エスカファルス【非在】 (楠崎 龍照)
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エピソード0 エスカダーカー
1話 プロローグ


 

 

 

2020年 某月某日水曜日

 

 

 

 

「うー……つかれたー」

 

自室のベッドで私は大の字になって寝転ぶ。

時刻は8時ちょうど。

先ほどまでオンラインゲーム、pso2(ファンタシースターオンライン2)をプレイしていた。

今日はこのゲーム最後のボスである原初の闇と呼ばれるレイドボス実装の日なのだ。

そして、そのボスを先ほど倒したばかりだった。

初見の人たちが多かったのか、討伐までにかなりの時間を有してしまい、クタクタになっていた。

 

「おつかれー」

 

スマホから友人の声が聞こえてくる。

大原栄志、私の大学の友人だ。

先ほどまで、彼と原初の闇に挑んでいた。

いまは、ショップエリアと呼ばれる武器の強化やランダム武器の鑑定などが行えるところで、戦利品をみているところだ。

 

「おつかれー。なかなか強かったな」

「そうやのー」

 

大原はそう言いながら、鑑定を行っているようだ。

スマホのスピーカーから「よーく見えたよー」ととあるnpcの声が聞こえてくる。

 

「そういえば、これであれか」

「ん?」

「いや、設定的にいえば、ダーカーは沸かなくなるのか」

「そうやないか?」

「なかなかかっこよかったのにな」

「まぁ仕方ないよ。ngsが控えちょるんや」

「メタい話をするな!」

 

私は笑いながら突っ込む。

大原もそれに釣られて笑いをあげた。

 

「でもエスカダーカーはおるじゃろ」

「あー。でもエスカダーカー種類が少ないんだよな。エスカダーカー凄い好きやのに残念」

「まーまー。そこまで開発が回らんのやろ」

「やめーや!」

「ナハハハハ!!!」

 

そんな話をしながら、武器の鑑定等が終わり、一息つく。

 

「まぁ、とりあえず、これで落ちようか」

「そやの」

「ほなら!」

「おーう、おつかれーい」

「おつかれー」

 

私はスマホの電話ボタンを押してベッドに寝転ぶ。

 

「ふへー……バカみてえにつええわ……」

 

私は呟きながらスマホで調べものをしていると、ふと夜の空に目が行った。

外は月の光に照らされて少しばかり明るかった。

しかし、私はその月を見て「え?」と月を凝視する。

その日の月は、青く光輝いていたのだ。

 

「なんじゃあれ? エスカファルス・マザーか?」

 

少しだけ不気味に感じつつも、頭に浮かんだことを口に出して私は窓を閉めた。

原初の闇ゴモルスとソダムが予想以上に強くて、集中してた私は疲れからか、突然睡魔に襲われてそのままベッドに寝転がり寝ることにした。

 

 

 

 

時間は0(12)時07分

 

 

 

「……大丈夫ですか?」

「え?」

 

私は、見知らぬ男性に叩き起こされて目が覚めた。

起き上がると、そこは先ほどいた自室ではなく、何処かの都会にいた。

 

「え? あれ?」

「あの、本当に大丈夫ですか?」

 

サラリーマン風の男性が心配そうに私の方を覗き込む。

私は訳が分からず、その男性に尋ねた。

 

「あの、ここって何処ですか?」

 

すると、男性は「は?」みたいな顔になりながらも、「東京都ですが」と答える。

 

東京???

私は頭が混乱したが、サラリーマン風の男性の後方のビルの隙間からの赤いタワーが見えたことで、確信する。

あぁ、あれは東京タワー……。

東京じゃん。

と。

 

「あ、あああ。そうでした。すみません。少し飲み過ぎてしまったようです」

 

私はサラリーマン風の男性にそんな見苦しい言い訳をして、急いで別のところへ走った。

相手からしたら、飲みすぎたのに走れるのか?と思ったことだろう。

さらに、走っているとパソコンの画面で見たことのある建物が見える。

形状は東京スカイツリーなのだが、展望部分はスカイツリーよりも大きく、青い光を放っていたのだ。

それを見た私は立ち止まって口を開く。

 

「え、あれってエスカタワー??」

 

そう、私がよく遊んでいたオンラインゲーム、ファンタシースターオンライン2にて登場する建造物そのものだった。

今のところ私の頭に浮かぶことは、その地球に来たということだ。

それと同時にある不安が襲う。

元の世界に戻れるのか、それとここからどうするか……。

取り敢えず、エスカタワーが立っているということは、少なくとも2016年より後だ。

……もしかして2020年か?

根拠はないが、私の頭のなかでは、そう予感した。

しかし、参った……。

ここからどうしようか……。

 

「(マザークラスタにでも頼るか?)」

 

いや、無理だな。

伝手がないし、話しても意味分からんで済まされそうやし……。

参った……。

絶望に打たれていると、突如私の背後から何者かが迫ってくる気配を感じとり、咄嗟に振り返った。

 

「!!!??」

 

私の目の前にいたのは、青い色のした人っぽい見た目の者。

それは刺々しい金髪の髪型に白いスーツ、そして片腕だけ暴走して肥大化したような青い腕。

私は、その姿を見たことある。

見たことあるというかアホほど倒した経験がある。(ゲームの中だが……)

 

そう、pso2ep4にて初登場した幻創種に分類されるエネミードスゾンビである。

ぶっちゃけ、コイツが登場したことにより、私が

いまいる世界がpso2の存在する世界の別次元にある地球。……自分で言っててワケわからんなった。

で、あることが決定づけられた。

 

何てこった……。

なんなら、その目の前にいるソイツは私にドスを振りかざしていた。

人間、ガチで命の危険に晒されるととんでもない力がでるというのはマジらしい。

物凄い反射神経でそれを回避して全身全霊でダッシュする。

今の私は強豪の陸上部補欠ぐらいの人なら簡単に抜けれるぐらいのスピードを出しているだろう。

 

「ーーーーー」

 

何も言わずただただ走る。

しかし、私のスピードは、私の身体の処理速度では到底追い付けなかった。

足が縺れアニメでも、そうそうないと思えるほどの大転倒を御披露目してしまう。

 

「やっちまったああああ俺バカだああああああ!!!!」

 

そう言って大転倒。

全身に凄まじい激痛が走り、歯が砕けるんじゃないかってぐらい食い縛る。

本当に痛いときって声が出ないものなのだ。

地面にうずくまり、痛みに顔を歪めながら、ドスゾンビが近づくのを見ているしかなかった。

助けも来ない。

終わった。

その時、私の脳裏にあることが浮かんだ。

ナマケモノは肉食動物に食われるとき、全身の力を抜いて、痛みを和らげて殺されるらしい。

それを思い出した私は、死を受け入れて全身の力を抜いた。

そして目を瞑り、一息つく。

 

「ふぅー」

 

しかし、いくらまってもドスゾンビは襲って来なかった。

もしかして、あいつバカだから私のこの姿みて死んだと誤認した?

そう思いながら恐る恐る目を開ける。

するとそこには、アイツがいた。

いや、アイツを模した幻創種がいた。

全身は薄い青い色で四つ足の虫……。

そう、pso2にて初期から登場しているアークスの敵、ダーカー。

その内の一匹、ダガンだ。

そして、いま目の前にいるのは、ダガンを模した幻創種、エスカダーカーなるもの。

因みにダガンの幻創種はpso2には居ないのだが、どういうこっちゃ。

そして、そのダガンは迫るドスゾンビに応戦し、引き裂いた。

引き裂かれたドスゾンビは青い霧になり霧散する。

 

「……」

 

あまりの展開に、私は痛みを忘れてボーッと座っていると、ダガンがこちらに振り返り、私の方をじっと見つめていたかと思えば、ダガンはこちらの方を向いて、スーッと霧散する。

 

「……」

 

私は親指と人差し指を顎に置いて考える。

私に浮かぶ案は1つだけ、神様転生した主人公みたいに、この世界にきた時にエーテルを操る能力を得たという案だ。

ぶっちゃけは私はエスカダーカーは大好きだ。

pso2はep1の終盤からやっているが、ダーカーと龍族に心を惹かれ、エスカダーカーに完全に惹かれたのだ。

もしかしたら、そのエスカダーカーの好きということが、あの時エーテルに反応しダガンが形を成した。

さすがにないか……。

そう思いながら、もう一度、ダガンを想像する。

 

「……」

 

できた。

目の前にダガンがいる。

すげー!!!

私はエスカダーカーを創造できたことに興奮し、はしゃいでいると……。

 

「小野寺龍照じゃな?」

 

突然、私の名前を呼ばれ、振り返る。

そこにいたのは……

 

 

 

 

 

続く



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2話 私の目的

 

 

 

 

 

私を呼ぶ声がしたので振り返ると、そこにいた人間はスキンヘッドの猛々しいお爺ちゃんがいた。

彼の姿は、ゲームで見たことがある。

 

「え、えーと、貴方は?」

 

とりあえず、ややこしくなりそうなので、知らない風を装う。

お爺ちゃんは、スキンヘッドの頭をコンコンと、左指で触れながら、ホッホッと笑って答えた。

 

「ワシはアラトロン。マザークラスタ、土の使徒じゃ」

「マザークラスタ……」

 

やっぱり……。

私は心のなかでそう呟く。

アラトロン・トルストイ。

マザークラスタに所属しており、その中の幹部であり、考古学者と建築家、宇宙飛行士という超高スペックのお爺ちゃんだ。

なぜ初っぱなからマザークラスタにお呼ばれをされたのかは、何となくお察しはつく。

 

「……えーと、マザークラスタが何のようですか?」

「マザーが主を呼んでおる。ワシと共に来てほしい」

「マザー……?」

「ホッホッ、行ってみれば分かる。オフィエルよ」

 

アラトロンはそう言うと、私とアラトロンを長方形の結界のような物質が現れて、私達を覆った。

てか、いまさっきオフィエルとか言ってたよな……。

そうこう考えているうちに、私の視界は東京から別の場所へと変わった。

本当にパッと。

多分、これはマザークラスタ幹部、水の使徒オフィエル・ハーバートの具現武装だろう。

隔離術式、EP4設定資料集によれば、この能力の正体は「一定の空間を切り取る」「空間同士を繋げる」というもの。

しかし、洗脳やら透明化やらワケわからんことを行うという中々謎の具現武装だ。

 

そして私は、いま意味不明な場所にいる。

目の前に地球らしき惑星が見える。

月か?

 

「え、ちょっと待ってここ月??」

「ホッホッ、察しがいいの」

 

ホッホッじゃねーよ!!

マザークラスタの本拠地やんけ!!

私はもう、どうしたらいいか分からず、ただただアラトロンさんの後ろを着いていくしかなかった。

てか、この場所、ep4の終盤にオークゥ・ミラーとフル・ジャニース・ラスヴィッツの戦う場所じゃん。

やべえ、どうなんの?

あー、不安。

その不安は、私の腹痛を促進させるのに十分すぎた。

五分ほど歩き、エレベーターと思われる場所にたどり着く。

アラトロンと私はそのエレベーターに乗り、エレベーターは上昇する。

エレベーターからは月の表面、宇宙、無数の星々、そして青々と輝きを放つ地球が見えた。

凄い……。

この一言に尽きる。

そんなことを考えていると、ピンポンと音がなって、エレベーターがゆっくりと停止。

扉が開いた。

 

「マザーよ。小野寺龍照を連れてきたぞ」

 

アラトロンはそう言いながら、エレベーターを降りた。

その場所は、あのマザーが初めて御披露目になったエリアだ。

ゲームの中でしか見たことがなかったので、凄い心が踊った。

 

『よく来た。小野寺龍照。』

 

ゾワッとするほど綺麗さがあり、しかしその中にママみを感じることができる程の美しい声が私の耳を通り抜け、脳にまで響く。

まさに、脳をくすぐられているかのようだ。

そう、私の目の前にマザーが、マザークラスタの紋章が飾られた特徴の椅子に座っていた。

 

『ありがとう。アラトロン。』

「では、ワシはこれで失礼するとするかの」

 

少し微笑んだマザーはアラトロンに向けて礼を述べると、アラトロンはホッホッと笑い、エレベーターで降りていった。

 

つまり、いまこの場所にいるのは、私とマザーだけということになる。

因みに、マザーはびっくりするレベルに美人である。

本当にゲームの非ではない。

ゲームのマザーも結構な美人だったが、それすらも優に超越している。

その美貌だけで原初や全知を掴んでいると言っても過言ではない。

深遠なる闇とか原初の闇とかダークファルス・ペルソナ(エルミル)とかも、マザーの美貌だけで浄化されるってレベルで美人。

私の住んでた地球でも、ここまでの美人はいないだろうと言える。

最早、美人の数値がオーバーロードしている。

 

そんな中で、私とマザー二人という状況。

これなら、まだエキスパ称号とるために一人でデウスとマザーソロ狩りしてる時のほうがよっぽど心臓がいい。

ていうか、脳がヤバイ。

ku100の耳舐めとかそんな次元を余裕に超えている。

すんごいくすぐったい。

 

「え、えっと、私を呼んだ理由は?」

『マザークラスタへと入ってほしい。』

「ま、まぁ、そうでしょうね。ですけど、マザー。貴方には本当のことを知ってもらいたいです」

『どうした?。』

 

私は、マザーに自分の今の状況を嘘偽りなく説明することにした。

そもそもマザーは、フォトナー(pso2のたわけ)が惑星シオン……まぁ、簡単に言うと、宇宙規模のスーパーコンピューターみたいな存在の最初に作られたコピー。

しかし、制御が出来ずに亜空間へと捨てられた存在だ。

 

まー、私もpso2の歴史はあまり詳しくないから、間違ってるところがあるかもしれない。

もっと分かりやすく言うと……。

 

フォトナー「シオンの複製を作って楽しよう」

マザー「出来たよー」

フォトナー「楽したいから、宇宙全域の管轄任せた!」

マザー「んなクソみたいなこと言わずに働け!」

フォトナー「こいつ失敗作だ捨てよ!」

マザー「は?」

 

こんな感じだ。

多分。

 

 

まぁ、凄い頭のいい女の子ということだ。

女の子かどうかは定かではないが……。

だから、私の今の状況を教えても問題ないと思った。

私は、マザーに私のことを洗いざらい話した。

 

「というわけです」

『そうか。エーテルの異常数値が確認されたのは、やはり君がこの世界に来たことが原因か。』

「ええ、この世界に来たのはマザーが?」

『私ではない。私でも、多元からピンポイントで人を転移させるほどの力は持っていない。』

「じゃあ、私がこの世界に来たのは分からないというわけですか」

 

マザーはコクりと頷いた。

 

「まぁ、それは別に良いとしてや。私はこの世界とは別世界からの来訪者ですよ? それでも、得たいの知れない私をマザークラスタに?」

『そうだ。』

 

私の問いにマザーは頷いて、こう続けた。

君は、ここにきて間もないのにも関わらず、具現武装を発現させた。

そして、オラクルのことも知っている。

それは最高のアドバンテージとなる。

ぜひフォトナーの復讐を手伝ってほしい的なことを言われた。

色々と言われたけど、ようわからんかった。

まぁ、行く宛がないので、私はうなずいた。

 

『小野寺龍照。君の住む家は提供する。これからよろしくお願いする。』

「ええ、こちらこそ」

 

そう言って、私とマザーは握手をした。

そのあとは、アラトロンに私の住む家を案内してもらった。

高層マンションの18階の1部屋、2ldkで、家賃はタダというちょっと引くぐらいの手厚い待遇に私は唖然とするしかなかった。

とりあえず、この一室を好きに使ってよいという。

最後にアラトロンから、あるものをいただいた。

 

「これは?」

 

私はマジマジと、AndroidとPSVitaを足して2で割ったのような形状の物体を見つめながらそういった。

マザークラスタの月拠点へと向かうことが可能らしい。

 

「(そういえば、ep4で八坂エンガが使ってたな……。それとは少し違う感じか)」

 

それと、月拠点のことは他言無用的なことも言われた。

そして、色々と説明を終えたアラトロンは、月拠点へと戻って行き、この部屋には私一人となった。

ぶっちゃけ、なんもわからんかった。

とりあえず、金の援助はマザーが何とかするから、エーテルの操る力を上げろ的なことを言われた気がする。

 

「てか、私がタワマンに住むなんて夢にも思わなかった」

 

私はバルコニーへと出て、外の景色をみる。

暗闇を引き裂くように建物の光が煌々と輝いており、美しい以外の何物でもなかった。

そして、ここから見える景色の少し左側に赤く輝く東京タワーと蒼色の光で照らされたエスカタワーが対照的に並んでいるように見えており、心を惹かれた。

 

「これはすごいな……」

 

私はそう口から言葉をこぼした。

ずっと見ていたいほど、私の目に映る光景は神秘的だったのだ。

都会も悪くはない。

そう、思ってしまう。

 

「……」

 

私はポケットにあるスマートフォンを取り出す。

やはり、同じ地球ではあるが別次元の地球ゆえに、私のスマートフォンのアンテナは圏外になっていた。

まぁ、何となく分かっていたので、私はスマホのsdカードに入れてある、1つのBGMをかけた。

 

「Waiting for shining stars to fall.

I'm lost and I'm found.

Walking in the darkness,

Looking for the star.」

 

pso2に登場する東京フィールドの夜に流れる曲『Realization』だ。

夜の東京の街を展望しながら、この曲を聴く。

最高すぎる。

ここに紅茶とかお菓子があれば最高だった。

 

「具現化できるかな……」

 

ふとそんなことを思い、私は目を閉じて想像力を働かせる。

紅茶。

スコーン。

頭の中で紅茶とスコーンを思い浮かべた。

そして、パッと目を開けると……。

 

「マジか」

 

目の前にスコーンと紅茶があったのだ。

少しだけ青みかがかっているのは、幻創物だからだろうか……。

まぁ、とにもかくにも、出現したこれを頂かない選択肢はない。

私は座りながらスコーンをパクリとかぶりつく。

 

「なんやこれ……」

 

飲み込んだ後の言葉がこれである。

何も味しない。

空気でも食べたかのように、本当に味がしない。

まさかと思って、紅茶も飲んでみる。

 

「……水???」

 

そう錯覚するほど無味だった。

紅茶の少し苦味のある味などは一切ない。

本当に何の味もしなかった。

 

「……まだ、私の具現能力がそこまで達してないのか……」

 

少しだけがっかりしつつも、創造できたことに変わりはない。

少しずつ鍛えていこう。

そう考えながら、エスカタワーを見つめた。

 

「……」

 

暫く見つめていると、不意にマザーのことが頭に浮かぶ。

マザーはオラクルのフォトナーに復讐をすると言っていた。

だが、フォトナーは当の昔に滅んでいる。

ダークファルスやダーカーによって……。

つまり、マザーの復讐は叶わない願いなのだ。

そして、この世界がpso2ep4と同じ筋書きを辿るならば、マザーは……。

 

「……死ぬんだよな……」

 

私はポツリと呟いた。

……。

 

[キーーー!]

 

後ろで、金切り声のような物が聴こえ、振り返ると、そこにはエスカダガンがいた。

 

「……エスカダーカーか……」

 

私はエスカダガン、これからはエスガンと呼ぶことにしよう。

ゆっくりと近づいて、エスガンの頭を撫でた。

すると、エスガンは子犬のように私に歩みよりスリスリとした仕草をする。

それは、宇宙の敵と呼ばれた存在などではなく、最早ただの人に懐いているペットであった。

私は虫(特に蜘蛛)が大の苦手なのだが、こんな子犬のような仕草をされてしまえば愛着が沸いてしまう。

 

「……エスカダーカー」

 

私は立ち上がり、再びバルコニーに出てエスカタワーを眺める。

マザーが死ぬとき、私はガラスの外でその光景を見ていた。

ヒツギたちと和解し、新たな道を行けると思った時に……。

あのマイショップでやたらと高く売られたヘアースタイルのバカタレに殺された。

 

「よし、まぁええわ!!」

 

私は手をたたいて大声をあげ、リビングへと戻る。

とりあえず、1つの目的ができた。

これから、あらゆる手段を講じて、自分の具現能力を高めよう。

それにマザーから言われた通り、これから起こる事が全て分かっているのは、凄いアドバンテージだ。

最早、この世界において私はアカシックレコードなのではないかと思えてくる。

今は2020年、ep4の時期は2028年、タイムリミットは8年だ。

その間に初代深遠なる闇(ゴモルス、ソダム)や二代目深遠なる闇(ペルソナ)や三代目深遠なる闇(エルミル)をも凌駕する地球版の深遠なる闇になって、歴史を改編してやる。

マザーやベトールの生存ルートを導きだしてやる!!!

 

「よし! やるかぁ!!!」

 

私は気合いをいれて、エスガンを霧散させて、風呂に入った。

風呂を上がった私はとりあえず、寝て明日考えようと思い、ふかふかのソファーに寝転んでそのまま眠りについた。

目を瞑り、うとうとし始めた時だ。

 

「あ」

 

と、あることを思い出して、目を開けた。

 

「ヤバイ、エスカダーカーについてのことマザーに聞くの忘れた!」

 

 

 

 

続く



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3話 具現化のやり過ぎで頭痛を起こすアホ

 

 

 

 

 

 

「……むぅ」

 

目が覚めた私はソファーから降りて、出掛けることにした。

現在時刻は11時。

近くのファーストフードで朝飯を済ませようと考えた。

 

「……服、買わないとな……」

 

冷蔵庫やテレビ等の家電製品はマザーの計らいか、結構高級な物を用意してもらっていたので、私が用意するものは、服と食材だ。

鍛えるのは、後でするとして、まずはその2つをどうにかしないとな……。

マンションを出た私は、頭をボリボリと掻きながらファーストフードを探しに彷徨うことにした。

 

「……」

 

若干、眠気が抜けない私は長い欠伸を決めながら、ファーストフードを探す。

しかし、その眠気を吹き飛ばすある事件が起こった。

 

「ひったくりいいいい!!!」

 

女性の悲鳴に近い声が周辺の建物に反響する。

通行人たちは、その女性のほうを一瞬みて、その後すぐに黒いヘルメットを被った男の方に視線が向く。

しかし、いきなりのことで全員身体が動いていなかった。

かくいう私もその一人である。

しかし、我に返った私は自然と足が動いた。

 

「……!!!」

 

中学の頃、科学部に所属していながら、陸上部に匹敵するスピードを持っていた私は引ったくり犯を追いかける。

 

「……あのやろ……」

 

裏路地に回られたが、それでもすかさず追跡する。

巻けないと思ったのか、引ったくり犯は立ち止まりとんでもない物を取り出した。

 

「おいまて落ち着け!」

 

私は声を荒げる。

これは洒落にならん。

引ったくり犯が取り出した物はナイフだ。

どうやら、自棄糞になっているようで、今にも襲いかかってくる勢いに、私は少し後退る。

しかし、本気で殺すつもりはないようで、私の後退る姿を見た引ったくり犯は、逃げる動作を見せた。

 

「……」

 

やっていいのか分からなかったが、私はとあることをしてみた。

 

「(エスガン……)」

 

そう心のなかで呟く。

すると、エスガンが具現化された。

「出番だー!!」と言っているかのように、金切り声を発しながら前足を上げた。

 

「!?」

 

引ったくり犯は驚き、今度は彼が後退る動きを見せた。

彼にはエスガンが見えるようだ。

エーテル適正の低い人は、幻創種は見えない的な設定があったはずなのだが、彼はエーテル適正が高いのだろうか?

 

「やれ!」

 

私はエスガンにそう命じるとエスガンは物凄いスピードで接近、四本足を使った力強い跳躍を披露。

そして、落下と同じに前足にエーテル粒子を纏わせ、そのまま地面着地。

引ったくり犯がいる前方に衝撃波を起こして、引ったくり犯や近くにあったゴミ箱諸とも薙ぎ倒した。

 

「ぐあああああ!!!」

 

彼は断末魔を上げて吹き飛ばされた。

私はすかさず、エスガンに礼の言葉を言った後、具現化を解除させて彼を捕まえる。

 

「引ったくり犯を捕まえました!! 誰か警察を呼んでください!!!」

 

大声で叫ぶ。

その声を聞きつけた人々がぞろぞろと現れ、少ししたら誰かが通報してくれたのだろう。

警察が駆けつけてきた。

とりあえず、引ったくられたカバンは、持ち主の元に戻ったようで、よかったよかった。

そのあと、私は警察から事情聴取を受けることになった。

そして、聴取が終わったときには、3時を回っていた。

空腹が最高潮に達しており、もう何でもいいから食べたいと頭の中は、それでいっぱいだ。

頭の中はいっぱいなのに、お腹は空腹。

なんとも面白い矛盾だろうか……。

 

「腹減った……」

 

しかし、それを彼女が許さなかった。

そう、マザーである。

私は突如、マザーによって、月面拠点に転送されたのだ。

 

『突然で申し訳なく思う。小野寺龍照。君に渡すべきものがあった。』

「渡すべきもの?」

『これを。』

 

そう言って頂いたのは、クレジットカード、通帳と黒色で縦長の革財布だ。

やけに生々しいものをくれるな……。

 

『通帳の番号は財布の中に入れてある。後で確認するといい。』

「あ、はい。ありがとうございます」

 

私はペコリとお辞儀をした。

これってマザーが口座作ったのかな、だとしたら少し可愛いな。

まぁ、それはないか。

 

てか、マザーに呼ばれてちょうど良いと感じた私は、マザーに私の具現武装について尋ねた。

 

「すみません。私の具現武装についてなんですが……」

『どうした?。』

「これって、私の具現武装はエスカダーカーってことでいいんですかね?」

 

私はマザーに質問をすると、マザーはコクりと頷く。

 

『その考えで間違いはない。君の努力次第で、様々なエスカダーカーを具現することができるだろう。そして、最終的には、ダークファルスをも具現することが可能となる。』

「なるほど……。すません、エーテルを操るには、どういった風にすれば良いですか?」

『簡単なことだ。具現武装は、使い手の意思と心の強さが反映されている。強い意思や、精神力を持ってすれば、自ずと強くなれる。』

「そう言うものですか。分かりました。ありがとうございます。では……」

『君は、使徒になる素質がある。期待している。』

 

使徒か、待て、私が使徒になったら他のpso2にいた使徒はどうなるのだろうか。

現状マザークラスタ幹部の地位に確定でいるのは、

土の使徒アラトロン・トルストイ

火の使徒ファレグ・アイヴズ

 

予測として、

水の使徒オフィエル・ハーバート

木の使徒ベトール・ゼラズニィ

 

この4人だ。

PSO2では、

上記の4人に加えて、

金の使徒亜贄萩斗

日の使徒オークゥ・ミラー

月の使徒フル・ジャニース・ラスヴィッツ

この3人が加わる。

もし、ここで私が使徒になってしまえば、3人はどうなってしまうのだろうか。

ヤバイ、なんか変なことになりそう。

 

「えーと、ありがとうございます」

 

取り敢えず、いまはどうしようもないので、私はマザーに一礼をした。

すると、マザーは私を元の場所へと送り返してくれた。

 

「あー、出る杭は打たれるなこれ。いや、逆に出ずに、深くめり込めば打たれることはないか? ちょっとどうしようか……」

 

考えたが、良い案は浮かばなかったので、とりあえず、財布のなかを確認してみた。

すると中に5000円が入っていたので、私はその金でカガリ食堂と呼ばれる定食店で昼御飯?を済ませた。

店を出たときには5時である。

 

最早、さっきのが晩飯だったのでは?とすら思える。

帰り際、近くのスーパーで炭酸水とクエン酸、プロテインを購入し、自宅へと戻った。

 

「ういー、疲れたー」

 

初っぱなから、引ったくり犯と鬼ごっこをして、かなり疲れてしまった。

私は直ぐ様、服を脱いで風呂に入ることにする。

脱いだ服は洗濯機へと放り込んだ。

いまは、これしか服を所持していないが、いたしかない。

風呂上がりに汗まみれの服を着るのもあれなので……。

 

とりあえず、風呂を入り終えた私は、ふとマザーからもらった通帳が気になって、中身を確認することにした。

 

「……」

 

通帳のなかには金額が入っていたので0の数を確認する。

 

「一、十、百、千、万……」

 

え?

 

「一、十、百、千、万、十万、百万……」

 

??????

もう一度、私は通帳を確認する。

 

「一、十、百、千、万、十万、百万、千万……」

 

……。

は?

1000万??

 

「……」

 

私はソッと通帳を閉じて、ソファーに寝転がった。

とんでもねえ額が入っていた。

 

「ふぅー」

 

心臓の鼓動が早くなる。

 

1000万なんて大金、持ったことないので、何て言えばいいか……。

とにかく、説明つかない緊張が私を襲ったのだ。

しかし、逆に考えたらある程度節制しながら過ごせば、何とかなると考えた私はソファーから飛び起き、エスカダーカー具現化の鍛練をしようと考えた。

 

マザーは使い手の意思と心の強さが反映されている。強い意思や、精神力を持ってすれば、自ずと強くなれる。

と言っていた。

ep4でマザーとベトールを救う。

その願いを糧として、私は具現を行おうと考える。

しかし、いきなりラグネとかゼッシュとかブリューとかを具現化するには無理があると思い、小さめのダーカーから具現しよう。

そう思った。

ダモスとかクラーダ辺りにするか。

……。

 

「……個人的にクラーダ好きやし、クラーダを具現化させるか!」

 

よし。

私は立ち上がり、スマホのpictureフォルダからクラーダのイラストがスクショされた画像を取り出して、それを見る。

こんな時のために、pso2攻略wikiか全ダークファルス、ダーカーのイラストをスクショしててよかった。

そして、私はクラーダを具現化しようと想像する。

 

「(クラーダ……)」

 

すると、変に愛嬌のある寄生が聴こえ、目を開けると……。

 

「お、出来てる出来てる!」

 

私の目の前に一匹のクラーダが、そこにはいたのだ。

名前は、クラーズにしよう。

色は、エスカダーカーと大差ない配色で、姿形も若干差異があるな。

まぁ、これもエスカダーカーと変わらないか……。

このまま、エスガンを具現化できるのかな?

ふとそんな考えが浮かんだ私は、直ぐ様エスガンを具現化させた。

 

「できるわけね」

 

では、エスガンをもう一匹具現化すると?

私は具現化させた。

しかし……。

 

「なーるね……」

 

一瞬だけ具現化したエスガンだが、形を保つことができずに霧散してしまった。

どうやら、いまの私の力では小型ダーカー二匹が限界のようだ。

少し悔しい。

てか、エスガン一匹、クラーズ一匹って弱々しいにも程があるだろ……。

マザーやベトールを救いたいって気持ちはその程度なのだろうか……。

なんかショックだ。

 

「ん? まてよ?」

 

私はある出来事が脳裏に浮かんだ。

それはpso2と新世紀エヴァンゲリオンがコラボしたときに登場したコラボエネミー、第6の使徒でのことだ。

 

話は割愛するが、とあるオペレーターやアークスたちの想像が具現化された。

だが、エーテルの濃度不足により巨大な質量を維持できず、すぐに消滅。

何度か具現化することにより、エーテル濃度が安定して長時間の具現化が可能になる。

その存在が、pso2のコラボエネミーである第6の使徒だ。

さらに、あの第6の使徒は「使徒はエヴァでしか倒せない」その概念の元に生み出されている。

 

これを参考にするならば……。

何度も何度も、エスカダーカーを具現化して行けば、維持することが可能になるのではないか。

そして、エスカダーカーにもダーカー固有の、他者を侵食する力も再現できるのではないか。

私はそう考え、何度も何度も具現化を試みた。

因みに、ダーカーの侵食能力は、あえて「深遠なる闇、ダークファルス、ダーカーのみを侵食し、エスカダーカーへと変異させる」というイメージで具現化させた。

 

2時間ほど、具現化を試みた結果。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、ああああ、頭使い過ぎて、頭痛がひどい……」

 

エスガン20匹、クラーズ15匹を安定して具現化させたところで物凄い頭痛に苛まれた。

これはダーカーの影響とかではなく、単純に集中のし過ぎにより頭痛である。

 

「うううう……頭いてえ……」

 

頭を抑えて悶える姿をみたエスガンとクラーズたちは心配そうに私に寄り添う。

因みに部屋中に虫がいるという虫嫌いからすれば地獄絵図の光景だが、ぶっちゃけ頭痛の方がひどいので、そんなことを気にしている場合でもなかった。

 

「ああ、大丈夫や。ただ、ちょっと具現化解除するで」

 

私は心配する虫たちにそう言って、私はエスガンとクラーズたちの具現化を解いた。

先程よりは頭痛が引いたが、それでも痛みは残る。

私は、片手で頭を抑えながら、冷蔵庫に入っていたエーテルの力を高めるドリンク(マザー産)を飲んでソファーに向かう。

更に、先程買ってきた炭酸水の中にクエン酸を少々入れて、飲み干した。

明日は……エルアーダ辺りに挑戦してみるか……。

まぁ、虫型ダーカーを全種コンプリートしてから別のダーカーを具現化させよう。

 

私は心の中で誓い、ソファーに倒れるように眠りについた。

使徒の件と8年で完全に制御できるのかという不安を抱きながら……。

 

 

 

 

 

続く

 



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4話 蒼穹を染めし幻創の女王

全くエルアーダを具現化できない私は、エーテル濃度の多い月で鍛錬をしようと考えたのだが、その月面基地で私が1番会いたくない人と出会ってしまった。


 

 

 

 

「どりゃああああああ!!!」

 

私はいまエルアーダこと、エスアーダの大量創造中である。

今のところ、7匹まで創造できた。

しかし、8匹が全然安定しない。

かれこれ3時間は行っているのだが、全然である。

 

「くあああああああああああ!!!!!」

 

気を貯めて具現化をするが、もって10分。

それ以上は身体が崩れて霧散してしまう。

あー、ダメだ、また集中のし過ぎで頭痛くなってきた。

とりあえず、具現化したエスアーダ全員を解除させて、ソファーに寝込む。

どうしたものか……。

考えたが、策より腹の虫がなったため、なんか食べに行くことにした。

マンションを出て、何か良い店はないかも探す。

とりあえず、適当に店で昼食に限りなく近い朝食で腹

 

「うーむ……」

 

どうしようかな……。

 

そんな事を考えつつ、私はとある方法を思いついた。

月で具現化の練習をしたらどうだ?と。

太古の昔にフォトナーに捨てられたマザーは惑星規模の大きさを誇っていたが、亜空間を流れ着いた先で原初の地球と激突。

この「ジャイアントインパクト」によりマザーの肉体は大部分が砕け散ってしまい、その残滓が寄せ集まったものが「月」となったのだ。

確か、ストーリーではそう言われていた覚えがある。

つまり「月」とはマザーの肉体そのものである。

それなら、エーテル濃度の高い月で具現化を行えば、もしかしたら、何とかなるかもしれない。

月でエーテル能力を高めて、そこから地球でやろう。

私は、前にアラトロンから貰った端末を使って月へと移動した。

 

 

 

月面基地

 

 

 

「よし、到着した」

 

私は月面基地の長い通路に転送された。

さてさて、到着しましたが……。

到着して思った、どこで具現化しよう……。

よくよく考えてみれば、私ここの場所詳しくないんだ……。

ゲーム内では、オークゥとフルとの戦闘でしか戦わないからな……。

SEGAももうちょい、このステージで戦わせてくれたら良かったのに……。

 

「やーべ……迷子ならぬ迷大人や……」

 

私はそんな事を呟きながら、適当に月面基地の長い通路を歩き回る。

透明な天井からは母なる地球が見えて凄い圧巻な景色なのだが、残念な事に迷い中の私にはそんなものを感じている余裕などないに等しい。

とりあえず、ポータルで自宅まで戻れると思うので、本当にやばくなったら、戻ろうと思う。

てか、もういっその事ここで具現化してみるか。

あー、やめとこう。

変なことになってガラスが割れたりでもしたら大変や。

大声で誰か呼ぼうとも考えたけど、なんか恥ずかしいし……。

 

「歩くかー」

 

もうこの際、この月面基地をブラブラとして場所をある程度把握しておくのもいいかもしれない。

後々役に立つかもしれんしな。

そう考えた私はポケットからスマホを取り出して、ファイルに入ってあるとあるBGMを掛けた。

 

 

pso2内で、月面基地流れる曲。

ベートーヴェンの月光をアレンジしたボーカルソングだ。

いざ生きてみて、私がその場所にいると思うと凄い心が踊る。

 

歌詞はマザーの悲哀が伝わる素晴らしい曲だ。

 

因みに、初見にこれを聞いた私は月光だと分からず、なかなかいい曲だなとしか思ってなかった。

とある動画サイトのコメントでベートーヴェンの月光と書かれたのを見て、「あ、そうか!!」となった。

 

「いい曲や」

 

私はボソリと呟き、マザーを守らなければと再び心に誓った。

これからの出来事を知っている分、要注意するべき人物をマークしつつ、水面下で計画を練る必要がある。

まず、水の使徒オフィエル・ハーバートの行動には注意やな。

あとは、アースガイド側のアーデム・セイクリッド。

この二人や……。

とりあえず、オフィエルに強く出れるであろう、べトール生存を……。

 

「!!!??」

 

突如、今までに感じたことのないレベルの悪寒が私の背中を疾走する。

頭が感じるまえに全身が振り返った。

 

「あらあら、良い反応をしますね」

 

恐ろしい程に透き通った声が私の耳をすり抜ける。

私の後ろにいた人を見て、全身に鳥肌が走った。

漆黒のドレスに身を纏ったその姿。

全身から放たれる強大な覇気。

私の手や足がブルブルと震え出す。

 

「ふ、ファレグ……アイヴズさん……ですよね?」

 

震える口でそう呟いた。

タイミングの良いことに、スマホから流れる曲が、月面基地BGMからファレグ邂逅のBGMへと変化する。

BGMと相まって、恐ろしいほどの迫力を出していた。

本人はにこやかに微笑みの表情を見せているが、全身から溢れ出ている気は、対峙する人は失神させるほどに絶大であった。

怖いという印象より、ヤバイという印象の方が圧倒的に上回っていた。

 

「はい、マザークラスタ火の使徒ファレグ・アイヴズです。どうぞ、お見知り置きを」

「あ、どうも、えーと、最近、マザークラスタに入りました。えーと、小野寺、龍照です。よろしくお願いします」

 

 

お上品なお辞儀をして自己紹介をする。

私も凄いキョドりながらそう自己紹介をするが、怖すぎる。

てか、なんではなしかけてきたんだろうか……。

 

「どうですか? 私と一戦-ーー」

「すみません、遠慮しておきます」

 

ファレグさんが何かを言う前に、私はハッキリとお断りをした。

いま戦えば、確実に私の墓石が立つことは目に見えている。

それを聞いたファレグさんは少し残念そうにしながら口を開いた。

 

「そうですか。とてもお強い気配に惹かれたのですが、残念です」

 

そう言うと、ファレグさんは飛び上がり、天井のガラスを蹴り破り、生身で……しかも物凄いスピードで地球へ戻って行った。

割れたガラスは瞬く間にエーテル粒子が覆って新たなガラスを形成し、ファレグさんによって空いた穴は塞がれた。

 

「……ふぅぅぅ」

 

私は一瞬にして緊張が解けて地面にへたり込む。

めっちゃ怖かった。

五分ぐらい賢者モードの状態が続き、何とか冷静さを取り戻した私は、立ち上がって再び月面基地を散策することにする。

 

しかし、少し気になったことが1つあった。

それは、ファレグさんが言葉……。

とてもお強い気配に惹かれた。

私は、最近エーテルを使えるようになったド素人だ。

まだろくな創造すらもできないのに、お強い気配など放てるわけがない。

ファレグさんは何をかんじたのだろうか……。

少し不気味に感じつつも、私はウロチョロしていると、1つの扉が見つかった。

更に地下へと降りるエレベーターのようだ。

私は特に何も考えずにエレベーターに乗り込み、下に降りる。

1分ぐらいエレベーターは地下へと降下。

やっとこさ扉が開いた。

 

「マジで?」

 

私はそこに写る光景に圧倒された。

pso2に登場するマザーシップ内部と同じ構造をした場所に着いた。

ep4の最後らへんのステージもそういえば、この場所だったな……。

……めっちゃ綺麗な場所だ。

マザーシップ・シオンは深い青を基調とした色合いだけど、この場所は澄んだ蒼色をしていて、とても心が安らぐ優しい色をしている。

 

「まさか、ここを歩けるとは……」

 

興奮で鳥肌がヤバイぐらい立ちまくってる。

鳥肌というかラッピー肌か。

私は、迷路のような複雑に入り組んだ回廊を歩き始める。

SF近未来のような光景を見ながら、どうせなら奥の場所に行ってみようと思い、少し歩きを早めた。

 

「ゲーム内以上に入り組んどる……」

 

ゲームで歩き回ったステージがどれだけ小さいものかを思い知った。

本当に広い、あとやたらと分かれ道が多く、本当に正しい道なのか全く検討がつかない。

 

「どうしたもんか……」

 

あまりに迷うので、一旦戻って後日来ようと考え始めた時……。

私は1つの扉にたどり着く。

この扉の奥か?

そう疑惑の表情を浮かべながら、戻ることを辞めた私は、扉の奥へと足を進める。

非常に長い廊下を進んだ先に、私が予想していた場所にたどり着いた。

それは、マザーシップの中枢へと続く玄関口とも言える場所だ。

pso2では、テオドールやエスカラグナス、グラーブエクゼクルと対峙する場所と言えば、分かるだろう。

私の目に写る奥には青い海が張られたような半円形の壁が見えた。

ゲームでしか見たことの無い光景が、私の目の前にある。

これがどれほど興奮するかなど、火を見るより明らかであろう。

 

「わあぉ……」

 

私の口から自然と言葉が零れ落ちた。

そして、ゆっくりと中枢へと続く半円形の壁へと歩き始める。

そして、その場所の目の前で足を止めた。

半円形の中に青い水が揺らめいている。

 

「……」

 

これが中枢へと続く道だ。

確か、ストーリーだと……。

 

私は揺らめいている半円形の中に入ろうとする。

しかし……。

 

『どうした?。』

「!?」

 

声がしたので、足が止まる。

振り返ると、そこにはマザーがいた。

 

『そこから先は不可侵の領域だ。君でも入ることは許されない。』

 

力強いマザーの言葉に私は、「すみません」と言うしか無かった。

それもそうだ。

あの場所はマザーの核的な場所だ。

流石に、入れるわけがないか。

私がそう思っていると、マザーは『どうしてここにきた?。』と言ったので、私はここに来た経緯を説明した。

すると、マザーは『そうか』と頷いて、こう言った。

 

『では、ここで鍛錬を積むといい。』

 

と、言ってくれたのだ。

更にマザーは続ける。

 

『ここも、エーテル粒子は濃い。鍛錬するには丁度いい場所だ。』

 

マザーがここでの鍛錬を許可してくれた。

私は「ありがとうございます!」と深々と頭を下げて、鍛錬に打ち込むことにした。

その姿を見たマザーは何も言わずに、どこかへといってしまった。

 

「くうおおおおおおおお!!!」

 

私の予想した通り、具現化は目に見えて行いやすくなっていた。

自宅では七匹が限界だったエスアーダも三十匹具現化させることに成功したのだ。

これには私は子供のようにはしゃいだ。

更に、この状態でブリアーダ……名前をブリアーズとしよう。

それも三十匹の具現化に成功。

つまり、エスアーダとブリアーズ合計六十匹を具現化できたのだ。

 

「っしゃあああ!!!」

 

私の歓喜の雄叫びがフロアに木霊する。

補助ありやけど、ここまで行けた!!

そう両手を掲げて勝ち誇ると、ふと頭に浮かぶ。

ダークファルス・アプレンティスを具現化することは出来るのかと……。

 

1回やってみるか。

そう、私は考えて想像する。

ダークファルス・アプレンティス。

ダークファルス・アプレンティス。

ダークファルス・アプレンティス。

 

私は、ユクリータの方ではなく、ババレンティスの方でもなく、マルガレータのほうを思い浮かべる。

頭の中で、ボヤけていたマルガレータの全体が、段々と鮮明になっていく。

性格は……、マルガレータのままでええかな。

あーでも、子供好きなマルガレータもなかなか……。

お姉さん風もええな。

まー、なんでもええわ。

アプレンティスううううううう!!!!

もう少しで具現化できる。

私はそう思った。

しかし……。

 

「……」

 

ダメか……。

ダークファルス・アプレンティスの姿を象ることすら不可能だった。

私はガックリと肩を下ろす。

やっぱり地道にやって行くしかないか……。

そう思ったも束の間、大型虫系ダーカーだとどうなのかと疑問が浮かぶ。

ワンチャン一体ぐらいなら……。

私はエスカ・ラグナスを具現化しようとする。

 

「エスカ・ラグナスぅぅぅぅぅぅうううう!!!!!」

 

私はうめき声に近い悲鳴を上げながら、具現化をする。

いま、半分具現化している。

 

「うおおおおおおおお!!! エエエエエスカァアアアアア!!!!! ラグナスぅぅぅぅぅぅううううぅぅぅぅぅぅうううう!!!!!!」

 

エーテル粒子を送り込むようなイメージをしつつ、具現化させる。

結果……。

 

「い、いけた……。はぁはぁはぁ……エスカ・ラグナス行けたああああああああぁぁぁ!!! あぁぁぁぁ……」

 

私は具現化に成功したエスカ・ラグナスを見たあと、脳の消耗が酷く、意識を失いぶっ倒れた。

 

 

 

「いててて……」

 

目を覚ました私は頭を抑えて起き上がる。

ああ、エスカ・ラグナスを具現化してそのまま気絶したのか……。

辺りを見ると、具現化したエスカダーカーは消滅していた。

どうやら、本当に地道に具現化を慣らすしかないようだ。

私は肩をガックリと下ろして、今日は帰ることにした。

 

私はマザーを呼んで、また明日来ると伝えて地球へと帰還する。

無理な具現化で想像以上に体力を消耗したようで、私はソファーで気絶するように就寝してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ました私だが、まぁ昨日あれだけやったので、正直筋肉痛は覚悟していたのだが、どういう訳か

 

“非常に調子がよかった“

 

のだ。

ソファーから降りた私はシャワーをして、ベッドを買いに行こうと考えて、財布を見る。

 

中には、5000円しか入ってなかった。

私は通帳を持って、銀行に行くことにする。

通帳を見ると、リスノ銀行と書かれていたので、その銀行へと向かった。

リスノ銀行……。

なんか私のいた世界でもかなり似た銀行があったな……。

私は苦笑しながらマンションを出た。

 

「んー! ええ天気や!!」

 

驚くほどの快晴。

お出かけには丁度いい、素晴らしい天気だ。

さてさて行きますか、リスノ銀行に。

私は上機嫌で銀行に向かう。

 

 

少し道に迷ったが、何とかリスノ銀行にたどり着いた。

銀行の中に入ると、中はかなりの人がいた。

ATMの場所は結構人が並んでおり、私は「マジか」と小声で呟きながらも最後尾の母親と女の子の後ろに並ぶ。

 

「デパート行ったら何か美味しいものでも食べよっか!」

「うん!」

 

女の子と母親がニコニコとそんなことを言っているのが聞こえてくる。

平和だ。

和む。

しかし、その平和をぶち破る存在が来訪してくる。

自動扉が開いた時、その平和が破られた。

黒い服を身にまとい、帽子、マスクを付けた2人の男性が来店してきた。

 

「……」

 

嫌な予感が。

そう思った時だ。

 

「お前ら動くな!!!!!」

 

1人の男性が胸ポケットから黒い物を取り出して、大声を上げる。

私の嫌な予感が一瞬にして的中した。

銀行強盗だ。

 

「動くなって言ってるだろ!!!!」

 

ダンッ!!!

黒い物から物凄い音がなる。

それが銃声で、男性が持っている物が拳銃であることを認識した人々は悲鳴を上げてパニック状態だ。

それを見たもう1人の男性が拳銃を我々の方に向けて威嚇する。

 

「お前ら座れ!!!」

 

そう言われ、私たちは大人しく座り込む。

隣をちらりと見ると、涙目で怯える女の子を母親が宥めていた。

男性たちは窓口で銃を突きつけながら、黒いバッグを受付の女性に渡した。

 

「この中に金をありったけつめろ!!」

「……」

「早くしろ!!!!」

「お、お客様……」

 

固まる受付の女性に罵声を上げる銀行強盗に、責任者と思われる四十代の男性が銀行強盗に落ち着かせようとする。

 

「お前責任者か!?」

「はい、ですから」

「早くつめろ!!!」

「わ、分かりました……ですから……」

「早くしろよ!!!!」

 

天井に向けて銃弾を放つ。

銀行内全員がビクリとする。

責任者は黒い鞄2つを持ってゆっくりと金庫へと向かった。

 

「妙な真似を起こすなよ? ここにいる全員が死ぬことになるぞ」

 

そう脅しをかけてだ。

さて……。

どうしよ。

エスカダーカーを展開して……。

いや、下手なことして死者がでたらアカン。

ここは大人しくするか……。

 

私は他の皆よりは冷静でいた。

それは、こちらにはワンチャン牙を剥ける力があるからだ。

しかし、ここでそんなことをして、失敗なんてしたらそれこそ恐ろしいことになるのは明白。

だから、私はここは様子を見ることにした。

 

「おい!! まだか!!!」

「は、はい、すみません」

 

責任者は急ぎ足で大金を詰めた鞄2つを持って銀行強盗に渡した。

2人はそれを持って逃げようとするが……。

外からサイレンの音が近づいてくる。

それを聞いた銀行強盗の2人は冷や汗をかいて責任者に銃を突きつけた。

 

「てめえサツを呼びやがったな!!!!?」

「い、いえそんなことは……」

 

責任者は手を上げて首を振って否定する。

しかし、それを信じなかった強盗の1人はこちらに銃口を向けて銃の引き金を引いた。

 

銃声の後に私の隣の母親の倒れる音、うめき声、悲鳴。

それが続け様に耳を貫いた。

 

「ママああああああああぁぁぁ!!!?」

「うっ……ぐっ……!」

 

不幸中の幸いというべきか……急所は外れたようで、まだ生きていた。

女の子は泣きながら、母親に抱きつく。

 

「だ、大丈夫だから……大丈夫だから……ね? 静かに……」

 

母親は女の子を落ち着かせようと笑顔でいう。

何故か無性にアイツらに腹が立ってきた私。

女の子の泣く声に痺れを切らした強盗が銃口を女の子に向ける。

 

 

その時、私は意識がスーッと抜けていく感覚に襲われた。

 

 

 

「うるせえよこのガキぁ!!!」

「……!!」

 

しかし、それを小野寺龍照は庇う。

彼は女の子を庇いながら、強盗2人を睨みつけた。

もちろん、彼の行為に強盗は怒声をあげる。

 

「なんのつもりだ?」

「ぶち殺されてえのか?」

 

そう言うと、小野寺龍照はニヤリと微笑み、静かに笑いだした。

 

「ンフフフフ……」

 

笑いながら、すっと立ち上がり、強盗2人を見つめる。

しかし、その声は男性のものでも、なんなら小野寺龍照のものでもなかった。

濁りのない綺麗な美声だった。

強盗は手を震わせながら銃口を小野寺龍照に向けるが、彼は微動だにせず、こう言い放った。

 

「精々楽しませてもらえるかな?」

 

そう言い放った瞬間だった。

小野寺龍照の姿が一瞬にして姿を消して、強盗の懐に迫る。

 

「なっ!?」

「え??」

「逃げられると思ったの?」

 

足蹴りを食らわして、人質を取っているほうの男性を転がして人質を解放。

もう1人の方を手刀で脇腹を叩く。

 

「うごっ!!?」

「あがっ!?」

「いい顔するね、そそられるわ……」

 

ニヤリと不敵な笑みを浮かべて見下す彼。

一応と言わんばかりに転がっている拳銃2丁を踏みつけて破壊する。

 

「……な、なんなんだ……おまえ……」

 

強盗が恐怖の眼差しを彼に向けて言い放つ。

それを聴いた小野寺龍照は女性らしい仕草をして、口を開く。

 

「私? 私はね」

 

少し溜めてから、ゆっくりと声を出した。

 

 

 

「エスカファルス・アプレンティスよ」

 

 

 

 

 

続く



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5話 蟲型幻創種フィーバー

 

 

 

 

小野寺龍照の口から出た言葉の名前は誰にも分からなかった。

しかし、強盗たちは恐ろしい怪物を相手にしていると感じただろう。

 

「どうする? まだやる?」

 

エスカファルス・アプレンティスは少し意地悪な表情で強盗2人に問いかける。

強盗はニヤリと笑みを浮かべ、ポケットから予備と思われる拳銃を持ってアプレンティスに発砲した。

 

「そう、それが答えね」

 

アプレンティスは目を瞑り、迫る銃弾を親指と人差し指で摘む。

 

「なんでだろうね。可愛い女の子が泣いてるのを見ると、助けたくなっちゃうのよね」

 

そう淡々と語りながら、アプレンティスは発砲される銃弾を全て摘む。

 

「ば、バケモノ……」

 

銃弾を全て撃ち尽くした強盗は、そう呟いた。

その言葉を無視して、アプレンティスはゆっくりと近づく。

彼女は、ため息混じりの言葉を強盗に言い放つ。

 

「仕方ない、じゃあこれだけ言うね」

 

 

 

失ウせセろロ

 

 

 

目を見開き、満面の笑みを浮かべたアプレンティス、強盗以外の人々には見えていなかったが、強盗の目には男性の姿ではなく、巨大な蜂のようなナニカが見えていた。

その姿にパニックになって、警察たちが待機している外に逃げ出した。

 

「……」

 

アプレンティスは、何も言わずにそのまま姿を消した。

 

 

 

 

「……あれ?」

 

目が覚めると、そこはソファーだった。

まて……。

確か私はベッドを買うために金下ろしに銀行に……。

って、あれ???

 

寝室を見ると、何とそこにはベッドがあったのだ。

正直全く覚えがない。

……。

 

 

 

痴呆症???

 

 

 

若干怖くなり、私は急いで病院へと駆け込もうとしたが、時間外の為に受診できなかった。

……参ったな……。

あれか?

あの後、どうにかなって、普通にベッド買いに行ってその疲れで寝てしまったとか……。

昨日、エスカダーカー具現化しまくったからその負荷が余程あったとか。

 

……。

まぁ、夜だしテレビでもつけてなんか見るか。

そう思って、テレビをつけた。

画面には今日のニュースが流れている。

 

強盗2人は逮捕され、撃たれた女性に命に別状はない。

銀行員や客の証言から、1人の男性が強盗を捕え、そのまま何処かへといってしまった。

 

「覚えがない……。にしても1人で強盗を捕らえるのは凄いな」

 

私は紅茶を飲みながら、そのニュースを聴いていた。

しかし、拳銃を持った男性2人を捕らえるとは、なかなか強い男性も居たもんだ。

私も銀行強盗2人ぐらい制圧できるぐらいの強さを持たないとな。

そう、考えると何だかやる気が湧いてきた。

調子も良いので夜だけど、このまま月で具現化の鍛錬でも積もうと思い、ポータルで月面基地へと向かった。

少し迷ったが、何とか中枢近くへとたどり着く。

そこで再び、エスカダーカーの具現の訓練に取り掛かる。

 

「……」

 

今回は趣向を変えて、座禅を組み、具現化してみることにしてみた。

とりあえず、グワナーダことエスカ・グワーダの具現化は出来た。

そのまま、ダークラグネのエスカ版、エスカ・ラグナスも顕現させることに成功した。

多分、前はブリアーズとエスアーダを30匹ずつ具現化していたから、容量的に不可能だったと考察する。

 

「これなら、ワンチャン、ダークビブラスも具現化行けるか?」

 

独り言を呟いて、私はダークビブラスのエスカ版、エスカ・ビブナスを顕現させる。

もしかしたらと、スマホからダークビブラスのBGMを流す事で、具現化が楽になるのではないかと考えて、流してみた。

 

テーレーテテテーテテテー

テーレーテテテーテテテー

テーレーテテテーテテテー

ティレッテテテテッテッテーテーテテー

 

ダークビブラスのイントロが流れだす。

それと同じタイミングで、エスカ・ビブナスがあっという間に具現化された。

余りの事に少しだけ吹き出してしまう。

私の脳って単純なんだなーっと……。

少しだけ呆れてしまう。

ただ、これはいい情報だ。

次からはBGMを流して具現化させよう。

 

エスカ・グワーダ

エスカ・ラグナス

エスカ・ビブナス

の三体は、私が考えているのを、じっと見つめていた。

可愛いなこいつら……。

こんなに巨大なのに変な愛嬌があるから困る。

とりあえず、私は一旦ボスエスカダーカーを霧散させて、具現化に取り掛かる。

次はゴルドラーダのエスカ版、プラチドーラスにしようと思った。

こいつとエスカラグナスはpso2にも登場するエスカダーカーだが、何故かこいつだけ名前の原型がほぼほぼないんだよな……。

ゴルドラーダ……プラチドーラス……。

ドーラスはドラーダの部分だとして、ゴルとプラチ……。

 

……………………………。

 

まて、ゴル(ド)=金、プラチ(ナ)=白金ってとか!?

私はハッとしたように顔を上げて「なるほど!!」と手を叩いた。

クソ訳の分からん数学の問題を1週間かけて解いた時の様な達成感がいま、私の脳に直撃した。

 

私は爽快に満ち満ちた状態で、採掘基地防衛戦【絶望】のWAVE7のBGMを流して具現化する。

その時、私はあえてプラチドーラスが持ってるウェルク武器を持たせずに具現化した。

プラチドーラスが16匹現れる。

改めて見ると、名前もそうやけど姿形もかなり元のゴルドラーダより違いがあるなー。

pso2のwikiのコメントであったが、ダーカーユガ種が闇に堕ちた存在なら、エスカダーカー種は対となる聖騎士みたいって見たことがあるけど、正にその通りや。

しかし、ダーカーは色合いが違うだけで、こうも印象がかわるものなのか……。

私は関心してしまった。

 

元ネタゴキブリだけど。

 

……聖騎士のゴキブリかー。

自分で思っておいてなんだが、その聖騎士のゴキブリという名前がパワーワード過ぎて吹き出してしまった。

それを見たプラチドーラスは、お互いの顔を見合って首を傾げ出す。

一々動作が無駄に可愛いんだよ!!

 

まぁ、それはいいとして……。

私にはある考えがあった。

プラチドーラスはアークスのように武器を持ってそれで攻撃をする習性というか、力がある。

ただ、プラチドーラスが使用する武器はソード(大剣)、ランチャー(大砲)、ウォンド(短めの錫杖)、ジェットブーツ(魔法が使用出来る靴)と4種類しかない。

それなら、折角だしpso2に登場する武器種全てを各々に持たせるのが良いのではないかと考えた。

そんでもって、その擬似的なフォトンアーツを教える。

アークスからしたら鬱陶しいことこの上ない敵になるだろう。

まず、武器だが……pso2通りのウェルクシリーズの武器にしようと考えたが、この際別の武器を持たせるのも面白いな。

 

「なんかあったっけか?」

 

スマホを取り出してネットを見ようとしたが、そうだ。

世界違うから私のスマホネット使えないんだ……。

 

「明日スマホ契約するか……てか、した所でこの世界pso2無いから意味無いやん……」

 

肩を下ろす。

仕方がないので、頭の中にある全武器種が存在するシリーズ武器を思い起こす。

私の中で浮かんだシリーズ武器は……。

クラース、アジェル、オフス、光跡シオン、リバレイ ト、ノヴェル、アトライクス、ピュラス……アーレス、アストラ、ゼイネ、クリファド、紅葉、ユニオン。

この中で選ぶとしたら、ユニオン武器だな。

色もプラチドーラスと合ってるし。

ぶっちゃけ、クラースとかすれば良かったかもしれないが、それは何か嫌だったので、ユニオン武器にした。

そういう訳で私は1個ずつユニオン武器を具現化。

なんか従来よりも青々しい目に優しすぎる色合いになったけど、それが意外とプラチドーラスとマッチしていて、より一層の味方側を彷彿とする姿になった。

 

「クソかっこよなったぞ」

 

16体のプラチドーラスに各々の武器を渡す。

一応イメージで、強化値+35、潜在能力Lv3と最高値にして、特殊能力は

 

アストラル・ソール

エーテル・ファクター

マナ・レヴリー

アブソリュート・グレア

リターナーⅤ

クラックⅤ

イクシードエナジー

マークジョイオ

 

という頭の悪い能力たちを付与させるようにイメージして具現化した。

ただ、それがしっかりと付与できてるかは知らん。

それにこの能力付けが正解なのかも分からない。

私も流石にイクシードエナジーやマークジョイオを付けたことはないので、分からないのだ。

 

「とりあえず、プラチドーラスにフォトンアーツを教えるか!」

 

両手をパンっと戦いて、そう言うとプラチドーラスたちは「???」と首を傾げる。

その後、4時間ぐらいかけて私はプラチドーラスたちに擬似フォトンアーツ……エーテルアーツを教えた。

プラチドーラス達は覚えがよく、直ぐにエーテルアーツをマスター出来た。

感想だが、こいつらが採掘基地防衛戦でたら絶対に相手にしたくないと思える。

何の捻りもなくアークスと塔を徹底的に破壊しにかかることは間違いない。

 

「さて、これでええか」

「ホッホッホ、熱心じゃのぅ」

 

後ろから声がする。

振り返るとそこにはアラトロンさんと、もう1人男性がいた。

 

「君が、小野寺龍照か」

 

物凄いラスボス感溢れる貫禄を放つ声を発した。

マザークラスタの装束を身に纏い、聴診器を首に掛けた医者の風貌をした男性だ。

 

「オフィエル・ハーバートさんですよね?」

「ああ」

 

私の言葉にオフィエルは頷いた。

 

「心拍数が上がっているが、緊張でもしているのかな?」

 

不気味に優しい声を掛けられ、少し動揺してしまう。

私は「少しばかり緊張しまして、やはり、マザークラスタの幹部が2人もいれば、やはりといいますか、緊張はしますよ」と少し笑いながらそう言った。

アラトロンさんは、ホッホッと笑う。

 

「なに、そんなに緊張しなくてもよい。ワシたちはマザーに用があってきたのじゃ」

「マザーに?」

 

私がそう言うと、アラトロンさん達が口を開く前にマザーが姿を現した。

 

『アラトロン、オフィエル、どうした?。』

 

そう言って、アラトロンさんとオフィエルの前に浮遊しながら話しかける。

3人が何やら会話をしている間、私とプラチドーラス達は、隅っこの方に行って、静かにエーテルアーツの練習を行った。

3人が話している隅で、プラチドーラス達が空気を呼んで、チマチマとエーテルアーツの特訓をしている。

 

「龍照よ!!」

 

アラトロンさんの大声に一瞬ビクッとして、振り返る。

 

「はい? なんでしょう?」

 

私の後にプラチドーラス達がちょこちょことついてくる。

なんだろうかと思っていると、どうやら鳥取砂丘で大型の幻創種が現れたらしい。

そこで、私がその幻創種を駆除して欲しいとの事だ。

せっかくだし、それを承諾した。

その幻創種は「エスコピオン」と呼ばれており、サソリの形をした幻創種らしい。

尻尾のトゲには毒があり、その尻尾から毒液を飛ばしてきたりするとのこと。

こえーな……。

 

「まぁ、ちょうど、プラチドーラスの戦いも見ておきたかったですし、やってみせますよ」

 

その後はオフィエルの隔離術式によって、その幻創種がいる場所に転送してもらった。

 

「ここが鳥取砂丘か、はじめてきた」

 

そんなことを思いながら、夜の砂漠を見渡す。

夜空は素晴らしく綺麗だ。

想像以上に。

これを見るだけで人生が変わると言っても過言ではないだろう。

しかし、呑気に眺めている場合ではなかった。

危険は私の後ろから迫り来ていた。

 

「……!!?」

 

後ろを振り向いて、すぐさま回避行動に出る。

後少し遅ければ病院送りだったであろうことは、星を見るより明らかだ。

 

「こいつが討伐目標か」

 

そこに居たのは、pso2では実装されていないオリジナルの幻創種。

黒い甲殻に、長い尻尾、強靭な鋏、幻創種特有の青いラインが引かれている幻創種、エスコピオンだ。

大きさは尻尾含めてロックベアぐらい、含めないと、キャタドランぐらい、長さもキャタドランぐらいかと思われる。

 

「よし、いくか!!」

 

私はプラチドーラスを16体具現化させる。

そして直ぐに、ウォンド・プラチドーラスに指示を出す。

 

「シフデバンス!!」

 

ウォンド・プラチドーラスは持っている短杖を掲げて、バフをまいた。

青と赤の膜が我々を纏う。

これによりプラチドーラスたちの攻撃と防御が上昇する。

エスコピオンは、なんと飛び上がり、尻尾から毒の結晶みたいな物体をこちらに向けて投げてきた。

それをウォンド・プラチドーラスは、再び短杖を掲げてテクニックを発動する。

 

 

ーメギドス・パリィスー

 

 

前方に紫色のバリアが展開されて、投擲した結晶の直撃と爆発を防いだ。

だが、結晶の爆発は相当のもので、展開されたバリアは一瞬にして崩壊した。

毒の霧が辺りに充満する。

それを見越したウォンド・プラチドーラスは予め、補助テクニックを発動していた。

 

 

ーアンティレスー

 

 

薄い光が我々を包み込み、毒を中和した。

体力と状態異常を回復させるテクニックだ。

覚えさせておいてよかった。

 

「AR・プラチドーラス行け!!」

 

アサルトライフルを構えたプラチドーラスが、バックジャンプをしながら、銃を構えて標準をエスコピオンに定める。

 

 

ーワンポイント・シュトゥルスー

 

 

一点に向かって集中的に射撃を集中させる。

銃口からレーザーが何十発も連射され、エスコピオンの殻に襲いかかる。

しかし、エスコピオンは怯むことなく、巨大な鋏を広げて、プラチドーラスに襲撃。

だが、そんなことは予想通りだ。

 

 

ーバックハンド・スマッシュスー

 

 

ナックル・プラチドーラスは素早く距離を詰め、巨大な鋏に突撃をかまし、一撃必倒の裏拳を叩き込んだ。

ダンプカーとダンプカーがぶつかった時のような音が砂丘に轟き、エスコピオンの片方の鋏は、跡形もなく砕け散った。

断末魔を上げるエスコピオン。

だが、直ぐに態勢を立て直したエスコピオンは、尻尾を巨大な鋏状に変化させ、ナックル・プラチドーラスを捕らえた。

抵抗するが、その強靭な鋏から逃れることが出来ない。

しかし、無意味だ。

 

「……カタナ・プラチドーラス、ソード・プラチドーラス」

 

私はそう名前を言うと「分かった」と言わないばかりに武器を構えて走り出す。

 

 

ーオーバード・ブレイスー

ーアサギリ・コンバトスー

 

 

ソード・プラチドーラスは一気に距離を詰め、カタナ・プラチドーラスは視認が出来ない程の高速で接近。

そして、ソード・プラチドーラスが柄で鋏を突きを食らわせて、追撃に大剣の刃にエーテルによって具現化させた極大の刃を纏わせて、尻尾を切り裂く。

カタナ・プラチドーラスは、鋏に目にも止まらぬスピードで連撃で切り刻み、更に一太刀し、カタナを納刀。

カチン!

と鉄の音が辺りに鳴り響き、エスコピオンの鋏や尻尾に無数の斬撃が光り輝き、その部位がバラバラに切断される。

ナックル・プラチドーラスは、そのまま落下。

 

 

ーサウザンス・クエイクー

 

 

落下する勢いのまま、容赦のない連打の拳の雨をエスコピオンの背中に浴びせる。

あの声が聴こえてくるよ。

無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!

と。

そんなことはないけどな。

ただ、それを連想する程に激しかった。

トドメと言わんばかりに、渾身の一撃が背中に直撃する。

耳を刺すような甲高い断末魔が砂丘に木霊する。

エスコピオンは、そのまま沈黙し地に伏した。

動かなくなったエスコピオンは、幻創種がやられた時特有の青い光を放って霧散。

目標の討伐が確認された。

 

しかし、この砂丘には別の幻創種が存在した。

私はアラトロンさんに任務完了の報告をして月に転移して貰おうとした時だ。

砂中から巨大な影が姿を見せた。

その姿を見て、私は戦慄する。

見た目は、いや。見た目というか……姿はクモそのものだ。

てか、まんまだ。

ダークラグネとか鼻で笑うレベルに、この幻創種はクモそのものの見た目をしている。

そうだな。

アシダカグモをダークラグネと同じぐらいにしたと言えば、どれだけ生理的に受け付けないものかが分かるだろう。

ちなみにだが、私は蜘蛛が死ぬほど嫌いだ。

嫌いというレベルではない。

蜘蛛が現れた場所を禁足地としてアースジェット1本分を全て使い果たして2日はその場所に入らないぐらい嫌いだ。

モンハンのネルスキュラでも若干鳥肌が立ったのに、これはヤバい。

こんなんがpso2に追加されたら、少なくとも私は、要望というか文句として問い合わせるレベルだ。

マジで。

それくらい、今の目の前に映る幻創種は……。

いや、そんな説明をしてる間に、そのアシダカグモから逃げよう。

肝心なプラチドーラスも、私が具現化したからか、蜘蛛にビビり散らしていた。

流石にプラチドーラス達が可哀想なので、具現化を解いて、アラトロンさんに早くテレポートして貰うように叫ぶ。

 

しかし、その叫び声に反応したのか、アシダカグモの幻創種は物凄いスピードでこちらに迫ってくる。

 

「ぎゃあああああああああぁああああああああああああああああああぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

その姿を見た私は、喉と声帯を破壊する程の雄叫びに近い悲鳴を上げながら、月にテレポートした。

その後、私の背中がムズムズと変な違和感に襲われたのは言うまでもない。

勿論、こんな状態で具現化などできるはずも無い。

マザーからは『少し休め、そして落ち着け(要約)』言われ私は、マザーの手によって自宅に強制送還された。

とりあえず、あの幻創種がpso2に実装されていなくて良かったと心から思った。

 

 

 

 

続く



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6話︎︎ 地獄のすき焼き

マザーに休めと言われたので、ほくほく線の前面展望でも見ようと考えて、越後湯沢駅まで新幹線で行こうと考え、上越新幹線ときに乗り込んだ。
そして、非常に面白い人物に出会うことになった。


 

 

 

「朝か……」

 

私はあの後、マザーに強制送還されてしまい、風呂はいってベッドに直行した。

ベッドから起きて、物凄い欠伸と背伸びをして冷蔵庫に入っている麦茶を取り出して、水分補給をする。

少しだけ奇妙なんだが、あれだけ暴れた次の日だというのに、何故か疲労感や筋肉痛が一切なく、素晴らしく調子が良いのだ。

奇妙だとは感じたが、まぁエーテルの影響で少し肉体が強くなっているのだろうと、勝手な解釈で納得した。

さて、たまには息抜きも必要やろう。

私はどこかお出かけすることにした。

そのついでにどこかで買い物もしよう。

よし、なかなか中身のないスケジュールだ。

 

「とりあえず、行くか!」

 

私はバッグに財布を入れて、外出時の服に着替えて家を出た。

特に行くあてもないけどね。

 

「さてと、適当にぶらつくか」

 

ポケットに手を突っ込みながら、私は東京駅の方に向かう。

行き交う人々を適当に眺めながら歩いているが、私のいた地球とあまり大差のない感じだな。

違いがあるとすれば、エーテルがあるか無いかの違いか……。

対魔忍とかもこの世界に存在したりするのかな?

流石に無いか。

意外とありそうやけど、まぁ流石にないか。

あ、違うわ。

そもそも時代が違う。

あと4、5、60年先や。

まぁでも、この世界の60年後に対魔忍に似た組織ができるかもしれない。

違うわ、それがアースガイドや。

 

「いやー、やっぱこのコラボはスゲーな!」

「ああ! 実装が楽しみや!」

 

男性2人の声が聴こえ、振り向くと、そこは小さなゲーム屋だった。

そこに貼られたポスターを見て、話題に盛り上がっているらしい。

私も少し興味深くなり、そのポスターを見てみると、「MONSTER HUNTER: WORLD FRONTIER」と「ファイナルファンタジーXⅣ」の夢のコラボと描かれたポスターだ。

ポスターというか、広告だな。

少し興味深く感じたのは、モンハンワールドフロンティアか。

私の世界にはないゲームだ。

正直結構やってみたいと、感じた。

めっちゃ調べたい。

だけど、私のスマホはここの世界に対応してないしな……。

ちょっとマザーに頼んで携帯端末貰お……。

ダメ元で今からマザーにきいてみようか。

私は以前アラトロンさんから頂いたポータルを使って月へとワープしようと考えた。

しかし、私はこのポータルに、スマホと同じ機能を持っていることに気がつく。

しかし、スマホを使っていた身からしたら、私はこのポータルをスマホ代わりにするのは何か妙な違和感があった。

ただ、まぁpsvitaがスマホと同じ機能を持ってると考えればいいか。

でも、後でマザーにスマホのこと聞いてみよ……。

さてさて、どこに行こうか……。

私は昔の事を思い出し、東京駅から上越新幹線の乗り場に向かうことにした。

乗車の手続きを済ませて、上越新幹線とき303号に乗り込んだ。

私の目的地は越後湯沢駅。

何故、越後湯沢駅かと言うと、私が子供の頃に電車でGO高速線というゲームをやったことがあり、ほくほく線をよくプレイしていた。

その事を思い出して、自分の目でほくほく線の景色を見ようと考えたのだ。

私は、指定された席に座り、ポータルでモンハンワールドフロンティアとFF14のコラボ情報を確認してみた。

 

どうやら、モンハンワールドフロンティアは来週の水曜日のアップデートで、五体のコラボモンスターが追加されるらしい。

《ベヒーモス》《極神龍》《リヴァイアサン》《バハムート》《ニーズヘッグ》というとんでもないレベルの豪華なメンツだ。

They Tubeという動画サイトにて、《極神龍》と《天翔龍シャンティエン》が天空で、恐ろしい空中戦を繰り広げている映像があった。

更に、コラボ記念として新OPが発表されており、そのOPは蒼天のイシュガルドのトレーラーのパロディ的なOPだった。

ドンドルマにニーズヘッグと大量の飛竜が襲撃し、それをドラケンを身に纏ったハンターが迎え撃つというOPだ。

コレ見て、やらない奴はいないだろう。

せっかくだ、マザーから頂いたあの大金を使ってPCを買おう。

 

次は、FF14だ。

FF14は《キリン》《ジンオウガ》《リオレイア》《ミラボレアス》《グラン・ミラオス》というこれもまた豪華な面々だ。

映像では、皇都イシュガルドに《ミラボレアス》が襲来して、リムサ・ロミンサに《グラン・ミラオス》が佇んでいる映像があった。

他にはキリン装備に包まれた少しエロい光の戦士(女性)もピックアップされている。

他の映像から察するに、多分こちらのFF14も、以前にモンハンワールドとのコラボでリオレウスがエオルゼアに来ているのだろうな。

アジムステップでリオレウスとリオレイアが狩りをしている写真が掲載されている。

こうなると、FF14もやってみたいな。

まぁ、それはさておき、これからちょっとした旅を楽しもうじゃないか!

私は出発するまでこれからのルートを調べていると、隣に黒を基調とし所々に青いラインが引かれた独特のコートを身に纏い、中々黒づくしの男性が座った。

 

「失礼しますね」

「あ、はい」

 

男性は丁寧な口調でそう言った。

暫くは沈黙が続いたが、突如男が口を開く。

 

「ここではあまり見ない顔ですけど、どこから来ましたか?」

「えーと、大阪から」

「それはそれは、そのような遠い所から遥々と」

「え? そうですね」

「なるほど、通りで見ない顔です。あ、失礼しました。私、赤暗 土流(アカクラ モグラ)と言います。中々面白い名前でしょう?」

 

赤暗さんは丁寧な口調で嘲笑する。

確かに中々パンチの聞いた名前であるが、個人的にはなかなか惹かれる名前だった。

 

「いえいえ、そんなことはないですよ。個人的な感想になりますが、私は中々に惹かれる名前です」

 

そう言うと、赤暗さんは、目をパッと光らせて嬉しそうな眼差しで「そうですか!? ありがとうございます! 昔からこの名前で虐められておりまして、そう言って頂けて本当に嬉しいです」と言っていた。

 

「失礼を承知ですが、貴方の名前は?」

「私ですか? 私は朱雀龍輝と言います」

 

今更ながら、少し怪しさがあったので、私は偽名を使った。

朱雀龍輝と言う名前は、私が向こうの世界で書いていた小説の人物の1人の名前だ。

正確に言うと、自分自身をモデルとした人物の名前である。

何故朱雀龍輝なのかと言うと、ここで話すのも面倒なので割愛する。

 

「朱雀様ですか、ありがとうございます!」

 

そう言って、赤暗さんは座りながらお辞儀をした。

その後、赤暗さんと雑談をした。

どうやら、赤暗さんは科学者のようで、今は次元転送装置や、未来転送装置や、とある兵器などを開発しているらしい。

次元転送装置と未来転送装置は、調整段階のようで、とある兵器は試作段階のようだ。

 

「科学は全てを超越します。いずれ、身体を犯す不穏因子全てを弾き返す最高の防護服すらも世に渡ることでしょう!」

 

大々的にそう言う赤暗さん。

いまこの車両には私と赤暗さんしかいないが、これで居たらなかなか恥ずかしいものだ。

 

「しかし、そのような事。私のような一般人に説明してよろしいので?」

私はそう言うと、赤暗さんは少しだけ微笑んだ。

 

「私の名を笑わなかったお礼ですよ」

「そうですか」

 

私が赤暗さんにそう言った時、新幹線が出発した。

その後も、色々と赤暗さんの開発談義に花を咲かせた。

赤暗さんが開発しているとある兵器は自律成長システムという機能を内蔵させて、敵に応じた形態に変化させるシステムとそれに合う装甲を試作しているらしい。

またその兵器を護衛する随伴機、その他の兵器も開発中とのこと。

正式名の方はまだらしいが、4体ある内の一機の随伴機の名前は決まっており、次の世代に向けた機体に因んで「NEXT」という名前らしい。

そして、とある兵器自体の名前は、まだ付けられていない、これはどうやら意図的に付けておらず、時期がきたら命名するらしい。

 

越後湯沢駅到着のアナウンスが車内に流れる。

私は降りる準備を始めた。

赤暗さんも越後湯沢駅で降りるようで、同じように準備を始めていた。

 

「今回は貴重な話をありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ、では御機嫌よう」

 

赤暗さんはそう言うとお辞儀をして、別の方向へと歩いていった。

私は、ほくほく線のホームへと向かう。

そう言えば、この世界では《はくたか》は走っているのだろうか?

私の世界では、はくたかは廃止されていて、走っていない。

理由はよく知らないが、多分新幹線の影響だったかな?

あまり詳しくないから、その事には触れないでおこう。

 

少し早歩きでほくほく線の切符売り場に到着して、特急券の場所を確認してみると、どうやらはくたかは走っているらしい。

さっそくはくたかの特急券を購入して、停車中のはくたかに乗り込んだ。

その後は、指定された座席に座るや否や、直江津駅まで眠りに入った。

直江津駅に辿り着いた私は、一息おく。

さて、ここからが本番だ。

今度は超快速スノーラビットという二両編成の列車に乗り込み、1番前の車両の1番前の座席に座った。

そう、私は子供の頃にプレイしたほくほく線の前面展望を、今度は自分の目で見ることなのだ。

はくたかでは、前面展望は見れそうにないので、超快速に乗ることにしたのだ。

さてさて、ここから越後湯沢駅まで前面展望を楽しむ。

列車が出発し、私は電車でGOで見た景色と同じリアルな景色を堪能した。

 

「(あぁ、ここの犀潟駅での制限速度45のところで何回もゲームオーバーになったなー)」

「(ここのチンっ!ってなる音印象深かったなー)」

「(ここからの高速進行の声が癖になるんだよなー)」

「(虫川大杉駅って駅が変に思入れがあるんだよなー)」

「(トンネル内の信号場の初見の衝撃は半端なかったなー)」

「(初見の美佐島駅が凄い印象に残ってるんだよなー)」

「(ここのトンネル長いんだよなー)」

「(3000番台は六日町駅までだったから、YouTubeでみた越後湯沢駅までの路線が凄い新鮮だったなー)」

「(六日町駅からこんな風になっててんなー)」

 

などなど、越後湯沢駅までの間、そんな事が頭に浮かび、少し懐かしさがあった。

私は涙が少しだけ滲み出る。

 

「懐かしいな……」

 

 

越後湯沢駅に到着した私は、背伸びをして東京駅に戻るため、新幹線のチケットを買い、新幹線ホームへと向かった。

暫く待っていると、乗車する新幹線が到着し、それに乗り込んだ。

出発まで待っていると、私の隣座る人が現れる。

 

「また会いましたね」

「おー、赤暗さん」

 

再び赤暗さんと出会った。

 

「帰りですか?」

「はい、赤暗さんもお帰りに?」

「ええ、ちょっとした会合に」

「そうですか」

 

そんな話をしているうちに、新幹線ときは、東京駅向けて出発した。

それと同じに、赤暗さんは、とあることを私に聞いてきた。

 

「朱雀様は、別の世界があると思いますか?」

「別の世界? パラレルワールドとか、アニメやゲームの世界ですか?」

 

赤暗さんに訊ねると、コクリと頷いた。

 

「私はあると思いますよ」

 

私はそう言う。

これは本心だ。

なぜなら、私がこの世界とは別の世界から来た人だからだ。

そんなもん、どの面下げて「別の世界なんてあるわけないやろ」なんて言えようか。

 

「あなたもそう思いますか?」

「ええ」

「私もです。ロマンがありますよね。因みに失礼でなければ、朱雀様はどこか行きたい世界とかあるんですか?」

「あー、ありますよ。その世界に行く、それが私の夢ですからね」

「ほほう、どこの世界に行きたいのか聞いてもよろしいですか?」

「ええ、私が行きたい世界は……」

 

その時、越後湯沢駅行きの新幹線がすれ違った。

 

「ーーーですね」

「ほう、これは中々面白い世界に行きたいみたいですね」

「何か誤解されそうなので、先行撃っていいますけど、別にそういう目的で行きたいのではなく、ただ、あの世界観が非常に好きで行ってみたいのと、その世界の民俗学を学びたいのと、その世界のとある神話を打ち砕いた先にある未知の未来を見てみたい感じですね」

「なるほど」

「五車とかヨミハラとか行ってみたいじゃないですか! それにあそこで生活するとしたら五車学園にでも入学したいですね!」

「私は、あのゲームはあまり詳しくない故、話のバネを用意することが出来ないので、あまり語らないですが、もしかしたら行くことも可能かもしれませんよ」

「まぁ、そうでしょうね」

 

だって、私がこの世界に来たわけやし、可能性は十分にあることは火を見るより明らかや。

 

「あと5、6年もしくは、10年あれば実現も夢ではない!」

「ぶっ飛びたいですね。超現実に」

「ええ!」

 

赤暗さんと話をしていたら、あっという間に東京駅である。

 

「今日は誠にありがとうございます」

 

赤暗さんは丁寧にお辞儀をして東京駅を後にした。

さて、私も家に……帰る前に買い物をしようかな。

 

私は近くのスーパー『春風亜』に立ち寄り、晩飯の材料を買うことに決めた。

色々と見た結果すき焼きにしようと考え、すき焼きに必要な物を買い物カゴに入れた。

 

「へー、意外とスーパーにタバスコとか売ってるんやー」

 

その時、プラチドーラスと思わしき腕が、買い物かごに大量のタバスコを入れたのを彼は気づいていない。

 

 

 

一通り買い終えた私は、レジに通して買い物袋に一気に入れた。

家に戻ってすき焼きの準備に取り掛かる。

しかし、1人では何かと面倒なので、エスカダーカー達にも手伝って貰おうと考え、総掛かりですき焼きの準備をする。

それが地獄の始まりであった。

 

 

 

あとは煮込むだけという時に、私は尿意に襲われてトイレへと駆け込んだ。

プラチドーラスたちはその隙を逃さず、密かに買ったタバスコをすき焼きの中に全て投入する。

 

 

「さてさて、食べますか!」

 

私は鍋の蓋を持って、一気に開けた。

その直後……。

 

「ゲホッ!! ゲホッ!! オエッホオオオ!!」

 

物凄い臭いに私は噎せた。

な、なんだれこれ?!

腐った!?

私はそう頭を過ぎると同じに、元いた世界で見たとある動画を思い出し、この臭いの元がタバスコであることを突き止めた。

そして、一言。

 

「プラチドーラスおまえらか!!?」

 

彼らに詰め寄るが、彼らもまた余りの臭いにむせ返っていた。

 

「お前らも噎せとるやんけアホ!!」

 

笑いの成分が含まれた声でプラチドーラス達に叫ぶ。

しっかし、強烈な臭いだ。

こんなんどうやって食べろと……。

とりあえず、卵で緩和しようと試みるが、それでもキツい。

 

「おい、プラチども。お前らも食べろ」

 

首を振るプラチドーラス。

しかし、コイツらに拒否権はない。

私はプラチドーラスをひっ捕らえて、無理矢理タバスコまみれの牛肉を口に放り込む。

噎せ返るプラチドーラス。

 

高級のタワーマンションに見合わぬテンションの叫びが一室に響き渡った。

 

 

 

 

 

続く




エーテル粒子とは、人々の強い想いに反応することがある。
だが人間1人の強い想いにはエーテル粒子が反応することは少ない。
しかし、もし世界中の多くの人々が同じ想いをしたらどうだろうか?
明日は水曜日、MONSTER HUNTER: WORLD FRONTIERに、ファイナルファンタジーXⅣとのコラボモンスター、ベヒーモス・神龍・リヴァイアサン・バハムート・ニーズヘッグが実装される。
そして来週の火曜日に、ファイナルファンタジーXⅣには、キリン・リオレイア・ジンオウガ・ミラボレアス・グランミラオスが実装される。

この2つの夢のコラボは世界中の人々の強い想いが生まれる。

その日、日本上空にて2つの強いエーテル反応が確認された。


次回、月面基地防衛戦【邪龍】


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7話 月面基地防衛戦【邪龍】前編

 

 

 

 

「遂に明日だ!」

 

この時をどれだけ待ち詫びたことか!!

あの後、私はマザーから貰ったお金で、最新のゲーミングPCを購入し、3日間寝ず飲まず食わずでマスターランクまで上り詰め、装備も完璧に整えた!!

ちなみに、FF14の方も並行して暁月の最後までいった。

途中で何回も泣いた。

まぁ、それは今はいい!

明日!!

水曜日にモンハンワールドフロンティアのアップデート!

FF14とのコラボで、ベヒーモス、ニーズヘッグ、リヴァイアサン、神龍、バハムートが新大陸と現大陸に飛来するのた!!

楽しみすぎる!!!

明日というこの辛さ。

楽しみすぎて辛い。

睡眠薬を飲んで明日まで強制的に寝てやろうかとすらも思える。

いや、寝よう!

もうダメだ!!

この時間が辛い!!

そう言って、私はドラッグストアに向おうとした。

しかし、このとき、私は気づいていなかった。

エーテル粒子は人の強い想いに反応し、形を成す。

一般人1人の強い思いでは、エーテルはそれほど反応しない。

しかし、それが幾千、幾万という数の人が強い思いをすればどうだろうか……。

 

 

エーテル粒子が反応し、それらは形を成す。

 

 

月面基地にて超強力なエーテル反応が多数確認された。

私はアラトロンさんに呼ばれて月面基地に召集された。

 

マザークラスタ幹部【オリンピア】が月面基地内にある広間に集まっている。

もちろん、私もここに呼ばれていた。

個人的にはある意味で良かったかもしれん。

何故かというと、あのまま明日が来るまでじっと待っているより、ここで何かをしている方が余っ程いい。

 

『皆、 急に呼び出して申し訳なく思う。だが、緊急を要する事態だ。月面基地上空に強力なエーテル反応があった。物質世界に顕現する前に、何としてでもこれを消滅させなければならない。』

 

と、マザー。

更に続ける。

 

『明日に、モンスターハンターワールドフロンティアに実装されるファイナルファンタジー14のコラボモンスター、ニーズヘッグを模した幻創種が顕現すると予想される。ただ、もう1つ、ファイナルファンタジー14に実装されるモンスターハンターのコラボモンスター、ミラボレアスを模した幻創種も出現する』

 

とりあえず、とんでもない幻創種が出てくることは分かった。

ミラボレアスとニーズヘッグって……。

宇宙でも支配する気かな?

 

エスカボレアスと、エスカニーズヘッグかな?

ただ、元となったミラボレアスとニーズヘッグ自体がとんでもない力を持っているため、幾千万程度の人間の思いでは完璧には具現化できず、元のミラボレアス、ニーズヘッグよりかは、弱体化をされている。

どれだけ弱体化されているかというと…。

ゲームで戦う2対の強さが10だとすると、今回想像される2対の強さは、1だという。

ただ、それでも恐ろしい強さを持っており、マザーをもってしてでも具現化を解くことが困難という状況のようだ。

 

とりあえず、我々の目的は、ミラボレアスおよびニーズヘッグの討伐。

マザーは全神経を使って、2匹の力を弱めるとのこと。

つまり戦闘には参加出来ない。

更にそれでも、あまりの強さのため、幹部クラスのみの参加となる。

幹部クラスと言われているのに、何故か呼ばれてしまった私。

まぁ、ええや。

 

オフィエルはキョロキョロと辺りを見たあと、マザーに問う。

 

「マザー。魔人ファレグはどこに?」

『あぁ、ファレグならこの戦いには参加しないと言っていた。』

「なぜ?」

『強い気配があり、是非とも参加したいが、この戦いに私が参加すれば、それよりも強い人と戦えなくなる。だから、私はこの戦いは見守ると言っていた。』

「???」

 

眉を潜めて「どういうことだ?」と言いたげな表情をするオフィエル。

アラトロンさんは、「ホッホッホ、ファレグらしい」と笑っていた。

わたしは、オフィエルと同じ感想だ。

え、マジでどういうこと?

色々と考えを巡らせているが、まぁ、あの人の考えはよう分からんから、ええや。

まぁ、やるしかない。

もし、幻創ミラボレアスと幻創ニーズヘッグが月面基地に現れたとかSNSで晒されたら、より大勢の人の目に止まり、取り返しのつかない事になりかねない。

とりあえず、あの2匹の龍を地球に近ずけてはならない。

そのため、私はマザーやその他幹部にある提案をする。

 

「幻創の城を創るだと?」

 

私の提案にオフィエルは眉を顰める。

何言ってんだコイツみたいな感じで…。

しかし、私は物怖じせずに淡々と説明をする。

具現化されるニーズヘッグとミラボレアスは2つとも城での決戦になる。

特にその城は2匹の龍にとっては因縁深い城。

つまり、人の想像で生み出された存在ならば、その城に反応して、地球にヘイトは向かないのでは?

ということだ。

何としてでも月面で食い止めなければならない我々は、結局その案になった。

 

そして、マザーがエーテルを用いて、イシュガルドとシュレイド城を創造させた。

中身はパチモンであるが、かなり精巧に造られている。

ビックリしたことは、マザーは光の戦士であり、ハンターでもあったこと。

マザー曰く、度々こういう事が起こるらしく、あらゆるゲームをやって、それらのモンスターの攻略法や設定を予め知っておくことで、対処し易いようにするらしいとの事。

ちなみに、ヒカセンマザーのジョブは竜騎士と暗黒騎士、忍。

ハンターマザーの使用している主な武器は、大剣、双剣、ランスだった。

 

さて、こちらも、エスカダーカーを大量に具現化し備える。

暫しの静寂が包まれる、が…

 

「来たか」

 

アラトロンの言葉に全員が武器を構える。

遂に上空に2つの青い光が輝き、その輝きがより一層強くなる。

そして、その輝きの中から2対の黒いドラゴンが姿を見せた。

 

人々の想像により具現化された龍。

七大天龍の一翼、幻創邪龍ニーズヘッグ・エスカ。

禁忌にして伝説の黒龍、幻創黒龍ミラボレアス・エスカ。

 

それらのドラゴンは、巨大な翼をゆっくりと羽ばたかせながら我々の方を見つめ、2対のドラゴンの口の間から赤い燐光が確認できた。

それが、火炎ブレスと分かり、私はウォンド・プラチドーラス達にメギドス・パリィス9重結界を展開し、タリス・プラチドーラス達がアンティレスをブッパする。

 

ニーズヘッグとミラボレアスの火炎ブレスが展開したメギドス・パリィス9重結界をぶち破って、創造したエスカダーカーのほぼ全てを焼き払う。

残っているのは、あの火炎ブレスを回避したエスカ・ラグナスとエスカビブナスの2匹のみ。

残りの小型エスカダーカーは全員やられてしまった。

 

「まぁ、そうやろうな…」

 

相手が使う属性、私が想像できるエスカダーカーの弱点を考えてみれば、予想的中過ぎて、自分に呆れるしかなかった。

 

幹部たち、オフィエル、アラトロン、べトールの3人も物凄い跳躍力で、回避する。

ちなみに私は、必死に逃げ惑って躱した。

 

「術式展開」

 

オフィエルはニーズヘッグの周りにキューブ状の物体を作り出し、そこからメスをガトリングのように放つ。

幾つものメスがニーズヘッグの全身に突き刺さるが、どれも致命傷には至らないようで、気にする様子もなく、我々目掛けて飛んでくる。

 

一方でミラボレアスは再び口から赤い燐光を放つ。

 

「全く、マザーに呼ばれて、午後のワークをキャンセルして、月にカムヒアしたと思ったらとんだドラゴンがいたもんだYO!」

 

体を大きく動かしながら、独特のポージングで喋るアフロヘアーのオジサンこと、べトール・ゼラズニィさん。

 

「だが、こんなレアな戦い、これを逃すとオレの人生絶対に後悔すること間違いなし!」

 

べトールさんの具現武装であるカチンコが具現化される。

 

「だから、カッコよくムーブくれよ? ミラボレアスチャン?」

 

先程まで愉快に体を動かしながら、テンションアゲアゲの表情で喋ってたべトールさんが、1人の映画監督の顔になる。

 

その言葉に目もくれず幻創ミラボレアスは扇状の炎ブレスを吐き出した。

 

「カットっ!!」

 

べトールはカチンコを鳴らす。

すると、炎のブレスの半分が空間ごと切り裂かれ、辺りにバラけて霧散した。

残りの炎ブレスはべトール目掛けて迫り来る。

 

「トールハンマーよ!」

 

べトールの前にアラトロンが現れ、雷を纏った金色の巨大なハンマーを回転させて、炎を防いだ。

 

「ほっほ、流石ドラゴンじゃのう。危うくワシのトールハンマーが溶けるところじゃったわい」

「オーマイガー! アラトロンボーイ! オレの最高のステージを邪魔しないで欲しいNE!」

 

若干怒りの成分が入った口調でべトールはアラトロンに話すが、アラトロンは「ホッホッ」と笑うだけでそれ以外は何も言わなかった。

 

 

「向こうは、アラトロンさんとべトールさんで幻創ミラボレアスを抑える感じか」

 

ってことは……。

私の相方はオフィエルか。

 

「小野寺龍照、共に行くぞ、マザーの愛した地球を守るために」

「りょーかいです」

 

 

現在幻創都市イシュガルドの地に降り立った幻創ニーズヘッグを、エスカ・ラグナスの蜘蛛糸で身動きを封じようと指示を飛ばす。

しかし、幻創ニーズヘッグは黒い翼に赤い炎をメラメラと纏わせ、その翼を羽ばたかせた。

その羽ばたいた勢いで、炎を周囲に撒き散らす。

かなりの広範囲で、それを見抜いたオフィエルは、術式を使って宙に回避する。

ワープする手段を持たない私は、エスカ・ビブナスに捕まって空へ逃げ込んだが、空に逃げる手段のないラグナスは、吹き飛ばされイシュガルドの外壁に叩きつけられる。

更にニーズヘッグは口から炎を吐いて、動けないラグナスを倒した。

私の残りはエスカ・ビブナスだけとなる。

結構まずい。

どうしたものか……。

私は、ビブナスの背に乗って考える。

どうする?

エスカダーカーを大量に再想像して、押し寄せる手を考えたが、先程の炎の攻撃をみた感じ無理だな。

それに確実にこちらの集中が切れて終わるな……。

 

 

……。

これ、私要らなくね?

 

 

「くっ……!」

 

そんな事を考えてるうちに、ニーズヘッグの羽ばたいた風圧で吹き飛ばされるオフィエル。

その風圧はこちらまで届き、ビブナスの態勢が崩れ、必死に態勢を整えてるところにニーズヘッグの攻撃である黒い雷が直撃。

バーニア部分の羽が完全に燃え散ってしまい、為す術なくニーズヘッグ目掛けて墜落する。

ビブナスは必死に墜落軌道を修正しようとするが、その努力虚しく、炎を纏ったニーズヘッグの尻尾によって真っ二つに焼き切られてしまう。

 

「イッっ!!!!!??」

 

私はビブナスの死力により、ニーズヘッグの攻撃範囲外に投げ飛ばされ、イシュガルドの外壁……。

場所で言うとイシュガルド下層の雲霧街辺りの外壁に叩きつけられる。

 

「かっはっ!!!」

「隔離術式領域展開!」

 

オフィエルはそう言うと、私とニーズヘッグの周囲を青いキューブ状の物体が現れる。

ニーズヘッグは火球ブレスを私目掛けて放つが、そのブレスは青いキューブに吸い込まれ、ニーズヘッグの周囲に展開されているキューブからそのブレスが放たれる。

 

しかし、それを見たニーズヘッグがオフィエルに狙いを定める。

黒い雷をオフィエルに撃つ。

それを隔離術式で回避するも、炎を纏った翼による広範囲攻撃により展開されたキューブが全て破壊される。

 

「ちっ!」

 

隔離術式を使い、別の場所に転移する。

それをニーズヘッグは、咆哮から発する衝撃で辺りを薙ぎ払う。

転移が遅れたオフィエルは抵抗できずに薙ぎ倒され、気を失ってしまう。

 

「これはやばいぞ……」

 

べトール達もかなり幻創ミラボレアスの攻撃で気を失っている。

マザーは、2対の力を弱めており動けそうにない。

マジでこれ終わったかもしれん。

 

ニーズヘッグの眼がこちらを睨む。

禍々しい眼を前に私は少し畏怖の感情を抱く。

ゲームで見たものより、恐怖感がダンチである。

エスティニアンはよく、こんなバケモンを相手にしていたなと感心してしまう。

どうする、エスカダーカーを囮にこの場から一時退散するか?

ただ、この畏怖の感情を抱いた状態ではろくな具現化も出来ないだろう。

 

ニーズヘッグは口を大きく開き、口内から赤と橙が混ざった燐光が眩しく映る。

終わったか?

そう心で思った時だった。

 

「本当に終わったと思ってる?」

 

頭の中で誰かが囁く。

女性の透き通った綺麗な声だ。

 

「え?」

「まぁ、いいや。ちょっと貸してね」

「え、ちょっ!?」

 

身体が自分の意思に反して勝手に動き始める。

私はこの急展開についていけず、パニックになる。

 

「貴方が死ぬと私も死ぬのよ必然的にね。正直まだ死にたくないの! まだ幼女や美少女を愛でてないのよ、わかる? だからここは全力で抵抗するね!」

「待って、あなたは?!」

 

絶賛パニック中の私が出た第一声がそれだった。

ただ、その謎の声の主は私の想像を遥か斜め上を行く返答が帰ってきた。

 

「貴方によって具現化されたアプレンティス、そうね、貴方風に言うなら、エスカファルス・アプレンティスよっ!」

「はぁ!?」

「ちょっと主導権貸してね! もう借りてるけど!」

 

そう言うと、アプレンティスは内にあるエーテルを解放し、ある姿に変えた。

それは、白を基調とした巨大な女王蜂といって差し支えない姿。

pso2をプレイした人に分かりやすく言うなら、オメガファルス・アプレンティスに、それらの配色をエスカファルス・マザーの色に変えた感じと言えば想像つくだろう。

 

その怪物は、幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスに向けてこう言い放った。

 

「さぁ、見せてあげるよ! 想像によって生み出されたアプレンティスの力を!」

 

 

 

 

 

 

後編に続く



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8話 月面基地防衛戦【邪龍】後編

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、見せてあげるよ! 想像によって生み出されたアプレンティスの力を!」

 

 

私は、そう口にしていた。

自分の意思とは無関係に様々な部位が動いている。

全身を縛られた状態で、車に乗せられて、見知らぬ他人に乱暴に運転させられてる感じだ。

私には分からないが、何となくダークファルス・アプレンティス完全体になっているのだろうと想像できた。

頭の中でオメガファルス・アプレンティスのBGM、DYREINA(ディレイナー)が脳内再生される。

 

「さぁ、行くよ! 幼女美少女とキャッキャウフフする為に!」

 

そう宣言すると、アプレンティスは超巨大なツインダガー、アプレンティスグラッジを具現化させる。

 

「こんな感じかなー?」

 

 

―レイジング・ラプソディエス―

 

 

超巨大な身体を縦に回転させながら、幻創ニーズヘッグに急降下する。

幻創ニーズヘッグは口から火球を吐いて攻撃するが、その火球も一刀両断しながら、接近する。

 

「でやああああああ!!」

 

幻創ニーズヘッグを切り裂こうと力を込めた回転斬撃を見舞うが、この邪龍は力いっぱいに大地を蹴って空中に跳躍。

火炎ブレスを地面に向けて放射する。

 

「そう簡単には当たらないよ!」

 

即座に地面に突き刺さった剣を抜き、背を地に向けた態勢で上空に力場を発生させて、火炎ブレスを跳ね除けた。

 

「これがお望みかな?」

 

アプレンティスグラッジの具現化を解いて、巨大な腕を用いて斬撃飛ばす。

一般的な2階建て一軒家と同等の大きさを誇るアプレンティスから出る巨大な斬撃だ。

直撃はもちろん、掠れただけでも致命傷は免れないだろう。

そんな特大斬撃を幻創ニーズヘッグは片手で弾き返した。

跳ね返った斬撃を再び具現化したアプレンティスグラッジで真っ二つにぶった切りながら突撃。

 

「これでどうかな?」

 

ニーズヘッグは両手両足で防ごうとするが、その巨体故に叶わず、組み伏せられ幻創イシュガルドに叩きつけられる。

再び炎のブレスを吐こうとするが、アプレンティスがそれを許す訳もなく。

 

「やっ!」

 

幻創イシュガルドに大きめのクレーターが出来るほどの力場を発生させニーズヘッグを吹き飛ばす。

余りの威力にアプレンティス本人も後方に弾かれる程だ。

更なる追撃をぶつける。

 

「踊れ踊れー、おっ祭りだー!」

 

巨大レーザーを発射。

そのレーザーは中央から拡大、更に外側から収縮する筒状のレーザーで、幻創ニーズヘッグを倒しにかかる。

 

「さぁ、これでトドメ!」

 

アプレンティスグラッジを構え、切りかかる。

しかし、砂煙を巨大な翼で吹き飛ばし、飛翔する幻創ニーズヘッグ。

そのままアプレンティスの巨腕に噛みつき、地面に叩きつけようとする。

だが、それがアプレンティスに通用する訳もなく、逆に力づくでそれを振り払い、ねじ伏せる。

 

「うらあああああああ!!」

 

幻創ニーズヘッグを一本背負いで幻創ミラボレアス目掛けて投げ飛ばす。

幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスがぶつかり合い、イシュガルドとシュレイド城の境目の外壁に叩きつけられる。

 

「トドメええぇぇええええ!!」

 

アプレンティスの複数の羽から青いオーラを放って、アプレンティスグラッジを大振りに突き刺そうとする。

しかし、突如2匹の龍が真っ赤な爆炎に包まれ、その中から炎のように赤く染まった2匹の幻創龍がアプレンティスを急襲。

幻創ニーズヘッグがアプレンティスを月面に叩きつけ、幻創ミラボレアスが劫火でシュレイド城とイシュガルドの半分とアプレンティスを焼き払った。

 

「ぐぅう……!」

 

熱さと激痛で頭が可笑しくなりそうだ。

だが、流石ダークファルスのエスカ版と言うべきか、全部の羽が損傷しただけで済んだ。

ただ、アイツらはまだピンピンしているのに、こちらはかなりのダメージを受けた。

どうするべきか……。

 

「ねえ、貴方ミラボレアスとニーズヘッグ戦ったことあるでしょ!? 弱点とか知らないの?!」

 

アプレンティスが私に語りかける。

弱点つったって……。

長考しているうちに、幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスは火球ブレスを何発もぶっぱなし始める。

 

「やばっ!」

 

アプレンティスは羽を再生させて飛翔する。

 

「早く弱点教えて!!」

『待てい! いま思い出してる!!』

「貴方アホみたいにff14とモンハンやってたでしょおがーーー!」

『いきなり言われてパッと出るわけなかろうて! 漢字のテストの時に、いつもは分かる漢字が分からないって感じと一緒や!』

「それは私には分からない!」

 

弾幕を回避し、グラッジで切り裂き、群体エスモスを壁に、シューターエスアーダで迎撃したりと、多彩な方法で直撃を防ぐアプレンティス。

ジェットコースターが可愛く思えるスピードと機動力に私は若干気分が悪くなりながら、2匹の龍の弱点を思い出す。

ニーズヘッグの弱点ってなんかあったか?

私は蒼天のイシュガルドのストーリーを思い返す。

 

……ダメだ。

ラストのイゼルとオルシュファンのシーンしか思い出せない。

あの邪龍の影に囚われたエスティニアンを救うために、アルフィノと主人公が邪龍の眼を……。

邪龍の眼を……。

……。

あれ、ニーズヘッグの弱点ってあれじゃね?

 

『ちょちょちょちょちょ!アプアプアプ!!』

「なに!? 弱点わかった!?」

『眼!眼眼眼!』

「眼!?」

「そそそそそそ、眼眼眼眼眼眼! ニーズヘッグの眼は莫大なエーテルがあるから両眼をくり抜いたらニーズヘッグは消滅するそんでその眼を使ってエーテルの刃を形成させてミラボレアスにぶつけたらいけるミラボレアスは分からんけどニーズヘッグならいける(超早口)」

 

物凄い早口でアプレンティスに捲し立てる。

よく自分でも噛まなかったと思ったわ。

アプレンティスは分かったと言って、急上昇。

何をするのかと思えば、とんでもない言葉ととんでもない行動に出やがった。

 

「分かった、それなら私が囮になるから、貴方がニーズヘッグの眼をくり抜いて!」

『はぁ!?』

「だって私1人じゃあ、あの2匹相手しながら眼をくり抜くなんて不可能だよ! 貴方私が炎属性弱点なの知ってるでしょ!?」

『知らんわ!』

「とにかく、じゃあ貴方が囮になって幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアス相手する?」

『……。分かった、私が眼をくり抜くわ』

「そう来なくっちゃね! 私のツインダガー貸すからお願い!」

『まて、でもどうやって、私がやればええんや?』

 

今の私はアプレンティスと同じ身体だ。

この状態では、くり抜く事をはできない。

そう言うと、アプレンティスは「簡単な話よ!」と言って、私とアプレンティスを切り離した。

突然、宙に投げ飛ばされた私の気持ちになって欲しい。

この月面基地はある程度重力がかかっているため、地球と変わらないのだ。

いきなり弧を描くように落下するのだ。

怖い以外の感情がでるだろうか?

 

「ちょちょちょちょちょ!」

 

私は両手両足をばたつかせながら必死に羽ばたこうとする。

これが水曜日のダウンタウンや世界の果てまでイッテQで放送されれば、観客は爆笑の渦となることは間違いないレベルの羽ばたきようだ。

はっきし言って中々の無様である。

そして、私は自然とこのような断末魔が口から出ていた。

 

「アカーーーーーーーーーーーン!!!!!」

 

そして、月面にぶつかる前にアプレンティスが具現化したエスカビブナスが私を拾ってくれて、とりあえず、身体がバラバラになることは防げた。

 

「ほら、私のアプレンティスグラッジ貸してあげるから、それでお願い!」

「わ、分かったよ、そしたらタンク(囮)頼むで!」

「任せてよ! これが終わったら幼女美少女にお菓子を配るんだ」

「陰で誘拐犯ってあだ名がつきそうだな」

 

流石にボソッ呟く。

彼女には聞こえていないようで、あの完全体の格好で、気合いを入れるポーズを取っていた。

 

「さぁ、行くよ!!!!!」

 

そう大声で叫び、アプレンティスは周囲に青い空中機雷のような物を生み出し、更に肩部にある深青色のコアから大量の群体エスモスを出現させ、幻創龍2匹に襲撃させる。

 

「でやー!」

 

手を光らせ交差した後、I字型レーザーを2個放つ。

続けざまに特大なレーザーを薙ぎ払うように撃つ。

ヘイトは確実にアプレンティスに向いた。

2匹の火炎ブレスがアプレンティスを襲う。

それをアプレンティスは巨大な爪で切り裂く。

しかし、2匹の炎の熱量はとてつもなく、次第に腕が焼け焦げていく。

 

「くっ、相性が明らかに悪いんだよなぁ……」

 

アプレンティスはボソッと呟く。

炎の弾幕に、アプレンティスの身体が徐々に焼け爛れていく。

 

「龍照今のうちに!!」

「分かってる!!」

 

私は、エスカビブナスから飛び出し、幻創ニーズヘッグの頭部に飛び乗る。

幻創ニーズヘッグは、私を振り払おうと頭をブンブンと振り回す。

 

「うおおおおおおおおおお!」

 

私は幻創ニーズヘッグの角を持って足掻く。

向こうも必死だろうが、こっちも必死である。

 

「う、動くなああああああああぁぁぁ!!」

 

私はアプレンティスグラッジを持って全力で幻創ニーズヘッグの左眼を突き刺した。

眼からエーテル粒子と共に、赤い血が噴水のように吹き出る。

耳を刺す幻創ニーズヘッグの断末魔。

私はそれに反応する余裕は残っていない。

もう片方のアプレンティスグラッジてま右眼を突き刺す。

 

「どるあああああああああああああ!!!!!」

 

幻創ニーズヘッグの断末魔を掻き消さんばかりの雄叫びを上げて、両方の眼を抜き取った。

そして、私はそこから離れ、エスカビブナスの背中に着地する。

 

「後はミラボレアスだけ!」

 

私はニーズヘッグの眼を使い、アプレンティスグラッジにエーテルを送り込んで巨大な刃を作り出す。

 

「ああああぁああああああああああああぁぁ!!!!!!」

 

刃を前方に放ち、"何もしない"幻創ミラボレアスの胸に一突き。

胸を貫かれた幻創ミラボレアスは黄色に光輝く「眼」だけを残し霧散する。

両目を失った幻創ニーズヘッグも、月面に落下し霧散した。

 

 

私は、落下している残った幻創ミラボレアスの両眼をキャッチし、着地する。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」

私は息を切らしながら、倒れ伏しているアラトロンさんとべトールさんに駆け寄る。

脈を測るが、とりあえず生きている。

気絶しているだけだった。

安堵してへたり込む私。

マザーも駆けつけてきた。

 

『大丈夫か!?。』

「ええ、私は特に問題は無いです。それよりアラトロンさん達を、オフィエルはこっちに倒れてます」

『いや、龍照、君が1番危ないのだが。』

「え?」

『その血はなんだ?。』

 

私は体を見ると、全身に深い赤色をした血がべっとりと着いていた。

ただ、これは私の血ではなく、ニーズヘッグの血だとマザーに説明をして、納得してくれた。

 

『それなら、アラトロン達を手当しよう。』

 

マザーは気絶しているアラトロンさんとべトールさんの身体に触れて、翡翠色の光を2人に送り込んだ。

多分回復のエーテル粒子的な何かを送り込んでいるのだろう。

私は、オフィエルが気絶している場所まで向かう。

 

「先に私が回復してるわよー」

 

まさかのアプレンティスがオフィエルの治癒に当たっていた。

 

「アプレンティスって治癒出来たのか?」

「そうね、これくらいの怪我の治癒なら可能よ」

「ダーカー因子を送り込んで……」

「んなわけないでしょ。アークスがよくやる回復テクニックを見様見真似でやっただけよ」

 

オフィエルの治療に集中してるからか、顔はオフィエルの方を見ながら、私と会話をしている。

 

「まて、いつ覚えたの?」

「龍照がプラチドーラスにテクニックを覚えさせてる時に、頭の中で見てたのよ。アンティレスだったわね。それよ」

「ま、マジか。え、じゃあ、あれか? あの時アプレンティスを具現化させようとしても出来なかったけど……」

「ええ、本当はこの通り具現化されてたわよ。あえて貴方の頭の中で具現化したって感じだけど」

「どうして……」

「私がそう願ったから」

「どういうこと?」

 

私は頭が???になった。

その姿を見たアプレンティスは、何も言わずに話を続ける。

 

「エーテルを使って具現化する時、性格を鮮明に想像したよね?」

「そう言えば……確かに」

 

 

アプレンティスは続ける。

生物を具現化する場合、自我・性格・人格等を思い浮かべなければ、具現化された時にある程度ランダムで構成される。

人が赤子を産んで、そこから性格が構成されていく感じらしい。

ある程度ランダムなのは、例え自分が性格等をソレに思い浮かべなくても、その人の深層心理に影響を受けて、性格等が構築されることもある。

ただし、一貫して言えることが、その具現化存在がどのような性格、人格を持っていても、決してその創造主を裏切ることはないということ。

 

そして、このアプレンティスのように、性格を思い浮かべて具現化した場合、その時点で自我、人格、性格等が構成された状態。

出産で例えるなら、

性格を思い浮かべない具現の場合、0才の赤子が生まれる。

 

性格を思い浮かべた具現の場合、20才の大人が生まれる。

様なものらしい。

もちろん、その場合性格に"自分を裏切らない"と思い浮かべなければ、裏切る可能性もある。

 

そして、このアプレンティスの場合、彼女の意思、もっと言えば気分で頭の中で具現化して、ずっと私の行動を見ていたとのこと。

 

ただ、アプレンティス曰く、決して裏切らないから安心してほしい。

と言う。

私は「何故?」と問うと、彼女は超ド直球にこう言った。

 

「君、性格で"子供好きのお姉さん"って思った時、"マルガレータ"の他に対魔忍の"ふうま亜希"も思い浮かべでしょ?」

 

あまりにもド直球な一言に、私は言葉を喉に詰ませた。

 

「そうなのかな?」

「そうだよ!お陰様で、マルガレータとふうま亜希と、その他諸々の性格が合わさった結果、この私、エスカファルス・アプレンティスが具現化されたのよ」

「そ、そゆことですか。で、裏切らないのは?」

「マルガレータや、ふうま亜希が裏切ると思う?」

「思わ……ないですね……」

「そういうことよ」

 

何故だが納得してしまった自分がいる。

まぁ、だから、アプレンティスがこんな変な性格になったのか……。

美貌より幼女美少女優先のアプレンティスも中々の新鮮である。

ただ、このアプレンティスをpso2をしているプレイヤーに見せるのは、些か怖い。

 

「それより龍照、貴方その血大丈夫?」

 

怪訝そうな表情で、私の全身にこびり付いた血を見て訊ねる。

 

「ええ、これはニーズヘッグの返り血なので、私の方は大丈夫です」

「それならいいけどね。はい、治療完了よ」

 

アプレンティスはそう言うと、立ち上がり「龍照の頭に入るわね」と言ってエーテルを霧散させた。

 

「EP5みたいだなこれ」

 

そう呟き、オフィエルをマザーの所まで連れていった。

 

 

その後は被害状況や、幹部たちの反省会などで二日潰れてしまい、私はモンハンとff14コラボに出遅れる結果となってしまった。

 

 

 

 

 

 

続く


















眼が光っている。


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エピソード1 エスカファルス【代行】(リベンジ)
9話 邪龍の眼すげええええええええええええ!!!


 

 

 

 

 

あれから、幻創龍騒動から1週間が経った。

私はとりあえず、モンハンをやり尽くし、神龍装備やリヴァイアサン装備等のff14に登場するモンスターを討伐し、装備を一通り手に入れることに成功した。

 

マスターランクの神龍のイカレ具合がトップだった。

あのタイダルウェイブが初見殺しすぎる。

ステージは、城塞外縁迎撃拠点という、ラオシャンロン等の超大型古龍や、シェンガオレン等の超巨大生物等のモンスターを相手にするステージだ。

神龍はそこで戦うことになるのだが、初見殺しのタイダルウェイブはクエストが始まった瞬間、つまりキャンプでいきなりタイダルウェイブが飛んできて、一気に即死級のダメージを与える訳分からん攻撃だ。

 

本当に訳分からん攻撃である。

 

"クエストが開始されました。"

というログが出た瞬間にタイダルウェイブ、ザバーーーーーン!!

 

"クエストに失敗しました。"

 

は?

である。

クエスト時間は0分0秒という快挙。

Twitterのトレンドにはタイダルウェイブが1位に輝き、様々な掲示板、動画投稿サイトでお祭り騒ぎ。

 

正直、今度は幻創神龍が出るのではないかと焦ったが、予めタイダルウェイブの存在を知っていたマザーが、何とかしてくれたらしく。

幻創ニーズヘッグ、幻創ミラボレアスの騒動にはならずに済んだ。

ニーズヘッグの時もそうしてくれ……。

 

それと、神龍の装備1式の装備だが、明らかにこれ被って太刀担げと言わんばかりのスキルである。

特筆すべきスキルは圧縮剣気というスキル。

太刀の攻撃の鬼刃大回転切りが、圧縮剣気という技に変わるスキル。

めっちゃ強い。

あとは、リヴァイアサンのボーカルが幻の女性ボーカルだったり、色々とヤバいコラボだった。

 

 

 

「ふぅ」

 

私はコントローラーを置いて、ベッドに寝転んだ。

ここ1週間はずっと鍛錬せずモンハンしてた。

ぶっちゃけ、鍛錬したところで、モンハンやりたいという雑念があっては鍛錬に集中できない。

それなら、モンハンをやりまくれば良いという考えである。

とりあえず、コラボモンスターの装備は全部作った。

アホみたいに装備あったからかなり作るの手間取ったけどな……。

 

「ふへー」

「随分遊んだね」

 

アプレンティスがチラッと私のパソコンを見る。

ちなみに、あれからアプレンティスだが、せっかくなので、彼女にもPCを買い与え、飯も与え、寝床を与え、普通の人として接している。

当たり前だが。

 

そして、この前アプレンティスのpcの中を見たけど……。

うん。

確かに私は、アプレンティスを具現化する際に、子供好きお姉さん、そして、対魔忍RPGに登場するふうま亜希を連想した。

確かに、私はそう思い浮かべた。

それは認める。

ただ、このアプレンティスは、ふうま亜希と同等かそれ以上の領域に達していると思った。

少なくとも、ここにルーサーがいたとしよう。

pso2をプレイした人なら分かるかも知れないが、アプレンティスとルーサーは、絶妙に仲が良く、そして悪い。

ルーサーは彼女の事を「ウジ虫」と作中では呼んでいる。

ただ、ここにいるアプレンティスを見た、ルーサーは確実に「誘拐犯」か「ロリコンティス」というあだ名をつけるだろうと、私は謎の確信がある。

マジで。

それくらいpcの中身が酷かった。

別のベクトルでダークファルスを突っ切ってた。

 

「そろそろ、鍛錬するかなぁ」

 

私は背伸びをして、息を吐きながら口に出す。

 

「エスカタワーに行くの?」

「いや、月の中枢付近の場所でやる」

「そうなんだ」

「アプレンティスは行く?」

「今、戦国プリンセスしてるから行かないよ」

「さよか」

「もう少ししたら晩御飯だけど何がいい?」

「アプレンティスの好きなやつでいいよ」

「はーい」

「じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃーい」

 

私は転送装置を使って、月に移動する。

月面基地を移動するのが面倒なので、私は転送装置の座標を少し弄って、あの中枢付近の場所に設定したのだ。

これであのクソ訳分からん迷路をさ迷わなくて済む。

 

「さてと、具現化トレーニングするかー」

 

私は蟲型エスカダーカーを具現させる為に、神経を研ぎ澄ます。

さて、何を具現化するか……。

今私が具現化できる、というかしたことのあるエスカダーカーは以下の通りだ。

・エスモス(ダモス)

・エスガン(ダガン)

・クラーズ(クラーダ)

・ブリアーズ(ブリアーダ)

・エスアーダ(エル・アーダ)

・プラチドーラス(ゴルドラーダ)

・エスカ・グワーダ(グワナーダ)

・エスカ・ラグナス(ダーク・ラグネ)

・エスカ・ビブナス(ダーク・ビブラス)

・エスカファルス・アプレンティス(DF・アプレンティス)

この通りだ。

 

今日は蟲型エスカダーカーを全部具現化するか。

多分いけるやろ!

 

私は具現化を試みようとした。

だが、私はあることを思い出した。

 

「そう言えば、そうして私は4つのあるものを取り出す」

 

それは幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスの双眼だった。

なぜか、2匹の幻創邪龍はエーテル粒子となって霧散したにも関わらず、この眼だけはそのまま、こうしてあり続けているのだ。

この眼を凝視していると、ふとff14の事が頭に浮かんだ。

ニーズヘッグの眼には莫大なエーテルが内包されているのだ。

もちろん、エオルゼア世界とこちらの世界のエーテルは名前は一緒だが、その中身は全くの別物だ。

いや、でも蛮神とか使い魔とかを見る限り、何処と無く似てるような気がしないまでもないが、まぁ、別物と見て間違いない。

仮に、それならもしかしたら、このニーズヘッグの眼にも、エーテルが内包してるのでは無いかと考えた。

もちろん、こちら側のだ。

根拠はない。

仮に内包してたとしても、なぜ内包してるのかなんて知らん。

そんなもん私の管轄外だ。

 

私は、ニーズヘッグの眼を持って具現化を試してみる。

 

「な、なんじゃこりゃあああああああ!!?」

 

ビックリした。

とりあえず、私はアプレンティスを除き、蟲型ダーカーで最強格に位置するであろうダーク・ビブラス・ユガを思い起こした。

出来た。

普通に出来たが、ヤバい程の数のダーク・ビブラス・ユガが誕生した。

その数30体。

これ、採掘基地に出てきたら、ep3.4辺りで出たら荒れるな。

絶対。

採掘基地防衛戦【絶望】とか【終焉】どころではない。

採掘基地防衛戦【歪】だわ……。

まぁ、ep5.6辺りになったらただの空飛ぶデカい経験値やろうけど。

 

 

色合いは、異形の聖騎士といったカッコよさがある。

従来のビブラス・ユガとの違いは、ヘラクレスオオカブトのように角が2本になっている。

そして、ビブラス・ユガの黒い甲殻部分の色が青みがかった白。

赤いラインの部分が、藍色という感じだ。

もっとわかりやすく言うなら、プラチドーラスの色合いをそのままビブラス・ユガに置き換えた感じと言えばわかるだろう。

 

名前は……。

そうやな。

"リンゼ・ビブナス・エスガ"にしよう。

元がユガ種だから、これは蟲型じゃなくて分類的には壊世種エスカダーカーか。

いや、ここは壊世種ではなく、創世種エスカダーカーと命名するか。

何となく。

違うわ、こいつだけ壊世種じゃないんや、忘れてたわ。

 

「まぁ、それにしても」

 

私はニーズヘッグの眼を見る。

眼は光っている。

 

「これはやべえな」

 

今度は、ミラボレアスの邪眼でも試してみたい好奇心に駆られた。

とりあえず、蟲型エスカダーカーを全て具現化してみることにした。

 

 

 

15分後

 

 

 

「やべえなこれ、ふふふははは……」

 

余りの惨劇に笑ってしまう。

 

「おほおおお、ヤバいヤバいヤバい!」

 

あまりの光景と、幻創ミラボレアスの眼のエグさに私は笑いと焦りに変な感情が湧き上がる。

 

「お、おほーーーーーー! ヤバい、ヤぁバい」

 

あまりの力に笑って誤魔化すしかない。

あれだ。

ヴィタ武器を担いた後にクラース武器を担ぐ感じだ。

これで分かったことは、幻創ニーズヘッグ、幻創ミラボレアスの眼には、莫大なエーテル粒子が内包されているということだ。

そして、そのエーテル粒子を用いる事で、蟲型エスカダーカーを意図も簡単に具現化することができた。

流石に笑ってしまう。

ついでに創世蟲型エスカダーカーも想像する。

 

 

10分後

 

 

「よっしゃあああああああ! 遂に、蟲型ダーカーコンプしたぞぉぉおおおおお!」

 

私は幻創ミラボレアスの眼を掲げて、歓喜する。

眼やべえわ!

幻創邪龍の眼が持つ莫大なエーテルにより、蟲型ダーカーをコンプすることができた!

これは興奮する!

 

私は一旦蟲型エスカダーカーを霧散させた。

身体に違和感は特にない。

これならまだ具現化できそうだ。

今度は、水棲型エスカダーカーとエスカファルス・エルダーを創造しよう。

私はさっそく具現化に取り掛かる。

 

 

 

10分後

 

 

 

「眼これチートじゃね?」

 

目の前にある水棲型エスカダーカーを見て呆気に取られる。

ぶっちゃけこれ使うだけで具現化がかなり楽にできる。

だが、まだ具現化をしていないダーカーが1人だけいる。

そう、エスカファルス・エルダーだ。

私はエルダーを具現化する為に、彼の容姿を思い浮かべる。

 

「いや、まてよ」

 

私は止める。

そう言えば前にアプレンティスが具現化の際に、言っていたことを思い出した。

それなら、性格は思い浮かべずに後々、エルダーに任せる方が……。

私はそう思ったが、アプレンティスの具現化する際に性格も思い浮かべ、あの性格になってしまった。

それなら、エルダーも同じように性格も思い浮かべよう。

 

私は同じカテゴリーの物は同じように作りたいという意味のわからない性格をしているのだ。

例えば、

 

同カテゴリーの武器を作る場合、

全て、同じソール、ファクター、レヴリー、グレア、ブーストを付けて、同じ羅列で作る。そこには一切の妥協は許さないと言った感じだ。

 

だから、アプレンティスの具現で性格も思い浮かべたのなら、エルダーや他のダークファルス達も同じように具現化する。

そうしないと、なんだから変な気分になるのだ。

 

だから、私はエルダーも同じように具現化しようと考えた。

 

「よし、いくか!」

 

私は幻創ニーズヘッグの眼を両手に持ち、具現化をする。

性格はどうしようか……。

ゲッテムハルト、に……するかな〜。

気さくな兄ちゃんもいいな。

……。

……。

……何で私の頭の中にゼノス・イェー・ガルヴァス(ff14)とイオ・フレミング(ガンダムサンダーボルト)と眞田焔(対魔忍)が出てきてるの?

待て待てヤバいヤバい。

また訳分からんことになる!

あーーーーーーー!

 

私は即座に具現化を止めようとした。

しかし、時は既に遅く……。

私の前にはエスカファルス・エルダーが具現化された。

姿はゲッテムハルトにダークファルスの戦闘衣を着ている感じだ。

その戦闘衣も色合いはマザークラスタ幹部の色合いと似ている。

 

「おい」

「はい?」

 

エルダーが話しかけてきた。

姿、声はゲッテムハルトそのものだ。

ちょっとほっとした。

これでゼノスの声、口調だったらどうしようかと……。

エルダーが「遂に見つけたぞ我が友よ!」とか言い出すんやで?

挙句、完全体があのタケノコに手を生やしたクラーケンみたいな形態じゃなくて神龍の姿……。

あーでも、それはちょっと見てみたいな……。

いや、やめておこう。

怒られる。

 

「どうやら、アンタが俺を具現化した訳だな?」

「まー、そうっすね」

「そうか、俺はエスカファルス・エルダー、よろしくな」

「ええ、よろしく」

 

握手を交わす私とエルダー。

えらい気さくな兄ちゃんだこと。

 

「これからどうするんだ?」

「水棲型エスカダーカーは一通り具現化できたので、これで自宅に戻るつもり」

「もちろん、俺もそこに住まわせてくれるんだろう?」

「そら当たりまえよ」

「じゃあ、行こうぜ」

 

エルダーの言葉に私は頷き、エルダーと自宅に戻るため、私は転送装置を使用する。

 

「よし、到着!」

「おかえりー」

 

アプレンティスが何やらご飯を作っていた。

こちらからでは見えないが、何か焦げ臭い……。

そして、エルダーとアプレンティスの目と目が合った。

 

「お前は……はじまて会うが、俺の記憶にあるぞ」

「同感ね。私も貴方にははじめて会うわ。でも貴方の事は知っているわ」

 

そう言った後、お互いが同時に互いの名を口に出す。

 

「ダークファルス・アプレンティスだな」

「ダークファルス・エルダーね」

 

そして、エルダーが続ける。

 

「猛き闘争をはじめないか?」

「こんなところで出来るわけがないでしょ? 常識を考えなさい」

「なんだと? じゃあ、何処なら良い?」

「月面基地なら問題ないと思うわよ」

「じゃあ、今からーーー」

「その前に晩御飯を食べなさい。こんなこともあろうかと3人分を用意したわ」

 

そう言ってアプレンティスは焦げ臭いイカ墨パスタをテーブルに置いた。

そして、アプレンティスは晩飯の名前を言う。

 

「ペペロンチーノのよ」

 

はい???

私はアプレンティスの方を見る。

彼女は目を逸らしながら「何か問題でもある? たまには失敗ぐらいするわよ」と口を尖らせながらそう言った。

まぁ、せっかく作ってくれたんだ。

何も言うまい。

作ってもらう側の私が何かを言うのは、あまりよろしくない。

ここは、有難く頂こう。

エルダーと、私は椅子に座りイカ墨パスタ失敗風ペペロンチーノを食べた。

 

「どう?」

「意外と行けるやんこれ!」

「ああ、美味い!」

 

エルダーは、凄く嬉しそうな表情で、パスタを頬張る。

私も箸でパスタを口に放り込む。

見た目はあれだが、意外と美味しい。

アプレンティスも「あぁよかった……」と言いたげな安堵に満ちた表情で、パスタを食べる。

 

 

20分ぐらいだろうか。

 

 

食べ終えた私たちは、エルダーのお願いで、月面基地で1戦交えることになった。

もちろん、私は戦わない。

エルダーとアプレンティスとの戦闘だ。

とりあえず、マザーに言うと、月の裏側でならいいよと言われたので、現在は月の裏側にいる。

 

「とりあえず、どちらかがギブアップ、もしくは気絶したらで」

「おう!」

「わかったわ」

 

「それじゃあ、バトルスタート!」

 

私がそう言うと、エルダーとアプレンティスはすぐ様完全体へと成る。

 

「さぁ、始めようか! 猛き闘争を!!!」

「見せてあげるよ! アプレンティスの力を!!!」

 

因みにエスカファルス・エルダーの姿は、概ね想像通りの姿だ。

 

物凄い簡単に言うなら、エスカファルス・マザーの戦いでエルダーの手があるやろ?

それをまんまエルダーにした感じ。

 

「先手必勝! やああああああ!」

 

アプレンティスは巨大なアプレンティスグラッジを生み出して、切りかかる。

 

「無駄だああああああ!」

 

エルダーも巨大なエルダーペインを具現化。

アプレンティスグラッジを受け止める。

このまま鍔迫り合いが続くかと思ったが、さっそく予想外の行動をエルダーがとった。

なんと、エルダーの空いている腕から巨大な刀が具現化されて、アプレンティスに切りつけようとする。

 

「ちっ!」

 

アプレンティスは力場を発生させエルダーを突き放す。

突き放した事でエルダーの刀攻撃は空振りに終わる。

 

「ダークファルス・エルダーが刀を使う記憶はないわね」

「ああ、俺もないが、大方、龍照が俺を具現する時に、別の思いが混じったんだろう。ゼノスっていう奴の思いがな。まぁ使えるんで、とことん使うぞ!」

 

そう言うと、エルダーペインの具現化を解いて、刀を2本具現化する。

これにより三刀流の戦い方ができるようになる。

なぜ、エルダーが刀を使用するのかについては、何も言うまい。

エルダーを想像した時にゼノスの事が頭に浮かんだから、それのせいだろう……。

 

「行くぞアプレンティス!」

「ふふ、いいよ」

 

エルダーは腕を伸ばして切りつける。

それをアプレンティスはグラッジで華麗に捌ききる。

そして、一瞬の隙をついて、エルダーの腕の内、左右の下段の腕2本に傷を入れる。

しかし、それは少し傷が入っただけでとても部位破壊できるような傷ではない。

 

「この程度どうというこたぁねえ!」

 

エルダーの頭部のコアに青い光が収束していく。

 

「斃れてくれるなよぉ、破滅の一撃!!」

 

そのコアから特大のレーザーがアプレンティス目掛けて放たれる。

それは採掘基地防衛戦【終焉】でラストに撃つフォトンキャノンと同じぐらいの太さのレーザーだ。

 

「さっきエルダーが刀を使う記憶がないって言ったわよね」

 

完全体なので、表情は分からないが明らかに微笑みの口調でアプレンティスはそう喋る。

そして……。

 

「ふっ!!」

 

振り向きざまに薙ぐようにアプレンティスは、エルダーから放たれたレーザーを一刀両断する。

その腕には刀が握られていた。

 

「なっ!!?」

「その腕貰うわよ!」

 

アプレンティスは完全体を解除して、人間体に戻る。

何をするつもりなのだと、エルダーは刀を構えた。

 

「せっかく持ってるんだから、使わせてもらうわ」

 

そう言うと、彼女の片目の色が黄色く変化した。

それを見た私は「まさか」と呟く。

彼女はニヤリと笑みを浮かべ、こう高々に言い放つ。

 

「ふうま亜希さん、借りるわよ。貴女の能力! 邪眼・死裂!!」

 

黄色の眼が光輝いたかと思えば、先程傷つけたエルダーの左右の下段の腕が切り刻まれたようにバラバラに粉砕する。

 

「ぐっ!!! な、何が!?」

 

エルダーは苦痛の声を上げた。

 

 

少し説明させて頂きたい。

邪眼・死裂とは、

対魔忍RPGに登場する"ふうま亜希"という女性が持つ能力。

傷を負った状態で瞳を見ると強烈な暗示にかかり、小さな傷でもまるで臓物を切り裂かれた致命傷かのように感じ、現実の肉体も感覚に引きずられ、元の傷がほんの掠り傷でも致命傷へと変化する邪眼である。

 

つまり、先程傷つけた掠り傷が邪眼・死烈によって、致命傷レベルまで変化し、腕がバラバラに部位破壊されたという事だ。

 

 

なぜ全く関係のないアプレンティスが、この能力を持っているかと言うと……。

アプレンティスの性格を考えた時、ふうま亜希を思い浮かべた。

その時、ふうま亜希の性格と共に、彼女が持つ能力も同時に付いてきたのだろう。

それにより、アプレンティスはその能力を使えるのだと考える。

 

 

「あの眼が厄介だな、おい」

「そうね、どうする? 降参する?」

「するわけねえだろ!」

 

エルダーは残っている4本の腕を伸ばし、指の先から氷のビームを放射する。

それはまるで、小林幸子がライブで千本桜の時に行った、あのビームである。

ガンダムでいうなら、ジオングとかサイコガンダムのあれである。

 

「だよね!」

 

アプレンティスは完全体に戻り、それを腹部から撃たれるレーザーで全てを相殺する。

 

「どれがいいか選ばせてあげる!」

 

巨大な腕による引っ掻き攻撃で斬撃をエルダー目掛けて飛ばす。

先程の能力もあり、エルダーは下部から青いブースターのような物を吹かして大きく回避。

エルダーペインを生み出し、弓をひくように身体を振り絞った。

 

「ンなもん全部要らねぇよ!」

 

 

ートリア・ソニック・アロウー

 

 

円盤状の斬撃を三枚、アプレンティス目掛けて飛ばした。

アプレンティスの斬撃とエルダーの斬撃がぶつかり合い爆発。

青い煙と風圧が辺りを包む。

アプレンティスはその風圧を前に、ボンバブリアーダを静かに生み出し、顔を覆う。

 

「くっ、前が……」

 

彼女が怯んでいる隙をエルダーは逃さなかった。

青いブースターを吹かして急接近。

炎を纏った拳で、アプレンティスをぶん殴った。

 

「がはぁ!!」

アプレンティスの羽の半分が焼け焦げ、地面に伏す。

その動けない彼女に追い討ちをかける。

刀を生み出し、彼女の近くに地面に刀を突きたてた。

 

「トドメだ! 圧縮剣気!!」

 

地盤が吹き飛ぶほどの闘気の爆発を起こして、アプレンティスを飲み込んだ。

 

「うぐぅ!!」

 

宙に舞うアプレンティス。

勝利を確信するエルダーだが、彼は気づいていないようだ。

エルダーの近くに爆発寸前のボンバブリアーダが2匹いることに。

 

「なっ、こいつらいつの間に!?」

 

エルダーは刀を持って、真っ二つにしようとするが、遅かった。

ボンバブリアーダは大爆発を起こし、エルダーを飲み込む。

 

「ぐはあああああああ!?」

 

爆発の衝撃で、完全体の身体がバラバラに砕け始める。

完全に砕け散った後に残ったものは、倒れているエルダーとアプレンティスだった。

 

 

「エルダー、アプレンティス、共に気絶したため、この勝負は引き分け!」

 

私は叫ぶように言うが、多分2人には聴こえていないだろう。

とりあえず、私はこの2人を抱えてマザーに感謝を述べ自宅のマンションに戻った。

 

 

 

 

 

 

続く




現在龍照が創造できるエスカダーカー

蟲型エスカダーカー
・エスモス(ダモス)
・エスガン(ダガン)
・クラーズ(クラーダ)
・ブリアーズ(ブリアーダ)
・エスアーダ(エル・アーダ)
・ヴィドルース(ヴィドルーダ)
・ディカース(ディカーダ)
・エスディカース(プレディカーダ)
・エスターゴ(カルターゴ)
・エスカ・ブラーダ(ソルザ・ブラーダ)
・プラチドーラス(ゴルドラーダ)
・エスカ・グワーダ(グワナーダ)
・エスカ・ラグナス(ダーク・ラグネ)
・エスカ・ビブナス(ダーク・ビブラス)
・リンゼ・ビブナス・エスガ(ダーク・ビブラス・ユガ)
・エスカファルス・アプレンティス(ダークファルス・アプレンティス)

創世種蟲型エスカダーカー
・エスガン・リンゼ(ダガン・ユガ)
・リンゼディカーズ(ユーガディカーダ)
・リンゼドラーダ(ユグルドラーダ)


水棲型エスカダーカー
・ミクダス(ミクダ)
・エス・ミクダス(オル・ミクダ)
・ガッチャス(ダガッチャ)
・ダーガッチャス(ダーガッシュ)
・ボンバガッチャス(ボンバダガッシュ)
・ガ・グウォンズ(ガウォンダ)(グウォンダ)
・エスバーダ(クラバーダ)
・サイキュロエスカ(キュクロナーダ)(サイクロネーダ)
・エスカオルガーダ(ウォルガーダ)
・エスカシュレイズ(ゼッシュレイダ)
・エスカ・アーム(ファルス・アーム)
・エスカファルス・エルダー(ダークファルス・エルダー)

創世種水棲型エスカダーカー
・ガ・グウォンズ・リンゼ(ガウォンダ・ユガ)(グウォンダ・ユガ)
・サイキュロエスカ・リンゼ(キュクロナーダ・ユガ)(サイクロネーダ・ユガ)








眼が光っている。





『ファレグ・アイヴズ。』

月の中枢、禁足の場所にマザーとファレグがいた。
マザーは深刻な表情でファレグに話しかける。

『私個人の意見を述べるなら、あの眼を放置するのは、オススメできない。』
「それが普通の人の意見だと思いますよ」

至極当然な口調でマザーに言う。

『あの邪龍の眼には……。』

マザーの会話を遮り、ファレグは淡々と喋る。

「あの眼を征したあの方は、途轍もない力を手に入れる。私は、その状態のあの方と一戦交えたい。問題ありませんよ。あの方は、あの眼を征する事ができる」
『なぜ、それがわかる?。演算をしても、かなり低い』
「あの方はとても強い信念を持っている。例えそれが酔狂で邪な信念だったとしても……」
『……。分かった。ファレグ・アイヴズ。君のことを信じよう。』
「ありがとうございます。それでは、失礼します」

礼儀良くお辞儀をするファレグ。

『(小野寺龍照、どうか無事でいてくれ。)』



眼がさっきより光が強くなっている。


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10話 これが予知夢、正夢で無いことを願う。

 

 

 

 

 

「戻ったのはいいけど、あのままルーサーも具現化させれば良かったな」

 

アプレンティスもエルダーも先の戦いで気絶したままだし……。

さてさて、どうしたものか……。

いや、待てよ。

月の中枢付近の場所じゃなくて、この場所だと具現化はどうなるのだろうか?

私はそれを試してみたくなり、邪龍の眼、今度はニーズヘッグの眼を持ってエスカファルス・ルーサーの具現化を試みる。

 

性格は……ルーサー……ルーサー=ラース=レイ=クエントの方にするかな。

ルーサーって結構シスコンだよなー。

待て要らんことを考えるな。

こんなことを考えるから、訳分からんことになるねん!

 

さて、想像創造。

ルーサー、ルーサー。

ルーサーラースレイクエント。

 

私はルーサーを想像し、具現化しようとした。

しかし……!

 

「うっ……!!?」

 

突如目眩に襲われた。

ただの目眩ではない……。

頭を強く殴られたような衝撃と、吐き気を催すような目眩に、私は壁にもたれ込む。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」

 

私は息を切らし、嫌な汗とヨダレを垂らしながら、必死にベッドへと向かう。

 

「頭が痛い……」

 

頭がズキズキと痛む。

あまりの想像に脳がオーバーフローを起こしたものだと考え、私は今日は寝ることにした。

 

目を瞑ると、頭の痛みが徐々に引いていく。

それと同じく私の意識も夢の世界へと入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

私は何処に!?

目を覚ますと、私がいたベッドとは違う全く別の場所にいた。

 

空は赤く、天から紫色の隕石らしき物体が降り注いでいた。

人々が逃げ惑っている。

その人々を追うように、無機物と有機物が混ざったような姿の怪物が迫る。

その怪物は黒い装甲に覆われ、関節部が水色のコードのような物で繋がれているのが確認できた。

更に、その人々の恐怖により、エーテルが作用し、なんとダーカーが具現化されていく。

これは私が生み出すエスカダーカーではない。

正真正銘、本物のダーカーだ。

この街は、謎の怪物とダーカーによって滅ばされていく。

 

人々の悲鳴もダーカーの金切り声や隕石ような物体が着弾する音に掻き消され、全てが無となる。

倒れた人々はダーカーに侵食され、新たなダーカーに変化し、そこは終末以外の言葉が思いつかない。

 

私は、終末の厄災、終末のアーモロートが頭に浮かび上がった。

 

 

その光景は、アシエン・エメトセルクが言ったこと、そのものだった。

「大地は崩れ、水は血となり、文明は燃え尽きる。」

「滅びは影よりも早い。」

「あらゆる命の存在を拒むかのように、災いの流星を降らせた。」

「怪物や人々の叫びは恐怖を掻き立て、その恐怖が新たな獣を生む。」

「一度、恐れを抱いたら、もう歯止めは効かない。」

 

これが地獄と言わずなんだと言うのだ?

混沌か?

終末か?

 

怪物に人々が殺され、ダーカーに侵食され、ダーカーに成り果てる。

 

本当に終わりだった。

 

 

このままでは、この母なる星が滅びる。

そうはさせまいと、母なる集団たちは、エーテルを使って滅びを阻止しようとした。

しかし、それを嘲笑うかのように突如、空が光始める。

私は咄嗟に空を見上げた。

 

「な、なんじゃあれ!?」

 

そこにいたもの、外見はまるで蛹のような形状だが、その体躯はもはや巨大な浮遊要塞そのものである。

そして、それを囲むように4機の怪物が混沌とした地を見下すようにこちらを見ていた。

1つはドラゴンのような姿。

2つは大蛇のような姿。

3つは人のような姿。

4つは鳥のような姿。

 

なんなんだ、アイツは……。

私は、浮遊要塞のような存在を凝視していると、その巨大な浮遊要塞の腹部の装甲が開き、中から黄色に輝くコアのような物が姿を表す。

そのコアにエネルギーが収束される。

これはヤバい。

エネルギーが解き放たれようとした。

 

 

 

 

 

 

「!!?」

 

私はベッドから飛び起きた。

時計を見ると、時間は2時丁度。

身体中に嫌な汗がびっしりと流れ、全身に鳥肌が走る。

悪寒に襲われ、心臓が飛ぶように鼓動する。

怖い。

ありえない、嫌な夢だった。

 

私は震える身体で冷蔵庫まで行き、ミネラルウォーターを全て飲みほす。

アプレンティスの部屋を見ると、彼女のベッドの下にエルダーがゴロ寝をしていた。

 

「……」

 

あの夢が正夢にならないことを願う。

気分が悪くなった頭を抱えて、自分の寝床についた。

だが、あの夢のせいで私は寝付くことが出来なかった。

まぁ、それでも睡魔の方が勝り、夢に入ることになるのだが……。

 

 

 

 

 

 

「何よコイツら! 100%ありえない!」

「オークゥ! ここは逃げよう!」

「でも、あの子たちが!」

 

終わりは突然訪れる。

 

「……やめろ」

 

「フル!後ろ!!」

「え? あっ……」

「フルぅぅうううう!!!」

 

人の悲鳴が絶望を創り出す。

 

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"いだいいだいいだいいだいいだいいだいいいいいいいいいいい!!!!!!」

「オークゥ! くっ、ハギトよ!! ワシがここで彼奴らを止める、主らは逃げろ!!」

 

超えた科学には具現は無意味だった。

 

「そ、そんな僕の大和が、どうして……具現武装が通用しない!? 来るな、来るなああああああああぁぁぁ!!!」

 

「やめろ……」

 

一人、また一人と仲間が消えていく。

 

「これ以上は行かせんぞ!!」

 

全てが無意味だった。

 

「どうやら、ここまでのようですね……」

 

幾千の鍛え抜かれた力でさえも意味が無いものだった。

 

 

『どうして……こんなことに……私の復讐は……』

 

母なる存在でさえも、超次元より来たりし存在の前には無力だった。

 

残るのは、人だったモノと荒れ果てた地だけ。

最後に笑うのは、私たちです。

最強の科学者、ーーーーです!!

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、龍照大丈夫!?」

「おい、大丈夫か!?」

 

「……え?」

 

私はアプレンティスとエルダーによって起こされる。

 

「私は……」

「凄い魘されてたわよ!」

「何か悪い夢でも見てたのか?」

 

「まぁ……うん」

 

私は静かに言う。

アプレンティスとエルダーは、嫌な事は忘れた方がいい、とだけ言ってそれ以上追求することは無かった。

 

「お風呂に入ったらいいよ! さっぱりしなさい!」

 

アプレンティスに半ば強制的に、風呂に入らされる。

風呂場で時間を見ると、10時になっていた。

 

……あの光景が頭から離れない。

思い出したくもないのに、頭から離れない。

……。

こんな状態でルーサーの具現化なんて出来るのかな?

私は湯船に浸かりながら考える。

まだ、時間はある。

具現化はまた今度にでもしようかな。

 

「ふぅーーーーーーーー」

 

私は一息ついて、風呂から上がる。

リビングに入ると、朝飯が置かれていた。

どうやら、今日はエルダーが作ってくれるらしい。

エルダーがエプロン姿で居るのは、凄い違和感があり、少し微笑ましい。

ゲッテムハルトが、あのような事が起きずに、メルフォンシーナと添い遂げれば、このような光景を見れたかもしれないのか。

泣けてくるな……。

 

アカンは、あの夢を見てから何故かブルーの方に気持ちが偏ってまう。

こんなんじゃ具現化なんて出来んぞマジで。

 

とりあえず、飯を頂こう。

朝っぱらから寿司というのも、なかなかいいものだ

それに私はお寿司大好物だから、非常に嬉しい。

 

「美味いなやっぱり!」

 

私は出された寿司を全部平らげた。

ふぅ。と一息ついつく。

さて、何しようかな。

 

「……」

「龍照、貴方少し外出て気分転換したらどう?」

 

少しだけ強い口調のアプレンティスに私は圧されて、外出をすることになった。

 

東京をぶらつく私。

何かするかなぁ……。

 

 

「裕樹はどれが食べたい?」

「俺はこれでいいかな? 真衣菜は?」

「私はこれかなぁ」

 

 

カップルだろうか、高校生っぽい男女が店外にあるメニューを見ながら、注文するメニューを決めていた。

 

「さて、どこに行くか……」

 

あちらこちらを、人の流れを眺めながら、行先を頭の中で決める。

結果。

 

よし、あっこに行くか!

 

 

 

1時間後。

 

 

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

 

冷房が効いている店内に入る。

中はかなりの人がいて、ショーケースにあるカードを眺めていたり、ストレージにある1枚30円カードを血眼になって目当てのカードを探していたり、奥の部屋で人同士がカードバトルをしていたり、活気溢れる店内。

カードショップである。

 

私は、向こうの世界でカードゲーム、特に遊戯王とデュエルマスターズをプレイしていた。

こちらの地球でも、それらがあるのではないかと思い、ここ秋葉原へと来た。

別にこの世界に知り合いはいないけど、向こうの世界で作ってたデッキをこちらでも組んでみようと思ったのだ。

 

「えーと、この世界にはあるかなぁ……」

 

私は遊戯王のカードが綺麗に陳列されたショーケースを眺める。

私の住む向こうの世界と同じカードもあれば、こちらの世界オリジナルのカードもあった。

そして、私の目当てのカードは……。

 

「あるじゃん!」

 

4種類のとあるドラゴンを見つける。

私は即座に店員さんを呼んで、それらのカードを名指す。

 

「状態確認は」

「あー、いえ、大丈夫です」

「かしこまりました。ではレジまでどうぞ」

 

店員さんに連れられてレジへと向かい、会計を済ませて、商品を受け取る。

 

「っしゃ、ゲット!」

 

私は4枚のカード。

焔征竜ブラスター

嵐征竜テンペスト

巌征竜レドックス

瀑征竜タイダル

と名前が記されたカードを眺めながら、ルンルン気分で秋葉原を歩く。

 

よし、それなら他のカードも購入しよう!

このカードがこちらの世界にもあって、上機嫌になった私は、向こうの世界で持っていたデッキを全部作ろうと考えて、秋葉原の街を練り歩いた。

秋葉原にあるカードショップを全て訪れ、端末のメモアプリに必要なカードと、そのカード格安の値段、及びその店の名前を書き記し、最安値でデッキを作成する。

その結果……

 

 

 

 

7時間後

 

 

 

よっしゃ!

作れた!!!

私は心の中でガッツポーズをして、意味の分からない舞を踊る。

遊戯王とついでにデュエルマスターズのデッキを作成したのだ。

頭の中で軽やかなスキップをしながら、自宅へと帰還した。

 

 

「ただいまー」

「おかえりー」

「おう、おかえり」

 

アプレンティスとエルダーが玄関まで出迎えてくれた。

朝の私の感じを見て気を使ってくれてるのだろう。

私は「もう大丈夫やで! ありがとう」と言って、エルダーが作ってくれた晩御飯を頂く。

 

献立は寿司だ。

大好物なので、晩飯も寿司でOK。

有難くペロリと食べた。

 

 

「さて、せっかくやし、ここでルーサーを具現化するかな」

「今度はルーサーね。……なんか負け犬って言葉が出てきたわ」

「おいおい、急にどうした?」

 

ジト目で苦笑するアプレンティスに、笑いながら言うエルダー。

 

「じゃあ、具現化やるか」

「私たちは隣の部屋にいるわね」

「そうだな。じゃあ、終わったら言ってくれ」

 

そう言って、2人は隣の部屋へと退避した。

私は「あいさ」と返事をして、邪龍の眼を握る。

 

「さて、と。ルーサー……」

 

ルーサーを頭の中で思い浮かべる。

性格はルーサー=ラース=レイ=クエントさんにしようかな。

そう言えば、オメガのルーサー地味にシスコンなんだよな。

いや、あれば地味にではない。

普通にシスコンだな。

って、あかんあかん、いらん事を考えるな!

面倒くさいことになる!

 

……ルーサーか、あのバーにありそうな椅子に座りながら、本を読んでるイメージが強いな。

本か、天宮紫……やめとこう。

変な能力が付いてくるのもあれだな。

うん。

あら、そう言えば、ルーサーって……

……こっちの方でやってみるか。

 

 

「……よし」

 

私は目の前にいる人を見て、頷く。

エスカファルス・ルーサーが具現化された。

見た目は異世界オメガにて存在していたルーサー=ラース=レイ=クエントとだが、1つ違う点がある。

それは耳だ。

ルーサーはオラクル、オメガ共々エルフ耳、pso2で言うところのニューマンの耳だが、私が具現化したルーサーの耳は、普通の耳、ヒューマン耳となっている。

これは特に意味はなく、私の個人の趣味的なものだ。

 

「どうやら、君が僕を創った主君みたいだね」

「まぁ、そうですね」

「君の事だから僕の名前ぐらい知っているだろう。故に自己紹介は省かせてもらうよ」

「ええ、まぁご自由にどうぞ」

 

なんというか、ルーサーらしい??感じだ。

特に変わった様子も見られない。

まぁ、本当にルーサーだ。

アプレンティスみたいに幼女美少女大好きマンという訳でも、エルダーみたいに気さくな兄ちゃんという訳でもなく、本当にルーサーらしいルーサーだ。

 

「……具現化できたみたいね」

「このゴマ油ポテチなかなか美味いな」

 

ジト目のアプレンティス、嬉しそうにポテチを食べているエルダーという中々の2人が隣の部屋から現れた。

 

「やぁ、君たちがアプレンティスとエルダーだね。よろしく」

「おう、よろしくな!ルーサー!」

 

ニコニコと爽やかな笑顔で握手するエルダーに、私は物凄い新鮮な気持ちになった。

一方アプレンティスはなんとも言えない表情で握手を交わす。

こいつらはオラクルがあれだからな。

まぁ、そういうことなんだろう。

 

「これで、エスカファルスが3人。あとはダブルかしら?」

「そうやな」

 

アプレンティスが私に言う。

確かに、アプレンティス、エルダー、ルーサー。

残りはダブルか。

 

「いや、ダブルの他にあと3人おるわ」

 

私がそう口を開くと、エルダーがポテチをボリボリと食べながら「ペルソナか?」と一言。

 

「ペルソナは宿主君じゃないのかい?」

 

ルーサーが私の方を見てそう言ったが、それは何か違う感じがしたので、ペルソナは別に具現化するとだけ言った。

 

「じゃあ、残りはダブル、ペルソナ、エルミル……あと一人、誰かいたかしら?」

「初代深遠なる闇の依代、終の女神シバ、つまり僕の愛すべき妹ハリエットだね?」

 

若干の圧を出して私に問い詰めるルーサー。

「はい」以外の返答はさせないよ。

と言わんばかりの圧に私は、あー、オメガのルーサーだわ。

しっかり具現化されてるわ。

と、謎の安心感が出てきた。

 

「まぁ、そうやな。残るは、ダブル、ペルソナ、エルミル、ハリエット。これやな」

「それは楽しみだ!」

 

ハリエットの名前を聞いたルーサーは、舞い上がらんばかりの感情をさらけ出してはしゃぐ。

 

「とんだシスコンね」

 

アプレンティスの毒舌に私は吹き出しそうになるが、流石に失礼なのでグッと我慢する。

ちなみに、ルーサーは舞い上がるあまり、アプレンティスの毒舌は聴こえていなかった。

 

まぁ、聞こえていたら聞こえていたで、「ウジ虫」「負け犬」のキャッチボールが始まるだけなので、これでいい。

 

「さて、ルーサーも具現化したことだし、有翼型エスカダーカーも具現化するかな」

「月の中枢にでもいくの?」

 

アプレンティスが私を見ながら言う。

 

「いや今回は月の裏側でやろうと思ってるよ」

「珍しいわね。いつもならあそこでやっているのに」

「ああ、いつもはエーテル濃度の濃い、あっこでやっていたけど、眼の力でどこまでいけるか試したくてな。敢えてエーテル濃度の……まぁ、裏側でも大概濃いけど、そこでやろうと思ってて」

「じゃあ、ルーサー、俺の一戦交えないか?」

 

相変わらずの戦闘狂エルダー。

ルーサーは少し嫌な表情を浮かべて口を開く。

 

「僕にメリットが無いのだが……」

「いいじゃねえか! 具現化した祝いだ。パーっと行こうぜ!」

「どういうこっちゃ……」

 

エルダーの無茶苦茶な言葉に私は突っ込む。

ルーサーも???な顔をして、呆気に取られていた。

 

 

 

結果。

 

 

 

 

「まぁ、時には戦いも良いものか」

「だろ?」

 

エルダーに押されるがまま、バトルをすることになった。

ルーサーも諦めて、ポジティブに考え出す。

 

「私が審判をするから、龍照は具現化したらいいわよ」

「どうもありがとうございます」

 

私はアプレンティスにお礼を言って、この場から避難をする。

エスカファルス同士の戦いの近くにはいられない。

昨日、身をもって味わったから。

 

「さてと、具現化するか」

 

邪龍の眼を取り出して有翼型エスカダーカーを想像する。

個人的に有翼型ダーカーは、物凄い好きなデザインをしているから、ちょっとだけ凝りたいな。

特にブリューリンガータを。

 

 

「応えろ深遠、俺の力にいいいいいいい!!!」

「深遠と創造の先に、全知へと至る道がある!!!」

「刮目しろ!! 俺がエスカファルス・エルダーなりいいいいいい!!」

「僕の名はエスカファルス・ルーサー、全知そのものだ!!」

 

私の後方で2人がやり合っている。

ダークファルス同士が戦っている姿を見るのは、昨日と今日だが、これを実際のゲームでも見てみたかったよ。

ルーサーの剣とエルダーの刀。

かなり距離があるはずなのだが、ここまで2人の声が聴こえるってことは、かなりの声で発していると言うことだろう。

 

「演算の必要も無い!」

「この程度じゃないだろう?」

 

楽しげな口調をしている辺り、ルーサーもノリノリなのだろう。

さて、こちらも具現化の鍛錬でもするかな。

とりあえず、確りと凝りたいから1番はじめはブリューリンガータにしよう。

 

 

「……」

「闘争の由は、無限に広がる!!」

「ビッグクランチ・プロジェクト!!」

「深遠の闘争よ、不滅の希望を紡げ!!」

「まだ見ぬ未来を描かん!!」

 

なんだろう、絶妙に集中できんな……。

この状態で具現化するのもあれだし、終わるまで待っとくか。

せっかくだし、この月を散歩でもするかな。

まさか、人生で宇宙服なしの私服で月を散歩できるとは思いもよらなかった。

しかも重力がある。

細かい事は聞いていないが、月に地球同等の重力があり、酸素がある。この理由はマザーの力の影響らしい。

まぁ、マザーの本体って月みたいな所あるやろうし、そういうことなんやろう。

とりあえず、分かりきったことだが、なんも無い。

クレーターがやたら多くて暗く、何も無い。

ただ、上を見上げると、感動する程の星々が目に入る。

 

「綺麗だ……」

 

私は漆黒の海に漂う星々を見て、呟いた。

散歩するのをやめて、体育座りで星を眺める。

こう眺めていると、なんか色々の事がどうでも良くなってくる。

どうでも良くなったらダメだけど……。

それでも、自分のすること全てがちっぽけなモノだと感じてしまう。

 

あれから、1時間は月から見える星々を眺めていた。

ルーサーやエルダーとの戦いの声が聴こえなくなる程に、私はのめり込んでいた。

なんて美しい光景だろうか……。

 

「あれ?」

 

しかし、ふと違和感を感じる。

私の眼ってこんなに良かったっけ?

 

私の視力は自分でもビックリする程に悪く、眼鏡も度が合っていないため、掛けていても眼を細めないと見えない。

それが、眼鏡を掛けているとはいえ、星々が鮮明に見えているのだ。

 

「なんでや?」

 

遠近法的な感じで、そう見えているとかか?

それは違うか。

そもそも、遠近法ってここで使うような意味でもないし。

なぜ?

視力が回復したとか?

そんな急に?

 

「龍照ー!」

 

アプレンティスの声にハッとする私。

とりあえず視力が良くなったのは、とても良い事だと考えて、アプレンティスの方へと向かった。

 

 

 

 

眼が……。

 

 

 

 

「僕の眷属達は作れたのかい?」

「いんや、星に見惚れてて具現化どころじゃなかった」

「なんだそりゃ」

 

ゲラゲラと笑うエルダーに、私は「結構綺麗だったからさ」と笑って誤魔化した。

 

「それで、具現化はどうするのかしら?」

「もちろん、やるよ。3人は先に帰ってて大丈夫やで」

「俺はもう少しここで、トレーニングするぜ」

「僕は君の頭の中に入って読書でもするかな」

「私は寝ようかな」

 

そういい、ルーサーとアプレンティスは身体を霧散させ、私の頭の中に入りこんだ。

 

本当にep5のダークブラストみたいだな……。

 

「俺は奥でトレーニングしてくる!」

「ほーい」

 

さてさて、具現化するかー。

邪眼を手に持ち、エーテルを放出する。

私は、ブリュー・リンガーダの姿を思い浮かべた。

 

色合いはエスカダーカーで、手に持っている武器はどうしようかな。

翼鞘にある刀はそのままで、うーん。

原種は槍、レア種がハルバード、超化種がメイス。

……。

あれにするか。

 

 

青いプラズマを発しながら、ブリュー・リンガーダが具現化されていく。

青いキューブが重なり合い、形を成す。

 

私の目の前に、ブリュー・リンガーダが具現化された。

 

色合いは、ランカ・ヴァーレスと同じ。

原種やレア種、超化種との違いは、首元にあるリングが無く、翼が左右に2枚重ねになっており、四刀流を扱う。

更に、槍やハルバード、メイスを持つ場所には、アサルトライフルを所持させており、これによりウィークバレット連射したり、メシアタイムのような攻撃をするようにしている。

 

これぞ、ぼくのかんがえたさいきょうのブリュー・リンガーダやな。

……pso2で実装されたら間違いなく荒れるな。

名前は……

 

「エスカ・リンガダーズ」

 

だな。

言い辛ぇ……。

まぁ、いいか。

 

よし、残りの有翼型エスカダーカーも具現化出来るようにしよう!

私は邪龍の眼を握りしめ、エーテルを使う。

ここまで、具現化出来るのも、この邪龍の眼あってのこと。

まさに眼様々だわ。

ありがたい話しよ。

これで、アークス……というより安藤さんが来るまでにどうにかなりそうだ。

 

安藤さんが来たら、エスカダーカー操ってシエラさんと、安藤さんをビビらせてやるわ!

マジで腰抜かすやろうなぁ!

別世界の地球に来たら、ダーカーを完全に使役してる人間がおるねんもん。

これが、実際のpso2のep4で出てきたら、pso2wikiとかで地球版深遠なる闇とか、実は深遠なる闇に操られているとか色々と考察されそうだ。

 

私はそんな事を脳の隅っこで妄想しながら、有翼型エスカダーカーを具現化させた。

とりあえず、問題なく具現化することに成功。

 

さて、帰ろうかと私は考えた矢先……。

 

「う゛っ!!?」

 

あの目眩が再び起こった。

凄まじい吐き気が襲ってくる。

船酔いの状態で1時間吐かずにいた状態で、グルグルと100回回転したような恐ろしい吐き気だ。

だのに、吐けない。

鼻水と涎が地面に滴る。

私は、必死に自宅に戻るため、ポータルを使う。

しかし、ポータルで移動する前に力尽き、私は月面で気絶した。

 

 

 

 

 

 

眼が光を放っている。

 

 

 

 

 

続く

 




有翼型エスカダーカー一覧

・エストゥラーズ(シュトゥラーダ)
・ティラルーズ(ティラルーダ)
・ドリュアーズ(ドリュアーダ)
・ダブリュース(ダブリューネ)
・ダブリュンズ(ダブリュンダ)
・エスカンダース(ブリュンダール)
・ソグルダ・カーピス(ソルダ・カピタ、グル・ソルダ)
・ドゥエスカ・ソルズ(ドゥエ・ソルダ)
・ランカ・ヴァレース(ランズ・ヴァレーダ)
・ボンバス・ヴァーレズ(ボンバヴァレーダ)
・リューズソーサラー(リューダソーサラー)
・デコル・マリューズ(デコル・マリューダ)
・エスカ・リンガダーズ(ブリュー・リンガーダ)
・アポカリス・トリツァース(アポス・ドリオス)


創世種有翼型エスカダーカー一覧

・リンゼソーサラー(ユグダソーサラー)
・リンゼ・ヴァレーザス(ランズ・ヴァレーダ)
・リンゼ・ブリューリンダーズ(ブリュー・リンガーダ)



エスカ・リンガダーズ
二つ名:創の翼

データ
弱点属性:闇・光・風
有効状態異常:風
弱点部位:頭部(HS)・腹部コア(常時露出)
部位破壊:アサルトライフル×2・両翼×2・刀・尻尾


出現クエスト
フリークエスト:東京探索
アルティメットクエスト:創世調査・地球【大阪】
アルティメットクエスト:創世調査・地球【東京】
緊急クエスト:顕現する真実の探求者【敗者】
緊急クエスト:史実に存在しない非在の闇
緊急クエスト:採掘基地防衛戦【幻創】


攻撃パターン
突進
ボスエネミーおなじみの技。
一直線に突っ込んでくる。
一瞬仰け反るのと特徴的な嘶きが突進の合図。

古の光針散弾
バックステップした後、両手にあるアサルトライフルを構え、前方広範囲に光の散弾を撃つ。
範囲が広く、1度ヒットするとHPをゴッソリと削られる。
自機にウィークバレットが貼られた状態だとほぼ床ペロは必須である。

クーゲルシュトゥルム
扇状の掃射を3連続で行う。

回転掃射
ぐるりと一回転して周囲を攻撃する。
ジャンプすれば当たらない。

スプレッド・ウィークバレット
バックステップし、アサルトライフルをリロードする動作をした後、広範囲のウィークバレットを1発撃つ。
かなりの広範囲で、下手すれば12人全員が当たる可能性すらある。

尻尾振り
こちらが後ろにいると尻尾を振って切り裂いてくる。





全方位衝撃波
体力低下後に使用。
武器を全て地面に突き刺し、全方位に衝撃波を発生させる。
その後、地面に弾丸を撃ち抜き、爆発を発生させる。
射程はあまり広くなく予備動作もやや長めだが威力が非常に高い。

居合鬼刃連斬
体力低下後に使用。
左右上下いずれかの刀に手をかけて構えた後、超高速の斬撃を2回放つ。
攻撃範囲がかなり広く、威力も非常に高いので注意。
右手で放つ場合と左手で放つ場合があり、右手の場合はミラージュ・パニックの重複効果を、左手の場合はインジュリー・フリーズの重複効果を付与する。

居合連斬弾・幻創
必殺技。
体力低下後に使用。
何度も居合抜刀を繰り出し、更にアサルトライフルから、散弾を無差別に乱射、超広範囲の相手を斬撃と弾丸の渦に巻き込む。
この斬撃に当たると、バーン・フリーズ・ショック・ミラージュ・パニック・ポイズン・インジュリーを一気に付与されるため、当たると確実に床ペロする。





あぁ、推しのキャラクター達が死んでゆく……。
あぁ、あぁ……。
アイツらさえいなければ、あの世界があのような未来になることはなかった。

あぁ、

あぁ、なんて調子が良いのだろうか。


眼が再び光を放つ。
私の足を誰かが掴んでいる感覚に襲われる。


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11話 希望が染まる双子の遊戯

 

 

 

 

 

 

私は眼を覚ますと、見覚えのない場所にいた。

 

「ここは?」

 

辺りを見渡す。

いや、見渡して分かった。

ここ知ってる。

山に田舎を彷彿とする単線のローカル駅。

これだけでは、伝わらないだろうから、ハッキリ言おう。

私がいま居る場所は、五車町。

対魔忍の世界だ。

 

「……」

 

私はさっきまで月にいた。

そして、激しい目眩と嘔吐感に襲われ、多分月面で倒れたはず。

つまり、考えられるのは、ここは夢の中ということだろう。

私が気絶している所にep5みたいな、ブラックホールが出現して飲み込まれたとかだとしたら知らん。

ただ、そう簡単にブラックホールとか生まれんだろうと思う。

そして何より、いま五車は戦火に覆われていた。

 

ブレインフレイヤーの襲撃だ。

 

ブレインフレイヤーとは、簡単に言うと超次元にいる生命体だ。

別次元を行き来できる能力を持っていて、その世界を自身の超科学で支配するクソ野郎である。

宇宙の癌。

ダーカーと同じかそれ以上の@#!である。

正直@#!で@#!である。

対魔忍の未来を破滅させた@#!。

私が1番@#!したい奴ナンバーワン。

とある海賊世界の天竜人と同じぐらい@#!したい。

マジで@#!@#!@#!@#!@#!。

ファ@#!@#!@#!@#!@#!@#!@#!@#!@#!ク!!!

 

それはさておき、これはヤバい。

仮にこれが現実なら、黙っちゃおれん。

私も対魔忍に加勢をするべく、邪龍の眼を取り出し具現化させようとした。

しかし、邪龍の眼が無くなっていた。

仕方ないので、自身の力でエスカダーカーやエスカファルスを具現化させて、ブレインフレイヤーを消し潰そうと試みる。

だが、エスカダーカー達は具現化されることはなく、頭の中にいるであろう、アプレンティスとルーサーも返答がなかった。

……私は全力で走った。

 

大量の対魔忍達が為す術なくブレインフレイヤーに殺されていくのを目の当たりにする。

悪夢だ。

これが夢だろうが、現実だろうが……。

私には悪夢以外の何者でもなかった。

殺されていく対魔忍の中に、推しの対魔忍もいた。

私は目を瞑り耳を塞ぎその場に蹲る。

燃える五車町。

崩壊する五車学園。

無惨に殺される対魔忍たち。

好きなキャラクターの対魔忍の死体が私の前に転がってくる。

 

 

 

 

あぁ、精神が病む

 

あぁ、ブレインフレイヤー達を殺したい。

 

なんだろう、何故だろう、"復讐心"が芽生えてくる。

 

この手で、この足で、この身体で、この角で、この翼で、この尻尾で、

 

奴らを焼き殺したい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、なんて調子がいいんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

眼は光っていた。

 

 

 

 

 

 

「龍照!!」

「おい! 大丈夫か!?」

 

「え?」

 

私が目を覚ますと、そこは月だった。

あぁ、どうやらあれは夢だったようだ。

私はホッとする。

 

「ごめん、ちょっと急に眠たくなってさ。横になってウトウトしてたら寝てしまったわ」

 

なははーっと笑いながら、誤魔化す。

エルダーは「心配かけんなよ、ビックリしたぜ」と笑っていたが、アプレンティスとルーサーは怪訝な表情で私を見ていた。

その視線を私は感じたが、見てないフリして立ち上がる。

 

「もう、夜は遅いだろうし3人は先に帰っといて。私はエスカファルス・ダブルを具現化させてから帰るから」

 

私はそう言って歩こうとした。

その時、何か違和感を感じる。

 

「?」

 

私の足をナニモノかが、掴んでいるような感覚に襲われた。

私は不審に思いつつも、変な体勢で倒れたから、そのせいだろうと考えて、特に気にする事はなかった。

 

エスカファルスの3人は「わかった」と言い、ポータルを用いて自宅へと帰還する。

私は気を取り直し、邪龍の眼を使い具現化を行う。

ダークファルス・ダブルを思い浮かべる。

 

ダブルは……。

アイツは、なんだろうなぁ、設定を見ると可哀想に思えてくる。

確かオラクルでは、特異な体質を持っていたせいで、実験体となって長い間孤独だった。

そして、その孤独を紛らわすため、もう1人の自分を生み出した。

 

オメガのダブル……というよりフローかあれは、子供として遊び、戯れるって感じだったな。

多分、アイツら(エスカファルス)がいる限り、孤独にもならんやろうし、好きなだけ遊べる。

ただし、クソガキという訳ではなく、純粋な子供や、ある程度の常識を持っている「フロー」と「フラウ」を思い浮かべて具現化する。

 

遊ぶぞ!!!

思いっきり!!!

 

私の咆哮が月の裏側に轟く。

そして、エスカファルス・ダブルが創造された。

 

見た目だけで言えば、小学1年、2年ほどの少年少女と言った感じである。

 

「?」

「?」

 

2人は私の方を見て首を傾げる。

……可愛いな。

私はショタロリコンという訳でもないが、普通に可愛いと思った。

エピソードオラクルのダブルがキョトンとした顔で首を傾げていると言えば、どれだけ可愛ええか分かるだろう。

それと同時に、ふうま亜希の性格が混じってるあのアプレンティスに、この2人を見せたらどうなってしまうのだろうかという懸念点が生まれた。

まぁ、考えていても仕方がない。

私は2人に話しかけた。

 

「こんにちは」

「お兄さん、僕を生み出した人?」

「お兄ちゃん、私を造った人?」

「まぁ、そうやな」

「「そうなんだー」」

 

ダブル……これだと後々訳分からなくなるな。

2人が話す時、ダブル。

それぞれが話す時、フローまたはフラウ。

こうしよう。

 

「これからよろしくね」

「ずっとよろしくね」

 

ダブルがよくする、上半身を傾げるポーズをとってそう言った。

可愛いな。

 

「あぁ、よろしく」

 

私はダブルと握手を交わす。

すると、2人のお腹の虫が呻き声を上げた。

私は「飯食べるか?」とそれだけ言った。

ダブルは笑顔で「うん!」と頷いた。

さて、あのアプレンティスがどんな反応をするか……やな。

若干の不安を抱きながら、私はポータルを使って自宅へと帰還する。

ダークファルスのあのワープ能力使えたらなぁ……

 

 

 

「よっと!」

「「よっと!」」

 

私とダブルは自宅へと着地した。

ルーサーがcock-patと言う本を片手に料理を作っていた。

香ばしい香りが、部屋中に漂い食欲を刺激する。

ただ、カウンターキッチンにビーカーと試験管、フラスコが複数個置いてあるのは何故だろうか……。

一抹の不安がもう1つ増えたような気がしたが、よし、見なかったことにしよう。

まぁ、美味しそうな香りはしてるし、多分くそ不味いということもないだろう。

 

「たでーま」

「おかえりー」

「お、帰ってきたか」

「やぁ、おかえりー」

「「ただいまー」」

「お、ダブルを創造したのか! 何か分かんねえけど腹たって来たぞ!」

 

喜ばしい顔から険しい顔に変化するエルダー。

「ハッハッハ、向こうのエルダーに何かあったんじゃないかな?」と料理をしながら言う。

 

「うわああああああ!可愛いいいいい!」

 

ジャンピングダイブでダブルに抱きつくアプレンティス。

あー、やっぱり。

予定調和過ぎた。

 

「あーもう、可愛いなぁぁぁ!」

「わわわー、目が揺れるうー」

「わわわー、目が回るうー」

 

アプレンティスのスキンシップの前にタジタジになるダブル。

えらい新鮮な光景だ。

 

「お取り込み中申し訳ないが、僕お手製のビーフシチューが出来たよ」

 

ルーサーは、どこぞの執事かと言わんばかりに両手にお盆を乗せて、ビーフシチューが入った皿6枚をテーブルに置いた。

 

素晴らしく食欲を刺激する香りを放つビーフシチューに私は目を丸くして、席に座った。

エルダーもキャラが崩壊しているようなテンションMAX嬉しそうな表情で着席して、スプーンを手に取った。

 

「美味しそう!」

「食べたーい!」

 

ダブルもヨダレを垂らして、目を丸くしてテーブルを必死に覗こうとしていた。

それはまるで、好物を目の前に早く食べたそうに台所を覗く子供である。

 

「君たちの分も用意しているよ」

 

ルーサーは絶妙にイケメンか表情で微笑んで、指をパチンと鳴らす。

すると、ダブルの前にお子様用の椅子が具現化されて、2人を座らせた。

世話好きお兄さんかな??

 

「いただきまーす!」

「いただきまーす!」

 

ダブルは手を合わせてから、スプーンを手に取ってビーフシチューを「おいしいおいしい」と言いながら、平らげる。

 

「ハッハッハ、お代わりも用意してあるから、好きなだけ食べるといい」

 

こんなルーサー見たことが無いので、非常に新鮮だ。

さてさて、私もビーフシチューを食べようか。

 

「……!」

 

ひとくちすると、何だこれと。

何この美味い飯は。

ビックリするほどにおいしい。

三ツ星レストランは行ったことないが、断言出来る。

三ツ星レストランより美味しい。

口の中にほんのりと甘い味が口いっぱいに広がり、ビーフシチューの味が波のように押し寄せる。

美味しい。

 

「クソうまいなこれ!」

「ああ、これうめえぞ!!」

「確かに美味しいわね」

 

私、エルダー、アプレンティスが口々にそう言って、ビーフシチューを無我夢中で平らげる。

 

「ご馳走様でした!」

「ごちになったぜ!」

「ご馳走様ー」

 

3人は笑顔でごちそうさまをする。

エルダーが「美味かったなー」と私に話しかけてきて、暫しの雑談の花を咲かせた。

アプレンティスは、3杯目のお代わりを貰ったダブルを観察しようと、先に皿をキッチンに持っていこうとした時だった。

彼女の視界に、あの試験管が目に入る。

 

「ねえ、ルーサー」

「何だい?」

「あの試験管は?」

 

試験管の方を指差す。

私は「それ言っていいやつか?!」と心の中で叫び声を上げつつ、ルーサーに耳を集中させる。

 

「あー、美味しくする為の隠し味かな? 大丈夫だよ、危ない物質は入っていないよ」

「じゃあ、なにが入ってるの?」

「人が美味しいと感じる食品を集めて、美味しい部分を取り除き、それを綺麗に纏めて圧縮した物だよ」

「……本当に大丈夫なの?」

 

アプレンティスは、病的なまでに無我夢中で食べているダブルを見て、ルーサーに問い詰めた。

 

「現に、君たちが食べても美味しいとは感じても、まだまだ食べたいと思わないだろう? あの2人はまだ子供だからさ」

「ならいいけど? 依存性はないのよね?」

「そも、ダークファルス、もとい幻創体であるエスカファルスが、依存性になるとでも?」

「それは」

「大丈夫さ。それに依存性になったら、依存を治す薬を作ればいい」

「便利ね」

 

アプレンティスは肩を降ろして、ビーフシチューを頬張るダブルをニコニコと観察し始めた。

 

「おい、龍照」

「ん?」

「お前はエスカファルスに成れねぇのか?」

「ああ」

 

と、私は頷いた。

それを聞いたエルダーはあからさまに残念そうな表情をする。

戦いたかったんだな。

大丈夫や。

エスカファルスを具現化し終えたら、私もエスカファルスになるよ。

エルダーには言っていないが、心の中でそう呟き、幻創紅茶を飲む。

 

そうか。

次はアイツか。

 

エルダー、ルーサー、アプレンティス、ダブル。

オラクルの代表と言うべき4体のダークファルスが具現化された。

そうなると、次に具現化するのは……。

 

 

 

『私と言うわけね!』

 

 

 

「え?」

「ん? どうした?」

 

ストロングゼロを飲み干したエルダーが怪訝な顔でこちらを見る。

 

「いや、なんでもない」

「そうか。もう11時50分だ。そろそろ寝ないか?」

 

「えー、僕龍照お兄さんと遊びたいよー!」

「えー、私龍輝お兄ちゃんと遊びたいよー!」

 

駄々を捏ねるダブル。

私は「明日な?」と宥めてその場を収める。

とりあえず、聞き分けのいい子でよかった。

 

私たちは、寝室へと向かう。

 

「流石に、これ以上増えたら寝る場所がなくなるな」

 

私は呟いて、今度マザーに理由を説明して、住むところを変えてもらおうと考えながら、眠りに着いた。

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、顕現するよ。絶望の徒花よ!』

 

 

 

 

人知れず新たな存在が造られる。

それは小野寺龍照のもう1つの存在。

彼の願望が具現化した存在。

 

 

 

 

 

 

続く

 




絶望の徒花、闇に沈め。


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12話 絶望の徒花よ。希望の闇に沈め。

 

 

 

 

 

あぁ、身体が重い。

頭痛がする。

倦怠感が酷い。

関節痛が酷い。

インフルエンザにかかった時のようだ。

 

「……」

 

私は目を覚まし、ベッドから起き上がる。

脊髄から尻尾が這い出るような感覚がする。

なんじゃこの感覚は……。

むず痒い……。

 

「……あ"ぁぁぁぁぁ……」

 

私は変な感覚に苛まれつつも、頭をポリポリと掻きながら、ベッドから出る。

 

「あ、おはよー!」

 

私の目の前に見慣れず美少女が現れた。

いや、美少女どころの騒ぎではない。

こう言えば、分かるだろうか。

抱き心地良さそうな極上の安産型ムチムチ女体の美少女と。

黒髪ロングヘアーに黒縁の眼鏡を着用しており、一見地味子や陰キャ女子と思えるが、その身体は、素晴らしい女体を持っていた。

 

私は初めにこう言った。

 

「えとー、どちら様ですか?」

 

と。

当たり前なことである。

ルーサーたちも爆睡の中、私はテンパった感情を必死に押さえ込み、目の前にいる……存在自体が童貞を抹殺しかねないえげつない美少女に問いかける。

ちなみに、彼女の服装だが"競泳水着"であることも、私の心に突き刺さる。

朝起きて、これはやばい。

寝起きドッキリにしては、下半身に効きすぎている。

下半身の寝起きドッキリじゃねえの?

とツッコミを入れたくなってきた……。

 

「私? 分からない?」

「ええ、全然」

 

私は首を振りながら、目線を別の方向へと向ける。

競泳水着に収まりきれていない超乳をこれ以上見ていては、理性が崩壊しそうだからだ。

 

抱き心地良さそうな極上の安産型ムチムチ女体の美少女は「んー」と少し考え込んだ後、「じゃあ、こうしたら分かる?」と言ってくるりと一回転した。

 

そして、競泳水着だった服装が我々pso2をしていた人なら見た事のある黒のトレンチコートに変化させ、とある物を片手に持ち、こう言った。

 

「これ、なーんだ?」

 

少し人をバカにしたようなポーズ、ep5のラストで見た事がある。

そして、彼女が持っているその仮面。

 

私はどっち!?

と思い口に出す。

 

「えーと、どっち? 初代? 二代目?」

 

と。

彼女は少しだけ申し訳なさそうな表情になって「ごめん、これじゃあ二代目に間違われるか、普通に間違えたわごめん」と謝罪をして、その仮面を被る。

 

「自己紹介するね、私はダークファルス・ペルソナ。もちろん、エルミルの方ではなく、本物の【仮面】だよ。そうだね、エスカファルス・ペルソナって言えばいいね」

「え?なんで!?」

 

私はエスカファルス・ペルソナがいた事にも驚いたが、どうしてそんな童貞を抹殺しかねない抱き心地良さそうな極上の安産型ムチムチ女体の美少女なのかという……

……えーと、あかん。ペルソナの服装着ててもその超乳が目に行く。

pso2でも、modとかチート使わん限りこれをクリエイトするのは出来んだろ。

爆乳パット含めてでも不可能やぞこれ……。

 

「どうしたの? そんな朝早くから……」

「騒がしいな……」

 

エルダー達も起き上がる。

そして、ペルソナの姿を見たエルダーとルーサーは「うえええええ?」と物凄い情けない声を上げて、ペルソナの胸をガン見していた。

それを見た私は、「あぁ、私が創造されただけのことはあるわ……」と、いたたまれない気持ちになってしまった。

 

「エスカファルス・ペルソナかな?」

 

至って普通の回答をするアプレンティス。

 

「そうだね。これからよろしく!」

「アプレンティスよ。よろしくね!」

 

握手をする2人、揺れる胸、眺める男性陣。

わー、でっっっっっけぇぇぇ……

ペルソナの胸何カップあるんだよ……

Kとかの次元じゃないぞ……

 

「君たちがエルダーとルーサーだね。よろしく」

「あ、あぁ、よろしく」

「こ、これはどうも、よろしく」

 

2人とも必死に胸から目を逸らしている。

必死に……。

 

「で、貴方が私だね。よろしく」

「あ、ああ、よろしく」

 

とりあえず、私はこの2人とは違い、もう開き直って、ペルソナのバカデカおっ〇いを凝視してやった。

それはともかく私はペルソナに話しかける。

 

「なぁ、ペルソナよ」

「ん? なぁに?」

「何故、ペルソナがここに? 私は具現化した覚えがないんやが……」

「あー、それね。簡単だよ。ダークファルス・ペルソナって平行世界の主人公でしょ?」

「おん」

「だから、龍照は無意識の内に私を具現化させていたのよ」

「ホンマに言ってる?」

「こんな時に嘘言うてどうするよ」

 

笑いながら言うペルソナ。

その話し方、間違いなく私だ。

 

「まて、それなら何故女性なの?」

「貴方の性癖。私がこんな抱き心地良さそうな極上の安産型ムチムチ女体の美少女になったのは、貴方の性癖からだよ?」

 

とてつもない爆弾発言にエルダーとルーサー、アプレンティスがこちらに視線を向ける。

 

よし、ちょっと別のところで話をしようか。

 

「私の性格も、全部「もし、小野寺龍照が女性として成るのなら、このような身体付きに、このような性格がいいな」っていう性癖全てが反映された結果だよー」

「待て、分かった。それ以上はやめよう」

「だから、私の性格は自他ともに認める超絶ドマzo……」

「ぎゃああああああああやめろおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

私はマンション中に聴こえるであろう大絶叫で、ペルソナに襲いかかる。

 

「ひゃわあああああ!?」

 

凄いエッッな声をあげるペルソナ。

更に、大絶叫に何事かとマンションの住人が、ゾロゾロと駆け込んできた。

その後、エルダー達はその場をおさめてたりとかなりの修羅場となるのであった。

 

 

 

「まぁ、とりあえず、これからよろしくな、ペルソナ!」

「うん、よろしくね、私」

 

事をおさめた私達は再びペルソナを迎え入れた。

とんでもないペルソナが来たな……。

 

「わー、お姉さんおっぱい大きいねー」

「わー、お姉ちゃんおっぱいでっかいねー」

 

ダブルが物凄い興味津々でペルソナのバカデカおっ〇いを見つめていた。

ペルソナは「でしょー!」と得意気に胸を持って揺らす。

惑星ウォパル、海底に生息するマッドゼリーの3倍は揺れていた。

 

「触ってみる?」

「いいの?」

「いいの?」

 

ペルソナの発言にダブルは目を輝かせる。

私とエルダーとルーサーは何とも言えぬ表情でダブルとペルソナの光景を眺めていた。

それはカースト最底辺の男子生徒が、クラス1美しい女子生徒を教室の端で見つめるが如く……。

 

「全く馬鹿だねー」

 

その光景を見たアプレンティスがエスカ・サンドイッチとエスカ・スコーンと幻創紅茶で優雅な朝食を過ごしながら、ぽつりと呟く。

 

「ロリコンティスには分かるまい……」

 

魂が抜けたような口調でヒッソリと呟くルーサー。

あまりの魂の抜けように、ルーサーの消えるようなか細い言葉は十中八九アプレンティスには聴こえていないだろう。

 

「わー、ポヨポヨしてるー!」

「わー、プニプニしてるー!」

 

純粋な心でペルソナの胸を揉むダブルを見て、ありとあらゆる感情の濁流に飲まれる3人。

最早、見るに堪えない。

オラクルにて猛威を奮い、アークスに多大な被害と経験値とアダマンを与えたエルダー、ルーサーはここにはいない。

ここにいる2人は、哀れな童貞の大学生によって創造された愉快なエスカファルスたちだけだ。

シエラ達が、見たら確実に敵ではないと悟ること間違いなしである。

 

 

 

 

 

「ふぅ、やっぱり全身〇〇帯のこの身体だと少し辛い所があるねー」

 

ペルソナは洒落にならない爆弾発言をするが、私は聴かなかったことにする。

エルダーとルーサーは、アプレンティスに気づかないようにグッドをしていた。

 

「……はぁ……」

「大変ね……」

 

アプレンティスが少し笑いを堪えた声でクソみたいな同情をかけてきた。

やめてくれ……。

非常に惨めだ。

 

「いらん同情かけんといてくれ」

「くっ……く……プ……わ、わかぁ……たわ……く……」

 

プルプル震えるアプレンティス。

私はこの場から離れたくなり、エスカファルス・エルミルを具現化しようと考えて、月面へと向かおうとする。

しかし……。

 

「えー、お兄さん遊ぶ約束したー」

「えー、お兄ちゃん遊ぶ約束したー」

「そうやったなー、それじゃあ……」

「んー、私がダブルと遊ぼうか?」

「ペルソナが?」

「うん、貴方はエルミルを具現化したらいいよ」

 

そう言うと、ダブルは「お姉ちゃんと遊べるー」とワイワイガヤガヤ。

 

「そかー、それなら私は月面でエルミル具現化させてくるわ」

 

とりあえず、またいらん性癖を晒されそうな気はしたが、もう埒があかないので、知らん振りしておく。

 

 

 

 

「さて、やるか」

 

月面に着いた私は邪龍の眼を取り出して、具現化を行う。

 

ダークファルス・エルミル、もとい二代目ペルソナ。

そして、3代目深遠なる闇。

 

私はエルミルの姿を思い出す。

雑念を捨て、具現化を行う。

 

……エルミル。

頭の中でエルミルの姿を思い浮かべる。

ペルソナ・エルミル。

 

眼が一際輝きを増し、エルミルが創造されていく。

 

 

「やぁ、センパイはじめまして!」

「あぁ、はじめまして」

 

エスカファルス・エルミルが私の前にいた。

変わらない姿をしたエルミルだ。

いや、髪色が少し青みがかっている。

それこそ、ep5にいたダークファルス達のようだ。

 

「僕を具現化してくれてありがとう、これからよろしくね」

 

やたらと礼儀正しい仕草で握手をするが、ep5のこいつを知ってる私からしたら、凄い胡散臭い。

 

「こうした方がエルミルっぽいだろ?」

「そっちのやりやすいようでええで」

「じゃあ、このままでいくよ」

「さよか」

 

とりあえず、具現化できた私はエルミルを連れて自宅へと戻った。

 

「な、なんじゃこりゃあああああああ!!?」

「おっはははっはっはっははははは!!」

 

どえらい光景に私は発狂。

エルミルは爆笑。

 

「なははははは! 私の勝ち!!」

「お姉さんつよーい!」

「お姉ちゃんすごーい!」

 

バカデカおっ〇いを揺らしながらドヤ顔のペルソナに、目をキラキラと光らせて興味津々のダブル。

そして、部屋中に散らばる玩具型エスカダーカー。

エルダー、ルーサー、アプレンティスは、「我々は関係ないしー」とどこかへ出かけているのだろう。

いなかった。

構想マンションが、はっきり言って足の踏み場もないゴミ屋敷と貸している。

 

「ドアホおおおおおーーーーー!!!!!」

「ひいいいいいいいい!」

「わあああああ!」

「わあああああ!」

 

私の怒声が部屋中に響き渡る。

その後、10分は、このおバカ3人に説教した。

 

 

 

 

その後

 

 

私はマザーに相談するため、再び月面基地へと向かった。

 

『どうした、小野寺龍照。どこか体調が悪いのか?。』

「いえ、特にそんなことはありませんけど、なにゆえ?」

『いや、何でもない。それより、私に何か用事が?。』

「あぁ、はい。もし、可能ならでよろしいのですが、住む場所を変更する事は出来ますか?」

『あぁ、もちろん可能だ。何か問題でも?。』

「ええ、エスカファルスがかなり増えましてどうしても、その部屋数が圧倒的に足りなくてですね」

『ふむ……。そういうことなら、別の高層マンションを手配しよう。君を含めてエスカファルスは何人いる?。』

「えーと、エルダー、ルーサー、アプレンティス、ダブル、ペルソナ、エルミル、私入れて合計7……」

 

私は言いかけて、訂正する。

 

「間違えた。ハリエットいれて8人です」

『分かった。それなら同階で8人それぞれに住む場所を提供しよう。』

「え? 待って、いいの?」

 

予想を超えた回答に素の声が出る。

 

『問題ない。そちらもその方がいいだろう?。』

「ええ、そうですけど」

『それなら、明日にでも引っ越せるようにする。』

「あ、ありがとうございます」

 

私はそう言ってマザーとの話が終わった。

その後私はそそくさと自宅へと戻り、エスカファルス達に引越しの事を言って全員で部屋の片付けに引越しの準備をする事となった。

 

 

「さて、準備するかー」

 

とりあえず、玩具型エスカダーカーは全部霧散させたので、後は沢山ある家具だ。

 

「いい方法があるぜ」

 

エルダーがそう言う。

私は「何かあるの?」と。

エルダーはニヤリと笑うと、自身の身体を変化させて、ファルス・ヒューナル……こちらでは、エスカ・ヒューナルと言おう。

もちろん、あの形態そのままではなく、一般的な成人男性と同程度大きさにしていた。

 

「こうすれば、楽に運べるだろ?」

「なるほど、非常に合理的だ」

 

ルーサーもエスカ・アンゲルとなる。

それを見たアプレンティスやダブル達も、エスカ・アプレジナ、エスカ・ダリル、エスカ・ダラン、エスカ・ディーオ、エスカ・マスガレーダとなっていく。

 

「oh........」

 

完全なる蚊帳の外となってしまった私はどうする事も、ちびちびと荷物をまとめ始める。

ハリエット具現化したら、私もエスカファルスになろ……。

 

私は引越しの準備をしながら、心の中で決心する。

 

 

 

 

眼が強く光った。

 

 

 

 

 

 

引越しの準備が終わり、あらゆる荷物をダンボールに詰めた我々は晩飯を済ませて即座に眠りへとついた。

 

 

しかし、私はどうにも寝付けず、ベランダに出て具現化した椅子に座って、pso2の東京bgm夜versionを聴きながらゆったりとしていた。

 

「この部屋ともお別れか、早いもんや」

「そうなんだ」

 

私は呟いていると、奥から優しげな声が聞こえてきた。

エスカファルス・ペルソナだ。

 

「あぁ、すまん。起こしたか」

「うぅん、私も寝付けなかっただけ」

「そか」

 

ペルソナはベランダにでると、私と同じ椅子を具現化させて座り込む。

 

「隣良いでしょ?」

「ああ」

「サンキュ」

 

沈黙。

何だか気まずいので、私はペルソナに話しかける。

 

「なぁ」

「ん?」

 

私の方を振り向くペルソナ。

私は話を続ける。

 

「ペルソナって私やんな?」

「そうだよ」

「それなら私が私に話すのも何か変な感じやな」

「そうだね」

 

うふふっと微笑む。

 

「そいで? どうしたの?」

「いゃぁな、私がやってる事って、アークスの存在意義を完全に否定してるよなって」

「あぁ、まぁ。そうだね」

「私が具現化したエスカダーカーとかエスカファルスって、侵食能力は持ってて、それはダーカーのみを侵食することなんだよな。侵食したダーカーをエスカダーカーへと変異させる。完全なるダーカー・ダークファルス特効なんだよな」

「そうだね」

「これ、あんまりアークスの前では見せない方がええな」

「でも、こう考えることはできるよ?」

「ん?」

「アークス達は今まで辛い事とか沢山あったから、後はエスカダーカー達に任せて、これからは男性や女性として最後まで幸せに生きてくれって」

「あーね」

「それにアークスってダーカー討伐だけが目的じゃないでしょ? アドとか緊急とかEXとかディバイドとか、それこそ宙域保安隊とかで活躍できるじゃん」

「まー、そう言われたらそうやな」

「それに、エスカダーカーをここまで強くしたのは理由があるでしょうに」

「うん」

「マザーを助けたいんでしょ?」

「せやな。後はべトール。そんでもってもう1人」

「誰か居たっけ?」

「終の女神シバ様」

「あ〜……」

「シバ様はなぁ、安藤(主人公)に言った最後の問いがな……。うん。どうにかして救えないものかなと……」

「かなりの難易度だよ。それこそウルトラハードレベルの」

「せやな。まぁ私がここに来た目的はその3つ。べトール、マザー、シバを救うこと。そして、それを達成した後は、自分の夢を叶える」

「対魔忍になることだよね?」

「ブッ……言わんでええねんアホ」

 

サラリと言うペルソナの言葉に私は飲んでいた伝説・プロテイン(ソーダ味)を吹き出す。

ペルソナは笑いながら、話をし始めた。

 

「だってそうじゃん、対魔忍になる為に、わざわざ設定資料買って……」

「ええねん、そういうことは! あと今、夜や静かにせい!」

「はーい」

「まぁでも、よう考えてみ? 私が対魔忍なったらかなり強い部類になると思うで??」

「それは無理じゃない?」

「何で?」

「だって、その力、エーテルありきじゃん」

「あっ……」

「あっち、エーテル粒子ないよ? 対魔粒子ならあるけど」

「……」

 

予想外の正論を自分に言われて頭を抱える私。

 

「あ、ごめん」

「そうやな。私の力ってエーテル必須なの忘れてた……バカスカ具現化させてたから完全に頭から抜けてたわ……」

「それに、対魔忍って元は魔族の生まれ変わりだから、忍法使える訳で、私(龍照)はそんなことも無いただの一般大学生Aだから忍法も覚醒しないよ」

「……」

「……」

「……」

「……ごめん」

「いや、ありがとう」

「え?」

 

龍照の予想外の言葉にペルソナは戸惑う。

更に、龍照の表情はニヤリと不気味に微笑んでおり、さながら悪役である。

 

「ペルソナの言葉で色々とするべき事が決まってきたわ。あの世界でエーテルを扱う方法を模索する。まぁ、先にべトールマザーシバの生存ルートの確立や」

 

龍照は立ち上がり、不敵な笑みを浮かべて寝室へと歩みを進める。

 

「ペルソナ。ありがとう。絶対に救って、絶対になってやる。その前に眠くなったから寝るわおやすみ」

「あ、おん。おやすみ」

 

襖が閉まるのを確認して、ペルソナは伝説・プロテイン(コーラ味)を飲んで呟く。

 

「……本当にどうにかしそうだなぁ、だって私だし……」

 

キラキラと光る月をペルソナは眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

眼の光が禍々しい。

 

 

 

 

 

続く

 







もう少し、もう少しで成る。


眼が……。


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13話 希望より生まれる原初の闇

 

 

 

 

 

 

もう少し、もう少しで成る。

 

 

 

 

 

 

「人が死ぬ瞬間は、一生に一度だけだ。確り撮っておけよ」

 

「……八坂ヒツギ、私は……。……!?」

 

「あぁ無念だ……無念だ……」

 

 

 

「ふうま、お姉ちゃん……」

 

「ありがとうお姉ちゃん」

 

「ごめん……ふうま……」

 

 

 

 

あぁ……。

やっぱり私は誰も救えないのか……。

物語通りにしか進めないのか……。

そうだよな。

どんなチートの能力を持っていたって、その物語の"主人公"でない限り、その能力は活かせず、全くの無意味だ。

私は、主人公じゃないんだ……。

ただの一般大学生なんだ……。

 

 

 

 

眼が禍々しく……

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

なんか分からんけど、インフルエンザにかかった時に見る夢を見た気がする……。

凄い寝起きが悪い……。

 

「……え?」

 

私は自分の両腕を見た。

一瞬だけ、黒いドラゴンの前脚に見えた気がする。

インフル夢が残ってるんか……。

少し不気味に思いつつも、起き上がった。

そう言えば、今日は引越しの日だ。

 

さて、業者が来るまで待っておこう。

 

 

 

エルダー達も起きてきて、朝飯を食べ終えた頃だ。

突如、私たちの前にマザーとファレグさんが現れた。

予想にもしとらん来客に私は冷や汗をかく。

 

『小野寺龍照、マンションの引越しの手続きが終わったので、移り住んでもらう。』

「え、家具とかは……」

「私達が運ぶので心配いりませんよ」

 

ファレグさんがお上品なお辞儀をして言う。

そう言うと、ファレグさんは全てのダンボールを持って姿を消した。

多分新しいマンションに持っていったんだろうな。

流石だよ……。

 

『君たちを新たな住む場所に送り届けよう。』

 

そう言って、マザーは我々を結界で包み込んで転送した。

心の準備がまだであるが、そんな暇も与えずに、我々は新たなマンションに到着した。

 

 

かなりの大規模なマンションだ。

その最上階全てを部屋を各々が使用してよろしいとのこと。

やっぱマザーは凄いな……。

 

「荷物はこちらの部屋に置いておきましたよ」

 

ファレグさんがそう言うと、エスカファルス達を呼んで別室へと連れていった。

あー、多分、全員に闘争を求められるな……。

南無。

 

私は合掌をして、荷物が置かれた部屋へと向かった。

 

 

 

「さてさて、とりあえず、ここは私の部屋にして、荷物を取り出すか」

 

ダンボールに入ってある家具などを取り出して家具のレイアウトを行う。

部屋は前のよりも広く、3LDKという広さだ。

わ〜お。

私はセコセコと家具を置いていると、エスカファルス達が帰ってきた。

 

「なんやったの?」

 

私はてっきり全員に喧嘩を吹っかけられているとばかり思っていたので驚いた。

 

だが、エスカファルス達の顔は深刻そうな表情をしており、あまりいいことを言われたものではないと感じた。

 

「闘争のお誘いだよー」

 

アプレンティスはそう言うと、他のエスカファルスも「だな」と言って、各々が「怖かったね」と言って話をしていた。

 

「そうなんか」

 

そう言いながら、私は残りの家具を取り出して、レイアウトする。

他のエスカファルスも、それぞれ部屋を決めてその号室に入っていく。

 

さぁ、残りの空いてる号室の人を具現化させるか。

 

せっかくだし、私はその空いている号室の所で生み出すことにした。

 

 

「……」

 

初代深遠なる闇にして、原初の闇ゴモルス、ソダムの依代となった存在。

ルーサーの最高傑作にして、妹。

ハリエット。

 

私は眼を握りしめてハリエットを想像する。

 

オメガに存在したハリエットを。

確かハリエットって結構な巨乳だったな。

あのペルソナ程ではないにしても……。

てか、あのペルソナがでかいんだよな……。

田〇瞳さんよりデカいんじゃないか?

そんなことを想像しているうちに、ハリエットが具現化された。

 

 

「ここは?」

 

お淑やかな口調で辺りを見渡す。

だが、私は直ぐにハリエットの違和感に気づいた。

あれ?

デカくない?

ハリエットの胸元が異様に大きかった。

もちろん、あのペルソナ程ではないが、それでも従来のハリエットやシバの2、3倍はあるような気がする。

しまったかな……。

あの時、色々と想像してそれが反映されたか?

そんな事を考えていると、ハリエットが私の存在に気づく。

 

「もしや、貴方が私を?」

「ええ、初めまして、小野寺龍照と申します」

「はじめまして、ハリエット=リーン=レイナ=クエントと言います。よろしく…」

「ハリエットおおおおおおおおお!!!」

 

ドバンっ!

と扉を開けてある男が入ってくる。

ルーサーだ。

オメガでは兄妹関係だったな。

 

「あぁ、ハリエット! 我が妹ハリエットよ!」

 

辺りをクルクル回りながら、謎の詠唱をして歓迎するルーサー。

なんじゃこれ……。

ハリエットも、それに違和感を持つことなく、「初めまして、ルーサー兄様」と礼儀正しくお辞儀をしていた。

 

「あぁ、よろしくハリエット、やっと迎えられる事ができたハリエット!」

 

アプレンティスがロリコンなら、ルーサーはシスコンだなと心の中で思うが死んでも口には出せなかった。

 

「とりあえず、ハリエットさん、この部屋は貴方がお好きに使用して構いません。よし、何か欲しい家具とかがあれば、私に言ってくれれば、それを購入しますので」

「龍照様、誠にありがとうございます」

 

ニコニコとお礼をするハリエット。

さすが、クエント国の姫君なだけあって育ちの良いな。

 

「ハリエット、困ったら僕を頼るといい」

「んな所で張り合わんでええねん」

 

ルーサーに突っ込むが多分聞こえてはいないだろうな……。

まぁ、ここはとりあえずルーサーに任せて、私は部屋に戻る。

 

とりあえず、荷物を全部出してレイアウトを完了した私は、ソファでゆったりと寛いでいた。

時刻は昼。

何か飯を食べようと料理本を見る。

 

美味そうなお寿司が目に入り、私はそれを食べようと想像する。

 

 

 

 

眼が光った。

 

 

 

 

目を開けると、目の前に本に乗っている物とよく似たお寿司があった。

少し青みがかっているが、気にすることなく私は醤油を垂らしてそれを食べる。

 

「ご馳走様でした」

 

直ぐに平らげた私は、ソファーに再び寝転ぶ。

調子いいし、この近辺を散策しようかな。

私はそう思いソファーから飛び起きる。

しかし、それを阻止する人が現れた。

 

「お兄さん遊ぼう!」

「お兄ちゃん遊ぼう!」

「おわっ!?」

 

ダブルが私に抱きついてきた。

あまりの勢いに、私は一瞬バランスを崩しかけた。

 

「なになにどしたどした??」

「「遊ぼう!」」

「遊ぶ!? 何して?」

 

私がそう訊ねると、ダブルは「時間以内にどっち多く玩具ダーカーを生み出せるか、競走!」と言った。

 

「玩具型か……ええで。ただここでは散らかるから、月面でやるか」

 

私の提案にダブルは頷き、月面にてお遊戯が始まることになる。

 

 

「すまん、ちょっとウォーミングアップさせてくれ」

「「はーい」」

 

私は眼もって具現化を行う。

多分ダーカーの中で1番目にクソだと思うエネミー、オロタ・ビロケッタを創造してみる。

まぁ、問題なく具現化できた。

てか、ダブルの眷属って、まどマギに出てきてもあんまり違和感ない見た目してんなー……。

まぁ、そういうことはええ訳や。

とりあえず、問題はないので、競走が始まる。

 

「時間は五分ぐらい?」

「「うん!」」

 

タイムアップと同時に多く玩具型エスカダーカーを具現化した方の勝ちやな?

 

「「そうだよー!」」

「おけ、じゃあ行くか。レディ、ファイト!」

 

何故か私の頭の中でクシコスポストが流れ出す。

ヤバい……クラウディアさんが出てきた。

しかも、その衝撃で、真っ先に具現化されたのがクラウディアさんである。

やばいやばいやばい!

とりあえず申し訳ないが、クラウディアさんは霧散させて、再び玩具型エスカダーカーの具現化に入る。

 

やばい、出遅れた!!

負ける!!

 

さすがエスカファルスなだけある。

玩具型ダーカーの具現化があっという間に100体になる。

私は50体。

五十歩百歩と言えばそれまでだろうが、それでも差は歴然だ。

私が100体具現化した時、既にダブルは200匹。

 

これ無理じゃね??

 

ちょっとずるかもしれないが、私は眼を潰れんばかりに握りしめてエーテルを放出する。

 

 

 

眼が禍々しく光っている。

 

 

 

生まれいでよ、エスカダーカー!!

 

 

 

 

私は玩具型エスカダーカー達を想像する。

眼のエーテルが自身の身体に流れてくる。

 

「どりゃああああああああ!!」

 

私の身体が膨大なエーテルが解き放たれ、一瞬にして玩具ダーカーを1000体以上を具現化する。

 

「やったるわああああああああああ!!!」

 

私の咆哮と共に、月を覆い尽くさんばかりの玩具型エスカダーカーが創造された。

 

時間はまだあるが、この数を覆す事は不可能!

よって!

 

「私の勝ちだーーーーー!」

「「すごーい!」」

「ナッハハハハハ!」

 

ダランブルの姿でぱちぱちと拍手するダブル。

ドヤ顔で笑う私。

 

 

 

 

 

その後、めっちゃマザーに怒られた。

 

 

 

 

「あぁー、えぇらい怒られたわ……」

 

あの後、私とダランブル(ダブル)は正座でマザーに説教をくらったのだ。

ちくしょう、ムキになってあんなに具現化するんじゃなかった。

私はソファーに座り込んで後悔する。

 

なんやろうか……。

今日はヤケに調子がいいな。

ひと暴れしたいぐらいに身体ガ心地ヨイ。

 

 

 

 

別の部屋では……。

 

 

「楽しかったね」

「面白かったね」

「そんなに楽しかったの?」

 

アプレンティスがダブルに抱きつきながら、訊いた。

ダブルはうん!と答える。

 

「それと、お兄さんってドラゴンになれるんだね」

「それと、お兄ちゃんってエスカファルスになれるんだね」

 

「え?」

 

ダブルの言葉に身体が固まるアプレンティス。

アプレンティスはそれでも、ダブルに問いかけた。

 

「ねえねえ、フローたんにフラウたん」

「「どうしたの?」」

「龍照はドラゴンになってたの?」

「うん、薄らとだけどドラゴンの形をしていたよ」

「うん、少しだけど、エスカファルスになってたよ」

 

ダブルの言葉に、複雑な表情になる。

ダブルに抱きついたまま。

 

「どんなドラゴンだった?」

「えーとね、角が沢山生えてて、刺々しい翼を持ってた」

「えーとね、翼が4枚生えてて、刺々しい翼尻尾が生えてた」

 

更に続ける。

 

「でも、顔や身体の色がバラバラで継ぎ接ぎみたいだった」

「でも、顔が赤色で、角が黒で、なんだが色がバラバラだった」

「そっか」

 

アプレンティスはそう言ってダブルから離れる。

そして、早足でルーサーの部屋に入った。

 

ルーサーは家具のレイアウトの真っ最中のようで、家具の位置を試行錯誤しながら、悩んでいた。

 

「シスコン全知いる?」

「害虫誘拐犯か、どうかしたのかい?」

 

ルーサーは本(レイアウトの本)をパタリと畳み、アプレンティスの方を見る。

アプレンティスは、ルーサーに先程の事を伝えた。

ルーサーは、「むぅ」と険しい表情になり、「やはり、彼女の言っていたことは本当なのか……」と静かに言った。

 

「様子見ね。あの人の言う通りにするのは嫌だけど」

「そうだね。我々もなるべく普通に接しよう」

「ええ。ところでハリエットたんは?」

「お前には僕の妹は渡さんからな!」

 

 

 

 

 

 

別部屋……

 

 

 

「さてと、何やろうかな。時間は3時。とりあえず3時のおやつでも食べようかな」

 

私はソファーから起きて、アルフォートとブランチュールを具現化しようとする……が。

 

「「遊ぼー!」」

「遊ぼー!」

「うわああああああ!」

 

私はダブルとペルソナに抱きつかれて吹っ飛んだ。

具現化し損ねたアルフォートがバラバラに霧散する。

 

「いたたたた……」

「「遊ぼう!」」

「遊ぼう!」

「遊ぶって今度は何して?」

「「「カードゲーム!」」」

「カードゲーム……なんの?」

「「これー!」」

「これー!」

 

ダブルとペルソナは具現化したカードゲームを私に見せた。

遊戯王だった。

 

「遊戯王か、まぁデッキ持ってるしええで」

「やったー! じゃあ遊ぼう!」

「やったー! 早く遊ぼう!」

「よし、デュエルやー!」

 

3人は私に急かす。

ダブルはともかくなぜ、ペルソナまで、いや……

私だからか……。

 

私はダブルの部屋で遊戯王をする事となった。

まぁ、子供やし、なんか適当なデッキでええか。

 

私は部屋にあるファンデッキ、名をダークドラゴンデッキを持ってダブルの部屋に向かった。

ちなみに、このデッキは闇属性のレベル8ドラゴンを大量に召喚してビートダウンするデッキだ。

 

クリアーバイスドラゴンやダークホルス、レッドアイズダークネスメタル等を入れている。

まぁ、これ中学の頃に作ったデッキをそのまま再現したからスペックはお察しである。

とりあえず、3人となると、サバイバル……デスマッチ式だろうな。

 

 

「さぁ、いくよ!」

「さぁ、やるよ!」

「面白くなってきた!」

「あいよ」

 

「「「「デュエル!」」」」

 

 

 

 

数分後……

 

 

 

 

「やったやったー!」

「勝った勝ったー!」

「もう少しだったんだけどなー」

 

両手を上に広げてピョンピョン飛び上がるダブルと、笑うペルソナ。

膝をついて凹む私。

ぼろ負けである。

いや、ぼろ負けならまだいい。

ダブルとペルソナめ、オリカ使ってやがる……。

玩具型ダーカーに、高レベルのダークドラゴンをコントロール奪取された挙句、コピーされてそのまま、ライフポイントを0にされてしまった。

ペルソナに至っては、攻撃力4000超え(遊戯王の攻撃力平均値は3000)のモンスターを大量召喚されてボコられた。

 

 

 

 

「強すぎる……」

 

こんなん勝てんだろ……。

 

 

「皆さん何をしているのですか?」

 

ハリエットがヒョコリと顔を出す。

ペルソナは「ハリエットじゃん、貴方も一緒に遊ばない?」と誘う。

ハリエットは少し戸惑いながら、「え、ええ」と言って我々の渦に入り込んだ。

 

私はリベンジする為に、私も2年間大学の授業中にコソコソと作ったオリカで挑むことにした。

 

ダブルの部屋がカードゲームの戦場となる。

 

 

 

 

 

 

夜の7時。

 

 

「さぁ、エスカファルスが揃ったところで、カンパーーーーイ!!!」

「「「「「「「カンパーーーーーーーーーーイ!!!!!」」」」」」」

 

私の部屋でエスカファルス達がそれぞれの飲み物が入ったジョッキを持って乾杯する。

エルダー(巨躯)、ルーサー(敗者)、アプレンティス(若人)、ダブル(双子)、ペルソナ(深遠なる闇)、エルミル(ペルソナ)、ハリエット(原初の闇)が具現化されて、オラクルのダークファルスが揃った記念として、打ち上げをすることになった。

大きめのテーブルには、大量のお寿司が並べられていた。

 

「ぷはぁー、美味い!」

 

私はコーラを一気に飲んで、一息つく。

 

「飲んだくれのオッサンみたいになってるよ」

 

ペルソナもコーラを片手に苦笑する。

元がダークファルスの彼ら彼女らが、こうしてみんなで笑顔に包まれながら、共にご飯を食べているのは、何故だが感慨深いものになる。

 

「これは、とても美味しい食べ物ですね」

 

ハリエットはお寿司を1口食べて目をキラキラ輝かせていた。

それを見たルーサーは、他のお寿司もオススメしている。

ダブルは「美味しい美味しい」と言いながら、ガツガツとお寿司を食べていた。

醤油かけすぎではと思ってしまうが……。

 

「あぁー、フローとフラウたん可愛いなー、たまごもあるよー」

 

アプレンティスは満面の笑顔で、たまごを進めていた。

 

「センパイ、このガリ美味しいね!」

 

と、寿司よりガリをムシャムシャ食べているエルミル。

「そんなに美味いか? いやまぁ、ガリ美味いけどさ」と私はエルミルの皿に沢山のガリが置かれているのを見て喋る。

 

「このピリッとした酸っぱさが美味しいのサ!」

 

バリバリと食べるエルミル。

 

「酒の摘みにはいいが、そんなに食べるものなのか?」

「まぁ、お寿司の後に食べるのが私は好きだけど」

 

エルミルのガリ好きにエルダーはイカを食べながら、言う。

ペルソナはサーモンを2つ同時に口に放り込みながら、ガリの事を言っていた。

 

「イカ美味いな。俺の完全体がイカだからかな?」

 

皿に乗ったイカを平らげて、グビグビとストロングゼロを飲むエルダー。

あれはイカなのか?

 

「お前の完全体って元ネタクラーケンじゃねーの?」

「クラーケンってイカだろ?」

「どうやったっけ?」

 

エルダーと私の完全体の元ネタに、話の花が咲き乱れた。

 

「僕の完全体はフクロウだね」

「まー、あれは派手な装飾品のフクロウやな」

 

ルーサーの言葉にペルソナが同意する。

 

「私は蜂ね!」

「私あれ初見ド派手なウルガモスやと思ったわ」

「何それ?」

「別ゲーのモンスター」

 

私がそう言っていると、ルーサーが少しバカにした口調で口を開く。

 

「蝿じゃないかな?」

「シスコン全知は黙ってなさい!」

 

キレるアプレンティス。

笑うエスカファルスたち。

この光景をアークスが見たらどんな心境になるのだろうか。

ちょっとだけ気になってしまった。

 

 

 

 

 

 

眼が禍々しい光を帯びている。

 

 

 

 

 

続く



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14話 エスカファルス・リベンジ

 

 

 

 

 

 

「……うー」

 

私は眼を覚ました。

悪夢を見たような気もするが、覚えていない。

 

「……」

 

何故だろう、誰かに見られているような感じがする。

辺りを見渡すが、私を見ている存在はいない。

私の周りには、眠りについてるエスカファルスしかいない。

あのどんちゃん騒ぎの後、疲れでそのまま寝てしまったのだ。

 

テーブルには空っぽになったお寿司のトレーが散らばっていたり、醤油の雫が着いていたり誠に片付けが面倒だと感じるものだった。

 

「oh......」

 

私は肩をガクリと落とすが、何故だが今までにないほどに調子の良いので、私は飛び起きて散らかっている物を全て片ずけることにした。

 

とりあえず、皿もコップも全て使い捨ての紙容器だったので、大きめの袋に突っ込み、汚れたテーブルを拭くだけで終わった。

片付けをしている音をきいて、エルダーが目を覚ました。

 

「んー? 何か手伝おうか?」

 

髪をボリボリと掻きながらエルダーがそういうが、私は「いんにゃ、既に終わりかけてるからええよ」と言って、大きな袋を固結びをして部屋の端に置いた。

 

「……」

 

私は後ろを振り向く。

やはり誰もいない。

 

「どうした?」

 

眉を顰めるエルダー。

 

「いや、さっきから誰かに見られている気がして……」

「なんじゃそれ?」

「いや、気の所為かもしれんが」

「お前を狙ってるやつでもいるんじゃねーか?」

「こんな根暗キモオタ陰キャを狙う奴がいるなら、是非とも見てみたいわ」

 

なはははははー!と笑う私。

いや、わりかし、こんな民間人Kを狙う人がいるなら見てみたいよ。

一体どういう理由で狙うのかを。

 

「うあー、寝起きが悪い……」

 

とんでもない胸を揺らしながら起き上がるペルソナ。

とりあえずお前はズボンを履け。

なんで無地のTシャツとパンツだけなんだ……。

いや、私のいつもの部屋着か……。

私とエルダーはとりあえず、目を逸らして水を1杯だけ飲む。

 

「……全然調子でない」

 

ペルソナは目を擦りながら、唸るように言う。

私と同一人物なのに、こうも調子の善し悪しがあるのか。

私はペルソナを不思議な眼差しで見つめていた。

 

「……あートイレトイレー」

 

バッッッルンバッッッルンと柔らかそうなスイカを揺らしながら、トイレへと駆け込むペルソナ。

 

「……目が覚めたわ」

 

ポツリと呟くエルダーに私は吹き出してしまった。

 

「そ、それは、ど、どういう意味で?」

「普通の意味で」

「さ、さよか……んっふふふ……」

 

私は少し笑いを漏らしながら言う。

 

「……お前は朝立ちか?」

「言わんでええねん!」

 

芸能人のツッコミのような口調で言う。

少し声の音量が大きすぎたようで、エルミル達も目を覚まして起きてきた。

 

「もう朝かー、じゃあもう少しだけ寝よう」

 

そう言って、エルミルは再び眠りにつこうとする。

二度寝すんな。

 

「エルミルよ、朝飯は?」

「昼に食べる」

「それを人は昼飯と呼ぶのだが……」

「朝飯と昼飯を別に分けるよ。朝ご飯と、昼ご飯。これを昼に食べたら朝ご飯と、昼ご飯を同時に食べてると言えるだろ?」

「お前は何を言っているんだ?」

「zzz」

「寝とる……」

「寝かせとけ」

「だな」

 

ガツガツ君とかいうめっちゃ既視感のあるアイスをバリバリと食べながら、駄べる私とエルダー。

アプレンティスは起きあがりながら、はだけた下着を但して水を飲みに向かう。

アプレンティスも結構大きいんだよな。

たぶん、これはふうま亜希氏の胸も詰まっているのだろうな。

それでもペルソナには負けてるが……。

 

「ってペルソナは?」

「トイレから出てこないな」

 

私はトイレの方を向くと、「ふいースッキッたー!」と扉を開けて出てきた。

 

「私もトイレ」

 

水を飲み終えたアプレンティスはそそくさとトイレへと向かった。

ダブルは2人揃ってヨダレを垂らしながらグースカピーと寝ており、その横でルーサーが何かしらの本を読んでいた。

 

「ルーサー朝飯は?」

「あぁ、自分で作るから大丈夫だよ。そろそろ宿主君の手を借りずに生活しなくてはいけないからね」

「おーそかー」

 

ルーサーがこういうのは、何だか新鮮味がある。

いや、もしかしたら、これが本来のフォトナー時代のルーサーなのかもしれない。

まぁ、私はフォトナー時代の事は知らんので、真偽は定かではないが……。

 

 

 

 

「……」

 

時刻は10時半。

流石のダブルも目が覚めて、それぞれの部屋に帰っていき、この部屋には私1人だ。

だと言うのに、誰かに見られている。

マジで、なんなんだろうか……。

大人しく着替えもできやしない。

まぁ、気にしていても仕方がない。

 

私は、ソファーに寝そべりポケーっとしていた。

 

すると……

 

「「遊ぼー!」」

「ぶはぁああああ!!?」

 

完全にオフ状態の私の腹の上にダブルがダイブして、私はくの字に折れ曲がる。

腹部の激痛の前に私は倒れて呻く。

ダブルはやってしまったと言わんばかりの表情になり、「ごめん、大丈夫?」と覗き込んでくる。

 

「あ、あぁ、ゲホッ、オエッ、大丈夫」

 

私は嗚咽を吐きながら、無理矢理の笑顔でダブルに応対する。

 

「それじゃあ、遊ぼう!」

 

ダブルはテンションMAXで私にくっついてくる。

 

「遊ぶにしても、何して?」

 

私はそう言うと、ダブルはカードの束を取り出して「デュエル!」と言った。

カードの束……デッキの1番上は、エースもしくは切り札と思われる。

ダークファルス・ダブルのカードがあった。

昨日は、こいつと、オロタ・クソケッタにボコられた。

だが、今度は違う。

妨害カードをガン積みのデッキで行く。

若干友達がいなくなるか、友達とのリアルデュエルになりそうなデッキだが、致し方ない。

このクソガキ共を分からせるしかあるまい。

私はそう決心し、ダブルとのデュエルに挑む。

 

 

 

結果……

 

 

 

 

 

「やったやったー」

「勝った勝ったー」

「負けた……」

 

ボッコボコにされた。

いや、これは私のプレイミスではない。

もの凄い手札事故を起こしてしまった。

場に出せないカードが5枚、初期手札5枚。

ジ・エンドである。

そのまま、ダークファルス・ダブルがバトルフィールドに君臨し、ボコられた。

 

 

「お前ら、もう一戦や」

 

ここでスイッチが入る私。

こうなりゃ全力で行ってやる!!

 

 

 

眼が光輝く。

 

 

 

「お前らがそれで来るなら、私も2年間大学の授業中にコソコソと作ったオリカで挑んでやる!」

 

ダブルに指さしながら啖呵切る私に、ダブルは不敵な笑みを浮かべて腕を組み始める。

 

「いいよ、その勝負受けて立つよ」

「いいよ、その勝負勝ってみせるよ」

「この神聖なデュエルは、ここでは行わん、月面で最高のデュエルをやろうじゃないか!」

 

私はポータルをつかい、ダブルと共に月面に向かう。

 

 

 

眼が光輝く。

 

 

 

私はデッキを具現化した。

そのデッキは、あの時の遊戯王界隈に激震を走らせた時に生み出されたカード軍。

自分の欲望や性癖、感情、それら全てが形となったデッキ。

 

その名も「輪廻デッキ」。

このデッキで、私はダブルを下す。

 

 

「さぁ、行くぞ!!」

 

私の腕にデュエルディスクが具現化される。

ダブルも空気を読んだのか、エスカ・ダランブルとなってデュエルディスクを具現化。

いま、神聖な決闘が始まろうとしている。

 

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

 

小野寺龍照 LP8000

ダランブル LP8000

 

 

 

「俺の先行!!」

 

私は5枚あるうちの手札から、1枚のカードを魔法・罠のカートリッジに差し込む。

 

「マジックカード発動! 輪廻種樹木大天廻!!」

 

フィールドにカードが映し出される。

そのカードの効果を私は説明する。

 

「自分のLP500支払う毎に輪廻龍像トークンを1体特殊召喚する。ただ、このカードはエクストラデッキの召喚素材にはできない!」

「面白そうなカードだねー!」

「そうだな」

 

 

3分後

 

 

小野寺龍照 LP2500

 

バトルフィールド

輪廻白竜クリアウィング紫水・アナザードラゴン

輪廻紫竜スターヴヴェノム六穂・アナザードラゴン

輪廻黒竜ダークリベリオン舞・アナザードラゴン

輪廻虹竜オッドアイズまり・アナザードラゴン

輪廻青竜アースルウィンド深月・アナザードラゴン

輪廻藍竜サイバーネットみこと・アナザードラゴン

 

大型のドラゴン達が立ち並ぶえげつない場面となった。

 

 

「さぁ、我が妄想、性癖、想像により生み出された、対魔忍の意志持つ輪廻の竜。超えれるもんなら超えてみろ……」

 

私はガチの目付きになって、2人を見つめる。

 

 

 

数分後……

 

 

「「僕はファルス・ダランとファルス・ダリルを素材にオーバーレイ!」」

 

バトルフィールドに存在するダリルとダランが赤色の光に包まれ、螺旋を描きながら、天に出現した銀河の渦に吸い込まれる。

そして、その銀河の渦は赤黒い爆発を起こした。

 

「「バクバク食べろ! いっぱい食べろ! そして深遠の闇へと辿れ!! エクシーズ召喚! いでよ、ファルス・ダランブル!」」

 

ケタケタと笑い声をあげて、爆発の光からファルス・ダランブルが姿を現した。

 

「「直ぐに超えてあげるよ、ファルス・ダランブルの効果、ダランブルが召喚された時、相手の特殊召喚されたモンスターを全部破壊する!」」

「oh......」

 

 

数分後……

 

 

 

「「さぁ、君のモンスターは全滅したよ! ここからどうやって僕達を倒すのかな?」」

 

煽るようなダンスで挑発するダランブル。

普段のダランブルを見ると、この珍妙奇天烈なダンスは愛嬌がある。

確実に勝ちを確信しているようだが、そうはいかない。

 

 

「我が妄想により生み出された対魔忍は滅びない、何度でも蘇る!!! 決して滅びることは無い!!!」

「「……あれ?」」

 

そう、堂々と宣言する龍照だが、ダランブルには見えていた。

龍照の後ろに黒い2匹のドラゴンがいることを……。

 

「輪廻竜が墓地に送られた場合、デッキからカードを1枚除外する事で、墓地から復活する」

 

赤黒いオーラを纏いながら、静かに、しかしドスの聞いた声で龍照は言った。

 

 

 

そして、龍照のバトルゾーンには、先程破壊したはずの6体の大型ドラゴンが復活していた。

 

「さぁ、四天の竜と対魔忍の力が合わさりし輪廻竜の真髄。とくとご覧あれ」

 

力のある静かな声でダランブルに言う龍照。

 

 

 

 

 

眼がこちらを見ている。

 

 

 

 

 

 

一方……。

 

 

 

「〜♪」

 

ハリエットがDark To Lightの歌を口ずさみながら、ベランダで何やら野菜を栽培していた。

 

「よし、できました!」

 

そこにはキャベツやキャロット、トマト、キュウリ、ピーマンなどの野菜が植えられた鉢が大量にあった。

 

「そして、これで……!」

 

ハリエットは力を解き放ち、原初の闇ソダムのエスカ版、エスカファルス・ハリエットとなり、自身を水の属性に変化させる。

そして、腕を顕現させ、その腕をジョウロ状に変えて、野菜達に水やりを始めた。

 

「スクスク育ってくださいね!」

 

ソダムの姿で水やりをするハリエット。

そして、それを影から見守るルーサーとアプレンティスだった。

 

 

 

家庭菜園をしているのは、ハリエットだけではなかった。

この男も自分のベランダで、ある花を育てようとしていた。

 

「これで完璧!」

 

そう言うエルミルの前には、一輪の花が咲いていた。

その花の見た目は薔薇に酷似しているが棘はなく、青色に妖しく光っていた。

ep5にて登場したエフィメラのエスカ版とも言える花だ。

 

もちろん、異世界オメガに咲き乱れていたエフィメラのように使った人の精神を徐々に蝕んでいったり、人間不信・独断専行などの負の感情が露わになり、攻撃的な人格に豹変していく……訳ではなく。

ただのスイーツ等の材料に用いる食用の花である。

 

それでも、多少のエーテルは有しているが、微々たるもので、一般人が食べたり使ったりしても、人格が豹変したりはしない。

 

「あとは、こうして……!!!」

 

エルミルは花にエーテルを送り込んだ。

花がより一層青く光輝いた。

 

「よし、これで完成だね。あとは度々水をあげれば……」

 

光る花を見つめながら、怪しげに笑うエルミル。

後に、ハリエットの逆鱗に触れることになるとも知れずに……。

 

 

 

 

 

 

月面では……

 

 

 

 

「「負けたー!」」

「勝った、かったぞーーーーー!」

 

私は雄叫びをあげた。

ちょっと大人気ない方法ではあるが、ダブルに勝つことができた。

ダブルは悔しそうに地団駄を踏んでいた。

よし、何とか分からせる事ができた。

オリカの暴力ではあるが、致し方ない。

 

「悔しいー!」

「悔しいー!」

「なはははははー!」

 

6体の大型ドラゴン達も、勝利の咆哮をあげて喜んでいた。

 

 

「もう1回!」

「あと1回!」

 

余程悔しかったのだろう、ダブルは指で1と示してリベンジを言ってきた。

私はドヤ顔で腕を組み、「かかってくるがいい!」と高らかに宣言した。

 

 

 

 

 

 

午後6時

 

 

 

 

「宿主君はいるかな?」

 

ヒョコリと顔を覗かせるルーサーとエルダー。

2人の片手にはホロ酔い酒と描いている缶があった。

だが、龍照の部屋には誰もいない。

 

「いねーな」

「ダブルもいないということは、多分どこかで遊んでいるのだろうね」

「あいつも大変だな」

「ふふ、そうだね」

 

笑うルーサーを尻目に、エルダーはソファーに座り込み、「帰るまでここで待っていようぜ!」とスルメを取り出して、マヨネーズと七味を掛けて食べだした。

 

「そうだね」

 

ルーサーもエルダーの隣に座ってホロ酔い酒をチロっと飲む。

 

しばらく2人は談笑していると、扉が開く音が聞こえ、奥からげっそりとした男性がやってきた。

 

「あー、やっと終わった」

「随分お疲れのようだね」

「おいおい、大丈夫か?」

 

あまりのやつれ様に、2人が心配そうに駆け寄ってくるが、龍照は手をあげて大丈夫の合図をした。

 

「いや……あれだな……子供のもう1回を鵜呑みにしてはならないな」

 

力無く笑う龍照に2人は何が起こったかを瞬時に察して、「飲もうぜ!」と誘った。

その騒ぎにエルミルもやって来て、ちょっとした宴会となった。

 

 

 

一方、ダブルの部屋では……。

 

 

「楽しかったねー!」

「面白かったねー!」

「そんな事があったのですか、私も見てみたかったです」

「だねー、私も参加したかったなー」

「龍照の体力が持たなさそうね」

 

ダブル、ハリエット、ペルソナ、アプレンティスが集まって女子会のような物を開いていた。

1人、男の子が混ざっているが、まぁあの男性陣の宴会に混ざるよりかはいいだろう。

 

「それにしても、ペルソナの胸大きいねー」

 

アプレンティスはペルソナの胸を触りながら言った。

 

「ど、どうしてそんなに大きいのでしょうか?」

 

ハリエットは少しだけ頬を赤らめながらペルソナに聞いた。

ペルソナは「んー?」と言って「私は龍照が女性として生まれたらって想像から具現化されたから、これは龍照の性癖だね」と顔色変えずに言った。

 

「龍照もいい趣味してるわね」

 

アプレンティスは呆れ顔でそう答えた。

笑うペルソナ。

 

「え、えっと、アプレンティス様とペルソナ様、こどもの前でそうのような事を話すのは……」

 

静まる2人。

キョトンとするダブル。

 

「た、確かにそうだね」

「だねー」

 

アプレンティスとペルソナは笑って誤魔化した。

そして、直ぐにアプレンティスはダブルに飛びかかり「2人ともごめんねー、お詫びに私と遊ぼっかー!」と言って、3人で色々と遊ぶ事になった。

 

「ふふ、皆さん楽しそうですね」

「そうだね」

「そういえば、私家庭菜園を始めました」

「あ、そうなんだ!」

「収穫できたら、一緒にご飯を作りませんか?」

「いいねいいね!」

 

ハリエットとペルソナがニコニコしながら談笑をしていた。

 

マンションの、ある一階は活気に溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の11時。

 

 

 

ふう、私はソファーに寝転んでスマホを弄っていた。

あの後10時まで宴会をしていて、今はクタクタだった。

しかし、私はふと思いついたようにソファーから立ち上がる。

 

「エスカファルスも揃ったし、私もエスカファルスになってみようかな!」

 

そう言った私は眼を取り出して、エスカファルスに成れるように想像する。

 

姿は……。

モンハンのリオレウスみたいな感じにしようかな!

私は眼を握りしめて、具現化しようとした。

 

その時だった。

 

 

 

「……!?」

 

ドッとドス黒い意識が私の身体に入っていく感覚に襲われた。

 

「うっ!!」

 

その瞬間、今までに感じたことの無い悪寒や目眩、倦怠感。

私の足をナニモノかが、掴んでいるような感覚。

脊髄から尻尾が這い出るような感覚。

両腕が黒いドラゴンの前脚に見える感覚。

何者かに見られている感覚。

そして、何処からか声が聞こえてくる。

2つの声が私の意識に語りかけてくる。

 

 

 

長らく、我々の力に触れ、 さらには全身に我が血を浴びながら、よく耐えた!

……だが、貴様は願ったな!

力が欲しいと!

深遠の闇に至る力が欲しいと!

 

心の奥底に燻り続けた復讐の心!

貴様の心の中に蠢く、怒りや負の感情!

 

今こそ、すべて貴様にくれてやろう!

そして、我々となれ!

 

 

今までに見た悪夢がフラッシュバックする。

マザークラスタの人々や、地球の人々が無惨に殺される光景。

対魔忍達が、推しのキャラクターが目の前で惨殺されて行く光景。

自分の夢が叶わず、絶望に落ちる光景。

小野寺龍照の怒りや負の感情が、エーテルに伝わり、そのエーテル粒子が、とある因子に限りなく近い物に変質する。

自身の身体に赤黒いエーテルが流れ込んでくる。

 

 

 

 

眼が禍々しく光、こちらを睨んでいた。

 

 

 

 

私の意識は奥深くへと押し込められた。

叫ぶ事も許されず、赤黒い因子に包まれ、人ならざる者へと変貌する。

 

 

 

 

 

眼が蠢いていた。

 

 

 

 

 

「私は…………我は……」

 

 

 

 

 

 

 

続く



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15話 エスカファルス・リベンジ迎撃戦 前編

 

 

 

 

 

 

叫びをあげることのない断末魔。

しかし、それはエスカファルス達には感じ取れたようだ。

全員が、龍照の方へと走る。

 

「龍照!!」

 

アプレンティスが彼の部屋に突撃する。

そこでみた者に、アプレンティスは絶句した。

追いついたエスカファルス達も、彼の姿に言葉を失う。

 

「……」

 

龍照の身体からは限りなくダーカー因子に近いドス黒いエーテル粒子が溢れ出て、オーラを纏っていた。

 

「……」

 

龍照はエスカファルスの方をゆっくりと振り向く。

構えるエスカファルス達を無視して、彼は口を開いた。

 

「我は復讐を果たす。次にとどろく竜の咆哮は、最後の戦を告げる合図。貴様らのすべてを、宿怨の炎で焼き尽くしてくれる」

 

龍照とは全く異なる2つの声が重なった声でそう言って、ダークファルス特有のワープを使い何処かへと行ってしまった。

 

全員がとんでもない事になったと思っただろう。

更にマザーからエスカファルス達に連絡が行く。

マザーは少し狼狽した口調だった。

 

『先程、膨大なエーテル粒子が月と地球の間に観測された。まさかと思うが、小野寺龍照なのか?。』

 

と。

エスカファルス達は、「多分そうだと思う」と言う。

 

『そうか……。今すぐ月面基地にこれるだろうか?。』

 

マザーの問いに全員が頷き、月面基地へとテレポートする。

 

月面基地についたエスカファルス達は深刻な表情で、マザーと対面する。

マザーの隣にはファレグ・アイヴズもいた。

心做しか、ファレグはワクワクした感情が漏れ出ていた。

 

「それで龍照はどうなったんだ!?」

 

エルダーはマザーに問い詰める。

マザーは目を瞑って説明をはじめた。

 

龍照は邪龍の眼に意志を宿した幻創ニーズヘッグ、幻創ミラボレアスによって身体を侵食されている状態。

しかも、自身の身体に、自分が考えたダークファルスを具現化させようとした隙に2匹の龍に奪われた事で、いま小野寺龍照は幻創ニーズヘッグ+幻創ミラボレアス+ダークファルス+αの力を有している状態ゆえにありえない強さを秘めているとのこと。

その強さは深遠なる闇と同等かそれ以上らしい。

 

つまり、対抗できるのは今のところ、魔人ファレグ・アイヴズか小野寺龍照により生み出されたエスカファルス達のみと言うことになる。

 

「ちょっと待った!」

 

ペルソナがマザーの話に割り込む。

 

「龍照はどうなるの? 助かるの?!」

 

ペルソナの問いは最もの事だった。

オラクルにおいて、ダークファルスに侵食された者は、1部を除いて助かっていない。

助かった存在も、侵食したダーカー因子が少なかったり、誰かが代わりに因子を引き受けたりとで、第三者の介入が無ければ助かっていない。

だが、エスカファルスの場合はどうなるのだろうか?

龍照のエーテル粒子は負の感情により、限りなくダーカー因子に近い状態となっている。

言うならば、他者を侵食しないダーカー因子といった状態。

挙句の果てに、七大天龍の一翼である邪龍ニーズヘッグの具現化。

幻創ニーズヘッグ。

伝説の黒龍にして禁忌の古龍のミラボレアスの具現化。

幻創ミラボレアス。

この2匹が龍照の中に取り込まれており、龍照の自我を奪っている。

分からないという答えが正しいが、不可能と言ってもいいものであろう。

 

マザーは口を開いた。

 

「可能性があるとすれば、龍照の意思が2匹の幻創龍の意思に打ち勝ち、自我を奪えれば助かる可能性はある」

 

といった。

更にマザーは続ける。

 

「そのためには、彼のエスカファルスにダメージを与える事だ。そして、2匹の意思の隙が生まれれば……」

「要するに可能性はあるってことだよね?」

 

ペルソナがそうマザーに聞いた時……。

 

 

月面基地に警報が鳴り響く。

モニターには地球をバックに一対のドラゴンが映し出された。

 

そのドラゴンは、かなり歪な見た目をしており、

骨格はニーズヘッグ。

顔はモンハンに登場するリオレウスに、ニーズヘッグの4本角。

背に生える翼はミラボレアスと思しき物に、翼膜の模様がリオレウスの翼膜。

更に腰にもニーズヘッグと思われる刺々しい翼が生えており、長い尻尾はリオレウスのような形状をしている。

全身の色も疎らで、傍から見ればリオレウス、ニーズヘッグ、ミラボレアスの各々の部位を、そのままくっつけた様な異形な姿となっていた。

まさにダブルが以前見た姿と同じだった。

 

 

更に、周辺から彼の眷属だと思われるドラゴンの形をしたエスカダーカーが次々と具現化されていった。

そのドラゴンの姿はpso2に登場する惑星アムドゥスキアに住んでいる龍族に非常に似ているものだ。

 

「……あれが……」

 

呆気に取られるハリエット。

他のエスカファルス達も険しい表情をする。

ヴォル・ドラゴンやクォーツ・ドラゴン、ドラゴン・エクスを模した姿をしたエスカダーカー?が翼を広げて月面基地へと急接近する。

更にその後方より、他の龍族の姿をしたエスカダーカーが具現化されていく。

その数は想像を絶するものだ。

 

「やるしかないな」

 

エルダーは覚悟を決めた表情で呟く。

その言葉に他のエスカファルス達も意を決したのか頷いて武器を具現化させる。

 

「我の邪魔をするなら、我が炎で滅ぼすのみ」

 

龍照……いや、この呼び方ではなく、エスカファルス・リベンジと呼ぼう。

彼は空気のない宇宙空間でも響き渡る咆哮をあげる。

それに呼応するかのように具現化された龍族たちも雄叫びをあげた。

 

 

 

 

 

太陽系。

その直ぐ外の所にステルス機能により姿が見えない一つの母船があった。

それは船と書いたが、小惑星規模の大きさを持つ母船だ。

 

形状は一つの惑星を内包する巨大なダイソンスフィアのような形をしている。

 

ぶっちゃけた事を言うと、その形状はオラクルに登場するオラクル船団の中心となる母船、マザーシップその物である。

マザーシップの違いとしては、全体的に装甲が黒く、中心部は赤く輝いているイメージだ。

その光も高度なステルス技術により外からは見えることは無い。

 

そして、マザーシップの中心部、つまりシオンやシャオ達がいる、あの場所で白衣を着た如何にもな科学者の風貌をした男性が大量の資料に目を通していた。

すると、そこに1人の美少女が入室してきた。

 

「失礼します。主様、こちら随伴機の資料です」

 

その女性は金髪のロングヘアーをしためっちゃ綺麗な美少女だ。

年齢は17歳ぐらいだろうか?

その少女が、男性に資料を渡した。

 

「うむ、ありがとう。随伴機の調子はどうだい?」

「はい。戦域統制型コードネーム“NEXT“は全チェック完了済みで、後はテスト稼働のみです。」

「ふむ」

「続いて、コードネーム“Re`LENS“は身体に搭載された4連ビーム砲の稼働調整中。テスト運用まではもう少しだと思います」

「なるほど……」

「コードネーム“A-MS“は子機であるchoomとの連携調整中です」

「残りの随伴機はどうなってる?」

「コードネーム“BDS“は現在建造中です。完成まであと20%程度かと」

 

少女は淡々と男性に報告した。

 

「ありがとう。もう少しだな」

 

男性は資料をテーブルに置いて、椅子にもたれ掛かる。

そうしていると、あることを報告する。

 

「そう言えば、先程地球と月の間にて異常なエーテル粒子が確認されました」

「なんだと?」

 

その報告に不審に感じた男性は、端末を操作して映像を映し出す。

 

そこには、エスカファルス・リベンジの姿が映し出された。

その姿をみた男性はある事に気づき、「ふむ」と呟いて何かを考えていた。

その様子に少女は心配そうに顔を覗き込む。

 

「どうしましたか?」

「いや、大丈夫だよ。それじゃあ、僕は機体の設計を行いに行こうかな」

 

男性は立ち上がり、建造ドックへと向かう。

 

「それでは、私は“あの“機体の開発に取り掛かります」

「あぁ、頼むよ。いつもありがとうね。マノン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月ではエスカファルス・リベンジとの戦闘が行われていた。

 

月面基地の上空では、翼を生やしたシル・ディーニアンや、フォードランなどの小型龍族だけでなく、エボリオン・ドラゴンやアポストロ・ドラゴン、ドラゴン・イグニシモと言った大型龍族がエスカ・ビブナスやエスカ・リンガダーズと壮絶な空中戦を繰り広げていた。

 

地上では、プラチドーラスの軍勢が攻撃を加えている。

しかし……

 

 

 

[これで終わりだああああああああ!!]

 

 

急降下しながら火炎ブレスを放つヴォル・ドラゴンにボコボコにされる。

 

エスカダーカーが慌ただしく走り回る中、私は、ゆっくりと落ち着いた物腰で歩みを進めた。

私は私服からダークファルスの戦闘衣へと瞬時に変えて、エスカファルス達が集まる場所へと向かう。

 

その間も、エボリオン・ドラゴンの軍勢のブレスに月面基地が破壊されていく。

無論、エスカ・ラグナスやエスカレイズ、エスカ・アームがそれを阻止するが、何匹かは逃してしまい、月面基地が破壊される。

 

そんな中、月面基地の最上階、花状に開けた場所に私はやってきた。

私の背中にはコートエッジやコートタブリスを彷彿とするパルチザンを担ぎ、腰にはコートカタナに似た物を帯刀している。

 

 

 

私が皆の所に行くと、それに気づいたのか、休憩していたアプレンティスが刀を持って立ち上がる。

 

「さぁ、行くぞ。最高の闘争を!」

「解えはここに導きだされた」

「それじゃあ、やっちゃうか!」

「「いっぱいいーっぱい楽しもう!」」

「さて、センパイはペルソナに任せて、僕は適当に相手するかなー」

「初めての戦いですが、やり遂げでみせます!」

 

エルダー、ルーサー、アプレンティス、ダブル、エルミル、ハリエットが次々と飛び出し、完全体になって龍族と戦闘を行い始める中、私はパルチザンを持ってペルソナの仮面を被る。

 

「エスカファルス・ペルソナ。行くよ!!」

 

私はそう高らかに叫ぶと地を蹴って完全体(深遠なる闇)へと姿を変え、龍照の元へと突撃する。

 

私の姿をみた龍照は眼を光らせて、火炎ブレスを吐きながら同じく突撃をしてきた。

 

 

エスカファルス・リベンジとエスカファルス・ペルソナの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

続く

 



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16話 エスカファルス・リベンジ迎撃戦 中編

 

 

 

 

 

 

 

[剛陣っ!][一刀壊断っっ!]

「雷斬っ!」

 

ドラゴン・エクスもとい、幻闘龍ドラゴン・エスカX(クロス)の刃とエルダーの刃がぶつかり合う。

 

[旋陣っ!][風断廻天っっ!]

 

ドラゴン・エスカXはエルダーを押し切った後、体を横に一回転させ、エルダーを横に吹き飛ばす。

 

「ぐっ、なんて龍だ。まぁだからこそ、やる気が出てくる!!」

 

エルダーは6本の腕を伸ばして、指の先っぽからレーザーを撃つ。

 

[防陣っ!][無撃領域っ!]

 

ドラゴン・エスカXは自身の持つ巨大な巨大な盾で身体を守り、周囲にバリアのような青い膜を貼って防御態勢をとる。

エルダーのオールレンジ攻撃をすべて防ぎきった。

 

「防ぐよな! だったら!!」

 

そう言うと、エルダーは全ての腕を集約させて、張り手のようにバリアごとドラゴン・エスカXを月面に叩きつけた。

 

[王陣っ!][砲壊閃塔っ!]

「マジか!」

 

ドラゴン・エスカXの声。

そして、エルダーの腕から青い光が溢れ出る。

不味いと感じたのか、エルダーは自身の腕を無理矢理外して回避する。

 

[塵と……消えよぉぉ!!!]

 

閃光の刃がエルダーの複数の腕を貫き、破壊する。

エルダー自身も回避しなければ確実に身体を貫かれていただろう。

 

「あっぶねぇ……」

 

オーバーエンドどころの騒ぎではない特大の刃を前にエルダーは再び腕を全て再生させる。

 

「ふっ……ふふふふふ、やっべ、これくっそ楽しいな」

 

完全体では表情は分からないが、エルダーはニヤリと不敵な笑みを浮かべているだろう。

 

 

[撃陣っ!]

「ギルティっ!」

 

ドラゴン・エスカXは月に新しいクレーターができるレベルの力で地を蹴って、目にも止まらぬ速度でエルダーに突撃する。

エルダーもエルダーペインを具現化し、オーバーエンドで迎え撃つ。

 

[撃砕猛進っっ!]

「オーバーエンドっっ!」

 

 

 

 

 

別の場所では

 

 

 

完全体のルーサーとグリュゾラス・ドラゴもとい、幻壊龍グリュゾラス・エスカが激闘を繰り広げていた。

 

 

[避けてみよ!!]

「関数、置換」

 

グリュゾラス・エスカはその大きな翼を広げ、グリュゾラスの周囲に小型の反射結晶を大量に具現化。

 

[はあああああああ!]

「波動方程式展開、グラン・ナ・ゾンデ!!」

 

グリュゾラス・エスカも両手から撃ちだしたレーザーを結晶にぶつけて反射させ全方位に弾幕を作る。

しかし、ルーサーはタリスの生み出し、自らを帯電させ、周囲に強力な電場を作り出した。

その電場でグリュゾラスが放ったレーザーを全て歪め、攻撃を防いだ。

 

[やるようだな]

「君もお見事と言わざるを得ないね」

 

2人はお互いを賞賛するが、それは明らかに互いが互いを挑発しているとしか思えなかった。

 

「そんな君に僕からのプレゼントだ。グラン・サ・バータ!」

 

頭上にタリスが出現しサ・バータのような氷柱をグリュゾラス目掛けて飛ばして攻撃。

 

[有難く、受け取ろう]

 

グリュゾラス・エスカは迫る氷柱を全て自身の腕で掴み取り、それを地面に突き刺した。

 

[烈風光!]

 

グリュゾラスは手のひらから、刺さった氷柱に向けてレーザーを撃つ。

氷柱に命中したレーザーは四方八方に拡散し、ルーサーに直撃する。

 

「幻創敗北者の審判!!(エスカルーザ・ジャッジメント)」

 

ルーサーは爆風を振り払い、周辺に巨大な剣を展開する。

その剣の柄の部分から青色の魔法陣が現れ、ゆっくりと回転し始め、その回転に合わせるように小さな剣が複数出現していく。

 

[衝烈の風に……!]

 

グリュゾラス・エスカは翼を結晶で補強し、ルーサーにきりもみ突進を行う。

 

「エスカタストロフィ・レイ!!!」

 

しかし、ルーサーも負けじと巨大な剣と魔法陣に展開された小さな剣をグリュゾラス・エスカに狙いを定めて放つ。

 

[慈悲は無し!!!]

 

ルーサーから放たれた回避不可能すら感じられる小さな剣の弾幕を、前方に巨大な結晶を多数召喚し、防ぎ切る。

そして、巨大な剣と巨大な結晶が激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月の裏側で、アプレンティスと見たことも無い龍族が弾幕合戦を繰り広げていた。

 

[滅華(メッカ)]

「でやああああああ」

 

光弾の弾幕をレーザーのカーテンで防ぐ。

 

「これがお望みの様だね!」

[永零無覇(エイレーナーハ)]

 

アプレンティスの引っ掻き攻撃を、持っている杖で光弾を生み出し防ぐ。

その龍族はpso2の世界でも見たことない存在。

 

結論を言えば、ゴロン・ゾランの世壊種と言って間違いないだろう。

 

名前を幻喚龍ツィオルネ・エスカと呼ぶ。

 

ゴロンゾランのように椅子に座り、杖を持っている。

ただ、ゴロンゾランとの大きな違いは、太っておらず、世壊種龍族のシュバリザンをそのまま大型エネミーにしたような姿をしている。

声色的に雌龍であることが分かる。

かなり幼い。

年齢でいうなら10代前半ぐらいだと想像できる。

ちなみにだが、当たり前のようにバリアは貼られている。

 

 

[さぁ、来たれ幻創より生み出されし龍!]

 

ツィオルネ・エスカは杖を振って、詠唱をする。

 

[造想(ゾウソウ)]

 

すると、虚空からエボリオン・ドラゴン、ドラゴン・イグニシモ、デサント・ドラールに酷似したドラゴンが3匹生み出され、それぞれがアプレンティスに攻撃を仕掛けた。

エボリオン・ドラゴンは特大の火球ブレス。

ドラゴン・イグニシモは極太のレーザー。

デサント・ドラールは無数の水晶弾を同時に発射。

 

「向こうがその気なら、こっちも……!」

 

アプレンティスは力を溜める動作をして、それを解き放つ。

 

「さぁ、私の眷属よ、行くよ!」

 

エスカ・ビブナス、リンゼ・ビブナス・エスガ、エスカ・ラグナスが創造される。

 

「やれえええ!!」

 

アプレンティスの言葉に呼応するように、3匹の眷属が攻撃を行う。

2匹のビブナス種は鋏から青い光線を発射。

エボリオンの火球ブレスとイグニシモの極太レーザーを相殺させた。

 

ラグナスは何重にも張り巡らされた蜘蛛の巣を作りデサントの水晶弾を絡ませて、それら阻止した。

 

[放散華(ホウサンカ)]

 

ツィオルネ・エスカは杖を横に振るい、拡散する光弾を撃つ。

 

「ボンバブリアーズ!」

 

膨張したブリアーズを具現化させて、そのまま爆発。

その爆風で光弾全てを消し去った。

 

[愉快、楽しい!]

「それは光栄だね!」

 

アプレンティスは刀を抜いて斬りかかった。

ツィオルネ・エスカも杖を振るって光弾の弾幕を形成する。

 

 

 

 

 

 

月面基地周辺の地上では……

 

 

[おらぁあああああぁぁ!!]

「「えいっ!!」」

 

ダブルとヴァレオン・ドラールこと、幻暴龍ヴァレオン・エスカがぶつかり合う。

 

「「それじゃあ、いただきます!」」

 

ダブルはビッグイーターを繰り出した。

地面から巨大な口を出現させて、ヴァレオン・エスカを食べようとするが……。

 

[クソガキが……良い気になるなよ?]

 

口が閉じる寸前にヴァレオン・エスカは砲身を地面に向けて爆破を起こして地盤を抉り、破壊した。

無論、それにより出現した巨大な口も霧散する。

 

[泣き叫べ!!]

 

砲身を後ろに向けて、その爆発でダブルに突撃する。

そして、もう片方の拳のような盾でダブルをぶん殴った。

 

「「キャッスルデッドウォール!!」」

 

ダブルも負けじと壁を作って防御態勢をとる。

並大抵以上の力でもビクともしない壁だが……

 

[壁丸ごと消し飛ばしてやる!!][フルバレットバスタああああああああぁぁぁあああ!!!]

 

ヴァレオン・エスカの砲身から杭のような物が穿たれ壁を破壊。

更にそこから小型の爆発が7発。

追撃と言わんばかりに大規模の爆発が1発。

その2連撃がダブルに命中し、吹っ飛ばされた。

 

「「グウウウウウウウウ!?」」

 

吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。

傍から見れば巨大な城が吹っ飛んで倒壊しているように見えるだろう。

 

[アッハッハッハッハッ!][その息の根を止めてやる!!!]

 

砲身をダブルに向けて力を溜める。

砲身から青い燐光が見え始める。

 

[極・激龍覇砲!!!][骨の髄まで……消えて無くなれええええ!]

 

ヴァレオン・エスカの砲身から極太のレーザーが撃たれる。

AISのフォトンブラスターを鼻で笑って、終の艦隊の戦闘艦の前方にある主砲をバカにするレベルの大きさのレーザーだ。

それがダブルを襲った。

その余波はえげつないの一言で片付けられる物ではなく、月面基地に大穴を開けるだけに飽き足らず、近くにいたアンガファンタズマ(アンガ・ファンタージ)種の軍勢を消し飛ばす程だ。

 

[呆気ないな、所詮こんなものか……]

 

ヴァレオン・エスカがそう呟いた時だ。

突然爆煙からテレレッテレー!と流れるファンファーレ。

そしてビヨーーンっと、まるでびっくり箱を開けたかのような、まぁまぁ腹立つ形相のダブルの顔が現れた。

 

「「キャッスル・びっくり・エスケープ!!」」

[!?]

 

ジャジャーンと、元気よく完全体のダブルが子供のように大ジャンプして登場する。

 

「「さっきのは僕の複製だよ!」」「「騙された?ねえねえ、騙された?? ビックリした? ねえねえ、ビックリした??」」

 

元気良くヴァレオン・エスカに訊ねる。

本人は至って真面目にビックリしたかの感想を訊いているだけなのだが、ヴァレオン・エスカからすれば煽りに煽っている事この上ないもので……。

 

[もっと痛みをくれてやる……!!]

 

当然、逆鱗に触れる訳ですよ……。

砲身と盾は青く煌めき、眼からは青い残光が走り、全身が動く度に青い残像が残るという怒りモードに突入。

ダブルも花火を上げて、パレードのように全身がピカピカと光出して、本気モードに入る。

 

「「この極限の遊戯、もっと楽しもう!」」

[図に乗るなよ……?小僧……!]

 

 

 

 

月上空

 

 

「さあ、見せてあげよう、世界を救う奇跡の光を!!」

[貴殿が美しく散る様を見よ……]

 

エルミルはクォーツ・ドラゴンもとい、クォーツ・エスカとの空中戦を繰り広げていた。

 

「仕切り直しといこうじゃないか!」

 

エルミルは【敗者】形態から【若人】形態に変化させて、ビームカーテンでクォーツ・エスカの動きを制限しようとする。

しかし、クォーツ・エスカはビームカーテンの間を器用に入って全回避。

 

[無駄だ……][閃光華美(センコウハナビ)……]

 

翼にあるバーニアを吹かしながら、周辺にクリスタルを凝縮させた物体を具現化させて、そのクリスタルからレーザーを拡散させる。

クォーツ・ドラゴンのシャワーのような拡散レーザー攻撃を四方八方全方位にした感じだ。

 

あまりの範囲攻撃にエスカダーカーはおろか、自身の味方である龍型エスカダーカーすらも巻き込まれていた。

 

「ふははははは、狂ってるネ!!」

 

あまりの惨劇を見て笑うしかないエルミル。

 

「さぁ刻もうか、僕たちが歩む、未来の導を!!」

 

エルミルも拡散レーザーをばら撒き、クォーツ・エスカの拡散レーザーを相殺する。

 

[潰す……]

 

クォーツ・エスカはその回避不可能とすら感じられる弾幕の中を持ち前の超光速で移動しながら、エルミルに突撃する。

光速に対処しきれずエルミルの胸部にクォーツ・エスカの槍のような頭部が突き刺さった。

 

「くっ、覚えたよ。この痛み!!」

[二度と忘れないだろうな……]

 

クォーツ・エスカの口から青い光が漏れる。

エルミルはクォーツ・エスカの頭を掴んで引き抜こうとするが、それをクォーツ・エスカが許すはずが無い。

クォーツ・エスカは両腕両翼のバーニアを思いっきり吹かして加速し、更にエルミルの身体にねじ込もうとする。

挙句に口からの燐光もより輝きを増す。

 

[滅べ……]

「……ぐぅっダークファルス【巨躯】ああああああぁぁぁ!!!」

 

エルミルは瞬時に【若人】形態から【巨躯】形態に変える。

【巨躯】形態になった事で、力が増大。

その力で引き抜こうとする。

クォーツ・エスカも更にバーニアの出力を上げる。

 

[これが……絶望だ……!!!]

「させるか……よ!!!」

 

【巨躯】とエルミルのパワーが、クォーツ・エスカを上回り、間一髪の所で頭部を引き抜くことに成功した。

 

[おのれ……!!]

 

エルミルはクォーツ・エスカの身体を足蹴にして追撃の光線を免れた。

 

「これより先は、僕たちが歩み続ける希望の追憶!」

 

狙いをクォーツ・エスカに定めて大量の腕を落とす。

クォーツ・エスカは回避に専念することなく、バーニアを吹かしてエルミルに距離をつめる。

 

迫る大量の腕も光線を1発吐き出して、腕を消し飛ばす。

そして、その消し飛ばした所目掛けてを一直線にバーニアを吹かす。

 

「それは予想してなかったな」

 

エルミルも呆気に取られる。

そんな事を他所に、クォーツ・エスカは一気にエルミルにつめて、くるりと一回転、そのままカカト落としをお見舞した。

 

[潰す……]

「上手くいかないもんだよネ!」

 

カカト落としを腕で守る。

 

「【巨躯】に接近戦で挑むとは、いい度胸だネ!!」

[……それを思っているのは貴殿だけだ……]

「!?」

 

エルミルは辺りを見渡して驚愕する。

周囲には巨大な水晶が生み出される。

 

[無駄な足掻きに過ぎない……]

「お前もな!」

 

エルミルは展開している【巨躯】の腕を用いて、クォーツ・エスカを思いっきり横殴りする。

だが、エルミルも生み出された水晶の爆発に巻き込まれて、ダウンした。

 

[おのれ……]

「やるねー」

 

クォーツ・エスカは翼と腕のバーニアを上手く使用して態勢を立て直し、エルミルは【巨躯】の腕を使って無理矢理態勢を戻した。

 

[滅びの言の葉をさずけよう……]

「じゃあ、僕は不滅の希望を謳い続けようじゃないか」

 

クォーツ・エスカはエネルギーを解放。

身体中に結晶が形成されて、全身に青々しいオーラを纏い、最早別モノのような姿になる。

 

エルミルは全身に纏う【巨躯】の力を解き放ち、素の姿になる。

更に潜在解放エスカユーベル・改を持って、クォーツ・エスカに斬り掛かった。

 

 

 

 

 

 

「環境変化!」

 

ハリエットは巨腕を生み出して、エネルギーを地面に送り込む。

 

「樹界!!!」

 

すると、ハリエットを中心に円状に花や草、木々がモリモリと芽生え初め、ハリエットの周辺の何も無い月面は次第に大森林へと変貌を遂げた。

 

[焼き尽くしてやる!]

 

ハリエットに対する存在は、ヴォル・ドラゴンこと、幻炎龍ヴォル・エスカである。

上空から急降下しつつ、口から青いの火炎ブレスを吐く。

 

「防火深林!!」

 

ハリエットは腕に力を入れて、前方に木々を絡ませて出来た壁を生み出して、ヴォル・エスカの火炎ブレスを完全に防ぎきった。

それを見たヴォル・エスカは身体を炎に変えて、流れるように、ハリエットの後ろに移動。

炎から肉体を形成して防護壁では守れていない後ろにまわって、そこから火炎ブレスを吐く。

 

「大樹の根源!!」

 

ハリエットは指の1本1本を大樹の根っこのように伸ばしてヴォル・エスカから放たれた火炎ブレスを根っこで覆った。

更に残っている根でヴォル・エスカを突き刺そうとする。

 

[無駄だ!]

 

迫る根を踏み台に跳躍し、翼を羽ばたかせて上空に上がる。

 

[消え去れぇぇえええええ!!]

「させません!!」

 

ハリエットは腕からダークファルスルーサーが使用している剣、オメガソレイドを具現化させて、炎を纏って突撃するヴォル・エスカを防ぐ。

 

[おらああああああああ!!!!!]

「なんて、力……!!!」

 

徐々に圧されるハリエット。

ソダムの形態では表情がないので分からないが、声的に歯を食い縛って抵抗していると思われる。

ハリエットは後方に巨木を生み出して、身体を支えた。

 

[無駄だあああああ!!!]

 

ヴォル・エスカは大声を上げて咆哮をする。

その咆哮に呼応する形で、月面が次々と爆発と火柱を発生させる。

 

その爆発でハリエットの後方に生成した巨木が音を立てて崩れさる。

 

[潰れろおおおおおおお!!!]

「そう簡単に潰れる訳にはいきません!!」

 

ハリエットは思いっきり力を込めて押し返す。

優勢だったヴォル・エスカもジワジワと押し返されていく。

 

[舐めるなよ? 小娘えええええええ!!!]

 

だが、ヴォル・エスカは肉体を炎に変えて、移動する。

 

「なっ、しまった!?」

 

バランスを崩して前に倒れかけるハリエット。

その隙を付いて、ヴォル・エスカは元気玉もビックリな巨大な火炎球を生み出してそれを倒れたハリエット目掛けて投げつけた。

 

[これで終わりだああああああああああああぁぁぁ!!!!!]

「……目覚めよ山神……」

 

ハリエットは木々を操ってバランスを整え、生命エネルギーを木々に送り込む。

 

「眠りは遠く!!」

 

木々が蠢き、集まり、絡み合い、異形の龍を象った。

その龍は目にも止まらぬ勢いで巨大な火炎球を丸呑みにし、その中で爆発させる。

 

[小癪な!!]

 

ヴォル・エスカはキレ気味に上空から炎の雨を降らせる。

 

「やっ!!」

 

クラースエッジを具現化して、迫る炎の雨も次々と切り裂きながらヴォル・エスカに突撃する。

 

[ちっ!!]

 

クラースエッジに対して、ヴォル・エスカはヴォルスケイルに酷似した大剣を口に咥えて迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「でやあああああああああああ!!!」

 

私はエスカファルス・ペルソナ(深遠なる闇)となってコートスピアでアサルトバスターを繰り出す。

 

「消えろ」

 

リベンジは眼を光らせ、月面に浮かぶ基地の残骸を魔法で意のままに操り、私の攻撃を阻止する。

 

「終わりだ」

 

更に残骸の中に鋭利な部分を使って、私を串刺しにしようとしてきた。

殺意高すぎるでしょ!?

 

私は心の中で叫び声を上げてスライドエンドを繰り出し、真横なぎ払い攻撃で残骸をバラバラに分解する。

 

「龍照うううううううううう!!!!!」

「逃がさん!!」

 

私はスピードレインで5連撃の斬撃を飛ばして攻撃。

それらを全て躱しながら、私の腕に噛み付こうとする。

 

「させるかぁ!」

 

 

 

ーセイクリッドスキュア極式ー

 

 

 

私はエーテルで形成されたパルチザンをリベンジ目掛けて投げる。

それと同時に、虚空から5本の槍が放たれリベンジに突き刺さった。

 

「ぐぅ……!!」

 

突き刺さり、よろめくリベンジだが、私が追撃を加える前に直ぐに態勢を立て直して火球ブレスを吐き出した。

 

「そんな攻撃どうということないわぁ!!」

 

私はパルチザンをぶん投げて火球ブレスを打ち払い、リベンジにショルダータックルをかました。

そして、そのまま取っ組み合いになって月面に墜落する。

 

「この……暴れるな!!」

「消え去れ!!」

 

月面に叩きつけられ、バランスを崩し隙を見せた、ペルソナ。

リベンジは自身の尻尾を使って私の首を絞めた。

 

「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」

 

私は尻尾解こうと全力で抵抗するが、抵抗すればするほど、締めつけは激しくなるばかりだ。

これは不味い。

私は刀を具現化させて切断しようと試みる。

しかし、あまりの苦しさに具現化がままならず、意識が薄らいでゆく。

 

「くっ……!!」

 

もうダメだ。

そう思った時だった。

 

「なっ!?」

「え?」

 

何処からか、炎の刃が飛んできてリベンジの尻尾をぶった切ったのだ。

更に、想像を絶する威圧感が月全体に広がる。

その威圧感は、エスカファルスと戦闘をしている超大型龍族エスカダーカーとエスカファルス以外の小型、中型の龍族エスカダーカーを霧散させるほどだ。

激闘を繰り広げていたエスカファルスと龍族たちも戦いを中断し、威圧感を発している方を凝視する。

 

「ンフフ……」

 

ゆっくりとお淑やかにリベンジとペルソナの方に歩み寄る。

黒いドレスを身にまとい、決して絶やさない笑顔を持ったその女性からは、狂気とも言える程の威圧感が放たれていた。

 

歩く度、エスカファルスと、超大型龍族エスカダーカー以外のエスカダーカー達が、まるで気を失ったかのように倒れ、霧散する。

 

[なんだ……あれは……?]

 

ドラゴン・エスカXも戦慄し、唖然とする。

それは、エスカファルスたちも同じ。

 

「冗談でしょ?」

「「こ、怖い……」」

「魔人……ファレグ・アイヴズ……本当に人間なのか……?」

 

アプレンティスとダブルは唖然と彼女の方を見つめ、ルーサーは冷や汗を流しながら、呟く。

 

「彼の成長をと思い、見学しようと思っていたのですが、すみません。皆さんが戦っているのを見て、欲求が抑えられなくなってきました」

 

赤い炎のようなオーラの纏わせた彼女は淡々とそう述べて、リベンジとペルソナに近づく。

 

「我の邪魔をするのなら、容赦するつもりはない!!」

「ええ、私はあなた方の復讐の邪魔をするつもりはありません。ただ、私は強い方と戦いたいだけですから」

 

そう言い終わると、ファレグさんは目を開眼させて光を超えたのでは?と疑いたくなる程の速度でリベンジに蹴りに行く。

 

目にも止まらぬその動きを捉えきれなかったリベンジは腹部にもろにくらい、エーテル粒子を吐き出し吹き飛んだ。

 

「少し、力を入れますね」

 

高速移動でリベンジに接近、回転蹴りを繰り出す。

蹴りを行った軌道上に爆線が走る。

なんの抵抗も出来ないままさらに吹っ飛ぶリベンジ。

しかし、すぐさま受身を取って、リベンジは赤黒い雷に覆われて、力を解放した。

 

「その気なら、我が眼の力に染まった、愚かなヒトの肉体、そこに宿る暗き翼を見よ。憤怒の咆哮を聞け! これぞ終焉の竜詩よ!」

 

解放された姿は人型で赤黒い鎧を身にまとい、背中には黒い翼を生やして常時宙に浮いており、槍を持ち、腰に帯刀した姿。

それが、紫色の魔法陣を描き、それを貫くような形でファレグさんと私を急襲する。

 

だが、それを上空に逃げて回避。

それを見たリベンジは何やら舞うような動作をしはじめる。

 

 

ランスチャージ

バトルリタニー

ドラゴンサイト

ディセムボウル

ライフサージ

 

 

「終わりだ」

 

 

ヘヴンスラスト

 

 

ペルソナに向けて攻撃を放つ。

槍を昇竜拳のように突き上げる。

防ごうとするが、あまりの威力故に防ぎきれず手を損傷した。

 

「ぐっ!!」

 

リベンジは追撃を加える。

 

 

 

ナーストレンド

 

 

 

赤い雷を纏った突きの衝撃波を穿つ。

 

「はっ!」

 

ペルソナに直撃する直前、ファレグさんが間に入って衝撃波を手刀で打ち払う。

 

「……」

 

リベンジは槍を背中に納め、刀を構えた。

 

 

桜花気刃斬

 

 

後ろへ軽くバックステップした後、前方へ踏込みつつ、ファレグに回転斬りを繰り出した。

 

「なかなか面白い技ですね」

 

ファレグさんはそう言って、巧みな動作でそれをいなす。

 

「……なんて強さだ……」

「お褒めに預かり光栄です」

 

ニコリと笑うファレグさん。

手刀で一閃し、一刀両断しようとした。

 

「ちっ……!」

 

 

鏡花の構え

 

 

リベンジは刀を使い、その攻撃を躱しつつ反撃。

逆にファレグさんを一刀両断する。

 

「あら」

 

ファレグさんはそれを手刀でその一閃を叩き切り、そのままリベンジに斬り掛かる。

 

「……!!」

 

しかし、そうはさせまいと、リベンジは刀を使って迎撃。

ファレグさんとリベンジが鍔迫り合いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

私は、小野寺龍輝は、暗闇の中で、ニーズヘッグとミラボレアスの事を知った。

 

……。

ニーズヘッグ……半身のように感じていた妹龍を人に殺された深い悲しみと絶望。

ミラボレアス……古代時代に過ごしていた中、人によって同胞を殺された絶望と怒り。

 

これは……酷いな……。

でも、これは人によって作られた記憶なんだよな。

だから、あの2匹は何も経験していない。

ただ、人間の妄想によって具現化し……あたかも、そうあったように思い込まされているだけなんだ。

 

私は……愚かなやり方と思いつつ、必死に幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスに語りかけた。

何度でも大声で。

お前たちは、私を含むプレイヤーの強い思いで作られた記憶に囚われているだけだと。

復讐を置いておいて、自分たちでこの世界を見てみよう。

そう叫び続けた。

復讐を経験したことの無い私は、そう2匹の龍に叫び続けた。

何度も何度も……。

 

 

 

 

 

 

 

続く



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17話 エスカファルス・リベンジ迎撃戦 後編

 

 

 

 

 

 

 

リベンジとペルソナ+ファレグさんが激闘を繰り広げる中、他のエスカファルス達の戦いに終わりが訪れる。

 

 

 

[逃さん!]

「うるあああああ!」

 

ドラゴン・エスカXとエルダーの刃が交差する。

 

「遅いぜぁ!!」

 

エルダーペインを使い、ドラゴン・エスカXの左盾を叩き割る。

 

[損傷……][だが、継続する!!]

 

そう言ってドラゴン・エスカXは右盾で刃を作り出してエルダーペインに向けて突き攻撃を繰り出した。

 

「ちっ!」

 

先程からの戦いで、エルダーペインも限界を迎えており、突き攻撃を諸に受けたエルダーペインは砕け散る。

 

[トドメだ!!][王陣っ!][砲壊閃塔っ!]

 

巨大な光の剣を生み出してエルダーを切りつけた。

回避が遅れたエルダーの身体は光の剣により真っ二つ切り裂かれる。

形を保てなくなったエルダーは音を発て砕け散ってゆく。

それは、ダークファルスエルダーを撃破した時のムービーのように。

砂煙をあげ、岩のようなエルダーの欠片が霧散してゆく。

 

[良き戦いだった]

 

その光景を見つめながら、ドラゴン・エスカXはエルダーに向けてそう言い放つ。

 

 

 

「まだ終わっちゃいねーぞ!!!」

[!?]

 

砕け散る身体から、一対の小さな影がドラゴン・エスカXに接近する。

その小さな影は雄叫びを発しながら、巨大なドラゴン・エスカXに攻撃を仕掛けた。

 

[切り捨てる!!]

 

エルダーを迎撃する為に、右盾の剣で前方をなぎ払おうとするが、エルダーは刀を用いて斬撃を飛ばして剣を破壊。

 

[!?]

「これで終わりだ。アルティメット……!!!」

 

両手の握り拳を相手の頭部に当てて、力を解放する。

 

「インパクトぉぉおおおおおおおお!!!」

 

採掘基地のタワーやバスタータワーをへし折るレベルの衝撃波がドラゴン・エスカXを襲う。

 

[みご、と……][良き、戦い……だった……]

 

ドラゴン・エスカXは口から吐エーテルし、霧散した。

 

「あぁ、これだから戦いは辞められねえよ……!!」

 

エルダーは満足気な表情で地面に降り立ち、降ってきた自分の刀を掴んで鞘に納めた。

 

 

 

 

 

 

[はあああああああ!!]

「無意味だ!!」

 

ルーサーが放った蛇行する氷の柱をグリュゾラス・エスカが口からレーザーを吐き横に薙ぎ払った。

 

[撃つ!!]

 

両翼をたたみ、一度に大量のホーミング弾を射出する。

 

「無駄だ!!」

 

無数の青い小剣を生成し、大量のホーミング弾にぶつけて相殺させた。

 

 

「深遠と想像の先に、全知へ至る道がある!!」

 

4本の剣をグリュゾラス・エスカへ展開。

「僕の名は、ルーサー。全知へ辿る存在なり!!」

そのセリフと共にこの世界の時間が停止する。

剣から小さな剣が複数出現していく。

まるでグリュゾラス・エスカが敗北するタイムリミットのように。

 

「僕の勝ちだ!!!」

 

 

―エスカード・カタストロフィ・レイ―

 

 

 

[それはどうだろうか?]

「!?」

 

時間が止まった静寂の空間。

グリュゾラス・エスカの声が響く。

パリンッ!とガラスの割れる音が鳴り、グリュゾラス・エスカが時間停止を打ち破った。

 

[我、時を裂く者なり!!]

 

翼を広げ、グリュゾラス・エスカの周囲に小型の結晶を大量に召喚し、両手から撃ちだしたレーザーを反射させ全方位に攻撃。

展開された剣を全て打ち砕いた。

 

「ならば、これで!!」

 

タリスを生み出して、拡散した魔力の奔流をタリスから放出する。

 

「ビッグクランチプロジェクト! 終わりは斯く示された!!!」

 

拡散する極太のレーザーを放射し、グリュゾラス・エスカにトドメを刺す。

 

[捉えた!!]

 

口と両手から3方向にレーザーを撃ち、ルーサーの極太レーザーを迎え撃つ。

2対から放たれたレーザーがぶつかり、大爆発を起こす。

 

[!?]

 

次の瞬間に青い爆煙から眩い光を放つルーサーが現れる。

 

 

―グラン・ザンディオン―

―グラン・バーランツィオン―

 

 

「僕と君とでは根本的に作りが違う」

[……我が負けるのか……]

 

雷と風を纏う翼を羽ばたかせ、光と氷で作られた剣を顕現させたルーサーがグリュゾラス・エスカを叩き切った。

時間が動き出し、グリュゾラス・エスカは真っ二つに崩れ落ちながら、エーテル粒子へと帰した。

 

「時には……戦いもいいものだな……」

 

人の姿に戻ったルーサーは、月面に座り込み呟く。

 

 

 

 

 

 

「はああああああああ!!」

 

アプレンティスは巨大な腕を振り下ろし、ツィオルネ・エスカのバリアを砕こうと奮闘する。

 

[無駄][砕けない]

 

余裕の笑みでアプレンティスのことを見つめるツィオルネ・エスカ。

それを聞いたアプレンティスは「おー、なかなか、わからせ甲斐のあるメスガキちゃんじゃないかー」と関心していた。

 

[余裕][諦めろ]

「やだね、このバリアを砕いてツィオルネちゃんをぺろぺろするんだーー!!!」

 

更に力を入れるアプレンティス。

だが、それでもバリアはビクともしない。

 

[滅華!]

 

光弾の弾幕を生み出してアプレンティスを攻撃する。

 

「くっ」

[邪魔][造創!]

 

幻創エボリオン・ドラゴン、幻創デサントドラール、幻創ドラゴン・イグニシモを具現化させて、無防備なアプレンティスに攻撃を仕掛けた。

 

「うぐっ!」

[滅華!]

 

再び光弾をばら撒く。

三体の幻創龍もアプレンティスに攻撃を繰り出してくる。

 

「でやああああああああああ!!!」

 

ツィオルネ・エスカの総攻撃を耐え凌ぎながら、アプレンティスは力を振り絞ってバリアを割りにかかる。

しかし、バリアにヒビが入っただけで破壊することが出来なかった。

挙句、ツィオルネ・エスカの[放散華]によって、大ダメージを受けてしまう。

 

「ぐううううう……これはまずいね……」

[勝利][昇華][満足]

 

満足気な笑みをするツィオルネ・エスカだが、アプレンティスはニヤリと微笑む。

 

「でも、ヒビが入っただけで十分だよ!!」

[?][不明][謎]

 

ツィオルネ・エスカは何を言っているんだ?と言いたげに首を傾げた。

アプレンティスは片目を輝かせる。

 

 

―邪眼・死裂―

 

 

ヒビが入った部分から力強く、激しく砕け散る。

そこから割れたガラスのようにバラバラになり、バリアが消滅した。

 

[!?][意味不明][何が起こっている?]

「トドメ、でやあああああああああ!!!」

 

超巨大レーザーを発射。

死裂を発動した状態での攻撃。

具現化した幻創龍をも巻き込んで、ツィオルネ・エスカを滅ぼしにかかる。

 

[負けた][悔しい][でも、次は負けない]

 

超巨大レーザーに飲まれながら、ツィオルネ・エスカはそう言って消滅した。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……。次こそ分からせてあげるよ!」

 

アプレンティスはツィオルネ・エスカに対してそう言い放った。

 

 

 

 

 

 

「「キャッスル・マッスール!」」

[叩き潰す!!]

 

ダブルの足とヴァレオン・エスカの盾がぶつかりあう。

龍の逆鱗に触れたダブルを徹底的に追い詰めていく。

 

[覚悟はできたか?]

 

ヴァレオン・エスカの砲身が青く光を放つ。

盾を地面において体勢を固定、砲身から濃縮された光の弾が撃たれる。

あまりの衝撃にヴァレオン・エスカの砲身の先端が砕けるほどだ。

 

「「キャッスル・スタック・ウォール!」」

 

ダブルは壁を生み出してそれを目の前に何重にも重ねて配置し、防御する。

光の弾は壁を何枚も貫通し、残り1枚の所で消滅した。

 

「「反撃!」」

 

脚を横一列に並べる。

 

「「キャッスルレーザー!!」」

 

脚の屋根のてっぺんからビームを乱射して、ヴァレオン・エスカに攻撃を浴びせた。

ヴァレオン・エスカはキャッスルレーザーを砲身で弾いたり、盾で防いだりして凌ぐ。

 

[ふざけるな……!!]

 

砲身を再び光輝かせ、再び構える。

それを見たダブルは脚を自身の前方に展開させる。

イメージで言うと、採掘基地防衛訓練:VRでゼータ・グランゾが見せる必殺技だ。

 

[これで終わりにしてやる!]

「「さぁ、やるよー!」」

 

[骨の髄まで消えてなくなれぇぇええええ!]

「「キャッスル・ビッグ・ショーーーット!!!」」

 

砲身が破壊されるレベルの極太レーザーと、全ての脚が崩壊する程の極太レーザーがぶつかり合う。

 

[死ねぇぇえええええええええええええええ!!!!!!]

「「やあああああぁあああああああああ!!!」」

 

拮抗する2人。

ぶつかり合うレーザーのエネルギーが大爆発を起こしてお互いに吹っ飛ばされる。

 

「「いたあああああああああ!!?」」

[ぐううううう!!!]

 

城のまま痛い痛いと悶絶し、転げ回るダブルに対して、ヴァレオン・エスカは砲身が完全に砕け散り、もう片方の盾もボロボロになっている状態だ。

 

[こんなクソガキに私が負けるのか……]

「「いたたたたたたたた!」」

[だが、今度は絶対に殺してやる……!]

「「痛い痛い痛い痛い痛い絆創膏、絆創膏!!」」

 

ヴァレオン・エスカはそう言いながら、霧散して行く。

彼女が霧散したのにも気づくことなく、ダブルは自分の眷属、特にクマと兎を使って、あちこちに巨大な絆創膏を貼ってもらっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「でや!」

[……終われ]

 

エルガマスカレーダのソードを持ったエルミルとクォーツ・エスカが空中戦を繰り広げている。

 

空間が割れた欠片がクォーツ・エスカに降り注ぎ、結晶の爆発がエルミルを襲う。

 

「これなら!」

 

両手持ちでの振り下ろし、斬撃の壁を生み出す。

更に連続でクォーツに切りつけて攻撃を行う。

 

[ちっ!]

 

クォーツ・エスカは舌打ちをしながら、拡散するレーザーを撃ってエルミルに攻撃を当てる。

互いにボロボロの状況だ。

次にどちらかが喰らえば、敗北するのは目に見えているだろう。

 

[終わりにしてやる!]

 

クォーツ・エスカを纏う結晶が青く光り輝く。

そして、光すらも超える速度でエルミルの胸元にあるコア目掛けて突進。

当然、エルミルはそれを回避出来ずに、攻撃を受けてしまった。

 

「ごはぁっ!!?」

[これでトドメだ……]

「お、お前もな……!!」

 

だが、エルミルも負けじとクォーツ・エスカの翼を掴んで、無理矢理軌道を変えて見せた。

このままでは月面に直撃する。

焦ったクォーツ・エスカは即座にブースターを吹かすのを辞めたが、落下が止まることは無い。

更にエルミルは、 ある言葉を呟いた。

 

「これは……1つの結末に、過ぎない……!!」

 

エルミルは力を溜め、周囲に解放。

爆発が起きて、クォーツ・エスカを飲み込んだ。

 

[ぐおおおおおおおおおおおお!?]

 

爆発に飲まれたクォーツ・エスカはそのまま霧散。

エルミルも完全体が解けて人の姿のまま月面に叩きつけられ、そのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

[エスカファルスううううう!!!]

「やああああああ!!」

 

ハリエットとヴォル・エスカが戦う地は、月と言うにも関わらず、緑に生い茂っていた。

だが、不気味なのが、そこら中にヴォル・エスカが生み出したであろうディッグと思しき幻創種が木の根に突き刺され、養分が吸われて干からびていた。

 

「はあああああああああ!!」

 

木々を操作し、ヴォル・エスカに攻撃を仕掛ける。

しかし、ヴォル・エスカは巧みな飛行技術で、襲い来る先が尖った鋭利な木々を全て回避していく。

 

[燃え尽きろおおおおおおお!!]

 

ヴォル・エスカは木の根を回避した後、全身から放出した炎を収縮し、頭上に巨大な火炎弾を作り出す。

 

[バアアアアアアアストオオオオオオオ!!!]

 

その巨大な火炎弾をハリエット目掛けて発射した。

その巨大さにハリエットは回避出来ず、ただただ見つめるだけだった。

 

火炎弾が大爆発を起こし、周辺の木々を吹き飛ばしていく。

爆発が去ったあと、ハリエットはおらず、そこに広がるのは焦げて倒れた木々だけだった。

 

[……]

 

勝利を確信し、飛び去ろうとした時。

ヴォル・エスカの後ろの地面からニョキっと芽が生えて、そこから急速に木が成長、そして最後にはその木が人の形を形成し、ハリエットの肉体となった。

 

「……」

[馬鹿な……!?]

 

あまりの出来事に呆気にとられているヴォル・エスカ。

だが、その呆気にとられていたのが命取りだった。

 

「終わりです」

 

ヴォル・エスカの足元から剣山のような鋭利な木々の根が穿ち、ヴォル・エスカを串刺しにする。

 

[が……あ!?]

「……」

 

そして、その根がヴォル・エスカのエネルギーを吸い付くし、じわじわとヴォル・エスカは霧散していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でやあああ!! 朝霧連弾!!」

 

私はリベンジに高速で接近。

無慈悲な連続斬撃を食らわす。

 

「……!!」

 

 

 

─桜花気刃斬─

 

 

 

「食らうかぁ!!」

 

私はカタナコンバットを使い、常軌を逸した速度で、リベンジの攻撃を避けながら距離を詰めて反撃をする。

 

「コンバットフィニッシュ!!」

 

一閃し、格好よく納刀。

カチンと鞘に納めた時、円状の斬撃が飛んでリベンジを襲う。

 

「……!!」

 

リベンジは襲い来る斬撃を叩き切り、身体を横回転させながら踏み込んで大回転斬りを食らわせる。

 

「ぐ……ぐぐ……!!」

「……」

 

リベンジの刃と私の刃がぶつかり合う。

両者一歩も引かぬ鍔迫り合いが続く中、私が力を込めて押し出す。

弾かれ後ずさるリベンジにトドメの一撃。

 

「零式・華山撫子!!」

 

一瞬の閃きの後、エーテル粒子によって具現化された刃で巨大な一撃をリベンジに放つ。

リベンジの刀が真っ二つに斬られ、赤黒い身体からエーテル粒子が吹き出す。

 

「……!!?」

 

声は上げていないが、明らかに苦悶の動作をしつつ、槍を持って衝撃波の突きを放って反撃に出たが…

 

「やっ!」

 

ファレグさんが、再び開眼しその衝撃波を眼力だけで完全に防ぎ、逆に手刀でその槍ごと叩き斬った。

 

「まだまだですね」

「嘘でしょ……??」

 

私は呆気に取られた。

深遠なる闇の形態の私よりもファレグさんの方が圧倒的な強さを誇っている。

正直この人とは絶対に戦いたくないと思った。

なんか次元が違いすぎている。

 

「馬鹿な……これほどの力が……!?」

 

流石のリベンジもファレグの力に驚きを隠せずにいたが、直ぐに真なる力を解放する。

 

「よかろう、我が真なる力を以て、相対する栄誉を授けようぞ!」

 

青い爆発と共に顕現したのは、青い輝きを放つ一対のドラゴンだ。

挨拶代わりに雄叫びと共に天空に舞い上がり、上空から月の半分を覆うレベルの青い火炎放射を発射。

周囲を火の海へ変えた。

 

「……!!!」

 

 

―劫火―

 

 

リベンジのセリフの後に火炎放射の出力を爆発的に上昇させ、月を焼き焦がす程の超絶的な炎でもってペルソナとファレグを焼き払おうとする。

 

「この攻撃ヤバいやつだ!!!」

 

小野寺龍照そのものとも言える私は、奴のこの攻撃のヤバさが瞬時に理解でき、咄嗟に上空に避難した。

それを見たファレグさんも地を蹴って私の花弁部分に掴んで、避難。

 

その直後にリベンジの炎が月を飲み込んだ。

 

 

「……」

「とても面白い攻撃ですね」

 

呆気に取られる私とは対照的に笑顔で関心するファレグさん。

この状況で、なんでこの人こんな余裕な笑みを浮かべれるの……?

 

「……うわ……」

「これは……」

 

青い炎の濁流が過ぎ去った跡を見て、私は絶望する。

月面基地の一部が溶けてなくなっていた。

無論、そこに居たエスカダーカーと龍型エスカダーカーも同様に。

 

 

 

―アク・モーン―

 

 

 

よそ見している隙をついてリベンジは火球ブレスを何発も連続で私に向けて撃ち放つ。

 

「やばい!!」

 

数発受けながらも、刀を使って切り裂く。

 

「アッツィ……!!」

 

私は悪態をつきながら、リベンジに攻撃を仕掛ける。

 

 

 

―ヒートテイル―

 

 

 

少し羽ばたいたあと、尻尾に青い炎を纏わせて、サマーソルト攻撃。

直線上に青い炎が燃え上がった。

私はそれを間一髪の所で回避し、リベンジの横側に回り込んで技を繰り出す。

 

「春華春蘭!!」

 

一瞬で間合いを詰め、リベンジを切り払おうとしたが、リベンジは何も言うことなく両翼を青い炎を纏わせた。

 

 

―ヒートウィング―

 

 

 

「!?」

 

確実にやばい攻撃が来ると判断した私だが、回避することが出来ず……。

 

リベンジは翼を大きく羽ばたかせ、青い炎を発生させる。

回避出来なかった私は直撃し、吹き飛ばされて月面基地の残骸に叩きつけられた。

 

「痛い……!!」

 

痛みに表情を歪める(深遠なる闇形態だから分からないけど)。

リベンジは月面に降り立つと、直ぐに両翼を用いて体勢を固定し、巨大な扇状の火炎放射で私を含む前方一帯を焦土にしようとした。

 

「ペルソナさん? このままでは、龍照さんを救うことは出来ませんよ?」

 

激痛に悶絶し、起き上がれない私の前にファレグさんが立ちはだかった。

何をするのか?

私は彼女の方を見ていると……。

 

「少し、力を入れますよ」

 

そう言って、力を溜めるような動作をした後、「はぁ!!」っと気を解放。

その解放した衝撃で、扇状の火炎放射が一瞬にして鎮火した。

 

「!?」

「なっ!?」

 

その意味不明な光景に私とリベンジは驚きを隠せずにいた。

だが、驚いている暇もない。

ファレグさんは、素振りをするかのように拳を前方に殴るような動作をする。

そして、それが圧となり、月面に砂煙を上げながらリベンジを襲った。

 

「……ぐっ……!」

 

ファレグさんの拳圧によりに吹き飛ばされるが、態勢を整えて、火炎弾を発射する。

ファレグさんは迫り来る火炎弾を眼力で防ぐ。

私は直撃を受けつつも、リベンジにタックルをお見舞する。

 

「……!」

 

リベンジもそうはさせまいと、機関銃如き火炎弾を何百発と乱射する。

図体のデカい私にはその攻撃を回避し切れずに何十発と直撃してしまう。

正直激痛と熱さで叫びたくなるが、それを我慢してショルダータックルを、リベンジの顔面に食らわせた。

 

「うぐぅ……!!」

 

苦痛に歪んだ表情をするリベンジ。

更に私は両手を掴んで石のように固くさせて、脳天目掛けて振り下ろした。

ドゴッと鈍い音がしてリベンジは垂直に墜落する。

まだ。

私は更なる追撃を加えるために、スピードを落とすことなく急降下。

思いっきりの拳をリベンジの後頭部に殴りつけた。

 

「……!!!!!?」

 

リベンジは声にならない声をあげて怯んだ。

これでどうだ!?

念の為に、リベンジから離れる。

 

「我は、負けない!! かならず復讐を!!」

 

起き上がるリベンジ。

なんであれだけ殴って起き上がれるの?

普通の人じゃなくても、確実に気絶する程の暴行なはず。

私はリベンジの底知れぬ体力に若干引きつつも、攻撃の態勢をとった。

リベンジも上空に飛び上がって再び、あの必殺技を繰り出そうとする。

 

だが……。

 

 

〚ニーズヘッグ、ミラボレアス!!〛

 

 

どこからか、声が聞こえてくる。

龍照の声だ。

 

〚聞こえるか!?聞こえてるやろ!?〛

 

龍照の必死の叫び声がリベンジに訴えている。

 

「邪魔だ! 貴様は……!!」

〚ええから人の話を聞けやゴラァ!!!!!〛

 

リベンジにも勝るとも劣らない怒声にリベンジは黙り込む。

 

〚ニーズヘッグとミラボレアス!! お前らの中を見た! 申し訳ないが、それでお前らの復讐したい気持ちも理解した!!〛

 

龍照は続ける。

 

〚だが、ちょっと待ってくれ!! その復讐したい気持ちや記憶は、作られたものなんや!! お前らはそれを経験してない!! だから、1回復讐したい気持ちを抑えて、1回だけでええから、私と一緒に世界を見よう!!〛

 

龍照はリベンジ、いや幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスに語りかける。

 

〚少なくとも、この世界の人々は、お前らがいた人々とは違う!! だから、1度、ここの世界の人を見て、そこから復讐するか考えて欲しい!! 3年だけでいい!! 3年で気持ちが変わらなければ、この世界の人々を皆殺しにすればええ!!! だから、1回だけ、私と一緒に!!〛

 

「……だが、我を生み出したの原因がその人なら……」

 

〚あぁ、そうやな。だから、3年の間、この世界の人を見て、そこから復讐するか考えてくれ!! それでも復讐をしたいというなら、そのお前らを生み出した怒り事、我々にぶつけたらいい!! だからや!! 私と一緒に1回だけでええから見よう!!!〛

 

ちゃっかりと自分が助かる事を視野に入れている龍照。

汚い。

 

「……」

 

黙り込むリベンジ。

畳み掛けるように、龍照は続ける。

 

〚それに今の状況やと、確実にお前は負けるぞ!! 実際ボコられとるがな!! だから、その3年の間、力を蓄えつつ、人々を見ればええねん!! だから頼む、1度だけでええから!!!!!〛

 

多分、龍照の事だから土下座してお願いしているのだと想像する。

そして、幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスは口を開いた。

 

「分かった。お前の提案に乗ろう。3年後に復讐するかどうかを考えよう……」

 

「え? マジで?」

 

あの無理過ぎる提案を承諾したの!?

と、私は驚きを隠せなかった。

だが、これで一旦の嵐は過ぎ去ったと言える。

後は3年後、どうなるか……。

私は少しの不安を覚えつつも、人の姿に戻り、月面に倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

続く

 




龍型エスカダーカー
ディッズ(ディッグ)
シルソル・ディニアンサ(シル・ディーニアン、ソル・ディーニアン、ディーニアン)
エスサディニアンサ(セト・サディニアン、シル・サディニアン、ソル・サディニアン、サディニアン)
ノーディランサス(ノーディラン、ノーディランサ)
フォードランサス(フォードラン、フォードランサ)
バリドランス(バリドラン)
ウィンディース(ウィンディラ)
ソル・ディガース(ディガーラ、ソル・ディガーラ)
ペンドラース(ペンドラン)
エス・ディーランダース(ディランダール、ソル・ディランダール)
キャタドランサス(キャタドラン、キャタドランサ)
ゴロンゾ・ドラース(ゴロン・ゾラン)

十二界龍
ヴォル・エスカ(ヴォル・ドラゴン)
バーン・エスカ(バーン・ドラール)
エボリオン・エスカ(エボリオン・ドラゴン)
クォーツ・エスカ(クォーツ・ドラゴン)
クリス・エスカ(クリス・ドラール)
ドラゴン・エスカX(ドラゴン・エクス)
ノワール・エスカ(ノワル・ドラール)
イグニシモ・エスカ(ドラゴン・イグニシモ)
クローム・エスカ(クローム・ドラゴン)
ヘイズ・エスカ(ヘイズ・ドラール)
アポストロフィ・エスカ(アポストロ・ドラゴン)
デサント・エスカ(デサント・ドラール)

創世種龍型エスカダーカー
エスカ・シュバリザール(ジ・シュバリザン、ゾ・シュバリザン、シュバリザン)
デファンザウーズ(デファンザウル)
ヴェンタザウーズ(ヴェンタザウル)
ヴァルガーラス(ヴァルガーラ)
エルドラン(グルドラン)
エスカ・シュバルザス(ゾ・シュバルザス)
ボクス・エスバルス(ボクス・ドゥバルス)
ブギル・エスバルス(ブギル・ドゥバルス)


六界幻龍
グリュゾラス・エスカ(グリュゾラス・ドラゴ)
ニルバリーズ・エスカ(ニルバリーズ・ドラゴ)
エスカ・デッドリオン(ドラゴ・デッドリオン)
ヴァレオン・エスカ(ヴァレオン・ドラール)
ゾンドヴァ・エスカ(ゾンドヴァ・ゴラル)
ツィオルネ・エスカ(ツィオルネ・ゾロン)

直轄眷属龍型エスカダーカー
輪廻白竜クリアウィング紫水・アナザードラゴン
輪廻紫竜スターヴヴェノム六穂・アナザードラゴン
輪廻黒竜ダークリベリオン舞・アナザードラゴン
輪廻虹竜オッドアイズまり・アナザードラゴン
輪廻青竜アースルウィンド深月・アナザードラゴン
輪廻藍竜サイバーネットみこと・アナザードラゴン


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エピソード2 自業自得の人々
18話 それぞれ


 

 

 

 

 

 

あの戦いから3週間が経過した。

何とかお願いして肉体の主導権を私……小野寺龍照に戻してもらい、事なきを得た。

今、私の頭の中に、2匹のとんでもない龍が居候のようなものをしている状況。

安藤アパートとはよくいったものだ。

 

まぁ、とりあえず、3年は私の肉体は安泰だ。

ただ、ここからどうにかしないと、私はep4辺りの年になる前に、終わってしまう……。

私は不安にやられつつ、とりあえず普通に生きていこうと結論を出した。

 

 

3週間生きて感じた事だが、今のところ、人間に対してどうこうするといった感じは無さそうだ。

大人しく私の行動にあれこれ聞いたりしている。

私も暇な時は、2匹とコミュニケーションを取ろうと頑張っている。

幻創種、悪く言えばまがい物。

そう言えども、片や七大天龍が一翼の邪龍ニーズヘッグ。

片や禁忌の古龍にして伝説の黒龍である黒龍ミラボレアス。

正直、初めはめっちゃ怖かったが、3週間もすれば意外と恐怖も薄れるものだ。

 

 

 

「さて、飯作るかな……」

 

時計を見ると、時刻は12時だ。

私はベッドから飛び起きて、先に炊飯器でご飯を早炊し、近くのスーパーへと向かう。

今回の購入する品物はサーモンだ。

ちなみにトラウトサーモンの方だ。

個数は7つほど。

何故アトランティックの方ではないのかというと、単純にアトランティックは高いから。

あ、もちろんだが、値下げ品のやつだ。

この時間で値下げしてる店があるのは、スーパー魚波流(ウオパル)がいいだろう。

ちょうど、私が住んでる所からも近いし。

 

 

〚買い物か〛

〚何を買うつもり?〛

 

頭の中で呼びかけてくる存在がいる。

幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスだ。

どうやら、ニーズヘッグの親のように黙って見定め、必要な時に喋る感じではないらしい。

 

それと、私は幻創ミラボレアスが喋る事に非常に驚いた。

何故、戦っている時に一言も喋らなかったのかと疑問に思うが、まぁ問いただすのもなんか怖いし……。

あと、かなり綺麗な女の声だ。

そこら辺もめっちゃ聞きたいが、怖いからやめておく。

触れぬ神に祟なしである。

 

「あぁ、サーモンを買おうかと……」

 

私は普通に返事をする。

傍から見れば大声で独り言をする人と思われるだろうが、まぁ仕方がない。

私は、財布を持ってスーパー魚波流へと向かった。

 

 

 

天気は晴れ。

そして、夏なので誠に暑い。

蝉の合唱コンクールにでも来たのかと思ってしまうほど、蝉の鳴き声がする。

私は額から滴る汗を拭いながら、熱波の街を歩く。

 

「あっつい……」

 

愚痴を零しながら、日陰の場所を中心に歩く。

早くスーパーについて涼みたい。

そう思っていると、前に走っていた男の子が転び手に持っていた風船を手放してそれが空へと浮かび上がってしまった。

 

「あぁ……」

 

男の子は悲しそうな声をして空へと羽ばたく風船に手を伸ばしていた。

 

「……!」

 

私は強豪校の陸上選手の補欠レベルの加速力で背中から翼を一瞬具現化。

空に跳躍し、風船を捕まえ、着地する。

 

「はい、お坊ちゃん、風船」

 

私は少しだけ微笑んで男の子に渡した。

男の子はパァっと喜びの表情になって「ありがとうお兄さん!!」と言って風船を受け取った。

 

「次からは気をつけるんやで」

「うん!!」

 

男の子は頷いて、またお礼をして歩いて行った。

 

 

〚……〛

〚理解ができない〛

 

幻創ミラボレアスが不機嫌そうに呟く。

私は「良いことをした後って、心が晴々するからな。それに″ありがとう″って言われて嫌な気分になる事もそうそうないさね」と言った。

 

〚分からない〛

「まぁ、今は分からないと思う。でも、そのうち分かると思うよ」

〚……〛

〚……〛

 

何も言わない2匹。

こうは言ったものの、1000年以上生きるだろう龍が3年という、人間で言うところの3分レベルの時間で、何か分かるのかと今更ながら不安になってきた。

まぁ、今更不安になっても仕方ない。

 

 

 

「魚波流着いた……くそ暑かった……」

 

私は店内に入る。

素晴らしい程に空調が効いており、先程までかいていた汗が瞬く間に干上がった。

私は買い物かごを持って、魚コーナーへと直行する。

さぁ、魚を買うぞ!!

テンション高く心の中で叫んだ。

 

 

 

 

 

ハリエットの部屋

 

 

「〜〜〜〜〜♪」

 

ep5オメガのメインテーマを歌いながら、家庭菜園に勤しむハリエット。

自身の力である環境変化:樹界を使用せずに、丹精込めて野菜たちを育てていた。

 

「〜〜〜〜〜♪! 〜〜〜〜〜♪♪」

 

今度はエリュトロンドラゴンのボーカルをまぁまぁな音量で熱唱する。

多分だが、ペルソナに「植物も生きていて、言霊にも反応するっぽいから、歌を聞かせるとスクスク育つよ!」と言われたからだろう。

 

「おっ、もうすぐしたら収穫だね」

「美味しそー、キュウリに味噌つけて丸かじりが最高なんだよねー」

 

アプレンティスとペルソナが部屋に入ってきて、ハリエットにそういった。

 

「ええ、収穫したらサラダでも作ってみましょう!」

 

ハリエットもニコニコした表情をしてペルソナ達に言った。

 

 

一方、別の部屋では……

 

 

「ヒーハー! 最高な出来栄えだ!!」

 

ベランダに薔薇園ならぬエスィメラ園とも言える状況を見て、テンションアゲアゲでバンザイするエルミル。

更に、エルミルはあるものを手に取る。

増草剤である。

 

「これを使ってエスィメラの天国にするよー!」

 

そう言って増草剤の容器の蓋を開けて、全部をエスィメラにぶちまけた。

エスィメラは増草剤をぶちまけられてハイになったかのように、より一層青く煌めく。

その姿を見て、不敵な笑みを零しまくるエルミルだった。

 

 

 

 

商店街 春湖丹(ハルコタン)

 

 

ここは東京にある白と黒が特徴の商店街、立ち並ぶ店の左右で店の色の基調が違う特徴的な商店街だ。

店主の作業服も白と黒で違っているという徹底っぷり。

何故こうなったかというと、スーパーやデパートの台頭により、廃れていく商店街に困った人々が独特で特徴的な商店街にしようと言う事で、行った事がニュースなどに取り上げられて、人気商店街となったのだ。

 

そして、その商店街にある大男がいた。

 

 

「おっ、エルダーの兄ちゃん。買い物かい?」

 

魚屋のオヤジがエルダーの歩いている姿を見て訊く。

 

「おう、ちょっとそこのCDショップでな!」

 

エルダーは爽やかな笑顔をして片手に持っている音楽CDが入った袋を少し上げて、オヤジに見せた。

 

「おー、いいね! どうだい? ついでにオイラの所で魚も買っていかないか? 安くするよ!」

 

オヤジは魚の尻尾を持ってエルダーに見せた。

エルダーは目を見開いて興味津々の様子だ。

 

「アジか、いいな! 1つ貰おうか!」

 

そう言ってポケットからイカ型の財布を取り出してお金をオヤジに渡す。

 

「毎度っ!!」

 

オヤジは魚をパックに入れてエルダーに渡した。

 

「ありがとな!」

 

エルダーは笑顔で礼を言い、ルンルンとした気分で自宅へと帰還する。

 

「帰って早くジャズ聴きてえなぁ」

 

そう言いながら、エルダーは袋からCDケースに貼られたイラストを見てニヤニヤする。

このエルダーがジャズ好きなのは、小野寺龍照がエルダーを創造する際に、イオ・フレミングというジャズを愛する人物が頭に思い浮かんだ事で、成った為だろう。

 

もっとも、それをエルダーは気にすることは無く、ジャズのCDを買っては自宅で筋トレをしながら聴いている。

 

「(プロテイン残ってたかな……。龍照に頼んで分けて貰うかな)」

 

頭の中でそんな事を考えていると……。

 

「(ん?)」

 

「いい加減にしてください!」

「えー、いいじゃん行こうぜ!」

 

何やら女性とそのお子さん(女の子)だろうか、その2人が金髪の男性数名に絡まれていた。

明らかに女性の方は嫌がっており、お子さんに至っては、怯えていた。

他の通行人は見て見ぬふりをするばかり。

 

「なんだありゃ? ナンパか?」

 

魚屋のオヤジがエルダーに話しかけてきた。

それに八百屋と肉屋のオヤジもゾロゾロとやってくる。

 

「みたいだな」

 

エルダーがそう言うと、オヤジ達は袖を捲って戦闘態勢の笑みを浮かべてこういった。

 

「お嬢さん達がやばそうだな」

「いっちょ、やるか!」

「おうよ!」

 

オヤジ達がナンパ男達に立ち向かおうとしたが、エルダーはそれを制止する。

 

「待て待て、お前らが止めたとして、逆恨み持ったアイツらがネットに根も葉もねえ噂なんて立てたら、後々面倒になる、俺が行くからそこで見てろ」

 

エルダーはオヤジ達の返事も聴かずにナンパ男達に向かっていった。

その間も女性と少女は男達に絡まれている。

 

「警察呼びますよ!?」

「いいねー、気の強い女性大好きだぜ」

「落とし甲斐があるってもんだ!」

 

「おい、お嬢さん達が困ってるだろ。やめとけ」

「あ? あんだよ、話しかけて……」

「ぶん殴られてぇ……か?」

 

エルダーは男達を制止する。

だが、突然の横槍を入れられた男達は明らかに不機嫌になり、威嚇しながら振り返る。

 

だが、男達が振り返った、そこにいたのは、210cm以上もあるガタイの良い大男。

更に、エルダーはファルスヒューナルのドスの効いた声で「やめとけって言ったんだが?」と呟いた。

 

「……!?」

「え、あ……」

 

大男のドスの効いた低い声、そして、青く光る眼光を前にナンパ男達は一瞬にして威勢がなくなり、怖気付いた。

 

「それに……誰をぶん殴るって?」

「あ、いや……」

「なんでも……」

 

そう言って、ナンパ男達は全力で遠くへと逃げ去った。

 

「大丈夫だったか?……あれ?」

 

エルダーは女性と少女に近づいて、そう訊ねた。

だが、その2人の容姿を見てエルダーはピタリと固まった。

 

「ありがとうございます! さっきからしつこくて困ってたんです! 本当にありがとうございます!」

 

そうお礼をする女性は、緑色のセミショートヘアーで紫色の瞳をした、しっかりとした印象を持つ女性だ。

 

「ほら、ディアも挨拶しなさい!」

「あの、ありがとうございます」

 

そう女性に言われて、静かにお礼をする少女。

幼く、薄い緑色のロングヘアーをして、紫色の瞳をもった大人しめの少女。

そう、エスカファルス・エルダーは、あったことも見たこともないが、エルダーにはこの2人を知っていた。

 

「いやいや、気にしないでくれ、それより何事もなくてよかった」

 

エルダーは平然のままそう口にするが、内心は心臓がバクバクとなっていた。

それはエルダーにも分からない。

何故だか、この2人を見ていると心臓の鼓動が強くなり、もっと話をしたい、共に居たい。

そのような感情が湧き出てくる。

だが、ここでそれを言ってしまえば、自分自身もあのナンパ男と同じになる。

エルダーは自分の感情を抑えるのに必死だった。

 

その後、エルダーと2人とは別れたが、エルダーの心臓のバクバクは収まらなかった。

 

「おい、なんなんだこれは……クソが……なんでこんな……」

 

ブツブツと呟きながら、エルダーは帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京の都市部にある大図書館。

 

 

館内に聴こえるのは、冷房の音だけの静寂に包まれた空間に、ルーサーは読み終えた山の神と記されたの本を本棚に納めようとしていた。

 

「(山の神か……なかなか興味深いな。他の文献も見てみよう)」

 

ルーサーは別の書庫から山の神に関係する本を取り出して、座席で読もうした。

しかし、本棚を挟んだ向こう側でバラバラと本を落とす音が聴こえ、何事かとルーサーは見に向かった。

すると、散乱した本と腰を打って痛そうに悶絶しているロングヘアーの美人女性がいた。

 

「大丈夫かい?」

 

ルーサーは女性に駆け寄った。

 

「あ、はい。すみません……。昨日から論文を書いて寝不足でして……」

 

そう言って女性は立ち上がった。

そして、その女性の顔を見たルーサーは絶句する。

 

「!?」

 

絶句するルーサーを尻目に女性は、散らばった本を本棚に収めはじめる。

それを見てハッとしたルーサーは「僕も手伝うよ」といって女性の手伝いをした。

 

「すみません。本当にありがとうございます」

「お気になさらずに」

 

平然とした態度をしているルーサーだが、内心はドキドキである。

ルーサーの心臓は激しく鼓動していた。

 

「すみません、助かりました」

 

ぺこりとお辞儀をする女性。

ルーサーは笑顔で気にしないでくれと言った。

 

「シオンー、そろそろ戻ろー?」

 

別の女性の声が聞こえてくる。

その名前にもバクンと心臓が飛び上がった。

 

「すみません、本当にありがとうございます」

 

そして、女性は書庫から出ていった。

 

「なんだろう……この気持ち……」

 

一人取り残されたルーサーはポカンとした様子で書庫に佇んでいた。

 

 

 

 

 

マンション、ダブルの部屋

 

 

 

「……」

「……」

 

時刻は3時。

ダブルはベランダからある光景を羨ましそうに見ていた。

それはランドセルを背負った学校帰りの子供たちだ。

皆楽しそうに話をしながら帰宅している。

 

「いいなー」

「羨ましいなー」

 

ダブルはその光景を見てポツリと呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

続く



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19話 フローとフラウの入学準備

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

私の部屋でルーサーとエルダーがボケーっと明後日の方向を見つめていた。

私は朝飯にサーモンユッケとご飯で食べながら、2人を見ながら、他のエスカファルスに訊く。

 

「アイツら、昨日からあんな感じやけど、何かあったんか?」

 

アプレンティスは少し笑って口を開く。

 

「それが昨日ね、2人とも女性に一目惚れしたんだって」

「マジで? エスカファルスたるエルダーとルーサーが?」

「そうみたいだね、んふふ……」

 

私はあまりの意外な出来事に「はー、マジか」と2人を見つめる他なかった。

アプレンティスと私の会話の間も2人は「はぁー」とため息をついてボーッとしている。

多分、あの2人の頭の中は、その女性の事でパンパンだろうと思われる。

そして、私はもう別の方の2人に視点を変えた。

 

「で、あの2人は何してるの?」

 

私の目線の先にはベランダから下をじっと見つめるダブルがいた。

後ろ姿でよく分からないが、何かを興味津々に凝視している。

 

「小学校の登校している子達をみてるんだって」

 

サーモンユッケに卵黄を乗せてご飯を食べているペルソナがそう口にする。

 

「最近よく見ていますよね」

 

ハリエットは口に入っている林檎の砂糖漬け食パンを飲み込んでから言った。

 

「ふーん」

 

私は立ち上がり、ダブルの方へと歩く。

 

「なぁ、ダブルよ」

 

私がそう言うと、ダブルはこちらを振り返り、「どうしたの?」「何か用?」と言ってこっちに寄って来た。

 

「お前ら、学校通うか?」

「!!!」

「!!!」

 

私がそう言うと、ダブルの目がパーッとキラキラ輝き出した。

 

 

 

 

 

正午

 

 

私、アプレンティス、ペルソナ、ダブル、エルミルはダブルが小学校に編入する為に必要な持ち物を超大型デパート「鍋利臼(ナベリウス)」で買うことになった。

学校編入手続きはマザーに頼んでもらい、その間にランドセルなどを買うという感じだ。

 

「えーと、こんなに必要なのね」

 

私は小学校に入るために必要な物が記載された紙を見ながら言う。

 

「まずは筆記用具からか」

「早く早く!」

「行こ行こ!」

 

子供のように私の服を引っ張りながら急かすダブル。

そんなに急がんでも問題ないのだが……。

私たちは文房具店に入って、鉛筆等を買おうとしたが……。

 

「可愛いのがいい……」

「カッコイイのがいい……」

 

物凄いテンション低めにダブルが言う。

先程のハイテンションとは全くの真逆で戸惑ってしまう。

 

「らしいよ」

「まぁ、今の子供ってそんなもんだよねー」

 

アプレンティスとペルソナがボールペンを物色しながら言った。

まぁ、確かに言われてみればそうだな。

私も小学校のころ、似たような事があった気がする。

 

「そうやなー。じゃあ、私とエルミルはフローと他の文房具店でカッコイイ物を探してくるから、アプレンティスとペルソナはフラウと可愛いの探してくれ」

 

「「「はーい」」」

「そしたら、フロー行くか」

「うん!」

「エルミルもペン回しに勤しまんでええから行くぞ」

「はーい、あ、店員さんこれ下さい」

「あいよ!200円ね!」

 

 

 

私とエルミルとフローは別の文房具店を探すことになった。

どこかにいい店は無いかと探す中、隣ですごい真面目にペン回しをするエルミル。

自由人だなこいつ……。

しかもカレコレ30分は落とさずにペン回ししてるのが何とも言えない。

 

「お兄さんここは?」

 

フローは私の袖をクイッと引っ張って店を指さし必死に訴える。

 

「あー、ここ見てみるか」

「おー!」

「エルミルも行くぞー」

「はーい」

「ペン回し一旦やめろ」

 

 

 

 

その店内には、陽気な音楽が流れており、子供達が数十人親子連れでいた。

その子供達の集まりがいる所には、煌びやかのラメ入りの可愛い系の文房具や、なんかメカニックっぽい男の子が好きそうなロマン溢れる文房具があった。

 

「すごーい!」

 

フローは目をキラキラと輝かせ、ロマン溢れる文房具に釘付けになっていた。

 

「最近の文房具はなかなか面白いのが多いな」

「だねー。あ、店員さんこのペン下さい」

「二刀流ペン回士エルミル……」

「ん、センパイ何か言った?」

「いんにゃ何も」

 

 

フローは興味津々で文房具を物色し始める。

その姿は、幼き子そのもの。

だが、かく言う私も、最近の文房具に興味を引かれてついつい目を奪われてしまった。

 

「はへぇ、凄いな……」

 

ついつい購入してしまいたくなる衝動に駆られる。

それほどまでに、私の目に映る商品達が魅力的だった。

 

「お兄さんこれ欲しい!買って!」

 

フローは駆け足でこちらにやって来て、私にそれを見せつけた。

500色色鉛筆セット、多機能ペンケース、魔導書風ノートなどなど。

多機能ペンケースは分かる。

500色色鉛筆セットもまぁ、分かる。

なんかやたらとカッコイイハサミや糊もまぁまぁわかる。

魔導書風ノートってなんやねん。

確かにカッコイイ。

ロマン溢れてる。

多分、私がフローの立場なら迷わずねだってる。

なんなら買おうかと今検討したぐらいに。

ただ、それは学校側が許さんのではないだろうか?

私は、フローにそう言おうとしたが、彼の目を輝かせた嬉々とした表情を見せられては、それを言うことが出来なかった。

 

「あぁ、ええよ」

 

私はそう言うと、フローは「やったーー!ありがとうーー!」とバンザイしながら飛びあがっていた。

まぁ、ええか。

私はフローのはしゃぐ姿を見て、そう思った。

 

「とりあえず、ここで買える物は一通り買えたか」

 

必要な物が書かれたメモを見ながら、そう言う。

すると、後ろから我々の名前を呼ぶ声が聴こえてくる。

 

「おーい! 龍照ーエルミルーフロー!」

 

特大おっ〇いをブッッルゥン!ブッッルゥン!揺らしてやってきた。

無論、お客さん達の目線を釘付けにしたのは言うまでもない。

 

「なんだあの姉ちゃんの胸!?」

「デッッッカ……」

「すげえー」

「負けた……勝てない……」

「あんなのただデカいだけよ」

 

お客さん達の怨嗟歓喜の声が聴こえてくる。

それに気づくことなく、ペルソナ、アプレンティス、フラウがこちらと合流。

 

「そっちは決まった?」

 

私はフラウに訊く。

彼女はニコニコした顔で、買い物袋を見せてきた。

よっぽどいい物を買えたのだろう。

その表情はフローと変わらない素晴らしい笑顔だった。

 

その後、上履きやら給食袋やらを購入し、最後はランドセルだ。

このデパートだけで必要な物が買えるのがいいな。

 

 

 

 

「好きなランドセル選んでくれ」

「「はーい!」」

 

フローとフラウは手をあげ、そう言って各々好きなランドセルを物色し始める。

 

「私にもこんな時代があったんだねー」

 

しんみりしながら言うペルソナだが、それは多分私の記憶だ。

 

「お前、実際には経験しとらんやろ」

「龍照の記憶は実質私の記憶だからいいの」

「さいでっか」

 

 

「僕これがいい!」

「私これが欲しい!」

 

フローは黒いランドセル、フラウは赤いランドセルというオーソドックスな色のランドセルを選んだ。

 

「そかそか、なら買うか(意外と普通の色選んだな)」

「意外と普通の色選んだね」

「ああ」

 

 

私はランドセルを2つを持ってレジに向かった。

 

「合計で79200円です」

「うおっ!ランドセルってそんなするのか」

 

予想してなかった金額に驚愕してしまった私。

ペルソナは「払える? 私が出そうか?」と言った。

 

「いや、行けるよ。クレカできますか?」

「はい」

 

私はクレジットカードで支払いをした。

マザーから貰ってなかったら詰んでたかも知れん。

 

「お兄さんありがとう、大事にするよ!」

「お兄ちゃんありがとう、大切にするね!」

「おう!」

 

2人は幸せそうな表情をしながら、ランドセルを大切そうに抱きしめていた。

……なんだろう。

こんな幸せそうなダブルを見ていたら涙が出てきた。

 

「ねえ、ダークファルス【双子】も普通の人間として接していたらこうなっていたのかな?」

 

ペルソナはそう問いかけてきた。

 

「どうなんやろうな……」

 

私はそう答えるしかなかった。

こればかりは、本当に分からない。

 

 

「ねえ、どこかで食べて帰る?」

 

私とペルソナが考えている時に、アプレンティスがサイサリスの看板を指さしながら、そういった。

 

「サイサリスに行きたいのね」

「そういうこと!」

「さんせーい!」

「僕と賛成!」

「私もええが、フローとフラウは?」

「さーんせーい!」

「さーんせーい!」

 

満場一致。

アプレンティスの提案で、私たちはサイサリスで食事をすることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

サイサリスでたらふく食べた私たち。

各自自分の部屋に戻り、私は即座に荷物を置いてソファーに寝転がる。

だが、視界に映りこんだものを見て起き上がった。

 

「こいつらまさか今の今までずっと同じ体勢でいたのか?」

 

私は少し不気味に思いながら、朝と同じ体勢のエルダーとルーサーに話しかけた。

 

「あぁ、シオン。どうしてあなたはシオンなのですか?」

「シーナ。またシーナに会いたいな。シーナ。ディア。シーナ。シーナ」

「………………………………」

 

固まる私。

上の空にブツブツと詠唱している2人に、私は久しぶりに絶句した。

 

ルーサー……あぁ、いやどっちもやべえ……。

これ……どうしよう。

私が固まったまま長考している間にも……。

 

「あぁ、シオン。僕は君という雷に撃たれ……」

「あぁ、シーナ。シーナ。俺は貴女の姿に心を射抜かれた哀れなクラーケン……」

「あぁ、シオン。僕は君という存在の雷に撃たれ、恋という地面に叩きつけられた哀れなフクロウ……」

「……うわぁ……うわぁぁぁ……」

 

私と話をする為に来たペルソナも、2人の光景を見て物凄いヤバい物を見たような表情をしてドン引きする。

 

「ねえ、ナニコレ? ナニコレ珍百景?? ff14で言うところのテンパード? それともダーカーに侵食された?」

「いや、私にも分からん……」

 

天井を見ながら、うわ言を述べる2人に私とペルソナはその場からそそくさと去った。

多分あれは関わってはいけないやつだ。

 

今日はペルソナの室内で寝よう。

ぶっちゃけペルソナは女性だが、中身は女体化した私なので問題はない。

私と私が寝ていようが事案ということでも無いし。

そういうことを言って、私はペルソナと寝ることにした。

 

「あれはやばいな」

「だね」

 

2人でそんな話をしていると……。

顔色を悪くしたアプレンティスが入ってきた。

 

「どうした?」

「ねえ、龍照の部屋にいるあの2人はなんなの? 精気の抜けた顔でブツブツ言ってて、凄い怖かったよ!」

「私も聞きたい」

「2人ともダーカーに侵食されてる?」

「知らんわ」

「まぁ、いいか。どうせ2日経てば治るだろうし、それよりフローとフラウの部屋に来てよ!」

 

手招きしながらアプレンティスはダブルの部屋へと向かった。

私とペルソナは一瞬顔を合わせて、アプレンティスについて行く。

 

 

「どうした?」

「なにかあったの?」

 

私とペルソナはダブルの部屋の前でアプレンティスに訊ねた。

すると、アプレンティスは「シーっ!」っと指を手において静かに、のポーズをとる。

 

そして、ゆっくりと扉を開けて、ダブルの室内に入った。

 

「おじゃましまーす」

「おじゃまします」

 

私とペルソナは小声で言ってから入る。

抜き足差し足忍び足でアプレンティスに着いていき、寝室の扉を開けた。

 

「これ……」

 

アプレンティスが指を刺す方を見ると、フローとフラウが仲良さそうにランドセルを担いだまま、寝ていた。

 

「おー……」

「可愛いね……」

「でしょ……?」

 

その微笑ましい光景に、思わず口元が緩んでしまう。

数分間、その光景を私たち3人は見つめていた。

 

 

 

 

 

 

続く



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20話 頑張れエルダああああああああああ!!!

 

 

 

 

 

1週間が経ち、明日はフローとフラウが学校に登校する日だ。

フローとフラウが通う学校は天星学院初等部らしい。

 

「待て待て、天星ってあっこやないか!」

「知ってるの?」

 

アプレンティスは刀の手入れをしながら、聞いてきた。

 

「知ってるも何も、アイツらが通う学校やないか」

「アイツら?」

「まぁ、まだまだ先の話よ」

 

10年後に、ep4の主要キャラクターが通い、就任する学校。

この時から存在してたのな。

まぁ、マザークラスタ経営やから、あの2人がここに通う事になるのは妥当か。

 

「小野寺フローと小野寺フラウって名前で行くんでしょ?」

「ああ、まぁ無難やろ」

「だね。ところで、あの2人は? 最近見てないけど、まさかまだあの調子?」

「まぁ、余程シオンさんと、シーナさんって人に惚れたっぽいな。まぁ、気持ちは分からんでもないが……」

「そんなに美人だったのかな?」

「まぁ、美人やと思うよ」

「みたことあるの?」

「いや、ない。私の勘や」

「なーんだ」

 

そんな話をしてる内、アプレンティスは、刀の手入れを終えたのか鞘に刀を納めて紅茶を飲もうとカップに口を付けようとした。

 

その時だ。

 

 

「キャアアアーーーーーー!!」

「「!?」」

 

事件性のある悲鳴がマンションのその階に響く。

ハリエットの方からだ。

なにかあったのかと私とアプレンティスはハリエットの号室に駆けつける。

 

「どうしたんだい!?」

「何事よ!?」

「「なになにどうしたの!?」」

 

ダブルとエルミル、ペルソナもハリエットの悲鳴を聴いて駆けつけてきた。

 

「なにがあった!?」

「ハリエットどうしたんだ!?」

 

あれだけ呆然と固まっていたエルダーとルーサーも、ハリエットの悲鳴を聞いて正気を取り戻したようだ。

血相を変えて私の部屋からやってきた。

特にルーサーの血相がヤバい。

とんでもない顔芸である。

私たちはハリエットの部屋に推し入ってハリエットに駆けつけた。

 

「ハリエットどうした!?」

「わ、私の私が育てた野菜達が……」

 

ムンクの叫びのような表情で膝をついて愕然とする。

ハリエットの前には、無惨にも枯れ果てた野菜達にそれを侵食するように生えている青く煌めく花が咲き乱れていた。

 

「なにこれ? 新種の花か?」

 

私が妖しげな花に近づいて、触れずに確認していると……。

 

「あ、それ僕が栽培してる花だよ」

「……エフィメラか?」

 

私はエルミルが栽培してる花と聞いて真っ先に浮かんだ花の名前を言った。

すると、エルミルは悪気もなく「大正解!さっすがセンパーイ!」とおちゃらけた口調で言った。

 

「まぁ、本当はエフィメラの幻創種、エスィメラだけどね。いやー増草剤を全部ぶっ掛けたから急成長したのかなー、あははははは!」

 

ルンルンで話をしているエルミルに恐ろしい殺気を出して、ハリエットがゆらりと立ち上がる。

 

「エルミル、これをやったのは、貴方ですか?」

 

ゆっくりと大人びた声色でエルミルに問いかける。

青いオーラと共に、床から草や花が咲き乱れる。

ヘラヘラしていたエルミルも、これはやばいと気づいたのか、一瞬で顔を引き攣らせる。

 

「どうやら、お仕置が必要なようですね」

 

ペロッと舌を出して、妖艶な表情でクスっと笑うハリエット。

それは、その声色、口調、表情、仕草、雰囲気全てをとってもハリエットではなく……。

無論、その姿を見た我々はエルミルをシバエットに押し付けてそそくさと避難した。

 

 

「あまりに手応えがありませんね」

「いぎゃあああああああやめてええええええええ!!!!!」

 

エルミルの断末魔がハリエットの号室から聞こえてくる。

pso2ep5でも聞いた事のない断末魔だ。

 

「終わりです」

「待って何すんの!?やめて!!!!!?」

「下手に抵抗するから苦しむ事になるのです」

「おごおおおおおおおそれは入らないいいいいいい!!!!!」

「無駄な足掻きを!」

「やめて!!僕を吸わないでえええええ!おおおおおおおおおおごおおおおおおおおおお!!!!!」

「あっははははは! なんて無様な姿!! とてもそそられますよ!」

「ごめんなさいごめんなさい!! もうやりませんから許してえぇぇえええええ!!!」

 

 

 

……。

エルミルの悲惨な断末魔に我々は戦慄し、その場から動けなかった。

中で何が起こっているのだろうか……。

怖すぎて扉を開けることが出来なかった。

これはヤバい……。

 

 

「……」

 

暫くして、先程までの声がパタリと止み、私達は恐る恐る扉を開けて中の様子を見に行った。

 

「……うわっ……」

 

リビングにあったものは、バラバラに引き裂かれたエスィメラと、草花が生い茂る中にポツリと佇むハリエットと、ハリエットの指から伸びる鋭利な根に貫かれて干からびているエルミルの姿だった。

 

「……某海賊物語の海軍大将?」

 

あまりの光景に私は素っ頓狂な言葉を洩らす。

その声に気づいたハリエットはゆっくりとこちらを振り向き、ニコッと微笑んだ。

その笑みすらも私たちの恐怖心を煽ぐのに十分過ぎた。

 

「あらあら、すみませんね。もう少ししたら終わりますので」

「ぉ……ご……ぉ、ぉ、ぁ……」

 

か細い呻き声を出すエルミルが更に干からびていく。

 

「あ、あのハリエットさん。そこまでにした方がよろしいと思います……」

 

怖すぎて自然と敬語になってしまう。

だが、ハリエットは平然とした風に言う。

 

「いいえ、私が一生懸命育てた野菜達を、あのような事をしたのです。挙句謝罪の一言もない。絶対に許しません」

「あ、はい。それじゃあ、私達はこれで失礼します」

 

恐怖に負けた私は、ハリエットを見ずに他のエスカファルスを連れて部屋から退散する。

 

 

「あ、あの何かありましたか?」

 

どうやら騒ぎを聞きつけて、上と下の階の住人が心配そうな表情で駆けつけてきていた。

 

「あ、すみません。ゴキブリが3匹ほど現れて、てんやわんやしておりまして、お騒がせして大変申し訳ございません。いま燻煙殺虫をしているので、外に出たところです」

 

私は駆けつけてきた住人に状況を説明し、帰ってもらった。

 

 

 

「どうする?」

「「アイフル?」」

「こんな時にくだらないこと言わんでええねん!」

 

エルダーとルーサーを叱責する私。

アプレンティスは「まぁハリエットも凄い楽しみにしてたからね、仕方ないよ」と言う。

それにペルソナも「そうだねー」と同意した。

 

まぁ、エルミルには犠牲になってもらうとしよう。

私、エスカファルスは頷いて各々の部屋へと戻って行った。

 

 

〚奴のやっている事は我々と変わらぬ〛

〚同意〛

 

幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスが語りかけてくる。

 

「まぁ、そうかもな」

 

私は笑いながら言った。

それを聞いた2匹は〚何が可笑しい?〛と問いかける。

低い声色を聞く感じ、あまり良い表情はしていないだろう。

 

「私は人の全てを見せるって言った。だから、人の良い所も悪い所も、両方見せてるだけやで。それで両方を見て、聞いて、感じて、復讐をするか考えてくれたらええわ」

 

そう言って、私は昼飯にありつく為に冷蔵庫を開けたが、冷蔵庫には何も無くスッカラカンだった。

 

「ペルソナの野郎、私が居ない間に全部食べやがったな……。おぉい! 私がとってた板チョコアイスもないやんけ!!」

 

空っぽの冷凍庫を見て発狂する。

そして、私は怨嗟の声をあげた。

 

「あのデカパイ仮面め……ぜってえ後でアイス5000円分買いに行かせたるわ……」

 

 

 

 

一方、ペルソナはと言うと……。

 

「ヘクシュン!!」

「ペルソナさん、風邪ですか?」

「んー、わかんない。それより白菜も植えない?」

「いいですね、植えちゃいましょう!」

「後は大根とキュウリも植えちゃおう!」

「いいですねいいですね♪」

 

ワイワイはしゃぎながら、ハリエットの家庭菜園を手伝っていた。

無論、冷蔵庫の中にあるものを全部食べた事など忘れている。

 

 

 

 

 

「買いに行くか……」

 

私はため息をついて、財布を手に持ちスーパーへと向かった。

 

ハリエットの号室の前を通る時に、ハリエットとペルソナがワイワイと楽しそうな声が聴こえてくる。

 

「……エルミル大丈夫かなー」

 

私はエルミルの心配をしながら、階段でエントランスまで行く。

途中で、エルダーとルーサーにバッタリと出会い、一緒に同行することになった。

 

「さてさて、行くか」

「おう」

「そうだね」

 

全員ラフな格好でマンションから飛び出す。

8月の最終日だと言うのに、普通に暑い。

額から滴る汗を手で拭いながら、カンカン照りの中、私達はスーパーへと向かった。

 

「おい、スーパーより商店街の方で買う方が安いぜ」

 

エルダーは商店街へと続く道の方を見ながら、私とルーサーに言った。

 

「そうか、それなら商店街の方に行くか」

「そうだね」

 

私達は方向転換し、商店街の方へと向かう。

ほぼ9月に入ると言うのに、蝉は鳴き、ありえない日射に私達は途中で自販機でジュースを買ったり、日陰で休憩したりしながら目的の場所へと足を進ませる。

ちなみに各々が自販機で購入したジュースであるが、私はコーラ。エルダーとルーサーはコーヒーブラックである。

 

「商店街ってこんな所にあるねんな」

「おう、俺はここの商店街を利用してるぜ」

「なーる」

「僕も初めて来るね。どんな場所なのか楽しみだよ」

「なかなか趣のある場所だ。ルーサーも気に入ると思うぞ」

「ほう。それは面白そうだ」

 

私とルーサーはワクワクした感情を出して商店街に向けて歩き続けた。

 

すると、大きな看板が見えてきた。

 

そこの看板には“春湖丹商店街“と書かれていた。

私は目を細めて呆然とする。

マジか。

春湖丹の名前に負けず劣らず、商店街の左右が白と黒を基調にされた凄い言葉に出来ない商店街だ。

私は、ある意味でダブルを連れてこなくてよかったと思った。

うん。

しかし、本当に凄いな。

店員さん達の服装も白と黒で統一されている。

何故こんなことになったのかは、まぁええか。

あまりの濃い商店街に私とルーサーは呆気に取られた。

その表情を見たエルダーは「どうだ?すげぇだろ?」とドヤ顔をする。

 

うん。

これは凄いわ。

呆気に取られながら、私たちは商店街を歩き続ける。

 

「おおエルダーの兄ちゃん! 1週間振りだね、元気にしてたかい?」

「エルダーの兄貴! 久しぶりだな! 揚げたてコロッケあるんだが買ってくかい?」

「お、エルダー君じゃないか! 最近顔を出さないから心配してたよ! 元気だったかい?」

「兄貴! この前はプラモ手伝ってくれてありがとう!」

「イカ兄ちゃん! 久しぶりにまたサッカーやろうぜ!」

 

行く先々で話しかけられるエルダー。

凄い馴染みように驚いた。

 

「えらい人気者やな」

「ん? あぁここのCDショップ寄ったついでに色々と買ってたからな」

「なーるほどね」

 

そんな話をしながら私達は昼飯を購入しに色々と探し回る。

とりあえず、エルダーの人望をフル活用し、コロッケやお刺身、野菜などを驚くべき値段で購入することに成功した。

 

「「お前凄いな!」」

「だろう?」

 

 

私とルーサーの驚きの言葉に、得意気な笑みとドヤ顔が融合したような表情をするエルダー。

だが、これはその表情をしても許せるレベルだ。

ワイワイガヤガヤと話しながら、歩いていると前からエルダーに声をかける2人の女性が現れた。

その人を見てエルダーは石化した時のように固まる。

なんなら、それを見た私も目を丸く開けて、声にならないレベルの驚愕をした。

 

「この前は本当にありがとうございます!」

「ありがとうございます」

「え? あ、あ、あぁ。君も全画像(元気そう)で何よりだ」

 

急にキョドり、噛みまくるエルダー。

ルーサーはそのエルダーの反応に「???」の態度だが、いや、これはエルダーはキョドる気持ち分かる。

だって……私たちの前にいる2人の女性、少女はメルフォンシーナとメルランディアに非常に似ていたのだから……。

 

「……」

「……」

 

固まるエルダー。

呆気に取られる私。

だが、状況を察したルーサーは自らの能力を使用する。

パチンっ!

と指を鳴らす。

 

 

 

―エスカタストロフィ・レイ―

 

 

 

私とルーサー、エルダー、マザー、ファレグ以外の全ての時間が停止した。

 

「僕達は先に行っているよ!」

「あ、そうだな!」

 

我に帰った私もルーサーの行動を理解して咄嗟にそう言う。

 

「お前ら、ありがとよ!! 頑張ってみるわ!!」

「ああ、エスカファルスの意地見せるんだ!!」

「頑張れよ私も応援してるで!!」

 

ルーサーと私はそう言って全力で商店街から出た。

そして、ルーサーは再び指を鳴らす。

 

 

パチンっ!

 

 

時間が動き出した。

 

 

「あれ? さっき2人居たような」

「? 気のせいじゃないか?」

「そうかな? それよりもこの前はありがとう!」

「あ、いやいや気にしないでくれ。えーと……」

 

エルダーが言葉を詰まらせていると、それに気づいた女性は「あ、自己紹介が遅れたわね。私は芽流本シーナよ。この子は私の妹の芽流本ディア」と笑顔で言った。

その笑顔にドキッとするエルダー。

だが、ここで固まってしまってはいけない。

エルダーは「俺は小野寺エルダーって言うんだ、よろしくな」と爽やか風の少しぎこちない作り笑顔で言う。

 

「ふふ、よろしくね。ねえ、もし時間あったら近くのカフェでお茶しない? この前に助けてくれたお礼に」

「!?」

「この子もエルダーさんに会いたがってたのよ」

 

ディアは「エルダー様、この前はありがとうございます!」と幼い声で深々とお辞儀をした。

 

「あぁ、怪我がなくてよかった。シーナさん達が良ければお茶を……ぇーと、ごいっしょしていいか?」

 

ぎこちない言葉を出すエルダーに、シーナは「フフ」と笑って「もちろんよ!」と返した。

 

 

 

 

その晩。

 

 

 

「あぁ、シーナさん。シーナさん、またシーナさんとディアさんと食事行きてえなぁ」

「どうやらエスカファルスの意地は見せれたようだね」

 

エルダーの姿を見たルーサーは微笑みの表情をして私たちに話す。

 

「あれだけ戦闘バカのエルダーが、あんな恋に堕ちるなんて、そのシーナって女性は相当な強者ね」

 

アプレンティスは考え込みながら、そう言うが……。

まぁ、私は分かるよ。

うん。

 

シーナ、ディアとの食事を思い出して、ニヤケ顔になり、そのニヤケ顔を誤魔化そうと必死で顔を隠すエルダーを見て、私、ルーサー、アプレンティスは微笑ましい目つきで見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「主様。DLSーXDF1000―アルサルの製造が完了しました」

「ふむ、ご苦労様。他の調子はどうだい?」

「はい、統制型DLS―XDD2000ソード及びアックスの最終調整が完了しました」

「なるほど」

「また、砂漠地帯特化統制型DLS―XSD5000ハンマー及び、雪原地帯特化統制型DLS―XRD1000ソードの製造を開始しました」

「まだ時間がかかりそうだね。引き続き、お願いするよ」

「はい、主様」

「……さて、マザークラスタの動きも気になるところ。エーテル適正の高い奴らを使徒にするって噂もある。早々に行動に移したいが……油断は禁物だな」

 

 

 

 

 

 

「ふふ、僕の怒りを……受けてくれよ。地球に住まう人間共……!!」

 

 

 

 

続く



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21話 開いた門の先にある惨劇という言葉。

 

 

 

 

 

 

〚また買い物か〛

〚好きね〛

「まぁ、色々と買いたいしな」

 

私はクソ暑い中、買い物に出かけていた。

蒸し蒸しする暑さだが、どうしてもサーモンユッケが食べたい。

故に私はサーモンを買いにスーパーへと出向いているのだ。

正直、あのデカパイ仮面に買いに行かせようと思ったが、どうやらハリエットとアプレンティスと野菜の種を買いに出かけているらしくいなかった……。

タイミングの悪いことよ……。

 

「あっちぃなー、いま9月やぞ……」

 

お日様カンカン照りの熱気の中、ノッソノッソと歩く。

なんちゅー暑さ……。

私は愚痴を零しながら、歩き続けた。

 

「ちょっと休憩する?」

〚問題ない〛

〚暑くない〛

 

2匹にそう訊ねたが、素っ気なくそう言われた。

まぁ、炎を扱う龍に暑いか聞いてもそう返されるわな……。

 

「……遠回りやが、ここ通って行くか……」

 

私は日陰の多い通り道を通ることにした。

だが、その時私はあるアイデアが浮かんだ。

 

「待てよ。創造能力持ってるなら、そんな事せんでも自転車を具現化すればええんじゃね?」

 

何故この方法を思いつかなかったのか疑問に感じるほどのアイデアだ。

これはエジソンもビックリや。

 

私は具現化能力で瞬時に電動自転車を具現化する。

 

空腹と暑さの中での、具現化に多少の不安はあったが、多分店に着くまでなら形を維持してくれると信じたい。

 

「おー、快適だー」

 

私は自転車を漕ぎながら、快適にスーパーへと自転車を走らせた。

しかし、道中に、子供達やその親と思われる大人が集まっているのが目に留まり、自転車を止めた。

 

「……?」

 

私は少し気になり、話しかけてみる。

 

「すみません。どうかされましたか?」

 

そう言うと、全員が私の方を振り向き、1人の母親と思われる女性が私に事情を説明してくれた。

 

「すみません。子供達がスズメが捕まっていると言われて助けているところでして」

 

そう言う母親の足元には、粘着性のネズミ捕りに捕まっているスズメがいた。

余程激しくもがいたのだろう、ピッタリとくっついていて完全に身動きがとれない状態だ。

 

「あら……」

 

それを見た私は自転車を降りて、みんなの所に駆け寄る。

 

「手伝います」

 

私はこっそりと小麦粉を具現化させて、剥がそうとする。

 

〚何をしている?〛

〚理解不能〛

「……」

 

2匹の言葉を私はスルーして、スズメを救助するのに必死だった。

 

「……」

 

他の人々が私を見守っている。

あー、変に緊張するなぁ……。

私は震える手を必死に使って、スズメの救出に成功。

後は、身体に付着した粘着剤をクリームなどで拭き取り、スズメは空へと羽ばたいた。

別に死んだ訳では無い。

 

 

「お兄さんありがとう!」

 

元気なスズメが空に羽ばたく姿を見届けた、親と子供達は私と深々と感謝を述べた。

 

私は「お気になさらずに」と言い、子供たちに「鳥さんが元気に羽ばたいてよかったな」と笑顔で接し、自転車でスーパーへと向かった。

 

〚……〛

〚……〛

 

唖然としているのだろうか。

2匹は無言で何も言わなかった。

どう思っているのか分からんから、怖いんだよな……。

唖然としているのか、何か思うところがあったのか……。

分からねえ……。

まぁ、ええや。

スーパーいこ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

少しだけ時間が遡り……

 

 

朝。

 

天星学園初等部では……。

 

先生と思われるセミロングの女性が教卓に立ち、今日編入してきた2人の男女の自己紹介をするところだった。

 

先生は黒板に2人の名前を書く。

 

小野寺フロー

小野寺フラウ

 

黒板には2人の名が記されていた。

 

「今日からこのクラスで一緒に勉強をする2人を連れてきました。それでは入ってきてください!」

 

先生がそう言うと、教室の扉が開き制服を着たフローとフラウがチョコチョコと、教卓まで歩いてきた。

その足取りは少しばかりぎこちなく、緊張しているのが伝わってくる。

 

2人の容姿を見たクラスの子供たちは「可愛いー!」と目を輝かせて大絶賛。

それを見た2人は少しだけ驚いて、顔を強ばらせ自己紹介をする。

 

「え、えとー、小野寺フローです。今日から、よろしくお願いします!」

「お、小野寺フラウです、えっと。これからよろしくお願いします」

 

2人は礼儀良くお辞儀をした。

すると、クラスの人達は皆、「よろしくお願いします」と座ったまま、深々とお辞儀を返した。

 

「それじゃあ、1時間目は、フロー君とフラウちゃんの為に学校の案内をしよっか」

 

先生の言葉にクラス全員が「はーい!」と返事をする。

そんなフローとフラウの小学校デビューに遠くの木から見つめる人がいた。

 

「……」

 

ポテチをボリボリと食べながら、双眼鏡で観察する人物。

エスカファルス・アプレンティスである。

 

朝の6時頃に、小野寺龍照に「フローとフラウの監視をお願いできるか?」と言い。

アプレンティスも可愛い子達も覗き見できると考えて、それを承諾。

そして、今に至るという訳である。

 

「今のところ特に問題ないわね、それにしてもみんな可愛いな〜。お菓子あげたいな〜」

 

ヨダレを垂らしながら、観察を続けるアプレンティス。

ただのヤバい不審者である。

 

 

その後も、特に何事もなく、フローとフラウはクラスメイトと馴染み、仲良くやっていた。

 

「……まぁ、特に問題無かったわね。まだお昼だし、せっかくだから子供達の観察続けよーっと!」

 

「うへへ、みんな可愛いなぁ」とアプレンティスは、まぁまぁ気持ち悪い口調で観察を続行した。

 

 

 

 

 

 

時は今に戻り……

 

 

「ふー、買った買ったー!」

 

私は大量のサーモンを購入し、マンションに帰宅しようとする。

自転車を創造し、日陰の多い住宅街を通って帰ろうと考えた。

私はサドルを漕ぎ、住宅街へと目指す。

 

「涼すぃいいいいい!」

 

私は心地よい風に当たりながら、私は歓喜の声をあげる。

住宅街を抜け、公園に差し掛かった時、私はベンチに項垂れる、高校生ぐらいの青年を見かけて、自転車を止めた。

熱中症ではないかと疑い、OS1具現化し、それを持って急いで青年に駆け寄る。

 

 

「大丈夫ですか!?」

「え?」

 

駆け寄る私に気づいた青年が顔を上げて、私の方を見た。

 

「項垂れていたので、熱中症だと……」

「あ、いえ、ちょっと悩み事があって……」

「あ、あぁ、そうでしたか、勘違いして申し訳ないです」

 

私は自分の勘違いに余計な真似をして少し恥ずかしくなった。

だが、私は「ん?」となる。

 

「すみません。お節介承知なんですが、悩み事とは? もし私でよろしければ相談に乗りますよ」

 

お節介レベルMAXの私は、困っている子羊……青年に丁寧な口調で話しかけた。

その言葉を聞いた青年も何かを感じたのだろう。

悩み事をうち明け始めた。

 

「実は、学校でイジメにあっていて……」

「イジメ……」

 

その言葉に、私の心臓が何者かに掴まれるような感覚に襲われる。

中学の頃の出来事がフラッシュバックするかのようだ。

 

「はい、教科書を隠されたり、ノリとかハサミとか捨てられたりして……」

「なるほど……」

 

私は彼の隣に座って、真摯に話を聞いた。

何とも腹立たしいイジメの内容だ。

私は、彼に色々とアドバイスをした。

 

イジメは自分で抱え込んだらダメだ。

イジメをしてるバカタレ共は、何もしてこないと分かるや否や、次第に過激になりだす。

自分より弱いと錯覚するのか知らんが、とにかく、1人で抱え込んでイジメを我慢したら絶対にダメ。

親に相談するのが1番や。

と。

 

彼は、「でも親に心配掛けたくない」と言った。

 

その考えも分かる。

私もそうやった。

でも、その考えはあまり宜しくない。

イジメとは違うけど、私の知人にも「親に心配させたくない」と1人で抱え込んで、最後は、逆に親に心配させて、親不孝な事をした例がある。

だから、そうなる前に、親に相談する事が1番。

凄い口が悪くなるけど、何の為の親やねん。ってことや。

貴方はまだ子供なんやから、徹底的に親に頼った方がいい。

 

 

私がそう言うと、青年は涙目になり「ありがとう、ございます……」と呟いた。

 

その後、無言が15分ほど続いた後、青年は立ち上がった。

そして、私の方を向いて「ありがとうございます! 貴方のおかげでスッキリしました。今日親に相談してみます」と。

私もそれを聞いて「ああ」と頷く。

 

「すみません。もし、よろしければ、連絡先交換しませんか?」

 

青年はそう言ったので、私は「ああ、ええで!」とポケットに手を突っ込んだ。

私はマザーから頂いたスマホを取り出して、連絡先を交換した。

 

「これでええか?」

「はい、大丈夫です!」

「おけおけ、あ、そういえば自己紹介まだやったな。私は小野寺龍照や」

「俺は香山裕樹です! もしよろしければ、また会いましょう!」

「おう、もちろんや!」

 

そう言って、裕樹と私は友人関係のようなものになり、互いに手を振りながら別れた。

私もこの世界で友人が出来て、少しだけルンルンの気分で家に帰った。

因みに、その時の私は、買ったサーモン全てが熱射に耐えきれず腐ってしまったのを気づいていない。

 

 

 

 

 

 

今日の晩飯は、フローとフラウの入学記念ということで、私があの後、ケンターキーやらスシロウなどから大量の飯を購入してパーティをする事にしたのだ。

因みに、腐ってしまったサーモンは全部ペルソナに食べさせた。

 

「やめて、私に乱暴するつもりでしょ!? エロ同人みたいに!」などと言っていたが、表情はなんか満更でもないような感じだったので、私は無視して全部無理矢理口の中に押し込んだ。

 

 

さぁ、フローとフラウの祝いや。

私達は「フローとフラウ、入学おめでとう!」と言ってクラッカーを鳴らした。

 

2人は恥ずかしそうに顔を赤らめて「あ、ありがとう」と静かに呟いた。

それに心を射抜かれたのか、ものすごい癒された表情のアプレンティスがいた。

 

「それじゃあ、食べようか!」

 

私の言葉に全員が頷き、テーブルにずらりと並んだ豪華な料理に箸を向かわせた。

 

「うー、私(龍照)があの時サーモンを無理矢理食べさせてきたせいでそんなにお腹空いてないんだけどー」

 

ブーッと膨れっ面になるペルソナに、私はイカのお寿司を頬張りながら「無断で私の冷蔵庫のもの全部食べるからやろ」と言ってやった。

 

「うっ」

 

ペルソナは「どうしてバレたのよ!?」と言いたげな表情をして口篭る。

 

「あ、そういえば」

 

私は、ふと公園の事を思い出してフローとフラウに話をした。

 

「飯中に、こんな話するのはどうかと思うが、2人とも聞いて欲しい。私からのお願いや」

「なぁに?」

「どうしたの?」

 

フローとフラウは、たっぷりと醤油を垂らしたマグロのお寿司を口に放り込みながら、私の方を見る。

 

私は真剣な表情で、イジメの事を話した。

イジメは絶対にやったらダメということや、もしイジメにあったら先生や私たちに報告すること。

絶対に1人で抱え込まないこと。

 

それらをフローとフラウにお願いをすると、2人は「「はーい!」」と元気よく返事をした。

まぁ、2人の場合、イジメにあったらイジメた側が半殺しに合いそうだが……。

 

その後は、どんちゃん騒ぎの夜となった。

 

 

 

 

黒いマザーシップ……。

その内部で、男性がモニターに映るある景色を見ていた。

そこに1人の美少女が現れる。

 

「主様。DLSーXDF2000―マキナ、DLSーXDF3000―アフルハの製造が完了しました」

「ご苦労。他の物はどうだい?」

 

男性の言葉に美少女は、資料を捲り淡々と話をする。

 

「火山地帯特化統制型DLSの製造を開始したところです。完成までもう少しかかるかと思われます」

「ふむ」

「小型DLSに関しては概ね順調です」

「ありがとう」

「……では」

 

美少女は一例をして去っていく。

 

「XDF含むDLSが完成したら、直ぐにでもこの地で試験運用を始めよう」

 

そう言って、男性はモニターに映る、緑生い茂る豊かな地に住むザウーダンやロックベアに非常に酷似した原生生物を見てそう呟いた。

そのモニターには、その地区の名前であるとされる‘A―al’と記されていた。

 

 

 

 

 

 

続く



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22話 惨劇に近づくと学び舎に死神が近づく。

 

 

 

 

 

あれから、1週間が経過した。

 

 

「できたー!!」

 

ペルソナは舞い上がっていた。

何故か、それは1週間掛けて生み出した創造物出来上がったからだ。

その創造物は六角柱に伸びた1本の結晶の形をしており、青いクリスタルと言える代物だった。

 

「あぁー、長かったー! これまで、とても、長かったー!」

 

生み出した最高傑作を見て、感極まるペルソナ。

そのまま床に大の字に倒れ伏した。

 

「ペルソナさん、大丈夫ですか?」

 

ハリエットが早歩きでやってきた。

ペルソナが倒れた音で駆けつけてきたのだろうと思われる。

 

「んー、大丈夫だよ」

「そ、そうは見えませんが……それに、ペルソナさんの持っているそのクリスタルのような物は一体?」

 

不思議そうな眼差しで、ペルソナの持っている青いクリスタルに目を向け、そういった。

ペルソナは、ヒョイッと起き上がり、クリスタルについて説明する。

 

ペルソナが生み出したクリスタルには、願いの力によって、その人の想像や妄想を具現化させる媒体らしい。

これは、一見すれば、小野寺龍照が行い具現化されたエスカファルスと同じであるが、大きな違いが1つある。

それは、エーテル適性のない者でも具現化でき、エーテル適性のある者であれば人智を超えた存在をも具現化する事ができる。

例えば神とか、自分の考える最強存在や、ゲームの自キャラ等も具現化(生み出す)させることができる等、悪用厳禁な結構やばい代物だ。

 

「めっちゃ頑張ったよー」

「し、しかし、これはかなり危ないのでは?」

「そうだねー。まぁ、大丈夫だよ。このクリスタルにはある制約をつけてあるから」

 

ペルソナの言葉にハリエットは首を傾げた。

 

「制約……ですか?」

「うん。このクリスタルは私と龍照しか扱うことが出来ないようにしてるの! これなら悪用されることは無いよ!」

「な、なるほど……」

「まぁでも、無闇矢鱈に使うのはいけないから、これは金庫の中にでも入れておこうかな」

「(……いま金庫ごと盗まれそうなフラグが立ったような……)」

 

ハリエットは少し不安そうな表情をして、心の中でそう思った。

 

「あれ? そういえば私(龍照)は?」

「龍照さんですか? 彼なら友人の家に行くと言っていましたよ」

 

ハリエットの言葉にペルソナは驚愕する。

 

「アイツ友達いたの!?」

「そ、それは少し失礼ではありませんか?」

「私が私の悪口言ってるからいいの」

「そ、そういう問題では……」

「そんな事より、私(龍照)の友達ってどんなの?」

「い、いえ、私は、彼から行くとしか聞いていないので……」

「なーるほどねー。まぁいいや!」

 

ペルソナは再び床に寝転ぶ。

そして、眼を瞑りながら、こう言った。

 

「1週間も寝てないから、少し一眠りするねー」

 

そう言い終えると、直ぐに眠りに着いたのか、スースーと寝息をたてた。

ハリエットはクスリと微笑んで、「おやすみなさい」と言って部屋から出ていった。

 

 

 

一方、もう1人の龍照はというと。

 

 

 

「おらああああああ!」

「でやああああああ!」

 

 

私は、香山裕樹の家に行き、カードゲームで遊んでいた。

あれ以来、私は香山裕樹と連絡を取り合って、よく遊んだりしている。

話してみると、なかなか私と趣味が合う部分が多く、直ぐに打ち解けて圧倒間に友人関係。

そして、ここ3日間は裕樹の家でカードゲームをしているのだ。

 

デュエマ、遊戯王、ポケカ。

朝に遊びに来て夜まで遊んだ。

裕樹の家はかなり広く、鳥や、猫、犬が沢山飼われていた。

みんな裕樹に懐いており、裕樹もまた動物達に甲斐甲斐しく世話をしている。

そのような光景を見た幻創ニーズヘッグは呆気に取られていた。

幻創ミラボレアスは何やら彼に興味が湧いているような感じを出していた。

 

〚面白い人間だ。興味深い〛

「さいでっか」

「ん? タッツーどうした?」

 

タッツーとは私の事だ。

正直めちゃめちゃ気に入っている。

私は、「いんにゃなんでもないよ」と首を振って、話をすり替えた。

 

「タッツーのターンだよ!」

「あー、すまん! っしゃ俺のターンドロー! ……ろくなカードひかねぇ……」

 

手札を見て絶望する私。

これは酷いや……。

まぁ、なんとかするしか方法はあるまい……。

 

このようなやり取りが9時まで続いた。

 

 

「そろそろ時間やし、帰るわ!」

「おう! 今日もありがとうな!」

 

私が帰ろうとすると犬や猫が玄関まで送ってくれる。

裕樹の両親も「いつもありがとう」と礼をいい、送ってくれた。

 

私はイヤホンでpso2東京夜のBGMを聞きながら、自宅へと帰ろうとした……。

が、そういえば、マザーから呼ばれていたことを思い出しポータルを使って月へと転送した。

 

「さてさて……マザーに会いに行きまっか!」

 

私はスケルトンエレベーターに乗って、月面基地最上階へと登った。

エレベーターの扉が開き、最上階フロアに着くと、そのにはマザーが専用の椅子に座って、私の到着を待っていた。

 

『待っていた。具合はどうだ?』

「えーと、幻創ミラボレアスと幻創ニーズヘッグとでワイワイやってます」

『どこにも異常がない?。』

「はい。特に異常はないですね」

『そうか。』

 

マザーは少しだけ眉をひそめてこちらを見つめる。

そして、1呼吸置いてから、私に話を始めた。

そのマザーから言われた事は、私を絶句させるには十二分過ぎるものだった。

 

『君はもう、人間じゃない。』

「は、い?」

 

呆気に取られる。

急にそんなことを言われても、私はどうしたらいいのだ……。

言葉が喉に詰まっていると、マザーは淡々と言葉を私にぶつけてきた。

 

すまない。

人間じゃない、というには少し語弊がある。

いま、君の身体は

 

人間の他に、七大天龍が一翼の邪龍ニーズヘッグ、伝説の黒龍たるミラボレアス、空を統征する王リオレウス、森羅万象を蝕む闇である深遠なる闇、そこから生み出されたダークファルス。

それらが君の身体に入り交じっている。

マザーは言ったのだ。

 

それは血液も同じ。

赤い龍血、古龍の特濃血、そしてダーカー因子に限りなく近いエスカダーカー因子。

それらが流れているというのだ。

 

「……」

 

私は呆気に取られるしかなかった。

いや、絶句した。

何も言わないまま、私は自分の手を見る。

そこには何も変わらぬ私の手があった。

至極当たり前な事だ。

故に、私の中にそのような物が混じっているというのが、あまりに信用出来なかった。

だが、逆にこう考えよう。

私もなろう系主人公顔負けの中々に強い力を手に入れたと。

 

私は最近見たある動画を思い出す。

辛いことが起こったら、この7文字の言葉を言うんだと。

 

「これでいいのだ」

 

半分程人間を辞めたことに関しては、思うところというか複雑な気持ちはある。

だが、四の五の言っても仕方がない。

 

「これでええねん」

 

どうとでもなる。

それに、この力があれば、べトール達を本当に救えるかもしれない。

あー違うわ、先にニーズヘッグ達と和解をだな……。

 

『大丈夫か?。』

「んえ?」

 

どうやら、かなり考え事をしていたようで、マザーが心配して話しかけてきた。

 

「あ、あぁ、大丈夫です。ちょっとこれからの事で悩んでました」

『幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスの事か?。』

 

どうやらお見通しのようだ。

私は「そうですね」と少し笑い、これからの事をマザーに話した。

 

「というわけなのですが、よくよく考えたら数千年も生きる龍に、3年で心が変わるのかと。少し不安になりまして」

 

そう言うと、マザーはキョトンとした表情になる。

 

『君の中にいるニーズヘッグとミラボレアスは人間の想いによって生まれた存在。つまり、全て人間の尺度で具現化されている』

「え?」

『つまり、3年もあれば、ニーズヘッグ達の心を動かせる可能性がある。という事だ。』

「はぁぇー」

 

私は何とも言いようのない表情で、マザーを見ていた。

ただ、そうなら、あの2匹に光を見せる事は出来るかもしれない。

少し希望が見えてきた。

 

 

『以上だ。身体に少しでも違和感があったら報告してほしい。』

「もちろんです。それでは」

 

私はそう言ってポータルを使って自分のマンション前まで転送しようとするが、ある人が私の後ろに現れて、反射的に振り返った。

 

「龍照さん、お怪我はありませんか?」

 

ファレグさんの降臨である。

いつもと変わらず、ニコニコした表情からは想像もつかない覇気を放っている。

私の中にある幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスが無言で彼女を見つめていた。

それに気づいたのだろう、ファレグさんは少しだけ目を開いて「あらあら」と呟く。

 

「とてもお強い気を放っていますね。どうですか、ここで一戦でも」

『ダメだ。ここでやるのは許さない。』

 

ファレグの言葉にマザーが速攻で阻止する。

 

「個人的にまだ辞めておきましょう!」

 

私はマザーに便乗……する訳では無いが、ファレグさんの誘いを断り、直ぐにポータルを起動。

自室へと帰還した。

ファレグさんと一戦交えようもんなら、確実の骨しか残らない。

んな事はごめんである。

 

 

 

 

 

 

 

「ただい……ま……!?」

 

自分の部屋に戻った、そこに広がる光景に私は呆れ果てた。

まーたエルダーとルーサーが恋に侵食されているよ。

 

「あぁー、シオンシオンシオンシオンシオンシオン!」

「シーナ、シーナ、シーナシーナ、シーナシーナシーナ!」

 

病気とすらも疑いたくなる2人に少し戦慄を覚えたが、こんな事で一々戦慄していては、これからの困難に立ち向かうことができないと思い、何も言わずにカバンをソファーに置いて、冷蔵庫から唐揚げを取り出す。

その間も2人は「シオンシオン」「シーナシーナ」と呟いていた。

 

〚人とは愚かなものだ。特にあの2人〛

 

ニーズヘッグもため息をついて、2人の事をディスり出す始末。

だが、私はニーズヘッグのその言葉に笑ってしまった。

 

「あのさ」

 

突然、ペルソナが凄い申し訳無さそうに、入ってきた。

私は何か嫌な予感がしつつも、ペルソナに「何?」と問う。

 

「えーとね、その2人があんなことになったのはね。私がちょっとイタズラを……」

「何したの?」

 

私がそう言うと、ペルソナは大きめなクリスタルを取り出して説明し始める。

 

「えーと、このクリスタルを使ってね。エルダーとルーサーにシーナさんとシオンさんを模倣させてね。競泳水着を着たのをね」

「……」

「そしたらね、ルーサーとエルダーがちょっと可笑しくなっちゃって……」

「おバカ……」

 

ペルソナのお馬鹿発言に、私は頭を抱えた。

 

「わ、私だってまさか、エルダーとルーサーが一撃で沈むと思わなかったの!」

 

慌てて弁解をするペルソナ。

私はもう何も言えなかった。

バカバカしすぎて……。

 

「とりあえず、明日には完治していることを願おう……」

 

私はため息をついて立ち上がり、ペルソナの部屋で寝る為、彼女を連れてこの場から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日……

 

 

 

 

とある高校の体育館の裏手にタバコを吹かした明らかに不良な姿をした、男子や女子が何やら話をしていた。

 

「なぁ、最近裕樹のカスが先生にチクってるらしいぜ」

 

笑いながら小馬鹿にしていた。

それに他の取り巻き達も頷く。

 

「馬鹿だよな。先生もこんな面倒事に関わる訳がねえのに!」

「アイツ、趣味とかマジでキモイんだよね〜」

 

女子も裕樹の事悪口を平然といっていた。

 

「どうする? 今日の帰り公園に誘って嬲るか?」

「うはは!いいね!」

「マジで最高! やっちゃおやっちゃお!」

 

タバコをその辺に捨てた、不良達は大声で駄べりながら、教室へと戻って行った。

 

 

呑気なものだ。

自ら開いた破滅の扉に気づくことも無く……。

新たな闇が、連鎖する闇が生まれる引き金を……。

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

 



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23話 これから起こる惨劇の元凶。

 

 

 

 

 

 

俺は井地芽 大素気ってんだ。

今俺はすげえイライラしてる。

だからよ、コイツを人気のない公園に呼んでプロレスをしてるんだ!

別にイジメじゃねえ、ただのプロレスだ。

まぁ、俺たちに文句を言うやつなんて1人もいねえがな!

 

「お前ホント弱ぇな」

 

地に伏している裕樹を見て俺はバカにするように笑う。

俺の取り巻き達も「ダセェ」やら「キメェ」やら大笑い。

あぁ、スカッとする。

最高に気分がいい。

 

「や、やめて……」

 

雑魚が苦しそうに何か言ってるが、俺には何も聞こえないな。

こいつは抵抗しているつもりなのか、顔を覆っている。

俺はその行動に腹をたてて、奴の腹部に思いっきり蹴りあげた。

 

「うごっ!?」

 

裕樹はキモイ呻き声を上げて、腹を抑えて蹲る。

挙句、口からキモイ色の吐瀉物を吐き出しやがった。

俺を含む全員が嫌悪感を抱く。

 

「うわっ!? こいつ吐きやがった!」

「マジでキモイ!!」

「ホント死ね!!」

 

罵声を浴びせ殴る蹴る。

裕樹はウグだとエグだの呻く。

それでも俺達はこの嫌悪感を晴らすために、何度も何度も蹴りつけた。

 

「も、もう……やめ……」

「うるせーなー!」

「キモイんだよ**! ***!」

 

殴る蹴るを辞めない俺達。

それを止める者が現れやがった。

 

「お前ら何やってんの?」

 

後ろから男性の声が聞こえてきて、全員が振り返った。

そこには、ジーパンに無地の白Tシャツを着た青年がいた。

突然の邪魔者に苛立ちを覚えた俺はソイツに突っかかる。

 

「おい、オッサンなんだよ。何か文句あんのか?」

 

俺はソイツの胸ぐらを掴んでガンを飛ばす。

だが、腹立たしい事にソイツは顔色1つ変えずに俺を見て不敵な笑みを浮かべあげた。

それにキレた俺は拳を握りしめて、奴の顔面を殴りにかかった。

 

「……」

 

だが、奴は俺の拳を受け止めて、逆に俺を投げ飛ばしやがった。

地面に叩きつけられ、背中に重い痛みを感じる。

 

「おぐっ!?」

「……」

 

その光景を見た俺の取り巻きたちは、一斉に身構えた。

俺も立ち上がって再び殴りかかるが……。

 

「おい……!!!」

「!?」

 

ドス黒い気を感じ、奴の後ろには龍のような幻影が視えて、俺達は固まる。

 

「……離れろや……!!!」

 

奴はドスの効いた低い声で俺たちを睨みつけた。

後ろの黒い幻影からも赤い目がこちらを睨んでいる。

俺達は完全に怖気付いて、その場から全力で立ち去った。

 

 

 

 

 

 

「おい裕樹、大丈夫か? 救急車よぶか?」

 

私はバカタレ共を威圧で蹴散らした後、地面に蹲る裕樹に声をかけた。

携帯を取り出して救急車を呼ぼうとしたが、裕樹に制止される。

 

「ゲホッゲホッ……いや、大丈夫。いつもの事やから……エホッ! ゲホッ! ゲホッ!」

 

噎せながら苦しそうにそう言うが、私にはとても大丈夫には見えない。

というか、いつもの事って……。

私は裕樹に初めてあった時のことを思い出し、裕樹に問いただした。

 

「裕樹、お前イジメの事は親に言ったんじゃないんか?」

「言ったよ。それで両親は学校に連絡したけど、全く取り合って貰えなかった……」

「マジか……」

 

裕樹の言葉を聞いて、私はフツフツと赤い感情が湧き上がっていくのを心で感じていた。

だが、その事を裕樹に察しられたのか、「大丈夫だよ。もう一度、明日に行くから」といわれてしまった。

 

「それより、タッツー。さっきはありがとう! もし暇なら今から遊ばないか?」

 

立ち上がり、いつもと変わらぬ笑みで私に話かけてくる。

私は少し心配に思いながらも、彼と遊ぶために裕樹の家へと向かった。

 

「ただいまー」

「お邪魔します」

 

裕樹の家に入ると、母親が迎えてくれた。

 

「龍照君いらっしゃい! いつもありがとうね! 後でお菓子持って上がるわね」

「いえいえ、いつもありがとうございます!」

 

私は笑顔でお礼をして裕樹と一緒に2階の自室へと向かった。

犬や猫、鳥たちが私と裕樹の帰りを出迎えてくれる。

 

〚この男……〛

〚興味深い人間ね〛

 

幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスはそう呟く。

何やらこの2人は裕樹の事が気になるようだ。

なかなかいい感じかもしれない……。

いい具合にニーズヘッグの感情に変化があってくれ……。

私はそのような事を心の中で思い、裕樹の猫や犬、鳥とじゃれ合いながらカードゲームやら何やらを遊んだ。

 

 

6時……。

 

 

ゲームに遊び疲れた私たちは雑談モードへと移行する。

 

「だからさ、あのムービーよ。テスリーン!」

「あー、うん」

 

私はff14のとあるムービーについて、裕樹に語った。

 

「まぁ、確かにあのシーンはトラウマものだよね」

「ああ! おかげで、あれ関連のワード検索出来へんなったからな!」

「タッツーの気持ちは分かるよ」

「やろ!? あれはヤバい。全ての意味で」

「うむ」

 

私は裕樹に語る。

ff14のトラウマシーンの1つが、どれだけ私の精神を蝕んだかを熱弁した。

正直、pso2にアークスがダーカー化するムービーとか無くて良かったと心の底から思った。

 

人の恐怖が具現化するこの世界に置いて、絶対にあのシーンの幻創種はどこかで出現していると思う。

まぁ、そんな幻創種が居たら私は全力で逃げる。

マジで。

目を瞑って耳を塞いで全力で逃げる自信がある。

確か、マザーもff14やってたはずだから、あのシーンについて聞いてみよう。

 

 

「ふぅ、あのシーンが頭から離れねーぜ……」

「そんな熱弁するから……」

 

頭を抱える私。

苦笑する裕樹。

なかなか微笑ましい光景だが、いかん、このままあのシーンが頭に残るとホントに具現化されるかもしれん。

あれ普通に何も知らん子供がみたら泣くんじゃないか?

ダメだダメだ、なんか別のこと考えよう。

……そうだ、推しの対魔忍の競泳水着の姿を妄想して、トラウマシーンをかき消そう。

あんな幻創種が具現化されようもんなら卒倒もんだ。

 

 

 

 

7時

 

 

「裕樹粉塵粉塵!」

「おけおけおけ!」

「この原初レウス強すぎやろ」

 

雑談からモンハンワールドフロンティアオンラインを一緒にプレイしようと言うことになり、私は裕樹のPCの1台を借りて狩りに行っている。

 

「ちょっと待てバゼルが乱入してきよったぞ!」

「またかよ! タッツー肥やし持ってる?!」

「補給忘れた、1個だけ」

「それ頼む!」

「あ、ごめん、外した」

「バカ!ドンマイ!」

 

 

 

「神龍強すぎやろマジで」

「タイダルウェーブの回避がシビアすぎるよね」

「今回は何とか回避できたけどさー」

「神龍の攻撃が苛烈極まっとる」

「ごめんやられた」

「ドンマイや」

 

 

 

 

8時

 

 

「あ、皆に餌あげないと」

 

ハッとしたように裕樹は立ち上がり、犬や猫、鳥達に餌をあげ始める。

皆「待ってました」と言わんばかりに、裕樹に集まってくる。

裕樹は笑顔で1匹1匹に丁寧に餌を与えていた。

 

〚……〛

〚いいね〛

「そういえば」

「ん?」

 

餌をあげ終えると、裕樹はハッとしたように私の方を見る。

私はスマホでモンハンのスキルシュミレーターでスキルビルドしながら返事を返す。

 

「タッツーの背後にドラゴンみたいな影がいるけど、背後霊的なやつなの?」

「……え?」

〚!?〛

〚!?〛

 

裕樹の言葉に私を含む黒龍、邪龍が時間が止まったかのように固まる。

私のその表情を見て裕樹は何かを感じたのか、少し狼狽した表情になる。

 

「あれ? これ聞いちゃいけない事だった? それとも見えちゃいけないやつ?」

「いや、そんなことは無いけど見えてるの?」

「うん。ちょっと靄がかかってるけど」

「oh.......まさか見えているとは……」

 

私がそう言うと、裕樹は凄い興味津々に食いついてきた。

 

「この2匹のドラゴンって誰なの?」

 

まぁ、そう来るよな。

はぐらかすのもあれだと思い、この2匹の事を話した。

幻創ニーズヘッグと、幻創ミラボレアスの事。

具現化された出来事。

なぜ、私に2匹の龍が住んでいるのか等。

その話をきいた裕樹は当たり前だが、驚きを隠せずにいた。

 

「本当にff14のニーズヘッグとモンハンのミラボレアスがタッツーの中にいるのか?!」

「正確には、ニーズヘッグとミラボレアスの形をしたナニカやな」

「それでも、凄いよ!!」

 

〚……〛

〚凄い見てくるね〛

 

幻創ニーズヘッグは何も言わずに、幻創ミラボレアスは不思議そうに裕樹を見つめていた。

 

「タッツーも大変だね」

「まぁな」

「俺から、ニーズヘッグ達に言える事は、人間には悪い人もいるし、良い人もいる。それでも昔のイシュガルドよりかは、マシ……だと、思う?????」

「なぜ疑問符なんだ?」

「お、俺も自信が無いから……」

「そうか……私も同感だけどな」

「ま、まぁ、とにかくニーズヘッグとミラボレアスは自分の眼で世界を見たらいいと思うよ。もしかしたら、自分の価値観が変わったりすると思うから」

 

裕樹は私ではなく2匹を見て、そう言った。

2匹はそれを聞き、グルルと唸り声をあげる。

ん?

ていうか、待てよ?

幻創龍2匹の姿が見れるって事は……。

 

「裕樹ってエーテル適正あるのか!?」

「そうなのかな? 自覚ないや」

「いや、幻創種であるこの2匹の姿を多少の靄ありやけど見れるのは適正あるぞ」

 

私は裕樹にそう説明する。

実感が湧かないのか、裕樹はうーむと首を傾げていた。

ん?

それなら……。

私はある案が頭に浮かんだ。

だが、まだ確定ではないので、私はここでは言うのを辞めた。

 

「さて、そろそろ時間やしお暇するかなー」

「お、そうかそうか!」

 

私は荷物をまとめて立ち上がる。

裕樹も私の荷物の片付けを手伝ってくれて、私はカバンを背負い玄関へと向かった。

 

裕樹の母親にも見送られながら、自宅へと帰る。

と、思わせて角を曲がった時に、ポータルを使って月面基地へと転移した。

 

「マザー、少しお願いがあるのですがよろしいですか?」

『?。』

 

私は真面目な表情でマザーに訊ねた。

 

「私の友人に香山裕樹という方がいまして、その方をマザークラスタに入れる事は可能ですか? それと、裕樹を天星学院に転入させることは出来ますか?」

 

と。

 

 

 

 

 

黒いマザーシップ内部。

 

製造場で、白衣を羽織った男性が黒い装甲を纏った機械人形と思われる物を見つめていた。

 

「主様」

「マノンか、どうだい?」

「やはり、どれも期待していた数値を上回る事が出来ません」

「うむ。やはりエンジンを変えるしかないか。他に何かエンジンはあったかな?」

「あるにはありますが……」

「何か問題があるのかい?」

「はい。このフォトン粒子エーテルエンジンは、永久とも言える出力を出すことが可能ですが……」

「条件が厳しいと?」

「はい。このエンジンを動かすには、人の想いが必要になります」

「人の想い?」

「はい。つまり……」

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、確かに難しい条件だ……。そのエンジン内に入れる事は可能だが、それを見つけて調達する事ができない。これは無理だな……。他を当たろうか」

「了解しました」

 

男性と女性は別のフロアへと向かった。

 

 

 

続く



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24話 惨

 

 

 

 

 

 

私は、マザーに裕樹の事を話した。

もちろん、イジメについてもだ。

そして、裕樹を天星学院に入れるか?

裕樹をマザークラスタに入れるか?

この2つの質問をした。

 

『なるほど、香山裕樹にはエーテル適正がある。と。』

「ええ、私に宿った2匹の幻創龍が見えてるので、かなりのエーテル適正だと思います」

『ふむ。分かった。2つの手続きをする前に、まずは香山裕樹が通っている高等学校に連絡をして、イジメについて問いただしてみよう。』

「ありがとうございます」

『体調に異常はないな?。』

「ええ」

『それならいい。』

 

安心しているマザーに、私はあることを聞いた。

 

「そういえば、マザーはff14をプレイした事があるのですよね?」

『あぁ、その世界に存在する生物が幻創種として具現化した時に素早く対処できるようにな。』

「結構プレイしたりしてるのです?」

『昨日絶竜詩をクリアした。』

「めっちゃやり込んどるやんけ」

『それで、それがどうかしたのか?。』

「あぁ、いえ、大した事はないのですが、テスリーンのとあるムービーで……」

 

私が全てを言い終える前にマザーは何かを察したようで、目を瞑って口を開いた。

 

『あれは怖い。』

「ですよね、私もそうでした」

『あれを見た後アム・アレーンの音楽を聴くのも少し辛かった。フラッシュバックする。』

「そう! あの後、ほぼ茫然自失のままプレイしてましたもん!」

『確かに、その世界の現状を知る場面が出ると演算した。そして、その敵の危険度を知る為に、誰かが殺られるというのも分かっていた。そして、あの少女がその役を担うとも理解していた。ただ、あのようなムービーを見る事になるのは、完全に未知の事象だった。』

「わかります、マジで分かります」

 

私とマザーは、1時間ほどゲーム談義に華を咲かせた。

因みにマザーはクエストに行く際は、動画等を見て予習して行くそうだ。

理由は、ハウケタ御用邸とタイタン戦で大恥をかいたからだとか。

あのような事は二度と経験したくないらしい。

それ以来、予習+演算をするようになったらしい。

あれ、マザーって可愛い?

 

 

「まぁ、今日はありがとうございます」

『また今度、共に絶竜詩でもどうだろうか?。』

「丁重にお断りします」

『そうか。』

「それでは、失礼します」

 

私は一礼をして、自宅へと帰還。

晩飯を作る気力は残って居なかったので、冷蔵庫の残り物で晩飯を済ませることにした。

冷奴、素麺、スルメ、タコ、キュウリの酢の物、ご飯というなかなか独特な晩飯である。

とりあえず、小皿を3枚取り出してテーブルに置いた。

1枚目には醤油とマヨネーズ、七味を入れて混ぜる。

2枚目には醤油とワサビ。

3枚目にはそうめんつゆにネギ、生姜、ミョウガ、ワサビを入れる。

さぁ、晩飯の用意が完了した。

20代前半の晩飯がこれというのもあれだが、好きなもんだから仕方ない!

私は席に座り、手と手を合わせて大声で言う。

 

 

「いただきます!!!」

 

 

と。

 

そして、箸を手に取りタコの刺身を掴もうとした時……。

 

 

「せんぱーーーーーい!たすけてくださーーーーーい!!」

「は?おわちょっま!?」

 

突然、少女の声が聞こえてきたと思ったら、私に突撃してくる。

そして、その少女の姿を確認して私の身体が固まった。

更に少女の後から巨大な胸を揺らせたあのアホがやってくる。

 

「待ってよー、ごめんってばー!」

 

ペルソナだ。

片手にはあのクリスタルがある。

あっ、と私は何かを察した。

 

「お前、もしかしてエルミルか?」

 

私がそう言うと、エルミルと思われる少女は「そうですよぉ、ペルソナ先輩ったら酷いんですよぉ!」とエルミルらしからぬ口調で言った。

 

「あのー、ペルソナよ。状況の説明をお願いして頂けるか?」

 

睨みつけながら言葉を続ける。

 

「まず、なぜエルミルが、対魔忍RPGに出てくる綴木みことさんの姿になって、口調も彼女になっているのかを……!」

「あ、え、えーと、ちょっとした実験を……」

「どのような?」

「え、えーと、こ、このクリスタルって私と私(龍照)しか使えないじゃん?」

「そうやな」

「それで、えと、えーと、このクリスタルの具現化の力を他人に具現化させることができるのかな?って」

 

凄い吃りながら説明をするペルソナ。

怒られるとシュンっとしながら吃りまくる。

やっぱり私なんだなと実感させられる。

 

「なるほど、だが、何故?」

「私たちってみことちゃん大好きじゃん。基本敵に巨乳を愛する私たちが、唯一虚乳キャラにガチ惚れした……」

「いらん事言うなバカ! それとエルミルはよ離れろ!!」

「そんなこと言わないでくださいぃ!」

 

女体化(しかも推しのキャラ)になったエルミルがギュッと抱きつく。

これは非常に不味い……。

ぴ、ピッチリスーツってこんなにスベスベするのか……。

あと、めっちゃ良い香りがする。

童帝の私にはこれは非常にヤバい……。

全身が凍っているように動かない。

ある意味天国であり、ある意味地獄である。

そんな中、ペルソナはニヤニヤしながら、クリスタルを私に向けた。

おい、待て何するつもりや!?

 

「せっかくだし、私(龍照)は鬼崎きららちゃんになったら?」

「待てふざけんな!やめろおおおおお!」

「えい!!」

 

すごい悪そうな表情のペルソナ。

持っているクリスタルが光輝く。

私の身体が変化していく。

 

「ぺ、ペルソナあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

私の大声がマンションに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

翌日の昼

 

 

 

『君の学校でイジメが発生しているようだが?。』

「その様な事はございません」

『本当か?。』

「はい。その私の学校の生徒は皆優しく穏やかな心を持っております。故にその様な事実は一切ありません」

『私の部下が、そちらの学校でイジメが起きていると情報が上がっている。』

「気のせいです。私の学校でそのような事が起こっていません」

『それなら、後ほど調べさせてもらうがいいな?。』

「!? ええ、問題ありませんよ。何もないのですから」

『わかった。時間を取らせたな。』

 

マザーはそう言って通信を切った。

 

『何かを隠しているな……。』

 

マザーは不審な表情をして、そう呟いた。

 

 

 

「……まずいな。このままではイジメがバレてしまう。一体誰が漏らしたのか……」

 

校長は手を組んで考え込む。

そういえば、前に親子が息子のイジメについて抗議して来たのを思い出した。

 

「アイツらか……!」

 

校長は自分の優雅な校長ライフを邪魔された事に怒りを覚えた。

マザーは後ほど学校に訪問すると言っていた。

このままではダメだ。

校長は職員室に向かい、あのイジメを受けている担任に話しかけた。

 

「木靭先生」

「はい、校長先生どうしました?」

 

校長は木靭先生に耳打ちする。

イジメが起きているから、イジメを無くしてくれ。

と。

それだけ伝えて校長は校長室に戻った。

 

「っち……」

 

担任は舌打ちをして、イジメをしているやつを呼び出した。

そして、そのだるそうにしている生徒にこう伝える。

 

「お前ら、いじめは大概にしてくれ、怒られる俺の身にもなってくれよ」

 

と。

 

「なんの事っすか?」

「俺たち何もしてないっすよ!」

 

とヘラヘラした態度をとっていたが、担任の先生がどこかへ行ったと思えば……。

 

「っち、あの野郎チクリやがって」

「1度本気でぶちのめさねーと分からねーみたいだな」

「いい方法があるぜ」

 

激昂するイジメっ子たち。

そして、イジメグループは集まってあることを考えついたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

私は暑さから逃れる為に外に出て涼しい風に当たっていた。

 

「涼しいな……」

 

そう言いながら、心地の良い夜風に当たりながら散歩を続けていた。

すると、Y字路に差し掛かった時、ペルソナと鉢合わせになった。

 

「おー、ペルソナやん、帰りか?」

「うん、野菜の種を買いにね!」

「そかそか」

 

私達は歩きながら、様々な談笑をした。

 

「そういえばさ」

「なに?」

「あ、いや凄い関係のない話なんやが……」

「どうしたの?」

「お前さ、ヴラブマってアニメ知ってるか?」

 

私がそう言うと、ペルソナは”??”っという表情になった。

 

「ヴラブマ? 何それ?」

「いや、私も少ししか知らないんや。ただSNSでなんかアニメの10何話か忘れたけど、それがヤバいとか何とか」

「ほう」

「それで、お前なら知ってるかな?って」

「あーでも、聞いたことある。ゲームの奴ね」

「知ってるのか?」

「詳しいことはしらない」

「さいでっか。まぁ、私もまりもちゃんしか知らん、それも高校時代に友人がトラウマになって3日間不眠症と食欲不振になったとかで」

「そうなんだ」

 

歩きながら、そのような話を続ける。

 

「それで、調べたんやが……まぁ、うん。はじめは「??何これ?」って反応やったんやが、状況を理解した瞬間に「ぅぉっ!?」って反応になってな」

 

私がそう言うと、ペルソナは「あまり追求しないでおく」と少し引き気味に答えた。

 

「お陰様で、私の三大トラウマシーンのひとつに組み込まれたよ」

「残り2つは?」

「ひとつは、某機動戦士 種のサイクロプスの女性オペレーターが弾け飛ぶシーン」

「それ知ってる……。私そのシーンの時間を覚えて、そのシーンは必ず飛ばすようにしてる」

 

ペルソナはなんとも言えない表情で言う。

 

「2つ目は、テスリーンの罪喰い化」

「知らないけど、見たくないなー」

「で、3つ目が、それよ」

「なーるほどね」

「で、そのヴラブマってやつをね」

「ゲームが初出だったはず、私も詳しくは知らない」

「なんかBETA?って奴と戦うやつみたいな感じっぽい?」

 

会話は途切れることは無く続く。

2人は話の華が満開に咲き乱れ、少しずつ早口に、少しずつ声が大きくなっていく。

 

「とりあえず、私の三大性癖のひとつであるピッチリスーツの女の子がいっぱい写ってたから買おうと思ったけど、なんか、ピッチリスーツだけを目的に見たら、私の精神がぶっ壊れるのではないかという私の見聞色の覇気が発動して買うのやめた」

「ワンピースみたいに言うな」

 

笑うペルソナに私は話を続ける。

 

「で、未だにヴラブマはやってなくて、最近SNSを調べてたらそれが出てきて、ほーんって」

「私は見たことないからなー」

「まぁ、その10何話がヤバいって奴もそれを見たら、凄い気分が落ち込みそうな気がするから怖くて見れないっていうのがある」

「私(龍照)ならみれないよね」

「あぁ」

 

ペルソナの言葉に私は頷く。

簡単な話。

私は女性キャラクターが死ぬのが、1番に恐れているのだ。

それは、中学一年生の時に友人の家で興味本位で見た漫画に心惹かれる女性キャラクターがいたのだ。

しかし、その漫画を読み進めるうちに、その女性が敵によって殺されかけるシーンがあった。

実際には死んでいない。

だが、描写的には明らかに死んでいるような描写だったのだ。

その時である。

未だに覚えている。

その時、私が女性キャラクターが死ぬのを恐れるようになったのは……。

 

「あ、確かあのゲームr18だったよ」

「あ、そうなんや」

「でも、やるなら攻略ルートみてプレイした方がいいかもね」

 

ペルソナのその言葉に私は2、3回首を縦に振った。

仮にハッピーエンドがあっても、女性キャラクター何人か死にそう……。

 

「BETAがこの地球に来たらどうする?」

 

突拍子もないペルソナの発言だが、私は真面目に答える。

 

「そんなん、エスカ・リンガダーズ、ゼッシュレイズ、エスカ・ビブナスを大量に具現化させて、後方にプラチ・ドーラスを出してシフデバレスタをばら撒くやろ。ぶっちゃけそのBETAって奴がどのような性質、能力を持ってるのか分からんから何とも言えんけど」

 

私が言い終えた時、SNSの奴にあるコメントがあったのを思い出す。

 

「いや、SNSでみたその映像のコメントに「不死身かよ」的な事が書かれていたような気がする」

「じゃあ、不死身なの?」

「知らん、それなら物語的にダメでは?」

「だよね、じゃあ、何かしら突破方法があるのかな?」

「さー、調べたいけど怖い……女性キャラクターが死んでる映像なんざ見ようもんなら1ヶ月は凹んでると思う。だって対魔忍決戦アリーナの天宮紫水でも、余りのショックで大学の図書館司書の授業の単位落としたんやから」

 

あまりにも自分が情けなくて「んなはははははは」と笑い声をあげてしまった。

ペルソナもやはり、私と同じ存在なだけあって笑い声を上げた。

 

「あ、凄い関係ないけどさ」

「?」

 

ペルソナが思い出したかのように喋る。

その内容はとんでもないものだった。

 

「電車のガタンゴトンっ!ガタンゴトンっ!ってさ、デカッパイッ!デカッパイッ!って聴こえなくない?」

「何言うてんねん!くっだらねえ!」

 

何の突拍子もないペルソナの発言に私は呆れて爆笑しながら頭を抱える。

 

「後さ、おっぱいってさ、尊敬語だよね」

「知らんがな!」

「後、おま……」

「おいバカやめろ!」

「んなはははははははは!!」

 

私の制止にペルソナは私と同じ笑い方で爆笑する。

そのような談笑をしているうちに、家に到着。

 

 

私は部屋に着くなり、シャワーを浴びてパジャマに着替えて即座に眠りに着いた。

別に体調が悪いとかではない、単純に眠い。

どこかで消防車の音がなっているが、特に気にすることなく夢の中に入った。

そうだ、明日裕樹の家に行ってあの事を報告しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、今、裕樹の家は赤い炎に包まれていることを、小野寺龍照は知らなかった。

 

 

 

 

続く

 

 

 

 




名前
小野寺 龍照

異名
史実に存在しない闇
幻創のメアリースー
対魔忍になりたい人



エスカファルス・メアリースー
概要
自身を灰色のドラゴンに変化させる。
全てのエスカダーカーを創造、使役させることができる。


特殊能力
想像具現化
概要
想像した物を具現化する事ができる。


キャラクター詳細
主な概要
マザークラスタに所属している青年。
独特の関西弁で話すのが特徴。
一人称は「私」。
ごく稀に「俺」と言ってしまう時がある。
民俗学や歴史学に詳しい。
幼少期に起こった病気が原因で、"大人になりきれていない大人"になってしまった人でもある。
年齢は23歳。

容姿
超ごく一般的の男性大学生。
モブ民間人をそのまま描いてメガネを掛けたような人。
黒いトレンチコート、黒い無地のTシャツ、黒いズボン、黒い靴を愛用している。
因みに、黒色であればどこのメーカーでもいい。
服なんてどれ着たって死にゃーせん。

性格
超・超・超お人好しで情に流されやすい性格。
幼少の頃から悪いことをすると必ずバチが当たると思い込んでおり、あまり悪いことをすることが出来ず、1度言った事や心の中で決めたことはなるべく実行する精神を持っている。
別に知らなくていい事を深く知りたがる厄介な好奇心を持っている。
一年に一回あるかないかの確率でブチギレる。
普段は怖いぐらい優しいがキレるとヤバい。
いい意味でも悪い意味でも頭のおかしい人物。
一言で纏めると、子供。

趣味
散歩・ゲーム。
モンハンと対魔忍と呼ばれるゲームが大好き。
散歩は峠を3つ超える程に歩き回る。
散歩に出た場合16時間は帰ってこない。
最近は、対魔忍決戦アリーナ、RPGのストーリーを何度も読み返している。
これは、自分が対魔忍の世界に行った際に、これから起こるであろう出来事を予め知ることで、亡くなる対魔忍達や陵辱される対魔忍達を救えると考えたからである。
好きなキャラクターは、篠原まり、七瀬舞、星乃深月、柳六穂、天宮紫水、綴木みこと。


彼を一言で現すなら?
概要
矛盾に包まれた都合の良い人。

彼の目指す夢
概要
pso2で死んだべトール、マザー、シバを救うこと。
対魔忍になる事。
対魔忍を"救う"ことで起こる未来を知ること。
対魔忍は陵辱されるべきという神話を徹底的に打ち壊した先にある未知の未来を見ること。
ブレインフレイヤーに関係する存在の抹消。
推しの対魔忍全員と過ごす。





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25話 劇

 

 

 

 

 

 

「……」

 

私は魂が抜けた様な形相で飯を食らっていた。

その様子をみた他のエスカファルス達も不審な目で私を見つめている。

 

「(ねぇ、龍照はどうしたの?)」

「(知らないよ。僕が来た時からあんな感じだった)」

 

アプレンティスとエルミルがヒソヒソと会話をする。

だが、2人には彼の身に何が起こったのかは全く分かっていなかった。

まぁ、それはエスカファルス・ペルソナを除いた全員だが……。

ペルソナは完全には分かっていないが、昨日の会話から何かを察していたのだろう……。

苦笑いをしながら、トーストを食べていた。

 

「なぁ、おい、龍照お前どうした?」

 

見かねたエルダーは龍照に話しかける。

その言葉に龍照は反応する。

 

「あぁ、いや、ちょっと、な、色々と、な」

 

目の下に巨大な隈のある彼は、自身に対する嘲笑を込めた言葉を発する。

だが、その言葉も非常に弱々しいものだった。

 

「何があった?」

「嫌なことがあったら僕達に相談するといいよ」

 

眉を顰めて心配するエルダーに、毅然とした態度をとってミルクコーヒーを飲みながらそう言うが、内心はかなり心配しているルーサーがそう言う。

 

「見たんだね?」

 

水を一飲みしたペルソナは、察した表情で龍照の方を見てそう喋った。

その言葉に龍照はこくりと頷き、禍津緊急のタイムラグ並に遅れて「あぁ」と小さく呟いた。

それを聞いたペルソナは「あぁ、やっぱり」と頭を抱える。

 

「いや、みた……と言うには語弊が大きすぎるな」

 

その喋り方はシオンやシャオの様で、それらの声のトーンをありえないぐらい低くしたような感じだった。

 

「正確には、SNSでイラスト、いや、私にはあれがイラストなのか、アニメの1部なのか、本当なのかは、判断がつかない、が……」

 

いつも話す時は少し早口なのだが、この時の彼の喋りは非常にゆっくりとした喋りだった。

 

「女性が、”奴ら”に腹を抉られ腸管らしきものを食っているイラストが回ってきた」

 

ペルソナは「あー」といった表情を、エルダー、アプレンティス、エルミルは「なんて?」と眼を顰めた表情を、ルーサーは毅然とした表情を、ハリエットは手を口に置いて驚いたような表情を、ダブルは「?????」と意味が分かっていない表情をしていた。

 

「テンションが下がる。あれ見てから寝れなかった」

「それはご愁傷さまでございます」

 

エルミルは彼の方を見て合掌をする。

 

「あれが、その10何話のやつなのかは分からない。ただ、あれを見た事で、奴らの殺意が上限突破したよ……。元々1ぐらいやった殺意が10000ぐらい上がったわ……。上限は10として。どっかの神田旅団並にな……」

 

邪龍の眼を顕現させて、ニーズヘッグと龍照の声が合わさったようなドス黒い声でそう語る。

 

「すまん、今から言う言葉は人として、最低最悪な発言や。もしそれで気分を悪くしたら本当に申し訳ない。あの犠牲になった女性キャラクターが……私の推しじゃなかったのが、私の精神としては、救いだった……。私の推しだったら、私はどうなっていたことか……」

 

龍照の身体からは、青い闇が溢れ出す。

 

「もし仮に、奴らがこの地球に現れたのなら、私はアイツらに地獄ヲ見セテヤル……!」

「具体的に何するの?」

 

青い闇を放つ龍照を気にせずアプレンティスはカマンベールチーズを食べながら彼に訊ねる。

 

「両脚ヲ切リ落トシタ後、両腕ヲ切断、動ケナクナッタ隙ヲ付イテ、エスカラグナス三匹を具現化サセテ、腸ヲソノ三匹ニ抉リ取ラセル」

「某機動戦士のブルデュエルみたいな事しようとしてるよこの人」

「ですが、その存在はここには居ないからできないのでは?」

 

呆れるペルソナ。

ハリエットの痛烈な一言に、青い闇は霧散しガクッと肩を下ろす。

 

「アニメーションで見なくて済んだのが不幸中の幸いなのかもしれん。女性キャラクターの死に過剰に反応する私には少し厳しいかもしれんな。1度観たいと思う私と、女性キャラクターが死んだ時をみた私の気持ちが、その2つがぶつかり合って奇妙な気分になっている」

「まぁ、でも龍照がみたその画像が本編のやつなのかは分かっていないのだろう?」

 

目玉焼きを平らげたルーサーは、龍照にそう喋る。

龍照はガックシとしたままこくりと頷く。

 

「ダメだ……。あの画像が頭から離れん……。フライパンにこびり付いた焦げのようや……」

「まぁ、何が別のことを見て忘れる事だね」

 

ルーサーはコーヒーを飲み干してそう言った。

まぁ、そうだよな。

私は顔をあげて、禍津の部位破壊した後の赤い木彫りのような表情のまま、朝ごはんを黙々と食べた。

 

「推しのキャラクターが死ぬのは、とても悲しい……。生命としての活力を一気に低下させる。最悪、何も考えられなくなってしまう。後悔、懺悔、怨嗟が頭、身体、心を這いずり周り、心臓の鼓動が早くなり、目眩がし、手の震えが止まらなくなる。天宮紫水の時がそうだった。この世の理全てが回転し、自分が自分で無くなっていく感覚……」

 

低い声で話す龍照は、ep3のダークファルス【仮面】そのものだった。

 

「仮に、その世界の推しのキャラクターが奴らに殺されようもんなら、私は…………………………………………………」

 

龍照はそう言いかけるがそれ以上は言わなかった。

多分、それを想像して言おうとした言葉が吹き飛んだのだろう。

言葉が途切れた。

ただ、ペルソナには彼が何を言おうとしたか理解出来ただろう。

きっと彼は「奴ら全員を皆殺しにしてしまうだろう……」と言いたかったのかもしれない。

奴らの力がどのようなものなのかはエスカファルス達には分からない。

ただ、彼から漂うオーラはこの世界に存在していたら、本当に皆殺しにしてしまうと思えるに十分すぎるオーラを纏っていた。

 

「ははは……架空のキャラクター1人の死でこれだけのダメージを負う私や、現実でそうなったらどうなる事やら……」

 

ハッハッハ……と力なく笑う龍照。

相当ダメージ受けたな……。

エスカファルス達全員が心の中で思っただろう。

 

「ただ、物語には必ず悪役は必要や……。その世界とはどのような物なのかという事を説明するに、悪役こそ無くてはならない大切な存在や。そして、読者や、視聴者に衝撃を与え、その世界観にのめり込まれる。その悪役に魅力を覚える人もいる。それも分かる理解してる。実際に悪役で好きなキャラクターだって私には居る。それでもな……それでも……それでも……それでもや……!!!」

 

彼は続けた。

 

「そして、私はこう思う。私なら……エスカファルスである私なら、彼らを……いや、言うのはよそう。この発言は……宜しくないな。」

 

首を振って話を切断した。

 

「はは……ダメだな。気分転換に裕樹の家に遊びに行ってくる……。この食べかけの飯は残しててくれ、後で食べる」

「行ってらっしゃい」

「気をつけてくださいね?」

 

ペルソナとハリエットはそう言って手を振る。

 

「龍照様、全然食べてなかったですね」

 

ハリエットが食べかけの料理を見て、心配そうな口調で言う。

 

「相当きたんだろうな……」

「あの様子じゃあ数ヶ月は引きずるだろうね」

 

エルダーとエルミルが自分の食器を片しながら言う。

 

「でも、そのアニメ面白そうだね、1度視聴してみるのも良いかもしれない」

「龍照様には女の子がどうなるのかという事は言わない方がいいと思いますよ」

「そうだね、そうするよ」

エルミルは愉快な顔で皿を洗いながら言った。

隣で皿洗いをしているハリエットが窘め、エルミルが笑いながら、そう返した。

 

 

 

 

 

 

 

「参ったな……」

 

私はポケットに手を突っ込んでテクテクと歩く。

これは数ヶ月もんだな……。

これまでの経験から、あの画像が頭から離れるまでの時間を予想し、己のアホさに嘲笑する。

まぁ、裕樹とカードゲームや雑談をして少しでも忘れるようにしよう。

そう思い、少し早歩きで裕樹の家に向かう。

 

しかし、裕樹の家に近づくにつれて、何やら焦げ臭い匂いが漂ってくる。

焦げ臭い匂いに混じって、肉が焼けたような匂いもしてきた。

挙句、パトカーや、消防車や何やらが目に入った。

 

「どっかで火事でも起こったんか?」

 

私は不思議に思いながら駆け足で裕樹の家まで向かう。

 

 

「……うそ、や、ろ?」

 

私は眼を大きく見開いて、呆然とする。

私の前にある裕樹の家が……焼け焦げて倒壊していた……。

あれだけ豪華だった大きな家が……そこには何も残っていなかった。

唖然とする中、私はハッと我に帰った。

 

裕樹は!?

裕樹は!!?

 

私は辺りをキョロキョロとして、現場検証?のようなことをしている警察官を見つけ、その人に訊ねた。

 

「すみません、マザークラスタの小野寺です。ここに住んでいる人は無事なんですか!?」

 

鬼気迫る表情の私に、褐色肌をした少し気さくな雰囲気のある警察官は、少したじろぎながらも答えてくれた。

 

深夜に火災が起きて、息子さん以外、全員助からなかったとの事……。

 

「……」

 

それを聞いた私は茫然自失になった。

裕樹以外……亡くなった……。

嘘やろ……。

 

今、裕樹は近くの病院に入院しているらしい。

 

「高木刑事!ちょっと来てくれ!」

「あ、はい! それじゃあ、僕はこれで!」

「はい、すみません。ありがとうございます」

 

私は全力で走った。

走ったというか、ほぼほぼ、全力で滑空していた。

一刻も早く裕樹の容態を知りたかった。

 

「ここか!!」

 

裕樹が入院していると思われる病院に着いた私は、受付に言って、獲物を狩る虎のような表情で詰め寄った。

 

「マザークラスタの小野寺龍照です。ここに香山裕樹さんが入院していると聞いたのですが、病室を教えて頂けませんか? 重要な事なんです」

「ひっ!? え、えーと100号室です」

 

そう言うと、受付の方は明らかに怯えた様子で、病室を教えてくれた。

 

「ありがとうございます」

 

私は走って裕樹の病室に行きたい衝動を抑え、早歩きで向かった。

 

「裕樹!!」

 

私は100号室の扉を開けて、裕樹に駆け寄る。

私に気づいた裕樹は虚ろな瞳から涙を流し、消えるようなか細い声で呟く……。

 

「たっつ……。みんな、しんじゃった……1人に……なっ……た……」

 

私は涙を流す裕樹に「それでも、お前だけでも無事でよかった」と小さい声で呟く。

 

私は涙を流して、友人の無事を泣いた。

本当に、良かった……。

生きてて……。

 

〚そうだな……〛

〚ホっとした〛

 

 

 

 

 

「俺……これから、どうしたら……皆俺を炎から救う為に……」

 

子供のように大声をあげて泣く裕樹。

 

「お、お母さんが……最後に、生きてって……生きてって……」

 

涙をボロボロと流す。

その言葉に私も自然とボロボロと涙を流した……。

 

「……お父さんも、逞しく、生きろって……」

「あぁ、両親の為にも生きるんや……!」

 

私は涙を流し、言葉になっているかも分からない言葉で裕樹に話しかけた。

 

「私に任せろ、マザーに頼んで私のマンションに住まわせて、学校も手配してる。だから、いまは落ち着いて、前を向いて生きろ……! じゃないと、天国にいる両親に怒られるぞ……!」

 

自分でも何を言っているか分からない。

ただ、頭に浮かんだ言葉を裕樹にぶつけているだけだった。

お互い涙で目が腫れ上がるまで、泣き続けた。

いつまでそうしていただろうか……。

そうしている内に、病室の扉がガラッと開いた。

 

「裕樹!!!」

 

1人の女性がベッドにいる裕樹の寝ている側に駆け寄ってきた。

 

「裕樹の家が火事になったって聞いて! 大丈夫!?」

「ああ、大丈夫だよ」

 

黒髪セミロングの結構可憐な美少女だ。

その女性が涙目になって「良かった……。良かった……」と零れるような声でそう言った。

 

「そういえば、タッツーに言ってなかったね。彼女の真衣菜だよ」

 

目を腫らした裕樹、女性の事を教えてくれた。

彼女……彼女!?

私は裕樹に彼女がいた事に驚きが隠せず、涙が引っ込んだ。

 

「はへー、彼女さんか……」

 

私はベッドに蹲る彼女さんを見つめていた。

 

 

「先程はお見苦しい所をすみません。山原 真衣菜です」

 

ようやく落ち着いた彼女さんは、私に向けてぺこりと挨拶をしてくれた。

 

「どうも、小野寺龍照です」

 

反射的に私も挨拶をする。

なんか少し気まずいなと感じ、チラッと窓を見ると夕方になっていた。

 

「それじゃあ、私はこれで失礼するわ、裕樹も難しいと思うが前を向いて歩いてくれ……!大切な友人を失うのは、私は我慢ならんから……。真衣菜さん、裕樹をお願いします」

 

私はそう言って、病室から出た。

 

 

 

「たっつー、ありがとう」

「小野寺さん、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジかよwwアイツ生きてたのかww?」

「あぁwww本当にゴキブリ見てえなしぶとさだなwww」

「でもよ、大丈夫なのか?警察にバレたり……」

「大丈夫だよ。アイツら放火って事に気づかずに、コンセントからの出火って思ってるぜ」

 

 

「でもこれでおもしれ〜事が出来るぜwww」

「なになに?」

「あのな?」

 

「どうよwww?」

「「「「「「wwwwwwwwwwww」」」」」」

 

青年達はドッと笑い声をあげる。

 

「お、なーなー。そういえばアイツ彼女居たよな」

「ああ、勿体ないぐらい可愛い女だよな」

「それがどうかしたのか?」

「いい事思いついたぜ!」

「なんだなんだ?」

 

「良くね!?」

「「「「「「wwwwwwwwwwww」」」」」」

「いいねいいね!」

「最高じゃん!」

 

青年達はニヤニヤとした表情で盛り上がっていた。

 

 

 

 

 

 

あれから2週間が経過した日。

私は裕樹がいる病室に来ていた。

明日退院するらしい。

裕樹も両親達の死から、ほんの、ほんの少しずつではあるが立ち直って前に向きつつある。

私も、マザーに頼んでマンションの引越しに金銭の援助、天星学院の転校の準備が整いつつあった。

何故か手違いで転校が1週間後になってしまったのが気になるが、まぁ問題は無いだろう。

 

「1週間後に、天星学院か……」

「ああ、マザーに頼んで準備中や、マンションの方も手配してる」

「ありがとう……タッツー、ごめんな」

「にゃーにゃー、気にするな。お前は身体と心を休め、何か飲み物とか買ってこようか?」

「いや、大丈夫だよ」

「そか」

「それにしても、タッツーがマザークラスタだったなんて……」

「あぁ、訳あってな」

「あのドラゴンの事?」

 

そう言うと、裕樹は幻創ニーズヘッグと、幻創ミラボレアスの方を見る。

そして、微笑んだ。

 

〚……〛

〚ここの人間って火で死ぬんだね。結構脆いね〛

「ぉぃ……ミラボレアス……」

 

流石にその発言はやめてくれ。

私は幻創ミラボレアスに語りかけた。

 

〚いくらエーテル適正が高くても、私達の言葉までは聴こえてないよ〛

「そうは言ってもな」

 

私は頭を抱える。

幻創ニーズヘッグは人に対しての殺意が酷い。

幻創ミラボレアスは何考えてるか分からん。

殺意があるのか、無いのか全く分からない。

 

〚まぁ裕樹だけでも生きててよかったね〛

「うん。そうやな」

 

本当に幻創ミラボレアスはどうなっているのだろうか。

人に殺意を剥けているのは分かっているが……。

気まぐれなのか……。

人間には理解できない性格なのか……。

 

あー、そういやディレクターさんも言ってたな。

人間には理解できるようなやつでは無い。

だから恐ろしいって。

 

「2匹が何を言ってるかは、聞かないでおくよ」

「ははは……まぁ、そうしてくれ。それと、とりあえず、明日退院して、私のマンションに引っ越しするんやろ?」

「うん、明日からよろしくね!」

 

そう言うと、裕樹は背伸びをして、寝る体勢になった。

 

「そういえば、明後日に転校する手続きをする為に、学校に来いって校長先生に言われたな」

「大丈夫か? マザーに頼んで手続きをやってもらう様に頼もうか?」

「いや、大丈夫だよ」

 

安心してくれと笑顔でいう裕樹を前に私は「そうか」としか言えなかった。

少しの不安がありつつも、私は裕樹の意見を尊重した。

ここで無理に止めるのもあれやしな。

 

「転校の手続きをするだけや。大丈夫だ。そんでもって、家に帰ったらまたタッツーとゲームしよう!」

「ああ、そうやな!」

 

裕樹の屈託のない笑顔に私は笑顔で返した。

 

「そしたら、私はこれで帰るわ!」

「おう! じゃあ、また明日学校終わりに会おう!」

「おうよ!そんじゃーなー!」

「ばいばーい!」

 

私は手を振って病室を出た。

裕樹も手を振って私を見送った。

扉が閉まり、私が振り返っても裕樹の姿が映らず、白い扉が見えるだけだった。

 

 

 

 

 

翌日

 

 

無事に退院した裕樹は、私たちの住むマンションに引っ越してきた。

場所は私達が住む1つ下の階だ。

 

「今日から1階下に引っ越してきた香山裕樹です。よろしくお願いします!」

 

裕樹は挨拶に私の所にやって来て、丁寧な物腰で自己紹介をした。

エスカファルス達も、私の友人である事や火事の事を知っており、超笑顔で歓迎していた。

だが、裕樹よ。

私は気づいているぞ。

お前が丁寧な物腰で挨拶をしている間、エスカファルス・ペルソナのバカデカお〇ぱいに視線が行っている事を……。

いや、男性ならアイツの超弩級超乳は目に行くわな。

出かけてる時も、ペルソナを見る他の人の視線が、胸、顔、胸って順に向けられるからな。

 

 

まぁ、それはそうとして……。

 

「それじゃあ、引越しの作業は終わったし俺は戻って昼ごはん食べてくる」

「それなら、私らと食べないか?」

 

私は裕樹に昼ごはんを誘った。

だが、誘った瞬間に気づいた。

冷蔵庫に飯があったっけ……?

やべぇ……。

誘ったのはええけど、昨日デカパイ仮面ことペルソナに食べられたんやっけか……。

あぁ、ええか。

なかったらなかったで、ペルソナの冷蔵庫からかっさらえば……。

 

「いいの?」

 

裕樹がそう聞くので、私は笑顔で頷いた。

「あぁ、いいぜ!」「みんなで食べる方がとても美味しいですよ!」「裕樹も食べよー!」

 

とエスカファルス達も賛成のようだ。

エスカファルス達がテーブルを昼飯の支度をする。

冷蔵庫の中はやっぱりというか、なんというか……。

デカパイ仮面が全部平らげていた。

だから、今回はペルソナに飯を作らせる事にした。

ペルソナはアプレンティスとハリエットに救いを求め、2人が渋々という程では無いが、ペルソナの料理を手伝っていた。

 

 

その間、裕樹はと言うと。

 

 

「裕樹お兄さん強いー」

「裕樹お兄ちゃん強いー」

「ハッハッハー、どうやー」

 

ダブルとデュエマをしていた。

裕樹のあまりの強さに尊敬の眼差しを向けている。

 

「師匠ー!」

「先生ー!」

 

挙句に師弟関係になってる……。

 

「元気だなー」

「そうだね。でも、ちょっと無理している感はあるけど……」

 

エルダーとルーサーはダブルとはしゃぐ裕樹を見てそう呟く。

私は「まぁ、あんな事が起こったらな……」と裕樹に聴こえないようにエルダーとルーサーにいった。

 

 

 

「師匠ー! このデッキの構築教えてください!」

「先生ー! このカードを使った構築教えてください!」

「おう、任せとけ!」

 

すっかり仲良くなっているダブルと裕樹。

私達がそれを見ていると、「あれ?」と違和感に気づく。

 

「そういえば、エルミルは?」

 

私は周りをキョロキョロしながら、エルダーとルーサーに訊ねた。

 

「あぁ、前に龍照が言ったヴラムマって奴にハマったらしくてな。いまアニメイトでそのグッズ買いに行ってるんじゃねーか?」

「へー」

 

私はエルダーにそう答える。

エルミルにもハマる事ってあるんだな。

ep5のエルミル見てた自分からしたら結構意外だった。

 

「出来たわよー!」

「出来たよー!」

「出来ましたー!」

 

エプロン姿で現れた女性エスカファルス3人。

くそう、ペルソナのエプロン姿が可愛いと思ってしまった自分が悔しい。

ルーサーはハリエットのエプロン姿に釘付けなのは言うまでもない。

裕樹はペルソナのデカパイに目を奪われていた。

 

「今日はペペロンチーノだよー!」

「頑張りました!」

「いっぱいあるから好きなだけ食べていいわよ」

 

ペルソナ、ハリエット、アプレンティスがそんな事を言いながら、テーブルに起き始める。

 

「裕樹は私の隣に座わるとええで」

「ありがとう」

 

私は自分の席に座りながら裕樹に言った。

裕樹も感謝を述べながら、私の隣の席に座る。

各々のエスカファルスも席に着席し、全員(エルミル除く)が座った所で、私は「それじゃあ手を合わせてー!」と大声で言う。

みんなその声に応じるように手を合わせた。

勿論、裕樹も若干戸惑いながらも手を合わせる。

 

「いただきます!!」

「「「「「「「「いただきます!!!」」」」」」」」

 

全員が、いただきますして、目の前にあるペペロンチーノを食べ始めた。

 

 

 

 

 

その後、ペペロンチーノを食べ終えた私たちは、裕樹とテレビゲームをしたり、ダブルとカードゲームを再びしたりと楽しい時間を過ごした。

 

 

「それじゃあ、俺はこれで失礼するよ、明日学校だしな」

「おう!」

「また遊びに来いよ!」

「じゃーねー!」

「師匠また来てね!」

「先生また遊ぼうね!」

 

「勿論だ!!」

 

私達は裕樹を笑顔で見送る。

裕樹も笑顔で手を振って下の階に降りていった。

 

「なかなか面白いやつだったな」

「そうだね!」

「楽しかったー!」

 

部屋に戻った私達は片付けをしながら、裕樹の話で盛り上がった。

明日から、裕樹とも遊べると考えると毎日が楽しみで仕方がなかった。

この世界に来て初めて出来た友人に私は、自然と口が緩んでしまった。

エスカダーカーの鍛錬を完全に忘れる程に。

 

 

 

 

 

 

続く

 




名前
エスカファルス・ペルソナ

異名
深遠なる闇
少女を救った幻雄
もう1人の龍照

あだ名
デカパイ仮面
ド淫乱仮面
ド変態仮面


エスカファルス・ペルソナ【深遠なる闇】
概要
青白い色の深遠なる闇に変身できる。
創世種であるアンガファンタズマ種を具現化、使役することが可能。
ダークファルス【仮面】の持つ時間遡行は持っていない。


能力
創造魔法【具現化】
概要
自分の頭の中で思い描いた物質を具現化する。


キャラクター詳細
主な概要
小野寺龍照の無意識な妄想により生み出された女性。
小野寺 龍照の深層心理(自分が女性ならこうでありたい)という全ての欲望が反映されて具現化された存在。
一人称は「私」。
民俗学や歴史学に詳しい。
身長は小野寺と同じ169cm。


容姿
茶髪に碧眼のロングヘアーの女性。
そして、胸がデカい。
Ucup以上のデカさを誇っている。
競泳水着やピッチリスーツを"私服"としている。
特に対魔忍RPGに登場する綴木みことの対魔忍スーツが大好き。
服なんてどれ着たって同じだって!
ファッションファッション!


性格
大切な人をあらゆる手段を使って守ろうとする【仮面】としての性格を持っている。
が、それ以外は小野寺龍照が女性だったらという妄想が反映されている為、物凄い変態で淫乱でドマゾな娘。
とりあえず、とんでもない性癖を持っている。
いい意味でも悪い意味でも頭のおかしい人物。


趣味
ゲームと物作り、セルフチャージ。
本人と同じくモンハンと対魔忍と呼ばれるゲームが大好き。
自分の創造具現化能力を使って、日夜様々な物を作っている。
好きなキャラクターは、小野寺同様に篠原まり、七瀬舞、星乃深月、柳六穂、天宮紫水、綴木みこと。


彼女を一言で現すなら?
概要
超絶ド変態ド淫乱ドマゾ娘。

彼女の目指す夢
概要
大切な人を守る事。
対魔忍を守る事。
推しの対魔忍全員のピッチリスーツに顔をうずめてスリスリする事。


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26話 終わった……。

 

 

 

 

 

 

朝。

素晴らしい目覚めだ。

私はベッドから降りて、トーストと目玉焼きウィンナーを具現化させた。

正直、具現化された飯は食べたら消化される瞬間にエーテル粒子に霧散した挙句、ゲップと同時にエーテル粒子がモワァっと出るから中々お下品な事になる。

それ故にあまりやりたくないのだが、冷蔵庫に飯が無い+寝起きから飯を買いに行きたくは無いので致し方なくエスカ朝飯を食べることにした。

味はビビるほど美味い。

まぁ、美味い飯と想像して具現化したから当たり前なのだが。

そういえば、今日は裕樹の学校で転校の手続きか。

帰りは……何時ぐらいになるやろうか。

わからん……とりあえず、それまで何するか。

 

 

「おはよー!」

 

デカパイ仮面が現れた。

私服であるピッチリスーツを着て……。

もー、朝っぱらからやめてくれや……。

心臓と股間に悪い……。

コイツには恥じらいという感情が欠落しているのか?

あー、違うわ。

私が女性だったらって妄想が反映されてるから、こういうのは恥らわないんだ……。

なんてこった……。

あと、くそ可愛いのが物凄い腹立つ。

 

「先輩、おはよう。キュウリのQちゃん余ってるからお裾分けしに来たよ」

 

キュウリのQちゃんをタッパーに詰めて持ってきたエルミルは、ペルソナの姿を笑顔でおはよう!と言った。

ペルソナも笑顔でおはよう!

と返した。

初めはペルソナの胸にヘイトが行っていたのに、いまそんな素振りもなく普通に話をしているエルミル。

慣れとは恐ろしいものだ。

マジでペルソナのおっぱいウォークライやからな。

pso2のハンターでもあそこまでヘイトを稼ぐことはできんと思う。

 

 

「あ、それとこれもあげるよ」

 

エルミルはそう言って1つの箱を取り出して、私に手渡す。

 

「何これ?」

 

私は不思議な表情でエルミルの方を見る。

エルミルは何も言わずにコクリと頷いた。

それを確認した私は箱を開封した。

 

「おおおおおお!」

箱の中にはホールのショートケーキが入っていた。

これは凄い!

私はエルミルにあることを訊ねてみた。

 

「え? これエルミルの手作り?」

「そうサ。僕特性ショートケーキサ!」

 

得意げな表情で答えるエルミルに私は何故か、コイツが鼻歌を歌いながらケーキを作ってる光景を想像してしまい、少し笑ってしまった。

 

「何を笑っているのサ!」

「待て待て違う! オメガのエルミルを見た私からしたら、料理をしてるエルミルが意外すぎてな!笑って悪かった!」

 

不機嫌になるエルミルを謝りながら必死宥めた。

 

「まぁ、いいけどサ。それより食べて、感想聴かせてよ」

「おう、わかった」

 

エルミルに言われて、私は朝からケーキという中々贅沢な朝飯を頂く事になった。

私はそのケーキを切って、皿に置いた。

それをテーブルに置いた私はフォークを持って、そのケーキを口に含んだ。

 

「……!」

 

食べた私は目をパッと見開いた。

これは美味いな。

下品な甘さではなく、かと言って上品な甘さのでもない。

エスカファルス・ペルソナ風に言うなら、ムッツリスケベな甘さ。

と言うべきだろう。

非常にバランスの取れた味だ。

スポンジもふんわりとした食感で、かつ仄かな甘さがあった。

まぁ、ぶっちゃけ何が言いたいのかと言うと、めっちゃ美味い!!

それに限る。

なんなら、これをエルミルが作れた事に驚きを隠せない。

 

「これすげー美味いな!!」

 

まぁ、ただ、私は大体の食べ物を食べて美味いと言ってむしゃむしゃ食べる故に、私の美味いはあまり信用出来ない部分がある。

だが、これは胸を張って言える。

クソ美味い。

 

ペルソナも「すっごぉ、めっちゃ美味い!!」と絶賛していた。

 

「それなら、良かったよ」

 

エルミルは自身の作ったケーキが好評で、とてもご満悦の様子だった。

腹立つぐらい守りたい笑顔で言う姿は元のエルミルからは、とても想像し難いものだ。

正直、一瞬エスィメラでも入ってるのではないかと思ったがそういう物もない。

私はエルミルだからと言う理由でそんなことを疑ったことを恥じた。

だが、次の瞬間、エルミルはその表情を崩さずにこう話を持ちかける。

 

 

「それじゃあ、先輩これ買って!」

「はい???」

 

私は眉を顰めてスマートフォンの画面に映る物を見た。

そこには、様々なグッズが映っていた。

 

「僕いまお金なくてねー」

「待て、何故ケーキを食べてそうなる?」

「だって僕ハンドメイドのケーキを食べたんだよね。だから、そのお礼という事で僕に」

「まるで意味が分からんぞ……」

「エルミルは何を言っているのだ?」

 

エルミルの超理論を前に呆気に取られる私たち。

ちなみに金額を見たが、タペストリーやら抱き枕やらフィギュアやら、総額30万は行っていた。

あのケーキは美味しかったがちょっと待て。

 

「ダメかい?」

「ダメ」

「なんでサ!?」

「逆に何故この総額を提示してOK貰えると思ったんだ!?」

 

エルミルの言葉に私はツッコミを入れる。

 

「別にいいじゃん! 貯金いっぱいあるでしょ!?」

「あるけど、そんなにポンポン使ったら無くなるやろ!」

「そんなー!」

 

ガーンという音でも聞こえて来そうな程に、悲壮に満ち満ちた表情で膝崩れるエルミル。

ちょっとだけ哀れに思えて来た……。

だが、少しだけ疑問が残る。

 

「ていうか、私が上げた小遣いはどうしたのよ?」

「全部使った」

「なんすと!?」「ぱんすと!?」

 

ペルソナがいらん事を言っているがそれを無視する。

 

「1ヶ月に12万あげてるよな?」

「うん」

「何に使った??」

「えーと、ゲーミングPC」

「お前……人のこと言えた立場やないが、もうちょい計画的に使ってくれ……」

「はーい」

「まぁ、3万ならええよ」

「本当かい!?」

 

顔を上げて、パァァっと眼を輝く。

ちょっと涙目なのが、うん。

 

「だが、条件がある」

「条件?」

「ああ、買った物をしっかり私に見せること。無論、レシート。残りの金。それを了承してくれるなら、その3万は好きに使うといいわ」

「本当かい!? やったー! ありがとーーー!」

「しっかりと買った物見せろよ? 万引きとか犯罪行為だけはするなよ??」

「分かってるサ! それじゃあ後でアキバに行ってこよーっと!」

 

眼をキラキラと輝かせて、軽やかなステップで自分の部屋へと戻って行った。

その姿は100円を貰った5歳児である。

 

「おい、あのエルミルがオタクに走って行ってるぞ」

「原作のエルミルに比べたらこちらの方が圧倒的に幸せだろうし、いいんじゃない?」

 

確かに、ペルソナの言う通り……なのかな?

私は何とも言えない表情で「まぁ、そうやなー」と言った。

 

「それより、デートしない?」

「唐突過ぎねーか?」

「暇なんだよね」

「朝から暇なんて言うやつあんまりおらんぞ」

「朝ごはん食べた。デザート食べた。歯磨いた。トイレした。発電した。他に何しろっていうのよ。それに私(龍照)は暇じゃないの?」

 

不思議そうな表情で言うペルソナ。

私は幻創むぎ茶を生み出してそれを一呑みしてからこう言った。

 

「ああ、今日久しぶりに月面で龍型エスカダーカーの鍛錬でもしようかなって思ってる」

 

すると、ペルソナは「じゃあ、私も眷属生み出すから、1回戦ってみる?」と言う。

 

「まぁ、ええけどさ」

 

私はそう言って立ち上がろうとした時だった。

バンっ!

と勢いよく扉が開き、物凄い嬉々としたエルダーがやってきた。

 

「闘争の気配を感じたぞ!!!」

「「ああああああああ!!?」」

 

いきなりの訪問に私とペルソナはホラーゲーム実況者レベルの悲鳴をあげてひっくり返った。

 

「あ、す、すまん」

「驚かすなや!!」

「おバカ!びっくりしたでしょ!」

 

キレる私とペルソナ。

シュンっとした表情で反省するエルダー。

だが、直ぐに元に戻り闘争をせがみ始める。

 

「闘争するなら俺も混ぜてくれ!」

「私はええけど……」

 

チラッとペルソナの方を見る。

彼女は「いいよ。三つ巴の戦いになるかな?」と言った。

 

「あー、待って。私エスカファルスに成れない」

「あの龍には成れないのか?」

「部分的には成れるけど完全な姿になるのは、幻創龍に頼まんと無理や」

 

そう私が言うと、エルダーは「んじゃあ頼んでくれ!」と言ってきた。

なんて無茶振りを……。

 

「話聞いてたか?」

〚我は問題ない〛

〚いいよ〛

 

マジか!?

予想外の返答に驚きを隠せない私。

思わず「何故?どうして!?」と聞いてしまった。

 

〚鍛えないと、アイツに勝てない〛

〚面白そう。あともっと強くなれる〛

 

幻創ニーズヘッグが言うアイツとは、ファレグさんの事だろう。

まぁボコボコにされたもんな……。

幻創ミラボレアスは知らん。

なんか初めに見たあのドス黒いオーラとは打って変わって、自由人っぽい感じだ。

ミラボレアスというドラゴンがこの様なものなのだろうか?

それとも、世界中の人々の想いによって生まれた存在故、性格もゴチャゴチャになった結果なのだろうか……。

まぁ、ええか。

考えても仕方ない。

それに敵意や復讐心を持つより、ずっとマジである。

 

 

「いいってよ」

 

私がそう言うと、エルダーは「っしゃああ!」とガッツポーズをとる。

 

「三つ巴でいいんだよね?」

 

ペルソナが確認すると、エルダーは首を振って「いや、お前ら2人で来てくれ!」と言う。

 

「ええのか?」と私とペルソナ。

 

「ああ、不利な状況の方が強くなれるし、楽しい」

「さよか」

「まぁ、別にいいけど」

「っしゃ! じゃあ早く月面に行こうぜ!」

 

 

エスカファルス・エルダーVSエスカファルス・ペルソナ&エスカファルス・リベンジの戦いが決まった。

無論、月の裏側での戦闘だ。

月の裏側に着いた瞬間、刹那の速度でエルダーは完全体に変身。

いきなり巨大な腕を使った叩きつけを繰り出してきた。

 

「はえええよお馬鹿ああああああ!」

「出オチすぎるでしょおおおおおお!」

 

その衝撃波に吹き飛ばされる私とペルソナ。

だが、こちらもむざむざとやられる訳にはいかん。

吹き飛ばされながらも、私たちも変身する。

 

「じゃあ、2匹とも頼むぞ!」

〚……分かった〛

〚あいよー〛

 

私は眼を瞑り、カッと開眼。

左右がニーズヘッグとミラボレアスの眼になり、全身が黒いオーラに包まれる。

 

〚〚「さぁ、行くぞ」〛〛

 

1人2匹の重なった声が聞こえ、黒いオーラを解放し、あのドラゴンが姿を表した。

ニーズヘッグ、ミラボレアス、リオレウスこの3匹を継ぎ接ぎにつけたような姿の龍。

エスカファルス・リベンジだ。

 

「来たか、ドラゴン」

「よそ見厳禁!!」

 

ペルソナは深遠なる闇の姿で、巨大なコートカタナを使って一刀両断する。

 

 

ー崋山撫子・深遠式ー

 

 

「させねえよ!」

 

エルダーは腕に冷気を纏わせて硬化。

巨大な刀の振り下ろしを受けきった。

鉄と鉄がぶつかるような音が木霊する。

 

「硬った……なにこれ……!?」

「炎すら凍らせる氷だよ!」

「絶対零度を、上回るなやぁ!!」

 

文句を言いながら力を込めるペルソナ。

パキパキと氷の割れる音が聞こえてくる。

もう少し、もう少し……。

しかし、そんな鍔迫り合いの中、エルダーは残っている腕を使ってペルソナを羽交い締めにする。

 

「グッ……!?」

「腕はまた沢山あるんだよ!」

 

ペルソナは抵抗するように身体をくねらせるが、エルダーの力は相当なもので解くことが出来ない。

そんな中、エルダーは額の青いコアから紺青色のエネルギーが漏れ出る。

 

「これはヤバいマジで!!」

「耐えてみろよ!!」

 

エネルギーが臨界を超えた時、眩い閃光が額付近を灯す。

 

「破滅の一撃を!!!」

 

エルダーの声と共にエネルギーが放たれた。

しかし……。

 

 

ー創炎ー

 

 

青々しい特大の火球ブレスがエルダーに直撃。

火球の大きさからは想像もつかない規模の爆発にエルダーの身体の半分がバラバラ崩壊した。

 

「っ!?」

 

〚〚「……!!」〛〛

 

ブレスが飛んできた方を見ると、小野寺龍照&幻創ニーズヘッグ、幻創ミラボレアスことエスカファルス・リベンジが鬼気迫る表情で突撃してきた。

 

「!?」

〚〚「叩き斬る……!!」〛〛

 

 

斬造(きりつくり)

 

 

リベンジは咆哮し、前方に巨大な斬撃を生み出して、エルダー目掛けて飛ばす。

だが、リベンジの攻撃はこれだけでは終わらない。

 

 

焔迎え・終炎雨創造り(ほむらむかえ・ゆうだちあめつくり)

 

 

 

再び天高く咆哮が響く。

刹那、月面上空に小さな火の玉が無数に造られていく。

 

「ほう、おもしれーじゃん」

「何もおもんないわ!!味方ごと潰そうとするなあああああ!」

 

〚〚「終われ……!!」〛〛

 

リベンジの言葉に呼応するように、無数の火の玉は小さな槍となって月面目掛けて夕立ちのように降り注いだ。

 

「その雨全部ぶった斬ってやる!!」

「ていうか、空気のないところで炎を顕現すんな!!」

 

ペルソナは愚痴りながら徒花の形態に逆行して、防御態勢に入る。

一方エルダーはエルダーペインを具現化し、ノリノリで切り裂く気満々だった。

 

〚〚「人は愚かなものだ、特にお前」〛〛

「俺は愚かだよ、火の雨を切り裂こうとする奴やぞ舐めんな!!」

 

リベンジの呆れた言葉に堂々と無敵すぎる発言を返すエルダー。

彼の持つエルダーペインが青い光の刃を形成し、リーチが格段に伸びる。

 

「ぶった斬る!!!」

 

 

-オーバーエンド・スラッシュ-

 

 

迫りくる炎の雨をエルダーは巨大なエーテルの刃を纏わせたエルダーペインで全てをぶった斬った。

強力なエルダーのエーテル粒子によって、リベンジが創り出した炎は全て跡形もなく消え去る。

それを見たエルダーは得意げな笑みを浮かべた。

 

「マジか……」

「どうよ?」

 

唖然とするペルソナ。

ドヤ顔のエルダー。

 

〚〚「前言撤回する。お前は化け物だ」〛〛

「当たり前だろ、こちとらダークファルスだ!」

〚〚「それならこれはどうだろうか?」〛〛

 

 

妖焔・蛇火の戯れ(ようえん・へびのたわむれ)

 

 

リベンジの周辺から蛇の形をした蛇がニョロリと現れ、エルダーに巻きついてくる。

それは炎に意思が宿っているかの如く、しつこくエルダーの身体にまとわりつく。

 

「なんてふざけた力だ!」

 

エルダーは愚痴を零しながらも力を解放して、まとわりつく炎を霧散させる。

だが、その隙をついてペルソナが全ての花弁からエーテル粒子を突起させて突撃した。

 

「ぐあっ!?」

「隙ありいいいいいい!」

 

身体の右半分が砕け散る。

エルダーは即座に欠損部位を再生させようと試みるが、往復してきたペルソナの突撃に左半分も砕け散った。

今のエルダーは額のコアより下が破壊されて、本当にたけのこの里のような状態になった。

だが、そのような状態になっても尚、エルダーがくたばるはずもなく。

 

「まだ終わりじゃねーぞ!!」

 

エルダーは自身の氷結能力を駆使して、バラバラになった身体を全て氷で補強した。

 

「どっかの海軍大将みたいなことしてるよ……」

〚〚「我が炎で焼くだけだ」〛〛

 

リベンジとペルソナはエルダーに攻撃を仕掛ける。

 

「応えよ深遠……」

 

エルダーの氷の手が赤い炎を纏い出す。

2人はエルダーのセリフにこれはヤバいと察知し、攻撃をやめてエルダーから一気に距離を置いた。

 

「俺の力にいいいいいいい!」

 

両方の掌に圧縮された炎を解放。

エルダーを中心に大爆発を起こした。

更に大爆発する中から槍の形をした槍が、四方八方に放たれた。

 

 

焔影・動守(ほむらかげ・うごかぬまもり)

 

 

邪眼が光を放ち、リベンジの前方に炎の壁が出現。

迫る槍を相殺した。

 

「へっ、最高だな」

〚〚「同じ意見だ」〛〛

「そんな事言ってる隙あるの?」

 

コートエッジDFEを生み出したペルソナは、大振りの攻撃を行った。

 

「ねえな!」

 

ガギンっ!

と金属音と共に両者の刃のぶつかり合いに火花が散っていた。

 

「くっ!」

「ペルソナも大概つえーぞ」

「ありがとね!」

 

ペルソナはテレポートを使ってエルダーの後方に瞬間移動する。

 

「!?」

「形を示せえええええええ!!!」

「チッ!!!」

 

エルダーは舌打ちをしながら、刀を具現化させて対応する。

 

「これでも防ぐとかバカでしょおおおおおお!」

「褒め言葉だよ!!」

 

金属音、火花が散る音。

2人の力を込めた声。

そんな中、戦況が進む事が起こる。

 

 

〚〚「ペルソナ。そのまま鍔迫り合っててくれ」〛〛

 

 

リベンジはそう言って、天に向けて人吠えした後、上空へと飛翔。

その際、リベンジの顔や腹部、翼は蒼く煌めく炎を纏わせた。

そして、エルダーへと狙いを定め……。

 

一瞬溜めたと思いきや、月面を覆う程の焼き払う火炎放射を発射。

その攻撃にペルソナはマジギレする。

 

「そんな技味方いる前に撃つなぁああああああああ!!!」

「はっ! どんな攻撃だろうが、打ち返してやる!!」

 

鍔迫り合いに勝利したエルダーは、怯んだペルソナを拳でぶん殴り月面に叩きつけた。

そして、エルダーペインを持って再びオーバーエンドを打つ態勢をとる。

 

「さぁ、来いよ!! お前の炎、俺がぶった斬ってやる!!」

 

そう啖呵を切るエルダー。

次の瞬間……。

 

 

-劫火-

 

 

 

火炎放射を爆発的に上昇させ、万象を焦土に変える超絶的な炎をエルダーに浴びせた。

月に近づいていたスペースデブリ等、それら全てを溶かす勢いの熱量の前には、流石のエルダーを抵抗する事は出来ず、補強していた氷の身体も一瞬にして蒸発。

断末魔をあげる暇さえ与えずに、完全体が解けたエルダーは月面に叩きつけられた。

 

 

「ごはぁ!! はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ!」

 

大の字で倒れたエルダーを前にゆっくりと翼を羽ばたきながら着地するリベンジ。

 

〚〚「まだやるか?」〛〛

「いや、俺の負けだ」

 

エルダーは起き上がり、足を崩した体勢で息を切らしながら、そう言った。

 

「こらああああああ!!」

 

ペルソナは大声を上げながら、リベンジの頭をグーでパンチする。

 

〚〚「ぐぅ!」〛〛

「少しは加減しろおおおおおお! 殺す気かああああああ!!」

 

どうやら、先程の攻撃が余程気に入らないらしい。

怒声を上げながら、リベンジをボコボコ殴る。

申し訳ないと謝るリベンジ(完全体)。

切れるペルソナ(完全体)。

仲介に入るエルダー。

 

そして、その様子を伺う1人の影。

 

「ふふ、良い具合に成長しているようですね」

 

その女性は続ける。

 

「全力であなた方と相見える機会が、楽しみでなりませんよ」

 

と。

穏やかなで、だが内側には途方も無い闘争心を秘めた言葉で……。

 

 

 

 

 

12時。

 

転校の件で待っている裕樹。

 

「早く帰ってタッツーと遊びたいな。それと真衣菜をあのマンションに呼びたいな。楽しみだ」

 

そこであのイジメっ子、井地芽 大素気やその取り巻きがやってきた。

 

「おい**!」

 

暴言どころの騒ぎでは無い言葉を裕樹に投げかけた。

 

「……」

 

裕樹は大素気の事を無視する。

こういうのは無視するのが1番だ。

無視されて腹を立てた大素気はニヤリと微笑み、ポケットからスマートフォンを取り出した。

 

「**裕樹さぁ、これ見ても俺達のことシカト出来んのか?」

 

大素気はそう言うと、裕樹に1つの画像を見せた。

 

「え……??」

 

それを見た裕樹は顔を青ざめて画像を見る。

そこには白い液に覆われて涙目になりながらピースをとる真衣菜の姿がいた。

 

「な、なんで……!!」

「んなははははな! お前が入院してる間に、お前の彼女を頂いたんだよ! まぁ、最初は抵抗してたけど、写真の事やお前の事を脅して一日に何回もやったよ!!」

「あぁ、アイツの〇〇〇は最高だったよ!!今日の朝もアイツに抜いてもらったしな!!」

「あいつも馬鹿だよな! こんな**の為に初めてとってたなんてよ!」

「ホントホント!」

 

ゲラゲラと笑う大素気と取り巻き。

更に大素気は続ける。

 

「まぁ、一日何百回もやったおかげで、ヤリ〇ン狂いのクソビ〇チに大変身さ! 金がねえ時はアイツに頼んで夜の店で稼いで貰ってるよ!!」

「う、うそ……だ……」

 

絶望のどん底に叩きつけられる裕樹。

更に大素気はある事を打ち明ける。

 

「あー、そうそう。言うの忘れてたけど、お前の家燃やしたの俺達だからさ!!」

「!!?」

「マジで面白かったよなー! お前のカーチャンやトーチャンの断末魔!」

 

「ああああああああ!!とか、いああああああああ!!とか!! いやいや近所迷惑やからww」

大素気の言葉に取り巻き達がドッと爆笑する。

 

「ゆ、裕樹、あなたは……生きるのよ! 私たちの分、まで……」

「大素気似てるwwwwww!!」

「先輩最高っすwwwwwww!!」

 

炎に巻かれる直前の裕樹の母のモノマネをダミ声ありでする大素気に再び起こる熱狂の嵐。

裕樹は彼女を寝取られ、弄ばれた絶望と幸せな家族を奪われた絶望に発狂寸前だった。

それを見た大素気は満面な笑みで、裕樹の背中を叩いてこう言った。

 

「そう気を落とすなって! いざとなれば、お前の元彼女抱かせてやるから!まぁ、俺たちがいっぱいやったからガバガバだと思うけどなwwwwwwww!」

「それと、もうアイツ快楽で頭おかしくなってお前の事覚えてないかもよwwwwwwwww!」

「だよな! あれもうセ〇クス依存性の廃人だわwwwww!」

 

 

wwwwwwwwwwwwwwww

この場所にいた裕樹以外の人物全てが草原に包まれるほど、大爆笑をしていた。

 

 

「こ、こいつらが……おれの、たいせつなひとを」

 

2つの絶望が裕樹を包む。

その途方も無い絶望は、周りにあるエーテル粒子に反応する程に……。

 

青いエーテル粒子が赤く染まり、裕樹の身体を蝕んでいく。

 

その異常な光景に大素気や他の取り巻き達も異変を感じ、呆然と裕樹の方を見つめていた。

 

 

 

もういいや

おかあさんおとうさん

まいな

たつてる

ごめん

おれは

おれは

 

 

あはぁ

すごいきぶんがいい

さっきまでのきもちがうそのようだ

いまはさいこうにちょうしがいい

ふしぎだ

どうしてこんなにきぶんがいいのだろう

 

 

あぁ

 

 

 

 

 

 

 

こいつらぜんいんころしたい

 

 

 

 

 

 

つづく



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27話 深遠に辿りかける絶望と憎しみと怒り

 

 

 

 

 

 

エルダー、ペルソナとの戦いを終えた私は、家に帰った。

時刻は昼過ぎちょいだろうか。

私は冷蔵庫を開けて空っぽだった事を思い出し、絶望する。

あぁ、そういえば、飯なかったんだ。

私は朝一に近所のスーパーで食材を買いに行かなかったことを後悔し、ペルソナの飯を頂こうと考えた。

元はと言えば、あいつが私の冷蔵庫の中にあるものを食べたのが原因だしな。

 

 

 

「ペルソナいるか?」

 

私はインターホンを鳴らした。

だが返事は無い。

もう一度インターホンを鳴らしたが、やはり返事がない。

もしかして、何かペルソナにあったのでは無いかと、急な不安に襲われた私は、扉を無理矢理こじ開けて、室内に入った。

 

「ペルソナ!?」

「ん?何?」

 

血相を変えてやってきた私に、ペルソナは???といったような顔で私を見ていた。

 

「お前なにやってるんや?」

「ある物を具現化してたんだけど……」

「そういうことか……」

 

私はフーっと一安心する。

多分物作りに集中しててインターホンの音に気づかなかったのだろう。

ちょっとだけ心配した私がおバカだった……。

私の表情に察したのだろう……。

ペルソナはニヤニヤした表情をして「もしかして、私に何かあったと思って来てくれたのー?」と凄い意地悪そうな口調で言った。

 

「いや?」

「本当?」

「エスカファルスがそう簡単にやられる訳ないやろ。相手がファレグさんなら話は別やが」

 

澄ました表情で私は言うが、正直内心心配だったのは内緒。

とりあえず、ペルソナの服装がニーハイにスーパーハイレグの競泳水着なのに関しては一切突っ込まないでおく。

これが彼女の私服なのだから()

 

 

「それで、何作ってるんや?」

「いや、ちょっと私欲性欲に走ってる」

 

凄い口をモゴモゴしながら呟く。

それを聞いて私は何となく察してそれ以上追求しなかった。

いや、ごめん。

うそ。

察しは着いたけど、結構気になったから聞いてみた。

 

「何作ったの?」

「えーと、対魔忍スーツを100着ほど」

「どんだけ作っとんねん!!」

 

あまりの量に私は思わずツッコミを入れてしまった。

私服として使うにしても尋常ではない量だ。

 

「みんなの分も作ったよ!」

「マジで!?」

 

私の対魔忍スーツもあると言われて目を大きくしてペルソナに詰め寄る。

ペルソナは「はい、これ!」と言って私に差し出した。

その小野寺龍照の対魔忍スーツは、黒色のぴっちりとしたスーツだった。

ふうま小太郎氏が着用する対魔忍スーツに、黒い鱗で覆われた袴のような物を付けているイメージだ。

 

「おおおおおー!」

 

それを見た私は歓喜する。

なかなか凄いぞこれは!!

そして私は、ペルソナの有無言わさずに私はそれを着用する。

 

「ワーーオこれは凄いな!」

 

初めての対魔忍スーツを来た私はテンションアゲアゲMAXではしゃぐ。

ピッチリとした密着感で、少し窮屈さを感じるがそれでも何故だが心地良さがあり最高だ。

あと若干の興奮を覚える。

 

「はへー対魔忍スーツってこんな感じなのか!」

「そうだよ! なかなか心地いいよね!」

「ああ!」

 

私とペルソナはワイワイと対魔忍スーツの事で盛り上がった。

 

〚何を見せられているのだろうか……?〛

〚さぁ?こんなピッチリとした防具なんて着て何が良いのだろう?〛

 

そのワイワイと騒ぐ2人に対して、幻創龍2匹は笑えるぐらい白い目で見ていた。

 

「先輩、言われた通り買ってきた物とお釣りだよー」

 

エルミルの明るい声と共にガチャりと扉が開く。

 

「あれ居ない」

 

バタンと閉まる扉。

そして、ガチャりと再び扉が開いた。

 

「あ、先輩いたいた! 買ってきた物とお釣りー!」

 

エルミルはそう言うと、巨大で黒い買い物袋から大量のグッズを取り出してここに置いた。

更に財布からお釣りと何枚もあるレシートも置く。

 

「おけ、じゃあ確認や」

 

私は対魔忍スーツのまま、グッズとレシートに記載されている値段を調べて計算、合計金額が合っているかを確認した。

結果は、グッズと合計金額が一致。

お釣りも間違いはない。

 

「OK。問題ないな」

「じゃあ、僕はこれを部屋に飾ってくるね!」

 

ニコニコ顔で抱き枕やタペストリー等のグッズを持って立ち上がろうとする。

そして、エルミルは私とペルソナを見て口を開いた。

 

「それはそうと、どうして2人はそんな衛士強化装備みたいな服を着用してるの?」

 

そう、首を傾げてエルミルはいった。

どうやら、彼は私があのアニメの話をしたあと、ゲームやアニメを見てハマったらしく、エルミルの室内の1部屋全部が、それ1色に染まっているらしい。

最近では戦術機のプラモを買って組んでいるとか。

かなりのハマりようだ。

いや、ていうか、エルミルが完全にオタク、ネトゲ廃人街道を直球で進んでいる。

 

「あー、どうやらペルソナが対魔忍スーツを作ったらしくてな」

「へー、よくわかんないけど、僕のもあるの?」

「あるよー!これー!」

 

ペルソナは笑顔でエルミルに、彼専用の対魔忍スーツを渡した。

渡されたエルミルは衛士強化装備に近いスーツにテンションが爆上がりする。

言葉に出来ないぐらいテンションがあがっていた。

なんなら、原作のEP5のエルミル・ヴェルンでもここまでのテンションは無かったほど。

 

「すんげえテンション」

「ほんとだね」

 

あまりのテンションに少しだけ引く私とペルソナ。

……ふと、私は1つの疑問が生まれた。

 

「エルミルの対魔忍スーツがあるってことは、エルダーとかのもあるの?」

「あるよ」

「あるんや」

「趣味でマザーやファレグさんのも作ったよ」

「おいまてや」

「あ、いや、土下座して懇願したら着てくれるかなーって」

 

アハハハハハー!と笑って誤魔化すペルソナ。

正直、マザーとファレグさんの対魔忍スーツ姿は少し見てみたいと、なんと言うかスケベ心が沸いてしまった。

だけど、ファレグさんの場合下心を見せた状態で頼もうもんなら、どんな事になるか分かったものでは無い。

 

「マザーはともかく、ファレグさんは辞めておいたほうがいいよ」

「なんで?」

「下心で頼んでみろ。殺されるぞ」

「なんで私が下心前提なのよ!」

「じゃあ、聞くけど、お前マザーとファレグさんのピッチリスーツ姿を下心なしで見れるのか?」

「見れない」

「見れないんやんけ!」

 

ツッコミを入れる私。

 

「まぁ、それはそうとして、エルダーにもあげようかな」

「せやな。多分家におるやろ」

 

私とペルソナがそう言うと、エルミルが自分の対魔忍スーツを見ながら口を開いた。

 

「いまエルダー居ないよ」

「どっか出かけたんか?」

「ああ、なんかルーサーと月面で戦うとかなんとか」

 

そう言うと、私とペルソナは眉を顰めてエルミルにきいた。

 

「エルダーまた戦ってるの?」

「凄い体力やな」

「なんか、ルーサーが失恋したっぽくて、見かねたエルダーが戦って気分転換しようぜ!的な」

 

そのエルミルの言葉に、一瞬時間が停止。

その時間は1秒もなかっただろう。

だが、その1秒は私たちには10秒すら感じた。

そして、私達はえげつない程驚愕する。

 

「ルーサー失恋したんか!!?いつの間に!?」

「さすがルーサーね。名前の通りだわ」

 

驚く私、まぁまぁ酷いことを言うペルソナ。

それを見ながらもエルミルは続ける。

 

「どうやら、図書館であの詩音って子に会ったけど、彼氏が居たらしくて」

「「あーーーーーー」」

「で、マンションの入口で凹んでる所にエルダーと僕とあって、月面で戦うって」

「なーるほどね」

「それで気分が晴れるのかな?」

「知らない」

 

ペルソナの言葉にエルミルは首を振る。

 

 

 

月面

 

 

「うぉぉおおおおああああああああぁぁぁ!」

「だああああああああぁぁぁああああああ!」

 

エルダーペインとダルスソレイドがぶつかり合う。

エーテル粒子の衝撃波が月面に広がる。

 

「深遠と創造の先に全知へ至る道がぁある!!!」

「来いよルーサー!!!」

「我が名は失恋者(ルーサー)!! 幻創(ぜんち)そのものだあああああ!!!」

 

振られたショックを誤魔化すかの如く、いつもより猛々しい形相で技を繰り出す。

10本の剣が具現化。

それらがエルダーを囲うように展開する。

 

「時よ止まれえええええええええええええええええええええええい!!!!!」

 

ルーサーの言葉通りに時間が停止する。

巨大な剣から魔法陣が現れ、1秒ずつ小さな針が生まれでる。

それは正しく時計のようだ。

 

「時の牢獄にて、散れ!!!」

 

 

無限時獄(インフィニティーム・ヘル)

 

 

時間が止まった世界でルーサーは巨大なエネルギー弾を形成しそれをぶん投げた。

時が止まったエルダーは何も出来ずにそれを直撃する。

 

「これで終わりだな」

 

勝利を確信したルーサーは、いつもの口調でそうつぶやく。

だが……。

 

「なっ!?」

 

ルーサーは驚愕する。

その場にエルダーはいなかった。

そして、そのエルダーの気配はルーサーの背後に感じ取れた。

エスカ・ヒューナルとなったエルダーが口を開く。

 

「俺が時の牢獄を破った。お前のエネルギー弾が直撃する瞬間に、ヒューナル体になってな。やれやれだぜ……」

 

エルダーは続ける。

 

「どんな気分だ? 時を止めている時に動かれる気分は?」

 

そして、エルダーは指を指しながら大声で言う。

 

「これから、あれを壊すのに1秒もかからねぇぜ?」

「え、エルダー風情がっ……!!」

 

 

 

ペルソナの部屋

 

 

「なーるほど、フローとフラウが学校だよね?」

 

ペルソナが聞いてきたので、エルミルは頷く。

私も「せやな」と言った。

 

「アプレンティスは?」

「アプレンティスは……ねぇ」

「ああ」

 

エルミルと私は、何か意味ありげな感じでお互いを見合った。

「??」とペルソナは首を傾げた。

 

 

 

 

天星学院初等部

 

 

「じゃあ!この問題を解ける人ー!」

 

女性の先生の言葉にその教室にいた生徒たちが一斉に手を挙げる。

はーい!はーい!と。

先生は周囲を見渡して、手を挙げている1人を指さす。

 

「じゃあ、小野寺フロー君!黒板まで来て答えてくれるかな?」

「はい!」

 

フローは椅子から立ち上がり、元気いっぱいの声でそう言うと、自信満々の様子で黒板までやって来てその問題の答えを書いた。

それを見た先生は「正解!凄いね!」とフローを褒める。

少しだけ照れくさそうな表情になるフロー。

そして、そのような光景を遠くで見つめる1人の影がいた。

 

「あぁー、みんな可愛いなー……」

 

木の中から双眼鏡でフローとフラウの様子を監視しているアプレンティスだ。

建前上は、ダークファルスであるフローとフラウが確りと学校に通えているかを監視しているのだ。

決してアプレンティスは、他の男の子や女の子を遠くから見たいから、監視している訳では無い。

 

「いやぁー、ホントに目の保養になるなぁー」

 

驚く程、口が緩んでヨダレを垂らしてはいるが、決してそんなつもりは……ないのだ。

 

 

 

 

 

ペルソナの部屋

 

 

「ハリエットは?」

「僕は知らないよ?」

「ハリエットなら、野菜の種でも買ってるんじゃない?」

「あー、ハリエット家庭菜園大好きだもんね!」

 

ペルソナはそう言うと、エルミルは虚ろな目をして「そうだね。ハリエットの家庭菜園を邪魔したら養分を吸われるぐらい怒るほど、ハマっているからね……」と物凄い低い声でつぶやく。

 

「そういえば、お前エスィメラ騒動でエライ事になってたもんな」

「ああ、あの時のハリエットの表情はサキュバスだよ。正直二度と経験したくないね……」

 

暗く話すエルミルに私とペルソナは哀れみの目で見つめた。

 

 

すると……。

 

 

ドゴンっ!!

と何かが爆発するような音が聞こえてきて、少しだけマンションが揺れた。

 

「「「!!?」」」

 

私達は驚き、ベランダに飛び出る。

見ると遠くの方で黒煙があがっていた。

何か起こったのか。

ペルソナとエルミルはすぐさまエスカファルスの戦闘衣に変えて、私は対魔忍スーツの状態で上に黒いジャケットを着てベランダから飛び降りた。

 

「とりあえず行ってみるか!!」

「だね!」

「何だかワクワクするねー!」

 

冗談言ってる場合かと私は走りながらエルミルに注意する。

そんなことをしている間も、黒煙が上がり爆発が発生していた。

ただ、黒煙に近づけば近づくほど、ペルソナとエルミルの表情が曇り始める。

私は「??」と怪訝の表情を浮かべていた。

 

「凄い嫌な感じ」

「負の感情が凄いね」

 

2人がそのような話をしている内に、黒煙が巻き上がる場所に来た。

現場は消防車や救急車、パトカーが何台も停車しており、警察達もいた。

そして、私は冷や汗を流した。

黒煙が上がっていた場所は学校だった。

しかも、香山裕樹の通う学校だ。

その学校は爆発によって半壊し、中から生徒や先生の悲鳴が聴こえてくる。

 

「誰か助けてぇぇえええええ!!」

「やめろ!来るな!!助けてお母さん!!!」

「ぎゃああああああ痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいい!!!」

 

学校から聴こえる悲鳴に私は反射的に耳を塞いでしまう。

 

「裕樹……!!」

 

だが、裕樹の心配の方が上回り、フェンスをよじ登って学校に走り出す。

 

「龍照!!」

 

エルミルの制止も聞かずに全力で走る。

すると……。

学校の下足室から生徒が2名、血相を変えて走ってきた。

 

「助けて下さい!!助けて下さいいいいい!」

「お願いします助けてぇぇえええええ!!」

 

私はパニックになる生徒に近づいて、とりあえず保護しようと考えた。

しかし……その生徒達は突如、悲鳴を上げて苦しみ始める。

 

「ああああああああああ!! 嫌だ!!死にたくない!!死にたくないいいいい!明日俺の誕生日……!!!」

「やだああああああ!死にたくない!!帰って楽しみにしてたゲームがああああああ!!!」

 

2人は壮絶な血相で膝から崩れ初め……。

 

「「ウオオオエエエエエエエエエエエエエエエエエエエぇぇぇぇぇ!!!」」

 

口から……ドス黒いドロドロした液体を吐き出した……。

血じゃない……。

肉でもない、本当に黒い液体……。

イメージするなら、千と千尋の神隠しでカオナシが嘔吐をするシーンがあるだろう。

あの嘔吐物全てが黒い絵の具のようなものと、言えば何となく想像がつくだろうか?

そんなイメージだ。

 

そして……。

地面を真っ黒にした2人の生徒は顔を上げて、手を差し伸べてくる。

 

「た、すけ、て、誕……生、日、ケーキ……いっぱ……」

「おか、さ……たす、け……て……死に、た……く……」

 

顔をあげ、手を差し伸べる2人の顔はドロドロの黒い液体に溶け崩れていた。

そして、差し伸べた手や体も溶け崩れ始める。

 

「……な、にが……?」

 

身の毛のよだつようなおぞましい光景に私は、後ずさりしてしまう。

更に溶け崩れた身体から羽化するように1つの生命が誕生する。

それはまるで卵から飛び出す獣のように……。

生徒だったドロドロ肉片が地面に散らばる中、その生物は何か声を発して佇んでいた。

 

〚これは……!?〛

〚うわー、グロ……〛

 

2匹の幻創龍も余りの光景にドン引きしていた。

それは私も同じこと。

グロい何てもんじゃない……。

まりもちゃんでもここまで恐怖は感じなかった。

あれも大概やが……。

そして、その生物を見てさらに私の思考がバグり始める。

HDDバーストどころの騒ぎではない程に、私の頭の中はバグを起こしていた。

 

その生物は、限りなくpso2に登場するダガンに似ていた。

ホントにそのまんまと言っても良い。

強いて言うなら、色が通常のダガンより更に黒くドロドロとしているぐらいの違いだ。

 

「た、んじ、ょう…び……だ、た……に、」

「げー、む……た、のし……み……だ、たの……」

 

ダガンから、そのような声が聴こえてきて私は青ざめる。

死んでる訳では無いのか?

意識はあるのか?

私はバグった頭で必死に考える。

この場合、私はどうしたらいい?

マザーに見てもらうのか?

殺すのか?

どうしたらいいんや?

全身の震えと鳥肌が止まない状態で必死に考える。

そんな私に、2人のダガンは私の姿を見て襲いかかってきた。

 

「……!!」

 

私は咄嗟の所で回避をし、2人の攻撃を躱す。

殺すか?

殺していいのか??

ていうか、なんでこの地球にダーカーがいんの!?

やっと思考が正常に戻ったのか、私は根本的な部分に疑問を持った。

それと同時にダーカーがこの世界に現れた事で、私はかなり狼狽する。

ダーカー特有の能力を知っていれば誰だって焦るだろう。

他者を侵食し操る力。

それが地球で、そんなことをされたら洒落にすらならない。

私は全力で2人のダガンを止めにかかる。

意識があろうが無かろうが関係ない。

ここで私が食い止めなければ、地球その物が侵食されてしまう。

私はエスカダーカーであるエスモスを具現化し、ダガンに向けて特攻させる。

特攻したエスモスは爆発し、エスカダーカー因子を散布した。

あれがダーカーならエスカダーカー因子が、ダーカー因子を侵食し、エスカダーカーへと突然変異するはず。

だが……。

 

「嘘……だろ……?」

 

そのダーカーは突然変異をすること無く、ピンピンしていた。

何故、私は完全に再現したはず、何故?

2つの候補が上がる。

 

1つ目は、ダーカーへの侵食機能が正常に具現化されていない。

2つ目は、目の前にいるダーカーは、我々のエスカダーカーと同じく、見た目がダーカーなだけで中身は全く別の存在である。

 

この2つだ。

どっちだ?

マジでどっちだ?

そんなことを考えていると……。

下足室が吹っ飛ぶほどの衝撃波が発生し、瓦礫が吹っ飛んできた。

 

「ちょっ!?」

 

私はジャンピングダイブで回避する。

何が起こったのか。

私は下足室の方を見ると、砂煙の中から異形の怪物が姿を見せた。

ホントに異形。

なんか、エイリアンというか。

全身に口のような物があってトゲトゲの牙がウニウニ動いている。

「ファンタジースター千年紀の終わりに」に登場する深遠なる闇の第1形態と言えば分かりやすいだろうか?

それを黒いドロドロした液体を付着した感じだ。

とりあえず、グロすぎる見た目である。

ただ、これだけは分かる。

本気で行かないと死ぬ。

と。

 

私の身を案じたペルソナとエルミルが駆けつけてきた。

ただ、エルミルの表情が凄い曇りきっている。

 

「おい、エルミル大丈夫か?」

「あ、ああ。大丈夫だけど……」

「何?こいつの正体が分かるのか?」

 

私は、怪物に目線を逸らすことなくエルミルに問いただす。

すると、エルミルは重々しく口を開いた。

 

「……この怪物……裕樹だよ」

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

 



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28話 オルガ・ファルスとエスカファルス

 

 

 

 

 

「……は?」

 

エルミルの言葉に私は絶句。

絶句どころの騒ぎじゃないな。

アンガ倒した時にアーレス武器を引いた時レベルに絶句した。

私はエルミルに言われた事が信じられなくて、もう一度聞き返す。

だが、エルミルは顔を暗くして「僕たちの目の前に居るのは、裕樹だ」と返ってくるばかりだ。

 

「……」

 

その言葉を聞いて、私は絶望を前にするような表情で異形となった裕樹を見る。

その姿は最早裕樹の面影すら残していない。

 

「裕樹……?」

 

私は目の前にいる存在に語りかけるが、その存在は何も言わずこちらを見つめていた。

そんな事を余所に、2匹のダガンは奇声を上げながら、私達に攻撃してくる。

 

「危ない!!」

「わーお!ダーカーがダークファルスに攻撃してくるなんて世も末だね!」

「普通にエスカファルスだからじゃない?」

「そんな馬鹿な言ってる場合やないやろ!!」

 

全員が飛び上がって散開。

攻撃を回避する。

 

「じゃあどうする?先輩?」

 

着地しながら、私にそう訊ねた。

私は少し考えて、2人に指示を出す。

 

「私が裕樹を抑えておくから、ペルソナは学校内にいる生存者を救出、エルミルは警察や野次馬達に避難を呼びかけてくれ!」

「了解サ!」

「あいよー!」

 

そう言って、2人は地面を蹴って言われた場所へと向かって行った。

私はそれを見届けた後、集まってくるダーカーもどきと、変わり果てた裕樹を見つめる。

 

「裕樹」

 

私はもう一度、彼の名を言うが返事はなく、無数の口を動かすだけだった。

多分、もう裕樹としての意識はないのかもしれない。

それでも、私の頭の中には「殺す」という文字は浮かんでこなかった。

殺せる訳がない。

どれだけ変わっても裕樹は、この世界に来て初めて出来た友人だ。

どうにかして救い出したい。

私は襲い来るダーカーもどきの群れをいなしながら考える。

 

だが、人がダーカーへと成ったのを見た感じ、ここで倒さないといずれ地球が滅びる。

倒すしかないのか?

ほかに手段はないのか?

 

私が考えてる間も、エルアーダやダガンなどのダーカーらしきモノは私に攻撃を仕掛けてくる。

皆、人のような声で何かを呟いている。

 

「殺るしかないのか……」

 

私は5本の指を揃えて、腕にエーテル粒子を纏わせて長剣状の刃を形成。

それで襲い来るダーカーもどきを切り裂いた。

 

「おか、さん……」

「さ、よ……ら……」

 

ダーカーはそのような声が聴こえて、消滅した。

……精神が抉られる。

 

「もっ、と……いき、た……った……」

「、とう、さ、ん……」

「ありが、と……」

 

私は苦悶の表情で、ダーカーもどきを殺害し続けた。

殺す間際、この学校の生徒だった男女の声が私の耳に入ってくる。

……私からすれば、これは地獄以外の何物でもないないものだ。

精神がキツい。

これは一生モノのトラウマとなる……。

 

「ペルソナ頼む、1人でも多く救ってくれ……!!」

 

私はそれを願いながら、元は生徒だったダーカーを切り裂いていく。

 

 

 

校内……。

 

 

「っ!?」

 

ペルソナは校内の惨劇を前に目を逸らした。

そこは、地獄そのもの。

制服の切れ端、肉片、黒い液体が床や壁に散乱しており、そこかしこにドロドロのダーカーがいた。

 

「エスカファルスでも、これはキツいよ……」

 

一瞬吐き気を催しかけたが、それをグッと我慢してコートエッジ・ESを手に取って生存者を探し回る。

 

「誰かいますかーー?」

 

ペルソナは比較的に大声で叫びながら校内を歩き回る。

だが、その声に反応するのはダーカーのみ。

 

「ころ、し……て……」

「た……け、て……」

「も、や……だ……」

 

消え入るような、か細い声で呟きながらダーカー達……ダーガッシュ、ブリュンダール、パラタ・ピコーダは襲いかかってくる。

 

「ごめん……」

 

ペルソナは歯を食いしばってコートエッジを振り下ろす。

全て一撃で葬り去った。

 

「あり、が……」

「あ、り……う」

「……りが……う」

 

感謝の言葉を述べて消滅するダーカーもどきを見て、ペルソナは呟いた。

 

「精神もたないよ……」

 

 

 

 

学校玄関口

 

 

「皆ここから逃げた方がいい!」

 

エルミルは必死にそう叫ぶ。

1人の警察官がエルミルに駆け寄った。

 

「警視庁の高木です、何が起こっているのですか!?」

 

高木と名乗る警察官がエルミルに訊ねた。

エルミルは「エーテル粒子の暴走により異形の怪物が現れた。マザークラスタで対処するので、それまでは近隣住民を遠くへと避難させてください!」と狼狽した雰囲気で言った。

それを察した警察官は他の警察官・消防官・救急隊と連携をし、野次馬や市民の人々をなるべく遠くへと避難させる。

 

「皆、落ち着いて避難してください!!」

「ただいまマザークラスタの方が対処しております!! 落ち着いて避難してください!!」

 

警察官達のおかげで野次馬及び近隣住民が避難をし、ここ一帯は誰も居なくなった。

警察官達も避難が完了した事をエルミルに伝え、避難する。

それを見届けたエルミルは自身の眷属を具現化した。

 

「幻神城・エスカランザーバレエス」

 

城壁が出現し、学校を隔離するように囲んだ。

更にエルミルの目の前に幻神城の本体が出現し、多数の防衛設備、更にはドーム状のバリアを顕現させて完全に学校を隔離した。

 

「あとは任せたよ」

 

エルミルはそう言いながら幻神城のてっぺんまで登り、幻神城にエーテル粒子を送りながら龍照を見つめた。

 

 

 

 

 

「……さて……どうするべきか……」

 

私は裕樹以外のダーカーを殲滅。

残るは裕樹だけだ。

どうする?

どうしたらいい?

私は冷や汗を垂らしながら考える。

 

【うぐおおおおおおおおお!】

 

遂に裕樹が私に攻撃をしてきた。

雄叫びを上げて無数の口から黒いヘドロを吐き出す。

 

「うおおおおおおおお!?」

 

私は驚きながら、翼を具現化して飛行する。

なんじゃあれ!?

滞空しながら黒いヘドロを見ていると、その黒いヘドロから新たなダーカーが生まれでた。

 

「……oh」

 

私はその光景に呆気に取られながらも、斬撃を生み出して生まれたダーカーを殺しにかかる。

斬撃が直撃したダーカーは水風船が割れた時の水のようにバシャっと黒いヘドロとなって消滅する。

コイツらはそんなに強くはないな。

ノーマルのダガンに、クラースエッジでブライトネスエンドを放つ感じだ。

それくらい脆い。

 

「……」

 

私は裕樹を見つめる。

……戦うしかないのか?

 

〚何をグズグズしている!?〛

〚はやく攻撃しろ!!〛

 

幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスの怒りの声が聴こえる。

その怒りの声に私はビクッとする。

 

「し、しかし、相手は裕樹──」

〚その裕樹がこちらに危害を加えてきたのだから、攻撃するのは当たり前の事だろう!!〛

〚今のアイツは裕樹じゃない!! 怒り、憎しみ、絶望、復讐心に駆られて支配された怪物に他ならない!!〛

 

2匹の幻創龍は続ける。

 

〚攻撃を与える内に、裕樹の人格が蘇る可能性もある。本物の我の時のように!!〛

〚それに、そんな悠長に考えていると地球が終わる!! 龍照はそれでいいの!?〛

「わ、分かった」

 

確かに2匹の言う通り、ここで裕樹を止めないとep4にすら行けない。

やるしかない。

私は意を決し、2匹の幻創龍に頼み龍へと成った。

 

〚〚「裕樹を救う」〛〛

 

私は口から火球ブレスを1発放った。

裕樹も無数の目から赤いレーザーを撃って攻撃する。

だが、その攻撃を躱して攻撃を行う。

 

 

 

波世焔・雨宮紫水(はえほむら・あめみやしすい)

 

 

 

若干紫がかった青い火炎放射を上空に吐き、その炎が雲を象り炎を雨のように降らした。

降り注ぐ雨のような炎は地面に落ちると共に炎上し、周囲を炎に包んだ。

私は続けて攻撃を続ける。

 

 

綴世焔・技尊舞炎(つづるよほむら・ぎみことまえ)

 

 

龍の眼を光らせて、炎上する炎を操作。

異形となった裕樹の全身を炎で巻くように操った。

 

【おあああああああああ!!】

 

炎に包まれ、裕樹は絶叫する。

だが、その声は最早裕樹のものでは無かった。

ゲッテムハルトと【巨躯】の声ぐらい違う。

 

 

岩世焔・詩原真龍(いわよほむら・しはらまり)

 

 

 

再び龍の眼を光らせる。

魔法で地面を操り鋭利な形状となった地盤を浮かせ、それを裕樹に突き刺す。

黒いヘドロが吹き出し、暴れ回る。

その黒いヘドロはダーカーの形を形成するが、炎上する炎によって直ぐに焼かれてしまい消滅した。

 

〚〚「やりすぎたか?」〛〛

 

私は攻撃し過ぎたかと不安になり、攻撃を止めた。

だが、その考えは杞憂に終わる事になる。

彼の無数の口々から黒いヘドロを吐き続けた。

私は少し離れてその様子を見て警戒をする。

 

〚〚「何をしている?」〛〛

 

彼のその行動に不審に思いながら見つめていたが、とりあえずろくでもない事が起こることだけは理解出来た。

そのような事を考えていると、裕樹の身体に異変が起こっている事に気づく。

 

〚〚「萎んでいるのか?」〛〛

 

裕樹の身体が徐々に萎んでいっているのだ。

まるで、空気が抜ける風船のように。

そして、遂には裕樹の身体は野球ボール程の大きさになり、ポンっと破裂していなくなった。

 

〚〚「……?」〛〛

 

私が呆気に取られていると………。

突然黒いヘドロがマグマの如くゴボゴボと沸騰し始めた。

私の嫌な予感が頂点に達して、火球ブレスを撃つ構えを取る。

黒いヘドロの中から巨大な腕が伸び、全身を持ち上げるようにして姿を見せた。

そして、堕天使のような黒い翼を羽ばたかせて、私の前に現れた存在は、マガツとオルガ・アンゲルスを足して2で割ったような比較的スマートな巨人。

身体はマガツ、顔、翼はオルガ・アンゲルスといった感じだろうか。

正直結構カッコイイと私は思った。

だが、このままにするのはヤバいので、私は遠慮なく火球ブレスを放つ。

だが、裕樹はその火球ブレスを片手で受け止めた。

 

〚〚「まぁ、何となく予想はついてた」〛〛

 

私はそう呟いて宙返りしながら尻尾から炎の斬撃を飛ばす。

 

【……】

 

炎の斬撃を裕樹は巨大な腕で弾いた。

私は次の攻撃を仕掛けようと行動に移る。

しかし……

 

【……】

 

裕樹は黒い翼をバサりと広げ、両翼から黒い魔法陣を出現させる。

更に、その魔法陣から黒いエネルギー弾を発射し、弾幕を張った。

 

〚〚「ちっ!!!」〛〛

 

私は体を丸くし、翼を全身に覆うように広げて弾幕から身を守った。

黒いエネルギーの弾幕は私の翼に何十発、何百発も直撃してしまい地味な痛みを感じた。

 

【……】

〚〚「……やばい」〛〛

 

1分ほど弾幕が続き、それが終わった時には私の翼には穴あきチーズのようになり空に飛ぶことが不可能な程になってしまった。

急速に再生をしているが、その前に私の体が持つのかどうかだ。

 

【……】

 

裕樹は全身からレーザーを発射。

所構わずレーザーで薙ぎ払った。

 

〚〚「っ!!?」〛〛

 

私はそのレーザー弾幕を火炎放射で相殺してやり過ごす。

レーザーの照射された場所には照射後が残り時間差で爆発を発生させた。

私は火炎放射に集中したせいで近くに照射された事に気づかず爆発に巻き込まれてしまった。

吹き飛ばされて、プールサイドに激突する。

 

〚〚「ぐぅ!!」〛〛

 

私は背中に痛みを感じ呻く。

だが、ここで怯んではいられない、私は起き上がり力を解放する。

一瞬、周囲の音を殺す程の熱量を発生させて、顔や腹部、翼に蒼く煌めく炎を纏わせた。

 

〚〚「死ぬなよ」〛〛

 

私はそう呟き、口から蒼く煌めく火球ブレスを放つ。

裕樹はさっきの火球ブレスのように片手で止めようとするが、止めた瞬間にさっきの非ではない爆発が起きて裕樹の身体はバランスを崩しかける。

 

【……!?】

 

〚〚「今!!」〛〛

 

私はその辛うじてバランスを保っている片方の足目掛けて突撃をする。

念の為にその巨大な翼にも火球ブレスをそれぞれ三発ずつ撃った。

命中したが、予想以上に翼は頑丈で羽が舞うだけで完全に燃やし尽くす事は出来なかった。

 

〚〚「転けろおおお!!」〛〛

 

巨大な龍の突撃を受けた裕樹は完全にバランスを崩してぶっ倒れた。

 

【……!!?】

〚〚「動くなあああ!!」〛〛

 

私は起き上がろうとする裕樹を力づくで阻止。

ゼロ距離火球ブレスをお見舞いしようとするが、裕樹は手で私の口を抑えてブレスを防ぐ。

私はその腕を尻尾を使って離そうとする。

 

〚〚「暴れるなやあああ!!」〛〛

 

裕樹と私の取っ組み合いの中、私は魔法を使って地面から巨大な岩盤を出して裕樹にぶつけた。

 

【……!!】

 

痛みを感じたのか一瞬だけ私の口を抑えていた腕の力が弱まる。

私は顔を横に振って裕樹の腕を振りほどき、ゼロ距離火球ブレスを撃った。

ゼロ距離なだけあって、私も大爆発の余波をくらい吹き飛ぶ。

だが、私以上に裕樹の方がダメージが大きかったようで、右腕が吹き飛んでいた。

 

〚〚「……」〛〛

 

私は受身を取ってすぐさま体勢を整えて裕樹目掛けて扇状の火炎放射を吐こうとした。

しかし、裕樹も残った左腕から特大のエネルギー弾を1発、私目掛けて撃ってくる。

その特大エネルギー弾は、火炎放射を撃つ直前の私の顔に直撃し、口の中にあった炎に誘爆。

 

〚〚「ーーーーーーーー!!?」〛〛

 

顔が焼けるような激痛が走り、私は吹き飛ばされて幻神城の壁にぶつかった。

顔と背中に、足の小指と金玉をテーブルの角に同時にぶつけたような痛みが走る。

私は声にならない声を上げて悶えた。

その隙を裕樹が見逃す筈もなく、起き上がり片手を天に掲げる。

黒いオーラを纏い上昇。

その瞬間に回避が不可能とすらも思える程のレーザーを辺りに照射した。

マガツの天からの光すらも凌駕する攻撃に私は、激痛に耐えながら体育館を壁変わりにして攻撃をやり過ごす。

 

〚〚「めちゃくちゃや……」〛〛

 

私は悪態をつき、嵐が止むのを待つ。

ただ、壁変わりにしている体育館もそのレーザーの猛攻には耐えきれず、あっという間に崩壊してしまった。

壁が無くなった私はレーザーに晒されてしまい、何発も直撃する。

 

〚〚「……ぐううううう!」〛〛

 

顔と背中の激痛すら治まっていないのに、更に傷口に塩を塗られ、顔を歪ませる。

 

〚〚「ーーーーーー!!」〛〛

 

私は一か八かの賭けにでる事にした。

激痛の身体に鞭を打って、再び突撃を開始する。

裕樹は翼を広げて、無数のエネルギー弾を放った。

その瞬間、私は龍形態から元の小野寺の姿に変化させる。

両手にエーテル粒子を纏った刃を形成させて、迫り来るエネルギー弾を切り裂きながら裕樹に向けて走り出す。

そして、裕樹に近づいた瞬間に再び龍へと変身。

両手両足を使って裕樹の片手を鷲掴みにして持ち上げ、裕樹を幻神城壁目掛けて投げ飛ばす。

 

【……!!?】

 

いきなりの行動に裕樹は何も出来ずにそのまま壁にぶつかり倒れた。

私は再生しかけている翼を無理矢理羽ばたかせて空中に飛ぶ。

そして、特大の技を放つ。

ニーズヘッグがこの技を使うのはダメだが、こいつは幻創ニーズヘッグだから、まぁ良いか。

 

私は生成した炎を収束させ、それを解き放つ。

 

 

ーエスカ・フレアー

 

 

私の雄叫びと共に収束した炎が爆発。

無数の炎の弾が不規則の動きをしながら、裕樹や幻神城壁に直撃。

今までの爆発を超越した大爆発を発生させる。

更に一瞬視界が真っ白になる程の爆発が裕樹を包み混んだ。

 

 

 

 

全てが終わった後、裕樹のいた周辺の城壁は焼け焦げ崩壊寸前だった。

 

〚〚「……」〛〛

【……】

 

私はボロボロになった裕樹を見つめる。

 

〚〚「裕樹……」〛〛

 

私は裕樹に語りかけた。

すると……。

ボロボロの裕樹は顔を上げて消え入るような声で喋った。

 

 

【た……っつー?】

 

 

と。

 

 

 

 

 

 

続く



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29話 狂気に抗え!! 希望を捨てるな!! 夢を諦めるな!!

 

 

 

 

 

学校内。

 

 

「……誰かいないの?」

 

私(ペルソナ)は、校内を走り回った。

しかし、いるのはダーカーもどきだけ。

消え入る声で何かを呟き、死ぬ時に感謝の言葉や嘆きの言葉を発して消滅する。

地獄以外の何なのだ??

私の精神は元生徒達の声により蝕まれ掛けていた。

 

「……皆ダーカーになったのかなぁ……」

 

廊下には黒いヘドロと肉片だけ、これが全て生徒や教員のものだと考えたら絶望しかない。

負の感情によって生まれた深遠なる闇が、絶望を感じるのは中々に笑える事ではあるが、これは流石に笑えない……。

凄惨や惨劇という言葉では片付けられないほど、この学校は終わっていた。

……何故、どうしてこんな事に?

何故、裕樹があのような異形の存在に?

負の感情にエーテル粒子が反応したっぽいけど、あそこまで行く負の感情なんて……何があったの?

私は考えながら、廊下を歩いていると奥の教室から声が聴こえる。

 

「生存者!?」

 

私は走って、その教室へと走った。

声が聴こえる教室は2ー1と書かれた教室だ。

 

「大丈夫!?」

 

私が扉を蹴破りながら入ると、そこには1人の男子生徒がブリアーダに襲われていた。

 

「た、助けてください!!!」

「!!」

 

私は有無を言わずに、ブリアーダに切りかかる。

真っ二つに切り裂かれたブリアーダは溶けるようにバチャリと消滅した。

 

「大丈夫!?」

 

直ぐに私は男子生徒の元に駆け寄った。

 

「だ、大丈夫です! ありがとうございます!」

 

男子生徒は立ち上がり、深くお辞儀をした。

とりあえず、私はアンティレスを使って彼を回復させ、彼に質問をした。

 

「この学校で何が起きたの?」

 

私がそう問うと、彼は首を振って「分かりません。いつものように友人と話をしていたら、突然爆発が起きて生徒達が変な生き物に変わって……さっきの虫も僕の友人で……」

「そう……ごめん……」

 

男子生徒の言葉に私は謝罪をした。

彼は「気にしないでください。友人も苦しんでいたから、こうして手に掛けてくれた方が幸せだったかも知れません」と私を慰めてくれた。

 

「ここは危険だから、早くこの場から離れよう! 大丈夫私がいるから安心して!」

 

そう言って、私は男子生徒の腕を掴んで学校から離れる。

廊下を走ってさっきとは違う下足室に差し掛かろうとした時───。

突如、男子生徒がピタリと立ち止まった。

私は「どうしたの? もうすぐだから少し我慢して逃げよう!」と言うが、男子生徒は悲しそうな表情になり、口を開いた。

 

「すみません。どうやら僕もダメみたいです」

「……え?」

 

男子生徒の言葉に私の頭は一瞬停止する。

そんな私を無視して男子生徒は言葉を続けた。

 

「本当にすみません。ここまで来たのに……どうか逃げてください……!!」

「そ、そんな……」

「は、早く……僕が、僕で無くなる前に……!!」

 

男子生徒の目が血走り口から黒いヘドロを垂らしながらも力を込めて暴走を抑えながらそう言った。

私はどうしていいか分からずアンティレスを使い彼を治癒しようとした。

その時だ。

男子生徒は徐ろに自分の服を破いた。

その男子生徒の脇腹を見て私は「ひっ!?」と声を上げてしまう。

その男子生徒の脇腹いっぱいに黒い卵のような物がこびり付いていた。

そして、その黒い卵が一斉に孵化し、ハエくらいの大きさのダモスが一斉に湧き上がった。

 

「!!?」

「身体の言うことが……! すみません、もし可能なら母にこう伝え、てください……! ぐっ……僕を育ててくれてありがとうございます、と……! 僕の名前は……!!!」

 

男子生徒がそう言いかけた瞬間……。

 

「オアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

耳を裂くような金切り声と共に身体が溶けだし、ブリアーダに変貌した。

 

「……う、うそ……」

 

その光景に私は涙目で佇むしかなかった。

だが、佇む私に向けて先程の男子生徒が語りかけた。

 

「早、く……にげ、て……!」

「あ……」

 

ブリアーダとなった男子生徒の声で私は正気を取り戻し、コートエッジ・ESを握りしめる。

 

「ごめん……どうか……安らかに……!!」

 

私は苦しませないよう、全力でダモス諸共、ブリアーダを斬ろうとする。

ブリアーダは抵抗することも無く私の刃を受けた。

 

「あり、がと……ご、いま、す……」

 

ブリアーダと化した男子生徒は、優しい声で私にそう言って消滅した。

静寂となった廊下で、1人になった私は歯を噛み締め涙を流して呟く。

 

「……どうして……どうしてこんな事に……!!」

 

私は涙を拭いて、生存者を探しに3階へと向かった。

1人でも救わなくちゃ……!!

心に決めて階段をかけ登る。

 

「……」

 

だが、3階も同じ溶けかけた肉片やヘドロが、絵の具をぶちまけたように散乱しているだけだった。

私は走って全ての教室を確認していく。

 

「誰かいますか!?誰かいたら返事してください」

 

大声でそう言った。

来るのは、ダーカーもどきだけ。

私を殺してください。

友人の元に逝きたい。

何で俺がこんな目に。

家族に会いたかった。

嫌だ、死にたくない。

もっと生きたかった。

このような声が聞こえてくるばかりだ。

 

その中、私が1つの教室を確認した時、教卓の中で女子生徒が震えているのに気づき、私はその女子生徒に駆け寄る。

 

「大丈夫!?」

 

黒髪ロングヘアーの女の子だ。

私の存在に気づいた女子生徒は涙目で私に抱きついてきた。

 

「お願いします助けてください!!」

 

少しパニックになっている女の子に私は「うん! 私と一緒に学校から避難しよう!」と言って彼女を落ち着かせる。

何があったのかは聞かず、私は彼女を連れてここから出る事にした。

 

「急ごう!」

 

その時、学校全体が揺れるような地響きが発生した。

私は不意に窓から身体を出すように外を確認する。

私の目に広がるのは黒いヘドロに染まった地面に降り立つ黒い巨人とそれを見つめる黒い龍という光景だ。

 

「あれが、裕樹の姿??」

 

私は呆気に取られていた。

だが、そうもしていられない。

私は彼女と共に学校の窓から逃げる事にした。

この子だけでも救いたい!!

怯える彼女を抱きかかえ、3階の窓から飛び降りた。

 

「よし、ここからエルミルに頼んで幻神壁を解除して逃げるだけよ!」

 

私は女の子にそういった時、私たちがいる近くの窓ガラスが割れ、エルアーダとブリアーダが襲撃。

 

「!!」

 

私は鬼のような表情をして迫る2匹の羽虫を真っ二つにする。

早くここから逃げないと!!

2匹の消滅を見て、女の子の手を引こうとした時……。

 

「え?」

「あ?」

 

女の子の腕がとれたのだ。

何が起こったのか、分からない。

女の子も困惑している。

自分の腕が切れている事を認識されていないのか、呆然としていた。

だが、その瞬間……。

 

「……!?」

 

女の子の首と腹部から血が吹き出し、首と腹部が地面に転がる。

 

「…………え?」

 

ペルソナは困惑し、何が起きているのか分かっていないようでそれを見ていた。

上半身を失った下半身は崩れるようにバタリと倒れた。

 

「…………え、え?」

 

殺された女の子の後ろにいたのは、黒いプレディカーダ、黒いディカーダがおり、そのプレディカーダ達は女の子だった肉の塊を喰い始める。

 

「………………う、そ……」

 

私は突然の出来事に持っていた武器を落とし、女の子がプレディカーダ達に喰われているのを、ただただ茫然と見ているだけだった。

 

「……や、やめて、その子から……離れろぉぉおおおおおお!!」

 

だけど、直ぐに我に返った私は発狂に近い声をあげて、プレディカーダに襲いかかる。

コートサーベルを具現化はしたものの、その刃は非常に脆くプレディカーダを切断する事が出来ず、逆に刀が真っ二つに割れた。

せっかくの食事を邪魔されたプレディカーダ達は私を殺そうと襲いかかってくる。

 

「この、野郎……!!」

 

私は崩れかけている精神を必死に耐え、エスカ・ディーオに姿を変化させて左腕に3本、右腕に3本の闇で出来た槍を作り出してプレディカーダ達に投擲、串刺しにした。

更にその槍が黒い爆発を起こしてプレディカーダ達が爆発四散する。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

私はエスカ・ディーオのまま肉の塊に消えるような小さい声で呟いた。

 

「…………ごめん……救えなくて……」

 

と。

私はしばらく、その場から動けることが出来ずずっと、肉の塊を見つめていた。

だけど、身体に異変を感じて正気を取り戻した私は龍照達のいる場所へと向かったのだ。

 

 

 

 

少しだけ時間が戻る。

 

 

【た、つー……】

「裕樹!!」

 

私はエスカファルスを解いた。

裕樹の意識を取り戻せた。

これで救える。

私は確信し、裕樹の元へと駆け寄った。

 

「裕樹、大丈夫か!?」

【今は、大丈夫……】

 

その声は全身に力を込めているような低い声をしていた。

 

【タッツーが、この化け物に……攻撃を、与えてくれた、おかげで何とか、僕の意識を……】

「そうか、待ってろ! 裕樹を救ってやる!! マザーに言って元の状態に……」

 

私がそう言うと、裕樹は首をゆっくり横に振った。

 

【無理、だよ。僕の身体は、絶望や怒り、憎しみに……支配されて、元に戻れない……】

「んな事言うな! 大丈夫や!! マザーに頼めば元の姿に!!」

【ごめん、せっかく、友達になれたのに……】

「シャレにならん事言うな!! 今すぐ呼ぶから待ってくれ!!」

【も、もうじき……僕の意識が無くなる……そうしたら、終わる……だから、僕は……】

 

裕樹はそう言うとおもむろに立ち上がり、巨大なエネルギー弾を生み出した。

 

「おい、まて!! 何をするつもりや!!」

【僕は……罪のない生徒たちを、殺して……しまった……だから、もう生きる資格、はない……!! それに、僕がこのまま、入れば……この世界の皆が、化け物になって、しまう……】

 

私は彼がやろうとしている事を理解し、それを阻止しようとする。

上から見ていたエルミルはそれは行けないと、幻神城に備わっている兵器で裕樹が生み出したエネルギー弾を狙撃、破壊を試みる。

しかし、その攻撃では裕樹のエネルギー弾を破壊することは叶わず、それどころかその攻撃を吸収して更に大きくなった。

 

「やめろおおおおおおおお!」

 

私はエスカファルスとなって、本気で止めにかかる。

だが、そんな事を尻目に裕樹は私に一言だけ呟いた。

 

【ありがとう。こんな僕と友達になってくれて……】

 

彼はエネルギー弾を自身の胸に力強く当てた。

その強力なエネルギー弾を受けた身体は赤黒い光を放ち、小さな粒子となって破裂するように霧散。

巨人がいた所には、笑顔で事切れた裕樹がいるだけだった。

 

「ゆ、裕樹……!」

 

私は彼の亡骸の前で膝から崩れ落ち、裕樹に話しかける。

だけど、裕樹は喋ることは無かった。

 

 

「あぁ……あぁ……!!」

 

私は頭を抱えて発狂するのを、自分の心が壊れそうなのを必死に抑えた。

手の震えや悪寒が止まらない。

今すぐにでも精神が壊れそうな感覚に襲われる。

 

 

「先輩!!」

 

心配で龍照に駆け寄ってくるエルミル。

だが、そのエルミルも胸を抑えて苦しみ出した。

エルミルだけじゃない、エルダー、ルーサー、アプレンティス、フロー、フラウ、ハリエット、ペルソナも全員が想像を絶する苦しみに悶え出す。

 

具現武装とは、使い手の意思と心の強さが反映されている。

つまり操る者の心が壊れれば、その人の具現武装も崩壊する。

龍照の具現武装はエスカファルス。

つまり彼から生み出された8人のエスカファルス達は今、文字通り生死を彷徨うという非常に不味い状況にある。

 

「ぐぐぐぐぐぐ……!!!」

 

龍照は白目を裂きつつも歯を食いしばって必死に心が壊れるのを耐えていた。

 

「先、輩……!!!」

 

胸を抑え、口からエーテルを吐きながらエルミルは龍照の元へと必死に駆け寄る。

 

「正気を、取り戻すんだ!!」

「あぐぐぐぐぐぐ……!」

「先輩がこのまま、壊れたら! マザーや、べトール達を救う事が……はぁ、はぁ、はぁ! 出来なくなる!!」

「も、もう……無理だ……!! 目の前で……大切な友人が……!!」

 

「対魔忍の世界に、行くんだろ!? 救うんだろ!? そんな所で……ぐぁあ! あき、らめるのか!!?」

 

自身も壊れそうな程苦しいのにも関わらず、必死にエルミルは龍照を正気を取り戻そうと大声をあげる。

 

 

「龍照!!」

 

学校の方から龍照を呼ぶ声がきこえる。

龍照とエルミルは苦悶の表情を浮かべながら、ちらりとそちらへと視線を向けた。

そこにはペルソナが苦悶に歪めた表情で、今にも倒れそうな歩き方で龍照へと歩み寄る。

 

「夢を諦めるな!! 対魔忍に、なるんでしょ!? マザー達を救うんでしょ!?」

「だ、だけど……心が!! 心があぁぁぁぁ!!」

 

龍照の悲痛の雄叫びが響く。

それに対して、エルミルは必死に呼びかける。

 

「狂気に、抗え!!! 希望を……捨てるなああああああ!!!」

「ぐううううう!」

 

〚龍照、お前は我に、本当の人間を見せてくれるのはないのか? それとも、お前も我と同じ道を歩むのか?〛

〚龍照ー! もっといっぱい人のいい所見せてくれらんでしょ? 良い人悪い人それぞれ見たけど、私はまだ人を見たいんだけど?〛

 

「……そ、それは……!!」

 

幻創龍達の言葉に少しだけ正気を取り戻し始める。

 

〚我に見せてくれるのだろう? 人間の可能性や暖かさを……〛

〚可能性はファレグさんで十分分かったから、後は人間の暖かさを感じたいな〛

「……」

 

「対魔忍の世界行って、綴木みことちゃん達と、チーム組むんでしょ!?」

 

ペルソナの言葉に私は心の痛みが和らいで行くのが感じ取れた。

 

「……わ、私は……」

 

たっつー。

 

「!?」

 

裕樹の声が聴こえる。

 

たっつーまで狂ったらダメだ。

僕と同じ場所に来ては行けない。

たっつーは、やる事があるんでしょ? 夢があるんでしょ?

それなら、死んだ僕の事なんてもう忘れて、たっつーはたっつーの目的の為に生きるんだ。

 

と。

そういったのだ。

そして、最後に

 

短い間だったけど、君と出会えてよかった。

僕は君の活躍を向こうで見るよ。

だから、君も夢に目指して頑張れ。

ありがとう。

 

 

 

「裕樹……」

 

私は涙を流し、バタリと気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「負の感情を持ったエーテルか。素晴らしいエーテルだ。これならあれを動かすのに使える!」



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30話 破滅は止まらない。

 

 

 

 

あの事件から1日が経過した。

私は他のエスカファルス達に連れられて月面へ来た。

 

「身体には何の異常も見られない。極めて正常な状態だ」

 

オフィエルは私の全身をスキャンしてそう言った。

そして、カルテと思われる紙に何かを書いてマザーにそれを渡した。

それを受け取ったマザーは一通り目を通して『ふむ。』と頷き、オフィエルに『ありがとう。』と言った。

 

「他のエスカファルス達にもエーテルの異常は見られませんでした。ですが、一応マザーの方からも診る方がよろしいかと」

『ふむ。分かった。私からもエスカファルス達の身体検査を行うとしよう。ありがとうオフィエル。』

「それでは、私はこれで」

 

深く一礼をすると、オフィエルは隔離術式を使い、地球へと転移した。

 

「すみません。このようなことになってしまって……」

 

私はマザーに深々と謝罪した。

マザーは首を横に振って『問題ない。それよりも君の友人の冥福をお祈りする』と静かに言った。

 

「……」

 

私は自分の不甲斐なさに涙が止まらなかった。

その姿を見ていたエスカファルス達も目を瞑り、何を言わなかった。

 

「……」

 

あの後、あの事件は世界中のニュース番組に報道され、今も恐ろしい程に騒ぎになっている。

私も、昨日は警察からの取り調べを受けて精神的にキツかった。

それでも、マザーや日本政府程ではないだろう。

記者会見で、恐ろしい程の質問攻めにあっていた。

 

そして、私の供述やマザーの考察から日本政府は「イジメによる怒りや絶望がエーテルに強い影響を受けて、男子生徒が負のエーテルに呑まれて暴走した」という結論に至った。

私もそうだと思う。

アイツが無闇矢鱈に人を殺すなんて思えなかった。

 

「……でも、どうして裕樹がダーカーを……」

『……不明だ。』

「そう……ですか……」

 

私は顔を曇らせて俯いていると、オフィエルが転移してきた。

 

「小野寺龍照。君のデータを確認したが、血圧が少し高い。もう少し検査をしたいからついてきてくれ」

「あ、はい」

 

私は返事をして、オフィエルに連れていかれた。

多分、最近ご飯とか色々と食べすぎたからだろうと思った。

 

龍照とオフィエルがエレベーターで下に降りたのを確認したエスカファルス・エルミルとペルソナは、マザーに問いただした。

 

「ねえ、マザー。本当に分からないの?」

 

その言葉にマザーは目を瞑り、少しの静寂の後ゆっくりと語った。

あくまで私の推察である。

それと、その事で君達が責任を負う必要は断じてない。

という前置きをして……。

 

 

あのダーカーは、小野寺龍照の影響によって生まれたものでは無いかと言うことだ。

 

龍照がこの世界でエスカ・ダーカーやエスカファルスを過剰に具現化した事で、待機中に浮遊するエーテル粒子がエスカ・ダーカーの情報を記憶。

そして、裕樹の絶望に反応したエーテルの中に、エスカファルスを記憶したエーテル粒子が大量にあり、裕樹をダークファルスへと変えた。

だが、そこに違いが生まれる。

 

小野寺龍照が具現化したダーカー、ダークファルスは、「ただただ綺麗でカッコイイダーカーを生み出し、とある人々を救いたい」という負の感情ではなく正の感情によって生まれた存在。

 

一方、裕樹はイジメによって絶望、怒り、憎しみと負の感情により本来のダークファルスに近い存在に成り果てた。

そして、そこから生まれたダーカーも原作のダーカーに近い物へと成った。

という事だ。

 

「……」

 

ペルソナが何か言おうとした時、マザーがペルソナの言葉を遮った。

 

『どの道、龍照がエスカダーカーを具現化せずとも、それが別の物に成り代わっていただけだ。君達が責任を負う必要はない。』

「……」

『君達は変わらずに過ごすといい。それとその事は龍照には言わない方が良い。』

「分かりました」

 

ペルソナ達は一礼をして、マザーの検診を受けることになった。

 

 

『ふむ。』

 

マザーは全てのエスカファルスをスキャンして一息ついた。

そして、口を開く。

 

『どこにも異常は見られない。ただ、ペルソナはもう少し食生活に気をつけた方がよい。』

 

マザーは少しジトッとした目つきでペルソナを見つめていた。

それにプイっと目を逸らすペルソナ。

 

『食べすぎだ。』

「はい、すみません」

 

マザーの注意にペルソナはシュンとしてぺこりと頭を下げた。

 

 

『検診はみんな以上はない。もう下がって大丈夫だ。』

 

マザーはそう言うと、エスカファルス達はお辞儀をして地球へと戻って行った。

 

 

 

 

皆が帰った後、マザーは月の中枢へと戻り昨日起こった事件が綴られたデータを確認する。

 

『……裕樹が生み出したダーカー……。エスカファルスともダークファルスとも違う存在……。』

 

マザーは昨日のエーテル粒子の波状、構造を確認する。

そして、裕樹がダークファルスへと成り果てた時のエーテル粒子の構造に目を通した。

 

『このダーカーのエーテルの構造……やはり、小野寺龍照のエスカダーカーの構造になっている。……ん?。』

 

エスカダーカーの構造を見ていると、ふと異様に構造が違っている事に気づいた。

例えるなら、真っ直ぐな心電図が急に波打つように、上下に動き出すような感じだ。

 

『これは……』

 

マザーはふと大昔、フォトナー時代に、ある科学者が生み出した存在を思い出す。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

その時、私はカプセルの中に揺蕩うようにいた。

私の目の前には、小型モニターで私のデータをチェックしている科学者と、その後ろで何やら開発をしている科学者がいた。

 

 

 

『完成した……遂に完成したぞ!!』

 

その白衣を着た科学者が雄叫びを上げる。

そこには種のような物体があった。

 

『おいドール、また下らねえモンを開発したのか?』

 

同僚の科学者がドールと名の科学者に絡むように話しかける。

 

『下らねえモンとは失礼だねアザマ君! これこそ僕達人類を守る自立型成長侵食ウイルス【SEED】!』

 

そう言ってドールは小さな種を見せる。

そして、そのドールは説明をする。

 

いいか?

この種を植え付けられた存在は生物、無機物問わずに侵食して我が意のままに操る事ができる最強の種なのさ!

 

自信満々に得意げに彼はそう言った。

だが、もう1人の男、アザマは「はぁ!?」とコイツ頭おかしいんじゃねーか?と言いたげな口調で言った。

 

『バカ!お前何て物を作ってんだ!』

『だから、これさえあればこれから全宇宙を統治する際に歯向かう蛮族共が入ればこれで、ポンっ! よー!』

『お前なぁ、そんな物を作ってみろ! 七の男神や十三の女神の耳に入ろうものならお前は永久追走だぞ!』

 

そう言われて膨れっ面になるドール。

だが、それだけ言われても食い下がるドール。

 

『待て待て、ルーサーさんにこれを見せたら……』

『やめろ、あのサイエンス変態にそれを見せたらそれこそ不味い!』

『面白いことになりそうじゃ……』

『バカ! お前本当に怒られるぞ! お前マジでヴァルナ様に報告するぞ!』

 

ヴァルナの名前を聞いたドールは突然顔色を変えて『わかったよ』と言って、ドールは近くにあった機械を操作、宇宙空間に小さな亜空間を開けて、SEEDと呼ばれる種を廃棄した。

 

『捨てたよ、それよりコピーシオンの様子はどうだい?』

『あぁ、これはダメだ。性能としては惑星シオンのスペックを優に超えている。だが、制御が効かない』

 

アザマは私の方を見て、キッパリと言い切った。

 

『これは亜空間に廃棄だな』

 

と。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

『忌まわしい記憶だ。』

 

嫌な記憶を思い出し、少し不快な気分になったが、裕樹が生み出したダーカーのエーテル構造にそのSEEDに似た構造が含まれていた。

だが、似ているだけで別物である事だけはわかった。

何故、SEEDに似た構造がダーカーに含まれているのかは謎だったが、おかげで人間が一瞬にしてダーカーに変異した理由がわかった。

 

ダーカーに変異した生徒や教員達は、エスカダーカー因子とSEEDウイルスの両方を一気に体内に侵入されたのだ。

どうりで侵食まで一定期間を要するダーカー因子よりも超短期間で変異する訳だ。

更に言えば、完全なダーカーではないから、龍照が持つダーカーを侵食するエスカダーカーも効かないわけだ。

 

『さしずめ、オルガ・ダーカー。オルガ・ファルスと言ったところか……。』

 

私はそう呟いた。

……だが、そうなると裕樹が自らの手で命を絶ったのは懸命な判断だったのかもしれない。

あのまま行けば、世界は負の感情を持ったエスカダーカーとSEEDを複合したオルガ・ダーカーによって地球その物がオルガ・ダーカーになっていた(1部を除く)可能性がある。

実際に、現状地球に舞うエーテルに異常は見られずSEEDのようなものは見られない。

もちろん、そんな事は龍照には口が裂けても言えない。

 

 

『……』

 

だが、なんだろうか……。

嫌な予感がする。

私の演算すら遥かに上回る、破滅的な事態が……。

 

『まずは各国にマザークラスタの支部を配置、幹部の増員をして、戦力増強を図ろう。』

 

私はそう思い、各国に連絡を送った。

近い未来に想像を絶する事象が起こる。

それに備えるため、私は動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

夜の9時。

 

 

 

「たでーま」

 

私こと小野寺龍照はオフィエルからの検診を終えて家に戻ってきた。

 

おかえりー!

 

と、エスカファルス達が出迎えてくれた。

少しだけ心が洗われたような気がする。

 

「はぁ……」

 

私はソファーに座り、とてつもない深いため息をつく。

あの後、マザーに裕樹の葬儀について訊ねたが、仮にもダークファルスに近い存在になった為、葬儀を行う事ができず、浄化機能があるエーテル粒子の膜に覆われた棺に入れて埋葬するしかないとのことだ。

だから、私は裕樹が入った棺に花を添えてアイツが天国に行けるように祈った。

 

 

 

「……」

 

……。

……。

 

「あれだな……」

 

私は口を開く。

曇りきった静寂の空間に私の声が響く。

 

「ど、どうしたの?」

 

ペルソナが返答する。

 

「前に、好きなキャラクター、女性キャラクターの死に関して話したやんか……?」

「うん……」

「私さ、よく思うんだよな。私が強くて死ぬ運命を辿るキャラクター達を守りたいなって……その後の、そのキャラクターがどんな未来を行くのかなって考えるのが好きでな……」

「……」

「まぁ、限界突破したキモオタの考える蛇足な妄想やんか。その時の私はただの一般人。そんな事ができる訳が無い」

「うん……わかるよ……」

「でもさ、この世界に来てエスカファルスに近い力を手に入れて……これならそういうシチュエーションもいけるんじゃないか?って思った訳よ……」

 

静かに死ぬのではないかと思えるような声で話す龍照に、他のエスカファルスは居た堪れない気分になった。

 

「でもさ、実際、友人すら救えないんだよな……。エスカファルスの力を持っていて、このザマよ……。何も救えなかった」

「ぅん……」

 

龍照の言葉にペルソナも昨日の生徒達のことを思い出して、涙がポロポロと出てきた。

 

「何がエスカファルスや……。何がこれで救えるや……。友人1人も救えんとか……これじゃあ、べトールも、マザーも救えない……私は、エスカファルスの強い力をもった無力な人間や……」

 

龍照の言葉に皆が静かに俯く中、1人だけ口を開いた。

 

「おい、龍照。まさか、それで終わりなのか?」

「……」

 

エスカファルス・エルダーだ。

エルダーは少し険しい表情で龍照を見つめながら、そう言った。

 

「救えなかった。自分の無力を実感した。それで終わりか?」

「……」

「違うだろ? もうこんな事が二度と起こらねえ様に無力な自分に縛られず、己の全てを鍛える。違うか?」

「……」

「まぁ、これからどうするかは、龍照次第だ。ただ、これだけは言わせてくれ、本物の俺のようになるな……!」

「……!!」

 

エルダーの言葉に龍照は何も返事はしなかった。

だが、何か空気が変わったのを感じ、ペルソナ以外のエスカファルス達は各々の部屋へと戻って行った。

 

「そうやな……」

 

龍照は呟く。

ペルソナは「え?」と言って顔を上げた。

 

「まだ、傷が癒えてないけど、エルダーの言う通りや……。これで終わりじゃない……」

「……」

「今すぐに……とは無理だけど、あんな悲劇を繰り返す事がないように……私はもっと強くなる……!」

「そう、だね。そうだよね……!」

 

龍照はユラっと立ち上がりそう口を開いた。

ペルソナもその姿を見て立ち上がった。

もうあのような悲劇は繰り返させない。

もう、誰一人として失わさせない。

もっと強くなり、必ず救う。

2人はそう心に誓った。

 

 

〚我も、ファレグ・アイヴズを倒すために……!〛

〚私は元から強いから別にいいかな〛

 

 

 

 

 

 

 

 

黒いマザーシップ。

 

 

「主様何処へ行くのですか?」

 

少女は主である男性に話しかける。

男性は、何やら装置を持って「大丈夫。ちょっと大切な用事があってね。すぐ戻ってくるよ」と言い、持っている装置をを操作して、姿を消した。

 

「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」

「ああ、行ってくるね。あぁ、この転移装置は少しだけ範囲が広いからもう少しだけ離れた方がいいよ」

 

姿の見えない男はそう言うと、転移装置を使いどこかへ行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

龍照が元いた地球。

 

夜の12時。

大阪自然公園。

 

「にゃーアイツどこ消えたんや?」

「分からない。どこに消えたんだろう……」

 

pso2仲間である大原栄志と藤野キイナは、小野寺龍照の消息不明に話し合っていた。

原初の闇の初討伐を終えてから連絡が途絶えてしまい、それを不審に思った大原と藤野は警察に連絡して捜索届けを出したのだ。

だが、一向に小野寺の消息が掴めず捜査が難航していた。

 

「……神隠しか?」

「本当にそうだとしか考えられない」

 

小野寺と同じく民俗学を専攻している大原が呟く。

同じく民俗学を専攻している藤野もその意見に肯定的だ。

 

「そういえば、エレベーターを使って異世界に行く方法があるってネットで見たよ!」

「やめとけ、本当に行けたとしてもアイツのいる場所に行けるとは限らん」

 

藤野の提案に大原が却下する。

その時だ。

自分たちの近くで何やら光が輝きだした。

 

「え? 何この光!?」

「し、知らん! 眩しい!!」

 

震える声で話す2人。

そんな中、青い光に包まれて人が姿を現した。

その人は白衣を着た男性だった。

 

「おや? しまったな。どうやら座標を間違えた様だ。透過状態も解けている。んー仕方ない。もう一度座標を設定し直して転移だ」

 

白衣の男性は冷静にそう呟きながらも、手に持った機械を操作して姿を消して再び転移しようとする。

その姿に完全に我を忘れて固まる2人。

その2人に気づいた男性は丁寧な口調でこう言った。

 

「君たち、危ないから離れていなさい。この転移装置は少しばかり強力で転移する対象範囲が広い巻き込まれても知らないよ」

 

と、知らないよと言い終わるところで、既に転移装置のボタンを押していた。

 

「え?」

「え?」

 

2人は理解が及ばない間に、白衣の男性の転移装置に巻き込まれてしまった。

 

 

 

 

 

 

続く

 



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エピソード3 造られた光と大いなる闇
31話 マザークラスタ幹部【四神】と【神淵】


 

 

 

 

あの事件から3年が経過した。

私達は3年の期間を得てかなりの成長を遂げた。

エスカファルスとしての力以外にもフィジカル面でもかなり鍛え抜いたと思う。

それでも私を含むエスカファルス勢全員がファレグさんに勝てないのは何かの不具合だと信じたい……。

マジでHDDバースト並の不具合だと思ってる。

何で深遠なる闇級の攻撃を何食わぬ顔で弾き飛ばしているのかと……。

 

話がズレたが、もちろん3年の間に色々な事が起きた。

1番驚いたのが、私のpso2仲間にして大学の友人2人がこちらの世界にやってきた事だ。

正直あれはかなり焦った。

そしてもう1つ。

最近……というか1年前に起きた出来事だ。

私が月面基地で、ペルソナと戦っていた時の事だ。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「おらぁ!!」

 

私の拳がペルソナの顔面に直撃する。

ペルソナは「べぶっ!?」っと情けない声をあげて地面に吹っ飛んだ。

 

「まだまだぁ!!」

 

私は地面を蹴って倒れたペルソナ目掛けて腹パンを決めようとした。

 

「食らえ!擬似クエイクハウリング!!!」

「食らうかあぁぁぁぁ!!」

 

ペルソナは脚を思いっきりあげて、私の股間を蹴りあげた。

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!??????」

 

想像して欲しい。

深遠なる闇が繰り出す本気の金玉蹴りを。

視界が光に包まれ、エス・アンジェス達が優雅に飛び交う光景が見えた。

 

「がっあ……!」

 

私は目玉が飛び出るほどの激痛を感じ、口から胃液が少しだけ漏れ出た。

そして、悲鳴にすらならない悲鳴をあげてプロ野球選手ばりのホームランボールの如く吹き飛んで、そのまま痙攣したまま動かなくなった。

 

「お、お……お、おおお、お。お……おっ……お……」

 

陸に打ち上げられた魚の如くビクンビクン震える私。

ペルソナも息を絶え絶えになりなって立ち上がる。

 

「弱点を狙わない訳ないよね!」

「お、ま……え……それ、は……だ、め……」

 

私は股間を必死に擦りながらペルソナに訴えかける。

下腹部に激痛が走り、立つことが出来ない。

月面に情けない呻き声が木霊する。

多分今までで受けた攻撃で1番キツい。

痛みを受けているのは私だけじゃない。

 

〚ぐあああああ……!!!〛

 

幻創ニーズヘッグもまた激痛に悶えているようだった。

その様子は分からないが声を察するに、のたうち回っているのだろう。

あんな断末魔聞いたことない。

なかなか新鮮だが、今の私にそんな事を思う余裕などあるわけが無い。

 

〚そんなに痛いの?〛

 

一方、幻創ミラボレアスは痛みを感じていないようで、幻創ニーズヘッグに不思議そうに聴いているようだ。

それに対しての幻創ニーズヘッグの言葉が。

 

〚話しかけるなぁぁぁ……!!!!!〛

 

である。

 

 

「さぁ、どうする? まだやる?」

 

ドヤ顔で言うペルソナに、それはもう殺意が沸いた訳ですよ。

私は物凄い目つきで睨みながら「当たり、前……だろうが!!」と内股でヒクヒクさせながら啖呵切る。

それはまさに能力着けで95パーセントを落とされつつも、諦めずに能力着けをする歴戦のアークスである。

 

だが、その戦いは一通の電話によって幕が降ろされた。

 

携帯端末の画面を見ると、エルダーからだ。

私は、内股のまま電話を取る。

 

「はい、もしも……」

「おいお前ら!!」

 

エルダーの怒気が私とペルソナの耳を貫く。

ハンズフリーにしていないのに、ペルソナにも聞こえているレベルだ。

 

「ど、どうした?」

 

私は戸惑いながらもエルダーに訊ねた。

すると、エルダーは非常に狼狽した様子で状況を説明し始める。

 

「デパートが突然爆発して崩壊した!! いま警察や消防達が来てやべえ事になってる!!」

「は!?」

「はい!?」

 

エルダーの状況に私とペルソナは呆気に取られる。

その衝撃は股間の痛みを完全に吹き飛ばすには十分過ぎた。

呆気に取られている中、エルダーの怒声は続く。

 

「まだ生き埋めになってる人達もいるんだ!! いま他のエスカファルス達も救助してる!! 手伝ってくれ!!」

「わ、わかった!!」

「今行く!!」

 

連絡が終わった瞬間に、私達はポータルを使い転移。

自宅にたどり着いた私とペルソナは窓を勢いよく開き、ベランダから飛び出した。

私は背中に幻創ミラボレアスの翼を顕現させ、ペルソナはその身をディーオ・ヒューナスに変えて上空へと飛翔する。

 

「どこや?」

「あそこじゃない!?」

 

キョロキョロと周囲を見渡す私にペルソナは、あそこではないかと指さす。

そこを見ると、少しだが黒い煙が上がり赤色灯と思われるものも見えた。

 

「あっこか!!」

「急ごう!!」

 

私達は全速力で空を蹴り、崩落したと思われる場所へと翔けた。

そして、絶句する。

そこは超大型デパート「鍋利臼(なべりうす)」と呼ばれるデパートだ。

そのデパートが跡形もなく崩壊し、阿鼻叫喚の凄惨な地と化した。

 

「2人とも来たか!! 下にまだ人が残ってるんだ!!」

 

エルダーは大声で私たちに叫んだ。

私とペルソナは急いでエルダー達の方に向かう。

だが、その時私の耳に男の子の悲痛な叫び声が入ってきた。

 

「誰か!! 誰かああ!!」

「すまん、向こうに!!」

 

エルダーの方はペルソナに任せて、私は全部の言葉を言う前に男の子の方に走った。

 

「大丈夫か!?」

 

赤い髪をした男の子の方に駆けつけると、男の子は涙目で私に助けを求めた。

 

「父さんと母さんが!!」

 

パニックになっているのか、必死に瓦礫の方を指さして叫び声を上げている。

その子の言っている事が理解出来た私は瓦礫をどかそうと力を込めた。

 

「大丈夫か!! しっかりしろ!! 今助ける!!!」

「父さん!!母さん!!今助けてくれるからしっかり!!!」

 

私は全力で力を込めて巨大な瓦礫をひっくり返す。

瓦礫の下には真っ赤に染まった男性と女性がいた。

 

「いま治療する!! 死ぬな!!!」

 

私は大声をあげて男性と女性に話しかけ、エスカ・アンティレスをかけた。

頼む、生きてくれ!!

私は祈りながらアンティレスで治癒する。

 

 

 

しかし……。

 

「傷が深すぎて……全然塞がらない……!!」

 

崩落時の衝撃があまり強すぎたせいか、男性女性共々傷が癒えることがなかった。

それどころか……男性の方は……もう……。

 

「父さん、母さん!!!」

 

男の子は涙をボロボロ流しながら2人の手を取る。

母と思われる女性は力ない声で男の子に話しかけた。

 

「エン……ガ……」

 

と。

その時の私は、その子の母親の治癒に必死で気づいていなかった。

 

「お母さん、死んじゃダメだ!! ここで死んだら息子さんが悲しむ!! 絶対に生きるんだ!!!」

 

私は懸命に母親に語りかける。

だが、母親は自分の死を悟ったのだろう。

カタカタと震える手で男の子の手を持って、今にも消え入りそうな、か細い声で話す。

 

「聞いて……エンガ……これ、からは……あなたが……ヒツギを守ってあげて……」

「母さん……!」

「しっかりね……えんが……」

 

男の子も涙でぐしゃぐしゃになりながらも、母親の手をギュッと握りしめ、「わかった、俺が……しっかりと守るよ……やくそく、する……」と呂律の回らぬ言葉でそう言った。

 

「……」

 

私は、また助けられなかった……。

悔しさと無力感で涙が止まらなかった。

 

 

 

 

結局、このデパート崩落事故での死亡者数は702名。

負傷者は137名。行方不明者が3名に登った。

そして、爆破の原因は20人程のグループが行ったと報道された。

理由などは明白にされておらず、ネットなどでは様々な憶測が流れている。

しかし、私はその犯人について、心当たりがあった。

このデパート崩落事件だが、私はpso2をやった時にWikiやpixivで見たことがある。

私の予想が正しければ、この犯人は狂信的なマザークラスタのメンバーによる独断行動ではないかと考えた。

確か、そんな設定があったはず……。

だが、その仮説について1つ引っかかるのが、向こう……原作世界ではエスカタワーの建設の為の土地買収に応じなかったデパートを爆破したという歴史だったはず。

こちらは既にエスカタワーは立っており、マザークラスタの支部建設の為の土地買収……。

という事になっている。

 

……私がこの世界に介入した事で歴史が変わってる?

それとも、原作の方でもWikiで見たデパート崩落事件の前にこの崩落が起きていて、また少ししたら八坂一家が巻き込まれるデパート崩落事故が起こるのか?

 

……考えていても仕方がない……。

 

あの男の子を救急隊に預けた私は、意気消沈した様子で瓦礫の撤去作業を手伝った。

瓦礫には赤黒い色をしたものが付着しており、やるせない気持ちになる。

正直、その狂信的なマザークラスタメンバー全員を皆殺しにしてやろうかと考えてしまった。

 

 

 

「深遠なる闇やダークファルスに準ずる存在は……人を救うことができないのか……?」

 

私は無意識にそう呟いた。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

これがデパート崩落事件だ。

あの後、マザーから"無用な破壊行為を禁ずる"というルールが作られた。

更に被害者たちへの償いとして金銭面での援助を始めたそうだ。

このことから、あれがWikiなどでみたデパート崩落事件のようだ。

という事は、あの中に八坂一家がいたのか……。

無事だと良いのだが……。

 

 

 

「……」

 

私はデパート崩落の場所に献花をして、黙祷をした。

 

 

 

 

「……」

 

5分の黙祷を終えた私はゆっくりと歩き、どこか適当にブラブラしようと考えた所で、今日の夜、8時にマザーから緊急の召集がかかっているのを思い出し、おもむろに早歩きで自宅へとかえることにした。

 

「ただいま」

 

私はいつもの自宅マンションに帰宅。

すると……。

 

「あ、お、おかえり……」

「お、おかえる……」←多分噛んだ。

 

藤野キイナとデカパイ仮面ことペルソナが、私の冷蔵庫で食べ物を物色していた。

 

「……」

 

藤野キイナ。

私の中学からのpso2仲間で、共に皇龍海大学に通っている友人だ。

メガネをかけ、黒髪セミロングの結構顔の整った女性だ。

結構アホの子で留年が決まりそうとかで騒いでいたが……。

まぁ、この世界に来れたからある意味で留年は免れたな。

どうやら、大阪自然公園でもう1人の友人大原と私の行方について話し合っている時に、何者かの転移魔法らしき物に巻き込まれて、この世界にきたららしい。

ぶっちゃけなかなかぶっ飛んでて訳分からんかったが……。

 

 

「……何してる?」

 

私が殺気立ててそう言うと、2人は凄いバツが悪そうに目を逸らした。

 

「ぺ、ペルソナが、無料食べ放題ビュッフェがあるって聞いて……」

「……」

「ほう、無料食べ放題ビュッフェ……ね?」

 

私はギロりとペルソナを睨みつける。

彼女は開き直ったのかドヤ顔でGoodをした。

 

「いい度胸しとーやないか……!」

 

 

この後、食べた分全部買いに行かせた。

 

 

 

 

「あのバカ2人……」

 

私はデリバリィーツで出前した寿司を頬張る。

このデリバリィーツ、私のいた世界で言うところのウーバー的な感じだな。

 

「にゃー大変やのぅ」

「大原か」

 

いつの間にかもう1人の友人、大原が私の部屋に入ってきて話しかけてきた。

大原栄志。

もう1人のpso2仲間で大学の友人だ。

小麦肌で顔の整った痩せ型長身の男性。

スポーツマンっぽい見た目であるが、中身はバリバリの文系男子でアイドル好きである。

"にゃー"という口癖がある。

因みに猫では無い。

私達からすれば、大原の"にゃー"は「いやー」や「あー」という受け取りでいいだろう。

 

「まぁったくペルソナと藤野も大したもんやよな」

「せやなぁ、寿司食べや」

「おぉ? ええんか?」

「おん、ええで。結構あるしな。好きなだけ食べや」

「おー、ありがとう」

 

大原は笑みを浮かべて寿司を食べ始めた。

マグロ1つ食べると、目を瞑って「いにゃー上手い!」と感激していた。

 

「ホンマにな!」

 

私もマグロを食べて同意する。

寿司三郎という100円寿司なのだが、クソほど美味い。

 

「そういや話変わるけど、小野寺はマザーに夜集まるように言われたか?」

「ん? あぁ。なんか言うとったな」

「なんやと思う?」

「さぁ……。なんかの任務とかか? 大原は何か聞いたか?」

「にゃー、集まれとしか言われんかったぞ」

「うむー」

 

私と大原は腕を組んで考えた。

少しの時間、長考が続いたが、私がふと時計に目を向けると時刻は7時になっていた。

 

「もう7時か」

「にゃー、そうやのー」

「どうする? もう月面に行って、8時になるまで適当に手合わせする?」

「にあー、そうするかー」

 

そう言って、私達はテーブルにずらりと並んだ寿司を必死になって平らげた。

そして、ポータルを用いて月面へと転移した。

 

 

 

 

「さて、それじゃあ早速やるかー」

「おーええぞー」

 

大原も藤野も、この3年で具現武装を生み出せるようになった。

マザー曰く、私と同じくエーテル適正がかなり高いとの事。

大原の具現武装は……。

初めて見た時は笑うしか無かった。

私も大概とんでもないものを具現化したが、向こうもまぁまぁヤバい奴を具現化しよった。

 

「そいやー行くかー!」

「あいよ」

 

そう言って、大原は1つの武器を具現化した。

口上を述べて……。

 

幻創想像・具現化(エミュレート・エスカード)

 

六芒星に似た紋章が浮かび上がり、武器の形を成していく。

 

「終えよ、世果【創暁】!!」

 

そう言い具現化された武器は巨大な長方形の鞘に封印されているかのような刀だ。

このまま鞘で殴ってもかなりの致命傷になるのでは?と思える程に、その刀は威圧感を放っていた。

 

大原栄志の具現武装、それは幻創世器である。

pso2の世界では六芒均衡というアークスの最強クラスの方々、もしくは六芒均衡クラスのアークスが使用する量産性・耐久性を度外視した代わりに破格の性能を得た専用武器だ。

 

大原曰く、ゲームのpso2では武器迷彩しか持てなかったから、自分で創世器を振るってみたかったらしく、その願いの元に具現武装となった。

性能の方は、本物を見たことは無いが確実的な事は言えないが、創世器程ではないにしろ普通の武器を持てなくなるぐらいにはヤバい性能をしているらしい。

あと、この幻創世器はシオンやシャオ、マザーの力を借りずに使用することが可能で、元の創世器よりも安定さた運用が出来るそうだ。

また幻創世器の力により、身体能力も向上するらしい。

……エスカダーカーやエスカファルスを具現化できる私が言えたことでは無いが、コイツも大概チート具現武装持ってんだよなぁ……。

 

「ほな、行くか!」

「せやな!」

 

大原は地を蹴って私に急接近、巨大な鞘で殴りにかかる。

最早鈍器である。

 

「させるかいな!!」

 

私はエスカダーカーを具現化させる。

 

「いでよ!! ドラゴン・エスカX!!」

[いざ、尋常に勝負!!]

 

 

一体の龍が生み出される。

ドラゴン・エスカXだ。

 

[剛陣っ!][一刀壊断っっ!]

「ふんっ!!」

 

ドラゴン・エスカの刃と大原の世果がぶつかる。

ガギンッっと耳を突き刺すような金属音が月面に木霊する。

 

「……!!!」

 

大原は幻創世器により身体能力が上がった大原はそのままドラゴン・エスカを押し上げた。

 

[!?]

「おら!!」

 

鈍器のような世果【創暁】を振るい、ドラゴン・エスカの頭部を殴りかかる。

 

[旋陣][一刀破断!!]

 

だが、ドラゴン・エスカは怯むことなくその場で体を横に一回転させ、大原の弾き飛ばそうとした。

しかし、その攻撃に大原はニヤリと笑う。

ドラゴン・エスカの攻撃が当たる直前にガード態勢をとり、ドラゴン・エスカの攻撃を受け流した。

 

「世果・創刃解印!!」

 

大原の言葉に呼応するように、巨大な鞘が機械的な音を立ててバラバラに解放され、巨大な刀身が露になる。

 

「……!!」

「おらぁ!!」

 

大原はその巨大な刀を一閃、だがドラゴン・エスカもタダでやられるわけが無い。

 

[王陣][砲壊閃塔!!]

「うらああああああ!!」

 

ドラゴン・エスカの巨大な刃と大原の世果の一閃がぶつかる。

2対のぶつかり合った衝撃で青いエーテルの竜巻を巻き起こし、大爆発を起こした。

その大爆発の中で、地に伏せたのは……。

 

 

[見事……良き……戦いであった……]

 

ドラゴン・エスカだ。

龍は彼に賞賛の言葉を渡し、静かにエーテルとなって霧散した。

 

「っしゃあ!!」

 

大原は具現武装を解いてガッツポーズをとる。

ドラゴン・エスカXをいとも簡単に倒すか……。

 

「じゃあ、次は……!!」

 

再び具現化する。

クォーツ・エスカとヴォル・エスカだ。

2匹の龍は氷のような、炎のような咆哮をあげて大原を睨む。

 

[滅びよ……]

[グルアアアア!!]

 

静かに、激しく声をあげた2匹は攻撃を繰り出そうとする。

大原も再度世果を具現化して迎撃の態勢に入った。

しかし……。

 

『戦っているところ申し訳ない。2人とも、いつものところに集まってもらえないだろうか?。』

 

戦いの間に割り込んだマザーは指で大原とクォーツ、ヴォルの攻撃を止めて、申し訳なさそうな表情で言った。

 

「あ、もう時間ですか?」

「にゃー、いい所やったのに」

『……申し訳ない。』

 

マザーは攻撃を止めながら謝罪をする。

仕方ない、これで終わりにしよう。

まぁ、あのままやってても多分クォーツとヴォルはやられていただろうしな。

 

「そしたら行くか」

「そうやの」

 

私達はポータルを通じて月面基地の最上階に転移した。

 

 

 

 

最上階にあるドーム状の場所には、既にエスカファルスと藤野キイナが集まっていた。

 

「ごめん、待たせた」

「にゃーすまん……」

 

私と大原はペコペコ謝りながら、エスカファルス達が集まっている所に混ざる。

 

「戦いしてるなら、言ってくれよー。俺も混ざりたかったぜ」

「その時、君はソファーでグースカ寝ていたじゃないか。僕が起こさなかったらそのまま遅刻していたよ」

 

エルダーとルーサーがそんな話をしている中、マザーがやって来て、まずは謝罪が始まった。

 

『みんな忙しい中、集まってくれて申し訳なく思う。だが、今日はどうしてもみんなに伝えなければならない事があり召集をかけた。まずは感謝と謝罪を……』

 

そう言って、マザーは今回の内容を話し始めた。

 

『まず、ここにいる皆は、今日からマザークラスタ幹部に昇格となる。』

 

マザーの言葉に全員がざわめく。

私はすかさず手を挙げた。

 

「マザー、一つ質問があります」

『どうした?』

「幹部になると言うことは、つまりアラトロンさんのように使徒になるということですよね?」

『そうだ。だが、小野寺 龍照。大原栄志。藤野キイナ。君達にはアラトロン達とは違う幹部になってもらう。』

「違う幹部ですか?」

「大変な事になりそうやのー」

「どのような?」

 

藤野、大原、私はそれぞれ言葉を漏らす。

アラトロンさん達とは別の幹部になるということは、まぁオリンピア組はアイツらになる訳やな。

良かった。

歴史がごちゃごちゃにならなくて。

 

『君達は【四神】の座を与える。』

「四神?玄武とかの?」

『その通りだ、藤野キイナ。』

 

そして、マザーは私たちに幹部【四神】の座を与えた。

 

大原栄志には、黒の使徒 玄武

藤野キイナには、白の使徒 白虎

私には、赤の使徒 朱雀

が、それぞれ与えられた。

 

……私は朱雀か。

……何の因果だろうか……。

まぁ、その事は別にええか。

ん?

青龍は誰になるんや?

 

「マザー、青龍は?」

 

私はマザーにその事を聞くと、『今療養中故、復帰するまで青龍の座は空席になる。』とのこと。

誰だ?

私は疑問に思ったが、その考える隙もなくマザーは私たちに、あの幻創使徒礼装を渡してきた。

貰った時、私たちは「あー、やっぱこれだよね」といった雰囲気を出した。

 

『マザークラスタの幹部にのみ与えられる幻創使

徒礼装だ。私が予め幻創した物を与える。後は、各々の適した形に変えるといい。』

「まさか、生きてて本物のこれを着る時が来るとは……にゃー、人生分からんもんやなー」

「ホンマやな」

「私もまさかこれを着る日が来るなんて想像もしてなかった」

 

とりあえず、私たちはマザーから頂いた礼装を着用してみる。

男性である我々の礼装は、アラトロンさんが着ている礼装そのままだった。

そして、女性であるキイナの礼装は、フルさんが着ている礼装のものだ。

という事は、あの2人はマザーから頂いた時の状態の奴をそのまま着ているのか。

マザーから頂いた物だから、変えたりせず使っているのだろうな。

 

『そしてエスカファルス達は幹部【神淵】の座を与える。』

 

マザーはそれぞれに座を与えた。

エルダーには巨躯の使徒。

ルーサーには敗者の使徒。

と、それぞれの名前が漢字で表した時の名前の使徒が割り振られた。

因みに、エルミルとハリエットは、それぞれ徒花の使徒、原初の使徒だった。

 

そして、エスカファルス達にも幻創礼装を配布されるはずだったが、エスカファルス達には戦闘衣があらから大丈夫と言って断っていた。

マザーもそれを理解して、マザークラスタ幹部の証であるシンボルを我々全員に譲渡していた。

これでマザークラスタの幹部になったということらしい。

 

「つまり、俺たちは自己紹介する時にその気になればあのシンボルマークを表せられるってことか?」

「そうじゃない?」

 

小声で私と大原が会話をする。

 

『そして、ここからが本題だ。』

 

マザーの真剣な言葉に私と大原は会話をやめてマザーの方を見る。

 

『1ヵ月後に神奈川県にマザークラスタ極東支部が完成する。君たちは、そこでの勤務をお願いしたい。』

 

「「「え?」」」

 

マザーからのニート卒業宣言。

もしくは、働け宣言を言い渡された瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く



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32話 マトイ欠乏症

あれから数ヶ月が経過した。
あの時はニート卒業宣言をされたと言っていたが……。
ニートは卒業した。
今はフリーターのような、傭兵のような、フリーランスのような……。
そんな感じだ。
なんだろうか……。
本当にpso2をプレイしている感じだ。

ロビーという名の自室で私事をして、幻創種の出現(緊急クエスト)が出たらそれに行って討伐する。
後は、エーテルを用いた犯罪の取り締まりだな。
警察では検挙するのが難しいエーテル犯罪を、マザークラスタが取り締まる。
そんな感じなことをしている。
ぶっちゃけバイト感覚、もしくは"いつもの"pso2をやっているようなものだ。
まぁ、マザークラスタ支部自体が出来たばかりだから、仕方がない。

まぁでも、ep4の使徒達もドラマCDで似たような感じだったし、こんなものかと思っておこう。



「……」

私はベッドから起き上がり、すこしだけ考え事をする。
今は2023年6月20日。
ep4は2028年3月22日、つまりあと5年。
ついでに言うと、今年は幻創ミラボレアス、幻創ニーズヘッグとの約束の年……。
多分、私の人生の中でこの年が最大の修羅場である事が目に見えて分かる。

あれからニーズヘッグとはかなりコミュニケーションを取っている。


「これ良くない!?」
〚知るか!!〛

私は幻創ニーズヘッグにピッチリスーツを身に纏った女性のイラストを見せた。
だが、幻創ニーズヘッグはキレ気味に怒声を吐いて見てくれない。

「ほら、この身体にフィットした感じ! これがエロいのよ。あとは形がくっきりと見えてるおへそとか胸とか! わかる?!」
〚えぇえい!そんな破廉恥なものを見せるな!!〛

FF14の龍にはオスとメスの区別は存在しない的な感じではあるが、やはりこの地球の人々の想いから生まれた存在だから、意外と異性の身体事情には興味があるのだろう。
ちなみに幻創ミラボレアスは、興味0のようで身体を丸くして眠りについていた。

「じゃあ、この競泳水着は!?」
〚だから、興味ないと言っておろう!!〛
「えー、この太ももや、鼠蹊部が最高に……」
〚我の目の前に見せるな!! 馬鹿!! 離れろ!!〛

こんな感じだ。
何とか、何とかコミュニケーション??は取れてるはずだ??

幻創ミラボレアスとは、分からない。
本当に分からない。
表向きは取れている。
ただ、裏向きが全然分からない。
なんか人には理解できない思考を持っている。


そんなことを考えていると……。

〚そういえば、もう3年かー〛
「!?」

幻創ミラボレアスの言葉に私はビクリとして、言葉が頭の中から吹き飛んだ。
自分でも分かるぐらい目が泳ぎまくってると思う。

「な、何が?」

コイツの言ってる意味は理解したが、安堵が欲しかったので、私は顔を引き攣りながら訊ねた。
私の言葉を聴いた幻創ミラボレアスは笑いながら喋る。

〚覚えてる癖にー♪。人間にも良い人はいるよって話ー♪ ……忘れてないからね〛

幻創ミラボレアスの冷たい声が私の心臓を鷲掴みにする。
彼女のニコッとした表情から一変、その表情は真顔になる。

「まぁ、そうだよな……」

〚私はそのままでも、滅ぼしてもどっちでもいいけどね〛

幻創ミラボレアスの言葉に、私は頭を掻きながら困ったなと呟いた。
確かに3年間、様々な人間と交流を果たしている。
ボランティア活動とかカードショップでの交流とか、散歩という名の旅とか、幻創種の討伐とか。
人々はありがとうと感謝され、動物からも……感謝、されたと思いたい。
まぁ、色々とやったよ。

それでも……不安だ。
もう幻創龍が何考えてるのか分からなさすぎて……。
まぁ、考えても仕方がない。
私は考えるのをやめて、朝飯を食べることにした。





注意
この話はエスカファルス・ペルソナが暴走するお話です。
元のダークファルス【仮面】とはかけ離れた発言を連発します。

またダークファルス【仮面】とエスカファルス・ペルソナは全くの別人です。
キャベツとレタスぐらい違います。
お読みになられる際は注意してお読みになられてください。


 

 

 

 

2023年6月20日

 

 

「はぁ……何もねえ……」

 

冷蔵庫を開けて、私はため息を漏らしながら肩を下ろす。

冷蔵庫の中は白一色の白銀の世界だった。

本当に何も無い……。

ペルソナがまた食べたようだ。

あんだけ食べてよく太らないな……。

いや、多分脂肪は全部胸に吸収されてるんだろうな。

年々デカくなってる。

3年前はデカパイだったのが、今はテラパイだ。

外出かけるだけで、大衆の全員の目が胸に向くのは本当に笑ってしまう。

 

「あぁー……また幻創飯か……」

 

私はもう手馴れた手つき、脳つきで食パンと半熟目玉焼き、ソーセージ、ミルクを具現化。手と手を合わせて頂きます。を行って、幻創飯を口に放り込む。

 

「ふぅ、ご馳走様でした」

 

私はそう言って食器の具現化を解いてソファーに寝転ぶ。

お腹がいっぱいになったら眠くなってきた。

 

「……少しだけ寝てから、大阪に行こうかな……」

 

私は元の世界に住んでいた大阪府に向かって、この世界の南海本線に乗って和歌山にでも行こうかと考えていた。

 

そして、少し...…ずつ、夢の門が開き……私はその門を通り過ぎようとする……。

その時だった。

 

「マトイちゃあぁあああああん!!」

 

何とも奇妙な鳴き声が聞こえてくる。

ペルソナの声だ。

またペルソナがまた何かやらかしたのだろう。

せっかく寝ようと思ったのに、巻き込まれるのはごめんだと考えた私はイヤホンを両耳にぶち込んで大音量で採掘基地防衛戦・終焉のフェーズ4と5を聴いた。

だが、その行為とウォパルの泡となる。

 

「おい!! 龍照!!」

 

バンっと勢いよくエルダーが私の部屋の扉を開け、私のイヤホンを取って話しかけてきた。

この瞬間に私は察した。

 

あぁ……大阪には行けない。

と……。

 

ソファーから身体を起こしながら「なに?」と若干不機嫌な表情でエルダーに訊ねる。

そんな私の表情なんぞ知ったこっちゃねえと言わんばかりに、エルダーは「ペルソナが大変なんだ!」と無理矢理私の腕を引っ張って、ペルソナの部屋へと連行していく。

 

既にエスカファルス達と大原と藤野が集まり、危ない人を見るかのような表情でペルソナを見ていた。

 

「マトイちゃん!! マトイちゃん!!? 私のマトイちゃんが居ない!!」

 

ペルソナが悲しげな表情で無くなったものを探すが如く部屋中を右往左往していた。

私はその様子を見て思った。

ヤク中の禁断症状か?

と。

危ない人を見るかのような表情ではなく、もう呆れた表情で私は見つめていた。

 

「マトイちゃあああああん!! マトイちゃああああああああん!!」

 

その光景にアプレンティスとハリエットは口を手で抑えながら絶句していた。

アプレンティスのこれまでのロリショタウォッチングも、私からすれば絶句ものではあるが……。

 

「マトイちゃん!! マトイちゃんが居ない!! 私のマトイちゃんがいない!! マトイちゃん!! マトイちゃあああああああああん!!」

 

この場に本物のマトイ氏が居なくて良かったと心から思えた。

いたらガチ引きしているであろう事は火を見るより明らかだ。

 

「な、なんなんだこれは……」

 

エルミルの呟きに私は冷静にこう言った。

 

「マトイ欠乏症やろ」

「酸素欠乏症みたいに言うな」

 

私の言葉にルーサーのツッコミが返ってくる。

その間もペルソナは「マトイちゃんマトイちゃん」と壊れたラジオのように騒がしく叫んでいた。

もう、眠いのに勘弁してくれ……。

 

〚アホだ。本物のアホだ〛

〚あ、アーーーーーハッハッハッハッハッハッハーーーーー!!!〛

 

その光景に幻創ニーズヘッグは呆れ果て、幻創ミラボレアスは大爆笑している。

まぁ、2匹には同意だ。

アホすぎて笑いが込み上げてくる。

 

「マトイちゃんが居ない!! 私のマトイがいない!! 私のマトイちゃーーーーーーん!!!」

 

……もしかして、ペルソナの頭の中に鷲宮氷莉さんの魂でも入り込んだのだろうか……。

だが、そんな呑気な事を考えていた私が馬鹿だった。

 

ふとペルソナは身体を硬直させた。

そして、ペルソナはあのクリスタルを手に持つ。

 

「……あぁぁーー……」

 

私は息と共にその言葉が漏れ出る。

 

「あぁ、マトイちゃん、マトイちゃん!!」

 

目をハートにしたペルソナは物凄い悪い笑みでこちらに近づいてくる。

なんだろう、下手なホラーゲームより恐ろしい。

私たちは自然と後退りをする。

 

「ね、ねぇ、ペルソナ、何する気?」

「ペルソナ様、お、落ち着いてください!」

 

アプレンティスとハリエットは引きつった笑みをしながら必死にペルソナを宥める。

もちろん、効果がないようだ。

 

「いひひ、皆がマトイちゃんになればいいんだーーーーー!!!」

 

そう言って、この馬鹿はクリスタルを掲げる。

ペルソナの強い願いと想いは、私たちの身体に変化をもたらした。

 

 

その結果……。

 

 

「にゃー、面倒な事になったもんやの……」

 

頭を抱えるがちょっと満更でもない大原。

だが、その姿は全く違っていた。

白くサラサラした長い髪に、汚れのない透き通った赤い目。

老若男女問わず、全員が美少女と言うレベルの整った美しい身体に顔。

そして、程よく実った胸。

pso2のメインヒロインを務め、とある人からは絶大に愛されている美少女。

マトイである。

ペルソナの持つクリスタルの力によって、この場にいたペルソナを除く人達全員がマトイ氏になった。

一応言うと、身体と声がマトイ氏になっただけで中身は変わっていない。

ちなみに、人達によってマトイ氏の容姿が異なっている。

 

「おい、どうすんだよこれ……」

 

頭を抱えるエルダー(ep1〜2のマトイの姿)。

 

「まぁ、たまにはこういう姿になるのも悪くはないんじゃないかな? 特に何かに支障をきたす訳でもない」

 

余裕の風格を持っているルーサー(ep1〜2のマトイの姿)。

 

「思ったけど、私がこの姿になるのって結構笑えないと思うんだ。多分だけど」

 

自分の姿を見てそう言うアプレンティス(クラリスクレイス時代のマトイの姿)。

 

「わー、背が高くなったー!」

「わー、遠くも見えて凄いー!」

 

元々背が低かった2人が急に身長が伸びて、はしゃぎまくるフローとフラウ(ep3のマトイの姿)。

 

「TSモノの同人誌は寝る前に読んでるけど、いざ自分がなると凄い不思議な感じがするね!」

 

自分の身体を見つめながら、少しだけニヤケ顔になり、高ぶるテンションを必死に隠しているつもりのエルミル(ep4〜5のマトイの姿)。

 

「ま、マトイ様の姿ですか……。何故でしょう、少し懐かしい感じがします」

 

マトイとなった姿に戸惑いつつも、懐かしい気持ちになって微笑んでいるハリエット(原初の闇戦のマトイの姿)。

 

「なんで私がこのマトイやねん……」

 

自分の服に納得がいかずに項垂れる私(悪堕ちマトイことマトイ・ヴィエルの姿)。

 

「おー、似合っちょるぞー!」

 

私の姿を見て爆笑する大原(リバティークラスタを身に纏ったマトイの姿)。

 

「まぁ、たまにはいいんじゃない?」

 

あははと笑う藤野(マトイイドラ・カオスの姿)。

 

 

いや、マトイの姿になっているのは、彼らだけではなかった。

 

〚な、なんだ!? 我の身体に何をしたのだ!?〛

 

自身の身体の変化に戸惑いを隠せない幻創ニーズヘッグ(竜騎士の姿をしたマトイ)。

 

〚なんじゃこれ? 何か変わった姿になってる。へー、こんな感じなんだー〛

 

少し戸惑いながらも、心の中ではそうでもなさそうな幻創ミラボレアス(ブラックシリーズの防具を身に纏うマトイ)。

 

 

ペルソナの部屋に大量のマトイが現れた。

その姿を見たペルソナは、推しが目の前に現れたオタクのように限界化。

鼻息を荒くし発狂しだした。

 

「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOooooooooooooooooo!!!!!!」

 

テンションが天元突破したペルソナは、何を血迷ったのか私たちにダイブしてきやがった。

突然のペルソナダイブに全員がギョッとして、全員蜘蛛の子を散らすように逃げようとする。

しかし、このマンションの一室ではあまり散る事が出来ずに、1人のマトイ(ルーサー)が餌食となってしまった。

 

「あぁー!マトイちゃんマトイちゃん!! はぁはぁはぁはぁはぁ!!」

 

ヨダレを垂らしてハート目になるペルソナが抱きついてきて、マトイ(ルーサー)は必死に振り放そうと抵抗する。

 

「は、離れろぉぉおおお!」

「あぁマトイちゃん!!マトイちゃん!!」

 

必死の抵抗も虚しく、ペルソナは物凄い幸せそうな顔でマトイ(ルーサー)の胸元に顔を埋めてスリスリし始める。

 

「ぎゃああああああやめろおおおおおおお!」

 

ルーサーはマトイの声で悲鳴を上げる。

……最早、性犯罪の現場である。

 

「スーハースーハースーハースーハー!! あぁマトイちゃんいい匂い!! ラベンダーの……はぁはぁはぁ香りぃ!!!」

 

激しく呼吸をしながら、興奮した口調でマトイの胸元の香りをこれでもかと言うほど嗅ぎまくる。

……本当にこの場にマトイ氏がいなくて良かった。

 

マトイ(ルーサー)は、今までに見たことが無いような顔を青ざめて怯えた様子で抵抗している。

 

……なんか……ちょっと興……いやなんでもない。

 

 

「ペルソナ落ち着け!! 落ち着けえええ!!」

「マトイちゃんいい匂い、あーいい匂い!! 柔らかい!!柔らかい!!!」

「お前病名のない病気発症してるだろ!?」

 

マトイ(ルーサー)の悲痛な叫び等ペルソナの耳に届くはずもなく……。

ペルソナは興奮した様子でマトイ(ルーサー)の匂いをクンカクンカする。

 

「あぁいい、その表情最高!! おおおおおーーーーーー! おおおおおおおーーーーーー!!」

「あーーーもう嗅ぐなあああああ!!!」

 

マトイ(ルーサー)の雄叫びがペルソナに届くはずはなく、3時間ほどぺたぺたクンカクンカされていた。

 

 

「酷い目にあった……」

「大変だったわねー」

 

ゲッソリと項垂れるマトイ(ルーサー)にマトイ(アプレンティス)が同情の声を掛けた。

本当に同情しているのかは定かでは無いが……。

 

「しかし、これじゃあ闘争も出来ねえし、シーナにも会いに行けねえ……」

「シーナはともかく闘争なら出来るのでは?」

 

マトイ(エルダー)の愚痴にマトイ(エルミル)が率直な疑問を投げかけた。

 

「こんないたいけな少女の身体を傷つけるのは気が引ける」

「そんなもん?」

「ああ、そんなもんだ」

「じゃあ、何でシーナに会いに行けないの?」

「……エルミル」

「なに?」

「考えても見ろ。この少女の顔で、俺はエルダーだ。なんて事言ってみろ? 確実に頭の病院に連れていかれる」

 

物凄い真面目な表情で語るマトイ(エルダー)の姿が少しばかりシュールで吹き出してしまった。

 

「そ、そうだね、フフ」

「何もおかしい事言ってねえだろ!」

「ごめんって、フフフフフ」

 

キレるマトイ(エルダー)。

笑いながら宥めるマトイ(エルミル)。

 

「なんだこのシュールな絵面は……」

 

それを見たボロボロのマトイ(ルーサー)はポツリと呟いた。

 

 

 

「にゃー、大変な事になったのー」

「そうですね」

「そのペルソナは龍照をアブダクション(拉致)してどっか行ったけどね」

 

困った顔をしつつも、推しのキャラに成れて満足気な雰囲気を出しているマトイ(大原)に、マトイ(ハリエット)とマトイ(アプレンティス)はマトイ(エルダー)とマトイ(ルーサー)のやり取りを眺めながら同意する。

 

「アwブwダwクwショwンw」

 

そして、何故かマトイ(アプレンティス)の言葉にツボって床に笑い転げ回るマトイ(藤野)であった。

 

「フロー様とフラウ様は背丈が大きくなって嬉しそうですね」

 

マトイ(ハリエット)はダブルの姿を見て微笑んでいた。

背が低いダブルはマトイの身長を得たことにより、いつもより高い景色を見ることができた。

まぁ宙に浮けばいいのだが、宙に浮くことがなくその景色を見れるのは非常に新鮮だったのだろう。

 

「わーい、遠くまで見えるー!」

「わーい、高い所まで見えるー!」

 

ワイヤワイヤとはしゃぐ2人のマトイ(ダブル)。

 

「この絵面いいのー」

 

ちょっと口元が緩むマトイ(大原)。

 

「幼児退行したマトイかー。なんかいいね」

「も、もうちょっとまともな言い方はないのかい?」

 

うんうんと頷きながら言うマトイ(藤野)に、若干引き気味のマトイ(ルーサー)であった。

 

 

一方、ペルソナにアブダクションしたマトイ(龍照)はというと……。

 

 

 

午後6時00分

 

 

「ったく、なんで私がこんな目にあっとるんや……」

 

ぐったりと項垂れていた。

あの後、ペルソナによって強引に東京を連れ回された。

彼は大阪ならいいよと言ったが、ペルソナがそれを了承せず、私はとりあえず普通の服を着る事を条件に東京をデートすることになり水族館、遊園地、散々連れ回された。

 

「マトイちゃんとデート。はー最高!」

 

ペルソナは今までに見たことないような笑顔で抱きついてくる。

傍から見れば百合百合なカップルと言った所だろう。

実際は限界を超え掛けているオタクと、その深層心理が生み出した幻創ダークファルスだが……。

 

「マトイちゃんじゃなくて小野寺龍照やけどな」

「夢壊すな」

 

私の指摘にペルソナは真顔になって答えた。

ったくもぅ……。

本当に参ったもんだよ……。

 

「まぁ、十分楽しめたし、そろそろ帰ろっか」

「やっとか……」

 

ペルソナにそう言われ、私たちは自宅へ帰還するため電車に乗ることになった。

手之山線の普通列車に乗って最寄りの駅まで向かう。

列車内は帰りのサラリーマンでごった返しており満員だった。

そんな中で、ドゴーンキュボンの肉体をもつペルソナが入ったらどうなるか……。

 

「満員だー」

「ああ、時間が……時間だからな……」

 

ペルソナと私はギュウギュウ詰めで少しばかり参っていた。

 

「(何あの子の胸……)」

「(え?デカくない?)」

「(やべえ、写メ撮ってオカズにしてぇ)」

「(エッッロ!?)」

「(嫌なこと吹き飛ぶわ……)」

「(疲れが吹っ飛ぶ)」

「(あぁ、横乳当たって、幸せ……)」

「(た、谷間に顔が……)」

 

 

他の男性サラリーマン達はペルソナの規格外の胸に釘付けになっていた。

 

「そういえばさ、手之山線ってちょっとエロいよね」

「何を言うてんの?」

 

突然訳の分からない発言に私は素の声が出た。

何なら他のサラリーマン達も「(!?)」という驚きの表情をしている。

そして、ペルソナは何故手之山線がエロいかを説明し始めた。

 

「まず、手之山線の山って言い換えたらおっぱいじゃん?」

「お、おう?」

「つまり、手之山っておっぱいの上に手が置かれてる訳だよね?」

「分かりそうで分からない」

「エロくない?」

「知らねえよ」

 

物凄い真面目に説明をするペルソナに、満員電車の中で何を言ってんだよと呆れて笑うしかない私。

 

「(可愛い)」

「(何あの不思議ちゃん)」

「(彼女にしたい)」

「(盗撮覚悟……!! ここで撮らないと俺は後悔する!! すまん不思議ちゃん!!)」

「(頭ピンク過ぎない!?)」

「(た、谷間に挟まって……い、息が……でもや、柔らかい……)」

 

「あと電車も女の子だったら、もうそんなにお客さん入らないよーとかエロく感じない?」

「感じねえよ、アホか!」

 

もうヤダこいつ病院に連れていかないと行けないんじゃないの?

私はペルソナのピンク振りに呆れ果てた。

あと、こんな満員電車の中でそんな事を言うのだから、恥ずかしくて体がめっちゃ暑い。

物凄い他人の振りをしたい。

 

「(か、かわいい……)」

「(ピンクだ)」

「(めっちゃ彼女にしたい。なんなら地味に隣の銀髪の子もかわいい)」

「(っしゃ何枚か撮れた!! 今日の夜食は決まった!!)」

「(あの隣の子も可愛いな。彼氏とか居そうだな……)」

「(あぁ、意識が……でもおっぱいの中で死ねるなら……本望……)」

 

 

 

その後、駅に着いた時1人の男性が窒息して気絶した事で大幅なダイヤ乱れが起こったことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

続く。



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33話 過去とお守り

マザークラスタ極東支部に所属して数ヶ月が経過した。
とりあえず、やってる事は幻創種の駆逐が多い。
増えすぎた幻創種の討伐、エスカ・タワー周辺に具現化される幻創種などなどだ。
ドスゾンビやチャカゾンビ等が主である。
あとはカラスやらネズミやら、小型が多い印象がある。
またpso2では見たこともない幻創種も多数見受けられた。

2つほどあげると……。
蛇型の幻創種、名前はエスネーク。
大きさ的には小さい部類に入るが口から毒液を入ったり、尻尾から口を生み出して噛み付いてきたりといった感じの地味に鬱陶しいエネミーだ。


あとは、あれだ。
台所に居る黒光りするやつだ。
名前はエスカブリという名前らしい。
こいつは攻撃手段は非常に少ない。
ただ、ちょっと引くぐらい生命力があるのが特徴的だ。
倒して体を真っ二つに切り裂いて完全にエーテル粒子に霧散するのを確認しないと討伐出来ていないことがある。
それと、先程攻撃手段が少ないと言ったが、その攻撃手段が恐ろしい。
基本は一匹で行動しているのだが、人を見つけた瞬間に100匹に分身して突撃してくる。
……攻撃力を無くしたシグノビートの分身を100匹したと思ってくれたらいい。
ぶっちゃけ攻撃されても痛くも痒くもないのだが、精神的にヤバい。
そんな感じだ。

「ふぅ……」

私はエスカ・タワー周辺の幻創種討伐の報告書をまとめて一息つく。
エスカ・タワーには、時々幻創種の出現が確認される。

やはりエーテルを散布する場所の近くでは具現化がされやすいのだろう……多分。
特に放置していても問題は無いらしいのだが、万が一の事があるとのこと。
エスカ・タワーはエーテル粒子を効率良く大気中に散布する為に建造された建物だ。
中にはエーテルを発生させる機能があるらしくそれをエスカ・タワーの最上部にある先端から散布しているらしい。
ただ、この情報は私が調べた訳ではないからあまり信憑性に欠ける所がある。
噂ではエーテル縮退炉なる物があるとかないとか……。
そのエーテルを発生させる装置はマザーのみが動かす事が可能で、大気中のエーテル濃度によって散布の強弱を調整できるらしい。
私もマザーから聞いた事なので、よく分からないが、どうやらそのエスカ・タワー、エーテル発生装置が破壊された場合、超高濃度のエーテルが無尽蔵に散布されてしまい、地球が小型、大型、超大型幻創種によって埋め尽くされるみたいだ。
……何その終末の災厄……こわっ……。

ただ、エスカ・タワーはかなり特殊な合金で作られており、エーテル発生装置も緊急停止機能も搭載されている為、そのような事が起こることはない。
とは言っていた。
エーテル発生装置自体もマザーのみがアクセスできるようにしている為、ハッキングによる他者からの不正アクセスも起きないとか。
ぶっちゃけこんなヤバい内容を私に言っていいのかと思ったが、これは別次元に行くまで持っておこう。


でだ。
私はゴキ……エスカブリ討伐の報告書をまとめ終え、一息ついた。


暇だから、今日はゆっくりと休もうかな。





夢……。
私は、カプセルの中で揺蕩う中、アザマと呼ばれる科学者は声を荒らげていた。

『おいドール! 閃機種の製造はどうなってる?』
『もちろん順調だよ。小型閃機種に、その小型閃機種を大型化させた機体も着々に完成している!』
『……』
『信じてないね? 安心してくれ、大丈夫だよ。このまま行けば、他の惑星の侵略時に圧倒的物量差で攻め入る事だって可能だ!』
『それなら良いがな』

ドールと呼ばれる白衣を着た男性は、私の方を振り向き口を開いた。

『それより、これはどうなるんだい?』

私の方を指さしてアザマに問う。
アザマは首を横に振って返答を返した。

『ダメだ。性能は完璧なんだが、如何せん言う事を聞いてくれない。上からの指示待ちだが、多分廃棄だろう』
『そっかー、まぁ言う事きかないなら仕方ない』
『ああ、そういえば、お前の机からこんな設計図を見つけたんだが?』

アザマは1枚の紙を見せた。
それを見たドールは慌てふためく。

『あぁー! それは僕が独自に開発してる自立型機動人形!』
『お前、閃機種を作る傍らでこんなモンまで』
『ち、違うよ、これは閃機種を作る過程で出来たプロトタイプで名前は、僕の名前から……』





『……またか……』

私は目を覚ました。
また、この夢か……。
忌々しい夢だ……。




 

 

 

 

2023年7月15日

9時00分

 

 

 

「えーと、13×8=……」

「うーんと、15×6=……」

 

フローとフラウは各々の自分の部屋で勉学に励んでいた。

2人とも唸りながら教科書とノートを交互に見て頭を回転させている。

 

「どうですか? お2人とも熱心に勉強なさっていますか?」

「うん、2人とも頑張っているみたい。可愛い」

 

ハリエットとアプレンティスは小声で話をしていた。

アプレンティスがプチエスモスを一匹具現化させてダブルの室内に潜入、アプレンティスの意識をプチエスモスとリンクさせて2人の様子を覗き見していた。

 

この能力だが、元々アプレンティスにあった能力ではない。

彼女の男子女子小学生をバレずに間近で見たいという強い想いによって発現した能力だ。

 

「あぁ、2人とも可愛いなぁ」

 

ホクホク顔のアプレンティスに若干引き気味のハリエットである。

 

「お前ら何やってんの?」

 

私、小野寺龍照は不審者を見るような目で2人を見つめた。

2人は悪気もなく「ダブルの勉強を見ています」と言った。

2人の目には1点の曇りもなく輝かしい程に煌めいていた。

ハリエットはともかく、アプレンティスに至っては絶対に違うと私は直ぐに理解したが、もう追求するのはよそう……。

 

「さよか。それはそうと、もう学期末テストか」

「みたいだね。テストで全教科80点以上取れたら好きな物買ってあげるって約束したから頑張ってるね」

「んな約束したんかいな」

「何かご褒美をあげたら頑張れるでしょ?」

「まぁ、そうやな」

 

アプレンティスの言葉に私は納得する。

 

「ダブル頑張れー」

 

私はフローとフラウに迷惑をかけないように小声で応援をして外へと向かった。

 

「それより、龍照様はこれからお出かけですか?」

 

私の姿を見たハリエットが訊ねる。

「ああ。ちょっと大阪の下の方まで行こうとな」と私は言った。

 

「珍しいね、何かあるの?」

「まぁ、ちょっと、な。それにこの前はペルソナのマトイ騒動に巻き込まれて行けなかったし」

「そう、何かお土産買ってきて!」

 

アプレンティスはニコやかな顔でそういった。

私は「あいよ、ハリエットも何か欲しいのあるか?」と訊く。

すると、ハリエットは「野菜の種が欲しいです」と言ったので、私は「了解」と頷いて、階段を降り、マンション出た。

そして、元・地元である大阪のとあるターミナル駅へと向かう為、龍翼を生やして空に飛ぼうとした時。

 

「やぁセンパイじゃないか、お出かけかい?」

 

半袖短パンのエルミルが手振りながら駆け足でやってきた。

ジョギングの帰りのようだ。

身体中汗まみれで、見ていてこっちまで汗をかいてくる。

ただでさえ、快晴の炎天下の上に、蝉の合唱コンクールだ。

 

「まぁ、大阪の下の方に行こうかと」

 

私は額から滴る汗を手で拭いながらそう言うと、エルミルは「僕も行っていいかい?」と言った。

 

「別に構わんが、結構歩くで?」

「いいよ。ちょっと着替えてくるから待っていて欲しいな」

 

エルミルはキラキラとした汗を流しながらマンションの中へと消えていった。

汗を垂らしながら走るエルミルに、若干の陸上部のキャプテンのような爽やかさを感じてしまった。

……中身ゲーム廃人のオタクやけど……。

 

「あっちぃぃ……」

 

私は顔から滴る汗を拭いつつマンション内へと避難する。

マンション内は誠に涼しくさっきまでの暑さとは、何だったのかと思えた。

 

「……」

 

私はマンションの壁にもたれ掛かりながら考え始める。

多分、エルミルは風呂も入ってから来るから時間的には10分から15分ぐらい待つことになるな。

……暇だ……。

 

 

 

17分後

 

 

 

「お待たせセンパイ!」

 

エルミルは手を振りながらラフな格好で走ってやってきた。

まるで、元気な後輩だ。

そんな関係では無いのだが……。

 

「それじゃあ、行くか」

 

私はエルミルの手を掴み、翼を広げて飛び立った。

 

 

 

 

10時10分

 

 

 

なんば駅付近の人気のない場所で私たちは静かに降り立つ。

 

「よし、到着!!」

 

私は翼を解いた。

 

「センパイ、そのまま目的地まで飛べばいいのに」

 

エルミルは地面に倒れて呆れ口調で言う。

私はため息をついて「分かってないなー」と口を開く。

 

「目的地まで乗り物に乗るのがいいやないか! 写り行く景色を車窓から観ながら列車の音を聴く。それが最高なんや!」

「な、なるほど」

「そゆことよ!!」

 

私が目的地まで列車に乗って行くことの重要性を熱弁すると、エルミルは若干引き気味になりながらも納得していた。

 

「さぁ、南海高野線に乗って橋本駅まで行くぞ!」

 

私はエルミルの腕を掴んで難波駅へと入っていった。

そして、橋本までの乗車券を買おうとしたら、ここで違和感に気づく。

所々駅名が違う。

なんなら、高野線も南海高野橋線となっていた。

安心したことに、橋本駅のままだ。

私達は乗車券を購入し、改札を出て駅のホームへと向かった。

 

ホームには複数の列車が止まっていた。

私は電光掲示板を確認し、乗るべき列車を見る。

 

「とりあえず、10時30分発の急行橋本行きに乗るか」

「了解だよ」

 

私は携帯端末を取り出して時間を確認する。

時刻は10時21分、もう少ししたら列車が到着するはずだ。

 

「目的地は橋本だよね?」

 

エルミルがそう聞くので、私は首を横に振って「そっから学文路まで歩くで?」と言うと、彼は「どゆこと?」と訳分からんと言いたげな表情になる。

まぁ、そらそうか。

私は橋本から目的地まで歩く理由……昔、橋本から学文路まで歩くのが趣味で、よく学校をサボって散歩していた事を説明した。

 

それをきいたエルミルは唖然としていた。

それと同時に目を瞑り悟りを開きはじめた。

多分、「とんでもない散歩について行く事になったかもしれない」とでも思っているのだろう。

私の散歩に着いてきたエルミルが悪い、これは自己責任だ。

 

 

[皆さん、まもなく3番線に電車が参ります、黄色の展点字タイルまでお下がりください]

 

 

アナウンスの声がホームに響き、モーター音を鳴らした列車がホームに入構してきた。

列車の方向幕には急行橋本行きと書かれていた。

ホームに完全に到着すると、列車は空気が抜けるような爆音がなって少しだけ驚いた。

いつ聴いてもこの爆音だけは慣れん。

列車の扉が開き、私たちは列車の中に入ってクロスシートの端に座った。

エルミルは私の隣に座る。

 

「ふー……」

 

私は一息着いて列車が出発するのを待っていた。

時間が経つにつれて、ゾロゾロと人々が入ってきて席に座ったり、扉の近くで携帯を弄り出したりと様々だ。

 

 

[皆様、まもなく3番乗り場から電車が発車致します。扉にご注意ください]

 

 

アナウンスが流れ、列車の天井にあるスピーカーから車掌の声が車内に響く。

 

[急行橋本行き、扉閉まります。ご注意ください]

 

そのアナウンスが流れ終わると、プシューと扉が締まり、独特のモーター音を唸りながら列車は発車した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11時21分

 

 

 

 

橋本駅に到達した私とエルミルは橋本駅を出て背伸びする。

 

「うーーーー、やっと橋本についたーーー!」

「途中から寝てたよ……」

 

蝉の合唱が辺りを賑やかにする中、私は心地の良い背伸びをした。

一方、エルミルは肩を下ろしながら目を擦って眠そうにしていた。

 

 

「そしたら、学文路まで行くか!」

「んぁーい」

 

炎天下と蝉のコーラスのこの世界で私たちは学文路まで歩き始めた。

 

 

 

 

 

河川を渡る巨大な橋を渡る頃には、エルミルも眠気が覚めたのか河川を観ながら渡っていた。

 

「東京は都会が多いから、こんな田舎町は新鮮だね」

「ああ、せやな。この世界も、向こうの世界と対して変わらんな」

「センパイが高校生の時に散歩に来たんだよね?」

「ああ、学校をサボってよく歩きに来ていたで。他にも南海本線に乗って海の方に散歩したりな。東方っていうゲームのボーカルアレンジやアレンジBGMを聴きながら歩いていた」

 

橋を渡りながら、私とエルミルは会話を続ける。

蝉の声や夏の暑さが感じなくなっていた。

 

「こうして山のある場所を歩きながら東方の曲を流して小説の物語を考える。私はこれを超える幸せな事は、友人と遊んだり食べに行ったりする以外にないと思う」

 

私は昔の事を思い出していた。

同じような快晴日に、財布とスマホ以外の荷物も持たずに東方の彁、童遊や、ハウスリミックスの神々が恋した幻想郷を聴いて歩いた事を……。

 

「意外だね」

 

エルミルは少しだけ笑った。

私は少しだけドヤ顔になって口を開く

 

「そうやろ?」

「うん、センパイの見た目的に家にこもってゲームばかりするイメージだからサ」

「ああ、よく友人に言われていたよ。全く同じ事をな」

 

橋を渡り、古い家々が並ぶ住宅街へと入る私たち。

会話は途切れることなく続く。

途中で昔ながらの駄菓子屋に置かれてある自販機でエルミルにラムネを買ってあげた。

 

「この世界も、同じやな……懐かしいな……」

「……」

 

私は顔から汗を垂らしてそう言った。

エルミルはその言葉に何も言わずにラムネを飲み干していた。

 

「センパイ、元の世界が恋しくなったかい?」

「まぁ、恋しくないと言えば嘘になるな……。思い出が……頭の中にいっぱい溢れてくる……」

「……」

「でも、戻る訳にはいかん。私はこの世界でやることが沢山ある。この世界に来れた事で希望が生まれた夢もある。私が成したい事を全てを成した時、もし私が生きていたのなら、戻ってまた此処を訪れたいな」

「僕も手伝うよ」

「あぁ、ありがとうございます」

 

エルミルの言葉に私は顔から滴る汗を拭いながら言った。

そんな話をしながら住宅街から線路伝いの道を歩く。

タイミングよく、赤いラインが特徴的な列車がゆったりとした速度で通り過ぎて行った。

 

「この道も友人と歩いたな……」

「そうなの?」

「ああ」

「センパイ、友人居たんだ」

「大原と藤野がいる時点で、その疑問は解消されてるはずなんやが??」

 

エルミルの言葉に私は少しだけ棘のある口調でエルミルにチクチク刺す。

その言葉にエルミルは笑って謝罪する。

 

「……まぁそれはともかく、ホンマにあんまり変わらないな」

「そうなんだね……つまり僕はセンパイの元の世界と同じ景色を見ている事になるね」

「あぁ……せやな……」

 

私はそう呟き、2匹にも声を掛けてみた。

 

「ニーズヘッグとミラボレアス、どうや?」

 

私がそう言うと、2匹はそれぞれ口を開いた。

 

〚悪くない〛

〚劫火で燃やしたら明るくなりそう〛

 

「おぉ……」

 

なんかミラボレアスが怖いこと言ってるけどコイツはいつも通りだから良いとしておこう。

ニーズヘッグの感想が少し意外だった。

また知らんみたいな事言うかと思ってた。

 

「そういえばセンパイ、学文路まで行って何するの?」

「んー? あぁ、学文路神社でお守り買う」

「お守り?」

「うむ」

「どうしてサ?」

「フローとフラウ、もうすぐ学期末試験やろ?」

「あ、もうそんな時期なのね」

「ああ、せやからいい点数取れるように、学文路神社までお参りプラス合格祈願のお守りをな」

「そういうことネ」

 

私たちは大通りに出て歩道を歩いた。

話は続く。

 

「それで、大学の時に1回だけ試した禁断の方法を行おうとな」

「禁断の方法? 万引き?」

「違うわアホ!」

 

エルミルのボケに直ぐに突っ込む。

 

「神社で、んなアホなことやってみろ!どんなバチが当たるかわかったもんちゃうわ!」

「だよね」

 

腹を抱えてゲラゲラ笑うエルミル。

ったく、とんでもない事を言うもんだ。

一頻り笑い終えたエルミルは話の続きを要求してきたので話をした。

辺りは田んぼに囲まれて、車道には軽トラックが数分に1台通るのみだ。

「まぁ……お守りを介した肩代わりやな」

 

私の話にエルミルは眉を顰める。

「肩代わり?何それ?」と。

話を続けた。

 

「お守りを買うやろ? そんで数時間自分が持ち続けて願いを言うねん」

「うん」

「確か、大学……2回生の時やな。あの時、私の妹が高校受験、友人が大学受験を控えててな。友人に至っては二浪してた」

「なるほど」

「で、私は大学をサボって学文路神社まで向かったのな。今と同じルートを」

 

車の通る音も聴こえない程に私とエルミルは話にのめり込んだ。

 

「で、学文路神社で2人の合格を祈り、お守りを購入したのよ」

「……」

「で、私はそのお守りに、こう願いを込めた」

「なんて込めたの?」

「……妹と友人の苦しみ、痛み、ストレス、全てを私が請け負いますので、2人が絶好調の状態で受験に挑み、無事合格出来ますように。と」

「……」

 

私の願いに呆気に取られるエルミル。

 

「それで私はそれをしまって同じ道を何時間もかけて帰った。なんなら、帰る時は橋本からじゃなくて、もっと遠い駅までな」

「どうして?」

「お守りに私の魂を宿らせた。物を長い間持つと、その人の魂が宿ると言われてたからな。その私の魂が2人に降りかかる厄災を身代わりになるように」

「……それで……?」

「帰りは6時間は歩いたよ。お守りに私の魂が入るように、2人の合格を祈りながら」

「……」

 

〚……〛

〚……〛

 

暑さも忘れ、ただ私の言葉を聞くエルミル。

最早無音の世界だった。

 

「それで、それを妹と友人に渡した。2人は喜んでいたな」

 

私は少しだけ微笑む。

懐かしい……記憶だ……。

 

「で、その2日後、妹はインフルエンザにかかった」

「え?」

 

予想外の言葉にエルミルは聞き返してきた。

だが、それを無視して続ける。

 

「でもな、不思議なことにそのインフルエンザは1日で完治したどころか、妹自身もそんなに辛くなかったらしい」

「……」

「後から聞いた話やと、友人はいつもより怖いくらい調子が良く、ストレスも感じる事無く勉強に励めたらしい」

「……」

「で、私は、と言うとな」

「何かあったのかい?」

 

エルミルの問いに私は少しだけ笑って頷く。

 

「胃腸炎で倒れた」

「ホントに言ってる?」

「ああ、嘔吐、消化不良、腹痛、発熱、全身の筋肉痛で3日間死にかけていたよ。寝ても1時間に1回は起きる程に。なんなら1週間は消化不良で大変だった」

「……」

 

少し引いているエルミル。

 

「で、2人とも試験は合格したよ」

「おおおおおおお!」

 

私の言葉にエルミルは歓声を上げた。

その声は田畑で作業していた夫婦を振り向貸せるには十分過ぎた。

 

「どう思う? これが偶然か? 私は思えんな。私の体調は万全やったストレスもなく普通に過ごしていて、突然の胃腸炎。私は偶然とは思えん」

「それは同意だね。それで2人は無事卒業出来たのかい?」

「……友人は2回生で退学した」

「僕の感動を返せ!!!」

 

私とエルミルの笑い声が田舎町に木霊する。

 

「まぁ妹は卒業したからな。良しとしてるよ。その人の人生や。死以外の事は兎や角言うのはアレやからな」

「そうなのかな?」

「ああ、死関連は止めるけどな」

「……まぁいいか。それで、その禁断の方法をフローとフラウにするのかな?」

「ああ、2人の頑張りに私も応援しようやないかと思ってな」

 

私たちはまた住宅街へと入る。

すると突然、エルミルがこのような質問をしてきた。

 

「そういえば、センパイって家族は?」

「いたよ。お父さん、お母さん、妹、弟、私」

「…………………………元の世界で心配してるんじゃない?」

「そうやなー。まぁでも、戻る方法も分からんし、私の夢を叶えるため、戻る訳にもいかん。多分両親もそう思ってるで、"ここまで来たら夢を叶えるまで来るなよ"って」

「そう……また会えるといいね」

「あぁ、また逢いたいな。まぁ必ず逢えるよ」

「……そういえばセンパイ、ヴラブマは見た?」

 

エルミルは物凄い突然に、話題を変えてきた。

私は首を横に振る。

 

「見てないよ。見たいけど、見る勇気がないって感じやな」

「僕、CD持ってるから貸すよ?」

「……女性キャラ何人死ぬ?」

「…………………………程よく」

「…………まぁ、そうだよな……」

「また今度貸すよ。1話だけ見るといいよ」

「んあー、じゃあまた今度な」

 

 

 

1時半

 

 

 

そんな会話をしているうちに、学文路神社までやってきた。

私とエルミルは、お賽銭をして祈った。

フローとフラウのテストの点数が高得点でありますようにと。

そして、お守りを2つ購入し、祈りを捧げた。

 

あの時と同じように……。

 

 

学文路神社を出て、私はエルミルに話をした。

 

「すまん、さっき話した通り、ここからかなり歩く。あっちに行けば学文路駅に着くはずやから先に帰っててええで」

 

と。

しかし、エルミルは笑って「ここまできたら付き合うよ」と指でグッドをして言った。

私は「ありがとうな」と感謝を述べてお守りに私の魂を込めた。

フローとフラウに降りかかるあらゆる厄災を、私が肩代わりするので、2人には高得点を貰えますようにと。

 

 

 

 

 

夜の9時50分。

 

 

「フロー、フラウ」

 

私とエルミルは自宅のマンションに着くなり、2人の部屋に入った。

 

「どうしたの?」

「何かあったの?」

 

フローとフラウは出迎えてくれた。

私とエルミルは2人にお守りを渡した。

 

「何か不思議な感じがする」

「優しくて温かい感じがする」

 

フローとフラウが口々にそう言った。

 

「私とエルミルとで合格祈願のお守りを買ってきたんや」

「2人とも頑張ってネー」

 

私たちはそう言うと、2人は目を輝かせて「ありがとう」と言った。

 

 

 

 

その後、私とエルミルは急性胃腸炎を発症し、ぶっ倒れた。

医者が言うには、極度のストレスによるもの。

らしい。

 

 

 

 

 

 

続く



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34話 夏だ、海だ、闘争だ、激闘だー!

夏だ、海だ、ハリエットだ、全知だー!
夏だ、海だ、フローちゃんだ、フラウちゃんだー!
夏だ、海だ、花火だ、いっぱいいっぱい遊ぼー!
お○ぱいだ、お○ぱいだ、お○ぱいだ、お○ぱいだー!
夏だ、海だ、アニメだ、ゲームだー!
夏だ、海だ、スイカだ、スイカ割りだー!
夏だ、海だ、競泳水着だ、ピッチリスーツだー!









『……上からの決断が決まった』

アザマ博士はドールに伝えた。

『これは破棄が決まった』
『まぁ、そうだよね。制御が難しい物を置くのも無理がある』
『ああ、もう少ししたらワームホールが開く。そうしたら直ちに、これを破棄だ』
『んー、でもなんか、勿体ないなー』

ドールはそう言って、私に近づいてきた。
そして、ドールは私の身体に触れた。

『おい、なにやってる!?』

アザマは鬼気迫る表情でドールを私から引き剥がした。

『いや、これって女性体だから破棄しなくても、別の方法になら使えるんじゃないかなーって』
『そんな事に使えるわけないだろう!』
『まぁ、そうだよね』

アザマの怒声に、ドールは笑って納得する。

『あー、しまったな。さっき触れた事で身体にフォトンが流れて来ちゃったよ』
『全く何やってんだか……』
『まぁいいか!』
『良くないと思うが……あー、そういえば閃機種の具合はどうだ?』

アザマはドールに訊くと、ドールはドヤ顔になって資料を開示した。

『見たまえ、この閃機種の量を!』

ドールが見せた資料には閃機種がずらりと記載されていた。

量産機アンジュール・ネメシス10億機
部隊長機アンヴァール・ネメシス1億機
少数生産機アンヴァリーズ・スレイヴ500万機
量産支援機べルード・フォードルス3000億機
少数生産支援機フルドリード・フォードレス10億機

マイ級駆逐艦100億隻
ラビュリス級巡洋艦30億隻



『まだまだ他の物も製造中さ!』
『全宇宙を管轄するにはまだまだ必要だな』
『そうだね』
『ところで、前のアレは破棄したのか?』
『する訳ないじゃないか!』
『はよ廃棄しろ!!』
『えーー!』






 

 

 

 

8月1日

7時00分。

 

 

 

「皆、準備できたかー?」

「こっちは大丈夫!」

 

龍照の声にペルソナは手を振る。

蝉の合唱が続く中、私たちは海に行く準備をしていた。

フローとフラウは学期末試験の教科を全て80点以上を見事におさめた事でアプレンティスからのご褒美に、皆で海に行きたいと言ったので、今日の8月1日に皆で海に行くことになったのだ。

 

私、アプレンティスはカメラと水着をバッグに入れて車に乗り込む。

私達は車を持っていなかった為、シスコン敗者ことルーサーがハイエースコミューターをレンタルしてくれた。

 

「荷物はこんだけか?」

 

積まれた荷物を見て龍照は言う。

エルダーは「おう、これだけみたいだ!」と返事をする。

 

「それじゃあ皆車に乗ってほしい」

 

とルーサーは言いながら、運転席へと乗り込む。

運転手はルーサーである。

彼はシオンに無自覚にフラれたショックを掻き消すために、エルダーとの鍛錬に加え、様々な資格や免許を取っていたみたいだ。

 

「海だー!」

「海だー!」

 

テンションアゲアゲのダブル。

よっぽど楽しみだったのだろう。

シールドベルトをしっかり閉めて両足をバタバタしている。

あぁーもう本当に可愛いなぁぁ!!

私は、ダブルのキュートな仕草に抱きつこうとしたが、シートベルトに邪魔されてしまった。

 

「暴れると怪我するよ誘拐犯?」

「失恋者は黙ってなさい」

「あーやめろこんな時に」

 

私とルーサーのバチバチ睨み合う中、エルダーは呆れながらも仲裁に入った。

 

「とりあえずルーサーよ、出してくれ」

「ああ、分かった」

 

龍照は窓の景色を見ながらそう言った。

車はエンジンを鳴らして出発する。

 

「思ったけど、これ車に乗らずに海まで飛べば良くない?」

 

エルミルは至極真っ当な正論をぶつけた。

確かにそうだ。

ここにいる全員、宙を滞空し、自在に動くことができる。

その気にならなくても海へ飛ぶことなんてお手の物だ。

でも、今回の主役であるフローちゃんとフラウちゃんがそれを却下したのだ。

 

「ヤダ! みんなで車に乗って行くのがいいの!」

「ヤダ! 家族で車に乗って出かけるのがいいの!」

 

フローとフラウは、エルミル向けて叫んだ。

2人の言葉を聞いたエルミルは、何故か龍照の方を見た。

だが、その目線に気づくことなく龍照は「家族かー」と少し微笑んだ。

 

「エスカファルス一家?」

 

ペルソナも龍照と同じく窓から景色を眺めながら言った。

……どうして龍照とペルソナは、いつも見ている景色を必死に眺めているのだろう?

 

「私たちが家族となると、父と母は誰になるのでしょう?」

 

ペルソナの言葉にハリエットが乗っかった。

その言葉に全員が自然と考え込む。

 

「父が龍照で、母がペルソナじゃないかな?」

 

私は口を開いた。

少なくとも、私たちエスカファルスを生み出したのは龍照だし、それならその龍照の裏側のような存在であるペルソナが母になるのではないだろうか?

 

「私が父か……それは構わんが、母親がコイツって……なんかのエロ同人誌に出てきそうなエッチな若妻みたいやな」

「私、寝取りはNG」

「……んなこと聞いとらんわ! てか、どうでもええわそんな情報!」

 

龍照とペルソナの豪速球キャッチボールが始まった。

表裏なだけあって仲がいい。

 

「……眠い……」

「……眠たい……」

 

そんな中、フローちゃんとフラウちゃんは睡魔に襲われたのかウトウトし始める。

本当に可愛い。

 

「目的地までまだまだ先だからゆっくり寝ておくといいよ」

 

眠そうな2人に対して、ルーサーは優しく諭した。

海に行くのが楽しみすぎて、まともに寝ていないのだろう。

ルーサーに言われた2人は直ぐに眠りに着いたのか、可愛い寝息をたていた。

 

「ルーサーよ、場所は分かるよな?」

「ああ、大丈夫だ。明字賀浦海水浴場だろう? ここからだと3時間もあれば到着するね」

 

信号待ちの時に助手席に座っていた龍照と、運転席に座るルーサーが場所の確認をしていた。

その間、私は携帯端末でフローちゃんとフラウちゃんの写真を堪能していた。

 

このまま何事もなく海水浴場へと到着すると思われていたが、少しばかりトラブルに巻き込まれる事になる。

 

それは常盤自動車道を走行中に起こった。

 

 

「? なんだろうか?」

 

運転しているルーサーが異変に気づく。

その声に龍照やダブルを除くエスカファルス達がルーサーの方を見た。

 

「どうした?」

 

エルダーがルーサーに訊ねる。

ルーサーは片手運転をした状態で、空いた手で目の前を走行している車を指さす。

ダブルを除く全員がその車を見た。

 

「うわー……」

「面倒くせえなぁおい……」

 

龍照は少しだけ引いて、エルダーは明らかに機嫌悪い表情になる。

目の前に走行している車は先程から蛇行運転をしたり、スピードを緩めたり、急ブレーキを掛けたりと人の神経を逆撫でするような行為をしてきた。

煽り運転、というやつだろう。

聞いた事、動画等で見た事はあるが、実際に見るのは初めてだ。

 

「……僕の頭の中にある案を言ってもいいかい?」

 

ルーサーは少し低い声をして話す。

それを聞いた龍照は「どうぞー」と言った。

 

「まず1つ目、僕の時間停止能力で、時を止めて逃げる」

「ほう」

「2つ目、時間を止めて、煽り運転をしている車をガードレールから突き落とす」

「犯罪、ダメ」

「3つ目、煽り運転をしている車が止まって、中から人が降りてきたら僕たちも全員降りて、ヒューナル形態に成って、煽り返す」

 

ルーサーは3つの提案をする。

ただ、残り1つは龍照によって却下された。

全員で話し合った結果……。

 

 

「良し、それじゃあ、その案で行こうか」

「賛成だ」

「ふふ、楽しみだね」

 

私とエルダーは悪い笑みを浮かべて、煽り運転をする車を眺めていた。

私たちがそんな事をしているなんて、露とも思っていない煽り運転の車は相も変わらず蛇行運転、低速運転、急ブレーキを繰り返している。

見ていて腹が立つが、ここは我慢だ。

 

そして、刻は来た。

 

「……止まるね」

 

ルーサーの呟く声に全員が前を見る。

確かに、前の車のスピードが徐々に、徐々に落ちていく。

最後には完全に停止した。

煽り運転の車からフルパワーで扉を開け、男性と女性が出てくる。

女性の方は、携帯端末を持ってこちらを撮影しているのが見えた。

男性の方は、ゴツイ体躯でチンピラを絵に描いたようなイメージの男性だ。

その男性は怒声を上げてこちらに詰め寄ってくる。

 

「ゴラァァァ!! チンタラ走ってんじゃねぇよ!!」

 

どの口が言っているのかと、私は一瞬怒りを覚えたがフローちゃんとフラウちゃんの、寝顔を見て落ち着いた。

 

「さぁ、行こうか」

 

ニヤリとしたルーサーはそう言ってシートベルトを外す。

それを合図に、寝ているダブル以外がシートベルトを外して、外へと出る。

 

「舐めてんじゃねえぞゴラァ!!」

 

男性は大声を上げてこちらに噛み付いてくる。

 

「深遠、崩壊、その先にあるものは希望の未来。我が名はルーサー、エスカファルスなり」

 

ルーサーは詠唱し時間を止める。

蝉の鳴き声や鳥のせせらぎ、風の音、あらゆる環境音が消失した事で、女性と男性はたじろぎ、辺りを見渡す。

その間に私たちはエーテルを解放し、エスカヒューナル体へと変身した。

目の前の人々が異形の姿になった事で、煽り運転をしていた女性と男性は悲鳴を上げて車に戻って逃走を図ろうとした。

だが、そんなことを私達がさせるわけが無い。

 

エルダーこと、エスカ・ヒューナルは跳躍で煽り運転の車の前に着地し、その車を片手で掴み、持ち上げた。

 

「あああああああああ!?」

「いやああああああああ!!」

 

男性と女性は雄叫びをあげて腰を抜かしていた。

後でエルダーから聞いた事によると、その時の2人の顔は笑えるほどマヌケな顔だったと言う。

 

「……失せろ……」

 

今までに聞いた事のない、地獄の底から呻くような声でエルダーは2人に言い放ち、持っていた車のバンパーを握りつぶした。

ゴシャンッ!!という音が無音の世界に響き渡り、2人は悲鳴にならない悲鳴を上げて失禁する。

 

「二度と煽り運転なんてすんじゃねぇ……!」

 

エルダーはそう言うと車をゆっくり下ろし、ゆっくりと男性の方に近づく。

ちなみにヒューナル体である。

 

「あ、かっ、ああ……か……え、あ……」

「ん、んん、ん、んんんんん、ん、ん……」

 

男性と女性は逃げようとするが、完全に腰が砕けたようだ。

立つことができず、その場で藻掻いていた。

恐怖に呂律が回らずに言語能力が消失している。

そんな2人にエルダーは、口と口が触れ合う程まで顔を近づけた。

 

「……煽り運転は、他人を傷つけるだけじゃねえ、下手したら人の命すらも奪う最低な行為だ。二度とするなよ。わかったか?」

「……い、あ……あ……」

「……分かったか!?」

「「あ、は、あ、あぁ、あぁい!!」」

 

エルダーの気迫に圧倒された2人は涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして頷く。

 

「……ならいい」

 

エルダーはドスドスと重い音を発ててこちらに戻ってくる。

 

「行こうか」

 

エルダーはヒューナル体を解除しながら言った。

それに続くように私達もヒューナル体を解いて、人間に戻り、車に乗り込む。

男性と女性の方を見ると、そそくさと車に乗り込んで出発しようとしていた。

それを見たルーサーは時間停止を解く。

 

「さて、気を取り直して、目的地にレッツゴーだ」

 

ルーサーはアクセルを踏んで車を発進させた。

因みに、ダブルは凄い幸福そうな表情で眠りについていた。

 

 

 

 

10時39分

 

 

「ここでいいよね?」

「そ、そうやな」

 

ルーサーは、巧みなハンドルテクニックで車を駐車場に停車させた。

 

「よし、到着したよ」

「あー、やばかった……」

「お、同じく……」

「大丈夫?」

 

私は、顔色を悪くして死にかけている2人に、声を掛けた。

龍照もペルソナも車酔いによりグロッキー状態だ。

 

「おいおい、大丈夫か?」

「すまん、大丈夫や……うっぷ……」

 

龍照とペルソナは、私とエルダーに介抱されて車を出た。

その表情はこの世のモノとは思えないほど窶れ果てており、若干の恐怖さえも覚えるほどだ。

 

 

「わーい!海だー!」

「わーい!海だー!」

 

屍人のような2人とは対照的に、目を覚ましたダブルは、車窓から見える辺り一面に広がる青い景色に興奮して、車から飛び出してきた。

浜辺には大勢の人々がいて、テントを建てて海水浴を楽しんでいるのが見えた。

正直、ダブル程ではないが、私達エスカファルス勢も、海水浴に来たのは初めてだったので、テンションが上がっていた。

皆、早々と車に積んでいる荷物を持って浜辺へと早歩きで向かう。

みんなでテントを建て終えると、全員が服を脱ぐ。

服の下には、直ぐに海に入れるように既に水着を着ていたのだ。

 

「初めての海だ、片っ端から泳ぐか!!」

 

因みに、エルダーの水着は青色の水玉模様が特徴のトランクス型の海水パンツだ。

長身で顔立ちの整ったエルダーと合わさって、見事な爽やか兄上系男性となっている。

 

「そうだね、たまにはこういう息抜きも悪くない」

 

一方で、シスコン失恋者ことルーサーは、想像通りのブーメランパンツだ。

それでも見た目と相まって爽やか系である事に変わりは無い。

 

「僕もいっぱい泳ごう!」

 

フローちゃんは、エルダーと似たような子供向けのトランクス型の海パンだ。

可愛い。

 

「私は砂遊びをするー!」

 

フラウちゃんは、チェリーが彩るワンピース型の水着だ。

2人とも凄い可愛い。

私は抱きしめたい衝動に駆られるが、公共の場であることを考慮して必死にその欲望を抑えた。

 

「僕はフローの面倒をみるね」

「私も見ようか?」

 

エルミルと龍照はウェットスーツにトランクス型の海パンを着た姿だ。

スキューバダイビングを趣味とする大学生といった風貌だね。

 

「では、私はフラウ様と一緒に砂遊びをします」

 

ハリエットは青いフリルが装飾された可愛らしい白ビキニだ。

上品なエロさとお嬢様さを存分に醸し出している。

 

「龍照は私と泳ごう!!」

「マジかい、すまんエルミル任せた」

「りょうかいだよ、センパイ!」

 

最後にペルソナだが、彼女は私と同じ空色の競泳水着だ。

特大と胸は健在だ。

あまりの大きさに競泳水着の肩部の紐がちぎれそうになっている。

 

「私もフラウちゃんと砂遊びするー!」

 

私もペルソナと同じ競泳水着だ。

それ以上でもそれ以下でもない。

 

「それじゃあお昼まで各自好きにしようか!」

 

龍照の言葉に全員が頷いて……。

 

「っしゃああ! ルーサー、あの岩まで競走だあああああ!」

「ああ、絶対に勝ってやる!!」

 

エルダーとルーサーは、子供のように明るい顔で海まで全力疾走をする。

 

「一応言っとくけど、人命救助とか溺れる以外でヒューナル体になるなよおおお!」

 

走り出す2人に向かって龍照は忠告をする。

2人はこっちに振り向きながら手を振って「わかってるよおおおおお!」と言った。

そして、エルダーとルーサーはバタフライで泳ぎ出した。

 

「おい、ハルク見てえなイケメン2人がバタフライで泳いでるぞ!!」

「なんだありゃ!?」

「トビウオか?」

 

2人の競走をみた他の人々は、口々に言いながら驚愕している様子だ。

また、若い女性達は「何あのイケメン!?」「ナ声掛けてみようかな?」などと言っていた。

 

「じゃあ、私も泳ごうか!」

 

ペルソナはニコッと微笑んで龍照の腕を引っ張る。

 

「あー、分かったから引っ張るなー!」

「いってらっしゃーい」

 

ペルソナに連れていかれる龍照を私は手を振って見送った。

 

「何じゃ、あのデカイ胸!?」

「なによあの胸、人間の胸じゃないわよ!」

「何であんな冴えない男と一緒なんだよ……!」

「きっと、ATMにされてるよあの男。吸われて捨てられるって感じね」

「あの男なら声掛けて奪えれるんじゃねーか?」

 

 

「ぷふっ……酷い言われようだね」

「少し龍照様が不憫です……」

 

周りの人々の意見に私は少しだけ吹き出してしまった。

もちろんだが、周りの声はあの2人にも聞こえているようで……。

 

「……お前、私をATMにしてるんか!?」

「どうやってATMにしろって言うのよ!」

 

関西人バリバリのボケをペルソナに披露する。

それに乗ったペルソナはツッコミを入れた。

 

「しっかし、私の評価酷いなー」

「中学から似たような事言われてるから慣れてるでしょ?」

「ああ。あの手の悪口には耐性があるからな」

 

2人は周りの悪口をネタに笑いあっていた。

 

「あれ? フローちゃんとエルミルは?」

 

私は辺りをキョロキョロ見渡しながら言う。

するとハリエットは「もうとっくに海で遊んでいますよ」と2人が遊んでいる所を指さした。

 

「あ、良かった。迷子になったかと……」

 

私はホッと胸を撫で下ろした。

 

「ねー、砂でお城作ろうよ!」

 

フラウちゃんはそう言って私とハリエットに言った。

 

「そうですね! どんなお城を作りましょうか?」

 

ハリエットはフラウちゃんに訊ねる。

「大きいやつ!」と言ったので、私はあるお城を作ろうと考えた。

 

「お城って言ったら、ハリエット。分かるよね?」

 

私の頭の中には、経験した記憶のない、とある記憶があった。

どうやら、ハリエットにもあったようで、微笑んで頷いた。

 

「作りましょう、アプレンティス(マルガレータ)様!」

 

「「神聖エピクエント魔導国を!!」」

「おー!」

 

 

私たちは経験した覚えのない記憶を頼りに、砂を使ってお城を作り始める。

 

「ここは、確かこうだったよね?」

「ええ、そこは……。そうです、そんな感じで……」

「お城の壁はこんな感じでいい?」

「そう! フラウちゃん完璧だよ!」

 

3人で城壁、迎撃拠点、王城を砂で器用に組み立てていく。

その規模は最早ただの砂遊びを超越し、砂の芸術作品でも作っているかの様だった。

その壮大な砂遊びに関心を持った人々達がゾロゾロとやってきて眺めだした。

 

「あの子達凄いもの作ってるぞ!」

「3人とも可愛いなぁ」

「お父さんあれ作って!」

「よっしゃああ、お父さんに任せなさい!」

「本格的だな」

 

 

 

岩で笑いあっている2人。

 

「時には競走もいいものだな」

「ああ、今回は俺の負けだ」

「じゃあ、かき氷1つご馳走様だね」

「くっそー、リベンジだ!! ここから浜辺まで競走だ!!」

「ふふ、かき氷を2つ奢る事になるよ」

「言ってろ! 行くぞ!!」

「ああ!!」

 

岩から飛び降りて、トビウオの如く浜辺まで泳いで行った。

その結果……。

 

「かき氷、2つご馳走様になるよ!」

「お前、時間操作使ってるだろ……はぁ、はぁ、はぁ!」

「失礼な。勝負は真剣、そんな小細工を使う事なんてしないさ」

「ちくしょう、仕方ねえ。かき氷くれてやるよ」

 

エルダーは、ゼーゼー息を切らしながら、財布を取りにテントへと向かった。

ルーサーも得意げな表情で着いていく。

 

「ん? なんだありゃ……」

「何かあったのかな?」

 

自分達のテントの所に人集りが出来ているのを見て少し不審に思い、早歩きで向かう。

 

「おい、アプレンティス何かあった……のか?……なんじゃこりゃ!?」

「どうしたんだい? ……未知の事象過ぎる……」

 

人集りを掻き分けて、アプレンティス達にたどり着いた2人は唖然とする。

テントの前には巨大な王国が建国されていたのだ。

人々は「すげえ」「これはバズるぞ」等と言った賞賛の声が聴こえてくる。

 

「できたー!」

「できました!!」

「お城かんせーい!!」

 

3人は高らかにそう言った。

それに、見ていた人達も「おおおおおおおお!!」と拍手喝采が巻き起こる。

 

「確かにこれは凄いな」

「……クエント城??」

 

ルーサーは、その城に見覚えがあるのか、そう呟く。

 

「あ、ルーサー兄様! 見てください、どうですか!? この神聖エピクエント魔導国!」

 

ハリエットは、普段は見せない無邪気な笑顔でルーサーに訊く。

ルーサーは「本当に凄い……」と拍手と賞賛を送った。

フラウちゃんも超得意気に胸を張っていた。

本当に可愛い。

 

その後、この場所は写真撮影の舞台となったのだった。

 

 

 

 

 

朝の部、終わり。

後半、昼から夜の部へ続く。



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35話 この平和が永遠に続いて欲しいと願う。




黒いマザーシップにて、男は報告を受けていた。

「BDSですが、開発途中に不具合が発生した為、現在は開発を中断し、別のDLSーnlsを開発しています」

金髪の美少女の報告を受けて、男は考えを巡らせる。

「陸海空適応型DLSーVDASはどうなっている?」
「製造は完了し、データを入力中です。2ヶ月もあれば運用する事が可能かと思われます。またnlsも問題なく開発が進んでおり、nlsの簡易量産機の建造も滞りなく進んでおります」
「ありがとう。それじゃあ引き続きお願いするよ」
「はい、主様」

男は椅子に座り、一息ついた。
男はモニターに映し出される地球を見つめて、フッと笑い席を立ち上がる。
コツコツコツと靴の音を響かせて、細い一本道を歩く。
長い長い廊下を歩いた先には1つの扉があった。
誰がどう見ても怪しさ満点の扉だ。
何重にもロックが掛けられており、それを解除して重い鉄のハンドルを力を込めて回した。
そして、扉は音を立てて開く。
その扉の奥には広々とした部屋があり、その部屋の中心部には培養液のような物が入った超巨大なカプセルがあった。
そのカプセルの中にはナニカが入っている。
そのナニカの正体は分からないが、繭のような形状をしており、背部には後輪と思われる物が見えた。
色は黒一色で身体の1部にはコードのような物が繋がれており、その管の中には青い液体のような物が流れていた。
その巨大なカプセルを見た男は、優しい表情になる。

「あぁ、もう少しだけ待ってほしい」

そう言って男はカプセルに抱きつくように、くっついた。

「ふふ、勿論、あと数カ月したら君を大空へと羽ばたかせるさ」

顔をスリスリとし始める。
その様子はまさに愛娘を可愛がる父親のような様子だった。

「そして、地球を滅ぼして、征服したら他の星も支配しよう」

男はカプセルに口付けを交わした。

「ふふ、だから、それまで待っていてくれ。君の力を全ての次元に知らしめるんだ」

そして、男は、その名を呼んだ。

「僕が生み出した最高傑作。ダルクファキス・【神盾(イージス)】」




 

 

 

 

1時00分

 

 

 

砂のエピクエント魔導国が建国されて1時間程が経過した。

 

「おー、エピクエント魔導国人気だなー」

 

焼きそばを頬張り、砂で作られたエピクエント魔導国を見ながら喋るエルダー。

私たちは、ちょっとだけ遅めの昼ごはんを海の家と呼ばれる場所で食べている。

 

「まぁ、あんなサンドアート中々お目にかかる事もないしな」

 

ズズズっとラーメンを口いっぱい頬張る龍照。

ペルソナも同じようにラーメンを食べながら頷いていた。

 

「そういえば、龍照とペルソナは何してたの?」

 

私は口に含んだカレーを飲み込んで、2人に訊いた。

2人ともキョトンとした表情で「泳いでた」と言った。

 

「泳ぐまでが大変だったがな……」

 

ラーメンを食べ終え、目を逸らしながら静かに笑う龍照を見て、大勢にナンパに会ったのだなと悟った。

 

「いや、ナンパはええのよ。ペルソナのプロポーションなら圧倒的に男が寄ってくるのは必然ではある……。あるんやが……」

 

そう言い終えると龍照はため息をついた。

ペルソナは笑いを堪えている様子だ。

 

「なんか知らんけど、私に意味の分からん凶弾が飛んでくるのはなんでや……」

「ほ、ほんとだよね」

 

ふへへへへ(笑)とカレーを口に含んで笑うペルソナ。

その言葉に皆が「何があったのか?」と言いたげな表情をしている。

その雰囲気を察したペルソナは笑いの成分が含まれた声で経緯を話した。

 

龍照を連れて海に向かっている最中に、何度も男性にナンパをされたらしい。

その時に、その男達は龍照の方を見て「こんな頼りない男と遊ぶより、俺らと楽しいことしない?」や「こんなキモオタ君より俺らの方が絶対いいぜ!」等と、矢鱈と龍照の悪口を言われていたのだ。

 

「ペルソナをナンパするのはええよ? なんで私に暴言の弾丸が飛んでくるのよ!?」

「プっ……プフへへへへへへ!」

 

龍照は大声を上げて猛抗議をする。

その様子を思い出したペルソナは、絶妙に気持ちの悪い笑い声を吹き出した。

 

ペルソナの話は続く。

でもね、貴方達がナンパしてる人って、そのキモオタが女体化した存在だから、事実上そのキモオタ君をナンパしてる事になるんだよねって、か、考えたらはははははは!!

ま、マヌケすぎてへへへへへ!

 

「笑いすぎだ」

 

エルダーはそう言うが、ペルソナの笑いに伝染したようで、エルダーもゲラゲラと笑っていた。

いや、ここにいる皆が爆笑していた。

 

「まじでさー、大変やったよ。ホンマに!!」

 

項垂れる龍照。

その時だった。

 

「あああああーーーーー!」

 

私たちのテントの方から悲鳴が聞こえてきた。

何だ何だと全員が悲鳴のした方を見つめると、男性が転んでサンドアートの城が半壊していた。

転んだ男性は、絶望したような表情で潰れた砂の城を見つめている。

 

「怪獣だー!」

「モンスターだー!」

 

半壊した砂の城を見てフローちゃんとフラウちゃんはワイワイ騒ぎ始める。

 

「あー、エピクエント魔導国が崩壊したねー」

「旧クエント城みたいになっとるな」

 

私が崩壊したエピクエントを見つめつつ、そう言うと龍照はカレーを食べながら感想を述べていた。

 

「じゃ、じゃあ、あの男性はエリュトロンドラゴンだね。あー頭痛い……式に氷が……」

「しゅべてしゅべてしゅべてぇ↑」

「んふっ……赤トカゲの真似すんな」

 

かき氷を食べて頭を抑え、悶絶しながらも話すルーサーに、ペルソナがエリュトロンドラゴンの迫真の演技をする。

その迫真の演技がツボに入ったのか、吹き出して突っ込むエルミル。

そして、テントの方では、顔面蒼白になってアタフタする男性、その周りで哀れな表情で見つめる人々と、何とも面白い事になっていた。

 

「なんか、ヴァルナ思い出したわ」

「懐かしい名前ですね」

「あぁ、あの裏切り者ね」

 

龍照はハッとして、1人の男の名前を呟き、その名前を聴いたハリエットは少しだけ切ないような表情になっていた。

私は単純に裏切り者としか認識出来ないので、冷たく言い放つ。

 

「まぁ最後は戻ってきたから、ええやん」

「あの後、結局どうなったの?」

「え、知らん」

「「……」」

 

私と龍照はジーっとハリエットの方をガン見する。

その意図に気づいたハリエットは、「すみません。私はハリエットではありますが、あくまで龍照様の妄想により生み出された存在ですので、あの後の事は記憶にはありません」と頭を下げ、申し訳なさそうな表情になっていた。

 

「そうだよね」

「まぁ、少なくともシバ様には仕えることは無いから、神となったハリエットの神官的な感じになってんやない? 知らんけど」

「それが無難かなー」

 

私は素麺をズズズっと吸い上げて、咀嚼しながら龍照の考えに同意した。

 

「「ねー、早く遊ぼうよー!」」

 

フローちゃんとフラウちゃんはバタバタと駄々をこね始めた。

そうだな、とエルダーは立ち上がり、カウンターで全員分の会計を済ませた。

 

「せやなー、せっかく海に来たんや、遊ぶかー!」

 

各々もエルダーにお礼を言って海の家を出た。

そして、テントに近づくと、何らかの覚悟を決めたのか、エピクエント城を壊した男性がこちらへと近づき、土下座する勢いで謝罪をしてきたので、私たちは「気にしないで、適当に作っただけだから」と言って謝る男性を必死に止めた。

フローもフラウも「お兄さん気にしないで!」「お兄ちゃんそんなに謝らないで!」と男性を許していた。

あぁ、天使だ。

本当に天使だ。

この世に天使がいるなら、このような子のことを言うのだろうと私は思った。

 

「それじゃあ、何しようか」

 

エルミルがそう問いかけると、フローとフラウは龍照の方をジーっと見つめていた。

 

「な、なんや?」

 

キラキラと目を輝かせる2人に彼は、少し嫌な予感を感じつつも2人にきいた。

すると、2人は同時にこんなお願いをした……。

 

 

そして……。

海水浴場から離れた大海原。

その海面から巨大な何かが大量の水飛沫を上げて浮上した。

傍から見れば、クジラの浮上かと思える程の巨体は、背に伸びる翼をバサリと羽ばたかせた。

 

「わーーーーーーい!」

「いえーーーーーい!」

 

背には、男の子と女の子のはしゃぐ声が聞こえてきた。

海面から浮上してきたその巨体の正体は、龍となった小野寺龍照だった。

 

彼はフローとフラウに頼まれて龍と成り、人気の無い大海原で海水浴+釣りをすることになったのだ。

 

〚何故我がこんなことをしなければならないのだ……〛

〚でも、何だかんだ言ってやってあげるんだよね〛

〚……〛

「ニーズヘッグはツンデレさんやからな」

〚後で、我が炎で焼いてやるからな……〛

 

不満を漏らす幻創ニーズヘッグだが、幻創ミラボレアスと龍照に煽られて、怒りの炎を燃やしていた。

 

「わー、お魚さんがいっぱーい!」

「美味しそうー!」

 

フローちゃんとフラウちゃんは海中に映る魚を見てワイワイはしゃいでいたと思えば、片腕を巨大化した口のように変化させて水中を泳ぐ魚を捕らえて丸呑みにした。

 

「ぷはー、美味しい!」

「ぷはー、美味い!」

 

2人は満足気な表情をして上機嫌で龍照の背中で走り回った。

 

〚七大天龍の一翼である我が、いったい何をしているのだ……〛

〚それ多分創られた記憶だから、気にしない方がいいよ〛

「ニーズヘッグも何だかんだ言って満喫してんじゃないかい?」

〚黙れ〛

 

 

 

1時間後……。

 

 

 

「おらあああああああ!!」

「負けるかああああああ!!」

「この勝負は僕が頂く!!」

 

エルダーとルーサー、エルミルは釣竿を持って龍の背で釣り大会を開催していた。

1時間で誰が1番大きな魚を取れるかという競争だ。

今の所、エルダーが1位、エルミルが2位、ルーサーが3位という状況だ。

 

「エルダーお兄さん頑張れー!」

「エルダーお兄ちゃん頑張れー!」

 

ポンポンを具現化してチアガールのように元気よくエルダーを応援しているフローちゃんとフラウちゃん。

控えめに言って天使だと思う。

 

「エルミル頑張れーーー!」

 

ペルソナは競泳水着とチアガールの服を合体させたような、結構エロい服装で応援をしている。

 

「残り30秒ね」

 

私は時間を見て、3人に残り時間を伝えた。

エルダーは勝ちを確信したのか、勝利の笑みを浮かべていた。

エルミルは最後の足掻きと言わんばかりに、巨大な網を持ってガムシャラに掬っては投げ掬っては投げを繰り返していた。

それ水飛沫が激しいからやめろ。

 

「!? これは!」

 

残り30秒のところで、ルーサーの釣竿が激しく揺れ出す。

 

「お、重い!!」

 

ハンドルを回すが、魚はでかいようで動く事がない。

残り20秒。

ルーサーは歯を食いしばりながら、必死にハンドルを回す。

 

「なんて重さだ……!」

 

これを捕る事ができれば逆転優勝は確実。

ルーサーは震える手を抑えて釣竿を引き上げる。

だが、魚もそう簡単には捕れまいと必死に抵抗する。

残り10秒。

 

「もう、ダメか……!」

 

ルーサーは勝利を諦めかけた時……。

 

「ル、ルーサー兄様! がーんばれ!がーんばれ!」

 

チアガールコスをしたハリエットが、いつもと違う雰囲気でポンポンを控えめに揺らして声援を送る。

正直いって、チアガールコスをして恥じらう妹のような雰囲気を漂わせたハリエットに、興奮を覚えてしまった。

そのハリエットにはペルソナやエルミル、エルダー、龍照すらも顔を赤らめて「!!!??」と眼を飛び出していた。

他の人でさえこんな反応だと言うのに、それが兄であるルーサーだとどうなるのか……。

 

「うおおおおおおおおおおおお!!!」

 

降三世明王像の様な表情で、原作のルーサーからは絶対に聞くことはないだろう、雄叫びをあげて釣竿を振り上げた。

そして、巨大な魚が宙を泳いだ。

 

その大きさはエルダーと大差ない大きさで、他の2人が釣った魚の2倍はあった。

 

「勝った、勝った!!! 僕の勝ちだあああああ!!」

 

ルーサーは高らかに雄叫びに近い言葉を吐いた瞬間だった。

ブチッ!

と、釣り糸が引きちぎれる音が聴こえ、魚は宙を泳ぎながら海へとダイブ。

巨大な水柱と水飛沫をあげて広大な海へと帰って行った。

 

「時間切れー!」

 

私は無慈悲にもそう伝えると、ルーサーは膝から崩れ落ちた。

 

「そんな、逃げて行く……。釣ったはずの魚が……」

 

その顔は絶望という言葉が似合うほどに、打ちひしがれていた。

 

「あぁぁ……。あぁぁ、魚が……勝利の魚が……僕の釣竿から、逃げ離れていくぅ……!!」

「そ、そんな魚一匹で絶望しなくても……」

「終末を迎える直前みたいな顔してるな」

 

ペルソナと龍照は、絶望に包まれたルーサーを見て感想を述べた。

 

 

 

「勝者、エルダー!」

「っっっっっシャオラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

「あーあ、負けちゃった……」

「どこだ、どこに間違いがあった……」

 

勝利の雄叫びを大海原であげるエルダー。

エルミルは特に気にすることなく、釣りを再開していた。

ルーサーは余っ程悔しかったようで、ガックリと崩れ落ち、龍照の背中を拳でゴスゴスと殴っていた。

まぁ、ルーサーらしい末路といえば、ルーサーらしいよね。

結局、その後も釣り大会を開催したが、ルーサーは全敗し、ルーサーの名を欲しいままにした。

 

 

 

7時

 

 

 

「さて、そろそろ帰るか!」

 

辺りが暗くなり、龍照は翼で羽ばたこうとする。

しかし、フローちゃんとフラウちゃんは、それを拒否した。

 

「「えー、まだ遊びたいー!」」

「もう6時や」

「「ぶー!」」

 

2人は口を膨らませて納得していない様子だ。

かわいい。

多分、このままじゃあ絶対に言うことが聞かないと感じた私は、2人にある提案をした。

 

「それじゃあ、もし今から帰ったら今度は旅館で寝泊まりしようか!」

「「旅館??」」

「そう、海で遊んだ後に旅館で泊まって、その次の日に、また海で泳げるよ!」

 

その提案をきいた2人は眼をパァっと輝かせて、「じゃあ帰る!」と笑顔になった。

龍照も「あまり甘やかすと将来的にはアカンが……まぁ致し方ない……」と言って、翼を羽ばたかせた。

 

 

 

時間が時間だった為、海水浴場には誰1人としておらず、暗い中で波の音が聴こえてくるだけの静寂に包まれていた。

 

「帰る支度するか!」

 

エルダーの言葉に皆が頷き、それぞれ片付けの役割を分担してテキパキと行動をし始めた。

ちなみにエピクエント魔導国は跡形もなく崩れていた。

 

 

 

8時

 

 

 

片付けが終わり、帰る支度が出来た我々は荷物を車の中に積んで、私達も車に乗車する。

 

「よし、皆乗ったね? 帰るよ」

 

ルーサーの確認にフローちゃんとフラウちゃん笑顔で返事をして、それ以外は「あいよー」や「おーす」などと言った返事だ。

その返事を聴いたルーサーはコクリと頷いて車を発進させた。

正直、この平和が永遠に続けばいいのにと思ってしまう。

でも、それは儚い夢でしかなかった……。

 

 

 

 

 

 

続く。




新年明けましておめでとうございます。
このような怪文章の小説を読んで頂き、感謝してもし切れない程です。
今年も変わらずに頑張って投稿して行きますので、よろしくお願いします。


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36話 八坂火継対策会議



8月11日
12時50分


私と大原、藤野は急にマザーに呼ばれ、マザークラスタ本部となった月面基地にやってきた。
モンハンワールドフロンティアの32人レイドクエスト、ドンドルマ大規模防衛戦をしてる最中に連絡が来るもんだから、何ともタイミングの悪いことよ……。

「にゃー、えらいタイミングでマザーから連絡が来ちゃもんやのぅー」

大原は肩を降ろして少し笑った。
まぁ、LINE通話で連絡を取り合いながら街を守っていた時に、マザーからの通信である。
とりあえず、現状を正直に説明し、クエストが終わるまで待ってくれと伝えた。
マザーは快く承諾してくれて、私たちは街の防衛を成功する事ができた。
ぶっちゃけ、このままログアウトしたらそれこそゲームマスターの目に止まり何をされるか分かったものじゃないので助かった。

「あれは焦ったな」
「でも終わるまで待ってくれて良かったじゃん」
「まぁ、そうやのぅ……」

そんな他愛ない話を広げながら頂上へと向かう。
頂上へと続くエレベーターに乗っている間、私達はマザーからどんな事を言われるかを考えていた。

「にゃー、どんなこと言われるやろうなぁ」
「なんだろねー」

大原の疑問に藤野は、のほほんとした表情で返した。
その言葉に大原は、少し呆れながらも「適当やのぉ」と笑っていた。
そんな事をしているうちにエレベーターは最上階へと辿り着き、扉が開く。
最上階のドーム状の部屋の奥にはマザーが、専用の椅子に座って待ってくれていた。

『よく来てくれた。そして、突然呼んでしまって申し訳ない。』

マザーは開口一番に謝罪の意を表した。
いや、今回はこっちが悪いから謝らくても……と皆思ったので「いえ、こちらも勝手な私情で、遅刻してしまい大変申し訳ありません」と頭を下げる。
その後、三分ほどマザーと謝罪のキャッチボールをすることになった……。


「えーと……マザー、それで話というのは?」

藤野はマザーに訊ねた。

『あぁ、話が脱線してしまった。今日君達を呼んだのは、療養中だった青の使徒が復帰するので、今日紹介しようと思い、呼び出した。』

そうマザーは言った。
そういえば、青の使徒 青龍に就く人は現在療養中だったな。
さて、どんな方が就くのだろうか。
私はワクワクと、変な人が来たらどうしようという不安のダブルに駆られながら、青龍の方が来るのを待った。

『来てくれ。』

マザーの言葉を合図にエレベーターから、1人の女の子が姿を現した。
黒髪セミロングの結構可憐な美少女。
その姿を見て、私は「え?」と驚愕しつつ、言葉を出した。

「山原さん!?」

と。
山原さんも私を見て「小野寺さん……ですよね?」と返した。
その様子に大原と藤野は、めっちゃ腹立つレベルの笑顔で「お、龍照の彼女か?」「いいねー、君の人生に1度有るか無いかのEエマージェンシートライアルだよ! 失敗は許されないねー♪」と言いやがった。
とりあえず、2人とも後で殴る。

『彼女は山原 真衣菜。青の使徒 青龍に就く事になった。』
「山原真衣菜です。今日から青の使徒 青龍に就く事になりました。よろしくお願いします」

山原真衣菜、3年前に死んだ香山裕樹の彼女さんだ。
私も1度、病室でお会いした事がある。
あれ以来、会っていなかったが……。
何かあったのだろうか……。
後でマザーに聞いてみよう。

私達は山原さんに自己紹介をした。
そして、マザーの計らいで私たちの住むマンションに住まうことになった。
その日は、エスカファルス達の紹介、そして……。
これから共に働くことになるという事で、私たちの正体についても話した。
驚くことに、山原さんは疑うことなく、すんなりと信じてくれた。


 

 

 

 

 

8月12日

12時00分

 

 

マザークラスタ極東支部。

1つの会議室にて、マザークラスタ幹部【四神】と【神淵】のメンバー全員が集められ、とある議題が挙げられる。

 

コの字型形式での会議、ホワイトボードの前には私、小野寺龍照が立っていた。

 

「皆さん、突然の招集大変申し訳ありません」

 

私はいつもとは違う雰囲気を出し、丁寧な物腰で謝罪をする。

 

「にゃー、そんな畏まらんでええから、この会議の事を説明してくれ」

 

メモとシャープペンシルを持った大原が言った。

まぁ、そうやな。

私はコホンと咳払いをして今回の会議の議題を説明する。

 

「まず、あと5年程でpso2で言うところのエピソード4になる。山原さんはその事については、昨日説明したから分かりますよね? 我々の正体、エスカファルスについて等……」

 

私は山原さんにきいた。

それをきいた山原さんはコクリと頷く。

 

「はい、大原さんや藤野さん、小野寺さんは別の世界からやって来た。そして、正史では死ぬ人物をこの世界では生存させて、別の未来へと変える。でしたよね?」

「そうです。5年後にはアークスとマザークラスタとの戦いが始まります。私たちがいた世界でのpso2の正史では、その戦いでマザーとべトールが死亡する事になってます」

「にゃー、あれは衝撃的やったのー」

「そうだよね、しかもマザークラスタで唯一べトールだけが戦死したもんね」

 

私の説明に大原と藤野が口々にそう反応する。

山原さんも「なるほど」と相槌を打つ。

 

「私達は、このべトール、マザーの生存する歴史に持っていきたい訳です。ただそこで我々にはいくつかの障害が立ちはだかる訳です」

 

私はホワイトボードに文字を書き始める。

そのボードに書かれた人物の名前を見て、大原と藤野の「まぁ、そうだよね」と察した。

 

「アークス船団の最高戦力である安藤優さんとマトイさん、そして、八坂火継さん。この3人が我々の障害となる事が予想される人物です」

 

私は更に彼ら彼女らの情報を書き記す。

まず、安藤優言われている人物。

これはpso2での主人公、我々プレイヤーの事を指している。

スタッフクレジットにおいて「And You」と記載されていたのに対し、語呂合わせで人名になぞらえたものだ。

ユーザー間では基本的に安藤と言われている。

この安藤さんは、アークスの中でも比類なきバケモンの強さを誇っている。

実際、この世界に来る頃には、巨躯、敗者、アプレンティス・ジア、双子、深遠なる闇の面々に打ち勝っている。

 

「挙句の果てには、あの野郎はファレグさんにも勝利を収めた。正直、今の我々が一斉に本気で殴りかかっても、ファレグさんには勝てない。イコール現状、安藤に勝つことは不可能に近いだろう」

「そうだね、彼なら時を止めたって無駄だろうしね」

 

ルーサーはフッと暗い笑みを浮かべた。

まぁ本当に時間止めてもレバガチャで抜け出すもんな……安藤は……。

ヒーローに至っては普通の回避で回避しつつカウンターぶつけ出すからなー……。

そう考えたらマジでアイツはなんなんだ……。

 

「ただ、マトイさんも同じだけど、この2人は必死に鍛錬したら超えれるレベルだと思う」

 

私は話を続ける。

 

「我々の問題はこいつや!!」

 

バンっとホワイトボードを叩き、その問題の人物の名前に丸々と円を書いた。

八坂火継、pso2ep4のメインヒロインにして、我々の天敵である。

 

「この八坂火継さんが、我々……特にエスカファルスの完全なる天敵となる!」

 

その言葉にエスカファルス組はおろか、大原や藤野まで首を傾げ出した。

おい、思い出せ、八坂火継の具現武装の能力を。

 

「あれ? ヒツギの能力ってなんやっけ?」

「……知らない」

「あー、エスカファルス組は?」

 

大原と藤野の反応に頭を抱えつつ、エスカファルスに訊ねる。

無論、エスカファルス達も同じ反応だった。

何でエピクエントとかは覚えてて、大事な事は覚えてないんだ……。

 

「八坂火継さんの具現武装の能力は、領域や術式を切断する他にエーテルを切り離すっていう、完全なエーテル殺しの能力や! 挙句の果てに闇を払ったりフォトナーやアークスにも成す事のできなかった事をやりよったのよ!」

 

私がそう言うと大原と藤野の「あぁ、そんな能力やったなー」と思い出したらしい。

エスカファルス組も同様に思い出したと共に、自分たちが圧倒的に不利だと言う事に気がついた。

 

「あれ? 私たちヤバくない? エーテルを切り離されたら私達一撃死じゃない?」

 

ペルソナが少し焦った表情になる。

だから、さっきから言っておろうに……。

 

「それで、八坂火継をどうやって攻略するか。ということを話し合うわけや」

「1番無難なのは、私達は火継さんと相見えないことだよね」

 

アプレンティスが頬杖ついて話す。

まぁ、それが1番無難ではある。

 

「万が一、それが不可能な状況になる可能性がある。そうなったらエスカファルス組が圧倒的に不利や。我々の攻撃は基本エーテルを使ってる訳やから、大体の攻撃が無力化される」

「なら、エーテルを使用しない力……つまり、筋肉を鍛えて殴ればいいんじゃねえか?」

 

エルダーは自身の上腕二頭筋を見せて説明した。

それを見た皆は呆れながらも「やっぱりそうなるよね」と笑いあった。

しかし、山原さんは申し訳なさげな表情で水をさす。

 

「あの、筋肉と言ってもどんな風に鍛えるんですか? エーテル体であるエスカファルスさん達は、筋肉を鍛えてもエーテルを斬り裂く力を持った八坂火継さんには、無意味なのでは?」

 

山原さんの言葉に沈黙する。

 

「そも、八坂火継のエーテルを斬り裂く力は、具現武装に触れる事で発生するなら、当たらなければ良いだけではないだろうか?」

 

ルーサーの案に皆は「そうなんだけども……」と言ったような反応だった。

エルミルは「そんな赤い彗星みたいな事できるのかな?」とルーサーの案には懐疑的だ。

 

「あの、1つよろしいですか?」

 

ハリエットが手を挙げて発言をする。

 

「火継様の具現武装の力は、全てのエーテルを有した存在に通用するのでしょうか?」

 

ハリエットの言葉に、私はハッとある出来事を思い出す。

 

「確かに、安藤さんが原初の闇の依代になった際に、火継さんの具現武装の攻撃では闇を払うことはできなかった。ハリエットさんとマトイさんの力を合わせて、やっと闇を払えたって感じだったから、火継さんの能力を上回れば……」

「結局、レベルを上げて物理で殴る理論に落ち着くわけだな!」

 

龍照の言葉にエルダーはドヤ顔で自身の筋肉を見せつける。

 

「解は出たようだね。それなら話は早い。身体を鍛えよう」

「だな!! いっちょ暴れるか!!」

 

ルーサーとエルダーは立ち上がり、闘争本能を剥き出しになる。

待て待て、落ち着け。

 

「ねえ、ファレグさんに鍛えて貰うのはどうだろう?」

 

藤野の言葉に山原さん以外の全員が固まる。

あの人に教えてもらうのか……。

いや、教えてくれるのか?

 

「まぁ、あの人に教えて貰えるのが無難だよなー」

「教えてくれるの?」

 

腕を組んで唸るように言葉を発す私。

その言葉にアプレンティスは、率直な疑問を漏らす。

 

「教えてくれても、絶対に並大抵の人では一瞬で音をあげそうなトレーニングさせられるよ」

 

ペルソナは、なんか分からないけど、否定ができない感想を述べた。

彼女の言葉に全員が「まぁ、そうだよね……」と呟いた。

 

「あのファレグさんとは?」

 

恐る恐る山原さんが訊ねる。

私は「地球最強の人間」と言った。

彼女は「な、なるほど」と愛想笑いが混じった言葉を漏らす。

 

「まぁ、各々が鍛錬に励むとしよう」

「だなっ! おっしゃルーサー、1戦いくぞ!!」

「ああ、もちろんだ」

 

2人は飲み会に行くサラリーマンのように、月面へと転移した。

 

「……ねえ、覇気みたいな戦闘技能を体得するのはどう?」

 

一瞬の静寂の後、藤野が言葉を発する。

私と大原、ペルソナ以外の全員が「覇気?」と首を傾げた。

 

「覇気? ONE PIECEの覇気か?」

 

私がそう訊ねると、藤野は「そうそう」と首を縦に振った。

藤野の言う覇気というのは、私、藤野、大原がいた世界で絶大的な人気を博したONE PIECEという少年漫画に、出てくる力である。

 

「確かに、それもありだな」

「でしょ?」

「にゃー、1つええか?」

 

肯定的な私に、藤野はドヤ顔になるが、大原が私達を黙らせる。

 

「それこそファレグさんに教えて貰うのが1番早いぞ」

「「あ……」」

 

固まる私と藤野に大原は畳み掛ける。

 

「多分、ファレグさんはONE PIECEに出てくる3色の覇気・一部の六式、それらに類似するものは体得しとるぞ」

 

高い攻撃力、銃弾すらも素手で弾く硬さ=武装色の覇気。

 

強そうな気配に引かれてやってくる=見聞色の覇気。

 

オフィエルとの邂逅時の威圧=覇王色の覇気。

 

 

瞬間移動=剃。

 

空中移動=月歩。

 

足蹴りと同時に発生する火の刃=嵐脚。

 

 

 

大原はそれらの事を並べて「……ファレグさんに教えてもらうのが1番だよね」と言った。

何も返す言葉が見つからない私と藤野。

 

「それで強くなるのなら、ファレグって人に教えてもらおうよ」

 

何も知らない山原さんは乗り気のようだ。

アプレンティスやエルミルも「確かに、ファレグさんトレーニングして貰うのが、1番手っ取り早く強くなる方法だね」と乗り気だった。

 

「……それなら、ファレグさんに聞いてみる?」

 

私がこの場にいる皆に訊ねると、皆が「うんうん」と頷く。

私は少し頭を抱えつつ、月面基地へと向かうことになった。

 

 

 

 

月面基地に辿り着いた私たちが真っ先に目に入ったのが、宙域で大規模な戦闘を繰り広げる、完全体エスカファルス・エルダーとルーサーの2人だった。

 

「グラン・ナ・ザン!!」

「トリストス・ソニックアロウ!!」

 

鎌鼬と斬撃がぶつかり合う中で、2匹は己の持つ剣で切りあっていた。

 

「深遠と崩壊の先に至る未来は、完全なる平和の未来!!」

 

巨大な剣が展開される。

 

「僕はルーサー、ただ1人のエスカファルスなり!!」

 

ルーサーがそういった瞬間、エルダーの体が砕け散った。

その戦闘を見ている山原さんは呆気に取られていた。

 

「すごい……」

「ホントですね」

 

そう言いながら、私達はマザーのいる場所へと向かった。

その間も……。

 

「原初と終末は、この場より始まり、この場にて終わりを迎える」

「遊びの由は無数に広がる!!」

 

2人の壮大な戦闘は続いていた。

 

 

 

 

「マザー、少しききたい事があるんですがよろしいですか?」

 

私達はマザーにファレグさんの居場所を訊ねた。

しかし、マザーは首を横に振る。

 

『申し訳ない。私にもファレグ・アイヴズの居場所は分からない。』

「にゃー、そういえばあの人神出鬼没だったのぉ……」

「呼ぶ事って出来ますか?」

『申し訳ない……』

 

私達はどうしたものかと悩んでいる、その時だった。

 

 

「ぐぅあああああああ!!」

「馬鹿な、一体何が!?」

 

エルダーとルーサーの断末魔と共に、2人が物凄い速さで月面に叩きつけられた。

私達の視線は一瞬にしてエルダーとルーサーの方に移る。

 

「あの2人が……」

 

藤野は驚愕の表情で呆気にとられている。

敵襲かと思った私達はエスカダーカーを具現化する構えをとった。

 

「なんて強さだ……」

「これは、興味深いね……」

 

完全体の2人はボロボロになりながら立ち上がり、宙域に攻撃を放つ。

しかし、その攻撃は叶わず一瞬にして武器が砕かれて、更に吹き飛ばされた。

 

「ねえ、あれって……」

 

月面に佇む黒い影を見たペルソナは、若干引き気味な表情で言葉を漏らす。

大原と藤野は「お、おおふ……」と乾いた笑いが漏れ出ていた。

 

「お2人とも、とても強くなっていますよ。ですが、私を倒すには足りませんね」

 

優美な物腰、丁寧な口調をした女性。

ファレグ・アイヴズである。

 

「強い……」

「未知の事象過ぎる……」

 

2人はそう零すと、完全体を解いてバタリと地面に倒れ伏した。

何で完全体エスカファルス2体を軽々と吹き飛ばしてんだよ……。

無茶苦茶だよあの人……。

私は改めてファレグさんの底知れぬ強さを目の当たりにした。

山原さんに至っては、もう化け物を見る目をしていた。

 

 

 

 

「私に稽古をつけて欲しいですか?」

「はい」

 

ファレグさんに出会えた私達は直ぐに彼女に接触し、さっき話し合った事を伝えた。

それをきいたファレグさんは「ふむ」と少し考えるような素振りをした後、ニコリと微笑んで「構いませんよ」と言った。

 

「ですか、私の稽古は少し厳しいですが、問題ありませんか?」と付け加えて……。

 

私達はそれを了承し、頭を下げた。

 

「分かりました。それでは明日から始めましょう♪」

 

ファレグさんは、少しだけ嬉しそうな、弾んだ口調でそう言い、瞬間移動でどこかへ行ってしまった。

 

 

さぁ、何日保てるやら……。

私はそんな事を思いながら、月から見える地球を眺めていた。

 

 

 

 

続く



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37話 深遠へと辿る可能性を持つ龍

「イテテ……参ったな……筋肉痛だよ……」

私は身体中に湿布を貼りつつ、呻くようにつぶやく。
ソファーに座り、マザーの検診までボケーっとしようと考えていた矢先……。

「みことちゃあああああああん!!!」

ペルソナの断末魔が聞こえてくる。

「綴木みことちゃあああああああん!!!」

肺が萎むレベルのため息を吐いた。
また始まったよ……。
ペルソナの欠乏症が……。

「みことちゃん!! みことちゃんどこ!? 私のみことちゃあああああああん!!」
「対魔忍の世界に行かなきゃ会えんやろ」

私は超小声でツッコミを入れ、またくだらない事に巻き込まれたくない私は、そそくさと月面基地へと避難する。
マザーに呼ばれていたので、丁度良かった。

「エルミル、またみことちゃんになって!」
「イヤだよ!! 何で僕なのサ!?」
「(あぁ、エルミルよ。南無……)」

私は合掌をして、月面基地まで転移した。


 

 

 

8月14日

8時30分

 

 

『筋肉痛が酷いな……。』

「ええ、ファレグさんの稽古の賜物ですね」

 

マザーの指摘に私は苦笑する。

私は今、マザーに身体の様子を見てもらっている。

私の中に流れる血や身体の様子を確認してもらっているのだ。

余談だが、今日はファレグさんの稽古はおやすみである。

理由は簡単で、全員筋肉痛になってしまい、それをみたファレグさんが「筋肉痛の状態で稽古をしてもあまり意味がないので、1週間ほどお休みにしましょう」と言われたのだ。

 

 

『ふむ。』

「ど、どうですか?」

『エスカファルス……いや、幻創深遠なる闇の影響を受けている。』

「と、いうと?」

『順に説明する。』

 

マザーは映し出されたホログラムを見て、話始める。

 

『まず、君はもう老いる事は無い。』

「はい???」

 

マザーの言葉に私は眉を細めて言う。

不老って事か?

マジで?

 

『未来永劫、老いる事がなくなった。』

「……不老……。不死ではなく?」

『そうだ。ただ、絶対に老いる事が無い為、老衰による死は無くなった。』

「じゃあ、私が死ぬとしたら、他者からの攻撃や自殺でないと死ぬ事が不可能と?」

『そうなる。』

「……」

 

私が絶句して固まっていると、それを見たマザーは少し気まずそうに口を開いた。

 

『……続けるが良いか?。』

「あ、はい。お願いします」

『そして、最悪、不滅の存在となる。』

「え?」

『要するに、不老不死になる可能性が高いということだ。』

「ならない可能性もある感じですか?」

 

私がそう言うとマザーは少し悩む仕草をしてから『その可能性も否定はできない』と言った。

マザーの説明は続く。

 

『君の中にある幻創深遠なる闇は、現在、未覚醒状態にある。』

「なるほど」

『もし、幻創深遠なる闇が覚醒すれば、君は深遠なる闇となり、不老不滅の存在となる。』

「なぜ、未覚醒状態なんですか?」

『君の身体にいる存在が、完全に力を託していないからだ。』

 

私は「まさか……」と声を上げた。

その言葉にマザーはコクリと頷いて話を続ける。

 

『幻創ニーズヘッグ、幻創ミラボレアス。この2体は深遠なる闇だ。』

「ま、マジで言ってます?」

 

恐る恐る私がマザーに訊ねると、マザーは『間違いない。』と頷く。

それを聞いて、私は少し困惑してしまう。

 

「え、えっと、因みに、なぜその2匹が深遠なる闇に??」

 

私がマザーに聞くと、少し考えるような素振りをして、私に問いかけた。

 

『君が3年前に幻創龍に身体を支配された時、何を想像した?』

 

マザーにそう言われて、私は眉を顰めて首を傾げた。

長考モードに突入である。

 

「……えーと、確か……自分もエスカファルスになろうと思って……深遠なる闇レベルの強さを持った感じの……って、そゆこと?」

『ああ、君がエスカファルスに成る為にその想像した時、邪眼に意識を移した2匹の幻創が割り込んだ。その時に、その2匹は深遠なる闇と一体化した。』

「……」

 

マザーの憶測を聴いて、私は即座に幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスに意識を集中させた。

 

〚そのようだな。もっとも、我にはその自覚はないが……〛

〚同じく。それよりアイス食べたいな。板チョコアイス! 検診終わったら板チョコアイス30個買ってよ〛

「……」

 

変わらぬ2人に私は少し安心した。

って、ちょっと待て!!

私は、ある危機感を覚えた。

 

「マザー、あの、ちょっと……というかかなりヤバいと思うんですけど……」

『どうした?。』

「仮に私が深遠なる闇になった場合、私の人格ってどうなるんですか?」

『その事について、まだ確実とは言えないが……君がオラクルのダークファルスを元に、想像したのであれば、オラクルのダークファルスの特徴である「依代の感情の影響を強く受ける」と類似する現象が起こるだろう。』

 

私は絶句した。

え?

大丈夫だよな?

私の人格消えないよな?

私が混乱している中、マザーは話を続けた。

 

『人格が消える事はないが、ある程度の人格が改変されると思っていた方がいいだろう。』

「マジっすか……」

『そこは、君の心の強さ次第だ。』

「あ、はい……」

 

私は肩を下ろした。

マザーは『検診は以上だ。お疲れ様。』と、微笑んだ。

あー、可愛い。

すっごい癒される……。

絶対にマザー救おう……。

否が応でもマザー生存ルートに持って行ってやる。

私は立ち上がり、マザーに一礼をして去ろうとした時、あることを思い出してマザーに聞いた。

 

 

「あ、そうだ。マザー、1つよろしいですか?」

『どうした?。』

 

マザーは「?」とした表情でこちらを見つめている。

ちょっとドキッとするんだよな……。

 

「山原真衣菜さんについて、お聞きしたいことがありまして……」

 

そう言うと、マザーは少しだけ眉を顰めた。

あー……なんか、その表情で何となく察してしまった……。

 

「山原さんって、裕樹が死んだ事はご存知なのですか?」

『……。』

「昨日、山原さんが裕樹の事を一切出さなかったので、こちらも何となく指摘しなかったんですが……」

 

私がそこまで話すと、マザーは少し悲しげな表情で山原さんの事を話してくれた。

 

その内容は私を絶句させるに相応しいものだった。

ていうか、そんな鬼畜系エロ同人とか鬼畜系エロゲーみたいな展開が、現実で起こり得るモノなのかと、我が耳を疑ってしまった。

多分、アプレンティスとペルソナが聞けば、マジでブチギレる内容だろう。

アイツらは自分がそういう目に合うのは好きだけど、他人がそういう目に合うのは、ふざけんなって派だし。

それは私も同意見なのだが……。

その後、マザーと会った時は大変な状態だったようだ。

とある男から裕樹の死亡を知り、精神が錯乱状態になっていたようだ。

ずっと、ごめんなさいごめんなさいと壊れたラジオのように呟いていたそうだ。

その後、マザーに救助されてメンタルケアやら身体の療養をする事になったらしい。

 

 

「……そんなことが……」

『……あまり香山裕樹の事は言わない方がいい。今は落ち着いているが、また錯乱してしまう可能性もある。』

「わかりました。変な事をきいて申し訳ございません」

 

私は再び一礼をして、この場を去ろうとした。

しかし、私は1つ聞き忘れていた事があったので、再び席に座ってマザーに聞いた。

 

「あ、そうや。マザー、1つ伝え忘れていた事がありました。」

『??。』

「私が具現化したエスカファルス達についてです」

 

私のその問に、マザーは少しだけ神妙な表情になる。

 

『君が生み出したエスカファルス達がどうかしたか?。』

「あの方々は、私と同じエスカダーカー因子を持っているのですか?」

『あのエスカファルス達は、君のようにエスカダーカー因子は持たず、ただのエーテルで構成された幻創種だ。』

「そうですか」

『うむ。エスカファルスと呼ばれている超強力な幻創種といったところだろう。』

「わかりました。すみません。ありがとうございます」

 

私は、またまた感謝と一礼をして、自宅へと戻った。

 

 

 

 

8月14日

12時50分

 

 

「ふぅ……」

 

帰ってきて早々に、私はソファーに寝転がって深いため息をついた。

まさか、幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスが深遠なる闇の力を持っていたとは……。

挙句、その力を得たら不老不死になり、人格もある程度改変される……。

なんじゃそれは……。

凄い複雑……。

対魔忍になるまで死にたくはないけど、未来永劫死ねないのも苦痛だよな……。

でも、深遠なる闇になれば、対魔忍達の未来を破壊したアルサール共を消し潰せるっていうのは、かなりのメリットなんだよなー。

 

まぁでも、この2匹の龍が力を託してくれるとも限らんし……。

参ったなー。

私はそんな事を考えながら、テーブルに散乱している資料を読み漁る。

 

「あー、そういえば近い内に、チームを組んで幻創種を討伐する的な任務があったな……」

 

私は幻創種討伐の報告書を見ながら、独り言を呟いた。

 

「何やってるの?」

「どぉわっ!?」

 

アプレンティスがヒョコッと顔を覗かせた。

突然すぎるものだから、私は驚いて報告書を宙に放ちながらソファーから転げ落ちた。

 

「わ、ちょっと大丈夫?」

 

急に私が転げ落ちたものだから、アプレンティスは慌てて私の顔を除き込んだ。

宙を舞う報告書は、桜の花びらの如くヒラヒラと辺りに散らばった。

 

「あ、ああ、大丈夫や」

 

私はそう言ってゆっくりと立ち上がり、散らばった報告書を集め始める。

アプレンティスはそんなことも気にせずに私に話しかけてくる。

 

「ねえねえ、犬飼っていい?」

「犬?」

 

アプレンティスの言葉に私は聞き返した。

彼女は「うん」と頷く。

 

「このマンションってペットOKだよね?」

「確かいけるはずやが……」

 

私が言葉を詰まらせていると、じとーっとした目つきで「なによ」とアプレンティスは言った。

 

「珍しいなって」

 

ショタロリ大好きなアプレンティスが犬を欲しがるなんて、私からすれば前代未聞だ。

いや、他のエスカファルス達からしても前代未聞の出来事だろう。

 

「飼えるけど、生き物を飼うというのは、どういう事か分かるよな?」

「もちろん、確りお世話するよ」

 

そう言いながら、ペットについての事が載った資料を大量に見せてきて、必要な物等を私に熱弁した。

 

「分かった。そこまで言うのなら飼ってもいいよ」

「本当!?」

「ああ、ただ責任をしっかりと持てよ? もし犬を捨てたりするようなら……」

「なら?」

「その瞬間から、ロリショタの観察、それらに準拠する事その一切を禁止にするからな」

 

私はアプレンティスの顔を見て真剣に言った。

アプレンティスからすれば死活問題とも言える内容だろう。

その言葉を聞いたアプレンティスは、顔色1つ変えることなく「分かった。その時は好きにしていい」と答えた。

その瞳には1点の曇りも無く、それ相応の覚悟が見て取れた。

 

「それなら良いよ」

「龍照、ありがとう」

 

アプレンティスは真剣に頭を下げて感謝を述べた。

こんなアプレンティスは、見たことないので少し驚いた。

 

「ちなみに、何の犬を飼うの?」

「ダックスフント」

「はへー、ええやん! 因みに名前は決めてるの?」

「勿論! ナーサラにしようと思ってる!」

 

その名前を聞いて、私は思わず飲んでいたお茶を吹き出した。

その光景を見たアプレンティスは「急にどうしたのよ!?」と慌てふためく。

 

「あ、あの、何故その名前を?」

「何故って、何となくだけど?」

「あ、そうですか」

「???」

 

私の態度に疑問を抱くが、犬を飼って良い事でアプレンティスはルンルン気分で部屋から出ていった。

 

「……」

 

ナーサラか……。

私は飛び散ったお茶をタオルで拭いながら、小さく呟く。

彼女はアプレンティスであり、ふうま亜希さんの人格も入っているんだな……と。

 

……私はふと、ある事が頭に浮かび上がった。

 

この世界でやる事を終えて、全てを見届けた時、私はこの世界を去って、対魔忍の世界へと向かうだろう。

勿論、行き方なんてものは分からないが、全てを見届けた頃には、その世界へと行く術は得ているはずだ。

勿論、エスカファルス達も連れてな。

そして、対魔忍の世界に行った時、エスカファルス・アプレンティスと、ふうま亜希さんが出会ったらどんな事が起こるんだろうか……。

多分、ナーサラさんに出会ったらアプレンティスも、ふうま亜希さんと同じような反応をするのかな?

 

「ふっ……それはちょっと見てみたいな……」

 

私は、ナーサラさんの左右にアプレンティスとふうま亜希さんがいて、愛でている様子を妄想し、笑ってしまった。

 

「早く行きたいなぁ……」

 

五車を隈無く散策して、ヨミハラとかアミダハラにも行ってみたいな。

多分、ゲームじゃあ見ることのできない様々な光景があるんだろうな……。

 

 

〚おい!龍照!!〛

 

「うおっ!? なんや!?」

 

せっかく妄想ワールドに入り浸っていたのに、幻創ミラボレアスの怒声によって現実に引き戻された。

 

〚板チョコアイスはまだか!?〛

「あ、忘れてた」

〚板チョコアイスーーーーー! 板チョコアイスーーーーー!〛

 

長い首をブンブン振りながら、頭の中で暴れまくる幻創ミラボレアス。

 

「お前は食い患いのビッグマムかよ……」

〚板チョコアイスーーーーー!〛

「クロカンブッシュみたいなイントネーションで言うな。分かったから1回黙れ!」

〚30個ーーーーーー!〛

「わぁった!わぁった! 買いに行くから落ち着けバカ!」

 

私は暴れる幻創ミラボレアスを宥めつつ財布を持って、品川へと向かった。

その前に、この2匹やな……。

それをクリアしないと対魔忍どころかEP4にも辿り着けねえ……。

現実を突きつけられた私は、肩を降ろしながら東品川にある"エイオン"という大型スーパーに足を運んだ。

 

 

 

8月14日

1時20分

 

大型スーパーについて早速、ある人に出会った。

 

「エルダーやん!」

「おう! 龍照か、こんな所で会うなんて奇遇だな!」

 

大きな荷物を抱えたエルダーと、バッタリ遭遇した。

 

「お前も買い物か?」

「まー、そんな所や。エルダーは今から帰るところか? 見たところエラいデカイ買いもんした感じやが……」

 

私はエルダーが担いでいる荷物を眺めながら言う。

 

「もう少ししたら、シーナとディアの誕生日だからよ。何か誕生日プレゼントでもしようと思ってな」

 

エルダーは少しだけ照れくさそうな表情をして語った。

……何か涙出てくるわ……。

 

「そうか、そっちは仲良くしてる感じか」

「ああ、まぁな! じゃあ、俺は先に帰るぜ!」

「おう、そんじゃーな!」

 

そう言って、私とエルダーは別れた。

さて、板チョコアイス30個買いに行くかー。

私は冷凍食品コーナーへと向かった。

 

「えーと、板チョコアイスは……」

 

私は縦型冷凍食品庫に陳列されてあるアイスの中から、板チョコアイスを探す。

ただ、不思議なことに私の持っている買い物カゴには板チョコアイス以外のアイスが増えていってしまうのだ。

不思議な事もあるもんだ……。

 

結果は、私は買い物カゴ2個分のアイスを買ってしまった。

 

……板チョコアイスの量に店員さんがドン引きされたのは言うまでもない。

 

 

「買ったぞー」

〚やったー、ありがとう!!〛

 

私がそう言うと、頭の中の幻創ミラボレアスは嬉しそうにはしゃぐ。

何か異質だなぁ……。

 

〚それじゃあ、早く月面に移動して!〛

「あー、分かった。まずは板チョコアイス以外のやつを家の冷凍庫に入れてからな」

〚……〛

「それくらい辛抱せい」

 

無言で訴える彼女を無視して私は急ぎ足で自宅へと帰還。

その後、月面へと移動して龍形態になった私はバキバキバリバリと30個の板チョコアイスを貪った。

 

 

 

8月14日

1時50分

 

 

龍形態の小野寺龍照がアイスを食べている最中、月面基地にて、ルー語で話す男性が頭を抱えながらブツブツ何かを喋っていた。

 

「うーん、困ったNE〜」

 

特徴的なアフロヘアーとサングラスの男、木の使徒 べトール・ゼラズニイだ。

彼は今、次の映画の題材を何にするか悩んでいるのである。

 

「次の作品は、エキサイティングで……クールな……」

 

独特なポージングで喋るべトールは、傍から見たら頭のおかしい人である。

だが、べトールのことをよく知るマザークラスタの人からすれば、いつもの事で何も言わないだろう。

 

「巨大なモンスターが……ん?」

 

べトールは、ガラスから見える黒い物体に気がついた。

目を細めて、それが何かを確認する。

 

「あれは、龍照ボーイじゃないかぁ! ドラゴンの姿で何をやっているんだ?」

 

彼はブツブツと呟いているが、その直後に彼の脳に電流が走る。

 

「これだ!!! グッッド!!! ベルゥィグッドッ!!!」

 

べトールは高らかにそう叫び、目にも止まらぬスピードで龍照へと走り出した。

 

「龍照ボーイ!! 次の映画のアクターになってくれYO!!」

 

 

 

 

 

 

 

続く



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38話 撮影

ロンドンのエスカタワーの天辺で、1人の女性が佇んでいた。

「……」

黒いドレスを身に纏う女性、ファレグ・アイヴズ。
地球で最強の力を持っている女性だ。
その女性が宇宙をいつも通りの表情で見つめていた。

「……気のせい、ではありませんね」

その地球外、月すらも超えたその先に強大な気配が感じ取れたのだ。
何か、強い気配を持つ存在が無感情?に暴れている……。
そんな気配だ。

「これは……マザーに伝えておくべきですね」

ファレグさんは呟き、爆発的な脚力を以て月へと跳んだ。
今回感じられた気配は異質だった。
人間でも幻創種でもない。
言うなら、人間と無機物が酷く混ざりあったような気持ちの悪い気配だった。





 

 

 

 

 

8月14日

2時00分

 

 

 

〚甘い!美味しい!〛

「確かに美味い。ニーズヘッグは?」

〚悪くない〛

 

私+幻創龍達は満足気に板チョコを平らげた。

そんなところに独特なポージングで喋る男が現れた。

 

「Hey!!! 龍照ボーイ!」

 

マザークラスタ木の使徒 べトール・ゼラズニイだ。

 

「おー、べトールさんですか。こんにちわ! どうしました?」

「Hello!! 君にお願いがあってNE!」

 

べトールさんのお願いという物に若干の不安を抱きつつも、私は「お願いとは?」と質問をする。

すると、べトールさんはとんでもない事を口にした。

 

「次の映画のアクターになってくれYO!!」

「ん? What? 次の映画のアクター?」

 

私がそう言うと、べトールは「イエーーーース!!」と変わらぬ独特のポーズで叫ぶ。

元気だなぁこのおっちゃん。

後、目瞑ったままベトールさんの声聞いたら、めっちゃ元気なフリーザ様にしか聴こえん。

 

その後、べトールさんから色々と説明を受けた。

次回作の映画に、私のドラゴンを敵として登場させたいらしい。

 

「私は問題ないですけど……幻創龍達がなんて言うか……」

〚敵として暴れられるならいいよ! 暴れられないなら絶対に嫌だ〛

〚……好きにしろ〛

「えーと、暴れられるならいいよ。とのお言葉を頂きました」

 

それを聴いたべトールさんは、目に見えてテンションが上がって、子供のようにはしゃいでいた。

だが、急に頭を抱えて落ち込み出した。

忙しない事この上ないおっちゃんだ。

私は少し呆れつつも、「どうしました?」とべトールさんに訊ねる。

 

「Holy shit. 俺とした事が……大切な事を忘れていたYO!」

「大切なこと? 正義の味方的な奴ですか?」

 

私が適当に答えると、べトールはバッと立ち上がり「イエーーーーース!! 察しがいいNE!! 龍照ボーイ!!!」と大袈裟なポーズで語る。

ちょっと落ち着いて欲しい。

 

なんだろう、ファレグさんが苦手としている理由が、少しだけ分かったかもしれない……。

 

「正義の味方……ですか……」

 

私は少しだけ、正義の味方のような存在を考え……。

1つの単語が浮かび上がる。

アレも……正義の味方だよな?

 

「た、対魔忍とか……」

 

その浮かび上がる言葉を口から出した。

私の言葉にべトールは目を細める。

 

「タイマニン? What?」

「あ、えっと、えーと、えーーーとーーー、タイマニンっていうのはですね」

 

私は対魔忍についてべトールに説明をした。

r18要素を除いて……。

対魔忍の大まかな解説と、キャラクターのイラストをみせる。

この世界には対魔忍なるものはなかったので、具現化で対魔忍キャラクターを創造した。

人を具現化するのは倫理的にどうなのかと思ったが、まぁ具現化するだけやからええやろ……多分。

対魔忍の解説やイラストを見て、聴いたべトールさんは「それだ!!!!!」と突然大声をあげて指差す。

 

「おーびっくりした! いきなり大声出さんでください……」

「さぁ、対魔忍となるアクターを探そう!!」

「……対魔忍となる役者?【神淵】勢と【四神】勢は如何っすか?」

 

私は極東支部の幹部連中に白羽の矢をぶん投げた。

アイツらの事や、私が1人でやってたら撮影中にニヤニヤしながら煽ってくる事は目に見えているからだ。

 

「ふむ、確かに……それも悪くないNE〜」

「対魔忍キャラは沢山いらっしゃるので、こちらで決めても大丈夫ですか?」

「んー、そうだNE! 龍照ボーイに任せてみるのも、中々thrillがあって良いかもしれないNE!」

 

べトールは一瞬考えるような素振りをして答えた。

良いんだ。

演技もクソもないド素人やけど……。

私は不安に思いつつも、神淵と四神にその事を告げる事にした。

 

 

 

 

8月14日

21時00分

 

 

 

「対魔忍になれ……だと? おいおい、帰ってきてそうそう、とんでもねぇ事を言うじゃねーか」

「対魔忍……か、とても興味深いじゃないか」

「いいんじゃない? 私は既に対魔忍のようなものだし」

「「タイマニン? 面白そう、やろうやろう!」」

「やりたい!!なりたい!!絶対になる!!」

「ヒーハー、とても面白そうじゃないか!僕は問題ないよ!」

「対魔忍ですか、非常に興味深いです。私も是非やってみたいです!」

 

エスカファルス勢は、概ねノリノリである。

そして、幹部四神勢は……。

 

「にゃー、対魔忍ってエラい事を言い張るのぉー」

「でも、少しだけ興味がある私がいる……」

「あの対魔忍とは?」

 

大原は腕を組んで複雑な表情になり、藤野は少しだけ顔を赤らめて、山原さんは不安そうな表情で私に訊ねた。

あー、そっか山原さんは、この世界の人だから知らないのか。

私は、山原さんに対魔忍の事を解説する。画像つきで。

無論、r18の部分は伏せてだ。

 

「え、えーと、こ、この人達は、こんな服装で恥ずかしくないのかな?」

 

その感想に一瞬吹き出しかけた。

まぁ、確かに……その感想は最もではある。

とある氷使いの対魔忍とか、ビビるぐらい露出度高めの服装だったしな……。

 

「各々の忍法に適した服装らしいで」

「それでも、こんな奇抜な服装になるものなのかな? 特殊な風俗で着る感じ……」

「それは知らん」

 

山原さんの感想に、私はぶん投げた。

ぶっちゃけ、私もそれ知りたい。

なんなら対魔忍の世界に行きたい理由の1割は、その謎を知りたいという理由も入ってる。

 

「とりあえず、エスカファルス勢と大原達は対魔忍になってみないか?ってことやな」

 

その言葉に、皆はOKなようだ。

だが、エルダーが疑問な事を私に投げかけた。

 

「何故、対魔忍なんだ?」

 

真っ当な疑問である。

「確かに、エルダーの言う通りだ」そのような事を言いたげな皆さん。

その質問に、私は物凄い真面目な表情で答える。

多分、今まで生きていて、ここまで真剣な表情になったことは無かったと思えるぐらい真剣な表情だ。

 

「この世界に対魔忍を布教させたい。それだけや」

「対魔忍の宣教師か何かか?」

 

何を言い出すかと思えば、と言わんばかりの呆れた表情のエルダー。

そんなことは無視して、私は話を続ける。

 

「でだ。世界的に有名なべトールさんを使って、この世界に対魔忍の名を轟かせる」

「実写になるけどいいの?」

「安心しろペルソナよ。アニメ化、ゲーム化もさせる。マザークラスタ幹部の名を使ってな!」

 

私は不敵な笑みを浮かべた。

 

「にゃー、こんな事で権力使う人なんて、お前くらいやぞ」

 

物凄い呆れた表情の大原に私は、グッドをして言い放つ。

 

「性根が歪み、限界を超えたキモオタを舐めない方がいい。推しの為なら、権力なんざ躊躇わず使うよ。多分私が1日総理大臣や大統領やった暁には、翌朝1番真っ先にリ〇スに、推しの対魔忍の純愛ゲーを制作依頼するぐらいの事はするぞ。もちろん、税金で」

「さ、最低だよコイツ(笑)」

「お前やる内容、小物すぎるやろ(笑)」

 

私の超問題発言に、藤野と大原は爆笑しながら言い放つ。

エスカファルス勢も山原さんも腹を抱えて大爆笑していた。

 

「だから言うたやん! 性根が歪み、限界を超えたキモオタに、力や権力を持たせたら、推しの為に使うって!」

 

 

 

 

 

23時30分

 

 

 

「それで、対魔忍に出演することにはなったけど、誰を主人公にするの? もちろん、アサギ校長とかも出すんだよね?」

 

笑い涙を拭きながらペルソナは私に質問する。

 

「ああ、井河アサギさんは、対魔忍の起源にして頂点やからな。あの人がいなきゃ対魔忍は始まらんよ」

 

私はコクリと頷き、話を続ける。

 

「そんで、主人公は綴木みことさんとにしようと考えてる」

「まぁ、そうだよね。巨乳好きの私(龍照)が、唯一ガチ惚れした貧乳キャラだもんね」

「あぁ、そんで、私の世界での水城ゆきかぜさんポジションを、この世界では綴木みことさんにしようと言う訳や」

 

私が言うと、ペルソナは「じゃあ凜子さんのポジションは鬼崎きららさんになるのかな?」と言った。

 

「まぁ、そうなるな」

「それじゃあ、みことちゃんは誰がやる?」

 

ペルソナがそう言うと、エスカファルス勢と四神勢が、一斉にエルミルの方を見た。

視線に気づいたエルミルは、顔を引き攣らせる。

 

「ど、どうして皆、僕の方を見るのサ!?」

 

エルミルの悲痛な叫びを聴いた皆は「フッ」っと、見る人が見れば、挑発しているとすらも受け取れる、余裕の笑みを浮かべた。

その表情にエルミルは「ヤダよ? さっきもペルソナにやられたんだ! 僕は絶対にやだからね!?」と声を荒らげる。

だが、そんな中、私は余裕の笑みを壊さずにゆっくりとエルミルに近づく。

その笑みに恐れ戦くエルミル。

 

「やめろーー近づくなーーー!」

 

恐怖に顔を歪めるエルミル。

徐々に追い詰められて、遂に壁まで追い込まれた。

 

「やめろーーー死にたくない!死にたくないーーー!」

 

私はエルミルの方をポンっと叩き、ペルソナから貰ったクリスタルを掲げ、あの少女をイメージする。

すると、エルミルの身体が光に包まれる。

 

「頑張ってくれ。電子の申し子、綴木みことさん」

「うわああああああああああ!」

 

エルミルの断末魔が木霊した。

 

 

 

 

8月15日

7時30分

 

 

マザークラスタ極東支部の会議室。

 

「Hey!!! 龍照ボーイ! 俺をここに呼んだって事は、例の件が出来たって事でOK?」

 

ドアをバンッと開けて、大声、独特なポーズで入ってくるべトールさん。

みんなの反応は「変わらねえなぁ」と言いたげな呆れている表情をしている。

山原さんは、若干引いていた。

 

「ええ、主人公はこの子とこの子で、役者はエルミルとペルソナがやります」

 

そう言って、綴木みことさんと、鬼崎きららさんのイラストを見せた。

べトールさんは、その2人のイラストを交互に見て、鬼崎きららさんの衣装を見て、呟く。

 

「Oh......Fantastic!!!!! とてもエロティックな衣装だ。年齢制限が上がっちまうZE〜? だが、それもグッドだ。対魔忍、とても面白いNINJA達だ! 早速、撮影と行こうじゃないか!!」

 

舞い上がるベトールさんに、私は「あ、いや、まだ他にも対魔忍が……」と言うが、べトールさんは聞く耳を持たず、具現武装であるクラッパーボードと、ビデオカメラを具現化させた。

 

「さぁ、俺が生み出したスタジオへと行こうじゃないか! アクションっ!!」

 

カチンとクラッパーボードを鳴らしたかと思えば、この会議室を包み込まんとする爆発が起きた。

無論、我々はその爆発に巻き込まれてしまう。

だが、熱くもなければ痛くもない。

皆無傷だった。

……やっと、煙が晴れたかと辺りを見渡すと、そこは先程居た会議室ではなく、月面へと転移されていた。

オフィエルとは違った、独特な転移方法である。

そんな事を思っていると、突如、月面基地から離れた場所に巨大な都が具現化される。

 

「おい、なんだ急に!?」

「これは、エーテルによって具現化された都市か……興味深いな……」

 

驚くエルダー、冷静に分析するルーサー。

 

「べトールさんが言ってたスタジオって言うのは、アレなのかな?」

「にゃー、多分そうやろ。ドえらい監督やのぅ……」

 

エルミルの疑問に、大原が腕を組みながら薄笑いをしながら答える。

 

「その通りだ、栄二ボーイ! この場所が俺が用意した最高のスタジオ! ここで最高のフィルムを生み出のさ!!」

 

浮遊する黒いディレクターズチェアに座り、力強く言い放つ。

その後、3時間ほど、べトールさんから物語の内容や、それぞれの出番、セリフなどを教え込まれることになった。

 

ストーリーを物凄い大雑把に説明すると、魔と人が対立する近未来で魔によって生み出されたドラゴンが、街中を暴れ回り、それを対魔忍がやっつけるというストーリーだ。

 

「B級感あるけど、大丈夫?」

 

アプレンティスはヒソヒソと私に耳打ちする。

私は「そうか?中々面白そうやけどな」と率直な感想を送った。

 

 

 

 

 

「これが対魔忍スーツか、初めて着るが……中々だな」

 

エルダーは青色の対魔忍スーツを着て不思議そうな表情をする。

 

「確かに、中々奇抜な衣装だね。興味深いな。確かに、龍照が行きたいと言っている気持ちが分かるよ」

 

ルーサーもエルダーと同系統のスーツを着ていた。

2人とも肌に密着したスーツを着ているために、筋肉質な身体が浮き出ており、少しばかりのエロさを感じる。

 

「まぁ、私はそうなるよね」

 

アプレンティスは自身の対魔忍スーツを見て、ハハッと苦笑する。

彼女はスーツは、ふうま亜希が着用している赤黒ツートンカラーの対魔忍スーツそのものだった。

因みに初期の方。

 

「アプお姉さん可愛いよ」

「アプお姉ちゃん可愛いよ」

 

フローとフラウがアプレンティスのスーツを見て、ワイワイとはしゃいでいた。

2人は対魔忍スーツは着ていない。

エスカファルスと言えど、無垢な子供にあのスーツを着せるのは、宜しくないと考えたからである。

 

「こ、これは、少し恥ずかしいですね」

 

恥ずかしそうに顔を赤らめて、モジモジとするハリエット。

彼女の対魔忍スーツは、ゴスロリチックな対魔忍スーツだ。

死々村孤路さんのスーツに近い。

 

「た、確かに、これは凄いね」

 

苦笑いをしながら、そう語るのは山原さんと藤野だ。

彼女達の対魔忍スーツは一般的な朱色の対魔忍スーツで、ボディラインが浮き出ており、プロポーションが良い藤野、山原さんと相まって誠に目のやりどころに困る。

 

「にゃー、これキチィのぅ……」

 

身体を動かしながら、大原は不満気な表情をした。

彼の服装も一般的な対魔忍スーツだ。

だが、色が黒色で夜だと、かなりのステルス性能を誇るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

そして、映画の撮影が始まった。

エルミルは、ペルソナが作り出したクリスタルの力で綴木みことになり、ペルソナ自身は鬼崎きららへと変化する。

 

「さぁ、最高のフィルムと行こうじゃないか!」

 

拡声器を具現化したべトールはハイテンションで口上を述べる。

 

「アクタァァァァァ……ステンバァァァイ! シィーン……アァクション!!」

 

月面にクラッパーボードがカチンと鳴り響いた。

 

 

 

その後は酷いの一言だ。

べトールさんが想像の2倍は厳しかった。

 

「カーーーット!!! みことガーール!! そんな単純な罠に引っ掛かったら、単調なブックと思われるじゃないか!!」

「ひえええええーーーーーー! そんな事言われても無理ですよー!」

 

「NONONO!!カットだ!!きららガール! どうしてそんな分かりきった罠に引っかかるんだ!?」

「う、うっさいわね! 分かり難いのよ!!」

 

カットの連続である。

それと、気のせいか……2人ともかなりノリノリである。

 

明日、チームを組んで演習を行う理由から、今日中に終わらせる為に、途中からルーサーが時間停止を使って、時間を止めて撮影することになった。

 

〚対魔忍共よ、恐れ慄け、これが終末の龍詩ぞ!!〛

「それくらいで、私たち対魔忍が恐れる訳ないわ!!」

「必ず、この戦いに勝ってみせます!」

 

 

〚業火に焼かれろ!!〛

「させません!! ブレインダイブ!! きらら先輩、今です!!」

「これで終わりよ! 必殺、凍奔征走おおおおおおおおお!!!」

 

 

「カーーーーーーット!! グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッド!! グゥウウウレエエエエエエイット!!!」

 

撮影が終わり、べトールさんが狂喜乱舞する。

いや、発狂に近い。

 

「やっと終わったよ……」

 

神淵と四神勢達が背伸びをして、ため息を着く。

 

「私たちは、ペルソナやエルミル様ほど出番ありませんでしたね」

「そうね。でも、それなりに楽しめたわ」

「ええ、非常に心躍るものがありました!」

 

アプレンティスとハリエットは互いに笑い合う。

私は龍を解いて、ぐったりと地面に倒れ伏す。

マジで長かったー。

 

「ペルソナさんとエルミルさん、もう気絶してますよ」

「にゃー、そりゃあれだけカットの猛襲を食らったら誰でも気絶するよ」

「ホントだね、私たちは出番チョロっとだけだったから良かったけど」

 

私を除いた四神勢は背伸びしたり、腰を叩いたりしながら、雑談をしていた。

 

「皆サンキュー! 俺はこれから映画の作成に取り掛かるよ!! それじゃあ、バーーイ!!」

 

べトールはクラッパーボードを鳴らして爆発を発生させて、何処かに行ってしまった。

 

取り残された我々は、嵐が過ぎ去った後のように数分その場に佇んでいた。

 

「あー……それじゃあ、僕たちも帰ろうか」

 

ルーサーは止めていた時間を動かして立ち上がる。

それに連れるように、他の人々も立ち上がりはじめる。

 

 

 

あの映画が、世界的大ヒットを遂げて、社会現象にまで発展、マザークラスタが動く事態になってしまう事になるのは、彼らはまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

続く。




地球の終末が近づいてくる。


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39話 演習

マザークラスタ月面基地。
余談だが、世間ではここは、マザークラスタ本部という扱いになっている。


「マザー」

ファレグ・アイヴズは、珍しく神妙な面持ちでマザーに話しかけていた。

『あぁ、分かっている。』

マザーもファレグが何を伝えようとしているのか、理解していたようで、頷いていた。

「何でしょうね、この気配……」
『……私にも不明だ。このような生命と無機物が混ざったような気配。初めて感じる。』

マザークラスタ月面基地の最上階で、2人は不気味な気配を感じる方を眺めていた。
マザーは今までに見た事がないような、険しい表情をしていた。

『……私の演算を遥かに上回る最悪の出来事が起きるかもしれない……』
「私、とてもワクワクしますよ♪」
『……相変わらずだな……』

それでも、強い方と相見える事ができると感じたファレグは、ニッコニコで言葉が弾んでいた。
それを見たマザーは少しため息をついて、呆れていた。


 

 

 

8月16日

9時00分

 

 

マザークラスタ極東支部のエントランス。

 

 

 

今日は他のマザークラスタメンバーとの演習だ。

私みたいな奴と組む事になる哀れな人は、誰だろうと待ち構えていたのだが……。

 

「……」

 

拍子抜けである。

私の目の前にいたのは……。

 

大原栄二と藤野キイナ、山原玲奈であった。

私は思わず突っ込んでしまった。

 

「お前らかい!」

 

と。

その言葉に大原が反応する。

 

「にゃー、俺も同じ意見よ」

 

ゲラゲラと大原は笑う。

山原さんも、藤野も同じ意見のようだ。

この4人、マザークラスタ【四神】が手を組むという事は、その相手は……。

 

「「「「……」」」」

 

全員が沈黙する。

察しがついたのであろう。

 

「行きますか」

 

山原さんの意見に3人とも頷いて、演習場へと向かった。

演習場へと向かう中、私はある話しをする。

 

「今更やけど、かなり歴史変わってきてないか?」

「どゆこと?」

 

藤野が首を傾げる。

 

「pso2の世界でのマザークラスタに、こんな支部とかあった?」

「分からない。でも、アースガイドには北米支部があるっぽいから、多分登場していないだけであるんじゃない?」

「そうなんかなー……。pso2の世界でのマザークラスタって表向きは、エーテル通信技術を使う総合通信企業なんやろ?」

「こっちの世界も同じだよ。この支部も、表向きはエーテル・インフラの向上と、エスカタワーの管理を目的として建設されたって書いてる」

 

藤野の手に持った携帯端末で調べていた。

その事を聞いた私は苦笑いをする。

 

「それで政府は納得しとんか?」

「まぁ、概ね……だね。エーテル・インフラを完全掌握してるから、政府も文句言えないって感じ」

「それさ、かなりヤバイよな。言うてしまえばマザーの匙加減で、この世界の生死が決められるようなもんやろ」

「だね。でも、マザーがそんな事をするとは考えられないから、そこら辺は心配ないと思うよ」

 

そう言って藤野は携帯端末をポケットに入れた。

そして、彼女は私の方を見て訊ねる。

 

「でも、何でそんなこと聞くの?」

「pso2の正史の方も、こんな支部あったのかな?って。なんか、私達の介入に物凄い歴史が変わってそうでな。これべトールや、マザーの他に誰か死人出るんゃないかって不安になって」

「あー、そういうこと。私もわかんないから、それに関してはノーコメント」

「んぁー……嫌やなー、べトール達生存させたら、代わりに別の人が死ぬとか……」

 

私は苦虫を噛み潰したような表情で頭を掻きむしりながら、言う。

藤野は「よくゲームでもあるよね! 誰かを生存ルートに持ち込んだ場合、他の誰かが死んじゃうっていうの!」とクスクスと笑った。

私はため息をつく。

 

「今1番に懸念してる点や。マジでやめてほしいな」

「そうなったら、誰が死ぬだろうね」

「マジで誰も死なんといてほしい」

 

私は肩をガクリと降ろし、ため息と共に言葉を漏らした。

 

「意外と私達の中から死人が出たりしてね」

「いやぁ、それは絶対にやめて欲しいな。マジで発狂して、どうにか成りそうや」

「それは同意見」

「俺も」

「私も」

 

私の言葉に藤野、大原、山原さんが頷く。

 

「ねえ、マザーを救うって言ってたけど、具体的な方法は考えてるの?」

 

藤野が私に質問を投げかけた。

私は「うーん」と唸りに近い声をあげて、「多分不可能やと思うで?」と前置きした上で答えた。

その内容は……。

 

 

デウス・エスカと和解した後、マザーが奇跡の具現をした場面で救う。

マザーが復讐を終え、消滅する瞬間に、私は魂を閉じ込める物質で、マザーの魂を封じ込める。

そして、予め用意しておいたマザーそっくりの身体に埋め込む。

 

そのような内容を言うと、その場にいた3人が怪訝な表情になった。

いや、まぁ……そんな表情になるよな……。

私も言ってて意味わからんもん。

 

「本当にそれでマザー救えるの?」

「……」

 

藤野の言葉に私は目を逸らした。

正直、これで救えるかと言われたら、凄い答え辛い……。

 

「あと数年だよ? それに、元凶であるアーデムを殺せばいいんじゃない?」

 

藤野の意見は、最もだ。

だが、私は「いや……」と小声で呟き、会話を続ける。

 

「私も初めはそう思ったよ。でもな、下手にアーデムを殺すと、アースガイドが黙ってる訳ないし。オフィエルが動かないって保証もない。何ならアーデムのポジションがオフィエルに変わりそうな気もする」

「にゃー、龍照も大変やのぅ」

「本当ね」

 

他人事の大原と山原さんに私は、やさぐれた表情で2人に言う。

 

「大原、山原さん、あんたらも手伝って貰うからな」

 

と。

あまりの表情に2人とも若干引き気味なる。

 

「お、おう。わかっとるよ」

「も、もちろん。マザーには恩があるからね」

 

若干引きつつも、苦笑いをする2人を他所に、藤野は「演習場所ってここであってるよね?」と指さす。

そこには、大演習場と記された電光掲示板があった。

 

「あー、ここやな」

 

私達は、その場所に入った。

 

 

 

 

「やっぱりお前らかい!」

「そらこっちのセリフだぜ」

 

待機室に入り、一番に私達の目に入った人物を見て笑いが混じった声で突っ込みを入れる。

まぁ、それは向こうも同じ意見だったようで、巨漢の男も、私と似たような表情で言った。

 

今日の演習相手はエルダー、ルーサー、アプレンティス、ダブルの4人(5人)のペルソナを除いた、ep1~ep3のオラクルダークファルス勢だ。

ルールは、この殺風景なフィールドで戦って、2人以上が気絶した方の負けという至ってシンプルだ。

つまり、隠れる事も出来ずに正面から殴り合うしかないといった感じである。

 

「シンプルでおもしれーじゃねーか! 早くやろうぜ!!」

「早く遊ぼー!」

「いっぱい楽しもー!」

 

エルダーとダブルは、ニヤニヤウキウキで今にも大暴れしそうな程だ。

 

「それじゃあ、やるか」

 

私の言葉に反応するようにエルダーは、ヒューナル体となって私達に襲いかかってきた。

 

「おらあああああ!!」

 

拳を地面に叩きつけて、青色の衝撃波を放つ。

私たちはサッと、後方へと飛び上がって回避する。

 

「早いわあああああ!!」

 

藤野は具現武装を生み出してエルダーに襲いかかった。

彼女の手には、複数のカードを持っていた。

そのカードの中から1枚を選んで掲げる。

 

「さぁ、行くよ。私の下僕よ!!」

 

藤野の高らかな叫びと共に、天に掲げたカードが煌々と光出して、別のモンスターへと姿を変えた。

 

「出てよ、エスカ・マジシャン!!」

 

彼女は、目の前に現れたモンスターの名前を言う。

そのモンスターは、白色の鎧を身に纏う魔道士のような姿をしていた。

 

彼女の具現武装は「エスカード」。

モンスターや魔法等が描かれたカードを操って、敵を倒していく召喚師のような具現武装だ。

 

ぶっちゃけると、戦うデュエリストである。

相対する相手を、相手フィールドに存在するモンスターとして扱い、自身は、モンスター、魔法、罠カード巧みに扱い勝利へと導く具現武装である。

 

 

「エスカ・マジシャン、エルダーに攻撃! エスカ・マジック・バーニング!!」

 

彼女の攻撃命令にエスカ・マジシャンと名乗るモンスターは錫杖を振るい、特大のエネルギー弾をエルダーにぶつける。

 

「おもしれえぇ!!」

 

迫るエネルギー弾を前に、エルダーは背負うエルダーペインを抜いて、斬りかかった。

エスカ・マジック・バーニングと、エルダーのオーバーエンドがぶつかり合う。

 

「にゃー、申し訳ないがエルダーよ」

「っ!?」

 

2つの力が拮抗している中、不敵な笑みを浮かべて謝罪する人物がいた。

その者は、具現武装・幻創世器の世果【創暁】を具現化させて、がら空きのエルダーの横腹を切りかかろうとする。

 

「大原の野郎っ!!」

「にゃー、すまんなぁー!」

 

悪そうな笑みを浮かべる大原。

光り輝く刀がエルダーに直撃する寸前……。

 

「キャッスル・エスカ・ウォーーーーール!!」

 

大原とエルダーを分断するように、不気味な壁が出現し、大原の刃を弾き返した。

 

「すまねえ、助かったぜ、ダブル!!」

「にゃー、そう簡単にゃー、いかんもんやのぅ」

 

大原は気怠そうに、ダブルの方を見る。

ダブルは無邪気な子供その物の笑みを浮かべ、ヒューナル体……しかもダランブルへと変身した。

 

「「大原お兄ちゃん! 僕と私と、めいっぱい!遊んで遊んで、楽しもう!」」

「おー、ええぞー。化け物通しの遊び合い(ころしあい)、始めようか!!」

 

大原は世果【創暁】を解除し、創杖クラリエス∀を具現化。

エスカ・イル・グランツをブッパした。

 

「「キャッスル・エスカ・ウォール!!」」

 

何重にも重ねられた壁を自身の前に置いて、エスカ・イル・グランツを防いだ。

 

「にゃー、当たらんかー」

「「じゃあ、僕達はこれっ!!」」

 

 

ーキャッスル・ビックリ・たからばこー

 

 

 

ダブルの頭上に宝箱が現れ、それがパカリと開く。

すると、中からイル・メギドを彷彿とする玉が大量に出てきて、床を這うように大原目掛けて移動し始める。

 

「あぁー、面倒やのー」

 

大原はクラリエス∀を小さく掲げ、エスカ・テクニックを発動する。

 

 

ーエスカ・アル・メギドー

 

 

紫色のハニカム模様のバリアを展開し、ダブルのキャッスル・ビックリ・たからばこの攻撃を防いだ。

更に大原はクラリエス∀を掲げる。

 

 

 

ーエスカ・メギディールー

 

 

 

ダブルを中心に円状のフィールドが形成される。

エスカ・メギディールは、超重力を発生させるフィールドであり、その場にいる者は強い重力によって動きが鈍る効果がある。

 

「「わ、わわわ!? ナニコレナニコレ!? 身体が重くなって動けない!!」」

「おし、じゃあ、今度はこれで」

 

膝をついて、慌てふためくダブル。

それを見た大原は追撃を加える。

 

 

ーエスカ・ノス・フォイエー

 

 

 

大量小さい火の玉が、蛇行する軌跡を描きながらダブルに迫る。

着弾する火の玉は小規模の爆発を起こし、その小さな爆発が何回も重なり、ダブルを飲み込んだ。

しかし……。

 

 

「キャッスル・ビックリ・エスケープ!!」

 

 

爆煙を吹き飛ばす勢いで、巨大な宝箱からエスカ・ダランブルであるダブルがピョーーンと登場する。

それを見た大原は「おー」と笑って、再度クラリエス∀を構えた。

 

「にゃー、楽しめてるか?」

 

ニヤリと微笑む大原の言葉に、ダブルは「うんっ! とっても楽しい」と言ってピョンピョン飛び跳ねる。

 

「それじゃあ、まだまだやるか!!」

「うん!!」

 

2人の攻撃がぶつかりあう。

 

 

 

 

 

「!!」

「……ふっ!」

 

一方でアプレンティスと山原玲奈さんはエルダーやダブルに、藤野や大原の援護に行けぬよう互いに牽制しあっていた。

その姿は、人ならざる異形の姿をしていた。

アプレンティスはヒューナル体であるエスカ・アプレジナ。

対する山原さんは、露出度高めのセクシーな黒い衣装を身に纏い、黒い翼を生やした姿。

彼女の具現武装・サキュバスである。

サキュバスを全身に具現化させているのだ。

 

「やっぱり玲奈ちゃんは強いね♪」

「ありがとうございます!」

 

魔力により生み出された短剣と、アプレンティスが持つ刀がぶつかり合う。

その鍔迫り合いは、どちらも退く事をせずに押し合いをしていた。

絶対に援護には向かわせないという鋼の意志を感じる。

 

「ふふっ♪」

「んふっ♡」

 

2人は不敵に、妖艶に微笑む。

だが、その笑みとは裏腹に全身から赤い闘気を放っており、相当な手練でも近寄る事すらできないほどだ。

 

そんな中、空中で激しく争う存在がいた。

 

「グラン・ゾンデ!」

「竜詩幻創・ナーストレンド!」

 

ルーサーであるエスカ・アンゲルと小野寺のヒューナル体であるエスカ・ドラゴンナイトの空中でのぶつかり合い。

その余波は演習場全域に広がっている。

 

「竜詩幻創・ドラゴンダイブ!!」

 

分身した8体のエスカ・ドラゴンナイトはルーサーに急接近して突き刺そうとする。

 

「食らうつもりはない、ザンディオン!!」

 

しかし、ルーサーは風と雷の翼を生み出して飛翔、急接近する小野寺の攻撃を回避した。

小野寺の攻撃は地面に突き刺さり、爆炎が発生する。

あのまま直撃していたら、どうなっていたことか……。

ルーサーは少し冷や汗を流しつつ、右手に炎を左手に闇を生み出し、それらを合わせて小野寺目掛けて照射した。

 

「トドメだ、フォメルギオン!!」

「あかん!!」

 

槍を抜く事に気を取られた小野寺はルーサーのフォメルギオンをモロに直撃する。

苦悶に歪む声を上げて、小野寺は吹き飛ばされてしまう。

 

「くっ……強いな……」

「ありがとう。お褒めに預かり光栄だよ」

 

ルーサーはそう言いながら、追い打ちを掛けに来る。

右手に氷、左手に光を生み出し、氷と光で作られた刃を両手に持ち、小野寺に突進して何度も斬りつける。

 

「ま、ける。かよおおおおお!」

「!?」

 

小野寺は黒い刀を具現化させて、ルーサーの刃を叩き砕いた。

更に、後方へステップした後、大振りの回転斬りをルーサーに斬りつける。

 

「ぐぅっ!!」

 

その斬りつけの攻撃で、ルーサーは吹き飛ばされ、小野寺自身も決死の攻撃の為に、バランスを崩して倒れ伏す。

 

「やばぃ、……普通にルーサーに勝てん……!!」

 

若干絶望しつつ、小野寺は必死に立ち上がり、槍を再度具現化し、攻撃を仕掛ける。

 

「スパン……ダイブっ!!」

 

ルーサーの青白いコアを狙いを定め、ジャンプで急接近、串刺しにしようとした。

しかし、コアに食らう瞬間に、ルーサーはテレポートをしてそれを回避。

小野寺は勢いを殺す事が出来ずに、ルーサーがいたところに槍が突き刺さる。

 

「ぐっおっ!!」

 

槍が壁に衝突した反動で、小野寺の全身も壁に叩きつけられる。

 

「終わりだ。ビッグクランチ・プロジェクト!!」

 

ルーサーは飛翔し、極太のレーザーを小野寺目掛けて照射する。

 

「竜詩幻創ドラゴン……サイト、竜詩幻創バトルリタニー……!!」

 

小野寺は最後の力を振り絞り、近くにいた山原さん目掛けて補助をかける。

青い龍が山原さんを包み込む。

そして、小野寺はビッグクランチ・プロジェクトの特大レーザーが直撃し、撃沈。

 

 

小野寺龍照、敗北。

 

 

 

だが、小野寺が齎した補助は山原さんを勝利へと導くには十分過ぎた。

 

「ありがとね、龍照!」

 

ニヤリと微笑み、龍照に感謝する。

そして、持っている短剣を再度強く握りしめ、力を込める。

 

「でやあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「!!?」

 

山原は、耳を覆いたくなる程の咆哮をあげ、獲物を狩る百獣の王の如き表情になる。

その咆哮と表情に、普段とのギャップを感じたアプレンティスの力は一瞬だが緩んだ。

しかし、その緩みを山原は見逃す事はなかった。

一気に押し切る。

龍照が残した補助の力は絶大だ。

今の山原は、水を得た魚。

精を得たサキュバスである。

鍔迫り合いに負け、後方に仰け反ったアプレンティス。

大きな隙が生まれ、その隙をついて山原はアプレンティスに抱きつき、深い口付けを交わす。

 

「んぐっ!?」

 

だが、その口付けを受けたアプレンティスは、苦悶な表情を浮かべる。

それもそのはずである、サキュバスとなった山原の口付けは、他人の生気やエネルギーを無理矢理奪い、自身の力に変換する事が出来るのだ。

 

「♡」

 

エスカファルスが内包する莫大なエーテルを山原は残さず奪う。

初めは暴れていたアプレンティスも、次第にピクピクと動かなくなっていく。

それは猛獣に捕らえられた小動物のように。

アプレンティスの表情も次第に恍惚として、エスカファルスが見せるような表情になっていった。

ちなみにババア化では断じてない。

 

最後にはヒューナル体すら解けた彼女は、地面に倒れ伏した。

だが、その表情は最高に情けなく幸せな表情をしていた。

 

「ぼへー……ひ、ひあわひぇぇぇ♡」

 

呂律の回らぬ口調でアプレンティスは気絶する。

 

 

 

エスカファルス・アプレンティス、敗北。

 

 

 

あと1人。

エスカファルス・アプレンティスの力を一時的に得た山原は、ルーサーに狙いを定める。

 

「さぁ、行くよ。ルーサー!!」

「くっ、来い……!」

 

ルーサーは一瞬、怖気付くが、すかさずビッグクランチ・プロジェクトを撃った。

山原はその迫る特大レーザーを、両手に展開された魔法陣で受け止める。

 

「流石、誘拐犯の力を奪っただけの事はある。僕の技を受け止めるとは……!」

「つよ……い、アプレンティスの力を奪っても、こんなに───!!」

 

山原は歯を食いしばって必死に特大レーザーを受け止めている。

だが、その勢いは次第に失せていく。

 

「君を倒せば、僕たちの勝ちだ!!」

「絶対にルーサーを倒して勝ってやる!!」

 

そう言う山原だが、状況は圧倒的にルーサーが優勢だ。

展開している魔法陣も徐々に薄まっていっている。

そして遂に……。

 

「なっ、そんな……!!」

 

魔法陣が消滅し、特大レーザーが山原を包み込んだ。

 

「僕達の勝利だ!」

 

勝鬨の雄叫びを上げるルーサー。

しかし、その表情も一瞬だった。

特大レーザーの後には砕けた地面があるだけで、山原の姿はなかった。

 

「馬鹿な……一体どこに……!?」

 

狼狽するルーサー。

辺りをキョロキョロと見渡す。

 

「ここよ」

「っ!?」

 

ルーサーの真後ろから冷たい声が耳を舐め回す。

振り向こうとするルーサーを、山原は阻止する。

自らのサキュバスの尻尾使って、彼を拘束し動きを封じ込た。

 

「ど、どうやって、あの攻撃を───」

「あれは私の幻影よ。本物の私は姿を消していたの」

「……なん、だと?」

 

驚愕するルーサーを他所に、山原はルーサーの目を自分の手で覆った。

 

「それじゃあ、勝利は頂くね♪」

 

淫靡な笑みを浮かべる山原さんは、口を大きく開けて、ルーサーこと、エスカ・アンゲルの首元に噛み付いた。

 

「……ぅおっ!?」

 

ルーサーは奇妙な声をあげ、バタリと倒れて、ヒューナル体が解除された。

 

 

エスカファルス・ルーサー、敗北。

 

 

 

これでエスカファルス組が2人、戦闘不能になった事で、【四神】組の勝利となった。

 

ダブルと大原は、戦うのをやめて互いにヒューナル体と具現武装を解除する。

 

「「楽しかったよ! ありがとう!! また遊ぼうね!!」」

「おー、ええぞ! またやろうか!」

 

戦闘というより、戯れに近い事をしていた大原とフロー、フラウは握手をして笑いあった。

その一方で……。

 

「勝ち負けなんざ、どうでもいい! 猛き闘争を続けようぜ!!」

「あいよー」

 

エルダーと藤野は、そのまま戦闘を続行。

2人の攻撃がぶつかり合った。

 

 

 

 

 

続く



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40話 エルダーの結婚について

別の次元の遠い過去。


『あの失敗作は捨てたのかい?』

とある研究室で、ドールはアザマに訊いた。

『ああ、先程、亜空間に投棄したよ』
『まぁ、仕方ないね』
『それより、閃機種の調整はどうだ? 次の侵略先である惑星マキアと呼ばれる星に侵攻する際に、使用すると上層部は言っているぞ』
『大丈夫だよ。これだけの軍勢があれば、たかが1つの星如きあっという間に侵略できるさ!』

ドールは得意げに語る。
それでもアザマは不安そうな表情を崩すことはなかった。

『しっかり確認したのか? もし、この侵攻が失敗したらお前、怒られるどころじゃ済まなくなるぞ』

アザマはそう諭すがドールは何処吹く風だ。

『大丈夫だよ。整備も完璧だ。万一として失敗はないよ!!』
『それならいいんだが……ん?』

アザマは、見ていた資料の中に数枚だけ不審な内容を見つけて、ドールに問いただした。

『お前、この資料はなんだ?』
『んー? なんだ……ぃ?』

その資料を見たドールの表情は一気に青ざめる。

『まさか、前に言った機械人形を……!?』
『そ、そそそ、そそんなわけないだろう!? しっきゃり、投棄したさ!! そ、それは、僕が空いてる時間に作った資料だよ! 仮に製造したらこんな感じになるだろうなぁって、妄想の産物だよ!!』

慌てふためき、必死に誤魔化すドール。
アザマは睨むようにドールを見つめつつ『本当だな?』とドスの効いた声で言う。

『お前、もし、この資料が本当なら、閃機種に出された資金の半分を横領している事になるぞ?』
『分かってるよ! そんなわけないだろう!?』
『それなら良いが……』

アザマはそれ以上は追求することなく、別の研究室へと向かっていった。
それを確認したドールは『危なかった……』と声を漏らした。
ドールはアザマが持っていた資料を手に取り、それを確認する。
そこに映し出されていたのは、1つの巨大な要塞を彷彿するさせる黒いメカだった。

『もし、これがバレたらどうなっていたことか……危ない危ない……』

ドールは呟き、それをゴミ箱へと捨てた。




 

 

エルダーと藤野が戦闘を再開しようとした時、エルダーが「ちょっと待ってくれ!」と制止する。

藤野は不思議な顔をしつつも、それを了承。

手に持っているカードを弄り始めた。

 

一方でエルダーはと言うと、ポケットからスマホを取り出して画面を確認し、慌てて電話に出た。

 

「もしもし、あぁ、俺だ。どうした?」

 

誰かと話をしていた。

藤野からして見れば、元のダークファルス・エルダーを知っているだけあって、エルダーがスマホで通話をしている様子は、新鮮かつシュールな光景だったであろう。

 

「え? 今か?」

 

一瞬だけ、チラッと藤野を見るエルダー。

 

「あぁ、大丈夫だ。いつもの場所だな? 分かった」

 

そう言い終わると、スマホをポケットの中にしまい、藤野に謝罪する。

 

「すまねぇ。急用ができた。この続きは、別の日にしてくれ!」

 

深々と謝罪するエルダーに、藤野は少し動揺しながら「え? あ、大丈夫だよ」と答えた。

 

「本当にすまねぇ!!」

 

エルダーは謝りながら、走って出ていった。

 

「多分、シーナさんに呼ばれたね」

 

その様子を見た山原は、サキュバス化を解いてニヤニヤした表情をする。

 

「だねー」

「にゃー、幸せでええないか。元の結末を考えるとな」

 

藤野と大原もニヤニヤする。

 

「彼女さんを双子によって殺され、自分も狂い、最後はダークファルスの依代となる。オメガでは救われたけど、まぁ悲しいよね」

「そうやのぅ」

「ねえ、それより、倒れてる3人を医務室に連れていった方が」

 

山原はアプレンティスとルーサーと小野寺を見ながら言う。

大原たちも「あー、そうやな」と3人を担いで医務室へと連れていった。

 

 

 

 

 

「まさか、ルーサーに負けるとは……」

 

私は医務室のベッドに腰掛け、ガックリと肩を下ろした。

まさか、自身が生み出した具現武装に敗北するとは、予想外にも程がある。

いや、これは最早当たり前の事か。

 

毎日エルダーとの戦いを繰り広げているルーサーと、偶演習を行う怠惰な私とでは、戦闘力に差が生まれるのも当然か……。

 

「あれだ……。チート能力に頼りすぎてたかもしれん……」

 

モンハン2ndGで悪魔アイルーに頼りきってプレイングスキルがゴミになっているの同じだと、私は感じた。

3年前のように、毎日欠かさず月面基地の中枢付近でエスカダーカーの具現化に励んでいた時とは違う。

完全にエスカファルスの……ニーズヘッグやミラボレアスの力にかまけていた。

 

「ドンマイだよ!」

 

山原さんは明るく励ます。

あー、なんて天使なのだろうか……。

勘違い童貞野郎には、その眩き笑顔はヤバい。

 

「また鍛えればいいだけだよ!」

「あぁ、そうやな!」

「私ももっと鍛えて、龍照達が言ってるマザー救出に貢献したいしね!」

「……ありがとう」

「気にしないで! 私もマザーには恩があるしね!」

「そうか」

「それじゃあ、帰ろっか!」

「ああ!」

 

私は山原さんに介抱されながら、自宅のマンションへと戻った。

一方、エルダーはと言うと。

 

 

 

「すまねぇ、待たせちまったか?」

 

黒曜宝石と呼ばれる喫茶店の看板前で待っている女性に話しかけた。

 

「うぅん、私も今来たところだよ!」

 

緑色のセミロングで紫色の瞳、顔立ちも、身体付きも整っている女性。

芽流本シーナ、エルダーの彼女さんだ。

 

「それじゃあ、入ろうか!」

 

彼女は屈託のない笑みを浮かべて、エルダーの手を繋いだ。

 

「おう!」

 

エルダーも彼女に笑顔を返した。

このような幸せそうな笑みは、小野寺達も見たことがないだろう。

2人はギュッと絵を繋いで、喫茶店の中へと足を運ぶ。

そして、2人組の席に座り、コーヒーを注文した。

 

「今日はどうしたんだ?」

 

コーヒーが来るまでの時間に、エルダーはシーナに訊いた。

すると、シーナは非常に真剣な表情になり、エルダーの目を見つめた。

それには、エルダーも緊張が走る。

彼女がこんな表情をするなんて、今までに見た事がなかったからだ。

エルダーの頭の中に1つの懸念点が生まれる。

 

まさか、別れよう。

と、言われるのではないか……。

眉唾をゴックンと飲み干し、額には冷や汗が滴る。

 

あぁ頼む、別れ話でありませんように!!

 

彼はテーブルの下で、彼女には見えないように両手を握って、祈りを捧げる。

この時の彼は、満員状態の快速急行電車で腹痛に見舞われた人並に、神に祈っていただろう。

 

そして、彼女の口からある言葉が発せられた。

 

「結婚しない??」

「……………………………………………………………………………え?」

 

シーナの言葉にエルダーの時は3秒程停止した。

この3秒も彼からしたら永遠の時にすら感じられるだろう。

彼のキョトンとした表情で呟く姿を見たシーナはおかしくて吹き出した。

 

「もう、真剣な話だから、気をつけたのにエルダーがそんな表情するから笑っちゃったじゃん!」

「す、すまん」

 

ケラケラと笑うシーナに、エルダーはポケーっとした表情のまま謝罪する。

まだ、頭が理解していないようだ。

 

「あ、あー、それで、なんだっけ?」

「プフッ……だから、結婚しない? って話よ」

「あー、結婚……結婚……結婚??」

「そう、結婚」

「……え、俺と?」

「他に誰がいるのよ」

 

真面目を装うと必死なシーナであるが、エルダーの初々しい反応にツボにハマってしまい、ニヤケ顔が止まらなかった。

 

「もちろん、今直ぐにじゃなくていいわ。後日、返事を頂戴」

「い、いや、結婚に関しては問題ないんだが、少し気になる事があるんだ」

「??」

「こっちの事だから気にしないでくれ」

「分かったわ」

「それじゃあ、返事を待ってるね」

 

シーナはニコっと微笑んだ。

お待たせしましたー。

と、タイミングよくコーヒーが運ばれてゆく。

 

「じゃあ、この話はお終いで、いつも通りにいこうか!」

「あ、あぁ……」

 

切り替えるシーナだが、エルダーは結婚が頭にこびり付いて、それどころではなかった。

シーナのウェディングドレス姿が目に浮かび、ニヤつく顔を誤魔化した。

無論、この後、水族館に行くことになったが、結婚の事でまともに集中できないエルダーであった。

 

 

 

その後……。

 

 

「何ぃいいいいい!?」

 

マンションの龍照の自宅にて、彼は空を割く程の大声を上げて驚いた。

その表情は、この世の終焉でも訪れたかのような恐ろしい顔だった。

 

いや、驚いているのは彼だけではない。

他のエスカファルスや、大原達も目が飛び出るぐらい見開いて、大口をあけて驚いている。

 

「エルダーが結婚!!?」

「凄いじゃないか! おめでとう!!」

 

驚愕で言葉が出ない中で、アプレンティスは声を上げ、ルーサーは自分の様に喜び、拍手していた。

そして、その相手がシーナさんであると知るや否や……。

 

「赤飯や!! 赤飯をたけえええええ!!」

 

大原は発狂する様に炊飯器を持ちながら暴走。

藤野は「板前を呼んで寿司を食べよう!!!」とスマホで連絡を行っていた。

 

「祝うぞ!! うおおおおおおおおおおお!!」

 

pso2プレイヤーの大原、藤野、小野寺は、嬉し泣きの状態で暴走する。

 

「おまえら落ち着け……まだ決まった訳じゃねえよ」

 

呆れて頭を抱えるエルダー。

それでも暴走が止まることはなく、結果的にハリエットの能力によって発生した木々によって拘束された挙句、冷気を送られて頭を強制冷却される事になった。

 

「落ち着きましたか?」

 

ニコっと微笑むハリエット。

……圧が凄い。

 

3人は「はい、お騒がせしてすみませんでした」と土下座をして謝罪をする。

この状態のハリエットは怖いとかの次元では無い。

もう、殺されるレベルの恐怖を覚える。

 

「知りてぇ事があるんだよ。それを知ってから、シーナのプロポーズを受けるよ」

「知りたいことって?」

 

小野寺がエルダーに訊くと、エルダーは「あぁ、大した事じゃねえよ」と首を横に振る。

 

「ちょっと、今からマザーの所に行ってくる」

「いってらー!」

 

エルミルはスマホでソシャゲをしながら、手を振った。

エルダーがいなくなった部屋。

小野寺は立ち上がり、藤野と大原に指示を出す。

 

「藤野は近所の板前寿司に連絡を! 900万出すから家で寿司を握ってくれと伝えろ! 必ずマザークラスタ【四神】の紋章を出すんや!!」

「ラジャー!」

 

「大原は築地日本市場まで行って大量の魚を購入! 合計金額8000万までなら私が出す!! なるべく高級な魚を頼む! マザークラスタの紋章を出してな!!」

「任せとけ!!」

 

「エルダーの幸せを、全力で祝福するぞ!!」

「「おうよ!!」」

 

小野寺の声に、2人はノリよく返事をした。

 

 

 

 

 

 

 

月面基地

 

 

 

 

『君か。エスカファルス・エルダー。』

「突然来てすまねぇな。今日はマザーに聞きてえ事があってきた」

『どうした?。』

「普通の人間と幻創種が結婚する事なんて可能なのか?」

 

エルダーはマザーに言うと、マザーは少し考える素振りを見せた後、話を始めた。

 

『まず 結婚 心よりご祝福申しあげる 笑顔の溢れる温かいご家庭をお築きになられるよう お祈りする』

「まだ結婚が決まった訳じゃねぇよ」

 

微笑んで、結婚祝いのメッセージを贈るマザーに、エルダーは肩を下ろしてデジャブに苛まれた。

コホンっと咳払いをして、元の真顔な表情に戻したマザーは質問に対しての回答を述べた。

 

『そして、エスカファルス・エルダーの質問についてだが、エルダーの場合なら結婚は可能だ。』

「本当か!?」

 

マザーの一言を訊いたエルダーは目を輝かせて、食い入るように確認する。

 

『可能だ。だが、子作りは控える事を薦める。』

「こ、子作り!?」

『所謂セックスというものだ。幻創種である君と、普通の人間が交配を行い、もし子供が生まれた場合、その子は人間と幻創種が混ざった状態で産まれてくる。』

 

しかし……。

と、マザーは話を続ける。

 

『ただ、その場合、赤子の状態ではエーテルの負荷に耐えきれずに自壊してしまう。そのため、子作りはお勧めできない。』

「むぅ、そうか。……ありがとう。すまねぇな」

『気にするな。エスカファルス・エルダー。もし交配だけをするのであれば、避妊具はつけるように。』

「わ、わかった」

 

エルダーは、少し戸惑った表情で了承し、自宅へと戻った。

そして、自宅へと戻ったエルダーは、呆気に取られる。

 

「な、なんじゃこりゃ!?」

「おう! おかえり!!」

 

 

板前や、ずらりと並ぶ高そうな寿司を前にエルダーは困惑する。

だが、そんなエルダーを他所に、小野寺は笑顔で彼を迎え入れた。

 

「遅かったじゃない、皆食べてるわよ!」

 

アプレンティスが高級寿司を頬張りながら、手招きする。

 

「エルダーの結婚祝いに、龍照が大枚はたいて板前を呼んで、寿司を握っているんだ」

 

ルーサーは焼酎を飲んで、エルダーに説明している。

それを訊いたエルダーは肩をガクリと降ろして「まだ結婚するって決まった訳じゃねーよ」と言った。

 

「まーまー、エルダーも食べようや! あ、板前さんも好きなだけ食べていいですよ!」

「いいのかい?」

「もちろん! せっかく来てくれたんですから、好きなだけ食べてください!!」

「こりゃあ、ありがたいねぇ!」

 

エルダーは「まぁ、そうだな」と言って、皆の輪の中に入っていった。

この後は、エスカファルス組、四神組+板前さんでドンチャン騒ぎで盛り上がった。

 

 

 

9時00分

 

 

 

片付けを終え、静まり返る部屋。

ダブルは目を擦りながら「「明日学校に行かないといけないから、もう寝るね」」と言って自分の号室に戻ろうとする。

しかし、ペルソナがスマホを確認してダブルを呼び止めた。

 

「あ、2人とも、明日大雨らしいから、今のうちにカッパか傘を用意しといた方がいいよ!」

 

と言った。

2人は笑顔で「「はーい」」と言って、帰って行った。

 

「ん? 明日雨?」

 

ソファーで寝そべっていた小野寺は、上半身を少しだけ持ち上げてペルソナに訊いた。

ペルソナは「うん。所々雷も鳴るっぽいね」と。

 

「明日任務やのに、面倒やのー」

 

小野寺は心底怠そうな表情で垂れ流すように言葉を漏らした。

 

「頑張れー」

 

ものすごい、どうでも良さげの口調で励ますペルソナ。

心にもない事を……。

まぁ、仕方ない。

明日は任務だ、幻創種の掃討という大したことの無い任務。

私はペルソナを追い出して、パジャマに着替えてベッドに入り込み、寝ることにした。

 

 

 

 

続く。



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41話 簡単な任務のはずだった。

『テスト開始だ』

男はそう言うと、1つの物体を地球目掛けて射出した。
それを見届けながら、男はほくそ笑む。

『さぁ、僕の最高傑作よ。失敗作が愛した地に絶望を届けてくれ』




 

 

 

 

 

8月17日

9時00分

 

 

 

「あぁ〜、任務だ……面倒くせぇ……」

 

ベッドの上で目を覚ました私は、混濁する意識をハッキリと覚醒させて、頭をポリポリ掻きながらベッドから出た。

今日は任務がある日だ。

前から、発生予兆が確認大型の幻創種が顕現する日だ。

pso2の緊急クエスト発生15分前のように、こちらでも幻創種が発生前にはエーテル粒子の動きに変化が起こるため、それらをレーダーで察知して数日前から幻創種発生予兆メッセージが届く。

 

今回は大型幻創種故に、幹部である私と山原さんが選ばれた。

 

 

「んぁぁぁ……やる気が起きねぇ……」

 

私は未だに残る眠気に苛まれながらも、冷蔵庫から適当な食材を取り出し、適当に朝飯を作った。

 

「あァァ……いただきます」

 

完成した朝飯をパパっと食べて、ベランダの窓をあける。

すると、ブワッと熱気と、蝉の音楽会が私の全身を包むように吹き荒れた。

 

暑い……。

 

私は心の中で、そう嘆きつつもベランダの柵に身を乗り出して、飛び降りる。

 

「……」

 

紐無しバンジー状態の中、私は幻創ニーズヘッグの翼を顕現させて、バサリと羽ばたいた。

 

「さぁ行くかー。面倒くさいけど……」

 

呟くと同時に私はバサバサと羽を広げて、空を切るように加速。

マザークラスタ極東支部へと全速力で向かった。

 

極東支部は、高層ビルの地下深くに存在する。

ビルの方が、表向きはエーテル通信技術を使う総合通信企業ESCAの支社で、その地下深くにある場所が極東支部の役割を持っている。

 

私はエレベーターに乗って地下へと降りた。

途中に3回ほどエレベーターを乗り換えないと行けないのが面倒くさい。

まぁ、敵に情報を掴ませないという意味ではいいかもしれんが、地震が来た時が怖い。

耐震設計は万全とか言われているが、普通に怖い。

あと、初見は絶対一人でたどり着けん。

私も若干迷う時がある。

 

「ふぅ……」

 

私はエレベーターの壁にもたれ掛かりながら、到着するのを待った。

 

「ふー……やっと着いた……」

 

到着し、エレベーターが開く。

私は極東支部の受付に向かう。

 

「戸塚さん、前に言われていた任務をお願いします」

「はい、少々お待ちください!」

 

若いオペレーター兼受付員の女性、戸塚明美さんが、手続きをして幻創種が顕現する場所へと急行する。

大型幻創種+取り巻きの掃討。

今回も簡単な任務。

アークスがロックベアを討伐しに行くようなものだ。

 

 

「さぁ、行くかー。さっさと終わらせてモンハンやるか」

 

私はブツブツと呟きつつ、ポータルを用いて目的地である城ヶ崎島と呼ばれる島へと向かった。

戸塚さんが言うには、山原さんは既に城ヶ崎島に着いてるらしい。

早いな。

 

大型幻創種の顕現想定時刻は10時44分。

現在時刻は9時43分。

到着したら準備運動して、ささっと討伐や。

 

 

 

「ほいさ」

 

城ヶ崎島に到着した私は、直ぐに山原さんがいる所に駆け寄った。

それに気づいた山原さんは笑顔で手を振る。

 

「今日はよろしくね!」

「ああ、よろしくな」

 

私も笑顔で山原さんにお辞儀をした。

そして、身体を温めようとストレッチを始めようとした瞬間だった。

 

 

《2人とも、聴こえていますか!?》

 

戸塚オペレーターのタダならぬ声に私はストレッチを辞めた。

 

「どうしました!?」

 

山原さんは緊張した声で戸塚さんに訊ねる。

戸塚さんは声からも伝わる程の焦る声に、2人は鳥肌が走り、緊張がMAXになった。

 

《城ヶ崎島のエーテル粒子の異常反応が見られます! 予定より早く大型幻創種が顕現します!! 2人とも警戒態勢をお願いします!!》

「……」

「……」

 

戸塚さんの無線が終了すると同時ぐらいに、私たちの目の前に煌々とした青い光と共に、プラズマとキューブ状の物に包まれて、それは巨大な幻創種を型どった。

 

その姿は、一言で言うならボロボロの木造の船といった感じである。

 

船の側面には幻創種特有の模様が見られ、初めはピクリとも動かなかったその幻創種は、次第に船体を揺らし始め、急に驚くべき跳躍力で海に着水した。

 

《反応確認、エストム・シップです!! 船体から砲台を具現化させて攻撃してきます!! 注意してください!!》

「了解!」

「あいさー!」

 

戸塚さんのアナウンスに、私と山原さんは返事をして攻撃態勢に入る。

山原さんは、サキュバスを自身の身体に具現化させ、私はヒューナル体であるエスカ・ドラゴンナイトへと姿を変えた。

 

「さぁ、行きますか!!」

「ですね」

 

私と山原さんは互いにエストム・シップ(以降はエストムとする)に突撃する。

 

「やあああああああああ!!」

 

山原さんは周囲からレーザーを具現化させて、エストムへと撃つ。

 

「竜詩幻創・ナーストレンド!!」

 

私も槍を前方に突いて、衝撃波を生み出してエストムを貫こうとした。

だが、エストムは穴が空いている両側面に46cm砲を具現化させて、ドンドンと2発発射。

弾を爆発させてレーザーと衝撃波を防いだ。

 

「そんな事するのは分かっていたわ!」

 

山原さんはニヤリと微笑み、エストムの後方に姿を現した。

先程レーザーを撃った山原さんは幻であり、本物はエストムの後方に回り込んでいた。

 

「ぜあああああああ!!」

 

山原さんは尻尾を鞭のようにしならせて、思い切ってエストムの右側面にある砲台に振り下ろした。

バゴンと重い音に続きボンっ!と破裂する音を轟かせて、砲台が消滅した。

私も負けじと、もう1発ナーストレンドを放つ。

その攻撃は左側面の砲台に直撃し、爆発した後、消滅。

 

だが、エストムも砲台を再生させて、怒り狂ったように何十発も連射してきた。

 

「はいよっと!」

 

山原さんは魔法の壁を創り出して、砲弾全てを防いだ。

その間に、私は何度もナーストレンドを撃って、エストムに攻撃を与え続けた。

弾幕を浴びせるエストムだが、こちらの攻撃の前に次第に勢いが落ちていく。

 

「もう少しね!」

「ああ! これで終わりや!!」

 

私はそう言うと力を解放して槍を構え、エストムに狙いを定める。

 

「行くぞ!!」

 

 

竜詩幻創・スターダイバー

 

 

私はエストムにトドメを刺そうとした時だった。

山原さんの驚愕した声に攻撃を一時停止する。

 

「待って!! 何あれ!?」

「え?」

 

空を見て驚く山原さんに私も、反射的に空を見た。

私は「は?」と眉を細めて不審な表情をする。

視界には紫色の隕石のような物がこちらに落ちてきているのが見えたのだ。

私たちは攻撃を中断し、山原さんは前方に防壁を何重にも生み出して、防御態勢に入る。

 

その紫色の隕石は大型幻創種のエストムシップに落着。

爆発と衝撃波、砂煙が私達を襲いかかる。

だが、山原さんが生み出した防壁によって事なきを得た。

そして、砂煙が晴れ、私達の目の前には巨大な物体がいた。

エストムシップは完膚無きまでにバラバラに砕け散り、エーテル粒子を霧散させて消滅した。

 

「なに、あれ?」

「わ、わからん」

 

私たちは、嫌な汗を滴らせて不安な表情を晒し、今までに無いほどの警戒心を持った。

だが、目の前にいる存在を見た私は、pso2に出てくるとあるエネミーを連想した。

 

「え? オルグブラン?」

 

剣を口に咥え、四足歩行をして、パッと見た感じはオルグブランを彷彿とする骨格をしていた。

また"白い装甲"を身に纏い、関節部分には水色の太いコードのような物が見えていた。

無機物と有機物が混ざったようなメカメカしい存在に、私たちは眉唾を飲んで武器を構え、戸塚さんに連絡する。

 

「戸塚さん、応答してください!!」

《小野寺さん、どうしました? 先程大型幻創種の反応が消失しましたが、討伐成功───》

「いえ、先程上空から正体不明の物質が落着し、未確認の生物のような、機械人形のような存在が出現して一触即発状態です」

 

冷静に私は戸塚さんに報告をした。

戸塚さんは戸惑いの口調で《そんな、そちらのこちらのモニターには何も表示されていません》と言われ、私と山原さんは「はぁ?」と怪訝な表情になり、冷や汗がダラダラと垂れる。

 

《ジャミングの痕跡もありません。一体なぜ……》

 

戸塚さんが色々と模索していると、目の前にいるメカは剣を構えたあと、私たち目掛けて一気に振り抜いた。

 

「「!?」」

 

私たちは咄嗟に空に逃げて、攻撃を回避する。

目の前にいる存在、ここでは仮の名としてメカブランとする。

 

「戸塚さん、一旦通信を切ります!」

 

そう言って通信を切り、槍を構えて突撃する。

 

 

竜詩幻創・スターダイバー

 

 

メカブランの足元に青い魔法陣が浮かび上がる。

3つの青いリングが出現し、槍を構えた私は輪をくぐる形でメカブランに向かって急降下。

強烈な衝撃波を発生させた。

メカブランは吹き飛ばされて激突するが、直ぐに体制を立て直し、高々と剣を振り上げた動作の後、正面目掛けて剣を叩きつけた。

 

「はぁあああ!」

 

迫る剣を前に山原さんは、防壁を展開して剣を防ぎきった。

 

「くっ、重い……!!」

 

山原さんは、歯を食い縛って苦しそうに呟く。

防壁を破壊出来そうにないと悟ったのか、メカブランは、その巨大な図体から想像もつかない程の勢いで駆け寄りながら斬りつけようとした。

 

「させるかよ!!」

 

 

竜詩幻創・天竜点晴

 

 

私は両脇に竜の形をしたエネルギー弾を生み出して、メカブラン目掛けてぶつけた。

 

 

竜詩幻創・ドラゴンサイト

竜詩幻創・バトルリタニー

 

 

更に、山原さんにバフをまいてサポートする。

それでも、吹き飛ばされながら、山原さんに突撃してきた。

コイツなんで山原さんばっかり狙うねん!!

 

山原さんは翼を羽ばたかせて、空中へと避難した。

そして、私はメカブランにもう一度、竜詩幻創・天竜点晴を撃った。

しかし、メカブランは宙返りしながら、攻撃を回避しつつ、ワイバーンのような形態へと変形させた。

 

「は?」

「嘘でしょ?」

 

私たちは呆気に取られしまう。

メカブランは、そんな我々を無視して攻撃を繰り出した。

口と思われる部位からエネルギー弾を3連続で放出する。

その姿は、オルグブランからリオレウスに変化した。

しかも、弾速が異様に早く、狙われた山原さんは防壁を仕掛けることなく直撃する。

 

「あぁ!?」

「山原さん!!」

 

山原さんは地面に叩きつけられた。

何故、さっきから山原さんばかり狙われるのだろうか……。

 

「やべぇ!!」

 

いや、考えていても仕方がない。

メカブランは右足に持っている剣を巧みに扱い、彼女を両断しようしていた。

私は山原さんを守ろうと彼女の前に立って、エーテルの刃を私の右腕に纏わせて、メカブランの一太刀を防いだ。

 

「重っ……!!?」

 

奴の攻撃は想像以上に重く、私は歯を食い縛る。

その時だ。

私のスマホが鳴り始めた。

こんなの時に誰だよ!?と思いながら、メカブランの攻撃を押し返す。

 

「2人とも手伝ってくれ!!」

 

〚……分かった……〛

〚……そうだね……〛

 

完全体のエスカファルス・リベンジに変身。

よろめいているメカブランを組み伏せて、地面に思いっっ切り叩きつける。

それはもう、ちょっとしたクレーターが出来上がる程に。

その後、メカブランを押しながら、私は空に飛翔。

メカブランに狙いを定める。

 

 

竜詩幻創・アク・モーン

 

 

 

私は藍色のエネルギー弾を口から4回、放出した。

放たれた4発のアクモーンはメカブランへと勢い良く落下し、メカブランに命中。

藍色の柱のような爆発を起こした。

 

爆発が過ぎ去った後に残ったのは、機能停止したのか、白い装甲が黒ずんだメカブランがいた。

 

〚〚「……」〛〛

 

私は警戒しつつ、スマホを確認する。

画面にはエスカファルス・エルミルと表示されていた。

私は直ぐに電話に出る。

 

「もしもし」

《もしもーし! エルミルだけどさ、今カードショップ・ブラッドにいるんだけど、グレイトフルベンが980円とかいう格安で売ってるけど、買っておこうか?》

 

エルミルの元気な声が聞こえてくる。

だが、私はそんな事なんてどうでも良かった。

 

「それよりエルミルよ聞きたいことがあるんやが」

《ん?どうしたー?》

 

焦る私を気にすることなく、エルミルは訊ねる。

私は即座にビデオモードにして、動かなくなったメカブランを移す。

 

「コイツってBETAか!? ヴラブマ、私の世界で言うところのマブラヴの! 空から降ってきてん!! 攻撃してきたから、何とか鎮圧したところ」

 

内心焦っていた私は、意味のわからない質問を投げかけた。

 

《BETAにこんな奴いないよ。それに、龍照にビデオ渡したでしょ? まさか見てないの?》

「見たよ! ちょっとだけ! 唯依さんが可愛かった。ビビるぐらい可愛かった!! マジで焦るくらい可愛かった!!!」

《でしょ? それと話を戻すけど、BETAにこんなやつは存在しない。それは間違いなく言える》

「待て待てじゃあ、コイツなんなんや!?」

《僕が知るわけないよ》

「対魔忍のブレインフレイヤーか!?」

《ブレインフレイヤーなら、空間を裂いてやってくるでしょ》

「そう、だよな……」

《そっちに向かった方がいい?》

「いや、マザーに報告してくれ」

《分かった》

 

そう言って、電話を切った。

 

「なんだろうね、コイツ」

 

山原さんはサキュバス形態を解いて、メカブランの方を見ながら私に問いかけた。

 

「ああ……」

 

BETAでもブレインフレイヤーでもない。

見た感じアラガミでも無さげや。

幻創種特有の模様もないから、幻創種でもない。

ダーカーでも、エスカダーカーでも、SEEDでもない。

 

こいつは一体?

 

 

 

すると、私たちの肌に冷たい物が当たった。

 

「あら?」

「Oh......」

 

空を見ると、いつの間にか雨雲に覆われており、雨がポツポツと降り始めてきた。

 

「そういえば、昨日雷雨とか言うてたな」

「どうする? 戸塚さんとマザーに報告する?」

「せやな」

 

私達は傘を具現化させて、連絡をしようとする。

その間にも、雨の勢いは増していき、次第に雷まで鳴り始めた。

 

そう雷雨である。

 

我々のいる場所は浜辺故、流石に雷には打たれたくないので、急いでその場から避難しようとした。

その時だ。

 

「え?」

「嘘……」

 

先程まで沈黙していたメカブランが音を発てて起動する。

いや、それだけなら良かった。

それは雷雨に呼応するように、元は白い装甲に覆われたメカブランの全身が黒と紫の禍々しい見た目に変貌した。

 

明らか普通じゃない見た目に、私は恐怖すら感じてしまう。

 

「……!」

 

この場から逃げなければ……。

私は頭の中で、そう判断し、山原さんにも伝えようとしたが、彼女の様子がおかしかった。

 

「ユウ、キ……そんな……」

 

目を大きく見開いて、手足は痙攣し、何かを呟いていた。

明らかにおかしかった。

 

「山原さん!? 一旦ここは退こう!!」

 

私が訴えても、彼女は涙目になって怯えたような表情で震えていた。

 

「……むぅ……!!!」

 

埒が明かないと判断した私は完全体になって、彼女持ってこの場から撤退しようとした。

だが、そんな事をしている暇なんて無かった。

メカブランはワイバーン形態から、二足歩行形態へと変形。

剣を振りかぶったあと袈裟斬りを繰り出した。

 

「……?!」

 

私は咄嗟に山原さんを蹴飛ばして、遠くへと無理矢理退避させ、再び腕に刃を纏わせてメカブランの袈裟斬りを受け止めようとした。

だが……。

 

「……ッ!?」

 

私が創り出した刃は一瞬にして砕け散り、全身に激痛と鮮血が飛び散った。

 

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!!!!!!」

 

今まであげたことの無い絶叫が、豪雨や雷の音をかき消した。

私の左腕は切断し、胸から右斜め下に大きな切り傷がパックリと開いていた。

 

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!! 痛い!! イタイイタイイタイイタいィタイ!!!」

 

激痛に私は情けなく涙を流して叫びをあげる。

全身の激痛に残った右手は痙攣して思うように動けなかった。

いや、もう痛みで両足や体が思うように動くことが出来なかった。

 

そんな中、山原さんは私の事なんて眼中に無い様子で、メカブランの方を見つめて、発狂するように涙を流した。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい 私が悪いの私があんな事しなければ貴方が苦しむことは────」

 

彼女は何度も何度も壊れたラジオのように謝罪をしている。

私は彼女だけでも避難させねばと、激痛に耐えて最期の力を振り絞って立ち上がった。

切れた左腕の断面からは赤い血がボトボトと、地面垂れては雨によって掻き消されていく。

 

「に、にげて……! 山原、さん……!!」

 

大量出血によって意識が朦朧とし始めるも、もう気合いで山原さんだけでも救おうと彼女に近寄ろうとする。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

「やま、はらさん……!!」

 

狂った山原さんを助けようと、右手を差し出した。

だが……その右腕が吹き飛ばされ、大量の血が山原さんの全身に付着した。

 

「……!!!」

 

メカブランによって、残った右腕も切断されて、更に奴の巨大な拳が私の全身に命中した。

大きく吹き飛ばされるがそれでも、私は諦めずに立ち上がる。

不思議な事に、いつの間にか痛みは消えていた。

私は過呼吸になりながらも必死に駆け寄ろうとする。

 

「に、げ……て……!」

「ユウキごめんなさい私のせいでごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい私のせいであはははははは」

 

私の決死な声も彼女の耳には届かず、彼女はメカブランを前にして、大きく抱擁をするようなポーズを取った。

そして、目を大きく見開き、涙を流した彼女は明るい声で言った。

 

「また一緒にデートしよ! それでいっぱい遊ぼうよ!!」

 

メカブランは大きく剣を振り上げた。

それを見た山原さんは目を瞑り、微笑んだ。

 

「ごめんねこんな私で」

「だ、め……!」

 

メカブランは剣を山原さん目掛けて振り下ろした。

私の悲痛な叫びは、異音でかき消される。

赤い血や赤い物が周囲に飛び散った。

 

 

 

 

 

 

続く



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42話 絶望を屠る深遠(アンファザマブル・ダークネス)

東品川運動場。
小野寺フローは友人達とサッカーをしていた。

「フロー!頼む!!」
「任せて!! えやああああああ!」

友人のパスを受け取ったフローは、渾身の力でサッカーボールをゴール目掛けて蹴る。
サッカーボールは目にも止まらぬスピードでゴールへと穿たれる。

「っしゃああああああ!フローナイスゥウウウウウ!!」
「やったあああああ!」

フローのゴールに友人達がフローに抱きつきながら喜んだ。
フローも満面な笑顔で喜んでいた。

一方敵チームは……。

「くっそおおおおお、アイツ強すぎるだろぅ!」
「バケモンだ……」
「さすが、ロケランのあだ名を持っている男だ」

フローを見て死ぬほど悔しがっていた。
どうやら、サッカーでのフローのあだ名はロケランのようだ。
因みにフローがゴールキーパーの時のあだ名はエイジス(神盾)である。

「でも、アイツがゴールキーパーじゃないだけマシだよ」
「ああ、あの野郎がゴールキーパーだったら突破不可能だからな。マジでアイツ人間かよ……」
「噂だけど、今まで1点も入れられた事がないらしいよ。まさにエイジス(神盾)だね」
「鉄の砦どころの騒ぎじゃないな……」
「俺もそんな、カッコイイあだ名欲しいなぁ」

息を切らしながら、少年たちはフローを見てつぶやく。

「くっそーー! おいロケラン(フロー)!! もう1回勝負だ!!」

フロー達のチームも、「いいぜ! やろう!!」と言って第2ラウンドが始まった。





東京都立大図書館
小野寺フラウは友人数名と夏休みの宿題を見せ合いながら写しあっていた。
どうやら夏休み前に友人達と集まって、ある作戦が練られていた。

それは、それぞれが別の教科の宿題のみを終えて、約束の日に全員で宿題を写し合うという作戦だ。
小野寺フラウは国語を担当をすることになった。

そして今日、東京都立大図書館という、絶対に先生や生徒が来ないであろう場所で、忌々しい夏休みの宿題を写しているのだ。

夏休みの宿題(自由研究と図画工作、絵日記を除く)が終わりを迎えようとしていた時、1人の友人がふとある事を呟いた。

「そういえばフラウの家遊びに行ったことないね」

と。
それを聞いた数名友人達みんなが「そう言われてみればそうだね」と言い始める。
フラウは「そうだっけ?」と首を傾げた。

「ねーねー、また今度フラウの家に遊びに言ってもいい?」

とフラウに訊いた。
フラウは少し考えてから「いいよ!」と言った。

「じゃあ、また今度遊びに行くね!」

フラウを含む友人達が指切りげんまんをした。
因みに少し騒ぎ過ぎたようで、図書館司書に注意をうけてしまった。




 

 

 

 

「……ぁ」

 

私は絶望を見た。

山原さんが……。

そんな……。

赤い……。

赤く……。

赤くなって……。

 

私は膝から崩れ、虚ろな目で赤い物を見つめた。

頭の中で様々な推しのキャラ達の死がフラッシュバックする。

あぁ、あぁ……。

トラウマが……。

なんで、どうして……。

何故同じ事を……。

ユウキの時、強くなって守ると心に決めたのに、何で……。

 

その時だ。

私の身体の奥底から青々しい怒りが湧き上がってくる。

同じ過ちをしてしまった、無能で愚かでアホな自分に対する怒りが、全身を覆っていく。

 

〚おい、お前、まさか!〛

〚わっ!ちょっと待って!!〛

 

龍照は底知れぬ怒りによって、2匹の竜の眼から深遠にも至るであろう力を無理矢理得ようとした。

すんでのところで2匹の幻創龍がそれを阻止したが、少しだけその力を龍照は得てしまった。

 

彼の背に、後輪が薄らと浮かび上がる。

その後輪には、青々しい瞳とも花びらとも取れる物も見えた。

 

殺ス。

 

彼はそう呟き、ゆらりと動く。

その時に彼のスマホが落ちて地面に衝突した。

衝突したショックで音楽プレイヤーが起動し、1つの音楽が流れ出す。

その画面は、

 

"Ooze"

 

と表示されていた。

気がつけば、切断された両腕の断面から青い幻創種の光を放ち出し、元の彼の手が具現化されていく。

上半身の大きく開いた傷口も青い光と共に塞がる。

 

殺ス。

 

彼は青く禍々しい形の槍を具現化させて、力を溜める。

炎と闇が槍に集束していく。

 

 

-深遠剣フォルメギオン-

 

 

槍を振り下ろし、凝縮された闇と炎を炸裂させながら放出する。

メカブランに直撃はするが、一瞬よろめくだけで効いている感じは無い。

それでも彼は何度も撃ち続ける。

狂ったように何度でも。

だが、メカブランも龍照の猛攻を受けながらも突撃し、攻撃を繰り出す。

 

 

 

-アンファザマブルアーツ(以下AAとする)・サテライトカノン-

 

 

 

龍照は両手に濃縮した上空にエネルギーを打ち上げ、メカブラン目掛けてエネルギーを照射する。

しかし、メカブランにはエネルギー照射でも怯むことなく突き進む。

 

不死身カ コイツ。

 

彼は悪態を着きながら、巨大な刃を作り出し前方に叩き付けた。

 

 

-AA・オーバーエンド-

 

 

流石のメカブランもヤバいと感じたのか、持っていた剣で攻撃を受け止める。

 

無駄ナ事ヲ。

 

受けたメカブランだが、龍照の放った巨大な刃は豆腐でも切るかの如く、スパッとメカブランの剣を真っ二つに切った。

剣を失ったメカブランは、再びワイバーン型に変形。

空に舞いながら、真下に6つの竜巻を発生させた。

その竜巻は渦を描くような軌道で周囲の砂や水を巻き込んで拡大していった。

 

 

-深遠剣ザンラメギオン-

 

 

龍照も1つの黒と緑が入り交じる巨大な竜巻を創り出し、メカブラン目掛けて進み始めた。

更に、奴が発生させた竜巻を取り込み、膨大になっていく。

危険を察知したメカブランは、その竜巻に自ら飛び込み、翼で気流を捉えて加速、そのまま龍照に突撃をしてくる。

 

 

-AA・スターリングフォール深遠式-

 

 

突撃するメカブランに対して龍照は、周辺に500本以上の青い剣を展開。

それらをメカブランに発射する。

その発射する瞬間に、彼はメカブランの後方にワープ。

500本以上の青い剣の雨を受けながら突き進むメカブランに向けて複合テクニックを繰り出す。

 

 

-深遠剣バーラメギオン-

 

 

射線上に闇を纏った氷柱を走らせ、メカブランを凍結させようとした。

流石にメカブランの強固な装甲でも龍照が繰り出した猛攻には耐えきれなかったようで、装甲の一部が剥がれて、コードのような物が露出する。

 

弱点ガ分カランナ。

 

彼は表情一つ変えない真顔で呟く。

今の龍照は能面でも被っているのではないかと錯覚してしまうほど、無表情だった。

 

 

-深遠剣グラツィメギオン-

 

 

メカブランを囲うように黒く光る剣を生成。

それを一斉に突き刺した。

突き刺さった光の剣は爆発し、黒く光る閃光がメカブランを包み込んだ。

 

……。

 

龍照は無表情で閃光の方を見つめる。

閃光が去った後には、大きなクレーターにメカブランがグッタリと倒れていた。

それを見た彼は何も言わずに再びテクニックを使用する。

 

 

-深遠剣イル・フォルメギオン-

 

 

炎と闇が合わさった巨大な剣を生成、それをメカブランに突き立てながら落下、トドメを刺しに掛かる。

しかし、メカブランは起き上がりつつ、大竜巻を生成させ龍照に攻撃を行った。

彼は防御態勢を取ろうとしたが遅かったようで、大竜巻を直撃してしまう。

それを受けた彼の下半身と上半身が真っ二つに切断された。

 

だが、龍照は吹き飛ばされた下半身を霧散させて、エーテルを上半身に集束させて再生させた。

そして、お返しと言わんばかりに彼も竜巻をメカブランにぶん投げた。

 

 

-深遠剣ザンラメギオン-

 

 

生成された竜巻はメカブランの竜巻と一つになって、メカブランを急襲。

竜巻にコントロールを完全に奪われたメカブランは必死に気流を掴もうとバタバタと翼を動かしていた。

しかし、バランスを整えることができずに天高く宙を舞うメカブラン。

無防備になったのを龍照が見逃す筈はない。

 

 

-深遠剣デウテラメギオン-

 

 

3発の闇のビームを照射。

メカブランの翼部分の装甲を抉るように貫通、右翼を破壊した。

機械的な音を上げて地面に落下するメカブラン。

攻撃を繰り出そうとするが、龍照が追撃を加えた。

 

 

焔迎え・終炎雨創造り(ほむらむかえ・ゆうだちあめつくり)

 

龍照は手を掲げ、炎の槍を空一面に具現化させる。

具現化させた槍は降り注ぐ雨を蒸発させ、彼のいる一帯のみ雨が止んでいる異様な光景となった。

そして、彼が掲げた手を振り下ろし、無数の槍が雨の如く降り注いだ。

メカブランの装甲を剥ぎ、むき出しのコードから紫色の液体が吹き出る。

 

消エ去レ、宇宙ノゴミガ。

 

彼は炎と闇を合わせた巨大な剣を生み出した。

 

 

-深遠剣イル・フォルメギオン-

 

 

炎の雨が降り注ぎ続ける中、龍照は生み出した大剣を使って、メカブランを真っ二つにする。

……するかに思えた攻撃は、メカブランが再び生成した剣を持って受け止めた。

龍照は別の攻撃を繰り出そうとした。

しかし、メカブランは竜巻を発生させて、彼を吹き飛ばす。

更に天空目掛けて大振りの一閃を放ち、炎の槍を消し飛ばした。

そして、メカブランは跳躍しつつ、龍照の心臓部を突き刺す。

かなり深く刺さり、それは背中から貫通した。

 

……。

 

もし、メカブランに感情や意思があれば、勝利を確信しただろう。

だが、それは直ぐに絶望に変わった。

心臓を貫いた筈の龍照は無表情のまま、奴の剣を掴み闇を送り込む。

慌ててメカブランは剣を引き抜こうとするが、叶わない願いだ。

 

……。

 

送り込まれた闇が破裂し、剣が真っ二つに耳障りな金属音を発して割れた。

 

……。

 

割れた衝撃で仰け反るメカブラン。

龍照は折れた2本の剣を持って、奴を突き刺した。

突き刺した衝撃で地面に倒れ、紫色の液体が血の様に吹き出る。

 

……終ワリダ。

 

倒れたメカブランを見て、トドメを刺しにいく。

空中に飛翔した龍照は2つの技を使用した。

 

 

-劫火-

-絶・竜詩幻創モーン・アファー-

 

 

城ヶ崎島全域を焼き払う火炎放射を発射し、無人島を瞬く間に火の海へ変える。

だが、それは所詮、最悪の予兆でしかなかった。

火炎放射の出力を爆発的に上昇させ、全てを焦土に変える劫火によって、城ヶ崎島にある全てを巻き込んで、メカブランを溶かしに掛かった。

本当に城ヶ崎島に人がいなくて良かった。

 

劫火が去った後は、島の半分が文字通り吹き飛び、緑が消え、真っ黒に焼け焦げた島と、全身が赤く溶解しかけているメカブランだった。

 

龍照は間発入れずに次の技を繰り出す。

メカブランに狙いを定め、口から青白く光り輝く光球を撃った。

恐ろしい程に早い弾速で動かないメカブランに直撃。

大規模の爆発の柱が発生、メカブランを包み込んだ。

だが、それでも龍照は辞めなかった。

何度も何度も攻撃を続ける。

 

-絶・竜詩幻創モーン・アファー-

-絶・竜詩幻創モーン・アファー-

-絶・竜詩幻創モーン・アファー-

-絶・竜詩幻創モーン・アファー-

 

メカブランの全てをこの世から消し去る為、何度も、何度も。

一撃必殺に等しい技を。

何度も、何度も。

途中にメカブランが宙に浮かんで赤黒い十字の爆発を起こしたような気がしたが、関係なかった。

気が狂ったかのように、何度も何度も撃ちつける。

 

 

爆発が去った後、そこにはメカブランはいなかった。

奴がいたと思われる所には、大穴が空いてあり、中は真っ暗。

かなりの深さがあると思われる。

何もいなくなった半壊の無人島に龍照だけが残った。

 

……。

 

龍照は立ち尽くしていた。

いつの間にか、雨が止んでいた。

焼けこげた匂いのする無人島で、龍照はプツリと何かが切れたようにバタリとその場で倒れ、意識を失った。

 

 

 

マザークラスタ月面基地

医務室

8月19日

4時44分

 

 

 

「……!?」

 

私は目を覚ました。

頭痛が酷い。

頭を抑えながら呻き声をあげて起き上がる。

 

「!? 龍照が目を覚ました!!」

 

私の目の前にペルソナが涙目になりながら叫んだ。

彼女の声を聞いたのか、エルダー達のエスカファルス達や大原と藤野が血相変えてやってきた。

 

「龍照大丈夫か!?」

「どこに怪我はない!?」

 

エルダーとアプレンティスが声を掛けてくる。

私は無言のまま頭を抑えた。

何が起こったか、必死に記憶を辿る。

そして、私は涙をボロボロと流した。

 

「ごめん……山原さんを……守れなかった……」

 

涙と鼻水で、タダでさえ気持ち悪い顔が3倍ぐらいキモイ面になった私が、嗚咽混じりに必死に呟いた。

深遠なる闇は、人を守れないんじゃない……。

ただただ私が弱かっただけだ。

あれだけの事があったのに、私は何故同じ事を繰り返しているのか……。

愚かだ。

私は本当に愚かだ。

あぁ……もう……。

 

 

 

 

別の世界の遠い過去。

 

 

 

 

『一体なんの真似だ!!』

 

ドールは大声で訴える。

彼は今、3人の男性によって拘束されていた。

 

『おい!! なんで僕がこんな目に遭っているんだ!!』

『我々、上層部からの決定だ』

『どうして!!?』

『先日に侵略した星、惑星マキアで大量の閃機種を投入した。だが、突如として全ての閃機種が機能を停止した』

 

ドールの目の前にいる男性は淡々と説明をしていく。

 

『それにより、惑星マキアの侵略を諦めざるを得なくなった。閃機種には、そのような事態にも備えて、フォトンとは違う、別のエネルギー炉を搭載するように指示していた筈にも関わらずだ』

『!?』

『おかしいと思った我々は、君が開発した閃機種を調べたよ。そしたら、そのエネルギー炉が搭載されていなかったそうだ』

『……』

 

ドールの顔が青ざめる。

男性は冷たい表情でドールを見つめていた。

 

『莫大なメセタを出して、開発を依頼したのにも関わらず、閃機種は全機喪失。大勢の仲間も失った』

『……』

『ドール。閃機種開発に出した大量のメセタを何に使用した?』

『それは……』

『諦めろ。もう全て分かっている。君の私利私欲で、出来損ないの機械人形を開発したことを……』

 

その言葉を聞いた彼は怒りに顔を歪ませて、男性に噛み付いた。

 

『ふざけんな!! 我が最高傑作を出来損ないだと!? 貴様らのような後方で安穏としているだけの腰抜け共に何が分かるんだ!!』

 

その言葉に、男性はフッと鼻で笑う。

 

『お前も同じだろう。そもそもお前がメセタを横領して、あんなガラクタを作らなければ、今回の大損失は出なかった。全てお前の責任だ』

 

上層部の男性は見下すようにドールに向けて言い放つ。

正論を前にドールは歯ぎしりさせて、漏らすように呟いた。

 

『ふざけるなよ……!!』

『そいつを独房に連れて行け』

 

ドールは拘束していた男達が、独房へと連行していった。

『離せ!! 触るな!! お前ら必ず後悔するぞ!!』等とドールは大声をあげて抵抗するが、その度に男達が『うるさい黙れ』『静かにしろ』『暴れるな』と言って止める。

 

 

 

 

独房の中でもドールは大声で訴え続けていた。

しかし……。

 

『君のような出来損ないはいらないのだよ』

『閃機種の開発はアザマ博士に一任した』

 

と一蹴されてしまう。

ドールは『出来損ないだと!? お前らのような寄生虫に何が分かる!?』とそれでも尚、噛み付く。

それを見た男達は呆れながら独房から去っていく。

去り際に、男はドールに向けて言い放った。

 

『君が作り上げたあの出来損ないの機械人形は、廃棄処分になったよ』

 

と。

それを聞いたドールは本気で怒り狂った。

 

『やめろ!! 俺が作った最高傑作を廃棄するなああああああ!!!』

 

ドールの雄叫びは独房に響き渡った。

 

 

 

その数十年後。

 

ある悲劇が起こる。

【深遠なる闇】の誕生である。

彼らの負の影響を受けたシオンコピーは【深遠なる闇】へ変貌を遂げた。

これ程、自業自得が似合う出来事もないだろう。

 

【深遠なる闇】とフォトナーの宇宙規模の戦争が開始される。

無論、「フォトンの対なるもの」「万物の生成に対するアンチテーゼ」「絶対破壊の意志」と謳われる【深遠なる闇】を前にフォトナー達は劣勢を強いられるのは、火を見るより明らかだ。

 

だが彼らは深遠なる闇を封印する手段を発見する。

その方法は、1人の少女に自分達の持つフォトンを押し付けて【深遠なる闇】の餌にするという方法だった。

 

 

-何故だ!? 僕はそんなことをさせるために、この子を生み出したわけじゃない!!

 

-待ってろ! 全てを知る事ができれば、そんな愚かな事をせずとも!

 

-何故だ! 何故答えないシオン!! 答えはそれしか無いとでも言うつもりか!?

 

-違う、違う違う違う違う違う!! こんな答えは、間違っている……!!

 

 

-やめろ!! 僕の!! 僕の───!!

 

 

 

 

そして、とある博士が生み出した少女に宿る魂を抜いて空にし、その空っぽの器にフォトナー達は、自らのフォトンを押し付けた。

 

 

独房の扉が開く。

 

『ドール! 出ろ!』

『……何だ、釈放か?』

 

やさぐれたドールは、あの時の上層部の男性を睨みつける。

それを聞いた男性は、切羽詰まった表情をした。

 

『あぁ、釈放してやるから、お前も器にフォトンを押し付けるんだ!!』

 

男性の言葉にドールは『は?』となる。

最初は唖然とした表情だったドールも次第に怒りがフツフツと湧き上がった。

 

『あれだけ出来損ないと言っておいて、困った時になったら使えだと!? 舐めやがって!!!』

『黙れ!! 出来損ないでも、役に立てるだけ有難いと思え!!』

 

深遠なる闇に劣勢になっている中、余裕のない上層部の男性は怒声をあげて力ずくでドールを器の所に連れていこうとした。

しかし、ドールは男性をぶん殴って逃走を図った。

 

『ぐっ、ま、待て!!』

 

男性はそう言うが、ドールは無視して逃げた。

感情に任せて逃走したが、どこに逃げる?

この宇宙規模の戦争の最中、逃げ場なんてあるのか?

だが、捕まってしまえば、どうなるかなんて分かりきっている。

彼は1つの賭けに出る。

その為、とある部屋に向かう。

 

『一と出るか、バチと出るか……』

 

そこは、異次元廃棄場。

以前、初めに生み出されたシオンコピーを廃棄した場所だ。

機械を操作し、スイッチを押した。

宇宙空間に惑星規模の巨大な異次元ホールが発生する。

それを見た彼は意を決して宇宙に飛び出し、自らが異次元ホールへと入った。

暫くして異次元ホールが閉じる。

 

 

次に彼が目を覚ましたのは、緑豊かな惑星だった。

まだ、地球を愛する失敗作(シオンコピー)が目覚めていない時代に。

そして、彼は最高傑作を作り出すために、動き出した。

 

仮の名、赤暗土流(ドール)(アカクラ モグラ)として……。

 

 

 

続く




終末の災厄に酷似


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43話 始まる侵略

「なーさらちゃんご飯だよー!!」

アプレンティスは優しげな声で、"なーさら"と名付けたダックスフンドにご飯を渡した。
なーさらは嬉しそうにご飯をムシャムシャと頬張っていた。

「あー、なーさらちゃん可愛いー!」

その姿にアプレンティスは、トロトロした表情で見つめていた。

「あぁ、ホントになーさらちゃん可愛いなぁぁ」

もう、男の子と女の子とフローちゃんとフラウちゃんと、なーさらちゃんがいるだけで私は頑張れる。

アプレンティスはニマニマしながら、なーさらが飯を食べ終えるまで見つめていた。

「何があっても、私は子供達となーさらちゃんを必ず守るよ」

アプレンティスはそう決心した。



 

 

 

 

 

9月20日

 

 

「……」

 

小野寺龍照はファレグ・アイヴズと模擬戦を繰り広げていた。

 

1ヶ月ほど前に起きた凄惨な事件の後、龍照は自身の無力と愚かさに悔い、強くなる為に狂ったようにファレグさんや他のエスカファルス達と戦闘を行っている。

 

 

 

愚か者は1度痛い目を見ないと分からない。

私は2度も痛い目を見て、ソレに気づいた。

私は、本当に救いようの無い愚か者だ。

 

こんなんじゃ、本当に誰も救えない。

推しのキャラ達を……対魔忍を救えない。

弱ければ何も出来ない。

対魔忍にもなれない。

 

私は強くなる。

強くなければ、何も出来ない。

弱ければ、何も守れない。

何も救えない。

私は……最強にならなければならない。

対魔忍になる為にも、森羅万象の推しのキャラを守るためにも……。

 

ブレインフレーヤー等の宇宙のゴミ共に勝てない……。

私は……私は最強にならねばならない……!!

 

 

 

そう心に決めた龍照は1ヶ月間、永遠戦いに明け暮れた。

睡眠時間も削り、オンラインゲームを含む娯楽なんて、もうやっていない。

ペルソナが本当に心配した事は、今までは夜に、龍照が持っている対魔忍のエロ画像(綴木みことのイラスト数百枚(龍照が描いたイラスト含む))を見て発電していたにも関わらず、あの事件が起きてからは1度してしていなかった事だ。

 

龍照の深層心理から生まれたペルソナからすれば、彼が一切の発電せずに戦いに耽っているのは、ガチモンの異常事態だった。

 

「ねぇ、精神科に1度見た方がいいよ……。あんなの私じゃないよぉ……」

 

と、涙目になって心配するレベルだ。

いや、もう泣いていた。

 

 

 

「……」

 

龍照は具現化能力を使用せず、拳を握り締めて、ファレグさん同様の赤い闘気を纏わせた。

 

「潰す……!!」

 

その拳でファレグさんの顔面を殴りに掛かった。

一般の人が、それを食らえば頭が吹き飛んで即死するレベルの威力だ。

 

「遅いですよ」

 

ファレグさんは、それを難なく軽々といなした。

しかも、いなした一瞬に龍照のミゾオチに膝蹴りを食らわせる。

 

「おブっ!?」

 

龍照は情けない声をあげて吹き飛ばされるが、直ぐに態勢を立て直して復帰。

手刀でファレグさんの首元を狙う。

殺意の塊である。

 

「まだ、軽いですね」

「……!!」

 

ファレグさんは敢えて首元を晒し、攻撃を受けた。

それでも、ファレグさんにダメージが受けている様子はなかった。

それを見た龍照は歯を食い縛り、悔しそうな表情をする。

 

「ハッ!!」

「ゴハァッ!?」

 

殴られて地面に叩きつけられる龍照。

口から血と胃液が混じったモノを吐いて、痙攣した身体を起き上がらせる。

 

「……負け、ない!!」

 

そう言った彼の表情は、狂喜に歪み切った笑みを浮かべ再び殴りにかかる。

ファレグさんは片目を力良く開き、眼力で龍照の拳を受け止めた。

 

「で、デタラメな力を……!!!」

「龍照さん、1度冷静になってはいかがですか?」

「……私は、冷静や……!!」

 

闘気を纏って力を込めるが、ファレグさんの肌に触れる事すら叶わなかった。

本当にバケモンだ。

 

「私には、そのようには見えません」

 

カッ!!

ともう片方の目を見開いて、その覇気だけで吹き飛ばした。

地面に倒れる龍照。

だが、それでもまだ立ち上がる。

 

「強くなる、という決意は素晴らしいと思いますが、日常生活を厳かにしていては、強くはなれませんよ」

「……私は……」

 

彼が何かを言う前に、ファレグさんは「今日はこれまでにしましょう。それと貴方は暫くお休みになってください」と言って、威圧する。

その覇王色の覇気のようなモノを受けた龍照は一瞬にして気絶してしまった。

 

 

 

 

 

 

「だづでるぅうううううぅ!」

 

家に戻ると、ペルソナが泣きながら抱きついてくる。

いきなりの事に私は驚いてしまった。

 

「ど、どうした?」

「どうしたじゃないの!?」

「もう休んで!! お願い!!」

「いや、先程ファレグさんから1ヶ月は休まないと、鍛錬に付き合わないと言われたから、やむ無しに……」

 

私がそう言うと、ペルソナは涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら、ビビる事を言った。

 

「私がオ〇ホになってあげるから、本当に休んで!!」

「はい?」

「私のこと好きに使っていいから!」

「待て待て」

「綴木みことちゃんにもなるから!!」

「うん、それは綴木さんに謝罪した方がいい。自分と同じ姿、声をした者が、こんなキモオタと過ごすのは嫌悪感MAXやろうて」

「乳〇ピアスも淫紋も刻むし、首絞めプレイも喜んでするから!」

「おいバカやめろ。あの回想の話をするでない」

 

ペルソナのトンデモ発言に四苦八苦していると、藤野が「久しぶりにデュエマしない?」と誘ってきた。

 

そういえば、最近してなかったな。

ファレグさんにも、戦いは一旦やめとけって言われたし……。

私は「ええで! やろうか!」と言って、部屋からデュエマのデッキケースを取りに行った。

 

「確か、ここに置いてたような……。あったあった!」

 

テーブルに野晒にされているデッキケースを掴み、被っていたホコリを払った。

 

「それじゃあ、デュエルやるか!」

「うん!!」

 

私は藤野と、テーブルでカードゲームをすることになった。

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

マザーが目覚める前の時代に遡る。

 

フォトナーの世界なら逃走したドール。

仮の名は赤暗土流(アカクラモグラ)。

 

彼が目覚めたのは、東京の、とある学校ができる前の路地裏だった。

 

 

『ここは?』

 

僕は頭を抑えて起き上がり、辺りを見渡した。

建物の裏手のような場所だ。

フォトナーの場所にも似たような場所はあったが、土表や建物の材質を見る限り、全くの別であった。

では、フォトナーが侵略した惑星の内のどこかに辿り着いたのだろうか?

その考えは違うと、僕は首を振った。

 

『あの時、僕は異次元ホールを開けて、そこに逃げ込んだ。という事は、ここは別次元の惑星……なのか?』

 

僕は結論付けて、路地裏を出た。

僕の目に広がったのは人々が闊歩する光景だった。

 

『何だここは……』

 

あまりの衝撃に僕は驚きを隠せなかった。

僕は怪訝な表情のまま、人々に混じって歩き出した。

 

『ん?』

 

ある程度歩いた時、僕はある違和感を感じ、ふと足を止めて地面に触れた。

触れた時、僕は驚きのあまり『うおっ!?』と声を上げてしまった。

地脈からフォトンに酷似している粒子を感じたのだ。

触れた感覚的だから確実とは言えないが、フォトンのように爆発的なエネルギーを生み出すことは出来ないが、情報伝達能力に優れていると考えられる。

 

しかもこれ……。

フォトン特有の人の感情の影響を強く受けるという性質も有しているから、これを利用して何かの創造物を創る事も可能なのではないのか?

地脈に流れているフォトンモドキの量は少ないけど、僕の持っているフォトン量で賄える。

しかし、何故……異次元の惑星にフォトンモドキが?

 

『いや、考えるのは後だ。先に創造物を作れるか試してみるとしよう』

 

僕は目を閉じて、体内にあるフォトン粒子を放出する。

人々がこちらを怪訝な表情で見ているが、僕にはそんなことはどうでもよかった。

SEEDを具現化させてみようと頭の中でイメージする。

そして、見事に具現化できたのだ。

 

『これは、凄いな……!』

 

ニヤリと微笑んだ。

僕は生み出したSEEDを地脈に流れるフォトンモドキに送り込み、霧散させた。

この効果がどうなるか分からないが、この星の侵略する際に、役にたてるだろう。

だが、まだそれを行わない。

この原住民達が如何程の強さをしているのかは、分からない。

下手すれば、こちらが殺られる可能性すら有り得る。

故に、僕は早速準備に取り掛かった。

僕は人気のない場所へと移動し、先程は比べ物にならない程のフォトンを爆破的に解放する。

そして、僕は宇宙に巨大な母船と、少女を創造する。

戦力を整えて、地球を侵略する為に。

 

 

 

───────────────────────

 

 

時は戻り現代へ……

 

 

太陽系外にある漆黒のマザーシップ。

それはドールによって具現化された物だった。

彼の目的は、具現化したマザーシップでフォトナー達が出来損ないと宣った機動兵器……《ドールズ》を作り出し、あらゆる星を侵略し、フォトナー達に見返すことだ。

そして、はじめの侵略が地球であった。

 

 

 

「主様、全てのドールズの調整が完了しました。現在、降下艇に格納中です」

 

金髪の美少女が、白衣を着た青年……ドールに報告をした。

ドールは「ふむ、ありがとう」と頷き、自分はある場所へと向かう。

それは、あの長い長い廊下を歩いた先にある部屋だ。

その部屋に向かっている最中、ドールはメカブランこと、テスト運用で地球に降下したヴァーディアス・ヴェラの反応が一瞬にして消失した事を考えていた。

 

何者かに破壊されたのか、それとも機械トラブルか……。

降下を延期して、少し地球の様子を探るか?

いや、大丈夫だろう。

こちらには無限とも入れる程のドールズがいる。

如何なる力を持った存在が居ようと、物量で押し切れる。

 

地球侵略をこのまま進めることを決めたドールはダルクファキス・イージスが建造されたドック、ドール・メディオラの扉を開けた。

 

「さぁ、出番だよ。僕と共に宇宙を飛び回ろう!」

 

ドールは笑顔でダルクファキス・イージスを起動する。

すると、イージスは音を立てて動き出し、カプセルから飛び出した。

コアのような部位が開き、コックピットが露になる。

そして、ドールはイージスに搭乗した。

 

「さぁ、はじめよう!! 最高の侵略を!!」

 

ドールの言葉と共に、マザーシップから数え切れない程のドールズの降下艇が放たれ、イージスと共に地球へと向かった。

 

 

───────────────────────

 

 

 

『……何の……冗談だ……。』

 

とあるデータを見たマザーは戦慄する。

マザーのこのような表情は、後にも先にも、これが最初で最後かもしれない。

 

一ヶ月前に起きた謎の存在、メカブランの解析が完了し、そのデータをマザーは目を通したのだ。

 

「マザー、何か分かったのか?」

 

アラトロンは、近づきながらマザーに問いかけた。

それにマザーは、深刻な表情をして返答する。

 

『不味い事態になっている。』

「……? これは、小野寺龍照と山原真衣菜が戦ったロボットか?」

 

モニターには、あのメカブランの姿が写し出されていた。

城ヶ崎島に漂うエーテル粒子を回収し、粒子に記録されている情報データをCGでモニターに写しているのだ。

アラトロンは頭をコンコンと叩き「何とも不思議なロボットじゃのぅ」と言った。

 

『……。』

「フォトナー時代の遺物か?」

 

マザーの様子に何かを察したアラトロンは、静かにそう言った。

マザーは深刻な表情を崩すこと無くコクリと頷いた。

 

『アラトロン、各支部に直ぐにでも市民を避難できるように、避難場所の確保・誘導の訓練を行うように連絡を入れていてくれ。』

 

マザーの言葉にアラトロンは「うむ」と頷いて、各支部に連絡を行いに向かった。

 

『……アレがここに居るという事は……やはり、あの太陽系外にある気配は……。なぜ、アイツがこの世界に……。』

 

マザーはモニターに写し出されたメカブランを眺めた。

遥か昔に彼女は、ある2人の研究者の話の中に、メカブランの事が出ていたのを思い出す。

陸海空の戦域を統制する機械人形。

1人の研究者は、そのメカブランの名を、

 

ヴァーディアス・ヴェラ type-Gigantix

 

と言っていた。

それが地球に降りてきて、マザークラスタの仲間の1人を殺した。

これはもう、ただ事では済まされない事態だ。

マザーは大規模な結界を貼る準備を行おうとした。

だが、無数の気配を感じ、その手が止まった。

 

『まさか……!?。』

 

マザーは宇宙を見上げる。

見上げた先には、大量の紫色に煌めく物体がこちらに近づいているのが分かった。

 

『……!』

 

マザーは地球を包む程の結界を張ったが、無慈悲な光の刃によってその結界を貫き、更には複数のエスカタワーを破壊した。

 

エーテル粒子の放出量をコントロールする役割を持っているエスカタワーが破壊されたことで、エーテルが暴発。

突然のエスカタワーの爆発による、人々の恐怖によって暴発したエーテル粒子が反応、世界中に異形の幻創種を生み出した。

 

 

 

続く

 

 

 



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44話 終末の地球に顕現した英雄

『さぁ、地球を終末の惑星へと変えよう!!』

僕はイージスのコックピットから言い放つ。
アクセルペダルを大きく踏み込んで、スピードを上げる。
まずは序章といこうか!!

『無慈悲の刃、喰らえ!!』

僕は目の前にあるモニターを操作、更に操縦桿を使って攻撃コマンドを入力。
すると、イージスは光り輝く剣を発射し、各国のエスカタワーへと飛んで行った。

『後は、僕が昔仕掛けておいたSEEDがエーテル粒子に交わっていれば、最高なんだけど……まぁ、大丈夫だね』

僕は不敵な笑みを浮かべ、シオンコピーがいるであろう事が予想できる月面へと向かった。
僕を出来損ないとホザいた腰抜け共に見返してやる。
僕が最高の科学者であることを……!!!




───────────────────────────

アンチヘイトご注意ください。


 

 

 

 

 

恐るべき事態となった。

エスカタワーの崩壊によって、溢れ出たエーテルは人々の恐怖に呼応し、異形の幻創種……SEEDを生み出した。

 

「なんだコイツら!?」

「ヤバいよ、逃げろ!!」

 

化け物に恐怖し、逃げ惑う人々に奴らは奇声をあげて襲いかかる。

東京……いや、日本……地球全てが阿鼻叫喚の地獄絵図、終末の惑星となった。

 

 

マザーは地球から溢れるエーテルを抑えようとするが、それは決壊した大型ダムから無限に放流され続ける水を止めろ、と言っているようなものだ。

いくらマザーでも、不可能に近かった。

 

『ダメだ……エーテルが……抑え込めない……!!。』

 

苦悶に満ちたマザーが呻くように口を開く。

しかし、地球を終末の惑星へとするのは、SEEDだけではない。

宇宙から紫に光る流星が雨のように落ちてくる。

その流星一つ一つがドールズであり、地面に落着し、人々に襲いかかった。

その恐怖にもエーテルは反応し、SEEDを生み出した。

無論、マザークラスタやアースガイドはドールズに立ち向かった。

各々が具現武装を以て立ち向かう。

……しかし、人が具現武装を使用した時、その者は苦しみながらSEEDへと姿を変えたのだ。

 

昔、ドールがこの地でSEEDを具現化し、ソレをエーテル粒子が流れる地脈へと戻した。

その時、SEEDとエーテル粒子が混ざりあったのだ。

これまで具現化をしてもSEEDに侵食されなかったのは、エスカタワーによってエーテル粒子を制御されていた為である。

それ故にエスカタワーが破壊され、エーテルが止めどなく溢れる現状でエーテルを用いた場合、SEEDが混じったエーテル粒子によって身体を包む為、そのまま侵食されてしまうのだ。

つまり、マザークラスタやアースガイドでもドールズに立ち向かうことが不可能だった。

 

この現状でドールズとSEEDに対抗出来る存在は、SEEDによる侵食を気合いで弾くファレグさんと、そもそもSEEDに侵食されないマザー。

そして……。

 

 

「おらああああああああ!!!」

 

突如の絶叫と共に、人々に襲いかかろうとしているペダス系ドールズとSEEDをバラバラに薙ぎ払った。

 

深遠なる闇に片足を突っ込んでいる小野寺龍照だ。

彼も強大な力によって、SEEDの侵食を防いでいる。

更に、彼は幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスの邪眼が持つ莫大なエーテル粒子を使用してある為、SEEDによる侵食がされないのだ。

 

「エクスとクォーツは、コイツらを極東支部内に避難させろ!!」

 

〚御意!!〛⁡

〚分かった……〛⁡

 

2匹の龍は怯える市民に寄り添い、安心感を持たせて極東支部の地下へと案内する。

 

「エスカラグナスは蜘蛛の巣をありとあらゆる所に張り巡らせて、機械人形とSEEDの侵攻を遅らせろ!! 徹底的に遅延行為をするんや!!」

 

〚──────!!!〛⁡

 

ラグナス達は飛び上がって、ビルとビルの間を器用に動いて粘着性・耐火性抜群の蜘蛛の巣を張り巡らせた。

 

「エスカビブナス含む、有翼型、龍型エスカダーカーは、空中から機械人形とSEEDを叩き潰せ!!」

「龍照ーー!!」

 

エスカダーカーに指示を出す中、ペルソナがドールズをコートエッジで真っ二つにしつつ駆け寄ってくる。

エスカファルス勢は幻創種だからか、SEEDによる侵食を防ぐ事が出来ていた。

 

「マザーはなんて言ってた!? 何で急にファンタシースターに出てくるSEEDが現れた!?」

 

私の言葉にペルソナは冷や汗を流しつつ、一呼吸おいて状況の説明をした。

 

「マザーが言うには、フォトナーの1人が地球を侵略しに、ドールズっていう兵器を投入しているみたい」

 

ペルソナの、ある単語に私は耳を疑った。

私は、ドールズと呼ばれる名前を、この世界に来る前にきいた覚えがあった。

 

「は? ドールズ!? 何でNGSの敵が!?」

「私も知らないよ!! でも、マザーが言ってたんだって!! 大量のドールズが地球に侵攻をしてるって」

「他のエスカファルス達は!?」

「みんな別の所でドールズとSEEDの掃討をしてる!!」

「じゃあ……あ、待って、ドールズが来たわ。先にコイツら殲滅してからや!!」

 

龍照はSEEDについても聞こうと思ったのだが、運悪く現れたドールズ、ペダス・ヴェラを前に闘気を纏わせる。

ペルソナもコートエッジを構えて戦闘態勢をとった。

 

「緊急クエストに出てきそうな、ボス級エネミーやな」

「ベータテストにボスとして出そうだね」

「ああ」

 

龍照とペルソナは、そのような軽口を叩き、ペダス・ヴェラに先制攻撃を仕掛けた。

 

 

 

一方……マザークラスタ極東支部内では……。

人々が不安気な表情で避難をしていた。

 

「あ、あの……私たちは助かりますよね?」

 

老婆が泣きそうな表情でスタッフ達に訊ねていた。

スタッフ達は「現在、外ではマザークラスタ達が食い止めていますので、大丈夫です」と答えた。

 

「今はパニックや不安にならず、平静な気持ちでいてください」

 

と他のスタッフが避難民に言った。

それを聞いた人達は、コクリと頷く。

 

「私の世界じゃあ、こうは行かないかもね」

「まぁ、そうやのぅ……」

 

民度の高い人達を前に、大原と藤野は呑気な話をしていた。

2人は小野寺の指示で避難経路の確保と避難誘導に回っていた。

小野寺は2人がエーテルを使うことで、SEEDに侵食されるかもしれないという心配から、そのような指示を出したのだ。

 

「歯痒いね。上ではみんな戦ってるのに、私たちはここで待つことしか出来ないなんて」

「にゃー、しゃーないよ。俺達もSEEDになったら、それこそよ」

「そうだけど……」

「待っとこう。アイツらなら、この状況を打開できるよ」

 

大原は何とも言えない表情で天井を見ながら呟いた。

 

 

 

 

そして、小野寺とペルソナはというと……。

ペダス・ヴェラを破壊し終えて、息を切らしていた。

 

「普通に強くて笑えんのやが……」

「ほんとだね」

「てか、こんな挙動のエネミーなんか? NGSのドールズも」

「だとしたら、かなりのクソエネ……」

「やめろバカ!!」

 

ペルソナが言いかけた言葉を私は制止する。

彼女はアハハと笑いながら謝罪をした。

呑気なことを言っている場合ではないが、こういう状況だと、呑気な事を言わないと精神的に辛いのだ。

 

空は赤紫色に染まり、流星が止めどなく落ちてくる。

その光景は終末そのものだった。

アーモロートでもここまで……いや、同じぐらい酷いわ……。

 

本当に明日が燃え殻になりそうなんやが……。

本当に文明が燃え尽きそうなんやが……。

 

 

「……どうするよ……最終的な勝ち筋が見えんぞ……」

 

私は終末の空を見上げながら、苦しげな表情でペルソナに訴えた。

ペルソナは、マザーがSEEDが現れた原因を説明していた内容を彼に伝えた。

 

「なるほど……それならマザーの救援しに行くか」

 

眼の力を使って、大型龍型エスカダーカーを具現化させて、ここら一帯のドールズとSEEDの殲滅を命令する。

私はポータルを使って、月面へと向かった。

 

 

『くっ、エーテルが……。』

「マザー大丈夫ですか!?」

『龍、照か……。』

 

私はマザーに駆けつけた。

気づいたマザーは苦悶に歪み歯を食い縛った表情でこちらに振り向く。

 

『申し訳ない。このような事になってしまって……』

 

マザーは謝罪をするが、そんなことをしている場合じゃないと言って、私もエーテルを抑え込もうとマザーの助太刀を行うとした時だ。

 

上空から光の刃が降り注ぎ、私達は既のところで回避する。

 

「なんや!?」

「またドールズ!?」

『遂に姿を現したか……ドール!。』

 

マザーは怒りの表情を浮かべて宇宙を見上げた。

私とペルソナも、それに反応して同じように見上げる。

 

「なに……あれ?」

「……」

 

宇宙から飛来してくるドールズに、私とペルソナは呆気にとられた。

そのドールズは遠くからでも分かるほど巨大な図体をしており、巨大な腕に甲虫の前ばねを彷彿する肩部、6つの多脚、長く伸びる尾に、昆虫を思わせる特徴をしていた。

いや、よく観察すると背部に4本の長い巨大パーツが羽のように展開してあるのが見えた。

ナンジャこいつは……。

 

アプレンティスとは異なる、昆虫のようなドールズに私は目を細めて見つめていた。

それはペルソナと同じだ。

 

「何あれ……」

 

と、巨大なドールズに目が離せなかった。

 

 

『やぁ、シオンコピーじゃないか、久しぶりだね』

 

巨大なドールズから声が聞こえてくる。

あれ、この声、昔聞いたことが……。

 

『それに、そこにいるのは……3年前にあった小野寺君じゃないか!』

「まさか、赤暗土流さん!?」

 

3年前……私がこの世界に来て間もない頃に、ほくほく線へと行く時に新幹線の車内で話をした赤暗さんだった。

 

「何故、赤暗さんが?」

 

私は率直な疑問を赤暗さんに投げかけた。

彼はドールズの中で答える。

 

『何故も何も、あの時、僕はこの世界を侵略する為に、世界の地形や建造物を確認していただけだよ。その時、この世界の人間がどんな反応をするのかを試していたのさ』

「……」

『結果、ここの人達は、頭のおかしい人として片付けて何も対策を取らなかった。それが今の現状と言うことだ』

「……」

 

赤暗さんの言葉に、私は何も言わなかった。

ぶっちゃけそんな事よりも、今のこの現状の打開策を考えていた。

 

『さぁ、この次元の星々を征服し、僕を出来損ないと宣ったフォトナー共に見返してやる!

行くよ、ダルクファキス・イージス!!』

 

赤暗さんはそう言うと、巨大なドールズ……ダルクファキス・イージスは背部にある4本の長い巨大なパーツ(以下タレットとする)が、ガシャンと音を立てて月面に4つ突き刺した。

なんかヤバイと感じた私とペルソナ、マザーは、武器を具現化して、月面に突き刺した巨大なタレットに攻撃を仕掛けた。

 

『無駄だよ。その程度の攻撃では、僕のイージスの動きを阻止することなんて不可能さ』

 

月面内にあるエーテルを吸収し終えたのか、タレットを背部に戻し、1本の特大レーザーを上空へと発射。

レーザーは、拡散するように弧を描くように月面や地球に向けて降下して行く。

その内の三本は私とペルソナ、マザー目掛けて落ちてくる。

 

『2人とも集まれ!。』

 

マザーは強く言い放つと、周囲にバリアを生み出して、攻撃を防いだ。

しかし、拡散するレーザーによって月面基地は半壊。

地球全土にも甚大な被害が出た事は明らかだった。

 

『くっ……まさか……こんな事に……。』

 

マザーは悲しげな表情を浮かべた。

私は「未知の事象だってありますよ」と言いながら、イージス目掛けて攻撃を繰り出す。

しかし、イージスは何処からか、巨大な盾のような装甲板を6つ展開させた。

 

「!?」

 

その展開した盾には無数の砲台が備わっており、回避不可能とすら思えるミサイル、散発弾、レーザーの弾幕が私、ペルソナ、マザーを襲った。

 

ペルソナはマザーが具現化したバリアで弾幕を防げたが、攻撃を仕掛けた私はバリアに入ることが出来ず、弾幕をモロに直撃してしまった。

 

「うぐっ!!」

 

全身に伝わる痛みに私は涙目で歯を食いしばって月面に叩きつけられる。

 

『早くしなければ……地球が……!!』

 

マザーはバリアを展開しながら、呻くように呟く。

ペルソナはチラリと地球を見た。

青い星と呼ばれた地球は赤紫にどよめいており、青い星とはかけ離れていた。

 

「待って……ワンチャンいけるかも……!」

 

何か策を考えたペルソナは、ポケットから1つのクリスタルを取り出した。

それはペルソナの能力・創造魔法【具現化】によって創造したクリスタルである。

そのクリスタルを掲げるだけで、自身の思い描く姿へと、自分もしくは相手を変える事ができる。

だが、今から成る存在は、洒落にならないほど強大な存在だった。

そのため、ペルソナは刀を使って弾幕から身を守っている龍照を呼びかけて、マザーのバリアに入るように言った。

 

「龍照こっちきて!!」

「おけ! わかった!」

 

龍照は多少の攻撃を食らう覚悟で全力で走り出し、バリア内にダイブする。

そして、ペルソナは龍照に、とある作戦を出した。

世界を救う方法を。

 

 

「……そんなことをできるの? いや、んな事言ってる場合やないな……」

「そゆこと! 私が考える一番の最適解!!」

 

そう言って、ペルソナは龍照にもう1つのクリスタルを差し出した。

彼は、そのクリスタルを受け取り、2人は手を握る。

 

「マザー、少しの間だけでいい。私達を守ってほしい……」

『分かった。』

 

ペルソナの要求にマザーは頷くと、彼女はバリアを何重にも貼って守りを固めた。

 

『どれだけ守ろうと同じこと! このイージスの力の前には無力なのさ!!!』

 

ドールは狂喜の声を上げて再び拡散レーザーを打ち上げ、今度は全弾をマザーの周辺に降らせた。

幾つもの爆発にマザーは飲み込まれる。

何重にも張り巡らされたバリアは、瞬く間に砕け散った。

 

『ぐぅぅぅぅぅ……!』

 

マザーは必死にバリアを再展開する。

ペルソナと龍照はクリスタルを握り締め、想いと願いを浮かべた。

 

 

─世界を救いたい─

 

 

そう想った時だ。

違和感を感じた龍照は、ゆっくりと眼を開けた。

彼の目の前に広がる光景は、闇だった。

暗い暗い何も無い真っ黒な光景。

 

「……」

 

その暗い闇の空間の中、彼の耳に声が聴こえてくる。

発する声は上手く聴き取れないのに、その言っている内容は理解できた。

その時、彼は頭の中で納得した。

 

これは、自分の記憶にあるモノの再現なのだろう。

私の想いが頭の中で具現化され、幻聴として聴こえていた。

ゲームで言うところの演出やエフェクトのようなものだ。

それでも私はその声に、こう切りかえした。

あくまで、彼ら彼女らの気持ちに対しての返答だ。

 

 

 

ええ、あなた方が生み出した神を、あんな形で終わらせたりしない。

世界を壊させたりしない。

 

 

 

そして、私とペルソナの身に2つの最強を降ろし、融合させた。

 

「「あぁ、馴染んでいく……。果てしない力が、私と私の身体と繋がっていく……」」

 

2人の声が同時に聴こえてくるその神を前に、イージスは少したじろいだ。

そのような事も無視して、2人は言葉を連ねる。

 

「「星と少女を救った2柱の英雄でどこまでやれるか、ブレインフレーヤーやBETAで試そうと思っていたのですが……。この際です、世界を救うのに最も邪魔な、あなた方から消すといたしましょう……!!」」

 

ゆっくりと、静かだが力強い口調で、ドールとイージスに言い放った。

 

『お前は……なんだ?』

 

イージスからドールの震える声が聴こえてくる。

2つの神を融合させた存在。

……安直だが、違和感の無いシンプルな名前を答えた。

ぶっちゃけ、私とペルソナのネーミングセンスだと、これが限界である。

 

 

─深遠なる闇の神 ゾディアーク─

 

 

と。

 

 

 

続く

 



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45話 偽神と神盾

マザーシップ・ドール内。


格納庫で機器を操作している少女がいた。
名前はヒューマドールズ・マノン。
彼女は、素早い手付きでキーボードを打って、ドールズ達を発進させていた。

「小型ドールズ10個師団。戦域統制型ドールズ ネクス、レヌス、アムス、ニルス、ボディス、ヘドス、ヴァーディアス……発信準備完了。10秒後に発進」

キーボードを打ち終えたマノンはガラス越しに見える格納庫を確認する。
目の前の格納庫には、巨大なブースターを装備したドラゴン型のドールズや蛇型のドールズ、人型のドールズ等が見えた。
そして、それらは音を立てて地球へと発進していく。

「次は……」

マノンは走りながら、別の格納庫へと向かう。
目的の場所へと辿り着いたマノンは直ぐに端末にアクセスし、ホログラムのキーボードで入力をする。
目の前には、超巨大なドールズが3機鎮座していた。

「……よし」

彼女は頷くと、3機のドールズを発進させた。
宇宙に出た3機は水を得た魚のように動き初めて、その巨体から想像も出来ないレベルのスピードで地球へと向かっていった。




 

 

 

 

『闇の神……ゾディアーク……。』

 

ff14プレイヤーのマザーは、顕現した神を見上げて呟いた。

ゾディアークと呼ばれる巨神は作中に登場した姿とは少し異なる姿をしていた。

それもそのはず、この神を降ろした彼女と彼は、分割されて封印された状態でのゾディアークしか見たことが無い。

作中で戦うゾディアークは、腕や体が欠けている状態だ。

言わば不完全の状態だ。

故に、彼女と彼は、その不完全な状態のゾディアークに深遠なる闇を繋げる事で、事実上完全な力を持ったゾディアークへとしたのだ。

顔の半分がゾディアークの顔、もう片方が深遠なる闇の顔。

腰周りは深遠なる闇の花弁で、そこからゾディアークの蛸足のような脚部が生えていた。

背部には深遠なる闇の翼と、ゾディアークの翼が両方生えているのが特徴だ。

パッと見、禍々しくも神々しい見た目をしていた。

 

 

 

「「具現完了、万象の救いを……我が意のままに……!!」」

 

ゾディアークと深遠なる闇(ガチのep3に登場した、侵食機能のみを持たないマジモンの深遠なる闇)が1つとなった姿をした神は、ゆっくりとした口調でイージスに向けて言い放った。

 

「「さて、終末の再現をいたしましょう……」」

 

私達は、6本の腕を動かして力を込めた。

 

「「救いをもたらせ、あの日のように……!!!」」

 

力強い声と共にエーテルの波動を地球へと送った。

波動を受けた地球に異変が起きる。

エスカタワーの残骸から漏れ出たエーテルが、徐々に勢いを弱めていったのだ。

その感覚はマザーにも伝わった。

 

「「マザー、私達がエーテルを抑えているうちに、エスカタワーの再創造をお願いします」」

 

マザーは予想もしていない出来事に一瞬、戸惑いの様子を見せたが、直ぐに『わかった。ありがとう。』と言って地球全土にエスカタワーを再創造に取り掛かった。

 

『馬鹿な、貴様……いったい何をした!?』

 

ドールの怒りと戸惑いが合わさった声がイージスから聴こえてくる。

その問いに、私たちは静かに答えた。

 

「「ゾディアークは活性の闇で、綻んだ天脈の理を敷き直し、とある終末を退けた。私達はそれを、溢れ出るエーテルを抑えるという現象として再現した」」

『なん……だと?』

「「エーテルの暴走が鎮まった事により、SEEDが具現化する事はない……。後はマザーがエスカタワーを再創造すれば良いだけ」」

『シオンコピーですら成し得ないことを……こんな易々と……!!』

「「ゾディアークと深遠なる闇が合わされば、容易い事ですよ」」

『ならば、シオンコピーを壊し、再びエーテルを暴走させてやる!!』

 

そう言って、イージスは再度、拡散レーザーを発射させる。

しかし……。

 

「「無駄ですよ……!」」

 

私達は地球に向けて手かざして力を行使する。

地球を覆うように青い障壁を具現化させた。

 

世界を壊す流転の徒花の初めのムービーで、映し出された赤く蠢く膜と言えば分かるだろうか。

あれの青いバージョンである。

 

イージスが放った拡散するレーザーは、青い障壁によって阻まれて消滅した。

更に、宇宙より飛んでくるドールズすらも、私達が生み出した障壁によって地球に襲来することが出来なくなった。

 

ゾディアークによってエーテルを抑え込まれ、SEEDを生み出す事が出来なくなり、深遠なる闇によってドールズの襲来を防がれ、最早ドールの計画は完全に阻止されてしまった。

 

「「星と少女を救った英雄を舐めない方がいい」」

『深遠なる闇が、星を救うだと……ふざけるなぁぁ!!』

 

イージスの胸部の装甲が開き、黄色に輝くコアから極太のレーザーを私達に向けてブッ放つ。

 

「「どうせ救うなら、派手に救おうじゃありませんか……!!」」

 

私達は6本の手を前に差し出して闇の魔法陣を展開。

イージスの極太レーザーを防御した。

 

「「深遠なる闇で、新たな救いを紡がん……!!」」

 

 

─エクソーテリコス・アハトメギド─

 

 

左手を前に伸ばし、引いた右手からイージス目掛けて闇のエネルギー弾を8回飛ばし、更にイージス周辺に闇の三角の形をした紋章が現れ、そこから闇の炎が放たれイージスを飲み込んだ。

 

『うぐっ!! この程度!!』

 

コックピットにいるドールは、攻撃を受けた衝撃が中にまで伝わり呻き声をあげ、次の攻撃は受けまいと盾を前方に固めて弾幕を形成した。

 

『イージスの前には無力だ!!』

「「そうですか。では、イデア展開……歪極獣よ来たれ……!」」

 

私達はそう言ってアンガ・ファンダージを6体、具現化させて攻撃を仕掛けた。

 

「「形を示せ……!!」」

 

アンガ・ファンダージに命じる私達。

歪極獣達はファンダージビットを巧みに操り、ミサイルの弾幕を正確に撃ち落とした。

 

「「すべてを救うために!」」

 

 

─アンファザマブル・ムルトゥス・メギド─

─ファンダージ・アンガ・メギド─

 

 

私達の顔と、アンガ・ファンダージのスカートに内包しているコアから特大のレーザーが放たれ、イージスを襲った。

 

『ッチ……!!!』

 

イージスは即座に展開した大盾と本体に格納してあった8枚のシールドを自機の前に置いてバリアを生成。

アンガ・ファンダージと私達の特大レーザーを防いだ。

 

だが、私達とアンガ・ファンダージ6体の特大レーザーを完全には防ぐ事が出来なかったようで、バリアは破壊され、展開していた8枚のシールドは飛び散って月面に突き刺さった。

イージス自身も仰け反るように怯み、中にいたドールは苦痛の声を上げた。

 

『ぐぅううううう……ふざけるなあああ!』

 

イージスは4つのタレットからバーニアを吹いて、私たちの後ろに回り込んだ。

 

『失敗作諸共、蜂の巣にしてやる!!』

「「させるつもりはない……!!」」

 

私達は魔法で月面に突き刺さった8枚のシールドを操り、マザーを守るように囲った。

次の瞬間に4つのタレットから拡散レーザーを照射。

月面の半分を覆うようなレーザーが照射され、月面基地は音を立てて崩壊する。

 

「「……申し訳ない……」」

 

6体のアンガ・ファンダージは、私達を守るようにバリアを作り出た。

イージスから照射されたおぞましい程のレーザーがアンガ・ファンダージを襲う。

 

 

 

キーーーーーン!!!

 

だが、イージスのレーザー照射の前にはアンガ・ファンダージも耐えきれないようで、学習能力を使って耐性を付けても尚、防ぐことが出来ずに消滅した。

 

「「ありがとう。ゆっくり休んでいてください」」

 

私達は消滅したアンガ・ファンダージにそう言うと、先程の照射で受けた傷を再生しつつ、マザーの方をチラリと確認する。

 

「「マザー、お怪我はありませんか……?」」

 

焼け爛れたシールドからマザーの姿がチラリと見える。

マザーは余裕の表情をした。

 

『大丈夫だ。今、東京、大阪、ネバダ、ワシントンDCにエスカタワーを創造し終えた所だ。』

 

こっちは任せてくれ。

そう取れるマザーの表情に、私達は笑って返した。

傍から見れば、ゾディアークがドヤ顔のような笑みを浮かべている光景である。

 

「「イージスよ。派手に散っていただきたい……!」」

 

 

─コキュートス・エイスメギド─

 

 

私達は直ぐにイージスに攻撃を仕掛ける。

闇のモヤがイージスの大盾を包み、盾に搭載されていた全ての砲塔を分解した。

 

『馬鹿な!?』

「「驚いている暇はありませんよ……?」」

 

 

─ステュクス・ギ・メギド─

 

 

イージスの上空から8本の闇のビームが何度も襲いかかる。

頑丈な装甲を持つイージスの体も、私達の闇の連続攻撃には耐え切ることが出来ず、装甲が剥がれていった。

 

「「元凶を破壊し、世界を救う……!!」」

『イージスが……!! 僕が作った最高傑作が……!!』

「「どんな傑作だろうと……救うと願い続ける存在の前には無力だ……!!!」」

 

私達は巨大な腕を使って、イージスの大盾に殴りにかかった。

大盾にヒビが入る。

 

『ぐぅ……!!』

「「救済万象を我が意のままに……!!!」」

 

 

─アストラル・ジャッジメント─

 

 

私達は十字の衝撃波の発生と共に、イージス周囲に光柱を降らせた。

直撃したイージスは地面にバタリと倒れて沈黙する。

 

『ぐっ……この程度ぉ!!』

 

タレットを展開し、特大レーザーを照射する。

狙いはマザーと私達。

 

「闇よ。沸き上がれ……!!」

 

 

─トライ・エソテリックレイ─

 

 

極太レーザーの周りに細レーザーが回る形の攻撃を放ち、イージスの特大レーザーとぶつかった。

拮抗するが、結果はお察しである。

イージスのレーザーを掻き消して、極太レーザーがイージスを飲み込んだ。

 

『ぐああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

レーザーに飲まれたイージスからドールの断末魔が木霊する。

これはやったか?

私達は爆煙を凝視する。

 

「「……!?」」

 

爆煙の中から青い超特大のレーザーが私達を襲った。

その勢いは、爆煙を吹き飛ばす程だ。

私達は咄嗟に6本の腕で防ごうとしたが、完全には防ぎ切れずに月面に叩きつけられた。

 

「「くっ……!」」

『何が深遠なる闇だ……。何がゾディアークだ……。全部イージスによって消え去れぇ!!!』

 

ドールの怒声と共に、イージスから無限とすら思える数の巨大な光の剣を私達に向けてぶん投げた。

 

「「世界に救済を……!!」」

 

両手を突き出し、重力場を生成。

巨大な光の剣は重力場によって、吸い込まれ圧壊した。

しかし、それでも全ての剣を吸い込むことは出来ず、残りの剣が私達に突き刺さる。

 

「「くっ……!!」」

『フォトナーを……舐めるな……!!』

 

ドールの見下した声を無視して、私達はゆっくりと起き上がり突き刺さった剣を破壊する。

 

「「救済万象を……」」

 

私達は闇のエネルギーを生成し、周囲のエーテルを吸収して徐々に巨大化していく。

 

「「我が意のままに……!!!」」

 

 

─ラ・フェーネ・メギドサルスエルピス─

 

 

私達の上空に生成された超巨大のエネルギー球を、イージス目掛けて放った。

だが、イージスはブースターを吹かして接近するエネルギー球をいなして、それを回避。

更にタレットを用いてエネルギーを狙撃し、破壊した。

 

『これで終わりだぁぁぁ!!』

 

レーザークローを展開したタレットを使って、私達の心臓部目掛けて突き出した。

だが……。

 

「「未来があるんだ、出し惜しみはしない……!!」」

 

 

─ラ・フィーネ・メギドヒュエトスエルピス─

 

 

先程の破壊されたはずのエネルギー球が再び生成されて、そのエネルギー球がレーザーとなって、雨のように降り注いだ。

レーザーの雨がイージスに降り注ぐ。

耳を刺すようなドールの悲痛な叫び声が響き渡った。

展開された大盾も、その全てがレーザーの雨に晒されて破壊される。

 

 

「「破壊の神として相対したゾディアークも深遠なる闇も……」」

 

 

─アルマゲドン・アハヴァメギド─

 

 

「「世界を救う英雄となるのだ……!!!」」

 

私達はイージスの後ろに回り込み、扇状の闇の強風を送り込み、イージスを月面に吹き飛ばした。

砂煙を上げて月面に叩きつけられるイージス。

 

「「全てを救う為に……」」

 

トドメ。

私達は闇のエネルギー球を生成して、ラ・フェーネ・メギドサルスエルピスを使おうとした。

しかし……。

 

「「……何の気配だ?」」

 

宇宙から強大な気配が近づいてくるのに気づいて、攻撃を中断する。

その気配に気づいたのか、マザーは血相を変えて私達に向けて声を荒らげる。

 

『2人とも、気をつけるんだ。イージスと同等の存在が月に向かって来ている。』

 

マザーの言葉に私達は呆気に取られる。

そんな中、月面に倒れ伏したイージスは両手を使って必死に起き上がり、不気味な笑い声をあげた。

 

『フククククク……。僕が造ったダルクファキスは……イージスだけじゃない……。これで貴様らを蹂躙してやるさ!!』

 

宙に飛び上がったイージス。

ドールの狂乱する声が月全体に轟く。

 

『さぁ、深遠なる闇もシオンの失敗作も全てを滅ぼせ!』

 

そう言って、現れた3機のダルクファキスの名を叫びあげた。

 

ダルクファキス・ロンゴミアント

ダルクファキス・クサナギ

ダルクファキス・シャルウル

 

 

イージス合わせて4体のダルクファキスが月面に君臨した。

 

『さぁ、終わりだ』

 

ドールの見下した声が私達の耳を貫いた。

深遠なる闇の神 ゾディアークの核となっているペルソナは、少し考えたあと、同じく核となっている龍照に話しかけた。

 

「ねえ、流石に4体相手するのは厳しいからさ」

「おん?」

「龍照が、イージスの相手する事って出来る?」

「はい?」

 

 

 

 

続く

 

 

 



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46話 おめでとう、おめでとう、おかえりなさい……

「イージスを私一人で相手しろと?」

私はペルソナに訊いた。
しかし、ペルソナは「あっ」と何かを思い出したように話を続ける。

「ごめん、やっぱ全員を1人で相手できる?」
「なんで!?」

この言葉には流石の私も驚きの声をあげた。
難易度上がってんじゃねーか。

「違うの、良く考えたらだけど、ゾディアークが消滅したら、抑えてるエーテルがまた暴発してSEEDが生み出されるから、万一の事を考えて防衛に向けた方がいいかなって思ったの」
「何も違わんわアホ! 結局私一人で相手しろ言うとるやんけ!」
「大丈夫、行けるよ! それにゲームとかだと、ここで能力の覚醒とかあるパターンだし!」

訳の分からん理屈を並べ立てるペルソナに私はため息を着いた。

「それは主人公の場合やろ? 私、主人公ちゃうぞ!」
「いいからお願い!」

そう言うと、ペルソナは私を深遠なる闇の神 ゾディアークから抜け落とした。

「ちょっ、ふざけんなあああああああ!!」

私の断末魔が月面に轟いた。
てか降ろすなら、もうちょっと優しく下ろしてくれ!
こんな背中を向けた状態で降ろすなバカタレ!!

「あーもう、しゃーない!! やるしかない!!」

私は背中から龍の翼を顕現させて、地面に着地した。
さて、どうするか……。

「私は、マザーと深遠なる闇とゾディアーク(わたし)を守るから、頑張れ!!」

ペルソナはゾディアークの状態で、ウィンクとピースをして私にそう言った。

「てか、ゾディアークと深遠なる闇の身体してるんやったら、どうにか出来んのか!?」
「流石に4体同時には無理。それに、この身体が無くなったら、地球を救えないのよ!」
「……どゆこと?」

私は眉を顰めて質問する。
しかし、ペルソナは「敵がいる前で作戦バラせるわけないやろ!!」と怒っていた。

「それもそうだ、すまん。私が悪かった」
「いいよ! あ、ヒント!! ダークファルス【仮面】の能力は!? そして、深遠なる闇戦の最後に【仮面】は何をしたの!?」
「え……そういう事?」

ペルソナのヒントに、私は呆気に取られた。

「そういう事だから、深遠なる闇の神 ゾディアークがやられたらダメなの!」
『何をするつもりか分からないけど、ゾディアークを滅ぼせば何も問題ない訳だ!!』

イージスは巨大な拳でゾディアークの胸元を殴りにかかる。


─竜詩幻創・天竜点睛─


二頭の竜がイージスの拳にぶつかり、その攻撃を阻止した。

〚〚「私が相手だ……!」〛〛

ニーズヘッグ、ミラボレアス、リオレウスの意匠を持つ竜となった私がイージス達に対峙する。
ペルソナのヒントが、そういう事ならばやるしかない。
私は火球ブレスを放った。


 

 

 

 

 

 

時は少し遡る。

崩壊する東京。

ドールズとSEEDに対抗してる人達がいた。

 

「滅べ、消し潰れろおおおおおお!!」

 

エルミルこと、エスカ・マスカレーダの怒声が轟き、二丁銃を手にするドールズ、デストラグラスを青い茨で拘束し、大剣で一刀両断にした。

真っ二つに切り裂かれたデストラグラスは十字の爆発を起こして消え去る。

 

「この神聖な領域を荒らすなら、僕は君達を容赦するつもりはないよ!」

 

秋葉原にてエスカファルス・エルミルは、この地に降り立った龍型SEED、オルガディランと対峙する。

オルガディランは背部に収納した大翼をバサリと広げて天高く遠吠えした。

 

「さぁ、見せてあげよう。世界を救う、奇跡をぉ!!!」

 

エルミルは力を解放する。

青い光に包まれた彼は、完全体となり、エスカ・マスカレーダの仮面を被り、巨大な剣を振り上げる。

攻撃の予兆に、オルガディランはバックジャンプして、エルミルの攻撃を回避しようとした。

しかし、エルミルが繰り出した斬撃はオルガディランまで届き、吹っ飛んだ。

信号機やガードレール、その他諸々を巻き込んでビルに激突する。

砂煙や瓦礫が音を立てて落ちる中で、オルガディランは人吠えしてエルミルに突進し始めた。

 

「無駄だ!!」

 

エルミルは瞬時に巨躯の仮面を被り、分離した4つの巨腕を用いて突撃するオルガディランを掴み、地面に叩きつけた。

オルガディランは振り解こうと、体をクネらせて抵抗するが、エルミルは力を込めて押さえつける。

 

「うおおおおおおおお……!!」

 

エルミルは雄叫びをあげて、4本の巨腕でオルガディランを押さえたまま自身の拳で、脇腹をぶん殴った。

奇声に近い断末魔をあげ、悶えるオルガディラン。

 

「……!!!」

 

再び、エスカ・マスカレーダの仮面を被り、手のひらから気弾を撃ちながら剣を構え、高速で突進し突きを繰り出し、オルガディランの頭を刺しにかかる。

 

「トドメ!!」

 

大剣が頭に刺さったオルガディランは、押さえ込んでいた巨腕を振り解き、頭をブンブン振り回しながら暴れまわった。

 

「チッ……!」

 

それを見たエルミルは苛立ちの表情を浮かべ、敗者の仮面を被り時間を停止させる。

そして、頭に刺さった大剣を引き抜き、奴の頭を切り落とす。

 

「君達の様な存在が、オタクの聖地に踏み入ることは許さん……!!」

 

仮面を被っていて分からないが、その声は殺意に満ちていた。

上空から次々と降り注ぐドールズ、次々と生み出されるSEEDを前に、彼は剣を構えて殲滅しに掛かった。

 

 

 

 

「ハアアアアッ!!」

 

 

山梨県の農園地帯。

エスカファルス・ハリエットは、ソダムの形態になって、進撃するペダス・ヴェラを鋭利な木の根で串刺しにする。

いや、ペダス・ヴェラだけじゃない。

周囲の小型ドールズやSEEDも片っ端から串刺しにした。

 

「風界!!」

 

ハリエットは風の力を解放。

全身に緑色の風が全身を纏った。

 

「これで終わりです!!」

 

風の力を使い、生成した鎌鼬を飛ばして、串刺しにされて動きを封じたペダス・ヴェラを八つ裂きにする。

切り傷まみれのボロボロのペダス・ヴェラは身体中から赤色の液体を吹き出して機能停止した。

だが、それでもSEEDやドールズは止めどなくやってくる。

 

「樹界!」

 

ハリエットは避難している人々を守るため、再び大木の根を生み出してドールズとSEEDに襲いにかかる。

ハリエットが自然の力を解放する度、この一帯に大自然を創造した。

地界の力によって、崩れた大地は元の大地へ戻り…

水界の力によって、腐った水は透き通った美しい水を取り戻し…

樹界の力によって、焼け崩れた木々、山々は緑に溢れる景観な山々になり…

風界の力によって、熱く重い風は、涼しく心地の良い風に元通りとなる。

そして、それに反比例するかの如く、この地に倒れ伏したSEEDやドールズが広がっていく。

 

「地球を滅ぼす存在を……私が全て消し去ります」

 

ソダムの形態の彼女は、全力で殺しにかかった。

オルガディラン?

デストラグラス?

ヴァーディアス?

 

関係ない。

自然を破壊する存在を、原初の闇は許さない。

それだけだった。

 

 

 

 

 

商店街 春湖丹。

活気で溢れかえった商店街も、今は炎に焼かれて見る影もない。

ただ、無数のドールズとSEEDが跋扈しているだけだった。

そんな中……。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ!!」

 

女性が少女を抱え、追っ手から逃げていた。

抱えられた少女は、1つの人形を大事そうに持って、怯えている。

 

『………………』

『………………』

『………………』

 

後ろから女性と少女を追いかける存在は、全身が赤い液体が流れるチューブだらけの人型のドールズだ。

名は、アムス・クローネ。

戦域統制型ドールズ アムス・クヴェスの簡易量産型だ。

 

胸部、関節部には黄色に輝くコアのような物に目がいく。

最早、人間がそのままドールズになり、尻尾を生やしたようなグロテスクの見た目に、製作者であるドールは何故このような嫌悪感を抱く姿にしたのか、小一時間問い詰めたい程である。

 

「お、お姉ちゃん……」

「大丈夫! もう少しの辛抱よ!!」

 

不安そうな女の子、芽流本ディアを、姉である芽流本シーナが走りながらも必死に宥めている。

それでも、シーナの表情は険しかった。

ここから避難施設までかなりの距離がある。

 

「……!?」

 

シーナは目を見開いて絶望する。

目の前から大型SEEDである、ディルナズンやダーベラン、ダーヴァガインが現れた。

そして、後ろからはアムス・クローネ。

 

「そ、そんな……」

「うぅ……」

 

2人は絶望的な表情を浮かべる。

そんな2人を無視して、SEEDとドールズはゆっくりと近づき、殺そうとした。

 

「ごめん、エルダー……」

「助けて……エルダー様……」

 

2人は目を瞑り、死を覚悟した。

最後に、1人の男性の名を呼んで。

そして……。

 

 

鮮血が辺りを赤く、花火のように染めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

全てのアムス・クローネは、赤い血のような液体をチューブから吹き出してた倒れ伏す。

 

「ハァ!ハァ!ハァ!ハァ!ハァ!ハァ!」

 

どれだけ走ったのだろうか。

エスカファルスである彼の体力を持ってしても、息を切らす程、彼女達を探し回ったのだろう。

 

「大切な人を……二度も失わせてたまるかぁぁぁ!!!」

 

怒りに打ち震えるエスカファルス・エルダーは、大型SEEDを持っていたエルダーペインで斬り伏せた。

 

「エルダー!」

「エルダー様!」

 

2人は驚きつつも、希望に満ちた表情を見せる。

エルダーも一瞬、安堵の表情を浮かべ、直ぐに険しい表情をして駆け寄った。

 

「お前ら、怪我はないか!?」

「ええ、大丈夫よ。ディアも無事」

「エルダーさまぁ!」

 

ディアは涙目でエルダーに抱きつく。

それをエルダーは受け止めて「もう大丈夫だ」と宥めた。

 

「シーナも無事でよかった」

「さっきは、本当にありがとう……」

 

そう言い終えると、シーナもエルダーに抱きついた。

 

「本当に……怖かった……」

「あぁ、もう大丈夫だ」

 

エルダーも優しい声で抱き返した。

だが、そんな事をしている暇なんてない。

 

「……アイツが、親玉か……」

 

エルダーは眉間に皺を寄せ、空から降り立つ黒い鎧を纏ったドールズを睨みつけた。

アムス・クローネの上位種、戦域統制型ドールズ アムス・クヴェス。

 

『…………………………』

 

 

 

「……シーナ」

「……?」

 

エルダーは力を使い、ヒューナル体となった。

彼はシーナとディアの方を振り返って彼女達に、こう話した。

 

「今まで黙っていてすまねぇ。俺は幻創種だ。人間とは違う、人によって創造された存在なんだ」

 

彼は2人にそう告白した。

その言葉にシーナはクスリと笑みを浮かべた。

 

「もしかして、それを気にして結婚を考えさせてくれって言ったの?」

「……ああ」

 

エルダーはシーナの言葉に頷く。

それを聞いた彼女は「プッ……ふふ……」と笑って言った。

 

「そんな事、初めてあった時から知ってたよ!」

 

と。

そのシーナの笑いながら言った一言に、エルダーは呆気に取られる。

 

「だって、エルダーの左頬に幻創種特有のマークがあるもん!」

「あ……」

 

ハッとしたように、左頬に触れた。

 

「私はね、それを込みで結婚を申し込んだのよ」

「そ、そうだったのか……」

 

あれだけ気にしていた自分に、少し恥ずかしくなって顔を赤らめるが、直ぐにニヤリと微笑みシーナに言った。

 

「分かった。それなら、俺もシーナに言いたいことがある。この戦いが終わったら、確りと伝えたい」

「ふふ、待ってるよ!」

「ああ」

 

エルダーは頷き、力を解き放つ。

シーナとディアを救うため、二度と失わせない為に。

 

「さぁ、来い。俺が相手だ」

 

エスカ・ヒューナルは手を天に掲げ、眷属であるエスカ・アームを具現化。

巨大な腕はシーナとディアを守るように覆った。

そして、エスカ・ヒューナルとアムス・クヴェスは互いに睨みあった刹那───。

 

「おらああああああああ!!」

『…………………………………………!!』

 

2体の拳がぶつかりあった。

 

 

 

 

 

 

また別の場所。

 

 

天星学校では……。

 

「「えーーい!!」」

 

エスカ・ダランブルは、遊ぶようにドールズやSEEDを葬った。

 

「「これなんてどーお?」」

 

ダランブルの口の様な手から、刃の付いたコマを三つ射出した。

 

「「いっけー!」」

 

そのコマは、刃を回転させて敵をズタズタに八つ裂きにして行く。

 

 

「「ここは絶対に壊させないよ!!」」

 

自身の学び舎を背に、ダランブルは迫る怪物共に立ち向う。

だが、ダランブルの行動を嘲笑うかのように、終末の空から一対の巨大な龍が降り立った。

戦域統制型ドールズ、ネクス・エアリアル。

鉄と鉄が擦り合うような鳴き声を発したかと思えば、ネクスの口内に燐光が溢れ出す。

 

「「……! キャッスル・エスカ・ウォール!!」」

 

ダランブルは咄嗟に学校を囲うように壁を生み出して守りを固めた。

ネクスは口から赤く燃え滾るブレスを吐いた。

それはダランブルが生成した壁に直撃するが、その壁はビクともしない。

 

「「絶対に壊させたりしないよ……!」」

 

ダランブルの声は強かった。

絶対にここを守る。

鋼の意志が感じられた。

だが、その意志を砕くばかりにネクスは金属音の咆哮をして、炎をチャージする。

 

「「させない!!」」

 

ダランブルは炎球を破壊しにかかる。

だが、破壊する直前にネクスは強靭な脚力で跳躍後退、熱線を使ってダランブルを巻き込みつつ、壁を溶解する。

 

「「うぐっ!」」

 

溶けかけた防壁にダランブルが激突し、壁に穴がポッカリと開いた。

それをここぞとばかりに、ネクスは金属音の雄叫びを上げて火球ブレスをその穴目掛けて狙撃する。

 

「「ここだけは……!!」」

 

ダランブルは痛む身体に鞭打って起き上がり、火球ブレスを身一つで受け止めようとする。

だが、その必要は無かった。

 

「クソ龍があああああああああああ!!!」

 

その火球ブレスは、ダランブルに直撃するよりも前に上空からのビームによって爆散する。

 

「"私"のフローちゃんとフラウちゃんに、手を出すなあああああああああ!!!」

 

殺意が籠った猛々しい声と共に、巨大な虫の拳がネクスを襲った。

よく見たら、巨大な虫の頭にはダックスフンドと思われる犬がちょこんと座っていた。

その虫を見て、ダランブルは歓喜する。

 

「「アプレンティスだー! 助けてくれてありがとう!!」」

「ファーーーーー、もう本っ当に可愛いなぁぁぁ!」

 

ダランブルは子供のような仕草でお辞儀をした。

その愛くるしい姿に、完全体のアプレンティスは狂気乱舞……いや、発狂気乱舞する。

本当なら、このまま抱きついて顔をスリスリしたいところだが、今はそんな悠長な事をしている場合では無かった。

突如、地響きが発生する。

そして、運動場の地盤を打ち砕いて、地中から大蛇をモチーフとしたような大型のドールズが姿を見せた。

若干、バル・ロドスに似てなくもないその大蛇は、グワナーダが大ダウンした時のあの声に近い声を上げて、顔にあるヒレのようなモノを震わせた。

やつの名はレヌス・リテシナ。

ネクス・エアリアルと同じ戦域統制型ドールズだ。

 

「「おっきな蛇だ」」

「どうやら、やるしかないみたいね!」

 

アプレンティスは、青い色をした刀を具現化させて構える。

片方の目が黄色く光り輝く。

 

「なーさらちゃん、確り捕まっててね!」

 

アプレンティスは、ダックスフンドにそういうと、言葉が分かるのか、なーさらと名付けられたダックスは「ワンっ!!」と返事をした。

 

「この学校には思入れ(少年少女の盗撮)があるから、私もこの学校を守るよ!!」

「「ありがとう!!!」」

 

本当の意味を露とも知らないダランブルは、その言葉を素直に受け取り、彼らも攻撃の構えをとった。

 

その行動に、ネクスとレヌスは互いに雄叫びを上げて襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

東京都立中央図書館

 

 

「……」

 

辺りが燃え殻となり塵と化す中で、この図書館だけは一切の損害を被っていなかった。

1人の男によって。

 

「……無駄だよ。根本的に造りが違う」

 

そう言って、完全体のルーサーはグラン・ギ・メギドを唱えた。

自身の前方に6枚のタリスを展開。

そのタリスから極太のレーザーを右から左に薙ぎ払うように照射して、迫り来るSEEDとドールズを真っ二つに焼き切った。

だが、薙ぎ払っても、とめどなくやってくる敵を前に、ルーサーは時間を操る。

 

「全てが無意味だ。大人しく滅びる事を薦めるよ。宇宙のゴミ共……!!」

 

その言葉に呼応するように、ドールズ達の動きが非常に遅くなった。

時間操作によって、ドールズとSEEDのみの時間を1/16にしたのだ。

 

「抵抗出来ないまま、地獄に堕ちるといい」

 

動きがスローモーションとなった敵に向けて、複合テクニックを使用する。

光と氷の巨大な剣を生成。

 

「さようなら。安らかに眠れ」

 

彼は冷たい氷のような声で奴らに吐き捨てた。

そして、その剣を振るう。

 

 

─グラン・エスカ・バーランツィオン─

 

 

 

横に薙ぎ払うように剣を振るい、前方にいる全ての敵を吹き飛ばし、真っ二つにして殲滅した。

 

「言っただろう? 根本的に造りが違うと」

 

冷静な口調で爆散、消滅したドールズとSEEDに言い放った。

だが、直ぐに一対の巨影がルーサーの前に現れる。

キリンと首長竜を足したような姿をしたドールズだ。

戦域統制型ドールズ、ニルス・ステラ。

そして、その簡易量産型のドッツがニルスの後に続いてやってきた。

 

「ふむ、どうやら、君がこの区域を指揮しているようだね」

 

ルーサーはニルス・ステラを見て、そう独り言ちる。

無論、ニルス・ステラには言葉は通じる訳もなく、奴は頭上にエネルギーをチャージし、ルーサーへと照準を合わせ、レーザーを狙い撃つ。

 

「ならば、君を倒せば指揮系統は乱れる訳だ」

 

ルーサーは腕に闘気を込めて、裏拳で弾き返す。

更に彼は指をパチンと鳴らし、テクニックを唱えた。

 

 

─グラン・エスカネシス・ゾンデ─

 

 

一閃の落雷をニルスに落とした。

更にそのニルスの周辺にいた簡易量産型ドールズ ドッツにも雷が伝播。

瞬く間に、全てのドッツを消し炭にした。

だが、ニルスはそれ程のダメージを受けた様子はなく、寧ろピンピンしていた。

それを見たルーサーは、手を嘴に触り「ほう、あの攻撃を耐えるのか。興味深いな」と関心の声をあげた。

 

『……』

 

ニルスはルーサーに狙いをつけ、口から幅広V型の弾を撃ち出した。

 

「……ふむ」

 

ルーサーは腕に魔力を集約させ、それを刃状にしてニルスの弾を叩き切った。

そして、ルーサーはニルスに距離をつめて切りかかる。

だが、ニルスは瞬時に生成した溶岩球を頭突きで叩き割り、その場に広範囲の爆発を起こした。

 

「!?」

 

ルーサーはその爆発に対応し切れずに、吹き飛ばされた。

吹っ飛んでいる最中、ルーサーは自身の剣を地面に突き刺して勢いを殺した。

 

「お見事……!」

 

ルーサーは、ニルスの方を見て強気な態度をとった。

ニルス・ステラは、また頭上にエネルギーをチャージし始める。

 

『……』

 

ルーサーは6枚のタリスを前方に展開。

闇のテクニックをチャージする。

 

「森羅万象は全知へと集束する……!!」

 

 

─グラン・ギ・メギド─

 

 

ニルスのレーザーとルーサーのテクニックがぶつかり爆発を引き起こした。

 

 

 

 

 

 

 

月面にて……。

 

 

 

 

 

『所詮は、翼の生えたトカゲ。僕の最高傑作達の敵ではないな』

 

人を小馬鹿にしたようなドールの声は、地面に倒れる私には届いていなかった。

 

〚〚「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」〛〛

 

あの後、イージスや他のダルクファキスと戦闘を行うが、多勢に無勢過ぎた。

結果、右の角を折られ、左の翼膜は破け、尻尾が切断されるという大ダメージを負った。

深遠なる闇の神 ゾディアークとなったペルソナも、あまりの劣勢さに隙をついて加勢するが、それでも戦況を覆すことができずに、寧ろペルソナ側にも大ダメージを受ける羽目になった。

 

〚〚「このクソ野郎が……!!」〛〛

『消えろ、クソトカゲが!!』

 

イージスの4本のタレットから青い燐光が溢れ出る。

 

〚〚「クソがぁ……!!」〛〛

 

私は全力で回避するが、まともに動く事ができず、拡散するレーザーを直撃してしまった。

 

〚〚「……ぬぐぁぁぁ!!」〛〛

『終わりだな』

 

更に4本のタレットから特大のレーザーポインターが私に向く。

ヤバいと感じるが、身体が全く動かない。

 

『消えろ!!』

 

4本の特大レーザーが私を襲った。

焼ける痛みが全身に伝わる。

 

〚〚「ぐぅぅぅ……!!!」〛〛

 

仰向けのまま、私は歯を食いしばって耐える。

 

『龍照!!』

 

ペルソナも何とか龍照の援護に回ろうとするが、3機のダルクファキスに阻まれた。

マザーも守らないといけない為、ペルソナも防戦一方だ。

 

〚〚「……」〛〛

 

イージスのレーザー攻撃が止んだ時、私は仰向けでぐったりと動かなくなっていた。

 

『エスカファルスだが何だか知らんが、イージスの敵ではないということだ』

 

そして、イージスはペルソナの方を振り向く。

次はお前だ。

とでも言っているようだ。

 

「これ普通にやばい!! マザー! エスカタワーどれくらい創造できた!?」

 

狼狽するペルソナの声が月面に響く。

マザーは険しい表情で『まだ……あと8カ国に残っている。』と言った。

 

「これ……いける?」

 

ペルソナは冷や汗を流して、ボソリと呟いた。

4機のダルクファキスがペルソナ目掛けて攻撃を仕掛ける。

 

「あー、やるしかない!! 星と少女を救った英雄をナメるなやああああああああ!!!」

 

ペルソナは大声を上げて闇を解放する。

4機の化け物にどこまでやれるか分からないが、やってみるしかない!

 

『身の程を知ることだ』

 

ドールはイージスを操り、攻撃を仕掛ける。

 

 

 

 

 

〚化け物め……!!〛

〚すんごい悔しい……!!〛

「……シャレにならん強さしとる……。ダルクファキスとか言ってるけど、あんなんただのダークファルスやんけ!!」

 

私とミラボレアス、ニーズヘッグが精神部屋で悪態をつく。

復帰したいが、身体が全然動かない。

それほどまでにダルクファキス・イージスは強力だった。

 

〚身体が動かん……!!〛

〚結構痛めつけられたからね、限界なんでしょ〛

「……早く何とかせんと、ペルソナがやられる!」

 

私は意識を身体に向けて、動かそうとする。

しかし、私の身体はうんともすんとも言わなかった。

 

「がぁぁぁっ!!?」

『所詮は人が成した存在、僕が生み出した最高傑作には敵わないんだよ!!!』

「うがぁっ!?」

 

 

私の耳にはペルソナの悲痛な叫びが突き刺してくる。

これはヤバイ。

シャレにならん。

私は、ある方法で再起を図ろうと思い、2匹に話しかける。

 

「ミラボレアス、ニーズヘッグ頼みがある!」

〚……なんだ?〛

〚どしたの?〛

 

2人は勝てる宛でもあるのか?

とでも言いたげな表情でこちらを見た。

私は意を決して2人に懇願する。

 

「お前らの中にある深遠なる闇を全て、私に渡して欲しい!」

 

私の言葉に2匹は「ふざけんな!」ってキレるのでは無いかと不安だったが、幻創ニーズヘッグは唸るように無言を通し、幻創ミラボレアスは「あー……」と複雑な雰囲気を出した。

 

「お願い!! コイツらを破壊するには、深遠なる闇になるしかないんや!!」

 

私は必死に説得モドキをする。

 

「てか、このままやと、人類全員が滅ぶぞ! ファレグ以外!! そうなれば2人の、人類に復讐をするっていう願いも一生叶わんぞ!?」

〚いや、私は正直人類の復讐はもう……あー、うーん……〛

〚……〛

 

私のメチャクソな訴えを聞いた幻創ミラボレアスは何やら含みのある声を出し、幻創ニーズヘッグは無言だった。

 

〚わかった。よく考えたら、人類が滅んだら大好きな板チョコアイスが食べれなくなるって事に気づいた〛

〚……人類の復讐出来なくなるのは、勘弁願いたいな。それに、我は、あの人間が気に食わない。いいだろう〛

 

ニーズヘッグが言い終えると、ミラボレアスは私に忠告をする。

 

〚前にマザーにも言われてたから、知ってると思うけど。この闇は結構やばいよ。本当に気を引き締めないと人格に異常を来す可能性もあるから!〛

「分かってるよ。こうでもせんと、あの男によってやられる」

〚わかった。じゃあ行くよ!〛

〚……アイツを殺すぞ〛

 

そう言って、2匹から深遠なる闇を私に送り込んだ。

 

「……!?」

 

ドクン!っと心臓が張り裂けそうな衝撃が走る。

全身に強大な力が流れ込んでくるのが分かった。

私は歯を食い縛って、その闇の激流に耐えた。

 

「私は……こんな所で、終わる訳には行かない」

 

全身から淡い闇が漏れ出る中、私は必死になって自身の人格を保とうとする。

 

私はこんな所で終われない。

私はマザーをべトールをシバ様を救う。

史実とは違う歴史へと持っていく。

 

そして、私は……対魔忍の世界に行き、対魔忍へと成るんだ。

対魔忍の歴史を見て、色んな場所を見るんだ。

ブレインフレイヤーのゴミ共を、私の手で葬り去りたい。

 

「ぐぅ……うぅ……!!」

 

私は対魔忍を……救う!!

絶対に未来対魔忍のような……最悪な未来にはさせない……!!

あのアルサールとかいう産業廃棄物を……!!

この手で……!!

私は……対魔忍を……!!

 

「……ぅ……ぅぅぅうう……?」

 

いや、違う……対魔忍だけじゃない……!!

皆、皆を救うんだ……!

対魔忍や、推しのキャラだけじゃない、皆……これから出会う人々皆を……幸せに……!!

全員で幸せになる……!!

数多の世界の絶望を捩じ伏せ、希望に変える!!

私は……深遠なる闇(わたし)は……

 

 

全ての人々に救いを齎したい。

 

 

小野寺龍照の思いがエスカファルスによって増幅し若干の歪みを生み出した。

だが、その増大な歪んだ思いは、全ての闇を受け止め、自身を強大な存在へと成り果てさせた。

 

 

 

 

 

おめでとう

おめでとう

おかえりなさい

 

【深遠なる闇】

 

 

 

 

 

仰向けで倒れた龍照から闇の柱が発生する。

それは正に、EP3にて安藤が深遠なる闇へと成る時のようだ。

 

『遂に成ったか。小野寺龍照。』

『この反応……うそ、だろ?』

「やっぱ主人公じゃん!」

 

その闇の柱の発生に、ドールは攻撃を止めて呆気にとられている。

一方、ペルソナはニヤリと笑い、深遠なる闇の誕生を賛辞しているようだった。

 

「……」

 

闇の柱に一対の巨影が浮かび上がる。

そして、闇を払うように翼を羽ばたかせ、その姿を見せた。

一対の巨龍の姿は、エスカファルス・リベンジの時と同様だが、その色は継ぎ接ぎのような色合いではなく、黒一色の甲殻をしており、元々1つのドラゴンであるかのようだ。

更にその龍から覗く赤と黄色のオッドアイの邪眼。

その威風堂々たる黒龍の眼光は、地球を侵略し、人類に絶対的な敵意を持った存在を冷たい視線で見つめていた。

 

「……」

『お前は……誰だ……?』

 

イージスの中から、ドールの戦慄した震えた声が聴こえてくる。

その言葉に、彼は反応し、口を開いた。

 

「……深遠なる闇(わたし)は……」

 

彼は一瞬だけ言葉が詰まったが、直ぐに自身の名を語った。

 

深遠なる闇(わたし)は、マザークラスタ極東支部所属、小野寺龍照。そして、深遠なる闇 救災龍エスカファルス【非在(メアリースー)】」

 

 

 

 

 

 

続く

 

 




史実に存在しない非在の闇。
私が全ての人々を救い、深遠なる闇(わたし)が人々に仇なす全ての存在を消滅させる。

救災龍 エスカファルス・メアリースーの手によって……!!


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47話 史実に存在しない非在の闇(エスカファルス・メアリースー)

このおもいは、私のおもいと深遠なる闇によって増幅したおもいの両方があるのだろう。
確かに私は、女性キャラクターが死ぬのを過敏に反応し、あまり好きでは無かった。
だが、ここまで敏感だっただろうか?
……もう私にもわからない。
ただ、この想いも悪くはないだろう。
誰も死なせない。
結構な事だ。
死なないに越したことはない。
誰も悲しまないし、誰も絶望を抱くことも無い。
結構なことでは無いか。
みんなで、未来を見よう。
明日を見よう。
皆で感じよう。
比較的平和な世界に生まれ、ある程度の希望がある、人として当然の権利である平凡な日常生活を受けていた頃のおもいを、皆も感じて欲しい。

深遠なる闇が誠におかしな話である。
絶対破壊の意志、万物生成に対するアンチテーゼなどと謳われている深遠なる闇が……
他人の死を恐れ、それを自らを犠牲にしてでも守ろうとし、他者に平凡な日常生活を求める。
何とも酔狂な深遠なる闇だろうか。


……構わない。
皆、生きてくれ。
最後まで、生きてくれ。
深遠なる闇(わたし)が守る。
どんな絶望も、深遠なる闇(わたし)が希望になるよう捻じ曲げる。
だから、お願いします。
最後まで、寿命の刻まで、生きてください。

深遠なる闇(わたし)は、皆が幸せに生きてくれたらそれで十分……。
それ以外は……何もいらない。


未来があるんだ、出し惜しみはしない!!!


それはそうと、綴木さんの対魔忍スーツは全体的に凄いヤバいと深遠なる闇(わたし)は思う。


 

 

 

 

 

 

深遠なる闇(わたし)は、みんなを守る。

もう、誰一人として死なせるつもりはない。

何があっても……。

 

 

─形態・絶・竜詩幻創(エスカ・ニーズヘッグ)

 

 

『エスカファルス・メアリースー……』

「……」

 

深遠なる闇(わたし)はドールの言葉に返事をせずに、自身の持つ力を使用する。

誰も死なせない。

誰も失わさせない。

最悪にして最低の能力を……。

……その時だ。

深遠なる闇(わたし)の背部からは、ダークファルス・ペルソナが背負っている徒花が顕現した。

違いとしては、その徒花の色は血のような赤色と違い、心の落ち着く、優しい青色をしていた。

その徒花の顕現により、私が深遠なる闇に成り果てた事を証明しているようにも見える。

 

 

「……生命の完全掌握!!!」

 

深遠なる闇(わたし)の全身から闇が輝いた。

次の瞬間、龍照の頭部、右足が破壊される。

 

「っ!!」

『……は?』

 

深遠なる闇(わたし)は声には出さなくとも、明らかに痛そうに顔を歪ませた。

その状況に、ドールの唖然になっている声がイージスが漏れる。

 

「……」

 

破損した頭部や右足は、瞬く間に再生して元に戻った。

だが、それでも次々と深遠なる闇(わたし)の全身が破壊されたように散らばる。

 

『何が……起こっている?』

 

この意味の分からない状況に、深遠なる闇(わたし)は余裕の表情を無理矢理作って、能力について話した。

 

深遠なる闇(わたし)の能力、生命の完全掌握は、この能力の対象になった人間を含む動植物、無機物が受ける痛み・快楽・外傷等を全て私自身が身代わりとなって受ける能力」

 

この馬鹿げた能力を聞いたドールや、マザーとペルソナまでも呆然とする。

 

『なん……だと……?』

「誰かが刺されても、それらの痛み、外傷は全部私が身代わりとなる。刺された本人は、刺されている自覚はある。でも痛みも無ければ、血も出ない。死ぬことも無い。反面、身代わりとなった私は、痛みを感じるし、その箇所から血も出る。最悪死ぬ事もあるだろう」

 

深遠なる闇(わたし)は話を続ける。

 

「ただ、私は深遠なる闇。不滅の存在。どれだけ刺されようが、頭を噛み砕かれようが、腸を抉られようが、直ぐに再生。死ぬことも無い」

『じゃあ……』

 

何かを悟ったのか、ドールは零れるような声で呟く。

深遠なる闇(わたし)はこくりと頷き、話を続ける。

 

「ええ、深遠なる闇(わたし)の能力に掛けられている間、その存在は絶対に死ぬ事がない。文字通り不死身となるわけや……!!」

「深遠なる闇が持つ能力ではないけど、めっちゃヤバイ能力してる……」

 

その能力を聞いたペルソナは苦笑いで自身の感想を述べていた。

 

「これがあれば、全ての人々を救える……。もうガラスの外側で眺める事しか出来なかった無力なオタクはいない……!!」

 

深遠なる闇となった彼はニチャリと笑みを浮かべ、力強く言い放った。

彼がそう言っている間も、地球にいる誰かがドールズやSEEDの攻撃を受けたのだろう。

身代わりとなった深遠なる闇(おのでら たつてる)の身体が、止めどなく血を吹き出して損傷し、瞬く間に再生する。

その繰り返しだ。

 

「……深遠なる闇(わたし)が居続ける限り、地球にいる人々は死ぬことはない。いや、正確に言うと、寿命による死以外で死ぬことはなくなった」

 

私はイージスに向けて急降下突撃をする。

 

『……!?』

 

突然の攻撃にドールは怯みながらも、胸部にあるコアから特大のレーザーを放出する。

ちょっとした集落や街に撃てば、巨大なクレーターができて、そこにいる人々を消滅させることができるだろう。

 

「……!!」

 

そんな威力の特大のレーザーを龍照は、避けることも防ぐこともせずに一点突破する。

 

「この宇宙に、いや全ての宇宙に轟かせよう。"無限の勇気を持った"、"逆襲の"咆哮"を!!!」

 

 

─絶・竜詩幻創カータライズ─

 

 

『なっ!?』

 

レーザーの中から深遠なる闇の影が見えた刹那、そのレーザーを赤い炎の爆発によって吹き飛ばし、赤色炎を纏った私はダルクファキス・イージスの右腕に噛み付いた。

 

『くっ、離れろぉ!!』

「あぁ、離してやる……!!」

 

私は思い切り、イージスの右腕を地面に投げ飛ばした。

イージスからはドールの呻き声が聴こえる。

イージスが地面に叩きふせられた事で、他の同型機のダルクファキス達も標的を私に狙いを変え、襲いかかってきた。

 

「……」

 

私は全てのダルクファキスを一掃する為、体内のエスカダーカー因子を操作して姿を変化させた。

深遠なる闇(わたし)の全身を闇が優しく包み込む。

 

 

─形態・運命の幻創(エスカ・ミラボレアス)

 

 

私は闇を吹き飛ばす。

その姿は先程のニーズヘッグの骨格を基とした姿ではなく、ミラボレアスの骨格をした姿になった。

 

「行くぞ……!!!」

 

耳をつんざく歪な雄叫びを上げながら空間が歪み、月面が焼け焦げるほどの超膨大な灼熱を放出。

胸部から蒼く輝く炎が溢れ出している形態になった。

因みに角は一本も折れていない。

 

「喰らえ!!」

 

 

─運命の幻創・臨界扇形火炎ブレス─

 

 

空中に地面を具現化させ、その場に降り立つと同時に両翼を用いて体勢を固定し、巨大な扇状の青い火炎放射で前方に存在する4機のダルクファキスを焼き滅ぼそうとする。

 

『ぐっ……!!』

 

予想以上の広範囲のブレスにドールは一瞬思考が停止するが、直ぐにイージスを操作して回避行動に移る。

 

「深遠の炎に抱かれて死ね!!!」

 

イージス、クサナギ、シャルウルは回避出来たが、ロンゴミアントは回避に遅れ、超膨大の火炎に抱かれてしまった。

 

『ちぃ……!!』

 

ドールは舌打ちをしつつ私に向けて拡散するレーザーを放つが、そんな攻撃が深遠なる闇(わたし)に通用する訳がない。

ロンゴミアントの、雄叫びを彷彿とする鉄の軋む重厚な音が月面に響き渡る。

次第に奴の装甲は、青い炎によって焼け爛れていく。

その光景を見たドールは冷や汗を流した。

 

『完全な耐熱装甲なのに、なんて火力だよ……!?』

「……まずはお前からだ。ダルクファキス・ロンゴミアント……!」

 

ドールの言葉を無視して、深遠なる闇(わたし)はロンゴミアントにトドメを刺す為、創造された浮遊する地面を蹴って飛翔、接近しながら体内にある因子を操作して再び姿を変える。

 

「行くぞ! 私の……原初にして起源の大好きなキャラ!!」

 

私は自身の闇に包まれる中で、大声をあげてその名を呼んだ。

 

「天空の王者、リオレウス!!」

 

 

─形態・天空の王者(リオレウス)

 

 

自ら包んだ闇の中からリオレウスが姿を見せた。

だが、その色は我々がいつも見ている、赤や蒼、銀、もしくは白色ではなく黒い色に包まれていた。

鱗の間や棘の部分は青く光を放っていて、厨二心をくすぐる姿をしている。

 

「王の前に平伏せ!!」

 

物凄いスピードでロンゴミアントに突撃する。

その速度はソニックブームを発生させるのに十分すぎた。

 

「宇宙のゴミ共がぁぁぁぁぁ!!!」

 

私は何人もの人を殺っているような目つきでロンゴミアントに急接近する。

ロンゴミアントは展開してある八本の槍を私目掛けて投擲した。

 

「王にそんな攻撃が通用するわけが無い」

 

飛んでくる槍を、リオレウスは蝶のように舞いながら華麗に回避する。

ロンゴミアントは背中に装備しているイージスと同型のタレットからブースターを吹かして宇宙まで飛び立ち、私の打突攻撃を回避した。

だが、私も直ぐに地面を蹴って方向転換しつつ再度飛翔。

ロンゴミアントを追撃する。

 

『させるかよ!!』

 

無論、イージスや他のダルクファキスも下腹部に装備されているエネルギー砲を使って迎撃。

それを私はリオレウスの優れた飛行能力で全弾回避し、距離を離そうとするロンゴミアントに接近。

斜め上からの鋭利な爪を使ったキックをお見舞いしつつ空中で抑え込み、それは激しい揉み合いとなり、2体は月面に墜落する。

 

「終わりだ」

 

しかし、私は直ぐに上空に飛び立ち、起き上がろうとするロンゴミアントに対して青い火炎放射を浴びせた。

 

 

─劫炎─

 

 

『なっ!?』

 

ミラボレアスの劫火と比類するレベルの蒼炎がロンゴミアントを飲み込んだ。

只でさえ溶けかけている装甲が更に爛れ初め、ロンゴミアントからも呻くような低い声が聴こえてくる。

 

『やめろおおおおお!!』

 

ドールは他のダルクファキス達に命令をして、胸のコアから特大のレーザーを放出する。

 

「……」

 

私は攻撃をやめて、イージス以外の2体のダルクファキスの攻撃を回避して、イージスの特大レーザーを片方の翼で防ぎながら滑空しつつイージスに接近する。

 

『何でこの攻撃を翼で防げんだよ!?』

深遠なる闇(リオレウス)だからに決まってるやろ」

 

ドールの狼狽したセリフに私は至極真っ当な正論をぶつけて、サマーソルトキックを食らわせて上空に吹っ飛ばす。

 

「消えろ……!!」

 

私は吹っ飛んだイージスの胸部のコアに、闘気を纏わせた翼でぶん殴った。

地面に叩きつけられドールの悲鳴が聴こえる中、私は狙いをロンゴミアントとイージスに狙いを定める。

 

「焔迎え!!!」

 

上空に無数の青い炎の槍が生み出される。

その数は正気とは言えないほどの量で、月面が青く照らされるほどだ。

私は大声で技名を言い放った。

 

終炎雨創造り(ゆうだちあめつくり)!!!」

 

槍が雨の如く月面に向けて落下。

それはロンゴミアントとイージスに無慈悲に降り注ぐ。

イージスは降り注ぐ中、必死に身体を動かして攻撃範囲内から離脱する。

あれだけの攻撃を受けても尚、動けるのは流石としか言いようがない。

しかし、ロンゴミアントは2回の火炎放射のダメージが来ているようだ。

うつ伏せの状態で肘を地面に付けながら、降り注ぐ炎の槍を受け続けていた。

次第に焼け爛れた装甲が、炎の槍によってジワジワと剥がされてゆき、青い液体が流れる管が露出していく。

 

『……それ以上は!!』

 

ドールは背部にある巨大なタレットを深遠なる闇(わたし)目掛けてぶん投げた。

 

「ちっ……!」

 

ロンゴミアントを滅ぼす事に集中してた為、回避が遅れた私は、タレットの殴打をモロに受けてしまい吹っ飛ばされた。

更に吹っ飛ばされた隙を狙い、ダルクファキス・クサナギが持っている巨大な刀で降り注ぐ炎の槍を薙ぎ払って広範囲攻撃を止めた。

 

「この野郎……!!」

 

私は吹っ飛ばされつつも気合いで体勢を立て直し、ロンゴミアントにトドメを刺そうと闇を溜め込む。

それを見たダルクファキス・シャルウルは、6本の棍棒を巧みに操って、無防備の私に攻撃を仕掛けてくる。

その動きはダブルセイバーのPAそのものだ。

てか、こんな巨体でタブセみたいな挙動はやべぇよ……。

 

「復っ活っ!! でやあああああああああ!!!」

 

だが、そんな時、驚くほど大きく元気な声を上げて、ニッコニコの深遠なる闇の神 ゾディアーク(以下ゾディアークとする)が姿を見せて、ダルクファキス・シャルウルに拳を振りかざした。

 

「潰れろおおおおおおおおお!!!」

 

シャルウルはゾディアークの多腕による連続パンチを避けることが出来ずに殴られ続け、最後には重い一撃を腹部に食らい、吹っ飛ばされた。

 

『チッ……くたばり損ないが……!!』

「それ、ロンゴミアントにも言わせてくれ……」

『!?』

クサナギとイージス(ドール)がシャルウルに気を取られた、一瞬の隙をついた私はニーズヘッグの形態へと変化させて、口から赤黒い光を漏らす。

 

「……さようなら、安らかに眠れ!!!」

 

 

─絶・竜詩幻創アク・モーン─

 

 

赤黒いエネルギー弾を、機能停止寸前のロンゴミアントに撃った。

目にも止まらぬ速度でロンゴミアントの背部に直撃し、禍々しい爆柱を発生させる。

 

「ダルクファキス・ロンゴミアント……。貴方が滅びるまで、この攻撃はやめんぞ……!!」

 

深遠なる闇(わたし)は全力のアク・モーンを、何度もロンゴミアントに撃ち続けた。

 

『龍照ううううう!!』

 

ドールは大声を上げて攻撃を阻止しようとするが、ゾディアークがショルダータックルをかまして逆にイージスの反撃を阻止する。

 

「消えろぉぉおおおお!!!」

 

アク・モーンの連続攻撃を受けたロンゴミアントは全身から火花を散らしながら、力無く宙へと浮き始めたかに思えば十字形の爆発を起こして跡形もなく消え去った。

 

『なっ……!?』

「おー、龍照グッジョブ!!」

「……ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……」

 

撃破されたロンゴミアントが居た虚空を見つめて驚愕するドールに対して、ゾディアークは笑顔でGoodポーズをする。

私は口から炎を吐きながら一息つく。

無論、その一息の間も私の身体が壊れては再生していく。

もう、痛いのか痛くないのかわからない程まで来ている。

 

『くっ、こうなれば……奥の手を使う!!!』

「……は?」

「ん?」

 

イージス、クサナギとシャルウルの機体から黒い影のような物が私とゾディアークを包み込む……。

私たちは抵抗しようとするが、恐ろしいことに身体が動かなかった。

 

『位相空間で決着をつけてやる!!!!!』

 

視界が黒く染まる中で、ドールのそんな声が聴こえてきた。

 

 

 

続く。

 

 

 

 

 

 

 



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48話 人類の反撃

 

 

 

 

 

深遠なる闇 救災龍エスカファルス・メアリースーと深遠なる闇の神ゾディアークが、位相空間に送られる前に遡る。

 

 

日本の首都、東京。

マザーがエスカタワーを再度建設した事で、エーテルの暴走は止んだと伝えられた。

それにより、マザークラスタや他の具現武装所有者達は一斉に反撃へと出た。

 

 

 

 

その中には無論、アイツらもいた。

大原と藤野だ。

 

「救え纏杖、クラリエス∀!!」

 

大原はロッド型の幻創世器を掲げ、ドールズやSEEDを完膚なきまでに薙ぎ倒した。

それでも、奴らはワラワラと現れる。

一応、エーテルの暴走が止み、ゾディアークが大気圏に幻創の膜を張った事でドールズの侵攻も防ぐ事が出来たが……いったいどれだけの敵が降下、創造されたのだろうか……。

キリがない。

 

「魔法カード発動!!」

 

デュエルディスクと思われる具現武装を構えた藤野が1枚のカードを掲げ、それをディスクに差し込む。

 

「食らえ! サンダーボルト!!」

 

サンダーボルトと書かれたカードから一筋の雷光が走り、周囲の敵を一瞬にして破壊した。

 

「藤野ナイス!」

「これくらいはね!」

 

エッヘンっと比較的大きい胸を張って得意気な表情をするキイナ。

しかし、その背後からSEEDが迫っていた。

 

「藤野ッッ!!!」

「え……?」

 

キイナはキョトンとした表情で後ろを振り向いた。

彼女の目には、大きな口を開けているSEEDが映っている。

ポカンと立ち尽くす彼女の頭を喰らいついた。

 

「藤野おおお!!」

「……」

 

彼女の頭部は完全にSEEDによって喰われた。

しかし……。

 

「えっ? 待って? 何が起きてるの!?」

「は? え?」

 

SEEDに頭を喰われたにも関わらず、彼女は死ぬことは無く、寧ろピンビンして慌てていた。

その光景には、大原も一瞬だけ思考が停止する。

 

「あっ……。藤野ッ!!」

 

我に返った大原は、即座にクラリエス∀を使ってSEEDを殺した。

 

「おいっ!! 藤野大丈夫かっ!?」

 

大原は鬼気迫るような形相で、食われている藤野を救出する。

それとは対照的に藤野はキョトンとした様子で「え? 私、もしかして喰われてた?」とSEEDの亡骸を見ながら言った。

 

「お、おう。え? ホンマに大丈夫なの?」

 

藤野の言葉に戸惑いながらも、彼女の身を案じる。

彼女は自身の頭を触れながら「うん。大丈夫」と言った。

 

「具現武装の力なんか?」

「いや、私の具現武装にそんな能力はないよ」

「え、じゃあ……何が……?」

 

大原は訝しげな表情をしていると、今度はペダス・ソードが彼の後ろに現れた。

 

「っ!!」

 

大原は直ぐに武器を構えて守りの態勢に入ろうとするが、奴の方が一足早かった。

巨大な剣が彼の足を切断する。

 

「……?」

 

はずなのに、何故か彼の足は切断されなかった。

いや、切断されたはずだった。

確実にペダス・ソードが持つ大剣は、大原の足を切った。

しかし、それはすり抜けるように彼の足を通り過ぎていったのだ。

 

「「……」」

 

唖然とする2人をよそにペダス・ソードはそれを無視して攻撃を仕掛けてくる。

 

「……っ!!」

 

2度は食らわない。

大原は直ぐにクラリエス∀の先端に冷気を纏わせて、奴の胸に思いっきり叩き込んだ。

 

「ぅりゃあっ!!」

 

胸の装甲が割れて、黄色に輝くコアが露出する。

ペダス・ソードは吹っ飛び、ビルの壁に叩きつけられた。

 

「おらっ!!」

 

大原はクラリエス∀をペダス・ソード目掛けて投擲。

尖った杖先が奴の近くの地面に突き刺さる。

 

「ラ・バータ!!」

 

パチンと指を鳴らして、テクニックを唱える。

地面に突き刺さったクラリエス∀から氷の剣山が生成され、ペダス・ソードの全身を貫いた。

貫かれた奴は宙に浮遊し、小規模の爆発を起こして消滅した。

 

「……」

「……」

 

倒したが……自分達の見に起きている異変に、彼らは無言になった。

藤野キイナはあの時、頭部を喰われていた。

普通ならおぞましい惨劇となって即死だろう。

なのに、彼女は死ぬ事無くピンピンしていた。

大原もペダス・ソードによって片足を切られたはず。

だというのに、何故……?

 

「……今の私達って無敵なの?」

「にゃー……まだ分からん。それに調べるのも怖い。なるべく攻撃は受けないようにしよう」

「おーけー」

 

2人は疑問符が頭に浮かびながらも、目の前のドールズやSEEDを殲滅しにかかる。

 

 

 

 

 

別の場所では……。

 

 

 

 

「オゥケェイ! オゥゥケエィ!!」

 

終末に包まれた中でも、コイツのテンションは相も変わらずだった。

 

「イィネ〜! このアポカリプス!! この襲来するドールズ!! 最高のフィルムが出来るYO!!」

 

ディレクターズチェアに腰掛けた彼は、大量のドールズを前にしても、最高の映画が撮れると狂喜している様子だった。

 

「さぁ、最高のフィルムと行こうじゃないか!」

 

拡声器を具現化したべトールはハイテンションで口上を述べる。

 

「アクタァァァァァ……ステンバァァァイ! シィーン……アァクション!!」

 

終末の東京にクラッパーボードがカチンと鳴り響いた。

その音に気づいたドールズ達は一斉に宙に浮かぶべトールの方を見て、遠距離攻撃を行った。

たが、べトールは壁を生み出してそれを防御する。

 

「こっちのターンだ!」

 

クラッパーボードを鳴らし、ドールズ達のド真ん中に特大のダイナマイトを具現化。

即座にそれは大爆発を起こし、ドールズの大半を爆発四散させた。

 

「クゥウウウル、クゥゥゥウウウル! ソォゥクゥゥゥウウウル!!! 最高だYO!! もっともっっと、俺にエキサイトするムービーを見せてくれYOoooo!!!」

 

再びクラッパーボードを鳴らした。

すると、突如青いレールが敷かれ、トレイン・ギドランがどこからともなく現れて、ドールズ達を引き潰した。

 

「さぁ、最高のフィルムを撮ろうじゃないか」

 

べトールはニタリと笑みを浮かべる。

彼の意志が乗り移ったようにトレイン・ギドランは、テンションよく車両を用いて叩きつけたり、新幹線を具現化して突き刺したりと縦横無尽に暴れ回った。

 

 

 

また別の場所では……。

 

 

「領域展開っ!」

「ぬぅっ!!」

 

オフィエルとアラトロンは襲来する大型ドールズのヴァーディアス・ヴェラ、スナイダル・ヴェラと激戦を繰り広げていた。

 

周辺にはオフィエルの具現武装の影響で、奇妙な模様が刻まれた多数の結界が浮かび上がり、アラトロンの具現武装の力によって、金色に輝く雷がとめどなく落ちていた。

 

「術式・空間固定(ザ・ワールド)!」

 

ヴァーディアスを囲うように結界が生成され、オフィエルの詠唱と共に、ヴァーディアスの動きが完全に停止する。

結界内の空間を固定する事で、中にいる存在の動きを止めて時間が停止しているようにする術式だ。

 

「これより、病巣の除去を開始する」

 

オフィエルの言葉に呼応するように、ヴァーディアスの周囲に数え切れない程のメスが具現化され、それらがヴァーディアスに襲いかかる。

初めは奴の装甲の前にメスは弾かれたり、刃が折れたりしていくが、次第に白い装甲に傷がつきだして、装甲が剥がれ落ちた。

そして、白い鎧が砕けたヴァーディアスの全身に何千何万という数のメスが刺さる。

 

ヴァーディアスの口から鉄と鉄を軋むような不快な断末魔がオフィエルの耳を貫く。

 

「術式・防音結界(サイレント)

 

オフィエルはつんざくような不快音に反応し、即座に自身に防音の機能を持つ結界を張った。

 

「病巣の除去を確認。術式を終了する」

 

冷たくオフィエルが言い放ち、全身に無数のメスが刺さったヴァーディアスは倒れ伏た後、宙に浮かび上がって十字の爆発を起こした。

 

 

 

「ホッホッ、どうやらオフィエルは終えたようじゃな。なら、ワシもそろそろ終わらせるとするかの!」

 

アラトロンは元気よく言うと、持っていたトールハンマーを天に掲げた。

 

「トールハンマーよ!!」

 

彼の身体に雷が走ったと思った刹那。

強く眩い光が、アラトロンを包み込み……。

金色に光を放つ鎧を全身に纏った巨人へと変貌した。

 

「目覚めよ、破壊の雷槌ッ!!!」

 

スナイダル・ヴェラと同等の大きさとなったアラトロンは、帯電させた巨大なハンマーを振り下ろして周囲に大量の落雷を振らせた。

スナイダルは降り注ぐ雷を全身で浴びながら、持っているハンマー……とは言うが、アンプ内蔵の巨大なギターを振りかぶってためたあと、音波を纏わせ叩きつけた。

 

「はっ!!」

 

その攻撃をアラトロンは雷の速度で回避し、スナイダルの後ろに回り込む。

 

「まずは壊してみるかぁ!!」

 

ハンマーを振り回し、雷を横に走らせてスナイダルの胸部装甲を貫いた。

バギンッ!と音を響かせて、胸部にあるコアが露出する。

 

「あれが、彼奴の弱点か。ならば……!!」

 

アラトロンはスナイダルへと走り出し、トールハンマーを大きく振りかぶった。

スナイダルはギターを横に持って防御の態勢をとる。

だが、そんなことはアラトロンには予想していた。

巨人形態を解いて、スナイダルの片足を力強く殴打した。

その威力は絶大だ。

スナイダルは片膝をついて怯んだ。

 

「壊すだけなら簡単よぉ!!!」

 

アラトロンは再度巨人形態に成って、両手でハンマーを持って、スナイダルのコアに思いっきりフルスイングする。

彼のハンマーはスナイダルのコアに直撃し、そのコアが完全に割れて砕け散った。

スナイダルは、苦しむような動作をした後、爆発四散する。

 

「翁!!」

 

オフィエルは何かを察知し、即座に結界を張った。

それと同時に、高層ビルを含めた建築物や木々をなぎ倒す程の力を持った衝撃波が襲ってきた。

 

「むぅ……!?」

「くっ……!!」

 

オフィエルの結界を以ってしてもヒビが入る衝撃波を前に、彼は冷や汗を流して結界の強度を強める。

少しして、その衝撃波は収まったが、謎の現象にアラトロンは訝しむ。

 

「また新手か?」

 

アラトロンの言葉にオフィエルは首を横に振りつつ、「恐らく、ファレグのパンチによる影響だろう」と言った。

それを聴いたアラトロンは頭をコンコンと叩きながら「ホッホッ。やるのぉ」と関心している様子だった。

 

「ええ、本当に化け物ですね」

 

それに対し、オフィエルは非常に冷たい声で返した。

 

 

 

一方で、そのファレグは……。

 

 

「ハッ!!」

 

大型のドール達と交戦をしていた。

ファレグと戦っているドールズは以下の通りだ。

 

ネクス・ヴェラ

レヌス・ヴェラ

アムス・ヴェラ

ニルス・ヴェラ

デストラグラス・ヴェラ

ヴァーディアス・ヴェラ

 

戦域統制型と分類され、その中でもtypeギガンティクスも呼ばれる攻防共に最強のスペックを持つドールズと戦闘を繰り広げていた。

しかし、既にネクスとレヌス、ニルスのパーツと思わしき残骸がそこかしこに散らばっていた。

本体は見当たらない所を見る限り、ファレグさんにやられたのだろう。

 

「さて、終わりにしますね」

 

そう言って、ファレグは地面を蹴って宙に飛び上がる。

 

「(小野寺さんから言われた、あの体術を試してみましょうか)」

 

心の中で呟いたファレグは拳を握りしめて力を込める。

以前に小野寺から、とある海賊世界の武装色の覇気と呼ばれる体術を聴いた彼女は、自分なりに体得出来るように鍛錬をした。

……ちょうどいい機会である。

 

彼女の握りしめた拳が黒色化し、更にその拳から赤黒い稲妻がバチバチと放電し始めた。

その拳を大きく振り上げ……

 

「えいっ!!」

 

 

─ただの覇気パンチ─

 

 

渾身の一撃を打ち下ろした。

その拳圧によって、周辺の建物が一瞬にして消し飛んだ。

比喩でも過大表現でもない。

本当に消えたのだ。

そして、建物が消えたと認識した次の瞬間、拳圧から生まれた莫大なエネルギーの衝撃波が発生。

周辺の建築物や自然物を薙ぎ倒した。

無論、爆心地は巨大なクレーターが出来上がり、そこにいた戦域統制型ドールズ・typeギガンティクスは、跡形もなく消し飛んだのは言うまでもない。

 

「なるほど……」

 

巨大なクレーターの中心に降り立ったファレグは、上空を眺めながら「覇気というのは、とてもお強い力ですね」と言った。

彼女の視線の先には巨大なドールズが浮いている。蛹のような形状だが、その大きさは浮遊する要塞のようだ。

 

「とても、お強い気配を感じますね」

 

その存在にファレグは胸を踊らせる。

それは、ダルクファキス・イージスを生み出す際に生まれた試験機。

つまり、イージスのプロトタイプ的存在だ。

ここでは、ダルクファキスと呼ぶ。

 

『……』

 

ダルクファキスは全身から黒い影を出して、ファレグを覆い始める。

イージス達が龍照やペルソナに行ったものと同様の能力だ。

位相空間へと閉じ込めて戦わせる。

しかし、その攻撃はファレグには通じなかった。

 

「ふむ。なかなか面白い手品ですね。が……!!」

 

ふんっ!!

とファレグは気を解放し、覆った影を吹き飛ばした。

 

「まだまだですね」

 

ファレグは地面を蹴って移動する。

その速度は、最早肉眼では捉えられない。

途中、再加速する為か、ビル等の建造物を蹴ってダルクファキスに急接近する。

もちろん、蹴られた建造物は全て爆発するように倒壊した。

 

「……」

 

再び武装色の覇気を拳に込める。

黒い稲妻が、彼女が通った軌跡として残っていた。

 

「……少し、力を入れますね」

 

彼女が接近している事を今更認識したダルクファキスは、コアを開いて集落を1つ消し飛ばせる程の威力を持つレーザーを、彼女目掛けて撃った。

 

「……っ!!」

 

しかし、その超威力のレーザーを彼女は眼力で霧散させた。

 

『……!?』

 

今の形態のダルクファキスが持つ最大の技を、いとも簡単に防がれてしまい、打つ手が完全に失われる。

ダルクファキスは直ぐに位相空間へと逃げようとする。

 

「……逃がしませんよ」

 

彼女の昂る声が聞こえる。

その言葉通り、ダルクファキスは逃げる事が出来なかった。

覇気を纏った彼女の拳がダルクファキスに直撃する。

 

ドガンッ!!

と、人が物に殴った時の音とは到底思えない程の爆音が東京を響かせた。

そして、その拳を食らったダルクファキスは、唐竹割りを食らったように真っ二つに割れた。

 

「私を倒すには、足りませんね」

 

彼女はダルクファキスの装甲を蹴って、その場から離脱。

コアを完全に破壊され、真っ二つに割れたダルクファキスは十字の爆発を起こして消滅した。

 

魔人の異名に嘘偽り無し。

 

 

 

 

続く



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49話 幻創の対魔忍

地球であらゆる人々が戦っている中、月面では小野寺とペルソナが位相空間へと送り込まれた。


 

 

 

 

「ここは?」

 

私は辺りを見渡す。

周囲は青々とした海のような空間に包まれていた。

私がいま立っている床は蜂の巣のようなハニカム状で構成されている。

 

『お前をここで滅ぼそう』

 

エコーが掛かったような声が私の耳に入ってくる。

私は直ぐに、その声がした方を振り向く。

 

「……往生際の悪い人間だこと……」

 

ドールの言葉に、私は呆れ口調で吐き捨てた。

申し訳ないが、私はここで滅ぶ訳にはいかない。

この後、色々とやらなければならない事が沢山ある。

 

「滅びるつもりはないぞ。我々は」

 

私は翼を羽ばたかせて空を飛んだ。

が、この位相空間とやら、意外と狭い。

リオレウスの形態でこれなら、ミラボレアスやニーズヘッグの大きさでは動く事が出来ないだろう……。

空を主体とした形態のリオレウスでは、この場で戦うのは厳しい。

 

「……」

 

私は形態を解いて、人の姿……というか元の姿へと戻った。

2匹の龍が深遠なる闇の力を私に渡した以上、人の状態でもある程度なら戦えるだろう。

私は両腕に力を込めて、闇の刃を形成する。

 

「(ふうま小太郎みたいやな……)」

 

私は対魔忍RPGの主人公の姿を思い出し、心の中で呟いた。

 

「ほいっ!!」

 

そんな事を思いつつ、両手から生み出された闇の刃をイージスへと目掛けて飛ばした。

 

『無駄だよ!!』

 

レザークローを展開したタレットを投げて、私が放った闇の刃を打ち消した上で、私を叩き潰そうとした。

 

「アカンやつ!!」

 

咄嗟に回避しようとしたが、タレットの速度が尋常ではなく回避が遅れてしまった。

奴が放ったタレットは、私の身体の右半分をゴッソリと持っていた。

 

「……っっっ!!」

 

脳や臓物、大量の血が位相空間の床を赤く染める。

ここまで抉られたら、痛みという痛みは感じなかった。

ただ、身体の片方の感覚が完全に無くなり、"あ、多分これ半分無くなってるな"と冷静に判断できた。

そう思っている間にも、私の失った右半分は体内にエーテルによって肉体が再構築されていく。

それを見たドールは舌打ちをする。

 

『お前のその、不死身の力が厄介だな』

「……私もそう思うよ」

 

完全に再構築された肉体で地を蹴って殴りかかる。

しかし、イージスの展開されたバリアによって伏せがれる。

 

「ぐっ……!」

 

弾かれた私は、そのまま吹き飛ばされて背中から地面に叩きつけられる。

 

「いって……」

『不死身であっても、痛覚が消えた訳では無い。それなら徹底的に痛めつけ、精神的に追い込んで壊すだけだ』

「まぁ、そうなるな……」

 

私はそう言い終えるや否や、「だが……」と言葉を続けら立ち上がった。

 

「私は、こう考えることにしたよ。未来対魔忍達が受けた痛みに比べたら、私の受ける痛みなど……産湯に浸かる前の赤子の如しであると……!!」

『対魔忍……?』

 

私の言葉にドールは少し何かを考えた後、『あぁー』と何か思い出したような声をあげて続ける。

 

『別の次元の地球にいる忍組織の事か』

「……っ!?」

 

ドールの言葉に私は目を見開いてイージスを凝視した。

心臓の鼓動が早くなり、全身から黒い霧が漏れ出てくる。

 

「まて、お前は対魔忍を知ってるんか?」

 

私の言葉にドールは『知っているよ』とだけ言った。

そんなドールが放った一言に対し、私は「なぁ、彼ら彼女らに何かしたんか?」と、震える口を必死に抑えながら喋る。

そのお陰で、かなりドスの効いた声になっただろう。

ドールは『ハッ……』と鼻で笑い、話をした。

 

『あんな舞の神 マイ様が着てるスーツに酷似した珍妙奇天烈な忍者集団、こちらから手を出すまでもなく壊滅する運命だよ』

「……は?」

『異次元侵略者、ブレインフレーヤーとかいう集団によってね』

「あぁ……そういう事か……」

『それに何かをする場合、僕的には対魔忍よりブレインフレーヤー共に手を出すよ。奴らの持つ"テセラック"と呼ばれる秘宝を手に入れる為にね』

「テセラック……」

 

ドールの言葉に私はゆっくりと呟く。

テセラックとは対魔忍RPGに登場する物体であり、詳細はよく分からないが、魔力や対魔粒子(pso2でいうフォトン)を完全に封じ込める力を持った代物だ。

pso2的に言うと、フォトン、クラススキル、OP、SOP、潜在能力、強化値等全てを封じられた状態でウルトラハードのダークファルス集団と戦えと言っている様なものだ。

これにより、未来対魔忍は絶望と混沌に包まれた世界となっている。

アイツら絶対許さん壊す。

 

『……あのテセラックさえ手に入れば、イージスやドールズ達もより一層強化され、多元宇宙を支配することも出来る。この世界を支配した後、対魔忍や魔族共が滅んだ隙を見計らって奴ら攻撃を仕掛けるつもりだよ』

 

そう語るドールの口調は、明らか舞い上がっていた。

テセラックを手に入れた自分自身を妄想し、興奮しているのだろうな……。

 

「それなら、尚更ここで滅ぼすぞ。それにブレインフレーヤーを滅ぼすのは深遠なる闇(わたし)達や……!!」

 

龍の眼でドールを睨みつける。

気分が昂り、私の周囲の地面から闇の泡を無数に噴出させた。

 

『対魔忍にでもなるつもりか?』

「あぁ、この世界で救える存在を救い終えたら、あの世界に行くつもりや。まだ行ける方法は分からないがな……」

 

輝く闇が溢れ出る。

さて、行くか……!!

私は力を込める。

 

『お前達が対魔忍になれる訳がないだろう。あの世界に行っても、その強さなら魔界の九貴族と謳われるだけだ』

「お前の方がお似合いだ。光子卿としてな」

『私が九貴族か。それもいいな。お前達を殺して、あの世界の魔界にでも行ってみるとしよう』

イージスの下腹部にあるコアのハッチが開き、そこからビームを放った。

龍照は、ほぼゼロ距離のコアビームをモロに受けた。

 

『お前が不死身の存在でも、封印してしまえば終わりだ。徹底的に痛みを与え、精神を追い詰め、そして封印させる!!』

「……させれるのか?」

『そんな事を言ってられるのは今のうちだよ!!』

 

コアビームの出力が最大まで上がる。

龍照は地面を焼く勢いのビームに飲まれた。

全身に焼かれる感覚に襲われながら、彼は語る。

 

「……私は対魔忍になる。なって、ブレインフレーヤーを叩き壊す……!! こんな所で封印される訳にはいかない!!!」

 

彼の雄叫びと共に、コアビームが吹き飛んだ。

 

『なっ!?』

「お前やブレインフレーヤー……人類を滅ぼそうとする奴らの思い通りにはさせない……!!」

 

全身大火傷を負うも、次第に再生する中で私は力を込めた。

この場では完全体(龍形態)では戦う事が難しい。

それなら、人型形態……所謂ヒューナル形態で戦えば良い。

初代深遠なる闇(ソダム)2代目深遠なる闇(ペルソナ)3代目深遠なる闇(エルミル)、皆それぞれヒューナル形態を持っている。

なら深遠なる闇である私も成れるはずだ。

 

「人類がお前らに敗北するなぞ有り得ない」

 

私はヒューナル形態を妄想する。

全身がエーテル粒子に包まれていく。

頭の中で姿を構築していく。

それに連動するように、私の肉体も妄想した姿形になる。

 

「ふぅ……」

 

身体に纏っていたエーテル粒子を解き放ち、ヒューナル形態へと変貌を遂げた私は一息をついた。

その姿は先程とはあまり変わらない私自身の姿だ。

基本ヒューナル形態になれば、人間体の時よりも3倍ほど巨大になり、怪物の見た目になるが私のヒューナル形態は違う。

服装以外、私の姿そのものである。

ただ、私が着ている服装こそが、私がヒューナル形態である姿だ。

 

「これが私のヒューナル形態……ファルス・タイマニンや」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

マザークラスタのシンボルを現し、私の姿は対魔忍達が着るようなデザインをしていた。

それもそのはず、私が頭に思い浮かべたのは……

天宮紫水、七瀬舞、篠原まり、星乃深月、柳六穂、綴木みこと。

大好きな対魔忍達だ。

その6人の対魔忍スーツを足して2で割ったようなスーツを着ている。

 

「私は……対魔忍になったぞ……!!」

 

私はスマホを取り出して、対魔忍RPGのメインストーリー43章に流れたコーラスを流し、狂気のような笑みを浮かべる私。

右手に星乃深月さんが使用する巨大な扇を具現化し、地を蹴ってイージスに接近する。

 

「行くぞ、ドール!!」

『っ!?』

 

あまりの速度にドールは驚愕するが、咄嗟にバリアを展開して防御態勢を取る。

 

 

─天宮紫水=波遁・獅子奮迅─

 

 

私は波遁の能力を発動し、ガーディアンと呼ばれる巨人を生み出して、バリアに向けて肩で突き当てる突進攻撃を行った。

だが、それでもイージスのバリアは砕ける事はなかった。

 

 

─天宮紫水=波遁・揚弓挙矢─

 

 

故に今度は波遁の能力を使って、掌から光のエネルギー波を発射させてバリアを破壊しにかかる。

 

『こ、こいつ……!!』

 

光のエネルギー波を受け続けたバリアにヒビが入り始め、ドールは狼狽した声をあげる。

 

「対魔忍の力……舐めんなや!!」

 

 

─天宮紫水=波遁・以心伝心─

 

 

イージスの展開するバリアの周辺にガーディアンの手を複数召喚し、全力で殴りかかる。

 

『馬鹿な……何が起きて……!?』

 

あまりの攻撃を受けて、ドールは焦りの声を荒げた。

その間にも私の攻撃は止むことはなく、遂にはイージスが展開したバリアは音を立てて砕け散った。

 

『ぐぁぁぁぁあああああ!!!』

 

バリアが破壊された衝撃でイージスは吹き飛び、この空間の壁に激突して、金属音とドールの断末魔を轟かせ、イージスの全身が力無く項垂れるように大ダウンする。

 

『い、いったい……何の力だ……!?』

「対魔忍の力や」

 

ドールの声に、私は冷たく言い放つ。

私のヒューナル形態の能力。

それは6人の対魔忍の忍法を使用できる力。

先程使った技は皆、天宮紫水が持つ波遁の力だ。

波遁は、自然に存在するエネルギーを自らの力に変える術。

そのエネルギーを使って「ガーディアン」と呼ばれる下半身の無い巨人を生み出して自在に操る事ができる。

 

他にも星乃深月の風を操る風遁、柳六穂のあらゆる毒を生み出す血流毒化、篠原まりの自在に土を操る土遁、七瀬舞の紙を操る紙気、綴木みことのハッキング能力。

この全てを使う事ができる。

なんか、6人に凄い失礼なことをしてしまった気がする……。

まぁ、今はそれを気にしていられない。

あの世界に行ったら詫びの1つ2ついれよう。

 

「死ぬ準備をしろ!!」

 

 

─星乃深月=風遁・激烈風─

 

 

私は大ダウンして動かなくなっているイージスに飛び掛かるようにジャンプし、持っている巨大な扇を横に扇ぎ、巨大な竜巻を生成した。

ただ、これだけでは終わらない。

 

 

─柳六穂=毒化・毒霧

 

 

私は口から毒の霧を先程生成した竜巻目掛けて噴射する。

毒霧と竜巻が合わさり、毒の竜巻という凶悪な自然現象が大ダウンしているイージスに迫る。

 

『イージス!! 動け!! お前は僕の最高傑作なんだ!!!』

 

ドールの焦ったような声を上げながら動かそうと必死になっていた。

彼の声以外にガチャガチャと操縦桿を動かす音が聴こえてくる。

 

『動けええええええええ!! イージスぅぅぅぅううう!!!!!』

 

彼の叫ぶ声はイージスに届いたようで、毒の竜巻が直撃するすんでのところで飛び上がって直撃を免れた。

 

『対魔忍だろうと、僕のイージスの前には!!!』

 

光の剣を私の頭上に降らしながら、レーザークローを展開したタレットを投擲してきた。

私は紙を具現化させた。

 

 

─七瀬舞=紙気・絶対防御領域─

 

 

「……紙気展開」

 

私は紙を操り、巨大な鎌倉を形成。

その中に入ってイージスの攻撃を全て防いだ。

 

『なんて厄介な力だ……!!』

「隙あり!!」

『っ!?』

 

 

─篠原まり=土遁・剛拳─

 

 

悔しげな声を出すドール。

その一瞬の隙をついた私は地を力強く蹴り、土で固めた拳を使ってイージスの顔面をぶん殴った。

ノーガードで受けた為か、再び吹き飛ばされて壁に衝突するイージス。

 

『馬鹿な……何故だ……。何故、イージスの出力が奴を上回らない!? 最高の動力炉を搭載してるのに……どうして!!?』

「そんなもんに頼ってるからやろ」

 

私は辛辣な言葉を投げかける。

その言葉にドールは強く否定した。

 

『そんなはずは無い! この世に絶望を抱いて死んだ"香山裕樹"と呼ばれた男の遺体の一部を埋め込んでいるんだ!』

「……え?」

 

 

 

 

 

続く



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50話 黄昏に沈むような深く響く日よ。永久の風に吹かれ、安らかな夢を胸に抱き眠れ。

 

 

 

 

 

「え?」

 

ドールが放った言葉に、私の思考は完全に止まった。

こいつは何を言っているのだ?

私の額から嫌な汗が滴り、険しい表情になる。

 

「どういうことや?」

 

私は先程と同じような激しい鼓動の中で、絞り出すようにドールに訊ねた。

ろくな答えは帰ってこないことは承知だ。

しかし、聞かずにはいられない。

黒い塗装が少し剥がれ、中の白い装甲がチラホラと見えるイージスの奥からドールの声が聞こえる。

 

『全ドールズに搭載してるフォトン粒子エーテルエンジン。そのエンジンの中に、月から掘り起こした香山裕樹の遺体の一部を入れているんだ!』

「……」

『この世に絶望と怨嗟を残した男の遺体は、素晴らしい程の膨大な負のエーテルを持っていた! 僕は彼の肉体を細切れにしてドールズ一つ一つに組み込んだ! 』

 

その話は信じられない内容だ。

いや、信じたくないと心から思いたい内容だ。

ドールズの中に、裕樹の一部が入っているだと?

 

「……」

 

私は目を見開き、ジッとダルクファキス・イージスの顔を見つめていた。

よく見たら、イージスの目と思われる黄色の部分が少しだけ欠けている。

 

『それによって、フォトナーの閃機種の数倍の出力を出すことができた。これにブレインフレーヤーの保有しているテセラックを組み込めば、まさに"星滅の象徴"となる!』

「……」

 

私の剣呑な表情を無視して話を続ける。

 

『僕の最高傑作を馬鹿にしたフォトナー共を見返すことが出来る!! 全ての世界を侵略し、フォトナー共を圧倒してやる!!!』

「(……知ってた?)」

 

私はニーズヘッグとミラボレアスに訊ねた。

しかし、返ってきたのは無言だった。

だが、それが答えなのだろう。

 

「(どこで分かったんや?)」

 

私は二龍に質問する。

彼、彼女は口を開いた。

 

〚メカブランの時だ〛⁡

〚アイツの中から、裕樹の片目が組み込まれているのを感じたよ。ちょっと引いたわ……〛⁡

「(マジかよ……)」

 

絶望する私を無視して、2匹は話を続ける。

 

〚おそらく、山原も気づいていたのだろう〛⁡

〚おそらくというか、間違いなくね〛⁡

「だからか……」

 

私はあの時の山原さんの事と、以前にマザーに言われた事を思い出して、拳を握り締めた。

 

そういうことか……。

 

 

─『……あまり香山裕樹の事は言わない方がいい。今は落ち着いているが、また錯乱してしまう可能性もある。』─

 

─「また一緒にデートしよ! それでいっぱい遊ぼうよ!!」─

 

 

「……1、2、3、4、5、6……」

 

私は目を瞑って深呼吸をし、1から6の数字を数え、心の底から溢れ出る怒りのマグマを気合いで抑えた。

この怒りはブレインフレーヤーのゴミにでもぶつけよう。

私は再度、深呼吸をしてから目をゆっくりと開き、イージスに訊いた。

 

 

 

 

「結局、貴方は自分を馬鹿にしたフォトナーを見返す為に全宇宙を支配しようとしていると?」

『その通り』

「その星に存在する人類の気持ち考えたことある? 平和に過ごしてる人々のことを……」

『ないな。所詮は他人だよ。自分は他人の視界や考えを見ることや知ることなんてない。自分の人生のNPCでしかない』

「……」

『さぁ、話は終わりだよ。君や他のダークファルスも封印して、この星を支配する!!』

 

イージスの全身に取り付けられた無数の管から流れる青い液体が赤く変化する。

誰がどう見ても、本気を出してきたなと思わせる風貌に、私は警戒心を強めた。

 

「……絶対にさせんからな」

 

私は飛び上がって、イージスの顔面に殴りかかる。

しかし、イージスは一瞬、力を込めるような動作をした後、赤い衝撃波を発生させてわたしを吹き飛ばした。

 

「ぐっ……!」

 

更に、イージスが解き放った衝撃波は、この位相空間にあった地面すらも砕き割り、私は壁に激突した。

 

「いっ……てぇ……」

 

私は背中や後頭部に伝わる比喩できない痛みに顔を歪める。

 

『嬲り殺してやるさ!!』

 

4本のタレットをイージスの前方に展開した後、一瞬力を溜めて私に狙いを定めて、それらを突き刺した。

 

「風遁!!」

 

いくら不死であっても痛いのはあまり好きではない為、風の力を瞬時に爆発させて、自身を吹き飛ばす事でイージスの攻撃を無理矢理回避した。

 

 

─星乃深月=風遁・風歩─

 

 

「おりゃあああ!!」

 

私は自分の足元に上昇する風を生み出して空を飛んだ。

月歩や剃を体得しておくんだったと後悔した。

それと同時にコイツ倒したら、六式全部体得しようという決心も生まれる。

 

「おれぃやーー!!」

 

 

─篠原まり=土遁・岩纏─

─七瀬舞=紙気・紙壁─

 

 

私は風を使って全身をイージスに向けて飛ばし、その勢いのまま岩を纏わせた拳で、奴のコアをブン殴ろうとする。

 

『無駄だ!』

 

イージスの下部にある砲門から山なりの弾を放ち、私を撃ち落とそうとする。

 

「それはこちらのセリフやわ」

 

私は紙壁によって展開された紙の防壁によって、イージスが撃った弾を全弾防ぎきり、私の拳がイージスの顔面に届いた。

 

『うぐっ! ……ふっ、それはどうかな……?』

「なっ!?」

 

顔面をぶん殴られたイージスだが、負けじと横ブローを私の脇腹に食らわせた。

普通に予想してなかった攻撃を前に、私は何もする事ができずに血反吐を吐いて吹っ飛ばされる。

 

「ぐぅ……この産業廃棄物がぁ……!!」

 

崩れる肉体を再生させてながら、自身に纏う風を使って全身のバランスを保つ。

 

 

─星乃深月=風遁・弾嵐─

 

 

私は手をピストルの形にして、指先から弾丸レベルにまで圧縮した風を生成し、それを撃った。

圧縮しすぎたせいで衝撃が尋常ではなく、撃った右腕がエライ事になってしまった。

しかも、恐ろしいほどの爆音が鳴り響き、私の右腕の骨が砕ける音と、激痛に苦しむ声を掻き消した。

撃った風は音速の勢いでイージスの左の羽のような箇所に直撃し、装甲を砕き割った。

イージスの砕けた装甲が辺りに散らばる。

 

『うおっ!? くっ、やったな……!!!』

 

大きく仰け反り、怒りを籠ったドールの声が位相空間を震わせた。

クローを展開したタレットを投擲して、攻撃を行ってくる。

その攻撃を、私は紙一重で躱しながら手から滴らせた毒をさり気なく塗布していく。

この毒は鉄を腐食させる毒で、ちょっと塗るだけであっという間に錆びてしまうヤバめの毒だ。

 

『無慈悲な光の刃……くらえ!!!』

 

イージスは一瞬、力を溜めるような挙動をし、その後に力を解放。

赤い巨大な剣を何千発もこちら目掛けて解き放った。

 

「もうええわ!! 突っ切ったる!!!」

 

無敵ならノーガードで正面から行った方がええわ。

恐ろしい程の激痛に襲われるだろうが、知ったこっちゃない!!

ドラゴンボールの不死身ザマス戦法じゃ!!

 

私は両手に圧縮した風の玉を生成して、雄叫びをあげて巨大な剣の雨あられの中に突っ込んだ。

 

「うおおおおおおおああああああああああ!!!!!」

『コイツマジか……マジでっ……!?』

 

私のふざけた行動に、ドールも驚きと呆れが混じった声をあげつつ、一度詰まらせた言葉を吐き出す。

 

『マトモじゃないな! オマエ!!』

 

ふざけるな!とでも言いたげな大声をあげて、降り注ぐ剣の雨の中を突撃する私に言い放つ。

腕や肩、顔を抉られては再生を繰り返す私は、彼の言い放った言葉に対して言い返す。

 

「マトモじゃないから深遠なる闇になったんや!! マトモな奴が深遠なる闇なんかになる訳がないやろ!!!」

 

イージスから放たれた光の剣に全身を抉られ、激痛を伴いながら私はイージスの懐まで接近。

あまりにも予想外の行動を取られたドールは思考が停止していた為、対処に遅れてしまう。

 

『しまっ……た……っ!!』

「クソフォトナーが、くつぁ()ばれえええええええええええええええ!!!」

 

 

─星乃深月=烈風爆破─

 

 

両手に生成しておいた風を極限まで圧縮した玉をイージスの胸部のコアを覆う装甲に打ち込んだ。

先程撃った弾嵐以上の衝撃波が巻き起こり、私とイージスは音速の速度で吹っ飛び、位相空間の壁に殴りつけられた。

私は全身を強く打ち、イージスは背部に後輪のような部分と、胸部のコアハッチが音をたてて、弾けるように砕け散った。

 

「──────────」

『がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

 

ドールの断末魔が位相空間内を木霊させた。

一方で、全身を強く打った私は肉体を再構築して戦線復帰をする。

 

「……攻撃はしっかり守るか避けるかの、どちらかにしよう」

 

先程の攻撃を受けて、私は心からそう思った。

 

『うぐぅ……絶対に許さない!』

 

ダークファルスのように頑丈なイージスは、胸部のコアから特大のレーザーを放った。

私は不死身かもしれんが、向こうも大概不死身だよ。

 

「ほいっさ!!」

 

私はそれを躱してイージスの元へと走る。

その際、私は能力を使用する。

 

 

─綴木みこと=ハッキング─

 

 

バイザーにあるスイッチを押して、私の前方にホログラムのキーボードを出現させる。

私は、そのキーボードを使ってイージスの全権限を掌握しようとした。

 

「いけるかな……」

 

"私の前に存在するダルクファキス・イージスの全権限の掌握"とキーボードで打ち込み、エンターを押す。

すると、キーボードが少しだけ光を放ち、ホログラムの鎖に繋がれた鎖がイージスへと一直線に進み、コアに打ち込んだ。

 

『は!? なんだこれは!?』

 

その直後に、イージスの中からドールの狼狽する声が聞こえてくる。

 

「お前のイージスの全権限を頂くぞ!!」

『ふざけるな!! そんな事させるか!!!』

 

私の目的を聞いたドールは発狂に近い怒声をあげて、ハッキング攻撃から逃れようと抵抗する。

 

「大人しくせぇやぁ!!」

 

私はイージスの抵抗を辞めさせようと、攻撃を行おうとする。

 

 

─星乃深月=風遁・烈風刃─

 

 

刃状の風をイージスへと飛ばして、抵抗を阻止する。

 

『邪魔をするなぁぁ!!!』

 

イージスはぎこち無い動きで光の剣を生み出して、風の刃を迎撃。

私が放った風の刃が全て破壊された。

 

「マジか……!!」

 

更に光の剣は勢いが止むことなく私の方へと飛んでくる。

 

 

─七瀬舞=紙気・完全防御領域─

 

 

紙を使い、鎌倉を形成して、降り注ぐ光の剣から身を守った。

 

『対魔忍がぁ、このままその紙ごと刺殺してやる!!』

「やれたらな?」

 

私はドヤ顔でそう言い返す。

その様子は余裕の塊である。

しかし、心の中では……。

 

「(やっべ……どうする? このまま突撃するか? いやもうあんな痛いのだけは勘弁や。対魔忍やゴッドイーターの連中はあんな激痛を受けてるのか? アイツらの方が、私より何十倍も強いやん……平穏を貪り生きてる人間と修羅の世界を生きてる人間の違いなのか? 私では勝てんな……)」

 

非常に焦っていた。

実際にこの状況はヤバい。

どうする?

何とかして、あいつの動きを止めんとヤベエ……。

私はバイザーに表示されてるハッキング完了までの数値を確認する。

ダルクファキス・イージスの全権限ハッキング30%。

全然やないか……!!

 

どうする?

また突撃を……!

嫌だ……あの痛みは正直二度と食らいたくない……。

このまま行けばマジで精神が終わる。

 

 

─「私は、こう考えることにしたよ。未来対魔忍達が受けた痛みに比べたら、私の受ける痛みなど……産湯に浸かる前の赤子の如しであると……!!」─

 

 

前に言ったこの言葉を思い出して、私は情けなさと恥ずかしさの表情を浮かべた。

まるで成人してから、部屋の掃除をしている最中に中学時代の黒歴史小説を見つけ、挙句の果てに親に朗読された時レベルの羞恥の表情だ。

あれだけドヤ顔をキメて、発言した言葉なのに、直ぐに音を上げる……即落ち二コマじゃないんやから……。

 

「……っていうか、紙を使って守ればいいやん」

 

私は紙を取り出した。

残りの紙はあと僅か。

色々と使いすぎた。

紙を具現化させてどうにか……いけるか?

 

「……」

 

私は口に溜まった唾をゴクリと飲み込んで意を決した。

光の剣によって、この鎌倉も崩壊寸前だ。

 

「おらあああああああああああああああ!!!」

 

私は急いで鎌倉から飛び出して上昇気流を発生させて光の剣の中に突っ込む。

無論、紙の盾を構えてだ。

 

『そんな盾で、イージスの光の剣を防げるものか!!』

 

ドールの言う通り、私が展開した紙の盾は次第にヒビが入っていく。

 

「……」

 

あぁ、もうええわ。

 

「未来対魔忍達の痛みよりマシ。未来対魔忍達の痛みよりマシ。未来対魔忍達の痛みよりマシ」

 

眼を瞑り、念仏を唱えるようにボソボソと呟きながら、ボロボロになった紙の盾を放り投げた。

 

「BETAに食われるよりマシ!!! ブレインフレーヤーに改造されるよりマシ!!! アラガミに食われるよりマシ!!! 痛くない!! ぜんっぜん痛くない!!!!!」

 

光の剣が降り注ぎ、全身を切り裂かれる中で、私は自分に必死に言い聞かせた。

心頭滅却すれば火もまた涼しという諺があるように、心頭滅却すれば、刃もまた気持ち良し。

いまの私は対魔忍だし、ワンチャン感度3000倍にして全身性感帯にしたらこの痛みも快楽になって楽なのでは?

と頭を過ぎったが、それはそれで別の問題が浮上するだけで根本的解決にならないと思ったから辞める事にした。

 

「い、痛くない!! 全然痛くない!!」

『嘘をつけ!! 早く痛みを前に精神壊れてしまえ!!!』

「ぎ、気持ちイイよ(ぎぼぢゐゐよ)!! ……ぐぅ、あまりの気持ちよさに……全身から、深遠なる闇を漏らしてアヘ顔ダブルピースを決めたいぐらいや!!!!!」

『減らず口を!!!』

 

ハッキングに抗いながら、イージスは光の剣の量を増やす。

私は風をコントロールしながらなるべく当たらないように、光の剣を回避しようとするが、光の剣の量が尋常では無い為、寧ろ回避しようと動けば動くほど、直撃してる気がしてきた。

 

「こんな、攻撃……ぐぉ、……どうというこった無いわ!!!」

『っ!?』

 

ドールは戦慄する。

コックピットに映る画面には青い残光を走らせ、凶悪な笑みを浮かべたドアップの私が映りこんだ。

そして、私は紙、毒、風、岩を纏った拳を大きく振りかぶる。

更にドールは気づいただろう、私の後ろに巨人(以下ガーディアン)が同様に拳を振りかぶっている事に。

私は肺から全ての酸素と声を吐き出す。

 

「死ぃぃぃぃぃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええ!!!!!!」

 

私はコックピットがあると予想している黄色く光り輝くコアを、力一杯にぶん殴った。

 

『ギャアアアアアアアアアア!!?』

 

ドールの、耳を刺すような声が殴ったコアの奥から響いてくる。

だが、殴りつけたコアはヒビが入り、欠片が少しだけ飛び散るだけで完全に壊れることは無かった。

 

「……っこれでも壊せんのか!!?」

『イージスは、僕が作った中でも最高傑作だ!! 対魔忍ごときの拳で、壊れる訳がない!!!』

 

今度はイージスの拳が私の方に飛んでくる。

私は展開している、ガーディアンを前に出して身を守った。

更に私は近くに浮遊しているイージスの破片を持って、風を纏わせてイージスのコア目掛けて投げた。

 

『悪あがきをおおおおお!!』

「うるせぇ黙れ!!」

 

イージスの背部にあった後輪と思われるパーツの破片だ。

それを何度も投げつけた。

すると、次第にコアのヒビが大きくなっていく。

もう少し、あと少しで……!!

 

『無駄な足掻きということを、教えてやる!!!』

 

ドールが言い放った瞬間、明らかに場の空気が変わった。

先程まで赤い色だった空間が真紫に変化し、イージスが何やら力を溜めていた。

やつの掌には小さなエネルギー玉が目に入った。

しかも、位相空間の壁に出現した大渦から小さな球体が物凄い勢いでそのエネルギー玉に吸収されていく。

ふと思った。

これエスカファルス・マザーの攻撃と同じやつじゃないか!?

と。

私は急いで招来する球体を破壊しようとしたが、時既に遅かった。

招来した球体は全て、イージスの生成したエネルギー玉に吸収されてしまった。

玉の色が紫色に光り輝いているのが見えた。

あぁ、これやばいぞ。

 

『不死身のお前を殺してやる!! このイージスの力で!!!』

「っ!?」

 

 

─イクリプス・アボリティオ─

 

 

力を吸収しきったイージスは大爆発を引き起こし、更に巨大なエネルギー球を全周囲にばら撒いた。

避ける事ができない。

この位相空間全てを包み込む爆発と弾幕だ。

しかも、その威力はこの空間の壁を吹き飛ばす威力。

いくら不死身であっても痛覚のある私が食らってしまえば、精神的に廃人になる可能性があった。

私はその爆発に飲み込まれた。

 

 

『私の勝ちだ!! 直ぐにお前を封印し、この地球を征服するぞ!! お前ら人類の敗北だ!!!』

 

月面全てに轟く程の声量で、そう高らかに宣言する。

 

「本当に、そうだろうか?」

『……っ!?』

 

爆発と弾幕の中から聞こえてくる深遠なる闇(わたし)の声に、ドールは酷く驚いただろう。

 

「深遠なる闇とエスカファルス(ダークファルス)達が人類側についている時点で、人類が敗北するなんて事はありえない。教えてくれ、我々人類は誰に敗北するのだろうか?」

『なぜ、なぜ、精神が崩壊していない!?』

「破壊神、天使率いる全王か? 安藤、マトイ、六芒均衡が所属するアークス船団か? 少なくとも、お前によって敗北する事はない」

 

崩壊する位相空間を、爆炎と共に吹き飛ばした深遠なる闇(わたし)はリオレウスの姿でイージスを睨みつけた。

 

『あの爆発を受けて、なぜ平気でいられる!?』

「さぁ……今の深遠なる闇(わたし)は平気なのだろうか?」

 

光を宿していない虚ろな眼をした深遠なる闇(わたし)は、彼の問いに静かに応えた。

 

「さぁ、行くぞ!!」

 

深遠なる闇(わたし)は翼を羽ばたかせて、イージスへと突撃する。

しかし、イージスは怒りの衝撃波を放って深遠なる闇(わたし)を後退させた。

 

深遠なる闇(わたし)は絶対にお前に勝って、地球の平穏を取り戻す!! お前の身勝手で、深遠なる闇(わたし)達の明日を奪わせて堪るか!!!」

『グゥゥゥゥゥゥ!!』

 

深遠なる闇(わたし)は口から特大の熱線をイージスにぶつける。

だが、イージスはそれを両手と前面に展開したバリアで防ぎきった。

 

「世界を征服するふざけた目的の為に、明日を奪われる人間の気持ちがわかるか!? 明日を奪われる一般市民の気持ちがわかるか!?」

『クソ……がぁ!!』

 

深遠なる闇(わたし)は再度熱線を撃った。

先程の熱線でバリアが粉砕された為、今度は両手のみで熱線を防いだ。

しかし、そのバリアで精一杯だった。

イージスの機体は限界寸前になっていた。

ぐったりと項垂れていた。

 

『このままでは、一時マザーシップに撤退を……!』

 

ドールは必死に回復させようと、一時撤退をしようと試みる。

しかし、イージスの動きが停止する。

 

『馬鹿な!? 動け、動けイージス!! なぜ動かない!!!?』

 

 

─綴木みこと=全権限ハッキング─

 

 

彼が使ったハッキングが完了。

それによりイージスの全権限を奪い、動きを停止させた。

彼の撤退は失敗に終わる。

 

「明日が誕生日な奴らだっておるんやぞ!!! パイを沢山食べるつもりだった女の子だっておったんやぞ!!! それを、お前らのみたいな地球外生命体のゴミクズ共が、我々人類の平和を……奪ってんじゃねえええええええええ!!!!!」

『っ!?』

 

肺や食道、喉を溶かす勢いで放たれた熱線は、月面を真っ赤に照らした。

最早、イージスには防御する余力は残っていないのだろう。

ゆっくりと、赤く光る炎の光線を見つめるだけだった。

そして……。

 

『ぐああああああああああああ!!! 熱い!!熱いいいいいいいい!!!ちくしょおおおおおお!!!』

 

熱線に呑まれたイージスは仰け反りながら灼熱の劫火によって、装甲が徐々に溶解していく。

その熱はコックピット内にも届いており、あまりの熱さにドールが断末魔をあげてコックピットの中で暴れ狂う。

 

深遠なる闇(わたし)は絶対に許さん。絶対に殺す!!!ブレインフレーヤーもBETAも、人類の平和を乱す存在全てを、この手で鏖殺するぞ!!! アイツらが100万の軍勢で来るなら、こっちは100億のエスカダーカーで迎え撃ってやる!!! 100兆の軍勢で来るなら、100垓の軍勢で迎え撃つ!!! 来いや!!今のうちに調子乗っとけ!!! 殺しに行く!!! 深遠の闇を見せてやる!!!!」

 

深遠なる闇(わたし)……いや、深遠なる闇は発狂に近いレベルで大声をあげて天高く次元を超える程の声で言い放つ。

 

『ふざ、けんな……!! ふざけんなああああああ!!!!!』

 

遂に力尽きたかに思われたが、まだイージスは倒れていなかった。

しかも、最高傑作の意地だろうか?

全権限ハッキングしたはずのコントロールを逆に奪い返したのだ。

しかし、今のイージスには滞空する力も残っていないのだろう。

かろうじて残っている足場にしがみ付くという状態だった。

 

『お前らの事情なんて知ったことか!! お前らは大人しく僕の実験の成果の材料になっておけばいいんだよ!!!!!』

 

そう言い放った彼に、深遠なる闇は無言で最後の攻撃を行おうとする。

ドールも最後の足掻きとばかりに4本のタレットを使って深遠なる闇を迎撃する。

しかし、その時だ。

4本のタレットが朽ち果てるように砕け散った。

 

『何がっ!?』

「お前、タレットに腐食性の毒を塗布されてるの気づかんかったやろ!!!」

『腐食……!?』

「お前にもう打つ手はない!! お前の負けや!!」

『ふざけるな!!! それなら、もう一度撤退を!!!』

 

彼は必死に撤退する操作をした。

しかし、それが出来なかった。

 

『な、なんで……??』

 

ハッキングされた形跡は無い。

イージスがそれを受け付けなかったのだ。

ドールは手を震わせて、放心状態だった。

 

 

─たっつー、今だ……早く……トドメを……─

 

 

「っ!!」

 

だが、その原因は、深遠なる闇……いや、小野寺龍照には分かった。

そうやな。

イージスの中には……お前がいるんだもんな……。

 

「ドール!!! この世界から、この次元から、この歴史から、消え去れぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!」

 

闇の閃光を纏ったリオレウスの一撃によって、イージスのコアと、その内側にあったコックピットごと貫かれた。

 

『……これで終わりだと思うなよ……!!』

 

不吉な言葉を残したまま、ドールとイージスは月に巨大な爆発を起こして完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 

続く



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51話 地球1つ守れん奴が、他の世界を守れる訳がない。

深遠なる闇に侵された厄介なオタクの意地……見せてやる!!
酔狂な夢を抱いたオタクが深遠なる闇に成ったらどうなるかを……!!!



 

 

 

イージスとドールは消滅したが、地球ではドールズの攻撃は続いていた。

しかし、アースガイドやマザークラスタ、他のエーテル使いの活躍によって、徐々にドールズの数が減っていった。

 

そして、エスカファルス達もまた、ドールズとの戦闘に終止符を打とうとしていた。

 

 

アキバでは、エルミルが生み出した幻神城によって包囲され、ドールズの逃走を完全に封じている。

更に、外からやってくるドールズに対しては、幻神城の持つ圧倒的な火力によって、一網打尽にする。

この完全な布陣により、ここ一帯のドールズは減少の一途を辿っていた。

彼と戦う相手は、ヴァーディアス・ヴェラ─typeギカンティクス。

あの時、山原玲奈を葬ったドールズだ。

それに対して、エルミルは自身の眷属である魔物種の中でも最強に位置する存在を具現化し、戦っていた。

 

「行くぞ、エスカトロンドラゴン!!」

[ああ……]

 

エルミルの声に応えるように、白い甲殻で身を纏った巨大で雄々しい龍、エリュトロン・ドラゴンの幻創体は雄叫びをあげてヴァーディアスに強襲する。

その巨体からは想像もつかない軽快な動きでヴァーディアス・ヴェラを矢継ぎ早に攻撃をした。

その猛攻を前にヴァーディアスは防戦一方で、攻撃する余地すらなかった。

他の小型ドールズも必死にヴァーディアスの支援をするが、エルミルによって生み出された魔物型エスカダーカーによって劣勢に立たされていた。

強さ的にドールズの方が上ではあるが、如何せん、エスカダーカーの数は無限。

創造主であるエスカファルスが消滅するまで永遠に具現化される。

この完全な物量戦法により、ドールズの数が着々と減っていっていた。

 

[邪魔だ……]

 

ヴァーディアスの身体もエスカトロンの蒼い灼熱の炎によって焼け爛れて、ボロボロの状態。

最早、勝敗は見えている状態だ。

そして、エルミルはエスカトロンと共にトドメをさしにかかる。

 

「僕は、僕こそが、エルミル!!!」

 

完全体エスカファルス・エルミルとなって力を溜め込む。

 

「全ての絶望よ、僕の闇を以って虚無と成す!!!」

 

その溜め込んだエネルギー球を地面に叩きつけた。

周囲のエーテルが、エルミルが生成した球に吸収されていく。

ヴァーディアスたちも、エルミルの攻撃に即座に反応し、球に向かって攻撃を仕掛けた。

 

[邪魔するな……。退け……]

 

しかし、エスカトロンドラゴンはそれらの攻撃を阻止した。

周囲に大量の火球を生成させ、ドールズたちに狙い撃ちさせた。

青く輝く火球が放つ一閃はとても美しく、しかし冷酷非情なものだった。

ドールズ達を無慈悲に撃墜させていく。

 

「これで……バッドエンドだ!!」

 

そして、エルミルがトドメを差す。

周囲のエーテルを吸収、圧縮したエネルギー球はエルミルの一声によって大爆発を起こし、周辺のドールズを一瞬にして消し炭にした。

 

 

 

 

 

静寂が漂う大自然の中、空洞になった頭部と腕のない肢体に、二対の翼のような物を持った存在が威風堂々と佇んでいた。

 

「……まだ来るようですね」

 

異形の存在、原初の闇ソダムに変身したエスカファルス・ハリエットは、減りゆく敵の数を確認しながら呟いた。

 

「……」

 

地面には自身の巨大な腕を突き刺し、ドールズを拘束する木の根が張り巡らされていた。

ハリエットは深遠な力を呼び起こし、敵を討つべく、トドメの一撃を繰り出す。

 

「深遠の力を……今こそ!!」

 

一体一体の足元から、鋭利な根を突起させ、その根を一本ずつ串に刺し、ドールズを倒していく。

ハリエットの動きは、非常に優雅で、しかし同時に凄まじい力を示していた。

敵を倒すために彼女は、自分の身体を使い、大地を使い、自然を使い、全身全霊を注いでいた。

その姿は、まさに森の神そのものであり、ドールズたちはその神の前に、ただただ無力であった。

 

 

 

 

 

 

完全体になっているエスカファルス・ダブルとエスカファルス・アプレンティスが、ネクス・エアリアルとレヌス・リテシナの戦域統制型ドールズと激しい戦闘を繰り広げていた。

しかし、戦況は一方的であり、ドールズ側は完全に劣勢に立たされていた。

その力の前に、かつての強さが嘘のように弱くなってしまった。

エスカファルス・ダブルとエスカファルス・アプレンティスは、自信に満ちた笑みを浮かべなら高らかに笑い声をあげた。

 

「「ふふ、ふふふ、あははははは!」」

「相手が悪かったね!」

 

エスカファルスの力は絶大だ。

戦闘の中でも余裕を保ち、敵を挑発するかのように笑いを放った。

それを見て、ドールズ側は焦りを募らせていた。

エスカファルス・ダブルとエスカファルス・アプレンティスは、その笑い声を止めることはなかった。むしろ、ますます高まる興奮の中で、二人は最後の一撃を放とうとしていたのだ。

 

「「よし、行くよーーーーー!!!」」

 

二人が一斉に声を上げると、周囲の空気が一瞬にして変わった。そして、エスカファルスたちの前に立ちはだかるドールズたちは、その瞬間、敗北を悟った。

 

「さぁ、これで終わりだ!!」

 

彼女が放った言葉は、まるで宣告のように響いた。そして、その後に続く一撃は、周囲の空気を引き裂くような強烈なものだった。

 

 

 

「くらえ、キャッスル・ファンネル!」

 

ダブルは、6本の脚をネクス・エアリアルをターゲットにして、オールレンジ攻撃を仕掛けた。

6本の脚がロケットのようにネクス・エアリアルに向かって飛び、脚の先端からビームを放った。

ネクス・エアリアルは翼を羽ばたかせ、空中をかすめて逃げたが、キャッスルファンネルは追尾し、逃がさなかった。

 

「引っかかった、引っかかった!」

 

ダブルは喜びを爆発させ、自身も空中に飛び上がった。

そして、宙にいるネクス・エアリアルを狙い定め、飛ばした6本の脚を自分の周辺に戻して、前方に展開した。

その姿は、採掘基地防衛戦VRやネッシーからの挑戦状に出てくるゼータグランゾの拠点破壊ビームのような構えをしていた。

 

「トドメーーー! せかいさいきょうベリースーパーハイパーウルトラアルティメットエクストリームデラックスマックスエックスゼットゴッドホルアクティヌメロニアスヌメロニアドルマゲドンドキンダムゼーロンアルセウスレベル100ムテキ・キャッスルシルヴァニアファミビーーーーーム!!!」

 

ダブルから放たれた特大のビームが空中にいたネクス・エアリアルを覆い、跡形もなく消し炭にした。

 

一方、アプレンティスはと言うと……。

 

「そんな攻撃が当たるわけが無いよ!」

 

レヌス・リテシナの弾幕攻撃を掻い潜りながら、片方の眼を輝かせる。

 

 

─邪眼・死裂─

 

 

軽微な損傷がチラホラみられたレヌスの胴体が急に連鎖爆発を巻き起こし、レヌスは一瞬にして機能を停止。

その後、爆発消滅した。

 

 

 

 

東京の大図書館において、ニルス・ステラとエスカファルス・ルーサーの戦いは、まさに決着を迎えようとしていた。

しかし、この戦いにおいてニルス・ステラが敗北者になることは火を見るより明らかだった。

時間を操る存在にどうやって勝てるのだろうか?

完全体となったエスカファルス・ルーサーは、地に伏せているニルス・ステラを見下ろした。

 

時間を操作できる+空を飛べる+ダークファルス。そんな存在をニルス・ステラが倒せる訳がない。

周辺にはドッツと思われる残骸が散らばっており、ニルス本体もかなりの損傷を受けていた。

 

「無駄だと言っているのだが、なぜ向かってくるのか……」

 

心底呆れ果てた様子のルーサーが零した。

それを見たニルス・ステラは、ルーサーに狙いをつけ、口から幅広V型の弾を撃った。

 

「諦めることを勧めるよ」

 

ルーサーは迫るV型の弾を手で弾いた。

ニルス・ステラは、頭上にエネルギーをチャージし、ルーサーに狙いを定めてレーザー照射を放った。

 

「……僕は忠告したよ」

 

左手を掲げ、パチンと指を鳴らす。

その瞬間、この世界がモノクロになり、万物の動きが停止する。

 

「今こそ掴もうか。勝利を!」

 

無数の剣が生成され、ニルス・ステラへと飛んでいく。

 

「終わりだ。安らかに眠るといい」

 

ルーサーの言葉に呼応するように、止まった時間が動き出し、展開された剣がニルス・ステラの全身に突き刺さる。

レーザーを照射してる最中にルーサーの攻撃を受けた為、レーザーが暴発。

ニルス・ステラの顔を吹き飛ばし、爆発を起こすことなくグッタリと機能を完全に停止させた。

周辺に敵影なし。

それを確認したルーサーはゆっくりとニルス・ステラに近づき、声を漏らした。

 

「データだけでも取っておこう。何かの役にたつかもしれない」

 

 

 

 

 

最後の決戦が繰り広げられる中、芽流本シーナとディアはエスカアームの力で守られながら、エルダーとアムス・クヴェスが激しく交戦している光景を目の当たりにして、息を飲んで見守っていた。

 

その戦いは、同じ骨格同士の戦いであり、中々に熱い戦いだった。

エルダーは激しくアムス・クヴェスに攻撃を仕掛け、アムス・クヴェスもそれに応戦する。

 

「うおおおおおおおおお!!!」とエルダーが叫び、2人の拳がぶつかり合った。

そのぶつかった際に生まれた衝撃波でアムス・クヴェスが生成したアムス・クローネを薙ぎ払いながら、エルダーはアムス・クヴェスを吹き飛ばした。

しかし、アムス・クヴェスも直ぐ様態勢を立て直して、掌から気弾を連射する。

エルダーは自身の持っているエルダーペイン・エスカから青いオーラを放ちながら、乱暴に叩きつけて、アムスが放った気弾を全てぶった斬った。

 

「おらああああああああ!!!」

 

エルダーは雄叫びをあげながら高々と跳躍し、アムス・クヴェスめがけて急降下キックを放った。

しかし、アムス・クヴェスは天を仰ぐような動きをした後、テレポートしてエルダーの飛び蹴りを回避。

さらにテレポートによる出現後にエルダーに向けて巨大なビームを発射する。

 

「んなビームが何だってんだ!!! 突っ切ってやるよ!!!!!」

 

エルダーは青いオーラを全身に纏わせ、アムス・クヴェスへと猛ダッシュする。

奴が放ったビームも青いオーラによって弾かれてしまい、徐々に距離が縮んでいく。

だが、アムス・クヴェスは攻撃を受けまいと、再びテレポートして距離を置いた。

ギルティブレイクのような攻撃を避けられたエルダーは息を吐きながら、アムス・クヴェスを睨みつけた。

 

「ちょこまかと……!!!」

 

エルダーは拳に力を込め、ビームを吹き飛ばした。そして、両拳を振り上げ、眷属たちに命じた。「2人を確り守れよ!!!」と。

 

 

─ビッグインパクト─

 

 

その言葉と共に、エルダーは地面を思いっきり殴りつけ、渦状のショックウェーブを発生させた。

さらに大きく跳躍し、渾身の床パンチで広範囲の衝撃波を放った。

 

「………………………」

 

しかし、アムス・クヴェスはテレポートでショックウェーブを掻い潜り、全てを回避した。

テレポートが終わり、姿を現した瞬間、エルダーは3本の内の1本を抜刀した。

この時を待っていたと言わんばかりに。

 

「耐えてみろよ、破滅の一撃をぉぉおおおおおお!!!!!!」

 

 

─圧縮剣気─

 

 

エルダーは全身の気を刀に送り込み、地面に刀を突きたて気を解放した。

その解放した気は地盤を吹き飛ばす程の勢いの衝撃波を生み出した。

 

爆発的な気を解放すると、アムス・クヴェスは宙を舞った。

 

「これで終わりだ。落ちろおおおおおおおお!!!!!」

 

エルダーは力を込めて空を飛び、地面を砕くほどの力で待ち構えていたアムス・クヴェスの腹部にある黄色いコアに、渾身の一撃を浴びせた。

 

 

─アルティメット・インパクト─

 

 

その一撃は腹部にクリーンヒットし、アムス・クヴェスの黄色いコアが砕け散り、地面に叩きつけられた。

彼は少しの間、プルプルと痙攣し、エルダーは奴にトドメを刺そうとした。

 

「俺は負けねえぞ!! この後、シーナと添い遂げるうううううううう!!!!!」

 

 

─タイラントストライク─

 

 

エルダーは高高度から繰り出されたライダーキックを放ち、アムス・クヴェスの全身にエルダーの全てがのしかかった。

彼はもはや死に体当然であり、その瞬間、アムス・クヴェスは地面に倒れたまま爆発四散する。

命令を受けるだけの空っぽの存在程度が、守るべき者と帰るべき場所を手に入れたエスカファルス(ダークファルス)に勝てる訳がないのだ。

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

一方、月面では……。

 

 

 

「……終わったようだな」

 

完全消滅したドールとイージスを見た深遠なる闇(わたし)……いや、私は目を瞑ってコアとなった友人の死を弔った。

 

「裕樹……安らかに……」

 

私が静かに呟いた時……。

 

「さようなら……あなた方も、野望も、おしまいね」。

 

ペルソナの声は、もう1つの位相空間から聞こえてきた。

その瞬間、空間が爆発し、崩壊した。

彼女の間の抜けた声も聞こえてくる。

 

「やったーーー!!おわったーーー!!」

 

位相空間が崩壊する中、ダルクファキス・クサナギとシャルウルは、深遠なる闇ゾディアークの闇によって体がバラバラに崩壊していくのが見えた。

2体のダルクファキスが生物のように苦しみもがきながら、全身が闇によって崩壊していく様は、結構おぞましい光景だった。

私は、嫌悪感を抱かずにはいられなかった。

なんか……テスリーンを思い出したわ……。

 

「ふぅ……絶妙に強かった……。」

 

ペルソナは、溜め息を吐いた。

そして、深遠なる闇ゾディアークの姿で女の子らしい仕草の背伸びをする。「んーーーーー」と唸りながら、空間を見上げた。

 

「おー、龍照の方も終わってたんだねー!」

 

ペルソナは、私の姿を確認すると笑顔で手を振った。

 

「ああ、まぁなんとかなー。位相空間内の最後の攻撃がやばかったけど」と私は肩を下ろしながら答えた。

 

「待て待て何があったの?」

 

私の様子を見たペルソナは興味津々の表情で聞いた。

 

「あー後で言う。ただあの時、私の意識を深遠なる闇に丸投げしてなかったら精神崩壊してたと思うわ」

「おほー、深遠なる闇様々だねー」

 

ケタケタと笑うペルソナ。

そんな話をしている中で、マザーが母みたいな心配した表情で駆け寄ってきた。『2人とも大丈夫か!?。』と彼女は心配そうに聞いた。

 

私たちはマザーの方を見て「「大丈夫大丈夫! 深遠なる闇舐めたらアカンで!!」」と笑顔で返した。

その言葉を聞いたマザーは、膝から崩れ落ちるようにして座り込んだ。

 

「申し訳ない。私が弱いゆえに……皆に負担をかけてしまったことを。本当に、心から謝罪する……」

 

震えるような声で、謝罪の言葉を繰り返すマザーに、私は静かに言葉を送ろうとした。

その瞬間……。

 

「っ!?」

 

背後から形容し難いものがじわじわと迫ってくる気配を感じた。

 

私は身を震わせ、反射的に後ろを振り返る。しかし、そこには何もなかった。ただ、不気味な沈黙と圧迫感が私を包み込んでいた。

 

「どした?」

『?。』

 

私の行動に不審に思ったのか、不思議そうな表情で訊ねる2人。

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

太陽系の外に存在する巨大な天体要塞、マザーシップ・ドール。

その壮大な姿勢は、太陽系内のどんな惑星や衛星とも比較にならないものだ。

そんな要塞内の中枢に特定のコードが送られた。

目の前に広がるコードを見たマノンは、驚きを隠せず、その表情は驚嘆に満ちていた。

 

「これは……!」

 

ディスプレイに映るコード。

それには……。

 

 

─EMERGENCY CODE 〔ELIMINATION〕─

 

 

と書かれていた。

〔ELIMINATION〕、除去を意味するコードだ。

なぜ、これが送られてきたのか……。

それはドールが地球に攻撃を開始する前に遡る。

 

『じゃあ、僕は行くよ。留守番は任せた』

「主様、ご武運を」

『大丈夫、僕は必ず帰ってくるさ』

 

ドールは自信に満ちた口調で言い、ハッチを一気に閉めようとしたが、何かを思い出したのか、閉まるハッチを止めてマノンに伝えた。

 

『もしこのコードが届いたら、迷いなくフォトンブラスターを地球に向けて撃ってくれ』

 

と。

そこに記されたコードこそが〔ELIMINATION〕だ。

マノンには詳細は伝えていないが、イージスが爆散した瞬時に送られるコードである。

つまり僕が死んだ時、地球を道連れにしろという事だ。

 

「まさか……!?」

 

マノンは冷や汗を流した。

詳細を知らされていなかったが、不吉な予感が彼女を襲った。

急いでモニターを確認すると、そこには「DALK

FAKIS-AEGIS ─LOST─」と表示されていた。

 

「主様、応答ください!主様!!」

 

マノンは必死にドールに応答を要請するが、スピーカーから聞こえるのは煩いノイズだけだった。

彼女は呆然と立ち尽くした。

 

「くっ……!!」

 

主であるドールの死を確信したマノンは、湧き上がる怒りを抑え、腕に力を込めてコードを入力した。

すると、巨大なマザーシップから放たれる特大のフォトンブラスターが発動する。

 

「フォトンブラスター発射っっ!!!」

 

その瞬間、周囲の空気が熱くなり、マノンは強い圧力に耐えながら、激しいエネルギーの放たれる光景を目の当たりにした。

フォトンブラスターが地球に向けて放たれる光は、まるで太陽のように輝き、周囲を照らし出す。

悪魔のような光は多数の小惑星を呑み込みながら、地球へと向かっていく。

しかし、月にいた彼らは、地球を飲み込もうとする悪魔の光を察知した。

 

 

 

 

「どした?」

『?。』

 

私の行動に不審に思ったのか、不思議そうな表情で訊ねる2人。

 

 

「なんか……え……?」

 

私は広大な宇宙空間を見渡すと、一際光り輝く物が目に入った。

それが惑星クラスの超巨大なレーザーであることを理解するよりも先に、私は自分でも信じられない速度でエスカファルス・メアリースーに変身した。

 

「なんか来てる!!!!!」

 

私は大声でマザーとペルソナに叫びながら、生命の完全掌握を使用した。

守るべき対象は……

 

月と月に存在する全ての概念と生命。

地球と地球に存在する全ての概念。

ドールズとSEEDを除いた地球に存在する全ての生命。

 

これらが受ける痛みや外的損傷、あらゆるものを深遠なる闇(わたし)が身代わりとなって受け止めることを決意した。

そして、私は大の字になってバリアを展開した。

 

 

─『……これで終わりだと思うなよ……!!』─

 

ドールの最後の言葉を理解した私は、死んだドールに言い放つ。

 

 

地球1つ守れん奴が、他の世界を守れる訳がない。

深遠なる闇に侵された厄介なオタクの意地……見せてやる!!

酔狂な夢を抱いたオタクが深遠なる闇に成ったらどうなるかを……!!!

 

ペルソナとマザーも、異変に気づいたが少し遅かった。

マザーシップ・ドールから放たれたフォトンブラスターは龍照が展開したバリアを一瞬にして砕き、月と地球を呑み込んだ。

 

 

「っ!?」

 

深遠なる闇(わたし)の全身に恐ろしい程の痛みが襲ってくる。

今までに感じたことの無い痛み。

地球と地球にある全ての存在・生命。

月と月にある全ての存在・生命。

それが受ける痛みを全て、深遠なる闇(わたし)が身代わりとなって受けているのだ。

溶けては再生、溶けては再生という無限ループを繰り返す身体、深遠なる闇(わたし)は声にならない絶叫をあげた。

 

 

 

それが5分ほど経過した時、マザーシップ・ドールで異常事態が発生した。

 

 

 

突如、ブリッジ内に警報が響き渡った。マノンは素早く確認すると、そこにはエラーコード630が表示されていた。

見たこともないエラーコードに、マノンは混乱し、何が起きているのかを理解できなかった。

 

しかし、そのエラーコードには単純な原因があった。ドールが作ったこのフォトンブラスターには致命的な欠点があり、3分以上撃ち続けるとフォトン供給が間に合わなくなり全電力が停止してしまうのだ。

しかし、マノンはそのことを知らされていなかった。

 

「何がっ!?」

 

さらにマノンを混乱させる事態が起こる。

突如、マザーシップ・ドールを覆わんとするワームホールが発生し、彼女の断末魔と共にマザーシップが呑み込まれた。

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……守った……ぞ……」

 

フォトンブラスターが終わった時、深遠なる闇(わたし)は得意げな笑みを必死に作った。

その直後、深遠なる闇(わたし)の意識は消え去り、月面に倒れた。

 

 

 

 

続く



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52話 りなく無は日明るえ消、平穏が何事もなく

 

 

 

 

「……?」

 

私は意識が朦朧としたまま、ゆっくりとベッドから起き上がった。頭痛と共に、奇妙な気持ち悪さが眼から顔に広がっていた。

 

「あぁ、頭が痛い……」

 

口元から漏れる言葉は、弱々しいものだった。

眼を細めながら、私は周囲を確認した。

白い壁、薄い桃色のカーテン、そして訳の分からない機材たち。

どうやら、病院の個室にいるようだった。

 

「……何があった?」

 

頭の中で、思考が混沌と交錯する。

自分がどういう状況にいるのか、全く理解できなかった。

 

「んあ゛あ゛ぁぁぁ……」

 

私は汚いため息を吐いて、力なく体を起こした。

しかし、頭痛と気持ち悪さは強く、立ちくらみがして、再びベッドに倒れ込んでしまった。

 

あの時、突然巨大なレーザーが宇宙から飛んできて、私はそれを身を挺して受け止めた。

……そっからの記憶が曖昧だ。

 

「やぁべえ、そこからの記憶が無い……」

 

頭を抱えたが、ここが病室であることを踏まえると、地球は無事だと言うことは確かだ。

ひとまず安心する私。

心が安らいだためか、奇妙な緊張が解けた私は、別の思考が頭をよぎり始めた。

 

「あれ、今、何時や?」

 

不快感が目に染みる中、私は周囲をキョロキョロと病室を見回した。

 

「2時か……」

 

壁に掛けられた時計を確認すると、針は2時を指していた。

 

「午前か、午後か?」

 

必死に身体を起こして、窓から外を覗き込んだ。私の目に映るのは、青い空に白い雲が一面に広がっていた。

 

「昼の2時か……」

 

そう呟いた後、再びベッドに寝転がって、再度襲ってくる不快感に苛まれた。

そんな事をしていると、ガラッと病室の扉が開き、1人の少女が入ってきた。

 

「……?」

 

ゆっくりと扉を開け、茶色いロングヘアーをたなびかせた可憐な女性が現れた。

その瞬間、私に向けられた驚愕の視線は、まるで私が怪物であるかのように感じた。

 

「えっ!?」

 

彼女の口から漏れた一言に対して、私は「ペルソナおはよう」と返した。

 

「龍照が目覚めた! 良かった!良かったああああああ!!」

 

もう一人の私、エスカファルス・ペルソナは、涙を浮かべてベッドから身を起こしていた私に駆け寄ってきた。

彼女の声は、病院だと言うにも関わらず面白いぐらい大きく、目覚めたばかりの私の鼓膜を大いに響かせた。

 

「うおっ、どうしたどうした!?」

 

私が驚いた声を上げるが、彼女は「良かった、良かったよぉ……」と涙声で答えるばかりで何が起こったのか分からなかった。

だが、彼女の様子に、私は仲間が全員死んだのでは?

と嫌な予感が頭に浮かび上がり、変な汗が吹き出た。

ひとしきり泣きわめいた彼女は、涙目で鼻をすするように答えた。

 

「ごめん、今から他のエスカファルス達も呼んでくるね!」

 

そう言って小走りで病室から出ていった。

ペルソナの言葉を聞いて、私は、仲間たちが生きていることに胸をなで下ろした。

一方で、彼女が泣き崩れた様子には、何か深刻な出来事があったのだろうと感じた。

とりあえず、嫌な予感しかしなかったが、彼女が戻ってくるまで私は静かに待つことにした。

 

私はベッドに仰向けになり、エスカファルス達がやって来るのを待っていた。

足音が聞こえ、彼らが一人一人入ってくるのがわかりました。皆、元気そうで何よりだ。

 

「大丈夫か?」

 

エルダーが私に声をかけてきた。

彼の大きな声が私の頭に響き渡り、頭痛が激しくなった。

 

「あーうん、みんなおはよう」

 

私は頭を抑えながら、エスカファルス達や大原、藤野に微笑んだ。

そんな中、ルーサーが真剣な表情で私を見つめ、訊ねてきた。

 

「身体の方は大丈夫か?」

 

私は頭痛がすることを伝えましたが、概ね大丈夫だと答えた。

 

「それより、何が起きたの?」

 

私は皆に質問をしました。

これ以上、黙っていると質問攻めに合いそうだからと感じたからだ。

すると、ペルソナがあの後に何が起きたか、私に話をしてくれた。

 

あの時、宇宙から飛来した特大なレーザーを龍照が全てを身代わりにしてくれた事で、ドールズとSEED以外の全ての物質や元素が守られた。

地球にいた仲間の言う事には、「視界が真っ白になって、何が起こっているのか分からなかった」らしい。

月にいたペルソナとマザーも「攻撃されているのは分かったけど、何も出来なかった」とのこと。

だが、あの時の特大レーザーによって、地球にいたドールズとSEEDは完全に消滅した。

特大レーザーが止んで、龍照が倒れたのを見たマザーは直ぐに応急処置を行った。

その間に、深遠なる闇(ダークファルス・ペルソナ)を顕現させたペルソナが時間遡行を地球に対して行った事で、ドールが地球にやってくる前の状態へと時間を巻き戻した。

その事で、この悲劇によって死傷した人々や崩れ去った平穏が元に戻った。

あのドールズとSEEDの事件は、我々マザークラスタ一メンバーのみが知る歴史となった。

 

「そんなことがあったんか」

 

驚きを隠せない私に、ペルソナが深刻な表情で答える。

 

「うん、大変だったよ。龍照も全く目が覚めなかったし……」

 

ペルソナの言葉を聞いて、私は恐る恐る訊ねた。

 

「え、待って。私、どれくらい寝てたん?」

 

私の質問にペルソナは重たい口調で返答した。

 

「約3ヶ月」

「はっ!? 3ヶ月!?」

 

私は驚愕の声を上げた。

それによって再び頭痛が襲った。

頭を抑えながら話す。

 

「そんなに寝てたんか!?」

「うん、そのまま目が覚めないんじゃないかって、本当に心配したよ……」

 

ペルソナの言葉に、私は改めて自分がどれだけ危ない状況にいたのかを思い知った。

 

「ほぼ植物状態に近い状態だ。ってオフィエルさんが言ってたよ」と、アプレンティスが告げると、私の血の気が引いた。

植物状態に陥るなんて、全く予想だにしていなかったのだ。

しかし、疑問が湧き上がってきた。

 

「ちょい待ち、私、深遠なる闇に成ったから、不死身になったんじゃないの? それで植物状態に陥るって、あり得るの?」

 

ペルソナは少し気まずそうな表情を浮かべ、私はまた嫌な予感がしてきた。

 

「その事だけど、マザーから直接話を聞いた方があいよ」

 

と、ペルソナが提案した。

それに私は深くうなずくしかなかった。

 

「私とエルミルで、マザーを呼んできますね」

「センパイお大事にね!」

 

ハリエットはそう言って、エルミルと一緒に走ってマザーの元へと向かった。

私はベッドに横たわって、周りの人たちが見守る中、自分の身体に何が起きているのか考え込んでいた。

 

しばらくして、マザーが走ってやってきた。

 

『小野寺龍照、大丈夫だったか!?。』

 

彼女は心配そうに尋ねた。

 

「ええ、先程目覚めたところです。体調の方は度々頭痛がしますが、特に問題はないかと……」

 

私は彼女に答えた。

それを聞いた彼女は膝から崩れ落ちるように座り込み、私の前に謝罪を繰り返した。

 

「いえいえ、お気になさらずに。皆さんが無事だったのが何よりですよ」

 

私は彼女に対して笑顔で応じた。

 

「ところで、私の身体に何が起きているのか教えて欲しいのですが……」

 

私は彼女に訊ねた。

 

『分かった。』

 

彼女は深く深呼吸をして、私を見つめた。

彼女の表情は深刻で、私は彼女の言葉に耳を傾ける準備をした。

 

『君が気絶している時に検査をしたが、後遺症が非常に酷い。まず不死身ではなくなった。』

 

その言葉に私は眉を顰めて「えっ?」と言葉を漏らした。

 

『君は深遠なる闇に成っているが、あの時の身代わりが効いたようだ。深遠なる闇の能力がかなり低下している。』

「えーと、具体的に言うとどんなことに?」

『まず、君の能力"生命の完全掌握"だが、後遺症によって3分程度しか他の存在を身代わりに出来なくなった。』

 

マザーの衝撃発言に、私は開いた口が塞がらなくなった。

 

「え、3分間しか能力を使えないって事ですか?」

『……』

 

私の言葉にコクリと頷くマザーに、私は呆気に取られてしまい、消え入るようなか細い声で「うそやろ?」と言った。

 

『それと、能力を使用してから1時間程は使用できない。』

「リキャスト1時間かぁ……」

 

私は頭を抱えながら項垂れる。

あー、頭痛がしてきた。

リキャスト1時間は長いわ……。

 

「先程不死身ではなくなったって事ですけど、普通に死ぬんですか?」

 

そう言うと、一瞬考える素振りをしてから私の目を見て話をし始める。

 

『正確に言うと、小野寺龍照が第三者等の攻撃で死亡した時、君の肉体は霧散する。そして、長い時間を掛けて因子が集まり、形を成して蘇る。』

「えーと、その復活するまでに有する時間はどれくらいですか?」

『約1000年。』

「は!?」

 

気が遠くなる月日に私は呆然とする他無かった。

1000年って長いとかの問題じゃないぞ……。

 

「なるほど……確かに後遺症が酷いですね……」

『ただ、再生力もかなり低下しているが、これは最たる問題ではないな。』

「そうですか。ん? 不死身ではなくなった訳ですよね?」

『そうだ。』

「以前、私は不老になっていると聞きましたけど、まさか不老でも無くなったわけですか?」

 

私は恐る恐るマザーに訊ねた。

しかし、彼女から出た言葉は意外なものだった。

 

『いや、不老の部分は消えていない。その若さを永遠に保ったまま永劫を過ごすことになる。』

 

と言った。

そこは変わらないのか。

 

「しかしまぁ、とんでもない弱体化がされたもんだね」

 

マザーの話を訊いて項垂れる私を見たキイナが呑気にそういった。

 

「ホントだよ……。実装(なって)早々弱体化って、デウスエスカ・ゼフィロスじゃないんやから……」

 

私は乾いた笑いをあげながら凹んだ。

参ったなぁ……。

 

『本当に申し訳ない。私が弱いせいで君に負担をかけ過ぎた……』

「マザーが気にすることないですよ。まぁ、弱体化されても、また一から鍛えれば良いだけですからね」

 

再び謝罪するマザーをなだめていると、何かを思い出したようにキイナが口を開いた。

 

「あ、そうそう。言い忘れてたけど、マザークラスタ極東支部が移転するんだって」

「えっ? マジ?」

 

キイナの言葉に私は驚きを隠せなかった。

今日は驚きの連続だ。

 

「そうそう。和歌山県の離島に新しく建設されるんだって。それに伴って新宮から新しい路線も開通するって話だよ」

「おー、それは楽しみやな」

 

子供のようなワクワクした表情を浮かべていると、大原とキイナがニヤリと微笑み、私に質問を投げかけた。

 

「ちなみに、新しい支部長は誰だと思う?」

「にゃー、あれはビックリしたのぉ」

 

2人の反応に、私は首を傾げながら考える。

しばらく考えた結果、私が出した答えは……。

 

「私?」

 

地味なナルシスト的回答に、マザー以外の全員がズッコケて、マザーは『おもしろいジョークだな。』と小さく笑っていた。

 

「違うよ!」

 

すかさずキイナがツッコミを入れる。

私は笑いながら謝った。

 

「ごめんごめん。でも、マジで分からん。誰?」

 

私は降参して、大原とキイナに答えを促した。

すると、キイナは支部長の名前を言った。

 

「亜贄萩斗支部長だよ!」

 

 

 

 

 

続く

 

 



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53話 約束の日

これから数十万年以上も苦楽を共にする予定の仲間たちと共に暮らせば、誰だって変われる。




 

 

 

 

 

 

 

「えっ!?」と私は驚きを隠せなかった。亜贄萩斗が支部長になるとは、想像だにしていなかったからだ。

正直、今日一の驚きかもしれない。

 

「俺も藤野から聞いた時は、似たような反応したぞ」と大原は笑いながら言った。

 

「いや、これはビックリするわ。亜贄萩斗が支部長になるの?」

 

私の確認する言葉に、「うん」と二人が頷いた。

亜贄萩斗が支部長か……。

かなり歴史が変わってきてるな。

いや、もうフォトナーが現れた時点でお察しではあるが……。

 

「まぁ、とりあえず現状は把握できた」

 

私はその言葉を口にしながら、再びベッドに寝そべった。

大原や藤野は安堵の表情を浮かべ、病室を出て行った。

「ちょっと極東支部に用があるから行ってくるね」と言っていた。

2人が部屋を出て行った後、他のエスカファルス達も続々と席を立ち、私を含めたペルソナとマザーだけが残った。

しばらくの間、静寂が続いた。

この病室に広がる空気が、なんとも言えない不思議な空気が漂っていた。

 

「あの時……」と口を開き、一瞬の間を置いてから再び口を開いた。

 

「私は、深遠なる闇に堕ちた。以前にマザーが言ってましたよね? 深遠なる闇になった場合、人格は多少なり変わるものだと」

 

チラッとマザーの方を見る。

彼女は何も言わずにこくりと頷き肯定した。

それを見た私は話を再開する。

 

「実際に、成った時に人格が変わっていくのが分かりましたよ。正直、かなり不気味でした。あれ? 私ってこんな考えをしたっけ? って」

 

私は苦笑いをしつつ、話を続けた。

 

「凄かったですよ。救いたいって想いが身体の底から湧き上がる感覚。事細かに説明しろと言われたら無理ですけど。救いたいと想えば想う程、全身から途方もないエネルギーが湧き上がってくるんですよ」

 

私がそう言い終わると、マザーは少しだけ考えた後、口を開いた。

 

『それは正に"チカラ"なのだろう。』

「チカラ?」

『そうだ。エーテルは、想いが力になるもの。つまり、小野寺龍照の"救いたい"想いが、君の身体にあるエーテルに反応して力を生み出していたのだろう。』

「……なるほど。しかし、不思議ですね。深遠なる闇は、"絶対殲滅の意志"や"万物の生成に対するアンチテーゼ"と謳われた存在なのに、私が成った深遠なる闇は、全ての人々を救いたいという想いが湧き上がりましたよ。それに反比例するかのように、ブレインフレーヤーやBETA、荒神などの人々に破滅をもたらす存在に恐ろしい程の殺意を抱きました」

 

私は全くの逆となった性格の深遠なる闇に苦笑した。

最早それは深遠なる闇ではなく、大いなる光ではないか。

アークスが聞いたら、さぞかし驚くだろうな。

ハッピーエンドを心から望み、バッドエンドを完全否定する深遠なる闇……誠におかしい深遠なる闇である。

 

『これは私の考えになる。』

 

私の話に、少し考える素振りをしたマザーが、前置きをしてから話を始めた。

 

『ダークファルス特有の、感情の影響が強く出たのだろう。救いたい、平和や希望を齎したい、そんな想いによって、人格が変化したと考えられる。そして、深遠なる闇の破壊衝動は、その人類に仇なす全ての存在にのみ向けられた。私はそうではないかと考えた。』

「……」

『実際に、君の能力が全てを物語っていると考えられる。生命の完全掌握(あれ)こそ正に、君という存在を体現した能力ではないか?。』

 

マザーのぐうの音も出ない解説に、私は頷くしかなかった。

 

『ただ……。』

「ただ?」

『君の感じを見るに、その人格は完全形態時のみ現れるのではないか?。』

「え、そうなの?」

 

マザーの解説に、ペルソナがキョトンとした表情でこちらを見た。

私は迷うことなく頷いた。

 

「ああ。ヒューナル形態の時は、今の私と大して変わらない。いや訂正、少しは出てるかもしれん。ただ、完全体の時はヤバい。」

「え、そんなに?」

 

椅子に座っていたペルソナが身を乗り出して、興味深々に聞いてくる。

 

「ああ。何かもう、人類を滅ぼそうとする存在全てに殺意と破壊を向けてた気がする。あと若干、覚えてない所があるのも怖い」

「何それ怖……」

 

私の話に少しだけ引き気味になるペルソナ。

まぁ無理もない。

正直、私も少し引いたし。

全身から溢れんばかりに湧き上がる人類を救いたい欲……。

私の大好きなキャラクター達を、この手で守りたいと願う庇護欲……。

そして、それらを仇なす存在に対する絶対的殲滅の衝動……。

ただ正直、安心をしたところはある。

深遠なる闇は元々、破壊衝動のみの存在だ。

顕現すれば、その宇宙のみならず全ての次元、全ての世界の宇宙をも飲み込み破壊するという全王や破壊神様もドン引きレベルの危険どころの騒ぎでは無い存在だ。

 

私が深遠なる闇になった時、破壊意志のみの存在になるのではないか?

そう思ったのも間違いでは無い。

ただ、蓋を開けてみればそのような事は一切としてなく、救いを心から願うある意味で優しい(のか?)深遠なる闇だった。

破壊衝動も、その救いたい存在に危害を加えようとする存在にのみ限定されている。

深遠なる闇の中では、かなりマトモな部類に入る存在になっている。

故に私は少しだけ安心したのだ。

あぁ……まだ良かったわ。とね。

だが、それでも完全体になるのは、少し戸惑ってしまう。

私自身が深遠なる闇になっているので、杞憂だと思うが、長時間完全体で居続けると本当にその人格になるのでは?

と思ってしまう。

そこから考えた私の結論は……。

 

「完全体になるのは、程々にしようと考えてます」

「それがいいと思うけど、ちょっと勿体ないね」

「そうやが、あれは無闇矢鱈に使うもんじゃないで、マジで」

「じゃあ、どういう時に使うの?」

「……ブレインフレーヤーと戦う時、テウタレスと戦う時、特務機関Gと戦う時、好きな対魔忍達がピンチ(全ての意味で)の時……」

「全部対魔忍関連じゃん!」

「ええやん!」

 

ペルソナの見事なツッコミに私と彼女は爆笑し、病室内に2人の笑い声が広がった。

 

『完全体になるかならないかは、全て君に任せよう。私がとやかく言うものでは無い。君の好きにするといい』

「ありがとうございます」

「それじゃあ、私はこれで帰るねー」

 

ヨイショっと、彼女はその言葉を口に出して病室に出ようとした時、何かを思い出したかのように「あっ」と言って足を止めた。

 

「いま思ったけど、龍照(わたし)のヒューナル形態ってなんて名前なの?」

「んー? あー、ファルス・タイマニンやで」

 

私のヒューナル形態の名を聞いたペルソナは少しだけ笑い、「何となく想像ついてた」と言った。

 

「エスカ・タイマニンとでも思ったか?」

 

私はニヤと笑みを浮かべて茶化すように言うと、彼女は「タイマニン・ヒューナルって想像してた」と言いながら、病室を出た。

 

「それも案にはあったよ」

 

私は吹き出しながらペルソナに言ったが、それが聞こえていたかは定かでは無い。

 

『では、私も失礼しよう。』

「そうですか。今日は色々とありがとうございます」

『気にするな。一日でも早い回復を祈っている。』

「弱体化を食らっても、私は深遠なる闇。この程度直ぐに治癒してやりますよ」

『頼もしい限りだ。』

 

私が笑顔で言うと、マザーは少しだけ微笑んで、病室を出た。

 

「……」

 

再び1人になり、真っ白な天井を見つめる。

さっきまで騒がしかった病室が今では嘘のように静寂に包まれ、時計の秒針が動く音が微かに聴こえてくるだけだ。

 

「……」

 

3ヶ月眠っていたのか……。

ドールがやってきたのが9月だから、いま12月。

もう1年が終わる時に目覚めたようだ。

タイミングがいいのか悪いのか分からないな。

 

「やべ……日にちを聞いてなかった……」

 

私はハッと思い出したようにベッドから起き上がってカレンダーがないか見渡すも、私の視界に収まる範囲では、カレンダーは見つからなかった。

 

「……むぅ」

 

マザーやペルソナに聞いときゃよかったな。

頭をポリポリと掻きながら心の中で呟いていると、1匹の龍が話しかけてきた。

 

[今日は12月26日だよ]

 

私の中にいる龍。

エスカ・ミラボレアスだ。

伝説の黒龍の異名を持つミラボレアスの幻創種。

目をつぶり、頭の中に意識を集中させる。

そして、蒼い海の中のような場所(ep5の安藤アパートの場所)に意識を移した。

ミラボレアスが顔を地に伏せて眠そうな感じを出していた。

 

[おはよう。久しぶり]

「おはよう? 3ヶ月ぶりになるんか?」

[そうだね]

 

そんな他愛もない会話をした時、私はふともう1匹の龍が居ないことに気がついた。

 

「あれ? ニーズヘッグは?」

 

私は、白いこの世界(安藤アパートのような場所)をキョロキョロと見渡した。

 

[……ん]

 

ミラボレアスは自身の尻尾を使い、尻尾(ゆび)差した。

彼女の尻尾(ゆび)差した先には、不貞腐れたように項垂れるニーズヘッグがいた。

ff14に登場する本物のニーズヘッグからは想像もつかない姿を見た私は訝しむ表情で、彼女の方を振り向いて耳打ちする。

 

「ヒソヒソ……(なぁ、なんであんな不貞腐れてるの?)」

[ヒソヒソ……(あー、ちょっとね……私が言った一言が余程堪えたみたい……)]

「ヒソヒソ……(待て待て、何言ったの? 煽り耐性∞はありそうなニーズヘッグが、ああも不貞腐れるって……どんな発言を?)」

[ヒソヒソ……(ごめん、それは今言えない。でも近いうちに話すね)]

「ヒソヒソ……(?? まぁ、わかった)」

 

何が起きたのかは分からないが、私はここで話をやめて、目を開いた。

 

「アイツは何を言ったんだ……?」

 

私は彼女が彼に言った一言が、頭の中で蠢いているが、近いうちに話してくれるなら別にいいかと思い、眠りへと着いた。

 

 

 

 

12月31日

 

 

無事に退院できた私は自宅へと一目散に帰り、仲間たちから祝福を受けた。

龍照とミラボレアス、ニーズヘッグ復活おめでとう!

と書かれたものを見た時は、何故か涙が出そうだった。

 

エスカファルス達、藤野、大原が笑顔で「おかえり!」と元気に言われ、私もまたそれに応えるように「ただいま!」と元気よく返事をした。

 

[ただいまーーー!]

[……ふん……]

 

みんなの声は、2匹にも届いていた。

エスカ・ミラボレアスは元気よく挨拶をして、エスカ・ニーズヘッグは相変わらずの態度だ。

 

その後は、みんなでワイワイ楽しみながらケーキや寿司を沢山食べてどんちゃん騒ぎ。

始めたのが大体10時ぐらいで、終わったのが10時。

結構楽しんだ。

私はみんなで年を越そうとしたのだが、「その前に君にはやることがあるんじゃないかい?」とルーサーに言われ、ハッと気づいた。

 

そうだ……。

エスカ・ミラボレアス、エスカ・ニーズヘッグとの約束の日……今日だ。

 

私は即座にポータルを使って月面へと向かい、復興具現中の月面基地とは反対の場所で、即席のシュレイド城と皇都イシュガルドを混ぜ合わせたような城を生み出し、その中で目を瞑って意識を頭の中に集中させる。

 

「……」

 

目を開けると、蒼い海の中のような場所に、エスカ・ミラボレアスとエスカ・ニーズヘッグが威風堂々とした立ち振る舞いでこちらをジッと見つめていた。

相手が相手なだけに普通の人ならば、直ぐにでも逃げ出したくなるような光景だが、私は臆することなく口を開いた。

 

「おまたせ」

 

と、いつも通りの気さくな感じで話しかけた。

すると、ミラボレアスもいつも通りの口調で返事をする。

 

[ぜーったい忘れてたでしょ?]

 

笑いの成分が含まれた彼女の声に、私も小さく笑い、「ここで嘘なんかついたってあれやろうから、全部正直に言うと、普通に忘れてた」と返した。

 

[そうだと思った]

 

ケタケタと笑う彼女。

この反応が少しだけ怖いな。

 

「まぁ、忘れてた事については申し訳ない。早速、話しをするか」

 

私は真剣な表情で2匹の龍を見つめた。

 

「もう、長々と話すのはあれだから、単刀直入に言うわ」

 

私は、そう言って一呼吸置いてから話しを続けた。

 

「人類を滅ぼすんか?」

 

ド直球の質問だ。

ミラボレアスも[かなりストレートだね]と苦笑いする。

 

「ウダウダ言うても仕方ないやろ?」

[だね。それだけどね……]

 

ミラボレアスは言いよどみながらチラッとニーズヘッグの方を見た。

 

[……]

 

それに対して、ニーズヘッグは視線だけをミラボレアスから逸らした。

 

「?」

 

私はキョトンとして、2匹の返事を待った?

ニーズヘッグが彼女から視線を逸らした事で、ため息をついてから、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

[……私は滅ぼすつもりはないよ]

 

彼女は言った。

驚きと安心感が一気に吹き出して、奇妙な感情に襲われた。

 

「マジ?」

 

恐る恐る彼女に訊ねると、彼女は[うん]と言って頷いた。

 

[何か、みんなの事を見てたら、もうバカバカしくなったのと、人類滅ぼしたら……板チョコアイスが食べれなくなる!]

 

真面目な邪眼で訴えるミラボレアス。

 

[板チョコアイスが食べれなくなるのは絶対に嫌だ。だから、私は人を滅ぼさないよ]

「そうか」

 

そう言い終えた私は、ニーズヘッグの方を見た。

 

「ニーズヘッグは? やはり、無理か?」

 

彼だけは、人に対する恨みのレベルが違いすぎる。

ff14の蒼天編を見た私からすれば、人に復讐するのも理解出来る。

 

[…………]

 

彼は無言で私を見つめていた。

この間が非常に怖いな。

そうしていると、ミラボレアスが[ぷふっ]と吹き出した。

 

「どうした?」

 

私が彼女に聞くと、ミラボレアスは笑いながら話をした。

 

[前にね。ニーズヘッグが不貞腐れてた時あったよね?]

「うん」

[あれ、何で不貞腐れたかって言うと、さっき龍照に言った事と同じことを言ったのよ。そうしたら、[お前だけは、分かってくれると思ったのに……]って言って不貞腐れちゃったの]

 

ケタケタと黒煙を口から吐きながら、彼女は笑った。

そんな事があったのかと、空いた口が塞がらなかった。

……まて、つまりニーズヘッグは……。

私は直ぐにニーズヘッグの方を向いた。

 

「やはり、お前の復讐心は消えないか?」

[例え、この感情が作り物だったとしても、我は……どうしてもそれを拭う事が出来ない……!!]

 

冷静に彼は言うが、その言葉一つ一つに力強い覇気が感じ取れた。

私は目をつぶり、「そうか」とだけ言った。

 

[ただ……]

 

だが、彼は話しを続けた。

 

[今日、仲間達の笑顔で迎えてくれた時……我は……]

「?」

[本物の我も……このような仲間がいれば、何か変わったのかとしれないと……思ってしまった……]

「……」

[もう少し、仲間と触れ合ってから、復讐をするか考えるのも、悪くないのかもしれないと]

 

彼の言葉に、私は「そうか。ありがとう」とニコッとして返した。

 

[それに、仮に復讐を決行しようとしても、今の私達じゃあ、ファレグ・アイヴズさんに勝てないだろうしねー!]

 

ミラボレアスの言葉に、私とニーズヘッグは「[そうだな]」と返事をした。

……ニーズヘッグは少しだけ笑っていたのは、気のせいだろう。

 

 

 

どうやら人類に対する復讐は当面の間、大丈夫そうだ。

 

 

 

 

 

 




新年をあけた1月1日。
初日の出を皆で拝みながら、私は呟いた。

「あと数年すれば、EP4辺りやな」
「にゃーそうやのー」

腕を組みながら、しんみりとした表情で大原は唸るように声をあげた。

「アークスに対抗できるように鍛えないとね!」

キイナの言葉に全員が同意する。
そんな中で、私は言った。

「とりあえず、私は覇気と六式を鍛えようかな?」
「ワンピースの?」

ペルソナが聞いてきたので、私は「うん」と頷く。
それを見たペルソナは「いいじゃん。ファレグさんも武装色の覇気と見聞色の覇気、六式全部体得したって聞いたよ」と絶望的な事を口走る。

「マジかよ……」

おぞましい何かを見るような表情で言う私だが、やはりファレグさんから教わった方が1番いいのだろう。

「これから、またファレグさんに修行をつけてもらうわ」

私は初日の出を見ながら皆に言った。
深遠なる闇の力に頼らず、フィジカルで解決出来るようにしないとな。
あと数年の間にどこまで登れるか……。

私はそんな事を心の中で思いながら、登る朝日を眺めた。






エピソード3 終わり。

続く。


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エピソード4 ぶっ飛ぼうぜ、超現実へ!!
54話 新マザークラスタ極東支部


 

 

 

 

 

 

2028年2月1日 午後11時

 

 

「……」

 

私は今、和歌山県の離島に新設されたマザークラスタ極東支部の廊下に立って、本棟を見ていた。

新しく建設された極東支部は、一つの大きな島に本棟や別の棟を分けて作られている。

メタルギアソリッドピースウォーカーのマザーベースをイメージするといいだろう。

各区画を廊下で繋いでいるような構造になっている。

人事区画、食糧管理区画、訓練区画、整備区画、研究区画などなどがある。

そして、島の中心には司令室や支部長室、スタッフの専用部屋、会議室等がある本棟が立ってある。

そして、何よりも以前のThe・高層ビルだった極東支部とは違い、今は和を趣を置いた造りになっている。

本棟その見た目は、某ジ○リの油屋を彷彿する感じが出ているが、これらは亜贄萩斗の意向によるものらしい。

アイツ分かってるな。

 

 

 

 

それと、この極東支部には地下には巨大な格納庫があり、そこにある物が置かれている。

 

 

それは……。

 

 

 

ドールのデータを用いて、マザークラスタが作り出したダルクファキス・イージスだ。

それが数百機格納されてある。

私は、この強大な存在に、とある名前を付けた。

人類を災厄から守る最強にしての最高の盾。

 

 

"ダークファルス・エイジス"と。

 

 

またエイジスの他に、ルーサー達が戦ったドールズであるネクス、レヌス、アムス、ニルスも建造されてある。

名前は、地球で生まれ、地球を守る存在として……

 

 

ネクス・アース

レヌス・ティエラ

アムス・エーアデ

ニルス・オルビス

 

 

と命名した。

個人的にいい名前だと思ってる。

余談だが、マザークラスタ側で建造されたドールズの総称は"マザードールズ"と呼んでいる。

デザインは特に従来とは変わりは無いが、中身が変わっている。

マザードールズは中にコックピットがあって、パイロットが操縦する有人機なのだ。

これにより、エーテルをあまり使えない人でも、問題なく幻創種の任務に向かうことができる。

マザードールズらの装甲は完全体である深遠なる闇(わたし)の鱗と、限りなく硬い幻創鉄を用いている為、破壊されて爆散なんてことは無いので安心だ。

 

 

 

で、エルミルからの熱い提案により、パイロットスーツが"衛士強化装備"になっている。

私はすかさず「な、なにゆえ!?」と言った。

ただ、エルミルから返ってきた答えが……

 

 

─必ず帰ってきてくれる。それで、あのスーツを着たパイロット達に"おかえり"と笑顔で言えるから─

 

 

その言葉を聞いた私は、口を閉ざした。

ヴラブマオタクめ。と言おうと思っていた私がクソ大馬鹿野郎だった。

言えるわけが無い。

あのエルミルの怒りと悲しみが混じった表情を見て、そんな軽はずみな事を言える訳がない。

私は、「そうか。分かった」としか言えなかった。

 

 

そして、今……。

エイジスや他の大型マザードールズが演習や幻創種討伐任務から帰還し、衛士強化装備を着た若いパイロットがコックピットから出る度、エルミルは「おかえり、任務(演習)お疲れさま!」と笑顔で迎えている。

 

 

 

 

「ふぅ、もう2028年か……」

 

屋根と柱と柵だけの開放的な廊下で、私は柵に肘を置きながらボソリと呟いた。

龍との一件から数年が経過して、色々と興味深い事が起きた。

 

まず、数年前に作った対魔忍の映画が有り得ないぐらいヒットした事。

どれくらいヒットしたかというと、綴木みことさんと、鬼崎きららさんの幻創種がとんでもない数が出現し、全世界のマザークラスタが対処にあたるレベルだ。

イラスト投稿サイトや動画サイトでも彼女たちのイラストが大量に投稿され、対魔忍という物が社会現象になった。

 

ちなみに、当の私、小野寺龍照は……大好きな綴木みことさんがここまで大人気になって、様々(全ての意味で)な作品が見れて、歓喜の涙を服を濡らし狂喜乱舞しましたとも!!

 

そして、対魔忍の世界に行っても、絶対にこの事は、彼女達には言えないと思った……。

これで言おうものなら私の株価は急落するだろう。

流石に好きなキャラクターに嫌われるのは、私の身体が霧散する。

いや、充分過ぎるほど嫌われることはしてるから、何も言えず受け止める他ないのだが……。

 

まぁとにかく、本当に凄かった。

コミケに行こうものなら、2人のコスプレした人(ちゃっかりペルソナもしてた)にどれだけ出会ったか分からないレベルだ。

 

この件について、私は反省もしてないし後悔もしてない。

私は対魔忍という存在をこの世に宣教しただけである。

訂正、これを言ったことにより、マザーからまぁまぁの雷が落ちたから、反省はしてる。

あとベトールさんには、頭を深く下げて感謝した。

あの人のおかげで、この世界に対魔忍を布教できたのだから!

 

「なんか、私……過激派対魔忍信者みたいだな……」

 

本棟を眺めながら、私は自分自身に呆れ果てて苦笑いした。

 

話を変えよう。

亜贄萩斗のことから察しがつくと思うが、1年か2年か忘れたが、幹部【オリンピア】にオークゥ・ミラーさんとフル・ジャニース・ラスヴィッツさんが、幹部になった。

これで、幹部【オリンピア】が揃った訳だ。

よく、幹部【四神】や【神淵】と演習をして鍛錬をしている。

 

 

 

 

あと、私達の住む場所が変わったのだ。

マザークラスタ極東支部とは違う別の離島に家を建てて、

私とペルソナ、エルミル。

ルーサーとハリエット。

フローとフラウ、アプレンティス。

が同居して住んでいる。

結構大きめな二階建ての家だ。

 

 

何故そのような事になったかと言うと。

単刀直入に話しをするとだな。

 

エルミルがシュールストレミングを部屋にぶちまけて警察沙汰になったからだ。

あの時は本当に阿鼻叫喚だった。

最悪なのが、その時刻が夜の12時であること。

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

1年前

 

 

「さて、寝るか……」

 

パジャマに着替えた私は、水を飲んでからベッドに入り寝ようとした。

明日は休みだから、どこか遠くに出かけようかな〜?

そんな事を思いながら、私は眠りにつこうとした。

その時だ。

 

「ん……?」

 

何やら異臭がする。

なんだこの腐ったような臭い。

私は奇妙な異臭に気がついて起き上がろうとした、その時だ。

 

「っ!? ぐぅ!?」

 

吐き気を催す程の強烈な悪臭が私の鼻をぶん殴ってきた。

私は襲い来る吐き気に耐えて、直ぐにマザークラスタ戦闘衣にチェンジする。

 

「な、なんや、この異臭は……!?」

 

深遠なる闇である私をここまで陥らせるこの臭いは……!?

私は息を止めて、急いで玄関に逃げようとする。

すると、他の部屋からも断末魔が聴こえてきた。

 

「うげええええええ!!くっせぇぇええええ!!」

「こ、この未知の臭いは……おえええええええええ!!!」

 

エルダーとルーサーの発狂する声が聴こえ、それに続くように他の断末魔が私の耳に響いた。

 

「うわーーーーーー、何このにおいーーーーーくさーーーーい!!!」

「いやーーーーーー、何このにおいーーーーーはきそーーーーー!!!」

「うおおえっ! ふ、2人とも今助けるからね……!! うっおえええええ!!」

 

涙声で訴えるダブルに、吐きながらも2人を助けようとするアプレンティスの声。

 

「こ、この臭いは……一体……!? うっ、くっ!!」

「おえええええええええおろろろろろろろろおおおおおおお!!!」

 

強烈な悪臭に苦しむハリエットと、もう吐いてる声しか聴こえないペルソナ。

それらの声が私の耳に乱暴に入ってくる。

 

私は何とか玄関の扉を開けて、外に脱出することが出来た。

他のエスカファルス達も同様に、次々と脱出に成功し、家から出てくるが……ヤバイ……ゲロまみれで見るに堪えない状態になっている。

 

「これは……なんだ……い……!?」

 

全身に自身のゲロが付着したルーサーは、今までに見たこともない表情で私に訴える。

私は鼻を摘み、必死に首を横に振った。

あ、あかん……吐く!!

 

「オオオゲエエエエエエロロロロロロロ!!!」

 

遂に我慢が出来なくなった私は口から大量のものを戻した。

もう、あまりの悪臭に生命の完全掌握を使うことなんて、頭から完全に抜けて落ちている。

いや、弱体化したこの能力を使っても一時凌ぎにしかならないのだが……。

 

「……」

 

次第に、エスカファルス達はバタリと倒れて動かなくなっていく。

私は意識を失うまいと、必死に耐えたが限界だった。

 

「……」

 

私の意識は暗闇へと姿を消した。

 

 

 

次に目が覚めたのは病室だった。

警察や医者の話によると、あの悪臭はマンション全体+近隣まで及び、警察、救急、消防が何台も出動する大騒動になった。

そして、悪臭の原因だが、何とエスカファルス・エルミルが発酵に発酵を重ねたシュールストレミングを開けたからである。

しかも、その発酵したシュールストレミングは、他にも何個か置かれてあり、あまりの臭さで気絶した拍子に他のシュールストレミングが連鎖破裂を起こし、あのような悪臭がマンションを包んだの事だ。

幸いだったのが、この事件で死亡者が1人も出なかった事だ。

それだけが本当に良かった。

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

そして、あの後……マンションの管理人とマザーからはこっぴどく叱られ、マンションと近隣住民の謝罪行脚で大変だった。

挙句、エスカファルスと藤野、大原はマンションを強制退去。

これだけ納得がいかない。

エルミルだけでええやろー……。

当の本人は、引くぐらい謝罪をしていたから許したけど。

帰る場所を失った我々だが、マザーの温情によって和歌山県の無人島を提供してくれ、そこで家建てて住むことになった。

 

 

これが、事の顛末だ。

今は和風の家で快適に過ごせてるから結果オーライという事だな。

 

余談だが、エルダーはどこに行ったのか?

簡単な話だ。

あいつは、芽流本シーナさんと無事に結婚を果たして、新築で芽流本ディアさんと共に過ごしているのだ。

御祝儀はありえないぐらい弾ませた。

式の時、私たちはアホほど泣いたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

そして、もうひとつ。

これがちょっと問題になっている。

私の……深遠なる闇がもたらす周囲の影響についてだ。

 

どうやら、別の人が私と長時間居続けると、深遠なる闇の不老の影響を受けてしまうらしい。

ただ、完全に不老になる訳ではなく、老化が限りなく遅くなるのだ。

……どれくらい遅くなるのかと言うと……。

10歳老いるのに、500年という途方もない年月が必要になるのだ。

イカれてる……。

ただ、かなり長時間居続ける必要があるようで、深遠なる闇(わたし)の影響を受けた人物は極少人数だ。

 

エスカファルス勢は元から不老不滅だから除外。

大原栄二。

藤野キイナ。

亜贄萩斗。

べトール・ゼラズニィ。

オークゥ・ミラー。

フル・ジャニース・ラスヴィッツ。

アラトロン・トルストイ。

オフィエル・ハーバート。

 

この面々だ。

コイツらとはかなり一緒に居たからな……。

この影響について、各々の感想は概ねポジティブだ。

……ちょっと引いたのが、ファレグさんだけ深遠なる闇(わたし)の影響を受けていないことだ。

どうやら、ファレグさんの全身を覆う途方もない膨大な覇気(恐らく、覇王色の覇気と武装色の覇気と思われる)が、深遠なる闇(わたし)の影響を弾いているらしい。

それを聴いた私とエスカファルス達はドン引きした。

 

「ファレグさんやべえよなぁ……」

 

私は苦笑の表情を浮かべて、具現化したコーラを一気に飲み干した。

 

「……」

 

飲み終えた私は、空っぽの缶を霧散させて「ふぅ」とため息を吐いた。

 

「もうすぐしたら、エピソード4に入るのか……」

 

私は空を見上げ、微笑んだ。

暗い漆黒の闇を照らす星々が光り輝いていた。

正直、少し心踊っている。

私がモニターでしか見れなかった物語が……

今度は自分の全身で体験できるのだ。

しかも、アークスではなくマザークラスタという敵ポジションだ。

しかも、私は今、深遠なる闇に成って、エスカダーカーを無尽蔵に生み出すことができる。

アークス……特にシエラさんがどんな反応をするのか、想像するだけでニヤけが止まらない。

向こうも数多の緊急クエストで鍛えているだろうが、こっちだって色々な修羅場をくぐり抜けてきた。

武装色の覇気と見聞色の覇気、六式も全部体得して、かなりのレベルまで上り詰めた。

……思ったけど、深遠なる闇が2色の覇気と六式を使いこなせるって冷静に考えたらヤバいんじゃないか?

まぁいいや。

安藤やマトイさんにだって、遅れを取るつもりはない。

こっちにだって、深遠なる闇の意地がある。

 

 

 

さぁ、始まってしまうぞ。

史実とは違う、歪で愉快な物語が。

 

 

 

私はニヤついた顔を必死に隠し、とある場所へと向かった。

これからの物語に心を踊らせながら……。

 

 

 

 

 

 

 

ここはマザークラスタ月面本部。

ドール襲撃によって、崩壊した月面本部(ペルソナが行った時間遡行は地球にのみであり、月はその対象外だった為、イージスの攻撃によって崩壊したままだった)を再建設することになった。

その時に、この月面基地を、マザークラスタの本部にするべきだという声が多数よせられたのだ。

そのため、この場所は全てのマザークラスタ支部を統括する本部となったのだ。

余談だが、月中枢はイージスの被害を受けていないため、特に変わっていない。

 

『全事象の演算を完全終了。』

 

月の中心部。

マザーシップで言うところのシオンが居た場所で、マザーはエーテルを溢れさせて呟いた。

彼女はドールによる襲撃以降、ずっと苦悩していた。

フォトナー1人に何も出来なかった己の無力を……。

出来損ないの烙印を押されたフォトナーにすら、ただただエスカタワーを具現化することしか出来なかったこと……。

しかも、ゾディアークに抑えてくれなければ、自分一人ではそれを行えなかった……。

そして、自分が無力だったばかりに、1人の青年に全てを押し付けてしまったこと……。

それらが、ずっとマザーの重しとなっていたのだ。

 

このままでは、自分を捨てたフォトナーを見返すことなんてできないし、出来なかった。

何よりも組織の長が、このような体たらくで良い訳がない。

 

『……。』

 

苦悩の末に見出した解……

それはダークファルスの力を取り込み、エーテルとダーカー因子を融合させ、一つになる事だ。

 

オラクルの深遠なる闇は自身の末っ子であり、その深遠なる闇から生まれたダークファルスも同様だ。

それなら、姉である自身が取り込む事は可能であると。

 

そして、膨大なダーカー因子とエーテルが融合し、1つとなった自身がオラクルへと戻り、フォトナーに復讐をする。

これが彼女が導き出した解である。

その為の準備は既におこなっている。

何も問題は無い。

必ず成功させて、フォトナーを見返してやる。

彼女は固く決意した。

 

 

 

 

 

 

マザークラスタ極東支部 地下格納庫

 

 

 

「エルミル、ちょっといい?」

 

衛士強化装備を身に纏い、その上に白衣を着た金髪の女性。

アリス・メイシアスがエルミルに話しかけた。

 

「ん? どうかした?」

 

彼もまた衛士強化装備を着て、その上に【仮面】異界戦闘衣を羽織った姿をしている。

 

「君にお願いがあるんだ」

「?」

「ここ数年で、エイジスとマザードールズの連携はかなりのものになっただろう?」

「そうだね。これなら、どんな存在が宇宙から飛来しても問題なく駆逐できる」

「それで、今度は君が具現化させた幻創戦術機との連携データを取りたいと思っているのだが、どうだろうか?」

 

マザークラスタ極東支部 地下格納庫にはマザードールズの他に、最近エルミルが趣味で具現化した幻創戦術機がアホほど保有されてある。

 

「そうだね。エイジスを基幹とした演習もしておこう」

 

エルミルの言葉に、アリスは「ぅっし!」と小さくガッツポーズを取った。

 

「エルミル様ー! 任務完了しましたよー!」

 

ネクス・アースのコックピットから眼鏡をかけたロングヘアーの女性、長谷川千歳が手を振っていた。

それを見たエルミルも「おかえり、お疲れ様!」とep5のエルミルからは想像もつかない笑顔で手を振り返した。

 

 

 

 

 

 

マザークラスタ極東支部 とある場所。

 

 

 

本棟の下には、木々が生い茂っており、そこに居酒屋【深遠なる飯】や聖なる母、スナック【影廊】と言った食べ物屋が立ち並んでいる。

私はその場所へと階段を使って降りた。

目的は腹ごしらえではない。

それらの食べ物屋から少し離れた場所に、ある物があるのだ。

 

「……」

 

私は無言でその場所まで向かう。

深遠なる飯では、支部員の楽しげな声が聴こえていた。

 

「……」

 

私は、ある場所にたどり着いた。

少し歩けば崖になっているような海が見える場所だ。

そこには2つの墓が置かれている。

香山裕樹と山原玲奈のお墓だ。

私の弱さが招いた、取り返しのつかない最悪の出来事……。

 

「……」

 

線香を焚き、それをお墓に供えた。

そして、私は目をつぶって黙祷をする。

 

「(……どうか……安らかに……)」

 

もう、二度とこんな真似は……。

 

 

─龍照頑張って! ずっと応援してるからね!─

─たっつーの夢を、僕にみせてほしい!─

 

 

「……?」

 

いま、私を呼ぶ声が聴こえたような……。

居酒屋にいる奴らの声か?

辺りを見渡すが、誰もいなかった。

気のせいかと思った私は立ち上がり、お墓に「じゃあ、また来るよ」と話して本棟へと戻った。

 

 

 

 

 

 

続く



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エスカファルスデーターベース

マザークラスタ極東支部

地下大図書室。

 

「……ふむふむ」

 

極東支部の地下にある巨大な図書室。

そこに灰色に変色した白衣を纏い、オイルで汚れた衛士強化装備を身に纏った可憐な女の子がいた。

彼女の名は、アリス・メイシアス。

金髪のセミロングヘアーが特徴の女の子だ。

彼女は今、ある資料を借りる為に図書室に来ていた。

いつもは地下格納庫の一室を自分の部屋にしており、そこで生活をしている。(無許可)

格納庫から出るのは飯の買い出しぐらいな為、彼女がここにいる事には他の支部員も非常に驚いていた。

 

「メイシアスさんがこの図書室にいるって、明日は雨かな」

「マジか。あの子が地下格納庫以外の場所にいるところなんて初めて見たよ」

 

図書室を利用している若い支部員は、彼女が本を探している姿を撮影していた。

メイシアスも、自分が撮られている事に気づいていたが、ぶっちゃけどうでもよかった。

 

「……確か、蔵書検索でここにあると……あれ……」

 

そんなことよりも、ほしい資料がある筈の場所になくて、彼女は首を傾げる。

 

「間違えたかな?」

 

彼女が探している資料とは、エーテルサイコフレームに関する内容が記載された本である。

メイシアスは周辺の本棚を無遠慮に見漁るが、どこにも見つからない。

 

「誰かに借りられたとか……いや、確か貸出禁止のやつだから、それはないか……」

 

彼女は近くにあったPCを使用して蔵書検索を行う。

モニターに写る場所を見たメイシアスは、「あー」と自分のミスに気づいた。

今、メイシアスがいる場所はF─91で、蔵書検索で表示された場所はF─19だ。

それは見つからないわけだ。

メイシアスは不甲斐ない自分に苦笑をして、F─19のフロアまで向かった。

 

「ここって閉架書庫になってるのか」

 

鍵が掛かっていて開かない。

仕方ないので、私は白衣の内ポケットにあるカードキーを作って扉を開けた。

中は暗く、お化けでも出るんじゃないかと思える程だ。

 

「えーと、確かここら辺に……」

 

電気を点けて、彼女は書庫を漁る。

その最中、彼女は不思議な本を見つけた。

 

「これは?」

 

本の背表紙には「エスカファルスデータベース」と書かれていた。

 

「(エスカファルスってエルミル達の事か? 何故こんな所に?)」

 

彼女は、その名前に興味を惹かれて、それを手に取って読み始めた。

内容は、エスカファルスの従えている眷属などが詳しく書かれていた。

 

そして、その中でエスカファルスの情報が記載されているページを見つける。

 

 

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名前:エスカファルス・エルダー

 

異名

深遠に辿りし巨なる希望

灼熱()凍結(こお)る闇

戦闘狂

闘皇

闘覇

覇王

マザークラスタ【神淵】巨躯の使徒

 

所属

マザークラスタ極東支部

 

地位

マザークラスタ【神淵】巨躯の使徒

 

 

使用武器

エルダー・ペイン・エスカ

概要

エルダー・ペインの幻創版。

混沌とした形の刃を持ち、悪しき存在を微塵に切り裂く。

奪命剣とも言われており、攻撃したモノの生命を奪い自身の力にすると言われている。

 

造風断・大蛇顎

概要

幾星霜を超えても衰えぬ極上の刀。

風を纏わせた一閃は、森羅万象を薙ぎ払うと言われている。

 

幻雷斬・夜叉

概要

白鞘の刀。

雷を纏わせた一振は、あらゆる存在を無に帰すると言われている。

 

幻創天羽々斬・亜堕卍

概要

魔石【アダマン】を用いて作られた刀。

その刀身は冷気を浴びており、エルダーの能力と相まって、対象を凍結させる事ができる。

 

能力

炎と氷

概要

名の通り、炎と氷を自在に操る事が出来る。

一時的に自身の身体を炎に変えることで、敵の攻撃を無効化する事が可能。

身体が破壊されても、冷気によって身体を再生する事もできる。

 

具現武装:エスカファルス・エルダー

概要

別名:【闘皇】

青白い色のダークファルス・エルダーに変身できる。

姿形は概ねpso2に登場するダークファルス・エルダーと同じである。

また、pso2に登場するダーカーを模したエスカダーカーを具現化し、従えさせることができる。

従える事ができるエスカダーカーは

・水棲型

・創世型

この2種類である。

 

キャラクター詳細

主な概要

マザークラスタ極東支部に所属している青年。

頭一つ飛び抜けた長身と筋肉質で逞しい体格の大男。

その威圧感は半端なく、悪質なナンパ野郎を人睨みで黙らせるほど。

芽流本シーナと結婚し、芽流本ディアと暮らしている。

基本的にゲッテムハルトの人格だが、小野寺の具現時に「ゼノス・イェー・ガルヴァス」と「イオ・フレミング」が頭に浮かび上がった事で、ほんの少しだが彼らの人格も入ってある。

一人称は「俺」。

25歳。

 

容姿

髪が青白くなったゲッテムハルト。

顔の右頬に幻創種特有のマークがある。

 

性格

オラクルのゲッテムハルトに優しさと情を足したような性格。

気のいい近所の兄貴といった性格をしている。

また、戦闘狂の部分は若干だが抑えられており、誰彼構わずに戦いを吹っかけたりはせず、戦う意志を持つ人としか戦わない。

戦闘時はJAZZを大音量で流しながら戦うのが特徴。

 

趣味

音楽鑑賞(特にJAZZ)。

闘争。

トレーニング。

 

彼を一言で現すなら?

概要

気さくな戦闘狂。

 

彼の目指す夢

概要

シーナと最後まで過ごす事。

ファレグの姉御に勝つ事。

 

 

 

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名前:エスカファルス・ルーサー

 

異名

顕現する真実の探求者【敗者】

アカシック・エスカード

幻創の探求者

シスコン全知

マザークラスタ【神淵】敗者の使徒

 

 

所属

マザークラスタ極東支部

 

地位

マザークラスタ【神淵】敗者の使徒

 

使用武器

ダルス・エスカレゲイン

概要

エスカファルス・ルーサーが創り出した全てを繋ぐ武器。

煌々と色褪(かがや)く闇は、探求者の絶対的な強さを現している。

 

エスカファルス・ルーサー

概要

別名:顕現する真実の探求者。

フクロウを彷彿とし、下半身が無く、腹の時計が特徴なエスカファルス。

pso2に登場するダーカーを模したエスカダーカーを具現化し、従えさせることができる。

従える事ができるエスカダーカーは

・有翼型

・創世型

この2種類である。

 

能力・時間操作

概要

文字通り、時間を操作する能力。

その範囲は地球全域まで及ぶが、自身より強い存在に対しては効かない。

時間を操作できるが、過去に戻る事はできず時間の流れを遅くしたり、逆に早くしたり、時間を完全に停止する程度である。

 

キャラクター詳細

主な概要

マザークラスタ極東支部に所属している青年エスカファルス。

小野寺龍照によって具現化されたエスカファルスの一体。

オラクルのルーサーではなく、オメガのルーサー=ラース=レイ=クエントを元に創造された。

向こうは科学者だが、こちらのルーサーは創造主の影響もあってか、文学や歴史を専攻している。

特に民俗学の山の神が得意分野。

年齢は24歳。

鋼のシスコン全知。

 

容姿

ヒューマン耳のルーサー=ラース=レイ=クエント。

そのため、涙型のペイントがない。

 

性格

ルーサー=ラース=レイ=クエントを更に丸くしたような性格。

妹的存在であるハリエットに溺愛しており、いざというときはちゃんと「お兄ちゃん」している。

その事からアプレンティスからシスコン全知と言われている。

 

趣味

読書。

本集め。

 

彼を一言で現すなら?

概要

ハリエット大好きマン。

 

彼の目指す夢

概要

宿主君の夢を見ること。

ハリエットの人生を最後まで見ること。

全ての次元の本を読むこと。

 

 

 

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名前:エスカファルス・アプレンティス

 

異名

都に顕現する邪眼の女王

邪眼の若人

誘拐犯

マザークラスタ【神淵】若人の使徒

対魔忍の幻影

 

 

所属

マザークラスタ極東支部

 

地位

マザークラスタ【神淵】若人の使徒

 

 

使用武器

対魔太刀・幻創

概要

ふうま亜希が使用する刀を模した武器。

特にこれと言った特徴はない。

 

幻創太刀・若人

概要

アプレンティスグラッジを彷彿とするデザインの太刀。

 

 

エスカファルス・アプレンティス

概要

別名:忍を宿した邪眼の女王

エルダーと同等かそれ以上に巨大な蜂。

従来のアプレンティスとの違う点は、巨大な羽の後ろに、触手と思われる器官が6本伸びている。

また、人間体の時と同様に、左目が青色、右目が黄色のオッドアイになっている。

pso2に登場するダーカーを模したエスカダーカーを具現化し、従えさせることができる。

従える事ができるエスカダーカーは

・虫型

・創世型

この2種類である。

 

 

能力・邪眼【死裂】

概要

ふうま亜希が持っている邪眼。

傷を負った状態で瞳を見ると強烈な暗示にかかり、小さな傷でもまるで臓物を切り裂かれた致命傷かのように感じ、現実の肉体も感覚に引きずられ、元の傷がほんのかすり傷でも致命傷へと変化する邪眼。

 

 

能力・邪眼【魅惑】

概要

本来のアプレンティスの能力。

目と目があった人物を魅了させて、動きを停止させる。

 

 

キャラクター詳細

主な概要

マザークラスタ極東支部に所属しているエスカファルスお姉さん。

一番最初に具現化された人物な為、オラクルのダークファルスを元に具現化されたエスカファルス達の中で一番、元の姿や性格から掛け離れている。

ロリショタをこよなく愛する為、ルーサーからは「誘拐犯」という何の捻りもない悪口のあだ名を付けられている。

年齢20歳。

 

容姿

対魔忍RPGに登場する「ふうま亜希」とダークファルス・アプレンティス(マルガレータの方)を足して2で割ったような姿をしている。

戦闘衣も、従来のアプレンティスの戦闘衣とふうま亜希の対魔忍スーツを混ぜ合わせたような露出度の高いスーツとなっている。

 

性格

ふうま亜希のロリショタ好きの一面が、過剰なまでに増大しており、幼い姿のエスカファルス・ダブルに興奮したり、彼らの通う学校の近くで双眼鏡を構えて観察する程、やばい事になっている。

その様子はpso2プレイヤーであり、アプレンティスのことをよく知っている大原や藤野が戦慄するレベルだ。

 

趣味

人間(幼年幼女少年少女)観察。

お菓子配り。

見回り。

幻創種狩り。

 

彼女を一言で現すなら?

概要

ふうま亜希レベルMAX

 

彼女の目指す夢

概要

教えてくれない。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

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名前:エスカファルス・ダブル

 

異名

希望が染まる双子の遊戯

マザークラスタ【神淵】双子の使徒

 

 

所属

マザークラスタ極東支部

 

地位

マザークラスタ【神淵】双子の使徒

 

 

使用武器

無し

 

 

エスカファルス・ダブル

概要

別名:希望が染まる双子の遊戯

テーマパーク、もしくはお城の姿をした六脚の姿をしており、変身完了時に打ち上げ花火が上がる。

オラクルのダブルよりも、トリッキーかつ、おふざけに全力を出した技が多い。

pso2に登場するダーカーを模したエスカダーカーを具現化し、従えさせることができる。

従える事ができるエスカダーカーは

・玩具型

・創世型

この2種類である。

 

 

能力・捕食と複製。

概要

ダークファルス・ダブル同様に、の腕を巨大な口に変化させて、対象を捕食する事が出来る。

しかし、ダークファルス・ダブルとの違いは、捕食出来る対象の大きさに限界があること。

惑星クラスの大きさを持つ物体を捕食することはできない。

更に複製に関しても、捕食からある程度時間が経過すると、その捕食した存在を複製する事ができなくなる。

 

 

キャラクター詳細

主な概要

マザークラスタ極東支部に所属している双子エスカファルス。

小野寺が具現化する際に、悪さをしない子供ということを思い浮かべて創造した為に、この双子は純粋に遊戯を楽しんでいる子供となった。

あまりの可愛さから、エスカファルス・アプレンティスから酷く可愛がられている。

ただ、やはりそれでもエスカファルスである為、戦闘能力は高い。

その高い能力を生かして、フローはサッカーで無類の強さを発揮している。

 

 

容姿

ダークファルス【双子】を1歳幼くした感じ。

 

 

性格

純粋無垢な子供。

しかし、最近のフローはペルソナやアプレンティスの胸や足に目がいったり、フラウは男性と男性が交じ合う本を見つけて赤面したりと、目覚めかけている。

 

趣味

フロー:サッカー

フロー:ゲーム

フロー:カードゲーム

フラウ:お人形集め

フラウ:料理を作る事

フラウ:カードゲーム

 

 

彼と彼女を一言で現すなら?

概要

子供。

 

 

彼と彼女の目指す夢

概要

世界平和。

みんなが笑顔で過ごせる世界にすること。

 

 

 

 

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名前:エスカファルス・エルミル

 

異名

喜劇を願う不滅の希望

奇跡を招く不滅の闇

創界のエスカファルス・エルミル

絶望を壊す奇跡の闇

オタクファルス・エルミル

マザークラスタ【神淵】深遠の使徒

エスィメラ・フェチミル

 

 

所属

マザークラスタ極東支部

 

地位

マザークラスタ【神淵】深遠の使徒

 

 

使用武器

創跡器クリエシオン

概要

喜劇を願う不滅の深遠なる闇が創り出した希望を繋ぐ武器。

輝く闇を宿し揺るぎない意思と共に未来へ歩み出す。

 

 

エスカファルス・エルミル

概要

別名:喜劇を願う不滅の希望。

エスカファルスと名乗っているが、紛うことなき深遠なる闇。

エルミルの持つ仮面変化により、様々な戦局に対応出来るため、その総合ポテンシャルは深遠なる闇や原初の闇よりも高い。

pso2に登場するダーカーを模したエスカダーカーを具現化し、従えさせることができる。

従える事ができるエスカダーカーは

・虫型

・水棲型

・有翼型

・玩具型

・歪極型

・魔物型

・創世型

である。

 

能力・仮面変化

概要

被ったお面に応じて能力、身体の1部が変化する。

仮面を被り直す事で様々な戦局に対応できるため、総合的なポテンシャルは他のエスカファルスよりも高い。

・巨躯の面:範囲が狭い代わりに、一撃が即死クラスの威力を繰り出してくる型。

・敗者の面:攻撃力は低いが、時間停止・広範囲の魔法を行使してくる型。

・若人の面:レーザー系統の攻撃を中心に弾幕を生成する型。

・双子の面:幻創戦術機を動かして、集団で敵を攻撃する型。

・仮面の面:歪幻獣を召喚して数で押す型。

・原初の面:火・水・雷・風・氷・岩の六属性を自在に操って戦う型。

・深遠の面:巨躯・敗者・若人・双子の力を全て行使する型。

・救災の面:味方を防衛する型。

 

 

キャラクター詳細

主な概要

マザークラスタ極東支部に所属している青年エスカファルス。

元々、ラスボスで破滅を望む存在であった為、小野寺が裏切らない思いを元に具現化され、小野寺によるオタク化を促進させた結果。

見事にオタク街道を直進することになった。

しかしその副作用として浪費癖もつき、毎週小野寺にお金をせびっている。

23歳。

 

容姿

ペルソナ・エルミルに【仮面】異界戦闘衣を着た姿。

 

 

性格

一言で纏めるなら厄介なオタク。

とあるゲームとアニメに熱中してしまい、その模型やタペストリー、抱き枕、挙句の果てにはコスチュームまで集め出した。

推しになったキャラクター全員が死んでしまい、必ず救いたいと心に決めている。

 

 

趣味

エスィメラ栽培。

アニメ鑑賞。

オンラインゲーム。

カードゲーム。

模型製作。

買い物。

 

 

彼を一言で現すなら?

概要

エルミルが限界オタクになった。

 

 

彼の目指す夢

概要

異世界転生。

2次元の世界に行くこと。

推しのキャラクターと色々と話したい。

死ぬ運命を辿る推しのキャラを全員救い出す。

 

 

BETAを宇宙から消し潰す。

BETAの根源からの破壊。

創造主をなるべく痛めつけて壊す。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

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名前:エスカファルス・ハリエット

 

異名

希望より生まれる原初の闇

マザークラスタ【神淵】原初の使徒

自然の化身

初代深遠なる闇

山の神

 

 

所属

マザークラスタ極東支部

 

地位

マザークラスタ【神淵】原初の使徒

 

 

使用武器

光創器クラーステイル

概要

幻創の光を纏った創器。

その一撃が、明日を導く。

 

 

エスカファルス・ハリエット

概要

別名:希望より生まれる原初の闇

顔が空洞になった頭部、腕のない肢体に二対の翼のようなものを持った完全体。

原初の闇ソダムを幻創版とも言える姿をしている。

 

能力・自然の生成

概要

炎・水・風・雷・氷・土・植物の7つの属性を操る能力。

属性の影響が強く、その場にいるだけで周囲の環境を変えるほど。

完全に荒廃した土地であっても7つの属性を行使して、その土地を完全に再生させることが出来る。

 

 

 

キャラクター詳細

主な概要

マザークラスタ極東支部に所属している美少女エスカファルス。

能力が能力だけあって、自然を愛する女の子である。

また、いざというときに確りと「お兄ちゃん」をしてくれるルーサーのお陰もあって、彼ほどではないがブラコン気味になっている。

ハリエットには、小野寺を含むエスカファルス達に言っていない秘密があり、それは隠れドMであること。

年齢は18歳のうら若き乙女。

 

 

容姿

ハリエット=リーン=レイナ=クエントとほぼほぼ同じ。

違う点を挙げるなら、目の色が少しだけ濃いぐらいである。

 

性格

常日頃から敬語で接している。

若干、ドジと天然気味であり、部屋のガーデニングをする為、ソダムの力を解放した事で部屋が森林地帯になったことがある。

誰にでも優しく接しているが、1度キレると本当に怖い。

野菜畑を荒らしてしまい、1度怒られた経験のあるエルミルが「もう怒られたくない」と言わせるほど。

 

 

趣味

家庭菜園。

読書。

 

 

彼女を一言で現すなら?

概要

自然を愛する隠れドM

 

 

彼女の目指す夢

概要

エスカファルス達と最後まで過ごせる事。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

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名前:エスカファルス・ペルソナ

 

異名

絶望を屠る希望の真花

深遠なる闇

少女を救った幻雄

デカパイ仮面

ド淫乱仮面

ド変態仮面

痴女

マザークラスタ【神淵】仮面の使徒

救いを齎す闇

 

 

所属

マザークラスタ極東支部

 

地位

マザークラスタ【神淵】仮面の使徒

 

 

使用武器

コート・エッジES

概要

刃をエーテルコートで包み無駄を抑えつつ、高い攻撃力を保つ。

 

コート・ダブリスES

概要

薄いエーテルコートが刀身を包む事で、実体剣以上の威力を発揮する。

 

 

能力

創造魔法【具現化】

概要

自分の頭の中で思い描いた物質を具現化する。

空腹状態や集中状態によって作用されるが、万全な状態なら八百万の神様すらも容易に創造する事ができる。

ただ、創造対象の事を詳しく知っていなければ、創造した時に不都合が生じて自壊してしまう。

その為、創造する時は必ずその対象の事を知り尽くさなければならない。

 

 

具現武装:エスカファルス・ペルソナ【深遠なる闇】

概要

別名:【二代目・深遠なる闇】【絶望を屠る希望の真花】

青白い色の深遠なる闇に変身できる。

姿形は概ねpso2ep3に登場する深遠なる闇と同じである。

違う点は、花形態時の部位破壊箇所である花弁が巨大なマグになっており、そこからアンガファンタズマ種を具現化させて攻撃を行う。

正直、花弁の時より厄介極まりない事になっている。

後、よく喋る。そして、よく喘ぐ。

 

また、pso2に登場するダーカーを模したエスカダーカーを具現化し、従えさせることができる。

従える事ができるエスカダーカーは

・蟲型

・水棲型

・有翼型

・玩具型

・創世型

・歪曲獣型

この6種類である。

 

 

 

キャラクター詳細

主な概要

マザークラスタ極東支部に所属している小野寺龍照の無意識な妄想により、身勝手に生み出た女性。

小野寺 龍照の深層心理(自分が女性ならこうでありたい)という全ての欲望が反映されて具現化されている。

簡単な話、小野寺 龍照のありとあらゆるヤベェ性癖がエスカファルスと成った存在が1人歩きをし始めた奴。

一人称は「私」。

民俗学や歴史学に詳しい。

身長は小野寺と同じ169cm。

年齢は23歳。

 

 

容姿

茶髪ロングヘアーに蒼眼の女性。

そして、胸がデカい。

Ycup以上のデカさを誇っている。

抱き心地良さそうな極上の安産型ムチムチ女体という言葉で全てが完結する身体付きをしている。

競泳水着やピッチリスーツを"私服"としており、特に対魔忍RPGに登場する綴木みことの対魔忍スーツが大好き。

服なんてどれ着たって同じだって!

ファッションファッション!

因みにあまり仮面を被らない。

理由は視界が見えないから。

 

性格

大切な人を、あらゆる手段を使って守ろうとする【仮面】としての性格を持っている。

が、それ以外は小野寺龍照が女性だったらという妄想が反映されている為、物凄い変態で淫乱でドマゾな娘。

性に関しては年中無休フルオープンで、とんでもない性癖を持っている。

公序良俗が頭に無い、頭ピンクの幻創深遠なる闇の女性。

NGはスカトロ、NTR、ハードゴア。

いい意味でも悪い意味でも頭のおかしい人物。

性にオープンな割に未経験。

処女。

1ヶ月に3回の割合で、マトイ欠乏症とみこと欠乏症を発症する。

 

趣味

ゲームと物作り、セルフチャージ。

本人と同じくモンハン、対魔忍と呼ばれるゲームが大好き。

自分の創造能力を使って、日夜様々な物を作っている。

作っている物は私利私欲のアダルト系が8割、戦闘系が1割、生活用品が1割となっている。

好きなキャラクターは、篠原まり、七瀬舞、星乃深月、柳六穂、天宮紫水、綴木みこと、マトイ。

 

嫌いな人物は、女の子を殺した奴ら全員。

天竜人。

 

 

彼女を一言で表すなら

超絶ド変態ド淫乱ドマゾ娘。

 

彼女の目指す夢

概要

大切な人を守る事。

対魔忍を守る事。

推しの対魔忍全員のピッチリスーツに顔をうずめてスリスリする事。

 

 

 

フゥオゥ♪

フゥオゥ♪

マトイちゃあああああああああああん!!

マァトォウィちゃああああああああああああん!!!

マトイちゅわあああああああああああああああああああああああん!!!!!!

 

みことちゃん好きいいいいいいい!!

みことちゃん大好きいいいいいいいいいい!!!

みことちゃんみことちゃんみことちゃんみことちゃんみことちゃん!!!

綴木みことちゃん大好きいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!

FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOoooooooooooooo綴木みことちゃああああああああああああああん!!!!!!

好きいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

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名前:小野寺 龍照

 

異名

史実に存在しない非在の闇

深遠なる闇

救災龍

エスカファルス・メアリースー

絶望を希望に捻じ曲げる深遠の闇

マザークラスタ【四神】赤の使徒 朱雀

 

所属

マザークラスタ極東支部

 

地位

マザークラスタ【四神】赤の使徒 朱雀

 

 

使用武器

幻魔槍ニーズヘッグ

概要

幻創ニーズヘッグの力を宿した槍。

その力を込めた一撃は、森羅万象を貫き絶望の未来を屠るとされている。

 

 

造黒刀ミラボレアス

概要

幻創ミラボレアスの力を宿した刀。

ありとあらゆる絶望を切り伏せ、その力を自分の力として得ることができる。

 

 

能力

具現武装【エスカファルス】

概要

pso2に登場するダーカーを模したエスカダーカーを具現化し、従えさせることができる。

また、全てのエスカファルスの姿に成ることもできる。

従える事ができるエスカダーカーは

・蟲型

・水棲型

・有翼型

・玩具型

・創世型

・龍型

この6種類である。

 

 

エスカファルス・メアリースー

概要

別名:救災龍、史実に存在しない非在の闇。

幻創ニーズヘッグと幻創ミラボレアスが、小野寺龍輝に力を託した事で、深遠なる闇へと覚醒した姿。

黒い龍に身体を変えることができる。

その姿はニーズヘッグ、ミラボレアス、リオレウスを足して2で割ったような姿をしている。

強さは初代深遠なる闇と変わらず、その気になれば全ての宇宙を侵食し、滅ぼす事ができる。

 

能力・生命の完全掌握

概要

女性キャラクター、推しのキャラクターの全て守りたいという強い願い、強い想いがエスカファルス特有の依代である人の感情の影響を受け、更にそれが増幅した結果生まれた能力。

数分間、自分が指定した人間等の存在が受ける痛み・快楽・外傷等を全て小野寺龍照自身が身代わりとなって受ける能力である。

 

 

キャラクター詳細

主な概要

マザークラスタ極東支部に所属している青年。

独特の関西弁で話すのが特徴。

一人称は「私」。

ごく稀に「俺」と言ってしまう時がある。

民俗学や歴史学に詳しい。

幼少期に起こった病気が原因で、"大人になりきれていない大人"になってしまった人でもある。

年齢は23歳。

中学時代に起きたクソくだらない事がきっかけで、女性キャラクターや推しのキャラクターが‪"自分の目の前"で死ぬ事に過剰に反応するようになった。

矛盾に包まれた、独り善がりで都合のいい小物。

武○色の覇気と見○色の覇気によく似た事をできる。

 

 

容姿

超ごく一般的の男性大学生。

モブ民間人をそのまま描いてメガネを掛けたような人。

黒いトレンチコート、黒い無地のTシャツ、黒いズボン、黒い靴を愛用している。

因みに、黒色であればどこのメーカーでもいい。

服なんてどれ着たって死にゃーせん。

 

 

性格

超・超・超お人好しで情に流されやすい性格。

幼少の頃から悪いことをすると必ずバチが当たると思い込んでおり、1度言った事や心の中で決めたことはなるべく実行する精神を持っている。

別に知らなくていい事を深く知りたがる厄介な好奇心を持っている。

一年に一回あるかないかの確率でブチギレる。

いい意味でも悪い意味でも頭のおかしい人物。

一言で纏めると、子供。

ピッチリスーツとハイレグ衣装と競泳水着が大好き。

矛盾に包まれた、独り善がりの小物。

 

 

 

趣味

散歩・ゲーム。

モンハンと対魔忍と呼ばれるゲームが大好き。

散歩は峠を3つ超える程に歩き回る。

 

大好きなキャラクターは、篠原まり、七瀬舞、星乃深月、柳六穂、天宮紫水、綴木みこと。

 

嫌いな人物 好きなキャラ、女性キャラを殺した奴ら全員。

天竜人。

 

彼を現すなら?

概要

七大天龍の一翼 邪竜ニーズヘッグ、伝説の黒龍 ミラボレアス、空を統べる王 リオレウス、万象を滅ぼす深遠なる闇、魔を滅す対魔忍の血を持った一般の人間。

 

 

彼の目指す夢

概要

pso2で死んだべトール、マザー、シバを救うこと。

対魔忍になる事。

対魔忍を"救う"ことで起こる未来を知ること。

対魔忍は陵辱されるべきという神話を徹底的に打ち壊した先にある未知の未来を見ること。

とりあえず、悪いブレインフレイヤー全員殺す。

あと、対魔忍に仇なすバカタレ共全員殺す。

大好きな対魔忍全員と過ごす。

 

 

 

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────────────────────────

 

 

 

と、書かれていた。

 

「なーるほどね、興味深い内容だな。ってそんなことよりエーテルサイコフレームのやつを探さないと!!」

 

彼女は本を畳み、目当ての本を探しに回った。

 

 




今回の挿絵は全て「たなか えーじ」氏に描いていただきました。
誠にありがとうございます!


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55話 始まってしまった物語

 

 

 

 

 

 

3月22日

 

 

「遂に来たなぁ」

 

私はカレンダーを見て呟いた。

確か、今日の4時ぐらいに安藤がこちらにやって来るはずだ。

 

「……」

 

とは言っても、今の私に出来ることは何も無い。

まぁ、出来る事があるとすれば、八坂火継さんの寮に偵察虫を向かわせて監視するぐらいか。

 

「……暇だし、やるか」

 

私は蚊サイズの超小型のエスプチモスを具現化させて、彼女の住んでいる天星学院の学生寮へと向かわせようとした。

ただ、よくよく考えてみれば、ここからだとかなりの時間が掛かると感じた私は東京まで転移して、そこからエスプチモスに偵察をさせることにした。

 

「よし、そうと決まれば行くか!」

 

私はシュイイイィィィィンと音を鳴らして、東京にある高層ビルの屋上までワープした。

 

「ここら辺でええか」

 

東京駅付近のビルの屋上にワープした私は視界の半分をエスプチモスと共有させて、天星学院女子学生寮まで向かわせた。

やってる事は犯罪のそれであるが、仕方がない。

流石に深遠なる闇やダークファルスを下した化け物(あんどう)に初見で挑みたくは無い。

まずは下調べをしっかりと行わないとな。

 

「さて、どうなっているか」

 

私はエスプチモスの見る視界を確認した。

どうやら、無事に学生寮に着いたみたいだ。

 

「あっ……」

 

だが、そこで私はあるミスに気づいた。

火継さんの部屋知らねえ……。

いや待て、落ち着け……。

確かメインストーリーで、寮で幻創種と戦う場面があったはずや、その時の間取りを思い出せ。

確かコの字になってて、えーと……あれ何階やっけ?

あかん、全然思い出せん!!

仕方ない、しらみつぶしに探すしかない!!

 

「いま2時30分。確か、あの八坂火継さんがダークファルスに囚われて、ログアウト脱出するのは大体3時10分ぐらい……これやばいな普通に!!」

 

私は全力でエスプチモスを飛ばして、火継さんの部屋を探し回った。

私……たぶん今、鷲宮コオリさんよりやべえ事してるかもしれん……。

エスプチモスを走らせて30分、ようやく目当ての部屋を見つけ出した。

 

「ここか!?」

 

入った部屋はエスカ君の人形や可愛らしい人形が置かれており、テーブルには高価なデスクトップパソコンがあり、その画面には

 

ファンタシースターオンライン2

 

のロゴが表示されていた。

それを見た私はガッツポーズをして飛び上がる。

 

「来た!!ビンゴ!!」

 

私は直ぐにエスプチモスを天井の端に待機させて、その時が来るのを待つことにした。

10分ぐらい経過しただろうか?

デスクトップモニターが突如、キラキラと光を放ち始めた。

 

「……来たか?」

 

私がジッと光るモニターを見つめていると、画面の中から赤い髪をポニーテールにした、絶妙にロリっけのある女の子が現れた。

 

「ぷはぁっ!! も、戻ってこれた……?」

 

女の子は息を切らしながらも、自身のいる場所が自室であるのを確認すると、安堵の表情をしていた。

 

「よかったぁぁ……何とかログアウトできたみたいね……」

 

しかし、自身の身に起きた出来事に理解が追いつけず、彼女はpso2のロゴに愚痴をこぼした。

 

「全く何なのよあれは……。エーテルインフラのバグにしたって、動けなくなるとか……酷すぎでしょ、あんなの」

「……」

 

どうやら、ep4のストーリー通りに進行しているようだ。

一先ず安心だな。

 

「落ち着け、落ち着け私。あれはpso2内での出来事。こっちに戻ってきたから、もう問題ない!」

「(そんな訳ないんだよなぁ……)」

 

この後、何が起きるかを知っている私は、少しだけ火継さんを哀れんだ。

 

「そう、ここは地球。母なる青い地球。戦いも争いもない平和な場所」

「(だといいんだけど……)」

「そして、ここは私だけの砦。私だけの部屋。情報化社会に不可欠なパソコンも、疲れきった身体を癒してくれるベッドも……」

 

そうして、指さしたベッドには……。

全裸で横たわる幼い男の子がいた。

そして、その天井の隅にはそれを監視する男性が1人。

なんやこのカオスな空間。

 

「……え?」

 

素の彼女の声が聞こえてくる。

一瞬だけ固まった彼女だが、自分自身を落ち着かせるため、再び演説を始める。

 

「そう、ここは地球。母なる青い地球。ここは私だけの部屋。私だけの部屋。だからあのベッドは……私の……!!」

 

しかし、再び指差す場所には、全裸の男の子が……。

彼女は座り込み、必死に自身を落ち着かせようとする。

 

「落ち着け、落ち着けヒツギ。まずは落ち着いて深呼吸。スーハースーハー」

 

必死に心を落ち着かせようとする。

うん。わかるよその気持ち。

私もこの世界に来た時、めっちゃ焦ったもん。

 

「私はヒツギ、八坂ヒツギ。歳は16。今は西暦2028年! 元号だと…………忘れた!」

 

正直、ここの下り好きだわ。

 

「ここは地球。ここは東京。ここは学校。ここは寮。pso2の中じゃない間違いなく現実の世界! あれは夢! あれは幻! 想像の産物目の錯覚! ……よし!!」

 

自分自身を完全に落ち着かせた火継さんは、ゆっくりと身体をベッドの方へと振り返る。

だが、そこに男の子はいた。

しかも、動き出したではないか。

 

「ダァメダァまだいる! それどころか起きてる!」

 

彼女は頭を抱えるしかなかった。

そんな彼女を他所に、男の子は朧気な意識の中で搾り取るような声で「ここ、どこ……?」と言った。

ベッドに存在する。

それどころか起きてる。

しかも、喋った。

このトリプルパンチを前に火継さんは絶望的な表情を浮かべた。

 

「しかも喋ってる!」

「ねえ、ここどこ?」

 

そんな火継さんを他所に、男の子は彼女の方を見て話しかけた。

これにより、彼女の冷静さは完全に崩壊した。

 

「こっち見た! 話しかけられた! 夢でも幻でもなかったーーーーーーー!!!」

 

彼女のショッキングな悲鳴に、男の子は「ど、どうしたの?」と心配そうに寄り添おうとした。

ちなみに、この男の子は全裸である。

 

「動くな! 動いちゃダメー! 色々見える! ていうか今の時点でも相当際どい! なんで裸なのよ!? 服どうしちゃったのよ!?」

 

ヒツギは、男の子の肌を見ないように顔を逸らした。

 

「(マジでスッポンポンだったんだな。アルくん……)」

 

ゲームの都合上、見せられないようにはされていたが、今の私の角度だと普通に全部見えてる。

隠さなきゃいけないところが。

……ふうま亜希氏の性格が半分以上入ってるこっちのアプレンティスが見たら、鼻血吹き出して昇天絶倒するな。

これは絶対アプレンティスには見せれんやつだ。

 

 

「……裸?」

 

しかし、男の子には通じてなかったようで、火継さんの必死な質問に首を傾げるばかりだった。

それにより、火継さんは断末魔に近い声をあぜて蹲る。

 

「どこか痛いの? 大丈夫?」

「ちょっとまってて、現実逃避を辞めて、受け入れる準備をしてるから……」

 

暫くの時間を有してから、火継さんは立ち上がった。

 

「それじゃあ、聞かせて貰おうじゃないの! 貴方の名前を!!」

「ひつぎ」

「それは私の名前!!」

「じゃあ、分からない……」

「〜〜〜〜〜〜〜〜!! あんたは一体誰なのよ!? 私の部屋に入ってくるし、私のアバターそっくりだし、まるでpso2から出てきたみたいじゃない!」

 

そう言った時、彼女はハッとする。

まさか、本当に出てきたの?とでも言っているような表情で自身のパソコンの方を見た。

しかし、それを直ぐに否定する。

 

「ないないない! マザーはそんなこと言ってなかったし……!!」

 

その時だ。

扉をノックする音が聞こえてくる。

 

「うっ、騒ぎすぎたかなぁ……。寮長だよね……絶対……」

 

先程とは打って変わって勢いが弱くなる火継さん。

再び扉をノックする音。

 

「はいはい、直ぐに出まーす!」

「(確か……この後……)」

「ダメ! 危ない!!」

 

男の子は何かを察知したのか、火継さんを制止しようとする。

しかし、時既に遅かった。

力強く開かれる扉に巻き込まれ、火継さんは転んだ。

 

「あたたたたた……どうしたのよ、急に……」

 

火継さんは尻を擦りながら立ち上がる。

だが、立ち上がった火継さんは、目の前にいる存在に呆気に取られた。

 

「……は?」

 

扉を開けた存在は、寮長などではなく……

幻創種のドスゾンビだ。

 

「(そういえば、私が初めてこの世界に来た時もドスゾンビに襲われたな……)」

 

私は8年前の出来事を思い出して、少しだけ感傷的な気分になった。

って、んなこと言ってる場合じゃない!

火継さんは!?

 

「ちょ、ちょっと何このバケモノ……。次から次へと何だってのよ……!」

 

唖然と立ち尽くす火継さんを前に、ドスゾンビは巨大な腕を振り下ろした。

 

「あぶない!!」

 

しかし、その攻撃を男の子が庇った。

 

「あぐっ……!!」

 

ドスゾンビの振り下ろし攻撃を受けた男の子は、床に倒れ伏して気を失った。

 

「あ、あんた……私を庇って……」

 

火継さんは直ぐに男の子に近寄り、ゆっくりと近づくドスゾンビに威嚇する。

 

「来るな、来るなああぁ!!」

 

男の子を自身の体で覆うように守り、必死に叫んだ。

 

「(これやばくね? 気づかんように攻撃を……あ、違うわ。これ別に助けんでええやつや)」

 

私はエスプチモスで攻撃を行おうとしたが、ある存在の気配を感じ、見守ることにした。

突如、モニターが光り輝き、2人を襲おうとしたドスゾンビを吹き飛ばした。

 

「あなたは……」

「(来たか)」

 

2人を助けた男が姿を見せた。

火継さんは、その男の名前を呼び、私はアイツがどれほどの強さを持っているのかワクワクしながら見ていた。

クローズクォーターを身に纏った男性。

デフォルトキャラクターの見た目に非常に酷似したpso2の主人公にして、出来損ない(さいこうけっさく)と呼ばれた最強のアークス。

 

「アッシュ!? どうしてここに!?」

「(っし、この世界の安藤さんはどれくらいの強さをしとるかな?)」

 

安藤(アッシュ)の登場に小さくガッツポーズをして、彼の強さを見物する。

 

「話は後だ。先にコイツらを片付ける!」

 

アッシュは、結構イケボ(結構、承太郎の声に似てるな)な声でコートダブリスを取り出して、ドスゾンビを殲滅しにかかった。

結果だが、言うまでもないだろう。

ドスゾンビ風情では、相手にすらならなかった。

流石、ダークファルス【巨躯】【敗者】アプレンティス・ジア【双子】【深遠なる闇】をくだしただけの事はある。

 

「(うわぁー、安藤バケモンやん)」

 

深遠なる闇である私でも、若干引くぐらい強かった。

そういえば、pso2のwikiのコメントに書いてあったな。

 

地球の連中がオラクルに勝てるわけが無い。

ワンピースのキャラクターがドラゴンボールのキャラクターに勝てるかって話。

 

ってコメントを見た。

……ホントだよ。

これ安藤に勝てるか怪しなってきたな。

 

「ヒツギ、怪我はないか?」

 

ドスゾンビを倒し終えたアッシュは、火継さんの方へと近づく。

 

「う、うん。ねえ、あ、あの化け物は?」

 

気絶している男の子を庇いつつ、アッシュに訊ねた。

 

「ああ、もう大丈夫だ」

 

アッシュは優しげな表情で頷いた。

それを見た火継さんは、先ほどからの緊張した表情から打って変わり、ホッと安心した表情になった。

 

「そっか、よかった。もう大丈夫なんだね。何が何だか分からないけど、私達を助けてくれたんだよね」

 

しかし、度重なる非現実的な遭遇によって、頭がパンク寸前だった火継さんの意識は次第に薄れてゆく。

 

「あり、が……とう……」

 

アッシュに感謝の言葉を伝えると同時に、彼女の意識は眠りへとついた。

その後、アッシュによって彼女と男の子はベッドへと移動させて、散らかった部屋を綺麗に整頓した。

 

 

「そうか。それはよかった」

 

アッシュは耳に手を当てて誰かと会話をしている。

たぶん、シエラさんだろう。

 

「2人ともバイタルは安定してますから、心配しなくて大丈夫ですよ」とでも言っているのだろうな。

 

 

「あぁ、分かった。これより帰還する」

 

シエラさんと何かを会話したアッシュは転送され、オラクルのアークスシップへと戻って行った。

どこのシップ所属なんだろうか?

アークスシップ9番艦ハガルかな?

まぁ、そこら辺はええか。

私は再び視界を火継さん達へと移す。

比較的、大きめなベッドに横たわる女子高生と全裸の少年。

ただの事案である。

あまりのシュールな光景に私は少しだけ笑ってしまった。

 

「(このまま見続ける……?)」

 

一瞬、これ以上見るのはやめようと考えたが、まぁ何かあるかもしれないと思い、あと少しだけ観察を続けることにした。

 

かなりの時間が経過した。

火継さんは、目を覚ました。

何事もない自室を見た火継さんは、大笑いする。

 

「なんだなーんだ! やっぱりバケモノも何もかも夢だったのね! よかったよかったよかったー!」

 

先程までの事が夢だと理解した火継さんは、再び日常生活に戻ってこれた事に安堵し、ワイワイと騒ぐ。

しかし、自身のベッドを確認した時、大いなるため息をはいた。

感情のジェットコースターである。

 

「はぁぁぁーーーーー……」

 

ベッドには全裸の男の子がまだ横たわっていた。

日常生活から再び現実へと引き戻されたのである。

 

「やっぱり……夢じゃなかった……」

 

火継さんはガクリと肩を下ろした。

 

 

「(そろそろ撤収するか)」

 

私は、エスプチモスを霧散させた。

 

「なかなか良い情報が取れたな」

 

安藤さんの強さを見た私は、ホクホク顔で極東支部へと戻った。

そして、そのまま地下格納庫へと向かい、ある少女へと話しかける。

 

「メイシアスさん。少しお時間よろしいですか?」

「おー、小野寺じゃないか。どうした? エルミルなら幻創戦術機に乗って演習に行ってるよ」

 

アリス・メイシアス。

マザードールズを含む機動兵器の開発や整備を一任している凄い人だ。

18歳の子が、よくやっている。

 

……ずっとこの格納庫で整備や開発をしているからだろうか?

彼女の来ている白衣は灰色に染まり、衛士強化装備も所々黒ずんでいる。

また、彼女からは鉄とオイルが混じりあったほのかな香りが漂う。

彼女らしい香りだ。

 

「あー、いえ。今回はメイシアスさんに頼みがありまして……」

「おー? デートのお誘いかな? でも、残念だったね。私はメカ以外に興味はないのだよ!」

 

ハーッハッハッハーッ!

と自慢気な態度で高笑いをするメイシアスさん。

 

「デートも良いと思いますが、ダークファルス・エイジスについてです」

 

私がそう言った瞬間、彼女の目つきが変わった。

あれは獲物を狩る猛獣の目だ。

私の言葉に、メイシアスさんは人が変わったように食いつく。

 

「何かな!? エイジスの何が知りたい!? 内部のサイコフレームについてかな!? あれは具現化するのに苦労したよ。なんたって人の意思に反応する代物だからね。しかもエイジスの構造は非常に複雑でデータを参考にサイコフレームをエイジスの骨格に合わせて具現化してから作るのに本当に苦労したよ。建造費はマザークラスタが負担してくれるから助かったけど試作に試作を重ねてようやく出来た最高傑作だからね。あとは────」

 

 

2時間経過。

 

 

「つまりは従来のダルクファキスイージスよりも数段上のスペックになっていると言うわけだ。いやぁ我ながら良い職につけたと思うよ!!」

「それは良かったです」

「そういえば、私に何か話があるんじゃなかった?」

「ええ、ダークファルス・エイジスの量産って可能ですか?」

「200機程度なら即時量産は可能だ。それ以上となると1週間ほど時間が必要になるが……」

「すみません。それなら、200機程度を量産してください」

 

私はメイシアスさんに深く頭を下げた。

 

「ふむ。分かった。直ぐに取り掛かろう」

 

彼女は近くにあったデバイスを操作し、エイジスの量産に取り掛かり始めた。

 

「ありがとうございます」

「気にするな! あんな最高のメカをもっと量産出来るなんて天国だよ! ありがとう!」

 

メイシアスさんは、笑顔でお礼をした。

私も、もう一度、お辞儀をして地下格納庫から出た。

とりあえず、安藤及びオラクル船団とドンパチやるなら、数は多い方がいいだろう。

人事の方々にお願いして、エイジスのパイロットを募集しようかな?

無論、衛士強化装備を着ることに抵抗のない人を最前提で。

そんなことを思いながら、私は開放的な回廊を歩いて人事区画へと向かった。

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

 




マザークラスタ極東支部
ダークファルス・エイジス、戦域統制型マザードールズ、幻創戦術機、エスカ・モビルスーツのパイロット募集

給与
時給5万円
1回の任務の完遂につき+5万円

仕事内容
幻創種の討伐。
必ず来る終の艦隊の迎撃。
地球防衛。

勤務地
マザークラスタ極東支部。

勤務時間
午前9時〜午後3時。
午後3時〜午後9時。
午後9時〜午前3時。
午前3時〜午前9時。
この4つの内、いずれか。

休日
土・日・水曜日。
月・火・木・金曜日。
この2つの内、いずれか。


待遇
幻創・衛士強化装備支給。
交通費全額支給(上限なし)。
朝昼夕飯の代金全額支給(上限なし)。
社会保険完備。
福利厚生。
緊急任務手当あり。
残業手当あり。
所得税と住民税の完全免除。


備考
勤務の間は、常に幻創・衛士強化装備を着用してもらいます。
幻創・衛士強化装備の着用に抵抗のない方、前提条件です。
幻創種の討伐を行う都合上、身体を負傷する可能性があります。


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56話 ダークファルスの冠

 

 

 

 

 

 

3月23日

 

 

 

 

私は縁側でのんびりとしていると、上空でダークファルス・エイジスとネクス・アース数機が極東支部へと帰還する様子が見えた。

無事に任務を終えたのだろう。

 

 

「ダークファルスか……」

 

その時、私はふと思った。

ダークファルスって……。

ていうか、そもそもダークファルスの語源って……。

 

「龍照どうしたの?」

 

テーブルで寛いでいたペルソナが不思議そうな表情で訊ねた。

私はさっき思った事を言った。

 

「ダークファルスって名前さ、オラクルやとフォトナー時代からあった言葉だよな?」

 

私が皆に訊くと、大原がいち早く「そうやのー」と言った。

 

「ダークファルスって語源、ダルクファキスから来てるんじゃない?」

 

ダルクファキス。

ドールが生み出した最高傑作のドールズだ。

ドールズの中でも抜きん出た強さを持っていた化け物で、イージス、シャルウル、クサナギ、ロンゴミアントの4機が存在している。

今思えば、笑えるほどに強かった。

数年前の私は、よくアレに勝てたものだ。

 

「あー確かに、それあるかもね」

 

キイナが煎餅を齧りつきながら言った。

こう言う状態のキイナって話半分に聴いてる状態だから、本当にそう思ってるのか分からない時があるんだよな。

あー、まぁいいや。

 

「フォトナーの中では、強い存在に付けられる名前だったりするのかな?」

 

私はルーサーの方を見た。

「実際のところどうなの?」と言わんばかりの視線を送った。

寝転んで本を読んでいたルーサーも、私の目線に気づいたのだろう。

 

「本物の僕なら何か分かるかもしれないね」

 

と一言。

 

「だよな……」

「でも、その仮説は合ってると思うよ。何故そう思えるのかは分からないけどね」

「なるほどなぁ……」

 

そういった後、私は無言になった。

私の様子を不審に思ったペルソナは「何か気づいた事でもあるの?」と私に訊いた。

 

「あぁ。ダークファルスって、本当は存在しないんじゃないかな?って」

 

思いかげない発言にその場にいた全エスカファルス及び、大原と藤野がこちらの方を見る。

さっきまで煎餅をバリバリ食べていた彼女までもがこちらを見たのは驚いた。

 

「ふむ、興味深いね。詳しく聞いてもいいかな?」

 

寝転がって読書に勤しんでいたルーサーが、飛び起きて真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。

 

「オラクルのダークファルスってさ、超強力なダーカーな訳やろ?」

「そうだね」

「それってさ、ダークファルスっていうのは、超強力な存在に付けられる称号みたいなものなんじゃない?」

「ほう」

 

ルーサーだけじゃない、他のみんなも真剣な眼差しでこちらを見ていた。

私は、何故ダークファルスは超強力な存在に付けられる称号かを下手くそな説明で必死に解説した。

 

さっきも説明した通り、オラクルのダークファルスは超強力なダーカーであると。

それならば仮に、エルダーやルーサーが並大抵の強さしか持っていない存在なら、ダークファルスとは呼ばれず、普通にエルダーやルーサーと呼ばれることになる。

ダークファルスという名は、物凄い強い存在に与えられる称号なのだと私は考える。

 

つまり、オラクルの他の次元の強い存在が現れれば、その存在にダークファルスと付くのではないだろうか?

 

例えば、

モンハンの次元から超強力なモンスター…………ミラボレアスやアルバトリオンが来た場合、こちらの世界では、ダークファルス【運命《ミラボレアス》】やダークファルス【夜明(アルバトリオン)】として呼ばれるのでは?

 

デュエルマスターズなら、ドキンダムやドルマゲドン、ゼーロンがダークファルスとして呼ばれる。

 

対魔忍ならクソインゴミーヤーのマウクソやカス霊卿のゴミタレスが……と言った感じだ。

 

「あの2人に対する暴言よ」

 

あからさますぎる暴言にペルソナは、ブホッと吹き出した。

 

「ええねん。話を続けるぞ」

 

我々エスカファルスもそうや。

皆も超強力な幻創種だから、ダークファルスという称号を得ることができるのよ。

ただ、幻創種のダークファルスだから、私が勝手にエスカファルスって言ってるだけで、ダークファルスなのよ。

 

そんで仮に、ダークファルスの語源がダルクファキスってことやけど、もしかしたら、フォトナー時代に襲撃したエルダーやルーサーは、ダルクファキスと呼ばれてて、時が経つにつれてダークファルスという呼び名にかわったのではないかと。

 

 

私は必死に説明をした。

ただ、発達障害の頭ではこれが精一杯である。

 

「なるほどね。面白い考察だ」

 

ルーサーはフフっと微笑んだ。

 

「これは所詮私の感想であり、データも何も無い戯言や。本気にしない方がいい」

「いや、ダークファルスは称号というのは、非常に興味深いよ。いい考察だ」

 

パチパチと拍手を送るルーサーに、私はそれを素直に受けとめた。

 

「そうか。ありがとう」

「1番強い存在がダークファルスという名を持つっていうのは考えなかったな」

 

キイナが感心したような口調で言った。

 

「じゃあ、対魔忍だとダークファルス・アサギになるのかな?」

「まぁ、そうなんじゃない?」

 

ペルソナの考えに、キイナが煎餅を食べながら答えた。

「適当だなぁ」とペルソナはアハハと笑った。

 

「つまり、BETAがオラクルに侵略すれば……」

 

エルミルは自身のスマホで榊千鶴のイラストを何枚も見つめながら呟いた。

 

「重頭脳級辺りか……シリコニアンがダークファルスになるかもな」

 

ダークファルス【重脳(ブレイン)】とかダークファルス【珪素(シリコニアン)】って感じじゃないか?

知らんけど。

 

と言葉を付け加えて。

 

「この世界に来たら、僕が全員、塗り潰してやるサ……!!! 奴らの歴史丸ごと、サ……!!!」

「……あのさ、こんなところで殺意を込めないでくれる?」

 

スマホがパキッと欠ける程の握力で握りしめ、殺意と闇を放出しながら呟くエルミルに、アプレンティスが呆れ口調で咎めた。

どうしてエルミルがBETAという資源採掘装置……地球外生命体を憎んでいるのかは、聞かないでおこう。

何となく察しがつく……。

 

そんなくだらない話が少しだけ続いた後、ふと思い出したようにルーサーが口を開いた。

 

「そろそろエピソード4に入った頃じゃないか? ヒツギ達の動向は分かっているのかい?」

「あぁ、昨日にエピソード4が始まってしまった。アークスとマザークラスタの喧嘩が少しだけ起こるだろうな」

 

私は予め、火継さんの部屋にエスプチモスを設置させて監視していた。

完全な覗きではあるが、まぁ向こうの動向も知っていたい故に致し方ない事だ。

プライベートな部分は覗かなければ良いだけだな。

 

「ねーねーお風呂シーンってまだだよね!?」

 

ペルソナがハート目でヨダレを垂らしながら、私に飛びかかるように食いついてきた。

 

「いや、まだっぽいな」

 

私は片目の視界をエスプチモスに移して、火継さんの状況を確認した。

どうやら今は、謎の男の子に事情聴取をしている場面のようだ。

 

「お風呂のシーン入ったら言ってね! 直ぐに覗くから!」

「シンプルに最低な事言ってる」

 

ハート目でキラキラとした表情をするペルソナに、アプレンティスが若干引き気味に答えた。

 

「何を言ってるんだが……」

 

私は呆れ口調のまま、火継さん達の様子を覗き見した。

 

 

火継さんの部屋では、服を着せられた男の子を前に、椅子に座った彼女が確認を行っている状況だ。

 

「えーっと、もう一度確認するわね。まず、あなたは名前が分からない」

「うん」

「自分がどこから来たのかも分からない」

「うん!」

「ついでに自分が何者なのかも分からない」

「うん!うん!」

 

火継さんの頭を抱えた確認に、男の子は元気よく、そして笑顔で頷いていた。

ちょっと可愛いな。

 

「記憶喪失を喜ぶなー!!」

 

しかし、その態度に火継さんはバッと立ち上がり大声をあげてツッコミをいれた。

 

「ごめんなさい」

「全く……」

 

反省した素振りの男の子に、火継さんは「うーん」と腕を組んで思考を張り巡らした。

 

「(色々なことが起きすぎて頭パンク寸前なのに、こんな得体の知れない男の子を抱える事になるなんて……あの化け物のこともあるし、さっさと警察に突き出すのがベストだと思うけど……あの時、私を守ってくれた。その恩を受けたまま見捨てるのは……)」

 

考えが決まったのか、彼女は「やっぱり、そんな事できないよね」と一言。

私には何を考えていたのか分からなかったが、まぁ大丈夫だろう。

だって火継さんだし。

 

「……ひつぎ?」

 

男の子は不安そうな顔で首を傾げた。

それを見た火継さんは笑顔になって「そんな不安そうな顔しないの。起きてしまったことをウジウジ言っても仕方ないし、なるようになるでしょ」と男の子の頭を撫でた。

そして、火継さんは少し考えるような仕草をして口を開いた。

 

「それにしても、名前が無いのは不便ね。何か良い呼び方、欲しいところだけど、何かある?」

 

火継さんの質問に、男の子は首を横に振って「ない。火継の好きなように呼んで」と言った。

その言葉に火継さんは、「好きなようにかぁ……」と考え込んだ。

 

「その容姿だと……日本神話的なのは合わなそうだしなぁ……」

 

若干、嫌な予感がする単語が出てきた。

暫し考え込んだ後、名前を提示した。

 

「フォルセティっていうのはどう?」

「(なんでやねん……)」

 

それを見ていた私は心の中でツッコミを入れた。

 

「ヤダ」

 

男の子は即答で首を振った。

 

「即答ッ!? 好きなように呼べって言ったじゃん!! じゃあ、ヘルモーズ!」

「イヤ」

「ヘイムダル!」

「ダメ」

「ロキ!」

「ありきたり」

「最後はタダのダメだしじゃない!!」

「(火継さんのネーミングセンスよ……。いや私も人の事は言えんか……)」

 

火継さんの名付け案に全て却下され、頭を抱えながら「あーもう時間が無い! 私今日生徒会に顔を出さなきゃ行けないのに!」と焦りの表情を浮かべた。

そして、考え抜いた名前がこちらだ。

 

「じゃあ、アル!! 無いの反対!!」

「……ある? アル……アル!! それ良い! 僕の名前、アルがいい!!」

 

心底気に入った様子の男の子アルに、火継さんは「そんな安直な名前より、ガウェインとかオーディンとかトールとかフェンリルとか……」と少しだけ抵抗する。

が、アルははしゃぎながら、「アル! アル!! 僕はアル!!」と言った。

 

「なんかちょっと腑に落ちない……。まぁ気に入ったならいいか」

 

そう言い終えると、彼女はチラッと壁に掛けていた時計を見る。

時刻は10時ちょうど。

生徒会に顔を見せないといけない時間は10時。

 

「って、遅刻!! それじゃあ私ちょっと出かけてくるから、ここで大人しくしてて!!」

 

姉が弟に言い聞かせるようにアルに言った。

 

「もし、寮長や他の人に何か言われたら、八坂火継の弟です! って言ってて!!」

「そう、弟! 私はお姉ちゃん。いい?分かった!?」

「分かった。僕はお姉ちゃんの弟」

「よし、それじゃあ大人しくしてるのよ。なるべく早く帰ってくるからね!」

 

そう言って、彼女は早歩きで自室から出ようとする。

アルはそれを見て「あっ……」と呼び止めた。

 

「何? まだ何かある?」

 

足を止めて、アルの方を振り向く火継さんに、アルは笑顔で、「行ってらっしゃいお姉ちゃん」とダボダボした袖を振って見送った。

それを見た火継さんは少しだけ戸惑った様子で「あ、……い、行ってきます」と手を振り返して部屋から出た。

寮の廊下で少しだけ立ち止まった火継さんは先程の言葉を思い出して呟く。

 

「行ってらっしゃいなんて言葉、久しぶりに聞いたかも……」

 

そして少しだけ口角を上げて、「まぁ、暫くこのままでも良いか。あのぐらいの弟欲しかったし」と言った。

 

「(あぁ、堕ちたな。対魔忍レベルに素早い堕ち方だ)」

 

私は火継さんの様子を見て、心の中で呟いた。

そして、私はエスプチモスを霧散させて視界共有というなの覗き見を辞めた。

 

「ふぅ……」

 

私は一息ついて、寝転んだ。

 

「ねえ、お風呂まだ?」

「あぁ、まだだ」

「早くお風呂覗きたい!! ヒツギちゃんやコオリちゃんのお@#!@#!いとか、お@#!@#!@#!とか、太ももとか鼠〇部とかみたい!!」

 

ペルソナの清々しいレベルの変態発言に私は乾いた笑いが出た。

 

「ヴワァカタレェイ! ンな目的で見んなや淫乱ピンク!!」

「私淫乱ピンクじゃないもーん、淫乱ブラウンだもーん!!」

 

私の発言に、ペルソナは自分の髪をヒラヒラさせて反撃する。

 

「フッハッハッハッハ! そういう問題でいいのかい?」

 

彼女の訳の分からない発言に私は頭を抱え、ルーサーは思わず爆笑していた。

ホントにコイツには勝てねえ……人間や幻創種の常識を遥かに超越してやがる。

いったいどうしたら、こんか変態属性を手に入れる事が出来たんだよ……。

あと絶対にコイツだけには風呂シーンは見せねえ。

ていうか、自身が淫乱というのは認めるんだな……。

私はペルソナの問題発言を前に、私はため息をついた。

 

 

 

続く

 

 



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57話 ヒツギとコオリ

 

 

 

 

 

 

「私淫乱ピンクじゃないもーん、淫乱ブラウンだもーん!!」

「お前はそれでいいのか……?」

 

ペルソナの問題発言を前に、私は深くため息をついた。

 

「(もう少し調べてみるか)」

 

私は再度エスプチモスを具現化して、火継さんの後をつけた。

そんな中、天星学院の生徒会室でもため息を吐く女の子がいた。

 

「はぁ……」

 

テーブルに突っ伏してため息をつくヒツギに、ロングヘアーの女の子が火継の肩に触れる。

 

「ダメだよー、ヒツギちゃん。次期生徒会長さんが、一般生徒の前でため息なんてついちゃー」

 

女子高生にして、規格外の物(多分ヒツギの3倍ぐらいデカイ)を持っているその女の子は、優しげな声でヒツギに言った。

 

「私はタダの生徒会員でーす。まだ生徒会長じゅないので問題ありませーん」

 

力の抜けた口調で突っ伏したまま会話をするヒツギ。

 

「それに貴女は一般生徒じゃないでしょ? 次期副生徒会長の鷲宮 氷莉(わしのみや こおり)さん?」

 

さっきのお返しだと言わんばかりにヒツギは、その子をからかう。

 

「や、やめてよその呼び方ー。私だってタダの生徒会役員だよー」

 

鷲宮氷莉……多分ep4で全体的に1番ヤバいかもしれない少女だ。

ぶっちゃけ、やばさだけ見ればマザークラスタ極東支部に所属している幹部 エスカファルス・ペルソナと比肩するレベルだろう。

 

「いっその事、コオリが生徒会長になればいいのにー」

「わ、私はそういうの向いてないから、ヒツギちゃんがなるべきだと思うよ。それに生徒会の皆もそうなるって思ってるし」

「生徒会の皆かー……。そうは言っても、全員マザークラスタ所属のメンバーだから、出来レースなんだよね」

「もー、ヒツギちゃんは直ぐ擦れたこと言うんだからぁー。いいじゃない、出来レースでも、そもそもマザークラスタ自体選ばれた人しか入れないんだからさー」

 

ヒツギの態度に深読みをしたコオリは何かを察した。

 

「そんなにヒツギちゃんが嫌なら私が代わりになってもいいけど、その時はヒツギちゃんに支えて欲しいなー……なんて……」

 

頬を赤くして、若干恍惚に浸るコオリを前に、ヒツギは「いや、そういうわけじゃないんだけど……」と苦笑いしつつ、再びため息を吐いた。

そのため息には気づかなかったコオリは、昨日の出来事を思い出して、ヒツギに質問をした。

 

「そういえば、昨日pso2内で会えなかったね。何してたの?」

 

コオリの言葉に、ヒツギは呟くように答えた。

 

「pso2……」

「ヒツギちゃん?」

「ねえ、コオリ。pso2ってどういうものだっけ?」

 

キョトンとするコオリ。

 

「どういうものって、どういう意味?」

「んー、いいから、コオリの知ってる事を教えてよ」

「う、うん? わかった」

 

コオリは少しだけ疑問に思いつつも、自分の知っているpso2の知識を話した。

 

 

pso2とは、2年前からサービスが開始されたオンラインゲームの事で、マザークラスタが開発した次世代クラウド型OS「エスカ」に標準インストールされてるソフトのこと。

 

「あー、ごめん。そういう一般認識の事じゃなくて、私たちにとっての認識のこと」

「私たち? あー、マザークラスタの皆が、あのゲームをどう思ってるか、だね」

 

虚無期間……。

HDDバースト……。

大和問題……。

散れ非英雄伝説のpso2から……。

ゴキ団……。

カッコイダルォオ!?

固定を組む努力を怠っている……。

高速詠唱伝記ボクラガソン……。

 

これ以上考えるのはやめておこう。

……怒られる。

 

「マザークラスタの目的は、OSエスカの保守、エスカに生じたバグを取り除くことだからね」

「その為に、マザーにスカウトされた総勢1000人を超えるマザークラスタのメンバーが日々エスカの保守と保全を行っている、でしょ?」

 

火継さんがコオリさんにいうと、彼女は笑顔で頷いた。

 

「うん、それでpso2にもそのバグが混ざりこんでいるみたい。AIとは思えない挙動をする不可解なNPCとか、色々おかしな所が多いから……」

 

「(まぁ、そらそうだよな……。マジで別の次元に飛んでるんやから……)」

 

「私たち、マザークラスタの所属者がpso2を調査して情報を集めてるの」

 

因みに、私達は言ったことは無い。

後々行くつもりではある。

 

「コオリの意見を纏めると、pso2はゲームって認識よね。そこにバグのような物が生じてるって考えだよね?」

 

火継さんの言葉に、コオリは少しだけキョトンとしたが、それに頷いた。

 

「……? うん、そうだよ? マザーもエスカのバグって言ってたしね」

「(マザー……。目的の為とはいえ、呼吸するように嘘言っとる。やっぱり数年前のフォトナー襲撃事件の時に自分の無力を痛感して、躍起になっとるな……)」

 

「……」

 

火継さんは、何やら険しい表情で何かを考えていた。

クソ……何考えてるか分からねえ……。

確かep4だと、pso2がゲームの世界なのか?的な疑念を浮かべてる感じだっけ?

 

「ひ、ヒツギちゃん? 私、何かまずいこと言っちゃった? ごめんねごめんね、空気読めなくてごめんね」

 

険しい表情をする火継さんを見たコオリは、彼女の顔を見ながら謝罪を連呼していた。

なんか、小学生時代の私を見ている気分だ……。

 

「コオリ!」

 

険しい表情から一転、何かを決心した彼女は立ち上がりコオリの方を見て言った。

 

「コオリが、男苦手なのは知ってる。それでも我慢して、会ってみて欲しい人が居るんだけど」

 

火継さんの発言に、コオリは少しだけ顔が引きつった。

 

「お、男の……人? ヒツギちゃんのお兄さんかな?」

「違う」

「エンガさんじゃない……?」

 

そう言い終わるや否や、何かを察したコオリは、生徒会室で騒ぎ出す。

 

「ま、まさかその男の人ってまさかまさかまさかそんなヒツギちゃん!?ダメだよ不純異性交友だよヒツギちゃん生徒会長になる人がそんな淫らな事をしたら全校生徒に波及し淫靡な学園生活が!」

「違うわぁぁ!! 仮にそんな人がいたとして、なんでコオリに会わせんのよ!?」

「え、いないの?」

「いるわけないでしょおお!」

「(なんちゅう会話をしとんねん……)」

 

2人の会話を聴きながら、私は心の中でツッコミをいれた。

 

「はぁぁぁぁぁ、あのねコオリ、会ってほしいのは兄さんでも彼氏でもなくて……」

「じゃあ竿役!?」

「…………。いや、私の……弟?」

 

そう言いながら、首を傾げる火継さん。

 

「…………はいぃ?!」

 

もちろん、弟の存在なんぞ知る由もないコオリは目を真ん丸にして同じく首を傾げた。

 

「(このまま続きも見てみるか)」

 

私は盗撮を続行しようとした時だ。

 

「入浴シーン!!!」

「どわあぁぁぁぁぁ!!?」

 

ペルソナの飛びつき攻撃を食らってしまい、視界共有が解除された挙句に、エスプチモスまでもが具現化を解いてしまった。

 

「まだだよ! あとお前のせいでエスプチモスが霧散したやんけ淫乱ブラウン!!」

「それはごめん」

 

割かしキツめの怒り口調に、流石のペルソナもしょんぼりして反省していた。

 

「それで、今はヒツギちゃん達何してたの?」

「あー、生徒会室でマザークラスタとかpso2の事を話してたよ」

 

私は冷蔵庫からジュースを取り出しながら、ペルソナの問いに答えた。

 

「ふーん」

 

物凄いどうでもよさげな返事。

多分、これが入浴の話だったら飛びついていたんだろうな。

 

「あの二人も、今はマザークラスタに入ってるんだよね?」

 

6袋目に突入した煎餅を食べながら、キイナは私と大原に訊ねる。

 

「あぁ」

 

余談であるが、彼女たち天星学院生徒会メンバーは、マザークラスタの極東支部に所属しているのかについてだが、答えはNOだ。

極東支部の存在は知っているだろうが、まだヒツギ達は極東支部には所属していない。

正確には極東支部に内定が確定している状態、もっというと彼女達はアルバイトのようなものだ。

学校を卒業してから、極東支部に所属できる。といった感じだ。

故に今の彼女達は、マザークラスタの中枢の事は本当に何も知らないと思う。

なんなら使徒の事も、私達の幹部の事も知らないはずだ。

マザークラスタとは、エスカの管理を担う選ばれた人達、その程度の認識だろう。

 

マザークラスタの奥底を見れば、どう感じるだろうか。

今や、この世界の通信技術はエーテルによって賄われている。

やろうと思えば、エーテルの通信制御を止めて、全世界を大混乱に陥れることだって出来る。

本当にその気になれば、世界を好き勝手に、意のままに操る事が可能だ。頭おかしい。

その為、世界の政府機関も迂闊に手を出す事はできない。

手を出そうものなら、月面本部を中心に、各支部からどんなしっぺ返しがくるかなんて容易に想像できる。

 

「早く風呂シーンみたいなぁ」

 

そんな考えを引き裂くように、ため息混じりにペルソナが呟いた。

 

「お前はまだ言うとるんか!?」

「だって見たいじゃん!! 見たくないの!?」

「見たいけど、流石にプライバシーの侵害やぞ!」

「いいじゃん! どうせアークスシップの艦橋でも、あのまな板ド変態淫乱バナナと安藤だって見てるって!!!」

 

こんな淫乱ブラウンに言われるシエラさんが不憫でならない……。

 

「お前は、誰かが赤信号を無視してるからって理由で赤信号を無視するんか!?」

「しないよ! でも風呂シーンは全くの別物だもん!! 赤信号は無視しないけど、風呂は覗くよ!!」

 

ろくでもない発言をペラペラと……。

深遠なる闇じゃなくて、淫乱なる闇だろコイツは……。

 

「こんな皆がいる前で低俗な争いをするのは、あまりよろしくないと思うよ?」

 

ルーサーは読んでいた本をパタンと閉じて、こちらを睨みつけた。

 

「「ごめんなさい……」」

 

その覇気に気圧された私とペルソナは、即座に大人しくなって謝罪した。

あぁ、先が思いやられる……。

 

 

 

 

 

 

「ふっふっふっふっ……ふ毛ッ毛ッ毛ッ毛ッ毛ッ毛ーーーーッ!!!」

 

そんな中、アークスとは別の脅威が近づいていた。

髪を丁寧に手入れをして、奇妙な笑い声をあげる男性がいた。

 

「遂にこの時が来た。俺の具現武装で、俺をバカにした奴ら全員に復讐をする!! 頭垢(ふけ)ーーーーー毛ッ毛ッ毛ッ毛ッ毛ッ毛ッ毛ーーーーーー!!!」

 

 

 

続く



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58話 オタク

 

 

 

「ったく……」

 

私は再び、エスプチモスを再具現化させて動向を監視した。

 

 

 

 

早速ヒツギの寮部屋にて、コオリの悲鳴が木霊する。

 

「い、いやあああああーーーーー!!」

 

その声だけを聴けば、何かの事件性のあるものだと感じでしまうだろう。

だが、中身を開けてみれば……。

 

「なに!? なんなの!? この可愛い生き物は!?」

 

美少年であるアル君の姿を目にしたコオリが発狂しているだけだった。

 

「やだやだやーーだーー!! かーわーいーいー!! キン・パツ! ヘキ・ガン!! そしてダボ袖着こなし! 奇跡すぎるよ!!!」

 

ドッドッドッ!と音を立ててアル君に接近するコオリを前に、アルは心底怯えた表情でヒツギにしがみついて助けを求めた。

 

「フヘヘェェェ……♡ そんな邪険にしないでよぅ♡ おねーさんといい事しよーよー♡ 何も悪いことしないからさー♡」

 

サキュバスのような眼光と笑みを浮かべたコオリは、ネットリとした口調で誘惑した。

傍から見れば事案である。

そもそも、これほど信用出来ない言葉もないだろう。

清楚な少女を、ラブホの前まで連れてきて「何もしないから休もうぜ」と言うレベルに信用出来ない。

もしくは、「行けたら行く」レベル。

そんな淫乱ブラウンに比肩するレベルの変態コオリさんに呆れ顔になったヒツギはコオリの肩を持って「落ち着け」と一言。

「コオリ、あんた男苦手じゃなかった?」

「オトコの娘は別腹だよ別腹♡」

「音じゃ分からないところで、とんでもないこと言っただろ……今」

 

変態度合いだけで言えば、ダークファルス級なコオリの前に、ただただ呆れるしかないヒツギ。

そんな事を無視してコオリは話を続ける。

 

「それでヒツギちゃん。この()、どこからお持ち帰りしてきたの?」

「…………………………笑わずに聞いてよ?」

 

そう言って、アルのお持ち帰りした経緯をコオリに話した。

 

 

30分ぐらい経過しただろう。

 

 

コオリはpcチェアに、ヒツギとアルはベッドに座っていた。

 

「pso2の中から……うーん、うーん、うーん」

 

ヒツギの話を前に、流石のコオリも訝しんだ表情で唸るような声をあげて頭を捻っていた。

 

「にわかには信じ難いけど、嘘じゃないの。状況的に考えて間違いない」

「疑ってないよ。私、ヒツギちゃんを疑ったこと、1度でもあった? でも、それが本当となると、私でも、そんな可愛い子を持って帰って来れるのかな?」

 

ブレない、ある意味ポジティブなコオリに、ヒツギは「私は真面目な話をしているの」と咎める。

 

「ちょ、ちょっとしたお茶目だよー」

 

誤魔化すコオリ。

 

「でも、ヒツギちゃんがpso2内からアル君を連れてきちゃったって思うのは、そう思うなりの事件があったって事でしょ?」

 

珍しく真面目な事を言うコオリ。

 

「どういうことがあったのかを振り返れば理屈はともかく、原因の心当たりくらい浮かんで来るんじゃないかな?」

「うーん、そうは言っても……昨日起きた事は全部想定外の事で、どれが原因だったか、見当もつかない」

 

ヒツギの言葉を聞いたコオリは、アルの方を見てから「アル君、君は何か覚えてない?」と優しい声で質問する。

しかし、アルは、分からないと言わんばかりに首を横に振った。

 

「うーーーん。あとはー、そうだねー。他の当事者に話を聞いたり出来れば、何か分かったりするかもしれないけど……」

「他の当事者となると……」

 

ヒツギの頭に浮かんだのはアッシュだが……。

今のヒツギに、アッシュの事まで説明できる自信がなかった。

むしろ、誰がヒツギに説明してくれという状態だ。

ヒツギは、心の中で考えを張り巡らせていると……

 

 

「へっ……くしっ!!」

 

と、アルがすんごい可愛いくしゃみをした。

それをヒツギとコオリがマジマジと見つめていた。

 

「聞くの忘れてたけど、どうしてあんな服装なの?」

「う……アルの着られそうな服が、今これしかなくて……」

 

ヒツギは少しだけ申し訳なさそうに説明をした。

それを聞いたコオリは「ふむふむ」と言って、話を続ける。

 

「分からない事はいっぱいだけど、まずやるべき事があったね」

「そうだね。アル。あんたの服、買いに行こっか!」

 

 

 

 

12時ぐらいだろうか。

買い物を終えた3人は、東京の市街地で新調されたアルのコーデを眺めていた。

 

「フワああああああ♡ 堪らないよー♡ 想像通り……うぅん、想像以上の出来♡」

 

コオリは大勢の人がいる中でも、関係ないと言わんばかりに発狂していた。

だが、アル君のコーデは非常に可愛く、コオリでなくても「これは可愛いな」と思える出来栄えだ。

しかし、喜びに浸りきっているコオリとは裏腹に、アルは窮屈なようで脱ぎたそうにしていた。

 

「僕、服を着るなら、お姉ちゃんみたいなのがいい」

「あんたは男でしょ」

「男の娘「コオリは黙れ」

 

コオリの発言に直ぐ様被せて黙らせるヒツギ。

 

「いいから着ておきなさい。せっかく似合ってるんだから」

「うん。分かった。お姉ちゃんが選んでくれたものだし」

 

いい子だよアルくん。

 

「選んだのは、私じゃなくてコオリだけどね。しっかし、よくこんな感じにコーディネートできたわね」

「私も大したことしてないよ。エーテル上で検索したのをそのままだもん」

 

コオリはスマートフォンから、アプリを起動してヒツギに見せた。

 

曰く、このアプリは「トレンドクリエーション」と呼ばれるアプリで、YMTコーポレーションが開発したものだそうだ。

 

身長、年齢、予算を入力、そして、その人の全身の写真を読み込むだけで、コーディネートを自動で行ってくれる優れものだ。

更に、AIによって3Dでその人の全身が出力される為、360度から見渡せるため、試着も不要なヤバいアプリである。

言うならば、pso2のエステのようなものを現実の世界で行えるというものだ。

頭おかしい。

 

「へー、そんなのあるんだ」

「ヒツギちゃんは、こういうのに興味持たなすぎだよ。その服だって私が選んだものじゃん」

「服なんて何着たって死にゃーしないし。それよりも本とか買って読みたい」

 

小野寺龍照と似たような事を言っているヒツギ。

まぁ、龍照は本ではなくr18イラスト依頼とr18ボイス依頼だが……。

 

「もー、ヒツギちゃんダメだよー。食事にゲームにファッションに、もっともっと青春を謳歌しないと」

「今あげた要素って、ホントに青春?」

 

コオリの青春に、少しだけ疑問を浮かべたヒツギだった。

 

「ねー、これなーに?」

 

アル君がコオリの持っているスマホに興味を示した。

 

「エーテル通信用のアプリだよ。アル君の服を選んだのもこれだし、ショップの場所もこれで調べたの」

「すごーい!! あれ?でも、この「おきにいりこーでぃねいと」って言うのはなに?」

 

何かに気づいたアルは、そこ場所をタップする。

 

「あ、そ、それは……!」

 

やばいと感じたコオリだが、時すでに遅く、お気に入りコーディネートが映し出される。

映し出されたソレは、アルがヒツギと同じ服を着たものだ。

そのコーディネートをみたアルは目を輝かせる。

 

「お姉ちゃんと同じ格好してる! 僕、こっちの方がいい!」

 

純粋無垢でいたいけのない少年が、ヒツギに訴えかける。

 

「……………………」

 

ギロリと睨みつけるヒツギ、何も言わずに意地でもヒツギの方を見ないコオリ。

 

「お姉ちゃん、お腹空いた」

「あー、そういえば、もうそんな時間か。折角だしどこかで食べに行こうか!」

「フッフッフー、そんな時もこのデバイスでチョチョイのちょいだよ!」

 

得意げに語るコオリ。

「最早依存症ね……スマホ依存症……いや、エーテル依存症かな?」とヒツギは呟く。

 

「そんなそんなー、私だって可愛いものだよー。というか、今の時代、世界中の人々がエーテル依存症だと思うよー」

「まー、最早エーテルがなければ成り立たない世の中だしね」

 

彼女達のいる東京の一角でも、スマホを弄る人々が9割を超えていた。

 

「はーい、そう言ってるうちにランチやってるお店予約できたよー」

 

 

多分、この光景を見たシエラさんは、眉を顰めるだろう。

オラクル船団と比べて、製造技術は非常に劣ってはいるが、通信技術に関してはアークスと比肩するレベルだ。

その事に何らかの作為を感じると思うが、その根幹はまだ分からないだろうな。

 

 

 

 

1時

レストラン・ロゼ

 

 

 

3人は、そこでランチをとっていた。

そのレストランのあちこちには、バラが幾つも飾られており、広いオープンテラスのあるのが特徴のオシャレな場所だ。

昼時だからだろう、他の人々も美味しそうにランチを堪能していた。

そんな中で、アルもまた、初めて食べるだろう地球のご飯を前に夢中になって食べていた。

 

「おいひーー! とっても美味しいよお姉ちゃん!」

 

口まわりにケチャップで赤くなりながら、オムライス……というかお子様定食をガツガツと頬張っていた。

 

「はいはい食べながら喋らない。口周りに着いてるじゃない。ほら、拭いてあげるから動かないで」

 

そう言ってヒツギはケチャップ塗れのアルの口周りをティッシュで拭いた。

完全にお姉ちゃんである。

そして、その行動を見たコオリは悪知恵を働かせた。

 

「ひ、ヒツギちゃん! 私もこぼれちゃって汚しちゃった! くちまわりー♡」

 

目をつぶりながら、自身の顔を近づける。

 

「あそう。はいこれ」

 

しかし、誘うコオリに対してヒツギは、氷のような冷たい態度でティッシュをコオリの前に置いた。

それくらい自分で拭け。

その言葉がありありと聞こえてくる彼女の態度に、コオリは物凄い不機嫌な態度で、自身の口周りを拭いた。

 

「しっかし、お店の選別から予約、注文まで終わっちゃってるなんて、便利な世の中になったものよね」

「ヒツギちゃんも持てばいいと思うよー。便利だよこれ」

「私は誰にも見られずに、部屋という自分だけの砦で落ち着いてPC触るのが好きなの」

「んー、それも分かるけど……。そうはいってもこのご時世、こういうのがないと不便だよー。専用のアプリもいっぱい開発されてるしね。特に、このYMTコーポレーションの作るアプリは、かゆいところに手が届いててとっても使いやすいんだよねー」

 

YMTか。

正直、私もあの会社にはお世話になってる。

何でお世話になってるかは……まぁ追々……。

なんかもう、マザークラスタ幹部の特権をフル悪用したようなもんだし……。

 

「この店を予約するアプリも、さっき見せたコーディネートのアプリも、全部YMTコーポレーションが開発したやつだよ。しかも、そこの社長さんって私たちの学校の卒業生らしいよ」

「なんでそんなに詳しいのよ」

「ヒツギちゃんが疎すぎるのー。最近話題になってるんだよ。本当に。あっ、ちょうど今、ワイドショーに出てるよ。その社長さん」

 

そう言って、ビルにある大型ビジョンに映るYMTコーポレーション社長を見た。

 

 

─今、大大大、大注目のYMTコーポレーション。

その社屋にお邪魔させてもらっています!─

 

女性リポーターの声が東京に轟いている。

 

─しかもしかも、今や時代の寵児とも呼ばれている亜贄萩斗社長自らの案内なんですよー!─

 

 

「(萩斗支部長……w)」

 

亜贄萩斗、pso2をやってるやつなら分かるだろうYMTコーポレーション社長にして、マザークラスタ幹部【オリンピア】を勤める金の使徒。

そして、この世界では、マザークラスタ極東支部の支部長まで兼任している。

簡潔に言うと、我々【四神】勢と【神淵】エスカファルス達の上司だ。

面識はあるどころか、いつも空いた時間に鍛錬やら、雑談等を繰り広げたりしている。

 

─社長、今日はよろしくお願いしますね!─

─こちらこそ、よろしく─

 

いつも聞いたことのある声が聞こえてくる。

萩斗支部長、ホンマに頑張っとるなぁ……。

自社の仕事もあるのに、それに兼任で金の使徒と支部長の仕事も卒がなくこなしてるんやから、ようやるよ。

 

─社名、社長のお名前とかではないんですね。どうしてYMTコーポレーションと? 何かの略称、なんですよね?─

─何の略称だと思う?─

 

「(大和やろ?)」

 

─えーと、YMTだから、イヤーとかマルチとか入りそうですね!─

─残念、正解はヤ・マ・トだよ─

─ヤ・マ・ト?─

─ヤマト。とは、心意気のことを指してもいる。僕が日本人であるのも理由の一つ─

 

「(ホンマかい。新極東支部設立と同時に行われた支部長の挨拶の時、YMTコーポレーションの由来、戦艦大和の事しか言ってなかったやないかい)」

 

─そしてなにより、かの有名な「戦艦大和」の事をリスペクトしての名称。それ故のYMTさ─

 

「(同じこと言うとる)」

 

─は、はぁ、戦艦大和……ですか─

 

「(ちょっとリポーターの方、引いとるやん……w)」

 

余談だが、私が元いた地球でこの話題が出た時、全員が「コイツが幻創戦艦大和の犯人やろ」と確信していた。

某笑顔動画でも、「意図的かどうかはさておき、こいつのせいやな」「コイツが緊急クエストの黒幕だな」等と言われていた。

 

─そういえば、会社の入口にも模型が飾ってありましたよね。あれも?─

─残念。あれは大和ではなく、武蔵だよ。就役1942年の、大和型二番艦さ─

─え、そうなんですか?─

─まぁ、区別がつかないのも無理はないね。大和と武蔵は同型艦だし、今の流れからすれば勘違いしても仕方がないだろう─

─は、はぁ─

─戦艦大和は、私の魂とも言える存在だからね。ここではなく、私の自宅の、最も映える場所に飾ってるんだ─

 

 

以下略

 

 

萩斗支部長……じゃなくて社長のウンチクを聞いた2人の感想は……

 

「オタクだ」

「オタクだね」

「オタクって?」

 

ヒツギとコオリの感想にアルは首を傾げる。

 

「コオリみたいな人の事よ」

 

アルの質問に、速攻で答えるヒツギ。

 

「説明がざっくり過ぎるよヒツギちゃん」

 

流石に待ってくれと言わんばかりにコオリは立ち上がって、ヒツギにツッコミを入れた。

再度座り直したコオリは、オタクについて、しっかりと解説をした。

 

「アル君。オタクっていうのは、趣味に夢中になっちゃう人の事だからね」

「ふーん、コオリは何に夢中になってるの?」

「え、あ、そ、それは……」

 

物凄い気まずそうな表情で、ヒツギから目をそらすコオリを見て、「……どうしてそこで言い淀むのよ……」と半笑いで言った。

 

どう考えてもヒツギオタクである。

 

 

「(そういえば、極東支部の支部長室にもいっぱい模型が置かれてたな)」

 

凄いどうでもいいが、私と萩斗支部長は何だかんだ言って大和の事で話をしたりしている。

私は幻創戦艦大和で、大和の事に興味を惹かれた身だ。

1度でも、彼の自宅に案内されたが……。

うん。ヤバすぎて落ち着けなかった。

庶民が気軽に言っていい場所では無い。

豪邸でめっちゃ緊張した。

あと、凄い映えるところに大和が飾られていた。

いや、大和どころじゃない、ありとあらゆる戦艦の模型が飾られており、ちょっとした軍港になっていた。

 

 

エルミルとも仲が良い。

オタク同士惹かれ合うのだろう。

萩斗はマブラヴに登場する戦術機に興味を持ち、エルミルは戦艦大和に興味を持ち、仲良くなっている。

 

 

 

「ん?」

 

そんな時、マザークラスタ極東支部から緊急の連絡が入った。

ハリエットが取って、通話をしていた。

どうやら、大阪の梅田にて不審人物が暴れているとの通報だそうだ。

奴は具現武装使用者と思われる為、幹部の出動が要請されることになる。

 

「では、私が行きます」

 

エスカファルス・ハリエット。

初代深遠なる闇 ゴモルスとソダムになる事のできるバケモノの一人である。

 

「お願いします!」

 

オペレーターの女性にお願いされたハリエットは、「かしこまりました」とお辞儀をしてワープする。

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

 



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59話 都に顕る怨嗟の毛者(もさ) 前編

 

 

 

 

 

 

ハリエットが大阪の梅田に到着した時には、既に結界が張られて誰にも侵入できないようになっていた。

 

「……貴方ですね? この街で暴れている人は」

 

結界内に入ったハリエットは、1人だけポツンと佇む男性を見てそう言い放つ。

フサフサの髪をした20代後半の細身の男性といった印象だ。

それを言われた男性はニヤリと口元を緩めて笑いだした。

 

「ふっふっふっ、フケーーーーーーケッケッケッケッケッ!! その通り、これは復讐だ!!」

「……その復讐をやめるつもりは?」

「毛頭ないね! 最も、俺に毛は存在するがな。フケーーーーーケッケッケッ!!」

「……復讐は何も生まないとは言いませんが……。その復讐で関係の無い人まで巻き込むのであれば、私はそれを止めます」

 

ハリエットがエーテルを解放する。

その姿を見た男性は顔色を変えた。

明らかに戦闘態勢に入ったような面構えに、ハリエットは少しだけ冷や汗を流す。

 

「俺の邪魔をするというのなら、死んでもらう!!」

 

男性の毛がモサモサと長く伸びた。

想像を絶する伸びる髪を前にハリエットは戸惑いを隠せなかった。

 

「これが……貴方の具現武装ですか……?」

 

彼女の問いに、男性は不敵な笑みを浮かべた。

 

「その通り、これが我が具現武装……毛山房雄が持つ最強の力!! 具現武装:毛だ!!!」

「け、毛ですか?」

 

高らかに宣言する毛山房雄を前に、ハリエットは少しだけ戸惑いの表情をする。

 

「そうだ!! この力を持って、俺をハゲだとバカにした奴らの毛をむしり取ってやる!!!」

「……えーと……それが復讐ですか?」

 

男性の言葉にハリエットは聞き返す。

その彼女の行動に男性は激昂し、大声をあげた。

 

「何度も言わせるな!! テメェの髪もむしり取ってやろうか!?」

「えーと、そのー、えーと……」

 

ぶっちゃけハリエットは幻創種であり、深遠なる闇であるため、髪の毛を毟られようが丸刈りにされようが、瞬時に再生して元の髪に戻るため全くノーダメージなのだ。

その為、男性の発言に戸惑いを隠せなくなり、返す言葉が見つからなかった。

 

「まずはお前からだ!! くたばれ!!! 毛獣使い・毛虎!!!」

 

男性がそう叫ぶと、彼の髪の毛がまるで生きているかのように蠢き、それらが虎の形を成してハリエットに襲いかかった。

 

「……っ!! 目覚めよ山神眠りは遠く!!!」

 

ハリエットもエーテルを使って木々を創造。

襲いかかる虎の形をした髪の毛を串刺しにする。

 

「まだまだぁ!!! 毛獣使い・毛牛!!!」

 

今度は牛の形を成した髪をハリエットに突撃させる。

しかし、ハリエットも負けじとエーテルを使って応戦する。

 

「山使い・画龍天樹っ!!」

 

木々を動かして東洋龍を象った大木を、迫り来る牛目掛けて飛ばしてそれを食らいついた。

 

「ふっ、小娘の癖にやるじゃないか!」

「えぇ、小娘と侮らない方がいいですよ」

「そのようだ!! 毛者の遺産(もうじゃのいさん)!!!」

 

髪の毛を蠢めかせ、それらをマシンガンのようにハリエットに目掛けて打ち付ける。

 

「無駄です!!」

 

ハリエットは自身の前に巨大な木々を生み出して毛の猛攻を防いだ。

 

「チッ…これならどうだ!? 毛刈刃勿(もうかるはなし)!!!」

 

伸びた髪の毛を巨大な鎌に変え、それをブンブン振り回してハリエットを八つ裂きにしようとする。

 

「まだだ! 毛毛刃勿(もうけばなし)!!!」

 

髪の毛で出来た斬撃を飛ばして、ハリエットが展開した木々を伐採していく。

毛で出来た斬撃は勢いを止めることはなく、ハリエットを真っ二つにしようとする。

 

「くっ! ソダム!!!」

 

ハリエットは背部にソダムの後輪を発生させて、そこから巨大な腕を伸ばして迫り来る斬撃を受け止めた。

 

「フッケケケ! よくやる! 毛超(もうちょう)!!!」

 

彼の髪の毛が不気味に蠢いたかと思えば、毛の1本1本が煌びやかな光沢を浴び、ゴツク頑丈になった。

 

「さぁこの強固になった毛根を以てして、小娘……お前を貫く!! 是刃毛天奪汰(これはもうてんだった)!!!」

 

毛根が強化された腕毛を操り、それを鋭利な刃状にして斬りかかった。

 

毛烈(もうれつ)!!!」

「くっ!! 淫落(ソドム)の刃!!!」

 

降りかかる毛の刃に対して、ハリエットは巨大な剣を持った青く禍々しい腕を生やして受け止めた。

ガギンっと、明らかに毛から発する音では無い金属製の音が響く。

 

「まだだ、濃刃毛黙(こいはもうもく)!!!」

「くぅぅぅ……!!」

 

ガリガリと火花を散らしながら鍔迫り合う2人。

しかし、次第にハリエットが押されていく。

 

「重い……!!」

 

歯を食いしばりながら必死に耐える彼女だが、彼はその隙を逃さない。

ニヤリと笑みを浮かべて攻撃を仕掛けた。

 

「ガラ空きだ!! 喰らえ、毛の理!! 毛理(もうり)金剛牢(こごろう)!!!」

 

髪の毛を操り、ハリエットを十字に拘束する。

彼女を拘束した瞬間、彼の毛がダイヤモンドのように輝きを増した。

 

「しまっ……くぅぅ……!!」

 

彼女は両手両足を拘束され、隠れマゾが刺激され始める。

しかし、それに気づかない房雄はトドメを刺す態勢になった。

 

「これで終わりだ。復讐の邪魔をしたことを悔いるがいい!!」

「なっ、何を……!!」

 

拘束されるシチュエーションに少しだけ興奮を覚えた彼女は、自分が危機に立たせていることを承知の上で顔を赤らめる。

だが、そんな事を露とも知らない房雄は笑みを崩さずに自身の頭部の毛を集約させて1本の巨大な角を形成した。

太く鋭利な角だ。

こんなものに刺されればひとたまりもないだろう。

 

「そ、そんな……お、大きい……!!」

「ふふ、これで貴様を貫く!! 喰らえ!! 毛の理!!!」

 

房雄はありえない脚力で飛び上がり、ハリエットに急接近する。

 

毛理(もうり)・|疾走《らああああああああああああああああああああああああああん》!!!!!!」

「っ!?」

 

ドスっと鈍い音が響いた。

そして、ハリエットの全身に形容し難い痛みが全身を物凄い勢いで走る。

 

「ぐぅはぁぁっ!!?」

 

房雄の極太の毛角は彼女のお腹を貫いた。

ハリエットは三白眼になって、口から赤い血と青いエーテルを吐き出し、彼女の黒いドレスのようなエスカファルス戦闘衣を青と赤に染めた。

 

「フケケケケ、まだだ。俺の攻撃は終わっていない!!」

 

そう言うと突き刺さった彼女を振り払い、地面に向かって落下する。

 

毛毳毛貫(もうさいけっかん)!!!!!」

 

頭を落下する彼女に向けて、頭髪を発射して毛の弾幕を形成させた。

 

「あっ、がっ……!!!」

 

鋭利な棘と貸した髪の毛が彼女の全身に何百本も突き刺さる。

そして、彼女はそのまま地面に衝突し全身を強く打った。

赤と青の液体が爆発する花火のように広く飛び散る。

背中の毛を翼にして空を飛んでいる房雄は満足気な笑みを浮かべてその凄惨な光景を眺めていた。

 

「フッケケケケ、これが俺に刃向かった末路だ」

 

バサバサと毛翼を羽ばたかせてゆっくりと地上に降りてくる様は圧巻で、まるで神か天使のようだ。

 

「さて、この雌豚を始末できた事だし、このまま復讐を行うとしよう……!!」

 

地に降り立った彼は原型を留めていないハリエットを見てそのように言い放った。

しかし、何かに気づいたようで、彼は少し冷や汗を流してハリエットだったものを見つめた。

 

「ま、まさか……!」

 

彼の視線の先には、アスファルトを引き裂いてニョキっと新芽を生やし、そこからハリエットの肉体を形成して復元再生した。

 

「ふぅ、まさかあれ程の力を持っていたとは、少し侮っていましたね……」

 

全裸のハリエットはエスカファルス戦闘衣を具現化しながら独り言ちる。

その様子をみた房雄は、あまりの衝撃に呆気にとられていた。

自分の足元には血に染まったハリエットの損壊遺体があるのにも関わらず、それを取り替えるような形で復活したのだ。

彼が呆気にとられるのも無理はないだろう。

 

「お前は……なんだ?」

 

房雄の言葉にハリエットは上品なお辞儀をしつつ返事をした。

 

「マザークラスタ極東支部所属。原初の使徒を務めております。エスカファルス・ハリエットと申します」

 

その名を聞いた彼は驚きの表情になるが、次第に不敵な笑みへと変わっていく。

 

「毛ッ毛ッ毛ッ毛ッ毛ッ。なるほど、化け物支部と呼ばれている極東支部の幹部か。道理で俺の攻撃を受けても死なない訳だ」

「そのようですね。そうと分かれば降参をお願いしたいのですが……」

「毛頭ないな。お前が極東支部の幹部であるからこそ、俄然とやる気が出てくるもんだ」

 

房雄は笑みを壊さずに続けた。

 

「化け物支部の幹部であるお前を倒せば、俺の強さは磐石の物となり、復讐が完遂する!! 俺をバカにした奴ら全員の髪を毟り取ってやる!!!」

「何故、そんなことをするのですか?」

「お前に言っても分かるわけがない。言う必要などない。お前は俺に持って死ぬ運命なのだから!!」

 

大声で言う彼に、ハリエットはため息を一つついて「分かりました」と一言。

それ以外は何も言わずに、体内にあるエーテルの闇を解放する。

 

「幻創の闇……ゴモルス……!!!」

 

彼女の身体が徐々に変化していく。

腕・脚・身体・顔、その全てが闇を纏って変化し、ハリエットは青々しく、そして禍々しい異形の存在に成った。

中央の大きな眼球を含めた11もの眼が蠢く頭部。

顎にはダークファルスの完全体と思われる顔を模したレリーフが象られた巨大で醜悪な怪物。

PSO2のEP6、引いてはPSO2での最期に戦うエネミーである初代深遠なる闇の幻創版だ。

 

「貴方を捕らえます」

 

醜悪な見た目から発される上品で可愛らしい声に彼の頭は完全にバグった。

pso2をプレイした人に言うならば、ゴモルスからハリエットの声が聞こえるようなものだ。

 

「お覚悟を」

 

ゴモルスはその巨大な口を開けて、暴風を発生させる。

それを見た彼はニヤリと不敵な笑みを浮かべて言い放つ。

 

「やはり化け物支部は嘘偽り無かったようだ。包囲毛(ほういもう)!!!」

 

彼は自身の周りに毛を発生させて繭を形成、彼女の放つ暴風から身を防いだ。

 

「それなら、俺もお前と同じ化け物となってやろう……!!!」

 

包囲毛から身を出した彼はエーテルを解放しながらこう言った。

 

「蠢け我が髪よ。渦なす髪の毛の色、七つの髪を解き力の毛、天へと至らん。ウールテマ!!!」

 

 

 

 

続く



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