その名声は何処に響く (ガラクタ山のヌシ)
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その名声は何処に響く

息抜きに描いた一作。
多分続きません。


とある日、トレセン学園の理事長室にて

 

「何故ですか?!」

緑色の服を着た女性がドン!と机を叩いている。

怒りで興奮しているのが、側から見てもわかる。

彼女は駿川たづな。ここトレセン学園の理事長秘書を務める女性だ。

「どうして、今年のダート部門の年度代表ウマ娘が"該当者無し"何ですか!!」

「不覚、返す言葉も無い……」

そう言うのはここ理事長室の主であり、この学園の理事長秋川やよい。

いつものやる気に満ち満ちた彼女とは明らかに様子が異なる。

「理事達は、中央所属のウマ娘でなければ中央の年度代表ウマ娘に相応しくないと…」

「彼女は結果を出しました!!地方所属のまま、中央G1を制したその努力は認められるべきでしょう?」

「正論、彼女に…()()()()()()()に合わせる顔がない」

最早理事長の表情は泣いてしまいそうなほどだった。

 

 

岩手県某所の民家の縁側、そこでお茶を飲みながら羊羹をもくもくと食べるウマ娘がいた。

サラサラとした栗毛は肩のあたりで揃えられており、片目には医療用の眼帯がつけられているが、当人はそれを気にした風でも無い。

背筋を伸ばし、凛としたようにも見えるその様に緑の和服がとてもよく似合っていた。

彼女こそはメイセイオペラ。

地方の所属のまま中央で行われたダートのG1フェブラリーステークス、そして地方で行われたG1帝王賞を制した猛者である。

 

ピンポーン

 

「ばっちゃーん、お客さーん」

「おめでねぁーの?(あんたじゃないの?)」

「誰がに会うような約束してねぁーよ、ばっちゃんは?」

「知らん」

知らんのなら仕方ない。メイセイオペラは正座していた足をよっこらしょ、と立ち上がると玄関の方に向かってスタスタと歩く。

そして、玄関の引き戸を開けるとそこには見知った顔があった。

「トレーナーさん?」

スーツ姿の青年。見覚えのあるその姿は忘れようはずもない。

彼女にとって、恩師とも言えるような人物である。が、しかし様子がおかしい。

「どうがしたが?トレーナーさん?」

「オペラ……」

教え子の名を呼ぶその声はどこか震えていた。

「すまない!」

「えっ、トレーナーさん?」

玄関前で急に土下座をはじめた担当トレーナーを前に彼女はただオロオロするしかできなかった。

「落ぢ着いだが?」

なんとか、土下座を辞めてもらい祖母と一緒にトレーナーを家へ上げる。

「何があったんだが?」

「実は……」

トレーナーは言い出しにくそうに口籠もる。

しかし、そうしていても仕方ないと意を決したように言う。

「中央でのキミの表彰の話が無くなった。わたしの力不足だ。すまん!!」

そう言うと、彼女のトレーナーはまた土下座を始めてしまった。

ただそんな中で当の本人は……

「へ?」

ただただ困惑しきりであった。




ダート、ダート、ダートー♪
ダートを舐め〜ると〜♪

ジャリジャリしそう。


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メイセイオペラ是非とも実装してほしいけどなー。

純粋なダートウマ娘ほんと少なくてつらい。


「顔上げでくなんしぇ」

そう言うメイセイオペラの声は自然体そのものだ。

しかし、彼女のトレーナーは未だ顔を上げない。

それだけ謝罪の気持ちが強いのだろう。

「おらは思いっきり走れで、故郷さ錦飾るごどもでぎで、十分だ。

元々表彰されるようなガラでも無えし」

頬を掻きながら照れ臭そうに言う。

「……君は、悔しくないのか?」

「悔しい?なしてだ?」

「中央の所属じゃないからって、実績を無かったことにされて……」

「んだなはん(そうですねぇ)」

メイセイオペラが考え込むような素振りをした直後

「わたしは悔しい!!」

そう言うトレーナーの声は震えていた。

「君は示したんだ。実力を。だからこそその努力は報われて然るべきなのに…」

努力にはそれなりの成果を、そして成果を出したのなら相応の評価もされるべきというのが彼女のトレーナーの信条であり信念だ。

だから、担当ウマ娘の喜びも悲しみも、一緒に真摯になって向き合う。

自身の担当ウマ娘以上の成果を挙げていたウマ娘が中央にいたのならまだ納得もできた。

むしろ、そのウマ娘とトレーナーの努力と実力を手放しで祝福しただろう。メイセイオペラのトレーナーはそう言う人間だ。

しかし、今年に限って言えばそれに該当する対象は居なかった。

ダート戦線を支えていたのはまず間違いなくメイセイオペラだったとトレーナーは胸を張って言える。

されど中央の出した結論は『該当者無し』これの意味するところは今年度に於いてメイセイオペラ以上の結果を出したウマ娘は居ないと認めたうえで、あえて彼女を選考から外したともとれる暴挙。

彼女の努力をすぐ近くで見ていたトレーナーにとってはこれ以上ない侮辱だった。

しかし、その当の本人は悔しそうにするどころか目の前でオロオロと困ったような…いや、実際困っているのだろう言動をするばかり。

普段は穏やかで、しかし真っ直ぐに己を見つめるトレーナーが、こんなにも打ちのめされているのだ。困惑しない方がおかしいだろう。

ウマ娘は本能として走ることが大好きである。

メイセイオペラもまたそう言ったウマ娘のひとりで、最初こそメイクデビュー以降勝ちきれないレースが続き、トレーナーと一緒に悔し涙を流し、八戦四勝というなんとも言えない結果でジュニア級を終え、東北ダービーでレコードを一秒近く塗り替えて重賞初勝利を飾った時は盛岡トレセン学園の皆で勝利を祝った。そして、岩手で行われたダービーに匹敵する不来方賞(こずかたしょう)に二着に1.5秒と言う大差で勝利して偉大なる先輩トウケイニセイの再来と謳われ、この頃には中央からも声がかけられていたがやんわりと断っていた。ひとえに故郷が好きだからと。

その矢先の出来事だった。

彼女が片目を負傷したのは。

ユニコーンステークスに向けての調整中、車通りの少ない道路で遊んでいた子供を庇っての負傷だった。

ウマ娘の頑丈さ故か幸い骨に異常はなく、視力もいずれ回復するだろうとのことで安堵したが大事をとってユニコーンステークスは回避。

土下座する勢いで謝り倒す親子を前に「気にしねぁーでくなんしぇ」と微笑みを浮かべる彼女は本当に心優しいウマ娘なのだとトレーナーは感じたものだ。

幸先の悪いことになったが、それでも彼女は走るのをやめなかった。

怪我が癒え、出たレースは二連続で十着と大敗。

しかし、その後調子を取り戻した桐花賞では地元のシニア級ウマ娘を相手に勝利を飾った。

宿命のライバル、アブクマポーロとの対決所謂『AM対決』は本当に接戦の繰り返しだった。

川崎賞、帝王賞を破れたのを皮切りにメイセイオペラがマイルチャンピオンシップ南部杯で勝てば、アブクマポーロは東京大賞典で勝利する。

メイセイオペラがフェブラリーステークスに出れば、無謀と言う声もありながら終始レースのペースを握って勝利。

彼女のトレーナーが地元の人たちと一緒に歓喜の涙を流したのは言うまでも無い。

メイセイコールと共に「夢をありがとう、感動をありがとう」の垂れ幕を見た時の彼女の笑顔は今もトレーナーの中に鮮明に残っている。

URA史上、たった一人地方ウマ娘でありながら中央G1を制する快挙を成し遂げたその勇姿を、トレーナーは生涯忘れないだろう。

その他にも諸々因縁はあったものの最終的にはメイセイオペラに軍配が上がった、と思うのはトレーナーの贔屓目だろうか?

昔の話に花を咲かせていると、トレーナーが来た時は高かった日がとうに暮れていた。

「長居をしてしまったようだね」

申し訳無さそうにトレーナーが言う。

話をしたら幾分落ち着いたのか、中央に殴り込みをかけかねない程の鬼気迫る雰囲気はもうすっかり鳴りを潜め普段の彼女の知るトレーナーのそれであった。

「まだいづでも来でくなんしぇね」

メイセイオペラがそう言うとトレーナーは落ち着いた様子で、うんと頷く。

再び彼女のトレーナーが詫び、夕飯を一緒に食べて帰っていった。

「………」

メイセイオペラは、眼帯をした方の眼をそっと撫でると再び縁側で今度は綺麗な月を見上げるのだった。

 

 




メイセイオペラってプ○ジェクトXにも出てたんですね。


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みんながダートウマ娘に興味を持ってくれますよーに(チラチラ)

奇跡的に出来ました。


メイセイオペラ。

盛岡トレセン学園に入学したての彼女を初めて見た時の大抵のトレーナーの感想はとにかく小柄、と言った印象。

中には本当に競争ウマ娘になれるのか不安視するトレーナーも少なくなかった。

血統も名門とは言えないくらいには平凡で、多くのトレーナーにとって見るべきところもそれほど無いと言う地味な評価になるのも当然と言えば当然だった。唯一適性がここらの地方レースではそれなりにあるダートに適性が周囲よりあるかもしれない点で少し評価されたくらいか。

しかし、彼女にはそれを補ってあまりあるほどの執念があった。

誰にも負けないと煌々と目に宿る炎は本物だったのだ。

競争ウマ娘に限らず、他のどんなスポーツでも体格というのはアドバンテージになりうる重要な要素だ。

背の高いサッカー選手がヘディングで活躍するように、背の高いバスケ選手がパスでもシュートでも重宝されるように、背が高く手足も長い競争ウマ娘の一歩がそうでない他の選手のそれより大きいように。

しかし、だからこそ高等部に上がる前にはすでに彼女の体が出来上がっていたのを見て、昔の彼女を知る多くのトレーナーが腰を抜かしたものだ。

なんでも日中はおろか夜間にも寮を抜け出して、少しでも鍛えようと必死に己を鍛え抜いたらしい。

後から聞いた話だが、この頃には中央から誘致の手紙が来ていたようであるが、デビューは祖母の故郷の水沢でしたいと言って全て断っていたそうだ。

そして彼女は万全の状態で選抜レースを勝ち抜き、得難い恩師を得た。

『栗毛の来訪者』それは彼女を現すに最適な表現だ。

地方より突如として現れ、中央G1を制してあっさりと帰って行った。

中央ウマ娘達を羨むでも無く、かと言って見下すでも憐れむでもなく、ただひたすらに真摯にしのぎを削りあうライバルとして。

「メイセイオペラ」

そうはじめて呼ばれたのは忘れもしない。

自分をイジメ抜くようなランニング中に声をかけられたことだ。

「無茶はいけない」

と、初対面のジャージ姿のトレーナーは言葉少なに言う。

「放ってででくなんしぇ」

流れる汗を腕でぬぐいながら彼女はそう返した。

「スジはいい。君は多分、高等部から伸びるタイプだよ」

だから焦らなくていいと、タオルを渡されながらそう言われた時心を見透かされた気がした。

慰めでも気休めでも無い。

ただ本心で自分を、自分の走りを認めてもらいたかった。

「気が向いたら、明日わたしのトレーナー室においで」

そう言ってさっさと帰って行ったトレーナーは、メイセイオペラにとって心から自分を尊重してくれている気がした。根拠はないけれど。

『ダート史上最もレース感に優れる』

そう言われた彼女の直感は、この時芽吹いたのかもしれない。

次の日、彼女は言われた通りのトレーナー室に向かった。

コンコン、と控えめにノックをする。

「どうぞ」

そう言う声は、昨日と同じで優しげなものだ。

安堵を覚えて「失礼します」と引き戸を開けると、パソコンをそっと閉じて立ち上がるトレーナーの姿があった。

「コーヒー飲むかい?」

そう言いつつ、トレーナーはカップ片手にエスプレッソマシーンに向かう。

「あ、いえ、緑茶でお願いします」

言って、少し図々しかったかなと思う。

「そうか、すまないね。次からは用意しよう」

トレーナーはそう言うと、メイセイオペラをソファに案内する。

彼女が着席したのを確認すると、トレーナーもその正面のソファに腰掛け、聞く。

「それで、話はトレーニングの事でいいのかな?」

「はい。高等部さ上がるまで、徹底的さ鍛えでくなんしぇ」

その目は、尽きることのない闘志を映していた。

「それって、三年後の選抜レースで必ずわたしの担当ウマ娘になるという解釈でいいのかな?」

青田買いは傍目には褒められたことではないが、やっているトレーナーもいるにはいる。

ただ、地方だと環境のせいか中央ほど熱心ではないが。

「はい!!」

そう真っ直ぐ返事するメイセイオペラに、トレーナーは黙って頷いたのだった。

 




次はちょっとかかるかも
ゆっくりと待ってて貰えると嬉しいです。


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作中のメイセイオペラの愛称ってメイかオペラかどっちがいいですかね?

オペだとテイエムだしなぁ…。


トレーニングに関して、何か特別なことは無かった。

教科書通り、お手本通りに基礎を突き詰めつつ、しかしそれを徐々に彼女に合わせて変化させ、フィットさせて行くような、試行錯誤の繰り返し。

気がつけばメイセイオペラ自身も驚くほどに体力も筋力も、そして自信もついていた。

いつしかトレーナーはメイセイオペラを愛称で呼ぶようにもなった。

「わたしはね、オペラ、先人達の残したトレーニングやその方法は必ず意味があると思う。たとえそれが何も無かったから生まれたような苦し紛れの代用策だったとしてもね。それはそれで、これからそうならないための立派な教訓になる」

成功からも失敗からも学ぶ。

それが、メイセイオペラのトレーナーが彼女に求めた全てだった。

言うは易し、行うは難し。

元々本格化を迎える前の基礎の基礎をやるのだ。

普通なら飽きてサボるようになったり、逆に無理をして負荷を増やすトレーニングをしたがるものだが、メイセイオペラは忠実に実直にそして愚直にそれをこなしていた。

その『不安』が頭をよぎるまでは。

ある放課後ことだ。

「なんでそったらけっぱるの?」

きっかけはそうなんとなしに同級生に聞かれたことだった。

メイセイオペラには分からなかった。

質問の意味はわかる。しかしその意図するところは分からなかった。

小柄な自分に対する見下しからくるからかいか、或いは本当に気になっただけかもしれない。

がんばったところでどうせ中央には行けない。

仮に運良く行けたとしても、再び地方に逃げ戻ってくる連中は後をたたない。

そんな話は少なからず彼女も聞いたことがあったし、此処のみならず、地方のレベルが軒並み中央と比べものにならないくらいに遅れているというのも他ならぬこの盛岡トレセン学園で習ったことだ。

「勝ぢでから」

メイセイオペラは短く答えた。

同級生も「そうがい」と短く返すと、そのままトレーニングに向かって行った。

教室を出て体操服に着替え、グラウンドに行くといつも通りにトレーナーが待っていた。

「トレーナーさん」

「オペラ、どうした?」 

メイセイオペラは聞きたかった。

別にトレーナーにチクるとかでは無い。

もっと他に聞きたいことがあった。

「おらは、ほんに強ぐなれでらのだべが?」

「もちろん」

不安に反し、トレーナーは即答した。そして

「君は、中央のG1でだって勝てるウマ娘だ」

と続ける。

「そんじゃ…」

もっと効果的なトレーニングを…

メイセイオペラがそう言おうとした時

「だからこそ体が出来ていない今、無理をすれば却って選手生命を縮めてしまいかねない」

それ故に、今は基礎をと、彼女のトレーナーはそう言った。

しばしの沈黙。

それを破ったのは他ならぬメイセイオペラだった。

「すまねぁー。焦ってらったようだ」

「気にしないでいい。むしろ安心したよ」

その言葉を聞いてメイセイオペラは首を傾げる。

「君もまた、周りを何する一人の女の子なんだってね」

その言葉を聞いたメイセイオペラは真っ赤になったが、それがどんなものだったのか、その時はまだ分からなかった。




焼き芋が美味しいんだ。


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始動しまする

書けました。


 

「すごいね〜」とか「敵わねぁーや」とか

「おらじゃ役者不足だねー」だとか、最初は純粋な称賛だと思って嬉しかった。

しかし、その声は次第に自身を疎むように思えて来た。

頑張りたいなら最初から中央へ行け。

このぬるま湯を掻き乱さないでくれ。

その方がお互いのためだろう?

言外に、そう言われた気がした。

思い違いだと思いたかったし、考えすぎとも思った。

しかしそう考えようにも、周囲の反応はあまりにも露骨だった。

落伍者の集いに、勇者様は似つかない。

ここにいるなら、すべきことはふたつにひとつ。

ここから出ていくか、このぬるま湯に馴染んでしまうかだ。

染み付いた負け犬根性は、いつしか足の引っ張り合いの助長になった。

皆、負けたく無いはずなのだ。

皆、駆け回りたいはずなのだ。

誰だって最初は希望を持っているはずだ。

誰だって最初は己を信じているはずだ。

なのに、なのにどうして。

実力はあっても運が無かったウマ娘は何人もいた。

同様に、素養はあっても環境に恵まれなかったウマ娘も何人もいた。

運も実力のうちと言うのなら、三女神様はあまりに気まぐれが過ぎる。

しかし、だからこそ、その気まぐれに叶うウマ娘にはこれ以上無く贔屓するのだろう。

「よし。あんべ(行こう)」

高等部に上がり幾らか経った頃、ついにメイセイオペラの選抜レースがはじまる。

中等部とは比較にならぬ姿に、見物人はそれなりに集まっていた。

コースはダート、距離は短めのマイル相当だろうか。

参加者が出揃い、少しの間を置いてゲートが開いた。

メイセイオペラの取った戦法は逃げ。

レースのペースを作り出し、トップスピードでゴール板を駆け抜ける。

「まずは好きに走ってごらん」

トレーナーはそう言っていた。

と言うのも、選抜レースでは順位は特に関係ない。

無論良い結果を出すに越したことはないが、それより重要なのは光るものを持っているかどうかだ。

果たして、メイセイオペラは悠々と一着でゴールイン。

盛り上がる場と、自分に群がるトレーナー達を掻き分けて世話になったトレーナーのところに行き、契約完了の握手を交わす。

他のトレーナー達はがっかりしたような表情を浮かべていたが、それ以上何を言うでもするでもなく、気持ちを切り替えていたようで、少しすると次の選抜レースを見ていた。

強引な勧誘は基本的に歓迎されないが、今回は中等部の頃のトレーナー側も自分の見る目が足りなかったと自戒する部分もあるためあまり強くは言ってこなかったのだ。

トレーナー室に戻るとメイセイオペラのトレーナーはホワイトボードを取り出し、言う。

「さて、これからの方針だけども…」

「はい」

「ダート三冠を目指す」

その真剣な声色に、眼差しに、期待に、メイセイオペラは歓喜に顔を緩ませたのだった。

 




ウマ娘三期、やってほしいですねぇ
ウオスカか、オグリらへんが主人公かな?


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ライバルって大事

出来ましたわーい!


ここはトレセン学園、生徒会室。

この日、ここには一人の来客があった。

「よう、会長殿」

その来客とはアブクマポーロ。

ダート界に於ける期待の新星と目されるほどの傑物。

最初こそ平凡な滑り出しであったものの、初の重賞大井記念では二着に六バ身という大差をつけ、東海で行われたG2ウインターステークスを一着で制し、帝王賞も目前と評される実力者だ。

体躯こそスラリとしているものの、腰まである鹿毛に獅子を思わせる力強い眼差し。

かと言って無闇に威圧を振り回しているわけでも無い。

彼女曰く、そう言ったものは無闇に振り回すものでは無く、刀のように普段はしまっておいて必要な時だけ抜き放てばいいものらしい。

野性味あふれる出立ちに反し、彼女はどこまでも知的で冷静だ。

「おや、珍しいじゃないかアブクマポーロ」

「カカッ。なに、アンタが何度もフラれた相手がいるって聞いてな」

アブクマポーロは冗談めかして言う。

かの『皇帝』直々の引き抜きに首を縦に振らなんだウマ娘に興味があったのだ。

なにせ、彼女もまたその『皇帝』の呼びかけに否と首を横に振った一人なのだから。

「まあね。地方ウマ娘の未来の総大将殿にそう言われると、どんな顔をすればいいか分からないが」

そう言うシンボリルドルフは困ったような笑顔を向ける。

「カカッ、それこそ買い被りさね。おれはおれに出来ることをしてるってだけさ。その舞台として地方の方が肌に合うってだけでね」

アブクマポーロに言わせれば、地方の連中は卑屈に過ぎる。

そりゃあ相対的な盛り上がりだったり、或いは純粋に芝を走りたいのならば中央は向いてるんだろうが、ことダートに限って言えばどちらかと言えば地方に軍配が上がるのだ。

もっと自信を持ってくれていいし、持ってくれないと困る。

そうでなくば張り合いが無い。というのは身勝手ではあるが、しかしライバルが少ない競技ほど興の冷めるものも無いのは事実。

無論、全くの絶無では無いのだが。地方レースを、ひいてはダート界隈を盛り上げるという点において、そここそは彼女の数少ない不満点でもあった。

だからこそ、自身と同じ選択をしたホネのあるウマ娘がいたことが嬉しかったし、出来れば本人に会うより先に、彼女に直接接触したシンボリルドルフから直接その所感を聞きたかった。

「で、どうなんだ?そのーー」

「メイセイオペラか?」

「そう。どんなもんだ?」

会長席に腰掛けるシンボリルドルフに歩み寄り、ズイッと顔を近づけるアブクマポーロ。

「フフッ」

それに触発されてか、シンボリルドルフは笑みをこぼした。

「うん?」

「ああ、いや、気を悪くしたのなら謝るよ。ただーー」

そう、勿体ぶるように言葉を溜めるシンボリルドルフにアブクマポーロは首を傾げる。

「ただ?」

「この二、三年はダートの話題で盛り上がりそうだと思ってね」

その言葉を聞いて、アブクマポーロは目を細め、再び問いかける。

「ほう?その心は?」

「キミと、君と並び立つ者のレースに皆が心躍らせるだろうと、そう思ったまでさ」

それは、紛れもない本心だろう。

「ヘェ」

その短い一言に、少なからぬ闘志が宿ったのを、かの『皇帝』は見逃さなかった。

 

 

 




さて、どうなるのでしょうねぇ?


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アオハルで見た感じ、イナリワンってダートもイケるみたいですね。

できましたー。


盛岡トレセンのトレーナー室にメイセイオペラとそのトレーナーはいた。

目的は今後のトレーニング方針の確認と、それに関しての質疑応答などの話し合いのためだ。

「さて、ダート三冠を取るにあたり、必要なことは何かわかるか?」

「やっぱり体も出来でぎだってごどで、すごい特訓どがだが?」

メイセイオペラは年相応に目をキラキラとさせていた。

「残念ハズレ。正解はな、基礎をこれからも繰り返すことさ」

トレーナーがそう言うと、メイセイオペラは不満げだ。

「えぇ!?でも基礎は中等部の頃にがっぱり(たくさん)…」

「そう。しかし以前とこれからでは基礎を行う理由が違う」

「理由だが?」

「そう。オペラがさっき言っていたように中等部でやっていた基礎は文字通り体を作るためのものだった」

メイセイオペラが頷くのを見るとトレーナーはさらに続ける。

「しかしそれは言うなれば土台作りに等しい。鍛えるに相応しい下地を作っていた。要するにやっとスタート地点に立っただけだ」

そう言われるとメイセイオペラは見るからにしょんぼりしている。

「しかしだからこそ、より効率的かつハードなトレーニングも可能となったわけだ。技術も応用も、結局は基礎あってのことだからな。頭でわかっているだけなのと、実際にそれが可能かどうかは別問題なんだよ」

それは言うなれば、野球でピッチャーがど真ん中にストレートを投げて来ると分かっていても、バッター側にそれを打ち返すだけの力やバットを振るタイミングを見計らう能力がなければホームランどころかヒットにもできないようなもの。

いわゆる机上の空論というやつだ。

「正直地味で味気ないだろう。しかしこれは勝つためには避けられないことだ」

「でも…」

「大丈夫さ、前も言ったろう。焦らなくとも結果は出せる」

しかし、そう言うトレーナーにも懸念はあった。

それはメイセイオペラ自身が如何に強かろうと切磋琢磨し合える相手、つまりはライバルと目することが適う相手が居ないということ。

ウマ娘の闘志とは、一度燃え上がればそれこそ燎原の火の如く燃え移るものだ。

中央なんかは、時期さえ良ければかつてテレビで応援していた憧れのウマ娘に生で出会えるということでモチベーションにも繋がるのだろうが、地方ではそうもいかない。テレビの中の有名人はあくまでテレビの中の人という認識が取れないのだろう。

しかし、ここの子達は実力者が現れると萎縮するばかりでどうにも闘志に欠けるように思える。

よく言えば『心優しい子が多い』とも言えるのだろうが………。

無論、だからと言って別に素質に欠ける子ばかりという訳でも無い。

むしろメイセイオペラが中等部の段階で、それなり以上の素養やその片鱗を見せた子だって居ない訳では無かった。

だが、そう言った子のトレーナーは得てして手の内を晒すことを良しとはしない。

仲の良いクラスメイトもいるようだが、友達付き合いならまだしも並走トレーニングともなると断って来るのも別段珍しくは無いと言う。

かと言って他所の方針に口を出すのはナンセンスにも程がある。

「難しい問題だな…」

前途は多難である。

そうトレーナーが思っていた時のこと…。

コンコン…。

不意にトレーナー室の扉がノックされる。

「よぉ、メイセイオペラとそのトレーナーってのはここにいるのか?」

その声を聞くや、トレーナー室の入り口の方をトレーナーとメイセイオペラは見やる。

「入るぞ〜」

そう言う声は特に威圧感や緊張感だとか、敵愾心を感じさせない、どちらかと言うと親しみやすいような声色だった。

果たして、そう言いながら入室して来たのは所謂ビン底眼鏡をかけた鹿毛のウマ娘だった。

 




南関東の哲学者って異名カッコいいですよね。


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来訪者ですな。

久々更新。

ちょっとドキドキ。


 

 

「…それで、キミは?」

 

突然の闖入者にメイセイオペラのトレーナーは訝しげにそう質問を投げかける。

 

「カッカ、おれのことはいいじゃねぇか。でもまぁ、呼び名がないのは不便か。とりあえずはアブさんとでも呼んでくれや」

 

そう名乗った彼女は眼鏡をかけ直すように指で抑える。

それは彼女自身のあだ名か、或いはその場での思いつきか。

なにやら本名を明かさないのにはそれなりの理由、事情があるらしい。

まぁこうして学園内に入って来ているということは相応の手続きはしたのだろう。

不法侵入者が現れたにしては廊下も特に騒がしくもなってはいない。

 

「安心しろって。なにも新人イビリに来たんじゃぁねえさ」

 

そう言うと彼女はメイセイオペラを見遣る。

 

「ふぅん…。ヘェ〜」

 

さわさわ、さわさわ…。

 

「うひゃい!?」

 

彼女は唐突にしゃがんだと思うと次の瞬間にはメイセイオペラの脚に何かを確かめるように触っていた。

 

「脚質は…逃げってとこか。無駄も偏りもない、いい筋肉だ。なかなかにいいトレーナーがついたな」

 

そのウマ娘は、あっさりとメイセイオペラの脚質を見抜いた。

 

「君は、トレーナー志望なのか?」

 

驚いた様子でトレーナーは尋ねる。

 

「お?当たり?いやぁウチのトレーナーの方針でな。自分らの体のことはよく知っといて損はねーだろって」

 

だからと言って、脚に数秒触っただけで脚質を見抜くのは尋常では無いが。

しばらくの後、彼女はメイセイオペラから手を離して、用は済んだと言わんばかりに入って来た扉に向かう。

そして、思い出したように一言。

 

「あ、一時間後に動ける格好でダートコースに集合な。他の連中にはおれから声かけとくから」

 

彼女は去り際にそう言うと、返事も聞かずにさっさとトレーナー室から出て行ってしまった。

 

「と、トレーナーさん。どうすんべー?」

 

メイセイオペラら不安げにそう言う。

が、彼女のトレーナーはあくまで冷静だ。

 

「……とりあえず、嫌がらせや危害を加える気はなさそうに見える。それに、唐突ではあるが彼女にもなにかしら考えがあってのことだろう。ならひとまずは指示に従うことにしようか。オペラ、キミは着替えを済ませておいで」

「わ、わがった……」

 

二人は一時間後に備えて着替えや諸々の準備を済ませ、その時を待つ。

何があってもすぐに対応ができるように。

一体一時間後に何があるのか、あのウマ娘は何をするつもりなのか。

それは分からないが、分からないなりに用意するしかない。

そして、言われた通りダートコースに行ってみると、少なくない人数が集められているのが分かった。

皆、顔には困惑の表情を浮かべながら校庭の方から持って来たのだろうマイクが置かれた古ぼけた朝礼台を見つめる。

しばらくすると、件のウマ娘が校舎の方からスタスタと歩いて来るのが見えた。

 

「おぉ〜!!集まってんねぇ〜!!よしよし…」

 

そう言うや否や、彼女は朝礼台に登り、ひとこと。

 

「よぉ、オメェら第二の『オグリキャップ』になりたかねぇか?」

 

よく通る声で、確かにそう言った。



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地方レース場追加…これはもしかしたらもしかするかもですなぁ。

久々に出来ましたわ…。


『第二のオグリキャップ』

その言葉に、ダートコースに集まったウマ娘達はざわめく。

 

オグリキャップ。

 

その名は日本に知らない者はほぼいないほどに轟いており、こと競技者や関係者ではまさに知らない者は無い程の有名人だ。

また同時に、地方ウマ娘達の希望であり憧れそのもの。

『芦毛のウマ娘は走らない』とまで言われていた時代、地方レースでの活躍ぶりを評価され、かの『皇帝』シンボリルドルフ直々に赴いたオファーに応え、鳴り物入りで中央入りを果たした末に、スター街道を駆け上がり瞬く間に一時代を築いたまごうことなき『怪物』。

しかし、光があれば影もまた色濃くなるもの。

彼女の存在に続けと中央の門扉を叩いたウマ娘も少なからずいたが、長らく彼女に続く地方ウマ娘が現れていないのもまた事実だった。

だが、それがどうしたと言わんばかりに段上のウマ娘は続ける。

 

「確かに…地方にゃぁ課題も多いさ。

中央に比べりゃ貧相な設備で、お粗末な環境で。

レースをやったって、中央が大々的にやってる芝のG1やらに比べりゃぁ、ろくすっぽ客も入らねぇ。

それでも、憧れの中央は文字通り雲の上で…よしんば行けたって、出戻りする連中も後をたたねぇ…。だがオメェらよぉ…ホントにいいのか!?それでよォ!?」

 

そのウマ娘は最初の静けさが嘘のように感情的に声を荒げる。

何人かのウマ娘達がビクッと反応するが、そんな彼女らでさえ朝礼台の上の眼鏡のウマ娘から目が離せない。

 

「おれ達地方のウマ娘は!!今!!中央連中に完っっっ全にナメられてんだぞ!?」

 

その声は、本気で怒っていた。本気で悔しがっていた。そして…

 

本気で勝ちたがっていた。

 

「弱ぇままでいいのか!?

どうせ勝てねぇだろうって鼻で笑われたまんまでいいのか!?

芝で勝てねぇ?だったら何だってんだ!!

ダートレースはおれの庭だ!!おれ達の世界だ!!

ならよ…おれ達の得意のダートで…お高く止まってる連中の鼻ぁ明かしてやろうじゃねぇかよ!!」

 

眼鏡越しにもわかるほど、爛々と野心に輝く瞳。

かの『皇帝』が是非中央にと欲したその力強さは今なお失われず、どころかより色濃く雄弁に、そして鮮明に宿していた。

そして、壇上の名も知らぬウマ娘の覇気に触発されたようにひとりのウマ娘がぽつりと声を上げる。

 

「トレーナー…私、やりたい。やってみたい」

「え?」

 

普段はそんなことを言わない子なだけに、戸惑うトレーナー。

 

「どう足掻いても負けるんなら、せめて挑んで敗れたい。でなきゃ…」

 

そのウマ娘は俯いた顔を上げ、トレーナーを真っ直ぐ見つめる。

 

「自分が納得出来ない」

 

ダートコースを、沈黙が支配する。

しかし、この場にいるウマ娘達の総意は、もはや固まっているも同然だった。

 

「カッカ。そうこなくっちゃなぁ…」

 

その時確かに、歴史が動いていた。

少しずつ、しかし確実に。

 

「メイセイオペラ」

「えっ…はいっ!?」

 

いきなり名を呼ばれ、メイセイオペラはピクリと反応する。

 

「ちょっとこっち来い」

 

そう呼ばれてチョイチョイ、と手招きされるや、何が何やらと困惑した様子でメイセイオペラは壇上に上がり、恐る恐る生徒達の前に出る。

 

「コイツはおれがいま一番に目にかけてるウマ娘だ」

「へ?」

 

がっし、と肩を組まれるもメイセイオペラは困惑の表情を浮かべる。

 

「これからコイツに勝って見せろ。全力でな…」

「へ?」

 

ワイワイと、いつに無く活気に満ちたダートコースを、ウマ娘達は疾駆する。

そして…

 

「ゼェ…ゼェ…」

「クッソ…強い…」

 

どうにかこうにかメイセイオペラは逃げ切り、その実力を確かなものとして地方ウマ娘達に見せつけた。

 

「カッカ。なぁんだよ、やっぱやればできるじゃねぇか」

 

その様子を満足そうに眺めるのは地方ウマ娘達を焚き付けることに成功を確信したからか、うんうんと頷くメガネのウマ娘…アブクマポーロだった。

 




アブクマポーロ、メイセイオペラ、この二名はきて欲しいところさんですね。


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