暗闇の中で意識が戻る。自分が何をしていたのか分からない。
「おかしいな・・・」
直前の記憶によってこんな所にはいなかったことだけが分かる。その直前さえ明確には思い出せない、ぼんやりと明かりだけ見える。
「え~」
何をすべきか分からない。頼れる大人・・・見当たらない。
「ここにいちゃ・・・ダメだよね・・・・・たぶん」
なんだかいつもより重い足を動かす。歩いて何とかなるとは思えないけど、それ以外やることが思いつかない。
「・・・・・・・」
目の前も、遠くも、後ろも、なにも変わらない。
何も考えられない。
「んあ?」
突然光が見えた。どこかで見た気がする色の。でもやっぱりどこなのか分からない。
「行ってみようかな」
足を速くする。光に近い所で手を伸ばす。
「・・・ベッド?」
なぜかベッドの上にいる。くつが下に入れられていた。
「家にベッドはないはずだし、この部屋も知らない」
横を見ると、窓から光が差し込んでテーブルの上のスケッチブックを照らしている。そのおくにドアがあって、外に出られるかもしれない。部屋にはそのテーブルとベッドのみ、殺風景だ。
「・・・だるい」
体を動かす気になれない。スケッチブックは手をのばせばとどくけど、それも思うようにできない。
「うーうー」
手をふるわせてなんとか取れた。
三年四組 松山 凛香
「自分の名前・・・私の?」
開いてみると、たくさんの学生とか、山とか、大きな建物がある。
「なにこれ」
何も分からない、だるさを感じる以外なにもない。
「う~」
ベッドで横になった。眠ればよくなるかも?
「また暗闇だ」
こんどは光が初めから見える。
「こんどこそ」
こんどはその先へ行けた。さらに少し先に何かある。宿だ。隣に看板がある。
「山奥荘?」
なんだっけ・・・見たような・・・・あれ・・・
「入ればいいよね?知ってたら思い出すだろうし」
宿の入口へ向かって歩く。横からラベンダーが匂いを漂わせて誘ってくる、顔が真っ白の誰かが笑いかけてくる、けど気にしない。
「ここで何かが見つかるかも?」
扉を開けて中に入った。
「皆さん準備できましたか?」
全員がそれぞれの返事をする。
「順番に さーい、全員分の からね」
突然意識が戻る。
一気に倦怠感が襲ってくる。
その場に倒れたい。ずっと楽していたい。
このまま
「はっ!」
いけない・・・
「え~と」
受付と奥へ続く通路がある。まあそうだよね。
「受付・・・誰もいないはずなのに、気配を感じる」
変なことばっかり。とりあえず、どうすればいいんだろ?
「ん?」
脳内に直接言葉が。
【どうぞお進みください】
「わ、分かりました」
と、とにかく、進んでいけば何か分かるよね?
「ここで何か変わればいいけど」
淡い希望を抱いて奥へ進む。
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山奥荘
宿の廊下は思ったより何もない。宿の人も一人も通ってきそうにない。でもたまに明かりが笑いかけてくる。それが救い・・・・・
「ん?これっておかしい?」
明かりが笑いかけてくることなんてあったっけ。なかった気がするけど確証なし。
「あー、あ?」
なんて考えてたら広い所についてた。
「広間かな」
普通の広間って感じで特徴がない。椅子が何個かあって、そのすべてにヒガンバナが置かれている。そのうちの一つに紙が添えられていた。
『104号室』
紙にはそれだけ書かれていた。
「ここに行けってこと?特別な部屋って感じはないけど」
「ここだね」
その104号室にやってきた。見た感じ他の部屋と大差がない。なので何も考えずに入る。
「お邪魔します」
中では紙と鉛筆が散乱していた。端には小石が集められている。
「う・・・・何かないかな?」
小石から血の匂いがする。
「・・・紙が多すぎる」
紙の量に困惑した。調べきれそうにない。
「これじゃだめだ・・・ん?」
『う、う、う、』
「!?」
突然、数枚の紙からうめき声をあげて手が出てきた。ボロボロで手首から先が取れかけてたり、普通じゃありえない方向に曲がったりしている。
「え」
二分の勇気と八分の恐怖が湧いた。手を攻撃するか、逃げるか。
私は思考が追いつく前に部屋からでた。
「ん、あれは」
落ち着かないままさまよっていたら裏口の前にいた。まったく気づかなかった。扉には張り紙がある。
見失うな 忘れるな 背くな にg
「?」
意味が分からない。気にしたら負けってやつ?
「ここには何もなさそうだし、出よ」
扉を開けた。またなにかあるかな?
「松 初 ?」
返事
「そうな 外~」
闇で前が見えない
世界の不安と恐怖全てが襲ってくる気がする
息
「う・・・・・まただ」
何とか正気に戻った、覚悟はしてたけどやっぱりだめだ。でも前に比べると少し慣れたのが怖い。
「意味が分からないよ・・・どういう事なの?」
頭が混乱する。知ってたとしてもあんな少しの言葉じゃ意味の推測のしようがない。これも気にしない方がいいの?
「え~と、この先は」
後ろにさっきの宿。横でいろんな色の風船が浮かんだり地面に沈んだりしてる。前には山と、いかにも進んでくださいと言っているような道があって、そこへ向かってのびてる。
「今度は山道なんだ」
道を進むしか選択肢はない。だって目的は・・・・特になかった。
「あれ、急になんで目的を考えてるの?」
不思議・・・
『自分を知る』
「あ、うん、それにしよう」
風船が助言してくれた。
「じゃ、行きますか」
『行ってらっしゃい』
風船も見送ってくれてる。不安がやわらいだ。山だからいろいろあるはずだよね。今度こそうまくいくかも。
「頑張るぞー」
前よりも速足で歩きだす。
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不安な遊戯
山は緑と赤に包まれている、緑の方が多い。
「綺麗だなあ」
こんな状況じゃなかったらゆっくりしてたのに。いやでも、少しなら大丈夫かな?
「急ぐ必要はなさそうだし、いいよね」
改めて見る。
うん、やっぱり綺麗。
「ん、一個だけ枯れてる」
赤の中に一つだけ、色が違うから目立つ。自然と足が近づく。
突然、それが葉だと思えない速さで落ちて来た。
「あい?」
思わず目を閉じて、数秒後に開けるとあのベッドの部屋にいる。今度は体がよく動く、だから今ならできることがある。
「あの扉の向こうへ」
扉を開けた。
ブウウウウウウ コッコッコッコッコッコ コンコンコンコン
長い廊下だ。所々に扉があって、明かりで道が分かりやすい。窓の景色は真っ暗だ。所々で黒い影が動いている。
「何もないなあ」
置かれている物はこれといってない。いたって普通の廊下だ。今までの道があれだったから面白みがない。そんなこと言っても仕方ないけど。何か言うとするなら、いくつかの黒い影がこっちを見てくるのが不安を感じさせる、けど襲ってくる様子はない、たぶん大丈夫。
「ん、あの影」
影たちが部屋に入っていった、何かあるかもしれない。
「お邪魔します」
中に入ってみた。影たちは奥で何かしてる。
「一応、気づかれないようにしよう」
声を小さくしてるから大丈夫なはず、静かに動こう。
「何かあるかな」
床を見た。
「・・・何もない」
壁や机の上を見た。
「・・・・真っ暗」
これじゃ困る。てか状況がひどくなってる、ホントに何もわかんなくなっちゃった。
【;!\-,_】
「ぁ」
影に気づかれた。近づいてくる。囲まれた。逃げられない。
全てが闇に包まれた。
「あれ」
突然前の緑の景色に戻ってきた。枯れ葉のところには穴ができてる。でもそこにあったモノはどこにも見当たらない。
「・・・歩こう」
幸い、道はまだまだ続いてる。戻る必要は無し。この先には何かあるかな。
「あ、何かある」
小さな・・・建物?石を組み合わせてるだけにしか見えない。中で何かが光ってる。見てみよう。
「ん」
鉛筆だ。私のじゃない。
獣が飛び出した。
横によけた。
足が曲がった。激痛だ。
「っ!」
さっきの鉛筆が足に刺さってる。深くないけど痛い。抜いて血が流れた。意外とすぐに止まった。
「うう・・・なんでこんなことに」
歩けないほどじゃなかったから、気にせずに奥へ再び向かった。
チャカポコチャカポコスットントン ボンボンドンパ パンパパンパン
変な耳に残る音がする、結構遠い。
「む、誰かこっちに歩いてくる」
黒いダウンジャケットにボロボロのジーンズだ。
「この世で砕けて残るモノ、イッセキトウジル誰かさん」
「・・・」
何言ってるのこの人。
「アラ、お嬢さん。辺境で散歩ですかぁ?」
「いや、あの、私は・・・・」
「ン!?ンンン!?」
「な、なんですか?」
「おお・・・なんということでしょう!アナタのその足不義の足!アナタ・・・・・直ちに外してお帰りクダサイ」
「え、え~と」
「拒否デスカァ?イケマセン!それは不幸しかモタラサナイ!ナゼ・・・ナゼ・・・・・」
怖くなって逃げた。
「結局戻って来ちゃった」
あの宿の裏口の前にいる。風船は全部どこかに行っちゃった。
「どうしよう・・・まだあの人がいるかもしれないし、隠れてようかな・・・・・」
まあでもこの中に隠れてれば気づかれないかもしれないし、そうしよう。
中に入った。
ボロボロの廊下が広がっていた。
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夢うつつ
「おかしいな・・・・・」
ここまで荒れた状態じゃなかったはずなのに。クラスの全員で教室の雰囲気を少し変えたことはあるけど少しの間でここまでは変わらなかった。たぶんプロの誰かがやったんだ。じゃなきゃこんなことできるわけない。うん、それで納得しておこう。それより、どこに行こう?
「・・・あの広場でいいか」
広場にはもう椅子が一つあるだけだ。ヒガンバナは一つもない。最初からこれだけしかなかったみたいだ。
「う~ん、ここじゃ何もできないなあ・・・」
困った、どうしよう。
「・・・・・あの部屋に行く?」
正直やだなあ・・・でも・・・・うん・・・・・
少し扉を開けてこっそりのぞいた。・・・もう部屋は掃除されていて、血も紙もない。でも、ベッドだけ残ってる。
「良かった。この下にしよう」
安心して中に入った。
「あ・・・寝ちゃってた・・・」
音無し、人も無しで、つい寝ちゃった。まあ仕方ないよね。
「ま、この部屋から出よう」
窓から月明りが道を示すように差し込んできてる。変な音も聞こえないし変な人もいない。けど、何をすべきか分からない。
「まあ・・・光についていこうかな?」
半分やけくそだ。
光の先には上への階段があった。どうやら屋上に出れるみたい。外は雨だけど文句を言える状況じゃない。
「上から見渡せばここがどこか分かるかも」
前が見えるから安心して上がれる。
「雨と金網でよく見えない・・・・」
何か分かると思ったのに、また立ち往生だ。・・・・帰ろうかな?
「・・・ん?あれは・・・・・」
見たことあるような人達が外で列を作ってる。・・・思い出せない、それも今更のことじゃないけど。見たところしばらく動かなさそう。
「あのー、ちょっといいですか?」
『』
「聞こえてますか?」
『』
「だめだ・・・」
聞こえてないのか、意地悪なのか分からないけど、反応がない。困るなあ。
「直接行こう」
階段を急いで降りた。
雨で濡れていたから足を滑らせた。
「痛い・・・・」
あれからしばらく動けなかった。思ったより痛かったから。
「うう・・・」
まだ痛くてうめいてる。
「何してるの?」
「え?」
声がした方を見ると女の子がいる。
「だ、誰?」
「・・・」
「その~」
「ごめん、私もう行くから」
「え、ちょっと!」
女の子はそう言ってガラス扉の向こうへ行った。追いかけないと。
「まだ痛むけど、我慢しよう」
歩き始めて、女の子が入ったガラス扉を開けた。また階段がある。
「どっちに行ったんだろ」
外は雨で、この上はもう屋上だからたぶん上はない。下だ。
「もう遠くなっちゃったかな・・・」
少し不安になりつつ進んだ。
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終着点
「どこ行ったんだろ」
見失っちゃった。
「はあ・・・・・」
外に出ても何もないだろうし、もう終わりかもしれない。
「・・・あ?」
さまよっていたら文字が書かれた板をみつけた。
真実 あり
だ すまがせのっく きり て あ
や いんの な だめ りょてこ ちゃ は う ん
「くだらない・・・・」
こんなのどうでもいい。もっと他の事教えて。
「あうあう」
最初の入口に戻っちゃって変な声がでた。
「・・・・気分悪い、外にでよう・・・・・」
「あ、雨だった・・・・・」
うっかりしてた。
「・・・・あ、あの集団は」
屋上で見た集団がいた。近づいてみよう。声を出しながら近づいた。
「!?」
途中から進めない。向こうへ行きたいのに。
「あ!」
黒い影が身体をひっぱってる。触るのは怖いからどうにもできない。もがいてたら、集団が動き出した。
「ま、待って!」
気にせずにどんどん歩いてる。よく見るとバスみたいな四角い何かに入っていってる。
「う~」
行っちゃう・・・
『まだ・・・・ハヤイ・・・・・・・』
「え?」
誰の声だろう?わからない・・・・・
ゴロゴロガッシャン
四角が無くなった・・・埋もれた?
「・・・・・・・・・・・」
私は言葉が出なかった。
「・・・・・・・・・」
頭がボーっとする。窓の外では太陽がとっくに沈んで、月が出てこようと動き始めた。
「・・・暗い」
月明りすら差してこない。明かりは手元のライトしかない。
「・・・・・・・・・」
『もしもし?』
「あっ・・・あの子・・・・・」
窓の外で前に見た誰かが立ってる。私を呼んでいるような口の動きだ。だけど体と顔は透けていてよく見えない。
「・・・・・・・・・」
なんだろう、行った方がいいと思いつつも、体がそれを望んでいないように感じる。
「え?本当に?」
「はい。信じられないと思いますが、本当です」
「そう・・・・」
「ジュ・・・・モケ・・・・・・ソログ・・・・・・・」
「現状はこのとうりです」
「あの・・・何とかならないのですか?」
「申し訳ございませんが、いまのところは・・・・」
「そうですか・・・・・・」
窓を見つめてたらドアの外に何か二つの気配を感じた。それでドアの方を見たら、いつの間にか窓の外の子がいなくなっちゃった。
「あ・・・う・・・・うげ・・・・・」
訳が分からないけど気持ち悪くなってきた・・・横になろう。
「ふう・・・・・え!?」
天井に誰かの顔が闇の中から現れた。驚いてベッドから転げ落ちた。
ゴ・・・・ゴ・・・・
顔は壁を伝って降りてきてる。ただ一点、私だけを見ながら。
「あ・・・・あ・・・・・あ?」
突然顔が無くなって私の前に一人の女の子が現れた。その子は私を見て微笑を浮かべたかと思うと、すぐに消えていった。
「・・・・あの子は・・・・・・・あれだ」
確信を持った私は自分の体が軽くなるのを感じた。
ゴキッ
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