもなく俺だと思っているぞ。()、現実から目を逸らしてんじゃねーぞ。

 

「君が変質した理由は、調べさせてもらった。惑星チュツオラを離れるまでは間違いなく私だ。だが、ある瞬間、私ではなくなっている」

 

 調べた、ね。

 間違いなく、今の今まで眠っていたはずだろうに。この精神領域といい本当に手の早いことだ。

 さぞ良い目覚めだったことだろう。

 

「覗いたなら、わかるだろ。俺の前世は……」

「馬鹿馬鹿しい、それが真実だとしてもお前のような変質を起こすものか」

 

 ()は仰々しく両の手を広げた後、俺を指さしてくる。

 一々挙動が鬱陶しいが、言いたいことがわからない。

 寧ろ変質を抑えるのに苦労しているほどなんだが……。

 

「私は哀れな人間たちが、異世界へ転生する夢想に快楽を見出しているのを知っている」

「なるほど? 続けろ」

「チッ、余裕を見せるじゃないか。その中には、憑依というものもある。神を名乗る何者かによって行われるものもある」

「詳しいな()、さぞ読み込んだことだろう。今度気に入った作品があったら教えてくれ」

 

 俺の軽口に、蒼い影から今度は特大の舌打ちが鳴った。

 別に俺は余裕を見せているわけではない。

 だが、俺は()の悪辣さを知っている。心を追い詰める話術に長けている事を知っている。

 今も全身を焼き尽くされる痛みに襲われている中、軽口を叩くのは俺なりの防衛手段だ。というか軽口で強がらないと悲鳴が口から出る。攻撃は最大の防御というわけだ。

 そして()は俺の言葉を無視して焼き尽くすことはできない。それ以上燃やせないからこうして対峙している。

 

 俺が今も耐えられているのは、理由は不明ながら俺が邪神の狂気に負けない程魂そのものが強いからだろう。頑強な魂により精神が保護されている感覚だ。その精神そのものについてはお世辞にも強いと言えない自覚がある。目の前のコレがその証明な。

 ()がそれを崩さない限り主導権を握れないのはさっきのやり取りで証明したようなものだが、同時にそれは、()の地力が尽きてこの炎を止めた瞬間に敗北することを意味している。

 俺は俺で、下手に真正面から受けて、隙を見せたり、心がへし折れるようなことになれば終わる。

 

 つまり、これは俺と()の我慢比べということだ。

 今更ながらなんつうタイミングでおっぱじめやがったんだ空気読めよ馬鹿が。

 タイガと祝杯すらあげてないんだぞこの野郎。

 

「お前のそのいくら燃やしても芯を焼けぬ魂の強度……神とやらの恩恵なら納得できないか?」

「面白い仮説だな。俺はその神とやらにあった記憶はないぞ。創作ネタに縋り過ぎではないかな?」

 

 ()が言及したのはその俺でもわからぬ、魂の強度。

 だがこれを起点に俺を否定しようと妄想で語るのはいかがなものか。

 そう言い返すと()は馬鹿にしたように鼻で笑う。

 

「はっ、お前が言えるのか? 『この宇宙の創作物は、別宇宙の出来事である』と知っているだろうに」

「……俺の得た知識も多少は把握済みか」

「創作物で未来の道筋を知るなどなんともずるいものだな。ああ、こういう時はチート乙と返すのが礼儀らしいぞははははは」

 

 くそ、前世知識の内容にまで手を突っ込まれていたのは痛手だ。どうせなら劇場版まで覗いて絶望してくれたらよかったものを、自分の心に不利な知識は本能的に避けたと見る。

 だが、指摘した内容そのものは反論が難しい。神様転生論の根本否定は無理だな。

 

 言い返せないでいるとめっちゃ上機嫌に嘲笑してきた。さっきからぶん殴りたいほどウザいな。でもこいつ嫌うってのは自己嫌悪の極致になるのか? わからん。

 まぁ向こうはもう完全に俺を同一人物だとは認めていかない方針のようだが。アイデンティティの崩壊でも狙っているのだろう。

 あとチートってどの口が言ってるんだお前。

 

「さぁ本題に入ろう。そういった転生をなしたならば、私とは最初から違う存在であるべきだ。だが、君はチュツオラを離れるまで私だった……」

 

 本題に入ると言いつつ口を止めるな。間を作るな。

 心理攻撃の衝撃作りたいのが見え透いてて萎えるだけだ。

 やがて()は、突きつけるように俺へ指を向ける。

 

「私の精神が虚無に返った瞬間、乗っ取るように憑依した地球人。お前の正体はそれだ」

 

 ……ふむ、なるほど。

 

 俺の胸に去来した感情は、なんとも淡白なものだった。向こうからすれば衝撃的な効果音とか付けて揺さぶったつもりだろうが、随分と甘い指摘だ。

 

 お前のスペアボディにされかけた俺が自己分析や自己の再定義を何度繰り返したか、知らないのだろう。

 

 そういう可能性もまぁ0ではないとはとっくの昔に考えていた。

 あまりに唐突な前世記憶の蘇り。あまりにも急激な精神の回復。

 これは、前世を思い出したよりはなにかが憑依してきたという方がわかりやすいのは否定できない。

 何より、この前世記憶は、混ざり過ぎないように脳内アーカイブ化している。アーカイブ化できている。つまり元は違うものという可能性も捨てきれないのだ。

 

「憑依も完璧ではなかったのだろう、残滓と化した私の精神と記憶を取り込み、こうして【自分をトレギアと思い込む哀れな一般人】が完成したわけだ」

 

 それだと区分けした前世記憶が憑依元であって、俺は変わらずトレギアになるんだが、そこの事情まではわからないか。お陰で動揺は防げたので助かった。

 

「おままごとのままに、やりたいことは済ませられて良かったじゃないか。だが、楽しい楽しい成り切りごっこも切り上げ時だろう?」

 

 自己の再定義を再度必要としなかった事に安堵してる様を、俺が絶句したと解釈しているのか上機嫌に振る舞う()。気分はあれかな、完 全 論 破。

 

「もうわかったか? この身体はお前のものじゃない。私の身体だ。消えてくれ」

「……」

 

 ため息をこぼす。

 こいつは何もわかっていない。だが、そのネタを突きつけるなら、前世記憶に則り俺はこう返しておく。

 

「俺はウルトラマントレギアだ、誰が何と言おうとウルトラマントレギアなんだ」

「思い込むのも大概にしろ地球人風情が!!!」

 

 激昂する()。ネタ振ってきたのそっちだろうが。

 だいたいな、お前は大きな勘違い、いや、致命的な見落としをしている。

 その可能性は過去に検討済みであって、現時点をもって否定済みなんだよ。

 

「なぁ()。一つ確認しておきたい」

「はぁ? 何をいまさら確認したいと言うんだ」

「じゃあなんでグリムドは今まで俺の味方をしていたんだ」

「……は?」

 

 蒼い影が固まる。

 ようやく気付いたか。

 

 ()が目覚めたというのに、一向にグリムドが力を貸していないことに。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 トレギアは、蒼い闇に囚われたまま動かない。

 もう此方がいくら呼びかけても反応しなくなっていた。

 

『そうか、そうだったのか』

『どうしたタイタス』

『過去に私達と戦ったトレギアと、一度倒した後のトレギアは、同一人物であってそうではない! あの善行を果たしたトレギアこそが、タイガの言っていたウルトラマンタロウの親友に違いない!!』

「!?」

 

 タイタスの言葉にみんなが息を呑んだ。

 確信を持ったように、タイタスが続ける。

 

『トレギアが何故光の国を離れたのか、誰もわからないのだろう? きっと彼は闇に蝕まれ、一人苦しんだ末に飲まれたのだ。私達の絆の力で、本来のトレギアが目覚めはじめた……闇によって苛まされながらも、元のトレギアとして動いた結果があの不思議な違和感に違いない!!』

 

 確かに、それならばしっくりくる。そうか、あれが本当のトレギアだったのか。

 

『じゃあ今、その闇と戦っているんだな!? 俺達でなんとかできねぇのか!?』

『駄目だ、今余計な事をしたら何が起こるかわからない。それにこれは彼にとって大事な戦いであり禊だ。だから、彼の勝利を信じよう……!!』

「トレギア……」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「何故だ、何故私に応えないグリムド!!」

 

 ()が大きく叫ぶも、返事はない。

 当然だ、グリムドからすれば『どっちでもいい』のだから。

 すなわち、両方契約対象者であり、優位に傾いた方へそのまま契約を履行するだけだ。

 

()がいるから、俺はグリムドの力を振舞えたと思っていたが、違ったようだな。図らずも今回の事で確信したよ。俺の憑依地球人説は今この時破綻した」

「なんだと……!?」

「グリムドと契約したのはトレギアだ。もし俺が憑依したただの地球人であるなら、どうあがいても『トレギアの姿と力を奪った地球人』にしかならない。契約外対象であり、お前が目覚めた時点で今度こそ俺は消滅することになっていたはずだ」

「……つまり、グリムドは貴様を!?」

「邪神様のお墨付きだぞ()? 俺はウルトラマン。ウルトラマントレギアなんだよ!!」

 

 激しく動揺した()の隙を突き、精神を燃やし続けていた炎をかき消す。

 炎が消えた俺の姿は、涙が出るほど懐かしい、邪神と融合する前の俺だった。

 

「馬鹿な!! 貴様のような奴が私であってたまるか!!」

「おーおー、光も闇もないという虚無主義に走った()のくせに、俺を同一人物と認められないのは哀れだな。虚無の前にはすべてが同じじゃなかったのか?」

「屁理屈をォ!!」

 

 蒼い闇のまま、()が怒りに任せた拳をふるってくる。

 それをいなして、カウンター気味にすかした顔面をぶん殴る。

 

 ずっとやりたかった一発は、思ったよりもスカッとしなかった。

 

 蒼い影は吹っ飛ぶことこそしなかったが、打たれた位置を抑えるように怯んだ。

 追撃だと思いっきり蹴り飛ばしにかかる。俺の恨みを思い知れ()!!!

 

「ふん!」

「げほっ!?」

 

 はい、鋭く放ったつもりの蹴りはあっさり掴まれ逆に蹴られました。痛い。

 

「弱いな貴様は! やはり貴様は私などではないのだ!!」

「つつ……経験値の差だけで別人呼ばわりされてもなぁ」

「減らず口がああああああ!!!」

 

 俺と()がひたすら殴りあう。

 

 殴る。

 

 殴られる。

 

 殴られる。

 

 殴る。

 

 殴られる。

 

 殴られる。

 

 殴られる。

 

 いや殴られすぎだろ俺。

 

 だが、ダメージそのものは向こうが上だった。単純な経験の差は完全にあっちが上だが、ここはインナースペース。

 精神の強さも影響される。だから、俺の拳は()へとヒットするたび、影の形を削っていった。

 

「何故だ……何故だ!! 何故貴様如きに私が!?」

 

 動揺いまだ収まらず。削られていく自身の身体を見て更に動揺を重ねる()

 その哀れな様子を見て、俺に浮かんだのは疑問符だった。

 

 ……いくら何でも余裕なさすぎないか?

 

 一度持論否定されたぐらいで殴り合いになってるこの現状はおかしい。尺に制限ある番組じゃないんだぞ。もっとこう、色々上から目線で煽ったり一見正論っぽい詭弁で惑わすのが()の得意技だったはずじゃあ……。

 だから俺も最大限警戒して必死にその減らず口を回していたのに。

 

 そもそも持論を跳ね返されたからってここまで否定することはないだろうに。

 最初のやり取りのように、俺を()だと認めて、その上で精神的に煽って主導権を奪うことをこいつはできるはずだ。

 自己否定に陥りやすいのがトレギアだと、俺はよく自覚している。だから、それを武器にするべきだったのにこいつはそれを捨てて別人説に全賭けした。無数の絆を破壊してきた男が、何をそんなに拘っているんだろうか。

 

 ……。

 

 …………まさか。

 

「ハッ!!」

「ッ!!」

 

 ふと思いつくと同時に顔面を思い切り殴られる。だが、返しは打たずに踏ん張った。殴り返すより先に確認したいことがある。

 

「なぁ、()

「黙れ、貴様が私をそう呼ぶな」

「お前が俺をトレギアだと認められないのってさ……俺がタロウのそばに帰れたからだろ」

「……」

 

 蒼い影が固まった。

 やっぱりお前は()だよ。

 

 タロウだよな。俺たちはあの太陽なくして語れない。

 

「光の国へ帰るという選択肢があったことを認められない」

 

「タロウのそばへ帰った可能性を認められない」

 

「タロウと共に歩めた未来を認められない」

 

「黙れええええええええ!!!」

 

 図星を突かれた()が光線の構えを取った。

 トレラシウム光線。

 必死に鍛え上げて、それでも合格点に届かなかった俺たちの情けない必殺技だ。

 

「ハァッ!!」

 

 両手で構えて受け止める。

 激昂したまま放たれた光線は俺の手を焼き尽くす事すら叶わずに消え去った。

 驚愕する()へ突撃し、今迄被ったあらゆるものを込めて思いっきり殴る。放った拳は、赤目しか見えない顔面を、防ごうとした奴の腕ごと弾き飛ばした。

 あんなに殴りたかったというのに、今では気が晴れるどころか虚しさと怒りが無い混ぜになった気分だ。膝をつく影に向かって、その感情のまま叫ぶ。

 

「馬鹿野郎が! 狂気を言い訳に逃げたからそうなったんだろうが。助けを求めれば応えてくれる最大の親友から背を向けたらそうなるわ!!」

 

 前世記憶から確認していた、()の末路を思い出す。

 

 悪を為しているつもりすらなく、自己蔑視の感情を他者へぶつける有様を、自分にとって正義を執行してる気分で巻き込むだけ巻き込んで、勝手に悟ったように絶望して、勝手に自殺したような最期だ。

 全てを否定して突き抜けた。だが、邪神グリムドをその身に宿して、生も死もない肉体になったとしても、戻れる道は絶対にあった。

 

 光の戦士(ウルトラマン)として完全に死んだとしても、戻れる道はあったんだ。光の国に生まれた者ならば、わかっていたはずだ。幼き日、プラズマスパークを背にした、あのタロウが心に焼き付いていたならば、わかっていたはずだ! 

 

 家族の絆を前に敗れた時、思い留まればよかった。

 

 タイガたちの絆の力を前に砕け散った時、反省すればよかった。

 

 タイガが手を伸ばした時、その手を掴めばよかった。

 

 タロウが手を伸ばした時……。

 

 ……耐えられなかったんだろう?

 誰よりも許せず、嫌悪している存在が己自身だったというのに、許されるということが。

 光も闇もない、全ては虚無だと今を生きるもの全てから目を背け続けた自分が、今更太陽の傍へ帰るということが。

 光に一度背を向け、闇を極めようとしてその闇にも絶望して、遂には虚無に堕ちて、真理にして正義と信じ込んだ悪行に手を染めるたびにもう戻れないと狂ったまま自覚していたんだろ? 太陽が今なお自分を信じてくれていることなんて苦しくてしょうがなかったんだろ?

 

 もっと言ってやろうか。タロウと対等でありたいからここまで太陽の影としての要素を極めたんだろ? 助けられたら、その瞬間に対等でなくなるのも辛くて悲しいんだろ? 

 

 もう、戻れる道なんて無いんだと思った方がよほど楽だよな。

 

 わかるよ。

 

 俺だからわかる。

 

 俺だって、そこまで行ったらきっと助けを求めることすらできず、タロウの伸ばす手すら掴む勇気もないまま引っ叩いて本当に死を迎える瞬間まで孤独であっただろう。

 

 だから、俺は()を否定することはない。

 

 その上ではっきり言う。この馬鹿野郎が。

 

 本当にしょうがないし気持ち悪い自分だよ。だけど、自分だからこそ、見捨てることは俺はしない。

 先程のトレラシウム光線が賭けに等しい一撃だったのはわかっている。

 また俺の心の奥底に封じ込められるぐらいなら消滅を選ぶ覚悟で放ったのだろう。蒼い影の姿は自壊を始めている。

 

 同時にそれは、グリムドにとって勝負の決着を意味する。

 

「グリムド」

「(・ω・)」

「こんな茶番に付き合わせて済まないな」

「(・ω・)ノ」

 

 蒼い影が目を見開く。

 俺の傍に、蒼い球体となったグリムド達がいるのがそんなに驚愕するものか? 

 

「契約したのは私だ! お前じゃない!!」

 

 お前は過去にこいつをこう呼んだじゃないか。『邪神』だと。

 何故最後まで付き添うことを妄信していたんだ。

 

「何故だグリムド!!」

「((-ω-))」

 

 不意に、脊髄の端から脳まで泡が次々弾けるような錯覚が走った。

 少し遅れて、それが彼らの発した笑い声だと気づく。

 僅かながらに意思疎通が成った俺ですら本能的に感じる恐怖。果たして彼らを力としてのみ利用した()にはどう聞こえたのだろうか。

 

 蒼い球体へ左手を向ける。

 同意は、受け取った。契約は、俺が引き継ぐ。

 

「なんだ? 結局私と同じことをしようというのか?」

「否定はしない。だが、俺は()よりは絆を信じる方だから、こうする」

 

 嘲笑う()を前に、右腕にかつてタロウと作り上げた、タイガスパークを再現、装備する。

 

 今、できるはずがないと思ったな? 美食同盟を嘗めるなよ!! (今考えた同盟名)

 

 まるで風船のように膨らんだ蒼い球体から、光と闇が渦を巻く。

 渦の先は俺の左手の上へと向かい、全ての力が収束していった。

 

 渦が消え、俺の掌には混沌の輝きを放つキーアイテム。

 怪獣リングではない。タイガ達の変身アイテムであるウルトラアクセサリーに似ている。

 

 だがカラータイマーを再現する位置には無機質な一つ目が宿り、ウルトラマンの顔があるべき場所は全てを嘲笑うような口が刻まれていた。

 

 いやこえぇよ。そこまで『邪神』に拘らなくてもいいと思うんだが。

 

『( ´・ω・)』

「わかった、悪かった。良い出来だ」

『( *・▽・)』

 

 準備は整った。始めよう。

 闇に偏った混沌の次は、光に偏った混沌もお前は知るべきだ!! 

 

Come on!! 

 

「原初の混沌、グリムド!!」

 

ギュンギュンギュンギュン! 

 

ギュピーン! 

 

『(`・ω・´)』

「BUDDY GO!!」

 

Ultraman Tregear Anastrophe

 

「その姿はなんだ……?」

「お前の混沌(虚無)を、切り裂く混沌()だ!」

 

 

 




ウルトラマントレギア アナストロフィ
ごめんなさい、捏造形態です。一度はやってみたかった…!
イメージとしては、トレギアアーリースタイルに、なんかキラキラしてる(申し訳程度の光要素)グリムドのパーツがアーマーとなってそこかしこについてる。グリムドの全身から生えてる赤い棘みたいなのが肩や背中を保護する甲冑になり、両腕両足はあの骨のような白さのパーツが小手や具足に。どうみてもタロウ意識してるのがわかるグリムドホーン2本生えているし、胴体はあの邪悪な顔みたいなのが金属光沢ある蒼いアーマーになってる。カオス。モンスアーマー着こなすXを見習え。
台詞ウルトラマンゼロ意識したせいで強い新形態に見えるけど、グリムドの力しか借りてないので原作トレギアと最大スペックは全く変わらない。地球環境下では燃費悪い光エネルギー寄りだし、鎧の下はただの雑魚トレギアなので下手するともっと弱い。
この形態の本質は戦うことにない。グリムドと共に在ることができると示すためにある。

トレギアのところで一度区切れば語感は良いし、ギリシャ語縛りもクリアしてる名前。
反転を意味するのですが、自分の名前と組み合わせて狂気からの反転になります。なお英語表記で書いてるせいで雑に訳すとウルトラマントレギア倒置法とかになる。ださい。
狂気から脱するという意味ではアリッサム(アリソン)でもいいんだけど、トレギアに女性名っぽさある類つけると本気で洒落にならないので最終的にこうなった。
他候補 Adamas(不屈の精神) Makarios(神からの至福) など。Selene(月)は最初、太陽の対になっていいかも!となったけどこれ女神名でもある上に、女神セレネさんはちょっとヤンデレ要素あってダメでした。光よりの混沌()

11/22追記
グリムドアクセサリーのデザインを描いてくれました!黒兎可様ありがとうございます!!

【挿絵表示】


・自分VS自分
この為にオレギアさんの一人称は『俺』でした。
原作トレギアが「光も闇もない」虚無たる混沌ならば、オレギアさんは「光も闇もある」充実たる混沌。太陽の影にはなれるが太陽の傍に在ることはできないトレギアと、太陽にもその影にもなることは絶対にできないが太陽の傍に在ることができるオレギアさん。設定上同一人物のはずなのに対立するしかない2人。

・トレギア、論戦敗北。
初期プロットでは実は自己否定の塊でもあるトレギアによる熱い八つ当たりと話術に動揺し、揺らいだオレギアさんをタロウの思い出が支えて奮起する……とかだったんですが、なんでこうなった。
いや、原因はわかってるんです。トレギアのタロウに対する拗らせまくった感情を元に、このオレギアさん見た時どういう評価するだろうって色々考えてたら、そもそもこいつを自分のありえた可能性だと認めてしまった時点で自我崩壊級のダメージになると結論付いてしまったからです。オレギアさん、コンプレックスを狂気ごと投げ捨ててちゃんとタロウの元に帰ることができたトレギアなんで。自分ではない地球人だという可能性に縋りつくしかなかったので、あっさり論破されたどころか自己分析できてるオレギアさんによりタロウという地雷を全力で踏み抜かれる結果に。
オレギアさんが憑依転生者なら『一度部活仮病で休んだら延々休み続ける羽目になってしまう負のスパイラルですね』みたいなこと言ってたと思われる。

・オレギアさんは転生者なのか憑依転生者なのか。関わった神様はいたのか。
トレギアが予定と違ってあっさり敗北してしまった為(初期プロットでは論戦劣勢→自己見つめ直しからの覚醒で2話分)、本作劇中で断定される機会なさそうなので、神様の有無は明言しますと神様転生ではありません。そうならタグつけてる。
作品あらすじに偽りなく、オレギアさんの前世は地球人です。人間の心を欲しがった人間臭いウルトラマン、トレギアに人間だった過去がついた存在です。自覚持つのが遅過ぎたせいで、ウルトラ族である認識が強すぎて元地球人という認識レベルにすら至れないだけ。私たちが今、前世はなんかの哺乳類でしたとか自覚持ったところで、人間の価値観捨てられないと思いますよ。
憑依タグついてる?そこは次回に軽く触れる予定。

・タイタス、力の賢者として盛大に推理を外す。
『光と闇について思考を深めすぎた結果、勝手に発狂したあげく、勝手にSAN0になって邪神を力にして暴れるだけ暴れていたが、タイガ達に倒された際のリレイズで盛大にバグってこうなった。だからどちらもトレギア』
これを正解できたら大したものである。光の力を信じているからこその優しい推理ミスである。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

グリムドの情動・とある輝きの奮闘

番外編位置。

グリムドの設定考察からの独自解釈全開注意。

あとオレギアさんの謎であった強制正気化ややたら強固な魂についての情報開示。


 宇宙開闢の産声たる大いなる爆発。

 

 その遥か前の世界を、現在知的生命体と定義されている者たちが完全に理解することはできない。だから、ビッグバンこそを始まりと呼ぶ者すらいる。

 宇宙の始まりからを1とし、始まりとそれ以前の境目を0、それ以前を-1とする。虚無たる世界であろうと想像するものもいる。宇宙から新たな宇宙が生じる瞬間がビッグバンで、真なる原初の宇宙があると考えるものもいる。

 いずれにせよ今の宇宙に生きる限り、確認することは叶わない世界だ。

 

 邪神グリムドはその時から在った。知的生命体が得てきた概念思考では、一言で表現しようとするだけでも、苦しみ悩むことしかできないような、次元という概念すら生じぬ世界にただ存在していた。

 

 無数の同類が、何をするでもなく蠢いていた。見るものが見れば、それは闇に溶け込み、水のようなものに浮かぶ神魂だと無理矢理解釈したかもしれない。

 

 ただ在るだけで何もかもが完結していた。

 

 それだけで全てが整っていて、そこに在るモノたちは現状について疑問の1つも浮かぶことはなかった。

 

 だから、そんな満ち足りた世界が壊されるとは考えすらしなかった。文字通り突然に世界は壊れた。

 

 もし当時の事を訊ねれば彼らは口をそろえてこう返すだろう。

 

「なんもしてないのにこわれた(邪神語」

 

 本当に急に生じた偉大なる爆発は、瞬く間にグリムド達が棲まう世界を焼き尽くした。

 

 広がり続ける無限に等しい爆発は、次元を産み、空間を産み、時間を産み、光と闇を隔てた。凡ゆる概念と共に無数の宇宙という世界に新生させた。

 安住の地は始まりという理不尽により奪われたが、グリムドは何も感じなかった。これまでと変わらない、ただ在るだけ。

 

 何もかも変わってしまったが、自分達はいつもと変わらずここに在るじゃないか。なら何も問題はない筈だと。

 

 しかし、宇宙に自分達と何もかも違う『生命』というものが無数に産まれた後、その生命の上に更に無数の小さき生命が誕生した時。初めてグリムドを含めた邪神達は興味を抱いた。

 

 新たな世界から生じた、あまりにあり方が違う新参者達。彼らは始まりと終わりを内包していた。ただ在った彼等からすればそれは異端にすぎた。

 

 それがいけなかったのだろう。

 

 興味のままに、星と呼ばれだした生命の上に降り立ってみた。

 

 全てが終わりを迎えた(死に絶えた)

 

 世界が定義した邪神という在り方は、この瞬間から始まった。

 

 彼等は意味がわからなかった。近づいただけなのに、みんな動かない。全てが違ったグリムド達は、比較を知らなかった。交流を知らなかった。

 理解できないまま、何をどうすればいいかわからないまま、次こそはと考えて、同じことを数度繰り返した。

 

 やがて、自分たちが訪れて彼等が終わり()を迎える時、撒き散らすものが感情というものであることは理解できた。

 そればかり浴びてきて、そればかり受け取って。

 これは彼等が自分達に捧げてくれている贈り物なのではと考え出した。だって、いつも同じものばかりくれるのだから。

 

 住み慣れた混沌から光と闇が隔たれて久しいが、光の味わいを知ることはなく、いつしか闇が当たり前のように邪神達の糧となっていた。

 

 だが、ある時。

 

 

 “光”に出会った。

 

 

 “光”は言った。

 

 あなた達は、何故この宇宙を生きる者たちを滅ぼすのか。

 

 この時、グリムド達は初めてまともな交流をした。“光”はグリムド達を前にして終わらないし、生命とは何もかも違うはずのグリムド達の意思を理解してくれた。そして“光”から全てを知らされた。

 

 彼等は勝手に終わったのではなく、我々が在ることで終わらされた。これはとても良くないことなのだと理解した。

 

 “光”により生命との認識の齟齬を理解したグリムド達は困惑を知った。動揺を知った。

 

 しかし、今更どうしようもない。自分達のあった世界は宇宙として塗り替えられているし、もはやどこを見渡しても(未来も過去も別次元も)、あの住み慣れた世界はないとグリムド達はわかっていた。自分達はこの宇宙に在ることしかできない。

 

 “光”は言った。

 

 このままでは、私達と君達は争いになる。お互いが違いすぎるから。

 

 争うという意味を理解して、グリムド達は強い衝撃を受けた。

 

 彼等は初めて助けを求めた。他者を頼った。

 どうすればいいのかと。星に降りなければ済む話ではないのは理解できた。だって、自分達をわざわざ歓迎する生命だって現れ出したのだ。何の疑問を覚えることなく、呼ばれるままに終わらせて悲劇を受け取った。契約というものは在るだけだった自分達には抗えないものだった。

 自発的に動かないと決めたとしても、もし儀式とかいう交流方法で呼ばれたら、同じことになってしまう。

 

 そして争うという事は、ただ在った自分達に終わりが訪れる可能性を意味していた。かつての世界が滅んでも在ることができた我々に終わりが来る。得体の知れない衝撃はグリムド達を震えさせた。

 そして“光”は、闇ばかり触れていた自分達を終わらせる(滅ぼす)事ができると理解していた。

 

 しかし“光”は、争わずに済む道を1つだけ示した。宥めるような声で提案してくれた。

 

 君達が最初に滅ぼした惑星ボルヘス。そこに君達が眠れるように封印しよう。

 

 同類達の中でグリムドが代表して答えた。

 

 それでお互いが在るならばよい。だが、我々だけが君達を知り、君達だけが我々を知らないのは受け入れがたい。

 

 “光”は言った。

 

 それは何故か。

 

 グリムドは答えた。

 

 我々と君達は共に在れないのなら、せめて我々は在ったと知ってほしい。ただ在ることが、我々なのだ。

 

 “光”は穏やかに言った。

 

 わかった。生命は夢を見る。無意識という心の広場もある。深淵の奥より、夢と、無意識へ君達が語りかけることができるようにしよう。

 

 

 かくして封印は施された。

 グリムド達は蒼い球体となって、ボルヘスの遺跡の奥底で眠りにつく事となった。封印前に何体かは分かたれて宇宙の何処かへ消えた。闇を特別気に入っていたから、封印されたくなかったのだろう。今でこそまとまって行動しているが、以前の世界では個々で蠢いていたのだから、止めはしなかった。ただ“光”には迷惑をかけてしまった。少し困っていたようにも見えた。

 

 グリムド達はボルヘスに封印されたままで問題なかった。

 

 封印されているから、討滅されることもない。ただ在る状態の今は限りなくかつての世界に近いものだった。

 

 加えて、微睡の中で無意識から存在を訴え続けることができる。

 知性を持ったあらゆる生命体は、自分たちのメッセージを夢やインスピレーションとして受け取った。様々な邪神が創作という形で世に生まれ、あるいは本当に実体化したりもした(“光”はこれも困っていたがグリムド達は知らない)。

 

 あの“光”は最適解を出してくれた。この棲み分けは素晴らしい。グリムド達は満足していたからこそ、何十億年も微睡を受け入れた。

 

 もし、光の檻みたいな結界に封じられたならば、何がなんでも食い破っただろう。

 

 

 

 封印は突然破られた。

 

 かつて世界が滅んだように、あまりにも急にグリムド達は眠りから覚めることとなった。

 

「さぁ、名も知れぬ古き邪神達よ! 我と我が身がお前達の生贄だ」

 

 態々目覚めさせて言うことがそれか。抗議の咆哮をあげるも、あの“光”と違って全く話が通じない。

 しかし、かつて自分たちを呼び寄せてくれた生命と同じ言葉は気に入った。望み通り喰らい尽くそう。久々に終わりを味わわせてもらう。

 

 そうして飛び込んだ結果が契約の成立になってしまった。

 摩訶不思議な呪術とウルトラマンとしての力でもって、グリムド達はカラータイマーの奥底へ封じ込められてしまった。

 

 だがグリムド達は気にしなかった。契約通りに力を与え、加護を与えた。

 トレギアという男が抱えていた絶望と虚無の情動は、かつての贈り物のように心地よかったし、ただ在り続けるグリムドにとっては住み心地が悪くないなら問題はなかった。

 

 世界が邪神と定義したところで、人々が感じた邪神の在り方を把握したところで、誇りや矜持が生まれるわけもなく。

 

 ただ新しく得たこの住居が維持しやすいように、求められた通りの力を授けただけだった。

 

 

 

 何もかも変わったのはトレギアがあのトレギアに変わった時だ。

 

 今の世界に変わって、無数の生命から恐怖を得た、絶望を得た、崇拝を得た、嘆願を得た。

 

 しかし、巻き込まれた純然たる怒りを真正面からぶつけられたのは数百億年の時でも初めてだった。

 

 困惑を思い出した。動揺を思い出した。自分が原因で起きた異常事態だから、この強い感情への対処はわからなかった。今までは絶望がすぐに全て塗りつぶしていたからわかるはずもなかった。

 

 そして延々罵倒される悲しみを知った。

 

 自分の加護を褒められる喜びを知った。

 

 手間暇をかけ、調理して食べるものの美味を知った。

 

 これらは過去のトレギアにはなかったものだ。

 

 だって彼は自らの命と身体を対価に、邪神の力を得て、すぐに封印したのだから。求めているのは力だけだった。

 

 今のトレギアは違う。自分達の生き様を理解してくれた。力の恩恵を身近な対象を褒めるように讃えてくれた。闇以外の味わいを教えてくれた。

 何より、気づくはずのない我々の意思に気づき、交流してくれた。“光”との対話以来である。自覚のないままに歓喜という情動を理解した。

 

 もはや総意は定まった。

 

 なに、契約は変わらない。

 

 ただ、今のトレギアと継続するだけだ。

 

 同じ存在なのだから、なにも問題ない。

 

 そう、この存在は平行世界から無作為に取り出した同位体だ。

 

 始まりの前の記憶を取り戻した稀有な個体ではあったが。

 

 そしてそれだけではないことにグリムドは気づいている。自分たちと共にあって、終わらないのは前世の記憶だけでは説明がつかない。

 

 今のトレギアとこれほどまでの意思疎通を為せているのは、きっとそれの仕業なのだろう。異物と排除する気はおきなかった。

 

 改めて見つめてみると、“光”を思わせる輝きかと思えば大分澱んでいて、寧ろ混沌に近いのは謎だった。だが、排除する気がないように、敢えて答えを探す気もまた無かった。

 

 原初の混沌は、より良い環境で在ればよいだけなのだから。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 邪神グリムドからの視線を感じた“それ”は、何の反応もないまま受け流す。そもそも自我のない存在だ。ただ共にあるトレギアの魂を大切に守り続けている。

 

 今のトレギアは、前世の記憶をビーコンに、その前世が生きていたような世界からやってきた無数の輝きを魂に宿している。本人も知らない、力ある輝き。これが“それ”の正体だ。

 

 “それ”はトレギアを創作の場で知った知性体が抱いた願い、想いの塊。

 

 『トレギアにも救いがあったらな』『救済があったらいいのに』『平行世界のトレギアもタルタロスによって歪められるのつらい』『このヤンホモおじさんどうしたら助かるの?』

 

 その場その場で浮かんだ程度の矮小かつ雑多な願い。寧ろ欲望も混ざり混沌といった類に近い。純粋な子供より、色々経験した大人の感情が多かったのも拍車をかけた。

 

 だが、混沌の性質を有したからこそそれは混ざりやすく、集合しやすく、やがて1つの巨大な光の塊(グリッター)と化した。

 

 統合された結果、『トレギアを救済したい』というただ1つの願いを定めた輝きが誕生したが、本来ならそこまでだった。一方的な願いに過ぎなかった為、肝心のトレギアと関わる切っ掛けがなかったからだ。

 しかし、ただ時間と共に霧散するはずだった奇跡は、救えるトレギア(前世持ち)の観測に成功する新たな奇跡に辿り着いた。

 輝きは、その魂を頼りに次元を超越して飛び込んだ。

 

 トレギアが前世は地球人であったと自覚したと同時に飛び込んだ輝きは、彼の摩耗した精神を癒し、彼の歪んだ感情を宥め、彼の抱いた絶望を慰撫した。

 

 そうして彼が失ったものを補完するように魂へ宿った結果、本人の性格に若干の影響が生じてしまった。トレギア本人は前世記憶が蘇った悪影響だと思い込んでしまったが。

 結果としてトレギアは強固な魂を得て正気に返り、タロウの元へ自ら帰ることができた。もし、輝きに自我があれば歓喜に包まれた事だろう。

 

 そして役割を終えたはずだった輝きは、二度目の仕事を果たすことになる。

 

 

 

 トレギアの融合である。

 

 

 

 救ったはずのトレギアが失われてはたまらない。輝きは邪神の浸食からも、狂気に陥ったもう1人のトレギアからも懸命に守り抜いた。

 

 もう1人のトレギアはなんか勝手に発狂を強めて休眠状態に入ったが、相手は原初の混沌。融合を防ぐこともかなわず、グリムドの力からは抗いきれなかった。

 

 その結果、また奇跡が起きた。輝きは、混沌の性質を持ちながら、ただの願いの塊だ。狂気に支配されることはなく、願い成就の為以外に動くことはない。

 

 混沌の部分がグリムドの精神汚染を受け止め、力が混ざり、グリムドとトレギアの、意思疎通の橋渡しとして機能し始めた。

 

 その結果、トレギア自身の抱いた激しい感情が邪神グリムドへよりはっきりと伝わるようになり、グリムドの行動に変化が生じるようになった。

 

 光として残った輝きはトレギアの魂保護に専念し、休眠に入ったトレギアも同じように守ることにした。何故なら『トレギアを救いたい』という願いそのものだからだ。おかげで、表層に出たトレギアは狂気の記憶に苛まれていたが。

 

 輝きが生まれた同じ宇宙で生きた記憶を持つ前世がなければ、こうも保護はできなかった。輝きが良くも悪くも欲望の混ざった正しく人間の心のような混沌の性質を有していなかったら、グリムドの力に抗うことすらできなかった。

 

 “それ”は今もトレギアの救済を願い続け、トレギアと共にある──。

 

 

 

 でも、元の宇宙への戻り方とかはわかんないからトレギア自身で頑張ってください。




・邪神グリムド
はい、超全集とか各種考察とか読み込んで、考えに考えた結果がこういう『在り方』です。

ニュージェネが変身能力失ってまで作った結界はわずか半年でぶっ壊す癖に(しかも半分の力で)何故ボルヘスでは封印を解かれるまでずっと微睡んでいたのか。
原初の混沌でありながら、邪神と呼ばれるのは何故か。
なんでトレギアのパワーソースとしてどこまでも従順だったのか。

ひゃっはー!考察班の腕が鳴るぜええええええ!!
で、生まれたのがグリムド神話である。終盤はただオレギアさんに懐いてるだけですが。

・グリムドがかつていた世界はもうどこにもない
私はそもそも『あらゆるものの行く先が虚無』という考え方は大真面目に異論ありなので、解釈に持論も混ざっています。
あらゆるものの始まりより以前を虚無と解釈するのは勝手だが、あらゆるものの終わりが虚無なわけがない。仮に来るとしたらそれは果たして数億年後なのか数十億年後なのか数百億年後なのか……途方もない未来なのは間違いなく、そんな先の事を考えて虚無主義に走るのはひどく滑稽では?というトレギアの思想全否定スタイルですが私はトレギア好きですよ。あいつ虚無主義に走ってる理由がしっかりしてますからね。
グリムドはその遠い未来ではなく封印を選んだから、この世界の果ては少なくともビッグバン以前の世界ではないとみています。でも虚無の世界は別にあるよ、円谷ワールド四次元空間やら異世界やら夢の世界やら電子空間やら色んな世界内包してるし。単に虚数空間みたいなのがグリムドがいた世界ではないだけ。

・“光”って誰だよ
ノア様じゃないの?知らんけど。
いや、本当に決めてないんですごめんなさい。でもグリムド達を数十億年も封印することができる存在ってどう考えてもチートラマン系統か、その大本みたいな『宇宙意志』級の類じゃないと不可能じゃないかなって……。

・オレギアさん、転生だけではなく憑依もされていた。
トレギア「ほらみろやっぱり憑依じゃないかてめぇ!!!」
残念憑りついたのは混沌たる“光”であって地球人ではない。私達の住む世界のように円谷プロが色んな作品世に送り出している世界で、トレギアを救いたいという願いの塵が積もり積もってグリッターの輝きとなった奇跡が、オレギアさんの魂超強化とグリムドとの意思疎通可能というチートを為しています。でも輝きがなせたのはそれだけ。

グリムドと「絆」を育んだのはオレギア自身です。


で、なんで数ある円谷ワールドの奇跡達の中からこんな面倒臭い設定にしたかですけど。
私がこのSS書き始めた理由の1つがそもそも「あの馬鹿野郎どうにかして助けられないか」なんですよ。二次創作なんだからIF展開で、劇場版でタロウの手を取って復帰する未来描いてもいいじゃんってなったんですが、筆が進まないんですよ。どれだけ助けようと良い展開に持っていっても闇堕ち後のトレギアはその手を跳ね除けるんです。もうマジで面倒臭いのこの拗らせウルトラマン!!
そんな想いを抱いたファンは私だけではあるまいと、こういうなんか腐臭も漂いそうなオタクグリッターを誕生させました。
闇堕ち前にタロウの元へ帰るだけならオレギアさんみたいに前世記憶蘇るとか、変装したキングに諭されるとかきっかけ1つでよかったんですが……本作みたいにスペアボディ強制融合関わってくると奇跡乱発してアホみたいにブーストかけないと駄目だったのも大きいです。グリムドという規格外が本当に……。

あと、オレギアさんが前世記憶の人生部分をあまり掘り返さないのはこの輝きが混ざって余計認識が難しくなってるから、という設定にしています。男性だろうという認識はある程度。霧崎へ初変身した時にふと想起した程度で終わっています。ただしオタクグリッターは男女混合してる為、深掘りしたら下手するとSANチェック入る。

神様転生ハイブーストにすれば話は簡単でよかったんですが……なんかこう、円谷ワールドに介入する神様ってのがイメージしにくかったんです。ほら、この世界で地球人の魂を異世界転生させる真似しそうなやつがよりによってトレギアじゃないですか。怪獣と、怪獣によって死した魂を救う為にウルトラ怪獣擬人化計画立ち上げた『校長』とかもいますけど。

ともかくこうして救われたトレギアであるオレギアさんが生まれたことで、ようやくタロウの手すら引っぱたいて死を選ぶ拗らせヤンホモおじさんを助けられる可能性までプロットが仕上がりました。トレギアを救うためにまずはトレギアを救う。カオス。

次回、最終回(?)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トレギアだけど、元の宇宙に帰りたい

この小説は、トレギアのSSを書きたい思いから始まった、アホの物語である!

何が言いたいかというと、シリアスに傾いた分ネタへの揺り戻しが起きやすい世界。


 

 

 混沌とはそもそも何を示すのか。

 

 ()は光も闇もない虚無を求めて、この原初の混沌に手を出した。

 

 では邪神グリムドとは虚数世界に存在していたものなのだろうか。実数世界の生じる前は虚数世界と表現してよいのだろうか。

 

 俺は科学者にして哲学者だ。いくら()が数万年考え続けて至った答えだとしても、鵜呑みにする事はない。

 何より、体感しているものがその答えを否定している。()が辿った道程が示している。

 時間があるなら、一度議論もしてみたいな()。最初の質問はこうだ。

 

 

 [ヒョホホホホホホホホホホホホホ]

『“無”という存在なのかグリーザ。流石の私も“無”はどうすることもできないな』

 [ヒャハハハハハハハハハハハハハ]

 

 

 

 “無”に手出しできない“虚無”とはいったいどういう理屈だ?

 

 

 

 断言する。グリムドの力である混沌は“有”に属する力だ。ただ宇宙創世より以前の存在だから虚無だと解釈しえただけだ。

 あ、まってください長官。「素人質問ですが」とか言い出さないで。これはですね、イメージを強化するのに必要なんですよ!! 

 

 そう、光も闇もある混沌、それがグリムドなのだと強くイメージすれば、グリムドはそのように“在る”のだ。

 虚無の力として()へ応えてくれたように。

 原始生命のプールとも言うべき超古代の怪物ガゴゼを知っておきながら、混沌が万有である事を理解しなかったのは盲点だった。

 原初の混沌は万能の願望機と同じ特性だ。望まれた力を、“最初からそう在った”力として提供できる。契約者の持つ指向性に従うのだ。

 

 劇場版にて、タロウが完全に食い尽くされたりしなかった理由もわかった。原初の混沌にあんな憑りつき方されたら普通は終わる(死ぬ)

 それはトレギアからすれば考えたくもない話であり、全く信じていない話でもあった。太陽がグリムドに負けるのは解釈違いだけど、グリムドに囚われたタロウと共に在りたいというクッソ拗らせた感情があの闇堕ちタロウを生み出したのだろう。完全に支配できなかったのはタロウ本人の力やタイガ達の力もあるが、トレギア本人が奥底で望んでいなかったと俺は思う。

 

 だから、俺はこういう変身ができるのだ。

 

「その姿はなんだ……?」

 

 動揺を隠せない()。ふ、これが可能性だ。

 アーリースタイル(元の姿)に、グリムドが鎧となって共にあるトレギアだ。

 

 トレギア アナストロフィととりあえず名付けたこの姿。

 

 グリムドが怪獣として実体化した姿の部位がそれぞれ甲冑のようなパーツとして俺の身体に貼り付いている。

 もうちょっと光に寄ったキラキラしたのをイメージしていたのだが、グリムドにラメ付けましたみたいな程度しかキラキラしていない。

 まぁグリムドの怪獣体自体がかなりごてごてした感じなのでアーマーとしての相性がいいのはわかる。ただ、この頭に2本生えてる赤い角……すごく、タロウです……。

 

「お前の混沌(虚無)を、切り裂く混沌()だ!」

「戯言を!!」

 

 ちょっと照れくさい想いを隠すように吠えた俺に対し、最期の力を振り絞るように激しく闇を吹き出しながら、()が吶喊してくる。

 全然光に見えないので戯言と言われても言い返せない。言い返せないが、それでもこれはグリムドと共に戦うもう1つの姿なんだ。

 

「シェアッ!!」

「ぐっ!? あ゛ぁ゛っ!!?」

 

 鎧袖一触。たった1発の反撃で()はあっさり吹っ飛ばされた。

 闇堕ち俺の状態はグリムドを内包した姿。

 今の俺はグリムドを纏った姿。違いはそれだけであり、俺自身の最大スペックも変わらない。寧ろ、クソザコの俺が鎧纏っただけなので総合的には弱体化している。

 ただ、グリムドが表に出ている分、その気になれば『グリムド自身の最大出力を繰り出せる』ので単純火力だけは上を狙えるか。街中とかならデメリットしかないからやらんけど。

 

 単純な強化形態というわけでもないのに、俺がわざわざこういう形態になってるのは、理由がある。

 

「わかるか()。これは、グリムドを封印していない。拘束ベルトもないままに共に在る」

「!?」

「間違っても力が抜けださないように雁字搦めにしたのは、お前がグリムドをパワーソースにしかみてなかったからだ。だが、グリムドと絆を結んだならば、結べたならば、グリムドは抜け出すことなくこうして力を貸してくれるんだ」

 

 なお、実際は半分抜け出しても再封印できないぐらいでトレギアの言うことは素直に聞いていた模様。まだ半身トレギアの中に残ってたにしても従順すぎる。前世記憶曰く、同一個体として認識してた説もあるようだが。

 まぁわざわざ()にそんな余計な事は言わない。

 

「絆だと……!? 邪神と!?」

「普通の光の戦士なら、できないだろうな。だが、()ならできたと思うぞ。俺ができてるんだから」

「何が言いたい……!」

トレギア(俺達)にしか成せない事はあった、と言っている。別にグリムドに限った話じゃない。タロウへのコンプレックスなんか抱かなくても、タロウの傍に立つ資格はあったんだ」

「……」

 

 闇を知ろうとしたのはぶっちゃけ好奇心が爆発したせいだが、タロウという太陽に焦がれて、理想を高めすぎて、自分ではたどり着けない境地だと理解して絶望したのも事実だ。

 本当自己分析すればするほど自己嫌悪の渦は深まるばかりなんだが、事実こんな()に成り果てる始末なんでどうしようもない。

 

 けど、俺は俺だから成せたことをやり遂げたぞ。原作の運命に翻弄されもしたが、俺は原作より命を救えたはずだ。

 グリムドともこうして絆を示すことができた。俺にできたということは、()にだってできたことなんだ。

 狂気に陥らずともタロウの傍に立てた事を示し、ドヤ顔で勝利宣言を決める。絆を叩き付けまさに気分は完 全 論 破。

 

 そこへグリムドがもそもそと俺に何かを伝えてくる。半分申し訳なさそうに、半分呆れながら。

 

「(;´・ω・)」

「え、こんな会話の域をデフォでやれるの俺だけ? 普通まずわからない? あのトレギアだと、意志があることに気付けてもそれだけじゃ思考体系違いすぎて交流はできなかった?」

「……おい」

「……いや、お前ならやろうと思えばできたでしょ。長官ほどとは言わんが開発分野にかけては天才だと自負している。宇宙古代呪文とか駆使して意思疎通用の翻訳機は作れるだろ」

「……まぁ、作れただろうな。やろうとすら思わなかったのは確かだ。だがお前さぁ……」

 

 赤い瞳とグリムドからジト目を感じる。締まらんなぁ、くそう! 

 結論は間違ってないけど過程を間違えてる論文を提出した気分ですごく恥ずかしい。

 タロウの傍に立てたという違いを突き付けるだけでは弱いから、俺が得た新たな絆を示して完全無欠の勝利を決めたつもりだったのに……。

 

 無様に頭を抱える俺へ、完全に侮蔑した視線を投げかけていた蒼い影だったが、やがてため息をついたように肩を落とすと、両手をあげる。

 わかりやすい降参のポーズだった。

 

「言いたいことは終わったか? とっくに勝敗自体はついているのだからそろそろトドメを刺せ」

「どうした急に」

「興が冷めた。いや、諦めがついた。グリムドを奪われた時点で私はもはや消滅するしかない」

 

 目覚めて乗っ取り返そうとしたが失敗し、最期の賭けであるトレラシウム光線もダメだった以上、詰んでいるのは確かだ。

 消滅するまで狂乱しながら暴れたり捨て台詞を吐きながら自ら死ぬと思ってたから意外だ。台詞の通り悟ったのだろうか。

 

()にしては受け入れるのが早かったな。散々光と絆に対して頭ごなしに否定していたような頑固者だったはずだが」

「貴様を私と認めるなど絶対にしないが、もはや私の感情以上の反証ができない。それに、グリムドとの絆とやらはともかく、そのグリムドと出会う前にお前はタロウの元へ帰った。これを私にもできたと突き付けられるぐらいなら、お前を認めぬまま終わりを迎えよう。ただ虚無へ一足先に還るだけだ」

 

 なるほどさすが虚無主義。己すら無価値であるからこその挙動ということか。

 まぁじゃないと劇場版の時みたいな馬鹿な破滅行為しないよな。そして決して同一人物だと認めないまま消えることで最後の抵抗をしているつもりなのだろう。消える直前に毒ある言葉を吐くつもりなのが簡単に想像できる。

 

 けど悪いな、俺は自分殺しなんかしたくないし、お前を許す気なんかさらさらない。

 

「シェアッ!!」

「!!」

 

 無抵抗を良いことに、俺は蒼い影へ光線を撃つ。

 それは破壊の性質を持たない。保存と変化の性質を持つもの。

 ウルトラ戦士が人間の姿を取った際、元に戻るための変身アイテムを作成する技術。

 怪獣をカプセルに封じ込め、使役する技術。

 怪獣の力と魂をリングに変化させ、使役する技術。

 

 それらの技術の応用が、この光線の正体だ。

 破壊の一手ではないことと、身に覚えがあり過ぎる光線の性質に()が目に見えて動揺する。

 だが今更抵抗しようがもう遅い。我々ウルトラ族が一度発動した術式は、途中で防げるほど柔なモノではないのだ!! 

 

「貴様、これは!?」

「ま、わかるよな。今回はフーマにお前がやったような、アストラル体を封じ込める技術も併用している」

「なんの狙いで……まて、貴様まさか」

 

 流石は()。気づいたか。だってお前はトレギア()だもんな。

 ただの影のくせに蒼白となっていることが伝わるほどの動揺を肌で感じながら、俺は最高の善意(あくい)でもって引導を渡す。

 

「ちゃんと、お前のタロウの元へ送り届けてやる。安心しろ♪」

「おいまてやめろ、やm……」

 

 蒼い影が光に飲まれて消えていく。やがて、淡い闇のようなオーラを纏った、俺の顔がついたウルトラアクセサリーが手元にやってきた。

 この世界を生きた、トレギアの魂が内包されている。封印術式もかけているので、自分の力では元には戻れない。グリムドの力もないしな。

 闇のゲームに敗れた者は魂を奪われるというわけだ。……前世記憶の受け売りだが。

 

「グリムドを俺が引き受けたからできた選択肢だ、喜べ()。そのボロボロの魂、太陽の傍で癒してもらえ。そして癒えたら、命をもらって蘇ればいいさ。ウルトラマンとして」

 

 それが最大の罰になり、救いになるだろう。

 この世界のトレギアの物語は、死に逃げなんて許さない。

 

 

 

 

 なによりお前自分の愛するタロウと、俺より先に再会できる勝ち組だぞ。はーマジはぁ、なんだって元凶にこんなご褒美与えなきゃならんのだくそが!!! 

 

「(;´・ω・)」

「なんだグリムド! 空気読めとか言うなよ! どっから覚えたそんな概念!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 俺達の前で、トレギアにまとわりついていた闇が弱弱しくなっていき、やがて完全に沈黙した。

 その姿は、俺達と相対していたトレギアの姿と変わらない。

 闇を祓ったのか、飲まれたのかがわからなくて声をかけることもできず困惑していると、トレギアは自分の身体をみてあっけらかんと呟いた。

 

「あ、現実じゃ変わらずこの姿なのな。拘束ベルトのきつさからは脱出できないのかーそっかー」

「(・ω・)」

「今はまだ封印されている方が色々楽? 確かにあの形態、グリムドの負担増えるのは事実か。現実でグリムドの力が暴発したら不味いし、慣れるための練習を熟してからでも良いのは確かだ」

「(・ω・)ノ」

「ふむ、仮面は拘束と関係ないのか。じゃあ外そう、色んな意味で仮面被る必要もないんだから。変身アイテムは考えなおすかな」

 

 口調の柔らかさでわかる。というか俺を見ずに自分の事を真っ先に気にしているから断言できる。

 このトレギアは、信用できる方のトレギアだ! 

 彼が右手を自身の顔へ向けると、顔を覆っていた蒼い仮面が砕けて、ウルトラマンとしての素顔が現れた。

 あの苛烈な赤目をしてたとは思えないほど穏やかな表情。

 顔だけでも闇から解き放たれたようで、それが自分の事のように嬉しくて駆け寄る。

 

「トレギア、無事だったんだな!」

「ああタイガ、すまない。心配をかけてしまったようだ」

 

 トレギアはすっかり肩の荷が下りたような柔らかい雰囲気を身にまとっている。

 やはり、あの闇がトレギアを狂わせていたのだろうか。

 

「今のトレギアが、本当のトレギアなんだな!」

 

 今目の前にいるトレギアこそ、父さんの親友だったウルトラマンに違いないと喜びを隠せずにいると、彼は困ったように頬を掻いた。

 

「あー……そうか、そういう考えになるのか。タイガ、それは違う。あれも本当のトレギアだ」

「えっ!?」

「手短に話そう。戦わなければカラータイマーも急かすまい」

「わかった、教えてくれ。トレギアに何があったのか」

 

 俺の言葉にトレギアは頷くと、指を俺の頭へ突き出し……莫大な情報量を一気に叩き込んできた。

 

『!?』

『うわ!?』

『ッッ!!?』

「ぐ、これは……!?」

 

 俺もタイタスもフーマもヒロユキもいきなり叩きつけられた情報の波に頭を押さえる。

 確かに手短だけどこんな強引なテレパシーアリかよ!? こいつやっぱりトレギアなんだな!!? 

 頭痛のような衝撃が一瞬で済んだのは、これでも配慮してくれたんだと思うけどさぁ!! 

 

「伝わったかな? ヒロユキ君の方には大分端折った情報量に留めたが」

「ああ……」

 

 トレギアの言いたいことは伝わった。

 自分が平行同位体のトレギアであること。俺達と戦ったトレギアが、絆の力で一度倒された時に肉体を蘇らせようとして呼び寄せたトレギアであること。

 最終的に、あのトレギアではなく自分自身が主導権を握ったこと。今のトレギアは、僅かながら先の運命を知っており、ウーラーをなんとしても救いたくて今まで運命に沿いながら自分なりに最善を打とうとしてきたこと(打ったと言わないのは謝罪の気持ちも捻じ込まれていたからわかる。というかこの謝罪の情報がとんだ長文量で、これがなければだいぶ情報量減らせたと思う)。

 

 そして、俺達と戦ってきたトレギアは、今のトレギアに敗れてウルトラアクセサリーと化して眠っているということ。

 その小さなアイテムと化したあいつを、トレギアは俺に差し出してきた。

 

「タイガ、君達の傷が完全に癒えた時、いつか光の国に帰るときが来るだろう」

「……」

「その時、このウルトラアクセサリーと化している私をどうかタロウの元へ渡してやってくれないか。仮面を付けてなお素直になれなかった馬鹿な私だが、今度こそタロウの元へ帰れるだろう」

 

 色んな宇宙で暗躍し、多くの文明や人々を苦しませた巨悪。

 絆と光を否定する為だけに、俺達を苦しめてきた張本人。

 だが、それでもこのトレギアもウルトラマンであり……。

 

「このトレギアも、父さんの友人……」

「そうだ、タロウは友人だ。親友だ。太陽だ。私にとっても、この私にとっても」

 

 トレギアの言葉には強い想いが籠っている。

 父さんとの絆を強く感じるものだった。父さんを太陽と評するのは、正直よくわからないけれど。

 どっちにしろ、俺の答えは決まっていた。頷いて、このアクセサリーを受け取る。

 

「わかった、預かります」

「ありがとう。ああ、光の国で実体化したら1発ぶん殴っていいと思うぞ。きっと光の国に美しい流星が流れることだろう」

「……自分自身ですよね?」

「悲しいことにね」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 これで今度こそ、すべてが解決したか。

 ピリカを完全復活させてE.G.I.S.側でも完全無欠のハッピーエンドを迎えさせる部分も残っているが、それは俺がいなくても問題ないしな。

 万一に備えてヒロユキ君に転送した情報には、ピリカ復活までに必要なルートも与えてかつ予備案も用意している。大丈夫だろう。

 

 正直、()の突発的行動によって、最終的に、奇麗に分離できたりタイガ達に俺の事情を認識してくれたのは最高の結果を生んだと言えるだろう。

 あいつはあいつで愛しいタロウの元で新生活送れるもんな!! クソが!! 

 

 ここまで打ち解けられたならば、もうしばらく滞在してタイガ達に協力しても良かったかもしれないが……やはり、元来の目的へ舵を取るべきだ。

 

「私は、どれだけ時をかけても元の宇宙に帰る。私が会いたいのは、私の親友なのでね」

「そうか……じゃあ、お別れだな」

 

 ちょっと名残惜しむように言ってくれるタイガの優しさに嬉しくなる。

 だが俺としても関わった責任まで捨て去るつもりもないさ。

 

「なに、この世界とは十分すぎるほど縁がある。グリムドもこの世界のグリムドなのだから。だから、元の宇宙に辿り着くまでの第二の故郷として、また来るよ」

「! じゃあ、その時は歓迎する!」

 

 トレラ・スラーによるゲートを開く。

 これまでより最大規模に歪んだその扉は、こことは異なる世界へ飛び立つためのものだ。

 別宇宙へ行くよりもずっとエネルギーを消耗するから、つくづくグリムドのエネルギータンクっぷりには感謝だ。

 そうだ、最後に大事な話をしておかないと。

 

 

「ああ、そうだ。私がここからいなくなる以上、運命のうねりがどんな代替を用意するかわからない部分がある。タイガ達なら大丈夫だと信じているが、その時は少しでも力になるつもりだ」

「代替?」

「雑に言えば、ラスボス(グリムド)の代わりかな」

 

 無いのが一番だが、劇場版相当のボス、でてきそうなんだよなぁ……。

 こればっかりは完全な未知であり、当たってほしくない予測でしかないので杞憂になることを願おう。

 

「ああ、その時はまた一緒に戦おう!」

「ありがとう、ではさよならだタイガ、タイタス、フーマ。そしてヒロユキ君! 君たちの完全勝利だ、おめでとう!!」

「(・ω・)ノシ」

 

 言いたいことは情報伝達で一方的に叩き込んだし、振り返らないまま、ゲートの向こうへ飛び込んだ。

 

 

 やっとスタートできる。俺の太陽を目指す旅が。

 歓喜を胸に宿しながら、俺は目の前の混沌たる道を走り出した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 長きに渡ったトレギアとの戦いも、思わぬ形とはいえ決着し、僕らはウーラーが残した暖かな光を眺めていた。

 地球全土を渡っていく光は、見上げる命全ての心に、優しい輝きを伝えてくれている。

 

『ヒロユキ、見てるか』

「ああ、君と僕で……いいや、ピリカさんと皆で一緒につくった想い……」

『ああ』

 

 僕たちが辿り着けた奇跡を心の隅々まで刻み終わった頃、フーマがタイタスの脇を肘で突いた。

 

『で、推理外した感想はいかがですか賢者さん』

『フーマ!』

『いや、あれは無理だって。俺もタイタスの言うことが真実だと思ったし』

「平行世界かー……ああいうトレギアもいたってことなんだね」

 

 タイタスは恥ずかしそうだったが、あれは本当に正解出すの無理だよ。

 あんな嫌な宣戦布告しておきながら菓子折り渡したり、ホマレ先輩を傷つけておきながら(報復狙いで先輩の命を狙っていた革命闘士残党の方はトレギアが倒していたのも知った。そこで終わればいいのになんで無理に運命に合わせようとしたんだろう。この辺の謝罪の言葉うんざりするほど長かった)退院祝い渡したり、本当に変なトレギアだった。

 

『あんな爆弾みたいな情報頭に叩きつけたあげく、言うだけ言ってすぐいなくなったりするとことか、まさにトレギアだったな』

『あと、一番見ている相手がタイガである点もそうだったな。タイガの父親と親友だったなら、無理もないのだろうが』

『でも戦い方は正直、俺らと敵対してたトレギアの方が……』

『それ言ってやるなよ。絶対凹むぞあのトレギア』

 

 すっかり肩の力が抜けたような皆にいつも通りの空気が戻ってこようとしているのを感じる。

 あとE.G.I.S.に、ピリカさんがいてくれたら……ってそうだった! 

 

「そうだ、相棒! あのトレギアが教えてくれたんだ! ピリカさんは助かるって!!」

『そうなのか!?』

「あの時諦めずに手を伸ばして掴んだものをドライブに入れてみろだって! 行こう!!」

『ああ!!』

 

 

 こうして、僕たちの世界に平和が戻った。

 E.G.I.S.には念願の後輩として、マグマ星人(警備士)とマーキンド星人(会計)が加わり、エオマップ星より新造ボディを送られて蘇ったピリカさんも帰還した。

 

 そしてついに公に宇宙人の存在が認められたことで、E.G.I.S.は地球人と宇宙人が共同で働く職場の、政府公認のテストケースとして新たな1歩を踏み出した。

 地球人と宇宙人が手を取り合って生きる未来、その1歩を決して踏み外さないよう、そして後に続く人が増えてくるよう願って僕たちは歩いていく。

 

 奇跡の物語は始まったばかり。

 未だ共存の課題は多くても、僕たちならきっと大丈夫だ! 

 

 だから、これからもよろしくね、相棒!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイケが渦巻く混沌の道を歩いていく。

 当てもないまま、ただ俺のタロウに会いたいという想いだけを羅針盤にする。

 1発で辿り着くなんて思っていない。だが、絶望することもない。必ずたどり着けると信じている。

 だからせめて、辿り着いた世界ではグリムドと共に楽しんでいこうと思う。

 

 そう、奇跡の物語は始まったばかりなのだ! なんか先に誰かに台詞取られた気もするな? 

 

「長い付き合いになりそうだが、よろしくなグリムド」

「(^_^)v」

「さて、記念すべき第二の世界は一体どういう平行世界なのやら……」

 

 光が差してくる。出口だ。

 俺は期待の一歩をその向こうへ踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我は究極生命体アブソリューティアンの戦士、アブソリュートタルタロス……違うな、もっとこう、威厳ある風に。我は究極生命体、アブソリューティアンの戦士! アブソリュートタルタロス……!」

「……」

「ふむ、ポージングはこうかな、手の角度はもっと上げた方がいいか? アブソリュート、タルタロス……よし、この部分で手を振るえばいい具合だ!」

「……」

「ではもう一度。我は究極……ん?」

「スゥー……間違えましたー……」

 

 

 

 拝啓、俺の愛しき太陽へ。

 俺は今、顔真っ赤にした自称究極生命体とやらに追い掛け回されています。光線がどれも即死級でヤバいです。

 速攻で別次元へ転移して逃げていますが無駄にしつこいです。

 

「殺す! 貴様は必ず殺す!!」

 

「なんで俺の時空転移についてこれるんだよおかしいだろこっち来るなあああああ!!」

「我は究極生命体、アブソリューティアンの戦士!! アブソリュートタルタロス!!! 私の誇りの為にも世界から消え失せるがいい!!!」

「それもう聞いたから!! もういいから!!!」

「(; ・`д・´)」

 

 ああ、早く帰りたいなぁ!!! 

 

 俺の尊い願いが叶う日はいつなんだ。教えてくれタロウ……! 

 

 

 

 

 トレギアだけど、元の宇宙に帰りたい ~タイガ編・完~

 




はい、というわけで、タイガ編完結です。
実質最終回というか、元来予定してた結末(帰還)から変更して打ち切りエンドみたいなオチの仕方にしています。

理由:実は元々タイガ編で完結予定だったけど、もうちょい続き作れそう。

本作書きだした目的が「トレギア転生SS書いてみたい」「トレギアに生存エンドが欲しい」「タイガの物語もうちょっと後味よくしたい」なので当初書きたかったものは全部クリアしています。元の宇宙に帰るための布石もちゃんと用意してたので、それ拾うだけでよかったのですが。
書いてるうちに書きたくなってるネタはそこそこ増えていきまして。
ですので次章プロット仕上がり次第、次の物語を投稿していくつもりです。

ただ『仮にエタっても、着地点となる回さえ書き上げたなら、一応形にはなる』という持論によって、ここで終わっても作品としては問題ないようにしています。もしプロット作成困難で終わったら元々予定してた最終回『帰還』をしっかり投稿するからエタることはありません。

色々枷も壊して、元の世界へ帰るためにあらゆる異世界へ飛ぶオレギアさんですので、ネタには困りませんし、やっぱり元来用意してたちゃんとした最終回『帰還』書いてこそとも思っています。
それでも続きはプロット仕上がり次第になるので、次の投稿は長くて1,2か月後ですかね。
本作を読んでくださった方に感謝を。続きが投稿された時、また、楽しんでいただければ幸いです。

・グリーザ
宇宙の孔。無。オレギアさんは、これに手出しできなかったトレギアについて物申しているが、実は「お前は自由にしていいよ」と台詞が続いているため、手出しの意味を見出せなかっただけという説もある。オレギアさんからすると、全ては虚無だという持論を本気にしてるなら、「その無を証明手段に使ってないなら、やはり虚無主義は単なる建前だな!」となるのでわざと手出ししなかったならそれはそれで煽る。
一応本作では、ガチで手出しできなかった説を採用。

・オレギアさん、ボディは結局闇堕ちスタイルのまま。
トレギアの精神は追い出せたが、シャイニングゼロみたいにはいかなかった。
契約自体は引き継げているし、絆もあるので習熟すればいずれはアーリースタイルデフォでグリムドがアクセサリー状態でも旅は可能です。
ですがグリムドは本能で効率性を選べる生命体。現時点では一体化してないとトレギアの味覚で食事が楽しめないのでこうなりました。
仮面は剥がしているから、傍目からは『なんかヤバイ格好してるけどウルトラマンなのは顔で伝わる』なのでだいぶマシ。

・情報伝達方法
タルタロスのネタバレ攻撃と同質のやり方だが、本質は長文ウルトラサインダイレクトアタック。
心を込めたテレパシーなので、オレギアさんの気持ちも正直に伝わるから誤解が生じない素晴らしいやり方。タイガ達が信じてくれてるから初めてできるやり方でもある。信用度0でこれやってもただの精神攻撃か、騙そうとしてると思われるだけ。
なお、大量の謝罪文が練り込まれておりタイガたちが頭痛を覚えたのはこれのせい。

・本作における劇場版タイガ
グリムドがそもそもオレギアさんに憑いていってるし、トレギアはアクセサリーで休眠中なので完全破綻している。つまり、これを無理矢理劇場版展開させる場合、グリムド相当の大ボスがタイガのいる地球に君臨することになる。なに、万一そうなってもタイガがいる!!

・今現在のオレギアさん
元の宇宙(せかい)に帰る為、無限に等しい平行世界を巡る旅を開始。
蝕む狂気であったトレギアは分離したので、前世記憶との混ざりだけ気にすればよくなった(オタクグリッターは自覚していない)。ちょっとアホじゃなくなった分だけパワーアップ。とりあえずまずは元の宇宙を見つける手段や方法の取っ掛かりを得られるような世界を探している。
旅に出て早々、アブソリューティアンがトラウマになった。

・アブソリュートタルタロス
愛称はタルタルソース。引き際を誤らないが、誤らなさ過ぎて逃げ癖あるとか言われたり肩書や実力、目的はガチでやばそうなのに妙に株の伸びが悪い。
大いなる陰謀を実行する前に、格好良い名乗りを練習してたところをオレギアさんに見つかってキレた。
なお、オレギアさんは無事に逃げ切った。別の平行世界に逃げられて追えなくなってしまった究極生命体涙目。この世界線におけるタルタロスはトレギアを仲間に引き入れない可能性が高い。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

気に入った星に何度も足を運ぶってあるよねbyトレギア

次章への繋ぎ、と言う名の現在のオレギアさんについての話。


 ─とある宇宙のとある地球─

 

「焼けたぞグリムド」

「o(*゚▽゚*)o♪」

 

 俺の言葉に、内にいるグリムドから期待と喜びが渦を巻いた感情が伝わってきた。

 焼き上がり、脂の滴る肉からはなんとも香ばしい匂いが漂い、食欲と期待を刺激する。

 店が自慢する秘伝のタレを絡ませて、急かされるまでもなく、既に待ち切れない様子の口へと運ぶ。

 

「うまい!」

「d(^_^o)」

 

 思わず叫ぶほどの美味が、口から全身を刺激していく。期待通りの旨さだ!! 

 一度覚えたこの歓喜の味わいを、何度も摂取するべく肉を焼き、食べる。止まらない。この突き進む衝動はもはや宇宙を走る彗星だ!! 

 

「なんと、肉だけではない。野菜も恐るべし旨味だ! 食感の違いが、食事全体を飽きさせないッ!!」

 

 食べながらにして気づく。焼肉という主題においても、野菜はただの肉のオマケというわけではない。

 焼く事でより美味しくなる野菜、焼かずに肉と共に味わうことで相乗効果を数段まで高める野菜、素晴らしい。しっかり主役を支えている! 

 

「そうか、この米もまた肉の旨味を引き立てているのか! ともすれば濃すぎるタレを上手に緩和しつつ、米そのものの優しい甘味が新たな喜びを口内に生み出しているのだ!」

「(・ω・)ノ旦」

「ああ、この飲み物も良い。舌上や喉を流れてリセットしつつ、胃への負担も抑えてくれるようだ。お茶というものが、種類によってここまで効能も味わいも違うとは」

「(`・ω・´)」

「ああ、もっとだ! もっと食べよう!!」

 

 満たされる心が歯止めをかけるまで、この箸は止まらないと誓おう!! 俺は、ウルトラマンだ!!! 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ◇

 

 

 

 我ながら呆れるほど食べてしまった。ウルトラ念力で消化を早めることにする。だがこの満足感はしっかり残って気持ちが良い。

 素材のレベルを無視すれば、料理の味わいとは複雑な工程と繊細な技術で差が大きいものと考えていた。だが肉を自ら焼き、存分に食らうというシンプルな工程だけでここまで満足できるとは。また学ばせてもらった。タレは流石に複雑なのだろうがな。

 サザエのつぼ焼きも絶品だったが、この満腹感や豊かなバリエーションは楽しめなかったからな。思えばあれも単体ではなく他にも具材か別の料理を用意するべきだったのだろう。そもそもウーラーの落下で中断したし。

 

 ちなみにグリムドだが、相変わらず俺の内から食の娯楽を堪能している。直接味わってみればよいと思うのだが、グリムドからすれば「グリムドと共に味わいたい気持ち」「俺が美味しいものを味わう気持ち」「俺の味覚を通して得られる美味」で3得らしく封印限定解除してまで得られる旨味はないそうだ。味覚能力の違いは盲点だったなぁ。

 

「1人なのに2人という意味では、グリムドと共に在れる今は良いものなのだろうな。俺はあれを大人数で食べたいとは思えないし」

「(・ω・)♪」

「だがやはりタロウと共に味わいたくもある。そうだ、タロウに俺の焼いた肉を食べてもらえるということではないか!?」

 

 そう思うとやっぱり良いな、焼肉!! 

 タロウはウルトラ兄弟を地球で出迎えた際にBBQの方で歓迎したそうだが、俺はさっきみたいな良い焼肉店で誘いたいところだ。

 帰還した際の楽しみがまた1つ増えたことで一層気分が良くなった俺は鼻歌すら交えつつ軽やかに歩く。

 

 ただ、元の世界に繋がる収獲は現時点で0だ。この焼肉も実は落ち込んだ気分を取り戻すために足を運んだのがきっかけだったりする。

 並行世界転移論の資料とか、次元転移のビーコン発掘方法とかが欲しいが手がかりすらなく、前世地球人という要素から『転生掲示板』とか『転生させまくる自称神様』とかも探しているのだがこれも見つからない。

 絶対にあるはずだし、繋がれば一気に進展が見込めそうなんだが……。あと他に前世の記憶持ちっぽい知的生命体とも出会えていない。

 グリムドの能力で創造した魔法空間にて帰還へ繋げる為の各分野研究・開発も行っているが、これも資料不足で全く進んでいない。

 

 ちなみにこの宇宙、光の国はないが、銀河連邦の力が強い世界線だった。わざわざ要らぬトラブルに首を突っ込みたくないので、主要惑星にて情報収集を終えて即地球へ移動した次第である。

 

 ディファレーター光線だけでなく、グリムドの恩恵でも活動している俺からすれば、ディファレーター光線重視の環境選びをしなくて済むので地球は最良の拠点なのだ。

 

「それにしても、これまで渡った世界線の全てで手掛かり成果無しとはな」

「(;ω;)」

「なに、無駄ではなかったから良いじゃないか。色々新鮮な経験もした」

「(*・▽・)」

 

 これまでの道程をふと振り返る。

 自称究極生命体から必死に逃げ切った先の世界が、なんというか、『世界』の広さを思い知るものだった。

 

 

 なんかウルトラマン達が忍者やってた。

 

 

 異世界転移なめてたよ俺は。絶句しつつまさかと思って前世記憶漁ったらこの世界も創作物として世に広まってたからな。この世界のタロウに話しかけようか悩んで裏通りでドキドキしていたら、脳みそをメロンパンと詰め替えたようなマンに見つかり追いかけ回された。虞璃夢戸手裏剣(グリムドシュリケン)全部弾き落とされた、なんだあいつ。

 普通に犯罪まがいというか卑しい思考回路も有していたのであれが同じウルトラ族とは思いたくなかったが現実は非情だ。良く言えば地球人のような精神性を手に入れているとも言えるが。

 

 続いて転移すれば、M78星雲にある怪獣惑星ソーキンが爆発するとかいう大事件が起きた世界線だった。爆発の際に宇宙へ四散したソーキン出身怪獣達の駆除を目的に、ウルトラ戦士3人が怪獣を追いかけ地球へ降り立っていた。通常戦闘形態が70mという光の国出身ウルトラ戦士とは思えぬ体格の良さに驚いたものだ。俺は知らないけど、元の宇宙でも彼等は光の国にいるんだろうか。

 嬉しいことに、ここでは誤解なく共にアメリカを乱す怪獣達を一緒に討滅することになった。トレギアが馬鹿やってない世界線って素敵(この世界にはそもそも俺がいない様だったが)。体内に原初の混沌を封印している事を、宇宙平和の為の使命と勝手に納得されたが、正直思いつかなかった発想なので、言い訳を要した際は使おうと思ってる。間違ってはいないからな(解放されたグリムドが抑える気無くしたら世界がヤバい)。

 ただ、正直俺いらなかったな。3人強いんだ。合体光線すごかった。

 事件も一段落して、笑顔で別れて転移する際には「元の世界へ帰れると良いな!」と応援してくれたのが嬉しい。

 

 

 次に転移した先の宇宙では地球支配しようとしてたバット星人に遭遇した。普通に現行犯だったのもあり、そいつ消しとばして宇宙船を鹵獲、ついでのように中に保管されていたゼットンを捕まえたりもした。

 かつて帰還後に光の国のアーカイブで確認したハイパーゼットン事件なのはほぼ間違いなく、この世界線におけるウルトラマンサーガを潰してしまった気もするが、他の事件が原因でサーガに至るだろう。大きな出来事ほど、運命の修正力は強く働きがちだからな。悲しいかな、宇宙はハイパーゼットンの代替になりうるヤバい連中で満ちている。

 

 ちなみにゼットンは怪獣リング化してある。怪獣カプセルにしてもよかったが、利便性が全然違うからな……。

 あ、ゴロサンダーリングは回復するまで預かってます。使えないものタイガへ返しても申し訳ないし。

 

 

 それからは20程世界転移を繰り返したが、大きな成果は無しだ。

 ウルトラマンが忍者やってた世界のように単独で『世界』となっているものもあれば、馴染み深い『多次元宇宙な世界』もあって、全く飽きさせない旅だが進展0は堪える。

 多次元宇宙では1つの世界におけるM78スペースの有無を確認し、俺の宇宙ではないと落胆し、世界転移技術の情報を求めてさらに複数の宇宙へ転移するといった流れを繰り返している。そのせいか最近は光の国はおろか、ウルトラ戦士の痕跡すら見えない世界や宇宙が続いている。

 思ったよりズレてきている自覚はあるので、一度あのタイガ達のいる世界に戻るべきかもな。ただ、またあの変な自称究極生命体に絡まれたくないので、しばらく粘っていきたい。

 

「この地球の不穏因子もないし、明日には次の世界へ転移しようか」

「ヽ( ̄▽ ̄)ノ」

 

 ちなみに地球は地球で色んな事件が起きている。ウルトラ戦士のいない地球は、宇宙人が侵略していたり、怪獣が暴れていたり、なんかロボット組み上げて戦争していたり、色々カオスだった。真面目におかしくないか地球。降り立った地球の全てで何かしら大きな事件が起きてるぞ。

 流石に宇宙人侵略案件と怪獣が暴れる案件はいくつか関わったが、ロボットの方は過度な干渉とみて距離を置いた。ウルトラマンとしてのスタンスを守る意味が大きかったが、きっといつかは美しい未来を手にすると人類を信じているからだ。

 

 介入案件では、宇宙人の方はいずれも割とどうにでもなったのだが(地球人に背中から撃たれたりはした。これはしょうがない)、怪獣の方は1体だけ死にかける羽目になった。あれは2度と戦いたくない。打ち倒され、カラータイマーごと砕かれそうになる寸前、地球人側が頑張ってくれてどうにか撃退できた。地球人の底力と忍耐力、輝きをあれ程痛感した事はない。助けるどころか守られた感謝は忘れない。

 

「明日はどんな世界に着くことやら……理想は元の世界、次点は地球があってご飯の美味しい世界だな」

「(`・ω・´)」

 

 裏路地を通り、歩きながら魔法空間へ移動する。

 グリムドの力で存在している、干渉などまずされない安住の宿だ。サイケデリックな色をした混沌が距離感というものを曖昧にしているのでたまに感覚を掴み損ねると二次元に囚われたような錯覚を生じるのが難点。

 

 なので、開き直って空間内に家(地球人サイズ用)を建てた。

 

 タロウが遊びに来た時を想定しながら地球人の家を模した造形に仕上げていくのは楽しかったな。場合によってはこの家を外での偽装拠点として出現させる事も想定している。まだ試行実験はしていないが、廃墟区画を乗っ取って出現させつつ認識阻害を展開すれば良いはずだ。

 ちなみに魔法空間は色んなアイテム溜め込んでる倉庫も兼ねており、最近増えたバット星人の次元転移機能付き宇宙船がぷかぷか浮かんでいる。闇堕ち俺が暗躍の為に貯め込んだ物資もまだまだ大量にある。グリムド曰く、望む限り拡張できるらしい。少し引いた。

 

 霧崎の姿は維持したまま、家へ上がる。靴を脱いだら反対に回すのが地球人だ。続いてバスルームなどを模した区画にて、地球人の慣習を癖にするべく、入浴だの口腔ケアだの顔面ケアだのといった整容行為を意識的に執り行っていく。

 地球人用の家にしてあるのは、このように異星人だとバレないようにする訓練も兼ねている。

 本質はウルトラマンの肉体なので本当に地球人のフリとして身につける以上の意味はない。絶対安全の空間だからこそ練習感覚でできるというもの。

 ふとした部分で地球人に異物だとバレかねないのは温泉で学んでいる。外でそういったミスをしないためにも必要な事だ。正直手間だが。

 

 一段落してからやっとトレギアアイを取り出す。

 地球人ムーヴの練習が済んだ以上、もう霧崎の姿を取ることもない為、さっさと元に戻る。

 変身と同時にへばりつく仮面を砕くように外せば、顔だけアーリーな今のスタイルだ。ついでに右腕はタイガスパークを付けている。これを介して怪獣リングの技を使う方がリングも負担にならないし、アナストロフィへ変身する際には現状必須だ。いずれはデフォで元の姿にありたいというのもあるが、グリムドと共にあるためにもしっかり使いこなしたい。

 

 ……うん、トレギアアイに代わるアイテム作成難航してます。手間を省きたいが、せっかくだから拡張性欲しいなとタイガスパークを元にあれこれ捻っているが中々しっくり来ない。タロウが変身に用いていたウルトラバッジにしようとしたけど、その拡張性の問題で泣く泣く断念した経緯がある。

 一度グリムドのセンスに任せてデザイン整えてみたら、一つ目がギョロついてて肉塊がへばりついた銃器みたいなものになったので速攻ボツにした。グリムドは泣いていた。

 

「さて、と」

 

 やっと本命。

 寝室へ向かえば光の国で慣れ親しんだスリープ用のカプセルベッドだ。

 そこにタロウプリントカバーをつけた敷布団、タロウプリント枕、タロウ刺繍タオルケット、タロウのぬいぐるみ、タロウのフィギュアを丁寧に配置していく。そしてタロウなりきりセットパジャマ(ウルトラホーンフード付き)を着込み、タロウ抱き枕を抱えれば就寝準備は完了だ。

 

 うきうきと横になり、カプセルを閉じて休眠体勢を取る。

 

「タロウ、おやすみ」

「(; ・`д・´)」

 

 明日こそタロウに会えますように。

 そんなことを願いながら俺は今日の旅を終えていった。




満喫しまくってるオレギアさんとグリムドという繋ぎ回。
ついでに『オレギアさんが転移できる世界の幅と、その上で円谷ワールド関係以外でメイン回やるようなクロスオーバーはしない』という説明回でもあります。
理論上できちゃうので、ネタとして挟みましたが、こんな具合でさらっと流しました。
だからそっちの作品名は明言しないし断言もしません。明言しちゃうとネタ1回の為にクロスオーバータグ付ける必要ありそうですし。ヘビクラ隊長も頑張って明言さけてたし!

12/6追記
黒兎可様よりまた支援絵をいただきました!!ありがとうございます!!
本文中にも掲載させていただきました!!

【挿絵表示】


【挿絵表示】



・ウルトラマンが忍者な世界
ウルトラ忍法帖という作品。ボンボンに連載されていたギャグ漫画であり、シモネタにも偏ったり色々ハジけていた作品。だが、シリアスに偏ると王道展開と忍びとしての悲哀を見事に描いたりする。

・70m級ウルトラマン3人
ウルトラマンUSAというアニメ作品。実写で初登場した時は他ウルトラマン達と大して変わらないサイズだったので、滅茶苦茶でかいソーキンモンスターに併せて巨大化したのだと思われる。

・オレギアさん、戦力拡充する。
タルタルソースみたいな真似してるが、本人は元の宇宙に帰る手段を増やしたいだけ。バット星人の次元転移可能な宇宙船を改造して魔法空間とは別の拠点に利用。オマケで6V個体のゼットンも付いてきた。
魔法空間、地球人の家(イメージは拘りのマイホーム)、宇宙船と地味に充実している。

・オレギアさんが解決した宇宙人侵略案件
基本別に介入しなくても人類(USA)が勝てた系のタイプ(よくある映画)だが、1件だけバッドエンドを阻止している。

・オレギアさんが介入した怪獣案件
どこのどんな怪獣とは明言しないし、仔細も語らないが、王の異名が相応しいめちゃくちゃ強い怪獣が1体おり、そいつに殺されかかる。人類が助けなかったら死んでた。ボディ耐久値はウルトラ戦士の中でもクソザコという自覚が足りない。本人は「エリマキついてるやつはそんな強くなかったはずなのに」と言い訳している。
コレに関しては『舞台作品補正(舞台となる世界観に合わせての戦闘力や格の辻褄合わせ)』が働いてたら絶対勝てるわけないし、適用されてなくても普通に負けるレベルだと思います。

・ロボットで戦争してる世界
「ロボットじゃない、これはry」と答える該当世界は多そうですが、オレギアさん視点専門名称とか定義とか調べないままに距離を置いたからしょうがない。ウルトラマンは他種族の戦争には基本介入しない。異星からの侵略行為は介入する。

・タロウグッズ
ウルトラマンが創作になってた世界で買い込んだものが複数、残りは全部自作。
こうでもしないとタロウ分が不足して狂いそうになる本人なりの自衛行為。
この有様を見る時に沸きあがる感情を、グリムドは「ドン引き」だとは理解していない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トレギアファイト五番勝負
トレギア、修行を決意する


新章スタート(全6話)。次章の為のオレギアさん強化編とも言う。
具体的にはアナストロフィの強化。グリムドとの絆という本質から本当の強化形態へ。


 元の世界に帰る旅を始めて、主観による時間感覚では早くも数年がたった。

 主観でしか語れないのは、あらゆる世界の時間基準で捉えることがほぼ無意味になっているからだ。世界を渡るということは、時空にも囚われない事を意味する。

 

 例えば地球。ある宇宙では西暦2000年前後だが、ある宇宙では1950年程度……はたまたある宇宙ではまったく違う歴を用いていたり、まるで違う世界観を構築していたり、【その宇宙における時間軸と歴史】にしか沿っていない。

 

 事実、元の世界における地球は俺がタロウと再会した時点で西暦6000年程だったはずだ。

 既に地球人は数多の宇宙人と同じく宇宙開拓を進めて母星の外へ飛び出し繁栄している。

 同一世界における別宇宙でこの有様だ。これに並行世界転移まで加えるのだから世界単位での時間進行すら当てにできなくなるわけだ。

 

 ちなみに主観だと数年経過しているとは言ったが、あのタイガの世界に移動すればあのウーラー襲来から1ヵ月も経っていなかったりする。一度こっそり次元移動の調節目当てで戻った時に確認しているズレだ。思ったよりも大きいズレで驚いたものだ。

 この時間のズレに関しては地球人の知識に照らし合わせれば、特殊相対性理論で最低限は語れると思うが、『宇宙包括宇宙』『世界間の溝』や『時空の適正移動』『42』といった、最低でも別宇宙への転移を可能とする科学力でなくば理解できない概念も使用するので、そういうものだと思ってもらうしかない。

 もっともグリムドの力による転移は、その気になれば適正移動を無視して過去や未来にも転移できる次元転移でも最上級の能力なので時間差による絶望は生じないのだがな。

 元の世界に帰ったらタロウが20万歳になってたとか嫌だし有難い話である。俺が体感20万歳になっているかもしれんが。

 

 重ねて余談だが、俺は滞在した世界では今いる時間軸より過去には転移しない戒めを定めている。

 ()ですら行っていないように、これをするとどういったタイムパラドックスが生じるかわからない危険性があるからな。

 過去に転移した時点で新たな並行世界が生じる世界分岐パターンならまだマシで『宇宙意志』とかが君臨してアカシックレコード*1を書き換えただのなんだの言い出したら最悪だからだ。困ったことに、運命絶対論とも言うべきアカシックレコードが存在する宇宙もあるからな……タイガの世界では未確認だが運命修正力があるのは確認済みなので、俺があの世界に戻る時間軸は、タイガと別れた後より過去は絶対に飛んではいけないのだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「なんだあれは……地球が完全に砕けているじゃないか」

「(;´・ω・)」

 

 今回訪れた世界はいつものように手がかりすらない外れだったが、飛び込んだ宇宙はなんと地球が滅んでいる世界線だった。

 そういう宇宙もあるということこそ理解していたつもりだったが、グリムド共々落胆を隠せない。

 

「滅んだ理由など確かめたところで元凶居たら八つ当たりする気しか起きんな、やめておくか……切り替えよう」

「(・ω・)?」

 

 地球が繁栄している宇宙へ移動してもよかったが、俺はある目的の為にこの宇宙を飛び回ることにした。深淵を目指すように銀河の内を突き進み、やがて生命のいない荒廃した岩石惑星に降り立った。適切な位置に恒星があり、適切な強度があり、適切な悪環境。理想的だ。

 

「よし、ここならばいいだろう」

 

 目的とは、トレギア アナストロフィの更なる習熟と特訓だ。

 元々ギーストロンに大苦戦したり、ニセベリアルには普通に殺されかけていたり、あの()には普通に戦闘センスや経験の差でボコられまくった俺である。グリムドという無敵に等しい力が共にあっても、活かす能力がまるで備わっていない。

 あげく、ある世界ではなんかクッソ強い怪獣に殺されかかったからな。あの時は助けてくれてありがとう人類!! 

 

 俺の太陽と同じ立ち位置を目指すなんてまた闇堕ちしかねない真似はしないが、やはり最善は尽くさねばならない。

 これまでも旅の合間に怪獣リングなどの戦力を拡充したり、アイテム開発したり、アナストロフィの習熟訓練は行っていたが、肝心要の戦闘経験はどうしてもおざなりだ。

 

 そこで、グリムドの力を解放しても問題ないこの死に絶えた星で鍛錬に励もうというわけだ。

 

「鍛錬が一段落したら、怪獣相手に実戦を積まねばなるまい」

「(`・ω・´)」

「付き合ってくれるか、グリムド! ではいくぞ!!」

 

 拘束ベルトパージ! 

 カラータイマーより出現するはグリムドアクセサリー!! 

 キャッチしてロード!!

 

Come on!! 

 

ギュンギュンギュンギュン! 

 

ギュピーン! 

 

「邪神の根源、原初の混沌!! ウルトラマン トレギア──!!」

 

Ultraman Tregear Anastrophe

 

 はい、先日立ち寄った地球で放映されていたウルトラマンを意識しました。

 ああいう気持ちいいシャウトと共に変身するのは妙に惹かれるものがある。多分タロウのせいだ。

 いつかあの、エタニティコアが地球にある宇宙にも顔を出すことがあるかもしれないな。

 

 グリムドアーマーを身に纏い、構えを取る。

 宇宙磁気嵐よりも苛烈なグリムドの力は、今は大人しい。

 グリムドが俺の負担を気にして極限まで抑えてくれているからだ。まずはその枷を少しずつ外していっても問題ないようにすることと、俺自身の格闘センスを磨きあげねば。

 

 さぁ、特訓だ!! 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……今更だが、この星の上で時空歪ませたフィールド展開すればもっと影響なく濃縮した特訓できたかもしれない」

「(; ・ω・)」

「3年経ってから言うなだと? 返す言葉もないな」

 

 俺は今、修行場となった星を後にして次なる世界へ渡る準備をしている。

 

 修行は成長の実感があったのもあり、かなり集中した結果、あっという間に体感時間で3年ほど経過していた。

 宇宙警備隊特訓にあるマニュアルを利用した自己鍛錬の他、グリムドが呼び寄せた宇宙怪獣たちと時折戦い、撃退または討滅を繰り返すことで実戦経験はほどよく積まれていったのが大きい。

 

 慣れた頃合からグリムドの力を引き出してみたら、やり過ぎて星の表面が派手にえぐれたり、腕がねじ切れそうになったり、グリムドの力が精神に染み込んできて闇堕ちしそうになったりと苦戦したが、今では修行前と比べて格段にグリムドとの共闘を為せている。そこらに漂う名前もわからない宇宙怪獣ぐらいなら周辺被害なく勝てるようになってきた。

 

 グリムドに吸い寄せられる宇宙怪獣は星に憑りついて暴れる魔獣に近い連中ばかりだったので、宇宙の平和に貢献している……はずなのだが。どうやら死に絶えた星だからと特に隠蔽することなく修行していたのが問題だったようで、ある日この宇宙の宇宙警備隊っぽい者たちが訪れてきた。

 

『銀河を荒らす邪悪な怪獣達を呼び寄せては殺して食らう邪神がいるという噂があって来たのですが』

『えっ』

『その邪な力……貴方が噂の邪神なのでしょうが、目的はなんなのでしょうか』

『いやあの……修行といいますか……』

『修行? すいません、今の時点で会話ができる知的生命体であるのはわかっていますが、身分証になるものはお持ちでしょうか』

『えー……この宇宙で適用できるかはわかりませんが……光の国において個人情報媒体になる類です。ご確認を』

『あ、すごい。純光エネルギーの結晶だ。なんでこんな素晴らしい技術があるのにそんな危険な力を宿しているんですか』

『いろいろありまして。この修行も、この力で世界が危なくならないように共に在る為にやっているんです』

『そうだったんですか……まぁ信じましょう。あなたの怪獣退治は銀河の平和に貢献していましたから。ただ、もう少し周辺星系に気を配ってください。アザトースが目覚めようとしているなどとかなり怖がられていましたよ』

『すみません、以後気を付けます』

 

 というやりとりがあり、流石に居づらくなったので離れることにしたのである。

 また1つ、タロウに聞かせられない思い出が増えてしまった……。うっかり口を滑らさないように気を付けよう。

 

「それはさておき、そろそろワンランク上の敵を相手にするべきだろうな」

 

 辻斬りヒーローになるつもりはないが、俺はあらゆる世界を転移している身だ。修行を兼ねた世界巡りを行い、その世界の悪を討つという鍛錬をしても罰は当たらないだろう。

 無限に等しい世界、無限に等しい並行世界なのだから……とはいえその世界の運命に干渉しうる事実について気にしていないと言えば嘘になるが。ただ、この辺気にしすぎると何もできなくなるし、そもそもタイガの物語に介入すると決めた時散々脳内討論している。結論は「俺が介入した世界は、俺が訪れることもまた運命」という詭弁の有効活用だ。

 元の世界へ帰るという最終目標の為にも、強くならねばならない以上は光も闇もある混沌の道を歩むことを躊躇ってはならない! 

 

「(/・ω・)/」

「ああ、グリムドなら今の俺に適した強豪怪獣と引き合わせることはたやすいだろう。次の世界はそれを優先した転移で頼めるか?」

「d( ̄  ̄)」

 

 改めて決意を固めていると、グリムドから提案を振ってきた。強きものを引き寄せるように縁を紡ぐことは簡単なのだという。そこで、グリムドが丁度いい相手を選定し、該当世界ないし宇宙へ飛んで辻ファイトをするというものだ。

 

 まさか俺の意図を汲んで案を用意するとは。原初の混沌相手に思うことではないが、成長したな……。知的生命体に対しての交流の最適化がここまで進んでいるとは。

 

「よし、じゃあやるぞグリムド! 俺たちの戦いはこれからだ!!」

「(`・ω・´)」

 

 そうと決まれば話は早い。トレラ・スラーを介して、新たな世界の道へ飛び込む! 

 グリムドの誘導に従う様に身を任せつつ、トレギア アナストロフィへと姿を変える。

 変身中に攻撃されると俺は普通に死ぬからな。耐久力や頑強さに関してはレッド族がおかしいんだと声を大にして言いたい。

 

「さて、どんな奴が相手なのやら……!」

 

 グリムドアーマーを身に纏い、油断なく先を見据えて混沌の扉をくぐり抜ける。

 飛び出した先は宇宙だ。至近距離に惑星はない。

 ある意味ラッキーだ。目の前には既にグリムドが選んだと思わしき怪獣がいる。

 

「ツイフォ──ン……?」

 

 唐突に出現した異物を前に、僅かな困惑を見せている異形の怪獣。

 

 漆黒に輝く岩石質の肉体に、切っ先が鍵爪のように曲がりつつも全体が鋭い刃と化している両腕。薄膜ながら、鋭利さを感じる翼。鋭い1本角の下には全てを破壊しつくさんとする意志のみを宿す赤い凶悪な目。

 

 アーカイブにあった彗星怪獣ドラコに似ているが、ただの怪獣とは違った異質な脅威を感じる。というか目視した時点から前世知識が全力で警報を鳴らしている。

 

『こいつはやばい』

 

 ……なぁグリムド。

 お前本当に適切な怪獣を用意したのか? これ、俺が勝てる相手なのか? 

 

「ツイフォーン!!!」

「やるしかないか!!」

 

 初手真空波と思わしき無数の刃を飛ばしてきた怪獣を前に、俺は勢いよく吶喊をしかけた。

 

 

 

*1
(宇宙創世より先全てのあらゆる事象を記録した世界記憶とも言うべき概念のこと。平成セブンで取り上げられているので、円谷ワールドでも無視できない要素になっているが、本作では『ある宇宙』と『ない宇宙』がある解釈を取っている)




修行編開始。
ウルトラトレギアファイト5番勝負。

初戦 彗星戦神ツイフォン

オレギア「今の俺に適した怪獣って言ったよね!?」
グリムド「(・ω・)?」←ワンランク上の敵は用意したぞ?という顔


・宇宙や世界によって時間はバラバラ
ウルトラマンベリアル復活時期からして大怪獣バトル以後の時系列なのもあり、光の国がある宇宙での地球描写がもう描かれなくなって久しいのだが、それを問題なくするシステム。なんかだいたい2000~2021年ぐらいの地球があちこちの宇宙にある(ただし歴史がそれぞれ違っていたり、科学力に差があったりしている)。
オレギアさんが体感時間でしか語らなくなってる理由。タイガのいる世界へ移動した時、体感時間に合わせて時間経過しているということもない。移動時に適切な時間軸に出現することになる。その気になればアブソリューティアン達のように過去に出現とかもできるわけだが、トチ狂う原因やどんな災厄に繋がるかもわからない為、同一世界線では滞在してる時間軸より前に移動することは控えている。
ただ、あらゆる次元や時間が滅茶苦茶になった大事件が最低でも2度発生してるので、円谷ワールドでは時間や時空というのは割とかき乱されやすい存在だったりする。
ゼロはドラマCDのギャグ要素含めると割と自由に時間操作しているが、本当よく体力消耗以外のデメリットなく成し遂げているものである(やらかし案件はせいぜい範囲巻き戻しでベリアルが蘇ったぐらい)。

・オレギアどのくらい強くなったのか。
アナストロフィでもグリムド完全体の力を最大で50%までなら引き出しても問題ないようになった。その為、最大火力自体は原作トレギアを上回っている。修行万歳。
ただそれ以上だと制御が効かず、肉体や精神への反動ならマシなレベルで、グリムドの放つ力により周囲の生命が発狂または死亡する恐れが生じる。また、越えたのは火力ぐらいなもので総合戦闘力としてはまだまだ原作トレギアに及ばない。
原作トレギア、自分より強い相手には基本隙あらば逃げている印象はある。だが、逃げ切れず結局戦ったグルーブ戦では、自身のスペック完全に上回ってるグルーブやジードウルティメイトファイナル相手に技巧を駆使して互角に立ち回るほど(しかもジード相手には煽りながら戦う余裕すら見せた)だったので、やはり蓄積した経験値の差は大きい。ウルフェスで陛下と戦ったこともあったりする。自分が観た時は結構劣勢の印象だったがDVDの方だとそこそこ戦えてた。

・地球滅ぶ
そういう世界線もある。しょうがない。宇宙の業者が工事の邪魔だからと破壊したのかもしれないし、怪獣が暴れたのかもしれないし、財団に明日などなかったエンドだったのかもしれないし、人類がうっかり自滅したのかもしれない。

・この宇宙における宇宙警備隊ポジ
感情がダイレクトに伝わるテレパシーで会話していたのもあり、オレギアへ悪い誤解などはしなかったが、グリムドの力がやばすぎてドン引きしていた。穏便に済んだのは、お互いに争う気がなかったからにすぎない。血の気の多い奴が対応しなくてよかったと心から安堵している。

・彗星戦神ツイフォン
『ウルトラ超闘士激伝 OVA』に登場する、怪彗星ツイフォンの正体。
『ウルトラマン』で地球に接近した彗星ツイフォンがそのまま元ネタ、再接近は3026年7月2日午前8時5分に地球に衝突すると言われており丁度その時期として扱われている。
この世界線のウルトラ戦士や怪獣、宇宙人は鎧を纏った『闘士』として活躍しており、わかりやすく言えばドラゴンボールよろしくなバトル世界なのだが、このツイフォンはそういう世界へ乗り込んできた『劇場版ボス』に該当する。そう、クッソ強い。呆れるほど強い。初代ドラコとはなんだったんだと言うレベルである。
強ボスにありがちな『光線エネルギーなどを吸収して自己強化』という能力を有し、それで闘士達の攻撃を吸収、成長したあげく蹂躙する無双を成し遂げた。通常形態はまだドラコに似ていたが、第二形態であるスーパーツイフォンはもうブロリーみたいなのを怪獣化しましたといった印象の人型マッチョマンとなっている。殴られまくっているのに無表情ノーガードで受けてのダブルスレッジハンマーはやばい。
彗星としての外殻(巨大惑星級)は超闘士タロウに消し飛ばされたため、地球を新たな彗星ツイフォンにする動きこそみせたが、彼には明確な目的などはなく、ただ彗星として通る先のもの全てを破壊するだけという認識で活動している。
一度は超闘士ウルトラマンすら死へ追いやったが、ウルトラマンが地球の皆や仲間達の応援、激励、願いによるデルタスター超闘士ウルトラマン(物理攻撃完全無効特性付らしい。無効!?)へ覚醒、彼の手で敗北消滅する。
もしこの個体そのままかつスーパーツイフォンになったならば、真面目にオレギアさんはグリムド完全解放以外で勝ちの目がないが、グリムドはちゃんと考えている。

本作のこいつ、実はOVAから数万年前の個体。彗星外殻すら纏っておらず、生きた流れ星の伝説が宇宙に轟く前の幼年体。星を砕いて得たエネルギーもまだまだ少ない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VS ツイフォン

ウルトラ超闘士激伝OVAは歌も良いから是非聴いてほしい。
そして本編も観てツイフォンが本来ならどれぐらい強かったかも知ってほしい。
闘士達の格好良さや、人類と怪獣が自然と手を取り合えるような美しい様子が見える地球とか豪華声優陣とかも楽しんでほしい。

勿論漫画も全力で熱くていいぞ!ウルトラマンよく死ぬけど!


 怪獣コンピュータチェック! (CV:青野武)

 チェックします! (CV:赤木優)

 

名前:ツイフォン

種別:彗星戦神

攻撃:星を破壊可能

防御:星すら砕く一撃に耐える

能力:エネルギーの吸収と自己強化

 

 久々におかしな挙動をしてくれた前世記憶の警報から得た情報を飲み込む。

 星を破壊できる、という事自体はまぁいい。問題だらけだが問題ではない。

 そういう怪獣や宇宙人は割といるというか、グリムドなんかまさにそれだ。地球人ですら対惑星ミサイルを開発した事あるし、光の国にも惑星を砕く兵器はあった。自重を宇宙の果てへ投げ捨てたら星を蒸発させられるウルトラ戦士は何人もいる。

 しかし対星級の一撃に耐えられる肉体ってなんぞ。しかも光線エネルギーを吸収してパワーアップするって事実上光線技封殺だろ。

 

 こんな情報脳内に流れた俺が今、グリムドに対し全力で罵詈雑言を飛ばしながらツイフォンと戦っているのは世の必然だと思う。

 

「ふざけんなよグリムド!! お前基準で丁度いい相手の間違いだろこんなやつ!!」

「(´・ω・`)」

「ツイフォン!!」

 

 グリムドアーマーにより、強靭な装甲と打撃力を誇る俺の拳が何発も入っているのにびくともしない。

 岩石質な見た目と違って、これはもはやウルトラディフェンダーを相手に殴っているような感覚だ。硬すぎる!! 

 だが奴の特性を前世記憶により知っていた強みが生きている。封殺とは言ったが、知らずに光線技を叩き込んで強化させるより遥かにマシだ。やらかしたら瞬殺されていたに違いない。

 

 ツイフォンが俺の首を切り離そうと振るった刃を避け、逆にへし折るべくフォトングリムドキックを叩き込む。

 修行中に戦った宇宙怪獣がこれを受ければ1発で爆発四散した一撃だというのにヒビすら入らない。

 

「ツイフォーン!!」

「ぐあっ!?」

 

 反撃とばかりに真空波の嵐が俺の身体を吹き飛ばした。ノーモーションで放たれてくるから近距離だと回避が取れない。グリムドアーマーへダメージを通せない程度なのが幸いか。

 現状は互いにそこまで有効打はない。思ったよりも戦えている。だが、前世記憶にある第二形態にでもなられたらその時点でカラータイマーごと砕かれて死ぬ運命しか見えない。

 

「どうするんだ、前世記憶の通りなら俺に勝ち目はないぞこんなやつ!」

「(・ω・)ノ」

「なに? 誤解がある? どういうことだ」

 

 詳しく聞きたいところだが、そのまえにツイフォンが再び斬りかかってきたので必死に回避する。

 だがそれは読まれていたらしく、ツイフォンは斬りかかりつつも流れるように反転し、鋭利な1本角をこちらに向けた。彗星を思わせる速度で突っ込んでくる。

 

「ぐっ!?」

 

 シールドを起動して、迎え撃つ。だが悪手だった。

 ツイフォンはあろうことかそのシールドのエネルギーを吸収して無力化してきたのだ。

 凄まじい衝撃が俺の身体を貫き、そのまま吹き飛ばされる。

 

「がはっ……!?」

 

 グリムドアーマーが無ければ即死の一撃だった。

 それでも相当のダメージだったが、流石にグリムドの意図を理解する。

 

 確かにこれは対戦相手として丁度いい。

 

「今までの俺であれば爆散してリレイズ不可避だったが、グリムドの力を外に顕現しているアナストロフィならば戦える……そういうことか」

 

 これが闇堕ちしてからの経験長いあいつとかなら、今の一撃もしっかり回避するか転移逃走、あるいはツイフォンの意識を更に乱して第二のルーゴサイトとして暴れさせて終わるのだろう。

 俺だから避けることは叶わず、だが俺だからこそこの一撃に耐えうることができたわけか。

 

「(・ω・)ノ」

「なに、あのツイフォンは誕生してからそう期間を重ねていない個体だと?」

 

 グリムドから改めて情報が入る。

 前世記憶による知識のツイフォンから数万年単位前の個体であり、見た目こそ変わらないが幼年期に該当するのだという。

 だからまだ怪彗星ツイフォンとしての外殻(手ごろな惑星を乗っ取るらしい)を纏っておらず、破壊した星も少ない為エネルギー不足なのはもちろん、経験も不足しているとのことだ。

 

 なるほどだから3年の修行を経てなお格闘戦が苦手な俺でもなんとか食らいつけているのか。

 そして数万年後のツイフォンが相手だとグリムドがグリムドとして戦うならともかく、トレギアとして戦うなら回避スキル磨かないと敗北濃厚らしい。怒鳴って悪かったなグリムド、思ったより真面目に戦力分析してたわ。

 

「(・ω・)♪」

「わかった、仕切り直しだ!」

 

 気にしていないとばかりにグリムドアーマー胸部部分にある口から音が漏れる。

 意志疎通できているから、本当にグリムドは気にしていないのがわかるが、骨をやすりで削るような音として脳に想起させてくるのはどうかと思う。こんなんだから邪神としてしか認知されないんだぞお前。

 

「ツイフォーン!!」

「シェアッ!!」

 

 ツイフォンと再びぶつかり合う。

 この攻防でグリムドアーマーの頑強さはよく理解できた。ツイフォンの防御力にも負けていない強度だ!

 ならば素直に頼りつつ、ツイフォンの攻撃をより上手く回避できるように戦っていこう! 

 そう、これは修行なのだから!! 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 この広い宇宙を突き進む先に在るモノ全てを破壊する。

 

 ツイフォンはただその使命だけを抱いて世界で産声を上げた。

 

 “何故”はない。

 

 それが己であると自覚して、生きた彗星として永劫の破壊を繰り返すのだと認識していた。

 

 その為にはまず、己には彗星としてあるべき外殻を得なければならない。

 

 “何故”はない。

 

 それが怪彗星ツイフォンだからだ。

 

 誕生した際、周囲に漂う星をいくつも認識したが、それはツイフォンに見合ったサイズではなかった。

 

 それ故ただ破壊して、糧とした。

 

 己に見合った、ツイフォンとして相応しい星を探す。

 

 これより始まる破壊の旅路に見合う衣を求めて宇宙を駆けだしたその矢先。

 

 “異物”に出逢った。

 

 異質ながらも星数個すら釣り合わぬ程の豊潤なエネルギーは、破壊の対象であると同時に最高の餌としてツイフォンの目に映った。

 

 このエネルギーを全て糧とすれば、通過するだけで星系すら滅ぼせる最高の彗星になるに違いない。

 

 己の内にある唯一の使命と、破壊者としての本能が彼から撤退の選択を消した。

 

「ツイフォーン!!」

 

 最初の激突で確信する。この個体はエネルギーが高いだけで強くはない。生まれながらにして星を破壊できるだけの力を有している己ならば、苦戦することもないだろう。

 だが、そんな想定とは裏腹に、対象の個体とはもう数時間近く殴り合っていた。

 

「ウーラーとの長時間戦闘で得た経験は無駄ではなかったな!」

「ツイフォン!?」

 

 意味の分からない言葉を吐きながら、衰えなく此方の肉体へ拳を打ち込んでくる。無論、砕かれるのには至らない。だが、現状は当初の想定から完全に外れている。

 

 原因は明白だった。この個体はツイフォンに対し一切の光線技を放たない。一度シールドのエネルギーこそ吸収できたが、それ以降はシールドすら張らなくなった。これでは吸収強化ができない。そして現状の火力では、対象の個体が纏っている鎧を破壊できない。光線技は的確に相殺され、超スピードで翻弄しても、対象は何故か見切ってくる。明らかにその目は追えていないにも関わらず。

 今も超速移動で対象の視界から消え、フェイントをかけながら真下から突き上げようとしていたが。

 

「(@_@)」

「おっと!?あ、危ない」

 

 このように、回避されてしまう。よほど勘が優れているのか、何かで自身を捉え続けているのか。ツイフォンにはわからなかったが、気味の悪い挙動だった。

 

「~~~ッ! ツイフォン!!」

 

 吸収強化してしまえばこの戦いはあっさり傾いて己が勝利する確信があるだけに、このやり取りが無駄という感触がツイフォンにはあった。

 己の存在理由である破壊が遅延停滞している事実は、ツイフォンに耐え難い感情を湧き上がらせている。それを怒りや苛立ちだと認識するには、ツイフォンは情緒も何も理解していなかった。数万年の時を経たある世界線の個体ですら、『それが俺だ』と喜びという情動すらないまま破壊を繰り返していたほどだ。理解できるはずもなかった。

 

 もう1つ、ツイフォンを無自覚のまま苛立たせていることがある。

 

「ツイフォン!!」

「ふっ」

 

 地表で放てば町1つたやすく壊滅せしめる真空波の嵐。

 幾度となく直撃を受けていたはずだが、それが今では腕の装甲で受け流したり、予備動作なく放ったはずなのに予知され転移で回避される始末だ。

 

「ツイフォーン!!!」

「!」

 

 未知の感情に振り回されるように猛回転して突進する。

 だがそれも当たらない。そう、不気味な勘のような挙動とはまた違う形で、こちらの動きを読まれるようになっていた。

 まるで嘗められているようにすら感じる理不尽な2種類の動き。苛立って当然だった。

 

トレギア()ができたならば、トレギア()にできないはずはない。グリムドの手助け無しでも掴めてきたぞ!手ごたえありだ!」

「ツイフォン!?」

 

 回転を止め、体勢を立て直す矢先に背中に回られる。

 そのまま左翼を勢いよく捻られ投げ飛ばされた。反撃にエネルギー波を打ち出すがやはり腕の装甲で弾かれる。

 

「(;´・ω・)」

「手ごたえありと言って翅を千切るつもりだったのにできなかったことについての抗議は受け付けない」

「(; ・`д・´)」

「はい、勝負を決めにかかる為の攻撃として振る舞いました。育ったはずの技量でこれとは如何ともしがたいな」

 

 またなにか意味の分からないことを口走っている。

 その妙な緊張感の無さが余計ツイフォンの感情を揺さぶっていく。

 

「ツイフォーン!!」

 

 内より生じる破壊衝動のままに吠えるも、向こうは動じない。

 ただの餌だったはずの障害は、此方を静かに見据えると、不意に構えを解いて話しかけてきた。

 

「勘違いしていそうだから答えておこうか」

「!?」

 

 その声調は、ツイフォンにはこれまでとはまた違うものに感じた。

 意識して話しているとも、切り替えているとも感じ取れる。障害を知るチャンスかとあえてその話を聞くことをツイフォンは選んだ。

 

「私は君と相対して戦い続けたわけだが、今のこの形は余裕なわけでも、急成長しているわけでもない。そもそも私にタロウのような戦いの才能はないんだ。だからここまで時間がかかったし、確かめる事もあったし、その上で仕込みには苦労した」

「?」

「ああ、伝わるわけないとわかっていて話した。ただ、お前のようなタイプは如何に巨大なスペックを誇ろうと、経験不足と、強い感情が致命に繋がるというだけさ。こんな風にね」

 

 障害の姿が蒼みがかった混沌に包まれ消える。

 戦闘の構えを向こうが解いていたからといって生じていい隙ではなかった。今更情報収集などに興じるべきではなかった。

 それをツイフォンが自覚する前に、その全身を悍ましい何かが捕らえていく。

 

「(`・ω・´)」

「ツイフォン!?」

 

 次元を無視して無数に湧いて出た触手がツイフォンの肉体に纏わりつき、締め上げ、頑強であるはずの肉体を削りながら侵入してくる。数時間の進展無き戦闘は、ツイフォンを無自覚に苛立たせると同時に、無自覚な注意力の低下を生み出していた。もっと早めに使用されていたならば食らうことなく対応できただろうが、敵はそれをわかっていて今の今まで伏せていたのだと理解する。

 初めて陥った危機的状況を前に、ツイフォンは脱出の為に身体を無数の岩へと変じようするも、分裂ができない。触手1本1本が網のように絡まり、癒着して固定していた。

 ツイフォンはやっと確信した。光線を撃たないことといい、分裂技対策といい、こいつは己の事を知っている!!

 

「知らなかったのか? 邪神からは逃げられない」

「!?」

 

 今なお己の身体を歪に削り、蠢き、絡まって貪りつつある触手の大本が目の前に現れる。

 アーマーの背から生じた触手の数々は途中からふっつりと途切れており、それでもそれが今自分の周囲から伸びて襲っているというのがわかる。

 

「確かめる事と言ったが、それは知識の照らし合わせでね。戦いながら解析させてもらったよ。やはり君の吸収能力は完全無欠ではない。不意打ちのような一撃や、吸収限界を越えた一撃ならば光線技でも通すことができる」

「!? !?」

「もう1つ。私の……いや、俺の光線だけならば問答無用で吸収されるだろうが……宇宙創世以前の混沌は難しいようだな!!」

 

 敵の全身が不気味に輝いていく。

 アーマーに貼り付くラメ程度だった輝きが、光量を増している。

 同時に歪んだ渦が生じ、あらゆる生命の精神を焼き切るような視線を宿した1つ目が渦より生じた。

 

 邪眼を直視したツイフォンの身体は、完全に硬直する。

 役割を終えた触手が霧散したように消えていくが、もはやあろうがなかろうが関係はなくなった。

 

「ツイ……フォン!?」

「混沌の輝きに呑まれるがいい!!」

 

「グリムレイ・ヴェロスフォトス!!」

 

 全てを貪り飲み込む光が、ツイフォンの全身を飲み込んでいく。

 

 本来であれば、宇宙に伝説として語られていき、数万年後には地球に破滅をもたらすべく襲来する悪魔の彗星。

 ただ破壊する存在として君臨するはずだった彗星戦神は、見た目だけは美しい極光により全てを消し去られていった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 彗星戦神ツイフォンを消し去り、息をつく。

 今現在で反動なく繰り出せる最大限。グリムドパワーの50%を引き出し技を放ったが、既に十分すぎる火力に感じる。

 そして俺は今、この宇宙にもたらされる破壊の数々を防いだことになるのだが……そんな世界を人知れず救ったような達成感はない。修行の成果に喜ぶ感情もない。

 あるのは恐怖である。

 

「……本来ならあれより別次元に強いってマ?」

「(・ω・)」

「はぁ~……」

 

 本来この世界のウルトラマン達が戦う数万年後を思うと震えが走る。

 〆の一撃だけで勝負をつけるために修行を兼ねて数時間にも及ぶ硬直戦闘を選択したのは俺だが、グリムド無しでは絶対に選べない作戦だった。超速挙動は全部グリムドに探知してもらったし、今回最終的に勝負を付けたのも、結局グリムドだし。

 というかどうやって倒したんだろう? 後で前世記憶から確認しよう。

 

「だが、修行にはなったな」

「(*・▽・)」

 

 あの難敵と只管攻防を繰り返し続けたことで、ほぼノーモーションな技の先読みする技術、反撃に転じやすい防御と回避のやり方、硬い相手へより効果的に通じる拳の当て方。そういったものがわずかながらに掴めた気がする。

 確証を持てない辺りが、俺の才能の無さを物語っているが……成果もある以上、磨かない理由にはならないな。あの宇宙怪獣たちよりずっと高い経験を得た実感もあるし。

 

 そういや怪獣リングにし損ねたが、まぁあれは危険すぎるのでいいだろう。

 

「よし、一休みしたらまた今回のように戦っていくとしよう」

「( `・ω・´)」

「とりあえず己へのご褒美に別宇宙の地球で美味しいご飯でも食べるとしようか!!」

「( *・ω・)」

 

 ようやく実感となって胸に宿った喜びのまま、トレラ・スラーを開き転移する。

 目指すは新しき美味、食感、感動!! タロウもいつか一緒に食べような! だから待っていてくれ! 俺はやるぞ!! 

 

 

 

 なお、俺はこの宇宙に戻ることはなかったので知る由もなかったのだが。

 この宇宙で数万年後に語られる伝説には『青き鎧を纏った闘士が目覚めたばかりの破壊神を討滅した』というものが生じていた。

 曰く、本来ならば宇宙で破壊の限りを尽くす運命を宿した生きた流れ星の凶行を未然に防がんと崇高なる使命を帯びた『闘士』は激しい戦いの末に宇宙を照らす光の矢でもって討滅したのだと言う。『闘士』の放った矢の輝きは射線にあるあらゆる魔を討ち、百夜に渡って宇宙に輝き続けたそうな。




トレギアアナストロフィってグリムドアーマー纏ってるんだからそりゃ『闘士』と勘違いもされる。
ちなみに星を破壊する力云々で言えば、割といたりするのが円谷ワールド。その気になれば星を滅ぼせる、と書かれた怪獣や宇宙人など珍しくない。実績として実際に滅んだ星も少なくないのでみんな戦う時割と自重してる。偉い。

・幼年体ツイフォン
OVA劇中では「何万年も繰り返してきた」という台詞がある為、誕生当時から相応の戦闘力を有していたと思われます。ウルトラの父が『全てを破壊する生きた流れ星伝説』に言及してたので、破壊していくたびにその強度と性能をあげていったと解釈。生まれて間もないからオレギアさんソロでも戦えました。
あと光線技を封じていたので相手の強化を許さなかったのが一番大きいです。ツイフォンのエネルギー吸収技知ってたら、超闘士タロウで倒せたと思っている(確信)。序盤に光線技吸収強化描写描かれてるのにタロウが「ツイフォンは生き物」以外の情報投げる余裕なかったのもあり、皆攻撃してるつもりでツイフォンに餌を与えて強化と覚醒を許しているのだから改めて視聴すると悲惨。やはり情報は最大の武器である。

・アナストロフィの火力
グリムドが外に出ている分火力がやばいことは初登場時にも解説していますが、それはつまりグリムド完全体の技も使用可能ということです。原初の混沌たるグリムドの攻撃に次元は無価値です。その気になれば(グリムドフィールドとも言うべき亜空間を生成したら)距離も時も無視したような攻撃が可能です。今回は次元を介した触手拘束のみでしたが、対峙したままに踏みつぶすなんて意味不明な攻撃もできます。

・グリムレイ・ヴェロスフォトス
グリムドが齎す破壊の力を、光に偏らせた『全てを貪る光の矢』。
初手の矢(グリムドの邪眼)が対象を縫い留め、二の矢が全てを飲み込む。射線上は乾いた絵に白いインクを筆で走らせたように光に消し去られていく。
技を開発した時、オレギアさんとグリムドは2人して喜んでいたが、なんも知らん人が見たら「ウルトラ戦士の戦い方じゃない」と言葉足らずな全否定食らいそうな必殺技。というかグリムドの力に光の指向性持たせただけで本質は火力あがったトレラアルティガイザー(攻撃前スタンついてる分悪質)である。ちゃんと『ウルトラマントレギア』としての必殺技を鍛えましょう。
追記
拘束技からのコンボはウルトラ戦士たちは普通に使っているぞ!ただし、この技は一般民衆にSANチェック入りかねないから危ない技。雑に言えば見境ないフラッシュして怪獣を一般民衆ごと失明させてから光線で打ち倒したらそれは光の戦士の技ではない。邪神の触手に、邪眼顕現させているのが問題点。邪眼視界に入れたら視線合わせずとも、ねぇ?

・グリムドアーマー
アナストロフィ考えた時は「原作トレギアの方が総合戦闘力上ぐらいの立ち位置でいいかな。原作トレギア、メンタル揺さぶられさえしなければクッソ強いし」程度だったんですが、改めて戦わせてみてわかったこと。グリムドが直接守ってるから何気にアーマーの防御力狂ってる。
半減ボディ基準だとタロウのウルトラダイナマイト直撃したら身体吹っ飛ぶ耐久値ではあるけど、そもそもウルトラダイナマイトの火力がおかしいのであって普通に滅茶苦茶頑丈です。
そんなグリムドが防御意識して顕現したアーマーなのだから、幼年体ツイフォンの攻撃ぐらいなら傷1つつかないという強度になっております。カラータイマーを守る邪神フェイスな胸部部分が一番堅い。ダイヤモンドパワー!!
え?OVA時間軸のスーパーツイフォンによるマジ殴り?胴体突き抜けるんじゃないかな。中身はブルー族ボディだし。
ちなみに原作トレギアはアーマー程ではないにしろ防御力はある方だったりします。腕のグローブや装飾のような拘束ベルト達、結構頑丈で防御にも使用している。回避も上手いし牽制の光線技も多用するのでそら強い。ルーブ劇場版のトレギアとかが戦闘スキルめっちゃ高いのわかりやすい。

・オレギアさん経験値を積むことに半分成功。
ちょっとは戦闘スキルあがりました。ただ、修行とはいえグリムドに頼り切りなのが大きな減点。タロウ達が教官視点で見たら赤点出してます。
さらに光寄りの混沌としての力を積み上げたいのに、どうみても闇寄りの混沌の技(触手拘束)使ってます。反省しろ。
ちなみに一人称の使い分けは、公私の場以外では本人の気分もあるが、話術仕掛ける意識の時勝手に「私」になる。

・伝説
宇宙の戦闘痕やヴェロスフォトスの残光、あと適当に言った言葉がズレた真実を言い当てて生じた。
なお闘士の名前は残っていない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VS スネークダークネス

SS書く時は色々音楽を掛けているのですが、やはり書いている場面にあったBGMが好ましいですね。バトル時はバトルBGM流すとイメージが作りやすくて良いです。うっかり苦戦時のBGM流すと露骨に苦戦しだすので選出は必要ですが。

前回のグリムレイ・ヴェロスフォトスですが、本当に言葉足らずな書き方したのでちょっと補足。問題なのは一般民衆があれ観た時のSANチェック被害であって拘束、硬直からの必殺技自体は卑怯ではないですよ。というか被害少なく倒す技そのものは皆結構所有しています。ウルトラブレスレットによる拘束、スタン→斬殺or爆殺コンボとかが有名。悪い怪獣や悪質な侵略者相手に容赦などせぬ!!
まぁ光の戦士云々言われたジャグジャグさんも同情の余地あるだけで、非が0かというと……。

そういやベリアロクさんの必殺技たちとか見た目凶悪すぎるけど、目撃した一般民衆どう受け取ったんだろうか。


 地球に浮かぶ島国、日本において外食は人気店、有名老舗店、チェーン店のいずれかを選べばまず外れる心配はない。その上でその日1番己の欲求に応えてくれる店を選べるかは博打だ。

 それに慣れてきた頃、人は目立たぬ店から正解を得ようと冒険心を芽生えさせる。だが隠れた名店と言うのは、単に寂れた看板だの、裏通りなどを選べば良いというものではないらしい。賑わい絶えぬ人気店や表通りで長続きしている店を越える当たりに出会えることは中々ないそうだ。だからこそ、見つけた喜び、出会えた喜び、美味の喜びは格別なのだと言う。

 

「だから、頑張れよ」

「はぁ……」

 

 以上が様々な飲食店が入っている区画にてマップと面を向かって10分にもなる俺に対し、急に話しかけてきて語り出した男の主張だ。要はその悩みは正しいと言ってくれているわけだが、結局どの店がオススメかは教えてくれないまま去っていった。厳しい先達である。

 あとお前も孤独にグルメを楽しむものかとも言われたが、全然違う。俺にはグリムドもタロウ(人形)もいるんだ。

 

 修行の合間にはより美味しい料理に出逢えそうな地球を選んで転移し、しばらく滞在しているのだが、この地球は食事の先輩みたいなオーラみたいなものを纏った地球人がちょくちょく存在感を示してくるから怖い。いや、実際に『食の先輩』ではあるのだが。

 

 ラーメンに舌鼓を打っていたら、「今のラーメン界は伝統と革新、形式と個性の両立を成した新世代ラーメンが最先端……ならば、彼が目指す『ラーメンの新たな万民の形式』とは……」と難しい言葉を呟きながらとっくに食べ終えた空の容器を見つめている地球人がいたり。

 

 寿司のネタ1つ1つに感動しながら頬を緩ませていたら、「芸術と食事の融和である飾り切りを駆使してイカの旨味や食べやすさを引き上げるのは基本……だが、これほどまでに上品なものに出逢えようとは!!」とか無駄にうるさい上に食事中だというのに拍手を打つ変な地球人がいたり。

 

 生春巻きやバインセオの食感や旨味に目を輝かせながら堪能していたら、俺が全身で感じている幸福感とはまたなんか違うっぽい、艶っぽさというか、表現を選ばず言うなれば発情でもしてるのかという表情ではふはふ食ってる妙な地球人もいた。しかもこういう変な反応しながら食ってる地球人は複数人目撃した。怖い。

 

「いかんいかん、インパクトある一期一会を振り返っている暇などない。店を選ばねば」

「\(゜ロ\)(/ロ゜)/」

 

 結局、今回は餃子をメインに扱っている店を選択した。餃子1つとっても色々種類があるもので、また悩むことになったが、焼き餃子を選択した。実に味わい深い、肉の旨味と野菜の旨味の良いとこどりとも言うべき包。衣だけでもきつね色に焼きあがった部分とそうでない部分の食感の違いがまた嬉しいし、噛めば口内に旨味の暴力が始まって実に楽しい。この小さな包に求める美味さを全て集めているとは、ウルトラカプセルの秘奥にすら負けない完成度だと言えるだろう。

 餃子に限らず、包子の類はいずれも1品としての高いレベルにあると感じている。いや、勉強になるな!! 

 

「旨いなグリムド!」

「(*・▽・)」

 

 そういえば、餃子は小籠包などと違って野菜料理であるとか変な老人が言ってたな。肉料理でも野菜料理でも構わないとは思うが、ジャンル分けの重要性はわからないでもない。考えている間にも箸は止まらない。その動きはさながらクレージーゴンだ! 

 

「おかわりだ!!」

「(*・ω・)ノ」

 

 結局、3皿分は食べてしまった。あの男の言葉ほど冒険はしなかったが、当たりを引けたのは間違いない。俺はまた一つ成長したのだ……。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ツイフォンから始まった激戦から早数週間。美食旅行も堪能し終えて、あれから数度戦いを重ねた。食と戦の積み重ねで成長した俺は新たな課題に直面していた。

 

 

 俺、グリムドへの依存が高すぎる。

 

 

 別にグリムドの力に頼る事自体を悪いとは考えていない。そもそもグリムドに頼らなければ肉体的にはクソ雑魚なブルー族*1なのだから。グリムドとの連携や協調を高めてよりしっかりと力を扱える事に問題はない。

 ただ、グリムドに甘えるような心理状態を生むのはよろしくないという話だ。これをグリムドに相談したのだが。

 

「(・ω・?)」

 

 と、全く理解できないという反応で終わった。元々()から単なるパワーソース扱い受けてもまるで気にしない存在である。グリムドからすれば、自分の力に呑まれず扱えるならそれで良いじゃないかという認識のようだ。

 グリムドは共に歩む存在だから語弊がある表現になるが、扱える技量や心構えがあるならば強化アイテムは使ってなんぼというのが開発者としての言い分なので賛同はする。その心構えの部分を少しでも改善したいという話なんだがな。上手く伝わらなかったようだ。

 

 確かにこのままでも間違ってはいない。だが、それでは先がない。成長していけてもグリムド完全体の出力80%相当にすら至らないだろう。グリムドと今の関係を守ったまま、グリムド完全体と同出力かそれ以上を目指すならば、これ以上依存度を高めてはダメだ。

 タロウを目指して絶望した俺が、また理想を目指すのは浅はかだとは思うが、やはり、俺自身の価値をグリムドの宿兼コントロール装置以上にするべきだろう。

 グリムドの力をより高めながら、光の戦士としても在る。この理想に辿り着いてみたい。

 そしてこの理想にはやはり俺そのものが成長し、グリムドとの絆により応えられるようあるべきだろう。

 

「というわけで、次の戦いだが。グリムドの力を抑えて戦いたい。今なら一時的であればアーリースタイル(元の姿)でも戦えるだろう?」

「(´;ω;`)」

「泣かないでくれるか。俺はお前の寄生虫になる気はないんだ」

「(/ _ ; )」

 

 グリムドの力を引き出しながらも周囲を無駄に破壊しない戦い方は身についた。ならば次はグリムドの力に頼らない弱い俺が、弱いなりに戦うべきだろう。グリムドの力を引き出すことばかりに長けて、自分の力を引き出せないなど話にならない。

 

 なのだが、そのグリムドが嫌がるのはどうしたものか。

 此方が頑なになり過ぎて拗ねられても困るし……。

 

「お互い譲れない時は、条件を出し合うものだ。グリムド、お前はどのラインまでなら許容できるんだ?」

「_φ(・_・」

 

 結局、俺がギブアップしたり命に関わるピンチになったら強制顕現保護、銀座で味わった高級ステーキで手を打った。グリムドからすれば、宿が失われる危険性が高い選択は許容しにくいのだろう。ツイフォンの時は1番弱い時選んでくれたし。

 

「ありがとうグリムド。では選出を頼む」

「(-_-)……」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 グリムドが用意したバトルフィールドは怪獣墓場を思わせる不思議な空間だった。

 荒地のような地面はあるが、見えている星空はわずかに歪んでいる。わざわざ専用の空間を作り、そこに選出した怪獣を呼び寄せたのだと思われる。

 

「それで、俺が戦う相手がコレはどうなんだグリムド」

「(・∀・)」

 

 俺の問いに、グリムドはただ笑うだけ。背筋が凍り、脊髄が沸騰するような悍ましい笑い声だった。

 ……ひょっとして怒ってたりするのだろうか。意地でも頼らせてやろうという意思が見える。

 

「キシャアアアアアアア!!」

 

 実質アーリースタイル(グリムドアーマーを意図的に解除してるアナストロフィ)となっている俺の前に対峙しているのは、邪願獣スネークダークネス。元は人間がデザインした怪獣で、発案した人間の心の闇を()が増幅させ、誘導し、邪悪なエネルギーを以て変身顕現させた経緯を持つ。暗闇の蛇という名前を冠する割にはがっしりかつどっしりとした二足歩行型の怪獣で68mという体躯を誇る。蛇らしさと言えば、大きく裂けた口と、長く鋭い尾だろうか。尾は先端がハサミ状にもなっており、そこもまた蛇の口を意識したのかもしれない。

 左右非対称の腕を持つが、肥大化した右手はシャドウシザーズという2本の巨大なかぎ爪がついており、これを振り回したり70万トン級の破壊力を宿して叩き付けるといった技を持つ。口から破壊光線も放つし見た目通りに攻撃力がえげつない。耐久力も見た目通りな具合で、結構ボッコボコに攻撃受けても倒れずにグルーブの必殺光線を受けるまで戦闘継続していた始末だ。

 

「ガアアアアアアア!!!」

 

 だがこの個体は、人間が変身した成れの果てというわけでもなく、しかし人間と無関係というわけでもなさそうだ。

 ウルトラ念力の力を宿した瞳で本質をとらえると、その正体はなんとソフビ人形だった。

 人間に捨てられ忘れられたと感じた恨みや悲しみといった負の感情を発している辺り、それが怪獣化の原因のようだが、それにしてはずいぶんと俺を見て敵意がえぐいような。記憶にはないが、スネークダークネスの姿である以上は()が関わった案件なのかもしれない。

 

「だとすれば、トレギアとして責任を果たさないとな」

 

 怒りの咆哮がびりびりと肌を打つが、それを掃う様に構えを取る。

 このスネークダークネスから感じる圧は、少なくとも並大抵の怪獣が出せるものではない。

 もしあいつが再現した通りの力を有しているならば、俺が単体で勝てるかで言えばノーだ。だが、グリムドに頼れば勝てるとも感じてしまう……やはり良くない傾向だ、まだパワーソース扱いで少なくとも自分で動いてたあいつの方がマシなレベルだ。

 

「見ていろグリムド、俺だってウルトラマンなんだ! シェアッ!!」

 

 いくぞスネークダークネス! 

 俺だって少しは強くなったんだ!! 

 

 右爪による大振りの攻撃を避けて懐に入り込む。

 そしてトレギアパンチで胸部から腹部にかけて連打!! 悲しい程軽い音が立て続けに響く。

 本気で通じていないのだろう。スネークダークネスは、俺の連撃を意にも介さぬ様子で蹴り上げてきた。

 すぐに両腕で防ぐが吹き飛ばされる。辛うじて倒れずに持ちこたえたところをあの右手の爪が勢いよく突き出されてきた。

 

「キシャーッ!」

「グワーッ!!」

「キシャーッ!」

「グワーッ!!」

「キシャーッ!」

「グワーッ!!」

「キシャーッ!」

「グワーッ!!」

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 俺のタロウへ。

 弱い弱いと自虐していたけど、こんな弱いとは思っていませんでした。

 青い絨毯として地面に広がる俺を見ても、笑わないでくれるか。

 

「うぐぐ……」

「グオオオオオン!!」

 

 パンチもキックも通用せず、バリアは簡単に破られて、口から放たれた光線にも回避すらまともにできず地面を転がる始末。グリムドの力を借りてないトレギア()の弱さを思い知る。

 スネークダークネスは倒れた俺を踏みつけて勝利の雄たけびをあげている。めっちゃ重いんでどいてくれ。

 

「( ・∇・)」

 

 早く頼れば? と内にて大人しくしている邪神が囁いてくる。完全に善意なのだが、なんか文字通り悪魔の誘惑みたいな感じである。

 というか早く力を貸したくてうずうずしてるのか、カラータイマーから力が溢れ出している。落ち着いてほしい。

 

「悪いなグリムド、まだやらせてくれ」

「o(`ω´ )o」

 

 こうして無様を晒しながら戦っていてわかった事がある。それは俺の本音だ。

 俺はタロウへの憧れを捨てられていなかったらしい。グリムドの力に溺れないようになんて建前だ。そんなものずっと前から戒めていた事だ。

 寧ろグリムドの力で強い自分になったからこそ、諦めていた理想を目指せるかもと考えていたんだ。愚かなウルトラマンだよ俺は。

 精神世界での殴り合いの時にあれだけ格好つけてたのに、一歩間違えれば()と同じ過ちに進んでいたかもしれなかったわけだ。グリムドにはつくづく申し訳ない事をしてしまったな。

 

 だが、この愚かさに気付ける自分だから、愚かなままでも光の戦士になれる。

 

「ターッ!!」

「!?」

 

 一瞬緩んだ隙を突いて転がって脱出する。

 その勢いを利用して再び立ち上がる。

 

「キシャアアアアアアア!!」

「ハァッ!!」

 

 吠え猛りながら突進してくるスネークダークネスを全身を駆使して受け流す。

 読んでいたとばかりにハサミのついた尾が俺の身体を捉えようとしてくるが、問題ない。

 それも読んでいた!! 

 

「シェアッ!!!」

「ギャシャー!?」

 

 飛ぶ斬撃技であるトレラテムノーを放つ要領で斬撃の力を手に宿し、そのままハサミの中心部へ打ち付けるように振るう。

 強靭な尾は縦に割かれ、初めて負った大ダメージにスネークダークネスが悲鳴を上げる。

 あの技はパンドンを斬り刻むほどの技だが相応のエネルギーを込めなければならない。弱い俺の力だけでは放ったところで弾かれるが、腕の力も合わせればこのとおりだ! 

 

 パワーもフィジカルも弱い俺でも、自然と身に着けた技術や鍛え上げた技術があれば、遥かな格上だろうが一矢報いることはできる!! 

 

「(; ・`д・´)」

「まだだ、いくぞスネークダークネス!!」

「!?」

 

 今なお卑下している自分にも、自信という炎が僅かにでも宿った事を自覚する。

 だからだろうか。光の力が、ウルトラマンとしての力が、ずっと引き出しやすくなっているのを感じる。

 

 ……いける! 

 

 再びスネークダークネスの頑強な体へ拳を打ち込む。

 情けない音を立てていたはずのそれは、一転、力強い衝撃音と共にわずかながらダメージすら与えている。

 

 

「グオオオオオオ!!」

「セヤァッ!!」

 

 拳から得意な手刀へ切り替える、己の光エネルギーを両の手に宿しながら切り裂くように打ち付けていく。今度はウルトラスラッシュを纏うようにイメージすると驚くほどしっくりと噛み合った。

 堅い鱗のような表皮が容易く削られていく。奴にとっては擦り傷程度のダメージだろうが、通るのと通らないのでは大違いだ。

 ギーストロン戦でもこのように戦っていたならば、もっと有利に戦えたかもしれない。

 

「キシャーッ!!」

「イヤーッ!!!」

 

 口から放たれた強力な破壊光線を、全身全霊を込めたバリアで防ぐ。

 タロウならば片腕だけで造作もなく弾いただろうなと一瞬考える。だが、過程は違えど結果を同じにしてみせる!! 

 

「うおおおおおおおおお!!」

「!?」

 

 地面を踏み抜き、砕けそうなバリアを力で保持して、ついに俺は耐え抜いた。

 先程とは違った結果にスネークダークネスが動揺する。今だ!! 

 

 二度目の全身全霊。見ていてくれNo.6!! これが、俺の、全力だ!! 

 

 

「トレラシウム光線!!」

 

 眩い輝きがスネークダークネスの巨体へ直撃し、その硬い表皮と反応して激しい爆炎と煙を発生させる。

 必殺技未満の威力と嘆いていた技だが、今のは間違いなく、過去最高の威力があった。

 タロウが俺の力を導いてくれたのだろうか。

 

「グルルルルルル……」

「……」

 

 まぁうん。倒せていれば格好はついたが。

 煙が晴れた先には、腹部が大きく傷ついてはいるものの、唸り声をあげて睨むスネークダークネスの姿があった。

 

 全力を出し尽くした俺にはもう奮起する力も残っていない。最後の最後でグリムドに頼る結果になりそうだと思わず自嘲していると。

 

「グオオオオオン……」

 

 健在と思われたスネークダークネスの身体がゆっくりと倒れこんだ。

 地響きを感じながらも一瞬、目の前の光景が願望による幻覚かなにかと思ってしまう。

 まさか、倒したのか? 俺が? 

 

「(;一_一)」

「そうか……勝ったのか、俺は」

 

 グリムドが心底不服だと言わんばかりの感情を乗せて伝えてきたことには、スネークダークネスは生きてはいるがもはや戦闘継続は不可能らしい。

 元々人形だったのと、体を維持していた怨念が序盤の蹂躙で少なからず消化していた故に、耐久力が完全ではなかったようだ。

 このまま放置していれば、やがて傷から怨念のエネルギーが抜けてただの人形に戻るだろう。

 

 この空間に残された人形が持ち主の元へ帰るとも思えない。グリムドが連れてきた時点で怪獣だったわけだし。

 なら、光の戦士として俺が為すべき選択は1つだ。

 

「……なぁスネークダークネス」

「……?」

「一緒に来ないか。お前が玩具の人形として、持ち主の元へ帰りたいなら必ず送り届ける。だが戻る気がないならば、俺が持ち主になろう」

「……」

 

 スネークダークネスは無言だったが、僅かに頷いた。

 そして勢いよく傷から怨念のエネルギーを噴出させ、その身を縮めていく。

 エネルギーはスネークダークネスの力を宿した怪獣リングとなり、ボディは元の人形へと変化した。

 なるほど、これがお前の答えと願いか。

 

「人形の方はボロボロだから、直してから送り届けるとしよう。持ち主のいる世界はわかるか?」

『グォウ』

「わかった。これからよろしくな、スネークダークネス」

「( #゚Д゚)」

「うお!?」

 

 スネークダークネスの願いを聞き入れ、新たな仲間を歓迎していると、我慢の限界とばかりに、グリムドアーマーが強制的に俺の身体へ纏わりついた。

 確かに、目的だった戦いも終わったのだからいつまでも無理して引っ込めさせるわけにもいかなかったな。配慮が足りなかったすまないグリムド。

 

「さ、ウルトラ科学力で一瞬で直せるわけだし、まずは持ち主……そうた君というのか? その子のいる世界へ行こう」

「(・ω・)ノ」

『♪』

『ゴロ』

「ん!?」

 

 思念波が1つ多くてびっくりしたが、くすんだ色となっていたゴロサンダーリングが輝かしい姿を取り戻していた。

 どうやらたった今、彼も回復したらしい。よかったよかった。

 手元を離れていても、持ち主と人形の縁は上手くビーコンとなったようで、無事にそうた君の住む地球がある世界へゲートも繋がった。やはり元の世界へ戻る為にはビーコンの有無は大きいのだと勉強になったな! 

 ……俺の場合、世界との縁が一度完全に途切れているから縁を利用した帰還転移上手くいかないんだよな。タイガの方なら問題ないんだが。ビーコン候補になりそうなの元の世界にないだろうか。私物や俺のタロウへの友情パワーよりは強くないといけないのがきついな。此方から選定できる機械を作る方が早いかもしれない。

 うん、研究の方向性も決まって今回はいい結果になった! 気持ちよくタロウグッズと眠ることができそうだ! 

 

 

 

 

 

 

『ゴロロ……トレギア、寝てた間の事聞かせてくれるか』

「ああ、もちろんだ。ウーラーはお前のおかげでうまくいったぞ」

『ゴロッゴロロッ、それは良かったな』

「そうだ、せっかく目覚めてくれたなら次はお前にお願いしようかな」

『ゴロ?』

「特訓相手さ」

*1
(ただし何事にも例外はいる。ウルトラマンヒカリとか)




○月×日16時ごろ
小学男子生徒の前にかけより
「君の玩具だよね、大事にしなきゃだめだよ」などと発言して人形を渡す事案が発生。
人形は本当に男子生徒のもので、かつて失くしてしまったものとのこと。
付近住民は不審者に気を付けてください。
不審者は身長180㎝程、痩せ型の20代男性。黒と白のツートンカラーで構成された衣服。

・美食溢れる地球
ラーメン馬鹿達がいたり、ソログルメ堪能する者たちがいたり、どっかで審査員やってる奴がいたり、メシウマ反応が大げさな人種がいたりする世界線。オレギアさんは流石にそこまで察していなかったが、グリムドはイメージ描写も受け取っていたため、「なんでごはん食べるだけで脳内で全裸になったり変なリアクションしてるんだこいつら」と引いていた。後に現実でも全裸リアクションする奴をみかけて「ワカラナイ セイメイトハナニカ(邪神語」となった。

・スネークダークネス(元人形)
元ネタはウルフェス2019。作者は直接観に行った(隙自己語)。
この『そうた君の人形』回は思ったよりもシリアスな展開や内容に加えて、熱いバトルがあったのが特徴(誰が言ったかウルトラマン版トイストーリー)。ベリアル陛下がすごく美味しい登場と戦いするので銀河帝国臣民は必見。
劇中のスネークダークネスソフビ人形はベッド下の奥底に転がったまま忘れ去られ玩具箱にすら仕舞われない悲劇(こいつDX版ででかい上2000円以上するのに)を有しており、深い悲しみを抱いていたところをトレギアが利用している。
DVDではカットされていたが、作者が観に行った回では舞台終了後にトレギアが元の人形になって転がってるスネークダークネスを思い切り踏みつけるというとんでもない行動をしていた。こいつ本当後味悪くする天才である。
なのでその時あの人形が抱いたであろう悔しさと恨みを少しでも晴らしてもらうべく、オレギアさんをフルボッコしてもらいました。
トレギアの覚醒した光の力をその身に受けたことで、あのトレギアではないと悟る。怪獣としての力をリングにして、持ち主の元へ帰りたいという願いを叶えてもらった。

・オレギアさん、修行成功
ウルトラ族には適性があるのは事実だし、トレギアは宇宙警備隊に入れる程戦いの才能と力はなかった。だがそれは成長しないことを意味しない。
ウルトラマンは光の戦士であり、その心の輝きが更なる力を解放する。オレギアさんは殻を一つ破れたのだ。頭が良過ぎて闇堕ちするようなタイプなので、この心の輝きを強くすることにここまで時間がかかった。

・グリムド過保護
見返り要求する事を最近ようやく覚えたレベルで尽くすタイプ。感想欄ではすっかりヒロイン扱いである。マスコットの皮被った邪神というポジションで書いているはずなのにどうしてこうなった。
オレギアは絆を結べている認識こそあれ、向こうの価値観からみて住居保持のつもりだと解釈しているが、グリムドはオレギアを原初の混沌と対話交流できる知的生命体として無二の存在と認識している。本当にヒロイン化して恋に目覚めたらヤンデレ不可避だが、邪神なのでそこまで情動が進化する事はない。怪獣少女に万が一変じた場合を除いては。

・オレギアさんの現戦力(怪獣リング)
ゴロサンダー(回復完了) ゼットン 他マイナー怪獣数体 スネークダークネス NEW!
ちなみに怪獣リング状態の怪獣意識は基本眠っているか構築されてない状態ですが、半覚醒状態ならば意思疎通ができるものとしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VS ゴロサンダー

言うてそんな戦わない回
というかやっとちゃんとした修行回かもしれない。


 そうた君の元へ人形を返して早数日。

 俺はグリムドが前回用意したあのフィールドで再び戦闘訓練を行っていた。時間圧縮もできる優れた訓練場だ。

 今回はもちろんアナストロフィである。そもそもアーリースタイル(元の姿)での特訓はかなり間をおかないと許してもらえそうにない。

 結局頼ることなく勝ってしまったのもあり、グリムドには結構拗ねられたからな。

 

「シェアッ!!」

「ケーン!!」

 

 姿を消した狐火怪獣ミエゴンを容赦なく打ち倒す。

 透明になるだけならばウルトラ眼光があれば何一つ苦戦することはない。

 おまけにグリムドは『存在感知』という索敵においてふざけた感知能力を有している。

 これを無効化できるのは己を幻のようにしてしまうか、存在を世界からズラすような隠蔽が必要となる。……なんでそういう能力持ってる奴らちらほらいるんだろう。

 

 そして今回戦っているのは俺とグリムドだけではない。

 

「ゴロロロロ!!!」

「ギエー!?」

 

 ゴロサンダーが勢いよくゴロン棒を振り回し、カタン星人を吹っ飛ばした。

 目つぶし星人の異名を持つ宇宙人で、ゴロサンダーの視界も奪おうとしたようだがあっさり弾かれたようだ。

 結果、戦いで無粋な真似をしてきたと怒ったゴロサンダーによって、吹っ飛び倒れたところをゴロン棒で滅多打ちにされている。

 あのゴロン棒、1兆ボルトの力を宿しているのでこん棒で殴られただけでは済まないダメージがある。まず助からないだろう。

 

 まぁ、俺のタロウにも卑劣な目潰しして殺しにかかったクソ種族なんでどうなろうが知った事ではない。

 

「ハァ!」

 

 降参したミエゴンをリング化して回収する。

 元々那須野に住み着いていた怪獣で、そこの家畜を盗み食いしたりしていたらしい。

 それぐらいなら俺も害獣区分で見逃していたかもしれないが、狐火で近場を焼き払ったり、それで起きた騒動に乗じて人間を食らって行方不明者を増やすというとんでもない性悪狐だったので呼び寄せてぶちのめした次第である。

 タロウも同じ個体と戦ったそうだが、その時の個体がやらかした狐火で母親を焼き殺された娘がおり、それがねじ曲がり風評被害にあって最終的に命の危機にまで追いやられている。タロウ相手では格が違いすぎて最終的に狐火で自滅した哀れな最期だったそうだが。

 こいつも同じことしてたらリングにはしないで怪獣墓場へ送ってやるところだった。

 

 ちなみにコレでも一応九尾伝説の九尾本人らしいのだが、俺が思うにただの誤解である。

 確かに狐火は使うし、狐っぽい怪獣だし、こんな見た目をしておいて空も飛べたり異能持ちではある。

 だが狐耳の代わりに角が5本生えているし、そもそも尻尾は途中で枝分かれしてるのが九尾っぽくみえるだけだ。

 本来の九尾とは別に伝説を作っていたが結果的に混ざって同一視されたパターンだろう。

 

「さて、肩慣らしは十分か? ゴロサンダー」

「ゴロロ……ああ、面白くもない相手だったが」

 

 ゴロン棒を担いで笑っているが、足元の黒焦げ残骸は笑えない。あ、踏みつぶしやがった。本気で癇に障ったんだな。

 

 ゴロサンダーは災厄の獣神だが、戦神でもある。

 能力も格闘センスも戦術眼も高い、おまけに知性もあると特訓相手として最良だ。

 やっと復活してくれたので、是非にもと誘ったところ快諾してくれた。

 ただ、まずは軽く前座で戦って温まったところを()ろうとのことだったのでこうして格下相手に争った次第である。

 ……カタン星人、殺し屋稼業を種族単位でやってるレベルで決して雑魚ではないんだけどな。

 

「……」

「……」

 

 互いに構える。

 こうしてまともな訓練になるのは初めてかもしれない。

 だいたい自己鍛錬と辻ファイトだったし。

 

「よいしょぉ!!」

 

 ゴロサンダーが力強く四股を踏む。雷が舞う。

 

「よいしょぉ!!」

 

 ゴロサンダーが勇ましく四股を踏む。稲妻が走る。

 

「……ゴンロロォ!!!」

 

 ゴロサンダーが両肩から爆発的な雷撃をまき散らした。

 雷の雨が直撃したすべてのものは爆散し、場の全体が帯電したかのようにゴロサンダーの気が満ちる。

 その迫力には、思わず呑まれそうになった程だ。それは、俺が挑む側であることを意味する。

 

「ゴロロ……かかってこい、トレギア」

「いくぞゴロサンダー!」

「(`・ω・´)」

「ゴロロロロロ!!!」

「え、ちょ、ずるっ!?」

 

 突撃したら速攻サンダースパークを叩き込まれた。グリムドアーマーが雷撃を防いだが思いっきり吹っ飛ばされた。

 ドラミング早すぎるだろ!! 

 

「ゴロロォ!!」

「ちっ、セヤッ!!」

「ゴロッ!?」

 

 倒れた隙にゴロン棒を構えて飛びかかってきたゴロサンダーへ、カウンター気味にフォトングリムドキックを放つ。

 ゴロン棒で受け止められたが、いきなりのコンボ技は防げた。まったく、初手で勝ちパターンへ持っていこうとするとはとんでもない雷神だ。

 そういうことするならこっちも考えがあるぞ! 

 

「ゴロロン!」

 

 雷迸るゴロン棒を器用に回転させながら、ゴロサンダーが突っ込んでくる。

 だがそのゴロン棒から飛び散る雷撃が肩へ集束していっているのを俺は見逃さない。

 避けたところを近距離サンダースパークで仕留める算段だろう。

 

「グリムシールド!!」

「ゴロォ!?」

 

 俺とゴロサンダーの間に割り込むように巨大な盾が出現し、ゴロン棒を大きく弾き返した。

 俺の半身を覆うタワーシールドで、グリムドの赤い角が凝縮したような真紅に青い紋様が走るデザインをしている。ちなみにグリムドはこれに邪眼を付けたがっていたが、真面目に不気味なので却下した。

 ゴロサンダーの一撃をここまで容易く弾ける強度なのは驚きだ。ともかく、武器を弾かれることで生じた隙に大技を叩き込んでやろう。

 

「たまにはお前も雷撃を味わってみると良い!!」

「!?」

 

 グリムドアーマーの各所にある赤い角のような部分より混沌の雷撃が弾け飛ぶ。

 その力全てをウルトラホーンを模した2本角へ集束し、裁きの雷として放出する。

 

「グリムボルト・スタウロス!!」

「!!!!」

 

 ゴロサンダーはゴロン棒を押し出すように構えて防いでいるが、この雷撃はグリムドの力を前面に押し出した一撃だ。無差別にまき散らされるグリムボルトを俺が集束し、指向性を持たせて打ち放つ。その気になれば星1つ焼き尽くす程の奔流だ。防ぎきれるはずも無かろう!! 

 

「ゴロ──!?」

 

 ゴロン棒が砕け散り、ゴロサンダーが雷撃に飲み込まれる。集束して放ったためか、その有様はまるで十字架に焼き尽くされているようだ。

 グリムボルトがやがて四散すると、そこにはぶすぶすと焦げた煙を身体からあげているゴロサンダーの姿があった。

 一見大ダメージにもみえるが、よく見れば表皮が焦げているだけで、両肩やアヒル口などは損傷すらみられない。普通に耐えられてしまったらしい。

 

「ゴロロ……たまには電気風呂もいいな」

「原初の混沌が放った雷を電気風呂扱いか」

「雷に打ち負ける雷神などいない!」

 

 力強く吠えるゴロサンダー。

 お前自分の雷撃ごと跳ね返してきたトライストリウムの攻撃で爆散してなかったか。

 じっと睨むと目を逸らされた。自覚あったのかよ。

 

「ゴロロ……このゴロン棒を砕くまでで相当力を相殺してしまっていたからな。あれなら耐えられる」

 

 そう言いながら再びゴロン棒を顕現させるのはなんかずるいな。

 ゴロサンダーの雷を物質化したようなものだから、破壊困難な割に破壊のメリットが少ない嫌な武器だ。

 

「となるとやはりタイガ達がやったように破壊より弾き飛ばして、その隙に大技を打ち込むのが正攻法か」

「そう簡単には許さないが……トレギア、普通に殺しにきてないかお前」

「その身体爆散してもリングに戻るだけだろう」

「お前本当にウルトラマンか」

「ああ!」

「(;´・ω・)」

 

 何故かグリムドからも呆れられた思念波が来た。どういうことだ。

 

 

 

 

「ゴロォ!!」

「セヤッ!!」

 

 ゴロサンダーの拳と俺の拳がぶつかり合う。

 お互い初手から殺しにかかったことを反省し、あれから仕切り直しになって、再度特訓となった。今度は落ち着いて互いの動きや技術を高めるような組手を意識している。

 

 先の勝敗としてはゴロサンダー曰く、俺の勝ちらしい。追撃受けたら普通に死んでいたとのこと。あれだけ気合い入れさせておいて速攻戦になったのは少し申し訳ないが、闘いは長丁場であれば良いとは限らないと返された。返す言葉もないな。

 

「ゴロッ!」

「っと!」

 

 横から大振りに振るわれたゴロン棒を辛うじて回避する。

 すると、ゴロサンダーは一度動きを止めてこちらを睨んできた。

 

「トレギア、回避と防御の2択で悩むな」

「む……」

「お前は回避に関してはセンスがあるし、防御はグリムドの力で高まっているから両方当てにできるのは自覚しているだろう? 今は防御に頼りながら回避を鍛えようとしているのもわかる。だが、回避も磨きが入ってきたせいか、一瞬2択で悩む隙が生じ始めた段階にみえる。それは悪い癖になるから、もう連続行動を意識した方が良い。さっきのグリムシールドからのグリムボルト・スタウロスのようにな。2手先3手先の行動を意識していると、自然と繋げるために必要な選択を優先するようになるから回避と防御で悩まなくなるぞ。ゴロ」

「なるほど。参考になるな。あととってつけた様にゴロとか鳴かなくていいぞ」

「ゴロロロwwwww」

 

 このように、ただの殺し合いだったものから一転、ちゃんとした特訓かつ指導鍛錬のようになっている。

 ゴロサンダーは戦神だ。与えられる助言は値千金のものだ。ありがたくいただこう。先の指導も、戦闘センスをもっと磨けば2択を同時に意識しながら隙なく最善手を取れるようになるそうだが、そこに至るのは流石に遠い未来の話だろうな。

 

 

 

 

 あっという間に数か月経った。

 他にもゴロサンダーによる指導やアドバイスは多岐にわたっており、実戦も交えるのでその経験値は独学のそれを遥かに上回っていた。

 

「ゴロタツマキ!」

「うわっ!?」

「トレギア、光線技にしろ肉体技にしろ回転属性のある技は持っていた方がいいぞ?」

「たしかに……いざという時回転すればなんとかなるのは有名だな」

「それでなんとかできるのはお前らウルトラマンぐらいだ。で、ないのか回転技」

()がギアギタージという回転突進技を会得していたが、俺のセンスではまだ再現できないな」

「何意味の分からない事言ってるんだゴロ?」

「やべ、説明するの忘れてた」

 

 回転技の指導から流れで現状を説明する羽目になったり。

 

「……という具合で、宇宙拳法の流派は多岐に渡っていてな。もはや源流を知るものはほとんどいないはずだ。あ、ゴロ」

「ゴロサンダーは格闘技や武術にも詳しいんだな」

「当然だ、この宇宙で、俺の最大の娯楽にして生き甲斐になったのが戦いだからだ」

「ただ暴れるだけの災厄としても扱われていたがな」

「ゴロ……それは言い訳できない。事実だ」

「しかし、宇宙拳法を始めとした武術の数々に精通している割には、熟達と言えるほど鍛えていないのは何故だ?」

「肌に合う技術でなかったもの、体型や才能から取得困難だったものが多かったという理由もある。だが一番の理由はあくまで相手の使う技という認識で覚えたことだな」

「なるほど。知識を得る目的からして違ったなら身に着ける事を重視しなかったのは頷ける」

「だがあらゆる格闘技でも相撲というのは特に気に入った! 猿真似程度だが学んでいるぞ」

「そういえばタロウも相撲をやっていた気がするな」

「なんだと! なら今度タロウと()らせてくれ!!」

「ヤらせるわけないだろふざけんな!!」

「???」

 

 意外にわかりやすい講義の際に相撲の話から急に俺のタロウへ変な感情飛ばしてきたり。

 

 修行だけでは終わらない会話、掛け合いも多くあり、グリムドと2人ボッチだった俺には思ったよりも楽しい一時となっていた。

 孤独になりたがるくせに孤独に耐えられないみたいな面倒臭い性格してる自覚はあったが、ゴロサンダーとの特訓は俺の心にも良い栄養となってくれている。

 タロウに会えない寂しさが僅かでも癒えたのは嬉しい誤算だ。俺がタロウ成分枯渇に耐えきれず発狂したらグリムドの意志とは関係なく力に呑まれて闇堕ち不可避だし。

 ただ、改めて御礼を言ったら照れくさそうに両手で顔を覆ってゴロゴロしか言わなくなったので蹴り飛ばしてやった。おっさん腹でそんなんやるな。

 

 

 

「ゴロロ……大分動きも良くなったし、そろそろトレギアにも武装が欲しいな」

 

 しばらく経ったある日、ゴロサンダーから武器を持たないかと提案された。

 

「武装か? 正直グリムドが万能すぎてあまり意識してなかったが」

「(*・▽・)」

「グリムドアーマーから攻撃に転じる技がいくつもあるのは良いことだが、最初から攻撃を意識した武装があると良いと思う。こけおどしでもいいんだ。敵にそれを警戒させて無駄に意識を逸らさせる搦め手とかお前に向いてるだろう? 剣とか、ハンマーとか……あ、ゴロ」

「『あ、ゴロ』じゃないんだよ。わざとやってるだろう」

「ゴロロロッ♪」

「ふむ……と言っても、私が開発する兵器は万能型が多くてな」

 

 武装と聞いて真っ先に思い浮かんでしまうのがブレスレット系兵装なレベルで、俺は臨機応変の万能型を重視してしまう。

 つまり、現状で何も問題ないのではという認識だ。だが、ゴロサンダーの意見は無視できない。

 強いて言えばウルトラランスか……? あれを巧みに扱えるのは宇宙警備隊所属でも限られた者だし……

 

「やはり、あまり剣とか槍とかそういうのは……そうだ、グリムド何か出せないか?」

「(・ω・)ノ」

 

 グリムドに相談してみると、快諾の返事が脳内に響き渡った。

 頼られて気合入れてる雰囲気も感じる中、混沌の闇が空中に出現する。

 闇は孔となり、そこから全身が逆立つような恐怖を煽る笑い声のような何かが響き渡った。

 ゴロサンダーはドン引きしている。

 

 やがて孔より紫電を纏って落下したのは、炎の揺らめきを体現したような曲がりくねった剣身を持つ剣。地球だとフランベルジュという分類だったはずだ。

 剣身を上に向ければそのまま真紅の炎に、下に向ければ血の滝を思わせる紅さであり、グリムドにしては珍しく芸術性が上手く働いているようにも見える。

 だが柄の鍔部分は触手を模した闇と光が絶えず蠢いており、握りは『まだ生きている』と思えるような生々しさある質感の革、柄頭は当たり前のようにグリムドの邪眼がついていた。

 

「「うわぁ」」

「(`・ω・´)=3」

 

 思わずゴロサンダーと声が被る。

 グリムドは今回は自信ありと鼻を鳴らすような雰囲気を纏っている。

 俺は一度ゴロサンダーと目を合わせ、お互いの見解が一致している事を確認すると、総意として回答を出した。

 

「グリムド、これなしな」

「Σ(´;ω;`)」

 

 こんなん構えてウルトラマンだ言っても信じてもらえるわけないだろ!!! 

 イメージって大事なんだぞ!!!

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ふぅ」

 

 自らリングの姿に戻ったゴロサンダーを回収し、一段落の息をつく。

 ゴロサンダーと共に行ったこの数か月の修行と戦闘は目覚ましい程の成果を上げてくれた。

 やはり『頼る』というのは大切なことなんだなと改めて思う。俺は1人で考え込むとドツボにハマりがちだしな。

 元々プレゼントしたつもりだったが、ゴロサンダーとは長い付き合いであってほしいとも思ってしまった。タイガには代替候補用意してあげないと。

 

「では久々に、地球のご飯を味わうか」

「(・ω・)♪」

 

 視界に広がる殺風景な修行場も、トレラ・スラーを開いて混沌の扉を潜り抜ければ美食の世界へ早変わりだ。やたら料理系の企画がTVで流れていたり、特集が派手だったり、個性的な地球人が多いあの地球だ。あの勝手に同類扱いしてきた男は元気に食べているのだろうか。

 

 ふむ、怪獣リングになっている連中も普段は休眠状態とはいえ、もし美食に興味があるなら食事の楽しみを堪能してもらいたいし、手段を検討してもいいかもな。

 別世界より得た擬人化計画技術を利用しての少女化……は、やめておこう。タロウからいらぬ誤解を受けたら俺は死ぬ。

 ゴロサンダーとかは自力でサイズ可変はできるし、認識阻害かけて直接いけるか? 他の怪獣達は、最悪魔法空間内でテイクアウトしたのを喰う、ぐらいか。

 

「ふむ、怪獣リングに、人間サイズに抑えて、かつ人間に認識阻害させる機能をどうにかして作れないか」

「( ・ω・)?」

「科学者としても面白いテーマに感じるし、好奇心が刺激される研究にもなりそうだ! 一度実験してみるか!」

「( ・ω・)ノ」

 

 勢いに乗った俺は一度食事を挟んだ後、研究にとりかかったのだが。

 サイズ可変性能でやたら難航したり、認識阻害が思わぬ悪影響を生んで悪目立ちしたりなど苦労を重ねることになる。

 気づけば修行を放置してのめりこんでしまい、結局2年の月日を重ねて改良に成功したが、あれだけ鍛えたはずの腕があっさり鈍ってゴロサンダーに叱られることとなるのだった。

 




戦闘力と科学力の両立は大変。

・ゴロサンダー、オレギアさんの師匠ポジになる。
宇宙にその名が知れ渡るほどの知名度を誇り、戦いが生き甲斐とまで言われてるゴロサンダー。トレギア特訓の指南役としては完璧な逸材である。

・タロウは相撲やってたのか。
モチロンの時にせいぜい四股を踏んで取っ組み合いしたぐらいだが、妙に印象に残るシーンとなっている。
なお、角界には宇瑠寅太郎という四股名の力士がいる。

・修行成功
鈍った部分は鬼の特訓で取り戻しました。

・怪獣リング改良成功
新たに『中型犬レベルまで縮小したサイズ顕現能力』『人間に見えるけど顔も姿もモブっぽくて記憶に残らない系認識阻害能力』『擬人化機能(基本OFF)』『自己顕現機能(ゴロサンダーのみ)』『タイガスパークを介した能力発現の技種を2種以上に』『洗脳防止機能』『紛失防止機能』『カラーリング変更機能』が追加されました。
ウルトラの科学力は万能なのだ!!(一部シャプレー星人の技術など他星技術も利用)これで君も【怪獣散歩】ができるぞ!!
なお、紛失防止機能や洗脳防止機能はついていても盗難防止機能がついていないのが光の国流。前者2つも性能が高いとは言ってない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VS タイラント

5番勝負の4番目何がいいかなって検討してた時、つべの円谷チャンネル見て即決した奴。


 ウルトラ戦士たちの間で、暴君怪獣タイラントを知らない者はそういないだろう。

 シーゴラスの角、イカルス星人の耳、ベムスターの腹、バラバの両腕、ハンザギランの背中、レッドキングの足、キングクラブの尻尾。これらのパーツを過不足なく纏め上げ、洗練し、君臨した大怪獣だ。合体怪獣はいずれも手強いが、このタイラントも例に漏れない。ウルトラ6兄弟のうち、休憩をはさみつつも5人を倒して地球へ殴り込んだその戦績は凄まじいものだ。

 

 で、このタイラントをタロウはあっけなく倒している。流石は俺のタロウ!! なわけだが、これはいくつか説がある。

 

 まずは怨念説。そもそもタイラントはウルトラ兄弟に倒された怪獣や超獣、侵略者達の怨念を宿して誕生しており、これがウルトラ兄弟への特攻となって極めて有利に働いた。しかし、戦っている間にそれらを消化してしまった、あるいは俺のタロウに倒された怪獣の怨念が宿っていなかった為、スペックを有効活用できずに敗れ去った説。

 

 次に、体力説。海王星より誕生したタイラントは真っすぐに地球へ向かうわけだがこの最中にウルトラ兄弟5人と戦う。ゾフィー戦後は流石に休んでいたが、そこからはノンストップだ。戦闘遅延がなければ土星から地球までわずか20分という超スピードで向かっていたわけで、スタミナ切れしてない方がおかしいハードスケジュールだ。

 

 もう一つ、タロウの戦略説。

 別にタロウがいつまでたっても末弟扱いする5兄弟たちを捨て石にしたとかそういう話ではない。タイラントの構成パーツであるバラバの腕にある鞭を引きちぎられた後、それを光の槍ウルトラランスへ変化させ投槍、それがタイラントの身体に突き刺さり大爆発している。タイラント自身の武装を用いたことで、タイラントの力を上乗せした技となり打ち倒せたという説だ。個人的にはこれを推したい。タロウだからありえる話だ! 

 

 案外全て複合した結果かもしれないが、1つ断言できることは、もしタイラントがもっと全力で己のスペックを活かした戦闘をしていた場合タロウも厳しかったということだ。

 地球に降り立ってからは冷凍ガスもベムスターの吸収能力も、角からの雷撃も、尻尾からの猛毒も使っていない。ゾフィー達を叩きのめした驚異的な格闘能力と、エースを一撃でノックアウトしたデスファイヤー、そしてバラバのムチ攻撃しか使えていない。全身兵器の怨念怪獣としては再戦を叫びたい試合模様であろう。

 

 そういえば、元の宇宙だとベリアル軍にもタイラントがいたな。相当強い個体らしく、ウルトラ戦士たちの光線技は無条件でベムスターの腹から吸収しつつ、イカルス星人のアロー光線で反撃したり、シンプルかつ最も驚異的なタコ殴り戦法で大暴れしていたと聞いている。奇しくも同じくウルトラ兄弟が皆で立ち向かったテンペラー星人とタッグを組んでいるそうだ。

 

『話が長いゴロ。そのタイラントと戦うんだろ? 早く準備しろ』

「うるさいな、あの無敵のゾフィーすら倒した奴と戦うとなるとそれなりに心の準備いるんだよ」

『常在戦場の心構えで未知の怪獣にも果敢に挑むウルトラ戦士たちが聞いたら素で呆れそうな情けない台詞だな』

「ぐっ……」

 

 タイラントについてあれこれ語っていたら、ゴロサンダーリングから容赦ない指摘が飛んできた。

 そう、俺がこれから挑むのはそのタイラントだ。決めたのは自分だが緊張するのはしょうがないと思うんだ。

 

 なお、俺がタイラントと挑むのは私情が関わっている。

 今いるこの世界、なんと丁度タロウが地球へ赴任している頃の時代だったのだ。

 元の世界じゃないの確定してるとはいえ、タロウはタロウだ。タロウが活躍する度に幸せに身を捩り、余計なお世話だと自覚しながらも陰ながら応援したり、サポートしてしまったりしたのはしょうがないことだと思う。

 

 俺のタロウではないとはいえ、思わぬところでタロウ成分を遠方より摂取できてご満悦だった俺だが、流石にいい加減寄り道滞在は良くないと思いなおして、この世界を離れることにした。ぶっちゃけこのままだと普通にバレそうだし。だから、最後の余計なお世話としてタイラントを海王星で撃ち滅ぼし、タロウにはたっぷり正月休みを堪能してもらおうと思ったわけだ。

 

 前世記憶によると自転車に乗れない少年を手伝うのに結局ほぼ1日使ってたようだが。それでも怪獣騒動などなくてもいいだろう。あの自転車の少年なら、そんな命に係わる勇気を見せずともきっと乗れるだろうし。というか怪獣が暴れている中で自転車に乗る位なら逃げた方が良いぞ真面目に。

 

 ちなみに完全な余談だが、この世界のトレギア()に関しては、バカな真似しないようにがっつり教育を済ませている。タロウへのコンプレックスが悪化したり、光と闇について拗らせたりしたの、討論相手いなかったのも大きかったからな。光の国へ密かに侵入し(愛する母星を悪く言いたくは無いが、本当に容易く侵入できて困った。俺もウルトラ族とはいえ、別世界出身だし加えてグリムド宿してるんだけどセキュリティに引っ掛からないのどうなんだろう)魔法空間に拉致って、がっつり自分VS自分をやらせてもらった。

 

 個人的には黒歴史との相対だったんで辛かったです。光への解釈が絶対すぎてウルトラ族にすら失望しちゃうアホだったからな。

 決め手は「もっと開き直ってタロウと接した方がいいぞ(ねっとりボイス」である。最悪精神同調による洗脳も考えていたが、ここのトレギアはアーカイブだけに頼らず(特に地球の美食や自然の美しさ、人間の尊さなどは実際に五感で堪能しなくては意味はないと力説して伝えている)、タロウと共に得た実際の経験を重んじる考えを獲得したから大丈夫だろう。

 

 万が一に備えて、残機処理発動する危険については簡単な加護で防止している。救えるならば、万全が肝要だ。

 グリムド曰く、あの加護は平行世界から完全ランダムで取り寄せるからこそ、一定以上の抵抗力ある個体は候補から自然と外れるそうだ。つまり俺は本当に運も抵抗力もなかったんだな。

 

『いやだから早くいけよ』

「はい」

「(; ・`д・´)」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─海王星─

 

「ぐおおっ!?」

「キシャアアアアアアア!!」

(; ・ω・)

 

 唸り声と共に誕生したタイラントへ速攻を仕掛けた俺は、逆に反撃を受けていた。

 目覚めと同時にスピンキックを頭へ入れたのに、倒れすらせず、殴りかかってきたのには驚いた。グリムドアーマーを駆使してタイラントの猛攻に耐えているが滅茶苦茶きつい。

 タイラントの攻撃力は知識で得ていたがやはり実際に戦うとなるとそのえげつなさが文字通り身に染みる。前世記憶で引き出した映像資料ではただ闇雲に殴っていたらゾフィーが倒れたみたいな印象だったが、こんな馬鹿げた力でバラバの両腕を振り回していたらそりゃゾフィーだってタダでは済まない。

 グリムドアーマー越しでもこのダメージ。間違いなく、あの幼年体ツイフォンより火力がある。それはその気になれば星を破壊することすらできる化け物という事だ。

 

「グオオオオオオオオ!!」

「なんの!!」

「ギュラララァ!!」

「がふっ!?」

 

 アロー光線を避けて、腹に向けて斬撃の手刀トレギアスラッシュを放つ。光線吸収能力を潰す算段だったが、器用に受け止められてしまった。

 反撃に派手にアッパーを喰らって悶絶する。

 

「ギュルルルオオオン!!」

「!!」

 

 悶絶した隙を許すことなく、両腕を振り回しながら突っ込んできた。

 もうあの宇宙嵐より苛烈なデスゾーンに身を委ねるわけにはいかない。素早く後方へ下がって距離を取る。

 だがそれを読んでいたかのように、タイラントは今度は角から雷撃を飛ばしてきた。そんな能力あったっけお前!? 

 

「しかし雷撃ならば!!」

「(`・ω・´)」

 

 腕のグリムドアーマーで吸収するように防ぐ。ゴロサンダーとの特訓を続けたことで、グリムドアーマーは雷撃に対する耐性を強化したのだ。

 

「トレラケイルポス!!」

「!!」

 

 牽制を兼ねて放った破壊電磁波は、ベムスターの腹にたやすく吸収されてしまった。やはりこうなるか。

 だが足を止めてくれたおかげでこちらも改めて態勢を整えることができた。

 

 あまりモタモタしてるとゾフィーが気付いて乱入してくる可能性が高い。

 助かる一方で、その後のやり取りの面倒くささを考えるとできれば静観してほしいが……。それに絶対万全なコンディションじゃなかったからなあの時のゾフィー。タロウの為にも、少しでも休んでほしい。

 この時期の宇宙警備隊近況報告、俺タイガスパーク開発に夢中だったせいでロクに耳に入ってないけど忙しかったのは知ってる。

 

「フー……よし、いくぞタイラント!!」

「S.T.A.R.S.……!!」

「!?」

 

 再度、タイラントへ向かって攻撃を仕掛ける。

 だがタイラントは今までにない鈍い唸り声をあげたかと思うと、ベムスターの腹から毒霧を噴き出した。

 みるみる広がる毒を前に慌てて足を止めたが、それがいけなかった。

 

「シャアアアア!!」

「!!?」

「(; +`д+´)」

 

 毒霧から突き抜けるように冷凍ガスが吹きだしてきた。避ける間もなく直撃してしまう。

 ウルトラ族共通の弱点である極低温攻撃*1は、俺にも例外なく全身をグリムドアーマーごと凍てつかせた。

 

「ぐあっ!?」

「ギュラララララオオオオオン!!」

 

 表層部のみ、されど全身の氷結。動かない身体にタイラントがバラバの両腕をもって乱暴に殴りつけてくる。衝撃がひび割れるように全身に走り、激痛がその後を追う。

 こんなコンボ直撃すればそりゃセブンもダウンする。アーマー化してるとはいえグリムドすら例外なく凍らせたのは予想外だが、グリムドには一時的なものにしかならない。俺が耐えていれば……! 

 

「シュゴアアアアアアアア!!!!」

「ぐわああああ!?」

「(; ;・`ω・´)」

 

 ウルトラマンエースを昏倒させるほどの一撃、デスファイヤーが俺の全身を焼き上げる。

 グリムドが氷結から脱する直前を狙った完璧なタイミング。タイラントの真髄はその火力や防御力だけじゃない、判断力だと思い知らされる。

 現実逃避気味に感心しているが、大ピンチだ。グリムドが全力で保護を意識してくれているからかろうじて戦闘不能にまで至ってこそないが、所詮はブルー族の肉体。膝をつき、情けなく倒れる寸前だ。

 

 しかし、逆にチャンスだ。トドメを刺そうとしてきたところをグリムドの触手で拘束浸食に成功さえすれば、グリムレイ・ヴェロスフォトスのコンボを叩き込む一発逆転を狙える。邪眼と視線を交わせば、ベムスターの腹も使えまい! 

 諦めない闘志を宿して俺はタイラントを睨む。だが俺がまだ戦えるぞと構えるも、タイラントはその一押しを狙わずにじっとこっちを見つめ、予想外の一手に出た。

 

「グオオオオオオン!!」

「!? ま、待て!?」

 

 タイラントは飛び上がり、海王星をあっという間に脱したのだ。

 やられた。奴の判断力について思い知らされたばかりなのに! 

 思えばタイラントはウルトラ兄弟を殺してはいない。ボッコボコにこそしたが、トドメを刺してはいない。

 そうだ、俺は勘違いをしていた。タイラントはウルトラ兄弟への怨念を宿しているが、ウルトラ兄弟への復讐として最大のやり方は彼等を殺す事なんかじゃない。

 地球を滅ぼす事だ。

 そうだよ思えばあいつタロウと戦った時も街の破壊を優先しようとした様子もあったじゃないか!! なんで気づかなかったんだ!! 

 

「グリムド! 転移で先回りできないか!?」

「(;・∀・)」

「必要ない!? 何を悠長な、あいつは1時間もかからず地球へ……!!」

「グオオオオオン!?」

「!?」

 

 焦って立ち上がると同時、飛び去ったはずのタイラントが落ちてきた。

 グリムドの言葉通りの事態に驚いていると、続いてスターマークが特徴的なシルバー族。宇宙警備隊隊長が海王星に降り立った。

 

「ゾフィー隊長!」

「この怪獣を足止めしてくれていたのは君か、感謝する」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 光の国の技術を狙って戦争を仕掛けてきたバット星人を始めとした侵略宇宙人、地球侵略の野望とウルトラ兄弟への怨念著しいヤプール人、3万年前に光の国を襲ったエンペラ星人を筆頭にした暗黒宇宙の勢力、これらの活動は宇宙全体の平和を乱しに乱していた。無論、バット星人の主力艦隊は無事に討伐したし、ヤプール人もエースの活躍によりその大部分の力を喪失、残党レベルが地球へ来訪するもタロウによって駆逐された。エンペラ星人も今は小手調べのつもりなのだろう。テンペラー星人を差し向けたりヤプールを唆した程度で表立った活動はまだ見られない。

 

 だというのに宇宙が全く落ち着かないのは困った事だ。最もバット星人は諦めて等いないだろうし、ヤプール人は『完全なる浄化による死』を与えられない限り宇宙にあるマイナスエネルギーによって何度も復活するので対症療法に過ぎない実情はある。それにしても、便乗して宇宙を荒そうとする困った者たちが多すぎる。

 

 今回も、地球へ赴任中のタロウを除いた我々ウルトラ兄弟は、人知れず大きな悪の勢力を駆逐していた。宇宙船主体で侵攻しており、危険宙域に星もなかったので、警告のち全力でM87光線を撃つことで討伐した。首魁は名乗りをあげなかったが、『この宇宙艦隊は貴様らの光線など効かぬわ!!』だというので最大限の警戒を以て兄弟全員の最大出力で対応したのだが……文字通り蒸発してしまったので向こうのブラフだった可能性は否めない。ウルトラマンに「最初に牽制で確かめれば良かったのでは?」と無言で見つめられたのでちょっと気まずかった。

 

 しかし重要なのはあれが本隊だとしても分隊や先遣隊がいる可能性だ。タロウがいるから大丈夫だろう、という考えはタロウに対する信頼ではなく甘えだ。

 そこで我々は太陽系の各惑星へ向かい残敵確認のパトロールへ向かうこととした。

 私は海王星へ向かっていたのだが、激しい怨念ともいうべき邪悪なエネルギーが感じ取れた。

 

 なにか不味いことが起きている!! 

 

 急ぎ海王星上空までたどり着くと、そこには悍ましい程凶悪な怪獣(しかも体の部位が色んな怪獣や宇宙人の集合体だ!)と、果敢に立ち向かうブルー族と思わしきウルトラマンがいた。今太陽系にいるのは我々ウルトラ兄弟だけのはずなので少なからず驚いた。しかも宇宙警備隊かと思えば違う。いくら私でも100万人すべての隊員の顔と力を把握しているとは言えないが、その中でも極めて少数派であるブルー族の戦士は間違いようがない。いったい誰なのだろうか。

 加えて、彼が纏っている鎧はとても光の国の者が身に着ける類とは思えない不気味さを感じさせるものだったが、あれがあって初めて怪獣の猛攻にも耐えている事も理解できた。ひょっとしたら別時空のウルトラマンなのかもしれない。宇宙警備隊隊長としてはあらゆる可能性を模索するべきだが、悪しき怪獣を前に戦っている様子から光に属するものだと判断したい。

 

 そう見守っていると、あの怪獣は毒霧に冷凍ガス、高威力の炎と多彩な技を駆使してあのブルー族のウルトラマンを追い詰めていた。

 業火に焼かれながらも彼は力尽きてはおらず、まだ戦意があるようだったが、怪獣は決着はついたとばかりに無視して悠々と飛び立っていた。しまった、つい(けん)に集中していたせいでとんだ後手だ。隊長として恥ずべきことを! 

 

「逃がさん!!」

「ギュオオオオオン!?」

 

 猛スピードで星から離れようとする怪獣へ加速してタックルを決める。

 飛行速度は恐るべきものだが、空中戦が得意というわけではないようだ。

 怪獣は私の攻撃の勢いに押されて推力を失い、再び海王星にその身体を預けることになった。

 

 遅れて私も海王星の大地に立つ。

 

「ゾフィー隊長!」

「この怪獣を足止めしてくれていたのは君か、感謝する」

 

 改めてこの不思議なウルトラマンを見る。私の事を知っている点といい、同じ光の国出身のウルトラマンだろうか。

 というか、その鎧のデザインセンスといい、感じ取れる光とも闇ともつかぬ力といい、色々と大丈夫なのだろうか。……流行なのかな? デザインセンスに関して言えば私も若いとは言い難いので、これが世代差なのかもしれない。

 

「さて、話は後だ。この怪獣を倒そう」

「ゾフィー隊長、こいつはタイラント。ウルトラ兄弟への怨念を宿した凶悪な合体怪獣です。俺1人では力及ばず……!」

 

 そうか、タイラントというのか。平和の為に戦っている我々への怨念を宿した怪獣とは、また因果なものを感じるな。ヤプールといい、最近はウルトラ戦士達への怨念渦巻く敵が増えてきたように思う。例え正義の為平和の為と律していようと、相手が平和を乱す悪であろうと、戦うことを選べばそのものが罪であるかのように恨みや怨念が襲ってくるということだろう。ならば、その罪をも受け入れて戦わねばなるまい。

 正直、大艦隊を全力で討滅してすぐのパトロールだったので、コンディションは万全とは言えない。だが、隊長たる者弱音など目の前の勇者へ見せるものではないだろう。

 自信を漂わせ、それでいて安心させるように彼へ微笑む。

 

「なら2人なら勝てるだろう」

「……はい!」

 

 いい返事だ! 

 

「ギャオオオオオオオン!!!」

「シェアッ!!」

「ターッ!!」

 

 タイラントが怒り猛り迫ってくるのを2人で迎え撃つ。

 私が右腕、彼が左腕へ対処し暴虐な攻撃を押し止める。受け止めた威力に驚いた。これは1人で相対していたら今のコンディションの私では返り討ちにあっていた可能性が高い。硬直の隙をついて『部位の継ぎ目』を狙ってチョップを叩き込む。

 合体怪獣というものは、部位そのものは元の怪獣よりも強固になりがちだが、その部位と部位の境目は弱い傾向にある。そこを的確に攻撃すれば、弱らせることはできるだろう。

 

「継ぎ目を狙え!!」

「はい!」

 

 私の言葉に、彼は意を汲んで腕と身体の継ぎ目へ攻撃し始めた。

 見ればその手にウルトラスラッシュのようなエネルギーを宿して攻撃している。

 これは私も参考にさせてもらおう。……こうかな! 

 

「ハァッ!!」

「ギュオオオオオン!!?」

 

 タイラントの胴体と首の継ぎ目から激しい火花が散る。ウルトラスラッシュを宿したチョップ、良い威力だ! 

 感覚としてはマンやジャックなどが使っていた技にも似ている。今度彼等から聞いてみるとしよう。

 

「ギュラララララオオオオオン!!」

「回避!」

「!!」

 

 怯んだように見えたが、追撃を嫌ったのか牽制のように口から炎を吹き散らしてきた! 

 技の使い分けといい、この怪獣は知恵も回るらしい。危険だ、なんとしてもここで倒すべき怪獣だ。

 

「「シェアッ!!」」

 

 タイラントは炎で距離を取ったところを今度は冷凍ガスでさらに牽制してきたが、私も彼も当たらない。

 だが、近づけない。そこを見越した攻撃をしてくるつもりだろうが先手は此方が打つ! 

 

「Z光線!!」

「!?」

 

 光線が直撃し、大きくのけぞるタイラント。

 やはりそうか! 多数の技や能力を有しているが、同時複数の行使はできないのだ! 

 冷凍ガスはベムスターの腹から噴き出しているのだから、なおの事吸収などできないと読んでいたが、切り替えもできなかったので確信する。

 

「今だ!」

「はい!」

 

 彼と共に一気呵成に攻めかかる。

 息を合わせて拳や蹴りを2人同時に打ち込みながら連撃を浴びせていく。

 角に雷を迸らせたが、それは彼が光線技で角ごと撃ち砕き、尾の一撃は私が弾いてカウンターに再び継ぎ目へチョップを叩き込んだ。

 いいぞ、タイラントは弱っている。星の上だから威力に制限をかける必要はあるが、ベムスターの腹に吸収されないタイミングでM87光線を撃てば勝てるはずだ! 

 私と彼とで力強くキックを叩き込むとタイラントはついに怯んだ! 彼へ目を合わせ、一度距離を取る。

 これで決める!! 

 

「M87光線!!!」

「トレラシウム・グリムレイ!!」

 

 私の必殺光線と、彼の必殺光線がタイラントに直撃する。そのまま断末魔すら許さず、粉微塵に爆散させた。

 残心の構えは崩さず、間違いなく倒したという確信を得て初めて気を緩める。

 彼のおかげで、地球の危機を未然に防ぐことができた。感謝しなくては。

 

「ありがとう、君のおかげだ」

「いえ、俺は……まだまだです」

「(;´・ω・)ノ」

 

 彼は、恐らく独力で勝ちたかったのだろう。しかし結果は及ばず、僅かながらに落ち込んでいるようだ。

 それに対して彼の纏う鎧からは何かしらの意志を感じる。私では悪意ではないぐらいしかわからないが、彼は労わるように鎧を撫でているので、彼らなりに絆があるのかもしれないな。意思を持つ武器や鎧というのは珍しくないが、持ち主と絆を育んでいる例はあまり見ない。微笑ましいことだ。

 何か彼に対してしてやれることはないだろうか……。

 そうだ! あの技について助言しよう! 

 

「ああ、君のあの光線技だが」

「あ、はい。すみません、あれはまだ色々試行錯誤してまして」

「そうか、道理で……いや、自分だけの技を極める努力は大事なことだ。僭越ながらアドバイスさせてほしい」

「いいんですか!?」

 

 思ったよりも食いつきが良い。これは宇宙警備隊隊長として有意義な助言をせねばなるまい。

 あの技は、彼本人の力と鎧が持つ力を組み合わせて威力の底上げを図っているようだったが、あれではただ別々に技を放っているに等しい。

 真の威力を引き出すには正しく合体技と成さねばならないだろう。現状では鎧の力の方が強いように思える。

 

「まずは、君自身の力をより鍛える事。そして、その鎧の力と併せるには色々やり方があるだろうが、君は簡単な事を1つ見落としているようだ」

「簡単な事、ですか? グリm……この鎧とは共に在るものですので、絆や息を合わせる意味であれば……」

「違う違う。簡単な事と言っただろう? 絆を深めることも、息を合わせることも、高め合うことも大事だが簡単な事ではないだろう」

「た、確かに……」

 

 理解はしたが思い至らないといった表情に、少し笑ってしまう。

 彼は頭が良いようだが、それ故に見落としには気づきにくいタイプのようだ。

 

「答えはね……回転だ」

「回転……そうか!!」

「な、簡単だろう?」

「はい、ありがとうございます!!」

 

 気づいてしまえば簡単だろう。そう、回転は全てを解決してくれる。

 回転しながらウルトラエネルギーを放出すればブルトンの念力場すら無効化でき、回転しながら360度光線射出で敵の包囲攻撃すら破り、拘束技も簡単に破壊も可能。体術に回転を加えればそれは相手の無力化へ繋げたり、あるいは無敵の破壊力を誇る必殺技と化す。

 

「どう回転するかは君のセンス次第だが、きっと良い結果を産むだろう」

「そうですね、色々試してみます。助かりました!」

「(^▽^)♪」

 

 喜ぶ彼に大きく頷く。

 隊長として、導くことができるのは良いことだ。

 

「では私はそろそろ失礼する。他のウルトラ兄弟達もパトロールを終える頃だろう」

「はい、お気を付けて」

 

 お互い笑顔で別れて、海王星を後にする。

 そうだ、兄弟達にもしっかりと報告してやらねばなるまい。

 怨念を宿した怪獣の恐ろしさと、勇気ある不思議なウルトラマンについて。後は隊長として導いてあげたことも添えていいかもしれないな。

 

 

 

「で、名前は?」

「あ」

「ゾフィー……」

 

 合流後、彼等にも海王星の事について話したはいいのだがマンの指摘により彼の名前や素性を全く聞いていないことに気が付いて、頭を抱えたのは別の話だ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「やはりゾフィー隊長は強かったな。心身共に大分成長したと思えたのだが、上を見上げれば偉大なウルトラ戦士達ばかりだ」

『今回はしょうがないゴロ』

「(・ω・)ノ」

 

 単体討伐はできなかったが、本来の大本命であるタロウの安息は守られた。

 それにゾフィー隊長からトレラシウム・グリムレイの改善点の助言をいただけたのは大収穫だろう。素性説明という面倒なやり取りを覚悟していたが、察してくれたのか気遣ってくれたのか、此方への詮索を一切しなかったのは有り難かった。元来は色々確認するべきなのだろうが、隊長の事だからきっと全部見透かしていたのだろう。

 そんな偉大な隊長と共闘できた事は本当に良かった。やはり、仲間というものは大事だ。共に戦うことの素晴らしさがよくわかる。

 

 単独では負けとも取れる戦いだったが、負けだとしても糧にして次に活かせるのはいいものだ。発明開発と同じなんだな。

 

「さて、勝ち負け云々よりも大きな成果も得たところで……この修行もそろそろ切り上げて本来の目的を優先すべきだろうな」

『光線技改良に専念するのではないのか?』

「それは並行してできるからな。タロウの為に想って活動していると、やっぱり無性に俺のタロウに会いたくなったのが本音だ」

「(;・∀・)」

 

 なんか呆れられてるが本命だというのを忘れてもらっては困る。

 俺は! 元の宇宙に! 帰りたいだけなんだよ!! 

 

『じゃあ修行と戦いはひとまずこれで終わりか? あ、ゴロ』

「終わりという表現よりは優先度を下げるというべきか。ただ、〆に戦いたい相手が1人いてな」

『?』

 

 それは怪獣ではない。正面から勝負をしてみたいと思っているので、〆の相手として元々検討していた相手だ。

 

「では最後に、彼と戦えそうな世界線へ飛ぶとするか」

『おい、誰と戦うというんだ?』

「(・ω・)?」

 

 

 

 

「ウルトラセブンさ」

 

 

 

 

*1
(よく極低温環境である宇宙空間では平気なくせにと突っ込まれがちだが、苦手なのは惑星下での寒冷環境や極低温攻撃である。これを受けたウルトラマンたちは大ダメージを負いがちだが、割とキレる傾向にあるので諸刃の剣。特にウルトラマンジャック)




修行なんだから、勝っても負けても得るものはある。

・オレギアさんによるトレギア救済活動
色んな意味で完全に自己満足である自覚があるので、実は積極的には行っていない。英霊になって生前の自分に八つ当たりするみたいな気分に陥る為。
その為、滞在したり確認した程度の世界ならば「本来の歴史」を優先するが、がっつり関わった世界に限り、本来の歴史や運命など知るかと「タロウの為に」トレギアを修正している。闇堕ち前ならば今回のように論戦で済ませるが、闇堕ち後の場合は強制的に自分の記憶や精神を叩きつけて強制浄化(洗脳)処理している。宿っているグリムドは自身のグリムドと同化する(出力変わらないのでパワーアップはしない)ので問題ない。スペアボディの加護で闇堕ち後の引っ張り出した場合もグリムドは同化していると推察しています。

・オレギアさん的には半分勝ち、半分負け。
転移で連戦していた場合勝てたかどうかよりも、タイラントの海王星脱出を許してしまった時点でオレギアにとっては負け判定。
けど共闘してからは勝ち判定。
単独討伐に至りませんでしたが、強豪怪獣というのは知識があっても勝てるとは限らない。修行重ねて強くなったんですけど、『誕生直後のタイラント』は相手が悪かった。というか修行してたからデスファイヤーが直撃しても戦闘不能に至らず済んだし、ゾフィー合流後も戦えている。
ちなみにタイラント、これだけ暴れさせたのに、様々な媒体に記された技のいくつかなど未使用に終わっている。
本当タロウよく勝てたな……。

・トレラシウム・グリムレイ
度重なる修行と戦いを経てアナストロフィが身につけた技。ウルトラマントレギアとしての技と、グリムドの技を複合照射する。
単純だが、『グリムドの力を引き出しながら、トレギアとしての力も引き出す』という都合上、まだ未完成の技。
まだグリムレイに技の威力が呑まれがちでトレラシウム光線が添え物にしかなっていない。けどトレギアとしての力は日々鍛えられているので少しずつ成長してる。
オレギアさんの目標は真なる合体光線としての完成である。ゾフィーからアドバイスもらったから頑張れ。

・無敵のゾフィーがタイラント戦で『万全なコンディションじゃない』考察
当時の作風では客演でもやられる時は結構なやられ方をするのもあり、この頃のウルトラ兄弟の戦績は良いとは言えない(無論活躍は要所でしている。有名なゴルゴダ星磔シーンなど、罠に嵌りながらも自己犠牲故にああなってる上、エースにパワー与えた後エースキラーにパワーを奪われ、更にエースへパワーを与えるなど敵の有利フィールドだったのに意味の分からないエネルギータンクっぷりをみせている)。
所謂不遇描写だが、ゾフィーは特にその被害にあっていたウルトラ兄弟だろう(次点はウルトラマンジャック)。ただ、作風のせいと言わずともあくまで劇中描写として解釈すると何れも負けてもしょうがないフォローを入れることは考察次第で可能になっている。だいたいは不意打ちとか罠とか仲間庇ってとか。だが一番の理由は『疲労困憊』だと思われる。

そもそもこの時期というのは、本文中にあるように宇宙全体の治安が最悪。当然ながらウルトラ兄弟は超多忙であり、コンディションが万全とは言えない状態の方が多いと言える。ウルトラの父がヒッポリト星人に敗れた理由も、媒体次第とはいえ『極端に疲弊していた』が共通見解になっているし、バードン戦は疲弊してない方がおかしいハードスケジュールをゾフィーはやっている。
そこを鑑みて太陽系外縁部を『宇宙警備隊隊長がパトロールしていた』『他のウルトラ兄弟も太陽系内にいた』という点から考察すると、タイラントとは関係のない部分で大仕事をしていた可能性が高い。宇宙各地で正義の為に戦っているウルトラ兄弟がみんなして太陽系に集まるケースなんてお忍びBBQ大会という休暇でもなければ緊急事態でしかない。地球へ迫る悪の勢力(ジャッカル大魔王みたいなのとか)と戦ってたりしていた可能性は十分ある。その残敵掃討のパトロールをしていたらタイラントを見つけてしまい果敢に挑んでボコられた、というのは考えられないだろうか。カラータイマー、別に疲労してるからと言って鳴るとは限らないし。
タイラント、オーブファイトでもクッソ強かったので疲弊してる状態で戦ったら絶対負けると思うので私はこういう解釈を取り、本作に適用させています。

・ゾフィー隊長、うっかりキャラ説
エイプリルフールの捏造キャラとかMr.ファイアヘッドとか公式にすら色々ネタ扱いがされてたころと違って今のゾフィー隊長はすごく威厳あって格好いい描写が目立つ。
ただ、個人的にウルトラ族ってどっか天然な部分あるのと、ゾフィー隊長の過去の発言や挙動からみて「多少うっかり属性はある」と解釈してます。

・〆の相手はウルトラセブン
ウルトラファイトの主人公ですよ、挑まないと駄目


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VS ウルトラセブン

今回は作品舞台の都合上、文体が異質です。ご了承ください。
舞台が舞台なので大一番のくせに短いです。ご了承ください。


(小粋なドラムの音)

 

 ウルトラファイト! 

 

 

怪獣島

   千

 

 

 

 今年も幕を閉じる時が迫ってくる師走の晴れ模様。(CV:山田二郎アナ)

 怪獣島もぼちぼち仕事納めへ向けた活動をしてほしい所でありますが、そもそも怪獣どもには仕事らしい仕事がない。年末調整と言われても首を傾げる荒くれものばかりであります。

 

 喧嘩と侵略にノルマもクソもあるもんかと、朝から暴れる咆哮があちこちであがる始末です。どうしようもない。

 

“てめぇ、気にいらねぇ! ”

 

“こっちの台詞だこいつぅ! ”

 

 派手に取っ組み合っておりますはエレキングとイカルスであります。どちらが発端になったかなど最早頭にすらありません。

 喧嘩こそが唯一の娯楽だと言わんばかりの荒くれもの達には切っ掛けがあればいいのでしょう。

 

キン! (打撃音) キン! (打撃音)

 

 鋭いストレート! 2連発! だがエレキング、持ち堪えます! 

 お返しだと勢いよくイカルスに掴みかかりました。

 

ドゴシャア! (転倒音)

 

 投げ飛ばされましたイカルス。転がるところに追撃とばかりにエレキング蹴り上げます。

 

バキャア! (打撃音)

 

“やりやがったなこの野郎”

 

“ざまぁみやがれってんだ”

 

 イカルス立ち上がりますがふらついております。

 どうやら投げ飛ばされた時に頭を打ったようです。弱みを見せまいという姿勢ですが、そんなもん知るかとエレキングは容赦がありません。構えもおぼつかないイカルスに突進! 

 

ドゴオッ!! (衝突音)

 

 イカルス、立てません。勝利の雄叫びをあげますエレキング。

 怪獣島の鐘を最初に鳴らしたのはエレキングでした。

 

 

 

 

“毎回毎回飽きないねあいつらは”

 

 崖の上から戦いの一部始終を見ていましたウルトラセブン。闘争に明け暮れる怪獣達に呆れた様子で首を振っております。

 だがその足元にはガッツ星人が突っ伏しています。どうやらセブンも既に1戦終えていた模様。最初の鐘を鳴らした本当の一番乗りはセブンだったようです。

 

 

「たのもーう!」

 

“なんだお前は”

 

 突拍子もなく現れましたはなんとセブンと同じM78星雲人。

 なんともごてごてした鎧をつけております。セブンも眉をひそめています。

 

「俺はウルトラマントレギア。別時空の光の国より挑みにきた!」

 

 どうやらセブンの故郷から来た挑戦者であるようです。

 

“別時空だ? 適当なことほざいてやる事が果し合いとはふてぇ野郎だ”

 

「え、セブンってこんな荒っぽいやつだったか」

 

 挑みにきたと息巻いた割にはビビっておりますトレギア。

 

 そこへ飛びかかりますセブン、隙を晒す方が悪いと言わんばかりの猛攻であります。

 

ビシ! (打撃音) ビシ! (打撃音)

ドンギャ!! (打撃音) 

 

「うわあー!」

 

“なんだ口ほどにもねぇ”

 

「なにをぉ!!」

 

ゴッ! (打撃音) ゴッ! (打撃音)

 

 来て早々負けてはいられないと奮起しますトレギア、セブンへ掴みかかってパンチ! もう1発! 

 セブン、トレギアの腕を振り払い、受けた位置を抑えて少し下がりました。

 思ったよりも重たい攻撃だったようです。

 

“ジュワ! ”

 

 セブン、謎の怪電波を放ちました! 

 トレギアは避けます! 地面に落ちていた三度笠が燃え上がりました! 

 

「え、え? 三度笠!? 三度笠ナンデ!?」

 

 急に現れたかのように燃えている三度笠へ動揺が隠せないトレギア。

 燃えゆく誰かの持ち物へ視線が外せない様子。そこへセブンがちょいちょいと肩を叩きます。

 なんだと振り向いたそこへ顔面1発! トレギア倒れ込みます。

 

ゴシャアッ!! (転倒音)

 

 なんとも卑怯でありますがこれは喧嘩の最中に意識を逸らす方が悪い。

 セブンが立て続けに蹴りを入れて転がします。

 

「クッソ……!!」

 

 自棄になったかトレギア、その場の岩を掴むとセブンへ向けて放り投げます。

 セブン、容易く避けます! そして、転がったその岩を、掴みました! それでトレギアへ殴りつけます! 

 

「ちょっ!?」

 

ガスッ! (打撃音) ガスッ! (打撃音)

 

「はな、れろぉ!」

 

ゲシィ! (打撃音)

 

 トレギア、必死にセブンを蹴り上げましたが既に大分グロッキーだ。大丈夫か! 

 一方セブン、悠々と立ち上がっております。岩を放り捨て構えました。

 

“トドメだ!! ”

 

 なんとか立ち上がろうと膝をつきながら体を起こそうとするトレギアへ容赦なく追い討ちをかけますセブン! 

 相手の膝を踏み台に1歩、そのまま膝蹴りをトレギアのこめかみへ叩きつけました。

 

ガゴォン!! (打撃音)

 

 これぞウルトラシャイニングウィザード!! 

 トレギア、立てません。挑戦者を撃退し、怪獣島の王者はセブンがベルトを巻きました! 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─トレギアの魔法空間─

 

 全ての戦いを終えた俺は、傷を癒しながらも静かに凹んでいた。

 あれだけ修行や戦いによる経験を重ねてきたし、グリムドの力と俺の力を併せてアナストロフィの完成度を高めたというのに、セブンに文字通り瞬殺されたからだ。

 

「さすがは生涯現役。これは相手が悪かったゴロ」

「(;・∀・)」

「相手が悪いとか以前に強すぎるし怖すぎるだろ!! トラウマなるわあんなん!!」

 

 実体化したゴロサンダーが慰めてくるし、グリムドも労わってくれているが俺の心は全く晴れない。タイラント相手でも折れなかった、積み上げた自信というものが砕かれるほどの完敗だ。

 何故か一撃一撃がグリムドアーマーの防御貫通してきたおかげで数発貰っただけでグロッキーになったし、変な怪電波発してくるし、なんか三度笠燃えてるし、トドメの一撃めっちゃ痛かったし!! 

 あんな容赦ない奴が特訓指導したらそりゃ加減知らずにもなるわ!! 

 

「宇宙人達ってよくあのセブン相手に挑もうとしたもんだな……ゴロサンダーお前挑んでみるか?」

「もう挑んだ後だぞ。宇宙陰陽の構えとかいう体勢とられて警戒してたらそのまま正面からぶちのめされたゴロ」

「えぇ……」

「ゴロロ……お前回収する為に実体化してグリムドに任せてから挑んだんだ。いや、強いなセブンは」

 

 どこか満足気なゴロサンダーだが、俺はドン引きしている。

 つまりあのセブン、ガッツ星人、俺、ゴロサンダーと連戦していずれも全勝したのか……格の違い思い知りますわ。

 

「で、再戦するか?」

「いや、いい……」

 

 無性にタロウに慰めてもらいたい気分だ。

 〆の一番を思いっきり間違えたと後悔している。

 

「(・ω・)ノ」

「……そうだな、気持ちのいい勝利を求めて始めた修行でもなかったな」

 

 だが、どこまでも労わってくれるグリムドの優しさに、少し己を見つめ直すことができた。

 修行の成果という実感を求めて挑んだのは事実だが、勝ちを求めて挑んだわけではない。

 一切通用しなかったが、あれが1つの頂なのだと認識しつつ、1歩1歩進めていけばいいだけだ。

 そう思えば、完敗も悪くはない経験だ。また同じ暴虐に晒されても、折れはしないと誓える。だってあのセブンより恐ろしい相手なんているわけがない。うん、前言撤回だ、〆の一番は間違ってなかった!

 

「だが流石に気分直しはしたいな。地球で何か食べるとしようか」

「(*・▽・)」

「ゴロッ♪」

 

 地球で何か美味しいものを食べたら、また異世界転移だな。ただ、また一度タイガの世界へ顔を出すことも考えるか。

 そろそろ向こうの時間で言えば半年が経つはずだ。グリムドに代わる凶悪怪獣が出現して劇場版展開などになっていたら流石に手助けせねばなるまい。

 

「ところでトレギア、食事に行くのは良いがその人形はなんだゴロ?」

「タロウフィギュアだが?」

「……いや、その。そんな何当たり前のことをとかいう顔されてもだな。食事に人形がいるのか?」

「タロウと一緒にご飯を食べる。タロウと料理を一緒に撮影する。タロウと一緒に食べる料理をまた1つ決める。お得しかないだろう」

「あ、はい」

「(; ・`ω・´)」

 

 何故そんな顔するんだゴロサンダー? グリムドもよくわからない感情を送ってくるし。不思議だよな、タロウ。

 そうだなトレギア! (脳内音声)

 

 世界を渡っても微妙な雰囲気を崩さなかったゴロサンダー達だったが、K県で美味しいハヤシライスが味わえる店へと行くと舌鼓を打って大喜びしていた。

 ただ、スタッフにも「え、タロウ? セブンじゃなくて?」と変なこと言われたが何故だろうか……。

 セブンファンなのだろうが、俺は当分セブンはいいです、はい。

 

 

 




5番勝負戦績結果
4勝1敗
ウマ娘で言う、アオハル杯で5番目で黒星ついたアレ。
オレギアさんは気づいていないが、舞台作品補正かかってたのでグリムドの能力のほとんどが(予算の都合で)封殺されていた。そらパンチダメージ素通りする。

・舞台作品補正
メタ的には、クロスオーバー作品などで頻繁にみられる調整要素。物語の舞台となっている場所に適した性能や能力規模、また『主役補正』などそういった部分が影響される。二次創作では扱う作者の解釈と作風次第だが、近年の公式作品(特にソシャゲ系統など)では概ねちゃんとしたバランス調整がなされている。昔でも公式クロスでは面白い調整がされたりしている。ウルトラマンと共闘する為に仮面ライダーが巨大化したりな!! 
円谷ワールド的には『各宇宙や世界の法則が違うために生じる活動や能力制限、または解放』という解釈になる。ウルトラファイトの世界観に殴りこんだらどんなに盛った設定だろうがそれは機能しない。勝つのはいかに喧嘩殺法に優れているか、ラフファイトが上手いか、(予算使わずに済む)必殺技が多いか、小道具(武装)の扱いが上手かにかかっている。岩や斧、木刀などが代表的だが一番強い武器はライフル。マシンガンみたいに扱えるともっと強い。セブンもライフルで狙われた時は流石に逃げ出している。

・ウルトラファイト
製作費実質0からスタートしたという伝説の5分番組。
山田二郎アナウンサーの名実況(ロクな台本もなくほぼアドリブだったらしい)が今日も怪獣島の喧嘩を彩る。
ウルトラマン、ウルトラセブンの本編戦闘分が無くなったらそのまま荒地で怪獣達やセブンの激闘劇が主流になった。
話ごとに地味に設定とか変わったりしているが、とりあえず怪獣達が元気よく暴れて戦っているのが観れればいいという開き直りに皆が乗った。

・ウルトラセブン(ウルトラファイト)
正義のヒーロー。最初は律儀に勝利のポーズ決めたら飛んで帰っていたが、そのうち面倒くさくなって住居を怪獣島へ移した。草原で昼寝したりしてる。
アギラを可愛がっており、アギラが悪いのにアギラ側に立って相手をボコったこともあったり、不意打ち含めたラフファイトも時には辞さない容赦のなさといい、正義の味方というよりガラの悪いヤ……ちょっとした不良の先輩みたいなムーヴが光る。というか怪獣同士が争って疲弊した隙を突いてぶち殺した話が2回ぐらいある。喧嘩諫めようとしたら殴られたのでブチ切れてその場の全員ぶちのめした話なんてのもある。正義のヒーローとは? 
エレキングの睡眠の邪魔をした時は殴られ逆エビ食らいながらも謝り続けたりと自分の非に関しては素直に認めているあたり、その辺の矜持までは捨てていない。

・謎の怪電波
光線じゃなくて怪電波。初出は『ウルトラファイト 怨念! 小島の春』。腕をL字を組んで発射するわけだが、公式チャンネル曰く『L字を組んだからといってワイドショットとは限らない』。
キーラと三度笠を取り合いになったセブンが、三度笠をキーラなんぞに奪われて悔しい思いをするぐらいなら! と思ったかまでは不明だが、業を煮やしてこの怪電波を放出して三度笠を焼き払ってしまった。キーラが茫然としているシーンが印象的。正義のヒーローとは? 
「これは俺のもんだ!」「おまえはどいてろ!」といつも以上に乱暴なセブンの台詞も飛び出す迷回。

・オレギアさん、凹む
大敗北したせいでまた情緒不安定発症してますが、総仕上げにセブン(しかもファイト世界)なんか対象にする方が悪い。知らぬこととはいえ、修行の成果が何一つ活かすことができない世界線で戦ったのだから是非もなし。でもこれで腐らないし変に光とか闇とか拗らせないのがトレギアの成長した証でもある。
頂を見つめても、コンプレックスに苦しまない。そういう部分を簡単でもいいから示したかった回です。


五番勝負は終わりましたが、番外編を挟もうかと思っています。師走で忙しくて次章が予定より書きあがっていないのもありますが。だから次章自体の投稿は来年かなぁ……。

次回
「(・ω・)」←〆の一番がこれでは納得いかない邪神。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VS ???

※相手は50%個体


 

 

 

トレギアファイト 五番勝負

 

勝負、最終

 

 

ウルトラマントレギア アナストロフィ

 

VS

原初の混沌    

邪神魔獣グリムド

 

 

いざ、尋常に

 

勝負!!

 

 

 

 空は輝きを喪失した絶望の闇が覆っているというのに視界は不思議なほど明るい。だが、視界を得た代償とでもいうのだろうか。見渡す限りが凡ゆる生命体の死体で埋め尽くされ、死者の嘆きや怨念が風となって吹き荒れる地獄の有様を嫌でも見せつけられる。

 

 邪神魔獣グリムドが君臨した星の全てはこうなった。

 

 全てを嘲弄するような1つ目の邪眼、何かを食すわけでもないのに攻撃的な牙を生え揃えさせた醜悪な口。禍々しい紅き角を4本携え、蒼い体毛を髪のように粗雑に伸ばしている。第二の顔を有する蒼い体躯に無数の紅き棘、一際巨大な1対の棘は翼のように大きく広がっている。両手足は白骨を思わせる色合いと頑強さであらゆるものを破壊する意思が宿っているようだ。同じ蒼のはずなのに、不気味な滑らかさを宿した2本の尻尾。人々がイメージした悪魔や邪神を思わせる要素を節々に備えており、この邪神魔獣こそを、無意識のうちにモデルとした可能性を思わせる。

 あるいは、人々のイメージが逆流して、この邪神魔獣の姿を象ったのかもしれない。

 

「■■■■■────!!!」

 

 邪神の咆哮で世界そのものが揺るがされるように、周囲一帯の全てが振動した。柔らかな死体はその身に残存する僅かな血を無様に噴き出し、硬い死体はかつて生きていた証明もろとも砂塵と化し、怨霊たちは虚無へと還るように霧散する。その生きとし生けるものすべての存在を認めぬかのように、生命の行きつく先である死すら冒涜する有様は耐え難い怒りを胸に宿らせる。

 

 だが、それが邪神なのだと冷静に荒れ狂う情動を諭し、無思慮な行動に走ることを避ける。

 目の前の魔獣は決して隙を見せているわけではない。迂闊な一手は己に無残な最期を与えるだけに終わるだろう。

 

「……シェアッ!!」

 

 咆哮が止まる寸前に足を踏み出し、吶喊する。大地を踏みしめているつもりでも、その足先にあるものは命を宿していたものだ。

 湧き上がる感情が慟哭となって口から飛び出そうになるが、それでもここで足を止めたり、思考をずらす余裕などない。

 

<<(◎)>>

「!!」

 

 邪眼が此方を見据える。

 当然の権利を行使するように、その視線は対象を終わらせる(死なせる)ものだが、グリムドと共に在る俺には拒絶の権利がある。それは通用しない! 

 

「(`・ω・´)」

「セヤァッ!!」

 

 トレギアとしての力、グリムドのもたらす力。2つを拳で融和させながら、邪神魔獣の胴体部へ叩きつける。衝撃と同時に融合した力は爆発し更なる火力を生み出した。

 並の怪獣であれば、この一撃で消し飛ばせるほどの火力だが、魔獣は僅かにのけぞったぐらいで効いてはいない。70m級の巨体である以前に、力が体内へ通っていないようだ。

 続けざまに一撃、また一撃と叩きつける。拳が効かない相手などもう散々戦った。動揺などもはや無い!

 

「■■■■──z__!!」

 

 痛みすら覚えていないだろうが、煩わしさは感じたのだろう。軽い返礼であるかのように、邪神魔獣は咆哮をあげながら、体のあらゆる角からグリムボルトを放出してきた。

 此方を狙っているつもりでも、まるで自然の落雷だとでも言わんばかりに、無駄な攻撃が当たり構わず周囲を爆砕していく。遠くへ飛んだものに至っては地平線の向こうまで届き、絶望の闇すら容易く引き裂く紅い輝きを生んでいた。

 

 確信する。この邪神魔獣は、そのスペックばかりが膨大でも、戦闘経験値が高いわけではない! 

 

「それも、効かない!!」

「────!?」

 

 グリムドアーマーよりグリムシールドを顕現させ、直撃ラインのグリムボルトを完全に防ぎきる。流石の魔獣と言えど、これは驚いたようだ。

 度重なる鍛錬と経験により、グリムドアーマーは雷の属性に対して絶対の耐性を誇る。向こうからすれば理不尽だろうが、こちらとしても理不尽の権化と相対している気分だ。

 既に守るものもいない世界だが、守るものがいる中でコレと戦おうものなら、その難度は計り知れないだろう。

 

「トレラアルディガ!!」

「────!!」

 

 グリムシールドを解除して、不意打ちのように高火力の光線技をその邪眼に向かって叩き込む。

 激しい爆発が邪神魔獣の顔面部で発生するが、その巨体は倒れない。

 煙が晴れると、傷1つない邪眼が此方を興味深げに見つめてきている。

 

「■■■■────!!」

「!?」

 

 その巨体が、まるで軽いものであるかのように邪神魔獣が飛び上がる。

 宙で一回転したかと思うと、此方に向かって加速落下する。加えてグリムボルトをまき散らしながら右足を突き出してきた。

 

「!!!」

「(; ・`д・´)!」

 

 命の危機。

 牽制技とは思えない火力のあるグリムボルトをグリムドアーマーで弾きながらかろうじて後退回避する。

 グリムドの放った空中キックは地面に突き刺さると周辺地域一帯を爆散させた。

 無数の死体や土が舞い上がり、それらは今なおまき散らされているグリムボルトですべてが塵と消える。中心部から四方八方へ地割れが走り、激しい揺れが世界そのものに悲鳴をあげさせていた。

 

「────?」

「(; ・`ω・´)」

 

 …………なんてやつだ。

 邪神魔獣は回避されたと思っていなかったのか、足元に意識を向けて首を傾げている。

 威力は恐ろしい。だが、それは本当の隙だと理解している! 今度はそちらが雷撃を浴びるがいい!! 

 

「グリムボルト・スタウロス!!」

「!!?」

 

 邪神の雷を、擬似ウルトラホーンに集束、精密制御を可能とした必殺技として撃ち放つ。

 強大な雷撃が邪神魔獣を中心に十字架を模して炸裂した。そのまま焼き尽くすまで攻撃を続けてくれる!! 

 絶え間なく続く裁きに、流石の邪神魔獣も苦しそうに呻いているのがわかる。だが、魔獣はその全身を静かにねじり始め、弾くように回転した。

 

「■■■■■────!!」

「なに!?」

 

 超高速に廻るコマのように回転する邪神魔獣。そのままこちらのグリムボルトに対抗するように己のグリムボルトを纏いだしあろうことか相殺し始めた。

 回転を始めてわずか数秒でグリムボルト・スタウロスを完全に相殺、霧散させる。

 技を放つ余裕すら奪えていたと思ったのは甘い見込みだったようだ。

 

「■■■■──z__!!!!」

「グワッ!?」

 

 回転の勢いを上乗せするように、邪神魔獣が突進してくる。

 両腕で防ぐように防御したが、あの角でもってかちあげられ、そのまま宙へ撥ね飛ばされた。

 全身が砕かれるような衝撃が襲ったが、グリムドアーマーにより致命傷は回避している。地面に転がりながら着地し、上手く受身を取った。ゴロサンダーからの指導が活きている。

 

「(`・ω・´)」

「大丈夫だ、戦える!」

 

 邪神魔獣は此方の無事を見るや再び突進の構えを見せた。

 同じ手はそう何度も食わん!! 

 

Come on!! 

 

Snake Darkness ring! Engage!! 

 

『キシャアアアア!!』

 

 スネークダークネスの強大な暴力としての力が、右腕に集中する。

 溢れるばかりのエネルギーがグリムドアーマーをスネークダークネスの肥大化した右腕を思わせる造形へ変えていく。

 

「デモンブラッドジャッジ!!」

「────!!?」

 

 スネークダークネスの右腕を70万トン級の破壊力で勢いよく叩き付ける、単純明快ながら極めて強力な破壊の一撃。

 そこに俺の力、グリムドの力が合わさることで140万トン級の破壊力に達している。

 そんな一撃をカウンター気味に打ち付けられた邪神魔獣は大きく吹き飛ばされ、地面へ叩きつけられた。

 

「ありがとうスネークダークネス、助かった!」

『キシャアアアア♪』

「( #゚Д゚)」

「もちろんグリムドにも助かってるぞ!」

「(*・▽・)」

 

 怪獣リングの力は便利だし強力なのだが、重要な場面で頼ると、グリムドが拗ねるのが難点か。

 

「■■■■■────!!!」

 

 怒りを宿したような咆哮をあげながら、邪神魔獣が立ち上がる。

 今の一撃で片方の翼のような赤い棘がへし折れているのがわかる。

 思った以上に効果があったようだ。グリムボルト・スタウロスの効果もあったかもしれない。

 

「■■■■──────!!!」

 

 邪神魔獣の邪眼へ悍ましい力が急速に溜まっていく。

 

 邪神魔獣グリムドが放つ必殺技『グリムレイ』──それを待っていた。今のアレが放てる最大の技にして最大の隙だ。つまりこれに勝る一撃を叩き込めば、そのまま勝利できる。俺の必殺技が、奴の必殺技に打ち勝てるかどうか、真の勝負だ!! 

 

 グリムドアーマーから混沌の力がとめどなく溢れ、擬似ウルトラホーンに集束。

 アーマーの内よりカラータイマーを輝かせ、ウルトラマントレギアとしての力を両腕に集束。

 

 併せて放つ混沌の力に、回転を加える!! 

 

「トレラシウム・グリムレイ!!」

 

 全てを受け入れ混ぜるような回転を込めて放たれた必殺光線は、過去のただ併せただけの一撃とは異なり、輝かしい蒼い煌きを纏った凄まじい一撃へ進化していた。

 邪神魔獣必殺の一撃とぶつかり、拮抗する。だが、真に力を爆発させたこの必殺技ならば、いける!! 

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

「──────!!?」

 

 全身が輝く感覚と共に、更に出力が跳ね上がる。

 均衡は崩れ、混沌の力はより大きな混沌に呑まれるように押されて行き……。

 

「■■■■■■■■────!!!?」

 

 俺たちの必殺技は、その断末魔のような咆哮ごと、邪神魔獣が構成する肉体の全てを消し飛ばしたのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─地球・日本某県にて─

 

 唐突に始まってしまった再度の大一番たる戦いを終えて、俺はちょっと洒落たような料理店へ足を運んでいた。

 改めてみんなとお疲れ様と祝いたいと和室1室を予約確保しており、怪獣リングで食事に興味がある面子はそれぞれ上手く適応させている。

 入店時は1人だが、人数分の予約なので参加者人数分の認識阻害を適応している(ぞろぞろ入る際、怪獣達だとどこにぶつけるかわかったものではない為)。

 

「キシャー♪」

「ヌガーヌガー」

「モガーモガー」

 

 予約できたのはそこそこ広い一室で、今は料理に舌鼓を打つ怪獣達が楽しそうにしていた。和室を選んだのも、椅子に座れない怪獣が多かったからだが、やはり正解だったようだ。

 スネークダークネスのようにずっしりした怪獣たちは人間サイズでも地球人の規格に合わないうえに、座布団ですら上手く座れなかったりするのもいたので、限界サイズまで縮小して『認識阻害:子供』で誤魔化している。介助用ヒューマノイド型ロボット(製作者チブル星人)を付けているのでスプーンやフォークすら上手く扱えなくても大丈夫だ。

 

 ゴロサンダーは器用に胡坐掻いて座っている。「メシより戦いがいい」とか言っていたくせに、刺身を口に入れてゴロゴロ唸って上機嫌だ。

 ゼットンはあの黄色い部分から「ひゅぽ」っと音を立てて消えるように食べている。なんか宇宙七不思議を見た気分だ。

 

「うん、美味い」

「(・ω・)」

 

 コウイカというイカの刺身を1切れ口に含めば、肉厚なのにイカとは思えぬその身の柔らかさと旨味にほっこりする。この甘い味わいはどこからくるのだろうか。

 しっかり噛んで味わった後に日本酒だ。店員に勧められた、徳利とかいう容器に入った日本酒を、そのまま湯煎にて50℃程に温めた熱燗(あつかん)なる手法で1口。おお、米の香りが思ったよりも強いな。舌に残っていたコウイカの旨味とあわさり引き立つような満足感がある。正直、酒の知識は街中の『飲みすぎ注意』とか『飲酒運転ダメゼッタイ!』ぐらいしかなかったのだが、食事をより彩る要素になるならば調べる価値はありそうだな。ただ『酔う』というのは危険かもしれない。飲み過ぎて、タロウに水の入ったバケツをぶん投げられるような真似は避けたい。

 しかし徳利という容器や盃というコップもなんとも良いものだな。こういうのを雅と表現するのだろうか。五感で楽しんでこその料理、食事なのだから、器にも全力を尽くす姿勢、素晴らしいな。

 

「なんだトレギア、こういうのはこれごと飲めばいいんだゴロ!」

「……」

 

 徳利とは別の大きなガラス瓶をひったくってそのままぐびぐび飲み始めたあのおっさん怪獣は後で拳骨だな。

 まったく、こういう風情ある料理店には相応の振る舞いや品格というものが求められるんだぞ。

 

「あ、そこの上座に置いてあるタロウに触るなよ」

「キシャー……」

「ヌガーヌガー」

「モガーモガー」

「ゼットーン……」

「トレギアお前さぁ……」

「(; ・`д・´)」

「? ??」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 様々な料理を堪能し、ゴロサンダーを1発ぶん殴ってから全員怪獣リングへ戻し店を出る。満足気に帰路へ着く。

 楽しめた怪獣もそこそこいたが、味覚そのものが違っていたせいで満足できず肩を落とした怪獣もいた。そもそも食事形態そのものが適さずにリングのままだった怪獣もいるからな。

 やはり擬人化機能は動作確認しておくべきだろうか……? 後日ゴロサンダーあたりに試行依頼してみるか。

 

 すぐに魔法空間へ入ることはせず、ひんやりした夜風を楽しみ歩く。

 改めて邪神魔獣との戦いを振り返るが、全力を出して、全ての成果を活かした勝利だったと実感している。

 セブンという絶対に勝てない相手を知ったのもあって、あの邪神相手に気後れせず挑めたのが一番の成長だろう。無駄ではなかったんだなあの惨敗。

 

「グリムドが『セブン戦の口直しに自分と戦って修行成果確認しないか』といった旨の提案してきた時は驚いたものだが……正しく修行の〆になった気がするよ、ありがとう」

「(*・▽・)」

 

 そう、あの戦いはグリムドがセッティングしてきたものだ。セブンとの戦いがあまり納得いってなかったのか、あるいは〆に自分が一切関わってなかったのが不満だったのかはわからないが、本当に唐突なタイミングで提案された。あの並行世界のグリムド、何者かに使役されていたようなのでそのまま盗んだものらしい。邪神魔獣グリムドを使役するヤバい奴とはいえ御愁傷様な事だな。

 

「(^_^*)」

 

 グリムドから上機嫌な感情が伝わってくる。

 並行世界とはいえ事実上同一の存在であるはずだが、派手に爆殺したことについては何も思っていないらしい。

 じゃないとあんな提案しないとはいえ、相変わらず倫理観がよくわからん。

 

「(・ω・)ノ」

「自分は在るのだから何も問題はない、ねぇ。よくわからないが俺も並行世界の俺とよく殴り合ってるからグリムドが気にしないならいいさ」

 

 ちなみに爆散したとはいえ、前世記憶にあるタイガ劇場版にあったようにエネルギー体となって対象へ憑りつくといった能力もあるので、肉体が滅んだぐらいでは死滅していない。

 なので、グリムドがきっちり吸収同化処理をしている。これも改めて思うとめっちゃえげつない自分殺しな気がするが……うん、やっぱり邪神の価値観は奇々怪々だ。

 俺ですら理解し合うにはまだ遠い存在である邪神だが、唯一交流できる身としては理解への努力は怠りたくない。1歩ずつでもグリムドを理解していくとしよう。

 

「よし、戻るかグリムド」

「(・ω・)」

 

 

 

 

 

 

「ところで理解しすぎてまた発狂とか闇堕ちとかあったりするのだろうか。ならグリムド理解しない方が良かったりするか?」

「( ・ω・)」

「目を逸らすな目を」

 

 

 




真打勝負は邪神魔獣グリムドでした。
こういう勝負ネタやってたから絶対予想されてた。冒頭元ネタは『FGO 英霊剣豪七番勝負』。

・邪神魔獣グリムド(50%個体)
グリムドが【アブソリュートタルタロスが回収使役していた個体(ウルトラヒーローズバトルステージエキスポ2021)】を掠め取って顕現させた。タルタルソース涙目。
バトルステージ媒体であるが故であろうが、特殊演出こそあったが所謂グリムド空間を使ったとは思えない(というかそれならレイガじゃないと詰む)様子だったので、蘇生したまたは回収されたこの個体は完全体ではなく50%個体であると思われる。ウルトラ戦士の一斉光線で爆破したけど。
顕現させた世界は『かつてグリムドが封印される前に訪れた結果終わらせてしまった世界(星)』。SANチェックもいいところだが、本人的には「仮にも自分と戦うんだから相応しいステージがいいよね」ぐらいの感覚で選定しているので悪気はない。オレギアさんはグリムドの邪神たる部分にはドン引きしているが、ある意味お互い様である。

・〇万トン級の破壊力
よくわからんが凄そうというのだけ伝わってくる表現。
よくある爆発時の破壊力をTNT(ダイナマイト)ならどれほどの量かで示すTNT換算で言うのだったらこの70万トン級の破壊力というのは町1つ消し飛ばす爆弾並の一撃になります。
ちなみにツァーリボンバがTNT換算で言えば50メガトン(5000万トン)らしいです。こうして比較すると今回放った140万トン級というのは人類兵器未満のように思えますが、爆発というのは広がっていくものです。この数値のパンチを放つってことはその破壊力が1点に集中することになります。あとはわかるな?
今回はカウンター気味に放ったのもあって邪神魔獣グリムドの大きな赤い棘を爆砕している【この威力!!】。スネークダークネスの活躍にグリムドは拗ねた。

・オレギアさん大勝利。
善戦した理由、グリムド宿してるから対グリムドの知識が豊潤、耐性も十分。最後は様々な経験とゾフィー隊長のアドバイスが活きて、ウルトラマントレギアアナストロフィとしての必殺技を完成させました。ちなみに善戦できなかった場合確定で負ける。突進技を1発もらった時点でもう危険域であり、次の一撃を受けたらHPゲージが削りきられる状況。タロウがウルトラダイナマイトで勝負を決めにかかった事が最善(同時に原作トレギアの狙い)であった解釈である為『善戦できないなら死ぬ』という扱いになりました。

・トレギアファイト総括
ツイフォン(幼年体)戦ではアナストロフィの成長を、スネークダークネス(人形)戦ではトレギアの成長を、ゴロサンダー戦では更なる磨きを、タイラント戦では新たな課題を得ました。セブン戦で得たものは、『完敗という経験』を得ています。コンプレックスで捻じ曲げて受け止めなかったし、ちゃんと糧にできる心身の強さを示しています。
そして邪神魔獣グリムド戦で、課題を突破し新必殺技を完成させました。改めて五番勝負編、完!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外『ウルトラ怪獣擬人化計画』

別にクリスマス関係ない回なんでウルトラの父は出ません。
擬人化回注意。擬人化苦手な方は見なくても本筋には影響ありません。
また、この話は、ウルトラ怪獣擬人化計画feat.POPのコミック版世界観に関する根本的ネタバレを含んでいます。今更作品ネタバレ注意喚起も何も円谷作品のネタバレしまくってる本作ですが、問題ない方のみどうぞ。



 ─時系列『修行開始前』─

 

 俺はウルトラマントレギア。共に歩むものはグリムド。

『元の世界へ帰る』というただ1つの目的の為に、色んな異世界を渡り歩いている。

 

 様々な衝撃や法則、異質はいずれも新鮮な経験となり、旅のアーカイブは増えていく一方だった。

 これで元の世界へ帰れる何かしらのきっかけが、からし種1粒分でも見つかればいいのだが。

 

 ただ、それほど数多の世界を巡ってきた俺をして、今回受けた衝撃は中々ない。

 

「ウルトラマン、お前……」

「いや違うんです聞いてください」

 

 俺の前には、光球状態となって見苦しい言い訳を口に出そうとしているウルトラマンがいる。いやもう光の戦士じゃなくて変態じゃなかろうか。元からベムラーを逃がす不祥事に加えて人身事故を起こした話を聞いた時も色々光と闇と法について悩んだが、それでもその正義の心を俺は強く信じていたのに。ウルトラ兄弟の誇りはどうした。

 

「先生に近寄るな……」

「ゼットン君……」

 

 光球へ蔑んだ視線を隠せない俺に対し、光球を背にゼットンを思わせる触覚などをつけた少女が敵意を隠さず睨み返している。

 だがその健気さを思わせる挙動も、俺には彼の罪業にしか見えない。

 

「見損なったぞ! 地球人を攫い、怪獣と融合させるなど貴様はいつからヤプールになった!!」

「落ち着いてほしい!! これは彼女らを想って立てた計画なんです!!」

 

 嘘つけ! 信じられるかそんなもの!! 

 

 事の次第は転移直後に遡る。

 もはやお約束の転移ポイント惑星と化した地球へ降り立てば、なんか地球人の少女となった怪獣達がちらほら居り絶句したのが始まりだ。

 ただの怪獣コスプレではない、怪獣や宇宙人がその能力そのままに人間態として活動していたのだ。学生服で認識阻害をかけていたようだが俺の目は誤魔化せない。なんか地球侵略計画練ってるイカルス星人みたいな少女もいたし、似たようなことを口走りながらボランティア活動を勤しむテンペラー星人っぽい少女もいた。

 

 最初は「ああ、こういう世界もあるんだな」ぐらいに流していたが、情報収集していたところ『怪獣墓場に学園作って、そこで怪獣少女(それとも怪獣娘?)として生み出されて地球に来たのが彼女たち』ということが発覚。

 新手の侵略計画か変態の戯れに違いないとウルトラ戦士としての義憤にかられた俺は、怪獣墓場へ急行。

 

 そしたら校長先生を名乗って光球状態でゼットンっぽい少女とデートに洒落込むウルトラマンを発見した次第である。闇に堕ちたウルトラマンとか俺は見たくなかったよ。

 

「君は別の世界からやってきたウルトラマンだね。改めて自己紹介と、説明をさせてくれないか」

「……私はウルトラマントレギアだ。本当に私が考えているようなことではないのだろうな?」

「ああ、だから落ち着いてほしい。ゼットン君も」

「……はい、先生」

 

 俺を納得させられる事情というのが本当にあるのか? 正直疑問だが聞くだけは聞こう。

 

「話を聞いてくれるんですね、ありがとう……。それは、ゼットン星人に操られていたゼットンと、その火球の先にいた不運な少女の2人の死がきっかけでした」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ウルトラマンからの話の経緯はこういうことだった。

 

 かつてゼットンと戦った際、ウルトラマンは命を落とす事になったが、命の固形化技術により、命を2つ持ってきていたゾフィーにより一命を取り留めた。だが、あの場では亡くなった命はウルトラマンだけではない。

 黒幕であるゼットン星人、操られていたゼットン、そして件の少女……自業自得であるゼットン星人はともかく、ゼットンと少女を、身勝手だと自覚した上で彼は救いたいと願った。

 

 ウルトラマンの願いは、怪獣墓場にてゼットン自身の「願い」と少女の「想い」により怪獣の魂と少女の心が融合した擬人化怪獣0号として成立。怪獣蘇生能力を有するジェロニモンを正式な擬人化怪獣1号として生み出した後は3人によって【ウルトラ怪獣擬人化計画】がスタートした。

 

 この計画は『怪獣に殺されて、少女として1番輝く時期を過ごせなかった命に、怪獣少女として失われた青春を過ごしてもらう』『墓場で眠ることしか居場所のない怪獣に、穏やかに、平和に過ごしてもらう』という2者の供養を目的として進行された。怪獣墓場に学園を設立したり、様々な区画を用意したのもその為らしい。

 また、『消滅するしかなかった少女の心は怪獣の強い生命力で保護される』『怪獣はただ、平和に生きることで奪った命への贖罪にもなる』といった部分もある為、彼らの計画は良いこと尽くしだと、新たな協力者を得ながら規模を拡大していった。

 

 当然、良いことばかりではない。怪獣と少女どちらに比重を置くかと言えば少女である為、死亡した怪獣や宇宙人の承諾を得ていない。かなり強制的に実行されている為、怪獣側は動揺するケースも多かった。

 また、上手く少女の心と溶け合わなかった擬人化怪獣は、怪獣の凶暴性や侵略意識が強く出たまま活動したり、逆に少女の悲しみや恨みが表に出過ぎて大暴れしたり、地球へ訪れた怪獣少女が『自分が殺した少女の親族に出会ってしまい苦しむ』ケースなども発生した。後者2つのケースはウルトラマンも堪えたらしい。

 

 だが、改めて擬人化怪獣達に問いかけたところ、『怪獣と少女、両方でいい』

 と笑顔で答える者や、第二の生を楽しむ事を素直に喜ぶ者、好意的な反応が多かった為、今もこうして怪獣墓場学園を経営しているのだそうだ。

 

「いや長いわ」

「すまない、だがわかってもらえただろうか」

「……まぁ、うん」

 

 思っていたよりずっと重い事情と、神になったかのような所業、物語が展開されていてびっくりした。俺が地球を訪れた際は復興後だったようだが、日本の主要都市が神戸から東へ次々と焼き尽くされたりもしたり、大きな戦いもあったようだ。

 

 なるほど、この計画を実行すると決めたからこそ、ウルトラマンとしての姿ではなくその光球を取っていたわけか。

 

「ウルトラマンなりに、救済を考えて行動したのは理解した。変態呼ばわりして悪かった」

「いや、君の誤解も当然の事だ。怪獣と融合しているのは基本少女だから」

 

 ちなみに少年の方は光の国でウルトラマン達と融合しているそうだ。それは最高の供養にもなるだろうな。みんな憧れのヒーローと共にある事に喜んでいるようだ。

 ……トレギアと融合した少年は大丈夫かな? 

 

「怪獣少女なる存在がいる事に納得はした。その行いの是非を問う事はしない、当事者が喜んでいる以上はな。それはそれとして……なにデートしてるんだお前」

「……」

「ピポポポ……」

 

 つい突っ込んでしまったが、野暮だったか。

 こんな初々しい反応見せつけられたら俺とて流石に察するぐらいはできる。

 

「そ、そうだ! 君はブルー族だろう? 擬人化技術に興味はないか!?」

「話逸らすの下手か。まぁ、好奇心はあるかな」

 

 これ以上追及するのもなんだか悪いし、乗っておこう。教えてくれる技術は会得しなければ損だ。

 使うか使わないかで言えば使わないが(タロウに誤解されそうだし)、その技術そのものに興味があるのは事実だし。

 

「この技術を盗み、悪用しようとしたペダン星人は全滅したが、君はそういったことをしないよう祈るよ」

「するわけないだろう。親友を裏切るような真似はしないと誓っている身だ。というかちょっと待て、盗まれたのか!? マジでどこの光の国もセキュリティガバだな!?」

 

「( ・ω・)……」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─時系列・『VS???』後─

 

「……で、怪獣リング改造技術に応用したわけか」

「無駄な技術などこの世には存在しないというわけだ」

 

 かつて、怪獣擬人化技術を獲得した経緯をゴロサンダーに話し終えた俺は満足気に頷いた。

 どこから手に入れたそんな技術、と珍しく訊ねられたので、旅の記録として記しているトレギアアーカイブを広げながら解説させてもらった。

 俺としても思い出を振り返る機会になったので、アーカイブ化してよかったと思っている。

 

 あの時は野暮だと思ってあれ以上の追及をすることは終ぞなかったが……『校長先生』を名乗り、『生徒』と交際するのは色々どうなんだろうか。

 疑惑が胸の内から湧いて出たがよそう。それもまた青春と解釈すればいい、のだろう、かなぁ……。

 

「なんだ変な顔して」

「いや、無意味な仮定を脳裏に浮かべただけだ。気にしないでくれ。それよりどうだ、その人間態は」

「ゴロ……話逸らすの下手か」

「うるさいよ」

 

 露骨に睨まれたが目を逸らして誤魔化す。

 今のゴロサンダーはその擬人化技術を応用して怪獣リングへ組み込んだシステムだ。やはり人間態の方が、認識阻害機能との併用でより安全なので試行してもらっている。

 あのずんぐりむっくりした赤い半裸のアヒル顔怪獣の姿が、なんということでしょう。どこからみてもヒューマノイドとして通用するフォルムに! 

 

 ゴロサンダーは改めて全身鏡を見たり、自分の腕や足などを興味深げに眺めている。

 

「なあトレギア」

「どうした、五感機能や身体機能に不具合があったら言ってくれ」

「いや……先の話を聞く限り、その技術を用いたら怪獣の特徴を持った少女の姿であるはずだが」

「ああ」

「俺おっさんじゃないかゴロ!!!」

 

 目の前のおっさんが吠える。いや、ゴロサンダーが吠える。

 地球人としての特徴を強めなければ意味がないので怪獣要素も極端に削っている為、今のゴロサンダーは少しアヒル口な中年男性にしか見えないはずだ。

 眠たそうな目にアヒル口な顔とはいえ、整っている。髪型はオールバックに左右と中心の計3本ホワイトライン(白髪部分)が入っている。あの元のとんがった白い角そのままの髪型じゃないだけ気を使ってやってると思っていただきたい。服装はワインレッドに寄せた色合いのカジュアルなスーツでぴしっと決めつつ、稲妻模様が入ったネクタイ、左胸には三つ巴が入った太鼓マークの小さなブローチをつけてちょっとしたお茶目なアクセントとして機能している。会心の出来だと思うが。

 

「俺が少女態になった時の造型、気になっていたのに……」

「少女の魂など使えるわけないだろ。あれはあの世界だから許されたんだ」

 

 そんな真似したら現地住民を攫って怪獣へ改造し侵略兵器に使う、あの悪名高きドルズ星人と変わらんぞ。

 まぁ、魂無くとも参考データを採集すればできないこともないだろうが、地球人少女の身体・精神データを収集してまでやりたいかというと……。

 成人男性のデータなら、この霧崎の姿としてのデータやウルトラ兄弟達が融合したりコピー*1したりしたものがあるからな。

 

「ゴロロ……まぁいい。しかしこの形態で戦闘などできそうにないぞ。同じ二足歩行とはいえ体形がまるで違う」

「まずその形態から戦闘など考えないでくれるか。使用技術の都合、一応怪獣としての力は行使できるはずだが、戦う際は素直に元の姿へ戻ってほしい」

「ふむ……わかった。知識だけ身に着けていた格闘技の型を練習するぐらいはしておくか」

「いや、主に地球文化を楽しむために使ってほしいのだが」

 

 駄目だこいつ、戦うことしか頭にない。腕が鈍って再修行を要したほど苦労して形にしたというのに。

 気が付けば四肢の長さや、バランスの取り方へ夢中になっている戦闘狂を前にため息をつく。

 ……まぁ、怪獣リングの機能による人間態での戦闘力確認は必要にはなるか。好きにさせてデータ収集しよう。

 

「とりあえず、今度地球を渡り歩いてみようじゃないか。計画名は『ウルトラ怪獣散歩』とでも名付けよう」

「怪獣体でもないのに怪獣散歩は詐欺じゃないのか」

「怪獣体で散歩の許可取れる世界線なんかあるわけないだろ!!」

 

 ゴロサンダーの言葉に強く否定する。そういう世界線がないから苦労して作ったのに何を言ってるんだこいつは! 

 だが後にそういう世界へ転移してしまい、ジト目でにらまれる羽目になるのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ゴロサンダーが独りで軽く歩いてみたいというので、地球へ転送して一息ついた後。

 グリムドが手招きするような感覚で思念を伝達してきた。

 

「( ・ω・)ノ」

「……擬人化してみようか? いや、グリムドは色々な意味で難しいと思うが」

「L( ・ω・)/」

「望むなら応える用意がある、じゃなくてな?」

 

 謎のやる気を見せているグリムドに内心動揺する。

 グリムドさん? 何故に急に擬人化へ乗り気なんですか? 

 貴方邪神ですよね??? 

 

「(V)(・ω・)(V)」

「ばるるん、じゃないんだよ。やらなくていいと言ってるだろ!?」

「 (´・ω・)」

「あーすまない、言いすぎた。だが、擬人化するということは俺の身体から抜け出ることになる。アナストロフィになってからの擬人化はリスクが高すぎないか?」

 

 そう、擬人化技術はあくまで怪獣リングに施したものなのでグリムドには適応されていない。

 それに、擬人化態が出る事と怪獣態が出ることは同義であり、アナストロフィを可能にして、鍛え上げた今の俺でもそれはリスクのある話だ。

 難色を隠さない俺に対し、グリムドは諦めていない様子でまた思念を躍らせてくる。

 

「 (`・ω・)」

「上手くやる方法を思いついた? お試しで一度やってみたい? いいけど具体的にはどんな……!?」

 

 迂闊の一言としか言いようがない。

 僅かでも承諾の返事をしたとたん、脳髄を鷲掴みにされ、地の底へ引きずり込まれたような悍ましい感覚と共に俺の意識は暗転した。

 

 

 

「ようこそ、トレギア。この深淵の最奥たる『無明の閨房(けいぼう)』へ」

「!!!?」

「深淵の奥、知的生命体の無意識の海と繋がる世界であれば、思考回路が根底より異なる我らであろうと言葉を交わすに容易いと今更ながら気が付いた」

「!? !!?」

「だが、脆弱な精神しか持たない者がここへアクセスし交流すればたちまち精神と魂、心の全てが我らの言の葉1つ解す頃には焼き切れてしまうであろう」

「!!!?」

「トレギア、我が永遠の使徒(ゆうじん)にして伴侶よ。脆弱な者たちと違い、其方のように混沌の輝きに守られし強固な魂と摩耗せぬ精神があれば、我らとこの世界で言葉を交わすには充分だ。加えてこの姿であれば、其方の母星語としても地球言語としても明確に認識できる伝達行為となっているはずだ」

「……!! ……!!?」

「どうした? ああ、我らが何故斯様な姿を取ることを選んだか伝わらなかったか。擬人化というものは要するに『知的生命体と相互理解が不可能あるいは極めて困難な存在を、相互理解可能なレベルまで帳尻合わせを行う』技であると我らは解釈している。この技を知った時から、宇宙開闢より我々が果たせなかった交流の道が開ける可能性があるとあっては、試みる価値があったのだよ」

「…………!!!!」

「む……本当にどうした? 先程から溺れるようにもがくばかりで何も感想を述べてくれないのは寂しいぞ。苦労したのだぞ、怪獣態では粗雑に伸ばしただけの青髪を整えるのは。それにこの造型は地球人の一般的価値観では美少女に該当しうると……」

「…………ッッ!!!!!」

「……も、もしかしてトレギア、ここは適応できないのか? ひょっとして我らやらかしましたか?」

「…………(ジュウウウウウウウウ」

「ままま不味い! ごめんなさいトレギア!! すぐ戻します!!!」

 

 

 

「ハッ!?」

「(´;ω;`)」

 

 なにやら気を失っていたようだ。己の存在がじわじわと蒸発して形を失い消えていくような、そんな悍ましい悪夢を見ていた気がする。

 グリムドが滅茶苦茶落ち込んでいるので、とりあえずこいつが原因であることは間違いないだろう。

 というか何の話をしていたんだったか……直前の記憶が削れたように喪失しているな。

 

「(´;ω;`)」

「失敗した? ごめんなさい? ……まぁ、ほら。知的生命体も失敗はするんだ。邪神も失敗ぐらいするだろうさ」

 

 謝罪の念がばりばり伝わってくるので、安心させてやるためにも全身状態と、魂魄強度を確認する。

 ……意識暗転直前の記憶だけが完全に喪失しているだけで、他に異常はないな。この不思議なほどに強度のある魂が摩耗していたらすべての前提が狂うが、ここが無事ならば何も問題はない。

 だから大丈夫だと、グリムドへ念じて宥める。

 

 だが慰めても宥めてもグリムドから悲しみのようなオーラは途絶えない。これは困った。

 なにか気の利いた言い回しはできないだろうか。なんで邪神にこんなメンタルケアみたいなことしてるんだ俺? 

 

 削れた記憶があれば、少しは落ち着かせる会話もできそうだが……待てよ? 確かゴロサンダーと擬人化態についての確認と検討を行っていたはずだ。

 その延長で起きた事故か? なら俺が言うべき言葉は……。

 

「グリムドが擬人化したら、さぞ美しいのだろうな!!」

「(・ω・)!」

「俺と共に在る現状では、その姿を見る事は叶わないのだろうが、グリムドが興味を抱いたなら、いつか検討してみるのはいいかもな!!」

「(*・▽・)」

 

 よし機嫌治った! これで合ってたよくやった俺!! 

 

 ……でもなにか、致命的な間違いを犯した気もする。

*1
(80やレオなどは不明だが、ウルトラセブンやメビウスは勇敢な地球人の姿と魂をモデルにして人間態を獲得している。ヒビノミライのモデル、バン・ヒロトは殉職。しかしモロボシダンのモデル、薩摩次郎はセブンが救ったため存命であり、後に出てきた際も「彼は僕の分身だ! なんとしても救わねば!」とダンが特別視している描写が入っている。肖像権をとんでもないレベルで侵害しているツッコミは禁止)




年内最後の更新。
プロット上の都合もあるので本編中では擬人化描写はないかな?多分、擬人化回あるとしたら基本番外となります。

・ウルトラ怪獣擬人化計画feat.POP 漫画版
この世界線における怪獣娘は『実際にウルトラ戦士と戦った怪獣や宇宙人』と『その怪獣の犠牲になった少女の魂』が融合して成り立っている設定。
主人公のメフィラス星人は本物の初代メフィラス星人であり、少女の姿となったことに動揺したり、台詞を弄られたりしながらも『青春』をぎごちなくも受け入れていくストーリーとなっている。擬人化してできた親友はエレキング。全7巻で完結済みなので興味ある方はどうぞ。
ちなみにこの漫画の裏の主役は『ジャミラ』。こいつだけ元人間なのに怪獣娘化しているという凄まじく業を感じるガチTS。地球への帰還を夢見ているのだが、運命が地球へ帰ることなど認めないとばかりに、凄まじい不幸や事故により妨害され続ける。だが、時折蘇る『宇宙飛行士ジャミラ』としての記憶や信念が彼女の真の強さとして芽生えていくのでギャグ調に誤魔化されず見届けてほしい。

・ゴロサンダー、擬人化!
ただしおっさん形態。誰が怪獣少女だと言った?
作者の趣味で、それなりに格好つけております。
当然ながら、擬人化ネタに一度偏ると基本形態がそっちだとか話が迷走していくとかになるんで、本当に『ネタ』として出した感じになりますね。

・グリムド、擬人化(詳細不明)
オレギアさんが説明しているように、グリムドは今のままだと擬人化ヒロイン化困難です。
ただ、感想欄が結構ネタにしてるのに、「できません!!」で済ませるのはちょっと申し訳ないので、一夜の夢としてネタにしました。
どこにも書いてない?グリムドの擬人化時の口調に興味がある方のみ、お手数ですが、オレギアさん暗転から覚醒までの部分をハイライトしてみてください。あるいは夜間モードをオンにすると良いでしょう。スマホなら夜間モードで問題ないはずです。
深淵にアクセスできます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

間章
トレギアクッキング!


ご無沙汰しております。ウルトラマントリガーエピソードZ良かったですね!やはりアキトがメインヒロインだった!
リアルが忙しかったり、色々プロット1から練り直すことになったり、ヒスイ地方に拉致られたり審神者になったりトレーナーになったりして気づけば4月という驚き。


 唐突だが、美食家とはなんであろうか。

 

 辞書を紐解けば、成程『贅沢で美味なるものばかりを食する者』とある。しかし、人によっては見た目のインパクトが著しい料理を求めたり、ただ珍しき味わいに惹かれて挑戦する者もいる。彼等もまた美食家ではないだろうか。と、宇宙人(ウルトラ族)視点で物申したが、実際に、明確な定義というものはないように思える。ただ、大食らいは美食家とイコールとは限らないというのは頷ける話だ。

 

 日本では料理の味わいに精通した者、食の情報に明るい者を食通とも表現するようで、いつかこの称号を堂々と名乗れる域までたどり着いてみたい向上心もなくはない。

 

 地球人諸君。君達はこのあらゆる『食』に満ちた星に生まれたという幸福に気付いているのかい? その天文学的幸運に気付いているのかい? 

 ……いかん、()みたいな事をほざいてしまった。いい加減、本題に入ろう。

 

 そう、ちょっと最近料理に嵌っている。

 

 先日手にした地球文化資料の1つ、格闘漫画本(範〇刃牙)によると世の美味珍味を堪能した者はいずれ自ら厨房に立つと言うが、どうやらそれはこのウルトラマントレギアも例外ではなかったようだ。

 美食の為にかける労力を惜しまぬのが食通ならば、成る程道理だ。膨大な時と金と運を消費して堪能してきた味わいを、自ら再現できるだろうかという好奇心。その後押しの前には凡ゆる機材、食材、参考資料を揃えて消える時間と金銭など些細な問題。

 かく言う俺もその狂おしい好奇心に導かれ……ごめんなさい半分は嘘です。タロウに振る舞う手料理という願望を胸に抱いてキッチンに立ちました。

 モノによっては地球人が人生の大半を費やす技術もある世界……サザエのつぼ焼きや、店での焼き肉程度しか経験のない俺にそう易々と取得できるはずもなく、極上の素材を無駄にするばかりな現状に挫折することとなる。

 自らの限界を覚えた俺は、科学者らしくサポートロボットを作ることになった。足りぬ者は補えば良い。簡単な話である。度重なる機能拡張とAIアップデートの果てにこいつ1機で全部仕上がるレベルになってしまったが。今ではロボットに頭を下げて学ぶ有様で、ゴロサンダーに「馬鹿じゃねーの?」と白い目で見られたのは記憶に新しい。

 

 しかし、それでも進歩していくのが我々知的生命体である。

 

 今日はそんな僅かでも上達した己を自画自賛する為に、サポートロボットの補助無しで料理に挑む。

 イメージするのはタロウの喜ぶ顔のみ!! いくぞ!! 

 

 まず、ネオフロンティアスペースの地球(2035年)にて入手したネオスーパーGUTSコラボ商品『アスカ記念日限定! ダイナ特選濃口醤油』を地球人サイズ換算大匙にして4、『アスカ記念日限定! ダイナソルジェントみりん』を2の割合でチルソナイト808コーティングされた鍋に投じる。

 煮立ったのをみたら加熱を止める。これを『ひと煮立ち』と表現するレシピ本があったが、この用語を最初見た時はどういう定義を指すのか首を傾げたのも懐かしい。適量とかひとつまみとか、あと切り方蒸し方焼き方煮方とそれぞれ用語1つで済ませて料理初心者に対し不親切なのは勘弁願いたいものだ。大匙という表現だって、最初はレードルの大きいサイズなのかと思った程である。ゴロサンダーからは「まずそういった用語などの解説がついた初心者向けから買えよ。あ、ゴロ」と呆れられたが。

 

 さて、過去を振り返りながらも次の工程だ。時間を無駄にしないために先に別の鍋(地球にて通販購入)に水を入れ加熱開始。各工程が終わるころに沸騰してくれると良い。

 恐山に住まう古代霊獣ワゴンイチオシの、青森産名ブランドにんにくを一片すりおろし、東京新宿エリアで採れる唐辛子を粗挽きに小さじ1程の量を用いる。後はツインテールの棘1欠片(第2脳がある位置の棘が香りと食感に優れ最良である)をみじん切りにしたものを30g程。これらを混ぜ合わせ、剣輪草より抽出したオイルを少量加える。元来は金属加工に用いるオイルだが、意外と食用にも向いているのだ。

 素材同士の香りがたがいに負けぬ力強さを発し、調和していくのが感じられたらひと煮立ちしたものと混ぜ合わせ、ウルトラマングレートが活躍していた地球にて購入した『琥陀羅亜玄米黒酢』を大匙にして1、スフランの葉を刻んだものも少量加える。これでソースの完成だ。

 

 品種改良されたソリチュラの葉を地球人の一口サイズまで千切り、冷蔵庫で冷やしておいたツインテールの肉(部位はインプット細胞の裏側にある部分、柔らかくて良い。口のある頭部付近は印象と違い筋肉質で硬い肉が多いのだ)を手ごろにスライス。

 期待通り、この頃にはとっくに鍋の湯が沸いているので、塩を少量投じてから肉を茹で上げる。こうする方がツインテールは旨味が引き立つのだ。茹で上がったらさっと引き上げ、続けてソリチュラの葉を湯通しする。

 湯通しした葉にはアクがついているので、軽く流してから皿にツインテール肉と共に盛り付ける。

 〆に先に作っておいたソースをかければ、【ウルトラマンでも作れる、よだれツインテール】の出来上がりだ! 

 

「(・ω・)」

「ああ、冷めないうちにいただくとしよう」

 

 ツインテールなどの素材を地球人サイズにまで整えるには大変な苦労があったが、その甲斐あって実に旨そうだ。我ながら出来栄えに才能を感じる。

 後片付けは今回見守り要員だった料理ロボットに全て押し付け、手指消毒を済ませて食事タイムだ! 

 

「いただきます」

「\(・o・)/」

「うむ……美味い」

 

 ソースの力強い香りが食欲を引き立て、準備を整えすぎた口内へいざツインテールの肉が運ばれると期待以上の味が一気に広がる。海老に似た味わいと共に鶏肉のような噛み応え、ソースは程よく辛く、ツインテールの味を引き締めながら共に高め合っている。ソリチュラの葉は、木の葉とは思えぬほどシャキシャキとした食感があり、僅かな苦味と優しい甘味がツインテールの旨味とマリアージュしている。

 これだよこれ。この食感を含めた味のコンサートを楽しみたくて組み合わせたが、期待通りで嬉しいものだ。

 

「しかしツインテール……生まれたてをフライが基本とも聞いていたが、追及しがいのある食材じゃないか」

 

 怪獣リングを改良して肉だけ量産とかできたら宇宙の食糧問題解決への一助となるか? 怪獣保護団体がうるさいかもしれないが。ああ、もう食べ終わってしまう。最後の一欠片を名残惜しみつつも十全に味わい、飲み込む。うん、美味しかった。

 

「ごちそうさまでした」

「(・ω・)♪」

「ふぅ……行くか」

 

 料理と食事を堪能し、後片付けはロボットに任せるという贅沢を味わい尽くした後は目を逸らしていた現実だ。

 心地よかった気分が僅かに萎えるような、そんなため息を1つ零して、俺は魔法空間から移動する。

 

 移動した先は光の国を思わせる神々しき光のクリスタルで満ちた都市空間。

 この空間はグリムドの魔法空間と同じような性質を有し、加えて数多の世界も観測できる独立した世界だ。現在の俺が活動拠点にしているのも頷けるであろう性質だが、実はこういった世界、珍しくはあっても唯一性はない。所謂世界の管理者とも言うべき上位存在……宗教における神々の住まう世界なども該当するし、ウルトラマン列伝でゼロが地球人と交流する為にいた謎空間も該当する。

 要は、誰も使ってなかった世界をまるごと頂戴、光の国っぽく改装したわけだが……。

 

「ご満足されましたか、皇帝陛下(アフトクラトラス)

「皇帝言うのやめろ」

 

 空間に降り立って早々、慇懃無礼な雰囲気をわざとらしく纏ったメフィラス星人が最敬礼をもって出迎えてきた。

 これが今俺が頭を抱えている問題だ。わかりやすく言えばこうなる。

 

 

【悲報】俺、戦力拡充しすぎたかもしれない。

 

 

「しかたありませんね、では混沌皇帝(カオスデスポテース)陛下」

「それもっとやめろ!! マジ恥ずかしいから!!」

「恥ずかしいとは異なことを。私が忠誠を捧げたかの皇帝も『暗黒宇宙大皇帝エンペラ星人』を自ら名乗り上げましたしアーカイブによればウルトラマンベリアルは『暗黒大皇帝カイザーダークネス』と……」

「俺はああいう中二っぽいの自分でやるのは無理なんだよ!!」

『キシャー!!』

「違っ、スネークダークネス、お前の名前を馬鹿にしたわけじゃなくてな!?」

『キシャー!!』

 

 俺のタロウへ、一日も早く会いたいのですが、会った後間違いなく面倒ごと持ち込みそうです。許してくれ。

 




空想料理をもってエイプリルフールネタと言い張る勇気。
実は次章プロット再構築開始したせいでまだ序盤しか書きあがってないんですが、途中エタを恐れて何も投稿しないというのもなんなので、繋ぎ回を投稿。
オレギアさんが何やらかしたのかについては次回(4日あたり)。

・アスカ記念日
ネオフロンティアスペースの地球では知らぬ者など居ない、伝説の英雄「アスカ・シン」を讃える記念日。当の本人は今日も元気よく別世界の宇宙を飛び回っている。盆と正月ぐらいは帰った方が良いと思います。アスカ記念日限定商品なるものが実際にあの地球で売られているかは不明だが、現実の地球をみるに、当たり前のように売られていると思われます。売上はスーパーGUTSマーズ、ネオスーパーGUTSの活動資金もとい世界平和の一助の為に寄付されます。

・チルソナイト808
ワイアール星で産出される金属。チルソナイトのみだとウルトラQに出てくるガラダマの組成物になる。これで鍋をコーティングして蓋をすることで、ウルトラ念力を用いた透視でも鍋の中身が見えなくなるのである。何の意味もない?ごもっとも。

・古代霊獣ワゴン
青森のご当地怪獣。ゆるキャラたちと比べ知名度がどうにも不足しているが、怪獣なので特撮ファンなどは存在ぐらいは知っている人も多いだろう。
円谷プロ所属怪獣(芸能人みたいな表現だが)というわけではないが、ご当地怪獣たちのデザインには昭和怪獣達を思わせる造形もみられるので、知らない方は是非調べてみてほしい。

・東京新宿で採れる唐辛子
内藤とうがらしのこと。人類の限界値を更新する昨今の激辛事情とは全く違う、もはや優しいと言っても良い辛味と香りが持ち味の唐辛子。

・ツインテール
『ツインテールは海老のような味がする』『岩や泥が主食なくせに(当時は水棲でもあるとは解明されていなかった)肉が柔らかく、美味しい』などと怪獣図解入門を始めとした怪獣図鑑系書籍に記されたばっかりに、令和の時代でも圧倒的知名度を獲得した名怪獣。海老のような味はあくまで生まれたてに限るのかは不明だが、生まれたてのツインテールはグドンの大好物なのはウルトラマン倶楽部の怪獣カードにも記されている。やはり成体は雑味がするか(一部ゲームでは成体の肉は毒があるとされている)肉が固いのだと思われる。

・剣輪草
『ウルトラマンレオ』で登場。ケンドロス星固有の植物。一度開花すると花びらが鋭利かつ硬質化、ヘリコプターよろしく回転して飛び回るあげく、近くの動物へ襲い掛かる滅茶苦茶凶暴な性質を有する。植物怪獣ケンドロスとは共生関係にあるのかケンドロスがメイン武器として存分に活用している。トレギアはこいつから植物性オイルを抽出したが、見た目的にはケンドロスの方が果実っぽいので良いオイルが抽出できそう。

・スフラン
『ウルトラマン』とか『ウルトラセブン』に出てくる吸血植物。触手のように自在に蠢く太い蔓の先に1m近い巨大な葉が1枚ついているのが特徴。実はどういう形式で吸血してるのかがよくわからない。人間に巻きついて葉を擦り付けようとしていたのであの葉が皮膚を削り取って血を啜るのではといった怖い考察もあったりする。

・ソリチュラ
『ウルトラマンメビウス』に出てくる宇宙植物怪獣。降り立った星であらゆる生命体と同化し最終的には星も同化する(観測されてるだけでも犠牲になった星は約760にものぼる)クッソヤバイ侵略性植物。同化の効率を高めるために咲いた花を怪人ソリチュランへ変貌させ、高ストレスな人間を主な同化対象として狙っていた。ばらまかれる花粉は神経性麻痺を引き起こすえげつない代物。
そんな危険植物もチブルの科学力であら不思議!品種改良で食用葉を寿命を迎えるまで無限に増産できる期待の未来食品に!!チブロイド達が収獲しているので花粉毒も問題ありません!!

・やたら中二臭い異名
トレギアは劇中、中二心を馬鹿にしたような描写がある為、多分肌に合わないと思ってるタイプ(でもタロウみたいな輝きは純粋に憧れちゃう面倒臭い奴)。
こういう壮大な二つ名は高2病とかかかると辛くなるけど、中二心はもちろん、子供心にはカッケー!!ってなるから大事なやつ。毎回こういうの考えてる人は偉いと思います。創作に大事なのはC調と中二心!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

皇帝トレギアと参謀メフィラス星人

サブタイトルはアンパンマンのサブタイトルBGMと読み上げアンパンマンなノリで良いです。
メフィラス星人のCVは故 加藤精三氏をイメージ。


 この世界の中心【グリムドバシレイオン】。

 その最奥に位置する玉座にて、俺はまったくもって不本意な役割に対する意識の欠如について、メフィラス星人から説教を受けていた。

 

「いいですか皇帝陛下。貴方はこの世界の絶対的象徴なのですから、あまり玉座を空席にしないでもらいたい」

「だから俺は皇帝とかやりたかったわけじゃないんだってば」

「戴冠式では堂々たるふるまいを見せていたではありませんか」

「混乱して放心してたんだよ!!」

 

 頭を抱える俺に、呆れたように首を横に振るメフィラス星人。

 あらゆる世界を飛び回る風来坊ならぬチェシャ猫やってた俺が何故こんなことになっているのか。

 原因は目の前の悪質宇宙人だが、そもそもの元凶はというと俺自身がトチ狂っていたからである。

 

 

 

 元の世界に帰ることが上手くいかないまま体感時間数十年。

 あっちでのベリアル軍との戦争はどうなったのだろうとか、あの究極生命体たちとかどうしてるのだろうかとか、約半年が経とうとしているタイガ達の宇宙に万一の備えも必要だろうかとか、色々焦りも覚えた俺は、何を思ったか組織を立ち上げた。

 あれだけ自己の研鑽と怪獣リングに拘っていたくせに唐突な路線変更をかましたので、長年のタロウ分不足による一時的狂気に陥った(ストレスの限界を迎えた)というのが自己分析である。

 

 元々無限に等しいマルチバースにおいて、事実上単独での探索に強い限界を覚えていたのも事実*1で、探索用の手足が欲しくなったのだ。世界1つをエネルギー源としてやらかすみたいな悪党ムーヴに走らなかっただけウルトラマンとしての自負がブレーキになったとは思うが、『俺のタロウに会いたい』という我欲を『あらゆる世界の調停と監視、そして滅亡阻止を目的とした介入を是とする正義』という傲慢な建前でコーティングして暴走したのは今では猛省ものである。

 

 ともあれそうと決めた、決めてしまった俺はまず拠点構築を目指した。

 拠点は独立した世界が好ましかった為、魔法空間や次元の狭間にある世界のようなものを目標に世界移動と探査を繰り返した。苦労の末、上位存在が消滅または放棄されたと思わしき無の空間世界を探知獲得、グリムドの権能と蓄えた科学技術、魔法空間の魔改造で得たノウハウを全開放して、ついに【世界観測世界 オムニバース】を作り上げた。魔法空間はあくまでプライベート用、そしてこの世界は組織用と分けることができたのである。

 凄く大仰かつ壮大なようだが、感覚的には惑星1つ改造するのと変わらない。そもそも異次元を始めとする、別空間を単独支配してる種族など我々の宇宙では珍しくも無い*2。前例ある故にこうも容易くできたというわけだ。

 

 新たな拠点世界を得た後は、ロボット増産に着手。手数が増えたところでベリアル銀河帝国が蓄積していた技術(言うまでもなく無断盗用)も使った別宇宙&並行世界探査システムを構築。俺の世界だと確証できる要素は俺が行くしかないので『トレギアが一度帰還したがまた行方不明になった世界』を有力候補としてロボット兵たちに選定させている。世界そのものをワード検索かけて特定ということは現時点不可能だが、見つけた世界を観測すること自体は難しくない。何より現時点で1つも該当候補が引っ掛かっていない為、この条件で引っ掛かればとても可能性が高い。

 

 あらゆる世界を観測していれば、やはり多くの悲劇があり、介入しなければ滅亡待ったなしな星、宇宙、世界があった。俺もいくつか介入したが、暴れる機会があればいいゴロサンダーが特にノリノリで介入した。ゴロサンダーが無双したり爆散したり封印されたり相撲したりする様子を見ていた俺は、これを大義名分として活動するにはより人手が必要と考え、先に掲げた正義を為す部下を求めて可能性世界の人材発掘を開始。

 

 はい、あのアブソリュートタルタロスと同じことをやりました。できるからしょうがない。

 

 幾人かの宇宙人や知性ある怪獣を絶命直前に救出、その後組織の理念と勧誘、最後にグリムドによる圧と、恩と正義と恐怖の三重で服従させる手段を取った。今ではやりすぎだと反省している。

 実力としては結局ウルトラ戦士にボコられる程度でしかない面々ばかりだが、その中でもこのメフィラス星人が別格だ。

 

 このメフィラス星人、かのエンペラ星人直属、暗黒四天王御本人である。

 

 粛清されかけたメフィラス星人を救い、本音と建前を上手に使い分けつつ説得。最終的に【ウルトラマンとウルトラマンメビウス、そして地球人に対していずれ再挑戦する機会が欲しい】という雇用条件を呑んだことで組織参謀として雇い入れた後、組織は一気に拡大した。何故かラッキョウ畑も拡大した。いつの間にか作られていたどういうことだ。

 

 元々()ですら単独活動で暗躍していたように、トレギアという人格はタロウのような輝きの下で動くか孤独に動く方が楽なタイプで組織のトップとしては根本部分で向いていない。グリムドという絶対的な力と権能で統率しつつ、象徴的立ち位置に収まるお飾りが適切だと自己判断していた。その為、俺は規模が充分拡大したところでメフィラス星人へ全面的に投げていたのである。

 それをどうやら『信頼されている』と勘違いしたのか、仕える相手はエンペラ星人のような皇帝が好ましいのか、或いはいずれ巨大化した組織を乗っ取る算段なのか。思惑はわからないが奴は俺を全力で担ぎ上げつつ組織の統率力を跳ね上げた。

 

 まず自分たちを選ばれた特別な存在であるという傲慢を捨てるように徹底させた。あらゆる世界を観測できる機能を利用して、【光の国】【ウルトラマンダイナ】【宇宙意志】【ウルトラマンノア】といったあらゆる宇宙の平和を守る存在を強調、その実力を1項目約30分×104回(ウルトラマン列伝)分見せつけることで宇宙人達や怪獣達の野心等を完膚なきまでにへし折った。

 

 次に自分達も細やかながら目指せる頂でもあると、組織理念の意識を強化。特にウルトラマンノアを引き合いに出して『信じる正義』『見守る正義』『導く正義(これは危うい正義としてだが)』といった並行世界観測組織として好ましい在り方を統一し、その上で我欲を肯定した。

 

『我々は闇に属していた存在であり、その上で光を是とする組織に属することになります。では闇を、過去の所業を手放すべきでしょうか? 答えは否です……!! 

 光も闇も許容するウルトラマントレギア、原初の混沌グリムドによって救われたのが我々です。光を目指し、しかし闇を否定することもしない。我欲に支配されず、しかし我欲に背を向けてはならない。この難しい道を歩むチャンスを得たのが我々なのです』

 

 己の雇用条件に矛盾を生まないようにわざと曖昧にしている悪辣な内容だったが、流石は暗黒四天王とも言うべきカリスマ性で、宇宙人達は大喝采。演説を成功させたメフィラス星人は満足気に息をついた後、喝采の中、静かに俺に跪いた。

 この時、雰囲気に呑まれて鷹揚に頷いたのが大失敗だったと思っている。この時、空気を台無しにしておけばまだ戻れた。

 

『組織内の法と規則ですが、観測に留まる範疇であれば基本許容する方向で行きましょう。『介入』は該当世界のUnknown Regions(未知領域)から資源調達していくこと等は消極介入、該当世界の危機的状況へ支援する事等を積極介入と呼称し、区分して法整備を進めていく予定です。私的介入は大きく制限をかけるべきかと』

『悪くない。私的介入は明確な定義を詰めていくが、ひとまず個人が別世界に降り立って現地名産物を味わう、文化を堪能するといった観光行為は観測の範疇に入れておこう。世界と個人それぞれに区分クラスを割り振る必要もあるか』

『ええ。また、組織立って動く積極介入ですが、観測した世界の滅亡を全て止めようとするには我々はそもそも全体的に力不足です』

『当然だな。俺を殺しかけた怪獣と似た怪獣がいる世界線にゴロサンダーがチャレンジしたがひび割れたリングになって帰ってきた始末だ。力の向上もだが、できることから経験を積んでいくのも大事だろう』

『あえて陳腐な表現を選べば覗き魔でお節介な組織になりますからね我々は。即応性に欠けますが、介入には会議を通す事を前提にすべきでしょう。いやはや、改めて光の国が有する戦力に驚かされますねぇ』

 

 速やかに組織の法や各種定義も制定され。

 

『先日加入したクール星人が歴史改変を目論んで並行世界に無断介入した問題だが』

『私の説得と掌握が徹底されていませんでした。申し訳ありません』

『お前の責任にするのは容易いが、そもそも処罰をどうしたものだろうか』

『ここは陛下の威光を借りるようですが、グリムド様による処罰を提案いたします』

『(陛下……?)わかった。見せしめとしてのわかりやすさも必要だろうな。グリムド、頼めるか?』

『(・ω・)ノ』

 

『ぎゃああああああああ……!!!』

『見よ、救いの手を掴んでおきながら我欲に支配された愚か者はこのように魂を摺りつぶされる!! 完全に消滅する瞬間まで死ぬことも意識を捨てることも許されぬ罰が与えられるのだ!!』

『(・ω・)?』

『……(ドン引き』

 

 懸念されていた違反者もたった一度で済むように公開処刑とグリムドの威光で解決され。

 観測と介入の経験がある程度蓄積されていった頃……。

 

『ようやくすべての準備が整いました』

『すべての準備?』

『先日、組織名を定めたでしょう? 改めて皆の前で宣言してもらおうと思いまして、どうぞ此方へ』

『そうか、確かにそういう形式は大切だな。行こう』

『ええ、きっとご満足いただけると思います』

 

『『『『我らオムニバーシアン!! 我らの忠義は偉大なる混沌に捧ぐ!! 我らが皇帝に栄光あれ!!!』』』』

『!!?』

『皇帝ウルトラマントレギア様は、これより混沌皇帝カオスデスポテースと名乗られる!! 喝采せよ!!!』

『『『『混沌皇帝万歳!!! グリムド様万歳!!!』』』』

『!!!!!???』

『(; ・`д・´)』

『草。あ、ゴロ』

 

 こうして、気づけば名もなき組織に属する彼等は『無数の枝葉を幹より見つめるもの』として【オムニバーシアン】と自称するようになり俺はそのオムニバーシアンを率いる【混沌皇帝カオスデスポテース】ということになっていた。命名は全てメフィラス星人である。ある日、何も知らないまま玉座に座らされてメフィラス星人主導で戴冠式が執り行われ、数多のロボット達や宇宙人、怪獣達が跪いた時の俺がどれほど混乱したか語るまでもない。

 ただ、極度の羞恥地獄に陥ったことで正気に返った(やり過ぎた事に気づいた)きっかけでもあるのでちょっと感謝してる。

 ジュダやらエンペラ星人やらベリアルやら、ああいう悪党どもはよくあんな二つ名平気で自称できるな。俺は無理だった。

 

 尤も、正気に返ったところで今更組織解体するのも不義理だし、やってる事は世界の観測と調停、大本命たる俺の宇宙特定なので諦めている。

 諦めてはいるが、ストレスは溜まるのでちょくちょく息抜きとして魔法空間に引き籠って料理したり、地球に逃げたりしているわけだ。

 ただ偉そうに振舞うだけでも、場違い感が強すぎて恥ずかしいのに、「混沌皇帝らしさがあるから」と()の懐かしい闇堕ち姿にグリムドの目を模したマークを付けた漆黒のマントを羽織らせて正装指定させたのだ。俺のストレスゲージ上昇率は荒ぶる一方である。

 

「やれやれ、皇帝の逃げ癖にも困ったものですな」

「担ぎ上げたのはお前だろうが。組織乗っ取りたいなら構わんぞ。悪用決めた時点で世界ごと崩壊させるが」

 

 オーバーに首を振るメフィラス星人を睨むが、オムニバーシアン参謀たる彼はただ笑って返すだけだった。

 

「滅相もない。ただ、仮にも暗黒四天王だった者を配下に加えているのですから、相応の地位でなくては私が惨めでしょう」

「やっぱりお前の私欲か!!」

「知略とは我欲を通す力そのものですよ」

 

 ドヤ顔するメフィラス星人。何一つ反省していない。

 俺がここで組織完全解体したり、最低限の義務すら果たさず逃げたり、逆ギレして殺すような真似をしないと確信しているのもあるのだろう。

 多分ゴロサンダーとのやり取りで、俺が遠慮のない会話を嫌っていない事を察しているのもわかる。こいつエンペラ星人勢力下でもそうやって出世したんだろうな。四天王の中で根回しとか調整とかできそうなのこいつとデスレムだけだったし。

 

「それで陛下、今日はいくつか報告があります。重要度の高いものとして、良い報告と悪い報告が1つずつ」

「どちらも気が重くなる。まず低いものから教えてくれ」

「ではそのように」

 

 俺の言葉に一礼し、彼が宙へ手を伸ばせば、玉座前に様々なデータが表示された。

 食糧自給率などのデータが隅に置かれ、ラッキョウ畑の収穫データや評判が大きく場所を取っている。

 メフィラス星人ってなんでみんなラッキョウにこんな拘るんだろう。

 

「今季もラッキョウ畑の収穫が大成功です。わざわざ異世界の幻獣から植物が育つ儀式を学んだ甲斐がありました。ドングリ以外にも効果があると証明されたのは良いことです」

「とっくに自給率200%いってるんだけどまだ増やすのか?」

「勿論です。ゆくゆくはいくつかの世界にて小規模販売を計画しています。資産はなるべく合法的(違法ではないとは言ってない)に入手するのが一番ですからね」

「元暗黒四天王の言葉とは思えない台詞だな」

「奇麗ごとで言っているわけではありませんよ? 悪辣な手腕だとウルトラ戦士の介入を引き起こしてこの世界に突撃される恐れがありますからね」

 

 なるほどもっともである。そもそも俺がウルトラマンの端くれなので、ウルトラ戦士に介入された時点で土下座と説明(言い訳)するしかないのだが。

 あと、資産云々と言ってるがそんなもの建前で単に自分の手掛けたラッキョウ食べてほしいだけだろ。目を逸らすな。

 

「次に、新たな宇宙の観測報告ですが、この宇宙への更なる探査は断念されたという報告です」

「理由は?」

「宇宙線にあらゆるものがあるのは語るまでもありませんが、この宇宙では未知かつ極めて危険な高エネルギー線が飛び交っており、影響予測が計り知れないというものですね」

「ディファレーター光線とはまた違う高エネルギー線か……星以外の生命が成り立っているのか?」

「我々のよく知る地球は当たり前のようにあるので、少なくとも人類はいると思われます。いやぁ世界は広いだけでなく多種多様ですねぇ」

 

 楽しそうに笑っているが、こいつが未知の宇宙線を調査しようと言わず、見なかったことにしようとしているので相当ヤバイ代物なのは想像がつく。

 そもそも地球は確認しているのに人類の有無まで確認していないということは、地球確認時点で探査限界を迎えたということである。無人探査機を使用してたはずだが何があったんだ。

 好奇心が疼くが、我慢しよう。

 

 その後も簡単な報告が続く。宇宙船量産計画の進捗状況、自分の星が滅んでいる世界を見つけてしまい鬱になった宇宙人や、並行世界の己を何人も観測して自我が混乱した宇宙人といったメンタルケアを要する問題に一定の解決がみられたことをあっさり流される。後者はどうでもいいと思っている節が伺えるので、やはり本質は悪質宇宙人だ。

 

「では良い報告と悪い報告、どちらにしますか?」

 

 気づけば重要度の高い報告とやらを残すのみとなった。

 一考し、良い報告から聞くことにする。悪い報告は対応を要するのだろうから、良い報告を気休めに使いたくない。

 

「お喜びください、宇宙人の怪獣リング化に成功致しました」

「おお!」

 

 それは確かに良い報告だ。爆散してもリングが無事である限りは完全に死ぬわけではない。不死性を高める意味でも宇宙人の怪獣リング化は、配下に加えた以上は実現させておきたかったことだ。

 アストラル粒子転化システムの応用でタイガたちも問題なくインナースペースで自我の維持ができているし、後は怪獣と同じ原理でできるはずなのだが、何故かうまく適合化できなかった。原因から究明が必要で、大分時間がかかってしまったな。この研究過程でわかったのが、光の粒子体となれるウルトラ族基準で考えていたのが原因の1つで、また既に怪獣カプセルを始めとした技術が成立している怪獣達と違って、より各種族に合わせた調整が肝要ということだった。ゴロサンダーが色々例外的だったということだろうか。

 

「早速、私含め全員をリング処置して陛下の下、改めて契約していただければと」

「わかった。それで、悪い報告というのは?」

「……」

 

 メフィラス星人が、珍しく頭を掻くそぶりを見せ、少し困ったように口元の発光を弱らせる。

 こいつが言い澱んでいる時点でもう凄まじく悪い報告だと確信してしまう。身構えていると、意を決したように発光を強め、無駄にいい低音ボイスで報告した。

 

 

「陛下がかつて訪れた、ウルトラマンタイガがいる宇宙なのですが……このままだと多分宇宙ごと消し飛びます」

「…………なんて?」

 

*1
(グリムドは世界線移動や探査などシステムとしての活躍であり、あくまで世界の探索はトレギア自身が行っている。ゴロサンダー達は世界線移動ノウハウがない以上言うまでもない)

*2
(そもそもイカルス星人やアブソリュートタルタロスなど異次元空間を拠点に侵攻計画へ捻じ込んでいる。忘れられがちだがヤプール人はそもそもが異次元世界在住、エンペラ星人に至っては専用宇宙船の内部が1つの世界と化していた)




次回、タイガ劇場版編開始。


・オレギアさん、数か月更新してない間になんか面倒臭いことになってる
グリムドの影響はがっつり防いでいてもタロウ分不足はどうにもならず、これまでもちょくちょく発狂(ヤンホモ疑惑)してましたが、一度ギャグでいいからしっかり発狂(ストレス発散)させておこう、と思ってダイスロールした結果だったりします。発狂ロールは『強迫観念』。焦った方向が怪獣リング増産よろしく組織設立に向かった形。別発狂では『帰巣願望狂化(元の世界へ帰る手段を選ばなくなる)』で万能の願望機系を追い求めて異世界侵略して返り討ち数万年封印→解放後ド反省、『好奇心狂化』で世界の真実を追い求めすぎて宇宙意志と同化しようとしてグリムドに怒られる→ド反省、になります。全部ギャグ扱いなので今回のように事が終わった時点スタートで書く予定でした。

・オムニバーシアン
雑に言えば、ウルトラマン列伝でゼロやダークネスファイブがやってた別世界調査とか、我々が一次創作二次創作堪能してるのを実際の世界相手にやってるような組織。死んだ人間を創作物の世界へ転生させる神様とかが居座ってるような世界が住居。元ネタはオムニバース。難しい解説するとただでさえ長いあとがきがさらに圧迫されるので『オムニバースは幹であり、マルチバースは枝、各ユニバースは葉である(Wikipediaより引用)』という概念だけ把握していただければ。オレギアみたいに枝葉を飛び回る存在はオムニバース視点を持つ、オムニバーシアンと呼べるでしょう。
崇高っぽくみえる理念を建前にした組織だが、オレギアさんやメフィラス星人が我欲塗れなので、観測行為に観光行動が入っているから割とガバである(結果クール星人が歴史改変しかけた)。もっとも世界によって法則が異なる為、面白そうだからとのりこんだら即死するなんてケースもあるので観光準備は大変だったりする(オレギアさん達つよつよ適応持ちは別)
組織運営資産は、各世界における知的生命体の観測範囲外で収穫していくチート運営。加速度的に発展しているが、侵略国家ベリアル銀河帝国やテラー・ザ・ベリアルよりは小さい。ベリアルの組織拡大速度が意味不明にチートなだけとも言う。

・暗黒四天王知将メフィラス星人(並行同位体)
ウルトラマンメビウスで滅茶苦茶悪質な戦略仕掛けたメフィラス星人。最終的に自ら用意したゲームの敗北を悟り、地球より撤退したところをエンペラ星人に粛清される。バリアが砕かれ爆死寸前のところをオレギアさんに助けられた。この世界線ではゴーストリバースでアーマードメフィラスが発生しないことになるが、多分アーマードテンペラーとか誕生すると思われる。不要になった駒として粛清されたが、粛清そのものは納得しており、皇帝の期待に応えられなかった自分が悪いと考えている。
それはそれで借りができたのも事実だし、特に思考誘導もされていないのでエンペラ星人復活の野望などは持っていない。エンペラ星人の最期を知った時は「私がウルトラマンと地球人達の絆に負けたことは恥ずかしくない事だった」と安堵した。なので一応オレギアさんには恩を感じており、本人なりに真面目に仕えてるつもりだったりする。
オレギアさんのカリスマ性が皆無なので組織運用にあたり、相応のカリスマ性を有するキャラクターが必要だったのと、オレギアみたいな並行同位体出すならこのメフィラス星人でしょと思ってこういう解釈で出しました。タルタロスと被らない事を祈る。

・らっきょう
メフィラス星で大人気な野菜。ネギやニンニクの仲間と書けばわかりやすいが、栄養価が高く、薬としての側面も持つ。ビタミン、ミネラル、食物繊維と豊富な栄養があり、それぞれの効能が老化防止高血圧改善血中コレステロール軽減とメイン料理の補佐として充分な役割を持つ。殺菌作用や消化器官活発化作用もあるから食中毒対策にもなるのが素晴らしい。食前に食べる方がいいとかいや食後がいいとかありますが、正直どっちでもいいと思います。ただし食べすぎるとお腹を壊します。
甘酢漬けが有名すぎるが、だいたい5月から6〜7月にかけての旬であれば、新鮮ならっきょうを生か浅漬けで味わうのが栄養摂取の観点からもオススメ。勿論、天ぷらも悪くない。

・やばい宇宙線
ご想像にお任せします。ネクタル放射線とかも該当しますし。

・宇宙消滅フラグ
「宇宙1つ消し飛ばす爆弾」とかが出てきたせいで割とでやすくなってしまった危機。最近だとエタニティコアが暴走したら地球どころか宇宙が消し飛ぶ事が判明している。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

タイガ劇場版編
初手結界による封印は強い(真実)


なおたいてい代償でかい模様。
更新はスローペースですがよろしくお願いします。


 パラレルアースにて、ウーラーが感謝の輝きを散らしながら眠りについた後のこと。

 ()は、見通しの良いビルの屋上で、気配を消して立っていた。その表情は苦虫を噛み潰したより酷いしかめっ面だ。

 

 

 若さの見える赤い巨人と穏やかな目になった蒼い巨人が何やら話をしている。

 テレパシーを利用した会話であり、此方から聞き取ることはできないが、明るい雰囲気だ。

 やがて蒼い巨人は笑顔を見せて手を振ると、開いた次元の扉の向こうへと消えていった。

 

「(・ω・)ノシ」

 

 混沌のゲートが消え、赤い巨人も姿を消す。

 大空には、反吐が出るほど鮮やかな、出来損ないの感謝の気持ちが煌めいている。

 

 

 

 ────なんだこれ。

 

 

 

 彼の心に去来したのは、百のため息でも消費しきれない程の落胆であった。

 

 地球のエーテルまで刺激して何を呼び寄せたのかと期待したらただの生命の成り損ない。挙句その怪獣の心を救うだなんだと醜い茶番を延々見せられて、勝手に満足してこの宇宙から消えてしまったのだから。

 

 あの蒼い巨人には昔から期待していた。捻くれて捩じ切れて千切れた心であの遙かなる魔皇を宿して実に楽しいことをしてくれていたからだ。

 絆を嘲笑い、力あるものを惑わし、愚か者を破滅へ誘う。()()()()()()()()()()()()()()()()()、久々に現れた同業者と言ってもいい存在に歓喜していたのだ。しかも根本の動機が自己蔑視から来る自己投影の八つ当たりとまで歪んでいるのだから観察対象としても最良だった。光も闇も無いと駄々を捏ねていた様は道化としても最良で、見ていて飽きない逸材だった。

 だからこのつまらない星で今度はどんな演目を奏でてくれるのだろうと胸をときめかせていた。どんな絶望を人々に与え、どんな破滅を見せてくれるのだろうと口角がつる勢いで楽しみだった。

 

 だというのに本当に裏切られた気分だった。破滅へ突き進んで、内に潜む遙かなる魔皇を解き放てば絶対面白かったのに。

 

 彼は心の底からこの結末を惜しみ、怒り、嘆いたが、いつまでたっても腹の虫は収まらなかった。

 

 ここまでつまらない話になるとは思わなかった。苦情は羊皮紙を3m分使っても足りないほどだ。

 

 

 

 ────()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 そんな考えが彼の頭へするりと入り込む。彼の憤怒に歪んでいた顔に笑みが生じた。

 

 そうだ、そうだよ、そうなんだよ。じゃあ■■■がやればいいんだ。

 消えたあいつに手本を見せてやろう。だいたい虚無だなんだと否定と拒絶の話は飽き飽きだ。やはりシンプルなのが1番良い。

 

 闇を。

 

 希望すら落差のスパイスに変える絶望を。

 

 地球を美味しく彩るのはブラックソースが最高なのだと知らしめてやろう。

 

 いいぞ、気分が上向いてきた。

 

 さてさて、舞台にあがらなくてはつまらない。■■■には名前を、貌を用意しよう。

 どんな貌がいいだろうか。どんな貌が使えただろうか。

 シュグオラン? ダメだな使い飽きた。

 ナイ神父? 目立ちすぎるしキャラ変が面倒だ。

 ◾️◾️◾️◾️? 悪くはないが、地球人では発音できない。名乗りがいもない。

 内原戸哲夫(ないはらとてっぷ)。そうだ、これがいい。ここは日本なのだから。

 

 彼はこの瞬間に定まった。

 人の好さそうな表情とも、慇懃無礼とも取れるような不思議な笑顔を浮かべた浅黒い男として。

 

 

 

 ────さぁ、まずは使えるものをすべて使って招来せねばならない。シンプルに。明快に。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 トレギアが去って数ヶ月後。

 

 タイガ達のいる地球、パラレルアースより若干離れた宙域。

 

 かつて並行世界より肉体を取り寄せた結果変質したトレギアが怒りのままに力を奮い、無の空間と成り果てた場所だ。

 物質は何一つないはずのそこにも残されたものはある。

 

 散々放出された邪神の力だ。

 

 ただ在るだけだったその力は、本来であれば長い時を重ねて霧散するはずだった。だが、『儀式』によって力には方向性が与えられ、やがてある存在を顕現させる。

 

 生じたる存在は静かに地球へと肉体を向け、動き出した。

 

 ウルトラマンギンガを始めとするニュージェネレーションヒーローズが異変に気がつき、世界の壁を突き破ってまで駆けつけた際には、既に『天災』が吹き荒れながら地球へ急接近する最中であった。

 

 ある存在を起点に生じた次元の歪みをそのまま渦へ転じた大規模な異次元嵐。暴風のように感じる圧力は宇宙の悲鳴だ。これを放置すれば地球など塵と化すのは言うまでもなく、宇宙には間違いなく『穴』が空く。なんとしても止めるべき大災害だ。ギンガ達はどうにかしてこの脅威を鎮圧せねばと悪戦苦闘していた。

 

「これはまずいぞ! 放置すれば新たなグリーザが誕生するだけでは済まない! ここを起点にビッグリップが発生しうるぞ!!」

 

 ウルトラマンX(エックス)が警鐘を鳴らす。

 次元が断裂していき原子すら崩壊、全ての素粒子が永劫結び付かなくなると言われる終わりの1つ。宇宙という存在そのものを構築する概念の崩壊『ビッグリップ』。既にグリーザで済めばマシという事象に全員が危機感を強めた。

 

「こんなもの、要因があるに決まってる!! 今ならそれを潰せばいけるんじゃないか!?」

「カツ兄、正解。中心部に何かいるよ!!」

「なに!?」

 

 ウルトラマンロッソ、ブルの指摘通り、勢いを増していく異次元嵐の中心部とも言うべき箇所には、これらの惨状を意に介さぬ何かが鎮座していた。

 

 中心部程時空が歪み、その正しい姿はウルトラ戦士の眼力でもっても見通せない。

 概念すら歪めうる異次元嵐は測定すら許されない。だがこれの元凶であることは、予想も容易かった。

 

「じゃあ、あの嵐を突っ切って、倒せば!!」

「ああ、俺達の最大パワーでもって中心部を崩壊させれば……」

「!! 待ってくれギンガさん、ビクトリーさん! あれは、あいつは……!!」

「!? ちょっと待ってくれ!! あいつは消滅したはずでは!!?」

 

 ウルトラマンギンガ、ビクトリーの動きをウルトラマンオーブが、エックスが制止する。

 ただならぬ様子に、最強形態へ変じようとしてた他のニュージェネレーションヒーローズ達は動きを止めざるを得なかった。

 

「どうしたんですか……?」

「皆、最大火力を封印技として撃ち込むんだ!!」

「ああ、奴をこの規模の異次元嵐ごと解決するには、ウルトラマンとしての力を失う覚悟で封じて初めて勝ちの目が生じる!!」

「「「「「!!?」」」」」

 

 初手で捨て身の封印技の使用を要請する2人に全員が驚愕する。

 オーブは数千年以上ウルトラマンとして活躍するベテランであり、エックスも謎こそ多いがその活躍と与えられている使命からエリートであると窺い知れる。そんな2人がここまで動揺しながらも方針を同時に定めたのだから、恐らくそれが最善なのだろう。だが、この面子が揃っていながらそうするしかないとは、相手は一体何なのかという疑問がある。

 

「お前らの判断を疑いやしないが、知ってるなら説明だけでもしてくれ!! あれはなんなんだ!?」

 

 元凶と思わしき存在に指を突きつけながら問いただすビクトリーに対し、2人は声をそろえて正体を告げる。

 

 

「「超空大凶獣デザストロ……!!」」

 

 

 超空大凶獣デザストロ。

 元々エックスが地球人・大空大地(おおぞらだいち)と分離した後、新たな任務として討滅するべく追跡していた宇宙怪獣だ。

 しかしケンタウロス星で惜しくも取り逃がした際、転移して地球へ向かっていった為、急遽地球へ出戻りして大地と再会、Xio*1メンバーと共に迎え撃った。その際、別の時空穴に大地とエックスが巻き込まれた為、思わぬ足止めと激闘を行うことになったのだがそれは割愛。

 結果として、オーブやゼロも加勢した(デザストロの狙いがオーブの宇宙だった)ので、最終的には討滅している。

 

「デザストロって、オーブ、エックス、Xio、そしてゼロが倒したというあの?」

「ああ、グリーザにも劣らぬ最大の強敵だった! あの時は異次元嵐を止めることができ、一個の怪獣としてようやく討滅せしめたほどだ」

「今回は同じ手段は取れないと?」

「Xioのサポートあって初めて取れた手段というのもあったが、例え万全でもあの時とは桁が違う規模で同じ手段は無理だ! 元凶であるデザストロを異次元嵐ごと結界に封じて奴自身の力で奴に痛手を与える!!」

 

 エックスの言葉に、初手封印技の判断が呑み込めなかったメンバーもようやく理解に至った。異次元嵐と切り離すように封印するのではなく、異次元嵐ごとの封印措置。なるほど変身能力を失う覚悟がいるわけだ。

 結界に封じられたデザストロはこの宇宙崩壊の危険すらある規模の異次元嵐を反射され続けることになる。唯一無風であろう真の中心にいた時とは違い、間違いなくダメージを負う。デザストロはそのまま体を崩壊させれば解決するし、先に異次元嵐を収束させ、発生を止めてから結界破りに動いても出てきた時には確実に弱っている。

 

「よしわかった、幸い地球にはタイガ達がいる。奴に以前預けた力を返してもらえば、変身能力も回復できる」

「アフターケアも万全なら、憂いはないな! やろう!!」

「ああ、だが覚えておいてくれ。デザストロは確かにとんでもない存在だが、宇宙崩壊を可能にする程の規模の異次元嵐は出せないはずだ」

「つまり、ただ蘇っただけじゃない。何かあると?」

「そうだ。コレの背後関係を洗うのは封印してからだが!! みんな、やるぞ!!」

「ああ!!」

 

 

 

 

 その日、宇宙を滅ぼしうる異次元嵐は7つの光と引き換えに姿を消した。

 倒すための封印であり、いずれ復活することは決まった未来だが、だからこそその時に備えて戦士達は動くことになる。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 地球からでも観測できるほど歪んだ宙が正常化した様子を見上げ、事の顛末を悟った浅黒い男、内原戸は不愉快そうに舌打ちする。

 

「おいおい、苦労して招来したのにそれはないだろ? 全く、根回しの苦労をわかっちゃいない」

 

 大方、異次元嵐の規模が大きすぎて対処できる者たちが集まり過ぎたのだろうと、ため息をこぼす。

 

「全く理解の足りない連中はこれだから困る。確かに規模は大きいものだったが、集まりすぎたエネルギーをちょっと放出させているだけだったというのに。地球につく前には止める手筈だったものを」

 

 彼が用意した怪獣復活の呪文、怪獣招来の呪文、そしてそれらを成立する為に必要な代償。数ヶ月もかけたというのにすべてが無駄に終わってしまった。何故か大量に残留していた原初の混沌たるエネルギーと、かつて苦労して手に入れた『タブレット』を触媒に、儀式を成立。あとは消えたところで困らないであろう不法滞在宇宙人達の血肉で適切な代役への準備を完了できたのに、これでは先延ばしになってしまう。

 

「だがまぁ、封印されている方が浸食しやすくていいかもしれない。物事は前向きにとらえるべきだ。すべてが絶望に至るまでの序曲と思えば寄り道しがいもあるだろう」

 

 祭りの準備を急ぐ必要が無くなったと考えなおした彼は、更なる贄の選定と回収を楽しむこととする。

 途中でバレて封殺されてはかなわないから慎重に。なにせ、あのデザストロを封印できるような連中が近くにいるのだから。

 

「Ia! Ia! ■■■■■■・■■■■■■~♪」

 

 鼻歌を刻むように、冒涜的な何かを呟きながら、内原戸は闇に紛れて消えていった。

 

 

 

 

 

*1
(Xeno invasion outcutters。ウルトラマンエックスの宇宙にある地球の防衛組織の1つ。地球防衛組織UNVER内の特殊実働部隊という立ち位置になる。物語の舞台はもちろん日本なので登場するのも日本支部がメイン。ファントン星人グルマン博士を科学者として堂々と正規雇用している為、オーバーテクノロジーをふんだんに使用したり、スパークドールズ化した怪獣の研究から、超兵器サイバー怪獣の使役に成功している。主人公の大地はXioのラボチーム所属。だが実働部隊にも組み込まれているので現場にもよく出てくる。本人過労死しないだろうか)




・内原戸哲夫
ウルトラマンティガのアナザーストーリーという位置付けである短編小説『深淵を歩くもの』に登場した浅黒い男。
こいつのせいである海洋生物学者が犠牲になった。
名前と言い行動と言いどうみてもニャル様です本当にry だが、忘れてはならないのが彼は闇の支配者の眷属とは書かれていないのである。
原作でも本作でも、彼が本物のニャル様かどうかは『どっちでもいい』。だからこそ、ガタノゾーアが大暴れして地球滅亡する瞬間をただウキウキと眺めてたいだけの異常者という可能性も残している。
ぶっちゃけ「はいはいニャル様ニャル様」となるキャラの正体が別人の方が最近は盛り上がる傾向のようなry


・ニャルラトホテプ
そのあまりにも利便性の高い設定と自己矛盾の塊を許容する神性故に、クトゥルフ神話も飛び出してあちこちで無駄に顔を出すせいで最近では創作界隈で知らない方が珍しいやつ。
ちなみに化身が化身を倒したり、脳筋化身や天才化身など性能も『貌』によって幅広いので【どんな描かれ方や結末でもありえる姿】という創作において圧倒的な使い勝手の良さを誇り、一時期クトゥルフ神話TRPGではこいつ黒幕にしとけばいい卓が頻発した。
ただし、本作における『彼』が化身の1人かについては、上記に記しているように現時点不明。こいつだと思うならそれでいいんじゃない?程度の曖昧さが一番だと思います。「最初はそうかと思ったが、やっぱちげーわ」と思い直せるぐらいに考えてください。どっかの文明自滅ゲームやってる退屈持てあました宇宙人みたいな迷惑野郎が正体でも話成り立ちますからね。

・超空大凶獣デザストロ
劇場版のオチにでてくる正体不明ながら、ゼロが単独討伐を選ばなかった程度にはヤバい怪獣。
ウルトラマンオーブエピソード8に該当する部分でオーブ、ゼロ、Xio、Xと共に戦った。なお、オーブエピソード9は『ウルトラファイトオーブ』である。つまり出番ないままいつの間にか倒されている不憫な謎の強豪怪獣。
わかっていることは『次元転移する怪獣であること』『なんか地球狙ってること』『驚くべき正体があること』である。
本作ではオレギアさんが1話でばら撒いたグリムドエネルギーを触媒に蘇り、君臨した存在。ベリアル陛下ですら細胞だの因子だので宇宙に置き土産してるのに、グリムドの力を怒りのままに放出した後なんて厄ネタあるに決まってる。

・変身能力失う7人
タイガ劇場版でもこうなってる。グリムドを封印する為に全力出して変身能力を失った。封印破られるまでの半年間何してたんだろうか。
真面目にウルトラ戦士達は一部除いて封印スキルが大雑把すぎる疑惑がある。自分の変身能力失って封印措置取る連中多すぎる。多分光パワーでごり押しして、封印という概念に変身能力要素を錠として機能させていると思われる。最近は自分の力込めたカードパワーとかでマガオロチなどちゃんと封印させてるのだから封印措置にはもっとその辺技術研究した方が良い。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

E.G.I.S.調査開始!

原作劇場版ではウーラーとの戦いから半年後が時系列ですが、本作では1年が経過しています。
なあに半年も1年も誤差ですよ、トリガーだってナチュラルに2年経ってますし。


 この地球に宇宙人が密かに暮らしている事は、最近知られている──。

 

 

 

 ウーラーが眠り、トレギアが去って1年が経とうとしていた。

 E.G.I.S.は宇宙人との共生という未来を示す政府公認の企業モデルケースとして、マグマ星人とマーキンド星人を正規雇用し(既に宇宙人1名、アンドロイド1名雇用しているが)、警備組織として日々多種多様な依頼をこなしていた。要人警護、貴重品警護、遺失物捜索、宇宙人トラブルとの表向き対処係、事件調査、広告看板、ハッカー対策、YouTuber案件……警備組織とは? 

 外事X課にいいように使われているようにも思える纏まりのなさだが、実際モデルケースとして適用された企業である都合、認知度向上の為に色々顔を出す必要性はあったりする。

 

 今日もまた、E.G.I.S.に1つの依頼が舞い込んだ──外事X課から。もはや恒例行事であった。

 佐倉警部の表情から既に厄ネタであることを悟ったE.G.I.S.女社長佐々木カナは、全員を集めて話を聞く姿勢を整える。聞くだけは聞いておこうという態度も隠していないが、結局受諾するしかないこともなんとなく理解していたからだ。

 

 かくして彼の口から語られた内容はまた奇妙なものだった。

 

「宇宙人の行方不明者が多発?」

「ああ、あれから少しずつ表舞台に顔を出せる宇宙人も増えてきているし、正式な手続きを以て入国した扱いを受ける宇宙人も多くなった。彼らは我々が常に追跡可能な状態になっていて、それで発覚した。1人でも問題だがほぼ同時期に3人いなくなっている。もしやと調査したところ不法入国している宇宙人が次々消息不明になっていることが判明した。把握しているだけでも38名。実際はもっと多いだろう」

 

 正規入国宇宙人の失踪者はケンタウルス星人、グローザ星系人、ターラ星人の3名。少なくとも事前調査では3人に共通点らしいものはなく、面識もない事がわかっていると言う。佐倉は他にも行方不明になったと思わしきポイントなどを資料と共に次々と開示し、ほぼ承諾前提のように話を進めていた。これには佐々木も呆れるばかりだ。

 

 話が進む中、ヒロユキは佐倉の語る正規入国宇宙人の扱いに対し、不満げに呟く。

 

「追跡、ですか……」

 

 思ったよりも声が響き、失言を悟る。だが佐倉は柔らかな表情でヒロユキに語りかけた。

 

「今はまだしょうがないことだ。なに、『追跡なんて金と人員の無駄だ』と判断される平和と信頼関係を目指していけばいいんだよ。それに今回のように、実際行方不明に気付けているから今は無駄ではない」

「……はい! となれば、行方不明になった宇宙人達を急いで見つけないと!!」

「ヒロユキ、ステイ」

「ハイ」

 

 不満を露わにしていたくせに1発で絆されて動くんじゃない。佐々木の圧に若き青年はあっさり席に座り直した。

 相変わらずの様子に、面倒ごとを持ち込んだ側である佐倉も苦笑する。

 

「話を戻そう。君達にはこの事件の原因究明を含めた協力を依頼したい」

「もし陰謀なら規模が大きすぎる気もしますが。それに今は表向き裏向きという話もないでしょう?」

「これからが人類と宇宙人にとって大事な時期である以上、お互いにいらぬ風聞やレッテルは産みたくないし、早期解決が望ましい。厳しい手続きをクリアした正式入国者が自発的に行方不明になったとは考えたくないのもあって、ヴィランギルドの仕業かとも思ったんだが……」

「違うんですか?」

「潜入工作員からの報告では彼方も騒ぎになってるようでな……元々一枚岩という組織ではないにしろ、仲間割れとも考えにくい。捜査形式の幅を広げる意味でも君たちの手を借りたいのが本音なんだ」

「……」

 

 最初はシロでも、ヴィランギルドから何かしらの交渉を受けた結果、身を隠すことになったという線は捨てきれない。あるいは攫われた可能性も視野に入る。だが、ヴィランギルド自体も唐突に消息を絶った構成員が多発し構成員不足が著しいという報告があがっており、なんらかの悪意ある第三者による集団誘拐事件の線も浮上していた。となると、多くの難事件を解決してきたE.G.I.S.にも頼りたいとなるのが外事X課の判断である。

 関わらせておけば、怪獣出現時にタイガ達が出動しやすいだろうという打算も含んでおり、佐々木カナはそれを悟ってため息をついた。

 

 懇願するような視線と、期待に応えたい視線が自分に集中している中、一応は深く検討した体裁を取る為、渋い顔のまま佐々木は唸り……首を縦に振った。

 

「……わかった、引き受ける。全力で調査するから、報酬はしっかりね」

「ありがとう!」

 

 依頼受諾となれば、迅速に動いた方が良い。

 幸いにして調査の方向も、人員も十分だ。まるで最初から決めていたかのように、佐々木は手早く指示を飛ばす。

 

「ホマレ、マグマは2人で宇宙人の伝手で調査を」

「はい」

「おう!」

「ピリカとマーキンドちゃんはネットなどから情報収集を。ダークウェブアクセスも許可するから」

「オッケー!」

「承知しました」

「ヒロユキは、ここんとこ無理してるし今は休んでと……言っても聞かないよね」

 

 ただでさえ最近「僕は地球人と宇宙人の懸け橋になるべき存在ですから!」と使命感に燃えすぎているヒロユキ。社長の立場としてもやんわり諫めているが、聞いてくれない。一警備員として業務に専念しながら、タイガに変身して戦うという事がハードワークなのは言うまでもなく、無茶をするのが目に見えていた。

 

「はい!」

「はぁ……」

 

 案の定、元気よく笑顔で返事する青年に、二度目のため息が零れるのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 タッグを組むことになったホマレとマグマ星人は、E,G.I.S.専用車にて軽く街中を走らせていた。

 最初から目的地は決まっている。外事X課の調査範囲外を狙っていくならば、彼等が頼っていないであろう情報屋に頼ればいいからだ。

 

「俺が知ってる情報屋はファントン星人だが、マグマはどうだ?」

「あいつか、対価の割に精度が高いからいいと思うぜ。俺が頼りにしてた奴にスラン星人がいたんだが、あいつおっ死んだらしくてなぁ」

「ヴィランギルドの面子も捕まったり倒されたりで大分減ったよな……ゾリンが捕まるとは正直思ってなかった」

「海外は知らねぇが日本じゃ半壊も良いところだ。鞍替えして正解だったかもしれねぇ。地球人と法の膝元で共存共栄できるってんなら、無理に非合法の立場に拘らなくてもいいからな」

 

 話している内容はカタギの人間に聞かせられないような類ばかりだが、それでも心なしか互いの表情は柔らかい。

 対ウーラー作戦においての共闘から、ホマレとマグマは宇宙人同士で友情が育まれていた。

 

 道中、情報屋への対価も兼ねてたい焼きなどを買ったりしつつ、2人はファントン星人が縄張りにしている高架下トンネルに到着する。

 メインが情報屋とはいえ、こんな人気がない場所で開く露店に果たして意味はあるのかと疑問に思ったりもするが、本人なりの趣味だろうとホマレは考えている。

 

「あれ、ファントン星人の奴、店を開いたままいねぇなんて珍しいな」

 

 トンネルを覗くと、いつもなら人間に擬態したファントン星人がわざとらしい商売言葉を使ってきたりするものだが、店が置かれているだけで彼はどこにもいなかった。

 訝しむマグマ星人だが、ホマレは警戒をはねあげる。珍しい、という言い回しで済ませていいものではない。彼ならば通常絶対に取らない選択肢だからだ。

 あるとすれば、何振り構わず逃げなければならない時だけだ。その時逃走する方向は……。

 

「おい!」

「ついてこいマグマ! ファントンが危ないかもしれない!!」

「はぁ!?」

 

 自分たちが来た側とは別の出口に向かってホマレが走り出し、マグマ星人が慌てて後を追う。

 出口からすぐに草木ある横道へ飛び込めば、獣道に偽装された道が両足を迎え入れる。ファントン星人が逃げるとすればここしかない。

 そのまま全力で突き進むと、開けた空き地に到着し……異形がホマレの目に飛び込んできた。

 

「!?」

 

 それは闇の塊といった表現が真っ先に浮かんだ。

 自分の身長と同じぐらいの高さまであるそれは黒と紫が渦巻くように不定形を象っている。スライムのような、泥のような、そんなものが自力で頂点を伸ばし、ずりずりと動くのは悪い冗談であるかのようだ。塊からは、まるで羽虫の群れのように闇のような粒子がざわざわとまとわりついており、怖気が走る。

 不定形ながらも頭部と思わしき部分にはぼんやりと空虚な穴が2つあり、それが図々しくも目であると主張してきている。

 

 宇宙人ではない。怪獣でもない。もっと冒涜的な何かだった。

 

「……ッ!!」

 

 より見つめていれば、強制的に『理解』させられ精神が削れていたかもしれない。だが、ホマレは優先順位を間違えず、目的も間違えなかった。

 塊は、ぱたぱたとテープのような不気味な触手を伸ばしファントン星人を捕えていたのだから。

 

「た、助けてくれ!!」

「そのファントン星人は解放させてもらう!!」

「うわ、なんだあれ!!?」

 

 ホマレが吶喊をしかけ、遅れて到着したマグマ星人が思わず口を押さえて吐気を抑える。

 電磁警棒を取り出し、闇の塊に叩きつける。塊は仰け反るように後退したが、ホマレは内心安堵すらしていた。

 

 少なくとも、物理攻撃が通る存在らしい。

 

「マグマサーベル!!」

 

 塊がホマレに意識? を向けた隙を突き、マグマ星人が自慢のマグマサーベルで触手を切断し、ファントン星人を救出する。

 ホマレが攻撃を仕掛け、通用したのを確認してから動くあたりしっかりしていた。

 ファントン星人は疲労困憊と言った様子だが、傷などはない。彼の解放に併せて、ホマレは塊と距離を取る。それは正しい判断だった。

 ファントン星人の代わりを求めるかのように、十数本もの触手が塊より飛び出し、一斉にホマレへ襲い掛かったからだ。

 

「チッ!!」

 

 電磁警棒と自慢の身体能力で捌いていくが、向こうは絶え間なく触手を突き出してくる。

 殺意よりも捕縛を優先しているようで、だからこそ足首や肩といった狙われると鬱陶しい部分へ集中的に触手を絡めようとしてくるから厄介だ。ファントン星人がなすすべなく捕まっていた様子から、一度触手が絡めば、一瞬で無力化されると推察し、ホマレはとにかく回避と受け流しに意識を集中する。

 1人だったならば多少の無茶を覚悟であえての突撃も検討したかもしれない。だが今は随分と頼りになる新入社員がいた。

 

「いっちょあがりだ!!」

 

 触手をまき散らしていた塊が4分割され、崩れ落ちる。

 下手人たるマグマ星人はマグマサーベルの輝かしい切味を見せつけ満足気だ。

 地面に転がった断片たちは、そのまま霧散するように消えていく。痕跡1つ残らず消えた塊に2人は眉根をひそめる。なんとも不気味な存在だった。

 

「すまん、助かった」

「何、役割が変わらなかっただけだ。ファントン星人を解放した俺に来ると思ったらお前に行くんだもんな……同時攻撃するタイプじゃなかったからうまくいったが」

 

 少なくとも目当てが宇宙人捕獲なのは間違いないが、触手を切断したマグマ星人ではなく、ホマレに集中攻撃を仕掛けたのが解せない。それも、マグマとファントンを無視して隙だらけという不合理さだ。

 不気味な上に不可解という気味の悪さが、不快感となってへばりついてくる。

 だが、それを僅かでも剥がしてくれる存在がここにいた。

 

「あまり応用力のない使い魔だったのだろう。恐らく優先順位が設定されているのみで活動していたんだ」

 

 地面にどっかりと座り込んだファントン星人が大きなため息と共に求めていた答えを吐き出した。

 

「あれはなんなんだ、知ってるのか」

「ああ、助けてくれた礼だ。ただで情報を提供しよう」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─E.G.I.S.本社─

 

 社長指示により、ネット上からの情報収集に専念していたピリカとマーキンド星人。

 片や優秀なアンドロイドにして副社長、片やヴィランギルド主催のオークション経営に携わっていた経歴ある会計。共に情報収集にかけては相応の実力を有している。

 しかし、宇宙人失踪事件に関しては手に入るのは外事X課より提供された資料以上のものは中々見つからずにいた。

 

「あー、ダメだ。組織犯罪なら絶対足が付く場所からも見つかんないし、失踪宇宙人の足取りも有益なものはなし。ダメもとで探った大型掲示板からじゃせいぜい突拍子もない陰謀論ぐらいだね」

 

 求めた成果が未だに得られず、ピリカは肩を回し、目元を揉んで溜まった疲労を解す。アンドロイドなのに。

 一方、マーキンド星人は訝し気な雰囲気を纏わせ、画面を前に唸っていた。

 

「ふーむ……」

「マーキンドちゃんも手がかりなし?」

「手がかり、と言いますか……ヴィランギルド時代の専用アカウントと機材を用いて宇宙人によるダークウェブサイトを閲覧していたのですが、おかしいんですよ」

「おかしい?」

 

 マーキンド星人の言葉に、ピリカも彼女の見ている画面をのぞき込む。

 宇宙共通語が用いられているサイトは怪獣取引、宇宙船売買といったものから地球侵略計画の賛同者を募るような眉唾な企画ページも入った類だ。これには思わず「うわぁ」と声が漏れる。

 

「このサイトを管理しているのはレイビーク星人なので、こいつの仕業じゃないかと思っていたんです。あれの母星はヒューマノイドの奴隷を酷使して発展してきた歴史がありましてね。案の定数を減らし過ぎて立ち行かなくなってからは、各惑星から奴隷確保しようと拉致侵略を行っているんですよ」

「うわ最低、滅べばいいのに」

「ピリカさん辛辣ですね。それが彼らの歴史と文化、考え方ですよ。許容できるかは別ですけど。ところが、交流ページをみてください」

 

 マーキンド星人が交流掲示板と書かれたページリンクをクリックする。

 そこには、マーキンド星人と同じように疑っていたのだろう、管理人を糾弾する宇宙人の暴言がいくつも並んでおり、当の管理人が必死に弁明しているコメントもあった。管理人の言葉には、寧ろ身内も行方不明だという実情が暴露されており、この件に関しての情報収集すら呼びかけているほどだ。

 

「マーキンドちゃん、犯人でも白を切るのは普通じゃないの?」

「私もそう思ったんですけどねぇ、ただ失踪宇宙人にヴィランギルド構成員も含まれている大規模な数である以上は流石に悠長すぎるんですよ。本当にクロなら報復を恐れてさっさとサイトを畳んで地球から脱出するべきタイミングです」

「え、ヴィランギルドもなの!?」

「騒ぎになっていた理由はそれのようですね。しかし彼は地球に拘り続け、あげく失踪したという身内の情報データまで開示して、情報提供を呼び掛けているわけです。彼なりに犯人追及をしているわけですから、シロっぽいです」

「つまり、ヴィランギルドや悪徳宇宙人達でも犯人がわかっていない?」

「そういうことになります」

 

 結局わからない、という結論になったわけだが、これはこれで嫌な調査結果だった。

 既存組織のいずれも犯人ではないということは、完全に暗躍している存在がいるということなのだから。

 情報収集の方向性を変える必要がでてくると頭を痛めていると、マーキンド星人が声をあげる。

 

「おや?」

「どしたの?」

「いえ、今書き込みが1つ増えてまして……」

 

 意味深な反応に、再び画面をのぞき込む。

 そこには宇宙共通語でこう書かれていた。

 

『我々を狙っているナニカは魔術制御された【意志ある闇】だ。捕まるな、贄にされる。 Handle:X』

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ここ半年、宇宙人の蒸発事件が多発していたんだが、その犯人があの使い魔達だ」

「使い魔?」

 

 ファントン星人の言葉に、首を傾げるホマレ。

 黒幕の手先というのはわかるが、使い魔という表現はあまりしっくりこなかった。

 だがマグマ星人の方は納得したように頷いている。

 

「魔術……と言っても納得は難しいだろうから、一種族の固有能力とか未知の科学とでも置き換えてくれ。説明すると長くなりすぎるからな。黒幕が生成あるいは召喚して使役している怪物、という表現になるか。……わかるかね?」

「いや、分かると言われても魔術なぁ……」

「その手の類はこの地球だと珍しくもねぇぞ。ババルウの奴が九頭流村にいた赤目様……ナイトファングだっけか? を復活させたのも、お前らが護衛してた霊能力者の力利用してただろ*1。人柱の霊体達とも交渉してたがあれも魔術を併用してたはずだ」

「え、マジで?」

 

 マグマ星人の言葉に、ホマレは思わず素で訊き返してしまう。

 悪霊や本物の霊能力者がいたことは当時の事件で把握理解していても、あの時に魔術が使用されていたとは思っていなかったからだ。元ギャングなのであまり人のことは言えないが、思ったよりがっつりヴィランギルドの案件を把握している事にも驚いている。

 

「だが、俺程度でも倒せているのに、なんだってそんなに被害が出る?」

「私もそこが謎だったが、さっき捕まってわかったよ。あの触手に掴まると、全身が弛緩したように脱力してしまい、能力などの行使が一切できなくなる。おまけにあの闇そのものとも言うべき姿……影奥や闇夜の不意打ちであればまず防げないだろう」

 

 触手から解放されてもしばらく口すら利けてなかったのはそういう理由だと語る。助けを求める声を出せたのは本当にあれで最後の一絞りに等しい抵抗だったようだ。

 

「宇宙人を攫って何がしたいのかはわからないが、魔術を悪しき形で扱うものが黒幕である以上、ロクなものではないだろう」

 

 ファントン星人の言葉に、嫌でも生贄という単語が2人の脳裏に浮かぶ。

 攫われた宇宙人達の生存期待は絶望的かもしれなかった。

 

「こういった魔術を扱える存在はかなり限られてくるが、活動時期がここ半年となると、少なくとも今まで表舞台に出てこなかったタイプだ。何か新しい情報が入ったらすぐに伝えよう。気を付けてくれ」

「ああ、お前もまた攫われないように気を付けろよ」

「わかっているさ、しばらく宇宙船に籠って情報を集めるつもりだ」

 

 少なくとも事件に繋がる情報は得られた。

 恐らく宇宙船がある位置であろうポイントへと速やかに撤退するファントン星人を見送る。

 念の為周囲を警戒していたが、幸いにして杞憂に終わったようだ。

 

「マグマ、車に戻るぞ」

「ああ、一度報告も必要だろうからな」

 

 走ってきた道を、今度は歩いて戻っていく。

 だがそれは流石に悠長だったかもしれない。

 使役しているという事は、倒されたことを術者が把握している可能性にまで至らなかったのは、2人にとってのミスだった。

 

 トンネルまで戻り、車に乗り込む直前。何気なく背後を振り向いたのが救いだった。

 それがなければ間に合わなかったに違いない。

 

「……!!!」

「どうした?」

「逃げるぞ!!!」

 

 目を見開き、形容しがたい恐怖が身体も心も硬直させたのは一瞬。ギャング時代、E.G.I.S.時代と共に死線を潜り抜けてきた経験が強く活きた。

 すぐさま車に滑り落ちるように乗り込み、マグマ星人も引きずり込むと、姿勢も礼儀も道交法も知った事かと全速力で走らせた。

 

「どうした急に!?」

「気づいてねぇなら後ろ見ろ!!!」

「あぁ?」

 

 ホマレの尋常ではない態度にヤバいのが追ってきていることは理解できる。

 喉元過ぎればなんとやら。先程の使い魔の触手か何かだろうかと、もう慣れたかのような軽い気持ちでマグマは体を捩って後ろを覗き──後悔した。

 

『■■■■■■■■■──────!!!!』

 

 闇の塊が冒涜的咆哮と共に追いかけてきている。

 自分たちの命を預かるこの車と、ほぼ同サイズのモノが触手を捩じらせ拵えた無数の足で駆けながら。

 地面を蹴り砕きながら猛追してくる脅威を目にし、マグマ星人も血の気が引いた。

 

「おいおいおいおい!!?」

「───!!」

 

 宇宙人としての動体視力と判断力を全力で駆使しながら減速無しでホマレは飛ばす。

 全方位に集中しながらも、頭の片隅ではある推理を弾き出していた。

 

 半年間暗躍を続けていたにもかかわらず、昼間のファントン星人拉致未遂に加え、ここまで直接的な報復ともいうべき行動に走るという事は『隠す必要がなくなってきた』か『隠す余裕がなくなってきた』かの2択だ。

 どちらであろうと、黒幕は計画を次の段階ないし総仕上げに入っているに違いない。

 相棒に宿るウルトラマン達──タイガたちの出番は近いかもしれない。急いで報告をあげる必要がある。

 

「これもっと飛ばせないのか!? 依頼人護送用とかも兼ねてんだろ!?」

「馬鹿言うなただの会社専用車だよ畜生!!」

『■■■■■■■■■──────!!!!!!』

「マグマ!! お前ビームとか撃てないのか!?」

「できる同胞もいるが俺には無理だ!! お前はどうなんだ!?」

「身体能力高いだけなんだよ!! 光線撃てるあいつらなんなんだよ!!」

「それな!!!」

 

 

 ……まずは逃げ切ることが最優先だが。

 

 

 

 

 

*1
(『ウルトラマンタイガ第7話 魔の山へ!』参照。割と幽霊とか魔術とかいった要素も普通に出てくるのが円谷ワールド。なのに劇中で信じてない人は本当に信じてない)




???「タタリガミだ!!」

・ヒロユキ君、ちょっと無茶傾向。
若きヒーローの多くが一度は通る道。ただ、原作ではなんだかんださらっと乗り越えてたりする。メインテーマが親子とかトレギアとかに寄ったせいだろうか。ちなみに原作劇場版ではトレギア討伐して半年後あたりの時系列となっている。

・意志ある闇
使い魔。質量があるので、所謂『シャドウミスト』ではない。
使役者の指示に従い対象を捕縛する為に蠢く。SANチェック1d3/1d6。
造形、能力など元ネタはいくつかありますが、イメージ的には監督の趣味(人間サイズでの殺陣)にとりあえず感覚で用意される系の雑魚要員。

・シャドウミスト
ウルトラマンティガに出てくる絶望の闇。
質量判定がなく、有機生命体が吸えば即死し、電子機器を問答無用で破壊し、地球全土を太陽光が届かない漆黒の星に塗り替えた。これが世界に蔓延した時点で誇張なく、詰み。この絶望を跳ね返した『光』は本当に尊く素晴らしい。
ちなみに似たようなものではオーレンジャーの『暗黒素粒子』が該当する。これも味方戦力を壊滅させ、東京を壊滅させた。戦いの末、暗黒素粒子をばらまく元凶は倒されたが、結果的に地球に癒えぬ傷を与えて敵組織が地球支配に成功するえげつない成果をあげた。

・マグマ星人こんな強かったっけ?
すまんちょっといいとこ見せてやりたかっただけなんや。劇場版では序盤の事件で入院退場してしまった不遇属性持ちなので、少し戦闘力上方修正措置とっています。マグマ星人、色々強さの幅が難しい宇宙人だったりする。サーベルからビームだしたりとか一応飛び道具技は持ってはいるんだけど、最近のマグマは剣術格闘1本っぽいし……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

カーチェイス、時々発砲、足元注意

今更ですが、サブタイはいつも適当です。格好いいサブタイをびしばし決めてたり伏線みたいに響かせる作者様方は毎回すごいと思ってる。


 E.G.I.S.本社に警報が鳴り響く。

 滅多になることがないそれは、調査中社員による非常事態用の緊急通報だった。

 

「な、なんですか!?」

 

 調査もまだ途中というのに不意打ちのような警報。マーキンド星人は慣れない事態に慌てるが、ピリカは落ち着いた様子で対応する。

 デスク上にて赤く光るボタンを押せばメインモニターにはマップが表示され、そこを高速で移動するE.G.I.S.専用車のマークが映る。もうただ事ではないのは明らかだったが、現場の把握をする為に街中のカメラ、衛星カメラにアクセスする。

 

「うわ、なにこれ」

「ヒエッ」

 

 モニターには人通りのない道路を全速力で頭○字Dしている専用車と、無数の触手を蠢かせ、捩じらせ、伸ばし突き刺し千切り飛ばしと滅茶苦茶な走法で追いかける冒涜的怪物が映っていた。ピリカはただ嫌悪感に顔を顰めるだけだったが、マーキンド星人はその悍ましさを前にひきつけを起こしたように硬直してしまう。

 通信を繋げば、パニックになりながらも必死に運転するホマレと、何度も後ろを見ては顔を青ざめさせているマグマ星人の姿が映った。ただ、この状況下で街中へ向かうような判断を取らない冷静さはあるようで、マップからみても車の通りが少ない方面へ逃走しているようだ。

 

「ホマレ君、大丈夫?」

『ピリカか! 今怪物に追われてる!! どうにかならないか!!』

「どうにかって言われても……」

 

 法定速度ガン無視で飛ばしている車と同速度で追いかける未知の何かである。ピリカの脳内データベースにもコレの正体は皆目見当がつかない。

 ただ追いつかれたらヤバいというのは画面越しでも十分伝わってくるため、真面目に対処を考える。その間にも専用車と怪物の走行ルート上で巻き添えを受けかねない一般市民に次々と緊急アラートを飛ばしているのはプロの仕事と言うべきか。色んな意味で一警備会社がやることではない。

 

 ヒロユキに連絡し、タイガに変身してもらって討伐する──Non、それは最終手段。ウルトラマンというものは手を打ち尽くして、最後に頼るべき存在だろう。それに頼り過ぎるとヒロユキ君がいつか壊れそうで怖い。

 

 広域救援による対処可能宇宙人の招集──Non、その宇宙人側が犯人だったりすると意味がない。助けを呼ぶ前に、独力の排除を検討するべき。

 

 個人所有秘密兵器の使用──Non、バレたら社長に大目玉間違いなし。E.G.I.S.の信用問題にも直結しかねない……だが、命に係わる事態である以上、これしかない。祈るのはバレないことよりも怪物に有効であることだけ。

 

「マグマ君、後部座席の下!」

『あぁ!?』

「そこに私が隠した武器あるから試してみて! パスワードは『555』!!」

 

 画面向こうで訝し気な様子を隠そうともせず、マグマ星人はシートを倒して無理矢理後部座席に身体を伸ばす。

 そこには確かに後部座席にパスワードを打ち込むボタンがあった。

 言われた通り、555と打ち込めば、ボタンの隣からがしゃんという音と共に何かが出てくる。

 

『あ、お前これヴィランギルドが構成員に支給してる銃じゃねぇか!!』

『はぁ!? 社長は知ってるのかこれ!? 外事X課にバレたら大問題だぞ!!』

「ごめん! 昔あいつらが落とした奴1つだけ、ね?」

『『ね? じゃねーよ!!!』』

 

 当然だが、ヴィランギルドが使用した武装などは拾得した際全て提出しなければならない。

 ピリカも勿論その辺は理解していたが、拾得当時は衝動的に、現在は緊急時の秘密兵器として保持し続けていた。

 E.G.I.S.はあくまで民間警備会社であり、宇宙人を無力化こそしても殺害することはない為、殺傷能力の高い光線銃は採用していない。なので本当に万が一必要となったケースを想定したものだが、怪物相手ならまさにその万が一に該当するだろう。

 

「マグマ君なら使えるよね? なんとかなるんじゃないかな」

『使えなくもねーが……やるしかねぇか!!』

 

 

 

 ◇

 

 

 

 爆走する専用車、暴走する触手の怪物。

 光線銃を使用する前に、試せることは試してみようと、急カーブを利用して怪物を道路上から追い出してやろうとする作戦を実行。結果は、怪物が触手の数本を躊躇なく犠牲にしながら無理矢理曲がることで対応され失敗に終わった。

 こうなってはしょうがない。頼みの綱はこの不正所持されている光線銃だ。マグマ星人からすると、正直専用技師が長期間メンテナンスを施していないような代物に命を賭けたくはないが、他に打つ手がないならしょうがない。

 

『次しばらく直線、チャンスだよ!』

「わかった、だがどこ狙えばいいんだ?」

『……ファイト!』

「適当だな畜生!!」

 

 触手は駄目だ。道路を踏み砕くように乱雑に酷使されるだけあって頑丈だし、数本千切れたぐらいでは足を止める気配がないのは先のカーブで判明している。

 視界を奪うべきかと思うが、あの単なる窪みでしかなさそうな目に当てて果たして効果があるかは疑問だ。

 乱射して、減速させる以上の期待が持てないことにマグマ星人は頭を抱える。

 

「まずは1発、眉間狙ってみたらどうだ!?」

「気軽に言いやがる、だが採用してやる!!」

 

 これ以上悩んでも時間の無駄だ、窓をあけ、銃を構えた腕を伸ばす。

 

「……思った以上に難しいなこれ!?」

「もっと身体だせよ!! 天井のハンドル掴んで乗り出すんだ!」

「窓が狭くてきついしこえーよ!! つかなんでお前そんなこと知ってんだよ!!」

「どっかのヤクザがカーチェイスしてて発砲した時にそういうことやってた!! 地球人ができるんだ宇宙人だってできる!!」

「地球人イカれてんな!!」

 

 余裕があるのかないのか無駄口を叩きながら、マグマ星人は苦労して身を乗り出し、改めて対象を狙う。

 眉間(窪みと窪みの間と表現した方が正確だが)を狙った初弾は、加速装置と化している触手の1本に当たり、そのまま吹き飛ばした。だが事前の予測通り、すぐに新たな触手が生えて無意味に終わる。やはり1本ぐらいでは減速すら起きない。

 

「チッ!」

 

 続けて2発目、3発目と連射する。2発目はまた触手を吹っ飛ばしただけだが、3発目は怪物の体と思わしき塊に命中した。

 

『■■■■■■■■────!!?』

「お?」

 

 思った以上に効いている。

 光弾は闇そのものともいうべき不気味な塊を面白いようにこそぎ取っていた。

 触手と同様、ぼこぼこと再生していくが、効いているなら話は別だ。連射すればいい。

 

「おらおらおらぁ!!」

 

 撃つ。撃つ。撃つ。

 喋らず、ただ追いかけてくる理解不能な怪物。だが、一度明確に苦しむサマを見せてしまえば人は怪物を恐れなくなるものだ。大半は触手が身代わりに千切れ飛んでいったが、数発は闇の塊を抉り取る。

 怪物の動きが鈍り、速度が落ちていく。

 サイドミラーからでも弱っているように見えて、ホマレもようやく笑みが浮かんだ。

 

「お、逃げ切れるな!! マグマ、もういいぞ!」

「おう、〆の一発だ、食らいやが……あっ!」

「え?」

 

 ガシャンと金属が叩きつけたような大きな音がホマレの耳に入る。

 嫌な予感を覚えたが、ルームミラーにはマグマ星人が固まっているのが映っており、全てを察した。

 

 こいつ、銃落としやがった。

 

 だが、間抜けな宇宙人を怒鳴る前に事態は決着を迎える。

 マグマ星人の落とした光線銃は二転三転と跳ねまわり壊れていく。元来、たやすく暴発するものではないが、この銃はメンテナンスされないまま放置されて久しく、ビーム残弾もある状態で派手な損傷を迎えた。未だ回転しながらも赤熱化していく光線銃。トドメに怪物がそれを触手で踏み抜いた。

 

『■■■■■■■■────!!!???』

 

 怪物の真下で派手な爆発が起きる。

 触手の半数を失い、ボディ部分も焼かれながらバランスを崩した怪物は勢いのまま転がっていき、沈黙することになった。

 

「……」

「……」

『……』

 

 怪物が崩壊していく様子がみえた為、車を止める。

 結果としては大勝利だが何か釈然としない思いが2人の胸に去来する。

 ピリカすら沈黙している空気の中、やがてマグマ星人が口を開いた。

 

「……まぁあれだ」

「なんだ」

「光線銃とバッテリーの管理は粗雑にしちゃいけねぇぜ、お嬢ちゃん」

『はーい』

「はーいじゃねぇよ!! 色んな意味で怖すぎるわ!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 かつてヴィランギルド構成員がアジトにしていた拠点の1つ。

 廃工場を改造して運用されていた拠点だが、外事X課の捜査線上に上がった事を知ったヴィランギルドから放棄され、今は見た目通りの廃墟と化している。現在は調査の為立ち入った外事X課の管理下に置かれているが、ヴィランギルドが物資の全てを回収していたため、管理は名目上となっており放置されていた。

 そんなイベントが終わったとも言うべき場所に内原戸はいた。

 

 内原戸だけではない。

 行方不明扱いを受けていた宇宙人が何人もその場で吊るされている。

 

「……!!」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

「あふけへふれ……!!」

 

 恐怖に歪み、命乞いすらもはやまともな言語で行えず、ただただ絶望の鎮魂歌を囀る宇宙人達を前に、彼は機嫌良く演奏する。今の彼にとって、目の前の生物は楽器である。筋繊維(弦)を引く刃物(弓)で響かせる音が彼にとっては大変心地よいものだった。主に血と涙といった体液が飛び散ることで生じる音も併せて鼻歌すら交えて楽しんでいた。

 

「……はぁ? もう倒されたのか?」

 

 ふと、脳から伸びていた糸が1本切れたような感覚に、顔を歪める。その際、僅かに手が滑り、演奏中の楽器(宇宙人)が1つダメになった。舌打ちした後、彼はどうでも良さげに闇に呑ませて処分する。

 

「だが巨大個体も潰せるという事は、あの使い魔を潰したのはデザストロを封印した存在か? ならば騒ぎを拡大させた甲斐があったな……」

 

 捕えた宇宙人をこうして雑に消費している通り、内原戸は必要分の贄を集め終えていた。

 半年もかかってしまったが、封印が破れるまでに間に合ったことで趣味を堪能しながら、計画を進めることにしたのが先週だ。

 闇夜に紛れて襲撃させていた使い魔たちに、『地球人に似たヒューマノイドタイプの宇宙人、または地球人に偽装した宇宙人』を最優先ターゲットとして昼夜問わずで活動させたのである。

 

 狙いは3つ。

 1つ目は、本命である儀式を執り行う上での囮。いくらじっとりねっとりと暗躍していても、外事X課やデザストロを封印した存在が勘付く可能性は0ではなかった。ならば敢えて爪痕を見せることで、注意を使い魔達に集中させる算段だ。こうして廃墟で遊んでいるのも、重要拠点を悟られないためである。

 2つ目は、脅威存在の特定。内原戸は全てを見下しているが、過小評価しているわけではない。正義だの光だの絆だの、嘲笑の対象でしかないが、それらを侮って疎かにした結果、計画が頓挫するのは耐えられる屈辱ではない。故に、使い魔を駆除する存在を脅威存在候補としてマーキングしていく狙いがあった。既に同様の魔術と思わしき手段で使い魔を消滅させた要注意人物を認識している。

 3つ目は、絶望への布石だ。あの使い魔は手間をかけて作り上げた『質量化した闇』である。無暗に破壊すればするほど、霧散した闇の因子は街を蝕んでいく。それは儀式の成功率を面白いぐらいに跳ね上げるはずだ。

 

 実はそれなりに力を入れていた巨大個体があっさり倒されたのは予想外だったりするが、計画を振り返れば思い通りに事が進んでいる。内原戸は一転して気分を向上させた。

 

「さて、あれを倒したのは誰だ? 巨人形態なら虫を潰すより簡単だろうが、地球人サイズであの巨大個体の核をどうやって破壊した? 下腹部の核に気付いたとしても、爆走する巨大個体に吶喊し、触手の群れをかいくぐって直接攻撃などできるものなのか?」

 

 一度気になった疑惑はさっさと明らかにしていくに限る。倒された使い魔が得た視覚情報を確認すると、逃走しながら光線銃を乱射し牽制している映像が脳内に浮かぶ。あれは触手や肉体を削れても核を砕けるほどではない。やはり脅威存在が救援したのだろうと期待に胸を躍らせる。やがて追跡対象は決定打になりえないとわかって銃を投げ捨てた。だがさらに逃走しているタイミングで使い魔の視界が爆炎に包まれ映像が途切れた。

 意味が分からなくて、内原戸は脳内映像にもかかわらず目を瞬かせる。

 

「ん? 何が起こった?」

 

 もう一度再生する。

 結果は同じだった。使い魔の視覚では、本当に不意の一撃で倒されている。

 

「向こうも手練れか……視覚情報を悟って遠距離から光線でも放ったか? やるな……」

 

 やはり過小評価をしていい相手ではない。ここもさっさと離れた方がいいだろう。

 内原戸は警戒レベルを引き上げつつ、闇へ溶け込むように姿をゆっくり薄れさせていく。

 己の使い魔が、光線銃を踏み抜いて自滅したなど想像の外なのであった。

 

 知る人が見れば教えてあげたい勘違いを抱えつつ、内原戸は思考する。

 儀式に要する血肉としての数。趣味も兼ねた虐殺で増幅させた怨念、そして絶望のエネルギー。

 その全ては既にそろった。残る問題は結界が破壊された末に出てくるデザストロの出現ポイント。

 破壊衝動から考えると街中に出現する可能性が高い。儀式の成功率からみて、海に誘導したいのが内原戸の本音だった。

 

「ふむ、誘うか」

 

 本命に街中で暴れてほしくないのは、何も内原戸の都合だけではない。

 肉体が闇と混ざり合いながら思いついた誘導策。やがて廃墟には、彼の起こした惨状と不気味な笑い声だけが残るのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 同時刻。

 唯一単独捜査(実質4人)を命じられたヒロユキはというと、怪異に襲われたホマレ達と違い、手がかりもないままに町をうろつく形になっていた。かつてホマレが重傷を負って入院した際、手当たり次第にヴィランギルド所属の宇宙人を恫喝の勢いで問い詰めていたが、流石に今はそういう真似を軽々しく取ることはできない。宇宙人と地球人の懸け橋となる存在として頑張らなくてはならないからだ。

 もっとも、向こうから襲ってきたなら話は別である。

 

『なかなか上手くいかないものだなぁ』

『そもそも、調査ポイントも絞らない探索に効果がないのは当然だろう』

『タイタス、そう言うならせめてアイデア出してやろうぜ……』

 

 騒がしいお供達も今回は大して役に立ってくれなかった。ヒロユキがあまり意見を聞かないまま調査へ臨んだ為当然ではあるのだが。

 中々手がかりらしい手がかりを得られず、一度戻ろうかというところで、ふと露店が目に入った。

 ここは商業施設と駐車場への通路であり、ちょっとした休憩スペースでもあるのでそこまでおかしくはない。だが、許可を取るにはなかなか難しい場所だ。でかでかと『銀河クワトロマーケット(しかも段ボールにマジックで手書き)』とあるが、馴染みのない店名というのもある。おまけに取り扱っている商品がなんともまとまりがない。

 プリントTシャツ、バッグ、知らないキャラグッズ、カップ麺……そしてイチオシなのか知らないがラッキョウの瓶詰や袋詰が山と積まれていた。意味が分からない。

 

『ヒロユキ、あそこだ』

「?」

 

 拭えない違和感に、眉をひそめてつつ観ていると、アストラル体のタイガが声をかけてくる。

 なにやら店先の男性と楽しげに会話している若者を指しているようだ。

 

『あいつからベリアルの気配を感じる……!』

「なんだって!?」

 

 ベリアルというだけでもうロクなものではないだろう。当たりを引いた可能性がある。

 宇宙人失踪事件の手がかりになりうる以上、少なくとも話を聞かねばならない。

 警戒心をはね上げ、彼に向って歩み寄る。

 

 だが、ベリアルの気配を宿した不審者は、不意に外へ目を向けると一瞬で飛び上がりいなくなってしまった。

 明らかに悟られた動きに、慌てて走るも、もう見えなくなっている。手がかりのチャンスを喪失したことにヒロユキは歯噛みした。

 

「くそ、逃げられたか……」

「いらっしゃい。ラッキョウはいらんかね」

「えっ」

 

 飛び上がって消えた不審者にも悔しがるヒロユキにも動じず、にこやかに声をかけてきた店主に素で驚く。

 店主は黒い紳士服に身を包んだ老人であった。真っ白ながら髪を豊かに蓄え、眼は老いて小さく、鼻が少し高い。皺を伸ばすように、にこにこと人のよさそうな笑みを浮かべている。胸元には、一見蝶を模したようなブローチが、まるでカラータイマーのように青々と輝いていた。

 

「いえ、僕は……」

「そうだろうねぇ、やはり試食しないと買うには悩むかもしれない」

 

 笑みを崩さないまま、店主はどこからか爪楊枝に刺したラッキョウを手渡してきた。思わずペースに呑まれたヒロユキはそのままひと齧りしてしまう。そして目を丸くした。

 味わいで美味を証明するものは数多く出会ってきた。だが、食感のみで「美味しさ」をここまで主張する食べ物は初めて出会ったかもしれない。否、食感を楽しむ食べ物にも多く出会って来たはずだ。それを忘れるほど、このラッキョウは素晴らしい食感だ。絶妙な硬さと通りの良さから生じる快活な音。シャキシャキとする部分もあれば、カリッとした部分もある。この小さな野菜が単体で歯音のコーラスを奏でているとは信じられない。遅れてその味わいを実感する。ラッキョウ独特と言っていい風味は僅かな辛味と共に不思議な爽快感を与えてくれる。

 

 これは……これは、違う!! 

 

「気に入ってくれたなら『ラッキョウを買います』と言ってくれないかな」

「あ、はい。買います」

 

 あっさり陥落したヒロユキの言葉に、店主はその小さな眼を輝かせ、満足気に頷いた。

 一瞬、悪魔と取引したかのような錯覚に囚われたヒロユキだが、どうしてそんなことを思ったのか、全く分からなかった。

 

「瓶詰1つ200円になります」

「え、安っ」

 

 どうしてそんなに安いのかも、全くわからなかった。

 結局、促されるままに瓶詰8つと袋詰2つを購入するヒロユキであった。

 

 

 




予算と尺があればカーチェイスやりたい特撮監督、割といると思ってます。
メイン特撮は、巨人VS怪獣なのがウルトラマンである以上は難しいとも思うけど。

・ピリカ、銃刀法違反
当然、外事X課へ映像提出時にバレた為、滅茶苦茶叱られる。
ただ、事情は汲み取れたし、緊急回避の側面もあった為、外事X課は「今回だけだぞ!」と寛大な処置をとった。
社長からすれば散々積みあがった貸しを結構帳消しにされた程度だったので割り切っているが、二度と同じ事をやらかさないように(会社理念としてもアウトだし、マグマ星人達が持ち込む前例作りかねない危険性もあるし、信用問題が致命的)とピリカにはしっかり懲戒処分(戒告、減給)を行っている。
ちなみにピリカ、割とそういうのやりかねない危うさが原作でもあったりします(調査の名目で街中のカメラジャックするのはもはや当たり前。ダークウェブサイトへ雑に不正アクセスして、思いっきりしっぺ返し食らった)。

・怪物くん、あっさり退治される
銃なんて効かず、ガイさんあたりに助けてもらう想定で書いていたんですが
「ガイさん助ける前提なら遊んでいいな」とダイスロールで互いの行動成功値を競いそれをシナリオに適応させようとした結果だったりします。追跡でファンブル出たので爆破ダメージ5d6にしたら26ダメージ叩きだしたのが悪いんだ。

・内原戸、完璧な暗躍と虐殺をしているようで微妙に雑い。
オバロSSで用いてた残酷表現をまた使う羽目になった元凶。クトゥルフっぽさというよりは異質さ重視。
初期プロットでは、あんまり思い通りに行かなかったり思いつきオリチャー発動するタイプだったのですが、プロット変更に合わせてちょっと真面目に暗躍と策謀をおこなっております。

・単独で動いてるヒロユキ君
実は社長の狙いである。仕事熱心が過ぎるヒロユキを心配していたが、かといって謹慎紛いの本社待機など指示しても無意味(ストレス溜めさせるだけだし、いずれ屁理屈述べていなくなるのが目に見えてる)どころか悪手なのはわかりきっていた為、単独調査指示で「外回り休憩」させている。徒労に終わってもよし、クリーンヒットしたらしたで、実質4人なのだから大丈夫だろうという両得意識。

・ベリアル因子有する不審者
いったいどんなベリアルの息子なんだ……。

・ラッキョウ売ってる老紳士
なにやってんだこいつ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

メフィラス、第二の人生満喫す

話が進んでるようで進んでない回
メフィラス視点と、出番なさすぎたんで無理矢理割り込ませたオレギアさん。


 暗黒の絶対的支配者、暗黒宇宙大皇帝エンペラ星人。

 かの皇帝は光を憎み、数多の恒星を滅ぼす邪知暴虐の暴君であった。闇を絶対の指針とした恐怖統治を前に、光に属する者、光失くして生きられない者は、絶望によって飲み込まれていく。

 恒星の活動を停止させ、ウルトラ戦士ですら完全に殺害することが可能なほど絶対的な光への殺意は、やがて地球へ意識を向け、戯れと称して最高幹部を仕向けていた。

 

 その最高幹部と称されるのが暗黒四天王である。

 邪将ヤプール*1

 謀将デスレム*2

 豪将グローザム*3

 絶対の自信があった彼等は協力することはなく、各々単独で地球とメビウスへ挑み続け、敗れ去っていくことになった。これは当然の結果だと言える。彼らは同僚であったが、功績を奪い合う存在でもあった。エンペラ星人勢力において『絆』など戯言そのものだった。仲間意識が少しでもあるならば、滅んだ惑星はもっと多かったことだろうし、メビウスも勝てなかったかもしれない。

 

 万年単位で恐怖の象徴だったはずの最高幹部が、辺境の惑星であっさり敗北していく様は許されざる大失態といえた。それでも暗黒四天王最後の将たる知将メフィラス星人は、この期に及んで「自分ならしくじらない」と余裕だったのである。同僚意識はあっても仲間意識はなかった弊害が強く出ている証拠だった。ぶっちゃけ邪将も謀将も卑劣な計略を好んで用いてたせいで、正直被り気味だったし、被らない豪将はこっちの意見全く聞かない類だったので清々したとすら思っていた。

 ともあれいよいよ己の出番となったメフィラス星人はその異名に違わぬ暗躍を遊戯と称し、メビウスと地球人へ挑戦をしかけたのである。

 

 自身の宇宙船から発する特殊な波動で、地球全土の人々の記憶を改変。

『ウルトラマンメビウスが侵略者であり、メフィラス星人が正義のヒーローである世界』にすり替え、メビウスに絶望と失意の果てに死んでもらうとする極めて悪質な戦略を取った。

 この悍ましき遊戯を止めるべく動いたウルトラマンも、地球人の命を半ば人質にしつつ、自身が手を出さない代わりにそちらも手を出さないという取引を持ち掛ける。ウルトラマンはメビウスと地球人の絆を信じて引き下がった時には、メフィラス星人は半ば嘲笑しつつ勝利を確信していた。

 

 だが、結果は彼にとっての敗北そのものだった。

 

「無駄な抵抗はやめろ。お前の仕組んだこのゲーム、お前が手を出した時点で既にお前の負けだったのだ」

「……!!」

 

 洗脳しきったはずの地球人防衛組織GUYSのメンバーは紆余曲折の末に洗脳を打ち破り、自分自身は上手くいかない苛立ち*4から『手を出さない』というルールを自ら破って行動してしまった。怒りのままにメビウスと地球人諸共滅ぼそうとすれば、ウルトラマンに妨害される。互角の空中戦の果てに放ったグリップビームもウルトラマンの大胸筋バリアー*5で弾かれる始末。あげく、このように指摘されてしまえば敗北を認めざるを得なかった。

 

 ウルトラマンと地球人の強固な絆が持つ力……その一端を思い知ったのだ。

 これ以上続けても、それは己のプライドを傷つけるだけと悟り、メフィラス星人は撤退を決めた。

 

「わかりました、どうやらそのようです。我々四天王が何故、君たちごときに敗れ去ったのか……私は今、それが分かった気がします」

「しかし、私は決して諦めたわけではありません。必ず、また君たちに挑戦しにやってきます。いつの日か、必ず!!」

 

 捨て台詞と共に、戦いの場から離れたメフィラス星人は、再戦を誓って地球を後にしようとする。

 

 

 

「ぐああああああああああああああああああああああ!!!!?」

 

 

 

 そんな彼へ降り注いだのは、皇帝による死刑宣告(レゾリューム光線)であった。

 メビウス抹殺と地球の征服に対して、趣味全力の計略に走った挙句、相手を認めるかのような負け犬の遠吠えを吐いて1人撤退する。

 いくら戯れでけしかけたとはいえ、皇帝からすれば不甲斐なさ過ぎる結果である。粛清一択であり、当然の末路といえた。

 

「皇帝……!! 所詮私も、不要になった、ゲームの駒というわけですね……!! 残念ですッ……!!」

 

 ウルトラ戦士()を文字通り即死させる性質を持つレゾリューム光線。単純な破壊力も随一であり、とっさに張ったバリアごと、メフィラス星人は宇宙の藻屑に消えてしまうのであった。

 

 

 

 本来ならば。

 

 

 

 気が付くと、彼はサイケ色の混沌めいた空間に立っていた。

 バリアが破られ、光線が全身を焼き尽くし、己の自意識が消えていく瞬間を体感したはず。

 幽体として蘇生したかと思ったが、己の肉体が物質的に存在していることは疑いようもなく。メフィラス星人は強く困惑していた。

 

「何故、私は生きている……!?」

「私が助けた。いや、拾ったというべきか」

「誰ですか!?」

 

 全てを玩弄するかのような軽薄な声が響き、メフィラス星人は思わず余裕のない声で返してしまう。

 声が響いてきた方からは、やがて歪むように、蒼い巨人が姿を現した。

 

「私だ」

「いや本当に誰ですか」

 

 知将メフィラス星人、余裕のないまま素を口に出す。

 ウルトラマンなのはわかる。顔も穏やかさを感じる、ウルトラ族独特の反吐が出る顔だ。だが、何故このウルトラマンは光と闇を綯い交ぜにしたような雰囲気を纏っているのか。こんな存在皇帝からも聞いたことはない。

 メフィラス星人の困惑は増すばかりだったが、正史においてもウルトラマントレギアがグリムドを取り込んで活動開始したのはウルトラマンヒカリが闇堕ちして最低でも数千~数万年後であり、彼の脳内に該当人物が皆無なのは当然である。

 

「私はウルトラマントレギア。ああ、この宇宙にいるトレギアでもない。並行世界からやってきたトレギアだ」

「……はぁ」

 

 己の活動時期を完全に失念しているのか、説明が極端に下手なのか、当たり前のように既知を語るように名乗ってみせる自称ウルトラマン。

 こんな初手から混沌のオーラとそこはかとない残念さを纏わせるウルトラマンに、この後本気で仕えることになろうとは、知将の目をもってしても見通せない話であった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─『観測世界オムニバース』玉座の間(時系列30話後)─

 

 

 

「タイガのいる宇宙へ『干渉』する」

「はっ」

 

 トレギア様……いえ、皇帝陛下が間抜けな雰囲気を消し飛ばして宣言される。いつもの皇帝は弄りがいがあって好ましいが、責務を背負った皇帝が一番好ましく感じるのは、私が偉大なる皇帝(エンペラ星人)を想起しているからでしょうか。

 ふむ、やはり先帝の影を求めるのは良くないですね。自戒を込めて、茶々を入れましょう。

 

「もとより皇帝陛下の言は絶対であります。お望みとあれば、世界全てを食い荒らす選択をとっても我等は盲目的に従いましょう」

「やらんわ。その常に俺を試そうとする悪質さはどうにかしてもらいたいな」

「お許しを。闇に堕ちてもらえばそれはそれで美味しいので」

「悪意隠す気ないのもやめてもらえる!?」

 

 これですよこれ。打てば響くような掛け合いは暗黒四天王であったころは味わえませんでしたからねぇ。道化紛いの発言をついつい転がしてしまいます。確か、こういった心弾む戯れを『愉悦』と称するのでしたか。

 

「さて、干渉するとしてもいかがなさいますか。デザストロの発生がグリムド様のエネルギーを媒介にしていた以上、あれそのものが陛下を呼び寄せる囮までありますが」

 

 皇帝陛下へ報告した宇宙消滅の危機。確認されてきた中でも最大規模の異次元嵐を発生させたデザストロのことですが、その発生に至った要素まで私はつきとめていました。邪神グリムドの混沌と虚無の膨大なエネルギーが何故あの宙域にあったのかは皇帝のみぞ知るというものでしょうが(報告時に固まっていたので、どうせやらかし案件なのでしょう)、問題にするべきは『それを利用された』という事実。私が報告に逡巡した理由でもある。

 

別宇宙のアーカイブ(正史、あるいは劇場版タイガ)と、あのタイガ達がいる宇宙を照らし合わせるならば、俺がタロウの枠であり、黒幕に利用される危険性は確かにある」

「その時はしっかり叫ばせてもらいます。『陛下! 邪悪な力に負けないでください!!』と」

「良い笑顔で言っても説得力の欠片もないわ。そもそもグリムド以上に邪悪な力って早々ないけどな」

「(´・ω・)」

「あ、いやすまんグリムド。そういうつもりじゃないんだ」

 

 私からは感知も察知もできませんが、皇帝陛下にはグリムド様が恐らく拗ねたか凹んだかのように見えたのでしょう。陛下の肉体より滲み出る冒涜的なオーラ相手に何やら弁解したり慰めたりしています。

 ともあれ最も懸念していた、陛下の突喊は避けられそうで安心しました。最悪、タイガが有するトレギアを強引に覚醒させて身代わりにするプランまで検討していましたからね。

 

 さて、陛下がグリムド様と戯れている間にも、参謀たる私は様々な想定と計略を検証していきましょう。黒幕の正体までは辿るのは難しそうですが、我々はオムニバーシアン。あらゆる宇宙の観測により膨大な資料が蓄積されています。雑な表現を使えば『メタ推理』が効くのです。

 

 宇宙消滅の危機は冗談でもなんでもなく、あのデザストロがウルトラ戦士らを薙ぎ倒したらそのまま成立しうる脅威です。ですが、封印の手際からみてもそこの心配はあまりしていません。デザストロを首尾よく討滅できたとしても、その先にある危機を推定したからこそ、宇宙消滅という表現を以て報告する運びとなりました。

 

 黒幕は、宇宙消滅級のデザストロを更に強化あるいは変異させようとしている。

 

 突飛なようですが、封印措置に対して特に封印破壊の動きが地球で見られないのが根拠の1つ。黒幕は焦っていない。呑気に暗躍を続けているということは、デザストロ自体は本命ですらない線が生じます。

 あの異次元嵐を越えるナニカをしでかすなどよほど破滅願望溢れた黒幕ですねぇ。まぁデザストロ出現ポイントに残された術式痕跡からみて既に正気を失っている可能性もありますか。やはり、世界が終わる瞬間を味わいたい類が黒幕とみるべきか。

 

 基本的な部分は現地のウルトラ戦士達に任せてしまえば良いとして、我々がやるべきは支援行動、妨害行動、保険行動の3点。

 支援するべきは変身能力を喪失した可能性の高いウルトラ戦士の生活基盤。封印処置後は全員地球へ落ちたことがわかっております。封印が破られるまで数か月の余裕がありそうですし、支援は必要と思われます。我々であれば金銭的支援ならばたやすいですし、食料(ラッキョウ)ならいくらでもあります。採用。

 妨害するべきは黒幕の暗躍と計画の下準備。魔術を扱う類なのは断定して良いので、地球エネルギー(エーテルまたはレイエネルギー)が走るレイライン等を悪用されないように供給阻害術式などが検討候補でしょうか。現地に降りて改めて決めるのも良いでしょう。黒幕に我々を気づかれては、あまり意味がない。保留。

 保険としては、やはりこの混沌皇帝を最後の切り札に据える事でしょう。どうせあの手の封印はいずれ破られますし、ウルトラ戦士も前提としているのは明白。黒幕の思い通りに事が運んだ際は、陛下率いるオムニバーシアンで片を付ける。ただし、黒幕の狙いが陛下でない事を確信してからと釘を刺す必要はありますね。採用。

 

「ああ、出番ある時はちゃんと頼りにするとも。約束する」

「(*・▽・)」

 

 混沌のオーラがどことなく甘えるような擦り付きをして、陛下自身も落ち着かれたようです。進言のタイミングですね。

 

「陛下、手始めに私を派遣させてくれませんか」

「メフィラスを?」

「というより、私以外に適任がいないでしょう。黒幕は悪辣なる未知です。これを探りながら、ウルトラ戦士らを支援しつつ、陛下の我慢の限界を見極められるのは私しかおりません」

「確かに、ゴロサンダーに潜伏活動は不可能だし、他のオムニバーシアンは戦力面での不安が残る」

「そうでしょうそうでしょう。私ならば、陛下の期待に応えられます」

 

 頭を下げて、わざとらしく含みある声色を使います。私は暗黒四天王だった男、誠実さや裏表ない態度は逆に心象を悪化させてしまいます。胡散臭く、悪巧みしていると思い込まれながらも頼るしかない、その方がより柔軟性ある戦略も取れて一石二鳥というものです。何より、陛下が慢心や盲信なく熟考してくれますので、軽率な判断や浅慮な真似を避けやすい。

 ……先帝の時は、方針が単純過ぎてこのような不敬以前の問題でしたから、楽しくてやっている自分もいますが。

 

「……」

「(・ω・)?」

 

 陛下は此方をじっと見据え、グリムド様と思われる視線も感じます。不採用だった時は食い下がるより代案を出した方が、一転採用もあるかと頭の片隅で考えていると。

 

「……お前、ついでにらっきょう販売する気じゃないだろうな」

 

 ほお、深読み! 先の報告が余程引っかかっていたのでしょう。私が悪意ある行動を取らないと結論付けた上で何かはしでかすと判断されたようです。ですが、確かに地球へ降りたら検討しうる価値はありましたので、ここは図星のようにとぼけてしまえばいい。

 

「……さて、なんのことでしょう。宇宙の危機に悠長かつ私欲に満ちた策謀など取りませんよ陛下」

「目を逸らすな!! ……まぁいい。メフィラス、お前に任せる。お前が1番執着しているメビウスやウルトラマンは多分来ないだろうしな」

 

 よし!! らっきょう販売もできそうですね!! 思わぬ僥倖、黒い笑みが溢れてしまいます。我が知略に一片の曇りなし!! 

 

「では、怪獣リング化の処置を施し、幾つか緊急手段を用意した上で移動してもらう。黒幕に利用される真似は避けろよ?」

「このメフィラス星人、陛下の期待を裏切らない事を誓います。数万年間エンペラ星人の期待を裏切らなかった手腕をご覧いただきましょう」

「一度期待裏切ったら粛清というのも酷い話だな」

「承知の上で仕えたのですから別段文句もありませんがね」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─現在時系列・玉座の間─

 

「なにやってんだあいつ」

「(・ω・)?」

「ああ、メフィラスのことな」

 

 タイガの宇宙消滅危機について様々な検討と熟慮と焦った勢いにより、介入を決定した俺は、言いくるめられた気分でメフィラス星人を先遣隊として送り込んでいた。

 その後は元の宇宙探索と『オムニバース』の開発と並行しながら、メフィラスの動向を観測していたわけだが……あいつの手際の良さと手癖の悪さに半分後悔している。

 映像で、らっきょうを美味しく食べているヒロユキ君へ悪辣な視線を滲ませている悪質宇宙人にため息をつきつつ、俺は送り込んだ時のことを思い出していた。

 

 諸々必要な処置と物資収納を終え、パラレルアースへと飛び込んでからメフィラスの行動は早かった。

 まず大胆不敵にも『グローザ星系人(グローザムそっくり)』の姿を偽り、正規手続きによる入国。即座に記憶操作と認識阻害技術を併用して監視体制から抜け出ると暗躍を開始。

 道楽老人『薤白(がいはく)』を名乗り、説得と思考誘導と洗脳を駆使してらっきょう販売に勤しんだ。その間に人間態として潜伏しているニュージェネレーションズを発見、念話により語り掛け誘導し、集合した彼等の前にだけメフィラス星人としての正体を現した。

 

『偉大なる皇帝カオスデスポテース様より皆様の支援を命じられております』

 

 などと後々面倒ごとにしかならない言い回しでもって、案の定ギンガやビクトリーは超絶不信を強め、オーブとエックスは警戒し、ジードは「父さんでも使わなさそう」と俺の傷をえぐり、ロッソとブルは「TV局の人じゃないんだ」と呑気な認識でいた。

 信用底辺なスタートだったが、メフィラス星人であるが故の『対話や取引中で直接的暴力に走る個体は少ない』事実で交渉を継続。

 

『不要ならば別に良いのです。ですが、そもそもあの強大なデザストロを出現させた黒幕を追う共通目的がある存在ということは意識してもらいたいですねぇ』

『私が黒幕の可能性? では何故あなた方は支援に乗らないのですか。疑惑ある存在との距離を置けば正体が暴けるのですか? 大した自信ですね』

『はぁ……メビウスでしたらもっと物分かりが良かったのですが……若造どもが……』

 

 などと聞いてる俺がどんどん顔色悪くなるような(ウルトラマンなのに、なんか胃が痛くてしょうがない)交渉と煽りと侮辱を交えていき、最終的に地球人としての生活基盤作成が他の面子よりも難しいかつ欲しいロッソ、ブル、ジードの3名がメフィラス星人の手を握った。よく戦闘にならなかったものである。まぁ、メフィラス星人があくまで戦意や敵意を見せなかった事と『嘘』は何一つ言ってなかったのが大きいのだろう。煽られたぐらいでは先に手を出すようなウルトラ戦士はいなかったということだ。

 

 メフィラス星人は老人薤白として獲得した拠点(俺が過去*6につくった地球人サイズ用の家。今回、偽装拠点として活用するべく提供した)に彼等を招くと、生活必需品が揃った形に皆満足していた。ギンガ、ビクトリー、エックス、オーブの4人は同居の選択は取らず各々のやり方で動くことになったが、拠点を見た時ちょっと羨ましそうだったのが印象的である。本来はタロウを招くために作ったものだから当然だな!! 

 まぁメフィラスが『今からでも意見を変えるならば、どうぞ?』と煽ったせいで4人が住むことはなかったが。

 

 情報共有の場としては好ましいということで不定期に立ち寄る、黒幕に補足されるリスクと、今タイガ達に不用意な危険が襲うのは好ましくないので、黒幕が大きく動くまではE.G.I.S.への接触は可能な限り避けておく、らっきょうの押し売りはしないなどいくつか取り決めがなされ、メフィラスはニュージェネレーションズと接点を強めることに成功した。

 

 それからあっという間に半年が経過。

 今現在わかっていることは、いつ封印が破られてもおかしくないということ、黒幕は宇宙人達を攫って生贄にしているということ、使い魔は極めて危険な闇の塊であるということ、らっきょうの魅力に何人か捕まったということである。ジードは「らっきょうのおじいさん」で彼を認識してしまっているし、ロッソは「薤白さん」、ブルは「らっきょうさん」とすっかり縁を育んでしまっていた。それでいいのか暗黒四天王。

 

 経過報告書が届いた時、最初の項目がらっきょうの現地売上高だった時は目を疑ったが、今では挨拶の一環程度に流す程俺も慣れてしまった。ただ、報告書の文面から『ここで裏切ったら絶対面白いんですけどね……』とか考えているのがわかっているのでやっぱり悪質だわあいつ。

 

 そして今、俺が観ている映像ではヒロユキ君があのらっきょう狂いとついに接触を果たしている。

 

「ともあれ、黒幕は明確に動き出し、ニュージェネレーションズも対応しだした。そこへヒロユキ君がメフィラスと接触したのは運がいいというか運命的というか……話が動くのは間違いない」

「(・ω・)ノ」

「ああ、出番に備えた方がいいかもしれないな」

 

 結局黒幕の狙いが、俺である可能性が捨てきれない以上は、ギリギリまで耐える必要あるのが辛い所だが、そこはニュージェネレーションズとメフィラスの手腕を信じよう。

 そう、意を固めていると、アテリア星人がとたばたと玉座の間へ入り込んできた。今更だが威厳もクソもないな、俺もこの間も。

 

「ご報告します!」

「なんだ」

「メフィラス様がサンプルとして送ってきた闇の因子解析が完了しました!」

「おお、流石だな。結果はどうだった」

「ネオフロンティアスペースにかつて出現した、ガタノゾーアと同質かと思われます!!」

「……は?」

 

 信じた矢先に不安になるのは我ながらどうかと思うが……デザストロに加えて、ガタノゾーアは不味くないか?

*1
(将としては実は2代目。新人なので他の面子から良い顔もされなかったうえ、かなり見下されていた。初代はアークボガールだったが、あまりにも自分勝手で忠誠心の欠片もなかったので追放封印処分されている。暗黒宇宙の拡大行為と侵略行為に勤しむエンペラ星人勢力であったが、一応統治意識はあったらしく、勢力圏内の惑星を貪り食うアークボガールにはブチ切れた模様)

*2
(デスレ星雲人。策謀宇宙人の異名があり、卑劣な策謀をもって相手を追い詰めることが得意。デザインコンセプトが筋肉と骨の逆転に加えて左手が孔明とかが持ってる扇イメージしているのがポイント。だからというわけではないだろうが、火球技が大得意。人質&マスコミ煽動などゲスい策謀でメビウスを追い詰めたが、善良なる地球人への対処を怠った事が策謀瓦解に繋がって敗死する)

*3
(グローザ星系人。不死身のグローザムの異名があり、爆散しようが再生できる程の再生力を誇る。この再生能力は同じグローザ星系人である氷結のグロッケンがグローザムの特徴としてた点から同族でも随一と思われる。その気になれば星1つ凍結させられる冷凍能力に、格闘戦にも優れたまさに豪将。ただ警戒するのがウルトラ戦士ぐらいで地球人をただの雑魚と認識してた為、敗死した)

*4
(この時の狼狽ぶりや紳士然とした態度をかなぐり捨てた言動は必見。ぶっちゃけ初代も思い通りにならないと癇癪起こすタイプだったので、本性は残忍で粗暴な悪魔という描写で統一しているのかもしれない)

*5
(マジで素受けしている。カラータイマーという急所をものともしていない。ゼットン戦の後からどれだけ鍛え上げたのだろうか)

*6
(20話参照)




なるべくテンポはやめないとぐだぐだになるだけだわおのれメフィラス!!
いい加減怪獣暴れさせないと……

・メフィラスとオレギアさんの邂逅
この後1話分使って仲間になるんですが、ばっさりカット。この時、グリムドの魔法空間に拉致っているのもあり、エンペラ星人の支配ともいうべき影響力がふっつり途切れているのが大きかったりします。別にエンペラ星人が意図的に洗脳しているわけではなく、その域にあるほど闇のカリスマ性が高いという認識。なお、鎧による洗脳はある模様。

・メフィラスさん、人生満喫中
一応正義の行いを義務付ける組織だが、己の悪辣さをそのままに受け入れてくれている為、窮屈な思いを一切していないのが大きい。何より契約時にメビウスたちへ挑戦する権利をもらっているので、大本命への枷が皆無。太陽(恒星)が必須だったせいで、エンペラ星人勢力下ではのびのびできなかったラッキョウ事業など、やりたいこと全部やらせてもらってる状態。

・オレギアさん出動できず
劇場版タイガでは途中救援にきたタロウが闇落ちさせられる為、そのポジションに自分が収まる危険性を強く懸念している。実際、ありえないとは言えないのでメフィラスを先遣隊に出す事となった。

・ニュージェネ、メフィラス疑う
当たり前。けどジード(リクくん)やロッソ&ブル(湊兄弟)なら、若さゆえにちゃんと信じることもできるタイプ。エックス(大地)はなんだかんだ立派な大人かつ防衛組織所属なので盲信は絶対にできない。ギンガ(ヒカル)とビクトリー(ショウ)は言うまでもなく、オーブ(ガイ)も風来坊の経験で自活できる点で距離を置くことに。
原作でも後者4名は独自行動していたようなので、こういう解釈になりました。実際の劇中では、推察ですが拠点は星雲荘(リク君所有の宇宙船)だと思われます。お金は稼ぐ必要ある模様。

・使われてる闇、ガタノゾーア関係と確定
ここから打つ手を間違えれば死者多数確定案件となります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ジーっとしてても、染めあげろ!タイガ!!

GW中お仕事で全然筆もソシャゲも進まなかった悲哀。
でもツブイマのギャラファイ先行配信の内容が滅茶苦茶良かったのでまた頑張れます。
オレギアよりもえぐい戦力集めしてるタルタロスェ。オムニバーシアンの戦力もうちょっと弾けても良かったかもしれない。


 

 ─銀河クワトロマーケット前─

 

「やばい、美味しくて止まらない」

「そうだろうねぇ。ですが、らっきょうの食べ過ぎはかえって良くありません、気をつけなさい」

「はい!」

「薤白さん、商品郵送終わりました……君は」

「あらら、良いタイミングなのか悪いタイミングなのか……」

 

 らっきょうの魅力にすっかりハマった新たな犠牲者であるヒロユキ。

 そこに、一見どこにでもいるような青年2人がやってきた。私服だったが銀河クワトロマーケットの店員らしく、業務より戻ってきたところのようだ。

 だが、そんな2人はヒロユキを見るなり足を止める。片や真面目に、片や苦笑を浮かべ、その様子にヒロユキもらっきょうから意識を切り替えることになる。

 

「えっと……どちらさまで」

「俺は湊カツミ。ウルトラマンロッソだ」

「俺は湊イサミ。カツ兄の弟。ウルトラマンブルやってまーす」

「!?」

 

 第一声からぶっとんだ紹介に、流石のヒロユキも面食らう。

 混乱から冗談か何かと一瞬考えるも、疑惑の言葉を述べる前にタイガ達から保証が入った。

 

『間違いない、ヒロユキ。彼らはウルトラマンだ』

『ロッソとブル……兄弟戦士なのは知っていたが、人間態は初めて見る』

『俺と同じ、惑星O-50で力を得た光の戦士達だ*1

「そうなんだ……えっと……」

 

 3人の言葉にはかなり驚かされたが、事実として飲み込めば、今度はこの老人を目の前に正体を明かして大丈夫なのかという疑問がわく。ヒロユキの視線がらっきょう売りに向いたことで、湊カツミは笑顔をみせ頷いた。

 

「この人はウルトラマンではないが協力者だよ。資金繰りの一環で始めたこの銀河クワトロマーケットを手伝ってくれている」

「社長は一応カツ兄です。らっきょうさんは、なんだろ? 出資者?」

「らっきょう売りです」

「アッハイ」

 

 どうやら癖のある協力者らしい。というか愛称がらっきょうさんってどれだけらっきょうに拘ってるんだろうか。呆れるヒロユキだったが、話がそのままらっきょうへ逸れそうになっていることに気付き、再度意識を切り替える。

 

「お2人がどういう事情でここにいるのか話を伺っても?」

「ああ、もちろん。君達の協力も必要なんだ」

「ここでおおっぴらに話すのもあれだから、少し人目のないとこ移動しよっか。らっきょうさん後よろしく」

「わかりました」

「……あっ、ベリアルの力持ってる怪しい奴がいたんですがひょっとしてそいつのことですか!?」

「ベリアル? ……あー、それ違う。それ仲間」

「仲間!?」

「うん、多分それウルトラマンジード」

『すまんヒロユキ、2人がいるなら彼はジードだと思う』

「ちょっ、タイガ? ウルトラマンの力より先にベリアルの力先に感じ取ったの!?」

『いやだってむしろベリアルそのものみたいな力だったし……』

『そもそもベリアルも一応ウルトラマンだろう』

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……というわけで、今俺達は変身能力を失っている状態だ」

「そんなことが……」

 

 流石に場所を移し、人気がない裏手の方でヒロユキは2人から経緯と実情を聞かされる。宇宙人失踪事件については、直接関わっているかの断定はできないが、デザストロ封印後に失踪事件が発生という流れである以上、切って捨てるわけにもいかないというのが彼等の結論だ。デザストロを招来した黒幕そのものの場合、どういう手段をとるか未知数だったのもあり、今まで潜伏していたのだと言う。

 

「迂闊にE.G.I.S.に接触して、目を付けられる危険性の方が高かったからな。偶発的接触か、事態が動いての接触ということでまとまったんだ」

「目を付けられる、ですか」

「いやだってタイガ達がそこにいるのはバレバレでしょ? ヴィランギルドにも君が変身するってわかってたらしいし」

「えっ」

 

 さらっと初耳な事に目を丸くするが、イサミは気にした様子もなく続ける。

 

「デザストロを封印した俺達が狙われるのは言うまでもなかったからね。変身能力取り戻すためだけに早期接触して、特定されるのは良くなかったんだよ。実際、不意打ちで攫われたら終わるし」

「とはいえ、半年……長かった。よく今の今までバレなかったと思う」

「大変だったよね、カツ兄。オーブ達は慣れてるっぽかったけど」

「本当大変だった。この地球、ドンシャインが放送されてないのも辛かった」

「……!?」

 

 ナチュラルに会話に混ざる不審者。ヒロユキの目はもうまん丸だ。

 

「あ、初めまして。僕は朝倉リク。ウルトラマンジード、やってます」

「アッハイ、ヒロユキデス」

「どこ行ってたのさ」

「ごめん、女の子が風船を……」

 

 慣れているのか、初めから気づいていたのか、イサミは気にした様子もなくリクへ話しかけているが、ヒロユキからすると情報をわっと浴びせた上に不意打ちはやめてくれとしか思えなかった。

 凄まじい棒読み対応してしまう程、余裕がなくなっているのを感じる。助けてホマレ先輩!! 

 

『そこで頼られない俺達である』

『是非もないな』

『そっち側だしな……』

 

 ヒロユキの切なる願いはトライスクワッドの面々を地味に凹ませていたが、彼は無視した。自覚あるならもう少し気遣ってほしいものである。

 だが、ヒロユキ以上に無情なのは現実であった。

 

「「「!!」」」

「!!」

 

 全員が表情を変え同じ方向を向く。

 視界には異常は映らない。だが視線の向こうで、なにか粘つくような悪意が、街全体の空気を変えるように広がりだしていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 見晴らしが良さそうなビルの屋上。

 とりあえず感覚で選びはしたが、使い魔達の残滓により汚染した街を一望できたことで内原戸のテンションは一気に高まることとなる。

 彼は生き生きと、先程雑に消費した宇宙人達の血肉と怨念を用い、脆弱な精神の持ち主であれば見るだけで狂気に陥る冒涜的魔法陣を描きあげた。

 陣より一歩外に出た後、彼は陣を形成する古代宇宙文字を呪文として読み上げ、大空へ向かって声を張り上げる。

 

「大いなる闇よ!! 偉大なる貴女の為に、我は饗宴の舞台を整えました!!」

 

「ですが、御身の降臨に必要な糧は、忌々しい結界により今なお運び出せませぬ!!」

 

「それ故、この贖罪と絶望の贄でもって、主賓招来の一助を授けていただきたく!!」

 

 魔法陣が妖しく輝く。蠢くような闇が、ざわざわぞわぞわと陣より這い出る。

 その闇に対し、内原戸は最敬礼を以て出迎えた。

 

「流石は大いなる闇。そうです、貴女様の触手……闇の尖兵でもって障害の全てを排しましょう!!」

 

 内原戸の狂気的な笑い声と共に、這い出た闇は3本の触手を成す。

 それらは獲物を探すように蠢きながら伸び続け、やがて何かを見据えるように動きを止めると、街の上空へ、その先端が突き刺さるように伸び切った。

 

 何かが砕ける、嫌な音が街へ響く。

 

 やがて虚空より、何かを封じた光の結晶が街へ引き摺り下ろされた。

 3本の触手は結界を捕えたまま魔法陣から根元を切り離し、その姿を巨大な怪獣へと変質させていく。

 

「さぁゴルザ、メルバ、ゾイガー!! その結界を存分に痛めつけると良い!!」

「「「■■■■■■■■■───!!!」」」

 

 闇より生じた怪獣達は内原戸の命令通りに、破壊のそぶりを見せながら結界へと攻撃を開始した。

 

「うっかりすぐ壊さないようにしろよ? 壊れるべき場所は海でなくてはならないのだから」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 唐突に街中へ光の結晶が落下したかと思うと、それを明らかに破壊しようとしている3体の怪獣が出現し、街は一瞬でパニックに陥った。

 少しでも危険領域から離れようと逃げ惑う人々とは真逆、ウルトラ戦士達は、冒涜的恐怖にも動じず彼らを睨む。

 

「カツ兄、時間切れみたいだ。あんな直接的手段に移るってことは向こうはもう準備終わってるよあれ」

「みたいだな……ヒロユキ君」

「はい?」

「君が預かっている、俺達の力を返してくれ」

 

 恐らく彼等の変身アイテムであろう、漂白化したアイテムを突き付けられ、ヒロユキは面食らうが、そういえば彼らは変身能力を喪失したと言っていたことを思い出す。

 そして力を取り戻す鍵が自分にあることも彼らは説明してくれていた。リクだけは最後に混ざっただけだが。

 

『ヒロユキ、タイガスパークだ』

「あ、そうか!」

 

 彼等の力。つまりその力を宿したブレスレットだ。

 タイガスパークへ意識を向け、3人に力の返却を念じる。すると、ロッソレット、ブルレット、ジードレットがそれぞれ漂白化していた変身アイテムへと宿っていく。

 湊兄弟の持つルーブジャイロ、リクの持つジードライザーがその色彩と輝きを取り戻した。

 

「よし、行くぞ!」

 

 カツミが代表して行動することに、ヒロユキは僅かながらに対抗心を覚える。

 そもそもなし崩し的にあれこれ話を進められているが、この地球はこの地球に住む皆と協力してくれる宇宙人、そしてなにより自分達トライスクワッドが守ってきたものだ。自負と自信、なにより使命感故に、あまり好き勝手しないでほしいといった稚気が芽生えるのも当然といえる。

 顔に出やすい彼は、あからさまにムッとした様子でカツミよりも1歩前に出る。

 

「僕とタイガなら……」

 

 自分達だけでもやれる。そう言おうとして。

 

「あ、ヒロユキ君」

「なんですかッ……!?」

「その考えで動いて良い結果生んだことなんて一度もないよ」

 

 トラウマの塊が宿っているような目をしたリクに、真顔で実体験を感じさせまくる言葉を置かれ、ストップさせられた。

 

「あ、なんかすみません」

「わかってくれてよかった^^」

「え、イサミ、あれ怖くない?」

「言いたいことわかるけど目の前のことに集中しようか! 皆でやるよ!!」

 

 イサミが場を取り直すことで、3人も意識を切り替える。

 4人は一列に並び、各々ウルトラマンへと至るキーワードを叫んだ。

 

「行くぞ、タイガ!!」『おう!』

「「俺色に染めあげろ! ルーブ!!」」

「ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!!」

 

 

 

Come on!! 

 

「光の勇者、タイガ!!」

 

キュイイイイイイイン! 

 

キュピコーン! 

 

『ハアアアアアアアア!!』

「BUDDY GO!!」

 

Ultraman Taiga!! 

 

 

 

「セレクト! クリスタル!」

 

キュピン! 

 

カチャン! 

 

ウルトラマンタロウ!!

 

「纏うは火! 紅蓮の炎!!」

 

ギュイン! ギュイイン!! ギュイイイイイイン!!!  

 

Ultraman Rosso Flame!! 

 

 

 

「セレクト! クリスタル!」

 

キュピン! 

 

カチャン! 

 

ウルトラマンギンガ!!

 

「纏うは水! 紺碧の海!!」

 

ギュイン! ギュイイン!! ギュイイイイイイン!!!  

 

Ultraman Blu Aqua!! 

 

 

融合(ユー、ゴー)!」

 

ガシャン! 

 

『シェアッ!!』

 

「アイ、ゴー!」

 

ガシャン! 

 

『ハァアッ!!』

 

「ヒア、ウィー、ゴー!!」

 

ギュイン! ドクン! ドクン!! 

 

Fusion Rise!!

 

「決めるぜ! 覚悟!! ジイィィィド!!!!」

 

ウルトラマン ウルトラマンベリアル!!

 

Ultraman Geed Primitive!! 

 

 

 

 ウルトラマンタイガ、ウルトラマンロッソ、ウルトラマンブル、ウルトラマンジード。4人のウルトラ戦士が力強く街へ降り立つ。

 

 敵の襲来に気付いた闇の尖兵たちは結界の破壊をあっさり中断し、彼等へ堂々と対峙した。

 

「グルウルルオオオオオ!!!」

「キイイイヤアアアアアア!!!」

「ギュキョオオオオオオオ!!!」

 

大地を揺るがすもの

超古代怪獣ゴルザ

 

空を切り裂くもの

超古代竜メルバ

 

地を焼き払う悪しき翼

超古代尖兵怪獣ゾイガー

 

 邪悪なる敵意を前にして、ウルトラ戦士達は気を引き締める。

 

「この街でデザストロが復活したら大変な被害になる!! なんとしても止めるぞ!!」

「わかった、俺に任せとけ!!」

「え、ちょ」

「テヤァッ!!」

「ゲギャー!!?」

 

 ロッソの言葉を受け取ると同時に吶喊をしかけるタイガ。虚しく手を伸ばすロッソ。格好良く対峙したのに、タイガの飛び蹴りをモロにくらってぶっ倒れるメルバ。目を瞬かせるゴルザとゾイガー。忠告本当に理解したのか心配になるジード。オーバーに首と手を振って呆れを表現するブル。

 そしてやっと釣れた敵対者を目の当たりにして、屋上で1人興奮しはしゃぐ内原戸。

 

 かくして闇と光の戦いのゴングが鳴り響いた。

*1
(間違ってはいないが、今のロッソとブル、あとウルトラウーマングリージョは力を引き継いだという意味で2代目であり、直接力の継承をしたのは初代達のみ)




超古代怪獣ガルラ「あの内原戸さん、自分の出番……」
内原戸「え、お前誰?」

・超古代怪獣達
超古代に暴れたとされる怪獣たちは大体『超古代』が肩書につくが、ゴルザ、メルバ、ゾイガー達は邪神ガタノゾーアがけしかけた闇の尖兵である。あと上記で出番がない事嘆いてるガルラとかいうのも該当する。
共通点は、ガタノゾーアの貝殻、あるいは甲殻とも言うべき穴の開いた岩石質の部位を一部纏っていること。ガルラとかいうのはなんか全身に纏っていたが。ゴルザもメルバもちょくちょく再登場しており、ゾイガーに至ってはガタノゾーアの尖兵という立ち位置を前面に押し出した登場などでインパクトが強く、この3種は割と知名度あるのだが、ガルラはやった事が怪獣のくせに陰湿だったのもあってか妙に知名度が低い。

・ドンシャイン
『特撮ヒーロー 爆裂戦記ドンシャイン』の主人公。
宇宙精霊アストローニアにより、キラメキパワー(戦隊ヒーローキラメイジャーのキラメイストーンとは無関係)を与えられた戦士。相対する敵役は銀河大盗賊団ヌスットリア。徒手空拳はもちろん、輝光剣シャインブレーダーを使った剣技も魅力的。必殺技はエクスカリバー!!キラメキエクスプロージョン。
リクが育った地球では大人気のヒーロー番組であり、何度か再放送され、Blu-ray化もされている。劇場版は必見らしいので、皆も世界移動して観に行こう!!

・リク君のトラウマ
劇場版ジード参照。簡単に言うと、ヒーローとしての使命感&重圧で全力空回りやらかした結果、ゼロとオーブが死にかけ、敵の侵略を前に無力な時間(変身リキャストが20時間だった。)を味わわされまくったあげく、最終的に目の前で劇場版ヒロインが死んだ。

次回やっと戦闘に入れそうです……。
あれこれ書いてたら1万字使っても戦闘シーン突入どころか召喚シーンまで入らなかったのでかなりカットしました。劇場版でE.G.I.S.メンバー達の出番と役割が半端で終わった理由がよくわかる。構成が間延びしすぎてしまう……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VS ゴルザ

シンウルトラマン公開されて、早く観たい。ネタバレ踏む前に観たい。
絶賛の声にもネタバレ混ざってないか怖いから調べられない。メフィラスがすごく良いという声だけは拾ってる。
ネタバレ回避の自衛をする一方で、ギャラファイ先行配信のネタバレをしないよう自戒する日々。


 

 ─闇の尖兵たちが出現する少し前─

 

 E.G.I.S.社長、佐々木カナ。彼女は現在、単独で動いていた。

 外事X課の依頼を受け、社員たちに指示を飛ばしつつも自ら動いたのは、少し気になる事があったからだ。

 そして動いた結果が今、彼女の足元に転がっている。

 

「うぐぐ……」

「つ、強い……げふっ」

 

 不法滞在している宇宙人達のアジトに情報収集目的で単身突撃。それが彼女の行ったシンプルな調査である。ヒロユキの事などとても言えたものではない行動を取っているのだから笑えない。危険上等の期待に応え、喧嘩腰の宇宙人勢は容赦なく襲い掛かり、案の定乱闘沙汰に繋がった。

 そこまでは想定内だったが、風来坊を自称するクレナイ・ガイ*1という男が助太刀してくれたのである。

 これには佐々木も一瞬混乱したが、すぐに気が合い初対面とは思えぬ連携で、ならず者たちを翻弄、あっという間に伸してしまったのであった。

 

「やるなあんた」

「そちらこそ」

 

 乱闘に割り入る直前に投げ捨てた帽子を拾い、宇宙人達が所有していたラムネをちゃっかり奪ったガイは、勝利の味に浸っていた。佐々木はてきぱきと倒れた宇宙人達を鎖で縛りあげている。手伝ってやれよ。

 

「それで、質問に答えてほしいんだけど」

「な、なんだよ……」

 

 完全に無力化し、縛りあげてからのインタビュー。ならず者から哀れなモブと化した宇宙人達の脳裏に「カナちゃんは天使なんだよ!」と宣う詐欺野郎の顔が浮かんだが、今視界に映るその笑顔は天使ではなく悪魔が相応しいものだった。もはや心は折れている。

 

「宇宙人達が失踪してる件について……貴方達は何をしているのかしら?」

「はぁ? あれは俺らの仕業じゃ……」

「わかりにくかったわね、ごめんなさい。失踪事件に対して、貴方達は何をしているの?」

「「「……」」」

 

 外事X課の佐藤はヴィランギルドが構成員不足だなんだと言っていたが、一枚岩でなかろうが人員不足だろうが仮にも宇宙人の一大勢力が何もできていないはずがない。だから耳が早く、かつ荒事方面で動きやすい面子で揃っているこのアジトに足を運んだのだ。

 佐々木の追及に、モブ宇宙人は無言になる。その表情に苦痛が浮かんでいるのがわかる。答える気がないのではなく、答える事が彼らの傷をえぐることなのだ。

 やがて、苦々しさを隠そうともせず、ため息と共に彼らは答えを吐き出した。

 

「……撤退の準備だ」

「えっ」

「これ以上被害が拡大する前に、出せる金出し合って地球から脱出するのさ」

「お前んとこの社員……ヒロユキとかいう奴が持ってるウルトラマンの力が宿ったブレスレットを奪って転売することで資金調達する案もあったが、立案者のアリアスが失踪する始末だ。おまけに襲撃するメンバー自体が足りてねぇ」

「ただ、消えた連中の残した金をかき集めれば、なんとか俺ら分の脱出資金は整うかもってなってな」

「……」

「俺達の力を転売とか呆れた話が聞こえた気がするが、今はいい。つまりお前さんらは仲間を見捨てて逃げるってことか?」

 

 あまりにも情けない内容を前に、剣呑な気配が佐々木とガイから漂う。

 だがこの反応には、心を折られた上恥を晒す彼等としても看過できない。

 

「誰が好き好んで逃げるもんか!! サリーもクックもディアズも大事な仲間だ!!」

「だが俺達じゃ勝てねぇんだよ!! 意味わかんねぇよあの闇!! あんなのが暗くなる度に襲ってくるんだぞ!! もう裏道1つ怖くて近づけねぇ!! エンケリスの奴なんざ『起こさないでくれ、死ぬほど疲れてる』と言い残したきりだ!!」

「オマケにあんたらが封印したっていうデザストロが復活したら地球がどうなるかわかんだろ!! 悔しいけど逃げるしか……」

 

 彼等は佐々木とガイに心をへし折られたのではない。既に失踪事件の黒幕によって折られていたのだった。

 彼等の怒りと恐怖と絶望が綯い交ぜになった叫びを前に、2人は何も言えなくなる。

 項垂れる彼等からすすり泣きすら聞こえる始末だった。悪党には悪党なりの友情があったらしく、見捨てることも本意ではないのが強く伝わってくる。

 

 悪行上等、喧嘩上等のならず者達。その彼等の蛮勇を残らず削り取った黒幕。絶望の演出家ともいうべきこの悪意には、E.G.I.S.社長として覚えがあった。だが、その該当者は他ならぬヒロユキが『今は違う』と証言してくれている。では誰だろうか? どのような存在だろうか? 黒幕の正体を思考する佐々木を横に、3本目のラムネを飲み終えたガイはじっと空を見上げていた。

 

「どうやら探さずとも、向こうから来てくれそうだ」

「え?」

 

 佐々木が振り向いた時には、既にガイは4本目のラムネを掴んで、歩き出していた。

 

「どこ行くの?」

「……風に訊いてくれ」

 

 キザに決めた彼は空になった瓶を後ろ手で投げ飛ばす。

 ラムネ瓶はアジトに用意されたリサイクルボックスへ奇麗に納まり、佐々木もモブらもその神業に意識が向いてしまう。すぐに視線を戻したが、既にガイの背中はどこにも見えなくなっていた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ギャシャアアアアアア!!!」

 

 ゴルザが猛り狂いながら吶喊する。突進というものは、ゴルザにとっては最も単純にして最も暴力的な攻撃だ。大地を揺るがし、地表にあるものを踏み均し、突撃した相手を破壊する。

 

 ゴルザはどっしりした頑強な四肢と尾を持ちながら二足歩行、太古の恐竜を思わせる凶悪な肉食獣のような目と牙を有した、『極めて怪獣らしい怪獣』だ。全身が岩石のように硬質化し、特に頭部を覆う闇の甲殻は突出した頑強さを誇る。そんな怪獣が、街のど真ん中で道路を踏み砕いてくる。こんなものと対峙すれば通常の者は恐れを抱き、怯むだろう。あるいは、走馬灯すら浮かび何もできないまま身体を砕かれるかもしれない。

 

「ハァアッ!!!」

 

 だが、迎え撃つはウルトラマンジードプリミティブ。彼はウルトラマンベリアルの息子でもある。彼からすれば、このような突進など怯むに値しない。ベリアルとの対峙経験はおろか、生まれて初めての初戦からしてレッドキングとゴモラが混ざった融合獣スカルゴモラだったのだから。

 

 ジードは銀の身体に赤きライン、黒きラインが入ったウルトラマンだ。カラータイマーが丸みを帯びた長方形と特徴的だが、最も目立つのは巨大な青目だろう。所謂長方三角形に近い、凄まじい目つきの悪さであり、これのせいで第一印象が悪くなる事がとても多い。

 

 強面の怪獣と強面の巨人が、相撲のように激しくぶつかり合う。何も知らない人が見たら悪VS悪にみえるかもしれない光景だ。

 凄まじい音と衝撃波が余波となって発生し、互いの踏ん張りで地面が噴火したかのように土石やコンクリートが噴き上がった。

 ゴルザの剛力にジードは警戒を高めるが、ゴルザは突進を受け止められた事実に驚愕する。7万トンに迫る肉体が全力でぶつかり、壊せないものなどあんまりない! という自信と事実、他の同種個体が築いてきた実績が否定されたのだから。

 

「グルオオオッ!!」

「タッ! ハァッ!!」

 

 驚愕をそのまま憤怒に変え、ジードの体を地に沈めようと剛腕を振り下ろす。だが、ジードはそれを容易くいなし、爪で荒々しく切り裂くようにゴルザの胸部へカウンターを決める。

 怯んだところで力強い膝蹴りを打ち込んだ。その重い一撃に、ゴルザは思わず一歩後ずさり、苛立ったように唸り声を鳴らした。

 

「テェェイッ!!」

「!?」

 

 だが、それはジードに対して晒した隙でしかない。

 仕切り直しの暇も与えず、ゴルザの懐に潜り込むと重い連撃を立て続けに叩き込み、苦し紛れに放たれた蹴りも回避、軸足になってる方へ逆に蹴りを入れ、ゴルザは派手に横転した。

 

 プリミティブはジードの基本形態でありバランスに優れたものだが、非力ではない。単純なスペックデータで言えば、腕力10万トン級、握力6万トン級だ。ウルトラマンタイガが腕力6万トン級、握力4万5千トン級であり、フォトンアースになって初めて腕力で並び、握力を1万トン分上回れると言えばジードの優れた素質を理解できるだろうか。

 だがゴルザとて簡単に負けるほど弱いわけではない。ゴルザの恐るべき能力は怪力だけではない。

 

「グオオオオオオオ!!」

「クッ!?」

 

 横転したまま、ゴルザの額から強力な超音波光線が発射される。

 容赦ない追撃を加えようとしていたジードだったが、紫色の光線となって放たれた超音波を受け、両腕で防いだもののそのまま吹き飛ばされてしまう。

 

「グルァア!!」

 

 ゴルザはそのまま超音波光線を地面に勢いよく照射。極振動により軟化したところを超高速で潜航する。

 この見た目でありながら、ゴモラ同様に地中へ潜る事、掘り進むことを得意としているのだ。ジードが態勢を整え追撃を仕掛ける前にゴルザは街に大穴をあけ、姿が見えなくなっていた。

 都市インフラ復興を考えると単にビルを崩されるよりも最悪な迷惑極まる行為だが、地底から出現する怪獣はやたらいる為、怪獣世界の人々も慣れているからなんとかなるだろう(だから大丈夫というわけではない)。

 

「やられた、どこに……?」

 

 地面の振動こそ感じるが、出現ポイントが読めない。

 かつて同じように地面潜航戦略重視で動いていたアリブンタに対し、タイタスは強い苦戦を強いられていた。

 しかしそれは、地面に立って待っていたからだ。

 

「よし。ハァッ!!」

 

 ジードはあろうことか、地底怪獣達の本領場である地底に自ら飛び込んだ。入り口ならとっくに怪獣が用意してくれているのだから問題はない。

 無論、地下基盤破壊を拡大させる意図はない。寧ろゴルザによる拡大を阻止する為に速攻で地上へ跳ね上げる目的だ。

 またしてもスペックデータの話になるが、ジードプリミティブは水中潜航速度がマッハ1.5。地中潜航速度もマッハ1.5である*2。硬い岩盤ならまだしも、怪獣が通った後の土砂など、水中を泳ぐに等しい行為だ。

 

「みつけた!!」

「!!?」

 

 驚いたのはゴルザである。地中より不意打ちの機会を伺いつつ、周辺のエネルギーを吸収しパワーアップを図るつもりだったのだ。

 ゴルザという個体は、機能拡張性に優れており、生存さえすれば戦闘経験を活かした強化を図ることができる。過去の個体も、ティガに敗れた後は逃走し、霧門岳の地下にてマグマをふんだんに取り込み、パワーアップしている。この街は内原戸がばらまいた闇の使い魔の残骸で汚染されており、闇の尖兵であるゴルザには有利に働いている。地底エネルギーの吸収効率を高めることができるのだ。

 だからこそ、安堵しきっていたとも言え、潜って追いかけられるなど想像の外であった。過去の同種個体も、地底まで追ってくる光の戦士とかいなかったはずだ。なんなんだこいつ。てかなんでこっち視認できてるの? 

 

「捕まえた!!」

「グオ!?」

 

 逃走する前に尾をとんでもない力で握られる。

 好きなようにやらせるものかとゴルザは怒りのままに溜め込んだエネルギーを放出し、引き離しにかかる。だが、先ほどより強力な超音波光線を受けたにもかかわらず、ジードの手は離れない。

 困惑する中、光線によって消し飛んだ土の向こうより現れたのは、先程とは全く違う姿だった。

 

Ultraman Geed Magnificent

 

 ウルトラマンジードマグニフィセント。

 強大なる力を秘めた崇高な戦士とも評される形態に変化したジード。ウルトラの父、ウルトラマンゼロのウルトラカプセルを起動して変身するこの姿は、アイスラッガーのような鋭利さを宿した2本の巨大なウルトラホーンと、上半身を覆う頑強なアーマー、そしてゼロを彷彿とさせる青が基調となった素体に、赤、黒、銀のラインが入っている。アーマー越しからもわかる、タイタスが思わず讃えそうな筋肉はベリアル相手にも殴り負けすることはない。

 スペックデータで言えば、今のジードが振るう腕力はなんと15万2千トン級。ウルトラマンタイタスの腕力15万トン級を上回るのだ。

 

「メガスウィングホイッパー!!」

「ゴギャアアアア!!?」

 

 ゴルザが掘り進めた穴の中で強引に体勢を作り、踏ん張りが効かなくなるより前に剛腕だけでゴルザの身体を引きずり出し、打ち上げる。

 ジードを引き離すために超音波光線を連続照射したことが仇となった。すっかりほぐされ柔らかくなった周囲を、自らの身体で容易く砕きながら投げ飛ばされる羽目になる。

 

「このまま地表まで叩きだしてやる!!」

 

 打ち上げたゴルザに向かってエネルギーを宿した拳のラッシュが始まった。新しい穴を作る気もない。逃亡に使った穴から追い出すまでだと、猛攻の嵐だ。

 本人はいたく真面目かつ被害軽微を意識して戦っているわけだが、地上視点ではジードが潜ってから怪獣の悲鳴と地響きが連続して発生する異常な状態である。

 各々戦っているタイガ達もちょっと気になるレベルだった。目の前に敵がいる為、流石に穴を覗くような馬鹿な真似はしなかったが。

 

「ゴギャアアアア!!」

「ハァアッ!!!」

 

 一際大きな地響きが起きたと思うと、穴から外皮がボコボコになったゴルザが吹き出すように飛び出してきた。

 続いて、マグニフィセントが後を追う様に飛び出てくる。

 ジードはゴルザをそのまま地面へ落下させる気などなかった。

 

「メガボンバーダイナマイトォ!!」

「!!?」

 

 飛行加速しながら、宙を舞うゴルザへ、両腕を叩き込む。

 膨大なエネルギーが込められたその一撃を前に、ゴルザの肉体は耐えられなかった。

 派手に爆散し、ジードの身体を素通りさせていく。

 

「……闇の因子ごと、焼き尽くせたかな。よし!」

 

 ゆっくりと降り立つジード。

 終わってみれば圧勝であったが、これは彼の成長故だろう。

 父親を越え、ヒーローとしての試練を越え、トレギアの悪意を越えた彼は、大いなる素質を今この瞬間も成長させ続けているのだから。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……闇の因子を消し去っている? 此方の思惑に気付いているのか」

 

 面白くなさそうな顔をしているのは屋上でリアルタイム観戦している内原戸だ。

 ゴルザが倒されたこと自体は別に問題ない。なんなら3体とも負けたところで支障はない。

 既に彼らは釣れている状態で、内原戸の目的を達するであろう確信があるからだ。

 しかし、ゴルザが爆散して本来まき散らされるべき闇の因子が消失しているのは面白くない。彼らが此方の魔術を理解していることになるからだ。

 

「あんな強引な結界しか作れない奴らが、わかるものなのか?」

 

 順調なのに、嫌な違和感が纏わりついてしまう。

 巨大使い魔を倒された時点で計画を補強修正したのはやはり正解だったのだろう。

 その上で、それで十分かを改めて考える。

 

「すべて見通していたなら、そもそも計画を途中で止めに動くはずだろう。贄が集まりきった事が奴らがろくにわかっていない証明」

 

 偶然といった方がしっくりくるかもしれない。あいつらは光の戦士なのだから、闇の因子に気付いたら消却するのは自然な事。

 此方の思惑を理解しておきながら、宇宙人達が生贄にされていくのを見過ごしていったり、使い魔を雑に消しているなど、光や絆を金看板にする連中の思考ではないだろう。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それならばきっと自分の同類だ。こっちに悪ノリ感覚で味方する類のはず。

 

「やはり今のままで十分だろう。闇の因子を更にばら撒く事は叶わずとも、計画に支障はないのだから」

 

 内原戸の計画は完璧である。デザストロ招来を成功させている時点で、後は結果を引き寄せるだけなのだから、当然だ。準備を完了させたら勝ちという計画の基礎を彼は外していない。そこに悪意や残忍性を発揮させているだけだ。

 トレギアの計略を楽しみながらも児戯と見くだし嘲笑い、並行同位体たるトレギアが起こしたウーラーの顛末を反吐でもって反応する彼は、トレギア以上に悪辣かつ残酷といえる。

 ただ、彼に弱点があるとするならば、敵と見做している相手が光の戦士だけであり、その他すべてを、ただの盤面上の駒と見做している事だろう。

 

 計画成就の瞬間を期待しつつ、再び口元で怪しい弧を描きながら、内原戸はメルバが撃墜されていくのを眺めるのだった。

 

 

*1
(O-50という惑星がある宇宙出身の宇宙人。出身惑星は不明。その正体はO-50よりウルトラマンの力を授けられ、光の戦士として戦うウルトラマンオーブである)

*2
(知ってる人は知っているが、空中、水中、地中で音速はそれぞれ違う。だがウルトラマンも空中進むより地中進む方が早いなんてことはないだろう。だったらゴモラ涙目である。そこで本作ではこのマッハはあくまで地表空中における音速と定義させていただく)





メルバ「前回から自分、良いとこなしなんですけど!!?」
内原戸「一番捨て駒描写合う怪獣だからしゃーない」

最初から強化されたゴルザにすべきだったかもしれない。
でも正直、この時のジード達本当に強いからなぁ……。ティガと戦ったゴルザの方が強そう?あいつはマジで超古代から長生きしてた個体だから……。

・社長とガイさん
劇場版では結構派手にダンス(バトル)していたが、大分カットしました。
内原戸が黒幕かつ宇宙人たちを粗雑に扱っている為、今回のヴィランギルドは完全な被害者枠。名前は適当につけてます。内原戸に襲われなくてもメイトリクスとかいうのにいずれ消されてそうな面子だが気にしてはいけない。
原作ではグリムド復活を察して、ヒロユキからタイガスパークを強奪して転売、その金で地球脱出する計画を立てていた。
襲撃犯にはなんかグリムド信者もいたが、あいつはなんで襲撃にいたのだろうか。

・単純なスペックデータ
よくある設定だけで当てにならないタイプ。今の初代ウルトラマンを、登場当時のスペックデータで語るウルトラマンオタクはいないように、あくまでも初登場時の参考程度にしかならない。今のタイガも腕力はあがっていることだろう。だが、こういうスペックデータは読んだり比較するだけでも妙に楽しいから困る。

・超音波光線
いや、本当にこういう名前だからしょうがない。色は紫色なんで多分闇の波動とかそんな性質はありそう。封印とかあっさり消し去ったし。


・地中戦
ぶっちゃけ、現在だと地下空間みたいなところで第2ラウンド演出が一番やりやすいから、極端に狭いであろう怪獣が掘った穴からの追撃戦を書いてみた。
正直、描写不足でわかりにくいだろうなぁと思ってます。じゃあなんでわざわざこんなの書いたかっていうと、スペックデータに地中速度とかあるからですよ!!
いや確かに地下への移動とか全くないわけじゃないけど、なんの為にあるんだこのデータ。どっかで実際に試したんか?
特撮としてこの場面を描くなら、ゴルザが逃げた穴にジードが飛び込む→カメラは地上を映したままゴルザの咆哮、超音波光線音、変身音、殴打音、地響き連続。やがて穴からゴルザが飛び出して、マグニフィセントも続けて飛び出す。みたいな演出でしょうね。ギャグかつスーツ変更要素に使えるから。
ゴルザの頭部は開閉式で地中で閉じるという設定あるけど、本作では使われてません。ガボラと被るし。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VS ゾイガー

うっかり予約投稿しくじったからもう投稿しておこうのスタイル。


 

 

 ─首都警視庁・公安部『外事X課』本部─

 

 

 怪獣出現の報告を受けた外事X課は慌ただしい。怪獣そのものへの対処、一部避難誘導等は防衛組織の役割だ。しかし、この地球では怪獣と宇宙人が密接な関係にあることがしばしばある為、背景にヴィランギルド所属の宇宙人を始めとする黒幕がいないかの調査も同時進行で行われる。

 そう、同時進行である。怪獣が暴れる区域にてアクション映画さながらの捜査を要する現地職員からは「俺達はどっかのゼロの執行人じゃねーぞ!!」と嘆き節が漏れたが、誰も制止すらしていないのが全員の心情を示していた。

 こんな始末なのでE.G.I.S.に頼る回数が多くなるわけだが、彼等の立場からすればしょうがないと答えるしかないだろう。

 

 そんなE.G.I.S.と直接のパイプ役を担当している佐倉警部は、急遽確保した応接室(宇宙人用に可変式チェア等が用いられている)に急ぎ足で向かっていた。

 

「行方不明になっていたグローザ星系人が見つかったのか?」

「ええ、重要な報告があるとして今此方に」

 

 行方不明になっていた正規入国宇宙人3名のうち1人、グローザ星系人が突如警視庁正面へ出現したのだと言う。あまりに急だったため、その際は応対トラブルもあったようだが、向こうが入国パスポートを提示しながら害意がない事と、至急伝達したいことがあると訴えており、今はその部屋に案内されている。

 

 佐倉が応接室へ入ると、1人の宇宙人が座って待っていた。氷の外骨格を思わせる冷たい銀色の全身に、頭部に特徴的な角。間違いなくグローザ星系人だ。付き添ってきた同僚には記録係を命じ、応対に入る。

 

「お待たせしました。改めまして、対応させていただきます。警部の佐倉です。半年前正規入国された『グローザム』さんですか」

「ああ、俺がミフジノ・グローザムだ。まずは謝罪させてほしい、迷惑をかけてしまった」

 

 テーブルを挟んだ向かいの椅子に腰かけながら話しかけると、早々に頭を下げてきた。

 開幕謝罪から入る宇宙人など、数多の宇宙人と接してきた佐倉でも中々ない経験だ。

 だが彼は、正規の手続きを踏まえ(不法入国ルートなど腐るほどある中)、厳正な審査の上で入国してきた宇宙人だ。地球人にとって好ましい作法を心得ているのは当然だろうと意識を改める。

 

「いえいえ、こうして無事であった事と、ご足労いただいたことに安堵しております」

「……感謝する」

 

 気にしていない対応を取ると、ようやく頭を上げたグローザムは、その青く輝く眼光を強める。

 目が光る宇宙人にありがちな、感情の昂りを示すものだ。これで行方不明案件または怪獣出現と無関係な内容はありえないだろうと佐倉は内心で決め打つ。

 

「本来であれば順を追って、此方から質問を設けたいところですが、今は貴方の本題を優先しましょう」

「話が早くて助かる。俺がこうして姿を現したのは他でもねぇ、ヤツが表立って動き出したからだ」

 

 ヤツ、とはまた曖昧な言い方だが、怪獣騒ぎの元凶ということぐらいは察せられる。

 佐倉は頷いて続きを促した。

 

「お前さん方もとっくに把握しているだろうが、ヤツは宇宙人達を攫ってその血肉を用いたバカげたことをしようってハラなのさ。今出現してる怪獣達もヤツの手先だ」

 

 グローザ星系人の言い回しは、少なからず此方の情報把握レベルを確かめる類だ。

 幸いにして、外事X課にとっても既知の情報だったので期待に応えるよう頷く。

 内心ではE.G.I.S.に頼って良かったと己の判断にガッツポーズしているが。

 

 調査依頼を出してしばらくしてから、E.G.I.S.から宇宙人を攫っている犯人は魔術を扱っていると報告を受けており*1、佐倉はそれを踏まえて現地協力者に魔術痕跡調査を依頼していた。霊能系アイドルYoutuberとかアレな肩書だったが、実力は本物であり、怪獣出現報告の10分前には『ヴィランギルドアジト跡地の1つに、不気味な魔法陣と夥しい血の跡がある』と調査結果が入っている。その際、使い魔による襲撃もあったようだが撃破したそうだ。元々既に複数個体撃破済みだったと言う。最近の若い子は強い。

 

「入国審査時にも開示しているが、俺は元々、銀河警察とも言うべき宇宙人組織の1人でな。ヤツのことは元々追っていたんだ。正規入国してしばらく足取りを追っていたんだが、俺以外の正規入国者が消えたのを知って、身の危険を感じたので勝手ながら雲隠れさせてもらっていたわけだ。そちらの組織に手が及んでいる可能性を、その時は捨てきれなかったんでな。重ね重ね、其方の迷惑になって申し訳ない」

「ああいえ、何度も謝らなくて結構です。当然の判断でしょう」

 

 協力者の事を思い返していたら、また頭を下げられてしまった。気にしないで欲しいとグローザムを労わる佐倉だが、記録係の方は、信頼されていなかった点や、黙って好き勝手された点に関して少々不満げである。

 

「今の怪獣はやはり?」

「ああ、ヤツの仕業だ。ヤツの目的は地球に留まらない。宇宙そのものを崩壊させかねない悍ましい破滅願望だ。雲隠れしている間に、俺は俺なりに対抗手段を用意した。だが俺1人では限界がある。どうか協力してくれ」

 

 今まで此方を頼ってくれなかった事は残念だが、彼は彼なりに努力と調査をしていたことは理解した。

 彼が逆に全ての黒幕という可能性も考えたが、合理性に欠けていることぐらい佐倉にもわかる。もとより元ヴィランギルドの宇宙人だろうが、信じるべきとみれば、信じて協力したのが佐倉という人間だ。

 己が信じるべき相手を間違えたことはなく、相手の本質を間違えた事は滅多にない。

 

 このグローザ星系人も『善人ではないが、使命に偽りはない』ぐらいはわかっていた。善人ではない理由など言うまでもない。銀河警察を自称し、事件の一端を把握しておきながら、身の危険を感じたからといって説明なしに蒸発するなど善人であってたまるものか。ヤツとやらを潰すために此方を利用してきているというのが本音だろうというのは読み取っている。

 だが、自分達外事X課が守るべきものたちを、守れるならば何も問題はない。代償に地球崩壊とか起きるなら叩きだすつもりだが。

 

 佐倉は笑顔を作り、グローザムへ手を差し出す。

 

「……わかりました」

「佐倉さん!?」

「宇宙規模となると実感がわきませんが、地球人と宇宙人が手を取り合う未来を、そして地球を守るのは私達の使命です。時間がないのでしょう? 私達が何をすればいいのかまず教えてください」

「ありがとう地球の勇気ある方々よ!」

 

 佐倉の手を、グローザムは感極まったように力強く握り返す。

 此方へ気を遣っているのだろう、グローザ星系人にしては随分と冷たくない手だった。

 

「では、まずこれを……」

 

 グローザムは1つ1つ、テーブルへ丁寧に金属製と思わしき何かを並べていく。

 

「……これは?」

「1つは『闇』に対する防衛起動装置……残りは、街を守る正義のロボットといったところか」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「カツ兄! 右!!」

「っとぉ!?」

「ギャシャアアアアアア!!!」

 

 街の上空にて、ロッソとブルはゾイガーと激戦を繰り広げていた。

 

 超古代尖兵怪獣ゾイガー。

 二足歩行に尾をしならせるタイプの怪獣で、竜を思わせる口と赤目を持った頭部、両腕は長く伸びた二本指を持っている。何よりも特徴的なのは蛾を思わせる色彩の翼だろう。

 この翅とも言うべき翼でもって、信じられない程の高速移動を行うのだ。

 

「ギュオオオオオン!!」

「あぶな!?」

「あっ、くそ! また避けられた!!」

 

 ゾイガーは目で追えない程の超高速で飛び回り、相手のどちらかが己を追尾できなくなった瞬間を不意打ち気味に攻撃するという、堅実な戦法を取っている。

 2VS1という状況でも、ゾイガーは互角に立ち回っているのだ。大いなる闇が尖兵としてメインに据えるのも頷ける性能と言えるだろう。その限界速度は不明ながら、かつてティガのいる地球に出現した個体はマッハ8.5を誇るガッツウイング試験機(スノーホワイト)ですら、逃亡時単独で追いつくことは叶わなかった。

 2人が苦戦しているその背景で、タイガから変わったフーマにより撃墜されたメルバがいるが気にしてはいけない。彼は彼なりに頑張っている。単にマッハ6の超スピードであっても、今善戦しているゾイガーすら優に超える、マッハ15を叩きだすフーマが相手ではどうしようもなかっただけだ。

 

「おっと、あっちやるじゃん。あんまり後輩の前で格好悪いとこみせてらんないね」

「正直活動期間で言えば俺らの方が後輩だと思うけど」

「そこはほら、フィーリング?」

 

 そして、苦戦中でも妙にコミカルさが抜けない2人である。余裕と解釈してもいい無駄口だが、事実2人は大きなダメージは受けていない。

 ゾイガーが口から吐く火球は連射性に優れ、地上都市を焼き払うには十分な威力を誇っているが、地味に耐久力や回避力のあるロッソとブルにヒットアンドアウェイでちまちまぶつけるには火力不足なのも事実であった。

 

「カツ兄、併せてくれる?」

「任せろ」

 

 飛び回るゾイガーに向かって、ロッソは空中にいる癖にオーバースローの構えを取る。そのまま爆裂光弾、ストライクスフィアを投擲。あっさり回避されるが、欲しかったのはその回避動作、一瞬を求める牽制だ。

 

Ultraman Blu Wind!! 

 

 ウルトラマンティガの力を宿したティガクリスタルでブルが紫色のボディへと姿を変える。

 穏やかにして峻烈な風のエネルギーを十全に扱えるこの形態は、消耗が激しい代わりに強力だ。スペックデータで言えば飛行速度はマッハ7.6と未だゾイガーに及ばないが、そんなものは力の一片に過ぎない。

 紫電の疾風とも言うべき凄まじいエネルギーを内包した爆風を、ブルはその両手にかき集めていく。ゾイガーは、危険を感じ取り攻撃よりも回避を意識して離れるが、1手遅かった。

 

「ストームプレッシャー!!」

 

 回避すら叶わない広範囲の暴風がゾイガーの身体を絡めとり、その動きを鈍らせる。

 どれだけ速度が早かろうと、止まってしまえばそれは脅威ではない。ブルのストームプレッシャーは、それこそ風の力を本領とした怪獣であろうと逃げられない凶悪な拘束技なのだ。

 そしてその隙を逃がすロッソではない。

 

「もう一発!!」

 

 暴風環境下でもストライクを決める制球力を以て再度放たれたストライクスフィアが、ゾイガーの片翅に炸裂し、抉り取った。

 

「ギエエエエエ!!?」

 

 悲鳴をあげて落下するゾイガー。浮かび上がること叶わず、そのまま地面に派手に叩きつけられた。街中だったので車などが激しく飛び上がっている。怪獣の落下はなるべく街から離れたところでやりましょう。

 

「よっと」

「一気に仕留めるぞイサミ!」

 

 ロッソと、形態をアクアへと戻したブルが地面に降り立つ。

 高所からの落下だったが、ゾイガーは戦闘不能というわけではないようで、怒りのままに立ち上がっていた。もはや機能しても意味のない、無事だった片翅を鬱陶しそうに触っている。

 

「ギャシャアアアアアア!!」

「「!!?」」

 

 次の瞬間、ゾイガーはその翅を勢いよく引きちぎった。別に癇癪での自傷行為ではない。

 彼は闇の尖兵であり、その役割は文明を破壊し、闇の敵対者を討ち滅ぼす事にある。得意の空中戦が望めなくなったならば、翅を千切った分身軽になって格闘戦を挑んだ方が良い。そういう判断であった。

 こういったゾイガーの習性について、知っている人は今更驚くまでもないだろうが、ロッソとブルは初見である。面食らうのも無理はなく、それは手痛い隙となった。

 

「シャギャオオオオオオオ!!!!」

「ぐはぁ!?」

「イサミ!! うわっ!?」

 

 地上においても俊敏性は一切失われていない。街ビルを縫うように吶喊をしかけてきたゾイガー。壁蹴りのようにビルを派手に蹴り飛ばし、勢いのままドロップキックでブルを大きく吹き飛ばした。

 そのまま立ち上がりつつ器用に尻尾をロッソの足に引っ掛け、転倒させる。倒れ込んだところに火球の連続発射だ。ロッソの肉体を爆炎が埋め尽くす。

 

「カツ兄!!」

「グルォオオオ!!」

「ぐっ!?」

 

 兄を援護するべく、すぐに復帰して突撃してきたブルの攻撃を片手でいなし、そのままその二本指でブルの首を挟み込む。メルバに勝る飛翔力、ゴルザに負けない怪力。それらを備え持つのがゾイガーだ。

 加えて判断力も優れていると言えるだろう。だが、それは決して特化しているわけではない。

 ロッソフレイムに火球攻撃を連射したところで、決定打にはなり得ないという部分に彼は至らなかった。爆炎に消えた存在より、ブルを絞め殺すことに意識が傾く危うさに気付くことがなかった。

 

「おい、どこみてやがる」

「!!?」

 

 爆炎から突き出されたのはルーブスラッガーロッソ。二本の短剣が頭部に直撃し、ゾイガーは大きく吹き飛び倒れ込む。

 解放されたブルは喉元を抑えつつ、無事だったロッソの隣に並び立った。

 

「無事だったんだね」

「いや、相殺してたから爆炎起きてたんだよ」

「なるほど」

 

 こうなってしまっては詰みである。ここから更なる格闘戦になど持ち込むつもりは2人にはない。

 ロッソフレイムが紅き炎を、ブルアクアが蒼き水流を両腕に纏わせる。

 

フレイムアクアハイブリッドシュートォ!!! 

 

 ロッソフレイムのフレイムスフィアシュート、ブルアクアのアクアストリュームの同時発射による合体光線。

 凄まじい威力と化したエネルギーの奔流を前に、ゾイガーの肉体は木っ端みじんに消し飛ぶのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「やはり闇の因子は消し去られているか……」

 

 ゴルザとゾイガーが破れ、なんかメルバがタイタスにタコ殴りされているのを眺めながら、内原戸はぼんやりと呟く。

 だが、既にジードとロッソ、ブルが結界に辿り着いてなんとかできないかと動いている様子には満足気だ。

 

「街中で解放してしまえば、この街全てが原子の塵と化す。だが、結界の再補強は、闇の尖兵たちが崩壊を後押しし、中にいるデザストロの抵抗によってもはや不可能……貴方達は此方の思惑通り、その結界を海へと運ぶしかない」

 

 加えて、戦闘後でエネルギーを多少消耗した上での移動。活動時間はどこまで減っているだろうか。

 結界が崩壊した直後に、あの光の戦士たちを一網打尽にして絶望を広げ、大いなる闇による宴が始まる。

 わざわざ此方が労力を強いて結界を移動させたりしなかった理由がここにある。全ては闇による蹂躙劇をより楽しく演出する為だ。闇の尖兵3体で、光側のエネルギーを削ってしかも儀式完成の補助行為まで繋げるなど、自分の発想を只管に讃えたくなる。

 

 高揚を促す自画自賛と、まだ見えない、しかし間近に迫った確定した未来を前に内原戸の気分は上向く一方だ。

 そんなところへ、文字通り邪魔な存在として、内原戸がいる屋上に飛び込んできた者たちがいた。

 

「見つけたぜ」

「お前が黒幕か?」

「野郎、ぶっ殺してやらぁ!!」

 

 ウルトラマンギンガもとい礼堂ヒカル、ウルトラマンビクトリーもといビクトリアンのショウ、ヴィランギルド所属イカルス星人のベネット。

 この激闘を前に呑気に屋上で観戦している異常者を嗅ぎつけた3人は、浅黒い肌を持つ怪しげな男に辿り着いた。

 蔑むように、彼等へと視線を向ける内原戸。その口元は口角が吊り上がっている。

 

「こっちも釣れたようで、本当に幸先がいい」

 

 未だ残っていた魔法陣が、妖しく輝いた。

 

*1
(ヤバい使い魔と道路破壊しながらカーチェイスした点と、武器不法所持問題で叱る羽目にもなったが)




ゴルザ「俺達の希望はお前に託す」
ゾイガー「進め!超古代竜メルバ!!」
メルバ「!?」

・ゼロの執行人
なんかどっかのニュータイプみたいな声してるカッコいい公安所属の人。
ある世界では小さくなった名探偵と、組織犯罪に立ち向かったりしてるが、この世界にもちゃっかりいる。
宇宙人相手ではないが、公安の前線における要として頑張っている模様。

・グローザムとか名乗ってるグローザ星系人
言うまでもありませんが悪質宇宙人です。グローザムとはそこそこ仲が良かったのか、ゴーストリバースでもそこそこ掛け合いしているのがみられる。
なお終盤はグローザム捨て駒につかってギガバトルナイザー奪う所業を見せた模様。

・霊能力者アイドルさん、外事X課に協力する
タイガ本編7話8話に出た、天王寺藍のこと。タイガがフォトンアースになる直接のきっかけを見せながら、その後は特に出番がなかったのがちょっと勿体ない。自身の能力と向き合っているので、このぐらいしていると解釈。

・ゾイガー戦
ちなみにさらっとメルバがボコられてますが、ゾイガー戦をトライスクワッドが受け持った場合、フーマがゾイガーの翅千切って、落下したところをタイタスがタコ殴りにすれば倒せます。地味に一番苦戦するのはタイガである。

・内原戸の狙い
普通にガタノゾーア呼び寄せるのではなく、絶望により至りやすくするために策謀を練ってる。どうあがいても自分の思い通りに繋がっていくタイプの計略が好み。
ちなみに結界移動とかできませんとウルトラ戦士達が口にしていたら、内原戸は大焦りしながら必死に結界移動の術式構築に勤しむこととなります。

・イカルス星人ベネット
なんか紛れ込んでる。ヴィランギルド構成員たちの多数は心をへし折られているが、こいつは数少ない折れなかった構成員。
なお、別に示し合わせたわけでもないのでヒカルもショウも見て見ぬふりしてるし、内原戸も内心「なにこいつ?」と思ってる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

VS メルバ

シンウルトラマンえがった……



 

 ゴルザとゾイガーを撃破し、デザストロが封じられてる結界である光の結晶へ駆けつけたジード、ロッソ、ブル。3人は、結界の惨状に頭を抱えていた。

 7人の変身能力を代償にして生み出した輝きは、内部から無数のひび割れが発生していた。デザストロが出てくるまで一刻も猶予がない。加えて、起点とも呼ぶべきポイントを闇が侵食しており、もはや時空の狭間へ押し戻すことも補強も不可能な状態だった。

 

「クッソー、俺達の技術と知識じゃもうどうにもできない。エックスさんがいたらなぁ、あの人補強得意そうだし」

「いや、ここまで傷ついてたらどうしようもないと思う。どうする? この場でデザストロを抑え込むか?」

「ダメだ、それだと街が大変なことになる! 壊れるのが防げないなら、せめて移動させよう!」

「山? 海?」

「海しかないよカツ兄! 3人なら運べると思う!!」

「運んだあとが怖いが、今はそれを考えている場合じゃないな。やろう!」

 

 3人のウルトラ戦士は、光の帯を両手より生み出し、結界へ何重にも巻きつける。

 そのまま、慎重に、それでいて迅速に海へと運び出していく。

 

 内原戸の思い通りに。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 屋上にて対峙する、闇の権化と光の権化。あとイカルス星人。

 闇の権化はにやにやと嘲笑い、光の権化は歯を食いしばったまま睨んでいる。イカルス星人はなにやら喚いている。

 

「いや、いやいやいや。まさか此方が何の意図もなくこの場に居続けていたとでも? 半年間此方の感知から逃げていたとは思えない程の幼稚さだ。罠と気づかずにのこのこと現れるとはね」

「なに、確証を得ただけでも来た価値は十分あったさ」

「知っているかな。情報を得ても伝えないまま死ねば、抱え落ちと言うんだよ」

「くそったれ! てめぇなんか怖くねぇ!!」

 

 ヒカルとショウ、ついでにイカルス星人は魔法陣より出現した無数の闇の触手に囚われていた。

 最初は回避と撃退を繰り返していたのだが、内原戸が呪文を重ねると身体の動きを鈍らさせられ、そのまま捕縛されてしまったのだ。イカルス星人は特に回避もできずにとっ捕まっていた。何しに来たんだこいつは。

 

「君たちが光の戦士ということかな?変身もせずに接近するとは軽率極まる。此方にとっては大変都合が良くて助かるよ」

「大層な評価をどうも」

「大きな光は影を生むが、大きな光が消えた後に生じる闇の方がとても良い。君達2人が消えて生じる絶望は最高だろうな」

「目的はやっぱり地球の、いや宇宙の滅亡か!」

「少し違うな、強いて言えば尻ぬぐいだよ。あの愚かな蒼い巨人のね」

 

 絶対的優位にあることで、内原戸は上機嫌な様子を隠さない。あとナチュラルにイカルス星人をハブっている。

 語りたくてしょうがないといった様子で、ショウの問いにも、にこやかに答えている

 

「トレギアのことか……尻ぬぐいだと?」

「あいつのシナリオには期待していたが裏切られてね……もっと拗れて絶望を演出して、最後は双方破滅に至るようなそんな結末だと思っていたのに、何がウーラーを救いたかっただくだらない。だから、自分で演出することにしたんだ。大いなる闇ですべてが消費され消滅する素敵な結末をね」

 

 オーバーに両手を広げ、結末を想像したのか恍惚ともいうべき笑顔を浮かべる内原戸。

 トレギアの事を語る瞬間だけ、その笑顔は消えていたが。

 

「苦労したんだよ? 地球人達は脆弱であまり足しにならないうえ、数も多いくせに不自然な行方不明者が出ればすぐに捜索してくる面倒な群れだ。1万人の地球人より100人の宇宙人を贄とした方がずっといい。だから消えても困らない不法入国した宇宙人達をターゲットにして、慎重にかき集めた」

「「……」」

「テメェを殺してやる!! 許さねぇ!!」

「結果としてそこの変な奴が出てくる程度には恨まれたがね。こいつらもどうせ大いなる闇によって消え去るんだから気にする事ではないが」

「ちくしょうがああ!! そのボールぶっ飛ばしてやる!!」

「下品な宇宙人だな、地球人と大差ない。だが贄の追加は歓迎するとも。楽器は消耗品だからね」

 

 触手を捩じ切ろうと暴れるイカルス星人を鼻で嗤いつつ、内原戸はゆっくりとヒカルの前に近づいた。そのまま右手を翳し、まるで探査するかのようにその全身を確かめていく。その不気味な笑顔が、僅かに崩れた。

 

「……間違いなく光の戦士かと思ってたのだが。変身を司るであろう光のエネルギーを感じ取れないな?」

「ハッ、俺らを何も知らないのはマジっぽいな」

 

 ここぞとばかりに挑発するショウ。強気な態度と裏腹に、ヒカルが何やら調べられている際は気が気でなかったのだが。変身アイテムを奪おうとしていた魂胆を見抜いて、今では安堵すらしていた。

 2人の変身アイテムであるギンガスパークとビクトリーランサーは、今は漂白化しており力そのものはない。内原戸が気が付かないのも当然だった。

 

「ふん、今までのやり取りでお前たちが光の戦士に属するのは間違いない。単なる人間なら、人質に使うのも面白いな」

「思い付きだけで動くとロクなことにならんぞ」

「ご忠告どうも。生憎既に計画は完了している。後はお遊びに過ぎない」

 

 ショウの更なる挑発に乗ることなく、内原戸は戦場へ意識を移す。結界は順調に運び出されており、いよいよ絶対的闇の化身が君臨する時が迫ったことに興奮する。そして、とっくに爆散していると思っていたメルバが意外にも生存している事に気が付いた。

 

 正直、本命が迫っている中で今更残っていてもしょうがない存在というのが内原戸の本音である。メルバの有効活用は何かないかと軽く思考し、ふと思いつく。闇の因子が勿体ないな、と。ならば使えるようにするべきだろう。

 ショウの善意による忠告なぞ、彼は最初から聞く気はなかったのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 メルバは激怒した。

 必ず、かの邪知暴虐の召喚主とウルトラ戦士をぶちのめしてやらねばならぬと決意した。メルバには駆け引きがわからぬ。メルバは、闇の尖兵である。文明を破壊し、無辜の命を弄んで暮らしてきた。けれども、邪悪に対しては、怪獣一倍に敏感であった。

 

 ゾイガーと違い、攻撃にも使えるほど鋭利かつ巨大な被膜。鳥のように鋭い嘴も、相手を切り裂くことのみを考えた1対の巨大爪も、メルバの攻撃性の高さを表している。後はこれらの鋭利な武器たちでもって、マッハ6の猛スピードを活かし対象を散々に甚振る、トドメは両目より放つ破壊光線『メルバニックレイ』により仕留める。ゴルザやゾイガーも強力な同胞だが、攻撃力においては負けていないとメルバは思っていた。

 そこにあるのは闇の尖兵としての自負と誇りだ。輝きに繋がる全てをズタズタにして絶望を滲ませるのが己の絶対的使命である。

 

 だというのに、先に自分が絶望したくなる程理不尽な目を受けているのはどういうことだろうか。既に退場した2匹の同胞よりも今の自分は酷い目にあわされている。

 初手不意打ちを食らい、空中戦に持ち込んで報復してやろうと思えば、自分よりも数倍早い別のウルトラ戦士がしゃしゃり出てきてボッコボコにされ墜落。その後は筋肉モリモリマッチョマンの変態みたいなウルトラ戦士にファイティングポーズ決められながら顔面を殴られたのだ。許せるものではなかった。なんか召喚主も最初から捨て駒みたいに認識してるようでもはや視線すら感じない。何様のつもりだあの無貌野郎。

 

「ギャシャアアアアアア!!!」

「フン!!」

「ゲギャアアアアアアア!!?」

 

 怒りのままに大爪スラッシュクローでもって、タイタスを仕留めんとするが、拳のカウンター一発で何度目かもわからぬ吹き飛びを経験する。

 

「そろそろトドメだ!!」

「!!?」

 

 タイタスから高エネルギーの収束を感じ取り、メルバは更に怒りのアクセルをベタ踏みした。このままではなにも成せずに終わってしまう。そんな無様な真似は絶対に許せなかった。

 別に先に散った同胞を想っていたりはしない。闇に属するものとして、今まで踏みにじってきた脆弱なる存在と同じ目に合うなど認められないという邪悪な本能だ。

 

「アストロビーム!!」

「シャアアアア!!」

「なに!?」

 

 だから避けられる。

 初速で最高速度に匹敵する技巧でもって、致命的一撃を回避するメルバ。そのまま一気に上空へ舞い戻った。

 このまま飛び回っていてもフーマにより再び己が地に堕とされるのは明白。だがタイガ、タイタス、フーマはそのボディチェンジにどうしても1拍の間がある。その間を与えてはならない。

 だから、この上空にあがったのは、逃げる為ではない。

 

 相手を滅ぼす為だ。

 

「ギュオオオオオオオオオオオ!!!!」

「うおおお!?」

 

 凄まじい衝撃音が街に広がった。

 錐もみ回転しながら、全身全霊でもって急降下突撃という単純にして凶悪無比な攻撃。ゴルザの突進とゾイガーの高速軌道を両立させられるのは己だけという自負が編み出した必殺の一撃。

 

 スクリューダイブ。

 

 両腕の爪を合わせて2倍のパワー! いつもの2倍高度で4倍パワー!! そして一度もやった事がなかった回転を加えることで、タイタス!! 貴様を越える20万トン級パワーだ!! 

 声が出せるならそんなことを叫びながら、空を切り裂く闇の矢と化したメルバ。そんな意味不明な事を闇の尖兵が考えているなど知る術もないが、回避不可能であることを悟ったタイタス。正面より受けて立ったが、その勢いは余りにも強い。その剛腕でもって掴み受けて回転ごと抑え込もうとするも、衰える気配がなかった。

 

「ギュオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

「オオオオオオオオオッ!!!」

 

 押し切れると確信し、タイタスのカラータイマーを撃ち砕かんとするメルバ。剛力を更に高め、ねじ伏せんとするタイタス。

 そしてついに、メルバの両爪がタイタスの胴体へと到達する。

 

「!?」

「敵ながら天晴。だが賢者の腹筋は貫けない!!」

 

 回転が止まる。カラータイマーを狙っていたはずなのに、いつの間にか矢の先端たる両爪はタイタスの腹部に食い込んでいた。だがそこ止まりだ。貫けてはいない。

 両腕だけでは難しいと理解したタイタスは、その剛腕を矛先をずらす為に振るった。己が絶対的に自信を持つ、筋肉の鎧に。果たして結果は筋肉の勝利だった。

 

「フン! ハァ!!」

「ゲギャ──!!?」

 

 動きを止めた刺さってもいない矢など、もはや恐れるに値しない。タイタスの力強い拳がメルバの顔を打ち抜いた。

 地面を転がる竜にはもはや逆転の目はない。憎悪を籠めた眼で、倒せなかったウルトラ戦士を睨むばかりだ。せめて一太刀と、最後の一撃に意識を傾けたその時。

 

『まだ生きてたのか。ならお前にはやることがある』

「!?」

 

 メルバの脳内に召喚主の声が響いた。

 あれだけ諦めずにいた怪獣が、ビクリと動きを止めたことに、タイタスも訝しみ追撃を止めてしまう。

 

『ゴルザもゾイガーも、抱えていた闇の因子を滅されてしまってな。お前の因子まで消されるのは勿体ないだろう?』

「!!?」

「なんだ!?」

『おいおい!?』

『これは……!?』

 

 突如、メルバの肉体がボロボロと崩壊していく。崩れた場所から闇そのものともいうべきナニカが零れ落ち、街へと染み込んでいく。

 何が起こったかを理解しているのは、内原戸を除けばメルバだけだ。

 

 贄でもって呼び出した闇の尖兵である己を、更なる贄へと消費している。

 

「ギャシャアアアアアアアアアア!!!」

『大いなる闇の糧になるのに何をそこまで怒るのかな』

 

 これまで以上にない屈辱的扱いに怒り、断末魔のごとき咆哮をあげるも、召喚主である内原戸は嘲笑うだけだ。言っている事は理解できる。闇の尖兵である自分は、大いなる闇が世界を絶望でもって支配、消費する為にあるのだから、僅かでも役に立つならば問題はない。

 

 だがこんな扱いを受けるならば、話は別だ。ガタノゾーア本神の意思なれば、寧ろ誉とばかりにその身を差し出すが、ただ湧いて出たような別の闇に呼ばれた挙句、捨て駒にされるなど耐え難き屈辱であった。もとより仲間意識など欠片もないのだから。

 

『何を抵抗している? 大いなる闇の尖兵である貴s──』

「キュオオオオオオオオオオ!!」

 

 メルバは激怒した。

 必ず、かの邪知暴虐のクソ召喚主をぼてくりこかさねばならぬ(古代ラパ・ヌイ語)と決意した。メルバには駆け引きがわからぬ。メルバは、闇の尖兵である。か弱き命を蹂躙し、死と破壊と退廃を好んで暮らしてきた。けれども、邪悪に対しては、怪獣一倍に敏感であった。

 

 己の肉体が完全に崩壊する寸前に、メルバの両目より放たれたメルバニックレイは、容赦なく内原戸がいた屋上へと撃ち込まれたのである。

 

 ビルごと木っ端微塵に吹き飛ぶ様子を見て、メルバは満足気に肉体の全てを闇へと還すのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「くそがああああ! なんだあいつは!! 大いなる闇もロクなもんよこさねぇ!!」

 

 瓦礫の山から忌々し気に姿を現す内原戸。その口から出てくるのは、余裕を感じさせない惨めな罵倒であった。メルバの攻撃が的確に内原戸へ向かったため、彼はとっさに防御へと走らざるをえなくなった。瞬間的に守れるのは我が身だけであり、結果としてビルごと崩落することとなる。

 ビル崩落により魔法陣が崩れた為に触手が維持できず消失。せっかく捕えた3人も容易く逃がしてしまうことになり、内原戸にとってはメルバは完全な裏切者だった。先に実質裏切ったのは内原戸本人だとは露ほどにも思っていない。

 

「フー……どうせあいつらは単なる人間と雑魚宇宙人。崩落に巻き込まれて死んだに違いない。ならば今は本命の為急いだ方がマシだな。切り替えよう」

 

 結界は既に海へ到達している。後は崩壊に併せて儀式が作動するのを見届けるだけだ。メインディッシュ直前にとんだ迷惑を被ったが、いつまでも引きずっていては楽しめない。

 思考を切り替えた内原戸は闇に身を溶かし、転移を始める。その姿が完全にかき消えた後、中空に異次元の穴が開いた。

 

「プハァ」

「悪いな、助かったぜ」

「気にするな、同じ敵の敵は味方だ」

 

 異次元の穴より出てきたのはイカルス星人ベネット、ヒカル、ショウ。

 イカルス星人は四次元空間に関する技術が極めて高い種族だ。このベネットも異次元コントロール装置を保有しており、緊急避難や盗聴目的で使用していたが、今回それが活きていた。崩落で自由になった隙に、装置を起動してヒカルとショウと共に四次元空間へ避難していたのである。

 

「それでも礼を言いたい。ありがとうな」

 

 イカルス星人にはあまりいい思い出が無く、救われるのはなんとも複雑な気分なヒカルだったが、彼はより良い大人へ成長して久しく、過去のイカルス星人とは完全に割り切って礼を述べていた。過去のイカルス星人と同じく変な奴とは思っていたが。

 

「しかし、お前にとってもあいつは敵なんだな」

「ああ、仲間の仇だ。メイトリックスよりぶち殺したい野郎が出てくるなんて思いもしなかったぜ。ま、この四次元技術がなかったら対峙する前にイカれた化け物に攫われていただろうがな」

 

異次元コントロール装置を握りしめる彼の瞳には、後悔と憤怒が混じっている。

捕まっただけで力を行使できなくなる闇の使い魔からも、彼は四次元空間へと逃げていた。あまりの異常性と恐怖から、安全が確保されるまで潜んでいたが、いざ戻ってみれば、そこには憔悴しきった僅かな同僚達。闇の使い魔は多くの仲間を攫っていたのである。

彼は激昂した。心を折られて地球脱出を図る仲間達を労わりつつも、彼等に着いていくことはせず、復讐を胸に単独調査を開始したのだ。結局、内原戸が表舞台に立つまで辿り着くことはできなかったが、ようやく見つけた敵を彼は逃すつもりはない。目的も顔も知れたし、同じくヤツを追う存在を把握できただけでも値千金だと認識していた。

 

つまり単独調査そのものはほとんど身を結んでいなかったわけだが、本人は気にしていないし、ヒカルもショウもそんな実情までは知らないのでお互い協力しあえる存在に出会ったぐらいにしか考えていない。

 

「ともかく犯人の顔は割れた。俺はこの情報を一度ヴィランギルドに持ち帰る。次はぶっ殺してやるぜ」

「気を付けろよ。あいつはただものじゃない。それに宇宙ごと滅ぼす気満々のイカれた奴だ」

「ああ、あいつが相手じゃそこらの構成員だとただのカカシだからな。奴にガキでもいたら攫って誘い出すんだが……まぁいい、じゃあな」

 

 悪趣味なジョークを吐いて、イカルス星人ベネットは再び四次元空間へと姿を消した。ヒカルとショウからすれば、自分達の調査で擦りもしなかった宇宙人だったので唐突に出てきた以外の何者でもなかったのが本音だったが、彼は悪党でも味方になりうるとも感じている。少なくともメフィラスよりは信用できると考えていた。らっきょうおじさん涙目である。

 

「ショウ、街はどうだ?」

「闇の性質をもったエネルギーがだいぶ染み込んでるな。浄化したいが、変身できない今は無理だ」

 

 ヒカルの問いに、ショウは険しい表情で答える。メルバに宿っていた闇の因子は、完全に街へ染みわたってしまったようで、これがどう悪影響に繋がるのかわからないのが困り種だ。

 

「もっと聞き出せれば良かったんだけどな」

「ああ、ただの自慢したがりだったのがわかったから、誘導もしやすかっただけに惜しかった」

 

 容易く捕まってしまったが、2人は半分わざと捕まっていた。既にエックスもとい大地には伝達済であったし、変身できないだけでウルトラマンとしての力を無理矢理行使することはできた。その為、脱出チャンスは作れると、2人は焦っていなかった。もっと限界まで情報を引き出しておきたかったのが本音だったが、メルバは結果的に内原戸の失態を防ぐ結果に繋がってしまったようだ。

 内原戸本人は欠片もそんなこと思っていないようだが。

 

「こうなった以上、急いでタイガ達から力を返してもらわないと」

「……そういやタイタスはどこに?」

 

 ふと、気が付けばタイタスの姿がない。

 メルバの消滅に併せて、既に飛び立ってしまったようだ。おそらく、ジード達の元へ。

 

「不味いな」

「一度撤退するという考えを持ってくれたらいいが」

 

 デザストロだけでも、全員でかかる必要があるだけに、戦って消耗した彼等だけで果たして何とかなるだろうか。

 最悪の事態だけは避けてほしいと2人は願わずにはいられなかった。




タイタス戦にしたせいか、妙にキン肉マンネタが多かった。
次回、復活ガタノゾーア
デザストロ「あれ、俺は?」


・内原戸、語る。
暗躍大好きな奴って喋って良いんだ!ってなると滅茶苦茶舌回るよね。こいつもそういう奴です。
ずっと慎重でいた反動で、自分の策略とか暗躍を自慢したくてしょうがなくて、結果めっちゃ情報を落とすタイプ。

・メルバ頑張った。
赤き竜の面目躍如。実は大怪獣バトルやバトルブリーダーズではそこそこ上方修正されていたりする。後者では回避力がえげつないことになっているので、タイタスの技を回避させたりしました。フーマ相手だと避けられる、タイガ相手だとフォトンアースになられたらあの鎧を撃ち抜けるか怪しい、よってタイタス相手に突撃するのは正しかったが、賢者の筋肉は思った以上に硬かった。
結果的に闇の因子を消却させずばらまいたことで3匹の中では一番仕事してる。一番頑張ったのに一番可哀想な感じになったけど。

・ベネット頑張った。
マジでプロット上存在しておらず、モブ宇宙人でコマンドーネタ使った事から関連づけて出オチで出していた。当初は内原戸の残忍性出すために、ヒカルとショウの目の前で撃ち殺される役回りだった。
けど内原戸は遊ぶタイプだったので、キャラ行動により合うように動かしたら結果的に生存したどころか、ヒカルとショウを助けたり、ヴィランギルドに情報持ち帰り成功する活躍に。単独調査してたとか勝手に背景も生えてきた。メイトリックスも吃驚。

・古代ラパ・ヌイ語
ラパ・ヌイ語はイースター島で使われる言葉。古代ラパ・ヌイ語は現在もほぼ未解読の絶滅言語。初代メルバが眠っていたのもイースター島である。

・イカルス星人にはいい思い出がない
元々、顔より巨大な大耳に微妙に魚っぽい面構え、髪の毛ともみあげと顎髭と胸毛が融合したような謎の剛毛と中々インパクトある宇宙人だが、ヒカルが想起していたのは「イカカカカ」「イ~カ~イッカカカ~」「復讐してもイ~カっか?いいんか?ええのんか?」など変な笑いするうえに濃すぎる台詞をぶっ放すイカルス星人のこと。タイラント解説回に混ざったり、タイラント顕現の為に暗躍したり、人質取ったり、大分暴れていた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

降臨、ガタノゾーア

最初に謝っておきます。デザストロごめん。


 

 

 ジード、ロッソ、ブルは街を抜け、港を抜け、かつてウーラーが落下したポイントも通過する。

 海なら被害を抑えられると言っても、港が目の前なら意味はない。同時に、自分達の活動限界時間も考えなければならなかった。

 

「デザストロと再戦するにしても、これ以上の移動は無理だ。ここで解放しよう!」

「仕方がないね……負けるにしても時間稼ぎすらできないのはゴメンだし」

 

 結界内で、仮に期待する以上に弱っていようと相手はデザストロ。連戦で勝てる保証などなく、ロッソとブルは冷静に敗北も視野に入れる。強豪怪獣相手に敗戦から始まった事など一度や二度ではない。次に繋がる負けなら、その負けの価値を高める意識を有していた。

 2人の判断に、ジードも頷く。

 

「負ける気は毛頭ないけど、僕達が負けても、タイガがオーブ達に力を返せば最後は勝てる!」

「美味しいところ持ってかれちゃうのなんかやだけどね。でも、黒幕が何かしてくるに決まってるから戦力分けは大事だし」

「……ところで。俺達、ちゃんとその辺タイガ達に説明してたっけ」

「「あ」」

 

 一瞬、時が止まる。

 元来であれば細かな作戦込みでヒロユキに伝えるはずが、闇の尖兵達により思わぬ戦闘になっていた。つまりタイガ達は現状把握程度しかできていない。

 

「やばい!! ジード、今すぐタイガに伝えてきて!?」

「待って結界!! もう結界崩れる!!」

「ってあそこに見えるのタイガか!? 待ってくれタイガ!! 一度戻っ……」

 

 ピシリ。

 

 結界に致命的亀裂が走る。土壇場で馬鹿なやり取りしていた3人にキレたようにも思える断裂音。破砕音。次の瞬間にはジード達が巻きつけた光の帯ごと、破壊の暴風が全てを吹き飛ばした。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 結界が消失し、光しかない地獄の世界が終わった。視界が開けば、美しい青と蒼が飛び込んでくる。吹き飛ばされて体勢を崩している、憎きウルトラ戦士達の姿もあった。

 目指していた目標、憎き敵。その全てがもはや己の能力範囲内にある。気づけばデザストロは歓喜の咆哮を地球全体に響かせていた。

 

 

 ──今からこの星を宇宙の塵にしてくれる。

 

 

 歓喜に包まれたまま、圧倒的破壊衝動に意志を上乗せする。暴虐の一言で済ませていいものではないが、デザストロにとってそれは日常であり、生態だ。理不尽そのものであり、だから彼は怪獣なのである。

 

 怪獣はただの生物とは違う。怪獣と定義されしものの多くは、理不尽が命を宿した存在だ。

 規格外の巨体は、ただ存在するだけで山を崩し、河の流れを変え、数多の動植物を屍へ変えていく。街に現れれば、いびきだけでも社会に強い悪影響を及ぼす。ただ巨大なだけでも、その巨体を当たり前のように維持するだけでも世界に喧嘩を売っていると言っていいだろう。怪獣とはそういう存在だ。

 

 そして、怪獣の中でも異能を有する存在は更に上を行く。まだ理解できる範疇に収まる異能ならばマシであり、怪獣(規格外)中の規格外は、もはや権能とも呼ぶべき事象を発生させ、概念すらも書き換えていく。

 

 デザストロは、そんな怪獣としてはトップクラスの存在である。超空大凶獣の異名を持つこの怪獣は、宇宙の災厄そのものと呼んでいい。次元を歪ませる異次元嵐を発生させながら、星々をまるで飴玉を噛み砕くように破壊していく。デザストロが漂う先にあるもの全てが滅びの運命を通達されるのだ。なんか似たようなの割といるのは気にしてはいけない*1

 

 しかもこの怪獣、明確に知性を有しており、敵対者に容赦しない。別宇宙に転移してもなお地球を執拗に狙うのも、元々の進行ルートであったことに加えて、ウルトラマンエックスと交戦したからだ。彼が何を守る為に絶対的破壊者である自分に喧嘩を売ったかを理解していたデザストロは、地球を明確な目標として定めることにしたのである。結果として、デザストロはそのエックスを始めとするウルトラ戦士達により一度滅ぼされたのだが。

 

 しかし何の因果か蘇った以上、デザストロは決めていた。

 地球を必ず滅ぼすと。結界などに封じられたせいで随分とおあずけを食らったが、もはや関係ない。今から全力で異次元嵐を発生させ、一瞬で地球を粉々にしてくれる。

 宇宙そのものを崩壊させうる程の力は、エネルギーの多くが結界の影響で消耗させられた為難しくなったが星の破壊など造作もない事だ。

 

 

 ──己を滅ぼせなかった貴様らの敗北は決まっていた!! 

 

 

 封じられている間も煮詰めていた怒りと復讐心を、歓喜でもって解放する。焦るウルトラ戦士達の声などもう聞こえない。勝利を確信したこの瞬間こそ、デザストロの感情が最高潮に達した時でもあり。

 

 

 終わりでもあった。

 

 

 怪獣は理不尽が命を宿した存在だ。

 デザストロはその中でも群を抜いた大怪獣だ。

 だが、理不尽そのものが顕現した邪神はその上をいく。

 

 

 ──!!?? 

 

 

 違和感に気付いた時には何もかもが遅かった。

 もし、デザストロが解放と同時に逃げ出していたならば、まだ生存の目はあったかもしれない。だが、それは彼にとってありえない選択肢であり、つまりこの結末は覆せない運命でもあった。

 

 およそ100mを超えるデザストロの巨体を、飲み込み覆うように海より闇が吹き出した。無数の触手が海面を突き破り、デザストロの外皮に値するものも容易く貫く。加えてデザストロの全身を闇で浸食していき、彼の肉体を構成する高純度エネルギーを吸い上げ始めた。

 

 歓喜を示していたはずのデザストロの咆哮は、瞬く間に絶望のものへと塗り替えられる。

 

 

 ──ウルトラ戦士達に敗れるならまだしも、こんな末路の為に蘇ったわけじゃない。

 

 

 そんな嘆きは誰に伝わることもなく。

 彼の肉体が海の底へ吸われていく。彼の権能が海の底へ飲まれていく。彼の野望が海の底へ溶けていく。彼の感情が海の底へ貪られていく。彼の意識が海の底へ消えていく。

 

『役割御苦労』

 

 全てを愚弄するような嘲笑が、デザストロが最期に知覚できたものだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「なんだよ、これ……」

「「ッ……」」

 

 ウルトラ戦士達が絶句している中、デザストロの全てが消滅した。気づけば青い海は黒く澱んでおり、闇が次々と産声をあげている。元来ならすぐに何でもいいから行動を起こすべきだった。だが、呆けるのも無理はないだろう。異常事態にして最悪の事態を前に、ウルトラ戦士達ですらその強靭な精神を揺さぶられたのである。

 

「!!」

 

 それは致命的とも言える硬直だったが、それを跳ね返すのもまた光の戦士だ。

 最初に動いたのはジードだった。

 

「危ない!!!」

 

 蠢く闇と触手には敵意ある前動作などなかったが、直感が死の警鐘を鳴らしたが故の判断だった。ジードは、ロッソとブルを守る為バリアを貼る。殆ど同時といったタイミングで、闇と同化した海面から2本の怪光線が撃ちだされる。拮抗は一瞬であり、それは瞬く間にバリアごとジードを撃ち抜いた。

 

「ジード!!」

 

 爆炎と火花が散り、ジードが力なく海へと落下する。

 落ちてきた果実を前に容赦なく闇と触手が取り込もうと蠢くが、間一髪のタイミングでブルがジードの身体を掴み、抱え上げた。続けてロッソが牽制として火球を投げつけ、辛うじて3人ともデザストロの二の舞は避ける。

 

 だが、対処できただけで危機的状況に変わりはない。強靭な肉体を持つジードが一撃で満身創痍に追い込まれた以上、一度引いて体制を立て直すか、自分達が殿を果たすしかない。

 

「な、なんなんだこれ!? 闇……!?」

 

 このタイミングでタイガが3人の元へ辿り着く。要たる存在が一番最悪なタイミングで最も危険な場所に辿り着いてしまったが、同時に撤退へ舵を切る最大のチャンスでもあった。ロッソはブルへアイコンタクトを取り、ブルは迷いなく頷く。殿は自分達の役割だと。

 

「タイガ! ジードを連れて逃げろ!! ここは俺達が引き受ける!!」

「なっ!?」

「お前達が捕まったら全て終わる!! 頼むぞ!!」

 

 動けないジードを強引にタイガへ押し付け、ロッソとブルは闇たる海面へ構えを取る。一番撤退しそうにない若さを持ったウルトラマンだが、ジードを見捨てる事は決してしない。説得の手間を省きつつ、確実に撤退させるロッソの判断だった。

 敗北どころか死の覚悟すら固めなければならないと2人が緊張を高めた時。

 

『いえ、貴方達も逃げなさい。殿とは、要がやるものではありません。一度引いて、体勢を立て直してください』

 

「「「「!!!」」」」

 

 聞き慣れた、らっきょう売りの言葉が4人の脳内に響き渡った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 崩落したビルから転移した内原戸は、人の奇跡を愚弄するように海上に立っていた。

 可能な限り近くで闇の君臨を見届けたいのもあるが、ウルトラ戦士達の絶望を目視したかったからだ。

 

「おいおいおいここからだろ絶望は。なんで逃げるんだ」

 

 それ故に内原戸は困惑していた。

 予定通りに大いなる闇が降臨し、その姿を浮上させようとするタイミングで何故かウルトラ戦士達が一斉に撤退したからだ。光線直撃したぐらいで逃げの一手を打つなど想定外にもほどがある。彼のイメージでは、一番絶望的なタイミングでガタノゾーアが出現、彼等を瞬殺し地上に絶望を与える流れだったのに出鼻を挫かれた気分だ。

 

「何が光の戦士だ、買いかぶっていたようだな」

 

 無謀に突進する愚かさを期待していたが、脆弱な弱腰だと嘲笑する。

 だがこれはこれで、世界が大いなる闇にじわじわと蝕まれていく様を堪能できるというものだ。

 

「大いなる闇よ!! 今こそ愚かな生命達に拝謁の機会を設けさせる時!! 矮小なる光の戦士達は愚かにも逃亡を選択しましたが、逃げ場などない事を知らしめてやりましょう!!」

 

 内原戸が声高に叫ぶ。それに応えるように、闇に染まった海面に巨大な赤い眼光が浮かんだ。

 

 

バァオオオオオオォォォォォォン……

 

 

 全生命体に原初の恐怖を呼び起こす声が響く。

 宇宙1つ崩壊させるほどの膨大なエネルギーと、数多の怨嗟と絶望の贄を依代に君臨した邪神ガタノゾーア。

 逃走しているウルトラ戦士達が思わず動きを止めてしまうほどの、圧倒的闇の降臨に内原戸は大笑いする。

 

 大波を起こしながら、ついに邪神が海面より姿を現す。

 

邪神

ガタノゾーア

 

 

 外見としては3体のアンモナイトが結合したような外殻、甲殻類を思わせる8本の脚と鋏状の腕。そして無数の触手。

 これだけならば、古代生物モチーフの怪獣でしかないが、一番特異なのは頭部だ。無数の鋭利な牙を生やした口、その下顎に赤い両目が輝いている。ただでさえ嫌悪感と恐怖を抱く造形だが、この頭部が反転したものではなく、あくまで目が下についている異質さに気付いた時、更に正気は削られていくだろう。

 これが全長200mの巨体である上に、全ての闇を支配し邪神として君臨しているのだ。脆弱な知的生命体であれば、姿を見ただけで精神を永続的な狂気へ送られることになる。

 

「さぁ大いなる闇よ、絶望の闇でこの星を覆いましょう!! ははははははははは、どうだトレギア!! これが虚無へと至る絶望のシナリオだ!! 勉強になっただろう!!!」

 

 高らかに笑い、計画成就の快感に身を委ねる内原戸。だが、どこまでも笑い続けていただろうその喉は、彼の脳内に念話が届いた瞬間停止した。

 

『やっと出てきましたか。ではまずは分析といきましょう』

「は?」

 

 あまりに唐突な演出妨害。ガタノゾーアの前に、どこから来たのか小さな輝きが3つ降り立つ。

 

『小手調べでどこまで行くか、ですかね』

 

 輝きは一気に膨れ上がり、やがて海に巨体が3つ出現した。

 

ロボット怪獣

ビルガモ

 

宇宙竜

ドラゴドス

 

ベリアル帝国機兵

レギオノイド

 

「ウィーンウィーン」

「キャシャーン」

「ベリアルヘイカバンザーイ」

「……」

 

 何が来るかと思いきや、現れたロボット怪獣達。

 内原戸は口を開けたまま放心し、ガタノゾーアもちょっと困ったかのように触手を蠢かせ、既に街の向こうへ消えてしまったウルトラ戦士達を残念そうに見送っている。

 

『ゆけいビルガモ! ドラゴドス! レギオノイド! 東京の海を滅茶苦茶にしろ!!』

「……ふざけるなああああああああ!!!」

 

 文字通りふざけきった謎の宇宙人による妨害を前に、一拍遅れて内原戸はハデに切れた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 避難の為、すっかり人気のなくなった港にて、グローザ星系人が海の向こうを睨みつける。

 沖合の海は黒く染まり、上空も不気味な暗雲が渦巻き始める異常事態が発生していた。なにより、遠くからもガタノゾーアの巨体がはっきり見えている。大きさに限りドラゴドスは負けてないが、他2体がゴミのようだ。

 だが彼等は彼等で仕事を果たしてくれるだろう。欲しいのは、あのガタノゾーアがばらまくシャドウミストの性質と性能だ。分析さえ済ませれば、外事X課に渡した本命のロボット達もより良い効果を発揮できる。過去のデータ通りかどうかを確かめるのは肝要だ。あれはデザストロと無数の宇宙人の屍肉で降臨しているのだから。

 

 のこのこと最前線に現れてくれたおかげでようやく標的を断定、特定できたのは僥倖だ。おかげで対象の反応や性格もよりわかりやすく分析できるというもの。

 

「ここからはしばらく私と黒幕の頭脳戦、ですかね。より悪辣な方が一手勝る……面白くなってきましたねぇ」

 

 グローザ星系人の姿が蜃気楼のように歪み、やがてメフィラス星人としての姿を取り戻す。

 外事X課で必要なやり取りを終えた以上はグローザ星系人で居続ける必要もない。もっと変身に長けた者に任せるべきだろう。

 

 混沌皇帝より預かった怪獣リングの1つを指で弾きあげる。

 リングが輝くと、メフィラスの前に1人の宇宙人が現れた。銀色の頭部と胴体が一体化し首や肩が消失している、吊り目が特徴的な宇宙人。ザラブ星人だ。

 

「ザラブ、グローザムに変化できますね?」

「造作もない」

 

 ザラブの身体に可視化した電磁波のようなエネルギーが走ると、先程メフィラスが変じたグローザ星系人そっくりの姿へと彼は変わっていた。

 グローザム本人並の冷気は再現不可能なはずだが、若干の冷気すら纏っているように見えるのは、流石というべきだろう。

 メフィラスは満足気に頷くと、続けて指示を出す。

 

「現状作戦通りです。外事X課とは基本通信機でやり取りしますが、適当なタイミングでグローザムは戦死させます。見栄えの良い死にざまを命じます」

「中々無茶を言う。派手な偽装死は簡単にできることではないぞ」

「ザラブ星人達の文明破壊工作実績を私が知らないとでも? ザラブ工作員が戦死した事例などほとんどがウルトラ戦士絡みでしょうに」

「評価はありがたいが、私が得意な工作は催眠や電子戦よりも破壊工作だ。エオマップのアンドロイドがいるから電子工作は露見リスクが高いのだが……」

「変身能力を有し、私の作意を理解して動ける同胞は貴方しかいないのですから期待していますよ」

「……すべては皇帝の望むままに」

 

 かくして悪質宇宙人と、悪辣な破綻者との戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

*1
(ツイフォン、ルーゴサイトなど。それでも全く困っていないのが宇宙とかいう意味不明な巨大空間である)




デザストロ取り込みとジード撃墜で絶望演出高めておきながらいざ登場すると早々に陳腐な対応されてしまう邪神さん。


・デザストロ、結局どういうやつだったのかわからないまま素材に使われる。
本命ガタノゾーアだからしゃーない。少なくともティガ本編以上の存在として君臨してもらわないと意味がないので、最高の素材が必要であり、それが「高エネルギー体」「次元を歪ませる異次元嵐」「地球を狙う宇宙怪獣」「驚くべき正体がある」なデザストロが最適解だったという。
本作で描かれたデザストロの描写は基本的に独自解釈と独自設定ですので悪しからず。個人的には、驚くべき正体が判明!って部分は人間みたいな姿だったとか、暴走する光だったとか、実は苦しんでたとかな気もするんですが、それ全部他の怪獣達がやったことなんで二番煎じにしかならんのですよ。なのでシンプルに巨悪でいきました。ウルトラ戦士よりねっとり絶望させてしまったのはなんかごめん。

内原戸「■のターン!■は『邪神の残り香』と『宇宙人の血肉』を融合し『デザストロ』を召喚する!そして使い魔トークンを全消費することで墓地より『宇宙人の血肉』を特殊召喚!儀式魔法『邪神降臨─ガタノゾーア─』を発動!『宇宙人の血肉』『デザストロ』を生贄に現れよ!!『邪神ガタノゾーア』!!!」

・一番絶望演出できるタイミングで茶々入れられる闇の陣営。
メフィラス「させるわけないでしょう、相手の演出重視する暇あったら此方の演出重視しますよ」
意図的。メフィラス的には別にタイガ達がガタノゾーア目視して敗北するまで放置しても面白かったのだが(死な安論)、めっちゃ調子に乗る内原戸を視界内に入れたら全く面白くない未来が見えたのでウルトラ戦士達説得して逃走させた。作品的には内原戸の意図通りな演出した方が盛り上がる事例(最後に勝つならと、とことん絶望を演出させる名作たち)あるのでそうしたかったが、本作は別に終始シリアスな作品というわけでもなければ、基本キャラが勝手に動くのでメフィラスがそう動いた以上は止められなかった。

・ビルガモ
帰ってきたウルトラマン第41話『バルタン星人Jrの復讐』に出てくるロボット怪獣。建設中のビルに忍び込んだバルタン星人Jrが魔改造して作った。大きな目とブリキ人形のような見た目があって可愛い。バルタンの趣味かな?
人質作戦込みとはいえ、ウルトラマンジャックを撃ち滅ぼす自信満々のロボットだったらしいのだが、鈍重そうな見た目と挙動、そして繰り返すが妙に可愛げがあるせいであまり強そうにはみえない。
実際は東京の街を命令通り滅茶苦茶にして、火の海を作り出し、ジャックの脚まで燃やした(マジで燃やした)。人質解放後はあっさりと四肢切断され爆発炎上するあたり、やっぱり強くはなかったのかもしれない。

・ドラゴドス
ザ☆ウルトラマン第24話『ふたりのムツミ隊員』に出てくる宇宙竜ロボット。同じ宇宙竜であるナースとの関連性は不明。
アルファケンタウリ13惑星人であるペガ星人との関連性は全く不明のアルファケンタウリ第5惑星人が使役していた。第1惑星人とは同盟関係だが劇中では過激派が第1惑星人王女暗殺を目論んだというのがこの話の内容。フライングパンケーキにちょっと似てる小型円盤から変形するのだが、肝心の変形は竜巻演出により覆い隠されたあげく、どう考えても変形で済ませていいものではない巨体へ姿を変えている。驚くなかれ設定全長は425mである。宇宙竜ナースですら120mなのに。尻尾の回転鋸と口からの超高熱火炎が武器。ジョーニアスに巻きついて拘束、首を切り取ろうとした。いいところまでいったが、科学警備隊がジョーニアスを支援した為形勢逆転、最終的にジョーニアスの必殺光線であるプラニウム光線受けて大爆発を起こして敗北。劇中では王女を攫った後に変形した為、ジョーニアスの苦戦は王女救出が最大の要因であり、攫う前に変形してたら初手プラニウムで終わっていたとも解釈されているが、アルファケンタウリ星系では最強クラスのロボット怪獣らしく、第1惑星人は変形後の姿をみて半分絶望していた。比較対象がジョーニアスではしょうがないが強さがよくわからないロボット怪獣である。

・レギオノイド
ベリアル銀河帝国の量産メカ。ベリアル軍の尖兵であり、ウルトラ戦士相手ではただのやられ役ではあるが数が半端ではない。
両腕が簡易換装可能なようで、掘削目的のドリル型や宇宙戦用のキャノン型などがみられる。
ダダによって鹵獲されて改造されたカスタマイズ型はゼロ相手に互角で立ち回ってエネルギー切れに追い込むなど大金星(このパイロットであるダダが優れたのもあるが)をあげており、機能拡張性、発展性も優れたことが証明されている。こう書くとザクみたいな機体と言える。

・ザラブ星人(並行同位体)
タイガに出てた愉快なポンコツと違ってガチ工作員の方。
そろそろオムニバーシアンの出番作らないとメフィラス以外死に設定になるんで端役登場。
ザラブの理由はメフィラス星人の部下(幻影説あり)として出てた為。あとシンウルトラマンでも予告で出番あったので。
ウルトラマンX第4話「オール・フォー・ワン」の並行同位体。数々の惑星を破壊してきた実績から地球も破壊しようとベムスター使役して乗り込んできた。
初手電波ジャックからの宣戦布告を行い、ベムスターの餌としてあちこちの化学工場を爆破していく破壊工作を行っていた。
最終的にXioのメンバーによる連携でボッコボコにされ、ぶち切れ巨大化するもXioの火力の前に爆死する。Xioの連携力(その前の個人プレーが酷すぎたが)、科学力をなめ腐っていたのが一番の敗因。爆死幻影演出&救出でトレギアが回収し並行同位体となる。ウルトラマンXとはまともに戦っていないため、彼本人にはあまり確執がない。大地側が見たら一発ぶん殴りたくなるだろうが。
数あるザラブでこのザラブを並行同位体とした理由としては、実績の割には単純な破壊工作ぐらいしかしてない上に変身することもなく防衛組織に射殺されている為、『ザラブ星人』としては扱いが悪かったのもあります(脚本家の人ももっと活かすべきだったと後悔している)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外・トレギア怪獣散歩『K県Y市』

番外。
時系列はタイガ劇場版前になります。
あと最初に言っておきます、タイトル詐欺です。散歩はしません。



 

 

 K県Y市が誇る、とあるウォーターフロント地区。

 過去と未来が調和し、今現在そのものを発展させていくさまは人々を笑顔に変えていく。古き良き建造物を重んじ、歴史ある船を丁重に扱い、自然を無下に扱わず、それでいて新たな建造を絶やすことはない。それでいて一際目立つ高層建築物たちも決して雑多に建てられたわけではなく、遠方より眺めた時に街そのものの建造美を実感させてくれる。飽きさせない輝きをみせる観覧車や海を見ても街を見ても美しく感じる夜景は、訪れた観光客の記憶に確かに根付くことだろう。

 

 そんな観光要素に満ちた街、その有名なあるホテルの一室にて。

 

「…………」

「……(ガタガタガタガタ」

 

 不機嫌そのものと言わんばかりのトレギアと、土下座するザラブ星人の姿があった。

 心地よい椅子で足を組み、肘を立てるその姿は傲慢そのものだが、誰も咎める事はない。

 最もホテル側からすれば、最高の一時を堪能してもらう為に用意された一室が、只管重圧しか感じられないパワハラ現場の様相と化していたら苦情の一つも言いたくなるだろう。ザラブは正直、ホテルスタッフとかが重圧に気付いてノックとかしてくれないかと願ったが残念なことに救いはなかった。

 

 やがて、息一つすることが苦しい地獄と化した部屋で、トレギアが口を開く。

 

「ザラブ星人よ……どうなってるの?

「……」

「ザラブよ、今一度問う……どうなってるの?

 

 さらに重圧が増し、ザラブは背中に重石を乗せられたかのような錯覚を覚えた。

 何か言いたくても、星型の口はぱくぱくと開閉するばかりで、何も答えてくれない。

 それでも辛うじて、謝罪の一言を絞り出す。

 

「も、申し訳……!」

 

 絞り出した謝罪は、しかし最後まで続けられない。トレギアに睨まれたからだ。

 彼は静かに3本の指を立てる。

 

「私は……寛大なウルトラマンだ。失態も、3度までは許そう」

 

「まずお前は、このホテルの予約を取る際、私が希望していたコーナーダブルではなくツインで予約を取ってしまった。おまけに何故かお前と同部屋だった」

 

 1本、指が折りたたまれる。

 

「次に……このホテルより近場にある、兼ねてより期待していた料理店の予約を忘れた」

「(;ω;)」

 

 さらに1本、指が折りたたまれる。

 

「そして、膨大なデータを有しておきながら、この日本で6月猛暑日を選定した一件……!!」

 

 全ての指が折りたたまれた。

 もはや自害した方がマシとも思える重圧と恐怖に、ザラブはもう何も言えず震えるしかない。

 かつて、大罪を犯したクール星人がその細胞1片が消滅まで命と意識を保たされたまま擂り潰され続けるという、グリムドによる極刑を目の当たりにしていたのだから。

 

 しかし、ザラブが自死の覚悟を決める直前、それまでの重圧がなかったかのように霧散した。

 

「だが、秋葉原なる地でウルトラマンタロウの限定指人形を入手した功績を私は忘れておらぬ!」

 

 トレギアの言葉を受けて顔を上げたザラブの目に、1本だけ指が立てられている。

 すなわち、彼は許されたのだ。

 

「ザラブよ、これが最後のチャンスだ。もし明日の観光プランで私とグリムドが満足いかなければ、私はこの3本目の指を折る!」

「ははぁー! 必ずや混沌皇帝陛下のご期待に応えてみせまする!!」

 

 掴んだ命を決して離すまいと、ザラブは決死の覚悟でプランの再検討を行うこととなる。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 どこかにいる俺のタロウへ。俺だよトレギアだよ。今ちょっと特殊な地球にいるんだ。そっちは元気にしてるかな? 必ず帰るから待っててくれ。

 

 ……特殊な、とは言ってもいつものように、タロウ分不足の代替手段(あと最近の皇帝ムーヴのストレス発散)として地球観光を楽しんでいるのだがな。

 いつもならグリムドと2人きりでこっそり観光するのだが、行先予定地がとある地球のK県Y市だとメフィラスに知られてしまい「すいません陛下、そこは私も同行させてくれませんかね」と珍しくも食いついてきた。はじめは嫌がったが、こいつがらっきょう以外で我欲を表に出してきたのを蔑ろに扱うのも気が引けた為、了承。オマケにとザラブも同行を願ったため、ではザラブに各種手配を任せたという次第である。

 

 結果色々と失態をみせたわけだが。どうにも身分証明の偽装や、暗示、いざという時の対応準備などに意識が傾きすぎて肝心要の予約がギリギリになり、ホテルだけ済ませて終わったと認識していたらしい。あいつ本当に優秀な工作員だったのか?

 6月をチョイスしたのはまだいいが、湿気が特にひどいタイミングでの猛暑日は日本舐めてるとしか思えないが、何より同部屋なのが意味不明である。1人1部屋でいいだろ!!

 チェックイン時に何故かツインでザラブと同部屋になってたの見てキレた俺は悪くないと思う。ダブルで同部屋だったら殺していたかもしれない。俺の隣で寝て良いのはタロウだけだ。

 

「人任せにするからそういうことになるんですよ陛下。私は自分で準備しましたよ?」

「いや正規の手段で予約取るなら電子系上手そうなザラブに任せればいいと思ったんだよ」

「本気でご不満なら今からでもハッキングさせますか?」

「それはウルトラマン的にちょっと……」

「不法入国&身分証明関係偽装してて今更気にします?」

「それはしょうがないからいいの!」

 

 今はホテル内の料理店で、メフィラスが同席した状態で食事を楽しんでいる。こっちのコース予約はちゃっかりメフィラスが取り付けていたのだが、ザラブフォローしてやれよと思わなくもない。

 俺は霧崎としての姿だが、メフィラスは認識阻害をかけているだけでそのままだ。最近『薤白』とかいう名前を付けて老人の人間態になっていたはずだが。まぁ騒ぎにしなければ文句は言うまい。

 

 ただ、1つ気になるのがこれだ。

 和えた梅の風味が心地よいクラゲの一片。それがメフィラスの口に運ばれていくその瞬間。

 

 コリュ、シュゴォオ……! 

 

「? どうしましたか陛下」

「いや、なんでもない……」

「(;・ω・)」

 

 視線に気づいて箸を止めるメフィラスだが、自覚本当にないのか? 

 さっきから食ってる音がおかしいんだが。咀嚼音もすごいし。

 いつも思うがあの発光してる口でどうやってるんだ? 分子分解して摂取してるなら味も食感もないようなものだが、でもこいつらっきょうにめっちゃ拘るし……わからん。

 

「お待たせしました、陛下」

「すみませんねザラブ、先にいただいております」

「悪いな」

「いえ、私はあまり食事に興味がなかったのもありますので」

「ははは、予約忘れはそのせいか?」

「すんませんすんません」

「陛下、仮にもウルトラマンがパワハラはどうかと……」

「ごめんちょっとしたジョークのつもりで」

「陛下、皇帝たるもの安易に頭を下げるのはどうかと……」

「どうしろっつんだよ!! てかもうだいぶ流してるけど、あくまでも皇帝のつもりはない言ってるだろ!!」

 

 まだちょっと緊張していたようだが、メフィラスが茶々を入れたのもあって弛緩したようだ。良かった良かった。

 地味に気配り効くんだよな本当。ただ、小声で怒鳴るという器用な事を覚えてしまったのは、間違いなくこの悪質宇宙人のせいなので素直に感謝したくはない。

 

「すみません、遅れていた方が今来ましたので、お願いします」

「かしこまりました」

 

 本当気配り効くなおい。

 ザラブも席につき、一緒に食事を始める。興味がないという割にテーブルマナーは付け焼刃とは思えない程整っている。やはり一流工作員か……! 

 ともあれ、宇宙人3人組+邪神1柱の食事というのも新鮮だ。心なしかちょっと楽しい自分がいる。

 

「次はハマグリ入りの茶碗蒸しだそうで。楽しみですねぇ」

「そうだな(茶碗蒸しだとどんな音するのかが)」

「(・ω・)♪」

「……ふむ」

「どうしましたかザラブ」

「いや、コースの内容を眺めていたのだが、対馬産黄金あなご、と書いてあってもそれが他のあなごとやらとどう違うのかがわからなくてな。勉強不足を痛感している」

「確かに、付加価値の知識を深める事は大切です。食に関しても、味わうものの価値をより深く実感するには、必要かもしれません。ですが、知らぬまま純粋に味わうというのも一興でしょう」

「……ああ、そうだな」

「真面目だなザラブは。必要とあれば、簡単に説明もしてもらえるから安心しろ。必要な知識はしっかり抑えているのだから、まずはそこを誇れ」

「はっ」

 

 俺も違いが判る程味わっていないが、基本対馬海域は穴子にとって最適な環境であり肉質も脂のノリも別格だと解説を受けたことはある。捕り方1つにもこだわりがあるようで、厳選された対馬産穴子は珠玉の美味だという。くそう、ザラブのせいで早く味わいたくなってしまったではないか。もずくのフカヒレ餡仕立てとか、ローストダックとか、釜炊きチャーシューとかがこれから来るというのに。

 

「(シャム、ゴシュオオオオオ)……いや、美味しいですね。やはり地球を獲るのであれば文化そのままに獲るべきか」

「ねぇ、堂々と地球侵略の野望口にするのやめてくれる?」

「逆ですよ陛下。現生人類を滅ぼして得る地球など、たかが知れたものだと痛感しているのです」

 

 舌鼓を打ちながら、メフィラスはグラスを傾ける。

 言いたいことはわかる。ザラブも深く頷きながら、上品に盛りつけられた料理を口に運んでいる。

 

「緑溢れる自然、豊かな海……その独自性は素晴らしいものですが、他星系に同様の星がいくつあると思います? 唯一性が高いのは、現生人類が築いたこの文明の方でしょう」

「耳が痛い事を言うなメフィラス。ザラブの工作員として、文明を破壊し星そのものを獲得してきた事に後悔はしていないが、最初から触れすらせずに破壊工作へ移ったのは浅慮だったと認めざるをえない」

「ある意味しょうがないことなのですよ。皆、己の文明こそ至高と見ているので、地球侵略の際にはまずこの文明に価値を見出すこと自体無意識に避けてしまうのです。地球文明に価値を見出すということは、侵略の正当性に疑問を生じさせる隙でしかありませんから。無数の国家に別れ、多種多様なまま同種族同士で争い、母星環境を破壊するという、我々の価値観からすれば未熟極まる一面。この一面のみに絞らねば、侵略した宇宙人達は正義の建前すら掲げられないということです」

「……」

「ま、地球来訪の目的、侵略の目的などは割とばらけていますが。私は皇帝……失礼、エンペラ星人の命令で挑戦しにいっただけですからね」

 

 言外に、『雑多な侵略者達相手では、メフィラス星人は格が違うのだよ!』と自慢しているようにも感じるが。というかその主張も混ぜていてツッコミ待ちなのだろうが。

 その話題を盛り上がらせるわけにはいかない。そう判断した俺は、一口水を流し込んでからメフィラスに目を向けた。

 

「……なぁメフィラス」

「なんでしょう陛下」

「そういうのはさ、居酒屋みたいな場所で話そうか。せっかく美味しい料理が並んでいるんだ。小難しく話すなら、せめて目の前の料理に関わるものに限ろうじゃないか」

「(・ω・)ノ」

「……仰る通りですね。私としたことが大変な失礼を。確かにこの料理を冷ましてしまうのは愚行そのもの。いただきましょう」

「黄金あなごとやらはこれからだしな! ところであなごってなんなんだ?」

「魚」

「(*・▽・)」

 

 理解してくれて嬉しい限りだ。

 にっこり笑えば、悪質宇宙人も凶悪宇宙人も邪神も朗らかな雰囲気のまま食事を再開している(グリムドはあくまで俺の体内で)。

 美食を堪能しつつ、ふと窓に目を向ければ、これまた美しい夜景が視界に入った。

 

 脳内で、これをタロウと眺めて味わう光景を幻視する。

 

 旨味が格段に跳ね上がる。やはり感情が、より旨味を引き上げるファクターだ。なんかグリムドが呆れたような雰囲気出しているが気にしない。もういつものことだし。

 高揚してしまえば各々時間は加速する。幸福が齎す時間の加速は容赦がない。談笑を挟みながらも瞬く間に時は過ぎていき、はっと気づけばデザートも終わってしまい、店を出ていた事を自覚し驚いてしまう。多好感から抜け、現実に引き戻された気分だが、満足感が代わりに宿って寂しさは感じない。やはり食事は良いものだ。

 

「いやぁ、美味しかったな」

「ええ、明日もまた同じように堪能したいものです。らっきょうがあればなおよろしい」

「メフィラス、無茶ぶりやめてくれるか?」

「らっきょうは別にいらないが、明日の観光、期待しているぞザラブ」

「お任せあれ」

 

 序盤にがっつり主従関係(パワハラ)叩きつけたりもしたが、食事を通して少し緩やかな状態になった気もする。このまま明日もお互い楽しめば、こんな皇帝と部下みたいじゃなくて仲の良い友人みたいになれるのでは? 

 ちょっと期待してしまうな。

 

「ザラブ、この街はただ散策するだけでも楽しく過ごせそうなので心配はしていませんが、一応訊ねましょう。どういうプランですか?」

「ふ、完璧だぞ」

「ほう」

 

 単体で多くの文明を滅ぼしてきた実績を持つザラブの一流工作員。

 ベムスター使役後はごり押しが目立っていたが、それ以前はかなり綿密な侵略プランを練り上げていたという……楽しみだな。

 ザラブは意気揚々と、中空にマップと施設写真などを投影する。気合の入りようがよくわかるが……なんだこの分刻みと移動ルート。

 

「まず朝食を堪能してからホテルを出て、かつて歴史ある船でもあった恒星間宇宙船『日本丸』メモリアルパークをじっくり見た後にロープウェイ。その先にある商業施設の飲食店でランチ、映画鑑賞も悪くない選択肢だと思われます。その後煉瓦造りの建造物へ向かいその場で開催されているイベントを確認、Uターンしてあの観覧車がある遊園地、そして即席麺の博物館とやらでオリジナル即席麺を作り、距離はありますが頭部が餡麺麭(アンパン)で形成された不思議な英雄が見られる施設にも向かいます。その後電車に乗り中華街へ。中華街の有名店で台湾唐揚げとシュウマイとやらを堪能した後、港が一望できる丘がある公園。そこで現生人類が築いたロボット兵器を遠方観測! どうですか!!」

「「……」」

「(;´・ω・)」

 

 絶句する俺、メフィラス、グリムド。

 賛同以外ないと思っていたのだろう、ザラブは空気の変質に気付いて汗を一筋垂らしていた。

 

「……えっ、ダメ?」

「ザラブ星には無理のない観光スケジュールという概念がないことはよくわかりました」

「詰め込み過ぎだわ!! 転移ショートカットしても小休憩の暇すらないぞそれ!! ホテル2泊だぞ!? 分けていいから!!」

「それと……シウマイです。間違えないように」

「し、失礼しましたぁ!!」

 

 後にザラブは同僚たちにこう語った。

 

 

 観光プランとは、侵略プランより難しい幸福の旅路である──。

 

 

 

 




特にこの地球での伏線とか解説とかないまま終わる模様。
前話にて「メフィラスとザラブ、絶対食い物屋漁りしてただろ」という感想を受け、「たしかに!」となったので、結果的にそれに繋がるような話が仕上がりました。ありがとうございます。皆さまの感想が、創作の刺激になります。
あとまぁこういうの書かないとオレギアさんの出番がね……。


・とある地球のK県Y市
映画『大決戦!超ウルトラ8兄弟』の舞台となった地球。かつてウルトラマンに変身したことのある人たちに並行世界の記憶が流入したあげく最終的に変身までできちゃうという、中々特異な地球。変身したのはウルトラマンティガ、ウルトラマンダイナ、ウルトラマンガイア、ウルトラマンメビウス、初代ウルトラマン、ウルトラセブン、ウルトラマンジャック、ウルトラマンAの8名。このうち、メビウスだけはパラレルではなく本物(この世界の地球を救ってもらう為、赤い靴の少女により招かれた)。メフィラスが食いついた理由。
K県Y市は特撮界隈、特に東宝怪獣や円谷にとっては結構聖地多いです。特に今回ネタにした地区。
オレギア達が宿泊したホテルは現在シンウルトラマンコラボプランやってるぞ!(ダイレクトマーケティング)
ちなみに日本丸は恒星間宇宙船に改造されており、ラストでウルトラの星目指して旅立っている。どういうことだよって思った人は是非映画を見てほしい。この映画本当最高だから。

・ザラブ、パワハラを受ける
ダイの大冒険でのバーン様とハドラーの有名なやり取りパロ。「どうなってるの?」はコラが元ネタですが。
ちなみに予約ミスなどはかつて作者個人がやらかしたことだったりします。つい忘れちゃったんだよね!!

・ホテル内の料理店含む、施設名ぼかしてる理由。
別にホテル名や店名明記しても良いとは思うんですけど、この地球の名前が我々のいる地球とは限らないじゃないですか。いや、映画劇中で殆ど一致していますが。あと露骨な宣伝になりかねないので、あくまでわかる人にはわかる程度にぼかしています。あくまで超ウルトラ8兄弟の地球なので、日本丸だけは明記しないといけなかった。

・ザラブのパーフェクトプラン
元ネタは「かぐや様は告らせたい18巻」にて早坂が組み上げた『完璧な横浜デートプラン』。横浜行ったことないけど夢を詰め込んだ、中々移動距離がえぐいプラン。ただ、アン○ンマンミュージアムとかは付け加えてます。温泉も混ぜたかったけど、タイミングが合わなかったので回避。せっかくY市とかで表記してるのになんでここだけ横浜明記?元ネタだからしょうがないね。
横浜はとても楽しいですし、交通手段豊富であちこちいけますが、休日は混雑しますし、移動距離問題などもあるので無理のない観光を!作者は聖地行脚で無茶して反省した過去があります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

闇VS機械

前回までのあらすじ
内原戸「ガタノゾーア降臨!勝った!絶望のEDの始まりだ!さぁウルトラマン達よくたばれ!!」
メフィラス「盾やるんで、逃げて良いよ」
タイガ達「あざーす!!準備整ったら戻るから!」
内原戸「」
ガタノゾーア「(・ ̄・)?」


 

 蠢く闇を背後に置き去り、ウルトラ戦士達が撤退する。

 邪神ガタノゾーアからの逃走。そして、ウルトラ戦士にとっての撤退という選択肢。

 どちらも元来ならば困難極まる行動だったが、タイガ達は無事港までの帰還に成功していた。

 

 地面に降り立つなり、変身が解除され全員が倒れ込む。

 特にジードとして戦っていたリクは傷だらけであり、たった1発の光線がどれほどの威力だったかを物語っていた。

 

「あれ、やばいね……カツ兄」

「ああ……撤退中に見えたが、あのロボット怪獣達じゃ太刀打ちできないだろう」

 

 あれほどとは思っていなかった。カツミは海の向こうを睨み拳を握りしめる。

 姿を現さない内からウルトラ戦士ですら絶望が去来しかねない圧倒的重圧。邪神ガタノゾーアの持つ格を改めて実感させられる。恐怖した自覚が肌から離れない。

 

 だが2人と違い、ヒロユキは自分自身が恐怖以上に焦りがあることを自覚していた。彼はこの地球出身である。現地に生きる当事者として、他のウルトラ戦士達よりも一段階、守りたい想いが強い。

 あれを放置すれば、地球そのものが終わると確信してしまった以上、この焦りは当然と言える。

 

「あんなのが地上に辿り着いたら大変な事になる……やっぱり今からでも戻って」

「勝つためにもそれは駄目だ!」

 

 立ち上がりながら自然とタイガスパークを構えたヒロユキ*1に、リクが声を張り上げ抑える。一番身体が悲鳴をあげているはずだが、しっかりと立ち上がり、ヒロユキの目を見据えて続ける。

 

「ヒロユキ君の気持ちは間違っていないし、その想いは正しい。でも無策で飛び込んででもやらなきゃならない時と、そうでない時があるのを君は知っているはずだ」

「……!」

『彼の言っている事は正しいぞ、ヒロユキ』

『ウーラーに2度目の戦いを挑んだ時、結局俺達は何もできなかった』

『だが3度目は違った。そうだろ?』

「そうだね……すいません、ありがとうございます」

 

 タイガ達からも諭され、ヒロユキはリクの言葉に頷かざるをえなかった。

 ここで変に拗ねたり、道を誤らないのがヒロユキの美徳であり、トライスクワッドの絆でもある。自分だけで完結しない思考が今の彼等には自然と芽生えていた。

 

 だが現実はそんな彼等を押し潰そうと非情の姿をかたどっていく。

 ガタノゾーアが出現した上空にある暗雲……闇が凄まじい速度で広がっていた。

 加えて、海上で大きな爆炎があがる。ロボット怪獣のどれかが大破炎上したようだ。

 カツミ、イサミも立ち上がる。彼等が稼いでくれている時間はもう1秒たりとも無駄にできない。

 

「……急ごう。まずはガイさんたちと合流するべきだ」

「……らっきょうさんは勝てるとは言ってないけど、体勢を立て直せとは言ってたもんね」

「勝てないとしてもあれだけが策じゃないだろ、薤白さんメフィラス星人なんだし」

「でもメフィラス星人だよ? カツ兄」

「メフィラス星人なんだよなぁ」

『え、あいつメフィラス星人なの!?』

『さらっとすごいこと言ってるな』

『なんで悪質宇宙人が味方してんだ? 意味わかんねぇ』

「あ、らっきょうのおじいさんについてちゃんと話してなかったっけ。動きながら説明させて、そもそも彼は……」

 

 騒がしくも走り出す中、ヒロユキだけが首を傾げた。

 

「メフィラス星人って何……?」

しまったヒロユキ知らなかった

 

 

 

 ◇

 

 

 

「3ゲットシッパイ──!!」

 

 ガタノゾーアが有する鋏状の腕に挟まれ、ビルガモの頑強な装甲がべきべきと音を立てて破壊されていく。トドメとばかりに放たれた怪光線により、そのボディが木っ端微塵に吹き飛ばされた。

 

「ははははははははは!! なんだただの雑魚ではないか!!」

 

 粉々になった残骸が海に沈んでいく様を内原戸が嘲笑う。割と破片が流れ弾になりそうな位置にいるが気にしてはいないらしい。

 

『勝負はまだ1回の表ですよ』

 

 ドラゴドスがその長いボディを駆使しガタノゾーアの触手を器用に回避する。さらにその尻尾の先にある回転鋸により、ガタノゾーアの触手を斬り刻んでいった。だが、それはガタノゾーアにとって痛痒にも値しない些末事だ。

 

──グァオオオオォン……

 

 千切れた触手は瞬く間に再生し、千切れた先はそのまま闇そのものへと変じてドラゴドスへ襲い掛かる。

 

 シャドウミスト。

 ガタノゾーアが有する絶対的な力を持つ闇の1つだ。吸引した生命体を即死させ、光の肉体を蝕み、精密機器を破壊する。質量判定がない為に物理的に防ぐことは不可能であり、光線銃程度では掃う事すら叶わない。生命と文明双方に致命傷を与える闇は、当然ながらロボット怪獣にも致命的に働く。

 

「グオオオオン!?」

 

 ゆっくりと散布される闇だが、霧散することなく規模だけが拡大していったことで、ドラゴドスもついにその身体に触れる事を許してしまった。それだけで機関の一部が破損し、ボディの各所でばちばちと火花があがっていく。

 

『ドラゴドス、主砲放て』

 

 苦しむドラゴドスを意にも介さないメフィラス星人からの指示が飛ぶ。ドラゴドスは無情な命令にも忠実に応えるべく、闇を必死に振り払いながらガタノゾーアへ向かいその口を開いた。

 

「グオオオオオオオオオ!!!」

 

 120万度に達する超熱線がガタノゾーアへ直撃する。放射熱波で周囲の海も激しく沸騰蒸発する高熱だが、ガタノゾーアは怯むことすらしない。それでも長時間照射されるのは嫌なのか、鬱陶しげに触手を振るい熱線の継続を妨害した。

 

──バァオオオオォォォォォン……

 

「グオオオッ!?」

「無駄だ無駄無駄無駄ァ!! 大いなる闇には100万度だろうが! 1億度だろうが! 1兆度だろうが!! 無意味と知れぇぇ!!!」

 

 振り切れたテンションで我が事のように誇る内原戸。えぐい熱波が彼にも来ていたはずだが、テンションが高い故か気にしていない様子でその顔には汗すら浮かばない。その足元たる海はぐつぐつと茹っている。メフィラス星人は内心ちょっと引いていた。

 

「ベリアルヘイカノタメニー!!」

 

 熱線攻撃と入れ替わるように、レギオノイドが吶喊をしかける。あらゆる鉱石を容易く掘削する鋭利なドリルがガタノゾーアの外殻へと突き刺さるが、激しく火花こそ起きたものの欠片1つ散らない。熱されて柔らかくなったという様子もなく、その頑強さは文字通り歯が立たない強度だ。

 加えて至近距離故にシャドウミストがレギオノイドの全身に降り注ぐ。

 

「ヘイカノタメニ、アカルイミライヲー!」

 

 あっけなくレギオノイドが爆散した。

 ビルガモ同様、成果なき退場に内原戸はご機嫌といった様子で高笑いしている。

 

「ははははははは!! 大いなる闇の前では貴様らなどただの鉄屑!! たかが知れた時間稼ぎだったな!!」

『……よろしい、次』

「は?」

「「「アカルイミライヲー!!!」」」

 

 レギオノイドがあらわれた。

 レギオノイドがあらわれた! 

 レギオノイドがあらわれた!! 

 

『数はあるんですよ数は。ドラゴドス、レギオノイドを上手く盾として使いなさい』

「グオオオオオン!!」

「……大いなる闇よ!! あのようなブリキ人形、さっさと片づけてしまいましょう!!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「さて、データはよく入ってきていますが、間に合うかどうか……」

 

 転送装置を利用して、レギオノイド軍団を次から次へと召喚し文字通りの捨て駒として活用しているメフィラス星人。使い捨てているのは彼の目的である情報収集と解析、そして時間稼ぎだ。重要なのは怪獣リングで召喚した最初の3体であり、彼等は目的を誤魔化す為と時間稼ぎを兼ねているにすぎない。

 

「ビルガモはシャドウミストを浴びる前に破壊されてしまいましたが、レギオノイドは目的を果たしてくれました。この怪獣リングに蓄積した闇のデータを急ぎ解析せねばなりません」

 

 値千金の情報を得たメフィラスはほくそ笑む。過去のシャドウミストと同質ならば問題ないが、変異してたら用意した防御壁がまともに機能するかわからないのだから。

 あの黒幕本人は情報収集であることに気づいているそぶりはない。何もかも無駄と考えているからだろうが、ありがたい慢心だ。有効活用するに限る。メルバを闇に還元していた以上、アレはアレで何か絶望の布石を更に打ってはいるとみているが、読めている伏せカードなど、手札があれば恐れるに値しないというものだ。

 

「邪神は気づいていそうですけどね……」

 

 召喚主の知性など底が知れたものだが、邪神の方は話が別になる。

 

 ティガの世界に出現したガタノゾーアは、TPC極東本部基地ダイブハンガーを闇で覆って機能マヒを引き起こしている。加えて、各所のデジタル回線を闇で遮ることで人類の連携力を大きくそぎ落としていた。これを海上に姿を現す前に実行しているのである。慎重というより、より効果的に絶望を与える手法を熟知していると言っていい。

 わざと世界にティガとの戦いを中継させ、打ち倒し絶望を見せつける。それでいて、意図的に石化に留めて希望の道筋を残す遊び屋な側面を持ち合わせている。ティガ復活の一大作戦すら絶望の演出に仕立て上げ、一番効果的なタイミングで妨害へ走っているガチ勢が、愚者であるわけがない。

 

 今回現れたガタノゾーアは、他者の手によって招来、降臨した形式故に事前準備と事態把握が若干遅れていた。だからそういった先手を打っていないだけで、今頃はこの地球の状況や布石をじっくり把握しているのだろう。どうやって遊ぼうか、と考えているに違いない。

 故に最も気を付けるべきはガタノゾーアによる策と悪意だとメフィラスは判断する。

 

「上空は……既に暗雲に呑まれましたか」

 

 戦闘中でも一切関係なく広がり続けた闇の雲。恐らく、あと1時間もしないうちに地球全土を覆うとみている。幸い、広がっている最中はシャドウミストで形成されているわけではないので、戦闘機などで突っ切ることも可能だ(劇中、明らかに暗雲の中を突っ切っている描写がある)。だが人類すべてが絶望した時、あの雲は絶望の闇となってゆっくりと地上へ降下してくることだろう。

 仮にただの暗雲のままだとしても太陽光を完全に遮られ続ければどうなるかなど語るまでもないが。

 

「そういえばタイガ達は合流を済ませているのでしょうか?」

 

 街中へ意識を向けてみれば、ヒロユキ達はヒカル、ショウと合流しているようだ。既に力も返還しており、順調と言える。特にビクトリーの力が戻ったのは良い傾向だ。街に闇が染み込んでいる問題について、取れる対策が増える。

 つい笑みが零れてしまうが、その笑顔が邪悪に染まっているのはしょうがないことだろう。思い通りに事が運ぶ時の快感はたまらないもの。それも敵の策を打ち崩す愉悦は実に甘美だ。

 そんな悪質な感情がつい念話に漏れていたらしく、海上で黒幕の男が何やら怒鳴っている様子が聞き取れた。あの男、自分が他者を愚弄し悦に浸る分には構わないが自分が愚弄されることは我慢ならないタイプらしい。

 

「失礼、考え事が漏れてしまいました事を謝罪いたします。紳士として、頭も下げましょう」

『~~~~~!!!!』

 

 メフィラスの指示が飛び、捨て駒にしていたレギオノイド達が一斉に頭を下げる。その舐めた態度に黒幕は更に気分を害したらしく、念話で地球言語とは思えないが激昂の感情だけは伝わる侮蔑語を送ってきた。メフィラス大満足である。

 代償とばかりにレギオノイドが10体ほどまとめて鉄屑と化したが。

 

「いい具合に煽れました。そろそろ向こうもしびれを切らして地上へ攻撃する可能性があります。次の手を打ちましょう」

 

 実に気分がいいといった様子で口元を抑えつつ、メフィラスは在庫一斉処分とばかりに残るレギオノイド達を自動投下設定にすると黒幕への念話を打ち切った。続けて転移を行い身を隠し、念話のチャンネルを己の部下へと素早く切り替え、挨拶も飛ばして確認を取る。

 

「ザラブ、外事X課と接触はしていますか?」

『すでに通信機を用いて接触済みだ。直接の合流は避け、奴らの視点ではカメラで確認できる位置にいる。改めてガタノゾーアについても説明は済ませた。上空の暗雲については今説明中だな』

「よろしい。ガタノゾーアは此方の作意を見抜いている可能性があります。対策を初手で崩されても動揺しないように」

『わかっている』

 

 メフィラスは楽しんでこそいるが、油断も慢心もしていない。己が忠誠を誓っている間抜けな皇帝とは違うのである。

 

「では、外事X課に預けている対シャドウミスト、その他汎用闇属性攻撃用絶対防壁【ゼットンシャッター】、対闇の使い魔ロボット兵器【シャドー】の起動を許可します。シャドウミストのデータは過去出現したモノに合わせていますが、解析完了次第即アップデートします」

『了解した。佐倉に起動タイミングであることを伝達する』

 

 

 

 ◇

 

 

 

 内原戸は苛立っていた。待ちに待った絶望の狂想曲が始まったというのに、絶望の広がりがほとんど起きていない。闇を染み込ませたあの街区画に至ってはいまだに誰も絶望していない。暗雲は既に世界の7割を覆っているため、人間社会の影響、混乱は極めて激しいはずなのだが、それでも内原戸が描いた予想図より遥かに動揺が薄いのだ。

 もっと絶望が蔓延し、暴動や悲劇が満ちていくべきなのに、国家統制や連携が意味不明に高く、「また宇宙人の仕業か!」とデモの準備をしだす類以上の暴動すら起きていないのはおかしい。まるで既知の反応である。過去にムルロアでも現れたのかと疑いたくなるが、そんな過去は内原戸が知る限り存在しない。

 

「さてはあのクソ野郎、人類に大いなる闇に関して適当な事広めやがったのか。劇の妨害など、なんと無粋なクズだ!!」

 

 今敵対している、最も怪しい宇宙人こそ犯人だと内原戸は確信するが、メフィラスはそんな入念なネタバレや対策告知などしていない。潜伏と仕込み、娯楽重視で動いていた為、肝心要の情報は今日外事X課に提供したぐらいな悪質ムーヴをみせている。

 

 つまりもっと単純な話で、この地球にいる現生人類達が内原戸が思っているより逞しいだけである。

 

 彼等はヴィランギルドに散々弄ばれた過去があり、対応力も高くなっている。加えてヴィランギルドとは無関係の怪獣がたまに地底やら海底やら宇宙やらに出現しており、悲しいかな異常事態には慣れていた。避難こそ真面目にやる様子がちょくちょく見られるが、怪獣速報は呑気に煎餅齧りながら眺め、ウーラーが大暴れしてるそばで反宇宙人デモを実行するイカれ具合である。無論、悲劇は0ではないし、嘆き怒る人々も少なからずいるだろう。怯え、狂乱に染まる人々もいるだろう。それ以上に落ち着いて対応できる市井の人々が多いのは、国家に対する信頼性が高いことを意味する。

 ウルトラマンが現れる前から、ヴィランギルドによる完全な支配を防ぎ続けて、怪獣災害に適応する社会を築いた国家達が無能なわけがないのだ。

 

 メフィラス達により概ねの情報を得た外事X課や、その外事X課の情報提供と協力的な宇宙人達によりある程度事態を把握している各国家首脳陣や特殊組織などは(あとヴィランギルド)、割と焦っているのも事実だ。元来なら一部は打つ手はないと諦めていたかもしれない。

 

 しかし、彼等はウルトラマンがいることも知っている。協力してくれる宇宙人がいることも知っている。ならば、自分達ができる事を変わらず実行するまでだと、情報統制と避難対応、暗雲による被害の軽減、闇に対する可能な限りの対策を積極的に手を打ち始めている。ガタノゾーア降臨からわずか1時間という恐るべき対応力であった。

 

 結果として市井の人々は「あらやだ怪しい雲、部屋干しに切り替えなきゃ。あの雲濃硫酸じゃなければいいわね」「こういう空だとバリケーンが降ってきた記憶あるわー」「一応避難しよっか。母さん、ガスマスクいるかもだからリュックと一緒にもっていこー」と絶望の欠片も見当たらない。諦観や鬱屈した怒りこそあるが、地球滅亡の危機とは微塵も考えていなかった。

 全世界が闇で覆われた事実が広まった時は、より混乱の度合いは高まるかもしれないが、内原戸が期待するほどのパニックが生じる事はないだろう。

 

 そもそもティガのいた地球で人々が絶望したのは、ガタノゾーアの絶望演出が優れていたのもあるが、滅亡の預言が広まっていたのも大きい。タイガ達がいる地球とは状況が全く違うのだ。内原戸が預言者を気取って、終末思想を蔓延する暗躍をしていたら期待通りに暗雲から絶望を意識したかもしれないが、彼は生贄収集に徹しており、光の戦士達を始めとする他勢力に存在露見を警戒していた。結論は内原戸の認識不足、仕込み不足であった。

 

 内原戸を擁護すると、彼は決してガタノゾーアを君臨させただけで済ませるつもりはなかった。光の戦士達を討ち倒し、地球人を絶望させるために石化させ砕く演出を企んでいたし、仮に彼等がすぐ現れない、取り逃したとしても全世界へ世界滅亡の通達を念話で広げるつもりだった。

 

 つまり、このロボット達による妨害はどこまでも内原戸の狙いを崩していたのだ。

 

 それを理解している内原戸はただただ謎の宇宙人へ憎悪を向ける。途中から念話も聞こえなくなり、相手にされていないような態度が彼の臓腑を怒りの炎で焼き上げていく。

 

「ベリアルヘイカバンザイー!」

「ベリアルヘイカサイコー!」

「スベテノウチュウハヘイカノモノー!」

 

 忌々しい鉄屑達は無限湧きを続けている。ガタノゾーアはちょっと楽しくなってきたのか、湧きポイントを予測して置きシャドウミストしたり、触手でレギオノイド達をドミノ倒ししてみたりと明らかに戯れているが、内原戸が見たいのはあくまでも人々の絶望だ。大いなる闇によるロボット解体ショーを見るために約1年も暗躍したわけではない。

 

「……いいだろう。大いなる闇の前ではただの鉄屑達なことに変わりはないのだ。雑兵は無視して、光の戦士達を潰すのみ」

 

 一度落ち着こうと内原戸は目を閉じる。地球を覆う闇は光を遮り、光の戦士達の力や変身の余裕を着実に奪っていくのだ。街の方へ姿を消した連中を強引に変身させ、消耗させた時点でただでさえ盤石な此方の勝利は決定的となる。そう、何も焦ることはない。仮に奇跡が二度三度重なろうが全てを無に帰す大いなる闇がここにあるのだから。

 

「……大いなる闇よ。戯れに、闇の一撃をあの街へ撃ち込んでもらえませんか。それだけで人々は恐怖を思い出し、混乱することでしょう」

 

 加えて、闇の使い魔達を一斉に暴れさせる。

 見ただけで正気を削る使い魔達が、人間を襲い始めた時、光の戦士達はその貴重な光の力を消耗せずにいられるだろうか。

 

「大いなる闇よ、饗宴には明確な合図が肝要でしょう。さぁ!!」

 

 内原戸の表情から憤怒が消え、喜悦が浮上する。

 ガタノゾーアはレギオノイドを器用に触手で鎌固めをして遊んでいたが、主賓として招いてくれた存在の言葉を無視するほど狭量でもない。内原戸を一瞥しつつ、レギオノイドを半壊しながらも攻撃してくる宇宙竜へ無造作に投げつける。

 

「グオオオオオン!?」

──バァオオオオォォォォォン……

 

 ガタノゾーアの眼前で闇が収縮される。闇が輝くという矛盾を内包したそれは、全てを貫くレーザーとなって撃ち放たれた。

 それはドラゴドスを容易く爆発炎上させ、減衰すらないまま港まで辿り着き──

 

 ──突如展開された青い輝きとぶつかり激しく霧散した。

 

「はぁ!?」

 

 絶対の貫通力を有する闇の一撃が、街を蹂躙することなく終わる。

 青い輝きを放つバリアーが、街全体を覆っていた。内原戸は驚愕に目を見開き、ガタノゾーアは面白そうに唸り声を響かせる。

 

「馬鹿な! 馬鹿な馬鹿な馬鹿な!? 大いなる闇の一撃だぞ!! あれを弾くレベルの障壁など地球の科学力では……否! そこらの異星人共の矮小な科学力ですら築ける道理はない!!」

 

 ガタノゾーアが放つ闇の一撃。中でもティガにトドメを刺した技は単純に石化光線とも貫通レーザーとも呼ばれている。邪神の技とは思えぬ淡々とした名称だが、それは余計な意味合いを持たせない為でもある。

 

 概念性の攻撃だからだ。

 

 闇というものは様々な特性、概念を有している。その中で『闇は全てを飲み込む』という概念を攻撃に転じたものが貫通レーザーの正体だ。レーザーとしての方向性、貫通性、攻撃性にこの概念を適用したことで『万物貫通』の力を宿している。故に性能を示す以上の名付けなど邪魔なだけなのである。

 

 これが防がれるなどあり得るはずがないと内原戸は狂乱しているわけだが、そんな彼の脳内に、先程と同じように念話が届く。

 

『ものを知らぬらしいから教えてやる……ゼットンシャッターは鉄壁だ』

「ふざけるなあああああ!!!」

 

 内原戸は激昂したが、攻撃を防がれた当人であるガタノゾーアは、その目にじんわりと喜色を浮かばせていた。街にも、内原戸にも。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「おおおおおおお!! やったぞ──!!!」

 

 邪神が放ってきた恐るべき攻撃を見事に防ぎきった防壁に、外事X課の面々は喝采する。

 グローザ星系人がもたらした特殊バリアは、凄まじい効果を発揮していた。かつてヴィランギルドにいた極悪な宇宙人チブル星人マブゼの宇宙船より奪った技術だと聞かされた時は複雑なものもあったが、こと防衛においては何事も目に見える成果が肝要だ。

 グローザ星系人は、あの後「俺が気付かれたら、集中砲火を受ける可能性がある。お前らが観測できる位置にはいるから離れるぞ。指示は通信機で行う」と一度姿を消してしまい、ちょっと信じたことを後悔もしたが、今ならば全面的に信用できるかもしれない。

 

 だが喜ぶ職員たちにそのグローザ星系人からの通信が入る。

 

『戯れに放たれた初撃を防いだだけだ、喜ぶ暇などないぞ』

 

 空気が固まった。

 どう考えても街ごと消し飛ぶような一撃だったのに、それを戯れの一言で済ませる事が信じられない。

 

「戯れ? え、あれが?」

 

 佐倉が嘘だろという顔で思わず聞き返すが、返事は無情かつ厳しいなものだった。

 

『その戯れの一撃だけで、ゼットンシャッターが相当摩耗している。本気でなら1発……先と同威力連射でも一瞬で破壊されるだろうな……ガタノゾーアの性格性質から考えて、そういった力押しはあまりしないとは思うが』

「……」

『次はシャドウミストで遊んでくるだろう。ゼットンシャッターは一度起動すれば後は自動防壁展開するが、防ぎきれなかった時の対処は速やかに頼む。闇の使い魔が蠢きはじめたら、シャドーを起動してくれ』

「……わ、わかった。私達にできることはあるか」

『今やってもらっているだろう? 希望を捨てずに動いてくれるだけで値千金だ。いいか、何があっても希望を捨てるな。ウルトラマン達の為にもだ』

 

 

 

 ◇

 

 

 

 港と海が良く見えるビルの屋上。

 わざとらしく、定点カメラなどから観測可能な開けた位置にグローザ星系人が立っている。

 

「はぁ……焦った。問答無用で俺のところへ飛んでくるとは」

 

 グローザムに扮したザラブは安堵のため息を吐く。闇の一撃が寸分違わず己のところへ飛んできた時は心臓が止まる思いだったが、ゼットンシャッターが機能したことで助かっていた。ガタノゾーアの容赦のなさに心底震えあがると共に、性格が事前情報通りである事に只管ほっとしている。死ねばそれまで助かるならもっと遊べる。そんな考えだったのだろう。

 

 あれが本物の貫通レーザーならば終わっていた。

 

 ゼットン星人がウルトラマンマックス暗殺に足りうる防壁だと確信した絶対防壁。さらにチブル星人マブゼが再現改良強化を施したゼットンシャッター。

 それを急遽、対闇特化に性質を付加することでガタノゾーアに対する防壁としたのが今回のゼットンシャッターである。

 シャドウミスト対策に重点を置いてはいるが、ある程度は概念性の攻撃にも対応している。

 

 確かに概念攻撃は非常に強力だが、他の概念をぶつけられる、余計な解釈を取られるといった形で対策は可能だ。

 万物貫通の概念があろうが、闇に頼って成立する概念である以上、属性は闇。闇そのものが弾かれてしまえば、その攻撃には『全てを飲み込む力などない』という理屈で万物貫通の概念も消えるという、文字通り言葉遊びと解釈の押しつけとなる。

 ただしこれは闇に有利な防壁として機能した副次効果で概念攻撃が対処できているに過ぎない。

 ガタノゾーアのふるう闇がこの程度で完封できるなら、ティガは初戦で敗北などしない。本物の貫通レーザーならば闇を祓いきれず、概念を宿したままゼットンシャッターを容易く砕いていただろう。つまり、あれは文字通りの戯れで放たれた単なる闇のレーザーだ。

 

(気づいていない内原戸が間抜けなのか、気づかせないまま遊んでいるガタノゾーアが恐ろしいのか……後者だろうな)

 

 メフィラスも予想していたが、やはりガタノゾーアはかなりの遊び屋だ。過去出現した事例から導き出された考察だったが、事実であるとザラブは確信する。

 甚振り、嘲り、弄ぶ。簡単には死なないように、しかし確実に死に絶えるように闇で塗り潰していく。ガタノゾーアはそんな邪神だ。

 

(ガタノゾーアからすれば、いつでも壊せると確信したのだろう。絶望をより演出できるタイミングで破壊するつもりだ。壊せないと認識したならば、もっと苛烈になるはず……)

『そうでしょうね。あの男よりずっと悪辣ですよ』

「!」

『私はタイガ達に合流します。繰り返しますが、想定外は起きるものと思いなさい。ウルトラ戦士全員が揃った時点で決戦といきたいですが……打てる手は先んじて打って良いですよ』

「……わかっている。任せておけ」

 

 人の心を勝手に察知して返事をしないでほしいと思いつつ、メフィラスの念話へ一言返事を済ませる。口調が荒っぽいのはグローザムに成りすましている以上、徹底しているだけだ。工作員としての基本的な行動だ。断じて、ちょっとビビってしまったからではない。気合を入れ直そう。さっきまでこんなやつと対話していた黒幕にちょっと同情すら覚える。

 

 

『そういうことにしておきましょう。あと敵に同情などザラブ工作員が言うと品の無いジョークにしか聞こえませんよ』

「だから心読むなよ!?」

 

 

 

 

*1
(当然ながら即再変身は不可能なはずだが、焦燥感が尋常ではなかった模様。ただタイガ達のインターバルがどの程度かは不明。劇中描写を見る限り、数時間程度にも思える)




ガタノゾーアとメフィラスが好き放題やってて内原戸やザラブが巻き込まれてるだけな気もしないでもない。

・勝負はまだ1回の表
バルタン星人Jrの放った迷台詞。この後「さらば、ウルトラマン!」と言い捨て逃走するが、飛び立つ背中に容赦なくスペシウム光線をブチ当てられ死亡した模様(公式には生死不明)。
生きていたら再戦していただろうが、ウルトラマンジャック相手に無防備な逃走する方が悪い。

・レギオノイドわらわら。
鹵獲しまくってオムニバーシアン本拠地に100万体ほどいます。普段は色んな世界に飛び立って無人惑星や小惑星から資源調達している。一応採掘時現地民と接触した場合は交戦しない、救助活動は許可といったプログラムを仕込んでいる。なお、無断発掘発覚してもベリアルの仕業ということになるので認識コードはベリアル帝国軍のままという極めて悪辣な仕様。発案はメフィラス星人。にっこにこで採用したのはオレギア。

・万物貫通
独自解釈。ガタノゾーアの攻撃だし、ティガの肉体を突き抜ける攻撃名が『石化光線』だの『貫通レーザー』だので終わる名称なのもちょっと味気ないので、何故こんな名称でしかないのか考察した結果、余計な解釈加えました。そのせいで強くなって頭抱えた。誰か聖剣の鞘持ってきて。
罪深いな……ゆるるるるん!!って鳴いてるとあるガチチートキャラと同名の概念攻撃(あれほど強力にはしていないけど)にしてますが、あれが神の力であるように、これは闇の力です。闇に対して対処すればいいのです。そんなわけで対闇特化の絶対防壁で対応。オムニバーシアン達が必死になって作り上げました。
ガタノゾーア「いいね!やっぱり絶望を楽しむにはまず希望がないと!次はどんな抵抗してくれるかなぁ!」
対応した結果、邪神のテンションは上がった模様。

・ガタノゾーアの性格
電波とかその気になれば全部遮断できるくせに、ティガとの決戦はわざとらしく全世界中継を許す。いつでもトドメ刺せたくせに時間一杯まで付き合ったあげく、不可避のレーザーをわざわざ拘束してから至近距離ぶっぱ。石化したティガを海底に突き落とすだけで砕いたりしない。ティガ復活計画、最後のチャンスという瞬間を狙いすました様に妨害して失敗に追い込む。滅茶苦茶性格悪いです。
実は眠っている間も触手は端末として覚醒しており、文明が育つ様子を楽しんでいたらしく、これを蹂躙する瞬間を楽しみながら微睡んでいた模様。
内原戸と違い、地球や文明を見下していたりなどしない、寧ろ文明の集大成を歓迎しつつ蹂躙する節があるので、同じ闇の陣営としても微妙にズレがある。遊ぶのは似ているが、内原戸よりもずっと用意周到で穴がない。だから、ガタノゾーアにとっては内原戸も、ただの愉悦対象である。

・ゼットンシャッター活躍!!
本作ではチブル星人マブゼが獲得していたので、せっかくだから彼の宇宙船を鹵獲して確保した技術として再登場。
ケイネスムーブしたら、ガタノゾーアが笑顔で即破壊した模様。危機一髪。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

襲撃、闇の使い魔

おかしい……初期プロットでは劇場版編って5~6話で終わるはずだったのに。
結構描写カットもしてるのに……。
初期プロットではそもそも古代怪獣戦すらなかったので当然ではあるのですが。


 

 

 ─闇と化した海上─

 

 

 

「ベリアルヘイカサイコー!!」

 

 金属が激しく捩じ切れていく不快音と共に、また1体のレギオノイドが爆散する。既に1000を越える鉄人兵が海の藻屑と消えた事になるが、枯渇の気配は見られない。もし数を訊ねればメフィラスは丁寧にこう答えたことだろう。

 

『総数は98万5482体になります。ご安心ください、この宇宙へ持ち出せた運用可能残存数は残り8560体程です。備えあれば患いなし、私の好きな言葉です』

 

 ガタノゾーアは先の一撃を防がれた事も気にせず戯れているが、内原戸は苛立ちを抑えきれない。明らかな時間稼ぎ、加えて街に展開された忌々しい絶対防壁。無駄な事だと愚弄するには対応が一貫しすぎている。

 

 光の戦士達に勝算があるのではないか? 

 

 内原戸がその結論に至るのは当然だ。デザストロの時と同じく封印を狙うなら、此方の魔術で阻止できると確信しているが、討滅路線ならば話が変わってくる。同時に、ここまで徹底しているという事は彼等は1人も欠けてはならないという可能性。あるいは時間を要する何かがある可能性。そこを突けば絶望が花開くのではないか。

 そもそもその理屈が正しいならば、今は大いなる闇を倒す手段が存在しないことを意味しているのだから、自分の望んだ闇が全てを塗りつぶす展開など造作もないはずだ。

 

「……大いなる闇よ、もう一度偉大なる一撃でもって、あの哀れなバリアを破壊してしまいましょう!」

 

 防がれた時は動揺して取り乱してしまったが、繰り返し攻撃すれば破壊できるかもしれない。期待を込めて提案する。

 

 直後、内原戸の眼前で、触手が海面に叩きつけられた。

 

 闇に汚染され、戦闘の影響で熱水と化した波が内原戸の全身を濡らし、一瞬茫然とする。

 別にダメージ等はない。わざわざ最前線に足を運んでいるように、この程度の事では内原戸は傷一つ負うことはない。

 

 重要なのはただ1点、ガタノゾーアの明確な拒否だ。

 

「何故……!?」

 

 内原戸は動揺するが、すぐに邪神の意志を理解する。

 邪神はこう問いかけているのだ。

 

 ──主催者が、主賓に全て対応させるのか? 

 

「……仰る通り、この終末はこの内原戸が演出したもの。動くべきは此方でした」

 

 絶対的な闇を呼び寄せ、この地球を終わらせる。あの不躾かつ期待外れだった蒼い巨人に代わり、自分が正しい演出を見せつけてやる。そう願ったのは内原戸であり、ガタノゾーアは贄によって招かれたにすぎない。

 息を整え、数多の妨害や想定外でささくれ立っていた精神を落ち着かせる。全てを愚弄する権利を有する己が、弄ばれるなどあってはならない。報復は己自身で行うべきだ。

 

 呪文を唱える。本来であれば、ガタノゾーアの一撃により半壊した街へ、追い討ちとして演出しようと考えていたもの。

 街に染み込ませた闇を触媒にして、使い魔達の大量使役を実行する。

 

「闇よ、質量を宿し、防壁に籠る全ての命を喰らい尽くせ。そうすれば光の戦士達は無駄に力を消費し、やがて無様に力尽きるだろう!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ウルトラマンギンガこと礼堂ヒカル、ウルトラマンビクトリーことショウと合流した後、ヒロユキ達は街を駆ける。

 目的は残る2人、ウルトラマンオーブことクレナイガイ、ウルトラマンXこと大空大地との合流だ。

 

 メフィラスがガタノゾーア相手に時間稼ぎを行い、街が謎のバリアで守られている今の内に済ませる。「向こうも向こうで察知して合流するだろうから、すぐだろう」とはヒカルの言葉だったが、そう簡単に事は運ばなかった。

 

「おい、空気が変わったぞ。気を付けろ」

 

 ショウの言葉に全員が足を止める。

 防壁に守られ、安全地帯と化しているはずの街の空気が塗り替えられたように激しく澱みだした。湿度が粘性をもってまとわりついたような、それでいて冷たく刺すような独特の不快感。

 

「あの怪獣達が出現する前と似ている……くるぞ!」

『ヒロユキ、危ない!』

「!」

 

 タイガの警告が飛び、とっさに回避行動を取る。先程までヒロユキの頭があった位置を、鋭利な触手が素通りしていた。

 

「こいつら……闇の使い魔か!!」

 

 ヒロユキを狙った闇の塊だけでなく、周辺の地面より染み出すように、うぞうぞと闇が蠢きだし、新たな肉体を構成していった。瞬く間にその数は増えていき、ヒロユキ達の行手を阻む。

 見ただけで正気を削っていく冒涜的な存在達に囲まれる、傍から見れば絶望的とも言える状況だが、ウルトラ戦士でもある彼らが怯むことはない。

 

「うわ、気持ち悪~。昼食戻しそう」

「イサミお前な……」

 

 訂正、殆ど怯むことはない。

 ヒカルは不敵に笑い、ショウも静かに構えを取る。

 

「どうやらあの野郎に気付かれたみたいだな」

「さっさと一掃してオーブ達と合流するぞ」

「いくぞ!」

 

 真っ先にヒカルがチャージガン*1、続けてショウがビクトリーランサー*2を撃ちながら突撃した。

 ヒロユキも電磁警棒を構え襲ってくる闇の触手を撃ち払う。湊兄弟はどこからかルーブスラッガーを模した木製の武器を構えて負傷しているリクを守るように注意を払っている。

 

「気を付けろ! あの触手に捕まるとあらゆる力が出せなくなる!」

「それは、厄介ですね!!」

 

 闇の使い魔が持つ、無力化の特性。数多の宇宙人達を攫って生贄に捧げた恐るべき力だが、それは初見殺しとしての要素も大きい。

 事実、ヒロユキはヒカルとショウが銃撃を中心に立ち回っている理由に嫌な顔を浮かべたが、対応できないレベルではなかった。当たれば即死の攻撃などそもそも日常茶飯事である。加えて使い魔達は光弾1つであっさり蒸発したように消滅するし、触手の機動は、ヴィランギルド達が放つ光線銃よりずっと読みやすい。ヒカル達が手際よく戦っているのもあって、寧ろ楽までもあった。

 タイガに変身して戦ってきた事を除いても、ヒロユキは濃密な実戦経験が蓄えられていたのである。それだけ命の危機に晒された回数も多いのだが。

 

 だが、闇の使い魔を操る黒幕は、そんなただ害虫の如く出して済ませる類ではない。

 内原戸は光の戦士達が最も嫌がる行動は何かをしっかりと理解していた。

 

「うわあああああ!?」

「助けてくれ────!!」

「「「「「「!!?」」」」」」

 

 複数の悲鳴が街に木霊する。

 次々と沸いて出てきたそれらは、ヒロユキ達だけではなく避難していた人々にも襲い掛かっていた。窓に向かって触手を突き刺し、砕き割って侵入する小型の使い魔。道路を塞ぎ、車の窓を突き破って中の人間を引きずり出す大型個体。触手に捕まった人々は助けを求めて叫ぶも瞬く間に生気を失い、ぐったりと動かなくなっていく。

 

「な!?」

 

 当然、こんな暴挙を黙って見逃せるわけがない。

 彼等を助けるべく、ヒロユキ達は奮闘することになる。

 

「あの外道が!!」

「大丈夫ですか!!」

「う……あ……」

 

 闇の使い魔を滅し、捕まった人を救出してもそれで終わりではない。ファントン星人ですら、しばらく話す事すらできなくなるほどの気力の簒奪。一般市民である彼等にとっても致命的に働き、触手から解放されても立つことも叶わず避難することができなくなっていた。そんな彼等の傍からうかつに離れることもできず、足が止まったところに次々と使い魔達が密集していく。

 

『ははははははは! 見捨ててしまえば助かったものを!!』

 

 一気に劣勢へ追い込まれていくヒロユキ達の脳内に、大分調子を取り戻したような内原戸の声が響き渡った。

 

「……!!」

『光の戦士達の弱点はよーく知っているとも! できないから光、だものなぁ!!』

「貴様!」

「下種な声だなぁ、言ってる事もムカつく!」

『滅茶苦茶腹が立つな!? 前のトレギアみたいだ!!』

『つーか誰なんだこいつ』

『私の知ってる声ではないな』

 

 心底馬鹿にしたような内容に、皆が大なり小なり怒気を芽生えさせる。それがまた内原戸の機嫌を良くさせ、彼は意気揚々と名乗りを上げた。

 

『おおっと申し訳ない。此方の名は内原戸哲夫、この星に大いなる闇を招来した者。貴方達を闇に閉ざす案内人です』

『案内人ですか(笑)』

『!?』

 

 そして速攻で茶々が入れられる。

 聞き覚えのある声に、ヒロユキ達は驚き、内原戸は顔を歪ませた。

 

『いい加減黒幕といった呼称で認識することが面倒だったので固有名を出してくれたことには感謝しますが、内原戸と呼ぶより案内人(笑)殿と呼んだ方が面白そうですねぇ』

『貴様!!』

 

 内原戸は憎悪と怨嗟に包まれた声を響かせた。当然である。

 これから光の戦士達を煽り散らして溜め込んだストレスの清算を済ませ、使い魔達による蹂躙劇。それが叶わずとも相当の消耗を期待できる最高の機会だったのだ。それを既視感覚える横槍で妨害され煽られたのだから、怒りが煮えたぎってしょうがない。

 

「……」

「チ、メフィラスか……」

「薤白さん!」

「らっきょうさん!」

「らっきょうのおじいさん!」

 

 一方でウルトラ戦士側も反応がわかりやすく分かれていた。

 ヒカルとショウは複雑そうな、特にショウは不信感を隠さない様子。湊兄弟とリクは安堵を隠さない笑顔を浮かべている。ヒロユキはちょっと困惑していた。

 

『……忌々しい、どこまでも演出の邪魔をしてくれる。だが、今の貴様は大いなる闇への対処に手一杯なはず! 負け惜しみにしかならんぞ!』

『手一杯、という部分を否定はしません。ですが、貴方は勘違いをしている』

『なに?』

『私は1人ではありませんし、地球の人々はとても頼もしいですよ』

 

 どういうことかと内原戸も、ヒロユキ達も疑問符を浮かべた時。

 彼等のいる場所から離れた位置、そこで怪しい光が空を舞う。やがて光は大きく拡散し、周囲から一瞬視界を奪うと同時に大質量が落ちたような地響きが響き渡った。

 

「え……」

「!?」

『!?』

 

 絶句するヒロユキ達。

 晴れた視界に雄々しく立ち上がるのは、巨人。

 だがそのボディは黒に近い紺と金の配色であり、その目はつりあがり赤く輝いている。胸元には黄色く輝くカラータイマー。闇に染まった世界では一際輝き無駄に美しく感じる。

 どうしようもなく見た目が邪悪であり、皆が新手の敵だと感じ取ったのは無理はないだろう。次の瞬間までは。

 

「ゼアッ!!」

 

 謎の巨人が両目より赤色の怪光線を放つ。毒々しい怪しさを纏った光線は、範囲を広げながらも真っ先にヒロユキ達がいる方面へ飛んできた。避ける間もなく全員が直撃するが、彼等は何事もない。闇の使い魔達を除いて。

 

『……はぁ?』

 

 声なき悲鳴を上げて爆散していく闇の使い魔達に、内原戸の念話は強い困惑に満ち満ちていた。

 物理的被害を発生させないまま街で暴れる闇の使い魔達のみを次々と爆散させていく紺と金の巨人は、あっという間に周辺の掃除を終えてしまう。不思議な事に、光線の直撃を受けた人々は、弱り切っていた肉体に僅かな活力が芽生え立ち上がることができていた。

 

「う、動ける。動けるぞ!」

「……! い、今の内に避難してください!!」

「ありがとう!!」「ありがとー!」「助かったぁ……!」

 

 いち早く事態に気付いたリクの言葉で、急ぎこの場を離れる市民たち。

 彼等は口々にお礼を述べつつ、避難場所目指して走り出す。

 

「ゼア──!!」

 

 巨人は怪光線を一度止めると拳を握り、メリケンサックを思わせるグローブを装着する。そのまま光線でも吹き飛ばなかった大型個体へ攻撃を開始した。車にかじりつく大型個体へ勢いよく下段突きをブチ当てる。怯んだ個体を掴み上げ、引き剥がし、両手で思い切り千切って霧散させる。

 その戦闘スタイルこそ苛烈で容赦が感じられないが闇の使い魔のみを集中して攻撃していき、力を失っていた人々に力を取り戻させるという正義の執行。どうみても悪党なのに味方の振る舞いをみせている巨人に、皆安堵よりも困惑が顔に出てしまう。内原戸はというと海上の方で完全に呆けていた。ガタノゾーアは牙を何度も打ち鳴らしている。

 

「……味方、なのか?」

「邪悪な奴がスパークドールズで変身したとかじゃなさそうだな」

「薤白さん、あれは?」

『まぁ見ていなさい。そろそろ放送が入りますよ』

 

 メフィラスの念話の通り、広域メガホンに音声が入った。

 政府による公式音声であることが告げられ、そのまま巨人についての言及が入る。

 

『市民の皆さんご安心ください。この巨人は、皆さんの味方です。今街を襲う謎の生命体を駆除する為に活動するロボットです。その名はシャドー! 協力的な宇宙人により、非常事態故に譲り受けてもらったものです!』

 

「「「「「「「えええぇぇ────!?」」」」」」」

 

 街中で大声が響き渡る。

 ヒロユキ達はもちろん、市民救助の為方々で駆け回っていたE.G.I.S.のメンバーも、その助けられた市民たちも、状況をこそこそと把握していたヴィランギルドメンバーも、そして闇の使い魔達による妨害で合流に苦労していたガイや大地も全員だ。

 

 ウルトラマンそっくりで、かつ控えめに言って前科ありそうな怖い見た目してるロボットである。そんなもんを譲ったとかいう宇宙人も信用できなければ、運用してしまう政府にも色々支持率下げたくなってしまう。だが、現実としてシャドーは今もきびきびと働いており、戦闘の合間にも市民の救助活動まで行っていた。文句言いたくても言えない妙な歯がゆさが皆の心に去来する。

 

「XXXXX(古代宇宙語でくたばりやがれの意)!! XXXXX(古代宇宙語でふざけんなくそがの意)!!」

 

 なお、内原戸は黙って念話を打ち切り、狂乱しながら侮蔑語をまき散らし海面で地団駄を踏んでいた。ガタノゾーアは小刻みに震えていた。

 

「……味方なのはありがたいし、助かったけど」

「本当に見た目どうにかならなかったのか?」

『あの見た目を変えたら、それはそれでどうかと思いますがね。ウルトラマンという希望に似せつつ、明確に違う存在だとわかり、かつ暴走してもあの見た目だからと納得されやすい』

「おいコラ」

 

 さりげなく、とんでもない事を口にするメフィラスにショウが苛立った声をあげる。姿は見えないので空に向かって睨みつけていた。どうどうとヒカルが宥めるも通じていない。リク達は冷静に悪趣味なジョークと流していた。

 

『というかどこのロボットなんだ? サロメ星人?』

 

 ヒロユキのそばでアストラル体となって浮かぶタイガが疑問を口にする。

 サロメ星人はかつてウルトラセブンをコピーしたロボットを生み出しており、後に他のウルトラ兄弟を模したロボットも作成量産した実績のある宇宙人だ。

 ウルトラマンを模したロボットとなると、真っ先に候補として名前のあがる厄介な連中である。

 タイガが期待したのは、タイタスならわかるかもと賢者の知識を当てにしたものだったが、先に答えたのはメフィラス星人だった。

 

『改修自体はサロメ星人が主導しましたが、あれそのものはかつてレディベンゼン星人が開発したという宇宙戦闘ロボットですね。にせウルトラセブンなんか採用したら面倒ごとにしかならないので』

『うわぁ! 俺のことも認識してたのか!?』

『いや、当然でしょう』

 

 飛び上がるタイガだったが、メフィラスからの声は呆れが混じっている。ヒロユキも「念話聞こえてる時点でそういうものでしょタイガ……」と呆れていた。タイガは肩を落とし、タイタスが静かに慰める。

 メフィラスは念話で器用に咳払いを行い、話を続ける。

 

『……まぁこんなこともあろうかと、協力者でもあるグローザ星系人*3が予め外事X課に提供していたのですよ。あのロボットは元は侵略兵器だったのですが、自信を失った……絶望したモノを洗脳する光線を放つという機能に注目しましてね』

「どういうことだ? ……あと今元侵略兵器とか言ったな? その機能もどう解釈してもヤバいやつだよな?」

『絶望してる者のみに効果があるという事は、絶望しているかどうかの判別機能があるということ。洗脳ではなく勇気付けるようシステムを改ざんすることも可能ということです。そして、絶望……闇に対して強い効果を放つことも』

「おい無視すんな」

「ショウ抑えて」

『絶望に対する特攻として闇の使い魔達には害ある光線として機能することを期待していましたが……予想通りでなによりです。加えて、あの闇の使い魔達によって無力化する理由が、どうやら【絶望由来】だったのは嬉しい誤算でしたねぇ。人々に活力が蘇ったのは、喜ばしい』

「さすが薤白さん」

「やるじゃん」

 

 上機嫌なメフィラスの声に対し、すっかり尊敬の眼差しを(空中に)向けるカツミとイサミ。

 言葉の節々から感じる胡散臭さでどうしても信用まではできないショウとは対照的だが、疑い続ける分にはヒカルは止める気もなかった。喧嘩腰なのは勘弁してほしかったが。

 だが、ショウはメフィラスを信用していなくとも、彼が作った機会を無駄にするつもりはない。疑う行為を隠さない事と、行動を無駄にしないことが彼なりの誠意でもあった。

 

「よし、急ぐぞ皆。ガイたちの気配はあっちだ!」

「わかった!」

『では私は引き続きあの案内人(笑)の打つ手を潰していきましょう。私の用意した対応策はまだまだありますが、ガタノゾーアに勝つことはできません。繰り返しますが、貴方達の力が必要です』

「!!」

「らっきょうさん……」

『我々だけで勝てるならば、最初からそうしています。ですが我々は最善を尽くします、だから貴方達も最善を尽くしなさい』

「言われなくとも!!」

「よし、皆! はやくガイたちと合流するぞ!」

「はい!」

 

 シャドーが巨大使い魔を派手に蹴り飛ばし消し去る様子を背に回し、ヒロユキ達は走り出す。

 ウルトラ戦士達を無力化せんと、いまだボコボコと新たな使い魔が生じているが、シャドーがその全てを探知し、潰していった。

 胸に宿すはかつての使命とは真逆のもの。希望を守るという反転した命令を彼は忠実に実行する。

 

『素晴らしい。さぁ存分に働くと良い、対闇の使い魔ロボット【ウルトラマンシャドー】!!』

 

「ゼアーッ!!」

 

宇宙戦闘ロボット

ULTRAMAN SHADOW

 

 正義の拳が、また1つ闇の化身を消し去った。

 

 

 

 

*1
(所属組織UPGの携行兵器。光弾として放つ通常モード、捕縛や無力化目的では麻痺光弾を放つパラライズモードなど用途に合わせて使い分けができるとても優秀な武器。チャージによる威力可変度合いは非常に高く、専用車をエネルギータンクとして連結し放つ最大火力は強豪ロボット怪獣すら大きく怯ませる)

*2
(ビクトリーに変身する為のキーアイテムだが、ガンモードとして携行兵器にもなる優れもの。特にスパークドールズをロードするとその怪獣の力を宿したショットを放つことができる。弱い怪獣相手ならば変身するまでもなく倒せるレベルである)

*3
(この宇宙人、さらっと嘘を混ぜている)




こういうことやってるから話があまり進まなくて話数伸びるんだよ!!と自己ツッコミしながら書いていってます。伏線ばらまきすぎるものじゃありませんね!!回収するだけで1話消費してしまう!!

・ガタノゾーア、あんまり内原戸の言う事聞かない。
本文中のガタノゾーアの心理としては、
「街をバリアで守られたからなんだというのか、闇で世界を塗り潰すRTAしたいなら自分でやれ。相手に手札を出し尽くさせてから蹂躙する、ただしジョーカーだけは出させない。それだけ守ればいくらでも遊べるだろうに、余裕のない奴だな」
という認識である。内原戸はメフィラスの意図通り、街にしか意識が向かなくなっているが、ガタノゾーア自体は地球を覆った暗雲で各国家の動きも観ている。世界各地の軍事基地の真上でシャドウミストがいつでも投下される状態になっている事を世界はまだ知らない。当然内原戸も。

・闇の使い魔有効活用。
生贄確保特化の特性とはいえ、捕まった相手が無力化する仕様は、無差別攻撃で凶悪な効果を発揮します。そして避難ができないほど弱ってしまった人々を見捨てられるわけがないので、内原戸の狙いはとても悪辣かつ有効でした。
ただ、対策練ってるのがメフィラス達だったせいで「俺らならこうするから、こう阻止しよう」と想定内の対応を取られてしまった模様。とことん相手が悪い。この時地団駄踏んでた内原戸見てガタノゾーアは爆笑していた。
メフィラス「煽りムーヴなんてさっさと断ち切るのが一番ですよ。演出妨害?盛り上がりに欠ける?知りませんねぇ」

・ウルトラマンシャドー
『映画ウルトラマンゼアス2』に登場した悪のウルトラマン……ロボット。レディベンゼン星人が、『最も効果的な絶望を地球とゼアスに与える為』というコンセプトで、ゼアスそっくりに仕上げ、能力を上回るように組み上げている。この映画はゼアスのさらなる成長がテーマでもあるので、映画冒頭でいきなり南極でゼアスとシャドーが戦い、片目を負傷したあげく光線撃ち合いに敗北するという衝撃的なシーンから始まった。
ロボットのくせに格闘戦特化であり、メリケンサック装着して暴れたりする。一応メリケンサックからミサイル乱射したりもする。絶望した人々を洗脳する機能も搭載されていたりする。カラータイマーを守るためのシャッター機能もなんかついてる。とても欲張りなロボットである。
本作では『絶望したものに効果がある洗脳光線持ち』という部分に注目され、『逆に言えば、絶望した人、追い詰められている人を認識できるんだから、彼等を助ける機能に作り替えられるんじゃね?』と魔改造された。裏設定では改造したのは、改心したサロメ星人(オムニバーシアン)である。
だから見た目は悪党だけどちゃんと正義のロボットだよ!『地球の絶望改め地球の希望シャドー』!登場シーンはウルトラマンゼアスのメインテーマを替え歌にして「ゼアス」を「シャドー」に変えて流してみてください。あら不思議、絶望をもたらすロボットが正義の味方に!

・サロメ星人
最近話題の百万点なお嬢様でもなければ、ヨナカーンの首を求めるサーヴァントでもない。
初登場は「ウルトラセブン第46話ダン対セブンの決闘」。
科学力においてはどいつもこいつもチートなのが侵略宇宙人だが、こいつらは『ウルトラ戦士の性能をそのまま再現したロボット』というとんでもない技術で地球侵略を企んだ。ウルトラセブンことダンを拉致って自白装置を用いてウルトラビームの化学方程式を聞き出して組み込みセブンそのものなにせウルトラセブンを作り上げる。色々ツッコミどころがあるが、できたんだからしょうがない。本当に互角の戦いとなったが、水中戦にもつれ込んだ結果、セブンが勝利してサロメ星人達は宇宙船ごと爆殺された。飛び出したセブンを自分たちのロボットと確信して喜んでたせいで逃げ遅れるという末路だったが、水中ならにせセブンが勝つ根拠でもあったのだろうか。
後に登場したサロメ星人はにせウルトラ兄弟を量産体制にまで持ち込み、宇宙支配を目論んだが最終的に頓挫した。科学力に自信があったが、ベリアルが作った『ウルトラマンゼロを模したロボット兵器』ダークロプスゼロの機能を再現模倣しようとしていたように、内心、上には上がいた事を知っていた。本作でオムニバーシアン化してるのはこのサロメ星人。シャドー改造には滅茶苦茶苦労した模様。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

闇の一撃

今回ガタノゾーアの感情推移。

「(_▽_)♪」

「(。△。)……?……!」

「(。Д。)#」



 

 内原戸哲夫という男は、絶望によって彩られた世界を最高の娯楽だと認識している。知的生命体達が絶望し、惨めに死に絶えていく様を幾度も観賞し、喉を潤してきた。

 道化を眺めることも大好きである。哀れな道化が無様な末路を迎える様に、その時の歪みきった顔を保存して額縁に飾りたいほどに好んでいる。

 全てを見下し、愚弄する彼は、そういうものにしか惹かれなくなっていた。表舞台で暴れる闇の陣営たちの様子を見ながら、勝手に採点し、勝手に期待し、勝手に手助けし、勝手に失望する。そんなことを繰り返してきた彼はいつしか、己を裏側で糸を操る強大な存在だと自負するようになっていった。

 

 活動する星やその場の流れに合わせて名を変え、ただ傍観し玩弄するだけでなく、必要に応じて魔術や贄、あるいは闇の眷属を取り揃え、愚かな道化へ道具を提供する。星が破滅すればよし、道化が破滅しても面白い。愚か者達が掌の上で踊ってくれる様は、自身を全能感に浸らせる。

 

 そんな醜悪な趣味を抱き、趣味を満たすための暗躍を実行してきた男にとって、己自身が道化同然の無様を晒すなど到底許容できるものではなかった。何故己がこのような不快感に苦しめられねばならないのかがわからない。

 自分はあらゆる星の末路を、あらゆる道化の末路を見届けてきた存在。断じて、このような事はあってはならない。

 

 彼にとっての当初の計画は、ガタノゾーアを降臨させればそれで完成とするものだった。あとはガタノゾーアに全てを委ねて姿を隠していれば、きっと黒幕としての振る舞いが崩れる事はなかった。だが、彼は勝利の実感をメフィラスにより奪われており、その目的がずらされ、完全に表に引きずり出された。今の彼は視野を狭められている事にすら気付かない。

 

 大いなる闇が鉄人兵を破壊し遊ぶ間も、彼は矜持の為に、街の攻略へ全力を振るう。

 

「パワーだ! 無数の使い魔ではなく、強固に凝縮した闇の巨人でガラクタを粉砕してやる!!」

 

 触手が人型を模ったような、悍ましき闇の巨人を出現させ、街ごと破壊を目論むも。

 

「◾️◾️◾️◾️◾️◾️!!」

「ゼアーッ!」

「◾️◾️◾️◾️!?」

 

 ウルトラマンシャドーの性能には遠く及ばない。

 怒涛のシャドーメリケンラッシュを受け怯んだところを、巨人を構成するコアを特定され、そこへダメ押しの左アッパー、浮き上がったところへ潜り込み、更に上空へ打ち上げる。

 完全に動きが奪われた巨人に、トドメのシャドリウム光線。赤き閃光(絶望)が容赦なく闇の巨人(絶望)の全てを焼き尽くした。

 

「…………ッッ!! ならば民衆の闇を増幅してやろう!! 追い詰められた愚民どもは容易く正義に牙を剥くぞ! 街に染み込んだ闇を用いて、群集心理を傾かせてやる!!」

 

 直接的破壊よりも精神的破壊を目論み、闇の魔法陣を構築。絶望への誘導と洗脳を画策しても。

 

「ゼアーッ!!」

「地球の力を引き出せるスーパー霊能力者舐めるなー!!」

『此方ピリカ!ホマレ君、マグマ君、今教えたポイントの怪しい石碑壊して!魔法陣の起点みたいだから!』

「任せな!!」「おう!」

 

 シャドーのマインドコントロールビーム(希望与えます光線)が民衆の洗脳を許さず、加えてかつてタイガにフォトンアースの力を与えた霊能力者アイドルが容赦なく魔法陣を破壊。再構築しようにも、起点となる触媒もE.G.I.S.によって特定、粉砕される。

 

「クソが──!! これならばどうだ!! 街に残る闇の因子全てを消費して、災害呪文を展開する!! バリア内で発生する巨大竜巻は防ぎようがあるまい!!」

 

 もう演出も何も知ったことあるかと、ゼットンシャッター内部で引き起こせる最大級の災害を狙って、闇の因子を全消費。怪獣バリケーンですら吹き飛ばされそうな猛竜巻を誕生させようとするが。

 

『おっとこれはまずいですね。では手札をもう1枚』

『此方グローザム! 佐倉、【天界】起動しろ!』

「えーっと、これか! それっ!!」

 

自然コントロールマシン

テンカイ

 

プアアァァァン! 

 

 銅鐸にそっくりな造形をした巨大ロボットが、出現した直後の猛竜巻を瞬時相殺、まるで最初から存在しなかったかのように消し去った。それどころか、空気中に撒き散らされた有害物質たちもついでのように抹消している。

 

「なんでピンポイントでそんな対策ロボット持ってやがるんだあああああ!!!」

『半年間も時間があって用意できないわけないでしょう? 闇の因子は万能触媒ですからね。寒冷化対策に【炎山】、焦土作戦対策に【深緑】もありますよ。戦闘時は当然因子滅却処理を推奨しました』

 

 頭を抱えて叫ぶ内原戸へ、容赦なく事実を突きつけるメフィラス。

 元来であれば、儀式の成功率を引き上げる為、儀式成功後は人類の矮小な抵抗を遊び気分で押し潰す為、なにより己がただ絶対優位の状況で遊びたかったが為に、丹念な演出として街へ染み込ませた闇の因子たち。

 その全てが今、無駄に終わった。

 彼個人で成せる手の全てを使い果たし、とうとう海面で膝をつく。

 

『邪神との戦いはともかく、貴方との勝敗は付きましたね』

「何故だ……」

 

 どうしてこうなったのか。内原戸は全く分からない。

 

『貴方の敗因ぐらいなら教えて差し上げますよ』

「敗因だと?」

 

 負けていない、と言うには己の行動や狙いが悉く潰されており、彼は言い返せない。勝負というならば邪神がある限り勝ちは揺ぎないはずなのに、今の彼にはメフィラスの指摘通り敗北感が存在していた。

 

『とてもシンプルな話です。貴方は勝負の場に立つべきではなかった』

「は?」

 

 意味が分からないといった内原戸の様子に、メフィラスは続ける。

 

『貴方はただ、裏側の暗躍に徹し、ガタノゾーアを呼び出し、後は傍観すれば良かったのです。ガタノゾーアに全てを任せておけばね。名乗り上げた通り、ただの案内人であれば貴方に最低でも負けはなかった』

 

 内原戸の表情が強張る。

 確かに、ただ道化たちを嘲笑っていただけの立場ならこんなことにはなっていなかった。己も敗北を認める事等なかった。そんな己の底を見透かし、過去すら見通したかのようなメフィラスの言動に恐れを抱く。

 

『裏側に徹していれば、ガタノゾーアの敗北すらも貴方の敗北ではない。貴方は新たな邪神を呼び出すまで息を潜め続けるか、別の遊び場で再チャレンジするだけ。なのに馬鹿正直に表舞台へ顔を出せばこうなります』

「つまり……貴様はこう言いたいのか……この内原戸は、道化共以下だと……」

 

 わなわなと震えるも、癇癪のような振舞をとってきた事を内原戸は自覚してしまった。己と同じ行動を他者がとっていた時、自分が嘲笑わないわけがない。馬鹿にしていた連中の場へ自ら入り込み同じように振舞った。

 

『邪神を降臨させた手腕は認めましょう。魔術も世界を滅ぼせる実力だと認めましょう。ですが表舞台に立った経験がなかったのはいただけない。なまじ実力があり、暗躍が上手かったからこそ、他人の演出に感想を述べるだけの行動を舞台裏で大物として振舞えただけ……表に出れば、一流を小ばかにする事で自尊心を満たすだけの哀れな三流。これを道化と言わずなんといいますか』

 

 メフィラスの言葉がトドメとなった。膝をついたまま、内原戸は立ち上がることができない。

 

(思ったより早くこの男の手札が尽きましたね。経験をロクに積んでいない者が一流を見て口にする『俺ならもっとうまくやれる』程、間抜けな戯言もありませんが、その手合いで助かりました)

 

 格付けが終わり、メフィラスは満足気に頷く。

 これで、ようやくガタノゾーア1本に絞れると。役割の終わった案内人の末路など決まっているのだから。

 そう考えたメフィラスの予想は正しい。何事も無ければ、ガタノゾーアは玩具を片付けに入っていただろう。次の演目へ移るのに、出番の終わった人形を放置するような邪神ではないのだから。悪質宇宙人の期待は叶えられるはずだった。

 

 だが、正しかったはずの予想に反し、ガタノゾーアの関心は既にそこにもなかった。

 

──バァオオオオォォォォォン……

 

 内原戸の全身が硬直した。

 ガタノゾーアの今の鳴き声からは明確な不快感、あるいは苛立ちがあったからだ。

 

「お、大いなる闇よ……申し訳……」

 

 硬直したまま激しく震えあがる。必死に、邪神へ頭をさげる内原戸。

 主催者らしく行動しろと示唆され、この顛末。加えてメフィラスの悪辣な心理誘導があったとはいえ、内原戸自身も心の内で敗北を認めてしまっていた。ガタノゾーアからすれば泥を塗られたと認識してもおかしくない。

 

「……大いなる闇?」

 

 だが、叱責のような追及はなく、恐れる未来も訪れない事に内原戸は頭をあげる。ガタノゾーアは内原戸を見てすらいなかった。

 上体を逸らし、下顎についた目が静かに上空へ睨みをつける。ガタノゾーアが抱いた不快感は、暗雲の向こうにあるとようやく悟る。

 

「大いなる闇よなにが……!?」

 

 内原戸の言葉は、ガタノゾーアの眼前で膨大な闇の塊が出現したことで遮られる。

 邪神は静かに視線を街の先へ移し、闇を限界まで収縮させていく。最初に見せた闇の一撃とはもはや比較にならない程の絶対的な圧。世界の裏側まで伝わる殺気となった闇の圧は、受け取った全ての生命に終わりの予兆を告げさせた。

 

『何……!?』

 

 

 一閃。

 

 

 ガタノゾーアによる本物の貫通レーザーが放たれ、街へ突き刺さる。

 

 全てが砕け散る爆砕音が絶望の鐘となって広がった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ぐ……クソッタレ……」

 

 瓦礫塗れの道路上で、ザラブ星人が転がっている。変身が解除されただけでなく、その全身が傷だらけだ。余波だけでこのざまである。

 悪態をつきながら、なんとか立ち上がると、そこにはザラブが懸念、恐怖していた通りの光景が広がっていた。

 

 ガタノゾーアの貫通レーザー、その射線上の全てが崩壊していた。無事な建物など何1つない。最も離れた位置にある山が不自然な形でえぐり消えている。テンカイは爆発炎上し、完全に機能停止している。

 シャドーは自分と同じように倒れ込んでいたが無事だった。カラータイマーは鳴っていない。超高速での回避が間に合ったか、運よく射線上にいなかったのだろう。

 

「普通、シャドーよりテンカイを優先して狙うかクソが……」

 

 ガタノゾーアの洞察力に恐怖する。あの一撃は明確にテンカイを狙ったものだ。自分やシャドーが生存していることが根拠になっている。

 テンカイはただの災害対処策などではない。対シャドウミスト措置を取っていたのだ。空気中のあらゆる汚染物質を除去する機能を強化し、シャドウミストの除去を期待していたが、ガタノゾーアには一瞥されただけで看破されたようだ。

 

(だが結果として、『グローザムは戦死』した扱いでも良さそうだ。周辺のカメラも機能不全に陥っているようだしこのまま一時撤退、体勢を立て直す)

 

 ザラブはふらつきながらも、安全地帯への転移を行う。

 消える瞬間、外事X課が待機していたポイントを一瞥する。

 

(頼むから絶望してくれるな。現生人類が絶望したらウルトラ戦士達とて勝てん)

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─外事X課─

 

「ひ、被害報告!!」

「倒壊したビル多数!! 射線上は全員避難していた為、民間犠牲者は0です!! ゼットンシャッター崩壊!! テンカイは大破轟沈!! シャドー左腕小破!! グローザムさんも余波に巻き込まれ生死不明です!!」

「たった1発で……」

「グローザムさんが!? そんな……」

「彼は絶望するなと言ったはずだ。打てる手は全て使え!」

「……! は、はい!!」

「佐倉さん、大変です!」

「今度はどうした!!」

「世界各国の主要都市、主要軍事基地に霧のような闇が襲っているとのこと! シャドウミストだと思われます! ライフライン、精密兵器が集中的に狙われ被害甚大!! 全て同時に発生した為、各組織手が回っておりません!!」

「……っ! 絶望するな、か。中々どうして困難な任務じゃないか」

 

 

 

 ─E.G.I.S.本部─

 

「ピリカさん大変です! ガタノゾーアの攻撃で街が半壊しました!」

「はぁー!?」

『こちらヒロユキ! みんな大丈夫ですか!?』

『こちらホマレ、マグマ! 各ポイントの避難所は無事だ!』

『こちらカナ! 同じく無事! ついでにヴィランギルドの子たちもね』

「みんな無事なのは良かったけどマジヤバ! ああもう星を食べちゃうウーラーがよっぽどマシに思えてきた!! マーキンドちゃん、佐倉さんからの指示なんかきてる!?」

「民衆避難誘導協力依頼、依然継続! 最重要依頼が……【希望を捨てるな】? 暗号ですか?」

「! いや、ここで暗号とか使う人でもないから……でも意味はありそうだね! カナちゃん、マグマ君、ホマレ君、ヒロ君! 佐倉さんから指示きてる!! 希望を捨てずに頑張ろうだって!!」

『佐倉さんから? 了解! そもそもタイガ達がいるのに捨てるわけないでしょ』

『ハ、社長に拾われてから捨てた覚えねーよ!』

『いや、俺は別に今からでも地球脱出できないかとか考えてないぜ?』

「マグマ? 貴方……」

『マーキンド、冗談だって!! こえーよ!!』

『大丈夫です、僕とタイガ達を信じてください!! あいつは必ず倒します!!』

『頼もしいなヒロユキ! 信じてるぞ!!』

『はい!!』

 

 

 

 ─ヴィランギルドアジト(佐々木カナとガイが襲撃した場所)─

 

「さて、希望を捨てるな、か……この際貴方達にも少しでも手伝ってほしいんだけど」

「もうだめだ、おしまいだぁ……!暗雲で地球脱出も叶わねぇ……!!」

「やつは伝説の超最邪神(スーパーさいじゃしん)、俺達が逃げ切れる相手ではなかった……!」

「はぁ……貴方達いい加減にしなさいよ!! 今生きているんだから最後まで諦めない!!」

「E.G.I.S.……!」

「そう思うならこの鎖そろそろ解いてくれませんかね。これじゃ何もできないんですが」

「諦めず戦えるならいいわよ。諦めてるなら邪魔だからそのままね」

「前門の鬼畜天使、後門の邪神か……」

「誰が鬼畜天使だ!!」

「幹部達に報告終わって、結局脱出もできてなかった情けない仲間を迎えに来たら、なんだお前ら。地球人1人に無力化されている上、邪神ごときに心折られるたぁそれでもヴィランギルドか」

「「「ベネット!!」」」

「えっと……どちらさま?」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─海上─

 

──バァオオオオォォォォォン……

 

 これまで守られ続けていた街をゼットンシャッターやテンカイごと破壊したガタノゾーアは上機嫌に牙を打ち鳴らす。たった1撃で齎した破壊の惨状に大喜びだ。ついでのようにレギオノイド達をより無造作に破壊し続けている。

 その様子を見て、ようやく内原戸も実感する。連中の抵抗など、所詮はこの程度。大いなる闇の前では塵芥に等しいと。己が味わわされた敗北感など一時の感情。メフィラスにより奪われ続けていた高揚が、全身に満ちていく。

 

「……ふ、ふははははは!! 流石は大いなる闇!! 絶対的な力です!!」

 

 我が事のように喜ぶ内原戸だが、彼は気づいていない。既にガタノゾーアは彼から興味を失っている事に。

 その様子をひっそりと眺めるメフィラスは、同じく内原戸をもはやどうでもいいものとみなし、ガタノゾーアのみを睨んでいた。

 方々から入ってくる情報が悪化を告げるものばかりで、思わず額を抑えてしまう。

 

「……やはり遊ばれていましたね。世界規模をたった1手で最悪状況に持ち込めるなら、当然ですか」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()。ガタノゾーアにはバレているとは思っていたが、実際にやられるとため息が溢れる。内原戸とかいうアホは街に釘付けとなってくれたおかげでやりやすかったのだが。

 

「しかし、ゼットンシャッターにはシャドウミストで時間をかけて破壊してくるという読みが外れるとは。私すら弄んだとは、あまり認めたくありませんが」

 

 メフィラスの予定ではもっとガタノゾーアを遊ばせておくはずだった。シャドウミストに抵抗する人類の英知を楽しむだろうと判断していたが、実際は対処可能な防壁と兵器を貫通レーザーで一掃してからの世界同時襲撃だ。確かにされたくない最悪の一手だが、ガタノゾーアが演出したかった絶望としては早廻しなように思える。

 

「……ガタノゾーアにとって、今そうした方が面白い状況になった?いや、そうせざるを得なかった?」

 

 嫌な予感。嫌な可能性がメフィラスの脳裏に走る。

 ガタノゾーアがある程度状況を繰り上げする必要が生じたと判断したならば。

 

 今ガタノゾーアが把握している我々とは別の、新たな敵がやってきたケース。そしてそれが、ガタノゾーアにとって正しく『敵』であると認識できるケース。

 今の地球にそんなものがやってくるとするならば、メフィラスにとって該当するのは1人しかいない。

 

「まずい。まさか、呼んでもいないのに来るというのか……!!」

 

 焦るメフィラスの心情を無情にも踏みにじり、ガタノゾーア周辺の暗雲が光で一気に散らされた。

 

 

──バァオオオオォォォォォン……!! 

 

 

 暗雲を散らした七色の輝きが、恐るべき破壊光線となってガタノゾーアに直撃する。

 ドラゴドスの120万度に達する熱線でも痛痒の素振りすら見せなかった邪神が、明確に怯みをみせた。

 光線を放ち続けている主は、暗雲の穴より太陽光と共にゆっくりと降りてくる。

 

 それは、今まさに絶望の波に襲われた人々にとっても、ヒロユキ達ウルトラ戦士にとっても、まさに希望そのものだった。

 

「なんで今来るのです! お前が来たら陛下がどう動くかなど決まっているのに!! 馬鹿たれが!!」

 

 唯一、メフィラスだけが罵倒を飛ばしていたが。

 

 

ウルトラ兄弟No.6

ULTRAMAN TARO

 

 

 赤きボディに輝くウルトラホーン。

 トレギアにとっての絶対的太陽であるウルトラマンタロウが降臨した。

 ストリウム光線の照射がようやく終わると、爆炎と煙の向こうから、怒りを目に宿した邪神が露になる。

 

──バァァァァオオオオオオオオォォン!! 

 

「タァーッ!!」

 

 この地球で初めて、大いなる光(ウルトラ戦士)大いなる闇(ガタノゾーア)が激突した。

 

 

 

 




運命論「劇場版に沿うよう修正しておいたぞ^^」
メフィラス「 」


・自然コントロールマシン
本当にこんな名前のロボット怪獣。初出はウルトラマンガイア。
風速80㎞の台風を発生、地上のあらゆるものを吹き飛ばしながら空気清浄化を行う『天界』。
超高熱熱波をばらまき、周辺生物が死に絶えようが地球寒冷化が防げればヨシ!の『炎山』。
樹海化を急速促進することで、地上文明はもちろん、環境激変で動植物影響甚大な『深緑』。
ガイアの主敵である根源的破滅招来体によって呼び出され暴走したようなロボット達だが、当初のコンセプトでは古代人が対根源的破滅招来体で作り上げた兵器だった。深緑が出た時に自滅願望豊かな未来人(一応根源的破滅招来体に利用された体裁)の手で文明破壊するのが目的だったとかにされてしまったが。
環境テロリストの類が、やれ地球の為だなんだと言いながら周辺の動植物ガン無視で行動する矛盾性はよくやり玉にされるが、ここまで極端な真似をした類はそうもいないだろう。
やり方は色々致命的に間違っていたが、モノは使いようである。本作ではオレギアによって回収、改造され今回使用された。特にシャドウミスト浄化を期待されていたが、ガタノゾーアに即看破され破壊されてしまった。

・内原戸の実態
こいつの本質は、ヴィラン達の行動をあれやこれやと勝手に批評したり、勝手に手伝って勝手に失望して、勝者も敗者もバカにするもの。悪く言えば、茶々だけ入れて勝敗の土俵には決して入らない卑怯者。だがずっとそうしてきたからこそ、自分こそが絶対的な闇だと過大評価していた。過大評価できるだけの暗躍スキルと力を有していたが、表舞台に上がってきたのでボロが出た。

・ガタノゾーア、動く
本当はもっと内原戸が弄ばれ、世界が儚い希望を強固なそれと勘違いして、もっとしがみついてしまう状況まで待ちの一手を取る予定だったが、強大な光が地球へ向かってきていることを察知した為、予定を繰り上げた。
一気にひっくり返されて、絶望に陥りかけた人類を嘲笑いながらも、降りてきた御馳走を迎え撃つ。予定を崩されたうえ、光線が思ったよりも『痛かった』ので稚気程度の怒りがある模様。それでもここでタロウを滅ぼした時の絶望度合いはもっと面白いと考えている。

・人類側大混乱
現在のシャドウミスト襲撃ポイント。世界主要都市の主要発電所、電波塔、浄水施設、燃料貯蔵施設、軍事施設の精密兵器全般。これら全て同時に発生した為、情報集積も対応力も一瞬でパンクした。外事X課(あと事実上の下部組織なE.G.I.S.)らは直接対応しているから優先的に情報届いただけ。
テンポの兼ね合いから人類側の反応はあえて外事X課とE.G.I.S.の台詞のみで流しています。絶望しそうだけど、邪神と戦っていることもわかってるから頑張って耐えてる。

・タロウ到着。
ゼロからタイガについての情報は聞いていたので、いいタイミングで迎えに行くか帰りを待つかで悩んでいたが、帰ってくることを疑わず探さなかったことで親友トレギアを失ったことを思い出し、元より地球に向かっていた。劇場版ではTV最終回から半年後だったが、本作は1年後なのでこのような行動の変化が発生した模様。地球が闇に包まれているのを察知して全力で突撃した。

・メフィラス、想定外
原作知識では、『タイガ劇場版』においてタロウが突撃した理由があくまでトレギアの煽りと誘導にあった為、余計なことさえしなければ来ない可能性は高いと見ていた。仮に来るとしても、タイガがピンチに陥る瞬間だろうと運命論を軽視。
だがそもそもタイガがいるとわかっている地球で邪神が降臨したなんて大事を光の国が察知できないわけもなく、そしてタロウは気づいたならば決して見過ごさない太陽であった。
メフィラスも実は想定外は結構苦手で紳士然とした態度があっさり崩れるタイプだったりする。

・今のオレギア
「出陣する!!俺のタロウじゃなくてもタロウだぞ!!邪神に触手プレイなどさせてたまるか!!」
「陛下御乱心!者どもであえであえ!混沌皇帝陛下を抑えつけろ!!」
「突撃させたら俺たち全員メフィラスに殺されるぞ!!」
「メカゴモラを出せ!!ガッツ星人は分身して拘束ビームだ!!ヒッポリトも行け!!ブロンズ像にしても構わん!!陛下を止めろ!!」
「お前ら離せ!!タロウが!タロウが俺を待っているんだーーーー!!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

光と闇の激突

前回までのあらすじ
ガタノゾーア「(。へ。#)」
タロウ「タイガ迎えに来たらなんか地球が闇でおおわれてたんだが」
メフィラス「おなかいたい」


 

 ガタノゾーアによる絶望の一撃が放たれた後。

 

 崩壊した街の惨状を前に、ヒカル達は絶句していた。

 内原戸による妨害や追撃は、あのどうみても悪党なウルトラマン型ロボットのシャドーや、地球の人々、あとメフィラスの奮闘により阻止され、無事にクレナイガイ、大空大地と合流し、彼等の変身アイテムに力を返還していた。

 

 後は先に変身してしまった故に生じた再変身までの時間を稼ぐだけとなったその矢先に、ガタノゾーアが猛威を振るったのである。力を取り戻して早々にガイやショウが全力を尽くして余波を防いだことで、彼等自身は無事だったが、視界に映る被害は彼等の表情を歪めるには十分すぎた。

 E.G.I.S.メンバーとの通信では、不安がらせないためにも強気で返したが、ヒロユキの心中は全く穏やかではなかった。まだ変身が叶わないのだから。

 全員で行かねば勝てない相手だとわかっているだけに、誰かが先行変身するわけにもいかず、少しでも早く変身可能なエネルギーが貯まる事に集中しなければならないのに、その蓄積が遅い。

 

「くそ、あの時変身しなければよかったのか……!?」

「いいや、それだと結局あの古代怪獣達によって街は崩壊していたし、デザストロも街中で出現していたはずだ。お前らの選択は正しかった」

「街があんなになっているのに、変身できないなんて……!」

 

 これは2つの誤算が原因だ。

 1つは内原戸による最初の妨害により、皆ある程度消耗してしまった事。闇の使い魔達との戦いは、内原戸の期待していた効果を確かに与えていたのだ。

 もう1つは、地球を覆った暗雲にある。あれはただの暗雲ではなく、ガタノゾーアの闇だ。光がもたらす力そのものを完全に遮ってしまっている。ウルトラ戦士にとって、光の力……特に地球において太陽の輝きは肝要だ。不足すれば再変身のインターバルにすら影響する。

 

 そして今、ガタノゾーアの余波を防ぐためだけに、ガイとショウが消耗した力の分も回復せねばならなくなった。無論、ライフで受けるという選択は暴挙かつ無謀であり、光エネルギーの消費をミスとは言えない。だが、これで焦るなという方が難しい。

 

 ちなみにメフィラスは「仮に変身まで時間かかったとしても、ガタノゾーアの性格を考えればギリギリ間に合う程度の時間稼ぎぐらいできるだろう」と考えていたので、彼にとってはあくまでガタノゾーアの早期行動のみが誤算である。

 

 街を破壊し、世界を蹂躙し、狂気の咆哮を轟かせる邪神。ヒロユキ達の焦りが、加速度的に増していった時。

 

 暗雲を貫き散らしながら、ウルトラマンタロウが降臨した。

 

 いまだ変身して突撃できない状況下にあった彼等にとって、タロウの降臨は心強く、希望そのものだった。

 

「タロウ……来てくれたのか!!」

「流石はタロウだ」

「「ウルトラマンタロウ……!」」

「タロウさん……!」

『父さん……!』

「あれがタイガのお父さん……!」

 

 彼等の口々から出てくるのは強い喜びと安堵。

 ニュージェネレーションヒーローズと呼ばれる新世代のウルトラ戦士達は、タロウの力をよく知っている。

 ウルトラマンギンガは、スパークドールズとなったタロウと長い付き合いであったし、共に一体化してギンガストリウムにも変身していた*1ウルトラマンビクトリーは、そのギンガの相棒として戦ってきた事で、タロウの事も理解していた。ウルトラマンオーブ、ブル、ロッソはタロウの力が宿ったアイテムを変身に活用している。ウルトラマンジードは強い接点こそないが、ロイヤルメガマスターに変身した際はウルトラ6兄弟の力も存分に活用している。

 そしてタイガにとっては唯一無二の父親だ*2。明確な接点がないのはウルトラマンXぐらいだろう。皆が希望を宿して目を輝かせている中、大地だけは少し曖昧な反応だった。

 

「頼むぞタロウ!!」

「タロウだけに任せるな! 急げよ皆!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 今、地球上で唯一光が降り注ぐ場と化した、ガタノゾーアが座す海上。

 暗雲に生じた穴は、ストリウムの影響を強く受けているようで、修復が阻害されていた。結果的に、タロウは己にとって悪くない戦場を構築することに成功していた。

 

(……地球の皆は無事か?)

 

 そのタロウが、地球上に降り立って真っ先に気にしたのは、やはりタイガを含めたニュージェネ達……ではなく、地球に生きる生命達だ。

 星がガタノゾーアの闇に覆われてしまえば、光の下で生きる多くの地上生命達は長く生存できない。皆が絶望に囚われたとしてもおかしくない状況だ。背後の街は半壊しているし、何故だかよくわからないがどうみてもベリアル銀河帝国所属の鉄人兵達が次々海の藻屑へ消えている。いや本当になんでだ。わからないがガタノゾーアと敵対してるならいいかとタロウは流した。

 

 だが、タロウの懸念に反して、人々は闇に包まれても諦めずにいた。元々怪獣慣れしている頼もしい人類である。各国軍隊や国家公務員たちはシャドウミストから避難しつつ、取れる手段で拡散を防止できないかと奮闘。更に無事な物資を迅速に確保輸送させ、安全圏へ送り届けていた。避難先の人々も恐怖に震えるばかりではなく、共に支え合っている。光にも闇にも傾く混沌を宿す地球人達の、輝きをタロウは感じていた。

 

(ならば、この輝きは私が守る!!)

 

 タロウの熱い闘志が更に燃え上がる。

 

(だが、タイガ達がこの場に立っていないのは何故だ?)

 

 闘志を滾らせながらも、息子達の安否を続けて気に掛ける。

 今この場にいないのは邪神に敗北したのではという可能性がよぎるのは当然でもあった。

 だが感知する限り、どうやら半壊した街にニュージェネのメンバー共々留まっているようだ。全員で戦う準備を整えていたか、あるいは一度変身していた為、再変身が可能になる時間がまだなのだと悟る。

 

(変身に関しては、あの子がきっとなんとかしてくれるだろう)

 

 無事であることさえ分かれば、変身できていない点も今のタロウは心配に値しない。

 地球に向かう際、『何時まで経っても帰ってこない兄たちがいる』と憤慨していたウルトラウーマンと合流していたのだ。ガタノゾーアの闇が覆っていたため、先行して突撃してしまったが、彼女が追い付いてきたら皆変身に支障はないだろう。

 

(だが、私は待つつもりはないぞ? ギンガ、そしてタイガ)

 

 この邪神は、息子が戦うべき相手なのかもしれない。試練なのかもしれない。

 だがそんなことは、今ある命を守る使命の前には無価値な話だ。そもそも過去にテンペラー星人が襲撃した際「タロウが頑張るべきだ」などと大分スパルタな対応された事を息子達にする気はない*3。いや、最終的に兄さんたち頑張った自分褒めてくれたし、幹部戦では助けてくれたけど。

 

「ゆくぞ! テヤァ──ッ!!」

──ウォオオオオォォォォォン……! 

 

 タロウが吶喊を仕掛け、ガタノゾーアが迎え撃つ。

 無数の触手が海面へ飛び出し、タロウを拘束せんと動くが、どっかの蒼い巨人がやたら懸念していた触手拘束など彼には通用しない。

 正面からくる触手は拳で打ち払い、足への引っ掛けは察知して回避、その動きに併せて背後からの触手を蹴りで弾く。懲りずに再度襲ってくる触手の1本を片手で握り掴むと、頭部のウルトラホーンよりブルーレーザーを放ち焼き千切った。

 

 ──バァオオオオォォォォォン……

 

 この戦いを眺めていた内原戸は、この現れたウルトラ戦士を嘲弄する。

 

「はっ、暗雲を突き破ってきた時は驚いたが、あの光線でも大いなる闇は倒せない。加えて威勢よく向かってきた割には防戦か? 大いなる闇の触手を千切ったところで、それは数を減らすことにすら繋がらないぞ!」

 

 それどころか千切った触手は闇に還元され、シャドウミストとなってその肉体を蝕むことになる。愚かな判断だと彼はほくそ笑むが。

 

 

 タロウの手に握られているのはシャドウミストと化した触手ではなく。光の槍であった。

 ばちばちと高密度のエネルギーが迸るそれに、闇の要素など一片もない。

 

「……は?」

「ウルトラランス!!」

 

 タロウが持つキングブレスレットの力で、光へと転じた元触手は、そのまま元主へと投げ返される。

 タロウの膂力で超加速した光の槍はガタノゾーアの外殻へ突き刺さり、大爆発を起こす。

 

 ──バァァオオオオォォォン……!? 

 

「……!!?」

 

 内原戸は開いた口が塞がらない。

 爆炎が晴れた時、彼の目には、信じられないものが映っていた。

 絶対的闇であるガタノゾーアの外殻に欠損が見られている。それは瞬く間に修繕されたが、あらゆる光線が効かないはずの外殻が、外部によって傷つけられたというのは神格を脅かすものだ。それを単独で行った、このウルトラ戦士が信じられない。

 

「無造作に触手を振るいたいなら続けて構わんぞ。次はその顔を貫く」

「!!?」

 

 邪神相手に軽く挑発すらしてみせるタロウに、内原戸は絶句するが、当のガタノゾーアは喜色を滲ませ吠え猛った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 崩壊した港にて、悪質宇宙人が頭を抱えていた。

 人類は「がんばれー!」「まけるなー!」とご丁寧に中継されている戦いの様子を見て、声援をあげているし、ニュージェネ達も士気をあげている。

 実際、ウルトラマンタロウは互角に戦っているようにみえる。挑発もカウンターも気にせずに触手を鞭のように振るうガタノゾーアの攻撃をいなしつつ、懐に潜り込み全力全開のアトミックパンチをその顔面に叩き込む姿は実に雄々しい。なんかあのパンチ見ると腹部に幻痛が走るが*4

 シャドウミストを警戒して、即座に距離を取っていることも、まさに歴戦の兵だろう。

 

 だが、メフィラスからすればこの場にタロウがいること自体が最悪なのである。

 

 メフィラスは『正史アーカイブ(タイガ劇場版)』を知っている。タロウの登場が、もし正史の展開に繋げるための運命修正であるならば。

 

「最悪、ガタノゾーアによって闇堕ちさせられる可能性がありますね……ああもう!!」

 

 恐ろしいことに、これができるかどうかでいえばガタノゾーアはできるのだ。希望を絶望に塗り替える演出としても、選択肢にあげていることは間違いない。石化したあげく洗脳するなど、実にやりそうだ。

 

「おまけにこの可能性は陛下も気づいている以上、絶対にこっちに来る!! 私が何のためにここまで必死にひよっこウルトラ戦士共を手助けしたと思っているのか!!」

 

 オムニバーシアンという組織は、あくまでトレギアが改造支配した独立世界とグリムドの権能に頼っている。つまり創作でよくある悪の組織と同じで、頭が潰れたら全て瓦解する組織でもある。

 

 そもそもトレギアが死ねばオムニバースは容易く消滅するのだ。

 あくまで彼個人によって並行同位体となったオムニバーシアン達もどうなるかわからない。実証実験など不可能であるが、もし並行同位体の存在確立が介入者の存在で成り立っている場合、介入者の死は最悪全員が消滅する可能性もある。仮に存在維持できたとしても統率力を失ったオムニバーシアン達がばらばらになるのは間違いない。大多数が元侵略宇宙人なので、だいたい各世界で暴れ出してその世界の正義に殲滅されていく未来しか見えない。

 

 メフィラスがトレギアを強引に皇帝へ据え、無暗に動かないよう促し続けている本当の理由。それは『オムニバーシアンの存続』である。これこそがメフィラスの行動理念だ。無論、あくまで皇帝に仕えたいという我欲も交えているが。

 命を救われた恩義には真面目に応えているし、忠誠も決して嘘ではない。その上で、この有意義な第二の人生を永遠に謳歌したいという我欲も本音の1つだ。裏切る意味などなく、失いたくなどない。偉大なる皇帝(エンペラ星人)に仕え続けた己は個で動くより組織で動くことが性に合っているというのもある。

 

『ウルトラマントレギア』はオムニバーシアンにとって最後の切り札であり、急所なのだ。

 保険として皇帝招来は準備していたが、内原戸がトレギアに悪意を抱いている事を吐露したことで、メフィラスはトレギアを呼び寄せる気など完全になくなっていた。決着寸前か終わった後に、場を整える名目で顔でも出させれば良いと結論を出していたのだ。

 

 その全てがタロウの降臨で台無しになった。

 

 紳士の仮面を投げ捨てて罵詈雑言をまき散らしたいところだが、今回内原戸に対して散々醜態晒すよう動いた自分がそうなるのは流石に自尊心が働く。

 

「メフィラス紳士たるもの、あのような無様は晒せぬ……!」

 

 既に結構喚いた自覚もあるが、落ち着かねばならない。らっきょうを取り出し、乱暴に噛み砕く。

 好ましい風味と食感で、荒ぶった心を整え直した。

 

「ふぅ……」

「落ち着いたか?」

「ええ……お見苦しい所を」

「気にするな気持ちはわかる。ああ、外事X課ではグローザムは生死不明扱いだ。その気になれば生存に切り替えられるぞ」

 

 息をついたところでザラブが背後に現れる。

 もっと前からいたのだろうが、タイミングを計ってくれていたのだろう、己の醜態を流してくれたことに感謝しつつ、ザラブの言葉でグローザム戦死演出も予定と違ったことを思い出した。

 

 元来の予定では、時間稼ぎを継続しながらガタノゾーアの注意を集め、地球人達を庇うかカッコいい台詞を残す形でグローザムの戦死を演出して、地球人の戦意高揚へ繋げるつもりだったのだ。義憤を希望に繋げようとする悪質っぷりであった。

 

「それで、どうする?」

「……ザラブ、貴方の負傷は?」

「応急処置は済ませた。お前の判断に従う」

「……ガタノゾーアが動きを繰り上げてきた以上、元来の作戦は放棄します。今頃同胞達が制止している事でしょうが、間違いなく陛下が来ます。つまり我々が今やるべきは、タロウを守ることです」

 

 あのウルトラ兄弟を、暗黒四天王であった自分が守る。忌々しいメビウスを鍛えたという、師匠ポジのウルトラ戦士を守る。

 その事実を認識した瞬間、耐え難い屈辱にも似た、胃の腑を焼くような気持ち悪い感触がメフィラスを襲った。寒気すら覚える。

 いっそ裏切ってタロウ磔にしてメビウスをおびき出してガタノゾーアごと殺害できないかと迷走すらしかけるほどだ。忠誠心で抑え込んだが。

 ザラブも似たような感覚を覚えたのか、オーバーに自らの身体を掻き抱いて震えるそぶりをみせている。

 

「全く冗談ではないな。ウルトラ兄弟を守る? 我々が?」

「同感ですよ。しかし、やるしかないでしょう。あともう1つ」

 

 メフィラスは、ザラブの前で掌を広げた。掌の上には怪獣リングが3つ。ビルガモ、レギオノイド、ドラゴドスだ。その内、レギオノイドのリングが黒ずみ、腐食していた。もう使いものにならない事がわかる。

 

「シャドウミストで殺されないように。良くて汚染、悪くて完全に死にます」

「……わかった」

「タロウと言えど、ガタノゾーア相手ではじきに追い込まれるはず。タイミングを見計らい、救援に入りますよ……本当に気は進みませんが!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「タァーッ!!」

──バァァオオオオォォォォン……

 

 無数の触手がタロウ1人を狙って海面より飛び立つが、タロウはその全てを両の拳で打ち払う。

 隙あらばまた焼き千切ってウルトラランスへと武器化する素振りすらみせるが、流石にガタノゾーアもそれを二度許す気はないらしい。

 

「ウオッ!?」

 

 掴もうとした触手がシャドウミストに変じる。薙ぎ払う様に振るわれた触手だったにもかかわらず、シャドウミストに変じた途端、その場に留まり漂った。慣性の法則など全く適用していない。否、地球が認識するあらゆる法則にシャドウミストは従わない。質量なき、意思ある闇として己が持つ性質と特性にのみ従っている。

 空間に固着したかのように留まるシャドウミストは、タロウにとって邪魔な障害物として機能する。ガタノゾーアにとっては意に介する必要すらない。シャドウミストで己が傷つく事等ないのだから。触手の乱舞は一切の変動無く振舞われる。

 

「グッ!?」

 

 強制的に動きを鈍らされては、いくらタロウでも回避はできない。鞭のようにしなった触手が1本、タロウの肩を打ち据え、膝をつかせる。

 邪神の前で一度怯めば、それはただの玩具にすぎない。瞬く間に触手の渦がタロウの全身を飲み込んだ。

 

「おお! 流石は大いなる闇!! ははっ、なんだ! 最初にこそ驚かされたが、そこまでだったようだな!!」

 

 触手の暴風雨とも呼ぶべき激しい殴打音が周囲に響き渡る。犠牲者の姿は内原戸の視界にも映らないが、赤い戦士が血みどろになって息絶えていく確信が彼にはあった。

 

──バァオオオオォォォォォン……

 

 ガタノゾーアの不快げな鳴き声を聞くまでは。

 

「!!?」

「タロウスパウト!!」

 

 触手の嵐から、猛回転するタロウが飛び出した。

 回転することで、触手による猛攻撃の全てを弾ききっていたのだ。脱出後も回転を続けるタロウからそのまま虹色の竜巻が発生する。虹色の竜巻は猛威を振るっていた触手たちを巻き込んでいき、次々と引き千切る。さらにシャドウミストも浄化したかのように霧散消失させた。

 

「これで振り出しだな」

──……!! 

「大いなる闇よ!! 何をしているのですか!! そいつさえ潰してしまえば、人々は絶望するのです!!」

 

 傷1つないタロウが海面に降り立ち、ガタノゾーアがぎちぎちと鋏を擦り合わせる。

 その近くで内原戸が好き放題言っていたが、2者共に彼の存在は意図的に無視していた。

 

 タロウからすると、一瞥しただけで邪神を呼び寄せた元凶だとわかった以上、見逃すつもりはない。ただ『ガタノゾーア相手に隙を見せたくない』からハンドビームによる駆除すらしないだけである。後手上等、何か余計な事をしてきた際に対応すればいいと考えていた。

 ガタノゾーアからすると、始末するタイミングを逸したただの賑やかしであった。リアクションが面白いからあえて眼前の『敵』を放置してまで片づける意味を持たないだけである。道化である限りは、存在を許容するのも支配者の嗜み。でもちょっとうるさい。そんなことを考えていた。

 

「ハァ!!」

──バァァァオオオオオオォォォン……!! 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 タロウとガタノゾーアの激突が続く中、メフィラスとザラブは今も港で観戦していた。

 作戦を決めた後、特に何をするでもなく、ただ眺めている。

 沈黙だけが流れており、いい加減限界だったのかザラブの口が開いた。

 

「なぁメフィラス」

「なんですかザラブ」

「あれ加勢する意味あるのか?」

「……」

 

 ザラブの問いに、メフィラスは答えない。

 助勢する方針に嘘はなく、今更ウルトラ兄弟を援護する不快感が勝ったわけでもない。

 単純に戦闘が壮絶である為、そのチャンスが見えてこないだけだ。想定では、いくら一見互角に見えてもすぐに劣勢になるだろうからそこで救援し、少しでも生存に貢献するというものだった。

 

「タロウカッター!!」

──バァァァオオオオオオォォォン……!! 

 

 本当に単独で邪神と戦闘を成り立たせているなど完全に想定外である。ウルトラ兄弟怖い。

 いくらウルトラ兄弟が成長を続けているとしてもあの強さはメフィラスの頭脳をもってしても理解できない領域に届きつつあった。あのガタノゾーアは、あのウルトラマンティガを弄ぶほど強大な邪神であり、しかもデザストロを依代にしたことでより強大なはずだ。

 ガタノゾーアが遊んでいるとしても、わざわざ互角程度まで抑えて遊ぶよりは絶望を煽るように弄ぶ方向を取るはずだから、あれは本当に戦っていると見ていい。そこへ自分たちが下手に割り込めば、確実に無駄な死体ができあがるだけで終わるだろうし、タロウの隙となってしまっては目も当てられない。

 

 

「レギオノイド達もあれ意味あるのか?」

「……」

 

 メフィラスは答えない。

 既に出現ポイントを完全に予測されており、タロウが対峙してからは置きシャドウミストのみで対応されている。

 ガタノゾーアも、タロウが相手ではレギオノイドは1手の隙になりうると考える程度には邪魔と認識したとも言えるので止める気はなかった。わずかでも思考処理を割けているならば良い。ものすごい勢いで残機が目減りしているが。

 

「……ワープ救援は不可能ですね」

「レギオノイドの処理から見ても、時空間の歪みに自動対処しているな。転移で割り込んだ瞬間にシャドウミストに捕まって死ぬだろう。で、どうする?」

「……」

 

 メフィラスは答えない。

 ただ、静かに腹部をおさえて摩っている。

 

「メフィラス」

「……」

 

 何をするでもいいから、指示が欲しいザラブは諦めずに声をかける。

 メフィラスはようやくザラブへ顔を向ける。心なしか、その表情は青ざめていた。

 

「申し訳ありません、ザラブ」

「!?」

「時間切れです。……早すぎる」

 

 メフィラスが答えなかった理由はたった1つだ。

 時間切れという言葉の意味を悟り、ザラブも腹部をおさえて蹲った。

 

「絶望していいか?」

「気持ちはわかりますが、ダメです」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 光と闇が激突を繰り返す中、どちら側でもない力が突如発生した。

 異変を感じ取ったタロウは戦闘を中断し距離を取る。ガタノゾーアも、隙を突くことなく、尋常ではない異常を感知し困惑していた。

 

「!?」

「!?」

──……!!? 

 

 タロウとガタノゾーアの間。その空間が突如捩じ切れるように歪み果てる。

 歪んだ空間が模っていくものは、見るものに巨大な扉を思わせた。

 規模こそ膨大だが時空間転移に違いはない。レギオノイド達を破滅させてきたように、シャドウミストが扉へ纏わりつくが、それは無意味に終わる。

 

 

<<(◎)>>

 

 

 シャドウミストが一瞬で掻き消え、悍ましき邪神の咆哮が、世界の壁を突き破った。

 

 

 混沌の力が歪んだ扉を強引にこじ開ける。

 

 

 タロウは身を強張らせた。

 内原戸は空白を覚えた。

 ガタノゾーアは疑問符で埋め尽くされた。

 

 ヒカル達は新たな脅威に再び焦燥感に支配された。

 市井の人々は突如乱れた中継映像に困惑した。

 外事X課は混乱のあまりシャドーの操作を忘れていた。

 

 ヒロユキ、タイガ、フーマ、タイタスはなんとなく扉から出てくる存在の正体がわかって苦笑を浮かべた。

 メフィラス、ザラブは静かに胃薬を服薬した。

 

 

 ついに扉が開かれ、邪念と執念に塗れた巨人が君臨する。

 

 

 

 

「タロオオオオオオオオ!!!」

「(`・ω・´)」

「え、トレギア!!?」

 

 扉から姿を現したのは、先程までの冒涜的気配が微塵も感じられないなんかボロボロのトレギアだった。

 

 

*1
(知らない人からすると意味不明だが、ウルトラマンタロウが自ら変身アイテム『ストリウムブレス』と化して、ギンガを強化する形で変身する。あのタロウとの一体化であり、スーパーウルトラマン形態とも言える。トレギアぶち切れ不可避の変身形態。タロウが職務復帰してからは変身不可能だったが、ギャラクシーファイトからはタロウの力の一部がストリウムブレスとなって変身可能になっている)

*2
(タイタスとフーマにとっては親友のお父さん)

*3
(タロウ視点の話である。実際は、テンペラー星人達とウルトラ兄弟全員が全力戦闘した時の周辺被害を気にしていた。東京壊滅を懸念していたわけだが、テンペラー星人がそれを看破して積極的に破壊活動していたので、この判断が正しかったかは解釈が分かれるところである。個人的には正しかった派。テンペラー星人は1人ではなかったので、早々にウルトラ兄弟そろい踏みした際は間違いなくテンペラー星人も総力戦をしかけていた。タロウの奮迅と限界まで粘った故に各個撃破できたとみている)

*4
(「卑怯もらっきょうもあるものか!」で有名なメフィラス2代目がアトミックパンチで腹部貫通されている。この時点で致命傷だがストリウム光線でオーバーキルされた)




主人公やっと来たよ!!(無理矢理来たせいで既にHP減少状態。ウルトラの父かな?)


・【悲報】ニュージェネ達、まだ変身できない。
一応内原戸の嫌がらせは最低限成功していた模様。
揃ってすぐ変身できてたら、苦労はしない。特にジードはこの変身リキャストタイムで何度も辛酸を味わう羽目になっている(破壊されていく街に何もできなかったり、仲間を守ることすらできなかったり)。

・タロウ、ガタノゾーアにダメージ与える。
ウルトラマンタロウは、ボクサーみたいな連撃と、重い一撃を組み合わせたハイブリッドな格闘戦が得意という印象がありますが、こいつの本領は意味不明なレベルの万能対応力にあります。
ウルトラブレスレット以上の万能性を誇るキングブレスレットと自身の能力を組み合わせた戦術がとにかく多彩。特に物質変換能力に優れているようで、相手の武装を勝手に変換して自分の武器として使用するなんて普通にやる。なんなら東京タワーもクリスマスツリーに作り替えたりする。酔っ払いにはバケツで水をぶっかけるし、冷凍光線も使うし、自分が凍らされたら解凍するし、野菜喰いまくる怪獣は塩漬けにした(本当にやったんです信じてください!)。火力は6兄弟でも上位であり、ウルトラダイナマイトはグリムドすらも吹き飛ばす。
ガタノゾーアが警戒するのも当然である。

・タロウスパウト
タロウ23話『やさしい怪獣お父さん!』にて使用した回転技。タロウが回転して生じた虹色の竜巻が、対象を巻き込み粉砕処理する。回転すれば何とかなる!
その威力たるや、格闘戦でタロウ相手に終始優勢であり(!?)、ストリウム光線すら未知の光線で相殺した(!!?)怪獣ロードラが何もできず木っ端みじんになりミニカーの山と化したほど(本当なんです信じてくだry)。演出も派手で、威力も申し分ないのに使用回がカオスすぎたせいかあまり話題にならない。
ちなみにこのロードラ、車(金属類)は溶かしまくるが人は無事という何がしたいのかよく分からない怪獣で、そのくせやたら強かった。でも一番強かったのは、「怪獣も話せばわかるわ!」などと世迷言を吐いてロードラの顔にしがみつく羽目になった妻を助けるべく『竹林の竹に乗って、反動で数十m飛び上がり、怪獣の鼻に着地』して妻を助けた旦那さん(本当なんです信じてry)。タロウこと東光太郎も旦那さんに感心し「よし、俺も行くぞ!」と竹槍担いで飛び上がった(本当なんです信ry)。この竹槍でロードラの右目を大出血させたが、キレたロードラに夫婦諸共吹き飛ばされるも、タロウに変身して夫婦も救い事なきを得ている。最初から変身して助けろ?私もそう思います。

・ウルトラ兄弟はあんま助けたくないメフィラスとザラブ。
残念ながら当然。彼等に敗れた同族への仲間意識が高いわけではないが、プライドはある。

・『扉』による出現
通常方法での世界間転移をオムニバーシアン達による決死の抵抗で封鎖された為、グリムドに纏わる力を使って強引に移動した。所謂神話に語られる『門』である。オレギアは別に資格も何も所持していないが、グリムドは宇宙創世以前より存在する邪神故に『全部持っている』ので移動するまではグリムドが全てを担っていた。結果SANチェックものの出現となったが、幸いにして、全員SAN直葬は起きなかった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

タロウがいる。ガタノゾーアがいる。そしてトレギアがそこへ向かう。

久々に一人称視点です。
じゃないとグリムド見えにくいし、オレギアの一人称生じにくいし(取り繕って『私』も多い為)。


 

 

 

「ううむ、ガタノゾーアがテンカイをゼットンシャッターごと即破壊、か。地球も一気に危機的状況、と。増援を検討だな」

「邪神怖いですね、ホラーですね」

「( ´・ω・)」

「グリムド凹むからそういうのあんま言わないでくれるか?」

「すみません」

 

 オムニバースにある玉座にて、俺はずっと事態を見守っていた。メフィラスから送られてくるデータを即時解析して、現地兵器にアップデートを施す役割があったのも事実だが、本音は介入タイミングを図る為である。

 

 だが、よほどのことが無ければ、趨勢が決まるまで向かう気はない。

 

 今のような事態であっても俺は直接動かない。増援も、あくまでロボット怪獣の追加に留める。

 タイガ達はもちろん、メフィラス達を信頼しているのもあるが、運命による軌道修正を警戒しての判断だ。しつこいようだが俺が正史におけるタロウと同じ闇堕ちするなど洒落にならない。メフィラスが自ら暗躍している理由も流石に察している。俺に万一のことがあればこの世界も滅ぶからな。

 まったく、少しは信用してほしいものだ。俺は俺のタロウに会うまで死ぬ気など毛頭──。

 

『タァーッ!!』

「(。Д。#)バオオオオオン!!」

「  」

 

 まってなんでタロウが? 俺呼んでないのに。どうして? なんで? え? 

 これまずいのでは? タロウだぞ? ああ、相変わらず素敵な輝きだ流石太陽。

 いやだから正史だとグリムドに闇堕ちさせられるからまずいって。いかねば。

 いやだぞタロウが一時的でも闇堕ちなどいやだだめだあってはならない。メフィラスがいる? いやタロウの隣にいるのは俺だから他に譲る気なんてないから。

 

 そうだよ。

 

俺 が い く し か な い。

 

「(; ・`д・´)」

 

 玉座を蹴り捨てるように立ち上がる。事は一刻を争う。タロウ! タロウタロウタロウ!! 俺が行くから間違っても闇堕ちしてくれるな!! 

 

「出陣する!! 俺のタロウじゃなくてもタロウだぞ!! 邪神に触手プレイなどさせてたまるか!!」

「陛下御乱心! 者どもであえであえ! 混沌皇帝陛下を抑えつけろ!!」

「突撃させたら俺たち全員メフィラスに殺されるぞ!!」

「メカゴモラを出せ!! ガッツ星人は分身して拘束ビームだ!! ヒッポリトも行け!! ブロンズ像にしても構わん!! 陛下を止めろ!!」

 

 俺の行動を制止しようとわらわらと配下のオムニバーシアン達が立ちふさがる。ここ玉座だぞ!? 俺一応お前らに皇帝扱いされてんだぞ!? 不敬ってレベルじゃなくない!? 

 つうか俺の判断が正しいだろタロウだぞ!? 邪魔してんじゃねぇよ!! 

 

「お前ら離せ!! タロウが! タロウが俺を待っているんだ────!!」

「どうかご自愛ください!! 陛下とてあの場に行くリスクは重々ご理解いただけていたではありませぬか!!」

 

 しがみつくグロテス星人*1を蹴り飛ばし、上空にカプセル投下させる気満々のヒッポリト星人にげんこつを叩き込む。

 

「痛い!!」

「陛下お許しを!!」

「ぐおおお!?」

「ガッツに続け!! 気絶するまで攻撃を仕掛けろ!!」

「後で土下座しますごめんなさい今はくたばってください陛下ァ!!」

「グワーッ!?」

 

 ガッツ星人が複数個体に分身し、一斉に光線技を放ってきた! それに続くように他のオムニバーシアン達も光線を放ってくる! 

 滅茶苦茶痛いんだけどこれ拘束ビームじゃなくてただの破壊光線じゃないか!! 手段選ばないつもりか許さねぇ!! 

 

「トレラアルディガ!!」

「ちょっ!? ぎゃあああああ!!」

「ガッツー!! みんなー!!?」

 

 ガッツ星人たちへ容赦なくトレラアルディガをぶっ放し牽制する。あちこちから放たれた光線全部直撃したせいで身体の節々が痛いが、気にせず転移に繋げる魔法空間への道を繋げる……繋げ……!? 

 

「なに……!?」

 

 次元に穴が開かない……だと!? 

 

 動揺していると、瞬く間にオムニバーシアン達が俺を取り囲む。やめろ、そんな懇願するように俺を見るな。今はタロウが最優先だ。

 流石にただ囲んでるだけの部下に攻撃を加えるほど理性吹き飛ばしてもいないので(ある程度理性吹っ飛んでる自覚はある)、視線の牽制だけでなんとか再試行を繰り返す。が、ダメだ。どういうことだ。

 

 そんななか、煤塗れのガッツ星人達の中からメカゴモラが進み出てくる。

 

『そこまでです、混沌皇帝陛下。サロメ星の偉大な科学力を持ってすれば……陛下の次元跳躍手段を封じることもできるのですよ』

 

 メカゴモラより音声が響いた。声の主はオムニバーシアンの研究部門主任、サロメ星人ヘロディアだ。

 なるほど、この次元封鎖の犯人はDr.ヘロディアだったか。確かに次元に纏わる研究をしていた彼女なら不可能ではない。って映像も遮断されてるじゃないか!!タロウがどうなってるかわからんぞこれ!!なんてことしやがる!!

 怒鳴り散らしたいところだが、まずは次元封鎖解除の為、説得を試みるべきか。

 

「……やるじゃないかDr.ヘロディア。まさか私の次元跳躍にすら干渉するほどだったとはな」

『元々私はダークロプスゼロのディメンションコアの研究で多次元宇宙の自由転移、侵略を計画していました。そして今も次元に関する研究を陛下に認めていただいているのです。当然の成果ですよ』

「私が認めた研究で、私の意志を妨害するのはどうかと思うが?」

『罰は如何様にも。ダークロプスゼロの叛逆で全てが頓挫し、失意のまま死に絶えるはずだった私を陛下が救ってくださった恩義は忘れていません。最高の研究環境を用意してくれたことも。ですが、いえ、だからこそ、陛下の暴挙は全力で阻止させていただきます』

 

 彼女の声からは強い意思を感じる。説得無理っぽいなこれ。

 

 彼女の言葉通り、彼女はかつてベリアル銀河帝国軍の試作器であるダークロプスゼロを偶然鹵獲。この機体を研究、改造することで次元干渉技術を獲得した。そしてあらゆる宇宙にサロメ製ロボット兵器『ニセウルトラ兄弟』を送り込んで支配下におくという壮大な計画を実行に移していたのだが……最終的に地球のレイオニクス達により阻止。その際、ダークロプスゼロが自律思考を取り戻し暴れだした為、彼女の基地はニセウルトラ兄弟の作成プラントごと崩壊。あげく「脆弱な命とやらでやっと活動できてるような奴が俺従えるとかないわーwww(要約」と煽られた挙句高所より落下させられ死亡している。

 

 そんな彼女をわざわざ並行同位体にして助けた理由は、次元研究が俺の役に立ちそうだったからだ。

 元の宇宙へ帰るため、きっと役に立つと信じていた。

 

 なのにまさかこのような裏切りをみせるとはな!! 何が「恩義あるからこそ阻止する」だ!! こうしてる間にもタロウがピンチになるかもしれないのに!! 

 

『前回の失敗と宇宙消滅の危機から、私は崩壊する次元の修復、固定に対する研究を進めました。その集大成がこれですよ! 今この場に限りこの次元は歪み1つ許さない強固な現実性を帯びている! 通常の現実強度を1とするならば、今この場は現実強度365!! サロメの科学力は宇宙一!!』

「おい、それ喋って良いやつなのか?」

『何故? 私の研究成果を示してこそでしょう? これはデモンストレーションにもなるのだから!』

「……」

 

 ガッツ星人が横からツッコミ入れているがヘロディアは気づいていないようだ。周囲はなにか察したようだがもう遅い。

 ……なるほど、現実強度の強化が転移阻害の原因か。

 通常の現実より約365倍強固にしてあるだけ、ね。ならば解決策は簡単だ。俺が科学者であることを失念しているようだなヘロディアよ。

 

『さぁ陛下、大人しく玉座にお戻りください。そう御心を砕かれずとも、貴方様の親友であるタロウはサロメの科学力でもってしても再現できなかった唯一のウルトラ兄弟。現地にいるニュージェネ戦士達やメフィラス様が必ず邪神を撃ち滅ぼしてくださいます』

「……」

 

 この場を脱する唯一の方法を選択することを固めた時、ヘロディアの宥めるような言葉が僅かに俺を逡巡させた。

 ……そうだな。その通りかもしれない。

 Dr.ヘロディアの言葉は正しいと頭の片隅で理解した。

 

 だがな……俺はトレギアだ。タロウ無しでは存在できないウルトラマンだ。その俺が、タロウの危機を知り動かない事は自我の否定を意味する。

 それにな、このやり方は初めて試すんだ。やると決めたからには好奇心が疼いてもう止められない。

 

「ふふふふふ……はっはっはっはっは!!」

『!?』

 

 思わず高笑いしてしまうが、許してほしい。

 タロウの事もあるが、俺はトレギア、狂おしい好奇心。やっちゃいけないことはやってみたくなる主義なんだ!! 

 

「そうだったな。確かにゾフィーすら再現していたニセウルトラ兄弟にタロウはいなかった。やはりタロウは素晴らしい太陽だ。だが、その太陽あっての私なのだよ、Dr.ヘロディア」

『……あの、諦めるとか自重するという選択肢は』

「ない!! Dr.ヘロディア、今からお前の自信を再度打ち砕くことになるが許してくれよ?」

 

 いつも使う移動方法を完全に封鎖されるとは思わなかった。

 しかし、あくまで負担なしの移動が不可能になっただけだ。

 

「現実強度か。確かにこの概念に注目したのは評価に値する。ウルトラの科学力でも研究途中の分野だったからな。だが、邪神グリムドの権能に、そのような概念は通用しない」

「(*・▽・)」

『ちょっと!? 陛下それはずるいでしょう!?』

 

 メカゴモラが慌てて俺の身体を抑え込みにかかるが、既にグリムドは行動に移している。

 俺以外の全てを弾く力場を形成し、メカゴモラどころかオムニバーシアン達全員を弾き出した。

 

「グリムド!! 『門』を開け!!」

「(`・ω・´)」

『陛下……!?』

 

 グリムドの権能を用いての、強引な門による移動を実行する。

 吹き飛んだ部下達が青ざめているが、すまないな。タロウが闇堕ちする可能性など俺は耐えられない。長男でも耐えられない。

 タロウへの深き愛と、好奇心の後押し! そう、この行動は正義なんだ!! 

 

 補強されていた故だろうが、次元そのものが振動を起こしている。

 やがて何かが砕けるような音と共にヘロディアの悲鳴が聞こえた。恐らく次元強度を高めていた装置が稼働限界を迎えたか計測データが吹き飛んだのだろう。本当に申し訳ない。

 

 ついに混沌の力で強引に歪んだ『扉』が俺の前に現れる。

 躊躇なく開けば、その扉の先は視界に入れるだけで正気を削るような、何もかもが歪んで混ざった空間があった。俺の背中にいたケットル星人*2が泡を吹いて倒れた。精神抵抗に失敗したらしい。ごめん。

 

「ちょ、陛下!? それ絶対ヤバイ転移ですよね!!? それ御身無事で済む奴なんですか!!?」

「無傷ではいられないが、グリムドの力で全身を保護して軽減する。この深淵に入口と出口、距離の概念を強引に敷くわけだから消耗もあるだろう。タイガがいる宇宙への距離との計算上、まぁ全身の表皮が溶ける程度で済むはずだ」

「あんた馬鹿だろ!!?」

 

 うるせぇ!! こうしてる間にもタロウはガタノゾーアと戦っているんだぞ!! 

 生存は問題ないからいけるいける!! 

 ヒッポリト星人の罵声も無視して俺は歪んだ世界へ飛び込んだ。

 

『ひどい! 頑張って作ったのに!! ちゃんと世界の安定の為の研究だったのに!!』

「ヘロディアガチ泣きしてるんだけど。陛下さぁ……」

「メフィラス様に説教してもらおう。身体あちこち痛ぇ……」

 

 扉が閉じる瞬間、流石に罪悪感覚える内容が聞こえたが清算は終わってから受け付ける事にする。

 今はタロウが最優先だ!! 許せ!! 

 

 

 

 

 

 

「行ってしまわれた……気絶狙いの攻撃が裏目に出たなぁ。万全とは言えない状態で皇帝遠征させるとか俺ら後でメフィラスに殺されるな」

「ま、まぁ消耗前提の移動手段選んだから同じってことで……」

「子供でも使わんぞそんな言い訳。かといって転移を許すわけにもいかなかったし、力づくしかなかった。結果がこのざまだが」

「ところでタロウの救援で赴くとか言いながら、傷だらけの消耗状態で向かうのどうなの?」

「普通は足手まといになるのがオチな気がするけど、まぁ陛下だし」

「一応回復手段はあるはずだから……最悪グリムド様がなんとかするでしょう」

「……いや、それで済ませたら俺達ただの無能で終わるぞ!! ヘロディア!! 次元固定はもう解除されているか!?」

『ぐすっ……ええ、陛下のせいで装置は木っ端微塵です最悪です。装置壊れた時点で通常転移は可能だったのにあのまま危険な転移するなんて……中断不可能だったのかもしれないけど、だとしたら本当に考え無しよ!! 陛下のアホ!!』

「愚痴は後で聞くから、俺達も通常転移で陛下に続くぞ!! オムニバーシアン軍団、出動だ!!」

『あ、少しだけ待って。今あの場に時空間転移手段用いると出現ポイントにシャドウミストが出迎えて即死するってレギオノイド達から情報来てる』

「「「「はぁ!?」」」」

『グリムド様が憑いてる陛下は問題ないでしょうけど、私達は致命的ね。対抗処置を施してから転移します。サロメの科学力が邪神に負け続けるなんて認めないから!!』

 

 

 

 ◇

 

 

 

 位置関係の全てが不明瞭。五感の全てが信用できない深淵の道を俺は漂う。漂っている気がする。

 今はグリムドが俺の肉体を可能な限り保護しながら全てを先導している状態なので、まだマシだが、生身で放り出されれば回転でもしなければ大変な目に合うだろう。

 

 ここは魔法空間でもなければ、異次元空間でもない。

 

 ここはあらゆる世界の深淵だ。

 

 ある世界の魔術概念では虚数空間。ある世界では『あらゆる場に繋がり、あらゆる場と繋がっていない場所』、ある世界では裏世界(バックルーム)とも呼称される。

 

「(・ω・)」

「聞こえるか、トレギア」

 

 あまり観察すると、妙に魂頑丈な俺ですら摩耗しかねないからほどほどにしているが、なかなか興味深いな。

 異次元空間であれば割と馴染み深いものなのだが、そんな世界でも存在する『法則』という概念そのものがまともに機能していないようだ。グリムドあってとはいえ、面白い。

 

「( ´・ω・)」

「ふむ、駄目か。我らとも会話できる可能性があるとみて、深淵の通過に賛同したのだが」

 

 ん? 何か言ったかグリムド。

 今会話と言ったか? 思念に関してはいつもよりわかりやすくすら思うぞ。

 ……なるほど、あらゆる法則が不安定ということは、より接続しやすい環境という事か? 

 

「(*・▽・)」

「おや、僅かながら聴こえているのか? それは……うん、喜ばしい」

 

 喜んでいるようだが、正確な言語とまで理解はできていないぞ。

 概ねの意味合いは伝わってくるが。

 

「(*^▽^)」

「構わない。ああ、嬉しいな。以前は大失敗をしてしまったが故に。そうか、擬人化態に拘らなければこの程度の深度でもいいのか……だがせっかく造形を整えたのだから、諦めるには惜しいな」

 

 随分と喜んでいるのは構わないが、ちょっと引っ掛かるように感じるぞ。

 なんか前にやらかしたのかお前。そういや、そんなことあった気がするな。記憶がごっそり削れてたあれか。

 

「(・ω・)ノ」

「トレギアよ。我が永遠の使徒(ゆうじん)にして伴侶よ。其方の望み……其方が太陽と呼称する存在を求める事を、我らは歓迎する。其方に限らず、あらゆるトレギアがあの太陽に向ける情動は面白い。故に、我らは変わらず在るつもりであった」

 

 ……うん? 

 更に引っ掛かりを覚えるような単語で受信した気がするが。やはり接続しやすくなったといっても定義の帳尻合わせがうまくいってないのだろう。まぁそこはいい。重要なのは、俺がタロウに執着することをグリムドは気にしないどころか楽しんでいるという事だろう。今更懸念を覚えたわけでもないが、グリムドから直接承諾を得たのは好ましい。

 だが、グリムドにとって懸念要素があるようにも感じるな。なんだ? 

 

「(;´・ω・)」

「気掛かりがあってな。これより対峙する◾️◾️◾️◾️◾️◾️……ああ、知的生命体はガタノゾーアと呼称しているのだったか。我らの総意は、其方にアレと戦わせたくはないのだ」

 

 今のははっきりと分かったぞ。ガタノゾーアと戦わせたくない? 何故だ? 

 

「(・ω・)ノ」

「成しうる限り、彼等光の戦士に戦闘を委ねてもらいたい。其方が絡むと、アレは其方に興味を抱くかもしれないだろう? 我らと共に在る唯一無二の生命なのだから」

 

 なるほど、確かに。

 俺は邪神グリムドと共に在る状態を維持し続けているウルトラマン。

 ガタノゾーアからすれば、かなりの異形として映ると同時に、意識を向けるに十分であると。

 それは厄介かもしれない。ただ殺しにかかるものなら簡単だが、何をしてくるかわからなくなる。

 

「(´・ω・)」

「然り。アレに其方が意識を向けるのは、我らは好ましくないのだ。知的生命体の抱く情動基準により沿った表現としては……そうだ、浮気はしないでくれ、辛い」

 

 ……なんて? 

 今俺の認識がゆがめられていなければ、浮気とかいう情報単語が捻じ込まれた気がするのだが。

 

「(・ω・)?」

「? 定義は間違っていないはずだが。我らの使徒(ゆうじん)たる其方が、我らより別たれたるモノに意識を向けるのは浮気と呼称する不徳であろう」

 

 ……。

 なんか久々に『文化が致命的にすれ違ってる系異星交流』並の認識の違いを覚えたが、突っ込むのはやめにする。

 必死に思考を回すことで意識を逸らしていたが、正直きつい。じわじわと溶かされているような激痛が酷い。

 

「(`・ω・´)」

「心配するな、そろそろ辿り着くぞ。我らは共に在る。お前の情動に応えてみせよう。存分に太陽を救うと良い」

 

 おお、ありがとうグリムド。

 そうだタロウ、タロウの為にならこんな痛みなど!! 

 

 扉がみえてきた! 

 

 いまいくぞ、タロオオオオオオオオ!! 

 

 

 

 

 

 

「タロオオオオオオオオ!!!」

「(`・ω・´)」

「えっ、トレギア!?」

「(。A。)!?」

 

 扉から零れ落ちるように、海面にべちょりといった感じだがなんとか降り立つ。

 てか全身痛ってぇ!! あちこち焼けた様に爛れてるんだけど!? でもタロウ見たら痛くない!! いける!! 

 

「トレギア、その姿は……!?」

「やぁタロウ。姿? ああ、傷は気にしないでくれ。急いだだけだすぐ治す」

「いや、傷もだがそのマント……」

 

 マント? 

 

 あっ。

 

 やっべぇ、混沌皇帝正装(闇堕ちトレギア+マント)のまんまだったわ俺!! 

 いや違うんです闇堕ちっぽいけど闇堕ちはしてないんです信じてくれタロウ!!!!

 

 

*1
(「帰ってきたウルトラマン第43話:魔神、月に咆える」に出てきた宇宙人。なんか両手が銃器になっているが、グローブっぽいのであくまで武装。人質作戦と暗殺作戦でMAT壊滅を目論んだ侵略宇宙人で、神社に祀られていた像にグロテスセルを注ぎ込んで魔神怪獣コダイゴンにしてジャックと戦った。最終的に縦真っ二つにされて死亡。コダイゴンも元の石像に戻った。グロテスセルは後にメビウスでも再登場する)

*2
(ウルトラマンレオ第11話「泥まみれ男ひとり」にて登場した宇宙人。銀髪と赤いグラサンみたいな目が特徴で、アトミックランスという槍を自在に扱って戦う。本編中では特に言及されていないが長寿種族であり、それゆえ超少子化と老衰個体多数という滅亡危機に晒されている。その1個体が地球に襲来した理由は、似たような事情を持っていたワイルド星人と同じく生命エネルギー確保による延命……ではなく「嫉妬からの侵略」。地球人みんな若くて繁栄してずるい!! 殺してやる!! という情状酌量の余地皆無な理由で地球滅亡を目論んだ。老衰してるという割には普通に強い)




この作品の読者様がたには周知の事実ですが、このトレギアはアホです。
そんで転移側の話書いただけで5000字突破したんで区切ります。展開が進まないなぁ!?

・オレギア視点のガタノゾーアが顔文字状態
カオスグリッターによる精神と魂保護、そしてグリムドが体内に巣食ってる影響で、他の邪神達への認識がこんな具合に軽減されています。
内原戸含む他視点では正気を削ってくる巨大鳴き声強調されているけど、オレギアからすると「なんか法螺貝吹いた音に似てるな」レベルまで減衰。

・オムニバーシアン達、必死の抵抗。
光線技はやりすぎである。それだけ、ガタノゾーアと相対する危険性を理解していて、オムニバーシアン達にとってのトレギアは玉座で大人しくしていてほしい存在でもある。
元の宇宙へ帰るという目的にのみ執着しているので、願いが叶った後もオムニバーシアンという組織維持してくれるなら、生きてる限り安寧が約束されているトップ。リスクがある場所になんかそれこそ叛逆罪認定受けてでも阻止したい(こっちの実情わかってくれてるから死刑はないと踏んでいるのもある)。

・ニセウルトラ兄弟にタロウは存在しない。
公式設定。ウルトラホーンとウルトラ心臓が再現不可能。
本当タロウ、色々おかしい。

・トレギアは狂おしい好奇心を抑えられない。
公式設定。幼少期から「入るな!」と書かれた場所は入ってしまう問題児である。
タロウ関係で冷静でないところに好奇心が顔出したらもう理性はブレーキを踏まない。
ちなみにこの行動原理はオレギアではなく、トレギアであっても同じ(今回みたいな場合は、タロウが自分以外のクズが原因で曇る可能性に耐えられない理由から。好奇心から深淵も平気で乗り込む。死んでも気にしない)になります。タロウいないだけで光の国から価値を見出せなくなったり、SAN0になってもタロウの事だけは忘れられず心にへばりついてた男だからしょうがない。

・【朗報?】グリムド、より深いコミュニケーションに初成功。
深淵を潜り抜けるルート道中限定。場所と、トレギアを保護する目的で、全身に浸食していた為うまくいった。
番外の擬人化計画で用いられた口調でのトークですが、外見イメージは邪神魔獣グリムドのままです。
内容はガタノゾーアに浮気しないでねという牽制。邪神の価値観はわからない。

・オレギア、マント装備のままだった。
しかも仮面付けた闇堕ちスタイル。ただしタロウからすると、タイガ本編1話で闇堕ちしきったトレギアと戦っているため、その仮面そのものは驚いてない。
でも親友(並行同位体)が、怨嗟宿ったようなボイスと共に、傷だらけでめっちゃ仰々しいマントも羽織ってきたら流石に動揺する。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

太陽のそばにいるならば

トレギア来た時のニュージェネさん達

『来てくれたのかトレギア……!』
「見た目で驚いたけど、あれ僕たちの知ってるトレギアだよね。雰囲気的に」
『間違いないな。そもそもタロウに対する敵意がない。あの闇のオーラも、あくまで自己修復に用いているようだ』
『なぁ、3人とも。そっち意識向けるよりこっち解決しようぜ。やばいから』


「トレギア……やはりでやがったな!!」
「やはりこの機に乗じてタロウを狙ってやがるのか!!」
「あいつ許さねぇ!!もう意地でも変身していくしかないぞ!!」
「わかった!」
「……いこう!!」
「いくぞ、X!」
「もうエネルギーがどうこう言ってられる状況じゃないな。諸先輩方、光の力……!!」
「あっ、違うんです違うんです!!みなさん、あのトレギアはちょっと違くて!!」
『しまった。トレギアの説明全然してなかった』
『普通はこうなるよなぁ』
『というか誰もキーホルダー化したトレギアには気づいてなかったのだな。哀れな男だ』


 

 

 拝啓、俺のタロウへ。

 この思いが届いてたらどうか親友として教えてほしい。

 冷静かつ恥を晒さずにこの状況を誤解なく伝える方法はあるだろうか。

 

 ……返事がない、届かなかったか。辛い。

 

 グリムドパワーの転用で焼け爛れた傷を少しずつ癒しながらも、どうにかして上手く説明できないか思案する。手が右往左往するように慌てふためいているし、視線は挙動不審のそれだし、全く落ち着いていない自覚がある。助けて。

 

「トレギア?」

 

 訝しんだ様子のタロウが声をかけてくる。少年時代によくみたなその小首傾げる仕草! なんか懐かしくて嬉しい! 

 いやそうじゃないちゃんと説明しろよ俺。科学者だろ!! ヒカリ長官に論文発表する時よりプレッシャー感じる事なんてないだろ! 頑張れ!! 

 

「あ、いや、この姿は理由があってだな……今ちょっと組織の長的なのやってて」

「お前がか?」

「あ、うん」

 

 やめてくれタロウ。その視線は俺に効く。やめてくれ。

 

 というか論外もいいところな口まわりはなんだ!! コミュニケーション下手か!! いや元からそうだったわ。とにかく落ち着こう俺!! 

 

「(。▽。)バオオオオン?」

「( `・ω・´)」

 

 ガタノゾーアは動かない。というか、グリムドが何やら干渉しているようだ。邪神同士で通じるコミュニケーションがあるのだろう。がっつり背中向けて隙だらけだったんで、動いていたら俺は問答無用で海に沈んでたな。

 ありがとうグリムド! ならば、今はちょっとタロウの説得に意識を向けておこうか。

 

 深呼吸を2回。ようやく落ち着いた。タロウと邪神に挟まれてこの速度で落ち着いたことに自画自賛しておこう。傷も見た目は癒えたので、闇堕ち全開スタイルであること以外は問題もない。

 咳払いをして、タロウに事実のみを端的に伝える事を優先する。

 

「先に言っておくが、私はお前の親友であるトレギアとは違う。並行世界のトレギアだ。お前の親友は、今封印状態にあってヒロユキ君……タイガが預かっている」

「なに……!?」

「邪神と対峙するお前の姿を異世界より見て、何振り構わず転移してきたのさ。共に戦う為に」

 

 自分で言っててなんだが、すごい納得できない情報だよな。

 信じる以前に飲み込むの時間かかると思う。でもそれで納得してもらうしかないんだよ。

 

「この姿で無茶な説明をしている自覚はあるが信じてほしい、私は……」

「信じるさ!」

 

 !! 

 

 そんな!? 俺でも説得力ない自覚あるのに!? 

 

「今のお前からは私への敵意を感じない。グリムドが中にいるようだが、今まさにその力でガタノゾーアを牽制している事もわかっている。何より並行世界であっても、私とお前は親友だったのだろう? ならば信じるさ」

「タロウ……!!」

 

 ああタロウ!! 俺の太陽!!! やっぱりお前は太陽なんだ!!! 

 俺の精神を焼き焦がす程、純粋で美しい瞳がたまらない!!! 

 

 力強く差し出される手を握る。

 友情の握手(シェイクハンド)! 

 

 激痛と羞恥で動揺の極致にいた俺の心が、暖かな光で今では天にも昇る高揚感で満たされている!! 

 ここにきてよかった!! 

 

「……なんだその茶番は。人の期待を散々裏切ってきた貴様が、この終焉のシナリオにすら首を突っ込むだと? 反吐が出る!!」

 

 あ? なんだこいつ。

 タロウとのひと時邪魔するとか空気読めよ。

 

 見ればガタノゾーアの近くで、一応人間の姿を取っているよくわからん奴がわめいている。地球人サイズなのもあって全然気づかなかった。

 ……あー、完全に忘れてたこいつ。タロウとガタノゾーアしか意識向いてなかったわ。

 

 本人曰く内原戸哲夫だったか。

 今回の黒幕であり、俺が放出しまくったグリムドエネルギーを使ってデザストロを蘇らせ、そのデザストロを生贄にガタノゾーアを降臨させた闇の存在。本来最も警戒すべき存在なのだが、メフィラスが手玉に取っていた様子をみて、優先度がどんどん下がっていったからな。

 

 言動からして、元から俺……いや()を知っていたのか。なるほど、俺が正史とずれた結末を迎えたことで、舞台裏より覗いていたこいつが不満を抱いて黒幕として活動し始めた、と。運命修正力というのは本当に厄介なものだな。

 

 今ならトレラアルディガブチ当てたら簡単に消滅しそうだが、撃っても良いだろうか? 

 

「ガタノゾーアがどう動くかわからんからやめておけ」

「おっと、そうだな? 流石はタロウ」

 

 俺の気持ちを察するのも早い。ああタロウはやっぱりタロウだなぁ!! 

 俺のタロウはもっと早く察してくれるけど!! 

 

「無視をするとは良い度胸じゃないか……愚かな道化が」

 

 無視したわけではないが。

 あとちょっと言い返せない悪口はやめてくれるか。俺も()も、道化呼ばわりされてもおかしくない真似は結構してるから。

 

「遙かなる魔皇も何故貴様のような奴に住み着いているのかわからん……穢らわしい道化め。どうせああいう結末であるならば魔皇をその身から解放してしまえば地球諸共楽しい終末であっただろうに」

「(・ω・)?」

 

 遥かなる魔皇ってグリムドのことか? 本人、「なにその異名? 別神と間違えてない?」って反応してんだけど。

 さらっと正史で起きた事に言及していたあたり、こいつ正史にも潜んでいたのだろうか。グリムドがレイガに消し飛ばされたの見て画面外で発狂とかしたんだろうな。

 

「この際だ、貴様も魔皇も大いなる闇に呑まれてしまえばいい!! 大いなる闇よ!! 奴らに真の闇として鉄槌を!!」

「( _ 〜_;) ……」

 

 俺に対する憎悪は中々のものであるようで、血走った眼になって叫んでくる。正直、そこまで恨むことある? という気分だが……よほど()の末路楽しみにしてたのかなぁ。

 あと何使役したような態度してるんだろうかこいつ。ガタノゾーア、なんか困ってるけど? 

 

「くるぞトレギア」

「え? ああ」

 

 タロウに促されてちょっと驚く。あの顔で動くとは思わなかったが、一応召喚主の意向には沿ってあげるらしい。

 どこまでも響き渡るような、ちょっと法螺貝っぽい声をあげながら触手を幾本も海面より出してきた。

 

「(・ω・)ノ」

「(。△。)バオオオオン!!」

 

 邪神同士のコミュニケーションもどうやら終わったようだ。別に「よそう、邪神同士戦っていてもしょうがない」とか停戦になることはなかったらしい。そういや移動中でもグリムドはガタノゾーア説得するとか一言も口にしてなかったな。

 というか一考ぐらいしとこうよ俺。転移途中で真面目にグリムドへお願いしておけば違ったかもしれん。

 

「すまんタロウ。私の体内にいるグリムドでは、ガタノゾーアの説得は難しいようだ」

「構わない。それより共に戦える事が喜ばしい。まだ完治もしていない身体で私より前に立つなよ? 今度は守らせてくれ、トレギア」

 

 そっと前に立つタロウ。

 やめて、俺の心が飛び跳ねるから。

 必死に平静装うのだって大変なんだぞ! ただでさえ取り繕って私口調なのに!! 

 

「ふ、それはお前のトレギアにでも約束してやるといいさ。というか多分今頃嫉妬で神経焼き切っていそうだ」

「?」

 

 このまるでわかってない顔! そういうとこだぞ!! 

 

「(。△。)バオオオオン!!」

「タァーッ!!」

「ハァッ!!」

「( `・ω・´)」

 

 空からシャドウミスト、海面から触手の嵐が襲い来る戦場で、俺とタロウは力強く駆けだした。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─街の一角─

 

 

 タイガのお父さんであるウルトラマンタロウと、僕たちが知ってる変なトレギアがガタノゾーア相手に戦っている。

 片方は並行世界の存在なのに、息がぴったりなようで、親友だったというのも頷けるほど見事な連携を見せていた。

 触手の全てをタロウが捌いて、シャドウミストをトレギアが邪悪なオーラでもって相殺している。

 そして隙間を縫うように各々が光線技でガタノゾーアに攻撃していた。

 

 そんななか、僕とタイガ達はというと。

 

「あのトレギアが闇に堕ちていないなど!? じゃああの見た目はなんだ!!」

「多分事情あるんですよ。仮面邪魔だって言ってたし」

『それにほら、父さんと共闘してるだろ!!』

「俺は信じてもいいと思うがな。ジャグラーって面倒臭い奴を知っているからな」

「俺とXも信じていいと思うけど」

「……でもトレギアだぞ!?」

「「……」」

 

 みんなへの説明と説得に苦労していた。

 ガイさんや大地さんは割とすんなり信じてくれたけど、ヒカルさんやショウさんには中々信じてもらえない。カツミさん、イサミさん、リクさんもなんかトレギアずっと睨んでるし。これは間違いなく悪いトレギアから酷い目に合わされてる。同じ被害者だからわかる。

 

 あのトレギアもどうしてややこしい恰好で来るかなぁ。今も闇(混沌?)の力を存分に振るってるようだし。

 あと何故かタロウの背後にいるせいで、「あいつはタロウの信頼を利用して不意打ちを狙っているのでは?」とまで邪推されている。

 僕だって、タイガを苦しめてきた方のトレギアだったらそのぐらいやるとは考えてしまう。せめて光の力で戦ってほしいんだけどなぁ! 

 

『埒があかないな。ヒロユキ、あのトレギアのキーホルダーを見せてやると良い。少なくとも我々を苦しめたトレギアはここにいるとな』

『だからってあのトレギアを信用できるという保証になるか?』

『……むぅ』

 

 タイタスそこは押し黙らないで欲しかった……! 

 

『ああもう! どうすればいいんだ! こうしてる時間自体が勿体無い!!』

 

 全くだよ。頭を抱えるタイガに、僕達は疲れたように同意する。

 ……あっ。

 

「あのトレギアがやったみたいにテレパシーで情報叩き込む?」

それだ!!

 

 これしかない。僕たちで大丈夫だったんだから皆も大丈夫でしょ。

 これだけ頑ななんだから、精神力だって強いに決まっている。僕は皆を信じるようん!

 

「みなさん、これだけ言ってもわからないようなので、あのトレギアについての情報を全部説明します!」

「ヒロユキ君……?」

「あ、なんか嫌な予感」

「タイガ、よろしく!」

『ちょっとの頭痛は許容しろよな!!』

 

 いっけ────!! (送信ボタンを押すイメージで)

 

「「「「「!!!?」」」」」

 

「お、おい!?」

「ちょっとどれだけの情報転送したんだい!?」

 

 この手に限る。

 暴力的情報量*1で頭痛が発生し、信じてなかった5人がたまらず跪いたのをみて、僕はちょっと満足気に頷いた。

 

 堂々巡りの会話にちょっと苛立っていたからと言われたら否定できない。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ガタノゾーアと対峙し、タロウと共に戦うというもう何も怖くないテンションの俺だが、残念な事に状況が傾いているわけではなかった。

 この邪神、呆れた事にまだまだ本気ではなかったのだ。いや、遊んでいたわけではなかっただろうが、「1対1(レギオノイド達は数に含まれていない)」が「2VS1」になっても、何も困っていないのである。この分だと、まだ隠している力がある。

 

 俺が増えた分、触手やシャドウミストの密度が跳ね上がっている。タロウが宣言した言葉を撃ち砕いてやろうとでもしているのか、俺の方へ狙いが傾いているのがムカつく。足手まといに来たわけではないぞ俺は! 

 

「グリムドの前では、シャドウミストなど意味をなさないと知れ」

「(`・ω・´)」

 

 不意打ちのように湧き出てきたシャドウミストが、放出されたグリムドエネルギーによって消失する。タロウの消耗を抑える意味でも、これの対処は光エネルギーに頼らなくても良い俺が行うべきだ。

 

 この力を発してる間、俺が邪悪極まるオーラを発散させているのがなんとも悪い絵面だが。これあれだな。予告CMとかあったらミスリードに使われる奴だ。

 

 まぁしょうがない。ここは開き直ることにする。

 シャドウミストだけではなく、暗雲も晴らしてやる勢いでグリムドの力を振るいまくる。

 だが、シャドウミストが消し飛ばされようが暗雲の穴が広がろうが、ガタノゾーアに動揺は見られない。それもそのはず、本人への決定打に欠けているからだ。

 

「トレラアルディガ!!」

「(。▽。)? バオオオオオン!」

 

 ……修行を重ねて結構強くなったはずなんだけどなぁ。グリムドの力が弱点になっているわけでもなく、悲しい程通用していない。タロウの方がずっと火力ある。

 仕返しとばかりにシャドウミストをまたばらまかれたので、相殺していく。

 

 このままだと先にタロウのカラータイマーが鳴るぞ。

 キングブレスレットに蓄えた純光エネルギー*2がフルで溜まっているようで3分過ぎても意気軒昂であるようだが、地球上で消耗が激しいことは変わらないのだから。

 

「ふむ、キリがないな。状況をどうにか変えたいが」

「トレギア。ガタノゾーアを一瞬でも怯ませることはできるか?」

「その程度ならば手段はある。なにをする?」

 

 タロウに秘策アリか。怯ませる程度なら、アナストロフィに変身してグリムドの力をより強く引き出したり、怪獣リング使用による不意打ちが可能だ。

 して策とはいったい? 期待する俺の瞳に応えるように、タロウは輝かしい顔でもって頷いた。

 

「ヤツの懐に潜り込みウルトラダイナマイトで」

「絶対するなよ!!? いいか!? 絶対だ!!!」

「トレギア!?」

 

 馬鹿かお前!!? お前それ正史でグリムドにぶっ放して闇堕ちした技だろうが!!! 

 それにウルトラ心臓あるから平気なだけでマジで全身爆弾となって吹き飛んでるからな!!? あれを初めて見た時俺がどれだけ恐怖に包まれたか知らんとは言わさんぞ貴様!!! 

 

「どうしたどうした!! 2人に増えても何もできないか!? 大いなる闇の前に終末を受け入れるがいい!!」

「(。-。)」

 

 なんかうるさいなこいつ。てかガタノゾーアがこいつ見る目がだんだん冷たくなっていってるんだけどわかってんのか? 

 

 だが、ガタノゾーアも千日手はお望みではないらしい。奴がにたりと笑い、視線が動いた事を見逃しはしない。

 視線の先はタイガ達がいる街だ。嫌な手を打つじゃないか!! だがな!! 

 

「(。∀。)」

「読めてるんだよ!!」

「トレギア!?」

「!?」

 

 一閃。

 

 街へ向け、ほぼノーモーションで放たれた闇の一撃を、両手で受け止めるようにして全力で防ぐ。

 俺が先に動かなければ、タロウが庇っていたに違いない。

 いくらタロウでもこれを喰らえば問答無用で穴が開きかねないが、俺なら話は違ってくる! 

 

「はあああああ!!」

 

 闇の一撃を受け止めている俺の両手には、グリムドの力が収束している。絶対的闇による万物貫通の概念が付与されていようが、闇に属した攻撃に変わりはない。対極にある光の概念防御、あるいは同質同格以上の闇でもって干渉が効くのだ。そう、グリムドの力ならば!! 

 

「はぁ!!」

 

 絶対の一撃を斜め上に弾く。闇の一撃と暗雲では闇の一撃に軍配があがったらしい。上空に新たな穴が空き、陽光が街にも降り注ぎだした。どうよこの完璧な計算を。すぐ塞がれるかもしれないが、これでニュージェネ達も変身エネルギー蓄積が少しマシになるだろう。

 

「Σ(。△。)!?」

 

 ガタノゾーアも流石に驚いたようだな。

 邪神達が振るう攻撃は、基本的に同質の対象を想定していない。だから知らなかったのだろうが、俺は知っている。何も無策で飛び込んだ間抜けではないのだ。メフィラス達が得たデータは全てオムニバースで解析されているのだから。それにあのゼットンシャッター達を用意したのは俺達だぞ。概念攻撃対策だって万全なんだよ!! 

 

「やるじゃないかトレギア」

「同質の攻撃であれば、今のように対応できる。ただ守られるだけの私ではないぞタロウ」

「(。▽。)バオオオオオオン♪」

「(#`・ω・´)」

 

 ガタノゾーアが、笑っている? 

 なぜだ? なんの笑みだ? 嫌な予感がする。

 

 グリムドも警戒を高めるように圧を強めてきた。ガタノゾーアが何かを狙っているのは間違いない。

 

『陛下! 気をつけてください!』

 

 メフィラス!? なにがあった!? 

 

『ガタノゾーアが世界に伸ばした暗雲を一部再収縮しています! あの規模を凝縮した一撃は計り知れません!!』

 

 はぁ!? 

 

 とっさに上空を見上げてみれば、ガタノゾーアより後方にて暗雲が巨大な渦を巻き始めていた。

 ストリウム光線の干渉があったとはいえ、陽光が降りる穴がいつまでたってもふさがらないのはそういうことか!! 塞ぐよりも別の攻撃に意識を回していたのか!! 

 

「おお! あれぞまさに絶対的闇の一撃!! あらゆる光を呑み込む究極の黒!!」

 

 内原戸が感動したように打ち震えているが、奴の言う通り、渦の中心にはもはや世界に漆黒の穴があいたと勘違いしてしまうほど闇が凝縮されている。

 あれの性質は……確かにあらゆる光を呑み込むのだろう。光の力をもって戦うウルトラ戦士にとって、最も絶望的な一撃かもしれない。

 

 だが、それを俺がいる場で放つ意味……そう、あれの対策はただ1つ。

 俺がグリムドの力をより闇に近い形で深く、強く引き出す事。

 

 ……そうか。理解した。

 

 

『闇堕ちする危機』は、俺に来るのか。

 

 

 ………………。

 

 ふん、運命め。どこまでも喧嘩を売る気ならば、いいだろう受けて立ってやる。

 

『陛下、お約束の言葉を私に言わせるおつもりですか?』

 

 察しが良いなメフィラス。だが安心しろ。

 俺は確かに間抜けで、脆弱で、タロウ無しでは容易く闇に堕ちるウルトラマンだ。

 

 だが今ここにタロウがいるんだぞ? 

 

「タロウ、あの闇が見えるか」

「ああ……あれはまずい……! 全ての光を否定する闇だ……!」

 

 闇を睨むタロウの表情は険しい。

 あのタロウが覚悟の炎を燃やしつつある。俺に止められたウルトラダイナマイトでもって、あの闇に決死の相殺を試みるか、放たれる前にガタノゾーアへの吶喊を意識しているのだろう。

 かつて、惑星ティカ=ドゥにて俺と民両方を救ったお前ならできるかもしれない。

 しかし悪いな、今回は俺の出番だ。

 

「迎え撃つにあたり、1つ策がある」

「本当か!!」

 

 振り向くタロウに力強く頷く。

 

「だが、これは私の精神に不安がある技だ」

「なに……!?」

「だから頼む。()()()()()()()()

 

 タロウの背後から前に進み、隣に立つ。

 

 

常闇の夜が世界を支配して

星の灯りすらみえなくなっても

太陽のように暖かい君がそばにいるならば

俺はまよわない

だからそばにいておくれ

 

 

「俺のタロウ(親友)ではなくても、お前はタロウだ。太陽がそばにいるのに、影に堕ちたりなどしない」

 

 タロウがまた無自覚に首を傾げる。

 俺の言葉に、この状況下でぽかんとできるのだから本当大した奴だよ。

 

「言っている意味がよくわからないが、私の親友も似たような事を言っていた気がするな。たしか詩で……」

「あ、それ掘り返さないでください闇堕ちしそう」

「えっ。わ、わかった」

 

 おのれ()!! 貴様も書いた詩タロウに覗かれてたのかよクソが!! 

 

「(。▽。)バオオオオオオン!!」

「素晴らしい!! あの愚かな巨人ごと、今こそ世界の終焉を!!」

 

 巨大な闇の球……いや、光を呑み込みすぎて球形であるかもわからない『黒い穴』。

 それがガタノゾーアの咆哮に合わせ、ゆっくりとこちらに向かって動き出した。

 

 貫通レーザーを放てる邪神の技とは思えない程、その技の速度は遅い。

 逃げたところで道中全てを闇で食い尽くす技だ。そして迎え撃とうにもあれはあらゆる光線をそのまま呑み込んでしまう。

 あらゆる抵抗の無意味さを悟らせ絶望を与える技だ。だから速度はいらないのだろう。

 

 だが忘れてないか。先程貫通レーザーを俺が防いだことを。

 グリムドの力を。

 

「いくぞグリムド!! アナストロフィとは真逆。混沌の闇を極限まで引き出す!!」

「(`・ω・´)!」

 

 

 

Come on!! 

 

「原初の混沌、グリムド!!」

 

ギュンギュンギュンギュン! 

 

ギュピーン! 

 

『(`・ω・´)』

「BUDDY GO!!」

 

 

 

Ultraman Tregear Chaosgrimdo

 

 

 

「!?」

「!?」

「(。O 。)!!」

 

 邪悪な闇が吹き荒れ、マントがはためきなびく。

 グリムドを抑えつけていた各所の拘束具は漆黒の鎧のように変質し、カラータイマーの位置にはグリムドの邪眼が宿る。まるで拘束具そのものを浸食し、顔を出したように思える。

 トレギアアイは両端にむかうにつれ漆黒に染まり、加えて角のように僅かに延長している。両の手のグローブは鋭利さを更に増している。

 そして、今俺の手には、黒い輝きを放つ、死の大鎌が握られていた。

 

「トレギア……その姿は」

「……カオスグリムド。グリムドを体内へ封印し力を引き出す()でもなく、混沌と共に在るアナストロフィでもなく、グリムドそのものを我が身に浸透させ、混沌の闇を纏った形態」

 

 

 

「闇を振るい闇を祓う……ダークナイトだ」

 

 

 

*1
(トレギアが送ってきた情報をそのままコピペ送信。要するに彼による膨大な謝罪文の山も叩きつけている)

*2
(キングブレスレットの機能の1つ。太陽エネルギーを吸収して、不純物は排出口から解放している為、純光エネルギーが常にリング内に蓄積されている。)




オレギア「ダークナイトだ(キリッ)」
メフィラス「あれだけ中二は嫌だとか言ってたくせに恥ずかしくないんですか」
オレギア「うるさいよ。てかお前の要望だったろ」

・ウルトラマントレギア カオスグリムド(ダークナイトモード)
懲りずに新形態ですごめんなさい。コンセプトは『予告版で絶対敵側と思われる演出ある形態』。
イメージしにくい場合は「トレギアが更に闇へ堕ちた姿」と思ってください。直球すぎる名称。skotos(闇)とかも検討したけど、同じ直球ならchaos(khaos)(混沌)でいいよねってなった。
本文中であったように、これはグリムドとの同化に近い形態です。うっかりすると、タイガ劇場版でおきたトレギアの末路や、ショーであったエンペラ星人と同じく『グリムドに呑み込まれて意識も消滅』します。滅茶苦茶危険な代わりにグリムドの力はアナストロフィ並に引き出しやすく、加えて深度が進んでいる故に身体能力もクソザコブルー族と違って跳ね上がっています。
つまり代償と引き換えに真っ当な強化形態と言えるでしょう。ダークナイトモードとか書いている通り、混沌の光を纏えばナイトモードになりますが、そっちは純白の騎士になる模様。
メフィラスに「混沌皇帝カオスデスポテースっぽい強化形態頑張ってくれませんか」と言われて、嫌々ながらも好奇心が働いて検討した結果見つけてしまった。あまりにリスクがある為、自重していたが、運命がどうあがいてもタロウか自分のどちらかが闇堕ちするよう誘導している事を悟り、その運命ごと跳ね返す最適解はこれしかないと自ら闇を纏った。
タロウがいるなら、邪悪な力に負けはしない!!

・【悲報】オレギアさん、ニュージェネ達に全然信用してもらえない。
残念ながら当然である。トレギアという存在が如何にクソ野郎であるかを示している。タロウは信じてくれたけど、これはタロウだからである。
時間の無駄だと悟ったヒロユキ達により、強制テレパシー攻撃を受けたことでやっとあれを信用していいのだと理解させられる。
その直後にいきなり闇堕ち全開なスタイルに変身するオレギア。ヒロユキ達が「空気読めよ!!」と全力で怒ったのは言うまでもない。

・キングブレスレット
注釈補足説明。
蓄積されている純光エネルギーは普段は物質変換能力などブレスレットの機能を使用することで消費していると思われるが、緊急時の補助エネルギーとしても回せることが分かっている。生命蘇生にすら使えるので、多少の戦闘時間維持ぐらい余裕余裕。タロウ本編では地球環境下+光太郎と融合していたのでより消耗が激しかったはずですが、タロウのカラータイマーって戦闘後以外で鳴った事あまりないんですよね。キングブレスレットの力以前にウルトラホーンやウルトラ心臓持ちなのもあり、他の兄弟よりタフです。強い。
ちなみにこれ、あくまで宇宙科学技術局が作成した兵器であってウルトラマンキングからの授かりものとかではない。ウルトラの科学力は怖い。

・ガタノゾーア、じわじわと内原戸への心証低下。
この感情推移をちゃんとわかってるのはグリムドとオレギアだけです。
ステンバーイ……ステンバーイ……。

・ガタノゾーアによる『闇の穴』攻撃。
独自設定。 
己の感覚器でもあった暗雲を一部凝縮し、『光吸収率100%』の闇を形成。それを対象にぶつける大技。
その特性を権能でもって最大限強化しており、あらゆる光線技を無効化する。
ウルトラダイナマイトは単純な光パワーの技というわけではないので、アタックすることはできるが、飲まれたらタロウの全光エネルギーが消滅していた。
なのでオレギアさんは必死である。

Q.メフィラスたち今なにしてるの?
A.オレギア来た以上はと腹をくくって、暗躍中。流石にあそこへ飛び込んでも足手まといな自覚はある。

Q.トレギア(アクセサリー)大丈夫?
A.設定上休眠状態だけど、起きてたら発狂してる。気分は特大の地雷NTRを実体験してる感じ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

カードは揃った。

お待たせしました。

前回までのあらすじ
ヒロユキ達がニュージェネメンバーにトレギアのことを説明してる間に
トレギアが滅茶苦茶闇の力振舞いだした。


 

 

 

「離してください! 僕は行かなきゃならないんです!!」

「落ち着けヒロユキ君!! さっきあれほどトレギアを擁護してたじゃないか!!」

「擁護した直後にもっと闇の力引き出す空気読めないあのアホは1発殴るべきなんです!!」

『そうだそうだ! いこうヒロユキ! 父さんとトレギアを助けたらトレギアの顔面にタイガキック決めてやる!』

 

 僕は年季を感じさせるレザージャケットを着込んだ男性──ウルトラマンオーブになれるガイさんというらしい──により抑えつけられていた。

 正直言ってガイさんの言葉は正しい、落ち着くべきなんだと思う。ふざけている場合ではないのだと。

 闇の力だって、振るう人によってそれは正義にも悪にもなるということぐらいわかっているつもりだ。

 

 でも空気ぐらいは読んでほしかった!! 腹の底から湧き出るこの(怒り)をどうにか光エネルギーに変換できないものか!! 

 落ち着くべきという理性の声と、あのふざけた巨人を仮面吹き飛ぶぐらいにグーでいきたい感情がせめぎ合っている。

 この感情はただのツッコミ精神というわけではなく、あの闇が本当に危険なものだと肌で感じ取ったからだ。放置したら彼がまた深い闇に囚われてしまう気がする。

 

「皆がせっかく理解してくれたのに……」

「理解したというか、ヒロユキ君を不憫に感じて冷静になったというか……」

「というかトレギアの無駄に長い謝罪文必要あった!? 俺の脳にゴミみたいな情報流された気分なんだけど!?」

「まぁ、俺達の知ってるトレギアとは違うってことだけは一発でわかるな」

「そのトレギアが今父さん……ベリアル並に闇に堕ちてる気がするんだけど。ガタノゾーアのあのヤバそうな闇に負けてない闇を感じる」

 

 ほらー!! 皆トレギアの方見てすごく微妙な顔してるじゃないか!! 

 やっぱり殴ろう!! あの人はそのぐらいしないとわからないと思う!! 

 タイガもそうだそうだと繰り返してるから正しいことだね!! 

 

『落ち着けヒロユキ、タイガ。気持ちはわかるが、あれは必要だからそうしたんだ』

 

 ガイさんだけではなく、タイタスにも肩を抑えられ、流石に動きを止める。

 彼の顔を見れば、やんわりと窘めるような視線を感じた。……ごめんタイタス、ちょっと取り乱し過ぎたよ。

 そうだね、彼は必要な事と思ったら、ホマレ先輩病院送りにすること躊躇わない人だった*1。逆に言えば、必要でないならば可能な限り自重したり取り繕った行動を取る人でもある。

 でも、あの闇に染まる必要ってなんだろうか。

 

「どういうことタイタス?」

『ガタノゾーアが作り出したあの巨大な闇の塊は、あらゆる光を吸い込み逃がさない恐るべき闇だ。その闇に対抗するべく、あえて闇を纏ったのだろう』

 

 さすがはタイタス。ウーラーに関しての情報といい、知識も分析力も僕らの中で随一だ。賢者の異名は伊達じゃないね。

 そうか、光を吸い込み逃がさないということは、普通の光線技じゃアレを迎え撃つことすらできないのか。僕たちでも、対応できたかわからない。

 

『黒い穴にしかみえないアレ、そんなにやばいやつなのか……』

『だがあの姿……間違いなく代償はあるだろう。急ぐべき事実に変わりはない。光エネルギーが足りないことがここまで歯がゆいものだとは』

『せっかく身体も治って、3人とも同時変身できるようになったのにな。即トライストリウムの方が良いとは思うけど』

「え?」

 

 フーマ、今さらっと大事な事言ってない? 

 驚いて彼を見れば、ウカツ! と言った様子で手で口を抑えている。もう遅いよ……。

 

『スゥー……』

『フーマ……』

『お前、ちゃんと機会を決めてヒロユキに話そうとしてた事を……』

 

 呆れるタイタスやタイガを観ながら、僕は割と冷静にフーマの言葉が持つ意味を受け止めていた。多分トレギアに散々怒ってたせい。

 

 3人とも、気を遣わせてたのかな。

 

 タイガ達は元々かつてトレギアに敗れた時の傷があるから、僕に同化して傷を癒す必要があった。僕を通じてでしか変身できなかったのもそれが理由だったはず。

 傷が癒えたなら、元の宇宙へ帰還するのは当然だと思う。あのトレギアをタロウの元へ届ける意味でも。

 だけど、僕が地球人と宇宙人の懸け橋になろうと、必死になっていた様子をみたら。不安になって、言い出せなかった気持ちもわかる。

 

「3人とも、終わったら話し合おう。言っておくけど、ガタノゾーアとの決戦に僕を置いていくなんて認めないからね。4人で戦おう!」

『ふ、先手を打たれてしまったな。わかっているさヒロユキ』

『ああ、お前の覚悟は受け取っている。すぐ言い出せなかったのは、悪かった』

「気にしないで。特にフーマ」

『すまん……』

 

 気を取り直して、戦いの方へ視線を向ける。

 じわじわと接近していた黒い穴が、とうとうタロウさんとトレギアの近くまで迫っていた。

 あれほど遅い技というのも驚くけど、一歩も引かない2人にも驚く。闇に染まったトレギアは大きな鎌のようなものを振り上げていて、タロウさんが静かに彼の隣に立っていた。

 

 まさに激突しようとする直前、ショウさんがいち早く声をあげる。

 

「ん? 空から何か来るぞ!?」

「!?」

 

 つられて空を見れば、街に降り注ぐ陽光に、一際強い光が混じって降りてきた。

 それは、人型に姿を変え、やがてメタリックオレンジの輝きを放つウルトラ戦士に変わっていく。

 ……誰!? 

 

「やっとこの地球に着きました────! 角のお兄さん早すぎです! 置いていくなんてひどいです! でも分厚い雲に穴をあけてくれたので許してあげます!」

 

 新たなウルトラ戦士が僕たちの前に着地する。

 声が高いし、巨人なのにどこか小さく感じる雰囲気といい、ひょっとして女性のウルトラマンなの!? 

 

「「アサヒ!!?」」

「え、あの……?」

「あ、紹介します。ウチの妹です……」

「俺達の妹、湊アサヒです。なんかすんません」

 

 カツミさんとイサミさんが頭を下げながら僕に彼女を紹介してくれた。

 色々驚きが重なって、また感情処理が追い付かなくなりそうになる中、彼女──アサヒさん(グリージョ?)は可愛らしいポーズを決める。

 

「ハッピー! 湊アサヒことウルトラウーマングリージョです! いつまで経っても帰ってこないお兄ちゃんたち迎えに来たんですけど……今はそれどころじゃないようですね!! あたしの力、見せてあげましょう!!」

 

 彼女が掌を僕たちに翳す。巨人の掌だから、思った以上に圧迫感を覚える。

 

「グリージョチアチャージ!」

 

 暖かな光を放つ光球がいくつも放たれ、僕たちの身体へ溶け込んでいく。

 これは……!! 足りてなかった光の力が一気に漲ってきている!! 

 

「すごいな……俺達の力が完全回復している!!」

「僕の傷も完全に治った……!」

グリージョチアチャージ(アメちゃん)です♪ 見た感じ、みなさんハッピーが足りなかったようですが、これでいけますよ!」

「ああ、ありがとう!! よしみんな、いこうぜぇ!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 どこまでもどす黒い闇が、空間を弾くように、えぐるようにゆっくりと迫ってくる。闇とそれ以外の境目があまりにくっきりしすぎていて真黒の穴にしかみえない。

 迎え撃つは、どこまでも混沌めいた闇。混沌であるかのように濃淡は激しく、しかし闇そのものとして世界を冒涜するように顕在している。

 

 まさか、この混沌の闇を纏う形態を実戦で使うことになろうとは。

 かつて初変身で至った時は思いもしなかった。

 

 ウルトラマントレギアカオスグリムド ダークナイトモード。

 無駄に長いが、これでも正式名称である。グリムドをあえて我が身に深く浸食させ、混沌の性質を強化。そして光か闇のどちらかを強く表面化することでモードチェンジすることができる。今は闇を纏っているからダークナイトというわけだ。

 

 ……いいんだよ! ヒカリ長官だってハンターナイトツルギとか怨念テンションに身を任せて変な名乗りしてたんだから!! 

 それに、多少はテンションを高めないと、俺の心が保てなくなる。羞恥ではなく、グリムドによってだ。

 

「(;´・ω・)」

「大丈夫だグリムド……いける」

 

 今俺の心は負の感情が荒れ狂い、あれ程否定したはずの虚無への誘いが輪唱している。

 なんで輪唱してくるのか意味が分からない。普通にうるさいんだが。

 

(この世に光も闇も)(ありはしない)((この世に光も闇も))(この世に光も闇も)((ありはしない))(ありはしない)……

 

 こんな感じのが何重にもなって響いてくる。気が狂いそうだが、内容ではなくうるさくて気が狂いそうなのはどうなんだと思う。

 ……自己ツッコミする程度には余裕あるが、強がりな自覚もある。

 

 これに負けたらただの闇堕ちだ。

 

 自分自身がなんであるかを強く意識せねばならない。普段グリムドの影響を完全にカットしているはずの俺でこうなるのだから、他の存在が同じ真似をすれば、あっという間に自我ごと吸収されてそこにはただのグリムドだけが顕現することになるだろう。

 

「(・ω・)ノ」

「少しでも抑えてくれているのだな、助かるよ」

 

 かつて俺のタロウから忠告された「深淵を覗くときは気を付けろ。深淵もまたお前を覗き返している」という言葉。

 元々、そんな言葉を受けても禁忌の研究にのめり込んだ好奇心の奴隷だったのだが、今まさに深淵を見つめるどころか、深淵に手を伸ばして互いに掴み合ったような状態だ。

 カラータイマーに封印された状態でもあれほど変質して強大な力を得たのに、半同化形態ともなれば文字通り別格だ。

 グリムド本人がいかに俺を気遣っていようが、影響がでてくる。永続的狂気に堕ちた()ですらやらなかったというのに、正気を維持したまま半同化形態などまさに正気の沙汰ではないということだな!! 素晴らしい矛盾だと思わないかグリムド!! 

 

「(; ・ω・)???」

「なんでもないですはい」

 

 本当に余裕がない。この状況でこんなふざけた真似しないと駄目って時点で完全な失敗形態と言える。

 実際、試験変身では10秒も持たず変身解除せねば危険なレベルだった。

 

 だが今は違う。

 

「正気を保てトレギア、私はここにいるぞ」

「ああタロウ。ありがとう」

 

 肩に手を置かれ、俺の心は喜びで荒れ狂う。うるさい輪唱など消し飛ばす勢いだ! 

 

 やはりタロウこそ太陽! お前がいるなら俺は戦える!! 夢も諦めない!! 理想も諦めない!! 

 俺はウルトラマンだ!!! 

 

 ところでさっきふざけた事言ってたと思うけど聞こえてたなら忘れてほしい!! 

 

「(。◇。)バオオオオオオン!!」

「闇に呑まれて消え去ってしまえ!!!」

 

 おっと、いよいよ迫ってきたか。

 気づけば間近に迫った巨大な『黒い穴』。そのサイズは俺達を優に超えている。直径100mはありそうだ。

 

 タロウよりも1歩前に出て、鎌を握りしめる。グリムドの力でも闇に属するものが凝縮された死の大鎌。

 グリムドにしてはシンプルな漆黒だ。余計な装飾がついていないのは俺好みである。特に読み込み機能とかついてないので販促にはならんだろうがな。

 

「さぁこいガタノゾーア。お前の闇は、この闇でもって打ち砕く!!」

 

 勝てなければ、俺はおろかタロウも死ぬ。ならば俺が扱える全ての力を出し切るまで!! 

 

 鎌を大きく振りかぶる。

 

 古代宇宙語の詠唱でもって、グリムド……最古の邪神達の権能を鎌へと宿す。

 

≪原初の混沌よ。天地開闢に対する報復の機会を与えよう。万物は混沌へ、光と闇は融和する。原初の混沌ここに在ることをただ示す≫

 

 鎌が重くなる。グリムドそのものが宿っているからだろうか。

 これにつられてタイミングが狂えばすべてが終わる。全身に力を籠め、渾身の一撃として俺は叫んだ。

 

「(`・ω・´)ノ」

「カタストロフィグリムド!!」

 

 大鎌を振るった瞬間、不気味極まる哄笑があらゆる神経を刻むように響き渡る。

 どちらの邪神による笑い声か俺にはわからなかった。

 

 だが、結果だけは簡単に視覚が受信できた。

 

 

 大鎌の一撃は、拮抗すら許すことなく穴を両断し、別次元の彼方へ溶け込むように消し去ったのだ。

 

 

 静寂の風が吹く。ガタノゾーアも、うるさい小人も、タロウも何も言わない。

 沈黙を破ったのは、案の定俺だった。

 

「ぐっ……!」

「トレギア!!」

 

 結果を手にした実感を得ると同時に変身を解除した。だが全ての力が抜けてしまったかのようにふらつき、膝をつきかける。

 すぐにタロウが支えてくれた。本当最高の親友だな! 

 

「馬鹿な!? 馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!? 大いなる闇の、あれほどの闇が!!?」

 

 静寂が消え去って早々になにやらわめいている奴がいるが、この結果は当然だ。この技はそういう技なのだから。

 

 

 

 グリムド達ですらもはや永劫手に入ることがない、宇宙創世以前の世界。

 ただ在る事が肝要な彼等にとっては未練がある世界でもないそうだが、その世界が健在であった頃を思い出すことぐらいはできる。

 そうすることで僅かに生じた『始まりに対する不快感あるいは復讐心』を指向性にして、世界を冒涜する邪神の権能を乗せたのがこの一撃だ。

 

 ガタノゾーアが繰り出した闇が『あらゆる文明と光』に対する絶対的優位性があるとしても。

 邪神の権能が繰り出したこの一撃は『宇宙創世より先にあるもの』に対する絶対的優位性がある。

 

 そして天地開闢(始まり)に対する怒りという一撃は、受けた対象から『天地開闢の恩恵』を奪い去る。

 

 これがどういうことかというと、万物は創世以前の一と化す。つまり始まりも終わりもなかった混沌へと戻されてしまうのだ。

 しかし、その混沌は、もはやこの宇宙創世後の世界では存在が保てない……いや、許されない(グリムド達は『在る』けど)。

 雑な表現をしてしまえばバグであり、世界の理あるいは宇宙総体意思とも言うべき概念は認識次第正しく対象を因果処理して抹消。混沌を降ってわいた余剰エネルギーとして『世界にとって都合のいいもの』へと再変換してしまう。完全なシステム処理であり慈悲すらないが、世界からすれば「なんにでも変質できる混沌だ! 有効活用しよう! え? これ元の状態あんの? わざわざ余計にエネルギー使って元の状態に戻す必要あるんですか? 効率的に使わせてもらうね!」である。

 

 以上、『邪神の権能』と『宇宙総体意思(世界の理)』の併せ技により、完全なる不可逆の消滅処理が完了する。

 

 

 

 こんな技使えばそりゃあ自滅レベルでエネルギー失うわな。

 正直、ここまで酷く消耗するぐらいなら別の技使えばいいと思います。はい、反省してます。

 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「凄まじい技だった。ありがとうトレギア、おかげで助かった」

「ゼェー……ゼェー……ガタノゾーアに当てるのが一番良かったんだがな」

「やめておけ。あの技の性質はよくわからないが……お前の技量だと避けられるか妨害されて酷い結果に繋がるぞ」

「全くよくわかってるじゃないか教官どの……!!」

 

 技の性質上、当てるべき対象を間違える事が許されないからな。

 

「(。▽。)バオオオオオオン!」

「ハァッ!!」

 

 ガタノゾーアの触手が伸びるが、タロウが容易く弾く。

 必殺の一撃を無効化された事は少なからず衝撃だったはずだが、その表情は喜悦が浮かんでいる。これはこれで問題ない結果のつもりなのだろう。俺が闇堕ちしたら爆笑ものだったのだろうが、そうならずとも俺が事実上戦闘不能に陥りお荷物となったからだ。

 奴にとっては狙い通りであり、俺にとっても狙い通りだ。

 

「トレギア! 後は私に任せろ! 今度は私が……!!」

「いや、十分だタロウ。()()()()()()()

「なに?」

「(。O。)?」

 

 さて……メフィラス、どうだ? 

 

『万全です。陛下とタロウがガタノゾーアの注意を引いてくれたおかげで、ウルトラウーマングリージョが無事地表に降り立ちました。勝利まであと1歩です』

 

 そうか! わざわざ派手な大技を使った甲斐があったな!! 

 転移こそ焦りとテンションに任せて衝動的だったことは全く否定のしようがないやらかしだったが、カオスグリムドへの変身はしっかり意図あってのものだ。

 タロウを守る為が第一、運命をひっくり返す目的が第二。そしてガタノゾーアの意識を俺達により集中させる目的が第三だ。

 戦略という意味では第三が本命に値する。

 

 地球全体の動きを把握し、的確な妨害や行動に移ることができるガタノゾーア。タロウの接近にすら気付いて行動に修正を入れる感知性能と判断力の高さは侮れるものではない。

 そんな邪神が、『ウルトラマンレイガに必要なもう1人のウルトラ戦士』ウルトラウーマングリージョの接近に気付かないはずがない。とうに気付いていたはずだ。

 レイガの事は知らないだろうが、光の戦士がさらに増える事を嫌がる危険性は十分にあった。

 

 だが、ウルトラウーマングリージョは単純な火力で言えばタロウよりずっと弱かった事。

 そして、グリムドと共に在る俺が登場したことで関心はグリージョではなくこっちに傾いた。

 

 あの大技……グリムドの力を更に使う事を強いることで、俺が闇堕ちするか期待したんだろう? 

 

 闇に呑まれれば良し、闇を弾いても消耗することは間違いないから良し。両得の考えで技を放った。

 

 確かに結果として俺はこのざまだが、お前は見逃してはいけない存在を見逃した。

 

「(。△。#)!! バオオオオオオン!!!」

 

 ガタノゾーアも気づいたのだろう、怒り狂ったように吠え猛った。

 もう遅い!! カードは揃った!! 

 

「時間は稼ぎきったぞ、よく我慢したなニュージェネレーションヒーローズ!!」

 

 希望の光が蘇り、俺とタロウより前に雄々しく降り立つ。

 

 

「「またせたなタロウ!!」」

 

Ultraman Ginga Victory

 

 

「邪神を抑え込んでくれてありがとうございました!」

 

Ultraman Exceed X Beta Spark Armor

 

 

「タロウさん! トレギアさん! 熱いやつ、見させてもらいました!」

 

Ultraman Orb Orb Trinity

 

 

「ここからは、僕たちが!!」

 

Ultraman Geed Ultimate Final

 

 

「「「止めてみせる!!!」」」

 

Ultraman Gruebe

 

 

「我ら、ニュージェネレーションヒーローズ!!!」

 

Ultraman Taiga Tri-Strium

 

 

 

 おお、いきなり最強形態でそろい踏みか!! 

 着水と同時に激しい水柱があがり、陽光と水飛沫によって生じた虹を背負うその姿が美しい。

 合体して6人だが、その実11人の偉大な戦士達だ……頼もしい限りだな。

 

『全く、冷や冷やしましたよ。胃痛分の手当はいただきますので』

 

 感動しているところに水を差すな。

 努めて検討させていただきます、とでも返しておこう。

 

「タイガ……」

 

 タロウが感慨深げに息子の名を呟く。

 今、頼もしき戦士達に混ざって、こちらに背を向けているタイガが、彼等となんら遜色ないことを強く実感しているのだろう。

 なにより、今のタイガはトライストリウムの姿なのだから。

 あれは、『絆』に対する理解が未熟だった頃とは違う、『真の絆』を手にした証拠そのものだ。

 

「父さん、トレギア。後は俺達に任せてくれ」

「……頼もしくなったなタイガ。だが、私はカラータイマーも鳴っていないのに、後進任せにする父親ではない」

 

 最強戦士達の中にタロウがそっと混ざる。

 そして1人彼等の背後でふらついている俺。

 

 ねぇ、これ俺だけ空気読めてないみたいになってないか!? ちょっと!!? 

 

「そうだトレギア。お前無茶しすぎてるから後で殴らせろ」

「!!?」

「父さんの親友を殴るんじゃない……と思ったが並行世界の親友だから今は目をつむろう」

「タロウ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いまいましい……忌々しい!! 終末なのだぞ!! だというのに邪魔ばかり増える上に勢揃いだ!? だがな、貴様らは所詮は脆弱な光にすぎない!! 先の偉大な闇はあらゆる光を否定することをもう忘れたか!! あれが1発で終わるものとでも思っているのか!! 大いなる闇よ!!! 今一度、あの偉大なる闇をぶつけてやりましょう!!!」

 

──…………

 

「……大いなる闇?」

 

──もういいじゃまだ

 

「!!?」

 

 

*1
(まだ根に持っている。残念ながら当然)




次回、最終決戦。

・ヒロユキ君、すんなりタイガ達との別れが近いことを受け止める。
劇場版ではひと悶着あった。というかこれから決戦だという時に、「ヒロユキ傷つけたくないから、ここで別れよう」とか言われたらそりゃ怒る。
しかし本作では1年が経過しており、ヒロユキは、劇場版よりも物分かりが多少良くなっている。ただ、劇中でも無意識に察していた節がある。
要はいつでも分離してお別れできる状態だったのにヒロユキが心配で、だらだらと別れを引き延ばしていたわけだが、それがなかったらパラレルアースは滅んでいたのだから笑えない。
本作中では主人公はあくまでオレギアなので正直全カットしても良かった部分ですが、全く触れないのも難しかったので、ちょっとギャグっぽく流しました。

・ウルトラウーマングリージョ
湊兄弟の妹、湊アサヒが変身するウルトラ戦士。タイガ劇場版でも割と唐突に空から降りてきた。
兄2人が半年間帰ってこなかったので迎えに来たら、絶賛ラストバトル中だったので、さっそくロッソとブルと共にウルトラマングルーブに変身。
結構目立ってたけど、実質変身アイテムみたいな役回り(当時戦闘面では火力面でまだまだ未熟な立ち位置だったのでしょうがない)だったのがちょっと残念だったので本作では光エネルギーデリバリーという役割を増やした。ちょっとの出番でもより意味があるものか否かで大分変ってくると思っています。


・カタストロフィグリムド
音の響きでトラギーキカタストロフィ(悲劇的大災害)とするかで悩みましたが、実際に使われたりする言葉よりは単純に「グリムド大災害」でいいかなと。
すごく雑に言えば原初の邪神達による「あー、今更戻ることもできないし、戻ろうとも思ってないけど昔はよかったよねー。思い出してたらなんかビックバンムカつくわ」って情動を起点に邪神達の世界を汚す権能を鎌の一撃に込めた。邪神の八つ当たりを受けた対象は、属性を創世以前の混沌(グリムドがいた世界の一部)へと還されてしまい、現世に存在することが許されなくなる。結果、世界因果により再解体再構築され万物へと不可逆の変質が行われる。この世界修正がとても強力なので、グリムド達が『宇宙創世以前の世界を取り戻す』という選択ややる気を余計失くしている。
グリムド達はビッグバン後も『在ることができた』が、それ以外は全て焼き尽くされ万物へ変質したという世界神話故にこういうことになっています。

世界法則すら利用した一撃必殺技ですが、滅茶苦茶消耗激しいので1発限りです。おまけに外して地面にブチ当てたとかやらかしたら洒落にならない(適応範囲がわからない。最悪星ごと消滅する)ので、必中が絶対条件となります。ガタノゾーア本人に向かって使えなかった理由でもある。
ちなみにグリムド達本神は使えない。何故ならこの権能と理不尽は、『邪神達の情動を一纏めにして、かつ無意味とわかっている報復に繋げる』工程が必要だから。つまり自我らしい自我がない邪神達に代わって明確に強い意思と、結果を求める知的生命体が必要不可欠。そんな存在は現在オレギアしかいない。

コンセプトは『型月作品みたいな理不尽概念宝具っぽい技』『グリムドによる大災害』の2点。ルビ振った技とかにしてないのは、この作品がウルトラマンだからです。型月作品が舞台だったらなんか難しい漢字とギリシャ語並べてた。
そしていつもより投稿が遅れた最大の原因です(次点、お仕事とサンブレイク)。中二ネタを限界まで追究しようとして詰まりました。
技名はすんなり決まったんですが、効果内容で散々迷走しました。初期プロットで「なんか中二全開の大技出す」としか書いてなかった昔の私を殴りたい。


・ウルトラマンギンガビクトリー
・ウルトラマンエクシードXベータスパークアーマー
・ウルトラマンオーブオーブトリニティ
・ウルトラマンジードウルティメイトファイナル
・ウルトラマングルーブ
全員まともに解説するとあとがきがひどいことになるので、割愛。とりあえず知らない方はニュージェネ達の最強形態と思っていただければいいです。グルーブ除けばどいつも名前が長い。
オーブに至ってはオーブトリニティが正式名なせいでフルネーム表示だとオーブがダブる。

・ガタノゾーア、優先対象を間違えたことを悟る。
ジョーカーフラグと否が応でも理解した。切札温存して遊ぶ余裕は無くなったと判断。
此方もあらゆる手を解禁するべきと判断してたところに「対処された技をまた使え」とか騒がれた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決着!レイガ降臨!!

全力でタイトルバレしていくスタイル


 

 内原戸は困惑していた。

 

 

 何故、自分が大いなる闇の触手に囚われているのか。

 

 

 内原戸は動揺していた。

 

 

 何故、自分の力が吸われるように失われていくのか。

 

 

 内原戸は当惑していた。

 

 

 何故、大いなる闇が自分に敵意を向けているのか。

 

 

 内原戸は混迷していた。

 

 

 何故。何故!? 何故!!? 

 

 

「大いなる闇ッ……何をッ……手を出す相手を間違えて……ッッ!?」

 

 内原戸はここで致命的な失敗を選択してしまう。

 憤る邪神に対し、弁明や謝罪より先に、糾弾の言葉を吐こうとした。それは、今彼ができる選択肢でも最悪に近い。

 神の結論を留めるのであれば、慈悲と理由を乞うべきだった。

 

 故に、邪神の結論は変わらず、もはや不愉快なだけである彼の全身を締め上げ黙らせた。

 当人にとっては、あまりに唐突な邪神の裏切りである。主催者として失態を重ねた際は、破滅を恐れた。だが、その時は結局何もなかったじゃないか。敵が出揃った今、自分を攻撃する意味がわからない。

 

 締め上げられながらも、理不尽に見舞われているのは己だと、内原戸は怒りさえ混じらせガタノゾーアを睨んだ。

 

──バァオオオオォォォォォン……

 

 ガタノゾーアはそんな内原戸を嘲笑う。

 もしあの時狙われたならば、逃げ出しただけだろうと。内原戸がメルバの攻撃にも、この戦闘フィールドにも、こうして触手に万力で締め付けられても生存できている理由を邪神は知っている。

 

「……!!?」

 

 締め上げられた内原戸の懐から、何かが邪悪なオーラを纏って離れる。それはガタノゾーアの外殻より創り上げられた、真円を成す『鏡』。かつてこれを海底山脈より引き揚げた潜水調査船*1のクルーは『皿』と仮称し、内原戸本人は『タブレット』と呼称した。

 

 事実、それは現生人類の知らない深淵の魔術を操る触媒にもなり、ガタノゾーア自身を呼び起こす切っ掛けの1つにもなる。縁にある文字が読めてしまったが最期、脆弱な者は深淵に囚われるが、内原戸にとってはなんら問題ない文字であり、思うが儘利用してきた神具でもあった。

 

 それを取り上げられるということは、より強固に働いていた防護魔術の全てが失われることを意味する。

 ガタノゾーアの口蓋の奥へと消えた『タブレット』。彼を守ってきた防御呪文も、保険として用意していた転移魔法も、既に機能しなくなっていた。ようやく己の末路を悟った内原戸は絶望の色を浮かべる。命乞いなど邪神に通じるわけもない。

 

「……ッッ!!!」

 

 なんのことはない、散々他者を利用し、使い潰し、悪辣に振る舞ってきた存在に順番が回ってきただけ。

 それでもなんとか助かろうと、恥も外聞も捨ててウルトラ戦士達へ助けを求める為に叫ぼうとする。無論、そんなものガタノゾーアが許すわけもない。

 

──バァオオォォォン……

 

 丁寧に極小のレーザーでもって撃ち抜かれ、内原戸の肉体が石化していく。

 抵抗すらできず、あっさり物言わぬ石像と化したそれを、ガタノゾーアはもはや用はないとばかりに街へ向かって放り捨てた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「(。▽。)バオオオオオオン!」

「あの邪神、召喚者を殺しやがった!」

「哀れな男だったな」

 

 割と冷静に、間抜けな案内人の死を流すウルトラ戦士達。冷たいようだが、彼等は救えない者を救うほど傲慢ではない。

 というか、事が済んだら処☆刑は確定事項*2である。更生、改心、和解の機会があるならばともかく、基本的には現行犯抹殺する戦士が大半だ。

 

「……」

「(・ω・)?」

「いや……ある意味あいつも運命の犠牲者と思ってな」

 

 あっさり捨てられた内原戸を、俺はどこか憐れんでいた。

 ヤツがああいう末路になる事はわかっていたからだ。タイガ劇場版(正史)における黒幕……トレギア()は、タロウがグリムドから脱した事で絶望し自らグリムドと完全同化する。結果肉体は耐えきれず完全に消滅するのだ。

 その役割をわざわざ担ったなら、このタイミングで退場する運命に囚われる。知っていればひっくり返せただろうに。

 

 それにしても、ガタノゾーアは奴の肉体を食らうこともせず、砕いて海に還すこともせず、陸地へ投げ捨てて朽ち果てる結末を選んだのだな。

 光を通さぬ石の眼からでも地球の終焉を見届けさせる慈悲とみるか、徹底的な拒絶とみるか。

 

「(。▽。)♪ バオオオオオオン!」

 

 拒絶ですねこれは。内原戸掴んだ触手自切してエンガチョしとる。

 

 って!? 

 

「危ない!!」

「( `・ω・´)ノ】】】」

「(。▽。 )バオオオオオオン!!」

 

 グリムドと共に在るおかげか、ガタノゾーアの意図にいち早く察することができた。

 あのアホ始末する間に攻撃準備も整えてやがった油断も隙もねぇぞこいつ!! 

 笑いまくる膝に鞭を打って前に飛び出し、今出せる全力でバリアを貼る。

 

「(。▽。 )バオオオオオオン!!」

「ウオオオオオオオオオオ!!?」

「トレギアッ!!」

 

 暗雲と触手から全方位雷撃だと!!? 

 そんな技知らんぞ!! 

 タロウも続いてバリアで防いでくれなかったら普通に押し負けていた。だがなんとか防ぎきって彼等を守る。

 揃って早々に潰されてなるものか!! 

 

「……ぐふっ」

「(;´・ω・)」

 

 雷撃が終わると同時に、今度こそ膝をつく。

 なんとか防ぎきった。きっつい……!! 

 

「無茶するなトレギア!」

「無茶されたくなければ、ガタノゾーアの前で隙を晒すなウルトラ戦士達!!」

 

 きついなかで、声を張り上げる。

 同じ事されたら今度は庇うことすらできんぞ!! 

 

「(。▽。)バオオオオオオオオン(すきをさらしたのはおまえだよ)

「!!?」

 

 やばっ!? 

 

 気づいても体が動かない。水面下から伸びた触手が瞬く間に俺を捕えてガタノゾーアの眼前まで引っ張り上げる。

 ああくそ、最初から狙いは俺かよ!! 

 

「トレギア!!」

「(#`・ω・´)」

「(。▽。 )♪ バオオオオオオン!」

 

 器用に首だけ締め上げて掴み上げやがる……ッ!! 

 グリムドが怒って俺の身体から破壊電磁波をまき散らしているが、ガタノゾーアは痛痒の素振りすらみせない。

 そのまま、俺の身体を盾にするようにタロウ達へ突きつけた。

 

「トレギアは私が助ける!! お前たちはガタノゾーアを!!」

「はい!!」

 

 無論、それで足を止めるような軟弱な戦士達ではない。

 というかギンガビクトリーに至ってはちゃっかり殴れるなら殴ろうぐらいに考えてそうな目してて怖いんだけど。

 

「(。▽。)バオオオオオオオオン!!」

 

 ウルトラ戦士達が飛び回り、ガタノゾーアの触手がそれを撃ち落とさんと猛威を振るう。

 時折雷撃やシャドウミストをばら撒いているが、今のニュージェネ達はなんとか対応できているようだ。

 その高速移動と牽制技は囚われている俺では追いきれないほど。本当に頼もしい。あとお荷物でごめん。

 

「タロウカッター!!」

 

 ガタノゾーアの対応力に僅かな隙が生じたのをみて、タロウが切断技でもって俺を触手から解放した。

 

「守ると言った矢先にすまない、トレギア。大丈夫か?」

「いや、助かった……」

 

 最悪食われると思ったからな。

 闇の力を増幅する為に俺(というかグリムド)を襲うぐらいのことは想定していた。

 しかし、結局は俺をただ盾をして使っただけ……。

 

 

 ……いや、違う。

 ニュージェネ達をばらつかせたかったのか!! 

 ガタノゾーアの隙を作らせる為だけにニュージェネ達は距離を取りながらも高速軌道で攪乱する手段をとり、結果として包囲の形を取った。

 奴にとって一番ダメージが発生し得たのは個々の一斉攻撃よりも一極集中の合体光線なのは間違いない。それを避けたかった? 

 

 

 ……その光線を撃たれる可能性がある一番大きな隙を晒しても間に合うようにしたかった? 

 

 

「ああくそ、思考が追い付いてもどうしようもないな」

「(。▽。)バオオオオオオオオン!!」

 

 ウルトラ戦士達へ警告を促す前に、ガタノゾーアの全身から闇が吹き出した。

 ガタノゾーアから感じられる圧が瞬間的に増幅する。

 

 間違いない。己を強化する気だ。

 更なる強化形態、本気を出す為にわざわざこんな手を打ったのか。万が一を警戒して。

 

 ……遊びを捨ててやがる。

 どれだけあの最強の光(グリッターティガ)の再来警戒しているんだくそったれ!! 

 

 

「させるか!! トライストリウムバースト!! 

 

「ベータスパークブラスター!!」

 

「クレセントファイナルジード!!」

 

 

 察したタイガ達がそれぞれ光線技を放つが、既に段階始めという最大の隙を回避した今のガタノゾーアには通用していない。

 巻貝のような外殻に収まっていた首が長く、長く伸びる。ハサミはより鋭利に。触手は更に本数を伸ばし、強靭化しているのがわかる。

 そしてただでさえ巨大であった体躯が、更に大きく、強大なものへと変質していく。

 

 完全に見上げるほどの巨躯となった邪神が、俺達を見下し咆哮する。

 

 

──バァオオオオオオオオオオォォォォォン!! 

 

 

邪神

ガタノゾーア

第二形態

 

 

 ……まさかタロウと俺が対峙してた時ですら本気じゃなかったとはなぁ。

 俺は知らんぞこんな形態!!? デモンゾーアなら知ってるけど!! 

 

 

「「ウルトラフュージョンシュート!!」」

 

「トリニティウム光輪!!」

 

「「「グルービング光線!!!」」」

 

──バァオオオオオオオオオオオオォォォォォン!! 

 

「「な!? ぐあっ!?」」

「ぐぅッ!?」

「「「いった──!?」」」

 

 ギンガビクトリー、オーブトリニティ、グルーブの必殺光線を重ねた極大合体光線。

 今のガタノゾーアにはそれすら通用しない。大爆発を起こしながらも、その身には傷一つできておらず、逆にカウンター気味に振るわれた触手と貫通レーザーで最強の戦士達を容易く海面へ叩きつけた。

 一瞬石化を恐れたが、流石は最強形態。各々大量のエネルギー消費(カラータイマー点滅)を代償に防ぐことはできたらしい。

 いや早いって!! これつまり個々で戦う限り俺達に勝ち目がないレベルの戦力差ってことだろ!!? 

 

 ……よしレイガだな!! レイガじゃなきゃ勝てんわこんなの!! 

 

──バァオオオオオオオオオオォォォォォン!! 

 

「負けるわけにはいかない! 俺は、俺達は、一歩も引かない!!」

「よく言ったタイガ!!」

「父さん!」

 

 勝ち誇るガタノゾーアを前にしても毅然と立ち向かうタイガの隣に、タロウが立つ。

 

「戦士達よ、皆のエネルギーをタイガのウルトラホーンに集めるのだ!!」

「!!」

 

 流石タロウ!! 最適解だ!! 

 だがガタノゾーアがその選択を許すわけがない。

 タロウは単独で盾になるつもりだろうが、恐らく今のガタノゾーアだと阻止される可能性がある……!! 

 なんとか力になりたいが……ぐぅ、グリムドの力を引き出す余力がない……!! 非力な己が恨めしい!! 

 

──バァオオオオオオオオオオォォォォォン!! 

 

 タイガの元へニュージェネ達が集まるのを見たガタノゾーアが怒りの咆哮をあげる。

 やはり気付いている!! 

 

「息子たちの邪魔はさせん!!」

 

 全てを貫く闇の一撃を、タロウが全力をもって防ぐ。俺が受けた貫通レーザーとは数段上の威力を持つ概念攻撃を無力化しながら防ぎきってるの流石タロウとしか言えないが、やはり手が足りない。レーザーを放ち続けながら、ガタノゾーアの触手が散開する。

 また全方位攻撃を仕掛ける気だ!! クソ、まずいまずいまずい!! 

 

『いやお前なんの為に、ここまで俺達温存してたんだよ。結構空気読んで黙ってたと思うんだが? あ、ゴロ』

『キャシャー!!』

「!!」

 

 ……!! 

 そうだった!! 

 

『おいコラ』

『キシャー!!』

「いや忘れてたわけじゃなくて……ともかく頼む!!」

 

 想定済みだったが、余裕なくして失念してただけだと言い訳しながら怪獣リングを解き放つ。

 同時にタロウはおろか、タイガ達をも狙った雷撃と触手の嵐が放たれる。

 前面からの攻撃はそれでも巨大バリアで防ぎきるタロウだったが(流石タロウ!)、バリア外へ回り込んだ攻撃は防げない。

 

「ゴンロロロォ!!」

「キシャ────!!」

 

 だがウルトラ戦士達は傷つかない。怪獣リングから顕現した雷神と邪願獣がタロウ達に迫っていた雷撃を悉くはじき返した。

 よくやった!! ゴロサンダー! スネークダークネス! まさか邪神の攻撃に対応できるとは!! 最悪肉壁で終わると思ってた!! 

 

「んん!?」

「気にするなタロウ!! 仲間だ!!」

「そうか!!」

 

 突然出現した増援に驚くタロウだが俺の短い言葉で納得してくれる。ありがたいが信頼が重いな。

 

──バァオオオオオオオオオオォォォォォン!! 

 

 怒り猛るガタノゾーアだが、俺を放置しきったのがいけないのだよ。俺は確かにもうお荷物だが、俺が揃えたカードはまだまだあるんだ! 

 

「「「……」」」

「……」

「キャシャー?」

 

 タイガへ力を託す中、グルーブとジードが俺とスネークダークネスをめっちゃジト目で観てくるけど気にしない。

 ちゃうねん、このスネークダークネスはカツミ君の友人が変身した本人とかじゃなくてあくまでソフビ人形が元になった奴でね? 

 

──バァオオオオオオオオオオォォォォォン!!! 

 

「「「ギャシャアアアアアアア!!」」

「「「グオオオオオオオオオン!!」」

「「「シャギャアアアアアアアア!!!」」」

 

「おっと、ゾイガー集団ときたか」

 

 ガタノゾーアの外殻の穴。今や直径数十mにもなるだろうそこから、無数のゾイガーが出現する。

 更なる手数で阻止する算段らしい。だがな! まだ怪獣リングはあるんだぞ!! 

 

「!!」

 

 人質作戦のつもりか!! 

 ゾイガー達の半数が方々に散っていく。

 タイガ達への動揺を誘う狙いなのは明白だ。だが、放置すればゾイガーの群れが世界中を焼き尽くし、仮にガタノゾーアを倒してもこの地球は荒廃するだろう。

 

「これはまずいぞトレギア!」

「安心しろタロウ、タイガ!! これなら手はある!!」

 

 カードはまだまだあると言ったぞガタノゾーア!! 

 いけるか? Dr.ヘロディア!! 

 

『はい陛下!! シャドウミスト対策完了済です!』

「よろしい! オムニバーシアン!! 地球を守れ!!!」

「( `・ω・´)」

 

『『『『『混沌皇帝陛下万歳!!』』』』』

 

──バァオオオオオオオォォォォン!!? 

 

 飛び立つゾイガー達の前にシャドウミストの阻害すら弾いて配下たちが転移する。対策は打ってくれていると信じていたが、大したものだ。

 

「これがガッツの分身殺法だ!!」

「ハンドカノン!!」

「ギュルルルルルル!!」

『メカゴモラ、フルバーストォ!!』

 

 ガッツ星人がゾイガー達を無数の分身で困惑させ、グロテス星人がそこを逃がさずバルカン攻撃で撃ち落としていく。

 動きの鈍った個体をヒッポリト星人やシグナリオン*3が仕留めていき、メカゴモラがなんか滅茶苦茶重武装背負って全方位一斉射撃とかいう浪漫技を披露していた。

 

 撃ち漏らしも当然逃がさない。

 

「巨大化は嫌な思い出しかないがしょうがない!!」

「ゼアーッ!!」

「ゲギャアアアアアア!!?」

 

 街へ飛んだゾイガーはザラブとウルトラマンシャドーによって撃墜。

 あいつベムスター使役がメインだったはずなのになかなかやるじゃないか。

 

「この場に残るゾイガーも片づけてしまえ!! いけ、ゼットン!! ブラックギラス! レッドギラス!」

「ピポポポポポ」

「ヌガーヌガー」

「モガーモガー」

 

 残る怪獣リングを起動。

 出現したゼットンが火球を連続発射して、ゾイガー達を残らず撃墜。ブラックギラスとレッドギラスはそんなゼットンを囃し立て喝采している。

 いや働けよ。

 

「トレギアお前どれだけの……!?」

「うん、絶対怒ると思うけど言い訳は後でさせてほしい!!」

 

 流石にタロウからツッコミが飛んできた。

 すまん、やり過ぎている自覚はある!! でも向こうだって手段選んでないから!! 

 

──バァオオオオオオオォォォォン!!! 

 

 ガタノゾーアの咆哮に僅かながら焦りが混じっている。

 タイガ達はタロウが完全に守り抜き、その側面をゴロサンダーとスネークダークネスが支えている。

 無数のゾイガー達は誕生して早々に海域を脱することすら叶わず海の底へ沈む末路を辿っている。

 

 きっとこのままであれば、やがてガタノゾーア側が押し切ってくるだろう。

 雷撃も闇の一撃も、オムニバーシアン達では1分も持てば良い方だ。

 だが稼ぎたかったのは僅かな時間。その分ならば彼等はしっかり機能するのだ。

 

 レイガまでの時間を稼ぐだけじゃない。

 

 この戦い、お前が自ら演出狙いで中継させてたの忘れてやしないか? 

 

 ギンガビクトリーたちがタイガのウルトラホーンに光となって吸い込まれていく中、さらに世界中から希望の光がタイガへ降り注いだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ─避難所─

 

「頑張れウルトラマン!!」

「宇宙人達も頑張ってくれ!!」

「地球の為に必死になってる彼等になにかできないのか!?」

『あります』

「「「!?」」」

『希望を捨てず、ただ祈ってください。それが、光を高める最大の力なのです』

「ただ祈る……そんなことで?」

『祈りを馬鹿にするものではありません。貴方も応援されて力が漲ったことがあるでしょう? 光とは、希望を未来へ繋げる力。祈りはとても大きいのです』

「わかった! 本当にそれが少しでも彼等の為になるなら!」

「ところで、あんた誰」

『らっきょう売りです』

「「「???」」」

 

 

 

 ─外事X課本部─

 

「佐倉さん、この光は!? 人々から……!?」

「わからないが……暖かい光だ。ウーラーの輝きを思い出すよ。なるほど希望を捨てるな、か」

「グローザムさんはこれを知ってて……」

「さぁな。俺はオカルトは信じない方なんだが。けれど俺達も、ウルトラマンに希望を、光を届けよう」

 

 

 

 ─E.G.I.S.─

 

「すごい……!」

「世界中から、輝きが……!」

『あの光、ヒロユキんとこに向かってるんだろ? じゃあ俺達も送らないとな!』

『レッドギラス!! ブラックギラス!! もうちっと頑張ってくれよ!! なんでゼットンの腰巾着してるんだよ!』

『マグマうるせぇ!!』

『俺はタイガ達よりレッドギラス達の為に祈る!!』

『えぇ……いやまぁあいつらも味方なんだろうしいいけど』

「なに? マグマ君とあの怪獣に何の接点が???」

 

 

 

 ─ヴィランギルドアジト─

 

「あいつら他の宇宙から来たのか。けっ正義面しやがって」

「でも、格好いいっすね」

「ほら貴方達も、ちょっとは気張りなさい!!」

「おう、そこの姉ちゃんの言う通りだ!! この際地球人も宇宙人もウルトラマンもねぇだろ!!」

「ベネット……そうだな!!」

「10万ドル無くたってポンと祈ってやるよ感謝しろよウルトラマンども!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 インナースペースにいるヒロユキの手元には、ウルトラアイやウルトラゼロアイを彷彿とさせる新たな変身アイテム、ニュージェネレーションアイがあった。

 フレームは赤、青、黄がメインで彩られ、中心部は銀、赤、黒。そしてカラータイマーを思わせる青い宝玉が輝いている。

 

「……ものすごいパワーだ」

 

 ニュージェネレーションヒーローズの力が集約されたそれは、持つだけでも強大なエネルギーが秘められている事が伝わってくる。

 手の震えが止まらない。だが、この力を前に逡巡している場合ではない。

 全力でガタノゾーアの猛攻を防ぐタロウや、トレギアがいつの間にやら増やしていた手勢が稼いでいる時間は一瞬でも無駄にできない。

 

「よし!!」

 

 ヒロユキは想いを込め、ニュージェネレーションアイを身に着ける。

 

 瞬間、爆発的な輝きが宝玉より放たれ、新たな光の戦士が誕生した。

 

 

「ショオラッ!」

「テヤァッ!」

「イィィーッ! サ──ッ!」

「シュアァッ!」

「デアッ!」

ハァッ! 

「ハアァッ!!」

 

 

 

Ultraman Reiga

 

 

 

 眩い輝きに包まれ、1人のウルトラ戦士が海上に降り立つ。

 11人のウルトラ戦士が極限まで力を引き出した上で合体する究極のウルトラ戦士。

 

 それがウルトラマンレイガである。

 

 

──バァオオオオオオオォォォォン!!! 

 

 

 ガタノゾーアの憤怒と憎悪が綯交ぜとなって咆哮となって現れる。

 あれだけ警戒していた、あの時の奇跡が、再び目の前に君臨したことが許せない。

 だがあの時とは違うとばかりに、ガタノゾーアは全方位雷撃を再度撃ち放つ。

 

「うおわぁ!?」

「ゴロ────!!?」

「キシャ──!?」

「ピポポポポポ!!?」

 

 耐えていたゴロサンダー達を容易く吹き飛ばし、レイガまでの障害を排除。

 即座に闇を凝縮、目標を消し飛ばすべく、己の湧き出る憎悪も込める。

 

 

 一閃。

 

 一閃。

 

 一閃。

 

 

 伸ばした頭、両の鋏より計3発の貫通レーザーがレイガに向かって飛ぶ。

 

 

「ハァッ!!!」

 

 

 絶対の破壊力を持つレーザーが、レイガの突き出した片腕で容易く弾かれる。

 グリムドの力を用いていたトレギアですら、ウルトラマンタロウですら、ここまで簡単に対処していない。増してや今のガタノゾーアが放ったものを。

 闇による概念攻撃が、ただ存在するだけで完全に無効化されていた。

 

──バァオオオオオオオォォォォォォォン!!!? 

 

 邪神に本来存在し得ないはずの感情が芽生える。

 目の前にいる脅威が、あの輝きの戦士(グリッターティガ)と重なって仕方がない。

 

 レイガは、打ち払った己の腕がなんら痛みを伴っていない事、己の力を静かに実感すると1歩ずつ歩みを進めていく。

 タロウとトレギア、その他宇宙人や怪獣はレイガを感嘆の感情で見守っていた。

 

 

 ガタノゾーアが触手を振るう。

 

 歩む一瞬で断ち切られる。

 

 ガタノゾーアがシャドウミストをばらまく。

 

 触れるより先に輝きのみで消失する。

 

 ガタノゾーアが雷撃をばら撒く。

 

 その全てを誘引した上で再び片手で無力化する。

 

 

「フッ! デヤアアアアッッ!!」

 

 

 反撃とばかりにレイガが吶喊し、その拳に黄金の輝きを纏わせる。

 ガタノゾーアはもはや必死な勢いで触手による防護壁を形成するが、容易く破られ、勢いがついたまま伸びた首の根本に直撃する。

 

──バァオオオオオオオォォォォォン!? 

 

 数百メートルの巨体が浮き上がり、後ろへ吹き飛ばされた。

 ガタノゾーアは想起せずにはいられない。あの理不尽極まる奇跡の一撃を。

 かつて、かの世界にて倒れ込んだ後の我が身に何が起こったかを。

 

──バァオオオオオオオオオオオォォォォォォォン!!! 

 

 第二形態になったことで伸びていた尾を使い、完全に倒れ込むことを防ぐも、完全な隙となった事に邪神は焦燥感を初めて抱いた。

 己ならば、こんな隙は見逃さない。滅亡を遊戯として扱うほど知性が高いがゆえに、その知力が避けられない未来を自身へ突きつけてしまう。

 

「今だヒロユキ! 今こそニュージェネレーションレットを使う時だ!!」

 

『ああ!!』

 

 ウルトラマンレイガの時にだけ使える特別なブレスレット、ニュージェネレーションレットがヒロユキの左腕に出現する。

 

『これで終わりだ!! 僕とウルトラマンの光で、邪悪な闇を撃ち砕く!!!』

 

 

 

Come on!! 

 

 

New Generation-let! Connect on!!  

 

 

「レイガ アルティメットブラスタ────!!!!」

 

 

 この宇宙に生きる者たちの、全ての光と輝きが込められた極光。

 それが絶大な破壊光線となって、レイガの腕から発射された。

 

 

──バァオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォン!!!!! 

 

 

 迫る輝きを前に、3度目の敗北を悟り、ガタノゾーアは怨嗟の咆哮をあげる。

 

 無論それで止まるはずもなく、極光が邪神の中心部を撃ち抜き、全ての闇を光へ還した。

 

 

 

 

 

 

 

*1
(7500mまで探査できるすぐれもの、名を『りゅうぐう』。この時の調査は深度1000m程であり小笠原の沖合某所である。海底地表に規則性ある穴が並んで開いている事を訝しむ様子が描写されており、終盤におよそ人間が作り出したものではない都市とその地下に旧支配者が眠っている事が書かれている。つまり、内原戸がタブレットを回収した世界では、ガタノゾーアは東京湾からそう遠くない場所で眠っているわけである。試される国日本。あるいは寝相が悪すぎてニュージーランド沖からゴロゴロ寝転がったのかもしれない)

*2
(この手の話で一番容赦ないのがウルトラマンジャック。逃げる相手の背中へスペシウム光線! 人間サイズの宇宙人に向かってハンドビームで爆殺! 実行犯、円盤、母星含めて粉砕!!)

*3
(ウルトラマンA第50話『東京大混乱! 狂った信号』に登場。レボール星の守護神怪獣。分類としては超獣だけど。3原色の球体が大量について肉体構成されていて、ちょっと不気味。レボール星人が地球侵略の際に連れてきて何故か信号機に憑りつき操作、関東交通網に大打撃を与えながら光線で人々を次々殺害していくえぐい侵略攻撃をしかけてきた。レボール星人が激しい銃撃戦の末に討ち死にした為、怪獣態となって暴れ出すがエースによって速やかに駆除された。)




騒ぐだけ騒いで、好き放題やった奴だーれだ?ってやったら内原戸とガタノゾーアとオレギアの3人になると思います。闇の陣営はこういうことする(オレギアは違うはずなのに)。


・内原戸、お役目御免。
おつかれさまでした。でも次回予告とかではガタノゾーア第二形態とかレイガに注目されてナレに一言も言ってもらえないレベルの扱い。
初期プロットではダークリングとタブレットを併用して、無限の魔力と闇呪文を駆使する予定だった。
ただ、どっちにしろガタノゾーアに回収される結末は決まっていたため「ダークリングについてオーブに反応させるテンポ」の有無で判断。
ダークリングはなかったことになった。ジャグジャグが顔出してきそうだったのもある。

・全方位雷撃
ウルトラヒーローズEXPO2022で披露した新技。
文字通り一網打尽にする威力があった。例によって例の如く、技名は不明。

・ガタノゾーア第二形態
元々予算の都合でお披露目されなかったとされている形態で、ティガが石化した後にこうなる予定だったらしい。
元の造形が完璧すぎるのもあってか、見た目の変化はより醜悪になったぐらいだが、本作ではグリムド完全体級の強さとして描写している。
上記のEXPO2022でサプライズ君臨したのだが、やはり邪神たる本体はもう滅されている扱いなのか、あるいは単に降臨していなかったのか、あくまでカルミラの闇によって召喚された『怪獣』扱いである。それでもラスボス枠やっただけ偉い。ステージ上ではめっちゃ機敏に動いてウルトラ戦士たちを弾いたりひき逃げアタックしていた。


・ガタノゾーア(チート)VSオレギア(チート)VSレイガ(チート)
みんなやりたい放題。お互い持てる手札を全部晒したらこういうことになる。
ちなみにオレギアが最初から全員繰り出していたらどうなってたかというとガタノゾーアが各個撃破するだけです。
数の暴力も、強敵の前ではタイミングを選ばないとレギオノイドの群れと同じ末路にしかならない。

・グリッター(希望の光)発動。
一部メフィラスが露骨に誘導かけていますが、元から発動条件は整ってます。絶望的状況で諦めず、そしてウルトラマンが、宇宙人達が頑張っているのを観たら、ウーラーの輝きを知っている人類はきっと正しい想いを彼等に願い、届ける事でしょう。そしてそれは間違いなく大きな力となる。
グリムドの時は発動できません。グリムド空間で完全に遮断されていましたし、地球人もまともに観戦できてない。


・ウルトラマンレイガ
グリッターバフかけてますが、実はそんなん関係なく普通に勝てるぐらいに強い。
見た目は大怪獣バトルの主人公、レイが変身したレイモンに似た角とギンガやエックスっぽい角の計3本角を有したタイガの面影を残すウルトラ戦士。
ボディは赤、銀、黒で彩られ、要所要所でギンガを思わせる水晶の輝き、胸元と肩には金色の装飾がある。全身像を見ると意外と黒の割合が高い。
タイガ劇場版では、完全体グリムド相手の攻撃を完全無効化したあげく(一見片腕で防いでるだけなのだが、レイガプロテクションという防御技らしい)、グリムド最大出力で放たれたグリムレイに打ち勝った。
こんなのにさらにグリッターバフがかかっている為、ガタノゾーア第二形態と言えど勝ち目はない。

ガタノゾーア「(; ̄;)ちょっと待ってよそれってチートなんじゃない!?」

・あっさり決着
繰り返しますがレイガやグリッターティガ(最終回の)がそれだけやばいんです。
ティガ本編でも最後の一撃受けたら拍子抜けなほど一瞬で掻き消えますからねガタノゾーア。
元々タロウにオレギアが力を託す共闘場面も入れていましたが(ダークナイトモードとか作っていたように、光の側面もバフ要因で出すつもりではあった)、タロウが強くて、わざわざ差し込む必要がなかった……。ま、まぁそれはさすがにアクセサリートレギアに譲るという事で(描写機会ないでしょうけど)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦い終わって、それから

後始末大事。

そして予約投稿日時間違えるガバァ……!


 

 

 あらゆる知的生命体が有する無意識に繋がる深淵、その最奥。

 

 通常の生命体であれば迷い込めば最期、存在そのものが霧散し溶け込む無明の閨房(けいぼう)

 

 そこで、邪神と邪神が言の葉を交わしていた。

 

 知的生命体が有する言語と概念、思考と全く異なるその対話は本来理解することすら不可能であり、真に理解したならば良くて正気を失うことだろう。

 

 ただ、『無』を無理矢理認識して生じたのがグリーザの外見であるように。

 

 対話をしている事実のみで、知的生命体が脆弱な魂を損ねない程度に解釈することは不可能ではない。

 

 そのような形式で翻訳すれば、邪神同士のコミュニケーションは以下のようになる。決して、この通りに語っているわけではない。

 

『あのさぁ、こっちはあの変なのに御呼ばれしたわけよ。滅ぼしてもいいってお墨付き貰ったようなものじゃない? なのに散々トラウマ抉って強制排除って酷いと思わないの?』

 

『だが我らの存在を貴様は最初から察知していたはずだ。あの贄は我らの混沌を触媒に召喚されたものであろう、貴様が気付いていないとは言わせぬ。【在る】事が肝要である我らにとって【在った】足跡を汚さんとした貴様の末路としては妥当だ』

 

『うん、気付いてたけど。グリムド達が星なんてものに拘るとは思わないでしょ。残り香あっても別にいいかなって、えへへ』

 

『今からでも“光”と交信が叶うなれば、そのまま突き出してやりたい気分だ。これが不快という情動か』

 

『待ってごめんて。完全消滅匂わすのはガチすぎて怖いよ。でも愚痴ぐらい言わせてよ! あの憎たらしい光の戦士の時と違って怨念1つ残せず肉体消滅したんだよ!? 次に物質次元へお出かけできるの、時間の概念に従う限り何千万年かかるかわかんないんだよ!?』

 

『貴様の肉体はあらゆる宇宙にて怪獣として君臨しているはずだが?』

 

『ええ君臨してますね! 怪獣墓場でぷかぷか浮いてる廃棄物とか、ただの一怪獣としてあっさりスパークドールズ化した奴とか、群れで暮らしてちょくちょく狩の対象になってる奴とかね!! あんなんそのまま依代にできるわけないでしょうが!!』

 

『貴様の肉体には違いないだろうに、意味が分からない』

 

『これだから宿にしか興味がない存在主義者は!! ■の神格に耐えうる肉体ともなると、名と身体が同じってだけじゃダメなの!! 気持ち悪い支援者とかに相応の儀式手順を踏んでもらうとか、文明が退廃して相当量の闇が満ちているとか、色々必要なの!! 膨大な闇で肉体だけ蘇ったなんてこともあったけど、■は蘇れなくて、結局そいつは【怪獣】止まり……はぁつら』

 

『そんなに苦労するならば、何故あの案内人を処分した? 貴様を呼び起こせる触媒と手腕を持っていたであろう』

 

『え、やだ。イカれた子は嫌いじゃないけど頭悪い子は嫌いなの。だいたい名前のセンスが好きじゃない。この■■■■■■が無貌のあいつを模したような奴に使役されたみたいな解釈を人間どもにされたら不快感で触手が縺れる』

 

『……では大人しく深淵から呼びかけ続ける事だな。深淵を覗く知的生命体が不憫ではあるが』

 

『えー……グリムド達が今使ってる宿は駄目? 今回あいつに一番邪魔されたんだから、ちょっと命1個ぐらい要求しても……』

 

<<(◎)>>

 

『ごめん、ごめんなさい。そんなに執着してる宿とは思わなかったの』

 

『我らが永遠を誓った使徒(ゆうじん)にして伴侶だぞ? 貴様の遊戯で消費するなど認めるわけがない。現世の戦いでもそう通達したであろう』

 

『対立は必至だからお互いしっかり戦おうとは言われたし納得して楽しんだけどさー……ところで正直、知的生命体が邪神と呼ばれる存在相手に永遠なんて誓うのか疑問なんだけど……グリムド達が一方的に通達してない?』

 

『なにをいう。我ら相手にともに食事をとり、ともに感情を共有し、ともに力を併せたのだぞ。我ら相手にこうも尽くしたならば、これは知的生命体のいう結婚に該当するはずだ』

 

『うわ、引くわ。これだから無意識以外まともに文明観察していない箱入り邪神は……』

 

『?』

 

『……教えたところで開き直りそうだし、■の邪魔してくれたあいつに助け船送るのも癪だからこのままでいっか。じゃあ■はちょっと横になりますね。滅ぼしがいある文明見つけたら起こして』

 

『何をもって滅ぼしがいがある類なのか我らには基準がわからないのだが……おやすみ■■■■■■。数十億年ぶりの邂逅は新鮮であったぞ』

 

 

 片方の邪神は眠りにつき、片方の邪神は静かに意識を浮上させていく。

 

 眩い光が迎えるような錯覚と共に、邪神が五感でもって認識したのは。

 

 

 

「本当どこのトレギアも変わらんな! 口だけ反省している素振りが完全に同じだぞ!」

「ぐっ……流石タロウ、よく見抜くじゃないか。てかそんな癖私にあったのか!? 初耳なんだけど!?」

「ない。だが間抜けは見つかったようだな」

「き、汚いぞタロウ!!?」

 

 

 

「(; ・`д・´)」

 

 正座したまま赤き巨人に只管説教を受けているトレギア(アホ)の姿であった。

 この宿主のおかげで、呆れる、という情動にすっかり馴染んだ自覚を持った邪神は、とりあえず見なかった事にして微睡む道を選択した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 世界を包もうとした闇は、光によって祓われた。

 

 ガタノゾーアがもたらした暗雲や絶望の闇は、邪神の消滅と共にまるで虚構であったかのように一瞬で消え去り、人々は勝利を噛み締め歓喜に湧いた。

 

 そんな美しい大勝利の後。

 レイガから変身解除して元に戻ったウルトラ戦士達はヒロユキ君に称賛と激励の言葉を送った後、次々と元の世界へ帰っていく。俺への追及が1つ2つあるものと思っていたが、一瞥して御礼を言われたぐらいだった。あっさりしたものだ……と思っていたら飛び立つギンガ達に混ざらず、ロッソが複雑そうな顔をしたままこちらに近づいてくる。ブルとグリージョは彼の後ろから着いてきている形だ。

 

「なぁトレギア。この怪獣だけど」

「キシャー?」

 

 ああ、当然の疑問だろう。スネークダークネスについて訊ねてきた。

 話題にあがった当人は別に面識らしい面識を持っていなかった為(というか忘れていそう。ジードにもタイガにも無反応だし)、首を傾げている。

 

「大丈夫だ、中身に人間はいない。正体はソフビ人形だ。ある世界線にてお前たちと敵対していた方のトレギアが怪獣化させて最後は捨てた(というか踏みつけた)割と不憫な奴でな、私が回収している」

「キシャー」

「このように、普段は穏やかだぞ」

「そうか……そうかぁ」

 

 安心したような呆れているような、分かりにくい表情でロッソが呟く。

 この子の創造主とも言うべき君の友人にはよろしく言ってくれ。

 

「ほら。カツ兄イサ兄帰りますよ!」

「そうだな」

「帰ろ帰ろ。おっと、その前に俺からも1つ」

 

 グリージョに促されて頷くロッソに代わって今度はブルが手をあげてきた。いちいちコミカルな挙動をとるウルトラマンだな。

 

「あー、トレギア……さん? らっきょうさんは貴方の部下で良かったのかな?」

「? 一応そうだが。今回の事件を知って、彼を先遣役にしていた」

「そっか、ありがとう。彼には本当に助けられたからさ。あと……今すぐ土下座したほうがいいと思うよ?」

「えっ」

 

 どういうこと!? 

 

 此方の疑問に応えることなく、ロッソ、ブル、グリージョも飛び立っていった。「今夜はすき焼きだぞー」じゃなくてな!? 

 なぜそんなに急ぐ!? 

 

 だがすぐにその答えは用意される。

 邪神の圧に負けない程の重圧が俺の背筋を凍らせたからだ。

 

「さて、トレギア……説明してもらおうか」

「助かったけど、それはそれこれはこれだぞ!」

「テレパシー簡略は禁止させてもらう」

「あと1発殴らせて♪」

 

 振り返れば、腕を組んだタロウと、僅かに怒気を滲ませているタイガ達。

 

「陛下。釈明の用意はできていますか?」

『タロウを救いたいが為に、メフィラスの計画も、私の研究も破壊した不始末は正しく処理されるべきだと思います』

「言いたいこと山ほどあるんでお覚悟を」

「観念しとけ。あ、ゴロ」

「ゼットーン……」

「ヌガーヌガー」

「モガーモガー」

 

 タロウの比ではないほど怒りを露わにしているメフィラス達オムニバーシアン。

 ……なるほど? ギンガたちがあっさり帰ったのこれか。巻き込まれるの回避したな!? 薄情な奴らだ!! 

 彼らの覇気とも言うべきオーラに若干威圧され、後ろへ1歩さがる。なんとか説得できないかなぁこれ!? 

 

「スゥー……いや、ほら。時間の都合もあるから次の機会にしないか? タロウは知っているだろう? 私は残業はしない主義なんだ」

「トレギアらしい言い草だな。心配ならばこうしよう」

 

 タロウが周囲を包むように長距離移動用宇宙船*1が展開される。

 用意が良いことだなやばい本当に怒ってるどうしようこれ。

 

 ……グ、グリムド。上手いこと逃げるから転移を。

 

「(  )タダイマデンワニデルコトガデキマセン」

「!?」

 

 あれ!? グリムドさん!? なにその音信不通モード!!? 

 

「トレギア」

「……す、すいませんでしたぁ!!」

 

 万事休す。俺は素直に土下座した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 タロウ、タイガ、タイタス、フーマには無茶な真似をした事や並行世界探索を続けるうちに戦力拡大した事、組織を作っていた事をがみがみと叱られ。

 

 メフィラスには皇帝たるもの云々、結果的に最良であっただけで行動本質は軽率極まる愚行であると、くどくどと叱られ。

 

 Dr.ヘロディアには自分達を先に送る命令を出さず、あげく研究成果を1つ破壊してしまった行為は絶対補償してもらうとぐちぐちと叱られ。

 

 ゴロサンダーには無思慮な間抜けだと罵倒された挙句ゴロン棒で頭をごつごつと殴られ。

 

 ゼットン他には「そうだそうだ」と野次を飛ばされた。

 

 

 そして今はまたタロウが俺にまた反省するようにとうるさく言ってきている。

 グリムドが留守電対応から戻ったと思ったら速攻でカラータイマー奥に引っ込んだので相変わらず味方がいない。

 

「……そろそろ勘弁してくれないか? 体感10年は正座している気がするのだが」

 

 なんか足痺れてきたんだけど。ウルトラマンなのに。

 だがタロウは厳しい顔で首を振る。厳しいなぁ教官どの!! 

 

「光の国だとベリアルに次ぐ犯罪適用するべきかで審議発生するのだが?」

 

 う、()がやらかした事抜きにしても、並行世界介入と戦力拡充、組織設立は厳しい目でみられるか? 

 いや待て待て、別世界で新組織立ち上げるのはウルトラマンゼロもやっていただろう!? 

 

 そう反論するも、タロウは納得したようなそうでないような難しい顔のままだ。

 

「あれはセブン兄さんが相当苦労して宇宙警備隊下部組織として事後承諾をなんとか通したとも聞いているがな……まぁその線でいけば説得材料にはなるだろう」

 

 そうなのか。宇宙警備隊、地味にその辺アバウトだからなぁ。

 

「だが、ゼロが立ち上げたウルティメイトフォースゼロは宇宙平和に貢献している確かな実績がある。トレギアの作ったオムニバーシアンの理念は理解したが……無闇な介入行為や、並行同位体を多数生み出した件は厳しいのではないか?」

 

 宇宙平和への貢献実績に関しては、しっかりまとめてある。

 確かに元を糺せば、只管元の宇宙に帰りたいが為にやらかした行為だが……。今回の介入でも確信した。

 オムニバーシアンはしっかりと役割を担って活動することができる。並行同位体量産は……倫理的解釈次第な部分はあるんだよな。

 そこは要審議が避けられない自覚はある。だが彼らを見捨てる事は決してしない。

 

「なるほど、備えと正当化を目的とした介入組織だったか……実績開示はできるのか?」

「無論だ。組織理念と設立後の介入記録は開示可能情報として纏めてある」

 

 そう説明し、更に付け加える。

 

「私が得た知識からしても、彼等は今後必要なんだよ。新たな脅威があるからな」

 

 そう、異なる未来を歩んだウルトラマンとも言うべき究極生命体、アブソリューティアン。

 絶滅戦争にせよ和平にせよ、あれへの備えはいくらしてあっても過剰ということはないだろう。

 元の宇宙に帰った時、そしてこの世界線にまた訪れる時。絶対に力になれるはずなんだ。

 

「ちなみに介入しなかった際の想定等は?」

「ある。寧ろそれを検討して介入を決めている。今回も、介入しなかったらガタノゾーアによる被害はさらに拡大していただろう。メフィラス達の善行として認めてもらいたいものだな」

「当然だ。彼等には感謝しているさ」

「流石はNo.6。過去の所業を理解した上で、正しく評価できるお前の理念は眩しいばかりだ」

「? 普通の事だろう、お前に褒められる程のものではない。ああ、それと……脅威の名前を知っても大丈夫か?」

「情報は渡すが今は内に秘めておいてくれ。今から開示対策などすれば対象が何をするかわからん」

 

 ふむ、こうして話すと色々伝達するべきことや課題が見えてくるな。

 タロウの雰囲気も心なしかちょっと柔らかくなってるように思う。俺のタロウへの説明という予行練習にもなっていい。

 

 だからそろそろ正座やめてもいいかな? あ、だめ? 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「全員がタコ殴りにする勢いで愚痴や罵倒をしていたのに、気がつけばタロウと陛下の話し合いになってるな」

「しかもあれ、糾弾しているようで陛下が他並行世界や元の宇宙で【光の国にこう説明すれば大丈夫か否か】を確認してますよ。やはり甘いですね」

 

 並行世界による違いは明確と言えど、絆は絆ということですか。笑い声すら零れるようになってきた2人の様子に思わずため息が零れますが、安堵の実感が伴っています。ミッションを無事完了、反省点は多くありますが実りある成果でもあります。終わり良ければ総て良しですね。

 

 正座したまま朗らかな雰囲気を見せている混沌皇帝陛下と、いつの間にか座り込んで雑談に興じているウルトラマンタロウ。

 

 そして、血に濡れたように赤く染まっているトレギアキーホルダー。

 タロウへ渡そうと取り出したタイガが異変に気付いて摘んだまま怯えていますが、それただの嫉妬だと思うので放置していていいですよ。

 陛下のタロウに対する執着心、どうやら他の陛下(トレギア)も例外ないようですからね。

 

「うわぁ、これ血じゃないか!?」「怪奇現象だな」『ちょっと研究してみたいわね』などとバカ騒ぎしてる面々とは1歩離れます。

 そろそろこちらも撤収準備をかけねばならないのだからヘロディアも食いつかないように。

 そういえば。

 

「ああ、思い出しました。今回陛下の独断行動を許してしまった皆さんはしっかり処分をくだしますので」

 

 私の一言で、増援として来たオムニバーシアン達が固まりました。良い表情です。

 やはり人が絶望に歪む顔は面白くて心が躍りますね。

 

「あの……メフィラス。俺ら頑張ったじゃん」

「ええ、最後のゾイガー掃討劇は見事な働きでした。陛下の呼びかけに応えた事も、シャドウミスト対策を万全にした事も評価に値します」

『メフィラス様? 信賞必罰に基づくのであれば、私達功罪打消しでお咎めなしじゃないかなーって……』

「百の功は一の罪によって失われるものです。私が仕えていたエンペラ星人先帝陛下など、たった1度失敗しただけで数万年仕え続けた私を処刑しましたよ」

 

 どんどん青ざめていく面子。実に良い絵です。ヘロディアなど、メカゴモラ越しなのに声の震えで感情が手に取るようにわかって面白い。

 もっと追い詰めてみたくなりますが、ウルトラ戦士がいる手前、苛めるのはこのぐらいにしておきますか。

 

「安心しなさい、我らの仕える陛下はかの先帝ほど苛烈ではありませんよ。喪失したレギオノイド達の補填活動に従事してもらう程度です」

「ベリアルにバレた時点でぶっ殺される危険出張ですねわかります。きっつ……」

「バレなければいいじゃないですか」

『簡単に言わないで!? ベリアル銀河帝国軍の科学力怖いのよマジで!!?』

 

 喚く彼らに笑顔で激励し、話が一区切りついたことを示します。

 ようやく落ち着いたタイガが、此方を伺っていましたからね。何か訊ねたい様子ですが、さて。ニュージェネ達のような敵意はないので心配はしていませんが。

 

「今更だけどさ、トレギアなんで皇帝とか名乗ってるんだ? 正直ガラじゃないだろ」

 

 ああ、彼らからすれば確かに気になる部分ですか。

 

「だいたい私のせいですね。名乗らせていますし、皇帝としての振舞いも求めています。これを譲る気はありません。カオスデスポテース様としての顔も持っていただきます」

「なんで?」

「そもそもウルトラマントレギアという存在は陛下が例外であって基本、様々な宇宙で災厄の火種を作る暗躍宇宙人です。トレギアの名前を知るものは、それに仕える我々に強い不信を抱くでしょう。事実、ウルトラマンギンガを始めとした彼らは陛下を信じられていなかったのでは?」

 

 職場において趣味というものは、実益を両立してこそ我を通しやすくなるというもの。

 オムニバーシアンのトップはあくまでも混沌皇帝カオスデスポテースの名前で通用するべきなのです。

 私の言葉は、悲しい程説得力があったようでタイガ達は腕を組んで頷きました。おいたわしや陛下。

 

「あー……俺たちはともかく、基本トレギアが首領の組織とか信用されるわけないな」

「そうでしょうとも。だからギンガ達と初邂逅時はカオスデスポテース様の部下と名乗ったのです」

「それにしたってカオスはないだろうカオスは。名前からして疑われる類ではないか」

「カオス以外にありませんよ。世の中は善悪秩序のみではありません。混沌もあります。自ら光も闇も許容し、悪である過去を認めながら善の道を歩むという理念がオムニバーシアンの骨子。中庸とまでは申しませんが、混沌そのものであるのは事実です。そもそもトップがグリムド様を抱えるトレギア様ですからね」

 

 最も、あまり善に偏った名称は不愉快だったのもありますが。

 場合によっては、介入世界であえて悪を演じることもありましょう。どちらにも偏れる名前は大切なのですよ。

 

 さて……。

 

「陛下、我々もそろそろ帰還しましょう」

「む、すまんなメフィラス」

 

 向こうも区切りのよさそうな雰囲気だったので声を掛けます。

 というか、お互い話の切り上げ時がわからなくなっていた節があったので、介入しなかったら延々としゃべっていたことでしょう。

 本当に仲がよろしいようで。

 

 

 ……参考にはなったのでは? ねぇ、この世界のトレギア。

 

 

 …………ふむ、思念波を送っても返事はなし。怪奇現象を引き起こしていたのである程度目覚めてはいると思ったのですがね。

 或いは、狸寝入りを決め込んだか。私にとっては陛下の並行同位体ですので、一応気にはかけているのですよ? 拾った命をどうかお大事に。幸福をお祈りしています。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ガタノゾーアを倒し、タロウ達に説教されまくり、談笑して再びこの玉座に戻った俺は、オムニバーシアンのトップとしての日常を送っている。

 今はある探査結果を心待ちにしているところだ。

 

 あれからタイガの世界基準で1ヵ月ほど経っている。

 俺と彼らの別れの挨拶など別に特筆することでもない、「また会おう」と嬉しい約束を交わして一足先にあの宇宙から離れた。

 

 ヒロユキ君とトライスクワッドの別れに、俺は邪魔なだけだからな。そこは空気を読むさ。あの()にも悪いし。タイガから受け取ったタロウが大事に握ると、どばどば黒い血みたいなの垂れ流してたけど大丈夫なんかなあれ。

 なんかどっかの異常存在みたくなってた()はともかく、ヒロユキ君にも再会の約束はしている。うっかり数十年忘れたりしないように、あの世界の5年後あたりに一度顔を出す予定だ。

 

 それからのパラレルアースだが、メフィラスによって面白い報告書があがってきていた。

 

 まず、復興が順調であること。そして地球人、宇宙人、ウルトラマンが一つになって世界の危機に立ち向かった偉大なる記念日だとして、早くも超大国が主導になって動いているらしい。まぁ、いいんじゃないかな。宇宙人と共に生きていく未来がより近づくと思う。

 

 外事X課に残された兵器は、『グローザムが残していた遺書』により外事X課が所有する事となった。

 回収しても良かったのだが、この先地球に残る抑止力としてわかりやすい力はあっても良いだろう。

 当然だが、悪用はできない。シャドーは多少の自律プログラムがあるし、同時に役割が地球に生きる人類保護を主命に置いている都合、人類間抗争や無益な破壊行為は実行できない。万が一暴走したら即自爆してリングに戻され初期化する。Dr.ヘロディアがその辺念入りに調整済だ。ダークロプスゼロにより頓挫した事が余程トラウマだったようで、他にもロック機能があると口にしていた。自然コントロールマシンも同様だ。流石はサロメの科学力だな。

 

 ちなみに、ヒロユキ君がウルトラマンに変身していた経験を活かして、シャドー操作選抜員に対して講義をしているともある。頼もしいなぁ。

 

 ヴィランギルドは内原戸によって主要宇宙人の多くが生贄とされてしまったのもあり壊滅状態。

 だが、地球人が宇宙人を暖かく受け入れる風潮が形成されつつあることを機に、イカルス星人が残った構成員を纏め上げ、再構築。宇宙人の生活を互いに守っていく相互扶助団体として健全化再出発するのだそうだ。

 佐々木カナによる尽力もあったようで、流石は守護天使といったところか。ところでなんでイカルス星人だったのだろうか。幹部はゼットン星人じゃなかったか? 

 

 パラレルアースでのらっきょう販売実績についての報告書は雑に流し読みして済ませた。

 これを後回しにしただけ、メフィラスも成長しているのだろう。成長? 

 

「陛下」

 

 脳内で疑問符を浮かべていると、そのメフィラスが声をかけてきた。

 その目は静かに輝いており、彼が高揚していることが理解できる。

 

 つられて俺も期待が高まる。先程から待っていた探査結果。ついに来たのだろうか。

 

 そんな俺の感情に、彼は最高の返事でもって応えてくれた。

 

 

 

「陛下の故郷(宇宙)と思わしき、並行世界の探知に成功致しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇によって模られたかのような牢獄。

 妖しく光る魔法陣の紋様が光源となり、囚われた者をわずかに照らしている。

 彼はそこで目を覚ました。

 

「う……これは……石化が解けっ、ぐああああ!?」

 

 大いなる闇によって処断されたはずの肉体。

 石化し、放り捨てられ、砕け散っていてもおかしくなかった内原戸は、命を失うことなく意識を取り戻していた。

 だが、砕け散らなかっただけで、破損は大きかった。

 

 四肢の内、右手と左足は全く機能していない程であり、体の節々がひび割れたような裂傷が走っている。最低限の治療を施されているのか、傷は止血だけされているという状態だった。

 無事だった左手と右足は見るからに頑強な枷でもって抑えられており、のたうち回ることを許さない。

 

 激痛と共に自身の状態を把握した内原戸は、囚われたのだと理解し、脱走の手段を模索する。だが、莫大な魔力はもはやそこらの宇宙人の保有魔力と大差ない程に落ち込み、タブレットを失った為に、転移による逃走術式すら組み上げられない。

 

 それでも枷だけでも外そうと必死に体をゆすったり、破壊の魔術でもって攻撃するが、檻も、枷もびくともしなかった。

 そんな騒ぎを立てれば、当然内原戸を閉じ込めた存在も気が付く。

 足音が響き、やがてもがく彼の下に大耳の宇宙人が顔を晒した。

 

「おー、ようやく目を覚ましやがったか。マグマの奴に借りたマグマチックチェーンはどうだ? 気に入ったか?」

「!? お前あの時の!? 死んだはずでは!?」

「残念だったなぁ、異次元移動(トリック)だよ」

 

 万感の想いを籠めたのか、満足気に笑うイカルス星人。

 愕然とする内原戸に、彼は口端をつりあげたまま語る。

 

「邪神がウルトラ戦士によって討伐された後な、お前の砕けた石像があるって報告あってすぐ回収させてもらったよ。雑にくっつけた後、宇宙人仲間皆に聞いて回ったんだ。『どうにか戻せないか』ってな」

「!?」

「いやぁ、宇宙は広いもんだな。邪神が消えた今なら解除も可能だって事で、ババルウが残した魔術やらヒッポリトの技術やらを使ってお前の肉体は無事復活したわけだ。感謝しろよ?」

 

 感謝しろと言われても内原戸はまったく喜べない。邪神の末路などどうでもいい。

 この男の目が殺意に溢れている事に気が付いたからには動悸が収まらない。

 

「俺の仲間達の仇を取るってんだ。意識がないまま終わらせたんじゃ、裁きにならねぇだろ。死刑ってのは、当人に通達されてこそだと思わねぇか? 報復は、お前が起きてからって決めてたんだ」

「……待て、待ってくれ!?」

 

 制止の声も、命乞いも彼の大耳には一切入らない。

 ベネットの名を持つ彼の耳には、目の前の男に奪われた仲間達の声だけが響く。

 その内容が、復讐を切望しているものであることは間違いなかった。

 

「じゃあ、長生きしろよ(簡単に死ぬなよ)

 

 やがて牢獄から絶叫が響き渡る。

 蒼い巨人に代わり、宇宙を搔き乱そうとした男の結末は、彼が楽しんだ()()と同じものだった。

 

*1
(所謂赤い玉。初代ウルトラマンもこれに乗っていた。内部はウルトラマン達のエネルギーが消費しない事が劇中描写から察せられる。なお、正式名称はいまだに不明)




次回、最終回(2度目)。

・邪神と邪神の会話
あくまで翻訳結果です(予防線、逃げの一手)。
載せずにガタノゾーア消滅扱いでも良かったんですけど、会話描写作らないのもなんか勿体ないと感じてしまい……。

・ガタノゾーア、深淵にて眠りにつく。
ウルトラ世界においても、隙あらば蘇ったりしてるのが邪神達ですが、その解釈の1つが大本は死んでいないというものがあります。
せっかくなのでグリムドとガタノゾーアでちょっと会話させたかったのもあり、今回それを採用して、邪神ガタノゾーアの本体ともいうべき存在は一応健在という解釈。ただし事実上永眠。ガタノゾーア第二形態の時にも解説しましたが、ステージとかでも再登場しているんですよガタノゾーア。ただし『怪獣』扱い。実質邪神そのものだと解釈してもいいのですが、グリッターティガでもデモンゾーアという後始末(2戦目)を残してしまうほどだった存在が、2戦目で今度こそ完全消滅した存在が、簡単に蘇るのはなんか違う。呼ばれている通り、格が『怪獣』まで落ちているからと解釈。なのであれは厳密には本体ではない『怪獣体は端末説』を採用しました。

・オレギア、全力説教を受ける。
当然。ニュージェネ達は巻き添え喰いそうだったのと、オレギアへ言いたいことはタロウ達が全部言ってくれる確信があったのでさっさと退散しました。
邪神倒したいい気分のままさっさと帰りたいからな!!ぐだぐだ座談会に参加する気力はない!!byギンガ達

・タロウ、なんだかんだ心配してる。
説教かましながらも、それとなくオレギアが上手く立ち回れるようアドバイスや検討している。そういうところだぞ。

・トレギア、血涙。
意識はない設定、なんだけど作者の用意した設定無視して喚きだした。
多分、光の国ついたあたりで復活してタロウに抱擁されて失血昏倒する。

・パラレルアースのこれから。
説教枠に文字数使い過ぎてry でもまぁ、タイガ劇場版の〆は本編の台詞丸写しにしかなりませんからね。さっくり飛ばしました。
このパラレルアースは、より宇宙人との共生が進んだ星になるでしょう。シャドー他の兵器が逆に不安要素になりますが、Dr.ヘロディアを信じろ。

・内原戸の末路
予想はされていたと思います。まぁベネットネタを使った以上は、ねぇ?
あえてあのまま語らない選択肢もありましたが(〆がオレギアの最重要情報の方がしっくりきた意味でも)。やはり相応の報いはしっかり受けていただきました。一応、表現は抑えました。四肢の奴とか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トレギアだけど、今度こそ元の宇宙に帰りたい

おまたせしました。
2000字程度で短く済ませる初期プロット通りに投稿しようと思っていましたが、ちょっと書きたい事をつけ足していたら、約8000字に伸びました。
悪癖ですね、すみません。

50話で完結、というのは偶然なんですけど、狙ってたという方がかっこいいので狙ってたことにします。


 

「陛下の故郷(宇宙)と思わしき、並行世界の探知に成功致しました」

 

 その言葉は、俺の心に美しい陽光を差し込ませた。だが、狂喜狂乱するわけでもなく、静かに受け止める。

 実感が心身隅々まで染み渡ると、『元の宇宙に戻りたい』という願いを抱えてから数万年に至ったかのような錯覚すら覚えた。

 

「そうか……やはりタロウは正しかったか」

 

 あのタイガの父であるタロウを思い出す。

 元の宇宙に戻るための大きなきっかけ。それを与えてくれたのが他でもないタロウなのは、中々に嬉しいものがあった。

 それはガタノゾーアとの戦いを終え、長々とした説教も終えてタロウとの有意義で幸福な雑談を堪能していた時だった。

 俺が、タロウに最終目的について話していた頃である。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「元の宇宙に戻ることが、トレギアですらそこまで苦労するものだったとはな」

「スペアボディ扱いで無作為に引っ張り込まれた上に融合した事で、存在がここのトレギアとして認識されているようでな。戻る道筋で最も重要な縁が途切れているんだ」

「故に只管無限に等しい様々な世界を総当たりするしかない、と」

「ああ。だが、類似性の高い世界が見つかっていないという成果を得ている。つまり、私と同じ経歴を有したトレギアがいた世界がそのまま元の宇宙である可能性が高いわけだ」

 

 タロウに大本の願いを吐露した俺は、これまでの経緯、研究成果を要点をかいつまんで説明していた。

 途方もない塵のような可能性には、流石のタロウも腕を組んで唸るほどだ。

 絶望的ではあるが、それでも俺が諦めていない事を理解してくれているようで、下手な気遣いはない。能天気で前向き思考な友人だが、決して空気が読めないわけではないのだ。たまにそれが悪く働くケースがあるだけで。

 

 しかし一緒に考えてくれているというのはこう、すごくうれしいな。やはりどこの世界にいるタロウも最高の太陽だ。

 ……ちょっと撮影してもいいだろうか。いいよな? 新しいグッズ作成の資料にもなるし、伸ばして壁紙にもしたい。

 そんな少しばかりの欲求が脳内で検討され始めた矢先、ふとタロウが俺に視線を戻した。

 

「しかしトレギア。一応確認するのだが」

「なんだ」

「転移までの経緯を聞く限り、恐らく唯一無二であろう、君の力を込めたウルトラカプセル。それをビーコンにはできなかったのか?」

「ああ、ウルトラカプセルの仕様は君も知っているだろう? 暴発暴走を阻止する為、あれは起動状態にならないとその力が外部へ洩れる事はない。あの試作品を試運転する直前に融合事故が起きたからな、ビーコンとしての期待は……」

 

 

「それはつまり起動状態にさえなっていれば、ビーコンになるということでは?」

「…………」

「Σ( ・`д・´;)」

 

 

 沈黙、そして硬直。

 俺の顔は完全に間抜け面で固まっていた。

 

「おい、トレギア……」

 

 ちゃうねん。

 

「いや、ち、違うぞ? 確かにその可能性は完全に失念していたが」

「忘れてたんだな?」

「タロウ、その『こいつまた初歩的な部分の見落としミスやったのか』みたいな顔やめてくれないか。ビーコンとしての期待はもてないと結論付けてから見向きもしなかったのは事実だが!」

「つまり元の宇宙で起動状態になった瞬間、それはビーコンとして機能するわけだろう?」

「……そうなる」

 

 やめてくれタロウ、その憐憫の視線は俺に効く。やめてくれ。

 恥ずかしすぎて両手で顔を覆う。やめて、肩ぽんぽんしないで。

 

 正直に言おう、完全に忘れていた。

 確かに、あれは試作品とはいえ俺の力を込めている。起動実験の直前にスペアボディ転移被害を受けたとはいえ、理論上は星の爆発ですら壊れない代物だ。

 唯一無二にして、『俺がいた宇宙』以外で存在する可能性が極めて低いカプセルと言えるだろう。何故なら、そのトレギアカプセルはグリムドと混ざる前の、純粋なるトレギアの力だけが宿ったカプセルだからだ。

 

 タロウの言う通り、起動状態にならないことが永劫ないわけがない。俺のタロウが使う可能性、研究員が使う可能性……脆弱すぎて使っても無駄だろうがジードが使う可能性。一度でも起動したならば、いけるかもしれない。つまり、この力を常に探知するように並行世界探査システムを組みかえれば……!! 

 なんで気づかないの俺ェ!!? 研究者だろ!? 確かに何がきっかけで発見、進展されるかわからないものが科学ってものだけどさぁ!! 

 

 深呼吸。荒れ狂った脳を宥めていく。羞恥を鎮めた後は、帰還したい欲望を落ち着かせる。じゃないとまた暴走しかねない。ぬか喜びで終わりたくないからこそ、大本命に至る可能性へは冷静に、だ。

 ここで騒げば、距離を置いてなにやら駄弁っているオムニバーシアン達にも色々気づかれて煽られまくる気がする。

 声に出して叫ばなくて本当に良かった。メフィラスもタイガと話していて聞こえてないようだし。

 

「スゥー……非常に有意義な意見感謝するよ。確かに、トレギアカプセルという唯一無二に等しいアイテムを探知し続ける事は無駄ではなさそうだ」

 

 キリッとした態度で再開すれば、タロウが拳を口に当てて笑っていた。

 俺お前がそんな風に笑うの初めて見たんだけど。

 

「正直、気休めにもならない助言だろうと思っていたのだが……どうやら少しは恩を返せそうで良かったよ」

「恩?」

 

 迷惑をかけた自覚こそあるが、恩などあったか? 

 

「自覚がないのかい? 君は多くを救ったじゃないか。タイガ、この地球、私……そして、私の親友をね」

「光の国が掲げる理念、正義観とは程遠いさ。結果論に過ぎない」

 

 首を横に振れば、タロウは耐えきれないと言った様子で大きく笑った。

 いちいち俺の持論や反応でオーバーすぎやしないか!? 俺は嘘を言ってないぞ!? 

 俺も結局のところは()と変わらず、エゴの強いウルトラマンなのだから。

 

 ウルトラマントレギアという男は、根本が自分の為で動いている。好奇心とタロウ狂いで虚無に堕ちた()は言うまでもない。そして俺もそうだ。ウーラーを救いたかったのもエゴだし、元の宇宙へ帰るためにあらゆる手を尽くしたのもエゴだ。

 人命救助は、ウルトラマンとしての責務だから特に誇る事でもない。しかも運命論軽視したり、ゴロサンダー呼び寄せたりした分の尻拭いでしかなかった。

 まぁ頑張った分は褒めてもらいたい気持ちもあるが。

 

 だからそこまで笑うこともないじゃないかタロウ。何がそんなにおかしいんだ。

 

「なんだわからないのか」

「わからないよ。馬鹿にされている気分だが、タロウはそんな笑いはしないのでなおのことだ」

「それはすまない。君も君の親友(タロウ)と逢いたくて仕方ないだろうが、私も私の親友(トレギア)と逢いたくて仕方なかったんだ────こうもそっくりな反応だと、笑うのはしょうがないことだろう?」

 

 ……え、なにこの太陽。俺を尊死させる気なん? 

 俺のタロウもこんな想い抱いてくれてるのかと思うと狂おしい程の感情がカラータイマーから吹き出しそうになるんですけど!? 

 というかそんなそっくりか!? 一応俺は他のトレギアと違って地球人だった前世を自覚しているんだが!? 

 

「そっくりだよ」

 

 顔に出てたようだ。タロウからばっさり断言された。

 

「私が褒めると卑屈になるのはどこのトレギアも同じなんだなぁと……本当におかしかった。彼も光の国へ連れ帰ったら、治療と併せてそこの改善を意識する必要があるかな」

「お、おう……」

 

 自虐的側面あるのは、認めざるを得ないが……。

 その、()に対してはお手柔らかにな? 罰として生存させたので間違ってはいないんだが。

 

「そうだ、一応君の親友の処遇についてだが……」

「ああ、君から何か意見があるならば……」

「……」

「……」

「(─ω─)zzz」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……ああ、あんな話もあったな。ふふふふふ」

「(;・ω・)」

「陛下、そろそろ回想から戻ってくれませんかね?」

 

 ハッ。

 

 しまった、最大の情報を得てからきっかけまで意識がタイムスリップを。

 きっかけだけを思い返すつもりが、ついついその後まで思い出を振り返ってしまった。

 気が付けばメフィラスが困ったようにこちらを見ている。悪いことしたな。

 

「あー……すまない」

「いえ、宿願叶うともなれば当然でしょう。此方こそ、無粋な横槍をいたしました。あと皇帝が軽々しく謝罪せぬように」

 

 謝罪しながら小言も併せていく悪質宇宙人。

 こいつが俺を皇帝として担ぎ上げてくるのはもう流石に慣れてしまったし、諦め受け入れてはいるが。

 生命の慣れとはすごいものだな。まだカオスデスポテースを自称するのは恥ずかしいけど。

 

「しかし、トリップしていただいたおかげで、かつてのガタノゾーアの一件であったような、暴走はなくて一安心しました」

「暴走などしないさ、大本命だからこそ冷静に、だ。辿り着き、俺のタロウに会って初めて歓喜の渦に呑まれて消える」

「いや消えないでもらえます?」

 

 メフィラスのツッコミは笑って流す。

 冗談のようでいて、マジで感動による消滅しかねない自覚がある。

 気を付けないとな……。

 

「俺が元の宇宙に帰った後のオムニバーシアンについてだが、当然存続する。元の宇宙、オムニバース、あのタイガの宇宙……基本この3つを俺は活動圏とすることになるな」

「我々を救った責任を投げ出さない事に感謝いたします」

「本当に俺の責任だからな……不在時の基本運営はメフィラスに全権を委ねるが、一応お目付け役としてはゴロサンダーとスネークダークネス。そして、『グリムドの目』を玉座に置く。オムニバース全体を監視する邪眼だが、俺への緊急連絡手段にもなっている。非常時や介入相談は『目』に語り掛けるように」

 

 転移する前に、この世界とオムニバーシアンについての方針を改めて伝える。

 繰り返すが、元の宇宙に帰ったら用済み! なんて不義理はしないし、アブソリューティアン対策としてバリバリ働いてもらわないといけない。

 元の宇宙、運命が軌道修正かけていないなら、ロッソとブルは初代のままだし、グリージョはグルジオのままだし、タイガ達はヒロユキに会うのかすらもわからない。変わった運命分の仕事は、俺やオムニバーシアンが果たしていくことになるだろう。

 

 俺の方針には、メフィラスも満足気に頷いている。

 意見が変わっていないことに安堵もしているようだ。

 

「お任せください。しかしお目付け役に監視ですか、信用されていませんねぇ」

「お前はこうした方が、落ち着けるだろう。監視無しで全権委任されたらお前はどうする?」

「当然、ウルトラマンとメビウスへの報復にこの世界と組織を全面運用いたします」

 

 なんという曇りなき眼。冗談でもなんでもなく本気で言ってやがる。

 

「満面の笑顔やめろ。俺はお前を信用しているが、信頼はしない。それがお互い一番うまくいく」

「ええ、まったく」

 

 本当悪質だなお前!! 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 探査に成功した経緯と、探査結果の情報を読む。

 タロウが推測した通り、トレギアカプセルが起動状態になった為に探査システムが反応したようだ。

 マジで作っててよかった。手遅れだったらどうしようかと。

 

 探査結果では、やはりこの世界ではトレギアが光の国に帰還した後、再度行方不明になっている事が判明している。

 Dr,ヘロディアの計算では、9割以上の確率で俺が追い求めた故郷だ。もしこの世界が違ったとしても、この世界を見つけた以上は類似並行世界を探査していけば良い。

 

 皇帝の装束であるマントを外し、仮面を取る。

 顔だけはかつての俺を取り戻して、準備は万端だ。

 

「では、行ってくる……いや、帰るとしよう」

「いってらっしゃいませ陛下」

『サイズ差が著しい為、メカゴモラから失礼します。どうか、陛下の世界でありますように』

「ダメだったら残念会ここで開いてやるから安心しろゴロ」

「キシャー」

「ヌガーヌガー」

「モガーモガー」

 

 見送りにはオムニバーシアン達が集ってくれた。

 わざわざ丁寧な事だが、悪い気はしない。改めて、トレギアである俺が、グリムド以外でこういう仲間を持つというのは本当に意外でもある。

 タロウ成分不足でトチ狂ったのがきっかけだったが、お前たちを助けて部下にしたのは間違いじゃなかった。

 

「さぁグリムド! 探知システムが示した世界へ、俺の世界へ帰るぞ!!」

「(・ω・)ノ」

 

 トレラ・スラーを発動し、世界と世界を繋ぐゲートを作る。ゲートの先では混沌の道が、望む世界まで延びていく。

 

 俺は万感の想いをもって、この希望の道を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!? うん!? あれ、ここって……!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、僕のところに?」

 

 星雲荘*1の中央指令室。

 凄まじく長かった俺の話を飽きることなく、最後まで聴いた凄まじい精神力と善性の持ち主、朝倉リク君。

 彼の言葉に、俺──霧崎の姿を取っている──は頷いた。

 

「確かに元の世界だったが、宇宙が違ったわけだ。カプセルをビーコンにした都合、ここに来る可能性も0ではなかった。想定されている中でも次善の結果だったな」

「(・ω・)」

 

 結論から言おう。

 トレギアカプセルを起動したのはリク君だった。結果として俺はここにいる。

 

 今はこうして落ち着いた行動をとれているが、転移直後は割と荒れていた。

 寸前でお預け食らった気分なのだから当然である。またグリムドエネルギー撒き散らすような癇癪起こさなかっただけ褒めてもらいたい。

 

 リク君がトレギアカプセルを所持していた都合か、転移先が地球、しかも街中だった為、出現した時は大分焦った。

 すぐに人間態へ変身したが、当然AIB*2だのリク君のサポートAIやってるレム*3だのに即特定されている*4

 多分ベリアルにもバレたので、余計な事件引き起こす可能性に至ってしまった俺は、調査に出向いていたリク君とAIB構成員に即接触。AIB構成員には名刺と簡単な自己紹介資料で済ませ、リク君の住まいである星雲荘へ移動した。そして事の経緯を未来情報に抵触しないようにしつつ説明していたわけだ。

 

 こうなった以上はジードの物語にも介入せざるを得ないだろうと判断している。

 悪く言えば、ここまで来てまだ戻れない。良く言えば、元の世界には帰ってこれた。

 悪く捉えれば発狂したいほどだが、やはり前向きにとらえるべきだろう。

 

 ともかくリク君にはお礼が肝要だ。

 

「君がそのカプセルを起動してくれたおかげで、私はなんとかここまで戻ってこれたわけだ。本当にありがとう」

「いやいや! 僕はただいつものようにカプセルを手に入れただけなんで……」

 

 頭を下げる俺に、リク君は慌てた様に両手を振っている。

 タイガのいた宇宙でのリク君は()のせいで色々信用低かったからな、彼の善性に触れるのはなんか新鮮だ。

 

 リク君がトレギアカプセルを有していたのは意外でもある。

 俺はタロウの事だからあのカプセルはタロウが後生大事に持っていると信じていたのだが、クライシスインパクトの騒動か、あるいはストルム星人が盗み出したか、結果としてこのサイドスペースの地球に存在していたようだ。

 どっちが原因でも俺のタロウが凹んでいそうなのですぐにでもかけつけ抱きしめてやりたいところだが、今は耐えねばならない。

 

「この地球も、まだまだ不安があるようだ。しばらく滞在するから、協力できることがあれば言ってほしい」

「大丈夫ですよトレギアさん! 僕だけじゃなくてゼロもいます! ずっと帰りたかったなら、帰る事を優先しても良いじゃないですか」

 

 苦渋の決断で、しばらく地球に滞在することを伝えると、彼はやはり気にしないでほしいと帰還を推奨してくれた。優しい。

 だが、様々な観点から俺はそれを呑み込めない。

 

「リク君の言葉はありがたい。だが、君が私のカプセルを保有している事……私がこの宇宙に来た意味を思えば、すぐ帰還することはあまりに無思慮な行為だろう」

「意味、ですか」

「そうだ。物事には意味がある。それに、ウルトラマンはこういう時、無視するような存在じゃないだろう?」

 

 リク君からの話と、今彼が保有しているカプセルの数からキメラベロス戦後である事は確定。

 ウルトラマンゼロカプセルの代わりにトレギアカプセルでしたみたいな最悪の事態でなかったのは幸いだが、不安な要素は少なくない。運命の変動、バタフライエフェクト、潜在的脅威……あげればキリがない。

 杞憂であり、寧ろ俺がいる分イージーモードになるならばそれが一番良いが、それを知るのは少なくともアトロシアス戦後だろう。ぶっちゃけ変身させる気はないが、必死に阻止してもどうせアトロシアスにはなるんだ俺は詳しいんだ。

 

 なにより、俺はタロウにはなれないが、タロウの親友として恥じない俺でありたい。そばにいてくれる事が、苦しくない俺でありたい。

 ウーラーを救う決断に繋がったこの想いは、今も変わらず俺の信念として存在している。

 

 だからタロウ、もう少しだけ待っていてくれ。

 必ずお前の元に帰るから。なあに、この若きウルトラマンの成長を見届けたら、今度こそ帰るよ。

 

「というわけで、改めまして……ウルトラマントレギアだ。この姿では霧崎と呼んでくれ」

「(*・▽・)ノ」

 

 笑顔でリク君に握手を求める。鏡あったらすっげぇ胡散臭い顔が映るんだろうな。

 

「わかりました霧崎さん。僕は朝倉リクです、ウルトラマンジードやってます!」

 

 だが、そんな胡散臭い笑顔も気にせずにこやかに握手に応じてくれるリク君。

 ヒロユキ君といい、善性高い青年たちは本当に微笑ましく、羨ましい。

 彼等の為にも、できることを頑張らなくてはな!! とりあえず戦闘時の街の保護は任せてくれ!! 

 

 ……うん? どうしたグリムド? 

 

「(・ω・)」

「……ああそうだな。確かに、それは大切な事だった」

「?」

「すまないリク君、早速で悪いのだが」

 

 

 

「この辺で一番美味しい店って知っているだろうか」

「えっ」

 

 ウルトラマンならば、地球に来たならば、まずは美味しいものを食べねばな!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てが解決した後のこと。

 

 偉大なる2人の巨人と共に、蒼い巨人は地球を発った。

 

 道中、蒼い巨人の道程と現状について様々な問答こそあったが、雰囲気は終始和やかだった。

 

 最も、蒼い巨人は「パワハラにしか思えない」と疲労困憊を隠さぬ様子だったが。

 

 偉大なる巨人の片割れは「息子に吉報を2つも届けられる」と喜び、更に片割れは「あの混沌が共生の道を歩み出すとは」と感心していた。

 

 邪神は、偉大なる巨人の片割れにかつての“光”を見出し慄くも、その巨人は邪神と()()()()()()、「困った時は頼ると良い」と全てを見通すように優しく頷く。

 

 彼の言葉は、その場にいた3者の心に深い安堵を与え、彼は満足気に頷くと一足先に消えていった。彼の住む星は、光の国とは違う星である。

 

 2人の巨人はゆっくりと、しかし浮つくように速く宇宙を飛んでいく。

 

 やがて暖かな輝きで迎える母星が視界に入る。

 

 その輝きから、真っ先に飛び出した太陽が蒼い巨人を迎え入れた。

 

「……! おかえり、トレギア……!!」

 

「ああ、ああ! ただいまタロウ……!!」

 

 

トレギアだけど、元の宇宙に帰りたい ~完~

*1
(正式名称はテラー・ザ・ベリアル第9方面宇宙軍所属第8等級戦列艦ネオブリタニア号。ガチの宇宙軍艦だが、基本リク、ペガ、ライハの秘密基地兼住処となっている)

*2
(Aliens Investigation Bureau。外星人捜査局。クライシスインパクト後に結成された治安維持目的の宇宙人連合で、爆心地であり、ベリアルの爪痕が深い地球に大きな拠点を置いている。一応秘密組織。様々な宇宙人が所属しているが、地球人は1名しかいない。悪の宇宙人が宇宙平和の為に動いている様子は中々衝撃的)

*3
(AI命名はリク。当然ドンシャイン由来である。ちなみにボイスはウルトラの母に酷似しており、そのせいでベリアルに対する不敬な憶測が色々経った)

*4
(AIBもレムも探査能力がガチ。そもそも別宇宙から転移してきたウルトラの父にすら即座に気づく程である)




ウルトラの父「タロウ、パパも帰ってるんだけど」
タロウ「あ、おかえり父さん」
オレギア「大隊長、空気読んでくれませんか」

・オレギア、痛恨の見落とし
感想欄では察してる方いましたが、空気読んで黙っててくださり本当に感謝しています。
唯一戻れるキーアイテムがトレギアカプセルでした。タイガスパークと違って、トレギアカプセルは、オメガアーマゲドン期間にトレギアがいなければ存在しません。つまりオレギアみたいに闇堕ち回避したトレギアが必須になります。

・オムニバーシアン、存続。
これから先、彼らがギャラクシーレスキューフォースみたく活躍する機会もあるでしょう。うっかり間違えると大変な事になるのでオレギアの監督責任は大きい。
その後の彼らは、番外編でまた書けたらいいな。

・ジード編
初期プロットに存在してなかった話。
トレギアカプセルは本文中であったように、「タロウが大切に持っている」設定だったので、探知即タロウの前に帰還という感動エンドの予定でした。というか最初はそう書いてました。
タロウの前に転移したことで、タロウがトレギアカプセルを大切に持っていたことに感激したオレギアが歓喜して気持ち悪いことになってましたが。
わざわざそれを変更して、打ち切り要素みたいにジード編交えたのは、読者向けの行間妄想を作りたかったからです。読者様に結構ジード編とか望まれていた方もいましたので、楽しんでいただいたお礼も兼ねて可能性はちゃんと作っておこうかなと。
プロットは全然ありませんが仮に書くとすれば、多分ベリアル側が強化されてます。ダークネスファイブあたり生存してる。

・ウルトラマンキング、ヤバい。
“光”そのものではないだろうが、その一端である可能性を示唆。
プラズマスパーク建設に携わったウルトラ族長老なんだけど、明らかに他のウルトラ族と格が違う為、ただの超人化した存在ではないと思われる。
彼が、グリムド関連で困った時は力になる事を約束してくれた為、ウルトラの父もオレギアもグリムドも安堵した。キングの保証というワイルドカード。


これにてオレギアの物語も一応完結です、読んでいただきありがとうございました。
以下、作品について。

この作品のコンセプトは最終回(一度目)で書いた通りですが、今回も、書きたいことを書いていきました。
『せっかく作ったトレギアの強化形態を活かす』、『強い怪獣と戦う』、『ウルトラファイトやりたい』、『他の円谷作品ネタにしたい』、そして『ガタノゾーアでタイガ劇場版再構成したい』……。トリガーでラスボス被る可能性出た時は焦りました。
タイガ劇場版編は5話程度で終わるはずでしたが、これにオムニバーシアンや内原戸というすごく書きやすいネタができたことで、とても伸びました。よく初期プロットの構成ぶっ壊れなかったと思います。いや、内原戸の格落ち描写は初期より大分ひどくなりましたが。

今後は番外編を思いついたらちょくちょく書いたりしていくかなと思います。
帰還を書いたら後は蛇足です。蛇足大好きですけど。もし書くとすればその時は、かなり枷を外した話になると思いますので、お好みでお楽しみください。

改めまして、本作を楽しんでいただいた皆様に感謝申し上げます。ありがとう!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

オマケあるいは蛇足
蛇足オマケ:転生掲示板作成計画


ご無沙汰しております。
多忙だったりなんだったりですが、お盆なのもあってオマケネタを1本。

オレギアが言及していた『転生掲示板』についての話です。
性質上、掲示板形式です。ご注意ください。


1:暫定管理人 ID:110100sen

 

予定時刻になりました。

これより【オムニバース適用掲示板『仮称・転生掲示板』稼働テスト】を開始します。

 

 

2:匿名希望 ID:42lJ9C1Jq

!?

 

3:匿名希望 ID:Guts3+4sr

なんだ、急に俺の分裂思考が1体浸食された!?

 

4:暫定管理人 ID:110100sen

 

落ち着きなさい。ちゃんとこの時間に開始する通達はしましたよ。

 

この掲示板は異次元時空ネットワーク理論や超光速思念体通信システムを元に、私サロメ星人ヘロディアが構築・作成した、理論上あらゆる世界に繋がる精神感応交流システムです。

登録者はこのシステムに対し『書き込む』ように意思を伝えることができ、『読み込む』ように他者の意思を把握することが可能です。

これにより、複数の世界に点在していようとも交流・議論がより円滑になり、加えてシステム内では文章ログとして残る為、議事録にも使用できます。

各目的に沿った利用ができるよう、スレッド分け機能も搭載しているから完璧!

 

とりあえずオムニバーシアンは全員登録してるから書き込めます。

一応地球人の脳機能ぐらいあれば問題なく利用できるはずだけど、念の為思考補助機能も搭載しているわ。

目の前のことに集中しながら、読み込めるはずよ。

 

質問や報告はある?

 

5:匿名希望 ID:Guts3+4sr

そういやそんな話あったなぁ。分裂に回す精神意識が1体このシステムとやらに食われたとは報告しておこう。

あとこれ名前どうすればいいんだ?匿名希望のままだが

 

6:暫定管理人 ID:110100sen

精神や意識を独立レベルまで分割している、かつその数が一定数以上だと、システムに一部消費されてしまうのね。

システム定着に効率性を優先した弊害かしら……報告ありがとう。

まぁ必要な犠牲と思ってちょうだい。気になるようなら治療室で診察と治療受けてね。

 

名前だけど、書き込む前に、名乗りたい名前を意識しなさい。

そうすると反映されます。逆に、名乗りたくない場合は自動的に匿名希望で固定されるわ。

 

7:ガッツ星人 ID:Guts3+4sr

ほーん。じゃあ俺みたいなやつ以外なら大丈夫なのか

あと全く悪びれないのどうかと思うぞ?

 

8:ガッツ星人 ID:Guts3+4sr

あ、マジだ。適応されてる。自分の意思も文章を読んだ感覚で振り返れるのは面白いな

 

9:らっきょう四天王 ID:Mephist4G

なるほどなるほど。通常の電子機器のようにも使用できるようですね。

そしてこれが視覚画像の送信でしょうか。

【画像】

 

10:匿名希望 ID: bamboo/sh

いや使いこなすのはえーよ!?

うわ、画像見たらメフィラスの掌からホログラムでこの掲示板浮かんでやがる!

 

11:らっきょう四天王 ID:Mephist4G

やれやれ、メフィラス星人の頭脳をなんだと思っているのか。

自慢気に開示しないだけで我々とて高度な科学力は有しているのですよ?

人間の巨大化、重力反転操作、そして人間程度の知的生命体相手であれば世界規模の記憶操作など容易いことです。

 

12:匿名希望 ID: bamboo/sh

これで癇癪持ちでなければ完璧なんだろうがなぁ

 

13:らっきょう四天王 ID:Mephist4G

ヘロディア、ID: bamboo/shは誰ですか?

 

14:暫定管理人 ID:110100sen

ササヒラーですわ。

それと、早速使いこなしていただいてこのヘロディア嬉しく思います。

 

15:匿名希望 ID: bamboo/sh

ちょ!?匿名希望の意味ないじゃん!!

いや違うんすよメフィラス様、ほら、ウルトラマンと戦ったメフィラス星人もガキ1人にキレてたし

タロウと戦ったメフィラス星人とかもセコくて弱っちい奴だったじゃないですか

別に暗黒四天王であるメフィラス様本人を癇癪持ちだと言ったわけじゃあ……

 

16:混沌皇帝(固定) ID:Taro10Ve6

誰かタロウの話した?

 

17:笹平 ID: bamboo/sh

してない

 

18:ガッツ星人 ID:Guts3+4sr

陛下はおかえりください

 

19:らっきょう四天王 ID:Mephist4G

ああちょうどよかった。

皇帝陛下、お訊ねしたいのですが。

 

20:混沌皇帝(固定) ID:Taro10Ve6

なんだメフィラス?

俺はいきなり冷たい対応されてもう引っ込みたいんだが

 

あと名前俺だけ固定されてるのなんで!?

 

21:暫定管理人 ID:110100sen

陛下の事ですから、どうせウルトラ兄弟No.6関連のHN(ハンドルネーム)とか使用されるおつもりでしょう?

先手を打たせていただきました。どうせここでは基本トレギアであることはお隠しになるわけですから、

混沌皇帝の名を活用していただかなくてはと思いまして。

 

22:らっきょう四天王 ID:Mephist4G

勿論私の発案です。>陛下の名称固定

私がお訊ねしたいのは、まさにそのことでして。

この掲示板をオムニバーシアン専用とするわけではなく、我らの仲間でもない、見つけるのも面倒そうな【転生者】。

彼らにも用いる理由はなんなのでしょうか。

 

23:ゴロサンダー ID:Gor0Bari3

あ、本当だ

転生掲示板って名前なのなんでだ?

 

24:混沌皇帝(固定) ID:Taro10Ve6

Dr.ヘロディアには説明したからそのまま任せる気だったんだが……

あえて俺の口から語らせたいんだな?全く

 

まず転生者は存在する。

これは事例が複数あるから言うまでもない。そもそも怪獣墓場からの蘇生だって転生と解釈できるものだ。

俺が気にしているのは、例えば我々の宇宙の出来事を作品として知っている存在が、こっちに転生してきた時。

彼らが何をしようが、所謂正史には何一つ影響はなく、その宇宙、その世界での出来事に過ぎないが、

数多の並行世界を観測・干渉・介入するオムニバーシアンにとって彼らは独立したオムニバーシアンに等しい異物だ。

 

25:暫定管理人 ID:110100sen

私達が定義する正史だけど。

 

1.イレギュラーが発生しなかったとみられ、観測している限り最も多くの同一未来が存在する世界線

2.該当世界が別世界では創作扱いされており、世間一般に広まっている一次創作、その創作内容と合致している

3.他並行世界も基本的にはその世界線と同様の未来を辿っている

 

以上、3つの条件全てに適合するものとしているわ。

この正史の知識……正史アーカイブを前世から引き継いだ、あるいは転移して所有している知的生命体って存在そのものがイレギュラーでしょ?

で、私達オムニバーシアンも、正史アーカイブを知識として有しており、介入時はそのアドバンテージを遺憾なく発揮している……。

経緯が違うだけで、似てはいるのよ。

 

26:混沌皇帝(固定) ID:Taro10Ve6

補足ありがとうDr.ヘロディア。

で、ここからが単純な話なんだが。

俺はオムニバーシアンと僅かでも似通った存在である彼らを少し助けてやりたい。彼等は彼等なりの使命や、運命によってそうなったのだろう。

だが、えてしてそういった存在は強い孤独を覚えるものだ。他の誰にも共感されない、必然的に重い秘密として抱えて生きていくことになりがちだ。

現実感を得ないまま、遊び感覚で動いて強い後悔を覚えたりする不幸を味わう者も確実に出るだろうからな。

 

27:らっきょう四天王 ID:Mephist4G

ふむ……いつにも増して偽善的ですねぇ。いえ、陛下の決断に異を挟みはしませんが。

 

28:混沌皇帝(固定) ID:Taro10Ve6

捻くれて見ればオムニバーシアンの存在理由が偽善の塊みたいなものだろうが。善意には違いないからいいんだよ!

一応オムニバーシアン側から直接の支援はしないが、ここでアドバイスを提供したり、転生者同士の交流を観測する介入はOKだ。

まぁ条件に適応される転生者自体が見つかるかはわからんがな。

 

29:暫定管理人 ID:110100sen

私が全面協力致しました。

彼等の観測に成功すればより、観測可能世界が増えるし、新たな発想や研究結果が得られる期待が高まりますので。

なにより、面白そうではありませんか。正史アーカイブを有する転生者……混沌そのものでしょう?

組織理念として破滅は防止しますけど。

 

30:匿名希望 ID:H1PP0hell

あり得ないことはあり得ない……か。

世界の上位存在が様々な理由から色んな魂を記憶そのままに別世界に転生させたり、特殊能力を授けて動向を見守ったりする創作物がどこかで流行ってたのを思い出したよ。

気を付けないと、我々がその上位存在のようなものに堕ちてしまいそうだな。上位なのに堕ちるというのも変だが。

 

31:スチール ID:pandaA40s

『知識持ち転生者を生み出す』のではなく『知識持ち転生者を最低限サポートする』だから、本質間違えなければ心配いらないだろう

>どこかで流行ってた

あとこれ地球だろ、地球人は多くの宇宙で今だ太陽系外での繁栄ができていないからな

創作物が発展する理由には、まだ見ぬ未来への想像力だけでなく、社会や現技術の及ばない部分を実感する閉塞感もある

ま、我々の世界そのものをインスピレーションとして受け取ってしまうほど高い想像力も、彼等が銀河の外にすら飛び出す頃にはきっと無くなっているさ

 

32:匿名希望 ID:1iveEF6g0

なんだ褒めてるのか貶してるのかわからん言い方をする

 

33:スチール ID:pandaA40s

どちらかといえば自虐だよ。俺達の星は盗むことで発展してきた種族だからな

地球の文化や動物も何度か手を出したことがある

 

34:混沌皇帝(固定) ID:Taro10Ve6

というかお前はそれが原因で死んでオムニバーシアンになってるんだけどな

 

35:スチール ID:pandaA40s

パンダのグッズとか本物とか盗もうとしただけだもん!!なんでエースが出張ってくるんですか!!

なんであんな冷たい目で睨んでくるの!!あんなボコボコにしてくるの!*1やだ、メタリウム光線は嫌だ、やだやだしにたくない!!

 

36:ガッツ星人 ID:Guts3+4sr

あー、発狂しちゃった

だめですよ陛下、死亡記憶刺激したら

俺達こうして陛下に命救われてますが、一応死亡の瞬間までの記憶あるんですから

人によってはこいつみたいにトラウマになってんですよ

 

37:混沌皇帝(固定) ID:Taro10Ve6

すまん、軽率だった

スチールはカウンセリングいこうな

 

38:らっきょう四天王 ID:Mephist4G

ふむ、たやすく話がそれてしまいますね。利用する時は、目的と制限を明記する措置も必要でしょうか。

ともあれ意図は理解しました。ヘロディアが協力している以上は他にも目的があるかもしれませんが、追及するほどの事でもなさそうですね。

 

39:混沌皇帝(固定) ID:Taro10Ve6

ともあれしばらく自由に使ってみてくれ

発端や本命こそ、転生者を意識しているが、現実的な運用としてはオムニバーシアン同士の交流、連携、相談、議事録用だ

 

40:ゴロサンダー ID:Gor0Bari3

どうでもいいけど句読点があったりなかったりしてるのがちょっと面倒臭いな

どういう理屈でなってるんだこれは

 

41:暫定管理人 ID:110100sen

回答します。本人の認識次第です。

文章意識が強いか、会話意識が強いかによるわ。

陛下がバラバラなのも、説明意識が強いか否かで変わっているようです。

 

42:ガッツ星人 ID:Guts3+4sr

転生者は発見次第登録する感じなわけ?

 

43:暫定管理人 ID:110100sen

最初の何人かは見つける必要がありますね。

必要十分のデータが揃えば、認証システムを利用して自動登録していくことになるでしょう。

その時はオムニバーシアン専用、転生者専用、共用の3掲示板にわけていくつもりです。

 

では、そろそろ稼働テストも終了しましょうか。

っと、陛下の名前から固定表記を外さないと……よし!

 

改めまして、稼働テストを終了いたします。ご協力ありがとうございました。

次回は書き込み限界や負荷、翻訳確認などのテストを行います。実施日はまた告知しますね。

 

44:ガッツ星人 ID:Guts3+4sr

おつかれさま~

本稼働待ってるぞー

 

45:混沌皇帝 ID:Taro10Ve6

今のところ問題がないようで一安心だな

Dr.ヘロディアもご苦労だった

 

46:らっきょう四天王 ID:Mephist4G

こういうのは1000レスまで続いて1000をゲットするのがマナーだと書籍にあったと思いますが……まぁいいでしょう。

1つのスレッドの書き込み限界などのテストはまた後日ですかね。

 

47:笹平 ID: bamboo/sh

こっちにそんな書き込みしながら俺の端末に呼び出しかけてるのマジで怖いんだけど

 

48:らっきょう四天王 ID:Mephist4G

配慮してあげたのですが、自ら露見させるならば構いませんか。

5秒あげます。はやく来なさい

 

49:笹平 ID: bamboo/sh

ちょ!?

 

50:(*'▽') ID:*********

 

 

 

 

 

 

「ふむ、悪くない結果だったな」

「(・ω・)ノ」

 

 外から脳内へ繋がっていた糸がふつりと解けるような感覚と共に、掲示板が意識の片隅から消えていく。

 中々の完成度だ。正式サービス開始時にはDr.ヘロディアに何か褒美を与えねば……ってなんだかんだ上位役職意識芽生えてるなぁ俺。

 

「俺以外の転生者がいるかどうかはわからないが、もしいたならばこれで少しは助けになるだろうか」

 

 表向きの説明しかしなかったが、結局のところこの掲示板を作ったのは俺が一応前世の記憶持ちだからだ。

 この記憶のおかげでタロウの元へ帰れたのだから、同じ境遇にある存在を少し気にかけてもいいだろうと思っている。

 あと俺の観測した限りで『転生掲示板』って結局なかったからな。ないなら作れ、という奴である。

 

 これをきっかけに、オムニバーシアン達も新たな刺激を受けてくれたら面白い。

 

 俺はそのように呑気かつ前向きに考えていたのだが。

 

 正式サービス開始してしばらく後。

 何が何でも論破したがる奴やら、茶々いれないと気が済まない奴やら、とりあえず否定から入りたがる奴やら、迷惑行為に繋がる事例が多発した。元々侵略者塗れのオムニバーシアン達である。人格に問題ある奴らが大半なので当然の結末だが、散々馬鹿にしてた地球人達とまるで変わらない真似してるのはどうなんだ。

 結局、Dr.ヘロディアが怒りのBAN攻撃を乱発することになり、転生掲示板はルール再定義が終わるまで閉じる羽目になるのだった。

 

 ……すまん、転生者たち。いるならばもうちょっと待ってくれ。

 

*1
(当然窃盗行為だけならエースも処刑するほど怒ったりしない。逆ギレして巨大化し、街中で大暴れして大きな被害を出している。北斗には直接火炎放射して周囲一帯ごと焼き払おうとすらした。そりゃあ怒りの蹴りから始まって、腹パン、顔面膝蹴り、水平チョップ、股間膝蹴り、背負い投げと猛連撃する。)




オマケコンセプト
オレギアが言及していた「転生掲示板とかないのか」という疑問の答え。
A.そんなものはなかった。欲しいなら作れ。

掲示板ネタは今回限りなのでタグ付けの予定はありませんが、1話限りでも必須の場合はご指摘いただければ幸いです。

・掲示板作成
エイプリルフール企画でかつてあったM78ちゃんねるが好きだったのもあり、よくある転生掲示板ネタやりたかった。
ただ本作は別に転生者(前世地球人)複数登場するわけでもなければ、それを実装する予定も理由もない。
なら、いっそ本作における転生掲示板の成り立ちぐらいは書けるのでは?と思ってやってみました。掲示板形式の作品読む限り、成り立ちから用意してるのはほとんどないかあっさり流してるように思えたのでネタ被りしてないだろう!という狙いもあったり。

つまりオレギア時空に存在する転生掲示板はウルトラな科学力とサロメの科学力を用いて作られた『超光速思念体通信システム並行宇宙適用バージョン』。
異次元ネットワーク構築時に認証用も兼ねてグリムドの力はちょっと使っているが、基本的に科学の範疇である。

しかし掲示板ネタって、どこのネット掲示板に住み着いてたかあるいは見てたかで文章癖が表れやすいのもあってか、癖の被りが怖いですね。今回のネタ、どっかと被ってなければいいですが……。


・他に転生者達いるの?
上記の通り実装する予定も理由もないのでいません。正確にはマルチバースやオレギアという存在の性質上、存在する可能性はありますが、描かれないならいないも同じです。強いて言えば怪獣娘たちは全員(作品中における)転生者ですね。神様転生ならぬウルトラマンによる転生ですけど。

・ササヒラー
帰ってきたウルトラマン第48話『地球頂きます!』に登場。白いタケノコみたいな姿をした宇宙人。
生命体には一切の例外なく、やる気を奪っていく「ヤメタランス」を地球に送り込んだ悪党。
ヤメタランス本人は非常に迷惑していたし、自分が意に反してどんどん巨大になっていく為、自分のせいで地球が壊れる事に怯えていた。
当然、ウルトラマンジャックがササヒラーを許すことはなく、やる気復活したMATとの連携により抹殺している。

・スチール星人
ウルトラマンA第40話『パンダを返して!』に登場。パンダ盗みにはるばる地球へやってきた窃盗宇宙人。戦隊ヒーローみたいな黄色スーツにメカメカしい頭部、異常に長い人差し指と中々特徴的な外見をしている。
最近泥棒というか収集癖持ちの宇宙人はバロッサ星人にお株を奪われた感じだが、ちょくちょく再登場している。
一応エースにボコられた後、カラータイマー鳴るまで猛反撃はしている。それでもっとエースを怒らせてハンドビームからのメタリウム光線で全身炎上して粉微塵に吹き飛んでいるのだが。

・糸がふつりと途切れるような感覚
元ネタ:オーバーロードの〈伝言〉
実際どんな感じなんでしょうね。転生掲示板のオンオフ。

・転生掲示板制作理由
オレギアの感傷に近い。
ほとんど原作知識やオレギアをオレギアとして成り立たせるためのフレーバー程度にしか機能していませんでしたが、前世は地球人だった自覚はある以上、他に同類がいるといいなぁというちょっとした孤独感はある。ただ存在している確信こそあるが、ウルトラマンである自覚が強い為(本文中にある通り、前世記憶はアーカイブ化していたり、地球に来ても観光感覚になっている)、根っこ部分で話が合うことはないだろうと積極的に関わる気はない。それでも、と思い立ったのがきっかけ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

その後のオムニバーシアンとトレギア

ご無沙汰しております(約1年ぶり)。
ウルトラマンブレーザー放送記念に、執筆中のまま死蔵していた蛇足ネタを投稿。


 あらゆる世界を観測する世界『オムニバース』。

 元は上位者が消滅し無の世界として存在していたそれを、ウルトラマントレギアが改造した惑星規模の空間世界だ。

 

 

 そこに生きる者たちの種族はバラバラだが、その多くは共通点がある。

 トレギア(正確にはグリムド)の力により、死の運命より脱し、正史からも外れた並行同位体であるということだ。

 

 

 今の彼等は世界を観測、観光、介入する組織にして民『オムニバーシアン』でもある。

 

 

 介入は滅びより世界を救う時のみという崇高な理念を抱えた彼等は日夜、あらゆる世界を観測し続けている。

 それはさながら世界を俯瞰して眺める神のごとき行いであり、それに相応しき精神性を……

 

 

 

 

「この馬鹿!! 地球観光しに行って現地の流行病に引っ掛かって死にかけるとかなにやってんだ!!」

「すまん、地球人がかかる病気でも俺なら別に問題ないと思って……」

「かかる時はかかるに決まってるだろ! 対策すらしてなかったら当然だわ!」

「こないだ観測してた別宇宙の侵略宇宙人、侵略は途中まで上手くいってたのに衛生管理しなかったせいで疫病で絶滅してたなー」

「なにそれこわい」

 

 

 

「らっきょうの品種改良は順調ですね……次はマンダリン草の因子と合成するのも検討してみましょう」

「品種改良は結構ですけど、そういうのなるべく研究室か元の土地でやってくれませんかね? この土地元々薬草用に開拓したんですけど」

「らっきょうも薬草みたいなものなので通してください。より薬草らしくする為にやはりマンダリン草の因子合成は急務ですね」

「そこまでして増やしたいもんか!?」

 

 

 

「エメラル鉱石のエネルギー効率最高じゃない!! あのベリアルが星ごと採掘するわけだわ!! これを用いて、にせウルトラ兄弟を強化した暁には全宇宙はサロメのもの!! ……あばばばばば!!?」

「ヘロディアさん、オムニバーシアンは世界征服の野望口に出したら自動で罰(ゴロサンダー製電撃お仕置き)くだるの知ってるのに何度やらかすんですか。つうか貴女が自分で進言して承認された枷でしょう?」

「つ、つい口癖で……痛い……」

「この人いつかうっかりで死にそうだな」

 

 

 

「ザラブ星人が怪獣リング状態で帰ってきたぞ!」

「戦死したのか? どこの星だっけ」

「U40にあるオペルニクス星観光してたはずだけど」

「あそこ平和な星じゃなかったか?」

「ちょっと待て、今調査記録を引き出す……撤退時たまたま近づいてた隕石が直撃したらしい。事故死だな」

「……け、結果的に星を守ったということで」

 

 

 

「観光先を地球にするオムニバーシアン多くね?」

「まぁ、侵略しようと考えたやつのが多いし。俺も地球侵略の為に100年ぐらい潜伏したからな」

「へぇ、じゃあ今度オススメの場所あるなら教えてくれよ。どこ潜伏してたの?」

「日本国北海道石狩地方」

「どういうところだ?」

「それがずっと川に潜って生活してたからよくわからないんだ。気づいたら色々変わってたぐらいだし。たまに俺を目撃した奴は片っ端から殺してたから交流もできてない」

「ダメじゃねぇか……」

 

 

 

 ……別に獲得してはいなかった。

 

 そもそもオムニバーシアンの組織理念は建前であり、本質はトレギアが元の宇宙へ帰る為の手段として構築されている。オマケにトップであるトレギアが元の宇宙へ帰還する最大目標を達成したことで、その存在意義は建前以外消滅している。

 トレギアのいる宇宙が危機にあるならば話は別だが、今のところ平和そのもの(現地勢力で対処可能)であった。

 そのトレギアも世界時間で月に2~3度程しか顔を出さず、基本は元の宇宙で過ごしており、今日もタロウの前で感情を爆発させている。

 

 

 結果、彼等は必要最低限の責務をこなしつつ、後は趣味に邁進するもので溢れかえった。要するに割とだらけた雰囲気(オフの空気)に支配されていた。

 

 

 本質を忘れて侵略行為に走る愚か者がでないだけ、引き締め自体はしていると言えるだろう。

 トレギアが並行同位体として招いた存在の大半が侵略宇宙人であり、文字通り更生したとはいえ悪党としての本質が完全に消えているわけではない。

 オムニバーシアンの事実上No.2であるメフィラスですらメビウスに対する復讐心を捨てていないので、趣味に傾いているのはそれはそれで平和の証とも言えた。

 

 

 

 

 

 

─『オムニバース』グリムドバシレイオン・玉座─

 

 

「久々に戻ったら、お前ら自重忘れすぎじゃないか?」

「返す言葉もありません」

 

 報告内容を読み終えた俺は、無意識に眉間を揉み込む仕草をとる。

 今月だけで、自動お仕置きシステム発動回数10回(内9回がDr.ヘロディア)、死亡報告10例である。

 軽度の違反行為など200例を超えているんだが、緩み過ぎにもほどがある。グリムドによる探査で数字改ざんされていないことも確認済みだ。

 

「一応、世界維持の為にある組織なんだがな……」

「無論、責務を軽視していることはありません。ただ、第二の人生を楽しむことを優先してしまっているといいますか」

 

 なるほどらっきょう事業を拡大させまくっている奴が言うと説得力が違うな。

 世界征服の野望やら侵略意識を再発してない分が娯楽や趣味に傾いているなら、咎めるほどでもないかもしれない。

 

 ただ、オムニバーシアンの性質上、あんまり緩み過ぎてると後が怖いんだよな。

 ウルトラマンノアやらキングやらにアウト認定貰ってしまえば崩壊の未来しかないんだぞ。

 幸いにしてキングは、「君が始め、君が成した存在達だ。責任を果たし続けなさい」と有難くも厳しい言葉をいただいて見逃してもらっている。

 

 アブソリューティアンとの対決は必然であるわけだし、戦力という意味でも腑抜けになるのは大変よろしくない。

 

「エンペラ星人が厳しい引き締めしてたのも頷ける。多種多様な宇宙人や怪獣は絶対的引き締めが必要ということか」

「……」

 

 俺の言葉に、メフィラスが汗を一筋垂らしている。

 方針切り替えは望ましくないのだろうな。明晰な頭脳からすぐに反論してこないのは、俺から委任されていたから責任は感じているからだろう。

 

 ただ、口にこそ出したが過剰な引き締めは本意ではない。というか俺がやりすぎるとグリムドがやりすぎてしまう予感しかしない。

 普段俺の意思に沿った行動しか取らないからこそ普通なのであって、何か頼み事したら基本邪神の尺度で結果を出してくるからな。

 武装などの召喚依頼したら禍々しいものしか出さないし、処刑したクール星人は悲惨極まる末路だったし。

 

 Dr.ヘロディアの用意した自動処罰機構だけでも割と過剰に思ってるぐらいだしなぁ。どうしたものか。

 

 いっそ、俺のタロウにオムニバーシアンの2代目皇帝とか就任してくれないだろうか。太陽のカリスマ性は語るまでもない。教官としても優秀だし、組織の引き締めは慣れたものだろう。

 ふむ……思い付きだが、良い選択な気がしてきたぞ? 俺とタロウの国……悪くないじゃないか。

 

「陛下」

「ん?」

「顔がキm……いえ、私に汚名返上の機会を与えてくれませんか」

 

 妄想を捗らせていると、メフィラスが考えをまとめたようで声をかけてきた。

 なんか気持ち悪いとか言いかけてなかったかこいつ。

 

「元々オムニバーシアンという組織の骨子を組み上げ、彼等の引き締めや教育を行ったのはお前だ。やる気があるならいいぞ」

「ありがとうございます」

「それよりさっき俺の事気持ち悪いとか言いかけなかった?」

「いいえ、ウルトラマンタロウで邪な妄想に耽っているとしか思えない醜悪な表情に嫌悪感を覚えただけです」

「おい」

 

 ふざけんなよ! 

 俺は親友に邪な感情など抱いたことはないぞ!! 

 

「(;´・ω・)」

「なんだグリムド! タロウグッズは親友としての愛の表れだし、タロウとの一時でテンションあがってしまうのは普通だろうが!」

 

 グリムドからもなんか引かれている反応貰ったんだが心外だ! 

 太陽の傍にありたいだけだ!! タロウは太陽なのだから、太陽光を浴びるようにタロウ成分を補給することも何もおかしくない!! 

 

「そういうところですよ陛下」

「(;´-ω-)」

 

 オムニバーシアン達の問題を話す場なのに、なんで俺が責められるような空気になってるんだ!? 

 意味わからないんだが、タロウ助けて!! 

 

 

 

 色々疲れるやり取りこそあったものの、業務改善命令を混沌皇帝の名で発令。メフィラスはオムニバーシアン達の再教育を3か月かけて行い、発足当初を思わせる引き締めに成功した。やっぱりあいつ優秀なんだよな。

 皇帝不在期間が長い以上は、絶対定期的に緩むという結論も得た為(グリムドの監視網はトレギアへの反逆意識には強く反応するが、単純な気の緩みや野心は些事扱いで機能しないことが発覚)、定期的に組織理念強化期間を設ける事も決定。オンオフをよりしっかり分けて生きることができるように、精神指導が行われていくことが決定された。

 組織が腐ることを防いだことで俺も笑顔を隠せないが、油断すればすぐに腐るようなこの組織を率いるのは困った事に俺だ。より盤石、より強固にする必要がある以上、避けられない事も起きた。

 

 

 

 ─光の国─

 

 

 平和の体現者、宇宙の番人を名乗るには戦い以外にも相応の苦労がある。俺は今それを痛感している。

 眼前には複数の画面が浮かび上がり、そこに表示されている膨大な資料が存在感を訴え続けている。研究資料ではない、研修資料だ。俺はそれらから目を逸らしてため息をついた。

 隣には、教官としての仕事を終えて様子を見に来てくれた愛しい親友がいるのであまり無様な姿はみせたくないのだが。

 弱音を吐くのも大事と学んでいるので、俺は素直にタロウへ愚痴る。

 

「なぁタロウ」

「なんだトレギア」

「俺、研究者なのになんで上位管理職研修とか王族作法研修とか受けてるんだろう」

「しょうがないだろう。お前は宇宙科学技術局の一研究員なのは事実だが、『グリムドの管理責任者』でもあり、『オムニバースの統治者』でもある」

「ぐぬぬ」

 

 オムニバーシアンという組織の強固化。

 つまりトップである俺も、皇帝の役職を真面目に取り組む必要が生じてしまった。自業自得と言われれば返す言葉もない。

 

 

 元の宇宙に帰還した後、俺の処遇については色々あった。

 俺は他のトレギア達と違って元の宇宙では何一つヤバい悪事はしていない。

 ただ、体内に原初の邪神であるグリムドを宿している事と、別世界1つを支配する皇帝になっていることは問題になった。

 

 『ウルトラ族としてどうなの?』という至極当然な問題である。

 

 ただ、元が善性の塊みたいな種族なので、俺の事は完全に被害者扱い(事実だけど)。

 俺の意思として、グリムドや彼等のおかげで元の宇宙へ帰還できたことを説明し、今後とも共に在る道を選びたい意思を語ると「尊重しよう!」とあっさり承認された。

 面倒臭そうな政府側王族関係側の反応も、だいたい「キングが認めるなら」であっさり素通りしているのだから、権威というのは恐ろしいものである。

 細かい部分はウルトラの父が全部詰めてくれた為、今の俺は特殊役職『邪神封印神官』『オムニバーシアン統治者(皇帝という表現は問題があった)』を授けられ、三重兼任している状態になっている。

 

 結果、この2つの研修をウルトラの父より命じられ、多忙な中でなんとか学んでいっているわけだ。

 でも正直マジでガラではない。タロウがいなけりゃ、基本孤独な活動に終始している性格性質だからしょうがない。

 

「いやわかっているんだ。俺の責務だというのは。グリムドの再封印ではなく、俺の個人管理を許可してくれたり、正式に外部協力組織としてオムニバーシアンを登録してくれたウルトラの父には感謝している。ただ、あまりにも俺らしくない責務でな……」

「何を言う、私はお前が立派になっていることが嬉しくてたまらないぞ。元々トレギアが一研究員で終わるなんてこれっぽちも思ってなかったんだ。別世界の皇帝になっているとは流石に思わなかったけどな」

「タロウ……わかった、頑張るさ」

 

 太陽にそう言われたならしょうがないなぁ!! がんばるか!! 

 

 一転上機嫌になった俺は、再度大量の表示画面との戦闘を再開する。

 映像資料も出てるせいで中々大変だが、心の余裕がある今の俺には大したことではない!! 

 

「そういえばトレギア」

「なんだタロウ」

 

 集中している時だろうがタロウの言葉は聞き逃さない。

 画面から目を外さないまま、俺は返事をする。

 

「君も地球の魅力を知ったのだろう?」

「ああ、何事も実体験は大切だと学んだよ。君の話を聞いた時は、そこまで関心を持てなかったからね。全く浅はかだったよ」

「しょうがないさ。あの時の私は、大分興奮して語っていたのもあって、要領を掴みにくかったのもあるだろうし」

「はは、確かに」

 

 久々の再会時に、心身共に成長していたタロウの姿を思い出す。地球人との絆を、それはもう熱く語っていた事が懐かしい。

 そして思いっきり映像資料の一部をすっぽかした。回想癖はこれだからと巻き戻す。

 

「それでだが、良ければ地球にちょっとした旅行と行かないか。久々に冒険というのはお互い立場があって難しいが、息抜きの旅行ぐらいは許されるだろう」

「  」

 

 画面が伝達してくる全情報が脳を素通りしていった。

 

「トレギア?」

 

 錆びついた機械のようにぎごちなく振り返れば、様子のおかしな俺に怪訝に首を傾げるタロウの姿。

 長い空白が過ぎ去り俺の認識に色が付いた時、俺は宙に浮かぶ全資料をシャットダウンしてタロウの肩を掴んだ。

 

「いいな!! 是非行こうじゃないか!! 私も、俺も君と一緒に回りたい場所がたくさんあったんだ!! まずはどこが良いだろうか、やはり日本、それも1970~2020年あたりの時間軸の地球がある宇宙が好ましいな! この際だからサイドスペースの地球がいいかもしれない。リク君にもまた会いたいし、君もベリアルの息子である彼を直接知るのは悪くないはずだ! よしそうしよう! となると最初に足を運ぶべき地域は関東地区かな! 君は地球に長くいただろうが俺だって、そこそこ地球を歩いてきたから、お互いの認識を照らし合いながら観光していくのは絶対に楽しい! 地球時間で最低でも1ヵ月は欲しいが、サイドスペースの時間経過差を考えれば1週間が限度だろうか。旅行プランはかなり厳選せねばなるまい。事は急を要する今から休暇申請出しに行こう!!」

「トレギア」

「なんだ!?」

「落ち着け。君らしくもない」

「あ、ごめん……」

 

 いかん、暴走してた。なにやってんだ俺。

 やらかした……羞恥で顔を覆う。

 そんな俺の肩を笑いながら叩くタロウ。

 

「楽しみということは十分伝わったさ、じゃあお互い都合のいい日を合わせておこうか。スケジュールの確認は大事だ」

「……そうだな」

 

 その後、ネガティブな状態がしばらく続いた俺だったが旅行計画が完成するころには、調子を取り戻し、数日後にはウキウキで出発することになった。

 この時の俺は『ジード劇場版』のことなど完璧に頭から抜け落ちており、案の定巻き込まれたあげく、メフィラスからは「此方が引き締めで頑張っているときに旅行ですか」と怒られ、大分散々な旅行となったのだがそれは別の話である。

 

 




蛇足だからと好き放題書いた回。

軽率につい伏線ばらまくようにジード劇場版編へ繋げていますが、ジード編結局書ききれないまま1年経ったのに(プロット途中で構想上手くいかず)劇場版編なんか先に書いたらガバしか起きないので特に始まる予定はありません。

戦力過多でタロウが無双する予感しかしない。

・オムニバーシアン、腑抜ける。
トップとナンバー2が割と好き放題やってる組織なんで、必然でもある。

ちなみにザラブは真面目に身を挺して守ったうえでの殉職が正解だったりする。事故死扱いで処理、蘇生後も特に誇って語ることもなかった。

端役だったのに、だいぶキャラ変わった気がする。

・エメラル鉱石
ベリアル銀河帝国が暴れていた宇宙での、主要エネルギー鉱物。

純度が高いものを使用すれば、ダークロプスが大量生産できたり、星1つ握りこむ巨大要塞を運用したり、ベリアルがアークベリアルに進化したりできる。

・光の国、柔軟な対応。
『ウルトラマントレギア』を良く知るものからすれば、だだ甘な対応ですが、元の宇宙では純然たる被害者なのと、キングが認めている点でこうなっている。
認められなかったら、『断罪者(ウルトラセイント)』によって処罰されてたかもしれない。ウルトラマンデュアルによると、なんか一応いるそうです、道を外れたウルトラ族処罰する聖者であり、問答無用で命を奪う能力を有するそうですが、私この作品読んでないので詳細は不明。まぁベリアルにすら能力使ってないので、処罰基準は単純ではなさそうです。罰する余裕なかった可能性?せやな……

・タロウ、友人と地球談義したくて旅行へ誘う。
タロウの性格から考えるに、奥さんや幼い息子連れて家族旅行ぐらいしていそうなものだが、公式が特にその辺言及していない。

とりあえず本作では軽い気持ちで親友を誘っている。トレギア視点では劇薬レベルの提案で案の定暴走した。そういうとこやぞ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

外伝:ザラブの日誌1

蛇足オマケと書けば何書いても許されるだろうシリーズ第3弾

端役のつもりが結構目立っていたザラブ星人(オムニバーシアン)の話
7月10日(ウルトラマンの日)に投稿するような内容かというツッコミは禁止です



 

 

『Access by unknown user is confirmed. System startup』

 

PERSONAL INFORMATION PROTECTION SYSTEM AND AUTOMATIC TRANSLATION SYSTEM BY SALOME

 

CHECK……

 

 

 

 

IDENTIFIED YOU.

 

ACCESS GRANTED.

 

Welcome,Earthling.

 

 

ザラブの日誌

 

 

13月0日(出身宇宙に基づくと第8銀河統一歴■■■.■■■■■) オムニバース住居エリアの天候:晴れ

 

 私、ザラブ星人は本日より日誌を付ける事とする。

 理由としては備忘録もあるが、私が生きた証としてのアーカイブを目的としたものだ。

 工作員時代ではこのような日誌など無駄な証拠要因にしかならなかった為、新鮮な気分で文章を走らせている。

 

 上記の通り、他者に読まれる可能性を考えておかねばならないので、情報保護プログラムをかけておく。これはサロメ星人ヘロディアの開発した資料情報漏洩防止技術であり、読んでいる対象によって読める情報に制限が自動でかけられるというものだ。

 新たなる同胞オムニバーシアンには一切の規制は入らないだろうが、部外者であれば一部情報が判読不可になっていることだろう。残念だが許容してくれたまえ。

 なお、私が指定した非開示情報にも適用される。試しに私の出身宇宙基準での日付を非開示としてみたので参考にしてほしい。

 

 改めて、私はザラブ星人だ。

 工作員時の識別番号はX-4:AFO。個体名は有していない。

 ザラブ星人を知らない者も多くいる事だろう。第8銀河系ザラブ星に住まう知的生命体種族が我々ザラブ星人だ。他の星を滅ぼし、支配し、売買することを生業としている。自画自賛するようだが、ザラブは極めて優秀な科学力や固有能力を有しており、工作員1人で1つの星を滅ぼすことなど容易い。事実私も多くの星を滅ぼしてきた。

 

 安心してほしい。ザラブは無敵でも不死身でもない。そして、優秀ゆえに基本単独で活動している。失敗した情報は工作員の生死を問わず母星へ自動的に渡り、同惑星への工作は凍結処分となるのだ。

 簡単だろう? 君の種族が賢く、それでいて武力を過ちなく振るうことができるならば、ザラブ工作員1人を片付けてしまえば星を守ることができるのだから。

 それともし、君がザラブにあった事がないならば、この挨拶を聞いた時は注意すると良い。

 

 “ザラブとは母星語で兄弟という意味”

 

 これは我々ザラブの間で通用する秀逸なジョークである。

 この言葉に嘘はなく、『ザラブ』とは我々にとって同胞そのものを意味する大きなキーワードだ。だが同時に、ザラブ以外はただの駆逐対象であり利用対象であるという側面を持つ。つまりこれを態々工作対象に用いる事は「兄弟ではないお前たちを今から滅ぼす」という挨拶になる。愚かな対象は鵜呑みにし、新たな兄弟として迎え入れられると勝手に勘違いして破滅への一歩を踏み出すのだ。うむ、やはり実に皮肉が効いていて素晴らしいジョークだ。最初に用いたザラブ工作員には尊敬に値する。

 

 すっかり流行したこともあり、ザラブ工作員の間では、『滅ぼす予定の現地生命体に対して友好的宇宙人として装う際、いかに的確かつ有効的にこのジョークを扱えるかが評価の分かれ目』といった副次効果まで現れた。

 当然、青二才ほどこれに囚われ、無益な時間消費に繋がったり、逆に疑念を持たれたり、本質を見失う要因となっていく。別に使わずとも、結果を出せばザラブの誉であることに気付いたものが1歩先のステージに立てるわけだ。

 

 さて、そんな裏事情がある故に、この挨拶は宣戦布告を意味するのだが、それを知らない新たな同胞達がこの挨拶をせがんでくるので困っている。

 今日もヒッポリト星人がアルコール成分が豊富に含まれた消毒液と思わしき液体を経口摂取しながら接触してきてせがまれた。同胞相手には使わないと言っても聞きやしない。何が「自分は宇宙で一番強い生き物」だ。後ろでゴロサンダーが喜色を浮かべてこっち見てきた時は生きた心地がしなかったぞ。

 すぐに透明化して逃走した後、文字通り雷が落ちていたので、私の状況判断能力は正しかった。

 

 

 話が逸れたな。まぁ日誌なのだからいいだろう。清書するべきかと悩んでいる事も明記しておくが。

 報告書のように形式が存在故の不自由さを実感するな。

 

 さて、もう少し自分について記しておこう。

 私はベムスターを用いて多くの星々を破壊してきた一流工作員だったが、ある日とある宇宙のとある地球を選んでしまったのが運の尽き。現地防衛隊によって殉職してしまった。正直醜態と呼ぶにふさわしい末路であった為、あまり他のザラブには知られたくない。

 だが私は偉大なる皇帝カオスデスポテース様により二度目の人生を与えられた。ザラブ工作員としてではなく、あらゆる宇宙を観測観光介入する新種族にして新組織『オムニバーシアン』として生きていく自由を幸運にも許されたのだ。

 しかも怪獣リング化を施していただいたため、余程のことがない限り完全なる死には至らない。たまに工作員時代よりもひどい任務がくだることもあるが、生き甲斐というならば、破壊工作に勝るとも劣らない充実した余生だ。

 

 よって今の同胞とは、ザラブのことではなく、オムニバーシアンである。

 どうせ殉職扱いだから戻るに戻れないのだがな。

 

 自分の事を記すだけで、随分と長くなってしまった。日誌とは3行ほどで済ませられるものだと思っていたのだが、浅はかだったな。

 今日の本題である、ヒッポリト星人の末路は記したし、よしとしよう。

 

 

 

 

‰月⁑日 オムニバース住居エリアの天候:晴れ

 

 日誌を書き始めて少し経ったが、おかげで学ぶことがあった。

 3行で済ませられるとは、特筆すべき事柄がない日のことだったらしい。

 おかげでしばらく淡々とした記録になってしまった。今にして思えば、数日前にメフィラスがササヒラーを土中へ生き埋めにしていたことは記すに値する事柄だったと反省している。

 

 本日は、オムニバーシアンとしての任務で出動した。

 ウルトラマンベリアルが自力復活して光の国を木っ端みじんにしてしまうというとんでもない世界線であり、その後の調査記録が不明瞭かつ不穏なのもあって、自力復活を阻止させる介入工作だ。

 

 結論から言えば、半分成功した。

 ベリアルの自力復活理由がまさかの【■■■■■】であった為、だいぶ議論が白熱したものだ。皇帝陛下など「え!? あの人■■とかあったの!?」と動揺されていたほどだ。結局、様々な手段を持って■■を先延ばしにすることはできたので自力復活は阻止したのだが、この世界線そのものが中々危険と言えた。

 地球人はザラブもビックリな侵略型宇宙人として大成する未来がほぼ確定しており、ウルトラ一族もどことなく不安定さを感じさせた。ベリアル自力復活を阻止したところで、結局混沌の未来は避けられないかもしれないというのがメフィラスの結論である。オムニバーシアンもまだまだ経験が足りない良い教訓にもなったとは言っていたが。

 

 

 

 

‰月26日 ■■■■■■■■■■

CENSORED

CENSORED

This information is undisclosed.

CENSORED

CENSORED

 

 

 

※月6日(地球時間2020年6月7~8日 現地気候:晴れとか雨とか)

 

 前回の日誌がフラグだったのか先日死亡してしまった為、復活に時間を要した。なので久々の日誌となる。

 

 オムニバーシアン化する前を含めれば通算2度目の死だったが、復活した今も精神的苦痛が抜けない。激痛と衝撃の中、知覚する全てが消え失せる感覚は慣れることはないだろう。

 ちなみに死亡理由だが、簡単に言えば隕石と衝突した。これ以上を記す気はない。ザラブとしてはまさに不幸な事故にあったと言うべきだろう。

 しかし不本意ながらも、皇帝陛下からは星を救った行為であると認められたのもあり、報酬と生存対策を兼ねて、怪獣リングを2つ拝領した。使役慣れしたベムスター、そして私もあまり知らない怪獣だがガンQと呼ばれるものだ。2体を組み合わせた連携手段は中々強力だと言う。ベムスターが吸引、ガンQが排出といった攻撃反射の役割は確かに面白そうではあるが……。生存向けなのだろうか。いや、ベムスターはとても有難いのだが。

 

 それはそれとして精神回復を目的に休暇として、地球へ足を運んだ。

 

 最初は日本に降り立つ気満々だったが、地球の多種多様な文化や環境の違いを堪能するのも悪くないと考えた。日本国内も巡り終えてない中で他国を選択する事はどうかとも思ったが、瑣末な事だ。無限に広がる宇宙、無限に連なる世界という現実を前に、1惑星の島1つに執着することもないだろう。

 

 というわけで降り立った国の名前はサントメ・プリンシペ民主共和国という。数あるアフリカ大陸国家の中でも大陸ではなく島国である点に興味を惹かれた。首都にして主要島であるサントメ島へ降り立った直後は、日本とまるで違う空気の臭いに驚いたものだ。気候は高温多湿と情報にあったが、あの猛暑日の雨に感じたものよりはマシだろう。

 散策を始めて1時間。早くも私は早計な判断だった事を後悔していた。

 

「素直に大国順……いや、観光レベル順に見て回るべきだったか」

 

 この感想は私の価値観や経験不足を露わにした稚拙な一言であり、真実でもあるだろう。多様性を堪能したいからと言って、日本しか地球国家を体験していなかった自分が選ぶにはあまりに極端が過ぎた国だったのだ。

 

 おそらく恰幅を整えた変装が良くなかったのだろう。物珍しさからか頻繁に話しかけられることに戸惑っていたらスリ被害にあっていた。いずれも日本では体験しなかった出来事だったのであらゆる意味で油断していた。この油断を纏った雰囲気そのものも犯人を悪徳へ誘ってしまったのかもしれない。

 

 盗られたものは財布だったが、あくまで観光用に用意した偽装品であり、ザラブ本来の持ち物ではなかったので見逃すことにした。いくら私でも工作機器などの貴重品を盗まれるようなミスはしない。

 

 ただ、残念な気分となったのも事実だ。変わり映えこそしないが数を揃えた自動車に、塗装の有無が目立つ建物など、都市とはまた違った印象を与えてくれたし、市場の活気は歩くだけで心を弾ませてくれただけにケチがついたような感覚に陥る。あの話しかけてきた人々の中に悪徳を積んでしまった者がいると思うだけで損をしたと感じてしまうのだ。

 

 結局、同じ思いをしたくないばかりに、姿を消した上でこの島における自然環境を確認する調査じみた観光となった事はいたく反省する次第である。観光客向けのリゾートスポットや高級ホテルもあったが、あの煌びやかな類はそれこそ大国で味わってからが良い基準になると判断、赴くことは無かった。

 最もその自然環境そのものに対しては、侵略宇宙人の本能が疼く程素晴らしいものがあった。熱帯雨林で生い茂る植物の声とも言うべき空気の密度、粘つく湿度を吹き飛ばし五感の全てで爽快感を与えてくれる滝、そしてその歴史と土地の記憶を雄弁に語る偉大なサントメ山が確かな満足感を与えてくれた。空を舞える為、登山そのものにはあまり価値を感じない私だが、飛べるからこその楽しみ方もある。地面より、標高2000m以上はある山頂までを緩やかに、あるいは一気に飛んで翔けあがる。その優越感、爽快感は頑強な種族に許された特権だ。

 

 これで満足してしまった私はそのまま帰還。日本以外に足を降ろした事を陛下が興味をもたれた為、上機嫌で報告したところ。

 

「なんでお前現地の料理食べてきてないんだよ旅行なめてんのか!!」

 

 と叱られる羽目になった事を自戒を込めて記しておく。

 

『ヘロディアの追記:記録にある通り、ザラブの話を陛下がお聞きになった結果、現地の食事を摂らないとはけしからんと憤慨なされ、後日バーミン星人と共に現地へ赴かれました。アーカイブで映像資料がありますが、バックパッカー風の旅行客を装い訪れていますね。現地の人々は笑顔豊かで、食事処などの質問には大変親切にしてくださったそうです。トマトと魚の料理や肉とバナナの料理を推奨されて堪能したようです。他には文字通り採れたてのフルーツで作られたフレッシュジュースなどは絶品とか。チップを弾み、お互いの日常を語らうだけでも楽しいひと時だったとの事ですが……貴方いったいどれだけつけ込まれやすい状態で降り立ったんですか

 

『ザラブの追記:あのヘロディア……勝手に人の日誌に書き込まないでくれるか? 旅行の経験不足に関しては全くもって反論の余地はない。次にサントメへ赴いた際は、良い交流を楽しみたいものだな』

 

 

 

 

※月25日 宇宙

 

 非常事態発生。

 突如発生した時空の歪みにより未知の宇宙へ飛ばされた。

 状況が状況の為、自力帰還はリスクがあると判断し、救難信号を発する。

 実装当初は陛下の戯れだと思っていたが、掲示板機能に感謝しなくてはならない。おかげで通信には成功した。

 時空の歪みが生じた原因に、ブルトンを悪用したレイブラッド星人の可能性が浮上したため、感知防止の為に救援は遅れるとのこと。くそったれ。

 

 ひとまず、知っている星系を探してそこへ潜伏するとしよう。

 

 

 

※月26日(地球時間2020年9月26日) 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 幸いにしてこの宇宙には太陽系が現存しており、地球も存在していた。

 他の惑星だと星間連合だの銀河連邦だのが存在・機能していると面倒極まるので、地球のように生存に適しており、かつ最低限の文明レベルが保証された星はありがたい。

 この地球にも怪獣は存在しているようだが、独力で退けているようだ。Xioを思い出して忌々しく思うが、ウルトラマンなどがいないのは実に都合が良い。大人しく潜伏させてもらおう。

 

 滞在中、日誌の日付はこの宇宙における地球に合わせるものとする。滞在惑星に合わせた1日とするのは異星観光のマナーだと陛下も仰っていた。

 

 

 

2020年10月3日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 なんでウルトラマンくるの??? カラータイマーないのなんで??? 

 同胞、はやくきてーはやくきてー

 

 




 続きます。別題『シンウルトラマンにザラブ(別次元)混ぜてみた』

・第8銀河系
 どれのことかさっぱりわからない。天の川銀河から数えて8番目前後あたりに近い銀河ならりゅう座矮小銀河らしい。ダークマターが豊富で地球から見て相当暗い銀河なのでザラブにはよく合うと思う(知的生命体が発生しうる惑星が生じる可能性に関しては無視。現実だとこの銀河では多分いない)。

・サロメの情報保護プログラム&自動翻訳
 ヘロディアが一晩で構築してくれました。この日誌を読めているあなたはセキュリティクリアランスがry
 第4の壁の先にいても一部データが【削除済】だのなんだので読めない仕様をやってみたかった。

・ザラブ星人の設定
 一部独自解釈あり。ザラブに限らず、円谷ワールドの宇宙人は設定があえて明かされなかったり、放置していることが少なくないのですが、だからこそ独自解釈、考察が楽しい一面もあります。基本種族名でしか名乗らない類は名前らしい名前がないか、開示する気がない解釈をしています。ザラブは工作員としての識別番号しかない解釈を取りました(固有名持ったザラブが現時点でいない為)。ウルトラゾーン『The Love』におけるザラブ星人の描写から、心理面を攻める信用工作などに長けている一方で『地球人が口にする心』に対する理解は乏しい文化と解釈できるが、決して心がないわけではない。寧ろ好悪の感情は豊かな種族に思える。多くの惑星を滅ぼす種族でありながらも、異星人を愛する感性も持っている。それがザラブ星人である。(タイガに出ていたあのふざけたザラブ星人は色々と例外なキャラ付けかも)

・ベリアルが自力復活する世界線
『Another Genesis』という現在ではツブイマプレミアムプランでないと読めない小説の世界。
 ウルトラ一族が色々可哀想な事になっている上に色々厳しい世界となっており、かなり人を選ぶ。プレミアムプラン限定にしている理由は多分そういった事情。続編が執筆されてない以上、単なる『光の国崩壊用の舞台装置』になっている感じがしてベリアル推しとしては思うところもありますが、続編あったらラスボス枠だったのかなぁ。一応一部情報は非開示にしていますが、だいたい察せられると思います。

・日記にも記さない隕石衝突事例。
当日日誌が黒塗り非公開なのは死亡時の影響とザラブが開示を望まなかった為。隠した理由【仕事ではなく自発的に星を、しかも身を挺して守ってしまった点がザラブとして恥ずかしく感じた】仕事以外では積極的に星を救う気などなかったはずだと復活後頭を抱えている。
まぁ同胞には普通に読まれる日誌なので、そりゃ誇る気もない行動は記録に残さない。主観でしかないということは、当然書いている本人が都合悪いものは残さない。なお、あとがきでこうして暴露される模様。

・ベムスター&ガンQ
 お腹の口からなんでも吸収するベムスター。巨大な目から人型が生えたような奇獣ガンQ。この2体のコンビその名も『ベムQ』。
 初出は『ウルトラゼロファイト』だが、実はトレギア初登場作品である『劇場版R/B』にも出演している。オレギアがザラブに貸し与えたのはぶっちゃけそれが理由。ベムスターが攻撃を吸収し、ガンQが射出するという連携だが、言ってしまえばそれだけである。ゼロにはベムスターにわざと吸収され体内で暴れまわってガンQから脱出2体もろとも爆散。ロッソ&ブル&ジードには人質を回収された後、ガンQの瞳を封じた状態で限界許容量まで光線を強制吸収させて爆散。対策手段取られ過ぎて討伐速度も速いのが泣き所。

・サントメ・プリンシペ民主共和国
 ネットで話題に上がってもすぐ風化したりして結局知名度がないままの国って割とあったりします。サントメはそんな国の1つ。最近はナウル共和国などがTwitterで頑張って知名度高めておりますが、この国も頑張ってほしいというかカカオ輸出以外では観光が重要資源だったのに、某感染症のせいで大打撃だったんだから宣伝力入れた方が良い。まぁ日本から向かうのかなり大変なんですけどね!!

 ・ザラブ、スリに合う
 こいつが胡散臭すぎる&隙だらけなのが悪い。まぁ約20万人が暮らす島でもあるので、そういう手癖の悪い人もいます。不運も重なってる。
 経済が苦しい国は基本治安が悪くなりがちなので相応の心構えとガイドのアドバイスに従った旅行スタイルを取りましょう。ただサントメの治安は比較的マシだそうで、夜に1人うろうろしなけりゃ酷い目に合うことはないそうです。
 最も、スリや強奪というのは日本ですら発生しうる犯罪被害ですので、治安表記が良好でも油断はされぬよう。

 ・バーミン星人
 ウルトラマンレオ第31話「地球を守る白い花」に登場した宇宙人。緑色の昆虫っぽい宇宙人。
 地球へは東京を花で彩り、子供たちに安眠を与えるために訪れた……というのは真っ赤な嘘で、見た目と名前に偽りなく侵略活動に元気よく勤しむ害虫。
 善人の振りをして子供たちを次々昏睡状態にしていくことで致命的後手を狙っていたが結局露見した為暴れだし、怒ったレオにより駆除された。
 結構多彩な技を有しており、レオを苦戦させている。本作では植物知識と植物成長促進光線の技術を期待されオレギアによってオムニバーシアン化している。
 普段はメフィラスにめっちゃこき使われている模様(らっきょう畑で)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

外伝:ザラブの日誌2


どうせパラレル扱いなんだし細けぇこたぁいいんだよ!なのは重々承知なんですが、細かい時系列が気になってアマプラでシンウルトラマン何度か見返してます。ガボラが10月21日のはずなんでネロンガは多分10月3日で合ってるはず……


 

 

2020年10月4日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 昨日は取り乱してしまい、只々無様な記録のみを残した事を恥じる。ザラブの一流工作員を自負する者が取るべき日誌内容ではなかった。

 徒然なるまま、しかしわかりやすく、そして読まれて羞恥を抱かない程度の文面を整えなければ。

 

 さて、報告書の下書きとしても活用しておこう。

 先日、私はグレートブリテン及び北部アイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)なる立憲君主制の議会制民主主義国家、そこに属する都市コヴェントリーにて口を大開にして(羽を伸ばして)*1潜伏していた。最初は日本の主要都市のいずれかにて活動を試みたのだが、この地球において怪獣(この宇宙においては漢字表記は禍威獣とされていたが、同音故、今のところは気にせず怪獣と記録する)が出現する唯一の国家という極めて作為的な状況にある事実を鑑みて、他の先進国を選択することになった。

 あれをただの偶然と見做すには、我らザラブは工作経験が豊富過ぎた。恐らく地球侵略を目論む宇宙人の類だろうと踏み、態々接触の可能性を高める必要性はないと判断したのだ。

 既に怪獣を6度も撃退している点から、放っておいても解決するだろうとも考えていた。

 

 しかし、情報を収集しているとどうにも私の見通しが甘いようだった。

 日本は怪獣災害で経済的打撃を強く受けており、加えて各国との外交調整で独自戦力の増大も難しい現実に苦しんでいたのだ。

 あっさりXio級の組織を用意すると思っていた私は、この惨状に呆れ果てたものである。星1つに無数の国家群が存在する多様性の悪しき一面を久々に痛感した。調査する限り、自衛隊と防災庁禍威獣特設対策室(禍特対という略称があるらしい。語感が同一なのでこの地球における科特隊相当なのだろうが、ゼットンすら消し飛ばす彼等とは資金も技術も不足している)の連携を確立するだけでも相当の苦労があったようだ。これはまずい。

 結局、新旧大聖堂の趣や、交通博物館内をじっくり堪能する潜伏観光プランは短縮して日本へ移動した。

 流石に潜伏先の地球が侵略で滅んでしまうのはよろしくない。オムニバーシアンとしてもよろしくない。事故で巻き込まれた先でも善行を積まねばならない実情は、世知辛さを覚える。

 

 日本に到着してまもなく、怪獣が出現した。

 我々の知るネロンガに酷似している。傍受した通信においてもネロンガと呼称されていた。

 山中にて透明化して潜伏観察。あまりに被害が拡大するようであれば、不得手ながら巨大化して戦闘するほかないだろう(切札にベムスターとガンQ所持を許されているが、防衛には向かない)。そう考えていた矢先。

 

 

 空からウルトラマンが降ってきた。

 

 

 着地時の衝撃で吹き飛ばされながらも大混乱に陥った。

 

 予兆無く、警告無く、最低限配慮しましたと言わんばかりの傍迷惑な出現は光の国に生きる者とは思えない。何より銀一色なのはどういう事だ!? カラータイマーすらないぞ!? あと全身クッソ痛ぇ!! 

 木々に身体をしこたま打ちつけ呻きながらも、ここまで思考を回せた私はやはり一流工作員だと自画自賛する事で辛うじて立ちあがることができた。私は別に耐久力が高いわけではないのだ。

 

 当然視界に入ったウルトラマンであろう存在がスペシウムの構えを取りつつある事に恐怖を覚えたのは言うまでもない。即座に退散し、ネロンガ爆散の影響からは脱する事ができた。

 

 結果としてだが、現場に居合わせた事は最良に近かったと言えるだろう。この宇宙のウルトラマンは大気圏外へ向かうように消失したが、パターンからみて現地の誰かに憑依同化したのは間違いないはずだ。

 問題は、おそらく彼に察知された事だ。第三者視点で怪獣が暴れる中で静観していた宇宙人というのは容疑者認定するに充分な状況証拠だろう。早期接触を図り、誤解は解かねばならない。

 ひとまず潜伏先に神奈川県横須賀市を選択した。首都圏から距離を置きつつ、日米の情報を容易く収集できる。

 

 ところでカレーとハンバーガー以外はないのかこの町は。

 

 

2020年10月5~7日 地球:日本 所在地天候:曇り

 

 カレーやハンバーガー以外もあった。

 割とパン屋が侮れない。柔らかく優しい甘味を感じるパンは良いパンだと皇帝陛下が仰っていたので間違いない。また、ラーメン屋の数がそこそこあり堪能の機会は多そうだ。まずは行脚して一押しを探さねばなるまい。少し距離もあるが温泉もあるし、散策しがいのある道もいくつか発見した。時間の許す限り、未知を貪るとしよう。

 

 

 

 

2020年10月15日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 ウルトラマンが誰に憑依したか特定した。早速接触を図ろうとしたらなんかこの宇宙のメフィラスと接触した。なんでだ。

 それも最近お気に入りのラーメン屋で遭遇した。本当になんでだ。

 

 彼の人間態は、あのらっきょう狂いの暗黒四天王とは違い、いかにも胡散臭そうな雰囲気を醸し出しながらも友好的笑顔を示すという、中々手強い印象を受けた。

 

「これは驚きました。貴方のような外星人が地球の飲食に興味を抱くとは」

 

 私を看破しての第一声がこれだ。ザラブについてよく知っている事を匂わせながら、自分は地球に興味があると牽制をかけてきた。

 私は努めて平静を装い、食券機にて濃厚醤油らぁ麺を選択した。こんな事なら隣接したカレー店に足を運べば良かったと後悔した。だがザラブは口の構造上、口腔内へスプーンを突っ込むと開閉部分にガチガチ当たって不快な為、カレーよりは麺類がまだ食べやすいのだ(ただし吸引ではなく、啜るという摂食方法をマスターしたのは最近の事である)。唇が自在で様々な飲食に容易く対応できる地球人には正直羨ましさがある。

 

「おや、慣れていますね。貴方が地球に訪れたのはつい先日では?」

「生憎と地球文化に触れる機会は多くてね」

「なるほど、そういう事でしたか。申し訳ない、人違いをしてしまったようだ」

「……は?」

 

 メフィラスから得た情報は値千金であった。どうやら同族が地球へ来訪していたらしい。

 同時に、この邂逅自体がメフィラスにとっては想定外であった事を理解した。私のよく知るメフィラスと同じ悪質性を持つならば、彼は本来ザラブとは直接的な接触を行わずに事を運ぶ予定だったのだろう。彼の知るザラブが地球の食事文化に興味を持つわけがないと判断していたら光学迷彩で人間に化けた私がノコノコ現れたのだから面を食らったに違いない。

 

 なお、値千金とは書いたが、それはメフィラスも同じだった事を明記しておく。私の迂闊な反応から、彼はザラブ同士が連携しているわけではない事、私に地球侵略の意図が皆無である事を理解したからだ。

 

 私がラーメンを啜り、各種感覚器官がもたらす幸福感に酔いしれる中、彼は端的に要求を告げてきた。

 

「私の計画は、短期的にこそ被害を生じているが、その真髄は地球文化を害するものではない。君がこの星を好んでいるならば、静観してくれないか」

「なるほど、現在の状況を組み上げたのは君か。良いだろう、私も永住する気はない。私に被害が及ばない限りは基本的に静観を約束しよう。君とウルトラマンには中立の立場を取らせてもらう」

 

 この言葉に嘘はない。

 ウルトラマンならばなんとかするだろうという楽観と、ただでさえ不慮の事態で潜伏する羽目になっているのに敵を増やしたくはなかったからだ。オムニバーシアンの理念にも背いていない。首を突っ込み過ぎないように、現地勢力で対処可能な事はなるべく任せるべきという方針がある。別に積極的救助を行っても罰則はないので、この方針は手を出さない理由を作る為と私は解釈している。

 

「ウルトラマンか……光の星の使者たるアレに対して地球の原生人類が付けた呼称を使用するのは、確かに適切だ。私も見習おう」

「!? ゴホッゴホッ!」

「……どうした、口から麺が垂れているぞ」

 

 恥ずかしながら、ウルトラマンという呼び名がつけられた事が本当につい先日だった事を私は知らなかった(加えて言えば、この宇宙では光の国ではなく光の星とされていることも)。失念していたが、地球人達は最初【巨大人型生物】と呼称していたのである。ザラブの評価を落としかねない不手際だが、自戒と反省のため、ここは正直に記載することとした。

 

 幸いにしてメフィラスに悟られる事はなく(希望的観測だが)、その後は互いにラーメンという素晴らしき一品料理に集中した。

 これは余談だが、この店舗のラーメンは〆にカリカリ梅を少し齧り、レンゲを用いてスープを含み味わう事がマイブームである。その方がより美味しいという理由ではなく、訪れた飲食店の独自性を記憶に印象付けて帰路につきたいという認識故の行動だ。最も、ザラブの五感は美味であると主張しているのだが。

 

 完食し2人して満足げな態度を隠さず店を出る。このまま終わってもよかったが、懸念要素が1つだけあった。別れ際、私は人混みに消えゆくメフィラスに向かってこう告げておいた。

 

「ああ、同胞のやる事を妨害する行為だけは見逃してもらうぞ。間違いなく私に被害が及ぶからな」

 

 メフィラスは言葉を返す事はなかったが、此方へ振り向く姿には笑顔が貼り付いていた。言葉にするならば「どうぞご自由に」といったところか。承諾したものと解釈した私は工作準備に取り掛かる事を決意した。

 

 

2020年10月21日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 ガボラが出現し、核廃棄場へ進軍していたところをウルトラマン(カラーリングは馴染み深い赤と銀になっていたがカラータイマーは相変わらず見当たらない)が撃退した。放射能汚染を可能な限り抑え対処しての行動は流石光の巨人といったところだろう。私はというと、最大限隠蔽した上で怪獣リング化したベムスターの捕食能力を発動。ガボラが地中にて撒き散らした放射能汚染を除去して回っていた。無論、対同族用の網は万全であり、予想通り同族は工作をしていたようだ。

 

 我々工作員が争う場合、情報をより有する側が勝利する。

 向こうは私がいる事を知らず、ウルトラマン以外には一切警戒していなかったのだから容易いものだった。

 ウルトラマンが変身する瞬間をがっつり盗撮した後、ウルトラマンの戦闘を目視して頭を抱えている様子まで把握している。気持ちはよくわかる。あんなチート種族どうやって倒せばいいのかわからないよな。

 

 さて、光学迷彩全開のザラブ星人がウルトラマンを盗撮する様子の動画はどう扱ったものだろうか。複数の超小型ドローンで各アングルを確保している癖に、自身もカメラを構えて人間態を追いかけて、変身直後に慌ててアングル変える様は中々滑稽だが、人間の科学力でこのザラブを可視化できるだろうか。可視化処理可能なレベルまで此方が手を打った上でザラブによる電子改竄防止措置を取る。妨害行為としては充分だろう。

 

 ちなみにウルトラマンの変身映像だが、流出阻止する気は全くない。中立を守る為という建前はあるが、本音はモチベーションの問題だ。なんでウルトラマンにそこまでしてやらねばならないのか。反吐が出る。

 

 

2020年10月23日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 ウルトラマンと接触した。

 

 機会を窺っていたが、そもそも隙はおろか油断すると足跡からして途絶える恐るべき隠密行動力があり、今日の今日まで接触機会すらなかったのである。このザラブ相手にここまで隠密行動が取れるとは恐るべき男だ。そんな彼も常に足取り不明というわけではなく、今回は施設内図書館にて書物を只管読み漁っていたところへ声をかけた。

 

 以下は会話ログである。

 

「隣を失礼する。私はザラブというものだ」

「……」

「まずは怪獣2匹を討伐してくれた事に感謝を。ネロンガを対処する前に君が空から降ってきた事で受けた傷は浅いものだから気にしないでほしい」

「……」

 

 嫌味を交えても視線が本から逸れる事はなく、無言を貫くウルトラマン。時折紙が擦れる音が返事と言わんばかりの沈黙だ。この気まずい空気を余さず文章で伝えるには私では能力が不足している。

 

「ウルトラマン……そう呼称させてもらうが、今回は警告に来た」

「……」

「……私の同族が、地球に来訪している。私と違って業務目的だ。間違いなく君と敵対する事だろう。気をつけるといい」

「……此方を盗撮していたのは君ではないと言うことか」

 

 やっと喋ったと思えば、これには驚かされた。気づいていて見逃した意味がわからない。

 怪訝な雰囲気を隠さなかった故か、ウルトラマンはようやく本から目線を上げてこちらを見た。

 なんとも非人間的視線である。これで地球人へ擬態しているつもりなのだろうか。

 

「君の変身する様子を撮影していたのは私ではない。……何故見逃した?」

「対処する手間を惜しんだ事は此方の落ち度だ。だが今後の予測は極めて容易なものとなった。取るべき備えを実行に移すだけだ」

 

 多少の不利益は飲み込んで、敵対者の行動選択を絞らせる。言うは易く行うは難しの典型例と言えるだろう。被る不利益は同化した人間の社会的地位が喪失する線すらあるはずだが、予測しているということは、フォローも考えているとみえる。つまり私の出番はないということだ。この結論に至った私は安堵のため息すら零していた。

 

「そうか、ならば良い。被害が及ばない限り、私は基本的には静観させてもらう」

「わかった。君が現生人類に害をなさない限り、此方も手出しはしない」

 

 内心ガッツポーズを決めた。これで安穏と潜伏できるというものだ。

 

 

 

 

¢月☆日(地球時間2020年11月5日) 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 同族をぶちのめしてしまった。どうしてこうなった。

 

 

*1
ザラブ慣用句




Q.ザラブはどれくらい横須賀満喫したの?
A.観光ポイントはだいたい巡って、観音崎まで足を伸ばしていたりする。完全にオレギアから悪影響受けてる。

・ザラブにとっての日付と地球にとっての日付
 動揺時の記入ではたまにザラブ主観の日付が顔を出す設定。地球時間に統一する形式は個人的にはザラブらしくないと思っていますが、【読みにくいしわかりにくい】ので滞在中のマナーとか適当な理屈つけて地球時間に合わせてもらいました。サロメシステムによる自動調整とかそういう理由付けの方がよかったかもしれない。

・シンメフィラスとの邂逅
 彼の潜伏期間、絶対数年単位。絶対日本全土を渡り歩いて観光しまくってる。
 ザラブは偶然だったと判断しているが、実際は必然。不確定要素と見做して監視、行動パターン把握後にわざわざ偶然を装い邂逅している。行動パターン分析でこのザラブに地球侵略の意思が皆無だった事も予測の範疇。ザラブに見せた反応はあくまで確証を得たものに過ぎない。唯一の想定外は、ザラブが思ったよりウルトラマン寄りだった事。計画を微調整する。

・シンウルトラマンとの邂逅
 お互い警戒心を隠していない。ただ、ウルトラマンは人を理解しようと試みる性格、価値観、洞察力を有している。なのでこのザラブが敵対意識を持たない事までは理解した。この宇宙における宇宙人達は個々で完結しており、ザラブやメフィラスは固有名(あるいは地球に対しての母星代表として惑星名を名乗っている)とも思われるが、日誌ザラブは特に気にせず自分もザラブと名乗っている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

外伝:ザラブの日誌3

先に謝っておきます、シンザラブごめん。


 

 

2020年11月6日 地球:日本 所在地天候:曇り

 

 昨日はまたテンパった記録となり未熟さを痛感するばかりである。

 振り返り記述といこう。報告書の下書きみたいな形式が続くが、この日記は元より私のためにあるのだから構うまい。

 

 事の起こりは深夜であった。

 私は明日こそは蜂蜜とハンバーガーの併せ技を推す店舗へ挑むという覚悟を決めながら、のんびり横須賀の港を眺めていた。

 

 開店時間まで睡眠という名の消費エネルギーの節約行動を取るか、油断なく各国情報を収集するか悩んでいたところ、私が張り巡らせた網に同族が引っかかったのである。

 

 この同族、禍特対に接触してから日本政府、各国政府を手玉に取りつつ情報工作に勤しんでおり、変身撮影時の体たらくはどこへやら中々の手腕をふるっていた。

 惜しむらくは、狙いが透けて見える事だろう。あれでは気付く者が無視できない数いるはずだ。組織内の実権派が気づけば煽動工作などどうとでも対処できるはずだが、それらは1人1人暗殺でもするつもりだったのだろうか。

 

 ちなみに身体造形だが、同族と言えど別宇宙のザラブ、私とは若干の差異が見られた。興味深いのは、コートの下は身体前面部以外を透明化していた事だ。地球人の美的センスに迎合しない意思表示のつもりだろうか。

 

 話を戻すと、その同族がよりにもよってこの横須賀に出現した。

 何をするかと思えば、ウルトラマンに偽装して横須賀にいる自衛隊、在日米軍艦隊へ攻撃を仕掛けたのである。この時点で同族はウルトラマンの人間態を確保拘束していたようなので(把握したのは日誌を記している今日である。放置しているが同族が滅んだ今、多分大丈夫だろう)、ウルトラマンへの印象工作としては妥当な行動と言えた。

 

 正直に記すが、私は目視時点においては直接的干渉をする予定はなかった。

 巻き込まれぬよう撤退を視野に入れていたほどだった。

 

 問題はあの愚か者が横須賀を襲撃現場に選んだ事である。

 私が来訪しようと思っていた店は米軍基地から離れていない。私が常連と化している店も然り。私がこのまま撤退してしまえば、これらの店は勿論、横須賀という街そのものが炎に飲まれることはたやすく想像できた。できてしまった。

 

 気が付けば私は、にせウルトラマンの光学迷彩を全力で解除していた。

 

 同族からすれば混乱の極致であっただろう。全ての罪を擦り付ける予定が、軍艦1隻に蹴りを入れる瞬間ザラブの姿に戻っているのだから。踏みつけた足が本来のものと気づいた同族の茫然とした様は中々に秀逸なものだった。

 

 続けて巨大化した私は、呆ける同族の顔に向け、全力で拳を撃ち放った。

 海へ倒れ込んだところへ両手の指先から光弾をばら撒き打ち据える。

 

『地球人諸兄へ謝罪する。この外星人2号ザラブは貴星へ対し不平等条約の締結を迫り、あげく国家群同士の争いを誘発する破壊工作を実施。そして外星人1号ウルトラマンの信用を落とす為、姿を偽装しての横須賀襲撃を行った。これらは我が母星における重大な犯罪行為である。せめてもの贖罪として、これは速やかに処理しよう』

 

 相手が対処不可能に陥っている間に各種機器をハッキングし、加えて拡声して呻いている同族の罪を開示する。なお、ザラブにおいて星間協定も結ばれていない未開惑星をどうしようが犯罪でもなんでもない。つまり単なる嫌がらせシャウトである。この時点で私個人も相当自棄になっている。実行しておきながら内心後悔しているのだから始末に負えない。昨日の日誌に、不本意である叫びのみが記されている事が悲しくも我が嘆きを証明してしまっている。

 

 そのような私の悲嘆など知る由もなく、寧ろ嘆きたいのは向こうであろう同族は、爛々と顔を輝かせ(怒髪天を衝き)ながら*1、海水に塗れたまま飛びかかってきた。透明化している背面が水のせいで存在感を隠せていないのは実に滑稽な姿だった。

 

 単調な拳を絡め取り、隙だらけな胴体へ光弾をひたすら浴びせていく。とっさに私へ高出力の破壊電磁波を放ってきたようだが、私は一流工作員。苦もなく対処し彼を蹴り飛ばした。

 

【ヘロディアの追記:映像資料では、貴方がヤケクソ染みた高笑いしながら光弾を浴びせていたところに直撃を受け、「ぐぁ!? 貴様!!」と苦しみながら蹴って距離を取った情けない姿なのですが。

 

 再び海へ倒れ込む同族に私は笑いながら、彼を踏みつけ、溺れいく様に溜飲を下げる。こうして振り返ると相応のストレスを蓄積していたようだ。

 

【ヘロディアの追記:映像資料では、「このザラブの恥晒しが!」などとキレながらずかずかと歩いて乱暴に踏みつけている一流工作員(笑)が映っていますけど? 

 

 別に生かしてもよかったのだが、殺処分が妥当と判断。わざと足を跳ね除けさせ、飛び上がり全力逃走を図ったところを追撃光弾で処分……実際は光学迷彩にて隠蔽展開したベムスターに食わせて処理した。隠蔽したのは、過去出現した禍威獣の犯人にされたくなかったからだが、こうして記していると少し早まったかもしれない。メフィラスやウルトラマンであれば、恐らくわかってしまう。

 

【ヘロディアの追記:正直うっかり逃げられそうだったから慌てて殺したのかと思いましたが、映像資料では、確かに怪獣リングの召喚を行ってから逃がしていますね。光学迷彩併用の隠蔽召喚は、中々応用力を感じる技術ですので参考資料として使わせていただきます。

『ザラブの追記:だからヘロディア……勝手に書き込まないでくれないか。それと、これは確かに外部へ見られる可能性を視野に入れたものとはいえ個人日誌だ。多少の脚色ぐらい許されるだろう。色々暴かないでもらいたい』

 

 ともあれ、多くの反省と教訓を残しつつも、恐らくザラブとしては初めて、『個人による未開拓惑星都市の保護行為』を成し遂げた。ザラブとしては異端もいいところだが、オムニバーシアンとしては正しき行いだろう。……はぁ、隕石の時といい何故こうなる。

 この騒動に関して、朝から各種報道機関が喚き散らしている中、私は巨大なハンバーガー相手に格闘していたことを記して本日は〆とする。

 

 追記:蜂蜜はケチャップマスタードと併せての使用。内側へ注ぐように用いたが、これは失敗だったかもしれない。元より私の口では食べにくいサイズな上、液体調味料(粘度は高いが)を使用してしまえば苦戦するのも当然だった。だが味わいは意外と悪くない。目の前で焼きあげてもらうのも空腹を刺激する良い演出であった。

 

 

2020年11月7日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 静観し、安穏とした潜伏生活を行うという私の目論見は崩壊した。

 具体的に言えばメフィラスの仕業である。

 

 あの野郎、横須賀にて潜伏していた私の映像をネット上にばら撒いたのだ。それもさも一般市民による盗撮と言わんばかりの画質や視点でだ。名乗りこそあがってないが、ザラブの光学処理を解除した形で映像撮影など最低でもメフィラス級の科学力は必須。ウルトラマンでないならメフィラスでしかない。

 当然ながら潜伏生活を楽しむ宇宙人など単なる娯楽の対象でしかなく、地球人の間で随分と盛り上がった。

 劇場で良い席を確保し堪能する様子。遊戯場にて、箱モノが取れない余りアームの強さをハッキング操作しようとして自重しうつむいて立ち去る様子。歩道にて片方だけ落ちた靴下を拾い上げ、右往左往する様子。古い戦艦の周囲を飛び回ってしげしげと眺める様子。意図的に流行らせようという悪意が透けて見える。

 

 だがウルトラマンではなく、私にこのような嫌がらせをする狙いが読めない。

 ともあれ横須賀がザラブを探し回る人々で溢れかえったのはため息しかない。

 

 何が「正義のザラブさんありがとう」だ。むず痒いし吐き気がする。

 スマートフォンカメラで撮影されたような映像だったのもあり、私を見つけられないかとスマホを人に向けて翳す者もあちこちに沸いていた。無理に決まっているだろう馬鹿じゃないのか。

 

 追記:ウルトラマンの人間態は無事に保護されたようである。

 情報を見るに、先んじて起動点火装置( β-Capsule )を人間の同僚に託しわざと誘拐されたようだ。個で完結した存在と思いきや、他者を信頼する精神性を獲得しているようだ。我々のよく知るウルトラマンに近づいているとみても良いかもしれない。これでカラータイマーさえ付けば完全に馴染みあるウルトラマンなのだが、この世界のウルトラマンは体表でエネルギー残量を示しているようだ。……正直カラータイマーよりも安全性に優れて【混沌皇帝による追記:馬鹿かお前。カラータイマーは他者へのエネルギー譲渡やエネルギー保存、蘇生補助といった効能もあるからこっちがいいに決まってるだろ!! 確かに壊されたり盗まれたら死ぬけど、滅多な事ではそうはならんからな!!

 

 

2020年11月8日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 特定された。おのれメフィラス。

 不明サイトより専用アプリをダウンロードし適応することでスマートフォンカメラ越しに私の光学迷彩を貫通する技術がばら撒かれた。

 憤慨しながら調べたところ、迷彩貫通技術はアプリそのものを解析したところで本命技術は得られない保護措置(アプリを起動したスマートフォンを対象に、加工微粒子がレンズに付着する形で適応している為、機種を選ばない仕様であると同時、両方の技術を要する形式。この微粒子自体に解析防止措置も付与されており、私ですら採取も解析も極めて困難)が取られている。原生人類への外星技術付与防止というより、私に即応対策させない事が目的だろう。

 

 おかげで日誌を書いている今、官邸にいる。

 既に内閣一同より謝罪(御足労云々と同族に騙されていた事)と感謝を受けている。

 直径11㎜、銅製の玉を只管稼ぐ遊戯に勤しんでいるところを「ザラブだ!!」と騒がれあれよあれよと囲まれた時の心境を日誌に残す気はない。表向き友好な態度を取った末路がこれだ。次からはもっと不愛想な態度を取ることを誓う。

 

 とりあえず、私はあの同族に全ての罪を被せつつ善性の皮を被る事を徹底する判断を取った。

「我々は国家群ではなく個々で完結している故、本来なら母星における罪であろうと静観するべきだったかもしれない」「だが私はこの星を好ましく思っている」「故に動いただけであり、感謝される事ではない」

 などと聞こえの良い表現と実情をばらまいておいた。一流工作員故造作もないことだ。

 

 特定アプリに関しては「どうやら、私を地球に歓迎させたいお節介な外星人がいるようだ」とだけ表現した。

 間違いなくメフィラスは私の動向を見ている。私としては被害案件として敵対しても良いのだが、その結果、どう転ぶかわかったものではない。先日の映像流出からみて、ベムスター召喚は間違いなく撮られているからだ。あの男ならばいくらでも悪用手段を用意できることだろう。

 そして、それを私が読んだうえでの行動を取るまで読みきっているはずだ。結果、メフィラスにとって不利な情報は開示できない対応一択にさせられている。メフィラスの計画通りに道化となるならば良し、静観でも良し、敵対するなら巻き添え暴露。地球から離れるならそれはそれで良し。そんなところだろう。

 

 故に、私ができたことは1つだけだ。

 

「誤解を招くことは想定できるが、やはり迷惑をかけた星に意図的な隠し事はよろしくない。私は貴方達が禍威獣と呼ぶ存在を2体所持していることを開示する」

「どういうことですか」

「禍威獣を生体兵器……護衛あるいは侵略を目的に運用する事は外宇宙において一般的だ。私はベムスターと、ガンQ……そう呼ばれる2種の禍威獣を使役している。普段はこのようなリングにして保管されているがね」

 

 そう、ベムスター&ガンQ所持の開示だ。暴露の悪影響を軽減するには、少なくとも国家中枢に知られていた方が良い。私は2体の身体情報、性能をある程度開示することで信用を得る手段を取った(ベムスターはともかくガンQの怪獣リングはかなり引かれてしまった。肉塊に目玉が1個貼り付いているような装飾故だろう。地球人の美的感覚はもちろんザラブとしても割と引く見た目だ)。

 無論、護衛や環境調整(ただのエネルギー吸収行為だがモノは言い様である)とは偽っている。最後にこう付け加える事も忘れない。

 

「もっとも、ウルトラマンと敵対すればベムスターなど八つ裂きにされて終わる。私も同じ運命だろう」

 

 彼等は私を正しく脅威に覚えただろうが、この一言できっと私の脅威度をさげてくれたことだろう。

 

 

2020年11月9日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 なんかウルトラマン抹殺計画とかいうのが進行してた。意味が分からない。

『外星人3号(私)と外星人3号が所持する禍威獣すら殲滅可能な戦闘力を有するとされる外星人1号は脅威である』

 という建前の元で発案されたようだ。

 

 多分交流不足故なのだろうなと理解できる反面、すごくらっきょう臭い。

 何せ日本政府が私に情報提供を求めてきたのだ。それも縋るように。対応1つ間違えば私とウルトラマンが戦う羽目になる事は容易に想像がついた。おのれメフィラス。

 

「初めに言っておくが、ウルトラマンと呼称されている外星人は、陳腐な表現を用いるならば宇宙の番人だ。彼等独自の基準こそあるが、貴方達人類の善悪観においても善性にカテゴライズされるだろう」

「敵対は推奨できない、ということでしょうか」

「あの愚かな同族のように敵対行動を取ることは全く推奨できないな。最も、友好の手を取る切っ掛けを掴めない事が貴方達にとって憂慮すべき状況であることは理解している」

「ですが、貴方の同族は敵対した」

 

 馬鹿な真似はよせと説得の選択肢を取ったが、対応してきた官僚は目を光らせながら問い質してきた。

 地球人侮るべからずとはまさにこの事。勝ち目のない戦いなどするわけがないのは事実である。

 地球侵略を企て、ウルトラ戦士と敵対した宇宙人の多くは、戦力差の調査すらまともにできていない点もまた事実だが。

 

「あの同族の狙いは地球人を国家間で争い合わせ、自滅させる事だった。故にウルトラマンに罪を擦り付けつつ、直接対峙を避ける手段を取っていた。実際に戦えば負ける事は理解していたはずだ」

「……確かに、貴方が彼を阻止しなければ、我々は容易くウルトラマンを敵視していた事でしょう。しかし、それはウルトラマンを信用することが難しい表れでもあります」

「2度も禍威獣を撃退した彼を信用できない根拠は? 少なくとも不法入国し、同族が人類根絶を企んでいた私よりよほど信用に値する行動に思えるが」

「ザラブさん。我々人類……いえ、国家というものは、コミュニケーションが取れず、行動による推測しか取れないものを無条件に信じる事は絶対にないのです」

 

 ──それ故貴方の同族に踊らされる事になっていたわけですが。

 そう続けて皮肉気に笑った彼に、正論で諭す事等できるはずもなく。

 結局私は、ウルトラマンに対するある程度の情報を提供することになったのだった。あらゆる可能性を常に検討し続け行動しなければならない政治家という役割に対する敬意とも言えるだろう。

 

 最も、本音はウルトラマンに細やかな嫌がらせができるなら喜んでというものだったが。

 

 

 ¢月#日(地球時間2020年11月10日) 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 あのクソ悪質宇宙人どこにいやがる。

 地球人巨人化事件についての説明要求が止まらないぞクソッタレ!! 

 

 

 

*1
ザラブ慣用句




Q.なんでザラブはザラブ(シン)をベムスターで処理したの?
こいつの火力はザラブ(シン)を殺せるほどじゃないからです。対艦ミサイル通用しないしスペシウム直撃しても死なないんだぞ。切断耐性めっちゃ低かったけど。

・【朗報】神永、ウルトラマンだと世界中にばらされる前に決着が付く(なお仲間にはバレたし監禁もされている)
ザラブ(シン)の計画を読んで動いていたら結果的に仲間にバレた。ただ彼等に正体を明かした事そのものは喜びの感情でもって受け入れている。ただし救出時引っぱたかれた。
ちなみに本来のシンウルトラマンでは11月8日にザラブによる神永=ウルトラマン動画がばら撒かれた模様(映画本編内の駆け落ちトバシ記事から日付確認)。横須賀襲撃が5日なので、禍特対の襲撃映像調査は何気に3日を要している。浅見の巨人化はライブカメラ映像から11月10日だと判明(調査で深夜0時回った為11日1時半となっている)。

・ザラブ、潜伏生活終了のお知らせ
メフィラス「地球を救った英雄は讃えられるべきでしょう」
単に、日誌ザラブの性質と性格、行動パターンから予測して「政府視点でウルトラマンよりは信用できそうな外星人」を作っておきたかった。親しみを覚えやすい動画ばかり晒したのはその為。
自分が行動を移す前にウルトラマンが信用を固められるのは不都合であり、本来ザラブ(シン)が担うはずだった信用棄損行動を、ザラブ(日誌)を歓迎させることで生じさせる計略。楽観視して呑気に観光してた日誌ザラブ痛恨のミス。

・ウルトラマン抹殺計画
正直ザラブ(シン)が主導しなくても絶対政府は検討していた。不可能以前の問題であり、ガボラ戦での報告書を読んでもウルトラマンが信用できると鵜呑みにするようなお人好しはいないというだけ。

・ヘロディアたちによる追記
別にリアルタイム割込みはかけていない。【この日誌が彼女らの目に通された時に書き込んでいる仕様】。つまりザラブの生存と帰還は保証されているネタバレ追記でもある。ザラブが追記に対し返信しているのはいつか現れるかもしれない読者への配慮を兼ねた苦情。
日記系SSだとこういう日記に勝手に別の人が書き込んでしまうケースはあまり見られないように思える。ハリポタの『ハリーが所持している教科書をそのまま書籍に出した』本(ハリー達の落書きや追記が随所にある)とかすごく好きなので、是非増えてほしい一方、二次創作転生者系の書く日誌は読まれること自体が致命的ネタバレになるので困難という実情。無念。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

外伝:ザラブの日誌4

日誌SSなのに文字数が9千字に迫るのはどうかと思いつつ、分割なしでこのまま続行の構え。


 

 

2020年11月11日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 色々あって疲弊している。昨日の分含めて時系列順にまとめよう。

 

 11月10日、東京丸の内にて巨人化した禍特対所属浅見分析官が出現。催眠状態にあり、ビルを一部破壊する示威行動を取る。加えて、駆け付けた自衛官、禍特対構成員に対し実行犯が声明。浅見分析官はそのまま道路へ倒れ意識喪失する。

 

 声明は巨人化のデモンストレーションであり地球人に対するプレゼンテーションでもある事を明示しており、技術付与を仄めかしていた為、各国政府の通信量が激増した。

 

 禍特対は既に神永がウルトラマンであることを承知である模様。政府は未把握である為、秘匿している様子。彼に対し質疑応答を繰り返していた事が判明しているが、口頭でのやり取りで電子情報が無い為詳細不明。

 

 私ザラブは官邸に呼び出され、説明を要求される(小田原の蒲鉾御三家とも評される店舗より蒲鉾を取り寄せ味わう最中だった為、不快感は表明)。政府側も混乱しているようでまとまりのない質疑が複数回生じた。

 私が回答した内容は以下の通りである。

 

 君の同族の仕業か──『違う。私の仕業でもない。そもそも技術提供を目的とするならば、この場で仄めかせばいい』

 

 あの技術はなんだ──『巨大化技術は割と珍しくはないが、声明通りであればウルトラマンと同質の巨大化技術を用いているようだ』

 

 あの声明をした者の目的は──『本人に訊ねるしかない。間違いなく接触を図るだろうから、現地調査は現場に任せ、貴方達は泰然と構えていればよい』

 

 我々に協力はできないか──『交渉の席に立つことはやぶさかでないが、当人が地球との取引を目的としているならば、私を頼ることは危険だ。私は貴方達と政治的取引を行うつもりはなく、国家というものは、利の無い行動は嫌疑の対象なのだろう?』

 

 静観と中立を維持しながらも、人類側への必要最低限の情報開示は行うという、極めて神経を摩耗する一時だった。

 

 その後、深夜2時頃──人類科学の通常手段では巨大化した人間から衣類の繊維1つ切り出せない、全く解明の余地がない事実が判明したタイミング──実行犯であるメフィラスが禍特対の前に現れ、自己紹介。ウルトラマンを視線で牽制しつつ、彼の前で堂々とベーターボックス(ウルトラマンの所持する起動点火装置より遥かに巨大だが、原理は同質とのこと)を披露。浅見分析官を元の姿へ戻した後、政府とのコンタクトを要望。

 

 11日の朝になって、私とも官邸で遭遇した。

 

 私が苦情を口にする前に「はじめまして、ザラブ」と牽制された為、不承不承合わせる事となった。

 それでもせめて文句の1つは言っておきたいと思い、

 

「私の光学迷彩を暴くアプリを提供したのは君か」

 

 と問い質せば。

 

「ええ、地球を守った功労者は胸を張るべきだと思いましたから。また君の同族が現れた時、地球人が手を打てる為にもね」

 

 といかにも本音と建前を入り混ぜたと受け取れる表現を用いてきた。居合わせた官僚や政治家が感心したように頷いていて内心頭を抱えた。現生人類が同じ轍を踏まない為にも必要だったという言い回しは実に悪質な正論だ。単に私を拘束し利用したいだけという真意を理解できるのは私だけだ。

 

 その後、メフィラスは総理大臣を始めとした日本政府中枢と会談、交渉。

 あれよあれよと言う間にメフィラスの言う『自分を上位概念として認めるならば、ベーターボックスを地球へ無償提供する』という条約の締結が前向きに検討され始めた。

 

 私はこの時点で、ようやく彼が日本を舞台に暗躍していた理由を悟る。

 この国家は元より『上位存在』への許容値が高いのだ。大半の国民は宗教精神が大らかかつ多神教のそれであり、内閣総理大臣とは別に天皇という上位概念(日本における宗教面でのトップとも表現可能だが、『日本国及び日本国民統合の象徴』と表現されている以上、上位概念と解釈して間違いはないだろう)を受け入れている。また、一部の者は『日本は米国の属国である』と卑下すらしている様子もある為、メフィラスにとっての『最初の1歩』として最良条件だったわけだ。

 正直、我々侵略宇宙人は『とりあえず侵略するなら日本からでいいんじゃね? 知らんけど』感覚で突撃しているのが大多数である。その為、こうも真面目に検討して計画を進めたメフィラスには感嘆を覚えた。

 

 それはそれとして、私を利用して日本政府からの信用を勝ち取った行動は面白くない。

 放っておけばさらに利用されそうなので、ウルトラマンとコンタクトを取ることを検討する。

 

 問題は、光学迷彩が役に立たない事か。本気で工作すれば造作もないとは思うが、手の内をメフィラスに知られるだろう。そして行動そのものを利用されるのは明白だ。私が暗躍していると政府へ疑いの種を撒いたりな。おのれメフィラス。

 

 ……日誌を記していてさらに疲れた。今日はもう休眠行為に耽るとしよう。

 

 

2020年11月13日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 ウルトラマンと接触した。

 逆に考えればいいんだ。堂々としちゃっていいと考えるんだ。

 

 表向き、同族の悪行で禍特対が被った事への個人的謝罪と銘打つ事で私の担当外交官に通達、スムーズに接触した。恐らく向こう側も接触を希望していたのだろう。朝に通達しておきながら、会合は昼に決まった。

 

 第三者が見える範囲で、私は同族の行いを詫び頭を下げる。

 それを禍特対代表として班長が快く許し、握手でもって和解とする。

 その後は懇親の場と称して彼等のみと交流する具合だ。

 

 結論として、やはり彼等は神永がウルトラマンであることを理解しているようだ。

 だが、彼と同化していることまでは理解しているようには感じない。後ろめたさもあるのかもしれないな。彼らの信頼を崩壊させるのに、神永の肉体を乗っ取ったと囁く離間工作は悪くない……つい本能が疼いたが、そんなことはしない。私はオムニバーシアンだ。侵略宇宙人ではない。一瞬グリムド様の視線を感じた気がして怖い。

 

 彼等にとっては私もメフィラスの仲間であり、警戒対象であるという認識だったようで、中々剣呑な雰囲気もあったが(特に浅見分析官の憤懣は空間を歪めんばかりに立ち昇っていた。人類史初の巨大化人間ということで丸1日あらゆる検査機関をたらい廻しにされたそうだ。ネットにも映像が出回る始末だが、流石にメフィラスも悪いと思ったのか責任を持って全削除したようである)、ウルトラマンが窘めてくれた。

 

 私は改めて中立の立場を強調し、それはそれとしてメフィラスに利用された分程度の報復は検討している意思を表明した。

 ウルトラマンからの提案は会食に同行願いたいというものだった。この男、いつの間にかメフィラスともコンタクトを取って食事の約束を取り付けていたようである。禍特対の誰も知らなかったようで驚愕の表情を浮かべていたのが印象に残っている。隣の浅見分析官が裏切られたような顔をしていたのだが、後ではり倒されたのではなかろうか。

 

 合流の場は何故か鎌倉だった。

 転移技術を用いて人気のない通りから、観光客を装って語り合おうというものである。

 散歩をしながら紅葉が始まりつつある、鮮やかな空間を楽しみましょうとはメフィラスの談だが、要は「人類の変化を受け入れろ」と言外に伝えているようだ。11月末ならより良い紅葉になるでしょう、じゃない。勝ち誇るな鬱陶しい。

 あとこいつ私達より先にしらす丼を味わっていたようで、散歩は腹ごなしを兼ねていた。おのれメフィラス。

 

 メフィラスの口から語られるのは、これまでの計画だ。

 パゴスからは明確に生物兵器であることを示し、人類が手に負えなくなってくるタイミングで光の星の使者が降臨、更にマーカーを発見したザラブによって地球侵略を試みさせ、人類は外星人には敵わないと悟らせ絶望する土壌を育ませる。そして素直になった所に上位概念として君臨し、人類を星間協定においても合法的に管理有効活用する。誘導こそしているが直接手を汚さないなんとも悪質な手口である。

 ザラブ利用に関しては私が妨害した為半端に終わったが、引き換えに私の存在を、人類の上位存在として強調させつつ外星人との有益なコンタクト経験に繋げさせ計画の円滑化に利用した。おのれメフィラス。

 

 ウルトラマンが人類と融合した事でベーターシステムとの相性も抜群だと理解したのだろう。そして巨大化実験により、人類の全てが生物兵器として極めて優秀だと証明されたわけだ。なにせ60億を超えているからな。星間移動技術さえ確立すれば銀河支配も夢ではなくなる。宇宙基準において、寿命が80~100年程度はとても短いが、引き換えに約20年という極めて短い期間で成体となるし、繁殖可能期間も長い。……滅ぼした方がいいかもしれんなこの種族。怖い。

 

 ただメフィラス、計画を語りながら青銅製巨大座像を背景に自撮りをするな。その真っ黒な手帳を御朱印帳と主張する気か。そのメフィラスマークはなんだ。受付もにこやかに対応するな。

 あとウルトラマン、お前はお前で巨大草履ばかり見つめるな。交互に足元と見比べるな。なんだ履きたいのか。

 

 河岸を変えようと言いながら転移で別のお寺に行くんじゃない。人気歴史ドラマ番組の特集があるから足を運びたかったとか言うな、一人で行け巻き込むな。付き合おうじゃないだろウルトラマン。こいつの計画止めたいんじゃないのか。現生人類を深く知る為とか真顔で言ってるが絶対嘘だろ。鯉の餌を私に向かって投げるな。おかげで鳩塗れだ馬鹿野郎。

 

 ……終始このような具合で他にも色々あったのだが、ここではもう書くだけで疲れるので割愛する。

 

 夜になってから改めて会食となった。鎌倉ではなく、東京の居酒屋でだ。予約を取っていたらしい。つまり鎌倉での行脚は単にメフィラスの趣味だったのだろう。おのれメフィラス。

 

 提供される食事に舌鼓を打ちながらも、メフィラスは自身の優位性を説明し、遠回しな勝利宣言を通達してきた。光の星の掟は思ったよりも面倒臭いようだ。光の国と比較して大分融通が効かないように思える。本来の仕事を放棄して地球を死ぬまで守り通したウルトラマンやウルトラセブンという実例を知っているので余計にそう感じているのかもしれない。もっとも光の国は自主性を重んじ緩い分、罰則は厳しいようだが。

 

 一方ウルトラマンは、「自分は地球人と融合しており、それ故に光の星が定めた掟とは適用されない範疇が存在する」と法の抜け道を堂々と宣言。メフィラスの行動を実力阻止すると明言した。

 

 メフィラスはウルトラマンの行動と判断を称賛しながらも、打つ手はないだろうと余裕の態度だ。私はというとメフィラスがらっきょうを美味しそうに頬張っている様子を見て、別世界のメフィラスもらっきょうが好物である事実に衝撃を受けるばかりであった。

 

 ただ、立場だけは表明した。

 

「この星の未来が人類と文明の滅亡でないならば、どちらが勝とうが問題はない。管理独占も、自立誘導も、原生人類にとって利がある。お前たちの敵にも味方にもなる気はない」

 

 飾った言葉だが、要するに「巻き込むな」が本音だ。別にこの地球が滅んだところで別の宇宙には美しい地球が変わらずあるだろう。闇で包もうが焼却しようが銀河ハイウェイの建設工事で爆破しようが知った事ではない。だが滅ぶならばこのザラブの手でm

<<(◎)>>

ん? 

<<(◎)>>

 違うんですグリムド様申し訳ございません今のはザラブの本能思考が疼いただけであって決して関わった星が滅ぶ様に愉悦を抱いているわけではございませんウルトラマンとメフィラスと板挟みにされてストレスを蓄積したが故の戯言でございます皇帝陛下の意向を無碍になど決して致しませんどうかご厚情の程を願います……

 

 

 

 ……危なかった。オムニバーシアンとしての立場と意識を失念してはならない。クール星人のような末路はごめんだ。死ぬにしても断固お断りな死に方というものがこの世にはある。

 静観中立を宣言したが、予定変更。介入しなくてはならない。しかし、どう介入する? というか救援はよこさないくせにグリムド様による監視は働いているのだな。逆に言えば完全な断絶は発生しない保証にもなっているのだが。

 

 いかん、日誌に混乱した思考が流れ込んでいる。落ち着いて整理しよう。

 時間猶予はほぼ無い。今頃ウルトラマンは実力行使の為なんらかの策を練っている事だろう。それに便乗する選択肢を検討……厳しいな。ウルトラマン視点、私はただの不確定要素だ。前言撤回からの共闘は悪手だろう。

 

 では協定成立の妨害行為はどうだろうか。これも中々難しい。別に原生人類からの信用を失ったところで何も痛手にはならないのだが、せっかく同胞の悪事を潰して得た信用を無碍に捨てるのは、名残惜しいものがある。なにより地球の未来において、これは悪しき教訓となり外星人の全てを敵視する思想へ繋がりかねない。つまりオムニバーシアン的にアウト判定をもらう恐れがある。

 

 ウルトラマンとメフィラスが戦闘した際に介入。両方から殴られる事間違いなしだが、水を差す事で強引に戦闘を終了させる。静観中立の宣言故の介入となるような理由を捏造するか。

 

 ……ウルトラマンの出方次第だな。今はゆっくり待つとしよう。

 

 

追記:グリムド様の件ですっかり書き忘れていたが、一番飲み食いしてたくせにあのらっきょう野郎堂々と3等分の割り勘を主張して通しやがった。おのれメフィラス。

 

 

2020年11月14日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 まずは書かせてほしい。流石は一流工作員、ザラブ。

 私はやはり優秀だ。私はやはり精鋭だ。成果を認識した後の自画自賛は甘美なものだ。

 

 メフィラスと日本政府の条約締結、その会場に私ザラブも出席した。メフィラスからすれば拒絶するどころか「他の外星人も歓迎する友好条約」というアピールに使えるとばかりに歓迎していた。私が妨害に走る事の無為を理解していた故だろう。正直グリムド様の圧がなければその通りであった。

 

 締結までの流れは粛々と進み、列席者の拍手でもって受け入れられた。メフィラスがプランクブレーンよりベーターボックスを会場へ出現させた直後、同空間よりウルトラマンの手が出現。ベーターボックスを鷲掴みにして登場した。高次別空間をよくもまぁ自由に探索したものだ。十八番を奪われたに等しいイカルス星人には同情しよう。

 

 メフィラス曰く、浅見分析官の匂いがベーターボックスに残っており、それを探索に使われたらしい。言うは易しの典型例と思うのだが、ウルトラマンもメフィラスも規格外な連中だ。

 

 ベーターボックスは軍用ヘリを拝借した禍特対に投げ渡され、あくまでも決めるのは原生人類という星間協定の隙をついた対応。流石のメフィラスもこれには不快感を隠せぬ様子であり、中々に痛快であった。

 

 案の定、そこからはウルトラマンとメフィラスの戦いである。

 

 メフィラスの目がウルトラマンにのみ向けられた千載一遇の好機であった。

 混乱する人々を差し置いて、私は総理大臣に近付き一言告げる。

 

「総理、貴方には今できる事があるのではないか」

「な、何がだ!?」

「ウルトラマンもメフィラスも実力者だ。余波で傷つくのはこの国土。そしてどちらが勝とうがそれは彼ら視点の勝利でしかない」

「……」

「さて、来賓に頭を下げるぐらい、貴方は苦でもないのでは? それで外交勝利を勝ち取るならば安いものでしょう」

 

 これだけで彼も、彼の背後にいる政治家や官僚も理解したようで唇を引き締めている。わずか数秒の沈黙には、様々な検討と案が浮かんでいる事が伺えた。官邸暮らしとなった事は、図らずも彼等の知性と性格を把握する事に繋がったので、何が活かされるかわからないものだ。

 彼らは無能ではない。大国の顔色を窺うしかない弱小国の面をしながら貪欲に経済の牙で食い込み、両得か両損の2択を迫らせる狸国家だ。メフィラスとの条約締結にしても、他の大国達が妨害も介入もできていないのだから。

 

「……対価は何かね」

「総理!」

 

 この返答の速さと無駄な装飾を省いた言い回しには大変好感が持てた。

 事は急を要するのだから当然とはいえ、確認の手間を省く危険性を政治で痛感している政治家が、外星人相手にそれを為す。たいしたものだと感心した。

 わざとらしく小刻みに体を震わせ、笑っているとアピールしてからこう告げた。

 

「実は私、潜伏中は関東圏しか渡り歩いていなかったのですよ。他の地方に根付く文化……現地の美味……他の外星人が羨む限りの体験を提供してほしい」

 

 快諾の返答を貰ったのは言うまでもない。

 

 

 巨大化した私が到着した時には丁度ウルトラマンの八つ裂き光輪がメフィラスの手で弾かれたところだった。派手に転がった光輪が工場をズタズタにしていくのを見て呆れるより恐怖が先に立った事を記載しておく。私の肉体では防ぐことすら叶わない攻撃だったからだ。ベムスターも両断されて終わるだろう。ウルトラマンもメフィラスもおかしい戦闘力を有している。

 工場地帯に損害が出てしまったことで余波の被害を防げなかったわけだが、この時点での介入なのだから、最低限に抑えたと自認している。

 

「そこまでにしておけ。ウルトラマン、メフィラス」

「ザラブか」

「おや、中立だったのではないですか」

「中立だとも。どちらにも肩入れする気はない。だが君達が争っている場所は日本という国だ。その日本の全権代理者たる政府から『2者の戦闘停止』を依頼される分には中立に反しない。よって私が到着した現時点より、先に攻撃を仕掛けた方へ私は攻撃すると宣言させてもらう」

 

『先に手を出した方が悪い』というのは、人間社会における重要なルール。八つ裂き光輪ぶっ放したウルトラマンが先手と解釈していいのだが、こういったものは宣言時点より遡及されないものだ。メフィラスに悪用されないように現時点と明言することで牽制を強める。

 必然、2人は戦闘行為を終了せざるを得ない。例え私が戦闘力という意味で大して脅威でないにしても、私がベムスターを有している以上は数の差は3VS1が成立する(ガンQもいるので正確には4VS1)。ウルトラマンであってもメフィラスであっても避けたい構図だ。

 暴力による抑止力の体現と言えるだろう。こうして書いている今も流石ザラブだと自賛の高揚が止まらない。

 

 ただ正直、これはウルトラマンやメフィラスが相手だったから成り立った策だ。実力があり、理性的であり、対話が可能であるものでなければならない。どれか1つが欠けても抑止としては心もとないのだ。現実は侵略宇宙人塗れだからな。

 

「それで? この状態を維持する事で何がしたいか答えてもらおうかザラブ」

「今一度話合ったらどうだ。先日の飲み会と違い、状況は変わった。どちらかが消える事が手っ取り早い解決手段なのはわかるが、それによって国土を荒されることをこの国は良しとしない」

 

 状況が変わった、という部分に関して少し書いておこう。

 この日誌を読む者の中には疑問を持つ者もいるだろうからな。

 

 ウルトラマンは『現時点で人類にベーターシステムは早すぎる』という立場を日本政府側に行動で表明した。つまり、ベーターボックスを手中に収めた時点でウルトラマンと敵対する危険性を彼等は意識せざるを得ない。同時に禍特対にベーターボックスを投げ渡した事でウルトラマンと禍特対には友好的交流があると推察可能。

 さてここで問題だ。この情報を入手した他国はどのような情報工作を行うだろうか。

 ウルトラマンの信用失墜は私ザラブが防いだ以上、民衆は無責任にウルトラマンを怪獣退治のヒーローとして扱っている。そのウルトラマンがベーターボックスに反対の立場……実に工作しがいがある厄ネタだ。

 

 メフィラスはというと『条約締結は為されている』事が強みだが、肝心要のベーターボックスの市場価値が、リスク増大という嫌な部分で下落してしまった。無論情報操作は全力を出すことだろうが、ここで私ザラブがネックとなる。電子情報操作に関して言えば同レベルの外星人がいるのだ。『メフィラスが工作しているところを発見した』などと動かれるリスクは常に存在する。

 トドメに日本政府は『この国が荒らされるのは嫌だ』と私に戦闘停止を依頼した。それは、今後ベーターボックスの扱いが変わってしまう可能性が高いことを意味する。日本がベーターボックスを主導し利用するから『上位概念メフィラスによる地球支配』が表向き平和に進むのであって、及び腰になって他国の介入に経済利益を強く意識するであろう現状では最悪地球そのものの資産価値を落とす結末……世界大戦が視野に入ってしまう事だろう。他国が主導ではうまくいかないと結論付けたから日本を選んだのだから、まったくもって望ましくない状態だ。

 

 結局ウルトラマンさえ倒してしまえばメフィラスの問題はだいたい解決するのだが、それを私が通せんぼしている。実に良い報復行為でコーヒーが美味い。

 

 メフィラスは10秒ほど沈黙を保ち、熟考の様子を見せた。

 ウルトラマンは静かに気を静めつつも禍特対のヘリを気にしているようだった。

 

「……ベーターボックスをあの場で堂々と奪われた時点でこうなる結末でしたか。わかった、ウルトラマン。君の言う通りにしよう」

 

 メフィラスは渋々とだが、ベーターボックスを回収し地球を去る事となった。

 まぁ去った振りして地球行脚を再開する気しかしないが。

 

 あっさりと返却は済まされ、メフィラスはテレポートによって姿を消した。

 ウルトラマンは禍特対のヘリが着陸後に消失。私も合わせて縮小化して政府首脳陣と合流した。

 

 ベーターボックス受領は成らずに終わったが、総理の顔には安堵も伺えたのでこれで良かったのだろう。というか周囲に対して私との友好が示された事を強調していた。最終的に利潤を確保するとはやってくれたものである。

 

 私も日本全土を堂々と行脚し堪能できる機会を得たのは上々と言えるだろう。やはり私は優秀な一流工作員だ。

 ざまぁみろメフィラス。これがザラブだ!! 

 

 

 

 

¢月PP日(2020年11月16日 地球:日本 所在地天候:晴れ)

 

 どうほうはやくたすけにきてください。そらが、そらが! 

 

 




次回 ザラブ日誌最終回「さらばザラブ」

日記形式徹底すると別視点による補完描写が難しくなるなぁ。禍特対側とかメフィラス側とかもあとがき補完以外で書いた方がわかりやすいのですが、もうゼットンまで迫っている中で一度決めた形式をブレさせるのも良くないのでこのままいきます。

・巨大化浅見分析官の調査
本作では神永が正体暴露した上で禍特対によって情報保護されている為、実は禍特対内部では浅見がベーターシステムによる巨大化ということは早々に分かっている。神永はシステム原理に関しては情報開示ができない旨を(本人なりに)丁寧に説明したが、本編観た人には周知の通り彼は言い回しに難のある人物。滝とひと悶着あったりする(ならこっちで勝手に暴いてやる!と躍起になって調べだした。神永は自力解析できるならそれはそれで喜ばしいと微笑みを浮かべたが、挑発と解釈され余計ムキになった模様)。

・鎌倉行脚する外星人3名。
ただの怪獣散歩。メフィラスがやたら優位なのもお約束。ボケに走る天然リピアーもお約束(二次創作)。普段はツッコミ側に廻るのがシンメフィラスだが、ザラブがいたせいで2人そろってボケに走った。
ただしザラブが意図的に日誌に残さなかったやり取りもある。こいつはこいつで鎌倉行脚を楽しんでいた。

「大吉が引けるまで何度も御御籤を引くとは……ザラブ、無粋という言葉を学んでいないのですか」
「君の行いは負け惜しみに等しい。速やかに結果を受け入れる事を推奨する」
「黙れ、繰り返してでも望む結果を掴めば勝ちだ。どうせお前ら念力と透視を使っていただろう」
「やれやれ、それこそ無粋の極みというもの。運気を楽しみ、結果を楽しみ、余裕を持って対応していくことが御御籤の醍醐味でしょう。目的の為なら手段を選ばない、私の苦手な言葉です」
「……」
「……ウルトラマン?」
「おい、目を逸らしたぞこいつ」


・グリムド様、監視中
宿であるトレギアへの反逆行為ならまだしも野心の発露程度であれば普段は些事と流すが、今回のザラブは遭難したオムニバーシアンなのでその分だけ『注視』していた。その為、ラインに触れた時点で警告。本人的には「日誌とはいえジョークでも書いたらいけないと思うなー」程度の注意。

・ザラブによる停戦工作
日本政府の依頼という言質を引き出すチャンスをずっと伺ってた。
解釈をほぼ委ねるような短い言葉には驚いていたりする。ちなみに、事件後に禍特対はちゃっかりヘリに紛れた神永共々拘束されたが、その日の内に問題なく開放されている。日本政府の面子はザラブへの停戦依頼を用いて保たれたのと、ザラブ本人がウルトラマンに隔意を抱かれてはたまらないと、彼等の安全と開放に口添えしていた為。ただ、少なくともウルトラマンとコンタクトを取っている事が露見した件もフォロー(情報操作に全面協力)していたりする。無論、日誌に残してはいない。浮かれて書き損じたとも言う。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

外伝:ザラブの日誌5(前編)

長すぎたので分割しました。
後編は1時間後投稿です。


 

2020年11月17日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 動揺に絶望と狂乱のブレンドソースを振り撒いたような状態でザラブとしてあるまじき醜態を晒してしまった。

 あれほど控えるように言われておきながらも、オムニバーシアンの掲示板にて錯乱しながら救援要請を繰り返した事は努めて忘れたい所業だ。もっとも、そのおかげで同胞達も緊急性を理解してくれた為、優先度を高めてくれた。レイブラッド星人リスクこそあるが、間に合わないとみた場合はリスクを承知の上で即時回収が決定されたようだ。

 

 そう、即時回収だ。

 

 あの衛星軌道に浮かぶゼットンを倒す手段が極めて限られるのである。

 

 まずは時系列から語る必要がある。

 メフィラスが表向き撤退して数日後、衛星軌道にどうみてもゼットンそっくりな超巨大物体が出現した。

 地上からだと月より巨大なサイズで観測できるほどであり、当然ながら国はパニックに陥った。

 

 私もパニックに陥った。知る由がなかったからだ。

 其の為、恥も外聞も投げ捨ててウルトラマンへ問い質しに移動して真実を知り発狂したのが昨日の顛末だ。

 

 

 

 天体制圧用最終兵器ゼットン。

 

 

 

 ウルトラマンにより得た情報により判明した名称。この世界におけるゼットンとは、なんと恐ろしいことに光の星が持つ究極の兵器だったのだ。

 

 デラシオン*1が持つという究極の対惑星兵器ギガエンドラ*2を彷彿とさせるが、危険指数はかの兵器を上回る。

 推定全長6000m級という超弩級巨体より放出される1兆度の火球は、その規模とエネルギー量も破格であり、惑星どころか星系ごと蒸発させ数百光年先まで影響を与え滅ぼすというのだ。もはや日誌を読む者が存在できるのかすらわからなくなってしまったが、私が無事に生存し日誌を残すことができた前提で語るならば、読者諸君は私が発狂するのも理解してくれたと思う。

 

 これだけの火力を放つのだから使い捨て兵器かと思いきや、超高熱対応の専用シールドを有しており、再利用が前提となっているのだと言う。全くもって冗談ではない。私のよく知る光の国が光の星ではないことを深く感謝したい。

 

 わかりやすさも投げ捨てた乱雑な書き方となっている自覚はあるが、上述した通り、このゼットンを倒す手段は限られている。理論上はグリムド様の力を持ってすれば機能停止に追い込むことは不可能ではないのだが、この宇宙の性質上、【グリムド級が太陽系に出現すると光の星が本気を出す】危険性が極めて高い。

 あのゼットンが光の星が有する最高戦力なわけがないからだ。地球を滅却するにあたり、適切な兵器があれだったというだけのはずだ。最大限楽観視してあれが最高戦力だとしても、唯一無二であるはずがない。必要数製造されている事は確定事項だろう。兵器とはそういうものだからだ。

 

 介入がただの一時凌ぎにしかならないどころか大規模戦争の切掛となってはたまらない。何より相手は宇宙の番人であるという態度を隠さない姿勢だ。オムニバーシアンが組織ごと悪とされた時、乗り込んでくるリスクすらある。よって直接介入は断念し、滅亡直前に私を回収する方針となったわけだ。

 

 皇帝陛下曰く、【この手のシナリオは最終的に何とかなる。ウルトラマンと人類を信じろ】との事だが……ガタノゾーアの時と違い、希望の光が仕事するとも思えないので正直信じていない。

 

 

2020年11月18日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 

 ほらみろやっぱり駄目じゃないか。

 

 

 

 

 

 追記

 

 流石にこの一言で済ませるわけにはいかなくなったので意識を改めるためにも今日あった事を綴ろう。

 

 

 ウルトラマンが敗北した。

 

 

 馬鹿正直に突撃して返り討ちにあった。監視衛星による映像記録を見るともう絶望しか感じない程ゼットンが強い。最終的に撃ち落とされたウルトラマンは衛星軌道から海へ落下、落下途中に変身も解けたそうだがよく死ななかったものだ。迅速な回収を成した禍特対も驚いた事だろう。ただその際に正体が政府側にも露見したようで騒動になった。

 

 今更抹殺計画を稼働する愚か者はいなかったが、やれ説明責任だの情報封鎖だの騒ぐ様は現実逃避のそれであり、呆れて現実を突きつけた私に非はあるまい。

 

「今更禍特対の責任が何だというのか。ウルトラマンが敗北したという事は地球はアレにより太陽系ごと消滅するのだぞ」

 

 この言葉を前に静まり返った首相官邸の重苦しさときたら、まるで……いや、文字通り世界の終わりを悟ったものだった。

 沈痛な面持ちを次々浮かべ、崩れ落ちる者すら現れる。こういう空気にしたかったわけではないが、この時の私も自棄であったと今では思う。

 なにせウルトラマンが負けたのだ。一報を耳にした瞬間、もうだめだおしまいだと膝をついてしまった程だった。本日冒頭の一文はその時のものである。

 

 そんな誰も彼も絶望の渦に呑まれていった中、茫然とした表情から僅かに自我を取り戻した男が私に問いかけてきた。

 

「ザラブ、貴方はどうする」

 

 声の主はこの国の総理大臣だ。

 何かしら縋るように感じた私は、もしかして私なら対応策があるのではと微かな希望を抱いたのではないかと推察した。

 回収が間に合うかもわからない以上、嘘をつくこともない私はある程度正直に話すことを決めた。

 それで総理の希望が消し飛ぶだろうと確信していながらだ。

 

「上空に浮かぶアレを認識した直後、私が無様に錯乱する様を君たちも見たはずだ。禍特対にいたウルトラマンからアレの実態を把握した後、発狂しながらのたうち回る棘皮動物と化していたことも。私はアレに対して有効打を一切持っていない。である以上逃げるしかないが、通常の逃走ではもはや間に合うことはない。別次元に逃亡でもしなければあの火球から逃れる事は私にもできない……これが間に合わなければ、君達と運命を共にするだけだ」

 

 逃亡方針を咎める者はいなかった。感情的になり責め立てられてもおかしくないと認識した上で話したにもかかわらずだ。

 冷静だったのではなく、絶望の上塗りを受けたことによる諦観の支配だった。一部官僚は静かに啜り泣く程だったが、私に縋った当人であるはずの総理は違った。

 青ざめながらも、じっと私の目を見つめてきたのだ。

 

「……頼みがある」

「何か」

「もし貴方だけでも生き延びる手段があるならば、この宇宙に私達がいた事実を残して欲しい」

 

 この瞬間に私が覚えた空白は、オムニバーシアンとして蘇生したそれに匹敵しただろう。

 絶望からの結論だというのに、総理の言葉は力強いものがあった。

 

「……わかった。私が生き延び、君達が滅んだ際は貴方達が繁栄していた事実をこの宇宙全域に刻むと約束する」

 

 つくづくこの時の私はどうかしている。

 地球人に予想を裏切られ、屈辱ではなく感銘を受けていたのだ。

 総理の願いに対し、熱を帯びたように力強く誓った私は、今、この地球の歴史と文化情報を集めつつ、同時に同胞達へ事態の解決案を募っている。

 日記を綴る傍らで、上空のアレを打ち倒す手段を必死に模索検討している。今の私もどうかしているな。無限に等しい平行世界が存在すると知っているなら、彼等にここまでの価値を抱くなど間違っている。

 

 だが、それでも死なせたくないと思ってしまったのだ。このザラブが、他星人を。

 私はザラブだ。約束など守ってやるものか。私が誓ったのは約束ではない。約束を全力で反故にしてやるべく、あのゼットンを倒す。それを誓ったのだ。

 

 私の持つザラブとしての知識、オムニバーシアンとしての知識。この地球が有する知識。そして私と地球が有する戦力。

 それで勝てる可能性を導き出すのだ。

 

 

2020年11月19日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 

 同胞達に「お前本当にザラブ?」等と掲示板で心配されながらも私がゼットン討伐法を導き出そうと苦心している頃、地球人も諦めない者が現れたようだ。

 

 ウルトラマンはいい性格をしている。

 単身では敵わないとわかった上で、突撃。その直前に地球で信頼する仲間……禍特対にメッセージとベーターシステムや高次元領域の情報を託していたのだ。

 どのようなメッセージが書かれていたのか記すのは無粋というものだろう。だが人類は奮起した。

 戦闘記録とベーターシステムの情報から必死にゼットンを倒す手段を模索している。

 

 奮起したからかは知らないが、私の決意も悟られたようだ。

 コーヒーを啜りながら、ベムスターやガンQの生体情報とにらみ合いをしていると、誰からの指示なのか各国代表が地球の戦力情報を積極的に開示してきた。

「助かった後のことを少しは考えて行動しろ」と呆れつつも有難く受け取った。

 

 ウルトラマンは地球の即時使用可能な熱核兵器(TNT換算で200万キロトン)ではとても足りないと切って捨てたらしいが、それはあくまで公表された兵器群。なるほどなるほど。非公開兵器などない方がおかしいというものだ。

 例えば表向き世界最強の水爆とされるツァーリ・ボンバなる熱核兵器が誕生したのが1961年……理論上は100メガトン(10万キロトン)までいけるそうだが、50メガトンに抑えたとある。

 1961年。60年近くも前の話ではないか。今の私ならば理解できるぞ。60年もあれば地球人は悍ましい程の発展を遂げる事を。理論上可能ならばで秘密裏に試作された熱核兵器があることは資料を確認するまでもない。加えて言えば『万が一にも日本以外で禍威獣が出現した時の即応手段』『日本が滅亡危機に陥った時の即応手段』『外星人1号討伐決定時の即応手段』などと言った事情により稼働待機にある兵器群は平時よりもずっと多いようだ。

 

 この情報を元に計算すれば、要求される最低限の火力は得られるかもしれない。

 ただ、その為には私は勿論、ベムスターもガンQも死亡する可能性が極めて高いのだが。

 ……死にたいわけではないので他の手段も検討しよう。

 

 

2020年11月20日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 総理に伝達し、地球のあらゆる軍事基地が鳴動した。

 ヘロディアが仕上げた計算式に合わせて動いてくれている事だろう。後は作戦実行の合図と共に動くだけとなった。

 

 今回、私が想定している攻略法が理論上可能であるかどうか、実行に当たって必要な計算は同胞達(主にヘロディア)が行ってくれた。

 結論として、やはり私達が爆散する可能性が極めて高いが、実行はできるようだ。懸念事項としてはそれでもゼットンのバリアを破れるのかというもの。再利用前提の対超高熱バリアは対象惑星に1兆度の火球が直撃した際の放射エネルギーを想定されたものと仮定するならば、想定より上回った時点で突破不可能だと言う。ウルトラマンの八つ裂き光輪同時攻撃を受けてから反撃してた点とその瞬間の映像解析から、物理障壁としての方が脆い可能性が高いとのことだ。そしてこれ以外の方法は残念ながら見つける事は叶わなかった。

 

 私の攻略法とはなんなのか。結論から言えば『特攻』だ。

 ゼットンのバリアはあらゆる熱と光を無効化する絶対防御だが、性質がバリアである事に変わりはない。

 そして完璧であるが故に綻び1つで瓦解する可能性は高い。

 ならば、私が砲弾となり突撃、衝撃に合わせてバリアの分解を行い、そこに一点集中した超火力を当てる。これしかないと結論付けた。

 

 無論、地球の総火力をただぶつけるだけでは意味がない。無駄なく凝縮し、上述した通り『一点集中』させる必要がある。

 そこでベムスターに地球の総攻撃を全て吸収してもらい、ガンQの目より私目掛けて照射する。これにより爆風などで広がるエネルギーも放射能も全て一方向に注がれるので無駄な被害も生じない。

 

 問題点はいくつかある。まず次々と爆発されてもベムスターが間違いなく耐えられない。その為、全弾吸引直後に同時爆破してもらうしかない。緻密な計算力を要する。

 計算力の問題は爆破タイミングだけではない。ガンQの視線射角と私の一撃に僅かなズレも許されないからだ。地球人は今ベーターシステムの活用法とゼットン攻略法に力を傾けているが、その計算の一助として秘匿スパコンの使用許可があった。それでも不足していた分はヘロディアに委ねた。

 

 次に実弾時点でベムスターが飽和する恐れだが、少なくとも数万トンであれば問題なく吸収し昼寝できる余裕はある。ロシアのICBMは発射重量208トンだそうだが、これなら150本は余裕で飲み込める。ツァーリ・ボンバ級を弾頭に乗せる専用ミサイルがベムスターに届いてくれるかどうかだけが不安なところだが。

 

 最後はぶっつけ本番になる事だ。衛星が視認したウルトラマンの戦闘記録を見る限りでは、ゼットンの反撃に移るまでは相応の時間を有するので、攻撃までの余裕はある。だが私がいけるのか。一流工作員ではあっても一流の戦闘員ではない。ヒトデが岩にしがみつく(鬼胎を抱く)*3思いだ。

 

 だがもはや猶予はない。ゼットンがチャージを完了するまでおそらく残り数時間だろう。私の作戦は、火球が発生してからでは遅いのだ。火球生成中に破壊することでエネルギーが拡散すれば、結果は同じ。

 ウルトラマンはまだ目を覚まさない。やるしかないのだ、私が。

 

 この日記は、ゼットンを倒したとして無事に済むのだろうか。

 これは私の生きた証だ。地球が残り、私が滅ぶ可能性を考え、ここに置いていくべきかもしれない。

 

 ……つまらん死亡フラグだ。やはり持っていこう。

 

 作戦実行の合図を伝達した。

 

 勝負だ、ゼットン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………ああ、畜生。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【後編へ続く】

*1
(コスモス時空の宇宙において宇宙正義そのものを司る超存在。高精度の未来予測が可能な演算能力も有しており、その予測と現地調査の2つを合わせ、宇宙を危険にさらすと認定した存在を文字通り滅却する)

*2
(ファイナルリセッターの異名を有する究極兵器。全長1600mの円盤兵器だが、そのサイズで宇宙の害なる存在を滅却する使命を十全に果たす機能を持つ。1000万度の超プラズマ火球がメインウェポン。防御性能も、少なくとも小惑星を破壊する程度の火力ではびくともしない)

*3
ザラブ慣用句





・グリムド達は介入できない
メタ的に言えば、そんな展開が許されるならシンウルトラマン世界に降り立つのはオレギアである。それでも可能な限り協力している。あれだけ恐慌状態だったザラブが急にやる気全開でゼットン倒そうとしてる事に皆ちょっと困惑。

・株があがりまくる総理
ザラブはオムニバーシアンですが、ザラブ星人でもあります。
彼の心を動かす地球人が必要で、シンウルトラマンの登場人物から選定することになりました。
ザラブの状況から当てはめていくと、この総理しかいないなと。原作描写的に有能かと言われると解釈別れるでしょうが、ザラブがいた分、人間としての強さが光ったと思ってください。

・ザラブのゼットン攻略法
ベムQコンビだからこそ理論上実行できる、あらゆるエネルギーをかき集めての超圧縮ビーム。日本側が未把握の秘匿熱核兵器や新兵器含む、TNT換算で合計300万キロトンのエネルギーをベムスターの体内で起爆し、ガンQの目から照射。当然ながら反動でベムスターもガンQも爆散不可避。
それだけでは「効果はないようだ……」ですが、ザラブが肉体砲弾と化して物理とザラブの科学力全開で分解を試みることで罅を作り、貫通成功率を高める作戦でした。必然的にザラブ自らが照射ポイントになっているのもあり、彼は死を覚悟しています。あれだけ生存を願ってたくせに何やってんだこいつとも思いますが、隕石受け止めて死ぬようなキャラへ成長したのでしょうがない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

外伝:ザラブの日誌5(後編)



そんなに人間の事が好きじゃなくても、地球を守る意地ぐらいははれる。



 

『Auto Start Recording』

 

「地球の終焉に抗った者、ザラブよ。目を開きなさい。貴方の生命維持は保障されている」

「……貴様は」

「私の名はゾーフィ。光の星より地球へ訪れた監視者であり裁定者だ」

「何故助けた」

「私の裁定は地球の原生人類を地球ごと滅却するものであり、ウルトラマンやその他外星人の死を含むものではない。手の届く範疇に限るが、救助は行う」

「星系ごと滅ぼす割には寛容なことだ……地球はどうなった」

「ゼットンは発射体勢に入り、まもなく実行されるところだが……驚くべきことに地球人は諦めていない。君が失敗した時点で今度こそ人類は終末を受け入れると認識していた」

「当然だ。もとより私の移した行動など、地球人にとっては降って湧いたサブプランにすぎない。ウルトラマンが残したベーターシステムの基礎原理と高次元領域の関係式、その最大限の活用こそが彼等の本命だろう」

「サブプランか。私はあれを最後の抵抗と判断していた」

「馬鹿め、注視する相手を間違えたな。いや、人類の数を把握しながら見誤っている。本命策に積み上げた叡智の全てを注ぎながらも、私の策に乗る人類が実行分いる程の数なのだ」

 

 

「君の電磁光波防壁攻略は見事なものだった。成功していれば、ゼットンを倒せていた可能性は否定できない。敗因は君の突撃時点でゼットンが脅威と見做し、迎撃行動を取った事だろう。君はそれでも四肢を犠牲に防壁へ衝突したが、それは予定ポイントを大きくずれていた。加えて、ゼットンの迎撃により君の攻撃射出用禍威獣も被弾。君の攻撃と禍威獣の攻撃が重なることはなく、防壁は健在に終わった」

「……」

「不満か、ザラブ。君の献身は実を結ばなかったが、結果として君だけは生存している。君の策が成功するという事は、君は命を失っていた事を意味する」

「不満と言えば不満だ。らしくない真似をしたのだから、上手くいくはずもなかったが」

「らしくないのか。それはそうだろう。君のこれまでの動向は調べている。今回の行動は、過去の行動と著しく離れたものだ」

「先程から鬱陶しいな。裁定者を名乗る者が饒舌を止めないのは何故だ。何を興奮している」

「……なるほど、確かに私は高揚している。理由を求めるならば語ろう。それは君が何処かの平行宇宙より訪れたザラブである事、君はあれ程に生と安寧を渇望する姿を見せていたにも関わらずに死を前提とする策を自ら実行した事。私は認識した未知に興味を抱いている。君の宇宙では、皆がそうなのか。それとも君だけがそのような特異性なのか」

「あー……そうか。別宇宙のザラブであることを意識して隠したわけではなかったが」

「私の抱く疑問に答えてくれることを期待している」

「救助された事実を無碍にする程、私は優秀なザラブ星人ではない。答えよう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「やはり発つか、ウルトラマン」

「君がそうであるように、ウルトラマンもまたそうだというのか。地球人が出した結論を実行するのか、ウルトラマン」

「……」

「……」

「ハ」

「……」

「ハハハハハハハハ!! 本当になんとかするとはな!! 高次元領域への接続などつい先日知ったばかりの自称知的生命体が!! 精製された1兆度の火球ごと解決してしまうとは!! 陛下は正しかった! なんとかなるものだ!!」

「…………」

「どうした裁定者! 地球人とウルトラマンは結果を示したぞ! 後は……あれ?」

「…………」

「え、ウルトラマン……? え、次元吸引からウルトラマンなら逃げ切れると思っていたのだが……え」

「……彼はプランクブレーンに飲まれただけだ。平行宇宙へ排出される前に見つけさえすれば救助は可能だ」

「可能なのか?」

「生存を強く希望する彼の信号を受信している、可能だ。君は安堵しているのか」

「……やめてくれ、自己嫌悪の頭痛が酷くなる。もう俺はザラブを名乗れんかもしれん

 

 

『Stop recording』

 

 

 

2020年11月22日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 決死の覚悟で臨んだゼットンに私は敗北した。

 

 ゼットンの防衛システムが停止するのは火球発射体勢に入ってからであり、それまでは健在だ。ウルトラマンの攻撃を呑気に受け止めていた点から甘く見ていた結果、私が吶喊するタイミングで防衛システムが稼働。私もガンQも打ち据えられ、半死半生。それでも無理に実行したが、結局ポイントが重ならずバリア(電磁光波防壁と言うようだ)の破壊に失敗。地球人が即応できる全ての熱核兵器諸共ベムスターとガンQは消滅した。私も死を免れないと思っていたが、光の星の裁定者たるゾーフィ(ゾフィーと名称こそ似ているが姿も性格も違っていた。体表のカラーリングはどちらかと言えばウルトラマンシャドーに近い)により救出された。

 粛清対象はあくまで『地球(星系ごと)』という、慈悲の面した傲慢さには反吐が出たが、助かった事実は事実だ。

 これで地球が消滅していれば無念の極みであったが、結局、地球人が導き出したゼットンを倒す計算式をウルトラマンが実行することでゼットンは倒された。ゾーフィの隣で歓喜の声をあげた事は恥じるばかりである。

 

 地球が救われた代償として、ウルトラマンはゼットンを崩壊吸収したプランクブレーンの穴に引きずり込まれて消えてしまったが、これもゾーフィが救出。

 彼の前でゼットンを倒したウルトラマン、そして地球人の勇気と知恵と生命力に敬意を表し、粛清判断の撤回を宣言した。ウルトラマンも、私も安堵の息が口から零れたものである。

 

 そう、何故かその場に私も同席していた。

 

 日記を書いている今になって思うが、あの場に私がいるのは文字通り場違いだろう。なんで巻き込んだゾーフィ。

 

 ゾーフィは地球粛清こそ撤回したが、光の星の掟を破ったウルトラマンの強制送還は譲らなかった。

 人類の生体兵器としての適性、そしてゼットンを倒した事実を宇宙中の知的生命体が把握したという意味を思えば「地球に残り、原生人類の生存を僅かでも高めたい」とするウルトラマンの献身は考慮されるべきであるし、粛清を撤回して滅びの運命は放置するのは半端だ。融通が利くのか利かないのかわからない男である。

 

 私はと言うと、ただ黙って静観していた。さらっと神永と同化した理由が彼と命を共有している(つまり神永の命を奪った)と知らされたことに意識を取られていたのが事実だ。

 

 ウルトラマンは、掟を破った己が裁かれる事が責任であり運命ならばと、己の命を神永に渡し、肉体を未来の人間に託す(おそらく、非常時に『ウルトラマン』となる人間が現れるのだろう。その時は帰ってきたウルトラマンとでも騒がれるに違いない)願いをゾーフィに主張。

 これにはゾーフィも驚愕を隠せておらず、私も溜まらず口を挟んだ。

 

「何故だ。この男の反応からすれば、君は光の星で裁かれるとしても生存は約束されているはずだ」

「私は彼に生き続けてほしい。それを願う相棒や仲間もいる。私はそれに応えたい」

 

 神永かウルトラマン、どちらかの命を諦めなければならない状況下。ゾーフィは感銘を受けた様に震え、ウルトラマンの願いを叶える事を約束する。

 死への覚悟と生への願望が同時に存在する心を有する生命が人間だと言うならば、このウルトラマンは人間となっているのだろう。

 

 だが私は見苦しくも、異を唱えた。抵抗し、彼等の決断を変えられないか説得を試みた。

 目の前で行われたやり取りを尊いものとして甘受することはできなかった。

 

 

 掟の超法規的措置──否定される。ゾーフィ曰く、ゼットンを倒した事実を持っての粛清撤回で既に同措置は取られており、ウルトラマンの掟破りは別問題だと言う。

 

 両方の生存こそ仲間の願いではないのかという主張──このような結末を想定し、ウルトラマンは予め神永と別人であることの開示は避けていた。気づかれる事が遅延するだけで良いと判断する自己犠牲っぷりであった。

 

 私の本拠地からの支援案──双方が納得できる支援を求めるのは極めて難しいことをあっさり看破された。怪獣リング化はまだしも、命の固形化技術など有してはいないし、現時点での介入理由は私個人の感傷でしかなかった。

 

 

 らしくない真似をした私が、ウルトラマンの決断に異を挟む資格などなかったのかもしれない。

 そう思った矢先、一つの天啓が浮かんだ。

 

「猶予期間。猶予期間は設けられないだろうか」

「「?」」

「執行猶予とまでは行かないが、僅かでも先延ばしにするぐらいは許されるべきだ。ウルトラマンが深く傷ついているならば、この提案も難しいものかもしれない。だがウルトラマンがまともに受けた傷などガボラの熱線やゼットンの攻撃、後は先の呑み込まれた衝撃ぐらいだろう。君たち一族の肉体であれば、時間が癒せる範疇ではないのか」

「ザラブ、君の意見を認めよう。もしウルトラマンがあのザラブやメフィラスと戦闘しスペシウム133を更に損耗していたならば、彼の選択は送還か死しかなかった」

「そうなのか、ゾーフィ」

 

 ゾーフィが想定以上に食いつき、前向きな反応をした事で光明が見えた。

 私はウルトラマンに地球での休息(最低1年間は変身しない)を伝え、同時に神永との将来的な分離を意識した行動を提案する。

 上手くいけば、命の分割といった形で分離できる。期間内にもし上手くいかなければ、その時こそウルトラマンの願い通りに神永へ命を渡し、肉体は有効活用する。

 以上の提案をゾーフィもウルトラマンも受け入れた。神永とより表層的な対話を望んでいたようで、分離共存を図る行動にも前向きに見受けられた。

 

 この瞬間の私は、やはり血迷っていたのだろう。何度血迷えば気が済むのか。ウルトラマンを救う道に必死になる様を思い返すたび己が心底恨めしい。しかもその結果、私は余計な柵を背負う事になったのだから。

 

「ザラブ。君の提案を飲む代わり、君にも責任を負ってもらうが良いか」

「話に割り込んだのは私だ。覚悟ならあるとも」

「では、君もこの地球を守ると良い。ウルトラマンの傷同様、君も傷ついている。しかしその傷が癒えた時、彼を助け、猶予期間を設けた価値を示す義務が君にはある」

「  」

 

 結論、感情によって動けばろくな目に合わない。ザラブの得難い教訓である。

 

 

 追記

 

 上記日誌を書いていた場所は官邸である。

 禍特対が神永の帰還(わざわざゾーフィが背負ってきた。彼等の前に寝かせた後は早々に姿を消している)を喜ぶ傍ら、私は官僚諸君から喜びと悲鳴を受けていてそのまま移送されたからだ。

 ゾーフィによる生命維持こそ施されたようだが、外見は片腕欠損、両脚は焼け爛れているのだから、瀕死にしか見えなかったのだろう。

 

 私の作戦失敗を詫び、彼等の作戦成功を祝った後、総理と面会した。

 多くを語ることはなかったが、唯一無事な片腕で彼と交わした握手は、不思議な感情と熱を私に与えるものだった。

 ウルトラマンの生存はどうでも良いが、この男との交流が途切れなかった事は私の努力に対する明確な報酬だろう。

 

 

2020年11月23日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 タイミングが良いのか悪いのか。

 オムニバースへの帰還が認められた。緊急避難の意味は失われたのでしばらく滞在を想定していただけに通知を受け取った際は間抜けな声が出たものである。

 どうやら私が帰還できなかった原因であるレイブラッド星人が別の暗躍に夢中だということも要因のようだ。

 彼からの察知を隠蔽する措置も完了した以上は、重傷を負い、ベムスター達を失った私が帰還しない理由はない。

 

 総理に、治療の為に本星へ帰る旨を伝達した。

 

 嬉しいことに、約定は正式な条約として文書に残し、再度来訪した際は正式に歓待してくれる旨を約束してくれた。

 治療が終わり次第、必ず来ることを此方も約束する。

 

 帰還直前に禍特対の面々と、ウルトラマン(今は神永の姿)とも面会する。

 

 ウルトラマンの口から、神永や自身の現状について語ったところ、班長からはとうに気づかれていたようだ。馬鹿め、死んでいたら全く遅延になっていなかった事が証明されたようなものじゃないか。

 

 また、試験的に神永の意識を表層へ浮かばせ、短時間だが上手くいった事も知らされた。彼は同化していた時の記憶は曖昧である一方、ウルトラマンが何を考え、何を託して死を受け入れようとしたか。そんな想いや願いは受け取っていたらしい。ゾーフィの予測通り、光の星へ帰還する結末でも喜んで受け入れるつもりだったようだ。互いに自己犠牲の塊とは恐れ入る。

 

 ……ただ、鎌倉行脚の事を本当に楽しんでいたと暴露されてもな。

 

 どうせなら、私が味わい尽くし、火の海になることを防いだ横須賀も楽しんでもらおうと、再訪時の約束を取り付けたが早まったかもしれない。ウルトラマンの事だから、山のようなハンバーガーを躊躇いなく注文して巻き込むぐらいの奇行はやる。

 

 

¢月+日 オムニバース住居エリアの天候:晴れ

 

 何事もなく帰還。拍子抜けも良い所だ。

 皇帝陛下より労いを受け、治療を受け、新たな怪獣リングを受け取る。

 随分と称賛されたが正直筋違いに思う。私は仕事をしたわけではない。ただ、巻き込まれ、潜伏生活の邪魔になったものを排斥していたら結果的にあのゼットンへ挑むことになっていただけだ。

 

 らしくない真似をした事については、同胞達から散々揶揄われると思っていたが、意外と気を遣われた。

 日記と共に残っていた映像資料が回収され、私の苦労と、あの宇宙のウルトラマンが見せた覚悟が少なからず響いたらしい。

 

 実際、こうして日記を記していて燻るものを自覚する。

 

 あのメフィラスが気に入り、暗躍した地球。あのウルトラマンが命を使い切る覚悟を決めるほどに■した地球。

 そしてこの私があそこまで意地を張った地球。

 

 ウルトラマンの懸念は当たっているだろう。ゾーフィはどうせ半端にしか動くまい。

 

 約束など守りたくもないが、私の意思が放置したくないと訴えている。

 

 

¢月-日 オムニバース住居エリアの天候:バリケーン

 

 あの地球への長期出張を申請した。

 

 

 

 

2021年7月10日 地球:日本 所在地天候:晴れ

 

 

 少々時間が経ち過ぎたとは思うが、間に合って良かった。

 新たな外星人も来ていないし、総理も任期中だ。実に運がいい。

 

 しばらくはザラブとして、らしくない真似を続けさせてくれ、地球人達よ。

 なに、この日誌が埋まる頃か、君たちの文化を味わい尽くす頃には飽きて帰ると約束しよう。

 だからいちいち歓声をあげるな地球人ども。ザラブ星人をなんだと思っているんだ。ウルトラマンもわざとらしく喜ぶな気持ちが悪い。なんでちゃっかりいるんだメフィラス。贖罪とか見え透いた嘘はやめろ。

 

 再訪初日から疲労を感じる羽目になったが、平和なだけマシと考え直す。外星人が襲来したら命懸けで私の安寧を守らねばならないからな。

 

 そうだ、いつか来たる外星人諸君らに向けての挨拶を考えなくては。

 

 日誌に候補を書き込んでおこう。ひとまずはこれでいくか。

 

 

 

 “ようこそ地球へ。母星語で兄弟を意味するこのザラブが君たちを案内しよう”

 

 

 

【外伝:ザラブの日誌 完】




日誌SSなのに最終話だからと1万字超えはやりすぎました。反省。分割部分が悪くて申し訳ない。
ともあれ5回に渡って書かれたオマケこと、日誌ザラブはこれで終了です。
シン地球を守り続けるエンドとなりました。
シンウルトラマンは安心して休養しながら天然かましだすし、ゾーフィはじっと監視してるし、シンメフィラスは茶化す機会を窺ってます。ザラブの胃壁が死ぬ時、東京は沈没する。

・ザラブ、作戦失敗
正直成功させたかったのですが、ゼットンが防衛システムをザラブ直撃迄稼働させないはやはり甘えかなぁと解釈して撃墜させました。片方潰せば破綻する作戦です。奇跡は起きなかったが執念は見せた。ベムスターとガンQに敬礼。

成功した場合、彼の身体は消し飛び、損傷した怪獣リングと奇跡的に無事だった日誌データがゾーフィに回収され、オムニバーシアンとコンタクトを取る形で救助される。しかしこのルートでは人類の勇気と知恵と生命力を示すには今一歩足りない恐れあり(多分オレギアが頑張って説得する)。

・ゾーフィ、ハイテンション
こいつ劇中でもこんなところある。掟に忠実だし、不気味さがあるが「確かに人間は面白い」など、感情を隠さない。日誌ザラブの事は当然調べあげており、彼の献身に好奇心が働いていた。

・リピアー生存
二次創作である以上、リピアー死亡の結末を覆したかったんですが(ザラブメフィラスリピアーの3馬鹿未来が良いと思って書き始めたので)、ご都合主義を展開するにしても最低限の説得力が必要です。
めちゃくちゃ苦労しました。ザラブの作戦成功して、遺言でリピアー生存希望だとあまり意味はないし(日誌ザラブそんな遺言残すキャラでもないし)、ゾーフィは掟に忠実なので覆しは難しい。ザラブに対する好奇心を理由にするには弱い。
しかし、日誌ザラブが介入した結果、ウルトラマンが受けたダメージ総量、摩耗総量が全然違う事に目をつけました。光の星に帰るべきとするのは掟以外にもウルトラマンが深く傷ついたからではないかと。このままでは死ぬからこそ、肉体と命を分離させ、その命を神永へ渡したために死亡したとするならば、掟を破った責任の履行を先延ばしにするぐらいなら可能ではないかと解釈しました。あくまで日誌ザラブからの提案ゆえに「光の星として、別宇宙の存在との外交取引にできた」と対外的な理屈をつけ、ゾーフィも別にリピアーに死んで欲しいわけではないので受け入れてくれる(本作ではザラブの提案が飲める類なら飲みたいというような態度をとっている)と本作では解釈しています。

・ザラブ再訪に結構時間かかった理由
柄にもなく特訓していた。また怪獣リング運用の習熟、非常時の応援要請など。
キャラがすっかり変わった事にオムニバーシアン達も吃驚。

・ちゃっかりいるメフィラス
取引が破談しただけで、悪事が政府にバレているわけではないので平気な面して再訪している。今日も「今度は北海道の魚介類と名所を堪能しましょう。私達は原生人類と違ってテレポートがある。都市間距離など関係ありませんよ」などとウルトラマン達に提案している。ウルトラマンは乗り気。ザラブげんなり。
ウルトラマンが変身を自重し、ザラブが去った地球が無事だったのは、こいつが地球に堂々と居座ったことで他の外星人が迂闊に近づけなかった為という裏設定あり。


これにてオマケSSは流石に打ち止めです。久々もいいところなのにすぐに感想をつけてくださったり、楽しんでくださる読者様方に深く感謝を。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。