嫌われてしまったとしても (アルル・)
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壱話
……私は嫌われている。この世界に転移した毒友による私の良くない噂は否定しても無駄だったので放置した結果鬼殺隊のほとんどに広まった。ほとんどの隊士がそれを信じ私は嫌われた存在になった。……柱である彼らにも。でも、たとえ嫌われたとしても私は……私は彼らを救いたい。鬼のいなくなった、夜を厭うことのない日々を過ごしてほしいと思った。だからその日を目指して今日も刀を振るう。
******
「ねえ、結衣課題ノート見せてー‼︎」
「はあ?また?自分でしなきゃ身に付かないでしょ」
「いいじゃん‼︎」
そう言って千里は私からノートをひったくると写し始めた。千里はいつもこうだ。別に写すのは構わないがそれが毎回だと流石に嫌になる。拒むと無理矢理ひったくるし。それを回避しても今度は泣き喚いて周囲を味方につける。千里は私と違って可愛らしい庇護欲を掻き立てられる容姿をしている。しかも演技が上手い。そのせいで周囲の男どもはもちろん、女友達でさえ嘘泣きする千里の味方になって私はいつも周囲から孤立した存在になっていた。それでもめげずに友達や彼氏をつくったことがあったがその人たちも千里が私の嘘の悪口を吹き込むせいで離れていった。縁を切るために千里に教えずに県外の大学に行ったのに何の執念か大学にまでついてきた。わかったことは千里は何故か私が幸せになるのが許せないらしい。だから私の人間関係をぶち壊しているらしい。……ほんと迷惑。ああ、どこか千里のいない遠いところに行きたい。そんなことを考えたからだろうか。この後私は寄っていたコンビニに居眠り運転で突っ込んできたトラックに潰されて死んだ。……そして目が覚めたら白い場所にいた。
******
「何処よここ」
いや、マジで。私は死んだはずだよね?
「お主災難だったのー」
声のする方に振り向くと白いローブを着た老人が立っていた。
「誰!?」
「神様じゃよ⭐︎」
軽っ‼︎ノリが軽い‼︎
「お主本当は死なんはずじゃったんじゃよー。本来なら大往生するはずじゃったんじゃよー。他の神がお主といつもお主といた……ほら、千歳とかいう」
「千里ね」
「そうそう、そのおなごと間違えたんじゃよー。あの事故本当は明日起こるはずじゃったんじゃよー」
ウッソでしょ⁉︎私間違えられて死んだの!?ショックで膝をついた。orzの体勢に。
「可哀想じゃからのー、別の世界に転生させてやるぞい⭐︎」
相変わらず軽いノリで提案してきた。
「そこはのー、そこそこヤバめじゃからのー、神様権限でちーととやらをやるぞい⭐︎……ほいっ、医学知識と技術詰め込んで肉体も努力すれば限りなく強化できるようにしたぞい⭐︎第六感も鋭くなったはずじゃ。おまけにスタイルも良くなるようにしてやったぞい⭐︎」
最後のおまけ何気にありがたい。……いや、神様がここまでするんだ。それほどやばい世界なら気を引き締めないと。
******
飛びに飛んで現在転生してから10年が経った。今私は何しているかというと5歳の頃に捨てられてから鱗滝左近次さんの元で生活している。……うん、そう鬼滅の刃の鱗滝さん。この世界鬼滅の刃の世界だった。鱗滝さんに拾われて気付いた。ちなみに捨てられたのは容姿と幼子にしては化け物じみた力のせい。容姿は真っ白な髪に紅い瞳という将来絶対美人になるという容姿だった。でも私が生まれたところでは忌み子扱いだった。あと力については……うん、動き回れるようになってから何があってもいいようめっちゃ筋トレとかしてた。だから5歳なのにめっちゃ力あるせいで化け物認定された。ぶっちゃけ力が決定打となって追い出されたので自業自得な気もするが。まあ、鱗滝さんに拾われたので日頃暴力を振るってた両親の元から去れたのはラッキーだったと思う。鱗滝さんめっちゃ優しいし。今、鬼殺隊に入るべく錆兎と真菰と義勇の3人と鍛練をしている。義勇が来た頃は義勇は泣いてばかりだったけど錆兎の叱咤と私たちによる慰めで今は仲良くなった。4人いつも一緒だった。あの時までは……
******
「結衣、真菰、錆兎、義勇、新しくともに住むことになった千里だ。仲良くしてやってくれ」
そう言って鱗滝さんは私たちと同い年くらいの少女を紹介した。嘘でしょ、何で?…………何で千里がこの世界にいるの?目の前にいる千里は幼くなっていたが紛れもなく前の世界の友達だった千里だった。
「よろしくね、千里」
真菰が優しく千里に挨拶をした。錆兎も義勇も笑顔で挨拶する。私も動揺していることを悟られずに笑顔で挨拶した。
「わあ!よろしくお願いします!」
快活な声で千里は言うと私の手を握った。そして、私の手を爪を食い込ませるくらい力一杯握りしめた。
「⁉︎」
鍛えていたので痛みはあまりなかったが千里がそんな行動に出たことに驚く。前の世界では千里は私に嫌がらせをするにしても直接的なことではなく間接的なことばかりしてきたからだ。表情に出さないよう努めると千里の表情が僅かに歪む。周りのみんなは気づいていなかった。
(でも何で千里がここに……それに私は初対面なのに何でこんな攻撃的なの?私の名前が結衣だから?前の世界の結衣って気付いたから?)
いくら考えてもわかるはずはなくその日は悶々としながら眠ることになった。
******
それからも日々は過ぎていった。千里は私を目の敵にし、自然な形で私と3人が一緒にならないよう妨害してきた。そのせいで3人と過ごす時間は次第に減っていき岩を斬る頃には私はいつも1人で過ごしていた。私が岩を斬った頃、同じ時期に錆兎と義勇も岩を斬ったらしい。私はその場にいなかったので鱗滝さんから聞いた。
(邪魔されなかったら今頃あの輪に入ってたんだろうな)
視線の先には楽しそうに話す4人の姿があった。少し前までは真菰も錆兎も義勇も私に話しかけてきたのに今では誰も話しかけて来なくなった。私から話しかけても3人ともさっさと話を切り上げようとしてしまう。ついこの間までは仲良くしてたのに。
(これじゃ前と一緒じゃない……)
顔には出さなかったがかなりショックだったのだ。おそらく前の世界と同じように千里に何か吹き込まれたんだろう。でも、千里に何か吹き込まれても出会ってから日が浅い義勇はともかく錆兎や真菰は千里よりも長く一緒だった私のことを信じてくれると信じていたのだ。
(ダメだ、切り替えよう。明日には最終選別に行かなきゃいけないんだから)
鱗滝さんからもらった赤い花の模様が入った狐のお面をそっと抱きしめ1人先に布団に潜り込む。囲炉裏のある部屋からは4人の笑い声が聞こえる。そこに私の居場所は無いと知らしめるかのように。私は涙を浮かべ堪えられなくなって耳を塞いだ。眠りに落ちた瞳からは一粒の涙が溢れていた。
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弍話
翌朝目が覚めると枕が冷たくなっていた。どうやら寝ていた時に泣いてしまっていたようだ。顔を洗い朝食を食べると錆兎と義勇と共に最終選別に向かう。鱗滝さん、真菰、千里が見送りに来た。けど千里は私に見向きもせず錆兎や義勇だけに激励する。
「行ってらっしゃい。義勇も錆兎も頑張ってね」
真菰は私に対して名前を呼ばず抑揚のない声で言った。けど錆兎や義勇には心のこもった激励を送った。
(私のことどうでもいいんだ)
帰って来なくても別に構わない、私は真菰にとってそんな存在になってしまったようだ。
(鱗滝さんはどう思ってるんだろう)
子ども同士の喧嘩か何かだと静観しているのだろうか?何にせよ口を挟まないと言うのはそういうことだろう。
(鱗滝さんにも嫌われたら……)
5年以上一緒に過ごしてきたのだ。漫画の原作云々関係なく共に過ごした時間の分以上に信頼している。もし嫌われたら精神的に大ダメージを負うと思う。別れを済ませ3人で歩いていく。歩いてる間ずっと独りだった。一緒に歩いてるのに会話にも加われなかった。加わろうとすると無視をされた。置いて行かれなかっただけマシかもしれないが藤襲山に着くまですぐ隣で仲良く話す2人の声が苦痛に感じていた。
******
(綺麗……)
藤襲山に咲く藤の花を見てそう思う。息を呑むほどに幻想的で暫しの間ほうけていた。錆兎や義勇も同じだったらしく2人も呆然としていた。気を引き締め広場に行くと10人ほどの少年少女がいた。その中に村田さんもいた。
「では行ってらっしゃいませ」
そう言われ山の中に入っていく。山に入ると早速鬼が出た。
「久しぶりの獲物だァ、それも旨そうな匂いをさせているなァ」
旨そう……私は稀血なのだろうか?そんなことを疑問に思いつつ襲いかかる鬼の頸を斬る
「水の呼吸 肆ノ型 打ち潮」
刀に水のエフェクトが纏う。鬼の頸がゴトリと落ち、体は塵となって崩れていく。
(…………2人は大丈夫だろうか)
山に入ってすぐ2人は私と離れた。どうやら2人にとって一緒にいるのも嫌みたいなようだ。
(手鬼がいるからなぁ……こっそり探そうかな)
周囲に鬼がいないので人の気配を中心に探りながら山を駆け抜ける。
(うーん、あっ、いたいた)
丁度2人が村田さんと共に行動しているのを見つけた。そこに鬼が襲いかかった。義勇が怪我をしたが錆兎が鬼の頸を斬った。錆兎は村田さんに義勇を託すと声のする方へ向かった。私は錆兎の後をつける。錆兎は襲いかかっていた鬼全てを倒しみんなを助けた。そうやって順調に最終日まで時間は過ぎていった。
(このまま出くわさないといいけど……)
そんな私の願いも虚しく奴は現れた。鱗滝さんの作った面のせいで、鱗滝さんのせいで弟子が喰われていると手鬼が言った時、錆兎は激怒したし私もブチ切れた。
(鱗滝さんがくれたお面は鱗滝さんの優しい想いが込められている。それなのに……‼︎)
鱗滝さんの鍛練や岩斬りの試練が厳しかったのも私たちが死なないようにとあえて厳しくしてくれていた。鱗滝さんなりの優しさをいつも私は感じていた。そんな鱗滝さんを憎む手鬼に錆兎が斬りかかった。しかし……
パキンッ
多くの鬼を斬ったせいで摩耗していたのか錆兎の刀が折れた。それを見て咄嗟に出て行き錆兎に迫る手鬼の腕を斬り落とした。
「水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦」
空中にいて足場がなく不安定だったためねじれ渦を放つ。手鬼の頸は神様印のチートな体だった私の力でも少し硬かったが斬る事ができた。そのまま頸は転げ落ち私が着地すると目の前には手鬼の体があり手を握って欲しそうにしていた。
(鱗滝さんの弟子を逆恨みで殺したことは許せないけど……)
何となく手鬼の悲しみが伝わる。暗闇の中たった独りでいる寂しさが。誰かに手を握って欲しいという思いが。私はそっと手鬼の手を握る。すると手鬼はそっと握りしめてきた。その手は私の手より少し温かかった。
******
私が助けたことが意外だったのか錆兎は呆然とこちらを見ていた。そして気を取り直すと何事もなかったかのように山を降りていった。空を見ると東の空が白んでいた。
「おめでとうございます、無事で何よりです」
山を降り広場に戻ると最初の時と同じ人数が集まっていた。けど義勇は怪我をしているからか意識が無さそうだった。そばで錆兎が寄り添っていた。
(ショタの錆義……破壊力がヤバい)
前々から思ってたがかなり絵になる。イケメンショタ2人の場面がこんなに破壊力抜群とは思わなかった。きっとお姉さん達の心を鷲掴みにするだろう。ちなみに村田さんはこの頃からさらつやストレートだった。きっとこの頃から椿油を使っているに違いない。
(…………鬼殺隊でお給料貰ったらスキンケアも考えるか)
女子として大事なことだろう。今はあまり傷んでなくても後のことを考えたら絶対に要る。そのあと玉鋼の選定と隊服の支給、あと階級を刻まれたあと義勇の怪我の手当てをしてもらって帰路についた。フラフラな義勇を錆兎が支えて帰っていた。私も手伝おうとしたけど錆兎に睨まれて手伝えなかった。日が暮れかけた頃やっと狭霧山に着くと3人とも鱗滝さんに抱きしめられた。
「よく生きて戻った‼︎」
感極まって3人とも泣いた。
(生きて帰って来れた……‼︎…………え?)
ふと視線が気になり鱗滝さんの後ろを見ると物陰から千里が射殺すような目で私を睨んでいた。
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参話
最終選別が終わって日輪刀が届く前日の日、私は千里に呼び出されていた。
「千里、何の用?」
「気安く名前で呼ばないでくれる?あんたに呼ばれると虫唾が走る」
ドスの効いた低い声でそう言われた。これが千里の本性なのだろうか。初めて見る千里の雰囲気に呑まれていると千里が話を進めた。
「あんたさぁ、転生者よねぇ?そうでしょ?西園寺結衣」
ドクンと心臓が止まるかのような気持ちだった。だって西園寺は……前世の私の苗字だったから。この世界では名前は前世と同じだったが苗字は違った。西園寺なんてお金持ちっぽい名前ではなく鱗滝さんが考えてくれた天堂というちょっと珍しい苗字。だから千里に前の苗字を言われ目の前が真っ暗になった。
「まあ、あんたに挨拶されて気づいたけどね。びっくりしたわー。死んだと思ったあんたがイケメン神様が転移させてくれた世界にいるんだから。ねえ、消えてくれない?目障りなのよ。何鬼滅キャラと仲良くしてんのよ。しかも勝手に手鬼から錆兎救済してるし」
やっぱりあの時からバレてたのかと冷静に思っていた。というか千里は私の時と違う神様が転移させたのか。
「何でそんなに私を目の敵にするの……⁉︎」
「そんなの決まってるじゃない。あんたが幸せにしているのが気に食わないのよ。イライラする」
酷い言いがかりだった。‘ただ気に食わないから’それだけで今まで私からずっと大切な人たちを奪っていったというのか。
「あんたが最終選別前に泣き寝入りしたの見て胸がスーッとしたわ!笑いを堪えるのが大変だったわー。義勇達も単純よね。あんたが私をいじめてるって訴えたら最初は信じなかったくせに自傷してから訴えたら簡単に信じたわ!あんたが虐める暇さえ無かったのを忘れてね!……言っとくけどあんたに味方は作らせないから。どこまでも追いかけて死にたくなるほどの絶望を味合わせてやる」
私が何をしたというのだろうか。というか錆兎達私が千里を虐めてるって思ってたのか。だからあんなに無視したのか。純粋な彼らがか弱そうな千里の話を鵜呑みにしてしまったのも納得できる話だった。そうだよね、誰かを虐めてるかもしれない人と話したくなんてないよね。軽蔑だってするに決まってる。私だって同じ立場ならそうしてたかもしれない。でもさ……私ずっと鍛練してたんだよ?錆兎達が4人で仲良くしていた時も独りでずっと。千里はずっと錆兎達と一緒だったじゃん。私が千里と一緒だったのって鱗滝さんもいる時くらいだったよ?虐めてるなら鱗滝さんだって何か言うはずだよ?ちょっと考えれば分かるじゃない。
庇護欲を掻き立てる可愛らしい容姿の千里はそれを感じさせないほどの歪んだ笑顔で愕然とする私を見る。千里の掌で踊らされていた私は酷く滑稽に見えるのだろう。
「まあ、鬼殺隊に入ったら絶対にあんたを陥れるから楽しみにしててよ」
そんな千里の言葉も聞こえないくらい私は錆兎達に信じてもらえなかったことがショックだった。千里は私を置いて麓へと降りて行った。
「私……どれだけ信用なかったのかな?話を聞いてくれたっていいじゃない?千里の話しか聞かないで信じて決めつけるなんて酷いよ……‼︎何で…………何で信じてくれなかったの…………」
もし無理矢理にでも話を聞いて貰えばよかったのか……いや、余計に溝が深まっていたかもしれない。誰もいない山の中、ボロボロと涙を流し嗚咽を漏らす。もう、元には戻れないのだと悟った。
『結衣、なかなかやるな‼︎』
『錆兎こそ‼︎』
『結衣、今度は私が相手だよ!』
『ど、どっちも頑張れ‼︎』
・・・・・・
・・・・・・
『どんな事があってもお互いを支え合って頑張ろう‼︎』
『『『もちろん‼︎』』』
4人で笑い合っていたあの頃には。
******
散々泣いたあと山の川で目を洗い麓に戻った。鱗滝さんは買い出しに行って不在であった。戻っても誰も話しかけて来なかった。そして翌日、3人の刀鍛治師の人たちがやってきた。
「いやー、驚きましたよ。今回は全員が合格というんですから。我々も大忙しでしたよ」
そういうのは鉄穴森鋼蔵さん。この人は義勇の刀担当だ。
「儂も驚いた。こんなこと初めてだからの」
キセルをふかしながら鉄井戸さんも賛同する。鉄井戸さんは錆兎の刀担当だ。
「さぁさぁ刀を抜いてみなぁ」
皆さん、このセリフで察せられた通りもう1人は鋼鐵塚さん。名前が蛍と可愛らしい人である。私の刀担当である。…………折ったらみたらし団子だな。
鋼鐵塚さんに急かされ3人同時に刀を抜く。すると色が変わり始めた。義勇と錆兎は深い鮮やかな青色だった。一方、私はというと……
「黒っ!」
「黒いな……」
そう、炭治郎と同じで黒かった。……いや、よく見ると紫にも見える。光の加減で黒にも紫にも見えた。
(日の呼吸?月の呼吸?どっちに適性があるのかな?)
漆黒なら日の呼吸、はっきりとした紫色なら月の呼吸に適性があるはず。だが私は光の加減によって変わるのでどっちかわからない。刀に気を取られ気づかなかったが後ろでは千里が刀の色を見てギリギリと歯ぎしりしながらこちらをみていた。
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肆話
刀を支給されると鎹鴉の
******
「あっ……」
「あっ、君は最終戦別の時の……」
任務先に行く途中村田さんに出会った。あれ?なんで私のこと覚えてるの?大して目立ったつもりはなかったんだけど。
「初めまして。最終戦別では一緒でしたよね?天堂結衣です」
「お、俺のこと覚えてくれてたんですか⁉︎」
「?ええ、覚えてますよ」
「あ、俺村田です!いやー嬉しいな。初めての任務が君みたいな可愛い子と一緒だなんて」
「え?合同なんですか?」
聞いてないぞ紡。
「あ、はい!鴉からはそう聞きましたが……」
「そうですか。では一緒に頑張りましょう」
「はい!あの……同期なんで敬語じゃなくていいです」
「……分かったわ。それなら村田さんも敬語はやめてね」
「ああ、よろしく。天堂」
それからたわいのない話をしながら任務先に向かう。着いたのはとある山。そこに子供を狙う鬼がいるらしい。
「村田さん、行こっか」
「あ、ああ」
ぎこちなく返事をする村田さん。……かなり緊張してるけど大丈夫かな?山を進むと突如鬼の気配が。刀を構える。すると奥から最終選別の時に見たような鬼が出てきた。
「オイオイ、今日は最高だなぁ?ガキに加えて稀血の女も喰えるなんてなぁ。……男は不味そうだな、いらねぇ」
やっぱり私って稀血だったんだ。あと村田さんに対して酷い。
「子供はどうした」
抑揚のない声で問いかけると鬼は笑いながら答えた。
「アァ?そこに5人いるぜぇ。子どもの絶望した顔を見ながら喰うのが最高なんだぜ、これが」
情報をアホのようにペラペラ喋る鬼。……ふむ、5人か。
「村田さん、子どもの救出のためにもなるべく早く倒そう」
そういうと頷き村田さんは動き出す。村田さんは左、私は右に分かれ斬りかかる。村田さんの攻撃は避けられてしまったが私が素早く回り込み
「水の呼吸 壱ノ型 水面斬り」
鬼の頸を斬った。分身とかしていない雑魚鬼だったので体が崩れていく。
「天堂凄いな。育手は誰なんだ?」
「鱗滝さんって言ってね厳しいけど優しい人だよ」
鬼が言っていた場所に行き囚われていた子ども達5人を保護する。幸いどこにも怪我はなかった。親元に返し帰路につく。その後何度か村田さんとは任務が一緒になり次第に仲良くなっていった。
******
ある日、任務帰りに村田さんに偶然出会い一緒にお茶することになった。
「……天堂、聞きたいことがあるんだが」
「何?」
「出会って日が浅い俺が聞くのも間違ってるんだがその……最終戦別でお前と一緒に来た2人、アイツら同門なんだろ?なんかお前避けられてないか?アイツらにお前のこと話すと嫌がられるんだが」
……私がこの世界に来た影響だろうか。確か村田さんは義勇と原作では最終決戦まで話す機会が無かったはずだ。なのにこうして村田さんと2人が話したことを教えてもらった。
「うーん、ちょっとすれ違いがあってね」
「いや、そういうレベルじゃなかったぞ。その、めちゃくちゃ……」
「嫌われてるって言いたいんでしょ?」
「‼︎お前、わかって……」
「本当に勘違いなの。まあ、何で嫌われてるかは聞かないで欲しいな。あとあの2人と話すときは私のこと話題にしない方がいいよ。村田さんまでよく思われなくなるから」
そう、本当に勘違いなだけ。千里に彼らは騙されただけ。話す機会が全く無くなった結果私と2人との仲は修復不可能なまでに拗れていった。鱗滝さんの元にも一度も帰っていない。帰っても千里がいるしあの2人に会ったら親の仇を見るように睨んでくるから。
「俺はお前がそこまで嫌われる理由がわからねぇ」
「関わりさえしなければ別に害はないし。気にしてないよ」
結衣は気づいていなかったが気にしてないと言った時酷く悲しそうな顔した。
「お前そんな顔で言われても説得力ないぞ」
それを見た村田は結衣に気づかれない程の声で呟いた。
「何か言った?」
「いや、何でもない」
村田は口に団子を運びながらそう返事をした。……1年後義勇と錆兎が柱になり、真菰と千里が最終選別を突破し、義勇達の継子になった事を育ての鱗滝経由で知った結衣が村田と距離を置き始めることをこの時の村田は想像もしていなかった。
******
鱗滝視点
あの子に初めて会ったのは6年前のことだった。道にうずくまっていた幼子に何となく惹かれた儂は話しかけて事情を聞き、捨てられていたその子を連れ山に戻った。その子は白く輝く髪と紅い瞳で大層可愛らしかった。名を結衣といい、苗字は無かったので儂が天堂と名付けた。容姿と幼子らしくない力のせいで村を追われたという。儂はその日から結衣を引き取り我が子のように育てた。過ごすうちに鬼に家族を殺され孤児となった錆兎と真菰、姉を鬼に殺され親戚から逃げ出した義勇も引き取り4人に鬼殺の鍛練をさせながら儂らは笑いの絶えない日々を過ごしていた。
ある日山に戻る途中道端で倒れていた結衣と同い年くらいの少女を見つけた。その子を介抱し話を聞くと行く当てがないという。儂はあの子達のことを思い出した。同じくらいの年なので仲良くできると思い連れ帰った。千里は快活な子だった。すぐに子ども達と仲良くなり共に過ごすようになったらしい。ただ、結衣が居ないことが多いので聞いてみると鍛練を1人自主的にやっていると言う。元から結衣は真面目だったのでその話を信じた。……微かに嘘の匂いを嗅ぎ取りながらも。
結衣と錆兎と義勇が岩を斬ったことで3人は最終選別に行くことになった。結衣が2人が岩を斬ったことを知らないことに疑問を抱いたが、仲良しだったあの子達が大好きな結衣を驚かせるために内緒にしていたのではないかと思い深くは聞かなかった。最終選別の前日4人は談笑していたが結衣の姿はなく、すでに寝入ってしまったと聞いた。それを信じ儂は明日は早いからと4人を寝かせ自身も床についた。最終選別に行く結衣達を見送ったが真菰が何故か結衣に対して冷たく接していた。それ以外は特に変わりなかったので2人が少し喧嘩しただけと思い、大人が口を出すものではないと静観した。
そして最終選別で3人は帰ってきた。儂は3人を抱きしめ労った。そして日輪刀が支給された。錆兎と義勇は深い鮮やかな青色、結衣は黒色だった。結衣が黒色だったことに驚いたが結衣ならきっと黒刀でも柱になれると儂は思っていた。もちろん、義勇や錆兎が柱になれるとも期待していた。鎹鴉から任務が言い渡され3人は隊服に身を包みそれぞれ任務先に行った。残った儂は真菰と千里の鍛練を見つつあの子達の無事を祈っていた。
……儂は知らなかった。いや、匂いでわかっていたはずなのにそれを信じたくなくて見て見ぬ振りをしていたのかもしれない。あの子達の絆がとうの昔に壊れてしまっていたことを。結衣が1人で悩み傷ついていたことを。
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伍話
鬼殺隊に入って1年、鱗滝さんから手紙が届いた。義勇と錆兎が十二鬼月を倒して柱になったこと、真菰と千里が最終選別を突破し、義勇達の継子になったこと。それらが書かれていた。
(やっぱり突破するよね……)
真菰は感情的にならなければ素早さを活かした戦い方で鬼を簡単に倒せる。模擬戦の時も真菰の速さには苦戦したっけ。
『真菰早いね‼︎』
『あはは、それを見切って簡単に受け流す結衣の方が凄いよ‼︎』
かつての記憶が甦った。もう今後あるはずのない楽しかった思い出。
(感傷的になってないで頑張らないと)
ちなみに私の階級は己。この一年で雑魚鬼をコツコツ倒しましたよ。
******
(はあ、まさかあんなことになるとは……)
合同任務の帰り私は1人トボトボ帰っていた。というのもさっきの合同任務がヤバかった。鬼が強いわけではないけど共に任務についた隊士との連携が全く取れなかったのだ。
『おい、あれが噂の……』
『ああ、冷酷で残忍で合同任務では自分の手柄のために何人も肉壁にしたとかいう……』
『(聞こえてるんですけど……それに今までの合同任務誰も死んでないし……)』
『このままじゃ俺たちもやられるぜ!?』
『あっちが階級は上だが指示なんて聞かないでおこう』
そうやって何人もの隊士が指示を聞かずに死んだ。私が何度かカバーして鬼を倒したけど私も負わなくていい怪我をしたし生き残った隊士も軽傷者が少なくないし無傷のものは皆無だった。
(噂広まりすぎでしょ……それに今日のことも歪められて広まるんだろうな……)
誰がそんな噂を流したのかは見当がついている。十中八九、千里に違いない。しかし証拠もないので追及することもできず、噂も否定しても信じてもらえず今回のことも相まってさらに悪い方の意味が多くの隊士に広まるだろう。人は良い噂より人の悪い面いわゆるゴシップの類が好きだ。
『お前のせいで仲間が死んだ‼︎』
『何でお前が生きてるんだ‼︎』
『死んで詫びろ‼︎』
鬼を倒した後の隊士達の心ない数々の罵倒が耳にこびりついて離れない。
(そもそもちゃんと指示を聞いてくれてたら………言っても無駄だろうなぁ)
殺されそうになった仲間を助けても返ってくるのは心ない罵倒だけ。流石の結衣も心を深く傷つけられた。
(罵倒にちょっとでも傷ついた顔すればアイツら喜ぶしなぁ…………顔隠そう)
思い立った結衣は胸元にしまっていたものを取り出す。それは最終戦別の前に鱗滝からもらった厄徐の面だった。結衣の赤い瞳を参考にして赤い花が彫られた可愛らしい面。お守りとして持っていたものがまさかこんな使い方をされるとは。まあ、お面だから間違ってはいないけど。あの時から顔の大きさはあまり変化してなかったみたいでつけてみるとピッタリと顔を覆い隠した。
(もう噂が広まらないといいのになぁ……)
そんな結衣の思いを裏切るように結衣の事実無根の悪い噂は鬼殺隊内で急速的に広まっていった。そしてその噂を先日の合同任務で結衣を罵倒した隊士が肯定したことによりその事実も広まり結果、多くの鬼殺隊士が信じてしまった。
******
(はぁ……今日は新人との合同任務か。気が進まない)
あれから噂は沈静化することなくむしろ広まってしまっていた。そのせいですれ違う多くの隊士から軽蔑するような目で見られていた。その中にはかつて合同任務で助けた隊士もいた。助けた時はかなり感謝していたのに手のひらを返すように彼らが蔑むような目で見ていた時結衣の心は深く抉られた。その時悲しみのあまり泣きそうになったがお面をしていたおかげでそんな顔を見られずに済んだのは幸いだと思う。
「あんたが任務の同行者か?何だ、ちんちくりんのガキじゃねえか」
突然そう言ったのは聞き覚えのある声だった。目の前に見えるのは隊服で声の主はどうやら大柄らしかった。カチンときて上の方を向いて驚いた。
(何でエンカウントするのよ……)
もし今後仲良くなってその事が知られたらまた私から千里は奪うに違いない。ここは仲良くなるようなフラグはへし折ろう。そう決意して彼に話しかけた。
「そう言うけど貴方より階級もそこそこ上よ?貴方癸でしょ?私は己。つまり新人の貴方より強いわよ?」
「そりゃそうだが……」
「今回の任務は山に集まった鬼達の掃討。ちゃんと私の指示に従っ……ちょっとなにするの⁉︎」
説明しながら歩いていたらお面を外された。私のお面をジロジロ見て次に私をじっと見た。
「面の下がどんなマセたガキかと思ったらなかなか派手でいいじゃねぇか。俺の嫁にならねぇ?4番目だが」
なにを思ったのかーー宇髄天元はそう言った。
「はあ?なるわけないでしょ!?変なこと言わないで‼︎あとお面返して‼︎」
上に上げられたお面をジャンプして無理矢理奪い返す。……よかった、どこも傷付いてない。
「勿体無いぜ。そんな美人なら顔を隠さなくてもいいじゃないか」
「私の勝手でしょ……」
「お前その辺地味だな」
「お前じゃなくて天堂。天堂結衣よ。ちゃんと先輩って呼んでね後輩くん」
「おい、宇髄天元だ。後輩くんって呼ぶな」
「あら、そう。じゃあ宇髄、さっさと行くわよ」
「俺の方が年上なのに……」
……あれ?強気な口調で話したら気に留められないんじゃないかって思ったんだけどむしろ興味持たれてない?…………あっ、しまった、宇髄さんの奥さんー主にまきをさんー結構強気な性格だった。似た性格なら興味持たれるわな。その後任務で鬼を掃討した後も宇髄はしつこく絡んできた。正直興味持ってほしくなかったがあまりにもしつこいので一度だけ奥さん達と会っておしゃべりをした。けど気に入られてしまって半ば無理矢理文通することになった。会わなければいいかと思い文通だけは奥さん達とだけだが続いていた。
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陸話
宇髄さんの奥さん3人と文通し始めてしばらくが経った。たわいもない話をお互い綴る。この時の私にとって3人との文通は密かな楽しみとなった。久しぶりに人とー紙の上だがー会話するのが楽しかった。会うたびに隊士達に罵倒され蔑んだ目で見られていた私にとって文通は数少ない心の拠り所となった。
******
ある日
「カァ、炎柱ヨリ呼ビ出シィ‼︎直グニ炎柱邸に向カウベシィ‼︎」
紡がいきなりそんな伝令を届けた。
(はあ!?私なんかしたっけ!?…………もしかして)
なにもやらかした記憶がない私だが一つだけ心当たりがあった。
(噂のことかなぁ……)
鬼殺隊士に広まった自身の悪い噂。それしか思いつかなかった。おそらく柱合会議でいきなり裁判をする前に話を聞くつもりなのだろう。
(行くか……やましいことなんて何一つないんだし)
紡に案内され炎柱邸に向かう。門の前では現炎柱の煉獄慎寿郎が仁王立ちをして待っていた。
「呼び出しに応じ馳せ参じました。階級己、天堂結衣です」
炎柱はこちらを向くとかなり驚いていた。大方噂の張本人がこんなチビだとは思わなかったのだろう。
「入れ」
無愛想に言われ中に入る。案内されたのは家の中ではなく庭だった。そしていきなり木刀を投げつけられた。
「構えろ」
「え?」
いきなりのことで目が点になった。とりあえず投げられた木刀を拾い構える。
「今から模擬戦をやる。一歩でも俺を動かせばお前の勝ちだ。全力でかかってこい」
「あ、あの……」
たじろいだが炎柱の目はマジだったので腹を括った。
「……よろしくお願いします」
先手必勝ではないが勝利条件の通り炎柱は微動だにしないので私から斬りかかる。初撃は難無く受け流される。反撃に横から斬りかかられそれを避けた。そうやって何度も打ち合ううちに私の動きも洗練され攻撃が次第に鋭くなっていく。打ち合うこと10分ほど。私の一撃で炎柱はたった一歩だが動いた。
「……お前の勝ちだ」
そういうと炎柱は構えを解き家に入るよう促す。私は炎柱についていく。居間に通され奥さんの瑠火さんがお茶を置いた。
「……飲め」
言われた通りお茶を飲む。マイルドで甘みのある香りが良いお茶だった。
「……美味しい」
お面越しに私の緊張がほぐれたのを見て炎柱は話を切り出した。
「お前を呼んだ理由は分かってるな?」
「……はい」
ピリッとした空気になる。やばい、現役炎柱怖すぎる。
「お前の噂はお館様や俺たち柱にまで伝わっている。柱の中にはお前の除隊を提言する者もいたがお館様が却下なされた。不確かな噂で除隊させることはしないと」
知らないところで除隊とか話が大きくなってた。却下されたお館様、ありがとうございます。
「俺は隊の秩序を乱す者がどんな者か確かめるために独断だがお前を呼んだ。噂通り隊に相応しくなければ俺も除隊を提言するつもりだった」
やっぱりそうか。
「だがお前は想像以上に強く、判断力もあった。お前ほどの腕があるならば隊士を犠牲にせずとも鬼を討てる。大方最近の犠牲は噂を鵜呑みにした隊士が指示を聞かなかっただけだろう。噂が広まる前は誰1人犠牲を出していなかったみたいだからな」
あの模擬戦でそんなこと考えてたのか。っていうかかなり私のこと調べたんだね。
「とにかく俺はお前が噂と違い隊に必要な存在だと考えている。お館様にもそう報告しておく」
おお、よかった。現炎柱の信頼ゲット‼︎めちゃくちゃ嬉しい‼︎今まで裏切られたり最初から信用されてなかった私にとって必要だと言われたことはかなり嬉しいことだった。
ドサッ……
「母上‼︎」
向こうのほうで何かが倒れる音と母親を呼ぶ少年の声がした。私と炎柱が急いでそちらに向かうと瑠火さんが倒れていた。
「瑠火‼︎」
炎柱は声をかけるが瑠火さんは気を失っていた。私は怒られるのを承知で瑠火さんを診た。
(脈も呼吸もある……)
「炎柱、奥様は神経調節性失神です。すぐに目を覚まされると思います」
私が言った通り瑠火さんはすぐ目を覚ました。瑠火さんはやはり原作通り体が弱いみたいだ。
「君は医学にも明るいのか」
「今回のような失神をなさらないためには水分をこまめにとったり長時間の起立を控えてください」
予防法を教えるついでに普段何をしているか聞いてみた。
(あれ?これなら瑠火さん助けられるんじゃ……)
原作では瑠火さんが何の原因で亡くなったのかはわからない。ただわかっているのは病死したということだけ。
(普段の生活を聞いてみて分かった。瑠火さんの体調を良くするには……)
「炎柱、奥様は普段家にいてばかりなのですよね?」
「ああ、体が弱いからな」
「それはあまり良くありません。晴れている時は外に出て日光を浴びてください。長時間ではなく15分くらいで十分です。あと、部屋の中でできる運動を教えますので明日からなるべく毎日少しでいいので運動をしてください。晴れた時は外に出るついでに庭を歩いてもいいと思います。あっ、瑠火さんはタンパク質も足りてないのでお魚や豆腐なども食べるようにしてください」
ポカンとした顔で炎柱は見ていた。今言ったのは現代の健康法である。適度に日光を浴び、適度に運動し、バランスの良い食事をする。これらをしていなかったので瑠火さんは体が弱くなっていたのだ。
「それらをすれば瑠火は良くなるのか?」
「私が診たところおそらくそれでだいぶ良くなられると思います。でも無理はダメです。できる範囲で毎日続けてください」
分かったと炎柱は頷く。多分ダメ元で試してみるつもりだろう。けど瑠火さんは小娘のいうことなのに真剣に聞いてくれていた。そして母を心配していた炎柱そっくりの少年と口元に包帯を巻いた黒髪の少年ー煉獄杏寿郎と伊黒小芭内ーは瑠火を助けた自分たちと同い年くらいのその人物をキラキラとした目で見ていた。
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漆話
炎柱の呼び出しから1年が経った頃に炎柱より手紙が届いた。階級が上がったことで給料も上がったので家を借りた。そこで手紙をお茶を飲みながらのんびり読む。瑠火さんが元気になったことを報告する内容でかなり感謝されていた。
『君のおかげで妻はかなり元気になった。今では街まで外出できるほどだ。本当に感謝している』
神様がくれた医学知識のおかげで瑠火さんが大病を患っているのではなく、健康的な生活をすれば良くなることが分かったのだ。煉獄家の救済が出来たことを転生させてくれた神様に私は感謝した。
『ところで君と同じくらいの歳の息子たちがいるのだが友達になってやってくれないか?君が妻を介抱したところを見て憧れてしまったようでな……』
ブフッッッ‼︎
もう一枚の手紙に書いてあったことを読み、飲んでいたお茶を吹き出した。
(いや、この流れで紹介されるのは別にいいけど……何で主要キャラがことあるごとに寄ってくるの⁉︎)
宇髄天元に続いて煉獄杏寿郎ーそして同じくらいの歳の息子たちとあったのでおそらく伊黒小芭内もーが自分に興味を持って関わろうとしてくる。
(こっちは千里が絡んでくるからあまり関わりたくないのに……)
関わった結果千里にキャラたちが騙されて自分が裏切られる展開なんてもうゴメンだ。実際天然水一門はまだ登場していない炭治郎と育手の鱗滝さん以外は自分を目の敵にしており出会ったら憎しみのこもった目で毎回睨んでくる。そんなこと、慣れるはずもなくずっとお面をつけて辛くても表情を隠していた。
(そういえば宇髄さんの奥さん3人からの手紙しばらく来てないな……)
手紙をもらってふと思い出した。結構な頻度でやりとりしていたが最近ではパッタリと途絶えていた。
(楽しかったんだけどな……)
ほんの少し寂しく思う。けれど切り替えて今日も任務に向かう。……私は知らなかった。宇髄さんが柱になったことを。だから気づかなかった。そんな宇髄さんを千里が放っておくわけないと。宇髄さんに私の話を聞いて千里がどんな行動に出るのかということを。
******
ー大切だった物はある日突然奪われるー
その日私は任務帰りに鬼殺隊関係者が住む町を歩いていた。当然、隊士たちも多いので私を見るたびに皆罵声や憎しみを込めた視線をぶつける。
(ちょっとだけ慣れたかも……)
毎日この視線を向けられるのだ。感覚が麻痺して辛いという気持ちがいつの間にか薄らいでいた。道を歩いていると白い髪の大柄な男ー宇髄天元がいた。挨拶しないのも失礼かと一言だけ声をかけることにした。
「宇髄、久しぶり。元気にしてた?」
振り返り私を見ると憎しみのこもった目で睨みつけてきた。
(えっ?何で?まさか…………)
嫌な予感がした。そしてその予感はこの後の予想もしない最悪の展開を告げていたのだ。
「よお、久しぶり。盗人さん」
低い声で言われ体がビクッと強張った。
(盗人って何のこと……)
「その面、千里が大切にしてた物らしいな。それを無理矢理盗ったりして恥ずかしくないのか?」
思考が停止した。
(このお面は私が鱗滝さんにもらった物……何でそんなことになってるの……?)
「とにかくこれは千里に返してもらうからな」
そういうと宇髄さんは無理矢理面をひったくる。
「ああ、あと俺、柱になったから。威張れなくなって残念だな。盗人は嫁とももう関わるな」
呆然とする私を置いて去っていった。
「……ねえ宇髄さん、そのお面私が鱗滝さんにもらった大切なお面だって初めて会ったとき言ったよね?雛鶴さんたちとの文通だって“嫁の友達が増えて嬉しい”って喜んでくれてたじゃない……」
ぽつりと呟く。幸い誰にも聞こえることはなかった。
『へー、そんなに大切な面なのか』
『ええ、私の1番の宝物』
『大事にしろよ』
『言われなくても』
・・・・・・
・・・・・・
『ありがとな、雛鶴たちも喜んでた』
『文通なんてしたことないからおかしなところがあるかもしれないけど……』
『そんなことあいつらは気にしねぇよ!仲良くしてやってくれ』
『ええ』
ほんの少しのひと時の思い出が思い出される。涙を堪え立ち上がった。
「分かってたじゃない。千里にバレたらこうなるって。だから文通に留めたのに…………それすらも許されないのね」
誰にも聞こえないくらいの声量で呟いた。炎柱の提案は断ろう。これ以上大切な人を増やしたせいで傷つくのはいやだから。一部始終を見ていた隊士たちが私を嘲笑う。
「見ろよ、音柱に制裁されてたぞ」
「盗みまでやってたんだろ?ざまあねえな」
私より階級の低い隊士たちも同調する。私はその場を急いで離れた。宇髄さんにお面を盗られたその日。その日は一年前、私と宇髄さんが初めて出会った日でもあった。
******
『炎柱様へ
御子息のご学友にとの提案、誠に恐縮ですがお断りさせていただきたく存じます。御子息には鬼殺隊の中で不安定な立場にいる私より相応しい方がいると思います。
天堂結衣』
要約するとそんな感じになった手紙を炎柱に届けてもらった。きっと聞き入れてもらえると思う。さっきの事もきっともう広まってるだろうし。
(これで煉獄さんたちとの繋がりが切れるといいんだけど)
これ以上キャラたちとはもう仲良くならない。だって仲良くならなければあっちが一方的に嫌っていたとしても仲良くしていた時よりは傷付かずに済むのだから。
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