【悲報】気がつけば目の前に知らない遺跡があるんですが…【なにこれ】 (絆蛙)
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輝きの章
【悲報】気がつけば目の前に知らない遺跡があるんですが…【なにこれ】



ふとウルトラマン書きたいなー
ネクサスにするか!
ネクサスに合うもの・・・せや!『結城友奈は勇者である』今放送してるしそれでいいか!
掲示板形式もしたい! 結城友奈は勇者であるも書きたかったしちょうどいい!

基本的にはそんな話です。
続くかは不明。特に感想とか評価くれたら続くよ!

※アニメ基準です。



1:名無しの転生者 ID:nX2S4UypW

助けて

 

 

2:名無しの転生者 ID:p7O6rBI1o

また唐突系かぁ…

 

 

3:名無しの転生者 ID:VHJG6P3NG

とりま、説明してもろうて

 

 

4:名無しの転生者 ID:WsUxTb/cM

簡潔に頼むわ

 

 

5:名無しの転生者 ID:nX2S4UypW

・部活の活動で川で探し物をしてたら頭を打って前世の記憶を思い出した。

・前世の記憶を思い出したのは良いけど、川に居たはずなのに気がつけば何故か遺跡に居て神殿が目の前にあった。

・ちなみに中学生

 

 

6:名無しの転生者 ID:9tcUnZq1g

本当に簡潔で草

 

 

7:名無しの転生者 ID:WsUxTb/cM

分かりやすくて助かるわ

 

 

8:名無しの転生者 ID:Ukj249V60

でも正直、その情報だけだと判断出来ないなぁ。遺跡、それも神殿なんていくらでもあるぞ

 

 

9:名無しの転生者 ID:LBKr9nDZm

てか、転生特典は? そんな魔界不思議空間に転移したと考えたら魔法やら才能やらなんやらはあると思われるんだが

 

 

10:名無しの転生者 ID: nX2S4UypW

え、しらない

 

 

11:名無しの転生者 ID:HyQEfPCMf

え?

 

 

12:名無しの転生者 ID:u0WmhDz1X

え?

 

 

13:名無しの転生者 ID:LBKr9nDZm

転生特典すら分からないってマ? いや、ない場合もあるけどさ

 

 

17:名無しの転生者 ID:ILhS0eDyl

待て待て、つまりはイッチは転移させられたのに特典なしで遺跡にいるってことか? おいおい…大丈夫か?

 

 

19:名無しの転生者 ID:nX2S4UypW

うーん、前世の記憶にもこんな遺跡に独特すぎる神殿跡はなかったんだよねぇ。マジで何処…? 俺の記憶にはこんな遺跡ないし

 

 

24:名無しの転生者 ID:7VGv2Kwwt

まあ、まだ危険な世界とは決まってないし、今まで生きていられたなら大丈夫だろ。渡されるのが遅いパターンもあるらしいし、日常系作品にはないしな。

とりあえずは神殿跡に入ってみたら?

 

 

27:名無しの転生者 ID:KtUw0G1uA

俺は襲われたけど、近くにあった石のベルトを腰に付けたら肉体に入ったりしたし。後々にそれが仮面ライダー掲示板のお陰で転生特典だと分かったけど、もしかしたら俺みたいに転生特典が近くにあるのかも

 

 

33:名無しの転生者 ID:TOpnosRK8

クウガニキやんけ! もしかして本編終わってる?

 

 

39:名無しの転生者 ID:KtUw0G1uA

なんとか0号を倒した後だよ。今は休養中。

 

 

42:名無しの転生者 ID:SqHW0qP54

じゃあ聖なる泉を枯らせずに戦えたのか…

 

 

43:名無しの転生者 ID:L7aHP7UQn

まあまあ、クウガニキも気になるけど、今はイッチをなんとかしてやろうぜ

 

 

46:名無しの転生者 ID:nX2S4UypW

とりあえずは入ってみますわ

 

 

49:名無しの転生者 ID:8Z4aGkPC+

あ、それなら配信よろ。リアルタイムでしてくれた方が俺たちもフォロー出来ると思うし

 

 

50:名無しの転生者 ID:l0WzAQQ4u

せやな、イッチは転生した割にあんまり詳しそうにないし

 

 

51:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

うーん…

 

 

53:名無しの転生者 ID:Z6IugRMxc

どうした?

 

 

54:名無しの転生者 ID:PvKXPG0lF

なんか知ってたり?

 

 

55:名無しの転生者 ID: nX2S4UypW

知ってるなら是非教えてください!   あぁ…夕焼け?が綺麗だぜ……あっでもいいかも

 

 

57:名無しの転生者 ID:n100gvwIh

いや草

現実逃避してやがるよ

 

 

58:名無しの転生者 ID:vt2SaCLsS

いくらなんでも早すぎィ! いやでも、こいつ割と余裕じゃね?

 

 

60:名無しの転生者 ID:q/n95uaKR

現実逃避してるかと思えば風景を楽しむ余裕があるとは…さては大物だな

 

 

63:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

いや、この風景とか形さ、めっっっちゃ見覚えあるんだよな。確信はないから言えないが…イッチは覚悟した方が良いかもしれない

 

 

64:名無しの転生者 ID:Z6IugRMxc

言われてみればたしかに…なーんか見覚えがあるなぁ

 

 

65:名無しの転生者 ID:7VGv2Kwwt

当たって砕けろの精神で行くしかねぇな!

 

 

68:名無しの転生者 ID:nX2S4UypW

えぇ…それは怖い

 

 

69:名無しの転生者 ID:tzbtjqg6B

というか砕けちゃダメなんだよなぁ

 

 

72:名無しの転生者 ID:8nkV3LbBJ

そういう時こそ、ネバーギブアップだぞ

 

 

76:名無しの転生者 ID:8Z4aGkPC

まあ、イッチはひとりじゃないんだ。俺らがついてるんだし、頑張ろうぜ!

 

 

81:名無しの転生者 ID:nX2S4UypW

分かりました…それじゃあ、逝ってきます!!

 

 

83:名無しの転生者 ID:7VGv2Kwwt

ちょ、本当に逝くなよ!?

 

 

84:名無しの転生者 ID:vt2SaCLsS

逝く!? 行くじゃなくて!? ミスだよね? おーい!?

 

 

85:名無しの転生者 ID:KtUw0G1uA

ああ、もうダメだ! とにかく死なないように頑張って! 心だけでも平常心を保てばきっと生きていけるから!

 

 

86:名無しの転生者 ID: L7aHP7UQn

クウガニキが言うと、説得力あるなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

流れる転生者掲示板を生配信モードにした一人の少年は、夕陽に照らされ、紅に染まった空の下を歩く。

後ろを向けば密林に包まれ、古くなってしまったからか苔が石像に生えていたり建物にも生えていたりする。しかも石像は石像で鳥のような鳥じゃない鳥みたいな感じだったり、本当によく分からないものだ。

それを見て、夜にならないうちに済ませようと少年は恐る恐る石造りの変なオブジェクトがある神殿跡を覗き込む。

中は真っ暗というより歩ける最低限の明るさがあった。

少年がその中に入ると、突如として左右に置かれている炬火が照らされる。まるでこちらに来るようにと、誘い込むように次々と照らされ、気がつけば普通に見えるほど明るくなっていた。

少年は大人しく従うように歩きながら周囲を見渡す。

周囲にあるのは歴史的な建築物と思わされるような古い壁だ。何年も何十年も、もしかしたら何百何千何万経っているかも知れない。

そう年季を感じさせるほどの造りでもある。

気が済んだのか、少年は真っ直ぐ見据えると何処か導かれるようにただ奥地まで向かう。

少しして、神殿の奥深くにたどり着いた少年が止まった。

少年の目の前には何かの祭壇のようなものがある。

そこには何処か神々しい---神秘的な雰囲気を放つ、一つの荒削りの岩のような形状ではあるが、飛行物体のように見える石櫃が佇んでいた。

 

少年は自然な動作でゆっくりと手のひらを伸ばしていく。

 

「なんだ、これ…」

 

気が付けば伸ばしていた手。それに少年が気づいた瞬間には、少年の手が石櫃に触れていた。

途端、石櫃が青く光り出した。

反射的に石櫃から手を離したが、石櫃が意思があるかの様にずっと発光している。

もう一度触れてみようと、少年は石櫃に触れようとし---先ほどよりも眩い、目で見ることすら出来ないほど強烈な光の強さに少年は腕で顔を覆い隠した。

さらにその瞬間、少年の姿は確かに消え、石櫃に吸い込まれてしまった---

 

 

 

 

 

 

98:名無しの転生者 ID:Z6IugRMxc

あれ? イッチ? どうした?

 

99:名無しの転生者 ID:nbceJGPRQ

映像が切れた!? え? もしかして死んだ?

 

 

100:名無しの転生者 ID:WZaTxPynb

いやいや、いきなりすぎるだろ!

 

 

101:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

いや、ごめんもう完全に何が起こったのか分かったわ 

 

 

102:名無しの転生者 ID:7VGv2Kwwt

俺も分かったわ。というか、イッチ以外分かってるんじゃないか?

 

 

103:名無しさん ID:FZJC0FGcS

え? なに? イッチの身に何があったん?

 

 

103:名無しの転生者 ID:n100gvwIh

おいおい、本当にこれは精神が逝くんじゃないか?

 

 

110:名無しの転生者 ID:8Z4aGkPC

俺らがついていても無理な気がしてきたわ

 

 

111:名無しの転生者 ID:l0WzAQQ4u

気づいたら映像切れてるやんけ! あれ? まさか…あっ(察し)

 

 

115:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

分からない人にめっちゃ簡単に説明するけど…あの遺跡、神殿、密林、位置、場所、夕焼け、そして映像が途切れる前にイッチが吸い込まれた石櫃に光。

これさ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全部ウルトラマンネクサスに出てくるんだわ

 

 

116:アークルを宿し超戦士 ID:KtUw0G1uA

あっ…(察し)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!? ここ何処!?」

 

目を開けるとそこには先ほどとは違う空間に居た。

表現するならば、まるで光の海。

そこは青黒く、神秘的な空間があった。

少年が唖然と佇んでる---否。重力がないのか、浮いている少年の目の前に赤いYの字型の様なものが現れ、だんだんとそれは姿を現していく。

腕には鋭く尖ったカッター状の刃の装甲、胸の中心にYの字型のコアの様なもの。

そしてなによりも、その体は銀色に輝く巨人だった。

 

「光の、巨人……?」

 

思わず、と言った感じで目の前の銀色の巨人を見た少年は呟いた。

だが、その言葉に関しての返答はない。

 

「君が…俺を呼んでいたのか?」

 

少年の問いに対し、今度は銀色の巨人がゆっくりと頷く。

そして銀色の巨人が視線を少年から横にずらすと、この空間の外の景色---つまり、先ほど少年が居たはずの遺跡が映し出される。

少年は銀色の巨人に釣られるように遺跡の外の映像を見る。

そこには地獄の番犬、ケルベロスを思わせる三本の首に鋭い眼光をした怪物---()()というべき存在が確かに居た。

怪獣の存在を認知した少年は前世の記憶で知っている似た存在を思い浮かべたのか顔を青染めていると、怪獣はまるで少年と銀色の巨人が居ることを知っているかのようにゆっくりと神殿跡に近づいてきている。

 

「あれは、怪獣……? 俺たちを、狙っている………?」

 

少年の独り言に、銀色の巨人は何も答えずにただ見つめる。

その銀色の巨人の視線を受け、少年と銀色の巨人の空間で沈黙が支配するが、少年がふと迷うような表情を浮かべながら覚悟が込められた瞳で巨人を見る。

 

「……もしあれが来たら、俺も君も危ない。仮に俺が居た場所に来たら、みんなが危ない。

君が俺を呼んだってことは…俺なら、俺なら倒せるのか?」

 

少年の問いかけに、やはり銀色の巨人は何も答えない。

しかし、さっきとは別で見つめるのではなく手を差し伸べていた。

一瞬、その行動に少年の中で再び迷いが生まれる。

 

「俺なら、俺しか出来ないなら---俺は手にする! だから俺はみんなを守りたい。あの温かな場所を!」

 

少年は目を瞑り、仲がいい友人と何よりも部活のメンバーを思い出して、力強さを感じさせる笑みを浮かべながら覚悟を決める。

そして銀色の巨人に手を伸ばした。

少年の手と銀色の巨人。二人の互いの手が重なったとき---

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああぁぁぁあああ!?」

 

銀色の巨人が光の球体となり、少年の体に吸い込まれていった---。

 

『-----巻き込んでしまって、すまない』

 

最初の部分を聞き取ることが出来なかったが、少年の脳裏には最後に巻き込んだことに対する謝罪の声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

130:名無しの転生者 ID:nbceJGPRQ

あ、映像戻ったけど、終えたのか。

おかえりー。動いてなかったけど、どうした?

 

 

133:名無しの転生者 ID:nX2S4UypW

いや、たすけて

 

〔添付:白を基調として赤いラインがY字状に刻まれている短剣型?の物と怪獣の写真〕

 

 

135:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

エボルトラスターじゃん! 知ってた! でもガルベロス既にいるじゃん!

 

 

138:アークルを宿し超戦士 ID:KtUw0G1uA

とりあえず変身だ! 変身しなさい! HE・N・SHI・N!

 

 

139:遊び心を知った転生者 ID:FSoovUe753

それは俺のセリフだ!

 

 

140:名無しの転生者 ID:nX2S4UypW

いやちょ、そんな事言われても分からないんだってばああああああ! あ---

 

 

142:名無しの転生者 ID:l0WzAQQ4u

イッチ!? イッチーっ! 惜しい人を亡くしてしまった……

 

 

144:名無しの転生者 ID:t4IOzByy7

勝手に殺すなw

 

 

147:名無しの転生者 ID:8Z4aGkPC

とにかく短剣型のやつを引き抜け! イッチがウルトラマン分からないなら後で説明するから! とりあえず倒せ!

 

 

149:名無しの転生者 ID:uR+gIvzAB

変身しなければやられるぞ!

 

 

152:名無しの転生者 ID:tzbtjqg6B

砕けちゃダメだって言ったダルォ!?

 

 

154:名無しの転生者 ID:iSmPJCyOV

あ、また配信モードに変わった

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあ!?」

 

少年は走る。

神殿を狙うのではなく、少年を狙うようになった怪物から少年は逃げるように走っていた。

背後を見ると犬を模した2つの頭部からは火炎弾が発射されており、少年が走り過ぎた箇所に着弾する。

普通、人間が火炎弾よりも早く走ることなど不可能である。であるならば、何故か? それは、少年の肉体が強化されたからだ。

しかし少年は人間と思えないほどの速度でジグザグに動くことで避けているが、脳裏ですらスレを考える余裕は既になかった。

最後の言葉だけ思考する、即座に配信モードで限界だったのである。

少年からするとスレの人たちは知っているような人が何人かいたらしいから詳しく聞きたかったところだったが、ガルベロスとやらが許してくれなかった。

 

「くそっ! 変身ってどうやればいいんだよ!? そもそも俺は川で探し物をしてただけなのに!」

 

この遺跡に来る前、部活のメンバーと探し物をしていて、ようやく見つけたと思ったら落ちそうになってたため、飛び込んでキャッチしたまでは良かった。だが勢いが余ったせいで頭を打ったのが原因だった。

それがまさかこんなことになるとは思わず、追ってくるガルベロスをチラッと見ながら走るが、ガルベロスからするとハエのように小さいくせにすばしっこくて執拗いと感じたからか、突如として少年の逃げる先に向かって火炎弾を放った。

 

「なっ--アァっ!?」

 

予想外の攻撃に少年はギリギリのところで急ブレーキを掛けるが、突然止まったとしても避けるという行動に移る時間などない。

少年は火炎弾が着弾した際の衝撃と爆風によって吹き飛ばされ、密林の木に背中を強打してしまう。

 

「ガハッ……!? い、いてぇ…!」

 

あまりにもの痛みに倒れ、手に持っていたエボルトラスターを地面に落としてしまうが、慌ててそれを手にした。

そのエボルトラスターはまるで脈打つように鼓動のような音が鳴り、今か今かと待ち構えている。

自分を使え、と言うように---。

 

『ウウッ……ガアアアアアアッ!』

 

そんな時、倒れている少年がチャンスだと理解しているようにガルベロスが獣のような雄叫びを挙げながら少年に物凄い速度で走ってくる。

あと数秒もすれば少年は踏み潰されるか食われるか---悲惨な運命になることは違いない。

 

「ああもう! こうなったら賭けだ!」

 

スレで言われた手に持つエボルトラスター。

きっと手にあるということはこれが鍵なのだろう、と思った少年は痛みに耐えながら起き上がる。

既にガルベロスは少年の目前にまで迫っており、当たれば即死するであろう爪を振り上げた。

 

「うああああぁぁぁッ!」

 

少年は無意識に鞘を左手で持つと左腰に構え、右腕で鞘からエボルトラスターを前方に引き抜く。

そしてエボルトラスターを左肩に当て、右腕を伸ばして叫びながらエボルトラスターを空に掲げた。

それと同時に爪が先ほどまでいた少年の位置に振り落とされ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギャアァァァ!?』

 

光が、迸る。

空を、雲を、地球を、星を、宇宙を赤い光が貫き、腕に鋭く尖ったカッター状の刃の装甲を持ち、胸の中心にYの字型のコア---エナジーコアを持つ銀色の光の巨人、ウルトラマンネクサスがその姿を現す。

 

『シュアァ………へァ!?』

 

ネクサスの光で吹き飛ばされたガルベロスを見て、ネクサスが驚いたように自身の体をみる。

手、足と視線を向け、胸に手をやる。あらゆる感触や大きさが人間ではない肉体になっており、少年は自身が光の巨人となったことを理解した。

 

『ガアァァァ!』

 

『ジュ……デェヤァ!』

 

起き上がったガルベロスが迫る。

驚いている暇はないとネクサスは走り、ガルベロスは爪を振るう。

それを跳躍して避けると、ネクサスはガルベロスの頭を一つ踏みつけて後ろに着地した。

左腕を前に、右腕を後ろに手刀打ちのような構えを取ると、再びガルベロスに駆け出した。

 

『グガラアアァァ!』

 

『ウァアア!?』

 

駆けるネクサスに向かって、火炎が放たれる。

すぐに体を逸らすことで避けるが、自ら距離を縮めていたのが仇となって突進を受けて吹き飛ばされてしまう。

 

『アァ……デェヤアアア!?』

 

吹き飛んで倒れた際に、ガルベロスから放たれるのは火炎弾。

起き上がろうとしていたネクサスに避ける術はなく、一発目を腕で受け、二発目をダメージで怯んだところでモロに受ける。

さらに六発連続で放たれ、再び吹き飛ばされてしまった。

 

『シェアァァ………シュワッ!』

 

同じ手は喰らわないとダメージの残る体に鞭を打ち、立ち上がったネクサスは腕を前に突き出して交差し、体を光らせ---ガルベロスから姿を消した。

いや、正確には高速で動くことによって背後に回ったのだ。

 

『ハアァッ!』

 

後ろからガルベロスに組み付くと、ネクサスは拳を何度も振り下ろし、ガルベロスが暴れると距離を離して横蹴りを放つ。

それによって怯んでいる間に体を屈めて懐に潜り込むと、体を抱いて後ろに投げ飛ばした。

 

『シュアァ!』

 

すぐに追撃に入り、倒れているガルベロスに跨ると胸を何度も叩く。

そこでガルベロスの顔が動き、跨るネクサスに噛み付こうとした。

ネクサスはすぐに気づくと、顔を掴み、噛まれないように抑え込もうとする。対するガルベロスは噛み付こうとし---気づかれないように、爪を振るうための準備の行動を取っていた。

顔を両手で抑え込んでいるネクサスは気づいていないようで、片手で抑え込み、拳を握ってガルベロスの顔を殴ろうとしたその瞬間---

 

『グアッ!? ヘェアアアァァ!?』

 

ネクサスの横腹が爪によって引っ掻かれ、手が離れた瞬間には右腕に噛みつかれる。凄まじい痛みがネクサスを襲い、顔面を一度殴って無理矢理離したネクサスは転がるように距離を離した。

 

『ハアァァァ…。アアッ……!』

 

『グルゥ……ガアァァァ!!』

 

膝を着きながら噛まれた箇所の右腕をもう一つの腕で抑え、ガルベロスを見る。

ガルベロスの方もダメージは蓄積しているようだが、倒せるまでには至っていない。

ネクサスは顔を振って痛みを我慢して起き上がって再び構えると、ガルベロスが最初に動いた。

駆け出しながら火炎弾を吐き、ネクサスに向かっているのだ。

 

『シュアッ!』

 

恐らくは火炎弾を避ければ出来る隙を狙い、避けなかったらそのまま攻撃しようとする魂胆だろう。

だが、ネクサスは違った。上空に高く跳躍すると、回りながらガルベロスを飛び越える。

ガルベロスは視線を追うように上を見ると、背後に回ったのだと気づく。

ガルベロスが行動に移す前に着地したネクサスは片膝を着きながら右腕に光を集めていき、ガルベロスが振り向く。

 

『シェアッ!』

 

ネクサスは右腕にエネルギーを纏うと、振り向きざまに右腕をガルベロスに突き出す。

その瞬間、凄まじい威力でガルベロスが吹き飛んだ。

ネクサスは起き上がろうとするが、ガルベロスに噛まれた右腕に痛みが走り、片膝を着いてしまう。

 

『ハァァァ……デヤァッ!』

 

しかしガルベロスの方もダメージで起き上がれないと分かると、ネクサスは顔を上げて右腕を左胸付近に持ってきて、左腕をその真下に持ってくる。まるで抜刀するような構えを取ると、右手と左手を行き来するように青い稲妻が迸る。

エネルギーが光に変わり、その光がネクサスの手のひらに纏われる。

ネクサスは光を保ったまま両腕を今度は右胸付近に持ってきて、腕を十字に構えた。

その瞬間、十宇に構えた一の部分から上の部分の範囲から光線が放たれる。

 

『ギャアァァァ!』

 

その光線はガルベロスに直撃し、大爆発が起こった。

漂う爆煙が消えると、先ほどまでいたガルベロスの姿は何処にもなく、ネクサスは棒立ちになりながら凄まじい力を発揮する自身の両手と肉体を見た。

 

『ハァハァ…。シェアァ…』

 

しかし、まるで限界と言わんばかりに右腕を抑えながらネクサスの体が前方に倒れると、ネクサスは白光となってその場から姿を消した。

 

 

 

 

---そして、少年の姿に戻ると、川の中で倒れた状態で少年は場所も姿も、全て元通りに戻ったのだった---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

301:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

アンファンスでガルベロス倒すとか……イッチ変態か?

 

 

302:名無しの転生者 ID:6KK3KUDwF

というか、イッチってウルトラマンネクサスの世界に転生したのか?

 

 

304:名無しの転生者 ID:4t8qIiacA

なんでジュネッスにならないんだろ……って思ってた

 

 

307:名無しの転生者 ID:Mf7MPrFsj

いやぁ、ガルベロスは強敵でしたね…

 

 

310:名無しの転生者 ID:7FGaEv/4c

実際にイッチが腕痛そうにしてたからなぁ

 

 

313:アークルを宿し超戦士 ID:KtUw0G1uA

さっきから何もスレ来ないけど、大丈夫なのかな?

 

 

315:名無しの転生者 ID:7VGv2Kwwt

まあ、意識なくなってたっぽいし

 

 

317:遊び心を知った転生者 ID:FSoovUe753

やはり俺のイクササイズが大切だ

 

 

319:名無しの転生者 ID:es1KUjxsE

(前世はともかく今は)中学生(なんだから)にウルトラマンの中でも高難易度なネクサスはキツいに決まってんダルォ!? 他のウルトラマンと違って変身者にダメージが還元されたはずだし

 

 

321:潔癖症設定有りの転生者 ID:ad2KXV01/

名護さん! 名護さんは最高です! 弟子にしてください!

 

 

322:名無しの転生者 ID:fDXinLTai

本当にイッチはよくアンファンスで勝てましたね……

 

 

325:名無しの転生者 ID:Jefl7efDU

>>317 >>321

二人は自分たちの世界に帰って、どうぞ お前らファンガイアはどうしたよ。

つーかお前らライダーでしょ

 

 

326:名無しの転生者 ID: l0WzAQQ4u

また惜しい人を亡くしてしまった…

 

 

329:名無しの転生者 ID:8Z4aGkPC

そもそもさぁ、特撮って毎回難易度高いよな

 

 

334:名無しの転生者 ID:eqHNkirdU

一番難易度高いのはレオとかだろうな…あっちはトラウマになるし。

まあ、ある意味初代もか

 

 

337:名無しの転生者 ID:sTVLs5VlE

アニメも世界によっては厳しいしなぁ

 

 

338:名無しの転生者 ID:mQ1Bgjovq

というか本当にイッチはどうした?

 

 

339:名無しの転生者 ID:xRSbY7bD8

そろそろ心配になってくるぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

351:名無しの転生者 ID:nX2S4UypW

あ、ごめん。ちょっと病院に居てさ、忙しかった

 

〔添付:赤色の髪の毛と花びら状の髪飾りがトレンドマークの少女に切ったリンゴを口元に近づけられていて、周りには車椅子に乗った黒髪の少女と金髪の姉妹が心配そうに見つめてきてる写真〕

 

 

353:名無しの転生者 ID:8Z4aGkPC

は? 死刑

 

 

354:名無しの転生者 ID:S1UFas6nr

百合の間に挟まるな。ギルティ

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

びちゃびちゃという音が鳴る。

時刻は既に17時30分。との学校も授業が終わり、下校時間を過ぎていて夕陽が出ている時間。

そこに三人の少女が川に入っていた。遊んでるのではなく、何かを探している。

その理由は彼女たちは部活の活動で探し物をすることになったからこそ、探しているのである。

代わりがない落としたキーホルダーを探して欲しいという依頼。小さな、とても些細な依頼であったが、彼女たちには断るという選択はなかった。

本来は一人や二人で依頼を達成するのだが、川に落としたとなると一人で探すには不可能に近いため、今回は全員で出動することになったのである。

そんな時、ふと赤髪の少女---結城(ゆうき)友奈(ゆうな)は顔を上げて汗を拭うと、気がついた。

 

「あれ?」

 

「友奈? どうしたの?」

 

背が高い方の金髪の少女---犬吠埼(いぬぼうざき)(ふう)が友奈に何かあったのかと聞く。

 

「今気づいたんだけど……紡絆(つむぎ)くんが居ないなぁって」

 

「あ…さっき私に奥に行って探してくるって言ってましたよ」

 

そう言ったのは、風より小さく、似た一人の金髪の少女---犬吠埼(いぬぼうざき)(いつき)

名前から分かる通り、姉妹で風が姉、樹が妹である。

 

「ちょ、勝手に行ったの!? もう、暗くなると危ないから今日は行かないようにって言ったのに!」

 

「ゆ、友奈ちゃん! 風先輩! 樹ちゃん! みんな大変よ! 紡絆くんが倒れてるわ!」

 

そう慌てるように言ったのは、友奈の声を聞いて何故か持っていた望遠鏡で紡絆を探していた車椅子に乗った黒髪の少女---東郷(とうごう)美森(みもり)である。

彼女が車椅子に乗っている理由は交通事故に遭った後遺症で半身不随になったからであり、川に入ると危ないかもしれないから、という理由で外から探していたのだ。

 

「えぇ!?」

 

「倒れてる!? とりあえず行くわよ!」

 

「う、うん!」

 

仲間の危機とあらば優先事項は変わる。

とりあえず探し物はやめて三人が川から出てくると、友奈は東郷の後ろに移動して車椅子を押しつつ、東郷が示す場所まで移動する。

そして倒れていると言われた場所に三分くらいでたどり着くと---

 

 

 

 

 

 

顔面から川の水に伏せた状態で倒れている黒髪の少年の姿があった。

 

「東郷さん、風先輩、樹ちゃん! 私、行ってくるね!」

 

「友奈ちゃんも気をつけて!」

 

「樹、私たちはとにかく荷物を持ってくるわよ!」

 

「救急車にも一応電話出来るように準備しておくね」

 

それぞれが迅速な行動に移り、友奈は自身の制服が濡れることも構わず川の流れに逆らうように足を動かしていく。

出来る限り、一歩でも一秒でも早く足を動かして。

 

「紡絆くんー! 大丈夫ー!?」

 

「…………」

 

分かってはいたことだが、やはり返事はない。

体が冷えてしまえば、風邪を引いたりしてしまう。なによりも、今の彼は息が出来てないと友奈でも分かったので、友奈は必死に少年の元に辿り着いて体を抱く。

するとびしょびしょな髪と体に服、なによりも少年の頭からほんの僅かに血が流れ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()を見て、友奈は急いで支えながら一緒に戻ろうとする。

その間にも、友奈は少しでも少年を暖めようと手を握るが、長時間冷えたからかプールにでも入った後のように冷たい。

人を一人抱えているのもあって、向かうよりも時間を要したが何とか戻ることが出来た友奈は、自身の体よりも先に少年を心配する。

 

「紡絆くん! 紡絆くん! ダメ……意識がないみたい!」

 

左胸に耳を当て、心臓が動いていることは確認したが、目覚める様子がない少年の姿に友奈はみんなに聞こえるように叫ぶ。

 

「樹! 救急車!」

 

「も、もう東郷先輩がしてるよ!」

 

友奈の声に風が指示を出すと、樹がするよりも早く---というより友奈が少年の体を起こした瞬間には東郷は電話をしていたのである。

 

「あと数十分も掛からずにくるわ!」

 

「とりあえず今出来ることはするわよ!」

 

「お姉ちゃん、まずはこれ以上冷えないようにしないと…!」

 

とにかく救急車が来るまで最低限のことをしようと、持ってきた荷物から体を暖かく出来るものを探す風と樹。

友奈も動こうとすると、ふと自身が握っていた手と反対の少年の右手を見る。

そこには、今も絶対に落とさないと言わんばかりに強く握られた小さな一つのモノがあった。

それは---依頼で探していた可愛らしくデフォルメされたアザラシのキーホルダーだった。

 

「もしかして、紡絆くんはこれが落ちそうになったから…?」

 

川の流れからして、人間は動かない。しかしキーホルダーともなれば軽すぎて少しの水流で動く。川の流れがそれほど強くなくとも、キーホルダーくらいなら流せるだろう。

川に入った友奈はそれを何よりも知っていたため、少年が流されないように取ったのだと理解した。

 

「友奈ちゃん?」

 

「う、ううんなんでもない!」

 

東郷に呼ばれ、ハッとした友奈は今は行動に移すべきだと自身も動き、最低限出来ることをした四人は少しして来た救急車と一緒に病院へと向かった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇一般転生オリ主
名前は紡絆くん。中学生!
前世でもウルトラマン(ネクサス)を知らない。知っててもウルトラ兄弟(昭和)くらい。
ゆゆゆ? 知らないので前世の記憶取り戻した瞬間だけは平和なきららみたいな世界だと信じてた。なお初っ端からガルベロス戦をさせられた模様。
今回のダメージは噛み付かれた腕。
紫になるくらいなので、右腕を使うと物を持てないくらいの激痛が走る程度(頭は川が原因)

〇友奈ちゃん
原作主人公。
かわいい
マジ天使

〇東郷さん
声優もキャラもやべーやつ
でもかわいい
料理作って

〇犬吠埼姉妹
女子力と占いの子
SANチェック入らなければ頼りになって助かる。

〇ガルベロス
アンファンスに倒された。()()()()()()()()()()()


◆余談
小説読み直しても遺跡のシーンでネクサス -Encounter-が脳内再生されたのは俺だけじゃないはず


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「>>2」/「部活動」


大満開(二話まで)見たんですけど、くめゆやってくれてたんですねぇ。だいぶカットされているがなぁ!! さてはのわゆもやってるな?(未来予知)
それに銀とかどうしようかなぁとか、これどうやってのわゆとかわすゆに連れていきゃいいんだ?とか思ってますが、感想とかアンケート見て続けました。
多分このまま続くなら次回から原作に入るかと。今回は主人公の立場紹介的な回です。
後は皆さんに主人公の性格をよく知ってもらうため、ですかね。




365:名無しの転生者 ID: nX2S4UypW

とりあえず纏めるわ

人物紹介

 

なんか知らんけどウルトラマンネクサスの力を受け継いだ。

遺跡の中では大した会話はしてないけど、遺跡から出てきたら何故かガルベロスとやらが追ってきた。

変身のやり方は分からずに無意識に変身したけど、腕が痛い。泣きそう。

でも変身の仕方は分かった。

 

結城友奈

明るく前向きな性格で常に元気いっぱいな子。

真っ先に川で死にかけそうになってた俺を助けてくれた子。

家は隣同士。

かわいいし胸も大きい方。

趣味は押し花で特技は武道と父親直伝のマッサージ。

 

東郷美森

車椅子に乗っている上品で優しく穏やかな子。

博識でパソコンなど各方面に精通してる。俺はあんまわかんない。

中学入学前に交通事故に遭ったらしく、その後遺症で半身不随で記憶も曖昧な部分があるらしい。

かわいい。

デカァァァァァいッ説明不要ッ!

家は隣同士。

 

犬吠埼風

我らの部長。

明朗快活でサバサバした姉御肌。シスコン。

中二病的な台詞を言ったりオヤジ臭い悪ノリをするけど、ムードメーカーのような存在。

俺が川で怪我したせいで監督不届きだったとか謝ってきたり怒られたけど、リーダーとしての責任感は強いんだよね。

女子力は高いらしい。女子力とかよく言ってるし。でも大食い。

 

犬吠埼樹

風先輩の妹で後輩。

ロリ貧乳気弱で引っ込み思案な子。

かわいい。

占いに精通していて、よく当たるともっぱらの評判。タロットカード占いが得意で携帯しているらしい。

実際に大アルカナのワンオラルクで占って貰ったら正位置の悪魔出て40度くらいの熱出た。

 

 

 

 

 

最後に百合の間に挟まってごめんなさい

 

 

 

368:名無しの転生者 ID:cPNmJ+ke+

そのまま40度超えて死滅しろ

 

 

369:名無しの転生者 ID:h609t8bEN

乙^ゥ~

 

 

371:名無しの転生者 ID:kTGd5xMZ1

ゆ゛る゛さ゛ん゛!゛

 

 

374:名無しの転生者 ID:peY5v/fHW

とりまコテハンつけろ。

 

 

376:名無しの転生者 ID:SqHW0qP54

東郷さんは見た目的に簡単に分かるけど、友奈ちゃんの胸についてはなんでイッチが知ってるんですかねぇ…?

 

 

379:光を継いだ転生者 ID: nX2S4UypW

これでええんか?

 

な、なんででしょうねぇ…(目逸らし)

 

 

381:名無しの転生者 ID:E9IYYyLvA

てめぇ! 家が隣同士だけでも罪深いのにッ! 腕折らせろ!

 

 

383:名無しの転生者 ID:zZXG4YNp/

イッチお前! なんてことを!? まさか触ったのか! 触れたことがあるのか!? なんてクソ野郎だッ! 羨ましい!

 

 

385:名無しの転生者 ID: wJcUojCq5/

だからイッチはネクサスに選ばれた説?

というか本音出てるんだよなぁ

 

 

387:光を継いだ転生者 ID: nX2S4UypW

んまい

 

 

〔添付:友奈ちゃんにご飯を食べさせて貰う少年の写真〕

 

388:名無しの転生者 ID:y+5f3P5wX

貴様ああああああああああああぁぁぁ!!!

 

 

390:名無しの転生者 ID:kDjC2pWU4

イッチも煽ってて草 ノリ分かってるタイプだったか。明らか必要ない情報開示してるし。

つーかラッキースケベしたことあるとか、世界観間違ってない? ネクサスの世界に行くような人間じゃねーよ

 

 

393:アークルを宿し超戦士 ID:KtUw0G1uA

そもそもよくジュネッスにならずに倒せたよね、ガルベロス。イッチはこう、戦い方の記憶とか脳裏に浮かばなかった? 俺は高く跳びたいとか思ったら変化したが……。

 

 

396:名無しの転生者 ID:EvSaDyIp4

あー確かに。本編でも姫矢さんが初陣で戦ってたが、メタフィールド内なのにちょっと苦戦してたしな。

クウガニキはアマダムの力だろうけど、ネクサスでも記憶さえあれば行けるか。

 

 

397:名無しの転生者 ID:l0WzAQQ4u

昨日の戦い見る限りイッチはなさそうですね……。

そもそもネクサスすら知らなさそう。変身のやり方すら分かってなかったみたいやし

 

 

400:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>393

クウガニキ……俺にはそんなものなかったんですけどぉ! ウルトラマンといえば光線だよな? というか光線打って倒さないとカラータイマー鳴りそう!とか思ってやったら打てたし。

 

>>397

平成入る前のウルトラシリーズとウルトラ兄弟は知ってるけど、ジュネッスってなに? メタフィールド? 状態だよ今…。そもそもガルベロスなんて怪獣俺知らないんだが……。漫画にでも出てきた?

 

 

402:名無しの転生者 ID:DU+Jxkyk3

まあ、怪獣というかネクサスの世界は昭和ウルトラマンとは違ってスペースビーストだしなぁ

 

 

405:名無しの転生者 ID:OX82Ln2AK

イッチに分かりやすく言うと、スペースビーストはネクサス世界にM80さそり座球状星団からやってきた“来訪者”の星を滅ぼす要因となった宇宙生物。

高度な知性を持った生命体に生じる恐怖がビースト振動波 = χ(カイ)ニュートリノと結合することによって発生するΧ獣(かいじゅう)

情報を得ることで急激に成長する、知的生命体の恐怖を餌に成長するという特徴を持っていて、他の生物を取り込むことによって成長・増殖するやつだな。

その特徴のお陰で本編は苦戦することも多かったし、難易度が高い由縁でもある。でもスペースビーストについての詳しい情報は不明。

そしてジュネッスは強化形態みたいなやつで、メタフィールドは戦闘用不連続時空間と言われていて、簡単に言うと閉じ込める密閉空間。

本来の能力を発揮出来たり異空間だから前みたいに遺跡が危うくなったりしない。でも消耗が激しい諸刃の剣だな。

 

あ、それとネクサスの場合はアンファンスだとカラータイマーじゃなくてエナジーコアだよ! 間違えたらファンがうるさいから気をつけよう! ね!

 

 

406:名無しの転生者 ID:t9C+t9m6b

つーか本来ならネクサスじゃなくて弱体化してるネクストだし、ザ・ワンが居るはずなんだが、イッチも知らないということはレーテが残ってんのか?

そして既にULTRAMANの内容は終わったあと?

 

 

407:名無しの転生者 ID:K4hNH5JNB

>>405

詳しく説明出来ててすげぇ

 

 

410:名無しの転生者 ID:nJULeQeTr

博識ニキがここにも居たのか…

 

 

413:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

はへーネクストとか出てきてよく分からんけど、だいたい分かったよ。

というかスペースビーストってことは…もしかしてガルベロスの他にもっといる?

 

>>405

ごめんなさいッ! 気をつけます!!

 

 

414:名無しの転生者 ID:+AKpW0zPi

まだまだいるよ、やったねイッチ! 怪我が増えるよ!

 

 

417:名無しの転生者 ID:ucR6Ooa8k

>>413

おいバカやめろ

 

 

418:名無しの転生者 ID:BVhfs1klu

ちなみにスペースビーストは学習速度が早いから強くなっていくゾ。

後は……他のウルトラマン、イッチが知ってるM78星雲、ウルトラの星にいるウルトラ兄弟とかが居ないからサブトラマンもなしのイッチだけってことですかね

 

 

420:名無しの転生者 ID:7VGv2Kwwt

そもそもイッチは何処住みよ?

 

 

422:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>418

難易度高いってそういうことかよぉぉぉぉ!!

 

あ、ちなみに香川です。うどんが美味いわ

 

 

424:名無しの転生者 ID:Sh4abFLZl

は? ラーメンだろ

 

 

427:名無しの転生者 ID:d1Uv//99I

香川かー行ってみたいなぁ(コロニー在住)

 

 

429:名無しの転生者 ID:/QiWNPglk

宇宙世紀の世界に転生したやついて草

 

 

432:アークルを宿し超戦士 ID:KtUw0G1uA

>>365

そういえば今更だけど、中二なんだね

 

 

434:名無しの転生者 ID:04ppPnmdL

中学二年生に世界の運命を託す……エヴァンゲリオンかな?

 

 

437:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

そういや、腕はまだ治ってないのか

 

 

438:名無しの転生者 ID:y+ZbsNwnt

唯一の救いはきらら作品っぽい子たちが周りにいるってことですねぇ……

 

 

440:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

医者には自然回復に頼るしかないから全治二週間って言われたわ

 

 

443:名無しの転生者 ID:WLdMFeZWj

怪我はストールフリューゲル使ったらいいんじゃない? エボルトラスターとは別の銃みたいなやつで、グリップとバレルを折り曲げた状態のガンモードにして、上空にトリガーを引くと出てきたはずだよ。本編ではそうやって出てた。

まあ、根本的なダメージは治せないけど、マシにはなるはず。

 

とにかく、その世界の命運はイッチに掛かってるんだから頑張ってくれよ

 

 

445:名無しの転生者 ID:8Z4aGkPC

ウルトラマンの知識については俺らの誰かは絶対知ってるから情報提供だけは出来るしな。

ウルトラの転生者もいるだろうし

 

 

446:名無しの転生者 ID:W7/BdG8M3

とりあえず分からないことは多いが、ウルトラマンネクサスの世界ってことは分かったしね。問題はサブトラマンが居ないからナイトレイダーが居てくれるかどうか…

 

 

448:名無しの転生者 ID:uR+gIvzAB

ウルトラマンの中でも最強の組織候補だしな。手段は問わないからやべぇが。

でもその分、味方に付かせれたら他のウルトラマンが来たときと同じくらい頼りになる

 

 

450:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

さっきから分からない単語しか来ないんですけど!? でもストーンフリューゲルは分かったよ。エボルトラスターとか何処に行ったんだろ、と思ってたら普通に鞄の中にあったし

 

 

453:名無しの転生者 ID:/XnfjgD3j

まあ、そんときに言えばいいでしょ。香川となると居なさそうだしね

 

455:名無しの転生者 ID:HWjoWuW74

>>365

てか、今更だけど、イッチって何の部活してるんだろ

 

 

458:名無しの転生者 ID:9tcUnZq1g

あー、簡潔にまとめてた時もなんか川で探し物してたとか言ってたしな。

ということは地学系か運動系の部活か?

 

 

460:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

あー、いや、なんて言えばいいんだろ。

部活名は『勇者部』。

活動内容は『人のためになること』。もちろん報酬はない。

設立は我らが部長だけど、初の部員は俺と友奈ちゃんと東郷さんだったよ。その一年後くらいに樹ちゃんが入ってきた。

それで勇者部にはモットーがあってさ。

 

勇者部五箇条

一つ、挨拶はきちんと

一つ、なるべく諦めない

一つ、よく寝て、よく食べる

一つ、悩んだら相談!

一つ、なせば大抵なんとかなる

 

が勇者部五箇条なのよ

 

 

461:名無しの転生者 ID:0xAi8TEY8

つまりは勇者部ってボランティアとかそういう感じのを無償でやってるのか…

 

 

464:名無しの転生者 ID:bRllkm+yD

俺より立派じゃん…俺なんてニートなのに

 

 

465:名無しの転生者 ID:RhRxLRwfa

>>460

何処かで聞いた事のあるフレーズですね…

 

 

467:名無しの転生者 ID:KyO3Ggi/8

>>464

働け

 

 

470:名無しの転生者 ID:vIQSY3y2n

>>460 >>465

ウルトラ五つの誓いですねぇ!

 

 

471:名無しの転生者 ID:gjqHTfYEM

言っちゃったよ!

 

 

475:光を継いだ転生者 ID: nX2S4UypW

>>465 >>470

それ俺も記憶取り戻した時に思った。

帰ってきたウルトラマンの最終回に出てたやつに似てるなぁって

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

一週間後。みんなからの祝いを受け、()()()()()()()少年は包帯を外していきなり運動部の助っ人として参戦していた。

 

「紡絆! 頼んだ!」

 

紡絆と呼ばれた少年は即座に飛んできたボールを受け止め、瞬時に周囲を観察する。

パスコースはどこにも無く、二対一で不利。

残り時間は奪われてしまえばシュートはもう打てずに負ける瀬戸際。体育館に緊張が漂うなか、紡絆が動いた。

しっかりと手でボールをつきながら、右サイドに出る。当然相手も右に向かうが、紡絆は即座ドリブルしていたボールを持たずに手に引き付けて、360°回った後に進行方向に軸足と反対の足を大きく踏み出す---ロールターンだ。

ロールターンすることによって左に向かうが、もう一人が対応しようとする。

そこで紡絆はボールを斜め下に投げた。

すると、ボールが対応しようとしていた男子の股を抜き、紡絆は空いた真ん中を通って左手でボールをつきながらスリーポイントまで躍り出る。

しかしそこで走ってきた男子が妨害するように向かってくる。

相手はエースと呼ばれているほどの相手で、名前は波好蹴(ばすけ)好大(こうだい)。その波好蹴はギリギリの戦いだというのに、楽しそうな笑みを浮かべていた。

紡絆の方も不敵な笑みを浮かべており、紡絆がレッグスルーして右に向かってドリブルで抜こうとすると、波好蹴は予測してたように阻止する。紡絆は汗を流しながらフェイントで躱そうとするが、それすらも見極められ、驚いた。

そこで波好蹴が手を勢いよくボールに伸ばし、誰もが奪われる---と思った瞬間、ニヤリと紡絆が口元を歪ませると、まるでボール自身が動いたかのように横へ飛んでいく。

簡単に言えば、ただぶん殴ったのである。

何処にやってるんだ、と波好蹴が思った瞬間にはいつの間にか走ってきていた紡絆のチームメイトである一人が受け取り、それに驚いている間に紡絆は前に出て抜かした。

そして再びボールを受け取ると、そのままジャンプシュート。

ボールは綺麗な曲線を描き---吸い込まれるようにゴールに入った。

それと同時に、試合終了の合図がなる。

シーンと息遣いだけが聞こえるなか---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うぉおおおおおおおお!』

 

突如として体育館に響き渡るほどの歓声が響いた。

汗を拭う紡絆はふう、と一息付くが、彼の周りには人が集まってきた。

 

「え、ちょっ---!?」

 

何かを言う前に紡絆が囲まれて上空に投げられる。それを受け止め、さらに投げては受け止めては投げては---つまりは担ぎ上げられていた。

 

「すげぇ! まさか逆転するなんて!」

 

「お前が居てくれて本当に良かった!」

 

「かっこよかったぞ、コノヤロー!」

 

色々な声が聞こえ、紡絆を褒める言葉が飛んでくるが、彼は落とされないかと恐怖していた。

だがチームメイトは嬉しそうな笑顔を浮かべていて、相手は悔しそうにしていたが、それでも楽しかったと言わんばかりに笑みを浮かべてるのを上空に上げられてたお陰で見えると紡絆が笑みを浮かべ---

 

 

 

 

 

 

「あ、やば」

 

「ああぁぁぁああああああ!?」

 

誰かがふと漏らした呟きと同時に、地面に落ちた。

喜報! 奇跡の大逆転! 39対37で逆転勝利! 助っ人である紡絆くんの活躍により勝利!

 

悲報 助っ人として活躍したはずの紡絆くんが落ちて地面に背中を強打する。

 

そんな感じの新聞が学校内に配られるとは、この時の彼には知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー! 疲れたーッ!」

 

「お疲れ様、紡絆くん」

 

強打した背中を抑えながら、依頼を達成した紡絆は車椅子に座りながら試合を見ていた東郷の元へ戻る。

労いと共に渡されたタオルとスポーツドリンクを受け取ってお礼を言う紡絆。

彼は疲労で喉が乾いていたので、喉を潤わせてから汗を拭いた。

 

「今日も大活躍ね。でも腕の調子はどう? 無理してない?」

 

「大丈夫大丈夫。東郷は心配症だなぁ。ほら、こーんな動くし!」

 

紡絆が右腕をぐるぐると平気そうに回すと、東郷はくすり、と笑って安心したように息を吐いた。

 

「あの時は本当にびっくりしたのよ?」

 

「うっ、その説は本当にご迷惑を…」

 

「まあ…無事で何よりだったわ。けれど、あんな無茶はしないこと。いい?」

 

「い、イエス、マム!」

 

思い出すように言われた言葉に、軍隊に所属する兵隊ばりの機敏さで紡絆は敬礼する。

本当は川で怪我したのは軽い怪我で、スペースビーストと呼ばれる怪物と戦ったのが原因だったのだが、紡絆はそれについて誰にも一言も零すことは無かった。

---みんなは巻き込まない。

そんな想いを密かに胸に抱きながら。

 

「そ、そういえば友奈はどんな感じだ?」

 

「もうそろそろ終わりみたい」

 

話を逸らすように言う紡絆に東郷は気にした様子もなく指差す。

そこには汗を流しながらもシュートを放ち、ゴールに入れてる友奈の姿があった。

そう、今回の依頼は男女ともにバスケットボール部の助っ人である。本来出るはずだった選手が怪我をしてしまったせいで出れなくなってしまったのだ。

だからこそ、部活のメンバーで運動神経が良い友奈と紡絆が参戦したわけである。

そして最後の友奈のシュートで試合終了の合図が鳴り、無事に友奈が助っ人として入ったチームの勝利となった。

 

「よし!」

 

「ふふ、友奈ちゃんも流石ね」

 

まるで自分ごとのように喜ぶ紡絆と東郷。

そんな二人に気づいたのか、友奈が笑顔を浮かべながら手を振って向かってくる。

 

「紡絆くん! 東郷さーん!」

 

試合が終わったばかりだと言うように元気いっぱいな友奈に紡絆と東郷は顔を合わせ、笑った後に紡絆が東郷の車椅子を押して友奈に近づく。

 

「無事に勝ったよ! 紡絆くんは?」

 

「俺はなんとか勝ち。最後の逆転勝ちだったけどね」

 

「そっかぁ…じゃあ---」

 

東郷がタオルとスポーツドリンクを用意してる中で紡絆と友奈は互いの勝負結果を話し合い、お互いに勝ったと分かったからか友奈は嬉しそうな表情を浮かべながら手を挙げる。

それを何を意味するか理解した紡絆も手を挙げ---

 

「「イエーイ!」」

 

パンッと気持ちのいい音が鳴るハイタッチを交わした。

 

「いったぁーい!」

 

「いってぇ!?」

 

---思いっ切り。

 

「もう、二人とも何してるのよ……。はい、友奈ちゃん」

 

「あ、あはは。ありがとう、東郷さん」

 

誰でも分かることをした友奈と紡絆に東郷が呆れながら、試合を終わったばかりの友奈にタオルとスポーツドリンクを差し出す。

友奈はそれを受け取ると、スポーツドリンクを飲み、タオルで汗を拭った。

 

「ま、まあ……これで後は風先輩に言うだけだな」

 

「そうね、少し休んだら報告しましょう」

 

「そうしよっか!」

 

「じゃ、ここだと邪魔だし外に出るか……というか(かぜ)を感じたい」

 

今は試合していないが、仮にボールで遊ぶ人が居たら邪魔にもなるし危ない。

そのため、友奈が東郷を押しながら紡絆と共に外に出ることにした。

外に出ると、春風らしい暖かく穏やかな優しい(かぜ)が頬を撫でる。

 

「んーっ!」

 

すると、友奈が心地よさそうに体を伸ばしていた。

紡絆は息を吸い込み、吸い込んだ息を吐く。

暑くもなく、寒くもない。まさしく、ちょうど良い季節だろう。ただ、残念ながら桜は既に散ったあとで、桜が残っていたならもっと良かったかもしれない。

少し会話もなく居心地が悪いような雰囲気もなく、ただ(かぜ)を感じていると紡絆が声を発する。

 

「じゃ、そろそろ戻りますか」

 

「そうだね〜」

 

「早く風先輩にも報告しなきゃね」

 

紡絆の言葉で報告に向かうことになった一行は、校舎内に戻って廊下を歩く。

時々三人に対して依頼を行ったことがあるからか感謝するような声が聞こえるが、三人とも感謝だけ受け取ると、ある一つの教室に辿り着く。

その教室のプレートには、家庭科準備室と書かれていた。

紡絆がノックすると、返事するような声が聞こえて扉を開けて入る。全員が入ったのを見ると、紡絆がドアを閉めた。

 

「結城友奈と!」

 

継受(けいじゅ)紡絆(つむぎ)とー」

 

「東郷美森、只今帰還致しました」

 

打ち合わせでもしたように三者三様に名乗ると、部室に居た二人が反応する。

 

「あ、おかえりなさい。みんな帰ってきたよ、お姉ちゃん」

 

「え? あぁ、お疲れ様〜。どうだった---と聞くまでもなさそうね」

 

「それはもちろん!」

 

「勝ちましたッ!」

 

紡絆と友奈の様子---というか笑顔を浮かべている様子を見て試合を見ていない風と樹も察してたようで、元気よく言う二人に微笑む。

 

「流石勇者部で運動能力に長けた二人ね」

 

「流石です」

 

「まあ、俺はギリギリだったんですけどねッ!」

 

風と樹が紡絆と友奈を褒めるような言葉を漏らすが、紡絆はふん、と胸を張りながらドヤ顔で言った。

 

「いやそこ、胸張るところじゃないでしょ!?」

 

「勢いとかでこう、誤魔化せるかなと思って…」

 

「紡絆くん、全然誤魔化せてないわよ?」

 

「バカな……ッ!」

 

東郷の突っ込みに崩れ落ちる紡絆。

残念ながらそれで誤魔化せる相手はいない。

 

「で、でも! 逆転勝利ってかっこいいよ! 最後の最後で紡絆くんのお陰で勝てたってことなんだから!」

 

「そ、そうですよ! 私だと間違いなく無理でしょうし…」

 

「二人の優しさが逆に染みる……」

 

フォローするような友奈と樹の言葉だが、むしろ逆効果だった。

 

「えぇ〜!?」

 

「まあ、勝てたならいいじゃない! それじゃあ、今日もいつもの所に行きましょうか。次は劇の打ち合わせよ!」

 

「よし! 皆さん行きましょう! さあ、うどんが待ってるぜ…!! 俺は既に空腹だ!」

 

風の言葉に一瞬で復活した紡絆はドアを開けると、真っ先に走り去る。

そんな現金な姿に勇者部一同は苦笑いを浮かべるしかない。

どうやら空腹には勝てないらしい、と。

しかしすぐさま足音が聞こえると、紡絆が戻ってきた。

 

「ほら、早くしないと劇の練習出来なくなりますよ?」

 

「アンタが勝手に行ったんでしょうが!」

 

風の突っ込みが炸裂し、今日も今日とて勇者部は騒がしく、それでいて明るい笑い声が響き渡った--。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市内の老舗うどん屋『かめや』でご飯を食べ、一緒に魚釣りをして欲しいという依頼をされた紡絆は一匹も釣ることは出来なかったが本日の依頼を終え、友奈と東郷とともに帰っていた。

ちなみにうどん屋に行く時は紡絆だったが、今は友奈が東郷の車椅子を押している。

 

「もうそろそろ本番だけど、友奈ちゃん大丈夫?」

 

「もちろん! 台本はちゃんと覚えたよ!」

 

「今回は幼稚園だからな。人形劇だが……ちゃんと楽しんでくれると良いんだけどな…」

 

今度やるのは人形劇。

勇者と魔王を題材とした作品である。人によってはどんな反応されるか分からないからか、紡絆は少し不安そうな表情を浮かべていた。

 

「きっと大丈夫だよ! みんな楽しんでくれると思うし!」

 

「そうね。それに、子供たちを笑顔にさせるのは私たちでしょ?」

 

「…そうだな。友奈頑張れ! トラブル起こしてもフォローするから!」

 

友奈と東郷の言葉にそれもそうだ、と頷いた紡絆は不安そうな表情を消して言う。

 

「もう! 流石に起こさないからね!?」

 

「いやぁ、どうだろうなぁ……」

 

「……フラグというやつ?」

 

「東郷さんまで!? うう、酷いよぉ〜…」

 

まさかの味方だと信じていた東郷にまで言われ、がくりと項垂れる友奈。

しかしながらこの場の誰もが何処か楽しそうな雰囲気を纏っているのは、錯覚ではないだろう。

 

「まぁ、その時はその時だし---っと、もう着いたか」

 

気がつくと、三人は自身の家がある場所まで着き、東郷の家に向かう。

しっかりと家まで安全に送るためだ。

 

「東郷、また明日な」

 

「また来るからね!」

 

「えぇ、またね。二人とも」

 

いつもの変わらぬ光景。

手を振るう紡絆と友奈は手を振り、ある程度振ると踵を返す。東郷はそんな二人を最後まで手を振って見送っていた。

 

「というか、友奈の家には行った方がいいか? 寝坊しないように」

 

「さ、流石に大事な時には寝坊しないから!

……多分」

 

「………一応目覚ましはかけるようにな」

 

自分たちの家に向かう途中、分かれる前に言った紡絆だったが、小さく呟いた最後の言葉を聞き取ったようでジト目で見つめる。

友奈はその視線から逃れるように目を逸らしていた。

 

「うう、はーい……」

 

「よろしい。じゃ、また明日」

 

「うん、また明日!」

 

いつまでも会話をする訳には行かないため、紡絆が会話を切ると軽く手を振って友奈と分かれる。

そして表札に『継受』と書かれた家に向かうと、そのまま鍵を取り出して家の扉を開錠する。

ドアを開けた紡絆は入ってしっかりと戸締りをすると、靴を脱ぐ。

脱いだ靴は脱ぎ捨てるのではなく、しっかりと履きやすいように位置を調整した紡絆は家の廊下を歩こうとして---ふと足を止めた。

鞄から取り出したのは、一週間前に手にした力である()()()()()()に変身するアイテム、『エボルトラスター』だ。

凄まじい力を発揮し、怪獣---スペースビーストと呼ばれる敵を打ち倒すことが出来た力。

知識を持つ頼れる人(別世界にいる転生者)たちがいる分、まだ精神的に余裕があるが、地球に危機が訪れるということだろうか、などと考えてしまう。

前世にウルトラマンの存在をテレビという空想の産物として見ていたからこそ、分かるのである。現世では既に平成ではなく、神世紀300年という時代に切り替わっているが、前世では平成という新時代の幕を開けてからは特撮から離れた。

それでも子供の頃に憧れたヒーローというものは覚えているらしい、と苦笑いする。

 

「ん?」

 

そんな時、ふと手にしていたエボルトラスターが脈打つような鼓動音を鳴らし始めた。

一体何故今鳴ったのか分からずにキョトンとするが、スレの人たちは何も言ってなかったし大丈夫だろうと飯の準備をするためにダイニングキッチンに向かおうとし---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()

 

「ふぁっ?」

 

以前居た遺跡とは別で、離れた箇所にある丘の上。

ちょうどよく遺跡を見ることの出来る位置に家に居たはずなのに転移させられた紡絆は困惑する。

そして---

 

 

 

 

 

 

 

「うそぉん…」

 

新たに現れた無数と呼べるスペースビースト---しかも触手を持つナメクジのようなものがモチーフとされているのか、見たものに嫌悪感を浮かばせる姿に囲まれていた紡絆はただただ頬を引き攣らせた。

 

 

 

 

 





継受(けいじゅ)紡絆(つむぎ)
百合の間に挟まるクソ野郎。家も近所。
前世モードとは違って、友奈ちゃんみたいに基本的に明るいし運動神経が高い。

〇結城友奈
友奈ちゃんは一期の制作陣と紡絆くんに怒っていいよ(胸)

〇東郷美森
車椅子押させるくらいには紡絆の好感度が高い。
だいたい友奈=紡絆>>勇者部。
なんでそんな高いんですか?

〇スペースビースト、つーかペドレオンクライン(ネタバレ)
え? 紡絆くん傷治ったってマジ?
じゃけん、チュートリアルも終わったし戦いましょうね^〜(上空地上合わせて50体ほどに囲まれた状態)

▼来てないけど質問みたいなやつ

Q.なんで紡絆くんジュネッスにならないの?

A.記憶が流れてきてないせいで変身の仕方も知らなかったし、技や戦い方、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から。


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「>>3」/「-樹海-ラージフォレスト」


(イッチに対する)難易度ルナティックです。過労死せずに行けるかなこれ……。
あ、大満開見ました。のわゆ見たら改めて絶望しかないなって…完結したらのわゆも救いましょうか。イッチ、お前がやらなければ誰がやると思う? ---万丈だ(なお、このネタは結局万丈は関係なく、イッチが引き受ける羽目になる)




 

 

 

620:光を継いだ転生者 ID: nX2S4UypW

いやあああああああぁぁぁあ!! 無理無理! まーじでえええええ無理ぃいいいいいいいい!!

 

 

622:名無しの転生者 ID:myS1+btRK

>>620

ちょ、いきなりどうした!?

 

 

624:名無しの転生者 ID:IcpI511ya

>>620

Gでも出たのか?

 

 

627:名無しの転生者 ID:N4oOf5nfU

ワンチャンイッチがスペースビーストに襲われてる説

 

 

629:光を継いだ転生者 ID: nX2S4UypW

だってこれええええ! キモイキモイ! 流石に絵面が気持ち悪いぃぃぃぃ!!

 

〔添付:大量の紫色のナメクジみたいな気持ち悪い触手を持つ生物から逃げる少年の動画〕

 

 

631:名無しの転生者 ID:xgnYaklNO

うわ、キモい

 

 

633:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

ガルベロスに続いてペドレオン!? しかも数えっぐ!? 本編でもこんな大量に出てきた回なんてあったか!?

 

 

636:名無しの転生者 ID:oDLJoN59m

47…48…49…うっわ。50体居るくない? つーかイッチどうやって逃げてんのw

 

 

638:名無しの転生者 ID:pJaEVh3nq

そもそもなんでイッチはまた遺跡に居るんですかねぇ……。ガルベロスは精神世界として納得出来るんだが、遺跡って夢で見るやつだろ?

 

 

639:名無しの転生者 ID:WLdMFeZWj

とりあえず前言ったやつ、ブラストショットでペドレオンを倒せ!

グリップを伸ばしたエア・バーストモードでトリガーを引けば真空波動弾を撃てる!

あとはバレルのポンプアクションで弾を装填出来るけど、二発撃ったら装填しなきゃダメだと思う。

玩具版ではガンモードでの通常銃撃も出来たはずだからそれも利用したりバリアも貼れるから何とかしろ!

 

 

642:名無しの転生者 ID:IY3RBEwnA

流石にこの量を変身して戦ったら先に体力なくなりそうだもんなぁ

 

 

644:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

ウェァ!? 本当だ! 助かる! んだけど! ちょっと! ごめん! 余裕ない!! この状況! 詳しくは後で! 説明するうううぅぅ!?

 

 

647:アークルを宿し超戦士 ID:KtUw0G1uA

とりあえずは俺たちで支援しようか。そっちの世界に行けたら小型くらいなら手伝えるんだけど…。でも今変身できないしアークルの損傷がなければなぁ

 

 

650:名無しの転生者 ID:9e77L3Jqf

どの世界でも思うよねぇ。それこそ次元を渡れる存在じゃあなきゃ手伝いに行くことは出来ないし。

あの通りすがりの転生者はここに来てないっぽいもんな

 

 

652:名無しの転生者 ID:mCX10QzND

あの人はなんかいまジオウ編やってるらしいからな。忙しいんだよ

 

 

655:名無しの転生者 ID:3u5iDBsMe

それにしてもイッチってスペースビーストに好かれてるんですかね

 

 

657:名無しの転生者 ID:fDXinLTai

そもそもイッチって武道でもやってるのか? 動きが一般人じゃないよ。アンファンスでガルベロス倒した時点で思ってたけど

 

 

659:名無しの転生者 ID:XwsHURKrM

動きからして仮にしてたとしても齧ってる程度だな。やってる人ならもっと隙なく動ける。

 

 

660:遊び心を知った転生者 ID:FSoovUe753

横に撃ちなさい! 木に移りなさい! 触手を避けなさい! そのままターンして回り込みなさい! さらに跳躍して後方に連射しなさい!

 

 

662:名無しの転生者 ID:FLZ9kAgQM

ある程度数減らしたら変身しちまえ! ジュネッスになったら余裕のはずだ!

 

 

665:名無しの転生者 ID:ozYEz5TxZ

名護さんの指示が上手くて草

 

 

667:蟹に食われたくない転生者 ID:ClBrwDB15

志村ー! 上ー!

 

 

668:永遠の切り札な転生者 ID:OnDy5bwuR

ウェッ!? ア゙ムナイ! ショクシュガキテルゾ!

 

 

670:名無しの転生者 ID:92q+mU8Lz

うわぁ、ある程度減ってるとはいえペドレオンってこうやって見るとまじでやばいな…。夢に出てきそう

 

 

673:名無しの転生者 ID:wmOnS3/4b

テレビで見るより気持ち悪い。SANチェック入りそうなくらいだよなぁ。これは確かにトラウマになりますよ

 

 

675 :ムッコロの転生者 ID:JHMZI1M7e

>>668

ケンジャッキ…

 

 

676:名無しの転生者 ID:bb/krjwEw

>>668

ブレイドの世界に転生した人はオンドゥル語になる呪いでもかかってるのか?

 

 

678:名無しの転生者 ID:1th+XcF0J

同じ特撮とはいえ仮面ライダー多すぎぃ! 何人かアニメの世界の住人はいるっぽいけどさぁ

 

 

680:名無しの転生者 ID:CJoxX1Hfo

お前らがそんなこと話してたらイッチが捕まったぞおい!

 

 

682:名無しの転生者 ID:Iko7NcNou

口の中も気持ち悪いですね……

 

 

684:名無しの転生者 ID:4gMjNK6BP

(アカン)

 

 

686:名無しの転生者 ID:NBpcUD1dV

イッチ変身しろ! 間に合わなくなっても知らんぞォー!

 

 

687:名無しの転生者 ID:bF/bXdijJ

うっわ口の中グロいっすね…。

 

 

689:名無しの転生者 ID:gQ1We+cbQ

イッチ食われそうになってるじゃねぇか

 

 

691:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

コンチキショー! ショタの触手プレイとか誰得だよ!! ごめんだけど変身するから無理! 生放送モードには切り替える! 

( ノシ ・ω・)ノシ

 

 

692:名無しの転生者 ID:0EZUViDAS

流石に囲まれちゃうとね……

 

 

693:名無しの転生者 ID:4t8qIiacA

一つ思ったんだけど、ちょっといいかな?

 

 

696:名無しの転生者 ID:t8B4G+Ax7

>>675

ここで仮面ライダー剣を始めるな。

 

 

698:名無しの転生者 ID:Xjpsxaj0/

>>691

意外と余裕そうで草

 

 

701:名無しの転生者 ID: DU+Jxkyk3

>>693

どうした?

 

 

703:名無しの転生者 ID: 4t8qIiacA

いやさ、イッチってウルトラマンネクサス知らないし戦い方とかも分からないんだよな?

 

 

705:名無しの転生者 ID:Tatr5/N4X

まあ、クウガニキとは違って記憶流れてきてなかったとは言ってたな。

 

 

708:名無しの転生者 ID: OX82Ln2AK

それがどうした?

 

 

711:名無しの転生者 ID:op8WTBCZW

特になにかある訳でもなくね? 戦い方分からなくてもジュネッスになったら余裕でしょ

 

 

716:名無しの転生者 ID: 4t8qIiacA

それなんだけど…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッチってジュネッスのなり方分かんの?

 

 

718:名無しの転生者 ID:TZuo9XZdl

あっ……

 

 

719:名無しの転生者 ID: wJcUojCq5

イッチィィィィ!! そういや、技も分からないならなり方分からないし俺らもジュネッスのなり方については実際の原理は知らないから分からないじゃねぇかあああああぁぁぁ!!

 

 

721:名無しの転生者 ID:cRrjM+Gnv

ここのイッチいっつも肝心なこと忘れてるぞ!!? さてはコミュ障だな!

 

 

723:名無しの転生者 ID:705CIduOI

ま、まあガルベロス倒せたし闇の巨人でも出ない限り一対一ならアンファンスでいけるだろ

 

 

726:名無しの転生者 ID:ue3ehZvuT

つーかこれもう既に聞こえてねぇなあ!?

ちょうどウルトラマン出たじゃん…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

『キイイィィィィ!』

 

「うわあああぁぁぁぁ!!」

 

少年は地を駆ける。

またこんな展開かよ、と思いながらも走る。

 

突然景色が変わったかと思えば、ペドレオンというスペースビーストに囲まれていた。しかも50体居るらしい。

自分の背丈を優に超え、気持ち悪い触手とナメクジみたいな見た目をしているスペースビースト。

ペドレオンの触手攻撃を身を屈めることで避け、なんとか包囲を抜け出したのだ。

しかし後ろからは自分よりかは遅いが、追ってくるペドレオン。

数の多さからしてお化け屋敷やホラーゲームが笑えるくらいにホラーである。

 

「これか! これを---こう!」

 

強みである掲示板を頼り、白と赤の拳銃の形をしたモノ---ブラストショットを取り出してトリガーを引く。

すると、青い光の真空波動弾が放たれる。

波動弾は一体のペドレオンに突き刺さり、粒子となって消滅する。

 

「うわっ、すっごぉい……」

 

あまりにもの威力に腕で顔を守るが、紡絆は頬を軽く引き攣らせた。

しかしペドレオンは止まることなく、迫ってくる。

紡絆は慌てて空中から飛んできたペドレオンに放ち、消滅させるとすぐにバレルのポンプアクションを行って弾を装填すると次々と狙い撃っていく。

 

「よし……ってウェェ!?」

 

14体ほどやったか、と感覚で思っていると、いつの間にか回り込んできたぺドレオンの触手に捕まりかけ、何とか身を逸らしたが叩かれるように吹き飛ばされる。

 

「ぐへぇ…あっぶなぁ!?」

 

木に頭がぶつかりかける寸前で止まることが出来たが、ふと顔を上げた時に向かってきた触手に驚いてウサギもびっくりな跳躍力で木の上に登り、空中にいる二体に波動弾を当てる。

倒したか確認する暇がないため、消滅したと信じて飛んできた触手を避けるために木から降りると、掲示板から横に撃てという指示に反応してリロードからの発射。

横から接近していたぺドレオンを消滅させると、別の木に移る。

再び飛んでくる複数の触手を避けるために降りると、目の前にはやはりぺドレオン。

後方を見ればそこにも居て、再び囲まれるが---バックターンすると跳躍して乗り越えることで回り込み、再び跳躍しながら背後に二発放つ。

地面に着地すると、そのまま走ろうとして、上という言葉に見上げる。

そこには、空中から踏み潰そうと言わんばかりに高速落下してくるぺドレオン。

リロードが間に合わないと理解すると、慌ててグリップを曲げてトリガーモードに変え、銃弾を乱発する。

何発か外したが、連続ヒットによって消滅し、今度こそ---

 

 

 

 

 

 

 

「あぁああああああああ!? キモイぃぃぃぃイイ!?」

 

逃げようとしたが、両足に巻きついた触手によって持ち上げられる。

手こずらせやがって、と言わんばかりに口らしき箇所を開きながらジリジリと寄ってくるぺドレオンに紡絆は顔を思い切り引き攣らせた。

 

「こんなの誰得だよ!? 残り30体ほどなら良いだろ! こんにゃろー!!」

 

両脚が吊り下げられ、頭と足が逆さまのぶら下がり状態で生放送モードに切り替え、もう一つの白を基調として赤いラインがY字状に刻まれている短剣型のアイテム---エボルトラスターを左手に持ち、鞘から抜くと同時に本体を前方に掲げる。

すると刀身が赤色に光り、紡絆が光のエネルギーに包み込まれる---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シュアッ!』

 

握り拳を両腕で作った状態で右腕だけを前に突き上げなから徐々に大きくなり、少しの揺れと共に腕に鋭く尖ったカッター状の刃の装甲を持ち、胸の中心にYの字型のコア---エナジーコアを持つ銀色の光の巨人、ウルトラマンネクサスが片膝を着いた状態で姿を現す。

 

『ヘァッ!?』

 

ネクサスは立ち上がるとすぐにぺドレオンに攻撃しようとするが、突如として30体も居たはずのぺドレオンが姿を消していることに気づく。

何処かに消えたのかと見回すが、どこにも存在しない。

一体どういうことなのか、そんな疑問を抱くと---

 

 

 

 

 

 

 

『ウワッ!?』

 

突如として背中に凄まじい衝撃が走り、数歩前進しながら振り向いて左腕を前に、右腕を後ろに手刀打ちのような構えを取る。

そこには、先程とは別でぺドレオンが巨大化していた。

グロースと呼ばれる姿だ。

 

『フッ…ヘアッ---ァァァ!?』

 

敵ならば戦うしかない。

そのため、ネクサスは現れたぺドレオン相手に向かおうとするが、体が突然痺れたかのように動かない---否、()()()()()()()()()

 

『キィィィィ!』

 

虫のような鳴き声が背後から聞こえ、腹にナニカが巻き付く。

痺れる肉体で肘打ちを全力で放つと、拘束が解けて即座に横に転がるようにして距離を離す。

ネクサスが距離をあけて顔を上げた先には---

 

 

 

 

 

 

 

 

『キィィィィ!』

 

『グオォォォォ!』

 

二体の、ぺドレオンが居た。

 

『へエッ!?』

 

予想だにしなかった二体の出現。

最初の個体をぺドレオンAとするならBが増えていたのだ。

ぺドレオンAを相手にするだけならともかく、ぺドレオンBまで相手しなくてはならない。

それではキツいと理解したネクサス---紡絆はスレの住民がジュネッスというものがあるというのを言っていたのを思い出す。

 

『シュ…』

 

早速やるしかないと理解したネクサスは構える---

 

 

 

 

 

 

 

 

『シュアッ! シェアッ! フエェッ!?』

 

が、何をすればいいのか分からない。

まるで迷子のように、何をすればいいか分からない子供のように手をあちこちにバタバタと動かすだけで、何も変化が起きなかった。

 

『フー…デェヤァ?』

 

ネクサスは自身の両手を見ると、右腕を突き上げる。

が、やはり何も起きない。

ならば、と今度は頭に触れて何かを投げるような動作をしたり、腕輪に触れるような動きをしたり、手を握ってから胸の前でバツを作り、一気に腕を上下に開いたり、両手を頭上で合わせて両腕を引き絞って腕をTの字に組んだりしてみる。

然しながら何も起きず、何故か分からないネクサスはきょとんと首を傾げると---

 

 

 

 

 

 

 

『ウァァアア!?』

 

ぺドレオンAとBによる頭部の触角から放たれ、融合することによって超巨大となった火球によって吹き飛ばされた。

 

『ピイヤアアアア!』

 

『ウァ…デヤッ!』

 

ぺドレオンAが追撃するように倒れているネクサスに接近すると、起き上がったネクサスは構える。

すると相手が右腕の触手で叩きつけるように攻撃してくるが、それを半身逸らして避ける。

さらに相手の左腕から攻撃を受ける前に右腕を踏んで怯ませ、勢いを乗せた空中回し蹴りを叩き込んで地面に倒した。

倒れたぺドレオンAに手刀を一発入れ、ネクサスは空を飛ぶ。

火球がネクサスが先程までいた位置を通過し、ネクサスは上空から回転しながらドリルのようにぺドレオンBに向かって突っ込んだ。

ぺドレオンBは避けようとするが、落下する速度の方が速い。

ネクサスの足によるスクリュードライバーが直撃し、ぺドレオンBは勢いよく吹き飛ぶ。

 

『シュアッ! ヘヤッ!』

 

『キェェエエエエ!』

 

起き上がったぺドレオンAが突っ込んでくる。

ネクサスは左右を見てぺドレオンBがまだ倒れているのを見ると、振りかぶってきた触手ではなくぺドレオンAの腕を自身の両腕で抑え、足のつま先で蹴ると、ジャンプしながら手刀を叩きつける。

さらに横蹴りを食らわせ、拳を強く握りしめて右ストレートを放とうとしたところで、ぺドレオンAの口らしき部分が赤く発光した。

 

『ヘェア…!?』

 

一瞬の戸惑い。

しかしここはやるべきだと右腕を突き出そうとすると、突然肉体が凄まじい威力によって後方に飛ばされる。

まるでネクサスが衝撃波のようなもので吹き飛ばされた先にいるのは、先程まで倒れていたぺドレオンB。

ネクサスをキャッチすると、触手で両腕を絡めとって雷撃を流す。

 

『デェアアアアアァァァ!? ウウゥゥゥ……アアッ…!』

 

さらにぺドレオンAが雷撃を受けているネクサスに対して触手を何度も叩きつける。

前後による攻撃にダメージを負うが、ネクサスはぺドレオンAが両腕を振り上げ、それを振り下ろしたタイミングで強引に体を逸らす。

そうすることにより、背後に居たぺドレオンBが強烈な攻撃を受けることになり、雷撃が止まったほんの一瞬をついてぺドレオンAに向かって両足で挟み込み、ぺドレオンBの触手を利用してぶら下がって捻じるように倒れ込ませた。

 

『デェアヤッ!』

 

さらにぺドレオンBの触手を引き離すために勢いを保ったまま背後に回り込み、頭突きを食らわせて自身の両腕を引っ張る。

 

『キィィィィ!』

 

『グアアアァァ!?』

 

負けじとぺドレオンBがネクサスに雷撃で痺れさせるが、ネクサスは悲鳴を上げながらも負けじと引き寄せてから背中に向かって前蹴り、再び引き寄せて連続で蹴りを放つ。

互いに防御なしの攻撃を行い、少ししてぺドレオンBが先に限界を迎えたのかネクサスの腕の拘束を解くと、ネクサスが痛みに堪えながらぺドレオンを掴もうとし---偶然、掴んだ際に両腕に備わった鋭く尖ったカッター状の刃---アームドネクサスの側面のエルボーカッターがぺドレオンBを切り裂いた。

そこでネクサスは気づいたように連続で切り裂くとぺドレオンBをぺドレオンAに向かって蹴り飛ばす。

二体がぶつかって重なったのを見ると、瞬時にバク転。

 

『シュアッ! ハァァァァ…』

 

右腕を腰に、左腕を勢いよく左に振るう。

そして右腕を左腕の方向に持っていくと抜刀するような構えを取り、右手と左手を行き来するように青い稲妻が迸る。

エネルギーが光に変わり、その光がネクサスの手のひらに纏われる。

 

『ヘアッ!』

 

ネクサスはその光を保ったまま両腕を今度は右胸付近に持ってきて、腕を十字に構えた。

すると十字の一の部分から上の箇所だけ光の光線---『クロスレイ・シュトローム』が放たれる。

 

『キエエエエエェェ!?』

 

放たれた光線は上に乗っていたぺドレオンBに直撃し、ぺドレオンAを巻き飲んで大爆発を起こした---。

 

 

『ハァ…ハァ……。ジュワァ…』

 

それを見届けたネクサスは片膝を着き、エナジーコア---胸を抑えた。

何度も受けたダメージが効いているからか、胸を抑えながらも何とか立ち上がる。

そして上空に顔を向けると、飛行態勢に入り---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピャアアアア!』

 

『ッ!? ウアアアァァァッ!』

 

片脚を引っ張られて地面に転けさせられ、ぺドレオンAに踏まれる。

 

『シェアッ!』

 

すぐに空いている片脚でぺドレオンの背中を蹴ると、エルボーカッターで片脚に巻きついた触手を斬り落とし、ぺドレオンの背中に組み付く。

そしてぺドレオンの背中に対して肘打ちを行う。

 

『ウオァッ!?』

 

だが突如としてぺドレオンの背中から煙のようなものが発生してネクサスが怯んでしまう。

その隙にぺドレオンが飛行形態に変わり、逃走を図ろうとしていた。

 

『ハアッ!』

 

ネクサスは逃がさないというように走るとドロップキックで吹き飛ばし、ぺドレオンを地面に落とす。

 

『ジュ…フアアアア…デヤァッ!』

 

『キィィィィ!?』

 

すぐさまクロスレイ・シュトロームの体勢を取ると光線を放つ。

その光線はぺドレオンに直撃し---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『デェアアアァァァァァ!?』

 

ネクサスは最期の土産と言うように放たれたぺドレオンの火球に吹き飛ばされ、同時に煙が連鎖的に爆発を起こしてぺドレオンとネクサスは爆発に巻き込まれる---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シュワァァ……』

 

その場に無事に残っていたのは、ぺドレオンが噴き出した可燃性ガスと火球攻撃によって大爆発を受けたネクサスだけだった。

ネクサスは倒れたまま頭だけを起こしてぺドレオンが消えたのを見ると、地面に頭を着いて光となって消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

800:名無しの転生者 ID:9P1EDPgbm

流石に一対二はぺドレオンとはいえ、苦戦したか…。というかなんでジュネッスになれないんだよ()

 

 

801:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

なんかジュネッスになろうとしてたのかは分からないけど、あんな可愛いネクサス初めて見た。

地味にウルトラ兄弟の動きしてましたね……。

 

 

804:名無しの転生者 ID:5LtJtgyO7

イッチ生きてるー? ぺドレオンのラスト、相打ち狙ったかのような攻撃をまともに受けたっぽいが…。確かあの煙って可燃性ガスだったかな?

 

 

807:名無しの転生者 ID:Xzt6ZjNUR

誰かアンファンスでぺドレオングロース二体倒したことに突っ込まないの……?

 

 

810:アークルを宿し超戦士 ID:KtUw0G1uA

おつかれー。見事だったよ

 

 

812:名無しの転生者 ID:BUPH73VPk

>>807

アンファンスでガルベロス倒した奴やぞ?

出来ても不思議じゃないから突っ込まないんだよ。

 

 

814:光と絆を継ぐもの ID:nX2S4UypW

あぁ、ごめんごめん。生きてるけどちょっと無理。疲れたから寝させて……もう夜なの、夜中なの…。変身解けてから家に帰って来られたのはいいけど、明日朝から部活の準備とかあるからこれ以上はマジ無理。疲労が凄いし胸熱いし痛いし全身ちょっと痺れてるから寝る……俺のベッド(ストーンフリューゲル)が俺を待っている…!

 

 

817:名無しの転生者 ID:JQcb49wEM

ベッド扱いは草

おつかれーゆっくり休めよー

 

 

820:名無しの転生者 ID:kNQ1yp7IZ

色々と説明欲しかったけど仕方がないかぁ。おやすみー

 

 

821:名無しの転生者 ID:6mdqw2HEb

ストーンフリューゲルは見られないようにね。おやすみー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

朝。

目覚ましが煩く鳴り響く中、紡絆は思い切り爆睡していた。

目覚ましが鳴っていることにも気づかず、彼はすやすやと眠り続けている。

そんなことをしていると、時刻が一時間ほど経っていた。未だに紡絆は起きることなく、むしろ布団を深く被って音を和らげようとしている始末。

そんな彼に対し、忍び寄る一つの影があった。

 

「紡絆くん。朝だよーッ!」

 

「あと…二週間……」

 

布団を引っ張ろうとしているのは、赤髪の少女---結城友奈だ。

然しながら意地でも離されない布団。冬でもないのにもはや友達である。

 

「どれだけ寝る気なの!? んー、えいっ!」

 

「ヴェアアアアアッ!?」

 

どうしようもないと分かると、友奈は強硬手段に出る。

なんと窓を開け、日光を部屋に入れた。そして友奈との戦いによって顔が出てしまっている紡絆は思わず目を開けてしまい、寝起きの目に太陽の光が襲いかかる。

紡絆は凄まじい声を上げながら転がって机に頭をぶつけた。

 

「いだああああ!?」

 

「うわあ!? だ、大丈夫?」

 

「問題……ない………。がくり」

 

「問題ない人がするような反応じゃないよぉ!」

 

なんて一悶着が起こったが、別に重傷でもない紡絆は普通に起き上がった。

そしてぶつけた頭を軽く撫でながら本題に入った。

 

「んで、なんで友奈がいるの?」

 

「東郷さんもいるよ。えっと……紡絆くんのインターホン何度か押したんだけど、反応がなかったら入ってきたんだ。朝食一緒に食べたいなーって思ってたし」

 

「なるほど、それに劇のことも多少は話せるもんな。じゃあ朝食作るか…」

 

「紡絆くんは先に着替えてていいよ? 今から私が手伝いに行くし!」

 

「ん、りょーかい。任せるわ」

 

朝から元気な友奈に紡絆は眠たい目を擦りながら欠伸をし、苦笑いを浮かべる。

すると友奈は紡絆の言葉を聞いてうん、と頷いて階段を降りていった。

その姿を紡絆は少し口角を上げながら見届け---

 

 

 

「……あー…いたっ」

 

苦々しい表情をしながら胸元を抑えて布団に座り込む。

着替えるためにも服を捲ってみると、胸元から鳩尾辺りに円球型に赤くなっている。

()()()()()()()()()()

 

「ふぅ……行きますか」

 

いてて、と独り言を言いながら服を着替えると、階段を降りていく。

そのまま顔を洗ってからリビングに入ると、ちょうど友奈が料理を運び終えていた。

テーブルには三人分の朝食がある。

 

「あ、起きたのね? 紡絆くん、おはよう」

 

「ん、おはよう。いやぁ、朝から過激な起こし方をされたよ。まさか朝から机に頭をぶつけるとはな。お陰で目覚めたけど」

 

「事故だよ〜。それに紡絆くんが全然起きてくれないから…」

 

「否定する材料がない……!

あっ、あと朝食悪いな、ありがとう」

 

車椅子に乗っている少女、東郷美森と友奈に対して礼を言いながら紡絆が着席すると三人は手を合わせてご飯を食べていく。

朝食はどうやら定番の鮭と白米、味噌汁。

そして今回は野菜の春菊のおひたしで和食だ。

 

「流石東郷さん! 凄く美味しい!」

 

「友奈ちゃんにそう言って貰えて嬉しいわ」

 

「……」

 

見てるだけでも美味しいと言いたいことが分かるように食べる友奈だが、一人だけ手が動いていない。

 

「紡絆くん? 何か苦手なものとかあったかしら…確か問題なかったと思うけど……」

 

「あ、あぁ、いや。なんでもない。うん、美味い。流石だなぁ」

 

東郷に言われてハッとした紡絆はお箸で食べていき、味噌汁を飲もうと茶碗を持ち、口元に---

 

 

 

「ッ…あっつぅ!?」

 

持っていくはずが、手から滑り落ちたかのように茶碗が太もも辺りに落下し、紡絆のズボンごと熱い汁が襲いかかった。

 

「わ、紡絆くん!?」

 

「大丈夫!? ちょっと待ってて、今拭くから!」

 

流石に味噌汁となると作り立てなのもあって慌てて友奈と東郷が動く。

紡絆は気づかれないように一瞬だけ手に視線をやり、握る動作をするが何も問題ないと分かると小さく頷いた。

 

「悪い……味噌汁無駄にして」

 

「そんなことは今はどうでもいいわ。それよりも火傷してない? 平気?」

 

「びっくりしたぁ…」

 

「ごめんごめん。あ、流石にもう自分でやります」

 

はは、と笑いながら太ももを拭いてくれた東郷にお礼を言いながら流石に位置が不味いことになりそうだったので紡絆は自分でやるように言うと、自分で拭く。

友奈は一番動く必要のある零れたテーブルや地面などを拭いてくれたらしく、紡絆はお礼を言うことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

讃州中学勇者部。それは五人で構成された、人々のためになることを勇んで実施する事を目的とした部活である。

まあ、言ってしまえばボランティア部であり、名前以外は他校に存在するボランティア部の活動と然程の違いはない。

今回の活動は幼稚園での人形劇。

 

『昔々、あるところに勇者がいました。勇者は村の人々に嫌がらせを続ける魔王を説得するために、一人旅に出ていました。長く苦しい旅の末、とうとう勇者は魔王のもとにたどり着いたのです!』

 

ナレーションは二年、東郷美森。

音楽・音響担当は一年、犬吠埼樹。

 

「やっとここまでたどり着いたぞ魔王! もう悪いことはやめるんだ!」

 

勇者役は二年、結城友奈。

 

「うるさい! 私を怖がって悪者扱いしたのは、村人の方ではないか!」

 

脚本兼ね魔王役は勇者部部長の三年、犬吠埼風。

 

「だからって、嫌がらせはよくない! 話し合えばわかるよ!」

 

「話し合えば、また悪者にされる!」

 

「君を悪者になんかしない!!」

 

舞台の向かって左側、勇者の人形を操り役になりきっていた友奈が右手を衝動的に払ってしまう。

友奈が平手を叩き込んだのは、この日のためにみんなで作り上げた人形劇の舞台。

それがバターン!と大きな音を立てて倒れてしまった。幸いにも園児達から距離が離れていたので当たることはなかったが、人形劇なのに役者が姿を現してしまうという珍事が起きてしまう。

突然のアクシデントにあわあわと慌てる友奈と当たらなかったことについて安堵する風。

しかしこのままでは微妙な空気になってしまう---

 

 

 

 

 

そこで一人だけ冷静に動く者がいた。

 

「勇者さま! これで魔王が隔てていた壁を打ち払いました! 今の魔王ならば、貴女の力があれば説得出来るはず!」

 

(つ、紡絆くん!?)

 

何処からか持ってきた羽のようなものが生えた神々しい人形を手にし、アクシデントにアドリブで対抗するのが、アシスタント担当の二年、継受紡絆。

彼は友奈が起こしてしまったことに対応するため、一瞬でその辺にあったものを取って場を紡ぐ。

突然の乱入に友奈が小声で驚き、ナイス!という視線を風から受ける。

だが、当の本人である紡絆は焦っていた。

何を隠そう---この男、何も考えていなかった。場を凌ぐためにとりあえず対応しただけなのだ。

 

「い、一体何者だ!?」

 

(え、ちょ。考えてないんですけどぉ!?)

 

(アドリブなんだからもう何とかするしかないでしょ! というかなんで乱入した割に考えてないのよ!?)

 

無茶ぶりされたかと思えば正論で返された紡絆は風のセリフに対応するために人形に視線を一瞬送り、何とか組み上げ、ヤケクソになって叫ぶ。

 

「ッ…私は勇者さまに迫る困難を裏から手助けしていた者。名は光の戦士!」

 

物語の筋書きを変えないようにオリジナルを突っ込むと、紡絆は友奈に視線を送る。

修正出来たと思うからどうにかして説得しろ、という想いが籠った瞳で。

 

「よ、よぉし……勇者キック!」

 

(なんでやねんッ!?)

 

まさかのアイコンタクトが通じず、友奈が魔王人形に勇者キックという名の頭突きを食らわせた。

小声とはいえ、これには紡絆も何故か関西弁が出ていた。

 

(ちょ、ちょっと話し合おうって言ってたわよね!? どうするのよ!?)

 

(だ、だって!)

 

(あぁもう! 二人とも落ち着いて争わないでくれ! とりあえずあれだ、冷静になるためにも---)

 

「樹ちゃん、ミュージックだ! なんか流して! つーか痛い! ほらそこ、いい加減に落ち着きなさい!」

 

何とか脚本通りに戻そうとした紡絆の苦労は報われることなく、何故か勇者と魔王が殴り合っているので人形を突っ込んで自分がダメージを受ける紡絆。

もはや誰が年長者で部長なのか分からないが、紡絆の指示に慌てて樹はパソコンを操作する。

 

「え゛!? え~と、え~と……じゃあコレで!」

 

一泊のあと、音楽がパソコンから流れ始める。

それは勇者がピンチになった時に流すようの魔王テーマだった。

 

「ええ!? 此処で魔王テーマ!?」

 

「ふはははは! ここが貴様の墓場だ!」

 

ノリノリになってしまった魔王。

しかしここで紡絆は閃いた。

これならば行ける、と。

 

「くっ、魔王の力が増大した…!? 勇者さま、私の力でも抑えきれません! 再び魔王を隔てる壁は作られるでしょう。もはや撤退するしか……!」

 

東郷に視線を送り、紡絆は舞台をそれはもう気合いで起き上がらせようとする。

徐々に壁を作るように起き上がらせる---つまりはセレフ壁を演出しているのだ。

本人はしんどそうである。ぶっちゃけ早くして欲しいと東郷に助けを求めていた。

東郷も表面は取り繕っているが、キツそうな様子には気づいたのか勇者と劇に関係ないのにピンチになっている紡絆を助けるために園児たちを先導し始める。

 

「皆! このままだと勇者と光の戦士が危ないわ! みんなの応援で二人を助けよう! 私が言う言葉をみんなも続けて!」

 

『せーのっ! がーんばれ! がーんばれ!』

 

「「「がーんばれ! がーんばれ! がーんばれ!」」」

 

ヒーローショーにあるような声援を東郷(ナレーション)に従うように純粋な園児たちの応援が勇者と光の戦士に力を、魔王を苦しませる。

 

「みんなの光が力を…! 今がチャンスです! さあ、勇者さま。今こそ想いを拳に乗せて!」

 

「うん! 勇者パーンチ!」

 

正直限界と言った感じにそっと魔王を隔てる結界やらバリアかよく分からなくなってきた壁を降ろした紡絆は、友奈もとい、勇者に物語を締める一撃を魔王に打たせた。

 

『こうしてみんなの力と想いが込められたパンチを受けた魔王は、勇者たちの本当の想いを知り、無事に改心することで祖国は守られました。めでたしめでたし』

 

最後にナレーションが締め、途中でトラブルが有ったものの、人形劇は無事成功に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

翌日、全ての授業を終えてこの世界特有の作法である“起立、礼、神樹様に拝”を終えると、終業の合図とともに、教室内の空気が一気に弛緩する。

ここは讃州中学二年の教室、あの人形劇が行われた日の翌日の放課後である。

あるものは友達とのおしゃべりに興じ、あるものは部活の準備をする等と、誰もが思い思いの放課後を過ごしていた。

 

「友奈ーちょっといい? 今度の校外試合、また助っ人お願いしたいんだけど……。」

 

そんな中、部活に向かうために荷物をまとめていた友奈は後ろから声がかけられた。

声のした方へ友奈が振り向くと、眼鏡をかけた女子生徒が一人、少し申し訳なさそうな顔でこちらを見つめている。

女子の中でも運動神経がいい友奈は、所属している部活の影響もあってよくこういったことをお願いされるのだ。

ほんの少し頭の中で予定を整理し、その日が空いていることを確認した友奈は快くそれを引き受けた。

 

「オッケー。いくよー」

 

「ありがとう! 悪いけどお願いね。それにしても忙しそうね、今日も部活?」

 

荷物をまとめ終わった友奈は、カバンの紐に肩を通すと、親友である東郷のもとへ行く。

そのまま手慣れた手つきで彼女の車いすのハンドルを握った。

 

「うん、勇者部だよ」

 

「そう、勇者部」

 

そして何処か誇らしげに二人は答えた。

 

「なんか何度聞いても変な名前ねー。勇者部」

 

「えー? そう? カッコいいじゃん」

 

讃州中学勇者部。

人の役に立つことを勇んで行うことを活動目的として一年前に犬吠埼風が立ち上げた部活である。

その活動は多岐にわたり、町の清掃や部活の助っ人、はたまた野良猫の保護とその里親探しなど、兎に角誰かの役に立つことならば見境なく行っていた。

友奈と東郷とあと一人、二年生三人に加え、部長である三年生の風と一年生の樹の計五人、それが勇者部の全容だ。

 

出発の準備が整うと、友奈達は珍しく筋肉痛で死にかけている男子に声を掛けた。

 

「紡絆くん! いこー!」

 

「りょーかいー…」

 

いててと腕を擦りながら紡絆が友奈たちに近づくと、三人揃って部室に向かう。

 

「それにしても珍しいねー」

 

「そうね。紡絆くんが筋肉痛になるなんてあまりなさそうだもの」

 

「はは……流石にずっと持ち続けるのはな。園児たちに当たったら大変だったし」

 

何処かそう笑い飛ばすように誤魔化す紡絆。

そんな姿に友奈も東郷も納得しているのか紡絆の様子に違和感を持つことは無かった。

そして紡絆は教室で死んでいたからか、友奈も含めて道中で別のクラスの生徒に助っ人のお願いや勇者部に対する応援の声等を貰いながら部室に入る。

 

「こんにちはー! 友奈、東郷、紡絆くん入りまーす!」

 

「こんにちは」

 

「ういーっす」

 

「あ、お疲れ様です」

 

「やっと来たわね、三人とも」

 

部室の中には既に風と樹が居り、樹はタロットカードを広げて、風は死角となっている場所から体を出して手を振っていた。

東郷がパソコンの元に自分で向かう中、紡絆はドアを閉めていた。

 

「昨日の人形劇、大成功でしたね!」

 

「えぇ? あれはギリギリとしか言いようないと思うけど…」

 

「俺は意外と痛かったんですけど」

 

「あはは、結果オーライで!」

 

「友奈さんはいつもボジティブですね」

 

「友奈ちゃんと紡絆くんのアドリブよかったわよ」

 

それぞれが前日の人形劇の感想を述べると、感想をそこそこに風のミーティングを始めるという言葉にこの場の全員が返事する。

部室の奥側には黒板が置いてあり、その周辺が専ら勇者部の会議スペースとなっている。

みんながそこに集まると、既に黒板には様々な子猫の写真が貼られていた。

可愛らしい写真に沸き立つ女子メンバーたち。しかしこれらはただ鑑賞するためだけに張られているわけではない。

『子猫の飼い主探し』と写真の上にも書いてある通り、これは立派な勇者部に入ってきた依頼の資料なのである。

 

「はーい皆注目。この通り、まだ未解決の依頼がこんなにも残ってんのよねー」

 

「い、いっぱいだね…」

 

「早いところ飼い主を見つけてあげなければいけませんね」

 

「そうなのよ東郷。だから、今月は強化月間!今月中に全部解決するつもりで行くわよ!」

 

部長である風がそういうのだから、今月のメイン活動は飼い主探しということになるだろう。

割と大雑把な性格をしている風ではあるが、部長なだけあってこういう時のリーダーシップは流石と言ったところで、部員からの反対等も特にない。

 

「だけど強化月間言ったって何するんですか? いつも通りじゃあ強化したことにならないでしょうし」

 

「いい質問ね、紡絆。学校を巻き込んだ大々的なキャンペーンにして探すのよ」

 

「おー」

 

「ほほー…」

 

「学校を巻き込むという政治的な発想……流石一年先輩です」

 

素直に感心する友奈と、理解してるのかしてないのか分かりづらい鳥のような返事する紡絆と、少しずれた感心の仕方をする東郷。

然しながら前者の二人はともかく、後者の東郷から送られる妙な方向の尊敬の念には、さすがの風も少し戸惑っていた。

 

「学校側への対応は私がやるとして、とりあえずはホームページを強化していきましょう。東郷、任せた!」

 

「はい。携帯からもアクセス出来るようにモバイル版も作ります」

 

早速作業に取り掛かるようにパソコンに向き合う東郷。

ホームページ更新等といったIT系の作業は、他にそれを得意とするメンバーがいないということもあってもっぱら彼女の仕事なのだ。

 

「私たちはどうするんですか?」

 

「ん~。いつも頑張ってもらってるけど、今月はさらに頑張るって感じで!」

 

「アバウトだよお姉ちゃん…」

 

最後の最後で大雑把な風に、各自自分でできることを探すしかないと三人は理解してしまった。

 

「じゃあ、今日海岸の掃除、行くでしょ? その時人にあたってみるのはどう?」

 

「そうだな、俺たち人間には足と言語という強力な武器があるしな」

 

「そうそう、良いこと言う! 紡絆くんさすが!」

 

「よせやい、樹ちゃんも一緒に頑張ろうか」

 

「は、はい…。お二人についていける自信はありませんけど……」

 

樹は友奈の提案に乗った紡絆の言葉に少々控えめに追従した。

見た目の通りインドア派の樹は肉体派の二人についていけるかと言われると、不安になるのは仕方がないとはいえる。

 

「ま、各自やるにしても怪我しない程度にしないとな」

 

紡絆のフォローするような言葉が入ると、既に任務を完了させた東郷に一同が驚くような出来事があったが、それぞれ活動に入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あっという間に時間が過ぎ、各々の活動に区切りをつけた勇者部のメンバーは市内の老舗うどん屋『かめや』に集まっていた。

 

「さ、三杯目………」

 

「うどんは女子力を上げるのよ〜」

 

運ばれてきた新しいどんぶりに嬉しそうな風とそれを見て顔を引きつらせている友奈。

というか、勇者部の唯一の男である紡絆ですら頬を引き攣らせている。

 

「いやいや、それだけ食べてると女子力より……」

 

「なに?」

 

「イエ、ナンデモナイデス…」

 

女性にとっての禁句を言いそうになった紡絆は心無しか若干冷たい視線を周囲から浴びて地面に伏せた。メンタルは弱かったようだ。

如何なる時もこういったところは男は弱いのである。

 

「そ、そういえば先輩。話って?」

 

「あー、そうだ。文化祭の出し物の相談。今年は何しようかなって」

 

友奈が空気を変えるように風に言うと、まだ四月なのに?と全員が首を傾げる。

しかし紡絆は伏せたまま話だけは聞いてるだけで機能していない。

 

「夏休みに入る前には決めておきたいのよ」

 

「確かに、常に先手で有事に備えることは大切ですね」

 

「今年こそは、ですね!」

 

「去年は間に合わなかったからなぁ」

 

「そうそう。だから今年はちゃんとしたいじゃない? せっかく猫の手も入ったことだし」

 

「わ、私!?」

 

友奈や紡絆たちが一年の頃は色々と忙しくて準備が出来ずに出来なかったが、今年は五人になった。

風は隣の樹に視線をやり、頭を撫でる。

猫の手が自分だと言われて驚く樹を他所に、今年は三年である風は最後なのもあってしっかりやるべきだろう、という考えは二年生の三人の中にもあった。

もちろん、去年できなかった心残りもあるのだが。

 

「文化祭かぁ…確かに、せっかくだから一生の思い出に残るものがやりたいですね!」

 

「なおかつ娯楽性が高い大衆が靡くものじゃないと」

 

「いやぁ、難しいなぁ」

 

「ど、どうしたらいいんだろ…」

 

「それをみんなで考えるのよ。とにかく、これはそれぞれ考えておくようにね。はい、宿題」

 

はーい。という後輩たちの返事に満足そうに頷きながら、風は4杯目のうどんを注文し、皆の度肝を抜く。

なお、男である紡絆は2杯で殺られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

翌日の授業。

未だに傷が癒えない紡絆は胸はともかく、あまり力が入らないのもあって授業について行くので必死だった。

初日に比べれば腕も動かせるし力も入る。もう痺れの効果は切れているが、それでもダメージというのは残るのだ。

 

「ふぁああ……」

 

「継受さん?」

 

「ほへ?」

 

もう書くのは諦めようかな、なんて思った瞬間、紡絆は欠伸をしてしまう。

そこで先生に名を呼ばれてきょとんとしながら立ち上がった。

 

「ほへ、じゃありません。教科書を読んでもらってもいいですか?」

 

「はーい」

 

何処かのんびりな様子の紡絆は教室が少しの笑い声に包まれたことに何故かわからず首を傾げるが、気にせずに教科書を手に取っていざ読もう---としたところでそれは突然、始まった。

 

――――!!――――!!――――!

 

災害警報の様な特徴的な音に、紡絆は戦いを経験した戦士としての勘が働き、いつでも動けるように身構える。

しかし何も起こらないことから誤報だろうとは考えてしまうが、それにしても先ほどからずっと鳴りっぱなしだ。

少し離れたところで立ち上がった友奈が慌てていて、ふと見れば充電が切れそうで消したはずの自身の携帯が勝手に起動されていた。

 

「あーすみません。なんか勝手に……んん?」

 

携帯を切っておくようにと飛んできた言葉にとりあえず強引にダウンさせた紡絆は謝ろうとしたが、違和感を覚える。

落ちかけの消しゴムが無重力---いや、停止したように空中に浮いたままだったり、同級生が後ろを向いたまま固まっていたり先生からの言葉が何も来なかったり、窓の外には鳥が止まったり飛んできた葉っぱが固まっていたりなど、まるで時間そのものが止まったかのように動かなくなった。

 

---ドクンッ

 

そこで心臓のような音が胸元から響き、紡絆は思わず胸を抑える。

痛みに顔を顰めるが、そこにあるのはエボルトラスター。

警告するように一定のリズムで脈打っていると気づいた紡絆は嫌な予感を感じて顔を引き攣らせるが---

 

「…あれ?」

 

「友奈ちゃん……」

 

自分以外にも動く存在に気づき、すぐに振り向いた。

 

「二人は動けるのか……? 平気か!?」

 

「う、うん私は大丈夫」

 

「私も大丈夫だけど……これは一体? 画面には『樹海化警報』って………」

 

エボルトラスターをいつでも引き抜けるように手を突っ込みながら二人に近づくと、何も無いことに安堵の息を吐く。

 

「俺の所にも同じのがあった。だけど流石にわからない。とりあえずは逃げれるようにしておこう」

 

「そ、そうだね」

 

冷静に考えながらいつでも守れるように二人の傍で待機する紡絆。

しかし彼の持つエボルトラスターからの警告音が止まらない。

 

「つぁ……!?」

 

その時、ドアの奥の窓の外。

本来人類最高記録である11.0を視力を持ってしても人間である限り壁越しなのもあって見えないはずの距離。

紡絆は何らかの気配を感じ取ったかのように扉の窓に視線を送ると、その先を容易に超え、壁すらも透過して海面を見た。

そこに突如として線が入り、黒い隙間のような、星空のような空間が空を侵食し、そこから極彩色の光があふれ出す光景が映る。

さらに()()()()()()()()が一瞬だけ空間の先に見え、光が濁流のように広がって、みるみるうちに町の全てを覆いつくしていく様子に本能的に紡絆は友奈と東郷を守るように自身の背を盾がわりにする。

 

「うわっ、紡絆くん?」

 

「何? この揺れ……地震?」

 

「っ…友奈! 東郷! 絶対に動くなよ!」

 

驚く友奈と揺れに反応する東郷に何も返さず、光が向かってきたのが見えた紡絆は普段は出さないような声で叫びながら二人を守るように抱きしめる。

しかしそんな努力も虚しく、紡絆だけではなく友奈や東郷を光は巻き込んで呑み込んでいった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人を庇うようにしていた紡絆は目を開けると、息を飲み込んだ。

さっきまでの日常の風景は見る影もなく、そこにあるのは視界を埋め尽くすほどの樹木たち。

自然界ではありえないような色彩の木々が複雑に絡み合い、ある種幻想的な風景を生み出していた。

それこそ、まさしく携帯に出ていたものと同じく---樹海。

別世界とも言える光景に友奈と東郷が困惑する中、紡絆は二人から離れすぎない程度に歩くと周囲を見渡し、冷静に息を大きく吸い込んだ。

そして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ。よーし…何処だここはああぁぁぁぁぁぁああああああ!?」

 

全力の叫び声が、樹海に木霊した。

---そう、ひとつ言えるのであれば、彼らの『普通』の日常に終わりが訪れたということ。

そしてエボルトラスターの点滅は今も尚、収まることはない---

 

 

 

 

 





〇継受紡絆
アンファンス縛りさせられているイッチ。ようやくエルボーカッターの使い方を知った。ちなみに武道とかやってない(らしい)
そして本人の肉体はまだダメージが残っている(主に最後の爆発攻撃の影響)のでペトレオン戦以降ずっと痩せ我慢中。
実は人形劇の時が一番痛みを感じてた。

〇結城友奈
人形劇の時は紡絆に対する信頼度が東郷さん並みに高いから実はアイコンタクトは通じてました。
かわいい。

〇東郷美森
さらっと料理を作っているが、プロレベル。アイコンタクトが唯一完全に通じた。
日常生活面でも有能すぎる。

〇犬吠埼風
大雑把な点は部員全員が理解している。
うどんの食べる量は紡絆より全然上だぞ! 
一人イレギュラー付きで選ばれちゃったねぇ…。

〇犬吠埼樹
紡絆からは色々と(年下ということもあって)フォローされたりなど優しくされている。
※犬吠埼姉妹は原作通り合流しています。

〇エボルトラスター
警告した。めっちゃ警告した。今もしてる。

▼来てないけど質問みたいなやつ

Q.誰か転生者でゆゆゆの世界知ってるやつおらんの?

A.知ってる人は多分神の力によって見れないようになってるんじゃない?(適当)


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【悲報】 気がつけば別世界に飛ばされたんですが…【どうして】


正直言っていいですか? 書くと決めた時からやりたかった回です(真顔)
モチベが(高すぎて)やばすぎるっピ! ただゆゆゆって戦闘少ないのでなかなかに難しいんですよねー…。
そしてトリガーは伝説の光……まさかティガか? 俺も負けてられないな!(アギト並感)






 

1:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

気づいたら1000行ってたから新しくスレ建てたわ

 

 前回→【悲報】気がつけば目の前に知らない遺跡があるんですが…【なにこれ】

 

 

2:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

これまでの人物紹介

 

ウルトラマンの力を継いだ一般転生者(中学生)

正直昭和ウルトラマンしか知らない。

 

友奈

明るくて癒される。

たまに落とそうとしてくるんじゃないか、ってくらいの天然を発動してくるのは困る。

 

東郷

上品で優しいしIT系も出来る万能な子

だけど戦艦とかの話になると困る。

 

風先輩

勇者部の部長。

なんでこの人、俺よりうどん食べてるの……? 腹どうなってるの……?

 

 

樹ちゃん

もう可愛くて仕方がない。

つい優しくしちゃうのは仕方がないね、子供を相手してるような感じ。

 

 

 

3:名無しの転生者 ID:OZ2bKQcu8

乙^ゥ~

 

 

5:名無しの転生者 ID:s4CcE9HDr

未だにアンファンスで戦えてるイッチが一般人とかまじ? 世の中広いんやなって

 

 

7:名無しの転生者 ID:bG9yMNz90

どの世界にも大食いキャラとかはいるからなぁ

 

 

8:名無しの転生者 ID:kH8wK3xBX

戦艦の話はしてぇーなぁ

 

 

10:光を継いだ転生者 ID: nX2S4UypW

でさぁ、ちょっと言いたいことあるんだけど(唐突)

 

 

13:名無しの転生者 ID:ckwx1aQl4

ん?

 

 

16:名無しの転生者 ID:VDh78UpUj

なに?

 

 

19:名無しの転生者 ID:8AXImcFX5

どうした?

 

 

21:名無しの転生者 ID:T5XGRuhvu

ビーストでも出たんか?

 

 

24:名無しの転生者 ID:NHv5IJlBU

何かやらかしたんじゃないんだろうな?

 

 

25:光を継いだ転生者 ID: nX2S4UypW

あれ、俺ってそんな風に思われてたの?

 

いやまあ、そこはどうでも良くて……とりあえずさ。

 

 

 

た す け て 

 

〔添付:現実には有り得ない色彩の木々が複雑に絡み合う樹海で困惑した様子の少年と友奈と東郷の写真〕

 

 

28:名無しの転生者 ID:YmCB39fpY

ファッ!?

 

 

31:名無しの転生者 ID:ORMtsXMED

なんだここは!?

 

 

32:名無しの転生者 ID:56I9VLCqP

え? ネクサスにこんな場所あったっけ?

 

 

34:名無しの転生者 ID:eHAsfSviJ

お前いっつも助け求めてんなぁ!? ところで本当にそこどこだよ!?

 

 

36:名無しの転生者 ID:yOINAMWM/

何をやらかした! 言え!

 

 

38:名無しの転生者 ID:N4oOf5nfU

スペースビースト……ではないよなぁ

 

 

41:アークルを宿し超戦士 ID:KtUw0G1uA

とりあえず経緯を説明して欲しいかな

 

 

44:名無しの転生者 ID:6OscC1vI9

せやな、まずは整理しよう。いやマジで何処だそこ……

 

 

46:光を継いだ転生者 ID: nX2S4UypW

この反応は………もしかして誰も知らない?

 

>>41

経緯を説明してと言われてもなぁ……。俺、中学生じゃん?

ダメージ残ってるせいでペンで書くのが辛くてさ、授業中に欠伸したら教科書読むように言われたんだけど突然携帯の警報が鳴って、スタンド攻撃でも受けたと思うくらい周りの生物含めて自然すら動かなくなってびっくりしたのよ。

動けたのは俺と友奈ちゃん、東郷さんだけでふとドア透過して海の方を見たら虹色の光に呑まれて、気がつけば居たわけ。

 

 

48:名無しの転生者 ID:p9Lk4+M0U

なるほどDIO様が時間止めた……にしてはおかしいし、というかネクサスの世界にスタンドはないしな

 

 

50:名無しの転生者 ID:B+IlngodR

でもなんで三人だけ動けたんだ?

 

 

53:名無しの転生者 ID:7O18DsOOY

そもそもの問題として、ネクサスにこんな展開はないぞ? どういうことだ?

 

 

54:名無しの転生者 ID:MuCsD1hwP

さらっとイッチがドアを透過するとかいうとんでもないことしてて草

 

>>25

それにしても、まだ樹海っぽいところじゃなければ納得したんだが…

 

 

56:名無しの転生者 ID:/eCVoscBV

これは俺らでも分からないぞ……

 

 

57:名無しの転生者 ID:dyRfb7ovA

スペースビーストが成長したとか?

 

 

58:名無しの転生者 ID:VzVBb+spO

別の勢力の介入? でもウルトラシリーズにはこんな空間を作り出せる存在はいなかった気がするが……

 

 

59:名無しの転生者 ID:qHDO1Q4GK

まだM78星雲時空ならともかく、ネクサス時空だからなぁ

 

 

60:名無しの転生者 ID:g5Mpu/9B7

つーか、本当にネクサスの世界なのか?

 

 

63:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

つまり?

 

 

64:名無しの転生者 ID:es1KUjxsE

ネクサスの世界ではない? でもスペースビーストやウルトラマンはいるんだぞ?

 

 

66:名無しの転生者 ID: OX82Ln2AK

いや、だがネクサスの世界という条件は整っているんだよな。スペースビーストとウルトラマンがいるだけで、少なくともULTRAMANの内容はしたことになる。それにウルトラマンがいたら間違いなくザギが放っておかないだろ

 

 

68:名無しの転生者 ID:wJXKEkJo/

>>63 >>64

お前ら仲良いな

 

 

70:名無しの転生者 ID:9S4E9HRUZ

一つ言っていいか?

 

 

72:名無しの転生者 ID:iiDumDJhW

なんだ?

 

 

73:名無しの転生者 ID:s521IU1hY

どうした?

 

 

75:名無しの転生者 ID:yp2gibJ1D

ここがどこか分かるのか?

 

 

78:名無しの転生者 ID:9S4E9HRUZ

いや、知らんけど。

でもさ、ネクサスの世界かどうか分かる方法はあるぞ

 

 

80:名無しの転生者 ID:QvAjnMBtH

なん……だと!?

 

 

82:名無しの転生者 ID:g5Mpu/9B7

どうやって分かるん?

 

 

85:名無しの転生者 ID:9S4E9HRUZ

イッチに西暦とか歴史を聞けば良くね? 例え特撮の世界だったりアニメの世界だったりラノベの世界だったりゲームの世界だったりしたら必ずどこかにズレは生じる。だからネクサスと同じ歴史を辿っていないなら、別世界の可能性がある

 

 

88:名無しの転生者 ID:IdAlqnFXh

確かに、ネクサスの舞台設定は現代日本、2009年だしな

 

 

91:名無しの転生者 ID:XSyrMM/PK

>>85

さては天才だな?

 

 

94:名無しの転生者 ID:aM3YouWSG

>>85

その発想はなかった

 

 

95:名無しの転生者 ID:e4cBATA9c

よし! イッチはよ言え! ネクサスの舞台設定は2009〜2010年だ!

 

 

98:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

え? ネクサスって平成21〜22年なの?

 

 

99:名無しの転生者 ID:Y2JlZhlGZ

まあネクストが五年前、つまりは2004年だしね

 

 

101:名無しの転生者 ID:3GGhI8r+D

どうした、イッチ?

 

 

104:名無しの転生者 ID:TvS+0mhI5

むしろイッチは何年だと思ってたんですかね…

 

 

 

105:名無しの転生者 ID:ra1yr9l5E

年代が違うのか? いやまあ、多少本編開始時のズレはあっても不思議ではないんだけど…

 

 

107:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

いや、あの…

 

 

109:名無しの転生者 ID:9S4E9HRUZ

どうした? 言えない理由があるとか?

 

 

112:名無しの転生者 ID:7UG5URkVJ

煮え切らないな、自白しちゃえよ

 

 

115:名無しの転生者 ID:XknnE1lcg

例えイッチがやらかしたと思っても気にしないぞ

 

 

117:名無しの転生者 ID:G5AlnxVq5

ほら、早くしろ みんな待ってんだぞ

 

 

119:アークルを宿し超戦士 ID:KtUw0G1uA

それで、何年なの?

 

 

122:名無しの転生者 ID:OX82Ln2AK

それさえ分かれば、俺たちがどうにか答えを導き出せる…と思う

 

 

123:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

じゃあ、言いますけど---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、神世紀300年です……

 

 

 

 

125:名無しの転生者 ID:tfrdAhuXu

え?

 

 

128:名無しの転生者 ID:OnvDPNz8i

え?

 

 

131:名無しの転生者 ID:ElZdjrwxR

はあ…え?

 

 

132:名無しの転生者 ID:xbrYi9Jxl

はぁ!?

 

 

135:名無しの転生者 ID:ORMtsXMED

はい!?

 

 

138:名無しの転生者 ID:0VIClx3An

ん?

 

 

140:名無しの転生者 ID:gg7kbwVYO

へ?

 

 

141:名無しの転生者 ID:I22aLKdz0

はああああぁぁ!?

 

 

144:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

ちょちょちょ、ちょっと待て! 神世紀300年だと? 令和じゃなくて!? なんだそれ!?

もう一度頼む!

 

 

146:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

だから神世紀300年(西暦2318年)ですけど。ネクサスの世界ってそうじゃないの…? 平成なのか……?

 

 

149:名無しの転生者 ID:gBuzaPQxR

2318!? しかも神世紀!? は? いやいや、まだウルトラマンの中でも古代はあっても神世紀っていう西暦はねぇぞ! ギンガが不明だったはずだからもしかしたらそこにあるかもしれんが、ネクサスは間違いなく違うだろ!

 

 

152:名無しの転生者 ID:YG96ctXUG

というかイッチはどこをみてネクサスだと思ったんだよ! 明らかおかしいだろ!

 

 

153:名無しの転生者 ID:hZynHHfTf

そもそももっと早く言えやああああああああぁぁぁ!

 

 

154:名無しの転生者 ID:cRrjM+Gnv

お前いつも肝心なこと話さねぇなぁ!?

 

 

157:名無しの転生者 ID:ue3ehZvuT

まままま、まずは落ち着け、整理だ、整理しよう

 

 

160:名無しの転生者 ID:qHDO1Q4GK

>>157

おまおつ、と言いたいところだが…気持ちは分かる。

つまりは、M78星雲でもネクサス時空でもガイア時空でもない?

 

 

162:アークルを宿し超戦士 ID:KtUw0G1uA

そして俺たちはイッチの言葉からして原作ネクサスの世界だと思い込んでたけど、仮にネクサスの世界としても本当は何百年単位で経っていた世界……

 

 

164:名無しの転生者 ID:gpFFD+NuW

え? でもさ、ネクサスの世界なら流石に300年くらい経ってたらビーストは殲滅されてるんじゃないのか?

それとも、新たなザ・ワンが生まれて再びネクストに戻されてたのか? それかザギが何かをした? つーかザギさんいるのか?

 

 

167:名無しの転生者 ID:+vyTsqiAT

でもビーストは普通に生存してるよね? 本編終了後、小説の内容である2013年ならまだ分かるけどさ

 

 

170:名無しの転生者 ID:xssh05BUK

待てよ、まだネクサスの世界説はある! イッチがなんか一番おかしいんじゃないか?って思う歴史を教えてくれれば!

 

 

171:名無しの転生者 ID:XxPbztfK+

>>25

なんかこれ、条件あるのかな、樹海に入るための。

 

 

172:名無しの転生者 ID:WLdMFeZWj

だけどさ、おかしくない?

仮に300年経っていたとして、なんでイッチがスペースビーストの存在を知らない? ウルトラマンの存在を知らない? 他の子たちも普通はスペースビーストに恐怖を覚えてるはずだろ? 例えネクサスの世界だとしても、300年は来訪者が持たないだろうから記憶を消すことは不可能じゃないか?

あとさっきもあったが、それだけ経ってたらザギが何も行動を移さないのもおかしい。

 

 

175:名無しの転生者 ID:dTSANWGdE

>>170 >>172

その通りなんだよなぁ…

 

 

177:名無しの転生者 ID:XyLshse0z

もうなんか、これ以上は驚かんぞ……

 

 

180:名無しの転生者 ID:6vSHEw7jA

本当にネクサスの世界なのかなぁ……情報が足りねぇ! 

 

 

183:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>170

あ、そうそう。おかしいなって思う歴史で思い出したんだが、これは間違いなくおかしいんじゃないかな。

実は四国を守護する存在として神樹様が祀られててさ、この世界って四国以外が死のウイルス蔓延してるんだよね。だから多分滅んでるわ。あはは。

あ、風先輩と樹ちゃん来たし話してくるわ

 

 

184:名無しの転生者 ID:PANP0ceWI

>>177

これもイッチのせいだ

 

 

186:名無しの転生者 ID:AttFrr4uG

へえ…四国以外が? 四国以外が!? えええええぇぇぇ!?

 

 

188:名無しの転生者 ID:K/u4/ewYe

はああああああ!? おま、おま、それめっちゃ重要な話じゃねぇかあああああああぁぁぁぁ!!

 

 

191:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

神世紀だけでも意味わからないのに死のウイルスとかもう絶対ネクサスの世界じゃねぇだろおおおぉぉぉ!?

 

 

193:名無しの転生者 ID:XyLshse0z

はあ!? 驚かんとか言ったけど、はぁ!? はいいぃぃ!?

 

 

194:名無しの転生者 ID:cRrjM+Gnv

だからそれが肝心なところでしょぉおおおおぉぉぉ!?

 

 

197:名無しの転生者 ID:hZynHHfTf

いい加減にしろよお前ェッ!!!

 

 

198:名無しの転生者 ID:WLdMFeZWj

んなバカな!? ということは東京滅んでる!? あれ!? ってことは…TLTとか……

 

 

201:アークルを宿し超戦士 ID:KtUw0G1uA

ごめん、こればかりは……ちゃんと情報は報告してくれるかなぁ!?

報連相はしっかり守ろう!

 

 

203:名無しの転生者 ID:Lm2ofHiJk

あっ…(察し)

おいおい、終わったぞこれ! どーすんだよ! ナイトレイダー居ないこと確定しちゃってんじゃねぇかああああああああ!

 

 

205:名無しの転生者 ID:XknnE1lcg

やらかしたや笑い事で済む問題じゃねぇ! みんなを代弁させて言わせてもらう!

てめぇ、マジでいい加減にしやがれえええぇぇぇ! 帰ってこい! そして殴らせろ! 最後に爆弾発言するんじゃねぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

第 4 話 

 

-巨人- ウルトラマン

 

 

 

◆◆◆

 

 

◆◆◆

 

掲示板がよく分からないまま阿鼻叫喚となったり絶望したようなものが流れている間、紡絆は自身が最後に発言してから見ていなかった。

そんな彼は今、よく分からなくなった樹海の世界を見回していた。

 

「いたっ。夢、じゃないよね…」

 

そんな時、友奈が自身の頬を引っ張る。

しかし痛覚があるようで、それは現実であることを安易に証明する材料となっていた。

 

「紡絆くんは……平気そうだね」

 

「驚いてる。でも、俺が不安そうにしちゃダメだろ? 俺は男なんだから、女の子がそんな不安そうにしてたら守らなくちゃならないんだ」

 

一人だけ冷静な様子の紡絆に友奈が言うが、男だからと返す紡絆。

もっと正確に言えば、前世合わせると誰よりも年長者であり、三日前にもビーストと戦った経験が冷静な思考へと移行させていたのだ。

そして紡絆は不安そうな表情をする東郷の目の前で座り込んで目線を合わせると、笑いかけた。友奈も気づいたようで、東郷に視線を送っていた。

 

「東郷、大丈夫だ。一人じゃない」

 

「そ、そうだよ! 私たちがついてる!」

 

「紡絆くん、友奈ちゃん……。うん………」

 

一人は冷静に、一人は取り繕うように安心させようと声をかける。

すると、東郷はそんな二人に少しの笑顔を見せると頷き、再び別世界と化した樹海を見る。

紡絆は立ち上がると一瞬だけ友奈と東郷に視線を移す。

胸元で鳴り続けるエボルトラスターの音を聞きながら唇を力強く噛み締めた。

 

(二人だけでもどうにか助けたい……だけど、俺はウルトラマンの使い方を知らない。他の人に聞こうにも、掲示板は凄まじい速度で動いてるせいで流されかねないし)

 

「あっ、そうだ! 携帯!」

 

そんな思考をしていると、友奈が気づいたように携帯を取り出し、東郷も同じく取り出していた。

 

「画面が変わってるね……」

 

電源を付けたら充電が切れて落ちたため、紡絆は友奈の携帯を覗き込もうとすると友奈が見せてくれる。

その携帯には本来あるはずのアプリが消えており、画面に表示されているのが三つしかなかった。

紡絆はそれについて思考するが、その思考は一瞬で遮られることになった。

 

「ッ!? 誰か来る……!」

 

「えっ!?」

 

葉っぱで見えないが、人影が見えた紡絆が友奈と東郷を背にして警戒する。

紡絆の言葉に二人が驚いていると、言った通りに葉っぱを動かした時に鳴る音が聞こえ、そこから別の人物たちが出てきた。

同じ髪色をした少女。犬吠埼風と犬吠埼樹の犬吠埼姉妹である。

 

「友奈! 東郷! それに……やっぱり紡絆!?」

 

「え、やっぱりってなんですか!?」

 

「風先輩…樹ちゃん……!」

 

「声がかなり響いてたので、何かあったんじゃないかと思っていました…」

 

「紡絆くんの叫びが目印にもなった…ってこと?」

 

「なるほど……」

 

合点いったと言うようにポンっと左手に右拳を叩く紡絆。

しかし叫び声が離れた位置まで届いたのだと気づいた瞬間、割と恥ずかしいことをしたという真実に気づいたように落ち込むが、スルーされる。

その間にも友奈が涙ぐみながら風に抱きついていた。

 

「なんで、どうして二人もここにっ?」

 

「それなんだけど、不幸中の幸いかな。スマホのお陰で分かったのよ。紡絆だけは居ることが分からなかったけど……」

 

「あぁ、充電切れてるからじゃないですかね。というかスマホのお陰ということはGPSとかで知りました?」

 

「その話は後。今は場所を移しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひときわ大きな樹木の陰へと場所を映した勇者部一行は、唯一この状況を把握しているらしい風の話に耳を傾けていた。

風が見せた画面には、この場所を表しているらしい図と、その中にある紡絆以外のそれぞれの名前が書かれた色の違う点が表示されていた。

いわゆるマップ機能であるのだろうが、こんな場所で通常のマップが機能するなど考えにくい。

それに加えて不思議なのは、それを表示させるために風が起動させたアプリである。

そのアプリは勇者部発足時にダウンロードするように言われ、入れたアプリだ。

そのアプリはごくごく普通のメッセージアプリの機能しかなかったはずなのだ。しかし明らかに別の項目が増えている。

風曰く、この隠し機能は今の状況に陥った場合に自動で作動するという。

当然のように語る風に、東郷は疑問を覚えた。

 

「そんな隠し機能があったなんて…すごい」

 

「ということは……風先輩。何か知っているんですか? それに、ここはどこなんですか?」

 

「話す前に……落ち着いて聞いてね、三人共。あたしは、大赦から派遣された人間なんだ」

 

大赦。

その名前を知らない者は、この四国にはいない。

だがしかし、それが具体的に何をしている組織なのか明確に知っているものはそう多くはない。

それは勿論、この場にいる風以外の面々も同じだった。

 

「……………」

 

「大赦って……」

 

「神樹様を奉っているところですよね」

 

「なにか特別なお役目なんですか?」

 

なんと言えばいいか分からず、無言で聞いていた紡絆と疑問をぶつける東郷。

その疑問に風が頷いた。

 

「でも、ずっと一緒にいたのに、そんなこと初めて聞いたよ…?」

 

家族である樹は誰よりも風の近くにいた。しかし、そんな樹ですら知らなかったことを、風は語る。

まず、自分達(讃州中学勇者部)のグループが当たりでなければずっと黙っているつもりであったこと。今いるこの世界は神樹様の結界であること。悪い場所ではないが、神樹様に選ばれた自分達はこの中で敵と戦わなければならないこと。そしてこの世界には今、自分達以外に誰も存在していないこと。

 

「あの、そういえばこの点ってなんです…?」

 

「………乙女型? 乙女座ということか?」

 

再び友奈の携帯を覗き込んだ紡絆は、勇者部の名前が書かれている点より大きい点を示す名前らしき部分を読むと、星座を元にしているのかという考えが浮かんだ。

 

「……ッ!? あれは一体…?」

 

「……来たわね。ノロマな奴で助かったわ」

 

誰よりも早く背後を見た紡絆は、驚く。

少し遅れて風が睨みつけたその先。樹木の隙間のその奥に、『ナニカ』が姿を現していた。

ぼろきれのようなものを羽織った、曲線的なフォルムの巨大な『何か』。白と桃、二色で構成されたそれを表現する言葉を、誰も持ち合わせてはいなかった。

だがそれでも、明らかな異物であったことはこの場の誰もが理解出来た存在であった。

 

「あれは『バーテックス』。私たち人類の敵で世界を殺す存在よ」

 

「世界を……殺す………?」

 

「……スペースビーストじゃないのか」

 

世界を殺すというスケールが大きい話だが、紡絆だけは自身が知っている存在ではないことに小さな声で呟いていた。

あまりものスケールの大きさに理解がみんな追いついていないからか、その声は届かなかったが。

 

「奴らの目的は、この世界の核である神樹様にたどり着くこと。奴らが神樹様にたどり着いたとき、世界は終わる。それを止められるのは私たちしかいない」

 

「ん………? いや、待ってください。なんで勇者部が……!」

 

“私たち”という部分に紡絆が疑問を呈し、その答えについて風は持っていた。

 

「この日に備えて、大赦は極秘裏に適性を調査していたの。そして最も適性があると判断されたのが私たちということよ」

 

「そんなこと言われても、あんなのと戦えるわけ……」

 

声を震わせながら俯く東郷。

そんな東郷を横目に手段を提示するように言葉を続ける。

 

「戦う方法はあるわ。そのために用意されたのが『勇者システム』。戦う意思を示せば、このアプリの機能がアンロックされて私たちは神樹様の『勇者』となるの」

 

「勇者……」

 

皆が一斉に自分のスマホを見る。

紡絆を除く三人の画面には、いつの間にかそれらしきものが表示されていた。

だが、戦う方法があると言われてもすぐに動き出せる者がいるだろうか? いや、居ない。

今まで特別な力を持つわけでも、説明をされて覚悟を決めていたわけでもない中学生が動くことなど出来ない。仮に今の説明を受けて迷いなく即座に戦えるものがいるならば、はっきり言って()()だ。

その時、()()された紡絆の瞳が()()()を捉える。

本体であるバーテックスの下腹部、尻尾と思わしき部分から、光が溜まっていた。

 

「まずい! 伏せろ!!」

 

いつもは風がいる時は先輩であるため、敬語を使う紡絆だったが、緊急事態だからか敬語を忘れて全員に叫ぶ。

瞬間、バーテックスから光の塊が発射される。

放物線を描きながら飛んでくるその光は、紡絆たちがいる場所へ真っ直ぐに飛んできて---

 

 

 

 

 

 

 

 

着弾、爆発する。

風が樹を、紡絆が友奈と東郷を咄嗟に庇う。

その直後、凄まじい砂塵と衝撃が五人の体を呑み込んだ。

間近で発生した衝撃に体全体が大きく揺さぶられ、視界はチカチカと明滅する。

煙を吸い込んだからか紡絆以外が咳き込んでいた。

煙がすぐに晴れると、視線の先には()()()()()()()()()()()()()()ように再びチャージしているように見えるバーテックス。

 

「何!?」

 

「こっちに気がついてる……!」

 

樹が驚いた声をあげ、明らかに狙ってきたバーテックスに風が呟く。

怪我もなく、まだチャージに時間はかかるだろう。逃げる時間はあるかもしれない。

しかし体は無事でも心はそうとは限らない。

先ほどよりもより鮮明に感じられた『死』の予感に、東郷の心は完全に折れてしまっていた。

 

「ダメ……無理よ……。あんなの、殺されちゃう………」

 

「東郷……」

 

「東郷さん………」

 

震える体に涙を僅かに浮かべせながら両腕で身体を抑える東郷の姿に、紡絆と友奈は何と声を掛けるべきか分からない。

その姿を見てか、風が自分のスマホを力強く握りしめ、覚悟を決めたような表情で前に出る。

 

「紡絆。みんなを安全な場所に連れて行って」

 

「は……ッ!?」

 

紡絆は、その意味を理解した。

戦ったから、戦っているからこそ即座に理解することが出来た。風が紡絆に言った理由は、()()()誰よりも冷静だったから。

それだけだが、風の指示で彼女が何をやるのか気づいたのだ。

 

「戦う気か!? そんなのしなくていい! 代わりに俺が「あんたには無理よっ!」---ッ!?」

 

今まで聞いたことの無い強い口調。

風自身は気づいてないだろうが、その言葉はあながち間違ってはいない。

紡絆は言われたことに、胸を抑えながら苦悶の表情を浮かべる。

そう、紡絆はバーテックスとは別の敵、スペースビーストと戦っている。まだ傷も癒えてなく、腕の力が完全に入るかどうか言われると微妙で本調子ではないのは確かだった。

 

「いい? 勇者システムは()()()扱えない。どうしてあんたが樹海に居るかは知らないけど、神樹様に選ばれた少女にしか勇者の力は纏えないのよ」

 

「だが……」

 

「気持ちだけでも有難いわ。だけど、あんたはみんなの傍に居てあげなさい。男なんだから、守れるでしょ?」

 

勇者システムが纏えない。

それを分かった上で食い下がろうとするが、風に言われて視線を逸らした先には、友奈と東郷。

特に東郷の方は完全に恐怖に囚われていた。

 

「……わかった。友奈、東郷を頼む。ここは風先輩に任せるぞ」

 

「う、うん!」

 

何を言っても無駄なのだろうと目を伏せると、紡絆は東郷を優先することにした。

友奈が東郷の後ろに付くと、車椅子を押していく。紡絆は先導するように走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逃げている間、紡絆は時々背後を見ていた。

樹も残るようにしたようで、黄色い花と緑色の花が弾け、二人が『変身』したところも。

さらに強化された聴覚は僅かにだが言葉も拾っていた。

勇者に与えられる『精霊』が力を貸してくれる、ということを。

そして時々見える視線の先には花びらが集まり、武器のようなものを取り出した風と樹の姿が。

 

「ま、待って!」

 

そんな時、友奈の携帯が鳴り、言われた通りに紡絆は止まると友奈の方へ振り返る。

振り返った先では友奈がスマホに耳を当てていた。

 

「風先輩!? 大丈夫なんですか!? 戦っているんですか!?」

 

『こっちの心配より、そっちは大丈夫!?』

 

「はい」

 

スマホでの通話。

それのお陰で耳を当てていないにも関わらず、紡絆にも鮮明に声が聞こえていた。

 

『友奈、紡絆、東郷………黙っててごめん』

 

「---風先輩が黙っていたのは、みんなの、私たちのことを思って黙っていたんですよね。誰にも打ち明けることもできずに。でもそれって、勇者部の活動でも目的じゃないですか! だから風先輩は悪くない!」

 

キッパリと言い切った友奈の姿を見て、紡絆は笑みを浮かべる。

みんなが戦うことに納得はしていない。しかし、風が悪くないことは彼も言いたいところだったからだ。

 

『お姉ちゃん!』

 

『ハッ!? やっちゃった…!』

 

「風先輩!? 樹ちゃん!?」

 

「待て、アイツ……こっちを狙ってきてやがる……!」

 

スマホから聞こえてきた声。切迫した友奈の声と同じくして、紡絆たちからも爆風が起きていたのが見えた。

通話が切れたのか、もう声は聞こえない。

そして今度は、バーテックスが友奈や紡絆、東郷が居る方向を見て再び下腹部に光を集めていた。

さっきの小型爆弾を放とうとしているのだろう。

 

「二人とも、私を置いて今すぐ逃げて!」

 

「何言ってるの!? 友達を---あっ」

 

少なくとも、足が不自由で動けない自分を置いていけば、紡絆と友奈は逃げられる。運動神経が高い二人なら、置いて逃げれば間違いなく助かるのだ。

だからこそ東郷は死ぬ事の恐怖よりも、友達を失う方が嫌で二人に向かって叫んだ。

そのことに紡絆が何かを言おうとする前に、友奈が東郷に向かって言っていた。

最後まで言うことはなく、途中で何かに気づいたように言葉を区切った友奈は瞳に溜まっていた涙を拭き、スマホを強く握る。

 

「……友奈、まさか」

 

その姿を見ていた紡絆は何をする気か理解してしまう。

しかし友奈は既に覚悟を決めたようにバーテックスの方向を見る。

 

「……嫌だ。友達を置いてなんて、そんなこと絶対しない」

 

「お願い逃げて! このままじゃ死んじゃう!」

 

「出来ない! ここで友達を見捨てるようなやつは---」

 

紡絆は悩む。止めるべきかどうかを。

だが、悩んでいる間にも友奈は走り出した。紡絆の手は自然と伸びていたが、届くことは無い。

いや、正確には()()()()()()()。腕に痛みが走り、抑えてしまう。

仮に伸ばせたら、もっと早ければ、悩まなければ、友奈を止めることは出来ただろう。

そしてバーテックスは向かってくる友奈に向かって、小型爆弾を発射し---

 

「勇者じゃないッ!」

 

「友奈…ッ!」

 

爆発が、起きた。

紡絆は友奈の名を呼びながら爆風から東郷を庇い、即座に爆煙を見つめる。

暫しして爆煙が消えると---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友奈が左拳を突き出し、その左腕には桜色の手甲のものが付けられている姿があった。

傍には牛をモチーフにしたのか羽の生えた牛の精霊らしき存在がいて、すぐに消える。

友奈の周りに山桜が吹雪のように舞う中、バーテックスは小型爆弾を何発も発射する。

 

「---嫌なんだ。誰かが傷つくこと、辛い思いをすることッ!」

 

一つ目。

右足による上段回し蹴りで爆弾を蹴る。蹴る直前には今度は右靴が桜色の靴に変わっていた。

それは友奈が父親に教えて貰っていた武術による効果。

 

「みんなが、そんな思いをするぐらい……ならッ!」

 

二つ目。

回し蹴りの勢いをそのままにくるりと一回転し、次は左足での上段後ろ回し蹴り。同じように爆弾を破壊すると同時に、また靴が変わる。

迫る爆弾は、後二つ。

 

「私が---」

 

爆弾の1つを跳んで避けると、最後の爆弾へと向かう。

その途中、手足だけじゃなくて全身が一瞬、光に包まれると友奈の服装が変わる。風や樹とは違い、服装だけではなく髪も赤から桜色に変化している。

握っていた携帯に至っては、いつの間にか消えていた。

 

「私が……頑張る!!」

 

最後の爆弾に右拳を叩き込むと、その勢いのまま突き破る。すると友奈の後ろで爆発が起こり、その爆風に押されてバーテックスに突っ込んでいった。

 

「勇者---パァァァァンチッ!!」

 

友奈がそう叫び、右拳を突き出す。

拳はバーテックスの体の一部に直撃すると、爆弾よりも硬い、それでいて柔らかい不思議な感触の後に突き破って着地する。

そして振り返ってから敵を見上げた。

 

「勇者部の活動は、皆の為になることを勇んでやる。私は、讃州中学勇者部……結城友奈! 私は---勇者になる!!」

 

そうして、友奈は『勇者』として名乗った---

 

 

 

 

 

 

406:名無しの転生者 ID:y4AfZgWXd

クウガ式変身やんけ! はい、クウガニキ採点どうぞ!

 

 

407:名無しの転生者 ID:xCs1axZyi

うわぁ、未だによく分からんけど威力凄っ

 

 

408:アークルを宿し超戦士 ID:KtUw0G1uA

>>406

これは文句なしの100点中2000点!

 

 

409:名無しの転生者 ID:VeFWeN1M+

というかもうネクサスの世界説は完全に消えましたね…

 

 

411:名無しの転生者 ID:EmgvGnHWL

つーかイッチは何してんの? さっさと変身して、どうぞ

 

 

413:名無しの転生者 ID:n7i983AJS

ダメージを与えても再生するのか…。しかも封印の義?が必要って面倒臭いじゃねぇか! スペースビーストが居ないだけマシだけど!

 

 

415:名無しの転生者 ID:Y8omPrtNN

>>411

イッチが今変身したら東郷さんを助けられる人がいなくなるダルォ!? 半身不随で動けないし、変身してもバーテックスとやらにエネルギー使ったらビーストと戦うことになった瞬間にはエネルギーが持つかどうか分からねぇ! イッチに至っては多分傷が癒えてないし! それに、あれだけTLTが居ないことが確定したせいでスレがえっぐいほどの速度で動くらいの地獄絵図になったんだからよぉ! 仮にイッチのエネルギーが切れたら詰みだぞ!

 

 

418:名無しの転生者 ID:saZMDUDMI

イッチ? おい、イッチ!? 大丈夫か!?

 

 

419:名無しの転生者 ID:JMPp26WaR

嘘だろ…!? おい、急げ! もう変身しろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小型爆弾が次々と爆発する。

その様子を紡絆と東郷は見ていた。紡絆はただただ悔しそうに右拳を握り締め、唇に至っては血が出るのではないかと言うくらいに強く噛み締められていた。

 

「みんな……友奈ちゃん…。ダメ、私……戦うなんて、出来ない……!」

 

戦う意思さえあれば纏える勇者の力。

その画面のまま、東郷はスマホを握りしめることしか出来なかった。

覚悟が、決まらないのだ。

 

「……東郷、とりあえず避難を---」

 

とにかく、先程と同じように爆弾を発射されてしまえばたまったものではない。

だからこそ離れることを伝えようとしたのだが、突如として紡絆だけは聞いたことのある鳴き声が響いた。

 

『ピィヤアアアア!』

 

「こ、今度は何!?」

 

「ッ…!?」

 

何か分からない東郷は周りを見渡すが、何も居ない。

紡絆はいつでも東郷を庇えるようにしながら、即座に周囲を警戒した。

そして突如横から東郷を狙って触手らしきものが伸びてくる。

 

「危ないッ!」

 

「紡絆くんッ!?」

 

長時間東郷を抱えて逃げることは出来ない。

かといって短時間で逃げ切ることができるかどうかと言われると、不可能ということを()()経験していた紡絆は東郷を守るために右腕で庇うと、引っ掻くように触手に叩かれる。

痛みを堪え、左拳で思い切り触手を殴ると、ほんの少しだけ動きが止まった。

 

「ぐ……荒っぽくなるが我慢してくれ!」

 

叩かれた腕から血が手にまで伝っていくが、車椅子が前のめりにならないギリギリの全速力で離れていく紡絆。

 

「紡絆くん、大丈夫なの!?」

 

「いいから! 前だけ見ろ! 後ろは見るなッ!」

 

「どういう…… ひっ!?」

 

『ピャアアアア!』

 

紡絆が腕の痛みを我慢しながら警告するが、遅かった。

触手を持つ、ナメクジのような巨大な怪物。バーテックスと同じくらいの大きさを持つ怪獣と呼べる存在が東郷の視界に映る。

その正体は、スペースビースト。ペドレオングロースだ。

見た目からわかる通り、まさに恐怖の対象。東郷は顔を青ざめ、即座に前を向くが、先程とは比べ物にならないくらい体を震わす。

さっき見たバーテックスが神樹と人類を滅ぼすために()()という邪魔な存在を排除しようとしているならば、スペースビーストは()()()()()()()()に行動している。そう、()()()()()()()()()()の命を狙っているという明確な殺意があった。

 

「---しろッ!」

 

後ろから押してくれる誰かの声が聞こえる。

恐怖心に支配されている東郷にはよく聞こえておらず---

 

「しっかりしろッ! 東郷美森ッ!」

 

木々が複雑に絡まっているのもあって、人間しか入れないような大きさの所を何度も走った。

そのお陰でペドレオンは追いつけていないが、全く聞こえてる様子のない東郷に紡絆は立ち止まると正面に座り込み、頬を両手で挟み込んで顔を近づける。

それによって、東郷の視界からは紡絆しか映らないように。

 

「つむ、ぎ…くん?」

 

「恐怖に支配されちゃダメだ。周りが見えなくなれば、物事をまともに判断出来なくなる。いいか、俺がやつを引きつける。

だからバーテックスにだけは気をつけろ。

もしもの時は友奈か誰かに電話しろ、分かったな?」

 

正常に戻ったのを見ると、紡絆は顔を離して立ち上がる。

胸元に手を突っ込み、今かと今かと言うように点滅を繰り返すエボルトラスターを確認すると少しずつ近づいてくる鳴き声の先を睨みつけた。

 

「ど、どうする気!?」

 

「心配しなくていい。絶対に無事に帰ってくる!」

 

「待って、紡絆くん! 紡絆くん…!!」

 

東郷が首を動かして背後を見ると、既に紡絆は走り出していた。

後ろから聞こえる声を無視し、紡絆はスペースビーストがいるところまで全速力で走る---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がっ!?」

 

しかしそんな紡絆に対して、()()()()()()()()()ように放たれた火球が彼の肉体を勢いよく吹き飛ばした。

地面を転がり、紡絆を無視して東郷がいる場所へ一直線に向かうぺドレオン。

 

「こいつ……まさか前の個体か!?」

 

そこで紡絆は気づいた。

以前戦ったぺドレオンは、残りは30体は残っていた。最後には融合したようだが、生き残った個体がいても不思議ではなく、さらに再生し切れていない不安定な触手の一部分がそれを証明していた。

となれば、紡絆が()()出来ることを知っている。だからこそ、無視したのだろう。

なぜなら彼は拘束しても再び同じように変身出来るからだ。

 

「くそ…! うっ……」

 

急いで起き上がって走ろうとするが、胸のダメージが紡絆を襲う。

生身では走るのは無理だと判断した紡絆は、今まで速すぎて読むことすら出来なかった掲示板から変身しろという指示に従うように迷いなく取り出したエボルトラスターを引き抜き、同時に斜め上に掲げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、一人となった東郷は何もすることが出来なかった。

動けない東郷が出来るのは、ただ悔しがること、焦燥を浮かべるだけだ。

自分もみんなのために、囮になりにいった紡絆を助けたい、と思っても最初に浮かび上がるのは恐怖。

戦う意志を持とうとしても、無理なのだ。

そんな時、バーテックスのような連鎖的ではなく、近い距離で凄まじい爆音が響いた。

 

「まさか…そんな、紡絆くん……!?」

 

唯一勇者システムを扱えない人間。

男だからという簡単な理由であり、なんの力も持たない運動神経が高いだけの中学生が()()()()()()相手に勝てるはずもない。

 

「そうだ、お願い…! 動いて、動いて……!」

 

だが、東郷は違う。

東郷は紡絆とは違い、勇者システムを纏える条件は整っているのだ。

だからこそスマホの画面をひたすら押すが、反応してくれない。

それはすなわち---

 

「どうして、どうしてなのッ!? 早くしないと紡絆くんが…みんなが……ッ!」

 

戦う意思が足りないということ。

どれだけ心で願おうが、思おうとしようが、怖じ恐れ、不安がっていることを見極められているのだろう。その奥底の感情が意思より勝っているのだ。

そして、地面から震動が伝わってくる。地震のような揺れが発生し、足音のようなのが聞こえてきた。

東郷がその方向を見た瞬間、現れたのはぺドレオン。

口を開き、東郷を捕食せんと触手を伸ばす。

 

「ぁ……。紡絆くん……ごめんなさい………ッ」

 

それを見て、これから訪れるであろう痛みと死を受け入れるように東郷が目を閉じた。

その時の東郷は不思議と恐怖ではなく、むしろ申し訳なさと無念という感情が浮かんでいた。

そして目を閉じた影響で視界が真っ暗に染まり、暗闇の中で最後に思ったこと。

それは動けない自分を守るために囮になった紡絆について、そして自分のために戦う決断をした友奈と勇者部のことだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『デェヤァァァァァッ!!』

 

何かが聞こえる。

人の声のような、叫び声のような声。

そして何かを吹き飛ばしたような轟音。

 

『ギェエエエエエ!?』

 

「……え?」

 

同時に先程の怪物が悲鳴のようなものを挙げ、どれだけ経っても痛みが来ることも、体に何がある訳でもない。

むしろ何処か暖かい光を感じられる。

ふと不思議に思った東郷が目を開けると、目前に広がった光景に呆気に取られてしまう。

なぜなら---

 

 

 

 

 

『フッ! ハアア……フアアァァ!』

 

銀色の巨人が、ぺドレオンを投げ飛ばしていたのだから。

それこそ、()()()()()()()()

 

 

「え、うわぁ!? な、なにこれぇー!?」

 

「え、ちょ!? 誰よこいつ!?」

 

「ナメクジ? あれ!? 凄く大きいですよ!?」

 

ぺドレオンを投げた先、ちょうど勇者たちに攻撃しようとしていた乙女型のバーテックス---ヴァルゴを巻き込んで吹き飛ばしていた。

どうやら友奈たちとも近かったようで、突然飛んできたぺドレオンに驚いていた。

さらに投げられた先を友奈が見ると、再び驚愕する。

 

「って風先輩! 樹ちゃん! あの人は!?」

 

「巨人……!? おおおおお姉ちゃん! 何か知ってる!?」

 

「い、いえ知らないわ。大赦からは何も聞かされてない!」

 

明らかに勇者ではない存在。

バーテックスやぺドレオンと同じくらいの大きさを持つ銀色の巨人が居たのだから、驚くのは当然といえよう。

 

「あ……東郷さん」

 

そこで、友奈が気づく。

銀色の巨人の近く、東郷が驚いたように巨人を見つめていることを。

東郷本人からしてみれば、襲われそうになったところを突如助けられたのだから仕方がないのだが。

 

『…………』

 

東郷が助けてくれた、と思える銀色の巨人を目を見開きながらぼんやりと見つめていると、巨人は無言で首を動かして東郷を見て頷いた。

敵ではない、ということだろうか。

その意思は伝わったのか、それとも助けられた時に理解したのか、東郷は一切警戒することなく息を吐くと---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「---()()()()()()?」

 

そう、呟いた。

何故ウルトラマンだと分かったのか、それは東郷にも分からない。

唯一分かったのは、銀色の巨人を見て、銀色の巨人に助けられて、()()()()()()()()()()()()()()()()

ただそれだけである。そして、その言葉は間違っていない。

彼こそが宇宙からやって来た正体不明の光。

スペースビーストから人類を密かに守ってきた光の巨人、ウルトラマンネクサスなのだから---

 

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆
樹海に存在出来るが、男なので勇者システムは扱えない。樹海でもウルトラマンに変身は可能。

〇犬吠埼風
大赦の人間だが、巨人の存在もビーストも知らない。

〇犬吠埼樹
混乱してやっと落ち着いたのに巨人とビーストのせいでまた混乱した。

〇結城友奈
本当は怖い、けど誰かが傷つくくらいなら自分がやる。
傍にいた紡絆が勇者システムを纏えないからこそ、自分がやるしかないと判断した。

〇東郷美森
恐怖が染み付いていて勇者システムを纏えなかった。
紡絆や友奈のお陰で正常を保ている。なんか本編より追い込んでごめんね。
唯一、()()()()()()を知っているようだが……?

〇転生者達
本作の被害者。
言葉足らずなイッチのせいで頭を抱えた。
ようやくネクサス世界じゃないと分かったが、四国以外滅んでる、しかも笑いながら発言したイッチの爆弾のせいでスレがえぐい速さで阿鼻叫喚と化していた。

〇クウガニキ
これがやりたかった

〇ぺドレオン
本作は10体10体10体融合なので、二体倒されたが一体はネクサスを監視していた。
つまり生き残り。


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「-罪の意識-ギルティ」

 
ちょっとサブタイトルとか変わりすぎてるかもしれませんが、お試し中でしっくり来るものがどれか試しまくってるので気にしないでください(無計画で始めたクズの鑑)




 

銀色の巨人、ウルトラマンネクサス。

彼は東郷が無事だと分かると視線を勇者たち---否、スペースビースト、ぺドレオンと乙女型のバーテックス、ヴァルゴへ体と視線を向ける。

そして腰を深く降ろして構えると、一気に走り出す。地面をひとつ、ふたつと蹴るたびにネクサスの速度は加速する。

巨人らしく脚が長いのもあるが、ネクサスのスペック自体が高いのだろう。

起き上がったぺドレオンとヴァルゴは互いに敵対関係ではないと知っているのか、迫ってくるネクサスに近づかせまいと、ヴァルゴが下腹部から連続して砲弾を打ち出し、ぺドレオンが火球を放つ。

 

「あ、危ない!」

 

『ウッ---オオォォォォォォ!!』

 

ふと我に返った勇者たち。

その中でも友奈がネクサスに向かって叫ぶが、ネクサスは放たれた砲弾と火球に対して、()()()()()()()()()()()()()()いく。()()は足を止めるのに、だ。

火花が散る。爆発が起こる。それは全てネクサスの肉体から起きていた。

避けたらネクサスの後ろにいる東郷はどうなる? 勇者たちは巻き込まれないのか? そのような様々な状況であるからこそ、彼は突っ込む。

いや、それも虚言だ。本当のことを言うならば、ネクサス---紡絆は理解していた。長時間戦闘をすると、途中で力尽きると。

そんな姿にヴァルゴはともかく、ぺドレオンは以前と違う戦い方をするネクサスに一瞬戸惑う。

ぺドレオンは知っている。同胞が二人殺されてしまったが、次に生かすために()()()()()()()と目でしっかりと見ていたのだ。

ガードをするところも、攻撃するところも、避けるところも、倒すところも全て。

しかし今のネクサスはどうだ? ()()()()()()()()()()()()()()ようにただ最速で、最短で一直線に()()()()()に向かってくるではないか。

だからこそ生まれた隙。なればこそ、以前の情報は頼りにならないとぺドレオンは理解した。

 

『フヘェァ!』

 

そして接近したネクサスから放たれるのは、両腕に備わったアームドネクサスの側面にあるエルボーカッターによる斬撃。

左腕でヴァルゴを切り裂き、ヴァルゴが怯む。その間にネクサスが回転し、右腕のエルボーカッターがぺドレオンに振るわれる。

ぺドレオンはその切れ味を知っているため、後ろに下がって避けた。空振るネクサスのエルボーカッター。

チャンスと見たのか、ぺドレオンが触手を伸ばし---瞬間、ネクサスのエルボーカッターからエネルギーが発せられ、光粒子エネルギーのカッター光線が触手を切り裂き、ぺドレオンに直撃する。

ネクサスの技のひとつ、パーティクルフェザー。

もちろん、偶然発動出来た攻撃だ。

 

『ギィエエエエエエ!?』

 

ぺドレオンは驚愕と共に、悲鳴を挙げる。

それを無視し、ネクサスはぺドレオンを蹴り飛ばした。

次にヴァルゴのぼろ雑巾みたいな触手を掴み取ると、ぐるぐるとハンマー投げの要領で回してぺドレオンに全力で投げ飛ばす。

彼方へ飛んでいくと、再びもつれるように二体の敵は倒れた。

 

「わぁ……! バーテックスもナメクジみたいなのもあっさりと吹き飛ばしちゃった!」

 

「す、すごいです……」

 

圧倒的、と言える強さを持つネクサスに友奈は英雄(ヒーロー)を見た子供のように目を輝かせる。

元々友奈は勇者などが好きで、その姿がネクサスに重なったのだろう。

そして樹も樹で戦いの場であるにも関わらず、何処か安心していた。

ネクサスが纏う雰囲気を感じて、自然と気持ちが安らいでいたのだ。

そんな二人は警戒することなく不用心に近づこうとしていた。

 

「ちょ、ちょっと二人とも待ちなさい! まだ敵かどうかも分からないんだから!」

 

そこを風が止める。

当然の行動であり、大赦から何も聞かされていない風は突然現れたぺドレオンとネクサスは警戒する対象なのだ。

彼女はバーテックスと戦うことしか聞いてないのだから。

 

「でも風先輩! 近くにいる私たちを狙わずにあの二体を狙いましたし、きっと味方ですよ!」

 

「お姉ちゃん、私も……そう思う」

 

しかし、迷いなく味方だと答える友奈と樹の姿に風は悩む。

別に風も敵だと判断している訳では無い。ナメクジみたいなのはともかく、巨人は明らかに攻撃しようとしてこないのだから。

むしろ敵なら既に手に待つ大剣で斬りかかっている。

 

「……分かったわ。私がコンタクトを取ってみる。二人はちょっと待ってて」

 

悩んだ末に出た答えは、二人の言葉を組み込んだ行動。

せめて敵だったとしても、自分が時間を稼げるように、だ。

二人は大丈夫だとは思っているが、()()ではないのは確か。

素直に風の提案に頷いた。

すると風も頷き返し、大剣を担ぎながら勇者の跳躍力で巨人の腹ぐらいまでの高い木に登ると、警戒しながら見つめ、口を開く。

 

「そこの巨人! あんた一体何者なの!?」

 

交渉でもなく、単刀直入に聞く。

普通は情報を得るために別の聞き方をするだろうが、残念ながら交渉術を発揮しなかったようだ。

ネクサスは大声で聞いてくる風に視線を送ると、何も答えない。

 

「ちょっと、聞いてる? というか、言葉通じる?」

 

明らかに口らしき部分はあれど、開くのかどうか分からない姿に当然の疑問をぶつけると、ネクサスは通じていると伝えるように頷いた。

 

「あぁ、言葉は通じるのね……。なら単刀直入に言うわ。あんたは味方? それとも敵?」

 

言葉が通じるなら、と早速本題に風が入る。

しかし、ネクサスは答えることなく、突如として行動に移した。

風に近づき、両腕を降ろしたのだ。

 

「ッ!?」

 

「風先輩!」

 

「お姉ちゃんッ! 右!」

 

敵だった、と判断したのか風が大剣を構える。

そこで聞こえてきたのが、友奈と妹の樹の声。緊迫したような声に言われた方向を見ると、迫ってくるのはぺドレオンが持つ触手とヴァルゴの卵型のボール---それは追尾型の爆弾。

さらに風が上を見ると、大きな影が覆いつくし、そして---

 

 

 

 

 

 

 

『デヤッ!? ウワアアアアァァァァ!』

 

絶叫が聞こえる。苦悶するような声だ。

その理由は明確で、ネクサスは風を攻撃しようとしていたわけではない。

自身の肉体で風を覆うことで、守ったのだ。両手を地面に着き、肉体を最低限まで下げることで人間が入れる空間を開けながら全ての攻撃を受けるために。

 

「あ、あんた……ッ!?」

 

『グァ……ウウッ……!』

 

「樹ちゃん!」

 

爆発が消えてもなお、覆いかぶさったままだ。

何故なら触手がネクサスの背中を叩いていて、離れようものなら風に当たるからだ。さらに踏み潰さないように両手の力を抜くわけにも行かず、行動に移せなかった。

守られていることは風も理解したようで、驚きと心配を含んだ声音。友奈たちはその様子を見て助けるために行動に移す。

まず樹が右腕に蔦が巻きついたようなわっか状の飾りが付いている花からワイヤーを射出。

僅かな空間から風を絡め取ると悲鳴を挙げる風を無視しつつ自分たちがいる距離まで引っ張り、守る対象がいなくなってもなお立ち上がれないネクサスを援護するため、友奈が空中から触手に向かって思い切り殴りつける。

勇者システムはぺドレオンにも通用するようで、ダメージを受けたように触手が引っ込む

 

『シェア……ヘアッ!』

 

しかし逃がさないと言わんばかりにネクサスが両膝をついたまま触手を掴み取り、エルボーカッターで切り落とす。

だが、無理をしていたのか息を整えるように腹式呼吸する人間臭いネクサスの姿に、友奈は近づいていた。

 

「えっと、大丈夫……ですか?」

 

『………』

 

一応敬語がいるのかな、と思いつつ友奈が聞くと、ネクサスは立ち上がりながら頷く。

すると友奈は笑顔で良かった、と呟いた。

 

「風先輩! とにかくあの二体をやっつければいいんですよね!」

 

「え、えぇ。えっと、助けてくれてありがとうね。正直まだ分からないけど、味方だと思っておくわ」

 

風は助けてくれたことにお礼を言いながら、正体不明とはいえど守ってくれたのなら味方だと判断してヴァルゴとぺドレオンを睨む。

 

「お姉ちゃん、封印の儀が必要なんだよね? バーテックスじゃない方もいるのかな……?」

 

「それは分からないけど、まずはバーテックス優先! えー…名前が分からないから巨人! とりあえず時間稼ぎ頼める!?」

 

『ハアッ!』

 

呼ばれたことに頷くと、ネクサスが再び走り出す。

その後を友奈たち勇者がついていくが、ネクサスの速度の方が速かった。

先に辿り着いたネクサスはぺドレオンにストレートを食らわせると両手で掴んで膝蹴り。そのまま右側に倒し、ヴァルゴの爆弾と触手攻撃を受けながらも触手を握りしめて全力で引っ張る。

 

『ウオォォォ---ヘアアアアアァァァッ!』

 

両手で引っ張ると、少しの時間はかかったが、引きちぎることに成功する。

部位破壊。

そのダメージにヴァルゴの肉体が斜めに歪む。

ネクサスは瞬時に片足を頭上に上げると同時に、肩らしき部分に打ち下ろす---かかと落としで地面に叩きつけた。

 

「位置に着きましたー!」

 

「こっちも着いたよ、お姉ちゃん」

 

「よし、封印一気に行くわよ! 教えた通りに!」

 

風が教えた手順は至って簡単だ。

その1.まず敵を囲む。

その2.敵を抑え込むための祝詞を唱える。

その3.現れた”御魂”を破壊する。

三つのその工程をすれば、再生するバーテックスを倒せるらしい。

だからこそネクサスがヴァルゴをダウンさせたのだが---

 

 

『フェ!? ジュワッ!』

 

「え? うわわ!?」

 

突如飛んできた触手の攻撃。

全て斬り裂いたはずのぺドレオンの触手が()()していた。

ネクサスが気づくと、驚いている樹の間に入り込んで右手で触手を掴む。そのまま自ら右手をぐるりと回して巻き付けると、()()()()というように雷撃が流されるが、ネクサスは無視する。

 

「樹!? 平気!?」

 

「う、うん助けてくれたから……!」

 

『シェアッ! フアア---ウォアアアァァ!』

 

勇者たちはスマホを片手に連絡しあっているが、風の心配に樹は平気と言うように声を挙げると、ネクサスが起き上がろうとしていたヴァルゴに片腕を振るってパーティクルフェザーを一撃与え、雷撃を雄叫びのような声を挙げることで我慢しながらぺドレオンに突っ込んでいく。

 

「巨人も向こうを抑えてくれるみたいね。なら今のうち!」

 

友奈と樹は端末を取り出し祝詞を確認する。

 

「これ全部読むんですか!?」

 

『手順ソノ二』と書かれたその画面には、見慣れない言葉の羅列。

友奈はあまり詳しくないが、神社のお祓い等で神職の人達が唱えるような言葉だった。

しかもそれなりに長い。

 

「え、えと……。かくりよのおおかみ、あわれみたまい、めぐみたまい………」

 

戸惑いながらもとりあえず唱え始める樹。

それを聞いた友奈も樹の後に続いた。

掲げた手の横に、精霊が姿を見せる。

どうやら間違ってはいないようだ。

自分の体に起こりつつある異変に気付いたバーテックスが修復もそこそこに激しく暴れ始めた。

早くしないと妨害されるかもしれないが、そこに飛んでくるのはパーティクルフェザー。

再びヴァルゴを黙らせると、ネクサスは自身を痺れさせるぺドレオンを殴り飛ばそうとするが、突如ゲル状となって回避。

そのままヴァルゴの元へ向かっていくのが見えたネクサスが追い始める。

 

「さきみたま、くしみたま、まもりたまい……「ええい! おとなしくっ……しろぉ!!」えぇ!?」

 

友奈の祝詞の途中でしびれを切らした風が、気合と共に大剣を一閃する。

驚いて中断してしまった友奈達。

失敗かと思ったその時、バーテックスの足元に光の円陣が現れ、それと同時に顔のような部分から逆さになった四角錐の物体が吐き出された。

 

「な、なんかベロンと出たーっ!? 成功……なのかな?」

 

「えぇ、要は気合いさえ入れたらいいのよ」

 

「それを早く言ってよ、お姉ちゃん……」

 

困惑する友奈に、あっけらかんと答える風。

いつだって大雑把な姉に、樹ががっくりと肩を落としていた。

 

「アレが”御魂”。バーテックスの心臓よ。アレを破壊すれば、私たちの勝ち!」

 

「なら私が!」

 

風の言葉を聞き、友奈が一気に飛ぶ。

跳躍して狙いを定めた友奈の拳が、バーテックスの御魂の中心に叩き込まれた。

同時に響く、大きな金属音。

 

「かったぁぁぁぁぁぁい! これ硬すぎるよー!!」

 

御魂の上で、右手を押さえながら悶える友奈。

御魂を守るようにゲル状から戻ったぺドレオンが妨害しようとするが、ネクサスが掴んで行かせない。

 

『フアッ!』

 

ぺドレオンを掴みながらネクサスが御魂を見つめる。

その下には制限時間のような白い文字が描かれていた。樹も気づいたようで、疑問の声を挙げる。

 

「お姉ちゃん、何か数字減ってるんだけど……これなに!?」

 

「あぁそれ? 私たちのエネルギー残量。その数字がなくなると、封印し続けられなくなって、そいつを倒すことができなくなるの」

 

「そ、それってまずいんじゃ……」

 

「コイツが神樹様にたどり着いて全てが終わるということよ!」

 

風の説明によって、焦りの顔がみんなに浮かび上がる。

早く壊すために友奈と交代して破壊に向かった風が、大剣を勢いよく叩きつけた。

が、それもほんの少し傷をつけるだけで、あまり効いた様子はない。

 

「---ったいわね! ヤバいわ、いきなり大ピンチかも……」

 

『ジュア……!』

 

前蹴りで一気にぺドレオンを吹き飛ばしたネクサスが風に視線を送る。

自分がやると拳を握りしめた姿を見て、風は意図を理解したように頷いた。

 

「任せたわ!」

 

ネクサスに叫びながら風が御魂から降りる。

勇者の力ではないから壊せるか分からないが、ヴァルゴの触手を引き裂いたことから試すべきだと判断したのだろう。

 

『デアアアアアッ! グォオォォ……!?』

 

風が御魂から居なくなったのを見たネクサスが拳を深く振り絞ると鋭いパンチを与える。

しかしネクサスの拳を持ってしても壊れることはなく、逆に痛みに耐えるように拳を抑えるネクサス。

そこでネクサスが後方三回ひねりで距離を離すと、抜刀するような構えを取る。

ネクサスの右手と左手を行き来するように青い稲妻が迸ると、エネルギーが光に変わり、その光がネクサスの手のひらに纏われた。

 

『ヘアッ!』

 

ネクサスはその光を保ったまま両腕を今度は右胸付近に持ってきて、腕を十字に構える。

すると光の光線---『クロスレイ・シュトローム』が放たれた。

一直線に放たれた光線技は御魂に直撃し、ヒビが入っていく。

その間にも樹海の木々が燃えたように赤く染まり、黒く染めていく。その姿はまるで---

 

「枯れてる!?」

 

「始まった!? 長い時間封印していると現実世界に悪い影響が出るの!」

 

『……! ジュワァァァ!』

 

それを聞いたネクサスが、自身のエネルギーを気にせずに破壊するために力を込める。

クロスレイ・シュトロームにネクサス自身のエネルギーが注ぎ込まれ、少しずつ光線が強まることでヒビが広がっていく。

 

「あ……後ろから来てます!」

 

『フッ……!? シュワッ!』

 

しかし寸前のところで樹の声に反応してネクサスが光線を切ると空を飛ぶ。

ネクサスから御魂を守るために放たれたぺドレオンの火球は皮肉にもヒビをより加速させたが、破壊するまでには至らない。

そしてネクサスは避けた先の空中でぺドレオンの方向を向いて一回転。

 

『ヘェヤアアアアアア!』

 

右足を発光させると、急降下しながらドリルのように回転する。それだけではなく、アームドネクサスを交差することで空中からマッハムーブによる高速落下を加えた回転キックだ。

 

「このぉぉぉおおおおぉ!!」

 

友奈も飛ぶ。

狙いはあと寸前のところで破壊できるであろう御魂。

 

「 (痛い……怖い……)けど、大丈夫ッ!」

 

『デェヤアアアアァァッ!!』

 

偶然。

友奈の傍に精霊が出現し、御魂に拳を叩き込む友奈と、ぺドレオンに回転キックを食らわせるネクサス。それだけではなく、ネクサスの背後には回転に伴い炎の竜巻が形成される。

そして---友奈の拳による一撃がボロボロだった御魂を砕き散り、友奈はそのまま突き破る。さらにネクサスによる回転キック---スピニングクラッシュキック+マッハムーブがぺドレオンを貫いた。

奇しくも同タイミングで貫き、地面に着地した二人。

 

「どうだ!」

 

友奈が振り返った先、御魂はついに崩壊し、光が天へと帰っていくところだった。

そこで御魂が破壊された遺されたバーテックスの体が、砂となって崩れ去る。

ネクサスの背後で大爆発が起きる中、ネクサス---正確には紡絆だが、唖然と光の球体とそこから出る虹色のオーラを見ていた。

 

『……フッ』

 

復活の兆しはなく、ビーストも消滅した。

風が友奈に元に飛びつき、つい嬉しさのあまり痛めている手に触れて痛そうにする友奈と合流するように樹も駆け寄り、集まった三人をネクサスは見て、視線を遠くの東郷に送った。

安心したように息を吐く東郷の姿が見えるとネクサスの体が光り輝き、球体となって空の彼方へ飛んでいく。

同時に大きな揺れが起こり、極彩色の木の葉が舞い上がった。役目を終えた、と言うように神樹様の結界が解除されていく。

木の葉はみんなの視界を覆いつくし、やがて晴れていった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 第 5 話 

 

-罪の意識-ギルティ

 

 

 

ユウガオ

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにあの樹海はなく、いつもの風景が広がっていた。

結界に入る直前には校舎内にいたはずだが、どうやら屋上の様で転移させられたのだろう。

周りにはもちろん勇者部のみんな---がいるはずが、一人だけ存在していなかった。

 

「あれ? ここ……学校の屋上?」

 

「神樹様が戻してくれたのよ。流石に教室だと急に現れたみたいになるからね」

 

友奈の疑問に風が答えると、友奈は東郷に気づいて駆け寄る。

 

「東郷さん! 無事だった? 怪我はない?」

 

「友奈ちゃん……うん。私は大丈夫。でも……」

 

暗い表情をする東郷。

怪我もなく、平気だと言うのに何故そんな顔をするのか---と言うと、彼女は屋上へ転移させられると勇者部のみんな、風、樹、友奈がいることは視覚出来た。しかし()()()()なのだ。

 

「でも? あっ、そういえば紡絆くんが居ない……?」

 

「ッ……」

 

友奈も気づいたように周りを見渡すが、東郷と()()()()の継受紡絆という一人の男の子が居なかった。

言われて風と樹も見渡すが、やはり居ない。

 

「神樹様が間違えたとか?」

 

「ず、ずっと東郷先輩の傍に居たんですよね……?」

 

流石に一人欠けていることに気づくと、焦りが生まれてくる。

しかし樹の言葉に否定するように東郷が首を降った。

 

「ち、違うの。紡絆くんは私を守るために囮になって……それで……」

 

悲痛な面持ちでポツポツと語っていく東郷。

涙も貯めながらも真実を伝えるために言わなければならないということから我慢し、東郷は語った。

自分を守るためにナメクジのような敵を引きつけるといって、一切姿を現さなかったことを。爆発が起きたことから、恐らく攻撃を受けたことを。自分だけが巨人に助けられたことを。

その全てを語った東郷は、何処か懺悔するような震えた声で告げた。

 

「そんな……。じゃあ、紡絆くんは……」

 

東郷の言葉に友奈も---風や樹も含めて勇者部全員が理解する。

継受紡絆という一人の存在がいなくなってしまったことを、このお役目は命に関わり、一つのミスや油断であっさりと失うことを---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー! 怖かったぁー! ってあれ!? な、なんで幽霊を見たかのように見てくるの?」

 

なお、無駄に高いテンションで()()()()()入ってきたこの瞬間までは、だが。

 

「お、東郷。無事だったか? よかったよかった。いやー我ながらあっさりとやられちゃってさー情けないよなー。あはは」

 

何故か無言で死人を見たかのように見てくる空気に耐えられず、紡絆は笑いながら東郷に近づくと、怪我がない様子にうんうん、と頷く。

全員がぽかんとしている中、ハッと気づいたのは我らが部長。風だった。

 

「ちょ、ちょっとあんた---紡絆、よね?」

 

「いや、その他に居ます? うどんだけじゃなくてラーメン、蕎麦全ての麺が大好きな紡絆ですよ。というか、他は知りませんけど讃州中学に俺以外の紡絆が居ますか?」

 

変なことを聞いてくるなぁ、とか最後に呟きながら心配していたことも知らずあっけらかんと答える紡絆に再び無言が生まれる。

 

「え? もしかして俺死んでた? これ、死んでたと思われてた!? ちょ、生きてるよ!? めっちゃ生きてますから!」

 

これには明らかに鈍そうな紡絆も気づき、慌てて生きてることを証明するように意味の無い腕回しをしたり深呼吸をしたりジャンプする。

ついでに足を上げて指を差し、『ちゃんと足もついてますし!』とか言っていた。

 

「紡絆くん……ッ!」

 

「ウェッ!?」

 

本人が生きていると証明しようとしていると、足が動かないにも関わらず動こうとした東郷に紡絆が支えようとしたら抱きつかれ、予想外のことに支えきれずに地面に尻もちを着く。

東郷はそんな紡絆に気にすることなく、普段からは考えにくい年相応の子供らしく紡絆の胸に顔を埋めていた。

 

「生きてる……生きてるのね? ちゃんと生きてるのね……!?」

 

「おおお、おう……。生きてる生きてる。つーか恥ずかしい」

 

「よかった、本当によかった……。心配させないで……怖かったんだから……っ!」

 

精神年齢推定三十歳以上、肉体が中学生なのもあって思春期には東郷---というよりも女の子に抱きつかれるのには精神的ではなく肉体的に慣れておらず、何処か恥ずかしげにしながらも涙を流す女の子には勝てないようで、自分が悪いことも自覚しながら頭を撫でていた。

 

「で、でもずっとどこへ……?」

 

「あ、トイレ行ってたよ。なんかごめんね、樹ちゃん。みんな」

 

「あんたねぇ……」

 

「あはは、でも無事で良かった!」

 

東郷を撫でながら、まさかの理由を発表する紡絆。

なるほど、と納得したように頷きながら安堵の息を吐く樹。

風は心配して損した、と言わんばかりに額に手をやりながらため息を付き、安心したように笑みを浮かべる。

友奈は胸に手をやりながら元気よく振る舞うが、胸の内では心底安心したように息をついていた。

 

「ほら東郷、ごめんな。実はあの時光の巨人に助けられて生きてたんだ。ただまあ、衝撃は殺せなくて意識失ってたんだよ」

 

「紡絆くんも……()()()()()()に?」

 

「え? あ、あぁたぶん?」

 

理由を話すと、まさかの返しに動揺する紡絆だったが、バレてないと分かると何故か疑問符で返す。

そこに風が入ってくる。

 

「待って、ウルトラマン? あの巨人のこと? 東郷は知ってるの?」

 

大赦の人間である自分ですら知り得ない情報に風は慌てて聞く。

聞かれた東郷はキョトンとするが、考えるように顎元に手をやる。

だが思いつかなかったのか、手を下ろすと首を横に振った。

 

「いえ……やっぱり分かりません。あの巨人を見たら自然と浮かんだんです。知らないはずなのに何故か……」

 

「そう……まあ。巨人って言うのもあれだし、アイツ---ウルトラマンのことは私が大赦に聞いてみるわ」

 

(バレてないのは良かったけど、早く退いてくれないかなぁ……)

 

変な名前を付けられなかった事と昭和ウルトラマンは皆変身をバラしてなかった記憶があった紡絆は安心するも、勇者部はお世辞なしで全員が美少女なのだ。

その中でも男からすると弱いのは間違いなく東郷だ。

何処が、とは言わないが大人顔負けのところがずっと当たってる紡絆には煩悩を描き消そうとぼうっと空を見て、綺麗だなーとか現実逃避するしか無かった。

 

「あ、そうそう。ちなみに他の人からすると今日は普通の木曜日なのよ。

つまりは---結界が展開されている間は外の時間は止まったままだったから今はがっつり授業中よ?」

 

「「「えぇ!?」」」

 

「まぁ、あとで大赦にフォロー入れてもらっとくわ。あ、でも紡絆は想定外だった……大丈夫かしら」

 

「え、ちょ。俺だけ!? それはないでしょ、部長ー!」

 

屋上に、少年少女の笑い声が響く。

始まりは突然だったが、戦いを乗り越えることは出来た。誰かが犠牲になることも、誰かが倒れることも無く。誰かが傷つくこともなくみんなが笑顔を浮かべている。

 

「あ、友奈。ちょっと手伝って」

 

「うん! はい、東郷さん」

 

「二人とも……ありがとう」

 

友奈に手伝って貰い、紡絆は東郷を車椅子に戻す。

すると授業に途中参加する訳には行かないから、一旦部室に戻るという風の提案にみんなが乗って戻っていく。

風と樹が話しながら戻っていき、友奈と東郷も後ろから向かう中、友奈は一人だけ屋上で外を眺めている紡絆に振り返った。

 

「紡絆くん、行くよー?」

 

「あぁ、先に行ってて。すぐ向かうわ」

 

「あんまり遅れないようにね」

 

「おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

---だからこそ気づかない。

友奈と東郷が去っていき、全員が居なくなった屋上。

一人になった紡絆はフラフラとした、まるで怪我人のような動きで壁に背を着くと、明るく振舞っていたのが嘘ように苦しそうな表情を浮かべながら荒い息を吐く。

限界と言うように座り込んだ紡絆はポケットに入っている財布などを傍に置き、腕を捲った。

僅かに見える白いタオルが巻かれているが、それは白ではない。()だ。白のタオルが真っ赤に染まっているだけで、紡絆の血が白いはずのタオルを赤く染めていた。

これこそが、彼が屋上に居なかった理由。

緊張感のないトイレなんかではなく、タオルで制服が血に濡れないようにするためだ。夏服じゃなかったのが唯一の救いだっただろう。

右腕の怪我。東郷を守るために庇った箇所は本当ならば、一撃受けたとしても軽い負傷で済むだろう。しかし紡絆の場合は防御なしの戦い方をしていたため、全身のあらゆる箇所にダメージが蓄積していた。

さらに右腕に至っては変身前に怪我していたにも関わらず、ほかの攻撃以外に雷撃も受けている。だからこその、出血。

背中の方にも怪我はあるだろうが、残念ながらそこは見えない。

 

「これは……確かに高難易度だ…」

 

紡絆は苦笑いを浮かべる。

掲示板でウルトラマンの中でも高難易度と言われていたことを思い出したのだろう。

彼にとって高難易度と聞けば、ウルトラセブンとウルトラマンレオだ。

前世では彼は平成に入ってからは離れたためにあまり知らないのだか、友人にはメビウスというウルトラマンはお前は見るべきと言われた記憶が残っていた。後は過労死トラマンの一角とか。

 

「ふぅ……」

 

一息付き、財布から一枚の折りたたまれた紙を取り出す。

家族の写真だろうか? 

左に紡絆が笑顔を浮かべており、背後には仲睦まじく肩を寄せあっている夫婦、それから---美少女と呼べるほどの女の子が紡絆に腕を絡めて笑顔を浮かべている写真。

年齢は、紡絆より下に見える。

 

(……もう死なせない。前世の記憶がなかった頃とはいえ、救えたはずだった。

違う、俺が選択を間違えたんだ。あの時、出かけるのを止めることが出来たなら、救えたはずだったのに。俺の……罪だ。

ごめん父さん、母さん、小都音---)

 

小都音。

それは写真から抜き取るに、継受紡絆という一人の人間の妹であり、家族なのだろう。

だが、彼の家にはそのような人物たちは誰もいない。その理由は交通事故で()()()()()()()()()()()()()からだ。

それでも明るく振舞っていた紡絆はそれが()()だったのを理解していた。もしかしたら、周りも理解していたかもしれない。

しかし同時に、それが必要なのも本人は理解していた。

例えそれが、空回りしていても、自分を強く思わなければ、より自分らしく居なければ、ダメだったから。そうしないと()()()()()()()()()()()()()()()()()から。

それが一番、彼が彼である限り、耐え難い。()()()()()()()()が。

果たしてその頃に前世の記憶があれば変わったのか、否。

何も変わらない。

 

「さて、みんなの所に行きますか!」

 

だから継受紡絆は偽りの仮面(前世の自分)を被らない。思い出した前世の自分ではなく、この世界で生きていた継受紡絆という明るく、誰かを笑顔に出来る心優しい一人の少年の仮面(本当の自分)を被るのだ。

どれだけ自分が傷つくことになろうが、勇者部という自身の居場所を守るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

428:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

戦闘終わったぞー! ちょっと一悶着……というか東郷さんに抱きつかれただけなんだけど、あったから来れなかったわ

 

 

429:名無しの転生者 ID:UDoDPhegM

おつーそれは殴らせろ

 

 

430:名無しの転生者 ID:XknnE1lcg

ぶっちゃけ50発くらい殴りたい

 

 

431:名無しの転生者 ID:ZX4QU9okC

相変わらず百合の間に挟まってるとか……死刑だな

 

 

432:名無しの転生者 ID:zD9wCt6/+

なんてうらや……東郷さんに心配させるんじゃねーよ。せめて泣かせるようなことはするな

 

 

433:名無しの転生者 ID:oz4AWjZL/

どっちかというと巻き込まれてるタイプじゃね?

 

 

434:名無しの転生者 ID:MsxSLceTU

まあ、イッチは後で纏めておいてくれや

 

 

435:アークルを宿し超戦士 ID:KtUw0G1uA

今度こそちゃんと纏めてね。例えば、何らかの病気があるならあるとか

 

 

436:名無しの転生者 ID:+AykUlVK0

イッチのせいでネクサス世界だと思ってたのに絶望に突き落とされたからな……

 

 

437:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

いやだって、みんなが言うんだからネクサスの世界だと思うじゃん? というかみんな怖いよ

 

 

438:名無しの転生者 ID:q3JaSSQAg

確かに俺らもイッチはネクサスの世界を知らないのに確定したのは悪いな

 

 

439:名無しの転生者 ID:4dlrVXjpW

お互い様だろ。とにかくバーテックス?とかよく分からんからまとめてくれると助かる。今度は個人情報は隠してもいいが、もうその世界の歴史とかの秘密はなしで

 

 

440:名無しの転生者 ID:LMLRbI+MB

でもバーテックスも強かったなぁ…ん? 強かったか? あれ? なんかイッチに一方的にやられてた気がするんだが? むしろぺドレオンにないはずの再生能力に驚いたわ

 

 

441:名無しの転生者 ID:YhbQuZlri

ぶっちゃけバーテックスよりも御魂ってやつの方が硬かったのは草

ネクサスですら壊せないってなんだよ

 

 

442:名無しの転生者 ID:4YC3Zv8qm

最初はチュートリアルの難易度になってるに決まってるだろ! いい加減にしろ! イッチは……はよジュネッスになってもろうて。つーかいつなるんだよ

 

 

443:名無しの転生者 ID:R53G/2m+d

今でしょ

 

 

444:名無しの転生者 ID:1V5a6cZvx

もう古くなったなぁ……

 

 

445:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

やーバーテックスの攻撃は痛かったけどね、特殊能力がぺドレオンと似てて知ってる力だからいけただけ。

ジュネッスにはマジでなる方法が分からん……昭和ウルトラマンってタイプチェンジするウルトラマン居なかったでしょ? 唯一スーパーウルトラマンタロウは知ってるけど、あれは俺一人じゃなれないし

 

 

446:名無しの転生者 ID:VSIKwoubp

誰かウルトラ戦士は居ないんですかねぇ、このスレ。もしかして全員忙しいのか? ティガニキ時空の転生者は見てきたら今既にウル銀始まってるらしく、ほぼ氷像になってるしあるやつはテクターギアイヤァ!ってコテハンついてたわ

 

 

447:名無しの転生者 ID:9wOZgFltz

そういや、勇者服っていうのかな。いいっすね〜。足がエッッ

 

 

448:名無しの転生者 ID:d/P7RVd0k

変身中の樹ちゃんがあざといよな

 

 

449:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

マジ? 俺の場合遠かったせいでよく見えなかったからかピカッと光って終わったんだが。俺がウルトラマンに変身してる時はどうなってるんだ?

 

 

450:名無しの転生者 ID:1rNFavK4I

あーこっちはなんかこう、神様視点みたいな感じだからな。心の内までは分からんが、変身系は何故か見えるんだよね。プリキュアとかだって見えるし……流石に裸体はモザイクかかるが

 

 

451:名無しの転生者 ID:zirZVwfoO

ちなみにイッチの場合はぐんぐんカットちゃんとしてるで。ウルトラマンらしいわ。しかもエックス仕様じゃなくてネクサス本編仕様なのすこ

 

 

452:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

>>440

つよつよアンファンスだからねぇ。マジでコイツ軍人じゃないのか?と思うわ

 

 

453:名無しの転生者 ID:SLElEoJJ3

でも流石に肉体のダメージやばそう

 

 

454:名無しの転生者 ID:N4oOf5nfU

そういや、いつもは戦い方が姫矢ネクサス……というか普段のネクサスって感じなのに、今回は憐ネクサスっぽかったよな。速度も速かったし。マッハムーブとスピニングクラッシュキックの組み合わせで速度を加速させることで威力をより上げたのは驚かされた。

 

 

455:名無しの転生者 ID:7PxSH6LdH

確かに、スピード重視で戦ってた気がする……長期戦を避けたかったか?

 

 

456:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

生身でぺドレオンの攻撃受けてたから長期戦はな……。でも正直アンファンスはキツいっす……ジュネッスに変身させて

 

 

457:名無しの転生者 ID:4t8qIiacA

本来はアームドネクサスを使うんだが、この前もいっぱいポーズしてた割にはなれなかったしなー。ウルトラマンになってみないと分からん。それもネクサスに近いウルトラマンか、ネクサス自体に。なりたくないがな!

 

 

458:名無しの転生者 ID:lpeY61t2d

過労死トラマンの一角になりたいやつなんて余程好きかバカかMぐらいなんだよな……後はイッチみたいに強制的になったやつくらいしかいねーよ

 

 

459:名無しの転生者 ID:OX82Ln2AK

ただネクサスの場合は変身者依存系だから地球上でも実質制限時間ないんだよね。

ほんと、ジードとかじゃなくて良かったな。ジードなら約20時間変身不可能になるし

 

 

460:名無しの転生者 ID:t9C+t9m6b

その分ネクサスは適能者、デュナミストの負担がなぁ……

 

 

461:名無しの転生者 ID:y+ZbsNwnt

そういえば結局きらら作品じゃないのかな

 

 

462:名無しの転生者 ID:Rluzn7bKJ

フォワードなら有り得るかも知れない……。

死体から~♪

死体なら~♪

死体とき~♪

死体でしょ~♪

遺書に、灰!

 

 

463:名無しの転生者 ID:kqKkNBUzG

私たちはここにいます!(SOS)

 

 

464:名無しの転生者 ID:YXmgAC9rU

ここには(悪)夢がちゃんとある

 ※希望はありません

 

 

465:名無しの転生者 ID:z439woAvN

洒落にならないOPをやめろw

 

 

466:名無しの転生者 ID:HUfUDR2Sg

あーあの作品に転生したティガダークパイセンとかグリッドマンとか生きてるのかな。グリッドマンに至っては変身するまでが難易度高すぎる……原作開始前までにジャンク見つけてくるわとか言ってたが

 

 

467:名無しの転生者 ID:q0yPlMIUH

最近見ませんね……

 

 

468:名無しの転生者 ID:dX7/SoabR

>>457

通りすがりの転生者が居てくれたらウルトラ戦士にも連絡入るだろうになぁ。あとはゼロファイト終わってジード控えてるゼロ師匠とか

 

 

469:名無しの転生者 ID:dX4VvPbs9

>>456

ジュネッスになれないと今後詰みそうだもんなー間違いなく激化していくだろうし

 

 

470:通りすがりの転生者 ID:1ODQnWfKd

>>468

呼んだか?

 

 

471:名無しの転生者 ID:fO/WiPiDc

ファッ!?

 

 

472:名無しの転生者 ID:NBpcUD1dV

ダニィ!?

 

 

473:名無しの転生者 ID:tlJdoNqJo

ダニー!

 

 

474:名無しの転生者 ID:mCX10QzND

もうジオウ編終わったのか!?

 

 

475:名無しの転生者 ID:YZLjw/LJJ

や っ た ぜ

 

 

476:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

この人が通りすがりの人か……!

 

 

477:通りすがりの転生者 ID:1ODQnWfKd

>>474

ゴースト編は片付いた。それで何で悩んでるかと思ったら……なるほど、だいたいわかった。

つまりは強化フォームに変身したいんだな? 既に手は打ってある

 

 

478:名無しの転生者 ID:7js1SYxFO

やだ、有能……。流石ヤンホモに追われてる転生者だぜ

 

 

479:名無しの転生者 ID:nfY1Py5+Y

当時は衝撃でしたね……。まさか戦隊コラボの時に嫉妬+告白(物理)してくるとは

 

 

480:名無しの転生者 ID:iOF7+1ND1

通りすがりの人はジオティケでの死亡を回避したくて頑張ってるんだっけか?

 

 

481:名無しの転生者 ID:0e2Nz0osi

ところで、どうするんだ? まさかイッチの世界に行く訳じゃあないだろうし。仮面ライダーとウルトラマンではフォームチェンジ、タイプチェンジ、全然違うからな

 

 

482:名無しの転生者 ID:EhjrtpO8d

そもそも、転生者同士あまり世界の移動はオススメ出来ないからなぁ。同じ時空……というかシリーズなら問題ないんだが。

例えばウルトラマンのゲーム世界、ロストヒーローズとかはクロスオーバーが元だから出てくる作品のシリーズなら問題なし、みたいな感じな。

イッチにも分かりやすくいうと、ウルトラマン同士なら一応問題ないと思う。ただその世界はちょっと異質というかなんというか……だから大丈夫なのかは分からないけど

下手に行ったとしてもパワーバランスを守るために制限付けられるしな

 

 

483:通りすがりの転生者 ID:1ODQnWfKd

>>481

残念ながら行けないようだ。さらにもっと正確に言えばクロスオーバー世界ではないようだから別シリーズの誰かが行ったら世界の崩壊が始まる。

同じウルトラマン同士の場合は問題ないだろうが意外とある、どの世界からも弾かれるタイプと見ていい。

他にも理由はあるが、やはり別作品の転生者同士はややこしくなるし修正力が働くからおすすめはしない。

だからこそ掲示板があるわけだしな。

まぁ、世界を移動できる転生者が限りなく稀有なのもあるが。後は神の気まぐれか……。

対策についてはもう少ししたら来るだろう。これでも転生したタイミングは同期の腐れ縁だからな

 

 

484:名無しの転生者 ID:BLz0x0zY5

ほへーやっぱり一人でやるしかないんですねぇ。

流石破壊者、世界に関しては圧倒的に詳しいな。確かにウルトラマンの場合はサブトラマンだが、ガイア、アグルみたいな転生者は居てもガイアの世界にガイアと別の作品の転生者とかはあんまりない。

たまに世界が繋がっちゃってる場合はあるけど、あれは転生させた神様の力だろうしなぁ。

 

 

485:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

つまりは、神ならともかく元々転生者同士は能力的にそうそうないし、世界的にも干渉出来ないというか全くしないけど、こっちはもっと何か干渉出来ない世界になってるのね。神樹様の影響かなーまぁ期待はしてなかったからいいんだけど。

正直知恵だけでも助かるからジュネッスにならせてくれ、マジで

 

 

486:超古代の光の転生者 ID:T8iHSnGQA

あぁ、ごめん。遅れたかな。ちょっとキリエロイドと戦ってたんだ

 

 

487:名無しの転生者 ID:rNqrwbV9i

ん?

 

 

488:名無しの転生者 ID:ThaEhej9E

こりゃあ、たまげたなぁ……

 

 

489:名無しの転生者 ID:mmjdR396K

ま た キ リ エ ル 人 か

 

 

490:名無しの転生者 ID:K7c/7Ql4R

同期って同じ年代のゼロかと思ったらティガかよ!? 予想外なのが来たな、おい!

 

 

491:通りすがりの転生者 ID:1ODQnWfKd

>>486

どうやら来たようだな。流石に仮面ライダー専門の俺にはウルトラ戦士についてはあまり分からん。だから後は任せた。

 

 

492:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>481

あ、俺と同じウルトラマンの人? どうもどうも、初めまして……本当に別のウルトラマンの転生者とか初めてなんだが? や、俺が見てない時に居たのかもしれないけど

 

 

493:名無しの転生者 ID:1Vc9LDqHN

でもティガとネクサスってかなり違うよな。どう説明するんだ?

 

 

494:名無しの転生者 ID:sw4fEbPNf

俺らよりもウルトラマンであるティガの人の方が分かるだろうし、任せようぜ

 

 

495:超古代の光の転生者 ID:T8iHSnGQA

それじゃあ、早速本題に入るんだけど、正直言うと僕も君の力を引き出す方法は分からない

 

 

496:名無しの転生者 ID:+9YGkd09Z

ダメじゃねぇか!

 

 

497:名無しの転生者 ID:PlV1QbYAO

いやいや、最後まで聞こうぜ

 

 

498:超古代の光の転生者 ID:T8iHSnGQA

その通り、最後まで聞いて欲しいんだけど、ウルトラマンの力はきっと『想い』の力なんだと思う。僕が闇の邪神や闇の巨人に勝てたのは人々やウルトラマンの『光』があったからなんだ。

たくさんの強敵と戦ってきた。でもその度に僕は守りたい者が居たから、みんなが大好きだから戦って、勝つ事が出来た。

だからこそ、忘れないで欲しい。人は誰もが光になれるということを。どんな絶望の中でも、人の心から光が、希望が消えさることはないということを。人間は自分自身の力で光になれるということを……。

そして戦うことの意味、ウルトラマンであっても僕たちウルトラマンは間違いなく『人間』だ。人として出来ることを、その答えは君自身で出すしかない。その光を、君がどう使うのか。

きっとその答えを出せたなら、君もウルトラマンの『真の力』を引き出せると思うよ。

だから闇に負けないで。

 

 

499:名無しの転生者 ID:s0Q9iTlg6

…………

 

 

500:名無しの転生者 ID:lCxXNVfr+

うおぉ……なんかこう……

 

 

501:名無しの転生者 ID:9W9Jm+vV9

分かる。なんかすごいな。レジェンドの風格って言うのかな……垣間見たわ。そこまで長い文じゃないのに思いが伝わってくる

 

 

502:名無しの転生者 ID:OFtK8yGyQ

平成最初のウルトラマンの、ティガの、ダイゴとして転生した人が本編を通したからこそ、5年先の世代であるウルトラマンネクサスの変身者であるイッチに伝えるの……うーんアツゥィ! こうやってウルトラの歴史や絆は決して消えることはないんやなって……!

 

 

503:名無しの転生者 ID:V2yBkFd/M

ティガの本編やダイナも思い出せますねぇ!

 

 

504:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

想いの力……。俺がどう使うのか、か……。ちょっと、考えるわ。先輩にここまで言われちゃあ、な

 

 

505:名無しの転生者 ID:v/Mze9Iwu

イッチ……流石に真面目だった

 

 

506:名無しの転生者 ID:xzDbQFC04

ま、ゆっくり悩みなさいな。普段はふざけるけどさ、こういう相談とか乗るのが俺たちの、掲示板としての本来の役目なんだから。

みんな悩む。戦う力とか、使い方とか、原作キャラに憑依した自分がどう動くのか、色んな考えがさ。俺たちもそうやって協力して乗り越えてきたんだ

 

 

507:超古代の光の転生者 ID:T8iHSnGQA

>>504

すぐに答えを出せとは言わないよ。たくさん悩んで、その末に出す答えが偽りない想いだ。

だから、頑張れよ後輩

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

犬吠埼家。

初のお役目を終えた風は樹と帰ってくると残っている家事を終わらせ、携帯を弄っていた。

誰かにメールするように打っていると、終わったのか風が携帯を閉じる。

 

(紡絆がいくら適性があるかもしれないと言われていたとはいえ、男で本当に入れるなんて……それに巨人、ウルトラマンとナメクジみたいな怪物……いいえ、怪獣の目的と正体は一体? こればかりはさっき送った大赦からの返信待ち……になるかしら) 

 

どうやら大赦に対して打っていたようだ。

しかし大赦からは返ってこない。流石に今日は来ないと思ったのか風は携帯を机に置くと、船を漕ぐ樹を見つめる。

 

「ほら樹。ここで寝たら体痛めるわよ?」

 

「んん……はぁい……」

 

初の戦闘。その疲れもあったのだろう。

樹はゆらゆらと足元が覚束無い状態で自分の部屋に向かっていく。

本当は怖かっただろうに自分についてきてくれた樹に嬉しいと思う反面、申し訳ない気持ちや戦って欲しくないという複雑な心情が風の中で渦巻くが、今は可愛い妹をしっかりと案内することを優先した。

 

(……明日はちゃんと説明しないとね)

 

選ばれるとは思っていなかった。

だからこそ、全てを話していなかった。しかし選ばれたのであれば全て話すしかない。樹海の中で話したのはまだ一部であり、一日経てば冷静に考えれるようにもなるだろう。

そのため、風は明日に回したのだ。みんなの反応がどう来るか分からないが、風は何を言われてもいいように確固たる覚悟を持ったまま明日に備えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はたまた一方で、ある病院の一室。

その一室で、少女がベッドに横たわっていた。包帯だらけで、僅かに見える髪が金色だと分かる。

しかし他は包帯しかなく、少女の近くには仮面で顔を隠している人物が居た。

神官、だろうか。

何かを報告しているようだ。

 

()()光の巨人(ウルトラマン)()()()()()()()()が現れたとの報告がありました。そして一人、男性であるにも関わらず樹海に入ることに成功した人物もいるようです」

 

「……! そっか。じゃあ、そのことについてもっと詳しく調べてくれる? 出来る範囲でいいから情報が欲しいかなぁ」

 

「承知致しました」

 

短い会話だが、少女に対して大人である神官は畏まる。

まるで少女の方が立場が上というように。少女は慣れているのか、それとも諦めているのか---いや、今はどこか懐かしい物を見てるかのように視線を窓に移していた。

神官の姿は、もうない。

 

 

 

 

「……本当に、()()()()()()()()()走り切ったんだね。ミノさん」

 

「……また現れたということは、そうみたいだな」

 

金髪の少女が呼びかけた別のベッド。

隣のベッドにはミノさんと呼ばれた灰色の少女が居り、その少女は親しそうに返す。

灰色の少女は同じような感じではあるものの、金髪の少女よりかは多少マシだった。

 

「ミノさんは、どう思う? 新しいウルトラマン」

 

「うーん……アタシたちが樹海に入れると知っている人物は()()()以外他に居ないからな……。もしかしたら別の人かもしれないし、分からん」

 

「だよね〜。私たちが知っているのは……うん、最後に見た()()()()()だし。新しいウルトラマンなら違うかもしれないんよ。だけどきっと……ううん。今は情報待ち、かな」

 

灰色の少女は自身が知る存在を思い浮かべると何処か後悔するような、憤慨するような感情が入り混じった表情をしながら答える。

金髪の少女はそれを聞きながら画面を開いたパソコンをゆっくりと打ち、懐かしそうに目を細め、何処か確信を持つ表情をしていた。

しかしまるであって欲しくない、というように首を横に振る。

それを見て、灰色の少女が苦笑いして口を開く。

 

「確かめたいけど、無理だもんなぁ。本当に、アイツだったら一発ぐらいぶっ飛ばしたい」

 

「こんな体だから、動けないもんね。私も今でもちょっと怒ってるんだよ〜。彼だったなら()()()()()と思うけど」

 

「……だな」

 

口ではそう言っていても、二人の表情や雰囲気は少し暗い。

寂しそうにと見えて、悲しそうにも見える。どちらにせよ、辛そうだった。

 

「あ〜……また遊んだり話したり、色んなことがしたいな。私とミノさん、わっしーと---はるるんで……。また、会いたいよ」

 

そう呟いた金髪の少女の声が虚しく周囲に響き渡る。

灰色の少女は何も言わず、ただ頷くだけ。何故なら、どれだけ思いを募らせたところで、体は自由にならないということを知っているからだ。

そしてキーボードを打つ音だけが聞こえる中、ふと灰色の少女が金髪の少女のパソコンに視線を送る。

 

「そういえば()()。何をしてるんだ?」

 

「ん〜? 小説書いてるんだ〜今ははるるんとミノさんだよ。わっしーとのが高評価だったんだよね」

 

「今度はアタシか……。よく使われてるなぁ、陽灯(はると)

 

既に諦めた身ではあるため、自分のことはさておき、本人の知らぬ間に勝手に小説のネタにされている陽灯と呼ばれた人物に同情しつつ相変わらずな親友の姿に苦笑いする灰色の少女だった---。

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
転生者達曰く、今回は初期憐の戦い方。
実はウルトラマンと融合する三ヶ月前、中一の頃に家族を失っている。
先輩トラマンのお陰で戦う理由を再び考え直し中。

〇友奈ちゃん
自分がやらなきゃ(使命感)
なお、彼女よりやばい人物が近くにいた模様。

〇東郷さん
自分のせいで死んだと思っていた人物が生きていたので安心した。
振り返ると恥ずかしいので、あの後あまり顔を合わせなかったらしい。

〇テクターギアイヤァ!
ウルトラマンゼロ(前世持ち)
K76星で修行中。

〇通りすがりの人
実はゴースト編でコンプリート(平成一期)になる容赦ないことをした。
転生者同士や世界関連に詳しいぞ!

〇超古代の光の転生者
本編、映画と乗り越え、マドカ・ダイゴとは別人と自覚して、なぞるのではなく自分自身で『人として』ではなく『ウルトラマン』として生きることを選んだ。
キリエロイドと戦ってた理由はテクターギアイヤァ!の人の世界軸に居て、ウル銀に参戦中だからだぞ!

〇灰色の少女、金髪の少女。
ミノさんと園子と呼びあっていた。
なにやら()()()()()やウルトラマンのことに詳しいようだが……?

陽灯(はると)
はるるんと呼ばれていた人物。その存在とは?

▼質問(?)

Q.誰かウルトラマンの転生者いないの?

A.(変身者として転生した人が)死んだ、映画中、本編中、ステージ、宇宙と一体化中、外伝中、(クロスオーバー世界なせいで長期の)本編中、などなど多忙で余裕なし。


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「-赤く熱い鼓動-ハートビート」


感想は投稿したあと、起きたら見てるのですが(返信はサボらないためにわざと投稿前にしてる)前回誤解を招くような表現になってたようで、申し訳ございません。ついでにイッチの知識量は昭和全般にしました(ややこしかったため)
そしてやっと章決めたのでつけました。センスカッスやな(自虐)

それとネクサスってオリジナルタグ付けた方がいいんですかね……?(無くても)バレへんか……。

今回は書く前から決めてた内容なんで…長くなったのにびっくり。や、まじでヒロインっぽくなってるけど決めてないんだよ? そういうつもりはないです、ほんと。あ、もしかしたらサブタイトルの曲付けながら読むとより良くなるかもしれません(未検証)
まあ、今回の話で私から言えることは……なんかギャラファイの言葉が当てはまるなーと今作に至ってはガチやべぇ世界なのでガッバガバチャートになるRTA勢並に生易しく行かない、とだけ。
では、どうぞ




 

 

 

◆◆◆

 

 第 6 話 

 

-赤く熱い鼓動-ハートビート

 

 

 

ろうたける思い

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、これは夢だな、と紡絆は思った。

夢だと自覚出来た理由は簡単であり、誰もが理解出来るだろう。

そもそもの話、夢とは何か?

夢、それは『現代』の辞書に寄ると睡眠時に生じる一貫性を持ったある程度の幻覚体験。心の中で描いている願い。現実とは別で甘美な状態を実現させている。現実ではありえない妄想、空想の世界。迷い、悩み、迷夢と言われるもの。不確かな物事。

簡単に言うならば、『心に描いているもの』が一番適切だろう。

例えば、奥底で悩んでいる悩み。

そう言ったものを()として()()だと錯覚させようとする。

例えば、妄想。

自身が()()()()として人助けしているとしよう。

それは憧れだ。空想の存在に憧れ、自身もそうなりたいと願っている証。現実では出来ないからこそ、夢で理想の世界を創り上げてしまう。

ただし、それは『現代』である。

遥か昔、古代といえる時代には夢とは睡眠中に肉体から抜け出した魂が実際に経験したこと柄が夢としてあらわれるのだ、という考え方は広く存在していた。

他にも神や悪魔のお告げとも言われており、12世紀、1225年頃に誕生し、1274年に死没した中世の神学者、トマス・アクィナスという人物が居た。

彼は夢の原因には精神的原因、肉体的原因、外界の影響、神の啓示の4つがあるとしたのだ。

さらにネイティブアメリカンの一部の部族は夢を霊的なお告げと捉え、古代ギリシアにおいて夢は神託であり、夢の意味するものはそのままの形で夢に現れているためと考えられている。

一方で、夢占いでは見た者の将来に対する希望・願望、またはこれから起き得る危機を知らせる信号と考えられている---つまりは予知夢だ。

はたまた一方で現代の神経生理学的研究では、「夢というのは、主としてレム睡眠の時に出現するとされる。睡眠中は感覚遮断に近い状態でありながら、大脳皮質や記憶に関係ある辺縁系の活動水準が覚醒時にほぼ近い水準にあるために、外的あるいは内的な刺激と関連する興奮によって脳の記憶貯蔵庫から過去の記憶映像が再生されつつ、記憶映像に合致する夢のストーリーを作ってゆく」と考えられている。

簡単に言うならば、自分だけが見ることのできる『個人的なドキュメンタリー映画』というのがわかりやすいだろうか。

長々と語ったものの、結局のところ『夢』というものは解明することなど出来てなどいない。大勢の科学者や人々が調べてもなお、未だに未知の領域、同じものを見るのではなく、夢の数は千差万別あるとされているだけだ。

ならば、何故継受紡絆という一人の人間が夢だと判断できたのか?

それは---

 

 

 

 

 

 

『お兄ちゃん、料理出来たよー?』

 

『あ、あぁ……』

 

死んだ妹が、目の前に居たからだ。

それは、願望。

通常、夢を見ているときには自分で夢を見ていると自覚できないことがほとんどであり、覚醒するまでは夢であることが分からない。誰もがそうであり、彼だってそうだ。

しかしこれに対し、夢の中でも自覚している現象を明晰夢と呼ぶ。その場合には夢の内容をコントロールすることも可能であると言われており、紡絆自身は自分で理想の世界を創ったのだと察していた。

それでも、温もりは---確かだったのだ。

 

 

 

 

世界が切り替わる。

食卓に皿が並べられており、妹の小都音と紡絆の二人っきり。両親は仕事でいないのか、今は居ない。

紡絆と向かい合わせになって座る小都音は笑顔を浮かべており、反応を待つように見ていた。

 

『どうかな? 美味しい?』

 

『…………ッ』

 

出されている食品のメインは、ハンバーグ。

定番と呼ばれる定番ではあるが、中はしっかりと焼けており、外見も不格好な形をしておらずにふっくらとしている。

焼きすぎているわけでも焼けてないわけでもなく、バランスの取れた出来上がりだ。

そのことから、普段彼女が料理をしていて、才能があることも垣間見える。

夢だと、夢であると理解しているのに紡絆はハンバーグを食べた瞬間、溢れ出す肉汁や目立ちすぎることのない僅かに感じれる調味料の味を、家庭の味の感じ取って涙を零す。

もう味わえないと、二度と食べることも叶わないと思っていた味だったから。

 

『え、えぇ!? だ、大丈夫!? もしかして美味しくなかった!? う、上手く出来た自信あったんだけど……!』

 

「い、いや凄い美味しい……。そんな慌ててどうしたんだ?」

 

紡絆の目の前には、小都音が慌てる姿が見える。

自然と、無意識に涙を流している紡絆には彼女が何故慌ててそのようなことを言っているのか分からなかった。

 

『だって……ほら、泣いてるよ? 何かあったの?』

 

『涙? ……ぁ』

 

紡絆は言われて自覚する。

自身の目元に触れると、手が濡れたのを感じたからだ。

すると、自覚してから少しずつ溢れ出てきて止まらなくなっていく。

 

『な……んで……。止まらない………ッ!』

 

『………何かあったんだね。お兄ちゃん、よしよし』

 

何故涙を流しているのか自覚すらしてなくて、未だに理解出来ていない紡絆を小都音は何処か心配するような、慈愛の籠った瞳で見つめる。

そして紡絆に近寄ると、自身の胸元に紡絆の頭を埋めさせて頭を撫でた。

確かな熱。温もり。人の体温。()()()()()のようで、夢とは思えない世界。

 

『私は知ってるよ、お兄ちゃんは昔からずっと、誰かのために行動してるって。自分がどれだけ傷ついても……止まらないってこと』

 

家族であるから、誰よりも傍に居たからこそ小都音は本人よりも『継受紡絆』という人間の本質を理解していた。

 

『本当は怖いけど、何よりも失うことが怖いんでしょ? でも、お兄ちゃんなら大丈夫。いつも私を守ってくれてたもん』

 

『……違う。違うんだ。もう、遅いんだ』

 

一定のペースで紡絆の頭を撫でていた小都音から、紡絆は自らの意志で離れて首を振る。

一瞬だけ、小都音は悲しそうな表情を浮かべたが、すぐに首を傾げた。

 

『遅いって?』

 

紡絆に聞こえてきたのは当然の疑問。

それに答えようとして---唇を強く噛み締めた。

まるで自分が背負わなくちゃいけないものだと。

 

『……ごめん、なんでもない。大丈夫、もう落ち着いたからさ』

 

だからこそ、紡絆は笑顔でそう答える。

所詮夢は夢だと、現実ではなく、目の前にいる小都音は偽者だと。自身の過去の記憶が生み出したものだと。生きていて欲しかったと願ったからこそのものだと。願望が現れたとしても、甘えることなく自身が孤独に背負うべきものだと。

 

『もう、帰る(寝る)よ。おやすみ、小都音』

 

『そっか。おやすみなさい、お兄ちゃん』

 

そう言った紡絆に対し、一度顔を伏せて上げた小都音は笑顔でそう返す。

瞬間、世界は完全に壊れ、紡絆の意識は夢の世界から追い出された。

 

『………私はずっと傍にいるよ。だから、もう一人で背負わないで。みんなを、頼ってね。自分で自分を苦しめないで、囚われないでお兄ちゃん』

 

ただ、紡絆には悲しそうな表情で見ていた小都音の姿を捉えることも、その言葉が聞こえることもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

目が覚めると、紡絆は目元に違和感を感じて拭くと、涙を流していたことに気づく。

そして懐かしい声を聞いたことで思い出した。

最期に聞いた言葉を。()()()()()()なのに止めれなかった自分を。

彼女の、小都音と最期に交わした言葉でもあった。

 

『どうして……どうしてなの? もう知らない! 勝手にしてよ! お兄ちゃんなんて、()()………ッ!』

 

継受紡絆にとって、今でも後悔している記憶。

涙を流しながら去っていく小都音の姿を見て、手を伸ばすことしか出来なかった記憶。

両親は何とかするから落ち着いたら話し合いなさい、明日でもいいからと優しく言ってくれたものの、その()()は来なかったという何よりも深く残ってしまった記憶でもあった。

この時に紡絆ではない、前世として生きていた自分だったら、思い出すのが早ければ救えたのだろうか---そう紡絆は何度も考えてしまう。

 

「はぁ、センチメンタルになってるのかな? 今は考えたいことは別にあるんだし、明るく行くか!」

 

そんな思考を消すようにため息を吐くと、いつまで寝転んでいても、後悔してても何も変わらないと紡絆は布団から出て着替え、リビングに向かうのだった。

---目が覚めた時の一瞬、エボルトラスターがうっすらと輝いていたことに気付くこともなく。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は……あー、そういえばアレだっけ、説明されるんだったな」

 

家にある仏壇に花を添える。

白い菊、カサブランカ、紫のヒヤシンス。

どれも簡単に手に入るものではあるが、意味としては白い菊には諸説はあるものの、『ご冥福をお祈りします』。カサブランカには『純粋』。紫のヒヤシンスには西洋では、「I am sorry(ごめんなさい)」「sorrow(悲しみ、悲哀)」「please forgive me(許してください)」という花言葉がある。

それは彼自身知っているものかどうかは不明だが、恐らく知りはしないだろう。

 

「じゃ、行ってきます」

 

正座をして特に宗教に入っていない彼は拝むとエボルトラスターを手に立ち上がる。

亡くなってしまった家族。そのために彼が出来ることなんてハッキリ言って人間なのだからないのだろう。

せいぜいこの世界を守るか他の人々を自分と同じように遭わせないようにするくらい、だろうか。

しかしスペースビーストと同じく、バーテックスも一度っきりではないと彼の勘が告げている。だからこそ戦わなくてはならない。

だが紡絆にとって別のウルトラマンとはいえ知っているウルトラマンとは違い、勇者システムというのは不安要素しかない。本当に安全なのか? 大赦は信頼していいのか? 暴走を引き起こしたりしないのか? そんな様々な考えが紡絆の中で巡るが、彼は頭を横に振った。

 

「それにしてもジュネッス、かぁ……ティガ先輩曰く、想いや光……だが、どうすりゃいいんだろうな。なあ、ウルトラマン」

 

苦笑いしながら独りごちると、エボルトラスターは一度ドクンと鼓動するだけだった。

真相も分からず、もはや仕事しているのか分からないストーンフリューゲルでも全く治っていない肉体の痛みに耐えながら、学生の本分である学校へ向かうために彼は東郷の家と向かうのであった。

多分友奈も来てる……はず。居なければ友奈の家に行って起こさないと、など考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校。

その放課後のことだった。

日直である友奈が仕事をしているのを紡絆は見ながら、腕を抑える。

あくまで自然体で片腕を抑えたまま椅子に背中を預けていると、窓側にいる女子生徒の会話がふと聞こえてきた。

 

「隣町で交通事故があったよね? 私近くに居たからびっくりしたんだよ」

 

「あの2、3人怪我したってやつ?」

 

「そっちにメッセージ送ろうとしてたら充電がなくて……」

 

「あるある」

 

「………」

 

聞こえてきた情報に昨日の戦いによる影響が出たのではないか、という思いが生まれ、紡絆はポケットに手を突っ込んでエボルトラスターを握る。

 

(俺がもっと上手く戦えてたら……いや、ジュネッスにさえなれてたら問題なかったのか? 力がいる……ウルトラマンになった俺は守らなくちゃいけないんだ。俺が、俺一人で十分なんだ。俺一人でなんだって出来る。だから戦うのは……俺一人で)

 

過去、それも昔。

前世で昭和ではあるが、ウルトラマンが空想の存在として存在していた。当然世代であった彼も憧れを持ち、同時に虚構の存在とはいえどヒーローとして見ていた。

そんなヒーローの力が自分にあるからこそ、守らなければいけないと、やらなければいけない、と。

それは、ウルトラマンの重圧。

彼から見ても、ウルトラマンはヒーローだった。

人類の醜いところや裏切り、弱さ、差別、恐怖心ですら全て受け入れ、失望してもなお、最後まで人類と地球を守ってきた。

なぜなら、ウルトラマンは人間を愛してくれているから。ウルトラマンは地球を第二の故郷として扱ってくれたのだから。

だからこそ、過剰なほどまで気負ってしまう。精神的にも追い詰められてしまう。

何故なら、継受紡絆はウルトラマンだから。光を、受け継いだのだから。

しかしながら、ウルトラマンは一人で戦ってきた訳では無い。紡絆には大事な部分であるそこが抜け落ちてしまっていた。

 

「……っと、今は仕方がない。それよりも……あっち、だよなぁ」

 

力を渇望したところで何も変わらない。

そのため、紡絆は思考を切り替えたのだが、紡絆は『欠席なし』のところに『だといいね』と書いた友奈に少し呆れた。そのまま視線を動かしていき、東郷の様子を見て苦笑する。

一日経っても---経ったからこそ思うところがあるのだろう。

何処か考えるように俯いてる東郷を見て、紡絆はどうすればいいか分からなかった。

彼からすると、東郷だけでも勇者にならなかったのは戦いに巻き込まないという意味ならば、よかったのであるが---大事な人が落ち込んでいる姿を見るのも嫌であり、また本人の意思も尊重したい。

難儀なものだった。

 

「はぁ……我ながら悩み事が尽きないなー」

 

ため息を付く紡絆。

とりあえず掲示板に書く自分のことを考えておこう、などと考えながら、彼は友奈と東郷と共に勇者部の部室へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者部の部室は、家庭科準備室にある。

全員が揃ったからか部長である風は黒板にチョークでなにやら書いているが、それよりも友奈は、見慣れぬ小動物を頭に乗せている。

デフォルメされた花びらのような羽を生やした牛みたいなその小動物の名前は『牛鬼』と名付けたらしく、友奈に力を貸してくれている精霊だ。

かなり自由な性格の様で、この部室に入った瞬間勝手に姿を現した。

 

「この牛が……ッ! ビーフジャーキーでも食え!」

 

しかも勝手に姿を現したかと思うと、紡絆の頭に早速噛み合いたのである。すぐに友奈が助け出したので特に問題はなかったのだが、理不尽に噛まれた紡絆は怒りのあまり、どこからともなく取り出したビーフジャーキーを友奈の頭の上に乗っている牛鬼に近づけていく。

正直絵面はなかなかにやばい。一人の男子中学生が女子中学生の頭にビーフジャーキーを近づけているのだから。

 

「牛がモチーフとなっているなら共食いは出来まい!」

 

「あっ、紡絆くん。それは---」

 

何故かドヤ顔で勝ち誇ったような顔をする紡絆。

そんな紡絆に友奈が警告しようとした瞬間、自身のテリトリー(縄張り)に入ってきた獲物を狩る猛獣の如きキラリ、と瞳を輝かせ、虎視した姿勢から一気に飛びつく。

 

「へ?」

 

勝ち誇っていた顔から驚愕へと移り変わる紡絆。

そんな紡絆を無視して牛鬼はパクリ、と一口で食べて見せた。

---手と一緒に。

 

「ぎゃあああああああぁぁッ!?」

 

「好物だから危ないよーって……」

 

「お、遅かったですね……」

 

部室内に広がる悲鳴。

手をブンブンと振って牛鬼を離そうとする紡絆と、好物であるビーフジャーキーを食べたい牛鬼。

 

「可愛いですけど、牛なのにビーフジャーキーなんですか?」

 

「んー、そうみたい」

 

「おい! 俺の手は美味くないぞ! ってか共食い良いの!? 君、本当に牛なの!?」

 

騒がしい一人を他所に、牛鬼に関する話題で盛り上がっている友奈と樹。

紡絆はぶんぶんと強く振りまくっているが、牛鬼は遊んで貰っている子供のように笑顔を浮かべて手首までしっかりと咥えていた。

 

「さてと、みんな元気で良かった」

 

「ちょ、一人噛まれてますけどー! 普通に話に入ります!? いやいや、助けることくらいしてくれてもいいんじゃあないですか!?」

 

「うんうん、元気が有り余っていてよし」

 

「解せぬ……」

 

あ、これ取り付くってくれないな、と完全に諦めた紡絆は手首を牛鬼に噛ませたまま座って話を聞く姿勢になる。

しかし暇になったからか、牛鬼が手首から口を離して紡絆の腹に頭突きを食らわして来るため、紡絆は再びビーフジャーキーを手に持って手首ごと食わせた。

この短時間で紡絆は手懐ける方法を身につけるほど成長したのだった。

 

「それじゃあ、改めて昨日のことを説明していくわね。戦い方についてはアプリのテキストがあるから、私からは何故戦うのかってところを中心に話していくわ。

---まずはこれが、バーテックス。

外の世界から壁を越えてこの世界に侵攻してくる人類の敵。神樹様から十二体の敵が襲ってくるとのお告げがあったわ。

そして昨日も言った通り、目的は、この世界の恵みである神樹様の破壊。つまりは人類を滅ぼすことね」

 

そういうと風は黒板右上に大きく描いてあるなんだかよくわからないものに大きく丸を付ける。

人の顔のようにも見えなくないそれが、風の中では昨日のバーテックスだという事らしい。

 

「それ、昨日のやつだったんだ……」

 

「き、奇抜なデザインを現した絵だよね!」

 

「ほら、牛鬼言ってやれ」

 

樹の言葉に友奈がフォローするように声を挙げる。

そんな中、いつの間にか仲良くなったのか手首を食べさせたまま牛鬼を太ももに座らせた紡絆が言うが、残念ながら首を傾げるだけだ。

 

「それに対抗するために大赦が開発したのが『勇者システム』。

神樹様に選ばれた少女が、あのアプリを介して神樹様と霊的回路を開き、神樹様から力をお借りすることでバーテックスと戦える力を得るの。

人智を超える力には同じ力をぶつける、みたいなものね。

今は倒すことが出来るけど、以前までは何とか追い返すのが精一杯だったみたい」

 

「それ、私たちだったんだ……」

 

「ほ、ほら現代アートってやつだよ!」

 

そうやって、黒板に書かれた奇妙な絵に次々と印をつけながら説明を続ける風だったが、家族である妹からの突っ込みに内心ダメージを受けていた。

そこになんとか再びフォローを入れようと涙ぐましい努力をする友奈の肩に手を置き、諭すような表情で紡絆が口を開いた。

 

「友奈、フォローしなくていい。純粋に風先輩が下手なんだ。牛鬼もそう言ってる、多分」

 

「そこっ! 人の絵に文句言わない! というか絶対適当でしょ、あんたっ!」

 

「いやいや、牛鬼だって言ってますよ、ほら!」

 

「何も言ってないけど!?」

 

「耳を澄ませてください! きっと聞こえます! 聞こえなかったら聞いてください! なせば大抵なんとかなる!」

 

「そんなことに勇者部の五箇条のひとつを使うなー!」

 

「ちょ、やめ、痛い痛い! 痛ああああい!!」

 

牛鬼を風に向かって突き出すが、何も言わない牛鬼。

そこで無茶振りを振る紡絆だったが、風は紡絆に大抵の人は効くであろう両拳でこめかみを挟んでグリグリとする攻撃を行った。

未だに牛鬼に手を噛まれたままの紡絆は片手しか使えず、抵抗もままならないまま凄まじいダメージを負った紡絆はその攻撃を受けてダウンした。

KOである。

風は鼻を鳴らして勝ち誇るが、周りの視線に気づいたからかひとつ咳払いを入れて話を戻す。

 

「コホンッ。注意事項として、樹海が何かしらのダメージを受けたり、倒すのに時間がかかるとその分、日常に戻ると何らかの災いが起こると言われているわ。

つまり、影響があるということね。しかも封印の儀は一度っきりよ」

 

それを聞いて、紡絆と友奈は偶然にも思い出す。

ここに来る前、同級生の会話で隣町で事故が発生したということを。

 

「大赦もサポートに動き始めてるけど、派手に破壊されて大惨事なんてことにならないよう、あたしたち勇者部が頑張らないと!」

 

「あのー、ちょっといいですかね?」

 

「なにかしら? またされたい?」

 

「そちらのけはないので遠慮しておきます。いや、そうじゃなくてですね」

 

復活した紡絆は噛んだまま寝出した牛鬼を見て邪魔だな、と思いながら立ち上がると質問するように手を挙げる。

まだ何か言い足りないのかと風が拳を構えると、両手を振って拒否し言葉を続ける。

 

「勇者システムって友奈や樹ちゃんたち---つまりは女の子にしか扱えないんですよね。そして風先輩の今までの言葉から察するに……樹海化でしたっけ? 勇者しか入れないのでは? なんで男である俺が入れるんです?」

 

「知らない」

 

「マジ?」

 

「マジマジ、大マジよ」

 

まさかの発言に敬語を忘れる紡絆だったが、嘘ではないと分かると風との間に微妙な空気が流れる。

紡絆からしてみれば答えがあるのかと思ったのに、返ってきた答えが『知らない』なので仕方ないのだが。

 

「なんで知らないんだっ!?」

 

「私だって想定外だったのよっ! そもそも大赦からは『入れるかもしれない』と曖昧な言葉で言われたんだから! 逆になんであんたは入れてるのよ!?」

 

「俺が知るわけないでしょう!? 俺は大赦の人間じゃないですし! 第一俺が()()()()()のに分かるわけないじゃないですか! つーかどうなってんだ、大赦は!? なんでそんな俺の事だけ曖昧なんだよ!」

 

「あーそこなんだけど、紡絆に関しては本当に分からないから大赦に問い合わせてはいるわ。一応勇者部に誘うようにとは言われてたんだけどね……」

 

一泊遅れてのツッコミ。

再びヒートアップしかけていたが、今度は対象が風ではなく大赦だったのですぐに落ち着き、聞いていた東郷が確信したような表情をしていた。

そして部室に来て今日初めて口を開く。

 

「……ということは、勇者部は先輩が意図的に集めたメンツだったんですね」

 

真剣な様子で聞こえた言葉に風は来たか、と紡絆を相手していた時とは考えられないくらい表情を引きしめる。

 

「……うん、そうだよ。私は大赦から指令を受けて皆に声をかけたの。この地域で高い適正値を持つ人物は事前にわかってたから……」

 

「知らなかった……」

 

「黙っててごめんね」

 

「次は敵、いつ来るんですか?」

 

樹ですら知らなかった、ということは指令を受けたのは風だけなのだろう。

謝る風に友奈は思い浮かんだ疑問を聞く。

敵がいつ来るのか、それが知っているのと知らないのでは全然違う。だからこそ聞いたのだが---

 

「分からないけど明日かもしれないし、一週間後かもしれない。そう遠くはないはずよ」

 

残念ながら風も知らないらしく、近いうちに来るということだけらしい。

 

「……なんで、なんでもっと早くに勇者部の本当の意味を教えてくれなかったんですか。友奈ちゃんも樹ちゃんも、紡絆くんも死ぬかもしれなかったんですよ」

 

「……ごめん。でも勇者の適性がどれだけ高くても、敵が来るまで分からなかったのよ。選ばれる確率よりも、選ばれない確率の方が高かったから」

 

東郷の言葉に、風は申し訳なく謝るしかない。

しかし結果論とはいえど、選ばれない確率が高い、というのは一つの言い訳のようにも聞こえなくはない。

 

「人類滅亡の可能性もあるから各地でいる……ってことですかね?」

 

「うん」

 

選ばれない確率が高い、ということから紡絆は考えると、思ったことを聞いた。

どうやら正解らしく、風は頷く。

だが、例えそれがそうだったとしても、人間の感情というのは『はいそうですか』と簡単に受け入れられるほど簡単ではないのだ。

 

「こんな大事なこと……ずっと黙っていたんですか……」

 

「東郷……」

 

どう答えたらいいか分からない風は、車椅子を動かして部室を去る東郷に名前を呼ぶことしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

68:428:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

ということで、説明貰ったんで説明しますねー。

じゃ、俺の情報から全部開示しますわ

 

 

69:名無しの転生者 ID:JuPpe5r/H

ん? 今なんでもするって

 

 

70:名無しの転生者 ID:6D7qsJ+75

性癖も公開するってマジ?

 

 

71:名無しの転生者 ID:evPPYE1Pm

その前になんでイッチはさっきから手食われてんの?

 

 

72:名無しの転生者 ID:NFTKeBdKb

>>69

言ってないんだよなぁ……

 

 

73:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

ここのイッチはすぐ情報隠すからなぁ……

 

 

74:名無しの転生者 ID:Qbl4EKHQD

それな。お陰でこっちが悩む羽目になってんだ

 

 

75:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

いやだって、聞かれなかったし

 

 

76:名無しの転生者 ID:OX82Ln2AK

聞くヤツがいるかクソッタレェ!!

 

 

77:名無しの転生者 ID:lejINBa+6

そもそもなんで聞かれるかと思ったんですかね……

 

 

78:名無しの転生者 ID:W7Q2Gv8n3

普通は重要らしき部分は言うんだよなぁ

 

 

79:名無しの転生者 ID:hZynHHfTf

いい加減にしろ、そしてちゃんと言え

 

 

80:名無しの転生者 ID:WLdMFeZWj

ほんとさぁ……そもそもTLT滅んでるとかどーすんのよ

 

 

81:名無しの転生者 ID:NDPgiLo2N

ザ・ワンが既にどっかで倒されてるのが確定してるからなぁ……

 

 

82:名無しの転生者 ID:6mBF2N7JJ

イッチだけじゃ殲滅出来んだろうし、詰んでね?

 

 

83:名無しの転生者 ID:XknnE1lcg

まあまあ、次隠したら殴ることは出来なくとも罵倒するくらいなら出来るし罵倒しまくればいいだろ

 

 

84:名無しの転生者 ID:cPNmJ+ke+

百合の間に挟まってる時点で有罪は確定してるから……

 

 

85:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

なんでみんなそんな過激なの? ちょっとくらい優しくしてくれてもいいじゃん……泣くよ?

いや、今はいいけどさ、とりあえずまとめ終わったから下記に載せるわ。その次はこの世界における勇者というやつや敵についてまとめるゾ

 

↓↓↓

 

川で頭を打って前世の記憶を取り戻した一般転生者。

友奈と東郷さんの隣に住んでます。

ウルトラマンネクサスの力を受け継いだが、未だにアンファンスである。

この世界では継受紡絆という名前で生きているらしい。

『らしい』というのは実は俺って記憶喪失らしくって、小学六年生くらいかな、それ以前の記憶が『全部』ない。だから本当の名前か分からない。少なくとも『継受』というのは苗字確定っぽい。ただ目が覚めた時は病院に居て、しばらく眠ったままだったらしい。

後々に話を聞いたらどうやら海で溺れて低体温症によって死にかけてたらしいけど、なんか生きてた。ぶっちゃけ通報聞いて向かっただけだからそこは病院の人も分からんって言ってた。普通に考えて流されたんじゃないかな。

あとウルトラマンの力を受け継ぐ前の三ヶ月前くらいに家族を無くしてる。

家族である妹に至っては喧嘩別れした次の日に亡くなったので謝ることすら出来ない。どうすればいいんだ。

力を引き出すことについて、ティガ先輩に言われたことを未だに答え出せていない。

ついでに肉体がガチでやばいので仮に今日戦うことになったりして連戦になれば死にそう。本音を言うと戦うのは誰かを失うかもしれないのが怖いからなければいいなぁ…。

昭和ウルトラマンは全部知っていると自称しているが、平成は友人に聞いただけ。メビウスってウルトラマンだけは(名前は)知ってる。

手を噛まれてる理由はよく分からんが、懐かれてるとかなんとか。少なくとも俺は殺しに来てるんじゃないかとしか思えない。

 

こんなもんですかね……

 

 

 

86:名無しの転生者 ID:Z7r5KZGuf

は? あのさぁ……

 

 

87:名無しの転生者 ID:DeJafYU33

ネクサスの力を受け継ぐにはそんな過去がないとダメなんですかね……?

 

 

88:名無しの転生者 ID:hFotekrnu

意外と重たかった件について。

イッチはその世界で生きていて、二年間の記憶しかないってマ?

 

 

89:名無しの転生者 ID:OX82Ln2AK

なんか……アレですね、ジュネッスになれなかった点では真木。他の部分では溝呂木や姫矢さんと後半憐と凪と孤門くんなどの全てのデュナミストを詰め込んだような過去してますね……。肉体がガチでやばいとか完全に姫矢さんと憐だし。どんな人生送ってんねん…

 

 

90:名無しの転生者 ID:10Nor8jiz

ちょっとノア様。いくらなんでもスパルタ過ぎないですかー?

 

 

91:名無しの転生者 ID:+AykUlVK0

なんかこう、イッチの性格が明るかったせいで全然思わなかったんだが、重すぎない?

 

 

92:名無しの転生者 ID:4dlrVXjpW

秘密はなしとは言ったが、まさかの過去にびっくりしたわ。というか記憶もない状態で目を覚ましたら記憶なしの死にかけた後の病院って怖すぎる……

 

 

93:名無しの転生者 ID:wlhYQzu2a

イッチもイッチでよく普通の人格が残ってましたねぇ。全ての記憶失くしたらどう拗れるか分かったもんじゃないし

 

 

94:名無しの転生者 ID:4YC3Zv8qm

地味にフラグ建っててるやんけ。やめとけ

 

 

95:名無しの転生者 ID:jKHWo+OM+

>>85

未だに一般転生者とかいう嘘をつくな。一般人がアンファンスであそこまで戦えるはずがないんだよなぁ

 

 

96:名無しの転生者 ID:lpeY61t2d

>>85

正直そこまで重たい過去があるとは思いませんでした……。ウルトラマンかよ

 

 

97:名無しの転生者 ID:p2/KSvN3w

イッチはウルトラマンだよ

 

 

98:名無しの転生者 ID:5wnunIRMR

流石に草生やすこと出来ねぇよ。つーかイッチが明るく居れるのが凄いな、ほんと。俺だったら絶望してるね、間違いなく

 

 

99:名無しの転生者 ID:3u5iDBsMe

>>71 >>85

イッチはスペースビーストにも狙われやすいしやはり謎の生物に狙われる特性でもあるのでは?

 

 

100:名無しの転生者 ID:wO/jlLxI1

ワンチャンあるな、それ

 

 

101:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

色々返したいところだが、正直ネクサスの知識がない俺にとってはよく分からないことばかりなんや。なのでスルーで。

そんで次はこの世界のことだけど、また下記に載せまーす。

 

神樹様

この世界における神みたいな存在というか神様で核。四国以外の外の世界で死のウイルスで蔓延しているのに無事なのは神樹様のお陰で、生活出来るのも神樹様のお陰。

バーテックスが現れたら世界を守るために樹海化、簡単に言えば結界を貼ってくれるらしい。

 

樹海化

四国の内部は勇者以外の時間が止まっているとか。ちなみに勇者の攻撃や多分ウルトラマンの攻撃とビーストの攻撃、バーテックスの攻撃、封印の儀の継続で樹海が傷つけられると四国に影響が与えられるらしい。

事故とかの災いで。

そして風先輩曰く、勇者でもない男である俺が入れる理由は不明らしい。

 

大赦

神樹様を祀っているとこ。

風先輩も所属しているらしいが、詳しくは知らん。

 

バーテックス

外の世界から壁を越えてこの世界に侵攻してくる我々人類の敵。十二体のバーテックスがいるらしく、前戦ったやつは乙女型ってやつ。

目的は核である神樹様を壊して世界と人類滅亡させることらしい。

どいつもこいつも再生能力を持ってると思われるらしく、封印の儀を行って御魂を破壊しないと倒せないとか。しかも封印の儀は一度のみらしい。

バーテックスはどうやら俺、ウルトラマンも敵と判断してるのか狙ってくる。とりあえずぶっ飛ばしていい存在。

 

勇者

神樹様の力を借りて変身する。

大赦が開発したシステムらしく、神樹様に選ばれた少女のみが変身出来る。

俺はなれないらしい。

 

精霊

勇者のサポート的な存在。武器のサポートや致命傷になり得る攻撃を精霊バリアで勇者を守ってくれる。

ただし衝撃などは殺せないらしく、精霊バリアにも限度があるので最強の盾!という訳ではないみたい。

俺の手首を食べてきてるデフォルメされた花びらのような羽を生やした牛みたいなのが、友奈の精霊である『牛鬼』。風先輩は青い犬のようなやつで『犬神』。樹ちゃんは緑の毛玉に葉のような触覚を生やしている『木霊』。

 

 

とりあえず説明されたのはこれだけですねぇ!

 

 

102:名無しの転生者 ID:B+JcKuGGW

おっつー

 

 

103:名無しの転生者 ID:i+iPd4iGK

おつかれー

 

 

104:名無しの転生者 ID:4dlrVXjpW

分かりやすくて助かる

 

 

105:名無しの転生者 ID:NbMqkyqkl

つまりは神樹様のお陰で守られていて、バーテックスは敵。勇者システムは何処ぞの魔法少女作品みたいに女の子しかなれないと。

精霊はサポートね。

 

 

106:名無しの転生者 ID:rahdfhvjC

なるほどなぁ……思いっきり戦闘系の作品じゃねぇか!

 

 

107:名無しの転生者 ID:nWY5VpSux

まぁ、普通は日常系の世界にウルトラマンの力なんて持たんだろうからなー。世界が繋がってたり敵のみが乱入してるパターンならおかしくは無いが

 

 

108:名無しの転生者 ID: LMLRbI+MB

結局はあれだよな、イッチの過去が実は重たかったのと記憶喪失というまさかの情報があったくらいか? あとは家族を亡くしているとか。

 

 

109:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

正直まとめるの疲れた……今回はマジで隠してないぞ。俺の全て話したからな。あーでも現実の方でもまだ問題があるんだよなー

 

 

110:名無しの転生者 ID:mubPdsKrb

あとは色々と疑問がある増えたのもあるが、これ以上知らんならどうにも出来ないしねー

 

 

111:名無しの転生者 ID:ZESagnKst

今回はマジで、って言ってるし素直に信じよう。今回ばかりは本当に全部言ってそうだし

 

 

112:名無しの転生者 ID:kGVhcmp4t

こんだけ詳細に書いてくれてるとな。過去まで書いてくれた。

 

 

113:名無しの転生者 ID:HKYkGUB1a

そういや、結局スペースビーストについては知ることがなかったか……やっぱり未知の生物として扱われてるのか?

 

 

114:名無しの転生者 ID:Y1fNJ9LSv

それか知るものが限られているのか、消されたか、どっちかかもな

 

 

115:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

あ、待って。ひとつ忘れてた。これは俺もよく分からないんだけどさ、俺を除いてみんな知らないはずなのに東郷だけは『ウルトラマン』のことを知ってたわ。

ぶっちゃけ正体バレたかと思って焦った……正体バレ=最終回、地球を去るイメージがあったから

 

 

116:名無しの転生者 ID:sMlkFGCoo

東郷さんだけ知っている? どういうことだ? 過去にウルトラマンが現れていた?

 

 

117:名無しの転生者 ID:gpFFD+NuW

とすると、間違いなく東郷さんはウルトラマンに出会ってるな。

それもイッチがネクサスということは、必ずその前の適能者として『ザ・ネクスト』が居たはずだ

 

 

118:名無しの転生者 ID:OX82Ln2AK

ちなみにザ・ネクストというのは分かりやすく言うと、ウルトラマンネクサスがより弱体化した時の姿ゾ。

劇中では真木舜一という地球での初代適能者と融合して戦い、ザ・ワンを撃破した。スペック上はジュネッスでネクサスのアンファンスだったらしいが、真木さんが強すぎたのでそれ以上出ていたと言われているんやで

 

 

119:名無しの転生者 ID:YBKYAMwSG

相変わらずの博識ニキ助かる

 

 

120:名無しの転生者 ID:t9C+t9m6b

ちなみに実を言うと、ニュージェネーションに入っても正体バレは避けてるんだが、ネクサスは隠すことなんて全くしてなかったよ。メビウスという例外もあったが、基本的にはバラしてなかったから今の時代だったらもっとネットで大騒ぎされてただろうね

 

 

121:名無しの転生者 ID:36jiomkMK

ネクサスに至っては隠してる暇すらなかったから仕方ないっちゃあ仕方ない

 

 

122:名無しの転生者 ID:BVhfs1klu

それにしてもスペースビースト+バーテックスはやばそうな組み合わせだな……未だに仕掛けてこないザギさんも怖い

 

 

123:名無しの転生者 ID:kTGd5xMZ1

それに勇者システムってのも分からないよな。簡単に言えば神の力を身に纏ってるみたいなもんなんやろ?

 

 

124:名無しの転生者 ID:RTYV95r/W

そう言われるとなんかありそうだよなー

 

 

125:名無しの転生者 ID:EvSaDyIp4

選ばれる必要があるって点もな……

 

 

126:名無しの転生者 ID:5W8p1Mmm5

普通は量産化してても不思議じゃないし、男性が纏えないのも不思議だな。まるで人身御供だ

 

 

127:名無しの転生者 ID:i6Ryt2a/W

ちょっと勇者システムってやつも何処ぞの魔法少女ばりに怪しいから気をつけた方がいいかも。とりあえずイッチは一番気をつけろ

 

 

128:名無しの転生者 ID:s8g5/p1E9

イッチの肉体マジで限界っぽいしな……多分明日にでも襲ってくると見ていいかもしれん。

 

 

129:名無しの転生者 ID:uR+gIvzAB

まだザギさんの姿が確認出来んから分からないが、仮にいるなら間違いなく襲ってくるだろうな。イッチがノアになったら既に絆バフ掛かってるせいでザギさんでも勝てないだろうし、そもそも恨んでるし。

 

 

130:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

あーそれでだけど今さ、風先輩がずっと黙っていたからか東郷が怒ってどっか行っちゃったんだよ。

ということで安価しまーす。ただし、今回は割とちゃんとしたので頼む。

安価の内容は風先輩か東郷さんのどっちかに行ってフォローするかね。

じゃ、>>154で

 

 

131:名無しの転生者 ID:zk4uS3IxR

ちょ、いきなり!? お前、初心者かよぉ!

 

 

132:名無しの転生者 ID:S+IgwAXxY

まじか! 情報量多いけどこればかりは東郷さんのところに向かってフォローするで!

 

 

133:名無しの転生者 ID:donLU67ax

>>109

ここで言ってたのはそういうことか

 

 

134:名無しの転生者 ID:RotthRcS7

というか過去にウルトラマンが居たということはさ、前の適能者は誰だったんだろうなぁ

 

 

135:名無しの転生者 ID:vy3u7Hkk7

風先輩のフォロー、と言いたいところだが……

 

 

136:名無しの転生者 ID:gkWUSkq5e

普通に考えて東郷さんでしょ

 

 

137:名無しの転生者 ID:htELK5T2F

とりあえずイッチは悔い改めて、どうぞ

 

 

138:名無しの転生者 ID:kIEISGWdh

東郷さんのところで一発ギャグしろ

 

 

139:名無しの転生者 ID:lnIZb5SuJ

風先輩に煽るで

 

 

140:名無しの転生者 ID:VxuZ9vvPS

何もしない

 

 

141:名無しの転生者 ID:V6X3W7AXT

>>139

煽る理由ないでしょw

 

 

142:名無しの転生者 ID:wisyLF9kK

イッチは休んどけ

 

 

143:名無しの転生者 ID:cvrZC8N00

そのままじっとして木にでもなっとけ

 

 

144:名無しの転生者 ID:5SIJDC5QN

なんかみんな当たり強くて草

 

 

 

 

帰れ

 

 

145:名無しの転生者 ID:BRR/a/to+

敢えて樹ちゃんの元へ向かう選択肢はなしですか?

 

 

146:名無しの転生者 ID:oOrzyhNOl

友奈ちゃんのところに行くんだよ、あくしろよ

 

 

147:名無しの転生者 ID:G+E4Vsfub

てか、イッチはいつまで牛鬼に噛まれてんだよw

 

 

148:名無しの転生者 ID:YysNKc6D0

牛鬼と遊んどけ

 

 

149:名無しの転生者 ID:5XlQ4SIMm

なんでビーフジャーキー常備してんだこのイッチ……。いやまあ、家の残りを持ってきたんだろうが、お前今は年齢的に酒飲めねぇだろ

 

 

150:名無しの転生者 ID:EesV+Wo0T

やめろぉ! 安価中だからこのままじゃ変なのになっちゃうだろ! 落ち着け!

 

 

151:名無しの転生者 ID:48nBkGehv

うるせぇ! とっとと東郷のところに行くんだよ!

 

 

152:名無しの転生者 ID:z9lrpZwQf

風先輩が少ないのは……今回ばかりはしゃあないか

 

 

153:名無しの転生者 ID:sX78FGS60

東郷のところで親父ギャグで

 

 

154:名無しの転生者 ID:e2dGgTQQ2

フォローと東郷に告白

 

 

155:名無しの転生者 ID:erD8bgCul

だるまさんがころんだ

 

 

156:名無しの転生者 ID:PoaWpcKjE

>>154

は?

 

 

157:名無しの転生者 ID:3KXKM2rTO

ちょ、おまっ!? 何してくれてんだああああああああぁぁぁ!?

 

 

158:名無しの転生者 ID:IHDIzwRsC

お前ーっ!

 

 

159:名無しの転生者 ID:CZ6JiGGLi

やって良い事と悪い事があるのが分からんのかーっ! バッキャロー!

 

 

160:名無しの転生者 ID:ltYqJhKCC

バカヤロォー! なんて下手クソな安価だ! もっと周りを良く見やがれ! 誰も得しないじゃねぇかよ!

 

 

161:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>154

え、マジで……? 大丈夫だとは思うが、なんか言われたら死ぬぞ俺。 いや、安価だからやってくるけどさぁ。親父ギャグよりマシだけどさぁ。俺のメンタルが削れるだけだし。

あ、ちなみに東郷さんになるだろうなーって思ってたから今は友奈と自販機に飲み物買いにいってたりします。

最初は友奈が行ってくる!とか言ってたから俺もついてきた感じ

 

 

162:名無しの転生者 ID:K+HhHnck2

なんでこのイッチは自然と間に挟まるんですかね……

 

 

163:名無しの転生者 ID:AWzp3q+nw

は? てめぇ! 玉砕してこい!

 

 

164:名無しの転生者 ID:U27Agj0Fo

待て、これ以上はやめろ! 玉砕確定で考えてるけどもし付き合うことになったらどうするんだよ!

 

 

165:名無しの転生者 ID:YSwI9I1dE

考え直せバカ!

 

 

166:名無しの転生者 ID:8LuC/IaHZ

戻ってこい!

 

 

 

 

181:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

すまんもう無理

 

〔添付:友奈が飲み物を東郷に差し出す姿と牛鬼に手首噛まれたままの少年の写真〕

 

 

182:名無しの転生者 ID:/saT+LZHD

未だに噛まれてて草

 

 

183:名無しの転生者 ID:85IQnDp+A

とりあえず玉砕しろ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

紡絆と友奈が東郷の元へ向かった部室の中では、風が水色の犬の様な精霊、犬神を東郷に見立て、謝罪の練習をしていた。

 

「えっと、説明足らなくてごめんねぇ♪

……軽すぎてもっと怒っちゃうかな……」

 

先程からずっとこの調子なのだが、本当に申し訳ないと思っているのは同じく部室にいる樹には分かってはいた。

 

「本っ当にごめんなさい!

……低姿勢過ぎるよね。困った。

どうやって仲直りすれば……樹ぃ、占いの方はどう?」

 

「後、もう少し……」

 

「はぁ、どうしたものか……」

 

と樹の占いを頼りにしつつ風がぼやくのと同時に、風のスマホからメールの着信を知らせる音が鳴った。

今は喧嘩中なのもあって、気怠るそうにメールを確認する風。その件名にはこう書かれていた。

 

【継受紡絆と光の巨人、怪獣について】

 

風は直ぐに真剣な表情になり、メールを開く。

 

【昨晩送られた、継受紡絆と光の巨人、怪獣について。

まず、継受紡絆については現在調査中であり、分かり次第順次報告するつもりである。

光の巨人については我々大赦も知っているのは人類の味方であり、名をウルトラマンと呼ぶことのみ。しかし協力的であるならば現れ次第勇者システムを纏える貴女方勇者と協力してバーテックスや怪獣、スペースビーストを倒すように。

怪獣、スペースビーストについては共存不可であると推測される。奴らは人間の知的生命体の恐怖心を食らう悪魔的な存在であり、バーテックスと同じく人類の敵である。しかしいつ現れるかは我々も調査中であり、現状不明】

 

昨日大赦ならば何か知ってるんじゃないかと送ったメールの返信。

返ってきた文字を見て風が感じたのは落胆と驚きの文字。

 

(大赦ですら全てを把握していないってこと? 少なくともウルトラマンは味方みたいね……。あの怪獣はスペースビーストで敵、と。でも紡絆については不明? どういうこと? 大赦から紡絆を誘うようにって来たのに?)

 

これから味方が増えたと思いもあるが、敵が増えたという情報でもある。

しかし何より不可解なのは紡絆について調査中ということだけということ。

 

(はぁ、これじゃあ、また紡絆については説明出来ないわね……まあ、別に悪いことではないんだけど。でも勇者システムを使えない紡絆には悪いということになるのか……せめて私たちが守らないと)

 

なんの力も持たず樹海の世界に連れていかれる紡絆のことを考え、風は勇者システムを使える自分たちが守らないといけないと決心した---その時だった。

 

「あれ?」

 

「樹? どうし---ッ!?」

 

疑問の声を挙げた妹に視線を向けると、手に持つ携帯から流れるのは警報。画面には樹海化警報と書かれており、それはすなわち---

 

「まさか、二日連続!?」

 

敵が来るということ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

警報がなる少し前---。

東郷に追いついた紡絆と友奈だが、友奈は手に持つお茶を東郷に差し出した。

 

「はい。東郷さん」

 

「俺の奢りだ」

 

「……友奈ちゃん。紡絆くん」

 

「本当は私が買うって言ったんだけどねー」

 

「いやいや、女の子に奢らせたら紳士の名が折れるじゃん? 紳士じゃないけど」

 

「え、えっと、でも……」

 

自然と盛り上がる二人に対して、手に持たされた東郷は何もしてない自分が受け取る理由なんてないと言わんばかりに視線を二人に向けていた。

 

「あぁ、いいよいいよ。東郷は俺たちのために怒ってくれたんだろ? 確かに俺は死にそうになってたのは事実だしさ」

 

「うんうん、だから私たちのために怒ってくれてありがとう、東郷さん」

 

そう笑顔で言う二人に東郷はパチパチと何度か瞬きをした後、両手で頬を抑えて言った。

 

「ああ……なんだか二人が眩しい」

 

「え? 友奈は---大丈夫だが、もしかして俺ハゲてる!? まさか牛鬼……お前が食ったのか!?」

 

「お、落ち着いて紡絆くん! うん、しっかりあるから!」

 

「なんだ、よかった……後頭部が寂しくなったのかと」

 

「今の言葉的にそれだったら私も同じになるよ!?」

 

「それは俺が困る!」

 

「どうして紡絆くんが!?」

 

相変わらず明るい雰囲気で漫才のようなものをやる紡絆と友奈だが、東郷が言いたいのは髪ではなく、まさに今のようなことだろう。

東郷は一瞬きょとんとするが、クスッと笑ってしまう。

そういう風に自然と周りを笑わせたり明るくするからこそ、眩しいのだ。

 

「っと。それで、何かあるんだろ?」

 

そんな時、東郷が笑ったのを見ると紡絆はよく分からないけど良かったと小さく呟いて笑みを浮かべながら、話を戻した。

なお、傍に居た友奈はその言葉が聞こえて笑顔を浮かべたが、紡絆本人はからかわれたくないからか見ないようにした。

 

「あ、うん……えっとね。私、昨日ずっとモヤモヤしてたんだ。このまま変身出来なかったら私は勇者部の足手まといになるんじゃないかって」

 

そんな紡絆はさておき、東郷は胸の内に秘めた本音をポツポツと語っていく。

それを聞いた友奈が口を開く。

 

「そんな事ないよ、東郷さん」

 

優しく否定してくれる友奈だが、思うところがあるのか、東郷は小さく首を横に振る。

 

「ううん、違うの友奈ちゃん。さっき怒ったのだって私の抱えたモヤモヤを先輩に八つ当たりする様にぶつけてたところもあって……。私、悪い事言っちゃった……」

 

「東郷さん……」

 

「東郷……」

 

「友奈ちゃんはみんなの危機に変身したのに……国が大変な時なのに……」

 

東郷の声が徐々に低くなっていき、雲行きが怪しくなってくる。

流石におかしいと気づいたようで、二人は少し困惑する。

 

「と、東郷さん?」

 

「わ、私は、勇者どころか、敵・前・逃・亡……」

 

「と、東郷? えー、えっと一旦落ち着いて」

 

「風先輩が勇者部を作ったのだって、国や大赦の命令でやっていたことだろうに……。はぁ、私はなんて事を……」

 

「わー! ダメだよ! そうやって暗くなってたら!」

 

戸惑いながら落ち着くように紡絆が言うが、東郷はますますと自虐も込めながら暗くなっていく。

友奈が慌て、紡絆はどうするべきか二重の意味で考えていると、友奈が何かを思いつく。

 

「そ、そうだ! 私のお気に入りを見せてあげるね!」

 

そう叫んだ友奈はポケットから手帳を取り出し、パラパラとページを捲りと何かを取り出す。

紡絆はとりあえず見るために東郷の後ろに回ると、友奈は二人に見せる。

 

「ジャジャーン! きのこの押し花! 凄いでしょ? 他にもトウモロコシの奴も有るよ!」

 

「「………………」」

 

趣味の押し花なのだろうが、残念ながら二人にそんな趣味はない。

暫しの沈黙の後、二人は口を開いた。

 

「……うん。綺麗だね」

 

「うん、良いとは思うぞ……うん」

 

「気を遣わせてしまった!? それに紡絆くんには可哀想な子を見るような目で見られた!? じゃ、じゃあ一発ギャグやりまーす! 紡絆くん、ちょっと貸して!」

 

「や、お前のだからな? 別に良いけど」

 

未だに手首を食べている牛鬼を貸してと言われたため、ツッコミを入れながら紡絆は手を差し出す。

すると牛鬼はあっさりと離れ、友奈は慌てながら一度背中を向けて牛鬼を胸の中に押し込んでいた。

紡絆はようやく外れた牛鬼だったが、ベトベトな手を見て頬を引き攣らせながら除菌シートでしっかりと手を拭くのだった。

病気になるかもしれないので、正解である。

 

「ほ、ほら見てみて! 私のバスト、まるでホルスタイン!」

 

「「………………」」

 

再びの沈黙。

牛鬼が胸の中で暴れるが、紡絆は目を逸らし、美森は顔を伏せて言った。

 

「……別にそれほどなくたって魅力的な部分はたくさんあると思うぞ?」

 

「友奈ちゃん……私の為にこんなネタを……。ごめんなさい、友奈ちゃん……」

 

「あああ逆効果!? ど、どうしよう。それに紡絆くんには何故かフォローされてる!?」

 

もはや悲しそうな、同情するような目で紡絆はアタフタとしながら慌てる友奈を見ていた。しかも傍に寄って肩に手を置く始末である。

そんな友奈と紡絆に東郷はふと尋ねた。

 

「二人は、二人は大事な事を隠されていて怒ってないの?」

 

友奈と紡絆に尋ねる東郷。

その間に牛鬼は友奈の背中から抜け、自身の定位置はここだと言わんばかりに紡絆の手首に甘噛みを始めた。

うわ、と言うだけで完全に諦めた紡絆である。

 

「え? そりゃ、驚きはしたけど、私は嬉しいよ。だって、適性のお陰で風先輩や樹ちゃんに出会えたんだから」

 

友奈は悩むことなく即答し、紡絆は外れないかな、っと手をブンブンと振って外れないことに悟りを開くと素直に降ろして口を開く。

 

「俺も同じだよ。話は戻るけどさ、東郷は変身出来なかった自分が嫌なんだろ? 特に、みんなは勇敢に立ち向かったのに自分だけが無理だったこと」

 

「……うん」

 

「別にみんな同じなんだよ。勇者になる資格すらない俺はともかく、みんな恐怖心を抱いてる。バーテックスが怖い。怪獣も怖い。巨人だって東郷を守ってなければ俺も含めてみんな、未知の存在として畏れていたかもしれない」

 

そう語っていく紡絆には、何処か重みがあった。

果たして勇者になれない自分には思うことがあるからか、それとも別の思いがあるからか。

 

「東郷に足りなかったのは飛ぶための、一歩踏み出すための勇気なんだと思う」

 

「……勇気?」

 

「そう、勇気。だけどさ、東郷は足手まといになってるわけでもなかった。

だって、友奈がそうなんだから。友奈がその一歩を踏み出したのは、東郷を守るために勇気を出したからなんだ」

 

真剣そうな表情で語る紡絆はそう言うとしゃがみこみ、東郷の手を握る。

突然のことで少し驚くが、紡絆は気にしていなかった。

 

「でも東郷だって間違ってない。俺みたいに武器もないのに突撃するバカはともかく、怖いと思うのは人間ならば正しい。

東郷は物事を冷静に考えれるからこそ、俺たちも助けられるんだ。後先考えない俺たちよりさ。

まだ勇者になれなくとも、東郷は必ず勇気さえ出せばなれる。東郷は必ず頼りになってくれるってこと、俺はよく知ってるし、俺は東郷(のそういうところ)が好きだからな」

 

「へっ……!?」

 

「えっ!?」

 

「……ん?」

 

突然のカミングアウト。

紡絆の言葉をしっかりと聞いていた東郷だったが、予想もしない言葉に顔を赤くして思考が止まる。

一方で友奈も友奈で驚きの声は挙げたが、顔を赤くしながらここに自分が居てよかったのかと思っていた。

当の本人は何故赤くしたのか理解出来ずに首を傾げている始末。

どうやら言葉が足りていないことに気づいていないらしい。

 

「つ、つつつ紡絆くん。そ、その好きって……?」

 

「え、えっと、もう一回言ってくれてもいいかしら……?」

 

「え? だから東郷だって間違って---」

 

「そ、そこじゃなくて最後よ」

 

「最後?」

 

居てもいいのかとは思ったが、親友二人についてとなると気になるのか、意味を問いかける友奈と今度は飲み込もうともう一度聞く東郷。

紡絆は一から言おうとしたが、再び東郷に言われて首を傾げると、もう一度口を開く。

 

「えーっとまだ勇者になれなくとも、東郷は必ず勇気さえ出せばなれる。東郷は必ず頼りになってくれるってこと、俺はよく知ってるし、俺は東郷(のそういうところ)が好きだからな。

で、いい?」

 

「き、聞き間違いじゃない……?」

 

「つ、紡絆くん。東郷さんのこと好きだったの?」

 

やはり間違ってなかったことに顔を真っ赤にする東郷と、問いただしたい友奈。

しかし何故か紡絆は理解できないという表情をする。

 

「はぁ? 当たり前だろ? つーか俺は友奈の(性格や雰囲気で助かる時があるからその)ことも(含めて)好きだが?」

 

「へっ? えええぇぇえええ!?」

 

友奈が顔を真っ赤にして驚愕の声を挙げるが、残念ながら無自覚である。

 

「だ、ダメだよ紡絆くん! そ、その気持ちは嬉しいけど恋人は一人だけだよ!?」

 

「え? 恋人って? そりゃ友達なんだから好きだろ」

 

友奈の言葉に紡絆はようやく違和感に気づいたのか、訝しむように見つめると、再び三つ目の爆弾を投下した。

 

「え?」

 

「えっ?」

 

「……え?」

 

誤解していた二名が固まり、友達として好きと言っていた一名も固まる。

三人の中に沈黙が生まれるが、誰も動かない。

情報量でよく分からなくなっていたが、最初に動いたのは紡絆だった。

 

「……なんかごめんなさい」

 

申し訳なさそうに土下座して謝る紡絆に、二人は恥ずかしさのあまり俯くことしか出来なかった。

そしてはたまた微妙な沈黙が流れるが、ふと空気が変わる。

---ドクンッ。

 

「……ッ!? とりあえずさっきのことは俺が悪いから忘れてくれ! それよりも来る!」

 

「そ、そんな事言われても〜! で、でも来るって……?」

 

「まさか……バーテックス!?」

 

エボルトラスターの鼓動から気づいた紡絆が立ち上がってそう言うと、何が来るのかと首を傾げる友奈と気がついたように声を挙げる東郷。

その瞬間、樹海化警報が鳴り響き、極彩色の光に呑み込まれ、世界が変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

210:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

安価達成したけどそんな場合じゃねぇ! なんか敵が三体いるんですけどぉ!? これ俺も変身しなきゃまずいな……!

 

 

211:名無しの転生者 ID:UK20IUA16

逃げたな? 精神守るために逃げたなイッチィ!

 

 

212:名無しの転生者 ID:uuhSfwEAL

このチキンめ!

 

 

213:名無しの転生者 ID:OY6f2EvV0

というかあの反応まさか……こいつ天然のたらしでは? どうやったらそんな言い方になるんだよ! アホか!

 

 

 

 

 

 

 

 

樹海の世界へと再び入った紡絆の目には、三体のバーテックスが見えた。

白と赤の、どこか甲殻類を思わせるような姿をしているもの。携帯の位置から察するに、蟹型。彼らは知らぬが、キャンサー・バーテックスだろう。

さらに黄色と灰色の、球体がつながった長い尾のようなパーツを持つ黄色いパイプ椅子のような姿をしている蠍型。スコーピオン・バーテックス。

少なくとも外見から分かるのは、スコーピオン・バーテックスの尾の先端に針のような部分があり、そこがあからさまに危険な雰囲気を醸し出しているということ。

さらに後方にいるネイルガンに顔がついたような青と白の姿をしているのが射手型。サジタリウス・バーテックス。

 

「友奈、気をつけろ。バーテックスは三体いるぞ」

 

「うん、分かった! それじゃあ、紡絆くん。東郷さんをお願い!

東郷さんも待っててね、倒してくるから!」

 

「ま……待って。私も……」

 

紡絆の警告に頷いた友奈は東郷を任せたことを伝えて行こうとし、東郷は友奈に続く言葉を言おうとした瞬間、前回の恐怖がフラッシュバックして体を震わす。そんな東郷の声を聞いて友奈は近くに寄って手を握った。

 

「大丈夫だよ、東郷さん。私は一人じゃない!」

 

「ゆ、友奈ちゃん……」

 

「行ってくるね!」

 

友奈は笑顔で東郷にそう言うと、すぐに後方を向いて紡絆と視線を交わし、頷いたのを見て勇者の力を身にまとってその身体能力で戦場へと向かう。

紡絆はそれを見届けると、懐のエボルトラスターを握るが、顔を顰める。

 

「(クソっ……まさか連戦になるなんて初めてだ。まずい、多分変身したらエナジーコア鳴る……スペースビーストが現れてからにするか。なら今は……)東郷、大丈夫だ。恐怖は乗り越えられる。

それまで何があっても守るからな」

 

「……ありがとう」

 

自身の気持ちを察してか、『守る』ではなく、『それまで』と言ってくれた紡絆に東郷はお礼を言う。

それはつまり、一歩踏み出す勇気を与えてくれてるのだから。

 

お礼を言う東郷に紡絆は笑いかけると、傍に居ながらバーテックスを見つめる。

正確には遠くに居るサジタリウスを見つめていた。三体同時に動かないからか、強化された紡絆の耳には後方の一体は放っておいて先に二体封印するとの声が聞こえた。

しかし嫌な予感が拭い切れず、ただ見つめていると偶然友奈も気づいたようで、不審な動きをするサジタリウスを見る。

 

縦に並んで二つある口のような部分のうち、上の口の方がゆっくりと開かれていく。

しばらくして完全に開かれたその口の中に細長い杭のような矢のようなものが現れた。

それが何なのかは紡絆や友奈も遠くてはっきりとはわからない。しかし、その先端は風の方を向いているように見える。

感じる嫌な予感に、友奈は風に聞こえるように声を張り上げた。

 

「風先輩! 気を付けてください!!」

 

「え?」

 

「お姉ちゃん!」

 

友奈の声に気づいた風が、疑問の声を上げたその瞬間。

ついにその矢は発射され、ギリギリ反応できた風が、咄嗟に手にした大剣を引き寄せる。

しかし、予想を超える凄まじい速度で射出されたその矢は、まっすぐ風の元へ飛び、大剣ごと吹き飛ばした。

心配するような樹の声が風の耳に届くが、ガードに成功したからか無事に着地でき、ダメージはなかった。

 

「大丈夫よ樹! それより……」

 

「い、いっぱい来たぁ〜!?」

 

次に備えるように声を発しようとすると、サジタリウスが自ら体を少し傾かせて斜めに口を開いたかと思うと、大量の光の矢が風と樹に襲いかかる。

二人はすぐに別の木の根に移ることで回避し、友奈は近くにいたスコーピオンを無視して後方のサジタリウスを狙うために跳躍する。

 

「撃ってくるやつを止めないと!」

 

「まずい!」

 

「友奈さん、危ない! 後ろです!」

 

サジタリウスに向かっていく友奈だったが、風と樹はバーテックスの行動を見ていたのもあって気がついてない様子の友奈に警告する。

なぜならサジタリウスが放った矢をキャンサーが反射板を友奈の方に向け、大量の矢を反射させたのだから。

 

「へっ? うわわわわわ!?」

 

樹の声に反応して背後を見た友奈は手の甲で矢を弾き、無事に地上に降り立つとほっと息を吐く。

それは、油断。

その一瞬の隙をついて地面が揺れたかと思うと、小さな友奈の体を打ち上げるものがあった。

スコーピオンの尻尾、毒針である。

致命傷になるからか精霊によるバリアが発動しているため貫かれていないが、脱力した状態の友奈の体が落ちたかと思うと、毒針と繋がっているタンクのようなものに次々とバウンドして落下していき、スコーピオンの長い尾が友奈を薙ぎ払うことで一気に吹き飛ばした。

 

「きゃああぁあああぁぁ!?」

 

悲鳴を挙げながら凄まじい速度で友奈が飛んでいくが、助けに行こうにも風と樹はキャンサーとサジタリウスの反射板と矢で妨害されていた。

 

「こ、こっちに……」

 

「友奈ッ!?」

 

さらに友奈がスコーピオンに打ち上げられると、友奈が紡絆と東郷がいる場所まで落ちてきた。

紡絆は駆け寄ろうとするが、友奈を突き刺すように向かってきたスコーピオンの毒針に止まらざるをえず、歯を食いしばる。

そして動かない友奈に対して、スコーピオンの毒針が突き刺さる。

その一撃は精霊である牛鬼によって守られているが、必死に抑えてる所から察するに長くは持たないだろう。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

280:名無しの転生者 ID:IOtXMhI8e

おい、あれはマズくないか!? バリアあっても長くは耐えられないぞ!

 

 

281:名無しの転生者 ID:WLdMFeZWj

だが、イッチも肉体的にマズイだろ!

 

 

282:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

賭けるなら東郷さんの覚醒か……?

 

 

283:名無しの転生者 ID:M6QEdnCpT

クソッ! ウルトラ戦士がもう一人居たら解決なのに!

 

 

284:名無しの転生者 ID:s8g5/p1E9

でも待ってる暇ないぞ! どうするんだ!? まさか今日来るなんて……! タイミングが悪すぎるだろ!

 

 

285:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

なあ、ネクサスって正体バレてもいいんだよな?

 

 

286:名無しの転生者 ID:t9C+t9m6b

え? まあ、あまり隠してなかったが

 

 

287:名無しの転生者 ID:36jiomkMK

まさかイッチ……

 

 

288:名無しの転生者 ID:eHvxi4kOC

お前、やる気か?

 

 

289:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

ここで行かなきゃウルトラマンじゃないでしょ?

 

 

 

290:名無しの転生者 ID:OX82Ln2AK

イッチ……男なら誰かのために強くなれ、歯を食いしばって 思い切り守り抜け 転んでもいいよ また立ち上がれればいい ただそれだけ 出来れば 英雄さ。

ウルトラマンネクサスの姫矢編OP、英雄のサビだ

 

 

291:名無しの転生者 ID:aEMY5nMeK

いいか、絶対に死ぬなよ!

 

 

292:名無しの転生者 ID:YT3K/IISB

友奈ちゃんや東郷さんを悲しませたら殺すからな貴様ァ! だから絶対生きろよ!

 

 

293:超古代の光の転生者 ID:T8iHSnGQA

>>289

その行動は止めはしない。けどウルトラマンの、自身の力を引き出す方法は分かったのか? 君がこの戦いを切り抜けるには、ジュネッスになるしかない

 

 

294:名無しの転生者 ID:aGhkqrhQ5

ティガニキも来てた……!?

 

 

295:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>293

ティガ先輩、正直まだ分かってません。でも記憶もない俺を受け入れて仲良くしてくれた人たちだから。ウルトラマンとしても世界を守らなくっちゃダメなんです。もう妹のように誰かを亡くしたくない。特に喧嘩させたままで居させたくないんだ!

 

 

296:名無しの転生者 ID:kfyKDnWQ+

イッチ……ウルトラマンの素質を持っているな

 

 

297:名無しの転生者 ID:3fJocw0sS

だが、ウルトラマンでも自分の身は大切にしなきゃだぞ

 

 

298:超古代の光の転生者 ID:T8iHSnGQA

>>295

そうか……。だったら光を手にして守るんだ。君が守りたいものを、居場所を!

 

 

299:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

はい!

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

一秒。

経ったの一秒しか経っていないが、激励を受けた紡絆は覚悟を決める。

凄まじい爆風が起き、友奈の身は守られていたが、地面は少しのクレーターが作られている。

そんな中で紡絆は東郷に近づくと、一言告げる。

 

「東郷、友奈は俺が助ける! 離れるけど帰ってくるから!」

 

「え……? ま、待ってっ! 助けるってどうやって!?」

 

力も持たないのに友奈の元に走ろうとする紡絆を、流石に東郷は止めるしかなかった。同時に、東郷の胸の内には心がザワつくような、嫌な予感が漂っていた。

だからこそ、紡絆の手を掴み、東郷は何処か懇願するように見つめる。

まるで死に行くようだ、と。だからここに居て、というように。

 

(ダメ……行かせちゃいけない。なんでか分からないけど、嫌な予感がする……!)

 

しかし紡絆は東郷の心の中を読めるわけではない。

彼女がそんな予感を感じ取ったことに気づかないまま手を取って降ろさせると、いつもの明るい笑みを浮かべた。

 

「大丈夫だ。絶対帰ってくる。もし不安だったなら、約束しよう」

 

「や、約束?」

 

「あぁ。この戦いが終わったら、東郷のぼた餅食わせてくれ。東郷が作るぼた餅美味しくて好きだからさ、だから絶対に帰ってくる。

約束だ」

 

自分を信じろというように小指を突き出してくる紡絆に、東郷の中で迷いが生まれる。

しかし背後でスコーピオンの毒針を必死に防いでいる精霊と、徐々に友奈の肉体に近づいているのをみて小指を絡めた。

そう、何故かは分からない。焦っているのもあったが、力を持たぬ紡絆が行ったって何も出来ない。それでも東郷は『紡絆くんならきっと何とかしてくれる』という不思議な信頼があったのだ。

だからこそ、気がつけば絡めていた。もちろん、嫌な予感は拭い切れた訳では無い。それなのに行動した東郷は何故か分からずに驚くが、紡絆の目を見て口を開く。

 

「……分かったわ。約束よ……? 絶対帰ってきて」

 

「もちろんだ。俺は---」

 

約束した小指を離し、紡絆が東郷に背中を向ける。

懐に手を入れ、取り出したのはエボルトラスター。それを引き抜いた紡絆は、まだまだ突き刺そうとするスコーピオンの長い尾に向かって走っていく。

 

「俺は---ウルトラマンだ!」

 

そう叫んだの同時に、紡絆は抜刀した後の本体を右手に持ちながら走り続け、エボルトラスターを持つ右腕を大きく後ろから前に回して本体を突き出す。

エボルトラスターの本体が光り輝き、突き出した本体から紡絆の肉体を覆い尽くし、紡絆を覆った光が大きくなっていく---

 

 

 

 

 

2m---

 

 

 

 

 

 

10m---

 

 

 

 

 

 

 

20m---

 

 

 

 

 

 

 

30m---

 

 

 

 

 

 

 

40m---

 

 

 

 

 

 

 

 

45m----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

46m----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

47m---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

48m---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、49m---人間を優に超える、バーテックスと同じ大きさへと変化させた光が晴れ、一気に空中から突き刺そうとしたスコーピオンの毒針が、何度目かなる友奈に貼られているバリアに突き刺さる寸前で微秒だにしなくなった。

 

『ハアァァアァ……シュアッ!』

 

全身から赤い光を発した鋭く尖ったカッター状の刃の装甲を持ち、胸の中心にYの字型のコア---エナジーコアを持つ銀色の光の巨人、ウルトラマンネクサスがスコーピオンの動きを止め、一気に吹き飛ばしたからだ。

それは、オーラミラージュと呼ばれる技。

 

「紡絆くんが……ウルトラマン!?」

 

「お姉ちゃん、あれって……!」

 

「ウルトラマン……!」

 

東郷と樹、風がネクサスの姿を見て反応する。

一人は驚き、二人は来てくれた、と喜ぶように。

 

「ッ!? やばい、ウルトラマン!」

 

しかし、それはバーテックスにとっても敵が現れたということ。

サジタリウスの矢とキャンサーの反射板が、仲間のスコーピオンを吹き飛ばしたネクサスへ向けられる。

数えるのが嫌になる、それこそ万以上もあるのではないか?と思われる矢をネクサスは後ろの足元を見て、矢を見据える。

ネクサスだけなら避けるのは簡単だが、意識を失ってるのか起きない友奈を見捨てることなど出来ない。

そのため、ネクサスは向かってくる矢に対して両拳を腰に持っていき、一気に斜め上へと突き出す。

 

『ヘェアッ!』

 

瞬間、水面に生まれる波紋のような、青色に輝く円形状のバリヤーが貼られる---サークルシールド。

ウルトラシリーズの中でも『最強』と名高い防御技。ただの矢では破れるはずもなく、全ての矢を防ぎ切ったネクサスはバリヤーを解除すると反撃しようとし---

 

『フッ……!? ウワァアアアア!?』

 

飛んできた超高熱火炎弾が、ネクサスの肉体を大きく吹き飛ばした。

 

「今度は何!?」

 

「新手……?」

 

先程までとは違う攻撃に風と樹が周囲を探ると、見つけた。

サジタリウスとキャンサーの傍にいつの間にか()()()()()()()()()()()()出現していた。

 

『グルルゥ……』

 

まるで犬のような唸り声を挙げる怪獣---否、スペースビースト。ギリシャ神話の地獄の番犬ケルベロスを思わせる3つの頭部を持ち、胸に目のないイルカに似た頭部が、両肩の部分に分裂したような犬に酷似した隻眼の頭部があるスペースビースト---紡絆が初めて戦った相手である、ガルベロスだった。

 

「あれはスペースビースト……! 大赦曰く、敵よ!」

 

「あれも敵!? じゃ、じゃあ……」

 

「四対四ってこと!」

 

『ハァ……ハァ……シェアッ!』

 

起き上がったネクサスが先程まで居た位置に高速で戻る。

瞬間、振ってくるおびただしい量の矢。

それをサークルシールドを貼ることで防ぎ、今度はさらにガルベロスの火炎弾までが飛んでくる。

まるで()()()()()()()()()()()ために集中攻撃するバーテックスとスペースビーストの姿に、風と樹は一瞬止まっていた。

 

「なんであそこから動かないの……って友奈が居るから!?」

 

「そ、そうだった……お姉ちゃん、援護しないと!」

 

「もちろん行くわよ!」

 

すぐにネクサスが動けない理由を理解すると、風と樹はサジタリウスとキャンサーに向かっていく。

今回は()()()狙われない。しかし、誰も気づいていない中、ガルベロスの両肩にある隻眼の二つの頭部。二つ合わせて両眼あるガルベロスの眼が両方とも赤く光る。

それは、風と樹を対象にされていた。

風と樹は気づくことなくサジタリウスへと接近する。

 

「樹!」

 

「うん!」

 

飛んでくる矢を避け、樹はワイヤーを網状にして矢を一気に落とす。

そこで風が一気に駆け出し、両手に持つ大剣を振り下ろし---サジタリウスが、消えた。

 

「なっ!?」

 

「消えた……?」

 

それは、幻覚。

ガルベロスが持つ幻覚であり、まんまと風と樹は引っかかったのだ。

 

『ヘェヤァ!』

 

その間にネクサスはパーテェクルフィザーを放ち、サジタリウスの妨害とキャンサーに対する攻撃を行うが、キャンサーが防ぎ、飛んできたパーティクルフェザーを上、横、斜め、直線へと反射板で反射させると、ネクサスに飛んできた。

ネクサスは返ってきたパーティクルフェザーをアームドネクサスで防いで消し去るが、その戦い方は極力樹海にダメージを与えないような戦い方をしており、だからこそ容易に光線を撃つことが出来なかった。

 

『ウッ……!?』

 

『ギャオォォオオオオオ!』

 

防いだ後の隙を狙い、向かってきたガルベロスと組み合うネクサス。

無数の矢が効かないと見ると、サジタリウスが細長い杭のような大きな矢を作り、先程風を吹き飛ばしたように凄まじい速度でネクサスに向かって発射した。

ガルベロスを蹴り飛ばしたネクサスは即座に見極めて両手で大きな矢を跳躍して掴み取ると、空中では踏ん張りが効かないため、衝撃で距離が離される。

 

『ウグゥゥ……デェヤアアアアアアァァァ!』

 

跳躍した理由は友奈を踏まないためであり、地面に着地後は地面を大きく削りながら威力をある程度殺し、両手で掴んだ矢を受け流がせるほど威力が削減出来ると上空へ投げ飛ばす。反射されないようにパーティクルフェザーで完全に破壊するが、まさに防戦一方だった。

そして---

 

「どうなってるのよ!?」

 

「さっきから、なんだかおかしい……!」

 

勇者の協力が、得られなかった。

まやかしによって惑わされてしまった二人は抜け出すことが出来ず、見当違いの場所を攻撃するだけ。

タネを理解しなければ、彼女たちには何も出来ない。

 

『フッ!? シュア!』

 

『グガァ!』

 

そこで、ネクサスがガルベロスの眼が赤くなっていることに気づく。

即座にアームドネクサスをクロスさせてマッハムーブで近づくと、頭部を掴むが、効果なし。

ならばと反撃してきた手を連続で叩き落として胸を殴り飛ばすことで距離を離す。

そして両手から光の鞭---セービングビュートを放ち、ガルベロスの二つの頭部にある眼を無理矢理防いだ。

瞬間、風と樹は自身が何も無いところに攻撃していたことに気づいた。

 

「あれ……?」

 

「って向こう!? ど、どうなってるの〜!?」

 

元には戻ったが、状況は変わっていない。

ネクサスは再び飛んできた大量の矢を守るためにサークルシールドを貼ることで防ぐが、ガルベロスが視界から外れる。

しかし移動することも出来ず、ただただ体力を消耗するだけであり、そして---

 

『ウワッ!? フッ---』

 

『ガルルゥ……ガアアアアアアァァァ!』

 

大量の矢が消えた瞬間、いつの間にか接近されていたネクサスがガルベロスに両腕を抑えられて拘束される。

抵抗しようとするが、突如としてネクサスの動きが止まった。

いや---止まるしかなかった。

 

『グオッ!?』

 

ガルベロスがネクサスを押すように蹴り飛ばした瞬間、ネクサス---紡絆は思い出した。

バーテックスは()()()()()()()()()()()()に。

そう、それはスコーピオン・バーテックス。

ようやく辿り着いた風と樹が援護しようとしたが、間に合わない。

さらに吹き飛ばされたネクサスに避ける術はなく、凄まじい速度でネクサスの腹に向けて突き出されたスコーピオンの毒針を持つ長い尾が、ネクサスを貫いた---

 

 

 

 

 

 

 

 

『グアアアアアアアァァァ!? ア……ガァ……ッ!』

 

絶叫。

凄まじい痛みがネクサスを襲い、絶叫する。

自身を貫いた毒針を両手で掴むが、力が入りにくいのか簡単に引き抜くことは出来ない。

 

「そんな……!?」

 

「ウルトラマンが……!」

 

貫通したスコーピオンの毒針を持つ長い尾からは、紫色のエネルギーが流れ始め、ネクサスの肉体を侵食していく。

スコーピオンの透明なタンク内の毒液が無くなってきていることから分かる通り、それは、毒。それもただの毒ではなく、猛毒。

それがネクサスの体内に注入されている。それこそ、注射のように。

ネクサスの腹からまるで血を表すように光のエネルギーが溢れ、エナジーコアが、鳴り始めた。

いや、()()()しまった。

それは、心臓の鼓動。ピコン、ピコン、と聞こえはするが、よくよく聞けばそれは心臓の鼓動に似た音だ。

当たり前だ。ネクサスのエナジーコア、それもアンファンスで点滅するということは、()()()()()()()()()()()()()()()

 

『シュア…ッ! グァァ……ガ……ハ……ァッ!?』

 

必死に毒が回る前にスコーピオンの毒針を抜こうと全身の力を使って抵抗するが、少しずつ抵抗の激しさは消え、終わったというようにスコーピオンが一気に引き抜く。

 

『ウワッ……ウアアアアアアァァア!?』

 

その瞬間、例えるならば人間が刺されたナイフを引き抜いた際に血が溢れるのと同じく、ネクサスの腹から凄まじい量の光が出てきて、エナジーコアが高速で点滅を始めた。

膝を着き、両手を着く。

そこに、トドメを刺そうとガルベロスが近距離で火炎弾を貯める。

 

「紡絆くん……ッ!」

 

「紡絆くん……! 今助けるよッ!」

 

膝を着いた先、ネクサスの視線の先には涙を浮かべながら、心配そうに見てる東郷と、いつの間にか意識が回復して東郷に聞いたのか、友奈が心配するような目で見ながら、こっちに向かってきているのが見えた。

風と樹もサジタリウスとキャンサーを必死に抑えており、目前にはガルベロス。

 

『シュアァ……フアッ!』

 

だからこそ、ネクサスは右腕にエネルギーを貯める。

消える寸前の光ではあるが、ガルベロスが火炎弾を放とうとし、同時に貯めた最後のエネルギーをガルベロスの口に突っ込んだ---ジェネレードナックル。

ガルベロスは自身の火炎弾が口の中で暴発し、さらにネクサスの攻撃を受けるという凄まじい威力に一気に吹き飛び、動かなくなった。

 

『ハァ……ハァ……。アァァ……ッ!』

 

しかしネクサスもネクサスで限界だったのか、倒れそうになり---スコーピオンの尾がネクサスの肉体を大きく吹き飛ばした。

ネクサスは吹き飛ばされながら()()()()()()()()()()()に光に包まれて姿を消し、紡絆は高速回転しながら地面に落ちると何度かバウンドする。

ようやく止まったかと思うと、奇しくも友奈を守るために変身した場所へ転ばされていた。

 

「紡絆くん!?」

 

「ぐはっ!? ぐ、ぐ……っ…ぞぉ……!」

 

東郷が車椅子を動かしながら紡絆に近づき---口元を抑えた。

理由は簡単であり、紡絆が口から血を吐き、()()()()()()()()()()()()()()()()()()腹を真っ赤に染めながら、手で抑えていたのだから。

吹き飛ばされた時の影響か、それともダメージを受けたからか、あらゆる箇所から少々の血が流れてたりもするが、それでも一番酷いのは腹だ。

東郷は知らぬが、腹以外は無理をした結果であり、傷が開いただけなのだが。

 

「そんな……っ! し、止血しなきゃ……」

 

その姿を見て、顔を青ざめながら瞬時に車椅子から降りると東郷はハンカチなどで血が出てる部分を抑えるが、一瞬で赤に染まる。

 

「止まらない……!? ど、どうしたら……」

 

「に、げ……ろ……!」

 

「大丈夫だから! すぐに病院に連れていけばまだ助けるから! だから嫌……死なないで! きっとみんなが---」

 

「あぶ……ねぇっ……!」

 

目の前の出来事にどうしたらいいか分からず、必死に抑えながら呼びかける東郷。

そんな東郷を紡絆が押す。

弱っていても強化された肉体は東郷をある程度押すことに成功し、同時に紡絆にスコーピオンの尾が振り下ろされる。

東郷は衝撃で軽く吹き飛んでしまうが、砂埃が散ると紡絆の傍にあるエボルトラスターが水面に生まれる波紋のような、青色に輝く円形状のバリヤーを貼っていた。

まるで紡絆を守るように貼られるバリヤーだが、ヒビが入る。

本来ならば、その程度でヒビが入ることなどない。弱っている今だからこそ、小弱のバリヤーしか貼られることがないのだ。

 

「うおぉぉおおぉぉおおお! わっ!?」

 

友奈がスコーピオンに向かおうとすると、妨害するようにガルベロスからの火炎弾が飛んできた。

あれほどの威力を受けてもなお生きているのか、友奈は避けるしかなかった。

しかしガルベロスが起き上がれないのだけが救いだろう。それでも---二回。三回。四回。

次々とスコーピオンは紡絆の命を奪おうとバリヤーのヒビを広げていく。

 

「と、ごう……。に…げ………ろ……!!」

 

自身が死にかけていてもなお、他者を優先する紡絆。

紡絆がウルトラマンだと知らされた友奈はともかく、風や樹は助けに来ることなど出来ないだろう。

唯一知った友奈ですら、ガルベロスが邪魔をする。

 

「……て」

 

あと少し。

あと何度か突き刺せば壊れるバリヤー。

東郷は顔を伏せながら何かを呟く。もはや弱っている紡絆には聞き取ることなど出来ないが、せめて逃がすために震える手でブラストショットを手にしていた。

 

「……めて」

 

足が動けなくとも、自身が死ぬ前には逃がせるだろうと紡絆はターゲットに構えるが、猛毒が回りかけているのか、それとも腹の傷が原因か、血を吐いて落とす。

そしてバリヤーの光が薄れる。

攻撃され続けて消えかけているようで、あと一撃で壊れるとみたのか。スコーピオンが一気に勢いよく振り下ろし---

 

「---やめて……やめろ! やめろッ! これ以上、私の大切な人たちを傷つけないで---ッ!!」

 

刹那、割れ目から目と手を覗かせた卵のような姿で、殻の左側に青い花模様がある東郷の精霊が、紡絆に振りかざされた攻撃を受け止めた。

紡絆はその姿を見て驚くが、腹を抑えて見つめながらすぐに気づいたように笑みを浮かる。

そして、呂律が回らないのか口パクで口を開いた。

『おまえならやれる』と。

 

「私……ずっと友奈ちゃんや紡絆くんに守ってもらってた。だから今度は---私が勇者になって二人を守る!」

 

その覚悟は認められたのか、勇者システムのアプリを起動させた東郷の姿が光に包まれると、スカイルブルーの衣装に髪は更に伸び、膝まで掛かるロングヘアーとなっていた---

 

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
ガチの(前世以外の)記憶なし。
一人だけのわゆ、わすゆ並に満身創痍だが、ダメージの強制解除によってギリ生きてる。
でも腹貫かれてるし大量の猛毒を体内に注入されてるんだよね。
牛鬼(他精霊も含む)に懐かれているらしい。

〇東郷さん
『好き』の意味を友達にしなければ多分付き合いましょう…! ルートだった子。
原作とは違い、友奈だけじゃなくて紡絆と友奈を守るために変身した。

〇友奈ちゃん
さらっと紡絆がウルトラマンであることを知った子。
告白にはドキドキしたりしてました。

〇エボルトラスター
妹とバリヤーについてはウルトラマンの意思。しかし妹については紡絆自身が否定したので、意味がなかった。

〇小都音
喧嘩別れした妹。
実はお兄ちゃんである紡絆が大好きだが、喧嘩で思わず……。
名前はエロゲーから。

〇蠍座
みんな大っ嫌いスコーピオン・バーテックス。
原作では勇者を二人殺し、共同で一人殺した『勇者殺し』の存在。
本作ではウルトラマンを変身解除+瀕死まで追い込んだ。

〇ガルベロス
幻覚で惑わせていたが、実はこちらも死にかけ。
最後に嫌がらせした。

▼ようやく来た質問
Q.紡絆くんが勇者部に所属することになった経緯

A.友奈ちゃんと東郷さんと同じタイミングで部活に。しかし風先輩からすると入れるように言われただけで、()()()()不明。大赦も調査中ではあるが、実は……?


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「-飛び立てない私にあなたが()をくれた-トランスファー」


前回は四対一は卑怯だろ!いい加減にしろ!でしたが、全く終わんねぇ……!
やりたかった話ですし投稿頑張ったからゆるして……。
ちゃんと日常シーンも書きますから! あ、それとアンケートお願いします() 





◆◆◆

 

 第 7 話 

 

-飛び立てない私にあなたが()をくれた-トランスファー

 

 

 

情熱

ブーゲンビリア

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

東郷美森にとって、結城友奈と継受紡絆という人間は特別な存在だった。

同性の友奈はともかく、紡絆は別に付き合っていて恋人というわけでも婚約者という訳ではない。ただ異性では唯一と言えるほどの親友であり、近所なのと共通点があるからだ。

東郷美森は()()()()()()()()()()()()。そして継受紡絆には()()()()()

互いに記憶を失っているという点は同じであり、()()にも引っ越ししてきたタイミングが近かったのもあったのだろう。

そして東郷は二年間の記憶もなく、交通事故による後遺症で半身不随になってしまい、車椅子生活を強いられることになった。

さらに親の都合で引っ越しすることになり、当時塞ぎ込みがちだった東郷は二人に出会ったことで救われた。

 

『新しく引っ越してきた子? 歳が同じなら同じ中学になるよね?

私は結城友奈。よろしくね! そうだ、この辺りまだよく分からないでしょ? 案内するよ、まかせて!』

 

引っ越し先で不安なこともたくさんあり、分からないこともたくさんあった東郷に、善意で優しく、明るく接してくれた友奈。

 

『あーよかった! 見つけた! 向こうの方で無くしたって泣いてる子がいて探すの手伝ってたんだ。拾ってくれてありがとう! 俺は継受紡絆……って言うらしい。えっと、一応お隣さん……になるのかな。よかったらよろしく』

 

出会った時から見返りを求めることなく、ただ()()()()()()行動していた紡絆。無償で助ける理由も、困ってる人が居たからという迷いない答えも持っていた。

 

『え? 記憶がない? 足も動かないから迷惑になる? それが何か悪いことなのか? 俺だって記憶はないけど、やりたいことしてるぞ?』

 

その紡絆は明るい性格や前向きな様子からまるで心の底から()()()()()()()のような笑顔を振りまくり、自身の心に従うように人助けをしてきた彼には人が集まり、例え彼が望んでいなくても自然と感謝されるようになっていた。

他にも彼の性格に惹かれ、励まされた人も勇気を貰った人も居たのだろう。

 

『俺も君も今を生きてるだろ? じゃあ、好きなことをしたらいいじゃん! やりたいことが一人では出来なくて、それで迷惑をかけるかも……なんて考えてるなら俺がいくらでも手伝う。何度だって頼ってくれていいよ。お隣さんだし、もう友達だ。

だからさ、そんな暗くならずに笑顔で今を生きよう。明るく前を向いて生きたら……きっと楽しくて、明るい未来へ行ける気がするんだ。

まあ、記憶ないやつが何ほざいてんだ、って話だけど! あはは』

 

そんな紡絆は東郷の悩みを聞き、自身にも記憶がないことをあっさりと言うだけではなく、足が動かないことにも気にした様子を見せなかった。

むしろ頼ってくれていいと、手伝うまで言い、不安だった心を掻き消すように支えてくれたことは彼女にとって、東郷にとって、紡絆と友奈の二人はまさに心の支えだった。

もちろん、初対面だった紡絆に関しては会ったこともないはずなのに、初めて会ったはずなのにそこまで相談したかは分からない。

しかし東郷は不思議と話していた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、東郷の目の前にはまさに()()()()()()()()()()()が死にかけていた。

文字通りの意味で、死にかけていたのだ。

今にも守るために貼られたバリヤーは薄まり、それが消えた後に待つものは、本人はいらないと言うだろうが、貰った沢山の恩を返せないまま大切な親友の死。

先ほどは何も出来ない、恐怖に打ち負けて大切な親友を失いそうになっていた東郷に変わって、親友である友奈を助けるためにウルトラマンへと変身して救って見せた紡絆。

そんな彼が今はピンチになっており、友奈の時とは違って駆けつけれる存在は何処にも居ない。

もちろん、それが紡絆だからではない。友奈だからではない。仮に喧嘩中であっても風がピンチだったなら、後輩である樹がピンチだったなら、東郷も当然助けたいと思う。

しかしそれでも---勇者部の中でも友奈と紡絆は、紡絆は東郷にとって()()()()()なのだ。

自身の気持ちを理解して、記憶がないために同情ではなく本音から寄り添ってくれて、助けてくれて、現に以前の戦闘でも秘密にしていたとはいえど、助けてくれた。

そしてさっきも助けられ、何度も助けられ続けた。ボロボロなのに、死にかけているのに、東郷は救われてしまったのだ。

何も出来ないことへの無力感。親友である二人に並び立てないことへの悔しさ。助けられることしか出来ない自分への後悔。だが何より東郷が抱いたのは---

 

 

「---やめて……やめろ! やめろッ! これ以上、私の大切な人たちを傷つけないで---ッ!!」

 

怒りだった。それも、自身の大切な人たちを傷つける、みんなの居場所を、(紡絆)を奪わんとする人類の敵(バーテックス)への怒り。

その瞬間、彼女の感情に呼応するように紡絆へと振り下ろされた間違いないトドメの一撃であるスコーピオン・バーテックスの尾を、割れ目から目と手を覗かせた卵のような姿で、殻の左側に青い花模様がある東郷のと思われる精霊が守って見せた。

そしてボロボロなのにも関わらず、紡絆の視線が東郷へと向けられ、東郷はその視線を受けた。

『おまえならやれる』という最後まで勇気を与えようとするメッセージと共に。

 

「私……ずっと友奈ちゃんや紡絆くんに守ってもらってた。だから今度は---私が勇者になって二人を守る!」

 

だからこそ、東郷はもう逃げない。もう守られるだけの存在ではいない。彼女(友奈)の、(紡絆)の一番の傍に、隣に、親友であるため、戦うと決めたのだ。

その覚悟は認められたのか、東郷はスマホを握り、勇者システムのアプリ起動画面を開く。

そして迷うことなく起動させた東郷の姿が光に包まれると、スカイルブルーの衣装に髪は更に伸び、膝まで掛かるロングヘアーとなっていた。

その姿こそ---東郷の覚悟の証。踏み出せなかった一歩を、一人では飛び立つことすら出来なかった東郷に(勇気)を与えてくれた友奈と紡絆と共に並び立つための、勇者として戦うための姿()だった。

ついに勇者として変身することが出来た東郷はコスチュームの一部である4本のリボンを触腕のように扱うことで地面へ降り立ち、目隠しをした狸のような姿で、複数の青い花模様のついた服を着ている精霊、刑部狸(ぎょうぶたぬき)が姿を現すのと同時に拳銃を手にする。

 

(どうしてだろう。変身したら落ち着いた……。武器を持っているから?)

 

「ッ……! う……ぐぐ」

 

新たに現れた勇者である東郷だが、想定外だったのかバリアに弾かれたスコーピオン・バーテックスがついに動く。

気づいた紡絆は起き上がろうと両拳を地面に付けて力を込めるが、一瞬で力が抜けて起き上がることすら叶わない。

そして東郷を無視し、バリヤーも消えて瀕死である紡絆にトドメを刺そうともう一度毒針を刺そうとすると---

 

 

 

 

 

()()()()()()

違う、東郷は撃ち抜いたのだ。尻尾ではなく、針という小さな的を正確に狙い、撃ち抜いたのである。

その手腕に自身の傷を一瞬忘れ、紡絆は驚いていた。

 

「もう友奈ちゃんや紡絆くんには手出しさせない!」

 

短銃を仕舞い、今度は刑部狸(ぎょうぶたぬき)と交代するように燭台に燃える青い炎のような姿で、下部の軸に青い花模様の精霊---不知火(しらぬい)が姿を現し、東郷の両手には散弾銃が二丁握られていた。

その散弾銃をスコーピオンに放ち、回転させてリロード。そして発射。

それを繰り返していくと、徐々にダメージが入ってるのが見える。

そして---

 

 

「さっきのお返しだぁぁぁ!」

 

辿り着いた友奈がスコーピオンの尻尾をガシッと掴み持ち上げ、円周に回し始めるとハンマー投げの様に回転力を加えていく。そして樹と風を反射板で矢を反射させることで追い詰めているキャンサーの方向へ投げ飛ばしてみせた。

 

「よーし! って東郷さん!?」

 

「友奈ちゃん……。さっきの敵は?」

 

武器を消した東郷は投げ飛ばした友奈に少し驚きながら、足止めされていたはずの敵がいないことに疑問を抱いて聞く。

 

「えっと、あの犬みたいな怪獣は突然動かなくなったんだ。だから最後の力を振り絞ってたのかも……。

それより東郷さん。ついに変身出来たんだね!」

 

「そう……。ええ、これからは私も一緒に戦うわ」

 

ガルベロスはどうやら力尽きたらしく、行動的には()()()()()()にしか見えないのだが、東郷と友奈はそれを知らない。

東郷は友奈に言われたことに頷くと、目をしっかりと見て言う。

そんな東郷に友奈は微笑んだ。

 

「わかった! 一緒に戦おう!」

 

「えぇ」

 

迷いもなく、戦える状態の東郷に友奈が言うのは否定するわけでもなく、肯定。

守るためじゃなく、一緒に戦う仲間として迎え入れたのだ。

そのことに東郷も同じく微笑んだ。

 

「……がほっ。す……げ……なぁ………」

 

そんな姿を吐血しながら眺めていた紡絆は掠れた声で呟いた。

投げ飛ばした友奈の姿も、外すことなく正確に当てて見せた東郷を見て思ったことを言ったのだろう。

その声に気づいた友奈も振り向き、名を呼ぼうとして---青ざめた。

 

「紡絆……くん?」

 

「あ〜……。じょー……ぶ。うご……ける……し。あ……はは」

 

平気というように笑いかけながら、倒れた状態から無理矢理座り込むと、紡絆は手を振る。

ただし、全身からも血を流しながら腹を抑えている時点で説得力も一切なく、生きてることすら怪しくなるほど重傷なのだが。

 

「紡絆くん、無理をしないで寝転んでいて。私たちがすぐに終わらせて病院に連れていくから……。だから---」

 

「わ……てる。ゆー……なも……と……う……をたの……む……」

 

まともに話すことが出来ないのか、途切れ途切れになりながらも紡絆は少しでも平気そうに振る舞う。

二人が戦いに集中出来るために、戦えるように。

 

「友奈ちゃん。行きましょう」

 

「……うん。すぐに終わらせるから、もう少しだけ頑張って!」

 

「おぉ……う………!」

 

東郷の声に従うように友奈が気を持ち直すように自身の頬を叩くと、友奈と東郷は風と樹に合流するために跳んでいった。

それを最後まで見届けた紡絆は---

 

 

 

 

 

「げほっ! がふっ………ちょ……と…やす……も……かな……」

 

我慢していた分も吐き出すように血塊を吐き出すと、限界を迎えたように仰向けに倒れてしまい、背中をつけたその地面は真っ赤に染まっていた。

うっすらと開けたままの瞳は焦点が合わないのか友奈と東郷は複数いるようにも見えて、一人にも見える。

喉の渇きも生まれ、呼吸ですらまともに出来てないのか『ヒューヒュー』といった空気のような音しか鳴らず、ただ失いそうになる意識を耐えながら横たわった紡絆は勇者たちの戦いを必死に見ようとする。

しかしその状態から分かるのは---長くは持たないということだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

ネクサスとガルベロスが消え、サジタリウスとキャンサーを相手にすることになった風と樹だったが、キャンサーの反射板によるバーテックスの巧みなコンビネーションに攻撃することは叶わず、降り注ぐ雨の矢から逃げ惑うことしか出来なかった。

風と樹は樹海の根を盾にして、攻撃を凌ぐ。

 

「ああもう、しつこい男は嫌いなのよ!」

 

「モテる人っぽいこと言ってないで、なんとかしなくちゃお姉ちゃん」

 

「そうは言ってもねぇ。なかなか隙が……ん?」

 

途切れることなく放たれる雨を掻い潜ることなど至難の業。

そんな時、空気を切るような音が近づくと、巨体が降ってきて凄まじい音を立てながらキャンサーを巻き込んで倒した。

新手かもしれないと風と樹は影から出てくると樹枝に着地する。

 

「な、なにか降ってきた!?」

 

「一体何!?」

 

「そのエビ運んできたよーッ!」

 

「いや、サソリでしょ」

 

「どっちでもいいから……」

 

唖然とする風と樹に手を振りながら言う友奈に風は今言うべきではないところにツッコミを入れるが、樹は苦笑しながら宥めていた。

そしてそんな友奈の後ろからは東郷が跳んできて、近くに降り立つ。

 

「遠くの敵は私が受け持ちます」

 

「東郷先輩……!」

 

本来なら()()()()()()()()()()()()を出現させながら言い放った東郷の姿に風と樹も驚き、樹は新たな仲間の登場に安心と嬉しさが混じった表情をする。

 

「東郷……!? 戦ってくれるの?」

 

風の問いに東郷が頷く。

樹海化が始まる前、謝ることも出来なかったのだ。だからこそ、来てくれるかどうかなんて分からなかったのだろう。

 

「風先輩。部室では言い過ぎました。私のモヤモヤを八つ当たりするように言ってしまって……ごめんなさい」

 

そして東郷は申し訳なさそうな表情をしながら、風に向かって自身の気持ちを告げる。

東郷だって、自覚していることから分かる通り、仕方がないとは分かっていたのだ。それでも自身の感情を制御することなど簡単にすることは出来ず、八つ当たりするようにぶつけてしまった。

だからこその、謝罪。

 

「東郷……いいえ、私の方こそごめんなさい。本当はもっと早く告げるべきだった。五箇条を作ったのに相談することもしなかったから……」

 

その言葉を聞いて風も謝る。

選ばれることがなかったとしても、話していたならば覚悟の少しも出来たかもしれない。選ばれて欲しくなかったと願っていたとしても、あんな突然に言われれば東郷の言葉も間違ってると一方的には言えないし、風にも間違ってるとは言えない。

互い互いを思ったからこそ、ちょっとしたすれ違いのようなもので起きた事故みたいなものなのである。

どうしようもなく、少し選択を間違えただけ。

だが結局のところは、互いに謝ってしまえば解決なのだ---少なくとも、東郷と風の仲はそれほど良いのだから。

 

「うん、これで仲直りだね!」

 

「よかった……」

 

それを見ていた友奈と樹は嬉しそうに、ほっとするようにそう呟くと、東郷と風も笑みを浮かべ、東郷はすぐに表情を引き締めた。

雰囲気を切り替えた東郷は、まだ知らないであろう風と樹に対して報告するため、口を開く。

 

「風先輩、樹ちゃん。落ち着いて聞いてね」

 

「ん?」

 

「えっと……?」

 

突然言われた二人は当然だが、なんのことか分からないため首を傾げるしかない。

そんな風と樹に対して、東郷は大事なことの一つである正体を告げる。

 

「あの銀色の巨人---ウルトラマンは紡絆くんでした」

 

「……は?」

 

「えっ……!?」

 

それは、ウルトラマンの正体。

風と樹からすれば、最後に見たのは貫かれた姿だったが、いつの間にか消えていた。

もちろんその後どうなったかまではわからなかったが、真実を告げられた風と樹は驚愕し、動揺していた。

 

「紡絆がウルトラマン!? え? あの巨人? はああっ!? どういうことよ!」

 

「じゃ、じゃあ昨日……私たちを助けてくれたのって……」

 

「紡絆くんみたい。私もさっき聞いたからまだ実感も湧いてないんだけど……」

 

予想外すぎる真実に混乱するが、樹の疑問には友奈が代わりに答えていた。

友奈も友奈で聞かされた際には緊急事態だったため、混乱はしたが驚いてる暇はなかったのだ。

 

「私も紡絆くんがウルトラマンに変身するところを見ただけですから、分かりません。でも……早くバーテックスを倒さないとこのままじゃ紡絆くんが死んじゃうんです……!」

 

暗い表情で言うのさえ嫌と言うように重たい口を開いて述べる東郷。

 

「え……? 紡絆が……死ぬ!? で、でも……なんで」

 

「そ、そんなッ!?

……も、もしかして、ウルトラマンが貫かれたから?」

 

大切な部活仲間である紡絆という唯一の男子生徒が死ぬかもしれないという事実。

信じられないといった表情をしながらも、経緯が詳しく分からない風はそう言うが、樹がふと思い出したように言うと、東郷が何処か曖昧な感じで頷いた。

 

「おそらく……。今は休むように言ってますけど、出血もすごくて……」

 

「だから早く倒さないと!」

 

「友奈ちゃんの言う通り、私たちで早くバーテックスを倒して紡絆くんを病院に連れていけば、助かると思うんです。今も戦ってくれてます…!

私は紡絆くんを……親友を絶対に死なせたくありません。だから風先輩、樹ちゃん、力を貸してください……!」

 

説明しながらも懇願するように、頭を下げて頼み込む東郷。

そんな姿を見て、あまりにもの情報量に混乱の文字しかなかったが、風は首を横に振ると、手をパンっと叩いた。

 

「そうね。正直混乱しててよく分からないことだらけだし、驚きばかり。だけど紡絆のためにも、私たちの世界のためにも時間はないことだけは分かったわ! だから詳しいことは後で本人に聞きましょう。そのためにも今はバーテックスを倒すわよ!」

 

「お姉ちゃん……。うん、私も頑張ります……!」

 

「風先輩……樹ちゃん……。精一杯援護するわ!」

 

「じゃあ、勇者部の出陣! だね!」

 

気合いを入れ直した風に、自身も頑張ると両拳を作る樹。

勇者部に薄情な存在はいない。一緒に居て、部活をして、それは分かっていたことだった。

それでも目の前で迷うことなく言ってくれたことに東郷は感動を覚え、安心する。

同時に紡絆の命が今も奪われつつあるということに焦りもあるが、今は疾風迅雷の如き行動で動くしかない。

 

「それじゃあ、まずは手前の二匹から封印いくわよ! 散開!」

 

「「オッケー!」」

 

風の指示にフランクに返しながら動き始める友奈と樹。

東郷は武器が武器なのもあり、遠距離での援護だ。割れ目から目と手を覗かせた卵のような姿で、殻の左側に青い花模様がある精霊---青坊主(あおぼうず)が現れ、東郷の手元に狙撃銃が召喚される。

東郷は体を屈めてうつ伏せになり、狙いを定めようとしながら二人に警告した。

 

「みんな、不意の攻撃には気をつけて!」

 

「「はいっ!」」

 

「ちょ、私のより……返事がいい……」

 

さっきのフランクな返事とは別で、しっかりとした返事。

風はその事実にしょぼくれるが、そんな暇はないと同じくバーテックスへ跳んでいく。

そして先程まで無数の矢を絶え間無く放っていたバーテックスは下の口を閉じ、上の口を開けて細長い抗のような矢を作り出すと、東郷に向けて発射する。

それはライフルの引き金を引いたことによって放たれた弾とバーテックスから放たれた矢が衝突し、爆発する。

細長く、素早く撃たれたはずの矢ですら正確に撃ち抜くことから彼女の狙撃能力がとてつもなく高いことが分かるだろう。

 

「こいつが皆を苦しめた……」

 

一発。

放たれた弾はサジタリウスの巨体に当たり、ダメージを与える。

狙いを外さないようにしっかりと定め、再び弾を放とうとして---

 

「ッ!? みんな避けて!」

 

どこからともなく飛んできた()()()がスコーピオンとキャンサーを封印しようとしていた風と樹、友奈へと襲いかかる。

 

「えっ!?」

 

「ちょ、また!? 今度はなによ!?」

 

「うわぁ!?」

 

東郷の警告により、封印する前だったのもあって飛んできた火球群を避けるために大きく跳躍することで避ける三人。

お陰で二体のバーテックスの封印が出来なくなってしまうが、東郷は飛んできた方向へとライフルを向け、放たれた()()()()()()()を見た瞬間、転がるように避けた。

何処にも当たることなく彼方へと飛んで行ったが、それは東郷のライフルでも相殺できないと察せられるほどの威力を秘めたものであり、避けなければ精霊バリアと共に吹き飛ばされてしまっていただろう。

 

「東郷さん! 大丈夫!?」

 

「なんとか大丈夫! それより、あれは……!」

 

合流した友奈が東郷を起き上がらせるが、東郷は睨むように視線を向ける。

巨体、バーテックスと同じくらいの大きさを持ち、何よりも違う点といえば甲殻類に似た外見---それもサソリをモチーフとされているようで、見た目からして分かる強靭な外骨格を持っているところだ。

さらに鋭い鋏や長い尾、尾の先端にはハサミを持つというバーテックスにはない特徴が見られる姿---

 

「まさか、スペースビースト!?」

 

「に、二体目〜!?」

 

そう、スペースビーストに他ならない。

しかも先ほどとは明らかに違う個体で、より遠距離に特化した姿でもあり、当たれば人間は即死であろう鋭い挟があることから近接にも強く対応出来る姿だ。

 

「急いでるのに……! こんな時に邪魔をしないでッ!」

 

体勢を整えてしまった姿が見えた東郷は、スペースビーストにライフルを放つ。

しかし当たったと思われるはずの弾は少し傷つけるだけで、怯む様子すらない。

それだけではなく、再び復活したキャンサーが反射板を複数枚操り、サジタリウスの矢を全員に反射させて見せた。

 

「東郷さん、こっち!」

 

風と樹は即座に避け、友奈は東郷を抱えながら避ける。

大量の矢を避けることに成功すると、即座に友奈は降ろしてスペースビーストに接近する。

 

「おりゃあ---かったぁ!?」

 

腹部を一発殴り、もう一発殴って両拳のラッシュをしようとするが、殴れないほどじゃないとはいえ、痛みに手を抑えると鋏による攻撃を慌てて避ける。

 

「ほんっとしつこいわよッ!」

 

「大人しくして……!」

 

風と樹はしつこく狙ってくる矢を避けながらスコーピオンに近づくと、風が大剣を振り下ろし、樹が尻尾を絡めとる。

しかし近くのキャンサーが自身の鋏で風を妨害し、樹のワイヤーは尻尾をスコーピオンが激しく動かすために離すことになってしまい、破壊することもダメージを与えることも叶わなかった。

 

「くっ……せめてアレだけでも!」

 

再び細長い抗のような矢を反射するサジタリウスをライフルの弾で破壊すると、連続で銃弾を放つがビーストが射線に立ち、強固な肉体で防ぎ切る。

さらに腹部に隠していたであろう六つの気門を展開すると、気門から火球群を放ってきた。

東郷は即座にそれを撃ち落とすが、徐々に放たれる速度が速くなり、破壊に追いつけなくなる。

全て壊すことが出来ないと理解すると向かってくる火球群を避けるが、それは追尾してきた。

 

「東郷さん、危ない!」

 

「しまっ---!?」

 

大きく描いたため、迫ってくるのが遅かった火球群をなんとか退けた東郷だったが、友奈の声に反応する。

既にサジタリウスは斜め上に口を開けており、大量に矢を発射していた。

実は機動力が他の勇者よりも制限されている東郷にそれを避け切るのは難しく、思わず頭を腕で守るようにすると---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヘアッ! シュアッ!』

 

光の球体が東郷に迫っていた矢を空中で全て消し去り、矢を放つサジタリウスに突撃していくと怯ませる。

それだけで終わらず、光の球体が風たちの傍に降り立つと光がキャンサーを蹴り飛ばし、実体化と共にスコーピオンを掴みあげてスペースビーストにぶん投げた。

飛んで行ったスコーピオンはスペースビースト共々地面に倒れるが、光が晴れると現したのは---銀色の巨人、ウルトラマンネクサスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

512:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

おい、イッチ生きてる……のか? いや、生きてるのか怪しいくらい重傷なんだが、大丈夫なのか?

 

 

513:名無しの転生者 ID:+AKpW0zPi

腹思いっきり貫かれてたし……あれはなんだ?

 

 

514:名無しの転生者 ID:Krcrbf7yO

多分さそり座がモチーフと思われるから毒ゾ。麻痺か猛毒かは知らへんけど

 

 

515:名無しの転生者 ID:JjlVMktyn

ネクサスの場合は変身者にダメージ還元される……しかもダメージによる強制解除っぽいよな

 

 

516:名無しの転生者 ID:OX82Ln2AK

イッチのエナジーコアが鳴っていたということは、ネクサス知っている人なら分かるだろう。

ウルトラマンネクサスという作品の場合、ウルトラマンのエナジーコアが鳴るということは適能者、デュナミストの命の危機だ。

つまりイッチは腹を貫かれた段階ではまだ大丈夫だったが、毒を体内に注入されたタイミングで命の危機に陥ったと見ていい。そして俺たちは毒を注入された場合の対処法を……あまり知らない。作品によっては違うが、ネクサスに毒になってデュナミストが死にかけた事例はないからな

 

 

517:名無しの転生者 ID:sTPNClwpL

博識ニキの解説が絶望感をより募らせる……!

 

 

518:名無しの転生者 ID:t3mn08nJH

そもそも腹貫かれたところに関しては俺らが目を背けたくなるくらいだったからな……

 

 

519:名無しの転生者 ID:GbndxADVS

イッチが死にかけたお陰で東郷さんが勇者として覚醒出来たが、意味ねぇだろ!

 

 

520:名無しの転生者 ID:ZPY37mnAN

でもイッチも見た感じ動けそうにないぞ。意識も薄れてるっぽいしこのままじゃ長くもたん!

 

 

521:名無しの転生者 ID:9C+t9m6b

もしもの時はノアさまが……って願いたいけど、ノアさまが助けてくれるかどうかって言われると可能性が低すぎる!

姫矢さんや憐が実験されてた時だって本当にガチのギリギリでしか助けることはしてなかったし! 憐に至ってはナイトレイダーが助けてたし!

 

 

522:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

あたまがいたい

くらくらする

いっぱいみえる

ねむたい

 

 

523:名無しの転生者 ID:MaXgvaOT3

おい! 絶対寝るなバカ! それは死ぬぞ! 起きろ! お前、なんで戦う前に死亡フラグ建てたんだよ! 帰ったらぼた餅食べさせてくれ、みたいなこと言うからだろ! ウルトラマンでも死亡フラグは回収するんだぞバカ!

 

 

524:名無しの転生者 ID:CvAiLDd8/

お前が今死んだら友奈ちゃんたち曇るし絶対やばいことしか起きないダルォ!?

 

 

525:名無しの転生者 ID:+B1VngM5f

ガルベロスは死んだっぽいが、まだまだビーストはいるんだぞ!

 

 

526:名無しの転生者 ID:YT3K/IISB

生きろ!

みんなを悲しませんじゃねぇよ!

 

 

527:名無しの転生者 ID:fcJRtxKzS

見た感じアンファンスで戦うしかないのが原因に見える。ジュネッスにさえなれてたら……!

 

 

528:名無しの転生者 ID:Gw6SawenV

今は休め! 病院に行きゃ、まだ助かるはずだ!

 

 

529:名無しの転生者 ID:WLdMFeZWj

仲間を信じろ! お前は生きることだけを考えとけ!

 

 

530:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

だめだ、ちがう、いかなきゃ

やらなきゃ

おれがやらないと

うるとらまんだから

ひとりでやらなくちゃ

ひとりでがんばらなきゃ

うるとらまんだから

やらなくちゃ

やらないと

 

〔添付:ブレまくって判然としないが、新しいビーストの写真〕

 

 

531:名無しの転生者 ID:OX82Ln2AK

この特徴的な見た目は恐らくグランテラ!

ウルトラマンネクサスEPISODE.25からEPISODE.28に出てきたスペースビーストで憐編に切り替わって初めてウルトラマンが戦った相手! まさにウルトラマンを見極めるための重厚な装甲は脅威だ!

それにしてもイッチが初めて戦ったのがガルベロス、原作でもガルベロスは姫矢さんの初戦闘の相手!

それに続いて憐編の初めての敵……狙ったように出てくるのはどうなってる!?

 

 

532:名無しの転生者 ID:pSz1rg6T1

アレってジュネッスブルーのスピードで撃破出来た相手じゃなかったか!? やめろ! 今度こそ死ぬぞ!

 

 

533:名無しの転生者 ID:+qpx8dGDo

というか死にかけてるのになに行こうとしてんだよ!

 

 

534:名無しの転生者 ID:XMsXVGsp+

ウルトラマンの力を抱えたから一人で抱え込もうとしてるのか!? バカヤロォ! なんのための俺たちだよ!

 

 

535:超古代の光の転生者 ID:T8iHSnGQA

ウルトラマンは決して一人の力で戦ってきた訳じゃない! 君だって知っているはずだ! 僕がそうだったように、みんなの光がウルトラマンに力を貸してくれる! 守りたい存在がいるからウルトラマンとして戦ってこられたんだ!

 

 

536:名無しの転生者 ID:M6QEdnCpT

お前……! まともにエボルトラスターすら掴めてないじゃないか!

 

 

537:名無しの転生者 ID:pPMsrmbaD

血の量もやばいが、毒が回ってるのか……! 

 

 

538:名無しの転生者 ID: aEMY5nMeK

そもそもイッチの肉体は元々がボロボロだった……! そこに腹を貫かれて毒を受けて、吹っ飛ばされたんやぞ。

そりゃあそうなるに決まってる!

 

 

539:セブンの息子の転生者 ID:Ze0+RO3s6

>>530

俺一人だとハイパーゼットンに一発当てることすら出来なかった。それでさっきは負けた! サーガになって勝てたのはみんなの力があったからだ!

お前にも仲間がいるなら、信じろ! 人を、人間を!

 

 

540:名無しの転生者 ID:/sKDTKM5F

サーガ終わったゼロ転生者……!

原作ゼロがギャラファイで言ってたが、一人でなんでも出来るって思うな! 大事なことが分かってない証だ!

 

 

541:名無しの転生者 ID:nqnDQQ6t/

血まで吐いてやがる……

 

 

542:名無しの転生者 ID:tj6c4ZgBV

やっぱりネクサスは深夜帯にやるべきじゃねぇか!

 

 

543:名無しの転生者 ID:55zsdtQSN

とにかくイッチは休まないと……待てよ、ストーンフリューゲルはどうした!?

 

 

544:名無しの転生者 ID:/Wks/l0Kj

確かに毒は無理でも肉体なら回復するはずだが……

 

 

545:名無しの転生者 ID:YR5llvsyT

違う、さっきイッチはブラストショットを握ってたんだよ。でも落とした。おそらく力が入らなくなっていて撃てないんやろうけど、無理矢理にでも撃って欲しかった!

 

 

546:名無しの転生者 ID:qBdXxW4Aa

というか、さっきのバーテックスといい、スペースビーストといい、何故ウルトラマンであるイッチを集中的に狙うんだ……?

 

 

547:名無しの転生者 ID:MdCEZRh6A

ウルトラマンはどちらにしても厄介な存在に違いないからやろ。ぶっちゃけクソ雑魚変身者ならともかく、イッチは勇者より厄介。

 

 

548:名無しの転生者 ID:yjGiiDf86

ってやべぇ! 勇者もやべぇ! バーテックスが復活しやがった!

 

 

549:名無しの転生者 ID:e4KwBxPkV

ああ、もう! 次々と多いんだよ! 追いつかねぇわ!

 

 

550:名無しの転生者 ID:PYm6PConE

イッチが戦わなくてもピンチ! 戦ってもピンチ! どうすりゃいいんだ!?

 

 

551:名無しの転生者 ID:9qnpeF1wQ

せめて毒だけでも消せれば……あー思いつかねぇ! グリージョとかがいれば回復出来たかもしれんが、人類や異星人が仮に居たとしても樹海には勇者とイッチしかいないから治療なんて出来ねぇじゃん!

ウルトラマンの世界ではよく呼び起こしてしまった怪獣の状態異常とかは異星人か人類が援護してくれてたのに!

 

 

552:名無しの転生者 ID:KLYLDKwyg

それにバーテックスの毒は簡単に消せるとは思えない……!

 

 

553:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

ひとりじゃ……ない?

 

 

554:名無しの転生者 ID:104gu154k

そうだよ! お前昭和知ってんだろ!? 昭和トラマンだって時に人類が倒した! 協力した! ウルトラマンを助けた! 特にセブンのキングジョーが有名で分かりやすい例だろ! セブンひとりじゃ勝てなかったし、セブンが居なければ人類はライトンR30爆弾を外していたかもしれない! 例えイッチがウルトラマンになったとしても一人で戦ってるわけでも戦ってきたわけでもないじゃねぇか! 俺たちもいる!

 

 

555:名無しの転生者 ID:sXokLvS4w

仲間がいるだろ! 勇者部のみんなは確かに戦うことになってしまったかもしれんが、立派な仲間じゃん!

 

 

556:名無しの転生者 ID:fES0/+yTK

動けないんだから無理するな!

本当にしぬぞ!

 

 

557:名無しの転生者 ID:De6N16hg7

つーか今のイッチよりみんなの方がつよいわ! 今は自分の心配だけして、耐えろ! 命を決して尽きさせるな!

 

 

558:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

あ、とうごうが……

 

 

559:名無しの転生者 ID:6uXsuPpNT

大丈夫だ! 友奈ちゃんが助けてくれてる!

 

 

560:名無しの転生者 ID:4sHlxEvVU

いいから無理するなって! みんな言ってんだろうが!

 

 

561:名無しの転生者 ID:fnC1Hp56N

あ、でもやばい! 友奈ちゃんは離れてるし風先輩と樹ちゃんも離れすぎてる! あの矢の量は流石に……!

 

 

562:名無しの転生者 ID:t6+ITlPDL

まて、動くな!

 

 

563:名無しの転生者 ID:4aZEbMxk3

ちょ、マジでなにしてる!?

死ぬ気か!? 死んだら意味ないんだよ!

 

 

564:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

ありがとう。

でも、おとこならだれかのためにつよくなるんでしょ おもいきりまもりぬくんでしょ ころんでも、たちあがる

やくそくしたんだ

いきてかえるって みんないきなきゃ おれも、みんなも。

ここのみんなのおかげできづけた ウルトラマンは決して一人じゃない! 俺は一人なんかじゃない!

いつもと違って心配してくれるのは嬉しい。だけど今回は信じてくれ!

 

 

565:名無しの転生者 ID:VX+IodbvY

あああぁあああ! くそっ! どうせ聞かないだろお前ッ!

 

 

566:名無しの転生者 ID:3/2zAbZVa

さっきから言ってるのに一向に聞かねぇからな!

 

 

567:名無しの転生者 ID:WSiSjgu0P

わかった! こっちが折れるから!

 

 

568:名無しの転生者 ID:jICbimKdA

条件はただひとつ! 勇者部のみんなを守ってイッチも生き残る!

 

 

569:超古代の光の転生者 ID:T8iHSnGQA

>>564

分かった。なら絶対に帰ってくるんだ。君はここで終わるような人間じゃない! 自分を、みんなを信じるんだ!

 

 

570:セブンの息子の転生者 ID:Ze0+RO3s6

アスカが言っていた。『限界を超えた時、初めて見えるものがある。掴み取れる力が』ってな。

そのためにも決して諦めるんじゃねぇぞ!

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

流れる掲示板に意識を割りながら、いつもとは違って心配してくれる人達に苦笑しつつ、幸せだと感じていた。

 

「…毒さえ……なけりゃ……な」

 

気持ちを入れ替え、力を入れる。

朧気だった意識を奥底から引き出すように叩き起し、焦点が合わない瞳を気合いを入れて何とかする。

傷については腹が()()()()()()で済んだが、紡絆をずっと蝕んでいるのはスコーピオンの毒だ。

それがなければ立てたからこそ、そう呟いてしまう。

 

「ぁ……! ち……くしょ……!」

 

起き上がるために拳を地面に着け、力を振り絞る。

徐々に肉体が上がると、真っ赤に染まっているのが見えるが、生きているのなら問題ないと無視して膝立ちになる。

手を地面に伸ばし、探るように動かすとエボルトラスターを見つけ、手にした。

しかし落としてしまい、紡絆は自身の手を見つめる。

手は震えており、力を入れるので精一杯。まともに制御することが叶わなかった。

 

(あれだけ掲示板で啖呵切ったんだ……約束もした! 死ねない! そして死なせることもさせない……握れないなら、掴めないなら、引き抜けないなら---)

 

目を閉じ、一気に空気を吸い込む。

あまり時間はかけられないため、目を開けた紡絆は無理矢理立ち上がる。

反動で吐血してしまい、目の下にも隈が出来ていた。

完全に貧血を起こす寸前だが、勇者部のみんなを思い浮かべると、エボルトラスターを見つめる。

もはや引き抜く力など残っていない。変身するに必要なシークエンスを行うことが出来ない。

もしウルトラマンに変身したら戦える程度の力は出せるだろうが、毒に蝕まれてしまった生身は限界なのである。

ならば出来ることはただひとつ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、ウルトラマンッ! 聞こえてるんだろ! だったら俺に力を貸せ! まだ俺もお前もこんなところで負けていられないだろ!? スペースビーストを倒して、世界を守るためにッ! 俺はこんなところで()()()()()()!」

 

それは、限界を超えること。

歯を食いしばり、力を一気に込めてエボルトラスターを掴み取る。

そして紡絆の想いに呼応するようにエボルトラスターが単体で光り輝く。

 

「勇者部五箇条ひとぉぉつ! なるべく---諦めなああああぁぁい! うおおおおおぉぉぉぉ!」

 

ただの気合い。

精神的な問題になるが、意味のない根性に過ぎない。

それでも---諦めない勇気、それこそが力へと変換される。

エボルトラスターが眩い光を発し、紡絆の肉体も同じくて輝くと---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヘアッ! シュアッ!』

 

ネクサスへと変身することに成功し、光の球体となって東郷に迫っていた矢を空中で全て消し去り、矢を放つサジタリウスに突撃していくと怯ませる。

それだけで終わらず、光の球体となったネクサスが風たちの傍に降り立つと光の球体のままキャンサーを蹴り飛ばし、光に包まれたまま実体化するのと同時にスコーピオンを掴みあげてスペースビーストにぶん投げた。

飛んで行ったスコーピオンはスペースビースト共々地面に倒れるが、光が完全に晴れると現したのは---銀色の巨人、ウルトラマンネクサスだった。

 

『ウグァ……ハァ、ハァ……』

 

しかし即座に膝を着いたネクサスのエナジーコアが、心臓の鼓動に似た音を出しながら点滅を始める。

ネクサスの肉体は銀色のはずなのに上半身はエナジーコアを除く胴体から上に、下半身は太もも辺りまで()()()()()()()()

徐々にそれが広がっていることから、毒による侵食なのだろう。仮にそれが全身に行き渡ってしまった場合、待つのは当然---死。

 

「紡絆くん!? どうして来たの!?」

 

「えっ、紡絆くん!? な、なんで!?」

 

そして東郷が誰よりも先に驚きから立ち直ると、紡絆に対して怒りの形相を浮かべる。友奈も一泊遅れて気づいたが、心配と不安と驚きを混ぜたような表情をしていた。

 

『ウッ……!?』

 

しかしあまり動いていないにも関わらず、ネクサスは胸を抑えて地面に手を着く。

変身してもなお、傷が治るものではない。毒が消える訳でもない。

 

「ちょ、ちょっと紡絆……でいいのよね! あんたなにしてんのよ!?」

 

「苦しそう……。無理しないでください……!」

 

『…………デヤッ』

 

足に力を入れてネクサスが起き上がると、首を横に振ってから平気というように頷く。

明らかに疲労したような息遣いから大丈夫ではないと分かるのだが、引く気はないとネクサスはバーテックスとビーストを見据えて構える。

中腰ではなく、腰を深く降ろした構え。

 

『シュワッ!』

 

「ちょっと!?」

 

「ま、待って紡絆くん!」

 

ネクサスが構えたかと思うと、まさかの突撃。

風が思わず声を出し、東郷が静止の声を挙げるが、ネクサスは走り続けている。

周囲に胸の、エナジーコアの点滅音を響かせながら。

 

「ど、どうしよう……」

 

「と、とにかく! 私たちも行かないと! ですよね、風先輩!」

 

「ああもう、あのバカ! 後で覚えておきなさいよ! 友奈の言う通り、各自バーテックスと新しく出てきた敵、スペースビーストに気をつけつつ紡絆---ウルトラマンを援護するわよ!」

 

「「「了解!」」」

 

やることは決まったと風の指示に反駁することなく返事をすると、既にグランテラに向かって飛び蹴りを放っているネクサスに追いつくために動き始める。

 

『フッ! ガァッ!?』

 

しかしネクサスの蹴りはグランテラの鋏に叩き落とされ、首を挟まれて持ち上げられる。

抵抗するように足で蹴りを入れていくが、あまり効いた様子がない。

グランテラの強固な外骨格がダメージを削減させているのもあるが、ネクサスの肉体に毒が回っていていつもより力が出てないのもあるだろう。

そして再びグランテラの腹部が開き、六門の気門を展開するとエネルギーがチャージされる。

 

『キィィィィ!』

 

『ヘアッ!? グァ……ファッ!』

 

アームドネクサスのエルボーカッターで掴まれている鋏を攻撃して外すと、即座に横に転がる。

瞬間、そこから六つの火球群がどこかへ飛んでいく。

さらにキャンサーが板を叩きつけるようにネクサスへ送り、挟み込むようにスコーピオンが長い尾を振りかぶる。

 

『グッ………!』

 

挟み込まれたネクサスは両側を見るが、どうやっても避ける事は不可能。

少しでもダメージを減らすように迫り来る攻撃に両腕でガードしようとして---

 

「おりゃあああああ!」

 

「はあああぁぁぁぁ!」

 

その攻撃を、友奈と風が弾き飛ばす。

さらに樹のワイヤーが伸び、反射板が地面へと突き落とされ、東郷のライフルがスコーピオンの尾を半分破壊する。

 

「大丈夫ですか!?」

 

『シュア……ヘェアッ!?』

 

驚いたようにネクサスが樹を見て、みんなを見る。

しかしネクサスは火球群が()()()()返ってきたのを見ると、即座に近くにいる樹の火球群をアームドネクサスで防ぎ、両腕からパーティクルフェザーを四発放つことで友奈と風に迫る四つの火球群を相殺した。

 

「わっ、いつの間に! 紡絆くんありがとー!」

 

「おお……凄い力ね。というかあんた、さっきより体紫になってない?」

 

緊張感の欠けたお礼を手を振りながら言う友奈と、ネクサスの異変に気づき始めた風。

ふとネクサスが自身の肉体を見ると、いつの間にか肩にまで行きそうなほどに侵されており、紡絆は肉体が苦しくなってきたのも感じる。

それを気合いで押し殺しつつ構えるが、先ほどよりも何処か苦しそうだ。

 

「……紡絆先輩? そういえば、音が一層早くなったような……」

 

『ヘ……ァッ……!』

 

徐々にネクサスの異変に気づき始めるものが出てくると、ネクサス自身も急ぐようにグランテラに向かって殴り掛かり---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウアァ……!? アアァ……!』

 

『ピィィィィ!』

 

体の自由が悪くなると足が止まった状態で目の前で空振り、片膝を着いてしまう。

それも、グランテラの()()()で、だ。

その隙は大きく、グランテラは容赦なくネクサスの肉体を思い切り蹴り飛ばした。

 

『グッ…アアッ!?』

 

「ッ!? やっぱり!」

 

大きく吹き飛ばされたネクサスを見て、追撃をさせまいとライフルでグランテラの妨害をするが、東郷は何かに気づいたように声を挙げ、みんなに通信を繋げた。

 

「東郷?」

 

「みんな、よく聞いて! ウルトラマンのあの音はおそらく危険信号! それが止まったらどうなるか分からないけど、悪いことなのは確かだわ!」

 

「危険信号? 信号って……アレ?」

 

「赤……信号……。じゃ、じゃあ危険を暗示してるってことでしょうか?」

 

東郷からの報告で友奈が思い浮かべたのは道路などにある信号だが、それもあながち間違っていない。

交通機関において、赤信号とは停止や危険を警告する意味がある。しかしこの場にて適切なのは、樹が言った『危険を暗示している』ということ。

つまり、東郷の『悪いことは確か』という言葉はそれの的を得た考えである。

 

「大赦はこれを知っていた……? いえ、今は目の前のことね。こうなったらウルトラマンの危険信号が止まる前に早く封印するしかないか!」

 

「で、でも手強くてッ! 難しいです!」

 

防御にも使えるのか、反射板が友奈の攻撃を防ぐと、そこに大量の矢が飛んでくる。

樹のワイヤーと東郷のライフルがサジタリウスを攻撃しようとすると、グランテラが間に入って防御。

さらに再生したスコーピオンの尾による一撃が暴れ、連携の取れた攻撃に苦戦を強いられてしまう。

苦戦する理由は、間違いなくグランテラ。

グランテラが居なければサジタリウスに攻撃が当たり、キャンサーとスコーピオンを相手にするだけで戦えただろう。

グランテラの装甲が薄ければ、妨害を防ぐことは出来ただろう。

そもそもグランテラが出てくることがなければ、封印は可能だった。

つまり、グランテラさえ現れなければこの時点で勝つことが出来た可能性が高かったのである。

しかもネクサスは傷を負っていて、今も()()()()()()起き上がれずにいる。

仮にネクサスがバーテックスかグランテラを抑えることが出来ていたら、この時点で勝つことも出来たかもしれない。

しかし、それは不可能。毒と貫かれた痛みを引き継いでるのか、ネクサスの動きも正直現れてから芳しくない。

 

『ピイィィ……ガアアアアアアッ!』

 

そしてグランテラが両手を合わせる。そこから雷のようなエネルギーが帯電し、青白い光球が作られた。

その青白い光球を獣のような鳴き声と共に発射する。

 

「えっ!?」

 

「な、なんでそっちに!?」

 

樹と友奈が驚きの声を挙げる。

理由は単純明快。

グランテラが放った青白い光球は樹や風、友奈に東郷、四人に向けられたわけでも予測したように狙ったわけでもない。()()()()狙わずに発射したのだ。

 

「一体どういうこと……? あたしたちは無視?」

 

風も思わず止まって怪訝そうにするが、青白い光球は()()()()()()()()()()()()()進んでいく。

速度が落ちることなく、ただ真っ直ぐ。

そして東郷も疑問を感じたのか、スコープで()()()を覗くと---

 

 

 

「ハッ!? 不覚ッ! 風先輩、友奈ちゃん、樹ちゃん! 狙いは私たちではなく、本元! つまり神樹様です!」

 

そう、その先にあったものは神樹様の樹木。

破壊されれば人類が滅びる場所であり、グランテラは()()()()()()ように狙ったのだ。

東郷の言葉に全員が息を呑むが、今追ったところで勇者の身体能力でも追いつけない。

ならば自分が撃つしかない、と東郷が狙うが、放たれた青白い光球は位置が離れているのもあって、予測して撃ったところで弾道が過ぎる前に通り過ぎてしまう。

 

「やばっ……!」

 

勇者部の全員が()()()()()を考えてしまう。

しかし、誰かを忘れているだろう。神樹様の近く、そこには---

 

 

 

 

 

 

 

『ハアァッ!』

 

ネクサスがいることに。

フラフラな状態で立ち上がったネクサスが神樹様の前に立ち、両腕を突き出す。

すると水面に生まれる波紋のような、青色に輝く円形状のバリヤー、サークルシールドによって青白い光球は完全に防がれた。

危機一髪。ネクサスの背後には神樹様が存在しており、もし居なければ破壊されていただろう。

それを見た勇者部の一同はほっ、と胸を撫で下ろした。

 

「ナイスよ紡絆!」

 

「助かったぁ……」

 

「無駄よ、やらせない!」

 

犬吠埼姉妹が思ったことを口に出すが、安心している暇などない。

ネクサスに向かってサジタリウスの抗のような矢が発射され、東郷のライフルが破壊する。

スコーピオンが神樹様の方へ向かおうとしたところで、友奈がスコーピオンを殴ることで向かわせず、すぐに風と樹も反射板とともに移動しようとしていたキャンサーを大剣とワイヤーによる攻撃で阻止する。

だが、残ってしまったグランテラが六門の気門から砲撃し、再びネクサスの元へと飛んでいく。

すぐに東郷が狙って射撃するが、消せたのは二発のみ。

残りの四発を東郷は行かせてしまった。

 

「外したッ……!」

 

「紡絆くん、気をつけて!」

 

『フッ!』

 

悔しそうに唇を噛む東郷と警告する友奈。

その声に反応するように、再びサークルシールドを貼り---

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヘエエッ!?』

 

サークルシールドが、()()()

愕然とした声のようなものを出しながら両手を見るネクサスだが、エナジーコアが凄まじい速度で点滅を始め、両腕まで()になってることに気づくと、理解する。

---ウルトラマンとしてのエネルギーが、戦う力が残っていないのだと。

 

そして動転としているネクサスに容赦なく向かってくるのが、四発の火球。

避ければ世界が終わる。避ければ人類の敗北。避ければ神樹様が死ぬ。避ければ全てが終わってしまう。

避ければ、助かる。避ければ、無事に済む。避ければ、痛くない。避ければ怖くない。

()()()()()()放たれたその火球を、ネクサスは---

 

 

 

 

 

『ウァァアアアアァァ!?』

 

両腕を広げながら、()()()()()

自身の肉体を守るのではなく、神樹様に被弾させないように両腕を広げることでより守れる範囲を増やし、次々と増えた火球がネクサスの肉体を一気に傷つける。

 

『ウグゥ……ハグッ……! グァッ!?』

 

放たれると、着弾。

着弾すると、追加。

そうやってネクサスの体はただ火球を受けるだけだ。

 

(や、やばい……このままじゃ意識が……消え---)

 

『キィ---ピャアアアァァァ!』

 

ネクサスの目の光が消えていく。

ダメージを過剰に負い、意識が消えてきているのだ。そんなネクサスに対し、グランテラはトドメの一撃を作り出した。

一回り大きい青白い光球を作り出し、全力を注ぎ込んだように用意されたその光球は、勇者たちが行動する前に放たれる。

凄まじい速度で発射された光球はあっさりと通過し、ネクサスの腹目掛けて一直線に飛んでいく。

光球が当たる直前---

 

『ア……アァ……。グッ……』

 

ネクサスの目の光が消える。

ただ、ただそれでも両腕を広げることはやめず。避けることもせず。

 

(くそっ……。俺は…………絶対………諦め………な…………ぃ)

 

ついに、紡絆は掲示板からの色んな言葉を掛けられながら、意識が途切れた。

そして、ネクサスの肉体が爆炎に包まれる---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「いつつ……あれ?」

 

紡絆が目を覚ますと、背中には土と葉っぱがあり、周りには木々がある---森林に居た。

空は曇り空なのか、暗い。

そんな中を見渡すが、樹海らしき場所はどこにもなかった。

紡絆は先ほどまでは樹海の中に居たはずで、疑問に思いながらふと自身の腹に触れた。

本来ならば、ボロボロで血が付着しているはずの服と大量出血しているはずの腹。

しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「治ってる……? 死んだ?

毒もないからか苦しくないし……それじゃ世界は……いや、おかしい」

 

死後の世界ならば、傷も毒もないのは納得出来る。

だが、何故森林なのか。何故()()()()()と実感出来るのか。出来るかどうかまでは不明だが、()()()()()()()()しないのか。

 

「でも確か、あの世でも掲示板は使えていたはず……。

襲来編前に死んだから元気玉と界王拳の修行してるわ、とか言ってる人や人間の『徳』を集めてる人とか斬魄刀と修行してる人とか閻魔大王の第一補佐官の人だって使えてたしなぁ」

 

ならば掲示板は使えるはずなのだが、何故か使えない。

試すように起き上がって近くの木に触れてみると、自然そのものだったり触れることも出来る。

つまり、紡絆の肉体は霊体という訳でもないのだろう。

しかし掲示板を使えないとなると、ここが何処なのか相談することも出来なければ何も話すことが出来ない。

 

「うーん……そもそも、何をするべきなんだ?

あの強そうな光球が当たる前に意識消えたから……分からないよな」

 

何故自分がここに居るのか分からない紡絆は唸りながら悩む。

最後に覚えている記憶。紡絆の中には光球が目の前にあったのと、掲示板で心配されながら文句や罵られていた記憶しかなかった。

 

「多分連れてこられた……? もしかして、ウルトラマンの力か?

っと、エボルトラスターは……あるか」

 

推測の域でしかないが、推察しながら慌ててポケットを探ると、エボルトラスターはしっかりあったが、スペースビーストが現れたら必ず鳴る鼓動はしていなかった。

そのことから、ここは別の空間だということが嫌でも理解でき、グランテラが存在せず、勇者部のメンバーは今も戦っているかもしれないと気づくと、焦りが生まれ、忙しなく周囲を見渡す。

が、見渡しところで変わるわけでもなく、森林だ。

 

「あー! どうしたらいいんだよー!」

 

すっかりと肉体が元気になったため、紡絆は胸の内を打ち明けるように叫ぶと---

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあああぁぁぁ!?」

 

「ッ!? スペースビーストか!?」

 

爆発音が聞こえる。

一人ではなく、最初に響いた悲鳴から次々と悲鳴が聞こえるようになり、紡絆は()()()()悲鳴が聞こえた方向へと走り出した。

 

「うわあぁぁぁぁあ!?」

 

「きゃああああぁぁぁ!」

 

「うわぁ!」

 

紡絆が全力で走り、悲鳴が聞こえた位置へと無事に着いた時。

紡絆は目の前に広がる光景を見て、呆然としてしまう。

 

「なっ……どういうことだ……!?」

 

銃弾が蔓延り、爆発が起きる。

悲鳴は人間のもので、目の前で幾多と言えるほどの人間が()()()()()

比喩ではなく、死んでいっているのだ。次々と同じ種族である人間が放った銃弾が人間に当たり、爆発に巻き込まれ、呆気なく死んでいく。

その光景はまるで---

 

「戦争……!? どうして戦っているんだ!? この世界はもう、そんなことしてる場合じゃないだろ!」

 

銃を持つ兵士に近づき、すぐに民間人を守るために銃を蹴り飛ばす---はずが、すり抜けてしまう。

 

「はっ……?」

 

どういうことか、と手を伸ばす。

そこへ銃弾が飛んできたことに気づいて痛みに耐えるようとするが、それすらもすり抜ける。

驚いてる暇もなく、すり抜けた銃弾が民間人と思われる者たちに直撃し、鮮血が噴き出た。

しかも伸ばした手は兵士らしき人物をすり抜け、肉体ごとすり抜けて通り過ぎてしまう。

 

「クソッ!」

 

分かってはいる。

しかし行動に移さずには居られず、守ろうと両腕を広げるが、防げない。

肉体を通り過ぎ、また一人と死者が出てしまう。

この場で自身が何の役にも立たないと知ると、紡絆はギリッと歯を噛み締めることしか出来なかった。

手にあるエボルトラスターを使えば、何かが出来るかもしれない。それでも、紡絆は決してウルトラマンになることは選ばなかった。

ウルトラマンの力は、あくまで怪獣やスペースビースト、バーテックスなどといった超常のものと戦うための力であり、人間同士の争いにウルトラマンとして介入するわけにはいかないと知っている。他にも彼自身が使うことを認めておらず、行使する気など一切なかった。

だが、そんなことは関係ないと紡絆の周囲に爆発が起きながら、人の死体が作られていった。

 

「---! ---!」

 

その時、紡絆の耳には幼さを感じさせる声が聞こえ、周囲を見渡した。

視線を張り巡らせていくと、紡絆のちょうど背後に声の主はいて、声の主は一人の少女だった。

着てる服からして、日本ではない異国の少女。

何故四国以外に滅んでいるはずなのに、異国の少女がいるのか紡絆は気になったが、今は気にしていなかった。

そして少女はまるで()()()()()()()()ように爆発の中と逃げ惑う人々とは真逆の方向に歩みを進めながら動いていた。

身を屈ませながら爆発による音を耳を抑えながら、怖いだろうに誰かを探す少女を見て、紡絆は即座に動く。

 

「こっちに来ちゃダメだ! 逃げろ!」

 

()()()? ジュン! ジューン!」

 

紡絆の警告は聞こえてないのか、少女は大声で名前らしきものを呼びながら探し、ふと探していたものを見つけたように笑顔を浮かべた。

 

「ジュンー!」

 

そして、少女が爆発に巻き込まれてしまう。

 

()()ァァァァ!」

 

一人の、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()男性の声を最後に、世界が塗り替えられた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……変わった?」

 

一体なんなのか理解出来ないまま、紡絆は青黒い空間に居た。

そこは、初めてウルトラマンと出会った空間。

紡絆が空間を見渡すが、ウルトラマンは何処にも居なければ現れる様子はない。

そこで、何らかの気配を感じとった紡絆は背後に体を向けながら見た。

そこには---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「---俺は人が生きる姿を、その意味を、撮りたかった」

 

「……ッ!?」

 

黒いタンクトップらしきものの上に革ジャンを着た一人の男性が紡絆と()()()()()()()()()()を手に苦々しい表情で呟いていた。

 

「だが俺が撮ったのは、人々の死ぬ瞬間だった……。戦場に巻き込まれ負傷してしまった俺を懸命に治療してくれたセラという孤児の少女……」

 

深く後悔しているような、感情が深く籠った声と悲痛な面持ち。

 

「妹のような存在だった……俺は取り返しのつかないことをしてしまった。カメラマンとして戦場を撮りにいった俺を探しにきたセラは目の前で爆発に巻き込まれ、亡くなってしまった」

 

「……そう、だったんですね。さっきのは俺じゃない……貴方の記憶、ということ……」

 

そんな目の前の男性の言葉聞いて、紡絆は理解した。

何故人に触れることが出来なかったのか? 何故銃弾が自身に直撃することなくすり抜けたのか? 何故爆発が効かなかったのか? 何故声が届かなかったのか? その理由は、目の前の男性の()()()()()だからだ。

記憶の中を追体験しただけ。

目の前の男性の過去の記憶ならば、それは紡絆に干渉することは出来ない。

なぜなら()()()()()()()。終わってしまった記憶のひとつなのだから。

既に終わった出来事を、変えることは出来ない。仮に出来たとしても、変えてしまえば歴史そのものに大きな異変が起き、未来が消えてしまうかもしれない。

未来で出会う人々との関わりですら、なくなってしまうのだから。

だからこそ、どちらにしても干渉することは許されないのである。

 

 

紡絆の考えを肯定するように、男性は一瞬だけ紡絆へ視線を送ると、小さく頷いた。

 

「日本に帰国した後、俺の写真は評価されてしまった。セラが、爆発で命を失う瞬間の写真が……」

 

「……ッ」

 

紡絆にも、気持ちは分かる。

例え彼が()()()じゃなかったとしても、紡絆は()()()を亡くしてしまった。

目の前の男性と紡絆では出来事は全くと言っていいほど違うが、自身を支えてくれた大切な人の死というものは理解出来ており、さらに追い打ちをかけるように写真が評価されたと語る彼の言葉に紡絆も胸が痛くなった。

同情かもしれない。だが、分かってしまうのだ。

その辛さを。

自分に置き換えるだけで、痛みを受けてしまうのだ。

 

「俺はセラに導かれ、光の力を得た。そして誰かを救うために戦い続けた……力を与えられたこと、それが俺に対する罰だと思ったから。

………光を得た意味を探していた俺はボロボロに傷つき、一人孤独に死んでいくことが、せめてもの罪滅ぼしに違いないと、俺の贖罪だと思っていたんだ」

 

似ていた。

戦う理由も、力の意味も、全て。

目の前の男性は贖罪だと思い、紡絆はヒーローという存在で知っていたからこそ、ウルトラマンの力を与えられた自分が一人でやらなければいけないと、自身の家族のように()()()()()()ことを避けるように、せめて自身がボロボロに傷ついても他の人々を守ろうと。それもまるで、同じような贖罪だ。

 

「君は、何のために戦う?」

 

「……えっ?」

 

「俺は罪滅ぼしだと、戦っているモノを宿命だと思って戦っていた。君は何のためにその()を手にして、何のために戦っている?」

 

突如真っ直ぐ見つめられながら聞かれたことに疑問の声を挙げると、男性は再び問いかける。

()、つまりはウルトラマンの力なのだろう。目の前の男性が何故紡絆がウルトラマンの力を受け継いでいると知っている理由は分からないが、エボルトラスターを持っているということは---関係があるということは間違いない。

即答出来る答えを持ち合わせていない紡絆は悩み---思い出す。

 

「最初は……怖かった。世界が壊されるかも、日常が壊されるかもしれないって。

俺の居場所が、大切な人たちに被害が行くんじゃないかって。

そうなるくらいなら、俺が戦うと。でも……その人たちは戦う力を手にした。してしまったんだ。俺が守る必要がないくらい、強い力を。

だから今は……家族を、妹を死なせてしまった罪滅ぼしとして俺は……」

 

暗い面持ちで語る紡絆。

今まで溜め込んできた、自身の悩みと、後悔を語るように。

その答えを聞いた男性は、紡絆に親近感のような感情を覚えつつも、諭すように口を開く。

 

「その()は、罰でも罪でもない。君は本当にそれが戦う理由なのか? 君の本当の想いなのか?」

 

「俺の……本当の、想い?」

 

反芻しながら呟き、苦悩する紡絆に、男性はかつて自身が言われたことを寸分の狂いもなく伝える。

 

「その力は、遥か昔から長い時を超え、多くの人々に受け継がれてきた。時には大切なものを失いながらも、何かを守るために必死に戦ってきた力だ。

俺もそうだった……そして、君も選ばれたんだ。光の継承者として」

 

「そのような、力が……?

でもっ! それなら益々俺に資格なんて……!

家族を、救えなかった……俺が……」

 

ない、と口に出すことまではしなかったが、家族という死は紡絆を想像以上に苦しめている---いや、今まで出してこなかったからこそ、溢れ出てしまっているのだろう。自身を責め続けてもなお、誰にも心配かけさせないために、押し殺してきたのだから。平気だと、大丈夫だと貼り付けた笑顔で、自分のことで誰かを悲しませないために。

そのことを目の前の男性は理解しているように口を開く。

 

「俺がセラを失ったように、君も家族を失ったんだろう。だが、俺が()()()()()()()()()を撮っていたように、君にも()()()()()()()()(思い出)は残っているはずだ。

過去は変えられないが、未来なら変えることができる」

 

「生きていた、証……。

変えることができる……未来」

 

「改めて聞くが……君は本当は何のために戦う? その力を、どう扱いたいんだ?」

 

「………」

 

言われた言葉を心に仕舞いながら、紡絆は俯いた。

自身の胸に手をやり、その気持ちを引き出すように。

数秒にも満たぬ間、男性はただ見守り続けるだけだったが、紡絆の瞳を見て確信を得たように笑った。

何故なら紡絆の表情と瞳は()()ではなく、既に()()へと目を向けて覚悟を決めたような表情をしていた。

そんな紡絆が口を開く。

 

「そうだ、俺は家族を救えなかったからこれ以上誰も傷つけさせないために背負うべきだと思っていた。ウルトラマンの力を引き継いだ俺だから、一人でやらなくちゃいけないと。みんなが強大な力を得たとしたって関係なかった。

俺は……本当にバカだ……ッ!」

 

「…………」

 

紡絆が懺悔するように述べるが、目の前の男性は何も言わない。

ただ見守る。まだ幼い、未熟な熟していない一人の少年の姿を。自身に似ている少年の姿を。

 

「だけど、もう迷わない!

俺が誰かを助けてた理由なんて、そんなのなかった! 

困ってる人がいて、力を貸したらその人が笑顔になった。嬉しそうにしてくれた。

それだけで満足だったから、人助けしてきたんだ。

見返りなんていらなかったし、今だって変わらない! 

この力は、俺はこの光を、世界を守るために。

みんなの幸せや日常を守るために使いたいんだ! 大切な人々を守るためにッ!! 今度こそ守りたいからッ!!」

 

---ドクン。

紡絆の想いに応えるように、再度エボルトラスターが鼓動を始めた。

紡絆が思わず視線を向けると、いつでも行ける、と言われたような気がした。

 

「それでいい、紡絆。キミはこれからも戦うことになるはずだ。それでも、闇に惑わされるな。怒りに支配されることなく、光を信じるんだ」

 

「……はい! あ、そういえば貴方は……」

 

迷いなく、明るい返事で返す紡絆だったが、名前を知らないことに気づいて、すぐに聞こうとするが、目の前の男性の姿が光になっていた。

 

「……姫矢…准」

 

一瞬名乗るか迷ったようにズレがあったが、その名を聞いた紡絆は驚く。

その名を、紡絆は知っているからだ。

 

「姫矢……さん。貴方が、そうだった……んですね。

あの、ありがとうございました! 本当に、貴方が居なければ俺はもう戦うことなんて出来なかったかもしれない。仮に戦えても、一人で背負い続けて死んでいたかもしれない! 貴方のお陰でこの光の意味を、戦う理由を、俺の戦う本当の想いを見つけれました!

大切な人たち---同じ部活の勇者部っていうんですけど、俺は彼女たちも守ってみせます! 今度は対等な関係として!」

 

だんだんと肉体が見えなくなってきているのを見ると、紡絆は慌てて感謝と自身が出した答えを早口で告げる。

目の前の男性---いや、姫矢はそれを聞いて安心したように頷いた。

 

「俺も孤門やナイトレイダーという組織に助けられたことがある。同じくして戦ってくれる人たちであるなら、紡絆を支えてくれるはずだ」

 

「はい……」

 

「最後に、俺から言えることは一つ---」

 

そう口を開こうとしたところで、姫矢の肉体は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()となる。

 

「姫矢さん……!? あ、ちょ、こっちくる!?」

 

赤い粒子となったものは赤い色の光へと変換され、紡絆の肉体の中に入っていった。

 

『紡絆。光は……絆だ。誰かに受け継がれ、再び輝く』

 

突如肉体へ入ってきたことには驚くが、紡絆は脳裏で満面の笑みを浮かべながら()()()()()であることを伝えてくれた姫矢の姿を見て、何処か兄のように感じつつ---頭を下げた。

数秒ほど下げていただろうか---頭を上げた紡絆は決して折れてなどいない瞳でエボルトラスターを見つめ、目の前を見つめる。

 

「行こう、ウルトラマン。みんなと世界を守るために」

 

紡絆の目の前には、ウルトラマンネクサスが居た。

手元のエボルトラスターは無くなっており、ウルトラマンが実体化したのだろう。

その姿に、今度は紡絆から手を伸ばす。

迷いはなかった。悩みはなかった。一人で抱える、背負おうとする気持ちもなかった。もう全て、吹っ切れていた。

あるのは、後悔しないように、大切な人々を今度こそ守るという気持ち。

仲間がいる。

普段はふざけたり殺意をぶつけてくるが、頼り甲斐のある人達(色んな転生者たちが集まる掲示板)が。自身と共に戦ってくれる大切な人たち(勇者部)が。

なにより、自身に力を授けてくれて、共に戦ってくれる最高の相棒(ウルトラマン)が。

 

「君は力なんかじゃない。俺の大切な相棒だ。また、力を貸してくれるか?」

 

いつもの、一番似合う笑顔をウルトラマンに向けると、ウルトラマンは一つ頷き、今度はウルトラマンが紡絆の手を掴んだ。

その瞬間、再びウルトラマンネクサスとして紡絆は飛び出した---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

神樹様の近くで、大爆発が起きる。

樹海化が解けることも、何も変化がないことから神樹様が無事だと言うことは誰もが理解していたが、それはつまり、ウルトラマンが、紡絆が肉体で受けたということになる。

ボロボロの状態で、毒に侵食されつつある状態で。

 

「まさか……紡絆ッ!」

 

「紡絆先輩!」

 

「紡絆くん……。約束したなら守ってよ……!」

 

「……ッ。だ、大丈夫! だって、紡絆くんだもん! いつものように無事に帰ってくるよ! だから私たちは今何とかしないと!」

 

爆炎で見えないが、一向に姿を現さない姿に()()が脳裏を過ぎるが、友奈は言う。

みんなを励ますように、信じようというように。

 

「……でも」

 

「東郷さんと約束したんでしょ? 紡絆くんは約束を破るような人じゃない!」

 

「友奈ちゃん……そうね。私たちが信じないと」

 

何処までも前向きで、何処までも明るくて、何処までも元気いっぱいな友奈は東郷に言ってのけた。

その姿を見た東郷は頷き、風と樹にも通じたのか、笑みを浮かべた彼女たちはバーテックスとグランテラにそれぞれの得物を構え、そして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハァァァァァァ……』

 

声が響く。

その方向は、爆炎の中。

決して大きな声ではないが、友奈や東郷、風や樹、さらにはバーテックスとグランテラですら戦うことをやめ、その爆炎の中を見る。

 

『ハァァァァァァァァァァ---シュアッ!』

 

そして、全身が紫になりかけていたネクサスが姿を表し、胸のエナジーコアから眩い輝きが発せられる。

その光はネクサスの全身を覆い、誰もが光に目を奪われた。

 

 

 

 

 

 

720:名無しの転生者 ID:P0HTOoOUx

生きとったんか! ワレェ!

 

 

721:名無しの転生者 ID:WCoZeWOOW

この輝きはまさか!

 

 

722:名無しの転生者 ID:xJ4RAmWh4

ようやく来たか……!

 

 

723:名無しの転生者 ID: OX82Ln2AK

間違いない! コアファイナルだ!

秘められた力を解放するジュネッスにはないアンファンスにしかないとされている技!

 

 

 

 

 

 

 

『シュッ!』

 

光り輝いた肉体が晴れると、現れたのはネクサス。だが、侵食されているように紫色になっていたはずが全て消え去っており、なおかつ姿を変化させた姿。

肩には鎧の肩当てのような板状のパーツがあり、胸のエナジーコアの中心には新たに生まれた半球状の発光体、()()のコアゲージ。

だが何よりも、ネクサスの肉体が銀色のみでは無くなっているのが特徴的だろう。

爆炎から出てくるその姿は銀色だけではなく、銀と比率の高くなった黒と赤。()()のようなものを身に纏い、アンファンスが力を解放した()()()()---ウルトラマンネクサス・ジュネッス。

英雄の力を纏いし姿だ。

 

 

 

 

774:名無しの転生者 ID:2joYgcZDh

ウッソやろ!? 姫矢ジュネッスやんけ!

 

 

775:名無しの転生者 ID:c7u0ByTBd

やっぱりジュネッスはかっこいいですねぇ!

 

 

776:名無しの転生者 ID:SmITD/l45

勝ったな、風呂入ってくる

 

 

 

 

 

 

 

 

『デェヤアアアアアッ!』

 

瞬間、ネクサスが力強さを感じさせる動きで走っていく。

誰よりも早く気づいたグランテラが六門の気門から火球を放つが、堅実な戦い方へと変わったネクサスはアームドネクサスでかき消し、火球が消えると空を飛んで凄まじい速度でグランテラを蹴り飛ばした。

 

『ハアァァ……へアッ!』

 

さらに仕返しと言わんばかりにスコーピオンの尻尾を完全に切断して踏み砕き、腹目掛けて前蹴りで吹き飛ばすと、キャンサーの反射板を()()()投げつけ、サジタリウスの矢をパーティクルフェザーの一発で全て消し去り、もう一発放ったパーティクルフェザーがサジタリウスをダウンさせる。

さっきと打って変わって、明らかにパワーアップした姿に目を奪われていた勇者部のメンバーはすぐに近づいた。

 

「わあー! 紡絆くん! かっこいい! なにその姿!?」

 

「友奈ちゃん……掛ける言葉を間違えてるわ」

 

「良かった……無事だったんですね」

 

「まったく、帰ったら説教だかんね! あとうどんを奢りなさい!」

 

『ヘェ!?(なんで!?)』

 

まともな言葉が大してきてないが、いつもの勇者部だと紡絆は安心しつつ、樹の言葉だけ嬉しく感じていた。

そして部長である風の言葉には思わず驚くしかなかった。

 

「そりゃ心配させたのと無理をした罰、あとはウルトラマンということを秘密にしてたからよ」

 

「紡絆くん、私も許さないから」

 

「あはは、えっと……ご馳走になります?」

 

「あの……頑張ってください……」

 

『フエエェ……』

 

言葉には出てないはずが、恐らく雰囲気や驚くタイミングからして予想されたのだろう。

何も言い返せない風の言葉と、怖くなってきた東郷の笑顔。味方だと信じていた友奈と樹にですら見捨てられ、紡絆はネクサスの姿でため息を零し、紡絆として笑みを浮かべた。

 

「まあとにかく! 何だか分かんないけど紡絆もパワーアップしたことで、バーテックスとスペースビーストを一気にやっつけるわよー!」

 

「今度は守るわ」

 

「がんばろー!」

 

「わ、私も頑張ります……!」

 

『デアッ』

 

それぞれ投げられる言葉にネクサスがこくり、と頷くと、復活したバーテックスとグランテラを見据えた。

 

『シュアッ! ハアアアァァァ---』

 

ネクサスが左腕を上にして右腕を左側に持っていき、十字を作るようにアームドネクサスをクロスする。

すると手首に青い輝きの粒子が纏われ、弧を描くように大きく右腕を回しながら左腕もあとから体ごと右側へと捻り、右腕を少し後ろの方から胸のエナジーコアの傍で拳を上にしながら固定すると左手を腰に止める。

 

『ハアッ!』

 

エナジーコアの傍で固定した右腕を掲げ、見上げるのと同時に青く輝く光線を空高く撃ち上げた。

手首に纏われていた輝きが消え、樹海の空へ向けた光線が継続することなく消える。

瞬間、消えたと思われる箇所から花火のように拡散。黄金の雨のように光が降り注ぎ、()()()()()覆って見せた。

さらに地表からは水泡のような光が立ち昇っていた。

 

「え!? またなんかあるの!?」

 

「なになに!?」

 

「これは……結界?」

 

「あたたかい……」

 

光に包まれた風と友奈が驚き、少し驚きながらも冷静に観察する東郷、そして光の空間から感じたことを口に出す樹。

そんな勇者たちだが、またまた驚くことになる。

先ほどまでは樹海に居たはずなのに、今度は真っ赤な荒野へと変貌していたからだ。

 

「いや、何処よ!?」

 

「太陽などもないですね……」

 

「よく分からないけどなんかすごい!」

 

「あ、あれ? さっきまで樹海にいたはずなのに……でも、綺麗」

 

非現実的なほどに、青が濃すぎる空にオーロラのような光が満ちている。

太陽もない、月もない、星もない、なのに明るい世界。

砂の無い、結晶が埋められた赤土が敷き詰められたかのような、真っ赤な荒野。

これこそが、ネクサスの代名詞といえる技。強化形態(ジュネッス)だからこそ有する力---フェーズシフトウェーブ。

その能力によって作り出される戦闘用不連続時空間(異空間)、メタフィールド。

その世界はウルトラマンの身体そのものから作り出され、ウルトラマンの身体を構成する物質の組成と同じものでできている異空間であり、簡単に言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()というのが分かりやすいだろう。

展開中は維持するために命を削る必要があるが、その分ウルトラマンの力を強化する空間でもある。

なおかつ、この世界ならば樹海が一切傷つけられる心配がないという凄い力だ。

 

「あれ? なんだかさっきより力が出てくるような……」

 

否、それは勇者の力すらも強化する。まさに()()に満ちた世界。

そう言えるだろう。

 

「よーし! 行くわ---」

 

『ファッ!?』

 

風の掛け声が、ネクサスの驚愕の声に掻き消される。

邪魔をしてきたネクサス、というよりは紡絆に視線を送る風だったが---

 

「風先輩……あれ」

 

「あれって……ブラックホール? みたいなやつ?」

 

「え、えぇええ!?」

 

気づいた東郷が風に呼びかけると空へと指を指し、友奈はどう表現するべきか分からずに首を傾げ、樹は信じて驚く。

 

「なに……はあぁぁぁ!? 紡絆、どういうこと!?」

 

『……ジュワ?』

 

風の言葉に分からないと言うように首を傾げるネクサスだが、変化が訪れる。

()()()()()()()()()()()()()メタフィールドの上空に()()()()()()()のようなものが次々と広がっていくと、そこから暗雲が見え、()()()()がメタフィールドを()()()()()

世界が変わり、メタフィールドと見た目的にはほぼ同じだが、空の色は赤黒く、不気味な光が不規則に明滅しているだけではなく不浄な空気と汚染された大地の世界へと変わった。

それを---()()()()()()()()という。しかし()()()ダークフィールドではないが。

 

『フンッ!』

 

『シェアッ!』

 

ふと飛んできた紫の光弾を、ネクサスがパーティクルフェザーで相殺する。

まるで()から生まれるようにどこからか姿を現したのは赤と黒のツートンが特徴的な()()()()()()

 

 

 

 

820:名無しの転生者 ID:Ne+W1B2cy

いや、この世界の難易度頭おかしすぎん?

 

 

821:名無しの転生者 ID:cBDC1WXkZ

あのさぁ……ザギさんなにしてんの? お前強化形態出たばかりなのにそれは卑怯だろ!

 

 

822:名無しの転生者 ID:7noJ1zhjC

気をつけろ、イッチ! ファウストは意外と強い! それにダークフィールドに塗り替えられても維持する負担はイッチとかいうクソ仕様だ! ナーフしろ!

 

 

823:名無しの転生者 ID:OX82Ln2AK

アレはダークファウスト! 闇の巨人と言われるウルティノイドでEpisode.07からEpisode.12にまで登場して姫矢准を苦しめた巨人だ!

そしてイッチのメタフィールドを塗り替えたのはダークフィールドGと呼ばれる力! アンノウンハンドのみが展開するもので、スペースビーストを強化するだけじゃなく、再生や進化を促進させる厄介な空間!

 

 

824:名無しの転生者 ID:lHq/JCJJr

さらっとザギさんいること確定しましたね……

 

 

 

 

 

 

 

『私はファウスト。光を飲み込む、無限の闇だ……』

 

『……シュア』

 

ファウストと名乗ったウルトラマン---いや、闇の巨人(ウルティノイド)

ファウストを見て、ネクサスはただ何も言わずに拳を構えた。

 

「……頭痛くなってきたわ」

 

「あれもウルトラマン?」

 

「……敵でしょうね」

 

「なんだが、怖いです……」

 

「ええい、もう知るか! とりあえずぱぱっと終わらせてうどん食べるわよ!」

 

ヤケになるように叫び出した風の言葉に、ネクサスを含めて勇者部全員が頷いた。

 

 

 

 

 

 

 





〇継続紡絆/ウルトラマンネクサス
記憶失ってるのに人助けしてた変態。
けれど家族が宝物で支えでもあったという。
無理し続けたせいでエネルギー切れを起こしたし『一人でやらないと』と思っていたが、色んな人たちの声でついに覚醒。
コアファイナルによって毒()吹き飛ばしたし安心!
今の彼は、(光の意味も見つけたし迷いも重圧もなくなったしジュネッスになったし)馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前(天下無双)

〇友奈ちゃん
実はクッソメンタル来てるくせにみんなを励ましてた子。
不安で仕方がなかったという。

〇東郷さん
無事なのには安心したが、流石に無理してまで来たことでお怒り中。

〇風先輩
頭こんがらってきたけど、とりあえずうどん奢らせることで解決。
うどんパワー(女子力)全開だ!

〇樹ちゃん
紡絆の癒し。
てっきりダメかと思っていたが、無事だったことに凄い安心していた。

姫矢(ひめや)(じゅん)/二代目適能者(デュナミスト)
本人が直接来た訳ではないが、一応レジェンド出演。
ノア様の記憶と力の残留(最終回のようなやつなので一応本人でもある)で似た境遇を持つ紡絆を(自身の過去を見せることで)導いた。
本質も伝え、彼の絆の力(ジュネッス)を受け継いだ紡絆は無類の強さを誇るだろう。
ちなみに、サブタイトルは彼と紡絆、東郷を掛けたものである。

〇ファウスト
プロット消失で悩んだが、出した。
中身……いらなくない? それともいる?(地獄への誘い)

〇ダークフィールドG
は? (グランテラの防御力あったら勝手に毒で死ぬと思ってたのに)なんで生きてんの? (まあ、正体知らんだろうからバレへんし)妨害しよ
こっそりガルベロス(死体)回収していたりする。

▼誰でもいいからくれてもええんやで質問

Q. 紡絆君に対して友奈さん達(勇者部)が持っている印象は?

A.友奈ちゃん→自身に似てるし互いの性格故に凄い気が合う誰よりも仲のいい異性。時々ドキドキさせられる部分がある。
東郷さん→ほんへ通り。
風先輩→頼りになるしふざけあえる後輩だが、助けられる部分も多い。しかし無茶する部分はやめて欲しい。
樹ちゃん→当初会った時は異性なのもあって苦手意識が高かったが、今では全然問題なし。むしろ……


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「-闇の空間-ダークフィールドG」


新年、あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
今年はギャラファイも夏にありますし、トリガー映画もあるので楽しみですね。

そして遅くなりましたが、2021年12月17日ゆゆゆ、完結おめでとうございます!寂しく思うのと感動と同時にロスが凄まじいですが、お陰でゆゆゆい始めました(データ消えた)
皆さんもぜひ、代わりと言うには恐れ多いですがこの小説読んでロスを少しでも癒してください(内容が癒されるとは言っていない)
今年の抱負はこの作品の一期とわすゆ(やるかは不明)を終わること……ですかね?
今の悩みは花言葉がなかなか難しいことです()
もしかしたら思いつかない回はないかもです。

そしてアンケートはヒロインっぽかった東郷さんはともかく友奈ちゃん(僅差)とにぼ…ゲフンゲフン(三位)に意外と入ってるのは意外でした。
それじゃあ、板野サーカス再現しようと足掻いたほんへをどうぞ!
修行足らんなって




 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 第 8 話 

 

-闇の空間-ダークフィールドG

 

 

 

ブルースター

信じ合う心

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サジタリウス、キャンサー、スコーピオン三体のバーテックスとダークファウスト、グランテラと対峙するのは、勇者となった友奈、東郷、風、樹。そして()を継ぎ、その身に赫焉(かくえん)を思わせる赤き輝きを纏ったウルトラマンネクサス・ジュネッス。

自身に有利なメタフィールド空間を掻き消され、闇の力とスペースビーストを強化する空間、ダークフィールドGに書き換えられたが、誰も絶望の表情をすることも、戦意が削がれている者は居なかった。

 

「闇雲に戦っても負けるだけです。やはり一番厄介なのは……」

 

『ジュワ』

 

ネクサスがグランテラとサジタリウスに視線を送る。

キャンサーの反射板が厄介な理由は、サジタリウスの矢が反射すること。だからこそ、サジタリウスさえ倒せばキャンサーはそこまで脅威になり得ない。そしてグランテラの驚異的な防御力の前では、勇者の攻撃は全て防がれてしまう。

 

 

882:名無しの転生者 ID:S1XsP1zSs

そういえばイッチ。ネクサスはその空間だと三分間以上の変身は体が持たない。メタフィールドを貼ってる時から感じてはいると思うが、三分間が限界だ。気をつけろ。

それ以上過ぎたら死ぬからな

 

 

883:名無しの転生者 ID:oxrhbOu6D

組み合わせが厄介な分、一体でもバーテックスを封印すればこちらに戦況傾く。問題はファウストとグランテラを抑えられるかどうかだ。いけるか?

 

 

 

 

『フッ』

 

こくりと小さく頷いたネクサスは勇者部のメンバーにピースサイン---2を表す指を見せ、グランテラとダークファウストに視線を送った。

 

「ピース?」

 

「流石に違うでしょ」

 

『シュ、ジュアッ』

 

ネクサスが友奈の言葉に首を横に振り、自身のエナジーコアについている青いコアゲージを指差す。

 

「ピースサイン……二分間ということ?」

 

『フン』

 

東郷に正解というようにこくこくと頷くと、ネクサスが構えた。

グランテラとダークファウストに対して。

 

「抑える……ということでしょうか」

 

「なら話は早いわね。あたしらがやることは……」

 

「バーテックスの封印! ですね!」

 

「紡絆くんの負担がでかいけど、大丈夫?」

 

『へアッ! デェアアアアッ!』

 

平気というように頷いたネクサスは、今にも攻撃しようとしているサジタリウスとグランテラの攻撃を妨害のためにアームドネクサスで作り出したセービングビュートでダークフィールド内の地面を鞭で叩くように凄まじい威力で叩き、砂塵を発生させる。

それは、目眩し。

その間に勇者たちも動き始めることにする。

 

「さっきと同じように、遠くの敵は私がやります!」

 

「OK。なら私と樹と友奈でサソリかカニみたいなやつを封印するわよ!」

 

「うん!」

 

「そっちは頼んだよ! 紡絆くん!」

 

『ハアァァァ---デヤッ!』

 

やることは決まったと砂埃が舞う中、東郷は離れ、友奈と風、樹は直線上から消える。

そしてネクサスが空を飛ぶと、砂埃があるにも関わらずサジタリウスとグランテラによる矢と火球群が飛んでいくが、残念ながら既に誰もいない。

 

『ふん、そのようなものに引っかかると思っていたのか?』

 

『ヘェ!?』

 

しかしネクサスの方は驚愕する。

空を飛んだものの、いつの間にかファウストがネクサスの上を取っていたのだ。

 

『ハアッ!』

 

『グッ……! ヘァ!』

 

一秒。

かかと落としによって空中から落とされるネクサスが空中で両手両足を広げることで空気抵抗を減らして勢いを殺し、ブレーキすると即座に掴みかかる。

二秒。

グランテラの火球群が飛んでくるが、ネクサスはファウストの腹を蹴り、それを軸にして蹴り飛ばしながら空中でバック回転。

追尾してくる火球群に向かってパーティクルフェザーを連発することで消し去り、残った火球を凄まじい速度でジグザグに避けていく。

三秒、四秒。

追尾するように円を描いて背後から迫ってくる火球群と、殴りかかってくるファウスト。

ネクサスはファウストの攻撃に耐えるように腕を構えたかと思うと、突如反転。

 

『なんだと!?』

 

予想外の行動にファウストが驚く中、両腕を真っ直ぐ縦に振り払うことでパーティクルフェザーを二発を発射して火球群をひとつに減らし、なんとネクサスが残ったグランテラの一つだけしかない火球群を()()()()()()()ファウストに向かって()()()

想像もしていなかった事態にまともに受けたファウストが怯み、ネクサスの仕返しと言わんばかりのかかと落としがファウストを突き落とす。

次々と放たれる火球に対し、ネクサスは冷静に両腕のアームドネクサスで斬るように全て消しながら空中を蹴るように加速。

迫る火球群に対し、音速を超える速さで落下しながら両腕のアームドネクサスの部分で火球群を集め、集めた火球を左手で鷲掴みしながら一気にグランテラへと叩き込んでみせ、距離を離して地面に着地する。

この間、たったの十秒。

ネクサスとファウストのスペックとグランテラによる(まさ)しく人智を超えた戦い。

二対一であるにも関わらず、ネクサスは優位に戦えていた。

そして、グランテラは自身の攻撃に倒れてしまう。

 

一方で、地面に着地したネクサスに迫る脅威。

スコーピオンの復活した毒針の尾が再びネクサスを突き刺さんと迫るが、ネクサスは気づいてる様子はない。

いくらパワーアップしたネクサスとはいえど、再び毒を受けてしまえば戦闘不能になることは間違いないだろう。

そして凄まじい速度でスコーピオンの尾が迫り---

 

「させないってぇの!」

 

ネクサスとスコーピオンの間に割り込んだのは、幅広の大剣を盾のように構えた風だ。

硬い物同士がぶつかり合う甲高い音が、ダークフィールド内に大きく響きわたる。

 

「これがッ! 私の女子力よおおぉぉ---ッ!」

 

それを目にすることなく、ネクサスが走り出す。

何故なら紫色の闇から暗雲が広がり、紫色のエネルギーがグランテラに降り注ぐとエネルギー補給によって蘇生させられたからだ。

ネクサスの後方で、スコーピオンが凄まじい音を立てる。あの凄まじい威力に対し、風が大剣の腹を背中で支えにし、全身のバネを利用することで無理矢理跳ね返したのだ。

走り出すネクサスに対し、狙うものがまた一体。

 

「好き勝手にはさせない……!」

 

抗のような矢が放たれる。

そして、ネクサスの目の前で爆発が起きるが、ネクサスは爆風の中を突っ込んで通り抜けた。

明らかに厄介な存在だと狙われた一撃だが、東郷の射撃が攻撃を相殺し、さらに二発放たれていたのか、サジタリウスに直撃して傾かせてみせた。

今度は妨害するようにキャンサーが迫る。

 

「樹ちゃん!」

 

「友奈さん、行きますッ!」

 

反射板を構えるキャンサーに対し、友奈にワイヤーを引っかけた樹はゴムのようにワイヤーを弾かせ、友奈の肉体が凄まじい速度で向かっていく。

人間砲弾、と言うべきだろうか。

戦車から放たれる砲撃の如き速度から放たれる友奈は掛かるGに耐えつつ歯を食いしばる。

そうして速度を落とさないまま放たれた拳はキャンサーの反射板すら貫き、肉体を吹き飛ばしてみせた。

ネクサスは気にせず、目的に向かって一直線に走る。

それは()()()()

前までのネクサスならば、敵が現れた瞬間戦っていただろう。それこそ、自分一人で戦うように。

実際にパワーアップする前はネクサスは何も言うこともジェスチャーすることも無く四体を引き受けていた。

しかし、今のネクサスは一人で戦っているわけではないのだ。仲間がいると、共に戦うと決めた紡絆にとって、彼女たちならやってくれると信じて、ただ一直線に走り続け、妨害を乗り越えた末に辿り着いたファウストに向かって跳び蹴りを放った。

 

『ジュアッ!』

 

『テヤッ!』

 

ファウストが自ら倒れることで避け、着地するネクサスに対して拳を突き出し、ネクサスは即座に肘打ちで対抗する。

両者の力は同等なのか、どちらかが負ける事もなく、均衡していた。

 

『フッ! シュア!』

 

『デェエエエ!』

 

回転して正面を向いたネクサスがファウストの首を狙うようにジャンプと同時にハイキックを放つ。

立ち上がったファウストも同じくしてジャンピング・ハイキックを繰り出し、ぶつかり合う。

すぐに脚を戻した両者が拳を握りしめ、同タイミングで真っ直ぐ繰り出した。

瞬間、起こるのは火花。

高威力な巨人同士の一撃と装甲故に起こったもので、その火花は両者から出ていた。

交差するように放たれたクロスカウンターが互いの人間でいう頬の部分に直撃し、互いに威力で離される。

 

『グゥゥ……デェアヤッ!』

 

『グオォ……』

 

『キィィィィ!』

 

怯む両者。

しかしネクサスは怯んでる隙を与えないと言わんばかりに手の鋏を振り下ろしてきたグランテラの攻撃を、片腕で防ぐが、完全に防ぐことは叶わずに地面に膝を着いてしまう。

 

『ヘアァァァ!』

 

『グアッ!?』

 

そこに飛んでくる、ファウストの回し蹴り。

ネクサスが火花を散らせて転がり、さらにグランテラがもう一発蹴りを加えることでネクサスがより吹き飛ばされてしまう。

 

『ハァァァァ---フアアアァァァ!』

 

両腕をクロスしたファウストが両腕を上に広げると上空へ闇の球体が飛んでいく。

さらに六門の気門からチャージし始めたグランテラ。

 

『ピャァァァァァ!』

 

『ハッ!?』

 

グランテラはともかく、闇の球体が一体何か分からないネクサスが膝立ちから起き上がろうとするが、闇の球体がネクサスの頭上で分裂してダークエネルギーの弾雨を降り注ぐ---ダーククラスター。

それだけではなく、グランテラの火球群がネクサスへ襲いかかる。

正面と頭上からの同時攻撃。

 

『ウワッ!? グアアアアアアッ!』

 

両方からの攻撃となると防ぐ術はなく、降り注ぐダークエネルギーはネクサスの肉体と周囲の地面に落下し、爆発ごとネクサスを傷つけ、グランテラの火球群が胸に直撃して倒れてしまう。

 

『ァァ……シュワッ!』

 

ダメージによって倒れたネクサスだが、即座に横へ転がるのと同時に片手のアームドネクサスから一発のパーティクルフェザーが放たれる。

ファウストはそれを軽く避けると、嘲笑う。

 

『フハハハ---馬鹿め。一体どこを狙っている?』

 

『……フッ』

 

馬鹿にするように笑うファウストに対して、ネクサスも何処か笑ったようなググもり声を出す。

その理由は---

 

 

 

 

 

 

「よっし友奈! 封印ーッ!」

 

「いきます! やぁああああああ!!」

 

先ほど放ったパーティクルフェザー。

それが風と友奈の同時攻撃によって大きく肉体を傾かせたスコーピオンに直撃し、完全に地面に倒れさせることに成功した。

そこに、友奈が封印するための拳を叩き込むと、程なくして一つの御魂が姿を現した。

 

『バカな……いつの間に見極めていたという---グアアッ!?』

 

『デェアッ! ジュ……ヘェヤアアアアァァァ!』

 

気づいていなかったファウストが動揺するが、ネクサスは容赦なくファウストの腹を殴り、足を引っかけて浮かすのと同時に、横へ投げ飛ばした。

さらにグランテラに対して跳躍と同時に頭らしき部分に蹴りを入れると飛び越える。

そこから着地して後ろ回し蹴りからの横蹴りでダメージを与え、怯んだところに掴みかかると顔を殴る。

それだけでなく、アームドネクサスを輝かせ、光刃で下段から上段へ振り上げるように斬り裂いた後にドロップキックを加えることでファウストの上に吹き飛ばした。

 

『グゥウウウゥ!?』

 

『キィィィィ……!』

 

グランテラはネクサスによる連続攻撃を受け、ファウストはグランテラの体重+吹き飛ばされた時の落下速度が加わったことで凄まじいダメージを受ける。

 

「えい! このっ! はっ! あ、あれ!?」

 

その間にも友奈が現れた逆四角錐型の御魂を破壊しようと殴りにかかるが、御魂は当たる寸前で素早く動いて躱す。

偶然かと思って友奈が地面を蹴り、再び拳を繰り出して破壊しようとすると、やはり避けてひょいひょいと柳のように何度も躱していた。

 

「こ、この御魂絶妙に避けてくるよ〜!」

 

予想外の状況に、焦った友奈が声を上げる。

そんな友奈の肩を叩き、頼れる部長が進み出た。

 

「友奈、紡絆! あんたたち二人とも球技の応援を頼まれていたでしょ?」

 

『ヘッ?』

 

「えっ? た、確かに私はソフトボール、紡絆くんは野球とドッチボールで頼まれてますけど……」

 

突然な風の質問に何か関係あるのかと言うように困惑しながら答える友奈と、何故自分も?と言うように首を傾げるネクサス。

 

「それじゃあ、練習って大事だと思わない?」

 

大剣を両手に握りなおし、()()()()()()のように肩に担いだ風が友奈に向かっていたずらっぽくウインクする。

意図がわからず、目を白黒させていた友奈だったが、風のその仕草をみて彼女が何をしようとしているのかを理解した。

 

「あっ……お願いします! 紡絆くん、ちょっと力貸して!」

 

「よぉし、構えておきなさい! 今から見せるのは勇者部の部長が誇る必殺打法よ!」

 

『シュ……(それって結局風先輩のでは?)』

 

グランテラという重りに苦戦してるせいで起き上がれないファウストがいるため、友奈の言葉に頷きつつ思わず心の中で風に突っ込む紡絆だが、残念ながらネクサスの姿なので声は聞こえていない。

 

「行くわよ! これこそが私の全てが籠った打法---」

 

そう叫びながら友奈の横から跳躍した風が、御魂の上空を通り過ぎて、背後に着地する。

振り向きざま、標的を捉えた風の目がギラリと光った。

 

「点がだめなら、面の攻撃でぇぇぇええええ!! 食らいなさい! 女子力打法おぉおおおおおぉぉおお!」

 

そしてそのまま、肩に担いだ大剣を()()()()渾身の力でフルスイング。

意志を持っているように慌て始め、回避を試みようとするが、行動が遅すぎたのもあって間に合わない。

風の大剣がスイングの途中で肥大化し、大剣の腹が逃げようとする御魂を遂に真芯で捉えた。

快音を響かせ、御魂が斜め上に弾き飛ばされる。

十分に乗った慣性は、御魂に飛ばされる以外の行動を許さず、野球やソフトボールで行けば、ホームランのコースだ。

 

「紡絆!」

 

しかしこれは野球でもソフトボールでもない。

ホームランをして何処かへ飛んでいっては困るので、風が呼びかけるが---その前に、既にネクサスがアームドネクサスをクロスさせ、高速移動で空中に浮く。

風の巨大化した大剣により、弾き飛ばされたことで凄まじい回転をしながら放っておくと何処までも飛んでいきそうな御魂にマッハムーブで飛んでいくコースへ割り込んだのだ。

ネクサスが右手で握り拳を作り、左手で手を包み込むと、背中を大きく仰け反らせながら振り上げる。

 

『デヤァァアアア!!』

 

そして---御魂が攻撃可能範囲へと入った瞬間、回転を止めるためにも、地面へ叩き落とすように両手を振り下ろした。 ダブルスレッジハンマー(オルテガハンマー)と呼ばれる技である。

ネクサスによる強烈な一撃は斜め上に飛んでいくはずの御魂を一直線に降下させ、風による一撃で回転と速度がかなりあったのもあって、ヒビを入れた。

さらにヒビが入った状態で降下する御魂のその先。

そこには、どっしりと腰を落として拳を構えた友奈の姿があった。

 

「勇者ァァァァァァァッ! パァァァァァンチッ!!」

 

腕を振り絞り、真っ直ぐ落ちてくる御魂に対して友奈はタイミングを見極め、思い切り突き出す。

友奈の拳が御魂に直撃すると、そこから一気にヒビが広がっていき、友奈は足に力を入れ、一気に吹き飛ばす。

 

「もう---いっぱあああああぁぁぁあああつ!」

 

飛んできた御魂に対し、風が叩き壊すように巨大化した大剣を叩きつけ、ただでさえネクサスと友奈の一撃でボロボロとなっていた回避型の御魂に耐えきれるはずもなく、御魂は間もなく砕け散り、光となって天へと帰った。

つまり、スコーピオン・バーテックスの撃破である。

残る敵は、四体。

結局野球など関係あるかどうかとは疑わしいが、飛んでくるボール(御魂)を正確に見極める点、では関係あるのかもしれない。

 

『ええい! 退け!』

 

『キィィ!?』

 

そんな中、ついにファウストがイラついたようにグランテラを投げるように退かし、起き上がる。

グランテラは転がるが、お陰で起き上がることに成功した。

 

『……へアッ!』

 

ネクサスがそれに気づくと、本来の仕事に戻るように空中で構える。

---ネクサスが言った残り時間は、あと一分。

それ以上となると、流石に抑え切るのが無理になるだろう。バーテックスとファウストかグランテラ。どれかを撃破、または動けなくさせない限り、ネクサスは光線技を使う隙がないからだ。だからこそ、倒せない。

 

「友奈、確かに心配だけど、あたしたちは……」

 

「分かってます! 樹ちゃんの援護!」

 

気持ちを切り替えるように、背を向けてキャンサーを相手しているであろう樹の元へ急ぐ友奈と風。

紡絆が抑えるといった以上、必ず抑えてくれると信じているからだ。負けることは無い、と。

 

『デアッ! ヘェアアアアァァァ!』

 

『デヤッ! フゥゥゥンンンンン!』

 

そして、上空にいるネクサスに対し、ファウストが向かいながら拳を突き出す。合わせるようにネクサスが拳を突き出すと、互いの拳から発せられる凄まじい衝撃波が空中で巻き起こる。

空気中に伝播する衝撃に思わず勇者部の面々は顔を守るが、過ぎ去ると即座に行動に移し、上空では光速の戦いが繰り広げられていた。

最初に動き出したのはネクサスで突き出した拳を戻すのと同時に一回転しながら腕を横にして叩きつけようとする。

それをファウストが下に下がることで避け、がら空きとなったネクサスの足を掴んで投げ飛ばす。

ネクサスは即座に回転しながら空気を蹴り、片足を真っ直ぐに上空へキックの体勢へ入りながらファウストに向かうが、ファウストはそれを避ける。

 

『デュアッ!』

 

『フン……!』

 

避けられたと判断したネクサスが大きく旋回し、ファウストの背後から接近すると、右腕を振り絞りながら殴りかかる。

それを見ずに回避し、懐へ入ったファウストがネクサスの腹を蹴ることで打ち上げた。

 

『ガハッ!?』

 

『ハアッ!』

 

ファウストが加速し、頭上を取るとネクサスの背中に対して叩き落とすように片腕を振り下ろすが、ネクサスが吹き飛ばされながらも瞬時に、片足で腕に対抗する。

そこからもう片方の足で横蹴りを放ち、ファウストが片手で弾く。

足による攻撃を弾かれて隙が出来たネクサスに対して、ファウストが対抗されていた片足を両手で掴み、ネクサスを凄まじい速度でハンマー投げの要領で地面に投げつける。

そこを狙ったかのように素早く撃てるからか、グランテラが尾からの火球をネクサスにぶつけ、直撃を受けたネクサスは岩らしき部分へ背中を強打する。

 

『グアアァァ……フェ!?』

 

『キィィィィ!』

 

背中をぶつけたネクサスが起き上がろうとすると、鋏が迫ってることに慌てて斜め横に転がることで避けると、グランテラの鋏の腕が岩を破壊する。

ネクサスは気にせずに地面に両手を着いて両足後ろ蹴りでグランテラを蹴り飛ばすと、大きく跳躍。

 

『デェヤッ!』

 

『キィェェェェ!?』

 

くるりと後方宙返りしながら、片足を伸ばすこと(ボレーキック)で脳天へ叩きつける。

思わぬ痛みを感じてか、グランテラが脳天を抑えながら数歩下がり、その間にネクサスが周囲を見渡すが、ファウストの姿がどこにもなかった。

ふと反対側の方に居たはずの樹の方へ向くと、ちょうど封印したところ。

そこで上空の方でファウストが手を突き出し、そこから破壊光弾が放たれたのが見えたネクサスが、迫ってきたグランテラに肘打ちを食らわしてから迷うことなく走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、樹一人では封印出来ないため、樹はひたすらキャンサーを引き付けていた。

キャンサー単体ではそこまで脅威というレベルにはならず、せいぜい叩きつけてくる反射板とキャンサーの持つ鋏だけに気をつければいい。

しかし友奈や風と違い、樹の武器はワイヤーである。

小さい敵ならば優位に戦えるだろうが、いくら勇者の力で強化されていてもバーテックスほどの巨体を引っ張ることなど隙が多くて一人では出来ない。

 

『樹ちゃん、矢に気をつけて!』

 

そこで、樹に対して東郷からの警告が入る。

見れば、サジタリウスの大量の矢が此方---というよりはキャンサーへ向かっているではないか。

当然、キャンサーはそれを反射するために板を構える。

反射板で矢を跳ね返されてしまうと、待っているのは再び逃げることしか出来ずに戦うのが難しい状況と、頑張って二体抑えているネクサス---紡絆への負担の増加。

 

「さっきと同じように---ッ!」

 

少なくとも、ネクサスは何度かダメージを貰っている。

これ以上負担を増やす訳には行かないと、樹は構えたキャンサーの反射板にワイヤーを巻き付ける。

 

「ええぇぇぇぇい!!」

 

破壊する必要はない。

それを理解している樹は、ワイヤーを力の限り思いっきり引っ張り、サジタリウスの矢が反射板にたどり着く前にズラすことに成功する。

徐々に反射板がズレていき、そうなればどうなる?

当然---

 

 

 

 

 

 

大量の矢が、反射板ではなく、キャンサーを傷つける。

反射板があるからこそ防げるだけであり、それがなくなってしまえば的の大きい存在なのだ。

そうして何度も苦戦させ、武器としていたサジタリウスの矢を報いのように幾多の数を受けたキャンサーの肉体が後ろに倒れ、力を失ったように反射板があっさりと地面に落ちた。

 

「ナイスよ樹!」

 

「わっ、樹ちゃん凄いよ!」

 

終わったのか、辿り着いた風と友奈が樹に声を掛ける。

二人が来てくれたことに安堵しつつ、失敗していたら自分がああなっていたのだと樹は嫌な汗を掻いていた。

 

「そ、そうだ……封印!」

 

「こっちはおっけー!」

 

「樹、やっちゃいなさい!」

 

「うん!」

 

キャンサーが復活しない内にしなければならないと行動に移すが、友奈と風は既に位置に付いていて、樹は封印の儀を執り行う。

以前と同じくして御魂が排出されるが、動きまくって苦戦させたスコーピオンの御魂とは違い、一つの逆四角錐型の御魂がぽつんと置かれているだけ。

 

「あれ? 普通だ」

 

「まぁ、その方がいいでしょ」

 

「ま、待ってください。何か震えてるような……?」

 

予想もしてなかった呆気なく終わりそうな御魂に友奈が思わず零してしまうが、樹の言う通り、御魂が震えている。それも激しく震え出したのだ。

突然のことに驚くが、何か起こるかもしれないと友奈と風と樹は警戒の色を濃くした。

しかし警戒する三人に対して、御魂は徐々に震えが止まる。何も起きていないことに疑問と警戒の二つを浮かべるが、唐突に動き始めた。

なんと御魂が二つに分身したのである。

 

「双子ぉ!?」

 

「いやいや、ただの分身でしょ!」

 

果たして『双子』と呼べるのか分からないが、友奈の言葉に風のツッコミが炸裂する。

だが、それでは終わらない。二つかと思えば、三つ。

 

「三つ子なのぉ!?」

 

「それだけじゃないわ!」

 

三つかと思えば、四つ。

そのように御魂の数が徐々に増えていき、数えるのが面倒な量にまで増殖していた。

 

「た、大量に増えたッ!?」

 

「ええい、面倒なことを! 本物はどれよ? それとも全部!?」

 

「わ…私がやります……!」

 

仮に全て本物ならば、一個破壊したところで無限に増えるのだろう。

逆に偽物ばかりならば、破壊している間に増え続けてどれか分からなくなり、封印の時間が無くなってしまう。

ならどうするか、と言われると思いついたのか樹が自ら志願した。

 

「そうね、じゃあ樹---」

 

「あっ……! 樹ちゃん避けて!」

 

樹の表情を見た風は家族である彼女を信じて任せようとしたところで、友奈が気づいたように大声で叫ぶ。

 

「えっ? ッ……!?」

 

思わず止まってしまい、何かが飛来するような音が聞こえた樹が振り向くと、上空から紫色の闇の光弾、と表現するべき破壊光弾が迫ってくるのが見えた。

精霊によるバリアは発動するだろうが、不意打ちの一撃。樹は衝撃は来るということは知っているため、痛みに堪えようと---

 

 

 

 

 

『シュアッ!』

 

する必要などなかった。

その理由はネクサスが光弾に追いついてみせ、腕を横振りにすることでアームドネクサスで弾いたからだ。

ファウストが放った破壊光弾は横の方へ飛んでいき、ネクサスが首だけ後ろに向けると、樹に向かって頷いた。

よくやった、というように。

 

『シュワ………へアッ!』

 

それだけなのか握り拳を作り、体を捻りながらネクサスが大きく跳躍してファウストに組み付きながら落下していく。

その先は、グランテラがいる場所。自ら不利な状況となる場に向かったことになるが、グランテラが強力な遠距離攻撃を何個も所持していることから正しい判断といえよう。

だが---1分45秒。

もう制限時間の方が半分以上になってしまったが、それでもネクサスは立ち向かう。

引きつける役目はあと、15秒は残っているのだから。

 

「樹! 平気!?」

 

「あ……う、うん! 今度こそ!」

 

ネクサスの姿を見て、表情など分からないはずなのに()()()()()()()()()()()()姿()を樹は幻視してぼんやりと見ていたが、風の声にハッと気を取り直した樹は封印の残り時間と今も益々増え続ける大量の御魂に対して手にあるワイヤーを構える。

 

「数が多くて無理なら---まとめてぇえぇぇえええええ!」

 

射出されたワイヤーは増え続ける御魂を纏めて縛りあげる。

御魂はその状態でも尚、増え続けようとするがガチガチに縛られてしまうと増えれないようで、これ以上増加しない。

分裂することすら出来なくなった御魂など脅威になるはずもなく---

 

「ええええい!」

 

力を入れ、樹が一気に大量の御魂を斬り裂いていく。

一回り、二回りと砕け、小さくなっていった御魂は残るひとつになる。

 

「もう一回---やぁああ!」

 

それを見た樹は行動に移し、ついに残りの御魂を斬り裂いてみせた。

瞬間、七色の光が天に昇っていく光景を樹は唖然と見つめていた。

 

「やった……の?」

 

封印は一人ではできないとはいえ、バーテックス相手に一人で戦えた。どうにか勝つことが出来た。

それ故に、実感が湧いて来なかったのだろう。

それでも、その手には御魂を斬り裂いた感覚はしっかりと残っていた。

 

「流石あたしの妹ね、やったじゃない!」

 

「ちょ、ちょっと。お姉ちゃん……」

 

まだ戦いの場であるにも関わらず、風が樹を抱きしめて頭を撫で回す。

その姿をニコニコと見守る友奈がいるが、少し照れくさそうにするだけで満更でもなく、風の言葉でより自分がやったのだと樹は現実を理解していく。

 

「さて、それじゃあ残るひとつよ!」

 

「行きましょう!」

 

「うん!」

 

流石にまだ終わってないからか、風は程々にすると樹から離れ、厄介だったサジタリウスの方へ向く---のだが、何故か凄くボロボロになっていた。

それはもう、矢が放てるのかどうかすら分からなくなるほど。

 

『風先輩。こちらは後は封印するだけです。そっちはどうですか?』

 

「え、あ……う、うん。終わったけど……えっと……ほんと、秘密にしててごめんなさい」

 

『え?』

 

通信越しから聞こえてくる東郷に思わず謝る風。

さっき聞いたのに再び謝ってきた風に東郷は少し困惑気味だった。

そんなこんなで、勇者たちは残る一体の封印のために遠くの方へ向かった。

厄介な反射も、凶悪な横槍もなく、既に矢を発射することも出来ない敵など取るに足らない相手なのである。

 

 

 

 

 

 

 

980:名無しの転生者 ID:NEFkugVSK

イッチ! バーテックスは残り一体だ!

スレはこっちで建てるから気にせずに戦え!

 

 

981:名無しの転生者 ID:dQc++ad7E

板野サーカスをもっと見たい気持ちはあるが、そろそろ片付けるぞ! 光線技をどうにかして撃て! つーかそれ以上強化されちゃまずい!

明らかにファウストより強くなってんぞおい!

 

 

982:名無しの転生者 ID:11F+9/PX9

メタフィールドの限界時間も近い! ここまで抑えてた時点で頭おかしいが、何とかしないと負けるぞ……!

 

 

 

 

1分58秒。

本来、ネクサスのメタフィールド展開時間は3分が限度であり、残り1分になればコアゲージが鳴るのが特徴的だ。

しかし、ネクサスのコアゲージは少し前から既に点滅を始めていた。

ダメージを受けたからか、腹を抑えながら立ち上がるネクサスはすぐに跳躍し、飛び膝蹴りを放つ。

それを()()()()()()()()()グランテラが防ぎ、膝ごとネクサスを地面に叩き落とした。

ネクサスは空中から落とされたようにうつ伏せに転倒させられる。

 

『ガァ……!?』

 

(三回目! やっぱりジュネッスの力が通じない!? これがみんなの言ってたスペースビーストの成長速度とアンノウンハンドとやらの強化か!?)

 

既に二度大ダメージを与えたが、紫色の闇(ナニカ)がグランテラに力を貸し、回復させた。

三度目の時、今度は突如として速度と威力が段違いに上がり、防御力に至ってはジュネッスの攻撃すら通さない強固な肉体を手にしていた。

さらに---

 

『フンッ!』

 

『フッ!? ハアッ!』

 

上空から降り注ぐ、ダークエネルギーの弾雨。

すぐに後ろに転がり、背中を地面に預けながら頭上に両手でサークルシールドを貼って防ぐ。

そのまま流れるようにバリヤーを消してパーティクルフェザーを飛ばし、ファウストが弾きながら突き出した脚でネクサスに攻撃する。

それを両手で胸に当たる寸前で受け止めたネクサスが背後に投げ飛ばし、グランテラにパーティクルフェザーを飛ばした。

 

『キィィィィ!』

 

『ヘエッ!?』

 

飛んできたパーティクルフェザーに対して、グランテラが()()()()()()()()()()という予想もしない攻撃に腕でガードする羽目になる。

 

『ハッ!』

 

『グハッ!?』

 

そこに破壊光弾---ダークフェザーがネクサスの背中へ直撃し、膝を着いてしまった。

 

『キィェエエエエ!』

 

『ウガッ……!?』

 

走り込んてくるグランテラに膝を着いたまま拳を突き出したネクサスの攻撃を意に返さず、鋏でネクサスの首を掴みあげた。

すぐに両手で鋏を掴んで首を横に振りながら外そうとするが、グランテラの威力が上回っているせいか、拘束が外れない。

ならば、と足で抵抗するように蹴るが、鬱陶しく感じたのか尻尾からの火球がネクサスの脚に向かって放たれ、動けないネクサスは痛みに呻き声を挙げながら受けるしかない。

 

『グアァ……!』

 

『キィィィィ!』

 

『終わりだァ!』

 

鋏で掴んだグランテラがネクサスをファウストに向かって投げ飛ばし、真っ直ぐ飛んできたネクサスに対して、ファウストは脚を突き出し、足首までネクサスの鳩尾から腹部にかけてめり込む。

そこへより力を入れることでネクサスを一気に蹴り飛ばした。

 

『ウワアアアァァァァァ!?』

 

ただでさえグランテラにかなりの速度で投げられたネクサスは加速度が合わさり、その状態で蹴られたことでよりダメージが増しただけでなく、空白時間もなく蹴り飛ばされたネクサスは肉体へのダメージが蓄積しながらあっさりと体を浮かされて吹き飛ばされる---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わー!?」

 

「あぶなっ!?」

 

「うわわっ!」

 

そしてボロボロになっていたサジタリウスを巻き込みながら、背中から地面に落ちる。

ちょうど封印するために囲っていた友奈、風、樹が巨体が落ちてきた衝撃に転びそうになりつつそれぞれ驚きながら反応してしまう。

一方でサジタリウスがクッションとなったお陰か、ネクサスは背中のダメージを軽減されたようだ。

その代わり、もはやボロ雑巾よりも酷くなった---それこそプレス機に潰されたんじゃないかってくらいに薄く延びた上に半身が消し飛んだサジタリウスがいるのだが、ネクサスは地面に手を付きながら動くと、腹を抑えた。

 

『ガッ……ハッ……! ハァ……!』

 

「つ、紡絆くん大丈夫!?」

 

友奈たちからすると、突然降ってきて、危険信号であるコアゲージが赤く点滅している状態。

しかも腹を抑えているので、心配するのは当然だろう。

 

『ハァ……ハァ……。ジュア』

 

2分以上の経過。

それでもなお、ネクサスは友奈たちに視線を送って、此方に歩んでくるファウストとグランテラに構える。

その視線を受け取った風がみんなに指示を出した。

 

「早く封印!」

 

「は、はい!」

 

「わ、わかった……!」

 

時間があまりないと言うことなのだろうと正確に判断したのだろう。

風の指示で原型がないサジタリウスを囲み、封印の儀を始める。

 

「よし、封印開始!」

 

三人の勇者達から発せられる清浄な光が、サジタリウスを包み込み、浮かせる。

本来ならば少しの間、抵抗するように身じろぎするはずなのだが、再生も出来ずに潰されたままだからか即効でその体から尖ってる部分が青い逆四角錐型の御魂を吐き出した。

 

「それじゃあ、早速……って、この御魂凄くはやーい!?」

 

「は、早すぎるよぉぉ〜〜〜!?」

 

最後のひとつである御魂は抜け殻となったサジタリウスの体を中心として公転軌道を描くように超高速で回転を始めた。

あれだけの質量を持つ物体が、あの速度で移動しているとなると、迂闊に近づけば逆にこちらがダメージを受け、そもそも当てることすら難しいだろう。

 

「くっ……あと一歩のところで!」

 

悔しげに呟かれた風の声。

瞬間、()()()()()()()()()()()

 

「えっ? な、なんかおかしくない!?」

 

「あ、あれって……」

 

「……樹海? どういうこと?」

 

正確にはダークフィールドGに塗り替えられた()()()()()()()が崩壊の兆しを見せ始めた。

友奈がみんなに聞こえるように言い、樹が指を刺すとサジタリウスの足元から徐々に広がり、()()()()()()()()が真っ赤になったかと思えば、灰色になる。

一体どうなっているのか唯一大赦から派遣された風にも分かっておらず---これは、メタフィールド(ダークフィールド)を超え、樹海にダメージを与えている証拠。

 

『グゥゥ……!?』

 

それだけではなく、ネクサスが影響を受けているように先程以上に呼吸を苦しそうにしていた。

 

『デェヤッ!』

 

『ヌグォ……!?』

 

『キィィィィ!』

 

このままではエネルギーが足りなくなると判断したネクサスがダメージ覚悟でファウストの腹を殴り飛ばすと、グランテラから放たれた尻尾からの火球を地上でくるりと回転しながらスレスレで避け、回転中に左腕を勢いよく斜め下に振ると、同時に右腕を右腰に添える。

添えた右腕を左に持っていきながら左手は手のひらを上にし、持ってきた右手の手のひらを下になるようにすると、そこからエネルギーが行き来するように青い稲妻が迸った。

 

『ハァッ!』

 

エネルギーが光に変わり、その光がネクサスの手のひらに纏われると両腕を今度は右胸付近に持ってきて、ネクサスは正面を向くのと同タイミングで腕を十字に構えた。

すると十字の一を表す部分から上の箇所だけ光の光線---『クロスレイ・シュトローム』が放たれる。

 

『グオオォォ!?』

 

ネクサスによって殴り飛ばされたことで後退させられたファウストに放たれた光線。

それに腹を抑えているファウストが気づくと、防ごうとするが遅すぎた。

既に目前にまで迫っている光線に防ぐための行動をする時間もなく、ファウストの胸に直撃して吹き飛んで背中から勢いよく地面に倒れる。

 

『ウッ……グァァ………!』

 

『ピィィィィ!』

 

『ハァァ……フアッ!』

 

すぐにネクサスが振り向き、グランテラが振り向いたネクサスに対して全力と言わんばかりに六門の気門と尾の先端から火球群を発射する。

しかしネクサスは見ることなく片手でサークルシールドを生み出して受け止めると、遠くの離れた位置にいる東郷に視線をやり、頷いたのが見えた瞬間にはもう片方の手で光の鞭---セービングビュートを放つ。

ネクサスの目には見えているのか、()()()()()()鞭は正確にサジタリウスの正面で御魂を捕まえ、速度を一気に落とさせた。

遅くした理由は早すぎては過ぎ去ってしまうため、タイミングを計ったのだろう。

 

「あとは任せて!」

 

そこで勇者部のみんなに向けてスマホを使って言ったであろう言葉がネクサスにはスマホを介さずとも超人的な聴力だけで聞こえ、こくりと頷くと同時にセービングビュートを解除し、ラストの火球群と見るとサークルシールドを何処ぞのギロチン王子(超獣退治の専門家)のように投げるように火球群を一緒に打ち消す。

そして---パシュンと言った音ともに、動き出した御魂がゆっくりとなっていた。

 

「東郷先輩!」

 

「撃ち抜いた……!」

 

「さっすが東郷さん!」

 

するとゆっくり動いていた御魂が停止すると突如ヒビが広がり、御魂が七色の光を発しながら天に昇っていき、サジタリウスが砂となって消えていく。

 

「状況終了……」

 

バーテックスの消滅を確認した東郷が狙撃銃から視線を外し、そう呟く。

その時、ファウストが立ち上がった。東郷はすぐさま狙撃銃を構え、ネクサスは警戒するように見つめるが---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『チィ……ここまで、か。だが、まだまだ終わらない。私はお前の影なのだからな』

 

『…………』

 

それだけ言い残し、()()()()()()()()()()()()()幻影なのかと錯覚してしまうほど自然と消えたファウストの姿を見て、ネクサスは一瞬考えを巡らませかけるが、すぐさま意識を切り替えた。

まだ残る敵は存在するのだ。

 

「えっ!? き、消えた……?」

 

「よく分からないけど、そうなるとすると……後は---」

 

「あの敵だけだ!」

 

突如消えたファウストに驚く勇者部だが、風も分からないため、樹の言葉に何も返せないが友奈があと一息と励ますように叫ぶ。

バーテックスを全て撃破し、ファウストは消えた。

残る無事なのは一緒にいなくなることはなかったグランテラだ。

しかし、ネクサスもそろそろ限界なのだろう。

だからこそ---双方共に己の全てを賭ける。

グランテラは全ての気門と尻尾の先端にエネルギーを集め、それだけではなく両手を合わせて巨大な青白い光球を作っていた。

 

「あれ……ちょっとやばいかも?」

 

『へアッ』

 

対するネクサスは頬を引き攣らせながら言った風の言葉に同意しつつそれぞれ武器を構える勇者部のみんなを手で制して、首だけ後ろに向けると首を横に振りながら見つめる。

 

「えっと……何か言いたいのかな?」

 

「どうなんでしょう……?」

 

声を発してないため、何が言いたいか分からないので首を傾げてしまうが、いつの間にか移動していたのか東郷が降り立つと友奈たちと合流する。

 

「危ないから任せろと、信じてって言いたいの?」

 

『シュッ』

 

東郷の言葉にその通りだと言うようにこくり、と頷くネクサスは一人だけ前に出て、全ての工程を完了させようとするグランテラに両拳を構えた。

 

「それなら絶対勝ちなさい!」

 

「頑張って!」

 

「応援してます!」

 

「紡絆くん、絶対帰ってきて」

 

『フッ! フゥン……!』

 

信じてと言われたからには、信じるのが彼女たちだ。

それぞれの言葉を背にネクサスはうっすらと白く光った左腕を前に突き出し、右腕を左腕に重ね、下方で両腕---アームドネクサスを交差する。

 

『キィェェェェ! ガアァァァァァ!』

 

瞬間、放たれるのはグランテラの一斉射撃(フルバースト)

その攻撃は真っ直ぐに仕留めるためにネクサスだけに向かって飛んでいく。

後ろにいる勇者部のメンバーを狙ったところで、今のグランテラにとって勇者の攻撃は効かない。それでもジュネッスすら通さない装甲を持ったとしてもネクサスが脅威なのに変わりはないのだろう。

だからこそ、ネクサスだけを狙った攻撃。

ネクサスはその攻撃に対して、一切回避行動を()()()()()()

それはつまり---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃっ!?」

 

「つよっ!?」

 

「ひゃあ!?」

 

「ッ……!」

 

ネクサスに、直撃してしまう。

あまりにもの威力に精霊バリアが発動しながら、友奈、風、樹、東郷は強力な爆風によって吹き飛ばされ、すぐに地面に取り付く。

そのお陰でそれ以上吹き飛ぶことはなかったが、少々ネクサスから離されることになった。

といっても、ネクサスは思い切り直撃していたように見えたのと爆煙によって姿が見えない。

 

「紡絆くん!」

 

爆煙に包まれているとはいえ、心配なのには変わりない。

それぞれ不安そうな表情を浮かべるが、友奈は勝利を信じてネクサスではなく、一人の男の子の名を叫び---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハァァァ……』

 

その想いに応えるように、低く、それでいて静かな声が響き渡り、爆煙が晴れる。

爆煙が晴れると、グランテラの攻撃をものとせず、ネクサスが両腕を下方で交差した状態から胸の前にまで高く上げ、エナジーコアの部分の傍に両腕が来たときにはゆっくりと両腕を左右に広げていく姿があった。

さらに両腕をゆっくりと広げているネクサスの両腕に稲妻の如き青白いエネルギーを纏っていた。

そのエネルギーはネクサスの両腕を行き来しており、ネクサスはそれを纏ったまま両腕をV字型に高く伸ばし、稲妻ではなく、光のエネルギーを両腕に纏い---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『デェアッ!』

 

その両腕をL字型に組んだ状態にすると、縦にした右腕のアームドネクサスから凄まじい光エネルギーの奔流を発射してみせた。

ネクサスから放たれるのは、ジュネッス最強の必殺技---『オーバーレイ・シュトローム』

 

『キィィ---キィィィィィィ!?』

 

ネクサスから放たれた光線はグランテラに直撃し、グランテラの装甲は固く通用しないと思われたが、グランテラの足があまりにもの威力に自然と後退しており、さらに徐々に肉体が青い光になっていた。

 

『ハアアァァァ---ヘェアッ!!』

 

そこに追い討ちと言わんばかりにネクサスが光線の威力を強めると、グランテラの全身に光が行き渡り、発光する。

同時にネクサスの光線が消えるとグランテラが弾けるように分子分解され、粒子が(かぜ)に流されるように消えていった。

それを見た勇者部は今度こそ勝ったのだと喜ぶ。

グランテラの敗北理由は、己の防御力を過信したこと。ネクサスの技が()()()()()()()()()()()()()だったということ、だろう。

なぜならネクサスの『オーバーレイ・シュトローム』と呼ばれる必殺技がジュネッスで最強と言われている理由が分子レベルで分解、消滅させるという特徴を持つことだ。

当たれば即死。バリアもない者に防ぐことなど不可能であり、直撃しても防げる者が居るならば、ネクサスのジュネッスを大いに凌ぐ強さを持つ存在だけだ。

そしてバーテックスとスペースビーストの撃破。ファウストの撃退に成功したからか、ネクサスは勇者部のみんなを見つめ、肉体が人際光り輝くのと同時に世界(ダークフィールド)が血の海のように染まった。

 

「あ、赤い!」

 

「友奈ちゃん、樹海が見えるわ」

 

「ということは……この後は戻れるわけね」

 

「紡絆先輩は何処へ……?」

 

ネクサスが姿を光となって消し、世界(ダークフィールド)が樹海へと切り替わる。

さらに元の世界(現実世界)へ戻る感覚を感じながら、色々と心配もあるが、勝てて良かったとそれぞれ思っていた。

乱入者や、厄介な連携。本当に苦戦した戦いであり、長く感じた戦いでもあった。それでも、勇者は、ウルトラマンは、勇者部は無事に()()()()()を救うことが出来たのだ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樹海化が解けた後、勇者部一同は樹海化に巻き込まれる前の場所ではなく、社がある屋上に居た。

神樹様の計らいでもあり、誰にも見られることの無い安全な場所へ戻してくれたのだろう。

そこには当然、友奈、東郷、風、樹、今回は紡絆も一番後ろだが、無事に居た。

 

「東郷さーん! 凄かったよ! かっこよかった!」

 

「わっ、友奈ちゃん。そんな、私……」

 

すぐに駆け寄った友奈が東郷を抱きしめ、東郷は少し照れくさそうにしていた。

そんな二人に風が近寄る。

 

「本当に助かったわ東郷。あのままだったら最悪時間切れになるかもしれなかったから。

えっと、それで……」

 

何処か不安げに、言いにくそうに風は言い淀む。

今から言うことは、身勝手な言葉であると風でも理解しているのだろう。しかし東郷は察したように風に微笑みかけた。

 

「風先輩。大丈夫です、私も覚悟を決めました。

勇者として、みんなと共に戦います」

 

「……東郷。ありがとう、一緒に国防に励もう」

 

「国防……はいっ!」

 

安心したように風も笑みを浮かべながら言うが、東郷の護国精神に火を炊きつけるような単語が混じってたからか、うっとりとした後に気合いの籠った返事を返した。

 

「一件落着かな?」

 

「そうですね」

 

その姿を見た友奈や樹も微笑む。

戦う前までは喧嘩をしてしまったが、今度こそ完全に仲直りした、と言えるだろう。

バーテックスと戦ってた時も仲直りはしていたのだが、冷静になった今の方がより良いだろう。

それをみんなの後ろで見ていた紡絆は小さく口角を上げた。

 

「……よかっ……ぁ……っ」

 

そう小さく呟いた後、紡絆の肉体が斜めになり、突如として屋上にバタン、と何かが倒れる音が聞こえる。

その音に反応した友奈たちが振り向くと---

 

 

 

 

 

 

 

 

「紡絆くん……!?」

 

「っ!? 紡絆くんっ!」

 

「紡絆先輩!?」

 

「な……紡絆!?」

 

ボロボロとなった制服は真っ赤に染まり、血流が悪くなっているのか顔色が青くなった紡絆がうつ伏せに倒れていた。

突然倒れた紡絆に慌てて駆け寄る一同だが、傍に近づけば紡絆の容態は息が荒く、汗の量も凄まじい。

体のそこら中から血が出ており、頭からは血を流し、腹部(背部)が真っ赤に染まっていることから原因は明白だった。

当然だろう。紡絆は一度目の変身で既にボロボロだった肉体から()()()()()()()()()()()()()()から回復することも無く、()()()()()()()()()()()()()のだから。

いくらコアファイナルで毒を吹き飛ばしたとはいえ、コアファイナルに闇や拘束などの異常を吹き飛ばす力はあれど、変身者の肉体を回復させるような能力までは備わっていない。

その状態からグランテラとファウストを抑え、攻撃を受け続けてきた。

さらに、メタフィールドの展開と維持。

失ってもおかしくない状態からより命を削ってしまう力を発動させ、体力を消耗した状態からはたまたエネルギーの消耗が激しいため、()()()()()()()()()()使()()()()オーバーレイ・シュトロームでグランテラを撃破した。

分かりやすく言うと、ボロボロの状態から状態異常と死にかけの状態になり、瀕死から状態異常を消しつつ体力の削る力を使いながらダメージを与えられ、最後に体力を大きく消耗する技を使った。

より分かりやすく、ゲームで例えるならば、HPが半分(黄色)の状態から『どく』になりながら赤ゲージまで追い込まれ、ミリ単位で耐えて『どく』を治したが、回復することなくHPを継続的に削る技と相手の攻撃を受け続け、最後にHPを一気に削る技を使った、ということだ。

明らかに自身が持つHPの範疇を超え、限界突破していた。

なので、逆に意識があった方が可笑しかったのである。

 

「と、とにかく救急車よ!」

 

「紡絆くん、頑張って! 死なないで……!」

 

紡絆の酷い有様を見て、サーっと血の気が引くように青ざめていたが、息があるということは紡絆自身が生きることを諦めてないという証。

それに気づいた勇者部は、風の指示に慌てて動き出し、東郷は車椅子を紡絆の傍まで近づけると、降りて紡絆の真っ赤に染まった手を握りながら祈る。

無事であることを。

 

そうして、数分も経つことなく来た救急車と救急隊員を手伝いながら勇者部の面々は運ばれる紡絆について行くために救急車に乗り、病院へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

25:名無しの転生者 ID:X04xL/yvB

イッチがいない状態でスレが三つ目ぐらいまで行ったな……

 

 

26:名無しの転生者 ID:1GK+Tu9of

イッチ目覚めてないからなー

 

 

27:名無しの転生者 ID:H45nJKMHx

つーかなんで生きとんねん(畏怖)

絶対二リットル以上の血流してるやろ

 

 

28:名無しの転生者 ID:aj9ZKL13p

生きてんのか、アレ……?

 

 

29:名無しの転生者 ID:d+P0QE1vF

死んだんじゃないの?

 

 

30:名無しの転生者 ID:ailo03yIq

頑張ったのに死亡説出されるイッチ哀れなり

 

 

31:名無しの転生者 ID:I6JcIPwTF

そりゃ……なぁ?

待ち時間中曇ってたしイッチの罪は大きい

 

 

32:名無しの転生者 ID:dGZk1OhMQ

友奈ちゃんや東郷さん、風先輩や樹ちゃんが毎日見舞いに来とんねんぞ 

羨ましいに決まってんだろ(普通に考えて心配だろ)

 

 

33:名無しの転生者 ID:9TD6vbMs6

>>32

逆ゥー!

 

 

34:名無しの転生者 ID:KEPREiF86

>>32

本音出てますよ

 

 

35:名無しの転生者 ID:rVPACaGM0

でも良いよなぁ、どうせ俺なんて……俺なんて女の子に来てくれないんだぞ……くそっ! なんで男しかいないんだ……俺の世界……。

 

 

36:名無しの転生者 ID:k71CrHAOJ

イッチが意識なくても俺ら見れるんすね〜。アプデでも入ったか?

 

 

37:名無しの転生者 ID:FjxUOhm28

>>35

男しかいない世界に転生したニキは頑張れ……

 

 

38:名無しの転生者 ID:AtJuO2230

(いくらなんでもあの場面でウルティノイド追加は)鬼畜すぎたんだよなぁ。というか本編ではジュネッスより強いブルーだったが、ジュネッスの攻撃が通じないレベルで強化するって……ガチすぎませんかね

 

 

39:名無しの転生者 ID:rVPACaGM0

>>37

ワイ、女に転生したからニキじゃ(男では)ないです

 

 

40:名無しの転生者 ID:HTYigaBVr

イッチが倒れた時のみんなの曇り顔^〜。あぁ^〜たまんねぇぜ……

 

 

41:名無しの転生者 ID:xrlQ2yeuV

>>40

こいつ……やべぇ(確信)

 

 

42:名無しの転生者 ID:ghrzFDMfT

流石に毎日見舞いに来る友奈ちゃんたちを見るのは、いやーきついっす。はよ目覚めてもろうて

 

 

43:名無しの転生者 ID:l0sUTaEog

でも手を握られたのは羨ましい

 

 

44:名無しの転生者 ID:w03NTDyTM

それは分かる

 

 

45:名無しの転生者 ID:pQGntShQu

分かりみしかない

 

 

46:名無しの転生者 ID:1IFJO0U5i

百合の間に挟まると、あんなことになるのか……

 

 

47:名無しの転生者 ID:rCM8cYRhn

いや、絶対イッチが特殊なだけだから。ネクサスが厳しすぎるだけだから

 

 

48:名無しの転生者 ID:UFVwyYw/V

ここに恐怖の円盤生物シリーズ入ったら世界一瞬で終わりそう

 

 

49:名無しの転生者 ID:mEuQ6ccAe

ただでさえやばい世界にやばいシリーズを入れるのはNG

 

 

50:名無しの転生者 ID:pBR2tH7VK

イッチが倒れてから何日目だ、これ?

 

 

51:名無しの転生者 ID:YfNLXWfxh

わからん。多分五日目

 

 

52:名無しの転生者 ID:ZaGSEOO3k

ある意味このまま寝てた方がイッチにとっては助かるかもしれないんだが

 

 

53:名無しの転生者 ID:3njYlEKwm

そうするとビースト相手するウルトラマンが居なくなって、詰みますね……というか、ビーストは厄介な能力持ち多いからなぁ

 

 

54:名無しの転生者 ID:0k6y4l3u9

あとはアレだな、ファウストの正体も気になる。

原作リコみたいな感じか、それともFみたいな感じか

 

 

55:名無しの転生者 ID:C12KkY4Hu

Fってなんぞや(無知)

 

 

56:名無しの転生者 ID:M45IuEtrw

ウルトラマンF。

初代マンが地球を去ってから一年後、セブンとの間を描いた小説で科学特捜隊の活躍を描いたものゾ。主人公はフジ隊員とイデ隊員。

そこにダークザギ、メフィスト、ファウストが出てきて、並行世界からやってきたダークザギと盟約を交わしたデュナミスト適性を持つ天才少女・鬱鬱が変身する。

向こうは人類滅亡のために、だが。

 

 

57:名無しの転生者 ID:g9dmW3D10

ほへー……ザギさんってネクサス世界以外にも干渉してたんすね〜今回と言い、余計なことしかしねぇな!

 

 

58:名無しの転生者 ID:UnQk2VlmG

ノアの模造品の割に強いのが厄介なんだよ。ギンガでもステージでも出てるけどさ

 

 

59:名無しの転生者 ID:kZa8aqmU0

Fならともかく、ネクサス本編のファウストだとすると……やばくない?

 

 

60:名無しの転生者 ID:cYEZ+PKPK

少なくともネクサス本編のファウストならイッチのメンタルを削る人物になるだろうな……

 

 

61:名無しの転生者 ID:qgVQ0E7lI

少なくともワイらに出来ることはないからイッチが目覚めんと何も出来んのよ。

情報も正直足んないし

 

 

62:名無しの転生者 ID:W+vtRCecU

ワイらってバーテックスに関しては知識0だからな

 

 

63:名無しの転生者 ID:O3QBceHU0

あとはあれか、アンノウンハンドが干渉したってことはどっかにザギさんがいるはず。

イッチの近くにいるのか、それとも接近はしていないのか……

 

 

64:名無しの転生者 ID:4/HNR4Wvz

『ここまで』って言葉も気になるよな。なんであの時、ファウストは撤退した? 本編でもダメージ還元されてる描写はあったが、いくら光線を受けたとはいえチャンスだったろ?

 

 

65:名無しの転生者 ID:BenGDMp72

ファウストが耐久性は低いし打たれ弱いからなー。それもあるんちゃうん?

 

 

66:名無しの転生者 ID:YfVguuKYy

でも『ここまで』って言葉は気になるな……暇だしもう一度洗い直してみるか?

 

 

67:名無しの転生者 ID:KRWqsu0CH

さらっとストーカーのような発言もしてたのをワイは見逃さなかったで

 

 

68:名無しの転生者 ID:c3s3sorL1

イッチのあの状態から考えるに、撤退しない方が絶対良かったんだよな…。メタフィールド……というかダークフィールドに塗り替えられてはいたが、姫矢さんみたいに崩壊しかけてたし

 

 

69:名無しの転生者 ID:Gwl/mUQZX

そもそもイッチはなんで姫矢ジュネッスになれたんや? あれは絆を紡いできたからこそ起きた奇跡やろ? テレビならともかく、現実だから予算なんて関係ない世界だし…それなら見た目も違わないとおかしいし…。

別のジュネッスかと思ってみても、十中八九姫矢ジュネッスやぞ。

 

 

70:名無しの転生者 ID:+P4JDcyFH

イッチでも分からないことは多いとは思うが、考察が進まん。せめてバーテックスの情報だけでも欲しいな……。

 

 

71:名無しの転生者 ID:hLMnlOfZ8

敵は合計12体いるってことしか分かってないしねぇ。能力とか分かれば多少は有利に戦えると思うんだが

 

 

72:名無しの転生者 ID:+kdhUEKlK

というか、今もまだザ・ワンについてもなんの情報もないしな

 

 

73:名無しの転生者 ID:Y9ksne5IJ

うーん圧倒的情報不足。

一体どういうふうにザギさんやザ・ワンが来たのだろうか。経緯が気になるな。

本編では来訪者の星で誕生後、ノアとの戦いを経て自身の肉体を失ったから情報化させたビーストと共に来訪者達の後を追って地球へと飛来して自身の力を取り戻す計画だったが……来訪者いないじゃん。

それとも地球のことを知ってたか? それかノアさまが既に地球に住み着いていた?

 

 

74:名無しの転生者 ID:VAFfl37VI

結局は自身の肉体を取り戻すためにノアを狙ってたもんな。

まあ、復讐心を抱いてる可能性も無きにしも非ずだが

 

 

75:名無しの転生者 ID:jrHCyuxYg

とにかく推測しても何も意味がない。今は目の前の、バーテックスとビーストだな。

見た感じ、イッチは気づいてなかったが粒子化したグランテラが回収されてたし……間違いなく『ヤツ』を生み出す気や

 

 

76:名無しの転生者 ID:5mpd1eHJF

普通一難去るはずなのに一難去るどころか一難ずつ増えるとかこの世界どうなってんの……

 

 

77:名無しの転生者 ID:kWC9w+1Qc

ビーストはグランテラが来た時点で何が来るかは分からないから対策の仕様がないけどバーテックスはあのサソリのようなやつが他にもいるなら気をつけないとな……

 

 

78:名無しの転生者 ID:gNGX6TR37

あんな血吐いてあんな出血してるとか子供に見せたら泣くわ。痛そう

 

 

79:名無しの転生者 ID:Ok1DEg9il

あれで痛くなかったら痛覚消えとるやんけ。死にかけてたし、ほんとネクサスは深夜番組ですね…

 

 

80:名無しの転生者 ID:CvAiLDd8/

やっと終わったー!って思ったらイッチが間違いなく出血多量で倒れたからな……そりゃあみんな真っ青になるわ

 

 

81:名無しの転生者 ID:MaXgvaOT3

イッチが死亡フラグ立てたのも悪い

 

 

82:名無しの転生者 ID:EoeclZ9WW

死亡フラグは一個ならともかく、死亡フラグを立てすぎると逆に回収しないし生存フラグに変わるからせーふ(擁護)

 

 

83:名無しの転生者 ID:pz3OI6Wwy

なお、立てたのは一個な模様

 

 

84:名無しの転生者 ID:1hNyb103F

ただの死亡フラグで草

 

 

85:名無しの転生者 ID:WLdMFeZWj

ま、まだ死亡宣告はされてないし(震)

 

 

86:名無しの転生者 ID:4sHlxEvVU

イッチはさぁ、もっと自身の肉体を大事にして、どうぞ。

あの状態からオーバーレイは無茶しすぎ問題

 

 

87:名無しの転生者 ID:XMsXVGsp+

まあ、ウルトラマンの力を受け継いだってことは使命も受け継がなきゃならないわけだ。重圧は凄いんだろうなー

 

 

88:名無しの転生者 ID:MdCEZRh6A

力の扱い方は上手い分、そこんとこマイナスやな

 

 

89:名無しの転生者 ID:tCaOsx6pM

瀕死状態でファウストとグランテラを相手にして撤退+撃破したってマジ?

 

 

90:名無しの転生者 ID:jICbimKdA

死んでないから条件クリアとはいえ、文章にするとクソやばくて草

そりゃあバーテックスもイッチを集中的に狙いますわ

 

 

91:名無しの転生者 ID:KLYLDKwyg

でも毒はコアファイナルで吹き飛ばしてたっぽいからな。それがなけりゃ負けてただろう

 

 

92:名無しの転生者 ID:PYm6PConE

ピンチの連続でしたからねぇ。

まさしくウルトラマンがほしい

 

 

93:名無しの転生者 ID:qzJBg0aDn

割とマジでガイアV1でもいいから来てくれとしか思えないんだよなぁ……

 

 

94:名無しの転生者 ID:lFkiIhuLD

地球の意思だし何処でも誕生する可能性はあるが、なさそうですね……

 

 

95:名無しの転生者 ID:nCusPCfZF

命の樹を守るように別地球に召喚されたんだから神樹様を守るように召喚されてもいい……よくない?

 

 

96:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

SVならなおよし

 

 

97:名無しの転生者 ID:QxTmXDeGa

>>96

そんなん勝ち確やんけ

イッチいらんぞ

 

 

98:名無しの転生者 ID:kTGd5xMZ1

百合の間に挟まってる時点でいらない定期

 

 

99:名無しの転生者 ID:S62ZsgXgH

やっぱり散々言われるイッチに草

今もイッチは意識不明の重体なんですがそれは……

 

 

100:名無しの転生者 ID:9qnpeF1wQ

いうてイッチが相談することもなく一人でやらないといけないって抱えてたのも原因だからな……三割ぐらいイッチが悪い。

他は六割ぐらいザギさんだな!

 

 

101:名無しの転生者 ID:tzxSL4O9z

ジュネッスすら攻撃通らなくなるほどの強化だからね仕方がないね。

あのまま強化されてたら普通のアローレイだったら下手すると弾かれてたんじゃないか

 

 

102:名無しの転生者 ID:WSiSjgu0P

もとより防御力重視のビーストに治癒+攻撃強化+防御力強化+スピード強化とか理不尽の権化じゃない?

 

 

103:名無しの転生者 ID:/2JmSvBzv

少なくともイッチは泣いていい

 

 

104:名無しの転生者 ID:vlZLw6OwV

超闘士やファイトじゃないんだからもうちょっと加減してくれてもいいのでは?

 

 

105:名無しの転生者 ID:RESmNecXE

レッドファイッ!

 

 

106:名無しの転生者 ID:Z++mD5VyS

>>105

洒落にならないやつはやめろw

 

 

107:名無しの転生者 ID:GQ5YPS/ua

ようやくアンファンスからジュネッスになれたのにバーテックス三体とグランテラにファウストだからなぁ

 

 

108:名無しの転生者 ID:8Crvp7OFN

もはやイジメ

 

 

109:名無しの転生者 ID:9fmFlEZjO

そこにダークフィールドGとアンノウンハンドの支援あり

 

 

110:名無しの転生者 ID:NOBiNeHOw

忘れられてるけどその前にはガルベロスも居たんだよね…

 

 

111:名無しの転生者 ID:6/y8Apyey

そういや居ましたね……

 

 

112:名無しの転生者 ID:3fJocw0sS

サソリのせいで忘れてた

 

 

113:名無しの転生者 ID:+AKpW0zPi

腹貫かれてたのが印象深く残ったからな……

 

 

114:名無しの転生者 ID:B9AwAOBlU

何気にイッチってガルベロスとグランテラを倒してファウストを撃退したってことになるのか。しかもバーテックスに対しての妨害も入るか?

 

 

115:名無しの転生者 ID:Ay5mD9fi/

うーん、この

 

 

116:名無しの転生者 ID:M17sTlGEY

やっぱりウルトラマン足りなく無い? あと二人くらいはいてもいいと思うんですけど()

 

 

117:名無しの転生者 ID:CMxh/4uV5

敵に比べて(味方の力が)足りないにも程があるだろ。勇者いるし彼女たちも強いけどさぁ

 

 

118:名無しの転生者 ID:t9C+t9m6b

てか、バーテックスって以前もいたんだよな?

 

 

119:情報ニキ ID:OX82Ln2AK

以前までは追い返すことは出来たらしいから……あっ

 

 

120:名無しの転生者 ID:c9D8UVYJi

ははーん?

 

 

121:名無しの転生者 ID:egZcUeuDC

つまり?

 

 

122:名無しの転生者 ID:gpFFD+NuW

以前もバーテックスは存在していた。

そして『ザ・ネクスト』の適能者もイッチと同じく勇者と共に戦ってたはず……だからザ・ワンとバーテックスを相手に戦ってたのかもしれない!

 

 

123:名無しの転生者 ID:XgbXWIgKp

じゃあ、ザ・ネクストの適能者見つければ相手の能力分かるじゃん! バーテックスさえ分かれば(ビーストはわかるから)ヨシ!

 

 

124:名無しの転生者 ID:lejINBa+6

どうやって見つけるんですかね……

 

 

125:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

あっ

 

 

126:名無しの転生者 ID:XChZdsRLM

やべっ

 

 

127:名無しの転生者 ID:GYIWcLZK8

知 っ て た

 

 

128:名無しの転生者 ID:YSZKltTid

そう甘くないよねって話

 

 

129:名無しの転生者 ID:Z7r5KZGuf

そもそもイッチがまだ意識取り戻していない定期

 

 

130:名無しの転生者 ID:4dlrVXjpW

結局どうすることも出来ないじゃん

 

 

131:名無しの転生者 ID:24QPHPacN

あのさぁ……

 

 

132:名無しの転生者 ID:hFotekrnu

それにイッチ自体が記憶ないから探せんのか……?

いや、勇者部の活動で場所はもう覚えてるのかな?

 

 

133:名無しの転生者 ID:H9QJmEKv8

そういやイッチってネクサス本編の全デュナミストの過去ぶっ込んだようなのしてましたね……

 

 

134:名無しの転生者 ID:WLR9rW6Fh

溝呂木も結局は死ぬことへの恐怖だしね。イッチは失うことだけど

 

 

135:名無しの転生者 ID:JqOei2nrm

イッチ、そっちの意味の恐怖なのは割と凄いよな。普通は自分が死ぬことへの恐怖だろうに

 

 

136:名無しの転生者 ID:l0WzAQQ4u

本当に目覚めねぇな。マジで生きてんの?

 

 

137:名無しの転生者 ID:omL1Casaw

心電図は動いてるし

 

 

138:名無しの転生者 ID: uR+gIvzAB

惜しい人を亡くしてしまった……

 

 

139:名無しの転生者 ID:114npbNBy

相変わらず勝手に死んだ扱いされるイッチぇ…

 

 

140:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

なんでこんな死んだと思われてんの? 俺なんかしたっけ?

 

 

141:名無しの転生者 ID:M7zpB/g5c

ファッ!?

 

 

142:名無しの転生者 ID:yOINAMWM

生きとったんかワレェ!?

 

 

143:名無しの転生者 ID:fNtctKhny

いつ目覚めた!?

 

 

144:名無しの転生者 ID:YT3K/IISB

まったく、心配させんじゃねぇよ!

 

 

145:名無しの転生者 ID:sqZwnhkxb

心配……?(困惑)

 

146:名無しの転生者 ID:Gw6SawenV

助かったのか! 良かったな!

殴らせろ!

 

 

147:名無しの転生者 ID:WLdMFeZWj

生きてるなら良い!

これからも戦いは絶対あるからな! 土下座はしろよ!

 

 

148:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

目覚めたのはついさっき。

知らない天井かと思ったが、そういえば前回見たなぁって

 

 

149:名無しの転生者 ID:xRSbY7bD8

あー初戦闘後も溺れて死にかけてましたね

 

 

150:名無しの転生者 ID:nm4XMkuU9

もう平気なのか?

 

 

151:名無しの転生者 ID:wurzDXsW3

思い切り腹貫かれてたし血を吐いてたし全身傷だらけだったが、動けんの?

 

 

152:名無しの転生者 ID:pPMsrmbaD

本当によく生きてたな

 

 

153:名無しの転生者 ID:LO+OQ0t9B

いつ死んでてもおかしくなかったゾ

 

 

154:名無しの転生者 ID:a1OXh1aLw

てか、眠ってる時のイッチは本当に死体みたいな感じだったからな

 

 

155:名無しの転生者 ID:e4KwBxPkV

勇者部のみんな、毎日来てくれたんやぞ。感謝しとけよー

 

 

156:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>155

それは病院の人にも言われたわ

 

>>151

 

体は大丈夫。毒は既に消えてたし、眠ってたお陰かある程度回復したから動く分には問題なし。ただ全力で運動したらやばそう。

腹貫かれた程度でよかったぜ

 

 

157:名無しの転生者 ID:kDNm1hFal

えぇ……

 

 

158:名無しの転生者 ID:Kr0mrp4tI

腹貫かれた程度(重傷)

 

 

159:名無しの転生者 ID:v83dsBDBZ

むしろ腹から背中まで風穴空いてたし大量出血してたから致命傷

 

 

160:名無しの転生者 ID:De6N16hg7

イッチちょっと思考おかしくない?

なに、頭でも打ったん?

 

 

161:名無しの転生者 ID:D5pncALeI

いくら死んでないとはいえ、程度で済む問題じゃないと思うんですが。内臓余裕で傷つけてるやろ。

 

 

162:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

いや、磔にされてないし怪力でバラバラにされてないし萎んでないし炎の剣とかで胸を貫かれた訳でもないしブロンズ像になってないし首を切られてもないし冷凍された後にノコギリでバラバラにされたわけでもないし……

 

 

163:名無しの転生者 ID:DU+Jxkyk3

歴代昭和トラマンの敗北と比べてるの草

 

 

164:名無しの転生者 ID:T6CVgkqMm

比較対象が可笑しすぎる

 

 

165:名無しの転生者 ID:K4hNH5JNB

なんで昭和トラマンと比べたんだ、このイッチ

 

 

166:名無しの転生者 ID:F+Zfisi+t

これで分かったことは一つ。

イッチは間違いなくバカ

 

 

167:名無しの転生者 ID:p/NDyUOK/

異議なし

 

 

168:名無しの転生者 ID:05577AVup

同じく

 

 

169:名無しの転生者 ID:h7CzGxRDO

同意

 

170:名無しの転生者 ID:S45jbpi2R

異論なし。

承認! 閉廷!

 

 

171:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

みんなして酷くね? 泣くぞ!

というか異議申し立てることもさせてくれないんだ……

 

 

172:名無しの転生者 ID:0fqirGV8C

酷いのはイッチの頭やろ

 

 

173:名無しの転生者 ID:MCWZ2z9Tn

意識取り戻した人にかける言葉じゃないの草

 

 

174:名無しの転生者 ID:ZX4QU9okC

実家のような安心感

 

 

175:名無しの転生者 ID:lG+ktRuOf

イッチの扱いはこんなもんやろ。罰とでも思え

 

 

176:名無しの転生者 ID:4dlrVXjpW

共通の認識になったな!

(誰にも影響ないし)ヨシ!(現場猫)

 

 

177:名無しの転生者 ID:nDyz1W4PL

イッチに厳しい世界

 

 

178:名無しの転生者 ID:U1yhMsWGQ

みんなして辛辣なの草生えますよ

 

 

179:名無しの転生者 ID:4YC3Zv8qm

まぁ、普通はジュネッスなれて当然だし……むしろ今までなれなかったことがチョットイミワカンナイ

 

 

180:名無しの転生者 ID:rIqRSPY4R

コアファイナル介する必要あるとか普通はそんなこと(誰も予想出来るはず)ないです

 

 

181:名無しの転生者 ID:N0ihsfqo3

ちなみに姫矢ジュネッスになれた理由はお分かりで?

 

 

182:名無しの転生者 ID:VSIKwoubp

イッチが分かるはずないだろ! いい加減にしろ!

 

 

183:名無しの転生者 ID:thYuLnLVg

みんなの評価が分かる瞬間である。肝心なこと話さなかった罪は大きいッ!

 

 

184:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

もう終わったことでしょーが!

 

>>181

 

それとジュネッスになれた理由……というかコアファイナル発動出来た理由は恐らく意識失った後の出来事かな。

掲示板が使えなくなったから特殊な空間かなにかだと思うが、コアファイナル発動する前、グランテラの最後の攻撃が当たる瞬間に意識が途切れて、そこで姫矢准と会ったんだよ。

光の意味、戦う理由、それから姫矢さんの過去。

それを知って、答えを導いてくれたんだ。色々と考えさせられたし、教えられた。

それからなんか知らんけど姫矢さんが光になったかと思えば俺の体内に入ってきて『光は絆』で『誰かに受け継がれて輝く』ことを知らせてくれた。

多分それの影響かな。ネクサス本編でもあったことでしょ?

 

 

185:名無しの転生者 ID:i7kGRVANY

は?

 

 

186:名無しの転生者 ID:07+JQ8JC5

えっ、なにそれ。こっわ

 

 

187:情報ニキ ID:OX82Ln2AK

そんなこと……なかったくない? 最終回で似たようなことはあったが、あっちは激励したくらいで光になって入ることなんてなかったぞ

 

 

188:名無しの転生者 ID:0JD3HxPcP

さてはイッチ、SSSS.GRIDMANのグリッドマンかトリガー見たく光の化身かなんかじゃないのか? トリガーは闇と光だが。

記憶が無いのも姫矢ジュネッスになれたことにもそれだと納得がいくぞ

 

 

189:名無しの転生者 ID:5EjSbAHNC

それならイッチが『人間』の『ウルトラマンノア』か『記憶を失った』ウルトラマンだからな。ノア様なら力を取り戻してるだけって考えたら姫矢ジュネッスになれたって不思議じゃない

 

 

190:名無しの転生者 ID:HxHuwBszc

少なくともネクサスではなかったな。

謎増やすのやめてくんない?

 

 

191:名無しの転生者 ID:VX+IodbvY

エボルトラスター引き抜くことなく変身出来たし、ないこともなさそう……

 

 

192:名無しの転生者 ID:+HVJIIutC

でも逆にイッチがノア様の生まれ変わりなら最初の時点でジュネッスになれないのおかしいでしょ。あと、ザ・ネクストとして戦った記憶が無いのもおかしい。

流石に三年でここまで成長するのはなろうの魔王とかやぞ

 

 

193:名無しの転生者 ID:g+j9OTcQo

そう言われると……確かになー

 

 

194:名無しの転生者 ID:djRAoZkH6

イッチのことは……まあ、ノア様がなんかしてくれたって見た方がいいかもね

 

 

195:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

トリガーってなんだ……?

 

 

196:名無しの転生者 ID:H84d/uCj5

イッチ、ティガもティガニキしか知らんもんな……

 

 

197:名無しの転生者 ID:6GAUG/Lub

簡単に言えば令和のティガ。

まぁ、今はイッチに関係ないし気にしなくていいよ。それよりバーテックスとかのことを考えた方がいいんじゃないかな

 

 

198:名無しの転生者 ID:Krcrbf7yO

多分サソリ座、以前のやつらも含めると……星座関係かな?

 

 

199:名無しの転生者 ID:Z4w3CMJRu

間違いなく星関連だろうが、どうなんだろうな

 

 

200:名無しの転生者 ID:MuCsD1hwP

流石にわからないと思うが、バーテックスについて分かることは?

 

 

201:名無しの転生者 ID:NHv5IJlBU

あのイッチやぞ?

 

 

202:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

おい!?

流石に酷すぎない!?

 

>>200

 

あー多分だけどさ、元ネタって黄道十二星座じゃないかな。

 

おひつじ座(牡羊座、Aries)

 

おうし座(牡牛座、Taurus)

 

ふたご座(双子座、Gemini)

 

かに座(蟹座、Cancer)

 

しし座(獅子座、Leo)

 

おとめ座(乙女座、Virgo)

 

てんびん座(天秤座、Libra)

 

さそり座(蠍座、Scorpius)

 

いて座(射手座、Sagittarius)

 

やぎ座(山羊座、Capricornus)

 

みずがめ座(水瓶座、Aquarius)

 

うお座(魚座、Pisces)

 

多分この中から出てきてる奴らだと思う。だから乙女座のヴァルゴ、蠍座のスコーピオン、射手座のサジタリウス、蟹座のキャンサーは倒したことになるかな。

あとは分からんけど拷問器具も元になってると思う。ラブコメの漫画で見たことあるし。

 

 

203:名無しの転生者 ID:YXmgAC9rU

……………

 

 

204:名無しの転生者 ID:SVX5cJi43

……………

 

 

205:名無しの転生者 ID:lR1Jj0cXN

………え?

 

 

206:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

なんすか、その反応

 

 

207:名無しの転生者 ID:vnvvVoQZw

は? い、いやいや……お前、まさか

 

 

208:名無しの転生者 ID:tK4b3zfJ6

さては偽者だろっ! イッチが分かるはずがない! ザラブ星人か!? それともババルウ星人か!?

 

 

209:名無しの転生者 ID:yOINAMWM

ば、バカな……あのイッチがやけに詳しいだと!?

 

 

210:名無しの転生者 ID:T5XGRuhvu

イッチだと思えない思考をしてやがる!

 

 

211:名無しの転生者 ID:lQkXtjGZf

でも今までの言葉から察するに本物だぞ!

 

 

212:名無しの転生者 ID:ogZTJWX8j

どうなってるんだ……!? 死にかけて覚醒したのか!?

 

 

213:名無しの転生者 ID:6OscC1vI9

>>202

いやでも、言われてみれば黄道十二星座説が一番妥当なやつかもしれん。少なくとも拷問器具については当たってる。

 

 

214:名無しの転生者 ID:8QQo9aVNH

なんでイッチは知ってるんだ……?

 

 

215:名無しの転生者 ID:s9BrGf/MV

前世で科学者とか?

 

 

216:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

普通に家にあったんだよ。星関連ばかりの本があったし、記憶失う前の俺って天文学者とか目指してたのかもしれない。

だからバーテックス見た時に薄々と感じてたんだが、今回でほぼ確信したってわけ。詳しいことは家に帰って本読んで見なきゃ分からないけど、九割ぐらいの確率で当たってると思う

 

 

217:名無しの転生者 ID:M+NGluy0H

なるほど、納得

 

 

218:名無しの転生者 ID:q5X92zY9l

これで当たってるかどうかはともかく、バーテックスについては分かったな!

 

 

219:名無しの転生者 ID:sWj5oJiV/

あとはどのタイミングで来るのか、能力について考えたいが…多分能力は星座関連の能力だろうな。射手座が矢を扱う能力だったみたいに

 

 

220:名無しの転生者 ID:WJtFhIygE

来るタイミングに関してはどうしようも出来ないな

 

 

221:名無しの転生者 ID:tkVbtZ9Ex

不明らしいしね

 

 

222:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

とにかく、いつも通り過ごすよ。ファウストやビーストが終わるとは思えないし、備えだけはしとく。

正直、姫矢さんと出会えたお陰で心に余裕出来たからな

 

 

223:名無しの転生者 ID:hQj7+ezwD

まさしく、姫矢さんは本編通り、『英雄、ヒーロー』だな。

孤門を気にかけてた時といい、前作主人公みたいな感じで……感謝しかないな

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めた紡絆は体を起こすと、テーブルに果物と花が置かれているのが見えた。

空はまだ明るく、時間を見れば正午にはなっていない。表示的にも今日は学校がある日だった。

果物と花については掲示板の人たちからの言葉から察するに、見舞いに来てくれた勇者部の人達が置いてくれたのだろう。

割と包帯だらけで鬱陶しく思いながら呼吸器を外して手を伸ばし、りんごを一つ取るとじぃっと見つめる。

 

「……ラーメン食べたい」

 

香川県とはいえ、麺系はうどんだけではない。

ふとラーメンを食べたく感じた紡絆はリンゴを見つめていると、ぐぅーっと腹の虫が鳴いた。

点滴があることから、そこから栄養を取れるようにしていたのだろう。

とりあえず邪魔だった紡絆は点滴を外し、ナースコールを押そうか悩んだが、病院食の味を思い出してリンゴを齧る。

神樹様のお陰か、旬ではないというのにシャキッとした歯ごたえに、甘味と酸味が絶妙の味があった。

近くにあったティッシュを取り、飛んでしまった果汁を拭きながらむしゃむしゃと無心で食べる。

 

「食いにくいなぁ」

 

腕は動くようになったが、流石に切ってないリンゴは食べにくいらしい。

芯だけ残して全て食べると、腕を回して体の調子を確かめる。

 

「よし、痛いけど動ける。さて……どうやってラーメンを食べるか……。脱走? そもそもラーメンはあるのか? まさかここもうどんに侵略されてるのでは……」

 

四国はうどん愛が強い。

前世はともかく、この世界はとてつもなく強いのだ。

だからこそ、ラーメンを求めているだけにも関わらず紡絆は全力で思考していた。

はっきり言うと、掲示板の人達が言っていた通りバカである。

 

「あー……仕方がない。衛生兵! 衛生兵ー! あだっ」

 

脱走しようかと考えたが、迷惑をかけると思い出して紡絆はナースコールを押した。

しかし病院なため加減した大声を出した際に顔を顰め、思わず腹部を撫でる。

空いていた穴は塞がっていても、ダメージは残っているのだろう。

はぁ、とため息を吐いた紡絆はまだ完治することはなさそうだと苦笑した。

そして暫く経つと看護師がやってきて担当したであろう先生を呼びに行ったのを紡絆は空腹を抑えるためにバナナを食べて待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者部は放課後になっても活動をする。

困っている人があれば依頼を見て可能な人員を動員し、依頼をこなしていくのだ。

今月は飼い主の強化月間の名の通り、例えお役目をすることになっても勇者部のやることは変わらない。

しかしまだ全て終わったわけでもなく、さらに別の依頼が来たりなどして忙しい状況だった。

それでも断ることなどするはずもなく、残り時間で終わらせられるものを優先的に消化していた。

 

「東郷さん! 今日はあと何だっけ?」

 

「残りは清掃の手伝いね。間に合うかどうか微妙な時間になりそうだわ」

 

「ああもう! 紡絆のやつ、どんだけ一人でやってたのよ!」

 

「紡絆先輩って、私たちが気づかない内にたくさんこなしてくれてたんですね……」

 

この五日間。

お見舞いに行く時間を除いて、基本的には飼い主を探していたのと紡絆が入院中なため、彼が抱えていた依頼をやっていたのだが、一人で抱える量以上の依頼を紡絆はやっていたのだと思い知らされていた。

そもそもの問題として外で活動しまくれる人材が紡絆と友奈メインなのもあるかもしれない。

 

「今日は行けそうにありませんね……」

 

「紡絆くん、大丈夫かなぁ」

 

「まあ、容態は安定してるらしいから」

 

残る活動は、清掃。

その清掃がかなり広いらしいく、下手をすると一旦解散して明日にまで回るだろう。

だからこそ入院している紡絆の見舞いに行けない可能性が出てきた。

そして心配そうに呟いた友奈の言葉に風は手術室に運ばれて数時間後には紡絆の容態が安定したと病院の人が言ってたのを思い出しながら返す。

 

「あの時は本当に驚きました……」

 

「あれはねぇ」

 

思い出すだけでも全員が顔を顰めるが、病院の先生ですら生きていたのが奇跡と言っているほどだ。

もし死んでたりしてたら、勇者部の面々の心に深く傷を与えていただろう。

本人が死ぬことを諦めていなかったのが助かった理由のひとつ、とも言われていた。

 

「とにかく片付けをして清掃に向かいましょう。早く終われば紡絆くんのお見舞いに行けるかもしれませんし……」

 

「そうだね、早くやっちゃおう!」

 

さっきと打って変わって、今やるべきことをするために空気を変えながら行動に移す。

色々と作業していたので少しごちゃごちゃになっているため、要らない紙の破片などはゴミ箱に。

まだ使える用紙や物は仕舞い、まだ終わっていない写真や資料は分かりやすい場所に。

お礼に貰った子供らしい絵などは傷つかないように綺麗な場所へ置く。

彼女たちも紡絆も感謝されるためにやってる訳では無いが、誰かに感謝されて貰うものは嬉しいものなのだ。

だからこそ、貰い物に関してはお金とか以外なら断ったりしない。特に子供から貰う絵など捨てる訳にも行かないだろう。

それも、彼女たちが活動してきた立派な証なのだから。

そのように片付けしていると、ふと誰かが部室のドアをノックした。

 

「はーい! 依頼人かな?」

 

「この時間帯に……ですか?」

 

「今残ってるとなると……運動部かしら?」

 

「はいはーい。ちょっとお待ちをー!」

 

時刻は放課後のもあるが、もう時期太陽が徐々に沈んでいく時間帯だ。

文学系の部活はそろそろ帰宅しているはずで、遅くまで残っているのは運動部くらいだろう。

それか先生の可能性もあるが、開けてみないと分からない。

そのため居ることを伝えるために大声を挙げて伝えると、急にドアが開かれた。

すると---

 

 

 

 

 

 

 

 

「よかったぁー! 居た! 部室空いてなかったらどうしようかと思ってましたよー。あはは、まさか教室に課題ないなーと思ったら部室に忘れてたこと思い出すなんて。間違いなく樹海化のせいだけど!」

 

一人の制服を来た男の子が立っていた。

腕に包帯が巻かれたままだが、いつものように何ら変わらぬ笑顔と明るさを振り撒きながら()()()()()()()()ように部室内に入っていくのは、当然ながら紡絆だ。

突然の来坊に勇者部の面々は目を点としながら固まっていた。

 

「……あれ? デジャブってね? あ、あのぉ〜。あ、そうだ! 清掃やってきましたよ風先輩。アレって時間かかるじゃないですか? なので飯食ってからやったら今の時間になっちゃいました。

でもちゃんと依頼達成です!」

 

既視感を感じつつ、サムズアップをしながら依頼達成報告する紡絆だが、何故か何も返事がないことに疑問を抱いて首を傾げた。

そこで、ハッと気づいた友奈が駆け寄る。

 

「つ、紡絆くんもう大丈夫なの!?」

 

「あ、よかった……また樹海化でもなったのかと。ごめんごめん。血を吐いたりして目を汚したかもしれないけど、依頼達成を余裕に出来るくらいには回復したよ。ほら」

 

倒れる前のことは覚えているのか、友奈に申し訳なさそうな表情をしながら腕を回したり、跳んだりして全然平気というように笑いかけた。

 

「う、ううん、大丈夫! けど、よかったぁ……本当にびっくりしたんだよ?」

 

そんな紡絆の姿にほっとする友奈だが、紡絆はただ申し訳なさそうにするしか出来なかった。

そして二人の会話を見ていた勇者部の面々も徐々に理解すると、近づいていく。

 

「本当に大丈夫なんですか?」

 

「もちろん! あ、ただ退院してもいいけど安静にしろとは言われたかな?」

 

「はぁ……それなのにどうして清掃しに行ったのよ……まったく。心配ばかりかけて、本当に大丈夫なのね? 聞きたいこともたくさんあるんだけど」

 

明らかに病院の先生の言いつけを全く守らずに清掃依頼を達成した紡絆に勇者部の中で苦笑と呆れの空気が漂う。

 

「まぁ、話は明日にしてうどん食いに行きません? 俺、ラーメンしか食ってないんで。あ、お見舞い品は食べましたよ。ありがとうございました」

 

「ら、ラーメン……?」

 

「あ、あんた一応怪我人よね? いや、お見舞いのことは全然良いしむしろ巻き込んだ私が原因なのもあるから謝ることしか出来ないんだけどさ……」

 

五日間も眠ったままだったはずなのにラーメンを食べたとか言い出した紡絆に犬吠埼姉妹は困惑していた。

ただの怪我人ならともかく、死にかけた人が言ったのである。

それも、五日間眠ったのであるならば普通はもっと消化が良いのを選ぶだろう。

しかし当の本人は、だってお腹すいたしとか言い出す始末である。困惑以外どうすればいいのだろうか。

 

「……東郷? 大丈夫か?」

 

そんな中、未だに何も言わない東郷に疑問を抱いた紡絆は東郷に近づいて心配そうな表情で見つめる。

 

「紡絆くん……本当に平気なの?」

 

誰よりも紡絆が死にかけていた姿を見ていたのは、東郷である。

それ故に驚きと心配と不安を含んだ表情をしながら訊いてきた東郷に紡絆は安心させるように笑いかける。

 

「平気だって! 全然余裕! 治ってるしめっちゃ動くから! あぁ、でもあんな姿見せてごめん。

ぶっちゃけ情けなかったし……トラウマになってない、よな? な、なってたら俺はどうすれば……!」

 

証明するように体を動かしたかと思えば、ふと深く残り続けるような心的外傷を与えてないかと心配になって慌て出す紡絆。

感情の変化が忙しいが、本来は逆だろう。

心配するのではなく、される側のはず。それなのにも他者を優先的に心配する変わらない姿に東郷は何処か安堵の息を吐くと、首を横に振る。

 

「正直もう見たくないけど大丈夫よ。こうして生きてくれたし、紡絆くんの変わらない姿を見たら恐怖なんて吹っ飛んじゃった」

 

「んん? そりゃ、変わらないだろ? でも良かった……のか? え? 友奈、良かったの?」

 

「ど、どうして私!? え、ええっと良かったんじゃない……かな? わ、分かんない!」

 

「俺も分からない!」

 

「どうして自信満々なんだろう……」

 

「いつもの勇者部らしくなってきたわねぇ」

 

突然振られた友奈は答えようとして分からず、紡絆は自信満々に誇らしげに答える。

樹の小さな声は流されていったが、一人が帰ってきただけで勇者部は騒がしくなったの見て風は口角を上げて調子が出てきたと言わんばかりに嬉しそうにしていた。

 

「でも紡絆くん?」

 

「は、ハイッ!?」

 

その時、紡絆は東郷に呼ばれた瞬間、ガッチガチに体を固まらせるとピンッと背中を伸ばしていた。

何故なら、東郷の纏う空気が変わったからだ。

 

「嘘はダメよ」

 

「え?」

 

「へっ?」

 

「嘘って?」

 

「東郷さん、どういうこと?」

 

東郷の言葉にそれぞれ疑問を抱くが、紡絆はちょっと焦っていた。

 

「紡絆くん。まだ全然治ってないのでしょう?」

 

「げっ……あ、あっはは。ナンノコトカナー……」

 

誤魔化すように笑いながら、全力で目を逸らす紡絆。

はっきり言って、嘘がバレバレだし誤魔化せていない。

 

「紡絆。もしかして今も痛いの?」

 

「い、いやいや。()()()()()問題ありませんから! マジで!」

 

「歩く分には……ってことはやっぱり治ってないんですか?」

 

「治ってます、はい」

 

何故か譲らない紡絆の様子を見て、流石に全員気づいた。

と言うよりも、嘘が下手くそ過ぎてバレバレなのである。今も理解出来ずにきょとんとしてる友奈以外は気づいただろう。

 

「えっと……どっち?」

 

「試せば分かるわ。友奈ちゃん」

 

「試すって俺になに……ぐへっ!?」

 

紡絆が矛盾する言葉を吐いていたせいで友奈は混乱していたが、否定し続けるならば実力行使と東郷が目の前にいる紡絆の腹部を()()()()()

それも、大して力を入れることなく、だ。

全く力が籠っていない---それこそ触れたのと大して変わらないはずなのに紡絆は表情を苦しげに歪めると、腹部を両手で抑える。

 

「だ、大丈夫!?」

 

「な、何故……バレた……ッ!?」

 

「嘘下手かっ!」

 

「流石に今のは気づくかと……」

 

あわわと紡絆の前で手を動かして慌てふためく友奈と、治ってないとバレて驚愕しつつ友奈に平気と手で制する紡絆。

そしてフォローされることなくツッコミを入れられたり後輩の樹にすら見捨てられる始末である。

 

「少なくともいつもの紡絆くんなら三十三分四十七秒早く終わっていたはずだもの。何かトラ---いさこざがあったとしてもそこまで時間は取られないでしょうし、第一何度か腹部に触れたのは何か意味があるはず。あといつもより体の動き悪く見えたのと呼吸もしづらそうに見えたわ!」

 

「なんでそんな詳細!? てか、最後の一文で良かったじゃん! あとそこはもう英語でよかったよね!?」

 

「敵国の言語を使うなんてこと、祖国を裏切るも同然! 私には出来ないわ……ッ!」

 

「相変わらずの国防精神で何よりだよ……なんかこう、帰ってきた感あるし。でも、良かった。今更だが、東郷も吹っ切れてるみたいで」

 

はあ、と二重の意味でため息を吐いた紡絆は腹を片手で抑えながらも、東郷と風を交互に見て、全員を見渡すと何も変わらない、()()()()()()へと戻ってきたことに安心したように笑う。

それに釣られたようにみんなも笑顔を浮かべるが---

 

「良い感じで終わろうとしてるけど、とりあえず紡絆は完治するまで動く系の依頼は禁止ね。もししたら友奈に止めてもらうから。あとうどんを奢りなさい」

 

「お、お姉ちゃん……」

 

「紡絆くん、まだ説教もするから」

 

「えっと、ごめんね?」

 

「…………やっぱり無理かぁ!」

 

一応紡絆自身の本音ではあったが、友奈にですら見捨てられた彼はこれから訪れる未来に現実逃避するしか無かった。

---ちなみに、うどんは本当に全員に奢ったのと説教は二時間されたとか。

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
割とマジで生きてたのが奇跡なやつ。
家は星や惑星関連の本が多く、記憶喪失の前は天文学者でも目指してたんじゃないかと推測している(なので、それ関連の勉強はしてる)
なお掲示板で偽者か疑われた模様。
ちなみに腹部の穴はもう塞がっているが、走ったり跳ぶと全身痛い。

〇グランテラ
ジュネッスの攻撃を通さない装甲を持ち、素早さと力が強化されたネクサス本編より強くなった個体。
オーバーレイ・シュトローム(持続力高い光線)なので装甲関係なく分解されて敗北。
粒子はアンノウンハンドが回収済み

〇友奈ちゃん
今回はどちらかというと戦闘では援護に回っていた子。
紡絆くん嘘っぽいなーとは思ってた。

〇東郷さん
(トドメはスコーピオンとはいえ)紡絆くんを追い詰めた怒りでサジタリウスをボッコボコにした子。
ネクサスの状態でもある程度の言葉が分かる人。
依頼達成の遅さと違和感のある動作から無理してることを見抜いた。

〇風先輩
頼りになるけど結局女子力(物理)に行く人。
約束通り紡絆に奢らせた。でもちゃんと部長として紡絆を制限(じゃないと絶対無茶すると理解しているため)

〇樹ちゃん
ワイヤーでは倒せないため、敵の攻撃を利用する有能。
後輩に奢らせる姉にちょっと引いた。

▼質問
Q.紡絆くんの援助

A.この世界のこと考えると大赦じゃないですかね。
資金面は保険やら両親が貯めていた貯金があるし前世が大人なので金銭感覚は全然問題なし。
あとぶっちゃけ大赦は紡絆くんがネクサスになってることを既に風先輩経由で知ってるのでこっそり振り込んでます。
それに、いうて親が死んだの中学入ってからやしな……

◆余談
本作のEDは基本的にAurora Daysであり、原作同様の並び方で紡絆くんは勇者部を見守るようにみんなから一歩離れた一番後ろにいます。
追加キャラが来た場合も何があっても同じになります。
稀に飛び立てない私にあなたが翼をくれた、になりますが、その場合はネクサスみたいに総集編みたいな感じです


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「-説明-ディスクライブ」


な、何とか間に合った……。本当は全員やりたかったんですけど、文字数的な意味でも一人が精一杯でした。
一応言っておきますけど、恋愛系書くのが苦手な割に頑張ったんです、はい。
誰か参考に出来るほどのおすすめの恋愛小説知りませんかね……?




◆◆◆

 

 第 9 話 

 

-説明-ディスクライブ

 

×××

 

日常編その①

東郷美森編

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

説教という名のものでこってり絞られた紡絆だが、彼は今、勇者部の部室で真剣な表情を作っていた。

前日言った通り、自身の持つ力について説明するからだ。

彼は僅かながら緊張を漂わせる。それは伝染したのか、紡絆が黒板の前に立ちながらみんなを見渡しても、誰もふざけることはしていない。

むしろ部室中に広まり、勇者部の面々も緊張の面持ちで見ていた。

ピリピリとした張り詰めた空気の中、紡絆がようやく口を開く---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで、第16回ウルトラマン会議を---」

 

「一回もしてないよ!?」

 

否、誰かの手によるものでもなく、本人の手で先ほどの雰囲気が飛散した。

真剣な表情で何を言い出すかと思えば、誰も見覚えのない会議を勝手に16回まで進めてるでは無いか。

 

「えぇー……じゃあ第100回で」

 

「いやいや、数増えせばいい問題じゃないから。真面目にしなさい」

 

「一番真面目にしない人に言われたッ!」

 

むす、とした紡絆が不満なのかと回数を増やすが、風に言われて思わず争いの種を引き起こしてしまう。

 

「どういうことよッ!?」

 

「風先輩だってふざけるじゃないですか! バーテックスの説明してる時もふざけてましたし!」

 

「んな……!? それはあんたが私の絵にケチつけるからでしょ!」

 

「じゃあこの状態でどう説明しろと!? ほら見てくださいよこれ! これのせいで超がつくほどにシュールですからね!? どうシリアスに話せばいいと!?」

 

全く進むことなく言い合いになるが、絵面が問題なのだろう。

左手にチョーク。右手に牛鬼。

紡絆は右手に甘噛みを続ける牛鬼をぶんぶんと振るが、相も変わらず牛鬼は笑顔を浮かべてるだけで決して離れない。

それを見て、ただ同情するような視線を風が向けた。

 

「なんでこいつ、俺から離れないんですか」

 

「知らない」

 

「な、懐かれてるんですよ、きっと」

 

「私が言っても行っちゃうんだよね」

 

「精霊にも好みがあるのかしら……。それとも宿主の心とかに従って……。ということは友奈ちゃんは……!?」

 

こいつ、と言われたからか牛鬼が不機嫌そうに羽でぺちぺち攻撃する。

決して痛くないが、うざい。だが紡絆は性格上精霊を殴ることはしないし、友奈を守ってくれたことには感謝してるのだ。

なので甘んじて受けていた。

そして紡絆の疑問には誰も答えを持ち合わせておらず、一人だけ深く考えすぎて誤解しかけてるが、紡絆は深呼吸して心を落ち着かせる。

 

「東郷、それないから。ひとまず落ち着こう。それだと友奈が俺の手を食いたいと思ってるから」

 

「あはは……私、そんなことしないよ?」

 

「そ、そうよね……よかった」

 

「というか本題に全く入れてないんだけど」

 

「やっぱり紡絆先輩に真面目なのは合わないかもしれないですね」

 

「唐突な毒舌!? お、俺って後輩に不真面目だと思われていた……?」

 

誤解が解けたかと思えば、まさかの発言に若干ダメージを負うが、紡絆は軽傷だ。肉体に比べれば軽傷なので、牛鬼に謝ってからこほん、と一つ咳払いを入れた。

 

「よし、真面目にしますよ真面目に。で、なんだっけ? バーテックスが黄道十二星座を元にしてるって話でしたっけ。ちゃんと調べたら間違いなく合ってるので残りバーテックスは---」

 

「紡絆くん、そっちじゃなくてウルトラマンのことよ」

 

「流石詳しいね!」

 

「なんか私より詳しくなっていってない?」

 

「また話が逸れそう……」

 

真面目にすると言っていきなり別の話題をぶっ込んだ紡絆にツッコミと褒める言葉が出てくる。

それぞれの言葉を聞いて、思い出したように頷いた紡絆は今度こそ真剣な表情で口を開いた。

 

「あーウルトラマンでしたね。えーと俺自身も分からないことは多いので掻い摘んで説明します。まずこれ、アンファンスと呼ばれるウルトラマンです」

 

そう言って伏せるように貼っていた大きな紙を外し、指差すのは、隣に49mの巨人を書こうとして黒板のため全く足りず、ウルトラマンの足だけの絵になったやつと、やけに小さくデフォルメされた可愛いらしい銀色のウルトラマン。

簡単にいえば、失敗作とちびトラマンである。

 

「わーかわいい!」

 

「紡絆くんって、結構上手いのね」

 

「私より上手い……だと!?」

 

「隣の存在感が……消した方がいいのでは?」

 

ちびトラマンに可愛いと素直な感想を述べる者と、感心する者。

そして樹の言う通り明らかに消せばいいはずが、自信作なのだろう。

ドヤ顔がそれを証明しており、勇者部の部長はバカにしただけあって自身より上手かった絵に僅かにダメージを受けていた。

 

「まぁ、自身が変身する姿なので。昨日からひたすらノートに書いて、朝早く来て練習しまくりました」

 

目元に隈が出来てることから、寝ていないのだろう。

割と本気で練習していたであろう姿に勇者部の面子は苦笑した。

 

「力入れるところおかしくない……?」

 

「はいそこ部長。余計なこと言って話折らない」

 

「あ、はい」

 

ツッコミを入れた先輩である風を黙らせ、真面目に解説するためにチョークをコンコンとちびトラマンのアンファンスを軽く叩く。

どうやら本当に真剣にするらしい。

 

「とまあ、なんかこのアンファンスと呼ばれる形態ではエナジーコア……という名の胸のY字ラインがあるんですが、鳴りません。実質制限時間無制限の初期形態でこれ鳴ったら適能者、デュナミストと呼ばれる俺が死にそうになってるらしいです」

 

「あぁ、だからあの時って心臓のような音も鳴っていたんですね」

 

「じゃあやばい状況だったんだ……」

 

「紡絆くん、あの状態から変身した時点でわかってたけど本当に無茶してたのね……。また説教するべき?」

 

納得したような様子だが、それはつまり、死にそうになっていたのに戦っていたということの証明だ。

東郷の言葉に頬を引き攣らせた紡絆は必死に言葉を紡ぐ。

 

「いやあの、ごめんなさい。勘弁してくださいというかあれは俺じゃなくて明らかにスペースビーストが悪いから! 実際俺が変身しなければバーテックスの封印もキツかっただろうし、神樹様も壊されてたかもしれないだろ?」

 

「それは……否定出来ないわ」

 

「私も紡絆くんに助けられちゃったし」

 

「私もですね……」

 

実際、紡絆がウルトラマンに変身しなければただでさえ厄介なコンビネーションを持っていた敵を相手しながら、厄介な防御力と遠距離攻撃を持つグランテラを相手することになっていた。

もしかしたらウルトラマンが現れなくともファウストは現れたかもしれないことから、誰もがその言葉を否定することは出来ない。

現実世界に多大な影響を与えたり、封印も失敗してたかもしれないことから否定する材料など見つからないのだ。

だからこそ、東郷は悔しそうに。友奈と樹は思い出すように言う。

 

「ごめん。ちょっと言い方はずるかったな。けど、こうして生きてる。

だからそれでいいじゃん! 世界を救えて、みんなとこうやって楽しんだり話したりふざけあったりできる。

俺はみんなを、みんなと過ごす日常を守りたいからさ。

例え誰に何と言われても、この力を受け継いだのは俺だけだから。

真の戦う答えを見つけた今、絶対に退くことは出来ない」

 

それでも自分の言い方は意地悪だったと自覚しているようで、申し訳なさそうに謝るが、紡絆は頑固たる意志を持って退かないことを話す。

言葉にもあった通り、絶対に退くことはないのだろう。共に長く過ごしてきた勇者部の面々は紡絆の毅然とした様子を見て、きっぱりと諦めていた。

 

「ところで風先輩。なんで喋らないんですか?」

 

そんな中、一切喋ってなかった風に疑問をぶつけると、風は椅子から立ち上がってカバンからノートとペンを取り出すと持つ。そのまま皆の視線を受けながら椅子に座り、紡絆に何かを書いてからノートを見せた。

 

『余計なこと言うから』

 

大きく、そう書かれていた。

 

「いやもういいですから! なんで根に持ってんですか!? 普通に考えてそこまで厳しく言いませんよ、俺!」

 

「あら、そう?」

 

「そうですよ! というかいくら俺がウルトラマンに変身出来るとはいえ、そんな一般人と変わりませんし他人の思考を覗ける特殊能力とか持ってませんよ……まったく」

 

予想にもしなかったことに紡絆はため息を吐くが、頭を振って意識を切り替える。

そして新たに捲ったものをチョークで指していた。

 

「それで、話を戻しますけどこれが前回なったジュネッスと呼ばれる姿です」

 

黒と赤が追加された、今度は諦めたのかデフォルメされたちびトラマンのジュネッスのみを書いたものをコンコンと軽く叩いた。

 

「見た目がちょっとかっこよくなったけど、可愛いね」

 

「この大きさ……現実でも見てみたいわね」

 

「ちなみにこれも練習したの?」

 

「お姉ちゃん……その質問いるのかな」

 

「あ、これですか? 10時間くらいしました。唯一の成功作です。いやーなかなかエナジーコアの上にある青い半球状のコアケージと呼ばれる部分が綺麗に真ん中に書けなくてですね、それに色を付けるのも中々に大変でチョークだからちょっと不格好ですけど本当はもっと---」

 

それぞれの感想を聞いた紡絆が風の質問に対して長々と語っていく。

どれだけ苦労したのか知って欲しいのだろう。いくら絵師などが描いた絵とは足元にも及ばないとはいえ、ウルトラマンと分かるくらいには、可愛いと思われるほどには絵の特徴はあるのだ。

 

「わ、分かったわ。だから戻ってくれる?」

 

「え? 二時間くらい話せますけど?」

 

「そんなにもしてたら依頼が出来なくなるわよ、紡絆くん」

 

「今日もいっぱいあるもんね!」

 

「そんなにも頑張ったんですね…紡絆先輩」

 

話し足りないといった様子の紡絆に勇者部のメンバーは困るが、依頼があるとなれば時間をかけられないと紡絆が一気に説明する速度を上げる。

 

「それでこの形態ですけど、メタフィールドという空間を三分間だけ作り出せ、消耗が激しいのでそれが過ぎると俺が死にます。

詳しく言うと位相の褶曲(しゅうきょく)によって生じる不連続時空間の結界で、ウルトラマンが作り出す戦闘用亜空間ですね。

超分かりやすく言うと別世界、異空間です。

隔離させるので外に被害が出なくなるのと、ウルトラマンの本来の力と……勇者の力も強化するみたいです。

ただ封印は防げないのか、苦しかったですけど。あ、光線は必殺技ね」

 

それだけでは終わらず、ちゃんと全て解説するつもりなのか次々と言っていく。

まず、ウルトラマンの身体そのものから作り出され、ウルトラマンの身体を構成する物質の組成と同じものでできている異空間なので、簡単に言えば自分の身、命を削りながら作り出す空間であること。

現実世界に影響を与えないため、これを貼っていれば樹海のダメージを削減できること。

メタフィールドを貼らなければジュネッスでも制限時間はないこと。ただしエネルギー、体力、またはダメージを受けすぎるとコアケージが鳴ってしまうこと。

ジュネッスの場合はコアケージが青が正常で、赤になると残り制限時間が少ないこと。停止したら変身者を含めてウルトラマンも死んでしまうこと。

ジュネッスはアンファンスの強化形態だということ。

コアケージはエナジーコアと同じ意味を持つこと。

塗り替えられた力はダークフィールドと呼ばれ、自身とは相反する空間であること。つまり、敵の力のみを強化する空間であること。

実は勇者としてのお役目が始まる前にウルトラマンと出会って既に戦いを経験しており、川で頭を打って以降の怪我はスペースビーストと戦ったことによって負ったものだと。

背負った使命と力の、光の意味について考えていたが、前回の戦いで答えを見つけてこれからも勇者部のみんなと一緒にバーテックスと戦う覚悟を決めたこと。

一番大事なこととして、ウルトラマンが受けたダメージは全て自身に還元されてしまうこと。

 

「まぁ、こんなもんですかね。他は俺も分からないので、どうやっても解説出来ません」

 

その解説を聞いた勇者部の面々は、様々な反応だった。

驚愕、納得、安堵、不服、悲痛、悲観、混乱、不安、興奮---聞いてるだけで様々な感情が生まれたが、代表して風が口を開いた。

 

「どうして相談しなかったのよ?」

 

「いや、普通に信じれると思いますか?

勇者になった後ならともかく、その前は無理でしょう。痛いやつとしか思われないかと。

逆に六日前の戦いの前に話そうとしても……俺自身色々いっぱいいっぱいだったのと、ウルトラマンの力はハッキリ言って、危険です。それを宿した俺も。

みんなを信頼していないわけじゃないですが、あまり口に出していいものじゃないし、もしお偉い方たちにバレたら俺は人体実験でモルモットにされ、二度とここに帰ってこれないと思います」

 

最もなことだろう。

第一、勇者ですら信じ難かったのに巨人になれます。光の巨人に変身できますと言われても痛いやつだ。中二病と言われるか、テレビの見すぎとでも言われるか、とにかく信じられないに違いない。

それにウルトラマンは勇者とは違って、一人しか居ない。しかも適性を持っているかどうかすら分からず、勇者一人分の力を優に超えている。

実際に防戦一方になったとはいえ、バーテックスとスペースビーストを同時に相手出来た点からそれは簡単に考え得ることだ。もちろん、だからといって制限時間のあるウルトラマンと違って、勇者には制限時間はないため、勇者が要らないわけではないのだが。

そして仮にウルトラマンの正体が人間だとバレてしまえば、人体実験にされてしまう可能性の方が高い。

宿主を解剖でもすれば、ウルトラマンの力の源を知れる可能性はあるのだから。

 

「じゃあ、今まで筋肉痛とか言ってたのって……」

 

「ああ、それは怪我を隠してただけで、筋肉痛じゃないな」

 

「あ……なら、人形劇の時って痛かった? ご、ごめんね?」

 

「あれはどっちかというと倒れたやつを持つ方がしんどかったかな」

 

「もしかして、貫かれた時は……」

 

「うん、ダメージ還ってきたから大量出血したし毒もあったから普通に死ぬかと思った。あはは」

 

「笑い飛ばしていいんですか、それ!?」

 

もう過ぎ去ったようにあっけらかんと笑う紡絆だが、一応言うとまだ治っていない。包帯だらけになってるのだから分かると思うが。

表向きは交通事故にあったということになっているとはいえ、登校してきた時は同級生がみんな驚いたくらいだ。

むしろ近所の人にすら好奇な眼差しで見られていたのだから。

 

「はぁ……それなら戦わないで欲しいんだけど---」

 

「だけど?」

 

「するわけないわよねぇ。むしろ逆に突っ込んでいきそうで困るわ。樹海には強制召喚されるし……仕方がない、か」

 

「よくお分かりで。みんなが戦ってるのに俺だけが見ないふりするぐらいなら、死んだ方がマシです」

 

風は軽く頭を抑えながら、紡絆の今までの様子と今の表情からして察すると、諦めるようにため息を吐くしか出来なかった。

 

「でも、その場合紡絆くんは……」

 

「勇者も同じだ。死ぬ可能性はある。だったら、一人でも戦力を増やして生存率を上げた方がいいだろ?」

 

以前の戦いを思い出して不安そうな表情で見つめる東郷に、紡絆は何ともなさそうな表情で返す。

正論であるのだから、タチが悪いのだが。

 

「その通り。だからここからは別よ。私たちの戦いに、勇者ではない紡絆を巻き込むことになる……それでも共に戦ってくれるかしら? ウルトラマンとして、なにより勇者部の一員として」

 

「……! いいんですか? ぶっちゃけウルトラマンと同じダメージ負うこと言ったら止められると思ったんですけど」

 

風が立ち上がって近寄り、手を差し伸べると紡絆は予想外だったのか驚いたような様子を見せる。

そんな紡絆の疑問を風は答えた。

 

「まぁ、勝手にされるよりは一緒に居てくれる方が助かるのよ。私たちが助けられたことに変わりはないし、さっき自分で言っていた通り覚悟を決めてるなら止められる自信なんてないし」

 

「なるほど、止められても無視して戦うつもりでしたけど、それなら改めてよろしくお願いします」

 

納得と言うように頷いた紡絆は風の手を握り、正式に勇者の仲間として迎え入れられることになった。

 

「紡絆くん、一緒にがんばろー!」

 

「もちろんッ! 一緒にみんなを守るぞ!」

 

「うん!」

 

早速と言わんばかりに友奈が椅子から立ち上がって紡絆と握手する。

何故か互いに腕を勢いよく振っていた。

 

「仕方がないわよね……ううん、むしろ今の方が紡絆くんらしいわ」

 

「はい。いつも紡絆先輩は誰かのために行動してましたから」

 

絶対に止められないと知っているのもあるが、なによりもこの方が紡絆らしいと東郷も樹も知っている。

勇者部のみんなは、継受紡絆という人間がどんな存在か知っているのだ。逆に何も行動に移さない方が、紡絆に何か異常が起こっているのではないかと思ってしまうほどには。

彼は、そういう人間なのだから。

だからこそ、紡絆がそう決めたのであるならもう何も言わないことにして、笑顔で迎え入れる。

そこでふと、紡絆は思い出した。

 

「やべ、忘れてました。

ウルトラマンに変身するって言ってましたけど、みんなが端末のように俺にもアイテムがあるんですよ。

ちなみにこれ、エボルトラスターというやつです。

触ってもいいですけど、無くさないでください。

危ないので出しませんが、一応銃としてブラストショットというやつもありますけど」

 

何気に重要なことを忘れていたが、紡絆はポケットから短剣型のアイテムを手にして皆に見せる。

それを興味津々と見ていた。

 

「へぇ、エナジーコア?というやつとコアゲージってやつに似た模様もあるのね」

 

「私たちはスマホですけど……紡絆先輩は違うのでちょっと……バレたら大変ですよね」

 

明らかに短剣型とスマホ。

どっちが誤魔化せるかと言えば、スマホだろう。現実に持っていない人物なんて居ても極小数。今や社会に浸透してるものなのだから。

 

「おもちゃと言えば問題ない……かな」

 

「んーっ! あ、これ抜けないんだね〜」

 

「そうみたいね。私たちでは無理なのかしら? 勇者と同じく、ウルトラマンも選ばれた人物しか無理……ということになるのかも。それにモチーフ的には日本刀? これ、紡絆くんは問題なく抜けるの? 前見た時は簡単にしてたけど……」

 

渡したのは紡絆とはいえ、勝手に遊ぶように引き抜こうとしていた友奈たちだが、彼女たちに引き抜くことは出来ない。

それを見ていた東郷は思考しつつ疑問を投げかける。

 

「ん、あぁ。俺は簡単に抜けるけど、俺が引き抜いたら変身するから出来ないな。

それはデュナミスト以外引き抜けないから。

変身は……まぁ、どうせまだバーテックスと戦うんだし、その時に分かると思う」

 

「私たちで言う勇者システムなんだから、無くさないようにしなさいよ?」

 

「無くしても多分勝手に戻ってきそうですけど……」

 

「それなら安心……なのかな?」

 

聞かれて分からないところを掲示板で聞いてその通りに言っていた紡絆だったが、手元になくとも姫矢さん(デュナミスト)と一緒にブラストショットもワープさせてたから多分行けるみたいなのが流れてきたため、便利だと思いつつ、風の言葉に返した。

樹は本当に大丈夫なのか分からずにこてんと小首を傾げていたが。

 

(そういえば最初の時って意識無くしたのにいつの間にかカバンの中に潜り込んでたもんな……有り得そう。ヤンデレかな? いや、ウルトラマンのお陰だろうから助かるけどさ)

 

一方で、最初の戦いの時を思い出した紡絆は無くさないようにしてるとはいえ有り得そうだと思っていた。

決して試す気にはならないだろうが。

 

「あ、紡絆くん。返すね」

 

「ん、おう」

 

東郷と共に模様を見ていた友奈は満足したのか紡絆にエボルトラスターを手渡しで渡すと、紡絆は左手で受け取って懐に収納する。その際に自身の右手に違和感を感じ、頬を引き攣らせた。

 

「あ、ところで友奈。そろそろ何とかしてくれない? な、なんか手の感覚なくなってきた……」

 

「え、えぇっ!? ちょ、ちょっと牛鬼! はーなーれーてー!」

 

諦めていたとはいえ、流石に違和感を感じたと思えば手の感覚が無くなってきていた。

ちょうど友奈が目の前に居たため、主なら聞くのではと試しに言った紡絆の言葉を聞いて友奈が慌てて紡絆の右手を噛みながら寝てる牛鬼を掴んで引っ張るが、取れない。

 

「こういう動物居たよなーなんだっけ。スッポン?」

 

「スッポンは水に沈めれば外してくれるらしいけど、精霊に効果あるのかしら?」

 

「お前……牛じゃなくて亀だったのか?」

 

「流石にそれはないかと……」

 

離さないのを見て思い出すように呟いたが、東郷の言葉を聞いて何処にも亀だという要素はないのに実は亀なんじゃないかと疑い始めた紡絆。

樹から、というか誰から見ても違うので否定の言葉が呟かれていた。

 

「さてっと。話は聞いたし勇者部の活動始めるわよー!」

 

「まさかのこの状態で!? ちょ、マジで手の感覚がぁああああ! 傷治ってないから! 牛鬼起きてぇぇえええ!!」

 

「うー! 離れないよー!?」

 

「友奈ちゃん。精霊を一度戻したら?」

 

「「あっ!?」」

 

必死に離そうと頑張っていた紡絆と友奈だが、東郷の言葉に互いに忘れていたように気づいた。

紡絆は友奈に対して頷き、友奈も頷く。

 

「これで……どうだー!?」

 

「ヴェッ!?」

 

意思疎通出来た二人は立ち止まるが、何故か友奈が()()()()()()()スマホを取り出して精霊を戻す。

寝ているからか、牛鬼は出現しない。今回は手がベタベタではないが、牛鬼も学んだのだろうか? 紡絆の手は無事に解放される。

そう、でも()()()()()のだ。ならばこそ、引っ張っていた力はどうなる? 

当然引っ張られた力はそのままで、紡絆の体が引っ張られる形で友奈の方へ持っていかれる。

 

「へっ!?」

 

「あ、むりぃいいいいい!?」

 

何とか一瞬で体制を戻そうとするが、紡絆は一瞬で諦めた。

一応言っておくと、彼は肉体のダメージはマシになっただけでそのままなのだ。運動などの激しい動きを禁止させられるほどのものなので、そんなすぐに全力で立ち止まる力などない。

というより、立ち止まろうとした瞬間に凄まじい痛みが走ったため、僅かな間力が抜けてしまった。

そのまま紡絆の体は抵抗も虚しく、引っ張られる力のまま友奈の方へ行き、そして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃっ!?」

 

友奈を()()()()形で部室の地面に倒れた。

原因は、互いに油断していたこと。突然過ぎたこと。引っ張られたのが友奈ではなく、男だった紡絆だということ。今の紡絆ならどっちにしてもなっていただろうが、原因はそこしかないだろう。

ただし、せめてもの罪悪感からか腕を割り込ませて友奈の後頭部を守ったのだけは、男として誇っても良いかもしれない。

だが---空気が、固まった。

比喩ではない。完全に樹海化が起きたんじゃないかと思うほどに、止まっているのだ。もちろん、外では自然も動いているし鳥などの動物も動いている。時間も、動いている。

しかし部室内の空気だけが止まっていた。いや、この場合は場が凍ったと言った方が分かりやすく、適切だろうか。

その理由としては状況から分かる通り、一人の男子中学生が事故とはいえ女子中学生を押し倒したからだ。

事故とは分かっていても、何も分からない人が見れば明らかに気まずくなる空間。

両者の顔が少し動かせばキスでも出来るのではないかと言うほどに近い位置にあるのもあるかもしれない。

少なくとも、動ける者は居なかった。当の本人たちの方が一番焦ってるだろうが、周りも動ける者は---否。

一人だけ、動く人物が居た。

スッと自然な動作で何かを取り出したその人物はただ一つの行動を行う。

カシャッ、と。

 

「「え?」」

 

「と、東郷?」

 

「と、東郷先輩?」

 

予想にもしなかった状態なため、固まっていた紡絆と友奈が同時に反応し、その光景を見ていた風と樹も東郷に視線を送る。

全員の視線を受けた東郷だが、彼女が手にしていたものは---スマホ。

そしてカシャッという音がスマホから鳴っていた。

それはつまり---彼女は自然な動作でスマホを取り出し、写真を撮ったのだ。しかも次々と連射音が聞こえてくる始末。

 

「っ〜〜〜!?」

 

「………ごめん」

 

それに気づいた友奈が目をぱちぱちと瞬きすると、冷静になって押し倒されたという事実を理解して顔が赤くなっていく。

紡絆はすぐに退くという考えはあったが、さっき足に力を入れた際にダメージを負ったせいで退こうにも痛くて出来なかったのだ。

そんな彼は、自身が起きた不幸にこの先の未来を予想し、達観し始め、謝った。

そしてその未来は---

 

「ゆ、勇者パァァァァァンチ!」

 

「あぁぁああぁぁぁ!?」

 

顔を真っ赤に染めた友奈の拳が胸に直撃し、予想通り吹っ飛ばされた。

本来、いくら友奈の一撃でもそこまで吹き飛ぶことなんてないのだが、そこは世界の法則が変わったのだろう。見事打ち上げられた紡絆は背中から地面に肉体をぶつけ、ダウンする。

せめて腹じゃなかったのは救いだった。腹部であったなら、今の紡絆ならば気絶コースだったのだから。

 

「と、東郷……それ、消せ……ッ。がく……」

 

最後の力でも振り絞るように東郷に向かって手を伸ばすが、地面に手が落ちる。

ちなみに別に気絶してる訳ではなく、喋れないほどの痛みに悶絶しているだけだ。

 

「はぁ、派手に飛んだわね……」

 

「紡絆先輩……」

 

事故とはいえ、部室でまさかの展開になったことに片手で頭を再び抑える風と何故か紡絆に対して冷たい視線を送る樹。

傍から見たら紡絆が押し倒したようにしか見えないので仕方がないのだが、後輩にそんな目で見られつつ、痛みに悶絶してる紡絆は二重---

 

「パソコンにも写して……完了ね」

 

三重の意味でダメージを受けた。

東郷は消すどころか、パソコンにバックアップを送ったようだ。

紡絆は精神的に二、肉体的に一のダメージを受けた。合計で三重である。

 

「わ、わー!? つ、紡絆くんごめんなさい! 大丈夫!?」

 

状況が状況だったとはいえ、怪我人に対して殴ってしまった友奈は気持ちを落ち着かせてから慌てて駆け寄り、紡絆の体を起こすが、紡絆は平気と言うように表情を取り繕った。

 

「も、問題……ないといえないかもしれない……」

 

が、本音がこぼれ落ちた。

残念ながら我慢しきれるほどのダメージじゃなかったらしい。

 

「ほ、本当にわざとじゃなくってッ! そ、その……」

 

「わ、分かってるから……いや、ほんと耐えようとしたんだけど力入らなくて。ごめん……」

 

何とか立ち上がれるまで回復した紡絆は手を貸して貰って立ち上がるが、友奈は思い出したのか再び顔を赤くして俯いた。

紡絆はそんな友奈を見て、自身の不甲斐なさについて謝るしか出来なかった。

 

「お、お姉ちゃん」

 

「……こほん。えー改めて勇者部の活動よ」

 

「お、おー!」

 

「し、しばらく休んでます」

 

「頑張りましょう」

 

樹が姉であり部長である風に呼びかけると、風は色々と入れ替えるように咳払いを一つ入れてから今度こそ再開するように言った。

友奈も頬を赤めたままだがすぐに乗り、紡絆は胸を抑えながら自身が描いたチビトラマンだけ写メで撮って休む。

東郷は微笑みながら一人だけ満足げだったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

435:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

まったく酷い目にあったわ。おのれ牛鬼

 

 

436:名無しの転生者 ID:cL0B3aY0h

なんだなんだ?

 

 

437:名無しの転生者 ID:mBKNJf0Vs

またなんかやらかしたんか

 

 

438:名無しの転生者 ID:9fWOcnM7y

イッチの信頼度が低すぎる

 

 

439:名無しの転生者 ID:AttFrr4uG

まぁ、知ってる人は知ってるだろうが、ウルトラマンネクサスの世界だと思い込んでたのに全く知らない別の世界だったっぽいから……

 

 

440:名無しの転生者 ID:Lm2ofHiJk

自分のことではないのに絶望感半端なかったもん。しゃあない

 

 

441:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>439 >>440

いや、それは何かごめん。

 

>>437

いうてやらかしたわけじゃなくて皆にウルトラマンであることバレたからなったことの経緯とさっきもあった通りウルトラマンの説明をしただけ。

その後部活の活動しようとしてたんだけどさ、部室で傷が治ってないのに牛鬼がずっと俺の手を噛んでたせいで手の感覚がね……

 

 

442:名無しの転生者 ID:rrju4SaqW

あーなるほど。まあ、あんな重体だったのに治るわけないわな

 

 

443:名無しの転生者 ID:jJhW1TLYh

んで、手を噛まれてたから酷い目にあったってことなのね

 

 

444:名無しの転生者 ID:aDRqkOPI3

懐かれてるんやなぁ

 

 

445:名無しの転生者 ID:d13vSz7s2

もしくは非常食だと思われてない? 大丈夫? こっちの世界では遭難したから仕方がないとはいえ、ワイと女の子二人以外は人肉食べてたけど?

 

 

446:名無しの転生者 ID:9KvulLyYJ

可愛いよね、精霊だっけ

 

 

447:名無しの転生者 ID:gRRYPfDYw

>>445

グリザイアしか浮かばねぇわ……

 

 

448:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>443

や、どっちかと言うと噛みついたまま寝た牛鬼が取れないから友奈と協力して取ろうとしてたんだけど友奈が精霊を戻したら引っ張られたままだったから押し倒しちゃって……力入らんかったから退くことも出来ずにギャグ漫画のように殴られて吹き飛んだわけ。

六割牛鬼、四割俺のせいだ

 

 

449:名無しの転生者 ID:gzcBB++QX

……は?

 

 

450:名無しの転生者 ID:d24Wj3+Rr

あ゛?

 

 

451:名無しの転生者 ID:kDjC2pWU4

お前やっぱ転生する世界間違えてるやろ

 

 

452:名無しの転生者 ID:G0psySYMs

しね

 

 

453:名無しの転生者 ID:qVgjuIU5E

なんてうらやま……羨ましいやつなんだ

 

 

454:名無しの転生者 ID:IE2V86OG1

九割お前のせいやろ

 

 

455:名無しの転生者 ID:/KdXzWUPo

一度土に還って、どうぞ

 

 

456:名無しの転生者 ID:vWMTE/1ve

い つ も の

 

 

457:名無しの転生者 ID:XSwg73M+4

全員でリンチしたい

 

 

458:名無しの転生者 ID:GEMaDI8Sf

ちなみに押し倒しただけなんか?

 

 

459:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

こんな辛辣とか悲しいなぁ……

 

>>458

それだけですけど? いや、相手が美少女と言えるから中学生とはいえ顔も近かったし俺も肉体は中学生だからドキドキはしたけど

 

 

460:名無しの転生者 ID:3lx47WAkP

はーつっかえ

 

 

461:名無しの転生者 ID:hzWwJcCAB

アホくさ、辞めたら?

 

 

462:名無しの転生者 ID:ytXisiPkf

リトさん見習えや

 

 

463:名無しの転生者 ID:JNQIBl7GG

あのさぁ……

 

 

464:名無しの転生者 ID:SuFDtcN8n

欲丸出しにするのはやめちくり〜

 

 

465:名無しの転生者 ID:0WBs37i6D

おっ、そうだな

 

 

466:名無しの転生者 ID:kxbtsPSKL

似たようなことも出来ないの? そんなんじゃ甘いよ(嘲笑)

 

 

467:名無しの転生者 ID:Va4ttyzp8

何だお前根性無しだな(棒読み)

 

 

468:名無しの転生者 ID:EqzCrBzL5

はえーやっぱ好きなんすねぇ

 

 

469:名無しの転生者 ID:qsu/s/wWR

うわぁ……なんだこれは……。たまげたなぁ……

 

 

470:名無しの転生者 ID:2ZAOLo4n5

なんでこんな汚くなってんの?

 

 

471:名無しの転生者 ID:iAyaH+Nxr

あーもうめちゃくちゃだよ

 

 

472:名無しの転生者 ID:Qguuatm+y

初見ドン引き不可避

 

 

473:名無しの転生者 ID:RTtxXWgU+

みんな期待してるんだよ

言わせんな恥ずかしい

 

 

474:名無しの転生者 ID:bgqF/Ixkc

えっ、期待してないですけど

 

 

475:名無しの転生者 ID:Rk8ktlBS5

ホモは嘘つき

 

 

476:名無しの転生者 ID:A9lBnf0Hu

>>474

嘘つけ絶対期待してたぞ

 

 

477:名無しの転生者 ID:kE5avBTZC

(このスレはもう)ダメみたいですね(諦観)

 

 

478:名無しの転生者 ID:mkxaEmxtb

>>459

何か足りねぇよなぁ?

 

 

479:名無しの転生者 ID:LQYwsGMwf

(R-18展開は)まずいですよ!

 

 

480:名無しの転生者 ID:ZCTvU381T

なんで語録がこんな飛び舞ってるんですか(歓喜)

 

 

481:名無しの転生者 ID:Bk8U5psCx

イッチが原因ゾ

 

 

482:名無しの転生者 ID:/ejxVTpGW

やっぱりイッチのせいじゃないか(呆れ)

 

 

483:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

そんな期待されてもやりたくてやったわけじゃないし仮にしたら明日から白い目で見られながら部活行かなきゃいけないんですけど

 

 

484:名無しの転生者 ID:lKLysYE6J

お前友奈ちゃんのなにが不満なんや

 

 

485:名無しの転生者 ID:YsAJWb/Ne

貧乳はステータスだし希少価値だぞ

 

 

486:名無しの転生者 ID:MEqnz8mqK

部活行かない選択はないのか……

 

 

487:名無しの転生者 ID:2UPiNYGre

友奈ちゃん意外と胸ある(らしい)だろ! いい加減にしろ!

 

 

488:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

いや、友奈ちゃんに別に不満はないけど普通に考えたら互いに好きじゃない限り……そのー、行為とか及ばないし変なことしないでしょ! というか前も事故でやったから知ってるけど、罪悪感半端なくなるんだよ!

他にも互いに中学生だしそんな関係じゃないんだってば!

 

 

489:名無しの転生者 ID:CjBa8I61x

さてはイッチ童貞だな

 

 

490:名無しの転生者 ID:K+fxdyq5Y

ここのスレの連中は間違いなくそうだゾ

 

 

491:名無しの転生者 ID:JAy2FNrZO

なんかイッチからピュアな片鱗を感じた気がする

 

 

492:名無しの転生者 ID:f9l9gCcC8

というか中学生で経験してたらイッチが怖いよ

 

 

493:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>489

中学生でしてるわけないじゃん……

 

 

494:名無しの転生者 ID:67DPTfNnz

今どきの中学生はヤってんぞ

 

 

495:名無しの転生者 ID:8wAcVm+4B

マジ?

 

 

496:名無しの転生者 ID:vL/9UqqcK

あれ、なんでこんな話になったんだっけ

 

 

497:名無しの転生者 ID:AHfRQ4npe

>>494

マジかよ、那珂ちゃんのファンやめます

 

 

498:名無しの転生者 ID:dR/xbVCfi

んで、イッチは今何してんの?(話題転換)

 

 

499:名無しの転生者 ID:E3HX5UX+x

>>498

有能

 

 

500:名無しの転生者 ID:GSFgsXfo5

>>498

ナイスゥー!

 

 

501:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>498

さっきからずっと(走るの禁止されたから歩いて)飼い猫探ししてる。強化月間中でかなり減ってきてるからな。あとちょいで終わるわ。

というか分かったから勘弁してくれ。そんな望むならやってやっから

 

 

502:名無しの転生者 ID:Wup/qL4ou

お?

 

 

503:名無しの転生者 ID:X0p+ZqbZa

>>501

ん? 今何でもするって

 

 

504:名無しの転生者 ID:K170ajUTg

言ってない定期

 

 

505:名無しの転生者 ID:y0iGRmQdD

あんな汚い話の中イッチは飼い猫探ししてたんか。お前ら見習えよ

 

 

506:名無しの転生者 ID:fuEeDPgmX

誰だって期待するからね仕方がないね

 

 

507:名無しの転生者 ID:hrZ+xHFJq

ヤって……ヤル?

 

 

508:名無しの転生者 ID:sLupalmeF

ふしだらNG

 

 

509:名無しの転生者 ID:LwB7W8A3s

>>501

自ら死地に飛び込もうとするエンターテイナーの鑑

 

 

510:名無しの転生者 ID:kweYH+Y7u

イッチはバカだからな

 

 

511:名無しの転生者 ID:Aib5HAQgA

今回ばかりはイッチのせいではないんだよなぁ

 

 

512:名無しの転生者 ID:cE6210bHL

どうせみんな期待してた(確信)

 

 

513:名無しの転生者 ID:9rGKaY5Lj

ピンク色空間作らなきゃ(使命感)

 

 

514:名無しの転生者 ID:39pPrCt4B

そんなことあるわけ(移植版なのでシーンは)ないです

 

 

515:名無しの転生者 ID:qwXaEQdk4

抜きゲーなら押し倒した時点でシーン入ってた

 

 

516:名無しの転生者 ID:OL1K66z5K

変態の巣窟かよォ!

 

 

517:名無しの転生者 ID:WqNhkSr3p

みんな欲求不満だから……

 

 

518:名無しの転生者 ID:JDnMsDgvM

で、イッチはまさかアレやるんか?

 

 

519:名無しの転生者 ID:3B3JnuTCh

アレ……ああ、アレね知ってる知ってる

 

 

520:名無しの転生者 ID:cGx9wG0k9

まぁ、安価しかないやろうな

 

 

521:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

ちょうど終わったから今日はもう暇だしその通りや。

安価で決めたら誰も文句言わんでしょ。決めるのはみんなだし、何があっても文句なしになる。今回は特に指定しないし好きにしてくれ

 

 

522:名無しの転生者 ID:NBGb0v9gG

や っ た ぜ

 

 

523:名無しの転生者 ID:+0hrLbI+J

流石にそうなると文句言うやつは居ないだろうな

 

 

524:名無しの転生者 ID:vK+wL5iJt

しょがねえなあぁああああああ(KZM)

 

 

525:名無しの転生者 ID:mDD9FUwKN

ホモはちょろい

 

 

526:名無しの転生者 ID:yKuw8fK2H

>>524

なんだかんだ文句言いながら助けてくれるKZM兄貴だいすき

 

 

527:名無しの転生者 ID:0Kw2/tVfg

ホモは寛容だしせっかちだし変態だし百合好きだし変態だしちょろいからね

 

 

528:名無しの転生者 ID:yK9pCyVsv

大事なことなので二回(ry

 

 

529:名無しの転生者 ID:7waXMpnAC

イッチも苦労人なんやなって……それはそうとして容赦なくするんですけどね

 

 

530:名無しの転生者 ID:zWFwI13eT

そういえば指定なしってことは誰でもええんか? えっちぃのでも?

 

 

531:名無しの転生者 ID:iVDXxEq/W

近所のおばちゃんでも?

 

 

532:名無しの転生者 ID:B6k5D5/ip

お兄さんでも?

 

 

533:名無しの転生者 ID:mrVZ5VY4V

お姉さんでも?

 

 

534:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

あのさぁ……人のことバカバカ言う割にはお前らもバカだろ!

普通に考えて有り得ねぇでしょーが! てか、近所のおばちゃんお兄さんってなんだよ! 嫌に決まっとるわ! 勇者部の誰かだよ! 知らん人とは出来ないし親しくない人に対して安価やるのすらやだよ!

バカ! 考えろ!

 

>>530

えっちぃのは……困るからスキンシップ取る、ぐらいで頼むわ。流石に信頼無くすのはやだし、勇者部のみんなをそんな目で見てないから。常識内で

 

 

535:名無しの転生者 ID:OZKS004wX

お兄さんはともかく何故おばちゃん……?

 

 

536:名無しの転生者 ID:DDp1RxT8V

>>534

さらっとお姉さんだけ否定しないの草

 

 

537:名無しの転生者 ID:o3G2VNDOS

イッチも欲丸出しやんけ……

 

 

538:名無しの転生者 ID:25I5dGtgK

イッチ、もしかして年上派か?

 

 

539:名無しの転生者 ID:iiQTkCEdO

いうてイッチの前世合わせたら年上って間違いなく熟女になるやろ。年齢は知らんが、多分高卒はしてるだろうからな

 

 

540:名無しの転生者 ID:S1te7p2YS

>>534

何気にイッチが他人にバカ言うのは珍しいのでは?

あと、ちゃんと大切に思ってるんやなって

 

 

541:名無しの転生者 ID:8eXTqYZhV

>>534

人妻は?

 

 

542:名無しの転生者 ID:1KkVZZFdn

ショタイッチがお姉さんとなんかするなら絶対最後食われるやつ

 

 

543:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>541

すまん、熟女含めてそんな性癖は持ち合わせてない

 

 

544:名無しの転生者 ID:PfEkYk03t

おねショタはいいのか……

 

 

545:名無しの転生者 ID:eFB6Onulk

イッチって性格的にNTRとか嫌ってそうだしな。なんかこう、本当に純愛好きってイメージがある。普通そんな美少女ばかり周りに居たらちょっとはそういう方面で見ちゃうゾ

 

 

546:名無しの転生者 ID:hCk4d849g

おねショタはほら、結構人気あるし……

 

 

547:名無しの転生者 ID:8GQ93JTo4

なんでや、人妻もええやろ

 

 

548:名無しの転生者 ID:QSB1YqXUj

熟女もいいダルォ!?

 

 

549:名無しの転生者 ID:F0Gpl5ElB

いつからここは性癖博覧会になったんだ……?

 

 

550:名無しの転生者 ID:yggkjy7p4

誰もお前らの性癖は聞いてない(辛辣)

 

 

551:名無しの転生者 ID:uPln1nTC4

やっぱおねショタが一番やなって

 

 

552:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

いや、もうなんかどうでも良くなってきたわ……。俺の性癖なんて勝手に決めてくれもう。

 

>>545

まあ、煩悩がないと言うと嘘になる。というか、精神的には問題ないんだけど抱きつかれたりすると肉体が反応しちゃうんだよね。困ってる時とか泣いてる時とかは助けないと、とか力になろうって気持ちが強くて問題ないんだが、普通の時は困るわ。

流石に前世の記憶を持ってようが煩悩消し去ってようが思春期特有の生理現象はどうしようもない

 

 

553:名無しの転生者 ID:mFltnZzo5

つーか生理現象まで発動せんかったら人間かどうかを疑うわ

 

 

554:指揮官ニキ ID:aZ5LENTtv

誰もが通る道だし、仕方がないね。そこはみんな納得すると思うで。というかほんと、泣いてる時とかは問題ないんだが、不意打ちとかからかうようにするのとかマジでやめて欲しい……我慢する方もきついんやぞ。簡単に無防備になってさぁ! 抱きついてきたりするしさぁ! 思春期じゃないけどみんな露出高いの! やめて! 

 

 

555:名無しの転生者 ID:kL+L4iWtL

転生者あるある。

美少女に抱きつかれて困る

 

 

556:名無しの転生者 ID:OoSf+8/56

ねーよ

 

 

557:名無しの転生者 ID:OgwkPO+0n

一部の世界だけだしモブじゃなければなんだよなぁ

 

 

558:名無しの転生者 ID:b53wD6Ifk

それはお前らの言動が悪いのでは? イッチ見習えよ、今も落し物探し……ってマジでなにやってんの()

 

 

559:名無しの転生者 ID:FByyKxRw3

なんでこいつ怪我してるくせに平気で走って車避けてんだ……?(畏怖)

 

 

560:名無しの転生者 ID:N26oEUzGd

走るの禁止(しないとはいっていない)

 

 

561:名無しの転生者 ID:brc+V+nfV

時々イッチって人間じゃない動きするよな。ウルトラマンの影響か?

 

 

562:名無しの転生者 ID:ahNX05A1k

あれ、ネクサスって変身者に対する身体能力強化あったっけ?

情報ニキ!(パンパン

 

 

563:情報ニキ ID:OX82Ln2AK

はいよー

 

ネクサスの身体能力強化。

憐編では分かりにくいから割愛するが、姫矢編では主に溝呂木のダークエボルバーによるエネルギー弾を姫矢さんが避けていたこと。

ブラストショットの狙いが戦場カメラマンや一般人(?)の割に正確過ぎること。ビーストが現れてから走って行くのは姫矢さんも憐も一般人じゃ間違いなく無理なこと。

ULTRAMANの内容的に真木さんは特別だが、明らかに身体能力が尋常じゃないことからデュナミストは少なからずとも多少は上がってると思われる。

なので、ぺドレオンの時と言い、ガルベロスの時と言い、イッチの身体能力は真木さんレベルかそれ以上に上がってると思っていいかもしれない

 

 

564:名無しの転生者 ID:wHixIBJMi

なるほど、流石いつの間にかコテハン付けた情報ニキ。助かる

 

 

565:情報ニキ ID:OX82Ln2AK

ええよ、気になるから書き込んでなくとも暇な時見てるしな。てか、大半の人がそうだしね

 

 

566:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

>>563

まぁ、火球避けられるぐらいだもんなぁ

 

 

567:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

ごめん。小さい子供がおもちゃを落としたらしいから探してた。危うく車に壊されるところだったわ。換えが効くとはいえ、親に買って貰った大切な一つの宝物だからな。壊される訳にはいかん

 

 

568:名無しの転生者 ID:SC+NNc1P0

>>567

やだ、誰このイケメン……嫌いじゃないわッ!

 

 

569:名無しの転生者 ID:VIr+lrgPZ

いや、あの……今のタイミング的に一般人なら一緒に轢かれてたんですがそれは

 

 

570:名無しの転生者 ID:A8iWnStKL

もし轢かれてたらどうするんだよ。異世界転生か? 轢いた人も被害出るからな

 

 

571:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

分かってる。でも見捨てることなんて出来ないじゃん。

俺ぐらいなら轢かれても吹っ飛ばされるくらいで済むが、おもちゃは壊れる。そしたら子供は泣くし轢いた方も困るかもしれない。

それに俺が轢かれても誤魔化すことぐらいならできるし、そこは考えてあるから大丈夫だ

 

 

572:名無しの転生者 ID:AjDRFlU5f

>>570

なろう特有の呼ばれる異世界トラック先生かよ。毎回運転者どんな損害受けてんだろ

 

 

573:名無しの転生者 ID:vZD21rTNt

吹っ飛ばされる(当たり所悪ければ普通は死ぬ)

 

 

574:名無しの転生者 ID:YmTdMiFjg

むしろ吹っ飛ばされるより車の速度によっても死ぬんだよなぁ

 

 

575:名無しの転生者 ID:pzQqpqSYJ

まぁ、特撮世界というか特撮関連の住人はみんな個人差はあれど耐久値カンストしてるし

 

 

576:名無しの転生者 ID:b89jSl3+w

なんだかんだでイッチを心配するし何かあるとすぐに真面目になるこのスレ嫌いじゃないよ

 

 

577:名無しの転生者 ID:fES0/+yTK

ばっ、ばばばばかっ! べ、別に心配なんてしてねぇよ!

 

 

578:名無しの転生者 ID:De6N16hg7

そ、そうだよ! イッチなんてどうでもいいし!

 

 

579:名無しの転生者 ID:4sHlxEvVU

な、何言ってんだよ! ほんと嫌になるわ!

 

 

580:名無しの転生者 ID:fsccKCvQ6

などと言っておりますが、イッチが死にかけた時のことを思い出しましょう

 

 

581:名無しの転生者 ID:WUufLewKM

>>577->>579

お前らのツンデレとか誰得やねん……

 

 

582:名無しの転生者 ID:0Kw2/tVfg

ホモはツンデレだしネットやってるやつもアンチも大抵がツンデレ

 

 

583:名無しの転生者 ID:HOmFw3Lws

特にスレ書き込んでるやつはツンデレやからな……

 

 

584:名無しの転生者 ID:0sTpCO4Ay

いやもうホモどうなってんだよ。便利な言葉と化してんじゃん

 

 

585:名無しの転生者 ID:xrCQfol27

まぁ、結論述べると変態だけど寛容なツンデレやな

 

 

586:名無しの転生者 ID:yfR6jxUXr

>>571

知ってるか? こいつ、まだ全身怪我してるし腹貫かれてからそんな経ってないんだぜ?

 

 

587:名無しの転生者 ID:3z0Z1xzvp

ハッキリ言ってキモイ(褒め言葉)

 

 

588:名無しの転生者 ID:T1VCMhmFp

怪我人の動きじゃないんだよなぁ。はよ治さんとまたビースト来るぞどうせ

 

 

589:名無しの転生者 ID:WHH7TbxAY

ザギさんはグランテラという厄介なコマを失ったとはいえ、近々来そうだしね

 

 

590:名無しの転生者 ID:hsizGn25U

ひえーネクサス怖い。ウルトラシリーズこわい

 

 

591:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

いつ来るか分かればなぁ……まぁ、今はいいよ。日常は謳歌しないと勿体ない。学生だしね。

ほれ

>>620

>>674

 

 

592:名無しの転生者 ID:OR2I2WfYR

ファッ!? おま、二個かよ!?

 

 

593:名無しの転生者 ID:KJq6Ff6/5

意外ッ! それは二個ッ!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタカタ、とパソコンのキーボードを打つ音だけが部室内に響き渡る。

普段は騒がしい勇者部の部室も、今は静けさに包まれていた。友奈と紡絆は飼い猫探しに。紡絆が動けない分、友奈は頑張ると張り切っていたのだ。

そして風と樹は誕生日パーティをしたいけど人手が足りないという依頼のため、そちらへ向かった。

家族であるからか連携力は高く、体力面から考えてその方が良いと判断されたからだろう。

そんな中、東郷美森はパソコンで資料の作成、依頼の確認、返事、情報収集などと言った事務的な活動をしている。足を動かすことが出来ない東郷にとってそれが仕事であり、自分の出来ることだと知っているからこそ全力で応える。

そもそも、それは物凄く大切なことで誰もできないから、というのもあるだろう。

東郷は耳から聞こえる軍艦マーチと一般的に言われる軍艦行進曲、または行進曲『軍艦』と呼ばれる軍歌をイヤホンを付けながら流し、作業していた。

といっても、これは先ほど変えたものだ。作業BGMを聴くこともあるし別のを聴く時もある。結局は気分なのだ。

そんなふうにしばらく作業していると、部室をノックする音と知っている声が聞こえた。

イヤホンを外し、東郷はすぐに返事する。

 

「はい」

 

「あれ、みんなまだ帰ってきてないのか?」

 

そこには勇者部で唯一の男性、継受紡絆が()()()()()()()()()()()状態で入ってくる。

一応払ったのだろうが、大量に着いてしまったせいで取れなくなったのだろう。

紡絆は部室に入ると東郷だけしかいないことを認識すると確認するように聞いてくる。

 

「えぇ、風先輩や樹ちゃんは時間掛かるだろうし友奈ちゃんも張り切ってたからたくさんしてくると思うわ」

 

「……流石に申し訳ないなぁ」

 

紡絆はうっ、と呻き声を出すと自身が怪我をしてるせいで激しい運動を禁止されたため、負担を掛けさせたと思ってるのだろう。

心の底から申し訳なさそうな表情をしていた。

 

「あ、えっと……いつも紡絆くんは頑張ってたんだから、気にしないでいい、のよ?」

 

そういうつもりで言ったわけじゃない東郷は少し言葉に躓きながらもフォローするように言うと紡絆は苦笑した。

 

「いつもはただ好きでやってるだけだからさ。流石にこう、なんと言えばいいのか……落ち着かないんだよ」

 

頬を掻き、どう表現するべきは分からないといった風な表情をしながら答える紡絆に東郷は何処か安心する。

 

「ふふ。紡絆くんは揺らがないわね」

 

そう、東郷の知る継受紡絆は、勇者部が知る彼はいつもこうなのだ。

ただ好きだから、やりたいからしてるだけだと答える。自身が怪我していても、行動出来ないことが落ち着かないのは彼が生まれ持って持った素質、と言えるのかもしれない。

お節介でお人好し、というのが似合う言葉だろう。当の本人はそう言われたら喜ぶと思うが。

だからこそ、東郷は嬉しそうに微笑む。ウルトラマンという力を宿しても変わらない姿に。

 

「俺も結構揺らぐぞ? うどんかラーメン、蕎麦を選べと言われたら選べないほどに」

 

「あら、それならうどんにすればいいじゃない。うどんには様々な種類もあるし麺の太さ、食感、味、コシ、具材、多岐に渡るほどに魅力的な要素は多いわよ?」

 

「いや、なんだかうどんのみに占拠されては行けない気がして……と、邪魔になってないか?」

 

残念ながら、勇者部はうどんに侵略されている。

本当は紡絆の脳裏では今の発言で戦争が勃発してしまったのだが、それを知るのは紡絆と掲示板(ヤツら)だけだろう。

 

「全然平気よ。息抜きも大切だし、他でもない紡絆くんだもの。友奈ちゃんと紡絆くんとの時間は大切だから。みんなとの時間も大切だけど」

 

「そっか……まぁ、邪魔になってないならいいかな」

 

「それより、どうしてそんな汚れてるの?」

 

思ったより雑談をしてしまったが、東郷は聞くタイミングを逃していたことを聞くことにした。

あー、と言いにくそうになった紡絆だが、隠す気はないらしい。

素直に口を開いた。

 

「……小さい子供が泣いてて、おもちゃ探ししてたんだけどおもちゃが車に轢かれそうになってたから、思わずと言った感じで」

 

「あぁ……」

 

それを聞いて、東郷は思わず納得してしまう。

おもちゃは買い直せばいい。しかしそれで納得するかどうかと言われると無理だろう。

大人やある程度成長したならともかく、小さい子にとってそれは宝物に等しいのだから。

それにしたって、怪我人なのに無茶をする姿は例え禁止したところで止められるものではないらしい、と東郷はため息を零した。

 

「え、ええっとほら! ちゃんと子供は笑顔になったし、運転手さんには謝ったし、特に問題があったわけじゃないから! そ、それに禁止はされたけど依頼中走ったりなんて決してしてないしさ!」

 

何を誤解したのか、紡絆は言い訳のように捲し立てていく。

そんな言い訳の中に自身が入っていないのは、東郷が何か相手に迷惑をかけたんじゃないかと思って、ため息を吐いたのだと勘違いしたからだろう。

 

「紡絆くん、私が言いたいのはそっちじゃなくて紡絆くん自身のことよ。怪我も治ってないんだし無茶したら悪化するかもしれないでしょ? 分かってるの?」

 

「うぐ……。それは……ごめん」

 

紡絆自身も自覚はあるのだろう。

言っても反省しないにせよ、謝ることだけはしていた。

 

「……まぁ、今に越したことじゃないけど、気をつけてね?」

 

「あっ、はい……?」

 

それでも、東郷は決して無理に止めようとはしない。

怒られると思ってたのか疑問形を抱く姿があるが、東郷だって彼の善意と厚意に救われた身。

彼の行動はそうやって、本人が知らぬ間にも誰かを助けるのだから。そもそも説教したのに辞めてない時点でお察しである。

 

(それに、そんな紡絆くんは……輝いて見えるし)

 

本来の仕事に戻りつつ、チラッと紡絆を見ると紡絆は飲み物を淹れていた。

紡絆は東郷の視線に一切気づくことはなく、お茶を飲みながら終えた猫の写真を取っている姿がある。

そんな後ろ姿を東郷が見てると、ふと紡絆が東郷を見た。

東郷は見ていたことにバレたのかとドキッとしつつ、パソコンに視線をやる。

紡絆は気にした様子もなく、東郷に近づいていた。

 

「そうだ東郷。明日って確か勇者部の活動はなかったよな?」

 

「え、えぇ。それがどうかしたの?」

 

悟られないように極めて平常を保ちながらパソコンを打っていると確認するように言ってきた紡絆に東郷は答える。

よし、と紡絆は小さく呟くと、ここで彼は予想外の発言をした。

 

「明日一緒に何処かに出かけないか? あ、二人っきりになるから嫌ならいいんだけど」

 

「……えっ?」

 

その瞬間、東郷の手が完全に止まった。

それは、普通の誘い方ではあるだろう。

ただ友達を誘ったという発言ではあるはず。それはいい。

しかし、それなら疑問を抱くのは何故わざわざ予定を聞いて、二人っきり、といったか、だ。

別に東郷だって紡絆と二人っきりで行くことはある。買い物や遊びに行ったり。

だが、いつもは必ずとも()()があったのだ。今回はそれがなく、ただ単に()()()()()()()()()()()()、とも取れる発言。普通の友人に対しては、あまり言う発言ではない。

それなら遊ぼう、とでも買いたいのがある、とでも言えば良いのだから。

だからこそ、東郷の脳内は混乱していた。

 

(ど、どういうこと? どうしてわざわざこのタイミングで? いつもなら友奈ちゃんと帰ってる時や部室内かみんなで帰宅する時にみんなで行こうとか部活の活動のことが多いのに。し、しかも目的もなく、休日に男女で一緒にってことはそれは世間一般でいう---)

 

「あー…いや、ほんと。何処に行こうとかは決めてないんだけど嫌なら嫌で断ってくれても」

 

「いいえ行きましょうっ!」

 

「ウェア!? お、おう……?」

 

様子がおかしい事に気づいたのか、断ってもいいと言おうとしたところで紡絆は変な驚き方をした。

東郷の勢いに若干身を引かせた紡絆だったが、そんな紡絆とは反対に東郷は何処か楽しそうだった。

よく分からない、というように紡絆は首を傾げているが、何だか機嫌が良さそうだと察すると特に何か言うことはしなかったが。

 

(今日帰ったら調べておきましょう。紡絆くんとで、でで---逢い引き…お出かけすることになるなんて。しかも二人っきり……だ、大丈夫かしら? はしたない行動はしないようにしなくっちゃ)

 

「や、やってやったぞ、コンチキショー……」

 

いくら上品な少女に見えても、東郷だって中学生。

学生だし青春を生きる少女だ。

そんな彼女が自身と同性である友奈と同レベルにまで信頼のおける()()()()()に誘われてしまえば、考えてしまうのは仕方がないだろう。

そしてまだ来ぬ明日について考えている東郷には頭を抑えながら小さい声で恨めしそうに紡絆が()()()呟いていたのは聞こえなかった。

例え聞こえていても彼女には分からないだろうが、それは()()に対して、だ。

少なくとも、紡絆は勇者部のみんなが帰ってくるまで無言の空間の中、脳裏で殺意と共に罵倒されまくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

870:名無しの転生者 ID:U4Mu+n1sA

おい誰だよ。あんな安価したやつ

 

 

871:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

お前らだろうが! なんであんな罵倒されなくっちゃいけないんだよ! 一日中やるやつがいるか!?

 

 

872:名無しの転生者 ID:Twa+BkJIr

ここにいるじゃん

 

 

873:名無しの転生者 ID:rVdmoo3Az

美森ちゃんとおじさんもデートしたいなぁ!

 

 

874:名無しの転生者 ID:dndTfMhQZ

安価は……絶対だ。こればかりはもう何も言えねぇ! イッチ、分かってるな? あともう一つもやれよ? 今回は関係ないが

 

 

875:名無しの転生者 ID:gHMTrrJoC

>>873

ダメです。

 

>>871

羨ましいから……というかあれ前回告白言ったやつだろ! 運どうなってんだよ! 今回かなり速かったのに狙ったようにビンゴだったぞおい!

 

 

876:名無しの転生者 ID:wnYEU0l+B

どんだけイッチとくっつけたいんだ……?

 

 

877:名無しの転生者 ID:6bbHA33vh

いや、もしかしたらイッチを調子に乗らせて堕ちるところが見たいのかもしれん

 

 

878:名無しの転生者 ID:KrMw2siqm

愉悦部出身のやつかもしれないな

 

 

879:名無しの転生者 ID:iaSmfSBBu

まぁでも、せっかくなら楽しませろよ。泣かせたり喧嘩させたら今度は三日間罵倒しまくるからな

 

 

880:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

脳壊れるから勘弁してくれ。あくまで友人同士のお出かけでしょ。っと、そろそろ行ってくるわ

 

 

881:名無しの転生者 ID:NG3y26QIy

逝ってこい

 

 

882:名無しの転生者 ID:y0QEHMSNu

こいつ……マジで言ってんのか?

 

 

883:名無しの転生者 ID:CxVMy2DjF

鈍感属性もついてるとかエロゲーの主人公かよ

 

 

884:名無しの転生者 ID:DSI9dOi/I

あの誘い方は絶ッ対誤解してるって。絶対デートだと思ってるって

 

 

885:名無しの転生者 ID:UYq2HcHVP

天然ジゴロはこれだから怖い

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転生者掲示板でやけにボロクソに言われた紡絆は気にした様子がないまま、東郷の家の前で待っていた。

今は掲示板を見てないが、建ててくれるらしいので気にしていない。

そんな彼らにも本当は家じゃなくて現地集合が望ましいとボロクソ言いながら何だかんだで助言されたが、東郷が車椅子のことを考えて集合場所を変えたのだ。

紡絆自身のファッションは、春らしい服装、と言うべきだろう。しかし長袖で少し丈が長い服にしてるが、これは怪我を少しでも隠すためである。

色的には黒と白。正直、カッコつけたりする訳でもなく自然体で普通だ。

ちなみに、エボルトラスターだけは無くさないように大事な収納バックに入れてるし財布もある。

スマホも念の為にあり、準備万端だった。

 

「さて…と。時間はまだまだあるが、どうするか。東郷は厳しいから早く来たんだが……大丈夫か、これ」

 

時間を見れば、まだ一時間前だ。

正直に言うと、現地集合するならともかく、近所だとすぐ着くということを視野に入れてなかったのが原因である。

女性を待たせない、という意味では正しいかもしれないが。

 

「……前世でもこんな大きい家は見たことないんだよな」

 

東郷の家は和風であり、それはもう一般の家より大きい。

見るだけで凄いとしか感想が浮かばないが、正面にいると怪しまれるかもしれないので少し横に移動しながら携帯の時間を確認したり、軽くパズルを落として消すゲームなどして暇を潰していると、引き戸が開かれる。

気づいた瞬間にはスマホを収納し、すぐに紡絆は向かった。

 

「ほら」

 

「え? あっ……ありがとう」

 

「いいって! これくらい全然な」

 

車椅子に乗って引き戸を閉めようとしていたため、大変だろうと引き戸をそっと閉める。

居たことに気づいてなかったのか東郷は驚いたようだ。

東郷が鍵を閉めながらお礼を言うが、紡絆は気にした様子もない。

 

「えっと……待たせちゃったかしら?」

 

「いや、そんなに待ってないから大丈夫」

 

東郷は鍵を閉めた後に鍵をカバンに入れると紡絆と向き合う。

もしかして待っていたのかと気にするような表情をしていたため、紡絆はよくありがちなセリフを言うしかなかった。

 

「それならいいのだけど……」

 

「おう。それに仮に待っていたとしても東郷みたいな綺麗な女の子を待たせるよりかはいいじゃん!」

 

「そ、そう……」

 

照れるように頬を赤める東郷だが、それは紡絆がお世辞でもなく笑顔で言って見せたからだろう。

まぁ、お世辞なしでも間違いなく綺麗に分類されるのだが、紡絆本人は偽りなく真っ直ぐな言葉で吐き出したため、それもあるかもしれない。

 

「それと……うん。似合ってて可愛いと思うぞ?」

 

「も、もう……恥ずかしいわ」

 

恥ずかしそうにする東郷の服装は青と白を基調とした明るめのもので、紡絆には流石に女の子の服についての知識はないので何と呼ばれる服なのかは分からないが、少なくとも似合ってるということだけは分かっていた。

 

「ごめんごめん。じゃ、行こっか」

 

「えぇ…任せて、ちゃんと行き先は決めてきたから!」

 

東郷の後ろに着いて車椅子のハンドルを握ると、一度深呼吸して落ち着いたのか東郷がそう言う。

 

「わざわざ決めてくれたのか……なんかこう、男として立つ瀬がないような」

 

東郷の言葉を聞いて紡絆は苦笑いする。

紡絆も一応としての場所は決めたものの、行きたいところがあるわけじゃないので、男としてはどうなのかと思うだけで特に異論することはないのだが。

 

「あ、なら……また一緒にお出かけするときにお願いしようかしら?」

 

「気にしてないからいいけど……そうだな、今度はちゃんと考えとくよ」

 

いつまた出掛けるかなど分からないが、紡絆は次があるならエスコートしようと心に決めた。

さらっと次も約束してるようなものだが、元々親友という親しい仲にある彼らにとって何かあるというわけではないのだろう。

 

「そういえばやけに大きい荷物を持ってるが、持とうか?」

 

「ううん、自分で持てるわ。ありがとう」

 

「分かった。必要になったらいつでも言ってくれ」

 

東郷が持つのは肩に掛けるタイプの大きいバッグだ。それを膝元に置いており、重たくないか心配した紡絆は善意で持とうか聞いたが、問題ないらしいので気にしないことにした。

仮に持たされたとしても、流石に中身を見るほど非常識でもなければデリカシーがないわけでもないため、特に問題はないのだが東郷には別の理由があるらしい。何故なら、揺れないようにか大切に抱えるように持ってるからだ。

車椅子を押すために後ろに回ってる紡絆は気づくことはないが。

 

「さて、目的地は?」

 

「えっと、実は見たい作品があって……」

 

「なるほど、それなら映画館か? じゃあ……向こう側だな」

 

「そうなるわね」

 

言いたいことを察した紡絆は視線だけを動かすと、東郷自身も頷いた為、目的地を映画館にしながら車椅子を押していく。

走るわけでもなく、普通の速度で。

そして車椅子を押しながら、紡絆は質問をしていく。

 

「時間は大丈夫か? この時期の映画は何があるか調べてないから俺は分からないんだが……」

 

「もちろん、ちゃんと確認してたから大丈夫よ。ただ……その、ちょっと帰りが遅くなっちゃうかも」

 

「なんだ、そんなことか。東郷とその分居れるってことだし楽しいだろうな」

 

「そ、そうね。私も紡絆くんと居るのは楽しいというか……嬉しいし」

 

懸念すべき材料もなくなり、家族が居ない紡絆に門限などないために問題がない。

それどころか、紡絆は前向きに考える。

その前向きな発言が少し問題なのだが、東郷も満更でもなさそうである。

 

「それならよかった。まぁ折角の休日だし問題ないだろう。晴れでよかったなー」

 

駅に向かって進みながら、そう呟く。

今日の予報では一日中晴れだが、天気を見ても雨が降りそうな雲は何処にも見当たらない。

絶好のお出かけ日和、と言える。

 

「雨が降ると色々と大変だものね。大事といえば大事なのだけど……」

 

挙げればキリがないが、洗濯などは困る。

でも雨がなければ他に困る人や困る要素も出てくるので、晴れだけと行かないのが地球という惑星だ。

それでも、折角のお出かけに雨が降るよりは晴れの方が良いはずであり、そのことを紡絆は言ったのだろう。

 

「その辺は(かぜ)の働きによるものだし、流石にどうと言えないな……。けど、こうやって晴れも雨も雲も、今日という日も俺たちがバーテックスと戦って守り切ったからこそ、今があるんだよな」

 

「そうね……そう考えると、良かったって思えるわ。

……無理したことは忘れてないけど?」

 

「うぐ……あ、あははー」

 

痛いところを突かれたというように言葉に詰まるが、紡絆は笑って誤魔化そうとする。

正直誤魔化せてないのだが、東郷はクスッと笑う。紡絆はきょとんと首を傾げていた。

 

「冗談だから」

 

「よ、よかった」

 

東郷の言葉に紡絆はほっと安心する。

また掘り起こされるのでは無いかと思ったのかもしれない。

そんなふうに会話をし、駅まで辿り着けば、駅員の力を借りながら慣れたようにテキパキと行動して乗車し満員ではない電車に乗って、発車した電車から流れる景色を眺める。

香川県の映画館は彼らが住む場所である讃州市---分かりやすくいうと紡絆が持つ前世、または西暦でいう観音寺市にはなく、高松市か綾歌郡しかない。綾歌郡に行くには観音寺駅から直接行ける電車がないため、わざわざ乗換するのは車椅子の東郷も何処か思うところがあるだろう。

それを気遣ってか紡絆は観音寺駅から高松駅に電車での移動を選んでいた。それなら乗り換えすることもなく一時間あれば行けるのだから。

ただし、西暦とは色々と変わっていてその時にあった映画館を含め、全体的に建物がなかったりするものもあるのだが、流石に300年も違うと変わるものである。

---のだが、紡絆は不思議と一株の寂しさを覚える。

 

(四国しかないもんな……)

 

もちろん全員が仕事という訳ではないのもあるが、電車の中を見た紡絆は人の少なさを見てそう思ってしまう。

前世の記憶を思い出した彼からすれば、もっと人が居るものだと知っているからこそ思ったのだろう。

決して満員ほど居て欲しいとは微塵たりとも思ってないが。

気持ちを入れ替え、時々東郷と小声で会話をし、時々一人で考え、時々景色を眺め、そうやって辿り着くまでに時間を潰す。

それはどこか心地悪くなく、不思議と何か思うことがあるわけでもなかった。

唯一思うのとすれば、脳内の掲示板から安価しようぜ、だったり東郷に対して手くらい握れとかもっと気遣えよという指示が飛んでくることくらいだった。

そんなこんなでしばらく経つと、高松駅に着いたので駅員の力を借りて降り、お礼を言いながら車椅子を押しながら歩く。

 

「東郷、疲れてないか? 大丈夫か? 電車で寝てても起こしたぞ?」

 

「ううん、私は大丈夫よ。むしろ紡絆くんの方が疲れてるでしょ?」

 

「いやーそれが全然! スポーツするよりかは全然楽だし、体も動かさなきゃ鈍るしな!」

 

ここから映画館に行くには、徒歩だと40分は最低でも見積もっていていい。本当は映画館に行くには地区が違うのでまた電車で乗り継ぎした方がいいのだが、徒歩で行ける距離なので徒歩を選んだ。

紡絆は元々体力は高く、何よりも東郷のことを思って徒歩を選んでると思っていい。

彼女が車椅子であることを。誰かに迷惑をかけてるんじゃないかと気にしないように。

しかしそれをわざわざ言わないようにしてるが、残念ながら真面目な東郷は経路検索もバッチリなので思い切りバレていたりする。

だからこそ、東郷の顔は紡絆から見えないが、申し訳ないような嬉しいような感情が混ざった表情をしていた。

 

「ま、疲れたりなんかあったら言ってくれ。俺にできることなら何でもするからさ」

 

「……うん」

 

「よーし、じゃあ映画館まで頑張るぞー!」

 

普通の人間なら、それほどかかる時点で少し嫌な表情をするかもしれない。電車かバスに頼るかもしれない。

そもそも気遣うことなんてしないかもしれない。

しかし紡絆は違う。

底なしの明るさを全開にしながら他者を善意100%で気遣いつつ、前向きに考え、心の底から迷惑だとも嫌な気持ちも実際にないのだと感じさせる。それが彼の生粋の性格なのだ。

それはきっと、紡絆に似たような性格を持つ友奈だって同じかもしれない。

例えそのことに東郷が迷惑をかけてると分かっていても、思っていても紡絆は決して気にしないしそうは思わない。

その心遣いがあるからこそ、東郷は彼と安心して過ごせて、不安になることなくこうやって出掛けられる。

紡絆のそういう部分が誰かを無意識に助けて、救って、笑顔を作り出せるのだろう。

少なくとも、東郷は嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩き続けて辿り着いたところは、シネマ。

つまりは映画館。迷うことなく車椅子を押しながら入った紡絆は早速表示された予定表を見て口を開く。

 

「おー、何か映画館って感じ!」

 

「うふふ、映画館だもの」

 

出た語彙力は皆無だった。

まるで純粋な子供のような紡絆に東郷はくすり、と笑いながらも予定表と時間を確認してまだ問題ないと理解する。

 

「えーっと……わ、分からない。どれ見たいんだ?」

 

車椅子を動かし、程々にいる館内を見つつかなりの作品があるのを見て紡絆は首を傾げる。

というよりも、紡絆にはほとんど知ってる作品がない。せいぜい深夜アニメや特撮ヒーローくらいだろうか。

それも二つほどしかないのだが。

 

「これで……その…紡絆くんは興味ないかもしれないけど」

 

気にするように視線を送られると、紡絆はきょとんとしながら画面を覗き込む。

大丈夫だと頷きつつ、タイトルを見てスマホで検索してみた。

 

(あぁ……日露戦争、それも日本海海戦の話を描いた映画なのか。確かに軍艦については全然知らないけど、掲示板はやけに詳しい人いるな……丁字戦法がうんたらかんたら。一応前世の記憶によると日本の勝利、だったっけ? 史実通りかは分からないけど)

 

あらすじを読んでみると、どうやら日本海海戦を元にしたドラマらしく、感想ではドラマというよりは艦隊戦をメインに書かれているようで評価が高いようだ。

どうやら戦闘の方に気合を入れたようである。

 

「東郷が好きそうな作品だなぁ。ま、一緒に見てみよう。例え分からなくても映画を一緒に見たら感想は言い合えるし、用語などは調べたり……東郷に聞いたら教えて貰えそうだからな」

 

「……! えぇ、いくらでも聞いてちょうだい!」

 

「おう!」

 

機嫌が良さそうになったのを見て、紡絆はただ微笑む。

見る作品は中学生向けではないが、子供のように何処かソワソワする姿は控えめに言っても可愛らしいだろう。

普段とのギャップがあって、印象が変わる。

 

「入場まではちょっと時間あるし、パンフレットとか見てみるか?」

 

「確かに売り切れたりするかもしれないものね……見ておきたいわ」

 

「了解っと」

 

チケットも購入したため、グッズがある場所へ移動する。

色々なグッズもあって、それだけで楽しめるかもしれない。パンフレットを見てもどんな感じなのか想像させるような表紙だが、彼ら(掲示板)曰く戦艦である三笠が表紙になっているパンフレットがそれ、らしい。

紡絆には全く分からなかった。東郷は目を輝かせていたので、理解しているらしい。

 

「……まぁ、いっか!」

 

そして紡絆は諦めた。

文句を言われているが意識外へ持っていき、ただ東郷の姿を眺めながら車椅子を押す仕事をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

映画の内容は至って特に改変もなく、史実通り日本の勝利。

内容を軽く纏めるならば日本海海戦とは、1905年、5月27日から5月28日にかけて、大日本帝国海軍の連合艦隊とロシア海軍の第2・第3太平洋艦隊との間で行われた海戦である。

ロシア軍の艦隊をバルト艦隊、「バルチック艦隊」と呼べば有名で分かりやすいと思うが、最強とされた艦隊の名前だ。

主な艦は前弩級(ぜんどきゅう)戦艦スワロフ、インペラートル・アレクサンドル三世、ボロジノ、アリョール、オスラービア、シソイ・ウェリーキ、ナワーリン、ニコライ一世、装甲巡洋艦であるナヒーモフ、ドミトリードンスコイ、モノマーフ、海防艦であるゲネラル・アドミラル・アプラクシン、アドミラル・セニャーウィン、アドミラル・ウシャーコフ、それから旅順艦隊とウラジオ艦隊。

それがロシアの戦艦8隻、海防戦艦3隻、装甲巡洋艦3隻、巡洋艦6隻で他全38隻だ。

一方で日本の戦艦は三笠、富士、八島、敷島、朝日、初瀬。装甲巡洋艦の八雲、吾妻(あずま)、浅間、常磐、出雲、磐手(いわて/いはて)、日清、春日だ。

戦力としては戦艦4隻、装甲巡洋艦8隻、巡洋艦15隻、他全108隻である。

一から語ると大変なためにどういう戦いかざっくりカットして言うならば、結果は日本の勝利である。

勝利となった要因は、ひとつ、指揮能力。

最前線で敵の動向に瞬時に対応する陣頭指揮を行いつつ、速やかな指揮権継承を保障するなどの指揮をとったこと。

旅順封鎖の期間中も演習を行い、十分に艦隊の練度を上げていたこと。

直前の黄海海戦(こうかいかいせん)などの戦闘経験と、その勝利によって士気も高かったこと。

また、黄海海戦(こうかいかいせん)の教訓を十分に活かしたこと。複数の艦を同時に自由に反転させるなどの様々な艦隊運動を思いのままに行うことができたのもあり、逃げ回るバルチック艦隊の風上に常に回り込み、艦隊を維持しながら砲撃を加え続けることができたこと。

もうひとつは、戦術。

七段構えの戦法と呼ばれる参謀が立てた迎撃作戦計画が上手くいったこと。

高速近距離射法と呼ばれる駆逐艦や魚雷艇で敵艦に全力で接近して行う魚雷夜間攻撃法が成功したことによったトドメの打撃を与えたこと。

 

つまり、より分かりやすくいえば七段構えの戦法の中に入っている第二段、艦隊の全力を挙げて、敵主力部隊を砲雷撃により決戦。丁字戦法(ていじせんぽう)が行われ、第三・四段の昼間決戦のあった夜、再び駆逐隊・水雷艇隊の全力で、敵艦隊を奇襲雷撃。高速近距離射法が行われたことによる成功が原因だ。

もちろん、他にも色々とあるが、主には前述の七段構えの戦法と指揮力、気象が一番の要因といえる。

それが成功したのも、一重に最新鋭で最も装甲の厚かった三笠に集中攻撃を被弾させることで他艦に被害を及ばさないことにし、万一三笠が大破しても丁字の状態を完成させることを最優先としたところも大きいだろう。

後は丁字戦法(ていじせんぽう)とは文字通りの『T』を作ること。

側面から撃つ方が砲撃は撃てるからであり、日本側は『一』の方向だったからだ。

といっても、日本海海戦では意見が分かれており、斜めの『イ』であったと言われているのだが。

 

とまあ、海戦当日の気象は、「天気晴朗ナレドモ浪高シ」とされていたように、風が強く波が高く、日本側の回り込みによって風下に立たされたバルチック艦隊は、向かい風のために砲撃の命中率がさらに低くなったので不利なのもあったと思われる。

実際にロシアの司令長官は航海経験が有るため、「ロシア艦隊が台風の直撃を受けたら、戦わずして過半の喪失もあり得る」と認識しており、台風の直撃を受けにくい対馬海峡を突破する航路を決断したのも一因となっただろう。

 

これが、史実。そして史実通りに映画も作られており、艦は水雷艇3隻の沈没のみが日本の損害だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど、わからん!」

 

そして、紡絆は全く理解出来なかった。

そもそも軍艦がどうであれ、勝ったのか、くらいにか思えないだろう。

理解するのは難しく、紡絆は脳裏でも説明を受けていたが投げ出した。

 

「けど……見て良かったとは思うな。色々と派手だったし、映画ならではの演出だった」

 

「そうね。砲撃や魚雷、映写幕が大きいのもあって見応えも良くって、それから三笠のあの雄姿! あれほどの集中砲火を受けてもなお勇敢に戦い、生き残って見せた姿はとてもカッコ良かったわ! ちなみに敷島型戦艦の四番艦三笠は旧世紀、昭和の時代に作られた前弩級戦艦で排水量は15,140トン、全長は131.7mで最大幅23.2m。吃水(きっすい)は8.3m機関は15,000馬力で速力は18ノット! 航続距離は10ノットで7,000海里---つまり約13,000kmも可能なの! 兵装は---」

 

(あ、これスイッチ入ったな)

 

何が何やら分からない紡絆は諦めつつ苦笑いしながらも仲間たち(掲示板)に頼りながら必死に何か理解していく。

が、主砲 40口径30.5センチ連装砲2基4門な副砲 40口径15.2センチ単装砲14門とか言われても強いのかどうかすら分からないために徐々理解するのを諦めかけている。

それどころか、次々と東郷が装甲はKC装甲鋼板(クルップ鋼)舷側(げんそく):9in(228.6mm)-4in(101.6mm)KC鋼、甲板(かんぱん):3in(76.2mm)-2in(50.8mm)砲塔:14in(355.6mm)-8in(203.2mm)砲郭(ほうかく):6in(152.4mm)-2in(50.8mmを使っているなどと言い出してついにキャパオーバー。

二重攻撃によって頭が真っ白になり、頭を抑える。

 

「それで他にも活躍が……あっ」

 

「う、うえぇ……クルップ鋼ってなんだ……ん? どうした?」

 

もはや語っていた東郷の言葉など理解出来てなく、紡絆はひたすら知らない金属について考えてたら突然何処か暗い面持ちになった東郷に疑問を抱いて聞く。

ちなみにクルップ鋼とはニッケルとクロムを配合した合金鋼の表面に浸炭(しんたん)焼き入れをして強度を増した装甲板のことである。

 

「う、ううんなんでもないの」

 

「そうか? んー……ならいいけど」

 

紡絆は訝しそうに見つめるが、本当にそこまで気にしてるようなことではなさそうだったので素直に信じることにした。

それよりも知恵熱でも出たのではないかというくらい頭が痛いので、深く追及をしない。

 

(どうしてだろう……。こんな話をするのが()()()()と感じたのは……?)

 

俯きながら、東郷は自問する。

途中で止まった理由は、そんなことを思った理由は彼女も分からなくて、彼も分からないだろう。何故かは分からず、ただ疑問を抱きながらも東郷は気のせいだと思い込むことにした。

そして、すぐに思考が切り替わる出来事が起きる。

ぐぅーっとお腹の虫が鳴るような音が聞こえたのだ。

ふと顔を上げてみれば、紡絆が少し元気をなくしていた。もしかして、と思うと、紡絆が口を開く。

 

「……腹減った」

 

「もう昼過ぎたものね……遅くなったけどお昼にしましょうか」

 

「しゃー!」

 

その言葉を待っていたと言うように嬉しそうに喜ぶ紡絆。

どうやら、お腹が空いて元気を少し無くしてしまったらしい。

そんな紡絆を見ながら、東郷はさっきのことを一瞬考えて見ても、何とも思わなかったので気のせいだと納得する。

---少しの蟠り(わだかまり)を残しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけで、外。

駅の近くの公園まで辿り着いた東郷と紡絆だが、紡絆は店に行かなかった理由が分からないままだった。

一応すぐ帰れるようにと落ち着ける場所を探してここにしたのだが、肝心のご飯がなくて空腹を抑えるので精一杯な様子。

その公園の木陰広場には芝生があり、ピクニックに来てる人もいる。普通に休んでる人や遊ぶ人も。家族連れの人も居て、空腹はあるが、その光景を見て紡絆は少しほっこりしていた。

 

「ここでいいのか?」

 

「うん、お願い」

 

言われた通りに車椅子を止めると、受け取ったレジャーシートを芝生の上に敷いていく。

人が二人座っても問題ないほどの大きさのシートであり、紡絆はただ言われたままに敷き終え、しっかりと伸ばした際に折れたところを真っ直ぐに戻して整えていた。

その間に東郷はゆっくりと車椅子から降りており、紡絆は慌てて手伝おうとするが、東郷が大丈夫というように首を横に振ったので従う。

 

「ほら、座って?」

 

「じゃあ失礼して」

 

ぽんぽんと女の子座りする東郷の隣に紡絆は靴を脱いで座る。

そんなふうに紡絆と東郷が座っていてもまだ余裕はあるようで、紡絆はリラックスするように息を吐いた。

そんな紡絆を見て微笑を浮かべた東郷はカバンから何かを取りだし、それを広げた。

 

「紡絆くん。実はね、お弁当作ってきたの」

 

「お、おぉ……だからカバン大きかったし、店で食べなかったのか」

 

「えぇ。是非食べて欲しくて」

 

広げられた弁当箱は重箱の三段あるもので、おにぎり、タコさんウインナー、唐揚げ、厚焼き玉子、ブロッコリー、トマトにきゅうりやアスパラガスが入っている肉巻き、焼売といったしっかりと彩りを大切にしていると分かる重箱だった。

それに驚きながらも、紡絆は納得する。そして、再び腹の虫が鳴っていた。

 

「美味そうだな……食べてもいいのか?」

 

「もちろん、そのために作ってきたのよ?」

 

「なら……いただきま〜す」

 

手を除菌シートで拭き、手を合わせた紡絆はおにぎりを一つ取り、ゴクリと喉を鳴らせる。

じーっと見つめ、我慢できないというように一口かぶりついた。

 

「ど、どう……かしら……?」

 

「……。……っ! ……! ………〜〜っ!」

 

少し不安そうな表情で紡絆を見る東郷。

紡絆は口に含んだおにぎりを咀嚼し---目をカッと見開くと厚焼き玉子と唐揚げを口に含み、おにぎりを一気に食べる。

しかし紡絆の頬がリスのように膨らむと、涙目になっていた。

 

「つ、紡絆くん!? だ、大丈夫!? もしかしてダメだった!?」

 

「んーっ! むぐ……! むぐぐ、もぐもぐ……!」

 

「な、何? ごめんなさい、分からないわ」

 

紡絆は涙目になったまま何かを伝えたいのか咀嚼しながらこくこくと頷いたり胸を叩いたりする。

が、流石に東郷もどういうことか分からないらしい。

 

「んぐ……ごっくん……。はぁ〜っ! いやごめん。本当に止まんないくらい美味い! こんな家庭的で美味しいご飯作れるなんて東郷は絶対良いお嫁さんになれると思う。いいや、俺が断言するッ!」

 

「へっ!? ほ、ほんと?」

 

何の権利があって断言しているのかは定かではないが、どうやら美味しくて止まらなかったせいで喋れなかったらしい。

実際に紡絆は目を若干輝かせながら次はどれを食べようか迷っていた。

そして次の獲物を探しつつ、頬を赤めてる東郷の言葉に紡絆は頷く。

 

「うん、絶対。東郷のご飯は何度か食べてきたけど、今日が一番な気がする。その時も美味しかったんだけど、今日はまた一層美味しい……かな?」

 

「よ、よかった。実は……その、今日のは自信作だったの」

 

「なるへほ……はむ。納得。んぐ、幾らでも食えそうなもぐ、くらいにむぐ、美味い……! 果たしてこんなの、もぐ。俺だけむぐむぐ。食べて---」

 

顔を赤くしている東郷に気づかないまま、目の前の弁当に夢中になった紡絆はついに喋る時だけは口を抑えつつ食べ始めた。

どうやら休むことなく食べるほど、美味しいのだろう。

それに家ではなく、このような自然溢れる外で食べるご飯がまたより美味しさを感じさせるのかもしれない。

 

「もう……喋る時は口の中が無くなってからよ?」

 

「ふぁーい……!」

 

注意してもなお、食べるのをやめない紡絆を見ていると、料理を作った甲斐があると言えるだろう。

東郷は優しそうな、それでいて嬉しそうに紡絆を見ながら自身も食べていく。

余程お腹が空いているのか、紡絆の食べる速度は早いが、しっかりと噛むようにはしているらしい。それに食べてばかりではなく、おにぎりの中身が違うことに驚いたり、味付けが好みだということを伝えたりなど、東郷にお礼を言いながらも味について感想を伝えていた。

紡絆からの感想はどれも高評価で、むしろ褒めすぎるほどだ。

そんなふうに互いに弁当を食べていき、途中で完全に喉に詰まって苦しそうになった紡絆の姿に東郷が慌ててお茶と背中を摩る出来事が起きたくらいで他は特に何も無く、無事に食べ終えた。

 

「ふぅ……ご馳走様。本当に東郷の料理って美味いよなー。毎日食べたいくらいになるほどだし!」

 

「ご馳走様でした。そ、そこまでではないわ……」

 

「そうかなぁ……俺なら絶対飽きないけど」

 

重箱を片付けながら謙遜するような言葉を吐く東郷に紡絆は手伝いつつ首を傾けながら言うが、世間一般でいう告白に近い言葉を吐いてることに気づいているのだろうか。

いや、無自覚だろう。東郷もそれは気づいているのか本気にはしていないようだが、満更では無い様子。

 

「こ、こほん。そんなに褒めたってこれしか出せませんっ!」

 

「お、おー……あれ、これは?」

 

褒めちぎる紡絆に対して、若干顔が赤いまま誤魔化すように新しく取り出した容器。

さっきよりかは大きくはないが、今度も一体何なのか想像が付かないらしく、紡絆は興味津々に見つめる。

そんな紡絆を気にせず、東郷は容器の中身を開けた。

 

「紡絆くん。あの時約束したでしょ? 戦いが終わったらぼた餅食べさせてって。その約束」

 

「……あぁ、覚えてくれてたんだ」

 

そう、その中身はぼた餅。

ただ紡絆の腹もそれなりに満たされると分かっていたのか三個のみで、紡絆は照れ隠すように後頭部を軽く掻いていた。

 

「無事とは言えないけど……ちゃんと帰ってきてくれたんだもの。だから約束を守ってくれたお礼」

 

「それなら……有難く頂くかな」

 

「ふふ、はい」

 

容器を笑顔を浮かべながら差し出してくる東郷に紡絆は手を伸ばしてぼた餅を一つ掴み取り、一口食べると笑顔になる。

うん、と頷きながら流石に餅なのでパクパクと行かず、ゆっくりと食べていた。

 

(……一応、誘ったのは安価とはいえあんな目の前で血を吐いて出しまくったからその詫びも兼ねてたんだが、返せなくなりそうだなぁ)

 

ぼた餅を食べながら紡絆はそんなことを思っていた。

彼が一切デートと思っていない理由は、間違いなくそれなのだが、声に出していないので東郷には分からないだろう。

なお、実は周りの人からは成り立てのカップルがデートしていると思われていたことは二人は一切知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして再び電車に乗り、既に夕焼けとなっていることからもう17時は過ぎているのだろう。

無事に戻ってきた紡絆は東郷の車椅子を押しながら、帰宅するための道を歩んでいた。

 

「今日は楽しかったーっ! なによりご飯美味しかったし!」

 

「そんなに言われると照れるわ。食べたければいつでも作るし……

 

「東郷?」

 

「な、なんでもないから気にしないで」

 

「……? そっか」

 

流石に聞こえなかった紡絆は聞き返そうか悩んだか、何だか俯いていた東郷がそんな様子じゃないので素直に口を閉じる。

ただ自分たちがよく通る道を歩きながら、陽に照らされる。

特に会話がなくとも、居心地は変わらない。どちらかといえば、良いと言えるだろう。

そこでふと、紡絆が口を開く。

 

「……別に勇者部の活動をするのも好きだけど、こうやって次はみんなと出掛けるのもいいかもしれないな」

 

「そうね。今度は友奈ちゃんや風先輩、樹ちゃんとも一緒にお出かけるのも悪くないわ」

 

「うん、だな! きっと今よりも楽しくなると思うぞ〜!」

 

二人で十分楽しかったならば、親しいメンバー全員ならばもっと楽しくなるだろう。

それを思って、紡絆は言ったのだ。それは東郷も同じ気持ちらしく、同調していた。

そんな、いつかのことを考えながら帰り道を歩いていると、二人の家が見える。

どうやらいつの間に帰ってきていたらしい。

 

「お、何だか帰ってきた感じがする」

 

「それはもう帰ってきてるからじゃないかしら?」

 

「本当だ」

 

他愛もない、本当にただ自然。

そんな会話なのにも関わらず、東郷は思わず笑ってしまう。変に気取るよりも、良いのだろう。

少なくとも東郷にはここに引っ越して来た当時では考えられないくらい、今はお役目以外の、日常での不安は一切なかった。

 

(それも……友奈ちゃんと紡絆くんのお陰ね)

 

こっそりと東郷が視線を紡絆に向ければ、紡絆は口角を上げたまま前を向いていて、普段通りだ。

疲れている様子なんて全くなく、これで怪我人なのだから逆にびっくりしてしまう。

 

(……本当に、初めて会った時から変わらない。紡絆くんには私と違って記憶が無いのに、誰かに優しくできる。きっとみんなそこに惹かれていくのね)

 

自分が惹かれたように、彼の優しさに触れて、彼の温かさに触れて、彼に助けられて、笑顔を見て、救われるのだろう、と東郷は考えた。

もしかしたら、彼に惹かれるだけでなく---流石に続く言葉や考えた言葉を本人に言うのは恥ずかしくて言えないのだが、紡絆は視線に気づいている様子はなかった。

それどころか、ころころと表情を変えていて面白い状況となっている。

 

(何を考えていたらそんな変わるのかしら……でも、ちょっと得した気分)

 

東郷は知らないだろうが、表情がころころ変わっている理由は脳裏でぐっちゃぐちゃ言われているからである。

達観したような表情になった紡絆はそのまま歩き続け、東郷はバレないうちに見つめるのをやめていた。

 

「よっし、ゴール!」

 

「お疲れ様、紡絆くん。ここまでありがとう」

 

「いやいや、全然大丈夫だって! まだまだ余裕あるし!」

 

玄関前まで連れてきてくれた紡絆に労りの言葉とお礼を述べると、予想通り返ってきた答え。

 

「今日は私も楽しかった。一緒に行けてよかったわ」

 

「ん、俺も分からないことはあったが、それは同感だな」

 

分からないことというのは、間違いなく説明されまくった三笠についてだろう。

オーバーヒートした後、既に紡絆は記憶から消去していた。

 

「なら良かった。勇者部も活動も……お役目も頑張りましょう」

 

「もちろん! それじゃあ、はい」

 

「…えっ?」

 

東郷が安心したように微笑むと、紡絆も笑顔を浮かべながら頷き、帰る前にと袋を渡した。

目をぱちぱちと瞬きしながら袋と紡絆を交互に見る東郷に、なんと言えばいいのか分からなそうな紡絆。

 

「弁当に比べたら大したもんじゃないけど、お礼ということで。いや、ほんと要らなかったら処分していいから。じゃ、次は勇者部の活動で!」

 

比べるのも失礼なのでは、と考えつつも紡絆は渡したものは渡したからか、背を向けて体を伸ばしつつ歩きながら敷地内から出て帰って行った。

その背中を見ながら、東郷は受け取った袋の中身を取り出して見てみる。

 

「………」

 

入っていたのは、見た映画のパンフレット。

そして、紡絆は分からないようだが、戦艦である三笠が描かれたマグカップ。

間違いなく、しっかりと精密に描かれた船のそれは中学生からしたらかなりの額を支払っただろう。

確かに東郷の作ってきた料理の原材料から含めて全て考えると値段はマグカップ以上かもしれないが、別に料理は全ての材料を詰め込んだわけでも全ての調味料など使ったわけでもないのだからはっきり言うと、そこまで金はかかっていない。

それに第一、異性であって親友と思っている、わざわざ休日に二人っきりで出掛けるような異性からもらったものをあっさりと手放すと思っているのだろうか。

そもそも東郷の性格からして、貰ったものを捨てるなど彼女を知るものなら考えられない。否---

 

「……もう。絶対に、大切にするから」

 

そのマグカップを両手で包み込むように大切に抱える彼女を見て、捨てるように見えるものがいるならば間違いなく大馬鹿に違いない---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
色々やらかしてるやつ。でもしっかり褒めれて気遣える。
彼からしたら誘ったのは安価とお詫び。
何気にウルトラシリーズでは珍しい身体能力強化有り

〇東郷さん
デートだと思いつつ、楽しんでた子。
何やら艦についての話で似たようなことがあったらしいが…?
ちなみに弁当は紡絆がぼた餅を食べれる量に調整してるので多分胃袋掴んでる。
紡絆くんと友奈ちゃんの事故は間違いなく確信犯。
仕方がないね

〇友奈ちゃん
事故とはいえ紡絆くんに押し倒されて思考停止したが、自分が悪いことも自覚していた。
仕方がないね

〇風先輩
紡絆の参加についてしっかり考えられる辺り部長。
紡絆が友奈を押し倒したところは流石に気まずい。
仕方がないね

〇樹ちゃん
上に同じ。
たまに毒を吐くし、今回は紡絆に冷たい視線を送っていた。
仕方がないね、

〇エボルトラスター
ヤンデレ説

〇転生者掲示板
ツンデレと変態とホモと嫉妬深い童貞など、とにかくふざける集団。基本的にイッチ(紡絆)に対して辛辣。
が、真面目な時は心配するし真剣になる。普段とのギャップがすごいヤツら。
たまに他のウルトラマンはいる

▼日本海海戦
多分あってます。途中から頭痛くなった。

▼質問
Q.他トラマン

A.ウルティノイド組は全員出ます。本編中ではネクサスと過去編でネクスト(アレ)です。
ただ終了後は出すかも?
紡絆の宇宙出なくともゼロ師匠やオーブ、エックス、ゼット辺りなら行けるのでは?→後に無理な真の理由は出ますたぶん


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「-料理練習-クッキングプラクティス」

突然ですがちょっと謝罪を……第一話見てみたら、人形劇(原作開始)が4月24日(日曜日)、26日(火曜日)にバーテックス襲来、27日(水曜日)に連戦なんですよ。はい本作五日も紡絆くんがすやぁしてたので分かる人には分かるガバです。それの回収話となります…。
あ、ちなみに深夜テンションで書いちゃったんでふざけたことをお許しください。前回汚くなったのも同じ理由でした。今回は健全です。




 

 

◆◆◆

 

 第 10 話 

 

-料理練習-クッキングプラクティス

 

×××

 

日常編その①

犬吠埼樹編

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

紡絆の傷はだいぶ良くなったのか包帯は取れており、腹部以外は完治していた。

元々前日でかなり回復していたので、一応付けていただけだ。

それがもう包帯を取っていいレベルまでになり、見たら怪我もなかったから取ったのだろう。

というより、腹部以外は正直軽傷だった。

だからこそ重傷だった腹部はまだ流石に再生に時間はかかっているものの、激しく動く運動系など許可された紡絆はそれはもうハイテンションだ。

 

「完・全・復・活ッ!」

 

「よかったね〜」

 

「おめでとう、紡絆くん」

 

「まだ完治したわけじゃないんだから、無理は程々にしなさいよ?」

 

「でも本当によかったですね」

 

勝手に治ったような発言をしたが、風に指摘されて目を逸らした紡絆が居たものの、みんなにお礼を言ってからひとつ咳払い。

 

「よし、それで今日の勇者部の活動は---」

 

「ちょ、ちょっとそれ私の仕事なんだけど!? まさかの乗っ取り!? 反乱分子め!」

 

「ふはは! 何も言わない風先輩が悪い! よって今日の仕事は貰ったッ!」

 

「ええい、させるか! 私の女子力を味わえぇ!」

 

「甘い! 牛鬼シールド!」

 

普通は部長がやるはずの部活を始める号令しようとしたところで、風が止めに入る。

悪役ムーブし出した紡絆に女子力という名の物理を始めた風だが、紡絆は両手で抱えた牛鬼を使いながら捌く。

上手く捌けているその姿は、まさしくウルトラマンとして戦ったお陰だろう。技術の無駄遣いともいう。

 

「最初に比べてもうないねー」

 

「えぇ、ここまで減ると問題なさそうね」

 

二人が攻防し続けているのを放っておき、友奈と東郷、樹は三人で集まって依頼書の確認などしていた。

以前まで強化月間だったのもあり、飼い猫探しは新しくきた片手で数えれる程度の数件くらいだ。

 

「他の依頼はまだまだありますからね……私も頑張ります!」

 

樹は両手ガッツポーズを胸元で作りながらそう言い、友奈と東郷は笑顔で頷いた。

 

「あ、そういえばあたし職員室に行かなくちゃ行けないのよね。忘れていたわ」

 

「そ、そうですか。じゃ早くやめましょう」

 

そう言ったのは、身動き一つ取れなくなった紡絆である。

流石に牛鬼を持ちながらだと両手が塞がってるからか、今にもやられそうな紡絆はすぐさまやめる提案をする。

足を動かせばいいのではという話もあるかもしれないが、今の状況は風が紡絆に跨った状態で悪人顔だ。

今にも擽るために両手を近づけていたところだったのである。

明らかに紡絆の敗北だが、むしろ牛鬼を両手で抱えながら決して落とさないように捌いていた紡絆は奮闘した方だろう。何気に自身の手を食らう精霊すら大切に扱う彼の優しさが裏目に出ていた、とも言えるが。

 

「まぁ、今回ばかりは勘弁してあげるわ。自身の幸運に感謝しなさい」

 

「くっ……重い」

 

「あ゛あ゛ん゛っ゛!?」

 

強キャラのようなセリフを吐いた風だったが、何も言わなければ無事に解放されていた紡絆。

だが、跨がっている風が聞けば……というか間違いなく女子にとっての禁句と思っていいことを言ってしまい、風からドスの効いた声が発せられた。

 

「あ、いや冗談です女子力が重たいという意味で決して風先輩が色んな意味で重たいわけじゃというかそれはうどん食べすぎるからなのでは---あぎゃあああああああぁぁ!?」

 

しかも最後の最後で普通に冗談ということにしておけば良かったはずなのに紡絆は自ら自滅し、半ギレした風は擽りではなく頭をグリグリして紡絆は力尽きた。

やはり勇者部の部長には敵わないらしい。

風は不機嫌そうにしながら、鼻で笑った。

 

「ふんっ。自業自得よ」

 

「ご、ごめんなさい……いやほんと、風先輩は綺麗でスタイルも良くて素敵だと思います……」

 

「や、やっぱりそう見える? まったく、最初からそう言いなさいよ素直じゃないわね〜」

 

風は不機嫌だったはずが、一転して頬を赤めながら機嫌が良くなる。

勇者部の部長はちょろかった。

 

「友奈ー、東郷ー、樹ー。このバカが何かしないように監視しておいて。あたしはちょっと先生に頼まれてるから」

 

「うん、分かった。頑張ってね、お姉ちゃん」

 

「はーい!」

 

「お任せ下さい風先輩」

 

頼れる勇者部のメンバーを見ながら、風は部室から出ていく。

今の発言の中で、誰も紡絆を擁護しなかったのは彼の栄誉のために気のせいだと思っておいた方がいいかもしれない。

 

「よっ、と。クソっ! 両手さえ……使えればッ!」

 

手を使うことなく起き上がるという手を使わない跳ね起きは一般人からすると難しいのだが、あっさりと行った紡絆は電気ネズミのように肩に牛鬼を置き、友奈たちに合流する。

一応言っておくと、牛鬼は彼の精霊ではないし前提として持っていない。

それに本来は精霊とは勇者適正もない一般人には見えない存在である。

まぁ、言わずもがな彼も一般人ではないのだが。

 

「今日はどうする?」

 

「やはりここは俺がえr---」

 

「紡絆くんが選ぶとほとんど自分だけにしそうだからダメよ」

 

「なんでバレてるんだ……」

 

友奈が聞いたのは、どんな依頼にするか、だろう。

流石にやりたくても全て出来るわけではないので、少しずつしか出来ない。

だからこそ紡絆が選ぼうと言おうとしたのだが、残念ながら東郷の言葉が的を得てていたようで拒否された。

若干気を落とした紡絆だが、そこで樹が何処かそわそわしていることに気づいた。

 

「樹ちゃん。と……どうしたんだ?」

 

「何かあったの?」

 

様子が可笑しいことに一番早く気づいた紡絆が聞くと、友奈や東郷も気づいたようで優しげな視線を送りながら、心配するような様子を見せている。

 

「えっと……その、実は皆さんに相談したいことがあるんです」

 

「このタイミングってことは、風先輩に聞かれたくないこと? 予想するなら……彼氏? 彼氏!?」

 

わざわざ風が居なくなったタイミングで聞いたことから紡絆は予想を立てようとするが、脳内(彼ら)の単語が思わず口に出てしまい、驚く。

紡絆はそんな発想に至ることはなかったため、驚いたのである。

 

「え!? 樹ちゃんに彼氏!?」

 

「なるほど……どうやって秘密にするか考えてるのね? 確かに姉である風先輩からすると黙っていられない案件---」

 

「ち、違います違います! もう、紡絆先輩も変なこと言わないでください!」

 

「い、いやごめん……」

 

全員が誤解しかけていたが、慌てて否定する樹の言葉に完全に誤解されることはなかった。

しかし紡絆も紡絆である意味被害者なのだが、この場では紡絆が悪いようにしか見えない。

 

「そうなんだ。驚いたよ〜」

 

「……それどころか全くそんな影すらありませんから」

 

「だ、大丈夫よ樹ちゃん。私たちにもいないから……」

 

「ちょ、あの……マジでごめんなさい!」

 

何故かダメージを負い出したのを見て紡絆が逆に慌てる。

唯一の救いは目を丸くしながらこてんと首を傾げる友奈くらいだろうか。

 

(というか、俺と違ってみんな容姿が良いからモテると思うけどなー性格も良いし)

 

自身のことを棚にあげている紡絆だが、実際に勇者部は総じて容姿も良ければ性格も良い。

なぜモテないのか謎なくらいだが、きっと彼女たちのようなボランティア精神を持つ人たちは近寄り難いのかもしれない。

 

「そ、それで樹ちゃん。本当の相談はなんだ?」

 

「そ、そうでしたっ。実はお姉ちゃんの誕生日が過ぎちゃってて、まだ何も出来てないんです……!」

 

「「「あっ……そうだった(じゃん)!」」」

 

樹に言われ、全員が気づく。

風の誕生日は、5月1日の日曜日。

そして今日は木曜日の5月5日。4月は31日がないことから、4日も過ぎてしまっていた。

 

「あれ、でもいつの間にそんな時期に? 俺、まだ4月27日だと思ってたんだけど」

 

「そ、それは紡絆先輩は……大怪我してましたから」

 

「あぁ、だからふとした時の日付感覚が可笑しいわけだ」

 

納得、というように頷く紡絆だが、彼はビーストと闇の巨人、バーテックスとの激闘後五日間眠ったままだった人間だ。

なのだから、感覚的にまだまだと思っていたのだろう。仮に無事だったなら、気づいていたかもしれないが。

 

「で、でもそれなら、ちょっと遅めのお誕生日会開こうよ! お祝いされるのとされないのじゃ違うと思うし!」

 

「そうね。風先輩って自分のことになると消極的になること失念していたわ……でも、短期間で何のプレゼントを用意するか……」

 

「え、女子力しかなくない? 俺、風先輩が好きそうなものとかうどんと女子力しか思いつかないんだけど……樹ちゃんは何か分かる?」

 

「え、あ……それとなく聞いてみたんですけど、何もいらないと……」

 

「まったく、言ってくれたら祝ったのにさ。いや俺が眠ってたせいだろうけど、それでも自分のことを大切にしろよあの人」

 

気がつけば話が進んでおり、樹は混乱しながら答える。

しかし紡絆の発言を聞いた瞬間、紡絆にみんなの視線が集まった。

思わずきょとんとする紡絆だが、間違いなくブーメランであり、何気に紡絆が眠っていたせいというのは正解だったりもする。

 

「と、というか、皆さんもお祝いしてくれるんですか? 過ぎちゃってますけど、本当はプレゼントの相談をしようかと……」

 

話題を切り替えるように、樹はただ疑問をぶつける。

どうやら本当は風の誕生日会のことではなく、誕生日プレゼントについて相談したかったらしい。

それだというのにいつの間にかみんなで祝うような空気になっており、その答えは---

 

「当たり前だろ? 風先輩には……何度かKOされてるけどお世話になってるし、大切な仲間だ! 祝うことは普通!」

 

「うんうん、私たちも風先輩には感謝してるからね! 風先輩が勇者部を作ってくれたから今があるんだし!」

 

「その通り。だから私たちもお祝いするわ。水臭いじゃない」

 

「皆さん……」

 

紡絆に関しては自業自得なものの、彼や彼女たちが大切に思っている気持ちに嘘はない。

母や父がなくなってからはずっと一人で祝ってきた樹は、いつの間にか姉の周りには大事に想ってくれる人が自分を抜いて少なくとも三人は居るんだと思うと感慨深くなる。

 

「ほら、樹ちゃんも一緒に考えよう!」

 

「……っ。 はいっ!」

 

友奈が樹を誘い、紡絆と東郷は既に話し合っている。

その姿を嬉しく思いながら、樹も参戦することにした。

 

「まぁ、プレゼントは後回しにしよう。飾り付けもあるが、少なくともケーキ班とうどん班でまず分かれるべきだな……」

 

「そうね……うどんは私がやってみる。風先輩のうどんに対する気持ち、私も分かるもの」

 

「はいはーい! じゃあ私は東郷さんを手伝うよ!」

 

「お、じゃあ俺と樹ちゃんでケーキか。頑張ろうな!」

 

「が、頑張ります!」

 

予想出来た組み合わせだったからか、特に紡絆は異論を立てることは無かった。

あっさりと役割を決め、飾り付けなども次々と決めていく。

さらに遅れてしまう形になるが、二日後---土曜日に開く予定となった。

そうなるとハードなスケジュールになるが、全力で挑む意欲らしい。

樹は家が同じなのでバレないよう、飾り付けに使うものは紡絆と友奈と東郷が家で作成することに。

会場は紡絆や友奈は普通の一軒家なので、東郷の家ですることに。

問題はプレゼントだが、それぞれ課題として考えることとなり、今日は午後で活動が終わることから今日から計画に入ることにした。

しかし---紡絆は知らなかった。

その選択を取ったことが、修羅への道を一文無しで進むほどに酷く険しい道のりだということを。

そう、この時の彼は先に待つ未来がどんなのか知ることなく、無邪気に気合いを入れていたのである---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして午後。

継受と書かれた家の前には、大量の荷物を持った樹が家の前で硬直していた。

樹が紡絆の家の前には居るのは、ケーキを作るための練習だ。お店で買うならばすぐだが、生地から作るつもりなのである。

紡絆は失敗してもいいように用意しておく、とは言ったものの、樹も樹で家から使えるものを()()持ってきていた。

そんな彼女が何故家に入ることなく、インターホンを押さないのか? というと--

 

(お、男の人の家って初めて……。き、緊張する……)

 

ただ単に、緊張しているだけだ。

おとなしく、気弱で引っ込み思案の彼女は一つ先輩で異性の家と知ると、おろおろとしてしまっていた。

 

(で、でも頑張らないと! お姉ちゃんの誕生日会をみんなしてくれるのに、私だけ何もしないなんて出来ないし……)

 

「樹ちゃん?」

 

「あひゃあ!?」

 

なんて考えていると、後ろから声が聞こえてビクッと体が跳ねた樹は慌てて背後を見る。

そこには紡絆が申し訳なさそうにしていた。

 

「な、何かごめん」

 

「つ、つつ紡絆先輩!? ど、どうして後ろに……」

 

家に居ると思っていたのに、気づけば後ろにいた。こればかりは驚いた樹は悪くないだろう。

 

「帰ってきてすぐ買ったつもりだったんだけど材料ちょっと忘れてて、それの買い足しかな。

あ、もしかして待たせた? 一応スマホで留守にするとは送ったんだけど……」

 

ふと視線を変えると紡絆は片手に荷物を持っている。

袋は明らかにコンビニのマークが描かれているので、コンビニで買ってきたのかもしれない。

紡絆に言われた樹はすぐに携帯を取り出して確認しようとするが、片手持ちすると重くて、確認しようにもできなかった。

 

「あーごめん。嫌だったらあれだけど、ほら、貸して」

 

「あっ……ありがとうございます」

 

その事に気づいたのか定かではないが、重そうな荷物だと思ったのか紡絆が代わりにそっと持つと、樹はお礼を言いながらスマホを取り出して確認。

しっかりと『買い足しに出掛けていて今は家に居ないけど、開いてるから入って待っていて』とあった。

 

「本当だ……か、確認してなくて」

 

「いいよいいよ! それより入っていいから。疲れただろ?」

 

紡絆は気にした様子がないまま、遠慮がちの樹にそう言う。

鍵を開けた状態で出掛けたのは不用心だが、もし来てたら外で待たせることになるからだろう。

樹は自身の荷物を持たせたままだと思い出すと家に入った紡絆に慌てて着いていく。

紡絆の家の中は正直言って男性にしては綺麗だ。

換気しているのかどの部屋のドアも開いていて、使ってないであろう部屋も使ってる部屋も()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()も綺麗になっている。

掃除をしなければ虫が生まれたりするからだろう。

一人しかない一軒家を一人で掃除して、勇者部の活動をして、お役目をして、家事をして、それは果たしてどれだけ苦労しているのだろうか。

少なくとも樹には姉が居て、家事は姉がやっている。その苦労は樹には分からなかった。

 

「荷物はここでいいか。結構距離もあっただろうし、樹ちゃんはソファーに座って休んでてくれ。飲み物持ってくる」

 

「あ、ありがとうございます。でも……」

 

「いやいや、後輩に来てもらって何のおもてなしをしないのは先輩として辛いから! 遠慮しないでって!」

 

そう言ってキッチンの方へ向かう姿を見届けた樹は言われた通りにおずおずとリビングのソファーへ座る。

手持ち無沙汰になった樹は失礼かもしれないが、思わずリビングを見渡す。

しかし、趣味らしきものはない。せいぜい何の星かは分からないが綺麗な星が描かれているカレンダーや絵らしきものがあったり、写真があるくらいで物寂しいと言えば寂しい部屋だろう。

自身の部屋じゃなくてリビングだから、というのもあるだろうが、テレビやエアコンなどの生活用品くらいしか本当に見当たらないのである。

 

「あ……」

 

そうして見渡していると、唯一。

他も綺麗にされているが、何よりも綺麗で、とても大切に手入れされていると分かるものがあった。毎日してるのではないか、というくらいに。

それは、仏壇。

両親と一人の水色に近い青髪の女の子の写真があるもので、花とお供えの物がある。

それだけでどれだけ紡絆が大切にしているか、誰でもわかってしまう。

 

「お待たせー! ごめんごめん。大したものはなくて殺風景でさ」

 

明るい声が聞こえたかと思うと、見渡していたことがバレていたのか紡絆がそんなことを言う。

樹は行儀が悪かったかと恥じたが、紡絆の表情からして気にしていないのだろう。

 

「一応ゲームはあるけど、それくらいしかないかな。なんか気になるものとかあった?」

 

「えっと……」

 

どう口にするべきか、分からなかった。

果たして踏み込んでいいのか、聞いていいのか、と。

きょとんと首を傾げる紡絆だが、時々樹の視線が仏壇を見ていることに気づいて言いたいことを理解する。

 

「あー、樹ちゃんは全部は知らないんだっけ? 両親が居ないことは知ってると思うけど俺の両親は三ヶ月---もう四ヶ月かな? 中学一年の頃に亡くなってさ、あの女の子は俺の妹。小都音って言うんだけど、交通事故で亡くなったんだ」

 

そう語る紡絆は、()()()()に話した。自身に関する過去のことを、何の躊躇いもなく。

こればかりは友奈たちも知っている。近所なのだから、噂くらい簡単に飛び回るのだ。

だから勝手にバレるかもしれないから話したのだろう。しかし、その話はどうだろうか。

確かに樹や風は爆発事故で二年前に両親を喪った。

紡絆は四ヶ月前に交通事故で両親と妹を喪った。

似たようで、似ていない。風は樹がいる。樹には風がいる。例え両親を亡くしても、互いに支え合える家族という切れることの無い絆や遺伝子で結ばれた大切な存在が居た。

だが、紡絆にはもう---誰もいない。

全てを喪った者と、大切な者は残った者。

その違いは、とても大きい。樹にも両親が居ないため、姉がどれだけ自身のために頑張ってきてくれて、どれだけ大切にしてくれたか知っている。

目の前で見続けてきたからこそ、辛さを知っている。

もし自分が一人なら耐えられていただろうか? 生きていけただろうか? こんなふうに、笑顔で過ごせるだろうか?

そんな考えが樹には浮かぶが、間違いなく無理だったと即答した。

 

「もし生きてたら、樹ちゃんと同じ年齢だ。

同じクラスになって、仲良くなれてたかもなー。

ま、過ぎたことは言っても仕方がないし、樹ちゃんが気にすることじゃないって。

ほら風先輩にサプライズしたいんだろ? そんな顔じゃダメだ。明るく明るく!」

 

そして、今みたいに他人を気遣うことなんて、出来たのだろうか---。

話を聞いて暗い表情をする樹に紡絆は辛さを感じさせないほど明るく、笑顔で樹を励まそうとする。

辛いだろう。今も一人なのに。外を歩けば、嫌でも家族を見てしまうのに。部室でも姉妹という形で家族を見るのに。自身にはない宝の価値を、見出してしまうのに。

それでも彼は、一切辛い表情をすることはなかった。樹は知る由もないが、それは家族を喪った直後も。

 

「紡絆先輩は……どうして」

 

「んん?」

 

「その……お辛い、ですよね」

 

思わず出た言葉は、同情だろうか。

まだ大人にもなっていないのに孤独になった彼に対して、可哀想だと思って、憐れんで、不運を共感したからだろうか。

家族が一人でもいる樹の発言は、一種の嫌味として聞き取れるかもしれない。

普通の人なら余計なことだと、何が分かると言うかもしれない。

だが紡絆は何処か遠い目をして、申し訳ないような苦悩するような、自身を(あざけ)るような微妙な表情をして---口を開いた。

 

「正直に言うとさ……俺って記憶がないわけだろ?

そりゃ、家族なんだと思うし小都音は俺を兄として慕ってくれた。

俺だって両親も小都音も大切だと思ってた。

でもさ、記憶が無いから分からないんだ。

本当の家族というのは、アルバムを見たら分かる。

でもどう接してきたのか、どんな性格なのか、過去の俺がどうだったのか、家族はどういった人物なのか、何をしていたのか、どれほど大切だったのか。色々と知らないからな。

こっちは知らないのに、相手はほとんど全て知ってる。だから申し訳ない気持ちもあったし、気まずい思いもあった。

……思い出を語られた時とか」

 

そうだった、と少し後悔する。

紡絆には記憶がない。それも、全ての記憶が。中学生に上がってからの記憶はあっても、小学校をどう過ごしたのか、その前はどう生きていたのか、家族とはどんな関係で、どんなふうに一緒に居たのか、紡絆はそれを全て知らないのだ。生きていた証の全てが、ないのだから。

きっと最初は他人も同然で、それでも接したのだろう。そして家族と徐々に打ち解けて、()()()()()()という存在を家族が受け入れたに違いない。

例えそれが、過去の紡絆じゃなかったとしても。

記憶とは違ってたとしても、同じだったとしても、そうすることしか継受紡絆という存在は家族についての記憶がないせいでどうすることも出来ないのだから。

だから思い出など語られた時だって、申し訳ない気持ちもあったのだろう。

 

「確かに辛かったしショックでもあった。けど、記憶がなかった分、多少はマシだったし逆に思うんだ。

こんなふうに、誰かが俺みたいな辛い想いをするなら、防ぎたいなって。俺みたいな人は減らしたいなって。

元々記憶は無くても、家族を喪う前も人助けをするのは好きで、お礼を言われなくても喜ぶ姿を、笑顔さえ見れたらどうでも良かった人間なものでして……まぁ、そんな深く考えなくたっていいよ。

てか、樹ちゃんに暗い表情をさせたとバレたら俺が風先輩に殺られる!」

 

重すぎる過去、だと思う。

風や樹も、中々に重たいだろう。しかし記憶も無くして、家族も亡くして、頼れる人も居なくて、全てを失ってもなお、明るく前向きに、それでいて笑顔で他人を助けて、誰かを救える人物なんて早々居るだろうか。

同情する人は居るかもしれない。可哀想にと声を掛ける人も居るかもしれない。俺でも、私でも出来ると口にすることだけは出来る人もいるかもしれない。

ただそれは所詮は口だけ。そんな人間はごまんといる。心の底から願って、行動に移せる人間なんて、この世界にどれほどの少数なのだろう。

そして今も、樹を明るくさせようとする人物なんて居ないに違いない。

 

(本当に、どうしてこの人はそう居られるのだろう。どうして、他人に優しく居られるのだろう。

自分の方が辛いのに……それって、まるで優しく誰かを照らす()のように)

 

「うーん、うーん……」

 

俯きながら見つめる。

目の前の、自分自身のことじゃなくて、誰かのために悩みまくる一つ上の異性を。

 

(本当に、紡絆先輩は凄いなぁ。誰かに寄り添える……そんなこと、簡単じゃないのに)

 

それに比べて、自分はどうだろうか。いつも姉の後ろに隠れて、いつも頼って、苦手なことも多くて、ダメダメなところが多い。

唯一自信を持てるのは、タロット占いくらい。

勇者としての戦闘だって、はっきり言って姉や先輩たちに比べてまだまだ。ウルトラマンに変身した目の前の先輩に助けられている始末。

そう考えると、樹の心は何処か締め付けられる。

 

「や、やべぇ……殺される……! こんな話なんてしたらこうなることは予想出来たのでは……いやいやそう悲観するな俺! 大丈夫だ、バレなきゃ犯罪でも罪でもない」

 

(初めて会った時は元々誰かと話すのが苦手で、男の人というのもあったから緊張は酷かったけど、今は知ってる。

紡絆先輩の優しさも、気遣いも、誰かのために行動する姿も。

でもお姉ちゃんや友奈さん、東郷先輩と違って私はまだまだ知らないことはたくさんある。

だから紡絆先輩のこと、みんなのことも、もっともっと知りたいな……)

 

今まさに命の危機感を感じている紡絆の姿は樹には見えていない。

当の本人は彼女の姉にまたKOされる可能性を危惧して頭を抱えている。

 

(それに紡絆先輩はよく私のことに気づいて助けてくれるけど、頼ってばかり居られないよね。私も勇者になったんだし、力になりたいもん……!)

 

「えーと……ごめん、後で殴っていいからこれしか思いつかないっ!」

 

「ひゃん!?」

 

そんなことを考えていたら、樹はふと頭に心地よい感覚を感じて思わず悲鳴を挙げてしまう。

完全に目の前のことすら意識の外へ追いやっていた樹だったが、ようやく認識すると紡絆が何故か自身の頭を撫でている姿が見えた。

 

(え? ど、どうして私撫でられてるの?

もしかして何か話してたのかな……き、聞いてなかったよぉ〜…。

それに手を通して紡絆先輩の温もりを感じられて……撫で方も良くてクセになりそうだし……か、顔が綻んじゃう)

 

そっと樹の頭を優しく撫でる紡絆は、まるで兄が妹を慰めるような姿だ。

樹の心の中を知らない紡絆は撫で続けているが、風が居たら逆効果だということを自覚していないのだろうか。

樹は樹で、混乱しつつも俯くことで緩んでいる表情を隠すしか出来ない。

 

「元気出たか? 後輩が暗い顔してる姿なんて、見てられないからさ。せっかく可愛い顔してるんだから明るく行こう!」

 

「は、はい〜……っ」

 

悪意はない。

そう、紡絆に悪意は一切ないのだ。というか明らかに樹を後輩として見てるのでそんなふうに言ってるわけじゃないのだが、混乱してる樹には逆効果だ。

顔を赤くしたまま大人しくなり、俯いてるが何処か暗い様子はない。

なので、紡絆は安心しながら撫でるのをやめて手を離した。

 

「あっ……」

 

「さて、俺のせいで時間取っちゃったしケーキ作りそろそろやるか! 風先輩の顎を外すくらい驚くようなものを作ってやるっ!」

 

ただ一瞬。ほんの一瞬だけ手が離れた瞬間に名残惜しそうにしていた樹の姿を察知することなく、紡絆は本来の目的へ戻す。

わざわざ自身の過去を話すために集まったわけじゃないのだ。さらっと自身のせいにした紡絆だったが、その紡絆の言葉で樹も目的を思い出した。

---実はこのまま居た方が彼にとって幸せだったとは、分からなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わってキッチン。

エプロンを付けた男女、紡絆と樹はキッチンに立っていた。

 

「さて、東郷と友奈に負けていられない。風先輩って料理上手いんだよな?」

 

「そうなんです。お姉ちゃん、たくさん練習して……今ではとても美味しいんですよ」

 

「そっか……良い姉を持ったな」

 

「はい、自慢のお姉ちゃんです!」

 

誇らしげに、自信満々に言う樹の姿を温かい視線を向けながら紡絆は微笑すると、材料を用意する。

 

「ケーキは正直、時間がかかる。

スポンジから作るから……まずは型紙だな。

こっちはちょっと難しいから俺がやる。

樹ちゃんはそこのボウルで卵を……二個でいいかな。キツいと思ってハンドミキサー買っておいたからそれでかき混ぜてくれ」

 

「詳しいんですね……もしかして紡絆先輩って料理するんですか?」

 

「いや、まったく。小都音が基本的にしてたからな」

 

レシピ本もないのにケーキの作り方を知っているからか、樹が紡絆に質問するが、彼はしないらしい。

 

(てか、記憶もないのに料理なんて出来るはずないしな……前世の記憶があるから今は作れるけど)

 

というよりは、前世で作った記憶があるようだ。

まぁ確かに記憶喪失で料理なんて危ない真似、間違いなく家族がさせるわけないだろう。

そして紡絆に前世の記憶があるということを樹が知ってるはずもないので、樹は自身と同じだと誤解していた。

一方で紡絆は紡絆で樹が料理の経験がないことに気づいていなかった。

 

「とにかく頼めるか?」

 

「分かりました!」

 

いい返事、と言うように頷いた紡絆は、小さめの丸型のケーキ型を用意し、ケーキ型2個分が入るくらいの長さにクッキングシートを切る。

多少は出ていても、後々切るので問題ない。

本当は外周を鉛筆などで一周線引いた方がわかりやすいのだが、ここで紡絆は頼らない。そのくせして綺麗に出来たのは、彼の観察眼が高いのだろうか。

ぶっちゃけ鉛筆で印を付けるのをおすすめする。

後は側面だが、新しいクッキングシートを型の側面に付けて確認し、問題ないと半分に折る。そして折ったクッキングシートを戻して、折り目に沿って円周より2〜3cm程長く切る。

本当は型の深さ(高さ)より1cm程高い部分に印をつけて印に沿って折った方がいいので、やるならそちらを参考にしよう。

残りは型に薄くバター(適量)またはサラダ油(適量)を塗るだけだ。そして側面のクッキングシートを敷き、底辺のクッキングシートを敷き込むことで完了となる。

ここで紡絆はしてないので関係ないが、印を付けたならポイントがある。

それは書いた線が生地に触れないように外側に向ける必要があるということ。人体に害が出るほど有害な物質は出なかったり焼くことに問題は無いと思うが、スポンジに書いた線が写る場合があるので気になる人は外側にするべきだ。

そして側面から敷く理由は側面の後に底辺のクッキングシートを敷くことにより、側面のクッキングシートがよりぴったりと貼り付けやすくなる効果があるからである。

何はともあれ、紡絆は完成したので樹の作業を見ることにした。

 

「……ん?」

 

バキッという音と共に、べチャリと落ちる音。

見れば台所に卵の中身が飛び散ったようで、紡絆がクッキングシートを敷いてる時からこれらしい。

一応慎重にやっているようだが、それでこの有様であった。

 

「……あぁ」

 

「ご、ごめんなさいごめんなさい!」

 

「いいよいいよ、科学でも同じだが、料理もトライアンドエラーだ。そんな最初から上手くできるやつなんて天才ぐらいだしな」

 

紡絆は流石に察したが、謝る樹に対して問題ないというようにフォローを入れる。

それは間違っていない。料理とは繰り返し、何度もやることで自身が理想とする料理に近づける。

そもそもレシピ本を見たって、それ通りに出来るだろうか。味も全く一緒に、見た目も初心者がまんま同じに出来るだろうか?

それは否。間違いなく出来ない。

卵だって、初めての人からすると割るのは難しい。卵の場合、強すぎてもダメ。弱すぎてもダメ。なかなかに難しいものなのだ。

 

「まずは卵は力づくでやるもんじゃないんだ。

こういうふうに……平らな場所に軽く打ち付けた方が良い。叩きつけたり無理矢理したら割れちゃうからな。

注意点として、中央をやること。

他でも問題ないが、中央の方がやりやすい。

例えるなら、俺たちって学校とかでは入室の許可を貰うためにノックするだろ? イメージとしてはそれで、コンコンコンという感じだな」

 

「な、なるほど……」

 

出来る限り優しく、丁寧に教えていくように意識しながら紡絆は例えも入れて説明していく。

簡単に投げ出したり、厳しくしないのは彼の利点だろう。そもそも初心者だと知っていれば最初から教えていたのだが。

 

「それで……殻の割れ目に両手の親指を力を入れずに入れて、ゆっくりと左右に開けば、こんな感じ」

 

一瞬片手割りをしそうになっていたが、解説を含めてやることを思い出して紡絆は両手割りを実践する。

実際に紡絆が割った卵は殻が入ることなく、黄身が潰れることもなくボウルへ入っていた。

 

「すごい……!」

 

「そこまでなんだが……いいか。ほら、樹ちゃんもやってみて」

 

「はい!」

 

基本中の基本を褒められて何とも言えなさそうな表情をする。

片手割りならともかく、両手割りはある程度知識を持つ者か試した者なら出来るからこそ、何とも言えなさそうな表情をしたのだろう。

とりあえずトライさせて見ようと、紡絆は樹に卵を手渡しした。

 

「えっと……軽く打ち付けて---あっ」

 

自身でも気づいたようで、やらかしたと思ったのだろう。

声を出してしまったことから、それが分かる。しかしそこは見事なフォロー。崩れた卵が洗面台に落ちる前に味噌汁などで使うお椀を取り、綺麗にキャッチして見せた。

この間、二秒である。

黄身の落ちるコースを見るのと同時にお椀で取る、伸ばすキャッチくらいの速さだった。

 

「これは……卵焼きでも作るか。ちょうどいいや」

 

やはり紡絆はポジティブ。

それを入れれば良いのでは?という意見は間違いなく誰か居ればあったのだろうが、ちゃんと樹自身が割れたことにならないからだろう。

 

「卵はまだあるし、チャレンジしよう。さっきは力んでたから力を抜いて」

 

「こ、今度こそ……!」

 

アドバイスを送りながら、紡絆はただ見守る。

すると樹は頷きながらもリベンジし、卵を軽く打ち付ける。中央にヒビが入り、後は両手で割るだけだ。

 

「よし……後は割れ目に指を入れて左右に……開く!」

 

口に出して意識するようにしながら指を入れるが、パキッという音。

しかし砕けるまでは至らず、樹は慎重に開くとポトン、と黄身が落ちたが、崩れてしまった。

 

「ど、どうでしょうか……?」

 

「うん、いいと思うぞ。見事だ!」

 

「わっ……」

 

顔色を伺うように見つめてくる樹に褒めるように紡絆は頭を優しく撫でる。

撫でられた際に目を閉じた樹だが、その隙に一瞬で紡絆は入っていた殻を回収する。

それを樹は気づくことは無かった。

 

「と言っても……まだまだ序盤なんだよな。樹ちゃんは卵を少し溶いててくれ。ハンドミキサーでやってたら問題ないから。俺は湯煎作るか……」

 

「ま、任せてください!」

 

指示を聞いて、ハンドミキサーを---使い方を聞いてから使用していく。ちなみに中速である。高速だと飛び散るので注意しよう。

説明しながら紡絆はひとまわり大きな鍋を取り出すとお湯を入れる。

だいだい35℃くらいが好ましい。

 

「はいストップ。それくらいで湯煎の上に乗せてくれ。後はそこのグラニュー糖で混ぜたら問題ないかな」

 

「これですか?」

 

「ちょ、それ味の素! そっちそっち! そっちの砂糖!」

 

一応もうひとつ作る気なのか、さらっとクッキングシートとケーキ型を作っていた紡絆は樹に指示を出す。

……砂糖じゃなくて味の素を入れかけたが。

それはともかく、紡絆は泡立て器(人力)で追うようにやっているが、どうやら文明の器具(ハンドミキサー)は一個しかないらしい。

そして先に置く必要のある湯煎とその上の置いたボウルにバター目視(10g)、牛乳目視(15cc)を二つ用意して湯煎にかけたまま置いておく。

残念ながらこの男に測るという文字はなかった。その割にはピッタリだ。

 

「それがマヨネーズ状になったら、あとは分量は分けておいたから薄力粉をそこの粉ふるいで二回に分けて振るって、そこのスパチュラで混ぜる。

ダマ---えーぶつぶつがなくなるまで混ぜたら、さっき作っておいた溶かしバターに生地をひと掬いして混ぜ合わせて、それを生地に入れて全体に行き渡るまで混ぜる。

最後に最初作ったホールケーキ型に生地を入れて、下に布巾を置きながら生地内の空気を抜いて、180度で40分焼けば完成だ」

 

「じょ、情報量が多いですっ! ケーキってそんなに時間かかるんですね……」

 

「分からなければ聞いてくれたら答えるッ! けど、ちょっとこれ難しいというかしんどいから……!」

 

一気に説明した理由は、集中出来ないからだろう。電力さえあれば楽に出来るハンドミキサーと人力でやる泡立て器なら倍くらいの差はある。

体力に自信がある紡絆でも、こればかりは余裕がないことからプロがどれだけ凄いか分かるところでもある。

人力だと、一定の速度にしたりしなければならないし、混ぜ方などで生地が変わる。もちろん入れる材料の量などにもよるが。

そもそも、紡絆の場合は余裕ない理由は体力ではなく、無駄に力んでいるのが原因。

が、彼はこれでも菓子職人から見ると平凡レベルより下---といっても目視でやるとんでもないことをしているが、一般人から見ると一般人並なのでなので仕方がないだろう。

むしろレシピ本なしでようやれてる---と思われるが、若干うろ覚えの部分は助っ人(掲示板)からの援護である。

 

「そ、それと……まだまだとはいえ焼き終わったらそのケーキクーラーの上に逆さまにして取ってからクッキングシート外したら好きにデコレーションして完成……! だからっ! 頑張って!」

 

「は、はい……!」

 

手動でやってることからどっちが頑張るんだ、という話だが、これならば料理初心者の樹でも問題ないだろう。

分量も(目視で)量ったのは紡絆で、指示も(目視で)基本的に出したのは紡絆。

後は泡立ち具合や口当たり、風味など色々と変化があるが、それは樹の力になるため、デコレーションも含めて作ったのは樹、ということにもなるだろう。というか、スポンジケーキはデコレーション具合で化けるのだ。あくまで紡絆は口に出しただけである。

と言っても所詮は試作で本番用ではないが。

そんなこんなで、文明の器具によって先に仕上がった樹作を焼きながら、紡絆は必死こいて手動でやるのだった---こういうのは時間をかけたらかけるほど、混ぜるのが弱くてもダメなのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

疲労するくらいには疲れ、少し荒いことを自覚しながらも後は焼くだけとなった紡絆。

しかし彼は今、後悔の念にかられていた。

いつから間違っていたのだろうか。

もしかしたら、最初かもしれない。

もしかしたら、途中かもしれない。

もしかしたら、最後かもしれない。

もしかしたら、前提を間違えていたのかもしれない。

もしかしたら、目を離したのがダメだったのかもしれない。

もしかしたら、前世の記憶を思い出したことこそが罪なのかもしれない。

そして何より---

 

「紡絆先輩、出来ましたッ!」

 

目の前の後輩が、まるで命を刈り取りにきた死神に見えるのは、錯覚だと思いたかった紡絆だった。

ニコニコと嬉しそうに、それでいて自信満々に言うのは樹。

そこは問題ない。料理が出来て嬉しかったのだろうと思ったらいいのだから。

だがなんだ? この危機感、この緊張感、この心の底から逃げ出したくなる衝動は。

少なくとも、こんな感情は力もない状態でバーテックスやスペースビーストと対峙した---いや、あのスペースビーストすらこれほどの感情を抱くことは無かった。

体が震え、心が否定する。冷や汗が出てきて、それでも紡絆は逃げ出すことなんて出来なかった。

なぜなら---

 

「召し上がってください!」

 

毒々しく、禍々しいオーラを纏う形が崩れているケーキ。

何をしたらそうなるのか理解に及ばない---おおよそ人類が作り出した新たな生物兵器なのではと思えるほど意味の分からない色をしたケーキが目の前に出されたのだから。

そして逃げ出せない理由のひとつ、樹は笑顔で紡絆に差し出しているのだ。目を輝かせ、そわそわと期待するように。

そんな目で後輩に見られ、逃げ出したらどうなるだろうか。間違いなく悲しむ。

紡絆の良心に大ダメージが入り、なおかつ肉体はあの世に行くに違いない。あの樹を溺愛する姉が状況を知らなければ間違いなくキレるだろう。

そもそもなんでよく見ればケーキが少し茶色と化しているのだろう。何を入れたらそうなったのか、紡絆には分からない。チョコレートかと思っても、匂いが違う。ココアでもない。

これでも、紡絆は一般の知識は持っているし無くてもプロや趣味でやる彼ら(掲示板の人達)が居るのだ。ちゃんと指示をした。分量も量っておいた。

どうしてこうなった。

 

「あ、あの……。失敗……でしょうか」

 

食べようとしない姿を見てか、樹の表情が徐々に暗くなってくる。

樹からすれば、頑張って作って、長い時間かけて、初めて異性に振るう料理。美味しいと言われれば、嬉しくなる。これからも作ろうと思うかもしれない。

紡絆からすれば、ウルトラマンを宿してもなお命の危機を感じる料理。だが、大切な後輩が作ってくれたものなのだ。

それを天秤にかけて見よう。

 

「い、いや美味しそうだなーと思っててさ! はは……は……」

 

「ほ、本当ですか?」

 

紡絆は後輩を優先した。樹は嬉しそうにしていたが、紡絆は頬が若干引き攣っていたに違いない。

しかし本当は違う。それはもう、救援要請をしていた。今までよりも必死に、助けを求めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

295:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

し、死ぬ! 死ぬ死ぬ死ぬ! これ絶対死ぬって! だってもうやばいもん! 雰囲気やべぇもん! え、何をしたらこうなるの? え? 俺普通に教えてたよね? 目を離した隙に何があったの? え? なんか醤油とカレーを融合させて科学物質を混ぜたみたいな匂いするんだけど。いや違う、これはごま油か? いや焼肉のタレか? それともステーキソース? でもなんかインスタントコーヒー減ってるんだよなぁ! な、なんなんだこれはっ!?

野菜ソースや買ってないはずのシナモンとかの調味料もゴミ箱にあったし!

 

 

296:名無しの転生者 ID:7maklFnFG

あっていたッ! 途中まではあっていたはずなんだ……! 俺らも全部見ていたッ! だが、どうしてここまで変化した!?

 

 

297:名無しの転生者 ID:EOQ+ERIUR

まさか樹ちゃんはポイズンクッキングの使い手か!?

 

 

298:名無しの転生者 ID:+vJu+DMTt

メシマズキャラかよ!?

 

 

299:名無しの転生者 ID:MZY5Al8Lv

だ、ダメだイッチ! 逃げるな! 頑張れ! こればかりは逃げたら樹ちゃんが悲しむぞ!

 

 

300:名無しの転生者 ID:NRx59YD+g

同情はする! でもこれ無理でしょ! どうやったらそうなるのか逆に聞きたいわ!

 

 

301:名無しの転生者 ID:Z4nOMGc1T

う、ウルトラマンを宿して身体能力強化されてるんだからきっと胃袋も頑丈になってるはずだ! たぶん!

 

 

302:名無しの転生者 ID:hz3RkdI8K

逝けイッチ! 樹ちゃんを悲しませないためには食すしかねぇ!

 

 

303:名無しの転生者 ID:ywkNd6til

まだだ! あくまで外見が悪いだけで中身は美味いパターンもある! 樹ちゃんを信じろ!

 

 

304:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

そ、そうか! まだ中身が分からない! でも匂いがおかしい! や、やややややっぱ無理だって! ちょ、誰か変わって! ほら、お前ら美少女の手料理だぞ! 年下、後輩の手料理じゃん! 食えよ!

 

 

305:名無しの転生者 ID:h6Jtur2Q4

い、いや外見もオーラもやばすぎる。でも見ろよ、あの天使の微笑み! 断れるか!?

 

 

306:名無しの転生者 ID:m08OihBLC

>>304

あ、いえ死にたくないので遠慮しておきます……

 

 

307:名無しの転生者 ID:HncIq+YLp

>>304

何言ってんだよその世界にいるのはイッチなんだからお前が食えよ! 心配するな! 骨は拾ってやる!

 

 

308:名無しの転生者 ID:kTGd5xMZ1

>>304

俺、実は最初からイッチを応援してたんだ。今まで本音は言えなかったけどさ……やっぱりお前が一番だよ。ごめん、くだらない嫉妬なんかしてさ。だから安心して逝け!

 

 

309:名無しの転生者 ID:7Ck1BSzXi

>>305

あれはもう死神だ! 悪魔の類だ! でも断れる自信ないし絶対出来ねぇ!

 

 

310:名無しの転生者 ID:CiKMG6+YI

イッチの生存は絶望的か……

 

 

311:名無しの転生者 ID:9XQzH0Sly

大丈夫だ、記憶無くなるくらいで生きれるから

 

 

312:名無しの転生者 ID:XUd6NDteE

IS転生者やバカテス転生者も食ってたし逝ける逝ける!

それにこっちでは原作主人公が料理対決をした時に作った肉じゃがが人の顔に見える不気味な効果音付きの炭と化して、審査員をさせられた子が一口食べた直後に血の涙を流して30秒ほど絶叫しながら悶絶・昇天したくらいだし……いけるいける

 

 

313:名無しの転生者 ID:LIGfJ/6z5

>>311

経験者ァー!

 

>>312

そして貧乏神が!の世界かよ……懐かしい。

 

 

314:名無しの転生者 ID:6XCI9vcgd

やはりメシマズは低確率で居るのか……!

 

 

315:名無しの転生者 ID:EEDoA6xTw

いやほら、ペルソナでも結構あるし

 

 

316:名無しの転生者 ID:sHgabrnVa

誰だァ! 毒を盛ろうとした奴ァ!!

 

 

317:名無しの転生者 ID:XqUyKStOl

既に毒になってんだよなぁ

 

 

318:名無しの転生者 ID:A5/YpWJ4D

イッチ、諦めろ。

こういう場合……俺たちに選択権はないんだ……

 

 

319:名無しの転生者 ID:whlPIJxQC

まさかここでも見る羽目になるとはな……他の転生者たちも似た反応だった。イッチの死は忘れないよ

 

 

320:名無しの転生者 ID:I4VzmShYN

ほら、早くしないと樹ちゃん悲しむぞ。頑張れイッチ! 今回ばかりはみんなお前の味方だ!

 

 

321:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

お、お前ら……! クソ! 樹ちゃんの笑顔を守るためには致し方ない! 俺は逝くよ……!

 

 

322:名無しの転生者 ID: KtzjsG154

いいやつだった…

 

 

323:名無しの転生者 ID:w2P7rI21X

もうイッチまで諦めてるの草枯れる。生きるのを諦めるな!

 

 

324:名無しの転生者 ID:pb+fzF635

さぁ……どうなるか

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

助けは絶対無理だが、得られなかった。

ゴクリと喉を鳴らし、今の紡絆には笑顔を浮かべる余裕などなかった。ただ必死に、何があっても表情を引き攣らせないように口角を不器用に上げながら耐えるだけだ。

フォークなど使わない。紡絆は既に悟っている。

これを食したら、恐らく死ぬと。だからフォークを捨てる。一気に食べなければ、残してしまうからだ。

 

「た、食べる……ぞ?」

 

「はいっ!」

 

口に出すことすら嫌になるが、頑張って発する。

樹は笑顔のまま期待の眼差しを向けている。

やはり、逃げ場はないらしい。

 

(大丈夫だ! なんだって二度も死にかけた経験もある! それに比べればこ、こんな……こ、後輩の手料理だって余裕な……はずなんだ。た、食べよう。樹ちゃんの笑顔を守るんだ! ちくしょう! あらゆるものが拒絶反応起こしてやがる!)

 

手も足も震え、心も体も、脳すらも拒否する。

心臓の鼓動も五月蝿くて、煩わしい。それでも、それでも勇気を踏み出す。

恐らく、ここに彼らが居たら今の紡絆に敬礼しながら敬意を込め、労わっていただろう。よくやったと、お前は頑張ったと褒めるだろう。紡絆は応援を受けながら、拒絶反応を起こす心も肉体も意志で捩じ伏せる。

後輩のために、後輩の笑顔を守るために。 延いては先輩としての威厳を守るために。

 

「い、いただきますっ!」

 

そしてついに、ついに紡絆が震える手を伸ばして動き、掴むとケーキを一口齧った。

瞬間、彼の意識は一瞬で持っていかれそうになる。たったの一口で、これだ。別の世界、とある世界では一頭抜きん出たメンタルの強さを持つ白鳥歌野(勇者)にすら凄まじい精神的外傷を与え、意識すらも消し去るモノ。一撃で死なないだけでも、十分健闘した。意識があるだけで、凄いと言える。

しかし味が分からない。いや、理解したくない。その境地へ至ることなど人間には不可能。エラー。不明。測定不可。理解不能。認識不可。一時的な味覚障害発生。エラー、エラー、エラー。表現することそのものが烏滸がましい。それはクトゥルフ神話における、最高神、アザトースを我々人類が見るほどだ。外なる神たちを目にするほどだ。宇宙における、禁忌教典(アカシックレコード)を理解するように不可能だ。

だが、堪える、耐える、意識を叩き起す。削れたSAN値(正気度)を、一撃で半分以上削られ、不定の狂気に陥りかけた自身を奥底に眠る全てを叩き起すことで取り戻す。

一口ではいけない。このケーキは3号……直径9センチのものだ。大きいのだ。切ったからこそ、一個程度では終わらない。

食べろ、頑張れ、お前ならやれる、耐えろ、完食するんだと自身の心に叱咤しながら、それでも、それでも紡絆は諦めない。勇者は、ウルトラマンは諦めないのだ。

もういい、吐いてしまえと諦めろと、お前は終わりだと、眠れ、休めとそんな闇の誘惑には負けない。闇に呑まれない。悪魔すら優しくなっているが決して揺らがない。

何故なら継受紡絆は勇者部の一員だ。誰かの笑顔を守る人間だ。誰かのために行動に移せる人間だ。心の底から、誰かの為になりたいと願う人間だ。

そして何より、継受紡絆は情けないところを見せられない。後輩()にも、神様(神樹様)にも、仲間たち(勇者部のみんな)にも、同士(転生者)たちにも、相棒(ウルトラマン)にも。

神樹様はきっと、紡絆の勇姿を見てくれてるだろう。彼ら(転生者)は彼の頑張りを応援している。同じ経験者に至っては、涙すら流していた。

あぁ、きっと今の彼は、英雄に違いない。だからこそ、手を止めてはならない。動かせ、動け、道を妨げる全てを捩じ伏せろ。

拒絶反応を起こすどころか、全体的に具合が悪くなってきたが彼に再起不能(リタイア)など許されない。まだ(ケーキ)は残っているのだ。これからもまだまだ強敵(ケーキ)と戦わなければならない。誕生日という、人間にとって大切な一年に一回しかない期間を普通ではなく、最高にするために。良かったと思われるようにするために。

なによりも、途中で諦めてしまえば失望されるかもしれない。自己嫌悪に陥るかもしれない。後輩の笑顔を、一人の女の子の笑顔すら守れなくして、何がウルトラ戦士だ! と彼が憧れる歴代のウルトラマンに叱られるかもしれない。

そう、諦めてはならないのだ。継受紡絆は人類を、地球を守り続けてくれたウルトラマンの力を受け継いだ存在なのだから---ッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つ、紡絆先輩。どうですか?」

 

緊張の瞬間。

そう、紡絆は完食して見せた。だが、紡絆はずっと無言なのだ。

食べている時も味の感想を言うことなく、真剣に食べていた。

味を確認するように。だから樹は話しかけることなく、ドキドキとなる鼓動を、聞きたい衝動を抑えながらも見ていた。

何故なら、紡絆が自身の手作りを一度手を止めて動き出してからは休むことなく食べていたから。

樹のためを想って、味を確認してくれていたのだから。邪魔をする方が失礼だ。

自分のためにここまで本気になってくれる人を邪魔することなど樹には出来なかった。

 

「う、うま……かっ……た……ッ!」

 

そして、紡絆は震える腕を堪えながら、グッドサインをした。

その瞬間、彼を労るような言葉が彼の脳内では流れる。

 

「よ、よかったぁ」

 

その反応にほっ、と安心したように笑顔を向ける樹。それを見て、紡絆は満足気に---死んだ。

最期の最期まで感想という使命を果たし、紡絆の肉体は地面へと勢いよく倒れた。

彼はやったのだ。生物兵器という、暗黒物質(ダークマター)という、錬金術でもしたのかという謎の物体を、殺戮兵器を、殺人兵器を、ポイズン・クッキング(毒料理)を、強敵を打ち倒したのだ。

だがそれ故に、紡絆が払った犠牲は---大きい。樹の料理は、強すぎた。

 

「つ、紡絆先輩!? しっかりしてください! どうしたんですか!?」

 

無自覚とは、なんて恐ろしいのだろうか。

少なくとも、樹の料理がどれだけやばいのか。

それは彼のポケットから落ちたエボルトラスターが凄まじい鼓動を鳴らしながら紡絆へこっそり光を注いでたことから、分かるだろう。

その威力は---バーテックスの、サジタリウスの毒でも耐えていた紡絆を気絶させ、ウルトラマンが手を貸すほどだった。

これほどの量を食べた猛者は、そうそう居ないだろう。というより、居たら十中八九死んでるとだけ明言しておく。

 

一方で、意識を失った紡絆を見て、樹は慌てる。

何故突然倒れたのか。そう考えた樹の頭の中に浮かんだのは---疲労だった。

普段から動きまくっていて、大怪我もして、それの積み重ねが来たのだろうと。

 

「そ、そうだ。紡絆先輩、私のことを思って手動でやってたから疲れたのかな……顔色も悪いもんね」

 

残念ながらケーキとは呼べない兵器に殺られただけである。

 

「で、でも私じゃ運べないし……」

 

見た目通り、樹は非力だ。

そんなに力も無く、普段動きまくる紡絆は筋肉があると予想できるので抱えるのは難しい。

悩んだ樹はインターネットという最強のアイテムに頼ることにした。

疲れてる異性に対して、何をすればいいのか。

普段から助けられてる分、何か出来ることがあるならしたいのだろう。

 

「ひっ、膝枕ッ……!?」

 

そこでヒットしたのは、膝枕。

ちなみにサイトは彼氏にしてあげたら喜ぶこと。なのだが、気づいてないようだ。

それにもっと他にもあるが、もしここで手料理を作ってあげる、というのが視野に入っていたら紡絆はやばかったかもしれない。

その場合だと目覚めて再び気絶コースだった。

 

「は、恥ずかしいけど……うん、ちょっとくらいなら……誰もいないし、いいよね……?」

 

誰かに言うわけでもなく独り言を呟くと、チラッと眠っている紡絆を見る。

そして樹は少し顔を赤めながらも正座をして、紡絆の頭をそっと持つと自身の膝に乗せる。

労わるように、感謝するように頭を撫でていた。

その姿は普通に疲れて眠ってるの場合ならば良かったのだが、紡絆が殺られた原因は樹本人である。

そこに変わりはない。

 

(あ……でも普段はかっこいいのにちょっと可愛いかも…。紡絆先輩は普段困ってることがあったらすぐに助けてくれる……特別扱いじゃなくて、それが紡絆先輩にとっては普通だということは私でも分かるけど……)

 

それが継受紡絆という人間。

誰かを助けたいから助ける。救いたいから救う。もし紡絆は感謝されることもなく、喜ばれることがなかったとしても助けるのだろう。偽善だと言われたとしても、偽物だと言われたとしても。

利益なんて、メリットなんて考えない。ただやりたいからやる。それは彼が彼たる強さのひとつなのかもしれない。

底なしの明るさ、気遣い、優しさ。樹にとって、()()()()()()()()()()()のような存在で---

 

(ウルトラマンも、そうだった。不思議と怖くなかった。後に紡絆先輩だって分かったけど……だからだったんだ)

 

姉である風は最初に警戒していたが、あの場で樹と友奈だけは警戒することなく味方だと感じていた。

それはきっと、ウルトラマンが紡絆のような雰囲気を纏っていたから。紡絆がウルトラマンだったことから、本人なのだから同じ雰囲気を纏っていたのは当然な話だ。

 

「でも……」

 

無防備に眠る紡絆を見て、樹の表情はどこか複雑だ。

ちなみに無防備な訳じゃなくて、ただ単に意識がないだけとはもう一度言っておく。

 

(紡絆先輩には友奈さんや東郷先輩以上に感謝してるんです。本当に、過ごした時間はまだ短いですけど……)

 

樹が中学一年生であることから、部活に入ったのは四月。

まだ紡絆と出会ってから樹はそこまで経っていない。せいぜい姉の話題に時々出てきたくらいだ。

 

(そういえば……お姉ちゃんから聞いたのって、愚痴ばかりだったっけ)

 

紡絆はある意味、勇者部の問題児と言える。

部長である姉が苦労して、それでも愚痴のように『紡絆』という名を何度も聞かされ、文句を言う割には不思議なことに姉が嬉しそうな、楽しそうな表情をしていたのは樹の記憶にも深く残っていた。

それを少し、羨ましいとも思っていた。

 

「ゆっくり、休んでください。紡絆先輩」

 

せめて、せめて二人しかいない空間を。二人しかいない時間の中、膝元で眠る紡絆を堪能するように。

少しの独り占めをしながら樹はそのまま待っていた。

過ごした短い期間を、少しでも伸ばすように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのような言葉を眠るという名の気絶をしていた紡絆はつゆも知らない。

そんな紡絆はウルトラマンが手を貸すほどの治療のお陰で三時間ほどで意識を取り戻した。

 

「んん……あぁ、ここが天国と地獄……」

 

紡絆は目を覚ましたが、朧気な意識だ。というか、死後の世界へ行きかけていたようだ。

朧気な意識の中でも頭に柔らかい感触があり、目の前にはお世辞なしで綺麗だと感じる金色の髪が見える。

何故か頭が痛くて抑えるが、紡絆には三時間前の記憶が無い。

一体何があったのか。少なくとも樹のケーキを食べる寸前までの記憶しか無かった。

 

「ケーキ……はっ!? そうだ!」

 

思い出す。

掲示板で助けを求めたこと。樹を安心させるために頑張ったこと。

しかし食べた時の記憶だけは思い出せなかった。思い出そうとすると、ノイズが走って思い出せないのだ。

それを怪訝に思いつつ、無事に笑顔を守れたのだろうか---とようやく意識が完全に目覚めると、困惑した。

 

「What's???」

 

さて、何故仰向けになる感じで寝転んでいて、何故視線の先に樹の顔があるのか。

眠ってしまったのか、船を漕いでいる可愛いらしい寝顔だ。

無防備過ぎる、とも言える。

とりあえず紡絆は状況を理解し、膝枕されていると気づいたので焦ることも無くこっそりと普通に退いた。

 

「まぁ……アレだったが、頑張ったもんな。ケーキ、焼いておこう」

 

落ちていたエボルトラスターを回収してズボンのポケットに入れ込むと、キッチンへ向かう。

樹がスポンジを作っていた際に自身も作っていたスポンジケーキをオーブンで180度で40分焼くように設定し、部屋から毛布を持ってくると樹をお姫様抱っこしてソファーにそっと寝かせ、毛布をかけてあげた。

 

「むにゃ……おねえちゃん……」

 

「………小都音もこんな感じだったかな」

 

懐かしくは思いつつ、紡絆は樹を実妹の小都音と重ねたりしない。

あくまで樹は風の妹であり、紡絆にとって後輩だからだ。

代わりなんていない。小都音は小都音で、樹は樹。

そうやって割り切っていて、寝言とはいえ姉のことを呼ぶ樹の姿を見ると、どれだけ彼女が風のことを好きか分かるだろう。

その風にですら、紡絆は嫌なくらい樹の良さについて自慢をされた記憶がある。互い互い、好きなのだろう。

だからこそ、既に祝うことすら許されない紡絆は彼女たちにとって大切な日を、より一層成功させようと決心していた。

---あんな核兵器を作らせないようにするという意味でも。

被害者は一人で十分なのである。それに完食したとはいえ、たったの一口で全体的にウルトラマンに強化された肉体を持つ紡絆を貫通したのだ。いくら胃袋は強化されてるか分からないとはいえ、だ。

彼以外だと死者が出るかもしれないため、紡絆は何があったとしても、己を犠牲にしたとしても、防がなければならなかった。

一応紡絆の肉体はスペースビーストの攻撃を受けても耐えれるほど屈強なのだが。

 

「起きたらお腹空いてるだろうし、卵焼き作っておくか。久しぶりにするなぁ」

 

樹が失敗した時にキャッチしたが、残ったままの卵を思い出して、紡絆は友奈たちから進捗はどうかと来たため、化学兵器は恐ろしいと送っておいた。

困惑するような返答が来たが、紡絆からしたらそうとしか語れないため、仕方がないだろう。あれはもはや殺戮兵器、殺人兵器だ。紡絆は今世でも前世でも意識を奪う食える料理など現実にあるなんてことは聞いたことがない。

逆にうどん班は順調らしく、このままではケーキ班が何も成長していないことになりそうである。

樹が起きたらもう一回だけ作ろうと思いながら、ベーコンとコーンバターのほうれん草、厚焼き玉子、鮭を作っていく。

 

「紡絆先輩……」

 

因みに調理していた紡絆には寝言で樹が名前を呼んでいたことには気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

料理を作っている間にケーキが焼けると、冷ましてから生クリームを塗り、折り袋と星口金を利用してロザス(薔薇)を作っていく。

絞り出し袋を垂直に構え、一定の高さで「の」の字を描くように絞る。それを端の周り全てにしていく。

低くなるとつぶれてしまい、大きく円を描くとドーナツ形になってしまうという見るだけなら簡単なのだが、実際には難しい。

彼ら(掲示板)の助言がなければ紡絆も無理だろう。

後は真ん中に少し大きな薔薇を描き、小さいのと大きい薔薇の間にイチゴをそっと置けば、暗黒物質(ダークマター)でも化学兵器でもなんでもない至ってシンプルな()()()いちごのショートケーキの完成である。

 

「よし! いや、これが普通。これが普通なんだ……っ!」

 

完成してつい喜んでしまうが、何故か目の前のケーキが素晴らしく良い出来に見えて、紡絆は頭を横に振る。

そう、普通。普通にしていれば、こんなふうに出来るはずなのだ。

やはり何故ああなったのか紡絆には理解出来ない領域だった。

 

「樹ちゃん、ちょっと早めの夜食にしよう。起きてくれ」

 

冷蔵庫にケーキをそっと入れ、眠る樹の体を触れる前に声をかける。

が、起きないので紡絆は謝ってから体を揺らしてみた。

 

「んんん……ふぁ……。へぁ!?」

 

「あぶな!?」

 

体を揺らしていると、少しもぞもぞとした動きはあったが、樹はゆっくりと目を開いていた。

しばらくぼうっとしていたが、すぐに覚醒すると顔を赤めながら体を起こしたので突然の攻撃に反応した紡絆は直撃する前に避けた。

 

(わ、私いつの間に寝ていたの!? ね、寝顔見られた…!? は、恥ずかしい……うう、でも確か膝枕していたのにソファーに寝かされてたし……そこは紡絆先輩の優しさ、だし悪くない、よね)

 

異性の家で先輩後輩の関係とはいえ、無防備に寝るのはダメだろう。今回は紡絆には罪はない。

意識を奪われた紡絆はともかく、樹は寝落ちだ。絶対に万が一はないだろうが、何らかの間違いがあれば疑われるのは紡絆なのだから。

 

「あーまぁ、顔洗ったら目が覚めるかも? ちなみに樹ちゃんから見て出て左折したところ」

 

女の子的に何かあるんじゃないかと配慮した紡絆は一応場所だけは言っておいて、すぐにキッチンへ戻る。

樹はとりあえず寝癖とかついてるかも、と慌てて洗面所へ向かっていった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

627:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

でさぁ、俺以外が食ったらどうなると思う? 

 

 

628:名無しの転生者 ID:cgoiotJ2F

イッチ、よく生きてたな……

 

 

629:名無しの転生者 ID:Euttu45PR

テイルズオブシリーズでもメシマズ居たっけな……

 

 

630:名無しの転生者 ID:u5nsisIu9

食べる寸前までしか記憶がないって……脳が思い出すことを拒否してんのか

 

 

631:名無しの転生者 ID:sUiTSoZXi

>>627

間違いなく死ぬ

 

 

632:名無しの転生者 ID:QZUCwID3u

どうにか改善させないとHappy Birthday to youどころかDeath Birthday to youに変わるぞ。

幸せな誕生日をあなたへ! から死の誕生日をあなたへ! に

 

 

633:名無しの転生者 ID:0fAj7r70z

相手が男ならガツンと怒れるんだがなぁ……

 

 

634:名無しの転生者 ID:y/DgnOGrW

あんな笑顔で勧められたら無理だしマズイ! とか言って怒ったりなどしたら料理が嫌いになるかもしれん。あと悲しませる。

性格的にはそう見えるしな

 

 

635:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

俺も樹ちゃんに強く叱ったりはしたくないんだよな。難しいけど、誘導するか……いや、俺が目を離さないように気をつけてみよう。まずは一から作らせてみるわ。

あと二、三回は死ぬ覚悟を持っておくぞ!

 

 

636:名無しの転生者 ID:9XQzH0Sly

直すのは骨が折れるからなぁ……大抵無理ですわ

 

 

637:名無しの転生者 ID:khvRWxuS2

>>635

一からやらせるのか!? 一人で!?

お前、次は生き残れる保証はないぞ……!

 

 

638:名無しの転生者 ID:WzuCMhKq/

クッキーとかならともかく、ホールケーキはまあまあ大きいからな。ショートケーキみたいに小さければ普通の人間でも致命傷で済むだろうが……バースデーケーキの練習にならんし

 

 

639:名無しの転生者 ID:d+6NVnebl

少なくともイッチは頑張った。これ以上やらなくてもいいんじゃないのか……!?

 

 

640:名無しの転生者 ID:VaEvyFbm4

先輩としての威厳は守れたぞ! 見てるこっちまで吐きそうになったがな!

 

 

641:名無しの転生者 ID:8Dp7aVtbZ

というかさっきの見た後だとイッチのケーキめっちゃ綺麗に見えるし美味しそうに見える。

なんて綺麗な白色なんだろうか……

 

 

642:名無しの転生者 ID:SqHW0qP54

今回ばかりは同情するわ……

 

 

643:名無しの転生者 ID:jRWtzpqXW

正直言って店やってる側からするとクリームの立て方とか混ぜ方とかまだまだ荒い部分は多い。

でも……全然良いように見える不思議

 

 

644:名無しの転生者 ID:7vZnuQc3l

樹ちゃんの料理が印象深すぎてなぁ……

 

 

645:名無しの転生者 ID:dFqbUV+wb

スレ民すら遠慮する料理とは……

 

 

646:名無しの転生者 ID:jKNnS3I5M

あんなん食えたもんじゃねぇ! 実際に出されたら食うしか選択ないけど

 

 

647:名無しの転生者 ID:WHTBqp8qF

完食するイッチがおかしい

 

 

648:名無しの転生者 ID:6PZQj9y2p

完食したイッチすら味を思い出すことが出来ない……!

 

 

649:名無しの転生者 ID:UHgPqPZl4

果たして美味しかったのか不味かったのか……どんな味がしたのだろうか

 

 

650:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>637

一回やらせてみないと何処までか予想出来ないんで……まぁ、大丈夫大丈夫。たぶん

 

とりあえずこれ以上死者を出す訳には行かないから頑張る

 

 

651:名無しの転生者 ID:RTXmKYSO8

頑張れイッチ! みんなの命はお前にかかっている!

 

 

652:名無しの転生者 ID:cyRpGELwO

そうだ、この世界を守れるのはお前だけだぞ!

 

 

653:名無しの転生者 ID:2ieI2APTF

あれ、これなんの話だっけ?

 

 

654:名無しの転生者 ID:9mc4hLtfb

この盛り上がりはなんだ()

 

 

655:名無しの転生者 ID:NG+kgvNWe

※強敵との戦いに見えますが、あくまでケーキの話です

 

 

656:名無しの転生者 ID:5zyoXOJTP

ケーキで語るスケールじゃねぇ!

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

早めの夜食。

そして紡絆が作ったケーキを食べると、紡絆は脳裏にノイズが走ったが味は普通。食感も普通。

平凡だった。なのにも関わらず、紡絆は今まで食べきたケーキより美味しかった。

 

「……美味い」

 

「甘くて美味しい〜♪」

 

紡絆は喜ぶ樹の姿を優しい眼差しを向ける。

どうやら彼女は甘いものが好きなようだ。紡絆自身も大半の女性がスイーツなどの甘いものが好きなイメージがある。

もちろん苦手な人もいるが、樹はイメージ通り好きな分類に入るらしい。

 

(さて、それはいい。問題はこれは()()()()()からダメなんだ。風先輩が一番嬉しいのは、間違いなく()()()()()()バースデーケーキ。だがあれは死ぬ。俺ですら死にかけたんだから間違いなく死ぬ。いつも俺に文句言う掲示板の人たちすらあんな反応なんだ……樹ちゃんはどこへ向かう気なのだろうか)

 

食べる前の光景すら思い出したくない紡絆は遠い目をするが、彼が諦めてしまえば待っている未来は死。

折れそうな心とまた食べるかも知らない恐怖を感じつつ、両頬をパンっと叩いて気合を入れる。

気持ちを確かに、鼓舞して。みんなを救うために。

 

「樹ちゃん。もう一度だ。もう一度やろう」

 

「はい! でも完成じゃ……?」

 

「これなら問題ないが、樹ちゃんが作った方が良いだろ? なら練習あるのみ。お世辞にも形は良くない。

ちゃんとした、綺麗なケーキを作って、風先輩に喜んでもらおう!」

 

それとなく傷つけないようにそれっぽいことを述べ、最悪な未来を回避する努力をする。

それは報われたのか、樹の表情もケーキを食べて緩んでた状態から変わる。

 

「そうですよね……頑張ります!」

 

「あぁ、それで、だ。何も分からずに作ったって何も変わらない。だからここでアドバイス。込める想いを重視しよう。

味と形なんて付属品だ。

頑張って、努力して、気持ちを込めて、その込められた気持ちこそが美味さに繋がるんだ。

ほら、愛情は最高のスパイスとも言うしな」

 

例えそれが不味くても、変でも、結局料理というのは気持ちと過程なのだ。

ただ想うだけじゃなくて、頑張り。料理を通して気持ちを伝える人だっているくらいなのだから。

込められた想いが弱くなくて、しっかりと練習して努力したからこそ、その経緯を料理が通してくれる。

気持ちを、伝えてくれるのだ。

愛情だけじゃ美味しくはならない。それで美味しくなるなら全て美味しいだろう。

問題は愛情なんかではなく、それを込める時に何をしたか、だ。

例えばコンビニのおにぎり。味も沢山あって、種類も多い。味は()()()()()()()だろう。

ならば、料理が苦手で、作ったこともない人がその人のことを想って、努力して、形が歪でお世辞にも美味しくないおにぎりならば?

確かに味は()()()()()()()()()かもしれない。でも作った人の気持ちを感じられるならその味は食べる人にとっては()()()()なのだ。

他にもポンッと愛情の欠けらも無いインスタントを作って渡す料理と、愛情を込めながらも頑張って作った料理なら後者の方が美味しいに決まっている。

だからこそ、愛情は最高のスパイス。

作った者の愛情が、気持ちが乗り移り、料理に宿る。

だからこそ、美味しい。

 

(俺、基本的に料理なんて作らないから知らないけどな!)

 

が、アドバイスしている割にはインスタントか外食で済ませるのが紡絆なので、説得力は皆無である。

もちろん普通はあまり一から作らないであろうケーキをスポンジからクリームまで全て作れる辺り腕は悪くは無いのだろう。血が滲むほどたくさん練習して努力すればプロになれる可能性を秘めているかもしれない。

 

「愛情……」

 

「そう、樹ちゃんがどれだけ風先輩のことが大好きなのか知ってる。別に今は誰を思おうがいいけど、後はその気持ちを料理にぶつけよう。そうすることできっと最高の料理を作れるはずだ!」

 

「は、はいっ。もう一回、作りましょう……!」

 

「OKー。じゃ、樹ちゃん自身の力で作ってみよう。俺は……そうだな、友奈たちの方をちょっと見てくる」

 

「分かりました!」

 

残りのケーキを食べると、片付けて紡絆はリビングから出る。

一応作り方は教えておいたが、当日紡絆が一緒に作る保障などない。一から作れないようにならないとダメだと思い、物は試しにやらせるつもりだろう。

だが---

 

(さ、さっきのはもう食いたくねぇ……)

 

一体どんなものが出来るのだろうか、と紡絆は遠い目をしつつ友奈たちうどん班の様子見を行くことにした。

彼の手にはケーキを入れた箱がある。それは二人に対する差し入れだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真剣な雰囲気を醸し出しながら、作業する樹の姿。

彼女はクッキングシートの部分だけは紡絆がしたが、一からスポンジケーキを作成し、一からデコレーションをした。

言われた通りのアドバイスを乗せ、うろ覚えの部分はあったが、出来る限り記憶を思い出して引き出し、頑張った。

 

「出来た……!」

 

それが、目の前にあるケーキとは呼べるか分からない形をしたもの。

むしろパワーアップしているが、樹にとっては今日一番の、さっきよりも最高の出来。手応えを感じていた。

ふぅ、と息を吐き、集中した緊張を和らげる。

うどん班の方は順調だったと樹に伝えた紡絆はソファーに座りながら本を読んでいる。

 

「つむ---あっ」

 

だからこそ呼ぼうとしたところで、樹はふと足を止めた。

至って真剣。読んでいる本は樹には分からないが、少なくとも集中しているのだろう。

邪魔をしていいのか、声を掛けていいのか、判断に迷っていた。

 

(それに珍しいし……)

 

樹は交流が少ない。

プライベートをあまり知らないのだ。部屋着の姿なんてあまり見ないし、部活での姿しか知らない。部室で本を読んでる姿なんて滅多にない。

出会った期間から考えて、仕方がないのだが。

 

「……ん。あ、終わってた!? ご、ごめん! 待たせちゃって」

 

ふと顔を上げると、紡絆は樹の姿に気づいたのだろう。

慌てて本を閉じるとテーブルに置き、すぐに樹の元へ駆け寄ってきた。

 

「あ、いえ。私の方こそ邪魔をしちゃって……」

 

「いや、いいよ。別に覚えてる内容だし。それで、完成品は---」

 

「これですっ!」

 

紡絆が話をすぐに切ると、本題に入る。

期間まであまりなく、ケーキは時間がかかる。だからこそなのだろう。

しかし紡絆は見た瞬間、下を向いて頭を抱えつつ、全力で頬を引き攣らせた。

我慢することが出来なかった。

 

(……俺、樹ちゃんに恨まれてた? なんかしたっけな……俺的には優しくしてたんだが、なんで最初のやつよりパワーアップしてるんだろう。え、それに黒いオーラ纏って黒い煙が出てるんだけど。紫と黒なんだけど。しかも一部血のように赤く染ってるんだけど。これ怨念や呪いの類では?)

 

失礼なことを考えているが、何とか声には出さなかった。

すぐに引き攣った頬を戻し、目を擦る演技をしてから顔を上げて愛想笑いを浮かべる。

咄嗟の演技によって、樹は違和感を感じることは無かったらしい。首を傾げていただけだった。

 

「え、ええと……これは?」

 

「い、言われた通りに愛情を込めて……」

 

(愛情!? 愛情込めたらさっきよりパワーアップするの!? これ俺もう無理だろ! 今度こそ死ぬぞ!?)

 

頬を赤くしながら言う樹の姿に、危機感しか感じない紡絆。

ちらちらと紡絆を見ていることから察せられるはずなのに、本人は聞いた話に驚いていて気づけない。

 

「そ、そっか。うん、きっと美味しいんだろうな」

 

もうこれを風先輩に食わせようかな、と諦めの思考が紡絆の脳裏に駆け巡る。

彼は最初ので死にかけたのに、強化されたケーキなど耐えられるはずないと思っていた。

 

「それで、その……紡絆先輩に味見して欲しくて……」

 

「俺に?」

 

きょとんとする紡絆だが、樹は何処か遠慮がちに言う。

そんな姿を見せられると、紡絆に断る選択など出来ない。樹は他の部活の人達に比べ、強く出ることはしないだろう。

だから、断ってしまえば引き下がるに違いない。

しかしそれは---

 

(樹ちゃんにとって、辛いだろ。樹ちゃんは至って真剣だ。風先輩のことを思って、初めてだから料理出来ないなりに頑張ってる。風先輩が好きで、大好きだから。俺だって風先輩には笑顔で誕生日を迎えて欲しい。だったら、先輩として、友人として最後まで付き合うのが道理だろ!)

 

彼女を傷つけることになるだろう。

だからこそ、紡絆は断ることなど、決してしない。そもそも家族を失った紡絆にとって、家族の誕生日などというイベントは必ず成功させてあげたいと思うのだ。

そのために、覚悟を決める。

 

「じゃあ……味見させてもらおうかな」

 

「はい。お、お召し上がりください……!」

 

普段から動く割にはうどん二杯で限界な紡絆の腹は夜食を食べたこともあって嘘でも何でもなく、正直に満腹寸前だ。

なので樹に切り分けることだけ言ってから残りは冷蔵庫へ入れ、ソファーに座る。

唯一の救いは、自身の腹が空腹では無いため、切り分けることが出来たことだろう。

 

「いただきます」

 

迷わない。

覚悟を決めた紡絆は、うようよ悩むくらいなら行動に移すことにした。

自身の心が折れる前に、手にフォークを持ちながら、ただ進む---!

 

「どうですか……?」

 

「……おぉ、美味しいと思う」

 

頭が痛いが、気絶するほどではない。脳がエラーを吐きまくってるが、さっきよりかは不思議と意識を奪われるような感覚はなかった。

味は分からない。食感も何故かおかしい。というか、硬い。異常に硬い。フランスパンでも作ったのかと思うくらいには硬いが、何故か美味しいとは思える。

何故なのか分からない紡絆は首を傾げるが、樹はほっと胸に手を当てながら安心していた。

 

「安心しました……」

 

「……まぁ、いっか」

 

とりあえずこのケーキのまま出す訳には行かないので、明日外面だけは優先的に絶対に直そう、と決断した紡絆である。

それにいざとなればみんなが食べる前に外面だけ同じにしておけば問題ないため、味は最悪直せなくても代わりにすり替える算段を立てていた。

さっきまでの考えは間違いなく無くなっている。

 

「あぁ、そうか。風先輩のこと、本当に好きなんだなぁ」

 

そんなふうに考えたところで、咀嚼して飲み込むと気づいたことがあった。

樹は愛情を込めた、と言っていたのだ。それはつまり、味は分からないのに美味しく感じた理由は愛情。

風先輩に対する樹ちゃんの確かな愛情、家族愛なのでは---と紡絆は推測したのだ。

それを他人である紡絆が感じれるほど、彼女は風のことが大好きなのだろう。

 

「………バカ。紡絆先輩なんてもう知りませんッ!」

 

「えぇ!? な、なんかした!?」

 

が、樹は頬を若干膨らませると、少し不機嫌そうにそう呟いた。

紡絆は何故不機嫌そうなのか分からずに慌てるが、樹は顔を逸らして何も言いそうにない。

どうすることも出来なそうだと分かると、素直に諦め、結局今日は解散ということになった。

スマホを見ると時間も時間だったのと、うどん班も解散したらしい。

ということで残りは明日やることになり、次は紡絆の監視の元、やることとなったのだ。

少なくとも味が感じられないのはダメだし食感が可笑しいのも直さなければならない。それでも美味しく感じられたということは、きっと上手く出来るはずだろう。

紡絆は暗くなってきたので樹をしっかり家に送り届け、家に帰ってくる。

 

「……さて、残りも食うか」

 

家に帰ってきたら早速と言わんばかりに冷蔵庫から取り出したケーキを食べる。既に満腹だが、倒れる心配がないなら問題ない。

それに樹の作ったものを残す訳にも行かず、見た目も食感もおかしいのに不思議と意識が消えることも無いケーキ。

それでも誰かが、特に明日樹自身が食べるのを避けさせるために食べる。

もし気づいたら、大変なことになるだろう。料理が嫌いになるかもしれない。というより、紡絆が慣れてしまっただけで本来なら死ぬかもしれない。

なので紡絆はただ無心に、味を感じれないため諦めながら食べ切ったのだが---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……頭がくらくらする……。なんだこれは……」

 

突然頭が痛くなり、片手で頭を抑えながら誰もいないので表情を取り繕うことなく顔を顰める。

原因不明だが、だんだんと何かが湧き上がってくる。まるで意識を奪うように。

いや、違う。紡絆はこの感覚を一度、二度経験したことがあった。

 

「こ、これまさか……即効性……じゃ……なっ、く………遅効性………だ、と………!?」

 

一度目はバーテックスの毒にやられた時。

二度目は樹のケーキを食した時。

そして今、樹を送り届ける前に食べたケーキが効果を発揮しだしていた。まさに驚愕。予想外の出来事。

それにより爆弾が誘爆するように、つい先程食べたケーキにまで効果が及び、強まっていく。

これが家だから良かったが、仮に外であったなら緊急搬送されていたに違いない。

しかし胸ポケットに入れたエボルトラスターが危険を示すように鼓動をし始めた。

 

「あ、しぬ…………」

 

そしてもはや視覚情報などない。

何があるのか、何が見えるのかすら朧気に見ることすら叶わず、肉体の力が抜けていく。

聴覚による情報も消え、嗅覚の機能が失せる。

残る機能すら徐々に停止し、脳が休息を欲するように紡絆の意識を奪おうとせんとし、紡絆は抗うことすら出来ないまま倒れ、意識が暗転したのだった。

ただ最後に分かったことは、掲示板の大勢の人達が『イッチィィイイイイイイィィッ!』と叫んでいた事と、樹の料理は即効性と遅効性、両方を操れる強力な実力者だということ---やはり、犬吠埼樹の料理は危険である。

紡絆は完全に意識を失う前、明日は絶対に見た目も味も直して、しっかり監視しようとこの世界の神(神樹様)に誓ったのだった---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに死んだ訳ではなく、紡絆は五時間後の日付が変わる頃には無事に目覚めることが出来た。

今度はエボルトラスターから光が発されることはなかったが、眠っていた間警告するように鼓動していたのは何故だろうか。

おそらく、紡絆が死にかけていたからだろう。

だが分かったことはあった。樹の料理には即効性と遅効性があること。いざとなった時にすり替えを考えておくべきだということ。

何より---『料理は愛情』とよく言うが、愛情が入っていればいいというものではないというのもまた事実だった。

愛情だけでは、想いだけでは、どうしようも出来ないものは出来ないのだ---

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
危うく毒殺されかけた人。
料理は(前世の記憶のお陰で)出来るが、普通だし基本的に面倒いのでやってない。
ちなみに多分歴代のウルトラ戦士は叱らずに同情すると思います。

〇樹ちゃん
一応紡絆の指示(注意)があった時までは普通に作れてたが、デコレーション時に足りないかな……?みたいな初心者あるある思考でその辺の材料を適当にドバーした。
それがアレである。

〇掲示板の人たち
流石に殺人料理は無理。
死ぬ前なら美少女の飯食べて死ねるから良いけどって人たち。

〇樹ちゃんの手料理
完食した紡絆を(一回目が一気に食べてやばかったため)ウルトラマンが助けるレベル。
即効性と遅効性verあり、紡絆曰く、味は脳がエラーしか出さない。
メンタル最強勇者、白鳥歌野(うたのん)すらトラウマになるくらいなのでマジでやばいが、実は原作よりも強化されている。


Q.前回のデート、曜日的に学校では?

A.(ゆゆゆ世界もGWあると思うから)多分祝日。


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「-遅めの誕生日会-レイトバースディパーティ」


なんとかギリギリ投稿……。そろそろ戦闘が書きたいです。
あと二人やな……!




 

◆◆◆

 

 第 11 話 

 

-遅めの誕生日会-レイトバースディパーティ

 

×××

 

日常編その①

犬吠埼風編

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから紡絆は、さらに二度樹の手料理で意識を失った。

しかし、その成果は得られたのだろう。

無事に綺麗とは言い難いが、まともなケーキを作れたのだ。紡絆の犠牲は無駄ではなく、今度は意識を失うことはなかったし普通に食べることが出来た。

紡絆からすると、まさに免許皆伝である。でも暫くはケーキを食べたくないとは本人談。

パーティの方も飾り付けを半分は終わらせ、残るは当日を迎えさせて準備を終えるだけだ。

だが紡絆は迷っていた。

夜の街を歩きながら、店が閉じる前に考えなくてはならない。

それは何か、と言われると---

 

 

 

 

 

 

「……誕生日プレゼント、女子力しか思いつかねぇ」

 

誕生日プレゼントである。

結局今日まで悩み、何も浮かばなかった風を除いた勇者部一同はプレゼントではなく料理を豪勢にすることを選んだ。

しかし紡絆としてはある意味記憶だけは大人なので是非ちゃんとしたプレゼントをしたい。

だが、彼は分からないのだ。中学生の範囲であるなら何がいいのか、風が何が欲しいのか、そして何が喜ばれるのか。

 

(やっぱり受験シーズンにいつか入るだろうから、時計か……? それとも財布? 風先輩も女の子だし香水や化粧関連がいいのか? でも香水に至っては俺が決めるもんじゃないしなー。風先輩料理するらしいし、包丁とかがいいのだろうか)

 

プレゼントの意味を考えるならば、アクセサリー系統は本来するべきではない。

もちろん紡絆のことなので、風もそんな深い意味は無いことは間違いなく分かるだろうが。

 

「こうなれば……頼るか? いやいや、絶対嫌だ。嫌な予感しかしない」

 

掲示板(ヤツら)は頼れるが、ふざけまくるのだ。風のプレゼントとなればまともにするかもしれないが、逆にやばいのを言うかもしれない。

実際に欲しいものが何かあるか聞いたらチェンソーとか言ってる奴も既に居た。何に使わせるつもりなのか分からないが。

 

(前世の記憶も役に立たないな……明らかに風先輩には関係ないし)

 

約二年間近くを除いて、唯一持っている記憶は、前世の記憶だ。

しかし中一の記憶も役に立たなければ前世の記憶も役に立たない。となると、やはり頼るしかなくなってきたのである。

 

「はぁ………小都音が今の俺を見たら怒るだろうか」

 

はっきりいって、紡絆はこういうことには前世を含めて疎い。

誕生日プレゼントに至っては、中学生と大人相手では渡すものも違う。

なかなかに難しい問題なのだ。

特に紡絆は男で女心が分からないのだから余計にだろう。

その分、彼の妹は色々と強かった。女の子らしかったし、買い物もよくしていた。

しっかりとオシャレをして、自身の素材をより際立たせていた。髪型だって服によって変えたりなどして。

 

「……すぐイメージ出来るなぁ」

 

可愛らしく、ぷりぷりと怒る姿。

肩にまでかかる水のような、海のような綺麗な髪。怒りながら首を動かして髪の毛をバシバシと当ててくる光景が目に浮かぶが、それはあくまで過去の話だ。

 

「今は風先輩のプレゼント考えないと!」

 

深く考えてしまえば、いくら紡絆でも暗くなる。

だからこそ、過去を思い出すことがあってもすぐに切り替えた。

終わったものは、終わりなのだ。

紡絆に力を授けてくれ、導いてくれた人は、姫矢准は言った。過去は変えられないと。

それと同じだ。今を生きる紡絆には未来しか変えれない。この先の、世界の未来を、選択を誤らないようにする未来を。

 

「……うどん玉にするか?」

 

---残念ながら、未来は無さそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

20:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

てことで、非常に癪だし頼りたくなかったが、助けてくれない?

 

 

21:名無しの転生者 ID:ACKoRfzUU

それが人に頼む態度か!?

 

 

22:名無しの転生者 ID:L7u+bMCXQ

いうて俺らも好みとか知らんぞ。イッチの情報と映像でしか見たことないし

 

 

23:名無しの転生者 ID:5Ay6c0vsz

失礼なこと言うやつだな

 

 

24:名無しの転生者 ID:jvFz8HisL

そうだそうだ、いい加減にしろー!

 

 

25:名無しの転生者 ID:ywLnh54zX

ふざけるわけないだろ! いい加減にしろ!

ところでスライムは楽しいぞ

 

 

26:名無しの転生者 ID:++C2Yk7kI

練り消しも意外といいぞ

 

 

27:名無しの転生者 ID:BVat5t4u/

トランプもありだな

 

 

28:名無しの転生者 ID:HP9qPI0m4

UNO一択よUNO。UNOやろうぜ! UNO楽しいぞ!

 

 

29:名無しの転生者 ID:JyyBjR08P

ガンプラでよくね?

 

 

30:名無しの転生者 ID:F6bP/s15H

特撮の玩具とか

 

 

31:名無しの転生者 ID:3Yt0Xyuj6

指輪♡

 

 

32:名無しの転生者 ID:iLcpo5evs

(イッチを刺すための)ナイフ

 

 

33:名無しの転生者 ID:zPJv8W1OI

エ口本

 

 

34:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

こうなるから言いたくなかったんだ……そんなの渡したら怪しまれるし引かれるだろうが!

てか絶対趣味でしょ! ガンプラとかUNOとかさぁ! UNOとトランプに至ってはプレゼントでもないし! エロ本なんてもってのほかじゃい!

 

 

35:名無しの転生者 ID:4c1FTOpsX

人に頼む態度じゃないから悪いんじゃ……

 

 

36:名無しの転生者 ID:3aMf6SpQT

イッチ、よく見ろ。それはエロ本じゃない。エ口本だ

 

 

37:名無しの転生者 ID:dvxdZXTKM

物騒なの紛れ込んでるの草

 

 

38:名無しの転生者 ID:noyMiZTpC

>>36

うわ、確かにロじゃないやんけ!?

 

 

39:名無しの転生者 ID:wI3qw4FZn

不思議だよなーロと口って。

 

 

40:名無しの転生者 ID:Fft/A2yQz

似てるせいでどっちか分からなくなるしな。特に紙に書いたりしたら

 

 

41:名無しの転生者 ID:t9NSTYe8H

これだから日本語は難しい

 

 

42:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

謝るから勘弁してくださいお願いします。

まじで分からないので助けてください、はい。前世の記憶では中学生にプレゼントなんてしたことなくてさ……分からないんだよ

 

 

43:名無しの転生者 ID:ISmxuF1XE

ガチ悩みじゃん。てか中学生にプレゼントとか絶対事案だもん

 

 

44:名無しの転生者 ID:+R+zxQZlQ

しゃあない、許したるわ

 

 

45:名無しの転生者 ID:pdzAIS+9i

ホモは寛容だからな、任せろ

 

 

46:名無しの転生者 ID:g3ZxgAtmw

一 転 攻 勢

 

 

47:名無しの転生者 ID:/XjmWh7Yy

ただの手のひら返しともいう

 

 

48:名無しの転生者 ID:zMbu+vHbx

まぁ、普通に考えたら部活に関連するもの、生活に使えそうなもの、好きな物、趣味のもの、だよな

 

 

49:名無しの転生者 ID:HaFObwINN

ワイ、女の子にプレゼントした回数0

(ギャルゲー脳でも)バレへんか……

 

 

50:名無しの転生者 ID:b+VVPHdzF

料理してるんだっけ。包丁とかは確かにありだよな。あとは鍋とかフライパンとか?

 

 

51:名無しの転生者 ID:ZVUElivlw

>>49

書いてる時点でバレバレなんだよなぁ……

 

 

52:名無しの転生者 ID:G5MN2dS/R

今皐月……五月だっけ。そろそろ夏用のやつ色々と出てるんじゃない?

 

 

53:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

夏用か…。タオルとかかな。後は日焼け止めとか、ハンカチ? 後は扇子か?

 

 

54:名無しの転生者 ID:qSKCL23sc

正直下手にコスメ買うのはおすすめ出来ないからな……使い心地とかあるだろうし、その辺でいいかもしれん

 

 

55:名無しの転生者 ID:eI2nKrqiP

あの人って、ぬいぐるみプレゼントとかはイメージと違うしな

 

 

56:名無しの転生者 ID:o73wc/T2S

誕生日プレゼントならいっそのことリラックスグッズとかどうよ。形に残る方が良いだろ

 

 

57:名無しの転生者 ID:5n1kqIcqr

入浴剤とかもありやぞ。シャーペンとかポールペンとか意外と使うやつもいいかもな

 

 

58:名無しの転生者 ID:bB0rpK74O

梅雨入ること考えて傘の手段もあるくない? 探せばいくらでも贈れるものはあるぞ?

 

 

59:名無しの転生者 ID:6IdTwjldE

指輪、ネックレス、ブレスレットと言った輪っか状のものはあなたを独占したいという意味があるとはよく言われているよな。

ピアスとイヤリングはいつも側で見守っている。

腕時計はあなたと一緒に時間を過ごしたい、勤勉・努力して。

ハンカチだと手切れ、靴だと踏みつける、見下す。

ちなみにボールペンだとお世話になっている、日頃の感謝、尊敬の意味があったはず

 

 

60:名無しの転生者 ID:qfqCviC4B

消しゴムもありじゃない?

 

 

61:名無しの転生者 ID:Qd25pmwn2

>>59

ほへーそんな意味が

 

 

62:名無しの転生者 ID:vvKGYYRJN

なるほどなぁ…プレゼントの意味を考えるのもありか。確かに知ってる人からすると誤解を産むものだ

 

 

63:名無しの転生者 ID:aDbXfgbcv

ちなみにタオルは悪いことは続かないだったり嫌なことを水に流すみたいな意味もあるね

 

 

64:名無しの転生者 ID:XgGRmXFX9

メッセージカードさえありゃ別に誤解する要素ないんだけどね

 

 

65:名無しの転生者 ID:gP5ofH+xA

>>56

まあ、でも正解だよな

形に残った方が絶対良い

 

 

66:名無しの転生者 ID:k8t0XwyLB

まぁ、不安なら聞いてくれたらここの人達なら誰か知ってる人いると思うし、イッチのセンスが皆無でもフォロー出来るわ

 

 

67:名無しの転生者 ID:oY2yk0PdH

やっぱりガチ悩みの時は真面目にするよな

 

 

68:名無しの転生者 ID:eSiJYLn5W

落差が酷いけど、ある意味リラックスみたいなもんなんでしょうな

 

 

69:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

なるほど……ありがとう。

意味から考えて、ボールペンとタオルにするわ。何か良い奴あるかなー

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真面目にしてくれたことに感謝しつつ、紡絆はボールペンが売っている箇所へ行き、一個ずつ見ていく。

 

「風先輩って黄色だよな……イメージカラー。勇者の時も黄色だし…でもタオルはともかく、ボールペンが黄色ってのはなぁ」

 

黒ではなく、黄色のカラーペンはあんまり使わないだろう、そして芯が黒でも外面が黄色の色をしたボールペンなんてそうそうない。

タオルなら黄色はあるが、紡絆は外面が黄色のボールペンなんて今世でも前世でもあまり見た記憶はなかった。

4か5種類の色がまとめて使える多色ボールペンならあったりしたが。

 

「万札か……別に買ってもいいけど貰った側からすると使いにくいだろうし……これでいいか」

 

ふと目に入ったボールペンを手にすると、値段を見る。

3320円で、シルバー×ゴールドの色だ。黄色ではないが、イメージとしては問題ないだろう。一万の物よりかは安物だが、持ち心地も悪くはなかった。

それに色が綺麗なのだ。使われるかどうかは分からないが、買って損はなさそうだということで紡絆は迷うことなくレジへ向かう。

レジでは誕生日プレゼントということでラッピングして貰って、購入した。

掲示板の人達にも良いんじゃないかという評価は受け取ったので、紡絆のセンスは皆無ではないのかもしれない。

もし要らないと言われたら自分で使うか誰かにあげればいいだろう、とそう考えながら、紡絆はタオルが売っているコーナーを探しに向かい、商品を見ていく。

 

「うどんのタオル……使う度にお腹空きそうだから却下。女子にあげるものじゃないし……うーんシンプルイズザベストってな。これでいいか」

 

紡絆は黄色のレモンが描かれたタオルを手にする。

夏といえば、レモンは大切だろう。皐月ともなれば、夏は近い。そして夏は暑さや紫外線により活性酸素が増えビタミンCが減少してしまうのだ。

そういう意味でも、レモンを選んだのかもしれない。体に気をつけるようにというメッセージを込めて。

 

「最後のは適当だけど、いらないならいらないでいいし……」

 

そんなのはなかった。

しかし文句を言ったりはしないだろう。渡す相手が相手なのでもっと女子っぽいのにするべきかと思ったが、そこは紡絆が選ぶより彼女自身が選んだ方が間違いなくセンスがある。

なので、紡絆はとりあえず良さげなやつにしたわけだ。

 

「ま、でも……無地のも買っとこう」

 

黄色の柄も特にない無地のを取り、紡絆は同じくレジでラッピングして貰った。

無地ならどこで使っても問題ないし、レモンよりかはマシだろう。だがもしかしたらレモンよりうどんにするべきだったかもしれない。

そこはもう分からないが、無事に用意することは出来た紡絆は家に帰宅することを選んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして当日。

残る飾り付けも完全に終わり、後はケーキやうどんを作るだけ。

しかし解散して風だけ一人にすれば怪しまれることは確定だろう。

なので、考えた末に出た案とは---

 

 

「今なら鉄骨や電柱ごと持てそうですよ、俺」

 

やはり勇者部の活動だった。

そもそも紡絆がそんな誰かとデートなどするかと言われると、微妙としか言えない。

いや、正確には周りから見たらデートでも、本人からするとデートでは無いのだ。

 

「それは流石に無茶だと思うわよ? というか、危ないからやめなさい」

 

そんな紡絆の近くには地面から見上げた風が苦笑していた。

鉄骨クラスを単体で持つなんて間違いなく肩があの世に逝くが、紡絆はウルトラマンの恩恵を受けている者だ。

ただでさえ高かった身体能力にプラスされているのだから、持ててもおかしくは無いかもしれない。

危ないため、絶対にやらないだろうが。

 

(俺的には樹ちゃんの方が危ないと思うから早く治した方が良いと思うけど……料理の腕)

 

いくらケーキを普通に作れるようにしたとはいえ、数は覚えてないが最低でも四回殺されかけた身なので、彼女の妹である樹の料理がどれだけ脅威なのか身をもって知っている紡絆は心の中でそう言うしかない。

もし彼じゃなければ殺人事件となっていたかもしれないのだから。

 

「いやーそれにしても中々久しぶりじゃないですかね、風先輩と依頼って」

 

「まぁ、普段は動ける友奈と活動してもらう事が多いからね。あともうちょっと右よ」

 

「一人でやることも多いですもんね。あ、こっちです?」

 

「そうそう、いい感じ」

 

コンコンと叩く音が響く。

紡絆が何をしているか?と言われると、彼は納屋の修理をしている。

はっきり言うと紡絆はこういうのは得意ではない。力加減を間違えると壊れるし、動く運動系が得意だ。

それでも頼まれてしまえば断ることの出来ないのがお人好しな彼なので、時間が掛かるという意味でも請け負ったのだ。

しかし前世の記憶を取り戻した今の紡絆には優秀なもの(転生者)達が居るので、問題なくこなせていた。

勇者部はボランティア、何でも屋に近い部活だ。

 

「こんなもんかなぁ。よっと」

 

「えっ」

 

しかし彼も素人同然なので、ちゃんとした修理はプロに任せるしかない。

応急処置をした紡絆は物を持って屋根から飛び降り、地面に着地する。

 

「何のための脚立よ!?」

 

「この方が楽かなーと! あはは」

 

「怪我することも考えなさいよ……はぁ」

 

哀れ脚立。

何故か脚立に哀愁が漂っているように見えるが、本来の役目を果たすことなくスルーされたからだろうか。

普通だと怪我するので、間違えても良い子は真似をしてはいけない。

そして危険な真似をする割に笑うだけ笑う紡絆に風は顳顬を抑えながらため息を吐くしかなかった。

 

「おや、終わったのかい?」

 

「あ、はい応急処置なので、ちゃんとした修繕は大工の方に連絡をして頂いて---」

 

危ないため、納屋から離れていた年寄り---60代後半か70代前半くらいの女性が風に近づいて終わったのか聞いてきたため、風は即座に対応する。

紡絆は詳しく説明しだした風の言葉は前世含めてよく分からないので、道具だけ片付けておいた。

 

「ふぅ……さて、どうするか」

 

紡絆の目的は、出来る限りの時間稼ぎ。

もちろん目標の時間となれば戻るようにしているが、今は連絡が来ないことからまだ終わってないのだろう。

であるならば、まだまだ勇者部の活動をしなければならない。

友奈や東郷、樹は誕生日パーティーの準備を。紡絆は参加出来ないみんなの分も動こうと考えていた。

サボりすぎると勇者部の依頼は貯まるのもあるが、紡絆自身は眠っていた期間迷惑をかけた自覚はあるので、それもあるのかもしれない。

とりあえずは風が話終えるまでは何もすることが出来ないため、今の紡絆は何しようかなと頭の中で考えていた。

 

「にーちゃん! あそぼ!」

 

「ん? おー、いいぞ。何する?」

 

そんなことを考えていると、小さい男の子が紡絆のズボンを引っ張ってきた。

紡絆は腰を下ろして目線を合わし、笑顔で答える。

ちなみに紡絆のズボンを引っ張った男の子は、老女の孫らしく、今は遊びに来てるところで、紡絆と風が依頼を果たすために来た---という経緯だ。

 

「うーん、キャッチボール!」

 

「お、やるか! でもお兄ちゃんそんな時間取れないからさ、ちょっとだけだからな?」

 

「うん!」

 

「よしよし、良い子だ」

 

紡絆が男の子の頭をそっと撫でると、その子は笑顔になる。それを見て、紡絆も笑みを浮かべていた。

そして男の子はとにかく遊べたらいいのか、はたまた紡絆と同じく暇だからか野球ボール---それもゆうボールと呼ばれる柔らかいボールを手に持って、離れてからグローブを互いに着用。

男の子は紡絆に向かって投げた。

当然元々身体能力も高く、部活に助っ人として呼ばれる紡絆にとって余裕だろう。

片手で悠々と取ると、男の子に向かってそっと投げる。

正確に投げられたボールは男の子の手にすっぽりと入る軌道で飛んでいき、実際に真ん中に入っていった。

 

「いつか野球選手でも目指すのか?」

 

「うーん……まだわかんない」

 

「そっか。まぁ、まだまだ若いもんな」

 

キャッチボールを互いに落とすことなくこなし---というより紡絆が上手く立ち回るお陰で男の子のボールがどこかへ飛んでいくことはないため、話しながら投げ合う。

男の子は全力で。紡絆は年齢的にも当然ながら物凄く手加減して。

 

「ただ人生の先輩として助言すると、夢というのは大切だ。自身がなりたいものがあれば、真っ直ぐ夢に向かってゆける。あきらめない勇気、挫けない心さえあったら、いつかの未来にその夢を手に掴むことが出来ると思う。あと、親御さんは大切にな。これは絶対」

 

「ちょっとムズかしい……でも分かった! お母さんやお父さん、おばあちゃんのこと大切にする!」

 

「その気持ちは大切にな? 家族ってかけがえのない宝物だからさ」

 

キャッチボールをしながら、目の前の子供の言葉に紡絆はただ嬉しそうにする。

家族というのは、亡くなってしまえば終わりなのだ。代わりはいない。遺伝子で繋がっている唯一の存在が家族であり、()()()()()()()()はいても()()()()()は自身を産んでくれた両親だけだ。

もちろん、血縁関係が広い者だと他人であっても血は繋がっている場合はあるが。

だが紡絆は()()()()()を喪っているので、大切にするという思いは例え口だけでも嬉しいのだ。

 

(そのためにも、ウルトラマンとして頑張らないとなぁ……)

 

だんだんと気配のみでキャッチするようになりながら、紡絆は思う。

スペースビーストという存在は、バーテックスと違って無数に存在する。

何処で生まれ、何処から来ているかは分からないが、仮に外の世界がウイルスで蔓延して滅んでいたとしても、動物や水といった自然さえあれば幾らでも存在するだろう。

無論、外の世界はもしかしたらスペースビーストすら存在することが出来ず、生物や自然だって滅んでいる可能性もある。

自分たちが気づいていだけで、人気のない他の場所で生まれてるのかもしれない。

だからこそ確信は出来ないのだが、結局はスペースビーストはまだまだ来る可能性が高いということ。バーテックスも相手しなければだが、紡絆は目の前の少年の家族と少年を守るためにもウルトラマンとして一層頑張ることを決断した。

 

「ほい。良いボールだ! 練習したら、もっと上手くなれるよ」

 

ふと風の方を見た紡絆は話を終えたことを理解し、少年に近づいてボールを手渡すと、グローブも返して軽く頭をくしゃくしゃと撫でる。

 

「へへ……そうかな?」

 

「そうだとも。君の未来は君が決めることだ。だからとやかくは言わないが、これからも頑張れよ!」

 

「うん!」

 

「いい返事」

 

最後に髪を整えるように撫でた紡絆は、少年の背中を優しく支えるように歩き、話し終えたらしい老女と風の元へ辿り着くと、少年を返した。

すると老女は少年を撫でて、優しそうな表情を浮かべる。

 

「ありがとうねぇ。この子と遊んでくれて」

 

「いえ、運動するのは好きですから。それで風先輩、終わりました?」

 

軽くキャッチボールくらいなら、運動できるものなら簡単だ。

なので、紡絆は気にしてないというように首を横に振りつつ、風に言葉を投げかけた。

 

「ちゃんと説明はしておいたわよ。というか、あんたじゃ間違いなく無理でしょうし……」

 

「失礼な、業者呼ぶことくらいは分かりますよ。会社とか何の業者とかは知りませんけどね!」

 

「そこが大事なんだけど!?」

 

「俺が知ってるとでも!?」

 

「それは---ないわね」

 

「え、ちょ。少しくらい否定してくれても良くないですか?」

 

「普段の行いが悪いからでしょ!」

 

「酷い! 頭を使いたくないだけなのに!」

 

「いや使いなさいよ!?」

 

まだ依頼を完全に達成したというわけでもないのに、依頼人の目の前でコントのようなものを繰り広げる紡絆と風。

というよりは、紡絆のせいではありそうではある。

 

「仲が良いのねぇ」

 

「にーちゃんとおねえちゃん、おにあい?」

 

それを見てか、老女はくすくすと笑い、少年はきょとんと首を傾げていた。

 

「あ、すみません。それと風先輩と俺じゃ釣り合ってないから違うぞ。

この人は料理も作れて洗濯も出来て家事出来るし優しかったりリーダー力もある。それに美人な人だからな。

俺には勿体ない」

 

「ちょ……!?」

 

「おねえちゃん、すごい人なんだ!」

 

まだ終わってないことに気づいた紡絆はすぐに頭を下げ、少年の言葉を誤解が生まれないために否定する。

なにやら隣で驚くような声が聞こえたが、紡絆はまた同じことになりそうだったのでスルーを決め込んだ。

すると、少年はキラキラとした尊敬のような目を風に向けていた。

さらに何故か得意げにする紡絆である。

 

「えー、でもお父さん言ってたよ? 言い合える仲がいいって」

 

「う、うーん間違ってはないんだろうけど、俺とこの人の関係はそんなのじゃないんだ。

先輩と後輩。そういうふうに恋人みたいなのじゃないからさ。

むしろ恋人じゃないのに恋人扱いしたら相手に失礼になっちゃうから気をつけなくちゃダメだ」

 

不思議、というように首を傾げて言う純粋な少年に紡絆は困ったような表情をしつつ、目の前の少年が将来とんでもない間違いをしないように考えながら優しく注意をしておく。

実際、恋人扱いされても平気ということはその人が恋人扱いしている人に対して、付き合いたい、恋人になりたいという()()を持ってることが前提になる。

だからこそ、自分と風はそんな関係ではないと言いたいのだろう。

 

「そうなんだ。にーちゃんとおねえちゃん良いと思うんだけどなぁ。ね、おばあちゃん」

 

「えぇ、そうねぇ」

 

「あはは……ありがとうございます(?)」

 

なんと言えば良いか分からない紡絆は疑問系になりながらとりあえずお礼を言い、何故か機能していない隣の風の手を取ると、もう一度頭を下げた。

 

「じゃあ、これで」

 

「もう行くのねぇ。助かったわ」

 

「また遊ぼうね!」

 

「おう! 風先輩、行きますよー!」

 

頭を上げると手を振り、別れの挨拶を交わした紡絆は風の手を引っ張って離れていく。

これ以上言われても対応に困るのもあるが、紡絆としては風に失礼なんじゃないかと思っていた。

なので、戦力的撤退である。しかしやけに静かになったので、紡絆はなんとなしに言ってみる。

 

「おーい、風先輩ー? ええと、美人が台無しですよ?」

 

「え? あ、あぁ、ちょっと考え事していて……」

 

「美人なのは自分で認めるんですね、いや実際そうですけど」

 

「と、当然でしょう? 私ほどの女子力を持つ者からすれば必然だもの!」

 

誤魔化すように自信満々に言う風に、紡絆は少し微笑する。

 

「おー、いつもの風先輩だ。悩みがあったら言ってくださいよ?」

 

「そうね。なら……あまりあんなこと言うと誤解されるわよ? あたしだったから良かったものの……」

 

元通りへ戻った風の姿に安心するが、紡絆の言葉を聞いて風は注意を投げかける。

あんなこと、というのは女性を褒める言葉、などだろう。

 

「いや、ただ俺は本音で言ってるだけですけど? 大切な人たちのことはちゃんと知って貰って、そこを褒められるのは嬉しいものです。

みんなのことはちゃんと評価して貰いたいですからね。

それに俺と付き合ってるなんて噂が出てくると、みんなが可哀想でしょう。

みんなが不快になることは嫌ですし、それは阻止します」

 

それは紡絆の嘘偽りない本音なのだろう。

というより、風は紡絆が嘘をついてないことを看破している。紡絆はだいたい嘘をつくなんてことはしないし、基本的に心の底から思ってることを言っている。

だから人を不愉快にさせたりしないし悪意を抱かせたりもしない。

もちろん正直に直球で言うのではなく、状況をしっかり理解して何も言わない時だってある。

時に優しい嘘をつくことだってある。

紡絆自身の嘘や誤魔化しは自身がウルトラマンだということを隠していた時のように全力で隠さないとすぐに分かってしまう点はあるが。

しかし、だからこそ本音で言う彼はタチが悪い。

天然、とも言えるだろう。

 

「それに……今の俺には勇者部が一番大切ですから」

 

何処か遠い目をして言う紡絆の姿に、風は流石に口を出すことは出来なかった。

風には家族を喪うことの辛さは知っている。そして妹である樹は知らないが、原因は知っているのだ。

一方で、紡絆は何も知らない。

家族が交通事故にあって、亡くなって、終わり。

車での事故が原因、ということくらいだろうか。

 

「ほら、次々と行きますよー! まだまだあるんですから頑張らないと!」

 

「……そうね」

 

だからこそ、風にとって紡絆という存在は眩しかった。

紡絆は決して誰かを恨んだりしない。そうしたら楽だというのに、自分を責める。

それを風は知っている---いや、聞いたことがあった。

紡絆が家族を喪ったのは四ヶ月前、それから少し経った後に風は一度二人っきりになった時に聞いたことがあった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

まだ樹が入ってきておらず、四人しか居なかった勇者部。

その部活で紡絆は家族が亡くなったことを知った()()()には部活へ顔を出した。

そう、()()()()()()()()()にも関わらず、顔を出したのだ。

その日は、普通だった。

何も知らず、何も分からず、ただ()()()()()の紡絆をからかったり、ふざけあったり、馬鹿なことを言い出す紡絆を注意するだけ。

そんな日々が続き、流石に一週間も経てば紡絆は友奈や東郷と家が近所なのもあって、彼の噂が立つ。立ってしまう。

紡絆の家族が亡くなった、という噂が。

実際に警察の見解でも地面や車などに付着した血の量が致死量を超えていることから、生存は不可能だという診断があった。

紡絆はそれを疑わなかったし、事実家族が帰ってこないこと、讃州市のみとはいえ、讃州市の全ての病院を見て回っても居なかったことから紡絆は家族が死んだということを受け入れるしかなかった。

なぜなら、記憶喪失の紡絆を大切にしていた家族が彼を見捨てるわけないからだ。

もし虐待などをしていたなら、見捨てるのも有り得ただろう。しかしそれを考えられないほどに仲が良すぎたし、紡絆の両親は彼に過保護になっていた。妹に至っては、しょっちゅう紡絆から離れない時もあったほど。

そんな仲の良い家族が彼を見捨てるわけがない。しかし、死体だけは消えていた。

何故消えたのか、それともどこかへ捨てられたのか、海へ投げ捨てられたのか、そこまでは警察でも捜査のしようがなかった。

いくらなんでも、証拠が無さすぎたからだ。だから捜索は打ち切られた。

風が知ったのは、そんなふうに噂が立ち始め、浸透しだした頃合だった。

紡絆が居ない時に、友奈や東郷に相談するように言われたのだ。

 

『それで、相談って?』

 

『えっと……私たちが言っていいか分からないんですけど……』

 

困ったような、言うべきかどうか分からない表情をして、若干影を残しながら言い淀む友奈の姿と、辛そうな面持ちをしている東郷。

 

『なに? 二人とも具合でも悪いの?』

 

『ええっと……』

 

『……単刀直入に言いますと、紡絆くんの家族が亡くなったって噂が最近聞こえてくるんです。いえ、恐らく事実かと』

 

話せない友奈に代わって、東郷が話す。

本来ならば、それは言うべきことではないのかもしれない。

だが、友奈や東郷、それから風の立場になって考えたら分かるだろう。言われるまで知らなかった風はともかく、友奈や東郷は近所なのもあって嫌でも聞いてしまう。歩くだけで、帰り道を歩くだけで。

隣同士なのだから、余計に。

そんな彼女たちが知ったら、どうだろうか。紡絆は一度も、辛いと言わなかった。悲しそうな顔をしなかった。明るく、元気に、()()()()()()ようにいつも通り接する。同級生とも、友人とも、依頼人とも、勇者部の人たちにも。

それは、虚勢だろう。空回りしていても、そうしなければ耐えられなくなるからかもしれない。本人の心は、ずっと自身を責めていたことは誰も知らないのだから。

実際のところは、自分のせいで誰かが悲しむ姿が見たくないだけなのだが。

だがそれでも---紡絆の心の中がどうであれ、周りから見れば、彼女たちから見れば、大切な家族を喪ってもなお、泣くことすらせずに笑顔を向ける紡絆の姿は、友奈や東郷にとって、何処か見ていられなかった。

だからこそ、相談したのだろう。

 

『紡絆くんに聞こうにも私たちが踏み込んでいいか分からなくて、友奈ちゃんと話してたんです。そうしたら、風先輩にも相談しようってことになったので……』

 

『私たちに出来ることがあるかずっと考えてるんですけど……』

 

『なるほど…それは確かに難しい話ね……。紡絆自身が悩んでるってわけじゃないなら下手に干渉するのはアレでしょうし、その辛さは本人にしか分からないから……』

 

そう、この場で友奈も東郷も、家族を喪っていない。そして風ですら、家族は一人はいる。

だからこそ、共感がどうやっても出来ない。その気持ちは、全てを喪った気持ちは本人にしか分からないのだから。

 

『失礼しまーす! すみません、クラスメイトの手伝いをしてたら遅れました!』

 

そんなことを話していると、紡絆が()()()()()()()()()で部室へ入ってくる。

息が少し乱れてることから、走ってきたのだろう。

 

『……とりあえず私が話してみるわ』

 

『は、はい……』

 

『あれ、なんの話ですか? も、もしかして遅刻したこと怒ってます?』

 

やってきたのはいいが、紡絆は風と友奈、東郷が話し合ってるのを見て何のことか分からずに、怒ってるのかと少しビクビクとしつつ疑問を投げる。

 

『そうね。とりあえず紡絆は……帰って大丈夫よ』

 

『せ、戦力外通告!?』

 

『ち、違うの。紡絆くんは頼りになってるわ。でも……』

 

『そ、そう! えっと……アレ! 紡絆くんはよく頑張ってるから今日は休んでもらおうかなーと!』

 

『いやいや、そういう訳にはいかないだろ。依頼だって男手が必要になるし、帰っても暇だし』

 

『あ……。うぅ……』

 

『え、な、なんか悪いこと言った? ご、ごめん!』

 

さりげなく言った暇という単語に失言したと自覚したのか、友奈が申し訳なさそうな表情をして、何故か紡絆が慌てて友奈に謝る。

 

『でもね、紡絆。休むことは大切よ。特にあんたは……』

 

『俺? 俺は別に平気ですけど?』

 

風の言葉を聞いてもなお、紡絆は全然怪我もないというように首を傾げるが、やはりその先を言おうとするとなると、風も躊躇してしまうのだろう。詰まってしまう。

しかし、そこで紡絆は何処かみんなの表情が暗いことに気づいた。

 

『……あぁ、そういうことですか。友奈と東郷は知っちゃうもんな。

別に大丈夫です。確かに一週間前に交通事故で家族を亡くしましたけど、今は平気ですよ。

それより! ほら、依頼ぱぱっとやっちゃいましょう! 四月になるまでにある程度減らしておかなきゃ、忙しさのあまり新入部員が来なくなって、取れなくなりますよ!』

 

一人察すると、平気というように笑いながら紡絆はどれにしようかな、と言いながら依頼書を見ていく。

平気といっても、紡絆はまだ中学生だ。他の人と違って、今まで生きてきた記憶すらない。

だというのに、何故ここまで笑顔で居られるのか---少なくとも本当に大丈夫そうである姿にそれぞれ顔を合わせると、今は触れないことにした。

少なくとも休むように言っても、休みそうにはない。なら少しでも考えないように勇者部の活動をしようと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、依頼をやり、紡絆と風は最後の依頼へ向かっていた。

夕陽は既に半分隠れており、冬なのもあってだんだんと暗くなってきた。

この間にも、紡絆は一度も暗い顔をしてなどいない。

だからこそ、風には疑問が浮かんでいた。家族全員じゃないとはいえ、風にも両親を喪う気持ちについては知っていたからだ。

 

『ねぇ、紡絆』

 

『なんですか、風先輩』

 

『本当に大丈夫なの? もし辛いなら相談してくれても』

 

『いやいや大丈夫ですって! 確かに辛いですけど、今更どうしようも出来ないでしょう。

だったら俺は、辛い想いをしてる誰かに手を差し伸べるために動きたいんです。

風先輩もそんな暗い顔せず、明るく行きましょう! そうじゃないとこの気温なんで寒くなりますよ!』

 

手を差し伸べたとしても、紡絆はそれを取らない。

いや、取る必要がないのだろう。実際に、その通りなのだ。喪ったものは取り戻せない。

だから紡絆は誰かに手を伸ばそうとする。

同じ想いをさせないために。

現に、暗い顔をする風を逆に気遣っていた。本来ならば、反対の立場であるにも関わらず。

 

『……凄いわね』

 

『へ?』

 

その姿を見た風はふと呟いてしまい、その言葉を拾った紡絆は先に歩んでいた足を止め、困惑しながら振り向いた。

すると、正面で向き合う形になる。向き合った紡絆からは何処か影を落としている風の顔が見え、対する風からは何ともなさそうな普通の紡絆の表情が見える。

 

『あ……いや、その……憎いとか、許せないとか、そういう復讐心があんたには浮かばないんだな、と思ったのよ。普通は大切な家族を喪ったら、殺されたならそう思うものでしょ』

 

『それって……そう言うということは、風先輩は思ってるんですね』

 

『それは………』

 

墓穴を掘ったと一瞬の後悔が風の脳裏を巡る。

だが、今更撤回することなど出来ないだろう。

風が恨んでいるのは、人間ではない。勇者部の本当の目的を伝える訳にも行かず、一言も発することが出来ない。そもそも、風は出来るなら当たって欲しくはないと願っている。

()()()()()()()()()()()が居ることから、どれだけ外れる確率の方が低くとも。

 

『まぁ、別にいいんですけど。人間なんですから、憎しみを抱いて復讐をしたいと願うのは不思議じゃありませんよね。それがどんな相手だろうとも』

 

紡絆が移動すると橋の手すりを掴んで、ただ沈みそうな、抗うように沈みそうにない太陽を見つめる。

風から見ると、紡絆の横顔が太陽の光に照らされていた。

 

『風先輩は言いましたよね、復讐心はないのかと。

俺には、多分ないです。だって、意味無いじゃないですか。

それをしたって、そんな感情を抱いたって、誰かが帰ってくる訳でもない。

それどころか、憎しみの次に生まれるのは新たな憎しみです。負の連鎖になるだけで、復讐したって意味がありません。虚しさを覚えるかもしれません。

それに、相手にも家族がいるかもしれない……少なくともわざとじゃないならば、此方の運が悪かったとしか言えないでしょう。まぁ、故意的でも俺は誰かを責めないんでしょうけど』

 

それは風には察知出来たかどうかは不明だが、すなわち、遠回しに言っているのだろう。

()()()()()()と。

紡絆は家族を喪った原因は、他人だと思い込んでいない。普通の人間ならば、大切にしていた家族が亡くなったとなれば事故でも故意的でも殺した犯人を憎むだろう。

しかし誰かを恨んだり、憎んだり、殺意を抱くには---紡絆は人が良すぎた。あまりなもの純粋すぎた、というのもあるだろう。

 

『でもそれだとあんたは……!』

 

『あ、別にやめろとは言いませんよ。それをやるのは風先輩の勝手です。俺に止める権利なんてない。

風先輩も両親を喪ったから、俺の気持ちを心配して言ってきたんでしょう? 今も、救われないみたいなこと言いたいんですよね。ですけど---』

 

こういう時に限って、無駄に勘が働くのか風の言葉を先読みした紡絆は一度言葉を区切る。

否定しないということは、それは合っている証拠。風はただ苦々しそうな表情を浮かべていた。

それを見て、紡絆は振り向く。

 

『気持ちは嬉しいですけど、それでも俺は復讐心を抱きません。許しを乞われたとしても、許します。

善人ぶるわけじゃないですけどね、終わったものは取り返せない。俺にとってはこれに尽きるんです。

そして、もし風先輩が道を外すことをするなら、止めます。相手がどうであれ、です。危険なことをするなら、止めるために手伝います。

……風先輩が誰に復讐したいのか、そもそも相手が人間なのかどうかすら分かりませんけど』

 

一瞬、風はドキッとした。

紡絆は、バーテックスの存在を知らない。しかし、風の復讐対象はバーテックスであり、人間ではないのだ。

知るはずもないのに、似た言葉を言われたら、驚くだろう。

 

『まぁ、なんというか……俺は良いんです。誰かが悲しい想いをするぐらいなら、こんな想いをするぐらないなら、それを阻止しようと、この件をきっかけにより強く思えましたから。

だから今度は、俺の手の届く範囲で伸ばしてみんなの力になって見せますよ。だって俺は---風先輩が作ってくれた勇者部は人のためになることをするのが活動内容なんですからね!』

 

そう言って笑顔で言ってのける紡絆は、誰から見ても『変なやつ』としか思えないだろう。

風ですら、聞いた瞬間にそう思った。

しかしその姿は---あまりにもの眩しい。沈みそうな太陽が紡絆の明るさに呼応するように一層紡絆の背後を照らし、輝かせる。

騙していること、隠していること、バーテックスへの復讐心。

風の様々な心へダイレクトに当たってくる紡絆の言葉は---

 

(真っ直ぐで、眩しい光ね……。ほんと、何処までお人好しなんだか。それに、強い。

あたしは両親の死因を知った時には復讐することを誓ったのに、紡絆は相手が人間だと分かっていても、同じ人間に手を伸ばして助けようとするんだから……)

 

『って、なに語ってんだって話ですよね。たはは、流石にちょっと恥ずかしいです』

 

照れたように後頭部を掻く後輩の姿を見て、風はただ眩しいと感じた。

自身とは違う、真っ直ぐで眩しい光。悪意に染まることのない穢れのない眩しさ。

誰かのために行動することが生き甲斐なのではと錯覚してしまうほど、他者を想う姿は、風にはとても強い生き方に見えた。

だからこそ、風はこんな暗い話はやめよう、と思った。きっと紡絆も望んでいないと。

 

『まったく、良い話だと思ったのに台無しじゃない! そこまで来たらピシッと決めなさいよ!』

 

『い、いやいやこういうのは誰かに言うことじゃないでしょう!?』

 

『言ったのは紡絆だけど?』

 

『最初に聞いたのは風先輩じゃないですかっ! 責任転嫁とか酷い! 人生の先輩のくせに!』

 

『一年しか変わらないでしょうが!』

 

『一年、たったの一年を舐めちゃ行きませんよ! 知識の量も違いますし、日数に変換するとかなりの時間なんですからね! 計算出来ないけど!』

 

『それくらいできるでしょ!? ええい、もう黙りなさい!』

 

『え、ちょ。じ、実力行使とは卑怯者ぉおおおおお!』

 

先程の雰囲気は何処へ行ったのか、絡みついた風に紡絆は抵抗するだけ抵抗するしか無かった。

だがこれこそが---彼らしくもあるのだろう。風にとっては誰かを恨まない紡絆の在り方は眩しいが、そうある紡絆の姿は、真っ直ぐな姿は他の男子とは違うようにも感じた。

少なくとも、こうやって無茶苦茶で馬鹿正直で、真っ直ぐな後輩と過ごす日常は風に楽しいという変化を齎していたのは言うまでもないだろう。

それこそ---本来の役目を忘れてしまうぐらいには。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもーし、風先輩ー? イタズラしますよー?」

 

そんなふうに思い出していると、風の目の前には不思議そうな表情をして顔を覗き込んできている紡絆の姿があった。

 

「ちょ……近いっての!」

 

「なんで俺のせい!?」

 

注意すると、理不尽だ……と小さく呟きながら離れた紡絆がいるが、よく分からないので風は無視した。

 

「で、なんか思い耽ってましたけど、なんかありました? 相談なら乗りますけど」

 

「変わらないなーと思っただけよ」

 

「ふーん……いや、変わんないでしょう。何いってんすか、怖いです」

 

「なにをーッ!」

 

「ぎゃあああー!?」

 

バカなのか、と言いたげに見つめる紡絆に風は少しの怒りの込めて頭をグリグリした。

紡絆は学ばずに即ダウンしたが、紡絆ではないのだからそんな目で見られたくない風であった。

 

「卑怯者ォー! 頭ばかり攻めて、俺がバカになってもいいんですか!?」

 

「バカでしょ」

 

「ひどっ!? もしや樹ちゃんが時々毒舌なのは風先輩のせいなのでは……?」

 

「樹は天然だと思うけど……ほら、可愛いからいいのよ」

 

「……ぐぬぬ、それについて否定はしません。意外とダメージ来ますけどねぇ」

 

「それは分かる……」

 

何故か話題が変わって樹の話になると、時々見せる毒舌を思い出して互いになんとも言えなさそうな表情になった。

バカをやる紡絆には毒舌が飛んでくるし、大雑把な姉である風にも時々飛んでくるのだ。

だからこそ、この場で同感し合っていた。

 

「まぁ、可愛さなら俺の妹も負けてなかったんですけど」

 

「それは割とシャレにならないから勘弁して……」

 

「あっ、はい」

 

「素直でよろしい」

 

死んだ妹について引きに出されると、どう反応すればいいか困るだろう。

紡絆は気にしてないようだが、風が困るのだ。紡絆は素直にやめたが。

 

「まぁでも……ウルトラマンになりましたもん俺。変わったと思っても不思議じゃないです」

 

話しを戻すように言う紡絆は、まだ昼なのもあって真上に出ている太陽を直視---は出来ないので、斜め上の青空を見ていた。

 

「でも見た通り俺は変わってないですから安心してください。なんなら逆に元気一杯になったかも知らないですよ!」

 

「こ、これ以上元気になられてもねぇ……。でも確かに変わってないようで安心したわ」

 

既に元気な人間がよりイキイキとしたなら、どうなるか分からないので困ったような表情をするしかない風だった。

しかしすぐに安心したような表情になり、紡絆はただそれを見て笑顔を浮かべた。

 

「あと俺の場合、変わってもすぐバレそうですけどね。

それに風先輩。不安がることはありませんよ」

 

「……えっ?」

 

紡絆も自覚はあるのか、バレそうだということに苦笑したかと思えば、真剣な表情となっていた。

手で太陽を少し遮り、空を眺めながら。

その後ろでは、固まった風の姿があることを知らずして。

 

「別に……例え俺たちの日常が変わったとしても、全てが変わるわけじゃないんです。俺がウルトラマンになっても、みんなが勇者になっても変わらなかったでしょう。

ただ部活内容に、お役目が入っただけ。もしそのことに風先輩が、俺たちを巻き込んだことで不安になってるのでしたら---」

 

真っ直ぐ太陽に照らされる道を数歩前に歩み、振り向いた紡絆は無表情に固まっている風に対して手を差し出す。

 

「俺が守ってみせますから! みんなの日常を、笑顔を!

風先輩の不安がポンッっと消えてしまえるように!

だから風先輩はいつもみたいに笑って、人のことを揶揄って、揶揄わられたりして、ふさげて、俺たちに指示を出して、導いてください。

風先輩には不安がる姿よりもそんなふうに明るい姿の方が似合います!」

 

紡絆は絶望するわけでも、失望するわけでも、落胆するわけでも、憤慨するわけでも、悲観するわけでもない。

純粋に屈託のない笑顔を向けながら、真っ直ぐな姿を見せる。

何も変わらない、在り方すら変わることのない()()()()()()()()()のような姿を見て、風は近づいて手を伸ばした---

 

 

 

 

 

 

 

「な〜にかっこつけちゃってんのよ! まったく」

 

「あだっ!?」

 

あと、紡絆の頭をひっぱ叩いた。それはもう、容赦なく。

何故か叩かれたのか分からない紡絆は不満そうに見つめるが、風は既に紡絆を抜かして、止まった。

背後から風の姿を見る紡絆は表情が見えないが、風は両手を後ろで組み、さっきの紡絆のように青空を見上げていた。

 

「けど、そうね。紡絆は放っておくと不安要素しかないもの。しっかりと指示してあげようじゃないの」

 

「それなら、俺も安心---うん? ちょっと待ってください! 不安要素!? 不安要素ってなに!? 俺はいつも真面目なんですけど!」

 

大丈夫そうな様子を見て安心しかけたところで、紡絆は引っ掛かりを覚えて、不服そうに伝える。

良い話で終わるかと思えば、失礼なことを言われたのだ。突っかかるのは当然だろう。

 

「さぁて、なんの事かしらね。気のせいじゃない?」

 

しかし、そう言って振り向いた風は笑顔を浮かべており、ニヤニヤとしたのを見て、紡絆は呆れたような表情をしながら隣へ移動する。

 

「いいや、絶対気のせいじゃないです! 俺、難聴系じゃないんでちゃんと聞こえてましたからね!?」

 

「男なんだから細かいことは気にしない気にしない! まだ依頼は残ってるんだからさ、早く行きましょ行きましょ」

 

「細かい……細かいのか……? そうなのか……!?」

 

風が紡絆の後ろへ行き、背中を押していく。

紡絆は風の言葉に惑わされ、混乱していた。そんな姿を後ろから押しつつ、くすりと笑いながら呟く。

 

「アホで助かるわ〜」

 

「あーっ! 今言いましたよね、絶対バカにするようなこと言いましたよね!?」

 

「あたしがそんなこと言うわけないじゃない。あんたは勇者部の部長であって、先輩であるあたしのことが信じられないの?」

 

「うわぁ……卑怯な大人だ。先生に言いつける並に卑怯な手段だ!」

 

「あたしまだ子供だしぃ? わかんないからなーうん、仕方がない!」

 

「ち、ちくしょう! 正論だ! そんなこと言われたら信じるしかないじゃないか!」

 

紡絆は途中から自分から歩くようにしながら、不満を伝えては風が紡絆を言い負かす。

正論をぶつけられてしまえば何も言えなくなる紡絆は、何処か悔しそうな声音だった。

 

「でも……ありがとう。お陰で少し楽になったわ」

 

だが風は紡絆のそんな様子を気にした様子がないまま、小さくそう呟いた。

(かぜ)にすら負けてしまいそうな、本当に細い糸のような、小さな囁き。

 

「え? なんか言いました?」

 

「べっつに〜?」

 

当然ながら、紡絆にそのような声は聞き取ることは出来ず、きょとんとしていたが何でもないというように風は逸らす。

紡絆は何かが聞こえたのは気のせいだと思い、これ以上は何も言うことは無かった。

 

(本当に……こういう時に限って無駄に鋭いんだから。邪な考えもなく、ただ本当に心配して言っているからこそ、困るのよ。調子が狂うというか……)

 

それが紡絆の魅力だとは分かっているが、先程の発言を思い出して後ろにいるのを良いことに風は俯きつつ、顔を赤めていた。

仲も良く、不安を抱いていたことを見抜いて、守るなんて言われてしまえば幾ら風でもドキッとしてしまう。

これでも彼女は乙女なのだ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、今日出来る依頼を二個ほどこなすと、今日は引き上げることになった。

紡絆は最後の依頼の途中で準備が出来たことをスマホの通知によって知ると、終わったあとにどうやって風を連れていくか相談していなかったため、アドリブで何とか強引に説得したのだ。

 

「じゃあ、樹ちゃんが来ると思うので俺はこれで」

 

「樹が? ちょっとどう---ってちゃんと説明しなさい!」

 

東郷の家の前に辿り着くと、それだけ言い残して紡絆は超人的な身体能力を解放して一瞬でその場から姿を消す。

やったことは物凄く速く走っただけだが、風からするとギャグアニメのような足の速さで走っていったようにしか見えなかった。

 

「なんなのよ一体……」

 

「あ、お姉ちゃん!」

 

何の説明もなく妹である樹が来るとだけ言われた風はため息を零し、すぐに樹がやってきて駆け寄ってきた。

 

「あ、樹。紡絆が物凄い速度でどっか行ったんだけど、何か知らない?」

 

「え? そ、そうなんだ……そ、それよりお姉ちゃんこっちこっち!」

 

風は消えた紡絆のことを聞くが、どうにかして離れるとしか聞かされてない樹は話題を変えるしかなく、風の手を引っ張っていく。

引っ張ってるのは樹だからか、風は特に抵抗したりしない。

 

「お邪魔しまーす!」

 

「え、ちょ!?」

 

そんな風を良いことに、樹はそのまま引っ張って東郷の家へと入っていく。

何の説明もなく、勝手に侵入するような形になってしまっている風は遠慮がちに歩きながら声を潜めて樹へ声をかけた。

 

「い、樹? それはまずいんじゃ……」

 

「大丈夫だよ。既に連れてくることは伝えてるから」

 

「えっ? どういうこと? 紡絆といい樹といい、そろそろ何なのか教えて欲しいんだけど……」

 

「うふふ…もう少し♪」

 

何も知らされてない風からすると不安だろうが、既に許可は貰っているらしい。

しかし依頼を終わってから紡絆は明らかに何かを隠していると誰の目から見ても分かるくらい怪しかったし、樹も樹で何かを企んでるようにも見える。それがなんなのか、風には皆目見当もつかなかった。

一方で樹は何も分かっていない風の姿を見ながら、こっそりと細長い円柱状の小道具をポケットから取り出してワクワクとしていた。

 

「あっ、お姉ちゃんここ開けて」

 

「あーもう、後でちゃんと説明してよね」

 

目的地と思われる部屋の前に着くと、樹が止まって風に開けるように言う。

なんのつもりかは分からないが、後で説明してもらうように言った風は警戒することもなく無防備に扉をゆっくりと開け---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉を開けた瞬間、パパパーーーン!!…パーン! と言った豪快な音が鳴り響いた。

約一名だけ若干遅れたことは秘密にしておこう。

 

「うぉぁっ!? な、なに!?」

 

突然の破裂音とともに色とりどりのテープが飛翔物として飛んできたのだから驚くのは無理もない。

だがそれだけではなく、パーン!と風の隣から先程と同じ破裂音が鳴り響く。

 

「ひぁあ!? えっ、樹も!?」

 

さっきは距離があったが、今回は間近くでやられたせいで風は一際驚いてしまう。

そんな風を見て、部屋の中にいる三人は大成功と言わんばかりに笑顔を浮かべながら口を開く。

 

「「「風先輩! お誕生日おめでとうございます!」」」

 

「えっ、友奈に東郷? それに紡絆はいつの間に!? た、誕生日? あたしの誕生日は5月1日だけど……でも今日は……えっ? ど、どういうこと?」

 

「俺のせいで六日も遅れてすみませんでしたー!」

 

突然の三人のお祝いに日にちが過ぎているのあって混乱するが、紡絆はそれは本当に、物凄く申し訳なさそうな表情をしながら綺麗に土下座を決め込んだ。

 

「紡絆先輩の言う通り、六日も遅れちゃったけど……お誕生日おめでとう、お姉ちゃん!」

 

土下座しだした紡絆が余計に風を混乱させているが、樹も風に状況を説明するようにお祝いする。

そこでようやく、風も気づいた。

 

「もしかして、紡絆以外予定があるって言っていたのはこれのため!?」

 

「うん、皆と一緒にお姉ちゃんの誕生日をお祝いしたかったの!」

 

「あ、俺は風先輩に悟られることないように時間稼ぎ要員でしたので。ちなみに分かれた後回り込んから裏の方からぴょーんと侵入しました。

いやそれにしてもほんと意識不明になってスミマセン……」

 

「あれは仕方がないと思うけど……。

でも風先輩。その分紡絆くんは率先してたくさん頑張ってくれたので、許してあげてください」

 

「風せんぱーい! 主役はこっちですよー!」

 

未だに土下座をやめない紡絆に一応のフォローが東郷から入るが、場は誕生日会だというのに土下座している者がいて、テンションの差も激しいせいで中々にカオス。

 

「ほら、紡絆くん! 早く行かないと!」

 

「お、おぉう……じゃ、じゃあ、風先輩はごゆっくり!」

 

土下座したままの紡絆を友奈が引っ張って起き上がらせると、紡絆は引っ張られる形で動くが慌てて声を挙げると、二人は部屋から出ていった。

 

「えっとごめん、あたしまだ状況を整理しきれてないんだけど……」

 

「風先輩ったら…去年はお祝いさせてくれなかったではありませんか。なので皆で話し合って今回こそは、と遅れた分、盛大にお祝いする計画を立てていたんです」

 

「あはは……そうだっけ?」

 

「そうですよ。ただまあ、結局悩んだ結果が風先輩の欲しい物は分からなかったままだったので、皆で料理を作ったんです」

 

「お待たせしましたー!」

 

状況を理解しきれてない風に東郷が説明をすると、紡絆より先に友奈が帰ってきた。

友奈は大きなお鍋と大量の揚げ物や具材が入った容器を運んできたのだ。どうやら取りに行っていたらしい。

 

「それは?」

 

「風先輩の大好物であるうどんです!

私と東郷さんが作った特製うどんで、麺は東郷さんが素材を厳選して打った手打ちうどん!

トッピングもかき揚げや海老天、イカ天に油揚げといったようにたくさんあります!

あとは東郷さんイチオシのさっぱり味わいながら、うどん本来の美味しさをしっかりと味わうことができるおろし醤油うどんと私がじっくり時間をかけて煮込んだお肉たっぷりの肉うどんや諸々用意していますよー!」

 

「す、凄い量ね。嬉しいけど!」

 

「去年祝うことが出来なかった分まではりきっちゃいました!」

 

うどんばかりの場は勇者部らしいが、そのボリュームに風だけではなく、見ていた樹も圧倒される。

実は既に帰ってきていた紡絆に至ってはうどん愛に引いていた。四国民とはいえど、紡絆はうどん愛が比較的普通な人間なのと、二杯で殺られる彼からすると引いてしまうのは仕方がないのである。

 

「樹ちゃん、持っていこう。頑張ったんだからさ」

 

「紡絆先輩……はい!」

 

引くのは程々に、紡絆は気持ちを入れ替えて樹に近づくと、風に気づかれないように声をかけた。

それを聞いて樹は頷き、共に風の近くまで向かった。

 

「樹、紡絆? なにこれ」

 

「私たち二人で作った手作りケーキだよ」

 

「ほとんど樹ちゃん作ですよ。俺はちょっとしたフォローをしたくらいです」

 

「て、手作り!? そもそも紡絆って料理出来たの!?」

 

「うっわ、失礼にも程がある発言! 俺だってやらないだけで一般人並みには出来ますよ!」

 

「あ、あはは……そ、それよりほら! ジャーン!」

 

収束がつかないようになりそうになったので、樹が場を変えるようにケーキが入ってるであろう箱を開けた。

すると思い出すように遠い目をする紡絆はともかく、努力の成果を紡絆を除いたみんなが注目する。

何故なら、ふんわりとしたスポンジを包み込んだ真っ白な生クリーム、それを鮮やかに彩るフルーツ、チョコレートのプレートにはお祝いと日頃の感謝を込めたメッセージを添えられた立派な誕生日ケーキと呼べるものがあったのだから。

 

「わー! すっごく美味しそう! ほんとに二人で作ったの!?」

 

「ああ、苦戦したけどほぼ樹ちゃんの頑張りだよ。無事(何度か死にかけたけど)出来て良かったと思う……」

 

「さすが風先輩の妹ね。樹ちゃんすごいわ」

 

「そ、そんな……私一人じゃ絶対に出来ませんでした!」

 

果たして死にかけたことが無事なのかどうかは分からないが、それを知る由もない少女たちは無邪気に話し合う。

紡絆はひとり知っているため、思い出したくないというように遠い目をしたままだった。

 

「ふ……」

 

「……ふ?」

 

そのように遠い目をしていた紡絆が、風が零した単語を聞き取った。

それに思わず一同が疑問を抱く。

 

「ふぇ……ふぉぉ〜ん! 樹が、樹がア゙ダジの゙だめ゙に゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙!」

 

「泣くんかい!?」

 

「嬉し泣きだー!」

 

「それほど嬉しかったってことなのね……」

 

「も、もうお姉ちゃん。泣かないで」

 

「な、泣いでな゙ん゙がぁ゙ぁ゙ぁ゙!」

 

「いやそれは無理があるでしょう」

 

まさかの状況に驚きはあったが、場が笑いに包まれる。

そうしてある程度落ち着くと遅くなったがまともな誕生会は開かれ、風は再び皆に祝われていた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

420:名無しの転生者 ID:ppdRJbTdy

無事に成功したみたいやな……!

 

 

421:名無しの転生者 ID:Zb9TKmQ5G

あぁ^〜百合空間〜^

 

 

422:名無しの転生者 ID:1NZD8ikmv

やれば出来るじゃねーか!

 

 

423:名無しの転生者 ID:U9+v8LCSP

そうだよ(便乗)

 

 

424:名無しの転生者 ID:cPNmJ+ke+

イッチはいつもそうすりゃいいんだよ

 

 

425:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

なんで相変わらず辛辣なんですかね

 

 

426:名無しの転生者 ID:SqHW0qP54

百合の間に挟まるイッチが悪い

 

 

427:名無しの転生者 ID:iHV+SlLYT

全部イッチが悪いし

 

 

428:名無しの転生者 ID:JP8zuy0m/

百合の間に挟まることがなければ基本的に辛辣じゃないけど挟まるやつは有罪なので辛辣になるんだゾ

 

 

429:名無しの転生者 ID:fnSkoAHKs

そりゃ尊い空間に男が入ったらみんな批判するに決まってんだろ、女の子になってから出直せ

 

 

430:名無しの転生者 ID:fzElpEMVs

つまり結局はイッチが悪い

 

 

431:名無しの転生者 ID:hkJ23YpFX

異議なし

 

 

432:名無しの転生者 ID:lrbLjvAVn

判決は?

 

 

433:名無しの転生者 ID:Ua+B+OfiA

ギルティ!

 

 

434:名無しの転生者 ID:F3t95vdzc

や っ た ぜ

 

 

435:名無しの転生者 ID:4KCT4gd56

以上! 閉廷!

 

 

436:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

弁護すらさせてくれねぇ!

 

 

437:名無しの転生者 ID:HoR+xLbY4

で、んなことよりプレゼントはよ渡せや

 

 

438:名無しの転生者 ID:TH/P6D+2v

女ァ!には優しい掲示板

 

 

439:名無しの転生者 ID:2YM9d/UQ7

それはそうとして、渡すタイミングとか大丈夫か?

 

 

440:名無しの転生者 ID:HBzhrAZXx

イッチには厳しくても女の子たちが笑顔になれるなら何でもいいからな……結局

 

 

441:名無しの転生者 ID:taJ+cdoDa

そりゃ、優先度は美少女>>>>>>>イッチくらいの差があるに決まってる

 

 

442:名無しの転生者 ID:WW1i6wPM3

当たり前だよなぁ?

 

 

443:名無しの転生者 ID:3NX+grZCG

特に戦闘でも何でもないんだからイッチはどう言われても仕方がないよな!

 

 

444:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

慣れてるからいいけど理不尽だなおい!

絶対お前らの中でも同じようなやついんだろ! 一体何人の転生者がいると思っている……!

 

>>439

他の人に誤解されても困るから二人っきりになったら渡すつもり

 

 

445:名無しの転生者 ID:ektSyahi1

(これくらいの方が気は楽だろうし)多少はね?

 

 

446:名無しの転生者 ID:E7YLheEWz

な、ナンノコトカナー

 

 

447:名無しの転生者 ID:iRTWeA1Y0

ワーキャッキャウフフシテルー

 

 

448:名無しの転生者 ID:AfboBnj0k

>>444

余計に誤解されると思うんですけど

 

 

449:名無しの転生者 ID:WQ1e1hMmJ

>>446 >>447

裏切り者だ! 殺せ!

 

 

450:名無しの転生者 ID:T+tttC5B8

ピロピロピピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロピロゴーウィwwwwwwwwゴーウィwwwwwwwヒカリッヘーwwwwwww

 

 

451:名無しの転生者 ID:KoT0OU2AX

>>444

その代わりほら、見つけ次第罵倒されるし……

 

 

452:名無しの転生者 ID:fqSBlZZVA

>>450

TE勢だ! 保護しろ!

 

 

453:名無しの転生者 ID:zlVkxw9pk

いや電話切っとけよw

 

 

454:名無しの転生者 ID:aRzt4ZHI8

ほーらまた話変わるー! イッチのせいだ!

 

 

455:名無しの転生者 ID:KwljelkDx

困ったらイッチのせいにしとけみたいな風潮出てきた……?

 

 

456:名無しの転生者 ID:vkJlgeEdy

ママエアロ。メンタルクソ弱な人には優しくなるけどイッチは全然平気やし。嫌なら使わなければいい話ゾ。

ふざけれる時にふざけるのがここのスレ民。そして百合の間に挟まる男には容赦ないのがホモとここのスレ民だし……

 

 

457:名無しの転生者 ID:nmdyxUiZL

セヤナー

 

 

458:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

まぁ、実際気にしてないしなー。てか、こうじゃないと割とマジで反応に困るというか……キモ…息抜きになるわ。

でも肝心な時とかガチ悩みの時は頼りにはしてるぞ!

 

じゃ、そろそろいってくらぁ

 

 

459:名無しの転生者 ID:RuMZ6UB1K

いってらー

 

 

460:名無しの転生者 ID:nKOF6foty

べ、別にイッチのためじゃないんだからね!?

 

 

461:名無しの転生者 ID:Mv3bB3fsD

>>458

おいゴラ待て、絶対キモイって言おうとしたろ!

 

 

462:名無しの転生者 ID:c5QMU7Vde

イッチもイッチで時々毒吐くことから楽しんでるようでなによりです

 

 

463:名無しの転生者 ID:GyFs/ZYTi

実際転生者ほど頼りになる存在はそうそういないしね。世界によっては有能はいても、結局少数だしこっちは大人数ですしおすし

 

 

464:名無しの転生者 ID:q5rM/hf39

>>458

イッチって結構寛容だしノリはいいよな。それに周りが美少女ばかりなのに性的な意味の暴走もせんし。

……つまりイッチはホモQ.E.D.

 

 

465:名無しの転生者 ID:pfSS1tUaG

 

 

466:名無しの転生者 ID:L+6exjoPY

大草原

 

 

467:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

なんでやねん…

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽しい時間というのはあっさりと過ぎるもので、片付けに入りながら紡絆は脳裏で聞き捨てにならない発言に否定しながら片付けていた。

 

(後はプレゼント渡すだけか……でも良かった)

 

終わってしまったが、はっきり言って大成功と言えるだろう。

なんのトラブルもなく、樹にとって大切な姉の誕生日会を無事に開けて、迎えられたということはきっと喜ばしいことだと、紡絆は自分のように嬉しくなる。

そんな彼はゴミ袋にクラッカーのゴミやいらなくなったものを詰め込み、括ってから持ち上げる。

 

「じゃあ、東郷。俺は捨てに行ってくる」

 

「ええ、お願いね」

 

「任せろ! これくらいはやらなきゃな!」

 

両手にゴミ袋を持ちながら、紡絆は早速駆け出す。

そこまで重たいのはないため、軽々と持てる。

それを玄関から出てゴミ捨て場に丁寧に置くと、満足気に頷いた。

ついでに周りのゴミも回収してゴミ袋に突っ込んだのは勇者部として活動してきたクセが染み付いているのかもしれない。

 

「無事解決……ってな。いや、ほんとに……マジで……」

 

紡絆が思い返すのは、樹のことばかりだ。

正確には樹の手料理である。あれほど毒々しく、禍々しい独特なケーキを作って人の意識を奪う料理だったケーキが美味しいというほどに変わったのだ。まさしくbefore、afterである。

風の誕生日という記念をBADではなくHappyに出来たことに達成感を、誰よりも紡絆が感じていた。

そもそも紡絆と彼ら(転生者たち)から見て、樹の腕は悪くは無いのだ。姉である風が一人で家事をしている結果、出来ないだけで。練習し続けて初心者にやりがちな足りないものを足すというのを無くせばちゃんとした味の美味しい料理が作れるはずだと思っている。

 

「紡絆」

 

「ん?」

 

そんなふうに思っていると、背後から呼ばれて振り向く。

そこにはパーティの主役だった風が立っていた。

 

「どうかしました?」

 

「お礼を言っておこうと思ってね。ありがと」

 

「いやいや、謝罪は求められど感謝される筋合いはありませんよ? 俺が原因で風先輩の誕生日に祝えなかったものですし」

 

感謝される理由がないと言う紡絆に対して、風は首を横に振った。

違うと言いたいのだろう。しかしそれなら何か、と紡絆は首を傾げる。

 

「色々あるけど、樹のこと。大変だったでしょ? 普段あたしが家事してるから、料理なんて初めてだったでしょうし……」

 

「あぁ……まぁ、俺にとって(死にかけたくらいで)可愛い後輩のためですから」

 

決して貴女の妹に殺されかけました、死にかけましたなどとは口に出さず、思うだけに止めながら紡絆はみんなのもとに戻るために風と一緒に歩いていく。

 

「ならいいんだけど。

でも本当に驚いたわ。樹が二日前くらいから帰りが遅かったから何かしてるかと思ってたけど、まさか内緒でこんなこと考えていたなんて」

 

「だったらサプライズ大成功ですね。それ言えば樹ちゃん喜ぶと思いますよ」

 

紡絆がフッ、と笑いながらただ歩く。

他愛もない、普通の話。ついさっきまで秘密にしていた、計画の内容。

 

「あと紡絆がケーキ作れることに関してもね」

 

「東郷や風先輩には敵いませんけどねぇ。俺、基本的に料理しませんししてませんし」

 

「十分だと思うわよ。少なくとも男で家事が出来るってことは魅力的なポイントの一つでしょうし」

 

「じゃ、風先輩は超魅力的ってわけですか。流石です女子力先輩」

 

「いやぁーそれほどでも〜って、名前が消えた!?」

 

「女子力部長!」

 

「誰よ!?」

 

「あはは、冗談ですよ風先輩。実際んとこ、風先輩が魅力的な女性ってことは知ってますから」

 

「え、あ、そ、そう?」

 

揶揄うことをしたかと思えば、紡絆は突然真面目になって言い出した。

互いに落差に着いてこれるのは凄いが、流石の不意打ちに風は照れてしまう。

 

「はい、いつも頑張ってくれていることも知ってます。ということで俺からのプレゼントですよ。いらなかったら捨ててください」

 

普通からば雰囲気を大事にするだろうが、紡絆はムードなんて関係ないと言わんばかりにあっさりと包装された少し大きめのものを渡した。

 

「い、いや捨てたりはしないけど……これは?」

 

「誕生日プレゼントですけど、大したもんじゃないんです。詳しくは開けてください。

渡すなら二人っきりのタイミングがいいかと思いまして。

じゃ、あまり時間かけて怪しまれても困るでしょうから俺は先に行ってますね!」

 

「え、あ、ちょっとぉ!?」

 

唐突な連続の出来事で目を点とする風に畳み掛けるように言った後に紡絆は走って戻って言った。

きっと紡絆のことだから早く戻って手伝おうなどと思っているのだろう。

 

「まったく……」

 

それを理解してるからか、風は一つため息を吐くと苦笑いする。

そして手にあるものが気になり、少し悩んだ---が、開けることにした。

勇者部には紡絆しか男がいないことから初めて男の後輩の部員から貰う誕生日プレゼントなのだ。戻ってから開けることも出来るが、気になったので外なのもあり、丁寧に開けた。

 

「悪くはない……けど、これをいらなかったら捨ててくださいって普通は言うかしら…?」

 

あったのはタオル二枚とボールペン。

両方とも実用性があるものだが、渡す前に言われた発言を思い出すと呆れるしか他ない。

 

(そもそも貰ったプレゼントを捨てるわけないでしょーが。大切な後輩から貰ったものなんだから……大切にするに決まってんでしょ)

 

普段は前向きな割に、こういうところは後ろ向きなのが何処か可笑しく思えて、風は笑ってしまう。

風にとっては、同年代の男はスマホでいやらしい画像見てたりで子供っぽい、という印象だが、紡絆は当てはまらない。

正確には子供っぽいというよりは純粋な子供のような感じ、でもあるだろう。

色目を使うこともなければ、純粋に心配して気遣うだけ。本当に誰かのために行動する姿を見てると、ウルトラマンになれることに風は違和感を覚えなかった。

紡絆みたいな人間にこそ、相応しいのだろう、と。ただ無茶だけはしないで欲しいとは願うが、間違いなく不可能なので風は諦めた。

 

「風先輩ー? 片付けは終わりましたけど、早くしてくれないと送れないんですけどー? 女の子二人で帰る道は危険でしょう? 樹ちゃんも待たせてますし、早くしてくださーい!」

 

にょきっと生えてきたように玄関から頭を出してきた紡絆だが、こういった点ではしっかりとした男らしい姿に、大きな声で返事しながら戻っていく。

その時、そのように不思議な魅力があるからこそ、あの後輩の周りには人が集まっていくのだろうと、風はそう思ったのだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





○継受紡絆/ウルトラマンネクサス
実は作中未だにウルトラマンの重圧で大事なことを忘れて押し潰されかけてた時以外には曇ったことがないやつ。
問題ないと思うけど、過去の話は前世の記憶を取り戻す前です。

○犬吠埼風
復讐心を抱く者と、抱かない者。
本来ならば抱く方が自然だが、抱くことをしない紡絆の姿を強いと感じた。
ちなみに前述通りなので、過去の紡絆くんはバーテックスのこともウルトラマンのこともまだ全て知らないので、知ってて言った訳では無い。

○うどん
参考はゆゆゆいで、大成功すると友奈は肉うどん。東郷さんはおろし醤油うどんになるぞ!


▼Q.紡絆くんから見てそれぞれの勇者の武器は?

A.友奈→友奈らしいなー
東郷さん→なんか違和感ないし似合ってるなー
風先輩→さては女子力が具現化でもしたのか……?
樹ちゃん→大型相手には使いにくそう


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「-約束-プロミス」


テスト期間だったので無理でした(勉強したとはいっていない)
全話見直すと誤字多くてやばかったです……えー、サブタイトルも今これ使って大丈夫か、と思いましたけどまあ、未来の私がどうせ何とかするでしょう。ついでにビヨジェネのpromiseマジでおすすめです。
今回は中々に難しかったので、また違和感のある文などあればこっそり修正してると思います……バイト終わりにオールで書くのはしんどすぎた。
あと、漫画のULTRAMAN面白いですね、普通に。アニメ見てみたいです。
あっ、今回はアンケート純粋にちょっと気になったので、お願いします。私からすると今くらい…よりちょっと少なめが理想的だと思ってるんですけど





◆◆◆

 

 第 12 話 

 

-約束-プロミス

 

×××

 

日常編その①

結城友奈編

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

結城友奈と継受紡絆を詳しく知らない人は同じような性格、と思うだろう。

事実として、彼女と彼の性格は少しどころか、かなり似ている。

友奈の性格を讃州中学の学生たちや関わった他の者、仲間たちに聞けば、明るく前向きな性格で常に元気いっぱいな女の子。行き当たりばったりで能天気でKYな部分もあるが、いざというときには頼れる性格だと答えるだろう。一方で、紡絆は何処までも底なしに明るく前向きで常に元気いっぱいの男の子。色々と行動が無茶苦茶だしバカみたいな思考ではあるが、人を集め、周りを笑顔に出来る不思議な力を持つ、頼りになる性格があると答えるだろう。

そして男女隔てりなく彼女と彼は接することは出来るし、コミュニュケーション能力も高い。さらに運動神経は流石に紡絆の方が上ではあるものの、運動能力にも長けている。

 

他にも双方ともに誰かを助けたいと思う気持ちは同じで、違う点と言えば友奈は勇者に対する強い憧れがある。対する紡絆は憧れでも何でもなくただ人を助けたいから助ける。

これだけならば似ているようだが、実は似ているようで似ていない。

そもそも友奈の場合は義務感ではなく、()()だと思っている。紡絆の場合は義務感ではなく、誰であろうと見捨てず、助けたいから助けるという行動理念で動いている。

この違いは大きく異なるだろう。当然というのは、当たり前だということ。

人助けは当たり前、普通だなんて思う人は、正直友奈以外にも居るだろう。

確率は低いだろうが道端に落ちている財布があれば交番に。迷子がいれば迷子センターや一緒に親を探したりその他諸々と。

だが、もとより誰を救いたいのかも定まらないまま、ただ独り闇雲に困っている人が居れば、助けたいなどと願うのは---比べると分かる通り、正直可笑しいのだ。後者のそれは、そんなのは所詮理想であって、叶うはずもない。

 

さらに、ほぼほぼ趣味と化してるのも問題だろう。友奈ですら趣味に押し花があるし他に好きなものだって存在する。ても紡絆は趣味が人助けみたいなものだ。

一応彼も星や宇宙について勉強はしているが、それは夢であって夢ではない。あくまで記憶のなかった頃をなぞっているだけ。本当の夢かどうかと言われれば、紡絆は分からないとしか答えられない。ただ記憶を取り戻した時に後悔しないように、勉強しているだけ。

他には暇潰しにゲームをすることはあれど、それは身体を休めるように強制されたり禁止された時のみ。基本的には人助けしかしない。

人助けに自身の生を見出している、とも言えるかもしれない。

結局のところ紡絆の人助けは少々どころか過激過ぎると言えるだろう。だが、それが彼の魅力でもあるのかもしれない。

 

自己満足だろうが、助けたいから助ける。やりたいから助ける。放っておけないから助ける。

余計なことと言われようが、紡絆は全てを失ったからこそ他の人には色々な幸せだと思えることを経験して欲しいのかもしれない。笑顔になって欲しいのかもしれない。

ただ---彼と親しい仲、勇者部の者たちからすれば、命を落とす可能性がある場合でも突っ込む紡絆の姿は気が気ではないのだが、何度言っても無理であることはウルトラマンになってもなお戦うことを絶対に退かない姿勢から簡単に察せられるだろう。

そもそも友奈とは違い、紡絆のは完全に自己犠牲どころか天秤にかけるはずの自己が存在してないのだ。

でなければ、ウルトラマンに変身してダメージが還元されること、命に関わるような人助けでも行動したりはしないだろう。せめて躊躇するはずなのに、躊躇という文字を知らないと言わんばかりにやるのだから。

友奈と紡絆の違いは、そこだ。友奈も中々に人助けとしては過剰だが、紡絆は過剰、過激というより異常という言葉が似合う。

まぁ、ウルトラマンに選ばれたのだから当然と言われればそれまでだが。

 

それはともかく、他にも全くと言っていいほど友奈と紡絆には違うことはあるし、実はテストでは普段の言動からは考えられないほど高得点を取れているのが紡絆である。

---といっても、宇宙関連限定ではあるが。

結局のところ、友奈と紡絆は表面だけ見れば似ているのだ。実際の性質は全くとまでは言わないが、似ていない。奥底まで見れば、紡絆の方が異常なのである。

もちろん人間であることから、友奈と紡絆の好みは違うし、性別も違えば、行動することも理由も違う。過去も違うし、友奈は紡絆と違って記憶を失っていない。

ただ共通して言えるのは、身体能力とコミュニュケーション能力が高いこと。何よりも、二人ともバカな程にお人好しで明るく前向きと言えることくらいだろうか。

---とまぁ、彼女や彼だけではなく、勇者部に所属する者は誰もがお人好しなのだが。

 

そしてそれだけ紡絆の異常な部分を挙げたが、今は別の意味で異常だ。

その理由としては---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ、ほっ、おっ、ひょいっと!」

 

川で忍者になっていた。

その近くには、子供たちがキラキラとした瞳を向けているが、ここで疑問を挙げよう。

---何故人間が川の上を走っているのだろうか、と。

理由としては、至極簡単。紡絆は反発を受ける一瞬に逆の足を踏み出して沈む前にそれを繰り返しているのだ。

NINJAみたいなことをしているが、ただ単にウルトラマンの身体能力強化による恩恵により全力でやっているだけで、仮に彼の普通の身体能力でやろうものなら沈む。

ちなみに紡絆は人を背負ってないが、人を背負っていたら間違いなく沈んでいるので、似たようなことをした中国拳法の達人(烈海王)とNINJAの方が凄いとだけ言っておこう。

それでも、彼はNINJAの水面走りを擬似的に再現して見せた。子供たちだけではなく、脳裏(掲示板)でも盛り上がるが、ウルトラマンの恩恵で強化されているとはいえ、ただの一般人でタイミングを間違えることなく保てるか?と言われれば---

 

 

 

 

 

「あ、やべっ。ミスったああああああぁぁぁぁ!?」

 

当然、沈んだ。

凄まじい水飛沫を巻き起こしながら紡絆の肉体が沈むが、紡絆は諦めて泳ぐ。

最初からそうしろという話だが、本来なら跳躍してキャッチした後に、すぐ陸へと戻る予定だったのである。

じゃあなんで川の上を走った、と言われれば行けると思ったとしか返ってこないと思われるので、聞かない方が良いだろう。

 

「ぷくぷく……ぷはぁ! あー、びしょ濡れ……傷治っていてよかったー」

 

5月7日。遅くなった風の誕生日パーティを行った日。

そして今日は月曜日であり、5月9日。

腹以外は治っていた紡絆も完治したのはいいが、友奈と東郷を先に行かせ、現在遅刻中の紡絆は朝っぱらから普段での範囲内の全力ダッシュで学校に向かっていると、子供が困っていたので地面を蹴って飛び出し、川を走った。

それだけである。

 

「お、おにいちゃんだいじょうぶかー!?」

 

「おー! へーきへーき! それより投げるぞー!」

 

サッカーボールを片手で挙げながら斜め上に飛ばす意識をしつつ、首の付近で固定して片手で押し出すように投げた。

そのように砲丸投げのような要領で飛ばすと、ボールは無事に子供たちが居た方へと見事落ちた。

 

「ありがとー!」

 

「気をつけて遊べよー!」

 

「はーい!」

 

距離的に大声でしか会話出来ないため、次は気をつけるように言いつつ、紡絆は手を振る子供たちを笑顔で見送り、ふと別の畔に視線を向ければ、泣いている子がいた。

何かを探しているようで、紡絆は迷いなくそこへ泳いでいく---ついでに、近くにあった流されてきたものらしいものだけは回収していた。

そして川から出ると、すぐに走って鞄を投げ捨てた場所に戻り、鞄を回収してからタオルで流されてきた物を拭く。

綺麗になったのを見て頷くと、カバンにタオルと一緒に突っ込んでからびしょ濡れのまま泣いている子に近づいていく。

 

「よっ……と。えーと、どうしたんだ? 何か探し物?」

 

出来る限り優しく、目線を合わせるように屈みながら声をかける。

そこで探していた女の子は紡絆のことに気づき、目元に涙を貯めながら一瞬悩み---すぐに打ち明けた。

 

「そ、それがね……」

 

「うんうん」

 

「と、ともだちのくーちゃんを……なくしちゃって……。みつかんないのぉ……! うわぁぁぁん……!」

 

不安そうに、悲しそうに言う女の子。

まだ幼く、一人で探しに来たのだろうか。泣き始めた女の子に紡絆が慌て出した。

 

(く、くーちゃん? あぁ、人形かぬいぐるみの名前か? というかこの絵面はやばい! 慰めないと!)

 

一体何が分からないが、紡絆は閃いた。

幼い子供は、人形やぬいぐるみに名前を付けることは多いというイメージがある。だから名前らしきものを聞いてどちらなどではないかと納得するが、今は女の子をあやさないと間違いなく通報されて警察のお世話になることは間違いなし。

しかしほんのひと握りの可能性だが、解決出来るかもしれない、と思いながらあやすための行動に入る。

 

「い、一旦落ち着こう! ほら、よしよし。お兄ちゃんも一緒に探してあげるから、二人で探せばすぐ見つかるよ!」

 

「い、いいの……?」

 

そっと頭を撫でながら優しい言葉を掛ける。

そしてあやしながらカバンから取り出したハンカチで女の子の涙を丁寧に拭い、紡絆は頷きつつ穏やかな笑顔を向けた。

 

「あ、でもさ。お兄ちゃんはくーちゃんと会ったことないんだ。だから特徴とか、教えてくれないかな? どんな感じか教えてくれたら、絶対見つけるから!」

 

「ほ、ほんとに……?」

 

「もちろん! だから今は泣くより、見つけてあげよう! きっとくーちゃんも不安で、泣いてる。だからくーちゃんのためにも、キミのためにも一緒に探そう?」

 

「……うん!」

 

女の子が力強く頷き、泣き止んだのを見ると紡絆は心底安心したように息を吐く。

主に通報されずに済んだことによって。

 

「それじゃあ、どんな感じかは言える?」

 

「ん……えっと、くまさんのぬいぐるみで……赤いリボンがあるの。ピンク色のお洋服を着ていて、可愛いの!」

 

(ふむふむ……あれ、これでは?)

 

さっき川で泳いでいた際に拾ったものを思い出し、カバンに視線を向けると、特徴が完全に一致していた。

だがカバンから取り出して渡したら怪しまれても困るので、どうするか悩んだ結果、一つ芸をすることにした。

 

「そっか。じゃあさ、お兄ちゃんがここで一つ魔法を見せてあげよう」

 

「まほう?」

 

「そう、くーちゃんを呼び出す魔法」

 

「おにーちゃん、まほう使いさんなの!?」

 

「まだまだ修行の身だけどね。でもお兄ちゃんの魔法は準備が必要で、それは誰かに見られたらダメなんだ。だから少しの間だけ目を瞑ってくれないかな?」

 

子供というのは純粋で、魔法と聞いて目を輝かせ、紡絆の言葉をあっさりと信じて女の子が目を瞑る。

一応変身魔法という名のウルトラマンに変身することは出来るので、嘘では無いのだが魔法ではないので、少しの申し訳なさと共にカバンからぬいぐるみを取り出し、周囲を見渡して良さげな花を一つ摘んだ。

 

「はい、もういいよ」

 

紡絆の言葉を聞いて女の子が目を開けるが、首を傾げた。

何の変化もなく、何も無いからだ。

 

「あれ……?」

 

「ここからが本番。今からここにあるお花がキミが探しているくーちゃんを呼び出してくれるところを見せてあげるから」

 

「お花さんがくーちゃんを?」

 

「そうだよ。じゃあ、三秒のカウントするからこの一輪の花をしっかり見てて」

 

きょとんと不思議そうに見つめながら頷く女の子の姿を見ながら、紡絆は笑みを浮かべ、行動する。

 

「さーん、にー、いーち---はいっ!」

 

カウントを終え、同時にパンっと両手を打ち合わせて高い音を鳴らす。

突然の拍手に女の子が驚くが、また驚くことになる。

気がつけば紡絆の手からは花が消え、彼女が探していたくまのぬいぐるみに変わっていたのだから。

原理を説明すると、猫騙しの要領だ。

大人ならすぐに分かるだろうが、子供には突然現れたようにしか見えない。高い音を鳴らすことで瞬きした一瞬にぬいぐるみを差し出したという割としょうもない種も仕掛けもありまくる魔法という名のマジックでもなんでもないやつである。

 

「どうぞ」

 

「くーちゃんだっ! おにーちゃんすごいすごい! どうやったの!?」

 

「あはは……それは秘密」

 

ぬいぐるみを差し出し、実際にあっているようで、大はしゃぎする女の子を見てすっかりと元気になったことに紡絆はただ微笑む。

普通に渡しても幼い子なら怪しむことなく喜ぶだろうが、どうせなら元気にもなって欲しい。だからこそ、芸のひとつをした。

子供の、それも幼い子にしか通用しないであろう技だろうが、元気になったことから成功したのだと紡絆は安堵の息を吐く。

ちなみに花は服から出して、そっと地面に埋めていたりする。

 

「それより、くーちゃんはどうやらちょっと汚れちゃったみたいなんだ。だから帰ったら綺麗にしてあげて。えっと……母親、お母さんは?」

 

「うん! あっ……そうだった! お母さんがまいごだった!」

 

「じゃあ、今度はお母さんも探してあげよう!」

 

「さがす!」

 

手を差し出し、手を繋ぐと紡絆は女の子と一緒に歩幅を合わせながら歩いていく。

迷子になったのは明らかに母親ではなく女の子の方だろうが、紡絆は微笑ましそうに見るだけでツッコミを入れたりはしない。

ただ不安にさせないように女の子と会話をしながら、時々褒めるように撫でてあげたり、会話をしながらあちこちに視線を向けて意識を聴覚に集中させたりして母親の場所を探っていた。

と言っても、女の子の会話が途切れることがないため、割と大変なのだが、全く苦とは思わずに平気に対応してることから、紡絆は慣れているのかもしれない。

 

「それでね、お母さんはいつもやさしくて、でもたまにこわいの。わたしがわるいこにならないようにっていってるんだけど……」

 

「そうだな、お母さんはキミよりずっと生きてきたから、キミが将来困らないように注意してるんじゃないかな。お母さんの言うことは聞いていて損はしないし、お母さんはキミがそのくーちゃんを想っていたように、同じくキミのことを物凄く想っていってるんだと思う」

 

「わたしと、おなじ……?」

 

「そう、だからお母さんや家族を大切にね。大丈夫、キミはくーちゃんを一人で泣きながらも探せるいい子だ。お母さんの言うことをしっかり聞いていれば、きっといい子に育つよ」

 

「……うんっ。えへへ、おにーちゃんの手、あったかい」

 

「なら良かった」

 

紡絆は女の子の頭を撫でながら間違えないように助言し、彼女の母親を探していると、ふと彼の耳には遠のいていくが、誰かを探すように叫んでいる女の人の声が聞こえた。

 

「---か! ---いるの!?」

 

「……見つけた。ちょっとごめん! しっかり捕まってて!」

 

「ふぇ?」

 

だんだんと遠のいていくことから、分かってないのだろうと察した紡絆は女の子に謝りつつお姫様抱っこの形で抱えれば、かなりの速度で走っていく。

落とさないように抱えているとはいえ、不安にさせたかも---と思っていると、女の子がはしゃいでいたので問題ないと判断した。

 

「---夢叶! 見つからない……どうしたら---」

 

「こっ、この子の、おかあ……さん、ですか……!?」

 

かなりの距離を走ってきたのだろう。

息を整えながら追いついた紡絆は慌てて話しかけ、女の子を降ろす。

そして紡絆に気づいたであろう女の人が確認するように振り向いた瞬間---

 

 

 

 

 

 

 

「おかあさんっ!」

 

「っ!? 夢叶っ! もう、心配させて……!」

 

夢叶、という女の子が母親らしき人に抱きついた。

目元に涙を貯めながら抱きしめる母親らしき---いや、母親の姿を見て紡絆は顔を綻ばせる。

名前も知らず、何故紡絆が彼女の母親か判断出来たかと言うと、母親の特徴で特定したのだ。

仮に女の子が知らなければ、紡絆は走ってでも探す予定だったが、杞憂だったらしい。

そして紡絆が見守っていると、母親が気づいたように夢叶と手を繋ぎながら頭を下げてきた。

 

「すみません、ありがとうございました! お陰で夢叶と合流出来て、本当に何とお礼を言えばいいのか……」

 

「いえいえ、お礼なら笑顔という点で受け取ってますし、気にしないでください! あ、でもお礼と言うなら、是非とも困ったことがあれば讃州中学勇者部のホームページにご依頼をお申し付けください! じゃあ、俺は学校遅刻中なので……!」

 

別にお礼目的で人助けしている紡絆ではないため、捲し立てるように言いながら長居をしないためにカバンを持ち直して会釈した。

 

「じゃあ……夢叶ちゃん、でいいのかな。今度は無くさないようにね」

 

「うん! それとね、おにーちゃん。言いたいことがあるの!」

 

「言いたいこと?」

 

紡絆が何か分からずに、母親に視線をやれば、母親も分からないようで首を横に振っていた。

ただ夢叶の表情は明るいが、真剣なので紡絆はしっかりと聞くことにしたのだろう。

耳を傾ける紡絆に、夢叶が口を開いた---

 

 

 

 

「その……」

 

「んー?」

 

「ゆ、夢叶ね、大きくなったらおにーちゃんのおよめさんになる!」

 

照れたようにぬいぐるみで顔を隠しながら宣言する夢叶の姿に、母親は困ったような、申し訳なさそうな表情を。

紡絆は若干驚きながら、子供らしい姿に微笑む。

 

「んーなら待ってるよ。じゃあ、またね」

 

「う、うん…っ」

 

「本当に、ありがとうございました。それと……すみません」

 

「いえいえ。ではっ、何かお困り事がありましたら是非とも讃州中学勇者部に!」

 

母親は感謝を述べながら、色々と申し訳なさそうにしていたが、紡絆は子供の冗談だろうと本気にせずに気にしてないというように首を横に振り、すぐに走っていった。

 

「おにーちゃん、またねー!」

 

「おう!」

 

走りながら振り向くと。頭を深く下げてお辞儀する母親と笑顔で手を振る夢叶の姿を見て、手を一瞬だけ振り返しながらすぐに前を見て走っていった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅刻しましたー!」

 

「継受くん。遅刻したなら連絡を---ってどうしてそんな濡れてるの!?」

 

「あっ、川泳いで濡れたままだった!」

 

ちなみに、友奈と東郷とは同じクラスの紡絆なので、友奈と東郷は察して苦笑を。

クラス内は笑いに包まれていたのは余談だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって勇者部の部室。

そこでは体操服の紡絆が一人だけ違和感はあるが、いつも通りのメンバーが居た。

 

「それで紡絆くんがびしょ濡れのまま来たんですよ!」

 

「何やってるのよ……」

 

「いやー、子供が困ってたので川にダイブしたり女の子を助けたりしてたら自分がびしょ濡れになってたことすっぽりと記憶から抜け落ちてたんですよね、笑えます」

 

「笑えることじゃないような……」

 

「遅刻しているのに人助けするのは紡絆くんらしいわ」

 

あははーと笑いながら遅刻した時の状況を話す紡絆。

後輩から飛んでくる言葉は華麗にスルーした。

 

「でも紡絆くんのことだから、その子たちのこと笑顔にできたんでしょ? さすが!」

 

「子供は笑顔で過ごして欲しいからな。女の子の方にはお嫁さんになる宣言されたのは反応に困ったけど」

 

「紡絆先輩……それは……」

 

「いや手を出したりしてないから! そんな目で見ないで!? いっちゃんダメージ来るから!」

 

じとーとした目で樹に見られ、弁解しようとする紡絆。

相も変わらず、紡絆が居るだけで騒がしかった。

そんな姿を見ながら、風が咳払いをひとつ。

 

「さて、話はそこそこに。今日も勇者部の活動を始めるわよー!」

 

「「はい!」」

 

「はーいー!」

 

「はいは伸ばさない!」

 

「あっ、はい。スミマセン……」

 

「準備しますね」

 

気持ちを入れ替え、早速ツッコミを受けた人物が居たが、勇者部は今日も今日とて依頼を受けては達成するために活動を始める。

時に戦い、時に学び、時に遊び、時にご飯を食べ、時に相談に乗り、時に人助けする。

讃州中学勇者部はやることが多い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

503:名無しの転生者 ID:2W3+hc0D7

で、イッチ。言い訳は?

 

 

504:名無しの転生者 ID:9WgWf2xze

今なら弁解を許すぞ

 

 

505:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

子供の冗談じゃん! そんな本気にしなくたっていいじゃん!

 

 

506:名無しの転生者 ID:LcKaVLuv6

イッチって幼い子にしか興味がないから友奈ちゃんたちに手を出さないのでは……?

 

 

507:名無しの転生者 ID:uvW29Nalv

なんだよ、まったく。イッチもこっち側なら早く言えよなー!

 

 

508:名無しの転生者 ID:DVoeGyzOY

世間はそれをロリコンと呼ぶんですけどね

 

 

509:名無しの転生者 ID:CfGmhWhoF

通報しておきますね〜

 

 

510:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

ここは全く変わってなくてなんか安心したわ

 

 

511:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

勝手にロリコンにされた挙句勝手に通報されそうになってるんだけど

俺からすると子育てする父親の気持ちだったんだが

 

 

512:名無しの転生者 ID:95cSrPHuF

だって……暇だもん

 

 

513:名無しの転生者 ID:Ro83XVNlN

つーか、そんなことどうでもいいんだよ。いつになったらもう一つの安価すんだよ

 

 

514:名無しの転生者 ID:ZtvtDKWRX

安価ずっと残ったままやぞ!

 

 

515:名無しの転生者 ID:7/qRX7RNt

残る一つなんだっけ?

 

 

516:名無しの転生者 ID:0aoQxsGL4

安価の存在忘れてたわ

 

 

517:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

ひっで! お前らが勝手に蒸し返したくせに!

 

>>515

友奈の相談を聞く、だよ! 絶対すぐ終わるやつ!

 

 

518:名無しの転生者 ID:husfnKacn

友奈ちゃんって抱え込みそうに見えて相談はしそうだもんなぁ

 

 

519:名無しの転生者 ID:8qIOToBjD

でもイッチも含めて勇者部は絶対ほぼ一人で抱え込む連中の集まりやろ……

 

 

520:名無しの転生者 ID:3FnwdIdx2

とりあえずイッチは反省しろ

 

 

521:名無しの転生者 ID:jnHERDPgI

安価がどうであれ、イッチは一人で抱えたせいで死にかけたからな。ウルトラマンの重圧は特撮好きからすると分かるけどよ

 

 

522:名無しの転生者 ID:t3mn08nJH

テレビ放送されてなくてホントに良かった…

 

 

523:名無しの転生者 ID:MaXgvaOT3

いくらバカなイッチでもそろそろ学習してるだろ

 

 

524:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

流石に抱え込んだりはしないって。前にも言った気がするが、家族が死んだことについて自分を責め続けてたけど、もう姫矢さんと会った時に解決してるし、むしろ何も考えてないまである

 

 

525:名無しの転生者 ID:cGEZ8Dqm7

何も考えてないのは逆にやばくて草

 

 

526:名無しの転生者 ID:ThCCu/2Re

ここのイッチは両極端にしか出来んのか…?

 

 

527:名無しの転生者 ID:UYq2HcHVP

はへーだから幼女を『堕した』んですねぇ!

 

 

528:名無しの転生者 ID:deTQC5yIc

このロリコンめっ!

 

 

529:名無しの転生者 ID:CxVMy2DjF

絶対イッチはラノベかエロゲーに出てくる主人公タイプだろ

 

 

530:名無しの転生者 ID:DSI9dOi/I

美森ちゃんの時もそうだけどさ、いつか刺されても知らんぞ。あ、毒殺はされかけてたな!

 

 

531:名無しの転生者 ID:7s5X8vEed

むしろそろそろ刺されろ

 

 

532:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

あはは、面白い冗談言うなぁ。

確かにウルトラマンの力を手に入れた時点で主人公っぽいけど、そんなわけないでしょ。アニメや小説じゃあないんだから。

それに刺されるわけないだろ。ハーレム主人公でもないし、そもそも彼女とかいないし普通に生きてるだけなんだから

 

 

533:名無しの転生者 ID:KGrRITQIt

普通(水面走り)

 

 

534:名無しの転生者 ID:VIr+lrgPZ

普通(おもちゃのために自ら車に轢かれそうになる)

 

 

535:名無しの転生者 ID:17K5KC84H

普通とは(哲学)

 

 

536:名無しの転生者 ID:dFFrCMYsH

>>532

ちょっと真面目に誰かこの子に辞書送ってあげて……

 

 

537:名無しの転生者 ID:wnYEU0l+B

イッチってさぁ、小学生からやり直した方がええんちゃうん…? 毎回価値観が何処かに逝ってる

 

 

538:名無しの転生者 ID:gHMTrrJoC

さては前世でもアホだったろ?

 

 

539:名無しの転生者 ID:eb5lyql2J

まあ、いうてイッチの場合は今の世界で生きた人格と合わさった感じっぽいから前世の記憶っつーより前世の知識、って方がしっくりくるイメージ

 

 

540:名無しの転生者 ID:c0Qr9p6fg

前世の記憶を取り戻した人たちも色んなパターンあるもんなぁ。

例えば人格塗り替えるタイプ、完全に融合するタイプ、前世の記憶はあるけど、そのままなタイプとか

 

 

541:名無しの転生者 ID:zW2oy37pb

>>539

ほんこれ

今までの様子からして、前世の記憶を思い出しても性格とか変わってないようだし

つまり、ずっと自己犠牲だったんかコイツ……やべぇわ。特撮ヒーローになるだけあるわ

 

 

542:名無しの転生者 ID:+/d6ruLmm

ま、イッチははよ安価達成してくれ

 

 

543:名無しの転生者 ID:FdH8ldq+B

次の安価もやりたいからな!

 

 

544:名無しの転生者 ID:J41Y5gAg+

安価は(イッチを地獄に送り込むための)楽しみのひとつなんだ

 

 

545:名無しの転生者 ID:dPzg0QSmS

さらっと次もやること確定してるのは草

 

 

546:名無しの転生者 ID:iROGbDKMp

今度は恥ずかしい系をやらせたいぜ

 

 

547:名無しの転生者 ID:1YPgze61p

>>532

日常を過ごす上で一般人なら死にかけるようなことをするのが普通なのか……

 

 

548:名無しの転生者 ID:rnlUiFWCO

>>532

これマジ?

夜道には気をつけておけよ

 

 

549:名無しの転生者 ID:Z6IugRMxc

そろそろ百合空間をもっと見せろ

 

 

550:名無しの転生者 ID:6MEW9jqBn

次の安価ではイッチはイチャイチャを見守るとかになりゃいいのに

 

 

551:名無しの転生者 ID:0IbcVDYgO

平和だなぁ……

 

 

552:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

ある意味平和だけどここのせいで平穏とは言えない件について。

まぁ、安価と他色々頑張りますわ

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結城友奈にとって、継受紡絆はかけがえのない友だ。

互いに似ているためにすぐ息が合ったのもあるが、紡絆は気の合う異性の友達なのだ。

というより、はっきり言うと、勇者部の女子一同は異性の友人が居ない。話すような仲は居ても、明確に友人とも言いきれる仲はいないのだ。

唯一言えるのが、紡絆だけである。

その中でも、友奈と東郷は紡絆をただの友達ではなく、親友だと思っている。紡絆も同じく思っていることだろう。

風と樹とは違い、家が近所である友奈と東郷は紡絆と一緒に居る時間も多かったし、行動も大半共にしていた。

だからこそ、自然と友達という枠組みに入るのではなく、親友として思うようになったのだろう。

だが、親友とはいえども、紡絆は異性だ。

現に---

 

 

 

 

「紡絆くん、もう大丈夫?」

 

「あー、ちょいまちー。まだズボン履いてないから」

 

友奈は紡絆の部屋の前で待っていた。

理由としては、制服がそんな短時間で乾くはずもなく、風邪を引かないためにも着替えるために一度家に戻ってきたというわけだ。

そして流石に紡絆自身も友奈を異性で、女の子と認識しているため、外で待たせる訳には行かないと家の中に入れたわけである。

 

「ごめんごめん。じゃ、行こうか」

 

「うん! よぉーし、紡絆くんに負けないくらい頑張るぞー!」

 

「俺も負けないようにしなくっちゃなー」

 

着替え終えた紡絆は私服となったが、一緒に外に出ては鍵を閉めてから依頼先へ移動するために歩く。

その間、紡絆は友奈に話しかけていた。

 

「そういやさ、依頼なんだっけ?」

 

「あ、ええと……ちょっと待ってね」

 

ここに東郷が居ればすぐに返ってきただろうが、残念ながら居ないし二人とも覚えてもなかった。

そのため友奈が確認のためにスマホを弄ってる間に紡絆はしっかりと前を見て、何かがあったら対応できるようにしておく。

 

「あった! えっと、荷物運び、だね。依頼主さん曰く、運んで欲しいものがいっぱいあるんだって」

 

「なるほど、シンプルで分かりやすいな」

 

「そうだね」

 

頭を使う心配もないことにやりやすいというように頷くと、友奈も同じことを思ったのか、頷いていた。

二人とも頭を使う作業は得意ではないのだろう。そもそも身体を動かす系統の方が好きな二人なので、それは察せられると思うが。

 

「さて、それじゃあさっさと終わらせますかね!」

 

「おーっ!」

 

とにかく依頼をするには依頼主の元へと向かわなければならない。

紡絆が気合を入れるような言葉を言うと、少し急ぎ気味に二人は依頼主の元へと向かうのだった---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、依頼主の元へ辿り着いた紡絆と友奈は説明を聞いた。

イベントをしたいため、衣装や小道具、大道具などといった資材などを運んで欲しい、ということだった。

距離はそんなにないため、予算的にも業者に頼む訳にもいかず、時間がないためにやたら多い荷物なだけあって時間がかかる。

そして人員を荷物運びに割ることも難しい。

そんな時に知ったのが、讃州中学勇者部のこと。

依頼を受けてくれるということで、藁に縋る思いで依頼したらしい。

そもそもどうしてそんな依頼をすることになったのかというと、普段は間に合うように余裕を持っているのに、何故か今回は上からの指示で早めさせられたらしい。

そのことで、あの連中はこっちの苦労も知らないで---などといった愚痴には友奈も紡絆も苦笑するしかない。

閑話休題---

 

「こほん、それでお願いしたいんだけど……大丈夫?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。大道具といっても、グランドピアノクラスはないですしね」

 

「私も大丈夫です! お任せください!」

 

「じゃあ、お願いね。

分からないことがあったら気にせずに聞いてくれていいから。本当に助かっちゃう」

 

「はい、そちらも頑張ってください」

 

「えぇ」

 

話を聞いてから急いで仕事に戻る依頼主を見送ると、本当に時間が無いのだと分かる。

紡絆もすぐに気を引き締め、大量にある荷物を見つめた。

 

「これ、一日で終わるか?」

 

「ど、どうだろ…?」

 

「ま、やっていくしかないよなぁ。

俺こっちやるから、友奈はそっち任せる」

 

自然とした気遣いなのか、紡絆は明らかに重たいと分かる物ばかりがある方を担当するといい、友奈に任せると言った方は比較的軽い物ばかりだ。

 

「分かった! けど、大丈夫?」

 

「大丈夫だって。こういう風に男手が必要な時があるから、俺がいるわけだしな。

それよりぱっぱとやって終わらせよう」

 

「うん。無理はしないでね」

 

「そっちもな」

 

重ねた椅子を紡絆は一気に持ち、少しでも早く終わらせるために歩みを進める。

友奈はダンボール箱を持って紡絆の隣を歩いていた。

 

「あ、これ……連絡するべきか?」

 

「時間かかりそうだし、それがいいかも。これ運び終わったら東郷さんと風先輩に連絡しよ?」

 

「そうだな。もし遅くなるようなら、先に東郷だけ家に帰してからもう一度来ればいいか……」

 

ふと気づいたように声を挙げると、友奈も同感というように頷いていた。

誰かに任せるという選択肢はないようだが、足が動かない東郷を車椅子で押すということは彼女の命を預かるということだ。

紡絆は友奈なら譲れるが、他の人たちのことは信頼していてもあまり譲るという気持ちはなかった。

それは友奈も同じくで、その役目を譲るとしてもどうしてもそうするしかない時のみである。

 

「あ、もう見えてきた。本当に距離はそこまで離れてないんだね」

 

「ただあの量は……確かに他に終わってないことが多いなら、依頼した理由にも納得。そもそもイベントをするなら準備期間が一番人員も時間もかかるからな」

 

距離は荷物を持ちながらでも、歩いて五分ほどの距離だ。

本当にそこまで離れている訳ではなく、確かに業者に頼むかどうかと言われると予算に関係があるなら頼まずに少しでも別のことに使いたいだろう。

何らかの事態に陥って足りなくなったりしたら買うことだって出来るのだから。

 

「っしょ。えーと……友奈、そこのテーブルに置いといて欲しいだって」

 

「ここ?」

 

「そうそう、椅子は…こっちか」

 

ある程度設置する場所についてのメモを貰っていた紡絆は椅子を正しく置き、友奈の荷物も書いてある通りに指示していた。

本当は持っていくだけで良いという話だったのだが、どうせならと自ら志願したのだ。

そして置いたものを置くと、東郷と風に連絡だけしてすぐに戻り、別の物を取りに行く。

設置する場所に辿り着けば、紡絆がしっかりと指示を出して指定の場所へ置き、また取りに行けば、また指定の場所に。

ただそれだけを繰り返す作業だが、これがまた体力をかなり使う。

運動系が得意である友奈と紡絆ですら、そもそも中学生だ。まだまだ若いとはいえ、体力の量というのは一般の学生よりかは多いが、少ない。

ウルトラマンを宿す紡絆に至っては、強化された身体能力を使っていないのだ。だからこそ、通常の彼が持つ身体能力と体力のみでこなしているため、実は体力の消費が凄まじい。

何よりも、ただ歩くだけではなく、二人とも物を持っている。人間というのは物を持ちながら歩くだけでも筋力を使ってしまう。歩くだけなら一番使うのは足だけだが、持つということは腕の力も必要なのだ。

紡絆が重たい方を優先的に持ってるとはいえ、友奈の方にも重たい物は入っているだろう。

あくまで五分というのは目安であって、重量によってはそれ以上に時間もかかったりする。

 

「……ダメだな、これ」

 

戻って見てみれば、ようやく残り半分くらいと言うべきか。機材に至ってはより慎重に扱わないといけないため、一人で持つというのは危険すぎて出来ないのである。

その分、二人で持つということは時間がかかる。

だからこその、発言。

 

「ふぅ……でも重たいのはかなり無くなったよ?」

 

「残りは俺一人で持てるから大丈夫。ただ……作戦を変更しよう」

 

「作戦?」

 

腕で汗を拭った友奈に言葉に紡絆は提案すると、友奈が首を傾げる。

そもそも作戦なんてないのだから仕方がない。

 

「まず友奈。先に帰って、東郷を家に帰してあげてくれないか? 正直、時間かかるからその方が東郷を待たせずに済む。

そして次に、友奈が東郷を帰してる間に俺は残りをやる---これが俺の立てた作戦だ!」

 

「確かにまだまだかかりそうだもんね〜。役割分担ってことだ。

でも紡絆くんも疲れてるのにそれは……」

 

「へーきへーき! ほら、頼んでいいか? それにここから帰るってことだから友奈にも負担かけさせるし、気にすることじゃない」

 

作戦という名の自身に負担をかけるだけのものだが、紡絆の言う通り体力の減っている友奈は帰る時にまた体力を消費する。

---ただし、それは作業を続ける紡絆の方が負担がでかいというのは誰にでも分かるのだが。

それは友奈にも分かっているのか、迷うように渋るが、紡絆の言ってることは間違っていない。

 

「じゃあ、紡絆くんの言う通りにする……けど、戻ってくるからあまり無茶はしないでね?」

 

「おっけー。そっちも気をつけろよ?」

 

「もちろん! じゃあ、すぐに戻ってくるから!」

 

「や、そんな急いで来て体力なかったから意味ないから、ゆっくりでいいからな?」

 

「そこは大丈夫!」

 

「そうか…じゃ、こっちはこっちで任せろ!」

 

「うん!」

 

まとまったらしく行動する---前に互いに頷く。

任せる、という意味だろう。

友奈は学校へ。紡絆は残りの作業を終わらせるために、向き合う。

 

「さーて……別にこれを全て片付けてしまっても、構わんのだろう?」

 

誰に言ったのか、某傭兵の如きセリフを吐いた紡絆は残る戦いへと挑んだ。

本当の戦いはこれからだ! という、打ち切りエンドのような雰囲気を醸し出しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

626:名無しの転生者 ID:sHVAVDmeB

それで暇になった……と。バカなのか?

 

 

627:名無しの転生者 ID:XAzw1vTcm

間違いなくバカだな。平常運転だ

 

 

628:名無しの転生者 ID:ep9q81n4+

だからあれほどフラグはやめろと……

 

 

629:名無しの転生者 ID:vSX2IDtWA

イッチってフラグをすぐ回収するよな。一級持ってんじゃないか?

 

 

630:名無しの転生者 ID:lfeUldfAs

友奈ちゃんの負担を減らそうと努力した点だけは褒めてやろう

 

 

631:名無しの転生者 ID:zwSEBXJ07

ただ結局んとこ、終わってないと意味ないんだよなぁ。

無能

 

 

632:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

あと少しだったんだ……あと少しで終わったはずなんだ……! まさか体力の限界が訪れようとは……!

 

 

633:名無しの転生者 ID:9CyOQqnNg

確かにイッチは文学系というよりかは体育会系だもんな。体力は一般人よりかはあるだろうが、いくら人外じみていて、某正義の味方に憧れる魔術使いのような人間みたいな不幸だと叫ぶ人みたいな考えを持っていても結局は人間だから限界はあるでしょ。てか、途中からへとへとになってたのになんで行けると思ったん? 馬鹿なのか? 馬鹿なんだろ!?

 

 

634:名無しの転生者 ID:dCF2T257h

なんか……イッチって残念だな

 

 

635:名無しの転生者 ID:rB/7pdplu

主に頭がな

 

 

636:名無しの転生者 ID:4PgfB4xig

身体能力と戦闘センスと引き換えに頭は悪いんだろうな……可哀想に

 

 

637:名無しの転生者 ID:HFHf8l+Ih

神は一つ、二つは与えても全部は与えなかったんやなって

 

 

638:名無しの転生者 ID:AIsabB2ol

ちゃんと自己管理しよーぜ。イッチは無茶しすぎなんだよ

 

 

639:名無しの転生者 ID:V+nGuDxu3

本来ならこれを時間もない中運ばなきゃいけなかったのか……全くさぁ。上の連中って早めることだけはするくせに考えてないのマジでやめろよ

 

 

640:名無しの転生者 ID:QnZ7Uq3ai

前世…会社……無能な上司……うっ、頭が

 

 

641:名無しの転生者 ID:9O+G4VWFS

思い出したくない記憶が蘇る……!

 

 

642:名無しの転生者 ID:569A3nyw1

社会人って大変なんだな……

 

 

643:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

俺のどこが残念なんですかね……?

 

 

644:名無しの転生者 ID:tR1EcvGQG

>>640

やめろぉ!(建前) ヤメルルォ!(本音)

 

 

645:名無しの転生者 ID:tNa/YBYzw

>>643

 

 

646:名無しの転生者 ID:fFvL1RPlE

>>643

存在そのもの

 

 

647:名無しの転生者 ID:YAyXUDYlL

>>643

バカ

 

 

648:名無しの転生者 ID:Io9YvSqCj

>>643

女たらし

 

 

649:名無しの転生者 ID:9iucjplnf

>>643

前世の知識すら役に立ててないとこ

 

 

650:名無しの転生者 ID:FGn3+G/Il

>>643

 

 

651:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

いや、前世なんて役に立たない知識ばかりだしなぁ。

勉強にちょい使える程度よ。

それに女たらしって……俺のどこを見たらそう思えるんだよ

 

 

652:名無しの転生者 ID:TZ9Gqp6yt

はー?

 

 

653:名無しの転生者 ID:rkeDdeEWM

殴れるなら殴ってるわ

 

 

654:名無しの転生者 ID:1U9MULtEU

天然怖いわぁ。それにイッチが色々と純粋過ぎて逆に怖い

 

 

655:名無しの転生者 ID:vSOvL8qVt

そのまま寝てろ、バカ

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実だけではなく、掲示板にですらバカ扱いされている紡絆だが、そんな彼は荷物の下敷きになりながら暇潰しとして会話をしていた。

残る荷物の量はそんなにないのだが、猛ダッシュで行き来をした紡絆に体力の限界が訪れ、少し休もうとしたら積み上がっていた荷物に潰されたというわけである。

 

「……ふぁぁ、寝れそう」

 

体力の回復と筋力の回復を待つため、暇な紡絆は欠伸をした。

むしろ寝そうになっている。

別に紡絆は起き上がれないわけではないが、割れ物があるかもしれないので下手に動けないのだろう。

ちなみに思い切り廃棄物と書かれているのだが、気づくことは無かった。

 

「あー……どうしよー」

 

助けを求めたいところだが、残念ながら誰もいない。

というか、流石に重たいため早く退きたいのが本音である。

ダンボールの山に潰されてしまうと重たいことから、中には本などあるのかもしれない。

少なくとも割れ物は優先的に運んでおり、違う場所に置かれていたような記憶が紡絆にあるため、ないとほぼほぼ断言出来るし割れたような、ヒビが入ったような音は聞こえなかったことからないのだろう。

つまり、結局のところは問題はなかったが、重たい何かが入っているということだ。

本なのか、使わなくなった衣装などか、それとも壊れたのか、または取れないほどに汚れまくって使えなくなった置き物なのか、それは分からないが。

しかし、暇なのだ。手も動かせないから何もすることはなく、ただ時間を過ぎるのを待つだけ。

もうそろそろ諦めて起き上がろうかな、などと言った考えが生まれてくる始末---

 

「紡絆くん、お待たせー! ってえぇ!?」

 

そんな時、友奈は戻ってきたのと同時に、驚愕した。

いきなり仲間が荷物に押し潰されていたらびっくりするだろう。

 

「おー、友奈。へるぷー!」

 

「ちょ、ちょっと待ってね!」

 

紡絆の助けを求める声を聞いて、急いで荷物を退かしていく。

一つ一つ積み上がっている荷物を退かしていくと、少ししてから紡絆は解放され、廃棄物と書かれていることに気づいた時には纏めた場所に置いておいた。

 

「いやー、助かった助かった」

 

「どうしてあんなことに?」

 

「あとちょっとまで減らしたんだけど、疲れたから休もうとしたら気づかずに潰されちゃってさ。たはは」

 

「もう、無理はしちゃダメだよ。大丈夫? 何処か痛めてない?」

 

「ごめんごめん。俺は大丈夫だから終わらせよう! 報告して終了だ! もう軽いものしかないしすぐに終わるから!」

 

「ん〜、確かにもうあまりなさそう。あとちょっと、頑張ろっか!」

 

押し潰されていたことから痛めたのではないかと心配するが、平気そうに残りを片付けようと言う紡絆に友奈も残りの量を見て頷き、再び作業へ入った。

本当に少ないのか、20分もすれば全て無くなっており、ぎっしりとあった部屋の中はほとんど蛻の殻となっていた。

残るは報告だけとなり、依頼主に確認して貰うことに。

 

「うん……完璧ね。本当にここまでしてくれるなんて、驚いたわ。

本当にありがとう。代わりといってはなんだけど、これ受け取ってくれない?」

 

そう言って差し出してきたのは、喫茶店のクーポン券だ。

二枚差し出されるが、紡絆と友奈はどうすればいいか分からないような表情をしていた。

元々見返りが欲しくてやったわけではないのだから、差し出されるとは思わなかったのだろう。

 

「え、いや別に俺たちはそのために受けた訳じゃあ---」

 

「いいからいいから。私、行かないし商店街で取ったものだから。ささやかなお礼」

 

「あ、じゃ、じゃあ……ありがとうございます」

 

「ま、まぁ……そこまで言うなら貰いますけど、ありがとうございます」

 

しかし無理矢理と言った感じで握らされてしまうと、流石にいらないと言う訳にも行かず、渋々受け取りながらお礼を述べる友奈と紡絆。

 

「気にしないで。貴方たちはまだまだ子供なんだから、大人として何かはさせて欲しかったの。また困ったことがあったら頼むかもしれないし、ね?」

 

「……なら、またの御依頼、お待ちしてますね。じゃあ、時間も時間ですし、まだやることあると思うので、そろそろこれで」

 

「イベント、頑張ってくださいね!」

 

「ここまでしてもらったんだもの。任せておいて!」

 

互いにやるべきこと、帰らなければいけないということから会話を程々に別れを告げ、任せてと言ってのけた依頼主の言葉に嬉しそうに笑みを浮かべた紡絆と友奈は会釈してから去っていく。

後日の話だが、イベントは無事に行われ、大盛況だったという嬉しいニュースがホームページに届くのだが、今の紡絆と友奈にはそれを知る術はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして帰り道。

ただ歩きながら、無事に達成出来たことに紡絆と友奈は安心した様子だった。

何事もなく、怪我もなかったのだから。

 

「そういえば、無事に帰れたのか?」

 

「うん、ただ東郷さんから紡絆くんが無理しないように見ておいてって言われちゃった」

 

「……いつの間に俺の保護者みたいになってるんだ? そんな無理しないって」

 

気になって聞いてみたが、紡絆は聞いた言葉に苦笑する。

しかし本人はそう言っていても、周りから見れば紡絆の行動は無茶ばかりなのだ。

離れていてるからこそ、心配するような発言をされるのは不思議ではないだろう。

 

「でも紡絆くん。さっきの依頼、自ら重たい物ばかりのをやってたよね。私を気遣って?」

 

「? あぁ、それがどうかしたか? いらない気遣いなら謝るが」

 

ふと思い出すように聞かれた言葉に、普通だというように答える紡絆。

そんな紡絆の言葉に友奈は嬉しそうにしつつ、首を横に振った。

 

「ううん、男の子だなーって」

 

「むしろ女の子って言われる方が困るんだが!?」

 

「あはは。そうじゃなくって、なんというか……ええっと、そう! かっこよかったよ? 私を気遣って重たいのを優先的に持ってくれたところとか!」

 

「ん……そ、そうか」

 

友奈の言葉を聞いて、珍しく紡絆が照れ臭そうに頬を掻く。

普段恥ずかしがることはそうそうないが、友奈の言葉は嘘偽りない真っ直ぐな言葉。

だからこそ、紡絆の心に一直線に響いたのだろう。

子供なら、本気でも冗談でも照れることは無い。それは幼いが故の純粋さなのだから。

しかし、友奈は美少女で同年代の異性だ。流石の紡絆も気恥しい。

 

「ま、まぁ……友奈も女の子だしさ、重たいものを持たせても男としてのプライドがなぁ。それに!」

 

「それに?」

 

「仮に友奈が怪我して肌に傷をつけたりしたらどう責任取ればいいか分からなくなる!

ほら、友奈は可愛いんだし、肌も健康的で綺麗だしさ」

 

「へっ!?」

 

そして、反撃の一撃。

思わぬ言葉に今度は友奈が恥ずかしそうにするが、こちらもたた嘘偽りない真っ直ぐな言葉故に、だ。

本気で言ってるのだと誰でも分かる雰囲気と表情に、友奈も気恥しくなる。

天然と天然。はっきり言って、互いにある意味相性が良く、相性が悪いと言えるだろう。

 

「………」

 

「………」

 

主にこういうことに関しては、互いに悪いのだろう。

普段なら言われてもそこまで問題ない紡絆でも純粋な言葉には恥ずかしがるし、異性と関わりが少なくて、友人としては紡絆しかいない友奈も異性に言われると恥ずかしい。

そのため、無言な空間が発生してしまう。

それを打ち破ったのは---

 

「あ、あー……どうせなら、何か食べに行こうか。クーポン、貰ったし」

 

紡絆だった。

依頼主に貰ったクーポン券のことを話題に挙げることで、逸らそうとしているのだろう。

 

「う、うん……そうだね。いこ!」

 

それに気づいたのかは定かではないが、友奈も乗る。

そうなるとお店へ行くことが決定したが、さっきの発言に関しては二人とも触れるようなことは無意識にしなかった。

 

「行くにしても、友奈は食べたいものあるか? 一応喫茶店ならなんでもいいクーポン券らしいが……」

 

「う、うーん……そう言われると思いつかないかも。見て回りたいかな?」

 

「んじゃ、目に入った店にしますか」

 

「そうしよう!」

 

あまり遅くなりすぎても店が閉まってしまう可能性があるため、若干急ぎ気味に歩きながら、二人は楽しそうに会話しつつ移動していく。

話題は沢山あり、尽きることがない。コミュニケーション能力が高い二人だからこそ、だろうか。

いいや、きっと二人の仲が良いのが一番の要因かもしれない。

他の人からしたら、くだらなくて、普通で、平凡で、それでも沈んでゆく夕陽に照らされながら歩く二人の姿は何処か輝いて見える---楽しそうに見えていた。

普通でいい。いつもと何ら変わらぬ、日常。

それを感じているのだろう。

 

「……ん。あれでいいか?」

 

その時、ふと止まった紡絆が指差す。

場所は何らかの喫茶店だろうか。限定スイーツをやっているらしく、紡絆が指差したのは彼が食べたい---わけではない。

一瞬友奈の目線から興味が惹かれていたことに気づいたので、聞いたわけである。

 

「え? うん、私はいいけど……紡絆くんは?」

 

「俺は別に食べれたら何でもいいからなぁ……」

 

「あは、紡絆くんらしいね」

 

「マジか……自分じゃ自分らしいなんて分からないけど」

 

「んー、上手く言える自信がないから気にしないで? ほら、行こう!」

 

何故か返答すると笑われたことに紡絆は首を傾げるが、友奈は話を折ると喫茶店の方に駆け寄って行った。

紡絆はそれを見つつ、すぐについていき、辿り着くとドアを開く。

 

「いらっしゃーい」

 

やる気のないマスターと思わしき女性の歓迎の挨拶が聞こえる。

店内は古い喫茶店のようにノスタルジーとアンティーク溢れた内装で、こじんまりとしていてとても落ち着いた感じだった。

紡絆がふと見ると一人の女性がカウンター席に座っていた。

その傍らには山のように積まれたマンガ本。やる気のない様子がすぐに分かってしまうが、今は気にせずに外からあまり見えない席に二人は座る。

 

「なんかいいね〜」

 

「内装? まぁ、確かに落ち着く感じだもんな。

客もみんなリラックス出来るような場……あのマスターの態度もあるかも」

 

メニューを友奈に渡しながら、紡絆は店内を見渡す。

年寄りが全体的に多いが、誰も彼もが楽しそうで、笑顔だ。

まるで自由に自分を出していられる、柔らかいマシュマロのような雰囲気が店内に満ちている。

そんな店内と人々を見て少し嬉しく思うと、先ほどのマスターと思わしき女性が水を二つ持ってきて、テーブルに置いた。

営業スマイルなんてどこ吹く風と言った感じで、むしろ眠そうだ。

 

「注文決まったら呼んで〜」

 

「あ、はい。えっと……これって使えます?」

 

「使える使える。別になんでもいーよ」

 

やけにフランクな女性に紡絆は苦笑するが、悪くもなく、むしろ心地が良くて当たりの店だと感じた。

 

「あ、私注文いいですか?」

 

「ん、決まった?」

 

「はい、私はこの限定スイーツと、紅茶で。紡絆くんはどうする?」

 

「俺はコーヒーと……おまかせで」

 

「りょうかーい」

 

気の抜けた返事をしながら、店員は注文を受けて調理場に引っ込んでいった。

接客する気が明らかに0だが、不快な思いをさせないのは彼女の持つ独特な空気故だろうか。

そもそもおまかせというメニューがあるのも珍しい。

基本的なおまかせメニューとは高級寿司屋や日本料理店などが得意とするメニューで、シェフが「ここに来たからにはそれなりの覚悟ができているんだろうな」とでも言いたげな薄笑いを浮かべつつ、「その日仕入れた最高の材料を最高の技術で調理しているんだから黙って食え」みたいな、ハンパない気合いの入れ方で作る料理なのだが、この店の場合適当に出す、という意味しかない。

 

「……まぁ、俺はあの感じ好きだけど」

 

変に飾らなくとも被らなくとも、自然体で居られる感じ。

まるで勇者部に居る時と変わらない雰囲気に居心地の良さを覚えながら、楽しみという様子が表情に出ている友奈の姿を見て笑う。

 

(さて……ここなら安価を達成出来るか。食べ終わったら聞いてみよう)

 

多分今までで簡単で逆に困りそうだと内心で頭を抱える紡絆だが、外の様子を眺める。

もう夕方過ぎの時間帯だからか、人の数は少ない。完全に夜になれば増えるだろうが、今はまだそんなに居なかった。

それでも商店街を歩く家族連れの夫婦や、友達と思われる人と並んで歩く姿など、様々な笑顔の姿を見ていると紡絆は何処か満たされていた。

 

「---くん? 紡絆くんー?」

 

「あ、あぁ。ごめん、どうした?」

 

「もう来てるよ? 店員さん、行っちゃった」

 

「あー……それはちょっと悪いことしたかもな。会計の時、謝罪しておくとして……今は食べようか」

 

「うん! いただきます!」

 

どうやら思い耽っていたらしいと自分自身に呆れた紡絆は、限定スイーツであるケーキを食べ始めた友奈を見て、さっきのマスターと思われる店員を見る。

彼女は何も気にした様子もなく、漫画を読んでいた。

それを見て紡絆は出されたコーヒーを飲みつつ、ふわふわで甘い、フレンチトーストを食べる。

 

「んー♪ これ、美味しい〜♪ 紡絆くんもどう?」

 

「い、いや……ケーキはいらないかな……暫く」

 

見るだけでも中々だが、食べるとなると思い出しそうになるため、目を逸らした。

紡絆にとって、ケーキは一種のトラウマとなっていた。それは風の誕生日会を迎えるためにケーキの練習をしていたのが原因なのだが、友奈たちはアレを知らない。

少なくとも一ヶ月くらい経たないと、紡絆は食べないだろう。

 

「そっか。そういえばコーヒーは苦くないの?」

 

「ん、俺はな。飲んでみるか?」

 

「じゃあちょっとだけ……って苦い!?」

 

「まぁ、ブラックだからなー」

 

「わぁ…大人だー」

 

飲んでいたコーヒーを紡絆がコップの持ち手を持てるように差し出すと、持ち手を持って飲んだ友奈の反応が想定通りで、紡絆は笑いながら返却されたコーヒーを飲む。

 

「そうか? でも、この店のコーヒーは普通に美味い。雰囲気といい、この店は好きだな」

 

「はふぅ……私も何だか気に入っちゃった」

 

「また暇があれば来るか……」

 

「うん」

 

友奈は賛成というように頷き、美味しそうに食べながらも幸せそうな表情をする姿に紡絆はコーヒーを飲みながら何処か微笑ましそうに見つめる。

 

(食べ終わったら、安価の内容やるか……展開が予想出来るから、すぐ終わりそうだけど。その場合俺もひとつ、気になることがあるからそれを聞いてみよう)

 

これでも紡絆の生きていた記憶上では、友奈と東郷の付き合いはとても長い。

まぁ、二年間近くの記憶しかないのだから当たり前なのだが、紡絆は友奈のこともかなり分かっているつもりだ。

だからこそ、安価の相談を聞く、ということはすぐ終わるだろうな、と予想を立てていた。

 

「ご馳走様でしたっ!」

 

「ごちそうさまでした。友奈、終わったならちょっと聞きたいことあるんだが……」

 

「聞きたいこと? いいけど、私でも答えられる?」

 

食後の挨拶をすると、紡絆は早速本題へ入るための下準備として言ってみると、友奈は首を傾げる。

 

「それは友奈次第なんだが…なんかこう、悩みとかないか? 相談に乗れることで」

 

「急だね〜。どうしたの?」

 

「ちょっと気になって」

 

「うーん……そう言われても、今はないかな?」

 

(はい、終わりー。知ってた! テストとかまだだもんな! 近いのは中間だし!)

 

こうなることを予想していたのか、内心で軽くため息をつく。

友奈は解決出来ないことなどあれば、紡絆とは違って相談するタイプだ。一方で、他に頼れるもの(別世界にいる転生者)たちがいるのにウルトラマンの重圧に押し潰されかけた姿から分かる通り、紡絆は一人で抱えるタイプ。

色々と似ている割には、そこで見事なまでに真逆なのである。

 

「じゃあ……話を変えよう。友奈はどう思ってる?」

 

「へ? 何を?」

 

「バーテックスとスペースビーストと戦うことについて、だ」

 

そう、それこそが紡絆が聞きたかったこと。

あの時は色々と大変だったが、何故か最近は全くと言っていいほど襲撃が来ない。

ならば、聞けるのは落ち着いた今しかないと思ったのだろう。

 

「えっと……もちろん戦うよ? 誰かが傷つくことになるくらいなら---」

 

「いや、違う。俺が聞きたいのはそれじゃない。

俺が聞きたいのは友奈の本音だ。

誰かとか別の人とか、勇者部のみんなは関係なく、()()()()()()()()()()()()に俺は化け物と戦うことについて、どう想っているのかが聞きたいんだ」

 

友奈が言おうとしている言葉は、紡絆は知っている。以前に聞いたし、紡絆自身もその想いは持っているからだ。

だけど、それはあくまで()()()()()()()()()()()()()であって、紡絆が聞きたいのは()()()()()()()()()()()()()()()()()の本音を聞きたいということだろう。

 

「それは……」

 

「無理に聞くわけじゃない。

けどさ、俺なんかが頼りになるかは分からないけど、男としては---いや、俺としては頼って欲しい。

怖いなら、怖いと言って欲しい。弱い所を見せて欲しいと思う。

友奈も女の子で、中学生なんだ。

俺の前くらいは本当の気持ちを言ってくれないか? 気丈に振る舞わずに」

 

言い淀む友奈の姿を真っ直ぐ、真剣に見つめる紡絆の瞳には、何の嘘も入っていない。

ただ本当に知りたいと思っているのだろう。

無理には聞かないと言ってる点から、別に答えなくとも良い。その場合、紡絆だってしつこく聞く訳ではなく、すぐに引くに違いない。

友奈の中で迷いが一瞬生まれる。しかし、見つめ返すと、紡絆は何ら変わらぬ様子だった。

だからこそ---

 

 

 

「……うん。本当はね、勇者に初めてなった日、私も東郷さんと同じで、恐怖を感じてたんだ。

樹海に入った時だって不安だったし、バーテックスを見た時も狙われた時も、凄く怖かった。

それでも一番怖かったのは、紡絆くんが死にかけていたときだったんだ。

誰かを失うことが、大切な友達がいなくなると思うと、不安で不安で、とても怖かった」

 

本音を零す。

それは、友奈が秘めていた弱音だろう。

一見すると、友奈は年齢の割には鋼メンタルを持つ少女だ。でも本当は、年相応のメンタルを持つ少女で、他者のために奮い立たせることの出来る強い勇気があるだけなのだ。

だから当然、恐怖心を抱く。もし一人だったならば、涙を流していたかもしれない。

だがあの場で友奈が弱音を吐いて、涙を流して、弱い姿を見せれば、ただでさえ恐怖心を誰よりも抱いていた東郷がどうなるかなんて、分からない。

そのため、決して涙を貯めても泣くことはしなかった。恐怖に震えていても、動かないことはなかった。

だが今紡絆の目の前に居るのは、ただ一人の、何処にでもいる一人の少女だった。

思い出しているのか、手は震えている。いや、よく見れば体も震えているのだろう。

 

「……そっか。それはごめん。

でも、友奈は東郷のために勇気を出した。

戦う手段があったから、それを選んだ。本当は怖かっただろうに、本当は逃げ出したかっただろうに」

 

あの時、友奈は紡絆がウルトラマンに変身出来ることを知らなかったが、あの場に居たのは友奈、東郷、紡絆。

その紡絆は怪我を負っていて、戦える状況とは言い難かった。しかも勇者にはなれないと断言された後だったからこそ、あの場で動ける友奈しか居なくて、選択肢が無くて、友達を、親友を守るために恐怖を勇気で捩じ伏せて変身してみせた。

 

「だから、これからは何かあったら、弱音を吐きたかったら、俺がいつでも話を聞く。

友奈が一人の普通の女の子ってことを知ってるし、何があったって、助けるから。

友奈がそうやって誰かのために勇気を出して、誰かのために戦うなら、俺が友奈を守る。

そうしたら、友奈も守れるし、みんなも守れる!」

 

友奈の震えていた手に紡絆は手を重ね、いつもと何ら変わらぬ、笑顔を見せる。

だがその言葉の中には、一つだけ大事なことが抜けている。

紡絆が言ったのは、あくまで()()()()()()だ。紡絆という一人の男の子存在は、その中にはなかった。

 

「そっか……紡絆くんは……変わらないね。

紡絆くんと話していると、勇気を貰えるよ。

だから紡絆くんが私を守ってくれるなら、安心だ。

でも、それなら……私も紡絆くんを守る! これでおあいこになる、よね?」

 

果たして紡絆が入ってないことに気づいたのか定かではないが、友奈は手を重ねる紡絆の手にもう片方の手を重ね、笑顔で聞くように言って見せた。

友奈の震えは、既になかった。不安も、恐怖も、全て。

そして友奈の目の前には驚いたような表情をする紡絆の姿があったが、その紡絆はすぐに柔らかい笑顔を浮かべると、頷く。

 

「……そうだな、おあいこだ。俺が友奈とみんなを。友奈が俺とみんなを……か。

俺たちは一人じゃないもんな!」

 

「うん!」

 

この場には居ない、勇者部のみんなも同じだろう。

東郷は言っていたが、風も樹も同じ気持ちに違いない。紡絆が自身のことを勘定に入れてないと分かっているからこそ、紡絆を守るという考えを持つ。

どうせ他人のことしか考えてないだろう、と察せられているのは普段の行いからして、勇者部の者なら誰でも分かる。一度や二度ではなく、勇者部の活動で数えられないほどの危険を行っているのだから。

---しかしこの光景は、どうだろうか。

ここは喫茶店で、友奈の置いていた手に紡絆が重ね、その上にまた友奈が手を重ねている。

それは---

 

 

 

 

 

 

 

 

「若い子はお熱いわねぇ」

 

「カップルかしら? 若いときを思い出すわぁ」

 

「リア充め……」

 

「お似合いのカップルさんだ。良いなぁ……」

 

ぼそぼそと聞こえてくる声。

店内にいて、見渡した人たちか、はたまた声が大きくなって少し聞こえたのが気になったのか、紡絆と友奈の姿に気づいた人たちがふと漏らした声。

それに気づいた二人が店内を見れば、かなり注目されている。マスターらしき店員は漫画に集中しているが、かなり見られてることに違いはなかった。

若い人から、年寄りにまで注目され、微笑ましそうに見るもの、羨ましそうに見るもの、紡絆()のみに殺意を抱くもの、昔を懐かしむもの、それぞれいるが、次に友奈と紡絆は何故注目されているのかと互いを見れば、重ねた手を見て少しの沈黙の後に気づき、互いに離した。

 

「ご、ごめん。なんか……ほんと」

 

「う、ううん……えっと、わ、私の方こそ……ごめんね?」

 

この状況を注目されるとなると、流石に恥ずかしいのだろう。

両者ともに赤面すると謝るが、紡絆はともかく、友奈は普段の明るさなど鳴りを潜め、大人しくなって俯いていた。

そして羞恥心よりも、安定の彼ら(転生者たち)による罵倒に頭を抱える紡絆。

 

「え、えーと。そろそろ出ようか! あんまり居座ってるとあれだし!」

 

「そ、そうだね! 時間も時間だから帰らなくっちゃ」

 

話題を変えるようにというか、その場から離れるように紡絆が勘定書きを取ると、支払ってから友奈と共に出ていく。

そのせいで店内に残る人々に完全にカップルだと思われたのだが、マスターだけは相も変わらずお釣りを返すと漫画を読んでいたのは余談だろう。

 

「ん……っと。いつの間にか夜になってたのか」

 

「そうみたい。結構依頼に時間掛かってたもんね」

 

「早く帰らないとな」

 

「うん」

 

外に出ると、既に暗くなっていた。そう思うと、出てきたタイミングも良かったかもしれない。

明日も学校があるため、色々と帰っても準備をしなければならないのだ。

それに紡絆とは違って、友奈には家族がいる。遅くなりすぎると心配させてしまうため、帰宅するために帰り道を歩く。

その中、紡絆はただ真上を、空を見ていた。雲は出ておらず、キラキラと光り輝く星と綺麗な夜空。

それに街灯によって暗闇を作ることはなく、光が消える様子がない。

 

「あっっ……」

 

その時、友奈は視界の先で小さな子供の手が思いがけず声を漏らし、風船が離れ、夜空へと少しずつ上がっていく様子が見えた。

小さな子供の表情は、風船を離してしまい、なくなると考えたのか僅かに曇る。それどころか、瞳に涙を貯めていた。

 

「あ……紡絆くん---ってあれ!? きゃっ!?」

 

だが、まだ完全に上がる前なら取れる。そのため、友奈は一言かけてから走ろうとしたが、紡絆の姿がない。

それどころか何故か隣から少し突風が来たため、瞬きすると居ないと判断し、慌てて見渡してから---気づいた。

友奈の目の前---正確には風船が上がって行った位置に、紡絆が既に居り、風船の紐を掴んでいる姿を。

明らかに、人間離れした跳躍力。おおよそ4メートルは飛んだだろうか。

計算すると、400センチメートル。一般住宅の2階建て、もしくは、二階建てロフト付きと同じくらいの跳躍だ。

勇者に変身してその身体能力を使えば友奈でも跳べるが、紡絆は生身でやって見せた。

通行人ですら、酔っているような人ですら我を忘れ、呆然とその姿を見ていた。

 

「ママ、ママ! あのお兄ちゃんスゴい! 今、ビューンって飛んだよ!」

 

「よっ……はい」

 

軽々と着地すると、小走りで子供に近づき、無邪気に瞳を輝かせる子供に目線を合わせるように膝を着くと、安心させるように優しい笑みを浮かべながら風船を差し出した。

 

「ありがとう! お兄ちゃん、すごいね!」

 

「今度は離さないようにな」

 

風船を受け取る子供の髪をぐしゃぐしゃにしない程度にくしゃくしゃ撫で回すと、笑顔を浮かべながら母親の手を握りつつ、こちらに手を振る子供の姿に紡絆も手を振り返していた。

母親らしき人は信じられないものを見たような表情で気づいたように慌てて軽く頭を下げていたが。

 

「……友奈?」

 

「え? あ、ううん」

 

その様子を見ていた友奈は、紡絆に呼ばれてすぐに隣に向かう。

 

「もしかして驚かせたか? ごめんごめん。

普段はいつも通りだけど危機が迫るか、助けたいと願うかどうにもならないと思うと()()()に力を発揮するっぽいんだ。

ウルトラマンの影響っぽいけど普段は大丈夫だし問題ないから。

ほら、火事場の馬鹿力みたいな感じ」

 

説明してなかったことを思い出すと、友奈に説明する。

それは人間の脳が普段リミッターを掛けていることと同じ原理だろう。紡絆の今の肉体ならスペースビーストの攻撃を受けても問題ない点から常時リミッターを解除していても問題はないだろうが、無意識に押しとどめているのだろう。だからこそ、生活に困っていない。

もし常時解放されているならば、ドアノブ、誰かの手、荷物、皿、お箸、ボール、ぬいぐるみ、ダンボールに荷物。それら全てを潰していた可能性が高い。

もちろん、解放されている力を制御出来てなかったら、の話だ。

だが、普段は紡絆自身の素の力ということから荷物運びの依頼時に彼自身が持つ身体能力のみだけで運んでいた点を考えると意識せず抑えていたのだろう。

どうにもならない状況にならない限りウルトラマンではなく、人間として過ごすために。頼りきらないために。

それに荷物運びは危機が迫っているわけでもない。どうにもならない問題でもなかったのだ。

しかし今回の風船の件は既に人間ではどうにもならなかったことからウルトラマンの恩恵(身体能力)が必要だったと考えられる。

そのことから紡絆の推測は間違っていない。

結局のところ、本当にウルトラマンとしての身体能力を解放しようと意識すれば制御出来てることから出来るのだが。

というか、水面走りと風の誕生日会の時に既にやっている。

あくまで無意識なのは抑制だけだ。

 

「そうだったんだ……。驚いたけど……」

 

「けど?」

 

「な、なんでもない! それより、ちゃんとそういうのは風先輩とみんなに言っておいた方がいいかも!」

 

「あー、だな。俺も忘れてたし、グループで送っとこ」

 

誤魔化すように友奈が言うと、紡絆は歩きながら、時々前を見て人とぶつかったりどこかに体をぶつけたりしないように気をつけながらスマホで打っていく。

少し遅めになっているため、友奈も速度を下げ、後ろを着いていくように歩く。

友奈から見れば紡絆の背中を見る形だが、その背中を見て思う。

 

(喫茶店の時もだけど、今も同じ……。

紡絆くんはいつもそうだ。誰かが落ち込んでたり、悲しんでたりすると、すぐに駆けつける。

それに喫茶店の時の言葉から考えると……私のことも気づいてたのかな。本当は怖かったこと)

 

紡絆は友奈が動くよりも前に行動し、笑顔にした。

本当は恐怖心を抱いていたことを気づいていたのかは分からないが、友奈の弱音を引き出した。

 

(紡絆くんは本当に、誰かの影を照らして、勇気を与えてくれるような明るい光……みたい)

 

誰かが曇っていたら、悲しんでいたら、落ち込んでいたら、怖がっていたら、寂しそうにしていたら、そういったふうに表情に影を落としていると、紡絆は誰かを笑顔にする。

曇った空が晴れるように、影に日差しが入り込むように、光で照らして。そして、誰かに勇気を与えることも出来るのだ。

そんな姿の紡絆を友奈は---

 

「これでよし……」

 

友奈がそんなことを考えてることなど知る由もない様子で送信したのか満足気に頷く紡絆。

そんな姿を後ろから見ていて、友奈はくすりと笑った。

 

「ん? 友奈?」

 

「早く帰ろっか!」

 

「お、おう」

 

紡絆がどうかしたのかと振り向くと、友奈はたた微笑しながらまた隣へと並び、紡絆は返事しつつもはてなマークを浮かべた。

しかし考えても分からないため、すぐに考えるのをやめたが。

 

「あ……ねぇ、紡絆くん」

 

「なんだ?」

 

「あの星って?」

 

その時、歩きながら友奈が気になったのか、紡絆に対して指差しながら聞く。

聞かれても実物を見ないと分からないため、視線をそこへ向けると、南東方面で、夜空に見られる明るい星があった。

 

「あー。そっか……もうこれも今月で終わりだもんなぁ。

あれは春の大三角形。

あっちの北斗七星から見たら分かりやすいんだが、こうやってカーブして、オレンジ色をしたところがうしかい座のアルクトゥールス。

で、こうやって線を結んでいくと三角形に見えるから春の大三角形って言われてる。

あそこはおとめ座のスピカで、青白い色のやつ。

それで向こうの黄色っぽい色をしてるやつがしし座のデネボラ。

まぁ、春を代表する星座だな。

ちなみに北斗七星からカーブしてアルクトゥール、スピカからまた伸ばし、4つの星が台形に並んだところにからす座がある。

それで北斗七星からからす座までのカーブを『春の大曲線』って言うんだ」

 

一度二人は止まると、紡絆は真剣な表情で教えるようにひしゃくの形に並んだ七つの星を指差し、柄の部分を、水を汲む部分とは逆の方にゆっくりとカーブを描くように南の方へ指を動かし、また伸ばすと、今度はアルクトゥールスとスピカからデネボラに真っ直ぐに繋げて、正三角形になるように指を動かす。

さらに北斗七星からからす座までカーブして春の大曲線のことまで説明していることから、有名とはいえ紡絆が勉強していることが分かるだろう。

さらに見づらい場合のため、スマホで拡大して再び説明する紡絆の姿に友奈は自身の知らぬことについて話す様を見て納得しつつ、感心するように頷いた。

 

「紡絆くん。本当に詳しいんだね」

 

「あれは有名だからな」

 

「ううん、紡絆くんの説明がいいんだと思う。私も分かったし」

 

「そっか」

 

真剣な表情で説明していた紡絆は友奈に褒められ、どう反応すべきか分からないと言ったふうに少し困ったような嬉しそうな表情をしていた。

彼からすると、マイナーな星座で褒められるならともかく、自分以外にも春の大三角形くらいならあまりにものメジャーすぎて説明出来る人は他にも居るだろうと思っているため、少し困ったような表情をしたのだろう。

しかし知識を褒められるのは嬉しいもので、友奈ほどの美少女に褒められるのもまた嬉しいため、両方の感情が出たのだと思われる。

 

(それに……紡絆くんと居るのは楽しいんだよね。話が合うのもあるんだろうけど、きっと紡絆くんだからなんだろうな……)

 

友奈が視線をそっと星から紡絆に変えると、彼は真剣な表情から一転して口角を上げながら星と夜空を眺めていた。

影を照らして、勇気を与える明るい光。それが友奈が抱く紡絆の印象。

そして一緒に居て楽しいと思える存在で、先ほどのように時にドキッとさせられる。

あまりにもの真っ直ぐで、純粋で、無茶な行動をする姿には似たような性格な友奈ですらヒヤヒヤさせられるが。

それでも、異性で、お隣さんで、同じ部活の仲間で、大切な親友という関係で居られるのはただ似てるからではなく、ただ話が合うからではなく、継受紡絆という一人の男の子だからこそ、楽しいと、一緒に居たいと思えるのだろう、と友奈は思った。

そんなことを思っている友奈のことには気づかず、紡絆はふと星に向かって手を伸ばし、何を思ったのか無言で星空を見ていたにも関わらず、何処か目を細めながら呟きだした。

 

「……ウルトラマンはさ、何処か分からないけど、地球ではない星から来たんだ。

どんな星で、どんなことがあって、何があったか分からない。

もしかしたら母星は滅んだのかもしれない。でも地球に来たってことは、ウルトラマンは人類が好きなんだろうな。

だから力を貸す---じゃあ俺たちに出来ることは、ウルトラマンに人間も頑張れるんだって、一緒に戦えるんだって示すことだと思うんだ」

 

紡絆は前世でウルトラマンを知っている。

M78星雲、ウルトラの星。銀河系から300万年光年離れたところにあるとされている星だ。

別名、ウルトラの国、光の国とも言われている。

だがそれは、紡絆の知っているウルトラ兄弟たちがいる星だ。

紡絆に宿ったウルトラマンの場所ではない。

それどころか、彼に宿ったウルトラマンに関しては彼ら(転生者たち)ですら正体や出自を知らない。

それでも、ウルトラマンは来てくれた。

脅威が迫ったからか、別の目的があるのか、それは知らないしどうでもよかった。

ただ紡絆からすれば---前世の彼からすれば嬉しいのだ。

例え巻き込まれることになっても、戦うことになっても、ウルトラマンは人間を見捨ててくれてないと。助けてくれたと。

テレビで見ていた通り、来てくれたと。でもそれは、ウルトラマンだけが戦うことではない。

変身者として、適能者(デュナミスト)として選ばれた紡絆はウルトラマンとして共に戦い、ウルトラシリーズで人類がウルトラマンと共に戦っていたように、勇者が共に戦う。

人類が何もせず、諦めて、降参して、抵抗をやめて、抗うことをやめていたら、きっとウルトラマンは助けてくれない。来てくれなかっただろう。

だったら、こうやって来てくれて、命懸けで戦ってくれて、力を貸してくれるなら、人類が出来るせめてもの恩返しは共に戦うことだと。

 

「そうして乗り越えてさ、平和が訪れたら……良いよな。

誰も一人じゃ戦えない。一人だと押し潰されて、いつか完全に潰れる。

でも誰かがいるなら、みんながいるなら俺たちは---人類は絶対勝てる! そんな感じ、するのは俺だけか? まぁ、こんなこと言ってて恥ずかしいんだけど……はは」

 

照れ隠すように笑う紡絆だが、説得力は恐らく誰よりもあるだろう。

ウルトラマンの重圧で一人で戦わなければと抱え込んだからこそ、あと一歩のところで死ぬことになっていた可能性が高かったのが紡絆だ。

だがあの連戦を乗り越え、あの厄介な組み合わせに勝てたのは紡絆一人の力ではなく、勇者一人の力ではなく、みんなの力があったからだ。

まだまだ連携としてはダメダメな方だろうが、力を合わせたから勝てたことに変わりはないだろう。

 

「ううん……分かるよ。私もそう思う! それはきっと紡絆くんだけじゃなくて、みんな同じこと思ってるんじゃないかな? だから、誰も欠けちゃダメなんだ。

またみんなで笑顔で、明日を過ごしたいから。勇者部として活動したいもん! それはもちろん、紡絆くんも入ってるんだからね?」

 

「ん、流石に分かってる。だから……一緒に頑張ろうぜ、これからもさ!」

 

「もちろんっ! 頑張ろうね、一緒に!」

 

紡絆が友奈と向き合うと、紡絆は真剣な表情で拳を突き出す。その意図を察した友奈は、真剣な表情で紡絆の拳に自身の拳をこつんと合わせた。

それは、星が輝く夜空の下での約束。誰も欠けることなく、スペースビーストとバーテックスを打ち倒し、人類が勝利する未来へと、笑顔で明日を過ごすための、勇者部としてこれからも過ごすための交わした約束。

その約束は今、ここで成されたのだろう。

二人は拳を合わせたまま笑い合い、隣に並び立ちながら帰り道を共に歩く。

楽しく会話をし、夜空に浮かぶ星にも負けないほどの何処までも明るい笑顔を浮かべながら---

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
あくまで普段の超人的な身体能力は無意識に抑制している。危機的な状況や助けたい、どうにもならない状況になると本人の意思に関係なく勝手に発動する。無論、自分の意思でも可能らしい。
今回喋りまくってた通り、星について詳しいよ!

〇結城友奈
彼女も他者のために自身を奮い立つことの出来る勇気があるだけで、一人の年相応の少女。
紡絆はそれを察知していたのかもしれない。
でも彼女は、紡絆に守られるだけの少女ではない。

▼紡絆くんについてまとめ
友奈ちゃん→影を照らし、勇気を与えてくれるような明るい光
東郷さん→希望を与え(てくれ)る光
風先輩→真っ直ぐな眩い光
樹ちゃん→優しく照らしてくれるような光

▼質問
Q.樹海化に巻き込まれる前の戦いで転移

A.多分一戦目ぺドレオン、ガルベロス戦のやつですかね?
原典である『ウルトラマンネクサス』という作品にはそんな樹海化みたいなのはないです。原典の方はあくまでデュナミストが見る夢の中なので。
本作オリジナルのもので、それが何なのかは近々…次回辺りに明かされます。本作にあたってすっごく重要です。


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「-昇華-サブリメイション」

お待たせしました。アンケートは気になっただけで本作品には全く死ぬほど影響しないので気にせずにしてください。
今回はやらなくちゃいけない話の重要回。二話か三話構成です。
ネーミングセンスに期待はするな、俺はゴミだ(自虐)
難易度? はっ、この程度まだハードとかベリーハードクラスで、ルナティックと思ってんじゃねぇよ。まだ足りねぇよなぁ!? そんな話です。




◆◆◆

 

 第 13 話 

 

-昇華-サブリメイション

 

×××

 

???編前編

????編

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荷物運びの依頼から次の日、5月10日火曜日から5月15日までの、週の終わり。そして5月16日の月曜日から始まる週の始めから一週間の終わりである5月22日の日曜日。

特に何もなし。

ただ部活の活動をして、暇を潰して、寝て、ご飯を食べて、騒いで、部活して、授業を寝て、提出を忘れて、遅刻して、帰って、本読んで、ゲームして、クラスメイトと笑い合って、中間テスト名前だけ書いて寝落ちして、終わり。

何も無く、何も変化はなく、ただ何も変わらぬ平凡な普通の日常を過ごした。

ここまで来ると、連日バーテックスとスペースビーストの襲撃があったのが嘘のようで、また来るのではと身構えていたのに拍子抜けも良いところだろう。

バーテックスはともかく、スペースビーストなら来るのでは?と思って一応警戒していた紡絆も、ここまで来ると警戒の『け』の文字もないほど無警戒となっていた。

少なくとも、勇者部のメンバーは皆、かなり前からお役目について置いておいて、日常を謳歌していた。

ただ紡絆だけは5月に入ってからもずっと、スペースビーストという予想出来ない存在に身構えていた。お役目が始まる前から戦っていたのだから、紡絆だけは警戒していたのは不思議ではないだろう。

しかし、全く来ない。来て欲しいとは微塵も思ってはなくとも、不完全燃焼も良いところだ。

 

(大打撃を与えたってことかもな……グランテラは強敵だった。ザギとやらがどんなやつかは知らないけど、かなり手を貸していたようだし、大事な駒のひとつだったのかな)

 

覚醒した、力を受け継いだジュネッスの攻撃すら与えてもダメージにはならなかった装甲。そして敵が持つ強力な高威力の遠距離に近距離攻撃。

紡絆からすると、戦いたくない相手である。オーバーレイ・シュトロームが当たったから良かったが、もし避けられていたなら敗北は確定だったのだから。

 

(ただな……ファウストが気になる。俺の影……なんて言ったわりには姿を現さない。

でも、ウルトラマンが光であるならファウストはその光が発する際に現れる影…つまり俺が変身しなければ出てこない、のか? それとも、それを狙っている?

転生者たちもビーストやファウストが襲ってこないことを不思議に思ってるし…)

 

月曜日である、5月23日。

紡絆は授業を受けながら、珍しく頭を使って考えていた。

いや、正確にはずっと考えていたのだ。掲示板の人たちとふざけ合ったりしたが、紡絆の世界からすると5月の中旬くらいにここまで現れないのは何か目的があるのでは?という意見が出てきてから、悩むことになった一つのこと。

まぁ、悩んだところで分かれば苦労しないので、当然予想は全然つかなかったりする。

 

「……難しいな」

 

ボソッと紡絆が小さな声で呟く。

元々紡絆は頭が良いとは決して言えない。

前世は平凡。今世では平凡---より下回っている。

周りから散々言われている通り、バカだ。

そもそも裏技みたいな感じで前世の記憶を持つが、前世の肉体がそのまま持ってこられたわけではなく、この世界で生まれてるため、記憶を思い出しただけで前世とは肉体は別なのだ。

だから知能が前世並にはならないわけで、決して良いとは言えない成績だ。

そのくせして星関連や宇宙なら中学生で収まる範囲ではなく、専門学校に通う生徒たちに匹敵するのではという知識量があるのだから、大半の知能がそっちへ入っているのだろう。そもそも西暦の時代の資料は少なくなっているため、前世の知識としてちょっとは持っていた点は利点のひとつでもある。

ちなみに計算は星や宇宙関連でも必要だからか、実は数学そのものの成績が良い。

 

「連立方程式……難しいよね」

 

「ん……? あぁ、うん」

 

隣の席のクラスメイトに話しかけられ、授業中なので普段の明るさを潜めながら曖昧に頷く紡絆。

考えてる事は思い切り別で、そもそも授業に関係ないのだが。

 

「じゃあ、この問題は---紡絆くん。解けるか?」

 

「え? あっ、はい」

 

ノートすら取ってない紡絆は呼ばれて返事するが、ノートすら取っていないということは、問題そのものを見ていないので分からない。

黒板を見ると、連立方程式の公式と問題が書かれていた。

3(2x+3y+1)-(2x-5)=11

2(4x-7y)+3(x+5y-8)=8

その答えを先生は聞いているのだろう。

言えば良いのかと思ったが、様子からして黒板に書けということだと察した紡絆はぼんやりとしつつ、解き方は平成と特に変わらない点からチョークでパパっと書いてから席に戻った。

そして頬杖を着きながら窓を眺め、ぼうっとする。

 

「……正解だが、まだ習ってないのによく出来たな」

 

カギカッコのある連立方程式はまだ範囲ではないのか、先生は驚いたような声音だった。どうやら、問題は授業とは関係ないらしい。

おぉー、といった声もクラス内で出てくるが、肝心の紡絆は黄昏れていて残念ながら聞いていない。

ちなみに答えは、x=3,y=-1。

特に整理する訳でも考える訳でもなく、その場であっさりと解いたのだから、普段の馬鹿さ加減は何処へ行ったのだろうか。

そんな紡絆は、目を閉じながら机に倒れた。

しばらくすると、寝息が小さく聞こえる---つまり、寝た。寝たくなったから早く解いたのだろう。前世の知識様々である。

先生も注意しようとしたが、範囲外の問題を解いた紡絆に聞かないと分からないなんてことも言えず、軽い注意だけはした。

なお、紡絆は鼻提灯を作りながら華麗なスルーを決め込んだが。

 

 

 

 

 

 

 

チャイムの音が鳴る。

紡絆は起きる---ことはなく、鼻提灯を保ったまま寝ていた。

 

「紡絆くん、起きて! 授業終わったよー? お昼食べなきゃ、お腹空いちゃう!」

 

既に昼休憩に入ったからか、友奈が紡絆の体を揺らして起こそうとする。

が、紡絆は寝たまま起きようとしない。

 

「東郷さん、どうしよう?

……東郷さん?」

 

「あっ、ごめんなさい友奈ちゃん。そうね……」

 

反応のない東郷に友奈が二度呼びかけると、一体何をしていたのかスマホを収納した東郷は悩むように顎に手を当て、思いついたように行動に移す。

取り出したのは、弁当箱。それを開けてから近くに置いた。

明らかなトラップ。しかし、そんなのに引っかかる人がいるのか?と言われると、滅多に居ないだろう。

大食いタイプの人ならともかく、紡絆はそこまで大食いでもなんでもない。むしろ少食に分類されるタイプなので、そのような策に引っかかれば、それはもう紡絆がただ単に単純で純粋で、バカみたいなもの---

 

 

 

 

 

「……飯の匂いがするッ!」

 

「わっ、起きた!?」

 

バカだった。

鼻提灯が割れ、ハッとした様子で紡絆が周りを見渡す。

周りを見渡せば、それぞれ集まってご飯を食べていたり、別クラスに移動したり別クラスの者が居たり、一人でご飯を食べる人もいる。

そして友奈と東郷は間近くに居た。

 

「おはよう、紡絆くん。授業、終わったわよ?」

 

「おはよー、大丈夫?」

 

「ん、おはよ。大丈夫大丈夫。……たぶん。いや、それよりいい匂いしたな、と思ったら東郷の弁当か。納得」

 

挨拶を返しながら、紡絆は一瞬目を逸らした。

恐らく、成績について大丈夫と言い切れなくなったのだろう。それを追及される前に、話を逸らした。

 

「紡絆くんのお弁当は?」

 

「よく聞いたな、友奈。俺の今日の飯は……これだ!」

 

カバンから取り出して、紡絆は何故かドヤ顔で友奈と東郷に見せる。

二人は見た瞬間、どう反応するべきか戸惑った。

なぜなら、紡絆が持つ物のパッケージにはこう書かれていた。

『エネルギー3秒チャージ! ウルトラインゼリー!』と。それはつまり、ただのゼリーだ。あくまで炭水化物やミネラルといった栄養を補給する物で、食事かどうかと言われると微妙だ。登山などに行くならば、分かるのだが。

栄養しか取れなく、空腹を抑えきれるかと言われると……まぁ、間違いなく無理としか言えない。

 

「えっと……それだけなのかしら?」

 

「そうだけど? 家にどん兵衛やカップラーメンしかなかったし」

 

「紡絆くんが普段何を食べてるのか、すぐに分かるね……」

 

いくらなんでも、自分に頓着してないにも程がある。

食べれたら何でもいいだろ、という思考なのは東郷だけではなく、友奈ですら分かったし、栄養バランスなんてないようなもの。

 

「インスタント系は楽だからなぁ。料理出来ないことはないけど、自分のために作るってなるとやらないかな」

 

「紡絆くんらしいけど……ちゃんと食べないと体、持たないわよ? 特に紡絆くんはたくさん動くんだから」

 

「うんうん、それに美味しいものを食べた方が元気出るし!」

 

「まぁ、確かになぁ」

 

なんて言ってる間に完食する紡絆。

流石3秒チャージ。ウルトラが付くだけあって、ウルトラ速いものだ。

そして紡絆は欠伸をすると、手持ち無沙汰になったのでゴミだけカバンに放り込んでおいた。

だから物凄く動く割にうどん二杯で限界を迎えるほど胃袋が小さくなるのではないのだろうか。間違いなく運動量と消費カロリーが採ったカロリーと釣り合っていない。

 

「紡絆くん、私の食べる? 流石に足りないと思うし……」

 

「あ、私のもいいよ? ほら!」

 

「いや、流石にそこまで迷惑掛ける訳には---あ、ちょまっ」

 

言い切る前に、まさかの友奈にお箸を突っ込まれて食べるしかない紡絆。

抵抗して喉に突き刺さったり変なところに刺さってダメージを負いたくない紡絆は抵抗することなく突っ込まれた食べ物だけ取って口の中で咀嚼する。

 

「あ、あのー美味いけど、俺の話聞い---んぐぁ!?」

 

そして今度は東郷のを(無理矢理)口の中に突っ込まれ、やはり咀嚼するしかない。

しっかりと飲み込んだ後、紡絆は口を開いた。

 

「ちょっと待て、美味い。美味いけど聞いてくれない?」

 

「足りないかなーって思っちゃって」

 

「友奈ちゃんがしたから私もやろうかなと……」

 

「なんだそのルール……」

 

善意でやった事だと分かるため、強く言うことも出来ない紡絆は諦めたように息を吐く。

ちなみに周りから見たらイチャついてんな、こいつらとしか思われないのは気づいてるのだろうか。

 

「それより俺のことはいいからさ、二人は食べてくれ。くれるのは嬉しいけど、二人が足らなかったら本末転倒ってやつだろ」

 

「朝食べてきたし、私は全然平気だよ〜」

 

「私も大丈夫よ?」

 

「………oh」

 

まさかの返答に紡絆は手段を失って顔を覆う。

紡絆の頭にはもう乗り越えられるような策を思いつけるほどの思考なく、思考回路は死んでいた。

いや、それは間違いだろう。元から死んでいた。

 

「あ〜……じゃ、ちょっとだけ……」

 

「うん! はい!」

 

「最初からそれでよかったのに」

 

「いや、申し訳なかったし……」

 

あっさりと折れた紡絆はせめてもの譲歩として少しだけ貰うようにし、昼休憩を終えると、また寝たのは余談だろうか。

どうやら、今日はずっと寝たい気分らしい---。

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

睡眠を十分取ったからか、紡絆は普段と何ら変わらぬ明るさを見せていた。

 

「え? 中間テストの点数? ……なんの事ですかね? ワタシ、ソンナコト、シラナイ。ワーイ!」

 

「悪かったんですね……紡絆先輩」

 

「でも紡絆くんって、理科は満点だったような」

 

「やっぱり勉強会するべきだったのかも……。友奈ちゃんも自分のテストは平気だったの?」

 

「ギクッ……そ、それは……ナンノコトダロー」

 

「なんか現実逃避してるけど、まぁいいか。中間テストの点を聞いたのが間違いだったわ……」

 

相変わらず牛鬼に捕食されて使い物にならなくなった紡絆と現実逃避する友奈を無視し、風は聞いたことに後悔していた。

気になったから好奇心で聞けば、現実逃避者が二名現れてしまった。どうやら芳しくないらしい。

 

「まぁ、何とかなるでしょう! それより早く依頼いきません? また猫の時見たく増えまくったら大変でしょうし」

 

「それもそうね。じゃあ、始めましょうか!」

 

「ういーっす」

 

「おー!」

 

「はい」

 

「う、うん!」

 

中々に性格を現すような返答に風は反応に困るが、今日も勇者部としての活動を始める。

ただし、今日は依頼が時間掛かるものだったわけではないので、比較的早めに解散となったとだけは言っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紡絆は依頼が終わり次第解散だったため、家ではなく外に居た。

砂場の近くへ歩いていき、太陽と海を見つめる。

海の水が太陽の光によって反射し、中々に良い光景だと思うし、真夏になっていたら紡絆も突っ込んでいたかもしれない。

周りには誰もおらず、気配もないことを知っている紡絆は懐からエボルトラスターを取り出し、握る。

エボルトラスターの鼓動は発することはない。

 

「ビースト振動波……だっけ。反応はやっぱりないか。ということは、スペースビーストはやはりアンノウンハンドの仕業なのか…生み出されたのか……それとも力そのもの?」

 

ここに来たのは依頼が終わった場所が近かったのと息抜きもあるが、ビーストのことを探しに来たのもある。

もしスペースビーストの発生源がないとは思うが、ここかもしれない。ないとは言いきれないからこそ、来たのだろう。

成果は関係がなかった、ということしか分からなかったが。

 

(昭和のウルトラマンとは勝手が違う……円盤生物と同じパターンでもないなら、どちらかというとヤプールみたいな感じだろうか。そもそも戦った回数からして、情報が少なすぎる。樹海化になっても現れるし、せめて現実に現れるのかどうかさえ分かればまだ……)

 

心の中で独りごちるが、それは紡絆自身の本音。

まだ四回ほどしか戦ったことはなく、現実世界には現れていない。一度目は遺跡、二度目は遺跡、三度目は樹海、四度目は樹海だ。果たして条件があるのかどうか、安心して居られるのかどうかすら分からない。

現実世界に現れないのであるなら、紡絆はこんなふうに空いた時間にスペースビーストが発する特殊な波形を求めて探し回る必要もない。

 

(スレ民の人たちに相談したところで、同じ。

こればかりはどうしようもないなぁ……なんかこう、ザギとやらが俺の存在を認知してるかもしれないのに、こっちだけが全く知らないのは歯痒い。いや、アンノウンハンドの正体やダークフィールドなどの存在を教えて貰える時点では情報量としては勝ってるのか? 俺の力じゃないけどな!)

 

そもそもとして紡絆が持つ知識量は、皆無。掲示板という『ウルトラマンネクサス』という作品を詳しく知っている人たちによる情報提供によるもので、彼自身の力ではない。

だが所詮、彼らが知る知識も原作知識と呼ばれるモノのみ。つまり、それ通りに動き続けるかも分からないため、ずっと使えるかどうかと言われると微妙だろう。

なぜならこの世界は物語ではないし、既に紡絆が姫矢准にしかなれないはずの『ジュネッス』の形態へと至っている。

ネクサスが持つ能力として、ジュネッスというのは適能者一人一人に一つ与えられる特殊な形態であり、スタイルや色や模様といった姿はそれぞれ異なる。

実はとある世界で姿の変わらぬ形態はあったが、それは別の理由(大人の事情)だ。

ただし、この場合は誰も判断は出来ない。本当に同じ姿だが、それこそが紡絆のジュネッスである場合もある---というよりは可能性として高いだろう。

とある世界と同じか、純粋に性質が近いという理由の可能性もあるため、そこは保留すべき案件だろうか。

まぁ、紡絆の場合は戦い方が結構予想のつかない変化球な戦い方をしているので同じ姿だが違う、というパターンである方が今は確率としては高いし、彼ら(転生者たち)もそう思っている。

ついでに紡絆も同じく、だ。

 

「んーっと! ま、考えても仕方が無いし、帰りますかね! あっ、ちょっとこの景色撮ってからにしよう。今なら綺麗に撮れそうな撮れなさそうな気がする! グループに送るぞー!」

 

考えても仕方がないと思考を切り替えると、エボルトラスターを懐に戻す。

そして家に帰宅する前に紡絆はスマホを取り出して、カメラアプリを起動した。

曖昧な心持ちしかないのだが、プロでもなんでもない紡絆は海の水による太陽の反射で見えないようにならないよう気をつけつつ太陽と海をスマホのカメラ内に収めて後は押すだけ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

押すだけ、()()()。それだけだったはずなのだ。

しかし、紡絆の指は止まり、紡絆の胸の内で胸騒ぎが起こる。周囲を見渡すと、何も無い。何も変化はいない。

静かで、何かが止まってる訳でもないので海の漣の音も聞こえる。自身の息遣いも聞こえる。鳥の鳴き声も遠くから車の音も聞こえる。

 

「………ッ!?」

 

---ドクン。

懐に慌てて手を突っ込み、懐から引き抜くとエボルトラスターが鼓動を鳴らしながら輝いていた。

一度ではなく、二度も、三度も。

それは、ビースト振動波をキャッチした際に起こる現象。

いや、それは原典のみだ。以前はスペースビーストが居なかったにも関わらず、鼓動が鳴ったこともある。

バーテックス---つまり、樹海化する前。どちらかというと、警告。

ならば警告通りにバーテックスが現れて樹海化するのか、それともスペースビーストが現れるのか。そのどちらかになるのだが、周囲を見渡しても何も無い。

樹海化する訳でもなく、紡絆が疑問を浮かべた瞬間---紡絆の肉体が、光り輝いた。

 

「なっ……まさか!?」

 

一度、似たようなことがあった。

気づいたように声を挙げる紡絆だが、エボルトラスターから発せられた鼓動音は留まることを知らず、紡絆の肉体は光り輝き、その場から姿を文字通りに消した---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が、変わる。

海も、太陽も、砂浜も、鳥も、先程あった景色や動物、その他そのものが消し飛び、紡絆の周囲には森林と、近くにある歴史的な建造物や石像みたいなものを思わせるようなもの、ストーンフリューゲルのような独特な形を持つ神殿跡くらいしかない。

同じなのは夕陽があるくらいで、場所も地面も何もかもが違った。しかし過去に経験したことのある出来事だからか、取り乱すことはないのだが、初めてウルトラマンになった(運命の邂逅を果たした)時と同じ場所へと転移されたというよく分からない現象に首を傾げる。

 

「樹海じゃない? これで二度目……でも、なんで---づぁ!?」

 

悩む紡絆の頭上を()()()()が覆い隠す。

まるで夜になったと錯覚させられるほどの影。本当に小さい、1〜1.5cmの2枚の羽を持つ昆虫が大量発生したイナゴのように大群を作っているからこそ、大きな影だと思わされた。

正確には、()()()()が正解だろう。

そして紡絆の頭上を通り過ぎたかと言うと、旋回して紡絆に次々と体当たり。

見た目からは考えられない痛みに腕で払いながら、紡絆は横に転がった。

 

「くそっ! この虫もビーストか!?」

 

転がった紡絆はすぐにエボルトラスターではないブラストショットを構えるが、嫌がるように離れていった。

それを見て、紡絆はブラストショットを降ろす。

 

「俺を狙ってる……のは分かるが、行動が読めない」

 

まるで警戒するように集まっており、しかし徐々に足のような、爪のような、体を思わせる姿を作っているようにも見える。

その大群が集まることで一つの大きな肉体を作るような姿は---進化。

人が大きくなるように、生物が成長するように、殻から抜け脱皮するように、獲物を捕食して大きくなるように、吸収することによって大きくなるように、細胞が大きくなるように、大群が一つの個体を作り出した。

群れるだけでは倒せないと察したのか、殺せないと察したのか、合体---いや、やはり進化と言った方が正しいだろう。

一つになることで、大きな肉体を持つ怪物へと進化したのだ。

進化した昆虫の姿は逆立ちさせたGを思わせる姿をしており、固そうな皮膚に、尻尾の部分にも顔がある。 さらには背中にはセミのような羽も生えており、頭部はカブトムシの幼虫、尾部はイナゴを題材してるかのような姿。

それを見た紡絆は---

 

 

 

 

 

「キモっ!?」

 

返って冷静になっていたとだけ言っておこう。

明らかにスペースビーストであるが、いくら紡絆でも露骨にゴキ---Gのような見た目をするビーストを見るとそう言わざる終えないのである。

紡絆ですらこのような反応なので、もし苦手な---いや、勇者である勇者部の女性陣が居なかったのが救いだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

82:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

で、なんだこいつら。特に融合したやつ気持ち悪いんだが……速攻かけて倒してやろうか。俺だけでよかったよ、ほんと

 

〔LIVE:遺跡の近くで昆虫の大群が一体に進化する姿〕

 

 

83:名無しの転生者 ID:pJaEVh3nq

なんでお前はまた遺跡におんねん

 

 

84:情報ニキ ID:OX82Ln2AK

大群みたいなやつはEpisode.5で姫矢准の悪夢の中に出現した昆虫型スペースビーストだ! ぶっちゃけよく分からん! けど、不吉の象徴らしい。小型のビーストであり、大量発生したイナゴのように大群を作っているのが特徴だ!

そしてこの逆立ちさせたGを思わせる姿はインセクトタイプビースト、バグバズン!

Episode.5〜Episode.8まで登場したやつで、鋭い爪と尻尾の口から出す伸びる舌、尻尾の顔には鋏のような顎がある!

それに、これはまさか……初期プロットの設定か!? 初期プロットにはビーセクタの大群が進化してバグバズンになるという予定だった……恐らくその設定を使ったモノだと思われる!

 

 

85:名無しの転生者 ID:Rh9Pe93ry

流石だぜ! 情報ニキ!

 

 

86:名無しの転生者 ID:wmOnS3/4b

相も変わらずスペースビーストは気持ち悪いな!

 

 

87:名無しの転生者 ID:s9vgxPxd0

>>83

てか、本当にこれ。なんでイッチはまた遺跡にいんだよ。そこ、夢の中でみる世界らしいんだが?

 

 

88:名無しの転生者 ID:p/QEdmIxS

確かに。そんな場合じゃないけど、前も居たよな?

 

 

89:名無しの転生者 ID:myS1+btRK

前はアレだっけ、ペドレオンの時だったか

 

 

90:名無しの転生者 ID 9e77L3Jqf

なんか条件あるのかな?

 

 

91:名無しの転生者 ID:V46JDqeJp

どんな感じだったんだ?

 

 

92:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>83

それは俺が知りたい。

エボルトラスターが鼓動したかと思ったら肉体が光り輝いていつの間にか転移してたもん。なんでやねん……。

しかもまた近くにビーストいる始末だったからな。意味が分からねぇ!

 

 

93:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

もしかして……

 

 

94:名無しの転生者 ID:/WA3IaooN

あーでもそうか。イッチが遺跡に来る度に絶対スペースビーストがいるもんな……え、なんで?

 

 

95:名無しの転生者 ID:x7/RX0mXj

本編にそんなのあったか?

 

 

96:名無しの転生者 ID:CI26mkOHU

うーん、わからんな

 

 

97:名無しの転生者 ID:iiDumDJhW

>>95

や、なかったはず。そもそもあまり出番なかったし

 

 

98:名無しの転生者 ID:9S4E9HRUZ

そうか! 分かった!

 

 

99:名無しの転生者 ID:OXLQGkv+B

マ?

 

 

100:名無しの転生者 ID:/VKctZrZ5

どんな理由なんだ?

 

 

101:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

え? なにか分かったの? 原因分かるなら教えて欲しいんだけど、マジで。あと、出来るだけなるはやで

 

〔添付:バグバズンから走って逃げてる動画〕

 

 

102:名無しの転生者 ID:oDLJoN59m

ここのイッチいっつも追われて逃げてんな

 

 

103:名無しの転生者 ID:IY3RBEwnA

>>98

で、どうなんだ?

 

 

104:名無しの転生者 ID:mCX10QzND

俺も分からん。教えてくれ

 

 

105:名無しの転生者 ID:9S4E9HRUZ

絶対とは言いきれないからあくまで予想な?

確か樹海化ってのはバーテックスが現れたら神樹様が貼ってくれる防御結界なんだろ?

 

 

106:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

うん、らしい。四国の内部は勇者以外の時間が止まるらしいからな。

俺は何故か問題ないけど。

 

 

107:名無しの転生者 ID:YZ6aqyUOd

あー、そういうことか!

 

 

108:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

>>105

これで確信出来たわ。つまり今イッチがいるこの空間は神樹様の樹海化ではなく、ウルトラマン版樹海化ってことでしょ?

 

 

109:名無しの転生者 ID:FZJC0FGcS

ワッツ? つまりどういうことだってばよ

 

 

110:名無しの転生者 ID:8ojcgHBDb

すまん、簡潔に分かりやすく言ってくれ

 

 

111:名無しの転生者 ID:9S4E9HRUZ

つまりだな、>>108の言う通りなんだけど、神樹様がバーテックスが現れたら樹海化という防御結界を貼るなら、スペースビーストが現れる度にイッチが遺跡に飛ばされるって考えたら辻褄が合うんだよ。

神樹様のを参考にして言うならば、イッチが遺跡に飛ばされる=樹海化。スペースビースト=バーテックス。

スペースビーストが四国に現れるというよりは現れそうになる、または攻めてきたらイッチは遺跡に飛ばされる---もっと分かりやすくいうと、今いる遺跡の場所は四国という内側の世界を守るためにノア様が作った防御結界なんじゃないか?ってことだな。四国にスペースビーストが現れない理由。勇者が召喚されない理由。イッチだけが遺跡に飛ばされる理由。イッチがこれで三度も遺跡に飛ばされた理由。

それを全て顧みて考えると、これの説が一番濃厚かもしれん。初回を除いて毎回スペースビーストが居る時に飛ばされてるし。もちろん、あくまで予想だから合ってるかどうかは分からないけど自信はある

 

 

112:名無しの転生者 ID:4t8qIiacA

はーなるほど。バーテックスに攻められたら勇者が樹海の中で戦うように、ビーストが現れたらイッチは遺跡で戦わなくちゃ行けないということか……。だから四国民はスペースビーストの存在を知らない、と

 

 

113:名無しの転生者 ID:es1KUjxsE

>>111

そう言われると、有り得そう

 

 

114:名無しの転生者 ID:S1XsP1zSs

メタフィールド貼れるんだから結界くらい貼れても違和感はないな。つーか普通のウルトラマンやニュージェネ組ですら自身のエネルギーと引き換えに封印したりしてるし、ゼロだってシャイニングフィールド貼れるんだ。ノア様なら出来ても不思議じゃない

 

 

115:名無しの転生者 ID:BVhfs1klu

>>111

ノア様なら出来るな。劇中にないだけで、使えても全然違和感ないわ

 

 

116:名無しの転生者 ID:kTGd5xMZ1

>>111

それであれか、樹海化と遺跡なら樹海化が優先されるんだな。イッチが毎回遺跡に来る理由も納得

 

 

117:名無しの転生者 ID:VAFfl37VI

ウルトラ界隈あるある。

ノア様→ノア様なら何をしても不思議じゃない。

レジェンド→未だによく分からんけど勝ち確。

キング→ジジーがいればドーにでもなる。ジジーがいればドーにかなる

 

 

118:名無しの転生者 ID:a3nTwpLrN

あの爺さんは宇宙の再生とかいうとんでもないことしたからな……

 

 

119:名無しの転生者 ID:XHu5r3Udm

ジャンボ☆チート

 

 

120:名無しの転生者 ID:z6WM4BMEl

その爺さんをテレビと映画だけで四度も動かしたベリアルとかいう悪トラマンがいたらしい

 

 

121:名無しの転生者 ID:w9iVtKpev

ベリアルはニュージェネでも使われまくるほど因子とか便利だし人気あるし強いからな……

 

 

122:名無しの転生者 ID:AKB+DJG0X

>>120

ウル銀(封印と後半)、銀河帝国、ジードだな

 

 

123:名無しの転生者 ID:M1Io9HZvO

>>118

まぁ、正史じゃないとはいえキングが殺されたら後々ウルトラの星が滅ぶレベルだし……

 

 

124:名無しの転生者 ID:TZVt4sAZb

チートラマンより誰もイッチを心配しないのは草

音沙汰ないけど、今もバグバズンに追われてると思うんですけど

 

 

125:名無しの転生者 ID:tCaOsx6pM

>>124

いうてファウストおらんし、バグバズンはアンファンスで十分な強さしかないしなぁ。ナイトレイダーのナパームにやられるし、そもそも姫矢さんがナイトレイダーに攻撃されてなかったらアンファンスに負けそうだったし

 

 

126:名無しの転生者 ID:YCsY6MYFt

>>124-125

本編でウルトラマンに倒されることもメカにやられることもなかったからな……技術やべーとはいえ、ナパームに負けてる時点でお察し

 

 

127:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>111

なるほど、結界か。じゃあ気をつけて戦うしかないな……あ、そろそろ殺されそうなので行ってくる

 

 

128:名無しの転生者 ID:PHEtD4Fsk

さらっと言ってるけど危機的状況じゃねぇか

 

 

129:名無しの転生者 ID:zcQBKhBJ7

いってらー

 

 

130:名無しの転生者 ID:tzxSL4O9z

ってらー。

今回のはバグバズンを使うことでイッチのエネルギーを減らす作戦かもしれんな

 

 

131:名無しの転生者 ID:XgbXWIgKp

特にファウストには気をつけろよ。いつ来るか予想がつかん。ただ見送りがめっちゃ緩いの草

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

配信モードへと切り替えた紡絆は、迫ってくるバグバズンから走って逃げていた。

考えたいことはたくさんあったが、今はただ変身するためにエボルトラスターを落とさないように握りしめ、開けた場所へと出る。

もちろん、エボルトラスターの鼓動音は収まらない。

 

「なんでこうも、ビーストに毎回追われるんだが……。それより、ここならお互いやりやすいだろ!」

 

はぁ、とため息を一つ零すと、切り替えるように睨みつけながらエボルトラスターの鞘を左手で持って左腰に構える。さらに右腕で本体を前方に引き抜くと、本体を左肩に当ててから右腕を伸ばし、空に掲げた。

その瞬間、紡絆の肉体は光に包まれ---ひとつの星が広がるように、水玉が弾けたように、水色の光の奔流が爆発するように赤色の光に変わり、その中をネクサスが右腕を突き上げたポーズで上昇して光を纏いながら右腕を突き上げたままバグバズンの目の前で49mに巨大化して登場した。

 

『ギェエエエ!?』

 

『デヤッ!』

 

突然現れたからか、バグバズンが驚いたような様子を見せる。

そんな姿を気にすることなく、ネクサスは掴みかかると、バグバズンの口を抑え、力勝負に出る。

ネクサスはバグバズンを押すように。バグバズンは踏み留まるように。

 

『シュアァ……ヘアッ!』

 

『キィェアァァ!?』

 

しかしバグバズンの脚の力が強いのか、それともアンファンスだからこそ力が足りないのか、ほんの少し動かせただけで押し切れないと判断したネクサスは人間だと間違いなく腹に分類される口よりかなり下の部分を蹴り飛ばした。

 

『ギィェアアァ!』

 

『フアッ! テアッ!』

 

右腕を前に拳を作り、胸元に左で手刀を作った構えをするネクサスに対し、一直線に突っ込んでくるバグバズン。

ネクサスは冷静に頭を横から抑えることで突進を防ぎ、掴んだまま大きく振りかぶった右拳を叩きつける。

強烈な一撃を受けた反動でバグバズンが怯み、ネクサスはすぐさま膝蹴りをぶつけた。

 

『ギャィィ!』

 

『フンッ! シュアッ!』

 

さらにネクサスがジャンプしながら掴みかかり、向きを変えるように投げるとバグバズンの意思は関係なく前方に進むことになる。

バグバズンが振り向いた瞬間を狙い、ネクサスは強烈なアッパーカットを一撃お見舞いする。

 

『ギャォオォーン!』

 

『ッ!? テヤッ!』

 

再び怯んだ隙に攻撃、といったところで流石のバグバズンも抵抗するように頭を横へ振るうと、ネクサスは腕を挟むことで防御。

しかし相手はただの人間でもなんでもなく、スペースビースト。その攻撃力は高く、防御したにも関わらず、体が反転してしまい、すぐにネクサスが体勢を取り戻すとバグバズンによる追撃の爪攻撃をバク転で回避。

 

『シュアッ!』

 

『ァォオォーン!?』

 

バグ転で回避とともに距離を離し、体勢を完全に整えたネクサスは右から振るわれる爪を、爪ではなくバグバズンの右腕部分を左腕で受け止め、その隙に正拳突きで腹を殴る。

ダメージを受け、すぐに行動が敵わないバグバズンの頭掛けてネクサスは跳びながら横蹴りで蹴り飛ばし、流れるように回し蹴りでダメージを加算した。

 

『イィギィギアァッ!』

 

『フッ! デェヤァアアアッ!』

 

『ギェエアアッ!?』

 

負けじとバグバズンが爪を振るうが、ネクサスは再び腕の部分を抑えることで爪による攻撃を阻止し、さらには胸辺りの部分に手を添えながら一気に力を入れ、背負い投げのように地面へと叩きつける。

 

『ギェェ……グルァァ……』

 

うつ伏せに倒れたまま動かないバグバズンにネクサスは歩み寄る。

歩み寄りながら起き上がらない姿に違和感を抱きつつ、近づいたところで---

 

 

 

 

 

『……! シュッ!』

 

思い出したようにネクサスが跳躍した。

瞬間、先程までいたネクサスの位置に脚を狙ったであろう尾の鋏のような顎が開いて閉じていた。

もしあのまま跳躍しなければネクサスの脚が挟まれていたことは確実。

だが回避したネクサスは、起き上がったバグバズンが気づいたように上空を見た瞬間に、くるりと一回転しながらその勢いを生かして踵落としをバグバズンの頭部に叩きつける。

 

『ギェェ…ギァオオン!?』

 

『デヤッ! シュワッ!』

 

怯むバグバズンに着地したネクサスが回し蹴りを与え、腕を前方で交差。

マッハムーブによる高速移動でバグバズンの背後を取り、尻尾の部分を掴む。

 

『ジュアァァ……デアァッ!』

 

『キィェアァァ!?』

 

尻尾をつかみながら持ち上げたネクサスはそのまま後ろの地面に叩きつける。

そしてバク転を三度行うと、距離を離して抜刀するような構えを取り、右手と左手を行き来するように青い稲妻が迸る。

エネルギーが光に変わり、その光がネクサスの手のひらに纏われた。

 

『ヘアッ!』

 

ネクサスはその光を保ったまま両腕を今度は右胸付近に持ってきて、腕を十字に構えた。

すると十字の一の部分から上の箇所だけ光の光線---『クロスレイ・シュトローム』が放たれる。

 

『ギィヤアアアオォォン!?』

 

倒れているバグバズンには避ける術などなく、断末魔のような鳴き声を挙げながら光線を受け、呆気ない最期を迎えたバグバズン。

大爆発の中、ただネクサス---紡絆の中には拭い切れない違和感を覚えていた。

あまりにもの呆気なくて、あまりにものあっさりで、あまりにもの()()()()

 

(なんだ……この違和感? ファウストが介入してこなかったこともそうだが、あまりにものバグバズンが()()()()

まるで()()()()()()()()()()()()()みたいに……。

俺が強いわけでも強くなった訳でもない。本当に()()()()んだ。

嫌な予感がする……まだ、まだ何かあるはず……待てよ? 情報ニキ曰く、ビーセクタは不吉の象徴! なら---!)

 

ただ違和感を抱いただけで、杞憂なら良い。

しかし胸騒ぎのように、不吉な予感を感じ取った紡絆はウルトラマンとしての姿を保ったまま、周囲の気配を探る。

そしてそれは、叶えられようとしていた---

 

 

 

 

周囲の気配を探ってたからか、後ろから感じた気配。

すぐさまその気配の先を感じ取ったネクサスは振り向き、吹き飛ばされた。

 

『フンッ!』

 

『ウォァァアア!?』

 

地面に何とか着地し、顔を上げた瞬間には胸倉を掴まれて回し蹴りを受ける。

ネクサスは火花を散らしながら地面に伏し、横へと転がる。

瞬間、先程までいたネクサスの地面に穴が空いていた。

その正体は---

 

『ほぉ……避けたか』

 

(ファウスト……! やっぱり来たか! でも違う! こいつじゃない! まだ胸騒ぎがする……なんだ!?)

 

そう、ダークファウスト。

影のように現れたファウストがネクサスを蹴り飛ばして吹き飛ばしたのだ。

だが、紡絆はそれでも警戒しながら気配を探る。違和感を、不安要素を消し去るために。集中して戦うために。

しかし---何も無い。

 

『テェヤァ!』

 

『フッ!?』

 

左手を開いた状態で縦に構え、右手を隠すように横に構えたファウストが、右腕を突き出すと同時に左手を腰に構えて紫色の破壊光弾をネクサスではなく、建造物の中でも唯一独特なストーンフリューゲルのようなオブジェクトがある()殿()()に発射した。

それを見たネクサスは、即座に割り込み、自らの肉体で受ける。

 

『グアァ!?』

 

『やはりそうするか。なら、どれだけ耐えられるか見物だ』

 

『シェアッ!』

 

(俺の動きを読んでいた? いいや、何故か分からないが、俺は無意識に守るように動いた! 

そしてファウストが神殿跡を狙ったということ、俺の体が無意識に動いたということ---それら全てを整理して考えるなら結界の話が本当で、この遺跡という場所が神樹様と同じということッ! だからこいつは神殿を破壊するために狙うんだ!)

 

相手の言動と予想から推測した紡絆はオブジェクトを守る選択を取る。

そんな紡絆に次々と放たれるダークフェザー。それらを肉体で受けるのではなく、ネクサスが両拳を腰に構え、前方に突き出すことで水面に生まれる波紋のような、青色に輝く円形状のバリヤー、サークルシールドが貼られる。

バリヤーによってダークフェザーの攻撃を防ぐことに成功するが、ファウストは手を緩めない。

対するネクサスもバリヤーを貼り続け、神殿跡を守っていた。

 

『こんなものか……』

 

『ジュ……!?』

 

無意味だというようにダークフェザーを撃つのをやめたファウストを見て、ネクサスもバリヤーを解く。

 

(やめた? 何故?)

 

しかしバリヤーを解いたあとも動かないファウストの姿を見て、紡絆は困惑した。

 

 

212:名無しの転生者 ID:Bzb4NxRYJ

イッチ! バグバズンを撃破したところを見ろ! まだ死んじゃいない!

 

 

213:名無しの転生者 ID:P0HTOoOUx

そうか! これは時間稼ぎ! もしかしてバグバズンを強化する気か!? 確かにアンファンスとはいえ、倒された後! スペースビーストの成長と学習速度を考えたら、それをされると通用しなくなる!

 

 

214:名無しの転生者 ID:WJn2BISOl

おのれアンノウンハンド! 今度は何をする気だ!?

 

 

 

 

言われた通りに、ネクサスが視線を爆発したはずのバグバズンの位置に移す。

そこには死体は残っており、暗雲が垂れ込める()()()()のようなものからバグバズンに対して、()()()が降り注いでいた。

 

『ヘアッ!?』

 

(やばい……なんだ? 何かがやばい! アレが終わると俺は()()()! 何故か分からないけど、そんな予感がする! 止めないと!)

 

『ハハハ……残念だが---もう遅い!』

 

即座にマッハムーブを使用してまで全力疾走で近づくネクサス。

しかし、その姿を見てもなお、ファウストがただ嘲笑う。止めることをせず、ただの傍観。

だがそれは---正しい判断だ。

 

『イィギィギアァッ---グゥゥルラアアアアァァ!』

 

『ウッ……グアァァアアアア!?』

 

神の雷撃の如き、天から堕ちてきた凄まじいエネルギーが降り注ぎ、バグバズンが()()する。

あまりにもの凄まじい威力にネクサスの肉体ですら踏ん張っても耐えることが出来ず、一気に吹き飛ばされた。

地面を削り、大量の木にぶつかることでようやくネクサスの肉体が止まる。

 

『ァ……ガハ……。シュア……!?』

 

無事に止まることに成功したネクサスは頭を振ることで意識を鮮明にし、起き上がりながら咄嗟に爆風からダメージを軽減するために庇った右腕を抑える。

その状態のネクサスは視界に捉えたのを見ると、驚愕した。

真っ白なバグバズンの肉体に、宇宙人のような縦長い頭。牛のような角が頭部の両サイドに生え、クマのような毛皮を纏い、背骨が曲がってるのではなく、人のように真っ直ぐと立っている。そして片手には棍棒を持っていた。

それだけではなく、所々に()を現すような丸い印があり、紐のようなものが右腕と左腕に巻き付けられている。

しかし所々に元がバグバズンと分かるような尻尾やセミのような羽もあり、もはや別の進化を遂げたバグバズン、というよりは新種のナニカというべき姿だ。

 

『ヘェア……』

 

(んな……超獣か大怪獣か!?  いや、これもスペースビースト!?)

 

はっきり言うと、先程より幾分かマシになった姿、とも言える。背中が曲がってないからか、カブトムシの幼虫みたいな頭じゃなくなったからか、気持ち悪さは軽減されていた。

だが、紡絆はこんな怪獣を見たことがない。いや、それは---

 

 

231:名無しの転生者 ID:fUZ8IVJ+9

なんだコイツは!? 情報ニキ!(ドンドンドコドコバシバシ)

 

 

232:名無しの転生者 ID:QBFCSNYmd

おい! 流石に盛りすぎだろ! スターマークでもつけた気になってんのか!? それはスターマークじゃなくて星じゃい! いや、でも待てよ? これ……丸いのを線で繋げるともしかして……!

 

 

233:情報ニキ ID:OX82Ln2AK

こんな属性モリモリ怪獣、どのウルトラシリーズにも居ない! まるでフュージョン合体やフュージョンライズした怪獣だ! 少なくともスペースビーストにはこんなやつはいなかった! つまり、全員が知り得ない未知のスペースビーストだ! 能力も分からんし、気をつけろ!

それと、そいつはバグバズンだと思うな! 恐らく生贄召喚されたようなもんだ!

 

 

 

 

彼ら(転生者たち)ですら知ることのない、未知の敵。

どんな特性があるのか、能力があるのか、実力がどれほどか、どんな動きをするのか、どれだけ強いのか、どれだけ速いのか、その全てを知らない。

名前すらも知らない、未知の敵。どう呼ぶことも出来ず、怪獣としか呼ぶことが出来ないだろう。

 

『ギェェ……ガァァアアアァァアアアアッ!』

 

怪獣が動く。

獣のような、バグバズンの声が合わさったような雄叫び。

速度は脚がバグバズンと同じだからか、大して早くない。

だからこそ、冷静に振られた棍棒を見極め、ネクサスはそれを避け---

 

 

『シュ---ガァハッ!?』

 

凄まじい速度で向かってきた()()()()()()両肩を、噛みちぎられた。出血を現すかのように光が漏れるが、動けないネクサスにバットのように振られた棍棒が腹部に直撃し、あまりにもの強烈な威力に吹き飛ばされる。

 

『ァ……グゥ……! デヤッ!』

 

すぐさま起き上がり、今度は二頭の存在に対して、ぐるりと回りながらラリアットをかまし、一気に吹き飛ばした。

 

『フアッ!?』

 

(犬!? 違う、ガルベロスについていたりょうけんみたいな……りょうけん? まさか……考えるのは後だ!)

 

『私を忘れてもらうのは困るな……!』

 

『シュワッ!』

 

犬、それも猟犬の姿を見て思考の渦に潜り込みそうになるが、ここは既に戦場。正体など後々考えればいいと紡絆は思考を切り替える。

そして、思考を切り替えた紡絆は走りながら飛び膝蹴りを放ってくるファウストを見て、ネクサスは拳を繰り出すことで相殺する。

そこで背後から迫ってきた怪獣がネクサスに棍棒を振り下ろし、二頭の猟犬が空中から噛みつかんとする。

巻き込まれないように距離を離したファウストだが、ネクサスは間に合わない。

 

『フッ---デェヤアァァ!』

 

しかし、間に合わないのはあくまで、回避だ。

迎撃するためにアームドネクサスを輝かせ、エルボーカッターで回転しながら防ぐのと同時に二頭の猟犬を切り裂き、怪獣に対して連続で切り付けると、パーティクルフェザーを一撃お見舞しながら角を掴み取り、地面に投げつける。

 

『グルァ!?』

 

『シュワァ---デアッ!』

 

ファウストに対してもパーティクルフェザーを飛ばし、少しの妨害を行うと、攻撃が来る前に抜刀のような構えをとり、腕を十字に構えることでクロスレイ・シュトロームを怪獣に与えた。

怪獣はたったのそれだけで爆発するが---

 

『無駄だ---ハアッ!』

 

『グッ……!?』

 

即座にファウストがネクサスを殴り飛ばし、踏ん張って威力を殺すとすぐにネクサスが爆発した方を見る。

そこには、怪獣が()()()()()()()()()()()()()していた。

 

『へエッ!?』

 

(再生!? 光線技すら効かないのか!? だったら、完全消滅させるために、アレを使うしかない!)

 

この状態で足らないのであれば、もう一段階強さを引き上げるしかない。

そう判断したネクサスは、左腕をエナジーコアに近づけ、アームドネクサスが輝くとすぐに振り下ろす。

すると水音のような音と共に波紋のようなものが広がると、青い光のウェーブがネクサスを覆い、ネクサスはその姿を変化させた。

肩に鎧の肩当てのような板状のパーツがあり、胸のエナジーコアの中心に新たに生まれた半球状の発光体、青色のコアゲージ。

(まさ)しく情熱を体現した、赤き輝きの光---ジュネッス。

 

『ハアァ……シェアァァッ!』

 

ネクサスが脚に力を入れ、一気に駆ける。

ジュネッスに変化したネクサスのスペックは、大きく変わる。

怪獣の目の前まで辿り着いたネクサスは棍棒を横に振るう怪獣の攻撃を跳躍し、回転しながら通り過ぎて回避すると後ろ回し蹴りで一撃を与える。

さらに反応したファウストの攻撃を自ら背中から倒れることで避け、バク転するように脚による打ち上げ攻撃を試みるが、避けられた。

そこに迫ってくるのが、二頭の猟犬。

力強く、堅実な戦い方をするジュネッスに同じことの繰り返しなど通じるはずもなく、片方の顎を抑え込み、もう片方の猟犬を足で踏みつけることで行動を阻止してみせた。

しかし顎を抑え込んだとはいえ、意地でも暴れる。そこで上空にぶん投げたネクサスが、踏みつけた猟犬の腹を蹴り上げることで上空に投げた猟犬とぶつけ合わせた。

 

『チィ……これはどうだ!』

 

『ッ!? グオォ……! デェヤッ!』

 

神殿跡を狙うように、ダークフェザーを発射するファウスト。

ネクサスはすぐさま怪獣を無視して自らの肉体で受け止めることで防ぎ、パーティクルフェザーで反撃。

ファウストは空を飛ぶことで避け、ネクサスはそれを追うために地面を強く蹴ることで、跳躍---

 

 

 

 

 

『グルガァアアアア!』

 

『シュア---アグッゥ……!?』

 

するはずが、突如として発生した凄まじい重力に地面に叩き落とされる。それだけではなく、地面が沈み込みほどの重力ということは、ネクサスを押し潰すほどの重力を発生させているということ。

 

『ぐ、グググ……アァ……!?』

 

(こ、こいつ……神話に近い力を持ってる……!? 確かギリシア神話の巨人の神、ティターン神族のアトラスは両腕と頭で天の蒼穹を支えていたと言われていたッ! どういう理論かは分からないが、空も地球の一部! つまりこいつの能力は……重力だ!)

 

能力を看破してみせたが、それだけだ。

起き上がろうとするネクサスに対して、降り掛かる重力は凄まじい。空間ごとしているのか、対象の重力を操れるのか、それは分からないが、動けないことに変わりはなかった。

さらに、これは1対1の戦いではない。

 

 

『ハアッ!』

 

『ガ、ハッ……! デュアッ!!』

 

上空から凄まじい速度で落下してくるファウストが、速度を緩めないままネクサスを踏み潰す。

動けないネクサスは空気を吐き出すような声が漏れるが、強引に体を仰向けにするとファウストの脚を掴んだ。

 

『グヌゥ……!?』

 

ファウストの脚を掴むと、ネクサスに掛かっていた重力がファウストにも掛かる。突然の重力の差にファウストは地面に膝を着き、手を着いた。

どうやら、対象が掴んだもの、持っているもの全てに掛かる重力操作のようだ。

 

『シュアッ!』

 

『グァァアアア!?』

 

同じくして動けなくなったファウストに向かって、ネクサスは頭を仰け反らせると一気に振ることで頭突きをファウストの背中に喰らわした。

重力の加わった頭突きは大ダメージとなるようで、ファウストは地面に伏してしまい、怪獣は重力を操っている間は動けないのか、止まっている怪獣にパーティクルフェザーを飛ばした。

 

『ギャァオオ!?』

 

『ヘェアッ!』

 

パーティクルフェザーを受けて重力を解除したその一瞬を突き、重力下から抜け出したネクサスが走りながら跳び、アームドネクサスのエルボーカッターを上から下に振り下ろした。

ネクサスは怪獣の横をすり抜ける。

 

『ギィェアアァ!?』

 

少しの時間差の後。

怪獣の一本の角がポト、と落ちた。悲鳴を挙げる怪獣を無視して、ネクサスが後ろから組み付くと肘で一度、二度と殴る---しかし、大事なことを忘れてはいないだろうか。

怪獣の後ろに組み付くということは、当然---

 

 

 

 

『イィギィギァ!!』

 

『ウワアアアアァァ!?』

 

怪獣のバグバズンの部分である尾が挟みのようにネクサスの右脚を閉じていた。

ネクサスが悲鳴を挙げ、怪獣がネクサスの脚を巻き上げるように吐き出すと、ネクサスは背中から地面に倒される。

 

『ガルルゥ!』

 

『グルァ!』

 

『アアッ……アアァァァ!?』

 

そこに怪獣の両腕に巻き付けられた紐が光ると、二頭の猟犬がネクサスの右肩に噛みつき、抉るように、まるで餌を食べる犬のように激しく削りながら食べる。

光が漏れ、肩当てのような装甲が潰される。装甲がなくなったネクサスの肩を噛み、容赦なく削っていく。抉っていく。

 

『あ……あがぁ……。アアアアアアァァ!』

 

『ギャッ!』

 

『ギャン!?』

 

凄まじい痛みにネクサスは力づくで二頭の猟犬を殴り飛ばすが、二頭の猟犬は再び怪獣の元へ消えていくだけ。

その姿を見ながら右肩を抑えて膝を着くネクサスに、怪獣は近づくとネクサスの頭を掴んだ。

 

『グゥゥルラアアアアァァ!』

 

『ウグッ!? ウワァァァアアア!!』

 

容赦なく棍棒でネクサスの腹部を殴り、殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って---殴る。

肩の痛みによって片腕の使用がほぼ不可になっているネクサスは痛みに耐えながら左腕のエルボーカッターで怪獣の腹を切り裂き、腹部を蹴るようにして回転しながら距離を離す。

 

『フンッ……そこで見ているがいい。世界が壊れるザマをな』

 

『ハァッ……ハァッ……。ウグッ……』

 

ネクサスが地面に両膝を着き、顔を上げると切り裂いたはずの怪獣の腹は再生し、ファウストは神殿跡の目の前にいた。

ネクサスが戦っている合間に重力から解放され、回復してから移動していたのだろう。

だからこそ、紡絆は焦っていた。

 

(あの神殿跡は……ダメだ。俺がウルトラマンになったのがあそこだから、恐らく樹海化した神樹様と同じ……。

なら……!)

 

ファウストが手を伸ばす。

同時にネクサスが両腕のアームドネクサスを十字を作るように交差する。手首に青い輝きの粒子が纏われ、弧を描くように右腕だけを動かして胸のエナジーコアの傍で拳を直線に向け、左手を腰部に固定した。

 

『やはり無理か……!』

 

手を伸ばしたファウストが神殿跡に触れた瞬間、バチッと防ぐように弾かれる。

破壊するようにファウストが右腕に闇のエネルギーを纏った。

 

『シュワァァ……デェアッ!』

 

『チィッ……!まったく楽しませてくれる……!』

 

しかし、突如としてファウストの真横を青く輝く光線が通り抜けた。

すぐにファウストが振り向くと、そこには右腕を真っ直ぐにファウストに向けて拳を伸ばしたネクサスの姿がある。

さらに神殿跡の方を見ると、神殿跡に直撃する直前で光が消え、花火のようにファウストの目の前を覆うように拡散した。

そこから黄金の球状を作るように光が降り注ぎ、地表からは水泡のような光が立ち昇る。

近くにいるファウストは無論、怪獣とネクサスがいる距離まで伸びたそれは、この場の全員を覆っていく。

つまり---フェーズシフトウェーブ。

メタフィールドの展開。

 

『だが、貴様の有利な空間で戦いはさせん。闇に染まれ……ッ!!』

 

両拳を前に交差して突き出し、両腕を高く上げたファウストから闇のエネルギーが発せられ、メタフィールドをダークフィールドへ塗り替えた。

そうして、空が赤黒く、不気味な光が不規則に明滅しているだけではない不浄な空気と汚染された大地の世界へと変わる。

 

『ハァ……ハァ……』

 

さらに、メタフィールドの展開によって始まる命の消費(制限時間)

展開されてから一分も十秒すら経っていないというのに、コアゲージが点滅を始めた。

理由はダメージと、体力とエネルギーの消費。

 

『どうした? 貴様の光はその程度か?』

 

『ウァァァ……ウ、ウウッ……!』

 

立ち上がれないネクサスに対して、首を絞めて地面に押し付けるファウスト。

両腕でファウストの腕を抑えることで和らげようとしているが、焼き石に水。

 

『グァアアアア!』

 

『くうッ……!? ガッ…!』

 

そこに怪獣が迫ってくると、ファウストはネクサスの肉体を持ち上げ、怪獣が突進する。

寸前のところでファウストは避けるが、ネクサスは突進を受けて吹き飛ばされた。

地面に何度も転がり、仰向けの状態で止まる。

 

『ウ……アァ……! シュア……ッ!』

 

だが、ここで負けてはならないのだ。

ネクサスはダメージの残る肉体に鞭を打ち、コアゲージの警告を意識しながらも立ち上がって構える。

 

『それでこそやり甲斐がある。行け』

 

『ギァオオオオォォン!』

 

『ウッ……デェヤッ!』

 

一瞬。ほんの一瞬だけ右肩の痛みを感じて動きが止まるが、ネクサスは向かってくる怪獣の攻撃を左手で捌き、膝を上げて腹部を蹴る。

さらに右腕を振り下ろして殴り、すぐにアッパーカットで追撃した。

 

『デェアァァァ!』

 

『ハッ!? シュアアァァァッ!』

 

怯んだ怪獣をすぐさま前蹴りで吹き飛ばし、浮きながらマッハに達する速さで向かってきたファウストと組み合う。

速度が加わっているため、脚で踏ん張りながら地面を削りつつ抑え込み、止まると互いの力が均衡する。

そこで、ネクサスは手のひらをくるりと反転させて上に向けることでファウストの両腕を掴み、持ち上げるのと同時に背後から倒れて脚で蹴り飛ばす。

 

『グォオオオ!?』

 

『シュワッ! デェヤアアアアァァッ!』

 

『ギィェェ---ギャオオオオオン!?』

 

即座に地面を蹴り、真っ直ぐ跳躍してファウストに頭突きを食らわせると着地。

迫ってくる怪獣の左からの攻撃を左腕で防ぎ、右からの攻撃をしゃかむことで回避する。

懐に入ったネクサスに対して、向かってくるのは尻尾。両手で掴み、エルボーカッターを力強く振り下ろすことで切断して見せた。

断末魔を挙げる怪獣を殴り飛ばすと、切断した尻尾をハンマー投げのように回して、空中から向かってきたファウストに投げつけた。

 

『グハッ!?』

 

『グガァアアアア!』

 

『ハァ、ハァ……! グアァ!? アアァァァ!?』

 

ネクサスに再び掛かる、重力。

片膝を着いたネクサスに、()()()()()()()()()()()()()()尻尾が()()に噛み付いた。

グシャリ、といった嫌な音が鳴り響き、同時にコアゲージの点滅が急速な加速を始める。

 

『ギィヤァオン……♪』

 

既に装甲のない右肩を文字通りに削られ、グチャグチャといった咀嚼するような音が聞こえる。

抉れた右肩から血飛沫のように溢れるネクサスの光と、完全に地面にうつ伏せに伏したその光景が、どういった状況なのかを物語っていた。

そこに歩み寄っていくファウストが、トドメを刺すべく両拳を前に突き出し、左右に拡げていくと闇の稲津のようなエネルギーが行き来していた。

 

『闇ではなく、光の存在であったことを後悔するがいい---』

 

拡げた両腕を紫色のエネルギーを纏いながら戻し、左拳を腰に構えながら右拳を上に掲げ、同時に両拳を突き出した。

そこから放たれる、ネクサスと相反するファウストの光線技---ダークレイ・ジャビローム。

倒れているネクサスに避ける術など当然あるはずもなく、その光線技はネクサスに直撃して大爆発を起こす。

 

『フン、つまらん』

 

二対一で有利な空間とはいえ、避けることも出来ないほどのダメージを負い、抵抗もしなかったことにか心底期待外れと言ったように振り向きながら吐き捨てたファウストは怪獣を前に、連れて離れていく。

 

『………』

 

『ギィェ……ギィェアア! ギィェアア!』

 

『なんだ、煩いやつだ---』

 

ナニカに気づいたように目の前で騒ぐ怪獣の姿に喧しそうに喋るが、少しして何らかの気配を感じたファウストは振り向く。

 

『フンッ! シュワッ! ハァァァ---』

 

『なに!? 貴様は---ッ』

 

声が聞こえ、ファウストは視界に捉えると驚愕する。

何故なら、光線技を受けて爆発したはずのネクサスが無事だったからだ。

さらにネクサスが蒸発するように赤く輝き、両腕のアームドネクサスを前方で交差させると、稲妻の如き青白いエネルギーを纏いながらそれをガッツポーズし、そしてV字型に伸ばしていた。

 

『デェヤアァァ!』

 

そして両腕のアームドネクサスをL字型に組んだ状態で凄まじい光エネルギーの奔流を発射---ネクサスのジュネッスが持つ、最強光線。オーバーレイ・シュトローム。

 

『ええい!』

 

『ハアアァァァ……デュアァアアアアアァァァ!!』

 

『グゥ……ウワァアアアア!』

 

すぐさま、ファウストが左手からダークシールドと呼ばれる円形状のバリヤーを発生させて防ぐが、オーバーレイ・シュトロームの威力が強まるとそのバリヤーを砕き、光線が少し逸れたお陰で直撃を免れたファウストの肉体を掠っただけで吹き飛ばす。

オーバーレイ・シュトロームは消えることなく、ファウストも吹き飛ばしても真っ直ぐに飛んでいく。

何故なら---

 

『ギィヤアアアオォォン!?』

 

『ヘェアアアァァァ!!』

 

先程まで前に居たのは、怪獣。そして振り向いたファウストが吹き飛ばされたということは、その後ろに居たのは怪獣なのだ。

ネクサスからすると、振り向く前のファウストの前に居たのが怪獣。だからこそ、ファウストを狙った一撃ではなく、あくまで怪獣を狙った一撃。

だから、ファウストに直撃することはなかった。

そして直撃した怪獣の肉体があまりにもの威力に後退しながら青い光へと変換されていくが、さらに気合いを入れるようにオーバーレイ・シュトロームの出力が上がり、怪獣の全身が青い光に発光する。

同時にネクサスのオーバーレイ・シュトロームが消えると、怪獣が分子分解されながら大爆発を引き起こした。

 

『ハァ…ハァッ……!』

 

しかし、それはネクサスのエネルギーも同じ。

一度の変身に一度しか使えないオーバーレイ・シュトロームを放ったということは、エネルギーの消費が激しいのだ。

だが、ファウストは掠ったとはいえダメージを負い、怪獣は分子分解された。

つまり、ネクサスの勝利であることに変わりは---

 

 

393:名無しの転生者 ID:8IfQG5u3G

ダメだ、イッチ! よく見ろ!

 

 

394:名無しの転生者 ID:AtJuO2230

バカな! オーバーレイ・シュトロームを直撃して耐えれた奴なんて居ないぞ!? 分子分解されたのまでは見えたが、効かないっていうのか!?

 

 

395:名無しの転生者 ID:MaXgvaOT3

おいバカ! 何してる!? またかよ!? 無茶すんな!!

 

 

 

 

 

『グガァ……ギィヤアァァ……』

 

絶望が広がる。

紡絆の脳内(転生者掲示板)で今彼が持つ、最大最強の必殺技ですら通用しなかったことへの絶望。

それは事実、紡絆も同じだ。オーバーレイによる一撃で逆転を狙ったはずが、それが通じなかった。

しかもコアゲージの点滅も既に速く、メタフィールド(ダークフィールド)の影響でウルトラマンとしての活動時間は持って10秒といったところか。

それ以上のメタフィールド(ダークフィールド)の展開は死を意味し、ここで人生の終わりを迎えることになる。

でも、ここで怪獣にトドメを刺さずに、このまま変身を解除すれば? 予想とはいえ、ここは結界内だと思われる。つまりここが堕ちれば四国に、紡絆が守りたいと願う世界に被害が被ることは間違いがないのだ。

幸いにも、怪獣もオーバーレイ・シュトロームの出力は高かったのか、それとも一度は分子分解されたからか、分子分解から再生した原因は不明とはいえ、再生は不完全。

体のあちこちは崩壊しており、動ける様子はない。一方で、ファウストもオーバーレイ・シュトロームのダメージでまだ動けそうにない。

そしてネクサスは、気合いで動けると理解していた。

だから、最後の鞭を打つ。己の肉体に今出し切れる、この後のことを考えとしない全てのエネルギーを。今日一日分のエネルギーを。今日一日分のエネルギーがなければ、明日の一日分のエネルギーを。

その全てを使って、ネクサスは行動に移す。

右拳を上に向けながら右腕を右腰に、左腕を手刀の形にしながら勢いよく左に振るい、右腕を左腕の方向に持っていくとの同時に拳を開いて同じく手刀の形にすれば、抜刀するような構えを取る。

その構えを取ると、右手と左手を行き来するように青い稲妻が迸って、エネルギーが光に変わり、その光がネクサスの手のひらに纏われた。

 

『デェアッ!』

 

『ギャオオォーン!?』

 

残り9秒。

腕を十字に組んだネクサスは、クロスレイ・シュトロームを放つ。

残り8秒。

放たれたクロスレイ・シュトロームは怪獣に直撃し、徐々に再生していた怪獣の回復が止まる。

残り7秒。

ネクサスがクロスレイ・シュトロームを放ちながら地面を駆けていく。

残り6秒。

怪獣とネクサスの距離が縮まり、ネクサスのコアゲージの点滅がさらに超高速と言えるほどの速度に変わる。

だが、距離が近づくということは、光線技の火力は上がる。

 

『ぐぅぅ……シュワ!』

 

『ギィガァァ!?』

 

残り5秒。

クロスレイ・シュトロームの出力を保ちながらネクサスが地面を蹴り、軽く跳躍した。

残り4秒。

跳躍したネクサスは膝を前に突きだし、怪獣に飛びかかる。

 

『ハァァアアアアアァァァッ!!』

 

『ギィヤァォォォォ!?』

 

残り3秒。

怪獣を押し倒すように組み伏せ、零距離でのクロスレイ・シュトローム。

残り2秒。

全てのエネルギーを使い切るように出力がより上がり、均衡していた怪獣の再生とネクサスの破壊は、ネクサスの破壊が再生を上回る。

貫くことは無かったネクサスの光線が完全に怪獣の再生を潰し、ダメージが入っているのが目に見えて分かる。

そして、残り1秒。

今までのクロスレイ・シュトロームが比にならないほどの、凄まじい速度で次々と発射されるエネルギー。暴発寸前の出力。

少しでも間違えば暴発し、不発になる。自身の肉体をより傷つける。決して超えてはならない瀬戸際を紡絆は躊躇することなく行動に移し、一気にエネルギーが放出された。

そして---

 

 

 

 

 

 

「ガハッ!?」

 

大爆発。

メタフィールド(ダークフィールド)を保つことが出来ず、汚染された世界から遺跡へと変わる。

さらにコアゲージが停止する直前で変身が()()()に解除された紡絆は解除されたことを示すように体から光の粒子が空気中に消えていき、()()()爆風によって、吹き飛んでいく。

 

『グゥゥ……今回はここまでだ……!』

 

ファウストが影のように姿を消して、いなくなる。

だが、紡絆は見た。

吹き飛ばされながら、生身で爆発による余波を受けながらもなお、しっかりと強化された瞳が怪獣の最後を捉えていた。

 

(そう……か……。やつに、怪獣、が……回収ッ……されたッ……! 倒せなかった、理由は---ッ!)

 

まだ怪獣を完全消滅させることも、倒すことを出来なかったところを。倒し損ねてしまったところを。

アンノウンハンドに回収されたところを。

そして何より、倒せなかった理由を、知った。理解した。理解して、理解したのが、遅すぎた。既に敵の手に渡り、紡絆はエネルギーを使い切ってしまった。

追うことも出来ず、再変身することも叶わず---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が変わる。

爆発によって吹き飛ばされた影響で、遺跡から弾かれるように現れた紡絆の肉体が水面に叩きつけられた。

叩きつけられるギリギリのところで変身解除されたあとに紡絆の懐に入っていたエボルトラスターが輝き、残りの力を振り絞るように薄い青い光の膜を貼ることで紡絆の全身のダメージを軽減する。

しかし水面とはいえ、爆風によって吹き飛んだ勢いは完全に殺しきれないのか、水飛沫を巻き上げながら水を突っ切り、紡絆は砂浜に投げ出された。

 

「ァガッ!? っでぇええむぐ………!」

 

砂を削りながら何とか紡絆は止まることに成功するが、力が入らず、水に入ったのが運の尽き、とも言えるだろう。

()()()()()()()()()と普通に血だらけな()()が血液によって真っ赤に染まっている。左肩も削られているが、右肩よりはマシだ。

そして水と言っても、ここはどこだ? そう、砂浜がある通り---ここは海。

海ということは、海水。

海水の塩分濃度は約3.5%で、人間の体液の塩分濃度は約0.9%と言われている。

しかも突っ切って砂を削った紡絆は、当然肩も腕も砂に当たっている。傷口に海水と砂が入ったことを考えれば、痛みは推し量れないほどに凄まじいのだ。

意識を失いそうになるのを、大声を挙げそうになるのを口に手を当てることで紡絆は耐える。

騒ぎを起こして、大声を挙げて今の状況を通報されたら何も説明が出来ないからだ。

ちなみに海水は感染症を起こす可能性はあるが、そこは覆われている膜が守られていたので問題ない。それでも抉られた肩はどうすることも出来ない。

 

「んぐぅ……あぁっ……!?」

 

右肩から腕まで、真っ赤に染まっている。

別の場所にあったはずのカバンが何故か近くにあることから、一緒に転移されたのだろう。

ズボンに手を突っ込んでハンカチを取れば口に挟み、カバンを左手で強引に開けると、ペットボトルを取り出して左肘で抑える。そして手を動かし、水を地面に零しながら傷口にぶっかけた。

より痛みが伴うが、声を出さないようにハンカチを噛み締める。

だが、いつ消えるか分からない意識が余計に消えそうになる。

応急処置だけはしなければならないという意思からタオルを地面に敷くと脇に入れ、肩を隠すように巻き付けるだけ巻き付けると仰向けに空を見上げる。

既に夕方だからか、オレンジ色の雲。

このまま太陽は地平線に沈んでいき、夜となるのだろう。人の気配を感じれないことから、このまま朝まで居ることになるかもしれない。

それでも、紡絆は考えることだけはやめなかった。

 

(見た……負けた。勝てなかった……あれは()()()()()()()()()()()()()()()……。でも、どうしたらいい? 次来るのは、何時だ? 夜か? 夜中か? 明日の朝か? 明日の昼か? 明日の夜か?)

 

少なくとも、紡絆は二つだけ確信があった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、右腕が今機能しないことから夜に来たりすれば、あっさり負けることを。

確かに撃退した。粉々にした。粒子分解させた。爆発させた。それでも、()()()()

まるで、不死身。

まるで、無敵。

まるで、最強。

それでも、たった一つ。たった一つの情報が、紡絆の絶望を打ち消し、希望の光を灯していた。

いや、初めから絶望などしてはいない。

絶望をしていれば、考えることなどやめる。抵抗を諦める。身を犠牲にしてまで、相打ちを狙わない。例えその情報がなかったとしても、紡絆は抗い続けたはずだ。それが引き伸ばすことになるだけでも、時間稼ぎにしかならなくとも、対抗策を見つけるために。

それでも、その情報は紡絆が唯一、勝てると確信出来るような、いや---()()()()()()()()()情報だった。

 

(あい……つの……不死身…性は、再生……能力、は…………)

 

意識が消える。

傷を負い、体力を失い、出血し、疲労が一気に降り注ぐ。意識を失うと自覚した紡絆は、たった二つの情報だけは忘れないよう、反復する。

 

(あいつの……正体は---)

 

目が閉じられ、聴覚も、嗅覚も、痛感も、触覚も、視覚も、五感全てがシャットダウンを始め、紡絆の肉体を治すためにも休息を求めた脳が眠らせる。

完全に眠る前に、紡絆は決して忘れないように、普段全く使わない頭を使い、思い出して看破する---

 

 

 

 

 

 

 

 

(---()()()()()()、だっ……た……。そし、て……再生…能力、は……み、た……ま………)

 

思考すらすることの出来ない、電池が切れた物のように微秒だにしなくなった紡絆。

意識が途切れる前に彼を覆っていた薄らとした青い光の膜も消え、完全に真っ暗になった。

そうして、闃寂だけが場を占める。

何も無く、時間が時間なのもあって誰も居ない。

ただ紡絆のポケットの中で、スマホが光を発するだけ。通知が来たことを示すように、少しの間光るだけ。

エボルトラスターも輝くことはなく、沈黙を貫いていた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ一人。

もう太陽が沈んだばかりだと言うのに、走っている少女が居た。歳は紡絆と同じくらいで、中学二年生くらいだろうか。

ここは有明浜。紡絆が倒れている場所であり、彼女がこの地域に来てから特訓場所として使っている場所でもあった。

動きやすい格好を着ているが、この時間帯となると女の子一人で走り込みをするのは、はっきり言って危険だ。

 

「ふぅ……今日はこんなものかしらね」

 

少女が一息つく。

今日は、ということはずっと何かをしていたのだろう。少女は携帯の時間を見て、帰宅することを選んだ。

その前に、少女は置いていた木刀を二本回収し、忘れ物がないか確認すると---ふと。何となくだが、海面を見た。

理由などなく、見たいから見た。それだけ。

当然、何も無い。

ただ、少女は思い出す。人一倍努力家で、選考で自身を負かした実力を持つ一人の少女を。

 

「馴れ合いなんて不要……私は選ばれた完成形……。他の子たちの分もやらないといけないんだから」

 

固まっている決意を再確認するように小さく呟いた少女は、踵を返して、自身のマンションへと移動する---

 

「……あれって、人?」

 

はずだった。

踵を返した時、見えたナニカ。

地面に伏しているからか、よく見ないと分からないが、人だ。寝ているのか、それとも自殺志願者か。

どちらかと思った少女は悩む。

普通ならば、無視するだろう。しかし、ここで少女のお人好しな部分が出てしまった。

悩んで、見てしまった少女は倒れている人間に対して、近づく。もし悪いヤツなら、撃退すればいいだろうと。

少女は腕に自信があるからこその、発想。

だが、近づいてみると、少女は驚愕の表情をした。

 

「血!? これ……自分ではやれるような傷じゃない……。それに、まだ生きてる。

……あぁ、もう!」

 

苦しそうな表情で眠っていて、砂に血が染み込んでいる。

砂は放っておけば勝手に血の色は無くなるが、このまま放置すれば少女の目の前で倒れている男性は間違いなく死ぬだろう。

流石の少女も、死んでいるなら警察に連絡するぐらいしか出来ないが、生きていて、助かる可能性がある男性を見捨てることなど出来なかった。

しかも、相手は同年代と思われる若い男で、右肩から右腕まで真っ赤に染まっていることから何らかの事件にでも巻き込まれたのだろうと考えられる。

もちろん、犯罪に手を染めたという考えも浮かぶが、不思議と絶対にないという確信があったのだ。

 

「……ったく。どうしてこんなことしなくちゃいけないのよ……でも、見捨てたら夢見が悪いわ」

 

ここで放置するということは、自分が殺したのと同義だと少女は考える。

そもそも少女は、()()としてここに居るのだ。ならば、勇者として救えるはずの民間人の命を見捨てるのは勇者失格だろう、と。

だからこそ、怪しまれないように隠せるものでタオルをしていてもなお、真っ赤に染まるほどの血だらけの肩と腕を隠すと背負いながらマンションへと向かう。

同年代で体重も見た目から軽いと分かるとはいえ、相手は男だ。

その男性を抱えれるほどの力を持つということは、少女が鍛えていることは容易く想像出来るだろう。

そんな少女は同年代と思わしき男の子を抱えながら、補導されたりしないように祈りながら自身のマンションへと運ぶのだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
右肩の肉がえっぐぅい削られ方して生身で爆風受けたやつ。
本人が負けると予感していた通り、最初から勝ち目なんてないクソイベ。
最後のクロスレイはウルトラシリーズ知ってる方だと皆さんご存知、ジード先輩の零距離レッキングバーストが元ネタ。

〇少女
誰でしょう、この完成型勇者

〇バグバズン
今回の進化……ゆゆゆ風に言うならば、昇華素材。
どうでもいいけど、こいつ以外の鳴き声も文字にすると難しい。多分もうやめる

〇融合型昇華獣 カウベアード・バーテックス・インセクトタイプ
とでも名づけるべきか。
素材のバグバズンの特性を持ちつつ、重力操作をメインに特殊能力を覚えているバーテックスとスペースビーストの融合体。
オーバーレイを受けて肉体消滅→分子分解される前に核である御魂は別の箇所へ移動→超再生→クロスレイで肉体が吹き飛ばされる→アンノウンハンドに回収されながら御魂から高速再生とかいう撃破不可能なチュートリアルクソイベ。
こいつの正体のヒントは、『熊の番人』と『アトラス』と『二頭の猟犬』。超ヒントは前回のラスト。

〇アンノウンハンド
雷みたいなのはイメージとしてはダークサンダーエナジー。
こいつの力そのもの受けてんだからそりゃあ、吹っ飛んで大ダメージ受ける。

〇遺跡/ノアの結界(?)
今までの転移。ファウストが破壊しようとしていること。セリフからして神樹様がバーテックスに対応した結界ならば、こちらはビーストに対応した結界だと予想されている。
もしそうであるなら、四国に侵攻するには結界を壊すしかない。
分かりやすい神樹様とは違い、ファウストの手が弾かれたことからストーンフリューゲルのようなオブジェクトがある神殿跡が結界を貼るものだと思われる。



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「-悪夢-ナイトメア」

長くなった。
誰だ二話か三話構成にするとか言ったやつ。
引け(分けれ)なくなったじゃん。
そんな話です。嘘です。
続きです。




◆◆◆

 

 第 14 話 

 

-悪夢-ナイトメア

 

×××

 

???編中編

????編

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た。

一つの、戦いの夢。

それは決して、現実などではない。あくまで、夢。

紡絆が夢の中だと実感し、見たモノ。

不思議な実感があったのだ。まるでアニメを見てるような、テレビを見てるような感覚。ヒーロー物のテレビを見てるだけの世界。

それは、未来。

過去ではなく、ひょっとすれば、ウルトラマンが紡絆に出した警告なのかもしれない。

その夢は、簡単なこと。

至極簡単で、単純で、終わりを意味する夢だった。

立ち向かうのは、ネクサス。メタフィールドを貼ったネクサスがファウストとバーテックスのような怪獣を相手にする夢。

ネクサスのコアゲージは鳴っていない。だが、何故かネクサスは片腕しか使っていなかった。時々右腕を使うだけで、メインは左。

二対一で捌き、攻撃を受け、吹き飛ばされ、翻弄され、ダメージを与え、光線を防がれ、最強技ですら防がれ、光線を受けて、重力を支配され、為す術なくコアゲージが鳴る。

ジュネッスとなっているネクサスは、ただ圧倒される。

どれだけ壊しても、どれだけ攻撃しても、どれだけ強烈な攻撃を与えても、どれだけ熾烈に攻めようとも、怪獣はものとしない。嘲笑うように回復し、再生し、無意味だと思い知らされる。

それどころか、ネクサスの動きを見極め、学び、凄まじい速度で学習して、叩きのめす。ビーストの特性を一段階成長させたような、習熟度。さらに、そこへファウストの力も加わる。ただでさえ厄介な怪獣に、強敵の力が入る。

どれだけ抗おうが、抵抗しようが、諦めなかろうが、未来は変わることは無い。

ネクサスの脚は砕かれ、腕を折られ、消耗し、ボロボロになり、光を奪われ、輝きが薄れる。

ただ孤独に戦い、一人で立ち向かい、その末に---負けた。

敗北した。殺される。いや、ウルトラマンが、紡絆が殺された。

そうしてウルトラマンはこの世界から消え失せ、世界が切り替わると、残ったのは守りたいものを守れず、蹂躙され、ただ壊される街並みと人間---ある者は抵抗し、ある神は人類を守ろうと結界を貼る。だが死のウイルスから生まれたヤツらが攻めてきて、抵抗する者は妨害され、神は、滅ぼされた。

それはつまり、人類の---

 

 

 

 

 

 

「ッ!? っだぁ!?」

 

心臓が波打ち、汗を流し、服はぐっしょりと濡れていた。

胸を抑え、激しい動悸と共に、意識と視界が蘇る。

勢いよく起き上がろうとした紡絆は、全身と主に肩の痛みでダウンし、天井を見た。

 

(知らない天井だ……って何回やるんだよ! 飽きたわ!)

 

同じネタをすれば、流石に飽きるもの。

口に出してなかったのが幸いと言うべきか、目覚めた紡絆は脳内(掲示板)で心配されるだけで済んだ。

 

(今のは……悪夢? それとも、俺の未来? ウルトラマンの警告? 分からない……どちらにせよ、負けたら人類の敗北ってか? まともに戦ったら勝てないことくらい、流石の俺でも分かる)

 

ただ嫌な夢、悪夢だと感じるだけで、紡絆に絶望の色などは見られない。

普段は馬鹿みたいな思考しかしない紡絆でも、こういう時は真剣だ。

 

(でもなぁ……正直、勝つ方法は知ってる。でも、方法がない。

俺に勇者としての力があれば、封印の儀を執り行うことでやつの御魂を引っ張り出せる……。

多分御魂に光線を直接撃たなきゃ消し飛ばせない。御魂の力は超再生。

ウルトラマンの光線技では肉体を破壊出来ても御魂までは届かない……樹海化は勝手に入れるから良いけど、あの世界に勇者を呼ぶ方法なんてまずあるのか? とりあえず状況整理しよう)

 

考え込んでいても、無意味だと判断した紡絆は今の状況を確認する。

右肩を抑えながら、痛みを我慢しながら体を起こして周りを見渡す。

部屋の大きさからして、マンションかアパートのどちらか。

部屋内にはダンボールがある他にトレーニングに使うような健康器具もあり、助けてくれた主の物だろう。

懐には無事エボルトラスターもあれば、部屋の中には自身のカバンもある。

そして違和感を感じて視線を肩や腕、脚に移せば、怪我をしていた箇所に包帯が巻かれていた。

 

(引っ越ししてきた人かな……。ベッドからいい匂いがする。でも申し訳ない。お礼を言って、去らなきゃ。

時刻はまだ夜……ストーンフリューゲルで傷を治して、次の戦いに備えないと。あの夢だか未来かは知らないが、片手しか使ってないってことは、傷が癒えてなかったってことか? 右肩が痛いし……やっぱり片手しか使わなかった理由これだわ)

 

携帯で時間を確認すると、まだ一日も経っていない。

勇者部のみんなから通知で返事や既読がなかったからか、心配するようなトークが来ていた。

ただ右肩は予想通りと言うべきか、削られているような窪みがある。

使えないことはないが、戦闘で多用するのは間違いなく痛みが発生して隙が出来るだろう。

 

「はぁ……腹減った」

 

思わずため息を零すと、腹の虫が鳴る。

友奈と東郷の手によってご飯を食べさせられた紡絆でも時間が夜食時だ。

カバンを探れば、3秒エネルギーチャージゼリーしかない。

腹の足しにもならなかった。

空腹という大変悩ましいことに悩んでいると、人の気配を感じる。この部屋の借主だろうか? 流石にお礼を言わずに去るほど無礼者でもない紡絆は大人しく待っていた。

そして、扉が開かれる---

 

「あぁ、やっと起きたんだ」

 

「あ……ど、どうも。この度は、ご迷惑をおかけしてすみま---」

 

「別に。邪魔だったから運んだだけ。あそこは普段使わせて貰ってるから騒ぎになると面倒なのよ」

 

(えぇ……?)

 

入ってきたのは、美少女と呼べるほどの同年代と思われる少女。

髪の色は濃い茶髪で、髪型は首くらいまでの長さのツインテール。赤いリボンで結んでいる少女だったが、鋭い目で見られたり何処か棘のあるような言い方に流石の紡絆も困惑した。

 

「えと……君が助けてくれたん、だよね?」

 

再度確認するように恐る恐る紡絆が聞く。

 

「さっきの話聞いてた? 邪魔だっただけよ」

「なるほど、助けてくれたんだな。ありがとう」

「はぁ!?」

 

妙にツンツンとしているが、残念ながらツンデレという存在を知っている紡絆にそんなものは通用しない。

すぐさま納得したようにうんうん、と頷く紡絆に対して、少女は意味不明と言うように叫ぶ。

 

「なんでそうなるのよ!?」

 

「まぁまぁ、落ち着きましょう? ほら、お茶飲む? それともご飯に……ご、ご飯にしますかね……?」

 

叫ぶ少女に対して、落ち着かせるように泣く泣く、と言った感じで3秒チャージゼリーを取り出す紡絆。

舐めてるのだろうか。正直殴っていい。

 

「どうしてそうなるのよ! てか、ここは私が借りてるマンションなんだけど!? 何勝手なこと言ってんの!?」

「細かいことは気にしちゃダメって習わなかった?」

「あ、アンタねぇ……っ! あぁああっ! なんなのよアンタッ! 頭のネジ外れてんじゃないの!?」

「あはは、よく言われる」

 

照れたように後頭部を掻いて、笑う紡絆。

皮肉すら通じないとは、流石の少女もたじろぐ。

そもそも、少女が言ったのは紡絆の本質なのだから正解である。

 

「褒めてないわよ……。はぁ……」

「ため息吐くと幸せが逃げるらしいぞ」

「アンタが言うか。アンタが」

「ん?」

 

きょとんと、首を傾げる紡絆。

ため息を吐く羽目になった原因である紡絆を睨むように少女は見つめるが、不思議とペースが崩されていることに気づく。

だからか、調子を戻すように話題を変えた。

 

「それよりアンタ、私と喋ってる暇があるなら帰んなくていいの? ご家族の方とか心配してる---」

 

「あ、俺もう居ないから」

 

「---はっ?」

 

笑いながら、それでいてあっけらかんと言う紡絆に、少女が困惑した。

だがそれでも、踏み込んではいけないはずの話題。常識を持っている少女は申し訳なさそうにした。

 

「ご、ごめんなさい……初対面の私が踏み込んじゃいけなかったわ」

 

「別にいいけど? てか、君は恩人だし。それに怪しい俺の情報を探るのは当然でしょ」

 

「自覚はあるのね……」

 

そう言いながら、なんで謝るのか理解出来ないと言った感じだが、理解出来ないのはこっちのセリフだと言いたい少女だった。

 

「ま、それよりさ。なんかお礼させてくれないか? この包帯巻いてくれたの、君だろ? 本当に助かった」

 

「別に何もいらないわよ……」

 

「………」

 

興味がなさそうに少女が紡絆から視線を外す。

紡絆は無言で見つめ、右肩を抑えたまま立ち上がった。その時にゴミ箱を透視して頷く。

 

「よし! じゃ、そこで待っていてくれ」

 

「は?」

 

「お腹空いてるだろ。調理場借りるな」

 

「別に空いてなんて---ッ!」

 

否定しようとした少女の腹の虫が、鳴いた。

体は正直なのか、否定しようとした瞬間に鳴ってしまい、少女は顔を赤める。

タイミングが問題だったのだろう。

 

「お礼くらいさせてくれ。それに、もし断ったら……」

 

「こ、断ったら?」

 

先程とは違う雰囲気に、少女は気圧されたように思わずごくり、と喉を鳴らす。

紡絆は真剣な表情で、口を開いた。

 

「料理された具材に申し訳ない」

 

「あ、そう……」

 

そして一瞬で雰囲気を台無しにした。

そんなことは知らず、紡絆は調理場へ入っていった。冷蔵庫を開け、ただ一言---

 

「うわ、予想通り全くねぇ……買ってくるか。というか、普段何食べてるんだ?」

「煮干しと弁当とサプリ」

「………普段から?」

「普段から」

「マジ?」

「別にいいでしょ、栄養に偏りがあるわけでもないし、私が決めることよ」

 

聞いた瞬間、頬を引き攣らせた紡絆。

言ってることはまともではあるが、流石の紡絆もそれはどうかと思った。

ちなみに紡絆は基本インスタントしか食わない人間なのでお前が言うなとしか言えないのだが。

 

「いやまあ、そうなんだけど……。はぁ、買ってくるから待っててくれ」

 

「いいわよ。そんなことしなくたって」

 

「俺がやりたいからやる。大丈夫だ、10分で片をつけてやる!」

 

「買い物に行くだけでしょ!?」

 

少女のツッコミを無視し、不用心にも紡絆は財布だけ持つとカバンや携帯を置いて玄関を開けて走っていく。

嵐のように去って言った中、一人残された少女は頭を抑えていた。

 

「……何なのよ、アイツ」

 

いつの間にか向こうのペースに持っていかれたかと思えば、いつの間にか料理を作られることとなった。

しかも初対面の相手なのにも関わらず、大事な荷物を置いていく始末。特に携帯電話なんて個人情報の塊だ。

パスワードがあったとしても、パスワードを解く方法なんていくらでもある。というか、ホーム画面で放置されてるのでパスワードが仕事していない。

だからこそ、少女は意味が分からないとしか思うことが出来なかった。

考えても仕方が無いため、少女は素直に待つことを選び---10分後には紡絆が袋を持って帰ってきた。

 

「お待たせ。あっ、苦手なものとかある?」

 

「特にないわね。……というか、本当に作る気?」

 

「うん。おかしいか?」

 

「おかしいって……どう考えてもおかしいでしょ」

 

「……そうか? 俺は恩を返したい。君はお腹が空いてる。ウィンウィンだ」

 

そういうことを言いたいわけではなかった少女だが、何を言っても何かと言い訳をつけて料理を作ろうとするだろう---もう作っていた。

やはり理解出来ないと少女はため息を吐き、不味かったら文句を言ってやろうくらいの気持ちで居ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

そして数十分後。

部屋中には香ばしい匂いが充満していた。お腹が空いてしまうような、いい香り。

出された料理はハンバーグ定食。ご飯、ハンバーグ、味噌汁、ニンジン、ブロッコリーに冷凍ポテト。

 

「ということで、ハンバーグだ」

 

「何が!?」

 

「まぁまぁ。召し上がれ」

 

「……変なもの入れてないでしょうね」

 

「変なものって? 普通の食材しか使ってないぞ?」

 

床に座り、怪しむようにテーブルに置かれた料理を見る少女に紡絆は不思議そうに見つめる。

まるで、そもそもそんな発想すらないような雰囲気だった。

だからか、少女は素直に一口食べた。

 

「……まぁまぁね」

 

「そっか、じゃあ良かった!」

 

「何がいいのやら」

 

味の感想を述べた少女だが、紡絆は嬉しそうに笑うと、自身も食べていく。

少女は美味しそうに食べる目の前の男の子を、ちらりと見てから同じく食べていた。

ちなみに少女とは違い、紡絆はお皿ではなく紙皿だ。箸も割り箸で、買ってきたついでに買ったのだろう。彼は無神経に家の皿を使うのではなく、気遣える男だった。

 

「だって、まぁまぁってことは不味くはないってことだろ? じゃあ普通に食べれるくらいの味ではあるってことだからな!」

 

「そ、それは……そうなるわね」

 

紡絆らしい、前向きな思考。

毒気を抜かれるような笑顔で答えた紡絆に少女は顔を逸らしながら肯定するしかなかった。

自分で言ったことから否定することも出来ないからだろう。

そして紡絆が作った料理。それは何処か暖かくて、何処か安心するような味。

彼の人格を現したかのような、他人のためだけに作られた料理は、普段弁当しか食べない少女に優しい温もりを与えていた。

 

「あ、そういや君って呼ぶの面倒だし、名前聞いてもいいか?」

 

「今更すぎるでしょ……それに名乗るなら自分から名乗るものじゃない?」

 

「それもそうだ。俺は、け---姫矢。姫矢って言います、はい」

 

確かに、と頷いた紡絆は何故か姫矢と偽名を名乗る。

少女は彼の名前を知らないので、当然の如く信じてしまう。

 

(なんだろうな、まだ名乗るべきじゃない……そんな予感がするような。お名前、お借りします。姫矢さん)

 

なお、本人も曖昧な答えしか持ち合わせていなかったが。

 

「なんで敬語? 別に良いけど……私は三好夏凜よ」

 

「じゃ……かりりん!」

 

「変なあだ名を付けるな! 馴れ馴れしいにも程があるでしょ!」

 

「あはは、はーい。夏凜ね。よろしく」

 

「い、いきなり下の名前……まぁいいわ。よろしく」

 

揶揄うために言ったのだろう。

笑いながら、すぐに修正した姫矢、もとい紡絆に夏凜は乗せられたのだと理解すると、複雑そうな表情をして挨拶を返した。

 

「ご馳走様」

 

「ん、お粗末様でした」

 

そうして食べ終えると、紡絆は紙皿などはゴミ箱に捨て、夏凜の皿を持っていっては洗う。

怪我人の割には、よく動く紡絆だった。

そしてお皿を洗い終わった紡絆は戻ってくると、夏凜を真剣な表情で見つめた。

 

「なぁ、夏凜。これも今更だけどさ」

 

「何?」

 

相変わらず、ぶっきらぼうな対応をする夏凜。だが、紡絆は気にしたような様子を一切見せないまま、口を開いた。

 

「夏凜って優しいんだな」

 

「どこが---」

 

「俺の事を深く聞かないこと。わざわざ包帯まで巻いてくれたところ。家を追い出さないところ。あと、俺の料理食べてくれたし名前も教えてくれたところかな」

 

「それは………興味が無いだけよ」

 

そっぽ向いて答える夏凜の姿に、紡絆はただ笑う。

ツンデレに相応しいツンツン具合だが、根は良いのだろう。

 

「でもさ、もし俺が襲ったりしてたらどうしてたんだ?」

 

「別に、撃退するだけ。アンタくらいぶっ飛ばせるわ」

 

「……い、意外と凶暴?」

 

「誰が凶暴よ!?」

 

ふと思った疑問を紡絆がぶつけると、夏凜の予想外の返答にかぶるっと体を震わせる演技をするが、夏凜が前のめりになって紡絆を睨む。

 

「あはは、夏凜って面白いなー」

「なんでそうなるの!?」

「はい、それよりこれ」

「アンタが出した話題でしょうが……で、これ何?」

「連絡先」

「それくらい分かってるわよ! なんで私が交換しなくちゃいけないのか聞いてんの!」

 

夏凜は気づいてないのか定かではないが、紡絆は顔が近いことを気にせず、携帯に触って操作すると夏凜に画面を見せるように差し出す。

が、突然そんなことされても夏凜の言葉が最もである。

 

「別にいいじゃん。また来たい時に連絡するからさ」

 

「なんで来ることが確定してんのよ……」

 

「夏凜に会いたいし?」

 

「………アホなの?」

 

「よく言われるけどアホじゃないぞ」

 

「それはアホなんじゃ……」

 

「アホじゃないです」

 

真顔で否定する紡絆に、ため息を吐く夏凜。

素直に諦めたのか、紡絆と連絡先を交換していた。というよりかは、拒否したら面倒臭いことになりそうと判断したのだ。

 

「夏凜」

 

「今度はなんなのよ……」

 

「ありがとうな」

 

「………ふん」

 

やはり素直ではないのだろう。

顔を逸らした夏凜の姿を見た紡絆は、優しい眼差しを向けるだけ。

なぜなら、頬が若干赤いのと感謝を受け取っていたのだから。

 

「さて、あまり長居しちゃダメだよな。俺もここいらで……いっつ……」

 

そろそろ時間的に帰らなければ、寝れないだろうと紡絆は起き上がった瞬間、痛みが再発したのか右肩を抑えては膝を着く。

そのような怪我を負っているのに料理したり買い物に行ったりしたら、それはそうなるだろう。当然のことで、自業自得だった。

 

「ちょっと……」

 

「大丈夫大丈夫。すぐ治るって」

 

「治るわけないでしょ、バカなの? それに外はもう暗いわ。帰ってる途中で倒れられたりしたら迷惑なのよ」

 

声をかける夏凜の姿に紡絆は平気というように笑うが、呆れたような表情をする夏凜は正論を述べていた。

 

「うぐ……な、何とかなるし……?」

「どうやって?」

「分からない!」

「はぁ……今日は泊まりなさい。夜は視界悪くなるでしょ」

「でも男女が同じ部屋で泊まるのは---」

「あぁもう、ウザったらしい! いい!? その体で今外に出て、倒れたりしたら色んな人に迷惑がかかんのよ! ここから出た後にすぐ倒れられたりしても私に迷惑がかかる! そんなのも分からないの!?」

「あっ、はいすみません」

 

目を逸らして答えたかと思えば、自信満々に分からないと言う紡絆。流石にイラついた夏凜は物凄い剣幕でまくし立てる。

その姿を見て、大人しくなった紡絆は反省したように正座をしていた。

 

「で、でも男女は危ないというかなんというか……」

 

「安心しなさい。触れたらぶっ飛ばすから」

 

「き、気をつけます」

 

すっかりと肩を縮こませた紡絆だったが、同時に彼は夏凜の人柄を、改めて評価していた。

いくら表に出さないようにしていても、彼女のお人好しな部分が出ている。

それはきっと、隠しきれない彼女の本心なのだろう。

 

(人付き合いが苦手で、素直じゃないだけで優しいよな。というか、典型的なツンデレといった感じか。でも、仲良く出来るといいなあ……同じ年代っぽいし)

 

ニコニコと笑顔で夏凜を見つめながら、紡絆は短時間で観察した上で整理してから夏凜の人柄を冷静に分析していた。

 

「何? 私の顔に何か付いてる?」

 

「いや、なんでもない」

 

そんなふうに見ていたのを感じ取ったのか、夏凜が訝しげな表情となって見つめ返すが、紡絆は笑顔のまま首を横に振る。

 

「……変なやつ」

 

「やめろよ、照れるだろ。よく言われるけど」

 

「褒めてないんだけど!? ったく、ほんっと変なやつなのね、アンタ」

 

呆れたように言う夏凜の言葉に紡絆の表情が笑顔から苦笑いへと変わっているが、否定はしなかった。

周りからの評価が既に変なやつ認定されてる彼からすると、一番か二番目くらいに言われ慣れてるセリフかもしれない。

 

「まぁ、でも……素直にお借りします。朝になったら出ていくから、学校あるし」

 

「はいはい、勝手にしなさい。迷惑にならないんだったらいいわ」

 

「ん」

 

こくり、と頷くと、紡絆は隅っこで寝転ぶ。

それを見て、夏凜はため息を吐いた。

 

「いや、ソファーあるんだから使いなさいよ……やっぱりバカなの?」

 

「いや、寝れたら良くない? 使ってもいいなら使うけど」

 

「こっちが寝づらいのよ。流石に私もそこまで非道ではないし」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

流石にそう言われると使うしかないため、紡絆は起き上がると遠慮がちにソファーに寝転んだ。

電気が消され、ベッドに入り込んだ夏凜の姿を見ると、紡絆は喋る---ことはせず、一瞬で睡魔によって意識が暗くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝。

時間通り朝早く目が覚めた夏凜は、眠気を覚ます。

顔を洗って、着替えて、そして何となく、ソファーを見てみれば、無防備にも寝顔を晒しながら寝ている姫矢---紡絆の姿があった。

 

「……姫矢こそ警戒するべきだと思うけど」

 

今の紡絆は、ほぼ片腕しか使えないようなものだ。

もし夏凜が本当は別の目的があったり、命を狙ってたりしてたなら、この時点で紡絆は殺される。

なのにも、警戒しない。無警戒で今も眠っており、昨日の夜だってそんなの辞書にないと言わんばかりに、一切警戒することなく、妙にグイグイと来る。それも初対面の夏凜ですら分かるほど、如何わしい想いも悪意の何一つもない純粋に仲良くしたいという善意と想いで。

それに初対面でここまで他人に隙を晒す存在は、夏凜は見たことがなかった。

バカ、とも言えるし、間抜け、とも言える。

 

(まぁ……どうでもいいか。連む気は無いしあくまで邪魔だから助けただけ。どうせこれ以上関係が続くはずがない)

 

不思議な、変なやつとは思ったが、これ以降すれ違うことはあれど、夏凜は関わることはないだろうと興味を失せたようにマンションから出ていく。

鍛錬は決して辞めること無く、しっかりとスケジュールやメニューを作ってやっている。

そうして夏凜は朝の鍛錬を行っていった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝の鍛錬を終えた夏凜が戻ってくると、鍵を使う必要もなく開いていた。

僅かに警戒しながら開くと、すぐに警戒を解いた。

なぜなら、靴がなかったからだ。鍵が開いていたということは、帰ったということだろう。

警戒して損したと言わんばかりに、息を吐くと、鍵を掛けてから夏凜はリビングへ入る。

飲み物を飲むために冷蔵庫から取り出そうと、冷蔵庫の前に立ち、開けば---

 

「……?」

 

夏凜ですら知らないお皿が入っていた。

正確にはお皿は知っているが、お皿を入れた記憶が無い。

飲み物を取り出して飲み、好奇心に従うように何かが貼り付けてある皿を取り出すと、そこには紙が貼られてあった。

目を通せば、『助けてくれてありがとう。温めて食べてください。あ、また来るからな』と書かれている。他のお皿にも紙があり、昼食とまで書かれている。

 

「……本当に、変なやつね」

 

何故か確定してる事項にため息を吐いた夏凛だが、用意された料理を棄てる---訳にも行かないため、呆れつつも渋々従って何気にバランスの整っている朝食を食べた。

その料理は---鍛錬の疲れを癒し、温もりが確かにあって、心を落ち着かせるような料理だった。

 

「なによ、美味いじゃない……」

 

悔しげに呟かれた、言葉。

コンビニ弁当しか食べてなかったのもあるが、誰かを想いやる心の籠った料理は食べる者に普通であっても美味しいと判断されるほどの、心が込められているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、夏凜が自身の部屋に入るまで木に登って監視していた紡絆は飛び降りた後、当然の如く傷が癒えるはずもない右腕と右肩に負担をかけないように左手でカバンを持ちながら家に帰り、風呂に入ってから学校の準備をしていた。

 

(さて、助けられたからには勝たないと。夏凜のことも心配だからなー。あれじゃ、誤解する人が多そうだ。根は良い子だし、それは避けさせたい。とりあえず……放課後、あの怪獣についてみんなに話してみよう。他は授業中に対策を練るしかない……転生者たちに頼るか、頼れるかなぁ……?)

 

次々と考えることが出てくるが、普段の言葉からして、真剣な場合は手を貸してくれるが、茶化してくるかもしれないと思うと、微妙そうな表情となった。

現に今もスルーしているが、罵倒されていそうだとも思う。

 

(いや絶対されてる。夏凜の家に泊まったし)

 

はぁ、とため息ひとつ零した紡絆だが、頬をパンっと叩くと気合いを入れ直した。

考えるのは後で、結局頼るしかないのだ。紡絆には昭和ウルトラマンならともかく、スペースビーストの知識はないのだから。

 

「よしっ、学校に行く---ってぇ! くっそっ!また右使えないのは嫌がらせか…!?」

 

毎度の事ながら右ばかり負傷してる気がした紡絆はビーストだかバーテックスか分からない怪獣に若干怒りを抱きながら学校へと向かった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

103:名無しの転生者 ID:INNqueu4T

で、ジード先輩見たく近距離で光線撃った結果、爆発に巻き込まれた気分はどうよ?

 

 

104:名無しの転生者 ID:xqv6FfWhY

おめぇ、ベリアル因子入ってない? 実は入ってるとか言われても違和感ないんだが???

 

 

105:名無しの転生者 ID:5hrFnYP/D

ついでにチョロそうなツンデレ女の子に助けられた気分はどうだよ

 

 

106:名無しの転生者 ID:5x7vaQ1Od

なんでイッチは行く先々で女の子ばかり知り合ってるんですかね…親友ポジおらんやんけ! 好感度分かんねぇだろ!

 

 

107:名無しの転生者 ID:ZPfhJ3dAg

ギャルゲーの世界じゃないから……

 

 

108:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>103-105

夏凜とは仲良くしたいと思った。

全身痛いけど、右肩が一番痛いので辛い。ベリアル因子とやらは多分ない。

そもそも前も思ったがベリアルって誰だよ……

 

 

109:名無しの転生者 ID:M45IuEtrw

長くてめんどいから割愛するが、基本的に善人しかいない光の国で、悪の道に堕ちた唯一のウルトラマン。後々追加で一人増えたけど、それまでは唯一だった。

宿敵であるウルトラマンゼロと何度もぶつかり、最期は自らが生み出した息子の手で引導を渡された悪トラマンゾ

 

 

110:名無しの転生者 ID:es1KUjxsE

>>108

そりゃ右肩食われてたじゃん。しかも集中的に。それで無事だったら怖いわ

 

 

111:名無しの転生者 ID:W1QSMnHHn

イッチって怪我治ったらすぐ怪我するよな。お前、マジでこの先死ぬんじゃないか

 

 

112:名無しの転生者 ID:RYcDuWmA1

なんか未知のスペースビースト出てきたしなー。マジでなんやねん、あいつ

 

 

113:情報ニキ ID:OX82Ln2AK

本当に知らないから何も言えない……

 

 

114:名無しの転生者 ID:nx25SOZdM

あれ、でもなんか分かったようなやつ居たよな?

 

 

115:名無しの転生者 ID:VABxHEinD

>>111

少なくとも自爆覚悟のゼロ距離光線なんて連発すれば死ぬだろうな……。ネクサスは他トラマンとは違って軽減されることなく、そのままダメージ還元だし

 

 

116:名無しの転生者 ID:QBFCSNYmd

>>114

一応予想はつくけど、ワイよりイッチの方が分かってると思うで。イッチの専門分野だし

 

 

117:名無しの転生者 ID:gHMTrrJoC

え、マジ? 『あの』イッチが分かるのか!? あのバカでアホで間抜けで天然たらしのイッチが!?

 

 

118:名無しの転生者 ID:F+Zfisi+t

ば、バカな……イッチはバカなのに!

 

 

119:名無しの転生者 ID:NHv5IJlBU

『あの』イッチがだと……?

 

 

120:名無しの転生者 ID:LcKaVLuv6

ロリコンのイッチが……!?

 

 

121:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

あのさぁ……君ら相変わらず俺のこと毎回めっちゃくっちゃ言うよね。俺がバカなわけないだろ! いい加減にしろ! よく言われてるけど! んなわけないじゃん!!

 

 

122:名無しの転生者 ID:wnYEU0l+B

よく言われるってことはバカってことなんじゃないですかね……?

 

 

123:名無しの転生者 ID:s9vgxPxd0

話が進まん。

イッチがバカでもロリコンでも間抜けでもハゲでもアホでも変態でも天然たらしでもバカでもバカでもバカでも百合の間に挟まるクソ野郎でもなんでもいいから早く言え

 

 

124:名無しの転生者 ID:IE2V86OG1

そうだそうだ、はよ言えや

 

 

125:名無しの転生者 ID:e5fLsyuXK

 

 

126:名無しの転生者 ID:7s5X8vEed

刺されてもいいからはよ

 

 

127:名無しの転生者 ID:XAzw1vTcm

イッチがバカなのはいつものことだし周知の事実なんだよ。どうでもいいわ

 

 

128:名無しの転生者 ID:rB/7pdplu

今更何を言おうとも無駄だから

 

 

129:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

分かったよ……あとハゲてないからな。そこだけは許さんぞ。ロリコンでも変態でもクソザコナメクジでもその辺に落ちている落ち葉でも木の枝でもいいが、そこだけは許さん

 

 

130:名無しの転生者 ID:JwL5nioeT

誰もそこまでは言ってない定期

 

 

131:名無しの転生者 ID:tvA8j525q

その若さでハゲは洒落にならんもんな……サイタマ先生でもまだ生えてた頃だわ

 

 

132:名無しの転生者 ID:cQ/DsCqHc

若いうちは髪の毛ある方が良いよね……

 

 

133:名無しの転生者 ID:P0F2QtNgL

で、それよりどうなんだ? 分かることあるのか?

 

 

134:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

あっはい。

えーと、真面目に言うと、まずあの怪獣の正体はスペースビーストであり、バーテックス。ただ黄道十二星座ではないから、お役目とは関係ないバーテックスだと思う。向こうが黄道十二星座なら、こっちは黄道十二星座を抜いた八十八星座……七十六星座の中から現れる星座型バーテックスかな?

倒し切れなかった理由は御魂が持つ能力が『超再生』だったからだと思う。恐らく御魂自身がオーバーレイの範囲外に逃れて、そこから再生された。

クロスレイ・シュトロームを至近距離で撃って爆風で吹っ飛ばされる前に確認したから間違いない。ただあれでも倒すことも出来ずにアンノウンハンドに回収されたから間違いなく俺一人じゃ勝てない相手。

そしてあの遺跡は、ノアの結界という予想が正しいと可能性が出てきた。

その理由としては、ファウストが遺跡の神殿跡を狙ったこと。以前の戦いでチャンスだったのに撤退したこと。ヤツの言葉や行動から察するに、ファウストやスペースビーストは樹海、または遺跡じゃないと戦えないんじゃないかな……じゃなきゃ、今俺を襲撃したらいい話だ

 

 

135:名無しの転生者 ID:N9dwQcbyb

なるほどなぁ……にしては、普通のバーテックスより強かったような? いや、黄道十二星座の方はイッチを完全に殺す寸前まで追い込んだから向こうの方が強いか……でも別の強さがあるんだな

 

 

136:名無しの転生者 ID:YZ6aqyUOd

でもそうか、ということは勇者の力が必要不可欠なわけだ……どうやって遺跡に連れてくるんだ?

 

 

137:名無しの転生者 ID:9S4E9HRUZ

予想が正しければ、ノアの結界ということになる。

つまり……方法はあるはず。問題は強制召喚だからイッチが勇者を遺跡に連れてくる方法を知らないということか

 

 

138:名無しの転生者 ID:Krcrbf7yO

>>134

確かに襲撃されたら今の状態で街守らなきゃだしな。で、その星座は?

 

 

139:名無しの転生者 ID:RK/p6CHZ4

多分アレだな、スペースビーストという入れ物に星座を組み込んだ……『なり損ない』がビーストと融合することで生まれる存在……なのか? バーテックスとスペースビーストの融合の名を名付けるなら、融合型昇華獣かな

 

 

140:名無しの転生者 ID:S45jbpi2R

>>139

採用

 

 

141:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>139

いいね、それで行こう。おそらく間違ってないし

 

>>138

そう! 体に刻まれていた星を線で結ぶと星座が分かったんだが、そこが問題だったんだ。

まず、一番目立つ星座は腹から胸辺りに刻まれていたもの。

星の位置からして、ヤツの中枢となっている星座は『うしかい座』で間違いはない。

神話は詳しくないが、能力は『重力操作』。うしかい座にはギリシア神話の巨人の神、ティターン神族のアトラスは両腕と頭で天の蒼穹を支えていたという神話がある。もちろん、一説だから確定じゃないんだが……その神話を組み込んだのがあの融合型昇華獣なんだと思う。しかも、うしかい座のα星アークトゥルス(アークトゥールス)はおおぐま座の後ろを着いて回ることから『熊の番人』とも言われている。

 

 

142:名無しの転生者 ID:Krcrbf7yO

なるほど、だから頭には申し訳程度に牛みたいな角生えてたし人間みたいに背筋が伸びていたのか……。それにクマみたいな毛皮もあったし

 

 

143:名無しの転生者 ID:SdiikCU0o

流石イッチ。星座については詳しい。バカだけど

 

 

144:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

いや一言多いな!?

それはさておき、問題はまだある。

その二つ目がやつの両腕を真っ直ぐにくっ付けて見ると、そこにも星座があるってこと。

両腕の星を真っ直ぐ横に結ぶと、『りょうけん座』。

そもそも『うしかい座』ってのは二匹の猟犬(りょうけん座)を従え、拳を振り上げる巨人の姿を現している星座。

だから、二匹の猟犬(りょうけん座)が居たということはそれを従える『うしかい座』ということに繋がるんだ。

それで、融合型昇華獣は二匹の猟犬を召喚した……だからこそ、星座は『うしかい座』と『りょうけん座』ということは確定した……わけなんだが、実はまだありまして……。

あ、ちなみに猟犬だが、北側は『アステリオン』、南側は『カーラ』って言われてる。α星に至ってはコル・カロリと呼ばれてるが、アステリオンとカーラでいいと思う

 

 

145:名無しの転生者 ID:Y3w2SPUwp

そんな蘊蓄は今はどうでもいいんだが、つまり星座が二つ入っていて、その上でスペースビーストと融合! アイゴー! ヒアウィーゴー!したということか? アホか? なんだよ、そのてんこ盛り……!

 

 

146:名無しの転生者 ID:cBDC1WXkZ

やったのはザギさんなんだろうなぁ……

 

 

147:名無しの転生者 ID:C25GjMBK7

イッチに厳しいなぁ……というか、まだあるのかよ

 

 

148:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

こればかりはガチで吹き飛ばされるまで分からなかったんだが、背中見たらまた二つあったんだよ……。

で、またまた線で繋げてみれば、あらまあ、不思議なことに北斗七星で知られている『おおぐま座』と親子にあたり、尾の先に北極星ポラリスを持つ『こぐま座』がしっかりと見れちゃうんですよね……なんかパワー半端ないなコイツとは思ってたが、毛皮といいクマの性質も持ってると思う。

 

神話通りなら、確かおおぐま座はギリシア神話に登場する、森や泉の精(ニンフ)の一人でカリスト。

彼女は月と狩りの女神アルテミスの侍女だったらしい。

ところがカリストは大神ゼウスに気に入られ、ゼウスの子・アルカスを授かった。そのことを知って怒ったアルテミスは、カリストを醜い熊の姿にして森へ追いやったと言われてる。

それから15年の歳月が過ぎ、立派な狩人として成長したアルカスはある日、大きな牝熊と出会う。

その大熊こそカリストで、息子だと気づいたカリストは喜びのあまり自身の姿を忘れて息子に近づいていくが、母親だとは知らないアルカスは弓を引いた。

その姿を見ていたゼウスは二人を哀れみ、カリストをおおぐま座に、アルカスをこぐま座にしたと言われていて、だから二つはよくセットとして扱われてる。

 

それから導き出されるのは、四つの星座とスペースビーストの強さが合わさった融合型昇華獣……黄道十二星座のバーテックスに引けを取らない強さを持つ力とバグバズンの強さを持った怪獣の完成ってことになるの、かな? そこはわかんない。

ただ、多分うしかい座に関連する星座全部組み込んでるのかな……おおぐま座とこぐま座は一見関係ないように見えるが、りょうけん座はおおぐま座を追い立ててるように見えると言われてるし。

こぐま座は多分ついで

 

 

149:情報ニキ ID:OX82Ln2AK

つまりイッチのをまとめると、星座であるうしかい座、りょうけん座、おおぐま座、こぐま座の特性を持ち、バグバズンの能力を継いだ新たな怪獣、融合型昇華獣。

四つの星座を取り込んでるだけあって、黄道十二星座のバーテックスに匹敵する力に、元となったビーストの特性と凄まじい学習能力を持つ…ということか。

本当にバグバズンでもバーテックスでもない、融合型ってのが似合うやつだ。でも逆に言えば、バグバズンで良かった。

大した能力はないし……だから四つ?

 

 

150:名無しの転生者 ID:4qpg50ajE

>>141 >>144 >>148-149

つまり実質ファイブキング

 

 

151:名無しの転生者 ID:Z2byvAB1Q

ファイブキングとかギンガですら二人(正確には二人と六人分の力)だしTDGですら(パワー、ミラクル、SVだから実質四人)だしゼットですら(変身者合わせて実質五人)で戦った怪物やぞ。

流石にそのクラスはない……ないよな?

 

 

152:名無しの転生者 ID:ALgoxDn6E

>>152

あったら流石のイッチもあっさり負けてんじゃないかな

 

 

153:名無しの転生者 ID:0AoKbju1P

というか融合型昇華獣とか呼びにくいな。どうせまだ出てくんだろ、その後に続く固有の名前付けないと。

 

 

154:名無しの転生者 ID:WVugzpmwF

とにかくイッチは昭和……平成……令和……神世紀のタイラント相手にファウスト含めて戦わなくちゃいけないのか。

しかも勇者必須。

 

 

155:名無しの転生者 ID:d7/0O4bjU

と言うよりは、星座四つなのは絶対とは思わない方がいいな。わざわざバーテックスとしてではなく、ビーストを使ったってことは>>138の言う通り『スペースビースト』という『入れ物』がなきゃ生まれない存在だろ。

そう考えたら一つの場合や二つの場合もあるかもしれん。

先入観は捨てておいた方がいい。むしろザギならやる。

だけど、少なくとも今回の個体の能力はタネが割れてるな。

重力操作、二匹の猟犬召喚、クマ特有の剛毛と剛腕などの身体能力。バグバズンの力。

見事なまでにバランスが整っているしバランス型かな?

それならイッチは一番は爪に気をつけた方がいいかもしれん。あれでもバグバズンは姫矢さんネクサスの脚に怪我負わせたし、それがより強化されてると思うと……厄介

 

 

156:名無しの転生者 ID:uo4IYPYaV

ただ前回の戦いで学習してるだろうからな……前と同じ戦い方で果たして勝てるのかどうか。

成長速度が未知数だ

 

 

157:名無しの転生者 ID:91I9dfPGl

そもそも勇者をどう呼ぶかも分かってないしな……

 

 

158:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

そこはなんとかするし、説明して頼んでみる。

戦い方については考えてるし、勇者呼ぶ方法は……出来るかどうか分からないけど、出来なかったら終わりだ。

実は昨日目覚める前に夢で負ける未来のようなのは見て、勇者も居ない、俺一人で挑んだ夢だった。たぶん言わなかったんだと思う。

だから一人じゃ負けるなら、みんなで勝つ未来に変えてみせる! 未来は変えれるからな!

 

 

159:名無しの転生者 ID:BABedRQv8

よう言うた! それでこそ男や!

 

 

160:名無しの転生者 ID:eQHnR0GXk

こんな時だからこそ不吉な夢は見るからな…ならお前の運命はお前が変えろ!

 

 

161:名無しの転生者 ID:ga8/HNSD8

これこそイッチやなって……!

 

 

162:名無しの転生者 ID:VX3b8Rw12

ところで右腕と右肩は右脚は平気なんですかね……?

 

 

163:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>162

右肩が一番だけど、光線を受けた背中も含めて全身すっげー痛いです(真顔)

あっ、そんなことより>>153の見て大事だなと思ったから、>>192頼んだ

 

 

164:名無しの転生者 ID:fDaPe8R8b

そんなことより……?(困惑)

 

 

165:名無しの転生者 ID:O73SZzPYo

ここで安価するんかよ!?

 

 

166:名無しの転生者 ID:4O9b4Ldx8

言うタイミング違くない? 勢いを台無しにしてて草

 

 

167:名無しの転生者 ID:8DekmkQFM

まぁ、それでこそイッチでしょ

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は学校を遅刻することは無かった紡絆は友奈と東郷と共に勇者部の部室に入ったまでは良かったが、暫く経ったというのにどう話題を切り出すか悩んでいた。

部活の方も大事にしたいという想いはあるが、遺跡のことをどう話したらいいか分からないのだろう。

 

「あー、うーん……うぅーん? あぁー……んー、……はぁ」

 

が、本人は頭を抑えながら体を曲げたりして考えるのに必死で、唸り声を出してることに気づかなかった。

今は特別誰かが依頼を行ってるというわけでもなく各々好きなことをしているので、そんな紡絆は目立っている。

 

「アレ、何?」

「えっと……私も分からないんですけど、今日紡絆くんずっとあんな感じなんです」

「何か悩み事でしょうか……紡絆先輩、あんまりなさそうですけど」

「樹ちゃん、そんなことないわ。紡絆くんも人間だから悩む時は悩むもの。ただ、今日は色々とおかしいわね……なんというか、動きも右側の方だけ普段とは違って緩やかというか鈍いし」

 

紡絆を除いた勇者部の女性メンバーたちは集まると、普段も奇行な行動が目立つ紡絆だが、それとは別で変な様子の紡絆に小声で話し合っていた。

そこでさらっとアレ扱いされたり失礼なことを言われたりしているが、当の本人はため息を吐いたかと思えば、ついには両腕を机に乗せてその上に顔を埋めている。

そしてぶんぶんと横に首を振ると、今度は後頭部を掻いていた。

周りから見ると一体何をしたいのか、はっきりいって分からないだろう。

 

「あー…あー……あーうー? ……なー」

 

しかも発声練習でもしているのかと思うような声の出し方をしている。

なお、本人は至って真面目である。

ちなみにだが、牛鬼は紡絆の背中に入って台襟から顔を出しながら寝ているので余計に真面目には見えない。

 

(俺らしくないよなー。普通に話すか。悩んでても仕方がない! 遺跡のことは結局どうしたらいいか分からないけど、なんとかなる! してみせる!)

 

そんなふうに考えた紡絆は心地の良いパンっと高い音が鳴るほどの威力で頬を両手で叩き、いざ話す---という行動に移るわけでもなく、叩いた頬が痛かったのか摩っていた。

 

「なんか自滅してない?」

「た、確かに様子が変だよ……」

「よーし、ここは私に任せて! しっかりと聞いてくる!」

「待って、友奈ちゃん。私も行くわ。気になることもあるし」

「それじゃあ、二人に任せましょうか」

「ここは部長であるお姉ちゃんの出番じゃ……」

「い、いいのよ。ほら、同じクラスメイトの方が話しやすいかもしれないし、先輩や後輩には話しにくい話題かもしれないでしょ。とにかく、頼んだ!」

「はい!」

「お任せ下さい」

 

女性陣による作戦会議を終えたのか、いてて、と頬を摩るバカな紡絆に友奈は車椅子を動かしながら東郷と一緒に近づいた。

そうして、背中を向けてる紡絆の肩をちょんちょんと友奈が突く。

 

「うお、どうした?」

 

「えっと紡絆くんの様子がちょっと可笑しいなって思って。もしかして悩み事? 相談なら乗るよ?」

 

振り向いた紡絆がキョトンとした顔で訊くと、友奈は早速本題へと入っていた。

悩んでいたのは事実だからか、紡絆は何処か納得したような様子を見せる。

 

「あー、そんな分かった? まぁ、ちょっと……」

 

「みんな分かってたわ。紡絆くん分かりやすいから……それよりも、悩みって紡絆くんの二の腕と上腕……あと右脚のことに関係ある?」

 

「え? あ、右肩と右腕という事ね……というかそれも分かってたのか? え? そんなわかりやすい?」

 

「わ、私はちょっとくらいしか……」

 

右肩から右腕にかけて動かしづらくなっていることについては隠していたつもりだが、あっさりと見抜かれていたことには紡絆は驚く。

そのことに思わず友奈にも視線を送った紡絆だったが、友奈はぶんぶんと首を横に振ってから頬を掻き、上記を述べていた。

 

「紡絆くんと友奈ちゃんのことなら大抵の事はお見通しよ」

 

「そっか。そうだな、大事なとこだし……風先輩、樹ちゃん。二人も聞いてもらっていいですか?」

 

何処か自信アリげな表情で言ってのけた東郷の言葉に特に違和感を持つことも怖がることも無く一言で片付けた紡絆は風と樹にも目線を向けて、そう言った。

 

「大事なこと? まぁ、紡絆が言うならアタシも聞くけど」

 

「あ、はい。私も……」

 

「俺もまだまだ分からないんですけどね。実は---」

 

前置きにまだ分からないことだけは伝えておきながら、紡絆は前日のことを全て包み隠すことなく話した。

昨日の夕方くらいの時間にスペースビーストと戦ったこと。その時、自身がウルトラマンと融合する前に、いつの間にか居た遺跡に三度目の転移が成されたこと。

闇の巨人であるダークファウストとバグバズンと呼ばれるスペースビーストと戦い、敗北したこと。

その理由がバグバズンを何とか倒したが、以前にも現れた紫色の闇---アンノウンハンドがバグバズンを強化し、その実体はバーデックスと合成された未知の敵、融合型昇華獣カウベアードであること。

名前から予想出来る通り、牛と熊の名に相応しくうしかい座、りょうけん座、おおぐま座、こぐま座の『うしかい座』に関連する星座全てがスペースビーストという入れ物に入り、バーデックスでもスペースビーストでもない未知の生物へ進化したこと。

能力が重力操作、二匹の猟犬召喚、クマのような剛毛と剛碗を持ち、バグバズンの力そのものも受け継いでいること。

負けた一番の理由が、カウベアードにもバーデックスと同じく御魂が存在し、超再生による再生能力が厄介なこと。

最終的にはジュネッスの光線を防がれたが、相討ちで何とか撤退させたことと、全身にダメージは残ってるが右肩からかけて右腕、右脚の怪我はその戦いでの影響だということ。

 

「---ということなんです」

 

「色々と驚いたけど……どうしてそれを言わなかったのよ? 特に遺跡なんて聞いたこともないけど?」

 

「いやー、それがですね。本当は夢、または精神世界みたいなものなんです。だから関係ないかなと話しませんでした。

それでも一度目は融合する条件だったにしても、三度も転移するとなると何かあるな…と思ったので話した次第です。

で、それが神樹様がバーデックスが出現したら貼る防護結界と同じようにスペースビーストや闇の巨人が現れたら貼られるウルトラマンの結界なのかと思ったんですよ。

実際にファウストは俺がウルトラマンとなった独特なオブジェクトがある神殿跡を狙ったり、触れようとしたら弾かれてました」

 

あくまで予想ですけどね、と付け加えて締める紡絆の言葉を聞いて、流石に関係ないと思っていたなら文句を言うことでもないと聞いていた面々は理解したように頷いていた。

 

「つまり、私たちがスペースビーストの存在を知らなかったのはウルトラマンが貼ってくれていた結界のお陰で、紡絆くんは私たち勇者のように危機が迫ると転移される……ということよね? でも、昨日の夕方なら私たちも召喚されたっておかしくないんじゃないかしら……」

 

「あっ、確かに! 紡絆くんの話だと、戦ったのはバーデックスも合わさったやつなんでしょ? なんで?」

 

「ふっ……俺が知ってるとでも?」

 

「自信満々に言うことじゃないです」

 

唯一の情報を持つものがドヤ顔で知らないと顔に出しながら答える姿に、困った表情をする。

が、冷静に飛んできた後輩の言葉には紡絆は目を逸らしていた。

 

「友奈の言う通り、そこは分からないわね。そもそもアタシたちは行けんのかね? そこの辺りはどうなの?」

 

「どうなんですかね……俺もエボルトラスターが鼓動して勝手に光って転移することしか分かりません。でも、一つだけ策としては考えてます」

 

「策?」

 

風の言葉に真剣な表情で答えた紡絆は、ちゃんと考えていたらしい。

当然分からないため、聞かれる。

 

「後で言います。で、ここから本題なんですけど……勇者の力がない俺には、怪我がありますしファウストも現れるでしょうから、次は絶対勝てません。

オーバーレイなら御魂を引き釣り出せますが、そうなると超再生を破れない…封印の儀が必要不可欠なんです。

だから……一緒に戦ってくれませんか? いや、お願いします……力を貸してください!」

 

策よりも大事なことだからか、本題へ入った紡絆は全員を見渡した後に誠心誠意を持ってお願いするように頭を下げる。

いつも一人で抱え込む紡絆のことを考えると、珍しい姿だ。だがこれは紡絆一人ではなく、全人類の命が掛かる戦い。

ウルトラマンが貼ったと思われる結界が壊されたら、現実世界にビーストが現れるかも知れない。

予想だから分からないとはいえ、『かもしれない』が事実だったなら、人類は間違いなく滅びるだろう。

ならばこそ、紡絆には選択がないのだ。もし自分一人しか関係の無いことだったなら、彼は抱え込んだかもしれないが。

後は---彼が見た、悪夢の影響もあるかもしれない。

 

「危険なのは承知の上です。お役目にも関係ありません。それでも---」

 

お役目に関係はないが、戦い。

死ぬ可能性もある戦いへ来て欲しいと頼み込んでるからこそ、紡絆は少し心を痛めながらも言葉を紡ぐ。

だが、そのことで---彼女たちが断ると思っているのだろうか。

紡絆の肩を叩く者。手に触れる者。裾を握る者。そして、顔を上げさせる者。

紡絆の顔が上がると、彼の視界には笑顔が咲いていた。

 

「なに水臭いこと言ってんのよ。そもそもアンタこそ、ウルトラマンとして戦ってくれてるじゃない」

 

「正直、隠すより言ってくれた方が嬉しかったわ。紡絆くんのこと、私も守りたいから。答えなんて決まってるでしょう?」

 

「あの……私じゃ頼りないかも知れませんけど、紡絆先輩が一人で戦うものじゃないと思います」

 

「友達が困ってるなら、助けるのは当然! 勇者として、友達として力を貸すよ!」

 

「みんな……」

 

誰もそれを断るという選択はないように、当然だと言うように頷きながら、笑顔で紡絆を見ていた。

申し訳ない気持ちはあるが、それでも頼れる仲間たちのことを見て、紡絆は嬉しそうな表情をした---

 

 

 

「ところで、すみません風先輩。そこクソ痛いんですけど」

 

「このタイミングで言うか!?」

 

「右肩削られてて痛いんですよ! 流石にこんな空気でも耐えれるかぁ!!」

 

紡絆のガチで痛そうな声が、部室内に木霊した。

相変わらず雰囲気を台無しにする姿は、流石というべきか---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、夕方。

紡絆は再び昨日と同じく、砂浜で海を眺めていた。

手にはエボルトラスターが握られており、負傷は治ってなどいない。

 

(恐らく、今日来る……。

あの夢を正夢にはさせないが、あれが本当の未来なら、左しか使ってないということ。それは回復する隙は与えなかったってことだし、俺だったらすぐ狙う。

掲示板の人たちも、同じ意見だ)

 

明日の可能性もあるが、それならそれで傷を少しでも治せるから良い。

だが、来ない可能性の方が低いというのが全体的な意見で、紡絆はその意見から考えて動いた。

そんな彼の予想を裏切ることもなく、エボルトラスターが鼓動する。

紡絆は迷うことなくスマホアプリのNARUKOでグループトークに来たことを打ち込み、送信する。

すぐに了承の返信が来たの見ると、紡絆の肉体は光に包まれ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光の眩しさによって閉じた瞳を開くと、紡絆は遺跡へと召喚された。

やはり、呼ばれる形で転移させられるのだろう。

樹海化警報が鳴るように、此方はエボルトラスターが鼓動するのだろうか。

 

「さて……ウルトラマン、頼んだ!」

 

そのようなことを考えていたが、紡絆はビーストが現れる前にエボルトラスターを空へ掲げる。

紡絆の願いを聞き入れたようにエボルトラスターから()()()()()()()()()()が空へ打ち上がり、ストーンフリューゲルのようなオブジェクトのある神殿跡に突っ込んでいくと光はすり抜け、この世界から消失した。

 

「やっぱり、ウルトラマンの力なのか……? 予想は当たってる……のかもしれないな」

 

やったのは一応思いついていた策で、実行する前に掲示板に聞いて行ったこと。

ここがウルトラマンの結界内であるなら、ウルトラマンの力なら勇者を呼ぶことが出来るのでは? ということ。

もちろんやり方は分からないからウルトラマン頼りの行動ではあるが、紡絆の信頼に応えた、とも取れる。

 

「じゃあ、後は変身---」

 

 

421:名無しの転生者 ID:05577AVup

バカ!

 

 

422:名無しの転生者 ID:NwqkC67oZ

その前に右に避けろ!

 

 

 

 

「ッ!?」

 

ふと感じた気配と掲示板(転生者たち)に従うように右に転がった紡絆は、起き上がりざまにエボルトラスターと入れ替えるように取り出したブラストショットを背後に放った。

放たれた流動弾は、頭や手足の形状が昆虫で節足動物を思わせるものの胴体は体毛に覆われていた両腕の鋏と鞭のようにしなやかな尻尾を持つナニカに直撃し、消滅した。

隣に口を開けたカエルを思わせる外見をしている明らかなスペースビーストが驚いたような、憐れむように先程まで居た仲間らしき存在場所を見ていたことから、消滅したのもスペースビーストなのだろう。

そこへ容赦なく流動弾を一発放ち、リロードした後にもう二発連続で放つ紡絆。

 

『ガォオオオ……』

 

抵抗する火球を打ち消され、悲しみに溢れる鳴き声で消滅したビースト。

その姿に、紡絆は首を傾げる。

 

「やばい……解説聞く前に倒してしまった。なんだったんだ、あれは」

 

哀れ名も知らない瞬殺されたビースト。

 

 

424:情報ニキ ID:OX82Ln2AK

カエルみたいなのはEPISODE.18に登場したアンフィビアタイプビースト、フログロス。

口からは体内の油を気化させたオレンジ色の火球を連続発射する。

設定上は地上だけでなく水中や地中でも活動することが可能と言われているが、劇中にそのようなシーンは無い。

もう一匹は同じ話とEPISODE.EXに登場するインセクティボラタイプビースト、アラクネア。

武器である両腕の鋏を使って地中を掘り進む能力を持つという設定があるが、劇中で使用されることもなければネクサスと戦うこともなくナイトレイダーにやられた可哀想な二匹だ。

ちなみに前者だけは大怪獣バトルと映画で登場した。

 

 

 

 

すぐに解説がくると、10mくらいしかなかったとはいえウルトラマンとして倒すべきだったかと若干紡絆は同情したが、消耗したくなかったので気にしない思考へ即座に移行した。

 

「ん? うわっ!?」

 

すると今度は紫色の光弾が足元の地面に着弾し、地面に転んだ紡絆は次々と飛んでくる光弾をぐるぐると横に転がりながら避けると、ブラストショットを再び放つ。

だが、放たれた流動弾は簡単に弾かれてしまった。

 

「ダーク……ファウスト……!」

 

『フハハハ……あの程度では光を纏う必要はないようだな』

 

睨むように紡絆が見つめると、正面に居たのはダークファウスト。

光弾を放ったのも、流動弾を弾いたのも、ファウストなのだろう。

 

『ん? ほぉ……まさか、その肉体で私と戦う気か?』

 

「そんなのはどうだっていいだろ。それより何故俺に付き纏う? お前の目的はなんだ!?」

 

紡絆の肉体が回復していないことに気づいたようにファウストが疑問を投げかけるが、紡絆はファウストに対して探りを入れる。

 

『私は影、無限に広がる闇の権化だ。

貴様という光が、私という影を生み出した。光があれば、自ずと影は生まれる。無論、闇もな。

貴様という光は、闇の者にとっては邪魔者でしかない』

「ややこしいな! つまり結局は人類を狙うためにウルトラマンの力を持つ俺を潰したいだけだろ! あまり変な言い回しされると分からないんだよ!」

『……低能なヤツめ』

「誰がバカでアホで間抜けで天然だ!? バカって言った方がバカなんだぞ!」

『何を言っているんだ……?』

「今度から分かりやすく話せと言ってんだバカ。バーカバーカ!」

『フン、貴様の無駄な知恵をこんなことで回すよりも、貴様が光であるならば、言葉ではなく行動で示すといい。さぁ、纏え光を! 纏わなければ滅ぼすだけだ!』

「無駄な知恵って……なんて嫌なこと言いやがるんだこいつは…! でも、そんなことさせはしない! みんなの明日を、お前のような影に覆わせるわけにはいかないんだ!」

 

子供のような煽り方をした紡絆だが、ブラストショットを収納すると、エボルトラスターを取り出す。

それと同時に、近くで暗雲が立ち込め闇の中からカウベアードが現れ、紡絆は内心で舌打ちした。

 

(まだ友奈たちは来てない……! これ以上の時間稼ぎは無理か! だったら来るまで戦うまでだ!)

 

そう、あくまで紡絆が会話に持ち込んだのは、時間稼ぎ。

だがそれは無理になったようで、巨大化したファウストを見ながら紡絆はエボルトラスターの鞘を左手で持って左腰に構え、右腕で本体を前方に引き抜く。

 

「バカにしたのは許さないからな!」

 

---時間稼ぎのはずなのだが、本当は根に持っているのかもしれない。

それはともかくとして、前方に引き抜いた本体を右腕を後ろから前に回して本体を空に掲げた。

その瞬間、紡絆は眩い光に包まれ、その肉体を銀色の巨人の姿へと変貌させる。

 

『うっ……シェアッ!』

 

『ギィェアア!』

 

全身が痛むのか、僅かに止まったネクサスだが、気合を入れるように両腕を勢いよく振り下ろすと即座に腰を深く落とし、アンファンスの姿で走り出す。

迎撃するようにカウベアードが同じく走ってきて、ネクサスは手刀の形を作って腹部を横から打ち付け、さらに素早く回転して腕を叩きつける。

そしてジャンプし、顎元へ蹴りを決め込んだ。

カウベアードは吹き飛び、蹴り込んだ際に倒れたネクサスは起き上がると---

 

『ディェヤッ!』

 

『ぐあっ!?』

 

ファウストの拳による一撃を顔面に受け、顔を抑えながら反動で一歩下がると、()()を殴られ、抑えた瞬間には蹴り飛ばされた。

 

『……デェア!』

 

『ガァァアアア!』

 

『ハァアアア……!』

 

二頭の猟犬が現れ、棍棒を捨てたカウベアードの両手の爪には赤いエネルギー色が纏われる。

ファウストを含め、四体一。

油断なくネクサスは見据えながら、右肩をひと撫ですると問題ないと判断したのか、アームドネクサスから光の鞭、セービングビュートを形成して武器のように構えながら警戒していた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方で、忘れては行けないだろう。

勇者部の女性陣は、集まって待っていた。

何かをする訳でもなく、ただスマホを持って、勇者のアプリをいつでも起動させられるように待機しているだけ。

 

「このままで良いのかな?」

 

「紡絆先輩からの通知を見たら、十分くらい経ってますけど……何も来ないですね」

 

「うーん、紡絆は何とかするとは言ってたけど、本当に大丈夫かしら」

 

だが流石に時間が経っていると、心配になるのだろう。

そもそも本人が方法も分からないと言ってる時点で、賭けに等しい。

 

「友奈ちゃん、みんな、あれは?」

 

その時、ふと窓側を見た東郷は何かに気づいたように指差していた。

東郷の言動にそれぞれ反応すると、窓側を見る。

 

「え? なになに?」

 

「何かのお祭り……なわけないでしょうね」

 

「と、というより近づいて来てるような……」

 

「あれは……光?」

 

突然打ち上がった光に注目していると、徐々に近づいてきている。

そのことに気づいた勇者部の女性陣は訝しげになるが、光は四つに別れ、突如として加速した。

 

「わ、こっち来てる!?」

 

「しかも増えてるじゃない!」

 

「ど、どうしよう……」

 

「待って。あれが紡絆くんが言ってた方法なのかもしれません」

 

「ということは……えっと、みんな! そろそろ準備!」

 

「「は、はい!」」

 

「わかりました」

 

流石に慌てていたが、東郷の言葉ですぐに風は指示を出す。

その直後、光は加速後に窓へ突っ込み、壊すこともなくすり抜けると、友奈や東郷、風や樹たちは思わず目を閉じた。

何も無いことに直撃した彼女たちは目を開くと、光が優しく、暖かく包み込んでいるのを感じる。

そして四人は、目が開けられないほどの眩い光に照らされた---

 

 

 

 

 

 

 

四人が再び目を開け、視界が鮮明になると、その場所は変わっていた。

先ほどまでいたはずの勇者部の部室のような雰囲気も場所も何一つなく、夕陽に照らされる遺跡の世界。

何個か建造物があるが、一番目立つのは何らかのオブジェクトと思われる独特な巨大な神殿跡。

 

「ここは……?」

 

「ここが紡絆くんの言ってた遺跡……あの神殿がウルトラマンの結界が貼られている場所かしら」

 

「紡絆先輩は何処に……」

 

「探すのは後! 先に変身しておくわよ!」

 

周りを見渡していた四人だが、ハッと気づいたように風はみんなに言うと、勇者としての力をその身に纏う。

それぞれ違う色の花が咲き、戦うための力を身に纏うと、勇者としての強化による効果か、視界に捉えたものがあった。

 

『シュア……デアッ!』

 

『フン、フアアァァ!!』

 

『ギィャァオオオオ!』

 

それは、空。

空中で浮くファウストとセミのような長く透明な羽を生やしたカウベアード。

そしてネクサスがマッハの速度で戦い合っている。

あらゆる方向へ飛び回る空中戦。

ネクサスが形成した光の鞭がカウベアードとファウストへ向かうと、両者はそれを弾き、ネクサスはしなやかにあらゆる方向から振るうことで攻撃をする。

鬱陶しくなったのか、闇のエネルギーを纏ったファウストが手刀で打ち消し、赤いエネルギーを纏ったカウベアードが爪で打ち消す。

しかし素早く接近していたネクサスがアームドネクサスのエルボーカッターでカウベアードの肉体を切り裂くと、一瞬にして再生。

空中で一回転することでファウストの攻撃を躱したネクサスに対して、カウベアードが爪を振り下ろす。

それを逸らし、腕を掴みながら投げるために背中をカウベアードに向けると、阻止するようにファウストが僅かな隙間の背後からネクサスを蹴り飛ばす。

蹴り飛ばされたネクサスは両手足を広げることで空気抵抗を減らし、ブレーキと同時に、振り向いて光刃からパーティクルフェザーを飛ばすと、ファウストが手の先から放つダークフェザーで相殺。

爆発の中、口から紫の弾を吐き出したカウベアードの攻撃がネクサスへ向かい、爆発の中から突然来た攻撃にバリヤーを貼ることを間に合わないと悟ったネクサスが両腕をクロスすることで防御する。

 

『う……アアアアァァ!?』

 

だが、それは重力の塊。

受け止めきれない重力のエネルギーに耐えきれず、ネクサスは墜ちていく。

墜ちながらもネクサスはアームドネクサスを輝かせ、両腕を横に振ることで塊を真っ二つにする。

 

『ハァ……ハァ……デェヤッ!』

 

『ハアッ!』

 

加速し、一回転しながら勢いを殺すことなくファウストが脚を振り下ろす。

右腕を前に出し、それを腕でガードしたネクサスは、即座に退いた。

瞬間、カウベアードの突進が見事に空振るが---

 

『ガルゥ!』

 

『グルル!』

 

『ぐううっ!?』

 

カウベアードの両腕にある紐のようなものが光ると、二匹の猟犬が出現。

ネクサスの両腕を封じるように噛みつき、さらに通り過ぎたカウベアードの尻尾がネクサスの首を掴む。

そのまま突進の勢いを殺すことなく真っ直ぐに地面へ向かっていくことから、このまま行けば地面に叩きつけられるだろう。

だがそれは---この時点で()()()()()()()()、だ。

 

「自ら来てくれるなんて、ねっ!」

 

「お姉ちゃん、こっちは私が……!」

 

「紡絆くん!」

 

『フッ!? ……ジュワッ!』

 

風が跳躍し、大剣を横にして構える。

樹のワイヤーが一匹の猟犬を掴む。

そして風の大剣が振るわれると猟犬は吹き飛び、もう一匹は樹のワイヤーによって投げられる。

さらに友奈が拳を強く引き絞りながら跳躍し、東郷の狙撃銃による射撃が尻尾に直撃し、拘束が外れる。

ネクサスは驚いたような反応をしながらも頷いて真っ直ぐに上昇し、友奈の引き絞った拳がカウベアードの腹部を殴り飛ばした。

 

『何故勇者が……ハッ!?』

 

『ヘェアッ!』

 

上昇したネクサスが固まっているファウストに近づくと、体を抱いて一気に下降。

そのまま地面にぶつかる寸前で投げ、ネクサスは転がるように着地する。

 

「紡絆くん、大丈夫?」

 

「お待たせ! あれ殴ったけどちょっと硬いね。効いてる感じしないかも」

 

「アイツが封印が必要なわけね。確かに厄介だわ」

 

「間に合って良かったです……」

 

各々言いたいことを言っているが、ネクサスは平気というように頷く。

そして視線を一人一人に移し、腰深くではなく、いつものように力強さを感じさせるような構え方をした。

 

『シュア』

 

「とにかく、あれは封印の儀が必要みたいだから、重力には気をつけつつ、封印するわよ! 紡絆はファウストだっけ、抑えられる? 東郷はウルトラマンの援護をしながら、あたしたちの方もいけそうならお願い」

 

「はい!」

 

「うん!」

 

「了解です」

 

ネクサスが頷き、勇者たちにも部長をしてるだけあって相応しい指示をする。

それに答えた勇者部は各々の武器を構えた。

 

「紡絆くん、気をつけて」

 

東郷はネクサスを見ながら言うと、距離を離す。

安全なところから射撃するために離れたのだろう。

 

『まぁいい。性能を確かめるいい機会だ』

 

『ギァオオン!』

 

起き上がったファウストとカウベアードよりも先に、二匹の猟犬がネクサスに飛びかかる。

 

『ハアッ!』

 

ネクサスは冷静に腕を振ると、光が水に落ちたような音がした。

美しい水の波紋のような光が、水面に流れる波紋のように、ウルトラマンの表面を流れる。ネクサスは二匹の猟犬の下を前転で回避し、前に踊り出ながら姿が一瞬で変わる。

銀に染まっていた体は、赤や黒の比率が高い体へ変わり、胸部の生体甲冑を形成する胸部にはコアゲージが現れ、その姿を赤いジュネッスへと強化変身させた。

 

「やああぁぁ---ッ!」

 

「ええい! 邪魔!」

 

ネクサスが避けた二匹の猟犬は友奈と風の一撃に叩き落とされ、ネクサスはジュネッスに変身すると同時に両腕のアームドネクサスを左側で十字に組み、手首に青い輝きの粒子を右手に集めて大きく右側に弧を描く。

そして脇を絞ると、右腕を掲げて光線を空高く撃ち上げた。

光は途中で止まり、そこからドーム状の黄金色の光がこの場の全員を包み込んだ。

 

『自ら命を削るとは……愚かなヤツめ。無駄だということを知るがいい!』

 

ファウストが嘲笑うと黄金色の空間の中、両腕を上に向けることで黄金色の空間を赤黒いエネルギーが覆い尽くす。

光は呑み込まれ、世界は汚染された闇の世界へと変貌する---ダークフィールド。

だが、ネクサスは気にした様子はない。

恐らく、貼ったのは神殿跡を守るためだろう。

ここから始まるのは、命懸けの戦闘(三分間の制限時間)

 

『フゥ……デェヤッ!』

 

両拳を構え直し、ネクサスが一気に走る。

彼の背後からは銃弾が横を過ぎ、ファウストがダークシールドで銃弾を防ぐ。

そこをネクサスがシールドを殴り、弾かれる。

シールドを打ち消したファウストはネクサスの脛を蹴り、怯んだところで拳の甲を横に振るうことでネクサスを横へ吹き飛ばした。

援護するように飛んできた銃弾を避け、超人的な視覚で東郷の場所を割り当てたファウストはダークフェザーの構えを取るが、ネクサスが背後から羽交い締めする。

 

『フンッ!』

 

『グハッ……!? デェアッ!』

 

暫く抵抗していたファウストだが、胸部に連続で肘打ちして拘束を外す。

が、膝を着いたネクサスはすぐに地面に手を着いてくるりと半回転しながらファウストの足を巻き上げるように蹴り、ファウストが浮いた瞬間には銃弾が何発も襲った。

 

『グウゥ……!?』

 

『シュ…! へアッ! デェアッ!』

 

体勢を整えることが出来ずに転んだファウストに対して、ネクサスは跨るとファウストの胸を手刀で叩き、顔面を殴り、肩を拳で攻撃する。

攻撃を受けていたファウストだったが、ネクサスの両腕を掴むと脚を利用して後ろへ投げ飛ばした。

ネクサスは受け身を取るが、即座に転がりながら起き上がり、互いに様子を見るようにネクサスとファウストは向き合って構えながら、回るように動いていた。

 

「いい加減しつこい!」

 

「やっ! はっ! ハアァァ!」

 

一方で、風と友奈は何度も向かってくる猟犬を迎撃していた。

大剣という振るうことに時間を掛かる部分を樹が拘束することで時間を稼ぎ、ワイヤーで縛り上げながら目だけで通じ合い、大剣を振り翳す瞬間には拘束を解いて直接ダメージを。

友奈は流れるように拳から足技へ移行し、蹴り飛ばす。

すると、ついに猟犬は消滅する。

 

「友奈! 本体行ける!?」

 

「はい! 片付け---わぁ!?」

 

「また〜!?」

 

消滅したはずの猟犬は復活し、今度は勇者を無視する。

凄まじい速度で地面を蹴りながら通り抜けられた友奈たちは思わず後ろを見るが、そこにはファウストと向かい合っていたネクサスがいる。

 

『へアッ!? ぐっ……シュワッ!』

 

反応したネクサスがパーティクルフェザーを飛ばす。

二匹の猟犬は回避し、ネクサスへ飛びかかった。合わせるようにファウストも殴り掛かり、どちらを優先すればいいか分からないネクサスは迷い、先に飛んできたファウストの攻撃を顔を逸らすことで避け、連続攻撃を下がらないようにしながら手で落とし、弾き、防いでいく。

 

「お姉ちゃんと友奈さんは本体をお願いします! 紡絆先輩への援護は私が……!」

 

「でも……」

 

「風先輩、行きましょう!」

 

「分かったわ、頼んだわよ!」

 

「うん!」

 

友奈と風はカウベアードの方へ。

樹は今にも噛み付こうとしている猟犬の一匹をワイヤーで拘束すると、地面へ叩き落として細切れにした。

残る一体の方へワイヤーを向けるが、間に合わない。

ワイヤーが伸び、猟犬の口が開く。

 

『ッ!? デェア……!』

 

「間に合わない……!」

 

右肩を庇うようにネクサスが猟犬に対して、ファウストの腕を掴むと位置を変えて左肩を向ける。

大ダメージを負うよりも、傷を増やす方を優先したのだろう。

ワイヤーは伸びていくが、一手足りない。

そして、猟犬はネクサスの左肩を噛み付き---牙が触れる直前で、大量の風穴を空けながら吹き飛んだ。

樹の傍へ、降り立つ一人の影。

 

「紡絆くんの邪魔はさせない……!」

 

「東郷先輩!? 遠くから撃ってたんじゃ……」

 

「位置があの巨人にバレてたから、移動してたの」

 

「な、なるほど……助かりました」

 

そう、正体は東郷。

手に持つのは、散弾銃(ショットガン)

至近距離で撃てば撃つほど威力が強くなるそれを、至近距離で当てたのだろう。

 

『シュアァッ! デアッ!』

 

『グオッ……!?』

 

ネクサスは即座に前蹴りでファウストを吹き飛ばすと、東郷と樹に頷き、カウベアードに指差した。

そこには、口から吐く重力弾を避けながら近づき、攻撃を加えつつも封印には至れてない友奈と風の姿が。

 

「そう、分かった。樹ちゃん、私たちは友奈ちゃんと共に封印を」

 

「え? でも……」

 

「紡絆くんは、ウルトラマンは私たちを信じてる。だから、向かうように言ってるのよ。私たちはそれに応えましょう?」

 

「分かりました。行きましょう!」

 

ネクサスが言いたいことを理解した東郷は頷くと、樹を説得して援護へ向かう。

ネクサスは拳を構え、ファウストと再び向かい合った。

 

『時間稼ぎか……だが、貴様の光を奪ってから奴らも始末すればいいだけのこと』

 

『フッ……デェアァァアアアア!』

 

『ハアアァァァァァ!』

 

そうはさせないと、ネクサスがファウストへ駆け出す。

ファウストも駆け出し、ネクサスとファウストは互いに拳を突き出し、交差した。

そして互いに振り向くと脚を上げてぶつけ合い、戻すと肘同士を打ち合う。

そこから背中合わせとなって互いに投げようとしていた。

完全なる、互角の戦い。しかし追い詰められているのは闇を強める空間であることから、制限時間があって肉体ダメージも引き継がれているため、徐々に弱っていくネクサスであることは、両者共に理解していた。

なればこそ、ファウストは撃破しなくとも時間稼ぎすればいい。だからこそ、ネクサスは勇者たちを向かわせた。

その光景は、まさしく光と影に相応しい。

そしてまた、その光景は前回のお役目でウルトラマンが勇者を助けていたように、今度は勇者がウルトラマンを助けるという綺麗な共闘関係になっていた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫色の空間が、カウベアードから一定の範囲を覆っていた。

そこには二人の少女が精霊によるバリアに守られながら、地面に伏せている。

 

「友奈! 動ける!?」

 

「んんーっ! 重たくて、難しいです……!」

 

「そっちもか……!」

 

大剣を地面に突き刺してそれを頼りに何とか起き上がる風と気合いで起き上がることに成功している友奈。

しかし、そこはカウベアードによって作り出された重力場。

起き上がることに成功したところで、動けるとは限らない。

 

「うう、急がないと紡絆くんが危ないのに……!」

 

「どうにかして攻略法を……」

 

精霊のお陰でマシとはいえ、三分間しか時間はない。

だからこそ、冷静に見極めるしかないのだが、方法がなかった。

このままだとただ時間が過ぎるだけで、何も出来ないまま終わる。ダメージは与えても、封印まではいっていないのだから。

しかし---戦況なんてものは、一手でもあれば、優に変えることは出来るのだ。

 

「友奈ちゃん、風先輩。構えて!」

 

「投げます!」

 

突如として銃弾の雨が襲い、重力を操るだけで動けないカウベアードは肉体で全て受けるしかない。

火薬の煙で見えなくなったからか、それとも怯んだからか、重力場が消える。

そして樹のワイヤーが伸び、風と友奈の体に巻き付くと二人を持ち上げ、そのまま投げた。

 

「え、よ、よーし! 勇者ァ---」

 

「樹ぃー!? お姉ちゃんまだ良いなんて一言も言ってないんだけどぉー!?」

 

カウベアードに飛んでいく友奈と風だが、友奈は拳を引きながら力を溜め、風は文句を言いながらも大剣を巨大化させていた。

移動する必要もないからこそ、当てることだけに集中することが出来る。

 

「パァァァァンチ!!」

 

「でええぇええい!!」

 

『ギャァオ!?』

 

そして、二人の渾身の拳と大剣はカウベアードの両腕を破壊する。

さらに射撃とワイヤーが肉体を傷つけ、ダメージを回復させる隙を与えない。

 

「まだまだーっ!」

 

「畳み掛けるわよ!」

 

着地した友奈と風も攻撃に加わり、大ダメージとは行かなくとも、少しずつ地道に傷を増やしていく。

再生、ダメージ、再生、ダメージ、再生、ダメージ、再生---

 

『イィギィギァ!』

 

「きゃっ!?」

 

「んな!?」

 

「わぁ!?」

 

「っ……!」

 

だが、簡単にやれるようではウルトラマンが苦戦するはずもない。

バグバズンの部分である尻尾が友奈と風に噛みつき、バリアが発動するとそれごと蹴り飛ばし、樹と東郷に対して再生した腕から爪による斬撃を飛ばす。

何とか避けた二人に重力弾が放たれ、精霊が防ぐ。

さらに、何かが点滅する音が勇者たちの耳に響いた。

 

「紡絆くんの制限時間が……!」

 

「お姉ちゃんと友奈さんは大丈夫みたいです!」

 

「よかった……早く封印の儀を執り行わないと」

 

再び遠距離と中距離による射撃とワイヤーが顔を狙って放たれる。

カウベアードは鬱陶しそうに爪で防御すると、走るように向かってきた。

 

「えい!」

 

「隙だらけ!」

 

『ギィェェ!?』

 

即座に復帰した友奈と風が防御していた爪の部分を、押すように拳と大剣で殴る。

すると殴られた際の衝撃によって顔を守っていたカウベアードの爪は自身の顔に食い込み、痛そうに抜きながら悶えていた。

 

『ギャオオオオオ!』

 

「これで---ってはやっ!? どんだけ再生が速いのよ!」

 

「おりゃー! この! えい! やぁーッ!」

 

まだ空中にいる友奈と風に、再生したカウベアードの怒りの爪による攻撃が振るわれる。

友奈はわざと落下することで避け、カウベアードの膝を踏むと飛び越えて尻尾に跨る。それから何発も殴り、風は樹が間一髪のところで引っ張ると、視線を送って空中で解いてもらい、肩に乗ってから何度も叩きつけるように斬る。

樹と東郷は足を止めるためか、樹のワイヤーが足に絡みつき、銃弾が足元を攻撃する。

今も戦えているのは、勇者が持つ特有の精霊のお陰だろう。

衝撃などは走るために気絶する可能性はあるが、ダメージは吹き飛ばされるくらいならば防げる。何よりも、ウルトラマンとは違って彼女たちは小さい。

だからカウベアードにとっては攻撃が与えにくいのだ。

その分、ダメージはウルトラマンよりも圧倒的に低いのだが、何人も居れば厄介であることに変わりはない。

 

『グゥゥルラアアアアァァ!』

 

「わわ!?」

 

「何処から取り出したのよコイツ!?」

 

足は止まったものの、カウベアードが尻尾をブンブン振ったため、友奈は尻尾から投げ出され、風はぺちっと蚊を払うように爪で弾き出される。

しかも怒り狂ったように棍棒を投げ、離れた位置にいる東郷と樹は攻撃を中断して避ける。

流石に怪獣クラスの棍棒となると、人間からすれば凄まじくでかいのだ。

 

「一体どうすれば……。ウルトラマンみたいな威力を出さないと……」

 

「再生を上回るほどのダメージが必要……みたいですよね」

 

体勢を整えるために弾き出された友奈と風も東郷と樹と合流し、その身を岩場に隠した。

そこで変わらない戦況に悩ましい声が呟かれる。

避けることは何とか出来る。

攻撃も精霊が守ってくれたため、此方に致命傷はない。

しかし、いくらなんでも再生が速すぎた。ウルトラマンの光線にも対抗する再生能力は、ダメージは間違いなく入っていても封印するに至るまでにはいかない。

それどころか、与えたはずのダメージ量を超えるレベルで再生されているため、一度に致命的なレベルでダメージを与えなければ封印は不可能。

さらに彼女たちからみると既に互角から劣勢に変わったため、ウルトラマンである紡絆が追い詰められている姿が見える。

流石にダークフィールドであること、コアゲージが鳴っていること、怪我が残ったままなのもあって、ずっと互角というのは無理なようだ。

 

「うーん……ウルトラマンみたいな……上回るダメージ……。あ、これだ!」

 

「友奈? 何か思いついたの?」

 

焦る気持ちもある。

しかしそこで友奈が視線を周囲に向けていると、気づいたように声を挙げた。

代表してか、風が疑問を投げかける。

 

「あれ、使えませんか!?」

 

そう言って友奈が指差すのは、先ほどカウベアードが投げた棍棒。

巨大なため、一人では持つことすら叶わないであろう質量があるだろう。

 

「あれは、さっきの……? 流石に持てなくない?」

 

「いえ、風先輩。持つ必要はありませんよ。

流石友奈ちゃんね、あれをぶつけれたら、きっと行けるわ」

 

「でも、どうすればいいんでしょうか……」

 

「まず下準備をしましょう。ひとつ思いついたわ」

 

考えがある、と言うように同じ場所で暴れ狂うカウベアードの姿を見ながら、一同は棍棒へ隠密しながら向かっていった---

 

 

 

 

『ウワァァアアアア!?』

 

ドォオオオーン! という凄まじい音が周囲に響き、砂埃が舞う。

コアゲージによる点滅が始まったネクサスはダメージが響いているのか、右肩を庇うように戦うようになっていた。

しかし今さっき、空中戦をしていたところでファウストに叩き落とされたところだ。

 

『ぐぁ…ウウッ……。アアァァ………』

 

『エネルギーが少なくなっているようだな。今楽にしてやろう……ん?』

 

痛みに悶えるネクサスの傍へ降り立ったファウストが、光線を打つための動作に入ろうとした瞬間、何かに気づいたように視線をネクサスから変えた。

そこには、棍棒のところで何かをやろうとしている勇者たちの姿がある。

ファウストからすると人間の無駄な足掻き、とも見れる姿。

 

『やつは暴れて何をしている……? まぁいい、何をしようとも無駄なことだ』

 

カウベアードに視線を変えたファウストは勇者もネクサスもいないのに暴れる姿に呆れたような視線を向けるが、興味を失せたようにネクサスの首を押さえ、持ち上げて締め上げる。

ネクサスは引き離そうと両手でファウストの腕を掴み、外そうともがき苦しむが、弱まっているせいかビクともしない。

 

『気が変わった。このまま貴様の光を奪ってやろう……!』

 

『ヘエェ!? ぐ……!』

 

『フンッ!』

 

驚いたような声を漏らし、ネクサスの抵抗が強まる。

だがファウストが近くの岩に勢いよくネクサスを押し付け、抵抗が緩まった。

 

『がは……!?』

 

その隙にファウストがさらに力を加え、腕を掴んでいたネクサスの手が少しずつ外れかけていた。

コアゲージは鳴り、勇者はカウベアードの相手。助けに来ることなど不可能。

首を絞められて意識が薄くなっているのか力も抜けてきている。

そんな中で、ネクサスはファウストを見るのではなく、その後ろを見ていた。

その先に居るのは---

 

 

 

 

 

 

「これで良いですか?」

 

「ええ、あとは引きつけるだけ!」

 

「よぉーし、トドメの準備よ! 構えておきなさい、友奈!」

 

「はい! 結城友奈、準備OKです!」

 

仲間の、勇者たちだった。

カウベアードの物である棍棒を樹のワイヤーがミサイルのように斜めに固定し、段差あるところから巨大化させた大剣を風が斜めに構える。

その大剣の背後には友奈が拳を振り絞り、東郷はそれを見て射撃を始めた。

 

『グァア!? ギァオオオオォォン!』

 

「来た……! 樹ちゃんはタイミングを合わせて! 風先輩、友奈ちゃん! 後はお願い!」

 

東郷の射撃によって気づいたカウベアードが空想通りの怪獣のように土埃を発生させながら走ってくる。

もし普通に撃っていれば、何か警戒していたかもしれない。

だが、カウベアードは怒っている。

バーテックスとスペースビースト、その二つの融合型昇華獣に感情があるのかは定かではないが、怒りに支配されているやつは、自身を怒らせたちっぽけな存在を殺せるチャンスが来た、と向かってきている。

作戦通り、と言った感じで東郷は射撃を続け、途中で散弾銃に変えながら射撃を繰り返す。

やはりダメージは効いている様子はないが、まんまと策にハマったということに気づいてないカウベアードは警戒もなしにドンドコ接近していく。

 

「樹ちゃん、行くよー! 風先輩、打ちます!」

 

「ドンと来なさい!」

 

「いつでも大丈夫です!」

 

「今!」

 

友奈が声を掛け、問題ないと分かると東郷がタイミングを言う。

その瞬間、風が大剣を棍棒にぶつけた。

その程度では、何も動かない。

しかし---

 

「全力全開! 勇者ァァァァ---パァァァァンチィイイイイイ!!」

 

友奈の拳が大剣の裏を全力で打ち込み、凄まじい力の衝撃が加えられると押していた風の大剣がより押し出され、同時に固定していた樹のワイヤーが解除される。

巨大化した大剣を殴り飛ばす力が加えられた大剣は固定を解除された棍棒を、それこそミサイルのように凄まじい速度で打ち飛ばした。

 

『ギェ!? ギィヤアアアオォォーン!?』

 

衝撃が加わり、凄まじい速度で飛んでいく棍棒を全力で走っていたカウベアードは避けることも急に止まることも出来ない。

そのまま一直線に進む棍棒はカウベアードの胸に直撃し、貫通して仰向けに倒れた。

 

「封印開始!」

 

そのチャンスを逃す、勇者たちではない。

四人でカウベアードを囲むと勇者たちの傍に精霊が出現し、封印の儀が始まる。

仰向けに倒れているため、カウベアードの背中の下に光の円陣が現れ、それと同時に口から逆さになった四角錐の物体が吐き出される。

そう、彼女たちはやって見せた。

ウルトラマンの信頼に応え、封印の儀を成功させた。それもウルトラマンの力を借りず、人間の一番の武器である発想力で。

 

『なんだと……っ!?』

 

異変を感じ、振り向いたファウストが驚愕する。

無駄だと、無意味だと断定していたにも関わらず、融合型昇華獣であるカウベアードが目の前にいるウルトラマンの力もなく御魂(弱点)を露顕させられてしまっている。

ならば、ネクサスは、紡絆も応えなければならない。

その信頼に。信用に。応えてくれた勇者たちに。

勝利を収めなければならないのだ。

 

『ハァァァ---』

 

『なっ---』

 

弱っていたネクサスの姿が嘘のようにファウストの腕を掴む力が強まると、両腕を首から引き離し、ファウストの両腕が左右に離れる。

驚愕していたファウストはネクサスの底力にまた驚かされていた。

 

『デェヤァアアアアァァァ!!』

 

『グワァアアアァァ…!?』

 

そして開かれたところをネクサスがファウストの両腕を一気に押し出すことで跳ね除ける。

するとファウストの足が地面を大きく離れては浮き、隙だらけとなった胸にネクサスは全力の右拳を振り抜いた。

防御することも出来なかったファウストは叫びながら吹き飛ぶ。

 

『ハァッ! ハァァァァァァ……』

 

吹き飛び、倒れたファウストに向かってネクサスは両拳を作りながら両腕をエナジーコアの前でX字を作ると白い光を纏い、左腕を上から左に、右腕を下から右に回していき、最初とは真逆で右腕が上に、左腕が下になることでZのような形を作る。

すると丸く形作られた白い光がエナジーコアに収束され---

 

『テヤッ!』

 

右脚を一歩前に踏み込み、両腕を左右に振り払うのと同時に、エナジーコアから強力なエネルギー光線を放射するオーバーレイと同じく分子分解能力を持つ超熱量光線---『コアインパルス』。

 

『ウグ……ウワァァアアアアァァァ!?』

 

ネクサスのエナジーコアから放たれたコアインパルスはファウストへ真っ直ぐ進み、体を起こしたファウストの胸に直撃。

もう一度吹き飛ばした。

 

『アァァッ………。グォォ……! こ、今回はここまでだ……!』

 

『フッ!?』

 

分子分解される前に吹き飛んだからか、ダメージに悶えるファウストはそんな捨てセリフを吐くと、一瞬で姿を消した。

驚くネクサスだが、即座に思考を入れ替えると、勇者の方を見て跳躍する。

 

「えぇい! わ、私でもダメ!」

 

「私のも通じない……!」

 

ワイヤーによって移動させられないように固定された御魂を破壊しようと攻撃をしていた友奈たちだったが、御魂の再生能力が超再生、それも超高速再生なのもあって破壊しきれていなかった。

 

「全員ダメか……。封印の時間もあと僅かだけど……ん?」

 

「あれ……変わってる? ということは、紡絆先輩……!」

 

そんな中、封印の儀の制限時間を見て思考していた風はふと周りの景色が変わっていることに気づき、樹や友奈に東郷も気づいた。

 

『シュワ……!』

 

くるりと回転し、ネクサスは友奈達の傍で着地を決める。

景色が変わったのは汚染された世界から青が濃すぎる空にオーロラのような光が満ち溢れ、光源がないにも関わらず明るい世界へ変わったからだろう。

砂も無い。

結晶が埋められた赤土が敷き詰められたかのような、真っ赤な荒野。

汚染された世界から、神秘な世界へ。

これこそ、本来貼るはずだった空間、戦闘用不連続時空間(異空間)---メタフィールド。

 

『シェア、デアッ!』

 

「みんな、ちょっと離れて! って言ってるわ!」

 

「え、東郷? 今の分かるの!?」

 

「お姉ちゃん、そんなツッコミ入れてる場合じゃないよ!?」

 

「紡絆くーん! あとはおねがーい!」

 

さっきまでの空気は何処へやら。

緩やかな空間が作られかけているが、笑顔で手を振りながら言う友奈にネクサスが頷く。

 

『シュッ! フッ! シュワァァァァ---』

 

みんなが離れたのを見るとコアゲージを見て、すぐにうっすらと白く光らせた左腕を前方に突き出し、右腕を左腕に重ね、下方で両腕---アームドネクサスを交差する。

稲妻の如き青白いエネルギーを纏いながら両手の握り拳を胸の前であるエナジーコアの傍に持っていくと、両腕をゆっくり左右に開く。

すると離された両腕を稲妻のような高エネルギーが行き来しており、高エネルギーそのものである青白い光のエネルギーを両腕に纏うとV字型に伸ばす。

 

『ヘェアッ!!』

 

気合いの籠った掛け声と共にネクサスは両腕のアームドネクサスをL字型に組むことで凄まじい光エネルギーの奔流を発射する。

放たれたオーバーレイ・シュトロームは一直線に御魂へ直撃し、ワイヤーが外れると空へ飛ばしながら再生など関係なしに分子レベルへと変換し、分子分解してみせた。

吹いた(かぜ)によって分解された分子が流されていき、封印の儀を執り行われていたカウベアードの残った肉体は嘘のように消える。

メタフィールド内であるならば、ウルトラマンの力は強化されるのである。

 

『……シュワッ』

 

コアゲージが鳴る音だけが響く中、ネクサスは勇者部のみんなに顔を向け、頷くと幻のように消えた。

 

「これ、どうやって戻るのかしら」

 

「同じではないでしょうか」

 

「あ、今度はなんか光ってるよ?」

 

「これで戻れるみたいですね……」

 

そうしてメタフィールドが遺跡へ変わり、戻り方が分からないことに不安を感じる必要もなく友奈たち勇者はすぐに光り輝くと、遺跡から追い出された。

変身を解除し、それを見ていた紡絆は光が四つ向かってきたため、エボルトラスターを向けた。

すると四つの光は返ってくるように入り込み、紡絆を労わるようにエボルトラスターの鼓動が一度鳴る。

 

「ウルトラマン……ありがとう」

 

一息付き、感謝を述べた紡絆の肉体も光り輝いた。

 

「ふぅ……ひとまずの問題は解決、か。一番最悪なのは黄道十二星座との融合かもな……バーテックスにすらなってない星座四つとはいえ、ビーストの中でも下らしいバグバズンでアレなんだから」

 

脅威だった存在を思い出しながら、光に身を委ねると---

 

 

 

 

 

 

紡絆の存在も遺跡から出され、先程まで居た砂浜に戻されていた。

早速スマホを取り出し、お礼やら無事だということ、怪我はないかとの諸々返信したり聞いたりして終えた紡絆は、人を探すように周囲を探る。

強化された目によって見つけた紡絆は、すぐに走っていった。

 

「おーい! かりりーん!」

 

「誰よ、人をかりりんって呼ぶやつは!?」

 

紡絆は聞こえる距離まで近づくと声をかけ、目の前で止まる。

鍛錬途中なのか、はたまた終わったのか木刀を振るっていたかりりんと呼ばれた少女---三好夏凜は渾名のようなものを呼ぶ目の前の存在を怒鳴り気味に睨む。

 

「俺だ!」

「でしょうね、言ってからそうだと思い出したわ」

「おっ、そうなのか。覚えてくれてるのは嬉しいぞ」

「なっ……べ、別にそんなのじゃないわ!」

「あはは、その反応は逆に可愛いだけだと思うけどなぁ」

「か、かわ……!? 急に何言い出すのよ!?」

 

ニコニコと嬉しそうな、楽しそうに喋る紡絆に、夏凜はやはりペースを崩されていた。

 

「まぁまぁ、事実じゃん。それとさ、夏凜の夜食はレンチンより作り立ての方が美味しいからわざと作ってなかったんだけど、行っていいか? というか行くな」

 

「事実って……そんなこと---って既に確定してる!?」

 

「よーし、レッツゴー!」

 

「ちょ、待ちなさい! まだ木刀置いたまま---」

 

「あ、既に回収してるぞ?」

 

「いつの間に!?」

 

腕を引っ張られ、目紛しい事態に対応出来ないまま紡絆に振り回される夏凜だった。

押しに弱いのか、それとも無理だと判断したのか、少なくともグイグイ来る紡絆に対して冷静になると、夏凜は諦めたようである---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏凜の夜食を作り、紡絆は帰宅するための道を歩いていた。

本当はメタフィールドの生成によって疲労が凄まじい紡絆はすぐにでも休みたいが、そうも行かない。

流石に夏凜の家に連日止まる訳にも行かないし、帰らないといけないからだ。

ちなみに次も来ることは約束したのだが、『はぁ!? べ、別に来なくていいわよ!』という夏凜の言葉は紡絆はあっさりと投げ捨てていた。

それはともかく、脳内掲示板(転生者たち)と会話をしながら、紡絆は歩く。

 

(ウルトラマンの結界説はほぼ確定……。これで現実世界に現れる心配は必要ない。次に考えなければならないのは、お役目と……ファウスト、いや闇の巨人(ウルティノイド)の目的、か)

 

次のお役目は近いかもしれないし、また今回のような融合型昇華獣が現れるかもしれない。

それでも、現実世界に現れる前に召喚されることを知っただけで紡絆の気は軽くなっていた。

自身も気づかずに誰かが犠牲になるのは辛い。自分が巻き込まれるのは良い。

紡絆はそういう人間なのだ。

偽善でもなんでもなく、本心。

 

「まっ、いっか。それより風呂入って寝るか!」

 

既に空は暗く、陽の光が消えている。

雲に覆われ星空は見えないが、紡絆は変わることなく明るさ全開で家まで帰ってきた。

考えるのをやめて、今、帰ってから何をするかを考える。

遥か先の未来や、分からないことを考えても仕方がないからだろう。

しかし---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?」

 

違和感を、感じた。

家に着き、後は入るだけ。

だが、その違和感は凄まじく、決して見逃せることではなかった。

決して紡絆がウルトラマンだから、というわけでも、エボルトラスターが鼓動したわけでも、紡絆の勘でも何でもない。

それは紡絆でなくとも、誰であってもそうだろう。

なぜなら---

 

「なんで()()()()()()()()()んだ?」

 

そう、家の灯りが、点いていたのだ。

本来、外に外出するならば電気は消しているはず。

そして紡絆は今日、一度も帰ってきていない。唯一帰ってきたのは、朝帰りのみだ。

今も学校用の鞄を手にしていて、服装も制服である。

 

「消し忘れた? いや、そもそも俺は点けていたか? 朝にわざわざ? 暗いわけでもなかったのに? そんな、まさか……点ける必要なさすぎるだろ。それはアホでもバカでもなくボケてるだけじゃん……俺、前世(以前)もそんな歳じゃないんだけどなぁ」

 

ここまで来たら未期だなと苦笑しながら、しかし妙に腑に落ちる。

そもそも朝とはいえ、全身痛ければ右肩なんて凄まじく痛かったのだ。

間違えてボタンに当たって点けた可能性もあれば、つい癖で点けていた可能性もある。

そう考えると、色々な可能性が広がり、無駄に考えすぎたと反省する。

 

(もしかしたら、帰ってきたのが実質一日ぶりだからかもな。長い一日だったし、感覚が狂うのも頷ける。

なら気の所為で考えすぎか…例え泥棒が来たとしても価値あるものなんてないしきっと帰って来たときも今も疲れてるだけなんだろう)

 

それはそれでどうかと思われる思考だが、過去はどうだったか知らないが基本自分に頓着しない紡絆は日用品くらいしか買わないので盗まれても価値があるものがあるとは思っていない。

結局は疲れが原因で気付かないうちに点けていた、考えすぎだと判断したが、それでも、どうにも拭いきることの出来ない胸に残り続ける違和感を抱えながら、家の鍵を開けて入り---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい、お兄ちゃん♡」

 

「……はっ?」

 

目の前に居る()()()()()()()()()を見て、紡絆の思考が完全に停止した---

 

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
一人で戦う(BADEND)ルートだったやつ。でもなんだかんだでそんなルートぶち壊しそうなのが怖い。
アンファンスの戦い方がカウベアードにバレているため、鞭を武器に後半憐スタイルで戦った(スピード重視)
ジュネッスでは従来通り

〇ファウスト
何を言っているんだ……?(ガチ困惑)

〇カウベアード
名付けはスレ民。
重力は強いが、精霊バリアによってダメージは入らない(逆に言えば致命傷レベル)
成長して爪に赤いエネルギーを纏わせて強化、斬撃、重力弾を口から吐き出すことも出来るようになったが、御魂を吐き出すと光線も避けれないただのザコ。
ちなみに封印の儀は実は四人必要。

〇友奈ちゃん
一番のMVP。
実は紡絆くんの怪我を少しは察してた子

〇東郷さん
怪我も察するしネクサス状態の紡絆くんの言葉も完璧に読めるし冷静だから頼りになる子。
もしかして同率MVPでは?

〇風先輩
勇者を纏める役に相応しく、しっかりとした指示をこなす。
大剣大型化が大活躍。
もしかして同率MVPでは?

〇樹ちゃん
何気に補助や援護、最後の攻撃や御魂の動き封じなど小さな大活躍。
もしかして同率MVPでは?

〇フログロス、アラクネア
文字数を削られ、瞬殺された二匹。
出す予定なかったし出しただけマシ。

〇夏凜ちゃん
地の文では分かりやすくするために紡絆だが、名前を姫矢と信じ切ってる子。
根は良い子だったり紡絆くんに(心の中で)性格看破されたり振り回されてるけど、言葉とは裏腹に会話や行動に付き合ってることからお察し。

〇??小都音
亡くなった()()の妹。
青髪(色合い的には水色に近い)にセミショートの(といっても長さ的に一部はお腹くらいまではある)女の子。
年齢は樹ちゃんと同じ。

▼質問
Q.紡絆くんと防人組との関わり

A.時系列考えると雀は関わることになるけど他は分かんない。まだまだだし。けどそこまで続いたら紡絆くんが死ぬであれ生きるであれ主人公交代するであれやるんじゃないかな。
正直妄想はしてるが、芽吹や亜耶ちゃんにしずくは問題ないけど夕海子だけが難しい(主に主人公が関わる必要が無さそうという意味で)



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【朗報】亡くなったと思っていた家族が生きていた【妹】

いつもとは違って投稿かなり遅れましたね、ウルトラマン見てたら書くの忘れてました。平成三部作終わったので番外編も書いてたんですよ、外伝のやつは本作のティガニキたちがどんな戦いをしてたかを描いてます。
向こうは最初なので、まだ全然進んでないですし内容大して変わってませんけどね。

それと、今回の話は四万文字超えたので流石に分けました。
後編は明日投稿します。
いや、想像以上に日常編やってしまったな。ぶっちゃけ妹ちゃんの話は2万文字想定だったんだが……おいおい、戦闘なくてもやれば出来るじゃねえか。
それじゃあ、最後に一言---エピソードZが見たいなぁ(願望)




 

「おかえりなさい、お兄ちゃん♡」

 

「……はっ?」

 

紡絆は目の前で起きた出来事に頭が真っ白になる。

狼狽え、動転し、冷静さを欠き、思考が出来ないほどの困惑と混乱に陥る。

現実なのか、それとも夢の世界にでも居るのか、少なくとも紡絆の気持ちは乱され、何が何だか分からない状況だということは確かだった。

分かることはひとつ、これは夢でも幻覚でも幻想でもない。錯覚でも幻でも何でもなく、現実だということ。

今も感じる痛覚が強制的に現実だということを証明する材料となっていた。

そして真っ白となった頭でも、脳が目の前にいる人物を認識する。

他人でも、幻影でも幻覚でもない。

彼の目の前にいるのは、間違いなく妹だということを。

 

「お兄ちゃん? 早く入ってくれないと閉めれないよ?」

 

「ぁ……わ、悪い…」

 

不思議そうに見つめられながら声を掛けられると、癖で、以前と変わらない対応を無意識にした紡絆は、家に上がる。

すると少女は後ろ手で玄関の鍵を閉め、前屈みになりながらふわりと優しく微笑み、口を開いた。

 

「はい、おかえりなさい」

 

「た、ただいま?」

 

再び帰宅した紡絆を迎える挨拶を言われ、これはまた無意識に紡絆は対応する。

今も内心は荒れに荒れ、台風のような荒れ具合だが、それとは裏腹に言葉は口から自然と出ていた。

 

「どうして疑問系? あ、カバン貰うね。それとご飯! やばいかも、ちょっと待ってね!」

 

「ま、まっ---」

 

「大丈夫だよ、そんな顔しないで。ごめんね」

 

紡絆のカバンをそっと取ると慌ただしく走って戻っていく姿を見た紡絆は手を伸ばすが、少女は振り向きざまにただ笑顔を向ける。

まるで紡絆の本心を見抜いたように。心を見抜いたように。表情を、見抜いたように。

それだけ言い終えると、彼女は急いでキッチンへ戻って行った。

その場に取り残されたのは、紡絆一人。

彼は俯き、思考する。

 

(なんで……どういうことだ……!? 反応がないからビーストが化けたわけでもない……! でも小都音は死んだはず。だけど同じだ。

あの笑顔も、声も、喋り方も、全部。じゃあ母さんと父さんは? 化けて出た? 違う、小都音は本物だ。ちゃんと生きている……)

 

懐に手を伸ばし、紡絆は不安を隠すようにエボルトラスターを握り締める。

流石の紡絆も死んだと思っていた妹が突然現れたら取り乱すくらいはする。

それでも握ったところで何も変わらなければ、何の反応もない。ただ一度鼓動が鳴るだけだが、徐々に紡絆は冷静さを取り戻していった。

 

(考えたところで分からない……事情を聞こう。母さんや父さん……小都音が事故にあったのは俺の責任だ。

でも、聞かなくちゃならない。俺は、あの場で、あの後に何があったのかを。

ごめん、ウルトラマン。落ち着いた……俺らしくなかった)

 

エボルトラスターを離し、懐にしっかりと入れ直した紡絆は前を向いた。

不安そうな表情も、動揺した様子も何一つない。

いつも通りの紡絆に戻り、エボルトラスターは眠るように黙る。

 

(狙ったようなタイミングにも見えるし、関係ないようにも見える。正直、疑いたくないけど怪しい。

けど、俺は小都音の兄だ。兄なら……妹のことは信じなきゃ。事情を聞いてから、ちゃんと考えよう。

こういう時に掲示板は……ダメだ、やってる時間が無いな。怪しまれそうだ。

せめて化けるスペースビーストがいるかどうか教えて欲しかったんだが、ウルトラマンの結界を考えるとない……か)

 

少女の、妹である小都音の元へ向かう前に紡絆は心の持ち方を変える。

覚悟を決めて、ちゃんと考えて、それでも前へ進む。

ただ信じるように。

なにより---紡絆の心には隠しきれない嬉しさと喜びと、罪悪感と申し訳なさと後悔が浮かんでいた。

会えた嬉しさと、生きていたという喜び。自分が悪いという罪悪感と原因であることと、記憶を未だに失っている申し訳なさ。救えなかった後悔。

正と負の感情に挟まれながら、紡絆は向かう。

真実を確かめたいがために。

仮に文句を言われようが、暴言を吐かれようが、責められようが、全て受け入れる覚悟を胸に。

 

そうして紡絆は、小都音の元へ向かうように歩いていった---

 

 

 

 

 

 

 

「あ、お兄ちゃん。カバン置いておいたよ。ご飯も、もうすぐ出来るから」

 

「分かった。ありがとう」

 

「ううん、だってお兄ちゃんは私が作らないとインスタントばかりでしょ? この山、見たら分かるもん。料理出来るのに、もうっ」

 

指差すところには、積まれたインスタントのラーメンやうどんなどがある。

だからか、ぷくーと可愛いらしく頬を膨らませる小都音を見て、紡絆は目を逸らす。

否定することが出来ないからこそ、反応に困ったのだろう。

 

「はぁ……お兄ちゃんらしいけど、心配になるよ」

 

「腹を満たせるなら、何でもいいかなと……インスタントでも美味いし」

 

「反省してないでしょ」

 

「………してる」

 

じとーと怪しむように紡絆を見る小都音だが、呆れたような表情となり、何処か安心したような表情をした。

 

「でも、変わってなくてよかった」

 

「? 数十年経ってるかならともかく、一年も経ってないしそうそう変わらないだろ」

 

心底不思議そうに紡絆は小都音を見つめるが、小都音は困ったような、なんと言えばいいか分からないといった様子を見せる。

 

「うぅーん、そうなんだけどそうじゃないというか……。ん、いいかな、それより終わったよー?」

 

「あぁ、じゃあ手伝う」

 

結局分からずじまいだったため、きょとんとした紡絆だったが、料理が出来上がったということなので皿を取り出したり、テーブルに運んだりして手伝う。

そうして準備を終えると、向かい合わせになりながら座った。

 

「じゃ……いただきます」

 

「うん、召し上がれ」

 

手を合わせてから食事の挨拶をした紡絆は、お箸を手に取り、じーっと見てくる小都音の姿に若干食べづらく思いながら一口食べてみる。

牛肉に付けられたタレの味がご飯を進めさせ、味噌汁とレンコンの甘辛炒めに付け合せである野菜が調和していて一つの献立として想定されているのだろう。

 

「どうかな……?」

 

「うん、美味い。というか、以前より腕が上がってるような?」

 

「ふふん♪ 実はね、ここに帰ってくる前にお世話になっていたところで学ばせてもらったの。料理が上手くて、勉強になることが多かったんだ〜。

まだまだ覚え足りないけどね」

 

褒められたことにか、不安そうに聞いたのが嘘のように嬉しさと照れが混じった笑みを浮かべながら、小都音はそう話す。

しかし紡絆はそれを聞いて、気になった箇所があった。

 

「お世話に?」

 

「あ、その辺は後で話すから。今はご飯食べよ?」

 

「そうだな……分かった。料理冷めちゃ、せっかくの料理が台無しだもんな」

 

気になるといえば気になる。

だが話すということは、話してくれるのだろうと紡絆は久しぶりに食べる小都音が作った料理を堪能する。

以前よりも格別に上がっていて、味も好み。でも、偽者なんかではなく、本人だとより教えてくれる味。

紡絆は食べる度に腹が満たされる満足感を感じ取っていた。

ただこんなふうな、以前と変わることの無い、久しぶりの妹との食事を紡絆は摂る。

今は深く考えずに、食べるだけ。

 

「ごちそうさまでした。料理してもらったし、片付けは俺がやるよ」

 

「ごちそうさまでした。

あっ、お兄ちゃんはゆっくりしてて良いのに」

 

「いいからいいから」

 

ご飯を食べ終えると、しっかりと感謝をして小都音のお皿も含めて紡絆は持っていく。

水を出し、お皿を落とさないように気をつけながら石鹸で洗っていた。

 

(流石に痛むかぁ。今回はメタフィールドの形成で疲れただけで、痛むだけで済んでる分マシだな……ほんと、もし一人なら負けてた自信しかない)

 

普通に洗ってると暇なので、今日の出来事を思い出しながら、皿を洗う。

洗い終わった食器は食器棚に置き、また別のを洗う。

量も大した数はなく、すぐに終わったが。

 

「お兄ちゃーん。花瓶の水って換えた?」

 

皿洗いを終えた紡絆に、小都音が聞いていた。

その声に反応するように紡絆が視線を送ると、仏壇の花瓶を両手で持ちながら、首を傾げている姿がある。

 

「いや、今日は換えてないな」

 

「そっか、じゃあ換えとくね〜」

 

「ああ、頼んだ」

 

小都音が花瓶を持ちながら、水面台に持ってくると水を入れ換えていた。

紡絆はそれを傍目で小都音を見ているが、彼女は何処か楽しそうな様子で、それでいて慣れている様子で花に触れていた。

そんな小都音だが、紡絆の視線に気づいたのかキョトンとした顔で紡絆を見つめた。

 

「お兄ちゃん、私の顔に何かついてる?」

 

「あ、いや……ちょっと、な」

 

「……? 変なお兄ちゃん。あ、でもそんなところも好きだよ?」

 

「はいはい。ほら、持っていくから」

 

「むー……」

 

あっさりと受け流した紡絆に小都音が不満そうに見つめるが、自身を気遣って花瓶を代わりに持ったその姿には嬉しさ半分不満半分といった様子だった。

といっても、その半分の不満は紡絆が簡単に受け流したところだろうが。

それはさておき、仏壇に花瓶を置いた紡絆は、写真が消えてることに気づいた。

 

「取ったんだな」

 

「あ、うん。勝手にごめんね……でもこうして生きてるのに、死んだように写真を飾られてるのはちょっと……」

 

「それは確かに。俺でも嫌かもしれないし、まあそこまで気にしてないから平気だ」

 

申し訳なさそうにする小都音を見て、紡絆は苦笑しながら本当に気にしてない様子を見せる。

それを見てか、小都音は嬉しそうに、それでいて悲しそうに紡絆の手を握った。

 

「……小都音?」

 

「……えっとね、さっき言ったよね? 後で話すって。お母さんとお父さんのことも、お兄ちゃんに話すべきだと思って……」

 

「あぁ……」

 

突然握られたことには驚いたが、紡絆は納得したように口に出す。

こうして小都音は生きて、別の家でお世話になっていたらしいが、帰ってきた。

しかし、両親は帰ってきていない。写真も取っておらず、悲しそうな表情をしている小都音の姿を見ると、紡絆は嫌でも察することが出来る。

両親がどうなったのかを。

 

「別に、無理に話そうと思わなくたっていいからな。話しても話さなくとも、何かが変わるわけじゃないんだ」

 

「ありがと……でも、話すよ。その前に、お母さんとお父さんに挨拶していいかな?」

 

気遣うように言った紡絆だが、小都音は辛い面持ちを隠さず、それでも真っ直ぐな瞳で紡絆を見ながら訊く。

紡絆はそれを見て諦め、頷いた。

 

「その方がいいかもな……。そうだ、俺も今日はしてないし一緒にするか」

 

「うんっ」

 

小都音の意思を尊重しつつ、紡絆は色々と忙しかったのもあって挨拶するのを忘れていたことを思い出し、優しく告げると小都音は嬉しそうに頷いた。

二人はそのまま仏壇の前で隣同士で正座で座ると礼拝する。

礼拝にて暫く無言の空間が占める中、ゆっくりと目を開けた小都音が口を開いた。

 

「実はね、私もあんまり覚えてないんだ」

 

「………」

 

目を細め、重々しく告げられた言葉に、紡絆は沈黙を貫きながら聞く。

何も言わず、邪魔せず、耳に入れながら両親の写真を見て。

 

「病院の先生は両親を喪ったショックで記憶が飛んだんじゃないか、って言ってた」

 

「……そっか」

 

何も思って、何を考えて、どんな感情を抱いているのか。

今の紡絆は珍しく顔色を伺うことも出来ず、何も分からない。

そしてまた、紡絆は気遣ってか、小都音の表情を見ないようにしてるため、彼女がどんな表情をしているのかも分からない。

 

「でも……記憶が飛んで良かったって思ってるの」

 

「……どうしてだ?」

 

お通夜のような重苦しい空気が淀む空間の中、小さく、安心したような悲しいような、しんみりとした声が響く。

紡絆はただ、純粋な疑問のみを乗せて訊いた。

 

「私が覚えてるのは、事故に遭う直前でお母さんとお父さんが庇ってくれたところだけ。相手が誰なのか、何があったのかは覚えてないし、事故に遭った後も知らない。

だけどね---」

 

小都音が一度口を閉じると、仏壇から視線を外し、紡絆の右手と自身の左手で手を繋いだ。

紡絆は手を繋がれたことに気づいて、悠然とした様子で小都音を見つめる。

少しの間、ほんの数十秒ほど見つめ合っていた二人だったが、小都音は繋いだ手の指の間に自身の指を絡め、所謂恋人繋ぎと呼ばれる繋ぎ方にして、重苦しく口を開いた。

 

「私にもし記憶があったら、相手を赦せないと思う。

お母さんとお父さんを奪った存在がいるなら、私は復讐するかもしれなかったから。暴走……って言うのかな? そうなっちゃうかもしれなかったから。

記憶があったら、行動に移してたかもしれないから」

 

強い憎悪と殺意を募らせ、隠すことなく全面的に押し出され、告げられた言葉。

紡絆からすると、その感情は大変理解し難い感情だ。

紡絆は人を憎まず、自分を憎む性格。

他人が悪いのではなく、自分が悪いと判断し、他人に怒りを抱くことはあれど、人間に対して復讐心を持たない。

人間として何処か欠陥しているのが、彼なのだ。

それこそ、彼の仲間たち(勇者部の皆)が彼を光と例えるくらいには。

 

「お兄ちゃんは、そんな私を、嫌いになる……? 正直ね、相手が誰であっても、私は憎いとは思うから……。

もし思い出して、そんなことを、暴走とかしたら、どう思う……?」

 

不安そうな、縋るような表情で見つめる小都音だが、その瞳の奥には恐怖という感情があった。

紡絆はそれを見透かせたように達観した様子で口を開く。

 

「別に、いいんじゃないか」

 

「……えっ?」

 

何処か投げやり気味に呟かれた紡絆の言葉に、小都音の顔には困惑の色が浮かぶ。

叱責されると、忌避されると、反感されると、嫌われると思っていた。

例え違っても、少なくとも、何らかの悪感情を持たれるのではと危惧していたのだろう。

しかし、そのどれでもなく、返ってきたのは、肯定。

 

「小都音は人間だろ。人間って、豊かなんだ。

感情豊かな人間だからこそ、色んな感情が生まれてしまう。衝動に駆られてしまう。欲望に負けてしまう。愚かなことをしてしまう。血迷った行動をする。人を憎んでしまう。

でもそれは、誰にも止めることの出来ないモノだろ?

だったら、俺に小都音を否定する権利なんてない。でもさ、俺は小都音のお兄ちゃんだ。

だから小都音が人としての道を踏み外すなら、それだけは絶対に止める。少なくとも、母さんや父さんが喜ぶことでもないから、復讐という行動は止めることになるのかな。暴走するなら、止めて、落ち着かせる。

喪ったものは、取り戻すことなんて出来ないからさ、俺に出来るのは想いを無駄にしないことだけ」

 

何処か遠い目をして、紡絆は語る。

否定はしない。それは、()()()()()()()は否定しない。

でも家族であり、()()()()復讐という行動を阻止すると言いたいのだろうか。

暴走しても、落ち着かせると言いたいのだろうか。

記憶を失い、妹は戻ってきたとはいえ、両親は喪った。それほど経ってはいないが、帰ってくる前は妹も居なかった。

もしかしたら過去に友達を失ったのかもしれない。もしかしたら夢を喪ったのかもしれない。もしかしたら恋人を亡くしてしまったのかもしれない。

思い出という生きてきた全てを消失させてしまった紡絆だからこそ、取り戻せないという言葉は誰よりも重く響く。

 

「結局、止めるってことだよね……?」

 

「悪意を抱くのはいい。人間がそうであるなら、好意も悪意も抱くことは正しいことだ。

でも人として正しくない行動に移すのだけは間違いだと思う。それで全てを失う方が、きっと悲しい。

だから、間違えた行動だけは俺が止める。ずっと傍に居て、支えてやる。そうしたら、間違えないだろ」

 

理想論。戯言。滑稽。無稽。現実的ではない言葉。まさしく荒唐無稽。

その程度で人が止まるならば、誰も苦労しない。誰も衝動に駆られない。誰も間違えない。

はっきり言って、紡絆は強すぎるのだ。

その在り方が、その生き方が、その強さが、その想いが、ありとあらゆるものが、未成年とは思えないほどに強すぎる。

誰も紡絆ほど強く居られない。誰も紡絆ほど強く思えない。傍に誰か居たって、行き過ぎた人間は手遅れだ。

だが---きっと手を伸ばすのだろう。

間違えた人間だって、戻れると信じて。闇に打ち勝てると信じて。誰もが光になれるのだと信じて。

そんな彼だからこそ、光の権化であるウルトラマンを宿せたのかもしれない。

 

「……そっか。お兄ちゃんが止めてくれるなら、安心。

怖いし、嫌だけど、もし思い出して復讐心に駆られても、怒りに身を任せることになって暴走しても、お兄ちゃんが止めてくれるもん」

 

恋人繋ぎにした手を強く握りながら、小都音は儚げに微笑む。

ただ、心の底から安心したような雰囲気を纏って。

 

「きっと、俺だけじゃない。

小都音も縁が出来て、大切な人が出来たら、その人が支えてくれるだろ」

 

「あ、それは絶対にないから。だから、お兄ちゃんだけは私の傍に居て。もう二度と離さないで……私は何があっても、お兄ちゃんが良いの。お兄ちゃんが居てくれるだけで、幸せなの。ずっと、ずっと傍に……ふたりだけで……

 

「え、いや……後半は聞こえなかったけど、前半にお兄ちゃんとして将来が心配になる発言が聞こえたような……?」

 

「ふふ〜ん♪」

 

誤魔化すように小都音は紡絆に抱きつく。

困ったような表情をして考えかけるが、考えるのが面倒臭い紡絆は放棄しながら頭を撫でていた。

 

「まぁ……何でもいいけど、結局分からないってことかぁ」

 

「そうなるのかなぁ……?」

 

「確信はしてたから、良いけど。母さんと父さんが小都音を守ってくれた……それだけでも聞けて嬉しかったな。

自慢の両親だと胸を張って言える」

 

やはり、この男は何処までも前向きなのだろう。

亡くなってしまったことが確定してしまったにも関わらず、最期まで両親が親にとって娘である小都音を守る行動をしたことを、紡絆は誇りに思う。

なぜなら、悲しんでも、恨んでも、何も帰ってこないから。

なら今を生きる自分だけは、誇れる行動をした両親を自慢の両親だと心に刻もうと。

 

「……あれ、他に何の話するんだったっけ?」

 

だが、相変わらず雰囲気をぶち壊す所だけは、何も変わらなかった。

余韻を感じさせないところも流石と言えるのかもしれない。

 

「んー、私がお世話になった人のこと? まだ言ってなかったよね?」

 

「あーそうそう……というか近い」

 

「お兄ちゃん成分が足りないのー」

 

いつの間にか紡絆の膝の上に乗り、甘えるように頭を擦り付けたり、恋人繋ぎにしたまま離さない小都音だが、行動はともかく、言葉は正確だった。

 

「まぁいいや……で、聞いてもいいことなのか?」

 

「別にいいけど、大したことじゃないよ? でもとても優しい人でね、お兄ちゃんのところに来るのが遅れたのは私のわがままでもあったんだ。

その人は私と同じくらいの年齢の娘さんを喪ったらしくて、お年寄りの夫婦だったんだけど……倒れた私を病院に運んでくれたのも、引き取ってくれたのもその人たちなの」

 

本当に嬉しそうに、楽しそうな様子で話し始めた小都音。

辛いことなら、話しづらいなら無理には聞く気はなかった紡絆だが、杞憂だと分かると耳を傾ける。

 

「流石に讃州市から離れてたからすぐ帰ることも出来なかったし、ショックもあるだろうから良ければ居なさいって言ってくれたの。

最初は断ったんだけど、結局押し切られてお世話になることになって。

でも本当の娘みたいに接してくれて、祖父と祖母が出来たみたいだったよ。

それにね! おばあちゃんの方は、料理を教えてくれてね、いーっぱい教わったんだ」

 

「あぁ、今日の料理はその人に教わったものなのか」

 

「うん、おじいちゃんの方には色んな話を聞いたし、技術とか教わったから勉強になって面白かったよ?」

 

紡絆は小都音の話を聞いて、充実した日々を送れていたことに安堵する。

それが辛い日々であったなら、文句のひとつは言ったかもしれない。

だがこんな幸せそうに語られると、感謝の言葉しか浮かばないものだろう。

 

「良い人達で、本当に良かったんだな」

 

「うん。だから今度、お礼を言おうと思ってるけど……何も残せないのは寂しくて。だからひとつ、お願いしてお借りしたんだ」

 

「借りた?」

 

首を上に曲げ、見上げる形で小都音は紡絆を見つめると、紡絆は首を傾げる。

ただ少し小都音が申し訳なさそうにしているため、紡絆は疑問符を浮かばせるしかなかった。

 

「お兄ちゃんには申し訳ないし、お母さんやお父さんにも申し訳ないんだけど……。

その、私がその人たちと生きていた証に、というより……これからも忘れずに居たいって、また来たいって誠意で、これを……」

 

渋々と紡絆から離れては鞄を大切に抱えて戻ってきた小都音は再び紡絆の膝の上に座り、何らかの用紙を恐る恐る差し出した。

紡絆は大切そうに扱っていたため、丁寧に受け取って紙を見る。

 

「なるほどな……別に俺は気にしないしあの母さんと父さんのことだから気にしないと思うが、そんな簡単に出来るもんだっけ、これ」

 

「大赦の人にして貰ったんだ。あっさり通っちゃった」

 

(えぇ……何やってんの、大赦。というか権力凄すぎるだろ)

 

若干、いや、大赦にガチ引きする紡絆はともかく、どうやら養子扱いでは無いが、後見人というか身元引受人のようなものでもうひとつの戸籍、というべきものか。大きく見れば養子ではあるのだが、そういった書類では無いらしい。

が、紡絆は全く気にしていなかった。

そんなことより大赦の権力に引いていた。

 

「一応本戸籍はこの家だけど、これからはこっちで名乗ろうかなって……」

 

「いいんじゃないか? 感謝の気持ちを忘れず、名を背負いながら生きる。

それは意志を継ぐようなものだが、立派なもんだ。それにこの方が混乱も少なそうだしな……」

 

「あはは、確かにそうかも」

 

一応言っておくが、小都音は生きていたとはいえ、死んだと思われていた。

生きていたことは喜ばしいことだろうが、混乱が生じる可能性がある。

しかし、口合わせのために養子に出ていたとすれば混乱は避けられるだろう。

紡絆を除いた家族全員というのはただの噂で、妹だけは無事だった、ということになるが。

どちらにせよ、別にデメリットはないので紡絆は特に何も言わない。

もっとも、本人の意思を尊重したいという思いの方が強いだけかもしれないが。

 

「ねぇ、お兄ちゃん」

 

「ん?」

 

膝の上に乗って背を向けていた小都音は、紡絆のことを呼びながら体を反転させ、対面になる。

距離感が非常に近いが、紡絆は諦めてるのか何も言わずに首を傾げるだけだ。

そして---

 

 

 

 

「ただいま」

 

「……あぁ、おかえり」

 

花のように可憐な笑顔で微笑む小都音に、表情を柔らかくしながら返す。

まだ一度も言ってなかった、迎える言葉。

紡絆が帰ってきたことについての挨拶は交わしたが、小都音が帰ってきたことについての挨拶はまだだった。

だからこそ、一区切りついた今、小都音は言ったのだろう。

 

「くんくん……」

 

「……って、なぜ嗅いだ!?」

 

「お兄ちゃん……知らない女の匂いがする……」

 

「え、匂いって、そんな分かるもんだったっけ?」

 

不満ですといった様子を隠さず、ぎゅーっと強く抱きつく小都音の姿に、紡絆は質問攻めを個人情報ということで沈黙を貫くことで現実逃避した。

そろそろ彼は、喋ることすら、疲労で限界なのである。

ちなみに結局は小都音が質問を諦めた代わりに、満足するまで抱きつかれたままだったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

1:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

【朗報】亡くなったと思っていた家族が生きていた【妹】

 

事の発端→【悲報】気がつけば目の前に知らない遺跡があるんですが…【なにこれ】

 

【悲報】 気がつけば別世界に飛ばされたんですが…【どうして】

 

 

2:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

人物紹介

 

・俺(継受紡絆)

ウルトラマンに変身できること以外に特徴がないし取り戻した分の前世の記憶と記憶失った後に過ごした約二年間近く以外何も覚えてない完全記憶喪失転生者。

勇者部所属。

 

・友奈

本名・結城友奈

元気いっぱいの前向きな女の子。

でも勇気が人一倍あるだけで割とメンタルは普通だから、無理しないか心配。

 

・東郷

本名・東郷美森

一応、似たような記憶喪失者。

半身不随で車椅子の生活を強いられることになった女の子。

博識で上品だし優しく穏やかな性格してるけど、戦艦というか国防関連の話になると火がつく。止めれない。

 

・風先輩

本名・犬吠埼風

我らが部長。

リーダー力もあるし、ムードメーカー。シスコン。

でも責任感ゆえに自分一人で背負うのはやめて欲しい。

女子力高いらしい。かなりの大食漢。

 

・樹ちゃん

本名・犬吠埼樹

姉である風先輩とは対照的におとなしく、気弱で引っ込み思案。

料理がやばかった。

時々毒舌吐いてくるけど、彼女の声は割とマジで素敵なものだと思う。

ちなみに占いはよく当たる。

 

用語

 

・勇者部

美少女揃いで良い子ばかりのお人好しグループ。

人のためになることを勇んでやる部活で、簡単に言えばボランティア。

本当の目的は、人類の敵であるバーテックスというウイルスの集合体と戦うために作られたらしい。

神樹様(この世界における神様)の力を借りて、勇者として戦う。

俺にはない(無慈悲)

 

 

3:名無しの転生者 ID:bctPJtdFP

1人で背負うのはやめて欲しいって、お前が言うんか……

 

 

4:名無しの転生者 ID:LdR8Ropl+

良かったじゃん、生きてて

 

 

5:名無しの転生者 ID:cxcwP+vDo

勇者部って本当に美少女ばかりだよな……うらやま

 

 

6:名無しの転生者 ID:EnGwoKNUi

改めて見るとさ、転生者が「其処にいる理由」を作る為に過去が捏造される場合と普通にポップする場合の二種類だけはあるのは判明してるけど、イッチって未だに不明なんだよな。

前世の記憶取り戻しただけで、どう存在していたのか、どういった過去があるのかが不明すぎる。

でも>>2だけ見ればイッチクソ酷くて草

 

 

 

7:名無しの転生者 ID:2kCsc9Rnp

憑依型か特に何も無くただ前世の記憶を忘れてた状態で生きていただけか……それとも他のパターンか。

少なくとも歴代デュナミストの過去を融合させた感じってのは判明してるゾ。

なんで記憶喪失になったかは不明なんだっけ、なんでだ

 

 

8:名無しの転生者 ID:RuVKi/T9g

まぁ、でも家族死んだと思ってたら妹だけは生きてたんでしょ。

イッチ、よかったな。

両親が助からなかったのは残念だろうが、妹ちゃんだけでも生きてたらね

 

 

9:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

それはそうなんだけど、さ

 

 

10:名無しの転生者 ID:lFOjCQKaa

なんだなんだ

 

 

11:名無しの転生者 ID:dAInMScBJ

どうした、素直に喜ぶところだろ?

 

 

12:名無しの転生者 ID:BFrQq2v7k

というかイッチならウザイくらい喜ぶと思ったけどな

 

 

13:名無しの転生者 ID:8qIOToBjD

また一人で抱え込む気か?

言えよ

 

 

14:名無しの転生者 ID:KAV0E4aec

そーだそーだ

 

 

15:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

いやさ、抱え込まないけど、なんかこう……おかしくないか?

や、別に妹の様子は可笑しいわけじゃなくて、以前より甘えん坊になってるようには見えるけど……なんだろ、妹は関係ない。

ただ俺の中で拭い切れない感じがあって……

 

 

16:名無しの転生者 ID:W0VcdUz6n

んん?

 

 

17:名無しの転生者 ID:HDNqqUsZ8

イッチにしては珍しいな……

 

 

18:名無しの転生者 ID:gHMTrrJoC

普段はのほほーんとしてて授業中に寝まくってここでも真面目な時とプライベートで落差があって、バカなことしかしないイッチが珍しい様子だ……

 

 

19:名無しの転生者 ID:S62ZsgXgH

>>18

やっぱり散々言われるの草

 

 

20:名無しの転生者 ID:WSiSjgu0P

>>15

で? ちゃんと言ってくれないと伝わらないんだが

 

 

21:名無しの転生者 ID:Y4Oghiwl5

>>15

何が言いたい?

 

 

22:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

えっと、なんというか、俺に都合が良すぎると思うんだよ。

このタイミングだとそう考えてしまう。

いや、運が良かった。奇跡。偶然。

そう言われてしまえば、反論は出来んけどさ……。

たぶん、両親が妹を守ってくれたのも理解出来るし、言ってることは本当なんだろう。

嘘をついてる様子は一切なかったし。

でも……本当に何も無いのか? なんでこんなタイミングなんだ?

嬉しくない訳では無い。

喜ばしいことだ。

だけどなぁ……怪しんじゃうんだよ。邪推…って言うのかな

 

 

23:名無しの転生者 ID:sN8JX1KMo

んだよ、そんなことか

 

 

24:名無しの転生者 ID:vn+VVUMKl

しょーもな。

解散

 

 

25:名無しの転生者 ID:Lm78cJ/uQ

心配して損したわ

 

 

26:名無しの転生者 ID:9tcUnZq1g

初期から見てるけど、あのさぁ……

 

 

27:名無しの転生者 ID:7VGv2Kwwt

イッチさ……自分が幸せになるのは間違ってるとか思ってないか?

アホか

 

 

28:名無しの転生者 ID:8Z4aGkPC+

>>22

見返りは求めてないんだろうけど、お前よくやったじゃん。

ウルトラマンとして怪獣と戦って、勇者部として誰かの笑顔を守った。

そんなやつが少しも報われない方がおかしいっての

 

 

29:名無しの転生者 ID:SST853j+V

そうそう、その世界でいう神様……神樹様がイッチのことをちゃんと見てたんだろ

 

 

30:名無しの転生者 ID:NknWNqxJ8

助かったものは助かったんだからいいでしょ。

お前勇者部の子たちに今のこと言ったら間違いなく怒られると思うぞ

 

 

31:名無しの転生者 ID:2IKaoldZN

むしろ、ここまで人助けしてるやつが何も報われない方がクソにも程がある

 

 

32:名無しの転生者 ID:IB3Zl4w/T

というか、怪しんだところで分からないだろうし、素直に喜んどけ。

マイナス思考よりプラス思考の方がイッチらしいし、気が楽

 

 

33:名無しの転生者 ID:6OscC1vI9

>>22 >>30

まあ、イッチらしいというかなんというか

 

 

34:名無しの転生者 ID:4mxSEPstJ

んなこと考えるならはよ寝とけ。

怪我が治らんぞ

 

 

35:名無しの転生者 ID:MaXgvaOT3

いつか巡り回って返ってくるって言うし、良いことをしていたイッチに対するプレゼント……とでも思っておいたら?

 

 

36:名無しの転生者 ID:vS4BZRyJu

喜ばしいなら喜んだらいい。

それだけの話では……? それとも、イッチは妹ちゃんと会うのは嫌だったんか?

どんな子かは想像するしか出来んし、見たこともないけど

 

 

37:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

い、嫌じゃないが、なんだ……お前らちょっと怖いんだが。

いつもは罵倒くらいしそうなもんだが、優しくない?

気のせいか?

 

 

38:名無しの転生者 ID:gzlh8HFyJ

は? 普段から優しいだろバカ

 

 

39:名無しの転生者 ID:8bmfldmzT

そうだバカ。

なんて酷いこと言うんだ

 

 

40:名無しの転生者 ID:gHMTrrJoC

イッチが俺らのことをそう思ってたなんて……悲しいよ、俺

 

 

41:名無しの転生者 ID:NHv5IJlBU

そんな罵倒するわけないだろ……間抜け、ハゲ

 

 

42:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

前言撤回。

やっぱ、いつも通りじゃねーか! あと前世含めてハゲてないです。

まぁでも、ありがとうな。なんか気が済んだわ。

素直に喜んで寝とく。

おやすみ

 

 

43:名無しの転生者 ID:bxPjpqCri

おう、おやすみー妹ちゃんの姿早く見せろ

 

 

44:名無しの転生者 ID:I59wHFh0v

期待してるぞ!

 

 

45:名無しの転生者 ID:9cAiuKYdT

むしろイッチにはそこしか期待してない

 

 

46:名無しの転生者 ID:YfVguuKYy

やれやれ。

ウルトラマンを宿すやつは大半が自己犠牲精神を少なからず持ってるからなぁ

 

 

47:名無しの転生者 ID:GQ5YPS/ua

そもそもこの世界がそこまでやるか? レベルで連戦だったり乱入者居たりするし……

 

 

48:名無しの転生者 ID:4SomMpnhJ

バーテックスも厄介。ビーストも厄介。

その二体が融合するやつも居て、闇の巨人もありか……まだラスボスクラスが居ない分マシな方なのだろうか

 

 

49:名無しの転生者 ID:zeQ0tqStf

で、イッチは寝たんか?

 

 

50:名無しの転生者 ID:B7OHafGGC

反応ないってことは寝たんじゃないかな

 

 

51:名無しの転生者 ID:em+bzuUYJ

確かに……試しに言ったらわかるか、イッチのハゲ、バカ。唐変木! ラノベ主人公!

 

 

52:名無しの転生者 ID:xUDeqMbF+

一瞬で否定しないってことは寝たっぽいね

 

 

53:名無しの転生者 ID:LBKr9nDZm

じゃあ、別の話題(察しろ)になるが、本当にこれでよかったと思うか?

 

 

54:名無しの転生者 ID:l0WzAQQ4u

まだ確定じゃないんだ。

それまでは……これでいいと思う

 

 

55:名無しの転生者 ID:Z5ALpulw1

恨まれるのは慣れてるし……いや、文句言われるだけで終わりそうだが

 

 

56:名無しの転生者 ID:9u9MForqL

とにかく、どうにかして確認するしかない。

下手に不安を煽っても良いことはないだろうしさ

 

 

57:名無しの転生者 ID:Z5RkIhQCd

知らないのは良かった。

でも知ってる身からすると…最悪は有り得る話だ

 

 

58:名無しの転生者 ID:Q8pT+gXgq

出来るなら俺たちの勘違いで終わって欲しいけどな

 

 

59:名無しの転生者 ID:V+lNb54f6

でもなぁ……ヤツら、愉悦を感じるためにやりかねんし……。そもそも世界観的に有り得るし……

 

 

60:名無しの転生者 ID:aC9kApTpH

もしそうなら……大丈夫だろうか。

闇に決して負けない心が必要になるけど

 

 

61:名無しの転生者 ID:s+6i2eeQN

俺たちに出来ることは無い。

だからせめて、今だけでも……な

 

 

62:名無しの転生者 ID:8xc66jZgY

真実は時に残酷である。

だが、その真実を受け入れるかは本人が選ぶことだ……

 

 

63:名無しの転生者 ID:Iy502g6lF

絶対にそれはないと断言出来ないのは流石だな……

 

 

64:名無しの転生者 ID:kDjC2pWU4

まぁ、本編でも積み上げてきた信頼を何の躊躇もなくぶち壊した上に、容赦なく好意がある同僚を撃ったやつだし……有り得る、やりそう、やりかねない、そうとしか思えんだろう

 

 

65:名無しの転生者 ID:coYYM7kmC

>>62

セフィロスのやつ……ッ!

 

 

66:名無しの転生者 ID:ww7HC5gjd

本当は言った方が対策を取れるのかもしれない。

だが、確信がないからな……願うのであるならば、違う方がいい。

せめて俺たちが疑うしかない、か……

 

 

67:名無しの転生者 ID:Q9QVGheu4

正直、喪ったと思っていた家族が一人でも生きていたってイッチにとっては幸せなことだと思う。

俺たちが余計なこと言って、不安を煽ったり辛い目に合わせるのはね……今回のやつは普段からやってることとは違うし

 

 

68:名無しの転生者 ID:ackuYX1ho

結局、なるようになるしかない……か

 

 

69:名無しの転生者 ID:lzxJg9uQr

そうだな、少なくとも出来るのであれば確認してもらいたいが……覗きはやりそうにないし、チャンスが訪れることを待つしか

 

 

70:名無しの転生者 ID:cVMXEqAxi

はぁ、ままならないねー

 

 

71:名無しの転生者 ID:b89jSl3+w

やっぱさ……ツンデレだよね。ここの掲示板のやつらって

 

 

72:名無しの転生者 ID:HOmFw3Lws

素直なやつはあんま居ないよ。イッチが珍しいレベルやし、というかイッチみたいなやつがいっぱい居たら逆に怖いしとんでもねぇわ

 

 

73:名無しの転生者 ID:fES0/+yTK

>>71

う、うっさいわい! 誰がツンデレだ!

 

 

74:名無しの転生者 ID:WUufLewKM

いうて、今回ばかりなぁ。

誰でもキツいぞ

 

 

75:名無しの転生者 ID:yfR6jxUXr

まま、とりあえずイッチの世界時間で朝になって言えそうなら言おうぜ、遠回しに

 

 

76:名無しの転生者 ID:R3fB74eEQ

じゃ、それまで証拠消すかー!

 

 

77:名無しの転生者 ID:RPiRqYFIM

流石に一から全部確認なんてしたらとんでもない時間かかるからせんと思うが、一応ね。

名を出さないように最低限隠してはいるけど、バレたら大変なことになりそうだ

 

 

78:名無しの転生者 ID:bnMI6zUbb

よし、勇者部の子たちについて語るか

 

 

79:名無しの転生者 ID:YvHwk2icV

せやな、後はイッチに妹ちゃんのことを確認するように言えばいいし……えーと、胸辺り見れば多分分かるかな……?

 

 

80:名無しの転生者 ID:WHH7TbxAY

前回の見た感じ直撃受けたのはそこだが……え、それ無理じゃね?

 

 

81:名無しの転生者 ID:UKz3jwUDA

でも大打撃受けた部分はそこしかないんだよなぁ……や、でも流石に難しいぞ。

小学生低学年の頃ならともかく、中一の妹の裸を見るなんてことないだろうしさ

 

 

82:名無しの転生者 ID:Izru+f2pp

んな、ラノベ主人公みたいな展開……

 

 

83:名無しの転生者 ID:CxVMy2DjF

ありそうだ……イッチ、何度かラノベ主人公みたいなことしてるし

 

 

84:名無しの転生者 ID:twb+A1AqT

少なくともコアインパルスを胸に受けたわけだから、絶対怪我はしてる。

そこを怪我していたら……

 

 

85:名無しの転生者 ID:iyfyh7ySS

確定、か……。

リコの時がそうだったもんな

 

 

86:名無しの転生者 ID:OpNNgmkHV

腕なら分かりやすかったのにな……イッチなんて今肩抉れてるし

 

 

87:名無しの転生者 ID:ok3Ljj7oE

うーん場所が厳しいな。流石に俺らもそんな最低なことしろとは言わんぞ……見たいとは思っても

 

 

88:名無しの転生者 ID:ubX45DZMl

ラッキースケベが発動すればワンチャン……!

 

 

89:名無しの転生者 ID:dOxLkj6j/

とにかく、ここのスレは1000まで埋めて新しくスレッド作成しとこう

 

 

90:名無しの転生者 ID:KOeCyIsko

せやな、結局は何も出来んし、ちょっと展開に期待しつつイッチには言えそうなら遠回しに言っておこう

というか期待してる人しかいなさそう……()

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 第 15 話 

 

-戻ってきた生活-ライフリターンズ 

 

×××

 

日常編①

??小都音編前編

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日付は跨ぎ、時間は止まることなく過ぎてゆく。

西へ沈んだはずの太陽は東から昇っていき、暗くなった世界を明るく照らす。

夜の世界から、朝の世界へ。

時間が経つたび、外の世界は明るさを取り戻し、人も増えるのだろう。

ある者は学校へ、ある者は仕事へ、ある者はなんらかの用事で外へ、昼になれば、ある者は遊びに、ある者は買い物にと言った感じで。

深夜帯、と言われる時と比べ、朝とはいえ、徐々に色んな行動をする人が出てきた頃合---当然、学生である紡絆は学校に行く必要があるため---

 

 

 

 

 

「んん……すぴー……。あと……ごしゅーかん……」

 

起きることなく、寝ていた。

むしろ惰眠を貪るつもりしかなかった。

そうなると、紡絆を起こすものは目覚まし時計しかない。

その目覚まし時計はゆっくりだが確実に動き、鳴った瞬間には目覚まし時計は黙らされた。

しかも、役目を果せたというわけでもなく、紡絆は眠ったままである。

約立たずだった。

こうなってしまうと、遅刻が確定になるのだが、前日のことを考えると仕方がないといえば仕方がないのだ。

体力を大きく使うオーバーレイ・シュトロームに、命を削るメタフィールドの形成。

さらにダークファウストとの戦闘。

勇者部の依頼もやっていて、さらに予期せぬ出来事が起こったのだから、頭も肉体も疲れてるといえる。

一応紡絆は授業中寝てるとはいえ、朝は苦手なタイプではないのだが、体力の回復が追いついていないのだろう。

紡絆は起きる気配もなく、時間は一向に過ぎ、このまま東郷か友奈が来ない限り寝たままになる---のが増えてきていたのだが、紡絆の部屋で変化が起きた。

 

「お兄ちゃーん、学校遅刻するよー?」

 

ドア前でノックする音が響き、紡絆の家に居ることから察することが出来るが、少女---紡絆の妹である小都音の声が部屋に届く。

しかし何の返事もなく、少し経っても何も返ってこないため、不審に思った小都音はもう一度声を掛けた。

 

「お兄ちゃん? 入るね?」

 

そう告げても、やはり返事はない。

なので、小都音はドアノブを掴んで開けると、部屋へと入った。

しっかりとドアを閉めた後に、小都音は紡絆の部屋を見渡す。

特に目立ったものもなく、ごちゃごちゃしているわけでもない。基本的には極一般の家具しかない部屋。

星に関連するものは多くあるが、それでも部屋の中は思春期の男子が持つには何も無さすぎる。

ゲームもあるといえばあるが、綺麗に収納されていることから、紡絆が全然物を買っていないのは誰でも分かる光景だった。

そんな中を気にせず、小都音はベットへ一直線に向かう。

小都音の視界の中には、毛布を頭まで被ってるのか毛布が膨れ上がっており、紡絆は間違いなく寝ているのだろう。

小都音は目の前まで来ると、毛布をそっと捲ることで顔を露出させた。

 

「あ、まだ寝てる……もう」

 

小都音は紡絆を起こすために体を揺すろうとするが、ふと手が止まって、穏やかな寝息を立てながら気持ち良さそうに眠る紡絆を見つめていた。

 

「………」

 

「すぴー……」

 

起きる様子が一切なく、紡絆は眠ったままだ。

それどころか、小都音が近くにいるという気配すら察知していないのだろう。

小都音はそんな紡絆をただ見つめ、床に座ると寝顔を眺めるように見ていた。

 

「お兄ちゃん……全然起きない?」

 

頬をつんつんと指で突くと、むにゃむにゃと呟くだけで起きる様子がないのを見て、小都音はくすり、と小さく笑うと満足したのか体を揺り始めた。

 

「お兄ちゃん、起きてー? 起きないとイタズラしちゃうよ?」

 

「んん………にじかん……」

 

「うっ……だ、だめ。遅刻するし朝ごはん食べれなくなるからっ!」

 

一瞬だけ、心に認めようかという甘い考えが生まれかけるが、邪念を振り払って小都音は紡絆の体を大きく揺すった。

大きく揺すられた紡絆は流石に寝続けることなど出来ず、ゆっくりと目を開いた。

 

「んぇ……? あれ……小都音?」

 

「あ、やっと起きた」

 

「なんだ、夢か……」

 

目の前の人物を認識した紡絆は名前を呼ぶが、小都音が安堵の息を吐いた瞬間にはまた布団を被りながらベットに寝転んだ。

昨日の出来事を忘れているのだろうか。

 

「もぉー! 起きてーッ!」

 

「うぉ!?」

 

ついには怒った小都音は大声で叫びながら毛布を引き剥がし、それによって完全に目が覚めたのか、紡絆は驚きながら起きた。

起きたのだが---

 

「お兄ちゃん」

 

「………はい」

 

両手を腰に当てて怒ってます、という雰囲気を纏う小都音に対して紡絆は正座をしながら頭を垂れていた。

 

「分かってる?」

「いや、ごめん……ごめんなさい」

「んん……もういいから早く着替えて! それからお兄ちゃんのことだからいつも朝ごはん食べてなさそうだし、ちゃんと食べる!」

「わ、分かった。でも、別に食べなくても……」

「おにいちゃん?」

「あっはい」

 

ついには笑顔---それも目は笑っておらず、低い声を発した小都音に紡絆はただ従うという選択しか取れなくなった。

 

「じゃあ、待ってるからね」

 

「ん、悪いな」

 

「気にしないで」

 

それだけ言い終えた小都音は紡絆の部屋から出ていき、残された紡絆は時間を確認した後、慌てて服を脱いだ。

肩の傷は癒えており、腕や脚は包帯が必要なだけでそこまで重傷でもないことから、ストーンフリューゲルによる回復でほぼ治ったのだろう。

少なくとも肩が全快した紡絆は腕を回して確認してから、即座に制服へ着替え、必要なものをカバンに入れるとカバンを持ってリビングへ向かう。

リビングに着くと既にテーブルにお皿は置かれており、準備は終わっていた。

紡絆は椅子に座りながらカバンを傍へ置くと、小都音は対面に座っていた。

 

「今日は和食にしてみたよ。食べよ?」

 

「おう……いただきます」

 

「いただきます」

 

手を合わせて食事の挨拶をすると、紡絆は早速鮭を一口食べ、こくこくと満足そうに頷いていた。

 

「やっぱり美味いな。味付けもちゃんとされてて普通にこれだけでも食べれる」

 

「お兄ちゃんの口に合うなら、よかった」

 

嬉しそうに、それでいて安心したように笑う小都音を見て、紡絆も自然と頬を綻ばせる。

こうして誰かと食べるのは何度もしているはずだが、朝食を家族と食べるのは久しぶりになるからだろう。

 

「そういえばお兄ちゃん。怪我してる? さっき、部屋に包帯見えたけど……」

 

「ん? あぁ、腕と脚にちょっとな。対して痛くはないから大丈夫」

 

「……そっか」

 

気になったように訊いてきた為、紡絆は本音で答える。

というより、別に嘘を言っても得しないしバレるからだろう。

紡絆は全力の、本気で隠さない限り、嘘がすぐにバレるほどにヘタクソなのだから。結局すぐバレることが多いが。

しかし紡絆は一瞬だけ何処か悲しそうにしていた小都音に気づくこともなく、食事に有り付いていた。

そうして食事を終えた二人は、感謝するようにまた手を合わせて食後の挨拶をした。

 

「じゃあ、俺は学校行ってくるけど……」

 

「あ、それはちょっと待って」

 

「ん?」

 

カバンを持って行こうとしたところで、小都音が慌てて立ち上がってキッチンへ向かう。

紡絆は首を傾げると、小都音は手に何かの袋を持ちながら帰ってくる。

 

「それは?」

 

「お弁当」

 

「有難いけど、わざわざ作ってくれたのか……」

 

「だってこれを昼食にしようと思ってたでしょ。お見通しだからね?」

 

弁当箱が入ってるであろう袋を差し出すと、紡絆は受け取るが、呆れ果てたような表情で小都音は例の3秒チャージゼリーを取り出した。

紡絆は弁当箱を入れつつ、カバンから消えてることに気づく。

 

「そ、ソンナコトナイヨ……」

 

「バレバレ……」

 

今更誤魔化すように目を逸らした紡絆だったが、小都音からの呆れた視線にいたたまれなくなったのか踵を返した。

 

「と、とにかくそろそろ行ってくる! 東郷のところ行かないと!」

「あ、そうだね。それじゃあ、お兄ちゃん。楽しみにしててっ!」

「へ?」

「私のことはまだ東郷さんたちには話さないでね。ほら、早く行かないと!」

「え、ちょ……まぁいいか。行ってきます」

「行ってらっしゃーい!」

 

背中を押され、玄関まで歩いた紡絆はそのまま小都音の勢いに押される感じで見送られながら出ていく。

出たあと、玄関の鍵を閉める音が聞こえると首を傾げつつも思考停止した紡絆は東郷の家へと向かう。

すると、ちょうど東郷も出てきたところだったので、紡絆は駆け足で手を振りながら近づいた。

 

「おーい東郷ー! おはよー」

 

「あら……紡絆くん、おはよう。今日も元気ね。怪我は平気?」

 

「おう、ストーンフリューゲルを使って回復したから大丈夫。それより友奈は……まだか。家に行こう」

 

朝から明るく挨拶をしてきた紡絆に東郷は微笑んで返すと、怪我の調子を訊く。

紡絆はそれに軽々と返すと、嘘じゃないというのは分かっているのか東郷は素直に頷いた。

 

「そうね。友奈ちゃんを迎えに行きましょう」

 

「よし、それじゃ押して行くぞ」

 

「えぇ、お願い」

 

「ん」

 

紡絆は車椅子の後ろに回り、手押しハンドルを握ると徒歩の速度で押していく。

紡絆と東郷は友奈と近いのもあって、全く時間かかることもなく辿り着けた。

数秒程度で着いたため、紡絆はインターホンを鳴らす。

 

「お、お待たせー!」

 

元々準備は終わっていたのか、インターホンを鳴らして少し経つと、友奈が急いだ様子で出てくる。

 

「おはよう。起きてたみたいだな」

 

「おはよう、友奈ちゃん」

 

「ちゃんと起きてたよーおはよ紡絆くん、東郷さん」

 

鍵を閉めながら答えた友奈は、振り向いてから二人にも挨拶を返していた。

そんなこんなでいつもの登校メンバーとなった三人は、讃州中学に向かうための通学路を歩く。

その通学路も同じ時間帯に出たのか、それとも早く出たのか他の生徒たちも歩いているのが見える。

そんな中を他愛もない話をしながら歩く姿は、彼らの仲の良さがはっきりと分かるだろう。

 

「なんだか今日の紡絆くんはいつもより明るいというか、嬉しそうね」

 

「確かに、ちょっと弾んでる感じがするかも。何かあった?」

 

「ん、いや。良いことがあったんだ」

 

「良いこと?」

 

「怪我が治ったのもあるけど、ちょっとな」

 

「そっか。じゃあ良かったね!」

 

「だな! 悪いことよか良いこと起きた方がいいもんだ」

 

外に出る前に言われたことを思い出した紡絆は曖昧にするが、言いたくないと判断したのだろう。

二人は特に訊くことはせずに、そのまま三人は教室へ向かった。

もし役目に関することだったなら聞き出していたかもしれないが、紡絆の様子からして特に悪いことでもないから、聞かなかったのだろう。

それはともかく、今日も今日とていつも通りの日常を過ごすのだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

その日の朝。

讃州中学は、妙にザワザワとしていた。

珍しいことがあったのか、それとも何かあるのか、それはまだ定かではないが、HRの時間になると生徒たちはチャイムが鳴る前には席に着席し、先生を待っていた。

すると、少し経ってから眼鏡をかけた少し老婆の先生が出席簿である綴込(とじこみ)表紙を手に入り、教壇の前にに立った。

先生が教壇の前に立つと、クラスの生徒たちは一斉に審議を問いかけるが、先生は軽い注意をしてから、説明するためにも注目を集める。

好奇心故か、生徒たちは大人しく従い、先生はこほんとひとつ咳を入れると、口を開く。

 

「今日は皆さんにこのクラスに編入してくる新しいお友達を紹介します。入ってきて」

 

「はい」

 

先生の言葉に教室の入り口に注目が集まる中、先生に呼ばれたであろう生徒は讃州中学の制服を身に纏いながら堂々とした様子で歩いていく。男子や女子からも驚いたような歓声が挙がるが、その生徒は先生の横に立ち、クラス内を眺めていた。

その間に先生は黒板に名前を書いていく。

小声でクラス内がぼそぼそと話し始めてはそわそわし、ただ一つだけ言えることは、女子よりも男子の方が反応がいい。

つまり---女子生徒だった。

讃州中学の女子制服を身に纏い、綺麗な髪が小さく揺れていたのだ。

そしてその女子生徒はただ待ち、先生が名前を書き終えると先生はその生徒に声を掛けた。

 

「では、早速自己紹介お願いします」

 

そう言われた女子生徒は一歩前に出る。

綺麗だと感じさせる()()()()()()()を靡かせ、美少女と呼べるほど整った容姿を持つ少女は口を開いた。

 

「皆さん、こんにちは。今日からこのクラスでお世話になる天海(あまみ)小都音(ことね)です。よろしくお願いします」

 

ふわりとした柔らかい笑顔で自己紹介し、礼儀正しい綺麗な作法で頭を下げた編入生の後ろには、天海(あまみ)小都音(ことね)と書かれていた。

その正体を、容姿を知るものは---

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、えぇえええぇぇ!?」

 

一人だけ存在していた。

思わず、といった感じで椅子から立ちながら大声を出してしまったのは、犬吠埼樹。

そう、このクラスの学年は一年であり、その学年の樹は唯一と言えるくらいに編入生の存在を知っていた。

なぜなら編入生の名前と容姿は、紡絆の家で見た()()()()()なのだから。

苗字は違えど、驚くだろう。

そもそも編入生ということで興味は惹かれていたのに、それが知っている先輩の妹である可能性が高かったのだから、恥ずかしさや普段の気弱さはどこへやら。

立って叫んでしまったのである。

 

「犬吠埼さん、どうかしました?」

 

「あっ、い、いえ……すみません……」

 

「………犬吠埼?」

 

恥ずかしさのあまり、顔を赤めながら席に座るが、周りからよりザワザワとしていた。

だからか、編入生である小都音が小さく小声で呟いたのは聞こえることなく、ただ小都音の瞳は顔を赤めて縮こまる樹に対して、『興味』という感情を宿して見ていた。

 

「コホン。気を取り直して、天海さんはまだこの学校に来たばかりで至らないことはあると思います。なので困っていたら声をかけてあげてください。

そして仲良くしてあげるように。

天海さんは何か言うことはありますか?」

 

「えっと……ご迷惑にならないように出来る限り早く覚えていきたいと思います。なので、これからよろしくお願いしますね」

 

「天海さんの席は向こうの方ね」

 

先生に言われ、小都音は大人しく席に座る。

すると隣の席や後ろの席の生徒に話しかけられたため、小都音は一言社交性のある挨拶だけを返して、HRの話を聞いていた。

しかし、小都音は樹を興味津々といった様子でほんの少しだけ再び探るような細めた視線を向けていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

犬吠埼樹にとって、今日の朝の出来事は未だに忘れられないでいた。

編入生が来るという周りからの噂を聞いた樹は興味を持っていたが、忘れられないでいるのは自身の失態である。

流石に自己紹介中にあんな大声で叫んでしまえば、恥を晒すにも程があるだろう。

しかしそれほど驚いたのである。

無論、まだ確証はないため、勇者部のトークで話すことも出来てないが、それは肝心の小都音が転校生特有の質問責めにあっており、樹は突撃出来るような度胸はなかったからだ。

どの休み時間に話しかけようかと視線を向けても、質問責めにあっている。

小都音は笑顔でどんな質問にも冷静に教えられないものは教えられないと言い、返せるものは返しているが、樹はそれを見て少し羨ましいとも感じていた。

 

(わ、私には無理……)

 

あれだけの人数に囲まれてもなお、全て笑顔で捌けるほどのコミュ力を持つのを樹は少ない知り合いの中に、そうそういない。

何故なら簡単に想像出来るのは二人、三人---いや、コミュ力が高い人ばかりで、ほとんど捌けそうな人たちしか浮かばなかった。

ちなみに今は放課後で、樹は勇者部に向かうための準備をしている最中である。

 

(もし紡絆先輩の妹さんだったら、紡絆先輩喜ぶかな……だといいな。でも違ったら、先輩を余計辛い目に合わせちゃうんじゃ……。苗字は違うし、私の気のせいかも? それとも先輩を呼んで確認してもらうとか……だけどそれはそれで迷惑に……)

 

カバンに必要なものを収納しながら、その間に心の中で思ったことを呟く。

考えてる事は紡絆のことだが、純粋な彼女の好奇心もあるのだろう。

 

「---埼さん」

 

(うぅ、気になる……本当は確かめたい。友奈さんや紡絆先輩なら、絶対すぐに話にいけるのに私は……。それに自己紹介を邪魔しちゃったみたいなものだし、早速嫌われたかも……! も、もう一度謝るべきなのでは…!?)

 

「--吠埼-ん」

 

(で、でも紡絆先輩が話してた時のことはそれほど経ってないし記憶に深く残ったから覚えてる……。写真も見たけど、髪の色も見た目も本当に同じだし、私と同じ年齢とも言ってたもんね。じゃあ、本当に先輩の妹さん? どう確かめたら---)

 

「犬吠埼さん! 聞こえてる? 大丈夫?」

 

「へぁ!?」

 

そんなふうに考えてると、樹は顔を覗き込まれたことで視界一杯に広がった整った顔を見て、その人物に気づいた瞬間、驚いたように顔を上げる。

 

「どうしたの? 体調悪いとか? あっ、ごめんね。タメ語になっちゃった」

 

「え、あ………いえ……。ど、どうして……? さっきまであそこに……」

 

心配と言った様子で見つめてくる小都音の姿に、既視感を覚えつつ樹は必死に思考しながら言葉を紡ぐ。

 

「普通に断って抜け出してきたよ? それより、あなたが犬吠埼さんで合ってる、よね?」

 

「は、はい」

 

さらっと普通は難しいことを言っているが、小都音は気にした様子は無いまま自らの要件を切り出してきた。

人違いと言うわけにも行かず、むしろ話すきっかけが出来たことを樹は活かそうと疑問をどう訊こうか考えようとして---

 

 

 

 

 

「よかった。おに---兄さんから聞いてたの。()()()()()()()()()()()()()()()()って」

 

考える必要が、なかった。

ほぼ確定、と言えるだろう。問題は紡絆が妹が生きている事実を知っているということを樹が知らないという点である。

 

「やっぱり、もしかして……」

 

察したように、それでいて驚いた表情で樹は小都音を見つめると、小都音は柔らかく微笑む。

 

「あ、自己紹介では言ってなかったもんね。改めまして、天海(あまみ)小都音(ことね)です。継受紡絆の妹で、兄さんも既に私のことは知ってるよ。

それで、いつも兄がお世話になってる……のかな?

えっと、間違ってたら申し訳ないんだけど、姉が入ってるならあなたも勇者部に入ってる?」

 

「わ、私は犬吠埼樹です。犬吠埼風は私の姉で、その……勇者部には入ってますけど、紡絆先輩にはむしろ私の方こそお世話になっていて、そんな……」

 

色々な疑問が浮かぶ中、何とか樹は小都音の言葉に返していく。

そもそもの問題として、樹は紡絆から聞いたのは、妹が死んでいるということ。

名前が小都音ということ。

同じ年代ということ。

それくらいしか聞いておらず、だからこそ、混乱していたのだ。

聞きたいことは山ほどあるし、逆に考えたいことも多くある。

だが、状況的に整理が追いついていなかった。

紡絆が知ってるということから、言わなくていいと言うことだけは分かったが、せいぜい編入初日に悪い印象を与えないように無視しないように返すだけが精一杯だったのだ。

 

「……そっか。よろしくね、樹ちゃんって呼んでいい? 私のことは小都音って呼んでくれたからいいから。

あ、さん付けは禁止ね」

 

「だ、大丈夫です。えっと、じゃあ、小都音ちゃん……?」

 

「うん、それでいいよ。

でも、良かった……勇者部の人が居てくれて。今から部室に向かうところ?」

 

少々グイグイ来るとはいえ、小都音は紡絆とは違ってまだ常識のある姿というのが分かるだろう。

少なくとも紡絆ならこの時点で何かはやらかしていても不思議ではなかった。

まぁ、そもそもの問題として小都音の興味はあくまで勇者部であって、樹のみを対象としてないのもあるのだろうが。

 

「はい……一緒に来ますか?」

 

「いいの?」

 

「私に話しかけて来たのって、それが目的かなって」

 

「そんな分かりやすかったかなぁ……?」

 

樹の言葉に首を傾げて不思議といった表情をする小都音だが、樹は首を横に振った。

違うと言いたいのだろう。

 

「私も、同じ立場だったら似た目的を持つと思ったので……。正直、紡絆先輩がわかりやすいだけで小都音……ちゃんは全然……その、読めないです」

 

「そっか、なるほどね……樹ちゃんはお姉さんのことが大好きなんだ」

 

「私にとっては、最高のお姉ちゃんですから」

 

「良いと思うな、そういうの。ね、それなら樹ちゃんのお姉さんのこと、私の兄さんのこと、樹ちゃんのこと教えてくれる? これからも付き合いが増えていくと思うし」

 

慣れてない様子の樹の言葉を待ち、バカにすることもなく、引くことも無く、ただ優しい表情で見つめていた小都音は一緒に勇者部の部室へ向かう道の中、親睦を深めるように会話をする。

小都音は樹が話しやすそうな会話を選んでそのことを聞いたが、初対面とは思えないほど樹は話しやすかった。

だからか、部活に着くまで会話は途切れることなく、間違いなく初日で二人の仲は深まっただろう。

なにより、気弱で引っ込み思案の樹でも、性格が全くと言って似てない小都音と話せるのは、二人には共通点があったからだった。

人間関係で一番効果的で、一番仲を深めやすいのが共通点。

趣味、好み、嫌いなもの、ニュース、流行りなどとそういった話題。

色々なものがあるが、本音を話し合え、嘘偽りなく言えることは二人だけにはあったのだ。

兄と姉についてという、最強の話題が---。

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
妹に恋人繋ぎされてもなんか甘えん坊になってる気がするけど、こんな感じだったな、うん普通だわみたいなこと考えてるやつ。
ウルトラマンとしては復讐などは止めなければならないが、紡絆としては人間なので、紡絆自身は性格上普通に他者の意思は人としての道を踏み外さないなら尊重する。
ただし、彼自身は後悔も罪悪感も未だに残っているようだ。
それと大赦の権力に引いた。

〇エボルトラスター
紡絆を落ち着かせるために一度ドクンした

天海(あまみ)小都音(ことね)
苗字から分かる通り、天海という老夫婦の家に暫く居候していたらしい。
料理も上手で色々家事も出来る。
事故に遭った時の記憶は飛んでいて覚えていないらしいが、仮に覚えていたら復讐すると語った。
兄である紡絆との距離感が一方的に近い。
外では兄さん、家ではお兄ちゃんと呼ぶよ。
一応大赦と縁はあるようだが……?

〇樹ちゃん
そりゃあ、聞かされてた話とは違うと驚くよね。
でも以前紡絆に言われた通り、仲良く出来そうだと思ったとか。


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「-戻ってきた生活-ライフリターンズ」【その②】


感想見る→あれ、この内容15話じゃ……→んん? あれ? 日曜日投稿したはずだが……ん? 今日月曜日……あっ、間違えてね? あんれー!?
はい、予約投稿してて日曜日が21日だと勘違いしちゃってました、てへぺろ(´>ω∂`)
二年(初投稿が2020の3月8日)も活動していて初心者みたいな間違えをする作者がいるらしい。しょ、初心に帰るのも大事だから()

それはともかく、正直クソ悩んだ回です。
主にピンクにならないかどうか。
最後に、友奈ちゃん誕生日おめでとー! キャラの誕生日なんて基本覚えてないから忘れてたわ…ちょうどミスって投稿した15話が誕生日だったのね…。






◆◆◆

 

 第 16 話 

 

-戻ってきた生活-ライフリターンズ 

 

×××

 

日常編①

天海小都音編後編

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

学校の廊下を、紡絆はどこが疲れた様子で東郷や友奈と一緒に部室への道を歩いていた。

 

「ね、寝足りねぇ……。腹減った……部室で食お……」

 

「全然食べれなかったもんね、紡絆くん」

 

「それでも、ちゃんと授業は受けなくちゃダメよ」

 

そう、普段授業中は寝てることは多いとはいえ、今回の紡絆は午後は寝ていたが、午前の授業を全てちゃんと受け、その上昼食を食べることはあまり出来なかった。

簡単に言えば、紡絆が弁当箱、それも中身にハート型の料理が入っていたせいで、クラス内に衝撃が走り、転校生や編入生のように囲まれたかと思えば、付き合ってるのかとかうんたらかんたらで質問責めにあい、何故か友奈と東郷も巻き込まれたというわけである。

ちなみに友奈と東郷が巻き込まれた理由は普段からいるからという理由であり、紡絆は途中から食べるのをやめて弁当箱を閉じると悟りを開いていたが。

 

「きょ、今日は午前は受けたし? あぁ……」

 

部室へ向かう道は友奈が押してるため、隣で歩いている紡絆は東郷から目を逸らして言い訳しようとするが、ぐぅーと腹の虫が鳴る。

そしてテンションも下がっていた。

 

「朝の明るさが嘘のようね……」

 

「ほ、ほら元気出して! もう少しで着くよ!」

 

「ん、そうだな……よし、大丈夫だ! 腹減った以外は問題ない! 腹減った以外は!!」

 

無駄に強調して言うが、部活動は自分たちだけではなく、他人と関わる。

だからこそ紡絆は空腹を意識外に投げ飛ばし、明るさを取り戻した。

 

「ごめんなさい、紡絆くん。こんな時にぼた餅用意してなくて……」

 

「い、いやいや東郷は何も悪くないって。むしろあんなことになるとは予想外過ぎた。逆に勘違いされて困ったろ」

 

「私は気にしてないよ〜結局紡絆くんは話したの? 私は対応で精一杯だったから聞けなかったんだけど……」

 

「私も紡絆くんとの噂なら全然平気よ。あ、そういえば私もそれは知らないわね」

 

「二人の優しさに感謝しとく……ちなみにそれは秘密ってことで押し通した。まぁ、近いうち分かるんじゃないかな」

 

何故秘密にするように言われたのかは分からないが、紡絆は近所である、それも隣の同士の二人ならすぐ分かるだろうと投げやり気味に呟き、ふと思い出したように口に出す。

 

「そういえば、一年の方で新しく来た子がいるらしいな。質問責めにあったとき、言ってた」

「それに関しては朝来た時にも結構話題になってたわよ?」

「一年ってことは樹ちゃんのクラスの可能性もあるってことだよね。どんな子かなぁ〜」

「どの道、勇者部への依頼が来ない限りは会うことはないだろ。俺らは二年だし……なんて言ってると部室に着いた……が」

「依頼主が来てるのかしら……」

「とりあえず入ろっか」

「だな、んじゃ風先輩居るっぽいしなんか言われそうだから俺が先入るわ」

 

部室前に来た紡絆たちだが、部室の中では話し声が聞こえてきたため、依頼主と話してるのではと考えたようだ。

となると小言を受けるかもしれないため、紡絆は自ら前に出てノックした。

 

「すみませーん。入りますー」

 

「あ、早く入ってきなさい。特に紡絆、早く説明して」

 

何処か気の抜けたような声でドア越しに話しかけると、何故か指定されながら早く入るように言われたため、紡絆は一度友奈たちと顔を見合わせてからドアを開け、口を開く---

 

 

 

 

 

 

「失礼しm---「お兄ちゃんッ!」うぇえぁ!?」

 

口をまともに開くことも出来ず、今朝も聞いた声が耳を通る。

紡絆は突然来た腹の衝撃に空腹なため力が出ずに耐えることも叶わないまま、尻餅を着いた。

 

「い、いてて……何!? 罠!? 風先輩の罠!? 俺なんかした!?」

 

「つ、紡絆くん大丈夫!? って、この子って……」

 

「今の言葉から考えると、もしかして……」

 

指定されたため、さては罠でも仕掛けられていたのかと紡絆が考えていると、腹に違和感と心底驚いたというように驚愕の表情で自身を見る友奈と東郷に紡絆は怪訝そうな表情を浮かべ、視線を辿って違和感のある腹に視線を向けた。

すると、そこには---

 

「えへへ……ごめんね。驚いた?」

 

「……はっ?」

 

妹である小都音が、イタズラが成功した子供のように小さな舌をちろりと出して、可愛らしい笑顔で首を傾げながら紡絆を上目遣いで見つめていた。

想像もしてなかった出来事に、紡絆はつい前日の夜と同じ反応をする。

ちなみに紡絆が想像もしてなかったのは、讃州中学の女子制服に身を包みながら、この学校に来ているということである---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気を取り直し、紡絆はまるで法に裁かれる罪人のように椅子に座りながら、その対面には友奈、東郷、風、樹の四人が座っていた。

全員揃ったことから、状況の説明を求められた紡絆は、かくかくしかじかで説明した。

簡潔に纏めると、事故に遭った時、両親が小都音を守ってくれたこと。

小都音本人を病院に連れて行って、引き取ってくれた人がいたこと。

その引き取ってくれた老夫婦の家に暫く居たらしく、昨日の夜に戻ってきていたこと。

妹の名前が違うのは、お世話になったお礼としてお世話になった人の苗字を使っていること。

前日の夜そのまんまの説明すると、勇者部の皆は自分の事のように喜び、めでたいという言葉を紡絆に送っていた。

それにお礼だけを返し、盛り上がって話題がどこかへ行く前に、風が咳払いをひとつ入れる。

 

「こほん。それで、今のをもっと簡単に纏めると、紡絆が知らないところで、無事に生きていたってことね。本当に良かったわ……」

「まぁ、流石に県を跨いで全ての病院を探すことは出来てませんでしたから、そこは盲点でしたね……。けど、なんで小都音がここに?」

「兄さんが讃州中学に入ったことは知ってたから、兄さんの家に戻る前に手続きをしておいて、わざと言わなかったんだ。

驚いたでしょ? ちなみにクラスは樹ちゃんと同じで、友達になれたの。凄い?」

「えっ!? 樹に友達が……今日は赤飯炊かないと!」

「お、大袈裟だよお姉ちゃん!」

 

紡絆は納得したように頷き、目を輝かせながら隣に座る小都音は紡絆に頭を近づけていたため、紡絆は頭を撫でながら目の前でこれはまた大袈裟に騒ぐ姉妹、主にその姉を見て苦笑する。

 

「一年生に来た編入生って、小都音ちゃんのことだったのね」

「わぁ……ここでも会えるんだね、またよろしくね!」

「はい、東郷さん、結城さん。よろしくお願いします。私が居ない間、兄さんがご迷惑をおかけしていないでしょうか……?」

「ううん、全然大丈夫だったよ! むしろお世話になってるくらい!」

「えぇ、紡絆くんにはとても良くしてもらってるわ」

「そうですか……あ、でも兄さんは渡しませんからね?」

 

ホッ、と安心したように微笑む小都音だが、すぐに警戒するような視線を東郷と友奈に向けていた。

友奈はどういうことかと首を傾げ、東郷はただ微笑ましそうに微笑む。

様子からして顔見知りのようだが、隣同士なのもあって会うことはあったのだろう。

とりあえず紡絆は事情聴取が終わったため、椅子を動かすと机を借りて弁当箱を開けていた。

 

「兄さん、ご飯食べなかったの? それとも私が居ない時に苦手なものでも出来た?」

 

「いつの間に!? いや……ちょっと騒ぎになって」

 

「紡絆くんが弁当を開けたら、クラスメイトの人たちが来て、紡絆くん食べる時間なくなったんだ」

 

「なるほど……」

 

「でも、そういうことだったのね。紡絆くんが今日持ってきた弁当は小都音ちゃんが作った……と。腑に落ちたわ」

 

友奈たちと話していたため、離れたはずの紡絆はいつの間にか隣に来た小都音に驚きつつ、事情を話す。

しかしあまりにも淡白過ぎたからか、友奈が補足して、東郷は先程聞いた近いうちに分かるという言葉を思い出して、納得していた。

 

「じゃあ、兄さん。私が食べさせてあげる! ほら、あーん」

 

「自分で食えるんだが……まぁいいか」

 

特に気にしない紡絆は大人しく従い、口を開けて食べさせて貰っていたが、ここが家だとでも思ってるのだろうか。

 

「あのぉ〜……私たちのこと忘れてませんかね?」

 

「あ、えへへ」

 

「くっ、確かに反則級の可愛さ……! でも樹も全く負けてないわ! いいえ、むしろ上…!」

 

「何言ってるの、お姉ちゃん……」

 

風の言葉を聞いて、小都音は思い出したように照れたように笑う。

風はそれを見て、よく分からない反応をしたからか樹に突っ込まれていた。

 

「……兄さん、続きはまた家でね」

 

「お、おう……?」

 

そんな風の様子を知らずか、小都音は肩をくっつけたまま紡絆の耳元で囁く。

紡絆は困惑しながら返事したが、微妙な空気が部室内を占めていた。

なお、肝心の紡絆は小都音が肩をくっつけていても美味しそうに集中して弁当を食べるため、役に立たない。

 

「え、ええっと、小都音ちゃんはどうして勇者部に? もしかして依頼があるとか?」

 

「そうね、私たちに出来ることなら気軽に相談していいのよ」

 

そんな空気を変えるために、約立たずな紡絆は置いておいて、友奈が本題に入る。

それに乗るように、東郷も優しく言っていた。

 

「そうでした。樹ちゃんにも言いましたけど、兄さんに会いに来たのが一番の目的です。

でももうひとつあって、風先輩」

 

「ん? あたし?」

 

きょとんと首を傾げる風を見ながら、小都音は視線を向けて真剣な表情を作っていた。

 

「勇者部に入部したいって言うために来ました。あ、皆さんが()()()()()()()()()についてることは、大赦の人から聞いてるので、邪魔にはならないと思います」

 

「ぶっ……!? ちょ、知ってたのか!? でも何処で!?」

 

まるで普通の会話のように言った言葉に、周りが驚いてから言葉を発するより前に、紡絆は喉を詰まらせかけながら素早く反応した。

そのことに、小都音は説明するように口を開く。

 

「色んな手続きを大赦を通してしたからね。

その時、大赦の人から聞いてたの。ほら、精霊も見えるし。

これって勇者のお助けみたいなものだったかな? 誰のだろ……?」

 

「あ、それは私のだよ。牛鬼って言うんだ。なぜか私より紡絆くんの方が懐いてるんだよね」

 

紡絆の背中にこっそりと近づいていた牛鬼を、小都音は見逃すことなく優しく包むと手に乗せながら、誰の精霊か聞くと友奈に差し出していた。

友奈は牛鬼を受け取ると、腕で抱きしめる。

 

「それよりも……見えるってことは、小都音ちゃんにも勇者適性があるってこと? 風先輩は小都音ちゃんが勇者だということは聞いてますか?」

 

「いえ、聞いてないわ。そもそも新しい勇者が来るってことすら聞いてないし……。一応、メールはしてみるけど」

 

「じゃ、じゃあ小都音ちゃんはどうして……?」

 

東郷の言葉に、一番詳しいであろう風も分からないといったように首を横に振り、携帯を取り出してメールを出していた。

樹はとりあえず、聞いていたが。

 

「あ、私にあるのは()()()()()()なの。そもそも死亡扱いされていたみたいだから、勇者としての力も用意されてなくて。

知識としてなら、皆さんが勇者としてバーテックスという存在と戦ってるってことくらいは知ってますけど……」

 

「言ってることは本当見たいね。すぐ返ってきたわ」

 

「なるほど、それなら……いいんじゃないですか? 小都音は事情を知っていて、なおかつ俺たちは勇者部の人員も増やせる。メリットしかないですし」

 

「はい、ですから安心してください。兄さんもこう言ってるので!」

 

弁当を食べ終えた紡絆だが、どうやら話は聞いていたらしい。

小都音は紡絆の腕に抱きつきながら、風の目を真っ直ぐ見ていた。

 

「風先輩。小都音ちゃんはしっかりとしてますし、私も良いと思います」

 

「うん、私もそう思います!」

 

「私もいいと思う」

 

「ここで断ったら私が悪役みたいになるんだけど!? まったく、みんなに言われたくたって許可するわ。それに……」

 

「なんです? 俺の顔に何かついてますか?」

 

部員の声を聞いて、軽くため息を吐きながら、風は言葉を区切りながら小都音を見て、次に紡絆を見つめた。

不思議そうにする紡絆に対し、風は自身の口元を指さした。

 

「なんでもない。でも紡絆、ご飯粒ついてるわよ」

 

「え、何処だ!?」

 

「とりあえず、これ入部届けね」

 

「あ、はい。ありがとうございます。

それと兄さん、もっと左だよ。取れないなら私が取ってあげても……」

 

慌てて口元を確認した紡絆の姿に苦笑い気味に笑った風は、入部届けの紙を持ってきて差し出す。

小都音はそれを受け取って書く前に、場所を教えていた。

紡絆はその指示通りに米粒を取り、口に含む。

 

「ん? なんか言ったか?」

 

「……なんでもなーい」

 

聞こえてなかったのか、謎の難聴を発揮した紡絆は小都音に疑問を投げかけるが、小都音は不満そうに書類を書き始めた。

それを見ながら、風は友奈や東郷、樹の元へ近づいてボソッと呟く。

 

「……距離感近くない? あれ、兄と妹の関係よね? あたしの気の所為?」

 

「気の所為ではないかと思います。さっきだって、小都音ちゃんは肩をくっつけてましたから」

 

「兄妹で仲が良いのは良い事だよね!」

 

「け、兄妹の域を超えてるようにも見えますけど……」

 

明らかに周りから見ると、容姿からして違うことから、歳差の違うカップルのようにも見える。

そのことに疑問を持ったため、話題になりかけるが、それは小都音が書類を持ってきたため、長く話されることはなかった。

 

「これでいいですか?」

 

「……えぇ、ばっちり。それじゃあ、詳しく説明していくわね」

 

「はい、お願いします」

 

「なんで俺も?」

 

紡絆の腕に自身の腕を絡めている小都音はニコニコと機嫌が良さそうな笑顔で説明を聞くために耳を傾けている。

何故か巻き込まれた紡絆は首を傾げていたが。

 

「……やっぱり気の所為じゃないわね」

 

「俺の存在が気の所為とでも!?」

 

「誰も言ってない!」

 

その距離感を見て再び小さい声で呟いた風だったが、何もしてないからか、普通に聞き取った紡絆がショックを受けたように言い、風は一喝した。

それはともかく、風だけではなく、友奈や東郷、樹も含めて改めて小都音の歓迎と、勇者部の説明をしたり、事情を知っているということから勇者の説明も交えて行った後にアプリだけ入れさせて、今日は解散となった。

ちなみに紡絆も同じくお役目についていて、ウルトラマンであることは明かしたのだが、一般人にはウルトラマンは知られてないからか小都音はきょとんとしていたとだけは言っておこう。

なお、紡絆はややこしくしないように喋らないように言われたため、みんなが小都音に説明している途中で寝ていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

色々な説明を終え、家に帰ってきた紡絆はご飯を食べるとひとまず、湯船に浸かっていた。

のぼせ対策としてか、頭にタオルを乗せ、体を休めている。

 

「ふぃ〜……」

 

疲れが取れているのか、何処か気持ち良さそうな声を出しながらただ虚空を見つめる。

何か考えているような様子だが、紡絆は何も考えてなかった。

ただ風呂が気持ちいいとかそんな普通のことしか考えていない。

 

(あー……二日連続でここまで驚くことになるなんてな〜。小都音に勇者適性があるなんて初めて聞いたし、まさか学校に来るとは……)

 

ふと今日の出来事を思い出し、心の中で呟く。

昨日よりかは動揺したりはしてなかったが、驚いたことに間違いはない。

そもそも何も言わなかった目的が紡絆を驚かすためだから、小都音からすると大成功である。

 

「はぁあぁ……今日はどうしよ。寝るか? 完全に怪我を治さなきゃだし……」

 

紡絆はただリラックスするように息を吐きながら、風呂を終えた後のことを考える。

特にやることもなく、ゲームをしたりするのもありなのだろうが怪我が治っていない。

だから紡絆は悩んでいた。

 

「……ダメだ、ねむい」

 

湯船の中は寒くもなく、暑すぎるわけでもないため、むしろちょうど良い温度に心地よくなったのか、目が半開きになり、うとうとし始めた。

湯船から出るという選択もなく、紡絆は風呂で寝ないように目を開くという抵抗しかしていない。

正直それは出るだけで解決なのだが、紡絆は行動しない。

それどころか、だんだんと目が閉じそうになっていた。もはや今の紡絆は睡魔に抗うだけで、まともに思考すらしていない。

それでも、睡魔には勝てないのか紡絆の目は閉じられ、そのまま---

 

 

 

 

 

 

 

 

何かの音が聞こえた。

それが何か分からない紡絆は、気がついたように意識を取り戻し、目を擦った。

眠気を少しでも覚まし、もしかして何かが落ちたのではと思った紡絆が音の聞こえた方へ視線を向けると---

 

「お、お兄ちゃん……入る、ね?」

 

「……ふぁっ?」

 

恥ずかしそうに顔を赤めながらも、タオルを巻いた小都音が浴室へ入ってきていた。

思わず紡絆は息すら忘れるほどに完全に停止し、固まった。

 

「…………」

 

「…………え、えっと……」

 

「……あっ、ご、ごめん」

 

返事がない、ただの屍のようだ---とはならず、タオルを強く握りながらもじもじと落ち着かない様子を見せた小都音の姿を見て、紡絆は再び意識を取り戻して目を逸らした。

 

 

59:名無しの転生者 ID:w8dZzJxfZ

ナイッスゥー!

めっちゃ美少女やんけ!

 

 

60:名無しの転生者 ID:fppD58M4o

妹ちゃん美少女過ぎん……?

くっ、タオルが邪魔過ぎるぜ……!

 

 

61:名無しの転生者 ID:7VxFT2Ui3

何はともあれ、チャンスだ!

イッチ! 事情は後で説明するから妹ちゃんの胸を見ろ! 出来れば生まれたままの姿を見ろ! タオルを何とか外せ!

 

 

62:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

はぁ!? なんで!? そんなこと出来るかっ!

見たいだけだろ!?

 

 

63:名無しの転生者 ID:zZXG4YNp

ええい! 見たい気持ちは確かにあるが、今回はちゃんとした理由があんだよ! チャンスだから見ろ!

いいな、このチャンスだけは逃さすなよ!! お前の運命もかかってんだからな!!

 

 

 

 

脳裏での掲示板が凄まじい速度で動き始めたことで紡絆は悩むが、やけに真剣な様子に純粋な邪な考えだけでないことには気づいた---のだが、どうすればいいのか分からなかった。

いつもなら、一人くらいは止める人がいる。しかし、今回は一人も居ないどころか、やれとしか言わないのだ。

紡絆が知っていて、普段止める人たちすらやれと言うのは、流石に何かあるのだろう。

そう考えた紡絆は逸らしたまま横目で小都音を見ると、彼女はタオルを強く握ったままチラチラと紡絆を見ており、とにかく紡絆は大事な部分を隠すために頭に乗せていたタオルに手をやる。

 

「小都音、とりあえず……顔背けてくれ」

 

「う、うん……」

 

(よし、速攻で隠す! 流石に見せられない……!)

 

混乱して動かない頭---いや、元々大してよくない頭しかない紡絆は今出来て、やるべきことを思いつくと、とりあえず口に出して行動に移す。

小都音が顔を背けた瞬間に立ち上がって一瞬でタオルを腰に巻く。

たったそれだけのことだが、常人ではない速度だった。

 

(……で、考えれるくらいに返って冷静になったが、俺は見なくちゃいけないってわけか? なんか考えがあるらしいが、妹の裸を見る兄ってどうなんだ!? というか、なんで入ってきたんだ!?)

 

こんなハプニング……と言っても、小都音から入ってきたのだから紡絆からしてのハプニングだが、急速に冷静な思考へと移行した紡絆はただ純粋に疑問が浮かび、とりあえず腰巻きタオルがあるので湯船から出た。

 

「えっと……どうして入ってきたん、だ?」

 

「そ、それは……」

 

湯船から出た紡絆は近づくことはせず、浮かんだ疑問を投げかける。

すると小都音は相変わらず顔を赤くしたまま、言い淀んでいた。

 

「それは?」

 

「お兄ちゃんと……入りたくて……」

 

「そ、そうか……」

 

返ってきた言葉に、何と返すべきか分からない紡絆は一言で返事した。

そうすると、二人の間で無言の空間が作り上げられる。

両者とも動かず、何も言わない。

それでも何か言わなければ、何も変わらないことは事実だった。

 

「……出るべき、か?」

 

思わず、と言った感じで紡絆が口に出す。

やれと言われたとしても、どれだけ重要なことでも、良くないという考えは紡絆にはあった。

だからこそ、紡絆は出るために小都音の横を通り、紡絆は浴室のドアを---

 

 

「お兄ちゃん………っ」

 

「んな!? ちょ、小都音!?」

 

開けようとしたところで、腕に抱きつかれて止まってしまう。

離さないように、行かせないようにと紡絆の腕を胸でぎゅっと抱えて。

そこまで密着されると、いくら小都音がタオルを巻いていても、紡絆の腕は袖もないため、素肌だ。

服を着ていても感じられると言うのに、素肌だとより成長過程である女の子特有の柔らかい感触が腕に直接当たっており、紡絆は別の意味で慌てていた。

主に他人の視点から見ると、現時点で兄としての最低な現場になってるのではという自己嫌悪に陥りそうという意味で。

 

「……一緒に、入ろ?」

 

「そ、そうは言ってもな……小都音も、見られたりは嫌だろ?」

 

「う、ううんお兄ちゃんになら……いいよ。全部見られても、何を見られても。それに、ずっと会えなかったお兄ちゃんとの時間を、埋めたいの」

 

前述はともかく、後述の言葉は反則だと紡絆は感じた。

前者の方は何と返すべきか分からなくても、後者を言われてしまえば紡絆にはどんなことがあれど、()()()()()()()()()()

まだ一度もそのことには触れてないが、小都音は無事とはいえ両親を失った原因は全て自分にあると思っている紡絆からすれば、断れるはずがないと思っているのだ。

 

「だ、ダメなら……無理には言わないから。お兄ちゃんは、嫌かもしれないし……私と入るの……」

 

「……いやさ、俺は別に嫌じゃないし、小都音が良いなら入るが……本当にいいのか? 小都音も中学生になってさ、男女で入るのは普通ではないって分かってるだろ?」

 

「……うん。でも、お兄ちゃんだから。むしろ、私はお兄ちゃんと入りたいの」

 

紡絆からすると、小都音の表情は見えない。

それは逆に言えば、小都音から見て紡絆の表情は見えないことになる。

だがそれでも、紡絆は不思議と小都音が寂しそうだということを理解して、視線は向けないまま空いている片手の方で小都音を安心させるよう自身の手を小都音の手に重ねた。

 

「じゃあ、入る……か?」

 

「……! うんっ」

 

「分かった、一緒に入ろうか」

 

背中越しから、嬉しそうな声が紡絆の耳を通り抜ける。

それを聞いて紡絆は優しい声音で言い、小都音は腕を解放していた。

解放されたからといって、逃げ出すなんてこともせず、紡絆は背中を向けたまま動かない。

小都音を気遣って、だろうか。

 

「も、もうこっち見ても……大丈夫だよ」

 

「ん、分かった」

 

声を掛けられると、紡絆は言われた通りに振り向く。

特別変わったことはないが、普段とは違ってお互いに身を包む布が少ないこと、くらいだろう。

少なくとも小都音はタオルをちゃんと体に巻いていたので、紡絆はそれを察して待っていたのかもしれない。

 

「えっと、先にお兄ちゃんの背中……流す?」

 

「そうだな……頼めるか?」

 

「任せて、綺麗にするから……!」

 

そう訊いたということは、そうしたいのだろうと紡絆は優しく笑いかけながら頼む。

その紡絆の言葉に、両手をガッツポーズしながら小都音は気合を入れていた。

 

(いやまあ、二度目だけど。それにしたって……どっちだよ! お前らが言ったんじゃ……?)

 

どうやら紡絆は、浸かる前に体は洗うタイプだったらしい。

それはともかく、小都音を思ってのこととはいえ、一応やれと言われたから一緒に入ることになったのもあるのに、嫉妬されることに心の中で納得がいかないまま、紡絆は風呂椅子に座った。

 

「そ、それじゃあ……洗っていくね」

 

「おう」

 

とりあえず忘れることにした紡絆は、素直に身を委ねる。

すると小都音はボディタオルにボディソープで泡立て、そっと背中をゴシゴシと擦って洗っていく。

 

「ど、どうかな……?」

 

「あぁ、心地良い。痛くもないし、弱すぎる訳でもない、絶妙な力加減…って感じ」

 

「よかった……痛かったら、言ってね」

 

「分かった」

 

安心したように息を吐いた小都音は、そのままの力でよいしょ、と可愛らしい声を漏らしながら、紡絆の背中を洗い、紡絆はじっとして大人しくしていた。

 

「………お兄ちゃん」

 

「なんだ?」

 

手を動かしながら、小都音は紡絆に呼びかける。

紡絆はそんな小都音に対して、体を動かせずに口だけ動かした。

 

「やっぱり……なんでもない」

 

「そっか」

 

何を言おうとしていたのか、紡絆は分からない。

後ろにいる小都音の姿は、紡絆には見えないのだ。

だけど、言わなかったということは言いたくないのだろうと短く返す。

 

「痒いところとか、ない? ないなら流すけど……」

 

「問題ないな。頼めるか?」

 

「じゃあ、流すね」

 

「ん」

 

小都音はただ普通に洗い終えると、紡絆に聞いてから、問題ないと分かるとお湯で背中の石鹸を洗い流す。

何も無い、本当に普通に洗っただけ。

しかし洗い流した小都音は、紡絆の背中を優しく撫で、体を押し付けるように紡絆の背中にくっつく。

何処とは言わないが、まだ控えめだが確かにある二つの柔らかい感触を、紡絆は背中から感じ取れてしまう。

 

「……小都音?」

 

「……………」

 

そのことを小都音も知っているはずと思いながら、不思議そうな声音で紡絆が小都音に呼びかける。

だが、返事は特にない。

なので、紡絆は特に動かずに正面を向いていた。

何も言わず、何も聞かず。

だからこそ、紡絆には分からない。

彼女が、小都音が何を思ってかは知らないが、背後で辛そうな表情をしていることに。

ただそれでも、温もりを求めるように紡絆の背中に抱きついて、密着していた。

 

(こういう時、声を掛けるべきじゃないよな……。

小都音は過去を話さない。俺の過去をあまり話さないのは、帰ってこないと分かってるから、か?

記憶を失ったあと家族と一緒に何度も居たが、俺の記憶が戻る予兆すら見せなかったのだから)

 

そう、それは今も変わらないことなのだ。

紡絆には記憶がない。

小都音には記憶がある。

小都音からすれば過去の紡絆を知っているが、もし言ってしまえば、それは今の紡絆に過去の紡絆を押し付けてしまうようなものになる。

だからこそ、彼女にしか分からない、別の辛さがあるのだろうと紡絆は声を掛けるべきではないと判断していた。

別のことを考えてるかも知れないが、少なくとも紡絆自身は何も言わない選択を取るらしい。

そんなふうに、一分にも満たぬ時間くっつかれていたが、ふと温もりと重みが消えるのを紡絆は感じ取った。

 

「……それじゃあ前も、洗おっか?」

 

「いや、既に洗ったし十分だ。それより、交代しようか。小都音の髪も洗わなきゃな」

 

「うん、ならお願い」

 

交代するように椅子から退くと、紡絆は小都音の後ろに回って座らせる。

既に入ってくる前に櫛で髪を梳かしていたということが目に見えて分かるので、紡絆は艶々とした見惚れるくらい綺麗なうなじから意識を外しつつシャワーのお湯を掛けることを言いながら、濡らし残りがないように隅々まで小都音の髪を濡らす。

どうやら、紡絆は女の子の髪の洗い方を知っているようだ。

 

「痛かったら言ってくれ」

 

「ん……えへへ」

 

念の為に紡絆は言うが、小都音がこくりと小さく頷きながら、心地良さそうにするのを見て紡絆は杞憂かと思った。

そしてその間にも紡絆はシャンプーを小都音の髪ではなく、地肌を洗うように指の腹を使ってマッサージをするように洗う。

 

「流すぞ?」

 

「うん」

 

しばらくして洗い終わった紡絆は、一言だけ言ってからシャワーを手に取って、小都音の髪についたシャンプーと汚れを共に洗い流す。

その間に小都音は目を閉じていたが、しっかりと残らないようにシャンプーを洗い流した紡絆はトリートメントを馴染ませるように塗っていく。

トリートメントを塗り終えると、少し時間をおいてから綺麗に洗い流し、洗髪は終わる。

 

「よし、こんなもんだな。やっぱり男とは違って時間がかかるというのは改めて分かった」

 

「女の子にとって、髪は命と同義だからね」

 

自分の中では評価が高いのか、紡絆は小都音の髪を見て満足気に頷き、納得したようにしみじみと呟く。

そのことに当然というような返答が返ってきたが、余程見た目を気にしない限り誰もがケアするだろう。

男なら、髪の洗い方なんてもっと適当でいいのだが。

 

「よくそう言うもんなー。っとそれで、問題は体だけど……まぁ、俺は湯船に---」

 

「だ、ダメ」

 

そそくさと逃げるように湯船へ向かおうとした紡絆の腕を、小都音は掴む。

無理矢理動けるといえば余裕なのだが、そんなことすれば小都音が怪我するかもしれないため、紡絆は大人しく止まった。

 

「い、いやいや、だって俺が洗うなら見えるぞ? 流石に背中だけ見るってのは無理だし、目隠しされても気配くらいしか読めないから無理だし」

 

言われた目的を達成するには、正直都合がいい話ではある。

しかし背徳感が上回った紡絆は、自ら辞退しようとしていた。

当然チャンスを無駄にする行為でもあるため、紡絆が行動しないと心配事が分からなくなってしまうという困った点があるのだが。

 

「私はお兄ちゃんなら良いから……どうしても、ダメ?」

 

「どうしてもっていうか……背中以外も見えるかもしれないからな。小都音がそれでも良いなら、俺は別に気にしないが……文句は言うなよ?」

 

「う、うん」

 

「じゃあ、背中洗うからな。痛かったら言ってくれ」

 

紡絆の言葉に頷いて答えた小都音は、背中を流せるようにタオルを解いて、白い背中を差し出した。

スラリとした背中は瑞々しく、肌も透けるように白い。

まだまだ幼く、小さく小柄な、穢れのない白い背中を見て紡絆は理性を制御するためかひたすら何も考えず、優しく丁寧な手つきで背中を上下に擦りながら洗っていく。

 

(見た感じ、()()()()()が……しょっちゅう怪我してる俺はともかく、普通はこうなんだよな。俺とは違って細くて、柔らかくすべすべしてて、でも簡単に壊れてしまいそうなほどに脆い……。

小都音だけじゃない。勇者部のみんなも本当は、精霊が居なければ死んでいた場面なんてたくさんあった。

いくら勇者とはいえ、こんなふうに奴らとは比べて人間は脆いんだよな………だから、俺が守ろう。今も必死に暮らす人々のためにも)

 

改めて理解したように、思い出したかのように、紡絆は心の中で考える。

事実、変身後はウルトラマンの肉体によって、変身前は強化された身体能力によって多少頑丈になっている紡絆とは別で、勇者たちは精霊がいなければ、多少強化されてるだけで人間と何ら変わりない耐久しか持たない。

ウルトラマンは怪獣の攻撃だろうが光線だろうが、一撃で死ぬことは無い。

紡絆ですら、一撃程度では意識を失うことはあったとしても光線を直撃しない限りは死なない。

しかし、勇者は違う。

精霊がいなければ、一撃受けただけで即死だろう。

そしてまた、もし紡絆が負けてスペースビーストが現実世界に現れてしまえば、目の前の小都音も、他の人たちも全員殺されてしまうのは誰にでも分かることだった。

 

「お兄ちゃん?」

 

「あ……悪い、手が止まってたな」

 

呼ばれて、紡絆はハッと気づいたように手を動かす。

ただ手ならともかく、タオルで洗うのは力加減がよく分からないのか、慎重にしていた。

 

「んっ……もう少し強くていいよ。それで、何か考え事?」

 

「分かった。

いや、大したことじゃないけど、みんなを守らないとって思ってな」

 

「ふぅん……一人で抱え込むのだけはやめてね?」

 

小都音に言われて紡絆はほんの少し力を込める。

特に何も言われないため、それを維持しながら紡絆は苦笑する。

ただ苦笑するだけで、しないと確信を持って言えないのは小都音も気づいてるようで、何処か呆れ顔だった。

 

「また人助けのこと? お兄ちゃんはいつも誰かを助けようとするよね。私を含めて。()()()も……」

 

「小都音は大切な妹だし、困ってる人は放っておけないだろ? でも………あの時って?」

 

「あ……ううん気にしないで。そ、それより力加減ちょうどいいよ」

 

「そうか。っと、力加減がちょうどいいのはよかったが、洗い流すな」

 

「うん」

 

一瞬、何か分からずに疑問符を浮かべた紡絆だが、小都音がすぐに話を逸らしたため、深堀りせずにシャワーのお湯でしっかりと石鹸を洗い流す。

 

「ふあぁ……ん、お兄ちゃんの手、気持ちいい……」

 

(……なんかイケないことしてる気がするんだが? 健全だ、ただ洗い流してるだけ…いや、妹と入ってる時点でアウト……!?)

 

妙に色っぽい声を漏らす小都音に対し、紡絆は内心動揺するが洗い流さないわけには行かないため、視線を下に向けないように意識しながら石鹸を落としていた。

 

「よ、よし……終わった。本当に、贔屓目なしで綺麗だな。特に髪」

 

「ふぇ……っ!? も、もう……そんなこと言っても何も出ないよ!?」

 

「本当のこと言っただけだが……?」

 

洗い終えたということは臀部を見ないように意識する必要はなくなったため、背中から視線を外しながら紡絆は思ったことをそのまま言った。

鏡が曇ってるせいで小都音の表情は紡絆からは見えないが、顔を真っ赤にしており、一方で紡絆は不思議そうな表情だった。

 

「うう……お兄ちゃんのバカ、えっち……。前も洗ってっ!」

 

「え……っ。それは兄としての尊厳が完全に死ぬ」

 

妹にですらバカと言われたことに精神的ダメージを負うが、前もと言われると紡絆は全力で顔を逸らした。

しかし逸らしたところで小都音が振り向けば意味はないので効果はない。

 

「何があってもお兄ちゃんは()()()()お兄ちゃんだよ……?」

 

「それは嬉しいんだが、そう言いながらも迫ってくるのは何故だ!?」

 

顔を逸らしたまま、一歩ずつ後退する紡絆に対して、振り向いた小都音は立ち上がって顔を赤くしたまま下がった分の距離を縮める。

その光景は男が迫るのはではなく、女の子が迫るという逆の立場になっていた。

唯一の救いは、濡れたお陰か小都音の素肌に巻かれてないバスタオルが張り付いている点---なのだが、それがむしろ逆効果だ。

しっとりと濡れた蒼の点す髪に人工的な光が照らす小都音の肢体。張り付いているバスタオルは薄く透かせていて体のラインを浮き出させている其の姿は扇情的であると同時に、決して穢れることの無いような神聖さを秘めていた。

迫ってくることにツッコミを入れた紡絆は思わず見てしまい、息を飲む---前に理性が押しとどめ、状況とは違って冷静な思考はどう切り抜けるべきか考えていた。

兄としての行動を心掛けようという意思がなければ不味かったかもしれない。

 

「こ、小都音? まず落ち着こう。ほら、ちゃんとバスタオル抑えないと……」

 

「私は落ち着いてるよ。は、恥ずかしいけど……お兄ちゃんになら見られてもいいって…言ったでしょ?」

 

助けを求めるように周りを見ても、当然何も無い。

一歩ずつ下がっている紡絆は浴室なのもあって、あっさりと壁際まで追い詰められた。

もはや仕事をしていない小都音のバスタオルだが、紡絆の逃げ場は塞がれてしまっている。

そこで、紡絆は何故こんな状況か考え、特に逃げる必要がないことに今更ながら気づいた。

 

(なんで逃げたんだっけ。うん、特に理由ないわ。逃げる必要ないじゃん……それは近づいてくるよ)

 

普通のことだったと納得した紡絆は、背中を壁に預けながら目の前にいる小都音を見つめる。

すると小都音も目前で止まり、紡絆を見上げるように見つめていた。

 

「お兄ちゃん、兄妹ならこれくらいも普通だと思うの」

 

「マジで? って騙されないからな!? 俺が襲ったりしたらどうするんだ?」

 

ほんの刹那だけ信じかけた紡絆は流石に違うと否定し、純粋な疑問を投げかける。

紡絆と小都音は体格差と筋力から考えても、間違いなく紡絆の方が上である。

ここで紡絆が襲いかかれば抵抗しても無意味だろう。

 

「お、お兄ちゃんがしたいなら……」

 

「えぇ………しないから。確かに魅力的だし俺も男だから興味が無い訳では無いが、やらないから」

 

「み、魅力的だなんて……えへへ。照れちゃうよっ」

 

「この状況じゃなければ撫でてたんだけどなぁ……」

 

両手で両頬を抑え、きゃーっと言いながら首を振る小都音を見て、紡絆は苦笑する。

だが様子からして、洗うことに関しては本当の本気ではないのだろう。

 

「ほら、前は自分でやってくれ。他の事だったら何でもするから」

 

「はーい……。元から自分で洗うつもりだったけど」

 

「じゃあ先入ってるから」

 

「うん、でもちょっと残念かも」

 

最後の発言に関して聞こえていたが、触らぬ神に祟りなしと下手に茶々を入れず、紡絆は湯船に浸かると小都音の方を見ないように壁側へ向き、小都音に背中を向けたまま今度こそ一息つく。

 

 

 

 

 

 

 

263:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

はぁ……なんとか乗り越えた。で、これでいいんだよな?

わざわざ確認のためにさせたってことはビーストか闇の巨人に関連することなのだろうが、特に何も無かったぞ?

俺はこの後どうしろと?

 

 

264:名無しの転生者 ID:zUC1p3Ual

怪我とかはなかったか……

 

 

265:名無しの転生者 ID:BdOJgCYug

ま、まぁ妹ちゃんがファウスト説は薄まったし……

 

 

266:名無しの転生者 ID:56qc5FaKw

特に何も無いなら、ヨシ!(ガバガバ調査)

 

 

267:名無しの転生者 ID:CxVMy2DjF

それにしてもほんとラノベ主人公みたいな展開しかしねぇなイッチ。

けどまさか入ってくる側とは……

 

 

268:名無しの転生者 ID:5Uk081TWp

>>263

というか気づいてたんだな。

正解だ、妹ちゃんがファウスト説があるんだ

 

 

269:名無しの転生者 ID:8BId3Exv0

>>263

ちっ……もう少しでいいシーンが見れたというのに。

せめてちょっとムフフ展開にしろよ

 

 

270:名無しの転生者 ID:cBdb7e6FZ

>>269

全年齢対象なのでダメです

 

 

271:名無しの転生者 ID:9Tt404sb+

この先の展開を見たい方は18歳以上対象の方でご購入してください

 

 

272:名無しの転生者 ID:Us6/xTb5J

>>267

イッチが入る方だと思ってた

 

 

273:名無しの転生者 ID:lyrmbnb8a

>>265

でも絶対ないと言いきれないのが悲しい……

 

 

274:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>268

あれだけ必死だと何かあると思うからな。わざわざ胸を指定したこと、怪我って部分でピンと来たわ。

そもそもファウストに至っては俺の影とか言ってたから怪しいし。

でも、関係ないっぽいよね、てかないよな? 頼むからないよな?

 

>>269 >>271

ねーよ! するか! というか、考えないだけで精一杯だったわ!

兄としてダメでしょ!

 

 

275:名無しの転生者 ID:fpFiAzSqe

一緒に入ってる時点でアウトじゃ……

 

 

276:名無しの転生者 ID:2DSvtKxST

>>274

別によかったんやで? ヨスガってもな!

 

 

277:名無しの転生者 ID:dFszcdCLQ

ほら、妹ちゃん別に良さそうだったじゃん? イッチが手を出せばそれはもう解決なのでは?

 

 

278:名無しの転生者 ID:cE6210bHL

期待以上だぜ、イッチ!

 

 

279:名無しの転生者 ID:NCH1M59dF

結局今のところは問題解決になったのかな。

ファウストの可能性は薄まったわけだし、本当に事故にあっただけなのかも

 

 

280:名無しの転生者 ID:M45IuEtrw

このタイミングで言うのはちょっと悪いんだけどさ、君たち、ザギさんの能力忘れてない?

あの人、ノアさまと同じ能力あるからな?

情報ニキー!(バンバン)

 

 

281:名無しの転生者 ID:51wraHIay

え、なにかあったっけ

 

 

282:名無しの転生者 ID:xVNseg+Ey

んん?

 

 

283:情報ニキ ID:OX82Ln2AK

>>280

はいはーい

多分言ってるのは『ザギ・ウェーブ』のことかな? 瞬時にウルティノイドやスペースビーストの傷を治せる力で、ウルトラマンFで初使用した技。

このことから、生物なら使用可能で勿論人間にも使用可能だと思われる。

ということは、仮に妹ちゃんがファウストだったとしても治されていて、違ったとしたら怪我なんて初めからないからどっちにしても初めからないことになるんですよね、なのでイッチの行動は……お察しで

 

 

284:名無しの転生者 ID:0t2Djyw7j

あっ……

 

 

285:名無しの転生者 ID:6KK3KUDwF

あー

 

 

286:名無しの転生者 ID:vCY3aPsTK

(忘れてたという顔)

 

 

287:名無しの転生者 ID:lz0oIDmDj

えへへ、ドジっ子だから忘れちゃってたぁ

ごめんね♡

 

 

288:名無しの転生者 ID:LzRQ/LZ6P

てへっ

 

 

289:名無しの転生者 ID:4Chy2m3qp

許してヒヤシンス

 

 

290:名無しの転生者 ID:0EZUViDAS

なんでみんなして忘れてたんだろうね、不思議!

 

 

291:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

はぁ!? ちょ、俺の行動無意味じゃん! え、結局何も解決してないよね!

ああくそっ! もう関係ないことにしとくわ。

流石にそうじゃないと俺でも精神的にキツイ! 今なんて特にキツイ!

ほんと、これを茶番って言うんだぞ!

はぁ、とりあえず湯船から出ないと長くいるともうや

 

 

292:名無しの転生者 ID:2UPiNYGre

>>291

妹ちゃんの(ほぼ裸)見れたからいいだろ!

えっちちじゃん!

 

 

293:名無しの転生者 ID:J1LKE9g8a

あれ、イッチ?

 

 

294:名無しの転生者 ID:My+PbHNd/

なんか途切れてね?

 

 

295:名無しの転生者 ID:TBSaKV+eV

これは……(理性)逝ったか?

 

 

296:名無しの転生者 ID:HMrxzsTli

イッチは無駄に理性を削っただけになってしまった……ママ(イッチだから)エアロ

 

 

297:名無しの転生者 ID:dfYJFKguS

>>291

いうてイッチが入ってたところに妹ちゃんが来たわけだし、せーふ。

 

 

298:名無しの転生者 ID:w0JynNvum

元から回避不可能なイベントなんだよなあ

 

 

299:名無しの転生者 ID:wSdm2xUh3

俺らは誰も悪くない!

争いを産んでも意味ないからね! 悪い人なんて誰もいないのさ!

 

 

300:名無しの転生者 ID:3lx47WAkP

イッチは妹ちゃんの生まれたての姿を見れた。

俺らはえっちちになりそうな展開を見れた。

なんだ、win-winじゃないか

 

 

301:名無しの転生者 ID:e4QsOYorq

誰も損はしてないな!

 

 

302:名無しの転生者 ID:7k8Nj3a4a

これぞ責任投擲。

またの名を、開き直り!

 

 

 

 

浴槽という小さな空間の中で、紡絆と小都音は背中合わせとなって浸かっていた。

紡絆は困ったような表情を、対する小都音は俯いて恥ずかしそうにしながらも嬉しそうな表情だ。

理由としては、その手だろう。

恋人繋ぎとして繋がれた手によって強引な手段を使いたくない紡絆は出ることが叶わない。

だから困った表情で、小都音が恥ずかしそうにしてるのは背中とはいえ一糸まとわぬ姿であるからなのかもしれない。

そもそも浴槽に小都音が入ってからすぐに紡絆が去ろうとしたから、こんなふうに手を繋がれたわけなのだが。

 

(……抜け出せないなぁ。流石にそろそろのぼせそうだし、あまり居続けるのは今は問題ないが、続けば割と宜しくない気がするぞ。

対面なら視線をどうすることも出来ないからやばかった……)

 

(ちょ、ちょっと大胆すぎた……? 思い返すと凄く恥ずかしいけど……)

 

考えてることが全くの別で、話も特になく沈黙が続く。

その中、小都音が俯いたままチラッと視線を送ると紡絆からは何も感じれない無の表情---というか達観して何も考えてなかった。

それを見てか、小都音が口を開く。

 

「お兄ちゃんは……その、えっと……お風呂気持ちいいね」

 

「そうだな」

 

「………むぅ」

 

一言で会話が終わり、小都音が繋いでいた手を離した。

急に何も言わずに解放された紡絆は何かあったのかと振り向きそうになるが、今の状態を思い出して振り向かないでいると小さな柔らかい腕が首に巻き付けられ、背中には別の柔らかい感触を感じ取ったことから、小都音が抱きついてるのだろうと紡絆は認識した。

 

「小都音?」

 

「……本当は、不安だったんだもん」

 

「……不安?」

 

突然のことになんのことかと思うが、何処か震えながら、強く抱きついてくる姿に冷静に紡絆は返す。

ちなみに小都音は腕だけは力を入れず、体のみを押し付けるようにしてるお陰で紡絆の首は絞められてなかった。

 

「外では隠してたの……でもね、この世界は私のお兄ちゃんからまた別の何かを奪うじゃないかって。怖くなってきちゃった。

お兄ちゃん……まだ思い出してないんでしょ?」

 

「それは……けど、大丈夫だって。俺は一人じゃないし、危ないのは俺だけじゃない。俺が戦えば、犠牲が出ることは無いかもしれない。

大赦から聞いたなら、勇者が戦う理由は分かってるだろ? 俺も同じだ。

それに勇者部って、今の俺にとって大切な帰る場所なんだ。守りたい場所なんだ。

そこがあるうちは、俺は絶対に死んだりしない」

 

「………」

 

思い出してないのは事実なため、記憶に関しては言い返せないが紡絆は戦うことへの覚悟は既に終えている。

だからこそ、その想いを口に出した訳だが何も返答がないのを理解した紡絆は小都音の腕に手を乗せると、少し申し訳なさそうな声音で発する。

 

「ごめんな、小都音の気持ちを組み込んでなかった。

それでも、俺は戦う以外選べないと思う。ウルトラマンの力があるのは俺だけで、今は小都音という大切な家族がいる……俺の宝物を、たった一人の家族を守るためにも、頑張りたいんだ」

 

「お兄ちゃん……ふふ」

 

「わ、笑われると恥ずかしいんだが……」

 

小都音がくすり、と笑うと、紡絆は頬を掻く。

しかし背中から感じていた感触が消え、紡絆が振り向こうとすると小都音は紡絆の背中に顔を埋める。

 

「ふふん、今のは冗談だよ。騙された?

私、お兄ちゃんよりお兄ちゃんのこと知ってるもん、お兄ちゃんは例えそんな力がなくたって、誰かを助けようとするって。

だから気にしないで?」

 

「小都音………」

 

表情が見えないからこそ、それが本当なのかどうかは分からない。

ただそれでも、紡絆は確信することが一つだけあった。

しかしそれをわざわざ口に出すことは、するべきじゃないと理解している。

だから小都音の名を呼ぶと、口を閉じた。

 

「あっ、でもお兄ちゃんが勇者部の人たちのことを口説かないか心配だから、ちゃんと部活しながら近くで監視するね!」

 

「凄く台無しなんだが!? 別に口説くつもりなんてないし、俺は本当のこと言って、普通に部活して、生きてるだけだぞ」

 

「はぁ……」

 

「何故ため息!?」

 

意味分からないといったように口に出す紡絆に小都音は溜息を吐くと、何も言わずに立ち上がった。

音でそれに気づいた紡絆は当然振り向いてはいけないと分かってるため、じっと止まる。

 

「お兄ちゃん、目閉じて」

 

「ああ、出るならその方がいいか……」

 

言われて一番いい方法はそれだったと理解したように、紡絆は目を閉じる。

小都音は湯船から出ると、バスタオルで巻いて紡絆を見つめる。

 

「お兄ちゃん。一緒に入ってくれてありがと、また入ろうね!」

 

「え、それは……ッ!?」

 

小都音の言葉に目を閉じたまま返そうとすると、紡絆は頬に柔らかいものをあてがわられた気がして、思わず目を開けると驚愕した。

 

「な……え、何を……!?」

 

「あ、もうっ! 見ちゃダメなのに……お兄ちゃんのバカ。でも、お兄ちゃんの反応で満足出来たから今日はこれで終わりにしてあげる!」

 

少し怒ったように頬を小さく膨らませた小都音だが、紡絆の反応を見て照れたように、恥ずかしそうに、それでいて満足したようにそそくさと浴室から出ていった。

紡絆は呆然と空虚を見つめ、頬に手をやる。

 

(……まったく。口付けくらいで動揺させられるなんて、我が妹ながら凄いな。

けど、失うのが怖いのは本当なんだろ…? 他は分からないが、あれだけは嘘じゃない。

当たり前だ。小都音からしたら、彼女が一番よく知っている継受紡絆という存在は一度死んでるもんな……)

 

浴室のドアの向こうにいるだろうと察してか視線を外しながら、紡絆は思う。

さっきの出来事は全てではないが、怖くなったという部分だけは間違いなく本当なのだろうと。

もし紡絆が戦いで命を落としたり記憶を失えば、実質死んだようなものなのだから。

それが彼女にどれだけ辛く、待つのがしんどいことであっても、紡絆は理解はしたところでやらないという選択肢は存在しない。

この世界を守るために戦うという選択は、絶対取るのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浴室のドアに背中を預けた小都音は、今も湯船に浸かってるであろう紡絆の姿を見るように表情に陰を落としながら視線を向ける。

 

「お兄ちゃん……困らせてごめんね。お兄ちゃんは止まらないよね、分かってたよ。

でも私、ウルトラマンは好きになれない。お兄ちゃんには戦って欲しくないの。もうこれ以上、何も奪われて欲しくないから……。

神樹様は、神様なんでしょ。だったら、私からお兄ちゃんを奪わないで……。お兄ちゃんを、戦わせないで……。他の人じゃ、だめだったの?

どうしてみんな、みんなお兄ちゃんばかり苦しめるの? 傷つけるの? お兄ちゃんが何したの……?

お兄ちゃんはずっと私の傍に居てくれたら、傍で笑ってくれたら、それだけで良いのに………。

お兄ちゃんを傷つける世界なんて---」

 

辛そうに、悲しそうに、うわ言のように内に秘めた思いを小さな声で呟いた小都音は唇を強く噛み締め、何処か憎むような目をしていた。

しかし、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

紡絆は辛いとは思っていない。守りたいと願うだけ。

だが所詮それは、紡絆の感情であり、彼を大切に思う者の存在を考えれば---辛いのは待つ方だということを、誰が見ても分かるはずだ。

少なくとも---記憶を失った紡絆からこれ以上何を奪うのか。

記憶以外に残った大切なものなんて、簡単に絞られてしまうだろう。

それは一体何なのか、知っている者は神でも居ないだろうが---

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
理性と頑張って戦ったお兄ちゃん。
傷を確認しろとかで掲示板が怪しかったので、もしかしたら小都音をファウストだと思ってるのでは…?と思ってたが、結局真実は分からなかったので、そう思わないことにした。
まさに真実は迷宮の中である。

〇天海小都音
恥ずかしいけどお兄ちゃんになら素肌を見られても(性的に)襲われてもいいといった行き過ぎた家族愛以上の感情を持っていると思われる。
外面上は平気そうだが、あくまで兄を気遣ってるだけ。
実際の内面は中一に上がったばかりの女の子なので、当然鋼メンタルでも何でもなく普通のメンタルで繊細。
一体どれが本当でどれが嘘なのか、それは本人にしか分からないだろう。
ただ唯一、ひとつだけ分かることは、彼女は兄想いである。
ちなみに勇者適正はあるのでシステムさえあれば使用は可能。システムがないと精霊が見える程度。
勇者や防人のような力がないので樹海化には巻き込まれないと思われる(適正があるだけで樹海化に巻き込まれるなら樹海にはもっと人がいる)

〇掲示板
ガバガバ情報で草


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「-新たな勇者-リインフォースメント」


合間合間を縫ってようやく書き終えました…リアル忙しければ朝早いので基本的にもう週一投稿とか無理だと思います。
GW俺にも寄越せ。
それはともかく、必要な話し終えたのでようやく原作に入ります。
未だにやる気は継続されてるけど、赤から落とされそうでちょっと怖いですねはい。
まあ長々語っても邪魔だと思うので、過去の話を地味に誤字とか修正しましたという報告だけしておきます。




 

 

 

◆◆◆

 

 第 17 話 

 

-新たな勇者-リインフォースメント 

 

 

 

風格ある振る舞い

牡丹(ボタン)

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

652:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

うわー! 暇だあぁああああああ!

いつ敵が来るか全く予想つかねぇ!

あれから融合型も来ないし、試しに作られたのか?

もしかしてこのまま両方来ないのかなー? それならそれでいいんだけどね。

小都音も少しずつ勇者部に慣れてきたみたいだし、寝ておこうかなー。

それとも安価でもやる?

 

 

653:名無しの転生者 ID:24j1AQWma

うっわ……前まで怪我してたやつの思考とは思えねぇ

 

 

654:名無しの転生者 ID:9SGcgcJTz

くっそ暇そうで草

 

 

655:名無しの転生者 ID:cIzdJwwcV

>>653

諦めろ、ここのイッチは普通だと思ってたらこっちが狂うぞ

 

 

656:名無しの転生者 ID:ET48mAeFC

>>652

懲りずにまーた安価しようとしてるよこのイッチ

 

 

657:名無しの転生者 ID:TQcmhiT5v

お前それでこの前の安価酷かったの覚えてるからな?

 

 

658:名無しの転生者 ID:KdDM9o4sp

前の安価って何だったっけ?

 

 

659:名無しの転生者 ID:idJoc56YX

えー、覚えてないな

 

 

660:名無しの転生者 ID:WctYLLTm2

>>658

激辛ペアングに似たようなやつがあったから、そのソースを十個入れてその激辛を一個完食するゾ

それでイッチ辛すぎて体中が熱いとか言いながら死んでたな。

でも完食したとかマジ?

 

 

661:名無しの転生者 ID:zKs+KJXAR

六月に食うものじゃないんだよなぁ……

 

 

662:名無しの転生者 ID:upSruf1j4

流石樹ちゃんのケーキで鍛えられただけあるな……!

 

 

663:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>662

あれは暫く食いたくないんだが?

 

 

664:名無しの転生者 ID:xxR8bh4Kt

激辛ペアング擬きはいいのに、そっちはダメなのか…(困惑)

 

 

665:名無しの転生者 ID:VIFiD9WUm

というかソース十個とかもうただ辛いだけで草

麺じゃなくてソース食ってんじゃん。というかソース食えよ

 

 

666:名無しの転生者 ID:pGACBk2G0

でもそれくらいだよなー。後は妹ちゃんと買い物してた時に、子供庇って交通事故にあったくらいか

 

 

667:名無しの転生者 ID:IeXWyQzzv

妹ちゃん凄く怒ってたの記憶に深く残ってるね、可愛かった。

義兄さん、妹さんをください。幸せにします

 

 

668:名無しの転生者 ID:ZE0G10G7A

>>666

あれは驚いた

 

 

669:名無しの転生者 ID:b53wD6Ifk

>>666

いうて吹っ飛ばされただけで怪我してないんだよな

 

 

670:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>667

オーバーレイ・シュトロームを一週間耐えれたらいいぞ。もちろん防御や再生、能力とかなしで普通の人間と同じ状態でな

 

 

671:名無しの転生者 ID:MsxSLceTU

オーバーレイを防御なしで一週間とか殺す気しかなくて草

 

 

672:名無しの転生者 ID:Sw3ciOPnB

>>666

夏凜ちゃんの家に入り浸かっていたことを忘れてるゾ

 

 

673:名無しの転生者 ID:5qkiz8pmJ

>>672

ツンデレキャラはデレたら可愛いんだよね。まだデレるほどの好感度までは足りないからイッチは頑張れ

 

 

674:名無しの転生者 ID:zrGMq0U9T

まぁ、平和なのは良いことなんじゃない?

 

 

675:名無しの転生者 ID:Xb5Fzl2Qx

せやなーファウストの正体は気になるが、中身がいない可能性もあるし、戦いよりは平和の方がいいでしょ。

仮に戦いになったらどうせイッチ怪我するし

 

 

676:名無しの転生者 ID:stIPRfrlv

ネクサス関連って厳しいよな、ほんと。

ほんへの筋書きをなぞってるなら対策出来るのに、ビーストの出てくる順番もバラバラだし。一難すら去らないし。

 

 

677:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

まぁ、敵の目的がどうであれ俺がやれることはウルトラマンとして戦う……ん?

 

 

678:名無しの転生者 ID:kSnI4pje7

イッチ?

 

 

679:名無しの転生者 ID:xkj96lQph

どうした、またなんかやったんか?

 

 

680:名無しの転生者 ID:wutACo89m

流れ変わったな

 

 

681:名無しの転生者 ID:gFyKhFurJ

あ、切り替わったわ

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樹海となった世界を、紡絆は傍にいる勇者部の仲間たちと見ていた。

紡絆が睨みつけるように見る先に居るのは、全体的にメカニカルな姿をしており、縦長の本体から四本の足が生えているといった形状を持っている他、頭部らしき部分には黒子のように常に舌のような頭巾を深く被っている山羊型---つまり山羊座の名を冠するバーテックス。カプリコーン・バーテックスだ。

 

「やぎ……山羊座……? あれ、山羊座だよね、山羊座であってる? 山羊座じゃなくね?

ちょっとイメージと違うんですけど。

いや、よく見ればそうなんだ、そう見えるけど山羊座要素少なすぎるというかパッと見てそう見えないし普通もっとこう、バフォメットとかさ、トナカイとかさ、そんな感じの見た目と思うじゃん?

何がどうしたらそうなったのか俺は聞きたいというか、もはやただの三角木馬だしその形は色んな意味でどうかと---」

 

「あーもう、うるさいから黙りなさい。そんなこと知るわけないでしょ」

 

「あっはい。すみません」

 

睨みつけていたかと思えば、困惑したような表情で長々と愚痴のように語り始めた紡絆だったが、風の言葉に大人しく口を噤む。

 

「あれが五体目ね……」

 

「とりあえず変身しちゃおう!」

 

「そ、そうですね。やっぱりこの状態だと危険ですし」

 

「まぁ、融合型と以前戦ったから大丈夫だと思うけどバーテックス単体は久しぶりとはいえ、油断なく行きましょうか」

 

気を取り直し、それぞれの顔を見て頷くと、風と樹に友奈と東郷が、一斉に手にした端末の画面をタップした。

それぞれを象徴する色の光の花びらが舞い上がり、四人がそれに包まれる。

何気に紡絆は健康的な状態で初めて近くで見る勇者へ変身するためのプロセスだが、神聖さを感じる光景に目を奪われたのも束の間、数瞬後には光が弾け、その中から勇者服に身を包んだ勇者達が現れた。

 

(あー……なるほど。みんなが言ってたのはそういうことか……。最初の時は遠くて見えなかったが、近くだと目を逸らした方がいいのかもなぁ)

 

何処か納得したように紡絆は頷きながらまじまじと見ていると、何故か照れたように頬を赤めてる勇者たちに姿を見て、こてんと首を傾げた。

 

「そ、そういえば見えるの忘れてた……」

 

「あー、いやみんな良いと思いますよ。はい、風先輩可愛いと思うし、友奈と樹ちゃんも。もちろん東郷も」

 

「そ、そうかな?」

 

「わ、忘れてくださいっ!」

 

「紡絆くんにそう言って貰えると嬉しいわ」

 

思い出す風と、照れる友奈。頬を赤めながら忘れるように無理難題を言ってくる樹と何処か冷静な対応はしているが、声音が少し嬉しそうな東郷といった感じと言った感じでそれぞれ違う反応を示していた。

その中で紡絆は友奈と樹を見て、一つ思ったことがあった。

 

(忘れるのは難しいしこれからもあるだろうから無理じゃない? というか、誰に向かってウインクしてるんだろう友奈と樹ちゃんは……)

 

まったく、そこまで、全然今考える必要でもないことだが。

そもそも今は敵のことを考えるべきだろう。

 

「こほん。えーとにかくバーテックスをパパッと倒しましょ」

 

「そうですね。よーし、じゃあここは俺が早速---」

 

「紡絆は待機ね」

 

「ふぁっ!?」

 

緊張感の欠片もない空気を変えるように咳払いした風の言葉に頷き、腕を回しながらエボルトラスターを手にした紡絆は前に進むが、まさかの指示にずっこけると振り向いて不満げに見つめる。

 

「確かに、スペースビーストがまだ現れてないなら、紡絆くんは温存するべきなのかもしれないわ」

 

「紡絆先輩の場合はエネルギー消費……ですもんね」

 

「大丈夫だよ、一体だけだし!」

 

「いやいや、怪我治ってるから大丈夫だって! あくまでメタフィールドを形成しなければ問題ないし、それに結局俺も戦った方がはや---んん?」

 

まるで何かを感じ取ったように言葉を区切った紡絆がバーテックスが居る方を向き、目を細める。

突然過ぎる行動になんだなんだと友奈たちの視線が集まった。

 

「紡絆? 何かあったの?」

 

「いやまさか…んなはずは……。すみません、俺行きます!」

 

「ちょっ……」

 

何かを言われる前に紡絆は変身することなく()()()カプリコーンに向かって走っていく。

その同タイミングで、頭部らしき部分に何かが突き刺さり、爆発を引き起こした。

 

「えっ!? 爆発した!? 東郷さん?」

 

「私は何もしてない……」

 

「じゃ、じゃあ何が……?」

 

スコープを通して監視していた東郷は目を離すと、友奈の言葉に首を横に振り、この場の誰もが思ったことを樹が口に出した。

そんな中、走ってどこかへ行った紡絆が気にはなるものの、友奈たちがカプリコーンの頭上に注目しているとそこには敵に向かって落下する、赤い勇者服を身に纏った茶髪のツインテールの少女の姿があった。

味方かどうかも分からぬ少女の姿に友奈たちが動揺していると、少女は日本刀を両手で持った状態で不敵な笑みを浮かべている。

 

「チョロいッ!!」

 

そう叫んだかと思うと、投擲された二本の刀が正確にカプリコーンの脚に突き刺さり、爆発を引き起こす。

 

「封印開始! 思い知れ、私の力っ!」

 

「あの子、まさか一人でやるつもり!?」

 

少女がさらに追加で刀を一本が投擲すると地面に突き刺さり、早くも封印の儀式が行われる。

本来一人では不可能なはずの封印だが、少女が執り行った儀式は関係なく封印の儀が始まる。

カプリコーンの頭巾のようなものが上がると、顔らしき部分が露出してカプリコーンは御魂を吐き出す---と同じくして、何らかの禍々しい霧が発生する。

バーテックスの御魂にはそれぞれ異なる能力があり、それが今回のものなのだろう。

 

「ガス……!?」

 

「うわっ、なにこれ!?」

 

「み、見えない〜…ッ!」

 

「っ……しまった、あたしらは問題なくても…って、紡絆は!?」

 

カプリコーンから噴出したガスは友奈たちがいる位置だけではなく、樹海全体に充満していくように凄まじく噴き出していた。

しかも勇者が持つ精霊がバリアを貼ったということは、致死傷ダメージがあるということ。

さらに前方が見えなくなるほど濃く、勢いもそれなりに強い煙。

既に紡絆の姿を前提として認知していない謎の少女はともかく、他の面々も紡絆を見失ってしまった。

場所が分からなくなった紡絆はさておき、バーテックスの近くにいる少女は視界を覆われていても、精霊のバリアが発動しても気に留めることなく御魂の方を正確に捉えている。

刀を持ち、跳躍するために力を入れようと---

 

「その程度の目眩し、気配で読め---」

 

「ゲホッゲホッ!? やべ、これって毒霧じゃ---あぁああああぁぁ!?」

 

「はっ!? 今の声って……!?」

 

忘れてはならない。

今の紡絆は生身であり、既にバーテックスの近くまで来ていた。

そして友奈たちですら足を止めているのに、生身である紡絆が突っ込んだらどうなるか?

当然、吹っ飛ぶ。

毒霧を吸ってしまったせいか、咳き込みながら悲鳴のような声が響く中、少女は驚いたように動くのをやめて周りを見渡してしまった。

本来聞くはずもない、知っている声。

 

「って、考えるのは後! これで終わりよ!」

 

すぐに我に返った少女は今は気にしないようにしたのか、今度こそ跳躍して御魂を斬り裂いてみせた。

ヴァルゴとは違って耐久性はないのか、御魂はあっさりと斬れる。

 

「殲…滅!」

 

『諸行無常』

 

華麗に着地し、そう呟いた少女の背後では例の如く、御魂が光となって昇っていく光景があり、大した出番もなくカプリコーン・バーテックスは砂となり---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()

暗雲がいつの間にか存在しており、凄まじいエネルギーの奔流が地面に流れる。

 

「ッ!? この気配は……!」

 

素早く振り向いた少女は刀を再び手元へ呼び出し、警戒するような視線を向ける。

すると、消えかかっていたはずのカプリコーンは再生し、まるで何かに取り込まれるように地面に溶けていく。

さらに樹海内が突如()()()()()()()()()()()大きく揺れ、だんだんと震源が近くなっていた。

 

「そこかッ!」

 

気がついたように、少女が大きく後ろに跳びながら刀を二本投げつけ、それが地面に突き刺さると、揺れは人際大きくなり、地面が地割れを引き起こして一気に何かが出てきた。

土埃を撒き散らしながら現れたのは、植物。

かつて存在していた東南アジアに原生する世界最大の花、ラフレシアを思わせる黄色い巨大な花が特徴で、顔がラフレシアを思わせる花になってるだけで怪獣そのものだ。

その怪獣は空中に居る少女の方へ向くと、花弁を開く。

さらに開いた花冠から黄色い花粉と()()()()を放出する。

 

「こいつ……大赦が言ってたスペースビースト! それと合体したやつってこと!? 

くっ…! 空中だと身動きが……!」

 

迫るふたつの霧に対して、空中にいる少女が逃げる方法などない。

勇者という力は身体能力の強化はあっても、空は飛べない。

跳ぶことは出来ても、浮けないし飛べないのだ。

だからこそ、少女は刀を横にして盾にするようにしながら自ら落下を早めるが、間に合わない。

花粉と霧が直撃する方が早いだろう。

精霊によるバリアで守られはするだろうが、ウザったらしいのは間違いない。

だが、足掻いたところで何もすることなど出来ず、少女は花粉と霧に包まれ---

 

 

 

 

 

 

 

 

『シュワッ!』

 

銀色の体を持つ、一人の巨人が花粉と霧を突き抜けて現れた。

そう、ウルトラマンネクサスだ。

彼はそのまま怪獣の頭部を踏んづけて背後へ回り、地面に着地すると握り拳を地面に置いてゆっくりと開いた。

 

「ここは!? って、あんたは……報告にあったウルトラマン?」

 

『デェア……シュワッ!』

 

少女が無事なのを確認したネクサスは、すぐにビーストへ振り向き、ファイティングポーズを取る。

そして植物型のスペースビーストに対して、一直線に走って拳で殴り掛かった。

 

『ウワァアアアァァ!?』

 

しかし突如として背中に生えた、四本の白い足のようなものがネクサスを蹴り飛ばした。

リーチの差で拳が届くこともなく、ただ一方的に吹き飛んだネクサスは即座に起き上がる。

 

『ファ!?』

 

しかし、目の前に存在する、明らかな異形の姿にただただ驚愕した。

二足歩行の怪獣であるのだから、腕もある。

脚もある。

だが、背中からは巨大な足のようなもの触手が四本生えており、色は白く、イカのようなものだ。

まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()---

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

782:名無しの転生者 ID:2lmv1Ezcp

こいつって、もしかして!?

 

 

783:名無しの転生者 ID:PuHyumUJr

間違いねぇ……今度は素材として組み込まれるんじゃなくて、スペースビーストの方がバーテックスの特性を吸収しやがった!

恐らく能力も取られてるぞ!

 

 

784:情報ニキ ID:OX82Ln2AK

元となったのは間違いなく、ウルトラマンネクサス、Episode0.9とEpisode10に登場するブルームタイプビースト、ラフレイア!

黄色い巨大な花が特徴的な植物型のスペースビーストだ!

日中は地底に身を潜めているが、夜になると地上に出て活動する夜行性のビーストで、武器は花弁から放出する猛毒の黄色い花粉!

この花粉は付着すると瞬時に気化して超高熱を発し、付着した物を瞬く間に炭化させてしまうという性質がある。更に可燃性な上、花粉自体の質量が水素と同等で拡散しやすい!

このビーストへの無暗な攻撃は大惨事を招きかねないという厄介な代物だぞ!

樹海の中ではもっと酷いことになるかもしれん!

 

 

785:名無しの転生者 ID:W+6dE4LmF

そうか、前はバグバズンが素材になっていた!

別にバーテックスの方はやられた後でも、完全に消滅する前なら行けるのか。

そうだよな、バーテックスは前回のことも含めて考えると素体じゃなくて素材みたいなもんだ!

 

 

786:名無しの転生者 ID:rUksCPfVf

カプリコーン・バーテックスとラフレイアを合わせて、捻りが特にないが、もじって融合型昇華獣ドラゴレイアはどうだろうか。

山羊は古代ギリシア語でトラゴスだし

 

 

787:名無しの転生者 ID:NUMoBDuRI

うん、それでもいいと思うが今はそうじゃねぇ!

イッチ、気をつけろ!

黄道十二星座のバーテックスとの融合はまだどれほど強いのか未知数だ…!

ジュネッスになるなら、考えてなれ!

こいつらの特性からして、下手に本気で戦うと戦闘データが取られるぞ!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

いつものファイティングポーズを取るネクサスに対して、実質合計八つとなる拳と脚の中、背中に生えた触手四つと両腕を構えるドラゴレイアと命名された新たな融合型昇華獣。

背中に生えた触手の合計四本は何処か翼のように見えなくもない。

それを見ても、ネクサスがジュネッスになろうとする様子を微塵たりとも感じ取れない。

手数でも負けているというのに。

 

『デェヤッ!』

 

ネクサスが動く。

同じように愚直に突っ込んでいく姿に迎撃しようとドラゴレイアは背中の二本を器用に丸めて握り拳のようなものを作り、ネクサスが範囲内に入ると真っ直ぐ突き出す。

ネクサスはそれを寸前のところで屈んで避けると、懐へ潜り込む。

 

『ヘェ---ウオッ!?』

 

拳で肉体を殴ろうとした瞬間、巨大な花冠から再び黄色い花粉と()()()()を放出され、ネクサスが苦しむ。

霧を少しでも防ぐためか手で払おうとするが、当然払うことなど出来ない。

まるで近接で攻撃してくるネクサスに対して、()()()()()()()()()()()()されている敵だ。

近づけば八つの触手と拳と脚が。中距離であるならば毒霧と花粉。

 

『ウグァ……ウウッ……!』

 

ネクサスを覆う花粉と毒霧は消えることなく、毒霧に至っては突如としてネクサスの腕に纏わりついた。

そこに普通の腕を振るってネクサスの胸を引っ掻き、ダメージを受けるネクサスはいつまでその場に留まっていても花粉と攻撃に苦しめられるだけだと、攻撃された際の勢いを使っては距離を離すために後ろに転がる。

 

『デアッ! ガッ……!?』

 

そんなネクサスを逃がさないというようにドラゴレイアは毒霧のみを吐き出し、ネクサスはまるで鎖でも付けられたように離した距離を戻された。

 

『うぐ……シュア! デェアァアアア!』

 

距離を離そうとしても、動くことが出来ない。

それどころか、ネクサスの腕が一向に動かなかった。

よくよく見れば、ネクサスの両腕には紫色の腕輪のようなものが付けられており、そこから伸びる鎖は空間に作られた紫のモヤ状のモノに繋がっていた。

恐らく、元は毒霧だろう。

だからこそ、どれだけ力を込めようが、勢いよく振るおうとしようが、動かない。

それこそ、人類か生み出した手枷のように。

 

『ぐぐ……ッ!』

 

さらに、先程ドラゴレイアが吐いた毒霧。

今度はネクサスの腹を覆うと、ネクサスは一気に締め付けられる。

霧というものは、水分が含まれている。液体である霧が凝固化され、それがネクサスを拘束していた。

つまり、ネクサスの両腕はドラゴレイアの能力によって妨げられている。

 

『ぐあっ、ガハッ……!?』

 

自由が唯一効いた脚を動かそうとすると、両脚にも纏わりつき、ネクサスを上空へ持ち上げたかと思えば地面に叩きつけ、再び持ち上げると地面に叩きつける。

ネクサスはネクサスで拘束を外そうと片手になんとか手を伸ばすが、拘束が強まると動けなくなる。

ならばアームドネクサスで切断しようにも、場所的に不可能。

抵抗、対抗する手段はなくこのままだとネクサスに訪れるのは、敗北---

 

 

 

 

 

 

「そこだあぁぁぁッ!」

 

『ハッ!? デェヤァアアア!』

 

突如聞こえてきた声にネクサスが顔を向けると、刀が真っ直ぐ飛んでいき、ネクサスの両腕に纏わりついていた霧を少し切り裂きながら、鎖を切り裂いた。

元が水分なのもあって再生しようとしていた一瞬を見極めたネクサスが腕を思い切り振りかぶると一気に振り下ろし、変化が訪れる。

体に纏わりついた毒霧を光の熱で吹き飛ばし、その体を銀と紅に染める。

肩パットのような板状のものが形成され、半球状の青い光を持つコアケージが生成された姿、ジュネッスへと変身したネクサスは拳を握りしめ、一気に突き出した。

不意打ち気味に放たれた拳はドラゴレイアに直撃し、さらに斬撃が襲いかかる。

 

『フッ! ハアァァ……』

 

即座に決着を付けるために両拳を前に突き出し、交差したネクサスが光を纏う。

そしてエネルギーを保ったままゆっくりと動かしてV字型に伸ばすと、L字型に組み、放たれる---

 

 

 

『ッ!? デェアァ!』

 

オーバーレイ・シュトロームが()()()逸らされ、即座にエネルギーが消えた。

いや、違う。

ネクサスは自ら逸らし、消したのだ。

その理由は、ドラゴレイアが持つ花粉。

ドラゴレイアは自身の特性を理解しているのか、ネクサスの光線に合わせるように一気に花粉を撒き散らした。

ネクサスの光線には光のエネルギーという強力な力があり、可燃性を持つ花粉が当たれば、現実世界に大きな影響が与えられてしまう。

死人が、出てしまうのだ。

人質を取られてしまえば、ネクサスに出来ることはない。

 

『ンンンンン---グッ……! シュワ………』

 

何処か悔しそうにネクサスが拳を握り締め、ドラゴレイアが上空に現れた暗雲に連れ去られる。

行き場のなくなった力は自然と降ろされ、花粉が消えたのを見るとネクサスは少女に目を向けた。

 

「はぁ、せっかく華麗なる初陣を華麗なる勝利に決めようとしたってのに……!」

 

『シュワ………ハァ』

 

なぜだか文句を言っている少女の姿にネクサスが何処か息を吐くと、光となって消える。

少女が視線を向けると既に虚空だが、何を思ったのかぼーっとしていた。

 

「今の違和感は……?

ったく、なんだって言うのよ……。まぁいいわ、とりあえず向こうの連中に挨拶くらいはしにいきましょう」

 

ネクサスがどういうことが言いたかったのか理解出来なかった---というか理解出来る存在が一人しか居ないのだが、何処か既視感を感じた少女は違和感を胸に残しつつ、スマホを手にすると位置を把握し、跳んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……。し、死ぬかと思った……」

 

とぼとぼと歩きながら、ネクサスから紡絆へと戻った彼は勇者部の人たちがいる場所に帰ったはずが、位置を間違えたせいで居なくて、徒歩で戻ろうとしていた。

そんな紡絆は若干咳き込んでいる。

毒霧と花粉を吸い込んだ影響だろう。

生身で吸い込んだのもあるが、ネクサスに変身しても猛毒を受けていた。

といっても、スコーピオン・バーテックスの時とは違って直接注入されたわけじゃないので特別死ぬほどの影響はないのだが。

 

(あれが黄道十二星座との組み合わせ……か。厄介というか、今回は能力が噛み合いすぎてる。

花粉と毒霧。しかも両方毒があって、花粉に至っては下手に光線技をぶつけたら爆発して被害が凄いことになる……これは開幕メタフィールドが必要だ。

それに恐らくバーテックスとしての能力がまだ残ってる……みんなを置いていった俺が悪いけど、夏凛が居なければやられてたかもしれない。

あの気体を凝固する力は厄介だ。一人じゃ外せない)

 

未だに樹海化している世界を歩きながら紡絆は戦いを振り返っていた。

融合型昇華獣の能力について、しっかりと思い出しながら。

 

(それにいくらなんでも、撤退が早すぎる……ということは、あくまで偵察のはず。

本当の力はあれ以上で、他に奥の手があっても不思議じゃない…ジュネッスの力を少し解放したのは早計だったか…?)

 

早く終わらせようとしたとはいえ、長引く戦闘になることもなくジュネッスになったのを見ると撤退した敵。

明らかに目的は神樹や勇者、ウルトラマンを狙った訳ではなく、情報収集と見るのが近い答えだろう。

第一、こちらには向こうもこちらも知らないであろう勇者が一人来たのだから。

ちなみに紡絆は歩いているが、友奈たちと合流するために携帯を見て方角と位置を把握していれば、時々木々をぴょんぴょん跳んで移動している。

 

(そういえば、なんで夏凜はいたんだろ? 思わず飛び出してしまったが、理由が分からん……聞いてみるしかないな。

あと少しで着くし)

 

1度止まって携帯を見れば、反応はもう少し。

夏凜の反応もあったため、紡絆は訝しげに思いつつも、合流したら分かるかと一気に走っていく---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の名前は三好夏凜。大赦から派遣された正真正銘の正式な勇者よ」

 

「正式な……勇者?」

 

夏凜と名乗る少女の言葉を聞いて、友奈たちは頭を捻る。

彼女たちからすると、何の説明もなく一人突っ込んで一人いつの間にか変身して、一人挑みに行くバカ(紡絆)を援護するために向かっていれば、まさかの自分たちが辿り着く前に戦いが終わり、見れたのは融合型昇華獣となったと思われるスペースビーストの姿を少しだけ。

あとは紡絆が光となって自分たちを通り過ぎたかと思えば、こうして目の前にいる夏凜という少女にエンカウントして開幕ちんちくりんやら揃いも揃ってボーっとしてる、ウルトラマンを見習えばみたいなバカにすることを言われたのだ。

 

「そう、私は正式な勇者。

つまりあなた達は()()()ってわけ。はい、お疲れs---」

 

「おーい! みんなー!」

 

そんな中、夏凜の言葉を遮るように明るい声が響き、何事かと不満そうな表情で夏凜が睨みつける。

友奈たちは知っている声に振り向いた。

 

「あっ、紡絆くん! こっちだよー!」

 

手を振り、ぴょんぴょんと小さく跳ねて位置を知らせる友奈を見て、紡絆は駆け寄る。

 

「…ん? あれ、もしかして……取り込み中?」

 

辿り着いた紡絆は勇者部のみんなと夏凜を見て、首を傾げた。

漂う空気感的に何かあったのでは、と思ったのだろう。

 

「えっとそれが……」

 

「かくかくしかじかよ」

 

「なるほど」

 

「え? 今の分かったんですか!?」

 

どう話すべきか言い淀む東郷に風が代わって言うと、紡絆は納得したように頷いた。

ツッコミを入れる樹はともかく、そういえば大人しくなったと、紡絆以外が夏凜の方を見ると、彼女は視線を紡絆のみに向けて神妙な様子で酷く驚いたような表情をしていた。

 

「まさか……姫矢?」

 

「「「「姫矢?」」」」

 

「……あっ、やべっ!」

 

明らかに紡絆を見て呼ばれたからか、視線が今度は紡絆に集まる。

それはそうだろう。

勇者部のみんなは継受紡絆という名前は知っているが、姫矢など聞いたこともない。

そのことを盆忘れしていたのか紡絆が少し気まずそうに目を逸らすとガツガツといった感じで夏凜が紡絆の目の前に来た。

 

「ちょっと、姫矢! なんであんたがここに居るのよ!?

何? ここが何処か本当に分かってる? あんた勇者ってわけでもないでしょ?

そもそもここに居られる理由が分からないんだけど? 確かに大赦からは男で入れる存在がいるってのは聞いてはいたけど…それがあんたってこと? だったらさっきまでどこ行ってたわけ!? 勇者システムも扱えないんだからうろちょろしてたら死ぬわよ?

というか、一体何を隠してんのよ? 黙ってないで言いなさい!

それにコイツらが言ってた紡絆ってどういう---ッ!」

 

「ど、どうどう。待て、待つんだ夏凜。

こ、これには深い事情があって……うぇ……」

 

夏凜は紡絆の胸ぐらを掴むと激しく揺らしながら捲し立てるように言う。

紡絆は落ち着かせようと手を動かしながら、若干小さな声で呟いた。

というか、勇者システムを纏ったまま揺らされたため、異常に気持ち悪くなっていた。

このままだと華麗な虹色の液体を吐き出すに違いない。

 

「はぁ? 事情?

どんな理由があるってんのよ。どうでもいいこと言ったらぶった斬るわよ」

 

「そ、それは死ぬだろ!?

あーあれだよ。まず、俺の名前は継受紡絆。姫矢ってのは……何となく名乗った偽名だ」

 

「……は?」

 

物騒なことを言われたが、偽名だとドヤ顔で言ってのけた紡絆。

そのことに意味が分からないと低い声を発しながら苛立ちと疑問符を浮かべる夏凜に説明するために口を再び開く。

 

「で、さっきも一緒に居たじゃん! 俺はうr---あっ、すまん時間切れだわ」

 

口を開いたのはよかったが、極彩色の光が迫ってきてるのを見て最後まで説明出来ないと理解すると、紡絆は苦笑した。

 

「はぁああああぁぁ!? ちょっと待ちなさいよ!

まだ詳しいことは聞いてな---」

 

「それは神樹様に言ってくれよ……」

 

「この---次に会うときは覚えておきなさ---ッ!!」

 

諦めたようにため息を吐く紡絆は、最後に聞こえてきた脅迫に近い言葉を聞かなかったことにした。

彼は言葉を受け流すのは得意なのである。

そうして光が全員を覆い尽くし、紡絆を含めて勇者部と夏凜は元の現実世界に戻されるのだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

相も変わらず屋上へ飛ばされたが、夏凜の姿はなかった。

どうやら別の場所に飛ばされたらしく、紡絆は屋上から見渡して夏凜が無事なのかを確認してほっとする。

そして次に、どう説明すべきか悩み、考えるのをやめた。

 

「ねぇ、紡絆くん。さっきの子と知り合い? なんだか知ってる感じだったけど」

 

「あ、友奈。えーと友達、かな? そうそう、夏凜が何言ったかは分からないけど、素直に受け止めなくていいと思うぞ」

 

純粋に気になるといった様子で友奈が紡絆に聞くと、紡絆は少し曖昧気味に返す。

というのも、向こうが友達と思ってるかは分からないからだろうが。

 

「素直に受け止めなくていいって、どういうことよ?」

 

「恐らく、夏凜は援軍として来たんじゃないですかね? 夏凜はあんな感じですけど、素直じゃないというか自尊心が高いというか…まぁ、とにかくいい子なんです!

なのでその、恨んだりしないであげて欲しいなぁ……と」

 

何故か自分のことのように眉を下げながら紡絆は自身が知っている夏凜のことをみんなに言う。

お前は保護者か、と思われるような発言だが。

 

「紡絆くんの友人なら、悪い子ではないってことくらい、みんな分かってるわ」

 

「東郷……」

 

そう言われ、紡絆が見渡すと各々不快そうな表情をするわけでも怒ってるわけでもなく、自然とした表情だ。

 

「まぁ、発言にはムカついたけどね」

「あ、それは同感です。紡絆くんを褒めたところは評価しますけど、友奈ちゃんをチンチクリン呼ばわりしたのは少し」

「なんかごめん」

「紡絆先輩が謝る必要ないんじゃ……?」

「でもでも、仲間が増えるってことは戦いやすくなるよね。あの融合型昇華獣…だっけ? まだ倒せてないし!」

「あー…あいつな。下手に倒す訳には行かなくて、とりあえずそれは後で---」

 

穏やかな空気が流れる中、紡絆たちはいつまでも屋上に居ても仕方がないため、喋りながら屋上の扉へと向かい、紡絆が扉を開けた。

 

「おに……兄さんっ」

 

「わん!?」

 

扉を開けると、凄まじい威力を腹に受けて犬のような鳴き声を漏らす紡絆。

尻もちをついて見れば、お腹に顔を埋めながらぎゅーっと締め付ける女の子---小都音の姿があり、飛びついてきたのだろう。

ちなみに紡絆の後ろにいた友奈たちは咄嗟に下がったため、特に被害はなかった。

 

「だ、大丈夫?」

 

「驚いたけど大丈夫。友奈たち…というか東郷の方は大丈夫なのか? 車椅子当たったりとか」

 

「私は大丈夫よ。それより小都音ちゃんに屋上ってこと言うの忘れてたわね……」

 

「兄さん、怪我はない? 何処か痛めてない?」

 

あーといった感じで頭に手をやる紡絆だが、心配してくる小都音を見れば若干息が荒いため、走って探したのだろう。

とりあえずぺたぺた体中を触って怪我を確認してくる小都音に対して、撫でるという行動に移った。

 

「俺は平気。言っておくべきだったな、ごめん」

「ううん怪我がないならいいよ。あ、皆さんも怪我とか…樹ちゃんも大丈夫? 怪我は?」

「私は大丈夫です。というか…」

「その辺は後で。とにかく部室へ向かいましょ。ほら、そこの兄妹は早く立つ」

「小都音がいるので動けないんですが」

「兄さんから離れたくないです」

「本当に仲良しさんだね〜」

「ええ、でも……その方がいいのかもね、紡絆くんにとっては」

「そうだね」

 

動けないとは言いつつも家族という存在がいるからか嬉しそうにする紡絆を東郷は見ていて、安心したように微笑む。隣に並んでいた友奈も同じように微笑んでいた。

なお、屋上を出るための道を紡絆が塞いでる感じになっているため、部室に戻るのは若干時間がかかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、次の日。

説明を今日するといったため、情報を頭の中で整理しながら新たに現れた融合型昇華獣、ドラゴレイアの対策を練るために睡眠しながら考えようとしていた紡絆は、朝から妙な気配を感じて起きていた。

周りが騒がしく、なにやらイベント事でもあるのかと若干わくわくしながら起きているのである。

運動ならバッチコイ、勉強ならいつでも寝る準備は出来てるぞといった心構えもしっかり出来ている。

 

(あー、でもちょっと運動は不味いかもな…腕あんまり動かないんだよな。流石に毒の影響はあったか……)

 

前日の戦いで紡絆は拘束され、地面に何度か叩きつけられている。

だがなによりも、彼は毒を浴びすぎたのだ。

そもそもドラゴレイアが持つ花粉は猛毒があるのもあるが、付着した物を炭化させるという何処ぞの歌いながら戦う世界の敵と同じ能力を有している。

ウルトラマンの力がなければいくら強化されている紡絆でも生身だと長時間の活動は死傷に繋がる。

しかも何気に生身でも毒霧を吸っていたため、多少の効果は出ていても不思議ではないだろう。

むしろ痺れる程度で済んでるのはウルトラマンがいるお陰か。

何故なら勇者ですら精霊のバリアが発動するレベルの毒なのだから。

 

紡絆が毒の影響のことを考えていると、彼は何かを感じ取ったのかふと黒板に視線を移す。

周りは静まっており、気がつけば担任の先生が立っていた。

 

「ホームルームを始める前に、皆さんと新しく転校してきたクラスメイトを紹介します。入ってきて」

 

「はい」

 

何処でも似たようなもので変わらない言葉を聞くと、扉の方から一人の少女が堂々とした態度で入ってくる。

その姿を見て紡絆は若干驚くが、なんとか声には出さなかった。

誰かが騒がしくするわけでもなかったため、スムーズに進むと静かな部屋の中に白いチョークが黒板の上を走る軽快な音が響く。

クラス全員が見つめる先で担任教師の手により『三好夏凜』と名前の書かれた黒板の前で静々と佇むのは、昨日突如あの戦場に現れて衝撃の発言と紡絆を揺すりに揺すって吐きさせかけた少女だった。

 

「こちらは、本日から皆さんと一緒に勉強することになった三好夏凜さんです。三好さんは、ご両親のお仕事の都合でこちらに引っ越してきたのよね」

 

「はい」

 

皆の注目が集まる中、担任教師の言葉に淡々と答えるその姿はその名の通り凜としていて、只者ではなさそうな彼女の雰囲気はこういったイベント事には目のないはずの中学生達を静まり返らせていた。

なお、紡絆は喋りたいのを我慢するので精一杯だった。

自制は出来るらしい。

そうして続く担任の言葉によれば、編入試験もほぼ満点で通っているらしく、雰囲気だけではなく本当に只者ではないようだと今いるクラスメイトたちは思っただろう。

 

「では三好さん。三好さんから皆さんに挨拶を」

 

「三好夏凜です。よろしくお願いします」

 

素っ気ないとも言えるシンプルな挨拶が終わり、ようやく教室内が騒がしくなり始めた。

クラス皆が好奇心に満ちた視線を向ける中、呆気に取られている表情が二つある。その持ち主はいうまでもなく勇者部所属の二人だ。

だが一人だけ、笑顔の者が居た。

 

(じゃあ、これからは学校でも会えるってことか。袖振り合うも多生の縁…ってよく言ったものだな。でも学校でも話せるのは良いなー)

 

友奈は単純に驚いて、東郷はどこか得心がいったというように。

ニコニコ笑顔な紡絆は純粋に嬉しそうに。

シンプルな挨拶を終え、夏凜は席に着くために紡絆の横を通り過ぎると睨みつけるように視線を送ったが、通じなかった。

 

「ここでも仲良くしような!」

 

「……放課後覚えておきなさい」

 

「えっ、こわ」

 

喜び全開で小声気味に口を開くと、ヤキ入れ的な意味がありそうな声音で言われ、紡絆は嫌そうな表情をしたが夏凜に凄まれたので頷いた。

兎にも角にも彼らの日常は、また騒がしくなりそうだった。

といっても元から騒がしいというのは、言うだけ無駄だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーいかr……」

 

休憩時間。

見事なまでに睡眠を取った紡絆は、休憩時間に夏凜の元へ向かおうとし、人の雪崩に殺られた。

流される紡絆。

慌てて救出する友奈。

囲まれる姿を見る東郷。

冷たく返す夏凜。

色々と分かれていた。

 

「やっぱり、こういうイベントごとだとそうなるのね…」

 

「紡絆くん、平気?」

 

「助かった……まぁ、見た感じ、お役目期間しか関わらないんだからつるむ気はないみたいな感じかな。よし、関わろう」

 

無駄に鋭さを発揮した紡絆は夏凜の姿を見て、そう推測する。

事実、当たっていた。

夏凜はバーテックスを全滅させるまでの期間、援軍として呼ばれた。

だから友達なんて必要ないと思っているのだろうか。

しかし既に友達と思っている紡絆にとっては、例え短い期間だったとしても彼女のような優しい人物には楽しい日々を過ごして欲しいと願う。

なので、紡絆は隣にいる自分と同じくらいコミュニケーション能力に長けている友奈を見た。

 

「なぁ、友奈は友達になりたいと思うか?」

 

「え? そりゃ仲良く出来るならしたいけど…流石に私もあの中は無理だよ?」

 

「いや、それだけ聞けたらいい。友奈も東郷もさ、夏凜と仲良くしてあげて欲しい。なんだかんだ、良い奴なんだ」

 

「ええ、紡絆くんが言うなら良い子だと思うわ。そういえば、紡絆くんはいつ出会ったの? 昨日は聞けなかったけど……」

 

「あー……ええっとだな」

 

休み時間の残り時間を確認すると、紡絆は要約して説明した。

融合型昇華獣が現れた際に負けて倒れていたところを助けられたこと。

最初は恩返しだったが、家に遊びに行って関わっていくうちに友人レベルまで親しくなったこと。

ツンデレ---簡潔に言うと、素直じゃないだけで根は良かったり、優しかったりノリがいいところ。

それを話すと、友奈と東郷は納得したように頷く。

 

「つまり紡絆くんはそうして出会って、仲良くなったのね。紡絆くんらしいわ」

 

「じゃあまずは、放課後になったら勇者部に連れていこっか。話すなら部室の方がいいだろうし!」

 

「ん、だな。放課後動くか。流石にあれは無理だ、俺もむり。

周りぶっ飛ばせばいけるけど、危ないしやりたくない」

 

そそくさと諦めると、休み時間がもう終わりなのもあってそれぞれ椅子に座ると、夏凜の周りに集まっていた人たちも戻る。

それを見て解放されたからか、夏凜は一息ついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三好さん放課後時間ある? もしよければ一緒に帰らない?」

 

「いえ、行くところがあるから」

 

「もしかして部活とか? もう何処に入るのか決めてるの?」

 

「別に。特には決まってない」

 

放課後。

休み時間の時よりかは部活があるもの、即座に帰ったもの、友達と帰ったものがいるからか、夏凜の周りは少なかった。

それでも人が居るのだが、夏凜は誘いを理由づけて断っていた。

ただそれは嘘ではなく、本当なのだが。

 

「おはよー夏凜」

「は?」

「おはよー!」

「な…何がおはよーなのよ!? 時間考えたらそんな言葉出てこないでしょ!」

「あはは、だって俺寝てたし」

「なんのために勉強してんのよ…」

 

しかしその分、人が居ないお陰で紡絆は無事に夏凜の近くに来ることに成功しており、親しげに話しかける---というより、周りから見ると先程の態度と打って変わって、親しげに見える。

冷たい態度からツッコミまでしてるくらいなのだから。

 

「あ、ごめんごめん。ちょっと用があってさ、彼女お借りします」

 

「あ、うん。ごめんね三好さん。時間取らせちゃって、またね。あと紡絆くんたちも勇者部頑張って!」

 

「おう、ありがと。悪いな」

 

流石紡絆と言うべきか、勇者部というべきか、夏凜に話しかけていた女子生徒たちが理解したように散らばってゆく。

散らばった彼女たちはふたつに分かれただろう。

ひとつは勇者部としての活動、またはお節介。

もうひとつは転校生であるはずの夏凜が紡絆と親しそうに話すという二人の姿からして、関係性を疑った者。

そのふたつに。

どちらかといえば、前者なのだが。

 

「じゃ、案内必要だろ? 行くゾー!」

 

「はっ? ちょ、私の鞄---!」

 

「友奈ー! 夏凜の鞄頼んだ!」

 

「はーい!」

 

夏凜の腕を掴むと、引っ張っていく紡絆に突然の状況に硬直する夏凜はハッと気づいたように叫びながら連れて行かれた。

教室から消える前に友奈へ叫んだのだけはナイス判断なのかもしれない。

まぁ、言わなくてもお人好しメンバーの一と二を争う友奈がいるので問題ないと思うが。

言わずもがな、一位説が濃厚なのは紡絆である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室から誘拐(語弊)した紡絆は、夏凜の腕を離して少し前を歩いていた。

ついでに道が分からないであろう夏凜に対して、通る道の場所や使う教室の場所を教えているのは、彼のお人好しさが全面的に出ている証だろう。

 

「まさか夏凜が来るなんてなー」

 

「……転入生のフリなんて本当に面倒くさい」

 

「まぁまぁ、せっかくの学校生活なんだからさ」

 

ある程度説明を終えると、紡絆は顔を夏凜に向けつつ、時々前を見ながら話題を振る。

 

「で、何か言いたいことあるんだろ? まぁ、言わないでも察せられるけどさ」

 

本題と言った感じで話に入る紡絆に夏凜は特に何も変わらず、平然とした表情で見て口を開いた。

 

「だったら言わせてもらうけど、あんたがあのウルトラマンであってんの?」

 

「あんまり大声で言わないで欲しいんだが……正解。ごめん、内緒にしてて」

 

「別に……気にしてない。ただ少し驚きはしたけど。

まさかウルトラマンが人間だったなんて。それも紡絆、あんただったってことに」

 

「俺も驚いたぞ? 夏凜が勇者だったなんてさ、そのお陰で助かったけど」

 

言われて少し声音を下げて喋る夏凜の僅かに不満そうな様子を感じ取り、紡絆は苦笑しながら申し訳なく謝る。

 

「で、予想はつくけど、どうして秘密にしてるのよ? 勇者と違って、あんたなら自慢したり力を見せびらかすことも出来るんじゃない?」

 

「ウルトラマンの力は、そんなことのために使うための力じゃない。それに大々的に言ったとして、俺の力が狙われないとは限らないからな」

 

「でしょうね。悪ければ人体実験や実験台。良くても兵器としての運用くらいかしら」

 

「両方とも最悪じゃん……人類を守ることに関しては迷いはないけど、それはやだなー」

 

夏凜に言われたことに紡絆は心底嫌そうな顔をした。

モルモットか兵器、どちらにせよ人間として見られないのだから。

 

「それよりさ、夏凜は援軍として呼ばれたんだろ?」

 

「……えぇ、一応ね。紡絆含めて全員頼りないけど」

 

「これはまた手厳しいことで」

 

特に怒る訳でもなく、否定する訳でもない。

それでも、紡絆は勇者部の勇者たちの強さは知っているため、口には出さないが夏凜にも知って欲しいと思っていた。

 

(そのためにも、まずは交友だな……これからは勇者部の部員の一人として活動してもらうし)

 

いつの間に部活に入ることが確定事項になっているのか。

少なくとも、夏凜はまだそのことを知らない。

 

「ほら、ここが勇者部の部活だ。たぶん友奈と東郷以外は揃ってる」

 

「そう、ここが」

 

部室のプレートを見上げる夏凜。

そこには文字通りそのまま勇者部と書かれている。

 

「……部室の名前まで緩みきってるんじゃないの? 変な名前」

 

「そうかな、俺はいいと思うけどな」

 

ふっと表情を柔らかくし、眼を細めて部室のプレートを紡絆は見た。

夏凜はそれを見て興味を失せたように逸らし、気づいた紡絆は何とも言えなさそうな表情で友奈たちを待つことにした。

そんなふうに会話が途切れて少し経つと、車椅子の音と足音が聞こえて紡絆が視線を移す。

 

「紡絆くん、お待たせー。あ、これ鞄だよ」

 

「はい、忘れ物。他人のことを気遣うのはいいけど、自分のを忘れちゃダメよ」

 

「おっ、悪い悪い、サンキュ。ほら、夏凜も」

 

「……私の場合は紡絆のせいなんだけど」

 

「……!」

 

「今気づいたみたいな反応するんじゃないわよ!」

 

東郷から自身の鞄を受け取った紡絆は、友奈が夏凛に鞄を手渡すのを見たが、告げられた言葉に豆電球でも出ていると錯覚するような反応をして、ツッコミを入れられた。

 

「ま、まぁ入ろう?」

 

「そうね。いつまでも部室前で騒ぐのは宜しくないわ」

 

「じゃー入るか。えー、夏凛連れてきたので全員入りますー」

 

コンコンコンとノックした紡絆は声を掛けるだけ掛けると、返事を待つことなく部室の扉を開けた。

先に先頭にいる紡絆、東郷、友奈、夏凛の順へ入る。

 

「あ、兄さんっ」

 

「ん? やっと入ってきたようね」

 

「皆さん…えっと、こんにちは…」

 

樹と話していたらしい小都音が、ぱああっと笑顔で向かい入れ、風は扉前で騒いでいた紡絆たちがやっと来たことに反応して、樹は夏凛にどう接すればいいか分からなさそうに。

 

「………」

 

「夏凛?」

 

元気よく挨拶を返そうと手を挙げようとしたところで、紡絆は無言のまま黒板の前に堂々と立つ夏凛を見て呼びかける。

が、反応はない。

 

「へんじがない……。

ただのしかばねのようだ」

 

「うるさい」

 

「あだぁ!?」

 

黒板の方にあったらしいチョークをこめかみに投げつけ、寸分の狂いもなく放たれたチョークを紡絆はまともに受けて背中から倒れた。

 

「わー!?」

 

「紡絆が死んだ!」

 

「す、ストライクです…!」

 

「綺麗な弾道だったわ…!」

 

「に、兄さん大丈夫!?」

 

「死んでないんですけど!?」

 

慌てた様子で小都音が紡絆を抱き起こすと、勝手に殺された紡絆は復活すると無事だと言うことを知らしめるように叫んだ。

 

「本当に気楽なやつら。よくもまあ、今まで生き残れたものね。

けれど、私が来たからには完全勝利間違いなしよ」

 

そんな紡絆をさておき、自信満々に豪語する夏凛に対して話を進めるためにか、代表して東郷が口を開いた。

 

「なぜ今このタイミングで? もっと早く---それこそどうして最初から来てくれなかったんですか?」

 

「私だってもっと早く出撃したかったわよ。でも大赦はお役目の完遂を確実にするために二重三重に万全を期しているの。

戦力を即時投入するよりも更に質を高めることで最強の勇者を完成させるためにね」

 

「最強の勇者……」

 

「そ、あんた達先遣隊の戦闘データを得て完全に調整された完成型勇者、それが私。

それに伴い私の勇者システムには対バーテックス用に最新の改良が施されている」

 

改良されているらしい最新のスマホを見せびらかすと今度は精霊を呼び出した。鎧兜に烏帽子を被った戦国武将のような容姿をしている人型の精霊。

義輝である。

 

「その上、あんたたちトーシロとは違って、戦闘のための訓練を長年受けてきているのよ!」

 

そう言った夏凛は傍にあったモップを手に取り、演舞のように流れるような動きで空中を舞い踊る。

そこには、素人とは一線を画す、一朝一夕では身につけることの出来ない確かな技が込められていた。

ただモップというのが絵面的に微妙なのだが。

 

「なるほど……躾甲斐のある子が出てきたわね」

 

「なんですって!?」

 

そんな中、腕を組んで頷いていた風が片眼をあけながら挑発的な言葉を漏らした。

それに反射的に突っかかる夏凜。

不敵な笑みを浮かべる風と夏凜との間で視線が交錯し、一瞬火花が散る。

 

「ふん、まあいいわ」

 

「あ、私質問いいですか?」

 

「何よ? あんたは……確か紡絆が言っていた妹ね」

 

そんな二人だったが、先に矛を収めたのは夏凛だった。

そこに話題を振るタイミングを測っていたのか、小都音が手を挙げると夏凛の視線が小都音に移る。

 

「はい、天海小都音です。兄さんの妹です」

 

「で、なんか用?」

 

「えっと、一つ聞きたいんですけど---」

 

そう言うと小都音は一度言葉を区切り、少し貯めると真っ直ぐ、それも物凄い真剣な表情を作って見つめる。

今までの勇者部には似つわしくない空気に一体何が来るのかと夏凜は身構えた。

 

「兄さんとはどんな関係ですか?」

 

「……は?」

 

「えっ?」

 

可愛らしい声を出しつつも若干黒い雰囲気を纏う笑顔の小都音から、予想の斜め上を行く発言に身構えていた夏凜は呆気に取られ、周囲からは困惑した様子を感じ取られる。

その中でも小都音の隣にいる人物が一番困惑してこんがらっていた。

無論、紡絆である。

 

「兄さんとはどんな関係ですか?」

 

再度、繰り返して聞く小都音。

それでようやく理解した夏凜は口を開く。

 

「別に、ただの知り---「いや、友達だぞ」」

 

「は、はぁ!? 誰と誰がよ!?」

 

「そりゃ、俺と夏凜しかいないだろ?」

 

「いつ、どこで、どうしてそうなるのよ!」

 

「友達の定義を俺が知るわけないだろ! 哲学は分からん!」

 

当然と言った様子で遮った紡絆に文句のひとつでも言ってやろうかと思っていた夏凜だったが、何故か自信満々に知らないと言う紡絆に言うだけ無駄だと悟ったのかため息を吐いた。

 

「あの……」

 

「今度は何!? またこいつのこと聞くんじゃないでしょうね!?」

 

また何かあるのかと小都音を見ながら、紡絆に対して夏凜は勢いよく指を差す。

小都音は先程と変わらぬ真剣な表情を作っており、紡絆は首を傾げた。

 

「兄さんはあげませんからね?」

 

そして真剣な表情はそのままで、自分のだと言うように小都音は紡絆の左腕を胸元で抱きしめて威嚇するように夏凜を見つめる。

ちなみに紡絆はされるがままだ。

 

「いらない!」

 

「ひどっ!?」

 

「兄さんがいらないってどういうことですか!?」

 

「あぁー! 兄妹共に面倒くさいっ!!」

 

ショックを僅かに受ける紡絆といらないという発言に文句を言いたそうな小都音。

そしてあまりにもの面倒さに癇癪を起こしたように切り捨てる夏凜の姿がそこにあった。

 

「はいはい、友達なのは分かったから一旦落ち着きなさい」

 

「部長が部長らしいことしてる……!」

 

「あぁん?」

 

「あっごめんなさい」

 

「はぁ、何はともあれ、あんた達全員大船に乗ったつもりでいなさい」

 

余計なこと言って、風のドスの効いた声に即効で謝る紡絆。

それはさておき、会話が終了すると夏凜は一つため息を吐き、話はこれで終わりと言わんばかりに発言した。

そしてその発言を聞いた友奈が立ち上がり、近づくとニコニコとした笑顔で口を開く。

 

「うん! よろしくね、夏凜ちゃん!」

 

「あ、あんたまでいきなり下の名前…!?」

 

「嫌だった?」

 

「別に、名前なんて好きに呼べばいいわ」

 

友奈の距離感の近さに戸惑いながらも夏凜は何処か興味がなさそうに返す。

そこにさすがに空気を読んだ紡絆も立ち上がると、夏凜に向かって笑顔で口を開いた。

 

「じゃあ、ようこそ勇者部へってことだな」

 

「は? ちょ……誰も部員になるなんて話、一言もしてないわよ」

 

部員達の中では半ば以上確定事項だったことを紡絆が言葉にしたのだが、夏凜には毛頭そんなつもりはなかった。

というか、紡絆に至っては案内中に確定していたのだが。

 

「違うの?」

「違うわ! 私はあんたたちを監視するためにここに来てるだけよ」

「えー、もうここには来ないのか? なら俺から行くべきか……?」

「どんな頭してんのよ……来るわよ、お勤めだし」

「それなら……なぁ?」

「うんうん、入っちゃった方が早いよね?」

 

部室の中でもコミュニケーション能力に長けた二人の猛攻撃は、普段とは考えられないほどの正論の言葉が飛んでくる。

何一つ、間違いは言っていない。たまに斜め上の発言をしているが。

 

「う……っ。まぁいいわよ、それならそういう事で。その方が監視もしやすいのは確かでしょうしね」

 

流石に二人には勝てないのか、折れた夏凜だが、この期に及んでもまだ頑なな態度を取る姿には勇者部女子部員たちは苦笑気味だ。

紡絆はニコニコ笑顔なのだが、内心少し言いすぎている自覚はありつつも素直になれない性格が邪魔しているという、ツンデレのことを理解しているからなのだろう。

何気に人助けが趣味なのもあって他人のことばかり見てるのが彼なので、だいぶ関わっている夏凜の分かりやすい本質を見抜くくらいは出来ていた。

 

「でもさ、夏凜。監視監視って言ったってスペースビーストの出現は俺も分からないし、みんなだって分からないだろ? そんなサボるみたいなことは言わなくていいんじゃ?」

 

「いい? 大赦のお勤めはね、偶然適当に選ばれたトーシロー連中が余裕綽々と出来るものじゃないのよ」

 

「よゆう……しゃくひゃく?」

 

「兄さん、余裕綽々は落ち着き払ってるって意味」

 

「なるほど余裕綽々か」

 

聞き間違えたのか、そんな単語あったっけ?と首を傾げる紡絆に小都音が教える。

どうやら頭は兄より妹の方が良いらしいが、聞いて納得したようなので聞き間違えたのだろう。たぶん、きっと、流石に。

それはともかく、紡絆のせいで話が途切れたか、夏凜は咳払いをひとつ入れて再び口を開く。

 

「……とにかく、この御役目はそんな生易しいものじゃなければ半端な覚悟で出来ることでもない。おままごとでも思ってるなら御役目をお---ってあああああああああああああああああああああああ!!!」

 

また何か厳しい発言を言い切りかけた時、突如夏凜が悲鳴を挙げる。

その視線の先には---牛の様な精霊に頭を齧られている大事な相棒(精霊)の姿があった。

 

「あああああああああアンタ一体何してんのよ! 離しなさいよこの腐れチクショー!!!」

 

今にも食われかねない絶賛大ピンチの義輝のもとに大慌てで駆け寄った夏凜がその体を掴んで振り回す。

先ほどまでの姿は見る影もなく、もはや完全に取り乱してしまっている。

要救助者である義輝が目を回してしまうほど何度もシェイクした結果、とうとう耐え切れなくなった牛鬼の顎が外れ、遠心力に従ってポーンと飛ばされた。

 

『外道め!』

 

夏凜の両手には大事そうに両手で持たれている義輝が居り、牛鬼に対して声を挙げていた。

精霊が喋ったことに反応するよりも気になったのか、放物線を描いて飛ぶ牛鬼の行方を皆の視線が追う。

そんな状況にも関わらず割と余裕な表情で勢いのまま流れに身を任せていた牛鬼だったが、着地地点にあるものを視界に収めた瞬間に目をギラリと輝かせて、涎を垂らしながら口を大きく開いた。

 

「はあ……」

 

がぶり、と牛鬼が何かを食べる。

そこには、ため息を吐きながら諦めたように食べられる紡絆の姿があった。

 

「つ、紡絆くん大丈夫!?」

 

「わ、わわ…兄さんの髪の毛が…うらやま……大丈夫!?」

 

「あー髪の毛引きちぎられてる訳でもないし大丈夫大丈夫」

 

何故か食べられる姿に殆どの部員がやっぱりか、といった様子を見せるが、心配する友奈と小都音の声を聞きながら当の本人はすっかり慣れた様子で、自身の頭部をあむっと咥える牛鬼を撫でていた。

既に仲良しだ。

 

「と、とりあえずほら、牛鬼〜こっちには大好きなビーフジャーキーがあるよ~? おいでおいで~」

 

牛鬼の涎らしきものが紡絆の頭から大量に落ちていくのを見て、いつまでも食べさせてはならないと思ったのか友奈がビーフジャーキーを取り出して猫じゃらしのように揺らす。

それを見て、牛鬼はビーフジャーキーと紡絆を何度か見て、しばらく悩んだ挙句に友奈の方へ行った。

……紡絆をドバドバに汚してから。

 

「いや、なんで悩まれたん?」

「ちょ、ちょっと! 人の精霊を食べたり人間を食べたり、アンタの精霊どうなってんのよ!」

『外道め!』

「外道じゃないよ牛鬼だよ。ちょっと食いしん坊さんで紡絆くんのことが大好きなだけだよ」

「じ、自分の精霊くらいちゃんと躾なさいっての!」

「はい兄さんこっち来て」

「ういっす」

 

大好物であるビーフジャーキーと同レベルまで牛鬼は紡絆のことが好きなのかどうかは分からないが、考えても仕方がないため紡絆はいいツッコミ具合を見せる夏凜を見ながら、小都音にタオルで拭い取って貰っていた。

なおタオルが足らなかったため、東郷にも借りたという。

恐るべし、牛鬼の涎。

 

「ところで風先輩、爆笑してたの見逃してませんからね」

 

「い、いや……今のは無理でしょ、くっ…ぷぷぷ」

 

「お、お姉ちゃん……。えっと紡絆先輩、私もお手伝いしましょうか……?」

 

部員が食べられていたというのに爆笑していたらしい風に紡絆は恨めしそうに見るが、オドオドしながらも健気な後輩は先輩のために行動を移そうかと尋ねる。

 

「許して……」

 

「ええっ!?」

 

紡絆は風に関してはどうでも良くなったのか恨めしそうにするのをやめ、樹に許しを乞いながら拭きやすいように固まった。

 

「紡絆くんほら、ここも付いてる。

それで牛鬼のことだけど、紡絆くんは何故か噛まれるけど他の精霊も牛鬼に齧られるから私も含めてみんな精霊を出しておけないのよ」

 

「あざーす……」

 

流石に手が足りなくて東郷が車椅子に乗ったまま紡絆の服を拭い、小都音は髪をやっていた。

だからこそ、樹に対して断ったのだろう。主に後輩にまで拭かせてるように見えてしまうというのは光景的にマズいと思って。

なお紡絆がされるがままなのは、本人が自分でやろうと動こうとしたら注意されたからである。

 

「じゃあそいつを引っ込めればいいでしょ!」

 

「この子勝手に出てきちゃうの」

 

「はぁ!? あんたのシステム壊れてんじゃないの!?」

 

『外道め!』

 

もきゅもきゅと美味しそうにビーフジャーキーを食べる牛鬼を余所に夏凜が常識的な反論を言うが、システムに詳しくない彼らが説明出来るはずもなく、何も言えない。

 

「そういえばこの子は喋れるんだね」

 

「ええ、私の能力に相応しい強力な精霊よ」

 

「あ、でも東郷さんには三匹いるよ」

 

「はい」

 

話題を変えるように別の話を振られると夏凜は答えるが、友奈の言葉に東郷がスマホで精霊を呼び出した。

卵のような精霊、丸坊主。青い炎の精霊、不知火。狸の精霊の、刑部狸の三匹。

それを見た夏凜は絶句して言葉を失う。

自分とは違ってアップデートもされていないのに三匹精霊がいるというのだから仕方がないだろう。

 

「……ど、どうしよう、夏凜さん…!」

 

「今度は何よ!」

 

「夏凜さんの運勢…死神のカード…!」

 

「勝手に占って不吉なレッテル貼らないでくれる!?」

 

「樹ちゃんの占いはかなり当たるらしいので注意した方がいいかと…流石私の友達です」

 

「余計タチが悪いわ!」

 

ただならぬ様子を見せる樹に自分のことのように自慢げに話す小都音に、ただただ夏凜のツッコミが炸裂する。

流石にこれ以上はないかと思われたが---

 

 

 

 

「や、やばい…夏凛……!」

 

「次から次へと何!?」

 

「手がベタベタする……!」

 

「知るかぁー! 手洗って来ればいいだけでしょ!」

 

やはり紡絆は空気を読んで、正論で返された。

それはさておき深呼吸を数回、何とか精神を落ち着けた夏凜がみんなの前で改めて宣言する。

 

「と、ともかく! あんた達はこれから私の監視の元、バーテックスとスペースビーストの討伐に励むのよ! いいわね!?」

 

「部長がいるのに?」

 

「私はね、部長よりも偉いのよ」

 

「ややこしいなぁ…」

 

話を無理矢理区切った夏凜は割と無茶苦茶な理論を喋るが、誰も特に返事することなく、友奈は首を傾げていた。

 

「つまり俺も偉い……?」

 

「それはないから安心しなさい。で、事情は分かったけど学園に居る限りは上級生の言うことを聞くものじゃない? 正体を隠すのも任務の中にあるでしょ?」

 

夏凜が偉いなら自分もそうなのではとでも思ったのか、紡絆の発言は風によってバッサリ切られると部長らしい言葉で諭す。

 

「ふん…まあいいわ。どうせ御役目を完遂したら終わりなんだしそれまでの我慢ね」

 

「じゃ、これからも一緒に居るってことだろ? それなら一緒に頑張っていこうぜ!」

 

「夏凜ちゃん、一緒に頑張ろうね!」

 

「が、頑張るのは当然でしょ! せいぜい、私の足を引っ張らない事ね! 特に紡絆!」

 

「えぇ……なんで俺ぇ…?」

 

照れたように頬を僅かに赤めると、夏凜は紡絆や友奈から逃れるように後ろを向いてごまかすような棘のある言葉を呟いた。

まっすぐ、純粋な好意に弱いのだろう。

言われた本人は訳分からないといった表情だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュンっといった(かぜ)を切る音が聞こえる。

ここは有明浜。

倒れていた紡絆を夏凜が発見し、保護した場所---すなわち、彼と彼女が初めて出会った場所だ。

二刀の木刀を手に持ち、夏凜がまるで踊るように木刀と体を動かすと、(かぜ)を切る音だけが響く。

その様子は慣れており、いつものやっている、日課のような動きだった。

 

「こんな買ってどうするの?」

 

「夏凜に作ってるんだよ。あいつコンビニ弁当しか食わないからさ。あんな動いてたらお腹空くもんだろ?」

 

「お兄ちゃんが言っても凄く説得力がないんだけど……」

 

「飯食うの放棄してたら胃袋小さくなってたからな…」

 

はぁ、と軽い息をつきながら荷物を持つ紡絆は遠くから夏凜を見ていた。

小都音も同じく視線を動かして見ているが、そこまで興味はなさそうだった。

彼らがいる理由は、本当は友奈たちにうどんを食べに行かないかと誘われていたのだが、自ら断ったのである。

紡絆が断ると、当然小都音も行かないわけで何処に行くか気になったため、来たというわけだった。

 

「時々遅かったり別の匂いするなーと思ったら三好さんだったの?」

 

「ん、そうなる。これでも命救われたし、一人で食べるより複数で食べた方が良いしな。それに知り合いだった俺が仲良くなれば勇者部でも過ごしやすくなるかも。嫌か?」

 

「別に良いけど、それで済むならいいんだけどね……友達で」

 

はぁ、と今度は小都音がため息を吐いた。

似たような動作を短時間でやるのは、流石兄妹と言うべきか。

妹の方は意味が変わるが。

 

「んん? どういうこと?」

 

「んーん、なんでもなーい」

 

意味が分からずに首を傾げる兄を見ながら、小都音はそっと肩をくっつけて寄りかかる。

ますます意味がわからなそうにしているのだが、説明されそうにないと知ると諦めて、紡絆は終わったであろう夏凜に声を掛けることにした。

 

「おーい! 夏凜ー!」

 

紡絆は荷物を片手で持つと手を振って自身の場所をアピールしながら大声で呼び掛ける。

すると夏凛が驚いたような表情をしながら、近づく。

 

「ッ!? な、なんで居んのよ!?」

「や、いつも家行ってるけど行く途中で見つけたし。どうせコンビニ弁当で済まそうとしてたんだろ? だから今日も俺が作ろうかなーと」

「う……別にいいでしょ。何度も言ってるけどいらないわよ」

「まあまあ、ちゃんとした方がいいじゃん。な?」

「それはそうだけど…」

「じゃあけってーい! 面倒だから決定! 拒否する権利は毎度の事ながらない!」

「どうしてよ!?」

「面倒だから」

 

雑い決定事項を呈示する紡絆だが、もし今夏凜が理由を聞いても同じことを繰り返すbot化すだろう。

そこで黙って紡絆の腕を抱いていた小都音が口を開く。

 

「三好さん、私たち買いすぎたんです。このままだと残りの分は捨てないといけないので……ダメでしょうか?」

 

「え、いy---むぐぅ」

 

嘘を付かない紡絆らしく余計なことを言いかけたが、小都音が思考を読んだのか紡絆の口を抑えて喋らせず、夏凛に向かって言っていた。

 

「いや、でも……」

 

「私話したいこともありますし、別に全然気にしませんよ? 兄さんがもとより作ってたみたいですし、お節介とでも思って。その、どうしても嫌だって言うなら悲しくなりますけど……」

 

「う……っ」

 

暗い表情を作る小都音に、何故か慌てたようにどうすればと手をバタバタする紡絆が居るが、流石の夏凛も親切感と好意で言ってくれるのだと

分かるからかバツが悪そうな表情で髪を掻くと、ため息を一つ零す。

 

「分かった、分かったわ。まったく、私が悪いみたいになるでしょ。ほんと、バカでおかしなやつ」

 

「……?」

 

きょろきょろと紡絆が周りを見渡し、そんな人物は居ないとでも言うように首を傾げていた。

 

「ありがとうございます。それじゃ兄さん、きょろきょろしてないで行こっか」

 

「あ、そうだな」

 

未だに自分だということに気づかずに周りを見ていたのか小都音に言われて紡絆は頷いて、首を傾げながら夏凛の家がある場所へと歩いていった---

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
お節介でお人好しが全面的に出ているが、平常運転。
しかし変身せずにバーテックスに突っ込んで行ったのは間違いなくアホ。

〇三好夏凜
ようやく偽名だと言うことを知ったが、流石にドヤ顔で言われてイラついた。
なお、紡絆のことはバカだと既に前から思っている。
ただ彼女にとって、厳しい言葉を投げかけても諦めることなく絡んでくれる存在は本当は有難いのかもしれない。
ちなみに実は男がいることは大赦から聞いていたが、姫矢(紡絆)だと知ったときに体揺らした理由は心配も含まれている。
妹が生きていた件は紡絆に聞いてるので、特に驚きはなし。

〇天海小都音
学校では紡絆が来るまで基本的には樹ちゃんと行動して話をしている。
が、やはり外でも紡絆に対する愛情が表に出たり出なかったり。
ちなみに気になる方もいると思うので、改めて正確に情報を少し挙げます。
青髪(色合い的には水色に近い)にセミショートの(といっても長さ的に一部はお腹くらいまではある)女の子。
年齢は樹ちゃんと同じ。
身長:148cm(樹ちゃんと一緒)
体重はk■■■■
胸はある。胸は意外とある(多分BかCの間くらいでCまでは流石にない)。
容姿の元はエロゲキャラから。

〇ドラゴレイア
カプリコーン・バーテックスとラフレイアの融合型昇華獣。
元ネタは古代ギリシア語の山羊、ドラゴスからだが、ネーミングセンス皆無で泣いた。
それはともかく、紡絆はまだ手を残してるのではと推測しており、現実世界に大きな悪影響が出ることからメタフィールドを貼らない限り、撃破不可能な敵。
ウルトラマンと勇者に対する、対抗策を身につけてきた敵とも言えよう。
現在把握している能力は物質を炭化させる猛毒の花粉と毒霧、毒霧という気体の凝固。
背中から生えている触手のようなイカみたいな脚


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「-情報共有と整理-レクリエーションスケジュール」


今回は無理だなと思ったので分けました。
前回合わせて三話構成予定なので、次回で夏凜ちゃんは終わりかと。
もうそろそろゆゆゆ一期前半のラストパートが迫っていて、このままラストまで突っ走りたいですね…脳裏では決まってるので一人感想見てニヤニヤしてたりしてます。
予想とか書いてくれるだけで、何気に刺激になってくれたりやる気に繋がるので助かるんですよね、毎回書いてくださってる方本当にありがとうございます。
あと感想は毎回投稿前に絶対返してますが、してなかったら寝てるので次回投稿する時に返します






 

 

◆◆◆

 

 第 18 話 

 

-情報共有と整理-レクリエーションスケジュール 

 

 

 

ブラックベリー

人を思いやる心

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏凛の家に入った紡絆は早速慣れた様子でキッチンへと向かうと、材料を袋から取り出す。

あとは使うための器具を取り出し、一応洗ってから準備を終える。

 

「私お肉やるね」

 

「ん、じゃあ俺はスープやその他やっとく」

 

役割分担すると、紡絆はスープの出汁から。

小都音は鶏肉を程よいサイズにトントンと素早く切っていく。

明らかに手際は小都音の方が良く、紡絆の方はスープというのもあるが、手際も速度も普通だ。

ただ足付けして、調味料足して、材料入れて、終わり。

といってもほとんどの料理は基本そうなので、ぶっちゃけ好みと家庭の味に分かれるとしか言いようはない。

そんなこんなで粉をまぶして全体に行き渡らせ、洗った野菜を切って、肉を揚げて、スープを温め直して、皿やお椀に入れると完成したため、それらをテーブルに置く。

 

「ほい、終わったぞー」

 

「お待たせしました」

 

テーブルに置き終えると、夏凜に声をかける二人。

テーブルにはメインである山盛りのから揚げは中央に置かれ、レモンやキャベツ、副菜、厚焼き玉子、スープと言った献立。

そして白米といった感じだ。

極々普通のメニューで、禍々しいオーラを発したりはしていない。

 

「なんというか、普通に美味そうね」

 

「小都音の料理は実際美味いぞ。店で食べるより食べてしまうレベルでな」

 

「そ、そんなに褒めても何も出ないよ…?」

 

自慢げに語る紡絆に小都音は照れるが、夏凜はふーんとあんまり興味なさそうだ。

というか、誰が妹自慢を聞きたいというのか。

 

「ま、食えば分かることだ。それより食べようぜ、時間が時間だしお腹空いてきた」

 

「ん、そうだね。三好さんもたくさん食べてね。足りなかったら何か作る材料は残ってるから」

 

「…この量で足りないってのはないと思うけど」

 

山盛りのから揚げを見て、呆れたように見つめる。

もはやどうやって山盛りになっているのか分からないレベルで山盛りだ。

触れた瞬間崩れそうなレベルで。

 

「三人なら食べ切ることは出来るだろ。いただきまーす」

 

「いただきます」

 

「はい、いただきます」

 

 

礼儀良く手を合わせて食事の挨拶をすると、それぞれご飯を食べていく。

美味そうに食う紡絆はともかく、夏凜はから揚げを一口食べると、驚いたような表情をして一度固まる。

 

「俺が作るより美味いだろ?」

 

「ふ、ふん……」

 

普段なら否定するはずの夏凜が、否定することなく黙り込んで、食べる。

箸の手が止まったりしないことから美味しいのだろうと判断した紡絆は何故かドヤ顔であった。

小都音は特に気にした様子はなく、食事を楽しんでいる。

紡絆も料理を作る際は思いやりを持って作っているが、技術面的に小都音の方が上なのだ。

そこに紡絆と同じ思いやりが込められていれば、それは当然小都音の料理の方が美味い。

 

「うざい」

 

「なんでっ!?」

 

「兄さん兄さん、スープ美味しいよ」

 

「えっ、今言う? ありがとう、夏凜なんて全然美味しいなんて言ってくれなくってさ……しくしく」

 

一人二役でもやってるのか、というくらいに切り替えが早い紡絆。

そんな彼は、目元を手で擦り、チラッと夏凜に視線を送っていた。

 

「ちょ……お、美味しいわよ……」

 

「イェイ」

 

「なっ……!?」

 

頬を赤めながら小さい声で呟いた夏凜の声を聞き取った紡絆は嬉しそうにガッツポーズした。

物凄い分かりやすい嘘に、本当に嘘だったということを気がついた夏凜は睨むが、紡絆は目を逸らした。

 

「いやー美味しいなー」

 

「誤魔化すな!」

 

「……本当に仲良いんだ、二人とも」

 

話を変えるようにパクパク食べ、夏凜はそんな紡絆に言葉を投げかけるが、どうやら食べることに集中するようにしたらしく、紡絆は何も言わなかった。

その話をただ聞いていた小都音は得心がいっていたようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事を終えると、紡絆の姿はなかった。

お皿を洗いに行ったり油の処理に向かったので、すぐには帰って来れないだろう。

同じ部屋にいる小都音と夏凜には特に会話がない。

各々自分のしたいことをしてるだけだ。

その中、小都音が夏凜に顔を向けて、口を開く。

 

「三好さん」

 

「何?」

 

メールを打っていた夏凜は送信するとスマホを置き、呼ばれたために返事をする。

 

「ひとつ聞いていいですか?」

 

「別にいいけど、答えられないことは答えられないわよ」

 

「はい、それならそれで良いです」

 

質問があるようで、許可が降りた小都音は答えられないなら良いと言いつつ、質問を投げかける。

 

「三好さんってお兄さん居ますよね」

 

「……どうしてそう思うのよ?」

 

「妹の勘です。なんだか同じ感じがしたので」

 

「勘って……まあ居るけど」

 

よく分からない勘に一瞬戸惑う夏凜だが、別に答えられることだったようで普通に答えていた。

 

「で、それがどうかした?」

 

「別に何かあるって訳じゃないんですけど、どんな感じなのかなーと。私の兄さんは言わないでも分かると思いますけど、私と似てませんし」

 

「あんなのが二人も居たら逆に困るんだけど……。そうね、一言で言うなら完璧超人」

 

「完璧超人、ですか…なるほど、私の兄さんとは真逆ですね」

 

油の処理か洗い物か、どちらかをしているであろう紡絆が居る場所を小都音は優しげに見つめていた。

夏凜はそれが一体何なのか理解出来ないといった表情である。

 

「簡単に言うと、私の兄さんは真っ直ぐなんです。特別なんでも出来るってわけでも才能があるわけでも欠点がないわけでもなくて、ひたすらに真っ直ぐで、純粋なんです」

 

「真っ直ぐで純粋ね……」

 

それは確かに、と夏凜は思う。

初対面でグイグイ来たが、それは邪な考えがあるわけじゃなくて好意だということは簡単に分かったのもあれば、紡絆は嘘が下手で、律儀で変なやつという印象が強い。

ただそれでも紡絆が口にする言葉は大半が純粋な思いが込められていて、ふざけてない時は真っ直ぐだ。

ふざける時は真っ直ぐ一直線にふざけているが。

 

「ここまで知ってるかは分かりませんけど、私の兄さんって記憶喪失なんですよ。

私もなぜそうなったのか、その理由は知りません。けど意識を取り戻して、記憶を亡くして、最初に行動したことがどんなことか分かります?」

 

「……さぁ?」

 

「泣いてる両親や私の心配をして、不安を消そうとしてくれたんですよ。おかしいですよね、本当なら()()()()()()()()()()なのに」

 

普通、記憶が無いということは自分の存在すら知らなければ、家族のことも知らない。

見知らぬ他人が自身の家族とか言ってるのだから、普通は怖いだろう。

しかし紡絆が取った行動は、心配。

自分のことは二の次で、他人を優先したのだろう。

誰かは知らないけど、泣いてるなら止めないと。

きっとそんなことを思っていたに違いない。

 

「兄さんはとても優しくてとてもかっこいいのですけど、趣味を人助けにしてるレベルでお人好しなんです。

でも三好さんと仲良くしたいと思ったのは純粋に貴女が悪い人ではなくて、良い人だから。誰かが良いというわけじゃなくて、()()()()()()()()()()()()と仲良くしたいと思ったのだと思います」

 

時々兄を褒める言葉を言っているが、流石は妹と言うべきだろうか。

その答えは、実際に合っていた。

確かに誰でも仲良く出来るのが、継受紡絆という人間。

しかし紡絆はあの日夏凜と出会い、心に触れてそうしたいと思ったのだ。

 

「身内贔屓を無くしても兄さんはお世辞にも勉強は出来ませんし欠点だらけですけど、そんな善悪や本質を見極めるのは得意なんです。

余計なお世話かもしれませんけど、兄さんは例え貴女がどれだけ厳しいことを言っても諦めずに向かってきますよ。だって、貴女と仲良くしたいと思って、貴女のことを良い人だって知ってるから」

 

「……ほんっとバカね」

 

聞いてるだけで呆れてるのが手に取るように分かるが、小都音は気にした様子はない。

そもそも普通に一般人視点から見れば、紡絆は変人なのだ。

命の危機に突っ込むやつを普通で表現することなどしない。

 

「ふふ、そうかもしれません。

けど、いつか三好さんも兄さんの人柄に触れて、惹かれますよ。だから兄さんの周りにはいつも誰かが居て、笑顔の花が咲いてるんですから」

 

人柄が良く、人望も厚く周囲に認められ、勉強もスポーツもなんでもこなせる完璧人間である夏凛の兄。

人柄が良く、スポーツはこなせるが度が過ぎるレベルでバカなお人好しで、自ら人望を獲得し、周りを笑顔にする他に、本気で人を恨むことすら出来ない小都音の兄。

生まれ持った才能というのはあるかもしれないが、紡絆自身はウルトラマンを宿しているだけの一応一般人なのだ。

だが、人望はある。

それどころか、紡絆の周りには必ずと言っていいほどに誰かが居て、頼られて、笑顔にしている。

この二人を比べたとしても完璧な人間と、はっきり言ってウルトラマンになれたとしても不完全な人間。

正直、前者が優秀だろう。後者など、正直世界から見ればウルトラマンになれないなら価値すらない。笑顔に出来て世界を救えるなら、誰も困らないのだから。

しかし仮に本人同士が会ったとしたら、仲良くなれたりする。

 

「さて、どうかしらね……」

 

それを聞いて、言葉を濁す夏凜。

否定は一切しなかったことに、小都音は分かっているのか笑みを浮かべると、ただ一つだけ再度告げる。

 

「別に三好さんが惹かれていようが、気にしませんけど兄さんはあげないとだけ伝えておきますね。私、異性として兄さんのことが好きなので」

 

「……は?」

 

とんでもないカミングアウトに、夏凜がポカーンと呆けた表情をするのを無視して、ニコニコとした笑顔を向けていた。

若干殺意に近いのも出している。

それでも夏凜が微塵たりとも惹かれていなければ、わざわざ紡絆たちを家に入れたりなどしないだろう。

偶然ならともかく、故意的に。

すぐに切れる縁なら、簡単に切れる。どうでもいい存在なら関わらない。

それなら、今の関係はどうだ?

言い合える仲。家に入れる中。ご飯を食べる中。

無理矢理というのもあるが、本人が強く拒否すれば紡絆はすぐにやめたはず。

それはただの知り合いではなく、定義もないことから友達と呼んでもいいだろう。

あとは本人たちが認めるかどうかであり、周りから見れば友達どころか友達以上にしか見えないのである。

 

「終わったぞーってどうかした?」

 

「なんでもないよ、三好さんと友達になっただけ」

 

「えっ、ちょ……っ」

 

「はへー凄いなー夏凜と友達になるなんて」

 

何かを言いたげな夏凜に気づかずに関心したように頷く紡絆は、話はそこそこに時間を確認していた。

既に20時を回っている。

 

「っと、こんな時間か。とりあえず今日はもう帰るか」

 

「あ、そうだね。三好さん、ありがとうございました」

 

「はぁ……あんたら兄妹って感じするわ。帰るなら帰りなさい」

 

紡絆は強引さはあるが、小都音も少しはあるということは遺伝かなにかなのかもしれない。

面倒になった夏凜は、目を閉じながら追い払うように片手を動かした。

 

「おう、また来るぞ」

 

「はいはい」

 

「それでは、失礼しました」

 

拒否したところで無駄だと悟ったようで、友人のように軽い調子で話す紡絆と礼儀正しく頭を下げる小都音を夏凜は鍵を閉めるために見送り、紡絆たちは自身の家へと戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の放課後。

 

「仕方ないから情報共有と交換よ! わかってる? あんたたちがあんまりにも情けないから今日も来てあげたのよ?」

 

そういって部室の黒板の前に立つのは、昨日入部した勇者部の新入部員、三好夏凜である。

突然そんなことを言い出して意味が分からないが、学年が違う風と樹、小都音はともかく紡絆もそんな様子はクラスで微塵たりとも感じられなかったため、体育の授業で何かあったのだろうか、と考えていた。

 

「なあ、俺もくれない?」

 

「やだ」

 

紡絆がじーっと視線を送ると、ポリポリと夏凜がにぼしと書かれた袋を手に、煮干しを食べていた。

 

「どうしてニボシなんですか?」

 

「それ思ったわ」

 

「ビタミン、ミネラル、カルシウム、タウリン、EPA、DHA…ニボシは完全食よ!

さっきも言ったけどあげないわよ」

 

何故か煮干しを食べる姿に普通に適応しかけた紡絆はともかく、疑問の声を挙げる小都音と怪訝な顔をする風。

煮干しを常備している女子中学生というのは流石に珍しいと思わざるを得ないが、バカにされたように思ったのかムッとしてなにやら語っていた。

 

「いや、いらないわよ」

 

ただ正直いるかいらないか言われると、風もだが、大半の人間はいらないと答える。

紡絆ですら興味本位で聞いただけのようで、今も欲しいとかは言ってないし、そもそも今はビーフジャーキーを牛鬼に与えることに夢中だった。

なんだかんだで、可愛らしい見た目をしているのもあって牛鬼にも優しい紡絆だった。

 

「じゃあ私のぼたもちと交換しましょ?」

 

そういって横合いからぼたもちの入った箱を差し出したのは、東郷。

彼女の料理の腕はかなりのもので、中学生とは思えないほどの料理の腕をしていて、プロレベル。

そしてぼた餅は友奈もだが、紡絆ですら好物に入るレベルで好きなため、より高みへと登ってある。

ただし、あくまで東郷のぼた餅が好きなだけで、彼と彼女はお店のでも良いってわけではない。

なお、当人である夏凜はいきなり差し出されたため、胡乱げな目線を向けていた。

 

「…何それ」

 

「さっき家庭科の授業で作ったの。いかがですか?」

 

「東郷さんはお菓子作りの天才なんだよ!」

 

「い……いらないわよ」

 

美味しそうな見た目をしていることから、興味は湧く。さらに夏凜も甘いものは嫌いではないのか一瞬悩んだように言葉のキレが弱くなった。

が、どうやらプライドが勝ったらしく、拒否していた。

それを聞いて東郷は残念そうに下げ、いつの間にか全員分のお皿を持ってきていた友奈と、それに気づいて手伝っていた紡絆に感謝の言葉を述べて、それぞれ分けていた。

 

「ありがとうございます、東郷さん。なんだかんだで久しぶりなので、楽しみです」

 

「ふふ、前より美味しくなってると思うわ」

 

「本当ですか? えへへ、ますます楽しみになっちゃいました」

 

「実際に美味いからな、仕方がない」

 

「うんうん、いくらでも食べれるよ」

 

可愛らしい笑みを浮かべながら、楽しみといった様子を隠さない小都音と、残念そうな表情から微笑ましそうな表情へ変わった東郷。

それから誰よりも食べているであろう紡絆と友奈は共感するようにこくこくと頷いていた。

相変わらずの呑気な、気楽なムードで本題に中々入れないでいるのは勇者部らしいといえば勇者部らしいのだろう。

 

 

 

◆◆◆

 

200:名無しの転生者 ID:EkQ/g5aXG

ふと気になったんだけどさ、東郷さんのぼた餅ってどんな感じなん?

 

 

201:名無しの転生者 ID:NLAV7yTWO

お、それは気になるな。

割とイッチ、イコールぼた餅好きってイメージ定着してるし

 

 

202:名無しの転生者 ID:mG6yhH/lU

結構イッチは日常風景出してくれるお陰で映像で出てくるからな、よく見るしそんな美味いんか?

 

 

203:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

もっちもっちうまうまやで

 

 

204:名無しの転生者 ID:hBtOX7eV5

少しでも期待した俺らが馬鹿だった

 

 

205:名無しの転生者 ID:9fWOcnM7y

>>203

語彙力皆無なイッチに聞いても無駄なんだよなぁ……

 

 

206:名無しの転生者 ID:GSE8sO12C

むしろイッチはそれで伝わると思ったのか……?

 

 

207:名無しの転生者 ID:WHH7TbxAY

>>206

イッチだから思ってるに決まってるだろ!

 

 

208:名無しの転生者 ID:OR2I2WfYR

話変わるけどさ、融合型昇華獣について話してないよな?

大丈夫なのか?

 

 

209:名無しの転生者 ID:CgQel0a7t

昨日軽く経緯を知らせただけだもんな。まぁ、ファウスト出てこなかったってことは様子見で現れたって考えるのがベストだが。

 

 

210:名無しの転生者 ID:OpJW9ZHSi

ラフレイアはなぁ……厄介なんよ

 

 

211:名無しの転生者 ID:ncs9tXaDi

あの花粉ね。

触れたら炭化とかシンフォギアかよ

 

 

212:名無しの転生者 ID:L5RDZ2fT6

>>211

多分勇者は精霊バリア常時発動しなければダメだろうな

 

 

213:名無しの転生者 ID:AttFrr4uG

>>211

あと、ただでさえ四国しか残ってないから樹海で倒して大爆発でも起こしてしまったら下手すると半分は持っていかれても不思議じゃないぞ

 

 

214:名無しの転生者 ID:gpFFD+NuW

姫矢さんってラフレイアどうやって攻略してたっけなぁ……

 

 

215:名無しの転生者 ID:wJcUojCq5

>>214

あっちは弧門との協力だからなぁ…

 

 

216:名無しの転生者 ID:jKGWfWDa3

>>214

孤門撃て! お前の信じるウルトラマンを援護してみせろ! のシーンだゾ

あそこすき

 

 

217:名無しの転生者 ID:ERmyguz0y

俺も好き

 

 

218:名無しの転生者 ID:AuVWEWp+j

我も好きぞよ

 

 

219:情報ニキ ID:OX82Ln2AK

>>210 >>211

それだけじゃないんだよ。気づいてる人も居るかもしれんけど、知らない人用に説明するなら、ラフレイアは確かに厄介だけど弱点はあるんだ。

けど、その弱点が問題で……

 

 

220:名無しの転生者 ID:vyTqoHhGb

弱点?

 

 

221:名無しの転生者 ID:es1KUjxsE

あー、そういやあったね

 

 

222:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>219

じゃあ、俺が変身してそこをぶっ叩くか光線ぶつけたらいいのでは?

 

 

223:名無しの転生者 ID:6OscC1vI9

ラフレイアの弱点……花弁だっけ

 

 

224:名無しの転生者 ID:pehPRGeTa

ん? 確か、ラフレイアの花弁って……

 

 

225:名無しの転生者 ID:O5m8IQKj6

あっ……

 

 

226:名無しの転生者 ID:9S4E9HRUZ

>>222

そんな甘く行かないのが現実やぞ

 

 

227:名無しの転生者 ID:ZqgFqEAdA

あっ、そっかぁ!

 

 

228:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

ちょっとー分かるように説明してくれません?

 

 

229:名無しの転生者 ID:YfKnda7b6

まぁ、なんというか……

 

 

230:情報ニキ ID:OX82Ln2AK

ラフレイアの弱点は花弁。より正確に言うと、背部の花粉貯蔵庫。

その花弁には大量の花粉が貯蔵されてるから粉塵爆発で死滅させることが出来る。

けど、融合型昇華獣になったラフレイア……ドラゴレイアだったか。

イッチもやられていたが、翼みたいな脚みたいな触手が生えていて隠されてる。

動いてる時でも守られていて、弱点が防がれてるんだよな。

つまり、今のドラゴレイアに弱点なんて存在しないと見ていい。

しかもいくら勇者が増えたとはいえ、ファウストが次には現れると思うからイッチはドラゴレイアに集中することが出来ないというね…

 

 

231:名無しの転生者 ID:dzaE6IOz+

うーんクソ

 

 

232:名無しの転生者 ID:gpFFD+NuW

あとさ、だんだんジュネッスの力が通用しなくなってるのやばくない?

 

 

233:名無しの転生者 ID:jAhaED7nS

ビースト振動波は防ぐ方法ないからねぇ…なにより、こんな的確に弱点を消すってことは十中八九ザキさん絡んでるだろ

 

 

234:名無しの転生者 ID:zmvwxhYtG

絶対隠し玉残してるだろうしなー

 

 

235:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

うぉーい…くそ、とにかく先にバーテックスについての追加情報くれるかもしれない夏凜の話を聞いてくる。

考えるのは後だ

 

 

236:名無しの転生者 ID:LPaNUan65

あ、そうか、スペースビーストだけじゃなくてバーテックスの脅威もあったな…

 

 

237:名無しの転生者 ID:6J3ZVzl9E

えー、どうすんのこれ。カウベアードの時だってジュネッスでもキツかったのにこれ以上強くなられたら勝ち目ねーぞ。

勇者の攻撃は通るけど、大打撃にはならんし。トドメにはネクサスのオーバーレイ系じゃないと大半のビーストはしぶといせいで復活するし。

融合型に至っては高威力なコアインパルス、またはオーバーレイを御魂に直撃させないと倒せんし……

 

 

238:名無しの転生者 ID:eOk/d1Dc7

しかもまだダークフィールド、またはダークフィールドG。

グランテラを強化したアンノウンハンドの援護だって可能性すらある……実際アレは防御力が高すぎてジュネッスの攻撃が通用しなかったし

 

 

239:名無しの転生者 ID:t5NSrvtrj

(敵じゃない)ウルトラマンが(もう一人)欲しい……(いつもの)

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

それはさておき、平素の勇者部独特のゆるーい雰囲気のままいつまでも本題に入らないい訳にも行かないため、パパッと黒板に文字を書いた夏凜は、ぼた餅を食べる勇者部の面子とぼた餅を食べながら頭を牛鬼に齧られる紡絆を見つつ黒板に指を差して口を開く。

 

「---いい? バーテックスの出現は周期的なものと考えられていたけど、相当に乱れてる。これは異常事態よ。

帳尻を合わせるため、今後は相当な混戦が予想されるわ」

 

「確かに、一か月前も複数体出現したりしましたしね」

 

夏凜が黒板に書いた情報によれば襲撃の間隔はおよそ二十日前後と想定されていたらしいが、最初の戦いから一か月と少しで既に五体も出現している。その情報はもはや全くと言っていいほどあてにならないとみていいだろう。

再び数体が同時に現れるかもしれない。

間を置かずに畳み掛けてくるかもしれない。

或いは、一体倒した後に直ぐにまた一体、と時間差で攻めてくるかもしれない。

そもそもの問題として、スペースビーストという未知の敵が現れてしまっているんだが。

 

「あー、あれは痛かったなぁ……」

 

「あ、あれは痛いで済むものなのでしょうか……」

 

「それは紡絆以外無理ね」

 

思い出すように顔を顰める紡絆だが、彼からすると死ぬ一歩手前くらいまでは来ていたので、記憶に深く残っているのだろう。

ただそれを過去とはいえ、痛いだけで済ませるのはどうかと思うが。

 

「……私ならどんな事態にでも対処できるけど、あなた達は気をつけなさい。命を落とすわよ」

 

「私は戦えませんけど、油断は禁物って言いますもんね」

 

「えぇ、それに他に戦闘経験値を貯めることで勇者はレベルが上がり、より強くなる。それを()()と呼んでるわ」

 

黒板には、五つの花が入ったマークのようなものがある。

それが貯まれば、満開が使えるということなのだろう。

 

 

294:名無しの転生者 ID:cPzhyJjQy

ほへーそんな力があったんすねぇ

 

 

295:名無しの転生者 ID:0ZF9Fut+f

RPGかよ

 

 

296:名無しの転生者 ID:EJZaSqGtS

やーそれってなんかなぁ……

 

 

 

 

(満開……勇者は神樹様の力を行使して、戦う。

それをより強化するってことは、ウルトラマンがメタフィールドで自身の力を高めるのと同様だ。

それって本当に何かありそうだな……満開ってのは初めて聞いたけど)

 

ウルトラマンの力については、紡絆が誰よりも知っている。

メタフィールドは命を削ることで、三分間だけ展開が可能。あらゆる現実に対する影響を隔離する力があるというとんでもない力だ。

さらにウルトラマンの力と、勇者ですら強化されるフィールド空間。

他のウルトラ戦士には備わっておらず、ネクサスだけは例え街中でバーテックスやスペースビーストが現れても三分間だけ人間を守ることができるということ。

ただ紡絆の場合は、メタフィールドを貼る貼らないではなく、()()()()()()()()()()()()という条件があるのだが。

樹海へのダメージ軽減に必要であり、神樹様を守るための防御結界としてウルトラマンのメタフィールドは有効なのだ。

遺跡で戦うにしても、防御結界と思われるストーンフリューゲルのようなオブジェクトを守るために必要。

だからこそ、タイミングが大事で誤れば倒せずにエネルギー切れを起こすだろう。

 

「そうだったんだ」

 

「初めて知ったな」

 

「アプリの説明にも書いてるよ」

 

「そうなんだ!?」

 

「マ!?」

 

まさかの知らない人物が二人居たことに夏凜は呆れる。

紡絆の場合は男で関係ないから仕方がないといえば仕方がないが、友奈は自身のことでもあるのだから知っておくべきだっただろう。

 

「満開を繰り返すことでより強力になる。これが大赦の勇者システム。繰り返し続けたら、それこそウルトラマンに匹敵する力を得られると思われるわ」

 

(ウルトラマンに匹敵かぁ……ますますなんかありそうだよな、それ)

 

「へーすごい!」

 

若干怪しむが、結局考えても分からないために紡絆は考えるのをやめる。

そして頭に手を伸ばすと齧るのをやめて上に乗りながら眠っている牛鬼を撫でていた。

ちなみにその精霊の主である友奈は忘れない為にか、メモしていた。

 

 

301:名無しの転生者 ID:kTGd5xMZ1

俺知ってるゾ。

そういうのって大半が暴走か防御力の低下かバリアの消失か変身解除されるかのデメリットがあるんだゾ。

だってネクサスが絡んでるもん! 特撮系が過去に何かあったり選ばれたり才能がない限り、そんなデメリットなく初見で凄まじい力を発揮出来るわけないだろ! いい加減にしろ!

あのムテキや最終点であるオーマジオウですら過去や未来がやばいし、ウルトラマンなら初期サンダーブレスターやジード暴走、未完成ルーブ、ウルトラタイガアクセサリーのリング、初期グリッターエタニティ、アーマードダークネスみたいなもんだろ…!

以前も言ったけど、勇者システムってのが既に怪しいからな!

 

 

302:名無しの転生者 ID:h+CmFE1KZ

特にウルトラマンに匹敵ってのが胡散臭い。

絶対デメリットやばいやつやん

 

 

303:名無しの転生者 ID:K64erH+o1

最近だとD4レイがいい見本だよね。強すぎる力は己をも滅ぼすんだよなぁ…強さと優しさと正しさを兼ね備えてるウルトラマンだからこそ、宇宙の秩序を守れてるんだよ。

人類がそんなの持てばお察しよ

 

 

304:名無しの転生者 ID:YR9ksLc58

人造ウルトラマンを作ったら制御出来ないみたいなもんだよな

 

 

305:名無しの転生者 ID:ZzsYQZ+T8

それになぁ…ウルトラマンに匹敵とかウルティメイトバニッシャーの例があるからなぁ…後々消されそう

 

 

 

 

奇しくも、珍しく似たような考えをしていた紡絆だったが、知らない言葉ばかりに内心で首を傾げていた。

 

「三好さんは満開経験済みなんですか?」

 

「あっ、確かに三好さんやけに詳しそうですもんね、もしかして?」

 

それはともかく、当然といえば当然の東郷の何気ない質問と小都音の言葉に夏凜が言葉を詰まらせる。

大赦で正式な訓練と教育を受けてきた身として色々と語りはしたものの、訓練はともかく実戦は先日が初めてである。

まだ『満開』に至るほどの実戦経験値は積んでいない。

 

「い、いや……まだ」

 

「なーんだ。あんたもレベル1ならあたしたちと変わりないじゃない」

 

「き、基礎戦闘力が段違いに違うのよ!」

 

「まあ、俺ので言うアンファンスからジュネッスに変身する、みたいなもんですよね。アンファンスとジュネッスじゃ、能力が大きく異なりますし。俺も最初はジュネッスになれなかったから……どんまい!」

 

「そんなフォローいらないわよ!」

 

フォローするように自分で分かりやすい解釈をしたことを呟く紡絆だが、ウルトラマンで例えるなら似たようなものだ。

ただ間違いなく必要のないフォローだが。

 

「紡絆視点からすると、そういうことになるわ。ただあたしらの場合はあたしたちの努力次第ってことね」

「じゃあじゃあ、体を鍛えるために朝練しましょうか! 運動部みたいに」

「あっ、いいですね!」

「うーん朝練するなら俺の場合は学校に辿り着く頃には昼になってるかなぁ……」

「それ、兄さんの場合は朝練中に困ってる人が視界に入った時にすぐ人助けに向かうからでしょ?」

「いやいや、樹。あんたは朝起きられないでしょ」

「友奈ちゃんも起きられないでしょ?」

「「うっ……」」

「体が動くもんだから仕方がない」

 

友奈の提案にも盛り上がるが、二人は朝が弱いために起きれず、一人はそもそも平常時ですら学校の遅刻が多いので間違いなく不可能な案だった。

そんな姿を見てか、夏凜はため息を漏らす。

 

「はぁ……なんでこんな連中が神樹様の勇者やウルトラマンになれたのよ……」

 

自分自身は勇者になるための資格を勝ち取った際に、大量の時間や努力を費やした。

中には本気で目指して努力し続け、二刀流の腕を高めて自身を打ち負かした者も居た。

はっきり言って、勇者システムもなしだと夏凜が見てきた成績上位者の訓練生たちの方が素の実力は上だろうとすら思う。

 

「なせば大抵なんとかなるよ!」

 

「なにそれ……?」

 

「勇者部五箇条。これな、割とバカにならないんだぞ。一人で戦ったとしても、勝てる戦いも勝てない。けど---」

 

「みんなが力を合わせれば、大抵なんとかなる!」

 

同じ思考だったのか、区切られた紡絆の言葉の続きを友奈が言い、見えるように上の方に貼られた紙を指差す。

 

「なるべくとかなんとか、とか……見通しの甘いふわっとしたスローガンね。まったくもう、私の中で諦めがついたわ……」

「あたしらは……そう、あれだ! 現場主義なのよ」

「それ、今思いついたでしょ」

「はいはい、考えすぎるとハゲるハゲる」

「ハゲるわけないでしょ!」

「そうですよ、それはハゲの人に失礼ですよ!! ハゲたくてハゲたわけじゃない人もいるだろうに……!」

「紡絆先輩……。それはもし言ったら逆効果になるのでは……?」

 

呆れたように息を吐いた夏凜だったが、風がアドリブで言ったであろう言葉に正論が突き刺さり、何故か紡絆がハゲの人を庇っていた。

樹の言う通り、仮に目の前で言ったら怒るかもしれないが。

 

「とりあえずほら、次は俺から簡単に説明しますね。敵について共有しておきたいので……早くしないと部活としての本題にも入れないですし」

 

牛鬼を頭に乗せたまま、夏凛と入れ替わるように黒板の前に立つ紡絆は、パパッと黒板に書いていく。

流石に絵を描く時間はないのか、ただの文字だ。

 

「まぁ、あんまり言うことは無いんですけど、俺命名の融合型昇華獣であるドラゴレイアの対策について意見がある人は---居ないか」

 

軽く見渡し、何とも言えない表情をしている顔を見て息を吐く。

紡絆自身も特別な対策があるわけでもないので、仕方がない。

 

「はーい」

 

「はい、小都音」

 

「兄さん、そもそも融合型昇華獣って何?」

 

手を挙げた小都音は、疑問を投げかける。

前提として、バーテックスの存在は知っていたとしても融合型昇華獣などまだ情報もそこまでないはずだろう。

なぜなら、今回を除くと紡絆たちですらまだ一体しか出会ってなかったのだから。

 

「そういえば初めて現れた時は小都音ちゃん居なかったから知らなくても不思議ではないわね」

 

「そもそもあたしらですら最初は紡絆から聞かされただけだからねぇ」

 

「結構……いえ、かなりボロボロになってましたよね、紡絆先輩」

 

「夏凜ちゃんは知ってるの?」

 

「スペースビーストが居るってことくらいはね」

 

やはり派遣されてきた夏凜ですら知り得ていないということは、大赦も情報を掴んでいないのだろう。

紡絆は再び説明するために黒板に書く。

 

「最初から話そうか。バーテックスのことは分かるだろうから今回は飛ばすが、まずスペースビーストから簡単に話そう」

 

曰く、宇宙から飛来してきたと思われる青い粒子群、ビースト因子。

それが他の生物に取り憑くことで誕生する「異生獣」とも呼ばれるのがスペースビーストであること。

全ての個体が、ウルトラマンのものとは真逆の波長を持つ特殊な波動『ビースト振動波』を発しており、種全体がこの振動波のネットワークで絶えず情報交換を行っているため、学習能力の発達や能力の進化が恐ろしく速い。

成長の糧は当然捕食であり、特に人間などの高度な知性体を好む。

しかし、肉体的な成長はおまけ程度に過ぎず、真の目的は知性体の恐怖の感情そのものを食らい、種としての進化を加速させる事であること。

 

「---とまぁ、これでもだいぶ要約したんですけど、そんな感じ。

そしてスペースビーストにも特有の能力があって、そのスペースビーストにバーテックスの力が注がれると、生まれるのが融合型昇華獣というやつだ。

能力は全体的に強化されて、多分何らかの特殊固有能力も付与される。

ちなみにバーテックスを先に倒しても意味はないことが夏凛が戦ったやつのお陰で分かったし、最初のやつはスペースビーストを先に倒しても意味がなかった」

 

そう、これでもまだスペースビーストについては二、三割くらい説明した程度。

ただその先を、紡絆は知らない。

果たして同じように生まれたのか、はたまた別の誰かが作り上げたのか。

黒幕について、一切の確信がなかった。

 

「そして闇の巨人---魔人と呼ばれるファウストはスペースビーストや融合型昇華獣を従えることが出来る。

能力はウルトラマンとほぼ同じだけど、間違いなく次は邪魔してくるだろうな」

 

「じゃあ、止めることが出来ないってこと? その融合型昇華獣って」

 

「やろうとしたら大ダメージ受けた」

 

「紡絆先輩でも大ダメージ受けるなら、私たちなら……」

 

「間違いなく消し飛ぶわね。木端微塵に」

 

物凄く怖いことを風が言っていたが、ウルトラマンが凄まじい威力に吹っ飛ばされるレベルなら精霊バリアがあったとしても衝撃は殺せないため、気絶はしかねない。

もしかしたら貫通もするかもしれない。

 

「それで融合型昇華獣を倒すには私たち勇者が執り行える封印の儀が必要で、星座を元にしてるんだったわね」

 

「今回はなんというか、花みたいなやつだったよね!」

 

「あれは……まぁ、黒板読んで。受けてみてどんな感じかだいたいは分かったから」

 

流石に全て知っている訳では無い紡絆は正体をラフレイアと言う訳には行かず、能力だけを書いていた。

炭化させ、可燃性のある花粉とバーテックスの毒霧、液体の凝固化。手足のように動く四つの触手。

下手に倒せない! 危険! 火炎、爆発系禁止! とも書かれている。

 

「そうか、粉塵爆発か……だからあんた、あの光線を上空に向けて撃ったのね」

 

「夏凜正解。ウルトラポイント贈呈しよう」

 

「いらない!」

 

「え? ふうじんばくはつ?」

 

「結城さん、それは(かぜ)の神様が爆発しちゃいます。粉塵爆発です」

 

よく分からないことを言い出した紡絆と、きょとんと首を傾げる友奈に優しい声音で教える小都音。

 

「ある一定の濃度の可燃性の粉塵が大気などの気体中に浮遊した状態で、火花などにより引火して爆発を起こす現象のことね。身近だと大量の小麦粉を巻いて煙だらけにすれば起こりうることだわ。

それも巨大なスペースビーストが持つであろう粉塵の量から考えると……」

 

「もし樹海で爆発すれば、大爆発が……」

 

「そう、それだ。東郷と樹ちゃん。よく分からんが爆発するから攻撃出来ないわけだ。

だから、俺が開幕メタフィールド貼ります」

 

「確かに樹海で爆発すれば、現実世界に影響が出るけど……それはあんたが危険じゃない」

 

紡絆の言葉は、自分が命を削って世界を守ると言っているようなもの。

それは部長として止めるべきであり、世界や人類のことを考えると止めるべきではないことだった。

それでも、風は前者を選ぶ。

 

「逆に言えば、ウルトラマンや勇者の力を強化出来ます。三分間の命ですけど、まあ頑張りましょう」

 

その選択をしたところで、自己犠牲の塊のような存在が止まるはずがないのだが。

 

「私からするとそれはして欲しくないんだけど……。

兄さんは何かこう、拘束する技とかないの? それならファウスト…だっけ、止めれるよね」

 

「小都音ちゃん、それは名案ね。樹ちゃんのワイヤーじゃ、流石にファウストの動きは止められないわ。紡絆くんは何かあるの?

あるとしたら紡絆くんくらいだけど」

 

複雑そうな表情はしているが、小都音は止められないことを理解しているのか止めるような発言ではなく、する必要がない可能性を提示させるように誘導する。

それに東郷も思ったのか、紡絆に問いかけていた。

 

「うーん俺もウルトラマンの能力知ってるわけじゃないからなぁ…戦い方の記憶がある訳でもないし、スペースビーストだってそんな知らないし」

「じゃあじゃあ、いつも紡絆くんが光線撃ってる感じですれば? オーバーレイ・しゅとろーむ?だっけ」

「いやほら、あれはこう、シュンとしてババっとやってビリビリ、ギュンギュイーン、スドドド、ドカーン! フュー、サーッ…って感じだから……」

「は? 何言ってんの?」

「いや夏凜の言う通りじゃない。分かんないわよ……」

「なるほど!」

「えっ、分かったんですか!?」

「兄さん、本当に分かってないんだ」

「それだと確かに難しそうね……」

「えっ? えっ?」

 

なんと、六人中半分が紡絆のゴミ語彙力を理解した様子を見て、樹は自分が間違ってるのかと混乱するが、風と夏凜は流石に間違ってないというように首を横に振った。

友奈はまあ、紡絆と似た感じだから理解出来ても可笑しくないが、東郷と小都音が理解出来たのはよく分からないって感じだろうか。

 

「まぁ、とにかく! これ以上は無理そうね。

ひとまず今は先の分からない話や対策の仕様がない話より、近しい話をしましょうか。

勇者部は忙しいんだから、分からないことをいつまでも悩んでいられないわ!」

 

「じゃあ解散! 本題に入りましょうか!」

 

部長の言葉を聞いて、紡絆が会議擬きを終わらせるように黒板を消して明るい声を発する。

それだけで、周りは釣られるようにいつも通り、勇者部らしい心地良さを感じさせる緩い空気を作っていた。

 

「じゃあ次の議題行くわよー」

「はーい!」

「「はい」」

「うんっ」

「次?」

「ふぉふぁふぉあああむぐぐぐぅ!? まぐろッ!」

「に、兄さーん!?」

 

風の言葉に紡絆以外が返事すると、お皿を片付けていく。

それに気づいて、いつまでもあったら邪魔だと黒板を消し終えた紡絆はぼた餅を一気に含み、喉に詰まらせかけていた。

そこに牛鬼の突進が加わり、喉を詰まらせずに済んだのはいいが、紡絆は勇者部の部室から落下して行った。

 

「……何? 最後の言葉」

「まぐろって言ってたね……」

「紡絆くーん! 大丈夫ー!?」

「もう、紡絆くんたら。そんな急いで食べなくともいつでも作るのに」

「むぅ……」

「今普通に落ちたけど、あいつ普段からこんな感じなの……?」

 

大丈夫だと確信しているからか、はたまた信頼からか、そこまで大袈裟な心配はしてないようで、多少の心配をしながら紡絆が帰ってくるのを待つ勇者部の面々に、夏凜は唖然と見ていた。

 

「失礼な、俺だって好んで落ちてるわけじゃないぞ。困ってる人が居たら突撃するだけだ」

 

「うわ!? どっから来たのよ!?」

 

よっ、と等と言いながら、窓を超える紡絆。

学校の窓を登ってくるとは、はっきり言って人間技じゃなかった。

 

「まぁ、牛鬼から助ける!みたいな雰囲気を感じたからな。信じて吹っ飛ばされて、落ちる前に登ってきた。牛鬼って俺のこと噛む割には殺そうとはしないし」

 

「はぁ、頭痛くなってきた……」

 

「で、準備は出来てます?」

 

「えぇ、バッチリ。あんた待ちよ」

 

夏凜を除く一同はやはり帰ってきたと何処か安心したような、信じてたといった表情をしていた。

小都音だけはほっとした感じだったが、夏凜は頭に手を添えて首を振っていた。

昨日今日でどれだけ勇者部と継受紡絆という存在に振り回されているのか、彼女の気持ちも考えてやって欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

「---というわけで、今週末は子供会のレクリエーションをお手伝いします」

 

「具体的には?」

 

相変わらず牛鬼が紡絆の頭を噛んでるが、それはさておき。

それぞれ同じ印刷が成されている紙を持ちながら、集まって次の議題へと移っていた。

その紙には、タイトルとして『子ども会のお手伝いのしおり』と太文字に書かれている。

目的の項目には、出し物やレクリエーションを通して健全な仲間づくりをすすめ、心身の成長、発達に大切な心を育むこと。

楽しく明るい雰囲気を生み出すこと。などとある。

内容はその①、勇者部のおりがみ教室。

その②みんなでお昼ごはん

その③勇者と魔王の人形劇・光(改)

日時:6月12日---などと色々と詳しく書かれていた。

ちなみに人形劇だが、どうやら前回の人形劇でビビっときたらしく、改変ストーリーとして改めてという意味も込められ、改となっているようだ。

 

「折り紙の折り方を教えてあげたり、一緒に絵を描いたり、やることは沢山あります」

 

「わー、それは大変そうだね〜私も大きな依頼は初めてだし頑張らなきゃ」

 

「でも楽しそうだよね!」

 

具体的にと聞かれ、紙に書いてること以外も伝える樹と意気込む小都音に対して、友奈が心からの言葉を述べる。

 

「夏凜にはそうねぇ……暴れ足りない子のドッジボールの的に紡絆となってもらおうかしら」

 

「は!? ちょっと待って、私もなの!?」

 

「え、俺って的確定なの!?」

 

夏凜は何故関係ないと思ったのか驚いたように声を出していた。

一方で紡絆も的役ということを初めて聞いたのか視線を送ったが、どうやら確定らしく、無視された。

 

「だって、夏凛昨日入部したでしょ? ここにいる以上、部の方針に従って貰いますからね」

 

「それは形式上でしょ! それに私のスケジュールを勝手に決めないで!」

 

そんな夏凜に風が入部届けと書かれた紙を見せる。

しかし形式上とはいえ、書いてしまったのならそれはもう部の一人だろう。

 

「日曜日用事あるの?」

 

「いや……」

 

「じゃあ、親睦会も兼ねてやろうよ夏凜ちゃん! 楽しいよ?」

 

「楽しいけど疲れるかもなー。特に的だし!

でも、俺たちが普段、何をしてるのか知るのも大事だろ?

それに勇者の役目って敵と戦うことじゃなくて、色んな人に勇気を与えたりするのも勇者の役目だと俺は思うんだよな。

勇ましい者って書いて勇者なんだから」

 

無邪気な顔で言う友奈と珍しく間違えることも無く良いことを言う紡絆に夏凜は強く出ることが出来ない。

特に善意で告げているということを分かってしまう点が、何よりも強く出ることの出来ない理由の一つなのかもしれない。

だが、夏凜は一つ年下とかならともかく、子供の相手というものをしたことがない。

 

「う……だ、だいたいなんで私が子供の相手なんかを……」

 

「……嫌?」

 

「来ないってのは寂しいなぁ……」

 

一瞬にして不安げに曇った友奈と純粋に一人欠けるということに寂しそうにする紡絆を見て、強気な夏凜も流石に怯み、バツが悪そうな表情となった。

口では厳しいことばかり言っていたりするが、何度も怒らせるようなことを言っても自分に好意的に接してくれる相手のそんな表情を見てバッサリ断れるような性格はしていない。

何よりも紡絆に至っては、何をしても言っても純粋に好意全開で関わってくれる人物で、夏凜も一緒に過ごすのを嫌だと思っていない。

というか、思っていたら来た時に即座に家から追い出している。それをしていない時点で、夏凜が紡絆のことを嫌だと思ってないことの証明であり、彼女も悪くないと思ってる証になるだろう。

夏凜はとにかくそんな二人から逃れようと、助けを求めるように数度視線を彷徨わせるが、どこを見ても目に入ってくるのは夏凜がOKと言ってくれることに期待するような表情ばかりだった。

援軍は期待できない。むしろ小都音に関しては若干の圧すら感じる。

 

「わ、わかったわよ……。今週の日曜日なら丁度、たまたま空いてるわ」

 

「やったぁ!」

 

「イエーイ!」

 

夏凜から出たOKの言葉に、部室の中が色めき立つ。

そのまま楽しそうに今週末のイベントについて話し始めた今の部員達の頭の中に、もうお役目のことなど残ってはいないのだろう。

 

「……フン。緊張感のないやつら」

 

先程よりも頭が痛くなってくるのを感じながら、何となく流されている自分自身に気づいて、不思議と誰かとこんなふうに話すのを嫌だと思ってない自分のことを夏凜はただ分からない、という言葉しか出てこなかった。

訓練時代は、多少話すことはあっても今みたいに友人のように、親しそうに話してくる人が居なかったのだから。

 



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「-誕生日-サプライズ」


やる気は全然あったというか感想や評価のお陰でありすぎて四万文字超えるということが起きたので分けました。戦闘シーンだけでどんだけ文字数取ってんだよ…ということで戦闘は次回で。
あっ、そういえば作者はギャラファイY〇uTube待ち勢ですがシン・ウルトラマンは見ました!
続編のシン・ウルトラマンネクサスはまだですかね?(ない)
で、感想としては作者はめっちゃ好みで映画館で見ることをおすすめします。演技力高すぎるッピ!
それとさ……思ったんだ。シン・ウルトラマンのラスボスやばくて、この小説、難易度まだ低くないか?
ということで、次回ほぼ完成してるから早いと思います。
期待してて♡




 

 

◆◆◆

 

 第 19 話 

 

-誕生日-サプライズ 

 

 

 

鷺草(サギソウ)

芯の強さ

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

任務に着くにあたって与えられたマンションの一室。

夏凜はその居間にあるソファーの上にその身を投げ出していた。

視線の先にある室内照明を煩わしく感じ、腕で目を守りながら横目で忌々しそうな視線をとあるものに向ける。

本来他人にも自分にも厳しい夏凜がここまでだらけた姿を見せるのは珍しいのだが、その原因は親の仇のように見つめる先にあった。

そこにあるのは、やさしいおりがみの折り方と書かれた本と折り紙。何個か作ったであろう鶴であり、精神的な疲れから彼女をこんなふうにさせていた。

 

(私、なんでこんなことしてるんだか……)

 

別に風に押し付けられたわけでも、紡絆に言われたわけでも、勇者部の誰かに言われたわけでもない。

部活が解散になった後、帰り道で見かけた本屋で夏凜が自ら自主的に購入したものだった。

引き受けたからには完璧にやり遂げる必要があるからなどと、心の中で誰に聞かせるでもない言い訳をしながら手に取り、必要以上に周りの目を気にしながら家に持ち帰ってきたのだ。

折り紙など最後にやったのはいつだったかは覚えていないが、まぁ子供のお遊び程度のものそんなに大したものではないだろうと高をくくって、適当に目についたページを参考にして作業を開始してから数分後。完成した作品の出来栄えは、彼女の慢心を打ち砕くのには十分なレベルだった。

そんな馬鹿なと一瞬茫然とした夏凜だったが、先ほどは流し見程度に読んでいた教本に慌ててかじりつき、何が悪かったのか振り返りながら二、三体目と制作し、先程鶴を作り終えた。

その時に、ふと真剣に練習してることに気づいてバカバカしくなったのだ。

はっきり言って、これは任務とは関係ない。

確かに紡絆が言っていたような勇者であるならば、これも必要な任務のひとつかもしれない。

しかし彼女が与えられた任務は勇者とウルトラマンと協力して人類の敵であるバーテックスとスペースビーストの討伐。

鍛錬を怠ってまで練習することでもないし、こんな周期が乱れていていつ来るかわからないって非常時にレクリエーションやら部活やらしてる暇なんてないとも思っている。

 

(そうよ。別にこんなことする必要なんてない)

 

夏凜にとって、ここに来てから---正確には紡絆と出会ってから全てが初めてのことばかりだった。

いらないと言っても厳しいことを言っても悪意ひとつ感じさせない純粋な善意でお節介を焼く紡絆のような人間とは会ったことないし、プールの時のようにバカみたいに賞賛してきた友奈のような脳天気な人間とも会ったことない。

その他にも個性的すぎる勇者部のメンバーたちのような存在なんて同じく会ったことがない。

だが馬鹿みたいに騒いで、笑顔を浮かべて、危機感を全く感じさせない姿に夏凜はどうしたらいいのか、何をすればいいのか分からなかった。

特にグイグイくる二名に対してどう対応すればいいのか。どう向き合えばいいのか。何もかも分からない。

ただひたすら、心が掻き乱されるだけ。

しかし勇者であろうと、馴れ合いをせずに役目に全うしようとしても紡絆は、勇者部がそれを決して許さない。

ただ、ただそれでも---

 

「私は完成型勇者なんだから、折り紙くらい出来て当然じゃないと」

 

少しくらいは、ちょっとくらいは良いかもしれないと思ってきている自分を誤魔化すように作業に没頭する。

もし上手く出来れば、あの紡絆のことだから夏凜のことを褒めるだろう。紡絆だけではなくみんなが褒めるかもしれない。

そのようにまた褒められるかもしれないと考えてしまったところで、夏凜は首を横に振って折り紙と無心で格闘するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日である六月十二日。

夏凜は学校が休みの日だというのに、一人学校へと来ていた。

自転車置き場に自転車を止めるといつもなら大勢人がいる学校に辿り着く。

今日は休日なのもあって、普段はありえない静謐さを湛えた校舎だが、その中をちょっとだけ新鮮な気持ちで夏凜は歩いていた。

勇者部の部室を目指して覚えた道を歩き、部室の目の前まで辿り着くと普段のバカ騒ぎが嘘のように静かだった。

 

「来てあげたわよ…!」

 

そう言って部室の扉を開けると、部室内の電気は消えており、人の気配がひとつもしない。

 

「……誰もいないの?」

 

一応声を掛けるが、何も返ってこない。

つまりは誰もいないということになる。もし誰か居れば、何かは返って来るだろう。

 

「早すぎたかしら……」

 

そう思ってスマホを取り出して時刻を見ると、9時45分。

本来の集合時間は10時00分であり、まだ15分前だ。

流石に5分とかならともかく、15分は早すぎたかと夏凜は部室で待つことにした。

しかし、ただ静かに座って待つこと15分。

携帯の時刻は10時00分を表示していたが、やはり、誰の気配もしない。

 

(だらしない……)

 

人を呼んでおいて自分たちが遅刻とはどういう了見なのか、常識的に考えても早く来るべきだろう。

そう思いながら扉の窓から廊下を覗くが、誰かが走ってくることもなければ足音も聞こえない。

視覚からも何も捉えることが出来ず、ただただ時間が過ぎていた。

再びスマホの時刻を見ると、表示は10時30分。

 

「これ、ひょっとして……」

 

そこでふと、気がついたように鞄の中から昨日貰ったレクリエーションの予定表を夏凜は取り出して確認する。

当日の予定:

10:00分……現地集合。なるべく早めに準備を済ませておくこと。と書かれていた。

 

「現地……しまった。私が間違えた」

 

そう、誰も来ない理由は現地集合。

そもそも集合先が違うのだから誰も来ないのは当然であり、あのお人好し連中がそんな揶揄うために夏凜を別の場所に呼び出したり冷やかしのために夏凜にだけ別の集合先を指定していたりするわけではなく、純粋に夏凜がしっかりと読んでなかっただけということになる。

 

「えっと……電話しておいた方がいいわよね」

 

独り言を呟きながら、間違えたのなら連絡か一言メッセージでも飛ばすべきだろうと夏凜はスマホの画面を操作しようとして、突如電話が鳴り始めた。

 

「わわっ、この番号……結城友奈!? あ、あっちから掛かってきた……! えっと、ええっと……」

 

人間、突然のことにはパニックになるもので、ただ電話に出るだけだというのに夏凜は慌ててしまう。

そもそも夏凜は電話というものをなかなかする機会がなく、唯一大赦に報告するべくスマホでメールしているくらい。

だからこそ、慣れてない夏凜はパニックのあまり電話に出るのではなく、拒否のボタンを押してしまった。

 

「あ……切っちゃった……」

 

気がついて後悔しても、もう遅い。

既に電話の着信音は消えており、出ることは叶わない。

ただしそれは向こうから来ることがないだけで、こちらからは可能ということ。

 

「か、かけ直した方がいいわよね? こういう時はなんて言って……えっと、えっと……」

 

普段の様子からは考えれない夏凜の姿だが、こんな出来事を経験したことのない者からすれば、分からない。

夏凜はそれに当てはまっているため、電話をかけ直した後になんて言えばいいのか分からなかった。

 

「……何をやってるの私は……。

そうよ、関係ない。別に部活なんて鼻から行きたかったわけじゃないし」

 

スマホを見て、我に返ったように夏凜は何処か自分自身に納得させるように、言い訳するように呟く。

 

「そうだ、神樹様に選ばれた勇者が何を浮かれてるのよ。私はあんな連中とは違う……真に選ばれた勇者」

 

今更児童館に向かったところで、学校から児童館までの時間を含めると部活出来るのは少しくらいで、遅すぎる。

なによりも行く気が起きず、夏凜はスマホの電源を落として部室を出ていく。

自転車置き場へ向かい、自転車に跨ると夏凜は一度家に帰ってからいつもの浜辺に向かった。

木刀を両手に、いつもの鍛錬を行う。

決して怠ることなく、真剣に、集中して忘れるように。

 

(紡絆を除いて、あいつらは所詮試験部隊。でも私は違う。

私は期待されているのよ。

だから、普通じゃなくていいんだ---)

 

自分と勇者部は違うと、切り離すように夏凜は夕方になるまで鍛錬を続ける。

部活、友人との馴れ合い、遊び、それらの普通というものはいらないと己に言い聞かせるように。

そして夕方になると、暗くなる前にコンビニに寄って夜食を買い、コンビニの袋を置いてランニングマシンで脚と体力作りに勤しむ。

 

「……滞りなし」

 

特に物事が進まなくなったりせず、いつも通りであることを理解する。

何らかの不調や障害が起きることも無く、いつもと何ら変わらぬ毎日。

ただ学校へ行って、鍛錬をして、ご飯を食べて、後は寝るだけ---とご飯を食べて報告して寝るというスケジュールを夏凜が頭の中で組んでいると、突如としてピンポーンというインターホンの音が鳴った。

ランニングマシンを止めつつ何か頼んでいたかと考え、何も頼んでないことを思い出すとピンポンダッシュかイタズラだろう、と出ないことにした。

可能性としては大赦の可能性はあるが、わざわざメールもなしに来るはずがないので、間違いなく違う。

だとしたら、やはり関係ないだろうと夏凜は判断して---

 

「ひぅ……ッ!?」

 

何度もインターホンを鳴らす音に、流石にびっくりした。

誰かが連打してるのだろう。一向に止まる気配がなく、うるさいし少し怖い。

そのため、いい加減うざったらしくなった夏凜は近くにあった木刀を手にして、今も鳴らし続ける不届き者を撃退するための武器を手に走って勢いよくドアを開けた。

 

「誰よ!?」

 

「ぐふ!?」

 

ガコン、という痛そうな音が響き、誰かの悲鳴が聞こえた。

夏凜が目を開けると、木刀を向けられて驚く勇者部と、咄嗟に真剣白刃取りをしようとして失敗し、頭を抑えながらぜぇぜえと息を切らせつつ倒れ伏せている紡絆を介護する小都音の姿があった。

正確に説明するならば、ドアの前に立っていた紡絆が、ドアを開けられた際に頭を少しぶつけ、怯んだ直後に木刀が綺麗に当たったのだが。

 

「あ、あれ……あんたたち……」

 

「あ、あんたねぇ、何度も電話したのになんで電源オフにしてんのよ? それに紡絆が殺られたし!」

 

「い、生きては……はぁ…ま、す……」

 

夏凜に指を指して言う風は、次に倒れた紡絆に指を指しながら夏凜を見ると、夏凜も同じく紡絆に視線を送り、一瞬だけ申し訳なさそうな表情を浮かべたが、気を取り直すようにすぐに表情を引き締めた。

それにしても、あの体力に溢れてる紡絆が息を切らすとは、一体どういう状況なのか。

 

「そ、そんなことより何!?」

 

「何じゃないわよ。心配になって見に来たの。特に紡絆なんて夏凜を探すために学校に行ったり浜辺に行ったり合流時間ギリギリまで走って探してたのよ? メールも返って来ないから心配だーってね」

 

「心配…? あっ……」

 

言われて気づいたのか、気まずそうに夏凜が目を逸らす。

何の連絡ひとつも寄越さず、しかも電話は拒否。

メールに至っては返信もなければメッセージの既読もつかない。

それなら何かあったのかと思って、紡絆は心配で走り回ったのだろう。

ちなみに流石にレクリエーションを放って探すのは出来ないため、紡絆以外に家の場所を知っている小都音が案内を、紡絆が探し回る役目を受け持って、合流時間となったら紡絆が合流して今に至る、というわけだった。

 

「よかったぁ……寝込んでたりしてたんじゃないんだね」

 

「え、ええ……」

 

「じゃ、上がらせてもらうわよー」

 

安堵の息を吐く友奈に対して、戸惑った状態で声に出す夏凜に、風はそう言いながら本人を素通りして許可もなく家の中に侵入した。

さらっと樹は風の後ろについて行っている。

 

「ちょ、ちょっと!? 何勝手に上がってんのよ!?」

 

「いてて、はぁ……水飲もっと」

 

「流石に私も今のは擁護出来ないからね、兄さん。木刀はともかくドアは絶対回避できたんだから」

 

慣れた様子で風と樹の後ろから紡絆と小都音も入っていき、その紡絆たちの後ろを夏凜が慌ててついていって最後尾に友奈と東郷が入る。

その時に友奈が鍵はちゃんと閉めたようだ。

 

「はー殺風景な部屋……」

 

「ど、どうだっていいでしょ!」

 

「まあいいわ。ほら、座って座ってー」

 

「な、何言ってんのよ!?」

 

入って開幕一言がほとんど何も無い紡絆以上に何も無い部屋に対するコメントだったが、まるで自分の部屋のように言い出した風に夏凜が当然のことを言う。

 

「これすごーい! プロのスポーツ選手みたい!」

 

「勝手に触んないでよ!」

 

ランニングマシンの存在に気づいた樹が珍しい物を触るように撫でくり回してるところを、夏凜が叫ぶように発する。

 

「わああああ……ほとんど水だ!」

 

「んく、ごくごく……ふぃー。まぁ俺が見た時よりかはマシだぞ? 最初もっと酷かったし、調味料に至っては買ったの俺だしな」

 

「三好さんって基本コンビニ弁当らしいですからね、私も一回お邪魔しましたけど驚きました」

 

「確かにゴミ箱の中は弁当の容器や煮干しなどがあるわね」

 

「勝手に開けないで! 飲まないで! 漁らないで!」

 

勝手に冷蔵庫を開ける友奈と適当に水を取って飲み干した紡絆に、止めるつもりは無い小都音とゴミ箱の中身を覗く東郷といった様子で自由に散策されていた。

 

「やっぱ買ってきてよかったわねー。流石私」

 

「なくても作ればいいですけどね、材料はまだ残ってますし明日くらいは持つか……どうだろ」

 

「腐ってないし匂いも見た目も大丈夫だからやれるよ? 作る?」

 

「やるなら私も手伝うわ」

 

「なんなのよ……」

 

冷蔵庫の中身やらキッチンの棚などを開きながら確かめていると、小都音はやる気満々に聞いて東郷も乗っていたが、夏凜の言葉が聞こえて一瞬鎮まる。

 

「いきなり来て何なのよ!」

 

夏凜からすると、当然のこと。

勝手に家中を散策されて、勝手に物を漁られて、勝手に家の中に入ってきて、勝手に決めたり自由にしている。

もはや行かなかったことについての嫌がらせなのかと思うレベルで夏凜は彼ら彼女らの行動が理解出来なかった。

 

「友奈」

 

「うん。あのね---」

 

表情を和らげた紡絆が友奈に呼びかけ、それに答えた友奈は何らかの箱をテーブルの下から取り出す。

いつの間にか知らぬ間に隠していたようで、夏凜が引っ掻き回されている時に自然と隠したのだろう。

 

「ハッピーバースデー! 夏凜ちゃん!」

 

そう言って友奈が太ももに乗せた箱をパカッと開けると、そこには純白のケーキに彩りとして花を作られているいちごがたくさん乗っていた。

中央には『お誕生日おめでとう』と書かれたプレートがある。

 

「ほら、誕生日おめでとう、夏凜」

「おめでとうございます、三好さん」

「夏凜ちゃん、お誕生日おめでとう」

「おめでとう」

「おめでとう夏凜」

「おめでとうございます、夏凜さん」

「……えっ?」

 

次々と投げ掛けられた、祝辞に戸惑う夏凜。

まるで予想してなかったと言わんばかりの様子で、ただ戸惑いと疑問が夏凜の頭の中に浮かんだ。

 

「ど、どうして……?」

 

「あんた今日誕生日でしょ? ちゃんとここに書いてあるじゃない」

 

夏凜の疑問に、答えを叩きつけるように入部届けの紙を風が見せる。

そこには生年月日欄のところに、神世紀286年6月12日と書かれており、日付は今日を指している。

 

「友奈ちゃんが見つけたんだよね」

 

「えへへ。あっ!って思っちゃった」

 

「……で、だったら誕生日会しないとなーって意見が一致したんだよな」

 

「歓迎会も一緒に出来るねって」

 

「ちなみにケーキは私と東郷さんの共同作なんですよ。なので期待しておいてください」

 

そう言いながら、コーンハットを夏凜以外全員が被っていた。

なお、紡絆だけはコーンハット被った瞬間にそこの定位置は自分のだと言わんばかりに牛鬼が足蹴りで弾き、被っているだけにかぶりついた。

 

「本当は児童館で子供たちと一緒にやろうと思ってたの」

 

「サプライズとして用意してたんですよね」

 

「だから黙ってたんだけど……」

 

「当日の楽しみとして、メインディッシュとしてさ」

 

「そうそう。でも当のあんたが来ないんだもの。焦るじゃない」

 

ネタばらしを聞いて、喋ることなく呆然と夏凜は聞いている。

まさか自分の知らないところでそんな大掛かりなサプライズを用意されていたなんて露にも知らなかったのだから。

 

「家に迎えに行こうとも思ってたんだけど…子供たちも激しく盛り上がっちゃって」

 

「この時間まで開放されなかったのよ。ごめんね」

 

「あ、でも紡絆先輩だけは子供たちから脱出したので探し回ったみたいです」

 

「兄さん子供にも大人気だったから、逆に苦労させられたけどね…」

 

「それは純粋にすまん」

 

「ふふ。紡絆くんは愛されてるもの。居なくなって泣く子が居たくらいなんだから」

 

紡絆の性格から考えて、子供には間違いなく好かれやすい。

たとえ独りでいる子供が居たとしても、輪に入れられるだろう。喧嘩していれば、綺麗に終わらせる。

もし輪に入れられるのが嫌だとしても、喋るのが苦手な子でも紡絆ならどうにかする。

なぜなら、それが紡絆なのだ。

ただまぁ、そんな大人気な紡絆が突然居なくなれば盛り上がってる子供やまだ遊び足りない子供は不満になるわけで、そこは勇者部の面々が苦労させられた部分なのだろう。

 

「さっきから黙ってるけど、どうかした? ひょっとして自分の誕生日を忘れてた?」

 

「ブーメランって知ってます?」

 

明らかに部員たちに何も言わなかった風が言えることではないので、紡絆が呆れたように風に告げるが、彼女は一瞬目を逸らしただけだった。

自覚はあるらしい。

 

「………アホ、バカ、おたんこなす」

 

「えっ、えっ?」

 

「おたんこなすは初めて言われた!」

 

「そこ!? まったく、夏凜ももっと他に言うことあるんじゃない?」

 

そんな中、今まで黙っていた夏凜が口を開いたかと思うと、暴言の嵐だった。

それを受けて特に困惑することもダメージを受けることもない紡絆は言われ慣れているというか、別の反応を一人だけしていたが。

 

「…た、誕生日会なんてやったことないから……なんて言えばいいか分かんないのよ……!」

 

「……そっか。じゃ、改めて誕生日おめでとう、夏凜」

 

顔を赤めながら、そんなことを言った夏凜を笑うことも無く、微笑ましそうに勇者部が見つめる中を代表して紡絆が優しい声音で再び祝辞を投げかけた。

それに照れた様子を見せながら夏凜の誕生日パーティが始まる---。

 

 

 

 

◆◆◆

 

500:名無しの転生者 ID:VS/1X/DAj

いやーなんかいいよね

 

 

501:名無しの転生者 ID:hrCn9lTMe

あのケーキが羨ましい。場所代われ

 

 

502:名無しの転生者 ID:unzr8cxlW

>>500

分かる。

やっぱ日常なんだよなぁスペースビーストは帰ってもろうて

 

 

503:名無しの転生者 ID:JlH898JTi

こんな幸せな空間をぶち壊そうとする連中がいるってマ?

 

 

504:名無しの転生者 ID:U47TqRjWS

バカな、イッチが有能でしかねぇ…!

 

 

505:名無しの転生者 ID:l3uYQLfA+

いいぞ、その調子で夏凜ちゃんを仲間に引きずり込め

 

 

506:名無しの転生者 ID:6+PL3mEM0

誕生日会なんてやったことない、か……。うっ……

 

 

507:名無しの転生者 ID:UmbkWDiRM

>>506

おいバカやめろ

 

 

508:名無しの転生者 ID:AlfYJCUwq

誕生日会…約束…一人……うっ、頭が

 

 

509:名無しの転生者 ID:fDCwfkwbt

>>506

はは、友達? 恋人?

いらねーよ、俺には(二次元の)嫁がいるから……

 

 

510:名無しの転生者 ID:w7i0Lyat+

>>508

何時間も待ったのにな……

 

 

511:名無しの転生者 ID:RKTTrflws

ここのスレ闇深すぎんだろ……

 

 

512:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

俺でもやったのは十人くらいでかなぁ

 

 

513:名無しの転生者 ID:9S4E9HRUZ

やってんじゃねぇか!

 

 

514:名無しの転生者 ID:wEMUGYrxZ

こいつ、馬鹿な癖に出来る……!

 

 

515:名無しの転生者 ID:XjRITsWDA

そもそもニートのお前らにネット以外友達なんてあんまいねーだろ。

俺も全く居ねぇわ

 

 

516:名無しの転生者 ID:cIzdJwwcV

>>515

それ

 

 

517:名無しの転生者 ID:SmgvBm8+j

お前らの誕生日なんてどうでもいいんだよなぁ

 

 

518:名無しの転生者 ID:TfXPpXc5x

問題は夏凜ちゃんを引き込めるかどうかなんだよねー。戦力足りねぇもん

 

 

519:名無しの転生者 ID:aFUeCWvlh

あと純粋に夏凜ちゃんには勇者部の人と仲良くなって欲しい

 

 

520:名無しの転生者 ID:kIgRi6GIV

二割戦力。八割純粋に仲良くなって欲しいって感じ

 

 

521:名無しの転生者 ID:xizRZ4g9Q

今回もイッチならなんとかなるだろ、たぶん

 

 

522:名無しの転生者 ID:zUC1p3Ual

でも割とギリギリだからな、毎回

 

 

523:名無しの転生者 ID:GEMaDI8Sf

エナジーコア鳴る時もあったし、ジュネッス使えるようになってからは基本的にはコアゲージが毎回鳴った状態で勝利だからなぁ

 

 

524:名無しの転生者 ID:wHixIBJMi

この世界の難易度が可笑しい

 

 

525:名無しの転生者 ID:SG10y7A1i

とにかく、これからも仲良くしていて欲しいね

 

 

526:名無しの転生者 ID:3lOh2LvUs

ところでイッチはなにしてんの?

 

 

527:名無しの転生者 ID:s9+zFvSPY

そういえば、一人だけ誕生日会から抜けてるよな

いや、夏凜ちゃんはお手洗い行ったけど

 

 

528:名無しの転生者 ID:v5gGNw2D/

考えるのは戦闘のことより今だ。

で、結構なにしてんの?

 

 

529:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>526->>528

ん? ベランダで星見てる。

一応飲み物とお菓子はあるけど

 

 

530:名無しの転生者 ID:8mGxAVO0H

なんで星見るために抜けてんだよw

 

 

531:名無しの転生者 ID:lRYpGkeBD

時間帯的に見える時間だからね仕方がないね

 

 

532:名無しの転生者 ID:SLbScips0

四国しかない分、星見えやすくなってんのかな

 

 

533:名無しの転生者 ID:gxU66oQUl

今考えても四国しかないってやべぇな?

 

 

534:名無しの転生者 ID:0eoDkgBEc

バイオですら四国以外あるぞ

 

 

535:名無しの転生者 ID:kTGd5xMZ1

そもそも四国以外滅んでるとかマジなんすかね…実はウイルスってのは嘘でしたーかもしれん

 

 

536:名無しの転生者 ID:h0Dokad09

仮にあったとしてもビーストに滅ぼされてると思うけどな

 

 

537:名無しの転生者 ID:rqQMCdpgk

まぁまぁ、考えても意味ないし今はやめておこうぜ

 

 

538:名無しの転生者 ID:ZW2eCvB4L

不確定要素で話を進めるのは良くない……ん?

 

 

539:名無しの転生者 ID:LerqdwNaD

おっ、スチル回収イベントかな?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

あの後、誕生日会は滞りなく進み、コーラで酔っ払う風や夏凜が練習していたであろう鶴を発見した樹がそのことを言い、小都音が揶揄ったり、友奈が勝手に勇者部の予定と遊びの予定をカレンダーに書き込んだり、文化祭でやる出し物が演劇ということが確定したり夏凜も演劇に含まれたり、罰ゲームでパシらされた紡絆が買ってきた材料で東郷と小都音の手料理が振るわれたり等など、わいわい騒いで馬鹿みたいに笑い合うような、そんな時間が過ぎていった。

夏凜が一度お手洗いということで離席し、紡絆は体勢を変えながら見渡した。

 

「小都音ちゃん、これはもうちょっと醤油を足すべきかもしれないわ」

 

「なるほど……うどんの柔らかさはこれでいいかと。問題は出汁ですね。東郷さんのはもう少し甘くしたらベストかも知れないです。あっ、それと私もですけどこう、舌にピリッと少し来る刺激が欲しくなるかも……」

 

「ほんの少し辛味もいるってことね……これは練習して試すしかなさそう。でも小都音ちゃんと一緒なら自分でも気づけないことに気づけるし助かるわ」

 

「いえいえ、私の方こそ東郷さんから学べることは多いですし、兄さんの好みは意外と難しいですからね。基本何でも美味しい言ってくるので判断が……」

 

小都音と東郷は何やら料理の話をしていて、紡絆は料理は出来るが一般レベルなのでよく分からないということで、次に友奈と風、樹の方へ視線を向ける。

 

「演劇することを決めたの一歩前進だけど、やっぱり時間はかかるわね」

 

「物語を考えたり脚本書いたり衣装作ったり練習してセリフを覚えたり音楽を決めたり……やること多いね」

 

「忙しくなるけど、きっと楽しいよね、みんなで出来ることだし!」

 

どうやら三人は友奈のアイデアである文化祭の演劇について少し考えているようで、紡絆は皆が何をしているかを確認するとこっそりとベランダに向かって行った。

一人ではなく、一人と一匹。

頭に牛鬼を乗せたまま紡絆はベランダの手摺に手を置きつつ少し冷たい夜風に当たりながら星を見上げる。

 

「ふぅ……さて、と」

 

一息付き、ペットボトルとお菓子を室外機に置いて懐から取り出したものは、エボルトラスター。

決して落とさないようにぎゅっとしっかり握りながら、紡絆は口角を上げて星空を見上げていた。

まるで楽しそうに、年相応な子供のように。

 

「ウルトラマン……俺の知ってるウルトラマンは、M78星雲からやってきた光の巨人。君は何処から来て、何のためにこの地球に来たんだろうか……たまにさ、そう思うんだ」

 

星空を見上げたまま、紡絆は独りごちる。

彼の頭の上では牛鬼が首を傾げており、精霊には分からないのだろう。

 

「この地球は四国以外残ってないらしい。そんな地球に、君は来てくれた。はっきり言って、こいつらが居てもこの先の融合型に勝てるかは怪しいところだ」

 

紡絆らしくない、何処か後ろ向きな言葉。

こいつら、というのは優しく牛鬼を撫でたことから、精霊のことだろう。

ただそれでも、相手はひたすらに強くなっていっている。

ネクサスの力を学習し、成長し、対策し、勇者にすらも対策してくる。

 

「……でも俺は諦めたくない。最後の最後まで足掻いて、スペースビーストを倒して、みんなと、夏凜も含めた勇者部でこれからも生きていきたいって思ってる。

みんなの明日を守りたい、この想いは俺だけのもので、俺自身が出した答え---だから、これから先も厳しくなる戦いだと思うけど、ずっと俺に力を貸して欲しい。君が居なければ、俺は無力な人間だからさ」

 

変身すれば自分の意志とはいえ、ウルトラマンという存在に頼るしかない。

頼るしか出来ない自分を自嘲するような笑みを浮かべながらも、その瞳に諦めるという文字はない。

その瞳の先にあるのは、絶対に未来を掴み取るという輝きの光。

それに応えるように、エボルトラスターは人際強く返事するようにひとつ鼓動した。

 

「ありがとうな。それなら、俺も頑張らないと!」

 

明確な対応策がある訳でも、考えがあるわけでもない。

それでも、紡絆が居れば、ウルトラマンが居れば、勝率は上がる。

どれだけ脅威であったとしても、諦めなければ必ず勝てるのだ。

紡絆は負けて、惨敗して、故郷を失って、大切な人たちを喪って、それでも必ず二度目には勝っていたウルトラマンを知っているのだから。

 

「……紡絆?」

 

「ん?」

 

そんな時、ふと聞こえてきた声に紡絆は振り向いた。

そこには夏凜が靴を履きながらベランダに入ってきている姿が見えた。

夏凜はそのまま歩いて紡絆の隣に行くと、訝しげに見つめる。

 

「何してんの?」

 

「大したことじゃないよ。それより夏凜はいいのか? みんなと話すこと、あるだろ」

 

「別に。今は特にないし、みんな話してるのに一人いなくて、(かぜ)でカーテンが動いてたら気になるわよ」

 

「確かに何してるんだろうなーとは思うなぁ」

 

納得したように笑いながら言う紡絆と呆れたような表情をする夏凜だが、紡絆は気にせずに再び空を見上げる。

それを見て、夏凜も釣られるように星空を見上げた。

満天の星空---というわけではなく、所々に星が見える程度。

だが紡絆には何が見えているのか、先程と同じく楽しそうな様子で夏凜はよく分からなかった。

そもそも夏凜は星に詳しいわけでもないため、星があれば星がある。月があれば月が見えるという一般人と同じ感想しか抱かない。

互いに何も喋らず、何も行動せず、ただ星空を見上げるだけの沈黙の空間が貫かれる。

後ろから聞こえる騒音を後ろにしばし、暫くそのような無言の空間が辺りを占めていると、ふと紡絆が星空を見上げるのをやめてエボルトラスターに視線を変えていた。

それに気づき、同じく夏凜も紡絆の手に視線を移す。

 

「…それは?」

 

気になったのか、夏凜が疑問の声を投げかける。

紡絆の手にあるエボルトラスターのことだ。

 

「俺がウルトラマンに変身するためのアイテム、かな」

 

「そう、私たちにとっての勇者システムってわけね」

 

「そうなる」

 

詳しく説明すると長くなるため、簡易に説明すると迎えるのは沈黙の空間。

話すのが得意でもない夏凜は、残念ながら話題に乏しく、今の紡絆は珍しく自分から話題を振らない。

エボルトラスターを見ているだけで、何を考えているのかすら分からなかった。

 

「………」

 

「………」

 

話すことがなく、互いに何も言わない状況に耐えられなかったのか、夏凜が何処か悩ましげな、苦悩を表に出しながら悲哀感を漂わせて再び口を開く。

 

「……ねぇ、紡絆。悪いけど私の話を聞いてくれない?」

 

「……ん? いいけど」

 

そう言われると、流石にエボルトラスターを見続けるのは失礼だと思ったのか紡絆は手摺の部分に背中を預け、首は上にしながらも目線は夏凜を見ていた。

逆に夏凜は腕を手摺に置いて交差し、顔を真っ直ぐ遠いものを見るように街並みを見つめる。

 

「……私にはね、年の離れた兄貴がいるの。その兄貴は勉強もスポーツもなんでもこなせる完璧超人で、人望も厚くて認められていた」

 

ポツポツと夏凜が語り始めたのは、紡絆の知らない夏凜の話。

会った時からの夏凜は知っているが、紡絆は過去の夏凜は知らない。

 

「親の期待も、周囲の期待も賞賛も全部その兄貴に向けられていてね、褒めてもらったことはおろかロクに優しい言葉をかけてもくれなかった。一番勉強が出来ても、運動が出来ても、ね。むしろ兄貴の邪魔をしないように言われたくらいよ。

それでも兄貴は褒めてくれていたけれど、それさえ皮肉や憐れまれているようで気に入らなくて悔しくて」

 

「……そっか」

 

自嘲するような笑みから、悔しそうな表情に。

紡絆には『大切にされてるんだろうな』という何処か他人のような考えで家族と最初は接していた人なので、正直真反対ともいえる。

 

「そんな兄貴でも絶対になれないのが、勇者。

本来、勇者となる為には過酷な訓練が必要なのよ。それに選ばれる必要があるから候補であるライバルだって大勢居た。

私は自分を高めて勇者になることが最重要で……勇者になることだけが、私の目的で。私は勇者候補生として健康面を気をつけながら訓練して、努力し続けて掴み取ったからこそ今ここに居るの」

 

「………」

 

「ライバルたちの中でも、私より努力した人が居たわ。健康面に気をつけて、馴れ合いを捨てて、慣れてない二刀流で私を打ち負かして、それでも選ばれなかった子も居た。勇者になるために文字通り全てを捧げて。

だから……私は---」

 

「その先は言わなくていい。完成型に拘ってたのも、夏凜の態度にも合点がいったから。

夏凜はそいつらの想いも背負って、勇者として戦わなくちゃいかないから、か。だから馴れ合いを拒んでたんだな」

 

馴れ合いを拒んでた点は否定しないのか、夏凜は目を逸らす。

紡絆は横目でそれを見ると、ふぅ、と一息吐く。

そのまま紡絆は夏凜に向き直り、それに気づいた夏凜も紡絆の方へ向いた。

 

「夏凜はさ、勇者として居るならそれは正しいことだと俺も思う。ウルトラマンだって変身者である俺の身体が追いつかなかったら強さを発揮出来ない。勇者だって修行した方が素の実力も上がると思う」

 

「まぁ……それはそうでしょ」

 

「でも勇者部は何もお役目のために生きて、部活してる訳じゃないんだ。

お役目は大切だけど、そもそもの問題として俺も夏凜も、勇者部のみんなだってまだ学生だろ。人生にそう何度も経験することのない学校生活。それを謳歌するのも俺たちにとって大切で、お役目のことばかり考えていても心が押し潰されるだけだ。

別に鍛錬を否定するわけじゃなくって、俺はそこは大切にすべきだと思うけどな」

 

どこか優しげな声音と面持ちで紡絆はみんながいるであろう場所を見つめる。

カーテン越しなために見えないが、今も騒がしく何かを話しているだろう。

 

「……それは……」

 

「誰かの笑顔がいい。誰かの力になりたい。誰かに喜んで欲しい。みんなが幸せでいて欲しい。

この笑顔を守りたい。友達を守りたい---だから勇者部は戦う。だから勇者部はバーテックス相手に戦ってこれた。スペースビーストと戦ってこれた。勇者部の根本的な強さってのは、そこなんだ」

 

真剣な表情で紡絆が語る。

勇者部が今まで戦ってこれた理由を、負けなかった理由を。

一人では勝てなくても、二人なら、二人で勝てないなら、三人で。

そうやって繋がれた絆が彼らに力を貸す。

どんな強敵にも負けない強さを授ける。

 

「守りたい思い…友情、か……そう、それがあんたたちが戦ってこれた、今も戦う理由なのね」

 

「夏凜の通りお気楽集団かもしれないけどさ、確かな勇気を持っている。今までも、これからもずっと勇者部の絆は途切れさせない。誰にも壊させない。

みんなを守るためにお役目をこなす---そしてその中には、夏凜も居るんだ」

 

「わ、私も……!?」

 

理解したように頷く夏凜だったが、紡絆の言葉に驚いたように声を上げた。

そんな紡絆は体を街の方へ向け、手摺に腕を置きながらただ前を見つめる。

 

「そう、俺は夏凜に期待してる。頼りにしてる。褒められる部分も多々ある。誰も期待してない? 賞賛してくれない? 

それはもう終わりだ。これからは俺が、みんながその感情を向けることになるからな。

それはもう、何処までも大変だぞ?」

 

これから先のことを考え、紡絆が夏凜に顔を向けて笑いながら告げる。

何処までも騒がしくて、何処までもお人好しで、何処までも忙しくて楽しくって、それはそれは、とても大変な日々になるだろう。

それを考えたのか、夏凜は僅かに頬を引きづらせた。

 

「夏凜はもうひとりじゃない。俺たちがいて、夏凜には勇者部(ここ)という居場所があるんだ。

だからさ、俺は友達として仲間として、夏凜のこと凄く頼りにしてる。

これからもよろしくな!」

 

一度目を伏せた紡絆は、体を夏凜に向けながら満面な笑みで彼女に手を差し伸べる。

一方で、彼女はその手と紡絆を交互に見ていた。

 

「……やっぱりあんた達は馬鹿よ。他のやつ等の事ばっかり考えて、別に望んでもないのにそんなこと言って」

 

「望む望まないじゃなくて、俺がやりたいから、俺が言いたいから言ってるだけだからな。それとも、夏凜は嫌か?」

 

眉を下げ、残念そうな表情を僅かに浮かべる紡絆だが、夏凜はため息をひとつ入れると、何処か表情を和らげていた。

 

「……ふん。ったく、しょうがないわね。そこまで言うならやってやろうじゃない。あんたたちだけじゃ頼りないから、この完成型勇者である私が力を貸してあげるわ」

 

言葉では偉そうな言葉だが、夏凜は頬を赤めながら紡絆の手を取った。

それに気づいてるのか、照れ隠しだということを察したのか紡絆は笑い---

 

「おう、頼りにしてる」

 

ただそう返事して、夏凜は困ったように、照れたように顔を逸らした。

 

「そ、そういえば、紡絆の戦う理由とかは聞いてないんだけど?」

 

誤魔化すように夏凜はふと思ったことを話として振る。

実際、紡絆が話したのはあくまで勇者部であって紡絆自身とは一言も言ってない。

 

「あー夏凜も話してくれたし俺だけ話さないのは狡いか…。ただ俺の場合話せることがないんだよな。

俺、失ったあとの約二年間の記憶しかなくってそれ以前の記憶が微塵たりともないんだ」

 

「それは妹の方から聞かされたわ」

 

「そっか。まぁ戦う理由って言われてもな……守りたいと思った。

この街並みも世界も、大切な人たちも、ただそう思った。だから俺は戦う。

光を宿った理由は分かんないけど、かけがえのない日常を、みんなの毎日を守りたいと思ったから、かな。勇者部も、無論夏凜のこともな」

 

単調な答えだが、夏凜は横目で紡絆を見て、納得する。

紡絆の瞳の奥にある、確かな輝き。揺るぐことの無い光。

判らないはずなのに、確信出来てしまうような光の強さ。

 

(そう、そういうことだったのね……。だからみんな惹かれるわけか。

紡絆の中にあるのは、揺るぎのない芯の強い一筋の光……紡絆自身がそうであるように、嘘偽りない本質そのものだからこそ誰もが惹かれて、みんなが紡絆に集まる……)

 

当の本人は既に星空を見て、星に手を伸ばしていたが、触れただけ。

それほど長く居るわけでもないのに、夏凜は理解した。

小都音が言わんとしていたことを。

誰かのために本心で行動する彼だからこそ、誰もが彼に惹かれていく。

人柄に触れ、本質に触れれば触れるほど惹かれるのだろう。

それと同じく彼が心に宿す光は、ウルトラマンも惹き付けたのかもしれない。

 

「紡絆くんー? 夏凜ちゃーん?」

 

そんな中、部屋の中から友奈が呼ぶ声が聞こえる。

それに紡絆と夏凜は反応し、互いの顔を見た。

 

「二人とも何してんのよー早く来なさい」

 

「兄さん兄さん、まだ遊べるものあるよー?」

 

「食べ物もまだ残ってるわ」

 

「まだまだ続きますよー」

 

友奈の声に続いて、次々と向けられた声。

本人たちは自覚はないだろうが、その発言は確かに勇者である夏凜ではなく、三好夏凜という一人の女の子を受け入れていると言えるだろう。

 

「どうやらまだまだ誕生日会は続くらしいな、これからはもっともっと楽しくって騒がしくて、全部がかけがえのない思い出に変わるぞ。それにほら、主役が行かなきゃ始まらないだろ」

 

「ちょ……っ!?」

 

ポンっと軽く背を押すと、まるで引き込まれるように夏凜がベランダから消えた。

服装からして恐らく友奈が引っ張ったのだろう。

 

「紡絆くんも早くー!」

 

「はいはい、今行くよ!」

 

再び催促するように声を掛けられ、紡絆は急いで戻ろうとして、手元を見た。

手にあるエボルトラスターがドクン、と鼓動が鳴り、静かに光が消沈していく。

何故鳴ったのか分からずに一度首を傾げて疑問が浮かぶが、特に転移する訳でもスペースビースト振動波というわけではなさそうなので紡絆は懐にエボルトラスターを収納しながら、皆の元へ戻って行き、誕生日会を最後まで楽しむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---またここに新たな絆が紡がれた。

絆は繋がる度に彼らに大きな力を授け、彼らに希望を与えるだろう。

どんな脅威にも負けない、理屈を超えた力を。

協力することで生まれる、強さを。

一人では決して成しえないことを為せるような。

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
なんか最近前作主人公感が漂ってきた人。
ぶっちゃけこいつネクサスに選ばれるだけあって精神力強すぎる。
メンタルぶっ壊れんの?こいつレベル

〇三好夏凜
紡絆の本質に真に触れてしまった子。
落ちたな(確信)



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「-信頼の力-トラスト」


誤字報告ありがとうございます。多分なかったら気づかなかった。
夏凜ちゃんの漢字変換ミスってたんやな…。つーかあんな大量の修正大変だっただろうに本当にありがとうございました。
それと素直になること決めたので、ここでひとつ。
一言でもいいので感想ください(切実) やる気に繋がるんで! マジで! 9評価もください(若干控えめな貪欲)





 

 

◆◆◆

 

 第 20 話 

 

-信頼の力-トラスト 

 

 

 

隠された能力

フウセントウワタ

 

 

 

 

 

 

 

 

あの誕生日会を終え、夏凜がSNSグループの招待されて参加したり、左から順に小都音、東郷、夏凜、風、樹、前の方にインカメラで写真で撮っている友奈とみんなの後ろに紡絆が立っていてほぼみんな笑顔を浮かべている写真がグループに送られたりした。

ついでに言うと、グループのトークがなかなかにカオスだったりしたがそれはともかく、時間というものは止まることなく過ぎていき、次の日。

何も変わることの無い日々が続くと思われたはずの日。

眩い太陽に若干目を細めながら、紡絆はいつもの遺跡へと転移させられていた。

周りを見渡してもスペースビーストの姿はなく、ただ神殿殿が目の前にあった。

 

「授業中なんだが…仕方がない、か。ウルトラマン、今回も頼む」

 

授業中に寝ていたらふとエボルトラスターが鼓動し、嫌な予感がしたのも束の間。

慌ててトイレということで教室から離脱した瞬間には紡絆は転移させられていたのである。

だが現れるであろう敵のことを考えれば、今のうちにやっておかねば、危うくなる。

今回はちゃんと頼る選択をしたようで、エボルトラスターから五つの光が放たれ、神殿の中へ消えていった。

それを見届けた紡絆はエボルトラスターではなくブラストショットを手にし、振り向くのと同時に一発放つ。

ズドンという音と共に少しの爆発が起き、紡絆は思わず腕で顔を覆う。

 

「どうせ来るだろうな、と思ってたよ……ダークファウスト」

 

面倒そうな表情でエボルトラスターを取り出しながら、紡絆が睨みつけた先にはファウストが人間大の姿で存在していた。

 

『気づいていたのではなく、予測したというわけか……』

 

「そりゃ一度目は偵察ということでお前が現れなかったことの理由として通る。だが二回目は偵察しようものなら、融合型怪獣の方のデータが逆に俺らに知られてしまって、対策を練られるかもしれない。だったら二回目でファウストと融合型が共に現れ、ウルトラマンを潰せばいい。勇者を消せばいい---そうだろ?」

 

一度目。

能力を全部知ることは出来なかったが、逆に怪獣の方はネクサスの力と新しく援軍としてきた夏凜の勇者の力をその身で受けて知ってしまった。

紡絆たちからすれば、バーテックスの力と花粉が厄介。触手が厄介という情報しかない。

ビースト振動波のことを考えれば、他の勇者とネクサスが過去に使用した技も知られてしまっていると見ていい。

 

『馬鹿のようだが、愚かな訳では無いようだ』

 

「おい」

 

『だが、ひとつ違う』

 

「……ひとつ?」

 

若干イラついたような口調だったが、何が間違えたのか分からずに紡絆は思考するものの、分からない。

自身の予想とはいえ、どこが違ったのか分からないために考えることが出来ないのだろう。

そんな紡絆に対して、ファウストが指指した。

 

『勇者などよりも、お前という一個人の方が厄介だ。確かに勇者は舐めてかかることの出来ない存在のようだが、それはお前の存在故だ』

 

「……どういうことだ?」

 

ウルトラマンが厄介というなら、紡絆は簡単に納得しただろう。

同等の力を持つものを厄介だと感じるのは当然の摂理と言える。

しかしファウストが言ったのは、一個人。人間という一つの個体である継受紡絆の存在を厄介だといった。

 

『奴らの精神的支柱として、中心に存在しているのはお前だ。貴様という光が居る限り奴らは力を増す。

だがそれは、逆に考えてしまえば貴様さえ消せば脅威は一気に減るということ。二度目の戦いを見れば、それは明白だ』

 

お役目の二回目。

バーテックスが三体現れたとき、失うことの恐怖で守るために勇者として覚醒した東郷。死にかけの状態を見て、顔を青染めた友奈。聞いただけとはいえ、信じたくなかった風と樹。

もし見ていたら、二人も同じく青染めていたか、何らかのマイナスな感情を浮かべていただろう。

死んでいたら、間違いなくほとんどの勇者は戦意喪失していたに違いない。

しかしウルトラマンが復活してから、間違いなく勇者の士気は高まった。

正確に言えば、紡絆が無事だったからだ。

他にも部活をするにしても、日常という日々を生きる中でも紡絆は何処へ行っても中心にいる。

居てしまう、誰よりも、何もよりも中心に。

それこそ勇気が人一倍あり、恐怖などを胸の中に無理やり抑え込む友奈ですら紡絆に弱音を話してしまうくらいには。

 

「何を言うかと思えば…バカかお前。

そんな事言われても俺が分かるわけないだろ! 少なくとも今の俺に出来るのは、みんなと協力すること! 戦うこと! 守ることだけだ! 生きてまた明日を過ごすために!

だから、お前が誰かの日常を、明日を壊すために動くなら俺はそれを防ぐ!」

 

『ふん、話すだけ時間の無駄のようだな…。ならば早く光を纏うがいい』

 

「どうせ話し合いで済ませる気がなかったくせによく言うよ……。何はともあれ、ファウスト。俺がお前を()()()……!」

 

会話は不要だというファウストを見据え呆れたように息を吐くとエボルトラスターを引き抜き、紡絆が前方に掲げるのと同時にファウストは両腕を交差して人間大の大きさから巨大化し、紡絆はネクサスへと変身した。

片腕を突き上げた状態で現れたのは何処か和を思わせる鎧のような姿をしたネクサス。アンファンスと呼ばれるスタイルだ。

ネクサスはファイティングポーズを取り、ファウストは構える。

互いに睨み合っていると、突如としてそこに黒い暗雲が現れ、融合型昇華獣となったドラゴレイアがネクサスの背後へ地面へ降り立った。

それに関して予想はしていたのか、来ると思っていたのか、左右で見えるように立ち位置を変えたネクサスだが、ドラゴレイアがいきなり毒霧と花粉を撒き散らし、即座にネクサスは右腕のアームドネクサスをエナジーコアに翳す。

 

『シュアッ! ハァアアアアア---デヤッ!』

 

腕を振り下ろし、その身に紅蓮の鎧を纏ったネクサスは十字を作るようにアームドネクサスをクロスする。

手首に青い輝きの粒子が纏われ、弧を描くように大きく体ごと動かすとエナジーコアの傍で固定した右腕を掲げ、見上げるのと同時に青く輝く光線を空高く撃ち上げた。

全て隔離するように遺跡から光の世界へ。

世界が黄金色の空間に包まれ覆われていく。

 

「間に合った……って、いきなりメタフィールド!?」

 

「紡絆くん、おまたせ!」

 

メタフィールドを展開している合間にギリギリ勇者も入ってきていたようで、五人の勇者が敵を視認しながらネクサスの傍に降り立つ。

 

「これがメタフィールド……」

 

「でも……」

 

「ええ、変わるようね」

 

初めて見た夏凜が神秘に満ちた光景に目を見開くが、樹と東郷はファウストに視線を送ると、既にファウストが両腕を上空へ向けていた。

 

『自ら命を削るとはな……そのまま追い詰めてやる!』

 

『ぐっ……』

 

黄金色の空間が闇の空間へ侵食され、紫色に包まれた。

神秘性は完全に消え失せ、ついに遺跡から禍々しい世界へと変貌する。

何処までも広がる闇のような、滅んだ後の世界のような、そんな錯覚させるような世界に。

 

『シェア!』

 

ファウストを無視し、ネクサスがドラゴレイアに飛びかかる。

制限時間が始まった今、ネクサスにファウストを相手する余裕はなかった。

そんなネクサスに対して、ドラゴレイアは背中の触手で叩き落とそうとして、ネクサスが瞬時に加速した。

 

『デアッ! ヘェアァ!』

 

マッハムーブによる急激な加速。

触手を追い抜き、ドラゴレイアに肉薄したネクサスはそのまま下から殴り、ドラゴレイアが花粉を放とうとしたところで花弁を掴んで開かせない。

 

「そこぉ!」

 

「おりゃー!」

 

さらに大剣をドラゴレイアの腕に向かって振り下ろす風と足に向かって全力で殴る友奈がネクサスの援護をし、夏凜と東郷、樹が遠距離でファウストの妨害に出る。

ウルトラマンと同等の力を持つファウストに近接で挑むのは分が悪いと判断したからだろう。

 

『デ---ァ!?』

 

僅かに友奈と風を見たネクサスだったが、即座にアームドネクサスを輝かせ、エルボーカッターで切りつけようとすると急激に()()()()()()()()()

 

「うわわわ!?」

 

「ちょ、やば!?」

 

「なっ、こっちにまで……!」

 

「地震…!? いいえ、これはバーテックスの能力…?」

 

「そ、そんな力まであるんですかっ!?」

 

ネクサスは体勢を崩すとまでは行かなかったが、勇者は違う。

あくまで身体能力が強化された人間なので、体勢を崩してしまい、ファウストとドラゴレイアは攻撃のチャンスだ。

 

『鬱陶しいやつらだ……!』

 

先程まで遠距離でネクサスの攻撃を阻止されていたファウストがダークフェザーを。

ドラゴレイアが地面に手をついている風と友奈に勢いよく触手を振り下ろした。

 

『ッ……ぐっ!?』

 

瞬時に察したネクサスがセービングビュートで風と友奈を雑目に()()投げ飛ばし、滑り込むように三人の前に出てダークフェザーを代わりに受けた。

 

「紡絆!?」

 

『フンッ!』

 

『ウァァアアア!?』

 

直撃した胸を抑えるネクサスをファウストが上空に蹴り上げる。

地震はまだ続いており、上空に吹っ飛ばされたネクサスは方向転換してファウストに脚を向けて突撃していく。

 

『デェアアアア---ッ!?』

 

「紡絆くんダメ! 横に避けて!」

 

速度を活かしたその蹴りは当たればダメージが入る---はずだった。

相変わらず揺れの強さで動けてないが、スコープを覗いていた東郷が誰よりも気づいたことで警告を飛ばす。

---いや、その警告は遅すぎた。

 

『ウ……アァッ……!?』

 

「っ……わ、私が!」

 

小さな、とても気づかない小さな霧。

ネクサスの蹴りのコースに設置されたそれはネクサスを一気に覆い尽くし、苦しめる。

すぐに樹がワイヤーを飛ばすが、ネクサスを拘束したまま躱すように横に避けた。

 

『うぐぉ……!? げほ…!』

 

さらにドラゴレイアが花粉を飛ばすと、霧と花粉が融合し、毒と毒のコンボでネクサスをより苦しめる。

 

『こんな簡単な罠に引っかかるか…お前は自分より他人を見すぎのようだ』

 

首を抑えて苦しむ姿のみが見え、そこにファウストが嘲笑の感情を込めながら告げ、ダークフェザーを飛ばす。

ここでひとつ、ラフレイアが持つ花粉にはどんな性質があったか?

あの花粉には可燃性があり、それが霧と融合してしまっている。

それはつまり---

 

『が…アッ!?』

 

上空で大爆発が起き、ネクサスが地面に落下する。

防御不可能な攻撃の威力は高く、受け身をとることすら出来ていなかったため、落下のダメージまでも負ってしまった。

ドラゴレイアのみなら爆発は起こらないかもしれなかったが、ファウストが居るだけで爆発の危険性があるということ。

しかも必ず足場が必要な勇者を無効化しているのが厄介な点だ。

 

「っ……まずは向こうを何とかしないと…!」

 

「と言われてもね……ッ!」

 

空中ならば動けると夏凜が跳躍して刀を投擲するが、ドラゴレイアの触手が防ぐ。

その影響で触手が爆発してもバーテックスのように再生し、ダメージが入っているようには見えない。

 

「だったらッ!」

 

力強い声が聞こえて、東郷と夏凜、樹。そしてファウストが上空を見た。

そこには大剣を巨大化したまま落ちてくる風が居る。

空中だからこそ、地震の影響は何一つない。

 

「お姉ちゃん!?」

 

「私も居るよー!」

 

「友奈ちゃん…!?」

 

声が響くが、その声の主は東郷たちがいる方向からは見えない位置にいるようで、居ない。

それでも特徴的な声は誰か分かったようで、友奈だ。

 

「風先輩、お願いします!」

 

「任せなさい! 部長の意地見したるわ!」

 

友奈が風をぐるぐると回して投げ飛ばし、投げられた際の遠心力と落下による加速で凄まじい威力があるであろうそれを、ドラゴレイアが反応して触手で己を守る。

 

『う……ぁ……。デ……デェアッ!』

 

このままでは防がれるというところで、残ったダメージを無理矢理抑え込み、ネクサスがパーティクルフェザーを四発連発することで触手の破壊は出来なくとも、触手を弾くことに成功した。

 

「紡絆ナイス! いい加減揺らされて気持ち悪いのよ!  おねんねしろぉー!」

 

ネクサスの援護のお陰で本体に辿り着いた風は狙いを定めたまま落下していくが、そうだとしてもドラゴレイアには花粉があり、ドラゴレイアは花粉を放つ。

だがネクサスと違うところは、勇者には精霊というバリアがある。

犬神が現れて花粉を防ぎ、風は気にせずにその手にある大剣をついに本体に斬りつけた。

速度を上げていたことが吉と出たのか、それとも元々の装甲が柔いのかドラゴレイアの片腕を切り落とし、悲鳴を挙げるドラゴレイアを背後にそのまま地面に風の大剣が突き刺さり、着地に成功する。

そのお陰か、ついに地震は収まった。

 

「どうよ、私の女子力!」

 

『無駄だ』

 

ドヤ顔で振り向く風だったが、ファウストの一言にどういうことかと反応する前に、目の前の光景が語ってくれた。

切り落としたはずの片腕が逆再生でもしたのかと思うほどにくっつき、何も無かったように戻る。

 

「はぁ!? 卑怯な!」

 

「まさか、あの時と同じ再生持ち!?」

 

ようやく切り落としたというのに再生する理不尽さに思わず叫ぶ風と気づいたように声を挙げる東郷。

以前戦った融合型が持っていた能力は、超再生。

しかしそれを持っていたのは御魂のはずであり、考えられることは---

 

 

801:名無しの転生者 ID:4kG3lCRTm

バーテックスとスペースビーストの融合に寄る急激な成長…!

 

 

802:名無しの転生者 ID:vFeRfuKd6

スペースビーストが持つビースト振動波が教え、元々持っていた成長速度で手に入れたってわけか……

 

 

803:名無しの転生者 ID:8BVKCrHgZ

つまり一戦目は偵察だけが目的で退いたわけじゃないのか!

こいつらの場合は能力が噛み合いすぎてて自身の力について行ってなかった! それ故に必要だった超再生を成長の糧で身につけたんだ!

まともに戦ったら勝てん!

御魂を出現させてオーバーレイしかないぞ! ファウストをなんとかしないと……!

 

 

 

 

そう、元々スペースビーストは成長する生物。

それがバーテックスを取り込めば? 少なくとも夏凛のデータは取られており、ネクサスと他の勇者の力はビースト振動波によって取られた。

しかしバーテックスが持つ能力は毒霧であり、ラフレイアが持つ能力は炭化させる花粉、猛毒だ。

その二つを体内に押し留めることが出来るか?と言われると、融合したばかりのドラゴレイアには不可能。

ならそれを超える再生能力を持てばいい話であり、ドラゴレイアは成長の過程として手に入れたはずの力が奇しくも彼らを追い詰める能力になっていた。

もし完全に成長が終わっていれば、超再生はなかったかもしれない。

 

『フン! ハァアアアアア---』

 

ならば、とネクサスが両腕をクロスして突き出し、オーバーレイの体勢へと入った。

確かにネクサスの力であれば、外装を引き剥がすことくらいならオーバーレイで十分だ。

ただし御魂に関しての問題が残ることになるのだが。

 

『バカめ、ノコノコとやらせん!』

 

『グアァアァァァァ!?』

 

地面を蹴り、低空飛行で浮いたファウストがネクサスの腹に脚を突き出し、オーバーレイの準備に入っていたネクサスはまともに受けた。

食い込むファウストの脚。

さらなる力を加えられ、凄まじい衝撃とともにネクサスの体が弾かれる。

 

『シュアァ!』

 

『ちっ……!』

 

くるりと一回転し、ファウストの体にしがみつき、そのまま上空へと連れて行く。

このままでは埒が開かず、勝てない。

だからこそ妨害を無くすために上空での戦闘を選んだのだが---

 

「紡絆くん後ろ!」

 

『ヘェ……!?』

 

友奈の声に反応してネクサスが背後を見ると、迫ってくる触手を避けることが出来ずに腹に巻き付き、引き離そうとしていたファウストから距離を取らせるように地面へと投げ捨てられる。

上下に回転しながらネクサスは受け身を取りつつうつ伏せに倒れ、ファウストはそのまま着地した。

 

「どちらかを相手……じゃなくて両方とも相手にしなくちゃいけないってわけか……」

 

「でもそろそろ紡絆先輩の制限時間が……」

 

忘れては行けないのが、今戦っている場所はダークフィールド。

そもそも相手に有利な空間であるために不利だというのに、一対一に持ち込むことすら出来ない。

 

『シュ……デェアッ!』

 

すぐに起き上がったネクサスはドラゴレイアを視界に入れながら、ファウストへ走り出した。

 

「とにかくあたしたちは向こうの融合型!」

 

「封印するまでダメージを与えないと……!」

 

ネクサスがファウストの方へ向かったのであれば、こちらが相手をするのは融合型。

風と東郷の冷静な言葉に各々頷き、触手に気をつけながら戦う。

花粉と毒霧を防げる勇者にとって気をつけなければいけないのが融合型怪獣の触手攻撃と怪獣としての攻撃。

東郷の射撃が次々向かってくる触手を撃ち落とし、接近した友奈と風と夏凜がダメージを与え、樹が撃ち落とし切れなかった部分のフォローをする。

それでも、再生能力によってダメージが入ってるように見えない。

 

『シェアッ! デェアァァ!』

 

『ハァァアア!』

 

着々と攻撃はヒットさせている勇者たちだが、一方でネクサスとファウストは互角の戦いを繰り広げる。

ネクサスの右ストレートを躱し、ファウストの足蹴りを同じく足を出すことで対抗。

なら、と回転しながらのエルボーをファウストが一歩下がることで避けた。

 

『デェア!』

 

『フンッ』

 

パーティクルフェザーとダークフェザーが同時に放たれ、相殺される。

小さな爆発。

その隙にネクサスはもう一発パーティクルフェザーを放ち、即座に翻した。

 

「私の手数でも押し切れない…!」

 

「封印するためにもまずは動けなくさせないとだよね……」

 

夏凜は火力というよりかは、手数で押す機動力タイプの勇者だ。

友奈のような一点突破の火力もなければ、風のように巨大化させることも樹のように拘束する力も東郷のような狙撃力もない。

しかし友奈は友奈で、超近接タイプであり、近づかなければ意味が無い。

 

「以前は武器を使う敵だったからそれを利用したけど、今回は…」

 

「地震のような力を使っても動けるのはズルいです……」

 

「武器……相手の武器……相手の力?」

 

今回のドラゴレイアは持っている武器などなく、万事休すか…と思われた時、東郷がなんらかに気づいたように疑問を浮かべた。

 

『シュアァ!』

 

「えっ!? 紡絆くん!?」

 

「っ……紡絆くん! 突っ込むのは良くないわ!」

 

思考する間もなく、ファウストを無視したネクサスがドラゴレイアに突っ込んでいく。

花粉と毒霧を吐き、触手を迎え撃つために構えるドラゴレイアすらも無視してネクサスは粉塵だらけの場所へ一人突っ込んだ。

そうなるとネクサスを巻き込まないためにも突撃するわけにも射撃するわけにもいかず、ただ見ていることしか出来なくなる。

 

『自己犠牲で撃破に向かったか……!』

 

「あんのバカ!」

 

興味深そうな声でファウストが呟き、予想通りの行動に風が思わず愚痴る。

いつものこととはいえ、それでもやめて欲しいとは思うのだ。

特にようやく妹と再会したというのに、ここで紡絆が死んだら一体どうなるのか。

 

『だが、そう簡単にはやらせんぞ』

 

「わ、私たちはどうしたら……」

 

「わかんないわよ。けど、何かするしかないでしょ!」

 

ネクサスと同じようにファウストが粉塵だらけの中へ突っ込み、それを見て行動に悩む樹と両手に刀を持ちながら、ついて行こうとする夏凜。

 

「待って!」

 

「ッ……なに!?」

 

夏凜も中に突っ込む気なのか走ろうとしたところで、東郷が呼び止める。

思わず反応して止まった夏凜だが、霧と花粉のせいであの中は見えず、二対一となっているであろう状況で呼び止めるのはどういうことかと言いたげな表情だ。

そしてその答えは---

 

 

 

 

 

『フッ---シュワッ……!』

 

超高速のバク転で出てきたネクサスが東郷が呼び止めた答えだ。

中からファウストが出てくることがなく、まるでわざと中に入れたような---いや、自分という囮を使い、中へ封じ込める紡絆の作戦だった。

 

『フッ! ハァアアアアア---』

 

そしてネクサスは抜刀するような構えを取り、右手と左手を行き来するように青い稲妻が迸ると、エネルギーが光に変わり、その光がネクサスの手のひらに纏われた。

 

『ぐっ……いい加減邪魔だ!』

 

ぐるぐると凄まじい速度で回転したファウストが凄まじい(かぜ)を発生させることで霧を吹き飛ばしたが、遅い。

敵だと思っていたドラゴレイアは花粉を吐いており、既に周囲一体に撒き散らされている。

 

『デェヤッ!』

 

その隙を逃すことなく光を保ったまま両腕を今度は右胸付近に持ってきて、腕を十字に構える。

放たれるのはクロスレイ・シュトローム。

威力はそこまで高くはないが、ここで再びおさらいするのであれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という問題だ。

可燃性があり、多少の火程度で大爆発が起きるそれに向かって、超人レベルの高熱光線が放たれれば、どうなる?

 

『むっ……!?』

 

光線はファウストに直撃し、問題の答えとして花粉に引火することでファウストとドラゴレイアのいた位置から凄まじい大爆発が起こった。

 

「ちょ---!?」

 

「わあー!?」

 

「と、飛んじゃいそう……!」

 

「なっ、なんて無茶な戦い方すんのよー!?」

 

「花粉を利用した……!」

 

かなり近い距離での大爆発は当然バリアが発動しても風圧が来るようで、勇者たちは吹き飛びそうになる。

風と夏凜は武器を刺すことで耐えているが、友奈と樹が危うい。

一人冷静に分析している東郷はしゃがんでるのもあって風圧が少ないらしい。

 

『ヘアッ!』

 

それに気づいたネクサスが勇者たちを守るために空間を空けながら覆い被さり、爆煙と爆風を防ぐ。

エナジーコアによるネクサスの命の証明が明るさとして効果していて、暗闇になる心配もない。

守ってくれる紡絆にお礼を言いつつも、勇者たちの視線も敵に向いており、爆発の中から飛び出してくる者も居なければ直撃コースだった。

 

「やったか……!?」

 

「お、お姉ちゃん。それは言っちゃだめなやつ…!」

 

爆発が完全に消え去り、煙が徐々に薄くなって見えるようになっていくと、歪なシルエットがネクサスの瞳に移る。

少しずつ、ほんの少しずつ元の形へと戻っているのは間違いなく倒し切れなかったドラゴレイア。

しかしファウストの姿はどこにもなく、風の言う通りに本当にやったのかと考えてネクサスが立ち上がろうとした、その瞬間。

ひとつ、気の所為だと錯覚するレベルで一筋の光が見えたような、そんな気がした。

 

『ハアッ!』

 

『---!? ウワァアアアア!?』

 

否。

気のせいではない。禍々しく、黒く、闇を体現したような()()()を手に持っていたファウストから放たれたのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

途中で紫色に変化したが、その技をよく使う紡絆はそれがどんな技か理解しており、退こうとしたのをやめて直撃をその身に受けながら吹き飛ばされる。

避けなかった理由はネクサスが受けなければ、自身の技が大切な仲間を傷つけるところだったからだろう。

 

「紡絆!?」

 

ネクサスの光線をそのまま返ってきた原因を究明すべく射線を追って見れば、そこには刀身がギザギザの形で本来剣は鍔が真っ直ぐなはずなのにぐにゃりと円を描くように途中で止まって歪んでいる剣を持っているファウストの姿があった。

イメージしやすいのはアルファベットの『e』の横部分を無くして途中で止めた感じだろうか。

それが左右対称にあり、より不気味さを増していた。

 

「なにあれ、本人と同じで不気味ね……あんなのあったの?」

 

「い、いえ、初めて見ました……」

 

初めて見た夏凜が聞くが、これは紡絆を含めて全員初めて見たものだ。

今まで武器を持ったことなんてなければ剣を使った姿を見たことがない。

 

「あっ、再生が終わるよ!? 紡絆くんも吹き飛んじゃったし……!」

 

「紡絆が心配だけどひとまず離れるわよ!」

 

「いえ、逆に動いたらバレます!」

 

予想外のことで驚きしかなかったが、ひとまず追撃を受けないように距離を離す指示を出す風に東郷が逆に止める。

そのことに流石に困惑した。

 

「どうしてよ東郷?」

 

「そうか……よく見なさい。あいつ、視界がまだ回復してない」

 

気がついた夏凜の言葉に全員がドラゴレイアに注目すると、開いた花弁の中にある触覚がまるで斬られたような跡が残っていてきょろきょろと周りを見渡している。

それこそ再生途中に傷つけられたように。

 

『ほう……相変わらず厄介なやつだ。

まさか吹き飛びながら一点に集中させた技で傷をつけ、仲間を守ったか』

 

極々小さな光刃。

パーティクルフェザーの範囲を縮ませ、狙いをより正確に放ったものがドラゴレイアの目のような触覚を潰したのだろう。

しかし再生を完了させているドラゴレイアには聴覚はまだあり、動く先の音と気配でバレてしまう。

だから止めた。

それでもほんの少しの時間稼ぎにしかならないのだが。

 

「紡絆先輩があの一瞬で……? でも結局私たちの攻撃じゃ、封印までは……」

 

「それは違うわ。樹ちゃん、さっき紡絆くんが答えを見せてくれたでしょ?」

 

「答え……あっ!」

 

勇者の攻撃力では封印に行く迄の威力が足りない。

紡絆自身もドラゴレイア相手に苦戦するため、はっきり言ってタイマンになったところで勝てるかは五分もない。

御魂を出現させる方法がネクサスにはないというのもある。

ならせめて作戦を伝えようとかなり無茶な突撃をし、事実ドラゴレイアに回復されたとはいえ、一度大ダメージは与えた。

後は同じだと対策は取られると考え、別の方法で勇者部が実践すればいいだけだ。

 

「だとすればそれが出来るのは……」

 

「……私か東郷ってわけね」

 

「そう、夏凜ちゃんは刀。私は銃。

爆発を引き起こせるのはそれだけだもの」

 

攻略に必要なのは火を使える技があるかどうか。

当然そんな超能力は備わってないが、火の代わりに爆発を起こせばいい。

誘爆さえさせれば封印出来るレベルまでダメージが入ることはさっき証明されたのだから。

 

「だったら私たちはチャンスを作るってことだね!」

 

「頑張ります…!」

 

「それじゃ行きますか…って言いたいところだけど、どうやらあちらさんも再生を終えたみたいよ。総員警戒!」

 

作戦会議を終えたところで、ドラゴレイアが動き出した。

再生した触手を向け、花弁を向けて毒霧と花粉を、剣を持つファウストから放たれる斬撃。

それらが一気に押し寄せる。

 

『ハアッ! シュワッ!』

 

「っ……散開!」

 

くるりと回転しながら着地してみんなの前に出た瞬間にダメージが残っているのか胸を抑えたネクサスだが、彼は両手からみんなを守るために青色に輝く円形状のバリヤー、サークルシールドを貼り、全ての攻撃を防ぐ。

何か言いたそうではあるものの、このチャンスを逃せば紡絆の頑張りを無駄にすることになるので風は指示を出す。

その指示に従うように一気に勇者たちが離れ、ネクサスはそれを見て今も残り続ける斬撃を見た。

 

 

880:情報ニキ ID:OX82Ln2AK

ウルトラマンネクサスという作品や他の外伝作品でもファウストがこんな武器を持っていたところなんてなかった!

分かっている能力はイッチの光線技を反射する力のみだ。気をつけろ!

 

 

881:名無しの転生者 ID:18YrTauW0

ただのファウストじゃあ、はっきり言って弱いからな……厄介な武器を追加してきやがった!

 

 

882:名無しの転生者 ID:jMYMFcRfB

イッチ、制限時間が近いぞ!

 

 

 

 

『ぐうぅ……ッ!』

 

コアゲージが鳴り始め、サークルシールドを維持していても斬撃が消えることはなく、むしろその逆。

サークルシールドが()()()()()

青かったものが赤くなり、徐々に押されていく。

その現象を紡絆は見たことがあった。勇者も見たことがあった。

この場の誰もが一度は見た。夏凜ですら知識で知っているだろう。

なぜならそれは、()()()()()()()()()()()()

 

『うぐぐぐ---デェヤ!』

 

つまり---サークルシールドが灰色に染まる。

割られる、と確信した紡絆はサークルシールドを解除し、即座にクロスしてアームドネクサスを輝かせる。

光刃を放つことはせず、そのまま受けとめる判断をした。

 

『うが……あぁああああぁ!!』

 

地面を削りながら後退させられ、地面に生えている岩が壁になることもなく、バリヤーで受け止めていたはずなのに斬撃の勢いは一切衰えない。

何個も、何十個の岩盤を砕きながらネクサスがさらにクロスした両腕に力を込めた。

 

『ヘェアアアァァアアア!』

 

気合い。

根性で両腕を振り下ろし、斬撃を打ち消す。

 

『ハァ、ハァ……』

 

ふらつくネクサスの体だが、足で地面を踏みしめてネクサスは走る。

 

「紡絆くん、平気!?」

 

『……! シュア』

 

近くにいた友奈が心配した様子で声を掛けてきた。

ネクサスは頷き、パーティクルフェザーをファウストとドラゴレイアに放ってからほんの一瞬だけ視線が交差する。

それだけで理解したように、ネクサスは全力で地面を蹴ることで空を飛んだ。

 

『逃がさん!』

 

当然そうなれば、空中戦が出来るファウストがネクサスを追う。

そしてドラゴレイアは空中戦が出来ないからこそ、届く範囲にいる間に撃ち落とすために攻撃を仕掛ける。

今、間違いなく融合型怪獣の思考にある脅威はウルトラマンのみ。己に大ダメージを与えた唯一の存在であり、勇者よりも殺さないといけないと判断したのだろう。

 

『フッ---デェア! シュワ!』

 

放たれる触手をひとつ。

掴み、それを軸にして回転しながら迫ってくるもうひとつの触手を蹴り飛ばし、三つめを高速軌道で回避しながらエルボーカッターで切りつけ、四つめを肘と膝で挟み込んで押しつぶさんとする。

 

『フンッ!』

 

『シェア!』

 

そこに斬りかかってくるファウストだが、ネクサスは挟んでいた触手でガードするように両腕で掴んで向ける。

そうなれば、ファウストは触手を斬り---いや、()()()()()

 

『フヘェ!? がは……!?』

 

予想もしなかった現象に回避出来なかったネクサスは空中から地上へ叩き落とされる。

その勢いを活かし、隙の出来たドラゴレイアに拳や剣、ワイヤーや銃撃が次々と襲いかかっているのも見てネクサスも突撃する。

自ら叩き落としたファウストにその速度に追いつくことは出来ず、ネクサスは拳を突き出す。

 

『デェアッ!』

 

ネクサスの拳が突き刺さり、ネクサスはそのまま()()()()()ドラゴレイアの攻撃を凌ぐ。

そうなると、ドラゴレイアは残った手段として花粉と毒霧を放つ---のだが、そこをネクサスが強引に花弁を掴んで閉じた。

本来放たれるはずだった花粉と毒霧はドラゴレイアの中で溜まることになり、ネクサスはすぐに東郷に視線を送る。

 

「……っ!」

 

そのサインに気づき、東郷はすぐに狙撃銃で真ん中を狙う。

僅かな隙間でしかないが、その銃弾は真っ直ぐに飛んでいき、花弁の中へ入るコースだ。

 

『無駄だ!』

 

だが、ファウストがその銃弾を切り裂く。

無常にもチャンスを打ち消したファウストはネクサスに剣を向け、振りかぶった。

 

「やらせないっての!」

 

「止まって……!」

 

風と樹の大剣とワイヤーがファウストの動きを鈍らせる。

風が剣を持つ手に大剣をぶつけ、樹がワイヤーで剣を止めようとしているのだ。

 

『邪魔だ』

 

「うそ、効いてないんだけど!?」

 

「わっ!?」

 

しかしファウストが腕を横に振るい、風が大剣でガードしながらバリアと共に吹き飛ばされ、力を込めて振り下ろすだけで樹も吹き飛ばされる。

 

『ッ……!?』

 

迫る剣と手を離せばダメージを負うことになる花粉と毒霧。

どちらを選ぶべきか迷い、ネクサスは脚で迎撃に出ようとして---

 

「夏凜ちゃん、そっちお願い!」

 

「分かってる!」

 

友奈が剣を殴りつけてギリギリのところで逸らし、夏凜がドラゴレイアを連続で切り裂いて行動を止める。

 

『ジュワッ!』

 

それを見て、ネクサスは側転で距離を引き離した。

互い互いに攻め手に欠けていて、決着のつかない戦い。

ファウストがネクサスを狙っても勇者が。

ネクサスがファウストを狙ってもドラゴレイアが。

逆もまた然り---それならば、()()()()()()()()()()()()()()

 

『埒が明かないか……ならこれがお前の最期だ』

 

『ヘエッ……!?』

 

何か奥の手を出してくるのではとネクサスが警戒し、両拳を作ることで胸のコアゲージでクロスする。

白い光が纏われ、それがどれだけの威力を込められた必殺技なのか分かる。

一方でファウストは両拳を前に突き出し、左右に拡げていくと闇の稲津のようなエネルギーを往来させる。

 

『ハアァァアア---』

 

『ハァッ! ハァァァ---』

 

拡げた両腕を紫色のエネルギーを纏いながら戻し、左拳を腰に構えながら右拳を上に掲げるファウストと、左腕を上から左に、右腕を下から右に同時に回していき、最初とは真逆で右腕が上に、左腕が下になることでエナジーコアを囲むようにZのような形を作るネクサス。

二つの強大なエネルギーが今、ぶつからんとしていた。

 

『目の前で守るものを守れなかったことを後悔しろ…! ハァッ!』

 

『フアッ!?』

 

左右の同時に両拳を突き出すことで放たれるファウストの光線技---ダークレイ・ジャビローム。

ネクサスは放つはずだったコアインパルスの動作をやめて、光線技の軌道を見た。

あからさまに()()()()()光線。

それは、ネクサスに当てるものではない。

 

「私じゃ迎撃が間に合わない……! 避けて!」

 

「夏凜ちゃん!」

 

「ッ!? こいつ……!」

 

東郷と友奈の声が夏凜に聞こえる。

その動きで回避すると判断したのだろう。

ドラゴレイアの霧が光線技を消し、勇者たちの視界を奪う。

気配ですら読むことの出来ない、濃霧。

そして、ファウストの光線技は容赦なく大爆発を引き起こした---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウ、ガァ……。ぐあぁ……』

 

爆風の中、()()の姿が見える。

ピコン、ピコンと音を鳴らし、ドクンドクンと心臓の鼓動のようにも聞こえるコアゲージ。

その姿を、夏凜は呆然と見ていた。

 

「つ、紡絆……!?」

 

ギリギリ。

あと少しでも判断が遅ければ、直撃していた一撃を、ネクサスが迷いなく飛び込んで胸で受けた。

 

『------』

 

フーといった(かぜ)の音しか聞こえず、酸素を吐き出してる時のような音。

何も聞き取ることも感じ取ることも、誰もネクサスの言葉が理解出来ない。唯一理解出来る東郷すら分からない。

ただひとつ、分かることがあった。

バタン、と凄まじい音を立てながら背中から倒れた巨体。爆煙を散らし、ネクサスの姿が全員に伝わる。

どんな暗闇も照らす光の巨人の瞳が消え、コアゲージが鳴る音だけが聞こえるようになったところが。

つまり---ウルトラマンとしては生きているが、紡絆としての意識が消えたという証拠。

 

『……見捨てていればそうはならなかったものの。愚かなやつめ』

 

このまま時間か過ぎれば、制限時間がきて死ぬだろう。

そんなネクサスに、紡絆に対して呟かれた言葉に怒りを顕にする者が居た。

 

「……ッ! よくも……よくも紡絆くんを……私の大切な人をッ!!」

 

普段は冷静な判断をする東郷が、誰よりも早く復帰し、誰よりも攻撃的に銃弾を放ちまくる。

ファウストはそれを片手を突き出し、ダークシールドで防ぐ。

 

「紡絆くん、夏凜ちゃん!」

 

「友奈、横!」

 

「っ……あぁ!?」

 

いつもからは考えられない東郷の様子に驚いてる暇もなく、友奈が二人に駆け寄ろうとするが、風の言葉に反応しても間に合わず、拳のように丸められた触手に殴り飛ばされた。

直前でガードに成功していたが、ウルトラマンですらダメージを受けるそれは凄まじい威力だ。

当然、その程度のガードを打ち破る。

 

「樹!」

 

「うん……!」

 

心配ではあるが、ドラゴレイアを放っておけばまだ生きてはいる紡絆の方へ行ってしまう。

足止めをするために風と樹は攻撃を仕掛ける。

それを二本の触手で防ぎ、地震による揺れで風と樹は動きを封じられた。

 

「なぁ!? 厄介過ぎんでしょ……!?」

 

「よ、避けれない…!?」

 

不味いと思うのも束の間。

今度はハンマーのように作られた触手二本によって風と樹がハンマー落としのようになぎ払われる。

 

「友奈ちゃん! みんな……!」

 

はっと我に返った東郷は皆を心配するが、銃撃が止んでしまった。

攻撃のタイミングを逃すような相手ならともかく、そんな相手などではない。

 

『フン』

 

「っ……!?」

 

鬱陶しいと言わんばかりに発射速度の早いダークフェザーを東郷に向けて放つ。

回避しようとする東郷だが、勇者の中でも東郷は機動力に欠ける。

精霊バリアによって守られたが、衝撃によって飛ばされた。

 

『………』

 

勇者ですら敵わず、ウルトラマンですら意識が無くなった。

ウルトラマンに至っては死人のように静かになって。

残る勇者は夏凜のみしかいない。

 

「……どうして……どうして私を庇ったのよ。あんた一人なら、避けられたでしょ……なんで……!?」

 

そんな夏凜はネクサスの傍に寄って、意味がわからないと言いたげな表情で告げていた。

確かに夏凜を庇うことなく、ネクサスがあのまま光線技を放てばファウストは避けられなかった。

それに勇者には精霊バリアがあり、死ぬまでは行かないかもしれない。戦力的な意味ならば、庇うべきじゃなかった。

無論、それがどうであれファウストはネクサスが庇うことを想定して放ったのだが。

 

『…………』

 

そして意識のない紡絆は当然だが、既に誰もこの場にもいないために夏凜の声に答えるものはなく返ってくるのは沈黙。

夏凜は俯きながら唇を噛み締めていた。

 

「起きてよ……起きなさいよ! バカ紡絆!

こんなところで終わるようなあんたじゃないでしょ! やっと、ようやく出来た…こんな私に歩み寄ってくれて、()()になってくれたのはあんたが、紡絆が初めてなのよ……。お願いだから……また馬鹿みたいに騒いで…バカみたいにお節介を焼いて…ばかみたいに明るい笑顔を振り撒きなさいよ!」

 

『………』

 

深く、深く感情の込められた言葉。

あまり長く居ないとはいえ、こんな姿は誰も見たことがない。

だが夏凜にとって初めてのことばかりで、初めて友人と言ってくれた相手。

自分がどれだけ酷いこと言っても厳しいことを言ってもぶつかってくれて、怒ることなく接してくれた相手。

その相手が死ぬ可能性が出てきているのだ。

だからこそ、その想いは強いのかもしれない。

それでもネクサスは、紡絆は応えることが出来ない。

 

「守りたいって言ってたじゃない……! かけがえのない日常を、みんなの毎日を守りたいって…!

あれは嘘だったの!? 本当なら立ってよ、あんたが倒れてたらそんなこと出来ないでしょ!? 私の友達なら…居なくなんないでよ……!!」

 

何処か涙声のように聞こえるように本心を叫び、夏凜は俯く。

ようやく出来た、初めての友達。これからだって言うのに、ここで終わってしまうのか、と。

 

 

 

 

 

960:名無しの転生者 ID:Ndp2/y1X6

おいイッチ! 起きろ!

 

 

961:名無しの転生者 ID:qmxFVOee5

お前、女の子にこんな言わせていつまで寝てやがる!

 

 

962:名無しの転生者 ID:etBuakF6q

ウルトラマンなら立て! 守りたいものを護れよ!

 

 

963:若きルーキー ID:mebius∞18

最後まで諦めず、不可能を可能にする……それがウルトラマンだ!

 

 

964:名無しの転生者 ID:krKqUQS8r

お前はこんなところで終わるようなバカか!? 違ぇだろ! 足掻いてもがいて、打ち勝て!

 

 

965:名無しの転生者 ID:wPVcj5mM5

自分を信じて、仲間を信じて、光を信じろ!

 

 

966:名無しの転生者 ID:68SO2FOoQ

頑張れウルトラマン! 気合いを入れろ!

 

 

967:名無しの転生者 ID:fk295SfEH

死ぬなー! がんばえー!

 

 

 

 

 

988:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

そんな言われなくとも聞こえてるよ……

 

 

989:名無しの転生者 ID:NZ+92ZnmD

イッチ! 生きてた!

だったら反撃開始だ!

 

 

 

 

 

 

『-----』

 

「え……?」

 

ピクっと僅かに動き、その気配を感じ取った夏凛は釣られるように顔を上げた。

確かに動いた気がしたはずで、しかしネクサスの瞳は消えたまま動いてはいない。

 

『残念ながらもう声は届かないようだな。

どうせなら貴様も一緒に苦しませず殺してやろう』

 

「ッ……!」

 

ファウストが剣を掲げると、ダークフィールド内に満ちる膨大な闇の力が集まり、闇のエネルギーを形成する。

夏凛はそれを見て、覚悟を決めたように刀を握りしめると前に出た。

 

『トドメだ!』

 

そしてファウストが剣を振り下ろし、斬撃が放たれる。

先程とは比べものにもならないエネルギーの込められたその斬撃を前にして、夏凜は逃げない。

 

「う……夏凜ちゃん、危ない!」

 

「ッ……夏凜!? 避けなさい!」

 

「夏凜さん……!?」

 

「夏凜ちゃん無理よ……!」

 

「私は完成型勇者よ! 逃げる訳には行かないでしょ!」

 

意識を失ってたのか、ダメージがあったのか気がついたように夏凛に向かって叫ぶ友奈、風、樹、東郷。

それを聞いてもなお、避ければネクサスが、紡絆が殺される。

だからこそ夏凜は逃げようとせず、刀を構えて---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『---デェア!!』

 

巨人が斬撃を()()()()()()()()

瞳に光を取り戻し、コアゲージの音を鳴らしながらも大地にしっかりと足を踏みしめて。体を赤く輝かせながら。

夏凛の背後から守るように、掴んだ。

それに気づいた夏凜が振り向き、驚愕しつつも隠しきれてない喜びの交じった表情でネクサスを見ていた。

夏凜だけではない友奈も東郷も風も樹もみんなが驚き、喜びと安堵を隠しきれていない。

 

「紡絆……!?」

 

『なんだと!?』

 

『シュワッ!』

 

掴んだ斬撃をそのまま返すようにネクサスは遠心力を利用するように回転しながら投げる。

それをファウストが剣で受け止めると弾こうとして、弾かれる直前でネクサスが縦にパーティクルフェザーを放ち、十字になったパーティクルフェザーと斬撃を強引にファウストに直撃させた。

 

『ぐおっ!? ば、バカな……!』

 

ファウストが思わぬダメージに怯む。

さっきとは違って、斬撃を意図も簡単に投げたのだから、驚くのも無理はない。

 

「紡絆くーん! 夏凜ちゃーん! 大丈夫ー!?」

 

「全く、二人して心配させちゃって!」

 

「皆さん、ご無事で何よりです…!」

 

「樹ちゃんもね。でも紡絆くん無事で良かったわ」

 

すぐに合流した勇者たちとネクサス。

ネクサスは東郷に顔を向けて、頷く。

 

『……シュア』

 

「そう……夏凜ちゃん」

 

「な、なに?」

 

先程までの自分に気づいたのか若干恥ずかしげに返事する夏凜に東郷は真っ直ぐ見つめて伝える。

 

「『聞こえてた。だから立ち上がれた。やっぱり頼りになる』---だって、紡絆くんがそう言ってるわ」

 

「そ、そう……ってか分かるの、こいつの言ってること」

 

「他ならぬ紡絆くんのことだもの。それと『俺はずっと前から友達だと思ってる。嘘なんかじゃない』とも言ってるわね」

 

『…フッ』

 

最後のは東郷も伝えはしたが理解出来てないようで、首を傾げているがネクサスがその通りと言うように頷いた。

正直言葉を理解出来るだけでも凄いというかさらっとおかしなことを東郷が言っているが、誰もツッコミを入れることは無かった。

 

「は、はぁ!? な、なんのことよ」

 

そう言いつつも理解しているのか顔を真っ赤にして顔を逸らす姿に何かは分からないが夏凜と紡絆を除く者たちは理解したようで、苦笑していた。

自分たちの知らぬ間に恐らくこのバカ(紡絆)が何か言ってたんだろうな、と。

 

「まぁともかく! 紡絆も無事復活したし反撃と行きましょうか!」

 

「ですね! でもどうやって封印すればいいのかなぁ……」

 

『……フム』

 

話を戻した風だが悩ましげに呟かれた友奈の言葉に紡絆が肯定する。

その間も制限時間であるコアゲージが鳴りっぱなしでそろそろやばいのだが。

 

「紡絆先輩の制限時間もやばそうですし、早くしないといけませんしね……」

 

「そうね……私に作戦があるわ。と言うより、もうこれしかないの」

 

「……何よそれ? 言ってみなさい」

 

「じゃあ、作戦だけど---」

 

いつもの調子を取り戻した夏凜の言葉を聞いて、皆を見渡してから東郷はひとつの作戦を語った。

一回のみの、一度っきりしか通じない作戦を。

 

 

 

 

 

 

 

『最後の会話は楽しんだか?』

 

『デェヤッ!』

 

素直に待ってくれていたらしいファウストに向かって、戦闘開始の合図のように気合いの籠った声でネクサスが殴り掛かる。

それを剣で防ぎ、ファウストが繰り出す蹴りをネクサスが地面に倒れて避ける。

 

『一人で来るとはな……!』

 

『ハアッ、シェア!』

 

振り下ろされる剣。

避けるネクサス。

次々へと振るわれる剣をネクサスが避け続け、時に反撃に出る。

そのせいでファウストはネクサスに釘付けになり、逆もまた然り。

コアゲージの点滅を気にしながらも、ネクサスは一瞬だけ視線を勇者たちへと送った---

 

 

 

 

 

そしてその勇者たちなのだが、夏凜はひとり。

敵から隠れた場所で突っ立っていた。

語られた作戦はあんまり変わらない。

ただ東郷自身が自分では撃っても妨害されるということで、近接で機動力が一番ある夏凜が鍵になったということだけ。

 

「ほらほらー、その程度だと当たんないわよー!」

 

「えりゃ! うわわ!」

 

「えぇぇい!」

 

ドラゴレイアを相手に次々とパンチしたり斬ったり蹴ったり縛ったり銃撃したりとダメージを与えながら攻撃を避ける---ヒットアンドアウェイで翻弄していた。

脅威はないがいい加減ウザったらしくなり、地震による攻撃をしようとしたら勇者たちが自身の肉体に乗り、そうなれば無意味なために発動も不可能。

でもって触手による攻撃は避けられ、銃撃が襲い掛かり、対処される。

まるでさっきと違う動きにドラゴレイアに混乱と困惑が見える。

バーテックスとスペースビースト。ふたつの個体の知能を持ってしても意味不明。

何故勇者たちがここまで強いのか。厄介となっているのか。急な成長をしたのか。

 

『……夏凜ちゃん準備を』

 

「分かってるわ」

 

だんだんと攻撃が乱雑になってるのを見て、東郷がスマホで声を掛ける。

夏凜は返事しながら一本だけ刀を持ち、気配を殺しながらチャンスを伺う。

 

「友奈! 樹! そろそろ来るわよ!」

 

「はい! でもまだまだッ!」

 

「準備するね…!」

 

攻撃を続ける友奈と風に東郷の援護射撃がドラゴレイアを襲う。

どれだけ攻撃しても避けられ、妨害され、ここで初めてドラゴレイアは理解した。

勇者という存在が脅威であることを。

ならば、その脅威を消し去るには生半可な攻撃では消せない。

一度仇になったとはいえ、あのウルトラマンですら苦しめた自身の技とも呼べる攻撃で消し去るべく、ドラゴレイアがついに毒霧と花粉を吐き出した。

 

「来た!」

 

「樹ちゃん! 東郷さん! お願い!」

 

「はい!」

 

風と友奈はすぐに地面を蹴ることで逃れるために離れ、樹のワイヤーがドラゴレイアに巻きついて閉じようとすべく力が込められる。

当然ドラゴレイアは開こうと抵抗するため、樹とドラゴレイアの力量勝負となるのだが体格差から考えても圧倒的に勝つことなど不可能。

しかし、流石というべきか花粉に当たらないギリギリの射撃がドラゴレイアに襲い掛かり、抵抗を弱める。

 

「私だって……私だってぇぇえええ!」

 

人間の底力というのはバカには出来ない。

ドラゴレイアに巻き付くワイヤーの量が増え、凄まじい力で花弁を無理矢理閉じた。

それでもなお、ドラゴレイアは抵抗する。

 

「樹ナイス!」

 

「で、でも長くは……!」

 

「大丈夫! 私たちには頼りになる仲間がまだもう一人……ううん二人居るから!」

 

風と友奈が樹を支え、抑えるために少しでも手伝う。

手伝いながら響く励ますその声は、彼女たちにもまた力を授ける。

なぜなら彼女もまた、紡絆と同じく勇気を与える者。

 

『シュ---デヤッ!』

 

『何をやっている?』

 

東郷の援護射撃は流石にもう不可能なようで、ドラゴレイアに襲いかかるものはない。

抵抗し続けるドラゴレイアだが、東郷はタイミングを考え、そのタイミングをネクサスが作る。

ファウストを相手していたネクサスはファウストの剣を避けるために後ろに跳躍して距離を離し、近くの岩を斬って掴むとファウストに投げつけた。

それを悠々と回避するが、理解出来ないといった様子が見える。

まるでヤケになったようだ、と。

 

「っ……今よ、夏凜ちゃん!」

 

東郷が声を発すると同時に、岩場に隠れていた夏凜が走り出す。

刀を手に持ち、凄まじい速度で接近していく。

長く感じる時間の中、夏凜の脳裏にはある記憶が蘇る。

 

『そう、俺は夏凜に期待してる。頼りにしてる。褒められる部分も多々ある。誰も期待してない? 賞賛してくれない? 

それはもう終わりだ。これからは俺が、みんながその感情を向けることになるからな。

それはもう、何処までも大変だぞ?』

 

笑いながらそんなことを言って、今も人に期待して、頼りにして信じて託した紡絆のことを。

初めて友達と呼んでくれた人のことを。

 

『私の銃ではもう防がれるわ。だから夏凜ちゃんしかいないの』

 

『そっか。さっきので東郷はバレたけど近接ならまだ可能ってことね…』

 

『あ、確かに…夏凜さんなら近接でもいけるもんね』

 

『頼りにしてるよ、夏凜ちゃん!』

 

どいつもこいつもお人好しで、紡絆が言っていたように頼りにしてるといわれなくても理解してしまうほどに感情をそのまま向けながら作戦を話したこれから先の日常の一部となった者たちのことを。

 

(…悪くない。そんな自分がいる。

だったら、ここでその期待に答えられないなら何が完成型か。勝つための道を作るのが今の私の役目!)

 

紡絆と出会い、勇者部と出会い、夏凜の中で間違いなく変化が起きた。思い出も、部活という大変でも楽しくなるであろうことも、大切な友人たちも、これから全て大切で大事でかけがえのないものになる。

全部、全部全部含めて。

それを改めて理解し、夏凜の纏う雰囲気が変わる。

そんな夏凜は刀を構えながら跳躍した。

トドメを刺すべく、今も抑えられている花弁の僅かな隙間を睨みつけるように。

そこでドラゴレイアが、ついに()()()を切る。

高い知能が理解させた。これを受ければ、自身はやられるのだと。

だからこその切り札。

本来ウルトラマンを倒すための力を、ドラゴレイアは解放した。

花弁の中から少しずつ漏れる毒霧によって花粉が急激に直線に固定されていく。

花粉を毒霧が包み込む感じで固定され、なんだ、と考える合間もなく、花弁から僅かに強引に開かれた箇所から凄まじい熱量を持つ火炎が放たれ、直線上に凄まじい爆発を次々と連鎖させていき、夏凜に襲いかかった。

 

「夏凜ちゃん!」

 

「っ……甘い!」

 

全くの違う性質の攻撃に驚く夏凜だったが、友奈の声にハッとすると空中で体を曲げ、()()()()()()()()()を蹴ってスレスレで回避しながら前へ進む。

 

「今度こそトドメぇ!」

 

そして、投げられた刀は真っ直ぐ寸分の狂いもなく飛んでいき、花弁の中に突き刺さって爆発を引き起こした。

同時にワイヤーが外れ、地面に着地した夏凜は再び跳躍。

 

「封印開始!」

 

作り出した刀を投げ、友奈や風、樹に東郷も一斉に封印の義を行うと、ついに切り札と自身の力の爆発によってボロボロになったドラゴレイアから御魂が吐き出された。

切り札を外したドラゴレイアに抵抗する術はなかったのだ。

ならば---

 

『!? なぜ---』

 

『ハアッ!』

 

『グォオオ!?』

 

ネクサスもそれに応えねばならない。

御魂を吐き出すことになった姿に驚いたファウストの隙をついて、ネクサスがファイティングポーズを取るとすぐに蹴り飛ばした。

何故岩が飛んできたのか、それは何かあると思っていたネクサスが投げ飛ばした岩が今になって夏凜の元へ辿り着いた。

ただただそれだけであり、その計算は()()がしていたことをファウストは知らない。

勇者は空を飛べない。自由が効かない。なら()()()()()()があれば?

一度っきりとはいえ、一度は回避ができる。

後は信頼さえあれば。

 

『ハァアアアァァァ---』

 

そして倒れたファウストに対してネクサスは空高く両腕を伸ばし、降ろしてコアゲージの少し下で左腕と左手の甲を下に。右腕と右手の甲を上にすることで手のひらで小さな丸を描くようにすると、ゆっくりと両腕を反転させてZ字のような形を作る。

 

『シュアッ!』

 

コアインパルスのような動作だが、違う。

ネクサスは右腕を斜め下の地面に向かって突き出し、同時に左手を腰に添えながら甲を下にする。

突き出した右腕を少しずつ上にあげて行くと、地面から黄金色の巨大な竜巻が発生し始め、その竜巻は49mあるネクサスをも超える。

 

『デェヤッ!』

 

その竜巻に対して、手刀の形で両手の手のひらを合わせると左耳まで勢いよく振り上げ、竜巻に突きつけた。

その瞬間、ネクサスから放たれるのは巨大な竜巻状のエネルギー波---ネクサスハリケーン。

一度くるりとその場で回り、凄まじい速度でファウストへ接近する。

 

『グッ……ヌォオオ!?』

 

ネクサスハリケーンはネクサスのエネルギーそのものと言っても良く、その力はファウストの肉体を簡単に巻き上げる。

ただし、これはあくまで拘束するための技に過ぎない。

 

『フッ!』

 

ネクサスが左拳を上向きに突き出す。

するとダークフィールド内に満ちる闇がネクサスの左腕を覆っていく。

 

『シュアァァ……』

 

闇に覆われた左腕が青く輝き、ネクサスが右腕を後ろに交差して胸の前に持っていくと、その間に覆われていた闇は完全に光へと変換された。

 

『シェアッ!』

 

胸の前に持っていった両腕をネクサスが上空にいるファウストに向かって突き出すことで放つ青い光球型の技---スピルレイ・ジェネレード。

 

『ぐぬぅ……光である限り通用せん…!』

 

ネクサスハリケーンによる効果を受けながらもファウストは強引にネクサスに向き直って剣を掲げ、スピルレイ・ジェネレードに対して振り下ろした。

確かにファウストの剣はネクサスの光線技を跳ね返すウルトラマン殺しの剣を持ってるといっても過言ではない。

だが所詮それは()()()()()()()()()

ここは何処だ? ここは闇が濃く、闇の力を増大させる闇の空間と言われるダークフィールド。

今放った技は光ではあるが、元を辿ればその力の根源は闇。

闇のエネルギーをネクサス自身の光エネルギーに変換させて放つのがスピルレイ・ジェネレードの特徴。

光だけの力ではなく闇も混ざったこの技を防げるはずがない。

 

『うぐぉ……グアァアアアアア!?』

 

現にファウストは光球を斬り裂くことも出来ず押し負けて直撃し、空中で大爆発が起こった。

爆煙で見えない中、空中落下していくファウストの姿をネクサスが捉えた。

 

『シュア…』

 

『ハァッ……ハァッ……。チッ……!』

 

ファイティングポーズを取り、いつでも戦えるように構える。

スピルレイ・ジェネレードには今のネクサスではエネルギー不足によって撃破するまでの力は込められておらず、ファウストは体勢を整えると息を荒くしながら霧のように消える。

そう、倒すことは出来なかったが、撤退させることに成功した。

それなら残るは---

 

「紡絆!」

 

「紡絆くん! トドメをお願い!」

 

声に反応して、ネクサスが跳躍して御魂の近くへ着地すると頷いた。

御魂を見据え、長き戦いに終焉を打つために。

 

「ここまでやったんだからちゃんと決めなさいよ!」

 

「紡絆先輩お願いします…!」

 

「紡絆くんあと少しだけ頑張って!」

 

『シュワっ! フンンンンン---』

 

樹のワイヤーが御魂を掴み離さず、託されたネクサスは光エネルギーによって白く輝かせた左腕を前方に突き出し、右腕を左腕に重ねることで下方でアームドネクサスを交差する。

反発するほどに凄まじいエネルギーの奔流を感じさせる青白いエネルギーを纏いながらガッツポーズをして両腕を互いに引き離し合い、V字型に両腕を伸ばした。

 

『デェアアァァアア!』

 

今まで以上に気合いの込められた声を発しながら、L字型に組んで放たれるネクサス・ジュネッス最強光線技---オーバーレイ・シュトロームを御魂に向かって放つ。

瞬間、御魂が今まで見せたことの無い能力である霧のようなバリアを発生させるが、その程度で止まるなら最強光線技とは呼べまい。

あっさりと貫き、御魂本体へ超高火力の一撃が命中する。

御魂が青白く輝き、誰もが勝利を確信した一瞬---そこに介入する者がいた。

御魂の上空に暗雲が立ち込み、今も量子分解されかけている御魂に闇のエネルギーが降り注がれる。

 

996:名無しの転生者 ID:vasNOkulP

ザギさんのバカヤロー!!

 

 

997:名無しの転生者 ID:AwWG8HJKq

おま、そこで介入するか!? ふざけんなよ!?

 

 

998:名無しの転生者 ID:Z0c4kgWN0

頑張れイッチ! オーバーレイは一度しか撃てない強力な技だ! やれ! 絶対負けるな!!

 

 

999:名無しの転生者 ID:8UnuR+akU

ここで打ち負けたら詰みだぞ! エネルギーを使い切ってでもぶっ倒せぇえええええ!

 

 

 

 

「今度は何よ!? まだあるの!?」

 

「えっ、再生してる!?」

 

「そんなのあり!? ずるでしょ!?」

 

「このままじゃまずいわ……!」

 

『グッ……ウウウゥゥ---ハァァァァ!』

 

オーバーレイ・シュトロームの出力を超えるほどの膨大なエネルギーが量子分解を防ぐ。

それでも光線技を放つのをやめるわけにはいかず、ついにネクサスのコアゲージが凄まじい速度で点滅し始めた。

 

「もうエネルギーが…!」

 

「私たちで援護に回るわ! あのエネルギーから引き離すわよ!」

 

風の号令に全員が頷き、行動に移す。

オーバーレイを避けるためには斜めに打ち上げるしかない。

そのために風と友奈が接近し、風が大剣を横にすることで友奈が乗る。

 

「後は頼んだ!」

 

「はい!」

 

友奈の返事と共に風が思い切り剣をスイングし、加速した友奈が拳を握りながら御魂を殴り飛ばす。

足りない。

 

「東郷!」

 

「夏凛ちゃんもお願い!」

 

「出来る?」

 

「もちろん、紡絆くんを助けましょう。紡絆くんは合わせて!

樹ちゃんは二回目の攻撃が当たる直前でワイヤーを解いてくれる?」

 

「分かりました!」

 

『うぐぐぐ……シュア』

 

光線を保ちながら頷き、夏凜が二本時間差を開けて刀を投げ、東郷が一発狙撃銃による銃撃で御魂に放ち、一度目は同時に直撃する。

まだ足りないと理解していたのか、さらに時間差で飛んでいった刀を東郷が撃つことで一度目に与えた箇所に突き刺さり、投げるようなワイヤーの解除と共に爆発によって斜め上に飛んでいく。

それほどやって、暗雲の位置から離すことに成功するものの、凄まじい速度で闇が移動してエネルギーを補給しようとする。

このまま補給されればドラゴレイアが復活するほどのエネルギーが集まってしまう。

 

『っ---デェアアアアァァ!!』

 

だからこそ、放たれるのは限界を超えた最強光線。

チャンスを逃すまいとネクサスは己の力を全て出し切る。

オーバーレイ・シュトロームの出力が上がり、範囲が増える。エネルギーの波が増大し、その力は地面にしっかりと足を踏みしめているネクサスの足すらも浮かせ、補給させようとする闇の雲の速度が追いつかないほどの速度で御魂が宇宙目掛けて飛んでいき、途中で青白く輝いた。

時を同じくして、ネクサスの体も光り輝く。

 

『シュアァァァァ---あぁぁぁぁああああああッ!』

 

自身の出力に耐えられずネクサスの肉体が完全に浮き、光線技を解除する隙もなく吹き飛んでいくが、御魂が分解された。

同時にネクサスのコアゲージが停止する直前で光に包まれると、オーバーレイを放った際の出力に耐えられないまま物凄い上下回転をしながら紡絆が吹っ飛んでいく。

世界が遺跡へ戻る中をボロボロな紡絆は回りながら限界を迎えたのか目を閉じ、意識を失った---

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
『他人を見すぎ』というのは的を当てているが、より正確に言うなら、『自分より他人を優先しすぎ』
ちなみに今回新しく使った技は分かってた訳ではなく、復活した時に頭の中に流れてきた。
もしここで2つの技を使うことが出来なければ、はっきり言って詰んでた。
なお変身者はボロボロで吹っ飛んだ模様。
今回のオーバーレイ・シュトロームはFER見たいに凄まじいエネルギー。
つまりやべーパワー。

〇三好夏凜
そりゃ夏凜ちゃんからしたら紡絆に対する思いは強いよねって話というか正直この子だけ赤嶺に狙われるレベルでメンタル弱いから…(なお農業王)
だが彼女のお陰で打ち勝ち、真の意味で仲間になったといえるだろう。



〇魔人の剣
ファウストが持つ禍々しいオリジナル魔剣。
■■■の力と■■■■■の力が込められた一級品であり、その力は作中最強のサークルシールドを割る寸前にまで持っていったり、光(光線)を跳ね返したり、持つだけで闇の力を増幅、コズミューム光線のようにすり抜けさせることが出来る万能機能があり、実は()()()()()()()()
闇の力というよりかは、正確に言うならば能力の本質は呪力、つまり()()()である


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【速報】俺氏、無事また病院の天井を見る【知っている天井だ…】

誕生日おめでとう俺(30日)
昔はわくわくだったのに今となれば誕生日になっても俺誕生日なのかって思うだけになりました。それほど大きくなったということか…。
まぁ私の誕生日なんてどうでもいいので小説について話すと、今回は(思ったより進まずに)きついなと思ったので二話構成となります。
その次は総力戦で難関とも言えますね、たぶんクソ時間かかるかと。
ということで誕生日プレゼントとして感想ください()




 

ピーという電子音だけが響き渡る部屋。

それ以外特に音もなく、巻かれた包帯が真っ赤に染まってながらも仰向けに死体のように眠っている人物の隣で一つ、独りでに輝くものがあった。

大きな、とても大きな石柩。

そこから優しい光が眠っている人物を優しく包み込み、蓄積された肉体のダメージを光が可能な限界まで癒すと石柩は拳銃のような物の中に消え、また静かになった。

 

「んん……?」

 

傷を癒されて少し経つと、その人物は目を開けながら頭を抑える。

全快したわけではないが意識を取り戻すまでは回復したのだろうか。

その本人は寝起きで朧気になっている視界の中でぼーっとして鮮明になるのを待つ。

 

「……知らない天井だ。いや、じゃないな……ここ最近めっちゃ見たことある天井だ」

 

視界が回復すると、見覚えしかない天井を見て、またかといったようにため息を吐いた。

といってもため息を吐いても何も変わらないため、少し慌てて周りを探るように顔を横に向けると二つのアイテムがあった。

それを確認して安堵の息を吐く。

ついもう2ヶ月ほど前にとても大切なものとなった短剣型のアイテム。

当然エボルトラスターであり、入院着に身を包んでるのも紡絆である。

 

「……そっか。ありがとう、ウルトラマン」

 

そんな彼は起動してもいないはずなのに最後に覚えてる記憶から考え、短時間で意識が回復したことに気づき、自分の意志ではなく自身に宿るウルトラマンがストーンフリューゲルを召喚してくれたのだと理解して感謝を述べる。

返答するように、エボルトラスターは一度鼓動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

1:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

 

【速報】俺氏、無事また病院の天井を見る【知っている天井だ…】

 

事の発端→【悲報】気がつけば目の前に知らない遺跡があるんですが…【なにこれ】

 

【悲報】 気がつけば別世界に飛ばされたんですが…【どうして】

 

【朗報】亡くなったと思っていた家族が生きていた【妹】

 

 

2:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

・継受紡絆(俺)

ウルトラマンに変身できなければちょっと身体能力が高い人間。なおかつ記憶喪失転生者。前世の記憶と二年間の記憶しかないけど、星が好き(らしい)。

勇者部所属だが、なんかよく病院にいる気がする

 

・ウルトラマン

俺に宿る光の巨人。

いつも力を貸してくれてるけど、いつも俺のせいで無茶させてる気がする。

ネクサスと呼ばれてるらしく、俺はこのウルトラマンを知らないというか昭和しか知らない。でもザ・ウルトラマンは実は知ってる。

 

・三好夏凜

ツンデレ。

でも頼りになるし、一度立ち上がれたのは夏凜のお陰だった。

これからも仲良くしたいと思っている。

 

・天海小都音

妹(らしい)。

家族の記憶もないからね仕方がないね。

でも料理上手いし家事も出来るし可愛いぞ、うちの妹。

たまにめっちゃベタベタに甘えてくる。

 

 

 

 

で、俺なんで病院に居んの?

 

 

 

3:名無しの転生者 ID:Ds0EzkcK5

スレ立て乙〜

 

 

4:名無しの転生者 ID:loGxCrm94

当の本人が覚えてないの草

 

 

5:名無しの転生者 ID:LuHNmZJWJ

そもそもイッチがどこまで覚えてるのか分からんし。倒した記憶はあんの?

 

 

6:名無しの転生者 ID:Npi/5uZyJ

>>2

イッチの妹ちゃん可愛いよな。羨ましい

 

 

7:名無しの転生者 ID:e9H3XTzny

美少女だしな。イッチの周り美少女しかおらんやんけ

 

 

8:名無しの転生者 ID:SvZ/zftun

主人公かな?

 

 

9:名無しの転生者 ID:1eHAfy/RJ

ウルトラマンに選ばれてる時点で俺ら目線からしたら主人公なんだよなぁ

 

 

10:名無しの転生者 ID:cgy6D8bVw

>>2

なおほぼ病院行き、または重傷になるレベルで厳しい世界

 

 

11:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

覚えてるのは御魂にオーバーレイぶつけたとこだな。その後は知らん。

なんか勝ったような記憶はあるというか俺がここにいる時点で勝てたんだろうけど

 

 

12:名無しの転生者 ID:q2kZem3H2

あー…

 

 

13:名無しの転生者 ID:SxM55MXhZ

んー、まぁ…今回は仕方がないわな

 

 

14:名無しの転生者 ID:2mT+f74sa

敵が強すぎるんよーダメ押しと言わんばかりのファウスト強化はやばすぎるっピ!

 

 

15:情報ニキ ID:OX82Ln2AK

簡単に言うと、あの後イッチが今まで見た事もないオーバーレイ・シュトロームの出力で御魂を宇宙に吹っ飛ばしてアンノウンハンドの補給を防いで消滅させたまでは良かったけど、ウルトラマンの肉体ですら宙に浮くほどの出力だったからエネルギー切れによって変身が解けたイッチは出力に耐えられず吹っ飛んでいったわけだ

 

 

16:名無しの転生者 ID:/qDOruFVl

で、その後現実世界で樹ちゃんが居なくなったということはお前も居ないってことを察した妹ちゃんが探していたらしく、血だらけになってたイッチを見つけると連絡して連れていったわけだな。ちなみに勇者部は遅れて戻ってきてすぐにイッチに駆け寄ってたが

 

 

17:名無しの転生者 ID:4uW1ZrZDo

樹ちゃんとの百合百合はよかったけどお前妹ちゃんどころかみんな顔青染めてたからな?

 

 

18:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

はへ〜…全く意識なかったゾ。俺そんな重傷やったんか

とりま小都音には謝らないとな……いやまあ、 本人が既にいるからなんですけど

 

〔添付:隣で腕を枕にしながら寝息を立てて眠っている小都音の写真〕

 

 

19:名無しの転生者 ID:QES05m29B

は? 天使かよ

 

 

20:名無しの転生者 ID:vsPv/deaE

可愛いなぁ……

 

 

21:名無しの転生者 ID:Wjj9/wTgM

ネクサスじゃなけりゃ素直に喜べるんだけどね…でも今は(可愛いから)ヨシ!

 

 

22:名無しの転生者 ID:AS/f/sJuO

>>18

おめーはいっつも重症じゃん

 

 

23:名無しの転生者 ID:TSlt0mdUE

それは否定せん

 

 

24:名無しの転生者 ID:Ln+zKiEt4

イッチは転生者のくせに覚悟決まりすぎなんだよなぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事情を理解した紡絆は傍で眠る小都音を優しく撫でながらスマホで時間を確認する。

まだ一日も経っておらず、早朝のようで学校にもまだまだ間に合う時間帯。

流石に制服は捨てられたのか、近くには新品の制服がある。

紡絆はこれで何枚目かな、といったどうでもいいことを考え出していた。

 

「んぅ…? おにーちゃん……?」

 

「おはよ」

 

そんなことを考えていたら、寝惚けているのか目を擦りながら小都音が顔を上げてじっと紡絆を見つめる。

紡絆は特に何か言うわけでもなく、いつも通りに話しかけた。

 

「うん、おはよう……」

 

「おう」

 

「……ってお兄ちゃん!?」

 

「あべらぁ!?」

 

違和感すら感じさせない平常通りの姿に小都音も思わずいつも通り返してしまったが、すぐに気がつくと紡絆のお腹に勢いよく抱きつき、全快してない紡絆は叫びそうになったのを堪えて再び頭を撫でる。

 

「あっ…ご、ごめんね」

 

「や、傷治ってるから大丈夫大丈夫」

 

寝起きの人間にする行動ではなかったと反省したような様子で椅子に座る小都音だが、紡絆は気にしてないと笑う。

 

「……本当に?」

 

「ほんとほんと。それより学校の準備しないとな。風呂にも入りたい…腹も減った……」

 

「もう…そんな簡単に退院は出来ないよ?」

 

「大丈夫だ。ここの人たちとは顔見知りだし、多分またかみたいな顔されるだけだから」

 

「お兄ちゃん……普通の人はそんな入院しないからね」

 

既に何度か入院しているが、入院する意味あるのかこいつというほどの回復速度を発揮する紡絆を見て、慣れたのかもしれない。

しかし小都音からすると信じられないような話であり、冗談にしか聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽の眩しい射線が紡絆を襲いかかる。

それに対して紡絆は真っ向から太陽を見つめ、両目を抑えた。

ウルトラマンの強化によって生身でも少し人間離れしている紡絆にとって太陽の光は眩しかった。

 

「……はぁ」

 

そんな紡絆の隣では、小都音がため息を吐く。

今の紡絆の行動にではなく、まさか一日も経っていないのに本当に退院できるとは思ってなかったのだ。

軽い検査をしたら問題ないと判断されて多少の運動制限で解放されるなんて普通はないはずなのだが、慣れた様子で解放された。

つまりこの兄(紡絆)は自分が居ない間にも何度か入院したというわけで、小都音からすれば嬉しくもないニュースだ。

 

「大丈夫か?」

 

「私は大丈夫だけど、絶対に無茶な行動は許さないからね」

 

「あはは、すると思うか?」

 

「うん絶対する」

 

「………」

 

笑い飛ばそうとしたようだが、小都音のジト目に紡絆は目を逸らした。

するつもりだったらしい。

 

「もう過ぎたことは怒らないけど、お兄ちゃんに何かあったら私は辛いし…生きていけないよ」

 

「それは悪かった……けどな、小都音を一人にして死んだりなんてしない。例えどんなことがあったとしても、俺は必ず生きて帰ってくるから」

 

辛そうな面持ちで俯いて裾を掴む小都音を安心させるように紡絆は手を乗せる。

反省はしているというのは声音で分かるのだが、嘘でも戦わないという選択もなければ無理をしないという約束すら出来ないのは、紡絆の人間性が理解できるだろう。

 

「……約束だからね。嘘ついたらどうなるか分かんないよ」

 

「それは怖いなぁ……」

 

冗談に聞こえない声質に紡絆は苦笑するしかない。

 

「ほら、早く行こ。朝ご飯作ってあげるから」

 

「おっ、それなら早く帰らなきゃな!」

 

ただ、ただそれでも今は全てを忘れて、日常へと帰る。

紡絆の腕に自身の腕を絡めた小都音はくっつきながら家の方角へ歩いていき、紡絆は突然の行動に僅かに驚きながらも特に抵抗せずに一緒に歩んでいく。

特にこのままでは朝飯すら抜く退院したばかりの病人を養うために帰る選択をしなければならないのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風呂に入って朝食を食べ、学校の準備をした紡絆は小都音と一緒に外に出る。

時間的に間に合う時間帯で、意外と余裕だった。

鍵でドアを閉めた後は登校するために学校へ行く道を歩くのだが、見覚えのある背中を見て紡絆は小都音の手を取ってから軽く走る。

 

「おーい! 友奈ー、東郷ー!」

 

空いている手を振りながら呼びかける声に気がついた友奈は車椅子を一度止めて振り向くと、驚いた。

 

「えっ、紡絆くん!?」

 

「紡絆くん……? もう大丈夫なの?」

 

「おはよ。全然大丈夫というか、普通に帰された」

 

「おはようございます。結城さん、東郷さん」

 

「あ、うんおはよう」

 

「おはよう。あれほどの怪我してたから少し心配だけど……」

 

普通に挨拶を交わしてきたため、友奈と東郷もそれに応えたのだが、紡絆本人は全然平気そうな様子で体を伸ばしている。

 

「一応無理はしないようには言ってるんですけど、兄さんのことなので無理かと」

 

「…それもそうね。紡絆くんに無理しないでって言ってもいつも無理するんだもの」

 

経験上紡絆は無理をしないように言ったとして、無理をしなかった試しがない。

まぁ、自身がボロボロなのに人助けしてるやつなので無茶しかしないのだろうが。

 

「本当に平気なの?」

 

「平気平気。痛いとこあったら牛鬼に噛ませておくから」

 

「紡絆くん、流石に精霊にそんな力はないと思うわ…」

 

唾でも付けとけば治るみたいな理論を言う紡絆だが、もちろん精霊にそんな力がないし仮にあったとしても主でもない紡絆に効果などあるはずもない。

何はともあれ、他愛もない話へ移行しながら紡絆たちは登校するのだった---。

 

 

 

 

 

 

62:名無しの転生者 ID:3Y62Tftur

で、本当のところは?

 

 

63:名無しの転生者 ID:X1b4dDMEo

素直に吐けよ、楽になるぞ

 

 

64:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

>>62

多分あと一回ダークフィールド内に入れられるかメタフィールド展開したら全面的にキツいしやばい。

肉体ダメージが残ってるのもあるが、疲労面が全然回復しないな。体力とはまた違った感じで、肉体の回復も遅くなってるっぽい。

そもそもメタフィールドをあと一回貼れるかどうか……ただ一ヶ月か二ヶ月、それほどあれば回復すると思う

 

 

65:名無しの転生者 ID:tdIC6lYfq

HP(怪我)はある程度回復してるけどSP(疲れ)は回復してないみたいなもんか。ただMP(エネルギー)の問題上回復も落ちてると

 

 

66:名無しの転生者 ID:5KDrEFERh

>>64

後半姫矢さんみたいな感じか…

 

 

67:名無しの転生者 ID:asLQdTbly

ワンチャン次がラストかもしれんな…ジュネッスになれるのは

 

 

68:名無しの転生者 ID:VJALgADyR

融合型が居る中、ジュネッスになれないのはきちぃぞ

 

 

69:名無しの転生者 ID:bVqrBHa/L

どちらにせよ、長く休む暇がないからな…長くて一週間二週間とかそれレベルだからウルトラマンとして戦うには回復が追いつかないんだろう。特にイッチは毎回ボロボロのギリギリ勝利だし、流石にストーンフリューゲルじゃ無理だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第 21 話 

 

-勇気のおまじない-グッド・ラック・チャーム 

 

前編

 

刺激

ライム

 

 

 

 

 

 

勇者部の部室にて、春の勇者部活動と書かれた記事を神妙な目で見つめる友奈。

彼女は悩ましげに記事を見ていた。

 

「うーーー…ん……この写真は…ここで!」

 

そして勢いよく持っていた写真を記事の空いているスペースに叩きつける。

どうやら写真を何処に貼るのか悩んでいたらしい。

 

「うーん、バッチリだ!」

 

そんなふうに納得したように腕を組みながら頷く友奈を紡絆は東郷の隣で見て苦笑すると、パソコンの方へ画面を移す。

 

「お、まだこんな時間なのにこんだけアクセス数増えてるのか。すごいなぁ」

 

かつて居た世界人口70億と比べると、万単位なんて少ない。

だがこの世界は人口は億も行っておらず、その中で万単位のアクセス数は凄いだろう。

それほど勇者部が知られていることの証明でもあり、彼らの活動が無駄ではなかったと実感することも出来る。

 

「みんなのお陰よ。あとは子猫の写真と学校の連絡先を載せて…」

 

「もちろん東郷もな。っと完成か、流石」

 

ホームページの更新を見ていた紡絆は手際よく完成した東郷の腕と出来栄えに感心したように見ていた。

ちなみにいつも通り牛鬼は紡絆の頭の上で寝転んでいる。

 

「あ〜……ん、もうっ! ストーリーが思いつかん!」

 

一方で演劇ということが確定したため、一番と言っても過言ではないほどに必要なストーリー、つまりは脚本を書いている風は行き詰まっているようだ。

第一話なのにラスボスが登場するようなサブタイトルなのだから言わなくても分かるだろうが。

 

「あー…あんた何食べてんの?」

 

そんな風が目をつけたのは、夏凜だった。

ドアに背中を預けながら一つ一つ袋から取り出して食べている。

食べてるだけなのに様になってるのは、流石というべきなのかもしれない。

 

「何って…煮干」

 

「学校で煮干を貪り食う女子中学生なんて夏凜ぐらいね」

 

「健康に良いのよ」

 

ブラックサンダー(黒い稲妻)も美味いぞ。俺が食べようとしたら食われるけど」

 

確かに煮干には様々な栄養が取れるようにされているが、紡絆が言ったことは普通に考えて健康に良くない。

というか、一応怪我人なのに何故お菓子を食べようとしているのか……。

 

「なんか兄さんが餌付けしているみたい」

 

「俺は困ってるんだけど」

 

そう言いつつ、袋から取り出したブラックサンダーを食べようとして、牛鬼にかっさらわれる紡絆。

負けじと次々と開ける紡絆だが、牛鬼も対抗する---まさに乱世。

ここにブラックサンダーを賭けた戦いが始まっていた!

 

「なんかやってる紡絆は放っておいて、それなら夏凜のことはにぼっしーって呼ぶ」

 

「ゆるキャラに居そうな名前付けるな!」

 

「くっ、この……! あ、じゃあかりりん!」

 

「懐かしい呼び名もダメに決まってるでしょ!」

 

一応聞こえてはいるのか、牛鬼と可愛らしい戦いを繰り広げながら懐かしい記憶を持ってきたが、ダメと言われてしまった。

 

「あ、そういえばにぼっしーちゃん」

 

「待って、その名前定着させる気?」

 

どうやら友奈は風が呼んだ方を選んだらしく、その名で呼んだのだが定着させられかけてることに若干の危機感を覚える夏凜だった。

 

「それより飼い主探しのポスターは?」

 

「そんなのもう作ってあるわ」

 

「わーありがとう!」

 

「流石三好さんですね」

 

未だに戦いを繰り広げている紡絆と樹以外が夏凜が作ったらしいポスターを覗く。

文もしっかり書かれており、得意げな表情から自信満々なのだろう。

問題は猫の絵なのだが---

 

「なにこれ……」

 

「えっと……妖怪?」

 

「えー……と。ど、独特な絵ですね?」

 

「ね、猫なんだけど!?」

 

苦笑気味な風と東郷、小都音だが、猫というには言われてみたら分かる。

特徴は捉えてる、といった感じの絵でしかなく、初見で猫かと当てるのは中々に難しかった。

 

「夏凛は絵が下手なんだなぁ」

 

「な、なによ。じゃあ、あんたが描いて見なさいよ!」

 

「落書き程度のならいいぞ、ほら」

 

予め描いていたのか、争うのをやめた紡絆はページを開いてからノートを差し出した。

ちなみに明らかに授業用のノートである。

 

「え……」

 

「猫だ! かわいい〜!」

 

「猫ね」

 

「完敗だわこれ」

 

「ふふん」

 

「や、なんで俺じゃなくて小都音が得意げなんだ?」

 

絵を見た瞬間絶句する夏凛だが、紡絆のはよくアニメで居そうな可愛いらしい白猫だった。

しかも夏凜とは違ってちゃんと猫として認識されている。

そもそもゆるキャラとはいえ、ウルトラマンを書けるやつが下手くそなはずがない。

といっても、プロは目指せるわけでもなくそこら辺にいる多少は絵を描ける程度だが。

 

「………はぁ」

 

そんな時、ふと聞こえてきたため息。

騒いでたのが嘘のように静かになり、みんなの視線がため息を吐かれた方へ向けられると、なんと樹だった。

そんな樹の目の前にはタロットカードが並べられており、占いを全く分かっていない勇者部の人たちにはわからない。

 

「樹?」

 

「え? な、なに…?」

 

「どうしたの、ため息なんかついちゃって」

 

姉である風が心配といった様子で聞く。

急に自身の家族がため息なんか吐くと、誰だって家族なら心配してしまうだろう。

 

「あ、もしかして歌のテスト?」

 

「テスト? 去年そんなんあったっけ」

 

「今日音楽のテストに向けて練習があったの。樹ちゃんお世辞にも上手く歌えてなかったらそれかな、と」

 

「そうなの、樹?」

 

「あ、うん……それで本番でうまく歌えるか占ってたんだけど…」

 

同じクラスの小都音は思い立ったようで、それは当たっていたようだ。

その確認のために聞いてきた風に顔を向けながら、暗い面持ちで話す樹は言葉を区切り、視線をタロットカードに移す。

それに釣られるように全員がタロットカードを見た。

 

「……死神の正位置。意味は破滅、終局……」

 

「不穏でしかないな」

 

「まぁ、ほら占いって当たるも八卦、当たらぬも八卦って言うしきっと大丈夫よ」

 

「こういうのってまた占えば全く違った結果が出るもんだよ!」

 

風と友奈の励ましを受け、樹はもう一度占う。

全員が注目する中、めくられたカードに描かれていたものは無情にも死神の絵。

めげずに再チャレンジすると、死神。三度目の正直ということでリベンジでもう一度占うが、残念ながらことわざには二度あることは三度あるという言葉もある。

そう、無常にも死神の絵であり、全く嬉しくもない死神のフォーカードが完成した。

 

「だ、大丈夫だよ! 死神のフォーカードだからこれはいい役だよ!」

 

「さ、流石に死神のフォーカードはどうかと…樹ちゃんの占いは当たりますし」

 

「ポーカーならフォーカードは強かっただろうけど、タロット占いで考えるとダメな役だな」

 

全員がまさかの展開に唖然としていると、友奈が励まそうとする。

しかし小都音と紡絆は流石に無理があると思ったようだ。

事実死神のフォーカードで樹は落ち込み、それを見兼ねた風は黒板の前に立つと黒板に“今日の勇者部の活動、樹を歌のテストで合格させる”と書き記す。

勇者部は困っている人を助ける部活、それは部員も例外ではないのだ。

 

「歌が上手くなる方法かぁ…」

 

「まずは歌声でアルファ波を出せるようになれば勝ったも同然ね。良い歌や音楽というモノは大抵、アルファ波で説明がつくのよ」

 

「アルファ波…そうなんですか!」

 

「マジかよ、アルファ波すげー!」

 

「んなわけないでしょ!」

 

自分のことだからか冷静に考えられない樹はともかく、純粋が故に騙される…というかただ間抜けな紡絆はどうなのだろうか。

そんな紡絆は置いておいて、間髪入れず東郷のシュールなボケにツッコミをかます夏凜。

 

「樹は一人で歌うと上手いんだけどね。人前で歌うのは緊張するってだけじゃないかな?」

 

「確かに、樹ちゃん歌上手いからな」

 

「あれ、兄さんはなんで知ってるの?」

 

家族である風は樹が歌っているところを聴いていても不思議ではない。

しかし普段会わない紡絆が知ってるのは友奈や東郷がこのことをしらないということからおかしいわけで、小都音の疑問は当然だ。

 

「え? あー、えー…と。ほら、なんか樹ちゃんの声っていいじゃん。だから上手そうだなーと思ってさ」

 

「……ふーん」

 

何故か言葉を濁し、誤魔化す紡絆だが、下手くそ過ぎる嘘のつき方に小都音は怪しむ。

が、言いたくないと察したようで一つ息を吐いた。

 

「でも人前で歌うことが緊張するなら、習うより慣れろだよね!」

 

思いついたようにポンと握り拳を手のひらに着いて、友奈がそう言った。

その言葉で理解したようで、今日の活動を終了してぱぱっと外出の準備をする勇者部だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イエーーーー! 聞いてくれてありがとー!」

 

なんだかんだ妹のためとはいえ、自分も息抜きがしたかったのか、真っ先に曲を入れた風が歌い終える。

そう、ここはカラオケボックス。習うより慣れろの言葉通り、少数で親しいものしかいないが人前で他人の目を気にせずに歌うことが出来る場所。

樹は曲を聴きながらタブレット操作していて、東郷はマラカスで盛り上げ、友奈はプラスチック製のモンキータンバリンを振り、夏凜は飲み物を飲んで、紡絆はぼうっとしながら頭の上で暴食の限りを尽くす牛鬼に食べかすを落とされている。その後処理を小都音がしていた。

しかし真っ先に風がやったとはいえ、この盛り上げ方などは場を暖めるには必要な娯楽施設らしい楽しみ方であり、盛り上がる。

なにより暗い雰囲気より楽しそうな方が樹も歌いやすいはず。

 

「ねえねえ夏凜ちゃん、この歌知ってる?」

「……一応知ってるけど」

「じゃあ一緒に歌おう!」

「な、なんで私が? 別に楽しむためにここに来たんじゃないんだから」

「そうよね~? あたしの後に歌ったんじゃ……ゴ・メ・ン・ネ~♪」

 

ニヤニヤした顔で指差したモニターの画面には先程の風の歌について92点という好記録で評価コメントも良いことしか書かれていない。これをわざわざ夏凜に見せ付けたということは明らかな挑発なのだが、外野から見ててもウザイだろうな、と紡絆は点数に感心しながら思っていた。

 

「……友奈、マイクを寄越しなさい」

「へ?」

「早く!!」

「はっ、ハイィ!」

 

しかし夏凜はそんな簡単な挑発に乗り、友奈と二人でポップな歌をデュエットで歌うことになった。

歌っている姿は挑発されて参加した割には楽しそうで、きっと楽しいのだろう。

 

「夏凜ちゃん上手じゃん…!」

 

「フッ、これくらい当然よ」

 

スピード感ある曲だったからか、友奈と夏凜は疲労したようで息を整えていた。

点数を見て見ると、風と同じく92点。

 

「あ、次は樹ちゃんね。行ける? 無理なら先兄さんに歌わせる?」

 

「う、ううん大丈夫!」

 

緊張している様子の樹を察して小都音が心配して気遣うが、樹は大丈夫だと言いながらマイクを持って立つ。

しかし端から見てもだいぶ緊張しているのが伝わってくるほどで、樹はそのまま様子で曲のイントロが流れると、歌詞の通りに歌い出した。

綺麗な歌声ではある。けれどもその声はかなり上擦ったり噛んだり音程を大きく外したりで、全然活かしきれていなかった。

やはり人前だと緊張でまともに歌えなくなってしまうみたいで、その歌の間は失敗ばかりで終わってしまった。

 

「………はぁ…」

「やっぱり堅いかな」

「誰かに見られてると思ったらそれだけで…」

「重症ね…」

 

親しい人達の前ですら緊張してしまう以上、クラス全員が見てる状況で歌うのはもっと難しいはず。

これより大人数が見るのだから。

 

「あ、私の曲」

 

そんな反省会をしていると東郷が歌う曲のイントロが流れ始めるや否や小都音と夏凜、何故か静かな紡絆を除く三人がキリッとした表情で立ち上がり、ビシッと敬礼をする。

夏凜は突然の行動に驚き、小都音は目をぱちぱちとさせていた。

しかし誰も答えることなく東郷が古今無双を歌い始める。そして歌が終わるまで、誰1人体勢を崩すことはなかった。

 

「え、えっと……何? さっきのって一体……」

 

「東郷さんが歌う時はいつもこうだよ? 私達」

 

「そ、そうなの……」

 

「あはは…東郷さんらしい曲でした」

 

困惑が見えるが、夏凜だけじゃない。

普通に誰が見ても困惑するし驚くだろう。疑問よりすぐに褒める言葉を言えた小都音の適応力が高いだけなのかもしれない。

 

「さて、次は俺だな。話は戻るけどさ、大丈夫だって樹ちゃん」

 

「紡絆先輩…?」

 

「ほら手本見せてやる。あんまり歌いたくはなかったんだけど」

 

珍しく静かだった紡絆が話を戻し、何処から来るのか自信満々に言い放つと樹を一度撫でてから立ち上がる。

マイクを手に取り、紡絆が後頭部を掻くとみんなの方へ向く。

それと同時にイントロが流れた。

手本を見せる、そう言った紡絆に期待が集まる中、曲の始まり同タイミングで紡絆は歌い始め---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な?」

 

曲が終わると、反応はそれぞれだった。

意外そうに見つめる者。困惑する者。戸惑う者。驚く者。呆気に取られる者。ニコニコとした笑顔を浮かべる者。

表示された点数は、まさかの7()5()()

カラオケでの最低点数は68点であり、それ未満は表示されることはない。

 

「え、ええと…」

「その、良いと思うわよ……?」

「べ、別に点数なんて気にするものじゃないしね!」

「わ、私も全然ダメでしたから!」

「なんというか……あんた下手くそだったのね」

「ちょ…バカ! いくら紡絆でも傷つく---」

 

必死にフォローする勇者部の面々だが、それは返って紡絆を傷つけることに思い当たらないのだろうか。

まぁ、当の本人はあははーと気にせずに笑ってるのだが。

 

 

205:名無しの転生者 ID:eaowsj8D6

イッチ…それはないよさすがに。カラオケやめたら?

 

 

206:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

無茶言うな。こっちとら記憶喪失な上に俺の生きていた頃の西暦の曲が無さすぎて歌える曲がないんだよ…!

 

 

207:名無しの転生者 ID:lYGEuwbKG

あー、確かに歌詞分かってなさげだったな

 

 

208:名無しの転生者 ID:AEGsz3ClV

むしろ何あったら歌えたんだよ

 

 

209:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

赤いスイート〇とか?

つーかいいんだよ! 今回は上手く歌うことが目的じゃないんだから!

 

 

210:名無しの転生者 ID:zGY77cfO/

有名だけどもう古くて草

 

 

211:名無しの転生者 ID:lBZRTOfn5

ん? どゆこと?

 

 

212:名無しの転生者 ID:m+a8pbz2l

そういえば昭和や平成の曲は消えてるのか…? アニソンも俺らが知ってる曲ないならきついなぁその世界からしたら遥か昔だもんな

 

 

 

 

「まぁ、下手くそなのは分かってたから歌う気はなかったんだけど俺が言いたいのはさ、別に緊張してもいい。恥ずかしがってもいい。

ただ歌うことに夢中になればいいんじゃないかって思うんだ。

歌うことに緊張する人なんて、人前で緊張する人なんて世界には大勢いるからな」

 

例えば新人アイドル。

初めてテレビに出て、初めて歌って、その前に絶対に緊張するはずだ。

人によっては歌っていても緊張する人だって。

初めから何もかも出来る訳では無い。けれど、ひとつのことに夢中になれば、楽しむことが出来れば緊張は和らぐのではないか、と言いたいのだろうか。

 

「でも意外ね。紡絆くんは歌も全然平気そうだったのに」

 

「スポーツは行けるけど、歌とスポーツは違うからなぁ」

 

「兄さん、こう見えてダメなところ多いんですよ。そういう所も良いんですけどね、えへへ」

 

「確かに…前言ってた通りね」

 

兄自慢はともかく、確かに紡絆は歌は下手だった。練習すれば上手くなれるとは思うが、彼は何でも出来る人間ではなく、才能があるわけでもない。

それでも樹のために、自分の出来ることで伝えるために歌ったのだろう。本音は間違いなく歌いたくなかったろうに。

だから夏凜は以前小都音に言われたことに改めて納得していた。

まぁ、そもそも紡絆自身記憶喪失で、曲をまったく聴くことすらしてないのだから興味を持っていたら結果は違ったのかもしれない。

 

「結局は簡単に出来ることではないんだけどね。ゆっくりやっていこう。俺たちはいくらでも樹ちゃんを手伝うから」

 

「…はい!」

 

「うん」

 

樹の返事に微笑ましそうに頷いた紡絆は席に戻り、牛鬼がすぐに頭に乗る。

 

「そういえば小都音ちゃんまだ歌ってないよね。一緒に歌う?」

 

「どちらでもいいですよ。知ってる曲なら歌えますから」

 

「まぁ、小都音はテスト問題無さそうだしなー」

 

実際問題、樹とは違って小都音は相談しようともしてなかった。

それはつまり、人前で歌うことに抵抗がないのだろう。

そのように会話をしながら曲を入れてると、風はスマホをみてからお手洗いということで離席していった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆が居るであろう部屋から離れ、水を出しながら風は俯く。

そんな彼女の頭の中には、カラオケの最中に大赦から来た連絡が思い返されていた。

その時、目の前のドアが開くと誰かが入ってくる。思考の海に沈んでいた風は驚きで僅かにびくっと反応する。

 

「---大赦から連絡?」

 

腕を組みながら背中を壁に預けて聞いてくるのは、夏凜。

どうやら風の様子に気づいて追ってきたのだろう。

 

「私には何も言ってこないのにね……。ま、内容は大体想像つくわよ。バーテックスの出現には周期がある。でも今のヤツらの襲撃には当初の予測から大きく外れてるわ。これからの戦いに何が起きても不思議じゃないほどにね」

 

「……最悪の事態を、想定しろってさ」

 

大赦に居た夏凜だからこそ、メールの内容を予想することが出来る。

その答えとして風は来たメールの文をそのままに伝える。

 

最悪の事態。

簡単に思い付くのは、勇者の敗北かウルトラマンの敗北。ないしは世界が滅ぶこと。

とは言っても、今の連絡はそういう意味ではないだろう。

だとすれば残るバーテックスが全てやってくることなのか。スペースビーストの複数出現か。

 

「怖いの?」

 

「………」

 

夏凜にそう言われ、風は何も返さない。

ただ洗面台に置く手を力強く握るだけだ。

 

「あんたは統率役には向いてない。私ならもっと上手くやれるわ」

 

「…これはあたしの役目であたしの理由なのよ。後輩は黙って先輩の背中を見てなさい」

 

蛇口を閉めて、風はそれだけ呟くと手洗い場から出ていく。

それを見て、夏凜はそっぽ向いた。

不器用だが、先程の言葉は夏凜なりに心配した態度なのだろう。代わりにやる、という意味の込められた。

ただ、ただ一つ。それでも夏凜は思ったことがあった。

もしあいつ(紡絆)ならもっと上手くやれたのだろう、と。

そう考えたところで、随分毒されてきたらしいと首を振り、どちらにせよ自分には無理なことだと結論付けてため息を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~楽しかった!」

 

「歩いて帰るの、久しぶりね」

 

夕暮れの中を、勇者部の7人と一匹は川沿いを歩いていた。

久しぶりに皆で存分に歌った友奈は、上機嫌で東郷の車いすを押しており、紡絆は若干疲れた様子で牛鬼を抱えながら歩いている。

あの後も…というかあの後風と夏凜が帰ってくると、小都音がカラオケで100点を出したらしく、ただでさえ盛り上がっていたカラオケがより盛り上がったのだ。

ちなみに兄である紡絆は悲惨な結果しかなかったのは余談だ。

というか、勇者部の人たちが歌手のように上手すぎるだけで、樹ですらちゃんと歌えたらもっと点数は高いことは考えなくても分かる。

 

「でもカラオケはあんまり樹ちゃんの練習にはならなかったかもしれませんね。逆に私がプレッシャー与えちゃったかも……」

 

「た、楽しかったから大丈夫だよ。皆の歌が聞けてたし、小都音ちゃんのお陰で私、もっと頑張ろうって気になりましたし!」

 

「ならいいんだけど……」

 

まさかの満点を取ったの自分でも予想外だったようでプレッシャーを与えたのではと申しわけなさそうにする小都音に気にしてないと樹は伝える。

そう、あの後も一度出来なかったからと言って諦める訳にもいかず、数回チャレンジした樹だったが、結局大きな改善を得ることはできなかった。

しかし歌自体には変化はなかったものの、本人の意識を少しでも上向きにできたということは確かな成果と言えるだろう。

 

「うむ、精進するといい」

 

「それ、兄さんが言えることじゃないよ?」

 

「ふ…ほぼ曲知らんからな!」

 

何故か上から目線な紡絆だが、小都音に物申されるとドヤ顔で言ってのけた。

正直ドヤ顔する意味はないというか、使うタイミングが違うし全員からツッコミを入れられる紡絆。

そんな紡絆を主軸となった喧噪を聞きながら、風は集団の少し後方を黙って歩いていた。

頭に浮かぶのは大赦からのメッセージ。

カラオケの場では表面上は何とかいつも通り過ごせたものの、『最悪の事態』という言葉は依然風の心に重くのしかかっていた。

みんなを巻き込んだ自分。だからこそ、いざとなったら自分が---

 

「お姉ちゃん?」

 

「え? 何?」

 

そう考えたところで、呼ばれて返事する。

が、会話なんて聞いてなかったために何のことを話していたのかすら分からない。

 

「樹の歌の話よ」

 

「風先輩何かあったんですか?」

 

「相談なら乗るけど、抱え込んでも良くないですよ。吐きたいなら素直に吐いちゃってください」

 

事情を分かっている夏凜はともかく、友奈と紡絆は善意で何かあったのかと聞いている。

その姿は風に嬉しさを与えるのと同時に誤魔化さねばならないという罪悪感を与えていた。

 

「あ、あはは、なんでも。それと、そう言ってくれるのは嬉しいけど紡絆が言っても説得力皆無だから」

 

「え、酷い!」

 

例え彼らが優しさで聞いてくれても、風は答えることは出来ない。

なぜなら、巻き込んだのは彼女自身であり、彼女彼らの日常や平穏を奪っていいものではないのだから。

 

「でもそうねぇ…樹はもう少し練習と対策が必要かな」

 

「アルファ波を出せるように」

 

「いい加減アルファ波から離れなさいよ」

 

カラオケに居た時と同じ提案をする東郷に呆れたような夏凜のツッコミが入る。

そもそもアルファ波を出せるようにするにしても、期間以内に出来るのだろうか。

 

「あはは」

 

「あ、じゃあ目を閉じるとか?」

 

「覚えてる曲ならともかく知らない曲は無理かと」

 

本番のテストは毎日聴いてる曲でもない。

教科書を見ながら歌うために、目を閉じて出来たとしても歌えないだろう。

そもそも人前に立つと緊張するなら意味がないので、意味ないといえる。

結局思いつかないため、無理なことをいつまでも考えていても意味ないからか談笑に戻る。

それを見て風はほっと胸を撫で下ろしたが、樹と珍しく黙っている紡絆はその姿を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カラオケが行われた翌日。

勇者部の部室で、異質な存在感を放つものが机に置かれていた。

普段はお目にかかれないような大量の健康食品の数々。

ドラッグストアにでも行かない限り、これほどの量を見ることはそうそうないだろう。

 

「喉に良い食べものとサプリよ」

 

その数々の物を持ってきたのは、夏凜だった。

いやむしろ夏凜以外に持ってくるはずがないので絞るのは簡単なのだが、これを学校に持ってきたというのは色々な意味ですごい。

いくら樹のためとはいえ、うら若き中学生が持ってくるものでは無い。

 

「いい? マグネシウムやりんご酢は肺に良いから声が出しやすくなる。ビタミンは血行を良くして喉を健康に保つ。コエンザイムは喉の筋肉の活動を助け、オリーブオイルとハチミツも喉に良いの」

 

「詳しい……」

「つまりどういうこと?」

「最初に言ってた通り、喉を良くするものばかりってことだね」

「夏凜ちゃんは健康食品の女王だね!」

「夏凜はアレよね。健康のためなら死んでもいいって言いそうなタイプよね」

 

部員たちが五者五様の感想を漏らす中、健康食品の種類もそうだが、それらの効果等の説明を噛まずにスラスラと言える彼女の知識量も凄いだろう。

恐らく樹のために喉に効くものを探して選んだのだと思うと、彼女の優しさが健康食品の量から垣間見える。

 

「さ、樹。これを全種類飲んでみて。ホラ、グイっと」

 

「い、いや一個でも十分じゃないか? 知らんけどさ」

 

「そ、そうよ。全種類は多過ぎじゃ? 夏凜でも無理でしょ!? 流石の夏凜さんだって……ねぇ?」

 

残念ながら紡絆はサプリとかは使ったことがない人間なのでどんな効果があるかは分からないものの、嫌な予感がしたので後輩のために止めようとする。

それに賛同する風だが、わざとらしく両手で口元を隠しながら、夏凜の名前を強調して無理だ無理だと煽っていた。

そうなると---

 

「いいわよ……お手本を見せてあげるわ!」

 

「結城さん、扉開けておいてあげてください」

 

「はーい」

 

「やめた方がいいんじゃないかなぁ…」

 

「わ、私もそうした方が…」

 

「と言っても、止められないと思うわ」

 

当然、風の煽りにカチンときた夏凜は手本を見せると行動する。

その前にどうなるか察した小都音が近くにいた友奈にドアを開けるように言い、風を除く三人は苦笑気味だ。

しかし東郷の言葉通り止まるはずもなく、次の瞬間には夏凜はざらざらとサプリを次々に口に放り込み、その後に液体の健康食品で流し込んで行く。

これだけの量でも相当だと言うのに、りんご酢やハチミツはともかくオリーブオイルで流し込むということすらやってのけた。

そんなことをやってしまえばどうなるか、想像は全然難しくない。

案の定、顔を真っ青にした夏凜が口を抑えながら部室から全力で飛び出して行くのをみんなが見ていた。

 

「樹はビギナーだしサプリ飲むなら一つか二つにしましょう」

 

「はい」

 

「…無理しないようにな」

 

先程のことがなかったように笑顔で言う夏凜とこれから飲む樹に対して紡絆はそれだけ告げ、樹はサプリを飲んで歌う。

---が、その程度で解決するなら困ることもないわけで、結果はカラオケの時と同じだった。

 

「うーん、喉よりもリラックスの問題じゃない?」

 

「私もそう思うな。樹ちゃんは緊張してるように見えるから、それさえ解決出来れば問題ないと思うよ」

 

「次は緊張を和らげるサプリ持ってくるわ!」

 

「やっぱりサプリなんですか!?」

 

その姿を見ていた風と小都音は気がついたように言うと、夏凜は頷いて樹に向かいながらそんなことを告げた。

別の方法から離れることなくサプリということに樹がツッコミを入れるが、結局今日も解決することは無かった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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「-勇気のおまじない-グッド・ラック・チャーム」

お待たせしました。
やっぱ次回エグいほど長くなりそうです。多分まとめたら6万文字くらいかな…? わからんけど、一万文字で投稿したら6か7話くらいかかるレベルでは長くなりそうです。より時間かかるかと……許せ。
正直早く番外編書きたいんで頑張ってはいるんですよ。ゆゆゆ終わったら向こうも書いていきます。
ウル銀の完結、他のウルトラ戦士が何をしてるのか、何故イッチの元へ誰も行かないのか、とか色々とね…。番外編ってことは関わる訳ですしお寿司。
(IDめんど…違うだけで)掲示板は見てたり実は仲良くなってたりはするんですが。
何はともあれ、今回で樹ちゃん編…っていっていいのかなこれ。一応そうか、終わりです。
やりたかったシーンがようやく書けた…ッ!
そしていつもの如く感想くれたらやる気出て投稿早くなるかもしれないのでください。高評価でもええんやで…?(期待の眼差し)






◆◆◆

 

 第 22 話 

 

-勇気のおまじない-グッド・ラック・チャーム 

 

後編

 

オキザリス

輝く心

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「樹。樹、朝よ起きなさい。朝ごはん、準備しておくから着替えて顔洗ってきなさいよー」

 

聞きなれた優しい姉の声が、樹の意識を夢の世界から浮上させた。

薄く開いた目に映るのは、忙しそうに部屋を出ていく風の後ろ姿。

早く起きなきゃという理性の声に抵抗するようにもぞりと寝返りを打った先、カーテンの隙間から零れる朝の光が樹の頭にさらなる覚醒を促した。

それでも眠っていたいという悪魔の声に打ち負けて抵抗していたが遂に頭の中で過半数を占めた理性の声に背中を押されてベッドから起き上がった樹は、風が用意してくれた制服に袖を通す。

寝ぼけ眼のまま思い出すのは、先ほど夢で見ていた昔の出来事についてだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう二、三年前になるだろうか。

樹や風が小学生の頃、知らない大人たちが二人の家にやってきたことがあった。

家には両親はおらず、樹と風のみ。

当時幼く、今もだが人見知りな樹は見知らぬ大人に怯えてずっと風の背中に隠れていた。

だからかどのような会話が大人たちと風に繰り広げられていたかは分からないが、樹は後々姉である風から両親が亡くなったことを知らされた。

あまりにもの唐突で、あまりにもの呆気ない。

それから風は変わり始めた。

両親を亡くしてしまった今、年長者は自分だけ。

自分が頑張らないと行けないと母親代わりになるために料理も洗濯も掃除も家事全てを覚えていった。弱いところを見せないようにもなっていた。

そんな風を樹は姉であると同時に母親のようにも思っており、家族だからというのもあるが、優しい姉である風の背中が誰よりも安心出来る場所で、暖かくて、大好きだった。

それこそ、風が居ればなんだって出来ると思えるほどに。

しかし逆に自分一人では何も出来ないと無力感もあったのだ。

 

『---こんな大事なこと……ずっと黙っていたんですか……』

 

初めて東郷を除く勇者部が勇者になった時。

だいぶ前からウルトラマンとして戦っていたらしい紡絆が、初めて樹海で変身した時。

バーテックスの三体襲撃の前のことだ。

東郷が出ていく背中を風と樹は眺めることしか出来なくて、部室に残った。

 

『やっぱり怒るよね……』

 

東郷が部室から出ていった後、部室に残っていた樹は風の背中を見ていた。

哀愁が漂う背中。

風は樹のことだけじゃなくて、ずっと勇者部を作る前から一人で抱えて、お役目のことや騙していたことも抱えて、全部全部自分が背負おうとしているのだろう。

だからこそ、樹は思う。

自分が姉の後ろに隠れる自分ではなく、あの先輩(紡絆先輩)のような誰かの隣を一緒に歩める自分なら、と---

 

 

 

 

 

 

 

リビングに朝食が並び、樹は椅子に座りながら風に髪を梳かして貰った。

しかし寝起きに弱いのもあるだろうが、妙にいつもより暗い姿に風は座りながら優しげに問いかける。

 

「元気ないね。どした?」

 

「あのねお姉ちゃん……」

 

「ん?」

 

「………ありがとう」

 

何を言われるかと思えば、樹の口から出てきたのは感謝の言葉。

何の脈略もない突拍子すぎることに流石に風も分からない。

 

「何、急ね?」

 

「……何となく、言いたくなったの。

この家の事とか、勇者部の事とか、お姉ちゃんにばかり大変なことさせて」

 

「そんな……私なりに理由があるからね」

 

「理由って…?」

 

今更過ぎるし、そんなことは気にしてない風は思わず口を滑らせてしまい、理由を聞かれて一瞬言葉に詰まる。

何故か勘で当ててきた紡絆はともかく、風は樹も入れて誰にも勇者部を作った目的も戦う目的も言ったことはない。

ただの自己満足で、ただの自分勝手な理由だと思っているからだ。

 

「ま、まぁ簡単に言えば、世界の平和を守るため、かな? だって勇者だしね!」

 

言葉に詰まったのは一瞬で、すぐさま風は思いついた言葉を述べる。

油断して、ボロが出そうになってしまった風は気を引き締め直し、樹に視線を送れば彼女はまだ暗い雰囲気だ。

 

「でも…」

「なんだっていいよ! どんな理由でもそれを頑張れるならさ」

「どんな、理由でも…」

「はい、シリアスはここまで! ほら、冷めないうちに食べて? 学校行くよ」

 

なにか言いたそうな樹の言葉を遮り、この話を切る。

このまま話してると、さっきみたいにまたボロが出るかもしれない。

それに学校に行かないと行けないのは事実で、このまま駄弁ってたら遅刻してしまう。

それを理解してるのか樹も特に怪しむことも何かを言うことも無く、風は話を終わらせると自分も朝食を食べるのだった。

しかし机の下のせいで見えないが、太ももに置いた両手で握り拳をつくる樹に気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間は過ぎて勇者部の部活。

今回はまたしても、猫の飼い主探し…というよりかは三人貰い手が見つかったため、飼い主の方から猫を預かる役目だ。

別れて決行するということで、適当に配分という名の気を使い、家族水入らずということでAグループ、風と樹、Bグループ、紡絆と小都音、残るCグループが友奈と東郷、夏凜といった3グループに別れて行動となっていた。

 

「……ここどこ!?」

 

「あっちね」

 

「わ、分かってたわよ。まだこの辺りの地理に慣れてないだけよ?」

 

こちらCグループ。

まだ来たばかりで道が分からない夏凜はスマホを見せながら聞くと、東郷が方角を指差しながら教える。

すると夏凜は言い訳のように言葉を述べた。

 

「東郷さん。夏凜ちゃん。あのね、ちょっと協力して欲しいことがあるんだ」

 

その時、東郷の車椅子を止めて、友奈はノートとペンを持ちながらそう言った。

突然のことに二人は思わず顔を見合わせるが、その後の説明で納得が言ったように喜んで承諾する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって、Aグループ。

つまり風と樹のグループだが、二人は既に飼い主の家に着いていた。

 

「ここね」

 

しっかりと表札を見て合っているか確認すると、風はインターホンを鳴らす。

ピンポーンとは鳴らず、ブザーのような音が鳴るタイプの家のようだ。

 

「すいませーん。讃州中学勇者部でーす! 子猫を引き取りに来ましたー!」

 

家に居るであろう人たちに声を投げかけると、風は引き戸を横にスライドして開ける。

 

「絶対ヤダ! この子を誰かにあげるなんて。私が飼うから!」

 

「でもね…うちでは飼えないのよ」

 

少し開いたドアから聞こえてきたのは、駄々こねる子供の泣き声。

母親も困った様子で、どうしたものかといった様子。

それを見ていた風と樹も想定外だったようで、戸惑っていた。

 

「もしかして子猫を連れて行くの嫌だったのかな……」

「あっちゃ〜…もっとよく確認しておけばよかった…」

「どうしよう…この家の子、泣いてるみたい…」

「……大丈夫。お姉ちゃんが何とかする」

「何とかって……っ」

 

樹が不安そうに、でもどうしたらいいか分からないといった様子でいると風は決心したように何とかすると言った。

だが何とかするといっても、外部である風と樹が何かを言っても中々に難しい話であり、具体的な解決法でもあるだろうか。

それは樹には分からないし、仮に思いついていたとしても行動出来る自信はない。

 

「失礼します。讃州中学生勇者部ですけど---」

 

しかし風はそう言いながら家へと入っていき、樹はただその背中を見ていることしか出来なかった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から述べると、全て丸く収まった。

風の説得で母親は考え直してくれて、特に風と樹たちと親子が喧嘩することも無く子供も泣くのをやめて、説得は無事終了した。

もちろん受取先へと連絡して了承を貰っている。

そのため猫を受け取らないまま、風と樹は帰り道を歩いていた。

 

「---あの家のお母さん。子猫のこと考え直してくれてよかったね!」

 

「……うん」

 

「私たちとケンカにもならなかったし、お姉ちゃんのお陰だよ」

 

上機嫌に歩く樹と、表情が暗い風。

まるで朝と正反対の様子だった。

そんな風が思い出すのはさっきの女の子。あの子を見てからずっと、一つの思いが頭の中から離れない。

樹の後ろを黙ってついてきていた風だったが、しばらくしてとうとうその足が止まった。

そして気づけば、その複雑な心の内が一つの言葉となって口から漏れ出す。

 

「……ごめんね、樹」

 

「…なんで謝るの?」

 

唐突な謝罪に樹も足を止め、振り返って問う。

樹からすれば、風に謝られることはないし、そもそもさっきの依頼だって風のおかげで無事に上手くいったようなもの。

家のこともだが、自分が謝ることはあれども謝られる筋合いはないと樹は思っている。

 

「それは…あの子を見ていて思ったの。大赦に樹を勇者部に入れるように言われたとき、私ももっと本気で反対すればよかったって。あの子みたいに泣いてでも…そうすれば樹は勇者にならないで普通に---」

 

「それは違うよ、お姉ちゃん」

 

その思いは、きっと風が抱え込む思いのひとつに過ぎないのだろう。しかし家族を巻き込んだというのは、風のような他人を巻き込むだけでも罪悪感を抱く人間にはより心にのしかかるはず。

そんな風の言葉を遮る、確かな力強い声。

俯いていた風がはじかれたように顔を上げて見上げた先に目に映ったのは、いつもの控えめな様子からは想像もできないほど強い光を湛えた樹の瞳。

後悔に歪む風の顔を真正面から捉えながら、樹は自分の思いを言葉として紡ぎだす。

 

「私ね、お姉ちゃんがちょっと羨ましかったんだ。覚えてる?

お姉ちゃんが勇者部を作ってしばらく経ったとき、お姉ちゃんすごく楽しそうだった」

 

「それは……」

 

確かに、その記憶はあった。

うちには誰よりも問題児が居て、誰よりも誰かに寄り添う自己犠牲のバカがいる。

風は樹に何度も勇者部のことを話したし、何度も話したことがあった。

樹にはその時の記憶が深く深く残っている。

 

『ねぇ、聞いて樹〜。部活に紡絆って男の子が居てね。そいつ困ったことで、はっきり言ってバカだし問題児なんだけど今日は依頼主のところでちょっとしたトラブルがあったのよ……。でもさ、なんだかんだで丸く収まったの。なんというか、普段からは考えられなくってさ、不思議なやつで面白いかも』

 

『今日さ、この寒い時期だというのに、小さい子が泣いてるからって迷いなく川にダイブして泳いで行ったのよ。なんでそんなことしたーって言っても、泣いてる姿より笑顔の方がよくないですか、だって。しかも寒さで震えてる子供を温めるために自分の服を被せてたのよ? 自分はびしょ濡れでもっと寒いくせに。

理由じゃなくてそうした行動を聞いてるのにおかしいもんよね、まったく…』

 

『今日も紡絆が騒がしくってさー。ほんと、トラブルが多くて運が良いのか悪いのか微妙なところね。巻き込まれるこっちも、毎日忙しいわ』

 

困ったように、疲れたように、それでも楽しそうに色々と話す風に樹は当然、その人物について興味を持っていった。

帰ってくる度に、愚痴のように聞かされてきた。

だからなのだろう。当時の樹はその人物に会ってみたいという好奇心に駆られていたのだ。

 

「だから今は嬉しいの。お姉ちゃんが勇者部に誘ってくれて、友奈さんや東郷さん、夏凜さんに小都音ちゃん。なにより紡絆先輩に出会えて、みんな私のような子でも受け入れてくれて……毎日が楽しくて、かけがえのない日だなって」

 

「樹…」

 

本当に、嘘偽りない言葉なのだろう。

風から見る樹の表情は、とても嬉しそうで見た者は微笑してしまいたくなるような笑顔だ。

 

「それに、前の私は守られるだけだったけど、勇者になってからはお姉ちゃんやみんなと一緒に戦えることも出来るようになったもん。

だから私、後悔してないよ。私はお姉ちゃんにずっと感謝してるから」

 

そう語る樹は、とても大きく風の目には映った。

いつも自分の後ろに隠れていて、守らなければならない可愛い妹ではなく、共に歩もうとする強い志を持ち、一緒に戦ってくれる心強い(仲間)のように。

その姿を見て、罪悪感から暗く曇っていた風の心にはもう、晴れ間が差し込んでいる。

 

「…ありがと」

 

「どういたしまして!」

 

「樹ったらなんか偉そう!」

 

いつもの調子に戻った風と樹は笑い合い、さっきまであった暗い空気は何処かへと消え去っていた。

 

「さーてと部室に戻ったら樹は歌の練習ね」

 

「あう、そうだった…がっ、がんばる…!」

 

ちょっとした蟠りもなくなり、彼女たちらしい空気感を纏いながら、二人は夕陽に照らされる道を歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして忘れられているかもしれないBグループなのだが、まぁコミュ力高いし知名度も高い紡絆が居れば大体のことは解決するので、それから予想出来るとおり---

 

「……なんかあっさり」

 

「俺こんなもんだぞ」

 

飼い主に猫を貰うどころか、既に貰い主に渡すところまで終了していた。

というか、本当に知名度が高いせいか感謝されたりぐいぐいとお茶でもと誘って来られ、お人好しの紡絆に断ることが出来ずに暫しお世話になっていた---で、今に至る。

 

「お兄ちゃん、もしかして四国中に知られてる…?」

 

「あはは、まさかー。だとしたら有名人だな」

 

「はぁ…お兄ちゃんならやりかねないよ…」

 

茶化してるわけではなく真面目に言ったのだが、紡絆は冗談のように受け取っているらしい。

一応言っておくと、この時間まで時間かかったのは飼い主の方でお茶を出されたために断ると失礼に当たるためにお話をしていつものように子供と遊び、貰い主の方でも娘がお世話になってるとお茶でも飲んで行ってと言われて子供と遊び---って感じである。

男女関係なく隔たりなく接することが出来る紡絆は、子供の男女にも人気なようだ。

 

「けど小都音が居てくれて助かった。俺、詳しいことはわかんないからな」

 

「お兄ちゃんの傍には私が居ないとね」

 

「ん、そだな」

 

難しい話をされると、紡絆はあまり分からない。

残念ながら知能は妹の小都音の方が上らしく、紡絆は小都音の言葉に肯定を示す。

まぁ、誰か世話を焼く人間が居なければ紡絆は自分に興味が薄すぎるせいで適当に生きるだろうから、間違ってはない。

 

「……ねぇ、お兄ちゃん」

 

「んー?」

 

いつの間に行動していたのか、腕元に子犬を抱えた紡絆は首を傾げる。

その子犬には首輪が着いており、どうやらリードを離してしまったのだろう。

それにしても小都音と話していたはずの紡絆はいつ気づいて捕まえていたのか。

 

『くぅ〜ん』

 

「あ、ちょ。今お話中だから! やめてくれ…!」

 

懐いたのかぺろぺろと紡絆の頬を舐める子犬に対して、紡絆は落とさないように抱え込むしかなく、されるがままだ。

その姿を見た小都音は目をぱちくりさせると、苦笑に近い笑みを浮かべた。

 

「で、なんだ?」

 

「……ううん、その子の飼い主、探してあげよっか」

 

「そうしたいのは山々なんだが……!」

 

舐めるのをやめたかと思えば、今度は体全体で顔にのしかかり、紡絆は前が見えない。

流石に困る紡絆は引き離すが、今度は子犬がよじ登って紡絆の頭の上に座る。

 

「………なんで?」

 

牛鬼といい、子犬といい、何故の頭の上に乗るのか。

もはや頭の上に乗られることに慣れすぎて体幹が強くなったのか全く揺れずに歩ける紡絆だった。

しかし乗る理由が到底理解が出来ずに困惑する。

 

「子犬にも好かれるなんて、流石お兄ちゃん」

 

「いや何もしてないんだけどな」

 

「動物はほら、人間とは見てる世界は違う、だったり感覚が鋭いとか言われてるでしょ。お兄ちゃんの本質を見極めれてるから懐くんじゃない? だってお兄ちゃんはお人好しで優しくて、誰にも甘いんだから」

 

実際に捕まえただけであって懐かれるようなことはしてないのだが、やはり感覚で良い人だと判断したのだろうか。

それは犬にしか分からぬが、小都音が評価したことは間違いなく継受紡絆という人物を知っている者だと、肯定する評価だ。

 

「はぁ、俺はそんな人間じゃないと思うけどなぁ」

 

どの口が言うのか。

今までの行動を振り返って欲しい。命を懸けてでも誰かを救おうとするやつなんて、自己犠牲のお人好しな甘いバカだけだ。

敵相手にすら、『止める』というのだから。

 

「自分を客観的に見ることなんて難しいもん。お兄ちゃんには絶対わかんないと思うな」

 

「あれ、なんか辛辣じゃない?」

 

「記憶喪失の人間が何言ってるの?」

 

「畜生、否定出来ない!」

 

まだ友奈たちなら紡絆も言い返すことは出来たものの、家族であり、継受紡絆という人間を紡絆以上に知っている小都音には何も言い返せない。

 

『ワン!』

 

「うおっ…よっと」

 

そんなふうに話しながら探していると、子犬が鳴き声を発し、降りたそうにしていることを察した紡絆は頭の上に手を伸ばして優しく降ろす。

すると子犬はすぐに駆けていき、まだ小学生くらいの小さい女の子に飛びついていた。

女の子も子犬を抱きしめて、瞳に涙を貯めているが、それは喜びのはずだ。

実際、無事でよかったと言っているのが聴力が強化されている紡絆にだけは聞こえたのだから。

 

「……行くか」

 

「……うん」

 

くしゃっと笑みを浮かべた紡絆は、見つかる前に遠回りの道を選んで歩いていき、小都音はその後ろを歩く。

誰も賞賛が欲しいわけでもなく、見返りが欲しい訳でもない。

だからわざわざ話しかけることもせず、離れたのだろう。

 

「おっとと…」

 

本当にただしたいからやっただけなのだと分かる兄の背中を小都音は後ろから見てると、紡絆が突如体勢を崩したのが見える。

何かに躓いたのか分からないが、転けたら大変なので小都音は慌てて後ろから抱きしめた。

 

「だ、大丈夫?」

 

「おう、ありがとうな」

 

思っていたよりも平気だったようで、転けることはなかった。

そのことに小都音は安堵の息を吐くが、気が抜けない。

 

「お兄ちゃん怪我人なんだから足元には気をつけてね」

 

「ごめんごめん」

 

もう大丈夫と判断したようで、僅かに名残惜しそうに小都音は紡絆を離すと、紡絆はポケットから響く通知音に反応してスマホを取り出す。

 

「お、みんな終わったみたいだ。こっちも終わってる…っと」

 

どうやら通知音の正体は勇者部のグループらしく、メッセージでどの班も完了したことを確認した紡絆は返信だけしておくとスマホを収納した。

 

「俺らも帰るか」

 

「うん。でも…お兄ちゃん、実は無理してない?」

 

「してないしてない」

 

転けそうになったことを怪しんでいるのかそう聞いてくる小都音に、紡絆は笑顔で答える。

じーっと見つめて来られても、苦笑を浮かべるだけ。

それを見て、小都音は息を吐いた。

 

「ほら、それより早く戻んないと」

 

「そうだね」

 

割と遠回りしているため、そう言った紡絆が歩き出すと隣に並んだ小都音も一緒に歩んでいく。

自然と小都音から繋がれる手。それを気にすることも無く、紡絆は学校に戻る道を辿っていた。

 

「そういえばお兄ちゃん」

 

「んん?」

 

「樹ちゃんの歌の件なんだけど……何かないの? 私はお兄ちゃんが居れば何でも出来る自信あるけど、参考にならないし」

 

学校への道を歩く中、小都音が帰ってもやるであろう樹の歌の件について話題に出す。

友人に対して何かしてやりたいとは思ってはいるのだろうが、確かにそれなら参考にはならない。

樹が抱く思いと小都音が抱いてる思いは違うし、樹は姉で小都音は兄。

その姉と兄も性格は全然違う。

家族にはそれぞれの形というものがあるのだから

 

「歌は専門外だからな…。だから俺は俺に出来ることをするだけだよ」

 

「そっか、なら樹ちゃんの件はきっと大丈夫だね!」

 

紡絆の言葉を聞いて、前に躍り出た小都音は両手を背中で組んで振り向きながら安心したように笑顔を向ける。

全幅の信頼を向けてそう言ったのは、紡絆がいつも誰かを助けて、誰かを救ってきたからだろう。

嘘をつけない紡絆が無理と答えたら無理だろうが、真面目に答えてやれることをやると言ったのだ。

それを理解してるのか思わず立ち止まった紡絆は目をぱちぱちと瞬きし、口元にフッとした笑みを浮かべた。

 

「まったく…お前はほんと賢くて可愛い上に出来た妹だな」

 

「えへへぇ。お兄ちゃんに可愛いって褒められちゃった…っ。結婚する?」

 

「…………」

 

アホ毛をハートマークにして、キラキラと目を輝かせる小都音に、紡絆は何も言わずに前言撤回するべきだろうか、と考えていた。

 

「……ま、いっか。何はともあれ、樹ちゃんに会わないとな。時間もないし行動に移せるのは今日か明日だけだ」

 

「うんっ。私の友達をお願いね、お兄ちゃん」

 

「おう」

 

相変わらず腕に抱きついて絡めてくる小都音の頭の上にあるアホ毛がハートマークを作っているのだが、そこから意識を外した紡絆は力強い返事をして、二人は戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の放課後。

練習が出来る最終日。樹の歌の練習を時間いっぱい続けたのだが、表情がよろしくない。

最初に比べると、マシ。

だが所詮六人しかいないわけで、本番はもっと大勢いるのだ。

 

「樹、大丈夫かしら…」

 

「きっと大丈夫ですよ!」

 

「………」

 

今は樹は部室には居らず、忘れ物をしたと教室に戻っていった。

だからか心配といった様子で風が呟き、友奈が安心させようと声を挙げる。

普段なら紡絆もそこで何か言うのだが、考え込んでるように静かだ。

 

「紡絆くん? どうかしたの?」

 

「確かに、さっきから無言ね。いつもは騒がしいくせに」

 

「……んー、まぁ、ちょっと」

 

何も言い返さず、短めな言葉で返事すると紡絆は荷物を鞄の中に詰め込んでいく。

 

「兄さん……」

 

「大丈夫。じゃ、風先輩、みんな。俺ちょっとやることあるんで先失礼しますね」

 

「え? ちょっと!?」

 

荷物を詰め込むのを終わった紡絆は安心させるように笑いかけた後に、風の言葉を聞くこともなく素早く出ていく。

静止させる暇もなく走っていった紡絆を部室にいる一同は見てることしか出来なかった。

 

「何か用事でもあったのかな?」

 

「それにしては小都音ちゃんを置いていくのは珍しいと思うけど…」

 

「心配する必要は無いと思いますよ。なんだって兄さんが大丈夫って言いましたから。それに兄さんならきっと……やってくれます。

普段は寝てばかりでも、誰かのために行動する兄さんはいつもよりカッコよくて、勇気を与えることも出来ますから」

 

「そういうこと……まぁ、確かにあいつなら心配ないでしょうね」

 

そう語る小都音の言葉で、夏凜は察した。

いや、夏凜だけではない。友奈も東郷も、風ですら理解した。

第一、あの世界で1番のお人好しなバカが仲間であり、大切な後輩を見捨てるか?と言われれば、紡絆を知る人100人に聞いたとしてもNOと答える。

みんなに本当の要件を言わなかったのは、樹と二人っきりになるためなのだろう。

それなら、自分たちに出来ることは普段は頭が悪くて寝てばかりなくせに、依頼や誰かのためとなれば誰よりも率先して動けて、頼りになる仲間を信じるだけ。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

607:名無しの転生者 ID:5X7tO8UZM

で、どうする気だよイッチ

 

 

608:名無しの転生者 ID:/3Ud8x3yy

やることは決まってんだろ? でも明日だぞ? 今日でも正直二割あるかどうかなのにどうやって十割にするつもりだ?

 

 

609:名無しの転生者 ID:mzYzhr0eE

はっきり言って無理だよな。王手かかってるやろこれ

 

 

610:名無しの転生者 ID:8VjkxryYZ

人見知りやあがり症を治すのは難しいからな…俺らですら治ってないし

 

 

611:名無しの転生者 ID:BCbDSf/gk

時間が無さすぎるし詰んでない? 何するつもりだよ

 

 

612:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

ずっと考えていたんだ。俺って…もしかして音痴なのでは、と

 

 

613:名無しの転生者 ID:BUwgW4dR4

何今更なこと言ってんの?

 

 

614:名無しの転生者 ID:E1D/nw9ZG

カラオケの時点で分かってたから。

一回はともかく何度も歌ってあんな点数取ってた時点でお察しだろ

 

 

615:名無しの転生者 ID:aRGL6ghkj

カラオケの最低設定なけりゃ30点とかいってそうだったな…

 

 

616:名無しの転生者 ID:vuJVv1Jok

おめーが下手なのは周知されてんだよ

 

 

617:名無しの転生者 ID:wYTZK4pPA

そんなイッチが音楽語ったらぶっ殺されるぞ

 

 

618:名無しの転生者 ID:BWiH+kLG3

イッチが下手なのは分かってるからそれよりどうする気なんだ?

はよ言えよ。無茶すんだろ

 

 

619:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

なんで散々言われてるんだ…? いやいいけどさ。

無茶はせんよ。何も無いところで転けそうなるレベルでは肉体がやばいし。

で、話は戻すけどさ、音楽に関しては専門外だから無理。だから考えて、思いついたのが結局俺が出来ることをやるだけってことなのよ。

昨日の買い物はそれの下準備

 

 

620:名無しの転生者 ID:BABVWkvHB

……買い物?

 

 

621:名無しの転生者 ID:E+jqUKp/8

何か怪しいもの買ってたっけ…?

 

 

622:名無しの転生者 ID:JEelLNcK5

すまん、正直安価のことしか考えてなかったし安価のことしか見てなかった

 

 

623:名無しの転生者 ID:0MUPlew3X

何か準備してたんか…

 

 

624:名無しの転生者 ID:wHzHkSwhs

誰も覚えてないってマジ? 俺もだけど

 

 

625:名無しの転生者 ID:ylXcJXxu1

おいおいお前らいくらなんでもふざけすぎだろ。で、何かあったっけ?

 

 

626:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

お前ら覚えてないだろ!

はぁ…まぁ、人として出来ることをやってみせるさ

 

 

627:名無しの転生者 ID:JZPosn46L

ならお手並み拝見と行こうか…

 

 

628:名無しの転生者 ID:A98LXZczi

頑張れよイッチ

 

 

629:名無しの転生者 ID:MTGsIii1E

信じてるぜ!

 

 

630:名無しの転生者 ID:XOsU4A5sJ

美少女のためなら素直に応援するスレ民ぇ…。信頼が軽すぎる

 

 

631:名無しの転生者 ID:3UtANfFwT

それもイッチが悪い……

 

 

632:名無しの転生者 ID:SwdqFvd/j

樹ちゃんのためだからな

 

 

633:名無しの転生者 ID:D1PzgiTJb

そもそも、大元を辿れば百合の間に挟まるイッチが全ての元凶だからね仕方がないね(いつもの)

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

去年はよく使っていた、一年生の廊下を紡絆は歩く。

今も使うことはあるが、去年に比べると間違いなく減ったと言える。

学年が違えば使う階も変わるのだから当然といえば当然なのだが、紡絆はその廊下を樹が何クラスかを思い出して、そこへ向かった。

あまり距離がなく、すぐに辿り着いた紡絆はドアを開けるために引手に手をかけたところで、止まる。

教室の外からでも聴こえる綺麗な声。

何処か楽しそうにも聴こえる、透き通るような声。

 

「〜〜〜♪」

 

そう、この声は樹の歌声。

強化された聴力によって教室の外に居ても紡絆はしっかりと聴こえており、目を閉じて聴く。

暫くそうしていただろうか。樹が満足するまで歌っているのを聴いていた紡絆は、曲の終わりにドアを開けた。

 

「ひあっ!?」

 

「やっぱり樹ちゃん、前より歌上手くなってんじゃん。綺麗な声だったよ」

 

「つつつつ紡絆先輩!? き、聴いてたんですか?」

 

「うん」

 

可愛いらしい悲鳴を挙げた樹に対して紡絆は気にせず、歌について拍手しながら賞賛していた。

ただ樹は誰もいないと思って気晴らしにでも歌っていたのか、紡絆の軽い返事に顔を真っ赤にする。

 

「……懐かしいな」

 

「……え?」

 

そんな樹にフッと笑った紡絆は、表情を崩しながら呟く。

それが聞こえた樹は何のことかと顔を向けると、紡絆は真っ直ぐに見つめる。

 

「ほら、俺と樹ちゃんが会って、初めてまともな会話をした時---こんな時間帯だったろ?」

 

「あ……覚えて、いたんですね」

 

「あはは、さすがに二ヶ月前のことは忘れないよ。いくら俺でもさ」

 

まだ太陽は沈んでおらず、明かりの付いていない教室を窓から入ってくる陽が照らす。

思い出すのは、樹が部活に入ってきた時のこと---

 

 

 

 

 

 

 

 

紡絆と友奈、東郷は二年生に上がり、風は三年生へ。そして勇者部は一年近く経った時のこと。

新入生が入ってくる時期であり、既に一人入ってくることは予め伝えられていた。

 

『ということで、前言ってた新入部員は私の妹よ。ほら、樹』

 

『は、初めまして。犬吠埼樹、です…。よ、よよよよろしくお願いします』

 

風に催促され、ガチガチに緊張した様子で自己紹介する樹。

緊張のあまり言葉が高くなったり、どもってしまっている。

新しい環境、部活、様々な要因もあるのだろうが。

 

『よろしく、樹ちゃん!』

 

『は、はい!』

 

いきなり部員の中で一二を争うコミュ力お化けの一人である友奈が名前で呼びながら話しかけると樹は慌てて体を起こし、返事をするがやはり硬い。

 

『あたしの妹にしては女子力低いけど、それ以外はなかなかよ。占いとかできるし』

 

『おおっ、凄いや! あ、占い好きならこれあげる! 縁起物だよ』

 

『あっ、かわいい…!』

 

素直に褒められたからか、樹は顔を真っ赤にしていたが、友奈はふと取り出した四つ葉のクローバーのキーホルダーをプレゼントした。

喜ぶ反応を見るからに、樹からしても良いものらしい。

そんな樹に東郷がシルクハットを被りながら神妙な面持ちで近づいてくる。

 

『えっ?』

 

意図が分からずにキョトンとする樹に、東郷はシルクハットを取ってその中を見せるも空っぽ。すると今度はその上に白い布を被せた。

相変わらず東郷の意図が分からないままその様子を眺める樹だが---

 

『はいっ!』

 

勢いよく東郷が布を引き剥がすと、そこには三羽の鳩がいた。そのまま鳩は部室を飛び回り、その場に居るだけ居る紡絆が慌てて身体能力を駆使して確保に移る。

 

『ええっ!? 凄い!! ど、どうやったんですか!?』

 

『知りたい?』

 

『はい!!』

 

紡絆が鳩を全て捕まえている間に東郷の歓迎は成功以上の成果を発揮していた。

樹は尊敬の眼差しを向けると、目を輝かせて手品の解説を聞いている。そこに先ほどまでガタガタに緊張していた姿はもう見えなかった。

 

『あんたは行かなくていいの?』

 

『や、なぁ…まぁどうなるか察せられるんですけど、行ってみます』

 

風に言われ、紡絆は後頭部をガシガシと搔くと東郷の説明が終わるのを待ち、タイミングを計って動き出した。

 

『えー…樹ちゃん、俺は継受紡絆。困ったことがあったらいくらでも助けるから、これからよろしく---ふぁ!?』

 

『あ、あれ…?』

 

気遣いからかある程度距離を開けて近くに寄った紡絆は手を差し伸べながら自己紹介から入ったのだが、視界から突如消えたことに驚き、風の困惑する声に振り向いた。

 

『樹? どうかした?』

 

『よ、よろしく…お願い、します……』

 

『……あちゃー』

 

顔を赤くしながら樹は風の後ろに隠れており、紡絆はやらかしたかと頬を掻きながら近づかず頷くだけ頷いておいた。

そしてその1日、歓迎会が終わっても紡絆は樹と喋れることはなかったのだとか。

樹か顔を赤くして逃げるため、さすがに追うことはしないからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな日が少し続き、紡絆はクラスメイトに言われて代わりに掃除を終わらせた後、まだ樹が来てないから迎えに行って欲しいという風のメールを見て樹のクラスへ赴いていた。

 

『ここかな。確かに俺しか居ないけどさ、友奈の方がよかったんじゃないかなぁ…俺逃げられるし』

 

嫌われてるのかなーと他人事のような考えをしながらドアから見える窓を見れば、樹は一人で何やらしていた。

それを若干怪しみながら、驚かせないように紡絆はドアをゆっくりと開いて---

 

『〜♪』

 

『……ッ!?』

 

聴こえてきた歌声に驚く。

記憶がない。だからどんな音楽なのかも分からないし、それが何なのかすら分からない。そもそも興味すらないのに、不思議とその歌声は惹き付けられるような綺麗な歌声だった。

しかし終わりが近かったのか感情の込められた歌が終わりを迎える。

 

『ふぅ……』

 

歌い終え、一息付く樹の姿を見て、紡絆は笑みを浮かべた。

その表情を、歌っていた時の姿を、紡絆の記憶に深く刻みつけられるほどに良かったのだ。

 

『樹ちゃん。良い声で歌うんだな』

 

『はえっ!?』

 

優しい声音で紡絆が声を掛けると、ピクっと驚いたように振り向き、樹はすぐに顔を真っ赤にしていた。

 

『き、聴いてたんですか…?』

 

『あー、ごめん。盗み聞きする気はなくって、風先輩に呼んでこーいって言われてさ』

 

『そ、そうでしたか……』

 

申し訳なさそうに謝る紡絆を見て、嘘ではないと判断したのか納得した樹だったが、二人の間に沈黙が生まれる。

紡絆は下手に話せば逃げられるかもしれないため、話題を考えて。

樹はただ緊張した様子で、目を逸らしていた。

 

『…そういえば、樹ちゃん何してたんだ?』

 

『あ……えと…』

 

言い淀む樹だが、紡絆は樹の視線を追った。

そこには雑巾があり、まだ途中なのか机に置かれたままだ。他には掃除用具があり、何をさせられてるのか察した。

 

『そっか…よーし。任せろ!』

 

『えっ? あ、あのっ……!?』

 

迷うことなく動き出した紡絆に樹が何かを言う暇もなく、紡絆は凄まじい速度で掃除をやり始めた。

何も言ってないのに率先して自ら引き受けた紡絆の姿に樹は驚いていたが、慌てて自分も行動に移し、10分後くらいには全て終わっていた。

 

『ふぃ〜こんなもんか』

 

『ど、どうして……?』

 

満足気に頷く紡絆に、樹は分からないと言った様子。

そんな自分から掃除なんてしたくないだろうし、ただただ面倒なだけのはず。

だというのに紡絆は嫌な表情ひとつすることすらなく、やり遂げた。

 

『ん? 別に深い考えもないし特に何も考えてなかったけど?』

 

『……えっ?』

 

『俺さ、困ってる人が放っておけないらしい。俺は二年前以降の記憶がないんだけどね、こう胸の内側から困ってる人が居たら助けろ、って叫ぶんだ。あはは』

 

理由を求めた樹だが、紡絆から返ってきた言葉は予想もしてなかったこと。

さらっと記憶がないという重要なことを意図も簡単に暴露したが、つまりは樹が一人でやるには大変だから手伝おうと思ったということだろうか。

 

『お姉ちゃんの…言ってた通り……』

 

『ほへ?』

 

嘘という様子も感じられず、彼は純粋に困ってる人が、大変そうな人が居れば手伝うのだろう。

当の本人は何のことか理解出来てないが。

 

『……ふふ。あはは』

 

『え、笑う要素あった!?』

 

『す、すみません。()()()()って本当に真っ直ぐで、凄いなぁ、って…』

 

そんな紡絆を見てか、樹が突如笑い声を挙げると、一瞬目を見開いた紡絆だがすぐに困惑を表に出していた。

まるで感情を隠すことが出来ず、それが紡絆の通常運転なのだろう。

しかしここで初めて樹が名前を呼んでいた。それに気づいてる紡絆は少し笑みを浮かべると、言われた言葉を思い返してクエスチョンマークが空中に浮いてるのではと錯覚するほど首を傾げて目を丸くしている。

感情がとても忙しい。

 

『凄い? 俺が? 普通じゃない?』

 

『その、嘘も感じれませんし怖くもなくて…むしろ暖かいというか…』

 

『んーそっか。いうて、俺は普通にしてるだけだけだぞ?

まあ…でも、よかったよ』

 

『へ…?』

 

『樹ちゃん、話せてるじゃん』

 

『あ……』

 

絶対理解してないと分かる表情で納得を示す紡絆ではあるが、今の状態を言葉で表せば、樹も気づいたような声を挙げていた。

 

『逃げることもなく、怖がることも無く。それにこうやって掃除だってしていた。俺は樹ちゃんのこと立派だと思うな。えらいぞ』

 

そう言って、ポンポンと優しく樹の頭を撫でる紡絆だが、樹は顔を真っ赤にする。

褒められたことにか、異性に撫でられたなのか、それとも別の理由なのか。

 

『あ、あの…』

 

『あ、ごめんな。そろそろ部室、行こうか』

 

触れたことに関して謝った紡絆はその手に鞄を持ち、窓を閉じて鍵も締めていく。

いつまで経っても来なければ、風たちも心配してしまう。

 

『紡絆先輩……』

 

『おう?』

 

『えと……すみません』

 

『んん? なんで?』

 

何故謝られたのか分からず、紡絆はそのことを問いかけた。

謝られることあったかな、と思ってるレベルだ。

 

『お姉ちゃんからずっと、紡絆先輩のことは聞いてたんです。でも私、すぐ隠れたり逃げたりしちゃって……』

 

『なんだ、そんなことか。それを気にしてるってこと?』

 

『はい……』

 

紡絆自身は気にしてなくても、樹は気にしているようだ。

そもそも逃げていた理由は紡絆を怖がっていたわけではない。確かに異性とは全く話さない樹だが、聞いていた話と本当に同じで一般人が憧れの人に出会った時にするような反応と似ているのだ。

ファンがその人物に話しかけられたようなもの。

 

『俺は気にしてないけど……納得しないか。じゃあ、お詫びにひとつ約束してくれるか?』

 

『約束…ですか?』

 

本当に気にしてないようで困った表情をするものの、樹の納得行かないといった様子に気づいて紡絆は悩み、一つの解決案を導き出した。

 

『いつかまた、今みたいに樹ちゃんの歌を聴かせて欲しい。樹ちゃんが歌ってる時楽しそうだったし、樹ちゃんの歌声は素敵で、聴いてるこっちだって癒されたからさ。

それに歌って人と人を繋げるものにもなったりするんだ』

 

『人と人を……?』

 

『今の俺と樹ちゃんみたいに。樹ちゃんの歌がこの絆を繋いでくれた。話すきっかけをくれた。

それなら、そう言えるだろ?』

 

輝かんとばかりの満面の笑みで小指を樹に差し伸べる紡絆の背に太陽の光が降り注ぎ、まるで本当の()のような、陽だまりのように暖かく錯覚させる。

それは紡絆が誰かを思う心を持つからか、それとも彼が輝く心を持っているからか。

それこそ、心地光明のように。

 

『……そうかも、しれません。でもいつになるか分かりませんよ?』

 

何時になるか分からないと樹は言う。

そんな樹に紡絆は真剣な表情で、口を開いた。

 

『どれだけ経っても、何年経っても待つよ。樹ちゃんが聴かせたいって本当に願う歌があったら、その時は聴かせて欲しい。この約束はただの歌じゃなくて、そう思う歌…ってことで』

 

『聴かせたい歌……』

 

『樹ちゃんが良いなら……だけどね』

 

元々は解決案として出したことだが、紡絆とて無理強いはするつもりはない。

しばらく、ほんの少しの間待っていると、樹は胸に手をやり、深呼吸した後についに口を開く。

 

『……はい、分かりました。約束ですっ』

 

『うん、約束だ』

 

互いの了承を得た後、樹から小指を絡め、ここにひとつの約束が行われた。

光は繋がるように、彼らの絆を示すように細く小さな光が彼らを包む。

まだ小さな光の線。

しかし、ここが本当の彼らにとって友と呼べるきっかけとなった始まりと言えるのかもしれない---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当に懐かしい、それほど経っていないのに懐かしく感じるのは、非日常に足を踏み入れ、永き戦いを得たからだろうか。

濃厚といえるほど現実では有り得ない出来事を幾つも体験したからこそ、もはや遥か過去の思い出のように錯覚する。

 

「今じゃ逃げなくなったよな」

 

「あ、あの時はすみません…! も、もう忘れてください…」

 

「あはは、ごめんごめん。全然気にしてないから、マジで。ただ仲良くなったよなーとは思うけどな」

 

恥ずかしそうにする樹に対して謝る紡絆。

確かに最初に会った時は逃げられていたというのに、今ではこうやって普通に話せるようになっている。

それは樹の成長と言える。

 

「でもさ、なんであの時逃げてたんだ?」

 

「えっと、それは…」

 

あの時は気にしてなかったとはいえ、それはもっともな疑問だ。

友奈や東郷相手には緊張していたとはいえ打ち解けて、紡絆だけには時間がかかった。

異性だからと言われてしまえば、終わりなのだが。

 

「…紡絆先輩のことはお姉ちゃんからいっぱい聞いてて、どんな性格なのかとか、どういったことをしてるのかとか、色々と…それでずっと会ってみたいって思ってたんです」

 

「いや、何話したんだあの人……ろくでもないことだろうし、なんかごめんな」

 

初耳のようで、紡絆は呆れたようにため息を吐いた。

ただ、その理由はどうせ自分の話題なんて面白くないのにとでも思ってるのだろうが。

 

「い、いえそんな……!

そっ、それで会ってみたらその…優しそうな人だとは思ってたんですけど、自分でも分からないくらい緊張してしまって…ただ話すようになってからは色々と紡絆先輩のこと知って、逆にもっと知っていきたいって思ったんです」

 

「…なるほど? 結局怖がられてはなかったわけか。よかった」

 

理解してるのか理解してないのか---少なくとも怖がられてたわけではなかったことに紡絆は安心して、もう納得したようだ。

 

「さて、思わず余談しちゃったけど、本題に移ろうか」

 

「本題?」

 

話が一区切りついたところで、陽が少しずつ沈む時間帯になってるのをスマホで確認した紡絆は話を変える。

当然、樹は何なのか分からない。

 

「そう、本題。樹ちゃんさ……不安なんだろ? 明日の歌のテスト」

 

「っ!?」

 

「これだけ練習したけど、出来るか分からない。もし緊張してしまって歌えなかったら。本当に歌えるのか。ここまで力を貸してくれた皆に申し訳ない…って感じかな?」

 

紡絆が話す度に、樹は驚き、表情に陰を落としながら俯く。

否定しないということは、それは当たりなのだろう。すぐに部室に戻って来なかった理由だって皆が居たら不安を隠し切れなくなるかもしれないから…なのかもしれない。

 

「…当たり、かな」

 

「……はい。不安なんです。もう明日が本番で、時間もないのに完璧に出来るようになったわけでもなくて。全然出来てなくて……私はいつもお姉ちゃんの後ろに隠れてばかりだったのに、そんな私が勇者になって変わったって思っていても結局何も変わってないのが嫌でも分かるんです……っ」

 

「………」

 

返ってきた返答は、肯定。

涙声混じりに語る樹を紡絆は無言で見守る。何も言わず、今言いたいことを吐かせるように。

 

「少しは成長したと思っていたのに、昨日も今日もダメダメで…皆さんは私にたくさん協力してくれて頑張ってくれたのに私は何も成果を出せてなくて…このままじゃ明日も……。

やっぱり、こんな人見知りで自慢出来る特技も占いしかない私なんかじゃ---」

 

「樹ちゃん」

 

血が出るのではと思うほどに拳を強く握り、涙が床に零れ落ちていくのを自覚しながら申し訳なさそうに、辛そうに、悔しそうに樹は最後まで言おうとした---ところで、無言だった紡絆が樹の名前を呼ぶ。

そして強く握っていたその手のうち、右手を握った。

 

「紡絆…先輩……?」

 

「はい、これ」

 

右手に暖かいものを感じた樹は顔を上げると、いつもと変わらぬ優しい笑顔を浮かべる紡絆が居て、彼は既に握った樹の右手を表に向けさせてから手を離していた。

その時、違和感を感じて樹が自身の手に視線を送れば、そこには包装がされた何らかの長方形のものが握らされている。

重くなく、どちらかというと軽い。

 

「俺に出来ることは何なのか。音楽は分からない。

俺は音楽が下手だし、歌も下手。知識も何も無い。だから樹ちゃんに()()()()何もしてあげられない」

 

覚えてないのもある。

しかし家に音楽関係のものが何一つないということは記憶喪失前の紡絆だって音楽にそこまでの興味はなかったはず。

尚のこと、紡絆は音楽に関しては助けになれない。

 

「でも音楽以外なら樹ちゃんを手伝うことが出来る。

例えば励ましたり、鼓舞したり---それが今渡した物。俺から樹ちゃんに対する、プレゼント」

 

それが紡絆の結論。

もともと同じ土俵に立つ必要もなく、ぶっちゃけ手伝おうにも役立つことはない。

だが、音楽以外であるならば? 紡絆自身自覚してはいないが、周りからの評価からすれば紡絆の武器は言動でもある。頭の良さなんて期待されてないが、こんな性格ゆえに、誰かに影響を与えることが出来る。

いつ、何処へ行っても気づけば中心に居るのが、継受紡絆という人間なのだから。

 

「開けてみて」

 

「わ、分かりました……」

 

優しい声音で言う紡絆の言葉に従うように、樹が包装を解いて中にある物を取り出す。

そこにあったのは、長方形のケースだった。

何が入ってるのかと樹が紡絆に視線を送ると、紡絆は頷く。

確かめて欲しいという合図だろう。

それに従うように、樹はゆっくりと開いた---

 

 

 

 

「……眼鏡?」

 

そう、ケースの中に入ってあったのは、赤色のメガネ

つまりケース自体はただのメガネケースだったということ。

しかしこれがなんの繋がりがあるのか。

 

「うん。その理由なんだけど、少し貸して」

 

「は、はい」

 

それを証明するために、紡絆は手を出すと、樹はメガネを手渡しした。

落とさないように受け取り、手に持つ紡絆は樹に視線を送る。

 

「どうしても恥ずかしい。どうしても不安。どうしても怖い。どうしても逃げ出したい。どうやっても勇気が出ない。もう無理だーって時にはさ---」

 

そう言って、紡絆はメガネを開くと親指を自分側に支えるようにして人差し指と中指で挟むように持ち、真っ直ぐに腕を伸ばす。

 

「デュワッ!」

 

掛け声のようなものと共に紡絆は腕を戻してメガネを一度掛ける。

それだけ終えると、すぐに取り外して樹に差し出した。

 

「い、今のは一体…?」

 

「勇気のおまじない。正確に言えば、勇気が出るおまじないかな」

 

それはかつて、あるウルトラ戦士が変身する際に行われたシークエンス。

彼らを知る紡絆だからこそ思いついたことで、そのためのメガネだ。

だがもうひとつ、偶然にもあるウルトラ戦士がある女性隊員に教えた魔法の言葉でもあったりする。

 

「勇気の、おまじない……」

 

「やって見たら分かるよ。樹ちゃんには勇者になれるだけの勇気が確かに備わっている。なら、効果はあるから」

 

紡絆の言葉をしまい込むように反復する樹に対して、紡絆はただ優しげに、それでいて確信を持っている表情でそういった。

それを聞いて樹はメガネと紡絆に視線を巡らせると、深呼吸をして恥ずかしそうにしながら覚悟を決めた表情でメガネを手に持つ。

 

「デュワッ!」

 

紡絆の真似をして眼鏡を掛けた樹は、紡絆から見てもちょっと気合いの入った顔になっていた。

 

「……なんだか、本当に勇気が出て来た気がします」

 

不思議な感覚に驚きながらも、その効果は正しかったようだ。

しかし忘れてはならないのは、これは勇気が出るおまじないで、勇気が貰えるおまじないではない。

おまじないで出た勇気は、最初から樹の中にあったものだろう。

それでも勇者になれるだけの勇気がある者が、友奈ですら勇者になることを即答出来なかったのに、迷いなく姉について行く決断を一番最初にした彼女なら、このおまじないは効果覿面だと紡絆は確信していたのだ。

 

「それは良かった。じゃあ、戻ろうか」

 

「はい!」

 

皆の元へ戻るために紡絆は手を差し伸べると、そっと手を置かれ、さっきまでの様子が嘘のように小さくて可愛いらしい花が咲く。

紡絆はただいつも通りの笑みで眺めると、時間が時間なのもあって、少し急ぎめにみんなの元へ戻るのだった。

本番まで、あと数時間---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今日。

ついにこの日がやってきた。

音楽のテストの日で、学校特有の名前順なために樹の出番は早く、もう次で歌わなければならない。

少しずつ迫ってくる自分の出番。まだ前に立っているわけでもないのに、樹は早くも緊張していた。

どれだけ大丈夫だと、出来ると昨日もあれだけ練習したと丸めた教科書を握りながら念じたところで、弱音がそれを描き消す。

もし失敗したら、無理だったなら、みんなになんて言えばいいのか、幻滅されないか。そんなマイナスなことばかりが浮かんでいく。

 

「次は、犬吠埼さん」

 

「は、はい!」

 

遂に呼ばれたということは、出番が来てしまった。

緊張したまま呼ばれたことに慌てて返事をする樹だったが、その声は焦りから少し上ずってしまっていた。

そんな樹は緊張と不安な表情を隠せないまま、黒板の前に立つ。

その瞬間、教室にいる大勢のクラスメイトたちの視線が樹に降り注ぎ、心臓の鼓動が緊張によってより早くなるのを自覚しながら体は硬直していた。

一人ではないとはいえ、一人だ。

既に終えており、席に座ったまま口パクで応援してるのか、教科書を開くジェスチャーをしている小都音が見えて樹の緊張は多少は和らぐが、それでも万全じゃない。

 

(---やっぱり…無理……!)

 

立ち向かおうとして折れかけた意志。

しかし先生がピアノを伴奏し始めたため、歌うために教科書を勢いよく開いて前に突き出すと、ちょうど視線が前を見ていたのもあって、何かが落ちるのが見えた。

 

「あ……す、すみません!」

 

一度演奏が止まると、樹は慌てて落ちた『何か』を拾い上げる。

手に取ったそれは丁寧に4つ折りにされた一枚の紙で、もちろん樹には見覚えがない。

一体なんなのかと思いながら、ふとさっきまでジェスチャーしていた小都音のことを思い出して視線を送れば、こくこくと頷いていた。

つまり、その紙を見ろということなのだろう。

好奇心もあるが、その指示に従うように樹は紙を開いた。

そこに書かれていたのは---

 

 

 

 

 

 

『テストが終わったら打ち上げでケーキ食べに行こう 友奈』

『周りの人はみんなカボチャ 東郷』

『樹ちゃんなら絶対大丈夫。私も応援してるよ、だって私の大切な友達だもの 小都音』

『気合いよ』

『周りの目なんて気にしない! お姉ちゃんは樹の歌が上手だって知ってるから 風』

『諦めるな。どうしても一歩踏み出せないなら、おまじないとみんなを思い出すんだ 紡絆』

 

一瞬。

樹の頭を占めていた様々な想いが一気に霧散した。

弱々しい虚勢も、心を苛む弱音も、折れそうになっていた意志すら。

そして皆の言葉が、思いが、文字を媒介にしてゆっくりとしみこんでいく。

 

(お姉ちゃん…小都音ちゃん…皆さん……。紡絆先輩……)

 

皆の応援が書かれたその紙を掴む指を通して、暖かいものが樹の中へと流れ込んで来て、脳裏にはみんなの顔が浮かんだ。

いつも肝心なところで弱気になってしまうこんな自分でも、信じて応援してくれている人たちがいる。

自分で自分を信じられなくたって、その人たちのことは信じられる。

自分には、そんな信じられる人たちがいつも居てくれる。手伝ってくれて、寄り添ってくれる。

何故なら、勇者部はお人好しの集まりなのだ。

そして樹は、その一員。

 

「……っ」

 

「犬吠埼さん大丈夫ですか?」

 

諦めるという想いすら消えて、樹の中に生まれ広がっていく前へ進むための勇気。

それを確かに実感しながら、先生が問いかけてくる。

それで伴奏を止めていたことを思い出した樹は返事しようとしたところで、紙の内容を思い出した。

どうしても一歩踏み出せないなら、おまじないとみんなを思い出すんだ、という大切な先輩の言葉。

ずっと持っていたはずなのに、持っていたことすら忘れていたメガネケースを取り出した樹はメガネを取りだし、控えめに前に突き出す。

 

「……デュワッ」

 

そして昨日、教えられたおまじない通りにメガネを掛けると、出来るではなく、絶対に出来るという確信が心の底から沸いてくる。

いつもの自分から考えられないほど不思議と失敗に対する不安も恐怖もなく、自信が溢れる。

もはやクラスメイトたちの視線に怖気ることもなく、向き合う勇気を手にした樹の表情は確かに変わっていた。

顔つきが変わった樹を見て優しく微笑んだ先生が、ゆっくりと伴奏を再開した。

樹にとって先ほどまでは葬送曲にすら感じられていたその曲も、今はこんなにも耳に心地良く感じる。

みんなと共に勇者として仲間として、友達として一緒に居る。だから一人なんかじゃなくて、この場にも応援してくれる大切な友人が一人いる。

その友人に視線を移すと優しげに微笑んでいて、それを返すためにも、もう大丈夫という確信とともに今度こそ樹は歌うために息を大きく吸い込んだ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後の勇者部にて、樹と小都音以外は既に集まっていた。

紡絆は授業中全部寝てたくせにまだ穏やかな表情で牛鬼とともに仮眠しており、東郷はパソコンを。

風は脚本を書いていて、友奈と夏凜は樹を待っていた。

と言っても、夏凜はかなりそわそわしていたりする。

もっと細かく言えば、微塵たりとも何の心配もしてないのは仮眠してる紡絆くらいだ。

 

「樹ちゃん、テスト上手くいったかな…」

 

「大丈夫よ。だってあの子は、あたしの妹なんだから」

 

やはり結果は気になるようで、友奈の言葉に風が安心させるように言う。

しかし、自分も執筆が全く進んでないのだから少しは心配ではあるのかもしれない。

そんな時、仮眠していた紡絆が気づいたように跳ね起きた。

 

「来たぞ」

 

「えっ?」

 

誰の声だったか。

突然目覚めては短い一言だけで済ませた紡絆に視線が集中すると、次の瞬間には扉が開く音がして視線は紡絆からドアの方へ移される。

なお、本人は欠伸していた。

 

「樹ちゃん、小都音ちゃん!」

 

「歌のテストは?」

 

そんな緊張感の欠けらも無い紡絆はともかく、樹と小都音が入ってくると東郷が間髪入れず結果を聞く。

 

「……バッチリでした!」

 

「私も普通にクリアでした」

 

少しの空白の後、樹と小都音の口から出てきたのは失敗ではなく、無事に成功したという吉報。

それを理解した瞬間、紡絆以外は皆大きく喜びを示し、紡絆は確信していたようで一歩離れたところで微笑むだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

成功を祝う軽いパーティが終わり、時間が時間なのもあって各々---というか風と樹、夏凜だけが道違うのだが、解散となる前、紡絆は手洗いのため独りでに部室から離れて、今部室へ戻ろうとしていた。

 

「紡絆先輩!」

 

「ん?」

 

腕を回したり体の調子を確かめながら戻っていると、少し息を切らせた樹が居て、疑問を浮かべる。

 

「紡絆先輩のおまじないのお陰で、ちゃんと歌うことが出来ました! ありがとうございます…!」

 

「別にいいよ。それにあのおまじないは樹ちゃん自身のもので、俺はきっかけを与えたに過ぎないからさ」

 

そう、秘めた勇気を出すのがおまじない。

別に紡絆が樹に与えたものではなく、だからこそ紡絆は感謝を受け取れないという。

 

「それでも、です。お陰で私、やりたいことが出来たんです」

 

「やりたいこと? 将来の夢とか?」

 

受け取られないと分かっていても、伝えたかった。そんなところだろうか。

しかし樹は紡絆のお陰でやりたいことを見つけたと言い、紡絆は首を傾げる。

 

「ま、まだそこまではいってませんけど、小都音ちゃんに言われたんです。

だからチャレンジしてみようかなと…」

 

「…そっか。樹ちゃんなら絶対なれるんじゃないかな。約束、覚えてるか?」

 

「歌を聴かせる……って約束ですよね」

 

確信を持ったように話す紡絆に樹は思い返しながら返答する。

正解というように紡絆は頷き、提案を出した。

 

「樹ちゃんのそれは、歌に関してなんだろ? だったらさ、約束はその時にお願いしたい。もし樹ちゃんが成功して、歌を聴かせたいって思ったなら、その時には歌ってくれるかな」

 

「気づいていたんですか…!?」

 

「ただの勘。まぁ、どうするかは樹ちゃんに任せるけどね。歌手になるかどうか、決めるのは樹ちゃんだし」

 

普段からは考えられない察しの良さに驚く樹だが、紡絆は勘で当てたようでどうするかの選択は樹自身に委ねていた。

その選択は、樹が選ぶことに意味があるのだから。

 

「…紡絆先輩の言う通り、歌手を目指してみようと思ってます。でもオーディションだってまだだし、合格出来るかだって分からないんですよ」

 

「そうだな、挑戦して見なきゃ分からないだろ?」

 

「どれだけ掛かって、どれだけ遅くなるかも分からないんです」

 

「前も言っただろ? 何年だって待つ。樹ちゃんが満足するその日まで。それに俺は、樹ちゃんなら出来ると思ってるから。

夢を追いかける心を忘れない限り、信じれば夢は叶う」

 

紡絆らしい前向きな思考。

きっと紡絆はこの時点で樹が歌手になれることを信じており、やり遂げられると思っているのだろう。

例えどれほど掛かったとしても、待ち続ける。彼女ならきっと、なれると。

全くもって、夢や目的すら持ってない人間が何語っているんだという話はあるが。

 

「夢……」

 

「夢ってのは、時々切なくなるけど時々熱くなる……らしい。きっとそれは、目的に向かって真っ直ぐに向かってるから。その道中で挫折や辛いことも多く経験するからなんだろうな。

楽な道ではないけどさ、樹ちゃんが信じれば叶うと俺は思うんだ」

 

多くの人を見てきた。

みんな何かに向かって生きている。夢のために努力を。生きるために仕事を。好きだから作業を。料理を。ゲームを。人助けを。

人というのは何もなく生きれる存在でもなく、夢とまでは行かなくとも目標を定めてそこへ向かっていく。

それは夢も同じだ。少しずつ目標を定めて、達成して、ゴールがあるかないかの違いに過ぎない。

ただ目標と違い、夢はゴールまでが遠い。

楽な道ではなく、信じ続ける心がなければ挫折してしまうかもしれない。

 

「本当に…紡絆先輩はずるいです」

 

「ずるい?」

 

「はい、ずるいです。でも……本当に待ってくれますか?」

 

「もちろん、いつまでも待ち続けるよ。信じられないなら、約束だ」

 

ずるいと言われて紡絆は首を傾げるが、彼に自覚はない。

しかし樹から言わせて見れば、何年だって待つと言われてしまえば、断ることなど出来ないのだ。

だからこそ、少し不安げに再確認するように聞いたのだがそれに関して、紡絆は迷うことも無く即答で答えて小指を差し伸べる。

 

「……はい!」

 

何処か嬉しそうに、安心したように差し伸べられた小指に樹は意を決して自身の小指を絡める。

 

「約束、増えちゃったな。ま、どうしても辛い時があれば俺に出来ることはやるからさ、そろそろ戻んないと心配されちゃうぞ」

 

過去に交わした約束に付け足された新たな約束。

守らなければならないことが増えたが、別に嫌な訳ではなく紡絆は樹の頭を撫でてから先に戻るように誘導した。

樹を気遣ってだろう。

その樹は顔を赤くしているのだが。

 

「あ……じゃ、じゃあ先に戻りますね! その、お姉ちゃんやみんなには出来れば……」

 

「分かってる、秘密にするから」

 

「はい…ありがとうございます!」

 

名残惜しそうに口から出たことに樹は手で抑え、秘密にしてもらえるようにしてもらうと、頭を下げてお礼を言ってから戻っていく。

紡絆は微笑しながら手を振って見送ると、エボルトラスターを取り出した。

 

 

 

 

「……俺も、君も、次が限界だ。おそらく、俺の回復を防ぐことを考えると戦いは近いはず。あと一回。

次の戦いでファウストの正体を、ファウストを止めなければ俺は……いや、どちらにせよ、彼女たちの夢を守るためにも、俺は絶対に彼女たちは生還させて世界は守るよ」

 

自分の体のことは自分がよく分かっているとはよく言ったもので、紡絆は理解している。

メタフィールドの展開は持って1分程度。何もせず、ダメージを受けてない状態で気合いを込めたとしても2分くらいか。

どちらにせよ、制限時間を無理矢理無視するなら命を削りながら全力で維持しなければ、すぐ崩壊してしまう。

ただそれほどの展開となると、ウルトラマンか紡絆か…間違いなくどちらかが先に限界を迎え、何も成せないまま負けがほぼ確定してしまう。

もし負けたら、樹の夢はどうなる?

挑戦することすら出来ず、叶うはずもない未来に変わってしまう。

みんなの夢が終わってしまうのだ。

全人類の夢と希望と命---何より地球の未来を背負うと思うと、一人の人間にはどれほどの重圧なのか。

それは、彼にしか分からない。

 

「よっと」

 

そんな紡絆は、突如としてその場で逆立ちした。

もしこの場に誰かが居たら、突然の行動すぎて驚くか紡絆ということで納得するものもいるかもしれない。

 

「重いなぁ…地球を背負って立つ、先生の言う通りだ」

 

かつてウルトラマンの先生が居た。

ウルトラマンでありながら、今の紡絆たちと同じく中学生という思春期真っ只中の学生たちの教育者として地球で過ごした戦士であり、ウルトラ兄弟のひとり。

そんな彼は、ある少年に言ったのだ。

地球を背負って立つ! 俺は地球を一人で持ち上げてるつもりで過ごしている、と。

 

「けれど、守りがいがある。俺は君を信じる。だからウルトラマン……君も俺を信じてくれ。絶対に勝つ、それだけだもんな」

 

逆立ちをやめてエボルトラスターを見つめながらそう言う紡絆は、前を見る。

決して下を見ることなく、前を。

どんな困難に出くわしたとしても、俯いてたら何も始まらないのだ。

だからこそ前を向き、紡絆は皆の元へ戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

916:名無しの転生者 ID:+BhxvfBGh

イッチもたまにはいい事するじゃねーか!

 

 

917:名無しの転生者 ID:JNGM2UH2D

うんうん、それにしても今の言葉って、ウルトラマンコスモスの春野ムサシの言葉だよな。イッチ知ってたっけ? 偶然か?

 

 

918:名無しの転生者 ID:ZJardOlWx

それ言ったら勇気のおまじないもだゾ。ウルトラマンメビウスに出てきたんだが……まさかそれも偶然か?

 

 

919: 光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

???

 

 

920:名無しの転生者 ID:MGaGQMPhY

あ、偶然だわこれ

 

 

921:名無しの転生者 ID:0vIXn+Wm/

けどまあ、樹ちゃんテストクリアしたし、夢を見つけれたみたいだし、よかったじゃん

 

 

922:名無しの転生者 ID:OLDX4ez1H

今回ばかりは褒めてやるぞ!!

 

 

923:名無しの転生者 ID:zQ5vEFO5N

これで残る問題はバーテックスとスペースビーストだな…

 

 

924:名無しの転生者 ID:yIKNCir7V

イッチの肉体がなぁ……どうなんよ?

 

 

925:名無しの転生者 ID:1Tl5qH0gj

お前……『彼女たちは』ってことは……

 

 

926:名無しの転生者 ID:h3P/e/eSU

いくら背負うものが多いからって、一人で抱え込むもんじゃないぞ。この掲示板にも多分、きっと、ウルトラ戦士は大勢いる。同じ世界に居なくても、味方はたくさんいるんだ

 

 

927:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

分かってる分かってる。大丈夫だって!

仮眠したし! まぁ、それにメタフィールド展開しなければいい話だしな。あとコスモスってなに? 花の名前?

メビウスは名前だけ知ってるけど…こんなことなら友人と見ておくべきだったか

 

 

928:名無しの転生者 ID:vI9O3n6WT

あ、やっぱそこは知らんのねw

 

 

929:名無しの転生者 ID:xBQ0f0iwG

花の名前ってのは間違ってはないが…まあ優しさと強さを併せ持つ慈愛の勇者と呼ばれる青いウルトラマンだ。

ちなみに人気高いし曲が神すぎた

 

 

930:名無しの転生者 ID:A3iDoqWLw

>>927

逆に言えばメタフィールドの展開はやばいってことか…

 

 

931:名無しの転生者 ID:hcGt79jSx

ま、とりあえず暗い話は終わり!

今は樹ちゃんのこと喜ぼうぜ!

 

 

932:名無しの転生者 ID:QmH9c0REu

せやな。イッチが役に立ったし

 

 

933:名無しの転生者 ID:NojO5MgxE

でもさ、イッチと樹ちゃんの会話思い返すと……互いに告白に近いのしてね?

 

 

934:名無しの転生者 ID:4PQjr4Uno

……確かに

 

 

935:名無しの転生者 ID:g9o07LFpG

イッチだけギルティ、しばらく寝ろ

 

 

936:名無しの転生者 ID:EiQ2Yliio

なんかこう…なんだろ。告白シーンによくあるよな。

先輩相手に後輩が似合う男または女になるから待ってて欲しいみたいな

 

 

937:名無しの転生者 ID:+e3GJQFZr

おいイッチ許さんぞ。てめぇ、樹ちゃんに手を出す気か…!

 

 

938:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

なんで恋愛厨みたいな思考してるんだよ! てか俺に告白されても嬉しいやつ居ないだろ! そもそも俺と樹ちゃんでは俺が劣りすぎて合わないわ! あとシスコン姉に殺される!

 

 

939:名無しの転生者 ID:hZMCuWkCw

>>938

は?

 

 

940:名無しの転生者 ID:c7UcBtBd8

>>938

はー? コイツ、マジで言ってんの?

うっそやろお前……

 

 

941:名無しの転生者 ID:qLizmvSZT

まぁ……イッチだし。馬鹿だしな。鈍感だし、ハゲてるし

 

 

942:名無しの転生者 ID:l1Nb5zuuq

あーあ、これだからこういうタイプはなー。

こういう無自覚なやついるいる。つーかイッチは自己採点が低すぎるというか自分に関心がなさすぎる。

 

 

943:名無しの転生者 ID:f2qHVNtYG

あの反応見てもこれとか意味わからんわ。勘無駄に鋭いくせにこういうときクソ鈍感じゃねぇか! ずっと前から思ってたけどさぁ!

そんな勘捨てちまえ!

 

 

945:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

鈍感じゃないが??? ラノベ主人公だけでしょ、鈍感なのって。俺は本当のこと言ってるだけだし---ってかハゲてねーよ! やめろやめろ! 前世でも今世でもハゲてないよ一切!!

 

 

946:名無しの転生者 ID:H0H0ilH9M

はいはい、もういいよそんな典型文。

とにかくお前は休んどけ、いつやつらが攻めてくるか分からんからな

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのね、お姉ちゃん。私、やりたいことができたよ」

 

「なになに? 将来の夢でもできた? お姉ちゃんに教えてよ?」

 

学校からの帰り道。

樹は姉にも似たようなことを伝えていた。

同じように将来の夢には行き着いたようだが、紡絆と違って風は分かったわけではないらしい。

 

「……秘密」

 

「なによー。誰にも言わないから……ね?」

 

「だーめ、恥ずかしいもん……でもいつか教えるね」

 

勧めてきた小都音と勘で当ててきた紡絆が予想外だっただけで、まだ伝えるつもりはない樹はそれだけ言い終えると、風より前に出る。

 

(やってみたいことだったのに、紡絆先輩の言葉ではっきり変わった…。これが私の夢だとしたら、頑張れる理由もなって、みんなと一緒に私も歩いて並んでいけるから---)

 

本人に言えば、間違いなく否定するようなことだろう。

それでも、確かに紡絆の言葉は樹に夢を与えるきっかけのひとつとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

樹が家に帰るなりどこかに出掛けて家には風一人。

そんな風を苦しめているのはこの前の大赦からの連絡だった。

 

『最悪の事態を想定しろ』

 

最悪の事態とはなんなのか。

もしかしたら今まで以上の激戦になるのか。もしそうならば、風は覚悟を決めないと行けない。

部員たちはあくまで巻き込んでしまった存在であり、突っ込んできた紡絆だけがイレギュラーなだけだ。

そんな紡絆も勇者部に入れたのは風であり、巻き込んでしまったようなもの。

なおかつ、これ以上の激戦となれば、間違いなく紡絆は死に急ぐことは風にとって簡単に予想ができ、それが一番怖かった。

誰が何言っても止まらず、誰もが不安を顔に出してものほほんと嘘のように帰ってくる。

それでも、お役目が始まってからは毎回怪我するかボロボロになって死にかけている。

 

「死んだ親の仇がバーテックス…復讐、か……。昔、紡絆に言われたっけ…」

 

懐かしい記憶を思い出して、大赦に送るつもりだったメールを消した風はテーブルに体を預ける。

何故あそこまで眩しく生きられるのか、風はたまに紡絆の生き様を羨ましく思う。

自分は戦う理由が仇討ちなのに、紡絆は純粋に守りたいという思いなのだから。

 

「……はぁ、やめやめ。あのバカのこと考えてたらバカが移るわ」

 

とてつもなく酷いことを言っているが、ここに居るのは風だけだ。

誰かに聞かれるわけでもなく、帰ってきたら樹もお腹が空くだろうとご飯を作るためにいざ立ち上がり---

 

「ッ!?」

 

スマホから聞こえてくる警報にすぐさま画面を見れば、そこには樹海化警報の文字が。

すぐにドアを出てベランダを見ると、樹海化する時特有の現象が起きていた。

 

「……始まったの? 最悪の事態……」

 

傍に犬神が出現し、世界は少しずつ神樹様の結界に覆われていく。

聞いていた話で起こるのは、最悪の事態。

それがなんなのかわからずに不安を隠せないが、部員たちを安心させるために風は一度深呼吸し、世界は七色の波に覆われた--

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

樹海化する前、ここには紡絆と小都音、友奈と東郷が居た。

四人は久しぶりに一緒に食べないかとなんやかんや話し合い、ご飯の時間になるまで遊ぶことにしたのだ。

 

「はい、島流しね」

 

「あぁあああああぁぁぁ!?」

 

それはもう、大富豪から大貧民へと一気に落下した紡絆は島流しさせられ、悲鳴が部屋に響き渡った。

 

「兄さん、顔に出すぎ…」

 

「わー東郷さんの革命返しなければ紡絆くん勝ってたんだね」

 

カード的には低い数ばかりであり、革命というものがなければ雑魚の集団。

だからこそ、ジョーカーを使って革命で勝つつもりだったのに紡絆は何故かジョーカーだけを使い、ギリギリ手元にあった4の四つで革命したのだが、一瞬で返されて殺られた。

弱すぎたのである。

 

「あ、終わりました」

 

「えぇ!?」

 

そしてこっちでは、友奈が負けていた。

最下位と三位。顔に出やすい似たもの同士はトランプに弱かったのである。

 

「小都音ちゃんも流石ね。もう少し弱ければ負けてたかもしれないわ」

 

「いえいえ、東郷さんこそ」

 

「はぁ、くっそーもう一回だ!」

 

互いに遠慮し合いながら実はバチバチと火花を散らしてる二人に気づかず、悔しそうに呟いた紡絆はカードを集め、シャッフルしていく。

誰も異議はないのか、苦笑するだけでやるつもりではあるらしい。

上手いイカサマプレイヤーならこの時点でイカサマ出来るだろうが、紡絆には不可能。というか、大貧民なので強いカードが来ても意味が無い。

 

「次こそは絶対に負け---ッ!?」

 

「紡絆くん?」

 

「だ、大丈夫!?」

 

「兄さん!?」

 

言葉を言い切る直前。

紡絆が突然トランプを落とし、数多くのトランプが落ちる。

何よりも、異変なのは紡絆だった。

何かを握るように胸を抑え、顔を顰めている。何事かと心配する友奈たちに、紡絆は冷や汗を掻きながら下手な笑みを浮かべるしかなかった。

 

「……来る。小都音、悪いけど行ってくる」

 

「来るって……」

 

「まさか、樹海化!?」

 

紡絆の言葉に一瞬理解が追いつかなかったが、一泊開けた後気がついたように声を挙げると、小都音も理解したようで時間がないため、すぐに口を開いた。

 

「兄さん、絶対帰ってきてね。皆さんも気をつけてください…!」

 

「「ッ!?」」

 

小都音が言い切った瞬間、同時に鳴り始めた友奈と東郷のスマホ。

二人が画面を見れば、樹海化警報と表示されており、散らばったトランプごと世界そのものが停止する。

誰よりも樹海化することに早く気づいていた紡絆はエボルトラスターを取りだし、体の調子を確かめながら前を見据えた。

先程までの楽しそうな様子は消え、三人は顔を見合わせると覚悟を決めた表情を浮かべて、七色の光が紡絆たちと世界を覆い尽くす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---これから始まる戦いは、全てを賭けた戦い。

今まで以上の激戦であり、本気と本気のぶつかり合い。

辛くも悲しくも苦しくも、喜びも嬉しさも達成感も、色んな感情が入り交じりあうまさしく死闘。

果たして、勝利をもぎ取ることが出来るのか、それとも世界ごと全て滅ぶのか、なんの弊害もなく無事に日常へ帰ってこられるのか、それは例え全知全能を司る神ですら、例え伝説の超人である老人ですら知り得ない---

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
色々背負ってるわ、死亡フラグに近いのを建設してるわ、別のフラグ建ってるんじゃないか、とまあ色々大変でやばいやつ。
ただはっきり言って、既にウルトラマンに変身するべきではない身体。
しかしその状態でも誰かのために行動し、結局は彼の行動が樹に良い結果を齎した。
正確にはもう(精神面以外全部で特に肉体が)やばいです

〇犬吠埼樹
本来、紡絆が居ない世界線(原作)ではこの時点ではあくまで目指すべきものだったが、本作では小都音と紡絆の影響で既に歌手になるという確かな夢へと変化している。
彼女が夢へと辿り着いたとき、どれほどの月日が過ぎてるかは分からないが約束が果たされる時は必ず訪れるだろう。
夢を追いかける限り、信じる限り。
なお、紡絆は彼女を誰よりも勇気がある人だと思っているらしく、だからこそ音楽では何も出来ないからその勇気を出させる方法を考えることにしたようだ。

〇天海小都音
ただの癒しキャラ。
今回は陰から樹ちゃんを援護+応援していたが、友達想いのいい子。
なお、相変わらずそれ以上に兄妹の枠を超えてるレベルで紡絆に対する愛情が半端ない

〇掲示板
割と出番減ってっけど日常だと彼らの出る幕がイッチ弄りしかない…裏ではイッチにやらせる安価でふざけまくってるらしい

〇勇気のおまじない
恒点観測員340号---とあるウルトラ警備隊七人目の隊員にして、ウルトラ兄弟三番目の『真紅のファイター』が変身する際に行われる変身シークエンス。
それをある若きルーキーが同じ女性隊員が怪獣から逃げ、落ち込んでいた時に伝えた言葉である。後々にそれは大切な作戦に参加する手助けとなった。
なお紡絆はそれを知らない。無論コスモスも知らない


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「-勇者部の誇り-プライド・オブ・ヒーロー」


山場なのもあって出来る限り減らしてなお三話構成です。既に書き終えてます。
見直し甘いかもしれんけど、許してくれ…作者は三日前から40度超え〜38度の熱でしんどいんや……。
感想も次まとめて返します




 

◆◆◆

 

 第 23 話 

 

-勇者部の誇り-プライド・オブ・ヒーロー 

 

 

紫のオダマキ

勝利への()決意(誓い)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ファウスト」

 

「残り七体全部来てるんじゃないの、これ」

 

遠く壁のギリギリ辺りに見えるのは、二度目の襲撃の時よりも二倍はいるバーテックスの姿。

夏凜がスマホのマップを確認するとやはり敵を示すアイコンが奥に七つあり、紡絆の視線の先には剣を持つファウストが同じく紡絆を見ていた。

まるで早く来い、と言わんばかりに。

それを見て、紡絆はエボルトラスターを強く握り締めた。

 

「やっぱり、総攻撃…考えうる限り最悪の襲撃パターンね。全く、やりがいありすぎてサプリもマシマシだわ。樹もどう? サプリ、キメとく?」

 

「そ、その表現はちょっと……」

 

差し出されたサプリを、引きつった表情の樹がやんわりと断った。

しかし気にした素振りはない。

動揺を隠すために言っただけで動揺しているのは夏凜だけではなく、皆同じだろう。

三体でも苦戦するどころか追い詰められたというのに、バーテックスが七体。さらに今や剣の能力がウルトラマン特効なのもあり、総戦闘力的にはウルトラマン以上の戦闘力があるファウスト。

それからスペースビーストの出現可能性もあり、はっきり言って厳しい戦いだ。

 

「あれ、何ですぐに攻めてこないんだろう」

 

神樹様による結界の境界線あたりでじっとしているバーテックス達を見て、友奈がそう呟いた。

紡絆や友奈達が樹海に取り込まれてから少しの時間が経過していたが、早々に現れたにも関わらずファウストやバーテックス達はずっと、沈黙を保ち続けていて不気味だ。

 

「さあね。どのみち、神樹様の加護が届かない結界の外へは行ってはいけないっていう教えがある以上、私たちからは攻め込めないしね」

 

そこで一旦会話は途切れ、あたりは重々しい沈黙に包まれた。

それぞれが複雑な表情を浮かべながら遠くの敵を見つめていた時、一足先に変身して偵察に出ていた風が木々の上を跳ねながらこちらへと戻ってきた。

 

「敵さん、壁ギリギリの位置から動きそうよ。

……決戦ね。みんな準備を---って紡絆?」

 

「………」

 

こういう時、明るくいるのが紡絆なはずが、妙に珍しく静かで、深く考えているようだった。

その姿に注目が集まる中、紡絆はふと見られていることに気づき、暗い表情で口を開く。

 

「一つだけ言いたいことがあるんです……」

 

真剣、それもシリアスな雰囲気を出す紡絆に全員がゴクリと息を呑む。

もしかして何かあるのかと。

このタイミングで言うということは、最悪な事態の可能性もある---

 

「……腹減りました」

 

最悪の可能性はなかった。

むしろシリアス全開だった割にまさかの発言にみんながずっこける。

唯一東郷は車椅子なのもあって転けなかったが、目をぱちぱちと瞬きし、復帰が早かったようでくすくすと笑い始めた。

 

「ふふ、紡絆くんらしいわ。そうね、本当はご飯食べる予定だったもの」

 

「まったく…こんな時に何言ってんのよ」

 

「あはは、確かに私も少しお腹空いたかも」

 

紡絆はお腹を抑えながら何かないかとポケットを漁るが、ドロドロに溶けたブラックサンダーしかなかった。

見なかったことにして、紡絆は周りを見渡す。

 

「でもほら、場は和んだろ? 特に樹ちゃん、緊張してるみたいだったし」

 

「紡絆先輩…もしかしてそのために---」

 

「……だったら良かったんだけどなー」

 

わざと言ったのでは、と樹が裏を読んだところで、ぐぅーっとお腹が鳴った。

もちろん発声源は紡絆である。

 

「……ですよね」

 

「うん、マジなんだ」

 

真剣、それも超真面目な真顔だった。

ただそれでも、みんなの緊張は確かに取れており、良い方向へ持っていけたと言える。

 

「はぁ……紡絆に緊張感ってあるのかしら。何はともあれ、勇者部一同変身よ!」

 

「そうね、ひと花咲かせるわよ!」

 

気を取り直すように風がみんなに聞こえるように言うと、夏凜の言葉とともに四人は同時にスマホをタップして勇者システムを起動する。

鮮やかな光が少女達を包み込み、その身に力を与えていく。人の身でありながら人類の敵であるバーテックスとスペースビーストという脅威に戦うための戦闘着。

そう、四人は勇者へと変身することで戦う力を手に入れるのである。

なお、紡絆は見ないように両目を手で覆って視界を塞いでいた。

 

「敵ながら圧巻ね」

 

「逆に言えば、こいつら殲滅すればもう戦いは終わったようなもんでしょ」

 

程よい樹木に紡絆と友奈が真ん中に左右に樹と風、東郷と夏凜がいる形で並んで立つ勇者部。

戦うための準備は紡絆以外が終えると、こちらの準備が整うのを待っていたかのように、七体のバーテックスも動き出した。

それを五人の勇者と紡絆は強い光を湛えた瞳で見つめる。

しかしながら程よい樹木から立って見たとしても、相手の方が遥かに大きく、威圧感が凄い。

まだまだ遠いというのに、これほど威圧感があるとは。

流石七体と一人居るだけある。

 

「あの剣が……嫌な感じしますね」

 

「ザワってくるよね」

 

「分かる。直感で当たりたくないって思ったし。当たったけど」

 

どうやらファウストが持つ剣は離れていても悪寒を勇者たちは感じるようで、警戒心が一番高い。

紡絆だってそれは同じで、光線技を跳ね返すあの剣の性質的に、前と同じ技での対処法しか思いつかなかった。

それでも、一人ではない。

一人では勝てなくても、みんなとなら。

勝ってまた明日を生きるために。

 

「よーし、それじゃあみんな! ここはアレ、いっときましょ!」

 

「アレって何よ? また何か変なことするのあんた達?」

 

変なこと扱いされたが、何故か紡絆も分かってないようで首を傾げる。

そんな中、風を中心に友奈や東郷、樹たちは肩の上にお互いの手を置くことでひとつの輪を作る。

 

「円陣? それ必要なの!?」

 

「気合いは必要でしょ?」

 

「確かに、それは否定出来ないな。ほら行くぞ」

 

「ちょ……し、仕方がないわね」

 

ようやく理解した紡絆は夏凜の手を取る。

すると夏凜が顔を赤めたが、それに気づかないまま空けてくれている友奈と樹の間に夏凜と共に入り、ついに全員で円陣を組んだ。

 

「あんたたち、勝ったら好きなものおごってあげるから絶対死ぬんじゃないわよ!」

 

なんだかんだで、頼れる皆の部長が自身の不安を押し殺して皆をいつものように鼓舞する。

 

「よーし! おいしいモノい~っぱいたべよっと! 肉ぶっかけうどんとか!」

 

明るく、楽しい未来を見据える友奈に気負いはなく、終わった後の出来事を考えているのか既に楽しそうな笑顔を浮かべていた。

 

「いわれなくても殲滅してやるわ。それこそ、あんたたちの出番がなくなるくらいにはね」

 

不敵な笑みを浮かべた夏凜が、いつもに増して強気な言葉を言い放つ。

 

「私も…。叶えたい夢が出来たから、止まれない」

 

そう言った樹は、夢を追いかける者の表情となっており、確かな勇気をその心に宿していた。

 

「頑張って皆を、国を、守りましょう!」

 

護国の誓いと友への思いが、東郷の中で静かに燃えている。

大切な護国と大切な友。自分の中で大切なふたつを守るために。

 

「よーし、勇者部はファイト……って言いたいところだけど、ここは紡絆に任せるわ。その方がいいでしょうし、バシッと決めなさい」

 

「え、俺? ちょ、何も考えてないんですけど!? 特になかったから何も言わなかったのに!」

 

皆がそれぞれ一言言っていたのに、何も言わなかった紡絆が風に指定される。

急に振られて困惑するが、皆の視線が集まり、期待するような目で紡絆を見ていた。

紡絆の言葉は人を動かす。勇気を与える。

この場で適切だろう。

 

「紡絆くん、お願い」

 

「きっと紡絆くんの言葉は皆に深く届くわ」

 

「はい、紡絆先輩はいつだって私たちに力をくれましたから」

 

「ふん、下手なことは言うんじゃないわよ。けど…期待しておくわ」

 

なんかもう雰囲気的に逃れることも断る事もすら出来ず、紡絆は一瞬で諦めた。

こんなに言われて無理と言ってしまえば、格好が付かない。

 

「ほらほら、みんな待ってるわよー」

 

「あーはいはい。わかりましたって! まったく、こういうの考えるのはそこまで得意じゃないんだけどな」

 

はぁ、とため息をひとつ零した後、紡絆は思考するように目を閉じる。

元々考えるのは得意ではないというか、こんなことになるなんて思ってなかったため、何も考えてなかったのだ。

それでも頼りにされ、期待する目で見られていると流石に考えないわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

20:名無しの転生者 ID:sUEQ5epZJ

あれやろうぜ! プライド・オブ・ガイズ!

 

 

21:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

なにそれ

 

 

22:名無しの転生者 ID:h40POjAM0

情報ニキー

 

 

23:情報ニキ ID:JoUHou2in

ウルトラマンメビウスという作品で行われた作戦のひとつ。

まず磁場フィールド内に誘導することでバリアの檻で怪獣を閉じ込め、そこで撃破するって作戦。

その怪獣は死んだ際には直径100㎞の爆発を起こすとされ、本当は1200mmシンクロトロン砲で撃破、爆殺させるのが本来のボガール殲滅作戦だったが、当然失敗。

で、現れるであろうウルトラマンを犠牲にしてでも人類が生きるために倒す作戦だったが、GUYSという組織がそれを否定し、希望を模索した結果、GUYSの誇りにかけていつも助けてくれたウルトラマンを救うという決断の元に行われたメビウスの中でも名シーンのひとつ。

その時、メビウスは自身が餌として見られてるのを知っていて自ら誘導役に挙手して磁場フィールド内に入るわけだが、もうひとりのウルトラマンと共闘して撃破し、GUYSがメテオールで空けた穴から脱出に成功した。

名シーン中の名シーンだぞ!

 

 

24:名無しの転生者 ID:DQzYQVORG

MADでも入ってるシーンだからな。あの話と22話の日々の未来はメビウス語る上で外せん

 

 

25:名無しの転生者 ID:dSnA5gP+E

まぁ、この世界にGUYSはないからもじる感じにはなるけどな

 

 

26:名無しの転生者 ID:v6WJNYydG

でもやっぱやりたいよね、やれ

 

 

27:名無しの転生者 ID:Nd0u8yEbD

どうせ何も考えてなかったんやろ?

 

 

28:名無しの転生者 ID:TmzqFqUI0

ほらほら、早くしろよー

 

 

29:名無しの転生者 ID:Nnf4xLM94

待たせちゃ怪しまれるぞー

 

30:名無しの転生者 ID:vYSXyxmDZ

それに何時襲われるか分からんからな

 

 

31:名無しの転生者 ID:1jWLdlqST

やっちゃえよ、ほら!

 

 

32:光を継いだ転生者 ID:nX2S4UypW

ええい、ままよ!

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

すぅーと深呼吸して空気を吸い、息を吐いた紡絆は表情を引き締めて後頭部をガシガシと掻いた後に皆の顔を見る。

誰も不安のような表情を浮かべておらず、誰もが未来を見ているようだった。

 

「俺から言えることはひとつ。俺一人じゃ全て相手にしても勝てない。俺じゃなくたってそれは皆同じだ。相手がどれだけ強いのか、俺たちは知ってる。でも、みんなが力を合わせれば俺たちの力は何倍にだって膨れ上がるはずだ」

 

一人で足掻いても勝てなかった戦いがあった。

全てを背負おうとして挑んだものの、返り討ちにあったことがあった。

全滅する可能性があった時や、精霊がいなければ何度も死んでいたであろうダメージを受けた。

けれど、その全てを糧に、その力(精霊)も含めて今があるのだ。

それなら、今までそうして来たように、これからも。

 

「皆それぞれ、まだまだ楽しいことも、やりたいことも、夢も、思い出も、後残りはいっぱいあるはずだ。そのためにも必ず倒そう。どれほどの強敵だったとしても、俺は決して諦めない。

だから生きて、みんな無事にまた明日を生きよう。いつも通りの日常に帰るために!」

 

紡絆は一人、開いた手を前に突き出す。

ここに誓うために。

決して諦めないという誓い。

 

「もちろん! まだまだ依頼も残ってるしお出かけや遊ぶ予定もまだまだ残ってるしね!」

 

また一人。

友奈が紡絆の手に自身の手を重ねる。

無事に帰り、勇者部の、元の日常へ必ず戻るという誓い。

 

「そうね、それに紡絆くんのお腹のためにも必ず勝たなきゃ。だから私は何があっても信じてるわ。紡絆くんを、友奈ちゃんを、みんなを」

 

さらに一人。

東郷が手を重ねる。

大切な人たちを信じて、必ず勝つという誓い。

 

「ほんとね。文化祭の準備だってあるんだから負ける訳にはいかないわ」

 

ここに一人。

今度は風が手を重ねた。

まだ少し先の未来だけれども、それでも大変で楽しくなる未来を必ず掴み取るという誓い。

 

「うん、私もまだまだ頑張らないといけないから……小都音ちゃんにも話したいことたくさんあるもん」

 

もう一人。

風の上に樹が手を重ねる。

夢見る少女は、夢を追いかけるためにも、友の元へ戻るためにも現実に必ず帰るという誓い。

 

「バーテックスを倒してお役目を終える。それだけよ。けど…こういうのも、あんたたちといるのも悪くはないかもね」

 

最後に一人。

夏凜が手を重ねた。

口では素直ではないが、纏う雰囲気や様子でわかる。本当は悪く思ってないことを。

必ず打ち勝ち、皆との居場所を、自身を受け入れてくれた勇者部へ帰るという誓い。

ここに、それぞれ別の思いと誓いが確かに築き上げられた。

この場の全員が思っていることは、つまるところ『必ず勝つ』。

理由はどうあれ、必ず勝って、戻る。

一人も欠けることなく、全員で。

負けられない戦いだったのが、より負けることの許されない戦いへ切り替わっただけだ。

 

「みんな違う。でも結論は同じのはずだ。

みんなを守るために、世界を守るために必ず勝とう。勇者部の誇りにかけて!」

「勇者部の誇り…いいね!」

「素敵な言葉」

「もちろん、必ず勝つわよー!」

「はい、終わらせましょう…!」

「勇者部の誇り、か…確かに、いいわね」

 

なんだかんだ言っておいて、こういう場では本当に適切なのだろう。

紡絆の言葉は受け入れられ、みんな笑顔を浮かべる。

もうすぐ戦いというのに、一人ではないと一緒だと手を伝って心へ響き、温かい光を浴びてるような錯覚に陥る。

 

「じゃあ……作戦名はPRIDE(プライド)OF(オブ)HERO(ヒーロー)!」

 

「「「「おーっ!」」」」

 

「お、おーっ!」

 

流石言うべきなのか、紡絆の分かりやすさが吉と出たのか。

一人だけ慣れてないせいで一歩遅れたものの、長くいる勇者部の面々は何も言われていないのに綺麗に揃え、紡絆の合図とともに全員が一気に手を降ろし、重ねった手は離れるが思いは確かに繋がった。

 

「……くっ!」

 

が、もう一人はやはり外国語はそこまで好きじゃないらしい。

日本語だと良いようだが、英語は好きでは無いのだろう。

まあ勉強したくないという意味でテストで唯一低いレベルなのだから。

 

「そう言えば、なんでヒーローなの?」

 

「勇者はヒーロー。ウルトラマンはヒーロー。Braveよりしっくり来るかと思ってな。あと語呂」

 

「へぇ、考えたのね」

 

「紡絆が頭使って良い答え出すなんて珍しいじゃない」

 

「おい後輩になんてこと言うんだこの人」

 

繋がった……はずである。

それはともかく、準備は整った。

あとは紡絆が変身するだけであり、紡絆は両手で喝を入れるようにパンっと心地よい音を顔を叩くことで鳴らした。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「すっげー痛い。けど、これくらいやらないとな!」

 

赤くなってるのを見て何処かの先輩と違い、健気な後輩は心配するが、紡絆は癒されつつ笑うと、地面を踏みしめている両足を滑らせるように少し開く。

そのままエボルトラスターを握ると鞘の部分を左腰に固定し、鞘の部分を左手で握ったまま、柄を右手で掴む。

抜刀するように前方に引き抜いたエボルトラスターの剣身は横に向いており、一瞬だけ輝く。

紡絆はそのままその剣身を左肩に当てると右腕を伸ばして剣身を空に掲げた。

その瞬間、エボルトラスターを中心に紡絆の体も黄金色に輝き、人際眩い光が放たれると、紡絆の体はネクサスへと変わっていた。

青い光の中、水が弾け飛ぶように爆発し、青から赤へと変わる光の中をネクサスが片腕を突き上げながら飛びだす。

 

『シュワっ!』

 

一度空中で回転したネクサスが両足と片手を地面に着く所謂スーパーヒーロー着地で現れると、ネクサスは立ちながら相手を見据える。

人数差でも不利で、戦力でも不利だろう。

それでも、立ち向かうしか彼ら彼女らには選択はないのだ。

 

『さぁ、来い』

 

遠く離れているファウストが手のひらを上にしてクイッと指を曲げることで挑発する。

それに対して、ネクサスはファイティングポーズを取った。

 

『デェアッ!』

 

誰よりも早く、ネクサスがファウストを見据えながら走っていく。

しかし七体のバーテックスの中、他のバーテックスよりも速いスピードでファウストを守るように突出している敵が一体。

ナメクジやカブトガニに近い姿を持ち、電気椅子をモチーフとしている牡羊座の名を冠したバーテックス、アリエス・バーテックスだ。

 

『出陣!』

 

「よし、殲滅!」

 

「私たちも!」

 

「「はい!」」

 

法螺貝を鳴らす義輝と凄まじい速度で走っていったネクサスを合図に、遅れて先頭を行く夏凜とそれに続く友奈、風、樹。

東郷はその場で狙撃態勢に入り、遠方からの攻撃を狙う。

 

「侵攻速度にばらつきがある…?」

 

取り出した端末で敵の位置を確認した東郷が、そう呟いた。

『獅子型』と書かれた一際大きなマーカーを殿として、残るマーカーがそれぞれのスピードでこちらに近づいてきていた。

残念ながらファウストの姿は映ってないが、距離が近いのを考えると『牡羊型』と書かれたマーカーの後ろ辺りか。

だが、大勢で攻めてきた割にはその利を生かそうとしていないように見えるその行動に、東郷は内心で首を傾げる。

二度目の戦いのとき、あれほどまでに厄介な連携攻撃を仕掛けてきたバーテックスが今更そんな稚拙な戦闘を行うだろうか? いくらファウストが居たとしても、奴らはスペースビーストと共闘してウルトラマンを全力で殺しに来ていた。

今更個々の力で戦ってくれるほど甘い存在なのかと言われると間違いなく違う。

しかし今考えていても答えは出ない。相手の意図が読めない以上、まずは適宜対応していくしかないだろう。

僅かな逡巡の末に意識を切り替えた東郷は、警戒を常にするよう心構えしながら端末を消すとスコープを覗き込む。

 

「獅子型のあいつは…。なるほど、明らかに別格ね。でも、まずは…」

 

まるで自分自身がボスだというように獅子型は中央の後ろに居り、表示されるマーカーも人際でかく、見た目に関しても獅子の顔を象ったような姿に日輪のようなオブジェクトが備わっており、その姿はさながら太陽をも思わせる。

 

『シュアッ!』

 

スペック的な意味でも一番速いネクサスが、一番近いアリエスと接敵する。

ネクサスが拳を握りしめ、対するアリエスは頭の触覚部分からエネルギーを貯めていた。

それが何なのかと考える暇もなく、アリエスから放たれるのは放電。

すなわち、雷撃。

直撃すれば間違いなくダメージは受けるであろうそれを、ネクサスはアームドネクサスを輝かせ、振り払うように凪ぐ。

一発では無理だと考えていたのか連発する度に、ネクサスは次々と薙ぎ払い、時に逸らす。

 

『ハァァァァ……デアッ!』

 

そしてアームドネクサスをクロスさせながら雷撃を受け止め、近づいた瞬間にはネクサスは拳を突き出すことで、アリエスを吹き飛ばす。

 

『ぐ……っ』

 

追撃を、と言ったところで打ち消し切れてない雷撃の蓄積による影響と以前のダメージに動きを止めてしまった。

全く役にも立ってないと思われていた雷撃は、蓄積という形でネクサスにダメージを与えていたのだ。

 

「一番槍は奪われたけど、勇者としての一番槍はもらった---ッ!」

 

怯んだネクサスにさらに雷撃を与えようとチャージし始めたアリエスだが、その隙を埋めるように空を跳び、走る勢いはそのまま全身の捻りを加えた右の一刀をアリエスの顔面に夏凜が叩き込む。

勇者の中では機動力に優れる夏凜だからこそ、間に合ったこと。

そして渾身の一撃は、バーテックスの顔面を大きく切り裂きその頭部を大きく損傷させた。そこにすかさず、青色の弾丸が突き刺さる。

刀を振った勢いのまま上下反転した姿勢でそれを確認した夏凜は、その狙撃手がいるであろう位置を一瞥して口角を釣り上げた。

 

『っ……フッ! デェ---ッ!?』

 

顔を振るい、意識をしっかりと保つネクサスは勢いよく斜め下に腕を振り下ろし、抜刀するような構えを取ることでエネルギーを循環させ、さらなる一撃を叩き込もうとした。

しかし、光線はやめることとなり、その理由はアリエスの上空から降り注ぐ闇のエネルギーが答えだ。

 

「させるか! 融合する前に叩く! 封印開始---ッ!」

 

一瞬の判断。

融合型なんて出されれば、ほかのバーテックス相手など不可能。

だからこそもうひとつの刀を地面に突き刺し、一人で封印の儀が可能な夏凜が封印を執り行うと、アリエスの肉体に降り注ぐエネルギーが一瞬途切れた。

神樹の力ゆえか、それとも偶然か。

何はともあれ、ネクサスは即座に駆け、封印の範囲を超えないようにしながら暗雲からアリエスの肉体を離す。

 

「すごいよ夏凜ちゃん!」

 

「紡絆もナイス! 融合される前に倒すわよ!」

 

そうして封印の光に包まれたバーテックスは、すぐにその下半身ともいうべき部分から、核たる御魂を出現させた。

しかし、そんな易々と終わるような相手ではなく、出現した御魂は超高速で自転運動を始める。

 

「何…回ってんのよ!」

 

すかさず夏凜が、残っていた左の刀を御魂に向かって投擲する。

夏凜の技量と勇者の膂力によって投擲された刀は重心を軸に回転しながら直進し、御魂へと直撃する---が、そのまま弾かれてしまった。

 

「ちっ!」

 

『ヘェアッ!』

 

自分の武器が粉々になるその光景に、思わず夏凜から舌打ちが漏れる。

ならば、と今度こそネクサスが光線技を放つために御魂へ振り向き、動作を取る。

その瞬間、御魂は己の存在を無視してネクサスへ高速回転しながら突撃した。

 

『ぐっ!?』

 

自分はどうなってでもウルトラマンを殺しに来た姿勢にネクサスは驚き、すぐに両手で御魂を掴む。

しかしドリルのように回転する御魂と受け止めるネクサスの両手から火花が散り、威力の高さ故か、ネクサスが徐々にバーテックスの集団の方へと追いやられてきている。

 

「紡絆くん!」

 

『……ッ! デヤッ!』

 

即座に受け流すように空中に投げ飛ばし、両手から伸ばしたセービングビュートが御魂を掴み取る。

多少回転が緩くなり、そこを跳んできた友奈の拳が勢いを殺すのと同時にヒビを入れ、ネクサスは一気に地面に叩き落として割って見せる。

いえーいと明るくハイタッチするフリをする友奈と流石に出来ないため、頷くネクサスを遠くから見ていた東郷は静かに微笑んだ。

例え変身していても、彼は変わらないのだから。

しかし、すぐに表情を引き締めなおす。幸先はいいがまだ一体。他に六体も控えているのだから油断はできない。

それにしても---

 

「今の敵の動き…まるで叩いてくれと言わんばかりの突出。何故あえて突っ込んできたの……?」

 

何かがありそうだと怪しんでいると、先程壊した御魂から七色の光が天に還っていくが、暗雲がその光を飲み込んでいくという異質な光景を既にネクサスが見ており、東郷もスコープで覗く。

 

『ヘェ……!?』

 

そして、ネクサスは見た。スコープでは捉えきれない距離。

だがウルトラマンの視力を持ってすれば地球から宇宙を見ることが出来るほどだ。

だからこそ、ネクサスは警戒心を高めるしかなかった。

闇が濃くて何かは分からない。それでも、()()()()()()()()が七色の光を吸収していたのだ。

バーテックスの能力を吸収しているかのように。倒したはずなのに、融合型へと進化しているような、そんな様子を感じさせるような。

少なくともいい予感はせず、嫌な予感しか感じない。

 

「紡絆?」

 

「紡絆先輩、大丈夫ですか?」

 

駆けつけ、一箇所に集まった勇者たち。

一向に動こうとしないネクサスを訝しげに見つめる夏凜と心配した様子で問いかける樹に、ネクサスはハッと周りを見渡し、また上空を見た。

釣られるように敵が近いというのに全員が見上げると---

 

 

『ジュ……!? ハアッ!』

 

飛んできた斬撃に反応したネクサスがパーティクルフェザーを二発放ち、防いでる合間にパーティクルフェザーを蹴ることで斬撃を蹴り返す。

しかし蹴り返した斬撃はあっさりと防がれ、凄まじい波動の渦を感じる。

 

「ちょ…何か危なそうなんだけど……!」

 

『デアッ!』

 

暗雲が拡がり、凄まじいエネルギーとともに()()()が降りてくる。

そのエネルギーを防ぐために友奈たちの前に立ち、サークルシールドを展開する。

お陰で吹き飛ばされることはなかったが、ナニカは降りてきた。

そのナニカは地面に着地するなり、土煙を発生させ、全く気配が読めなくなる。

サークルシールドを解除するが、最後まで見ていなかったネクサスはナニカが降ってきたしか分からない。

いや、それは勇者たちですら同じだ。

暗雲が消えたということは、間違いなくナニカは来た。

新手のバーテックスかと思い、風がスマホを取りだした。

 

「なっ……使えない!?」

 

「えっ!? あ、ホントだ!」

 

「っ…どうやらこっちもね」

 

「私もです…!」

 

スマホを見てみれば、さっきまで表示されていたはずのバーテックスのマーカーすら消え、着くだけ着くが、連絡手段は途切れた。

似たような事象や現象を考えるなら()()の時や()()()()()()に近い。

しかし何もいない。何も見えない。ネクサスですら、東郷ですら、夏凜ですら、誰も気づかず、誰も感じれず、誰も分からない。

だが紡絆だけは違った。

知っているのだ。電気を食らう怪獣が居ることを。透明になれる力を持つ怪獣が居ることを。

脳が否定する。この世界は別だと。

次元そのものが違うのだから居るはずがないと。

でも---()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ! まさか!?」

 

東郷が何かに気付く。

先程の暗雲は何かは分からないが、振り返って見たのだ。

アリエスの行動は、はっきり言って異常だ。

なぜなら集団戦において突出するというのは各個撃破のチャンスをみすみす敵に与えるようもの。

相手が突出してくるのであれば、まずはそこに戦力を集中させて迅速に撃破。その後の展開を非常に有利にすることができる。

それが普通であり、厄介な存在を消すチャンスは誰であって見逃すはずがない。

しかし()()()()()()()()()()()()()()()

東郷が答えに行き着き、スマホを取り出して連絡すると、通じない。

 

「しまった……! なら、あれは連絡手段を奪うためのもの…!? つまりみんなを一点に集める為の罠…!!」

 

アリエスの行動は完全に理解したが、未だによく分からなかった暗雲の行動に仮説を立てる東郷。

確かにそれは合っているのかもしれない。

それでも、遅すぎた。

この場に必要なのは正解不正解どちらではなく、()()()()時点で意味が無いのだ。

仮説があっていても関係ない。間違っていても関係ない。

何故ならもう---手遅れなのだから。

 

『ガッ……ウアアアァァ!?』

 

悲鳴が響く。

忍び寄ってきていた牡牛型バーテックスの大音量の怪音波が、一か所に集まっていた勇者達へと叩きつけられており、ネクサスは誰よりも前にいて、誰よりもバーテックスの近くに居り、誰よりも---耳が良すぎた。

例え人間の小声でも、ちょっとした物音でも聞こえるほどウルトラマンの素のスペックは人類を超越している。

離れていても勇者たちが苦しむほどの怪音波をネクサスが間近くで受けるとなると、予想は容易。

両耳を抑えたネクサスが倒れ、苦しむ。

 

「な…何よこの気持ち悪い音は……っ!?」

 

「こ、これくらい、勇者なら……あ、ぁ……っ!」

 

「あ、あたしらでもこれって……!」

 

牡牛座の名を冠したバーテックス。牛の角のような部位があり、コケが生えているその姿はまるで巨大な石のオブジェを思わせるバーテックス。その見た目から、ファラリスの雄牛をモチーフとしているのだろう。

名をタウラス・バーテックスと言い、体についているベルから耐え難いほどの怪音波で攻撃してきている。

音による実体のない攻撃故に、彼女達の精霊バリアは起動せず、自分たちですらキツいということから、風は紡絆のことを心配していた。

 

『ハアッ!』

 

『あぐっ……!』

 

そして厄介なことに、ファウストが斬りかかってくる。

動けないネクサスはパーティクルフェザーを飛ばすために耳から手を離し、やはり近すぎるのもあって放つ前に耳を抑えてしまう。

迫る剣と音による同時攻撃。

だが---()()()()()()()()

 

『ヘェ!?』

 

突如として動けなくなったネクサスの体。

両手が塞がってるなら両足で対抗しようとしたのだが、両足に凄まじい痛みが走り、動けない。

 

『グアアァ!?』

 

当然、そうなればネクサスは肉体で受けるしかなく、剣による攻撃を直撃で受け、手が地面に着く。

その瞬間、ナニカに蹴られた。

 

『グア、ウウッ……!』

 

吹き飛ぶネクサスは、自身が吹き飛びながら崩れ落ちそうな勇者たちを見て、空中で回りながらタウラスへ突っ込もうとした。

 

『ッ……!』

 

その前に立ち塞がる、何者かが居た。

ナニカは分からない。しかしネクサスは無意識に止まり、サークルシールドを展開する。

その瞬間、凄まじいエネルギーの奔流がネクサスをはじき飛ばした。

 

『シュワ……!』

 

サークルシールドのお陰でダメージはないが、近づけない。

まるで()()()()()に妨害されているようだが、その()()()が先程のエネルギーを放った影響でついに姿を現した。

()()から捉えられる印象は()だ。

岩のような配色と融合型らしき白色の肉体に、全身の赤色の部分に存在する黄色の発光点。

さらに幾つか生えている水晶と管状の口吻が特徴的で、アリクイにねじれを取り入れた印象を受ける。

さらに申し訳程度にアリエスと融合した証にアリエスの触覚が頭に着いており、力強さを感じさせる()()()()---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

358:名無しの転生者 ID:OPTrK9Yjv

っそだろ……!?

 

 

359:名無しの転生者 ID:5USXGknSP

おい…マジか? マジなのか……! よりによって、このタイミングで来るのか……!?

 

 

360:名無しの転生者 ID:uf5boU6KA

やりやがったっ! 最悪だ! やっぱり気づかれてる!

 

 

361:名無しの転生者 ID:mtEw0uCPQ

くそ、イッチの肉体が限界なのを知って、この総攻撃かよ! 強化されたファウストだけでもキツイってのに今も厄介な音! さらに融合型の出現だと!?

 

 

362:名無しの転生者 ID:/4aIRWtO8

まずいぞイッチ! そいつだけはネクサスにとって、今のイッチにとって宿敵にも程がある…!

 

 

363:名無しの転生者 ID:DoHpznJcp

いくらボロボロだったとはいえ、こいつは姫矢さんと三度も渡り合った敵!

 

 

364:情報ニキ ID:JoUHou2in

インビジブルタイプビースト、ゴルゴレム……!

体長55メートルで体重5万トンあるスペースビースト!

管状の口吻、ゴルゴレムプロボセスを伸ばして人間を捕食するほか、口吻から吐く火炎弾、全身の発光点から放つ雷に似た破壊光線を武器に持つ!

さらにゴルゴレムプロボセスのリーチはかなり長くまで伸び、相手の背後を突くこともできる程の伸縮自在の器官だ!

加えて前方にバリアを展開出来る上に、溶岩石のような甲殻はTLTが持つスペースビーストに大ダメージを与えられるストライクチェスターのストライクバニッシャーですら通用しないなど、純粋な防御力も高い!

そして何より最大の特徴は、背中にある水晶のような発光器官による別の位相へ移動して透明になる能力。

この状態ではあらゆる攻撃がゴルゴレムの身体をすり抜けて無効化されるため、ほぼ無敵となり、唯一対抗出来る力はネクサスが持つメタフィールドのみという……!

 

 

365:名無しの転生者 ID:drCuQdQxu

つまり、メタフィールドを展開しない限り絶対に勝てない敵だ!

 

 

366:名無しの転生者 ID:gDhTonSkp

しかも死角をカバーするし、簡単に言えばグロテスクな飛竜フ〇フル!

 

 

367:名無しの転生者 ID:oPQzWKscZ

前半に来いよバカヤロー!

 

 

368:名無しの転生者 ID:5tAFiDLiJ

いくらイッチでもこいつは……

 

 

369:名無しの転生者 ID:GyiQVcPrK

一応水晶を破壊すれば位相移動ができなくなる……ただし再生能力が高いから壊されても約480秒で再生する!

更に破壊されるごとに耐性をつけて再生時間を短縮する適応力までも備えるぞ…!

 

 

370:名無しの転生者 ID:xwuDZdaH8

いつもの融合型って言うよりかは純粋に取り込んだって感じか…一体どれだけ本編より強化されてるか

 

 

371:名無しの転生者 ID:3gddmhnyD

こっちはただでさえ融合型を防ぐ防がないでも御魂を壊さないといけないのにそれが相手の強化に繋がるのは辛い…

 

 

372:名無しの転生者 ID:aLYP+tUs1

メタフィールドの展開は、イッチの限界が近くなる…!

 

 

373:名無しの転生者 ID:p6bBrAneg

ウルトラマン来てくれー! ベリアルでもいいからー!

 

 

374:名無しの転生者 ID:tGNVIQlvl

ウルトラマンが欲しい…(切実)

 

 

375:名無しの転生者 ID:5LCZzlJtC

>>372

そう、それだ。この狙ったかのようなタイミング…間違いなくイッチのことはザギさんにバレてる…!

純粋に何処からか覗いてるのか、擬態してるのか乗っ取ってるのか情報を盗んだのかどれかは分からんが

 

 

376:名無しの転生者 ID:XytXB9NFc

>>373

これ以上イッチに対するオーバーキルはNG

今ベリアル来たら死ぬわ!

 

 

377:名無しの転生者 ID:DbCM7Lixu

待てよ、アリエスって能力不明では?

 

 

378:名無しの転生者 ID:Oye3GGD6G

うーん…雷撃使ってたことくらいか?

 

 

379:名無しの転生者 ID:3Rpt42XO3

うえぇ、さてはまだ能力残ってんの…?

 

 

380:名無しの転生者 ID:NmetOKzRP

ん? ちょっと待て…確かゴルゴレムって

 

 

381:名無しの転生者 ID:XgneCMVmT

あれ… 雷に似た破壊光線使えなかったっけ?

 

 

382:名無しの転生者 ID:Nq7XaElEs

あっ…

 

 

383:名無しの転生者 ID:+PYpv+bdd

うっわ(ドン引き)

 

 

384:名無しの転生者 ID:91HaqtNeX

だからアリエス突っ込んできたんかぁ!

 

 

385:名無しの転生者 ID:rP1+FYqHj

そりゃそうか! 普通相性良い奴を融合させるよな! 前回はそれでイッチ追いつめられたし!

 

 

386:名無しの転生者 ID:yqt+zPEtF

それにあれは…レオかな?

あいつは融合させるには惜しいだろうからな。バーテックス側の戦力的に。

仮に合体させるならゴルゴレムを超えるスペースビーストだ

 

 

387:名無しの転生者 ID:dyta7wXAa

ってかもしかしてゴルゴレム→雷

アリエス→雷撃

その二体の融合によって連絡手段というか携帯の機能が奪われたのでは?

 

 

388:名無しの転生者 ID:2fp/72Wsd

まぁ何もいないのに現れたから透明系だろうなとは思ってたが…こいつが存在する限り連絡は不可能、か

 

 

389:名無しの転生者 ID:9douvD9jT

どちらにせよ、イッチがピンチだ。多分耳殺られた

 

 

390:名無しの転生者 ID:tdzNJaJOZ

今回ばかりはマジでやばいな…! 普段は余裕なくてもこっち見れる余裕があるイッチが何も喋らねぇ!

それにあれほど近くてあんだけ痛みで悶えてたってことは出血はしたかもしれん…!

 

 

391:名無しの転生者 ID:Um1X5j2jr

まあ多分俺らの情報を聞くだけなのと耐えるので精一杯なんだろ。はっきり言って能力が厄介だわ強いわでスペースビーストの中でも上位に位置するぞゴルゴレム!

それにバーテックスの鐘によるダメージはどうか見えんが、出血は起こってても不思議じゃないからな…!

 

 

392:名無しの転生者 ID:P4bYAO4Ne

とにかくファウストを抑えつつゴルゴレムとスペースビーストの撃破するしかないか…!

 

 

393:名無しの転生者 ID:znh3i1jsy

融合型なのにゴルゴレムって普通のタイプとややこしいしもうなんの捻りもないゴルゴレオスでいいや。融合型らしい名前でいいだろ

 

 

394:名無しの転生者 ID:62o5ij7bJ

Go〇gle検索掛けたら古代ギリシア語か。元はクリーオスだし、ただ他の言語だと変な名前になるしいいんじゃないかな通常個体と差別化さえ出来たら。

 

 

395:名無しの転生者 ID:xDBkQITgd

名前はどうでもいいが>>392無理じゃね? 詰んでない?

 

 

396:名無しの転生者 ID:aqp659u41

俺たちに出来るアシストはやるしかないな…

 

 

397:名無しの転生者 ID:qxzHZKG+q

勝たなきゃ世界も全部終わりだ! 根性見せろイッチ!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インビジブルタイプビースト、ゴルゴレム。

アリエスの力を取り込み、昇華した融合型昇華獣ゴルゴレオスと名付けられた敵。

音による攻撃は続いており、タウラスに近づこうにも行けない。

 

『デェヤッ!』

 

なら少しでも怯ませばいいとネクサスはゴルゴレオスに突っ込んでいき、掴もうとしたところで()()()()()

 

『ヘッ…!?』

 

通り抜けてしまい、ネクサスは困惑しながら振り向く。

その瞬間、透明化で回避したゴルゴレオスが実体化し、既にネクサスの胸に蹴りを入れていた。

 

『ぐあっ……デアッ!』

 

怯ませるつもりが逆に胸を抑えて怯み、悪寒を感じたネクサスはしゃがみこんだ。

すると、ネクサスの頭上を何かが掠める。

ビュン、といった風を切るような音が聞こえ、ネクサスはしゃがんだ状態から地面を蹴り、回転して後方に蹴りを叩きつける。

 

『ジュ… あああぁぁ!?』』

 

その蹴りは容易に防がれ、反撃にと掴まれて地面に叩きつけられ、そこへ迫るネクサスに集中された怪音波にネクサスはまた両耳を抑えた。

 

「紡絆くん……! あのベルだけでも止めれば!」

 

一部始終を見ていた東郷は後方にいるため、鐘の影響を受けておらず、一人で二体と一人の相手をする羽目になっているネクサスの援護をすべく銃口をタウラスへ向ける。

音さえ止めれば、他の勇者も復活する。音に耐えながら捌くのだけで精一杯な紡絆を援護に行けるだけの戦力ができる。

発生源はタウラスの頭上でゆったりと前後に揺れるベル状の部位なのだろう。

だからこそ、狙うべきターゲットを見定めた東郷が、静かな怒りを込めながら狙撃銃の引き金を引き絞る---

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()

突如として引き金を引き絞る寸前で東郷の目の前に巨大な頭部が地面から染み出すように姿を現した。

イカやクラゲに近い姿をした魚座の名を冠したバーテックス。ピスケス・バーテックス。

 

「まさか地中を…!?」

 

その通り、地面に潜航し、その中を泳ぐ能力を備えた新手の敵は、今の今までその存在を地中に隠し続けて接近していたのだ。

そしてその名の通り水面を跳ねる魚のごとく地面から飛び出した魚型バーテックスは、飛び出した勢いのまま東郷の頭上を越え、大きく地面を揺らしながら再びその中へと潜航する。

 

「くっ…これじゃ狙撃が…皆…!」

 

銃弾を無力化する姿の見えない敵が潜むこの状況では、東郷は狙撃を行えない。

地面の揺れもあるが、呑気に狙撃させてくれるとも思えない。

スペースビーストは成長していく生き物であり、ウルトラマンと勇者に対抗するべくスペースビーストとバーテックスの二種族は融合という技を見つけた。

勇者たちが成長するならばバーテックス側が。ウルトラマンが強くなるならスペースビーストやウルティノイドが。

当然成長するバーテックスも勇者がどういう力を持ち、何に弱く何に強いのか、知り尽くしているのだ。

ウルトラマンは単体で脅威であっても今の勇者など個人は取るに足らない存在だと。

なら個人戦にすればいい。合流させず、援護させなければいいだけの話。

あとはこっちも連携し、近接組を潰せば戦えるのは一人だけになるのだから。

 

『シュア……デェア! ヘェアッ!』

 

一方でネクサスは怪音波の範囲からある程度離れたお陰でマシになり、ゴルゴレオスに攻撃を仕掛ける。

しかしすり抜ける。すり抜ける。すり抜ける。すり抜け---そして火炎、雷撃といった攻撃で反撃を受け、そこへファウストの斬撃や打撃が飛んでくる。

例え攻撃の際に実体化すると考え合わせて攻撃しても当たらず、隙を見つけてパーティクルフェザーを放てば、展開されたバリアに防がれた後にダークフェザーが代わりに放たれてくる。

 

『ハァ、ハァ……』

 

エネルギーの消費は少ない。

エナジーコアも鳴っていない。

ただダメージが蓄積され、攻撃は当たらず追い詰められて行くばかり。

それにタウラスの元へ急がねば友奈たちが不味く、東郷の方にもバーテックスが向かったのを透視能力でみていた。

 

『随分苦しそうだな。諦めてしまえば楽なものを』

 

『………』

 

ファウストの言葉を聞いてもなお、ファイティングポーズを取り、ゴルゴレオスに勢いよく空中で回ってキックを繰り出すが、やはりすり抜け、背後を取られる。

ゴルゴレオスがネクサスを潰すために口吻を首元を噛み付こかせようとし、ネクサスは即座に体をずらして避ける。

 

『バカめ。時間を掛ければ掛けるほど勇者がピンチになっていくだけだ!』

 

『ぐっ……フアッ!』

 

次々迫る口吻を避け、アームドネクサスで斬りかかってきたファウストの攻撃を止めてゴルゴレオスに蹴りを繰り出すが、やはり透明化で避けられる。

ならば攻撃か通じる方に、と拳を握り、ファウストの剣をアッパーカットの要領で殴ることで大きく仰け反らせるとネクサスは勢いよく足を突き出した。

 

『グワッ……あぁああああ!? アアァァ…!』

 

その瞬間、透明化を解除したゴルゴレオスの口吻がネクサスの足に噛みついた。

悲鳴を挙げるネクサスの足がミシミシと食いこんでいき、嫌な音が少しずつ鳴る。

すぐにネクサスが手刀で叩きつけると、口吻は離れていくが、放たれた雷撃がネクサスの腹を貫通して吹き飛ばした。

 

「ううっ……紡絆くんが……っ!」

 

「このままじゃ、まずい……っ!」

 

仲間のために立ち上がろうとする友奈と状況を冷静に分析した夏凜が刀を取り出す。

しかし怪音波がより強くなり、流石に感情だけではどうにもならないようで、膝を着いた。

 

『く…アッ……シュワ…ッ!』

 

腹を抑えながら立ち上がるネクサスだが、血のように光が漏れている。

それでもネクサスは構え、友奈たちを見たあとに手を力強く握り、タウラスを見つめる。

 

『面倒だな……』

 

『ッ……?』

 

圧倒的に劣勢。

いくらアンファンスとはいえ勝ち目すら一向に見えないというのに、樹海も少しずつダメージが入っているというに諦めない姿に何処か呆れを含む声音だった。

 

『ならば、貴様にとって()()()()()状況にしてやる!』

 

『……!』

 

まさか、とタウラスではなくゴルゴレオスの方へ視線をやれば、口吻からは火炎を。全身の発光点からエネルギーを集め、触覚からはビリビリといった凄まじい力を感じる。

さらにファウストが剣を掲げ、赤黒いエネルギーを纏った。

即座にサークルシールドを展開する準備に入るが、()()()()()()()()()()()()()()()

片方は前に。片方は後ろに。

つまり、友奈たち四人の勇者と東郷一人を狙った勇者だけを狙った一撃が双方から放たれる---

 

 

 

 

 

 

『フンッ!』

 

『ジュワッ……!』

 

判断を誤り、通常では間に合わない。そこで賭けに出たネクサスは一瞬でクロスレイ・シュトロームを放ち、ファウストの斬撃を消し潰した。

そして光線の勢いはそのままフルバーストを放ったゴルゴレオスの一撃の元へ凄まじい速度で追いつき、勇者たちを守るように前に立つ。

迫る二属性の攻撃。クロスレイはチャージすることも出来なければ、パーティクルフェザーでは消しきれない。

サークルシールドでは背後ががら空きなネクサスに怪音波が炸裂し、勇者共々消し炭だ。

東郷の方は既にバーテックスがいるとはいえファウストの一撃は防いだ。

だが、ゴルゴレオスの一撃はそれこそジュネッスの力に匹敵し、チャージしていたことから分かる通り、ゴルゴレオスにとっても必殺の一撃なのだ。

ファウストが言っていた。避けれない状況にしてやる、と。

それはつまり、今の状況だ。動けない勇者は直撃すればタダで済まないし精霊バリアでも防ぎ切れるとはいえない。

防御しようにも手段はなく、迎撃も不可能。

もはや受けるしかなく、爆発が起こる---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ。どうしたら……!」

 

共に戦うどころか、足を引っ張っている。

指示を出そうにも、頭が痛ければ吐き気もある。不快でしかない音によって耐えるしかない状況だ。

今、紡絆は自分たちを庇って強烈な一撃が直撃していた。

心配ではあるが、この状況が続けば紡絆は何も出来ずに殺されるのだろう。

そう、分かりやすく言えば、自分たち勇者は人質だと風は理解していた。

ウルトラマンがどれほど強くても、中身は継受紡絆という一人の人間なのだ。

誰一人見捨てることすら出来ない超がつくほどのお人好しである紡絆なら危機となれば己を犠牲にしてでも守るし、ここに居るのが誰であっても庇うだろう。

故に敵にとっては絶好の攻撃チャンスであり、倒せなくてもダメージを累積させることは可能。

どちらにせよ音を止めることが出来ないと何の解決にもならなく、ついに第三陣である水瓶型と天秤型も攻撃圏内へと到達することで遂に二体のバーテックスが前線へと現れた。

三体のバーテックスが居並ぶ光景に、皆の心に絶望の二文字がよぎる。

 

そんな最悪な状況の中、耳を抑えつつ樹は不快感に涙を浮かべながらも、自分の心の中に苦しみとは別の感情が膨れ上がっていくのを感じていた。

誰もが苦しみ蹲る中、ゆっくりと樹が立ち上がる。

膝はガクガクと震え、額には脂汗が滲んでいる。

苦しくないわけじゃない。気持ち悪いし頭も痛いし、はっきり言って苦しくて苦しくて、嫌になる。

でも、それ以上に許せなかった。

今の樹を突き動かしているのは偏にその感情だった。

不快感を塗りつぶすほどの感情。

膨れ上がった感情の名前は『怒り』だ。

理不尽な苦しみに対する怒りも、大切な人たちが傷つけられていることに対する怒りも当然ある。何も出来ずに蹲るだけで大切な人に庇わられるだけの自分に対する怒りもある。

しかし、今一番樹が許せないのは---

 

「違う……!」

 

それほど期間があったわけではない。

いつもと違う場所で皆と過ごした。それほど長くいたわけではないが、時間が経つのが早いと感じるほど楽しくて、音楽は樹に思い出という暖かいものを形で与えていた。

 

「こんなものは……!」

 

テストの日、誰よりも早く駆け寄ってくれた小都音に言われたことが頭に浮かぶ。

 

『兄さんの言ってた通り、樹ちゃん歌上手だったよ。ね、その歌声を活かせる歌手とか目指すのいいんじゃないかな? 樹ちゃんにピッタリだし、私応援するよ?』

 

『か、歌手だなんて…私には…』

 

『なれるよ、絶対。うん、そんな確信があるし……きっと兄さんだって私と同じことを言うと思う』

 

『……じゃあ、小都音ちゃんさえ良かったら---』

 

自分のことのように嬉しく語って、夢を与えるひとつのきっかけの言葉を言ってくれて、約束を交わした日のことを。

あまり話さないクラスメイトたちですら褒めてくれて、それが凄く嬉しかった。

自分でも、音楽だったら人を笑顔に出来るのだと。

いつも真っ直ぐ人にぶつかって、誰かを笑顔にするあの人に近づけると。

 

「音は…音、楽は…ッ! 苦しめるためにあるんじゃない……!」

 

音楽は聴いている者の心を癒し、考えさせ、時に誰かを救う。

その人の歩んできた人生を伝えることの出来る立派なもの。感動させたり悲しむこともあれば、胸が苦しくなるような歌もあるかもしれない。

しかしその先にあるのは耐え難い苦痛ではなく、救済。感動だ。

 

『歌って人と人を繋げるものにもなったりするんだ』

 

『夢を追いかける心を忘れない限り、信じれば夢は叶う』

 

顔を見合わせると、行動を見ていると聴いていた通りの人で、話すことが出来なかった。

恥ずかしくて逃げて、話したくても話せなくて、傷つけてるんじゃないかと申し訳ない気持ちがあっても改善出来なかった。

それでも初めて、ちゃんとした会話が出来た時があった。

その言葉通り、今がある。音楽が、歌があったからこそ自分は繋がることが出来た。

持つことが出来た夢へ向かう勇気を確かに与えられた。

故に---

 

「音楽は誰かと誰かを繋げて幸せにしてくれるものっ! こんな苦しめるだけの音は間違ってる……だから、止まってぇー!!」

 

全てのきっかけをくれた音楽を、そのようなことに使われることに納得が出来ず、怒りが浮かび上がり、体を縛り付けるような不快感もそれ以外の何もかも振り払うように、樹は右腕を突き出した。

樹の怒りに呼応するように、突き出した右手の手首、そこに現れた鳴子百合型の装飾から若草色の光のワイヤーが一斉に飛び出す。

飛び出したワイヤーは、わずかに螺旋を描きながらもタウラスの鐘へと直進していく。

だが---

 

『防がせて貰おうか……!』

 

「ッ……!?」

 

突如上空に現れた黒い影。

ファウストがタウラスの元へ向かい、樹のワイヤーを斬るために剣を構える。

それでも樹はワイヤーを伸ばすしかなく、この一撃を防がれてしまえば音の妨害はもう無理になってしまう。

ワイヤーと剣。果たしてどっちが強いかなど答える必要もなく、無惨に樹のワイヤに対して剣が振り下ろされたー--

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閃光が翔ける。

勇気を出した一撃に応えるべく、心優しい少年は大人しくてオドオドしているにも関わらず、秘められた勇気を持つ少女の行動を無駄にさせないためにその輝きは一層強まる。

 

『デェヤアアアァァァッ!』

 

情熱を体現するネクサスの光。

消耗を減らすために変身することはしていなかったネクサスの戦闘形態(第二形態)、ジュネッス。

凄まじい速度で爆煙の中から出てきたネクサスを墜落させるように、透明化で近寄っていたゴルゴレオスが実体化とともに火炎弾を放つ。

さらに二つの巨大な水球を備えており、顆粒を束ねたような姿で大量の水に覆われている水瓶座の名を冠したバーテックス。アクエリアスがついに動き出した。

このままでは不味い思ったのかネクサスの進行方向に大量の水玉を配置することで行動の阻害に出る。

しかしマッハの速度でネクサスは見極めながら水玉と火炎弾を避けていくため捉えきれず、そのままネクサスはワイヤーが斬られる寸前でファウストの剣を横蹴りで逸らした。

 

『なに……!? ならばこれ---ぐっ!?』

 

あの攻撃を受けてもなお立ち上がれた姿に驚いたような声を出していたが、ファウストは即座に斬撃を放とうとして、ネクサスはファウストの体にしがみつきながら地面へと加速して落ちていく。

そうなるとワイヤーが通り過ぎ、樹か放ったワイヤーはタウラスの鐘を字搦めに巻き付いて停めさせることに成功する。

 

『離せッ!』

 

『ぐわっ…! ぐぅ……ッ!?』

 

ファウストは抵抗するように柄の部分で何度もネクサスの胴体を打ち付け、地面に落ちる寸前で怯んだネクサスを踵落としで蹴り落とした。

そこにゴルゴレオスが跳んできて、ネクサスを踏み潰す。

一度、二度潰したところで、三度目をネクサスは転がることで避けるが、口吻がネクサスの足に巻き付いて触覚が光ると、雷撃を与える。

だが、忘れてはならない。

さっきの行動で()()()()()()()()のだ。ならばもうネクサスは一人ではない。

 

「樹ナイス! 夏凜と友奈は紡絆をお願い!」

 

「分かってるわよ!」

 

「はい!」

 

紡絆のフォローと樹のお陰で動けるようになった風は即座に指示を出し、それと同時に夏凜は刀を手に地を駆け、即座にゴルゴレオスに斬りかかった。

しかしカキン、と金属同士がぶつかったような音が鳴り、弾かれる。

見た目通りの硬さを持つゴルゴレオスに威力が足りてない。

 

「やっぱりダメか!」

 

「夏凜ちゃん! 私も!」

 

「友奈……!? なら遅れるんじゃないわよ!」

 

「うん!」

 

夏凜に追いついた友奈が拳を握り締め、今も雷撃によってダメージを与えられているネクサスを救出するため、本体を狙うのではなく口吻を狙う。

 

『デェヤッ!』

 

『あぐ……シュア…ッ!』

 

そうはさせまいと地上へ落ちてくるファウストにネクサスが何とか腕を振るい、パーティクルフェザーを一発放つことで邪魔をし、作り出したその少しの時間はチャンスだ。

隙を逃さず、先に辿り着いた夏凜が口吻を×字に切り裂き、即座に友奈が振り絞った全力の拳を打ち付けた。

 

『ぐぐぐ---ハアァアアアアア…デェアッ!』

 

思わず、と言った感じで離される口吻だが、ネクサスは口吻を逃さずに掴み、ゴルゴレオスの体を持ち上げると一気に背後へ投げ飛ばした。

 

『ハアッ、ハアッ……』

 

ドガーンと地面に落ちたゴルゴレオスが初めて痛みに悶えるが、ネクサスは膝を着く。

痛み分け---と言いたいところだが、ネクサスの方がダメージが多い。

 

「紡絆くん上!」

 

「こんのっ!」

 

上空から加速し、迫るファウスト。

夏凜が即座に刀を投げるが、横に構えたファウストの剣に当たった瞬間、()()する。

 

「はぁ!?」

 

意味が分からないと言いたげな表情で思わず叫ぶ夏凜。

状況は変わらず、剣を振り下ろしてきたファウストの一撃をネクサスは回避しようにも動くことが叶わないため両腕を交差することで防ぐ。

しかし鍔迫り合いに持っていくことはせず、ファウストはそのままネクサスの顔面に蹴りを入れ、吹き飛ばした。

地面を転がりながら樹木にぶつかり、ネクサスは両手を地面に着く。

 

『……ッ』

 

全身が軋むような痛み。

コアゲージが鳴らないのだけが救いだが、バーテックスはまだ居て、融合型はようやく一度ダメージを与えただけ。

ファウストは剣によって強化されているのか、素のスペックでネクサスを超えている。

しかもネクサスは全力が出すことが出来ないのだ。ウルトラマンのスペックで全力で活動すれば樹海内がどうなるか想像に容易い。

もし光線技を神樹様の方へ撃てば傷つけるし、地面に当たってしまえば現実世界に影響が出てしまう。

 

(やるしか、ない……!)

 

唯一勝つ方法。

その選択を取ればどうなるか分からないが、この状況を打開するために行動しなければ始まらない。

目の前に迫る剣による一撃を弾き、前転で回避しながら起き上がるのと同時に回し蹴りを放つと、迫っていたゴルゴレオスが即座に透明化で回避した。

瞬時にバク転で距離を離し、ネクサスは両腕のアームドネクサスを十字にクロスする。

そして---

 

「いい加減っ---しつこいのよぉおおおおお!」

 

風は巨大化した大剣を横一文字に思いっきり振りぬいた。

怒りを込めたその一閃は、アクエリアスとタウラスの二体のバーテックスを中央から纏めて両断した。

御霊はまだ無事なものの、体を上下に分断されたバーテックス達の行動が停止する。

 

「一体逃した……!? 紡絆避けなさい!」

 

『ジュ……ウグッ!?』

 

ファウストとゴルゴレオスに気を取られていたネクサスは声に反応し、振り向く。

十字架と天秤を合わせたような姿をしている天秤座の名を冠したライブラ・バーテックスがいつの間にか存在していた。しかも暗雲からエネルギーが注ぎ込まれている。

すぐにエネルギーは消えたが、ライブラは高速回転し、ネクサスの体ですら油断すれば吹き飛ぶほどの竜巻を起こしてネクサスに突っ込んできた。

それは、()()()()()()。突風を起こすことは出来ても、竜巻のように突っ込む力などない。

つまり成長---あの一瞬のエネルギーは成長を促進させたと見ていい。

それに対してネクサスは避けない---いや、避けることが出来なかった。

ここに来て今までの度重なるダメージが足を引っ張り、体が動かない。

 

「だったら私が……!」

 

タウラスを捕まえる必要がなくなった樹がワイヤーでライブラの動きを阻害しようとするが、捕まえる前にワイヤーが竜巻によって弾かれてしまう。

夏凜が刀を投げたとしても無効化され、友奈は近づけず、風はまだ空中だ。

 

「紡絆くん……!」

 

『……ァァアアアアッ!』

 

体が拒否する。

これ以上の負荷は良くないと紡絆の脳や筋肉が否定するが、それらを無視して満足に動かすことは出来ないのか震えるせいで時間がかかりながら両腕を突き出し、水面のような青い光のバリヤー、サークルシールドを貼る。

ぶつかり合うネクサスのバリヤーと竜巻と化したライブラ。

凄まじい勢いで地面を削りながら押されて行くのは、ネクサスの方だった。

 

『ぐぅぁぁああ……デェアァァァ!』

 

威力が高いのか突き出していた両腕が徐々に体の方へ持って行かれていくが、気合いを込めて再び突き出すと、さっきに比べて勢いは衰えたものの依然とネクサスが押されており、そこへ赤黒い三日月型のエネルギーが飛んできた。

その三日月型のエネルギーはギリギリライブラに当たらず、ネクサスのサークルシールドに直撃する。

その瞬間、当たった部分から少しずつ()()()()()()()()

 

『う……ううっ…がはっ!?』

 

バギバキといった音が鳴り始めるとサークルシールドにヒビが入り、亀裂は広まっていく。

あと少しで砕ける---そのとき、横から腕を弾かれたネクサスは竜巻の一撃をまともに受け、風圧に乗って回転しながら上空に一気に打ち上げられた。

ネクサスの腕が弾かれた原因であるゴルゴレオスは雄叫び声のようなものを挙げ、竜巻に火炎弾が何発も放つ。

攻撃しても打ち上げられるだけでネクサスに当たることはない---しかし目的は当てることではないようで、竜巻に打ち上げられた火炎弾は地面に次々と落ち、樹海を傷つける。

 

「っ……うわっ!?」

 

「くっ、こうされると近寄れない……!」

 

さらに駆けつけていた友奈たちにも降り注ぎ、精霊バリアによって守られているが動けず、ピスケスが潜ってようやく援護に回れるようになった東郷も同じく妨害されていた。

 

そして竜巻という暴風の中、ネクサスは冷静だった。

吹き荒れる風に身を任せ、鎌鼬のような空気の刃が肉体を傷つけるが、人間体ならまだしもその程度でやれるほどウルトラマンは弱くない。

打ち上げられた時、バリヤーを失ったネクサスは寸前でライブラの攻撃を両手で止めていたのだ。

そのため、既に竜巻を発生させるだけ発生させておいて(かぜ)の中を移動するライブラを目で追う。

無論何もしていなかったわけではない。

この中、パーティクルフェザーを牽制として連発したが、全て無効化された。

すなわち、ライブラの特殊能力のひとつは遠距離攻撃の無効化。生半可の火力では吸収されて終わりだ。

もう少しで竜巻の効力は切れる。火炎弾は直撃していないが、早く消さなければ地上が危うい。

ただ焦って行動してもチャンスを無駄にするため、竜巻の力が消えるタイミングを狙って来ると予想し、腕を振るい、抜刀するような構えを取った。

 

『ハァアアアア……ゥッ?』

 

何かが迫る。

荒れ狂う(かぜ)の中をネクサスの下から何かが迫っていた。

クロスレイの動作を取っていたネクサスは思わず下を見ると、高速回転しながら迫ってくるゴルゴレオスが居た。

 

『へエッ!?』

 

気が付けば、火炎弾が収まっていた。

つまりさっきの火炎弾の本当の目的はネクサスに来れないと、遠距離攻撃をしていると見せかけるための貼った罠、といったところか。

 

(こいつ、さっきの御魂の能力……!?)

 

そして気が付く。

この力は先程見たような力であり、方向性は違えど似た能力をライブラとアリエスは持っていたということ。正確に言えば、成長によって連携するための力を手に入れたところか。

その両者はバーテックスしか出来ない連絡手段でもあるのか上下挟み込むように突撃してくる。

さらにライブラは重りの鉄球のような部分が外れて巨大化し、それがライブラにとって足と言える磔の下の鋭利な部分に突き刺さることでより重さを強めていた。

重ければ重いほど、エネルギーというものは増える。純粋な威力を上げるための行動と言えるだろう。

それでも迷ってる暇はなく、ネクサスはアームドネクサスを輝かせるとぐるぐると凄まじい速度で回転し始めた。

目には目を歯には歯をの如く回転には回転で対抗しようとしているのか、回転しながら両手で三日月型の光刃を放つ---ボードレイフェザー。

次々と刺さっていく光刃は無効化され、片方はダメージを受けると感じたのか透明化した。

その瞬間、ネクサスは降りるのではなく、敢えてライブラへ突っ込みながら両腕に光エネルギーを集める。

 

『デェアッ!』

 

放たれるのは、至近距離のクロスレイ・シュトローム。

撃つのと同時に回転が止まり、竜巻は霧散した。

しかしネクサスはライブラの重りによる一撃を受けて地面に落下してしまう。

それでも光線を放ち続け、ついにはライブラの鉄球を壊し、足から頭まで光線が貫くと一歩遅れて轟音が鳴り響いた。

敵の一撃に光線の勢いがそのまま落ちたため、背中を強打したネクサスは痛めながらも堕ちていくライブラを見つめていた。

取り逃した一体は御魂はまだとはいえ戦闘不能にし、二体は風がダウンさせた。

残るはピスケスとただものでは無い雰囲気を見せるレオ。それからファウストとゴルゴレオスだ。

 

「紡絆平気!?」

 

『……ショア』

 

即座に東郷を除いて駆け寄ってくる勇者たちを見て、ネクサスは立ち上がりながら頷く。

コアゲージはメタフィールドを形成していないお陰か未だに鳴っていない。

 

「紡絆くん無事みたい!」

 

「ひやひやしたわ……全く。とりあえず後ろのアイツと厄介なやつらが来る前に三体まとめて封印よ!」

 

「お、お姉ちゃん! バーテックスの様子が……!」

 

変身解除や最悪の事態にならなかったことに皆が安堵の息を吐き、風は胸を撫で下ろしていたが樹の声に全員がバーテックスの方を見た。

 

「何かがおかしい…! バーテックスが……戻っていく」

 

「い、一体何が……」

 

「嫌な予感がするわね……」

 

下半身から頭まで貫通して半分になっていたライブラは再生しながら後退していき、既にほぼ再生を終えているアクエリアスとタウラスも同じく後退していく。

三体が向かう先にいるのは、これまで何をするでもなく悠然と佇んでいた獅子型バーテックスのレオの元。

いや、まるで引き寄せられているようにも見える。

そして一定の距離まで辿り着いた瞬間、 レオの中心から炎が生まれ、灼熱の球体と化すると一気に他のバーテックスたちの全身を包み込んだ。

まるで太陽だ。

しかし光の象徴であるウルトラマンの温かな光とは違って、触れるだけで大火傷をしてしまいそうな破滅の太陽と言うべき光だが。

やがて炎は収まり、その中から遂にそいつが姿を現した。

 

「合体……? こんなの聞いたことないわよ!?」

 

獅子型をベースに、中央にライブラの中心部、本体下部にはアクエリアスの水球が取り付き、両サイドにそそり立つのはタウラスの角だろうか。そして何よりも、元の獅子型よりも明らかに巨大化している。

威容を備えるその怪物の名は、『レオ・スタークラスター』。49mはあるウルトラマンですら小さいと、ウルトラマンが大きいと感じるほどに大きくその放たれる威圧感は誰もが気圧されるほどであるが、そもそもそのような能力があることは想定するべきだったのだ。

スペースビーストとの融合を可能としているやつらが、同じバーテックスならば出来たって可笑しくない。

しかし融合型だけでも未だに一度しかダメージを与えていないのに、三体と融合したレオはどれほどの力があるのか。

乗り越えてもその度に強力な一手を出してくる敵に絶望感が全員に少し募る。

 

「で、でもまとめて四体は倒せるよ!」

 

「友奈の言う通り、まとめて封印開始よ!」

 

絶望感を打ち消すべく、友奈が全員に聞こえるように声を張り上げると風は同調した。

絶望感はあるが、逆に考えてしまえば封印の儀が出来れば殆ど勝ちなのだ。

数が減ったと思えば、多少は気は楽になる。

 

『………』

 

ただ、ただそれでもネクサスだけは最大限の警戒と共に、何処か迷いを振り切ったような、覚悟を決めたように拳を握っていた。

もう生半可な覚悟や気持ちでは融合型や合体したバーテックス、ファウストを相手にするなら勝てない、と---

 

 

 



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「-満開-フルブルーム」

 

◆◆◆

 第 24 話 

 

-満開-フルブルーム

 

 

困難に打ち勝つ

サザンカ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たに現れたレオ・スタークラスター。

さらに融合型昇華獣ゴルゴレオス、ダークファウスト、ピスケスが存在しており、今居るのはレオとゴルゴレオス、ダークファウストのみ。

対するは勇者五名とウルトラマン。

両者ともに動かず、出方を窺っている。

 

『……シュア』

 

ネクサスがファイティングポーズを取り、レオに注目する。

その瞬間、レオの前方に円を描くように、膨大な数の火球が現れた。

過去に一度あったグランテラ戦に似たような状況だが、グランテラの時とは違ってレオは一斉に火球を生み出した。

つまり---

 

「みんな気をつけて!」

 

『ッ……!? シュワッ!』

 

火球が一斉にウルトラマンと勇者たちに襲いかかる。

すぐに反応したネクサスは避けるために地面を蹴ることで跳躍して、勇者たちは一斉に跳ぶことで避ける。

 

「コイツ、追尾すんの!?」

 

次々と木々を跳びながら火球から逃げる夏凜だが、誘導性が高いのか軌道修正して後ろを追ってくる。

 

「この…うあぁ!?」

 

上空に居る風は足場がなく、ひとつの火球を切り落としたところで追加され、大剣では遅すぎる。

目前に迫る火球を大剣で防御するが、火球はその防御の上から風を呑みこんだ。

 

「お姉ちゃ---きゃあああぁ!!」

 

必死で逃げていた樹は風の悲鳴に気を取られてしまい、殺到した火球に避けられず受けてしまう。

 

「追ってくるなら、そのまま返して……あっ!? ああっ!」

 

追尾を逆手に取ろうとした友奈は追ってくる火球から逃げ、急にUターンすることでレオの方へと向かっていく。

すると後ろから迫る火球は友奈を追尾するために背後から迫る。

だが、レオはそれを理解していたのか友奈は近くで己を追尾する火球と新たに向かってくる火球に挟み撃ちにされて成す術なく撃ち落とされた。

 

「はああぁぁぁぁ! くっ……!」

 

反撃を試みた夏凜はレオの装甲に自身の武器である刀で斬りかかるが、耐久力と威力が足らずに刃は無残に砕け、遅れて追尾してきた火球に彼女の体は呑み込まれてしまった。

 

「みんな……! おのれ…!」

 

四人がやられる姿をスコープ越しから見ていた東郷はピスケスが潜っている隙をついて放つが、東郷の弾丸は意味をなさず、反撃に放たれたレーザーが東郷に直撃してしまう。

 

『ハッ! シュア!』

 

一方で、縦横無尽に空中を動き回り、追尾する火球を次々と避けていくネクサスに迫るのは数えるのが嫌になるほどの量。

空を高速で駆け回るネクサスはエルボーカッターで次々と打ち消し、避けて、火球同士をぶつけることで数を減らしていき、空中で回転するように旋回すると火球を一直線にまとめ、一斉に迫る火球を両手からサークルシールドを貼ることで全て無効化して見せた。

そんなネクサスが見下ろすのは、レオによってやられた勇者たちの姿。

それを見て血が出るのではというくらいに拳を強く握りしめ、ネクサスは空中から加速する。

 

『テヤッ!』

 

『ハアッ!』

 

腕を振り絞り、突き出すネクサスの拳を合間に入ったファウストが剣で受け止め、反撃の蹴りをネクサスは叩き落とし、剣を踏みながら跳び、そのまま足を突き出す下降キックを放つが、実体化したゴルゴレオスがその硬い装甲で防ぐ。

 

『ぐっ……!』

 

即座に固い装甲を蹴り、回転しながらエルボーカッターで斬ろうとすると、透明化したゴルゴレオスによってネクサスの一撃は回避され、そのタイミングで後ろからファウストと前方から突風を起こしながら回転してレオが迫ってきた。

ネクサスは交互に見ながらも対処する方法がなく、その一撃を腕を真っ直ぐ上に突き出すことで防御するが、ガード越しに受けたネクサスは弾かれるように吹き飛ぶ。

 

『ウアッ……!?』

 

合体したバーテックスの力が使えるのだろう。

ライブラの能力を使ったレオの一撃とファウストの一撃は凄まじく、ガードした両腕から痛みが走る。

はっきり言って、このままではまずい。勇者が居ないということは、今は神樹がフリーであり、ネクサスも三体相手となると勝てない。

バーテックスだけなら光線技を放てば倒せるかもしれないが、ファウストとゴルゴレオスは邪魔をしてくる。

仮にどちらかに撃ってもダメージを稼いでない今、倒すまではいかないだろう。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

711:名無しの転生者 ID:pPECYFVun

ちくしょう! 合体なんて卑怯な真似しやがって!

 

 

712:名無しの転生者 ID:PoAEgkkwa

このままじゃガチでまずいぞ! 神樹様の破壊は敗北だ!

 

 

713:名無しの転生者 ID:nGTG+Sg/c

でも融合型だけでも厄介だってのに勇者は戦闘不能状態でレオ相手はキツすぎる…!

 

 

714:名無しの転生者 ID:UaOChacMw

ジュネッスを解放してもこれかよ…!

 

 

715:名無しの転生者 ID:bzWCycWTZ

融合型にダメージを与えられないのが痛すぎる…

 

 

716:名無しの転生者 ID:V1mOlhF6k

ゴルゴレム自体が姫矢さんを肉体的に苦しめたビーストだからなぁ…

 

 

717:名無しの転生者 ID:oK59s8Cw/

透明化が強すぎる。しかも破壊光線はあったけど雷属性まで身につけやがったからな…

 

 

718:名無しの転生者 ID:bxqUpZ/Re

いくらイッチの戦闘センスが高くても相手はそれ以上に強化してくるもんな……

 

 

719:名無しの転生者 ID:J1zRX9xnT

少なくとも分かるのは、このままじゃイッチのコアゲージがダメージの受けすぎで鳴ってしまうということだ

 

 

720:名無しの転生者 ID:dGfKlXMQw

結構なダメージをアンファンスの時に受けてるから……それに友奈ちゃんたち勇者組が狙われるかもしれん

 

 

721:名無しの転生者 ID:fwiZSVEGp

もうファウストを止める止めない言ってる暇はないぞ! 確実にファウストを仕留める選択を取らなければやられるのはこっちだ!

 

 

722:名無しの転生者 ID:Fq2R1rqSS

くっそ! せめてファウストの正体が掴めたらなぁ…!!

 

 

723:名無しの転生者 ID:EfP9LSWEd

イッチも分からないから止めるつもりで戦ってるもんなー

 

 

724:名無しの転生者 ID:ATZUWKq/K

とにかくもうやるしかない! 守り手がいないならその道を防ぐために使え!

 

 

725:名無しの転生者 ID:JQgIoAsAA

もう迷う時間すらない! 元のゴルゴレムは透明化能力は厄介だったが、メタフィールドの展開で潰すことが出来た! 例え融合型になったとしてもそれは変わんないはず!

 

 

726:名無しの転生者 ID:f2qXGl44s

いいか、2分だ。2分で決着つけろ!

 

 

727:名無しの転生者 ID:F8Abc30KR

イッチの肉体的に2分が限界だぞ……いや、下手したら1分30秒くらいかもしれん

 

 

728:名無しの転生者 ID:1nuyruzF3

どちらにせよ、俺らで出来ることはしてやる! 戦いだけに集中しろ!

 

 

729:名無しの転生者 ID:PO2jrNLmX

こいつらは知識はあっても既に別モノなせいで俺たちに出来ることはないからな

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

『……フッ! ハァアァァァァ……デアッ!』

 

上下に回転しながら吹き飛ぶネクサスはアームドネクサスを交差し、弧を描くように腕を回すと青い輝きをその腕に宿す。

透視能力を使い、地面を見ればピスケスが既に神樹様の近くに居るのだ。

だからこそ辞められない。そもそも、残された手段はこれしかなかった。

唯一の逆転のチャンスとも言える技を使うため、ネクサスは空中で制止するのと同時に上に突き出した。

青い光線は上空へ打ち上げられ、手から光線が消えるのと同時に空中から覆い尽くすように樹海全体を黄金色の世界が包み込む。

位相を光の波紋で褶曲させることで生まれる、神秘な空間。

黄金の光が滝のように降り注ぎ、地表からは水泡のような光が立ち昇っていた。

地面を潜っていたピスケスが飛び出し、突破するために突っ込むが、弾かれる。

神樹様を守るためにも作られた黄金色の世界、メタフィールドの外殻はウルトラマンの身体を構成する物質の組成と同じであり、ウルトラマンの身体そのものから作り出されている。

そんな容易に壊せるほど脆いはずもない。

 

『ようやく使ったか……しかし愚策だな。闇は容易に光を覆う……!』

 

ファウストが剣を真上に突き出すと、神秘な世界が作られる前に、黄金色の空間が赤黒い闇の空間へ覆われ、絶望が広がる死の世界が形成された。

メタフィールドを塗り替え、ダークフィールドへ。

あっさりと敵に利用される形となったが、空間の変化と共にバーテックスとゴルゴレオス、ファウストは()()()()()()()()ことになる。

先程まで居た位置には居らず、世界の変化と共に何処か岩陰にでも隠されたのだろう。

そんな中、ネクサスは三体と一人の敵を油断なく見据える。

メタフィールドが展開されればスペースビーストを抑制、光の力を強化する能力があった。

ダークフィールドはその逆の効果を持つが、それでも全力で戦うことが出来る条件はこれで達成された。

 

『シェア!』

 

両腕を交差し、着地とともに地を駆けるネクサスは物凄い速度でレオの背後を取り、腕を振り絞って全力の一撃を打ち込もうとする。

しかし一撃を与える前に屈しむことになり、頭上を火炎弾と闇の光刃が通り過ぎる。

背後にまだいると認識したレオは振り向くのと同時にレーザーを放ち、ネクサスは宙返りしながら頭上を超え、ゴルゴレオスを蹴って反転。

レオのレーザーを逸らすように僅かに胴体を蹴り飛ばす。

 

『デュア!』

 

『デア……ヘェアッ!』

 

レーザーを逸らすことには成功したが、空中にいるネクサスに対して、浮くことが出来るファウストが足を突き出す。

それに反応して受け止めると、くるりと横に回りながら地面へとファウストを投げ落とし、アームドネクサスを輝かせてさっきと同じように撃ってきたゴルゴレオスの火炎弾を打ち消すと、吹き飛ばされる。

 

『ぐぁ……うぐぅ……!』

 

同じような攻撃をするほど、スペースビーストもバーテックスもバカではない。

打ち消されると分かっていた火炎弾の背後から火炎弾に隠れるようにゴルゴレムとしての能力である小さめの破壊光線を同時に撃っていたようで、それがネクサスを吹き飛ばしたのだ。

背中を打ち付けながら地面に倒れたネクサスは痛みに僅かに悶えるが、状況を見るためにも背中を起こす。

 

『……ファ!? ジュア……!』

 

背中を起こしたネクサスの視界に移ったのは、とてつもない量の火球。

一斉に迫ってきたそれをネクサスは横に転がり、即座に空中へ逃げる。

当然迫ってくるが、ネクサスは囲まれている状況の中でスレスレで躱していき、セービングビュートを鞭のようにしなやかにぶつけることで減らし、迫ってきたらすぐに飛ぶ事で回避していく。

ネクサスはマッハの速度で動ける。

やろうとすれば、光の速度で移動することだって可能だ。

そんなネクサスに火球だけの一撃は当たらない。

 

『……シュア!? ぐっ…デアッ、デェヤッ!』

 

だが、()()()()()()、だ。

ネクサスの足と腹に巻き付く黒いエネルギーと触手が巻き付き、機動力を奪われる。

触手を引き離そうにも力強く、むしろ地上へと引っ張られる---つまりピスケスの仕業。

黒いエネルギーの方に至っては、巻き付かれている部分から光が漏れ出している。

エネルギーの方角を視線で追えば、ファウストが持つ剣から出ており、光エネルギーを吸収しているのだろう。

しかしそれよりも火球が目前にまで迫っていた。

悩む暇もなくネクサスはアームドネクサスを輝かせ、至近距離のパーティクルフェザーを自らの腹部に放つと多少のダメージと共に黒いエネルギーは外れ、触手に引っ張られながらもサークルシールドで己の身を守る。

そして火球はサークルシールドへ次々と着弾していき、ネクサスは動けなくなる。

そこに、火と雷が混じった破壊光線がネクサスの背後から迫ってきて---

 

『ウグッ……アァッ…。ウアァァァアアアァァ!!!』

 

防ぎ切る事も防御することも出来ず、ネクサスの背中に直撃する。

継続的に流される破壊光線。サークルシールドを解除しない限り避けることが出来ず、破壊光線のお陰でピスケスの拘束は解かれたが、サークルシールドを今解除すれば火球がネクサスに当たってよりダメージを受けてしまう。

 

『ぁああああ---デェアァ!』

 

ならば、とネクサスはサークルシールドを解除するのと同時に腕で火球を受け、背部から受ける破壊光線から逃れるべく空気を蹴るように空中で跳躍する。

前は火球。背後は破壊光線。追尾性のある火球ならば左右に置くことだって可能。

そう、ネクサスが離れることができる唯一の場所は()()()()()()

だとすれば、それを理解しているのは()()()()()()()()()()のだ。

 

『ハァァァァァ---ヌアッ!』

 

『---ッ!? ハッ!?』

 

いつの間にか上空を取られていたネクサスに迫る闇の光線。

ダークレイ・ジャビローム。

それだけではなく、追尾してきた火球がネクサスの逃げ道を防ぎ、下からは雷が発射され、上からはダークレイ・ジャビロームの後ろに続くように巨大な三日月型の斬撃が追加で飛んできている。

 

『ぐっ……デェヤァアアアァァァァ!』

 

四方八方見ても必ず何かがある。

正しく八方塞がりとはこのことであり、先に迫ってきた火球を拳で打ち消し、雷を両手で受け止め、強引に両腕を振り下ろして消し去ると回転するように反転して背後の火球を蹴り飛ばすことで火球同士で爆発を起こす。

ダメージ覚悟で爆風の中を突っ込み、次々と避けながらネクサスは上空から迫る一撃に耐えるべくバリヤーを貼ろうとして---

 

 

『フッ……!? ウゴォアッ……!』

 

下方から背中に凄まじい衝撃を受け、ネクサスの肉体が一気に上空へ打ち上げられる。

その正体を見るべく下を見れば、実体化したゴルゴレオスの前に半球状のモノ---バリアがある。

この火球群の中、透明化して近づき、バリアを貼ることで己の身を守りながら頑丈な特徴を活かしつつバリアでさらに威力を高めたのだろう。

現にそれが原因で吹き飛ばされたネクサスは空中の制御が効かないため、火球が四方から迫り、次々と受けては爆風によって飛ばされていく。

 

『シェァ……ゴフッ……!』

 

そしてその先にあるのは、ダークレイ・ジャビローム。

もはや回避することも迎撃することも出来ず、ネクサスはその一撃を受け、三日月型の斬撃がネクサスごと地面へと落下し地響きが響く。

 

『う……ジュアァ……』

 

手を伸ばし、起き上がろうとするが、力が抜けたように地面に背中が落ちる。

身動ぎすることしか出来ず、立ち上がるまでがいけない。

そんなネクサスに無情にも、胸のコアゲージは点滅を始めた。

それだけではない。書き換えられた世界ではあるが、元はメタフィールド。

ネクサスの力が作り出した空間は、海の中で口から出された空気が泡となるように、海泡のようにとぷくぷくと立ち昇りながらメタフィールド(ダークフィールド)に巨大な穴が開き、その先には神樹様の樹木があった。

すなわち---()()()()()()()()()()

 

『ぐぐぐ……ぐあっ…』

 

体を反転させて両拳を地面に付き、どうにかして起き上がろうと四つん這いにまで体を起こすことに成功したものの、突如重たくなった体は再び地に着くことになる。

 

『ここまでのようだな』

 

『………』

 

うつ伏せに倒れるネクサスの上から聴こえてきたのはファウストの声。

ネクサスの背中に足を乗せ、起き上がれないようにしていることから、踏みつけてることが起き上がれなかった理由だろう。

 

『………デェアッ!』

 

『無駄だ!』

 

反撃すべく、死角となっていた腕を動かし、パーティクルフェザーを放つネクサスだが、ファウストは意図も簡単に剣で弾く。

さらに追い討ちというように至近距離のダークフェザーをネクサスの腕に直撃させた。

メタフィールド(ダークフィールド)の歪みが広がっていく。

神樹を破壊しようと迫るレオとゴルゴレオスはそこへ向かうが、流石というべきか崩壊していっているメタフィールド(ダークフィールド)でも進行を妨げていた。

ただそれでも、ネクサスには何も出来ない。

強敵との連戦。幾度ともメタフィールドを塗り替えられ空間を保つ凄まじいほどの疲労。多くの怪我。

過去に戦ってきたバーテックスやスペースビーストの全てが今のネクサスの状況を作り出しており、そもそも既にジュネッスになる段階で限界は超えていた。

いくらウルトラマンでも、人間である紡絆でも疲労やダメージは無視できない。

それゆえの過労。立ち上がる気力すらなく、どれだけ願っても体は動いてくれなかった。

 

『今度こそは貴様を倒し、私の一部として取り込む。貴様の光を奪った後は他の連中もそっちに向かわせてやる……!』

 

『ヘェ!?』

 

どういう意味か理解出来ないが、良くない事だということだけは分かったネクサスは抵抗しようとするが、ファウストはネクサスの首を絞め、光のエネルギーが少しずつファウストに吸収されていく。

ファウストの力で抑えられてしまえば今のネクサスに抵抗することも出来ず、唯一ネクサスにできるのはメタフィールドの維持だけ。

それが光エネルギーが減っていってる今、自身をより追い詰めていたとしても、命を削る行為であっても、保ち続ければ死ぬと分かっていても、必死に維持する。

---皆を守るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……神樹様が……紡絆が……そんなの、冗談じゃないわよ……!」

 

大剣でダメージを軽減していた風が、意識を取り戻す。

メタフィールド(ダークフィールド)が崩壊しかけているのは見たものなら誰でも分かるほどであり、何度も何度もゴルゴレオスが突撃しているが、その度に弾いていた。

神樹様は目の先。突破されれば全てが終わり、このままでは紡絆も終わってしまう。

巻き込んだのは自分だというのに、後輩に全て任せて自分は寝ているなんて真似、風には到底できなかった。

だからこそ、立ち上がる。

誰も戦ってないということは意識を取り戻したのは自分だけなのだ。

ならば、動ける自分がやるしかないと大剣を手に立ち上がり---()()()()()()()()()

 

「ッ!?」

 

いつの間に気づいていたのか、レオが振り向いて風を見ていた。

水球に覆われた風は必死に大剣を振るが、水の中で大剣なんて重いものを振り回せば、体力の消費が激しい。

息を止めなければならないのに体力を使うと呼吸が必要になる。

精霊のバリアは身は守るが、音がそうだったように呼吸も同じくバリアが発動しないのだ。

 

『うあぁ……シュワァ……!』

 

手を伸ばす。

エネルギーを吸われながらも風を助けようとネクサスは必死に腕を伸ばすが、到底届かない。

もう呼吸が続かないのか苦しそうな表情を浮かべる姿が見える。

しかしネクサスの腕は下がり、助け出すことが出来なかった。

コアゲージの点滅が早まり、メタフィールド(ダークフィールド)はほぼほぼ樹海を映し出している。

 

(紡絆…! っ……息が……!)

 

自分の方がやばい状況だというのに助けようと手を伸ばしていた姿を、水球の中で風は見ていた。

もはや今のネクサスは絶体絶命というべき状況。だが風も助けに行こうと思っても必死にもがいたり大剣で斬ろうにも変わらない。水なのだから斬れるはずもないのだ。

それに体力自体を立つのがやっとだという現状、息が長く持つはずもなく風も命の危機に陥っていた。

 

(こんなの……こんな終わり方なんて……)

 

苦しい。

けれど、誰よりも苦しいのはボロボロになって、エネルギーを吸い続けられながらも今も原型は留めてないとはいえ、メタフィールド(ダークフィールド)を維持し続けている紡絆だ。

全てが終わる。それを阻止するために、危惧していた通りにまさしく命を賭けてでも神樹様を守ろうとしている。

風が今抱く感情は恐怖ではない。このままでは自分が溺死するというのに、世界が終わるというのに、恐怖よりもこんな所で死にかけている自分自身が許せなくて仕方がなかったのだ。

 

(みんな……)

 

風がバーテックスと戦う本当の理由は世界を救うために非ず、二年前のバーテックスが原因で引き起こされた大事故で死亡した両親の仇を取ること。

しかし最初はそんな自分勝手な理由で巻き込んでしまったが、仇討ちよりも何が何でもみんなを元の日常へと戻すことを望むようになった。

例え自分が傷ついても、死ぬことになっても---だが、今はどうだ?

情けなく水球に囚われ、後輩が限界を訪れかけているのに自分はこうやって何も出来ずに見てるだけ。

失ったのだ。過去に一度、大切な家族を。両親を。

失うことの怖さを風は知っている。

そう、知っている。知っているのに、今度は大切な後輩を目の前で失う羽目になりかけている。

ここで死んでしまえば、もう苦しまずに死ぬだろう。

けれど、その先に待つのは風が大切だと思った人達の死。ここで終わってしまえば、立ち上がらなければ、大切な何かを失う。

例え自分が無事に生還したところで、もう立ち上がることが出来なくなる。

また大切な者を失ってしまう。繰り返してしまう。

故に---

 

(そんなの…させるわけないでしょ!!)

 

強化されるバーテックス、スペースビースト、ウルティノイド。

そんな世界の理不尽に抗う少女にその身を纏う力が応えた。

彼女が身に宿す輝きの心を宿すオキザリスの花は美しく咲き誇る。

樹海から伸びてきた虹色の光が風へと集まり、黄色い光と共に巨大な花が十分に開く。

溜め込んだ力を解放し、凄まじい力を与える勇者の切り札---()()

力の解放だけで水球に囚われていたのが嘘のように打ち消されている。

その身に纏うのは、神秘の装束。絢爛豪華な姿はまさしく神の如し。

 

「お姉ちゃん…まさか……」

 

「あれが満開……」

 

「風先輩……すごい…!」

 

意識を取り戻した樹や夏凜、友奈はその光景を見ていた。

その神秘的な光景を。

満開を使った勇者の姿を。

 

「これなら---ッ!」

 

『ッ!?』

 

すぐさま加速した風は、ファウストに対して大剣を横に振るうと、ファウストはすぐに自身の剣を縦にすることで対応した。

カキン、と弾かれるような音ともに加速して振られたその一撃は少しとはいえ、ファウストをネクサスから引き離すことが出来た。

 

『これが満開……か。なるほど、凄まじい力だ』

 

『……! ジュア……ッ!』

 

ぐったりと倒れていたネクサスは気づき、即座に起き上がろうとする。

エネルギーを吸われ続けたとはいえ、生きている。ウルトラマンの力を奪われなかったということ。

ならば、と根性でネクサスは跳ね起き、アームドネクサスを交差すると高速で地面を駆けた。

 

『デェアッ!』

 

メタフィールド(ダークフィールド)を完全に破壊しようとしていたゴルゴレオスの背後を取り、回転しながら飛び越えるとゴルゴレオスの顔面を一気に蹴り飛ばし、レオに対してセービングビュートで掴むと、引き離すために引っ張っていく。

レオはネクサスの身長体重を優に超える存在。

ぐらつきながらも少しずつ、少しずつだが神樹様から距離を引き離していき---

 

 

 

 

 

『ッウァ……!?』

 

ネクサスが堕ちた。

空を飛ぶ力すら残ってないのか光の鞭は消え、地面に落下してしまう。

コアゲージの点滅はもう速く、時間はない。

ただでさえ消費していたのに外的な要因で減らされていたのだから当然とも言えるだろう。

 

『まだ立ち上がれるとはな……しかしトドメだ!』

 

「させ---くっ!?」

 

すぐに神樹様を破壊されることもなければ、メタフィールド(ダークフィールド)の破壊も防ぐことは出来た。

だがネクサスに力は残っていなく、そんなネクサスに完全にトドメを刺すべくファウストが跳躍し、ネクサスに向かって剣を縦に振り下ろした。

風はすぐに向かってファウストを妨害しようとして、ゴルゴレオスとレオがそれを阻む。

どうにか突破しようにも、容易に無視出来る存在でもなかった。

 

『ハァ、ハァ、ジュっ……!』

 

体力の限界とはいえファウストの存在に気づいたネクサスは気力を振り絞り、体を反転させる。

目前に迫る剣。

それに対してアームドネクサスで防ぐように腕を横にしながら顔を逸らすが、()()()()()()()()()

 

『……なっ!?』

 

『……フッ!?』

 

痛みが来ないことに違和感があったネクサスが見れば、剣が腕に当たる寸前であり、ファウストの剣を持つ腕が震えている。

ファウストも理解出来ないようで、お互いに驚いていた。

それはそうだろう。トドメを刺そうとファウストは剣を振り下ろしたのに、目前で停止している。

一方でネクサスは回避しようにも無理なため、せめてダメージを減らすために腕を盾にしたのに痛みも来なければ、何故か目の前のファウストが止まっていたのだから。

 

『な、んだこれは……!? 動けッ!』

 

『………?』

 

ファウストが左腕で右腕を掴み、動かそうとしている。

しかし、動かない。

こんな危機的状況だというのに呆気に取られたネクサスはただ見ている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

800:名無しの転生者 ID:w/a2ZMc+9

止まった……? なんで……いや、チャンスだ! イッチ、なにしてやがる!

 

 

801:名無しの転生者 ID:atAKl1DS/

馬鹿野郎! エネルギー吸われてんだから早く離れろ! これ以上吸われたら死ぬぞ!

 

 

802:名無しの転生者 ID:ThSJ2HeG+

なんだ……ファウストの様子が可笑しい……。何が起こってるんだ……???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハッ!? ウンンンンン---シュ、ぁ……』

 

チャンスということに気づき、ネクサスは離れようと立ち上がろうとするが、地面に膝が着き、ネクサスの肉体が赤く輝いた。

同時に世界を覆っていた()は消え失せ、空間が樹海へと戻ってしまう。

すなわち、メタフィールド(ダークフィールド)の完全崩壊。

メタフィールドを保てなくなったということは、ダークフィールドはメタフィールドを上書きしてネクサスが維持しているようなもの。

メタフィールドが保てなければ、自分でダークフィールドを作り出せないファウストには世界を保つことは出来ないのだ。

 

『ハァ、ハァ……あぐ……』

 

一方で、姿は保っている。

ネクサスとしての姿は保っているものの、その身に宿していた赤き輝きの光は消えており、銀色の肉体でエナジーコアが鳴っている---アンファンスへと戻っていた。

そんなネクサスはただ右腕を伸ばす。

何かを求めるように。

 

『…………』

 

だが---現実は非常だ。

ネクサスの瞳が暗転し、伸ばした手は停止する。

コアゲージの音が遅くなり、その体が光に包まれた。

光は徐々に小さくなり、樹海の地面にウルトラマンの姿から戻ってしまった紡絆が倒れている。

意識がないのか、身動きひとつ取る事なく。

そんな紡絆に脅威が迫る。

 

『今度こそ……終わらせてやる……!!』

 

チャンスは逃した。

反撃することが出来なかった。ファウストから離れることが出来なかった。

距離が離れていなかったため、ファウストは既に紡絆の間近くにいた。

倒れ、意識のない紡絆に対して容赦なく振り上げられる剣。

 

「くっ……退きなさい!」

 

満開してもなお、足止めを受けていた風は一閃し、無視して向かおうとする。

間に合わない。

 

「夏凜ちゃん……!」

 

「無理……! 振り下ろす方が早い…!」

 

友奈や樹も止めようと走るが、機動力に一番長けている夏凜が前に躍り出て走っているものの、風と同程度の距離が開いている。

夏凜の言う通り、着く頃には紡絆は既に真っ二つだ。

肝心のウルトラマンも限界が訪れたからか、普段は貼ってくれるバリヤーすらない。

そんな中、ついにファウストが剣を振り下ろす---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うぐ……!? またか……!』

 

はずが、頭を抑えたファウストが剣を落とし、その剣は紡絆の真横にスレスレで突き刺さった。

忌々しそうに頭を抑えながらファウストは後ずさっていた。

一体何が起きてるのか分からないが、チャンスだと夏凜が誰よりも早く駆ける。

 

『ええい、邪魔をするな……ッ!!』

 

「それはこっちのセリフだっての……!」

 

「夏凜! 紡絆は任せる!」

 

ウザったらしそうに邪魔する何かを振り払ったファウストは、風と夏凜に向かってダークフェザーを放つ。

二人は軽々と避けると、夏凜は先程と同じく駆け、風は空中で反転してレオに対して大剣を構えていた。

しかし忘れてないだろうか。

今、勇者たちは端末を扱うことが出来ない。マップすら機能せず、だとしたら---()()()()()()

 

「なっ……!?」

 

地鳴りと共に地面が揺らぎ、土埃を撒き散らしながら現れるピスケスの落下地点は、紡絆の場所だ。

バーテックスは知っていた。ウルトラマンは勇者などよりも厄介な存在であり、自分たちを誰よりも害することの出来る、単体で簡単に殺すことの出来る存在だと。

逆を言えば、弱点も知っている。

ウルトラマンが制限時間を持っていること。ウルトラマンは()()()()()()()()()こと。

ならば、変身が解けた後の存在を狙えばいいわけであり、有利だというのに積極的にネクサスに攻撃しなかった理由はそれだった。

レオは目立つ。融合型というだけでゴルゴレオスも同じく。そしてファウストは、目を逸らせない存在。

もしピスケスが地中に潜るという特性を使いまくってたなら、間違いなく警戒されたネクサスにやられていたはずだ。

そんな道中はどうであれ、現に今、存在を忘れられていた。気づかれなかった。

迫る巨体。いくら生身が強化されていても、変身していない紡絆がバーテックスのような存在に押し潰されてしまえば精霊バリアもないことからミンチへと変わってしまう。

 

「っ…やめろぉぉおおおおお!」

 

手を伸ばす。

しかし夏凜が辿り着くのにも一手足りない。

もう少しだというのに、届かない。

絶望が広がる。それでも、世界は、時間は止まってくれない。

必死に駆ける夏凜の目の前で今、ピスケスが紡絆を踏み潰そうとして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大な青い砲撃が、一瞬でピスケスを吹き飛ばした。

紡絆に迫っていたピスケスが視界内から消え、誰もが砲撃の方向を見つめた。

そこにあったのは、巨大な青い光。

不退転の心を胸に、聖なる衣を身に纏う一人の勇者---

 

「もう……絶対に許さない……!」

 

「東郷さん!?」

 

そう、東郷美森の満開した姿。

紡絆の危機的状況の中、ほんの少しの誤射もタイミングのズレも許されないというのに正確にピスケスを撃ち抜き、紡絆を救って見せたのだ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し時間は遡り、東郷が満開する前。

東郷は意識を取り戻した後、見ていたのだ。

紡絆のエネルギーが吸われてしまっていたところ。限界だと言うのに立ち上がり、世界を守るためにレオを引き離そうとしていたところ。

ついに限界が訪れ、メタフィールドが崩壊したところ。ジュネッスからアンファンスに戻ってしまったところ。

変身が解けて、動けなくなったところ。殺されそうになっている紡絆にみんなが駆け寄ろうとしていたところも。満開した風が紡絆を助けようとしていたところも。

ただただ見ていることしか出来なかった。

自分に足が動かせることが出来たら、駆け寄ることが出来た。遠距離攻撃を持ってるのだから、救える可能性が一番あった。

 

(このままじゃ、紡絆くんが殺される……彼が居なくなるなんて、耐えられない。そんなの、絶対させない……。やらせない……!)

 

救ってくれた。

いつもいつも、どんな時だって辛いとき、悲しいとき、傍に居てくれた。

温かくて、安心出来て、居てくれるだけで嬉しくて、東郷にとっての希望の光。

 

(紡絆くんばかりに救われて、今何も出来なければ私は後悔する……自分で自分を許せなくなる……)

 

誓ったのだ。かつて初めて勇者になった日のこと。

三体バーテックス襲撃の際、紡絆が死にかけていたの見て、守ると。

傷つけさせないと誓ったのだ。

だがどうだ?

今、再び紡絆は死にかけてしまっている。

それは何故か。

一人で戦うことになってしまったから。力が足りなかったからだ。

東郷だけでも無事なら、援護は出来た。こんな辛い状況で孤独に戦わせることもなかった。

 

(紡絆くんは最後まで頑張ってた…きっと、私たちを信じてくれて。私はこのまま見ているだけ? 友奈ちゃんも風先輩も樹ちゃんも夏凜ちゃんも、みんなが紡絆くんに駆け寄ってるのに、何も出来ずに見てるだけなの?)

 

東郷の目から見ても、間に合わないだろう。

でもみんな必死に助けようとしている。

対する自分は、立ち上がることすらしていない。足が不自由なのもある。

しかしそれが理由で寝ているだけでいいのか。足が動かせれないという理由で失っていい命なのか。

 

(違う)

 

東郷美森にとって、救ってくれた彼の命は自分の命よりも大切な命だ。

彼は望まなくても、命を賭けてでも守りたいと願う。見ているだけは嫌だと心が叫ぶ。

 

(違う……守りたい。今ここで彼を守ることも出来ないなら、私は紡絆くんの傍にも、友奈ちゃんの傍にも居られない。みんなの居場所の中に居るなんてことを自分が認められない……!)

 

大切な親友を傷つけられた。仲間を傷つけられた。大切な人を傷つけられた。

故に、東郷は願う。

壊すための力でも、復讐する力でもない。

守り抜く力を。護国を、友達を、大切な人たちを救うための力を。

その願いに、勇者としての力が応える。

東郷の勇者服。

その胸元にある朝顔の刻印が強い光を放ち始めた。

戦いの中で蓄積されてきた力が解放の時を待っている。

迷う必要などない。

ここで何もしなければ、待つのは後悔のみ。

力はここに与えられた。可能性は与えられたのだ。

 

(約束を果たすためにも、世界を守るためにも、みんなを守るためにも、私は---ッ!)

 

かつて紡絆と交した、また一緒に出かけるという約束。勇者部の誓い。依頼。文化祭。

まだまだ終わらせる訳には行かないことばかり。守りたいものは多く、勇者部としての日常をまだ過ごしたいと東郷は思う。

その約束を枯らしてたまるか。かけがえのない仲間たちを信じて、自分たちの道を貫く。

ならば、命に勇気を灯せ。この戦いを切り開くために。

だからこそ、東郷は今---

 

 

 

 

 

 

 

Pull the trigger(引き金を引く)

愛情の花言葉を持つ胸元にある朝顔の刻印がより強い光を放つ。

白混じりの虹色の光が東郷の体を包み込み、スミレ色の光とともに巨大なアサガオの花が花開いた。

同時に放たれる砲撃は、今まさに紡絆を踏み潰そうとしていたピスケスに直撃し、吹き飛ばす。

それを確認した東郷は紡絆が無事なことに安堵するが、それは一瞬のみ。

すぐに俯き、表情を引き締めて怒りを表に出していた。

 

「もう……絶対に許さない……!」

 

「東郷さん!?」

 

皆が驚いているが、無理もない。

二人目の満開。

もはや絶望しかなかったところに救いが伸びたのだ。

それにもうひとつ、東郷の満開は、風とは明らかに違う変化が起きている。

風が大剣だったのとは違い、東郷のは移動台座(大艦巨砲)

 

「我---」

 

八巻のようなものを取り出し、俯いていた東郷がゆっくりと顔を上げた。

それと同時に起き上がるのは左右四対、八門の砲塔。

先程の八巻は額に巻いたようで、そこには日の丸が、熱く赤く燃えている。

 

「敵軍ニ---総攻撃ヲ実施ス!!」

 

東郷が宣言するのと同時に右手をすっと天へと挙げる。

瞳の中に宿るのは、静かな怒り。

大切な人たちを傷つけたモノへ害する、護るための力を今、向けた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紡絆---ッ!?」

 

一手足りず間に合わなかったが、東郷のお陰で紡絆の元へ一番速く辿り着いた夏凜は武器を捨てて近づくが、驚いたような表情と共に口元を手で抑える。

 

「酷い…怪我……」

 

生きてるのか生きてないのか、いや---死んでるようにしか見えない。

頭から血が流れているのか、顔半分は真っ赤な血に染まっており、両耳も血まみれになっている。

表は分からないが背中の制服は焦げているようで真っ黒になっていて表も似た感じだろう。

しかし腹部の位置と思わしき部分から流れる血が地面に溜まりを作っていて、所々に怪我を負っていた。

最悪を考えてしまうほどの負傷だが、顔を近づけると荒いが息はある。

そのことに夏凜はホッとした。

 

「夏凜ちゃん、どう……あっ」

 

「紡絆先輩……!?」

 

無事を確認すると、後から先に辿り着いた友奈は紡絆の惨状を見てか、一瞬だけ顔を青くするが、二度目なのもあってかすぐに首を振って冷静になり、駆け寄る。

しかし一番最後に辿り着いた樹は、血の気が引いたように地面へと座り込んでいた。

 

「大丈夫、生きてる。とにかく友奈は樹を。こいつは私が運ぶわ! ってあっつ……!」

 

「う、うん!」

 

この場はまだ危険地帯。

だからこそ運ぼうとしたのだが、まるで火にでも触れたかのように熱い。

恐らく、高熱---それも本来人間では耐えられないレベルの熱が出ているのだろう。

ウルトラマンに強化されている紡絆だからこそ、生きてると言うべきか。

 

「樹ちゃん、大丈夫?」

 

「あ…だ、大丈夫です。それより紡絆先輩を安全なところに連れていかないと……!」

 

「うん、ここは危ないから……大丈夫。紡絆くんは簡単には死なないし、まだ負けない。絶対に立ち上がるよ!

だからこの戦いを終えて、みんなで帰ろう」

 

「はい……!」

 

生きてることが分かったからか、樹は慌てて立ち上がる。

友奈は変わらず鼓舞し、その姿を背中に紡絆を背負いながら見ていた夏凜は頼もしさを改めて実感して笑みを浮かべていた。

何はともあれ、保護することは出来た。

後はこの場から離脱するだけで、友奈と樹が護衛するように周囲を警戒しながら夏凜は紡絆を背負ってその場から離れていく。

そんな友奈や樹、夏凜たちを復帰したピスケスが地面を潜り、再び巨体による体当たりを敢行するべく近づいてくる。

 

「こいつまた……!」

 

「大丈夫だよ! 私たちは私たちに出来ることをやろう!」

 

「そうですよね、きっと……!」

 

紡絆を何としてでも殺したいのか、満開した勇者すら無視して突撃してくる姿に夏凜は苦々しい表情を浮かべるが、友奈の声に従って止まらず走る。

 

「そう……そこまでして狙いたいのね。けど、触れることも許さない!」

 

聞こえてはいないはず。

それでも、そんな友奈たちに応えるように、自身すら無視するピスケスに八門の砲塔が一斉向けられる。

すると砲塔の先端に青い光が集まっていき、最大火力をぶつけるタイミングを見極める。

そのタイミングは、すぐにやってきた。

勇者であろうと関係ない。

紡絆ごと押し潰そうと土埃を巻き上げながら地面からピスケスが飛び出し、狙う。

東郷は焦らず、冷静に両目でしっかりと見て---手を下ろすのと同時に放たれた砲撃はアサガオのようなエフェクトと共にピスケスへ直撃し、今まで通用しなかったのが嘘のように外殻を完膚なきまでに破壊して御魂のみが残った。

 

「どうやら封印は必要なかったみたいね。これで---終わりよ」

 

再び東郷が手を向け、二発目の砲撃は御魂の中心を撃ち抜いて今度こそピスケスは倒された。

その証明として御魂から生まれた虹色の光は、天へと還っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

---夢を見ていた。

懐かしい、とても懐かしい街並み。

少し違うが、それでも発展具合はとても似ていた。

空に届くのではと思うくらい高い高層ビル、マンション、何処にでもあるような家に大勢の人々。交差点、車やバス、電車の音。空を飛ぶ飛行機や信号の音。

小さな子供たち、笑顔、なによりも---遊園地。

笑顔で、元気に、みんなが楽しそうにしている。

次々と場面が変わっていくが、その遊園地は何処か居心地が良くなるような場所。

場面が変わる。

学校のような場所だが、讃州中学ではない。

何処かの寄宿学校---アカデミーと思わしき場所。

 

「………?」

 

自分が何故ここにいるのか、何故生きているのか、紡絆は理解出来ずに辺りを見渡していた。手にはエボルトラスターがあり、それだけだ。

紡絆が覚えているのはただひとつ、ここに来る前戦闘し、敗北して、メタフィールドは完全に崩壊したということ。

レオを引き離すことには成功した。ゴルゴレオスも吹き飛ばした。

神樹に対する脅威はすぐには迫らないだろう。

しかし樹海に居ないということは、死んだのだろうか。ファウストが近くに居たことは知っている。

なら、殺されていたって不思議ではない。

それに、さっきから変わりに変わっていた光景。

それは紡絆ではない■■■■は知っていた。

■■■■の記憶に眠る、日本。

その中でも一番人口が集まっていたある都道府県---東京。

四国しかないこの世界ではもう見ることは叶わないと思っていた場所だった。

しかしここは知らない。継受紡絆という人間も、■■■■という人間も、似たような場所は知っていても居たような記憶はない。

 

(……いや、分からないならどうだっていい。もし死んでなかったとしても、俺にファウストを倒すことは出来ない)

 

暗い面持ちでため息を吐く。

融合型を相手するだけでもキツいというのに、ファウストも相手できるのか。

そもそも()()()()()()()

あのファウストの様子を思い出せば、嫌でも分かる。紡絆ですら、分かるのだから。

 

(変身者がいる……倒すと、殺すことになる。仮にここから戻って、どうする? 殺すのか? そもそも俺に……変身する力は残っているのか?)

 

トドメを刺せた筈。

けれど、殺されなかった。止まった。

それは中にいる変身者がうっすら意識を取り戻し、ファウストの制御権を一時的に奪ったから。

そう考えるのが妥当であり、それがどうであれメタフィールドも完全崩壊し、ジュネッスになる力は恐らく残っていない。

変身したとしても、アンファンスで勝つなんて不可能だと理解していた。

 

(だけど……諦める訳にはいかない。俺は戻らないと、約束を破ってしまう。それでも融合型に勝つには……)

 

分からない。

皆と協力したって、透明化の能力は無効化できるのはメタフィールドのみ。

一時的に止めることは出来ても、再生されて終わりだ。

 

(考えても分からん。とりあえず……どうやって戻ろっかなこれ)

 

改めて、目の前を見る。

現実逃避するために考えていたが、戻る方法が分からない時点で前提として終わっているのだ。

やっぱり死んだのかな、と物騒なことを考えていたら、目の前の光景に変化が訪れた。

いつの間にか教室内に居り、慌てて周りを見渡すと、ある箇所が目に止まった。

一人の青年が、窓を眺めている。ぼやけていて誰かは分からないが、青年とだけは分かっていた。

 

『お前---鳥ばっか見てんだな』

 

さらに、変化が起きた。

窓を眺めていた青年が振り向き、紡絆も釣られて見れば、そこにも一人の青年がいる。

しかし窓を見ていた青年とは別で、ぼやけてもいない。

ふと見て感じた印象は、明るく人懐っこそうという印象。

 

(……誰だろうか)

 

『いつもその窓から、飛んでいく鳥ばっか見てる』

 

紡絆は首を傾げるが、彼らには見えてないのか紡絆を置いて話が進んでいく。

目の前の光景では、人懐っこそうな青年がぼやけている青年へそう言いながら近づいていた。

どうやら、二人は知り合いのようだ。

 

『鳥は自由でいい---なんて、つまらないことを考えてるわけじゃないよ。第一、鳥は自由なんかじゃない。飛ばなければ餌も取れないし渡りも出来ない。飛ばなきゃ行けないから、飛んでるだけだ』

 

『そう、鳥は別に自由なんかじゃねぇの。ただ飛んでるだけの鳥の中に、勝手に自由を見ている。自分が自由になりたいから。俺はそうだよ』

 

窓の外には、何匹ものの鳥が海の方へと飛んでいく姿が見え、その言葉を最後に再び場面が変わった。

夜だろう。月の光に照らされ、少し明るい。

ある一部屋にて、ぼやけている青年が眠っている。

そこへ一人の青年が入ってきて、彼をそっと起こすように触れていた。

ぼやけている青年は眠りから覚め、青年へ声をかける。

 

『■! なんで?』

 

『しっ。ちっちゃな自由を試そうかなっと。一緒に行く? 日帰りだけど』

 

大きな声を出すぼやけている青年に、もう一人の青年は静かにするように自身の唇に人差し指を立て、問いかけに答えると誘っていた。

 

『本気で抜け出す気なの?』

 

『森を抜ければ、ルート45に出る。ヒッチハイクをすれば、夜明けには海に出ることが出来る』

 

ぼやけている青年は体を起こして疑問を投げかけると、もう一人の青年は自分なりの計画を伝えていた。

そのアカデミーは厳しいのだろう。

ほんの少しの沈黙が、辺りを満たしていた。

 

『……君と僕は、海まではたどり着けない。僕達は見つかる』

 

『それって、幾つもある未来の一つなんだろ?』

 

その言葉から察するに、ぼやけている青年には未来を見通すことの出来る不思議な力を持っているのだろう。

しかしもう一人の青年は前向きに答え、窓に取り付けられているブラインドを紐を次々と引っ張ることで開けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光景が変わる。

二羽の鳥が地平線の彼方へ向かっていくのが見え、場面はアカデミーの中庭に移る。

そこにはぼやけているが白衣を着た三人の男性に連れられてきた人懐っこそうな方の青年がいた。

抜け出したのがバレて、捕まったといったところか。

ぼやけている青年はその未来を知っていたように芝生に座って待っていたが、もう一人の青年が駆け出し、白衣を着た人たちから抜け出した。

座っていた青年は立ち上がると、もう一人の青年を白衣の人たちが後ろから向かって来る中、右手を掴んだ。

まるで握手するようなことをすると、青年は白衣の人たちに連れられていく。

今度は抵抗をしていなく、ぼやけている方の青年は振り返るが、何も言わない。分かっていたように。

しかしさっき握手した時に感じた感触を確かめるように閉じた右手を開いて見て、驚く。

そこにあるのは、一つの貝殻。

()()()()()()()()貝殻だ。

つまり、未来が変わった。いや、変えた。

先程の青年は、行動することで先の未来を変えて見せたのだ。

それを最後に、紡絆はその世界から弾かれた---弾かれる直前、思い出したのは過去に言われたひとつの言葉。

 

『過去は変えられないが、未来なら変えることが出来る』

 

それは自身を導いてくれた、兄のような一人の英雄の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつ見ても妙な散り方……それにしても何故紡絆くんにここまで執着して……」

 

天へと昇っていく光景を見て違和感しかないが、そんなのを気にしていたって意味は無い。

今問題なのは、紡絆を狙ったことだ。

満開した勇者が二名いる。バーテックスをあっさり倒せることから、ウルトラマンと同レベルとまでは行かなくとも、一緒に戦えるようになるほどの戦闘力はあると言っても過言ではない。

しかしながら、狙われなかった。紡絆の近くに他の勇者も居たのに、狙わなかった。

まるで、紡絆を殺すだけではなく、別の目的もあるように。

 

「……執着?」

 

そう考えたところで、先程自分が言った言葉を東郷は再び呟くと、ハッとしたように神樹の方へ振り返った。

端末は使えない。情報が遮断されているなら、目視で見るしかない。

 

「見つけた……! でもいつの間に……! さっきのも罠だと言うの!?」

 

紡絆の最後の抵抗のおかげで、そこまで気にしなくていいと思っていた。問題は紡絆に執着するピスケスの対策---当然、勇者たちもそれを防ごうと躍起になる。

だがそれを逆手に取るように、晒し台にされた人間が動き出してるような、全高3mといった他のバーテックスに比べるととても小さな人型バーテックス---双子座の名を冠する、ジェミニ・バーテックスが250m/hという猛スピードで神樹へと向かっていた。

すぐに東郷が狙いを定めて放つが、ジェミニはアクロバティックに軽やかに避け、速度を維持していた。

 

「こいつ…小さくて速い…! このままだと神樹様に辿り着かれる!」

 

東郷の満開した姿でも、捉えきることが出来なかった。

こういう時、いつも頼りになっていた紡絆はダウンしていて、マッハムーブを使うこともメタフィールドの展開も変身してない彼には不可能なのだ。

大した強さはない。レオに比べれば、ファウストやゴルゴレオスのような強さはない。

しかし、メタフィールドが無くなった今、一番の脅威はジェミニになっていた。

バーテックスたちとは違い、勇者の敗北は神樹様に辿り着かれることなのだ。

 

「っ……!」

 

皆に焦りが生まれる。

レオを引きつけるだけで精一杯な風は援護に向かえず、東郷は狙い撃っているが当たらない。

友奈と樹と夏凜は紡絆を運ぶのとファウストを警戒するので必死で、向かう余裕なんてなかった。

まさしく絶望的な状況。

けれどひとり、立ち止まる者が居た。

 

「樹ちゃん!?」

 

「樹! 何してんのよ!?」

 

慌てて友奈と夏凜も止まると、樹に声をかける。

立ち止まったら危険しかない。

だが、神樹様が今危ない。

 

(紡絆先輩……ずっと独りで頑張ってた。こんなボロボロになって…それなのに。それなのに私はあまり何も出来てない。私はお姉ちゃんやみんなと……紡絆先輩に胸を張って並んで歩けるようになりたい)

 

横目でチラッと見れば、夏凜に背負られてから身動きひとつしてないボロボロな姿。

守ろうとした。

みんなを、世界を。ボロボロになってでも。

もしここで、バーテックスが神樹様の元へ辿り着けば、命を懸けてでも守り抜こうとした紡絆の頑張りは水の泡だ。

 

(みんなを守りたい。こんな私に出来ることは…私がやりたいことは……!

私は今、誰よりも、何よりも……この人を守りたい…ッ!!)

 

守られるだけではなく、共に歩むために。手に入れた夢を追いかけるためにも、いつも他人ばかりで自分を気にしない人のためにも、樹は守る力を欲した。

蘇る記憶。

想い出胸に抱いて、目を閉じる---心の中に、未来はあるのだ。

青空がある限り、時は(かぜ)を運ぶように、勇気がある限り、夢が叶うように、いつも傍にある。

だからこそ、思いの丈を叫ぼう。

そうすれば、簡単に世界は終わらないのだから。抗うことをやめない限り、きっと。

---樹の想いに応えるように、背中の鳴子百合を模った刻印が光り輝く。

懐かしく、暖かいたくさんの虹色の光が樹を包み、大きな鳴子百合が若草色の光を発しながら花開く。

 

「私たちの日常は、絶対に壊させない!」

 

光が収まった時、森の妖精とでもいうような姿だった樹の勇者服は大きく姿を変えていた。

羽衣を羽織るその姿は、神官や巫女を思わせる。

まさしく、夢の守り手。

これこそ、樹の満開。

 

「そっちに、いくなああああああああああ!!!!」

 

命懸けで保った世界を守るために、今も神樹様へ走り続けるジェミニを見据えながら樹は叫ぶ。

それに呼応して、背後に背負った円環から若草色の光の線があふれ出した。

それは、樹が普段武器とするワイヤーに違いない。

しかし、その量も質も段違いであった。

どこにワイヤーがないのか見極める方が難しいほど、空間全てをからめとるように広がる光の線が、ジェミニへと殺到する。

それから逃れるように必死に走りながらも神樹様の元へたどり着こうとするジェミニだが、樹のワイヤーはジェミニの速度を追い抜く。

さらに放射状に広がり全方位を取り囲んだワイヤーはジェミニの身軽さを持ってしても回避等許すはずもなく、糸に捕らえられたジェミニは、見た目通り刑の執行を待つ罪人のように執行人である樹の元へと引き寄せられる。

もはや逃げ出したところで、さっきの繰り返しになるだけ。そもそも逃げ出すことなど許すはずもない。

 

「おしおきっ!!」

 

開いて突き出していた右手を閉じ、樹の動作に従うようにワイヤーは一気にジェミニを締め付け、細かいブロック状にバラバラに引き裂き、分解した。

 

「えいっ」

 

そしてジェミニの中にあったであろう小さな御魂を、再生される前に樹はワイヤーで下から串刺しにして破壊する。

すると倒した証として虹色の光が天へと昇っていく。

 

「樹ナイス! ってやば……!?」

 

「来るよ!」

 

「分かってる!」

 

レオを引き付けていた風は一瞬気を取られ、その隙にレオは火球を一気に放出する。

狙いは邪魔をしてきた風---ではなく、()()()()を狙う。

すぐに反転した友奈は火球を壊すのではなく、逸らし、誘爆させるが火球の量が多すぎて一人では捌けない。

夏凜も当たりそうな火球だけは片手で斬っているが、夏凜の強みである機動力は下がってしまっている。

ギリギリ避けるので精一杯で、このままでは紡絆だけがやばい状況だ。

 

「くっ、この……!」

 

「多すぎて防ぎきれない…!」

 

「させない!」

 

完全に包囲され、防ぎ切るのは不可能かと思われたが、遠くから放たれる砲撃とワイヤーが次々と消し去っていく。

いかんせん数が多く、満開した東郷と樹でも消し去るには数秒が必要。

その数秒があれば---

 

「しまっ…!?」

 

誰にも気づかず、透明化していたゴルゴレオスが実体化し、即座に反応した夏凜が地面を蹴るのと同時に火炎弾が樹海へ直撃した。

そうなるといくら勇者であろうとも、直撃を避けても空中では爆風で吹き飛ばされる。

 

「夏凜ちゃん大丈夫!?」

 

「私は平気! けど紡絆が……!」

 

近くにいる友奈が心配して声をかけるが、夏凜は無事地面に着地していた。

そう、あくまで夏凜は、だ。

爆風の際、意識のない人間が掴まっていられるかと言われたら不可能。吹き飛ばされる際の衝撃で離れてしまったのだろう。

紡絆は友奈や夏凜と離れた場所へ飛ばされてうつ伏せに倒れている。

しかも、よりによってファウストの近く。

 

『っ……無駄だ。今度こそ……!』

 

未だにファウストの様子が可笑しく、頭を抑えているがファウストは拳を振り上げる。

 

「させるかっての……!」

 

そこに風が大剣を振るい、ファウストは回避するがダークフェザーを風に飛ばし、風は大剣ごと少し弾かれてしまう。

さらにまたしても透明で接近していたゴルゴレオスの口吻が紡絆を捕食しようと接近していた。

誰もが遠く、ゴルゴレオスの方が早い。

このまま紡絆は口吻に捕まり、そのまま食べられる未来が想像でき---

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何?」

 

間に合わないと分かっている。それでも、守ろうと駆け寄っていた夏凜の足が、止まる。

口吻は変わらず接近しているが、止まった理由はひとつ、変化が起きていた。

紡絆の肉体が光り輝いているのだ。エボルトラスターは倒れた際に手から離してしまったようで、今手元にはない。

だが、遠くにあるエボルトラスターは鼓動し、同じく光り輝き始めた。

時間が遅くなったかのような錯覚。

それでも口吻は迫り、一際強く輝くのと同時に、口吻が紡絆の体を覆い尽くした。

 

「そんな……!?」

「嘘でしょ…紡絆…!?」

「紡絆くん……!」

「紡絆先輩………!」

「っ……ここで終わるようなやつじゃないでしょ…!」

 

みんなが声を挙げる。

しかしゴルゴレオスは一切の躊躇をせず口吻を上げると、咀嚼するように上へ向いている。

口吻があった位置には、何一つ残ってはいない。せいぜい、血くらいだろうか。

その真実に絶望が広がる。

一度助けることは出来たのに、失ってしまった無力感。

それが場を支配し---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場を支配しかける前に、光は、強く輝く。

絶望を無力感を、その全てを打ち砕く光。

口吻が光に包まれ、ゴルゴレオスは何処か慌てたような、驚いたような奇声を挙げる。

そして---

 

『シュアッ!』

 

その瞬間、口吻を破壊しながらアンファンスとしての姿でネクサスが落ちるように地面へと着地した。

土煙を発生させ、煙が晴れると両足でしっかりと立っている。

その姿に、辺りを占めていた絶望が希望へと変化する。

 

 

 

 

 

939:名無しの転生者 ID:1ktqJPP2Y

だが……

 

 

940:名無しの転生者 ID:gbSqmoB/X

あぁ、何も変わっちゃいない。イッチが死ぬという最悪の未来と危機はなんとか脱した。それだけだ。

 

941:名無しの転生者 ID:xsi/9wgg8

メタフィールドが無ければ、ゴルゴレムの能力は突破出来ない……

 

 

942:名無しの転生者 ID:nJBSYvi2H

それに、よく見ろ。今のイッチは……!

 

 

943:名無しの転生者 ID:nc8C36ZYI

無事なのは良かった。ただ、ただそれだけなんだ……!

 

 

944:名無しの転生者 ID:J9/LNJKkt

くそっ! どうすりゃいいんだよこれは!?

 

 

945:名無しの転生者 ID:5VoOtFnV/

俺たちにできるのはイッチにアドバイスと新しくスレを作って知識を与えるだけ……作戦を考えるだけしかない…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紡絆くん……?」

 

『………』

 

様子がおかしい。

変身した。無事だった。口吻を破壊した。

ただ、ただそれでも友奈の呼び掛けに一切答えない。

一度も勇者たちの元を見ずに、ネクサスはふらふらしていて、ついに膝を着いた。

 

『ァあァ……ハァ、ッハアッ……』

 

「っ……待って。ウルトラマンの瞳が……!」

 

気がついたように声を挙げる夏凜の言葉に従うように、全員がウルトラマンに注目した。

よくよく見てみれば、いつも輝いている白い瞳は光っていない。

さらにエナジーコアの輝きもうっすらで、エネルギーが残っていない状況だというのに無理矢理変身したのだろう。

かつての、姫矢准のように。

 

『既に変身する力はないはず……なぜ立ち上がれる?』

 

『………』

 

立ち上がりながらも、呼吸するだけで精一杯なのかファウストを見て、何も答えない。

問いかけに答えることが出来なかった。

 

『まぁいい---さっきのようなことはもう起こらん……!』

 

「待ちな---っ!?」

 

素早く剣を地面から抜き、ネクサスに向かうファウストを風は足止めしようとするが、口吻のダメージから復帰したゴルゴレオスが立ち塞がることでファウストは風を通り過ぎる。

邪魔というように大剣を振るうが、満開の力を持ってしてもゴルゴレオスの装甲は打ち砕けずにはじかれる。

 

「風先輩! こうなったら……」

 

「無理そうよ…!」

 

「バーテックスの方が……!」

 

友奈と夏凜、樹が向かおうとすれば、レオが立ち塞がる。

満開した勇者は3人の中では樹のみ。そして満開した風ですら時間稼ぎしか出来てなかったことを考えるに、厳しいだろう。

 

「紡絆くんには近づけさせない!」

 

唯一離れている東郷だけがフリーであり、東郷はすぐに砲撃を放つ。

ファウストもそれに気づいたのか、体を逸らして砲撃を避けると、東郷から見てネクサスに隠れる位置へファウストが動き、撃てなくなる。

 

「紡絆くんを盾に……!」

 

そうなってしまえば、東郷には撃つことは出来ない。

すぐに位置を変えるが、それよりも早くにファウストがネクサスの元へ辿り着いて掴みあげている。

 

『ぁ……ウァァ……!』

 

『……ハアッ!』

 

ネクサスの足が地面から離れ、ファウストの腕を掴むことも抵抗することも無く、ただされるがままでいると、ファウストはネクサスを全力で蹴り飛ばしていた。

 

『ウァァァアアァァアアア!』

 

あっさりと吹き飛ばされ、ネクサスは背中から地面に落ちる。

苦しそうな声を漏らしながらも、瞳が回復することは決してなかった。

 

『う……あぁ……ぐぁ……』

 

いくら変身したとはいえ、意味が無い。

ただ、ただ意識があっても意志がなければ意味が無いのだ。

みんなが駆けつけようと、東郷がファウストに攻撃しようと、満開の力を持ってしてもファウストは止められない。

接近したファウストは容赦なくネクサスを蹴り上げ、呼び寄せた剣を真っ直ぐに構えた。

打ち上げられ、落下するネクサス。

そこに剣を構えるファウストは、そのまま容赦なく突き出す気だろう。

それでも、ネクサスにエネルギーを回復させる力なんてない。

 

(流石に---む……り……)

 

さらに変身者である紡絆がついに限界が訪れたのかネクサスの体は脱力し、意識が遠のく。

最後に映ったのは、必死に融合型とバーテックスに抵抗する勇者と自身に剣を突き出すファウストの姿。

必死に起きろという声と、避けろという声。脳裏に直接響くそれにすら答えることは出来ず、ネクサスはそのままファウストの剣に貫かれる---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カキン、と金属音が響く。

大きく弾かれ、体勢を崩す。

誰もが行動をやめ、金属音の方へと視線が集まっていた。

 

『………!?』

 

ファウストが驚いたように、剣と相手を見ていた。

右腕に輝くエルボーカッターが防いだ---というのは分かる。

しかしどういうことか。

本来なら避けられる距離でも防げる速度でもなく、貫かれる運命を辿るだけだったはず。間に合わないはずなのだ。

だと言うのに、消えていたネクサスの瞳の光が輝いており、エナジーコアがうっすらと赤く輝く。

 

『ヘェア! シェア---ウアァ!』

 

『ぐおぁ…!?』

 

握り拳を作った状態で左腕の肘を曲げ腕を上に、開かれたままの右手は、胸元に右腕を水平に伸ばす。

普段とは別の構えを取るネクサスは、すぐに走り、ファウストの腹に拳を打ち付け、流れるように肘打ちを胸に与えると、一気に蹴り飛ばした。

驚いていたファウストはまともに受け、ネクサスは両腕をクロスして放つ三日月の光刃---ボードレイ・フェザーを追撃に与えると、両腕を大きく広げたままの姿で輝いていた瞳は再び消え、ネクサスの体はうつ伏せに倒れる。

 

985:名無しの転生者 ID:/IXdFIAVu

イッチ!?

 

 

986:名無しの転生者 ID:Ibbx+zupD

なんだ今の……?

 

 

987:名無しの転生者 ID:tViEX4p71

おいイッチ! 起きろ! まだ終わってないぞ!

 

 

988:名無しの転生者 ID:n4VmUzpRN

変身していた時点で可笑しいが、意識がない状態で動いたってわけか…? それにしては動きが……

 

 

989:名無しの転生者 ID:6er403Xtq

しっかりしろイッチ……!

 

 

990:名無しの転生者 ID:ObWIWRIFm

どちらにせよ、イッチが目覚めないと他はともかくゴルゴレオスの攻略が不可能だ! メタフィールドがなければやつは攻略出来ない……!

 

 

991:名無しの転生者 ID:XgSrvtZ51

くそっ! せめてウルティメイトバニッシャーがあれば……!

 

 

992:名無しの転生者 ID:/5Tjw1G6F

ないものを望んだって仕方がないだろ! でもイッチが目覚めたところでエネルギーがなければ何も……

 

 

993:名無しの転生者 ID:eTQkvI/ZA

あのファウストの様子は気になるが、イッチは多分今意識がない……!

 

 

994:名無しの転生者 ID:LwuJstTs0

残りは……ひとつ、か。この状況を脱するには……頼るしかない。とびっきりの奇跡を……!

 

 

995:名無しの転生者 ID:o5jKUvCM4

可能性として考えられるのはコアファイナル! 奇跡を起こす力と言っても過言じゃあない!

今のイッチが復活するには、この状況を打開するためにはもう残された手段はそれしかないか! それが起きなければ、この世界は、ウルトラマンは負けて終わる……!

 

 

 

 

 

 

 

今度こそ動かなくなったネクサス。

変身は解除されていないが、ウルトラマンではなく紡絆が力尽きたということだろうか。

一瞬だけ、少しだけ蘇っていたが、最後の気力を振り絞ったのかもしれない。

どうであれ、ウルトラマンが、紡絆が動かなくなった事実は変わらない。

もはや、とうすることだって---

 

「---まだ」

 

否。

例えそうであろうとも、どんな状況でも、掴める未来が遠くても。絶望に覆われたとしても。

 

「まだ終わってない!」

 

立ち上がる。

周りを励ますように、自身の心を叱咤するように友奈が叫ぶ。

光は、繋がり、光は受け継がれ、光は決して消えない。それぞれが持つ輝きは、闇に負けるはずがないのだ。

 

「約束したんだ……紡絆くんは絶対大丈夫! だから私は、私に出来ることをやる。紡絆くんをいつでも信じてる!」

 

かつて星空に輝く夜空の下で交わした約束。

紡絆は、約束を破るような人間ではない。

どれだけのことがあろうとも、何があっても最後には守っている。

みんなを信じる紡絆は、最後の最後まで頑張った。

信じることを信じる。単純にそれだけで、心の祈りは決して変わらない。

希望と勇気を働かせて、かよわくて儚い人たちが安心出来る世界にするためにも、立ち上がられねばならない。

 

「私は勇者……どんな困難な状況でも諦めない! 勇者は挫けない! 勇者は---ヒーローは必ず、立ち上がるから! だから私は、今私に出来ることをする!!」

 

誰かのために、自分のために、生命(いのち)の限り、生きるとき。

内側から込み上げてくる力を、思いを信じて、今こそ地球(人間)の力を、生き抜く力を生命(いのち)の限り、使うとき。

 

「---友奈の言う通り、紡絆はいつも立ち上がった! だったらあたしらが出来るのは信じて、戦うだけ!」

 

「流石友奈ちゃんね……そう、紡絆くんが居たって同じことを言うはず。紡絆くんは簡単に諦めるような人間じゃないものね」

 

ひとりと、またひとりと、繋がりあった絆が闘志を繋げていく。

光が繋がる。思いは繋がる。希望の光が決して消えないように。次に、また次へと託されていく。

 

「はい……紡絆先輩だったとしてもきっと! 皆さんで、元の場所へ帰るために……!」

 

立ち上がり、また立ち上がる。

信じる心がある限り、絶望に打ち負けることなど決してない。

きっと彼は立ち上がると信じている。

 

「……えぇ。まったく。そうだったわ。あのバカは無茶苦茶だけど、簡単に諦めるようなやつじゃない。もしそうなら、今頃私はあいつと関わってないわ」

 

全員が立ち上がり、敵を見据える。残る三体の、強敵たちを。

奇跡は、神が起こすものではない。

かつて絶望に覆われ、希望を失われ、()()()()()()()()()()終わりへゆく運命しかないと思われた世界があった。

その世界には光の巨人が居たのだ。

紡絆とは別の、全く別の宇宙のウルトラマン。

巨悪に立ち向かい、邪神の名を持つ怪物に敗北した。

もう終わりかと思われたとき、奇跡が起こった。

いや、人間が起こした奇跡だ。

かつて紡絆が言われた一人の言葉。同じ境遇で、別の選択を取った戦士の言葉だ。

人は誰でも光になれる。その通り、子供たちの力や人々の力がウルトラマンへ宿り、巨悪を打ち倒すことが出来た。

故に、引き寄せているキセキ---ヒカリ。

 

「勇者部、ファイトォー!!」

 

「「「「「オーーーーッ!!!」」」」」

 

立ち向かう勇者部の、みんなの諦めない光が、それぞれの心に宿る信じる光が樹海を駆け抜け、ウルトラマンのコアゲージへと集まる。

さらに人間の想いに、神樹様が答えたのだろうか。

辺りに満ちる光の残留エネルギーがネクサスが倒れている地面から伝っていく。

元はネクサスの光。散らばった光を神々が集め、それを戻しているに過ぎない。

当然、それで復活するなんてご都合主義も瞳に光が戻ることも、紡絆が回復するなんてことはない。

ただ、ただそれでも---ネクサスのコアゲージにうっすらと光が灯っていた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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「-青い果実-ザ・サード」

 

◆◆◆

 第 25 話 

 

-青い果実-ザ・サード

 

 

くじけない心

アリウム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつけば、何処か分からない、街並みが見える芝生に紡絆は寝転んでいた。

手にあるエボルトラスターを握りながら、ふと目が覚めたように目を開け、体を起こす。

 

「ここは……東京?」

 

■■■■の記憶に存在する、懐かしい景色。

だが、有り得ないと否定する。

外の世界は死のウイルスが蔓延しており、もしこんな街があるなら隠す必要もないし誰かが行ってたって不思議じゃない。

 

「---情けないな」

 

膝に顔を埋めながら、ため息を吐く。

結局、何も出来なかった。

変身してもやられただけで、一撃も与えることもメタフィールドも、ジュネッスにすらなれなかった。

そのことで、情けないと呟いたのだろう。

 

「そんなことないだろ? すっげぇガッツだったじゃん」

 

「……そんな慰めはいらないよ。今度こそ守ろうって、守りたいって思ってた。でも俺はもう死んで---」

 

「いや死んでないって!」

 

「……ん? は……? ってえぇえええ!?」

 

会話していたというのに、少し遅れて紡絆は誰か居ることに気づいた。目の前には笑顔で、人懐っこそうで、オレンジ色のダウンジャケットのようなものを着てる青年が覗き込んできていた。

思わず紡絆は驚いて両手を後ろに着きながら、足を動かして下がる。

 

「あぁ、ごめん! 驚かせるわけじゃなかったんだ」

 

「い、いえ……誰、ですか? 見覚えはあるような……それにそれって…!」

 

そう遠い過去ではなく、それもつい最近見たことのある顔で、何よりも思わず自身の手を見るが、しっかりとある。

そう、青年の手にはなんと、紡絆と同じエボルトラスターが存在していたのである。

 

「俺は千樹(せんじゅ)(れん)。よろしく」

 

「あ、はい。継受紡絆です…じゃなくって、死んでないってどういうことですか!? ここ東京ですよね? 俺の世界には東京はもう---」

 

つい釣られて自己紹介してしまうが、そうじゃない。

紡絆は今抱く最もな疑問を投げかけると、青年は紡絆の隣に座りながら苦笑し、答える。

 

「ここはあくまでイメージから作り出される空間---ここはさ、俺にとって思い出の場所なんだ」

 

青年がそう言うと、景色が変わった。

どこかの学舎、海、星空、遊園地、森、夕焼けの街、そしてさっきまで居た場所。

それは紡絆の思い出ではなく、憐と名乗る青年の記憶の数々。

 

「……思い出」

 

「そっ、俺は元々アメリカのダラスってところにあるアカデミーに居たんだ。俺はちょっと特別でね、親は遺伝子で、簡単に言うとハイブリッド新生児の一人なんだ。詳しい話は時間が無いから飛ばさせてもらうけど」

 

「……???」

 

何やらいきなり難しい単語が飛んできた紡絆は、理解出来ずに首を傾げながら疑問符を浮かべていた。

そもそも親が遺伝子という時点で紡絆の頭はオーバーヒート寸前だ。こんらんしている。

 

「そんな特別なのもあって、俺は寿命を決める際の遺伝子に致命的なディフェクトを持っていたんだ。唯一の失敗作なんだって。

だから16歳から17歳を境に一気に全身の細胞がアポトーシスを起こして死ぬ---そう聞いたよ」

 

「……ッ!? それは…辛かったんじゃ……」

 

よくはわからない。ただ分かったのは、寿命が短いということ。そして目の前の青年は過去を話してくれているということ。

紡絆には人間としての寿命がある。

自ら削ってるとはいえ、平和に生きれば年老いて死ぬ。

ただ目の前の青年には、憐にはそんな未来はなかったのだろう。

 

「辛かった。すげぇ、辛かったよ。だから誰一人俺の事を知らない場所へ行ってしまえば、俺は自分の未来を忘れていられる。そう思って俺は、東京行きの飛行機に乗った。

初めて来て、そこは居心地がとてもよかった。会う人みんなが好きになれた。

それでも、時々考えてたんだ。俺の命は何処から来て、何処へ行くんだろうって」

 

紡絆には決して分からない、彼にしか分からない悩み。

生まれて、最初から死ぬ運命が決まっているだなんて、一体どれだけ辛くて、苦しいのか。

 

「実際に、俺は耐えられなかった。ただ人を心配させて悲しませて、出来るはずもない、直すための特効薬であるラファエルの完成をただ待っているだけ。そんなの完成するより先に、俺は死ぬ。

それが耐えられなかった」

 

自由もなく、何かをすることも、何かを見ることも、何も出来ない。

ただその場に居て、心配させて、朽ちていくだけ。

 

「天使は、ラファエルは来ない。だから俺、どうせ短い時間なら、誰も俺が死ぬってことを知らない所へ行こうと思った。そしたら、何でか解んねえけど、俺みたいな失敗作のところに光が降ってきた……」

 

手にあるエボルトラスターを見つめる憐に釣られ、紡絆も見る。

同じでは無い。でも、同じである部分はある。

なんでか解らないのだ。紡絆も、何故自分が光を継承することになったのか。

なんで、選ばれたのか。

後悔はあった。救えなかった後悔。それでも、それだけで光に選ばれる理由にはならない。

転生者だから? 違う。転生者だったとしても、どんな人間だろうと理由もなくウルトラマンに選ばれるはずもない。

 

「迷わなかった……自分にもまだ、できることがあるんだと思ったら、すっげえ嬉しかった。遊園地でずっと見てた、子供たちや親やたくさんの人たち。ああいう人たちを自分は守れるって、そう思ったら本当、嬉しかったんだ」

 

迷わなかった。

紡絆は自分が死ぬ事への恐怖よりも、みんなの居場所を奪おうとするスペースビーストを見て、守りたいと願って手にした。

逆に憐は、限られた時間の中で守れると思って手にした。

方向性は違えど、似ている。

 

「戦ってれば、死ぬことなんて忘れていられる。運命を忘れていられる。そう思って我武者羅に戦ってきた---でもさ、それは違ったんだよな」

 

「……違う?」

 

懐かしそうに話す憐を見ながら、紡絆は真剣な表情で見つめる。

既に答えを得ている、彼の言葉を聞き逃さないように。

 

「ある人たちに言われたんだ。たとえ死ぬとしても、それまでの時間と思い出は確かに残る大切なものだって。死ぬ気で戦う事と、死んでもいいと思って戦う事は、全く違うことだって」

 

「………ッ」

 

「あんたも、思ってたんだろ? 体はもう持たない。けど、()()()()()()()()()()()って、そう思って戦った」

 

憐の言葉に、紡絆は握り拳を作りながら目を逸らす。

それはつまり図星、ということ。

戦いが始まる前、紡絆はウルトラマンに向かって言っていた。

()()()()()()()()()()()()()守る、と。誰も()()()生きて帰るとまでは言っていない。

円陣の際は流石に自分も含めたような発言はしていたが、自身の肉体の具合からして死ぬ覚悟をしながら戦わないと絶対に勝つことも出来ないと察していた。

無論、最初はわざと死ぬために戦ったりはしていなかった。レオバーテックスがスタークラスターへ融合するまでは、だが。

今の自分では敵わない。だから、だから、みんなの未来だけは守ろう、と。

死ぬつもりで、せめて相打ちくらいにはしよう、と。

その結果が、これだ。何も出来ず、敵わず、()()()()使()()()()()()()()()()

 

「俺は()()()()()()()()を見出した。そして最後までウルトラマンとして走り切った。それで、ちゃんと俺は今も生きてる---あんたに光が繋げられているのがその証拠」

 

「………」

 

憐が指差し、そう言われた紡絆はエボルトラスターを見つめる。

いつもはそれほど重さを感じないというのに、今は物凄く重たく感じていた。

多くの、大勢の人々に受け継がれてきた光の力。

それが手元にあって、無意識に紡絆は次へ紡いだ人々の意志を感じ取っている。

 

「でも……俺に何が出来るんでしょうか」

 

再び膝に顔を埋めるが、紡絆の目はどこか遠くを見ている。

消えてしまいそうな、幻想を見るかのような目。

それを憐は優しげな表情で聞いていた。

 

「どういうこと?」

 

「力を使う意味は、理由は、既に導いてくれた人が居ました。

でも立ち上がる力は、もうない……足掻いたところで、もう戦える力がないんです。俺は、殺すことが出来ない。後悔したくない。まだ諦めたくない。()()()()()()()繰り返したくない。そう思っても、もう俺に力は---」

 

メタフィールドが崩壊したところを、その目で見た。

自分自身が、剣に貫かれる寸前のところを見た。

あの後、刺されて変身は解除されていると考えるのが道理だ。

生きていたとしても、もうジュネッスになる力も、メタフィールドを展開する力も、動く力もないということを紡絆は理解して、抗う意思があっても不可能なのだ。

紡絆の意思には関係なく、出来ないものは出来ない。

 

「---大丈夫」

 

諦めたくなくても、諦めざる得ない。

そんな紡絆を安心させるような、優しさが込められた言葉が送られる。

思わず紡絆は顔を上げて、憐を見つめた。

この状況を打開するための手があるなら、手にしたいがために。

 

「紡絆は死んでない。戦う意思もある。なら、俺が言いたいのは、()()()()じゃなくて、()()()()()に戦って欲しいってこと。命は……軽いもんじゃないからさ。

でも、だからといって、俺たちは時にはやらなくちゃいけない。例え()()()()()()()()()()()()()()()なっても。

それが光を得た、俺たちの役目なんだ」

 

「役目、か……」

 

そう語る憐の言葉には、重みがある。何故なら彼も、()()()()()()()()()()のだから。

それは紡絆には知らないが、彼の過去を聞いた紡絆には、その言葉の重さがより理解していた。

命あるものと無いもの。

解決したとはいえ、失う可能性の方が高かった彼の言葉は誰よりも重い。

そして彼の言う通り、ウルトラマンであるならば時に命を奪う覚悟が必要だ。

紡絆の記憶には、元は人間で、被害者で、殺さなければならかった怪獣たちが浮かんでいく。何の罪もないのに()()()()()()()()()()に殺されたある一人の優しい星人や色んな星人たちも。それが、所詮創り物で見たものとしても。

彼の知るウルトラマンも、救いたくても助けられなかった。殺すしかなくて、殺した。

 

「そっか、そうだったな……。でも()()()()()()()()()ですよ。()()()()()()()()ことはしても、きっと俺は---その手段しかないなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()---救いたいなら、()()()()()()()()()

それが俺なんです。■■■■なんです。継受紡絆なんです」

 

だが過去を見る目。

記憶がなく、今世では少しと前世の記憶しか持たない彼は、まるで過去を繰り返さないと言いたげな雰囲気を纏っていた。

家族を失い、全てを失い---だとすれば、その過去を見る目は、果たして何を見ているのか。

ただそれでも、薄れ、忘れかけていた星人や怪獣たちと歴戦の戦士たちのことを思い出した紡絆は、迷いが振り切られていた。

 

「うん、ちゃんと頭の中に入れてるならいいってことよ。紡絆がそういう人間なのは、今までの記録から分かってっから。俺も他人にやめろ、とかとやかく言う資格はないしな」

 

「……みんな同じなんですね、ウルトラマンに選ばれた人間は」

 

「そうみたいだな」

 

そう言い、静かに互いに笑い合う。

姫矢准も、目の前にいる千樹憐も、今の継承者である継受紡絆にも、何よりも共通するものがある。

理由はどうあれ、必ず()()()()()()()()()()()()()()()()()()というものが存在していた。

 

「っと……時間が無いみたいだ」

 

芝生から立ち上がって、憐は街並みを睨みつけた。

そこには座ってでも見通せる街並みの空間に、歪なモヤが生まれている。

どうやら、この空間を保つ時間がなくなっているのだろう。

いや---

 

「……みんな」

 

この世界ではなく、樹海が不味い状況となっている。

紡絆が意識を失ってから満開した者が二人増えているが、それでもレオとゴルゴレオス、ファウストが優勢。

このままでは満開の力も長く続かず、敗北してしまうかもしれない。

それを見て、紡絆は表情を引き締めながら憐を見つめる。

瞳に、溢れんばかりの光を宿しながら。

 

「……覚悟は出来てる---って必要ないか。紡絆、最後に俺から言えるのはひとつ」

 

憐が顔を見れば、年齢に不相応な覚悟を秘めながら、諦める意志何一つ感じさせない瞳で、憐を見ていた。

それこそ、放っておいても飛び出してしまいそうだと感じさせるほどに。

故に、過去の己と同じく今はまだ未熟の少年を導くために、憐は託す。

この世界の未来を、人の笑顔を。受け継がれてきた光を。彼ならば、守り抜けると信じて。

その思いを抱きながら、憐は手に持つエボルトラスターを紡絆に向ける。

すると憐の肉体は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()となる。

 

「ん? あれ、ちょっと待って憐! これデジャ---」

 

似た現象を見たことのある紡絆は驚くが、そんな紡絆のことなど露知らず、青い粒子となったものは青色の光へと変換され、紡絆の肉体の中に容赦なく入っていった。

 

『紡絆! 光は、人に受け継がれる希望なんだ。だからどうしようも無くなった時こそ、生きるために。俺が最後までウルトラマンとして戦えたように、光を信じろ!』

 

光の本質が絆であることを伝えてくれた姫矢の時のように、憐もまた紡絆に()()()()()()()()()()ということ。

()()()()()()()()()()()()()()を教える。

それを聞き届け、最後まで笑顔で優しく諭してくれた憐の姿に、紡絆は目を閉じて頭を下げた。

胸を握り締めれば、彼から託された、青い光が輝く。

姫矢から託された赤い光が力強さを感じさせるならば、憐の光は自身に似ていて、それでも違う確かな優しさをと思いやりを感じさせるものだった。

そして紡絆は頭を上げるとエボルトラスターを見つめる---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時に、世界が切り替わる。

エボルトラスターが手元から消え、紡絆の目の前には和を思わせる鎧のような姿---アンファンスと呼ばれる形態のウルトラマンネクサスが居た。

いつもの青黒く、白い光が所々にある神秘な空間。初めて出会った場所と同じ空間。

 

『-----』

 

「……大丈夫。もう、俺は決めたよ。

世界を守るためには、ファウストを倒す…()()()()()()

 

ネクサスを真っ直ぐに見つめる紡絆の表情は覚悟を決めていて、もはや止まらないだろう。

例え何を言ったとしても、もう背負う覚悟を持っているのだから。

 

『-------』

 

「今の俺に出来ることは、そうやって()()()()()()ことしか出来ない。辛い、苦しい、嫌だと思う。けど、ファウストの動きが止められたのは、きっと俺に止めて欲しいからだと思うんだ。

俺はその気持ちに答えてあげたい。俺は---後悔したくないんだ。だったら、俺が全て背負う。誰かを守るには、その覚悟はいつしか必ず必要になるから……!」

 

命を奪う覚悟。

決して殺すとは言わなかった紡絆は、ここで初めて命を背負う意志を持った。

奪われることはあった。でも、自ら奪うことはなかった。

紡絆もまた人間。命を奪うということに戸惑いもあれば、奪うことの恐怖もある。

だが、それでもいつしか奪うことになる。奪わなくちゃ行けない時がくる。それが今なのだ。

故に、奪ったその全てを忘れず、背負うといった。

忘れた方が気楽なのに、苦しくないのに、背負わなければ自分が追い詰められることもないのに、自ら険しい道を往く。

 

『…………』

 

「ごめん。俺はまだまだ未熟だけどさ……戦って、みんなを守れるのは本当に嬉しいことなんだ。君に無茶させてるのは分かってる。

でも、でも俺はまだ---」

 

ぎゅっと拳を強く握り締め、紡絆はただネクサスを見ていた。

その先の言葉は、言わずとも分かる。

その表情を見れば、様子を見れば。

 

『------』

 

だからこそ、ネクサスは紡絆を見つめ返しながら手を差し出した。

言わなくてもいい、と。

ただ選択を委ねるように手を差し出した。

戦いたくないなら、掴まなければいい。守りたいなら、自分の手で掴み取ることこそ意味があるのだから。

 

「---ありがとう。

そんじゃあ……行きましょうか!」

 

当然、今の紡絆にそのような選択など、待つ必要すらない。

少しも悩むことなく、迷いなく手を伸ばして、ネクサスの手を掴む。

その瞬間、紡絆の肉体が赤く輝き始め、黄金色の光が二人を包み込む---

 

 

 

 

 

 

 

そして、紅蓮の炎を体現するような、情熱の()()()()()の力を身に纏ったネクサスは光の中から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樹海で勇者とバーテックス、巨人と怪獣が戦っていた。

圧倒的な強さを持つ二体と一人の敵に、満開した勇者が三人居ても、勝てない。

ただ追い詰められるだけだが、勇者は諦めなかった。

どれだけ傷ついても、決して神樹様の方へ向かわせない。

それでも、人間には限界がある。

満開の力もあとどれほど持つのか---少なくとも長く続かない。

そして、戦況は悪化していた。

 

「っぁ……!?」

 

満開の力を持ってして、ようやく戦える。

ならば、満開していない勇者はいくら強くても、勝つことなど不可能なのだ。

事実、ゴルゴレオスの一撃が今、友奈を蹴り飛ばした。

防御しても、精霊バリアの上からでも凄まじい威力を誇るそれは友奈を容易に吹き飛ばし、地面へと落ちる。

 

「友奈!? ぐっ……!」

 

「友奈ちゃん! この、邪魔を……!」

 

友奈が吹き飛ぶ姿を見た夏凜は思わず視線で追うが、即座に持ち前の機動力でファウストからの一撃を避け、東郷の射線上にゴルゴレオスが行き先を妨害するように実体化する。

すぐに砲撃が放たれるが、前方に貼られたバリアが防ぐ。

レオの相手をしている風と樹が向かおうにも、複数の能力を使うレオの隙は中々ない。

そもそも、よく持った方だと言える。ここまで戦い続けれたのは、奇跡に等しい。

 

『よく足掻いたものだ。そこだけは褒めてやる』

 

無慈悲にも、ファウストが友奈の目の前に降り立った。

助けに行ける勇者はおらず、友奈もダメージが大きいのかすぐには動けない。

 

『やつの元へ向かわせてやる---ハアッ!』

 

「っ……!」

 

目の前にいるファウストが、友奈に対して剣を振り下ろす。

その力に脅威を感じた牛鬼が精霊バリアを貼るが、剣を一瞬受け止めると、今までの強度が嘘のように、()()()()()()()

自らを守ろうとしてくれた牛鬼を守るために友奈は即座に胸元に抱きしめ、目前に迫る剣に思わず目を伏せる。

 

(怖い---死にたくない。私が死んだら、この後はみんなも……そんなの嫌だ! 紡絆くん---)

 

目を伏せた友奈の脳裏に浮かぶのは、恐怖と隠していた弱音を打ち明けて欲しいと言ってくれた、無茶ばかりする心優しい男の子の姿。

友奈が出来ないことがあったら、紡絆が出来なかったら、いつも手伝ってくれて一緒に悩んで考えてくれた子。

ここまで頑張った。立ち上がってくれると、信じて。終わるような人じゃないと。

だからこそ、友奈は最後まで信じる。

最後の最後まで()()()()()()()信じて---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『デェアアアアァァァッ!』

 

『---ッ!?』

 

希望は、光はやってくる。

物凄い速さで蹴りを放つ光は()()()ファウストを蹴り飛ばし、もう一度追撃するように加速してさらに蹴り飛ばした。

くるり、と回転し、片手を地面に着きながら、光が着地する。

影を照らし、勇気を与えるような明るい光が、辺りを照らした。

何の痛みも来なくて、むしろ暖かさを感じた友奈は違和感で目を開ける。

さっきまであった剣はなく、そこには赤い光を身に纏い、瞳には光を。胸のコアゲージには青い光を宿している---ウルトラマンネクサスが確かに存在していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

157:名無しの転生者 ID:rTgAWCJP+

生きとったんかワレェ!

 

 

158:名無しの転生者 ID:VYUmPzVrc

スレは建てておいたぞ!

 

 

159:名無しの転生者 ID:xxEeUNP7j

エネルギーが回復してる…! さっき光が集まってたのが原因か?

 

 

160:名無しの転生者 ID:gYgF9SjEc

それだけじゃない。イッチの動きが良くなってる! 二度目のバーテックス襲来時に復活した時と同じくらいだ!

 

 

161:名無しの転生者 ID:8eipCUwRw

まさかウルティメイトバニッシャーもなしに復活するとは…!

 

 

162:名無しの転生者 ID:2cALtrTVp

けどメタフィールドは貼れるのか!?

 

 

163:名無しの転生者 ID:a8ic6NngG

イッチの肉体がボロボロなのは多分変わらないはず……回復したといっても、長くは持たんと見るべきだ!

 

 

164:名無しの転生者 ID:RwD38AUdE

いいか、無理する必要はない!

バーテックス優先で、状況が変化したらファウストと融合型の相手だ!

 

 

165:名無しの転生者 ID:l2I1qX6Yh

考えた結果、それが一番効率も良い!

もし融合型とファウストが残っても撤退する可能性はあるからな…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紡絆……くん?」

 

『………シュア』

 

驚いたように目を見開く友奈に、安心させるようにこくり、とネクサスが頷く。

そんな彼はすぐにレオを見つめ、ファイティングポーズを取ると加速して真っ直ぐに右腕を突き出すと、レオを一気に殴り飛ばした。

加速による強烈な一撃でレオの体は少し離される。

 

「紡絆!?」

 

「紡絆先輩……! 良かった……」

 

『デヤッ……フッ!』

 

一度だけ風と樹に視線を送ると、ネクサスは再び加速。

即座にゴルゴレオスを斬りつけようとしたところで、ネクサスの存在に気づいたゴルゴレオスは透明になって避ける。

 

「紡絆……! まったく、やっと起きたの?」

 

「心配したわ---紡絆くん、後ろ!」

 

ゆっくりと会話する隙もなく、実体化したゴルゴレオスがネクサスに襲いかかる。

東郷は即座に警告を出すが、それよりも早くネクサスは振り向き、片腕には青い輝きを手にしていた。

予測し、対策していたのだろう。

 

『ヘェアッ!』

 

一瞬にして展開されたメタフィールド。

黄金色の空間が世界を覆い尽くし、神秘の荒野の世界が創り出される。

所々にあるオブジェクトの中に敷き詰められている光は、宝石のようで、まるで命の輝き。

()()()()()()を封じられたゴルゴレオスはそのまま首を横に振るって攻撃をしかけるが、懐へ入ったネクサスはアッパーカットで一気に殴り飛ばした。

 

『ハァ---シェア』

 

『なぜ……何故動ける…戦える…!?』

 

一体どういうことか。

メタフィールドが完全に崩壊する程に肉体もエネルギーも力尽きていたというのに、嘘のように展開し、動いていて、今も構えている。

エネルギーを吸い取ったというのに、回復しているのだ。

ファウストには到底理解出来ない。

当たり前だ。理屈なんかじゃ、説明出来るようなものではない。誰かの思いこそが、ウルトラマンに力を貸す。

諦めない心が、勇気と力を与える。

だが、メタフィールドはネクサスに有利な空間で戦えるというもの---そんなものは、例のごとく許さない者が居た。

暗雲がメタフィールドに生まれると、メタフィールドを塗り替え、闇の世界へと塗り替える---ダークフィールドG。

 

「次から次へと……忙しないわね」

 

「でも---大丈夫。今度こそ、終わらせる」

 

「そうよ、こんな戦い終わらせましょう」

 

「うん…皆さんで帰るためにも」

 

友奈を除く勇者が、ネクサスに合流した。

それを一瞥し、ネクサスは小さく頷きながら敵を見据えた。

敵も起き上がり、今にも襲いかかってきそうだ。

 

「遅れました…!」

 

「友奈ちゃん…大丈夫?」

 

「うん、紡絆くんのお陰で平気!」

 

そんな中、遅れて跳躍し、地面に降り立った友奈はいつもの笑顔で返す。

それを見てネクサス以外が安堵の表情を見せるが、風は気を引き締めて口を開く。

 

「友奈も平気そうね。なら勇者部、行きましょうか…!」

 

『デェアッ!』

 

誰よりも速く、ネクサスが地上を走る。

迎撃すべくゴルゴレオスが前に出て、ネクサスに突進をしかけた。

それを往なしたネクサスは後ろ蹴りでゴルゴレオスを蹴り、ファウストへ向かって跳躍するのと同時に右拳を突き出す。

 

『また同じことをするだけだ……!』

 

それに対し、ファウストは剣を振るう。

ネクサスの拳と振られた剣ならば、当然切れ味が悪いわけでもないファウストの剣の方が強い。

だからこそ、ネクサスは寸前で右拳を戻し、僅かに身を逸らしながら左拳を突き出した。

すなわち、フェイント。

まんまと引っかかったファウストは左拳による一撃を受けることになる。

 

『デェア、シュアァァ! ヘアッ!』

 

『ぐぅううう---ッ!?』

 

後退するファウストに、追撃するように再び軽い跳躍と同時に右拳を打ち付け、地面を滑りながらファウストの足をスライディングで轢くと、地面についていた足が急に浮遊感を与え、体勢を崩しながらファウストの肉体が浮く。

その瞬間、ネクサスは足を掴んで回り始める。

 

『ハアァァァァ---ジュアッ!』

 

突風が起こるほどの高速回転。

それによって誰も寄り付くことが出来ない状態にしたネクサスは、ハンマー投げのように投げ飛ばす---ジャイアントスイング。

即座に左腕のアームドネクサスに手をやり、手刀の構えでファウストに向かってパーティクルフェザーで追撃。

 

「やらせない!」

 

そこへ、ゴルゴレオスが背後から駆けていくが、遠距離から放たれた砲撃がゴルゴレオスの側面に当たり、体勢を崩しながら勢いはそのまま地面を滑る。

 

『! ハッ!』

 

「任せて! うぉおおおお!」

 

地面を蹴り、ネクサスは空中で一度回転する。

その間に、滑っていくゴルゴレオスに友奈が拳を握りしめ、跳躍しながらオーラを纏って放つ一撃は、ゴルゴレオスの水晶を貫いて破壊した。

 

『シュワ! テアァ! フン、ハァッ!』

 

そして空中から落ちてくるネクサスがゴルゴレオスに跨り、次々と手刀を叩きつけながら停止した瞬間には、両拳を合わせて一気に叩きつけた。

部位破壊に、強烈な一撃を受けたゴルゴレオスは悲鳴を挙げ、ネクサスはゴルゴレオスの背を蹴って回転。

地面へと着地する。

 

「後はこっち---って」

 

「な、なに、あれ…!?」

 

レオを相手しようとしていた夏凜と樹、そして風は足を止める。

レオは見ていた。

勇者がネクサスに釣られて強くなっており、さらに復活したネクサスさえ、さっきに比べて強くなっていると。

それはそうだ。中身がボロボロで力も弱まっていたネクサスは、どれだけ頑張ったとしても本調子の力は出ないし出たとしても一撃受けるだけで大ダメージだ。

しかし今は今まで受けてきたダメージを感じさせない---いや正確に言えば、()()()()()()()()()()()()()()というべきか。人間には自律神経の働きのひとつとして、アドレナリンというホルモンを分泌する。

そのアドレナリンが大量分泌されると、痛みを感じるセンサーである感覚器が一時的に麻痺した状態になり、本来感じるべき痛みを感じにくくなるのだ。

それは興奮状態、緊張、不安や恐怖で出るもの。

故に、今のネクサスは()()()()()()()()()()が、痛みをそれほど感じていない。

ならば生半可の一撃では受けたとしても倒すことは出来ず、また動きの良くなっているネクサスに勝つことは難しい。

だからこそ、レオは決着を付けるべく自身の必殺技とも言える技を使う。

単体で火球を放つのではなく、次々と火球を生み出しているかと思えば、すべての火球がレオの頭上を目指して移動していた。

その収束点に浮かぶのは、煌々と燃える巨大な炎球。

 

「何よ、この元気っぽい玉……!」

 

『……シュ!? デェ---』

 

冷や汗を掻きながら空元気な笑みを浮かべる風だが、それも当然と言える。

その炎は、今までの火球がただの火の粉に見えるほどの莫大な熱量を持ち、物凄い威力を誇っているのは見るだけで分かるのだ---それこそ、正しい表現をするならば、火球でも炎球でもなく、太陽と言えるほどに。

それが、ダークフィールド内の空に顕現している。

ただし、狙いは勇者ではなく、ネクサス。

それに気づいたネクサスはファウストやゴルゴレオスに警戒するのを辞め、太陽に向かって跳ぼうとする。

望むなら、受けて立つと言わんばかりに。

 

「紡絆はそいつらの相手をしなさい!」

 

『ッ……!? シュワ、ヘア……!』

 

そんな紡絆を静止するような声が響く。

思わず足の力を抜き、跳躍するのをやめたネクサスは風を見て、何か言いたげな様子だが、風はそれに対して笑みを浮かべた。

 

「ここは部長の見せ場ってもんでしょ? あんたは心配せずに相手して……必ず勝ちなさい!」

 

『…………』

 

アレを止めるとなると、怖いはず。

それを表に出すこともせず、安心させるような笑みを見たネクサスは悩み---振り向いてファウストとゴルゴレオスに対して構えた。

そう、間違っていない。満開の力をもってしても戦うのがやっとな勇者と、ジュネッスにならずとも戦え、ジュネッスになれば互角以上に戦えるネクサスならば、ネクサスが相手した方が良い。

それにいくらオーバーレイが強くとも、融合したバーテックスは未知数。

勇者たちですら、封印の儀をしなければ勝てるかどうかも怪しいのだ。

 

「来るわよ!」

 

「お姉ちゃん……!」

 

「勇者部一同! 封印開始!」

 

ネクサスに向かって、ゆっくりと太陽が向かう。

その間に入り、風は自身の武器である大剣を斜めに構えて腹で受け止める。

しかし見た目通りの火力に受け止めきれず、風の体は空中から少しずつ地面に近づいていた。

 

『……ジュ。フアッ!』

 

一瞥し、信じてネクサスは走り出す。

自身の役目は、二体の相手。バーテックスの封印は、勇者たちがやってくれると。

 

「あたしがコイツを防いでる内に早く!」

 

「う、うん!」

 

「はい!」

 

「了解…!」

 

「ったく、私にも良いところ残しておきなさいよね!」

 

風の指示に友奈は急いでレオの元へ動き、樹は場所を変えるために移動して、東郷は空中戦艦の方向転換を。

一足先に辿り着いた夏凜は剣を地面に突き刺して、取り囲む位置に着いた満開している東郷と樹は腕を伸ばして手のひらを突き出し、友奈は満開ゲージが描かれている右腕を立てて封印の儀を執り行う。

すると少ししてレオの巨体が光に包まれ、その光が遥か上空へと昇っていく。

 

「よし、流石勇者部……! ッ……!?」

 

封印の儀が成功し、喜ぶのも束の間。

レオの瞳が赤く輝き、風が防いでいた太陽は一気に膨れ上がり---空間全体を震わせるような轟音が樹海の中に轟いた。

ただでさえ凄まじい質量を持つ炎が爆ぜたのだ。

眩い光と爆風が全員に襲いかかるが、勇者たちは封印をやめない。

 

『グヌゥ……()()これか…!!』

 

『ハァァァ---ハッ!』

 

頭を抑え、動きの止まったファウストの腕を掴み、右側へとネクサスは投げ飛ばし、すぐに背後にネクサスが拳を振り抜いたところで、ゴルゴレオスを吹き飛ばす。

そして、即座に振り向いた。

 

「お姉ちゃぁああぁあぁぁん!!」

 

「風先輩…!」

 

「そいつを!」

 

樹と友奈の声に反応したネクサスは風が居た場所を見る。

炎は消失した。

しかし至近距離で受けたということは、ダメージは計り知れない。

心配する声を打ち消すように、風は叫ぶ。

 

「そいつを倒せぇえええええええ!」

 

自分よりも御魂を破壊するように叫んだ風は()()()()()()()()()()()()()オキザリスの花びらを散らしながら元の勇者服に戻り、力尽きたように落下する。

 

『シェ……!』

 

ネクサスは即座に風に向かって手刀の構えで空気を切り裂くように振ると、落下地点で空気の壁がクッションになる。

勇者服は解除されてないということは、精霊のバリアは残ってるだろうが無事なことに安堵すると、ネクサスはふと頭上をゆっくりと見上げた。

 

「倒せって……あれを?」

 

他の勇者たちも見上げ、言葉を失う中。夏凜がそんな言葉を溢す。

封印は成功した。成功はしたのだ。

御魂は確かに上空に現れていた。

だが、相手は四体が合体した最強最悪のバーテックス。そんな化物の御魂が、普通であるはずがない。

上空に鎮座するのはもはや見慣れてしまった逆様の四角錘。

しかし、問題はそのサイズだった。

まるで空全体を覆いつくすかのような黒い巨大な四角錘が、茫然と見上げる勇者達をあざ笑うかのように佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何から何まで…規格外すぎるわ」

 

東郷の呟きに応えるものは居ない。

ただ同感しか得られないだろう。

“大きい”というのは、ウルトラマンやスペースビースト、闇の巨人、バーテックスのように。ただそれだけで脅威となる。

だが、このあまりにも規格外なその巨体から感じる威圧感は、それらを優に圧倒し、確実に勇者達の戦意を削り取っていた。

あれだけの巨体に対してどうすればいいのかイメージが全く湧いてこない。

ようやくここまできた。だと言うのに、ただ絶望が広がる。

その上---

 

「あの御魂…出てる場所が…宇宙!?」

 

夏凜の言う通り、この巨大な御魂は惑星規模の大きさを誇り、更には遥か上空……そんな言葉すら陳腐に思える程の遥か彼方、宇宙空間に存在していたのだ。

これまでとはあまりにもスケールが違いすぎる。

 

「大き…すぎるよ…。あんなの…どうしたら……」

 

「最後の最後でこんな…畜生!!!」

 

樹の声に絶望が、夏凜の声に悔しさが滲む。

何度も何度も襲い来るピンチを、何度も何度も乗り越えてここまで来た。

その末にようやくたどり着いた先に待ち受けていたものに今、勇者達の心は打ち砕かれようとしていた。

 

『シュワッ!』

 

しかしそれでも、折れない心は確かにまだ残っている。

目の前のゴルゴレオスをかかと落としで地面に張り付けたネクサスは頭を抑えながら跨るファウストを一度見て、すぐに跳躍して勇者たち全員が見える空中で止まる。

ネクサスの目の先にあるのは、遥か彼方にある惑星規模の御魂。

 

『ハアァァァ---テヤッ!』

 

抜刀するような構えを取り、エネルギーを両手に纏ったネクサスは真っ直ぐに見据え、必殺の光線を放つ。

クロスレイ・シュトロームが巨大な御魂に対して放たれ、光線は真っ直ぐ宇宙へと辿り着く。

 

『……ンッ!? シュワアァァァ---!』

 

おかしい。

何かがおかしかった。違和感を感じて威力を高めれば、ネクサスの体が押されていく。

まるで光線技が何かに返されているように。

そして、クロスレイのエネルギーが途切れる。両手を降ろし、警戒するようにネクサスが見つめると---

 

 

 

 

 

『ッ!? グアァァァァァ!?』

 

物凄い質量を持つビームがネクサスを一瞬で地面へと叩き落とす。

轟音と共に爆発が起きるが、ネクサスはすぐに起き上がり、上空を睨みつける。

寸前のところでサークルシールドを貼ったが、あの巨大御魂は迎撃機能があるようだ。

それもいくら離れているとはいえ、ネクサスの光線技が通用しないレベルの強さで。

それに対する解決策は紡絆には浮かんでいるが、ネクサスが目線を地面に埋まって何とか抜け出したであろうゴルゴレオスに移す。

そう、問題は融合型だ。勇者の妨害にでも出られれば、封印が壊されるかもしれない。

 

「---大丈夫!」

 

ネクサスですら通用せず、絶望が深くなる中。

静かになったダークフィールド内に一つの声はよく響いた。

力強いその声に、皆の視線が集まっていく。

 

「さっきの紡絆くんを見たでしょ? あれも御魂なんだからいつもと同じようにすればいいんだよ。ただ大きくていつもより厄介なだけ!

勝てないわけじゃない。例え勝てなかったとしても、ぜったいぜったい諦めない!

勇者って、ウルトラマンだって……そういうものだよね」

 

『……フッ』

 

立ち上がったネクサスに友奈が視線を送ると、友奈の言葉を肯定するように、そうだと言うようにネクサスはただ優しげな雰囲気を纏いながら頷く。

それに友奈は笑顔で応えた。

きっと、紡絆も笑顔なのだろう。

 

「友奈ちゃん…紡絆くん」

 

「友奈……紡絆…」

 

「友奈さん……紡絆先輩……」

 

そうだった、と三人は思い出す。

二人はいつもこうだ。

どんな状況だろうと、諦めない。押し潰されそうに、追い詰められた時に、もう無理だってなった時に、みんなを励ます。勇気を与える。

さっきのネクサスの行動は、喋れないなりのそれを示すひとつなのだろう。

もし本当に倒すことが目的ならば、クロスレイではなくオーバーレイを選ぶはずなのだから。

ただし雲の下からだとオーバーレイを撃ったとしても撃破出来なければ、もう撃てなくなってしまう。

故に、クロスレイを選んだといったところか---まぁ撃ち負けたが。

 

「友奈ちゃん行こう。今の私なら友奈ちゃんを運べると思う」

 

「うん! 二人は封印をお願い!」

 

「早く殲滅してきなさいよ!」

 

「任せてください!」

 

宇宙に鎮座する御魂を破壊すべく空中戦艦に友奈が乗り、封印を二人に託すと、夏凜と樹は友奈と東郷を見送る。

すると東郷は方角を宇宙へ変え、物凄い速度で向かっていった。

 

『……デアッ!』

 

それを地上から見上げたネクサスは今度こそこの戦いを終わらせるために、決着をつけるべく、ゴルゴレオスとファウストに向かって走っていく。

なぜなら維持は問題ないというのに、メタフィールド(ダークフィールド)を超え、樹海を物凄い速度で侵食しているのだから。

---封印する時間は、もうあまりない。

 

 

 

 

 

 

だからこそ、ネクサスは駆ける。

頭を振るい、忌々しそうに剣を構えるファウストがネクサスに攻撃をしかけ、ゴルゴレオスが合わせる。

もはや躊躇する理由もなければ、覚悟は決まっている。

 

『ハッ!』

 

『デェア、シュアッ! デェアァァァァ!』

 

振るわれる剣を避け、ファウストの腹に蹴りを入れると、ネクサスはゴルゴレオスの顎を掴み、肘で挟むと走りながら自分ごとゴルゴレオスを倒し、上空へ蹴り飛ばす。

 

『テェアァァァァ!』

 

『デェヤァァァァ!』

 

互いに全てをぶつけ合うように、長きに渡った戦いを終わらせるべく、ファウストの蹴りとネクサスの蹴りがぶつかり合い、互いに吹き飛ぶと、今度は拳を打ち合い、また吹き飛ぶ。

ならば、とファウストの剣が闇のエネルギーを纏い両手で斜め後ろに構え、ネクサスは俯きながら十字にクロスしたアームドネクサスが光り輝いていた。

 

『ハァァァ---』

 

『ハァァァ---』

 

この一撃で決着をつけるように、全力を込めながら互いに動くタイミングを見極めている。

ほんの数秒にも満たぬ、刹那の時間。

ファウストは真っ直ぐ見つめ、ネクサスは顔を上げる---その瞬間、上空へ打ち上げられていたゴルゴレオスが地面に落ち、轟音を響かせた。

それと同時に二人は動く。

 

「デェヤアァァァァァァ!」

 

「デェア……シェアァァァァァ!」

 

目にも止まらぬ速さで、ファウストとネクサスの位置が変わるように交差し、ファウストは剣を振り抜いて真っ直ぐ伸びており、ネクサスは右腕のアームドネクサスが胸元で構えて停止していた。

それは交差する瞬間に、互いが自身の武器を振り抜いた証拠だった。

つまり、倒れた方が負けたということ。

決着の瞬間と言うように、妙な静けさが辺りを包み込み、沈黙の空間が生まれる。

それを先に壊したのは---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ッ! ウアァ……ッ』

 

ネクサスの方だった。

ダメージを負った横腹を抑え、地面に膝を着いてしまう。

 

『フ……フハハハハハ---』

 

一時はどうなるかと思ったが、自分の身には何も無く、勝ちを確信したファウストは笑いながらトドメを刺すべく、振り向いた。

膝を着いたまま背を向けるネクサスにファウストは剣を構えて---ピキっ、と嫌な音が鳴る。

 

『---ん?』

 

確信を持って笑声を挙げていたが、怪訝そうな言葉を発し、音の発生源である手に持つ剣をファウストが見つめると、音はより強くなっていき、一気に歪みが広がって剣が斜めに折れた。

 

『なん……グッ!?』

 

剣が粒子となり、天へと昇っていく。

ただ打ち勝ったと思っていたファウストは、己の武器が破壊されたことに驚いていた。

さらに、突如胸に感じた痛みにファウストが手をやりながら膝を着く。

俯いて痛みの箇所を見てみれば、光の傷跡が出来ており---それはつまり、交差時にネクサスが武器とファウストにダメージを与えたということ。

あの時、剣を水平に振るったファウストに対し、ネクサスは左のエルボーカッターを剣に当て、その後、回転しながら右腕のエルボーカッターでファウストを斬ったのだ。

 

『……シュアっ! ハアァァァ---』

 

故に。

ダメージの正確な量はネクサスは少なく、起き上がるのと同時に振り向き、ネクサスは両腕のアームドネクサスを前に突き出して交差する。

ネクサスの両腕が輝き、両腕を広げていくと、磁力のように雷のようなエネルギーが反発している。

 

『ま……まだだ! ハァァァ---』

 

オーバーレイの体勢へ入ったネクサスを見て、ファウストが立ち上がりながら自身も技を放つべく握り拳を作りながら密着させた両腕を突き出し、離してゆく。

闇のエネルギーとも言えるものが、ネクサスと同じく反発していた。

 

『シュッ!』

 

『フン---ヌゥ!?』

 

そしてファウストな左腕を左腰に、右腕を頭上に構えるとダークレイ・ジャビロームを放つ体制に入り---突如として頭を抱えた。

明らかなチャンス。

怪訝そうに思いながらも、ネクサスは両腕をV字型に伸ばし、光線を放つべくファウストを見据え、L字型に組もうとしたところで---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『---撃って!』

 

そんな声が、聞こえた。

声の発生源を探すためにオーバーレイを撃たずに周りを見渡すが、聞こえてきたのはネクサスが見つめる先、ファウストからだ。

 

『貴、様……!』

 

『っ---早く! 早く撃って!』

 

『---フッ!? シュ……』

 

忌々しそうに声を漏らすファウストは行動出来ないようで、気のせいかと思っても声は再び響く。

抵抗している間に、ネクサスに光線を撃たせようとする()()()()。僅かに加工されたようなノイズが混じっているが、間違いなく女性の声ということだけは分かる。

それによって思わずL字型に組む直前で、ネクサスは止まって、躊躇いが生まれていた。

 

『邪魔を、するなあぁぁああ!』

 

『う……ッ!?』

 

『…………』

 

怒りの込められたファウストの叫び声。

女性の呻き声と共に、気配が薄まっていく。

もう時間はない。

恐らくファウストの動きが時々止まったりしているのは、変身者である女性が止めてくれたから。

しかし意識の優先権はファウストのようで、彼女も奪うことが出来るのはそう長くはないということだろうか。

悩み、悩んで---ネクサスは答えを出した。

組もうとしていた腕を、動して---

 

『………ウワッ!?』

 

横から放たれた、極太な雷撃の破壊光線がネクサスの左肩へ直撃し、ネクサスは片膝を着きながら左肩を抑える。

左肩を抑えるネクサスの右手からうっすらと見えるのは、左肩全体が真っ黒に焼かれた跡。その影響か、ネクサスのコアゲージが点滅を再び始めた。

それを気にせず、片膝を着いたまま攻撃された箇所を一瞥すると、すぐに記憶の中にある光線の発生源を辿って場所を見ればゴルゴレオスが既に突っ込んできている。

 

『クッ……シュアアアァァ!』

 

『鬱陶しいやつ---グオォ!?』

 

左肩の痛みを無視し、立ち上がったネクサスは突っ込んでくるゴルゴレオスの頭を上から下に右拳で叩きつけ、側面に回ってファウストに向かって蹴り飛ばした。

その蹴り飛ばされたゴルゴレオスはようやく意識を封じ込めたらしいファウストを巻き込んで倒れる。

 

『ハァ、ハァ……』

 

流石に効力が切れたのか、アドレナリンによって感じなかった痛みが急激に走り、ふらつく。

それでも、ネクサスは足を踏みしめて倒れない。

何故なら、倒れたらもう二度と立ち上がれないからだ。

 

『………!』

 

 

それを見て、武器を失ったファウストにとって今のネクサスを倒せる一撃はダークレイ・ジャビロームしかなく、すぐさま発射体制へと入ろうとしたところで、突如としてファウストがゴルゴレオスを掴んだ。

 

『なんだと……!?』

 

いや、ファウストが驚いているということは、ファウストではない。

変身者である女性がファウストの制御を()()()()()()()()()というのが正確か。衝撃によって、封じたはずの意識が浮上することになったと見るべきか。

ゴルゴレオスも困惑しながら拘束を解こうとするが、これでもファウストはウルトラマンと同等レベルの力。

簡単には解くことが出来ず、むしろ締め付けられる。

 

『ヘェ……!?』

 

ゴルゴレオスが暴れる度に締め付ける力が強まり、必死に動かせないようにするファウストを見てネクサスは呆然と見つめていた。

 

『っ……お願い、もう長くは持たない……撃って! 早く!

あなたを殺すことはしたくないの……!』

 

『…………』

 

懇願するような声で、ファウストは…いや、女性はネクサスを、紡絆を真剣な目で見ていた。

その視線を受け、紡絆は考えるように俯く。

女性の言葉は間違っていない。アドレナリンが切れたネクサスは、一撃でも受ければ立ち上がる力を失う。

しかもゴルゴレオスの一撃で、意識は既に消える寸前とも言えるだろう。

しかし、しかし、だ。

紡絆は今まで以上に悩んでいた。

これが正しいことなのか。()()()()()()

女性の意志を尊重すべきだ。今、ここで殺して止めてあげることこそが()()だ。

ほんの一瞬でそんな板挟みな思考が生まれ、光線技を撃つことが出来ない。

何よりも、()()()()()()()()。この優しさを、思いやりを。温もりを。感情を。

この声は、ファウストの正体は---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『---私に構わず撃って!! 最期の、お願いを---叶えて』

 

『ッ! シュッ! ファアアアアア---』

 

声に勇気づけられたように、バッと顔を挙げたネクサスは、覚悟を決めたように迷いなくファウストとゴルゴレオスを見つめると、大きく腕を回しながら左腕を突き出し、同じく大きく腕を回しながら右腕を左腕に重ねるように突き出す。

すると下方でアームドネクサスを交差することになり、青い光を纏いながらゆっくりと回すように両腕を上に突き出すように構えて引き離し合う。

エネルギーが反発し合い、それは威力の高さを物語っていた。

 

『わかっ……ているのか!? そんなことをすれば、お前も、貴様も、必ず後悔する……!』

 

『…………』

 

『ハアァァァ---』

 

動けないファウストは、最後の抵抗とも言うように女性とネクサスに向かって言葉を発するが、女性は無言に。

ネクサスは気にすることなくV字型に腕を伸ばし、両腕には高出力の光が纏われていた。

 

『や、やめろぉおおおおおぉ!』

 

『デェヤアアアァァァァ!!』

 

悲鳴が響くのと同時に、ネクサスはその高出力の光をL字型に腕を組んで放つ、長きに渡った戦いを終わらせる究極の一撃---オーバーレイ・シュトロームが放たれた。

迫る光線に、瞬時にゴルゴレオスが前方にバリアを貼るが、ネクサスの全てと紡絆の思いが籠ったその一撃は、容易にバリアを打ち破り、ゴルゴレオスに直撃する。

ゴルゴレオスが暴れて抵抗するが、容赦なく肉体は青白く光輝き、ゴルゴレオスの肉体を分子分解していく。

 

『フッ---シュアアアァァァァ!』

 

『グッ……オォオオオオオ!』

 

光線の威力を高め、既に分解されかけていたゴルゴレオスの体は完全に分子分解された。

さらに継続的に流されるエネルギーは止まることを知らず、ゴルゴレオスが居なくなって掛けていた体重と込めていた力を失い、その影響で前のめりに体制を崩したファウストへ直撃する。

地面を足で踏みしめ、オーバーレイに耐えるという諦めの悪い抵抗をするファウストだが、そのファウストの肉体ですら青に黄金色が混じった色に輝き、分子分解が起きていた。

 

『ッゥ……デェアーーーーッ!!』

 

『お……覚えていろ……! 貴様が、お前が……殺した……!』

 

『……ッ!?』

 

ファウストの全身が発光し、もはや助かる術はない。

もう必要ないと理解したネクサスは撃つのをやめる。

するとオーバーレイ・シュトロームの継続的に流されたエネルギーが消え、ネクサスは両腕を下ろしながらファウストをただ見つめた。

 

『ふ、フフフ……ハハハハハハ---グアァァァ!』

 

『……! シェア…!』

 

最後に、最期に罪を認識させるように嘲笑い、ファウストの肉体は、ついに粒子となって風に流されていく。

ネクサスは、紡絆は急いで地面を駆け、(かぜ)に流される粒子を一つ掴み取った。

しかし何も無く、ただ粒子はダークフィールド内に流され、消えていく。

掴み取った手のひらを開けば、残った一つの粒子もスッと消えてしまった。

何も残らず、紡絆はただ俯く---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『---ありがとう。ごめんね、あの子のこと、お願い---』

 

『………! シュア……』

 

バッと顔を上げ、流された粒子の方向を紡絆は見つめた。

最後に聞こえた、たった一つの感謝と謝罪。そして託された物。

それが何なのか、紡絆にはしっかりと伝わり、安心させるように頷く。

そして粒子はネクサスの目でも見えなくなってしまい、確かに消滅した。

つまり---長きに渡った、ファウストとの戦いは今、幕を閉じたのだ。

あれほど長く、苦戦したというのに、呆気なく。

 

『…………』

 

ただ、ただそれでも---膝を着いたネクサスが、()()()()()拳を強く握り締め、歯を噛み締めているように俯き、両拳を地面に付けながら蹲っていた。

()()()()()()()()()()()()()()()()

ウルトラマンの力を得ても、助けれなかったことに。自分は()()()()()()()()()()()()救えなかったことに。

そんな紡絆を慰める者も、悪くないと、仕方がないという言葉を投げかけてくれる者は誰も居なかった。

 

 

 

 

300:名無しの転生者 ID:gaqY66Xey

イッチ………

 

 

301:名無しの転生者 ID:Izd3h2e4Q

……終わったはずなのにな

 

 

302:名無しの転生者 ID:P+Cmevz/k

よく分からんがこの報われ無い感……流石ネクサスというべきか

 

 

303:名無しの転生者 ID:btfEWbL8p

結局正体は誰だったんだろうか……イッチは知ってるっぽいけど、声が聞き取れんかった

 

 

304:名無しの転生者 ID:Dut2ppy36

さぁ……けど、まだ終わってない

 

 

305:名無しの転生者 ID:nTgFqmfMx

イッチ、気持ちは分かる……とは言えん。でもまだ友奈ちゃんと東郷さんは御魂を破壊しにいってるんだぞ

 

 

306:名無しの転生者 ID:kXyT5JF+6

辛いってのは見てれば分かるけど……休ませてくれる暇はないようだ

 

 

307:名無しの転生者 ID:s4YYsH2jR

イッチ、ゴルゴレオスは倒したけどまだ御魂が残ってる……!

 

 

308:名無しの転生者 ID:HtRh24hSV

戦いは終わってない! 後悔するのも泣くのも全部終わってからにしろ! このまま放っておいても問題はないと思うが、友奈ちゃんや三森ちゃんに危機が迫ってもいいのか!?

 

 

309:名無しの転生者 ID:fUGJt90ho

いいってならそこで蹲ってろ! それでもお前が守りたいと願うなら今立ち上がれ!

 

 

310:名無しの転生者 ID:X1/Esx+8n

全部終わったあとに俺たちが話くらいは聞いてやる! 転生者のよしみでな!

 

 

311:名無しの転生者 ID:zMLvswiC3

頑張れ、あと一息だ!

 

 

312:名無しの転生者 ID:cIOwj/699

お前が選んだ選択は、間違ってないんだからな

 

 

313:名無しの転生者 ID:0v54j7Kzq

あの場合はああするしかなかったんだ

 

 

314:名無しの転生者 ID:crG5s69Ve

誰もお前を責めちゃいねえ。今はこれ以上後悔しないように動け!

 

 

315:名無しの転生者 ID:si+p0vrQ9

御魂は恐らく、レオの御魂と合流して力を強める気だ!

 

 

316:名無しの転生者 ID:Ga7EfzVM3

見た感じ、バーテックスとスペースビーストが融合出来るなら核たる御魂が融合出来ないはずがねぇ!

仮に復活でもされたら頑張りが無駄になる!

 

 

317:名無しの転生者 ID:HkSe2sP3B

制限時間も恐らく僅か!

 

 

318:名無しの転生者 ID:op+5gJnIu

オーバーレイを撃った今、あの御魂を壊せる火力はコアインパルスくらいだ……エネルギー残量的に恐らく破壊は出来ん。

せめて友奈ちゃんたちを送り届けろ!

 

 

319:超古代の光の転生者 ID:TIGA+1996

立つんだ! 君の守りたい者のために!

 

 

 

 

 

 

 

 

惜しくも逃がしたのか、生き残っていた御魂が突如として地面を突き破り、宇宙に向かって逃げていく。

おそらく、オーバーレイの直撃を受けた際に分解されるより先に地面の中に御魂を隠したのだろう。

それに気づいたネクサスは立ち上がり、ふらつく体に鞭を打って、今も封印する樹と夏凜の方を見つめた。

二人とも真剣で、必死に封印を維持している。

次に宇宙の方向を見れば、友奈を乗せた東郷の空中戦艦が宇宙へ辿り着いている。

 

『………シュワッチ!』

 

御魂はまだ破壊されてない。

逃した敵を追うべく、戦いを完全に終わらせるためにも、ネクサスは地面を蹴り、宇宙に向かって飛んでいく---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙へ辿り着いた友奈と東郷。

どうやらダークフィールドに覆われていても宇宙は変わることなく、後ろを見れば地球が見えた。

本来であるならば青く、美しい海の星。樹海ではそうではないが、守りたい場所に変わりは無い。

しかし本来は感動を覚えるはずのそれは、目の前の圧倒存在感を放つ無粋な物体のせいで台無しだった。

地上では今頃どうなっているのか、紡絆は、みんなは大丈夫なのかそんな疑問はあるが、今は目の前を何とかしなくてはならない。

ここまで順調…というのがむしろ怖く、いつもの傾向から考えれば、必ずレオは何かをしてくる。

そう思い、東郷は警戒していると狙撃手として一番優れた目を持つのもあり、視界の中に何かを捉えた。

真正面に聳える御魂の正面中心、そこに何かが見えた気がしたのだ。

とても小さくて、何かは分からない。

警戒心を高めつつ目を凝らしながら尚も距離を詰めていくと、それが何か次第にはっきりと見えてきた。

何かの正体は御魂と同じ色をした、立方体のブロック。大量のそれが二人の方へとまっすぐ向かってきていた。しかもかなりの速度で発射されており、一つ一つが自分たちの体より大きい。

もしそんなのがぶつかってしまえば勿論、無事で済むはずがない。

 

「御魂が攻撃!?」

 

「大丈夫。一個たりとも通さない!」

 

東郷が八門の砲塔を構え、空間を駆け抜けた。正面からやってくる無骨なデブリたちに八門の砲塔から放たれる弾が衝突し、真っ暗な空間に爆炎の花を咲かせていく。

 

「っ…」

 

第一波を退けた東郷が苦悶の声が漏らす。

思っている以上に満開は消耗が激しく、今は何とか持ちこたえているがいつまで持つかはわからない。

そもそも既に満開状態でかなり時間が経過しており、持っているのが不思議なほどだ。

だからこそ一刻も早く御霊の元へとたどり着かなければなければ…誰も到達できなくなってしまう。

 

「東郷さん…?」

 

そんな東郷の異変を、友奈は決して見逃さない。心配そうに見上げる友奈に東郷は淡く微笑むと、友奈の手を強く握りしめて改めて敵を見る。

第一波を突破したというのに、もう二波が来ている。

しかも御魂に近くなったのもあって、その密度は高く、唇を噛み締めながら東郷は前方へと砲撃を加え、自在に動く砲塔で取りこぼしを丁寧に処理していく。

そんな大量にブロックが舞う中、地上から何かが迫ってきていた。

 

「下から何かが来る……! あれは……御魂!?」

 

「ということは、紡絆くんが勝ったんだ……! でも、どうして御魂がっ?」

 

「まずい……!」

 

迫ってきていた正体に気づき、友奈の疑問に東郷はすぐさま御魂の目的を理解した。

あの惑星規模の御魂に取り込まれることで、強化しようとしているのだと。

すぐ東郷は迫ってくる御魂を優先しながら砲撃を放つが、今まで向かってきていた全てのブロックが御魂を囲い、東郷の砲撃を防ぎながら加速して空中戦艦を抜き去って見せた。

 

「速い!?」

 

「くっ……! せめて一撃を…!」

 

強引に振り向き、壊すことは出来なくても妨害するための一撃を放つ。

だが、壁状のブロックがそれを防ぎ、御魂はレオの御魂の中へ吸い込まれる。

その瞬間、今まで放たれていたブロックの他に、雷撃と火球が混じって降ってくる。

 

「そんな!?」

 

「まだ来るなんて……!」

 

諦める訳には行かない。

優先事項をブロックにしながら相殺しきれない火球を避け、雷撃を砲撃で相殺しては威力が足りてないブロックの破片を二撃目で破壊していく。

数が多く、それでもどうにか突破していくと---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東郷さん、後ろ!」

 

「---追尾!?」

 

今まで避けていた火球が大きくなっており、Uターンして来ていたのだ。

背後を見て、前方を見る。

細かなブロックではなく、巨大なブロックと化したものが降ってきており、逃がさないようにブロックを囲むように放たれている雷撃。

後ろからは、追尾してくる火球。

()()()()()()()()()()()。逃げ場はなく、完全なるチェックメイト。

このままでは二人とも辿り着けず終わってしまう。

 

(せめて友奈ちゃんだけを……!)

 

この一撃を受ければ、間違いなく満開が消えてしまう。

だが二人ともやられ、勝算がなくなるよりかは、一人でも行かせるべき。

しかし東郷の満開は長くなく、例え辿り着いたとしても満開は保てないし御魂を攻撃する力も残っていない。

故に、友奈だけを行かせようと東郷は視線を送り---友奈は、こんな状況だというのににこやかに笑いかけ、握っていた東郷の手を、両手で握っていた。

 

「友奈ちゃん……?」

 

「大丈夫だよ。信じよう、私たちが信じれば、きっと応えてくれる」

 

安心させるように確信した表情で優しく言ってのけた友奈に、東郷は目を見開き、まさかと地上を見つめた。

何かが来ている。

ただそれは絶望なんかではなく、暖かく希望を灯してくれる輝き。

それに気づいた東郷も、嬉しそうな疲れたような笑みを浮かべていた。

 

「えぇ、そうね……きっと、大丈夫。彼はいつだって---私たちの希望だもの」

 

迫る。

勇者を殺そうとする一撃が。勝敗が決まる一撃が。全てを無に還し、絶望を与える必殺が。

なぜだろうか、二人は相手はただの御魂だというのに、勝利を確信したように笑ったような、そんな気がして---友奈と東郷は爆風に呑まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翔ける。

こんな状況だと言うのに、追い込まれているかもしれないのに、不思議な感覚だった。

空を飛ぶのは、初めてではない。何度も何度も飛んで、戦った。

だというのに、紡絆は高揚感を覚えていたのだ。

まるで、()()()()()()()()()()()()()()()、そんな感覚が芽生えていた。

 

(友奈……東郷……!)

 

それでも、今は目の前のことを見なければならない。

自身の気持ちに蓋をし、全ての思いを封印し、戦いへ集中する。

戦いたくない、もう休みたいという思いが生まれては、意志が捩じ伏せる。

体が否定する。それ以上は死ぬぞ、と。

関係ない。今動かなければ後悔する、と感情で打ち消す。

今、ネクサスの瞳を通して、紡絆は状況を理解していた。

東郷はなんとか第二波を防いでいるが、長くは持たないことは誰でも分かる。

だが、これが全力なのだ。

今、ネクサスが出せる全力の速度で空を飛んで、まだ宇宙へ辿り着いていない。

大気圏を突破していない。

当たり前だ、飛行するネクサスはぶらぶら、いつ堕ちても不思議でもなければ、コアゲージはいつ止まっても不思議ではない。

メタフィールド(ダークフィールドG)が存在する限り、ネクサスの消耗は常にされ、負担は大きい。

それを分かっていて、アンノウンハンドは解かない。

 

(意識が消えそうだ……。でも……それでなんの意味がある? ここで倒れて、何も出来ないままなんて終われないだろ!)

 

何かが叫ぶ。

お前の思いを貫けと。絆を信じろと。光を心に灯せと。

今動かなければ、後悔する。

力がないならパワーを振り絞れ、守りたいという(ハダカのままの)欲望で、勇気を捻りだせ。

この思いを届かせるために、紡絆は意識を無理やり浮上させる。

 

(守りたいんだろ……! お前はウルトラマンだ! だったらウルトラマンとして、継受紡絆として、託された物のためにも……世界を、みんなを守れ! 知識をくれ、手伝ってくれた大勢の人たち。その人たちにも、それが俺が返せることだ!)

 

翔ける。

何処までも暗く、光すらも閉ざす暗闇の中を、ネクサスは少しずつ速度を上げながら飛んでいく。

しかし必死に仲間の元へ向かうネクサスに、現実が立ちはだかる。

やられたと思わせておいて、隠れてレオの元へ向かったゴルゴレオスだったものの御魂が、なんとレオと融合し、惑星規模だった御魂が一回り大きくなる。

レオに、それもスタークラスターを超えるほどの進化体にでも戻ろうとしているのか、周囲に巡る目に見えるオーラが赤く染まっていた。

それだけじゃない。

ネクサスの瞳は、捉えていた。東郷と友奈がいるであろう場所へ放たれた火球が通り過ぎ、徐々にひとつにまとまっていくのを。

巨大な御魂のようなブロックを囲む雷撃が、落ちてきているところを。

集まっていた火球が、突然Uターンして東郷や友奈たちの方へ向かったのを。

まさしく、絶体絶命。

ネクサスはまだたどり着けず、それを受ける方が速い。

だからこそ---

 

 

 

 

 

思い出す。

継受紡絆という人間にとって、とても大切となった、心に残った言葉を。

 

『紡絆。光は……絆だ。誰かに受け継がれ、再び輝く』

 

『紡絆! 光は、人に受け継がれる希望なんだ。だからどうしようも無くなった時こそ、生きるために。俺が最後までウルトラマンとして戦えたように、光を信じろ!』

 

恩人と言える二人の言葉。

それを思い出した紡絆は、願った。

 

(姫矢さんと憐の言葉…! 光……そうだ、俺は、俺は---みんなを救いたい。姫矢さんも言っていた! 光は絆だと。だったら---ッ!!)

 

力を。守るための力を。今ここに、願った。

もっと速く。もっともっと高く(TAKE ME HIGHER)と。

どんな存在をも追い抜く力を。信じる光の力を。導く絆の力を。高く飛べる力を。

何より---思いを届かせる、青い果実(蒼き輝き)()を。

それは、奇跡。

それは、軌跡。

それは、繋がり。

受け継がれ、語られ、託され、紡がれてきたが故に起きた、究極の奇跡。希望への道標。

ウルトラ(ノア)の絆。

ネクサスが消える。

いや、正確な表現をするならば、()()()()()()()()()()

空を飛ぶネクサスの頭上から降り注ぐ水のような光がネクサスを覆い、彼は青い光へ姿を変えながら想いを届けるために(かぜ)を抜き去って天空を高速で翔け抜ける---

 

 

 

 

 

 

 

 

一秒---成層圏を抜け、中間圏へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

二秒---中間圏を超え、熱圏へ。

 

 

 

 

 

 

三秒---友奈と東郷を乗せる空中戦艦を見つけ、外気圏、大気圏を超えながら宇宙空間に躍り出ると、火球すらも抜き去る。

全てを抜き去ったネクサスに気づいたのか安心したように、信じて見つめてくる二人に応えるべく、ネクサスはさらに加速した。

四秒。火球が直撃するより早く空中戦艦を両手で抱え、青い光が戦艦を守るように包み込む。

そして迫り来る火球や雷撃に対して、ネクサスは掠ることも直撃することもなく、間を潜り抜けるように回転しながら雷撃を避け、壁状のブロックへ突っ込み、背後から迫る火球がブロックに当たることで爆発が起きるが、その爆風の中を翔け抜ける。

 

『………!』

 

だが、そんなのは敵も気づいていた。

全てを避けきったネクサスに対して、放たれる極太の雷を纏う破壊光線と融合したレーザー。

 

「…ッ!? 紡絆くん!」

 

対処しようとする東郷に、青い光に包まれたネクサスは両手をそっと離し、戦艦をその場に待機させると首を横に振る。

そしてネクサスは当たればタダでは済まないその一撃を、ネクサスの光線技と同等だと思われる一撃を受け止めるべく戦艦の前に立つ。

 

「まさか受け止める気!? いくら紡絆くんでも---」

 

「ううん、きっと大丈夫!」

 

『シュアァ!』

 

ボロボロな姿を見ていた。

既に変身出来てる時点でも可笑しい姿を見ていたからこそ、東郷は最悪の事態を考えて、止めようとする。

しかし友奈がその考えを打ち消すように叫んだ。

友奈だって確信はない。心配だ。

ただそれでも、不思議と大丈夫だと思った。

そしてその答えは、ネクサスが実践する。

なんとネクサスは破壊光線(レーザー)に対して、光線技を放つ動作をすることもなく、目前に来た瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ネクサスが貼ったであろう青い光の膜が戦艦ごと友奈と東郷を包み込んでるお陰で二人に被害はないが、目の前で爆発したことに緊張が渦巻く。

 

『シュアァァァ…ハッ!』

 

残るエネルギーの残留を凪ぐように払うと、ネクサスを包み込んでいた光は消え、その姿を現した。

それを見た御魂が、驚愕し、焦っているようにも見えるが、友奈と東郷はそれどころではなかった。

 

「えっ!? 紡絆くん……だよね?」

 

驚いたような表情をしながら、確認するのは友奈。

さっきまでは青い光に包まれ、姿は見えなかった。

ただウルトラマンが来た、と。紡絆が来たということだけは理解していたのだが、友奈と東郷の目に映ったのは、見知らぬ姿をしている巨人だった。

形状はジュネッスと同じ。だが右腕のアームドネクサスは全く別の形状へと変化しており、何よりも目立つのは、色。

今までのジュネッスは、情熱を体現する赤。

しかし今のネクサスは---

 

「青い……ウルトラマン?」

 

青空のような、透き通るような海のような体色をしたネクサス。

変化したアームドネクサスは、アローアームドネクサスと呼ばれるものであり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()---その名を、ジュネッスブルー。

思いを貫く、光の力。

 

 

 

 

 

 

 

410:名無しの転生者 ID:Rs5q8JUD5

ファッ!? 今度は憐ジュネッスやんけ!? どうなってんの情報ニキ!!

 

 

411:情報ニキ ID:JoUHou2in

ええい、知るかー! こっちも混乱しとんじゃい! ひとまずイッチのなんかこう、真木さんレベルで意味の分からん適合率が影響してるんだとは思うけどさ!

正直孤門の時は特別使えただけでこんな情報ないしノア様単体ならともかく、デュナミストと一体化した状態であれ以降なったという情報もない! ただ確信して言えることはひとつ!

この力があれば、勝てる!

 

 

412:名無しの転生者 ID:25Xmute7P

いっけー! イッチ! 絶望を打ち消してやれ!

 

 

413:名無しの転生者 ID:iQe9TrMyx

これが絆の名を持つ、ウルトラマンの力か……!

 

 

414:名無しの転生者 ID:YIiRt04vZ

何より、人間とウルトラマンの絆だ!

 

 

 

 

 

 

『---シュア』

 

二人の言葉に答えるように、ネクサスは体半分だけ振り向き、こくりと頷く。

御魂が何をしているか分からない。警戒しながら友奈と東郷を見つめると、東郷は安心したようにふらついた。

 

「東郷さん!?」

 

「ごめん…安心したら力が抜けて…ちょっと疲れちゃったみたい」

 

すぐに支える友奈だが、紡絆も心配しているのか僅かにネクサスの手が伸びていた。

流石に巨体故に支えることは出来ないからか、すぐに引っ込めていたが、ネクサスは鳴り続ける自身のコアゲージを見て、敵を見て、友奈と東郷を見た。

 

『デアッ』

 

「紡絆くん? どうかしたの?」

 

「……長くは持たない。自分が連れていくって言ってるわね」

 

東郷の言葉に、肯定を示すように頷く。

事実、コアゲージの点滅具合からして、もう何秒持つか分からない。

それでも、この中で可能性が高いのは友奈をネクサスが連れていき、御魂を破壊すること。

 

『シュッ』

 

「もう十分すぎるほど頑張った、ありがとう……? もう、まだ終わってないわ。友奈ちゃん、私はここで待ってる。だから紡絆くんと一緒に……行ってくれる?」

 

「うん、ありがとう東郷さん。ここまで連れて来てくれて……だから今度は、私の番! 見ててね、やっつけてくるよ!」

 

「うん……いつも見てるわ、二人のこと」

 

やるべきことは決まった。

ネクサスは戦艦の前に甲を下にして左手の手のひらを僅かに曲げながらそっと添える。

乗れ、ということだろう。

 

「わっ……全然安定する…。ウルトラマンの手って、乗り心地がいいんだ」

 

『ショア……』

 

「行ってらっしゃい、二人とも。絶対帰ってきて」

 

ネクサスの手に乗った友奈は親指に両手を置きながら、全くバランスの崩れないことに驚く。

手に乗るということは、乗る者がバランスを崩しても不思議ではないのに立っているだけでも問題なく、飛行するなら何処かに掴む必要はあるかもしれないが、普通に居る分には全然問題なかった。

まぁ、ウルトラマンの手は小学生の子供すら乗せても問題ないのだから、不安定じゃないのは当然だ。

 

「うん! 紡絆くん、いこう!」

 

『シュワッ!』

 

ネクサスと友奈の視線が交差し、東郷に向かって同時に頷いた。

そして上空に存在する御魂を見据えると、友奈の声に従うようにネクサスは飛ぶ。

向かってくるネクサスに対して、大量の火球が放たれる。

どうやら混ぜても避けられると判断し、放ちやすい火球を物量でぶつけてくるようだ。

一撃でも受けたら終わりなネクサスのことを考えれば、理に適っている。

 

『ハァ---シュアッ!』

 

逃げ場はないかと思われる火球群。

その中をネクサスは紙一重で躱していき、追尾してくる火球を一箇所にまとめ、パーティクルフェザーのたった一発で打ち消す。

二波。

相変わらずの物量だが、時々雷撃も混ぜて放ってくる。

 

(……すごい)

 

そんな状況の中、感心してる場合でも気を取られてる場合でもないのに、友奈は感動を覚えていた。

普通に考えて欲しい。

宇宙を飛んでいる。ウルトラマンに乗って、それも普段は経験出来ない速度で飛んでいるのだ。

そんなの見惚れない方が難しいといえる。

もしこれが本来の宇宙ならば、星々が見えてもっと美しかったはず。

残念ながら、樹海の世界には星々はないらしい。

もっと飛びたい。もっとこうしていたい。そう思っても、戦況は止まってくれない。

 

『シュア、シュア! デェアッ!』

 

避けることをせず、火球とレーザーをパーティクルフェザーだけで打ち消し、放たれた雷撃をネクサスは右腕でガードしながら突っ込んでいく。

少しずつ接近すると、急に雷撃の威力が落ちて、ネクサスは止まりながら右腕を払うことで打ち消す。

もはや御魂は目前。

生半可な威力ではただやられると察したのだろう。

だからこそ、御魂は最後の賭けに出る。

己の全力を持ってして、ウルトラマンと勇者を蹴散らせるために、余力を残さない全てを出し尽くした。

大きな、とても大きな太陽。それに纏わりつく雷と(かぜ)

それらを囲む水球はさらに温度を上げ、まるで引き出せる融合した全てのバーテックスとゴルゴレムの特徴を最大限に生かした合体技とも呼べる。

 

「紡絆くん、もうここまでで大丈夫だよ。あとは私に---」

 

『フンッ……!』

 

任せて、と言おうとした友奈の言葉を、ネクサスが首を横に振ることで止める。

友奈の満開はどんなものかは分からないが、少なくともあの合体技は御魂の全てを使った一撃。

間違いなく、()()()()()()()()()()()()()()一撃。

ならば、ネクサスもそれに対抗しなければならない。

空いている右手で友奈を一度覆い、バリアのような球状の青い光で友奈を覆うと、ネクサスは右手を降ろし、左手で右肩に友奈を移動させる。

 

「あっ……紡絆くん……。もう、分かった。でも無理しないでね?」

 

『フッ! ハアァァァァ……』

 

この状況でも頑固な紡絆に、友奈は苦笑すると諦めて託す。

似ているからこそ、分かる。言葉が通じなくとも、自分だったらどうするか考えれば、簡単に分かるのだ。

もし友奈が紡絆の立場であるならば、自分も同じことをするだろう、と。

当然、無理しないでなんて言葉が意味が無いことも知っていれば、仮に止めたとしても勝手に行動するだろう。

---その通り、やはりネクサスは残るエネルギー全てを振り絞る。

握り拳を作った両腕を胸元で強く握り締め、エナジーコアからエネルギーが溢れる。

これからすることは、死ぬ可能性が最も高い危険な行為。本来は成すことが難しい、出来ないとすら思われる無茶ぶり。

そんなことを、迷いなく行った。

失敗すれば死。エネルギーが先に尽きても死。成功しても---変身が解けて死。

だったら、今出来る全ての手を使わなければならない。みんなが生きるために、自分も生きるために。

それを大前提に、後は運任せ。

 

『へアッ! シュアァァァァ……』

 

右手のアローアームドネクサスを光り輝くコアゲージへと翳すと、エナジーコアの形をした光が一瞬現れ、光が収束することでアローアームドネクサスはエナジーコアを投影する。

するとアローアームドネクサスは光の弓を形成し、アローモードと呼ばれる形へと変化する。

ネクサスは光の弓を引き絞り、それと同時に光の弓から剣が伸びることでファイナルモードを形成した---が、コアゲージの点滅が加速した。

それを気にせす限界まで弓を引き絞るネクサスと、御魂が破壊の一撃を完成させたのはほぼ同時だった。

勝負は一瞬。

かたや光のエネルギー。方や四つの属性を使った合体技。

それがぶつかる時、勝つか負けるかの違いでしかない。

果たして、何秒経っただろうか。

一分にも二分にも感じられる---だが、実際には指で数えられる程度。

 

『デェアァァッ!』

 

先に動いたのは、御魂だった。

巨大な一撃を(かぜ)と後方から放つレーザーによって威力と速度を上げ、超高速で迫る雷撃を纏う太陽。

対するネクサスは、引き絞った弓を勢いよく後ろに引き、不死鳥のような光の矢を発射した。

これこそ、現状持ちうるネクサス最強必殺技---『オーバーアローレイ・シュトローム』。

 

 

勝負は本当に一瞬。

太陽と不死鳥がぶつかり、勝ったのは---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不死鳥だ。

不死鳥のような形状に相応しく、太陽をあっさりと貫き、爆発させながらもなお御魂に迫る。

だがネクサスの肉体も青く輝き始め、爆風が迫る前に一瞬だけ友奈に視線を送る。

 

『ッ……シュワッ!』

 

 

それに気づいた友奈は頷き、ネクサスは右肩に乗る友奈を球状のバリアごと掴んで一気に全力で腕を振るって投げ飛ばした。

同時に、ネクサスの光は完全に消え失せ、()()()()()変身が解除された紡絆は爆風に巻き込まれながら堕ちていく。

 

「紡絆くん!!」

 

意識がないのか、紡絆は答えない。

爆風の中をバリアによって守られながら突っ込んでいる友奈には紡絆が見えない。それでも、無事だと信じて見上げた。

御魂は力尽きているのか、迫る不死鳥に対して残ったレーザーで対抗することしかせず、友奈は目を閉じる。

ここまで、仲間の力を借りた。

風には封印する時間を稼いでもらった。

樹と夏凜には封印を維持してもらった。

東郷にはここまで連れてきて貰った。

紡絆には強力な一撃を破壊してもらって、御魂まで飛ばして貰った。

決して、1人では辿りつけなかった場所。

みんなの思いを背負って、友奈はここに居る。

なら今度は---

 

「私の番! 満開!」

 

目を開け、覚悟を決めた友奈は唯一自分だけが残っている切り札を切る。

その友奈の決意に応えるように、地上から伸びてきた虹色の光が友奈の体を包み込み、青い光が消えるのと同時に桜色の光とともに巨大な山桜が花開く。

光が晴れると、友奈の勇者服は大きく姿を変え、体の両側に新たな武器が現れた。

友奈の満開は全勇者共通の背部のリングに加え、左右にある巨大なアーム。

何をも貫き、脅かす困難を真正面から打ち破るための、一点突破する友奈らしい満開。

友奈は加速し、紡絆が残してくれた不死鳥の矢の後ろに着く。

そしてついに矢がレーザーを破り、御魂へと突き刺さる。

ネクサスの最強必殺技は伊達ではなく、あれほどのエネルギーを突破するどころか、御魂の中をぐんぐんと貫いていき---エネルギーが消失した。

まだ半分も行っていない。

だが、十分すぎる成果だ。

 

「そおぉぉぉこだああぁぁぁあ!」

 

紡絆の破壊した跡を、巨大な拳を叩きつける。

一撃ごとに損傷は拡大し、友奈は両腕を打ち付けながら奥へ奥へと進み始めた。

しかし最後の御霊はただでは終わらない。

 

「固い……ッ!」

 

あれほど簡単に進めていたことから、どれだけネクサスの技の威力が高かったのか感じさせられる。

それだけではない。差し迫った危機に対して、先ほどまで緩やかだった修復能力を御魂が一気に活性化させたのだ。

御魂四つ分、+α‬融合型分だと考えれば、その修復速度はとてつもない。

御魂の中へ侵入していた友奈を空間全体が押しつぶそうとし、目の前に空けた穴に至っては修復されていた。

そんな状況で全身に加わるとてつもない圧力に、友奈は苦悶の表情を浮かべ、押し潰され---

 

 

 

 

 

「ゆ……勇者部、五箇条! ひとぉぉーーーつ! なるべく!! 諦めない!!!」

 

全身の力を総動員し、押しつぶそうとする圧力を跳ねのける。

その影響から修復力が一時的に硬直した隙に、一気呵成に更に奥へと突き進む。

友奈は、みんなから託されているのだ。

こんなところで諦める訳にはいかない。

例え暗闇であっても、ずっと光は傍にある。

押し潰されかけた時、青く輝く光が暗闇を照らし、彼女に勇気を与えてくれた。

入れ替わるように消えたはずの、紡絆が残してくれた光は、友奈の中に残って、支えていた。

入り口は塞がれ、本来ならば暗闇。だが青い光は、暗闇を照らしてくれた。

 

「更に、五箇条! もうひとぉぉーーーつ! なせば大抵!! なんとかなる!!!」

 

何度も拳を振るい、亀裂が広がると太陽の光が辺りを照らす。

傍にあった青い光は限界を迎えたように、役目を終えたように消失するが、明るくなったということはゴールが近いこと。

御魂全体に亀裂が入っているが、友奈はそれを知らぬまま残る全ての力を右腕に込め、突き出すと中心に太陽のような御魂が存在していた。

友奈は迷いなく全力の拳を叩きつけ---惑星規模の御魂は幻想的な虹色の光を撒き散らしながら消滅する。

 

(やった……)

 

ついに戦いが終わった。

だが友奈の体力も限界で、満開を維持する力はさっき全部叩き込んだ。

山桜の花びらが散り、友奈の肉体が一瞬輝くと友奈は元の勇者服に戻って堕ちていく。

そんな引力に引っ張られ、自由落下する友奈をふわり、と優しく受け止めるものがあった。

衝撃が走ることも無く、安心したような表情で友奈は横を見る。

 

「お疲れ様、友奈ちゃん」

 

「…美味しいとこだけ取っちゃった。でも、よかった……」

 

もう力は入らないが、友奈の隣には紡絆が居て、その先には東郷がいる。

少なくとも今は全員無事だったのだ。

見た感じ、どうやら紡絆は変身解除されて地球へ落ちたわけじゃなく、東郷が紡絆を受け止めてくれたらしい。

 

「なんとか……最後の力でこれだけ残したの。けれど一体どれだけ持つか……」

 

「大丈夫。神樹様が守ってくださるよ。それに私たちにはウルトラマンもいるんだから」

 

「……そうね。そうだったわ」

 

助かった理由はひとつ。朝顔の花が開いた状態で友奈と東郷、紡絆を乗せていたから。

満開が解けた際に東郷が力を残したお陰で今助かったということ。

しかし満開状態ほどの力はなく、どれだけ持つかすら分からないが、きっと大丈夫だと二人は思った。

そうして、朝顔の蕾となって三人を包み込む。

まもなく大気圏へ突入するが、不思議と友奈と東郷には不安も恐怖もなかった。

蕾が途中で燃え尽きたら、三人は間違いなく死ぬ。形を保てなくても、終わりだ。

賭けに近いが、これが一番生存率を高める最適解であることは間違いない。

 

(もし、万が一ダメだったとしても……2人となら、怖くないもの)

 

口には出さず、東郷はそう思う。

死にたくはない。もしひとりであったなら、怖かったかもしれない。でもここには大好きな最高の友人がいるのだから。

そして友奈は神樹様に願う。三人が無事にみんなの元へ帰れることを。

それぞれの思いがある中、ついに蕾が大気圏へ突入し、東郷と友奈は意識を失ったままの紡絆の手を握りながら意識を手放す。

そこで精霊バリアを持たぬ紡絆を守るために、勇者を守るために紡絆の胸もとに置かれたエボルトラスターが輝き、蕾を赤と青の光がうっすらと包み込んだ---

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルトラマンの変身も解除され、ダークフィールドが既に消えたため、樹海となった世界に燃え上がりながら猛スピードで落下するアサガオの蕾があった。

それを見つけた樹は蕾の軌道上に、幾重にも重なって網のようになったワイヤーで蕾を受け止めようとする。彼女はまだ満開の力が残っており、それで大切な人たちの命を救うべく力を振り絞る。

だが大気圏外から落ちてきて大きすぎる衝撃を宿した蕾は樹が張り巡らせたワイヤーを容易に千切り、その後に張られるワイヤーをも引き千切り、引き千切る。

 

「ものすごい衝撃……! もしこのまま落ちたら…!」

 

「絶対に助けてみせます!」

 

今動けるのは自分だけであり、樹は諦めずにワイヤーを貼り続ける。

友のために、大切な人のために何個作り出したか分からないほどワイヤーが引き千切られても、何度も何度も絶えずワイヤーを張り巡らせる。

 

「止まってえええええっ!!!!」

 

樹の叫びに呼応するかのように伸びるワイヤー。何度目かは分からないが、遂にワイヤーが蕾の勢いを殺し、網にくるまれた蕾を地面に激突する直前で受け止めた。

樹の気合と頑張りが止めたのだ。

 

「ナイス根性! すごいわ、樹。見て、あんたが止めたのよ!?」

 

「夏凜さん……行ってあげてください」

 

「わ、分かったわ!」

 

「お姉ちゃん、私、頑張ったよ……。サプリ、キメとけばよかった……かな…?」

 

蕾の中から出てきた東郷と友奈、そして紡絆に駆け寄る夏凜を見て、樹は満足げに微笑み、鳴子百合の花びらが散り、満開が解けた影響で元の勇者服へ戻ると、その場に崩れるように倒れ込んだ。

 

「紡絆! 友奈! 東郷!」

 

夏凜が叫んでも、三人は微動だにしない。

焦りながら周囲を見回す夏凜。

しかし目に入るのは倒れ付した風と樹。満開をしていない己だけが立っているという現実。

彼女の脳裏には満開の代償という言葉が過り、嫌な予感だけが増していく。

 

「三人ともしっかりしろよ! 起きろよぉ……!」

 

誰も返事しない状況に思わず涙ぐむが、咳き込む声に夏凜はハッとして顔を上げる。

そこには色濃い疲労は見て取れるが、笑顔で夏凜を見つめる友奈と呻き声を上げながら目を開ける東郷が居た。

 

「大丈夫だよ……夏凜ちゃん」

 

「はぁい…なんとか生きてます…」

 

「ケホッ…ケホッ…」

 

さらに風も無事だったようで仰向けに倒れたまま声に出し、樹も生きてることを知らせるように手を振りながら咳き込む。

 

「な、何だよみんなもう……っ。さっさと返事しろよぉ……!」

 

代償という考えや二度と起き上がらないのでは、と不安が一気に安堵に変わり、思わず夏凜の目から涙が溢れ、夏凜は手で拭っていた。

そんな中、戦いが終わったことを証明するように樹海が解除される---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樹海が解除され、勇者たちと紡絆はいつもの讃州中学の屋上へと戻ってきた。

みんなの無事を万感の思いで眺めていた夏凜のポケットが小さく震える。戦闘を感知した大赦が連絡をかけてきたのだ。

それに気づいた夏凜は通話ボタンを押し、端末を耳に当てると今までで一番誇らしい気持ちで大きく息を吸い込んで、告げる。

 

「三好夏凜です。バーテックスと交戦、負傷者多数、至急霊的医療班の手配を願います。なお、今回の戦闘で12体のバーテックスは全て殲滅しました! 私達、讃州中学勇者部が!」

 

そう高らかに、誇らしげに大赦に告げた夏凜の顔には、晴れ渡るような笑顔が浮かんでいた。

長きに渡る、長かったようで短かった戦いがようやく終わった。

それも、人類の勝利という結果で。

そう、誰も死なず、誰も失わず、生きて明日を過ごせる。世界を、みんなを守りきったのだ。

これで大赦から言われた勇者部のお役目はおしまい。ようやく彼女たちはいつも通りの日常へと戻ることが出来る---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
他に続いて三代目適能者の力を受け継ぐ者。
(流石に)死んだ(心肺停止)
一応言っておくと、戦闘中も生きてた方が可笑しい。
ゆゆゆネクサス完ッ! にしたら胸糞悪いので続きます

〇ウルトラマンネクサス
ジュネッス・ブルーの力が解放される(紡絆が憐から託された)のと同時にスペックが全体的に急上昇。
なので二度目の復活後は紡絆の体調関係なく強くなっている。
そもそもの問題として、元からスペックは高い。

〇ダークファウスト
ついに消滅。
変身者は女性で、紡絆はどうやら正体に気づいたようだが……?

千樹(せんじゅ)(れん)/三代目適能者(デュナミスト)
紡絆を新たに導いたヒーロー。
彼が居なければ、紡絆は間違いなくファウストの、女性の命を奪えずに詰んでいただろう。


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「-復活-レザレクション」

うちにもトリガー来てくれないかな……



 

 

◆◆◆

 第 26 話 

 

-復活-レザレクション

 

 

あなたの幸せを願う

ブライダルベール

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てが終わり、戦いを終えた友奈たち勇者は検査のため羽波病院というところで入院することになった。

 

『---昨日の工事中の高架道路が落下した事故の続報です。事故現場周辺で発生した大規模な火災は消し止められ、奇跡的に被害者はいませんでした。事故の原因については現在調査中で……』

 

検査を終えた友奈が待合室に戻るとテレビから流れるニュースが聞こえる。

そのニュースはあの激戦の上に起きた影響なのだろう。

やはり現実世界に影響は大きかったのか、今流れたニュース以外にも何個かあるが、どれも被害者はゼロだった。

 

「友奈も診察終わったのね」

 

「はい、きっちりばっちり血を抜かれて---」

 

友奈が戻ってきたことに気づいた風がそう呟くと、友奈は返しながら風を見て、明らかな違和感を感じる。

 

「風先輩、その目は?」

 

いつもは付けていなかった医療用眼帯があり、友奈はそれが気になった。

 

「フッフッフ……これは先の暗黒戦争で魔王と戦った際「左目の視力が落ちてるんだって」ちょっとちょっと、せっかくの魔王の戦いで名誉の負傷を受けたニヒルな勇者って設定で行こうと決めてたのにー!」

 

中二病っぽいポーズを決めて語り出した風だったが、既に真実を知った夏凜に横槍を入れられて台無しになった。

そのことに風は文句を言う。

 

「視力が……落ちてる? もしかしてバーテックスやスペースビーストから何か……」

 

「うん? 違う違う。戦いの疲労によるものだろうって。勇者になるとすごく体力を消耗するから。療養したら治るってさ」

 

「そうなんですか……よかったー」

 

風の説明聞いて友奈は安心する。

バーテックスの攻撃やスペースビーストの攻撃で受けたダメージが関係しているわけではなく疲労だったからだ。

そのことに友奈が安堵の息を吐くと、近づいてくる音に反応して振り返る。

 

「私たちも検査終わりました」

 

「東郷さん、樹ちゃん!」

 

どうやら終わったタイミングが同じようで、東郷の車椅子を押しながら樹も待合室へと入ってきた。

 

「樹〜注射されて泣かなかった?」

 

「…………!」

 

「…どうしたの?」

 

風のからかうような言葉に樹は言葉を返さず、ただ首を横に振る。

その行動に訝しみ、風が問いかける。

 

「樹ちゃん、声が出ないみたいです。勇者システムの長時間使用による疲労が原因で…すぐに治るとのことですが」

 

「あたしの目と同じね……」

 

答えられない樹に変わって東郷が伝えると、原因も理由も風と全く同じだった。

偶然……と言われてしまえばそれまでだが。

 

「……それなら問題はアイツよ」

 

「………!」

 

どれだけ取り繕うと、結果は変わらない。

夏凜の言葉に、この場の空気が一気に重たくなる。現実を見るように。

勇者部のみんなは既に聞かされていた。

今、紡絆がどうなってるのかを。あの後、どうなったのかを。

 

「で、でも生きてるんでしょ? お医者さんもそう言ってたし……」

 

「仮死状態……ね」

 

「あのバカ……」

 

そう、紡絆は()()()()()()()()()()()()()()

心臓も脈も止まり、いつ目覚めるかも目覚めないかも分からない---そういった一種の仮死状態となっている。

しかし逆に可能性のひとつを聞かされてもいた。

助かる可能性は、限りなく低いと。

出血多量、体力の急激な低下、肉体に蓄積され続けてきたダメージ。諸々が重なり、今の状態。

そもそも死んでいても不思議ではないと言われ、仮死状態ですら奇跡レベルだと。

もし容態が一度でも悪くなれば、紡絆は必ず死ぬ。

死と生の狭間にいるのだから当然といえば当然。

 

「とにかく病室に行ってみましょう。見ておいた方がいいでしょ」

 

「そうね……。あ、その前になんだけど……今のうちに渡しとくわ」

 

空気的に渡せるような状況ではなかったが、流石に大事なことでもあったため、風は置いてあったダンボールを開けて新品の携帯をみんなに配る。

 

「前まで使ってたのは回収されて、メンテナンスとかで戻ってくるのに時間がかかるから暫くその携帯を使って」

 

「あれ……あのアプリはダウンロード出来なくなってるんですね」

 

早速貰った携帯の電源を付けると、特に変わったようなものはない。

ただ勇者に変身する際に必要だったアプリがダウンロード出来なくなっていることを東郷が真っ先に気づく。

 

「あのSNSアプリは使えなくなってるの。あれは勇者専用であたしたちの戦いは終わったからね」

 

「そっか……勇者になる必要もう無くなりましたもんね」

 

長かったような短かったような、もはや過去のものだ。

ただ勇者になる必要がなくなったということは、平和が訪れたということ。

そう考えたら、もうなれないのは良いことなのかもしれない。

 

「あの……牛鬼は?」

 

「ごめん。アプリが使えないから精霊はもう呼び出せないの」

 

「そうですか……ちゃんとお別れしたかったな…」

 

精霊は勇者システムを介して干渉してくる。

アプリが使えないということは、精霊もおらず、牛鬼も現れない。

一言もお別れのひとつも言えなかった友奈は寂しそうな表情を浮かべた。

 

「要件はそれだけ。そろそろ…行きましょうか」

 

「はい、心配ですから」

 

「………」

 

話は逸れたが、紡絆の病室へ向かうことを伝えると、東郷が若干表情に陰を落としながら頷いていた。

樹は喋れないため、こくりと頷きつつも心配といった表情を浮かべている。

そして一同は、移動を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコンコン、とドアをノックする小さな音が響く。

紡絆が入院し、色んなものに繋がれ、今も動くこともなければ目を開けることも、心電図すら動いていない。

そんな中、病室内にいる人物は誰が来たのかを察したようで、声を出す。

 

「どうぞ」

 

元気の無い、覇気のない声で呟かれたその言葉はドアの向こう側にも聞こえたようで、ドアが開かれる。

予想通りというべきか、勇者部の者たちだった。

勇者部の面々が中へ入れば、紡絆は包帯だらけで目を開けておらず、呼吸器を装着されていて点滴を付けられている。

本当に生きてるのかどうか疑わしく思うほどに酷い状態だ。

そんな紡絆のベッドの横に椅子がひとつあり、彼女は紡絆の手を握ったまま振り返って見ていた。

 

「皆さんは……無事そうですね。安心しました」

 

「えぇ、そいつよりかはね……」

 

夏凜が答える。

その視線の先には、紡絆の姿がある。

彼女はあの戦いのとき、誰よりも紡絆の近くに居た。だからこそ、どれだけ酷い状態なのか---最後に見た、あの時より酷い状態になっているっていうのは簡単に予想が出来た。

 

「風先輩、目大丈夫ですか?」

 

「あたしは平気よ。視力が落ちてるだけで療養すれば治るってさ。それより……あんたの方こそ大丈夫なの?」

 

「平気です」

 

風の眼帯に気づいて軽い心配だけすると、彼女は再び紡絆の方を見て両手で紡絆の手を握っていた。

 

「小都音ちゃん……寝てないんだよね?」

 

「大丈夫です、結城さん。まだ起きれます」

 

そう、彼女は紡絆の妹である小都音だ。

紡絆が病院に連れて行かれ、入院することが決まったことを勇者部のメッセージで知り、それからすぐに向かった小都音は紡絆の姿に衝撃を受け、少ししてからベッドに寝かされた紡絆の手をずっと握っていた。

一切寝ることも、食べることもせず。

だからこそ、目元には隈が出来ていて、顔色も悪くなっている。

 

「少しくらい休んでもいいと思うわ。小都音ちゃんが倒れたら紡絆くんが起きた時一番びっくりすると思うし……代わりに私たちがちゃんと見ておくから」

 

「………でも」

 

「………!」

 

「……樹ちゃん?」

 

東郷の言葉に一瞬悩みが生まれる。

正論で、正しいことを言われたからだ。

それでも休もうとしない小都音に樹が近づいて手を握った。

その意味がわからず、首を傾げる。

 

「どうしたの……?」

 

「………! ……!」

 

「樹は声が出せないらしいの。私と同じく勇者システムの長時間の使用によるものだって」

 

何か言いたいようだということは分かっても、口に出してくれないと小都音には分からない。

ただ樹の行動に疑問を抱けば、その理由は風が語った。

 

「声が……? それって……!」

 

目を見開いて驚愕したような表情を見せると、小都音は樹を見て、悲しそうな辛そうな暗い表情を作る。

そんな小都音に樹は眉を下げ、首を横に振った。

大丈夫だと言うように。

 

「………っ」

 

それを見た小都音は俯いて唇を噛み締め、握られた手には力がこもる。

小都音は知っている。

戦いの前、樹に夢が出来たことを。それについて兄に感謝されたから。

歌手を目指す---その夢に必要なのは、間違いなく樹が失った声なのだから。

 

「……なんで。こんな、理不尽……」

 

小さく、誰にも聞こえない声音で内側の思いが零れる。

思わず口に出してしまったことに気づかず、小都音は空いている手を爪が食い込むほどに握りこぶしを作っていた。

しかし、その怒りは誰にも向けられない。向ける相手がいない。

元を辿ればバーテックスが原因。スペースビーストが原因。力を授けた神樹様が原因。

 

「とにかく紡絆が目覚めたら教えるから休みなさい」

 

「そうね…あたしらが傍に居るよりいいでしょうし、樹はついてあげて」

 

「……!」

 

小都音の様子に気づく者は居なかったが、このまま起きていれば間違いなく体に悪い。

樹は風の指示に頷き、小都音の手を包み込むように握る。

 

「樹ちゃん……。……分かりました。兄さんのことお願いします」

 

何を言っても説得してくるだろうと察した小都音は手を握りながら見つめてくる樹を見て、周りの様子を見て諦めたように息を吐き、樹の手を握り返して立ち上がった。

どうやら折れたらしい。

 

「任せておいて! あ、それとこれあげるよ、何かは口に入れておかなくちゃ」

 

「小都音ちゃんはゆっくり休んでね」

 

「結城さん、東郷さん…ありがとうございます」

 

「樹、頼んだわ」

 

「……!」

 

樹が引っ張り、小都音は引っ張られながら一緒に病室から退出しようとすると友奈が小都音に近づいて片手にジュースとお菓子を渡していた。樹にも同じく渡すと、頭を軽く下げながらお礼の言葉を述べた小都音と樹は、そのまま姉の言葉に笑みを浮かべて頷いた樹に小都音は連れていかれる。

足が縺れるのではというくらいにふらふらとしていたが。

それを見届けると、友奈たちは安心したようにほっとする。

 

「あの兄妹…無茶するところは変わらないのね」

 

「似てるところは似てるってことね。家族だもの」

 

「そう考えると…風先輩と樹ちゃんは似てませんね」

 

「そんなことないよ。ほら、髪色とか同じだし!」

 

「それフォローになってないから!? というか、さっきはスルーしてたけど友奈はいつの間にお菓子とジュースを持ってたのよ?」

 

騒がしくなるのは流石勇者部と言うべきだが、風の問いかけに友奈は思い出したように袋から取り出す。

 

「みんなの分もあるよ! ほら私たちが暗くなってたら紡絆くんが目覚めた時心配させちゃうかなって思ってみんなで盛り上がれるように買ってきたんだ。でも流石に言い出せる空気じゃなくって……」

 

紡絆が死ぬか生きるか分からない状態で、妹の小都音もあのような様子。

流石に祝宴会を出来る空気でもなく、控えたのだろう。

それが偶然役に立ったと言った感じか。

そして友奈はどうせなら、とみんなの分も配っていき、最後に机に紡絆のくんの分、と置く。

 

「バーテックスを全部やっつけて、スペースビーストも倒して、ファウストとの戦いも終えて、本当はそのことのお祝いするつもりだったんだけど……今回は延期かな」

 

「友奈……」

 

「……そうね。もし勝手にやったら紡絆に文句言われるわ」

 

「きっと…大丈夫です。紡絆くんなら、きっと」

 

友奈たちにできることは、何も無い。

ただ信じるだけしか出来なくて、もどかしくても何も出来ないのだ。

出来るのは、帰ってくると信じるのみ。

 

「みんな待ってるから……帰ってきてね。そしてみんなでお祝いしよう。約束だよ、まだまだ勇者部には紡絆くんが必要なの。東郷さんに風先輩や樹ちゃん、夏凜ちゃんに小都音ちゃん。私が居て紡絆くんがいる---勇者部はバーテックスが居なくなっても変わらないんだよ」

 

反応はない。

当然だ。そのようなことを語ったとして、目覚めるのはフィクションだけ。

ここは現実。仮死状態の人間が簡単に生き返るような奇跡、起きるはずもない。

 

「それまではお預け。だから勇者部で待ってるからね、紡絆くん」

 

不安なのはみんな一緒だ。

このまま紡絆が目覚めない可能性の方が低いと言われているのだから。

だからこそ、友奈はそれを決して表に出さず、いつもの笑顔を紡絆に向けた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人体勢の交代制で紡絆の様子を看病し、帰ってきたお菓子とジュースを消費するためにみんなで食べる。

そのとき()()()()()()()()()()ことに違和感を抱いた友奈は表には出さず、流石にそれぞれの病室に戻らなければならなくなった時間。

結局紡絆は目覚めず、樹は小都音に付いてそれぞれ帰っていく。

 

「私たちの退院は明後日みたい。病院にいるのって退屈だから早く学校に戻りたいなぁ。またみんなで楽しみながら部活動がしたいよね」

 

「そうね……でも私は検査にもう少し長い時間がかかるみたい」

 

「そっか…一緒に退院出来たらよかったのに」

 

今は友奈が東郷の車椅子を引き、東郷の病室へと向かっていた。

病院は普通とは違って、消灯時間というのが存在する。

流石にそんな他人の病室に居続けるのは無理なのだ。それも入院してる人間が。

 

「---友奈ちゃん。体どこかおかしいとこあるよね?」

 

その時、東郷が突如として鋭い言葉を投げかける。

友奈が触れようと一切せず、決して話そうとしなかったこと。

背後にいる友奈は一瞬驚き、また笑顔を浮かべた。

 

「東郷さん鋭いなぁ…でも大したことじゃないよ」

 

「ジュース飲んでたとき友奈ちゃんの様子が変だったから……話して」

 

「味感じなかったんだ。ジュース飲んでもお菓子食べても、何を口にしても。でもすぐ治るよ、風先輩や樹ちゃんの声と同じじゃないかな。味が分からないなんて人生の半分は損だあ」

 

「………」

 

背後にいる友奈は笑顔のままだ。

それは東郷に心配させまいとしているのだろう。

悩み事も、心配事もあるのに、これ以上増やさせないように。

そして暫しして東郷の病室につき、送り届けた友奈は自分の病室へと戻っていく。

それを見届けた東郷はベッドから体を起こしてパソコンを起動し、イヤホンを付ける。

いつも通りに音楽を流し、パソコンを弄ろうとすると東郷もまた違和感を感じた。

 

「…………」

 

何度変えても、片方だけつけても、()()()()何も聴こえなかったのだ。

右耳だけは正常で、左耳だけが異常になっている。

そう、それはあの戦いを終えた()()()()()()()()()が起きていたことを意味していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

紡絆の病室。

一切動かない彼の傍にはエボルトラスターとブラストショットがある。

外に出ていたはずのそれは、ボロボロで捨てるしかない制服の中へいつの間にか入っていて、誰かが置いたのだろう。

エボルトラスターも何も反応を示さない中、そのエボルトラスターは突如として光輝く。

既に消灯時間。

辺りは暗く、誰もいないその部屋だけが光の輝きで照らされる。

 

『…………』

 

光が収まるとエボルトラスターが消え、そこにはエナジーコアを点滅させるウルトラマンネクサスが、アンファンスの姿でうっすらと実体化して紡絆を見ていた。

息もせず、脈もなく、目覚める様子が感じられない紡絆を、ただただ見ていた。

 

『-----』

 

何かを語る。

しかしそれらは人間に聞こえるものでもなく、意識のない紡絆に伝わるものでもない。

様子から見て取れるのは、ネクサスは両拳を力強く握り締めているということだろうか。

 

『------』

 

そんなネクサスは自身のエナジーコアを見つめて手をやり、顔を上げて紡絆を見たネクサスは両手で握り拳を作ることでエナジーコアを輝かせる。

しかしその輝きは保てなくなって一瞬で消え、ネクサスの体はさらに薄まる。

 

『…………』

 

ネクサスのエネルギーは残っておらず、体が徐々に実体を保てなくなりながら紡絆を最後まで見つめ、ネクサスの実体がついに消えるとエボルトラスターがブラストショットの側へ落ちた。

何をしようとしていたのか、少なくともそれは誰も分からない。

ただ分かるのは、今のネクサスですら紡絆を救うことは出来ない。

ウルトラマンは、神ではないのだから。()()()()()ネクサスには、何も出来ない。

エネルギーがない彼には、干渉する力ですら少ないのだ。

もはや助かる可能性は---紡絆の生きようとする思いに掛けるしか、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後。

紡絆は目覚めることはなく、友奈と風、樹に夏凜は退院することになった。

東郷はまだ時間がかかり、小都音は傍に居続けるために病院に居るらしく、戻るのは四人だけだった。

しかし問題は学校に戻ってからで、やることがないのだ。

勇者部の依頼は残ってはいるが、猫の飼い主探しは貰い手が居なければ預かる訳にも行かないし、個人依頼だったり男手が必要な依頼だってある。

特に紡絆があんな性格なのもあり、紡絆に対して依頼する者が多く、個人依頼の割合は紡絆が一番多かった。

子供の相手やら力仕事、専門分野であるならば紡絆に依頼する人は多いのだ。

そして今出来るとしたら剣道部の相手なのだが、それも指名依頼。

夏凜を指名しているものであり、その夏凜は勇者部を欠席していた。

だとしたら残るは文化祭なのだが、これも三人で出来るようなことでもなく、結局出来るものはない。それだけではなく、三人だけでは調子も出なかった。

どうでもいいことを述べるならば、樹がスケッチブックを使うことで筆談するようになったこと、風の眼帯がついに中二病臭くなったことくらいか。

それはさておき、今は夏。そんなのもあってこんな暑い日に出来るのは、だらけるくらいだ。

しかしまだ下校する訳にも行かない。今学校に残ってる人たちの誰かが勇者部に来るかもしれない。

唐突な依頼もあるもので、やれることがないなら待機するしかなかった---まぁ結局下校時刻となって帰ることになるのだが。

学校が終わると友奈たちの足取りは自然と重たくなる。

向かう先は病院で、友奈と樹は中へ入ると、互いに分かれる。

樹は小都音や紡絆の元へ。友奈は東郷の元へ向かい、友奈はドアを開けて覗き込むように体を出して手を振る。

 

「東郷さんっ。お見舞いに来たよ!」

 

病室の中では、体を起こしてパソコンを弄っていた東郷の姿があった。

友奈が来たことに気づいた東郷はパソコンの画面が見えないように少し空間を空けながら閉じていた。

 

「パソコンで何してたの?」

 

「ちょっと調べ物をね」

 

「なになに? 何を調べてたの?」

 

好奇心からか、東郷が何を調べていたのか気になる友奈は東郷に聞いていた。

隠されてしまえば、気になってしまうのが人間の性というものだろう。

 

「別に大したことじゃないから…」

 

「いいじゃん、教えてよ〜」

 

「…もう、調べてたのはね」

 

仕方がないと言った感じで苦笑した東郷は何を調べてたのか伝えるためにひとつ呼吸を置いて口を開く。

 

「私たちが暮らすこの国の特殊性および、正しい在り方を神世紀以前からの国家に比較考察して現在の護国現想の源流をヤマト神話との関連性に求めることの意義。そして私たちが今後担う時代の在り方を---」

 

「…ごめんなさい、私が悪かったです」

 

まだまだ続きそうな東郷の語りに友奈が音を上げ、頭を抱えながら聞いたことを後悔する。

友奈の頭では理解することが出来ず、キャパオーバーだ。

 

「…それより来てくれてありがとう」

 

「東郷さんと話したかったし、紡絆くんの様子も気になったからね。二人が居なかったら学校の楽しさが当社比五割減だよ〜」

 

「半分も減っちゃうんだね。でも…まだ紡絆くんは目覚めてないみたい。私も気になって聞いたりはしてるんだけど…兆しすら見えないって」

 

「そっか……」

 

話題を転換したのはよかったが、やはり空気は重たくなる。

過去に目覚めなかった日はあったが、あのときは生きてるというのは分かっていた。

しかし今回は別なのだ。今回は生きてもいないし死んでもいない。ただ目覚める可能性は限りなく低いと言われているのだから。

それだけではなく、東郷は昨日の夜のことを友奈に話した。

話すべき大切なことだったからだ。

 

「東郷さんは左耳が聞こえなくなってるんだ…。大丈夫、すぐ治るよ! だってあれだけ目一杯戦ったんだしみんなと同じで疲労みたいなもんなんじゃないかな?」

 

「そうね、身体がちょっと悲鳴をあげてるのかな」

 

安心させるように励ますように言う友奈に東郷は微笑んでそう返す。

 

「そうだね…ってもうこんな時間だ。暗くなる前に帰らなくちゃ。明日もまた来るからね」

 

「うん、待ってる」

 

すると友奈は肯定を示し、時間に気づくと立ち上がって病室から出ていき、手を振ってドアを閉めてから帰っていく。

それを見届けた東郷はパソコンを開き、キーボードを打つ。

パソコンの画面に表示されているのは、表。

自分たちの身に起こっている症状の経過と進行についてであり、友奈は味覚、風は左目、樹は声帯、夏凜は不明(異常なし)、東郷は左耳。紡絆は意識不明の重体と書かれている。

発覚は7月8日。でもって今日は11日で、東郷はみんなの分の表に回復の兆しなし、と打っていた。

それから少し考えるように画面を見つめ、傍に置いてあったスマホを手に取ってある番号に電話を掛けると、少ししてから繋がる。

 

『……わたしだ』

 

『突然すみません。風先輩にお聞きしたいことがあって…』

 

『スルーされた……で、なに?』

 

電話を出る時にふざけていたが、真剣な東郷は流し、ショックを受ける風に多少申し訳なく思いながら本題へと入る。

 

『満開の後遺症とかそういうことについて風先輩は何か聞いていますか?』

 

『満開の後遺症? なにそれ?』

 

『実は---』

 

東郷は話す。

自分自身のこと、そして恐らく本人が話していない友奈のことを。何よりも、自分の推測を。

 

『---友奈は味覚がなくなって、東郷は左耳が聞こえない。満開を起こした人は全員……』

 

『はい』

 

『…友奈、言ってくれたらよかったのに』

 

『友奈ちゃんの性格です。特に今この状況ですから…皆にこれ以上心配かけさせないように言い出せなかったんだと思います』

 

『そうね…あの子らしいわ』

 

確定ではない。

けれど、満開を起こした者は全員異常を来たしてることから、東郷は後遺症か何かと推測したのだろう。

しかし今は紡絆が倒れ、ただでさえ皆の心に少なからず不安があって。いつも通りとは行かない。

これ以上の心配はさせられないと、友奈は言わなかったのかもしれない。

 

『風先輩は大赦の方々から何か聞いてないですか?』

 

『ううん、何も』

 

『大赦の方々も知らなかったのでしょうか』

 

『そうだろうね…ごめん、こんなことになっちゃって』

 

風も知らず、大赦からも聞かされてない。

つまりは大赦も認知してないのだろうという推測に風は肯定を示し、巻き込んだことについての謝罪をする。

 

『風先輩が悪いんじゃありません。それに体の異常だって…きっとすぐに治りますよ。紡絆くんだって、きっと目覚めます』

 

『病院の先生も言ってたし、そう…だよね。それに紡絆はあの紡絆だもの。目覚めるよね。けど目覚めたら騒がしくなりそう』

 

しかし東郷は風を責めることはせず、むしろ励ましていた。

勇者部に所属する者は、皆優しい。誰かのせいにすれば人間は一番楽だというのに、そんなことしないのだから。

そして風の言ったことにイメージ出来たのか、東郷はくすり、と小さく笑っていた。

 

『とにかく大赦からの返答待ちですね……。そういえば、結局紡絆くんのことについて大赦から何か来たりとかはしましたか?』

 

『ううん、ウルトラマンだから樹海に入れたのではないか…みたいな推測が来ただけ。特に何もなしよ』

 

『そうですか……ありがとうございます。それではまた---』

 

結局ウルトラマンについても、紡絆についても大赦は何一つ知らないということだろうか。

聞くことは聞いた東郷は長く電話するのも憚れるため、電話を切ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「998…999…1000!」

 

またいつもの砂浜にて、夏凜は悩みを吹き飛ばすようにただ素振りをしていて、ようやく目的の回数まで行くと、疲れたように砂浜に体を預けて空を見上げる。

 

(戦い…終わっちゃった……)

 

夏凜がここへ来たのは、戦うため。

バーテックスやスペースビーストへの対抗手段として派遣されてきたのだ。

少なくともバーテックスは終わり、ファウストも紡絆が倒した。

スペースビーストのことは謎が多くて分からないが、戦いは終わったに違いない。

夏凜だけでなく、みんなそう思いたいだろう。

 

「私、これからどうすればいいんだろ……」

 

もしここに紡絆が居れば、今の彼女の悩みはすぐさま解決しただろう。

ここ(勇者部)にいればいい、と。

しかし今は紡絆がいない。

彼女の悩みの言葉は、ただ虚しく呟かれただけだった。

そんなふうにしていると、夏凜のスマホが通知音を発する。

ポケットから取りだし、携帯をつけた。

 

「風からか。バーテックスとの戦いの後、体におかしなところ…?」

 

変なことを聞いてくるものだと思いながら、夏凜は何ともないこと、何かあったのかと打って返すと、すぐさま返信が返ってくる。

『満開を起こした人は、身体のどこかがおかしくなっている』と。

 

「それって、私以外全員……。友奈や東郷も…」

 

そう、満開してないのはウルトラマンである紡絆を除いて夏凜だけ。

その紡絆ですら、満開ではないがウルトラマンの新たな力を引き出した。

 

「…私だけ傷を負ってない。戦うためにここに来たのに、まるで私が役に立ってないみたいじゃない…!」

 

本当は、そんなことはない。

なぜなら、彼女が居なければ紡絆は間違いなく死んでいたからだ。以前は守ったと言うのに、あの時のウルトラマンはバリヤーを貼れず、そして紡絆は意識を失っていた。

ほんの少しでも彼女が紡絆を背負い、時間を稼がなかったら間違いなく敗北していた。

あの戦いは、誰か一人でも欠けていたら決して勝てなかった戦いなのだ。

ただ、それを言ってくれるような人物はどこにもいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

時間は少し遡り、紡絆の病室には、変わらず小都音が紡絆の手を握っていた。

大切そうに、離さないように、ただ悲痛な面持ちで。

 

「お兄ちゃん……」

 

うわ言のように、小さく呟かれた。

昨日少し眠り、それからまたずっと起きて、紡絆の傍にずっといる。

もはや時間というものを忘れているのではないかというほどに、ただ握って居るのだ。

ご飯すら食べず、水分も必要最低限。

瞳に色はなく、ただ辛そうに。

 

「……神様ってなんだろうね。お兄ちゃんは悪いこと、してないのに。ずっと、ずっと……」

 

この世界は神樹様という神が存在する。

崇められ、称えられ、神樹様という神は四国に住むものならば少なからず誰であっても信仰していた。

例外も存在していたが。

 

「お兄ちゃんは……神樹様にすら、優しさの心を忘れないで、思いやりの心を持ってたのに」

 

それが、目の前に眠る紡絆という人間だったのだろう。

彼は神である神樹様を、人間同様に心配していたということだろうか。

ずっと守ってきてくれて、ずっと助けてくれて、でもそれはなんの負担もないのかと。疲れてないのかと。しんどくないのかと。辛くないのかと。

それは、慈愛の心。

自尊心の高く、人間を見下す神ならば人間如きというかもしれない。

しかし神樹様という神は人間を愛し、人間の可能性を信じてくれた神々だ。

人間が皆、神樹様に何かを求めるというのに、何かを願うというのに、ただ純粋に気遣い、心配する彼の姿は、果たして神々にはどう映ったのか。

 

「嫌だよ…また離れ離れになるのは……」

 

ようやく再会した。

だというのに、再会したら紡絆は死にかけては怪我を負い、今や仮死状態となっている。

止めても無駄だと分かっていて、止めることはしない。

ただそれは、心配しないという意味ではないのだ。心配がないというわけでも不安がないわけでもない。

不安で、本当はやめて欲しくて、でも継受紡絆という人間は決して誰にも止めることが出来ない。

彼は勇者部の活動中でも、戦いでも、何処でも、そうだったのだから。

 

「私はやっぱり…神様も、ウルトラマンも、バーテックスもスペースビーストも---お兄ちゃんを傷つける者全てが嫌い。お兄ちゃんばかり苦しめる…私はお兄ちゃんにただ幸せに生きて欲しいだけなのに……」

 

小都音の言葉は、紡絆には届かない。

独り言としてどこかへ流されていき、誰にも聞こえない。

幸せを願っても、現実はこれだ。

ウルトラマンに選ばれた時点で、紡絆の運命は決まっている。

ウルトラマンに選ばれた者は皆、過酷な道を辿るしかないのだから。

戦うしか、道は残されていないのだから。

 

「………お兄ちゃん」

 

ただそれは、誰にも知らない。

ウルトラマンに選ばれた者たちのことなんて。ウルトラマンのことなんて、この世界では誰も知らないのだ。

この世界に特撮というジャンルはあれど、ウルトラマンという架空の作品は、ないのだから。

 

「私は……どうしたらいいの……?」

 

答えを求めるように、暗い表情で呟かれた小都音の言葉は---その答えは、やはり誰も答えてくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

あれから友奈とわかれた樹は病院を歩くと、紡絆が入院してる病室に辿り着く。

ドアの前で息を吸い、吐いた。

そうして深呼吸した樹はドアを控えめにノックする。

 

「……はい」

 

聞こえてくるのは、昨日と変わらずに気力のない声。

昨日は樹はスケッチブックを持ってなかったため、何も聞くことも伝えることも出来ず、傍に居て手を握ることしか出来なかった。

当然、あのような様子だった小都音が何かを喋るわけもなく、会話は一切なかった。

しかし今日は違う。今日こそは、自身に夢のきっかけをくれた友のために、樹は勇気を出して部屋へと入る。

 

「…樹ちゃん?」

 

『小都音ちゃん』

 

誰が入ってきたか確認するためにゆっくりと振り向いた小都音は、入ってきた人物を認識すると、樹はスケッチブックを取り出して見せていた。

 

「…あ。そっ……か。喋れないんだっけ……」

 

思い出したように、小都音の表情がさらに暗くなる。

それにどう言えばいいか分からず、樹は苦笑するしか出来なかった。

大丈夫だと言えば、解決するようなものでもない。

今の小都音は精神的に追い詰められていて、生半可な言葉では痩せ我慢と思われて余計に辛くさせるだけ。

だからこそ、樹は何も言えなかった。

もし樹が姉である風がこうなってしまえば、どうなるかなんて想像出来ないのだから。

 

「……」

 

今にも泣きそうな、辛い顔。

自分のことではないのに、いくら友達とはいえ、他人のためにそんな顔を出来るのは、流石兄妹と言うべきか。

 

『紡絆先輩は?』

 

「……まだ、全然」

 

視線が樹から紡絆へと戻ると、動くともなければ呼吸すらしていない。

昨日と変わらず、紡絆はただ目を閉じてるだけだった。

樹も釣られるように紡絆を見て、一瞬だけ悲しそうな辛そうな表情を浮かべ、近くの椅子を持って小都音の隣に座る。

小都音は横目でそれを見て、再び紡絆を見つめた。

 

「……樹ちゃん」

 

「?」

 

「………ありがとう」

 

突然感謝された樹は、意図が分からずに困惑したような表情だった。

それを見た小都音は弱々しく笑うと、口を開く。

 

「昨日…ずっと傍に居てくれたでしょ…? お兄ちゃんのためにも…今日も、来てくれて…だから、ありがとう」

 

「………!」

 

それを聞いて理解した樹は、スケッチブックに書いてそれを見せる。

 

『小都音ちゃんは友達で

紡絆先輩は先輩だから』

 

「…そっか。私、樹ちゃんみたいな友達が居て……幸せだね。きっと…兄さんも樹ちゃんみたいな後輩が居て、誇らしいんじゃないかな」

 

『そ、そんなこと……』

 

照れたようにスケッチブックで顔を隠す樹を、小都音は小さく笑ってからそっと頭を撫でた。

 

『小都音ちゃん?』

 

「ん。私の友達は可愛いなーって……」

 

『恥ずかしい…』

 

その姿にくすくす、と小都音は弱々しくも笑い、少し疲れたように息を吐く。

仮死状態の兄。喋ることの出来ない友人。

そんな状況で辛いというのに、樹に心配させないように少しでも明るく振る舞う。

それに気づいていても、樹は言わない。

友達の気遣いを、無碍にしないために。少しでも元気になってもらうためにも。

 

「……ねぇ、樹ちゃん」

 

互い互いに友を思いやっていることに気づくことはなく、小都音は隣にいる樹の手を握る。

すると、樹も握り返した。

 

『どうしたの?』

 

「……少し、過去話を聞いてくれるかな」

 

スケッチブックを置いて書き、片手で見せる樹。

やりづらくなったことに少し申し訳なさそうにしつつも、小都音は樹の問いかけにそう答えると樹は頷いた。

 

「…ありがと」

 

小さくお礼を言う小都音に樹は気にしてないと首を横に振る。

すると小都音は何処か遠くを見るような目で、紡絆を見た。

 

「……私ね、昔はこんな性格じゃなかったの」

 

それは、過去の記憶。

決して紡絆の前では言わず、誰にも喋ることのなかったこと。

もし話してしまえば、今の紡絆に影響を与えるかもしれなかったから---いや、話していたら、記憶がなくとも紡絆は()()()()()()するだろう。

小都音や家族のために。

しかし押し付けるようなことは、小都音も家族も望んでいなかった。

だから過去に関することは家族だということや以前まで住んでいた家といった大事なこと以外は話すのは少なかった。

 

「昔---ずっと昔。私は今みたいな性格でもなくて、樹ちゃんみたいだったんだ」

 

「……?」

 

「人見知りで、恥ずかしがり屋で、気弱で引っ込み思案。いつも兄さんの後ろに隠れて、ずっとくっついてた。その背中をただ見てた。

だからなのかな…もちろん兄さんに風先輩のことを聞いてたから勇者部に案内して貰うために近づいたのもあるけど、樹ちゃんと話したいと思ったのは…友達になりたいと思ったのはきっと親近感があったからなんだろうね。貴女は、前の私に似てたから。今では…友達になれて良かったって思ってる」

 

「…!」

 

今からは全く想像のできない姿。

今の小都音は普通に誰とでも話してるし、仲良くしてるようにも樹の目には映っていたのだから。

それだというのに、自分の過去に似ていて、友達になれて良かったと嬉しいことを言ってくれた小都音に樹も頷きながら泣きそうな嬉しそうな笑顔を浮かべる。

それに微笑みで小都音は返すと、また言葉を紡ぐ。

 

「……それでね、兄さんは凄いの。私が困ったら、泣いてたら絶対に駆けつけてくれて…うん、私にとって兄さんはヒーローだった。ずっと、ずっと」

 

そう兄のことを語る小都音は懐かしそうで、何処か嬉しそうでもあった。

彼女がどれだけ紡絆のことを思っているのか、好きなのかを分かるほどに。

 

「でも兄さんがこんなふうに倒れるのは、昔もあったんだ。一度目は、()()()()()()()()

その時は無事に目覚めたけど、私が変わったのはそれから少しして。

私も兄さんの力になりたい。兄さんを支えたい。兄さんに何かしたいって思ってお母さんにお願いして家事を教えて貰って……私は今みたいになったの」

 

「…………」

 

今も昔も、紡絆は人助けしていたのだろう。

その姿を樹は不思議と想像出来た。

そして小都音が変われた理由は、倒れた兄の姿を見て、思うことがあったのだろう。

自分も変わらなきゃ、と。

その思いだけは、樹もあった。同じ状況にはなったことはなくとも、姉にばかり負担をかけさせていたから。

 

「けど、兄さんは記憶を失ってた。私も、お母さんもお父さんも原因は分からないんだ。傍に居なかったから。分かるとしたら兄さんだけ…私が知ってるのは兄さんといた時の過去だけなの」

 

成長した姿を見せることも、出来るようになったことも、見せることが出来なかったのだ。

なぜなら紡絆は---何も覚えておらず、何が出来ないのか何が成長したのかすら知らないのだから。

記憶を失った理由は、誰も知らない。

唯一知っているのは、神と…記憶を失う前の紡絆のみ。

 

「そして……私や両親が事故に遭う前日。私は何度も何度も自分を顧みずに誰かを助ける兄さんに危機感を覚えて、怒って、喧嘩しちゃった。初めて、しちゃったんだ。

嫌いだって。もう知らないって。勝手にしてって。本当は大好きなのに、私はただ兄さんの幸せを願ったから……。

その後、私たちは事故に遭った…きっと兄さんは後悔して、苦しんだと思う。こう見えても、兄さんは完璧じゃないから。表に出さずに、心の中や誰も居ない時には、後悔が溢れてたと思う」

 

後悔するような表情で小都音は語り、手を繋いでいる樹は力が痛くない程度に僅かに強くなったのに気づく。

喧嘩別れすることになってしまったのだから、小都音も後悔しているのだろう。

そして小都音の言葉は正解だ。

本人は一切気にしていないように周りに振舞っていたが、後悔は何度もしている。でなければ、わざわざ仏壇にヒヤシンスの花を飾るはずがない。

まぁ、その後悔は決して誰かを責めるのではなく、自分だけを責めていたが。

 

『その時の紡絆先輩は友奈さんや東郷さんも無理してないか心配してたってお姉ちゃんが言ってた』

 

「…うん。みんな優しいから、兄さんのことを気遣って、止めようとも深く聞かないようにしてたんだと思うな。それで、話してないことも何個もあるけど今に至る…って感じ」

 

まだ全部ではないようだが、話は終わりといったように小都音は儚げに笑うと、口を閉じた。

正直、樹には何も言えない話だ。特に、スケッチブックでしか伝えられない樹には。

確かに樹は両親を失ったが、姉は居た。

大好きな姉は無事で、何ともない。ずっと一緒だった。

しかし逆に小都音は今も大好きな兄は記憶を無くしていて、両親は他界している。

それに紡絆の性格からして、自分をどれだけ危険に晒したのか。

想像することは容易い。

樹も、勇者部のみんなは、戦いで無茶をし続ける紡絆を見て、日常でも無茶をして人助けする姿を何度も何度も見てきたのだから。

例えば交通事故に遭いそうな人が視界に映ると、迷いなく向かう。

危険が迫っていたら自分を犠牲にして庇う。

本人に言えば、大丈夫だと思ったからと答えるだろうが。

 

「…ごめんね。暗い話しちゃって」

 

『気にしてないよ。でもどうして私に?』

 

そう、樹はそこが気になった。

こういった話をするなら、正直樹は姉の風や友奈の方が向いてると思っている。

傍に居たのが樹だから、と言われてしまえばそれまでだが。

 

「樹ちゃんには…少しでも話しておきたくて。私の、大切な友達だから……」

 

「……!」

 

嬉しそうな、照れたような様子を樹は見せると、樹は少し急ぎ気味にスケッチブックに書き、また見せた。

 

『私も小都音ちゃんのこと大切な友達だと思ってる』

 

「そっか」

 

急いで書かなくてもいいのに、早く伝えたかったのか。

真偽は分からぬが、可愛らしい姿に小都音は軽く微笑むと、また口を開いた。

 

「樹ちゃん。ちょっと…ごめんね」

 

一言断って、樹に持たれかかるように頭をこてんと樹の肩に置いて預けると紡絆のことを見る。

樹は僅かに驚いたようだが、樹もまた紡絆のことを見つめた。

 

「少し…休みたいから。後はお願いできる?」

 

『任せて』

 

「うん…お願い」

 

スケッチブックに書かれたのを見て、小都音は後を任せると目を閉じた。

流石に限界だったのだろう。

紡絆のことでも、樹のことでも、他のみんなのことでも、精神的に傷ついた小都音の疲労は凄まじいはず。

紡絆とは違って、頭がいい分思考してしまう。

それこそ、もしあの場にいたならば原因を突き止められたほどには。

もしもの話をしても仕方がないが、そんなこともあって心配し続けるのも人間は疲れる。

最低限な飲み食いしかしていない小都音は特に。

そのため、小都音は軽い仮眠を取る事にした。

樹はただ友達のお願いを聞き届けるために、小都音の手を優しく握り続けながら紡絆のことを見ていた。

 

(……きっと、大丈夫ですよね。紡絆先輩。小都音ちゃんも私も、みんなも……帰ってくることを願って、待ってますから)

 

樹もまた不安ではある。

けれど、きっとまたいつもの笑顔で、何事もなかったかのように帰ってくると、ただ信じていた。

そう信じようと、紡絆の手に少し触れて、勇気が出ずに引っ込めていた。

そして何事もないまま時間は過ぎるが、変わったことがあったと言えば友奈が最後に来て、小都音が寝てることに気づいて小さな声で多少話し、小都音が起きてから樹と友奈はそれぞれ帰っていくのだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月16日。

何も変わらず、勇者部の部室ではHTMLの本を借りた友奈がたどたどしい姿でパソコンを使っている。

この数日間、友奈も風も樹も時間があれば病院へ行くくらいで、何も変化は起きていない。

 

「……やっぱり三人だと調子でませんね」

 

『かりんさんずっと来てないですね』

 

「SNSにも返信がなくて夏凜ちゃん授業終わったらすぐに帰っちゃうし……」

 

「そっか…」

 

場が少し暗くなってしまう。

ここまで欠席してるとなると、もう来ないつもりだろうか。

 

「私、夏凜ちゃんを探してきます!」

 

じっとしていても仕方がない、と友奈はパソコンを弄るのをやめて立ち上がる。

そして風たちが何かを言う前に、それだけ言い残した友奈は走っていく。

学校を出て外へ行き、夏凜が住んでいるマンションへ向かうとインターホンを鳴らした。

返事はない。

留守かと思い、マンションを出て街を走って探す。

 

(夏凜ちゃんって普段どこにいるんだろう……夏凜ちゃんが行きそうな場所…紡絆くんなら、知ってたのかな。ううん、ダメだ。紡絆くんばかりに頼ってちゃ!)

 

こうやって考えれば、夏凜のことを友奈たちはあまり知らない。

紡絆はある程度関わっていたからこそ、知っているが。

何処に行きそうなのか、何をしているのか。

それを知っていたのは紡絆だけだったのだ。

なぜなら勝手に家に入って夏凜に料理を作っていたのが紡絆だったのだから。

思わず、いつも頼りになる紡絆のことを考えてしまったが、頭を振って分からないなら足で探すと言わんばかりに友奈はただ走っていき---友奈が夏凜を見つけたのは夕方になる頃合だった。

そこは、いつも夏凜が鍛錬していた砂浜。

 

「夏凜ちゃーん!」

 

「…友奈?」

 

夏凜を見つけた友奈は、手を振りながら近づいていく。

自身を呼ぶ声に反応し、夏凜がそこを見れば友奈が向かってきて、何かに躓いた。

 

「っておうっ!?」

 

「ちょっ!?」

 

気づいても遅く、友奈の体は砂浜にダイブすることになった。

小石に足の爪先が当たったのだろう。

両手で受け身を取ったお陰で顔面から行くことはなかったが。

 

「何やってんのよあんた」

 

「いたたた…夏凜ちゃん、そこは駆けつけて受け止めてよ〜」

 

「いや無理でしょ…無茶言わないで」

 

そう言いつつ、友奈に近づいた夏凜は木刀を片手で持って空いた手で手を差し伸べると、友奈が掴めば起き上がらせる。

 

「…で、何しに来たの?」

 

「勇者部へのお誘い! 夏凜ちゃんが最近サボりにサボって欠席してるから、このままじゃ罰として腕立て伏せとスクワット3000回と腹筋10000回させられることになるんだけど…」

 

「桁おかしくない…? 特に腹筋」

 

要件を聞く夏凜に友奈は答えるが、罰があまりにもの桁がおかしかった。

数百回なら夏凜も出来る自信はあるが、数千回は難しい。

思わず突っ込むが、友奈は気にした様子はない。

 

「でも今日来たら全部チャラになります。さぁ、来たくなったよね?」

 

「…ならない。もともと私正式な部員ではないし、それに…もう行く理由がないのよ」

 

「理由って?」

 

それが夏凜が勇者部へ行かなかった事情なのだろう。

行く意味を無くしたから。

その理由とやらを聞くために、友奈は問いかける。

 

「私は勇者として戦うためにこの学校に来た。勇者部に居たのは他の勇者やウルトラマンと連携を取った方がいいからで…そもそも勇者部はバーテックスを殲滅する為の部でしょ。なのにそのバーテックスが居なくなった以上……もう、意味ないじゃない」

 

「違うよ」

 

理由は聞いたが、勇者部の存在意義に関しては友奈は即座に否定した。すると夏凜は俯きがちだった顔をハッと上げる。

初めは確かに、勇者を集めるために作られた部活かもしれない。

しかし今までの全てが否定されるわけでもないのだ。

そして夏凜が言ったことは、夏凜の本音ではない。でなければ、あそこまで楽しそうにみんなと過ごすはずがないのだから。

 

「前も言ったよね。バーテックスが居なくても、勇者部は変わらないって。

だって、勇者部の活動内容はバーテックスと戦うじゃなくて、誰かが困っていたり悩んでたりしたら、勇んで人助けする部活なんだから」

 

「でも…私は戦う為に来たから……もう戦いは、終わったから。だからもう、私には価値が無くて……あの部に、居場所も無いって思って……」

 

「勇者部五箇条一つ、悩んだら相談!」

 

それは夏凜が抱えていた悩み。

戦うという目的のために来た彼女は、役目を終えてしまった。

だからこそ、何をすればいいのか分からない。燃え尽き症候群のようなものだ。

なら、友奈は言ってあげなくてはならない。

今言えるのは、今行動出来るのは他に居ないのだから。こういう時、頼りになっていた彼は…今は居ないのだから。

 

「戦いが終わったら居場所が無くなるなんて、そんなことないんだよ。夏凜ちゃんが居ないと部室は寂しいし、私は夏凜ちゃんと一緒に居るの楽しいし、みんなもそうだと思う。特に…紡絆くんが居たら、絶対にそう言うよ」

 

「……あ」

 

離さないと言わんばかりに夏凜の腕を両手で掴み、友奈は笑顔で夏凜に伝える。

すると夏凜は何かを思い出したかのような反応をした。

それは、もう過去の出来事。

共にベランダで星空を、街を眺めた夜のこと。

 

『夏凜はもうひとりじゃない。俺たちがいて、夏凜には勇者部(ここ)という居場所があるんだ。

だからさ、俺は友達として仲間として、夏凜のこと凄く頼りにしてる。

これからもよろしくな!』

 

既に答えは言っていた。

言われていたのだ。紡絆は過去に言っていた。()()()()()、と。

それは()()()()()ではなく、()()()()()()()()()()()()を受け入れていたのだ。

それに夏凜は、今更ながら思い出して、気づいた。

自分の居場所は元から---手の届く範囲にあったことに。

 

「それに私、夏凜ちゃんのこと好きだから。ううん私だけじゃなくて東郷さんや風先輩、樹ちゃんに小都音ちゃん。そして紡絆くんも…みんな夏凜のこと好きだから」

 

「っ……ば、バカ」

 

真っ直ぐぶつけられた好意に、慣れていない夏凜は顔を真っ赤にする。

しかしそれでも、答えは見つかった。

悩んでいたことの答えは、本当に単純で、簡単だったのだ。

ただ夏凜が答えに辿り着けていなかっただけ。思い出すだけで---それだけでよかったのだから。

 

(本当に……バカ。今傍に居ないくせに、どうしてあんたは私が欲しい答えをくれていたのよ……紡絆。だから、だから無事に目覚めないと許さないから…)

 

夏凜はそのことに、心の中で呟く。

今も生きるか死ぬか分からない紡絆のことを思って。

ただ一言。答えを教えてくれていた彼に、感謝の言葉を伝えたかったから。

そしてその後、夏凜は友奈と一緒に駅前のシュークリームを買って帰り、友奈の味覚がなくなってることが知られたりはしたものの、巻き込んだことに謝る風に友奈と樹は自分で望んだということで謝罪を受け取らなかった。

それから少しだけ騒がしくなった部室で時間まで過ごし、解散すると夏凜はメールを大赦宛に打っていた。

 

『バーテックスは殲滅され、任務は終了しました。今後の私の処遇なのですが、讃州中学に残ることを許可してもらえないでしょうか』

 

そういった文面を送信し、勇者という役目も関係なく、ただの中学二年生の少女として勇者部で過ごすという日常を。

脳裏に浮かぶ六人と、自分を含めてまた七人で。

戦いに関係なく、これからも一緒に居られるなら、それは---

 

「悪くない」

 

きっと忙しくて楽しくて、馬鹿やって、とても大変だけど、笑顔の花がたくさん咲く様子が、簡単に想像出来た。

そんなことを考えていれば、以前とは違うSNSアプリから東郷の退院日が決まり、明日になったという報告がひとつだけあった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

懐かしく、もう昔のこと。

そして、全ての始まりで、()()()()()

初めて継受紡絆としての意識が芽生えたとき。初めて継受紡絆の記憶のひとつとして残ったとき。

初めて継受紡絆として自我を持ったとき。

初めて---大空を見たとき。海を見たとき。とても綺麗で、透き通っていて、美しかった。

そう、まるで自分のように。何も分からない、何も知らない---真っ白な自分の頭の中のようだと。

なぜなら、気がついた時には何もかも分からなかったから。

自分が何者なのか、何をしていたのか、何があったのか、自分はなんだったのか。

ただ不思議だった。

そう、分からない。泣きたくなるほどに胸に穴が空いたかのようなぽっかりとした違和感があって、不思議と悔しくて、どうしてか、後悔の念があった。

何故か体はボロボロで、傷ついていて、寒かった。

痛くて痛くて、叫びたくなるほどに痛かった。

けど、そんなことは出来ない。何も出来ない。息をするだけで精一杯で、呼吸を途絶えさせないことだけで精一杯で、声に出す余裕がなかった。

それでも、記憶もないのに、何もしなければ死ぬという確信だけは持っていた。

不思議だった。

生きなければならないと、まだやることがあると、死ぬ訳には行かないとまるで使命に駆られるように、ただ上を目指していた。

体は沈む。

口にはしょっぱい塩水がたくさん入ってきて、体は重たくて、喉も乾いて、体力も削られていって、抵抗するのが難しいほどの激流で、それでも紡絆は足掻いた。

何故足掻くのか、何故ここまで死にたくないと、生きろと何かが叫ぶのか。

生きなければならないと思ったのか。

分からない。分からない。分からない分からない分からない---自分はなんなのだ。自分は何をしていたのだ。何故自分はここまで傷を負ってるのか。何故自分はこんなに痛みを感じてるのか。なんで自分は---()()()()()()()()()()()()()()()

そう、分からない。ただただ分からないの五文字で終わること。

思考の大半が分からないという感情が占め、意志のほとんどが生きねばならないという生存本能だけがあった。

 

足掻いて足掻いて、足掻いて足掻き続けて---ボロボロな紡絆は、体力も失われていた。

必死に溺れないように抵抗していたが、目指すべき場所も、目的も、全て分からず。

その場で足掻くだけ。

だとすれば、人間には限界がある。

体力という限界値があるのだ。

口の奥からは、鉄の味があった。心臓がうるさかった。頭が痛かった。首が痛かった。肩が痛かった。腕も手も痛かった。胸が痛かった。お腹が痛かった。足が痛かった。

全身が痛くて、痛くて、体力も限界で、けれど()()()()()()()()()()()()()という思いに従って、足掻き続けた。

でも、無理だった。

瞼が重たくて、体中痛くて、頭がボーっとしてきて、心が折れて。

もう頑張った、もういい。何も出来ない。ここで終わり。何も分からないまま、全部終わって、死ぬんだと---完全に限界を迎えた紡絆は目を閉じて、全てを諦めて、投げ出して、力を失った紡絆の肉体は海の中へ無惨にも、理不尽にも沈んでいく。

ただ、ただそれでも---心は折れたはずなのに、生きることを諦めたというのに、投げ出したというのに、全部全部諦めたはずなのに、紡絆は最後の最後まで残る全ての力を振り絞って、うっすらと開いた瞳で右腕を天に突き出していた。

大空へと。太陽へと。

そう、諦めたはずなのに、紡絆は諦め切ることが出来なくて、渾身の力を振り絞った。

しかし、所詮は現実。

首まで沈み、頭まで沈み、それでも太陽があった場所を見て、手を伸ばして---やはり、無理だったと紡絆は思った。

なぜなら紡絆の体は完全に沈み、腕も見えなくなり、指先すらも海底へと、海の中へと消えていき、生存は絶望的で、生きることを断念せざる負えなくて、ついに紡絆の意識も、肉体と共に誰も知らぬ海の底へと---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()

 

沈む前に、誰かに引き上げられて、そのような声が頭の中に聞こえたような、そんな気がした。

その人の手は太陽のように、光のようにとても暖かくて、月の明かりのように安心出来て、勇気を貰えるような、そんな手。

そうして、気がつけば助かっていた。生きていた。海岸に居た。

瞬きするほどの短い時間だというのに、どこを見ても海岸が見えなかったほどの沖に、海の中へ居たはずのに、そんな短い時間で地上に寝転がっていた。

分からなかった。何故助かったのか。

ただそれでも助けられたということは理解していて、紡絆は助けてくれた人を見ようと、朧気な意識でその人が居る場所を見た。

 

「……り」

 

分からなかった。

その人の顔も、特徴も、姿も、何もかも分からなかった。

お礼を言いたくて口を開こうにも、動かなくて、思考が固まっていて、考えることも出来なくて、その人を見て思ったことが口に漏れていた。

その人は振り向いたように見えて、口を開いたような、そんな気がした。『あきらめるな』と。

さっきと同じ言葉を繰り返して、伝えてくれて、瞬きすると、その人は光の中へ消えた。

まるで夢のような体験であったけど、助かった自分という証拠が現実だと知らせてくれる。

そう、結局その人の正体は分からなかったけれど、きっとその人は---()()()()()()のだろう、と紡絆は思った。

何故ならその人は---()だったから。

そうして、今度こそ紡絆は、完全に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紡絆の病室で、ピーという音が鳴り響いた。

エボルトラスターが鼓動し、うっすらと輝く。

 

「う……ううんぅ……?」

 

傍で手を握り続けながら、眠っていた小都音はふと目覚めた。

違和感があって、いつも聞こえない音が聞こえて、寝惚けている意識を覚醒させるために目を擦って、周りを見渡した。

何も変化はない。

何も変わってない---いや、よく見てみれば、心電図の表記が変わっていた。

 

「……え?」

 

一気に眠気が吹き飛び、意識が完全に覚醒した小都音は目を疑った。

心電図に、ちゃんとした波があったのだ。

今までは真っ直ぐ線が伸びてただけだと言うのに、動いている。

すぐに紡絆へと視線を向け、小都音は紡絆の手を指の間に自身の指を入れて手を握る。

 

「お兄ちゃん……お兄ちゃん……っ!」

 

返事はない。

必死に呼びかける小都音の言葉に、紡絆は何も反応を示さない。

今まで変化もなかったのに、ようやく変化が見れた。

 

「お願い…起きて、起きて……! 私を一人にしないで…もう離れないで……!」

 

その希望に縋るように、小都音はただ紡絆に呼びかける。

なりふり構ってられず、目覚めることをただ願って、何度も呼びかける。

それでも、紡絆は目覚めない。

 

「お願いだから…一緒に居てよ…。お願いだからもう…私だけを残して行かないでよ、お兄ちゃん……っ! こんどこそ…ずっと一緒に…また、いつもみたいに…笑ってよぉ……!」

 

色んな思いが小都音の中に巡り、その感情が爆発する。

小都音の瞳から、雫が落ちていく。

それは涙。

瞳から落ちていくそれに気づいても、一度流れた涙は止まることを知らずに次々へと落ちていき、小都音の涙が握った手へと落ちた、その瞬間---奇跡は起きた。

 

「ぁ……っ!?」

 

赤と青。

紡絆の肉体からふたつの光が溢れ、それは何処までも眩しくて、思わず目を閉じてしまうほどの光。それでも不思議と痛くはなくて温かい光。

ほんの数秒にも満たぬ時間、赤と青の光が発せられたが、突如として光は消え、小都音は恐る恐ると目を開けた。

 

「おに……ちゃん?」

 

何があったのか分からず、不安な表情を隠せないまま小都音は兄を呼ぶ。

目を開けることも返事もなく、胸が締め付けられるような痛みが走り、また瞳に涙が貯まる。

そして---ピクリ、と握っていた手から感触が返ってきた。

 

「……え?」

 

弱々しくも、ゆっくりと、小都音の手が優しくぎゅっ、と握り返された。

力は入ってないと感じられるほどにとても弱くて、気のせいかと錯覚してしまうくらいの、力。

ただ、手から感じた温もりは---本物だった。

 

「おに……ちゃん……。お兄ちゃん……!」

 

再び小都音の目からは涙の雫が落ちる。

それは悲しみや苦しみでも、辛さからでもなく、たった一つの感情。

そう、それは喜び。

たった一つの奇跡が起きて、握り返されたのだ。

それから少しして紡絆の瞳が、ゆっくりと開けられた。

もはや絶望的だったというのに、意識を取り戻した。

そんな久しぶりな紡絆の視界に初めて移ったのは、たった一人の家族の、たった一人の女の子の涙。辛そうで、嬉しそうで、喜びのあった表情。

まだ体に力も入らなくて、意識を保つだけで精一杯だったが、紡絆はそれを見るのが、何より嫌だったのだろう。

そんな辛そうではなく、純粋な喜びだけがあるような、もっと別の表情の方が似合ってると、そういうように、紡絆は笑って---

 

「た……だ、い……ま……」

 

帰ってきたことを知らせるように、安心させるように、いつもと何ら変わらぬ笑顔で、小都音に向かってそう呟いた。

いつもと、全く変わらない明るさで。

 

「遅い…遅いよ……おかえりなさい、お兄ちゃん…っ!」

 

それに対して、小都音は気づいていたのか。

文句を言いながらも、涙を流しながらも、帰ってきたことを喜ぶように、笑顔でまたそう返した---

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
死ぬことはなく蘇ったが、ぶっちゃけウルトラシリーズ最終章レベルで瀕死。
どうやら本人が覚えていて掲示板で話した内容とは過去が違うようで……?

〇ウルトラマンネクサス
紡絆を救おうとしたが、何も出来ず。
ちなみに瀕死。
エネルギーも体力も最終章コスモスやメビウスレベル。

〇天海小都音
樹ちゃんと百合百合してたけど、樹ちゃんは過去の自分に似ていたらしい。
一部過去の話をしたが、謎は多い。
兄とは違ってメンタルは普通だが、全く曇らない兄とは違ってめっちゃ曇ったし未だにあくまで問題をひとつ解決出来ただけで何も変わってない。
少なくとも紡絆が意識を取り戻すまでは瞳に光はなかったとか。

〇三好夏凜
紡絆が答えを与えていたことに気づかないままだったが、無事に勇者部へ戻ってきた。


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【吉報】俺氏、仮死状態から無事に病院で意識を取り戻す【いつもの】

ゆゆゆいサ終するらしいです。悲しいというかただ辛かった。
でも安心してください。既に終わった作品を、消えた作品を創作し、皆さんに自己満で提供するのが二次創作作家です。
俺がやってやるよ……!(なお、まだ一期の中盤)

今回は謎解き回みたいな回。割と重要回





 

◆◆◆

 第 27 話 

 

-違和感-ディスオーダー

 

 

ノコギリ()ソウ()

戦い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紡絆が目を覚ましてから慌ただしく看護師や医者が動き、体の状態を調べていた。

その結果、わかったのは意識を取り戻して脈なども安定しているということで、それでも疲労などが回復したわけでもなく、その通りやはり無理していたようで結局また意識を失った紡絆が起きたのは、次の日だった。

今度は意識不明となったわけではなく、ただ純粋に眠っていただけのようでそれを予め全て紡絆の状態を聞かされていた小都音は安心したのだろう。

紡絆が目が覚めたとき、小都音は紡絆のベッドの横で腕を枕にして眠っていた。

 

(俺は……生きてたのか)

 

それを見て、少し笑みを浮かべて頭を軽く撫でると、紡絆は天井を見ながら思い耽る。

色々と限界の超えた戦いだった。死ぬためではなく、生きるために、自分が助かるかなんて考える余裕はなかったけど、それでも生きるために戦って、勝った…のだと思っている。

あの状況下、宇宙で変身解除された自分という存在が無事ということは、東郷か友奈に助けられたということなのだから。

勇者が負けたなら、間違いなく紡絆は生きていない。

 

(……それにしても、あの記憶、俺の知ってる記憶とは違った)

 

思い出すのは、意識を取り戻す前に見た夢。

いや、あれは夢ではなく、()()()()()

それ故に、浮かぶのは疑問。

 

(なんで……()()()()()()()んだ?)

 

そう、おかしいのだ。

思い出した今はもう、覚えている。

しかしあのような出来事があって、気がつけば助かっていた…と()()()()()()()()()()()かのように消滅していた。

どう考えてもおかしい。

 

(あの人のお陰で、どうして俺を救ってくれたのか分からないけど、大勢の人を救えた…と思う。過去はまだ思い出せないけど俺という存在が意志を持った最初の時の記憶だけは思い出せた…)

 

海で溺れて、足掻いて、無理だと思ったら、誰かに助けられた。

助けてくれたのは、宇宙人。

あまりにもの現実感のない過去に自嘲するように紡絆は心の中で苦笑する。

それにもうひとつ、不審に思えることもある。

 

(なんで……一部分とはいえ昨日、思い出せたんだろうか)

 

もうずっと、記憶を失ってから二年間。

過去のことなんて一切思い出すこともなかった。

記憶を失う前の記憶ではないとはいえ、新たな真実の記憶を思い出した紡絆は困惑が隠せなかった。

記憶を取り戻す何か特別な条件があるのか、それとも純粋に死と生の狭間に居たせいで思い出したのか---可能性としては後者だろう。

 

(まぁ、思い出しても何も変わんないけど。ただ… “あきらめるな”、か。きっと…諦めたくなくなったのはその人の言葉の影響もあったのかも)

 

諦めた方が楽なくらい、絶望的な戦いでもあった。

けれど、紡絆は諦めることもなく、戦い切って、勝利を掴んだ。

---()()()()()

 

「………」

 

物理的にも精神的にも、色んな物に繋がれた手を、紡絆は上げて手のひらを閉じた。

何を思っているのか、紡絆は無表情で、瞳からも表情からも感情が感じられない。

ただあのとき、掴んだはずの右手を閉じて改めてそこを見つめるだけ。

 

「んん……おにーちゃん…」

 

「…ん?」

 

そのとき、小都音の口から呼ぶ声が発せられ、紡絆は視線を小都音に移せば、彼女はまだ眠っていた。

どうやら寝言らしく、フッとした笑みを浮かべた紡絆は手を開いて、その手で小都音を撫でる。

すると小都音は嬉しそうな、幸せそうな表情になる。

 

(……やっぱり、笑顔で居て欲しいな。これからも、みんなが笑顔で)

 

頭を撫でながら小都音の表情を見てそう思い、ふと体を動かそうとしたところで左肩に凄まじい痛みが走る。

思わず左肩を見れば、包帯が巻かれていた。

思い出すのは、ゴルゴレオスの雷撃。

不意打ちで受けたアレは、ネクサスの肩を焦がしていた。

恐らく火傷と出血で酷いのだろう。

 

「………」

 

軽く左肩を擦り、傍にあったエボルトラスターを紡絆は手にした。

エボルトラスターは何も反応を示さない。

しかし紡絆は大事そうに抱え、目を閉じた。

 

『…ありがとう、ウルトラマン』

 

『-----』

 

そのお礼は力を貸してくれたことにか、それとも自分を救おうとしたネクサスのことに気づいていたのか。

それは定かではないが、紡絆はネクサスが驚き、少しの沈黙の後に気にしてないと言ったように聞こえた。

 

「……あれ?」

 

そこで、紡絆は違和感に気づく。

再び目を閉じてみるが、真っ暗。何も変わらない。

念じて見ると、何もない。

エボルトラスターを見つめても、何も起きない。

 

「んん?」

 

首を傾げるが、紡絆は分からなかったのだろう。

エボルトラスターをそっと傍に置き、胸を抑えると赤と青、ふたつの光を感じられる。

 

「…んー、わからん」

 

姫矢准と千樹憐から託された光。

それを今も身近に感じられ、それでも違和感の正体が掴めずに紡絆は思考を放棄した。

やはり考えることには向いてなかった。

思考を放棄した紡絆はただ外を眺め、暇なので小都音の髪を優しく梳かしつつ撫でていた。

しばらくそうしていただろうか、下手に動けば起こしてしまうのもあり、暇すぎて欠伸をする紡絆だったが、隣でもぞりと動く感触がした。

 

「んん……ふぁ…。おにーちゃん…?」

 

「ん、おはよう」

 

寝惚けているようで、ぼうっとしながら目を擦る小都音を紡絆は以前と似たように普通に返した。

 

「おはよう……」

 

「大丈夫か?」

 

「……うん」

 

手で口元を隠し、軽い欠伸をした小都音は再び紡絆を見て、ハッと意識を完全に取り戻した。

眠気が醒め、目の前の人物を小都音はしっかりと認識する。

 

「お兄ちゃん!?」

 

「ちょ、まっ…ぐへ…!?」

 

すると予想通りと言うべきか、この前と同じように小都音が勢いよく抱きつき、全く肉体が回復していない紡絆は痛みに悶えるが、それどころではないようで小都音は紡絆の胸に顔をグリグリと押し付けていた。

 

「よかった……よかった……。夢じゃなかった……っ!」

 

「ご、ごめん。心配させたのは謝るけど、せめて力緩めて。死ぬ……」

 

あくまで回復したのは意識だけであって、傷は全く治っていない。

回復力が落ちたままなのは、以前と変わらず---むしろさらに遅くなってしまっている。

だからこそ、ちょっとした衝撃で紡絆は叫びたいレベルで痛かった。

 

「あっ…ご、ごめんね。つい……」

 

「いやいいよ。心配させた俺のせいだし。そういえば聞きたかったんだけど、他のみんなは? 無事なのか?」

 

名残惜しそうに離れる小都音に紡絆は気にしてないと言いつつ、起きて気になったことを聞く。

意識もなかった紡絆は勇者部のみんなのことを何一つ知らない。

 

「えっと…東郷さんは今日退院で他のみんなは既に退院してるよ。それと…風先輩は左目、樹ちゃんは……声帯、結城さんは味覚、東郷さんは左耳の機能が失われてるって言ってた。勇者システムの長時間使用による疲労……だって」

 

一瞬言うべきか悩み、会ったら結局バレるからか小都音は全てを話す。

しかし自分で伝えて思うことがあったのか、小都音は暗い表情を浮かべた。

 

「………そっか。大丈夫だ、みんな元に戻る。ほら、俺だって意識戻ったんだし! 病院の人の会話が聞こえたんだけど、目覚める可能性は限りなく低かったんだろ? そんな俺が目覚めたんだからみんな戻るって」

 

「……お兄ちゃんの場合スケールが全然違うんだけど、そうだよね…。きっと樹ちゃんの声は戻るよね。皆さんの状態も、きっと」

 

紡絆は励ますように言い、小都音は変わらない兄の姿に少し明るくなった。

 

「さてっと、なら東郷も退院なら…みんないるだろうし目覚めたことは言った方がいいか」

 

「お兄ちゃん?」

 

勝手に繋がれていたものを外し、そっと置いた紡絆はエボルトラスターとブラストショットを手にしてベッドから降りようとした。

 

「ちょ、ちょっとダメだよ! まだ治ってないんだから!」

 

慌てて小都音が手を掴んで阻止し、紡絆は止まる。

しかし小都音の手を上から優しく覆うと、安心させるように微笑む。

 

「何かに掴まってたら歩く程度なら平気だって。まあ走るのは無理だけど」

 

「……本当に?」

 

「おう」

 

嘘をついてないのか訝しむ小都音に苦笑しつつ答えると、小都音は諦めたのかため息をひとつ吐き、手を差し伸べた。

 

「じゃあ掴まって。お兄ちゃんはしばらく私から離れることを禁じます」

 

「……それなら松杖でいいんだけど」

 

「なんか言った?」

 

「いえなんでもないです」

 

笑顔でそんなことを言った小都音に思わずボソッと呟いてしまうが、笑顔の裏に怒りが含まれてるのを珍しく察した紡絆は素直に小都音の手ひらの上に自身の手を置く。

 

「よいしょっと…うん、立てはするな」

 

「痛くなったら止まるから言ってね」

 

「分かってる」

 

確信はなかったのか靴を履いてコンコンとつま先を地面に打ち付けると、両足で立つ。

が、見てる側からするといつ倒れるか不安になるほど不安定なバランスだった。

 

「じゃあ…東郷さんの病室に案内するね」

 

「そうだな…顔見せとかなきゃな。元気だといいんだけど」

 

「……みんなお兄ちゃんよりかは元気だと思うよ、今のお兄ちゃん凄いボロボロなんでしょ」

 

「…ソンナコトナイ」

 

「お兄ちゃん?」

 

「分かった。分かったから抓るな。今はめっちゃ痛い」

 

意地でも誤魔化そうとした紡絆だが、ジト目で見つめた小都音が横腹を抓り、それだけで大ダメージな紡絆は素直に引っ込んだ。

いつもならば通すはずの紡絆が引いたことから、それほど肉体は回復していないということなのだろう。

まぁ…立つだけで精一杯なのだから当然だ。

 

「それより行こう。みんなが来る前に東郷に伝えておきたい」

 

「そうだね…いこっ」

 

紡絆の手をそっと引き、ゆっくりと小都音は歩みを進める。

紡絆は小都音に引かれつつ少し痛みの走る足を動かしてついていった。

それはもう、かなりゆっくりで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東郷の病室に、普段なら十分あれば自販機で飲み物を買って購買で何かを買ってからバク転だけで向かえるくらいの距離だと言うのに、紡絆たちは二十分かけてようやく辿り着いた。

それも紡絆が原因で、フラフラした足取りでは速度が出なかったのである。

それはさておき、ようやく辿り着いた紡絆は息切れしていたため、深呼吸をひとつ置いて手を離そうとしたところで握ったまま離さない小都音の姿をみて頭突きでノックする。

 

「はい?」

 

流石と言うべきか東郷は起きているようで、時間帯的にはまだ友奈たちが来る時間帯でもない。

誰か分からないまま返事をした東郷は、すぐに驚愕することになる。

 

「よっ、何日ぶりか知らないけど、久しぶり。元気だったか?」

 

「……え?」

 

自然。自然すぎて違和感のないほどに軽い様子で入ってきた紡絆と紡絆の手を握ったままくっついている小都音。

思わず東郷は固まり、思考が停止する。

 

「……あれ? お、おーい? 東郷ー?」

 

何か返事でも返ってくると思っていたようで、無表情でピキっと固まった東郷へ紡絆は小都音に支えられながらゆっくり近づき、顔の前で右手を軽く振った。

 

「……ハッ!? う、うそ…本当に、紡絆くんなの……?」

 

「そうだぞ、ドッキリじゃないからな」

 

「夢……」

 

「じゃないって」

 

信じられないと言った様子で驚きながら見つめてくる東郷に紡絆は苦笑しながら否定していく。

東郷の反応は普通だ。

むしろ今まで通りに対応する紡絆がおかしいだけなのだ。

 

「っ……紡絆くん!」

 

「まっ---あぁあああ!?」

 

軽いとはいえ、東郷に抱きつかれた紡絆は受け止めはしたが、背中に回された手は強く、紡絆には更なるダメージが加算された。

 

「よかった……。信じてた……絶対、絶対帰ってくるって…! 絶対、無事だって…! 本当に、夢じゃない…!」

 

「………あー」

 

痛くはあるが、涙を瞳に貯めてるのを見た紡絆は剥がすわけにはいかず、東郷の頭を撫でる。

それほどに心配させてしまったということで、紡絆は申し訳なく思いながらも東郷が落ち着くまでただ頭を撫でて待っていた。

小都音は少し不満そうだが、気持ちは分かるようで仕方がないと良いだけな表情をしながら紡絆と東郷から少し離れて見守る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

淑女としてはしたない真似をした、と顔を真っ赤にして恥ずかしがる珍しい東郷の姿に紡絆は苦笑するだけで一言謝ったあと。

時間は過ぎて、病院の待合室では既にいつもの勇者部が揃っていた。

東郷が来るのをみんなが待っていると、足音と車椅子を引く音が聞こえ、みんなが反応した。

 

「おーい!」

 

そこには、人影が3つ。

手を振りながら東郷の車椅子を引いて向かってくる紡絆と紡絆に引かれていつも通りの姿にくすり、と笑ってる東郷、以前より明らかに顔色が良い小都音が居た。

が、仮死状態であった人間がそんな明るく呼びかけたら当然、反応は---

 

「……えっ!?」

 

「………は?」

 

こうなった。

夢かと思い、頬を抓る。驚き、現実かと疑う。思考が停止して固まる。目を瞬きさせる。

 

「あれ……俺だけ時間繰り返してない? なんか反応ほぼ同じなんだけど。無限ループ入った?」

 

「…紡絆くんのこと知らされてなかったしお医者さんに言われたこと考えれば当然よ」

 

「むしろどうやったら普通に返して貰えると思ったの、兄さん…」

 

「いやこう、勢いで」

 

呆れたように苦笑する二人の姿に紡絆は至って真剣だったのだが、勇者部のみんなの思考が動き出したのは数秒後だった。

みんなが駆け寄り、紡絆たちの近くへ向かう。

 

「紡絆くん、起きたんだ! よかったぁ…! もう大丈夫なの!?」

 

「ちょっとあんた、目覚めたならちゃんと連絡くらいしなさいよ」

 

「その通りよ。あたしたちがどれだけ心配したか…! 何処か悪かったりしてないでしょうね?」

 

『紡絆先輩も東郷先輩も無事でよかったです』

 

次々と言葉を投げかけられ、何処から答えたらいいかわからずに紡絆は困ったような表情をした。

 

「えー……と。一応夏休みには退院出来るかと。心配させてすみません」

 

「いいよ、こうして無事だったんだから!」

 

「べ、別に心配なんかしてないっての」

 

「ははーん。全く夏凜は素直じゃないんだから。けど本当に良かったわ、さんざん心配させるなんて、このっ」

 

「ぐへぇ!?」

 

心配させたことにまた謝罪すると、結果良ければ全てよしと言ったふうに受け入れていたが、問題は次だった。

風の一撃が紡絆の背中に強打し、肉体が回復してない紡絆は力を失ったが前に倒れる訳には行かないため、なんとか横に倒れた。

 

『つ、紡絆先輩!?』

 

「え、えぇ!? ちょ、ちょっと風先輩何してるんですか!?」

 

「あ、あたし!? 普通に叩いただけよ!?」

 

「いやどう見ても怪我人にすべき行動じゃないでしょ」

 

以前までなら大丈夫だったといっても痛い程度で済んだが、泣きたくなるレベルで痛い紡絆は背中なのもあって抑えられず、地面で悶えていた。

その様子に風に対して聞く友奈と正論をぶつける夏凜だった。

 

「兄さん、大丈夫?」

 

「……腹貫かれて体内に毒入れられた時よりかはマシ」

 

「うん、相変わらず語ってるスケールが違うからね、でも大丈夫そう」

 

痛みが和いだのか背中を起こした紡絆は小都音の言葉にそう返す。

しかし普通に考えたら腹貫かれて毒を注入されたら死ぬのだが。

そんなことが言えるなら大丈夫だろうと安心しながら小都音は紡絆をそっと起こす手伝いをした。

 

「紡絆くん、まだ肉体は治ってないらしくて、自然回復に頼るしかないとのことで退院が遅くなるのは目覚めた紡絆くんが悪化しないかしばらく経過を見るためらしいです」

 

「そうなんだ……でもこうして話せるようになっただけでも良かったんじゃないかな?」

 

「だと思うぞ。ま、俺はしばらく病院に居て暇してるんで、東郷の退院を祝ってあげてください」

 

予め聞いていた東郷はさっき言われたことと同じように説明し、紡絆は友奈の言葉に肯定しながら立ち上がっていた。

 

「そうだ、改めて東郷さん。退院おめでとう」

 

『退院おめでとうございます!』

 

「えぇ、ありがとう」

 

紡絆の言葉で言ってないことに気づいたようで、各々東郷に言葉を述べ---といっても一人だけ声が出せないため声には出てないが、そのことに東郷は感謝の言葉を述べた。

 

「まぁ紡絆が目覚めてたことには驚いたけど、これでやっと勇者部全員復帰ってところね」

 

「そうね……紡絆はまだだけど」

 

「ですね、紡絆くんはまだですが」

 

『紡絆先輩以外は』

 

「あ、あはは……」

 

まさかの先輩や同級生、後輩にやけに強調されることに何とも言えず、笑いで誤魔化そうと乾いた笑みを浮かべる紡絆だが、全く効果はなかった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局目覚めたことと東郷の退院ということで祝われた紡絆は小都音に連れてきて貰って、なんとかベッドに寝転んだ。

今彼女は飲み物を買いに行っていていない。

 

(みんなを守りたい。笑顔を作りたい、守りたい。誰かが幸せになって、誰かが喜びに満ち溢れてくれるだけで、それだけで良い。

その気持ちに変わりはない。けれど、どうして俺だったんだろうか…なぁ、ウルトラマン。俺は君の力を借りても、救うことが出来なかった)

 

エボルトラスターを軽く握りしめながら、紡絆は夕焼けの街並みを病院の外から眺める。

本来ならばそこまで見えないはずなのだが、紡絆の瞳は視線上のものが何処までも見えていた。

 

(託された……たくさん、託されたんだ。今世でも、前世でも。でも俺は、託されても何も成せなかった。守れなかったよ。前世とは違って、力はあったのに。

今日過ごして、思ったんだ。俺は人を殺した。そんな人間が、こんなふうに笑っていていいのかと)

 

エボルトラスターは何も反応を示さない。

しかし紡絆は遠い目をして、それでも覚悟をした表情だった。

 

「でも…関係ない。変わらないんだよな。俺は前へ進む。背負って、前へ。だって、俺に託されてきたのは希望なんだから。俺がその希望を誰かに託すまで、俺が死ぬまで、絶対に止まらない。止まる訳には行かないんだ」

 

あの時、ファウストの正体に気づいた紡絆は一瞬迷ってしまった。

覚悟を決めてもなお、また迷ってしまったのだ。

しかし殺すことを選んだ。救える力が、なかったから。

そうするしかなかったから。そうするように、願われたから。

とてつもなく、重たいものを紡絆は背負ってしまった。

けれど、彼は止まらない。決して、諦めない。

姫矢准と千樹憐に導かれた彼は---そのことを忘れてないのだから。

光の本質、それから持たなければならない覚悟を、持ったのだから。

 

「力を貸してくれ、ウルトラマン。君も俺も---変身する力は僅かしかないけど、守らなくちゃいけないから」

 

エボルトラスターが僅かに鼓動し、紡絆を嬉しそうな笑みを浮かべると、息を吐く。

そして喉が乾いたのか小都音が置いてくれた水が入ったコップを手にして---パキッとコップから聞こえてはならない音が聞こえた。

 

「……!?」

 

驚き、音の発生源である自身の手を見れば、コップにヒビが入っていて、一気に広がり---割れる。

手が水に濡れるが、()()()()()()()()()を見て紡絆は自身の手を見た。

 

「これは……拭かない---ぐえっ!?」

 

気のせいだと思い、地面を拭くためにベッドから降り、水を避けるために軽く大きく1歩踏み出してジャンプをすると病室の天井に後頭部を打ち、背中から落ちながら痛みに悶える。

 

「いっ……てぇ。くそ、どうなってる……? 力が……」

 

なんとか腕を伸ばし、ベッドによじ登った紡絆は左肩を抑えつつ、左手の手のひらを開いたり閉じたりしていた。

しかし何も分からない。

 

「そういえば……前より視力も上がってる……?」

 

ふと思い出したように外を見れば、前まで見えなかった景色が目に映っていた。

どれだけ生身で力を引き出そうとしても、無理だった場所まで。

 

「……力の制御が出来なくなってる? いや、違う。これは強まってるのか? 力が底上げされたのか。何とか……壊さない程度には行ける、けど人の手なら簡単に潰せてしまいそうな……気をつけないと、まずいな」

 

力を緩ませるように集中しながら花瓶を手に取ると、割れずに掴めた。しかし手は震えてしまっていて、紡絆は理解した。

そう、コップを割った握力も、異常すぎる視力も、軽い跳躍だけで天井まで余裕で跳んだのも、全てウルトラマンとの融合によって起きた身体能力の強化---それの制御が、今まで出来ていたのが無理になっていた。

何故ならば、以前よりも遥かに紡絆の身体能力が強化されているからだ。

 

「……一難去ってまた一難、か。いや違うわ、一難去ったことなかったな」

 

自分で言っておいて自分で否定したが、今までの戦いを振り返って紡絆は一瞬で記憶に蓋をした。

そして改めて、よく自分は生きてるなと実感するのだった。

 

「はぁ……もういいや。それにしても太陽は綺麗だなぁ……」

 

現実逃避。

力の制御はどうにかなるだろうと未来の自分へ託し、紡絆はさらに成長した身体能力を生かして太陽を見つめる。

眩しいが、夕焼けの太陽はとても綺麗で、どれだけ手を伸ばしても地球からは決して届かない星々のように太陽も同じだというのに、紡絆は無意識に手を伸ばしていた。

 

「………」

 

光。

自分と同じく、ウルトラマンと同じような強い光。

それを見ていると、紡絆はふと思い出す。

あの激戦のことを。あの激戦の際、最後に言われた言葉を。

 

『---ありがとう。ごめんね、あの子のこと、お願い---』

 

自分は救えなかったと言うのに、感謝された。

謝罪された。

文句を言われる筋合いはあっても、罵られることはあっても、感謝される意味が分からない。

掴もうとした。消滅する前に、最後まで諦めずに救おうとした。

だが掴めたのはたったひとつの粒子だけだった。

オーバーレイ・シュトロームのエネルギーを十分過ぎるほどに体内に貯めてしまったが故に、分子分解を止めることも出来なかった。

悔しい思いがあった---けれど同時に、守りたいものが多くて、一を切り捨ててしまったのだ。

ウルトラマンだから十を救わなきゃ。そう思っていても、無理だった。

 

『-----』

 

「大丈夫……ちゃんと理解してる」

 

エボルトラスターが鼓動し、紡絆は独り言のように呟く。

彼の浮かべる表情には後悔は含まれてない。

そうするしかなかったから。背負うと決めたから、どれだけ悔しくても、前を見るしかないから。

 

(……だからさ、安心して見守ってて。今度は、今度こそは守ってみせるから。託されたものは、分かってる。だから安心して---安らかに眠って、()()()。小都音だけは……()()()()()()どんな時だって救うから。助けるから)

 

そう、紡絆は気づいた。

あの時、声を聞いて、優しさを向けられて、温もりをくれて、思いやりを持って接してくれて、色んな感情を浮かべる姿が想像出来て、記憶はないけど、短くも記憶として残っていた。

ファウストの正体は---()()()()()だったということを、あの時気づいたのだ。

もし他人だったならば、紡絆は左肩にダメージを受ける前に迷いなくオーバーレイを放っていただろう。

恨まれるとしても。命を背負う覚悟をしていたから。

しかし家族だったから。記憶はなくても、二年間大切に育ててくれた家族の一人だったから、迷って、結局撃ってしまった。

自ら、母親を殺すということを、してしまった。

それは一体紡絆にどれほど重く、大きな十字架を背負わせることになったのか。

大切だと思い、大切に育てられた紡絆は家族に対する愛情は普通にある。

そんな家族を殺すことになって、普通は黒幕に対して殺意、復讐心、怒り、憎しみといった感情を浮かべるのが自然だと言うのに、紡絆は()()()()()()()()()

ただ無力な自分に対する悔しさと、無念と、それでも前へと進む覚悟だけがあった。

何処までも自分を責め、やはり誰も責めず在り方が変わらない。

例えそれが、母親をファウストに変えた黒幕に対しても。

せいぜい紡絆が抱くとすれば復讐心や憎しみではなく、みんなを傷つけようと、傷つけてきた怒りくらいだろうか。

そこへ、自分は含まれてないが。

 

「お兄ちゃんー? 遅れてごめんね、持ってきてたお弁当取ってきたのと飲み物買ってきたら遅れて---ってなに!? どうしてコップが割れてるの!?」

 

そんなふうに黄昏ていたら小都音が戻ってきたようで、買いに行く前は何も無かった小都音はコップが割れて水と破片が地面にあることにただ驚いた。

 

「……落として、片付けようとしたけど諦めた?」

 

「どうして疑問符なの……はぁ、良かった。片付けは私がするからお兄ちゃんは触っちゃダメだよ。今のお兄ちゃんだったら絶対怪我するもん」

 

「ごめん、頼む。気をつけてな」

 

「うん」

 

小都音の言葉は正しく、実際に予想外の形とはいえ後頭部を思い切り打ち付けた。

それに体が思うように動かない今、怪我する可能性や力の制御的にさらに破片を増やす可能性の方が高いので、紡絆は素直に小都音に任せることにした。

小都音は気をつけながらも慣れた様子でコップの破片を処理し、持ってきた何枚かの雑巾で水を拭くと、片付ける。

そして手を洗ってから紡絆の傍に座った。

 

「ほら、私が飲ましてあげる」

 

「……それが助かる、かな」

 

ペットボトルならば粉砕しそうだと思い、紡絆は素直にお願いすると、小都音は何が嬉しいのか笑顔で頷き、ペットボトルの蓋を開ける。

 

「あっ、口移しでもいいよ?」

 

「そういう冗談はいいって。普通にしてくれて大丈夫だ」

 

思いついたようにアホ毛をハートマークにしながら頬を赤めて言う小都音だが、紡絆は冗談と捉えているらしく断っていた。

 

「……冗談じゃないのになぁ……」

 

ボソッと呟いた小都音の言葉を聞き取れず、紡絆は首を傾げるが全く本気にしてないと分かったのか、小都音は諦めたようにため息を吐いたあと、ゆっくりと水を紡絆に飲ませ、紡絆の口元をハンカチで拭いていた。

 

「い、いやそこまでやんなくても……」

 

「ダメ。お兄ちゃんの世話は私がするの。何かしようとしたら無理矢理にでもベッドに縛り付けるから」

 

「……分かった」

 

有り無を言わさずといった姿に紡絆は苦笑すると、心配から来ていることだと理解しているため素直に了承した。

アレほどの重体だったのだから、他人の気持ちを考えたのかもしれない。

 

「そうだ、ねぇねぇ、お兄ちゃん。見て、この花。綺麗でしょ? 咲いてたから持ってきたんだ」

 

思い出したようにそっと小都音は何かを取り出すと、紡絆に見せる。

それは白い花。

綺麗な形で花弁が大きく開き、神樹様の力もあるのだろうが、自然によって作られた花だ。

7月〜9月頃に咲かせる花で、7月、8月の誕生日花としても存在している。

 

「綺麗だとは思うが……なんの花かは分からないな…」

 

「今のお兄ちゃんにピッタリの花。これはノコギリソウって言ってね…花言葉は『治療』『勇敢』『戦い』。

勇敢に戦ったであろうお兄ちゃんが治りますようにって思って」

 

「勇敢だったかは分からないけど……そっか。まったく、本当に出来た妹だよ」

 

「えへへ……花瓶に入れておくからね」

 

小都音は知っていたようで、意味を語った小都音に対して紡絆は嬉しそうな笑みを浮かべると、敵わないといった様子を見せながら褒めつつ彼女の頭を優しく数回撫でていた。

小都音は大人しく撫でられ、紡絆に微笑む---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

1:光と絆継ぎし転生者 ID:NEX3_ultra

 

【吉報】俺氏、仮死状態から無事に病院で意識を取り戻す【いつもの】

 

事の発端→【悲報】気がつけば目の前に知らない遺跡があるんですが…【なにこれ】

 

【悲報】 気がつけば別世界に飛ばされたんですが…【どうして】

 

【朗報】亡くなったと思っていた家族が生きていた【妹】

 

【速報】俺氏、無事また病院の天井を見る【知っている天井だ…】

 

 

2:光と絆継ぎし転生者 ID:NEX3_ultra

・俺

なんで生きてたか分からんけど生きてた。

憐から覚悟を教えられ、背負う覚悟を持てたおかげで勝てたけど仮死状態だったらしい。

で、目覚めたのはいいけど身体能力上がってるっぽくて制御出来ない。

ちなみに片目塞がっててて、ほぼミイラな包帯ぐるぐる巻きレベルだから志々雄(ししお)真実(まこと)になった気分なんだが、怪我は微塵たりとも治ってないというか左肩クソ痛いんだがゴルゴレオスなんてことしやがったんだ。

 

・天海小都音

妹で大切な家族。

俺が倒れてる間ずっと看病してくれたらしくて、今も看病されてる。

お箸掴んだら砕けるから正直助かってる。

ちなみにちゃんと考えてくれた弁当を作ってきてくれた。

 

・勇者部のみんな

クソほど心配させてしまったらしくて申し訳ない。

ただ友奈は味覚、東郷は左耳、風先輩は左目に樹ちゃんは声帯に異常があるらしい。

あと俺が半分死んでる間に夏凜が勇者部に来ないという事件があったらしいけど、解決したとか

 

・ファウスト

正体は俺の母親。

多分動きが止まった理由はガチで死ぬところだったから母さんが止めてくれてたんだと思う。

お陰で勝てた。母は強しってな

 

3:名無しの転生者 ID:W/xUzc2jP

情報量多すぎませんかね……

 

 

4:名無しの転生者 ID:tOaebyYOW

そもそも生きとったんかお前…

 

 

5:名無しの転生者 ID:jXq8rHV4q

良かった、小都音ちゃんはファウストじゃなかったのか! 普通に助かったってこと…! いやでも…よかったのか、これ

 

 

6:名無しの転生者 ID:7vA6BBytt

いや何普通に語ってんだよお前。母親殺したってことじゃねぇか……

 

 

7:名無しの転生者 ID:MlsXAB6D4

弁当羨ましいんだけど勇者たちも異常って…あーもうなんか未来読める気がしますわ

 

 

8:名無しの転生者 ID:aQGcbJYpj

おいちょっと待て、イッチのIDとコテハン変わっとるやんけ

 

 

9:名無しの転生者 ID:JfL6KUFkB

イッチ、るろうに剣心知ってんの草

ところで身体能力上がってるってなんだよ。本当に情報過多すぎんだろ!

 

 

10:名無しの転生者 ID:blzT+5g1w

スレは動いてたけど映像全く見えねぇなと思ってたらイッチが仮死状態だったからか…なんか色々やべぇわこの世界こわっ

 

 

11:名無しの転生者 ID:Br92lrA9V

ひとつずつ片付けたいものだが……イッチ、大丈夫なのか? お前、流石に分かってるだろ

 

 

12:名無しの転生者 ID:Q4Uam7QV/

平気そうに語ってるけどさ…母親を殺したってことだろ? それって…辛いはずじゃん

 

 

13:名無しの転生者 ID:aPZNZtosI

小都音ちゃんがファウストじゃないのは良かった。ただ純粋にお前の両親に助けられたってことだからな。

だけど勇者たちは体に異常があって、母親は殺してしまった……

 

 

14:名無しの転生者 ID:1z0+mONuK

イッチがあの時蹲ったのはそういうことか……母親と分かってたから。分かって、殺したから

 

 

15:名無しの転生者 ID:T9VgPkpCy

いくら分からなかったとはいえ相当な無理言ってたな、俺ら……すまん

 

 

16:光と絆継ぎし転生者 ID:NEX3_ultra

いやお前らこえーよ! 逆に怖いわ!

別に平気だって。世界は救われた。みんな救われた! それでいいだろ? いや俺は昨日まで半分死んでたけどね?

でもみんなの応援が力を貸してくれてたってのは事実だ。お陰で何度も立ち上がれたからさ。

母さんを救えなかったことは悔しいけど、力不足を感じるけど、前へ進まなくちゃいけない。

俺は大勢の人に託されて、粒子を掴んだ時、俺に小都音を託す母さんの声も聞こえたから

こんなところで止まってなんていられないよ

 

 

17:名無しの転生者 ID:N5Oswq7Yb

イッチ……

 

 

18:名無しの転生者 ID:Z9leLKzA2

辛いなら辛いって言っていいんだぞ

 

 

19:名無しの転生者 ID:M+VFXjsBO

本っ当に……戦いを終えて、ハッピーエンドにはならずにこんな胸糞悪いの凄いよネクサスというかザギさん。絶対あいつの仕業じゃねぇか

 

 

20:超古代の光の転生者 ID:TIGA+1996

すまない……僕たちがキミの地球へ降り立つことが出来れば、キミに肉親を殺させなくて済んだのに……!

 

 

21:名無しの転生者 ID:tvoI1I+Wm

さらっとティガニキいますね…まぁティガニキのスレ見てたから気持ちは分かるけど

 

 

22:未来から引き継がれた光 ID:Dyna_asuKa

それだけじゃない。気をつけろ、戦いはまだ終わっちゃいない

 

 

23:名無しの転生者 ID:feGGg+oH7

ダイナもおるやんけ、ウルトラマン転生者が三人いる豪華さよ。ところでティガニキとダイナニキはどういうこと?

特にティガニキは謝ってたけど、なんかあったん?

 

 

24:名無しの転生者 ID:llb9GZ7Rr

スレ見てるウルトラマンはいるかもだけど、なかなか見ないからな。むしろスレじゃなくてイッチの世界に行って欲しい

 

 

25:光と絆継ぎし転生者 ID:NEX3_ultra

謝られる覚えないんだけど、どうして?

それに戦いは終わってないって……今回のお役目でバーテックスは殲滅してみんなの勇者システムは回収されたって聞いたんだけど

あっ、ちなみに俺のスマホは勇者システムはアプリ以外関係ないし変身する力備わってないからそのままだよ

 

 

26:名無しの転生者 ID:RAwMZJ20W

勇者システム回収…? 嘘だろ、詰んだかもしれんぞこれ

 

 

27:名無しの転生者 ID:qapcBJ/S4

おま……バーテックスは知らんが、スペースビーストはまだ数体残ってんぞ。星座で融合型に変わったヤツもいるってのに勇者が変身できないのはやばいだろ…!

 

 

28:名無しの転生者 ID:PJjyHMY0u

おいおいやべーよ戦い終わってなかったらイッチ詰みじゃねーか。肉体ボロボロだぞ、こいつ

 

 

29:超古代の光の転生者 ID:TIGA+1996

ごめん、説明してなかった。多分キミと僕たちがいる宇宙は次元が違う影響か時間軸にずれが生じてるらしい。

僕たちはベリアルの野望を打ち砕いたあと、数日くらいしか経ってないんだけど君の宇宙へ向かった。

辿り着ける保証がなかったから時間はかかったけど、たどり着いたとき、宇宙から見る君のいる地球は青い星ではなくて真っ赤に染まっていたんだ。

それこそ、灼熱のように。

見た時は絶句したけど、それどころじゃなかった。

暗雲のような闇もうっすらと膜のように地球を覆っていたからね

 

 

30:名無しの転生者 ID:ZO8rXedTf

地球が真っ赤に…? んな馬鹿な。しかも闇は…ザギさんのか

 

 

31:名無しの転生者 ID:WOmfgxIRF

おい、今は大事な話やぞ。イッチの頭では内容が離れたら理解出来ん。反応するのはあとだ

 

 

32:名無しの転生者 ID:oiVvVpxWg

相変わらずのイッチの評価に草

 

 

33:光と絆継ぎし転生者 ID:NEX3_ultra

おい、人を馬鹿みたいに……。

でも地球が赤くなってるのと何か関係が?

それに暗雲って……アンノウンハンドが力を貸してるってことかな

 

 

34:未来から引き継がれた光 ID:Dyna_asuKa

簡単に言えばその影響かは分からないが、ティガやダイナの力ですら弾かれたんだ。

何かに弾かれた感覚があったら威力を抑えた光線技を放ってみれば、俺たちの光線が跳ね返されて、突入しようにも出来なかった。俺はミラクルタイプでも試してみたが、ワープすることすら無理だった

 

 

35:超古代の光の転生者 ID:TIGA+1996

恐らく、バーテックスの影響だと思う。

それか……裏に隠れてる、真の黒幕がいると見ていいはずだ。

それも僕たちウルトラ戦士の力を凌駕する存在が。

ただこれは僕たちの勘と推測---それとタロウの証言なんだけどそれだけじゃないって言っていた。

彼らも地球を気にして、見ているようだけど他の事件が発生していて人員を割けないらしい

 

 

36:名無しの転生者 ID:F0QOkUAKO

なるほどねぇ…つまり?

 

 

37:光と絆継ぎし転生者 ID:NEX3_ultra

あー…と。つまり……俺は宇宙に出たらタロウに会える…!?

や、やばい…それは緊張するぞ…!

あのウルトラNo.6に会えるなんて…!

 

 

38:名無しの転生者 ID:uwUPPj3sc

なんでそうなったんだよ!

 

 

39:未来から引き継がれた光 ID:Dyna_asuKa

いや、多分地球から出られないはずだ。

弾かれたとき、だいぶ弱まっていたが内部に押しとどめるウルトラマンの力を感じたからな

 

 

40:名無しの転生者 ID:/P6bC2pTY

えぇ……(ドン引き)

 

 

41:名無しの転生者 ID:2b4S19yMl

つまりなんだ、他のウルトラマンの増援は原因は分からないけど結界みたいなやつの影響で不可能で、しかもイッチは地球から出られない?

宇宙警備隊はそれを知っていて、何も出来てない、と。まぁ時代に寄るけど、ゼロはいないのか? ウルティメイトシャイニング、またはゼットが持つベリアルロクがあれば強引に突破出来そうだが……

 

 

42:名無しの転生者 ID:tu+X02UaW

だいぶ弱まっていたウルトラマンの力って……絶対ノア様じゃん。

ということはノアの結界を作ったせいか?

ノア様は何かを危惧してバリアを貼った? それとも時間が無くて全体を覆うように貼った? いつ作ったかは分からんが、ノア様ですら抑え切れなくて今は弱まってるってこと…? え、ウルトラシリーズ最強クラスのノア様ですら無理って何? え、普通にこわ……ゼロ師匠来てくれねぇの?

 

 

43:名無しの転生者 ID:9ptGMeF+x

そもそもザギさんの力もある時点で並のウルトラマンじゃ突破難しいもんなぁ…ダメだ、イッチの情報も多かったがティガニキとダイナニキの情報も多すぎる。

てか、二人はまだイッチのところにいんの?

 

 

44:超古代の光の転生者 ID:TIGA+1996

いや、流石に自分の次元に帰ったよ。というのも……僕たちのカラータイマーも点滅するほど追い詰められたんだ。

あれは一種の迎撃システムかな…それもほぼ未完成だと思う。

僕たちは撤退させるだけで精一杯だったから、あれがこの世界で完成してしまえばどうなるか……そっちの地球へ戻ったところまでは確認したから、どうやら敵は戻れるらしい

 

 

45:名無しの転生者 ID:qDKNybu7O

アレ…?

 

 

46:名無しの転生者 ID:SZbaQI5ff

おいおい…まさかとんでもない敵が潜んでるってわけか? しかもティガとダイナが二人がかりでもほぼ未完成のやつに追い詰められて、撤退させるだけで精一杯はやばいだろ

 

 

47:未来から引き継がれた光 ID:Dyna_asuKa

俺やダイゴさんだけじゃないぜ。あそこにはタロウとメビウスもいたからな。

といってもタロウは俺たちの世界ではなく、この世界。メビウスはベリアルとの戦いが終わって少ししてから俺たちが光の国に要請した結果、来てくれたみたいだったが

タロウの様子を見た感じ、俺たちの次元より歴史は進んでるのかもしれない。ゼロの次元を超える力でも行けなかった…とか言ってたからな

 

 

48:名無しの転生者 ID:CMm5TeV1M

イッチの世界のゼロ師匠はだいたいベリアル銀河帝国は最低でも終わった後ってことか…ニュージェネ組が生まれてるのかは不明って感じかな。

それにしても既にウルティメイトゼロにはなれるゼロ師匠が向かえないって……マジでヤバすぎるだろ。ザギさんが蘇った理由も分からんし、他のウルトラ戦士が向かえない結界みたいなのも分からんし

 

 

49:名無しの転生者 ID:mkruE11PT

しかもティガ、ダイナ、メビウス、タロウですら敵わない敵って…本編メビウスならともかくウル銀終了メビウスやろ? で、ベリアル銀河帝国は最低でも終わってるタロウ教官とほんへは終わってるティガニキとダイナニキ…いやいやその敵なんなんだよ!?

 

 

50:名無しの転生者 ID:5arfLvDFg

それで未完成なんだろ?

え、イッチやばくない? つーかイッチ戦えんの?

 

 

51:光と絆継ぎし転生者 ID:NEX3_ultra

え、俺? あーどうだろ。

多分数回変身したら無理じゃないかなーあはは。

なんか感覚が鋭くなってるのか知らんけど、エボルトラスターを握ってたらウルトラマンの限界、それと俺の限界が近いのが感覚でわかったわ。俺の肉体が全く回復せずにより遅くなってるのもそれが理由だろうねぇ

 

 

52:名無しの転生者 ID:h08Kb5fO4

えぇ……なんでこいつ他人事のように自分のこと伝えられるんですかね……? しかも笑っとるし。

もうダメだ…おしまいだ。スペースビーストは居ること確定してるのに星座がまだまだ残ってるし……戦いは終わってないとか言われてるし、とんでもねぇやつ潜んでるっぽいし…勇者たちの後遺症っぽいのも気になるし……イッチはこんなんだし…

 

 

53:名無しの転生者 ID:ko1DTLGCG

なんでこいつは自分の世界がピンチなのに楽観的な思考できんだ…?

 

 

54:名無しの転生者 ID:or2WRPwCA

多分イッチ考えてること放棄してるだけじゃね?

 

 

55:光と絆継ぎし転生者 ID:NEX3_ultra

まぁまぁ、大丈夫! 俺はひとりじゃないし、俺の傍には常にウルトラマンが居てくれてる。

お前たちもいてくれて、勇者部のみんなも妹もいるんだ。

どんな敵だろうが、この世界は俺が守る。どんな強敵が相手でも、守るために戦うしかないんだ。

それがウルトラマンだろ? 俺は俺に出来ることをやる。勝てるかどうかなんて挑んで見なきゃ分からない!

 

 

56:名無しの転生者 ID:Z+SV/qW0s

……なんか

 

 

57:名無しの転生者 ID:/GNClg+sT

うん、変わったなイッチ。

こう…バカみたいな思考は変わってないけど、なんというか……なんか変わってる気がする

 

 

58:超古代の光の転生者 ID:TIGA+1996

……ごめん。僕たちが手伝えるなら、本当はよかったのに。

正直、あの敵は完成してしまえば僕が邪神や闇の巨人と戦った時のように、『あの姿』になるのが最低条件で、僕以外にも誰かいないと絶対に勝てないと確信出来るほどだった。

いくらジュネッスの力を使えるキミでも、勝てるかどうかは……。未完成でも僕のパワータイプですらほんの少し怯ませるのが限界だったから…

 

 

59:名無しの転生者 ID:LtmQomuRN

ジュネッスブルーには今もなれるかは知らんけど、なれたとしてもな……。未完成だというのに、四人のウルトラマンが勝てなかった敵となると……

 

 

60:名無しの転生者 ID:ZpWCR/6/6

お先真っ暗とはこのことか……

 

 

61:名無しの転生者 ID:sNPYF3wgb

勇者たちも気になるぞ……あれ、満開した代償なんじゃないか?

 

 

62:名無しの転生者 ID:RjJ5xxWqH

人身供物……ってやつだな。勇者たちは花をモチーフにしてるんだろ?

そして神の力を宿して戦う。

なら、もしかしたら勇者の力って……

 

 

63:名無しの転生者 ID:XUMRSkHdh

まさか……いやいや。いくら花がモチーフとはいえそんなことあるなんて思いたくないが……

 

 

64:光と絆継ぎし転生者 ID:NEX3_ultra

なに? なんか分かった?

 

 

65:名無しの転生者 ID:RjJ5xxWqH

いや、確信はない。

不安にさせてもあれだし、気のせいだと信じるわ

 

 

66:名無しの転生者 ID:sNPYF3wgb

仮に代償としても治ればいいがな…

 

 

67:名無しの転生者 ID:XYLY9didz

だぁー! 考えること多すぎぃ!

 

 

68:名無しの転生者 ID:LF9gUwPA/

もう絶望しかないんですけどー……

 

 

69:光と絆継ぎし転生者 ID:NEX3_ultra

あはは。まぁ出来る限り頑張るよ

 

 

70:名無しの転生者 ID:ISojZiSCj

えー……イッチのメンタル強すぎて正直怖いんだけどー…?

 

 

71:名無しの転生者 ID:qarhDAOq3

これで母親殺して救えなかったことに悔しがってたり、最初の頃に至っては目的を見失ってたり罪の意識に苛まれたり悩んでたやつと同一人物とか言われても信じられんぞ

 

 

72:名無しの転生者 ID:w6HkA0RWm

初期の頃に比べて性格変わったように見えるな……これがウルトラマンになった転生者の辿ってきた歴史故の成長か…?

 

 

73:名無しの転生者 ID:kyMsCnvEM

まぁでも…イッチの言ってることも正しいしな。敵の場所が分からないなら、出来ることは何も無いし。

 

 

74:名無しの転生者 ID:y3UhsBExS

それもそうか。

絶望していても仕方がないし今はひとつひとつ問題を解決することが先決。

母親の件はイッチ自身がもう覚悟を決めて、背負ってるようだから…勇者たちの後遺症らしき代償の原因と回復方法と、イッチの肉体の回復について解決せんとな

 

 

75:名無しの転生者 ID:QIlB78vwV

さて…駒をひとつ失ったザギさんがどう来るか…分からんしな

 

 

76:名無しの転生者 ID:O1d48sxAM

あの激戦でも所詮は駒のひとつって……厳しすぎませんかね、イッチの世界

 

 

77:名無しの転生者 ID:aab+NbEov

そもそもイッチのメンタルがおかしいというか……なぁ、イッチは何ともねぇの? お前もなんか色々受けてただろ?

ほら、ファウストの剣の影響とか、その剣に貫かれる前とかさ、いつものイッチの構えでもなかったし。神樹様から光のエネルギー与えられてただろ

 

 

78:名無しの転生者 ID:8hLpd/jVL

あー確かに。勇者がそれならイッチもなんか異常あってもおかしくないよな……隠さずに言えよ

 

 

79:名無しの転生者 ID:g+T+VqrPG

思い返してみればそうだな。イッチの戦い方って堅実な力強さを感じさせる姫矢ネクサス、スピードを生かす憐ネクサス、捨て身。

それと鞭や武器を使うトリッキーな戦い方だし。

……文章に起こすと、ノア様の影響もあるんだろうが戦闘スタイル分けられるイッチやべぇな?

 

 

80:光と絆継ぎし転生者 ID:NEX3_ultra

???

 

 

81:名無しの転生者 ID:Tu9jl0Dmv

なんで分かってないんだよw

 

 

82:名無しの転生者 ID:nKtxd1DsJ

どこに分からなかった要素があった今!?

 

83:名無しの転生者 ID:foYjn8L9R

思考が読めん!

 

 

84:光と絆継ぎし転生者 ID:NEX3_ultra

いや、ごめん。ちょっと理解出来んかった。

見た感じ、視力、聴力、嗅覚と身体能力が底上げされてる以外に異常は…あれ、それが異常じゃね?

まぁいいや。その他には回復が遅くなってる、左が痛すぎて使えん、なんか全身痛い。

それと……昨日目覚める前に記憶ちょっと取り戻したくらいかな? と言っても過去じゃなくて初めてこの世界で意識が芽生えて、海に溺れてて、死ぬってなった時に誰かに引き上げられて助けられたってことだけど。

あとさ、ひとつ聞きたいんだけど、いつもの構えと違ったって? 俺はファウストに貫かれる直前意識なかったし。あのまま貫かれたわけじゃなかったのか?

 

 

85:名無しの転生者 ID:MXuProwV1

おいこいつさらっと重要な情報流しやがったぞ。やっぱ隠し事してんじゃねーか!

学ばねぇな! いい加減にしろよお前!

 

 

86:名無しの転生者 ID:u44DQX/oH

なんか全身痛いって…そもそも生きてるのがおかしいんだよお前は!

てか、助けられたって…お前さぁ、ついにネクサスのデュナミストの過去コンプやめろよ! 狙ってんのか!?

姫矢さんみたく罪の意識に苛まれたり、憐のように捨て身で戦ったり、リコや凪副隊長のように家族無くしてたり、戦う意味が溝呂木とは別の意味の恐怖心(失うこと)であったり、大切な人(イッチの場合母親)がファウストだったり、海でその誰かとやらに助けられたり……マジでお前どうなってんの? 過去詰め込みすぎだろ!

そんな転生者なかなかいねーよ!

 

 

87:名無しの転生者 ID:cLHw63XQ+

しかもこいつ意識なかったのかよ! 反撃してたくせに!

 

 

88:名無しの転生者 ID:fwHqtraUK

まさかの無自覚!

問題が何一つ解決する気がしねぇ!

 

 

89:名無しの転生者 ID:drFcZvPYD

あーもう(情報が)むちゃくちゃだよ……

 

 

90:名無しの転生者 ID:M+Nbm9fQm

今更だけどさぁ、これで中学生ってマジ?

 

 

91:名無しの転生者 ID:SsMg1PR5x

そういやそうでしたね……

 

 

92:名無しの転生者 ID:rneUOj80X

もう情報多すぎて無理ゾ……雑談しよう!(現実逃避)

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日経った夜。

回復することなく、勇者部の誰かが必ずは一日に一回見舞いに来て、学校を休んでいる小都音は毎日来てくれていた。

今日もまた見舞いに来ていて、流石に夜なので帰っている。

消灯の時間で、時間帯は深夜。

眠っていた紡絆は苦しそうな呻き声を漏らす。

 

「う……ぐぁ……あぁ…っ」

 

今までは何ともなかったというのに、凄まじい頭痛と騒音に目が覚め、紡絆は両耳を抑えて蹲っていた。

 

「んだ……こっれ……っ!?」

 

耳から聞こえてくるのは、色んな人の声。

日常の会話。喧嘩の声。怒鳴り声。心配する声。パニックが起きている声。優しい声。会議の声。歌。車の音。忙しそうな音。足音。八つ当たりする音。機械の音---挙げれば挙げるほどキリがない、様々な音や声を両耳を抑えていてもなお、聞き取ってしまっている。

そう、あまりにもの情報の多さに紡絆の脳が処理を追いつかず、キャパオーバーを起こしてしまっているのだ。

 

「や……ばいっ……! 落ち……つけっ…!」

 

意識が朧気になっていき、鼻からは血が流れる。

原因を理解した紡絆は、意識を集中させる。

聴く力ではなく、見る力を。

何の負荷もない見る力に集中するように意識を持っていき、少しずつ静まっていったのか、紡絆は両耳から手を離した。

 

「あ、危ない……」

 

落ち着いたことに安堵の息を吐く。

あくまで継受紡絆という存在はウルトラマンを宿し、ウルトラマンの力を使える人間だ。

いくら一体化によって多少は強化されていても、人間であることには変わりがない。

無意識に情報を取り込もうとすれば、力が完全に制御出来ない紡絆は全力解放されて、こうなるのだ。

 

「はぁ……あんな量流石に聴き取れるわけも分けられるわけもないじゃん…。まったく、なんでとつぜ……ッ!」

 

回復してないというのに、バッと毛布を剥いだ紡絆は傍にあるエボルトラスターを握りしめ、即座に病室の窓を開ける。

その瞬間、エボルトラスターが遅れて鼓動した。

 

「……スペースビースト」

 

睨みつけるように空間を見ると、紡絆はエボルトラスターに視線を送り、強く握りしめた。

 

「ウルトラマン、行こう。みんなが居なくたって、俺は守れる。だから彼女たちの日常を守るために!」

 

『---』

 

「大丈夫、俺も生還して絶対に---うん?」

 

逃げても世界が終わるならば、紡絆は挑まなくちゃ行けない。

だからこそ、みんなを守るために戦いに赴こうとして、また違和感を感じる。

 

(……気のせいか?)

 

しかし考えても分からない。

もうすぐスペースビーストが現れるということは()()()()()()()ため、紡絆は気のせいだと思い込んで、窓から飛び降りた。

 

「来る……!」

 

エボルトラスターを引き抜き、病室の窓から落ちながら紡絆はエボルトラスターを高く翳した。

その瞬間、紡絆の肉体は光り輝き、遺跡へ召喚される。

さらに召喚されるのと同時に()()()()()()()()()()()()()()()()が光の中から現れ、アンファンスの状態で地面に降り立った。

目の先にいるのは、一体のスペースビースト。

しかし、その出現はやはり、戦いは終わってないということの証明だった---

 

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/令和の志々雄真実(!?)
身体能力が上がっているらしく、無意識に出来てたのが意識しなければ不可能になっている。
何かに違和感を感じているようだが……?
そして孤独な戦いが今、始まる……!

〇ウルトラマンネクサス
なんか驚いたらしい。
エナジーコア鳴ってるけど頑張れ、ウルトラマン

〇ティガニキ
本編終了後ダイゴ。
ウルトラマンとして生きることを選んだティガニキだが、ウル銀を終えた後に探し回ることでようやく見つけ、ダイナとメビウスと共に紡絆がいる地球へ侵入しようとするが、弾かれる。
その後に様子見で来たタロウと会話をし、強大な力を持つ敵が迎撃にきたため、相手をするが追い詰められたらしい。
ティガニキ曰く、自分だとグリッターになるのが必要最低条件とか。
詳しくは番外で描く予定

〇ダイナニキ
ウル銀終了後。
(ザギ+ノア+???)かは分からないが、少なくともザギさんのみ確定謎のチートバリアにチートで有名なミラクルタイプでも突破出来なかった。
なお、この後ダイナニキは暫く石化する模様(サーガ)

〇紡絆の宇宙のウルトラマン
最低でもベリアル銀河帝国は終わっており、M78星雲は存在している。
そしてベリアル銀河帝国が終わってるということは、ネクサスが既に居ることからギャラクシーインパクトはだいぶ前に起きており、この世界にもティガとダイナ、ガイア、コスモスといった別時空戦士はいるぞ!
が、ニュージェネ組は不明。
でもゼロ師匠が来れない理由としては、時代的にゼロは今頃力について怪獣墓場で悩んでると思うんですけど(名推理)



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「-新たな脅威-オーシャン」

 

◆◆◆

 第 28 話 

 

-新たな脅威-オーシャン

 

 

同情(心遣い)

アルメリア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネクサスが駆ける。

相手は一体のスペースビーストであり、蜘蛛のような外見をしていた。

ネクサスは突進し、ショルダータックルを試みるが、同じく蜘蛛のようなビーストもネクサスと同じ行動を取り、ネクサスが弾かれるように押し負ける。

すぐにネクサスは反転して手刀を打ち付け、反撃に振るってきた両腕の蜘蛛の脚のような腕を避けると、バク転で距離を離す。

 

 

 

 

 

 

 

301: 情報ニキ ID:JoUHou2in

沢山の節足を持つ蜘蛛のような姿をしていることから、EPISODE29。大怪獣バトル5話、ウルトラ銀河伝説にも登場するアースロポッドタイプビースト、バンピーラ!

見た目通りの蜘蛛を思わせるような能力を多く持ち、口や尾から白く発光する糸を吐くが、その糸はウルトラマンですら解けないほどで、ディレクターズカット版ではコアファイナルでようやく解くことが出来たほどの強度を持つ!

さらにそれらを戦闘で用いる他、体からはビースト振動波を遮断する霧を放出する事も可能であり、これを使って逃走も行えたり地響きを起こし、霧状の気体を拡散して身を隠す能力までもある!

 

 

302:名無しの転生者 ID:smX7Ye9+c

いやちょっと待て! 気をつけろ、こいつバンピーラじゃねぇぞ!? だってバンピーラの色は肌色に近い色だ! こいつは真っ黒に染まってやがる!

 

 

303:名無しの転生者 ID:LlsSPx24X

既にバンピーラじゃない! もう融合型へと進化してやがる! 今度は黄道十二星座を抜いた76星座のうちの一つか!?

バンピーラ・クロウと言ったところか……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのビーストは、バンピーラ---否、融合型昇華獣へと昇華しているバンピーラ・クロウ。

ネクサスは目で理解した。

継受紡絆という人間は他の知識は致命的に無さすぎる割に星に関連する知識だけは豊富にあり、見ただけで一瞬で特定する。

 

『………!?』

 

クロウが跳ぶ。

両足で跳躍し、ネクサスの頭上を飛び越えた。

ネクサスはクロウの姿を目で追い、驚愕した。

理解はしていた。

星座の名前を特性として身につけていると考えるならば、考えられることだった。

しかし、あれは予想外にも程があった。

クロウの背から生える、ふたつの翼。それを広げ、飛んでいた。

黒い翼はパンピーラというスペースビーストの体重を支えられるようにか、大きい。

 

(からす座……の規模じゃ、ない……!?)

 

そう、取り込んだ星座はからす座。

だが、あまりにもの大きすぎる。

まるで翼を広げるその姿は、()()()()()だと思えてしまえるほどに。

 

『っ…! シュワッ!』

 

呆気に取られてる場合ではない。

クロウが向かう先は、あのノアの結界が貼られていると推測される遺跡のオブジェクトを目指していた。

あれが破壊されてしまえば、ロクでもないことが起きるに違いない。

ネクサスは即座に地面を蹴り、クロウを追い始めた。

ネクサスの上昇したスペックはクロウの後を捉え、パーティクルフェザーを乱発するが、クロウはなんと見えていないにも関わらず全て避けて見せた。

それは、超音波。

本来ならばコウモリやイルカなどが備える超音波のはずでカラスには持っていないはずなのだが、スペースビーストと黄道十二星座じゃないとはいえ未完成バーテックスの特徴を持つのが融合型。

そのふたつの種族のことを考えれば、必要なものを学習し、成長過程として持っていたって不思議ではない。

そして凄まじい機動力を見せるクロウに驚く暇もなく、ネクサスに直線的に放たれた糸を回りながら進むことで避け、ネクサスは加速して掴みかかる。

 

『デアッ! デェア!』

 

手刀を何度も背中に打ち付け、クロウの体勢が大きく崩れると地上に落下していき、ネクサスは背を蹴ることで無事に着地する。

どうやらギリギリ間に合ったようで、ネクサスの背後にはオブジェクトが存在していた。

クロウが起き上がり、邪魔な翼を戻すと一直線にネクサスに突進し、ネクサスは両腕を突き出すことで受け止めるが、後退させられる。

すぐにクロウが腕を振るい、ネクサスは右手で捌き、左足で腹目掛けて蹴りを放つことで距離を引き離した。

 

『シュ……ぐぁ!?』

 

怯むクロウに対して、ネクサスがさらに距離を離すために左拳を突き出そうとすると、突如として動きが止まって左肩を抑えてしまう。

そこへクロウが迫り、腕を下から振るってネクサスに攻撃をすると、ネクサスの体が宙に浮き、空中で上下に半回転しうつ伏せに地面へ落ちた。

 

『う…ぐぅぅ…。シェアッ!』

 

向かってくるクロウにネクサスは横へ転ぶことで視界から逸れ、その勢いのまま起き上がると右手を勢いよく斜めに振るい、抜刀するような構えをとる。

エネルギーか行き来し、手に光が纏われた。

 

『-----!!』

 

『---フアッ!?』

 

光線を放とうとしたネクサスだが、クロウは蜘蛛のような口を動かし、何かを発する。

さっきネクサスの攻撃を避けるために超音波で認識していたものを一種の特殊な音波としてネクサスに発したのだ。

それはネクサスの行動を妨害し、思わず両耳を抑えていた。

そこへ放たれる、白く発光する糸。

動けないネクサスは防ごうとしたのか手を伸ばすが、まともに喰らってしまい、両腕が腰に固定された状態で体を糸が包み込む。

さらにクロウは収納した翼を広げ、高速でネクサスの周りを飛びながら白く発行する糸を口から吐いてネクサスの頭から足まで全身を覆う。

それこそ、繭のように。

全身を包まれたネクサスは立つことがままらず、再び地面に倒れる。

剥がそうともがいてるようだが、クロウの糸は凄まじくネクサスのスペックを活かしてもなおビクともしない。

 

『---!』

 

『うぁ…! ぐぁああああ!?』

 

そんなネクサスに対して、容赦なくクロウは鋭い脚のような腕を勢いよく振り下ろし、グサグサと次々に突いていく。

苦しむようなネクサスの声が周囲に響くが、助けてくれる者も聞いてる者も誰もいない。

ただそれでも大したダメージにならないことに気づいたのか、クロウはネクサスを持ち上げ、両翼を広げて一気に上昇。

遥か空まで辿り着くと、ネクサスを落としながら自分自身も高速で下降する。

両腕を合わせて、速度を加えることにより、ネクサスを貫くべく。

 

 

『---デェアアアアァァァ!』

 

何も分からないが、ただ浮遊感を感じるネクサスは空中にいるのだろうと察し、点滅を繰り返す胸のコアゲージが光輝く。

全身が光り輝き、糸を破壊しながら現れたネクサスはクロウの存在に気づいた。

するとネクサスはアームドネクサスを十字に交差し、左手で右腕を上から下に撫でるように添えると、エネルギーを纏った右腕を引き絞る。

そして距離とタイミングを測り、勢いよく右手に()()()()()拳を振り抜いた。

瞬間、クロウの両腕と炎がぶつかり、薄い炎の柱がクロウを遥か先までぶっ飛ばしていく。

それは本来()()()()()()()()()

その炎の温度は、1億度を有する。

 

『ハァッ……ハァ……ッ』

 

しかしネクサスの消耗も大きく、肩で息をしながら赤きジュネッスへとタイプチェンジしていたネクサスのコアゲージがかなりの速度で点滅し、ネクサスは敵を見据えて一気に加速する。

 

『シュアァァ!』

 

ネクサスが辿り着いた時、クロウの両腕は溶けており、再生をしながらもダンゴムシのように体がひっくり返っていて、起き上がれていなかった。

そこに容赦なくネクサスは掴みあげ、くるりと回りながら投げる。

受身を取る事も出来なかったクロウは苦悶しているが、ネクサスはアームドネクサスを十字に交差する。

すると手首に青い輝きの粒子が纏われ、弧を描くように大きく右腕を回しながら左腕を体ごと右側へと捻り、右腕を少し後ろの方から胸のエナジーコアの傍で拳を上にして左手を腰に固定した。

 

『デヤ---ッ!?』

 

後は拳に纏われる青いエネルギーを空に放つだけ。

しかし、上空へ腕を伸ばしそうとしたとき、()()()()()()()()()()()()がメタフィールド展開前のネクサスの()()に直撃してネクサスが一気に吹き飛んだ。

 

『う……ウワァァァアアア!?』

 

未知の攻撃に警戒しなければならないが、それどころではない。

ただでさえ動かすと痛い左肩に直撃した光弾は凄まじい痛みを与え、左肩を抑えながらネクサスは周囲を睨むように見て、探る。

 

『……!? シュ……』

 

すると、その敵は現れた。その姿を見た瞬間、ネクサスは驚く。

クロウを力づくで起き上がらせ、ネクサスとほぼ同身長を誇る巨人。

否---

 

 

 

 

 

 

442:名無しの転生者 ID:dWpfBxkeN

わ、忘れてたぁぁああああああ!

色んなことがありすぎて存在を忘れてた! やべぇ、イッチがまずい! つーかメタフィールド貼ってないのにコアゲージの点滅が速スギィ!

 

 

443:情報ニキ ID:9k+infor1

ファウストと同じ、ウルティノイドのひとり!

Episode.14からEpisode.18、Episode.24、Episode.32に登場する闇の巨人だ!

名前はダークメフィスト!

こいつはメタフィールドもなしにダークフィールドを展開できるうえ、右腕のアームドメフィストには鉤爪状のメフィストクローを所有している!

能力はファウストとそう変わらないが、実力は間違いなく高いぞ!

通称、黒い悪魔だ!

 

 

444:名無しの転生者 ID:tqG4WugFF

この感じ、クマさんじゃねぇ…! それにティガニキたちの言葉から察するに過去のデュナミストたちや暗黒適能者は既に生きてないからありえないし……。

一体何者だ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い瞳に、赤と黒の体。

所々に銀のラインが入っているだけでなく、背骨や肋骨状のモールドに意匠を入れている他、胸にはネクサスのエナジーコアに似た模様も刻まれている闇の巨人---ダークメフィスト。

新たな脅威の登場だった。

 

『シェア……』

 

『……フッ』

 

コアゲージが鳴る中、最大限の警戒をして、ファイティングポーズを取るネクサスに対してメフィストはただ笑う。

 

『……?』

 

まるで戦う様子が見られない。

敵意も殺意もなく、融合型すら何も仕掛けて来ないことに疑心を抱くと、メフィストは手を前に突き出す。

何が来るのかとネクサスは両腰に両腕を持っていき、バリヤーを貼れるようにした。

しかし---

 

 

 

 

 

 

 

 

『そう警戒するな。今日は戦うつもりはない』

 

『ヘッ……!?』

 

メフィストの口から語られたのは、そんな言葉だった。

明らかに有利。今のネクサスはどれだけ変身を保てるのかも分からないほどだというのに、メフィストは未だに構えることしていなかった。

 

『あくまで顔見せに来ただけだ。

次から始まる、デスゲームのための、な。お前が抗い、生きるか……それともオレたちに敗北し、世界が滅びるか---せいぜいオレを楽しませてくれよ、ウルトラマン』

 

『……ッ!?』

 

言葉が話せたなら、待て、と言っていただろう。

ネクサスが手を伸ばすが、メフィストは振り向き、指示したのかクロウが霧状の気体を拡散する。

ネクサスはアームドネクサスで勢いよく振るい、突風で一気に消し去るが、既にそこには誰もいなかった。

 

『…………』

 

その証拠に、遺跡のオブジェクトが光を発するとネクサスの体が光に包まれる。

現実世界へ転移される前兆だろう。

新たに現れた、ダークメフィストという敵。目的の見えない敵。

今ここで戦えば、デスゲームとやらは決着がついただろう。しかしそんなことはしなかった。

まるで、娯楽を求めてるかのように。最大限楽しんだ後に、全てを終わらせるつもりなのかもしれない。

だからこそ、戦いをゲームに例えることに、ネクサスは拳を握りしめていた。

みんな必死に戦って、自分も戦って---勇者たちは身体機能を失ったというのに。

逆にゲームだったら---それはどれだけよかったか。

さらに、逃した融合型昇華獣。

正直、強さとしては呆気なさすぎる。いくら黄道十二星座ではないとはいえ、様子見なのかもしれない。

何はともあれ、問題はメフィストと---戦おうにも、やはりエネルギーと肉体の問題が大きすぎる自分自身だった。

 

『……フッ、シュアッ!』

 

考えることが苦手だと言うのに、考えることが多い。

しかし今はこのままでは現実世界が大騒ぎになってしまうので、ネクサスは両腕を下方でクロスし、両腕を胸元で引き離すと、ネクサスの体は縮み、転移とともに紡絆は海岸に転移させられていた。

ドクン、と小さく鼓動音が聞こえる。

 

『----』

 

「ごめん……また、無理させた……」

 

一瞬だけエボルトラスターを見つめ、紡絆は自分のことよりウルトラマンを心配して謝ると、紡絆は意識を失ったのか前方に倒れる。

クロウにやられた傷と大ダメージを受けた左肩からは血が出ており、このままでは病院から抜け出したという意味でも怪我の意味でも不味い状況。

だからか、紡絆は何もしていないというのにブラストショットからストーンフリューゲルが召喚されると紡絆の中へ収納し、ステルス化すると中で紡絆の傷を癒そうとしながら病院へと急行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

あの日の出来事の朝。

ストーンフリューゲルのお陰で脱走したことを誤魔化せた紡絆は何もなかったかのように小都音と話したり世話をされる他に暇をしていたが、ようやく退院出来た。

容態が悪くなることもなく、経過としては順調。

退院を認められたため、退院出来たということだ。

まあ大赦が関わってるのが一番の理由なのだろうが、せいぜい言うならば、毎日と言えるくらいに血を多少抜かれたくらいだ。

それはさておき、新たな融合型昇華獣のことも、メフィストのことも、誰にも話さなかった紡絆は例のアレで対策会議を開き、やけに真剣にしてくれるという珍しい事態が起きたが、流石に状況を知ってふざける余裕がなくなったらしい。

 

(それに夏凜がここにいることを承諾してくれたらしいし、合宿先を用意してくれたし、良いことばかりだな)

 

自分に関しては傷が増えたりダメージが増えたといった悪いことしか起きてないのだが、無駄にポジティブな紡絆の心は明るい。

そしてさらっと必要な情報を心の中で呟いた紡絆だが、今彼らは海へ来ている。

夏といえば海。

夏休みへと入り、バーテックスと多くのスペースビーストを倒したご褒美として、大赦が用意してくれたのだ。

で、ぶっちゃけ特に準備することがない紡絆はパラソルを建て終えて暇しているだけである。

一応水着は着ているが、泳ぐことを禁止されてる紡絆はパーカーを着ているのであんまり意味もない。

とにかく暇すぎて眠い、寝たいという怠惰な欲すら出てくる。

割とどうでもいいことを述べるならば、中学生にしては元々筋肉がついていた紡絆だがウルトラマンになって戦ってきた影響か、中学生とは思えない筋肉があった。

ついでにその筋肉を見てホモが現れたので紡絆は脳内の情報をカットした。

 

(……それにしても()()身体能力が上がってる…。ただでさえ制御するだけで精一杯なのに、これ以上上がられるとなぁ。確かに出来ることが増えるのはいいことなんだけど)

 

ため息をひとつ零し、少し前よりも見えるようになった視力を調整して普段通りに戻すと、暇な紡絆は空を見た。

もう目覚めたばかりの頃に比べて数日経っていて制御出来るようになってきている。

しかし軽く透視能力を使ってみるが、何も見えない。

そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

以前言われた、地球を覆っているものが何なのか、うっすらとした闇と、赤く染った地球。

その意味を知るためにも透視能力を使っても見えないのである。

それどころか太陽や星々が見えて宇宙が見えないのはどういうことか。

考えても紡絆の知能では分かるはずもなく。

結局やることがなくなった紡絆は透視能力を解除して欠伸をする。

 

「---兄さん」

 

「ん?」

 

欠伸をする紡絆に対して、背後から優しい声で呼ばれる。

紡絆のことをそう呼ぶのは一人しか居なく、来たということを理解した紡絆は振り向いた。

振り向いた先にあったのは、色とりどりの水着に身を包んだ勇者部のメンバーたちが並んでいた。

 

「ふふん、どうよ、待った甲斐があったもんでしょ? 何か言えるなら言ってみなさい」

 

得意げな顔をした風が紡絆に向かってそんなことを言っていた。

だが、あながち間違ってはいないだろう。

勇者部は全員が美少女とも言えるほどの美貌を持つ。

そんな彼女たちが水着に身を包んでいる。

普段とは違う装いで、露出も高くなっていて、となれば、その破壊力は一体どれだけのものなのか。

いくら鈍くバカでアホな紡絆にも精神的に成熟していようが、肉体は思春期の男子。

流石に---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、みんな似合ってるな。凄く可愛いと思う。それぞれに合っていて色も良いしみんなの魅力が引き出されてるって感じ。こんな透き通っている海にも負けないほどに、みんな綺麗で可愛いらしく、星のように輝いていて華がある姿だと思いますよ」

 

すっっごく普通だった。

気恥ずかしくなることも顔を赤くすることもなく、狼狽えることも無く目を逸らすこともなくただ純粋に感想を述べる。

一切の恥ずかしげもなく。

むしろ聞いたはずの風が頬を赤め---というかこの場の勇者部の女性メンバーが顔を赤くしていた。

そもそも今の言葉は普通に考えて他人でもなく唯一の異性であり、信頼している一人の男の子から言われたのだ。

恋愛的な意味かは定かはではないが、少なくとも友達として家族としてこの場の全員が紡絆に好感を抱いており、そんな異性に恥ずかしげもなく、嘘偽りない言葉で言われれば照れてしまうものだろう。

思わず口を開けようとした全員が黙ってしまうが、自分から聞いた風は無言はマズいと思ったのか誤魔化すために口を開いた。

 

「あ……あはは…そ、そうよね! 女子力の塊みたいなもののあたしに水着と海が合わさったらざっとこんなもんよ。

色んな男からナンパされちゃったらどうしよう、困っちゃうわ〜…」

「あぁ、なら俺が守りますよ。確かに風先輩だけじゃなくて、みんな魅力的ですしね。されても不思議じゃないですから、みんなは俺が守ります」

「な、なななな………」

 

口を何とか開いたが、まさかの追撃。

真っ赤になるほど顔を赤める女子部員たちがいるのだが、何かを呟く風と妙に静かなみんなの姿に紡絆は不思議そうに首を傾げる。

 

「なな…? 同じ言葉ばかり言われても分からないです。あ、風先輩、顔赤いですしもしかして夏バテですか? ちょっと熱計っても----」

 

「な、なんでもないからぁああああ!」

 

「え、えぇ……?」

 

まさかと思って近づいたところで、ついに限界を迎えたのか物凄い速さでは叫びながら海へ走っていき、その速さはより強化された動体視力を持つ紡絆でも目を剥くほどだった。

 

「なんだったんだ……? てか、みんなも赤いけど、大丈夫か? 全員楽しみすぎて熱でも?」

 

無自覚とはなんと恐ろしいのか。

困惑しながらも、振り向いた紡絆は他のみんなにも声をかける。

 

「だ、大丈夫だよ!」

「え、えぇ。少し落ち着いたし平気」

「そ、そうね。驚いただけだから」

『紡絆先輩、ずるいです…』

「??? 大丈夫ならいいけど」

 

みんなの様子にただ疑問符を浮かばせるが、別に無理してる訳でもなさそうなので紡絆は気にしないようにした。

すると、紡絆の目の前に小都音が来た。

 

「お兄ちゃん……」

 

「どうした?」

 

珍しく人前では中々呼ばない呼び方をする小都音に紡絆は優しく問いかける。

ちなみに小都音はチャームポイントであるアホ毛を隠さないためか、白い模様が入っている青色のリボンを横に身につけている。服装の方はと言うと白いビキニの水着に黄色のフリルがついており、ボトムには紐ではなく、オレンジ色のリボンに中心には星が入ってあるのが特徴的な格好だ。

ちなみにさっき逃げるように走っていった風はオレンジ色のビキニとボトムにハートマークがある水着で夏凜は同じく白と赤のビキニに、ボトムは白の水着。

樹だけは若草色のがメインに、胸の部分は黒く真ん中には白いリボンがあって、黄色い斜線が入っているワンピース型らしい。

友奈と東郷はフリルがついてあるビキニの水着だ。

 

「私の水着……」

 

「ああ、似合ってるぞ?」

 

小さく呟かれた言葉に感想を聞きたいのかと思ったようで、さっき言ったため、今度は短く感想を述べる。

 

「そ、そうじゃなくて……それも嬉しいけど…! と、とにかく兄さんは私の水着以外見ちゃダメ!」

 

「いや無理だろ」

 

しかし次に告げられたのはまさかの見てはいけないという発言。

それに対して、紡絆は冷静に返した。

海に居る限り、絶対視界に誰かの水着が映るのだ。

珍しく正論だった。

 

「まったく、急にどうしたんだ? 今日、みんな様子がおかしいぞ」

 

「に、兄さんが原因だから! もうっ、口説いちゃダメ!」

 

「いや、俺はそんなつもりないが……てか、冗談抜きで小都音も含めてみんな容姿良いし水着がまたみんなの魅力を引き立て---」

 

「だからこれ以上はダメーッ!!」

 

「むごっ!?」

 

ようやく落ち着いてきたというのに、またしても無意識に褒めようとする紡絆の口を小都音が両手で抑えた。

しかし間に合わなかったのか、この場にいない風と問題ない小都音以外、ようやく引いてきた熱がまた集まっていた。

 

「皆さんは先に行っててください!」

 

「う、うんそうだね。風先輩も一人にしちゃってるし!」

 

「ええ、そうしましょう。紡絆くん、先行ってるから」

 

「まったく……そうさせてもらうわ」

 

『し、失礼します』

 

むごごごごごごごごごこごごごごー!(大丈夫だと思うけど気をつけてなー)

 

熱を冷ますためか、海へと向かっていく姿を紡絆は何を言ってるのか分からない状態で手を振っていた。

口を抑えられてる割には余裕そうである。

 

むごむごむごむごむご?(そろそろ離してくれない?)

 

「ダメ。お兄ちゃんは私以外見ちゃダメなの。口説いちゃダメなの!」

 

むごーむごむごむごご(いやーそんなつもりは)

 

「むーえいっ!」

 

「むごー!?」

 

もはや『むご』としか喋っていないのに何故か会話が成立しているが、小都音は頬を膨らませ、手を離すと自身の胸もとに紡絆を抱き寄せた。

流石に押し付けられるようなことになれば呼吸出来なくなるため、紡絆は離れた。

 

「ちょ……流石に窒息する!」

 

「だって……っ」

 

「何に怒ってるんだ?」

 

「……怒ってない」

 

ふん、と顔を背けながら頬を膨らませる姿を見て、紡絆はそれは無理があるんじゃないかと思った。

しかし原因は分からない。

紡絆からすれば、本当に思ったことをみんなに言っただけだ。

 

「分かった。いや何が悪いかは分からないけどさ、ほら、一緒に行こう」

 

紡絆は手を差し伸べる。

何処か怒ってるというより、拗ねている小都音に対して。

そんな彼女は横目で一度見ると、再び背ける。

 

「…せっかくこんな楽しいところに来たんだ。樹ちゃんと遊ばなくていいのか?」

 

びぐっと僅かに反応し、アホ毛が揺れる。

どうやら本当に拗ねてるだけで楽しみではあるらしく、紡絆は苦笑すると最終手段を使った。

 

「俺に出来ることならなんでもするからさ、機嫌直してくれ」

 

「……本当に?」

 

そう言うと、小都音はじーっと真剣な表情で紡絆を見つめ、アホ毛はピンッと立っている。

それに紡絆は頷く。

 

「出来ることならな」

 

「……じゃあ、褒めて」

 

「……んん?」

 

予想外の言葉に、紡絆は困惑を隠せなかった。

何か別の要求をされるのではと思っていたのに、褒めるように言われたのだ。

 

「えー……と。普段とは違う印象を受けて、俺は今の小都音も魅力的だと思う。その水着も似合ってるし、まだまだ成長を感じさせるというか、下手に着飾ってなくて年相応って感じで可愛いと思うぞ」

 

「んー……うん、許してあげる。もうちょっと語彙力欲しかったけど、お兄ちゃんだし」

 

「え、実の妹にすら俺ってバカにされてる?」

 

小都音は僅かに頬を赤めてるが、お気に召したらしい。

おそらく紡絆にちゃんと個人的に褒めて欲しかったのだろう。

なお、紡絆は分かっていなかった。

 

「ほら、行くよ、お兄ちゃん。樹ちゃんを待たせちゃダメだよ。私の友達なんだから、優しくしてね、何かしたから怒るからね! あっ、 私になら何してもいいよ。お兄ちゃんが望むなら私は---」

 

「えぇー……」

 

自分は一切悪くない気がしたが、やはりよく分からないと紡絆は諦め、最後の部分を冗談だと聞き流しながら手を引っ張られて連れて行かれる。

が、海で遊べない紡絆は砂浜で座り込み、ただみんなのはしゃぐ姿を見ているだけだったが---これも日常かとポジティブに考え、微笑ましそうに観戦しつつ何かあったら助けれるように目を離さないようにしていた。

完全に親目線だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

500:名無しの転生者 ID:BCLLsAF60

おいおい見てたか? さっきカウンター

 

 

501:名無しの転生者 ID:kXleZn6uP

なんやねんこいつ……ヤバすぎる。イッチ強い(確信)

 

 

502:名無しの転生者 ID:fmc42J23y

水着姿最高すぎん? そしてイッチ強すぎん?

 

 

503:名無しの転生者 ID:V9dtB7Ngz

あれ無自覚ってマジかよ……

 

 

504:名無しの転生者 ID:zhbgk4QI2

ガチで天然たらしにも程がある…イッチの言葉って嘘でもないしお世辞でもないのがなぁ

 

 

505:名無しの転生者 ID:3p2GJOT/w

もうそのまま幸せになってくれ。頼むから戦わなくていいよ…もういいじゃん。頑張ったじゃん

 

 

506:名無しの転生者 ID:gArWXw1If

最初はイッチふざけんな!しね!だったのにな…普通に幸せになって欲しいんだが

 

 

507:名無しの転生者 ID:AeDnrPQcI

掲示板のやつらすら改心させるとかイッチ聖人では?

いやウルトラマン宿してるからあながち間違いじゃねーや

 

 

508:名無しの転生者 ID:OD+xT4phz

イッチというよかこの世界がヤバすぎる影響だけどね。あの戦い見てただろ?

アレより酷い状況で今度は一人で戦わなくちゃいけなくって、ティガニキ、ダイナニキ、メビウス、タロウですら勝てない隠れた敵…。

それに融合型に…まぁなんか俺らですら知らん謎のファイヤーパンチしてたけど、大打撃与えたのそこだけ。

さらにメフィストが出てきたんだぜ? しかもティガニキとダイナニキのお陰でネクサスは終わってること確定したから溝呂木ではない別の誰か。

イッチの肉体はボロボロでエネルギーも体力も全くない

 

 

509:名無しの転生者 ID:n5HRK6JKq

登場時からエナジーコア鳴るほど消耗しているのにそこにメフィスト追加はいやーきついっす。

しかもあの感じ、イッチをいつでも殺せる余裕があるというか…まあスペックとイッチの状態考えたら当然だけど。イッチはダークフィールド展開されたら回避できんしな

 

 

510:名無しの転生者 ID:Ik+zpRAiJ

なんで他のウルトラマンが入れないんですか(半ギレ)

 

 

511:名無しの転生者 ID:xJ1zeJONY

神様仕事しろ。

いや仕事してたわ…そういえばイッチの世界の神様めっちゃ仕事してくれてたわ…。

なんの神かは知らんが、神である神樹様が居ても無理ってなんなんだよほんと

 

 

512:名無しの転生者 ID:lPACpYlGj

そういえばイッチは海入らんの?

 

 

513:名無しの転生者 ID:kdK2/1UYP

ま、怪我治ってないし。

その状態で海はただの拷問やで。今のイッチだと余裕で死ねる

 

 

514:名無しの転生者 ID:ZLpBUQnXS

水着姿みんないいっすね〜普段とは違う印象受けるというか、露出が増えてえちち!

 

 

515:光と絆継ぎし転生者 ID:NEX3_ultra

>>512

怪我残ってるというか増えたから余計にむり

医師にもみんなにも絶対禁止って言われてるし、流石に海水は無理かな…眺めてるだけでいいよ。風呂程度なら痛いくらいで問題ないが。

あと俺は口説いてないぞ。ずっと思ったこと口にしてるだけだし

 

 

516:名無しの転生者 ID:AAOZo8VzK

うーんやばい(確信)

 

 

517:名無しの転生者 ID:Ob0O9xioK

お前の場合それが口説いてることになるんだよなぁ…

 

 

518:名無しの転生者 ID:Uv3pqKjsk

あんなスラスラとあのような言葉を言えるの本当に凄いよ……

 

 

519:名無しの転生者 ID:pMFl0iNWE

まぁ、今は戦いに関しては忘れて楽しんでおくのがいいかもな

 

 

520:名無しの転生者 ID:BxnEp9D0r

この世界鬼畜すぎて次いつ来るか分からんし……

 

 

521:名無しの転生者 ID:4Qa9kVusl

それにメフィストの言葉からして次は襲ってくるからな。デスゲーム…って言ってたしさては溝呂木の闇の部分を受け継いでいるな?

 

 

522:名無しの転生者 ID:hnciipTQv

闇の部分じゃなくて光の部分を受け継げよ、なにしてんだよメフィスト

 

 

523:名無しの転生者 ID:v1wAKfj7O

絶対ザギさんの仕業なんだよなぁ…

 

 

524:名無しの転生者 ID:E+9/OExGK

ちょっとほんと、ティガニキや他のウルトラ戦士こっちの世界来てくれませんかね、来れない?

 

 

525:名無しの転生者 ID:JLirnhZTt

ウルトラマンの転生者居ても自分たちの次元守るので精一杯な場合あるしなぁ……

 

 

526:名無しの転生者 ID:WnuNjH9mf

うーんせめてイッチの世界にニュージェネ組が居たらな……

 

 

527:名無しの転生者 ID:JYC+yuPmK

ジードとかは居たら来てくれそうだけど、多分タロウ教官がクライシスインパクトのことを何一つ言ってなくてタロウ教官自身も無事ってことはニュージェネ前くらいだろうしダメそうですね……。

エックスまで終わってるならゼロのウルティメイトやシャイニングの力でも入れなかったっていうのが正しいし

 

 

528:名無しの転生者 ID:BhWfUyRYc

そう考えるとゼロ師匠も多分怪獣墓場で悩んでるのかサーガ中のどちらかだろうな。

仮に違ってもニュージェネ組が誕生してない時点でこの後ダークスパークウォーズ始まって大半のウルトラマン消えるしな…

 

 

529:名無しの転生者 ID:+DMvrFj9h

え、何この世界というか次元…? イッチに厳しすぎる……結局協力無理じゃん。もしギンガ誕生してなければ何故かネクストになってたノア様は今イッチと共にいるからともかく、一切姿が見えなかったジョー二アスにグレート、パワード、ネオス、セブン21、ゼアス、アグル、ナイス、マックス、ゼノン、ヒカリ、ゼロ師匠以外スパークドールズ化確定やん…

 

 

530:名無しの転生者 ID:8EkGnjyhA

なんかそのせいかイッチが勇者部の子と仲良くしてるの見てるとこう、胸になにか感じるようになってきた。今までは羨ましい!なのになんかこう…なんだろう

 

 

531:名無しの転生者 ID:zwoJCQdfo

イッチは勇者部のみんなと平和な時間を過ごして欲しいって願うようになってきた…

 

 

532:名無しの転生者 ID:E3RGMFWCY

そうか……俺たちが感じるこの気持ち、この感情はさては……尊さだな?(名推理)

 

 

533:名無しの転生者 ID:nJGoHklRT

なんだかんだ、イッチってここでも向こうでも中心になってるしねぇ。始まりはアレだったけど、俺達もイッチのこと知ってきたし、今じゃ嫉妬するより応援しか出来ねぇよ…だってもうエグすぎるもん。生きて(切実)

もうとにかくザ・ワンやザギさんが復活した原因も気になるけど今を楽しんで欲しいもん

 

 

534:名無しの転生者 ID:47scP8HZG

そういや本当にザ・ワンはどうなったんだろーな

 

 

535:名無しの転生者 ID:dNczSFVQc

なんかニュースとかないのかな。ほら、新宿大災害みたいな

 

 

536:超古代の光の転生者 ID:TIGA+1996

>>524

ごめん反応遅れた。

 

せめてイッチくんの情報とか地球や戦力が割けないのか、対策とかないのかどうにかならないのかそっちの世界の光の国に確認しに行きたいんだけど、今は無理だ。

少なくともタロウ以外にも時間があれば確認してバリアのようなものを突破しようとしてるらしいという情報だけは最後に伝えておくよ。

本当にごめん、こっちの次元で事件が起きてるみたいで探りたくても無理なんだ

僕の居る火星にもロボットとゼロに似た巨人が攻めてきた

 

 

537:名無しの転生者 ID:pkO5Pg6GG

それ、ベリアル銀河帝国じゃね?

 

 

538:名無しの転生者 ID:dwFpZUkaj

イッチの次元とだんだん歴史近づいてんな…それはともかく、確かに新宿大災害のような事件があれば…いや待てよ、かなり前に話し合ったと思うが改めて確定した情報をまとめると、そもそも仮にザ・ワンが居たとして、どうやって人々の記憶から存在を消せたんだ?

ネクサスの本編は数百年単位で前に終わっていて、来坊者は間違いなく居ない。

たとえ樹海化があったとしても、ネクストと共に戦ったであろう勇者の記憶には残るだろ。

それに前の適能者がネクストと融合する際に誰かがウルトラマンか球体になってたノア様の姿を見てたって不思議じゃない

 

 

539:名無しの転生者 ID:TaDXn6yzG

前も談義したけど、相変わらず謎なんだよそこ。

ザ・ワンとネクスト辺りが未だに不明で、過去の勇者も不明。

とりあえずイッチは考えることに向いてないしむしろ情報提供以外邪魔だから今を楽しんでて欲しいが

 

 

540:名無しの転生者 ID:FvtOztDBx

俺たちが出来るのは考えてイッチに教えることだけだしな。

もうイッチはみんなと遊んでくれ。笑顔見てると胸の中でてぇてぇを感じれるわ

 

 

541:名無しの転生者 ID:hRTcp9mpe

ただたまにちょっと羨ましい

 

 

542:名無しの転生者 ID:rBXori+k3

そこは仕方がないゾ。

でもイッチが強すぎてなぁ…() こんなん男でも惚れるわ。本当のことしか言わないからなおタチが悪い。たまにマジで刺されないか不安になってくる

 

 

543:名無しの転生者 ID:emijvzKpw

そもそもこいつ、母親殺したくせに精神崩壊することもなく普段通りでいられるメンタル化け物だしなんか俺らすら知らん未知の技を放つやつだからな…そりゃノア様も選びますわ。

戦闘センスもメンタルも一人だけずば抜けすぎだろ。こいつウルトラマンの重圧に潰されかけた時以外曇ってすらねーぞ

 

 

544:名無しの転生者 ID:+wwleIJNw

いうてイッチ、なんか前世であったぽいしなぁ…多分その経験が生かされてるんだゾ

 

 

545:名無しの転生者 ID:OfCkKdKzx

それはそれで前世の世界で何があったんですかね。なに、ゴジラの世界にでも居たの、イッチ?

 

 

546:名無しの転生者 ID:5faTT5w8e

人類からしたらガチの迷惑なやべー大災害やめろ

 

 

547:名無しの転生者 ID:UQdh5Ju2P

大怪獣のあとしまつ

 

 

548:名無しの転生者 ID:i22x2AJYv

結局分からないことばかりで草枯れた

 

 

549:名無しの転生者 ID:QGXBhmjUC

とりまイッチはもうイチャイチャしろ。頼むから…ほんと、せめて今だけでも幸せになってくれ…肉体的に限界なのにまだ戦わなくちゃいけないんだから

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ眺める。

激戦を終え、やっと迎えられた平和な時間を楽しそうに過ごす勇者部のみんなを、紡絆はエボルトラスターを手に見ていた。

のんびりする東郷と友奈。

自称で瀬戸の人魚と名乗った風と泳ぎで対決する夏凜。

パタパタと熱そうに足を動かし、水面に足をつけるとほっとしたように息を吐く樹と、そんな樹に対して押し倒すように抱きついて水面に体を預ける小都音。

それを紡絆はただ見てるだけだ。

泳げないからこそ、海へ入れない。

体がボロボロだということを自分自身が理解してるからこそ、激しい運動すらしない。

それでも、紡絆は笑顔を浮かべていた。

周りを見渡せば、多くの人々が楽しそうに笑顔を見せている。

それは、紡絆が守りたいと願った光景だった。

 

(……ダークメフィスト。例えお前がどんな奴で、どれだけ強くても、俺は負ける訳にはいかない。どれだけ絶望的でも、希望がなくたって---俺は灯して見せる。かつて憧れた、ウルトラマンのように)

 

だからこそ紡絆は改めて思う。

ボロボロでも、変身する力があまりなくても、希望を灯して守ると。

紡絆が負ければ、ウルトラマンは死ぬ。

ウルトラマンが死ねば、世界は終わる。

ウルトラマンが死ねば、紡絆もまた死ぬのだから、この世界を守るには死ぬことは許されない。

それでも、今の紡絆にはもう、迷いなどないのだ。導かれて、支えられて、背負う彼はどんな壁すらも貫いて見せるだろう。

 

「紡絆くんー!」

 

「……ん?」

 

紡絆が覚悟を決めていると、名前を呼びながら誰かが向かってくる。

思わずエボルトラスターをポケットに収納した紡絆は視線を送った。

そこには、ピンクと白の桜のような色のフリルのある水着を着ている友奈が駆け寄ってきて、他のみんなも陸へと上がっていた。

そのことに紡絆は首を傾げる。

 

「もう泳がないのか?」

 

「私たちだけ楽しんで、紡絆くんだけ仲間外れなんて寂しいよ。だから、行こう!」

 

「いや、俺は見てるだけで満足というか海には入れ---って待て。引っ張ってでも行く気か!? それは流石に死ぬ! 海は本当にやばいから! 

一回…二回海水が傷口に入ったことあるから! 三度目は勘弁してくれ!」

 

紡絆の疑問に友奈は一緒に遊ぶために誘いに来たのだろう。

遠慮しようとする紡絆の手を握り、引っ張ろうとする。

紡絆は海水は死にそうなので足に力を入れて対抗した。

ちなみに初めて継受紡絆として意識が芽生えた時に一回目、初めて融合型と戦った際に二回目である。

 

「泳ぐわけじゃないよ! だから…んー! 抵抗しないでーっ!」

 

しかし友奈の説明不足のも間違ってなく、何をする気なのか分からない紡絆は足に力を入れたままだった。

流石に男であり、ウルトラマンによって強化され素のスペックが増幅した紡絆を引っ張ることは出来ないようで、両手で引っ張る友奈だが紡絆は動かない。

 

「結城さん、ちゃんと説明しないと」

 

「友奈ちゃんの提案で、紡絆くんは今泳げないでしょう? だから砂浜で出来る遊びなら出来るんじゃないかってことで誘いに来たの」

 

「あぁ、なるほど」

 

それを見兼ねてか、小都音に連れてきて貰った東郷は小都音ともに紡絆に対して説明する。

すると紡絆は納得が言ったように頷くと力を抜いた。

 

「うん、だから紡絆くんもどうかなーってわぁ!?」

 

「いや流石に説明してくれないと分からないから…ってやべ、力抜いた」

 

抵抗されていた力が急に無くなり、全力で引っ張っていた友奈は倒れそうになる。

それに反応した紡絆は流石に砂浜とは言えど、頭を打ったら大変なので慌てて手を伸ばして友奈の手を掴んで自身の方へ抱き寄せた。

 

「っと、急に力抜いて悪かった。大丈夫か?」

 

「……あ。う、うんありがとう!」

 

そうなると身長的にも当然紡絆の胸に顔を埋めることになるわけで、気づいた友奈はお礼を述べてからバッと素早く離れる。

……が、いつもと違って頬が赤くなる以外にも紡絆の顔が見れなくなったようで、目を逸らして両手の指を合わせている。

 

「……兄さん」

 

「え、何? いや流石に今のは俺が悪かったし申し訳ないと思ってるけど…」

 

そのことに察した小都音は思わずジト目で紡絆を見つめるが、紡絆は分かっていなかった。

唯一分かっているのは自分が原因で痛い思いさせてしまうかもしれなかったということだけであり、彼からするとさっきのは自然な行動だったのである。

 

「…なんかよく分からないんだが、友奈。怪我はないか?」

 

「だ、大丈夫だよ。それより! どうかな、紡絆くんも一緒に!」

 

「紡絆くんが居てくれて方が私達も楽しいわ」

 

「ん、そうだな。じゃあ混ぜてもらうかなー」

 

「例え兄さんが断っても私が無理矢理連れて行ってたけどね」

 

結局分からないが、友奈に怪我は特になかったのに安心すると紡絆は誘われたことを少し悩み、そう言われたら断れないと参加することにした。

まぁ、もしここで断っても今度は全員に連れて行かれただろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

棒倒し。

力加減が出来ずに崩壊し、最下位。

ビーチバレー。

くじ引きで分けられ、友奈と夏凜相手に紡絆と樹で勝負することになったが、肉体がボロボロなこと以外にも力の制御ミスでボールが破裂して引き分けに。

ビーチフラッグス。

紡絆があまりにもの速すぎて試合にならないどころか、本人がフラッグを吹き飛ばして止まることが出来ず砂浜に顔面から行ったため、試合にならず。

スイカ割り。

紡絆が担当すれば気配が読めて、なおかつ透視能力を扱えるため紡絆は何もせず、樹ちゃんがみんなの指示で見事割って見せた。

砂城作り。

東郷が見事な高松城を作り、紡絆は城は作れないため、星とゆるトラマンネクサスのアンファンス、ジュネッス、ジュネッスブルーを見事作ってみんなを驚かせていた。

なお紡絆の場合は子供たちが集まり、一瞬で占拠されたが。

どうやらゆるトラマンとはいえど、ウルトラマンは次元や世界が違くても、知られていなくても子供の憧れの的なのだろう。

紡絆はそれを嬉しそうに眺め、しばらく作って作ってと色んなことを強請ってくる子供たちの相手をした。

 

そんなこともあって時間は過ぎ、そのように海に入れない紡絆が出来る色んな遊びをみんなで楽しんで、紡絆も友奈も東郷も、風や樹に小都音、夏凜みんなが楽しんだ。

時にトラブルも起きて、結局あれだけ入らないようにしていたのに溺れている子供を見つけては痛みを無視して海に突っ込むとかいう紡絆の無茶を見て小都音が笑顔のまま怒る姿はあったが、特に大きな騒ぎになることもなく終わった。

 

そんなこんなで日も暮れだした頃、パラソルの近くに集まった七人。

東郷は右の人差し指を立てながら話し始める。

 

「さて、ビーチでの締めに……実はさっき、介助さんに手伝ってもらってこの付近に日の丸印の宝を隠したの。探し当てた人には景品をあげるわ」

 

「流石東郷、さらっとネタを仕掛けておくとは」

 

「面白い、受けてたったぁ!」

 

「夏凜ちゃん燃えてるねー。よーし、私も負けない!」

 

「あ、三好さんに結城さんもう行っちゃった…。ノーヒントだけど…体力多いし足で稼ぐのかな? 兄さんは行かないの?」

 

知らぬ間に東郷が宝探しの用意をしていたようで、感心する風と早速駆け出した夏凜と友奈。

その二人を見て小都音は苦笑すると、こういうことにはいつも参加して場を盛り上げる自身の兄が動かないのに疑問を抱いたらしく、聞いていた。

 

「いや、だって始まる前に見つけてるし。流石に俺は反則みたいなもんだから参加しないよ」

 

「…流石兄さん。じゃあ私は兄さんにくっついておくね」

 

「えぇ…参加しないのか…」

 

ウルトラマンの加護があるゆえに、ゲームにならないから参加しない紡絆だが、まさかのゲームに参加せずに体を密着させてくる小都音に紡絆は困惑した。

 

『負けません!』

 

「樹ちゃんには期待しているわ。磨けば磨くだけ立派な大和撫子になれる素養を持っているし……磨かなくちゃね。いずれは私の思想や技術の全てを伝えようかと思っているもの」

 

「いや、流石に思想はちょっと……」

 

スケッチブックにやる気を示すように力強くそう書く樹に少し怪しさや重さすら感じる期待を寄せる東郷だが、思わず風はそうツッコむ。

流石に可愛い妹に護国思想を植え付けられるのは勘弁してほしいのだろう。

それはともかく、結局樹と協力するように言われた小都音は樹と探し、紡絆は答えを知ってるため、東郷の隣で待機していた。

ちなみに東郷の水着は水色と白の交互に横線があるフリル有りの水着だ。

 

「おーやるなぁ…まぁそっちじゃないけど」

 

一方で、紡絆は観戦者気分で探し回るみんなの姿を見る。

答えを知る彼からすれば、全然見当違いのところを探してるのを見てそこにないことを伝えたいのを我慢していた。

 

「……ねえ、紡絆くん」

 

「んっ?」

 

すると隣に居た東郷は夕陽を見て、紡絆を見た。

紡絆はその意図が分からなかったのか何かと首を傾げる。

 

「紡絆くんは……異常とかないの? 今までも樹海に入れて、ウルトラマンとして戦ってきて、何か起きてたりとかは……大赦の人も紡絆くんのことはよく分かってなかったみたいだったし、もしかして紡絆くんもなにか…」

 

二人っきりになったからこそ、東郷は改めて考え、思ったことを聞いた。

紡絆が樹海に入れること、勇者を集めるための部活だと言うのに入ることになったことへの謎。

バーテックスやスペースビースト、融合型やあの禍々しい剣の攻撃を受けて何ともないのかという心配と不安。

普通に考えて、後者はともかく前者はおかしいだろう。

紡絆が樹海に入れる理由は分からなくても---()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という。

男には扱えない勇者システム---風に対するメールの返信では紡絆やウルトラマンに関して調査中とは書かれていたらしいが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のではと。それこそ、意図的に。

なぜなら---勇者システムを扱えない紡絆を勇者部に入れるなんて、紡絆がウルトラマンに選ばれなければただ犠牲になるだけなのだから。

じゃあ、何故大赦は紡絆というイレギュラーがいたお陰で確率の最も高かったであろう、讃州中学勇者部へ誘うように言ったのか。

それはまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()があったかのようだと思えてしまえる。

あくまで推測。東郷の予想に過ぎない。

ただそれでも東郷の中で、満開の後遺症の件もあって少しずつ募る大赦への不審感。

その不安が、ただ漏れてしまっていた。

 

「あー大丈夫大丈夫! 心配しなくたって、なんともないよ。それよりほら、そんな心配するより今を楽しもうぜ。みんな、あんな楽しそうに探してるのに東郷がそんな表情浮かべてちゃダメだろ?

東郷はそんな顔より、笑顔の方が似合うよ」

 

それに対して紡絆はいつも通り明るく振る舞って、その不安を消すように東郷の前に立てば、屈んで手を包むと笑顔を浮かべる。

紡絆は頭は良くないが、東郷の頭が良いことは知ってるのだ。

自分なんかより考えて、不安になったのだろうと紡絆は励ますように自身が笑顔を浮かべていた。

 

「紡絆くん……そう、よね…」

 

「おう、俺は特に何も変わってないし。

東郷にそんな顔させてちゃ、綺麗な顔が勿体ないからな。せっかくそんな可愛い水着にも身を包んでるんだし」

 

「……もう」

 

お世辞でもなんでもなく、純粋に褒めてきた紡絆に東郷は頬を赤めるが、不思議と、何故かは分からないが包まれた手の温もりや紡絆が傍に居るというだけで東郷は不安も心配も、不審感すらも不思議と消えていた。

ただ感じるのは、安心と幸福感。

だからか東郷は少し、ほんの少しだけ勇気と自分の欲望に従い、包まれた手にそっと触れては浮かす。

すると包まれていた手の甲を下にして、手を繋いでいた。

紡絆は思わずキョトンとするが、小都音で慣れてるのか特に気にせずに東郷の左にまた立ち、みんなを眺めながら右手から感じる温もりに()()()()()()を認識していた。

---彼の場合は、東郷というよりかは()()()()()()()()()()()を、のようだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

片付けを終え、宝探しで全員疲労した様子を見せる姿に苦笑をひとつすると、紡絆は夕焼けを眺めていた。

目を少し細め、何か思い耽るような表情で。

 

(……今日は来なかった。みんながこんなふうに、平和に生きて幸せになってくれたらどれだけいいんだろう)

 

叶わない願い。

不可能な願い。

今も紡絆が知らないところで喧嘩してたり、死人が出たり、色んなことが起きてる。

それは紡絆が人間であろうと、ウルトラマンであろうと、神樹様であろうと、神であろうと防ぐことは出来ない。

()()()()()()()()()()

別の生命体として同化、死と同等の状態になれば可能だろうが、それは生きてるとは言えない。

心だけが生きてたって、意味はないのだ。

 

「紡絆くーん! 暗くなる前に、早く帰るよー! 樹ちゃんや小都音ちゃんの手伝いもしてあげてー!」

 

「あぁ、分かった」

 

だから、だからこそ、紡絆は自分自身の手が、今届く範囲だけは守ると誓ったのだ。

エボルトラスターを握りながら、今届く範囲---()()()()()()()を、守ろうと。

 

「じゃ、東郷のことは任せた!」

 

「うん!」

 

駆け寄って手伝うように言ってきた友奈に、体力の余裕があるのもあるが、男手の方が良いだろうといつもよりはしゃぎすぎて座り込んで疲れてる樹と小都音に紡絆は手を貸していた。

それを友奈は遠くから見つめ、東郷の元へ寄る。

 

「………?」

 

しかし友奈は珍しく先に東郷に声を掛けず、紡絆のことを、何処か違和感を感じたように首を傾げて見つめていた。

 

「友奈ちゃん?」

 

「あっ、ううん! やっぱり…気のせい……かな?」

 

「?」

 

珍しい姿に流石の東郷も分からなくて首を傾げるが、うーんと悩む友奈の視線を辿って紡絆を見れば、()()()()()だった。

 

(………あれ?)

 

しかし、東郷もまた---そんな紡絆に()()()を抱く。

そう、変わらない。何も変わらないはず。

気のせいだと錯覚するくらいに、何も変わっていない。いつも通りで、いつもの笑顔で、怪我をしてないように見えるほど明るくて、調子も同じ。

だが---誰よりも長く、()()継受紡絆の傍に居た友奈と東郷だからこそ、二人だからこそ言い寄れぬ()()()を感じ取った。もしかしたら、一瞬だけ無理してるように見えたのかもしれない。もしかしたら不安なのかもしれない。もしかしたら、自分たちと同じ状態なのを隠してると思ったのかも知れない。

()()()()()()()()()()と思ったのかも知れない。

しかし確信もなければ、結局なんなのかは---紡絆に声を掛けられるまで考えていたが、二人が気づくことは一切なかった。

そのため、気のせいだと納得し、今度は逆に帰ることを大声で伝えてくれた紡絆に返事をして、二人はみんなの元へ戻るのだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
ついに未知の力すら使い出したやつ。
明らかにみんなを口説いてるけど、本人は本当に本音で答えてるだけである。
こいつが女性関係で慌てるとしたら水着や軽いスキンシップ程度では無理じゃないかな。
てか全く曇ってない件について(なお他のメンバー)

〇ウルトラマンネクサス
致命的に変身者のダメージや体力、ウルトラマン自身もエネルギーやダメージの回復が足りない。

〇ダークメフィスト
新たに現れた闇の巨人(ウルティノイド)
その実力はファウストをも超える。
変身者はいるのか不明だが、ネクサス本編より何万年も先の世界確定(ギャラクシーインパクト後)なので溝呂木眞也ではないことは確定している。
今回は何もせず撤退したが、闇のゲームと例えたのは溝呂木に似ているようで……?

〇融合型昇華獣バンピーラ・クロウ
からす座を元にした未完成バーテックスを取り込んだバンピーラ。
紡絆曰く、翼がからす座の規模ではなく()()()()()
バンピーラの力に超音波、飛行能力を持ち、力を()()()出していないと思われる。

〇掲示板
流石にやばすぎてついにガチの真剣だし嫉妬心よりも同情を持ったヤツら。
たまに嫉妬しているが、ついにイッチと勇者部の少女たちの絡みに百合だけではなく新たな道を開拓した。
紡絆が知らぬうちにイッチ×???てぇてぇ、と勝手に妄想しては盛り上がってる。

〇ティガニキ
ここに来て紡絆の世界の光の国へ行けなくなった。
流石に脅威があれば助けたくとも守りたい者のために自分の世界優先せざるを得ない。

〇東郷美森
さらっとヒロインのように紡絆と手を繋いでたりしたが、大赦に不審感を抱いたのと、紡絆に何かを感じ取ったらしい。
が、それは分からなかった。

〇結城友奈
何もしない紡絆に流石に寂しいだろうと遊びに巻き込んだが、水着を褒められたりトラブルとはいえ抱きしめられたことには流石に顔を赤くした。
しかしあの東郷よりも早く紡絆に何かを感じたようで……?


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「-孤独-ソリチュード」

 

◆◆◆

 第 29 話 

 

-孤独-ソリチュード

 

 

セイタカアワダチソウ(背高泡立草)

元気(生命力)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわー、凄いご馳走!」

 

「あの、部屋間違えてませんか? あたし達には少し豪華過ぎるような……」

 

「いえいえ、とんでもございません。どうぞ、ごゆっくり」

 

宛がわれた部屋に戻り、浴衣に着替えた友奈たちの部屋に持ってこられたのはお刺身や大きな丸ごと一杯のカニ等の海の幸だらけのご馳走。

大赦が用意した宿泊先とはいえ、ここまで豪勢なのは予想外だったのだろう。

ちなみに紡絆だけは私服だった。

 

「私達、好待遇みたいね」

 

「ここ大赦絡みの旅館だし、お役目を果たしたご褒美ってことなんじゃない?」

 

「つまり、食べちゃってもいいと…!? こんな美味しそうな………あ」

 

『でも友奈さんが……』

 

「うん、味分からないんですよね…?」

 

飢えた獣のような目で涎を出しながら御馳走を凝視していた風だったが、樹のスケッチブックと小都音の言葉を聞いてふと友奈に心配そうな目線を向ける。

 

「んーこのお刺身のコリコリとした歯応え……たまりませんねぇ! うん、つるつるとした喉越しもいいね! 美味しい~」

 

「……もう、友奈ちゃん。いただきます、が最初でしょ?」

 

「そうだった。ごめんなさ~い」

 

風たちの思いとは裏腹に友奈自身は既に座布団に座り、料理を口に感想を言っていた。味は分からなくともあらゆる方法で料理を楽しもうとするのは友奈らしいだろう。

 

「まぁ俺たちも食べましょうか。いつまで残しててもダメでしょうし」

 

「そうね……友奈には敵わないわ、まったく」

 

あまり喋ってなかった紡絆の言葉を皮切りに、勇者部は用意されたご馳走に写真を撮ったりしてから、ありつくことにした。

その日の夜食は騒がしくも楽しく、笑顔が溢れる食事で、そんな和やかな雰囲気で、時間は過ぎていった。

特に以前まではうどん2杯でやられていた紡絆も平均以上に食べたという---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして一同は温泉に入るために脱衣場前で分かれる。

一人で温泉を入ることになるが、当の本人は気にした様子もなく、紡絆は男性の専用の脱衣場に入る前に声をかけられた。

 

「紡絆、いくらあたしたちが魅力的だからって覗かないでよ?」

 

からかうような風の言葉だが、風と紡絆を除く者たちはさっきやられたばかりだというのに、また似たような態度で紡絆に言葉を告げる風の姿に心の中で苦笑する。

 

「みんなが魅力的なのは否定しませんけど、覗きませんよ。なので逆上せない程度にゆっくりと浸かっててください。女の子なんですから、お体は大切にしてくださいね。みんな綺麗な肌や髪をしてるんですし。

じゃあ、また後で」

 

きょとんと一瞬首を傾げた紡絆は、肯定はしつつも至って普通に返すとそのまま入っていくが、残された者たちは若干頬を赤めていた。

小都音はそんな中、ため息を零し、夏凛は呆れたような視線を風に向けていた。

 

「どうして学ばないのよ……」

 

「う、うるさーい!」

 

正論を述べられ、何も言い返せなかった風はその場から逃げるように脱衣場へと走って入っていく---が、この後普通に会うので正直無意味な抵抗だった。

それはさておき、紡絆を除いた勇者部の女子メンバーは服を脱ぐと、旅館らしい広いお湯に浸かっていた。

 

「良いお湯だねー」

 

「そうね、友奈ちゃん」

 

「気持ちいいね〜」

 

「あ゛あ゛~……疲れが吹き飛ぶわ~……」

 

「確かに、生き返るわね……」

 

友奈に車椅子を後ろから押して貰って運ばれる東郷。

樹の傍に寄り添って話しかけ、小都音の言葉に頷く樹や普通にリラックスする風と少し離れた夏凛と言った感じで、各々温泉に浸かっていた。

 

「で、なんでそんなに離れてるの?」

 

「っ! ぐ、偶然よ偶然」

 

「……はっは~ん? 紡絆が居る訳でもないし、女同士でなぁに照れてんだか」

 

「別に照れてなんかないし!」

 

離れたところにいる夏凛に対して、立ち上がった風は体を見せつけるようにポーズを取っているが、夏凛は顔を逸らしながら言っていたので説得力は皆無だった。

 

「こう広いと泳ぎたくなるねー」

 

「ダメよ友奈ちゃん」

 

「わぷ。はーい」

 

すすーいと泳いでいた友奈に東郷がお湯をかけながら注意すると、友奈はぶくぶくと沈んでいく。

すると東郷は何だか変な視線を感じ、その先---風と普通に視線を向けてくる樹を見つめた。

 

「どうしました?」

 

「いやぁ……へっへっへ。何をどうして食べたら、そこまでのメガロポリスなボディになるのか……コツとか教えて頂けませんかねぇ?」

 

「……ふ、普通に生活しているだけです」

 

明らかな不審者のようなニマニマとした笑みと口調で聞いてきた風に一瞬疑問を浮かべるが、凝視されていたのが胸であることから、その言葉を理解した東郷は苦笑しながら答えるしかない。

そもそも風も羨ましがられるほどのを持っていたりするのだが。

それに大きければ良いという訳ではなく、東郷は何度も異性からは嫌な視線を向けられたこともあるし、肩が痛くなったりすることもある。

---まぁ、嫌な視線については紡絆が居る時は自然と遮ってくれていたので、東郷は不快感よりも喜びの感情の方が強かった。

 

(それに紡絆くんからは嫌な視線を感じないし…… ただ、あんまりに普通に接されるから、それはそれで私に魅力がないのかと時々思ってしまうけれど……。

行動の節々から考えるに意識はしてくれてるんだろうけど、少しくらい照れてくれても……)

 

今日だって二人っきりになった際に手を繋いだが、紡絆は全く照れることはなかった。

それを思い出したのか、東郷は我ながら面倒な性格をしてると思いつつ、溜息に近い息を吐いた。

 

「まぁ、それ言ったら水着でも思ったけど、中学一年生の割に小都音もなかなかあるわね」

 

「え、私ですか? 私は風先輩や東郷さんのようなものは持ってませんけど……」

 

自身の胸を抑えて首を傾げる小都音は何処かからぐさり、と刺さったような音が聞こえたため、目を瞬きした。

彼女は中学一年生にしては、ちゃんとした膨らみはあるのだ。

それを見て風はそう言ったのだろう。

しかし近くに居た同年代の樹は友人と自分の胸を比べ、ぶくぶくと落ち込んだように沈んでいく。

 

「………」

 

「羨ましい? だ、大丈夫だよ。樹ちゃんも育ち盛りなんだから!」

 

何も喋ってないはずなのだが、何故か理解したようでフォローするように言葉を掛ける。

が、樹は口元まで沈んだままだった。

 

「今のうちに……」

 

「お背中流しまーす!」

 

「ひゃああああっ!?」

 

いつの間にか湯船から出ていた夏凜だが、友奈もまたいつの間にか出ていたようで、友奈が夏凛の背中を流そうと手を触れたところで彼女から可愛らしい悲鳴が上がる。

そのせいか、またしても風にからかわれたり友奈に振り回されたり、妙な威圧にビビったりする夏凛が居るのだが---まぁ、楽しそうなので良いのだろう。

ちなみに小都音は必死に樹を慰めようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女子は女子らしく楽しそうにはしゃぎながら温泉に入っているようだが、此方は逆に妙に静かだった。

その湯船には紡絆しか居らず、誰もいない。

一人孤独に無駄に広い温泉に浸かる紡絆は、空を見上げていた。

 

「楽しそうだなぁ……」

 

静かな会話は聞こえないが、あそこまで騒いでいたらウルトラマンによって強化された聴力ではなく、平常通りの聴力にしている紡絆でも聞こえる。

今でも大声で怒鳴ったりする夏凛の声が聞こえるが、本気で怒ってるわけではないのだろう。

 

「あ〜染みる」

 

怪我に風呂の水が染みるが、最初に入った時に比べてお湯に慣れてきたのかマシになっていた。

いくら紡絆でも、この状況では騒げない。一人しか居ないのに騒ぐ意味もないだろう。

そもそも肉体が限界なので、騒ごうものなら力尽きて逆上せてしまう。

それでもまぁ、入る前は広い温泉を見て飛び込んだりしたのだが。

 

「ウルトラマンは……大丈夫かな」

 

桶にタオルを敷き、そこに置いてあるのはエボルトラスター。

ブラストショットはともかく、エボルトラスターだけは手元に無ければ落ち着かず、紡絆は持ってきていた。

ただ思い浮かべるのは自分自身ではなく、エナジーコアが鳴るほどに消耗してしまっているウルトラマン。

本来ならば適能者ではある紡絆がボロボロで死にかけてるからこそ、エナジーコアが鳴るはずでウルトラマン自身は問題ないはずなのだが、流石のウルトラマンもダメージを負うレベルまで追い詰められているのか---それは紡絆にも分からないが、やはり彼は自分ではなくて、ウルトラマンの心配をしていた。

 

「んー……メフィストやクロウのことを考えなきゃダメ、か。まぁまぁ、大丈夫だって。深く考えたって何も変わらないんだからさ」

 

何処か誰かと喋ってるように口に出しているが、ここは紡絆しかいない。

普段は脳裏で繰り広げる会話を、誰もいないことをいいことに喋っていた。

 

「いや、覗きはしないって。まったく……相変わらずだな」

 

苦笑し、ただ独り言を呟いているようにしか見えない紡絆は目を細めて空を見ていた。

空はどんなことがあっても変わらず、うっすらとした明るさがあった。

月が見えたなら、どれだけよかったか。

 

「ふぅ…いいお湯。一人ってのも悪くないものだ」

 

肉体はボロボロ。

回復の兆しは一切なく、敵はまた現れ、脅威が去ることはない。

しかし過去の紡絆ならともかく、導かれた紡絆はもう気負うことも無く背負い続けることもなく、ただ気軽に今を楽しんでいた。戦う理由だって、以前と変わらず純粋に守るため。

彼の表情には---いつなん時も一切の曇りもなく絶望も無く、ただ明るく照らす。

周囲に誰もいないというのに、紡絆の纏う雰囲気だけで明るく思え、静まっていたエボルトラスターは薄く光っていた。

 

「---まだまだ終わってない。俺も、まだ戦える。

だからさ、頑張ろう、ウルトラマン」

 

『………!』

 

それに気づいたのか定かではないが、紡絆は自分自身が、過去の自分が好きだったであろう星々を透視能力で雲を透過させて見つめながらウルトラマンに向かって言っていた。

そして紡絆は星を眺めながら入る温泉に満たされる。

戦いでも誰かのためでもなく、純粋に安らかに休める、そんな一人---いや、二人の少しの時間を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

293:光と絆継ぎし転生者 ID:NEX3_ultra

うーん風呂上がりのラムネは格別だな! みんなの言ってた通りだった!

いやー夜空を眺められる温泉って風情があっていいなー前世でも経験出来なかったし、というかそんな暇なかったし、みんなと来れて良かった!

またこういうふうに宿泊に行くのもありかもしれないし、風先輩に相談しようかな?

 

 

294:名無しの転生者 ID:xWJRdNfda

結局、覗かなかった……ッ!

 

 

295:名無しの転生者 ID:dLexNLOxX

イッチらしいわ。くそっ、普通ならここでハプニングイベント発生ってのがド定番なのに何も無いなんてどういうことだ!?

 

 

296:名無しの転生者 ID:wmXHPW4s6

まさか覗くことも動作すらも見せず、普通に温泉入って普通に体洗って普通に上がって、普通にラムネ飲んで合流するとはな……ただのラムネのお兄さんやんけ

 

 

297:名無しの転生者 ID:hqDmAafqz

それにしてもイッチのショタボディがえっちすぎる。

性癖拗れそう…案外イッチかわいい、可愛くない?

流石周りから笑顔が似合うと言われてるだけある

 

 

298:名無しの転生者 ID:9Rgszxubr

でもえっちぃが傷が酷すぎて痛々しい……

 

 

299:名無しの転生者 ID:Rt2uGjAFq

そこら中に怪我負っていて肩の皮膚は焼けてるし、傷口が多すぎる……。

中学生とは思えないハードな怪我だぞ。本当に大丈夫なのか、これ……。

誰もそこ(ウルトラマンがピンチ)なのは原作再現しなくていいから…むしろ原典の方がマシレベルってなんだよ

 

 

300:名無しの転生者 ID:VxknDgwMQ

>>293

しかも当の本人がこれ

 

 

301:名無しの転生者 ID:KpE0vJlkk

>>293

知ってるか、これ。

痩せ我慢でもなんでもなく、本当にただ素で満喫してるんだぜ? 脅威があることは分かってるのに、自分の体がボロボロなのにこんな楽観的に過ごせるんやで。

ダメだ、イッチは強い(ダダ271号感)

 

 

302:名無しの転生者 ID:4ehXfdjtf

普通に日常を過ごすイッチと頭を抱えまくる俺たち…バランスは取れてるな! バランスは取らなくっちゃあなぁ?

 

 

303:名無しの転生者 ID:Xo20U6OWk

もういいよ…ほんと、俺らが考えるからお前はそのまま居てくれ…出来るなら勇者部ではしゃいどけ。

転生者の中でもこの世界だけ異質すぎんだろ…しかもネクサスってのがなぁ…。

変身すれば開幕エナジーコア点滅状態なのがえぐい……。

こんなピンチが多いの本当にネクサスらしい。もっと諸々の大人の事情がなければこれくらいになってたんかな……

 

 

304:名無しの転生者 ID:zWemq0xs3

果たしてここまで酷い転生者が他にいるのか…だいたいのところには仲間が居たりするんだけどな……。

そもそもダメージ還元だけでもやばいのに、イッチはエナジーコア鳴ってる状態でジュネッスになってメタフィールド貼ろうとするし

 

 

305:名無しの転生者 ID:Mw7v67f9L

居なくてもだいたい現地の人たちが強かったりまあまあ戦えたり転生者が他に居たりはするからね。こっちは戦える人も全然居ないし他の転生者もいない。

他の宇宙の時間軸が違う世界から来ても地球には入れなくて、四国以外死のウイルスで滅んでるっぽいしイッチみたいな性格じゃなければ絶ッ対精神的にも肉体的にも殺られて詰んでる

 

 

306:名無しの転生者 ID:d2Nph+sFC

うーんクソすぎる。これアニメ化とかしたら絶対深夜番組なやつ。

……やっぱりイッチもこの世界も頭おかしい

 

 

307:名無しの転生者 ID:8pBph++bj

俺達もこんなやばい世界とは思ってなかったが、イッチが頭おかしいのは最初からやぞ、初見か???

 

 

308:名無しの転生者 ID:B62iTG8iy

初戦でガルベロスをアンファンスで倒したりウルトラマンと会う前から記憶喪失で人助けしてたり生身で火球を避けたりしてたやつだからな……うん、思い返してもおかしかった

 

 

309:名無しの転生者 ID:18G174A2t

イッチらしいというか、なんというか……まったく。

幸せでなによりだわ

 

 

310:名無しの転生者 ID:CnXgrbP8N

だんだんと可愛く見えてきた。ショタだし笑顔が似合うからなあ……主人公の器というか、なんというか…うん王の器ではないけどそんな器を感じさせる。

周りを引っ張るような存在…それこそ太陽みたいな存在だな、イッチは

 

 

311:名無しの転生者 ID:bpt1fPTDo

こいつが王になったら管理出来なくて滅びそうというか、多分慕われはするけど住民最優先にするから住民が逆に心配して気が気でなくなるやつ

 

 

312:名無しの転生者 ID:ssVjpBsLh

確かに底なしの明るさもあれば、バカだしな。

それでも芯の通った心の光を持っていて、誰かを、闇を照らすような存在にここでも現実でもなってる

 

 

313:名無しの転生者 ID:zKSnm82xB

>>311

完全に今の俺らじゃん。

嫉妬心どこいった、同情や心配、不安といった感情しか沸かねぇよ…マジでこの先不安すぎるし不穏すぎて気が気ではないんだが

 

 

314:名無しの転生者 ID:zZixujSel

しかし何が怖いかと言うと、母親がファウストならメフィストは父親の可能性が高いこと。

それにしてはザギさんの目的がやはりはっきりしないな……復讐だとは思うけど、なんか力取り戻してそうではあるよな…?

 

 

315:名無しの転生者 ID:cJm34rhGg

ノアの結界が少しずつ弱まってるってことはザギさんが原因だろ?

で、ティガニキたちが言っていたバーテックス側の黒幕と手を組んでいて、何か別の目的があるような…もしかして母親をイッチに殺せたことにも意味があるのでは?

ネクサス本編の場合のファウストの死因はスペースビーストだし、わざわざイッチに殺させる必要はない。

制御を奪われた時点でファウストはもういらない存在とみなしても不思議ではないし

 

 

316:名無しの転生者 ID:Bt+zMsEg9

そもそも本編ネクサスのザギさんは孤門の恋人の死を利用して孤門にビーストを憎しむ感情で心を闇に堕とし、操り人形にすることで、凪や姫矢に溝呂木を介して闇の力に対する憎悪を増させつつネクサスの復活の為の光の力を強化させるための暗躍をしてたわけだ

 

 

317:名無しの転生者 ID:q4PGlODIU

ザギさんはイッチが継承者ってのは知ってるだろうから……わざわざ母親をファウストにして殺させて、イッチを追い詰め続けてるのは……もしメフィストが父親なら……?

 

 

318:名無しの転生者 ID:0v5m6C8bt

純粋に精神的にイッチを追い詰めてウルトラマンを殺すため、それかイッチを闇に堕とすため、か……?

 

 

319:名無しの転生者 ID:WSsXxdKI8

ザギさんがどんな時間軸の存在かは知らんが、もしかしたらイッチを仲間にしようとしてる可能性も……なくはないな。

闇に堕とすことで、ウルトラマンの光を闇に変換して、自分はさらなる力を手に入れながら仲間を増やし、光の存在を一人消す

 

 

320:名無しの転生者 ID:9pcy1wgYn

まあ、それはそれでザギさんがノアに復讐出来たってことにも確かになるっちゃなるな。

だって、光の力に負けた存在が闇に堕とすことが出来たら勝利みたいなもんやろ

 

 

321:名無しの転生者 ID:2mF3hJyf4

理には適ってるんだが……その場合ザギさんはやらかしたな。

どうあれ、ザギさんの目的は間違いなくノアだ。

イッチはあくまで器だが、その器が戦闘センス的にもメンタル的にも強すぎた

 

 

322:名無しの転生者 ID:uToVT1+N+

イッチの世界を守るためにも、出来ることは俺たちがやってやらないとな。少なくとも痛々しくて見てられん。

頼むから自分のことを大事にして欲しいが……まあ無理だろうな。

はぁ、ほんとイッチを見てると妹ちゃんや勇者部の苦悩や気持ちも理解できそうだわ……

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜。

誰もが寝静まっている中、流石に近くで寝る訳にはいかないと配慮した紡絆はベランダの近くで目を醒ました。

リビングの方ではみんなが集まって寝ており、寝相が悪くて夏凜を抱き枕にしている風と抱き枕にされて苦しそうな夏凜。

仲睦まじく眠っている小都音と樹に、寝相よく眠っている友奈と東郷の姿があった。

 

「行かないと」

 

それを一瞬だけ見た紡絆は布団を畳み、エボルトラスターを手に取ると一言誰もいないのに()()()告げるように呟く。

そしてベランダの扉を開け、閉じてから飛び降りた。

両足を曲げて着地し、紡絆は海に向かって走っていく。

エボルトラスターの導きに従うように駆けていき、紡絆の肉体が光に覆われる。

もはや慣れた光景。

慣れた様子。

慣れた遺跡を見て特に動揺することもなく、紡絆は前を見据える。

 

 

 

 

 

 

703:名無しの転生者 ID:fRHnoAxgl

行くなって言ったのによぉ……

 

 

704:名無しの転生者 ID:zTa2gRO9C

いいか、油断するな。お前の体は本来ならもう限界を迎えているんだ

 

 

705:名無しの転生者 ID:o/wovP8Fo

必ず現れるのは メフィストとクロウだ。

まずは翼を壊せ!

 

706:名無しの転生者 ID:D1HSe3iqV

それと、もしジュネッスブルーになれるならなれ!

イッチの場合は原典とスペックが同じかは分からないが、少なくともスピードが上がる形態だ。

ダメージを少しでも回避しろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ誰かの言葉に頷くようにこくりと顎を引いた紡絆はエボルトラスターを引き抜き、同時に暗雲からパンピーラ・クロウが翼を展開しながら紡絆に向かって()()()()()()を放った。

 

『ジュワッ!』

 

エボルトラスターを天へと翳し、一瞬で継受紡絆という人間から遥か彼方の宇宙からやってきた光の巨人、ウルトラマンネクサスへと姿を変えた彼は電気を纏う糸をエルボーカッターで打ち消し、ネクサスはコアゲージに左手のアームドネクサスを添えると、一気に振り下ろした。

水面に流れる波紋のように青白い光がウェーブのようにネクサスを覆い、その体を青く染めた。

右腕のアームドネクサスはアローアームドネクサスへ変化し、ジュネッスブルーにタイプチェンジしたネクサスは左腕を上にし、右腕のアローアームドネクサスを添えるように十字を作る。

 

『シュッ、ハァァアアア………』

 

右手には青い輝きが纏われ、ネクサスは両拳を作ると真横から前に動かして両脇に両腕を固定していた。

 

『ハアッ!』

 

そうしてネクサスは、光を纏う右拳を天へ突き上げた。

黄金色の光がクロウの頭上を覆い尽くし、世界を神秘の世界へと作り替える。

全てを隔離する世界、メタフィールドの展開。

ジュネッスより展開の速いジュネッスブルーのフェーズシフトウェーブ。

 

『シェアァ!』

 

遥か上空にいるクロウに向かって、ネクサスが跳躍する。

同時にコアゲージの点滅が始まり、クロウはそんなネクサスを迎撃するように電気を纏っている白く発光する糸を吐き出す。

ネクサスはそれらを避け、クロウから霧が発生した。

 

『シュ……デアッ!』

 

一瞬迷うように止まりかけたが、ネクサスは移動される前にくるりと上下を反転させて足を突き出すことで霧の中に突撃して攻撃を狙う。

 

『……!?』

 

しかし既にクロウの姿はなく、通り抜けたネクサスが振り返ると、霧は晴れたが何も居なかった。

周囲を見渡しても気配がなく、ネクサスは地面に着地した。

地面に着地したネクサスは油断なく見渡し、何かに気づいたように再び振り返って上空を見る。

 

『フッ!? シュアッ!』

 

そこには空中から低高度飛行へ移行し、ネクサスに突撃しようとしている姿があった。

ネクサスはすぐに左腕のエルボーカッターを輝かせ、パーティクルフェザーで速度を落とそうと放つが、クロウはそれを()()()()で相殺する。

さらに加速し出したクロウにタイミングを計って斬りつけようとするが、低高度飛行によって発せられた衝撃波に妨害され、堪らずネクサスは横に転がった。

 

『---グッ!?』

 

通り過ぎるクロウを見送るが、ネクサス左腕を抑える。

そこには光が漏れており、斬られた跡があった。

つまりあの一瞬でクロウはネクサスの腕を斬り裂いたのだ。

もし横に転がってなければ、ネクサスは大ダメージを受けていただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

777:名無しの転生者 ID:BL9n6JHOp

ば、馬鹿な……こんなの有り得ない!

 

 

778:名無しの転生者 ID:CVZVwpBjR

ちょっと待て!

こいつ、本当にスペースビーストと星座型バーテックスの融合型か!?

超音波、追尾型光弾、電気を纏う糸、スパイクのついた翼、低高度飛行……!

バンピーラは確かに一話でやられるほどに強さはそこまでないが、だからといってほぼ見た目だけじゃねぇか!

ふざけんなよ! こいつ、完全にアリゲラじゃん……!

まさか、メビウスの地球から回収したであろう遺伝子情報を組み込まれた……? 

ということは、こいつは新たな脅威を生み出すための実験体か!? ザギさんならマルチバースに干渉できたって不思議じゃない…実験して何を作り出そうとしてやがる!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---かつて、別次元、別時空の宇宙には怪獣頻出期と呼ばれ、ウルトラ兄弟と呼ばれるウルトラマンたちが地球を守っていた宇宙が存在していた。

そんな彼らの時代の終幕から25年。

新たな光の巨人、無限大の名を持つ若きウルトラマンが現れた時代。

そこにはGuards(ガーズ) for(フォー) UtilitY(ユーティリティー) Situation(シチュエーション)---GUYSという名前の組織があった。

ガンウィンガー、ガンローダーともうひとつの機体を持ち、地球を『ウルトラマンメビウス』と共に守った隊のひとつ。

そのGUYSが持ち得る技術の結晶とも言える戦闘機だが、かつてそんな彼らを上回る機動力とスピードを持ち、謎の時空波に導かれて地球に来訪した宇宙怪獣が存在していたのだ。

その怪獣には頭部に目玉がなく、肩の付け根のジェットエンジンの吸入口を彷彿とさせるパルス坑から超音波を放ってコウモリのように目標や高度を確認して飛行するという特徴があった。

さらに武器はパルス坑から発射する電磁ビームと尻尾から出す追尾能力のある追尾光弾。

スパイクの付いた翼で相手を切り裂き、低高度飛行で衝撃波を発生させるという力を持っていた。

特に追尾光弾は、驚異的な力でウルトラマンを何度も救い、助けてきた宇宙人用超絶科学技術として研究、応用されている超兵器、地球外生物起源的超絶科学技術を意味する『Much(マッチ) Extrem(エクストリーム) Technology(テクノロジー) of(オブ) Extraterrestrial(エクストラテッレストリアル) ORigin(オリジン)』---通称メテオールの力を持っても振り切れなかったほどの力があった。

その怪獣の名を、宇宙有翼怪獣アリゲラ。

かつてウルトラマンメビウスと戦い、敗退した相手。

クロウはそれに類似する力を、有していたのだ。

 

『ウッ……グァアァアア!』

 

低高度飛行を繰り返すクロウにネクサスは攻撃を受けては怯み、連続攻撃に反撃する隙を見つけられなかった。

ただ攻撃のタイミングで防御することしか出来ない。

そしてクロウが鋭い腕を振るって来るのが見え、ネクサスはすぐに両腕を胸元で交差させる。

 

『フェ…アッ!』

 

腕ではなくアームドネクサスで防御したため、ダメージを最小限にしたネクサスは旋回して返ってくるクロウを素早いバク転で距離を離すと飛行スピードを上回り、一定の距離が空く。

その間に拳を握りしめ、頭を向けて突撃してくるクロウを殴り飛ばした。

 

『シュワッ!』

 

即座に駆け、低空飛行で飛ぶネクサスはクロウに掴みかかり、手刀を打ち付けていく。

嫌がるように頭を振ったり空中で回転するクロウだが、ネクサスはその回転を利用して投げ飛ばした。

 

『シェアァ!』

 

投げられたクロウは翼をはためかせ、地面に落ちる寸前で保つ。

しかしネクサスは前転ですぐに起き上がっており、既に迫っていた。

そうして右腕の拳を突き出しながらクロウを通り過ぎる。

すると時間差でクロウが地面に落ち、ネクサスはそのまま回し蹴りで再び蹴り飛ばした。

それだけで終わらず、速度を活かして次へと繋げようと低空飛行で左拳を突きだし---

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハアッ!』

 

クロウがそれを受ける前に、ネクサスの拳と何者かの拳がぶつかり合い、発生した衝撃波に双方ともに吹き飛ぶ。

ネクサスは後方に僅かに飛ばされ、妨害したであろう者は派手に吹き飛びながら後転で抵抗力を減らして起き上がる。

 

『ッ……!』

 

『……フッ』

 

既にメタフィールドを展開しているからか両手で握り拳を作りながら腰を落として肩で息をするネクサスと、余裕を感じさせる佇まいで妨害した黒い巨人---メフィストは笑う。

 

『さぁ、始めようぜ…!』

 

『ヘェアッ!?』

 

右腕のアームドメフィストにはかぎ爪状のメフィストクローを装備したメフィストはそれを地面に突き刺す。

すると神秘に満ちるメタフィールドの世界を自らダークフィールドを展開することで世界の塗り替えを行う---ダークシフトウェーブ。

神秘の世界は、暗黒の破滅の世界へ。

突然現れてはダークフィールドを展開したメフィストは、瞬時に近づいてクローをネクサスに向かって振り下ろす。

ネクサスは反応して両腕で受け止めるが、メフィストはネクサスの両腕を蹴り上げ、仰け反った瞬間には腹を蹴っ飛ばしていた。

 

『ぐあっ……!アアッ!?』

 

お腹を抑えながらネクサスが顔を上げると、目の前には光弾があった。

反応しても避けることは出来ず、モロに受けては一気に吹っ飛ばされた。

岩を何度か破壊し、背中で地面を削りながらようやく止まったネクサスは悶える時間もなく、すぐに顔を上げて跳躍した。

その瞬間、さっきまでいた位置に紫かかった暗黒色の三日月形の光線---ダークレイフェザーが地面に当たり、爆発を起こしていた。

 

『シュワァァ……デェアッ!』

 

『フン……デアァ!』

 

反撃の一撃として、ネクサスはクロスレイ・シュトロームを一瞬の動作で放つが、なんとメフィストはクローを下方から打ち上げるように振り上げただけで光線技を消して見せた。

 

『……!?』

 

自身の最強とは言えないが、必殺技として存在する光線をあっさりと打ち消した存在にネクサスは固まり、その隙を逃さない敵ではなかった。

クロウが翼を広げては接近し、ネクサスに腕を振るう。

 

『シェアッ。デアッ、デヤァ!』

 

ハッ、と意識を変えたネクサスはクロウの腕を片腕で防ぎ、腹を力強く殴る。

それで僅かに怯むと、ネクサスはエルボーカッターを輝かせ、明らかに避けられない距離で振い---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウ……グォッ…! アアアアアァァ!?』

 

ネクサスの腹が()()()()()()()()

すぐに正体不明のソレを何発も殴り、その度に強くなる力にネクサスはパーティクルフェザーをクロウの顔面に当てて落ちていく。

 

『グハッ……う、ぐぅっ……』

 

受け身を取ることすら出来ず、落ちたネクサスは光が空気に霧散していく中、腹を片腕で抑えて上空を見上げる。

そうして驚愕した。

()()はバンピーラではなく、もはや原型を留めていなかった。

()()からは腹と思わしき場所が開き、グロテスクな音と中身の見た目を露見させつつもそこからナニカが続々と出てくる。

虫が脱皮して幼虫から蛹に、蛹から成虫になるように三度目の進化---バンピーラという殻を破るように、装甲を外すように地上へと落ちてきた。

クロウとしての特徴であった翼はそのままに。

黒から青の混じった色へと変化し、バンピーラの両脚に両腕による四足歩行。

見た目だけなら普通の四足歩行の怪獣だったが、頭部が異常すぎた。

その頭部は()()

ドラゴンのようにも見え、ヘビのようにも見える頭部が三つも体から繋がっている。

さらに星のようなマークが所々にあり、これこそがクロウが隠していた()()()姿()

それはまさしく魔神テュポーンと半人半蛇の女神エキドナとの間に生まれた怪物、『水蛇』を意味する神話生物---ヒドラ、またはヒュドラそのものだった。

バンピーラ・サーペントクロウとも言うべきか。

 

(うみへび座!?)

 

うみへび座の上に乗っているのが、からす座。

予想はしていたとはいえ、急激に力が抜ける感覚にネクサスは膝を着く。

神話上として存在するヒュドラの体内には『猛毒』が存在する。

バーテックスとスペースビーストの力によって成長させられたそれは、ウルトラマンの体すらも容易に蝕み、脅かすのだ。

 

『テヤッ!』

 

『デェヤッ……ウワッ!?』

 

変身を保つだけでメタフィールドの消費、数々の消耗、毒の影響、ジュネッスを保つ力、古傷---それら全てを含め、ネクサスは地面に両手を着いてしまうが、そこへメフィストがクローを振り下ろすことで、ネクサスの体が完全に地面に着いてしまう。

 

『フンッ!』

 

『ッ!』

 

そんなネクサスに容赦なく攻撃を仕掛けるメフィストだが、ネクサスは転がって避け、腹を抑えながら片手でクローを逸らす。

 

『ハッ!? デェア!』

 

『シュアッ!デェアァ!』

 

驚くメフィストは再びクローを勢いよく突き出すが、ネクサスは左腕で防ぎ、右腕を突き出すことでメフィストを殴ると左脚を上げて蹴り飛ばす。

 

『……フッ!?』

 

休む暇もなく、メフィストを蹴り飛ばしたネクサスに入れ替わるように三つの首が向かってくる。

噛み付こうとしてくるサーペントクロウの頭を次々と避けていき、エルボーカッターでひとつの首を斬り落とした。

一瞬サーペントクロウの動きが止まり、斬り落とした首が()()()()()()()

 

『ウッ!?』

 

四本に増えた首に驚き、ネクサスは今度は増えた数を含めて三本ともに斬り落としたが、真ん中の首にだけは避けられる。

しかし三本斬り落とした先からは、その倍---七本へと増える。

 

『!!? ファアア!』

 

ならば、と同時に向かってきた三つの首を斬り落とすのと同時にパーティクルフェザーを放つことで傷口を燃やす。

---神話通り行くならば、それは素晴らしく正解といえる答えだった。

次々と生えてくる首に対し、英雄ヘラクレスは甥のイオラオスにたいまつを持たせ,斬り口を焼かせたという逸話がある。

それでも相手はバーテックスやスペースビーストの融合型。

そんな神話通りの弱点を残してるはずもなく、首が九本へと増え、それ以上は増えることは無かったが、再生していた。

 

『ハッ! シェアッ!』

 

最大上限数となったのはいいが、相手の手数が増えたことには変わりなく、手で叩き落として捌いているが時々横腹や腕、脚を掠り、やけに避けていく真ん中の首を高速で他の首の攻撃を避けながら一直線に斬り落とす。

その瞬間、サーペントクロウの動きが止まった。

 

『……! ハァァアアア---!?』

 

明らかな弱点。

チャンス。

そう見たネクサスは腕に以前放った技と同じくアームドネクサスを十字に交差し、左手で右腕を上から下に撫でるように添えると、炎のエネルギーを纏った右腕を引き絞る。

その一撃を叩き込もうとしたところで、()()()()()()()()()()

つまり、ブラフ。

ネクサスにあえて技を使わせようとする罠。

 

『---デェアアアアァ!』

 

だが動いてしまったネクサスは止まることは出来ず、迷いなく振るうネクサスだったが、サーペントクロウは九つの首から白く発光する糸を炎を纏う右腕に吐き出し、ネクサスの動きが僅かに止まる。

糸は炎ですぐに溶けたが、ネクサスが僅かに止まったその間に九つの首からは凄まじい熱量が集まり、それを一気に吐き出していた。

 

『シュオァァァアア!?』

 

いわゆる火炎放射と呼ばれるものが破壊のエネルギーと化してネクサスに襲い掛かり、ネクサスは瞬時に炎を放つことでひとつの首を燃やし尽くすが、あまりにもの威力に一気に吹き飛ぶ。

しかも首は簡単に再生し、ネクサスは小さな廃れた工場のようなものを壊しながら背中を打ち付ける。

 

『ア……ハァァァ…。シュァ……ウグゥ!?』

 

手を伸ばしながら何とか立ち上がるネクサスへ、翼を広げたサーペントクロウが物凄い速度で突っ込み、両腕に分類される鋭い爪で真正面から切り裂き、旋回して帰ってくるとネクサスの背中に突進する。

 

『デュオァ!』

 

『グァ、ウォァッ!?』

 

サーペントクロウの重量となると、強制的に前へ動いてしまい、そこに飛び込んできたメフィストがクローを振り下ろし、さらに突き出していた。

当然ネクサスは回避の行動を取れるはずもなく、振り下ろされたクローの一撃に怯み、胸に突き出されたクローの一撃に再び吹き飛んでしまう。

そして地面に背中を預け、力を失ったように手は地面へと落ちた。

仰向けに倒れたネクサスのコアゲージの点滅が速まり、立ち上がる行動すら取れていない。

 

『ぐ……ァァ……』

 

『……終わりだ』

 

ピクリ、と指を動かし、何がなんでも立ち上がろうとするものの、その瞳は消え、それをメフィストはつまらそうに呟きながら見つめると、ネクサスの光はついに失われた。

その身に纏われた、青い力は失った。

失われて、しまった。

そう、ネクサスはジュネッスの力を失い、アンファンスへと戻ってしまう---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

988:名無しの転生者 ID:fYiYMZXex

あのイッチがあっさり…!!

おい、しっかりしろ! ここでやられたら終わりだろ!?

 

 

989:名無しの転生者 ID:ZxSz9ekT1

くそっ!誰か他には居ないのかよ……!

イッチの肉体がボロボロなのとエネルギーの消耗のし過ぎて本来の戦闘力もセンスも出てねぇ!

多少戦えてるのはネクサスのスペック上昇とイッチのセンスだ……恐らく今はジュネッスでアンファンスクラスのスペックしか出てないぞ、これ……!

 

 

990:名無しの転生者 ID:qeJVPzWgc

サーペントクロウが仮に神話とバーテックスの特性を持っているならば、ふたつ一気に消さなきゃならない。

つまり首の全てを一気に壊す一撃と本体を撃ち抜く一撃があれば倒せるず……でもこいつにアローレイは当たるのか!?

 

 

991:名無しの転生者 ID:t8eLoUl6j

立て、イッチ!

頼む、立ってくれ! お前が負けたら終わりなんだ、みんな死ぬ。お前も、世界も!

 

 

992:名無しの転生者 ID:yTwoRRR+Q

んでっ!他のウルトラマンが居ないんだよ、クソがッ……!!

頑張ってくれ、イッチ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰の応援も届かず。

誰の光も届かず。

なんの光も届かず。

神樹様も存在しなければ。

太陽すら閉ざされる世界。

そうして光を失ったネクサスが保つメタフィールドは不可能へとなり、メフィストも維持する気がないのか、いや全てを終わらせるために遺跡へと戦いの場は戻る。

勝てない、元から不可能なのだ。

サーペントクロウの強さは、あの黄道十二星座との相性が良い組み合わせを超えるそれ以上の強さ。

メビウスの宇宙から回収されたアリゲラの特性という情報遺伝子があるという予想が正しければ、サーペントクロウの強さはバンピーラ×バーテックス二体×怪獣の計算となる。

さらにビースト振動波によって強化され、限界まで強化されているようなもの。

しかも相手のメフィストはファウストよりも強かった。

すなわち、初めから勝てるはずもなかった。

間違いなく、ボロボロでエネルギーも少ないウルトラマンでは勝てるはずもなく、殺すための人選だったといえる。

特にこの場には勇者もいない。

紡絆という人間は、守るべき者が傍にいればどんな脅威をも乗り越えるほどの力を発揮出来るタイプの存在。

いなくとも力を発揮出来たとしても、居た方が誰であって力を発揮出来るのだ。

結局は、過ぎたこと。

メフィストとサーペントクロウは遺跡のオブジェクトを壊すように接近しており、ウルトラマンの敗北は、この世界の全ての終わりを意味する---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

否。

 

『………ハアァ……』

 

メフィストやサーペントクロウの背後では、ネクサスが立っていた。

あれほどのダメージを受け、エネルギーを失い、それでもその瞳は輝いていて、エナジーコアを中心に全身が輝くと命の灯火が宿る。

 

『……デヤッ、ダアッ!』

 

『……ッ!? バカな---ぐああっ!?』

 

気配に気づいたメフィストは振り向き、驚愕を顕にする。

そんなメフィストを無視し、右腕の肘を曲げ腕を上に、開いた左手で左腕を水平に伸ばして構える。

その後に左右逆にすることで再び構えを取ったネクサスがメフィストへ接近。

アッパーカットで上空へ打ち上げ、落ちてきたメフィストの横腹を横蹴りで吹き飛ばす。

それを見てネクサスに反応したサーペントクロウは九つのうち四つを向かわせ、残りは火球と追尾型の光球、発光する糸を吐き出していた。

 

『ゥン…! ハッ、シュワッ!』

 

しかしその攻撃をネクサスは四つ全ての頭をアームドネクサスで捌くと、糸をしゃがむことで避けた。

そして回転しながらエルボーカッターで火球と光球を斬り裂く。

斬り裂かれた火球と光球は真っ二つに分かれ、地面が爆発する。

その後に同時に放たれたであろうパーティクルフェザーがサーペントクロウへ直撃。

怯む姿を気にせず、エルボーカッターで四本の首を落とし、追い討ちとして両腕を交差してボードレイ・フェザーを体に連発してサーペントクロウへダメージを与えながら一気に後退させた。

 

『…………』

 

それを見据え、限界を迎えたかのように再びネクサスが膝を着いて俯くが、すぐに気がついたように顔を上げた。

 

『ハッ!?……シュア?』

 

蝕んでいたはずの毒も消え、ネクサスは立ち上がる。

しかし困惑しているような様子で両手を握ったり開いたりするが、エナジーコアの点滅が再び始まった。

それを見てすぐに胸のコアゲージに左腕を添え、振り下ろすことで青く輝き、再びジュネッスブルーへと変化を遂げる。

 

(よく分からないが……こいつを倒すには、まとめて!)

 

回復したということは理解した紡絆は、マッハムーブによる急加速を行う。

体に与えられたボードレイ・フェザーの影響で切り口から御魂が僅かに露出しており、それはヒュドラとしての特性があろうとも、融合した時点でバーテックスなのには変わりなく、バンピーラ・サーペントクロウという存在を作り出している核。

敵もそれは理解しているようで、攻撃させないと首だけは完全に再生させたサーペントクロウが攻撃を仕掛ける。

だがネクサスは冷静にそれを見極めて捌き、サーペントクロウの体を斜め上へ蹴ることで距離を離す。

空中に飛ばされたサーペントクロウは翼を広げて滑空し、再び向かってきた。

 

『シェッ!』

 

既に見た技であるからか、ネクサスは自ら前に出てスライディングの要領で滑ることで真下を通り過ぎることで避け、帰ってきたサーペントクロウの攻撃を横に転がって避ける。

そうするとまた旋回し、向かってきたのを跳躍して避け、地面に着地するのと同時にネクサスの体がブレる。

超音波ですら、場所を確認出来ないほどの高速スピード。本来のジュネッスブルーの神速。

狙いが定められず、サーペントクロウは上空で待機する。

 

『デアッ、デェアッ! ハッ! シュワ、シュアッ!』

 

一体何をしているのか、マッハムーブにて次々とネクサスが周辺を回るように高速移動していた。

高速移動される度に地面は砕かれ、ほんの数秒間回っていたネクサスが地面を削りながらマッハムーブを解除し、止まった後にサーペントクロウを見上げる。

 

『デア、シュアァァァ……』

 

そして抜刀するような構えを取ると稲妻のようなエネルギーが行き来していた。

それを見てサーペントクロウは一直線ではなく、狙いを定めさせないように低高度飛行をしながらネクサスの周りをぐるぐると回り、ネクサスは何もせずにただエネルギーを貯めていた。

 

『…………』

 

ネクサスは何も動かず、エネルギーを貯めながらただ待機する。

その力が暴発しないように保つだけで、目で追うことすらしていなかった。

サーペントクロウは警戒するようにネクサスの周りを飛行し続ける。

お互い決め手を探すように隙を探すように待機し、動くだけ。

ただ分かるのは、先に動いた方が不利。

ほんの数秒の読み合い。

待ちきれなくなったのか、それともエネルギーを貯めすぎた影響か僅かにネクサスの体が傾く---時が来た。

大きく上昇し、距離を一気に引き離しながら今まで以上の速度、それこそ本来の通常時のジュネッスブルーに匹敵する超加速で超音波を放ち、気配すら感じさせないほどに()()()()()()()()()()()()()()()襲いかかる。

ネクサスは超音波の影響を受け、飛行の際の風の音は聞こえてないのか前を向いたまま気づいてない様子で背後へ振り返ることはなく、九つの首とサーペントクロウの体がネクサスへと突き刺さり---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()

サーペントクロウの攻撃はネクサスに当たる寸前で、体ごと全て巻き上がり、ネクサスの周囲をウルトラマンの身長を超えるほどの()()()()()()()()()()()()()()

まさしく、黄金の竜巻()

この技の名は、『ネクサスハリケーン』。

かつて一度使用したことのある技であり、サーペントクロウの動きを捉えることは出来ても反撃する前に直撃、または掠る可能性が高い。

さらに紡絆はまだ上の段階があると予測し、それは避けることすら難しく、反撃はより難しいと理解していた。

しかしただ純粋にネクサスハリケーンを放ったところでサーペントクロウならば回避する姿が目に見えている---ならば、()()()()()()()()と考えたのだ。

ネクサスの光線技はどれも強力であり、エネルギーを貯めたクロスレイならばバーテックスやビーストより硬い装甲を持つ融合型に御魂を露出させる程度の威力はある。

わざわざ正面から突撃してきて受けるほど融合型はバカな知能を持っているわけではなく、もし正面から来たらネクサスは放てば良いだけ。

となると選択肢は五個しかなく、頭上、左右、背後、下のみ。

そしてネクサスが警戒するのは頭上だけでよかったからこそ、ただエネルギーを保つだけでよかったのだ。

何故ならば---そのネクサスハリケーンはネクサスがマッハムーブで地面を砕いた際に、全て()()()()()()()()()()

地中から来ていればネクサスハリケーンに打ち上げられ、この時点で地中はない。

じゃあ残るは左右と背後ということになるが、周囲全体に設置したとはいえ、それでも遅れれば意味は無いし三分の一で外れる。

一撃でも受ければアウトだ。

であるならば、あとは()()()()()()()()()調()()して()()()()()()()()()()()()を借りることで距離とタイミングを伝えてもらい、起爆することでサーペントクロウは予測もしない攻撃に巻き上げられることになる。

それが、この竜巻のタネ。

マジックだった。

 

 

『ハァァァアアアァァ……!』

 

ネクサスが胸のコアゲージの前で握り拳を作った両腕を交差する。

光がエナジーコアを中心に両腕へ伝わり、両腕を左右に広げると大きく両腕を頭上で回しながら、アローアームドネクサスとアームドネクサス---左腕のアームドネクサスが上になるように交差する。

そうして右腰付近で両腕に輝く光を固定すると、左手の光は右手に集まり、ネクサスの右手からは冷気が漏れ、その右拳は()に覆われた。

 

『デェアッ!!』

 

竜巻に巻き上げられているサーペントクロウは脱出出来ておらず、ネクサスは氷に纏われた右手を大きく引き絞る。

そして左拳の甲が下になるように左腰に固定すると、大きく右足を一歩踏み出しながら同時に右拳を真っ直ぐ竜巻に突き出した。

その瞬間、ネクサスの拳からは冷気を纏う氷のエネルギー光線が発射され、ネクサスハリケーンが凄まじい低体温の氷を纏う。

そうなると氷嵐となったネクサスハリケーンは九つの首だけではなく、サーペントクロウに全身を氷漬けにし、役目を終えたかのように全ての氷の竜巻は消滅した。

 

『シュワ、ハッ! ハァァァァァ……』

 

氷像と化したサーペントクロウを見上げ、ネクサスのエナジーコアが光り輝く。

すぐにネクサスは右腕のアローアームドネクサスをコアゲージの前に翳し、アローモードと呼ばれるエナジーコアの形を彩る弓を投影する。

右手の甲が外側に、手のひらが内側になるように横にしながら手ひらの親指が上になるよう腕を真っ直ぐ突き出す。

そして開いた左手の手のひらを下にしながら人間で言う尺骨当たりに添えるように、弓そのもの形をした光のエネルギーの弦に添えるように、弓を引くように自身の体の方へと右手を引き絞ると、虹色の光がネクサスに掛かっていた。

 

『シュアァッ!』

 

その状態から引き絞った弓を射るように、ネクサスがエネルギーを一気に解き放った。

これこそ、ジュネッスブルーを象徴とする必殺技---『アローレイ・シュトローム』

斬撃や衝撃波というべき縦長なショットである超高速の光の矢は氷像となったサーペントクロウのいる上空へ斜め上へ向かっていき、その体を貫いて見せた。

氷が崩れ、脱出するようにしぶとく体を捨てた御魂が、最後の足掻きとしてネクサスへ小さな翼を広げながら衝撃波を発生させて突撃してくる。

 

『シュワ』

 

それに対してネクサスは形成したアローモードを収納するように右腕のアローアームドネクサスを翳し、アローモードはエナジーコアの中へと戻るようにエナジーコアが光り輝き、収納される。

そして向かってくる御魂に対してネクサスは手刀の形を作った右手を下方の前の方へ、左手を上の後ろの方へといったファイティングポーズを取れば、待機する。

御魂が近づいてくる。

動かない。

攻撃範囲に入り、動かない。

徐々に迫ってきていても、ネクサスは攻撃しなかった。

目前にまで迫り、そうなると御魂がネクサスにぶつかることになるが、ネクサスは一瞬でも遅れたら御魂の攻撃を喰らうギリギリまでに来た瞬間、ついに動き出した。

 

『シュワッ!』

 

右腕のアローアームドネクサスをエナジーコア付近に翳し、一瞬で光の剣---ソードモードである『シュトロームソード』を形成。

それを振るうのではなく、シュトロームソードを真っ直ぐに突き立てて左手のひらで支えると御魂を待ち受け、御魂を一刀両断した。

御魂が真っ二つに分かれ、分子分解する中、武士が血を拭うように斜め下に振り下ろしたネクサスのシュトロームソードは徐々に小さくなり、背後の爆発と共にアローアームドネクサスに収納された。

 

『…………』

 

ゆっくりと首だけを動かして背後を見たネクサスの視線の先には、横腹を抑えたメフィストが腹で息をしながら見ていた。

 

『---面白いやつだ……。だが、実験は成功だ。楽しませてもらったぞ、さすがは光の戦士と褒めておこうか。次に戦うのが楽しみだ』

 

『…………』

 

何が良いのか、面白そうに愉快だと笑うメフィストにネクサスは何も返さず、メフィストが緑色の光に包まれ、その場から姿を消した。

それを見届け、ネクサスは空を見上げる。

 

『…………シュア』

 

その体は青く輝き、徐々に小さくなっていく中、暗く夜の遺跡だった世界は役目を終えたかのように人際強い光を解き放つ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が元へと戻り、ネクサスとしてではなく、継受紡絆としてエボルトラスターを握りながら海辺に近い場所に両手と膝を着いた状態で戻ってきていた。

 

「うぐっ……!? はぁ、はぁ………」

 

ぽたぽたと血の雫が紡絆のお腹から落ち、私服が真っ赤に染まっていた。

一番酷いのは腹だが、背中には切り傷があり、色んな箇所から少量の血を流していた。

今までのダメージ、さっきのダメージ、それらが全て紡絆に襲いかかっているのだ。

 

「げほ、げほっ……」

 

流石に腹を食われたとなるとやばいようで、内蔵にでも傷が入ったのか、口から吐血しながら紡絆はブラストショットを探り、置いて来たことに気づいた。

持っておかねばならなかったはずなのに、察知した時に飛び出したため、手元になかったのだ。

 

「ぁ……や、ば……」

 

後先考えないとはこのこと---いや、以前までなら間違いなく持っていたはずだった。

普通に考えて飛び出す前に手に取るべきだったのだ。

今更後悔しても遅く。

力が抜けたのかエボルトラスターを砂浜に落とし、紡絆は完全に倒れる。

 

「げほっ、はぁはぁ……。ご、ごめん……また、君を……うると---」

 

またしても自分のことよりも、誰よりも、遥か上の存在に対して謝罪し、心配する紡絆だったが流石に血の流しすぎもあって意識を失ってしまう。

するとエボルトラスターがひとりでに輝き、アンファンスとしてのネクサスがエナジーコアを鳴らしながらうっすらと実体化した。

 

『………』

 

相当な無茶をし、もはや本当に生きているのか、何故生きているのか不思議になるほどにボロボロな姿を、ネクサスは見つめていた。

そんな彼は常に生と死の狭間に居る紡絆に対して何か言いたげな、申し訳なさそうな、心配するような、そんな雰囲気を纏っていた。

それでもこのまま放置すれば紡絆は間違いなく死んでしまう。

だからこそネクサスはすぐに紡絆に対して手を翳し、アームドネクサスを交差する。

するとネクサスはアームドネクサスを胸元で引き離すのと同時に光に包まれ、紡絆と共に姿を消す---テレポーテーションを実行した。

テレポーテーションした先は人気のない山で、ネクサスは僅かに紡絆を見て、限界が訪れたようにエボルトラスターへと戻ると紡絆の懐へと入っていく。

さらにブラストショットが紡絆の手元にワープし、ストーンフリューゲルがまたしても紡絆を勝手に回収して、誰にもバレないようにステルス化しながら元通りの場所へと戻すべく、高速の割には負担を感じさせない中で追いつかないとわかっていても紡絆をほんの少しでも、僅かにでも回復させようと活動していた---

 

 

 

 

 

 

 





○継受紡絆/ウルトラマンネクサス
ショタボディえろい!けど痛々しい!
あまりにもの本人が化け物強メンタル過ぎて周りが頭抱えてるやつ。
なんかまた新しい技使った。
あかんしぬぅ!

○ウルトラマンネクサス
最近自らの意志で実体化しては紡絆を見てる神秘の巨人。
紡絆に何か言いたげ。でも申し訳ない。
戦いに適能者を巻き込んだの自分だからね仕方がないね。
ちなみに氷光線は元ネタあるし動作に至ってはガイアのガイアブリザードの反対版(両腕広げてからの交差ではなく、交差してから両腕広げる)→メビウスのライトニングカウンター(貯め)→コスモスのコズミューム光線、またはクロスパーフェクション(どっちかというと後者で、真っ直ぐ片腕突き出しと足踏み出し)のイメージ(最後打ち出す時が左腰に左拳を添えているかどうかと右足を出すかどうか)

○融合型(???)バンピーラ・サーペントクロウ
バンピーラやからす座だけでなく、アリゲラの特性をも持つ(申し訳程度の鳥型スペースビースト要素)融合型かどうか怪しいやつで、強さは黄道十二星座との融合以上の強さ。
神話の弱点を消されたヒュドラの特性を持つが、バーテックスなのには変わらないので御魂はある。
普通なら負けイベント。
掲示板曰く、『メビウスの世界の情報遺伝子から作り出されたのでは?』

○メフィスト
追い打ちやめろ


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「-予兆-ポーテント」

次回、原作で言う結城友奈の章、この作品で言う輝きの章の『最後の』まともな日常編入ります。
これが終わればラストスパート駆け抜け、そして輝きの章の終了と同時に主人公の全てが明かされます。多分、知らんけど。いつもその場の思いつきで書いてるし。
でもそろそろ誰か察してるだろうな……。結構バレるかバレないかのギリギリで書いてるつもりだ(あからさま部分が所々出てきている)し。今回重要な情報出てるし。
それとゆゆゆい家庭版出るらしいっすよ、みんなも買おう!
その作品が出る頃には流石にこの章は終わってると思います。
多分日常編は東郷さん→夏凜ちゃんか犬吠埼姉妹→友奈→妹ちゃんなので、終わりは45話くらいかな?アニメ換算すると残る4話ですからね、この話終わったら。




 

◆◆◆

 第 30 話 

 

-予兆-ポーテント

 

 

キンギョソウ(金魚草)

予知

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつけば、その場に立っていた。

それは、遺跡。

かつてウルトラマンと出会い、力を手にして、最初に戦った場所。

運命の出会いを果たし、ウルトラマンの宿命を背負うことになった場所。

継受紡絆という人間を、成長させることになったきっかけ。

数多くの激戦を乗り越え、今や紡絆は最初の頃よりも明らかに成長した。

そう、それは紡絆の思い出の場所になったところでもあった。

 

「これは……夢?」

 

これが夢だと理解した。

そもそも一番そうだと自覚した理由は、全く嬉しいことではないが体がボロボロじゃなかったからだ。

しかし夢を見ているということは無事なのだろうが、浮かび上がるのは疑問。

何故自分はここへ帰ってきて、スペースビーストが現れるような気配が何一つないのか。

そう思っていると、何かが爆発するような音が聞こえ、夢だと言うのに紡絆の体は吹き飛ばされた。

 

「ぐはっ……!?」

 

何かにぶつかったことで止まり、突然の爆発に驚いて顔を上げれば、視界に映ったのはいつもの遺跡ではなかった。

()()()()()()()()()()()()()()()()と、ストーンフリューゲルのようなオブジェクトを壊している()()()()()()()()

姿は見えない。

しかし遺跡を破壊し、爆炎に包まれるその姿を、紡絆はただ呆然と見ていた。

 

『-----』

 

「……ッ!?」

 

振り向く。

黒いウルトラマンが振り向き、紡絆を見ていた。

ウルトラマンではなく、()()()()()()()()()()()

赤い瞳、ネクサスに何処か似て、明らかに違う見た目から感じられるのは、とてつもない殺意。憎悪。憤怒。絶望。苦しみ。苦痛。執念。渇望。落胆。失望。軽蔑。嫌悪。嫉妬。敵愾心。

少なく感じるのは情景、感謝。

しかし、アレには今の自分は手も足も出ない、と確信させるような、そんな強さを感じさせられる。

否、本能が理解していた。本能が恐怖を感じていた。

アレは、自分が知る歴代のウルトラ戦士たちと比べるまでもなく、圧倒的に強い。まさしく次元が違う、と。

それこそ、ウルトラマンの枠を超える、かのウルトラマンキングに近しい、そんな強さを。いや、間違いなく匹敵するという確信があった。

アレは---()()()()だと。

それでも、それでも何故だろうか、不思議と、間違いなく敵だと言うのに、紡絆は肌で彼の感情を感じ、悲しくなり、()()()()と願った。

その結果、紡絆は黒いウルトラマンに対して必死に手を伸ばす。

 

『-----ッ!!』

 

しかしその姿を見た黒いウルトラマンは忌々しそうに何かを叫び、手を振るう。

瞬間、黒い光弾が紡絆に迫っていた。

避けなければ死ぬ。

それを理解していてもなお、紡絆は伸ばして---高速で頭の中を少しの記憶が駆け巡る。

ハッと気づいた時に、最後に見たのは、獣のような雄叫びと共に憎悪の感情を爆発させる黒いウルトラマンの姿だった。

 

(ノア、模造品、惑星……母星の爆発。

そうか、君は……造られた存在なのか)

 

ただ、ただ一瞬でしか無かったが、()()()()()()()()()という形で触れた紡絆は同情ではなく悲しみを抱き、黒い光弾が直撃するのと同時に紡絆は夢から追い出される---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

傷の痛みを僅かに感じながら、ゆっくりと紡絆は目を開けた。

前までの自分ならば、さっきまでの夢で慌てて起きたかもしれない。

しかし紡絆は不思議と、ただ悲しくなるだけで飛び起きることもなかった。

あれは過去---いや、どちらかといえば未来と過去か。

あの黒いウルトラマンは間違いなくウルトラマンの力を超えていた。

今の自分が戦ったどころで手も足も出ないことを、紡絆は理解していた。

ただどうしても、願ってしまう。

思ってしまう。それが人間でなくても、ウルトラマンであっても、紡絆という人間は()()()()()()()()()()()()()()()()()

最初は、人間だけだった。動物や人、自然という世界だけを守りたいと、そう思っていた。

でも前世を思い出して、ファウストを殺して、母親を殺して、変わったのだ。

スペースビーストやバーテックスとはどうしても分かり合えない。

しかしさっきのウルトラマンには知性を感じられた。

それも、物凄い知性を。

だから紡絆には救いたいという感情が生まれていたのだろう。

彼はきっと---()()()なのだと。

 

「………」

 

とりあえずソファーに寝かされていた紡絆は手に握っているブラストショットを見て、状況を理解した。

あの後、倒れた自分をストーンフリューゲルがここへ連れてきてくれてたのだと。

部屋に戻さなかったのは布団が畳まれているのにそこに倒れるように眠っている人間がいたら間違いなく怪しまれるに違いない。

そう判断して、休憩室のような場所のソファーに移動させてくれたのだろうと思った。

 

兎に角にも、戻らねばならない。

布団を畳んでいたお陰で早起きして何処かに出掛けたと思われる可能性はあるが、何時間も居なければ既に起きている人が居ればバレてしまうかもしれない。

それは避けたかった。

 

「っ……」

 

凄まじい痛みを発するお腹を片腕で抑えながら、足を引き摺るようにして紡絆は宿泊部屋を目指す。

たった少ししか歩いてないのに息切れもしているが、それでも倒れることなく歩いていた。

壁がある時は壁を伝うように手を付きながら歩いていると、何とか部屋の前にまで辿り着く。

となると流石にこの状態ではいられないからか、紡絆は一度深呼吸をし、痛みを痩せ我慢すれば誰も起きてないうちに部屋に入ろうと襖を開けて---

 

 

 

 

 

 

「肌身離さずだね、そのリボン。それに東郷さん何処に行く時も絶対持ってるよね、()()()

 

聞こえてきた声に、流石に止まった。

紡絆は普段寝ている彼女が起きていることに驚きつつも、ドアを少し開けて覗いてみる。

予想通りというべきか、そこには髪を下ろした友奈と東郷がいる。

普段とは違うギャップを感じさせる姿だが、思春期の子供だというのに紡絆は()()()()()、出れるタイミングをないか探るように友奈が言っていた物を見てみた。

そこには青いリボンに、()()()()()()を大切そうに持っている東郷の姿がある。

 

「うん。私が事故で記憶を失った時に握りしめていたものだって。このバッジに関してはどうして()()持っているのかは分からないけれど……とても大切なもの。

そんな気がして、バッジの方は不安なとき、持っていたら安心出来るの」

 

「そっか……」

 

曖昧な東郷の言葉に友奈は何と返せばいいか分からなかった。

友奈は東郷の過去を知らないからこそ、それがどんなものか教えることも出来ないのだから。

唯一出来るのは、話だけ。

 

「ね、東郷さんはずっと海を見てたの? それなら起こしてくれてもよかったのに」

 

「ううん、目が覚めただけだし、考えごとをしていたから」

 

「考えごと?」

 

「バーテックスって星座がモチーフでしょ? それならもっと居ても可笑しくないじゃない。

それにスペースビーストと融合した星座も存在する…だから本当に終わったのかなって。そもそもスペースビーストだってもしかしたら……」

 

単体として来るのではなく、スペースビーストと融合する形でスペースビーストに強力な力を与えるのが今のところ黄道十二星座ではない他の星座の特徴。だから単体としてのバーテックスの姿があるのかは不明。

しかし個体によるのか稀にスペースビーストでもバーテックスでもない新たな姿として進化する存在もいた。

それこそ---数時間前まで戦っていたバンピーラ・サーペントクロウのように。

奇しくも東郷のその考えは、一人で戦うことになってしまった紡絆が証明する形へとなってしまっているのだが。

 

「東郷さん……」

 

もし融合型がいなければ、可能性の低さから否定することはできた。

でも友奈たちはスペースビーストがあとどれくらいいるのかもバーテックスが本当は生き残りがいるのかも知らないのだ。

それでも、友奈は口を開こうとして---

 

「---大丈夫」

 

力強さを感じさせつつも優しさの込められた声が、ふと響いた。

その声に反応して友奈と東郷が声の先、襖の方へ顔を向ければ紡絆が入ってくるのが見えた。

 

「例えどんなことがあったって(ウルトラマン)がいる。神樹様もいる。

だからこの世界は簡単に滅んだりはしないよ」

 

「紡絆くん……」

 

「紡絆くんの言う通りだよ。大赦の人たちは問題ないって言ってたし人類を死のウイルスから守ってくれた神樹様がいるんだもん。ウルトラマンだってついてる」

 

近くに来た紡絆が安心させるように笑顔で東郷に告げると、友奈も肯定していた。

それを聞いた東郷は普段ならば---以前までだったなら紡絆や友奈のその言葉に安心出来ただろう。

特に彼はどこまでも前向きで、優しくて、東郷にとっては誰かの希望となるような光のような存在なのだから。

しかし---

 

(大赦、神樹様……か。それに()()……)

 

東郷は()()()()には全く安心することが出来ず、いつも温もりをくれたはずの笑顔は、不思議と不安を増長させていた。

さらに彼女の中で募っていた大赦への不信感は紡絆の言葉や思いすら容易に上回り、同時に東郷は神樹様にすら疑心を持っていた。

守って恵んでくださる神樹様。だが満開などといった力があったり、こうして身体機能が失われること---本当に神樹様は味方なのかと。

 

「そういえば紡絆くんは起きてたんだね。どこかに行ってたの?」

 

「それは……そう、海見てた。ほら、目が覚めたら誰も起きてなくってさ。だから一人だし朝日が昇るときの海は綺麗だろうなーって」

 

「そうなんだ。私も見たかったなぁ」

 

東郷の髪を櫛で梳かしながらさっき起きたばかりの友奈は見れなかったことに残念そうにし、そのことに紡絆はただ苦笑する。

実際言っては見たが、残念ながら紡絆は戦い終えた後に意識を失ったので夜の海は静かだったということしか知らなかった。

 

「まぁ何はともあれ、そんな不安がっていたって仕方がない。もし不安なら、傍にいる。そうしたら少しは和らぐだろ? 俺が居てもあんまり変わらないかもだけどさ」

 

「紡絆くん…そんなことないわ。ただ一人だといろいろ悪いことばかり考えちゃうから……居てくれた方が助かる、かも」

 

「そっか。なら東郷の気が済むまで居ることにする」

 

気を取り直すようにそう言うと、紡絆の言葉に東郷は嬉しそうな笑みを浮かべていた。

紡絆は秘密にしていることに精神的にも肉体的にも痛んだが、我慢しながら椅子を持ってきて近くで座っていた。

 

「できたー!」

 

そのようなことをやっていると、友奈が満足気に大声---を出しかけて慌てて声量を下げていたが、手鏡を手に持つ。

 

「ふふん、紡絆くんっ。どうかな、東郷さんのこの髪型!」

 

東郷の髪は長いなのもあって、自由が効くようで。

友奈は東郷の髪をひとつにまとめて結んでおり、ロープ結びと言われる髪型だったかと紡絆はあんまり知らない知識量で理解した。

 

「ん、似合ってるしいいんじゃないかな。いつもの東郷の髪型もいいと思うけど、これはこれで別の良さがあるからな。綺麗だと思うぞ」

 

「あ、ありがとう…」

 

お世辞でもなんでもなく真っ直ぐな言葉を告げられ、照れたような笑みを浮かべる東郷に、友奈は少しでも気が紛れたかと笑顔を浮かべる。

すると、紡絆が椅子を持ちながら友奈の元へ歩いていた。

 

「紡絆くん?」

 

「ほら」

 

何か用でもあるのかと疑問を抱きながら首を傾げる友奈だが、椅子を降ろした紡絆は彼女の肩をそっと触れるとそこに座らせるようにする。

その行動に思わず友奈は座るが、ますます理解出来ずに疑問符を浮かべると---

 

「ふぇ?」

 

自身の髪が優しく梳かされていることに気づいて、一瞬固まった。

そんな友奈を気にすることなく、紡絆は借りた櫛で彼女の髪が傷まないように優しく、それでいて何処か安心出来るような手付きで髪に触れていた。

 

「つ、紡絆くんっ!?」

 

「東郷の髪をセットするのはいいけど、友奈も必要だろ? じっとしてて」

 

「そ、それはそうなんだけど……。で、でも…んっ……」

 

流石の友奈でも紡絆の行動は予想外だったようで、驚きつつも異性に髪を梳かされるとなると恥ずかしいのか顔を赤くしていた。

が、当の本人は全く気づいてなく、善意でしか行動していない。

流石、善意の塊とも言うべきか。

 

「…紡絆くんって、上手いのね」

 

「あぁ、俺も分からないけど……記憶失う前の俺が、小都音にやってたのかもな。体は覚えるっていうのかな、たまに小都音にもしたりするし」

 

「なるほど…」

 

「う、ううっ……」

 

東郷ほどでは無いとはいえ、髪が比較的長い方ではある友奈に対して紡絆は慣れた様子で髪を梳かすだけでなく、結んでいく。

その姿が意外だったのか東郷は目を瞬きさせていたが、紡絆も出来る理由は分かってなかった。

---まあさっきから居心地が悪いというか、自分でしたり同性にされることはあっても異性にされることがなかった友奈が言葉には出来ない感覚に恥じらいを覚えているのだが。

 

「友奈の髪も東郷に負けず綺麗なんだし、ちゃんとしないとって思ってさ。俺には分からないけど、一人でやるのは大変そうに思えるし」

 

「今度は私もお願いしようかしら……」

 

「俺で良いならやるけど、期待はしないで欲しいけどな……っと」

 

さらっと褒める紡絆のせいで、ますます恥ずかしがっていたり、髪とはいえ撫でられているようなものなので少し落ち着かない様子ではあるものの、終わったのかいつもの友奈の髪型を作った紡絆は満足気に頷いた。

 

「はふ…紡絆くんありがとう」

 

「いいよ……で、朝ご飯まで時間はまだあるしみんなは寝てるけど…軽い雑談でもするか」

 

「みんなを起こしちゃ申し訳ないもの。大きな声は出さないようにしないと」

 

「うん---あっ」

 

流石に騒げないし、トランプ辺りやって盛り上がる訳にはいかないため、その提案に東郷と深呼吸をして落ち着いた友奈が乗るが、友奈は何かに気づいたように、思い出したように声を挙げる。

 

「どうした?」

 

「友奈ちゃん?」

 

すると当然気になってしまうのが人間というもので、紡絆と東郷の視線は友奈へ集中した。

 

「こんなふうに三人でって珍しいから、どうせならーって!」

 

「あぁ……」

 

「流石友奈ちゃんね、いい提案だわ」

 

気がついたように頷いた紡絆と東郷。

友奈の手にはスマホがあり、それを見て何をするのか察したのだろう。

他は寝ていて、最近では三人でいることは珍しい彼らは、折角このような旅館に来たのだから三人だけの思い出を作るのもいいと思ったのか、それぞれ位置へ着いた。

椅子を動かし、東郷と写真を撮るために友奈が前へ、紡絆は二人の真ん中より後ろに並ぶ。

そうして撮られた写真には、朝焼けを背景にした三人の笑顔の花が咲いていた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

1:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

 

【速報】俺氏、そろそろやばいかもしれない【腹が痛すぎるッピ…】

 

事の発端→【悲報】気がつけば目の前に知らない遺跡があるんですが…【なにこれ】

 

【悲報】 気がつけば別世界に飛ばされたんですが…【どうして】

 

【朗報】亡くなったと思っていた家族が生きていた【妹】

 

【速報】俺氏、無事また病院の天井を見る【知っている天井だ…】

 

【吉報】俺氏、仮死状態から無事に病院で意識を取り戻す【いつもの】

 

2:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

・俺

志々雄真実を脱したのはいいが、わりと我慢するだけで精一杯。

というか怪我増えたんだけど。

もう崩壊しかけのメタフィールドを指で数えれられる程度しか貼れんかも。

そういえば夢で黒いウルトラマンを見た。

前世含めてここまで肉体やばいのは初だわ……

 

・東郷さん

彼女のお陰でバーテックス出現時の際に神樹様がわざと結界に弱い所を作って敵を通してることを知った(なおアプリに書いてた)

 

・友奈

起きてたから一緒に雑談したり彼女の髪を結んだりしてた

 

 

3:名無しの転生者 ID:pdJx4GL9r

おいちょっと待て、スレタイが既にやばいがさらっと重大な情報出てるんだけど!?

 

 

4:名無しの転生者 ID:O2lKbYx0P

そろそろやばいって…いや、腹から思いっきり血出してましたけど。

というか地面が真っ赤に染まってたんだけど???

 

 

5:名無しの転生者 ID:w8vKn+0/i

ちょっ、黒いウルトラマンってザギさん確定じゃねーか!

 

 

6:名無しの転生者 ID:V0UoMPQMT

やっぱり力取り戻してるじゃん!

ノアの結界とたぶん神樹様のお陰で助かってるだけじゃん!

 

 

7:名無しの転生者 ID:MHkUPNQZE

メタフィールドの展開、それも崩壊しかけって……ジュネッスにはなれんの?

 

 

8:名無しの転生者 ID:o6VWjtGFz

相変わらず急に重大なこというしさらっと友奈ちゃんとイチャついてやがるし急に情報アホほど出してくるのやめろ

 

 

9:名無しの転生者 ID:X7SJokI4A

>>2

ああ、だから太平洋側から来たりせんのね

つーかイッチは本当にジュネッスにまずなれるんか? お前相当やばい状態だろ?

こっちではお泊まり特有の好きな人がいる人(誰も挙げなかった)会話と東郷さんの怪談、後はイッチが急に起きて戦って、意識失ってから画面消えたからあの後無事かも分からなかったが

 

 

10:名無しの転生者 ID:ziGa6AaBe

あと前回の炎パンチに続いて氷光線撃ったのも謎。

ネクサスにあんな力ないし、そもそもなんでジュネッスとジュネッスブルー使い分けられるんだ?

原典的に考えるとスペック的にはジュネッスブルーがいいのでは?

 

 

11:名無しの転生者 ID:7RkWx5xx8

むしろ前世でこれほどじゃないとはいえ異常な怪我するほどの似た体験はあったということなの…?

 

 

12:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

ああ、黒いウルトラマンってザギさんなのか。

そういえばアレだな、来訪者がスペースビーストを駆逐するため、ウルトラマンノアを模して造り上げた対ビースト用最終兵器ウルティノイド・ザギ…ってのがそのザギさんとやらの記憶に触れてわかったな。

んで、母星を(が)爆発させた(した)って

 

 

13:名無しの転生者 ID:YkN2atuyN

いや、夢なのに記憶に触れたってなんだよ

 

 

14:名無しの転生者 ID:kp0SuIECN

やっぱりイッチちょっとおかしいよ。言ってる意味がわからなさ過ぎるだろ

 

 

15:名無しの転生者 ID:XEyPMlnf+

記憶に触れたとは

 

 

16:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

いやー俺に言われてもわかんないし。

ただ>>10のなんだけど、多分原典とは違うとは思う。

昨日ジュネッスブルーで戦って分かったんだけどさ、ジュネッスの場合は純粋なパワーとタフネスさ、それと継続的にエネルギーを練られる。

ジュネッスブルーの場合はエネルギー消費量が少ないのとエネルギーが突貫型で、剣や矢、弓といったのが作れる精密さ…って言えばいいのかな。

それとスピードに特化している形態っぽい。

それで、ジュネッスに比べてジュネッスブルーとやらは力下がるから使い分ける必要出てきたのよ。

ただ今の俺はメタフィールド展開だけできついから長期使用はジュネッスブルーしかむりかなぁ…

 

 

17:名無しの転生者 ID:9cOr8yBhr

はへーイッチの場合は本来の性質とは違ってティガニキやダイナニキのような力と高速、超能力を使い分ける感じになってるんすねー

 

 

18:名無しの転生者 ID:vDGzadJ0c

それならジュネッスになる理由も納得だな…なんでそうなったか分からんが、それこそがイッチのデュナミストとしての本来の力なんじゃね?

 

 

19:名無しの転生者 ID:Kv7AflDbg

まぁ分からないことしかないんだけど、何気に一番やばいのが何かって言うとザギさんの復活でも融合型の出現でもメフィストの出現でも、マルチバースの遺伝子情報回収でもなくって、イッチがこんなスレ建てたことなんだよな…

 

 

20:名無しの転生者 ID:vrxHmnbrD

十分他もおかしいんだけど。

でも確かに、それが一番やばいよ

 

 

21:名無しの転生者 ID:Y/UWeBPDV

あのイッチだぜ?

普段から無茶ばかりするけど諦めるような言葉は吐かずに楽観思考のイッチが『やばい』って言ってるんやぞ……マジでやばいやつやん

 

 

22:名無しの転生者 ID:2ZOxW0YRh

おいおい、イッチも未知の技使ったり予想外な力の使い方をしてなんとか対抗してるけどどうすんのこれ。

あとスペースビースト何体だ?

 

 

23:名無しの転生者 ID:yW+B0VPvT

わからん、そもそもアイツらはザギさんの匙加減で蘇らせること出来そうだし、マルチバースに干渉出来るならそこの次元から持ってこられたら無限になるしなぁ……。なんで他のウルトラマンは無理で敵はいいんだよ、意味不だろ

 

 

24:名無しの転生者 ID:33ovw+G6p

イッチの敗北は世界の終わりを意味するしせめて回復が追いつかないとな……なあ、勇者たちには助け求めんの?

大赦に言ったら流石に勇者システム貰えるだろ?

 

 

25:名無しの転生者 ID:Rro9NI2MZ

いやーでもな……メンタルウルトラマンなイッチはともかく、あの子たちは中学生で、意外と普通のメンタルしてる面々しかおらんねんぞ?

地球が薄い闇の膜と灼熱の炎に包まれてるってこと知ってもタロウに会えるかどうかで喜ぶイッチは例外だけどな?

 

 

26:名無しの転生者 ID:Ywe4ukpPw

本当に頭おかしいしメンタルもずば抜けてますねぇ!

お前前世で何があったんだよ。あんまり前世のことを聞くと特定とか出来るから良くないんだが、気になるわ

 

 

27:名無しの転生者 ID:lvsKLD9CO

流石に身体機能失ったばかりなのに戦えは無茶ぶりだろ……まだ戻ってもないし、正直大赦は胡散臭いし『満開』って名前と勇者システムのことを考えると回復する保証はない。

もしこのまま身体機能が回復しなかったら……

 

 

28:名無しの転生者 ID:1lbhpmIQC

モチーフが『花』だからね…流石に確証ないからなんとも言えんが。

でもイッチの前世は多分みんな気になってるよ

 

 

29:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

大丈夫大丈夫!

身体機能だって返って来るよ、必ず。

それまでは俺が世界を守るし、まだ戦えるって。

どっちにしたって俺は強制的に戦いに赴くから戦うしか選択肢がないし

 

 

30:名無しの転生者 ID:d2oPz/Pd9

戦える(そこら中に傷だらけ&腹が血で滲んでてえぐいことになってる)

 

 

31:名無しの転生者 ID:hTJMbhXGT

戦える(初手エナジーコア鳴る上にエネルギーが少ないし回復速度も遅い)

 

 

32:名無しの転生者 ID:dDypRj9kF

戦えるとは()

 

 

33:名無しの転生者 ID:5/CicdG53

あのさぁ、イッチの価値観はずっと前からそうだけど、どうなってんだよ。

この前なんて歴代ウルトラマンの死と比べてたし。

いやまあ、強制的に戦いの場に転移させられる点は否定出来んが

 

 

34:名無しの転生者 ID:yGM7eRelP

それにしてもザギさん復活してんのか…なんで夢に出てきたんだろうか

 

 

35:名無しの転生者 ID:xGq3RQeBn

イラストレーターのような感じ…?でもあれはザギさんの干渉だったっけ?

 

 

36:名無しの転生者 ID:CuoltahQp

あれはアンノウンハンドに怯える来訪者がイメージ映像を投影しただけやで

 

 

37:名無しの転生者 ID:8F2GoMCYS

夢に出てきたのは謎だけど…というかこの世界に関することの多くが謎ばかりだけど、ザギさんが復活してるならあれだけの力の行使、敵の成長も納得やな

 

 

38:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

そういえば話変わるんだけど、ネクサスって意識失ったら勝手に戦うような力あるのかな?

俺、前回もコアゲージ止まった際にジュネッスブルーも保てずに戻ったはずなんだが…気がつけばメフィストは吹っ飛んでたしクロウはダメージ受けてたんだよな。

この前も言ったけど、これって能力かなんか?

 

 

39:名無しの転生者 ID:ttJtkXHRB

……はい?

 

 

40:名無しの転生者 ID:/tfFmyDfY

は?

 

 

41:名無しの転生者 ID:vh9W/oWMJ

あれって無意識じゃなかったんか…?

 

 

42:名無しの転生者 ID:9vhNVkhDN

ネクサスにそんな能力ないはずだが…なーんかイッチの方もおかしくなってきてるよなーこれ

 

 

43:名無しの転生者 ID:6ACGkLsrH

てっきり一回目も二回目もイッチの体が無意識に動いて戦ってたと思ってたが、この感じ違うっぽいな…?

 

 

44:名無しの転生者 ID:DzzABqT3H

となると、考えられるのはノア様自身じゃないか?

あんま干渉する姿は想像できないけど、この世界既にやばいし、イッチなんて常に瀕死だし。

むしろイッチが万全なところ最初の一回(なおその頃から体は万全でも記憶はなかった)しか見たことがないし。

 

 

45:名無しの転生者 ID:H50WZBS2A

うーん、どうなんだろうな

 

 

46:名無しの転生者 ID:0UBizbWq1

>>44のが一番近そうなんだよね。

そもそも俺たちはイッチが無意識に動いて戦ってたとしか思ってなかったし、てか結局ジュネッスとジュネッスブルーになれるってことは光継いだってことでいいんですかね、イッチは。

 

 

47:名無しの転生者 ID:Yn2XRpFV6

それでいいんじゃないん?

実際にイッチは導かれた、受け継いだって言ってるし

 

 

48:名無しの転生者 ID:O5zoeSitA

なんか結局また謎が一気に増えたな……

 

 

49:名無しの転生者 ID:vNbSi0LrL

とりあえずイッチは休め。

ひとつひとつ潰さなきゃ謎が消えそうにないしな…

 

 

50:名無しの転生者 ID:TA/Pj0kM7

世界の謎、敵の目的、ザギさんの目的、ノアの結界(と思われるもの)、地球を覆うナニカ、ティガニキやダイナニキ、メビウスと(イッチ世界の)タロウを撤退させた強大な敵、イッチを選んだ理由、イッチの過去、先代の勇者の行方、大赦、満開、神樹様の正体、真の黒幕、裏の黒幕…etc。

挙げるだけでキリがない

 

 

51:名無しの転生者 ID:lKz5cTHk0

マジで色々と難易度頭おかしいの草枯れる。いっつもスレ建てられる度におかしい言われてんな

 

 

52:名無しの転生者 ID:n/bApJIao

なんでイッチを転生させた神はこんな世界に転生させたのかって疑問となんでイッチ一人だけしか転生させなかったのかという意味不明なことがありますね…

 

 

53:名無しの転生者 ID:ujmgJDjps

普通なら複数人転生者来るような世界だからな、ここ

それを今まで一人で乗り越えてるイッチはどうなってるんだ。

こいつ、クロスオーバーものなのに原典の力だけで乗り越えてるようなもんやぞ

 

 

54:名無しの転生者 ID:QJkmfeeCk

こうなると本当にイッチの前世が関係してる可能性ある…あるくない?

 

 

55:名無しの転生者 ID:0anQydyjc

いやぁ、前世関係してるパターンは珍しいからな。なさそう

 

 

56:名無しの転生者 ID:REPIhqFma

そもそも記憶取り戻してるんだからイッチの前世がこの世界なら見覚えあるはずだしな…知らなさそうだし、それはなさそうだわ

 

 

57:名無しの転生者 ID:gQWq3qpRn

謎も多いしイッチの肉体もやばいし敵が強くなっていくし……やばいという言葉しか吐けん

 

 

58:名無しの転生者 ID:Q+ETKfJRP

本当によくやれてるなイッチ。

お前マジで前世何があった? あんまり聞くのは良くないことだが……

 

 

59:名無しの転生者 ID:XqnAYH+ey

ちょっとくらい話して欲しいな、関係してるっぽいこと。個人情報はいらんから

 

 

60:名無しの転生者 ID:PuVvK1tGw

いうて普通に働いて普通に生きてただけじゃない?

 

 

61:名無しの転生者 ID:hoohTocoq

だいたいの人たちはそんな感じだからねぇ。

でも何らかの力を持って転生する転生者は珍しいタイプが多いが、イッチもそのタイプでは?

 

62:名無しの転生者 ID:3ZEDcve0m

そろそろひとつくらい謎解決してもいいんじゃないかなぁ

 

 

63:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

正直謎は俺も解明したいけど、別に前世のことは関係してないと思うぞ。

まぁ別に隠すことでもないから言うけどさ、人が死ぬことが割と日常茶飯事だっただけ。

後は普通のことだろうけど、宇宙人というか異星人がいただけだよ

 

 

64:名無しの転生者 ID:lvE29NeGz

………え?

 

 

 

65:名無しの転生者 ID:EZN+gG5I2

はい?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合宿も終わり、元の日常へと帰る。

次の日からはきっと学生らしく毎日を生きて、遊んで、一日を終えて、また次の日も次の日も同じ日々が始まると思われていた。

現にどの依頼から終わらせるべきか、文化祭についての話し合いの予定やその文化祭を必ず成功させようといった覚悟が勇者部の中で組み込まれていたというのに、紡絆たちは風に呼び出され、急遽部室へと招集されてしまった。

そうして語られた内容は---

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり戦いは終わってなくて、バーテックスの生き残りが発見されたから延長戦に入ったのもあってみんなの元に携帯が返ってきた……そういうことですよね?」

 

「……ええ、このとおり」

 

風から聞いた話を小都音がまとめると、風は携帯のメールを見せた。

そこには『新月より四十日の間で襲来。部室に端末を戻す』と書かれており、それを見た小都音と紡絆以外の表情は皆、一様に硬かった。

当たり前だ、ようやく終わったと思っていた戦いがまだ残っていて、彼女たちの身体機能はまだ回復してない状態。

もしもう一度満開したり、満開ゲージを最大まで貯めてしまえば……今度はまた、何かを失うかもしれないのだから。

 

「………」

 

紡絆は周りを見渡し、みんなの表情を見て何かを悟りながら思わず腹を擦る。

元々彼は戦いは終わってないと思っていたし、そもそも戦い終わってから数時間しか経ってない。

だから特別驚きはあんまりなかったが、それでも肉体は別。

彼もまた、一切回復していなかった。

ただまあ、それは戦っていた紡絆だけであって、当然小都音を含む勇者部のみんなは戦いがまだ終わってないことのショックもあったし驚いたが。

 

(ま、俺が代わりに戦って満開ゲージ貯めさせなければ済む話か)

 

しかし紡絆は自分のことを()()()という考えが一切ないような思考で周りを見ながら傷口が痛むかどうか確認するように何度も擦っていた。

 

「ごめん……いつも急で。やっと終わって、みんな普通に戻れるって思ってたでしょうし……」

 

「仕方がないですよ、先輩もさっき知ったばかりじゃないですか。こうやって話してくれただけでも心構えは変わりますから」

 

「ま、結局はその生き残りを倒せば済むことでしょ。私達はあの総力戦だって乗り越えたんだから、生き残りの1体や2体どうってことないわよ」

 

『それに、勇者部五箇条』

 

「なせば大抵なんとかなる……ってことかな。私は残念ながら戦えませんけど、帰りを待ってますし、皆さんはひとりじゃないですから。

なんなら私の兄さんをちょっと貸してあげます」

 

「ちょっと待って、俺はレンタル式なのか!?」

 

「あ、あはは…でもそうですよ。皆が居れば大丈夫です! それに風先輩のごめんは聞きませんから!」

 

不安はないわけではない。

けれどもこうやって会話して、誰も一人ではないということを実感出来る。

一人なら不安で怖くて、どうしようもなくともみんなが居れば大丈夫なのだ。

そういうふうに、誰もが不安そうな表情をしておらず、覚悟の籠った瞳を向けていた。

 

「まぁ、なんというか…俺も頑張ります。ですから風先輩はいつも通り滑っていたらいいんじゃないですかね?」

 

「みんな……紡絆……」

 

誰も風が悪いとは思ってなく、みんなの表情を見て、言葉を聞いた風がようやく顔を上げた。

また巻き込むことに申し訳ない気持ちはあるが、頼もしくなったものだと感慨深く思いながらも風は僅かに笑う。

 

「ありがとう……で、誰が滑ってるってぇ!?」

 

「うぎゃああああぁぁ!?」

 

感謝の気持ちはあったが、流石に紡絆の言葉は逃せなかったようで、風は紡絆の頭をまた襲った。

そして学ぶことなくぐりぐりの刑を受けて倒れる紡絆だった。

 

「……よーし、バーテックスいつでも来なさい! 私たち勇者部がお相手だぁー!」

 

そんな紡絆はさておき、窓を開けて大声で叫ぶ風もいつもの調子を取り戻したようで、紡絆は倒れたまま開かれた窓の外を見るように目を細める。

 

(よかった……せめて人を守れるなら()()()()()()()()()()()()生きるために戦うためにも、延長戦までは体持たせなくっちゃな)

 

ひとり、胸の中で決められた覚悟。

決して口には出してなかったのが救いか、特に何も言われることは無いが---間違いなく紡絆は、より危険な矛盾した思考へと至っていた。

 

「あぁ、そうだ。端末は返すけど、どうやら新しい精霊が付くようにもなって、戦力が強化されていたの」

 

「んん…? 新しい精霊ですか? 今更?」

 

「延長戦になったからこそじゃないかな?」

 

「あー確かに有り得そうだな」

 

「まぁ、そこはあたしにも分からんないけど、これがあたしの新しい精霊の鎌鼬よ」

 

風がそういうと、端末から現れたのは名の通り鼬のような姿で、腰の背中側に黄色い花模様がある精霊だった。

皆がそれぞれ、特に紡絆が起き上がって興味深そうにほへーと眺めていると、次々と精霊が現れる。

 

「え、勝手に!?」

 

「これが……」

 

『新しい精霊?』

 

火炎を纏った猫のような姿で、腰の背中側に赤い花模様がある精霊。

蛍の光に瞳のついたような外見を持ち、後部に青い花模様がある精霊。

鏡から植物の茎が生えたような外見で、鏡の中に白い鳴子百合の花模様がある精霊。

()()()()()()()()()()()()()()中、見覚えのない三体の精霊が存在していた。

 

「……私のは増えてないわね」

 

「まぁ完成型だからなんじゃないか。それにしても全員が勝手に現れるなんて初めてだな。こんなにもぞろぞろといると百鬼夜行見たいな---ん?」

 

牛鬼はいつも通りだったので特に何も感想は抱かないが、あの東郷の精霊ですら勝手に出てきたことに紡絆は驚いていると、何かに気づいたように精霊軍団を見つめ、そして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファッ!? あ、ちょ、まっ……たアァアアアアアアアアアア!?」

 

この場にいる、全ての精霊が雪崩のように紡絆を包み込み、紡絆はあまりにもの質量に押し潰され、悲鳴を挙げながら後ろに転がって行った。

 

「に、兄さん!?」

「えぇ!?」

「ちょ、紡絆!?」

「う、うわぁ……痛そうね」

「私の精霊ですら、指示が聞かない…?」

『す、すごい音しましたけど……』

 

ズドーン、と日常では聞かなそうな音が部室内に響き、すぐに精霊を戻そうとするが、どの精霊も戻ることはなく。

ただ心配といった目を向けてみれば砂煙が消えると、そこには精霊の山が出来ており、紡絆の姿が一切見えなかった。

 

「っ……しい……っ!」

 

いや、違う。

腕だけは見えていた。

助けを求めるように精霊たちに埋もれる中、手だけは出ていた。

 

「と、とにかく助けなきゃ!」

「兄さん……って精霊が全然取れないです…!」

「ど、どうなってんの?」

「私が知るわけないでしょ! それより早く紡絆を助けに行くわよ!」

『今助けます!』

 

流石の風ですらも何も聞いてなかったようで、ただ困惑していたが、必死に友奈と小都音が精霊を取ろうと引っ張っても全然取れない姿を見て、夏凜も手伝いに行き、遅れて樹も向かっていく。

 

「と、とにかく東郷は自分の精霊を戻そうとしてて! 向こうはあたしらで何とかする!」

「さっきからやってますが……ダメです。戻ろうとしません。大赦から何か不具合とか……」

「分かんないわ。とりあえず何度もやってみて、大赦にはメールで送っておくから!」

 

徐々に伸ばしていた手が下がっていってるのが見えた風は流石に紡絆が不味い状況だと気づいたようで、東郷に指示を出してから手伝いに行く。

ちなみにだが全ての精霊に踏み潰される形に図らずともなってしまった紡絆は呼吸が出来ずに死にかけてるのと傷が大きく響いてガチで死にかけてきていたりする。

 

(牛鬼だけなら前までもそうだったからまだ分かる……でも以前とは違ってさらに懐いてるように見えるし、()()()()()()()()()()()()()()()()ってこと? それこそ、宿主の意志を無視するほどになんて……なんだろう。嫌な予感がする…海に行った時に私だけじゃなくて友奈ちゃんも気づいてたけど、最近の紡絆くんは()()()())

 

埋もれるところへ動けるなら行きたいが、車椅子では邪魔になってしまうことを理解している東郷は精霊たちの突然の不審な行動に訝しげに見つめ、自分に出来ることはただ精霊を戻そうとすることなので、それをひたすらやっていた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一応言っておくと、結局東郷の精霊すら戻ることなく、友奈たちの奮闘も虚しくあの後息が持たなくなった影響か紡絆の意識が完全に途切れた。

さらに力が抜けたように手も精霊たちの中に入って半分死にかけると精霊たちは紡絆が意識を失ったことに気がついたように離れ、申し訳なさそうにしていたようだ。

その後に反省したようにスマホへ戻ったようだが、牛鬼だけは残って頬擦りしたり頬を舐めたりして紡絆の看病をしていたらしい。

そうして彼が目覚めた時には下校時間ギリギリでなんかびしょびしょになってたとか---

 

 

 

 

 

 

 





○継受紡絆/ウルトラマンネクサス
さらっと前世の情報は投げやりに出すわ、知らないくせにザギさんの記憶に干渉するとかいう意味不なことするわ、ザギさんとさらっと面会するわでついに(いつも通りな気がするけど)よく分からないことし出したやべーやつ。
なお肉体は今まで以上にやばいと言うほどにガチめに常に気合いでなんとか耐えるしかないレベルで限界な模様。

○ウルトラマンネクサス
本来、原点ではジュネッスブルーの方がスペックは高い。
しかし適能者の紡絆の影響かジュネッス=ジュネッスの本来の速度とパワーとタフネスさ+ジュネッスブルーのパワーとタフネスさ。継続可能なエネルギー。
ジュネッスブルー=ジュネッスブルーの本来の速度と力+ジュネッスの速度、エネルギーが突貫型と精密さ、低燃費とかいうとんでもないことになっている。
簡単に言えば力のジュネッス、速度のジュネッスブルー。


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「-果たす約束-パースト・シン」


めっちゃ時間かかった……日常編悩んだわ、かなり。
ということで今回から五話くらい超平和な日常編です。終盤入ったら日常編出来ませんからね。平和すぎて平成です(?)
それと予定変更して、次は夏凜ちゃんかも。
最後にアマプラでシン・ウルトラマン見れるから全人類視聴しろ。そしてULTRAMAN(ネクスト)見てネクサスにハマれ




 

 

◆◆◆

 

 第 31 話 

 

 

-果たす約束-パースト・シン 

 

×××

 

日常編その②

東郷美森編

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精霊にもみくちゃにされて、数日後。

やはり紡絆の周りには精霊の数が凄まじく、まるで紡絆が精霊たちの主のようになっていた。

全ての勇者の力を使えると言われても不思議じゃないほどに周りは精霊ばかり。

が、流石に前回紡絆を殺しかけたのを反省しているのか、牛鬼のみが紡絆の頭の上に乗っていて、他の精霊たちは周りをふわふわ動いたり時々スキンシップをとるのみ。

何かしようものなら牛鬼が威嚇し、完全に精霊たちの上位関係が決まっていた。

果たして大赦の人が見れば、どんな光景に映るのか。

そもそも誰かスマホがこの場にないのに他の精霊たちが自分たちの主についていかずにこの場に滞在していることへツッコミを入れるべき状況だった。

 

「うーん……」

 

そしてその本人たる紡絆。

戦闘も特に訪れることなく、バーテックスやスペースビーストは現れることなかった。

そのため体は回復---なんてすることはなく、敵が現れなくても紡絆の肉体は()()()()()()()()()

紡絆の相談役である彼ら曰く、蓄積されたダメージが回復速度を優に超えていてストーンフリューゲルを使おうが回復する体力が足りてない、という。

事実、紡絆はウルトラマンに変身する力も以前と変わらず少し増えただけで少ないままという実感があった。

あとはうどん二杯でやられていた紡絆だったが、肉体ではなく食欲は回復してきたというどうでもいいことだろうか。

そんな彼は、悩ましげに唸っている。

現状、勇者部の部室にいるのは東郷のみ。

人助け命な紡絆ではあったが、今回は肉体的にそろそろやばいのも理由のひとつで自ら辞退し、考えごとをしていた。

 

「……紡絆くん? 何か悩み事?」

「ん、ああ……いや、そうだな。東郷って明日辺り予定空いてるか?」

「? ええ、今は依頼も溜まってるわけではないし、これといった予定は組んでないわね」

「じゃ、二人っきりで出掛けよう」

「分かったわ---って、え?」

 

あまりにもの唐突で、あまりにもの日常会話のように自然に言われた東郷は固まる。

突然のデートの誘いをつい反射で受け入れてしまったが、東郷の内心はそれはもう慌てようが凄かった。

いくら紡絆本人にデートという気がなくても、だ。

 

(ま、待って。どうしていきなり!?

確かに紡絆くんと出掛けるのは嫌では無いしむしろ嬉しいけど、いくらなんでも突然すぎると言うか心の準備がまだ出来てないというか……明日、明日なのよね? と、とにかく帰ったらまずは---)

 

「東郷ー……って、無理かあ」

 

家に帰ったあとのことを考え、計画をすぐさま脳裏で組み立てる東郷はもう周りが見えておらず、呼びかけていた紡絆は諦めたように苦笑し、後でメッセージで予定とか伝えようと考えた。

彼にしては賢い選択である。

 

(約束、果たせなくなったら困るもんな。このままだと俺、いつまで持つか分からないし)

 

だがしかし、誘った理由は勇者部の者たちが聞けば間違いなく怒るような内容だった。

まるで後残りを残さないような、そのための行動。

まあ、そもそも秘密にしてる時点でいくら勇者たちの心の安寧のために黙っていてもバレたら間違いなくアウトなのだ。

そんなこんなで、紡絆は思考の渦に入った東郷から視線を外し、今も甘えてくる精霊たちを相手していた。

 

(そういえば、牛鬼は帰ってきてこうなったって考えたら分からなくもないんだが、なんでこんなに他の精霊も俺に懐いてるんだろうな?)

 

そのようなことを疑問に思い、一瞬考えてすぐに分からないという決断を出しながら---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして次の日。

今回は約束を果たすために予定を少し考えてきた紡絆は、小都音に出掛けることを伝えてから東郷の家へ向かう。

紡絆はこの日のためにオシャレ---なんかするはずもなく、安定で普通にブライベート用の動きやすい服装だった。

しかし季節はまだ夏なのに薄着とはいえ長袖なのは、理由を知れば悲しくなるだろう。

紡絆の場合、腕も既に見せれないほどには酷い。

 

「あ……紡絆くん」

 

ただぼうっとして壁に背中を預けていた紡絆はその声に気づいてすぐに駆けつける。

東郷の服は以前と違って夏バージョンとなっており、水色なのもあって色合い的に涼しそうな夏に相応しい服だった。

 

「ん、東郷に合ってるな。何だかしっくりする」

「そ、そうかしら?」

「おう、見れてよかった」

 

若干、東郷は頬を赤める。

しかし紡絆は気づかないまま彼女の背後に回ると、車椅子のハンドルを持つ。

 

「じゃあ行こう」

「うん、それはいいけど…場所とかは…」

「前回のリベンジだからな。ちゃんと考えてきた」

「覚えてくれてたのね」

「当然だろ?」

「そ、そう……ね」

 

背後に回っている紡絆には分からないが、東郷は静かに嬉しそうな笑みを浮かべていた。

それは紡絆が約束を忘れることなく覚えてくれたから、だろう。

 

「よしっ!出撃だ」

 

それだけを言い、紡絆は走る---のは危ないのでせず、車椅子に力を軽く入れて前へ前進し始めた。

いつも歩く道とはちょっと違う、少しの遠出。

東郷がチラリと背後を見れば、紡絆は()()()()()の笑顔を浮かべていた。

 

(……この笑顔は安心出来るのだけど)

 

最近、自分の中で感じてきた違和感。

東郷はそれがなんなのか分からない。

しかし今はもう深く考えるのはよして、彼との外出を楽しもうと思考をやめた。

 

「紡絆くん」

「んー?」

 

名前を呼べば、紡絆は反応して首を傾げていた。

言動が完全に一致していて、彼らしいと思わず笑いそうになるのを堪え、疑問を投げかける。

 

「どこに行くの?」

「まあ……いいか。えっとだな、とりあえずイネスにあるゲーセンに行こうかなと。ほら、それだったら東郷も気を遣わずに済むし、息抜き出来るだろ? ちょっと気になるものもあったし」

「なるほど……」

「で、それからはあんまり考えてなかったんだが……飯食ってイネスのある店に行って、帰るってのが一応のプランだ」

 

後半がガバガバだったものの、紡絆は紡絆らしく考えてきたようだ。

確かに紡絆はデートと思ってないとはいえ、楽しめる場所なら遊園地やら動物園やらなんやら行くだろう。

カラオケと海、映画は以前行ったことがあるから論外として。

彼ならばプラネタリウムとか自然博物館とかが一番いいかもしれない。

しかし東郷は見て分かる通り車椅子。

仕方がないとは言えども、何も思わないほど彼女の心は繊細じゃないわけがない。

必ず、何かしら思ってしまう。

故に、気を遣った紡絆は学生でも気軽に行けて、基本色んなのがあるイネス---つまるところイオンに行こうと思ったわけだ。

 

「確かに……たまには、いいかもしれないわ」

「せっかくの休日なんだから目一杯楽しめる場所じゃないとな。あんまり分からないなら俺が教えるし!」

「ふふふ、そうね。じゃあ期待しちゃおうかしら」

 

人助けをよくしている紡絆だが、これでもゲームはしないという訳ではなく、前世でもゲームを一緒にしていた記憶がある紡絆は割と自信があるようで胸を張って言ってのける。

その姿を見た東郷はただ微笑む。

 

「よーし、じゃあ日差しが強くなる前に行こう!」

「えぇ」

 

まだ秋の季節ではなく、太陽の日差しは強い。

紡絆には分からないが、女の子にも色々とあるのだろうと思いながら、紡絆はただ安全運転を心掛けながら前進し、他愛もない話をしながらイネスへ向かう道を向かっていく。

もちろん流石に徒歩だけでは体力的には問題なくとも現状肉体的には問題があり、何より時間がかかるのもあって数分電車に揺れて降り、また歩いたりなどはする必要はあるのだが、そこは紡絆でもどうしようも無いことなので、素直に諦めるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---そうして暫くし、イネスへと辿り着いた二人。

まあ現代人ならば見慣れているもので、特別感慨深く思うこともないしショッピングモールとは言えど、驚嘆することでもないので、普通に入っていく。

だが、東郷の胸の内だけは違った。

 

(……なにかしら、なんだか懐かしいような……なにか足りないような、そんな気がする。

気のせい、かしら…ううん、きっと気のせいね)

 

入るとき不思議な感覚を味わい、違和感があった。

しかし考えても分からず、それが明確に何なのかが分からない東郷にはあくまで曖昧な違和感を感じ取っただけで、その思考はすぐに掻き消される。

 

「おー!ショッピングモールって感じ」

「ショッピングモールだもの。当然でしょう?」

「あはは、それもそうか!」

 

前言撤回。

現代人なくせに当たり前なことを馬鹿みたいなことを叫ぶ紡絆は例外だった。

けれどもそんな紡絆に思考は掻き消されたが以前、二人で出かけた時と何ら変わらぬ、似た反応をする紡絆を東郷は微笑ましそうに見つめる。

当の本人は笑うだけなのだが。

 

「それにしたって、色んな店もあるし上を見上げたら高いし、そこら中から来る香りが食欲をそそってくるな……。ああぁ! そういえばご飯考えてなかった…!」

「大丈夫よ。そう思って、ちゃんと用意しておきました」

「読まれてた!?」

 

今更ながら思い出す紡絆だったが、分かってたというように弁当箱を取り出した東郷の姿に紡絆は驚く。

分かりやすい、というのは要因のひとつだろうが、目の前にいるわけでもないのに何故彼女はわかってたのだろうか。

まぁ、仮に考えてたとしても弁当があると分かれば紡絆は必ず食べるとは思うが。

 

「これくらいなら紡絆くんや友奈ちゃんのことはだいたいお見通しよ?」

 

「うえ、いやー敵わないなあ。けど東郷の手料理が食べられるってのは嬉しいし、いいか。

東郷が作る料理は本当にいくらでも食べれそうなくらい美味しいし毎日食べてもいいくらいだしな!」

「そ、そう……? それは作りがいがあるわね…。ありがとう」

「おう」

 

他の人が聞けば口説いてるというかもはや告白に近いことを喋ってるのが分かる……はずなのに、東郷は流石に理解してるのかドキッとしながら顔を赤めるだけで激しく取り乱したり誤解するようなことはなかった。

ただ純粋にそう思ったからなのだろう、と。

しかしこれが東郷だから良かったものの、もし風や後輩の樹、まだ日の浅い夏凜ならば誤解していたに違いない。

ちなみに友奈なら恐らく無意識に互いに告白に近い発言をするか互いにダメージを受けるか、といった感じだろうし小都音なら普通に受け入れながら気にせずに抱きついたりするだろう。

 

「とりあえずゲーセン目指すとしますかっ」

 

そして今まで見渡すだけで動いてなかった紡絆はフロアガイドの図で場所を確認すると、ようやく動き出した。

自分一人なら確認せずブラブラ探していただろうに、ちゃんと場所を確認して動くのは東郷のためか---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲームセンターに辿り着き、中へと入る。

そんな紡絆と東郷を出迎えたのか騒がしくも色んな音や音声だった。

少しやかましく感じるほどの音量。

しかしまだ昼前だと言うのに多くの人間がそれぞれ別の機種で色んなゲームをしていて、娯楽施設らしい光景だ。

これからますます人が増えていくだろうということは想像に容易い。

 

「さて、何からやろうかな」

「色々あるのね…」

「俺も全部は知らないけど、色んなジャンルがあるからな。何かこれがやりたいとかあるか?」

「うーん、こういうのはさっぱりだから…」

「じゃ、適当に行くか!」

 

あくまで行き先を考えただけでこれがやりたいとかなかった紡絆は、車椅子を押していく。

周りを見渡せばカードゲームだったりUFOキャッチャーだったり音ゲーだったりカーレースだったり写真を撮るやつだったりメダルゲームだったりなどなど、時間を潰すにはうってつけだろう。

 

「そうだな、東郷でも出来そうなのって言ったら---」

 

ある程度は前世の記憶がある彼からすれば初見プレイ余裕だが、初めてやる人には難しいといえる。

そのため考え、紡絆は目的のものを見つけるとそこへ向かった。

今は人がおらず、空いているのですぐに遊べるだろう。

 

「これは?」

「HUNTER OF THE DEAD。いわゆるガンシューティングゲームかな?迫り来る恐怖(ゾンビ)を撃ちまくれ!っていうキャッチコピー。

東郷の射撃は舌を巻くくらいに凄いから、ゲームでも可能なんじゃないかって」

 

紡絆が連れてきたのはガンシューティングゲーム。

ゾンビを撃ち殺し、最終的には脱出が目的のゲームだ。

しかし当然ボスのような存在もいるわけで、ヘッドショットや弱点をどれだけ正確に撃てるかが掛かっている。

 

「ふふ、ありがとう。でもゲームでも出来るかと言われると、分からないわ」

「まあ、それはそれで。とにかく楽しむことが大事だからさ」

 

あくまで紡絆は楽しむことを重視しているだけで勝つことためにやるわけじゃないのか、そんなことを言いながらお金を入れていた。

するとゲームがタイトル画面から起動し、二人プレイを選択するとホラー感溢れる難易度設定の画面へ移行していた。

最初なのもあってNormalを選択し、物語が始まる。

簡単に言えば金持ちの貴族が開いたパーティーにゾンビハンターの二人が任務で来ており、その理由が貴族がゾンビを使って何かを企んでいるという情報を掴んだためらしい。

そして他の貴族たちを巻き込んだ生き残りのゲームとしてゾンビを屋敷から放たれたため、主人公はそれを防ぐのと元凶を叩く---というストーリーだとか。

世界観的には裏の世界に生きるものはゾンビの存在を知っているというところか。

それからまあ、簡単な操作方法は載っているがチュートリアル戦闘もなしに始まるわけで、いきなり来たゾンビにウルトラマンとして戦ってるのもあるのか紡絆は意外と簡単に対応し、地味に上手かった。

そんな紡絆よりも凄いのが、東郷だ。

彼女は紡絆が多少外す場面があるにも関わらず百発百中と言えるほどに弱点を正確に撃ち抜き、動じることなくノーダメージで進んでいく。

射撃の腕がゲームでも発揮されていることに紡絆は驚くが、慌てて向かってきたゾンビに対処しようとしたら東郷が紡絆にダメージが入る前に撃ち抜く。

フォローもばっちりで、紡絆が一体倒してる頃には五体以上撃ち抜き、徐々にヘッドショットが狙うのが難しくなっていっているというのに、そんなことは関係ないと言わんばかりに撃ち抜いていた。

そんなふうにあっさりと進み、本来ならNormalでも難しいだろうになんだかんだで楽しみながらステージのラスト。

つまりはボスと戦うことになったのだが、二人プレイに相応しく連携が求められる部分が出てきていた。

弱点の同時攻撃、相手の攻撃する箇所を撃ち抜いて妨害、攻撃する人といった感じで分かれる必要も出てくるのだが、そこは流石というべきか紡絆が何とかゲームをやってきた経験で追いつくっていう感じで合わせ、ボスのHPが黄色ゾーンへと入る。

最後の足掻きと言わんばかりに攻撃が激しくなり、ムチのような触手までも出してくる。

ただでさえゴリゴリマッチョな肉体の攻撃はやばそうなのに触手まで出してくるのは、正直リアルに居たら戦いたくないレベルではあるのだが、どれだけ攻撃が激しくなってもチャンスや相手が怯むタイミングがあれば東郷が一度も外すことなく弱点を撃ち抜くため、ボスは無惨にもプレイヤーたちにダメージを一度も与えることが出来ずに殺られてしまった。

ラスボスというわけではないので二回戦目に入ることもなく。

いくら低難易度とはいえ、初心者に完封される哀れなボスの姿があったとか。

ちなみにスコア表示は圧倒的に東郷が上だった。

 

「いや、想像以上だった……流石東郷だなぁ、すごかった」

「初めてしたけど、結構やれるものなのね。それに面白かったわ。色々と考えさせられて、その場ですぐに戦略を立てなきゃいけない場面もあったし」

「楽しめたならよかったんだけど普通は無理だと思うんだが…。多分東郷が異常に上手いだけだって。ほんと、戦いの時もそうだけど東郷がいるって思うだけで頼りになるというか安心感が違うよ」

「…もう、そんな褒められたら照れるわ」

 

紡絆に褒められて東郷は満更でもなさそうに笑みを浮かべる。

しかし紡絆が言ってることも最もで、一体どこに初心者で全ての敵にヘッドショットを当てる初心者がいるのか。

弱点が変わっても外すことなく当てるし、いくらNormalと言えども上手すぎるといえる。

むしろ紡絆が邪魔になってるのでは、と思うくらいには彼女がダメージを受けそうになる場面すらなかった。

もしかしたら、いつもは守れる側だからこそ、いいところを見せようと頑張ったのかもしれないが---紡絆がそんなことを察せられるはずもなく。

 

「東郷、ちょっと一度一人でやってみてくれないか?」

「? ええ、いいけど」

 

そうして紡絆はちょっとした好奇心で一人プレイに変え、最高難易度を提案して許可を貰ってからそれを選択した。

確かにノーマルはある程度ゲームをしているプレイヤーならノーダメージは難しくともクリアは余裕で出来るだろう。

しかし最高難易度となれば攻撃の激しさも敵の量もHPも違うわけで、果たしてどうなるか気になったのだ。

故に紡絆は彼女の傍で、そのプレイを見ることにした---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ENDと書かれたストーリーを見終わり、スコア表にPERFECTと表示されていた。

難易度が最高だというのにソロプレイで最高ランクを取り、紡絆はその画面を見て目を瞬きさせていた。

 

「ふぅ……さすがに疲れちゃった」

「マジか……」

 

あくまで好奇心でやったというのに、幾分か初見殺しと言われる場面があったため危うい部分はあったが、彼女はノーダメージで乗りきったところが、ラスボスなんて蜂の巣にされていた。

どっちかというと予想外な場面から出てきて攻撃してきた雑魚の方が苦戦したしダメージが入る可能性があったくらいだ。

結局は当たる前に雑魚は倒されたのだが。

しかし流石の東郷も疲れたらしく、一息ついていた。

 

「おつかれ、まさか本当にクリアするとは思わなかったけどいいもの見せて貰ったし、かっこよかった」

 

いつの間にか買ってきていたのか、紡絆はペットボトルのお茶を差し出しながら東郷にそう告げていた。

 

「ありがとう。紡絆くんの前だもの、情けないところは見せられないって思ったら…自分でも驚くくらい出来たの」

 

「そっか、逆に驚かされまくったな。プレイしてる東郷に見とれてたくらいだ。でも俺はガンシューティングゲームが上手いっていう東郷の一面を新しく知れて嬉しいぞ。また新しく東郷のことをよく知れたってことだからな」

 

「そ、そうね……私も自分の知らないことを知れたわ」

 

一切の恥ずかしげもなくそんなことを言ってくる紡絆に逆に東郷が恥ずかしくなるのだが、努めて冷静さを保ちながらそう返せば、紡絆はただ笑みを浮かべた。

 

「じゃ、そろそろ別のに行こうか。今度はもっとこう、のんびりと出来るやつにしよう」

 

「そんなのもあるの?」

 

「たぶん! 見たら分かる!」

 

流石に紡絆は全てのゲームを知っている訳では無いので自信を持って言えないが、ゲーセンからあるだろうと探すことにした。

なければUFOキャッチャーだったりメダルゲームをすればいい、と。

そういった感じで、少し疲労した東郷をさりげなく気遣っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

5:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

ということで安価しよう!!

次にやるゲーム。分からないと思うからみんなの知ってるゲーム名言ってくれたら似たようなのやる。わからないやつは聞くよ。

ただゲーセンに似たようなものがないものでも何とかするから、とりあえず>>25

それとちょっと予定足りないから全部終わったあとにやること>>34

 

 

6:名無しの転生者 ID:zWBkn6Dd1

いや唐突スギィ!

何の説明もなく始めるなぁ

 

 

7:名無しの転生者 ID:7Zq87zcwn

カードゲームやろうぜ、カードゲーム!

 

 

8:名無しの転生者 ID:npznZXvuc

ぷいきゅあ!ぷいきゅあー!

 

 

9:名無しの転生者 ID:GS6CMjoA+

フュージョンファイトないやんけ!!

 

 

10:名無しの転生者 ID:0GPdMy8Lw

ガンバライジングもないですねえ!似たようなのはあるっぽい?

 

 

11:名無しの転生者 ID:EO+KTv8vu

ホラーゲーム

 

 

12:名無しの転生者 ID:J9YDswYaE

脱出ゲーム

 

 

13:名無しの転生者 ID:5hcOaQMjJ

格闘ゲーム

 

 

14:名無しの転生者 ID:O1qEyZUL2

パチ○コ

 

 

15:名無しの転生者 ID:g2r2bC9Sh

パズルゲーム

 

 

16:名無しの転生者 ID:n+H8/Dvyk

なぞなぞゲーム

 

 

17:名無しの転生者 ID:jsiRfWqQj

ボンバーマン

 

 

18:名無しの転生者 ID:PtJsKaH72

配管工のキャラや色んなキャラたちがいるレースゲーム

 

 

19:名無しの転生者 ID:56x5kiuuC

ブラックジャック

 

 

20:名無しの転生者 ID:JcWBC/v5T

UNO

 

 

21:名無しの転生者 ID:QBx6ma8Rg

麻雀

 

 

22:名無しの転生者 ID:x6/JWu6Tk

スロット

 

 

23:名無しの転生者 ID:u3JB7fS42

おい待て、イッチが頭使うゲーム出来るはずがないだろっ!

あ、バイオで

 

 

24:名無しの転生者 ID:DnywMNKM8

ばっか!やめろ、今書き込みすると変なのになるだろ!

ギャルゲー

 

 

25:名無しの転生者 ID:/4EfYrwBz

太鼓の達人

 

 

26:名無しの転生者 ID:AhQnTzKjL

エロゲー

 

 

27:名無しの転生者 ID:5Hi8L9PvI

UFOキャッチャー

 

 

28:名無しの転生者 ID:BWvtnNLPm

海デート

 

 

29:名無しの転生者 ID:Pkhxhx5rF

映画館

 

 

30:名無しの転生者 ID:FkmfczPba

水族館

 

 

31:名無しの転生者 ID:JGO5gtOX6

動物園

 

 

32:名無しの転生者 ID:ikO+HJCvF

ホテル

 

 

33:名無しの転生者 ID:oA5Jcc2LO

ファミレス

 

 

34:名無しの転生者 ID:alHUE1qo0

その辺、なんかこう有名スポットとか行く

 

 

35:名無しの転生者 ID:6nm+KtMZt

ボウリング場

 

 

36:名無しの転生者 ID:SG+6JLpV/

あっ……っぶねぇええええええ!

流石に考えろよ、安価するにしても指定が短すぎるだろ!

イッチがピンチな時レベルに速すぎるんだよ!

 

 

37:名無しの転生者 ID:rvyFFzDt4

おい誰だよ、何個かとんでもないやつあるぞw

 

 

38:名無しの転生者 ID:4P8XHJ/cG

>>26が一番やばすぎる

 

 

39:名無しの転生者 ID:RY1ykwZXg

>>32もなんだよなぁ。

ホテルってなんのホテルなんですかねぇ…

 

 

40:名無しの転生者 ID:PxsGW7gGT

ギャルゲーとエロゲーに挟まれるって…ワンチャンどっちかになってたのかよ。空気凍りそう、ついでにイッチの性格からしたらヤンデレルート行きそう

 

 

41:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

>>36

それはすまん、こっちの時間的には一般的には仕事だからもっと遅いかと思ってた。まさかこんな早く埋まるとは…もっと空けるべきだったな。危うく死ぬところだったわ

 

>>25

>>34

飯終わったらやるわ。東郷さんと小都音の飯は美味いからすき

 

 

42:名無しの転生者 ID:7xrRMIbaH

俺にもくれ

 

 

43:名無しの転生者 ID:7IHRt9eMZ

うらやましい

 

 

44:名無しの転生者 ID:rjtyAIVTJ

今までが嘘のように平和だなぁ……

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつものように東郷の作った昼ご飯を食べ、午後もゲームをするために紡絆は目的地を目指して歩いていく。

 

「今度は何するの?」

「音ゲー、いわゆるリズムゲームだな」

「なるほど……これで叩くのね」

 

バチと呼ばれる太鼓を叩くための棒を持って納得したように東郷が頷く。

音ゲーならば東郷はシューティングゲームより上手く出来るかと言われれば分からないが、やってみないことには分からない。

 

「じゃ、やってみよう」

「うん、頑張るわ」

 

ということで、さっきと同じように二人分の金を入れて安定の二人プレイを起動した紡絆は、和太鼓の形をしたキャラが喋り、曲をどうするのか、難易度の選択などを言ってくれる。

 

「曲はなにか指定とかあるか?」

「よく分からないから…紡絆くんに任せるわ」

「分かった、じゃあ---」

 

ホシトハナを選択し、紡絆と東郷は難易度をふつうで選択した。

かんたんではなくいきなりふつうなのはちょっとした挑戦なのだろうが、ここで思い出して欲しい。

紡絆はカラオケで一体何をしたのか、それを考えると単純明快で、いくらタイミングゲーといえど---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紡絆に音感はなかった。

ふつうですらクリア出来ないクソザコ結果を叩き出し、一方の東郷はミスがほぼなく、普通にクリアしている。

 

「………」

「に、苦手なものは人によっては違うわ。紡絆くんはその、カラオケも苦手だったものね……」

 

初心者に慰められる経験者の図。

はっきりいって、情けない。

まあ、バチだと慣れてなければ難しいといえば難しいのだが、それにしたって酷すぎる。

 

「り、リベンジだっ!」

「……そうね」

 

諦めの悪い紡絆は今度は東郷に任せ、曲を選ばせると……まあ予想通り軍歌になったが、紡絆は何故か難しいを選ぶ。

そして当然の如くクソザコ結果を叩き出す。

それでも紡絆は諦めることなく、もう一度プレイ。

別の曲に変えて、今度は大人しくかんたんに変更。

これなら流石にクリア出来ると思われたのだが、もはやわざと間違えてるのではというくらいにミスである不可を連発した結果、クリアすることは叶わなかった。

それでも、それでも今度こそと難易度を上げたり下げたりしてリベンジ。リベンジ、リベンジリベンジリベンジリベンジ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

「………」

 

呆然と画面を眺め、果たして何回したのか、ついに疲労も含めて地面に両手を着いた紡絆。

orz…といった様子が見て取れる。

流石の東郷も何を言えばいいか分からず、苦笑するしかなかった。

本当のことを言うと、紡絆は下手くそではない。

 

(……俺、前世の頃は音ゲーちょっとは出来たんだけど感覚がおかしい…っ!)

 

そう、紡絆はあくまで()()()の感覚でやってしまっている。

しかし紡絆の肉体はウルトラマンによって強化され、反射速度、つまるところ反応速度は人として無意識にやってしまうのだから、制御が出来る部分では無い。気になるものがあったらつい反応してしまうのと同じ現象。

だがそれでも普通ならばミスることはないはずが。紡絆だけは違うのだ。

簡単に言えば、紡絆の反応速度が異常に高すぎるせいで良の部分が出るよりも早く腕が動き、ちょっとタイミングが早い状態になってしまっている。

それに気づかない紡絆は例え何回やろうとも、ミスを連発する。

何気にウルトラマンに強化されている弊害が出ている、と言うべきか。

 

「ぐぬ…悔しいが仕方がない。あんまり居座ってもあれだし、そろそろ移動しよう」

「私はいいけど……」

「ゲームは一時間したら休憩しろって言うからな。ちょっと休憩して、またその辺のゲームやってから最初の目的に行こうと思うんだ」

「そういえば、イネスの店に行くって言ってたけど…ここじゃないわよね。その店は?」

「ああ、それはだな……行ったらわかる」

 

音ゲーは目と腕に疲労が溜まってしまう。

それ故に流石に切り上げた紡絆は、最初の目的だったある店に向かうために一度休憩を挟み、メダルゲームと、ついでに東郷が目を輝かせて見ていた戦艦のプラモデルを弱いアームだというのにUFOキャッチャーで一発取りするとかいう何気にとんでもないことを成し遂げてから、その店へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……」

 

初めて訪れた店。

そう、そのはず。

けれども何処か懐かしく、瞳に熱いものが溜まっていくのを東郷は感じていた。

そこにまるで、大切な思い出があったかのように。

 

「前一人で来た時に美味しくてさ、でもこの店もう潰れるみたいだから……最後に約束を果たすついでに来ようって思ってたんだ」

 

お店を見ながら紡絆が語るのは、ジェラート屋だった。

理由は分からない。

ただ売上が厳しくなって畳んでしまうのか、移動してしまうのか、それとも単純にやめたくなったのか。

そんなのは常連でも働いてるわけでもない紡絆には分からないのだ。

だからこそ、最後の思い出作りのために来た…というべきか。

 

「東郷はどうする?」

「………」

「とうご---どうかしたのか?」

 

話しかけても返事がなく、ただ東郷は寂しげに、悲しそうな目をしていた。

それを見て、その表情を見るのが嫌だった紡絆は、前に行ってしゃがむことで彼女の背に合わせ、正面から手を握る。

すると東郷は気がついたように紡絆を見る。

 

「…ッ!? ご、ごめんなさい。私ったら……」

「別にいいけど、何かあったら言ってくれよ?もし悩みがあったり、辛いことがあったなら、俺がこうして居るからさ!」

 

眩い笑顔を浮かべ、彼の笑顔にはなにひとつの曇りがない。

ただ不思議と安心出来る方の笑顔で、東郷はそっと手を握り返していた。

 

「…うん。ちょっと、知らないはずなのに懐かしく思っちゃって」

「……そっか、失った記憶の中に来たことがあったから思い出してるのかもな。それが辛いことか嬉しかったことか、楽しかったことかは分からない。

なら今は美味しいものでも食べよう。そうしたらきっと、悲しくても良い思い出に変わるよ」

「…ええ、そうしましょう。紡絆くんも……あ」

「……ん?」

 

記憶に関しては紡絆も失ってはいるが、深くは言えない。

だからこそ、それがどうであれ、新たな思い出作りをしようと言いたいのだろう。

そしてふと、何かを思い出したように東郷は固まった。

相変わらず何も分からない紡絆は首を傾げるが、東郷は頬を紅潮させると、慌てて手を離して握っていた手を自分の手で隠すように覆っていた。

 

「???」

 

しかしこの男、何も分からない。

時々鋭さを発揮する割にはこういうことに関してあまりのもの鈍感すぎてラノベ主人公のように気づかないままひたすら疑問符を浮かべていた。

 

「つっ、紡絆くんは何味にするの?」

「おぉ?そうだなー俺は普通に…うん、メロンとこの…なんだ、DXブルーNEXTウルトラ青春時代味ってのに挑戦しようかな。なんかすごそう!」

「そ、そう……」

 

慌てて話を転換したお陰か、紡絆は気づくことはなかった…というか多分気づくことは絶対なかったが、今のうちに東郷は冷静さを取り戻す。

その際に紡絆が変な味を頼む気満々だったが、まあ本人はワクワクといった感じで好奇心に満ちてるのだからいいだろう。

名前からは全く味が予想も出来ないのだが。

 

「東郷は?」

「私は……」

 

無論、何にするか聞けば聞かれることは当然であり、何にするか聞かれた東郷は一番最初に目に止まったのは宇治金時味。

けれども紡絆に当てられたのか、東郷は宇治金時ではなく、別のを選ぶことにした。

 

「そうね…このしょうゆ味がいいわ」

「分かった、じゃそれで買いますか」

 

特に何かを思うわけでもなく、紡絆は注文すると、お金を払ってから受け取って東郷にしょうゆ味を差し出してから自分が頼んだものを持つ。

ただ値段が他のより高いのもあって、DXブルーNEXTウルトラ青春時代味は高さも量もかなりあり、色とりどりな…それこそ虹の如く色んな味が詰まっている。一番目立つのは銀、赤、青だろうか。

むしろよく落ちないな、っていうレベルだった。

 

「はー美味しそうだなぁ」

「…落ちないか心配になるわね」

「大丈夫大丈夫、いざとなれば口に含むから」

 

それはそれで味がとんでもないことになりそうなのだが、落とさなければいい話なので問題はないだろう。

今はそれよりも、食べることが最優先。

席に座り、手を合わせる…のは流石に危なくて無理なので、口でいただきますといった紡絆は早速DXブルーNEXTウルトラ青春時代味を口に含む。

 

「予想よりも美味い!」

「本当ね、こんな美味しいお店が無くなるなんて、残念で仕方がないわ」

 

うんうん、と頷きながら色んな味が楽しめ、味を合体させたり普通に個別で食べたりと楽しみを見出しながら笑顔を浮かべて食べていく。

紡絆の姿を見てるだけで、やけに美味しそうに思えるくらいには彼は美味しそうに食べていた。

だからか東郷は口角が自然と上がり、紡絆に見とれながら自分のしょうゆ味を口に含んでいく。

 

「……んぇ?」

 

ゆっくりと味わうように食べていた紡絆はふと視線に気づき、東郷と視線が合った。

暫く考え巡らせ、何を思ったのかハッと気づいたようにその手に持つジェラートを東郷に差し出す。

 

「え?」

「ほら、東郷も食べてみたらわかるって! 見た目より全然ちゃんとしてるから!」

「え? え?」

 

ニコニコ、とただ純粋な笑顔で差し出している紡絆だが、東郷はジェラートと紡絆を見つめ、混乱した。

しかし紡絆を見ても彼はただ笑顔で居るだけで気づいている様子なんて欠片もなく、東郷は悩んだ末に、おずおずと言った感じで口を開く。

 

「じゃ、じゃあ一口だけ……あむ」

 

髪を耳にかけて抑えながら豪快にではなく、女の子らしい小さな口で一口だけ含むと、東郷は顔を離した。

 

「美味しいだろ?」

「そう……ね」

 

口元を抑えて食べる東郷の返事を聞いて、紡絆は満足そうにまた食べていく。

だが東郷の耳は真っ赤になっており、紡絆はやはり気づかない。

この男、無能すぎた。

 

(あ、味が分からない……。だ、だって今のって……)

 

もう中学生。

それほど年齢が上がれば今の行為がなんだったのか普通は分かるもので、理解している東郷はただ恥ずかしさが込み上げてくる。

今も普通に食べている紡絆が異常なだけで、彼は間違いなく気づいてなかった。

これは世間一般で言う、間接キスと呼ばれるものだと。

自覚すればするほどに顔に熱が集まっていく東郷は、誤魔化すように自身のジェラートを口に含んでいくのだった---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DXブルーNEXTウルトラ青春時代味を食べ終えた紡絆としょうゆ味を食べ終えた東郷だが、紡絆は東郷が残り少ないしょうゆ味を食べている間に溶けないように敢えて頼んでなかったメロン味を追加で購入し、いざ席に着いてメロン味を食べようとしたところで、ふと座らずに止まった。

 

「紡絆くん?」

「ちょっと行ってくる!」

 

座らない紡絆に何かあったのかと呼びかけるが、彼はそう一言だけ言い残し、紡絆はメロン味のジェラートを手に強化された身体能力を活かしてどこかに走っていく。

あまりにもの速さに思わず目を数回瞬きさせる東郷はすぐに視線で追うと、紡絆は既に転んで泣いている幼い男の子と慰める母親の元へ居た。

何かを話し、紡絆は男の子の頭を撫でると手に持っていたメロン味のジェラートを差し出す。

すると男の子は泣きやみ、母親が何かを言っているようだが紡絆は首を横に振って、頭を下げていた。

視線を下げてみれば、男の子の転んでいた近くには紡絆が持っていたジェラートと同じ味のものが無惨にも落ちており、無くなってしまったから泣いていたのだろう。

笑顔になって手を振り、東郷の元からでも聞こえるほどの大きな声で感謝の言葉を述べる男の子と申し訳なさそうに紡絆に頭を下げて男の子の手を繋ぎながら離れていく母親の姿を、紡絆は手を振っていた。

東郷からは見えないが、彼がどんな表情を浮かべているのか考えなくても分かる。

だからか、結局何も変わってない姿に自然と嬉しくなって、東郷は微笑んでしまう。

その後、紡絆は男の子が落としたであろうジェラートを片付け、軽く掃除してから戻ってきていた。

 

「ごめん、一人にさせちゃって」

 

戻ってきたと見れば、彼はすぐに東郷に対して謝罪した。

 

「ううん、別に謝るようなことじゃないわ。

おつかれさま、紡絆くん」

「そっか……」

 

謝るようなことでもないのに謝る紡絆に東郷は気にしてないというように首を振り、紡絆は別に苦でも思ってなさそうに頷いた。

 

(結局のところ、紡絆くんはいつも変わらないのね…困ってる人が居たら助けて、誰かを笑顔にする。

そんな彼の姿を見ていると、私も嬉しくて安心が出来て、彼は彼のままなんだなって思えちゃう)

 

ただじっと見つめ、何も言わない東郷に紡絆はきょとんとするものの、考えても分からないからか、紡絆は再び車椅子を動かすために背後に立ってハンドルを握る。

 

「それじゃあ時間も時間だし、そろそろ帰ろうか」

「そうね、もう気がつけば夕方なのね……」

「だなー」

 

あまり出るのが遅くなれば、夜になってしまう。

夜になれば当然危険も多くなってしまうため、そうして紡絆たちはイネスを去っていく。

帰りは行きと変わらず、同じようなルートで戻っていくと、既に空は茜色に染まっていた。

あとは帰宅するだけだが、紡絆はちょっとだけ寄り道することにした。

 

「ゲーセンってあんまり経験ないと思うけどさ、楽しかったか?」

「ええ、普段来ないところだから新鮮さもあったし…なにより紡絆くんと一緒だから」

「それはよかった」

 

まだ季節的にも暑いが、強い夕陽に照らされる帰り道を急ぐわけでもなくゆっくりと車椅子を押しながら歩いていく紡絆は東郷の返答に嬉しそうに顔を上げたまま笑みを浮かべる。

 

「さてっ! 暗くなる前に今ならまだ間に合うから、最後に一つだけ行きたい場所があるんだが、いいか?」

「もちろん、任せるわ」

「よっし、じゃあ行こう」

 

少し急ぎ気味に、それでも安全第一に車椅子を紡絆は押していく。

もう少しで太陽が完全に沈んでしまうが、その前に行きたいのだろう。

紡絆は数分かけて目的地へと走っていき、流石の彼も歩くことすら厳しい時があるくらいには肉体ダメージが残り続けてるからか体力の消費が激しいが、何とか一時間経つことなく辿り着く。

上を見てみれば、目的地に向かうためには大量の階段を昇る必要があった。

しかし周りには誰もおらず、流石にわざわざ来ようと思っていた人間は居なかったらしい。

 

「ここって……」

「今ならまだいい景色が見れるからな。ということで、ちょっと失礼」

「えっ? つ、紡絆くん!?」

 

四国民ならば分かるであろう場所に来て、階段を見上げた東郷は理解したようだが、車椅子でとなるとなかなかに難しい。

それに暗くなってしまえば危ないし時間がないため、人が居ないことを良いことに得意の身体能力を活かせるように紡絆は東郷の前へ行ったかと思えば彼女を抱える---お姫様抱っこで。

 

「は、恥ずかしいわ。それに重たいでしょうし……」

 

女の子の憧れ、と言えば聞こえはいいだろう。

しかし人一人分の体重を人間が支えるとなるとかなりキツイ。体重が軽くても、人を抱える時点で疲れはする。

何よりも東郷にとって、体は密着する上に顔が近く、途方もない羞恥心が襲ってくる。

 

「別に東郷は重たくないって。むしろ軽いよ。大丈夫、すぐ終わるから!」

「す、すぐ終わるって……。うう……わ、分かったわ」

「おう、しっかり掴まっててくれよっと……ッ!」

 

一言残し、東郷が首に腕を回したことを確認した紡絆は階段を見ると、両足に力を入れて一気に跳躍する。

一体階段をいくつすっ飛ばしたのか、ぴょん、ぴょん、とうさぎのような足取りで跳躍を繰り返し、紡絆はあっさりと階段を昇り終える。

跳躍数はたった四回。

たったの四回で、270はある階段を昇り終え、三次元で言う高屋神社---有名スポットの一つである天空の鳥居に辿り着いた紡絆は東郷を抱えたまま、背後へ振り向く。

 

「あ………」

 

そうなるとさっきまで見ていた階段を振り返るわけで、とても小さくなったかのように見える街並み。

水平線に沈んでいく太陽。

その太陽の光は海に反射され、キラキラと夕陽の色を写す。その光景はとても綺麗に思えて、とても幻想的に見えた。

 

「やっぱり、思ってた通り。この時間帯がいいな」

「………」

 

目を細め、沈む太陽を眺める紡絆の瞳には果たしてどれだけの距離、どれだけの景色が映っているのか。

少なくとも彼自身も綺麗だと感じてるようで、口角が自然と挙がっていた。

そんな幻想的な景色だというのに、東郷はちらりと自身を抱える紡絆の姿を見つめる。

未だに慣れたわけでもなく恥ずかしくないわけではないが、ただ景色よりも紡絆から目が離せなかった。

 

(これほどくっついて景色を眺めるなんて、胸がドキドキする……でも、不思議。男の人が苦手って訳では無いけれど、こうしていると安心出来て、ああ、ここに彼は居るんだなって、近くに居るんだなって思えて、嬉しい…それはきっと紡絆くんだからで、はしたないかもしれないけどこうして居たいって思う…。

それに彼に抱えられてると、彼のイメージ通り、光のように暖かい)

 

嫌な感じもなく、ただ胸に込み上げてくる暖かな感情を感じながら、東郷は紡絆を見ていた。

実際彼は別に邪な考えがある訳でもなく、ただこの景色を共に見たくて行動しただけなのだろう。

事実、紡絆は---

 

(はへー綺麗だなー。最近は何かと大変な状況だったからなあ……前の世界でもある情報が流れてパニックになってたし。

まあ、前世の世界には()がいるし心配はしてないけど、彼が見ていた景色は俺が見てきたような…こんな世界だったのかなー)

 

とても楽観的な思考で街並みを眺めていた。

果たしてこの状態の彼の何処に邪な考えがあるといえるのか。

そうして僅かに保っていた太陽は沈み、街に光が照らされる。

次々と建物や街灯の光が点灯し、高い場所から眺める街はとても輝いていた。

明かりが灯される瞬間なんて、こんなふうに見れるものではない。

人々の暮らしが分かるような、人類が進歩してきた技術は人工的な明かりとはいえ、自然に負けないほどに輝いている。

例えスペースビーストやバーテックスが存在していたとしても---人は負けないのだ、と。

自然と、紡絆の目は遠くを見るかのようになっていた。

 

「………」

 

無意識に、東郷は首元に回していた腕に力が入り、体がより密着する。

さっきと打って変わって、東郷の表情には明らかに不安があった。

 

(……最近見せるようになった、笑顔。その中でもふとした時に見せる表情が……怖い。まるでどこかに行くような、行きそうな、そんな不安に駆られる。でもこうしたら、こうしていたらきっと……)

 

こうしていれば、感じてられる。こうしていれば、近くに感じられて、傍に感じられて、温かくて、確かな存在を確かめられる。

故に恥じらいを捨てて、東郷は抱きつくようにしていた。

何があっても、離さないと言うように。

しかし些細な力の変化に気づくともなく、一分くらいだろうか。

紡絆は眺めるという行動をやめ、東郷に視線を向けた。

 

「帰ろうか」

「……うん」

「じゃ、また離さないようにな!」

 

いつものように、先程の様子が嘘のように元通りの紡絆の様子に東郷はほっ、と胸を撫で下ろし、言われた通りにすると、やはり紡絆は凄まじい身体能力を活かして着地していた。

そしてそっと東郷を車椅子に座らせる。

 

「綺麗だったなー」

「うん、普通は見ることが難しいし登るのも大変だから……紡絆くんのお陰」

「一人で見るより二人、二人で見るよりみんなで見た方がより感動出来たりするものだからな、気にしないでいいって。

まあ、流石に腕が足りなくて抱えられないから一人しか連れていけないけど」

 

いくら超人的な力を持っていても、所詮は腕が二本しかない。

安全面を考慮すると一人しか無理で、やるとしたら一人を降ろしてまた次、また降ろしては次って言う感じだろうか。

勇者部全員となると六往復は最低でも必要になる。

それに気づいた紡絆は割と大変だ、と苦笑した。

 

「ふふ…確かにみんなで見れたらいいと思うけど、紡絆くんが大変ね」

「ま、みんながそれで笑顔になれたりするならやれって言われたらやるけどな」

「紡絆くんが言うと本当にやりそうなのよね……」

 

時間が時間なのもあって、感想を述べたり、会話らしい会話をして帰り道を歩いていた。

 

「…今日一日、楽しかった」

 

その時、ふと東郷が一言漏らす。

もうすぐ家に辿り着く頃で、思い返したのだろうか。

後ろにいる紡絆からは表情が見えないが、声から察するに楽しくはあったのだろう、と思い込むことにした。

 

「そっか」

「紡絆くんと居られて、最後にあんなにいい景色が見られたから」

「そうだな、俺もみんなと居ることはあってもこうして東郷と長い時間一緒に居て、二人っきりで景色を眺めたり出かけるなんてことするのはそうそうないしな」

「そうね、そうよね……」

 

大半は依頼に時間を取られるのが勇者部。

無論いやいやとやってるわけではないのだが、華のある中学生からすれば遊ぶ時間は間違いなく少ない。

 

「……ねえ、紡絆くん」

「ん?」

 

東郷は顔を向けないまま、自身の膝の上で不安を隠すように震えている手を強く握る。

決して後ろを向くことはないまま、紡絆の名を呼ぶ。

 

「まだ治ってないけど、きっとみんな……治るわよね」

「当たり前だろ」

 

即答。

未だに傾向は見られず、夏凜を除く勇者たちの身体機能は失われたまま。

なのに何処にそんな自信があるのか分からないが、その言葉は東郷に安らぎを与える。

それだけが聞きたかったのか東郷はそれ以降静かになったが、紡絆は気遣って下手に話しかけることはせず、居心地が悪いわけではないが二人は無言のまま家へと辿り着くまで会話がなかった。

 

「紡絆くん、ここでいいわ」

「そうか? 別に中までも……」

「ううん、大丈夫。小都音ちゃんも待ってるだろうから、行ってあげて」

 

家の前へと辿り着くと、今度こそ東郷が口を開き、紡絆の提案に首を振って遠慮していた。

そこまで言うならと紡絆は素直に頷き、車椅子から手を離す。

 

「今日はありがとうな。楽しかった」

「私の方こそ、紡絆くんと出かけられてよかったわ」

「なら良かった。じゃあまた明日、学校に登校する時だな」

「うん」

 

もう夜なのもあって、帰ったら夜食だろう。

あまり話しても互い悪いと思っているのもあるが、どうせすぐに会えるのだ。

特に引き伸ばすわけでもなく紡絆は東郷に背を向け、自身の家へと戻るために歩を進める。

 

「………」

 

去っていく背中。

その背中を見ていたら、何も無いと分かっているのに東郷は不安に駆られて、俯いてしまう。

分からない、けれど怖くて、嫌で、不安なのだ。

いつ命を落とす可能性があるか分からないのがウルトラマンである紡絆と勇者である東郷たち。

バーテックスの生き残りもいるということはスペースビーストの生き残りが居ても不思議ではない。

だから不安なのだろうかと東郷は思う。

だから、だから最後に---

 

「紡絆くんっ!」

「ん?」

 

不安で力強く拳を握り、それでも顔を上げて大きな声で彼の名を呼ぶと、紡絆は何も変わらないまま振り向いて首を傾げていた。

 

「また、また一緒に……みんなと一緒に出かけたり、こうして一緒に出かけましょう!」

 

距離が離れているし東郷は歩けないため、外とはいえど大声で言うしかないのだが、知り合いである友奈と小都音にもしかしたら聞こえてるかもしれないと思うと恥ずかしくなる。

まぁ、家に居る者に聞こえるほど大きな声では無いので、彼女たちがベランダにでも出てない限りは本当は聞こえなかったりはするが、紡絆は東郷に()()()()()()()()、いつもの笑顔と手を振って応える。

それを見届け、東郷は胸に手をやりながら紡絆の姿が消えるまで家に入ることなく見ていた。

 

(……きっと、気のせい。大丈夫、彼は光で、私にとって希望だから。居なくなったりなんて、絶対にしない。

だから…また楽しいと思うことを共有したいわ、紡絆くん)

 

思い返せば、終わってしまったことに寂しい気持ちがないわけではないが、次もまたあるだろうと東郷は見えなくなった彼が居た場所を最後に見て、自身も家の中へと入っていった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして東郷と分かれ、家に辿り着いた紡絆は家にいるであろう小都音に帰ってきたことを知らせるようにインターホンを鳴らそうとした、その瞬間。

指が触れるギリギリのところで止まり、紡絆は顔を上げて振り向く。

 

「……ッ!? 来るッ!」

 

察知した紡絆に知らせるように彼が常に持っているエボルトラスターからドクン、と鼓動のような音が鳴り、紡絆の体が光に覆われる。

強制イベントとも言えるそれは紡絆の体を完全に覆い尽くすと、彼の姿はこの世界から消えた。

---スペースビーストの、出現。

 

「おにいちゃん?

…あれ?おにいちゃんの匂いがしたような気がしたんだけど……」

 

惜しい、と言うべきか。

あと一歩早ければ会えたというのに、エプロン姿の小都音がドアを開けて首を傾げていた。

料理をしていたら紡絆の匂いを感じ、中断して来たのだろう。

 

「……うーん、もうお兄ちゃんが外に出て半日は話してないから寂しくてそう思っちゃったのかな。流石にもう帰ってくると思うし、料理作って待っておかなきゃ。

はぁ、お兄ちゃん早く戻ってこないかなぁ……」

 

気のせいだと思い込むことにしたのか、小都音はため息を吐きながら寂しそうに、それはもう凄く寂しそうにアホ毛も眉も気分もただ下がりのままドアを閉めていた。

鍵を閉めてからすぐに兄のために料理をしようと意気込んで戻って行ったので、心配はいらないだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が変わり、遺跡へと召喚される。

時間は繋がっているのか、遺跡は真っ暗で、今回召喚された場所は開けた森の中だった。

いつもはストーンフリューゲルのようなオブジェクトのある遺跡殿の近くに召喚されるのだが、何故か森の中に召喚された紡絆は首を傾げる。

はっきりいって、夜の森は真っ暗で明かりもなく、鬱蒼としていて、ただただ不気味だった。

 

(スペースビーストの気配が感じられない……でも召喚されたということは来るはず。一体何が---ッ!?)

 

ビースト振動波をキャッチするエボルトラスターも静まり、いつものような怪獣特有の鳴き声も聞こえない中、紡絆は何かに気がついたように前へと飛んだ。

前転するように受け身を取りながら今度はちゃんと持っていたブラストショットを手にしていた。

ワンテンポ遅れて紡絆が居た場所から衝撃が響き、何者かの襲撃を受けたというのを紡絆の頭でも理解出来る。

獣のような唸り声が背後から聞こえ、犯人を突き止めるために振り向きざまにブラストショットを構えた。

 

「!? なんで……」

 

驚愕したように紡絆は目を見開き、構えていたブラストショットを無意識に下げてしまう。

紡絆の目の前に居る、いや襲撃者は人間。

海のような水色の髪を持ち、彼の妹である小都音をもっと成長させ、双碧眼に髪型をロングにしたかのような、そんな外見を持つ女性。

それは紡絆の記憶に深く残る姿形と一致していた。

つまり間違いなく---

 

「母さん……」

 

そう、それこそ、死んだと思われていた紡絆の母親だった。

まるで生気のない瞳を紡絆に向け、彼女は構える。

紡絆はそれを見て戦意喪失---することはなく、ブラストショットを強く握りしめる。

 

「ッ!?」

 

さらに一人だけではないようで、何処からか跳んできた男女が紡絆に襲いかかった。

すぐさま気配に気づいて避け、紡絆は回し後ろ蹴りで逆に吹き飛ばす。

 

「うっ……誰だ!?」

 

体の不調で一瞬怯んでしまったが、睨みつけるように叫ぶ先には、三人の人間が存在していた。

一人は紡絆の母親。もう二人は紡絆の記憶に存在する人間ではなく、恐らく夫婦とは思われるが不明。

 

『---!!』

「これは……!」

 

返事がわりにか、三人が一斉に雄叫びを挙げると、なんと腕が鉤爪に変質する。

同時にエボルトラスターが鼓動し、紡絆は正体を見破った。

人間と同じ外見を持ち、特徴的には同じ。

しかし変化した腕、違和感、何よりもその身に纏う気配と、死んだはずの母親が存在する。

つまりは---

 

「スペースビースト……か」

 

スペースビーストに、他ならなかった。

一番の証拠はエボルトラスターが鼓動したことだろうか。

紡絆はその姿を見て、一瞬目を伏せた。

それを隙と見たのか、一斉に飛びかかってくる。

 

 

146:名無しの転生者 ID:f5GPhBASZ

ザキさん、なんてクソ野郎だ!

母親を殺して日も浅いのにすぐに持ってくるか!? 残る男女は誰か分からないが、巻き込まれて殺された人か…? 少なくとも母親だけは間違いない…!

抵抗する気ないのか、イッチ!

 

 

 

147:名無しの転生者 ID:OQ4oBeAWH

母親ってことを考えると仕方がねぇだろ! 二度も殺せってのは酷すぎる!

でもイッチ、そいつらはもう人間じゃ---

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドンッといった大きな音が周囲に何発も響き、飛びかかってきた母親の心臓、そして見覚えのない二人の心臓を青白い光の真空波動弾が貫く。

ただ体の左半身を後ろに逸らしながら右腕を真っ直ぐ伸ばし、母親の腕は紡絆の顔面すれすれで静止していた。

力を失い、前へ倒れる母親の体を、鉤爪を避けて紡絆は正面から支える。

躊躇や迷いは、最初から微塵たりともなかったのだ。

少ししてバタン、と二人の人間---いや、スペースビーストは倒れ、間違いなく死んだ。

それを一瞥すると、紡絆は母親をゆっくりと降ろしながら拳を握りしめ、腹から声を出すように叫ぶ。

 

「出てこい、スペースビーストッ! 母さんはもう俺が殺した……それは変わらない!

俺を殺したいならこんなことしても無駄だ!」

『-----!』

「ッ!?」

 

怒りに近い咆哮が聞こえ、思わず耳を塞ぐ紡絆だったが、彼の言葉に応えたのかスペースビーストが霧の中から姿を現す。

身長50mはある肉体に、ハダカデバネズミ辺りを怪物化させたような醜悪な姿を持つスペースビースト。

そのスペースビーストの両腕にはさっきの人たちと同じ鋭い鉤爪があった。

つまるところ、三人の主みたいなものなのだろう。

スペースビーストの姿を捉えた紡絆はブラストショットを収納してすぐさまエボルトラスターを取り出し、鋭い目を向ける。

 

「…………」

『---ッ!』

 

スペースビーストの鉤爪が紡絆に向かって振り下ろされる。

紡絆は二度も殺した母親と誰かは分からないがこの手で殺した人間二人を再び一瞥し、最後まで死体を見ていた。

果たして何を思っているのか。

それは誰にも分からず、紡絆にしか知り得ない。

そうして鉤爪は紡絆の肉体へ直撃---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シュワッ!』

 

する直前に紡絆の体は光になり、徐々に大きくなりながら両腕を交差して鉤爪を防いでいた。

そしてネクサスの本来の身長である49mまで巨大化すると、ネクサスはスペースビーストを跳ね除け、腹部を蹴り飛ばした。

 

『…………』

 

吹き飛ぶスペースビーストの姿を見つめ、ネクサスはすぐさま振り向いて握りしめた拳を地面に向けて殴る。

凄まじい衝撃音が響き、巨大な穴が形成された。

 

『……デアッ』

 

そっと、これ以上傷つけることも壊さないようにしながら母親の死体ともしかしたら知り合いかもしれないし見知らぬ人かもしれない二人の男女を掘った穴に入れる。

 

『シェア』

 

そうして確認したネクサスはエナジーコアに手をやると、地面に向かって差し伸べるように手を向けた。

ネクサスの腕から伝う優しい緑色の光が地面に伝導し、大きく空いていた穴は綺麗さっぱりと、何事も無かったかのように復元された。

それを見届けると頷き、ネクサスはさっき吹き飛ばしたスペースビーストの方向へ振り向く---

 

『---!』

『ぐあっ!?』

 

その瞬間、ネクサスは胸に鉤爪の攻撃を受けていた。

回るように後退し、胸を抑えながら横に転がって追撃で振り下ろしてきた鉤爪を避ける。

 

『……シュアッ!』

 

痛む胸を抑えるのをやめ、両腕を強く握りしめてファイティングポーズを取る。

不意打ちを受けたとはいえ、大打撃になった訳ではなかった。

互いに攻撃のタイミングを探るように移動しながら、敵からは決して目を離さない。

そうしていると、やけに長文というか愚痴の含まれている解説が脳裏に流れてきた。

 

 

 

180:情報ニキ ID:JoUHou2in

ウルトラマンネクサスEPISODE.11からEPISODE.17にかけて主人公と視聴者をクリスマス、正月というめでたい時期であるにもかかわらず陰惨な鬱展開を延々見せ付けてお茶の間の空気を淀ませる惨状を展開したみんなのトラウマ!

そいつの名はフィンディッシュタイプビースト、ノスフェル!

上級ビーストであり、こいつの持つ長い舌は人間を捕食するものだ!

さらに両腕の鋭い鉤爪はウルティノイドにすら致命傷を与え得る威力を持つ上、殺害した人々をビーストヒューマンとして蘇生させ、自らの傀儡とする能力がある!

更に額から光線を発して人間を体内へ生け捕りにする事も可能で、 最大の特徴は強力な自己再生能力!

ウルトラマンの必殺技を受けて絶命しても、口腔内の再生器官を破壊されない限りは何度でも復活することが可能!

しかもピンポイントで再生器官を破壊してから、細胞を分子レベルで消滅させる必殺技でトドメを刺さなければ短時間で再生してしまうという厄介な敵だ!

 

そしてビーストヒューマン。

人々の死体にビーストの細胞を植えつけた存在で、簡単に言えばゾンビ!

特に言うことは無いが、腕をノスフェルと同じ鉤爪に変える他、身体能力が強化される。

こいつを操れるのはノスフェルかウルティノイドで、恐らくノスフェルが操っていたのだと思われる!

 

 

181:名無しの転生者 ID:oc2WKFQg7

ビーストヒューマンの件については心配する必要はなかったようだが……許せんよなぁ!?

 

 

182:名無しの転生者 ID:r8lKUIfJd

てめぇ、よくもトラウマ再発させやがって!

殺ってやれ、イッチ!

死体を操るなんて…しかも母親を使うとはな…!

 

 

183:名無しの転生者 ID:BDYH/056I

あれ……でもオーバーレイの影響で母親の死体は普通ないはずじゃ…。あっそっかぁ。イッチの精神を追い詰めるためにわざわざ死体として蘇らせることで曇らせようとしやがったのか…。

恐らくザギさんがあの時死体だけ回収したのか、再現したのか…どっちかはわからんが。

どちらにせよ、これでイッチを追い詰めようとしてるのは確定したっぽいな…とりあえずそいつは爆発したりとか特にはしないから容赦する必要はねぇ!

ぶっ飛ばせ!

 

 

 

 

 

 

 

こくりと頷き、ネクサスが走る。

それと同時にネクサスの頭上に光が降り注ぎ、ジュネッスブルーへとタイプチェンジしていた。

手加減する必要もなければ、近くに遺跡がない今は塗り替えられることが確定しているメタフィールドの展開はする必要もなく、ネクサスはスペースビースト---ノスフェルへと飛びかかった。

 

『---!』

『フッ---デェアァ! チェア…シュワアァ!』

『!?』

 

迎撃するように振るわれる鉤爪だが、ネクサスは一瞬で加速し、突然目の前に現れるとノスフェルの胸を殴り飛ばし、休む暇も与えないように蹴りを加え、流れるように下降からアッパーカットをすると顔面を横から殴り、回し蹴りを横腹へ加える。

そして怯んだノスフェルに向かって真っ直ぐ腕を立てると、右腕に光を集め、振り絞った一撃を腹部へ与える---ジェネレードナックル。

反撃することすら許さない怒涛の連撃と高威力の拳を受けたノスフェルは立ち上がるが、ふらついている。

 

『---!』

『……!』

 

気を取り直すように頭を振るったノスフェルは走り、ネクサスに向かって己の武器である鉤爪を突き出す。

しかしネクサスはそれを左腕のアームドネクサスで容易に弾き、肘と膝で挟むようにノスフェルの右腕を押し潰す。

 

『---! ---ッ!!』

『デェヤアアアァァァ!』

 

悲鳴のような声を挙げるノスフェルに、さらにネクサスはジャンプと同時に両足で首を挟み込み、横に倒す。

さらに素早く立ち上がると、左腕を掴んで回すように投げ飛ばした。

重力に引かれ、轟音と共に舞う土煙。

 

『デアッ!』

 

迷いなく土煙の中へ突っ込み、視界の悪い空間の中、正確にノスフェルの位置を見極めたネクサスは倒れるノスフェルを上空に蹴り上げる。

打ち上げられたノスフェルを見上げ、高速で追いつくと至近距離でパーティクルフェザーを放つ。

そして至近距離で大ダメージを追ったノスフェルに円を描くように高速移動しながら蹴り飛ばし続け、再度高く打ち上げると高速の殴打で突き落とした。

反撃の許さぬ、素早いジュネッスブルーだからこそ出来る芸当。

 

『フッ! ハァァァ……』

 

悶え苦しむノスフェルに対してネクサスは地面に着地すると、右腕のアローアームドネクサスをエナジーコアに翳す。

するとアローアームドネクサスの形状が変化し、光の剣が形成された。

形成したシュトロームソードを左側の首元に添えるように構え、ノスフェルに向かって走り出した。

 

『!?』

『デェアァァァッ!』

 

弱っているノスフェルはゆっくりと起き上がるとネクサスの行動に気がづいたようで、自身の鉤爪を斜め上から振り下ろす。

だが遅い。

すれ違いざまに一閃。

突き出された右腕のシュトロームソードは消え、元のアローアームドネクサスへ戻る。

 

『-----!』

 

悲鳴を挙げながらノスフェルの上半身と下半身は真っ二つに分かれ、爆発した。

圧倒。

唯一ダメージとしてカウントされるのは不意打ちの一撃のみで、ノスフェルは何も出来ずにやられた。

ネクサスはゆっくりと振り向き、変身を解くために両腕を交差した---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハッ!?』

 

瞬間、爆発したはずのノスフェルが瞬時に再生し、いつの間にかネクサスに向かって鉤爪が下方から振り上げられていた。

無意識にか、ネクサスの体は大きく下がり、ノスフェルの攻撃は空振る。

 

『ヘェアッ!』

 

隙のできたノスフェルに下がりながら少し吃驚しただけのようで、即座にネクサスは左腕を勢いよく斜め下に払い、抜刀するような構えを取ってから纏ったエネルギーを解き放つ---クロスレイ・シュトローム。

真っ直ぐ放たれた光線技は直撃し、爆発するが---やはり復活した。口腔内の再生器官を破壊しない限り再生するのが特徴なノスフェルには弱点を壊すしかないのだが、しかしそれでも再生速度が異常すぎる。

 

『---!』

『ぐ……っ!?』

 

狙う箇所は分かっていても、破壊するのは難しい。

真っ直ぐ突進してきたノスフェルを受け止め、背中を仰け反らせながら勢いよく頭を戻すことで頭突きを受けさせる。

瞬時に駆け、ネクサスの左腕には炎が、右腕には光が纏われる。

 

『!!』

『シュアァ!』

 

警戒するように反撃に振るってきた鉤爪に向かって、ジェネレードナックルをアッパーカットの要領で放つことで破壊し、部位破壊という大打撃に後退するノスフェルの口内に、くるりと回って突き出される炎の拳が正確に突っ込まれる。

すると拳から火柱が発せられ、火炎の柱はノスフェルを燃やし尽くすように貫通して夜空を照らしながら消える。

 

『………ファッ!?』

 

弱点である口腔内の再生器官の破壊。

今度こそ終わりかと思われたが、倒れるノスフェルの上空には暗雲が立ち込め、紫色のエネルギーが勢いよく降り注ぐ。

凄まじいエネルギー量に右腕で顔を覆うように守るが、エネルギーの降り注ぐ衝撃波によってネクサスはノスフェルから離された。

ノスフェルの体は黒い稲妻のようなエネルギーが循環し、紫色のオーラが吸収されるように入っていくと、起き上がりながら体が変化していく。

例の如く融合型に見られる白い体---ではなく、以前戦ったクロウのように別の色へと変化していた。

ピンク色のような紫色のような体の色から、青緑をメインにシマシマ模様のように白色が入っている。さらに背部の亀裂のような部分は貝紫色で、その背部はまるで貝殻のような、それこそタカラガイの殻に似たような見た目へと変化していた。

そして両腕は鉤爪から鋏に変わっており、ヤマアラシのように体と尾の上面に棘状に変化した硬い長毛が生えている。

見た目の元は変わらずノスフェルだが、別のものと融合したような外見を持つ融合型昇華獣。

何よりも、やはり体には星座が刻まれていた。

 

(ここで有名なオリオン座……! それにおおいぬ座とこいぬ座も…… いや、冬の大三角とさんかく座か!?)

 

中心より下におおいぬ座の1等星、シリウス。

左上にこいぬ座の1等星、プロキオン。

右上にオリオン座の1等星、ペテルギウス。

天の川を挟んで輝く3つの1等星を結んで出来る大きな三角形のことを冬の大三角と呼ぶ。

小さな三角定規型の星座をさんかく座と呼び、メインは冬の大三角なのだろう。

神話上予測出来るものはなければ、どちらかというと融合型昇華獣ではなく、ネクサスが強くなったことに対抗するべく進化したクロウと同じく新たな融合型昇華獣と呼ぶべきか。

そんな相手に最大限の警戒を持って、ネクサスは両拳を握ってファイティングポーズを取る。

一方で融合型はただ佇むだけで、不気味さだけが漂う。

 

『ヘェア!』

 

一切動こうとせず、構えもしない融合型を見て最初に動いたのはネクサスだった。

持ち前のスピードで地面を駆け、ストレートパンチを繰り出すネクサスに対して、融合型は何もせず動かない。

となると当然当たるわけで、ネクサスのストレートパンチは融合型の胸を打つ。

殴られた衝撃で後ろへ下がり、すぐさま肘打ち、流れるように中段前蹴りで蹴り飛ばしてから飛び膝蹴りで融合型を押し倒す。

 

『デェア、シュアッ! ハァッ!』

 

そのまま連続で痛烈な打撃を見舞い、数撃与えた後に融合型の背中を頭上まで抱え上げ、真っ直ぐ前に投げ飛ばす。

空気抵抗に逆らうことなくただ地面に落ちる融合型に、ネクサスはトドメを刺すべく胸のコアゲージの前で握り拳を作った両腕を交差する。

 

『シュッ! シュアアァァァ……』

 

光がエナジーコアを中心に両腕へ伝わり、両腕を左右に広げると大きく両腕を頭上で回しながら、アローアームドネクサスと左腕のアームドネクサスが上になるように交差する。

そうして交差したまま右腰付近で両腕に輝く光を固定すると、左手の光は右手に集まり、ネクサスの右拳が氷に覆われる。

 

『デェヤッ!』

 

左拳を腰に固定し、大きく右足を一歩踏み出しながら同時に右拳を真っ直ぐ突き出すと、氷の光線が一直線に突き進み、融合型に直撃した。

冷気が空間を覆い尽くし、融合型の姿が見えなくなる。

最後の最後まで何もせず、本来なら勝ったと思えるはずなのに、紡絆は全く安心出来ず、警戒する。

そして---その時が来た。

 

『……!?』

 

氷霧に覆われた場所から、()()()が見えた。

それが()()()は分からない。

しかし大きさはそれほどではないが、赤く丸い形をしている光弾のようなもので、攻撃だということだけが分かったネクサスは瞬時に回避行動を取ろうとしたのか跳躍するため、両脚に力を入れる。

 

『シュ---!?』

 

いざ跳躍しようとしたところで、紡絆の頭が最大限の警報を鳴らす。

故にそのまま跳躍することはなく、紡絆の行動が止まった。

---否、紡絆の中にいるはずの()()()()()()が今まで以上に、過去全ての攻撃を含めて最大限の危険さを伝えたのだ。

()()()()()姿()()()()()()()()()()()、と。

 

(だったらッ!)

 

今まで紡絆に任せていたネクサスが、()()()()()()()()()()ほどの一撃。

今更光線技や最強技を使おうにも発射速度の方が上。

それでいて回避が不可能となれば、すぐに可能なシュトロームソードで斬るしかない。

そう判断した紡絆はエナジーコアに手を翳し、シュトロームソードを形成したネクサスは叩き斬るために光弾から決して目を離さず警戒する。

 

『---!!』

『で……ッ!?』

 

そして氷霧が消えると、融合型昇華獣の姿が見えた。

()()()()()()()()()()()()が融合型昇華獣の体から歪んで一瞬だけ見え、両鋏から中サイズ、それこそバスケットボールくらいの大きさの赤い光弾が物凄い速さで発射される。

 

(速すぎるッ!?)

 

気がつけば鏡のようなナニカは消えていたが、ネクサスの目でも追うことが難しいほどの高速。

真っ直ぐに向かってくるそれは、迎撃するのは難しく、ネクサスの警告通りジュネッスブルーの速度を凌駕している。

 

『ハァッ!』

 

刹那の判断。

回避も不可。迎撃も不可。

シュトロームソードを振り下ろすよりも先に直撃すると判断した紡絆は、シュトロームソードを解除して両腕を前に突き出した。

寸前のところで貼られた揺れる水面の様な青いエネルギーシールドで己の身を守る。

 

『ウッ!? ぐ、ぐぐぐ………ッ!』

 

しかしバリヤーによって守られたネクサスのサークルシールドに光弾が直撃すると受け止めたはずの光弾は勢いを留まることを知らず、必死に脚に力を入れてもなお、体は背進していく。

全力を込めてどれだけ腕を突き出そうが光弾の力が減衰することはなく、視界上にある光弾から()()()()()()が浮かび上がる。

 

『ヘッ!?』

 

そうして、ネクサスのサークルシールドが()()()()()()()()()()()()()()()()投影される。

その紋章がサークルシールド全体に燃えるように行き渡り、木が焼け、枯れるように()()へと変わっていった。

そう、まるで()()()()()()()()()()()()()()()

つまるところ、ファウストの持っていた剣と同じ性質がある---否、これはまるで別物だった。

異常なほどの威力。尋常ではないほどのエネルギー。

()()()()()()

 

『ウ……ぐっ……! アァ、グッ……ウゥ---アァアア!?』

 

それほどの力がある光弾。

コアゲージの点滅が始まっても未だに決して衰えることがない光弾が光り輝き、紋章が全体に行き渡ったその瞬間、なんとあのサークルシールドが完全に砕けた。

吹き飛ばされるようにネクサスの両腕が大きく弾かれ、数歩下がりながら大きく仰け反ってのめり込む。

 

『---ッ!?』

 

バリヤーが破壊された際に、勢い余って俯く形になってしまったネクサスが顔を上げれば、禍々しい紋章のある光弾が至近距離にまで接近していた。

 

『シェッ---ぐああぁアアアッ!?』

 

咄嗟の判断で身を逸らして回避を試むネクサスの()()に光弾が直撃し、ネクサスは一気に吹き飛ばされてしまう。

そしてあったのかすら知らなかった川に大きく吹き飛ばされたネクサスは背中から落ち、水飛沫が周囲を舞った。

 

『うあぁ……があぁぁ!?』

 

水飛沫はすぐに消え、ネクサスの姿が見えるようになると直撃した左目を両手で抑え、苦しんでいる姿がある。

苦しさのあまり体を動かして誤魔化そうとしているのか、仰向けからうつ伏せに変わり、両腕が地面に着いて四つん這いになると水面に落ちたのもあって、ネクサスの姿が水面に映し出された。

そこには()()()()()()()()()自身の姿があり、左目を抑えると、熱が発せられたかのようにネクサスは手を引っ込める。

 

『ハァッ……ハァ……。ぁ……?』

 

左目の光が()()し、痛みが消えたネクサスは困惑しながら立ち上がる。

特に大きな影響はなく、あるとすればコアゲージの点滅が突然加速しただけ。

ならば、と融合型昇華獣の方へ振り向き---

 

 

 

 

 

 

 

『シュア---ウアアァァ!?』

 

いつの間にか背後へ立っていた融合型昇華獣が、ネクサスに向かって()()()を噴き出した。

口から吐き出されたそれは水のように、ホースのように吐き出され、突然の攻撃にネクサスは全身に浴びる。

大きく苦しみながらネクサスの青い全身に白い液体が付着し、()()()()()()痛みがネクサスを襲う---それは()()()だった。

噴射が止まり、溶解液が止まるとネクサスのコアゲージが凄まじい勢いで鳴り始めて膝を着きそうになるが、ネクサスは堪える。

 

『うあっ!?』

 

しかしそんなネクサスに対して目から放たれた三日月状の光線が襲いかかり、流石に耐えきれなくなったのか地面へと倒れてしまった。

その連続攻撃を、()()()()()()()()

だが知っていても対処出来るはずもなく---

 

『---!』

 

勝利の雄叫びのようなものを挙げる融合型昇華獣は、軽い足取りでネクサスに近づいていく。

ネクサスは起き上がろうとするが力が入らずに、地面へと伏せていた。

それを見てトドメを刺すため、鋏型の腕からノスフェルの時と同じ鋭い鉤爪が現れる。

 

『---!!』

『…………』

 

コアゲージの点滅音と心臓のようなエナジーコアの音だけが響き、一切身動きの取らなくなったネクサスに融合型昇華獣は大きく腕を振り上げ、抵抗も出来ないであろうネクサスに、勢いよく振り下ろす。

そうしてネクサスの体は、鋭い鉤爪に貫かれ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『デェアァアアアアッ!!』

『!?』

 

貫かれる、その寸前。

ネクサスの全身が光り輝き、青い肉体から赤い肉体へと変化した。

ジュネッスブルーから、ジュネッスへのタイプチェンジ。

すぐさま横に転がり、振り下ろされた鉤爪は地面へ突き刺さる。

驚いたようにネクサスと鉤爪を見る融合型昇華獣は、引き抜こうと引っ張るが、全力で勢いよくした影響か、抜けない。

 

『シュ! ハァァァ---』

 

後先考えず、ネクサスは両腕を交差した。

青白いエネルギーが両腕に纏われ、コアゲージの前で流れる電流を引き離すように両腕を左右に分けるとV字を描くように両腕を上げる。

 

『ヘェアッ!』

 

そして両腕がL字型に組まれた瞬間、凄まじいエネルギーの光線が融合型昇華獣へと放たれた。

ネクサス最強技のひとつ、オーバーレイ・シュトローム。

当たれば即死のそれは、爪が抜けないまま動けない融合型昇華獣に直撃する---()()()

 

『!? う……ハァッ、ハァ……』

 

明らかに避けられなかったはずなのに、オーバーレイを外したことに驚きを隠せないが、驚愕よりも先にエネルギーが失われ、ネクサスの体が輝く。

するとジュネッスからアンファンスへと戻ってしまったネクサスは片膝を着きながら、警戒するように周りを見渡す。

そして、捉えた。

()()()()()()()()()()融合型昇華獣を。

音も、速度も、姿も、何もかも見えなかった。

それこそ、()()()()したかのように。

 

『……ッ!』

 

もはやエネルギーが残っておらず、両腕を着くネクサスだが、両腕のアームドネクサスを輝かせる。

せめてもの抵抗。

残されたエネルギーを全て注ぎ、相討ちを狙うつもりだった。

 

『---!』

『………?』

 

しかし融合型昇華獣はどこか苦しそうに声を漏らし、最初から何もいなかったかのように、白い霧に包まれて消えた。

明らかなチャンスだったというのに、見逃された…はずはない。

恐らく、何らかのダメージがあったと見るべきか。

 

『あ……アァ……』

 

だが運に助けられたのは事実。

それを認識した瞬間、保っていた力は失われ、ネクサスの体が輝くと元の継受紡絆という一人の人間の姿へと戻ってしまう。

 

「……くっ」

 

森の中、ネクサスから戻って倒れていた紡絆はなんとか体を起こし、苦しそうに両目を閉じたまま大量の汗を掻きつつ背中を木に預ける。

息も絶え絶えで、悪運に助けられた紡絆は息を整えながら両目を開けて空を見上げた。

視界にあるのは真っ暗な夜空。

ブラストショットを左手で手にした紡絆は全身が輝くのを感じながら空に向けてブラストショットのトリガーを引こうと---

 

「………?」

 

そうしたところで、猛烈な違和感に気づいた。

空に上げる左腕、手は爛れたように皮膚が焼けているが、溶解液の影響だろう。

しかし、やけに---()()()()()

 

「……あ」

 

そして、気がついた。

空いている右手を見つめ、特に影響はない。

しかし片目を閉じて右目で夜空を眺めたら映るが、もう片方の目、左目だけで見れば---

 

「なにも……みえ、ない……」

 

映るのは、ただ真っ暗な世界。

何も無く、何も捉えられず、感じられず、ただ()()()()()()()()

それがどういうことか、理解出来ないほど紡絆は馬鹿では無い。

体が完全に光りに包まれ、世界が変わる。

ただ眩しさに両目を閉じた紡絆は、戻っていく感覚と共にため息をひとつ零した。

そう---自身の()()()()()()()()がしたことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





○継受紡絆/ウルトラマンネクサス
(誰も彼の日常編とは言っていないので)相も変わらずボロボロな上についに身体機能を失う(しかも目は開くので他人には気づかれないというイヤらしさ)
なお、彼はため息ひとつで済ませた模様。

○ウルトラマンネクサス
彼が紡絆に警告出すレベル。
万全である彼なら余裕で弾いてた(確信)

○東郷美森
(勇者たちの日常編なので)紡絆とデートすることに。
懐かしいような感覚を感じたり、知らないはずなのに知っている場所に来たように感じたようだが……?
最近よく遠くを見る時がある紡絆に居なくなるのでは、と不安になっているものの、約束を取り付けることでまた『次』を用意した。
かしこい。

○ノスフェル?
通常だと不意打ちの一撃以外ノーダメでボッコボコにされた上に短時間で3回殺されたので融合型昇華獣へと至るが、クロウと同じく『新たな』というべき融合型昇華獣。
冬の大三角という有名すぎる星座の影響であらゆるスペックが大幅に上昇している。
さらに紡絆も知っている目から光線、溶解液といった攻撃方法を使い、瞬間移動のようなものや霧のようなものを使えるようだが……?
しかし明らかなチャンスだというのに何故か苦しんで撤退した。

○ビーストヒューマン
(ザギが精神的に紡絆を追い詰めるために再現したと思われる)母親にビーストの細胞を埋め込み、襲わせたが紡絆には効果がなかった。
もう二人の人間は、 別に父親というわけでもなく巻き込まれた人間と思われるが、紡絆曰く見覚えもないので不明。

○禍々しい謎の光弾
紡絆の左目の視力を停止させた光弾。
放たれる前に()()()()()()()()()()()()が居たらしい。
実は一発限りの攻撃で、本来は両目を破壊するつもりが紡絆の反応速度が高すぎて左目しか無理だった。
人間でいう弱点に当てなければ意味が無いという欠点がある(例えば腕の機能を停止させるならネクサスの腕を貫く必要があるが、目は露出してるので当たれば簡単に消せる)


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「-鍛錬-トレーニング」

気がつけば一年経ってるんもんなんすねえ。
そしてついに赤バーから落ちてしもうた、悲しいなあ…正直リアルが忙しくて全く書けてないし最近は読み専になりつつありますが、みんな失踪するのは多分どちらかが理由なんでしょうね、なんて思ったけど関係ない32話でもどうぞ。
失踪は、うん…しないかな、多分。きっとね、小説続けるかなんて評価(やる気)の下がり具合だしね。
とりあえずダイナかっこいいね




 

 

 

◆◆◆

 

 第 32 話 

 

 

-鍛錬-トレーニング 

 

×××

 

日常編その②

三好夏凜編

 

 

◆◆◆

 

 

 

左目の機能の消失。

それは紡絆に大きな精神的なショックを与える---

 

「いやーごめんごめん。ちょっと迷子の案内してたら遅れちゃってさー……って怒ってる?」

 

わけでもなく、普通の人間なら動揺したり取り乱すだろうに、何も変わらないまま家の中に入った紡絆は、そっぽ向いて不機嫌そうな小都音に謝っていた。

 

「怒ってない」

「でも」

「怒ってないよ、そろそろ帰ってくるって思って料理を作って、ずっと待ってたのに。料理が冷めてもお兄ちゃんが全然帰ってこなかったから一人で寂しく食べて、食べ終わっても帰ってこなかったことになんて、別に怒ってないよ」

「う………」

 

わざわざ口に出してまでも言っている時点で紡絆は怒ってるのではと思ったが、強制的に召喚されたとはいえ非は此方にあるのは確かなのだ。

実際戦いの後、ストーンフリューゲルの中に四時間ほど居た紡絆は日付が変わる時間帯に帰ってきた。

しかしそれでも傷は一切回復していなかったが。

 

「……はぁ」

「ごめん」

「……もういいよ。それより、温めたから食べて。お兄ちゃん何も食べてないでしょ」

 

ただ謝ることしか出来ない紡絆に対し、紡絆以上に紡絆という存在を知っている小都音はため息を零して気を取り直すように料理に目を向けた。

どうやら照り焼きチキンに味噌汁、炊き込みご飯、マカロニグラタンと言った献立のようで、ちゃんと足りない栄養素を考えて作られたものだった。

 

「…まあ、お腹空いてるのは否定出来ない。小都音のご飯見たらより空腹に襲われたし」

「そっか…じゃあちゃんと食べること。今回はそれで許してあげる」

「ん、了解」

 

褒められて嬉しくはあるのかアホ毛を揺らしつつ、小都音はご飯を食べない可能性のある紡絆に食べるように誘導していた。

それで許して貰えるならと両手を合わせていただきます、と言ってから素直に食べる紡絆は、気づいてなかった。

この妹、兄の扱いがとても上手いのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

321:名無しの転生者 ID:5TLMkR1on

イッチ、平気か?

なんかやけに苦しそうにしてたが……

 

 

322:名無しの転生者 ID:bfsIYtwln

まさか作中最強で無敗だったサークルシールドを砕く技が出てくるなんてなぁ。今までも砕かれる寸前まではいってたけど、今回が初だぞ

 

 

323:名無しの転生者 ID:Qx4YQ0U5v

でもあれ、砕かれたってよか何らかの力が干渉したっぽいよな? 変な紋章がバリヤーに浮かんでたし

 

 

324:名無しの転生者 ID:OJWmrWl/k

見た感じただの融合型じゃねぇよなぁ。あれ、溶解液だろ?

つーことは前回同様怪獣の力があってもおかしくは無い…けど、ウルトラ怪獣って溶解液使うやつ多すぎて特定出来んぞ

 

 

325:名無しの転生者 ID:kajTf8GWy

いっそのこと、バーテックスとの融合を融合型昇華獣って呼んでたけどそれだとややこしいからさ、バーテックス+怪獣+スペースビーストってことなら新しいって意味を込めて『ネオ融合型昇華獣』ってのはどうよ?

 

 

326:名無しの転生者 ID:I8HUEHRsU

ええやん

 

 

327:名無しの転生者 ID:mBV9kdiMZ

今までとは違うってことで区別出来るしな

 

 

328:名無しの転生者 ID:1B8SM5cZa

それよりイッチだよ。大丈夫なのか?

ネオ融合型昇華獣が撤退しなきゃイッチ負けてたじゃん。撤退理由も不明だし

 

 

329:名無しの転生者 ID:bk7q6cHa1

数日間ビーストもバーテックスも現れなかったって思ったら急に出てきて、体の治ってない状態でさらにダメージ受けた上にスペースビーストとはいえ、人を殺してるからなぁ…メンタル面も心配だ

 

 

330:名無しの転生者 ID:bP4oBnlg0

いくらイッチの前世が異星人たちがいたって考えても今回ばかりはな……まぁ、でも戦闘センスの高さと価値観の違いは前世の影響かもしれんね

 

 

331:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

すまん、反応遅れた。

深夜だからもう寝るけど、簡単な報告だけするわ。

まずそのネオ融合型昇華獣ってやつの怪獣の情報遺伝子?だっけ。

組み込まれてる怪獣の正体はウルトラマン80に登場する残酷怪獣ガモスだ。

背中とか鋏型の腕以外は受けた感じからして間違いない。けどあの状況でオーバーレイを避けれた理由は分からん。

星座は冬の大三角であるオリオン座、こいぬ座、おおいぬ座。

それとさんかく座。

神話的にも特別な能力はないみたい。

ただ俺のバリヤーを砕いたあの光弾は、不完全な鏡のような見た目をした存在が撃ってたから、恐らくそいつの影響でネオ融合型昇華獣は撤退したんだと思う。

ついでにあの光弾のせいだと思うけど、左目の視力奪われたわ。あはは、左だけ何も見えねえや。機能停止しちゃった。

おやすみ

 

 

332:名無しの転生者 ID:1eumz0P5H

えっ?

 

 

333:名無しの転生者 ID:uvFjlkwRx

ガモスか…80を苦しめた敵だな。確かにガモスの溶解液って考えたら強力だわ。あの80先生が受けた瞬間カラータイマー点滅したレベルだし、宇宙の指名手配ナンバー2にランクされているほどにはやばいしな

 

 

334:名無しの転生者 ID:AhDsFt2si

おい待て、お前さらっとやばいこと言ってないか!?

左目の視力奪われたって……

 

 

335:名無しの転生者 ID:lj84WfQhy

い、いやいや笑って流せるようなことじゃねぇからな!?

しちゃった、じゃねーよ! それで済ませるような問題じゃないから!

 

 

336:名無しの転生者 ID:bs1/TMzxG

ただでさえボロボロなのに左目すら奪われたのか?

ちょっと待って、イッチ割とマジで前よりやばくなっていってないか?

 

 

337:名無しの転生者 ID:2TeSwMs3/

これ…そろそろ真面目のガチめにやばくないか?

ネオ融合型昇華獣は多分ネクサスの強さに比較して成長したんだろうけど……

 

 

338:情報ニキ ID:JoUHou2in

ああああぁあああぁぁあああ!!

そうか、そういうことかっ! 失念してたぁああああああ!

 

 

339:名無しの転生者 ID:Ms3rs5tmz

あの光弾は身体機能を奪う力がある?

それってもしかして勇者と同じ状態じゃ……?

 

 

340:名無しの転生者 ID:SBb2vaTOk

え、なになに、一旦整理させて。

とりあえず情報ニキから頼むから落ち着いて説明してくれ!

色々と多すぎてわからんのだが、イッチは本当に寝たっぽいから説明出来る情報ニキから頼む!

 

 

341:名無しの転生者 ID:PimHsdoGO

ここのスレ、いっつも情報過多してんな

 

 

342:名無しの転生者 ID:BWDM5x6Lg

しかしこの情報ニキの慌てよう…さては何か気づいたな?

 

 

343:情報ニキ ID:JoUHou2in

そうだよ、そうだったんだよ!

イッチって凄い強いじゃん?

 

 

344:名無しの転生者 ID:DzSHG9wIw

んーまあ、確かに万全じゃない割にはいくらネクサスのスペックが上がってるとはいえ上級ビーストであるノスフェル、それも原典より再生速度の上がっていた相手を短時間で三度殺してるからな…

 

 

345:名無しの転生者 ID:gDE/vyq3Z

普通に頭おかしくて草。万全のイッチってジュネッスになったらジョー二アス辺りと普通に互角に戦えそうで困るわ

 

 

346:名無しの転生者 ID:0uf1qbNL7

で、イッチは(精神面でも)強いのはみんな分かってるけど、それがなにか?

 

 

347:情報ニキ ID:JoUHou2in

ほら! >>337のおかげで思い出したんだけど、スペースビーストって成長する存在じゃん? んで、バーテックスも成長するらしいじゃん?

でもさ、じゃあネクサス本編のTLTはどうやってやつらと戦えたのか覚えてる?

 

 

348:名無しの転生者 ID:/GFkyrN3e

バーテックスの成長具合も高いが、スペースビーストはどれも強力なうえにビースト振動波があるからでは?

で、TLTやウルトラマンが戦えたのは弱点知っている石掘が居たからじゃね? あと来坊者が味方だったし

 

 

349:名無しの転生者 ID:r6IUJIQ5n

TLTは技術やべーからな

 

 

350:名無しの転生者 ID:CtJ1CseHs

んー、すまん覚えてねぇわ

 

 

351:名無しの転生者 ID:GU23VlENO

確かあれじゃなかったっけ。スペースビーストを抑制するためにパワーバランスが拮抗するように調整してたんじゃなかったか。石掘が弱点教えたりTLTがウルトラマンを攻撃するように指示したのもそれやろ?

 

 

352:名無しの転生者 ID:efc290RrO

あーたしかそうだったような。抗体を作るためだったっけ。ビーストやウルティノイドと互角に戦えていたのはそれが理由だったか。

実はザギさんもイラストレーターと同じことを考えていて、ザギさんの方が狡猾だったとはいえ高度な策謀を繰り広げてたってやつな

あれ?ってことはつまり……?

 

 

353:情報ニキ ID:JoUHou2in

そう、調整役が居ない!

だからイッチの強さを上回るように成長して、スペースビーストだけが進化していってるんだ。バーテックスは分からんが、スペースビーストは確実。

そしてそれが恐らく、ザギさんが今行っているマルチバースの怪獣の遺伝子を組み込むことだと思う。

そもそもザ・ワンは他の生命体を取り込んで成長する存在だったからな。ザ・ワンの遺伝子が元として作られてるなら、他の怪獣との遺伝子は相性が良いはずだ。

あとは遺伝子問題は解決しても強力な怪獣と融合ならともかく、遺伝子のみを組み込むなら既存のビーストではそのために作られてないから肉体が持たない…。

けど、バーテックスの持つ『御魂』を核として、ジュネッス、ジュネッスブルーと力を解放したネクサスを上回るように成長をしたビーストならば? 学習したビーストなら? それに伴った肉体の進化で肉体に関しては問題なくなるはず。

あとはザギさんが力をちょちょいと注ぎ込んで調整すれば、ネオ融合型昇華獣に至るんじゃないか?

つまるところ、アンファンスでスペースビーストを倒すほどの強さを持つネクサス(正確にはイッチとノア様本人の力が噛み合ってるからだと思われる)を倒すための対抗策として用意されたのが、ザギさんがやれる最大限の進化である他宇宙の怪獣とこの世界の脅威であるバーテックスの力を持つスペースビースト…ネオ融合型昇華獣ってことなんじゃないかと思う。

あっ、でもイッチの視力奪った力は悪いけど分からない

 

 

354:名無しの転生者 ID:44ysFzotl

はーなるほど

 

 

355:名無しの転生者 ID:YKihp5J44

簡単に言えば、スペースビーストをアンファンスで倒すイッチが化け物すぎて危機感を覚えたザギさんがクッソ良い頭を動かして厄介な存在を生み出す発想を得た…と。んで、付け足すなら本来は次元が違うバーテックスとスペースビーストを融合させるためにバーテックス側の黒幕と手を組んで、それぞれの次元の力を持つ存在へと昇華させたってことだな。分かりやすく言えばダイナやデッカーのスフィア合成獣っすねぇ。

それにしてもイッチが悪いわけじゃないけどイッチのせいみたいになってる()

 

 

356:名無しの転生者 ID:+6vfcDkl7

ザギさんが危機感を覚えるほどの戦闘センスって……そりゃ全力で潰しにかかるわ。

自身はまだ不完全なのか、それともノア様の結界の影響で入れないのかは知らんけど普通に考えたら殺りに行くわな。それにノア様本人って考えたらファンたちでも分体と予想されてるギャラファイでも強かったんだからもっと強いよねってなるしね

 

 

357:名無しの転生者 ID:mdBXlkmHF

バーテックスがイッチを優先しまくってる理由もそれなのかもな。

バーテックス側の黒幕とザギさんが手を組んでるから情報が流されていて、勇者も厄介だけどそれ以上にイッチが厄介だから潰そうとか…変身前狙ってたし。

ん、待てよ?

じゃあイッチの左目の視力を奪った光弾って、そのバーテックス側の黒幕なんじゃないか? その不完全な鏡のような存在は、黒幕の本体?それとも黒幕が戦うための肉体か?

 

 

358:名無しの転生者 ID:+8Gp0VjUW

ってことは、本格的にザギさんとバーテックス側の黒幕がイッチを殺しに来てるってことか!

 

 

359:名無しの転生者 ID:Ci5NXPjDB

逆に今まで干渉しなかった理由は出来なかった?

…そうか、考えられるとしたらノア様の結界が弱まっていること…!

あとは不完全ってことは別の見方をすれば不完全の状態で力を行使したなら、消耗で次は無いはず!

 

 

360:名無しの転生者 ID:GzEm3O8uu

あくまで予想、予想だがそれが正しければようやくまともな答えを得たことになるぞ!

謎ばっかなのに!謎ばっかしかないけどやっとひとつふたつ解けたぞ!

 

 

361:名無しの転生者 ID:ApcMzKGp8

いつ全部答えが出てくるんですかね…でもさ、結局調整は勇者たちにそんな説明したらイッチの情報はどっから出てきたってなるから無理だし、そもそもそんな余裕がない。

あと左目についてはどうするんだよ。治るのか? 例え次が来なくても、失った左目は痛手だぞ!

特に治らなければ一体どう勇者たちや妹ちゃんに伝えたらいいんだ……

 

 

362:名無しの転生者 ID:/XL1k2b0I

……なんでこうもイッチは追い詰められるんだろうか。

正直なこと言うとさ、いくらなんでも>>331のように笑い流すのは…なあ

 

 

363:名無しの転生者 ID:Iq08ggk4x

ああ、確かに壊れてるっつーか……

 

 

364:名無しの転生者 ID:sAdYxYBHD

前世的に元から価値観は壊れってからどちらかというと、自分のことを大切に思ってないというか…以前は純粋に自分より他者優先の自己犠牲野郎だったが、最近は自分のことについてガチめにどうでもよくなってきている?

 

 

365:名無しの転生者 ID:XhyG//N5V

でも憐の教えで生きるために戦うって覚悟を決めた人間が、すぐにそんな思考になるか?

 

 

366:名無しの転生者 ID:xOsIE/yvk

でも戦いもなかったのに数日経っても肉体は一切回復しなかったから悟ってるのかも…。

確かに体力がなくなってるのもあるだろうけどさ、いくら勇者たちの心を守るために内緒にしてるとはいえ、最近は傍から見ると諦めてるようにも見えるんだよなぁ…なんかこのまま行くとイッチ普通に死にそうだ。

それと>>365イッチのことだから『生きるために戦う』だけで『そのために戦う』って考えなだけだと思うで。

つまり、イッチはその戦いの末に『死なない』とは言ってない

 

 

367:名無しの転生者 ID:WgYACzZMe

あのさぁ…イッチ、そういうところなんだよなあ。

自分を大切に思ってないもんな…けど、それがイッチたもんなあ…

 

 

368:名無しの転生者 ID:3uHubRRte

結局どう転んでもイッチ以外が曇る要素しかなくね?

むしろ何故母親をもう一度殺すことになって、他人を殺すことになって、左目を失ってもなお曇ってないんですかね…メンタル面最強前作主人公みたいになってるぞ。

これも前世パワー?

 

 

369:名無しの転生者 ID:hiWF3qCBX

確かにイッチは割と前世で色々と失ってそうではある。異星人居るらしいし、殺されたりしたのかもな、家族とか

 

 

370:名無しの転生者 ID:Pj5+3csd0

結局のところ、俺たちに出来るのは書き込むだけだ。

瞬間移動の正体…普通に考えたらテレポートだが、ゼットンは違いそうだな。

出来る限りのこと、やっていこう。さっきみたいに話し合えば多少は謎も解決するかもしれない

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝目が覚めたら、紡絆はちょっとした違和感を抱きつつ、体を起こした。

カーテンを開け、少しぼうっと外を眺めると違和感の正体に気づいた。

まだ実感がそこまでなかったが、左目の機能が消失したことを思い出したのだ。

寝てもそれは変わることなく、考えられるとしたら目が赤く染まった際に、焼かれるような熱さがあった時だろう。

 

「ふわぁあ……いい天気」

 

欠伸をしながら目を擦り、何よりも先にエボルトラスターを回収した紡絆は服を着替える。

服を脱いで鏡を見れば、映るのはボロボロで酷い傷しかない体。

いつもの如く包帯を取って腹を見れば、穴は空いてないが爛れた上に血が固まっていてグロテスク。

なので包帯を巻き直して今の怪我を忘れることにした。

ただの中学生。

いくらウルトラマンに選ばれたと考えても異常すぎる怪我を負ってしまっている。

どうやら溶解液を受けた際に負った傷は、爛れたままだが見える範囲ではないようだ。

 

『………』

「んー?」

 

そして帰ってきたのが深夜なのもあって学校の用意をしてなかったため、用意していたら何らかの気配を感じて紡絆はバッと振り向いた。

しかし何も無く、首を傾げながら用意に戻る。

左目が失ったせいで慣れてない今は少し不便にはなったというか、距離が測りづらいが、ちょっと時間をかけながら紡絆はリビングへと降りていくのだった。

エボルトラスターが光っていたことに気づかないまま---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何も違和感を感じさせないように過ごし、授業を終えた紡絆はニコニコ笑顔で歩いていた。

すると突然速度が上がり、少しずつ早足へとなっていく。

何の苦もなくただ歩く紡絆だが、突然止まることになった。

その理由は---

 

「なんでついてくんのよ!?」

 

夏凜が意味不明というように叫びながら振り返ったからだ。

しかしそう言われた紡絆は一瞬不思議そうな表情をし、口を開く。

 

「え? そりゃあ夏凜の家に行くつもりだからだけど?」

「はぁ?」

 

さも当然の如く告げてきた紡絆に、夏凜は唖然とする。

 

「だって俺が作らなければコンビニ弁当ばっかじゃん。本当は小都音にも来て貰うつもりだったけど、予定入ってたみたいだからな」

「そ、それは私の勝手でしょ」

「減るもんじゃないからいいだろ。それともそんなに俺のは嫌だったのか…」

「う……」

 

そう、紡絆が夏凜の家についていってるのはそれが理由だった。

そもそも育ち盛りの中学生が食べるのなら、コンビニ弁当で済ませるものでは無いだろう。

しかし紡絆の分かりやすく落ち込む姿に、夏凜は言葉が詰まる。

 

「わ、分かったわよ…好きにしなさいよ」

「よっしゃ、任せろ!」

「………」

 

一瞬で元気になる姿に何とも言えなさそうな表情になるが、諦めたのか夏凜は呆れたように口元を緩めると、再び歩みを進める。

それに気づいたのか、紡絆はまた彼女について行っていた。

 

「……そういえば」

「ん?」

「あんた、確かウルトラマンを宿してるから身体能力上がってるんだっけ?」

「一応な。それがどうかしたか?」

 

思い出したように前を向いたまま聞いてくる夏凜に紡絆は肯定を示す。

今や彼の身体能力は人間を凌駕するのだ。

 

「たまに変な動きしてるからおかしいと思ってたのよ」

「え、そんなしてる?」

「振り返って見なさいよ、自分の行動」

「うーん……」

 

夏凜に振り返るように言われた紡絆は、立ち止まって思い出すように唸りながら両腕を組んで考えていた。

彼の脳内に映るのは、事故に遭いそうな人が居たらダッシュして助けた時の記憶。怪我人が居た時に自分よりも身長も体重も大きい人や物を抱えて運んだ記憶。海を走った記憶。年寄りを背負いながら重い荷物を運んであげた記憶。動物のために命懸けで救いに行った記憶。地上から屋上までジャンプした記憶。空に向かって飛んでいく風船を跳んでキャッチした記憶。トラックを飛び越えた記憶。

色んな記憶が蘇っていき、紡絆は小首を傾げる。

 

「…うん? 別に普通だな?」

「何処がよッ!!」

 

一般人とはあまりにものかけ離れすぎている価値観。

何処を振り返っても普通ではないのだが、夏凜が知っているものでも絶対に普通ではないのだ。

 

「あはは、まあまあ。それが誰かのためになってるならいいじゃん! 正しいことに使えてるって思ってるしさ。それより行こうぜ!」

「…私が住んでるとこなんだけど」

 

夏凜の肩を軽く叩き、前に躍り出た紡絆は駆け足で進むが、自分の家でもないのに先に行く紡絆にため息を吐いた夏凜もまた、紡絆に追いつくために走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、紡絆は海を見ていた。

空は茜色に染まり、太陽はまだ出ている。

あと二、三時間もすれば四国は夜になるのだろう。

 

(はて、どうしてこうなったのだろうか?)

 

現実を直視するように、紡絆は自身の手のひらに握られた物と、目の前の人物を見つめた。

静けさに包まれたこの場所は今、異様な空気感に覆われている。

ピリピリとした、そんな空気。

一般の人が見たら近づきづらい空間で、紡絆はただ目の前の人物から目を離さない。

はたして、どれだけ見つめ合っただろうか。

(かぜ)が強く吹き、海水が海岸へ侵入して、足を濡らす。

 

「ッ…!」

 

それが引き金となったのか、かなりの速度で迫ってきた一撃を、紡絆はあっさりと横に逸らして避ける。

当たると思ってなかったのか、流れるように戻し、横腹目掛けて木刀が振られた。

その一撃を紡絆は軽く後方へ跳ぶことで避け、浮いた紡絆にもうひとつの木刀が穿つように勢いよく突き出された。

 

「おっ……と」

 

瞬時に空目掛けて後ろへ木刀を投げ飛ばし、自身は地面に背中から倒れ、両手を地面に着いて後方転回を連続で行うことで距離を離す。

そして落ちてきた木刀を右手でキャッチし、水平に振るわれた木刀を右手で受け止めると弾くように相手を押し出した。

 

「ッ……やるじゃない」

「夏凜も流石だな、でもなんでこうなった?」

 

そう、対峙しているのは夏凜。

夏凜の家に向かったはずなのに、気がつけばここに居て、木刀を投げ渡されたのだ。

そのままよく分からないまま、何故か戦うことになっている。

 

「お腹を空かせるのに運動は良いし、ウルトラマンとして戦っているあんたとは一度手合わせしてみたかったのよ」

「ふむ…そんなこと言うが、俺はあくまでウルトラマンによって身体能力が強化されてるだけで夏凜の訓練にはならないと思うけど」

 

お腹を空かせる、という意味では納得は出来たが、紡絆としては別に戦う理由にはならない。

それにかたや()()()()、かたや鍛錬してきた()()()()()となると、全力を引き出せば圧倒的に紡絆の方が有利なのだ。

 

「紡絆だって剣使うでしょ。バーテックスの生き残りが見つかったんだから、やるに越したことはない。

それに私自身も鍛錬になるわよ、というか紡絆ほど勇者にとって修練の相手に適任な人物なんてそうそういないと思うけど……」

 

割と正論の答えを言われ、紡絆はなんとも言えなさそうな表情となった。

否定しようにも、彼の頭では何も出来ない。

実際に敵が人類を超越している存在であり、人外な身体能力を持つ紡絆は修練の相手には最適なのだ。

けれども、紡絆は好き好んで戦うタイプじゃなかった。スペースビーストやバーテックスとは分かり合えないから戦うだけで、彼は本来あのファウスト相手にすら倒すのではなく、止めたいと思っていた人間である。

それに紡絆は強化された身体能力は人のために使うようにしてるからこそ、人に向けるのは忌避感がある。

それもウルトラマンの力の一部。

そう認識してるから。

 

「確かに剣は使うし、こういうふうに試合して動いた方がお腹も空く。

でも、怪我をさせるかもしれないし、木刀なんて握った記憶がないんだが」

 

他にも紡絆の懸念すべきは、そこだった。

別に夏凜の鍛錬に付き合うことが嫌なのではなく、自身の身体能力のみならともかく、強化された身体能力を使うとなると危うい。

後は紡絆はシュトロームソードは使ったが、木刀なんてこの世界で使ったことがなかった。

 

「安心なさい、簡単にやられるほど生温い鍛え方はしてないわ。

けどそうね……それなら負けた方が勝った方に言われたことをなんでもするって条件ならどう?」

「いや、それはそれでどうかと---はぁ、まあいいか。

分かった、そこまで言うなら俺も真剣にやる。確かに試合は訓練に良いことには変わりないし」

 

何がなんでもやってみたいのか、条件を出してきた夏凜に諦めたような表情で紡絆はしっかりと片手で木刀を構える。

この経験もまたウルトラマンとして戦う時の糧に出来ると判断したのだ。

 

「そうこなくっちゃね。じゃあ、行くわよッ!」

 

その一声と共に、砂を巻き上げながら駆け出す夏凜は、片方の木刀を突き出す。

素人から見れば凄まじい速さのそれを、紡絆は簡単に防御し、横から向かってきた木刀をしゃがむことで回避する。

 

「ッ……!?」

 

そして自身の木刀を攻撃するために構えたところで、嫌な予感を感じ取った紡絆が大きく後ろへ跳んだ。

瞬間、砂埃が舞い、体勢を崩しながらゴロゴロと転がる。

即座に起き上がり、木刀を振り向きざまに横に振るった。

するとパンっと言う心地よい音が響き、またしても別方向から木刀が向かってくる。

二刀流の夏凜は手数が多く、片手の紡絆は手数が少ない。

故に、回避を選ぶしか無かった。

紡絆は持ち前の生身の身体能力を活かし、勢いよく足を上げて空中後方回転することで回避する。

 

「これは……」

「まだまだよ!」

 

またしても向かってきた夏凜に、紡絆の目付きが変わる。

さっきまでは余裕を残していたが、加減をして勝てる相手ではないと判断したからだ。

無論、 本気を出すにしても自分自身の本気だが。

 

「……!」

「…っぶね!」

 

ギアが上がったのか、より速く振られた木刀に後ろへ下がり、紡絆は反撃として上段から振り下ろすが、夏凜はいとも簡単に流し、もう一本の木刀を斜め下から振り上げる。

紡絆はその一撃を素早く翻すことで防ぎ、夏凜は敢えて右手の木刀から大振りに振り下ろすという攻撃を出した。

それが隙と見たのか、紡絆は左腕を壁にするよう木刀の側面を左腕に添えると半身を逸らしながら剣先を横に逸らし、攻撃を繰り出そうとしたところで、左手の木刀が下段から来ているのが見えた。

咄嗟の判断で強引に木刀を横にしつつ下に向け、打ち合った際の衝撃を殺すことなく利用して後方へ跳ぶことで距離を離す。

 

「ハッ……!」

「ふっ……!」

 

砂に手を付いて着地し、片手の木刀を強く握りしめながら低い姿勢で走ると今度は紡絆自ら攻撃に転じ、夏凜が防御して反撃、それを防御して返したり、畳み掛けるように攻撃したり、と。

木刀と木刀がぶつかり合う音だけが響き渡る。

傍から見れば互角な戦いではあるが、本人たちは違う。

 

(負けるつもりはないけど、流石だッ! いくら得意分野とはいえ、強い……っ!!)

(こいつ……何が握ったことがないがないって? 何より、()()()()()()()すぎるでしょ!)

 

片方は強さに感嘆し、片方は驚愕する。

しかし、またしても勢いが増す剣撃に紡絆の方は防戦一方になっていた。

当たり前だ、片手剣である紡絆は一回しか攻撃が出来ない。

逆に二刀流を自由自在に、まるで剣舞のように踊り、手数で攻撃する夏凜とでは手数に圧倒的な差がある。

故に、ただ防御に徹することで防いでいる状況で、紡絆が後ろに下がれば追うように夏凜もまた足を動かして距離を離させない。

二刀流による滅多斬りを、下がりつつ全て防御するということをしてみせるが、そうなればよく動いてしまうわけで、砂浜という環境で何度も鍛錬をしてきた夏凜と違い、紡絆は足を取られる。

 

「うっ!?」

「んなっ……!?」

 

明らかな隙。

流れるように水平に放たれた一撃は、体制を崩した紡絆は避けられるはずもないのに、倒れるように下がり、木刀が胸をスレスレで通り過ぎる。

その体勢で本来は倒れるはずなのにも関わらず、紡絆は踏み込まれた脚で姿勢を戻せば不安定だったというのに、夏凜の攻撃は悉く避けられていく。

紡絆の繰り出す攻撃は、悪く言ってしまえば素人に毛が生えた程度。

才能もあるとはお世辞にも言えず、はっきり言えば戦闘経験のみで戦えている。

そんな彼と違って夏凜のは鍛え抜いたものだ。

対バーテックスだけではなく、実際に対人戦で身に付けた技術なのだ。木刀で受けられたり、まぐれで躱される程度なら問題は無い。

 

「避けんじゃないわよ!」

「無茶言うな!?」

 

だが、可笑しい。

いくら攻撃しようとも、不安定な状況から木刀を使うよりも避けた方がいいレベルで躱しており、すぐに体勢を整えると本当に避けられない部分だけ防御し、逸らしている。

素人には間違いなく不可能なはずなのだ。

なぜなら、夏凜の技は、一つ一つの技を繋げて出している。

一つの技で終わるのではなく、そこからまた次の技を出す。

それ故に、繰り出すまではどのタイミングで、どのように攻撃してくるのかが判りにくい。それに加えて二刀流の利点、攻撃の多様さだ。並大抵の相手では防ぐことすら不可能。

 

しかし、紡絆はいくら素がウルトラマンによって強化されているとはいえ、既に制御下にある彼は、()()()()()()()()()()()()()()のみで技を見極め、逸らし、躱しているのだ。

しかも---()()()()()()()()()()()()

 

「や、やばい、タンマ! 流石にきつい!」

「問答無用! あんたに当たるまでやってやる!」

「いや、なんでぇえええ!?」

 

もはや意地。

体力が有り余っている紡絆は、激しく運動しすぎた影響で肉体ダメージが主に脚に来ていた。

このままではガタが来て強烈な一撃を受けそうだったため、中止を願うように()()()()()止めるように片手を前に突き出していたのだが、相手からしたら完全に舐めプである。

というか、完全にブチッと切れる音が聞こえたような気がした。

間違いなく堪忍袋の緒が切れた音だろう。

不思議と目元に青筋が立ってるような、漫画にありそうなの怒りマークが見えた気がした。

当然だ、こうも手を出しながら当たることなく避けるということは、止めれる余裕があると。お前では攻撃を当てられないという意味にも捉えられてしまう。

はっきり言って、バカだった。

 

「---そこっ!」

「ッ!」

 

そして、そんなバカに限界が訪れた。

前に出していた右膝が崩れるようにガクン、と折れ、完全に倒れそうになる紡絆に、ビュンッと(かぜ)を切る音と共に夏凜が横に一回転する。

そのまま遠心力を利用して薙ぎ払われた一撃をなんと紡絆は危うい体勢から受け止め、衝撃が殺せなかったからか紡絆は手が痺れながらも大きく後方へ弾かれる。

すぐさま前のめりになった体を戻し、目の前を睨みつけるように見た。

 

「いない……!?」

 

ほんの一瞬だったというのに姿が見えず、止まった思考が動き出す。

すると紡絆は気配を感じて振り向いた。

 

「遅い! もらったぁあああ!」

 

そう言って、()()()()()()()()木刀にワンテンポ遅れて反応し、紡絆は寸前で防御するが、防御した木刀が夏凜が持つもう片方の木刀によって上空に弾き飛ばされる。

思わず見上げてしまい、視線を戻した時には斬り返すように向かってくる木刀が目前に存在していた。

 

「やば---」

 

到底間に合わず、防御する武器もない。

ただ避けるしか選択肢はなく、判断したって夏凜の叫びのように遅すぎた。

そんな中だと言うのに、紡絆は不思議と世界がスローモーションへと変わったような気がした。

後ろへ跳ぼうと力を入れる自分の体すらゆっくりとなり、ただその中でも迫る木刀だけが視えていた。

そうして刻一刻と体に近づいてくる木刀を視たまま紡絆の体は---

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

()()()

明らかに間に合わないはずの木刀を避け、自分のことだというのに理解が及ばないまま困惑するが、ほぼほぼ無意識に上空から落ちてきた木刀に視線を向け、見つけた瞬間には大きく後ろに跳びながら、キャッチしていた。

目の前の夏凜ですら直撃すると思っていたようで目を見開いていたが、未だに上空に居て足が地面に着いてないということは、自由に身動きを取ることが不可能だということ。

今がチャンスだと判断したようで、夏凜が一気に駆け出した。

 

「ぐっ……っらぁ!」

「ッ……甘い!」

 

その状況に紡絆に焦りが生まれ、攻撃範囲内へと入った夏凜は木刀を振るい、紡絆は木刀を咄嗟に突き出した。

だが牙突による一撃は意図も容易く逸らされ、夏凜の体は左側へと回る。

 

「………!?」

 

何処へ向かったのか気づいたが、遅い。

()()()()()()紡絆の反応速度は低下しており、尚且つ夏凜は姿勢を下げていた。

地面に着地し、ハッ、と気づいた時には夏凜は両手の木刀を同じ方向に紡絆に向かって水平に薙いでおり、その一撃を紡絆は回避---

 

「ごふっ!?」

 

出来るはずもなく、物凄い勢いで吹っ飛んだ。

というか、回避しようと足掻いた際に自ら後方に跳んだせいで大きく吹き飛んだ。

びょーんと飛んでいった紡絆は後頭部から地面に落ち、受け身を取れなかったのか後頭部を抱えながら悶えていた。

 

「って、だ、大丈夫!?」

「う、うぉおお……っ」

 

流石にそれはやばいと、夏凜が慌てた様子で木刀を置きながら紡絆の元へ向かう。

間違いなく一般人ならまずい頭のぶつけ方をしていたのだ。

あまりにもの痛みに紡絆は悶えるしか出来なかった。

ついでにただでさえ治ってなかった腹が痛すぎて涙目になっていた。

 

「ご、ごめん。そこまでやるつもりはなかったわ……」

「い、いや…平気だ」

 

申し訳なさそうに手を差し伸べてきた夏凜の手を取り、起き上がった紡絆は軽く腹を擦る。

この男、未だ重傷なのに夏凜と互角に渡り合うということをしていたのである。

 

「はは、それにしてもやっぱ夏凜は強いなー。負けちったや」

「そんなこと言うけれど、ここまで打ち合うことの出来た同年の子なんてあんたともう一人くらいよ。その子は鍛錬を積んでたし、私も鍛錬を続けてきた---そう考えると驚かされたわ」

 

降参というように両手を上げつつ苦笑する紡絆だが、夏凜は複雑そうにそう語る。

思い出してるのか、はたまた大した鍛錬を積んでもない癖にここまで食い下がった紡絆のことを思ったのか、それは定かではないが。

 

「以前言ってた子と同じか? 夏凜を打ち負かしたって…人間なのか怪しくなってくるんだけど」

「そうだけど、あんたが言う? 少なくともちゃんと人間よ、つーか私だって人間だっての!」

「いやいや、俺は普通だろ」

「………」

 

本気で言ってんの?と言いたげに呆れた目を向ける夏凜だが、紡絆は本気で言ってるので首を傾げていた。

普通の人からすると、身体能力云々かんぬん以前に紡絆の行動原理なんて理解出来ないし、身体能力や反射速度に至っては軽く人外の領域に達している他に精神面が強すぎる。

こんな人物がごまんと言えば他生物が可哀想だ。ついでにアホで溢れるので困る。

 

「うん…なんかもういいわ」

「へ?」

「こっちの話。考えたら頭痛くなってきたから」

「そうか、ちゃんと休まなきゃだめだぞ」

「いや、その言葉に説得力なさすぎでしょ」

 

はぁ、とため息を吐く夏凜はもう色々と投げやり気味になっていた。

なお、やはりキョトンとした表情をする紡絆だった。

 

「そうだ、結局俺が負けちゃったし、約束は守んなきゃな。んで、俺は何やればいい? 夏凜のためなら何でもするけど」

「ああ…そういえばそんなこと言ってたっけ……。なんかもう色々疲れたから頭から抜けてたわ」

「まったく、短時間で忘れるなんておっちょこちょいだなぁ」

 

誰のせいでこうなってるのか問いただしたいものだったが、そんなことしても無意味なのは百も承知なのでイラつきはしたがやめた。

 

「それで、何かあるか? 流石に俺でも出来ないものは無理だけど、出来ることならなんだっていいぞ」

「そう言われてもね……」

 

夏凜自身は別に紡絆にして欲しいこともなければやらせたいこともなく、何もなかった。

そもそも試合に対してやる気を出させようと適当な条件を述べただけなのだ。

しかし紡絆はじぃっとこちらを見つめてきている。

 

「んー?」

「じゃあ---り」

「んえ?」

 

若干顔を赤くしながら、夏凜は顔を逸らすが、紡絆は聞き取れていない。

というのもあまりにもの小声すぎて聞こえなかった。

 

「だ、だから……りょ……り--って」

「………???」

 

察しの良い者なら分かっても不思議ではないが、そんなの期待するだけ無駄というのを証明するかの如く頭上にクエスチョンマークを次々と生み出す。

 

「っ〜!だから料理作ってってのが条件!」

「ああー!」

 

恥じらいを誤魔化すように叫んだ夏凜の言葉を聞いて、紡絆はようやく合点が言ったように拳を手のひらにポンっと置いた。

 

「なんだ、そんなことでいいのか? いつもと変わらないし夏凜のためなら毎日でも作るけど」

「い、いいのよ。他に思いつかないし、あんたの料理も……その、コンビニ弁当と比べても悪くないし」

「そっかそっか、じゃあとびっきりの作ってやる! だとしたら早速行くゾー!」

「え、ちょっ、ちょっと!?」

 

自然と、それはもう当たり前であるかのように紡絆は木刀を回収して、夏凜の手を取ると転ばないように気遣って調整しながら走っていく。

友人と呼べる人間が居なかったのもあるが、こうやって異性に握られることもなかった夏凜は顔を赤くしていた。

しかしまぁ、その手から感じる温もりを悪くないと思っている夏凜は紡絆に引っ張られる形で、足を動かしていく---

 

 

 

 

 

(……そういえば、さっきの試合。

妙に左の反応が遅かったような気がしたというか、違和感があった。

もしかしたら紡絆もなんかの後遺症が……いや、でも普通だし…まさか、ね)

 

その際に、あれほど異常な反応速度を持つ紡絆が最後の最後だけは呆気なかったことを思い出した夏凜は自分が感じた違和感を思い返す。

しかし今も普通にしている紡絆を見て、気のせいだと判断した。

もし後遺症があったなら、こうも普通に走ることなど難しいと思ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

木刀を置いてから買い物へ行き、また夏凜の家へと帰ってきた紡絆は料理を作り、一緒にご飯を食べた。

東郷や小都音に比べれば、その料理たちは人並みだ。

けれども、紡絆だからこそ出せる料理の温かさというのはある。

味は普通であっても、不思議と温かい気持ちになれる---それが紡絆の料理だった。

 

「それにしたって、夏凜の剣技は凄かったなぁ。純粋な剣技だったら俺は間違いなく勝てないな」

「あんたは反応速度が異常過ぎんのよ。それに素人に負けるほど生半可な鍛え方はしてないもの」

「うん、だから凄いなって思った!」

「ふ、ふん。当然よ」

 

食べ終わってふと思ったのか、真っ直ぐ純粋な言葉で告げられ、夏凜は顔を赤くしながら腕を組んでそっぽ向く。

 

「改めて夏凜と出会えてよかったって思うよ。こうやって話せるようになって、夏凜が勇者に選ばれたからこそ、出会えたからこそ、こんなふうに居られる。

そこが俺は嬉しいな」

「きゅ、急ね……そんなこと言うなんて、どうかした?」

「うーんいやさ、これからも勇者としてじゃなくて、勇者部として、三好夏凜という一人の女の子と仲良くしたいって思うんだ。

だから是非ともよろしくって言いたいのかな」

「いや、どうして自分でも分かってないのよ……」

「はは、わかんない。けど、夏凜は勇者部の一員なのには変わりないし、これからも仲良くしたいって思った! 一緒に居ると楽しいし俺は夏凜と過ごす日々は好きだ!」

 

紡絆に語彙力があれば曖昧な感じではなく、ちゃんと心の内を表現出来たのだろう。

しかし語彙力皆無な彼は上手く言葉に出来ず、ただ自信満々に言い放った。

 

「っ……まったく。ほんと、バカね」

「ええっ!? なんで罵倒された!?」

「バカなのは事実でしょ」

 

紡絆が意識がないとき、抱えていた以前の悩み。

友奈の言っていた通り、紡絆は無自覚にも本当の答えを伝えていた。

その言葉を聞いた夏凜からは照れ隠しのように言葉が呟かれ、紡絆は食いつくが、夏凜は姿勢を変えない。

だが彼女の耳は赤くなっていて、努めて冷静さを保っているようには見えるが照れてるのには間違いなかった。

 

「いや、そんなはずは…。そんな真実は、ミリ単位で違うはず……!」

「それ、ほとんど認めてるようなものだから」

「!?」

「なんで今気づいたみたいな驚き方してんのよ!」

 

しかし紡絆はまたしても気付かず、むしろ否定しようとして自爆していた。

 

「……けどまあ、あんたは変わんないわね。不意打ちは勘弁して欲しいけど」

「んん? 不意打ち? よく分からんが…そりゃ、変わんないだろ? なんだ? 変わったってそう思うようなことあったか?」

 

不意に言われた言葉に、紡絆はただ首を傾げる。

紡絆からしたら自分が変わったかどうかの自覚なんてないし、変わったつもりもなかったからだ。

むしろそんなことを言い出したことに何か不安にさせてしまうようなことがあったのか、と考えるが思いつかない。

なので考えるのをやめた紡絆は疑問を投げかけた。

 

「……ほら、あの時戦った私以外はみんな何かしらの影響があったじゃない。友奈は味覚、東郷は左耳、風は左目、樹は声帯。

そしてあんたは、意識不明の重体」

「……まあ、確かにウルトラマンが負ったダメージはそのまま俺に還元される。正直死んだと思ってたしなあ」

 

思い出すように夏凜が告げると、しみじみと紡絆は遥か過去の出来事のように語る。

過去ではあるのだが、結構最近だ。

しかしそもそもとして、今ですら生きているのが不思議---というか限界ギリギリで、生きていられるのは今彼が持つ、心の内に宿す光とウルトラマン、何よりも使命が彼を生かしている。

もしその使命を終えた時、紡絆の体は間違いなく完全に限界に達するだろう。

果たしてその時には、ウルトラマンが宿っているか。世界があるのか。紡絆という人間が生きているのかは分からないが。

 

「で、夏凜は気にしてるのか? みんな傷を負ったというのに、()()()()()()()()()()()()()()()()って」

「…ちょっと、まだね」

「別に気にする必要ないのになあ……」

 

こういう時に限って無駄に勘のいい紡絆は、なんでそんなこと気にしてるのか、と不思議そうに見つめるが、それに夏凜は若干イラッとする。

彼が持つウルトラマンの力は大きい。

バーテックス、スペースビースト、融合型昇華獣、ネオ融合型昇華獣。

どんな敵にすら有効打を与えられるのがウルトラマンという存在で、欠点はエネルギー消費の激しさと制限時間、紡絆のメンタルと肉体に左右される点のみ。

最も活躍したのは、誰から見ても分かるようにウルトラマンだった。

その点、夏凜は他の者が満開し、ウルトラマンの援護やトドメを刺したりしたというのに封印くらいしか出来なかった。

それは果たして---

 

「私は戦うために来たはず。誰よりも鍛錬して、私以外の候補たちの分も背負って、勇者として戦うために。だというのに何も出来なかったなんて、そんなの私は必要なかったようなものでしょ…っ! 戦いに役に立てないなら居る意味なんて……っいったぁッ!?」

 

以前抱えた悩み、それがまだ僅かに残っている夏凜は俯き、握る拳を震わせながら声音も徐々に小さくなって何処か悔しそうだった---ところで、紡絆は容赦なく頭にチョップした。

しかも、頭を両手で抑えて目尻に涙を貯める夏凜の視線の先にいる紡絆は、校長先生の話を聞いている生徒並に眠そうにしている。

 

「あのさ、人にバカバカ言うけど、夏凜も俺と同類じゃない?」

「っ……そんな戯れ事を ---」

「俺は真剣だ」

 

紡絆は真剣な表情で見ており、いつものようなお調子者のような様子も、のほほんとした雰囲気もなく、至って真面目だった。

その姿に、夏凜は圧倒される。

そうして、ふと紡絆は表情を和らげた。

 

「俺さ、覚えてないんだ。あの時、一度復活して、ただ力も入んなくてさ。何も出来ないままやられて、剣で刺される---それまでしか記憶がなかった」

「………」

 

表情が和らいだかと思えば、思い出すように目を細め、何処か遠くを見つめる。

コロコロと表情が変わって、表情が忙しそうだが紡絆の話したことに関しては、夏凜も他の勇者たちも分かっている。

彼女たちは倒れたあとの紡絆を知っているから。

 

「もう一度復活した時には意識はあったけど、その前なんだろうな。

うっすらとなんというか…分かるんだ。誰かが俺を守ってくれてたってこと。それ、夏凜だろ?」

「……一応」

 

確信しているかのように目を向けられ、夏凜は目を合わせずに答えた。

確かに守っていたのは夏凜ではある。

けれどもそれは他の勇者たちの力があってこそであり、最終的には守りきることは出来なかった。

 

「なら役に立ててるじゃん。夏凜がいなきゃ俺はもうここには居なかった。夏凜が居なきゃあの戦いに勝つことは出来なかった。夏凜だけじゃない。みんなが居てくれて、支えてくれて、守ってくれたからこそ俺は戦えた。最後まで走り切ることが出来たんだ。

だからさ、俺は夏凜にすっげー感謝してる」

 

懐から取り出したエボルトラスターを握りしめ、紡絆はただ笑顔を向ける。

そう、紡絆はあの場で、あの中で戦った者がみんな活躍したと思っている。

誰かが欠けていれば、ひとつでもピースが欠けていれば間違いなく誰かは犠牲になった。

世界はもっと悲惨なことになっていた。

---まぁ、間違いなくその犠牲の一人は紡絆になるだろうが。

 

「元々ウルトラマンの力は俺だけの力じゃない。夏凜や友奈、東郷、風先輩、樹ちゃん。そして小都音。多くの人たち---みんなの諦めない力が俺に力をくれる。立ち上がれる力をくれる。だから俺は戦えるんだ。

ジュネッスブルーの力に至れたのも、みんなのお陰だから」

 

俯くように手に握るエボルトラスターに視線を落とすが、そう語る紡絆は何処か嬉しそうで、誇らしげで、幸せそうにも見える。

ウルトラマンの力は、多くのモノに受け継がれ、今、紡絆の元へ宿った。

ウルトラマンは一人で戦ってきたわけではないということを、紡絆はよく知っている。

彼をそう、導いてくれた人がいたから。

 

「だから、だからさ。俺は何度でも言うよ、夏凜が居てくれて、出会えてよかったって。それに傷を負ってないのは良いことだし、それほど夏凜の実力があるってことだろ? ならそんなこと気にすんな、俺は出会えて共に戦った時からずっと、夏凜のこと頼りになる仲間だと思ってるからさ!」

 

そして紡絆はただ、太陽のような笑顔を夏凜に向けて、そう告げた。

何の恥ずかしげもなく、嘘もなく、詰まることも無く、本心からただそう告げて見せた。

対する夏凜が見せる表情は驚きと、嬉しさと、照れ臭さ。

何より---

 

(……敵わないわね。こいつは変わらない、変わることがない。前と同じ---いいえ、前よりも強くて、揺らぐことの無い優しい光を持ってる。

けど悪くなくて、嫌な感じがするわけでもない。

ただ残り続けていた無力感が消えて、暖かい気持ちだけが感じられる……。まったく、私も毒されてきた、ってことでしょうね……こいつには、紡絆には敵わない)

 

ただ、ただただ眩しくて、熱くなって、隠すように俯く。

夏凜は以前、紡絆に誰もが惹かれる理由を知った。

そして今は---気がつけば自分も彼に惹かれてしまっているということを、惹かれていたということを自覚していた。

感じたことのない、胸の中に宿るポカポカとした温もり。人の優しさが齎した、人情。

その感情は幸福感か、与えられた優しさ故の温もりか、それともまた---自分のしらない別の感情か。

それは夏凜も分からなかったが、不思議ともう、釈然としない心の片隅にあった胸の痞えが下りていた。

本音を話すしか能がなく、本質をそのまま表へと出す紡絆だからこそ、人を巻き込み、気がつけば虜にさせる。多くの人を魅了する。

そうして、みんなが紡絆の元へ集まるのだ。

確かな優しさを持ち、強さを持ち、勇気を持ち、誰よりも何よりも、お人好しのバカ。

それこそ、その在り方を持つのが、継受紡絆という少年だった。

 

「ほんと……ばか」

「え?」

 

顔に集まる熱を抑えるように、呟かれた小さな言葉。

それが聞こえた紡絆は困惑した様子を見せる。

 

「…あほ、バカ、マヌケ、おたんこなす」

「え? ええっ!? なんで?俺なんかいった!?」

 

突然の罵倒の連続に紡絆は予想してなかったようで、狼狽えていた。

 

「すっとこどっこい、大ボケ、小ボケ、紡絆!」

「ちょっと待て、それはただの俺の名前だよな!?」

「う、うるさい。こっち見んな!」

「それは理不尽だっ!?」

 

顔を上げた夏凜は腕で口元を隠すようにしながら顔を逸らしている。

意味が分からないと言いたげに結局見ずに視線を変える紡絆だが、納得の行かなそうな表情だった。

しかし夏凜も夏凜で熱いまま収まらない熱と緩みそうになる頬を耐えるので精一杯で、気にしている余裕はなかった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は過ぎ、既に夜となっているため、結局夏凜が落ち着くまで見ないようにしていた紡絆は、今は家へと帰るために玄関で靴を履いてから振り返る。

 

「じゃあ俺は帰るけど、また来るからな」

「はいはい」

 

諦めたのか、それとも認めたのか適当に返事をする夏凜に気にした様子もなく、紡絆は一つ頷くとドアノブに手を乗せる。

 

「……ねえ」

「ん?」

 

そして捻るという動作をしようとしたところで、呼びかけに反応して顔を向け、きょとんと小首を傾げる。

 

「紡絆は本当に何ともないの? あれだけのダメージを負ってるんだし…それに今日組手をしたとき、()()()()()()()()()()()

 

投げかけられた質問は、他の勇者たちと同様に紡絆も何らかの後遺症が残ったのでは、というもの。

その質問に対し、本人たる紡絆はドアノブを握ったまま固まり、内心でビクッとしたが、表には出ていなかった。

だが黙っていても意味はないため、紡絆は笑顔を取り繕いながら夏凜に向かって口を開く。

 

「…何ともないって! 確かに怪我は残ってるけど、大したもんじゃないよ。むしろ俺が一番元気って自信を持って言えるけどな!」

「…そっ、ならいいけど」

「心配してくれたのは嬉しかったぞ、ありがとうな」

「べ、別に…それより暗いんだから気をつけてとっとと帰りなさいよ」

「はーい。じゃあな」

 

本当にそれだけだったのか、夏凜は紡絆を見送る。

ドアが閉まる音が聞こえ、夏凜は鍵を閉める。

 

「気のせい…かしらね。反応が遅れることなんて、有り得ないことじゃないし」

 

嘘下手な紡絆がまともに嘘をつけるはずがないと、さっきの様子からして判断したようで咄嗟に反応が遅れただけだと、偶然だと思うことにした夏凜はちょっとした違和感を持ちながらもリビングへと戻っていく。

---もしこの質問を投げかけたのが夏凜ではなく、友奈か東郷、小都音だったならその違和感に気づけただろう。

確かに継受紡絆という人間は分かりやすいほどに嘘が下手だし、表情に出やすい。全力で嘘をついて隠し事をしても、いずれ簡単にボロが出てしまう。

ただ夏凜が聞いたのは()()()()()()()()()()()()()()()であり、紡絆が答えたのは()()()()()()だけで、()()()()()()()()()()()は聞かれてないのだ。

だからこそ、紡絆は後遺症がないという本当の言葉を述べることが出来た。

もしこれが()()()()()()()()()()()か、別の戦いであるならば、話は別だったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして道中を考えるように俯きながら歩く紡絆は、クソ焦っていた。

 

(あ、あぶねえ……! 話しそうになったああ!

話したらどう説明すればいいか分からないし内緒にして戦ってたってバレたらみんなに怒られる!特に小都音と東郷がやばそうだもん…!

それに元々スペースビーストとの戦いは()()戦いだからなあ。夏凜もあんなこと聞いてきたってことは気にしてるんだろうし、生き残りが現れるまではスペースビーストは俺が戦わないと。みんなも身体機能の原因は可能性がありすぎてどれか分かんないし、これ以上失わせるわけにはいかない)

 

夏凜に聞かれた際、紡絆は嘘では無いとはいえ全部話しそうになってしまったのだ。そこに危機感を覚え、話さなかったことに安堵する。

もし話してしまえば巻き込むことになる。

いや、間違いなく関わってくるだろう。

果たして身体機能を失った原因が勇者に長時間なったことか、それともダメージの受けすぎか、満開が原因か、どれか分からないのだ。

共通点は満開をした四人だということ。

それから考えるなら普通は満開が原因だが、本当のところは分からない。

じゃあ、どうすればいいかと言われれば、満開ゲージを貯めさせない、疲労させない、変身させない、戦わせない。

その手段を取ればいいだけであり、紡絆は自分のことを視野から抜けている。

実の所、あくまで彼が教わり、受け継いだのは()()()であること、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということであって、自分に関しての関心は元々薄いのだ。

そもそも紡絆が自分のことを大切にするような人間なら自分の命が失われる可能性のある場面で迷わず助けたりは出来ないだろう。

ただまあ、それは結局自分のことを考えてないので、傍から見れば一人背負い込んでいるようにしか見えないのだが---当然導かれた紡絆にそんなつもりはないし、彼はもう一人ではない。

 

「……ッ?」

 

その時、紡絆は違和感を感じてバッと顔を上げた。

瞬間、世界は変化を遂げた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

苔の生えた歴史的建造物。

よく分からない石像。

鬱蒼と茂っている木々、真っ暗な夜の世界。

神聖さを僅かに感じられる、ストーンフリューゲルのような形をしたオプジェクト。

それは、遺跡の世界だった。

あまりにもの急。

予想外のことに驚く暇もなく、連続で来たということにまたか、と紡絆が思いながら振り向けば、ゆっくりとネオ融合型昇華獣へと至ったノスフェルが降り立っていた。

それを見た瞬間には紡絆は慣れた様子で迷いなく、エボルトラスターを引き抜く。

 

『シュアッ!』

 

ネクサスに姿を変え、地面に降つと同時に足から崩れ落ちる。

片膝を着くネクサスに対して、ネオ融合型昇華獣は雄叫びに近い声を挙げていた。

残酷怪獣ガモス、フィンディッシュタイプビースト・ノスフェル、冬の大三角、さんかく座の力を宿すネオ融合型昇華獣。

もはや消耗など気にして戦える相手ではなく、強引に立ち上がったネクサスは一息付くように息を吸ったような動作をし、胸に添えた左腕のアームドネクサスが輝く。

 

『シュッ!』

 

それをさせまいと、ネオ融合型昇華獣から溶解液が吐き出される。

瞬間、空間が波を打つように揺らめいて、ネクサスの身体が()()()に包まれる。

既に見た攻撃だからか、滑り込むように懐へと潜り込み、その身を照らす光が消えた直後に、ネクサスはアームドネクサスで腹部を一気に斬り裂いて通り過ぎる。

 

『ハッ! ハァァァァ---』

 

大したダメージになってないのは予想通りだからか腕に青白い粒子のエネルギーを纏い、大きく弧を描くように体を動かし、立てた右腕を真っ直ぐ伸ばした。

すると青白い光線が空に向かって放たれ、光が拡散---

 

『シュワっ!』

 

神秘の世界が作り出され、メタフィールド内へと戦いの場を変えたネクサスは駆け出し、握った拳を叩きつけ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヘエッ!?』

 

()()()()()

ネクサスの拳は空振るどころか体ごと貫通し、振り向くとそこにはネオ融合型昇華獣が確かに存在している。

 

『シェア!』

 

再び振り向きざまに手刀で狙うが、その一撃は挟型の手によって挟まれて止められる。

もう片方の腕を伸ばし、同じように叩きつけようとすればまたしても挟まれ、両腕が使えなくなった。

 

『デアッ!』

 

しかしネクサスのジュネッスは力が上がるのもあって、強引に両手で握りこぶしを作ってから伸ばすことで顔面を殴り、ネオ融合型昇華獣は若干怯むが、お返しと言わんばかりに鼻から放たれた青い光線によってネクサスは吹き飛ばされる。

 

『っ!?ッ!』

 

吹き飛びながら後転し、立ち上がるのと同時にパーティクルフェザーを放つ。

するとさっきと同じく、まるですり抜けたかのように、実体を持ってないかのようにネオ融合型昇華獣に当たることなく外れた。

 

『!?』

 

それは冬の大三角にも、さんかく座にも、ガモスにも、ノスフェルにも持ってない力。

過去に戦ったゴルゴレムが近いが、メタフィールド内だというのに実体を持ってないことから別の能力だろう。

 

『ぐあああぁっ!?』

 

そして、目の前に居たはずなのに突如としてネクサスの()()に出現したネオ融合型昇華獣に反応が遅れ、()()が挟型の腕に勢いよく殴られる。

全力でやられたからか、ネクサスは横に吹き飛ぶが、その際に紡絆が過去の戦いで受けた傷が広がる。

ゴルゴレオスとの戦いで、焦がされた左肩。

ネクサスの姿では焦げてないが、赤い光を発していて凄まじい痛みを感じる。

それでも立たねば何も出来ないからかネクサスは左肩を抑えながら立ち上がる。

しかしその体はふらついており、コアゲージの点滅と共にメタフィールドから光の泡が立ち登り、崩壊の兆しが起こっていた。

 

『ハアッ、ハアッ……シュッ!』

 

気合いを入れ直すように両腕を勢いよく振り下ろし、助走をつけながら地面を踏切ると、その反動で跳躍しながら片脚を突き出す。

するとネオ融合型昇華獣の()()()()()()()()()()()から白い霧のような光が発生していた。

 

『ファッ!?』

 

その光が何なのか分からないまま脚を突き出しながら突っ込むが、ネオ融合型昇華獣の体をすり抜け、ネクサスが着地して構えるとなんと左右に二体、分身していた。

警戒しながら左右を見て、左側のネオ融合型昇華獣がネクサスに対して口から溶解液を吐き出した。

 

『シェッ!』

 

その一撃を大きく前に転がることで避け、左腕のアームドネクサスに右手を添え、右腕を真っ直ぐ突き出すことで溶解液を吐き出したネオ融合型昇華獣にパーティクルフェザーを放った。

が、その一撃はすり抜け、右側に居たネオ融合型昇華獣が挟型の手が開き、現れたノスフェルの爪をネクサスの背後から斬り裂く。

 

『ウグォ……!?』

 

ノスフェルの爪による一撃はウルトラマンの装甲を大きく傷つけ、ダメージによって前進しながらネクサスは振り向くと、今度は前と左右に三体居て、分身している。

 

『!?』

 

驚き、警戒するようにそれぞれ順番に構えながら見つめる。

そんなネクサスに対して目の前のネオ融合型昇華獣が爪を振り上げる動作に入り、ネクサスはアームドネクサスを輝かせてエルボーカッターで目の前の敵を斬り裂く---消えた。

そして左側のネオ融合型昇華獣が左からタックルし、ネクサスの体は吹き飛ぶ。

 

『ぐっ……!?』

 

正体不明の能力。

透明かと思えば、分身。

しかし本体と思って攻撃すれば、分身にすり変わる。

 

『……! デェアアアッ!』

 

ならば、とネクサスは短い動作でクロスレイ・シュトロームを放つ。

適当に放たれたクロスレイはまたしても三体に分身していたネオ融合型昇華獣の一体に直撃し、すり抜ける。

それは予想通りだったのかネクサスは無視し、光線を保ったまま体ごと動かして今度は左へ。

それも分身なのかすり抜けるが、そうなれば残るは一体のみ。

そのまま回転するように背後にいる一体に、ついにクロスレイによる一撃が---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウワアァアアア!?』

 

当たることなく、さらに背後に現れたネオ融合型昇華獣が溶解液を背中に与えた。

溶けるような凄まじい痛みに悶える暇もなく、抜け出すように横へ転がり、セービングビュートを飛ばす---やはりすり抜ける。

同時に目の前にネオ融合型昇華獣が現れ、エルボーカッターで攻撃しようとしたら、右側から爪による一撃を再び食らう。

 

『グオッ!? フエエッ……!?』

 

攻撃を受けた影響で回るように足が動き、足に力を入れて顔を上げれば、またしても敵は三体存在する。

一体を攻撃してももう一体から攻撃を受け、ネクサスの攻撃はただ一方的にすり抜けていた。

 

『ハアッ……ハアッ……』

 

ついに膝を着き、遺跡の世界が写し出される。

エネルギーの消費の方が早く、理解できない攻撃を前にしてネクサスは力を振り絞って、賭けに出た。

腕を前に突き出し、アームドネクサスを交差する。

 

『シュアアアッ!』

 

マッハムーブ。

ネクサスが超高速で地面を賭け、三体のネオ融合型昇華獣に次々と攻撃をしかけた---しかし、()()()()()()()

 

『!!?』

 

全く攻撃が当たらず、体力が厳しくなったのかマッハムーブによる加速をやめるネクサスは目の前に起きる現象に理解出来なかった。

ただ分かるのは、攻撃をしようとしたら、()()()()()()()()()()()()()()

そして別のネオ融合型昇華獣にやられる。

どれだけ速度を引き上げようとも、力を強くしても、当たらなければ意味がない。

だが---それだけの能力を携える敵など、限られていた。

故に、継受紡絆という人間だからこそ得られる知識が、彼に正体を伝えてくれる---

 

 

 

 

 

 

 

 

803:情報ニキ ID:JoUHou2in

この霧のような能力…次々と現れる分身…青い光線…それに貝殻のような背中に両腕のハサミ! バーテックスの影響かと思ってたけどそういうことか! 誤解してた!

イッチ、わかったぞ!

ネオ融合型昇華獣が持つ最後の能力というか遺伝子!

そいつに入っている遺伝子はウルトラマンティガ38話に登場する蜃気楼怪獣『ファルドン』!

武器は腕の鋏と背中の亀裂から発生させる光と鼻から放つ青色破壊光線!

さらに蜃気楼怪獣の異名通り、自分の幻を複数映し出し翻弄するんだ!

つまりそいつらは幻影!

しかし幻影よりも厄介なのは、”実体と幻が一瞬にして入れ替わる”という能力……!

 

 

804:名無しの転生者 ID:gxyxthx1c

まずい…!ティガのスカイタイプですらダメージを与えられなかった敵だぞ!

 

 

805:名無しの転生者 ID:GMwMlkJNu

ちょ、ま…途中から見たことある能力だと思ったが、うっそだろおまえ!?

 

 

806:名無しの転生者 ID:eurRvQdU2

おいおい、ふざけんなよ!?

なにとんでもない能力持ちにとんでもない火力(ガモスの溶解液とノスフェルの爪)ととんでもない能力(ファルドンの幻影と実体の入れ替わる力)にとんでもない身体能力(融合型昇華獣を超える力に冬の大三角とさんかく座による猛強化)してんの!? とにかくとんでもねぇの付けるんじゃねえよ!

これ単体攻略出来るもんなのかよ!?

 

 

807:名無しの転生者 ID:zqIJKRcGC

や、やばみ…! このままじゃ負けるぞ、イッチ!

やっぱり相手の強さがおかしすぎるというか調整してないせいで成長速度が異常すぎるんだよぉおおお!

 

 

808:名無しの転生者 ID:ajfKHYxlW

おいバカ、メタフィールド切れ!

エネルギーが持たない、死ぬぞ!!

あー!!これどうしたらいいんだよっ!! ジュネッスが通用しないんですけどっ!?

 

 

809:名無しの転生者 ID:NqNBro6l6

ファルドン、ガモス、ノスフェルに冬の大三角、さんかく座…これがネオ融合型昇華獣!?

いやいや、いくらなんでも盛りすぎだろ!?

 

 

810:名無しの転生者 ID:GoISfQSoA

確かにピンク色のような紫色のような体の色。

青緑をメインにシマシマ模様のような白色が入っていて、背部の亀裂のような部分は貝紫色…。

しかもタカラガイの殻に似たような見た目。

両腕が鋏で、ヤマアラシのように体と尾の上面に棘状に変化した硬い長毛…。シリウス、プロキオン、ペテルギウス、さんかく座の星の配列…。

こうやって言われてみたら全部の特徴が入ってやがる!

くそっ、なんでここまで分かりやすいのに俺たちは気づかなかった!? 絶対にテレポート、分身、瞬間移動のどれかって認識してたからか!

ここまで特徴あるって考えて、名付けるならネオ融合型昇華獣、ノスファルモス……!

 

 

811:名無しの転生者 ID:qJZPqLTIf

ちくしょう!

これも作戦のうちか!?

悩むこと多すぎたしイッチに関してのことで頭がいっぱいだったんだ!

俺たちがもっとちゃんと特定してたら…!

 

 

812:名無しの転生者 ID:I7Qapi/Hj

いや、でも分かるかっ!

誰が三体融合してるって思うんだよ!

それもファルドンの能力見たわけじゃねぇのに!

 

 

813:名無しの転生者 ID:CjawI84HN

とにかくイッチがやばい!助けて、助けて勇者!助けてノア様ー!

 

 

814:名無しの転生者 ID:Vvzk2W0nR

あっ、やば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蜃気楼怪獣ファルドン。

とある次元地球で度々蜃気楼となって表れて「幻の怪獣」と噂になっていた怪獣。

人の心の闇が生み出したと推測され、かつてのウルトラマンティガを追い詰め、その世界の防衛組織すら手も足も出ず、決死の特攻によって正体を見抜くことで何とか勝てた相手。

その能力を持つ、ネオ融合型昇華獣、ノスファルモスと名付けられた存在。

例え分かったとしても翻弄され、何度目になるのかネクサスの体は大きく空中に投げ出された。

 

『ぐあぁ……。う……ぐぅ……!』

 

受け身を取ることすら叶わず、落下によるダメージを受けながら体を起こすネクサスは、手を地面に着きながら見上げる。

やはり三体存在し、どれが本物か---いや、そもそも本物などいない。

実体と幻を入れ替えられる力を持つファルドンの能力は、遠くに一体配置してしまえば容易にネクサスを攻略できるのだ。

攻撃するタイミングで、入れ替えるだけでいいのだから。

そしてたとえ攻略する方法があったとしても今のネクサスに為す術はない。

 

『ハアッ、ハッ……あぐ…!』

 

限界を現すようにコアゲージが高速で点滅を始めた。

黄金色の泡が立ち登る量が増え、メタフィールドが消えていく。

完全なる崩壊が始まり、神秘の世界は遺跡の世界へ。

メタフィールドを保つことの出来なくなったネクサス---敗北するのも、時間の問題だった。

もし彼が万全ならば、違ったかもしれない。

しかしただでさえダメージは残っていて、回復もしていない。

そして敵は強力な力と身体能力を持ち、ネクサスは左目が見えない。

これはもう、流石に諦めるしか---

 

 

 

 

『……ッ!!』

 

否。

どんな状況だろうとも。

どんな状態でも。

どれだけ傷ついても。

どんな困難でも。

継受紡絆という人間に、()()()()()()()()()()()諦めるという言葉はない。

もはやエネルギーはなく、それでも立ち上がる。

ノスファルモスは余裕があるのか、幻影を出しながらトドメを刺すべく近づいてくる。

それを見ながらも、ネクサスの、紡絆の闘士は消えてなかった。

 

(まだ、まだ終わってない! 攻略出来なくていい、撤退させるだけでいい!

たったそれだけでいいんだ。神樹さま、ウルトラマン、力を貸してくれ……ッ!)

 

諦めない意志。

それが奇跡を起こしたのか、はたまた本当に力を貸してくれたのか---ネクサスの全身が黄金色に輝き、残る全ての力を、引き出した。

 

『シュアッ!ハアァァッ……』

 

エナジーコアの前で交差し、白色光に輝く。

ネクサスは両腕を丸を描くように大きく動かすと白色光が収束し、左腕が下に、右腕が上になるように丸い形で固定する。

そしてノスファルモスがバラバラに動き出した。

どれが本物か、偽者か。

分からない。

ただ、ただそれでも---

 

 

 

 

『フッ---デェヤッ!』

 

ネクサスは右脚を大きく踏み出し、両腕を大きく左右に振るいながら胸から光線技を放つ直前で、ネクサスの体がブレた。

突然居なくなったネクサスの姿にノスファルモスは固まり、警戒するように見渡す。

そのお陰ですぐに上空へ居たネクサスの存在に気づくが、遅かった。

ネクサスの持つ、エナジーコアから黄金色の光線---コアインパルスが放たれている。

相手を分子分解させる能力を備えるネクサスのもうひとつの技。

その一撃は二体のノスファルモスに直撃し、当然の如く実体は幻と入れ替わり、幻は消え、新たに生み出される---それよりも先に上空のネクサスの体が青色に輝いていた。

 

『シュ---ハアァッ!』

 

一瞬の隙。

幻を生み出されたのと同時にネクサスは()()()()()()()()をノスファルモス本体に与え、斜め上空へ殴り飛ばしていた。

やった方法は作戦でも何でもなく、策を練ったわけでもない。

コアインパルスによってまとめて消し去った瞬間、ジュネッスブルーにタイプチェンジしてマッハムーブを使用。

それで強引に一撃を与えた---といった脳筋戦法。

それだけだった。

たったそれだけ。それだけだが、ネクサスは限界を迎えたようにアンファンスへと戻り、片膝を着く。

 

『……グッ』

 

倒せるほどの一撃ではなかった。

本当に与えることが出来ただけだと思っていたが、一撃を受けたノスファルモスは地面に落ちると何故か大ダメージを受けたように悶えている。

 

『………?』

 

その事に疑問を感じ、よくよく見てみれば、ノスファルモスには()()()()()()()()()()()()()

それは、前回放ったオーバーレイ・シュトロームの一撃が掠っていた証。

さらにノスファルモスに干渉した何者かの謎の光弾による負荷の影響と考えるべきか。

つまり、ネクサスに傷が残ったままであるように、ノスファルモスは回復する前に襲撃に来たということになる。

だがそれだけでただの拳が大ダメージに繋がるはずもなく---紡絆は自身の手が、何らかのエネルギーを纏っていた、そんな気がした。

そしてノスファルモスは追い詰めていた側だというのに自身を霧で覆い、何故か撤退する。

 

(……当たったのは、ダメージが残ってたお陰……か?さっきの感覚は、キミのおかげなのか…?ウルトラマン…。

どちらにせよ、運に助けられた……でももう、限界が、近い…)

 

撤退させたのは、諦めなかったお陰ではあるが、奇跡に等しい。

果たしてそれは神樹様が力を貸したのか、ウルトラマンが力を貸したお陰か、それともまた別の要因か。

何はともあれ、ついに限界が訪れ、ネクサスの体が完全に力を失い、瞳からは輝きが消える。

光に包まれ、ネクサスの姿は元に戻っていた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
決して諦めない意志によって賭けに近い行動で何とか撤退させたが、限界が近いことを悟る。
でもボロボロなのに生身でも人外じみた行動してる。
そんな状況なのにメンタルが強すぎるっピ!
ちなみに現在の変身可能時間はアンファンスで三分間。メタフィールド展開制限時間は1分未満(ジュネッス保つのが1分ちょい)ゾ…(なお特撮特有の守られない制限時間)

〇ウルトラマンネクサス
割と最近エボルトラスターが鳴ってる光の巨人。
果たしてその理由は…?

〇三好夏凜
まだ完全に悩みが消えてた訳ではなく、友奈と話した際は勇者部を『自分がいるべき居場所』として認識したが、紡絆本人の口から直接聞いたわけではなかった。
しかし今回紡絆のお陰で完全に吹っ切れた。
今の彼女は強いぞ!!

〇ネオ融合型昇華獣
スレ曰く、『ウルトラマンネクサス』という作品には『スペースビースト』『TLT(防衛組織)』『ウルトラマン』という三勢力の力が拮抗するように調整する存在が居たが、ゆゆゆネクサス世界には調整する役回りの存在がいないため、だんだんとネクサスの強さを上回るように強くなっていく。
しかしあくまで『マルチバースの怪獣遺伝子』を素体である『既存のスペースビースト』に強引に組み込む形になるため、既存の肉体が持たない。
故にバーテックスの特性である『御魂』を核として新たな存在へ昇華させることで肉体崩壊を免れているのでは、という推測。
つまるところ、ゲームで言う1種の裏技、バグである。

〇ネオ融合型昇華獣ノスファルモス
あのウルトラマン80を追い詰めた残酷怪獣ガモスの溶解液、ウルトラマンティガを苦しめた蜃気楼怪獣ファルドンの鋏、青色破壊光線、幻の具現化、実体と幻が一瞬にして入れ替わる、ノスフェルの爪と能力、冬の大三角とさんかく座による身体強化を持つ存在。
はっきり言って、ウルトラマン一人で何とかなるレベルではない



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あけましておめでとうございます!皆さんはどう年越したでしょうか?
作者はULTRAMAN(NEXT)で年越しました。
そして小説は何とか間に合ったので投稿。
タイトルは…思いつかんかったんや、すまん。
ちなみに本来の予定ならばクリスマス、年明けに鬱回二つ用意するつもりでしたが……無理だったので一つ、にするつもりだったけど原神を始めてからサボり始めて結局無理になりました、てへ。
あ、それと感想は見てます、やる気なくなったら見返して何とかしてます。でも返信追いついてない…すまん。気軽に送ってくれたら遅くなっても絶対に返するんで安心してくれていいっすよ。
というか今更だけど投稿する時の画面変わってんだけど()







◆◆◆

 

 第 33 話 

 

 

-買物-ショッピング 

 

×××

 

日常編その②

犬吠埼風、犬吠埼樹編

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの晩での戦いを終えて、一夜明けた。

今日は学校もなく、部活もない。

珍しくやることもないフリーな状態で、何をするか考えていた。

 

「うーん」

 

紡絆は唸りながら自身の部屋を見渡すが、あるとしたらゲームくらいだ。

以前までは暇な時があれば外をぶらぶらし、休みの日でも困った人が居たら助けることをしていた。

しかし今は肉体がやばいので、外に出ようものなら小都音が着いてきて間違いなく怒られる未来が紡絆には見えた。

だが紡絆からしたら気がつけば体が勝手に動いているので、怒られても反省出来ないのだ。

それでも心配して怒ってるというのは伝わるため、あまり怒らせたくないのも事実。

紡絆からすれば『みんなが』とはいえ大切な家族にも笑顔で居て欲しい、と思っているのもあるだろう。

 

「どうしようか…な?」

 

そう考えながらとりあえずリビングに向かおうとしたところで、ズボンの中に入れていたスマホから通知音が鳴る。

何かあったのかと紡絆がスマホを起動すると、風からメッセージが来ていた。

 

『今日時間ある?』

『ちょうど暇だったので忍者になろうと思ってました』

『いやどういうこと!?まったく意味が分からないんだけど、時間あるなら買い物に付き合ってくれない?』

『じゃぱにーず!ジャパニーズ忍者はいると証明した方がいいかなと! あっ、別に構いませんけど、場所は?』

『うん、やっぱ意味わからないわ。集合場所は送るから、小都音にも言っておいて』

『了解でーす』

 

ふざけたことを送っていた紡絆だが、特にやることもなかった彼は軽い返事で返信するとリビングに行く前に必要なものがないか確認しに、部屋へと再び戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって、ショッピングモール。

いつもと変わらぬ長袖での服を着た紡絆と白い雨玉模様が描かれているグレーのロングシャツワンピースと麦わら帽子を被る小都音は少し早く来て待っていた。

 

「私も来てよかったの?」

「んーいいんじゃないかな。呼ばれたしさ。

どちらにせよ樹ちゃんも来るみたいだし、俺は元々小都音と来るつもりだったからなあ」

「お兄ちゃんこういうところ来ても分からないもんね…」

「全くわからん!」

 

何故か自信満々に言ってのけた紡絆に小都音はため息を吐く。

こういう場ほど、紡絆に向いてない場所は少ないだろう。

娯楽施設ならば盛り上げることは得意そうな紡絆は問題ないだろうが、彼が自分に頓着しないことは継受紡絆という人間を知る者には周知されている。

そんな彼が、買い物など付き合ったところで何が出来るのか。他人の買い物なら役に立てるかもしれないが、自分の買い物になったら間違いなく適当になるに違いない。

センスは悪くないらしいので、他人の買い物ならワンチャン、ちょっと、もしかしたら役に立てるかもしれないが。

 

「おーい」

「ん?」

 

なんてことのない会話をしながら少し待っていると、聞きなれた声が聞こえた。

紡絆が反応し、振り向く先には風と樹が歩いて近づいてくるのが視界で捉えられた。

基本的に学校終わりや部活終わりで外出することはあっても、こうして休みの日に外出するのは珍しいので、あまり見る機会の無い私服姿の二人がいる。

 

「急にごめんね、買い物するにしても人手が足りないなーって思っててさ。遅れたっぽい?」

「いや、全然大丈夫ですよ。暇でしたし」

「はい、私も特に予定はなかったので。それより兄さんっ!見て見て、樹ちゃんすっごい可愛いよ!」

「あら、見る目があるじゃない。樹はこんなにも可愛いのよ。 もうあまりにもの天使っぷりに脳内ストレージに保存しまくってるくらい!」

『そ、そんなことないよ』

 

小都音に抱きつかれた上に、姉である風にも褒められて照れたのかスケッチブックで口元で隠しながら文字を見せる。

その様子を見てた紡絆は苦笑する。

 

「まあ樹ちゃんが可愛いのは分かるが、あんまり困らせないようにな。それにそんなこと言ってますけど、風先輩も似合ってるじゃないですか。服が風先輩の良さをいつも以上に引き立てて、『キレイ』だと思いますけど」

「んな……っ」

「……はぁ」

 

何の恥ずかしげもなく言ってのけた紡絆に風は軽く赤面し、樹はスケッチブックを盾にするように完全に顔を隠してしまった。

それに思わずまたため息を吐く小都音。

しかし紡絆は褒めただけなのに顔を赤くしてるのを見て、何故怒っているのだろうと思いながら首を傾げる。

 

「こ、こほん……気を取り直して、行きましょうか」

「??? よくわかんないですけど、いつまで居てもアレですしね」

「これだから目が離せない……」

『紡絆先輩は意地悪です』

「なんで!? なにかした!?」

 

紡絆のいいところでもあり、悪い所は本音を話してしまうところ。

正直なことを話してしまうため、紡絆が二人に対して言ったことは彼が本当にそう思ってるということなのだ。

しかし彼女たちも中学生であり、先輩後輩の関係である紡絆とは勇者部として活動してるのもあって唯一仲の良い異性と言えるくらいに親しい。

そんな異性に真っ直ぐな言葉で褒められれば恥ずかしくもなるだろう。特に風も樹も、紡絆のことを『嫌い』と微塵たりとも思ってないのだから。

まぁ、褒めた本人は怒ってると誤解してたが。

何はともあれ、謎の理不尽さが振りかかった紡絆は理解出来ないまま一同は移動するのだった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

移動をし始めて暫く。

以前とは違うがここも大型のショッピングモール。

休日となると社会人や子連れの主婦も多く、人混みは中々多い。

特に今日は特別暑いわけでもなく、秋も近いことからそれ目当てに買い物に行くものも多いのだ。

さらっと、それもめっちゃ自然に三人を人混みから守るような形で歩く紡絆は風に向かって気になってることを聞くため、口を開く。

 

「で、何買うんです?」

 

そう、紡絆は何も聞かされてない。

ただ買い物に付き合って欲しいと言われただけで、彼からすると荷物持ちでもするか、と人助けするような気持ちで来ただけなのだ。

むしろ行動原理の全てが人助けの紡絆がそれ以外の感情を抱きながら来るはずもない。

期待するだけ無駄なレベルだ。

 

「色々とね。服とか日用品とか食材とか諸々買っておきたいのよ。部活で時間取られたりするとあんまり長く買い物出来る日なんてないしあたしと樹だけじゃ持ち切れない場合もあるし」

「確かに。俺でも荷物持ちくらいにはなれるか」

「あと紡絆の意見も参考にしようかな、と」

「俺ですか? あんま参考にならないと思いますけど」

 

自信満々に分からないと言える彼からすれば、服のセンス良し悪しはともかく正直、勇者部のみんなは世間で『可愛い』や『綺麗』と褒められる服を着たら似合ってるとしか思えない。

 

「兄さんは自分でも服買わないんです。放っておいたらボロボロな服や古くなった服、制服しか着ないくらいに。誰かのためにお金を使うことに関しては迷いがないんですけどね」

『紡絆先輩らしいね…』

「ほんと、バカね…」

「え、なんでみんな俺のことバカって言うんですかね…?」

 

一切否定の言葉が出なかったことから、小都音の言葉は本当なのだろう。

じゃなきゃ部屋にまったく何も無いってことはないはずなのだから。

引越ししてきた人レベルで何もなく、家具と星関連の本、ゲームがちょっとくらいしかないのが紡絆の部屋である。

 

「だってバカでしょ?」

「いやいやそんなはずないでしょ、なあ?」

「……ノーコメントで」

『えっと…ごめんなさい』

 

風の言葉に思わず小都音と樹に目を向ける紡絆だが、小都音は目を逸らし、樹は申し訳なさそうにスケッチブックを見せる。

悲しいことに、誰も否定してくれなかった。

むしろ実の妹にすら見捨てられていた。

 

「……よーし!早く買い物行きましょうか!」

 

そしてその事実を忘れるように紡絆は話題を変えた。

どうやら認めたくないらしい。

 

「それもそうね」

「時間は有限だしね」

『!』

 

けれどもそれは事実。

買い物をしていたら時間などすぐに過ぎるだろう。

だからか、風と小都音も紡絆の言葉に乗り、樹はこくこくと肯定を示す。

となればどこから行くか、それを決めねばならなくなるわけで、まったく詳しくもない紡絆は役に立たないので風と小都音が話し合って決めた場所へと歩いていく。

---それほど距離は離れてなく。

移動した紡絆たちだが、早速彼は軽くため息を吐く。

周りを見れば、そこら中に色とりどりな色んな衣装がある。

秋に向けて用意された服、スカート、ズボン、寝巻き、その他服飾雑貨。

紡絆には果たして何がいいのかすら分からない。

しかも今は椅子に座らされており、待っているように言われたのだ。

流石の紡絆もこの後の展開は読める。

 

(感想、言わなきゃなんだろうなぁ……)

 

正直、勇者部は揃いも揃って美少女である。

ついでに紡絆が女装すればその中に入るだろう。

それはともかく、そんな彼女たちが別の服を着たところで、何と答えたらいいのか。

無難すぎる回答しか出来る自信のない紡絆だった。

 

(まぁ普通に答えたらいいかな)

 

そもそもまともな嘘を付けるような性格をしているわけでもないため、例えそうだとしても言うしかないだろうと紡絆は諦めモードに入った。

誤魔化すことはよくするが、嘘はつくのが苦手なのだ。

欠点のひとつでもあり、利点のひとつでもある真っ直ぐすぎるというのが紡絆という人間なのだから。

そうこう考えているうちに、紡絆はふと気配を感じた。

カーテンが開くような音が聞こえ、一人出てくる。

 

「ふふん、待たせたわね。どうよ?」

 

そう言って見せ付けるように一番最初に出てきたのは、風だった。

ここに来た時はジーンズに黄色のTシャツを着ていた。

しかし今は試し着なのもあり、白いブラウスに黄色のロングスカートを着ていて、はっきり言って似合っている。

目を点にして紡絆は風を見ていた。

 

「え、えっと……?」

 

じーっと見られることに妙な感じがするのか、何も言わない紡絆に対して余裕を持っていた状態から少し居心地が悪そうに声を出すが、紡絆は何も答えず、数秒後に気がついたように瞬きした。

 

「ああ、すみません。服変わるだけで結構変わるもんなんですね。風先輩、とてもお似合いだと思いますよ。いつも綺麗だと思いますけど、新鮮な感じがして、いつも以上にそう思いました。

なんというか……風先輩の女子力が出ちゃってますね。派手すぎることもなくシンプルだと言うのに、スカートのリボンがいい感じに主張してて服のフリル…でしたっけ。その部分も良くて風先輩の見た目に調和してると思います」

 

あまり詳しくないからか、そこまで難しいことは言えないものの、風を見て思ったことをそのまま述べていく紡絆の言葉は、面倒なので訳すと『いつもと違って新鮮で、とても綺麗だと思います』という一言で完結する。

 

「そ、そう? まあ女子力高いし?

いやーこれだと本当にナンパされちゃいそうで困っちゃうかもしんないわねー」

「前も言いましたけど、そうなったら俺が守りますけど? 実際風先輩可愛いんで、言い寄ってくる人いてもおかしくないですしね、ひとつ年上なだけなのに大人っぽいですし」

「へっ!?」

「正直魅力溢れる人だなーって思いますよ。頼りになりますし、風先輩みたいな人が恋人にでも居たら幸せになれるんだろうなとすら思います。その分、ちょっと心配な部分もありますけどそれを勝るくらいにいいところたくさんあって、風先輩といたら毎日楽しく過ごせたり---」

「あ……うあ……ちょ。ま…まって。わかった、もういいからやめて。恥ずかしさで死んじゃう……!」

 

さっきの余裕は何処へやら。

まさかべた褒めされるとは思ってなかったらしく、次々と言葉の数々を叩き込むように浴びせてくる紡絆に対して風はやめるように言いながらひざを曲げて腰を落とし、姿勢を低くすると両手で顔を覆っていた。

耳まで赤くなるほどに恥ずかしくなったらしい。

しかし紡絆は本当のことを言っただけなので、その様子に首を傾げる。

むしろ言い足りないといった表情をしていた。

 

「風先輩、大丈夫ですか?」

「ちょっ、ちょっと放っておいて……」

「はあ……」

 

すぐに復活出来ないようで、紡絆は何故か分からないまま、とりあえず言う通りにすることにした。

---残念ながら時折無駄に鋭い割に、こういう人付き合いに関して、察し能力は皆無だった。

 

(俺、何か悪いこと言ったかなあ。思ったこと言っただけだし、風先輩実際綺麗だと思うしなー。家事も出来るし服のセンスもあるし、頼りになるしな)

 

もしここでそれを言っていたら完全にトドメを刺す形になったのだが、放っておいてと言われたので紡絆は流石に口にせず、残る二人を待つことにした。

すると、少しして再び別のカーテンが開く。

 

「兄さん、終わったよ?」

 

次に出てきたのは小都音で、グレーのワンピースの衣装から白いキャミソールを中に着込み、上に水色のボレロを羽織って白いバッテンを描くような模様が入った水色のスカートを着た小都音が居た。

白の襟元には青いシンプルなリボンに真ん中に星があり、頭の上にはいつものリボンとキャンディのようなアクセサリーが右側の髪留めとして存在している。

その姿は、彼女の容姿も相まってアイドルのようにも見えた。

 

「どうかな…?」

 

少し不安そうに、身長差もあって上目遣いで見つめてくる小都音に紡絆は彼女の頭に手を乗せた。

 

「ああ、いいんじゃないか?

一瞬見間違えるくらいに可愛いと思うぞ。

似合ってるし小都音らしい色で、小都音の髪型や色、肌にもピッタリだ。

正直、アイドルか何かと思った。リボンやアクセサリーがちゃんとチャームにもなってて……うん、とにかく可愛いぞ」

「ん…兄さんにしては上出来。結婚する?」

「………さて、樹ちゃんはまだかなぁ」

 

小都音の頭を撫でながら褒めると、小都音は頬を赤めながらアホ毛を揺らしていた。

が、後者が聞こえていたにも関わらず聞こえてないフリをした紡絆はまだ出てこない樹を待つように目を逸らした。

 

「むぅ……兄さんの意地悪」

「………」

 

頬を膨らまし、あまりにもの理不尽な発言に紡絆は言葉が出なかった。

しかし何かを言う前に小都音は樹が着替えているであろう試着室のカーテンに顔を入れて覗き込む。

 

「樹ちゃん準備は---出来てるね。え、恥ずかしい? 大丈夫だよ、似合ってるしすごくかわいいもん。兄さんに褒めてもらおっ」

『!?』

 

一体何を話してるのか、紡絆には分からないがいつの間にか復活していた風に目をやると、スマホを手にしていた。

撮る気満々だった。

 

(いつの間に復活したんだ? それに相変わらずシスコンだなぁ)

 

変わらない風の姿に苦笑しつつも、人に言えることか微妙な発言を心の中で呟く。

もし紡絆が口に出してたら、おまいうと言われたかもしれない。

そんなこんなで少しして、中へと入った小都音が樹の手を取って少し強引に出てきた。

薄い肌色に、少し薄緑のかかったフリルブラウス。白いフレアスカートに身を包み、()()()()()を掛けた樹が恥ずかしそうに手を引かれながら出てきた。

 

「っ〜! いい、いいわ。見て、見てよ紡絆!

どうしよう、樹が可愛すぎてやばい!思った通り…いいえ想像以上に似合っていてまるで妖精……!可愛さは天使級ッ!

それに恥ずかしげにしてるのもポイントが高いわよ、樹ぃ〜!」

 

樹の姿を見て、ある一点の部分に少し驚いたような表情をする紡絆は隣から煩いくらいに絡んで来ながらも、決して樹の写真を撮ることを辞めない風に若干、ちょっと引きながら抜け出す。

すると小都音が樹の手を引っ張って目の前に来た。

 

「はい、兄さん感想は?」

「……いいんじゃないかな。風先輩のせいで俺の感想なんて意味無くなりそうなレベルだけど。

少なくとも俺は樹ちゃんのその服装、似合ってていいと思うけどな。

あんまり私服姿を見たことがないってのもあるんだろうけど、また別の印象を受けられて新鮮というか、樹ちゃんの良さが際立ってていいっていえば良いのかな…うん、結局んとこは『凄く似合ってて可愛い』になるのか」

 

声の出せない樹に変わって小都音が感想を聞くと、予想はしてたのか紡絆はただ思ったことだけを告げる。

語彙力の低さが安定しているものの、感想を聞いた樹は顔を真っ赤にして小都音の裏に隠れてしまった。

 

「んー、及第点…かな」

「え、なんの点数?」

「気にしないでっ」

「お、おう……というか風先輩はいつまでやってるんですか」

「ハッ!? あまりに樹が可愛すぎてつい……」

『言い過ぎだよ…』

 

 

気にしないでと言われたので気にしないようにしたが、ずっと写真を撮る風に樹が困ってる姿を見ると流石に紡絆は放っておけず、写真を撮り続ける風に話しかければ無意識に撮っていたらしい。

本人たる樹は恥ずかしくはあるだけで、いやという訳ではないらしいが。

 

「まぁ何はともあれ、この服は買うとして……紡絆には悪いけど別の服も選ぶわよ」

「そうですね。あ、兄さんはまた待っててね。同じ言葉は禁止だよ?それと兄さんにも選んでもらいます」

「……え?」

「!」

『ちょっと…楽しみです』

 

まさかの風と小都音の言葉に紡絆は固まる。

どうやらもう終わりと思っていたらしいが、樹には期待するような目も向けられ、小都音はちょっと楽しそうだ。

風はニヤニヤしてるので、紡絆は無視した。

 

「……感想は百歩譲っていいけど、俺が選ぶ必要は---」

「私、兄さんが選ぶ服着たいし、こういうのって男の人の意見は大事だったりするんだよ。価値観の違いもあるからね、実際には()()()()()()()()()いいんだけど…みんなそうなんじゃないかな」

「えぇ……?」

 

言葉の意味が理解できないといった様子だが、紡絆が風と樹に視線を向ける。

そうなのか、と聞くように。

 

「ま、まぁ…気にはなるし? 紡絆のセンスがなければネタに出来るしね!」

『私も紡絆先輩が選んだ服がいいです』

「…………」

 

どうやら正しかったらしい。

照れ隠しのように頬をかきながら答える風と、はにかみながらスケッチブックを見せてくる樹。

再び小都音に視線を戻せば、彼女はニコニコとした笑顔だった。

 

「…はあ」

 

どうやら抜け出せないらしい、と紡絆はがくりと力なく俯いた。

---紡絆にとって、ある意味の地獄の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

疲労困憊、と言った感じでとぼとぼと荷物を手に歩く紡絆と元気よく歩く三人。

 

「お、終わった……」

 

そんな中、紡絆が口を開いた。

あれから何回か、試着タイムが始まった。

その度にない頭を動かし、感想を次々と述べていくのがキツかったのだ。

しかも同じ褒め方を禁じられたため、律儀に守って見せた。

 

(昨日の戦闘よりしんどかったんだけど。もうやりたくない…いいじゃん、俺に感想求めなくても!)

 

哀れネオ融合型昇華獣。

紡絆の命を追い詰めたというのに、彼にとっては今回の方がキツかったらしい。流石に別ペクトルの意味だろうが。

ちなみに結局買った服は指で数えられる程度で、紡絆は着れたら何でもいい人間なのでよく分からないのである。

むしろ何故自分に感想を求めるのか不思議でならなかった。

余談になるが、意外な点と言えば、紡絆が選んだ服は全員に好評だったので買ったとか。

 

「あ、樹ちゃん。向こうのクレープ食べてみよっか。美味しそうだよ」

『クレープ…! でも……』

「いいんじゃない? ねぇ、紡絆」

「え、まあ…ほら」

 

びくっと反応した樹は風に視線を送るが風は気にした様子もなく、紡絆に呼びかける。

すると思い出すように遠い目をしていただけで、話は一応聞いていた紡絆は紙袋を片腕にまとめると普通に財布から取り出したお金を小都音に渡した。

 

「もうっ。それは兄さんの分でしょ、ダメ!

ちゃんと分けてるから大丈夫だよ」

「いや、でもな」

「でもじゃないの。たまには自分のことにも使って」

 

無理矢理、と言った感じでお金を返され、紡絆は困ったような表情で財布に戻す。

恐らくそこまで使い道がないとでも思ってるんだろう。

 

「先行ってるからね。風先輩も待ってます。いこっ!」

『!』

「転けないように気をつけろよー」

 

元気よく走っていく小都音と手を引っ張られる樹に軽く注意だけすると、紡絆は再び荷物を両腕に持ち直しながら二人の姿を眺めていた。

 

「……ありがとうね」

「ん?」

 

特に危うげもなく辿り着いたのを見ながら紡絆と風は並んで歩いていると、ふと隣から聞こえてきた声に紡絆が反応しした。

 

「どうしたんですか、感謝されることしてませんけど。小都音と樹ちゃんや風先輩の分のお金返されましたし」

「普通そんな簡単に渡さないからね。そうじゃなくて…」

「???」

 

やっぱり察し能力がない紡絆は見当違いのことを挙げるが、風の視線を辿れば、その視線は樹と小都音に向いている。

 

「戦いのこと、勇者部のこと、樹のこと、今日の買い物に付き合わせたりとか、色々とさ」

「はあ…改めてなんすか。別に特別なことしてなくないですか?」

「まぁ、あんたにとってはそうなんでしょうね。でもふと言いたくなったのよ、紡絆が居てくれて良かったって。部室だって賑やかになるし」

「よく分かりませんけど、褒めてます?」

「ええ」

「じゃあ素直に受け取っておきます。でも感謝するのはやっぱり俺の方だと思うんですよね」

 

そう言って一度立ち止まった紡絆に気づいたのか、先を歩くことになった風も立ち止まって振り向く。

 

「風先輩が勇者部に誘ってくれて…大赦が俺を選んだってのもあるんでしょうが、人助けをたくさん出来るし、良い人達にも出会えた。

夏凜とも出会えたし、たくさん騒がしくも楽しい日々を過ごせてます。こうやって風先輩や樹ちゃんとお出かけ出来るようにもなりましたしね」

「紡絆……」

「まぁ、大赦のことで、勇者のことで、お役目のことで、樹ちゃんのことで、後遺症のことで、色々とあると思います。特にお役目は。

その役目だって、終わりは訪れます。俺たちにとっては、それも青春のひとつみたいなもんです、勇者部の延長上にあるだけで。

…それに!

もし困ったら、何かあったら力になりますし俺が守りますから。風先輩の明日も笑顔も。

暗い顔より、明るい顔の方が風先輩は魅力的です。そっちの方が、素敵ですから」

 

屈託のない笑顔で告げる紡絆に、風は照れたように頬を掻く。

よくよく見てみれば、耳も赤い。

 

「…んもーほんと、生意気な後輩なこと。けど、紡絆の前向きなところは、いつも助けられるわ。そういう言葉を本心で言ってくるのは困るけど……」

「事実ですし。風先輩は色々と家庭的な良い女性だと思いますけど?」

「わ、分かったから勘弁して!?」

「……?」

 

きょとん、と首を傾げる紡絆に、風はただ恥ずかしそうな、困ったような、ふたつの感情が入り交じったような様子だった。

 

「それにしたって、小都音と樹ちゃん。随分仲良くなりましたよね。仲良くなれるだろうなーとは思ってましたが、まるで友奈と東郷を見ているようです」

 

話題を変えるように、紡絆の視線が移される。

どちらかと言えばオドオドとして大人しい樹をよく小都音が先導するように引っ張っている。

強引にではなく、ちゃんと意見も聞いて。

紡絆には分からないが、小都音は樹が口に出さなくても意図を理解しているところがあるのだから、それほど仲良くなったのだろう。

 

「そうね…その点も、感謝すべきかしら」

「いや、俺は何もしてませんけどね、そこは。たまに樹ちゃんの相談には乗ったりしますけど」

「いつの間に!?

でも…本当に、まるで数ヶ月どころか何年も一緒にいる親友のように見えるわねぇ」

 

仲睦ましく、二人とも笑顔で何かを話している。

樹についてもだが、自身の妹が笑顔になれてることに紡絆は嬉しかった。

思わず頬が緩む紡絆と風の姿は、傍から見たら親が子を見る姿に見えなくもない。

 

「誰の笑顔も同じなんです。不要な笑顔なんてない、誰かが明るく居られるのは、そこに『幸せ』があるから。幸せがあるから笑顔になって、笑顔で居られるから今を生きられる。

だからきっと、勇者もウルトラマンも居たからこそ、この笑顔を守れてるんでしょうね。暗い未来に、光を灯せる存在ですから。

そのためにも俺は、守りたいなって思います」

 

ふと、ただ嬉しそうに、紡絆はそう語った。

新たにバーテックスの生き残りが居たことを教えられても、後遺症がまだ残っていても、笑顔で居られるのはそうなのではないかと。

故に、紡絆は負けることを許されない。

もし負けたら、この笑顔は消えてしまうだろう。笑顔だけでなく、世界そのものが。

 

(……そうは言うけど、あたしは少し違うと思う。

少なくともあたしらがこうやって明るく居られるのは、あんたのお陰なのよ、紡絆。確かにウルトラマンは頼りになる存在だけど、紡絆が居るからみんな笑顔で居られる。後遺症のこともバーテックスの生き残りも、どうなるかなんて確信は無いのに、不思議と大丈夫だって思える。

誰でも良いんじゃなくて、紡絆だからこそ、なのよね。

光のように眩しくて、輝いていて、真っ直ぐで、お人好しで、バカ。

それでも今も他人のことを想うことも出来る優しさも持っていて、本当に不思議なやつだけど、自分があたしらに光を灯せる存在だなんてこと気づいてないんでしょうね…。

少なくともあたしにとって、紡絆は光を灯してくれるような人なんだけど、ね…もちろん、手の焼く後輩でもあるけど)

 

今も他人のことばかり考えて、未来を見据えて、どれだけお人好しなのかと頭を痛めたくなるくらいにはアレだが、そんな紡絆だからこそ風も勇者部のみんなも、他の人も、誰もが継受紡絆という存在と居たいと思えて、毎日が楽しく感じられるのだろう。

自分のことなんて一切言わないくらいに無駄に自己肯定感も低いが、ウルトラマンや勇者ではなく、紡絆という人間が勇者部にいるからこそ、自分を含めた勇者部の部員たちは戦えて、明るい未来へと歩める。

ただまぁ、間違いなくそのことには気づいてないだろう。

それでも風は紡絆のそんな姿が、とても眩しく感じる。

彼はどんな事があっても、その在り方は変わってないのだから。

 

「兄さん、風先輩!」

「ん、そろそろ行きましょうか。風先輩、待ってますよ」

 

小都音が手を振って呼んでいることに気づき、そう言って一歩進んだかと思えば、紡絆は風に振り返った。

置いていくことをせず、待って。

 

「……そうね、行きましょっ!」

 

そんな些細な気遣いに心が温まりつつ、風は駆けていく。

その姿を見て紡絆は自身の左肩を見つめ、一瞬だけ顔を顰めると、何事もなかったかのように追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クレープを買い、またしても変な味を食べた紡絆と定番中の定番を食べた風と樹、小都音。

むしろなんでそんな無駄に好奇心を出して選んだのか不思議なのだが、今回のやつは微妙だったらしい。

それはともかく。

 

「今度は何処へ?」

「次は夜食の分を買っておきたいわね」

「時間的にそろそろいいタイミングだからね」

「そんなもんか」

『遅くなると、商品がなくなりますもんね』

 

へえーと割と興味無さそうに返事をする紡絆にみんなが苦笑する。

相変わらず適当というか、食べれたらなんでもいいと思っているのだろう。

伊達に小都音が帰ってくるまで適当に済ませていた人間ではなかった。

 

「そういえばご飯は予定あるの? ないなら一緒に食べない?」

「いえ、今日は特にまだ決めてませんけど…いいんですか?」

「買い物に付き合わせちゃってるし、そのお礼として」

「じゃあ、素直にご相反にお預かりします。あ、ちゃんと手伝いますね」

「それは助かるかな。小都音のこと東郷も褒めてたし」

「えへへ、だって兄さんに美味しいもの食べて欲しかったですし、放っておけば食べませんから。食べても最低限なんですよ?」

「なんかめちゃくちゃに言われてるような……」

『自業自得のような気はしますけど……』

「樹ちゃんまで!?」

 

ちなみにここでダメ押しに言っておくと、彼は一人のときだと捨てられたはずのエネルギー3秒チャージ!ウルトラインゼリー!を買っては栄養だけ摂っている。

つまり、否定する材料はなかった。

 

「別にそんなことないのになぁ…」

「じゃあご飯は?」

「ゼリー」

『え』

「お腹空いたら?」

「お腹空いたなーって思う」

「………はぁ」

「???」

「うん、今のでだいたい分かったわ。なんかあたしまで頭痛くなってきた」

 

即答する紡絆に小都音はため息を吐き、樹は絶句して風は頭を抑える。

改めてどれだけ自分に頓着しないのか、今日だけでニ、三回は表れ出ていた。

 

「ということなので、兄さんはしばらく一人で食べることを禁止します。これは結城さんと東郷さんにも言うからね」

「なぜ!?」

「うん、それがいいわ」

『納得の理由です』

「俺は納得出来ないんだけど……ま、いっか。一人より二人の方が美味しいしな!」

 

そしてこのポジティブっぷりである。

納得出来なさそうな表情をした割に、すぐさま切り替えていた。

頭が痛いではなく、頭痛が痛いと言うのはこのことか。

自分に関心が薄く、そのくせしてポジティブなお人好しのバカ。

もう救いようがないので諦めているのだろうが、逆にそうじゃなくなれば紡絆らしくないってなってしまうもので---難儀なものだった。

 

「相変わらずだね、兄さん…」

「分からないこと考えたってなあ」

「バカだしね」

「そんなはずはないです」

『そこだけは意地でも否定しますよね…』

 

そんなふうに会話をしつつ数分。

話しながら歩いているとあっさりなもので、スーパーへと辿り着いた。

慣れたように動く風と小都音に比べ、紡絆は棒立ちで、樹は何かやろうとする前に終わってたので何も出来なかった。

 

「風先輩、あっちから行きましょう」

「必要なものも買っておかないとね。人数がいるからまとめて買って帰れるでしょうし」

「ですね、調味料とか切らすと他で代用しないといけなくなるので、まずは---」

 

得意分野でもなんでもないので紡絆は色んなことを言い合う二人の話を聞くのを投げ出すかのように意識を外し、奇しくも自分と同じ感じになってしまった樹に視線を移す。

すると彼女は少し驚いたように見ていて、紡絆と視線が合うと苦笑いした。

 

「なんかガヤの外になっちゃったな。俺たちは自分たちのペースでゆっくりとついて行こうか」

『……!』

 

こくこくと頷く姿を見て、紡絆は小都音たちに先に行くように伝える。

すると何を思ったのか、小都音は紡絆を見て、風の手を取った。

 

「兄さんに樹ちゃんは任せて、私たちは先に行きましょう」

「え? それはいいけど---じゃあ樹のことお願いね」

「分かってます。二人も一応何かあったら困るだろうから気をつけてな」

「兄さんも樹ちゃんを一人にさせたら怒るからね」

「大丈夫だ、一人にはさせない」

 

それだけ言い終えると二人は先に商品を取りにいくために動き出し、紡絆はそれを見送ってから樹を見れば、彼女はなぜだか恥ずかしそうに頬を赤めていた。

 

「樹ちゃん、体調悪いのか?」

『……!』

 

樹はふるふると首を横に振り、顔を少し背ける。

そして何度か深呼吸し、心を落ち着かせると樹はスケッチブックに書いた文字を見せた。

 

『気にしないでください』

「そういうならそうするが……それにしたって休日なのもあるけど昼だからか人がたくさんいるなぁ」

 

話題転換するように周囲に視線を張り巡らせると、どこを見ても人だ。

元々大型のショッピングモールなのもあるが、前世の地球と違い、この地球(ほし)には四国しかない。

何千万と居るわけではないが、休日ならばやはり買いに来るのだろう。

 

「はぐれてもアレだし、遠く行かないようにな。近くだったら守れるけど、遠いと流石にこれは無理そうだ」

『………!』

 

周りを見渡していた紡絆は見渡すのをやめ、小都音たちが居る場所を目指してゆっくりと歩く。

樹は一度頷き、迷うように紡絆の手と顔を見て、こっそりと裾を握った。

 

『…………』

「ん?」

 

何を思ったのか、樹はため息を吐くような動作をし、気がついた紡絆が首を傾げると、何でもないと言うように首を横に振る。

自分で勇気を出すことが出来なかったことについてため息をを吐いたのだが---当然紡絆が察せられるはずもなく、はぐれないように裾を掴んでいるのだろうとだけ思っていた。

 

「そういえば樹ちゃん」

『?』

 

歩いていると、ふと紡絆が止まって樹を呼ぶ。

声が出せないので、樹は反応したことを知らせるように首を傾げた。

 

「いや、ずっと言いたかったんだけど。

そのメガネ、大切にしてくれてるんだな」

 

二人っきりになったからこそ、タイミング的に良いと思ったのか、樹が今も掛けている赤のメガネのことを話題に出した。

それは以前、勇気の持てなかった樹に紡絆が渡したプレゼント。

音楽では力になれないからこそ、別の形で助力した時の物。

 

『はい、紡絆先輩がくれたものですから』

「そっか、まぁ無理に着けてるわけじゃないなら良かった。いらなくなったら捨ててくれてもいいからな」

『絶対に捨てません』

「お、おう……」

 

文だと言うのに、何故か妙に固い意思を感じ取った紡絆は苦笑したが、本人が決めることなのでいいかと気にしないことにした。

 

「まぁ、それはともかく…もうひとつ。

聞きたいことがあったんだ」

『聞きたいこと?』

 

まだ別の要件があったのか、紡絆は話を変える。

というよりも、どうやらこっちの方が本命のようで、真剣さが樹にも伝わってきた。

 

「ほら、樹ちゃんの夢の話。オーディションはやったのかなと」

『あ……はい、あとは結果を待つだけです』

「そっか」

 

何を聞かれるのかと身構えていた樹だが、それは樹の夢に関連する話だった。

しかし紡絆が聞きたかったはそれだけだったようで、また歩き出し、樹も着いていくように同じく歩みを進める。

だが樹は握っている裾に入れる力が無意識に強まっていた。

それに気づいているのか気づいてないのか定かでは無いものの、紡絆は周りに注意しつつ照明を見るように天井を見上げながら口を開いた。

 

「不安がる必要はないよ、樹ちゃんなら絶対に大丈夫だからさ」

『……!?』

 

何も言っていない。

だというのに自身の心の中を当ててきた紡絆の姿に樹は驚いたような反応をした。

紡絆らしいといえば紡絆らしいが、こう言うことに関して紡絆はたまに無駄に鋭さを発揮する。

普段はアホみたいに鈍感だというのに。他人の心に敏感、と言えるのだろうか。

少なくともマイナスの感情なら彼はよく気づいている。

 

「難しいかもしれないけど信じて、いつも通り過ごせばいい。誰がなんと言おうと、俺は樹ちゃんなら絶対に受かるって分かってる。そんな落ち込んでないってことは自分の本気をぶつけられたってことだろ?

だったら大丈夫! ちゃんと歌えてる時の樹ちゃんの歌は、俺にすら響くようなとてもいい歌声を持ってるんだからな」

 

そんな紡絆は樹の不安を打ち消すように、樹を励ますそうに、自信を持たせるように告げると、それを聞いた樹のぎゅっと握る裾の力が強まる。

今度はまた、別の意味で。

 

「まぁ歌を大して知らない俺が何言ってんだーって話だけど。あはは」

 

軽く笑いながらそう言う言葉の裏には自虐の意味も込められているのだろう。

しかし樹にとって、その一言だけで十分だった。

 

(受かってるかなんて分からないのに、不思議…。

紡絆先輩が大丈夫って言ってくれたら本当にそう思えて、不安が消えた…。

紡絆先輩はいつだってそうだ。紡絆先輩はいつでも優しく誰か()()照らして(勇気を)くれる。

この一歩は、お姉ちゃんの隣を一緒に歩みたいって願いもあるけど、本当はちょっと違う。

私はいつも前を歩くこの人の、紡絆先輩の隣に立っても恥ずかしくないような、そんな自分になりたかったから…こんなことどうして思うか分からないけれど、嘘じゃないということだけは、分かる。

この気持ちは、それほどに大切なものなのかな…?)

 

胸に手をやり、樹は確かに前を見ていた。

その姿には何処にも不安そうな様子は見えず、紡絆は少し目を瞬きさせると、目尻を緩めて樹の手を取った。

 

『…ッ!?』

「ほら、行こうか。このままじゃ俺ら二人とも迷子になって、風先輩や小都音に心配かけるからな。それにこうでもしないと人混みにやられそうだからさ」

『は……はい』

 

躊躇し、勇気の出せなかった樹と違い、紡絆は何とも思うことなく自然と手を繋いだ。

簡単に届く距離ではあっても、伸ばせなかったのに。

 

(本当に、紡絆先輩は---)

 

誰かの手を引っ張って、前へと進む紡絆は眩しく、優しくて、不思議と安心出来るほど心地よくて、樹にとって()やはり何処までも()だった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

30:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

いやあ……買い物って長いんやな…って。

俺なら適当にインスタント麺買うし服も無地のやつ適当に買うわ

 

 

31:名無しの転生者 ID:ecR7UX0WF

急に来たかと思えばファッションセンスの欠片もない発言出てきて草

 

 

32:名無しの転生者 ID:9L+MxTefT

女の子の買い物は長いもんやぞ。それに付き合うのが男なんだよなぁ

 

 

33:名無しの転生者 ID:v6I0MzMAL

イッチは自分に対する関心が薄いというか、ないからな。

絶対流行りとかわからんやつ

 

 

34:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

流行りぐらい分かるわい。

アレだろ、プレッピーとかハマトラとか、カラス族とかボディコン&肩パット、オリーブ少女&ピンクハウスとか。

あとは茶髪のロングヘアに焼いた肌、フープピアス、フィットしたカットソー、ミニのタイトスカートやフレアのパンツだっけ

 

 

35:名無しの転生者 ID:CYfonmGRF

80年代かな?

 

 

36:名無しの転生者 ID:gLhb5xebM

つーが最後のやつはただのギャルやんけ

 

 

37:名無しの転生者 ID:+4ghHOwXK

ちょっと詳しいなと思ったけど一昔前なのなんなん?

 

 

38:名無しの転生者 ID:8ZCcFrAT/

もしその世代ならイッチおっさんやぞ

 

 

39:名無しの転生者 ID:JZ6OIJV1K

いうて前世合わせたら大抵の人間は成人超えるどころか三十路近くなるからあながち間違ってない

 

 

40:名無しの転生者 ID:bM4wJ4yi6

いくつで死んだかは知らんが、18くらいはいってそうだしな。

その割には馬鹿だけど、世の中どうしようもない馬鹿がいるから…

 

 

41:名無しの転生者 ID:1hhWgZmyu

で、イッチは何してる最中?

 

 

42:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

下着売場、女性用の。

全然男いないんだけど

 

 

43:名無しの転生者 ID:VItBlY6Jl

うわぁ……

 

 

44:名無しの転生者 ID:XaA+NJv/t

きっっつ。精神的に来るやつ

 

 

45:名無しの転生者 ID:/z7w8vUMu

そらそもそも男が買い物に行く場所じゃないし。

可能性あったとしてもラブコメのように下着を代わりに買いにいくやつとか子供のためのとかでしょ。

でも大半は女性がやるだろうしな。

 

 

46:名無しの転生者 ID:Gv2zvz8z3

その場合の解決策、あるで

 

 

47:名無しの転生者 ID:9dyJt3Dc3

え、これ解決策あんの?

 

 

48:名無しの転生者 ID:UotJ3pYGW

どうしよう、凄い面白そうな予感する

 

 

49:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

どうしよう、凄い嫌な予感する。

でも聞くだけ聞こうかな

 

 

50:名無しの転生者 ID:vYsFBvzeP

あっ、ふーん?(察し)

 

 

51:名無しの転生者 ID:U87cDXOc1

あー…(イッチの容姿を見ながら)

 

 

52:名無しの転生者 ID:Gv2zvz8z3

>>46

イッチが女装すればええんやで

 

 

53:名無しの転生者 ID:5Wf/f5COd

 

 

54:名無しの転生者 ID:owpOlEqIK

知ってた

 

 

55:名無しの転生者 ID:/d/KKQGF2

イッチ可愛い掘りたい

 

 

56:名無しの転生者 ID:as8tqnqdW

イッチの見た目的には十分通用しそうなの反応に困る

 

 

57:名無しの転生者 ID:Jw+l/ydxk

今の時代、メイク自体が凄いからな…そんでもってイッチって素材としていいし

 

 

58:名無しの転生者 ID:1bmjLfzel

なぁ、なんか今変なやつ居なかったか?

 

 

59:名無しの転生者 ID:6BfznIx4S

気のせいだろ

 

 

60:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

やっぱり聞いたのが間違いだったわ…とりま終わったから移動中。

そういえばさ、どっちがいいかって聞かれた時の答えってどうしたらいいんだろう

 

 

61:名無しの転生者 ID:4pc90rDX1

服買いに行く時にはある究極の二択じゃん

 

 

62:名無しの転生者 ID:W7AH1Orx0

否定してもダメ、肯定してもダメ、反応薄かったりイマイチでもダメだぞ

 

 

63:名無しの転生者 ID:7KHcop+59

>>60

気合いで乗り越えろ

 

 

64:名無しの転生者 ID:xOrbiEZ5T

これに関しては絶対力になれねぇぞ、ここ。

そもそも体験してない者が大半だし

 

 

65:名無しの転生者 ID:Ck11DwC6Z

>>60

頑張れ

 

 

66:名無しの転生者 ID:UUyhee4MW

つーか、イッチ腕というか左肩やばいんじゃなかったっけ。そんな荷物持って平気なん?

 

 

67:名無しの転生者 ID:RRK19DpFz

左肩だけじゃなくてほぼ全身定期

 

 

68:名無しの転生者 ID:sH+o0CwMZ

特に酷いのが左目と左肩、後は腹と…背中?

まあ、ただでさえ回復してないのにその上から溶解液直接受けたりしてるしね…

 

 

69:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

頑張るかぁ…。

>>66

クッソいたいけど平気。それにこんな大荷物女の子には持たせられないでしょ

 

 

70:名無しの転生者 ID:SOL5rolVl

痛いのに平気とはいかに…

 

 

71:名無しの転生者 ID:IF5yTk9Lh

そういえば前も依頼で荷物運んでたときとか友奈ちゃんに優先的に軽いもの持たせてましたね…

 

 

72:名無しの転生者 ID:MloUdXtMF

お前そういうところやぞ。分かってんの?わかってないんだろうなぁ…分かってたらあんな自然と樹ちゃんの手を取ったりみんなを褒めたりしないもんなぁ…

 

 

73:名無しの転生者 ID:AfNy+Mji/

イッチは普通のように言ってるけど難しいことばかりしてるよね 本当に行動力が特撮の住人っぽいわ

 

 

74:名無しの転生者 ID:CA28K99vn

そもそもイッチの精神力が半端ないからな。瀕死レベルでボロボロなのにこいつこんな大荷物持ったりまだ戦ったりしてるんだぜ?

普通は痛すぎて嫌になるわ

 

 

75:名無しの転生者 ID:z0k3n313T

両手どころか両腕塞がってるってマジ?

 

 

76:名無しの転生者 ID:dzknBb+f+

両肩もなんだよなぁ…

 

 

77:名無しの転生者 ID:xQofTWbsP

持てる範囲で全部持ってるの…なんというか、傍から見たら面白い

 

 

78:名無しの転生者 ID:d2kPISfn5

ところで頭の巨大なヒヨコはなんなんですかね?

 

 

79:名無しの転生者 ID:IvqtBeU6q

ぬいぐるみを頭に乗せながら歩くという無駄に高度な技術

 

80:名無しの転生者 ID:0P/JeKlIM

無駄のない無駄な技術の使い道やぞ

 

 

81:名無しの転生者 ID:+mTmmYzOK

牛鬼で体幹鍛えられたんやなって…

 

 

82:名無しの転生者 ID:BDMabluJR

なお次々と突き刺さる好奇の視線

 

 

83:名無しの転生者 ID:Vju0RPoSg

だって今のイッチ、子供からしたら巨大なヒヨコが頭の上に立っていて荷物にほとんど包まれてるって状況だからね

 

 

84:名無しの転生者 ID:p1x1QuMrn

というかこんな奴いたら嫌でも立ち止まって見るか二度見しちゃうんだよなぁ

 

 

85:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

終わったらしいから帰るで

>>100

ハンドレットで

 

 

86:名無しの転生者 ID:OIK1KTvpR

おつかれー

 

 

87:名無しの転生者 ID:9gvGisZIx

おつーってお前学んでないな?

 

 

88:名無しの転生者 ID:/flAo8AlQ

唐突に安価始めるくせに短いのやめろ

 

 

89:名無しの転生者 ID:Hi5C+auKL

寝る

 

 

90:名無しの転生者 ID:9HS+uXiKs

家に帰る

 

 

91:名無しの転生者 ID:XtsOtDRJI

もう少し遊ぶ

 

 

92:名無しの転生者 ID:lEuLhgPQC

飯食う

 

 

93:名無しの転生者 ID:2jqFFGifS

(ファミチキください)

 

 

94:名無しの転生者 ID:4n6hOQT7h

小都音ちゃんや部長、樹ちゃんの画像貼る

 

 

95:名無しの転生者 ID:3mxvQMdRW

うどん

 

 

96:名無しの転生者 ID:c6CzBoj7E

もっと見回る

 

 

97:名無しの転生者 ID:s3TeVt5hg

(下着売場から)逃げるな卑怯者ォ!!逃げるなァ!!

 

 

98:名無しの転生者 ID:RUUvqDbU8

お泊まり

 

 

99:名無しの転生者 ID:Wtb0GOB26

寄り道

 

 

100:名無しの転生者 ID:oos4NKhaO

その頭の上のぬいぐるみなんとかしろ

 

 

101:名無しの転生者 ID:/d/KKQGF2

女装

 

 

102:名無しの転生者 ID:AF1NJou1y

>>101

誰かと思ったらやべーやつじゃん

 

 

103:名無しの転生者 ID:fW3921/Pe

>>100居なければ女装になってた可能性ありますねぇ

 

 

104:名無しの転生者 ID:achKWMlxq

ちっ

 

 

105:名無しの転生者 ID:RmWRTAQbU

あと少しだったか…

 

 

106:名無しの転生者 ID:T7Fjgyb3B

おいおい、そこは女装だろッ! せっかく話題に出たんだからさぁ!

 

 

107:名無しの転生者 ID:TEJ++EMRw

望んでるやつ多すぎぃ

 

 

108:名無しの転生者 ID:CeJMOhddz

実際イッチの笑顔は可愛いに分類されるから仕方がないべ。笑顔が似合いすぎる

 

 

109:名無しの転生者 ID:zz1ZN6GBp

可愛いも兼ね備えているって完璧か?

 

 

110:名無しの転生者 ID:HgayrLuMM

イッチ、普通にかっこいい時あるからな…つーかイッチの場合は何ともなしにイケメソするから…今回だってさらっと三人を守ってたもん

 

 

111:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

なんとかしろって曖昧だなぁ…まぁいいけど。何とかするわ、そろそろ落ちそう

 

 

112:名無しの転生者 ID:XRfaXhzQq

安価は絶対

 

 

113:名無しの転生者 ID:ceNzNrn65

そろそろ落ちそうというか普通なら落ちてるからな

 

 

114:名無しの転生者 ID:AGKi5vnmi

なぁ、どうするか普通に想像できるんだけど

 

 

115:名無しの転生者 ID:EVE6H1Y4r

自分の金で取ったもんだからな、あれ。イッチを見てきたやつなら察してそう

 

 

116:名無しの転生者 ID:QZclsISWj

おっ、幼女いんじゃーん!

 

 

117:名無しの転生者 ID:HvmlBLcx5

ショタもいるだろ!

 

 

118:名無しの転生者 ID:kAQ8WNqpF

兄妹かな?

 

 

119:名無しの転生者 ID:pHy5SmU5+

あっ(察し)

 

 

120:名無しの転生者 ID:pvPHnazTC

行ったァー! 荷物持ちながら迷いなく行ったァー!

 

 

121:名無しの転生者 ID:iOv3jYY1m

まぁ、だろうな。

相変わらずイッチはお人好しだわ。ウルトラマンに選ばれるだけある。

それにしても今回は平和だな

 

 

122:名無しの転生者 ID:90YH4VmTx

イッチはこうじゃなきゃな

 

 

123:名無しの転生者 ID:CFX/7xIrb

本当にウルトラマンに選ばれる素質があるというか、主人公気質というか…でも荷物は降ろせよ

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は風の家でご馳走になるということで帰り道を歩く紡絆たちだが、気がつけば夕暮れになっていた。

昼に買い物したとはいえ、数時間単位で買い物していたようだ。

無論、昼は無理ということで外食したが。

そして何も変わらぬ、いつものような平凡で普通の会話をしていると、彼らの歩く道の先で二人の子供が居た。

一人はツインテールの髪型をした女の子で、もう一人はツーブロックの髪型をした男の子。

女の子方は蹲っており、男の子の方は何かを言いながら困ったような表情をしながら慰めるように背中を摩っている。

遠すぎて風と樹、小都音には聞こえてもないし見えてないが、紡絆だけは全てわかっていた。

 

『泣くなよ…仕方がないじゃん。これだけ探してもないんだしさ』

『だって……だって……』

『ぬいぐるみなんてまた買えばいいだろ』

『うう…大切だったもん…!おかあさんがプレゼントでくれたやつだもん…!さいごのひとつだったって…!』

『そうは言ってもさ…もう見つからないんだから…もう帰らないとかあさんに怒られるよ』

 

強化された聴力は、そんな小さい声ですら捉えていた。

どうやら無くした物を探していたようだが、見つからないようだ。

しかも門限も近いのか、男の子の方は見切りを付けるしかないと考えているらしい。

 

「ん?あの子たち……」

「困り事かな…」

『泣いてる?』

 

すると小都音たちも見えたようで、一瞬顔を見合せていた。

なので紡絆は即座に自身の心に従うことにした。

 

「すみません。あの子たち困ってるようなので、俺行きます! 先に帰っててください、警戒させたらダメなので!」

「え?ちょ、まっ---はっや!?」

『紡絆先輩らしいです…』

「…………」

 

もはや消えた、と錯覚するレベルで傍に居たはずの紡絆は子供たちの近くに居ており、そのことに風と樹は驚く。

そして小都音は嬉しいような懐かしいような、呆れるような、色んな感情が入り交じった表情で苦笑いしていた。

 

 

 

 

 

 

一方で紡絆は、荷物を持ちながらひよこを頭から落ちないように近づくと、足でブレーキを掛ける。

 

(っ……いっ---たくない!)

 

限界寸前の肉体で超人的な身体能力は紡絆の肉体にさらなる負荷を与える。

それでも泣いている子が居たら放っておけないのか、気合いで押し殺すと痛みを全て我慢しながら男の子と女の子に声を掛けようと口を開こうとして---気配を殺す。

 

『---どうしたの?』

「ふぇ……?」

「うわぁっ!?な、なんだ!?」

 

この面でも超人的な力は使われるようで、気配に全く気づくことのなかった女の子と男の子は目の前に現れた()()()に驚いた。

 

『こんにちは、どうして泣いてるの? ボクで良ければ話を聞くよ?』

「こ、こんにちは…ひよこさん……?」

「で、でけぇ……」

 

そう、その()()()は紡絆が頭に載せていた巨大ひよこ---のぬいぐるみ。

それを紡絆が両腕を操りつつ、なんか知らないけどボタンで動く羽を動かして浮いてるように持ちながら話しかけていた。

だからか女の子は涙が止まり、男の子は自分より少し小さいくらいのぬいぐるみに純粋に茫然としていた。

 

『話してくれる?』

「……うん。あのね……」

 

しかし効果はあるのか、警戒心を抱かないまま女の子はさっき紡絆が聞こえた通りのことを話した。

子猫のぬいぐるみを何処かに落として気がつけば無くなっていたこと、門限が近くて帰らないと母親に怒られること。

手伝ってくれた兄と一緒にどこを探しても全く見つからないこと、母親から誕生日プレゼントで貰ったということ。母親に新しくぬいぐるみを買ってもらうのはいつも忙しくしてるのに自分のために買ってもらうのは申し訳なくて嫌ということ。

たどたどしく分かりづらくはあるが、簡単にまとめるとそういう事だ。

 

『そっか……そのぬいぐるみがいいの?』

「うん……落としちゃったままだとかわいそうだもん…」

『わかった、おに---ボクにまかせて』

「……え?」

 

危うく我が出そうになるものの、何とか取り繕うことに成功した紡絆はひょこっと顔を出して、兄の方へ顔を向ける。

 

「ごめんね、特徴教えてくれるかな?」

「あ……う、うん。確か……」

 

優しく、それでいて静かな声音で紡絆が聞くと、男の子の方はまだパニックになっているが、頭では理解しているのか説明してくれた。

全身が白で片方の目の部分が黒くなっている猫のぬいぐるみ、らしい。

首元には鈴のデザインがあって、片足の部分にピンクの紐が目印としてある、と。

それにお礼を言うと、紡絆はまたぬいぐるみを動かす。

 

『じゃあボクが見つけてくるからちょっと待ってて』

「で、でも見つからなかったし……もう……」

 

一体どれだけ探したのか。

それは分からないが、話して冷静になったのだろうか。女の子はまた泣きそうな表情で、諦めの感情が強くなってしまったのだろう。

もう見つからない、と。

 

『大丈夫、キミが諦めちゃダメだよ。キミが諦めなければ、絶対に見つかるから。

だからボクを信じて、キミ自身を信じて』

「……な?」

「わ…わかった。信じる……!」

「うん、いい子」

 

そんな女の子に紡絆はぬいぐるみから顔を出して優しく微笑むと、不思議なことに女の子は泣きそうな表情から、堪えるように頷いた。

すると紡絆は女の子の髪を優しく撫で、立ち上がって荷物を安全に降ろすと目を閉じる。

 

(やれるかな。分からない、でもやれる気がする。

俺の場合はウルトラマンとの融合型ではなくて宿ってる状態だから出来るか分からないけれども……この子を笑顔にさせてあげたい)

 

ただ願うは、女の子の笑顔。

何の見返りを望むわけでもなく、得られるわけでもない。

それでも紡絆はそのためだけに、()()()自身の力を解放した。

するとどうなるか。

ありとあらゆる情報、四国全域へと意識が巡り、脳に凄まじい負担が掛かる。

脳裏で流れてくる情報を流そうとしても人間の容量を明らかに超える量。

やめさせるように脳が拒否反応を起こすが、紡絆は無視して意識を保つ。

そうして情報を高速で取り込み、紡絆は特徴のものを見つけた。

 

「えっと……こっちかな」

 

流れてきた鼻血を取り出したハンカチで拭い、周りを見渡した後に迷いなくとことこと歩くと、数歩離れた先にある茂みを掻き分け、その中へと入っていった。

すぐに出てくることはなく、数分経つと紡絆は汚れながら茂みの中から出てくる。

 

「あ……」

「はい、お待たせ」

 

片手に持つ子猫のぬいぐるみを見て女の子が反応する。

紡絆はそれを両手で差し渡し、女の子が抱えたのを見ると微笑んだ。

 

「どうやら落としたものを隠してくれてたみたい。目印は消えてたみたいだけど、手紙もあった。探しに来るかもしれないから、って」

 

結構くしゃくしゃとなってしまった紙を開けば、その通りのことを書いてある。

しかし茂みの中となると中々探さないものだろう。

まぁ道橋やベンチとかに置いたとしたら間違いなく処分されるだろうが。

それ故にか目印はあったらしいが、誰かに消されたか自然に殺られたか。

 

「にいちゃんすげー!」

「あ、ありがとう……」

「いいよ、これで帰られるだろ?」

「うん、助かった!」

「気にしないで、気をつけて帰るようにね」

 

尊敬するような目で見られることに居心地の悪さを覚えつつも、すっかりと暗い表情をしなくなかった二人の頭をわしゃわしゃと撫でると、紡絆はまた荷物を持つ。

 

「おにいちゃん…本当にありがとう。それと…ごめんなさい」

「そうだ、にいちゃん。ごめんな、本当は俺が見つけてやんなきゃなのに…」

「そう暗い顔せず、な?親御さんも心配するし、そう思うならひとつ、約束してくれ」

「「約束?」」

 

二人揃ってタイミングよく首を傾げる。

本当に仲のいい兄妹なのだろうと、苦笑し、真剣な表情で兄である男の子を見つめる。

 

「キミは妹さんを守ってあげること。お兄ちゃんなんだから、キミが頑張って守ってあげるんだ」

「うん、もちろん。分かったよ!」

「なら良し。それでキミはそのぬいぐるみを落とさないようにしてあげて。それから---」

 

男の子を返事を聞き、頷いた紡絆は妹の方を見てぬいぐるみを指差したかと思えば、話を区切って後ろを向いた。

ゴソゴソと何かをしたかと思えば、また振り向く。

 

『ボクのことも一緒に連れて行ってくれないかな。もっとキミと仲良くなりたいんだ』

「え……? いいの…?」

 

巨大ひよこの腕をパタパタと動かしながら言うと、女の子は驚いたように目を瞬きさせる。

 

「うん、キミなら大切にしてくれるだろ?」

「……うん!」

「ならよかった。この子もキミの手に渡った方が、きっと嬉しいだろうから」

 

女の子の返事に安心したように笑みを零し、紡絆は巨大ひよこを女の子に持たせた。

小学生くらいの兄妹なのもあって、彼女らよりは小さいが抱えてる姿を見ると中々大きく見える。

 

「それじゃあ、元気でな」

「にいちゃん、ありがとー!」

「あ……ありがとう…! わたし、大切にする…!」

 

子猫と女の子の手を取って大きく手を振る男の子と気合いを入れるように片手で握り拳を作り、巨大ひよこを抱える女の子を紡絆は見送る。

彼ら彼女は何度か振り向いたが、紡絆は手を小さく振りながら姿が見えなくなるまで見送っていた。

---最後に見た表情は、間違いなく笑顔だった。

 

「……なつかしいな」

「うぇぁ!?」

 

すると突然横から声が聞こえ、紡絆はビクッと体を震わせるどころかガチで吃驚して数歩ズレた。

声の主の方を見れば、小都音は遠くを見るかのように目を細め、紡絆に対して微笑む。

 

「驚いた?」

「気配全くしなかったんだが……」

「ふふん、これくらい出来ないと兄さんをこっそりととう---んんっ。なんでもないよ」

「何か言いかけてたよな!?」

「なんでもないよー」

「えぇ……?」

「なんでもないよ?」

「あっ、はい…」

 

何を言おうとしたのか気にはなるが、謎の圧に負けて紡絆は聞くのをやめた。

なんでもないと言うならないのだろう、と。

 

「それにしたってやるじゃない、紡絆」

「あれ、そういえば三人とも先に行ってるんじゃあ……」

『紡絆先輩が探しに行ったらあの子たちを残すことになるので、バレないように見守ってました』

「邪魔になると行けないからね、紡絆も考えがあったみたいだし? あと、別に先に行くとか行ってないから」

「兄さんが勝手に飛び出しただけだもん」

『でもそれが紡絆先輩ですから』

「……なんか、すみません?」

 

肯定されてるのか批判されてるのか、間違いなく呆れてはいるだろう。

しかし困ってる人物が居たとして何もしなければそれはそれでなんか違う……と難しい話である。

 

「まっ、一件落着ってところね」

「あれ、それって俺のセリフでは?」

「細かいことは気にしない気にしなーい」

『細かくはないけどね……お姉ちゃん、なにもしてないよ』

「うん、『私の』兄さんがやりましたから」

「ちょっ…二人とも!? あたしはほら、あれよ。どうにもならなかった時に何とかするように待機してただけだから…」

「ちなみにその場合は?」

「………」

『何も考えてないんだ……』

 

樹と小都音の言葉が次々と刺さり、ノープランだったことが露見する。

それを見た紡絆は一度振り向き、少し考えるようにして俯く。

 

(それにしたって……ウルトラマンの身体能力だけかと思ってたのに、俺に宿るウルトラマンはサイコ…なんたらみたいなやつ、使えるんだな)

 

先程女の子のぬいぐるみを探した時に流れてきた情報。

それを思い返した紡絆は改めて懐のエボルトラスターを握って心の中で感謝を告げる。

エボルトラスターは、決して鼓動しなかった。

 

「と、とにかくっ! 早く帰って飯食べるわよ!」

『あ、逃げた』

「逃げたね。でも、賛成です。いつまでも兄さんに荷物持たせれませんから」

「ほら、紡絆!」

「兄さん」

『紡絆先輩』

「今行く!」

 

それはともかくとして、本来の予定がズレていくのも困るもので、三人の呼び掛けに反応した紡絆は先へ居た三人に追いつくように軽く走る。

そして紡絆が追いつくと、四人は前を向いて歩いて他愛もない話へ映っていた。

---懐の中で、エボルトラスターが()()()()()()()()()()()()()()()を繰り返していたことに紡絆は気づかない。

 

『…………』

 

うっすらと現れた、曖昧な人影の形をした光。

()()は何処か、悲しそうだった。

()()()()()()()()()()()()()()を悲嘆するように。

なぜなら---まだそれほど経っておらず、固まってもない。

明らかに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がポケットからズリ落ちたのだから。

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
平和回と思わせておいて無理したことが(読者とスレ民に)明かされたやつ。
ファウストの言っていた通り、精神的支柱になってる。
そして無意識に口説くやつ。

〇天海小都音
兄がアレなので着いて来ることに。
終始樹とキャッキャウフフしてたと思わせておいて、紡絆にアタックしてた。
なんか知らんけど樹の考えが分かるらしい。
ちなみに紡絆のことなら色々と分かるらしい。
ファッションセンスはめっちゃ高い。
樹の服を選んだのは、彼女である。

〇犬吠埼風
年上の余裕を見せつけようとするも、あっさり崩壊。
やっぱり学んでないが、紡絆が引くレベルでシスコンっぷりを発揮してた。
それでもちゃんとするところはちゃんとする。

〇犬吠埼樹
小都音に引っ張られる形で色々と見て回ってた。
けれど楽しそうだったのでよし。
ちなみに紡絆からプレゼントされた赤いメガネは宝物として大事に使ってる。
今回も付けてた。
そしてメインとも言えるオーディションの結果。
不安はあったが、時折鋭さを発揮する紡絆に見抜かれ、彼のお陰で解決。
今の彼女は(元からだけどさらに)メンタルつおい子


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「-特別-インシデント」


やっと書き終えました…表現力というか語彙力というか…もっと増やしたいです。
今回の話は次話の繋がり回となり、次回は原作入る前の重要回になるんでより悩んだんですよね…いやほんまラストがどうしようか2週間くらい悩んだ。
やっと次話執筆出来ます。
あとなんか普通にラブコメ感出たような気がするんですけど、別にそんなつもりはなかった…この作品がラブコメならマジでそう書いてたかもしれん。
無論、今回は友奈ちゃん回。




◆◆◆

 

 第 34 話 

 

 

-特別-インシデント 

 

×××

 

日常編その②

結城友奈編

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結城友奈にとって、彼は特別だった。

と言っても、そんな男女の特別な関係といった意味ではなく、また別の意味で。

継受紡絆という人間は何処までもお人好しのバカと誰もが評価する。

それは当然友奈も例外に漏れず、紡絆のことはお人好しで頼りになる男の子という評価。

自分がどれだけ傷ついても、自己犠牲で誰かを助けようとするその姿は、まるで物語や御伽噺にでも出ててくるヒーロー、主人公だ。

気がつけば周りに誰かが居て、ただ普通にしているだけなのに好かれる。気がつくと、笑顔が絶えない空気感を作り出す。頼りにされ、誰もが楽しそうに話す。

不思議な魅力がある、そんな異性。

そんなのは---もはや勇者だろう。

そして今は、本当に勇者(ウルトラマン)になった。

そう、友奈はある意味、継受紡絆という人間に一種の憧れに近しい感情を抱いていた。

 

(あ、寝落ちしてる……)

 

そんな彼、紡絆は今、睡眠を決め込んだ。

友奈の席は後ろの方で、紡絆は前の席。

授業を聞いていたようだが、途端にうとうとし始めたかと思えば、紡絆は寝始めたのだ。

眠たくなったから従ったに違いない。

 

(大丈夫かなぁ……)

 

友奈も心配出来るほどの成績があるわけではないが、紡絆はテストすら微妙。授業は寝ていて、はっきりいって心配になる。

けれどもなんだかんだ乗り越えてるのは、紡絆の凄いところではあるのかもしれない。

 

(でも流石に起こしにいけないし、もうすぐお昼だからその時に起こした方が良さそうだね。小都音ちゃんに頼まれちゃったし)

 

既に紡絆の行動は予測されていたようで、彼の妹の手によって手回しは済んでいたようだ。

友奈は小都音に言われたことを思い出しながらふと東郷の方へと視線を向ければ、視線が合う。

意見は同じなのか、東郷は苦笑しながら頷いた。

それだけで理解した友奈は授業を邪魔しないためにも、改めて得意では無い授業と向き合うことにした---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み。

ぞろぞろと集まるモノや教室を出ていく者が居る中、授業が過ぎても紡絆はまだ寝ていた。

こんなふうに寝てるくせに、注意されないのは担当の先生方が慣れてしまったからだろう。

しかしながら先生方とも親しいのは、さすがのコミュニケーション能力と言うべきか。話す度に授業起きるように注意されてたりはするが。

何はともあれ、騒がしくなった教室の中でも睡眠を続ける紡絆に友奈は近づいていく。

 

「紡絆くん、起きてー!」

「んぇ…あと、七日……」

「一週間経ってるよ!? ほら、ご飯食べないとお腹空いちゃう!」

 

友奈がゆさゆさ、と優しく紡絆の体を揺らすが、彼は起きない。

まだ寝足りないのか、それとも威力が足りないのか。

 

「おーきーてー!」

 

声量を上げて起こそうとする友奈の努力も虚しく、紡絆は寝ていた。

それどころか起きる気配すらなく、どうすれば起こせるか考え始める。

 

「うーん、どうしたらいいのかなぁ……」

 

今も机に両腕を置いて額を乗せたまま動かない紡絆からは寝息が聞こえる。

そんな彼を、友奈は机越しの対面に両膝を曲げながら座ると、机に両手を置いて見つめていた。

 

「むぐう……」

「……何してんの?」

「あっ、夏凜ちゃん!」

 

どうしたらいいかなーと顔が横に向いた影響で見えるようになった紡絆のほっぺたを指で突きながら悩んでいると、その光景を見ていたであろう夏凜が友奈の傍に来た。

 

「以前の戦法は通用しなさそうね」

「うわっ!?東郷、いつの間に……」

 

すると夏凜すら気づいてなかったのか紡絆の横に陣取った東郷は近くに弁当を置いていたが、今回は通用していなかった。

東郷の飯にすら気づかないほどに爆睡中なのだろう。

 

「全然起きないんだよね。どうしたらいいと思う?」

「うーん…普通じゃ起きないと思うわ」

「だったら手っ取り早い方法があるでしょ」

 

現状に困った友奈は話を振ると、夏凜には何か考えがあるようだ。

一体何かと聞こうとして、既に夏凜は行動に移っていた。

 

「起きなさいバカ!」

「いっでぇ!?」

 

バシンっと明らかに大きな音が紡絆の頭から鳴り、紡絆は頭を両手で抑えながら周りを見渡した。

 

「はっ……!?ここは一体…俺はさっきまで江戸にいたはずでは…」

「いつの話よ……」

「俺が分かるわけないだろッ!

……というか、みんな集まってどうしたんだ?」

 

目が覚めたばかりで寝起きに変なことを言っていた紡絆に夏凜が呆れるが、キッパリと何年前なのか分からないと言い切るくらいに開き直った紡絆は気がつけば友奈も東郷も、夏凜もいたことに首を傾げていた。

 

「あはは…紡絆くん寝てたから起こそうと頑張ってたんだ」

「中々起きなかったから夏凜ちゃんが起こしたのよ。寝たままだとお昼ご飯食べれなくなるでしょう?」

「はー…なるほど。確かにお腹は空いちゃうか。三人ともありがとうな」

 

納得したように紡絆は頷くと、素直に感謝の言葉を述べた。

 

「気にしないでいいのよ」

「…ふん」

「うんうん、それじゃあ一緒に食べよ!」

「ん、だなー」

 

それぞれ違った反応をし、紡絆は欠伸をすると気の抜けたのんびりとした返事をしながらカバンをゴソゴソと漁り、ゼリーを---

 

「……!?」

 

取ろうとしたところで、見つかることなく。

逆に何か固い感触を感じ取って持ち上げて見れば、見慣れた包みがあったことに驚愕する。

 

「どうしたの?」

「い、いや……ゼリーじゃなくて弁当箱が入ってたからさ」

「これは…小都音ちゃんがやったのね。紡絆くんのことお見通しなのよ」

「てか、昼食をゼリーで済ませようとしてるのはどういうことなの…?」

 

夏凜の疑問は最もなのだが、それに答えてくれる者はいない。

しかしやっぱり紡絆はゼリーで済ませようとしていたようだが、彼の妹はそのことを理解していたらしい。

そもそも重さが違う時点で分かれという話なのだが……まあ、紡絆だから仕方がない。

 

「ま、いっか。早く食べないと昼休み終わっちゃうしな」

「そうだね」

「ええ、そうしましょう」

「半分くらい紡絆のせいだと思うけど」

「俺、悪くない。睡眠、大事」

「なんでロボットみたいな言い方してるの!?」

「そもそも授業中に寝るものじゃないのよ、紡絆くん」

「だからバカなのよ」

「俺はバカじゃないし寝たくて寝てるわけじゃないぞ。聞いても分からないだけだっ!」

「それがバカなんでしょうが!」

 

謎に胸を張る紡絆にツッコミが入る。

何はともあれ、いつもの賑やかさになった紡絆たちは昼食を摂ることにした。

ちなみに周りの生徒たちは、突如として騒がしくなった紡絆たちをまたかと言ったような反応で微笑ましそうに見ていたとか。

どうやら彼ら彼女らは立派に耐性を持ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後になれば、勇者部は部活動が始まる。

バーテックスの出現がまだ分からなくても、新しくまた来るとしても、スペースビーストがいつ現れるのか分からなくとも依然と変わらず。

今日もまた、部活はあるのだ。

そして紡絆は勇者部には行けず、友奈は東郷を勇者部に送ってから次々と依頼を受けていた紡絆を手伝うことを伝えた後に教室へと向かっていた。

本当は東郷や夏凜も手伝うつもりだったが、東郷の場合は彼女が抜けたらパソコンの知識が全くない他のメンバーは何も出来ず、紡絆が居ない状況で友奈が抜けて夏凜も抜けてしまえば依頼が溢れる可能性もあるため、友奈一人で教室に向かっていた。

 

(何でも一人で引き受けちゃうんだよね…)

 

歩きながら思うのが、昼食後の紡絆だった。

次々と同級生たちに囲まれた紡絆は普通に話したり、盛り上がったり、依頼をされて引き受けたりしていた。

中には明らかに押し付けたような感じのもあったが、紡絆は全く嫌な顔もせずに引き受けたのだ。

特に日直でもないのに今日担当することになったのが分かりやすいところだろう。

無論、全員がそうなわけじゃなくて、本音はどうあれ大半の人は申し訳なさそうにお願いしていたようだが、そこは紡絆の人徳がある証だろう。

 

それはともかく、友奈は少し急ぎ気味に教室へ向かうと、ドアの窓から教室の中を覗く。

もしかしたら紡絆が別の場所に行ってる可能性もあっての行動だが---彼は何とも思ってなさそうに机を拭く姿があった。

嫌な顔ひとつせず、何の苦痛とも思わず。

せいぜい、眠気があるのか欠伸をするくらい。

 

(良かった、まだ居た)

 

そう思ってから、友奈は良かったと言っていいものなのかと考えたが、すれ違いにならなかったっていう点では良かったと納得すると、驚かせてもあれなので教室をノックする。

 

「ふああ……んえ?」

「手伝うよ」

 

が、気づいてなかったらしい。

欠伸をして眠そうに目を擦った紡絆はドアが開く音で反応し、友奈は苦笑しながら近づく。

 

「勇者部の方は?」

「小都音ちゃんもいるし東郷さんも夏凜ちゃんもいるから、大丈夫だよ。紡絆くん、今日はいつもより依頼受けてたみたいだから手伝いに来たんだ」

「そっか、まあ早く終わらせられることに越したことはないし、助かるかな。ここは素直に任せようか」

「うん、任されました!」

 

一人でやるより二人で。

時間効率的な意味でもそう判断したのか紡絆は雑巾を絞った後に友奈に渡し、分かれて机拭きを始めた。

太陽がオレンジ色に染まり、教室へと陽射しが入ってくる空間で、そこにあるのは何も無く机を拭く二人の姿。

険悪な空気があるわけでもなく、放課後に思春期の男女が二人っきりという状況なのに変な空気感があるわけでもなく、ただ静けさだけが存在していた。

 

「…………」

「…………」

 

会話がなく、ただ机を拭くだけの時間。

さっきまであった騒がしさも人気も、もはや無く。

唯一あるとすれば、運動場から聞こえてくる運動部の生徒たちの掛け声くらいだろうか。

それ以外は静かで、平和で、まるで教室の中だけが別の世界に取り残されたかのような錯覚にすら思える。

 

(……そういえば、こんなふうに二人っきりになるのは久しぶりかなぁ…)

 

いつもは誰かがいて、こんなふうに静かに作業する機会の方が少ない。

友奈と紡絆は割と一緒に行動するが、外でやる依頼だとやはり人目はある。

でも今は、誰も居ないのだ。

そう、誰も居らず、紡絆と二人だけ。

---そう意識した影響か、友奈はチラリ、と横目で紡絆を見た。

紡絆の姿は変わらずそこにあり、表情は真剣そのもの。

しかし何を考えているのかは分からず、むしろ何も考えてないのかもしれない。

 

「友奈」

 

一言も発することがなかった中、突如として静かに、それでいて柔らかい声音で紡絆が言葉を発した。

 

「…友奈?」

「ふえっ…な、なにかな!?」

 

ただ、ぼうっと手を動かしながら紡絆を見ていた友奈は反応せず、二度目の呼びかけでハッと慌てて返した。

 

「いや、別に大したことじゃないんだけど、黒板拭いてくる」

「あ、う、うん。じゃあ残りはやっとくね」

「頼んだ」

 

特に訝しむことも無く要件だけを話した紡絆は言葉通りに机を拭くのをやめて黒板の方へと向かっていく。

その背中を見ながらも、友奈は顔を振って両頬を軽く叩くと、気を取り直すように拭く作業へと入る。

そうしてまた訪れる、沈黙の空間。

決して居心地が悪いというわけではないものの、二人にしては珍しい空気とも言える。

普段はどちらかが話したりするはずなのだが、何故かお互い何も喋らない。

ただ作業するだけの時間が過ぎ、紡絆が少しやっていたのもあって、友奈が先に終わっていた。

 

「ふぅ…」

 

軽く額の汗を腕で拭い、友奈は紡絆の方を見ると、彼は今黒板を終えたため、箒でチョークの粉を集めている最中だった。

ついでに粉受けの部分も掃除しているらしく、まだ時間はかかりそうだった。

ひとまず自身の仕事を終えた友奈はバケツを両手で持ち上げ、紡絆に声をかける。

 

「紡絆くん、私洗面台でバケツの水捨てて雑巾洗ってくるね」

「ん? ああ、持っていこうか?」

「ううん、平気! 紡絆くんはそっちやってて」

「分かった」

 

バケツの水は半分くらいしか入ってないため、友奈でもそこまでの力を入れなくとも普通に持てる。

だから断ったが、そういう気遣いが普通にできるのは、紡絆の凄いところなのかもしれない。

何はともあれ、そうなると友奈は教室から出なくては行けないため、バケツを手に教室から出ていき、紡絆はそれを見送った後に掃除の続きをしていた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やることは至って単純。

特別難しいことでもなく、そんなに時間が掛かるようなことでもない。

せいぜい歩く時間に少し掛かるだけで、すぐに終わった友奈は教室目指して歩く。

人の気配が少ない校舎。

運動部の人たちが窓から聞こえては来るものの、外を見れば太陽は出ているが何処か雲行きが怪しく、夜には雨でも降るのかもしれない。

 

「……あれ?」

 

そう思っていると、ポケットに入れていたスマホが振動した。

それに気づいた友奈は空のバケツを持ったままスマホを見ると、風から来ていた。

内容は簡潔で、雨が降りそうなため、今日は早く解散するとのこと。

事実、天気予報のアプリを開けば降水量が高く、あくまで予報だが雨が降るらしい。一応天気は晴れてるのだが。

そうなると今日は依頼は出来そうにないが、こういう日もある。

まぁ、そもそも紡絆はある意味依頼をしているようなものだが、兎に角にもそうと決まれば傘を持って来てないため、早く帰らなければびしょ濡れで帰ることになるかもしれない。

このことを伝えるためにも友奈は少し急ぎ気味に教室に向かって歩いていき数分。

無論、行きも早ければ帰りも早く。

 

「つむ……あ」

 

終わったことを伝えようと声を掛けて教室に入ろうとして、友奈の手が引き戸に置かれたまま止まった。

 

「…………」

 

聞こえはしなかったのか返事はない。

しかし静かで、騒がしくもなく、音すら聞こえない教室の中。

ただ普通に入ればいいだけなのに、友奈は開くという行動を取れなかった。

ドアの窓から見えた紡絆は席に着いて窓を見ており、その姿があまりにもの似合っている---わけではない。

似合ってはいるが、友奈が止まった理由はそんなことではない。

紡絆はただ窓を見ている。

対する友奈は教室の外で、珍しく何処か不安そうな表情をしていた。

 

(なんだろう、()()これだ……)

 

胸の前で不安を隠すように握り拳が作られ、ただ紡絆のその姿に何かを感じる。

その不安は、友奈だけが抱いたものではない。

そしてこれは、今日初めて感じたことでもなく、既に何度も感じられた妙な感覚だった。

 

(何故か分からないけれど、最近の紡絆くんを見てると、不安になる。それは東郷さんも同じだったみたいだけど、どうしてだろう……?)

 

そう、東郷も時々感じ取った違和感。

紡絆は窓を見ているだけなのに、その視線は何処か遥か先を見ているようで、ここ()を見てないようで、気がつけば消えてしまいそうな、蝋燭の火のような不安定さを感じられる。

別にそんなことはないはずで、何も無いはずで、それでも家族である小都音を除けば、継受紡絆という人間の近くに最も居たのは東郷美森と結城友奈という二人の人間。

そんな二人だからこそ、気づくことすら難しいほんの僅かな変化に気づいた。

 

(今の紡絆くんは放っておけば、どこかに行っちゃいそうな、消えてしまいそうな感じがして……あの時、みんなで海に行った帰りから感じるようになった…)

 

紡絆が何を考えているのか、それは友奈には分からない。

ただ口角をあげて外を眺める紡絆は一体何を見て、何を感じて、何を思っているのか。

ただ分かることは、友奈は普段浮かべる紡絆の無邪気な、純粋無垢な笑顔や人を惹きつけるような雰囲気は好きでも、こういう紡絆の笑顔や様子は、好きじゃなかった。

だからこそ---

 

「紡絆くんっ!」

 

一歩。

たった一歩を進むだけの勇気を振り絞って、いつもと変わらぬ明るさで紡絆に声をかけた。

 

「……ん? おーおかえり」

 

友奈の声に反応した紡絆は気がついたように目を瞬きさせ、すぐに()()()()笑顔を浮かべる。

その笑顔を見て、内心でほっと息を吐きながらも友奈は表に出さなかった。

いつもそうで、声を掛ければ彼は元に戻る。

なんの違和感もない、いつもの紡絆。

だから友奈は、その一歩を進み続ける。

 

「遅くなっちゃった? 風先輩からメッセージが来てたんだけど、今日は部活はおしまいで帰るように、だって」

「…ん? いや、そこは気にしてな…ああ、ほんとだ。見てなかったなぁ……」

 

立ち上がった紡絆はスマホを取り出し、確認したようで苦笑いを浮かべる。

---その姿を見ると友奈の中にあった、先程の不安は少し和らいでいた。

 

「だからほら、帰ろっ!」

「おわっと…分かったって。そんな逃げるわけじゃないんだから」

 

ただ、ただそれでも、胸の中に残り続けるナニカは日に日に大きくなっているのも確かで、友奈はそれらを隠すように、打ち消すように迷いなく紡絆の手を取って引っ張る。

紡絆はそれに対して何も抱かないまま苦笑いしたままだったが、友奈にとっては違う。

手を繋いでいれば不安は無くなるのだ。こうやって引っ張っていけば、彼はきっと離れることがないだろうと。

少しの気恥しさを感じながらも、友奈の手は彼女が思っているより強く握られていた。

だってこうしていれば、友奈は彼を感じることが出来るのだから。

だが---紡絆にはその痛みは感じられず、ただ手を握られているという感覚程度にしか感じられていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空全体を覆い、厚さや色にむらが少なく一様で、暗灰色をした雲。

乱層雲に埋め尽くされた空の下を、紡絆と友奈は歩く。

時刻はまだ夕刻であり、真っ暗というわけではない。

しかし晴れているのにいつ雨が降ってもおかしくないほどには空は暗かった。

ちなみに二人で歩いているが、東郷は小都音と一緒に帰ったので二人になっただけである。

 

「雨、降りそうだね」

「そうだな」

 

そしてその空を見上げて、友奈が口を開いた。

返ってきた言葉は共感の一言。

続く言葉はなく、無言の時間が生まれかける。

 

「そっ…そういえば、紡絆くんは傘持ってきてるの?」

「いや、ない」

「私もないや…今は大丈夫だけど、降ったら急いで帰らなきゃ」

「ああ」

 

なんてことのない会話。

だというのに、友奈は話題が尽きそうになる度に、別の話題を出そうと考える。

そのまま考えながらチラッと横目で紡絆を見れば、彼は目を細めてぼうっと上空を見ている。

それを見ていたら、やっぱり友奈の中には不安が浮かび上がる。

 

「……紡絆くん」

「……ん?」

 

気がつけば、友奈は彼の名を呼びながら足を止めていた。

紡絆は止まった友奈に対して気づき、名前を呼ばれたことのもあって、止まりながら首を傾げていた。

 

「あ…えっと……」

「……?」

 

止まって、呼んで、そこで終わった。

何を言うか考えていたわけではなく、芽生える不安を無くしたくて、その不安が溢れてしまって、無意識に名前を呼んでしまった。

続く言葉に言い淀む友奈は、胸の前で握り拳を作り、少し俯いたかと思えば、顔を上げた時には何処か覚悟を決めたような表情になっていた。

 

「紡絆くん。最近…何かあった?」

「…へ?」

 

何かを考えて発言したわけじゃない。

故に友奈の疑問に、紡絆は素っ頓狂な声を上げる。

そして驚いたように、目を数回瞬きさせていた。

 

「あ…その、なんだろう…。なんだか紡絆くんが遠くに行っちゃいそうな、そんな感じがして……だから何かあったのかなって」

「いや、特になにかあるわけもなく至って普通だけど……さっきからなんか様子がおかしかったのはそれか?」

「お、おかしかったかな?」

「俺はそう感じたなー」

 

聞いても特に何ともなさそうに言われ、逆に言葉を返された。

時々無駄に鋭いときがある紡絆だが、今回ばかりは友奈が分かりやすかったのもあるだろう。

 

「まぁ、けど---」

 

一度区切り、前にいる紡絆は暗く、それでも大空に広がる雨雲を見つめた後に、振り返るように友奈を見た。

その時の紡絆は何かがあるわけでもなく、ただいつも通りの普通の表情。

唯一違うのは、真剣そのものな所。

 

「俺は何処かに行ったりしないよ。少なくとも困ってる人や、今の友奈みたいに笑顔を浮かべてない子がいるのに、俺が何処かに行くわけないだろ?」

 

そう言いながら、彼はニッといつもの笑顔で笑う。

その笑顔は不安を煽るようなものではなく、怖くなるようなものでもなく、人を安心させるような、そんな笑顔。

その姿は、姿こそ---

 

(……あぁ、いつもの紡絆くんだ)

 

誰かを思いやる優しさ。

人を置いていくことなく、誰かと寄り添って歩ける強さ。

惹きつける魅力。

紡絆が紡絆たらしめるものは確かに存在して、変わってなくて。

 

(私、自分でも気づかないうちに不安になってたのかな。紡絆くんといると、私は私じゃなくなって、つい後ろ向きになっちゃう…)

 

友奈はあくまで勇気を振り絞っているだけで、彼女もただの女の子。

バーテックスとの戦いも、スペースビーストとの戦いも、全部怖くて、それでも勇気を出して戦っている。

自分が弱音を吐いたり、不安になれば、みんなもそうなるかもしれない、と明るく居ているが、友奈も本当は足が竦むほどに怖い。

今回みたいに、異常に不安になる時だってある。

そんな友奈が唯一、弱音を見せられるのが、()()()()()()の姿を見せられるのは、紡絆だけなのかもしれない。

否、紡絆の人間性が、友奈の本当の心を引き出しているのか。

 

「前も言ったろ」

「……え?」

 

突如として言われた言葉に、友奈の思考が固まる。

そんな友奈を見て何を思ったのか、紡絆は彼女に寄り、その手を取った。

 

「あ……」

「別に弱音を吐いたっていい。何かあるなら、言ってくれたらいい。友奈も普通の女の子だろ。俺には特別何か出来るような力はないけど、こうやって手を伸ばすことはできる、掴むことは出来るんだ」

 

握られた手。

伝わる体温はとても心地よく、陽射しの光を浴びているような錯覚を覚えるほどに温かい。

手を伝わり、胸につっかえる憂いが浄化されていくように、友奈の心にも響いていく。

 

「……すごいなぁ」

 

無意識に、呟かれた言葉。

その声はあまりにもの小さく、紡絆には聞こえていないようだったが、それは友奈の本心だろう。

 

(影が差し込んでも、紡絆くんは簡単に照らして、誰かに勇気を与えれる…それって本当に()みたいで、紡絆くんがウルトラマンになれるってことが、全然不思議でもないように感じられる。

もしかしたらウルトラマンも、紡絆くんだからこそ選んだのかな)

 

友奈の見つめる先には、誰よりも前を歩いて、共に歩んで、誰かを笑顔にさせることの出来る、とても眩しくて強い男の子がいる。

在り方は変わることなく、まるで物語に出てくるようなヒーロー。

困ってる人や悲しんでる人が居れば、打算無しで手を伸ばして人助けする少年。

 

「友奈?」

「……ふぇ?」

 

そうして、ただじっと見ていた友奈は、紡絆の呼び掛けに我に返る。

どうやら思い耽ていたせいで話は聞いてなかったらしいが、紡絆が何を言っていたのか友奈は聞いていなかった。

 

「……まぁ、いいか。()()で友奈が安心出来るなら、なんでもいいや」

「………?」

 

紡絆の言葉が理解出来ず、ただキョトンとする。

なんの事かと状況を理解するように見て、違和感のあった手を見た。

そこには、強く握られた手がある。

それも、紡絆からではなく友奈から。

 

「え、あ…こ、これは、その……」

「…ん?」

 

その事に自覚したからか、友奈はさっきまで手を取ることに気にしていなかったのに、何故だか無性に顔に熱が集まる。

紡絆は不思議そうにしているが、すぐに笑った。

 

「たまにはいいんじゃないかな、こうやって繋いで帰るってのも。俺は友奈と居られるの楽しいし、それで安心出来るならなんだっていいからな。

どうするかは任せるけど」

 

そう言う紡絆は別に気にした様子はなく、恥ずかしがってる様子は微塵もない。

ただ本当に任せる気なのか、紡絆の手に力は入ってなかった。

 

「………」

 

悩むように手と紡絆の顔を友奈は見る。

自身の手とは違くて、ゴツゴツとして固く、力強くも優しさを感じられる手。

 

(こ、こうやっていると、()()()()()()だと思われそうだけど……。でも……)

 

普段はそんなことを考える友奈ではないが、こうやってふとした時にただの気が合う友達ではなく、()()なんだと意識する時はないわけではない。

故に、僅かながらそのような思考に至るが、友奈はじっと下から覗くように紡絆を見つめる。

 

「……うん、たまにはいいよね。友達でも、手を繋いで帰るもんね」

「そうだな…いや、そうなのか? すまん、それは流石に分かんないや」

 

誰に言っているのか、よく分からなくなって言い訳がましい発言をする友奈に紡絆が反応するが、紡絆に分かるはずもない。

 

「えっと…だから紡絆くん、その……良かったら、このまま帰っても…いい? も、もちろん嫌ならいいからね!?紡絆くんが嫌なら無理にってのも嫌だし、こうやっていると不思議と安心出来るから居たいだけで別に他に理由がある訳でもなくって、男の子の手ってこんなんなんだなーとかもう少し繋いでいたいって思ったわけじゃなくって---」

「い、いや俺は全然いいけど。じゃあ、このまま帰ろうか」

「あっ……う、うん」

 

慌てるように捲し立てて次々と紡がれる言葉に友奈自身よく分かってないが、それ以上に理解することに思考を完全停止させた紡絆は全く力の入れてなかった手に少しの力を入れる。

すると二人の間には手が繋がれ、改めて自覚すると友奈は顔を赤くしながら珍しくも俯きがちに弱々しく頷いた。

 

「…雨、夜になるまでは降らなさそうだなー」

「そ、そう……だね」

 

上空の天気は曇ったまま。

しかしながら友奈の心を表すかのように、真っ暗なわけではなく、確かに明るかった。

そんな下を、二人は手を繋いで歩く。

男女の違いはあれど、同じ学校の制服を着て、鞄を持って、少しの身長差しかない二人が手を繋いで歩く姿は、周りから見れば恋人にしか見えないが、そのことを指摘する者は居らず、せいぜい通りすがりの人が微笑ましく見たくらいだろう。

 

(きっと、大丈夫。だって、紡絆くんはこうやって近くにいるもん。凄く温かくて、安心出来て、ちょ、ちょっと恥ずかしいけど、たまには甘えたって…いいよね。うん、不安が無くなるから手を繋いでるだけだし、他に理由なんてないし…でもやっぱり、私にとって紡絆くんは()()なんだなぁ…)

 

自分が自分らしく、()()()()()を見せられる相手で、誰よりも眩しくて光のような異性の男の子。

誰かに伝えたこともなければ、特に本人に伝えるには恥ずかしくて言えないが、密かに憧憬を抱く相手。

その感情を改めて抱きながら、友奈は自分が気づかない内に寄り添うように体を寄せていた。

---当然、普段が鈍感過ぎる紡絆は一切気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰れば、紡絆を迎えるのは当然ながら小都音だった。

しかし玄関先でエプロン姿で出迎えた小都音は、紡絆をじーっと見つめる。

それもどこか、探るような視線。

なんだか家族とはいえど、妙にむずむずというか、とにかく落ち着かない紡絆は苦笑して口を開いた。

 

「……ちゃんと弁当は食べたからな?」

「うん、どうしてそこだと思ったのか私でも分からないけど、ゼリーは持って行ってたよね?」

「………」

 

どうやら見当違いだったらしいが、にこやかな笑顔を紡絆に向けながらも確かに怒っている小都音の表情を見て、紡絆は思い切っきり視線を逸らした。

見込みを誤った上に、自爆する紡絆である。

 

「おにいちゃん?」

「…ごめんなさい」

 

にこにことしているのに、何故か逆らうことの出来ない威圧感を感じた紡絆は、素直に謝った。

たまに勇者部の中では東郷相手にもあるが、何故こうも何も言えなくなる時があるのか紡絆は不思議だった。

 

「謝ってもどうせやるでしょ。お兄ちゃんのことはお見通しだよ」

「流石だなぁ…」

「やっぱり反省してない……」

「あはは」

 

ジト目で見つめる小都音から逃れるように、紡絆は体ごと背けた。

笑って誤魔化そうとしているが、誤魔化せるはずもないだろう。

 

「……はぁ、もういいよ。それより結城さんと帰ってきたの?」

 

そんな紡絆に対して諦めたのか、ため息を吐いた小都音が話を変えるように紡絆に聞く。

 

「ん?ああ、一緒だったし」

「そっか。だったら、もう大丈夫だね」

「え、なにが?」

「んーん、何も分からないお兄ちゃんは知らなくていいの」

「さらっと貶されてるような…」

「気のせいじゃない?」

「そうか、気の所為か」

 

あまりにものちょろい紡絆だが、考えても分からないため思考放棄したようで一緒にリビング歩いていく。

 

「……まぁ、でも…程々にして欲しいけどね」

「何か言ったか?」

「お兄ちゃんは相変わらず人たらしだなーって」

「???」

 

小声で呟かれた言葉は聞こえなかったらしいが、全く脈略もなければ意味のわからなかった小都音の発言に紡絆はただ頭の上で疑問符を浮かべまくっていた。

しかしながら、兄に対して妹の察し能力は高いらしく、何があったのかおおよそ予想出来ているような様子ではあるが---ともかく。それからリビングへと向かった二人。

いつものようにご飯を食べ、いつものように過ごし、時間が過ぎていく。

窓を見れば雨雲があったから予想出来たが、雨が降っていた。

 

「凄い雨だね…」

「…ああ、大雨だな」

 

小雨ではなく、大雨。

じぃっと窓を見ていたら、凄まじい量の雨粒が見えてどれほど降ってるのかが分かる。

もし部活をしていたら、本当にびしょ濡れで帰ることになっていたかもしれない。

少なくとも傘を持たずに外に出れば、すぐにびしょびしょになりそうだった。

 

「お兄ちゃん?」

「………」

 

ただ窓を眺める紡絆が気になったのか、小都音が声を掛ける。

しかし紡絆からは反応がなく、少しして彼は顔を上げると小都音の方へ振り向く。

 

「小都音、俺ちょっと外行ってくる」

「え?」

「帰り、遅くなると思うから気にせず寝ておいてくれ」

 

制服からエボルトラスターとブラストショットを取り出し、ズボンのポケットに入れた紡絆は上着だけ取ると、言葉を聞く前に玄関へ急いで走っていく。

 

「ちょ、ちょっと待って、お兄ちゃんっ!」

 

慌てて小都音は玄関先へ向かい、靴を履こうとしていた紡絆の腕を取って止めるが、紡絆は視線を向けながら首を傾げた。

 

「こんな時間に、何処に行くつもり…?」

「大丈夫だって。コンビニに行くだけだから」

 

訝しげに、それでいて心配といった表情で向けられる視線に、紡絆はいつもの笑みを浮かべると、小都音の手を優しく解いて頭をぽんぽんと撫でる。

 

「あっ……」

 

そうして、彼女の言葉を聞くよりも早く、()()()()()()外に出ていった。

その姿を小都音は見ているしか出来ず、伸ばされた手は空を切っていた。

 

「……嘘つき」

 

果たしてそれはどの意味が込められた言葉なのか。

悔しさか、それともまた別の感情なのか。

唇を噛み締めつつ俯きながら呟かれた言葉は、誰かに届くことも無く、一人となった家の中に消えていった。

ただ分かるのは、小都音の手は、紡絆に届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が降る中。

紡絆は必死に走っていく。

しばらくして辿り着いたのは、人気のある場所ではなく、全く人気もなければ雨音しか聞こえない、少し開けた場所。

 

「……来る」

 

“ドクンッ︎︎ ︎︎”

紡絆の口から発せられた言葉と同時に、エボルトラスターが小さく鼓動した。

そのタイミングで彼の体は輝く。

人気のない場所へわざわざ来たのは、誰にも見つからないためだろう。

それは判断として正しかったようで、暫し待つことも無く、一瞬で紡絆の体は現実世界から別世界ともいえる、真っ暗な遺跡の世界へ転移させられた。

もはや見慣れ、それでいて決して来て欲しくはなかった現実。

ただし、そこにスペースビーストの姿は何処にもなかった。

 

「……?」

 

普段は戦闘が始まると言うのに、またしても気配がしない。

エボルトラスターも鼓動することなく、周りを見渡す紡絆だが、無論何も無い。

あるとすれば木々や古びた岩くらいか。

 

「---ッ!?」

 

ただ警戒しながら周りを見渡していると紡絆は嫌な予感を感じると共に、横へ転がった。

瞬間、さきほど紡絆がいた位置が爆発し、紡絆は巻き込まれながら吹っ飛ぶ。

 

「くっ……なんだ…!?」

『フッ……よく避けたな』

 

土埃が舞う中、独特なシルエットが映り込み、聞こえてきた声を、紡絆はかつて聞いたことがあった。

迷いなくエボルトラスターを握りしめ、そこを睨む。

 

「……メフィスト?」

 

以前の戦いでは現れることがなかった、ファウストに次ぐもう一人の闇の巨人。

死神に似た見た目をするその巨人は、右手から三日月形光線---ダークレイフェザーを迷いなく放つ。

 

「くそっ!」

 

すぐさま後ろへ跳ぶことで回避を試みるが、衝撃波は回避出来るはずもなく、後ろへ跳んだ影響もあって紡絆の体は大きく離されるが、体勢を崩しつつも着地すると、エボルトラスターを構える。

 

「っぁ……!?」

 

生身では対抗出来ないと分かっている紡絆はすぐに変身しようとエボルトラスターを引き抜こうとするが、左肩から我慢できないほどの痛みが走り、思わず左肩を抑える。

 

『フンッ!』

「うっ……!?」

 

展開されたメフィストクロー。

身体能力に大きく差があるようで、一瞬にして接近された紡絆は唇を噛み締めながら痛みに耐え、振り下ろされたメフィストクローを両腕で防ぐ。

その際にエボルトラスターがどこかへ吹き飛ぶが、追う余裕などない。

なぜなら人間の身では耐え切ることが出来ずに膝を着き、力が込められると体が海老反りになりつつある。

 

「う、ぐぅ……!」

『どうした、光を纏わないのか?』

 

期待するような、余裕の見える様子でメフィストはクローを押し込もうとする。

それを両腕で防ぎながらもギリっと紡絆の歯から音が鳴る。

 

「なんで……」

『……ん?』

「ど、して……ッ!」

『………!』

 

足に力を入れ、崩れそうな体勢から少しずつ立とうとする。

生身でメフィストの一撃を両足と両腕の力で押し返していく紡絆の姿にメフィスト自身も少し驚いたように力を込めていた。

 

「俺は……戦いたくない…!」

『…なんだと?』

 

力の差は互角。

しかしメフィストからは、紡絆の言葉を聞いて明らかに不快となった。

それを示すように、押し返していた紡絆の体は、最初よりも押されていた。

 

『何を言うかと思えば…くだらないことを。戦いたくないだと? ならば、貴様は死ぬだけだ!』

「……がはっ!?」

 

足を上げたメフィストに反応するが、両腕が塞がっている紡絆に防ぐ術はなく、腹部に蹴りを受けた紡絆は勢いよく吹き飛ぶ。

そして地面に落ちると転がり、止まると腹を抑えていた。

 

『言った筈だ。これはデスゲームだと…!

貴様が死ぬか、オレが死ぬか。それだけに過ぎん。ファウストのやつは()()()()負けたようだが…それにやつを殺した奴が何を言う?』

「……! お前…あいつは、仲間じゃなかったのかよ…!」

『敗者に存在価値など必要ない』

 

死者を冒涜するような発言。

自分のことでもないのに、紡絆の握り拳が血が滲むほどに強く握られ、歯ぎしりしていた。

 

「……あいつも、ちゃんと生きていた…敵同士だったけど、確かに生きていた…!

それを悪くいうのはおかしいだろ…!

お前の言う通り、ファウストは、母さんは俺が殺した。その罪は、決して消せない!

でもこうして話せるなら、そんな悲劇は起こす必要は、する意味は無いだろ!

俺たちは話し合えば分かり合うことだって、きっと---ッ!」

『黙れ』

 

一瞬。

強化された紡絆ですら見えない速度で、メフィストが紡絆の首を絞め上げながら木に勢いよく叩きつける。

背部に受けた衝撃で酸素が肺から抜け、首を絞められているのもあって呼吸が出来なくなるが、紡絆は真っ直ぐな瞳で見つめていた。

 

『貴様の目も、言葉も、在り方も、全て不愉快だ。忌々しい。

分かり合えるだと?光である貴様と闇である我らが分かり合えるはずもない。なぜそうして諦めない?なぜ今もオレをそんな瞳で見ている?』

 

締め上げる力が強まり、空中なのもあって足がぶらつく。

メフィストの手を両腕で掴んで緩めようとするが、紡絆の力を悠々と超えている。

その程度では効果もなく、それでも紡絆は苦しそうにしながらも見ている。

 

「ず……っと、かん、がえ……てた! 俺が、得た…ひか、りのい……み!」

『…………』

「わ、わっ、か……らな、い。い…いまも…! それ、でも……それでもッ!」

『ッ!?』

 

紡絆の力が、強まる。

浮いていた体は徐々に地面に近づき、紡絆はメフィストの腕を引き離していく。

 

「救いたい……これ以上、誰かを失いたくない!もう目の前で、誰かを死なせたくないんだっ! ファウストを殺して思った!分かり合えたんじゃないかって!闇も光も関係ない!人間だけじゃなく、お前たちも!みんなが笑顔になれるように、誰かの幸せを、守りたい!」

 

そうして勢いよく腕を振り下ろし、メフィストの拘束から逃れた紡絆は横に転がる。

 

『…ハッ、何を言うかと思えば、そんな理想を振りかざして、何になる? それを叶えたいならば、戦うしかない。戦わなければ、貴様の守りたいものが失われるだけだ』

 

鼻で笑い、ただ嘲笑う。

メフィストに背を向ける紡絆の拳は握られていて、一体何を思っているのか。

 

「お前だって、生きてる…考えも、感情も、言葉も話せる…なら、それなら…!」

『バカバカしい。オレたちにとって、貴様という存在は邪魔でしかない。いや、そうだな---貴様にとっての絶望は、()()()()の破滅か。であるなら、オレが破壊してやろう。守りたいものを失えば---貴様がどうなるか、楽しみだ』

「………そうか」

 

悟る。

会話を交わし、ほんの少しでしか無かったが、理解してしまった。

光である紡絆の道と闇である彼らの道は同じになることはなく、それぞれ逆方向で異なる。

悔しそうに、辛そうに、紡絆は俯く。

道が繋がることも、思いが届くことなど決してない。

分かり合うことなど出来ず、最初から殺し合う関係にしかなれない。

それこそ、定められた宿命。

ウルトラマンを宿した、紡絆の辿るしかない道。

 

『話す必要はもうない---戦わないならば、貴様は死ぬだけだ』

「ああ---そうかよ、分かった……どうやっても、分かり合えないんだよな…。だったら俺は---」

 

背後から迫る、ダークレイフェザー。

生身で受ければ間違いなく死ぬそれは気づいてるのか定かでは無いが、紡絆の手には吹き飛ばされたはずのエボルトラスターがいつの間にか握られていた。

 

「お前を止めるために戦う!これ以上誰かを殺させない、犠牲にさせない!それが---俺として、ウルトラマンとして出来る、分かり合うことの出来ないお前たちに出来る、唯一のことだ!」

 

殺すために放たれた一撃が迫る。

しかし、振り向いた紡絆の表情からは迷いなどなく---否。

最初から彼に迷いなどない。

ただその道があるのかどうか、聞きたかっただけ。

それが無意味だと悟ることになってしまったが、彼の覚悟を示すように既に鞘の抜かれたエボルトラスターが横向けに向けられていた。

 

『シュアッ!』

 

同時に光に包まれ、巨大化したネクサスがアンファンスとしての姿で片腕を突き上げながら()()()()遺跡の世界で誕生した。

光に照らされたその雨は、別世界だと言うのに何を現しているのか。

まるで紡絆の心情を表すかのように、()()()()()()()()()()()()()()()()ように、降り続ける。

 

『戦う気になったか…それでこそやりがいがある! 貴様の光を得て、全てを滅ぼしてやろう…ハッ!』

 

決して混じり合うことのない道。

互いに進む道が違い、互いに迷いも戸惑いも、考えが変わることの無い彼らは戦うしかない。

それを示すように、雨の降る遺跡には巨大化した二人の光と闇の巨人が対峙していた。

 

『……フッ!?』

 

だが---これは殺し合い。

止めるために戦う紡絆と殺し、世界を滅ぼすために戦う闇の陣営には関係ない。

1対1など生ぬるいことが出来るはずもなく、生み出された暗雲からノスファルモスが現れた。

 

『シュ……デアッ!』

 

アームドネクサスを胸元で輝かせ、腕を振り下ろす。

雨粒が弾き飛び、ネクサスの姿が変わる。

銀の姿から、青の姿へ。

貫通力と消費エネルギーの低さと速度に特化した、本来は違う紡絆だからこそのジュネッスブルー。

 

『フン……ハァッ!』

『シェアッ!』

 

メフィストクローを構えるメフィストと素早く駆けるネクサスが交差する。

互いにダメージはなく、振り向くメフィストと向かってきたノスファルモスを捌き、後ろ蹴りで軽く怯ませたネクサスの視線がぶつかり合った。

 

『…………』

『…………』

 

場の膠着。

見つめ合う彼らは動かず、互いに攻め手を探していて---最初に動いたのは、ノスファルモスだった。

例の如く三体の幻影を生み出し、ネクサスに接近する。

 

『!』

 

どれが本物かは分からない。

一瞬にして囲まれたネクサスは見渡し、即座に空いている空中に逃れるように跳躍した。

 

『デェアッ!』

『ぐっ…!?』

 

その考えは読まれていたようで、明らかに誘い出されたところをメフィストが両脚で蹴り飛ばす。

しかし明らかに空いていたのは空中のみ。

ネクサスも予想していたのかガードに成功し、空中で回転すると大きく回る。

放たれた溶解液はネクサスに直撃せず、ネクサスは遠回りしながらメフィストに拳を真っ直ぐに突き出す。

だがあっさりと防がれ、反撃に放たれたクローを下がることで避けるとアームドネクサスが輝き、振り抜こうと---

 

『ぐあぁ!?』

 

したところで、背中に青い光線が直撃し、その隙を逃すメフィストではなく、上空から首を締めながら地面に叩きつけていた。

地面に叩きつけられた際の痛みに悶える隙もなく、締められる。

 

『う……ヘアッ!』

 

メフィストの腕を掴んだネクサスは捻るように拘束を外し、拳を叩きつけて引き離すと右腕から形成したシュトロームソードを腕に添えながら振り向く。

するとシュトロームソードに溶解液が直撃し、それらを切り裂くとパーティクルフェザーを放ち、背後から放たれたクローをシュトロームソードで跳ね除ける。

 

『ハアアッ!』

『ヘェアッ!』

 

互いに腕を戻し、シュトロームソードとクローが同時に突きつけられた。

光と闇が膨張し、ネクサスとメフィストの体を吹き飛ばす。

 

『ウウッ……!』

『っ……ヘェッ!?』

 

メフィストは吹き飛んだ際に後転で体勢を戻し、元のアローアームドネクサスに戻ってしまっているがネクサスは後退していた。

復帰の早いネクサスがメフィストよりも早く攻撃に転じようとしたところで、背後から両腕をがっちりとホールドされる。

 

『シュアっ、デェアッ!』

 

すぐさま力を入れ、拘束を逃れようとするネクサスだがノスファルモスの力は強く、拘束が外れない。

 

『---ダアァッ!』

『ウアッ…!』

 

そんなネクサスに走るメフィストがクローを突き出し、抵抗していたネクサスは背後から突如力が消えた影響で自ら前進することになり、クローの一撃を胸に受ける。

ダメージによって体が反転してしまうネクサスだが、そこにノスファルモスの爪が襲いかかり、左腕で防御するもののあまりにもの力に防御が剥がれ、メフィストから強烈な回し蹴りを受ける羽目になる。

 

『グァッ…!?』

 

己の力を超える、ネオ融合型昇華獣とダークメフィスト。

真正面から戦っても勝てないと判断したネクサスは胸を抑え、アームドネクサスを交差した。

 

『……ん?』

 

周囲を見渡すノスファルモスと、動きを止めるメフィスト。

視界から消えたネクサスに対して、メフィストは冷静に上空を見つめた。

 

『シュアァァ---デュアァ!』

 

メフィストたちを見たまま空中で上昇しながら下がるネクサスは前傾姿勢になると両腕を交差し、両手で三日月型の光刃を発射する。

一度放った後、ぐるぐると空中旋回しながらさらに連続で発射していくと地上へ三日月形の光刃が迫る。

ボードレイ・フェザー。

それらに対してメフィストは連続側転で躱し、ノスファルモスは幻影を生み出すことで回避する。

 

『ハアッ!』

 

全てを回避し、両腕を広げて赤黒い光弾を形成したメフィストはその光弾に左掌をぶつけ、上空に光弾が放たれた。

 

『フッ---!?』

 

空中旋回していたのもあって、元の体勢へ戻るのと同時に接近してきた光弾を避けようとネクサスは動き出すが、それらはネクサスの上空で拡散。

ジュネッスブルーの高速スピードで次々と避けていくものの、青い光弾と網のように拡散した溶解液がネクサスの動きを止め、拡散した光弾が落ちることなく元の形へと戻るように中央へといたネクサスに一気に襲いかかった。

 

『シェ---ウアァアアアッ!』

 

当然逃げ場を完全に消されたネクサスに避ける術はなく、目の前をサークルシールドで防御するが、上下左右、後ろから光弾が直撃し、回転しながら物凄い速度で頭から落ち、轟音を響かせる。

 

『う……アァッ……!』

 

一体でも苦戦するネオ融合型昇華獣がいるのに、メフィストがいればボロボロなネクサスには手も足も出ず、コアゲージが赤く染まり、点滅が()()()始まる。

勇者もおらず、独り。

勝てる見込みもない戦い。

それでもネクサスは立ち上がる。

 

『デェア!』

『ウグッ……!』

 

ふらふらになりながら立ち上がるネクサスに、ゆっくりと歩んだメフィストがクローを縦に振り下ろした。

アームドネクサスでガードし、ノスファルモスの突進に吹き飛ばされ、地面に落ちるよりも早くに幻影から入れ替わり、ネクサスの吹き飛ぶ先に存在したもう一体のノスファルモスがネクサスを吹き飛ばし、キャッチボールするかのように次々と吹き飛ばしていく。

ただひたすらにダメージを負い、持ち前のスピードすら、ノスファルモスには通用しない。

例え抜け出せても、素早いメフィストの動きに翻弄され、崩された状態を整える前にやられてしまう。

そして、ノスファスモスの爪とメフィストのメフィストクローがネクサスの胸を切り裂き、火花が散る。

 

『---ウワッ……ェヤアアアアァァ!?』

 

反撃することも叶わず、さらなる連斬に怯むネクサスにノスファスモスの頭突きとメフィストの蹴りが炸裂し、ネクサスの体を吹き飛ばした。

 

『…………』

 

着地することすら出来ずに地面を転がり、うつ伏せに倒れたネクサスが動かない。

近くには例のオブジェクトも存在し、着地したメフィストは見下していた。

 

『その程度か?』

 

せめて紡絆という適能者(デュナミスト)の肉体が回復していれば、結果は変わっただろう。

彼が一人ではなく、勇者を連れてきていれば、変わっただろう。

---もはや希望はなく。

 

『……ァ…シェ…。デェアアアアアアッ!』

 

だが、ネクサスは立ち上がり、さっきよりも高速になったコアゲージに右腕を翳す。

同時にアローアームドネクサスにエナジーコアの光を投影してアローモードを形成した。

光の弓を引き絞り、虹色の輝きがネクサスの体を覆う。

 

『ハッ! ハァァァ---』

 

対するメフィストはつまらそうに見つめ、両腕を交差した後に左右に広げると両腕を下に大きく回した。

闇のエネルギーが纏わり、右顔付近に前方に向けた右腕を左拳で覆うと、右腕のメフィストクローを後ろ側に横に構えたまま十字となった左腕から赤黒い光線が放たれる---ダークレイ・シュトローム。

そしてネクサスから放たれたのは、超高速の光の弓。

アローレイ・シュトローム。

互いの技がぶつかり、光と闇の稲妻が辺りに響き、中心でエネルギーが収束---膨張し、大きな爆発が起こる。

そして---ネクサスの瞳から、光が消え失せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

825:名無しの転生者 ID:zjyy4tlJ

い、イッチ!? おい、しっかりしろ!

ダメだ、エネルギーが消えた……。だから勇者を連れてこいって言ったのに…!

 

826:名無しの転生者 ID:tRrnFX/+F

ったりめぇだろ!本来なら次に継承してても可笑しくないレベルなのにここまで連戦だぞ!?持ってた方がおかしかったんだよ!

休んでも回復しないし、マジでやべぇ! このままじゃ世界が滅びる!イッチだけじゃなく、ノア様も限界なのか…!?

 

827:名無しの転生者 ID:E9LmNPQ7i

くそっ!せめて勇者が居てくれたら!そうしたら御魂を引きずり出せるのに…!

って、おいちょっと待て!なんか掲示板もおかしくないか!?

 

828:名無しの転生者 ID:8fcsjHd33

え、なにこれ、何がおきてんの!?こんな現象見たことないぞ!?

 

 

829:名無しの転生者 ID:cJ6B5zhit

いイッチ!立て!頑張ってくれ!

く、くそっ、バグてんのか!?映像が、きえ

 

 

830:名無しの転生者 ID:YXD4hntmR

ちょ、まっ、な、んだ、これ。文字すら化け鬆大シオ繧後う繝?メ???シ繧?縲∫ォ九▲縺ヲ縺上l?√♀蜑阪@縺九◎縺ョ荳也阜繧貞ョ医l繧九d縺、縺ッ縲√>縺ェ縺?s縺?窶ヲ窶ヲ縺薙?縺セ縺セ縺倥c縲∝?驛ィ邨ゅo縺」縺。縺セ縺??ヲ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---雄叫びを上げるノスファルモス。

地面に手を付きながら、頭を抑えて見つめるメフィスト。

視線の先には、コアゲージを鳴らしつつも倒れたネクサスが存在していて、瞳に光はなかった。

 

『---なんだ?』

 

勝利を喜ぶように、ノスファルモスがトドメを刺すべく歩いていく。

それを背後から見ながら、何故か安心出来ないメフィストは、訝しげに見つめていた。

何も無い。

ネクサスは力尽き、もはや立ち上がる力はないだろう。

だというのに、胸の内には不安だけがある。

そしてその不安は---まさに的中しようとしていた。

 

 

 

 

 

『ハアッ!』

 

ネクサスの瞳が戻り、物凄い速度でノスファルモスが吹き飛ぶ。

その事実に唖然としていたメフィストはすぐに我を取り戻し、ダークレイフェザーを飛ばした。

 

『フッ---デェアッ!』

 

アームドネクサスを輝かせ、ジュネッスへとタイプチェンジしたネクサスがダークレイフェザーを縦に切り裂き、一直線に走る。

 

『なっ……フッ! ダアッ!』

『ジュワッ!シェアアッ!』

 

驚く暇もなく、接近を許してしまったメフィストはクローを突き出すが、ネクサスはそれを流し、肘打ちで胸を打つと、反撃で繰り出された蹴りを叩き落とし、流れるような動きでメフィストの腹に深く腕が突き刺さる。

その状態でアームドネクサスにエネルギーが行き渡り、エルボーカッターが一気に切り裂く。

思わず腹を抑え、体を丸めてしまったメフィストが顔を上げた瞬間には、顔面に放たれたクロスレイ・シュトロームがメフィストの体を一気に吹き飛ばした。

 

『!』

 

怒ったかのような獣のような声の叫び。

ノスファルモスがネクサスを囲む。

幻影の三体。

一斉に攻撃を仕掛け、誰が本物か分かりづらいように動いていた。

ネクサスは構えを解き、首だけを動かして視線を彷徨わせる。

 

『………』

 

一番最初に前方から放たれた溶解液。

足を一歩後ろに動かすことで避け、突撃してきたノスファルモスの一体をスルー。

ネクサスの体をすり抜け、幻影が新たに生まれる。

そして背後から放たれた青い光弾を半身を逸らすことで避け、振り下ろしてきた爪に反撃することなく、背後のノスファルモスも消えて新たに幻影が生まれる。

最初に生み出した残る一体。

斜め横からダイブしてくるが、ネクサスはそれを無視した。

---すり抜ける。

 

『フッ!シュアッ!』

 

最初に生み出されたのは全て幻影に入れ替わったようだが、既に左右からは新たに生まれたはずのノスファルモスが同時に襲いかかった。

するとようやくネクサスが構え、瞬時に腕に炎を纏い、拳を()()()()()()()()()

明らかに両サイドを狙うべきなのに、迷いなく放たれた一撃。

それはなんと、真っ直ぐに突撃してきたノスファルモスの腹部にその拳が突き刺さっていた。

その戦い方は---正しく、()()()()()の如し。

炎の円柱がノスファルモスを貫き、風穴を開けながら彼方まで吹っ飛ばしていた。

 

『………ぐぁっ……!』

 

それを見据え、追い打ちをかけるべく両腕を輝かせ、交差した。

トドメの一撃であるオーバーレイ・シュトロームの動作へ入り、突如として膝が崩れ落ちる。

限界を迎えたようにネクサスの体は倒れ、ジュネッスブルーへとタイプチェンジしながら片足を着いていた。

 

『………ッ!?』

 

そして次に、ネクサスは周りを見渡していた。

その瞳は白く輝いており、輝きは失われていない。

ただどこか困惑しているようにも見える。

 

『な、んだ……何が、起きた…!?』

『!』

 

理解が追いつかない様子でメフィストが立ち上がっていたが、その体はふらついている。

明らかに違った、ネクサスの姿に狼狽えながら。

そのことに反応したネクサスは構える。

 

『ぐ……デェアッ!』

 

先程のダメージが大きく響いているようでメフィストは崩れ落ちそうになるのを耐えると、最後の抵抗と言わんばかりの行動に出た。

右手のメフィストクローを横に向けるとクローが黄緑色に輝く。

光が収まると、メフィストは横にしたメフィストクローを前方に構えた左腕の前に添え、素早くメフィストクローを右腰に添えるのと同時に左腕を横にしながら胸元で構える。

するとエネルギーが収束し、メフィストは真っ直ぐにクローを突き出した。

それによって黄緑色の光弾が放たれる---メフィストショット。

その狙いはネクサスではなく、その背後だった。

そう、遺跡のオブジェクト。

ストーンフリューゲルのような形をした、遺物。

 

『シュワッ! グアアアァァァアッ!?』

『ヌグァ……!』

 

瞬時にそれに気づき、ネクサスはパーティクルフェザーを飛ばしながら横へ飛び、己の体を犠牲にするように両腕を広げて守ろうとしていた。

咄嗟に放たれたパーティクルフェザー。光粒子エネルギーの刃と黄緑色の光弾が僅かに上下にズレ、互いの技がぶつかり合うことなく通り過ぎる。

相殺が叶わなかったメフィストショットは守ろうと飛び込んだネクサスの胸へ直撃し、その威力はネクサスの体を簡単に吹き飛ばした。

そこでネクサスの体が光り輝く。

それと同時に光粒子エネルギーの刃がメフィストの横腹を切り裂き、メフィストが地面に膝を着いた。

そしてネクサスの体が遺跡のオブジェクトに当たる直前---ネクサスの姿は遺跡から消え失せ、メフィストも消える。

その場の遺跡には、ウルトラマンも、ウルティノイドも、回収されたのかネオ融合型昇華獣も、全て消えていた。

つまり---彼らの戦いは、相打ちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弾かれるように、紡絆の体が大きく吹き飛ばされる。

突如として空間に穴が開き、紡絆は遺跡に来る前の場所ではなく、砂浜に体をバウンドさせ、転がっていく。

ようやく止まれた紡絆は自身の唯一見える視界が赤く染まってることに気づくものの、意識は朧気だった。

 

「ま、だ……た、たた…か……え………る」

 

目の前に落ちるエボルトラスターに手を伸ばし、その手がエボルトラスターに乗せられると、そこで紡絆の意識が完全に途切れた。

エボルトラスターはうっすらと鼓動し、消沈する。

---ザーザーと土砂降りと言えるほどに降る雨。

ここまでの雨ともなると海の近くなのもあって人はおらず、人の気配はしない。

ただ時間だけが過ぎ、血だらけの少年を雨が濡らす。

治療してくれる人なんて出くわすはずもなく、奇跡が起きて怪我が治ることも起きることもなければ、ウルトラマンが現れる気配もない。

なおかつ、意識のない彼は動くことも出来ない。

そうして、ただ、ただ時間だけが過ぎ、雨が流れ続ける血を洗い流していっていった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

そんな土砂降りだというのに、一人。

砂浜に近づく者が居た。

年齢は倒れている少年と比べると、圧倒的に老いており、外見上は60代か70代くらいだろうか。

時刻は23時を過ぎ、そんな時間にいるのは明らかに普通ではなく、明らかに怪しい。

杖を着きながら、その老人は倒れた少年にゆっくりと歩み寄り、見下ろした。

 

「この少年……」

 

血だらけだというのに、不思議と老人は驚いた姿を見せない。

それはまるで、血を見ることに()()()()()ように。

ただ穴が空くのではという程に見つめ、少年のことを射抜くような視線で見続けて、少しして驚いたように目を見開く。

 

「ほぉ……そうかそうか…。ああ、すごく、似た懐かしい気配を、光の輝きを感じるかと思えば---死なせる訳にはいかんだなぁ……」

 

懐かしそうに、眩しいものを見るかのように、遠くにいる友人に思い馳せるかのような、似た人物を知っているかのような笑みを浮かべると、その老人は今までの動きが嘘のように、俊敏な動きで少年とエボルトラスターを回収していた。

 

 

 

 

 

 

()()()()の地球にもまだ存在しているなど、意外だったのう……()()()()()()

 

何処か敬語と老人語が混じり、声も若い声と老人の声が同時に響く。

果たしてどちらが本当の老人のものかは分からない。

それはともかく、老人は何かを理解したような様子で、少年を見る。

その時、近くに海があるからかたまたま近くに堕ちたのか、それは定かでは無い。ただ雷鳴が轟き、老人と少年を照らすかのように真っ暗な砂浜が光に照らされ、影が生まれた。

帯電する水海。

その影響か、映る。

その影は---異質。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

例えるならばそう、人類が空想し、考え、生み出したフィクションに出てくるような、エイリアン。宇宙人を彷彿させるような、そんな影。

そしてそれら全てを証明するかのように老人は、紡絆を抱えたまま一瞬にして姿を消していた。

その芸当は決して人間が出来ることではなく、辺りに残ったのは、何も無かった。

そう、血だらけの少年も。エボルトラスターも。老人と杖も。

何もかもなく、この場の誰もが、老人以外と紡絆の存在を知れる()()以外、誰も何があったのかすら、認知してないだろう---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
普通なら一話か二話は最低でも使うレベルのことを全く悩まないクソ強メンタル。
しかし精神はいくら強くとも肉体は等の昔に限界を迎えているため、戦闘でも支障が出て敗北を喫したようだが、なにやら起きたようで……?

〇結城友奈
原作と違い、こちらの友奈は紡絆という存在がいるため、普通の女の子らしさが出ている。
例:赤面したり異性と認識したり、弱音を見せたりなど。
が、実は紡絆の前しかその姿は見せていない。
ぶっちゃけかわいい。
ちなみに紡絆に対しては一種の憧れを抱いているようだが…?
もしかしたら紡絆の様子に気づいたのは、そんな彼女だからなのかもしれない。

〇天海小都音
よく出来た妹。
色々と察したりしたが、大雨の中、エボルトラスターとブラストショットだけを回収した上に傘も持たずにコンビニに行くとかいう明らかな激クソヘタクソな嘘を聞いて理解したので止めようとしたが、彼女の手は届かず、その結果紡絆は……。

〇ダークメフィスト
本質が光ではなく、闇なので紡絆の和解の意志を拒んだ。
本人はウルトラマンとの戦いをゲームとして楽しんでいるようだが、目的はやはり遺跡の破壊とウルトラマンを殺すことのようだ。
だが紡絆という存在は闇の存在からすると忌々しくも邪魔な存在らしい。
(メンタル強すぎて精神攻撃が全く効かないんだから)多少はね?

〇老人
紡絆を見つけ、一緒に何処かに消えた老人。
見ただけで紡絆がウルトラマンの変身者と一瞬で見極めたらしいが、何やらウルトラマンのことを知っているようだ。
その正体は……。

〇掲示板
謎の現象に巻き込まれたやつら。
神の作った機能だというのに、神の機能に不具合が出たと思われるが…?
そのため、紡絆が倒れた後の戦闘は彼らは知らず、紡絆が現実世界へ帰ってきたところしか知らない。



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「-友好の証-フュジティブ」


すみません、お待たせしました。
ようやく書けたと思ったら文字数がとんでもないことになったので三話構成に変えました。
この話自体は書けてましたが日常編(笑)が終わるまで内容変わる可能性があったので投稿出来ず…それと作者がインフルにかかって40度以上の熱で死んだり治ったと思ったら風邪と花粉症のダブルパンチを受けたりアニメ見まくってたりで書けてませんでしたが、無事に書けたので三週に当たって投稿していきます。
あんまり長くてもあれなので手短に行きますが、今回の話は前・中・後半に分かれ、伏線回収作業に入るので色んな謎と真実に迫り、転と結へと向かうために話は大きく動きます…でもティガニキたちの話(番外編)も重要になるのに長編なせいで死ぬほど書いてねぇな?まあ(無理そうなら消して話だけにすれば)ええか…。
えー何はともあれ、皆様の予想聞かせて欲しいなー(ちら)
あとグリッドマンユニバース最高でした…あれは神(数時間前に視聴終了)





 

 

◆◆◆

 

 第 35 話 

 

 

-友好の証-フュジティブ 

 

×××

 

日常編その②

天海小都音編・前編

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---気がつけば、何処か知らない世界へと居た。

嗅覚も聴覚も、視覚も触覚もなく。

自分が一体何者なのか、何をしているのか、何も分からない。

 

(ここは……)

 

気がつけば、そこにいたのだ。

思い出し、紡絆の両目に映るのは、真っ暗で、眩しくて、白と黒の世界。

白黒に染まり、沿線上には何も広がることも無く、虚無だけが広がる。

 

(俺は、どうなったんだっけ……)

 

そんな中でも、紡絆の精神は乱れることはなく、ただ冷静に脳がここに居る前の記憶をフラッシュバックしていく。

戦いに負け、遺跡を守るために体を犠牲にしたこと。

意識が途切れ、何も出来なくなったこと。

ただ死んだということだけは不思議とないと確信出来て、白黒の世界を紡絆は歩き始めた。

 

(これは、俺の迷い? 違う、迷いじゃない。遠くて、遠くて、果ての先にあるように、どこまでも遠い。これは……なんだ?)

 

とてつもなく遠く、何処までも広がる世界の、中心に存在する、ひとつの点の光。

階段のようなものをひたすら登り、遥か先にあるのが星の輝きのような光だった。

星のような、月の光のような、太陽のような輝き。

それに手を伸ばして、足を動かして、伸ばしても伸ばしてもその光は掴めず。

必死に足を動かす紡絆の足元が、突如として崩れる。

階段が、全て消えた。

まるで、光を手に出来ないかのように。

 

(やっぱり俺じゃ……光には届かないのか。俺には、なれないのか…?ウルトラマン……)

 

落ちて、堕ちて、墜ちて---何処までも堕ちる。

下を見れば、そこにあるのは無数の闇。

どれだけ足掻こうとも、手を伸ばそうとも、全てが崩れる。

白が、光が塗りつぶされ、紡絆の力は失われたように手が落ち、体は自由落下を始める。

そうして世界は、紡絆は闇に包まれ、闇は紡絆を蝕んでいく。

そんな暗闇の中でも遥か彼方にある光は輝き続け、手を伸ばし続けてもただ遠のく。

そうして紡絆は完全に闇へと飲み込まれかけたところで、ふと胸元が虹色に輝くと()()()()()()()()()()()()---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……!?)

 

瞬間、紡絆は座っていた。

椅子に座ったような状態で、知らぬ間にいたのだ。

体を包んでいた闇もなく、落ちたような感覚もない。

ただその場所は何処かの教室で、窓から入る光はやけに強い。

色も少しモノクロで、不思議な空間だった。

 

(喋れない……口がない? 体は動く…痛みはないか。これは魂の状態、なのか?それにここは…知っているような、そんな気がする)

 

口を抑えてみれば、光の粒子が散る。

まるで自分の体ではないようで、精神だけが切り離されたかのような状態。

何よりもその場所は、この場所は、紡絆のよく知る---()()()()()()()だった。

 

(ウルトラマンを感じられない…違う、切り離されてるのか…?

他にも掲示板すら機能しない…。

さっきから起動することなくノイズが走る…でも僅かにこの世界から神聖さを感じる……?移動してみるか)

 

胸に手をやり、目を瞑るが何も感じられない。

普段はウルトラマンの存在が確かに感じられていたのに、だ。

どこを探ってもエボルトラスターが存在せず、脳裏からはノイズが走る。

ただいつもと変わらぬ---否。

いつもとは違い、静かで何も無く、喧噪もなければ物寂しい世界。

ここに居ても何も変わらないと判断した紡絆は、ひとまず窓を見つめた。

例えウルトラマンが居なくともその身体能力は維持されているからか、()()ことが出来た。

神聖さを感じる、ソレを。

 

(あれは……まさか!?)

 

窓を開け、慌てて飛び越える---当然、紡絆の体は明らかに落下したら死んでしまうレベルの高いところから落ちかけた。

 

(うおぉっ!?あぶなっ! 久しぶりに生身か分からないけど死にかけた!)

 

口があれば間違いなく叫んでいたことを心の中で叫びながら、窓の縁を

全力で蹴ることで跳躍し、無事に着地する。

ふぅ、と別に出てはいないが気分的に冷や汗を拭う動作をすると、改めて見渡す。

相変わらず色素は薄く、色彩が機能しているのかどうか怪しい。

けれども外の世界を、紡絆は何度か見たことがあった。

目の前に映る景色、一体どれほどあるのかすら分からないくらいに複雑に絡まりあい、巨木から細い木々まで生い茂っている世界。

ある一点だけはやけに輝いており、それを見て、紡絆は驚く。

 

(ここは、やっぱり…()()。そしてアレは、神樹様…?)

 

そう、何度も守護しようとメタフィールドで塗り替えた、バーテックスと戦うための世界。

何よりも、紡絆の目だからこそ---紡絆ではなくとも、遥か先に見える巨大な光の中に樹木があり、その光が樹木の神々しさを強めている。

さっきから感じられる神聖さは、間違いなくアレだった。

 

(…………)

 

流石の紡絆も目の前に神様が居るとなると驚きで目を見開き、固まっている。

樹海の世界、つまり生身で見たことはあるが、こうして夢で見ることなんて記憶上は今までなかった。

そもそも夢なのかどうかすら怪しいのだが、どちらにせよ何も無いのだ。

どうすればいいか悩み、気がつけば紡絆の体は、神樹様に向かって歩いていた。

黙々と、何も考えることもなく歩く。

距離はとてつもなく遠く、ウルトラマンに変身して飛行すれば一瞬でも、歩くには時間がかかる。

しかし一切苦とも思わず、ただただ歩いて体感では1時間は経っただろうか。

 

(でっかいなぁ…これが俺たちを護ってくれてるのか。いつもありがとうございます)

 

辿り着いて見上げた先には、遠くで見た時よりも大きく見える神樹様が存在している。

紡絆は喋れない代わりに、拝んで感謝を述べた。

紡絆は他の四国民と違い、神樹様を心酔しているわけでもそこまで信仰しているわけでもない。

それでもいつも守ってくださることに感謝はしているのだ。

 

(…………)

 

暫くそうしていただろうか。

ただじっとして見上げ、何をする訳でもなくウロウロとする。

そう、紡絆は別に目的があってここに来たわけじゃない。

他に何も無くて、とりあえず来ただけ。

 

(…なんだろう)

 

だが。

だが、それでも。

 

(…………)

 

体が、勝手に動く。

自身の意志とは裏腹に、紡絆の体は一歩ずつと神樹様へと近づいていき、神樹様は紡絆の存在に気づいたのか、元々気づいているのか。

細い輝く根のようなモノを伸ばし、歓迎するかのように、受け入れるかのように次々と道を開けていく。

足元には地面しかなく、道を阻害するようなものは根のようなモノが全て排除した。

そうして神樹様は輝き、紡絆の体は神樹様の中へと---

 

 

 

 

 

 

 

 

『---ダメだよ』

 

入りそうになったところで、()()()()()()()()()()が聞こえ、紡絆の体は入る寸前で止まった。

 

(……!?)

 

ハッ、とし、意識を完全に取り戻した紡絆は自身の足が神樹様から数歩離れたところで止まっていることを理解した。

いや、正確には移動させられた、というべきか。

誰かに引っ張られたような、そんな感覚があった。

 

『それ以上はダメ---そこから先に進めば、貴方はもう戻れなくなっちゃうから』

 

誰かに腕を掴まれていて、でも知っているような()()()の声で、ただただ不思議な感じがした。

つい最近聞いた声で、だけど何処か違くて、そう、何かが違ったのだ。

知人だが別人。でも別人でも似たような人物を知っているような、不思議な感覚。

 

(この、声は---)

 

知っている声ではある。

だが確認しなければ分からないため、紡絆は自身の腕が握られている背後へ振り向こうとし---何処からか、()()()()()()()()()()が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

『シュアッ!』

 

同時に、点滅するような音と共に突如として空間から現れた銀色の巨大な手が、紡絆の体を包み込む。

後に残された世界には、()の花吹雪が舞っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「---ぐぅっ!?」

 

体を勢いよく起こし、紡絆は痛みで体を丸めて両手で腹を抑える。

その際に額に置かれていたであろうタオルが落ちるが、それを気にするよりも先に痺れるような痛みが全身を襲いかかり、少ししか見えない視界には、知らない空間があった。

 

「こ、ここは……」

 

どこかの民家と思わしき家。

様々な家具が置いてあり、まさしく田舎にあるような家というのを思わせる構造をしている。

 

(なんだ、今の……?)

 

色々と頭が混乱していて、思わず頭を抑える。

胸に手をやれば痛いがウルトラマンの存在を感じられて、でもさっきのことは、確かに記憶に残っていた。

 

(うーん……分からん!)

 

そのことに関して深く考えようとしたが、紡絆は一瞬で投げ捨てた。

それよりも何故ここにいるか分からず、ふと違和感のあった体を見れば、全身が包帯巻きにされ、両腕や両足にも巻かれている。

 

「…たすけられた?」

 

状況から察するに、紡絆はそう判断した。

明らかに応急処置されたかのような、治療のされ方。

こんな手当ては、ストーンフリューゲルでは絶対に出来ない。

しかしそうなると、一体誰に助けられたのか。

全く検討もつかない紡絆は、ただぼうっと周りを見渡す。

ちなみにさっき夢のことに関しては、紡絆の頭から既に抜け落ちていた。

 

「---あら、目が覚めたのね?」

「……!」

 

そんなことをしていると、女性の声が聞こえ、そちらの方へ視線を移す。

そこには優しそうな表情で洗面器を持っている女性が居た。

恐らく、この住居の家主だろう。

見た目が若いせいでどれほどかは分からないが、人生経験が豊富そうな雰囲気を持つことから推定50代くらいだろうか。

それでも全然シワもないのだから、普通に30か40代でも通用しそうではあった。

 

「…えっと、お陰様で。ありがとうございます」

 

近くに座り、勢いよく体を起こした際に落としてしまったタオルを取る女性にぺこりと頭を下げつつも、僅かながらに疑問が生じる。

自分がここにいるということは誰かが運んだに違いないが、目の前にいる女性は失礼にあたるだろうが、力はなさそうに見える。

なら、どうやって自分を運んだのだろうか、と。

 

「いいのよ。あの人が連れて帰ってきた時は驚いたけれど……もうじき帰って来ると思うから」

「あ……はい」

 

どう返事するべきか分からずに曖昧に返すが、流石の紡絆も何処か居心地が悪そうな表情をしていた。

 

「どうして何も聞かないのか…みたいな顔をしてるね」

「!?」

 

言われた言葉に、目を見開く。

そう、紡絆には説明出来ない。

申し訳なくもあり、罪悪感もある。

故に居心地が悪そうにしていたが、初対面だというのに当てられたことに紡絆は驚いた。

 

()()()の言ってた通り、随分と分かりやすいもんだ。その怪我を見る限り、訳ありなんでしょう?

そういうのはあたしには分からないし、()()()の方が適しているからね。帰ってきたら話し合えばいいと思うわ」

「そう…ですか。すみません、ありがとうございます」

 

色々と気遣われていることを察した紡絆はただ謝罪と感謝の言葉を述べることしか出来ない。

こんな明らかに大怪我どころか重傷レベルの人間が居れば、訳ありなのは当然ではあるが。

ただひとつ、そんな紡絆でもふと思ったことがあった。

 

「そういえば、今の言葉…まるで俺を知っているみたいだったんですけど……」

「ああ、それは---」

 

そう、普通なら何も知らないはずで、紡絆は初対面だ。

なのに知っているような言い方をしていて、女性が口を開こうとすると、紡絆の耳には慌ただしい足音が聞こえた。

 

「…なんだ?」

「…来たみたいね」

 

近づいて来る足音。

少しして女性も気づいたようだが、その表情は穏やかで警戒も何一つしていない。

 

(…もしかして、子供か? 確かに、それなら俺が目の前の女性を知らないのも納得だ)

 

紡絆は人助けをしてきたが、流石に知り合った子ならともかく両親や祖父祖母までは把握していない。

そういうのは個人情報に入るわけで、相手が勝手に話さない限りは紡絆もわざわざ聞き出したりなどはしないからだ。

だからこそ、人助けした人の中に居たって不思議ではなかった。

そうして足音は収まることなく、ただひたすらに近づいてきて---

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃんッ!」

「ヴェッ…!?」

 

紡絆がよく知っている女の子が、飛び込んできた。

状況を理解する前に押し倒され、痛みに顔を顰めるがそれよりも今回は驚きの方が強かった。

 

「ど、どうしてここに居るんだ?」

 

自身の胸に顔を埋める、青い髪の少女。

まるで甘えるように、それでいて不安そうに強く抱きついてくる。

その姿は、紡絆も知っている。

 

「…小都音」

 

そう、目尻に涙を貯めている目の前の少女は、確かに紡絆の妹である小都音だった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

409:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

…んん?なんだこれ

お、直った。え、今の何? こわっ、ホラーかよ

 

 

410:名無しの転生者 ID:GOetyROKY

イッチ、無事だったんか!?

 

 

411:名無しの転生者 ID:PgmDahTTQ

生きてた!良かった…!

 

 

412:名無しの転生者 ID:jIZ7hd1vH

俺らが聞きたいんだよなぁ…何故か知らんけど、イッチの掲示板だけアクセス出来なくなったんだよ

 

 

413:名無しの転生者 ID:urEE/N+ya

あれ、なんだったんだろうな。前回のスレもいつの間にか消えてんだけど

 

 

414:名無しの転生者 ID:Jub2padFO

本人が死んだらそりゃスレは消えるだろうけど、あれは何か違った感じがするよな

 

 

415:名無しの転生者 ID:6uT0MfVbQ

何者かに干渉された? いや、でもいくらクソ神でも力は本物だぞ。干渉するレベルってなると、同じ神でもなけりゃ無理なんじゃないか

 

 

416:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

とりあえず何も分からないってことでOK?

 

 

417:名無しの転生者 ID:8o89S3yP1

なんも分からん

 

 

418:名無しの転生者 ID:///FB3g1h

そもそもイッチがやられてからバグ発生してて俺らも分からないから説明求む

 

 

419:名無しの転生者 ID:1ofwX9muO

重傷の状態で重傷を負ったイッチが誰かに助けられたってことしか分かってないからな

 

 

420:名無しの転生者 ID:2UWtS/6l9

いや、ほんとイッチの耐久値が特撮世界の住民と同じになってんな()

 

 

421:名無しの転生者 ID:6thxtRWk2

重傷の状態で重傷ってなんだよ、ただの致命傷じゃねーか

 

 

422:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

>>418

俺もあんま分からないんだけど、気がつけばネオ融合型昇華獣もメフィストもやられてた。

遺跡守るために身を犠牲にしたら変身解けて外の世界に投げ出された。

夢?っぽいので掲示板もウルトラマンも感じられない世界でなんか…こう、神樹様があってさ、無意識にその中に入りそうになってたら聞いたことのある女の子に助けられた…のかな? それからウルトラマンの手に包まれて、目が覚めた。

そしたら知らない家に居た。

家主と思われる何か知ってるっぽい高齢?の女性と話してたら、小都音に押し倒されて動けない←イマココ

 

【添付:小都音に跨られて動けない少年】

 

 

423:名無しの転生者 ID:SMChJtSOm

なんだこのエロゲーのCGにありそうな画像は…

 

 

424:名無しの転生者 ID:WTPGM5v4e

イッチの顔が見事見えてないからマジでそう見えるの草。でも彼女、泣いてますよね

 

 

425:名無しの転生者 ID:ubL+g+7SU

そりゃ(ようやく会えた兄がずっと怪我を負い続けてマジで致命傷の傷が増えて傷だらけになってきてるんだから)そうだろ

 

 

426:名無しの転生者 ID:weXlaP4ld

>>422

なんで相変わらず情報量多いんだよ

 

 

427:名無しの転生者 ID:+hDw7jKqh

>>422

それ、イッチ取り込まれかけてない?神樹様ってもしかして敵なのでは…?

 

 

428:名無しの転生者 ID:a2HznxpEv

>>422

いや、でもイッチが無意識つってるしなぁ。それにわざわざ人間を守ってるんだからそれはないんじゃないか

 

 

429:名無しの転生者 ID:O6c23T/Ab

少なくとも俺らが最後に知ってるのは、イッチが倒れた後に老人がお前を助けてたで。

でもなんか…気がつけば掲示板閉じられてたからどうやって助けたのかまではよくわからん。

暗転したし

 

 

430:名無しの転生者 ID:pFfF84lc9

つーかイッチがただでさえ見た目やばくね?だったのにより痛々しすぎる…上半身から下半身ほぼ包帯じゃねーか。右肩だけ巻かれてないけど、なんで包帯ぐるぐるに逆戻りしてんだよ

 

 

431:名無しの転生者 ID:Ur7/2MahL

なんか色々きな臭くなってきたな……ごめん、元からだわ

 

 

432:名無しの転生者 ID:MZUk0c7cZ

とにかくイッチが死んだのかと思ったからビビったわ……

 

 

433:名無しの転生者 ID:Q40rlukwo

……なあ、でもさ、やっぱりおかしくね?

 

 

434:名無しの転生者 ID:hFxi3YGNR

他のウルトラ戦士だってピンチになったり死にかけることはあったが……掲示板があんなバグり方する事象、あったか?

 

 

435:名無しの転生者 ID:PepBqMd/G

そもそもこの世界が可笑しい。死のウイルスで四国以外が滅ぶか? ウルトラマンになれるとはいえ、バーテックスがなぜ執拗にイッチを狙っている?

というか、なんでスペースビーストと融合できる?

バーテックスって、本当に十二体なのか?

正直、あの実力があるならウイルスよりもバーテックスが四国以外を滅ぼしたって言われた方が納得出来る。

いくら四国が無事なのが神樹様のお陰でも、ウイルスとなると漏れてもおかしくないだろ

 

 

436:名無しの転生者 ID:n0e7Mdf17

まず神樹様って、なんだって話しなんだよな。

そんな神様居たか?確かに世界によっては『その世界にしか存在しない神』が居るが……

 

 

437:名無しの転生者 ID:mbmNSeGiR

……ん?

 

 

438:名無しの転生者 ID:vDGasZBrB

ちょっと待て……なあ、俺たち何かめっっちゃ重要な情報をスルーしてないか?

 

 

439:名無しの転生者 ID:pkufFqdLv

…神樹様?

バーテックス…スペースビースト…。

ノア…ザギ…あれ?

神樹様の結界、ノアの結界、融合型昇華獣……。『融合』?

 

440:名無しの転生者 ID:2lxYZ9BcN

俺たちってずっとイッチと勇者、ザギやスペースビーストたちのことを考えてたよな…けど、改めて整理すると神樹様…おかしくない?

そんな神様実在しないぞ

 

 

441:名無しの転生者 ID:h4vEnRD0p

…あ、あ……あーっ!

 

 

442:名無しの転生者 ID:oGEgsPCeh

実在しない……『神樹様』は存在するけど『神樹様』という神様はいない…つまり、この世界特有の神…?

 

 

443:情報ニキ ID:JoUHou2in

いや、違う。>>439のお陰で分かったが、もしかして神樹様って神は確かに居ないけど、いない理由は唯一神じゃないからなんじゃないか?

神樹様は『個人』じゃなくて『群体』。

それ故に『個の名』を持たず、『神樹様』と呼ばれる集合体…なんじゃ?

となると地球を守る理由がある神…土着の神の集合体?

だからバーテックスは神樹様と同じ、融合という手段を身につけた…とか? 無論、ザギも関わってると思われる。

そして神樹様とノア様が協力してる前提で考えると、互い互いに対極の存在がいる?

ノア様にはザギという敵が居て、神樹様の敵はもしかしてバーテックスではなく、別の神なのでは?

バーテックスも外の世界が滅んだのもウイルスじゃなくて、神樹様の敵が星座から生み出し、送り込んだ使者…。元々神樹様を滅ぼそうとしてるし、イッチを狙ったということは人類を殺そうとしている? けどそこはイッチのみを限定するのはおかしいか…。

でももし相手が神であるならば……イッチの左目を壊したあの光弾は、その神が『融合型』に干渉して放った、神の呪いなのかもしれない。

スペースビーストにもザギにもあんな力はないし、禍々しい紋章が浮かんでたからな

 

 

 

444:名無しの転生者 ID:qB8pc064d

…ん? それってイッチやばくないか?

 

 

445:名無しの転生者 ID:Jg5PixDe/

ちょ、ちょちょ。待てって!

もし情報ニキの情報が正しいならば、イッチは神の呪いを受けたってことになるぞ!?

解呪不可能じゃん!

 

 

446:名無しの転生者 ID:D3NB21jEJ

でも仮に神樹様がそうだとしたら、敵の神は集合体となった土着の神々と同等の力を持つ存在になる。

それほどの神の力なら、掲示板が不具合を起こしたって不思議じゃない…ってわけか。

掲示板に関しては、もしかしたら別の理由かもしれんが…

 

 

447:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

なあ、それより俺どうしたらいいの?

 

【添付:目元を赤くなっている小都音がくっついたまま離れなくて困った表情をしている少年】

 

 

448:名無しの転生者 ID:nfRRU3Pqm

おめー全く空気読まねぇな!?

 

 

449:名無しの転生者 ID:zyyhrKRg1

なんでこいつ自分の世界や自分のことで肝心な情報出そうになってんのに身内関連で助け求めてんだよw

知らんがな、妹なんだろ。なんとかしろ

 

 

450:名無しの転生者 ID:9qLkO/rVs

イッチが悪いからなんとも…ヨスガっとけめんどくさい

 

 

451:名無しの転生者 ID:h4vEnRD0p

イッチは放っておいて…これってかなりこの世界の謎に触れたんじゃないか。

つまり神樹様は神の集合体、敵というか黒幕は別の神。

目的は神樹様は人類の守護。敵は人類の滅亡。

神樹様側にはノア様が。

それを裏付けるように四国を守る結界の上か、それとも同時なのか下なのかは分からないけどノアの結界も存在し、神樹様の結界はバーテックスを。

ノアの結界はスペースビーストを対処するために存在している?

敵の神にはザギが付いていて、四国以外はウイルスではなく、バーテックスによって滅ぼされている?

ああ、それとティガニキが地球をナニカが覆っているとか言ってたよな。あれはバーテックスじゃなくて敵の神の力?

大赦は…全部知って隠してそうだな、きな臭いし

 

 

452:名無しの転生者 ID:U/VXAODj/

おいおい…これ、正しかったらガチで超重要じゃねーか。

後は…ザギの目的はノア様だろうし、ノア様がいつ結界を貼ったのか、その理由。

ティガニキとダイナニキたちが戦った敵、先代勇者と満開、イッチ関連だけだぞ、ほとんどの謎

 

 

453:名無しの転生者 ID:ZtTdsaxa/

まあ敵の正体は正確には分かってねぇけどな。神にしたってどれだけ居るって話よ

 

 

454:名無しの転生者 ID:nRehxnWAp

そもそも敵の正体よりも目前の敵の方がやばいというな。ネオ融合型昇華獣のノスファルモス。

攻略が出来てない、もうあれこれ言うてる暇はない。勇者に助けを求めるべきなんじゃないか?

 

 

455:名無しの転生者 ID:SCpfFTysV

確かに、勇者たちのメンタル面が心配だが…イッチが変身できるかも分からん。

もし次にイッチがやられたら、流石にイッチは死ぬだろうな。とっくの昔から体が既に限界なんだから。むしろなんで生きてる

 

 

456:名無しの転生者 ID:zjYRLAu0g

ちなみにイッチは自分でメタフィールド貼れるとか分かんのか?

 

 

457:名無しの転生者 ID:6Nn2e1DZc

前はアローレイの貫通力で無理矢理御魂を引きずり出したが、今回は幻影使われるからな。普通にウルトラマンの光線系は避けられるわ。

勇者の力は必須だぞ

 

 

458:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

…ん? ああ、やっと落ち着いた。話聞いてなかったけど…映像に切り替えとく。

気配からしてもしもの時は頼んだわ

 

 

459:名無しの転生者 ID:byDexJbrM

…え?

 

 

460:名無しの転生者 ID:JuO8FLvNX

ちょ…どういうことだ!?

 

 

461:名無しの転生者 ID:bXwLB7OO3

もしもって、俺らにどうしろってんだよ……

 

 

462:名無しの転生者 ID:+RfTb0ibJ

ほうれんそうのうち、『報告、連絡、相談』が不足しすぎなんだよ!

 

 

463:名無しの転生者 ID:1FezI26sj

ああ、もう相変わらず話聞かねぇやつだな!!

 

 

464:名無しの転生者 ID:TmE+CDl/p

既にスルーしてんだろ、これ。

仕方がない、今のうちに俺らが作戦立てるぞ!

 

 

465:名無しの転生者 ID:ipX+BZxey

とりあえずイッチは覚悟しとけよ

 

 

466:名無しの転生者 ID:TKHyQM9YI

安価しろ、後悔させてやる

 

 

467:名無しの転生者 ID:/oKhudXSB

ん、ちょっと待てよ。イッチのこの相手……そういえば明らかに『老人』じゃなかったよな…?

 

 

468:名無しの転生者 ID:mh61lDWNc

あれ?なんか…既視感というか、見たことがあるような…。友好っぽいけど…。

え、うそだろ、え、この地球って…スペースビースト以外にもいるんですか???

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからしばらく経ち、ようやく解放された紡絆は小都音から状況を聞くためにも、改めて口を開こうとして、先に小都音が口を開いた。

 

「聞いたよ、お兄ちゃんトラックに撥ねられたって。それから階段から転げ落ちて酷い怪我を負ったってことも」

「……へ?」

「…違うの?」

「い、いや、そ、そうなんだよ」

 

小都音の言葉を聞いて、思わず家主の女性に視線を向けると小さく頷かれたため、動揺しつつも話を合わせる。

どうやら虚構をでっち上げたらしい。

そうでもしないとこの怪我が説明出来ないのだから仕方がないのだが、紡絆があまりにも嘘をつくのが下手すぎた。

 

「そう……本当に、気をつけてね」

「……ああ」

 

明らかに見破られているような様子だが、紡絆は無事に誤魔化せたと思い込んでいた。アホだった。

そして何より、その注意にはなんとも言えなさそうな表情で返すことしか出来なかった。

 

「そ、そういえば結局…小都音はどうしてここが分かったんだ?」

 

話題を転換するように、最もな疑問を投げかける。

このままではボロが出るかもしれないため、正解かもしれない。

しかし、紡絆の疑問も当然だろう。

なぜか小都音は、ここに駆けつけることが出来たんだから。

 

「…あれ、言ってなかった?」

「……ん?」

「あはは…忘れてたっぽい?」

 

それに対する返答に、見覚えのない紡絆は首を傾げる。

そんな紡絆の反応を見て、自身でも気づいたのか小都音はうっかりしていたかのような様子。

 

「この街に引っ越してきてたみたいで、この人は私がお世話になっていた人だから」

「…ふぁっ?」

 

偶然…いや、必然か。

運命とは凄まじいもので、まさかの答えに、紡絆が完全に固まった。

一瞬の沈黙が辺りを支配し、ギャグアニメのように木魚をぽくぽくと叩いた後に、チーンといったイメージ効果音と同時に、紡絆は再起動した。

 

「と、ということはもしかして……でも、どうやって…」

「電話番号渡しててね、それで連絡もらったんだ。讃州市に来てたのは驚いたけど」

「ふふふ、本当はサプライズの予定だったもの。ただよく小都音ちゃんには貴方のことは聞かされてたものだからねぇ…すぐわかったよ」

「あ、そうだったんだ…って!もうっ!…や、やめてよ。それは言わないでって言ったのに!」

「あら、ごめんなさいね」

「もーっ…恥ずかしい…」

 

元から疑ってはないが、やけに親しげにしているところから、小都音の言葉が本当だと改めて理解させられる。

 

「…あっ。えっと、申し遅れました。今更ながら妹…と、この度自分もお世話になりました。反応からして知っていると思いますけど、継受紡絆です。兄妹お世話になった身としてはどうお礼すればいいか…」

 

そうして何も言ってなかったということを思い出すと、紡絆は痛みを強引に押し殺して姿勢を佇ませて感謝と自己紹介を述べる。

そんな紡絆の言葉にも、女性は軽やかに笑うだけだ。

 

「これはご丁寧に…あたしは天海麗花。

気にしないでいいんだよ、貴方のことはあの人が勝手にやっただけだから。小都音ちゃんに関しては私たちも楽しかったし、ね」

「えへへっ」

「いや、でも…」

 

そう言われてはい、分かりましたと答えれるはずもなく、渋る紡絆。

だが事実、麗花の言葉に嘘ひとつないことを証明するかのように、今も小都音を撫でる麗花の表情はまるで孫娘を世話するようなもので、小都音の反応も相まってよりそう見えるのだ。

いや、本当の家族ではなくとも、それに近い関係性が築き上げられ、結ばれているのだろう。

 

「そうねぇ…どうしてもって言うなら、今日一日泊まってくれたら、それでいいわ」

 

そして紡絆の様子からして引き下がらないと察したのか、妥協案を出すように麗花がそのようなことを告げる。

明らかにメリットがない、条件。

 

「それはそれで、こちらに利益しか……」

「怪我人を放り出すわけにもいかないし、小都音ちゃんや貴方---紡絆くんのことも聞けて少しだけど一緒に過ごせる。それだけで嬉しいのよ。

それにこの歳になると、時折人寂しくなる時もあってね、助けると思って…どうかしら」

 

過ごしてきた時間が、あまりにも違う。

前世を含めても所詮は50代にも満たぬ紡絆と今世だけで紡絆を超える麗花では生きた年も違い、彼女の言葉は道理にかなっている。

そもそも重傷な怪我人を放り出す方が、善良な人物にとっては心苦しいだろう。

 

「……分かりました、じゃあ、それでお願いします」

 

故に、紡絆は渋々と引き下がった。

実際にここで放り出されでもしたら危ういのは理解しているし、人助け命な紡絆にとって、そう言われるとあまりにも弱い。

 

「じゃあ今日はお泊まりだね」

「そうなるな…」

「自由にくつろいでて。あたしはそろそろご飯の支度をするところだし、それに---」

 

立ち上がった麗花は一度言葉を区切り、視線をどこかへ逸らす。

紡絆も小都音も、それに釣られるようにそこへ向けると、ドアが開く音が響く。

 

「あの人が帰ってきたところだから」

「!?」

 

自身すら気配を感じられなかった紡絆は目を見開く。

強化されている自分ですら分からなかったのに、麗花は分かっていたが、それは何となくそんな気がしたのだろう。

そこはどうでも良く、問題なのは()()()()()()()()()()()という点。

 

(…忍者?)

 

が、アホな紡絆はそのことに警戒心を抱くわけではなく、間違いなく、それはないと断言出来る存在を思い浮かべていた。

 

「それじゃあゆっくりしておくんだよ。あの人はここに勝手に来るだろうから。話はそこで、ね」

「あ、はい…」

「あ、待って麗花おばさん。私も手伝う!」

 

頭を振り、麗花に頷く紡絆だが、小都音は一度紡絆と麗花を見て、察したかのように部屋を出ていく麗花を追っていく。

 

「あら…いいの?」

「うん、お兄ちゃんは話があるみたいだし、まだまだお料理を勉強したいもん」

「じゃあ、お願いね」

「はーい。……あっ。お兄ちゃんはちゃんと休んでてね。無理したら怒るよ」

「わかった。ありがとうな」

 

去る前に会話をしていたようで、最後に部屋を覗くようにして小都音はそれだけ告げてきた。

流石に気遣ってくれたことを察した紡絆は、お礼を述べる---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

襖が閉められる。

先に行く麗花を見送った小都音は襖に背を預けて唇を強く噛み締める。

 

「………」

 

なぜ兄があのような怪我を負ったのか。

車に轢かれたから?階段から落ちたから?

事故に巻き込まれたから?鉄骨やコンクリートで怪我したから?

---違う。

紡絆とは違い、小都音の地頭は良い。

だからか、怪我した()()()()()を知っている。

正確には、予想が付くのだ。

元々、あんな大雨の中で傘もささずに出かける方がおかしい。

第一、紡絆が誰かを庇う以外で交通事故に遭うなんてこと身体能力や反射速度の高さからしてありえない。

それに、小都音は記憶を失う前の紡絆を知っているというのもあるだろう。

 

(……やっぱり、お兄ちゃんは嘘つき。左目、見えてないことも…隠してる)

 

何よりも彼女は、記憶を失った後の中では、一番居たであろう友奈や東郷ですら知らない真実を、紡絆の隠し続けていることをあっさりと看破して見せた。

そのことは、それだけは紡絆は誰にも気づかれないように自然で有り続けたのに、だ。

唯一気づきかけたのは、手合わせをした夏凜のみ。

 

(なんで、なんでお兄ちゃんばかり……。どうしてお兄ちゃんがこんなことになるの?)

 

兄の前では、ただいつも通りの自分であり続ける彼女。

だが、唯一の家族となってしまった大好きな兄がもはや死ぬ寸前まで来てしまっている。

あれだけの傷で生きてるのは、はっきり言って普通の人間じゃないからだ。

ウルトラマンを宿してなければ、紡絆はとっくに死んでいる。

逆を言えば、ウルトラマンを宿してもなお、今死にかけている。

 

(どうすれば、いいんだろう……お兄ちゃんは、やめない…人助けするお兄ちゃんはいつもかっこいい。優しくて、温かくて、安心出来て、でも怖い。他人ばかり気にして、自分を気にしなくて、大事にしなくて……()()()もそうだった)

 

強く、拳が握られる。

その拳は震えていて、それは失うことへの恐怖なのか、怒りなのか、悲しんでいるのか、どれかは定かでは無い。

 

(やめさせなきゃ……戦わせないように、何もさせないようにしなきゃ、死んじゃう…誰が?)

 

今も、たった一枚先にいる兄。

背にある襖を開ければ、辿り着ける。

けれどもその襖が遥かに高い壁のようで、手を伸ばしても届かないようで、まるで先々を歩む紡絆と後ろに着いていくことも出来ない小都音を示しているかのように、小都音は決して開けることも振り向くことも出来ない。

 

(しぬ、お兄ちゃんが…しぬ。死ぬ?死ぬって、何…?居なくなる?私の前から…消える?お兄ちゃんの声も、匂いも、笑顔も、感触も、体温も、全部、全部消える…何も、残らない…?やだ、そんなの、やだ……。いやだよ、いやだいやだいやだいやだいやだ---いやだっ!)

 

自然と足に力が入らなくなり、その場へと座り込んでしまう。

小都音の表情は暗く、いつもの様子はどこにもない。

迷子の子供のように、否。

事実、迷子の子供なのだろう。

 

(私にはお兄ちゃんしか……お兄ちゃんだけが生きがいなのに…。お兄ちゃんだけがお兄ちゃんだけが光なのに、希望なのに…わたしの()()なのにッ!なんで奪われなきゃいけないのっ…なんで私から奪うの…!どうして私から全て奪っていくの…!?私は、どうしたらいいの……どうしたら、お兄ちゃんを止められるの……?)

 

瞳から光が消え、頭を抱える。

その心はイヤイヤと我儘を言って泣きじゃくる子供のようで、整った髪が乱れていた。

---そう、紡絆は強い。

人として、ウルトラマンとして、強い。あまりにも、強いのだ。

スペースビースト、闇の巨人(ウルティノイド)、バーテックス。それら全てと自分自身を投げ売り、人々や世界を守るために迷いなく戦える精神を持つ者など、この世界では彼一人だろう。

だが、周りはどうだろうか。

後遺症や戦闘の影響で精神的に間違いなく弱っている勇者部。

無事なのは、紡絆が居るからだ。

かつてファウストが言っていた。

紡絆は精神的支柱になっている、と。

本来ならばそうはならない。ならないはずだった。

けれども、紡絆という人間の影響力はとても大きく、彼はあまりにもに中心に居すぎて、他人からすれば、周りにとっては眩しかったのだ。

日陰を簡単に照らし、色んな人を巻き込み、眩い光で全てを照らす人物。

その中でも一度兄を失い、両親を失った小都音は、この世界で間違いなく一番影響を受けている。

それこそ---紡絆に依存するほどに。

 

(……お兄ちゃん、大好きな、お兄ちゃん。お兄ちゃんが戦うのは、世界のため…人のため…?誰のせいなんだろう…バーテックス、スペースビースト?ウルトラマン?

…違う、神樹様が、いけないんだ。神樹様は私からお兄ちゃんを奪う。大切な友達になった、樹ちゃんの声も奪った。みんなの大切なものを奪った……)

 

神樹様はこの世界に恵みを与え、人々が生活出来るようにしてくださった神様。

一方的に悪いとは言えないが、紡絆や樹、勇者部が戦うことになったのは大赦の指示。

それは、神樹様の信託といって差し替えない。

なぜなら大赦は神樹様を崇め、信仰しているのだから。

小都音はそれを、知っている。よく知っている。

 

(……ねぇ、お兄ちゃん。私、どうしたらいいのかな……)

 

憎しみを宿したところで、何も変わることがない。

怒りを抱いたところで、何もない。

小都音に勇者システムは存在せず、ウルトラマンの力もない。

逆に言えば、勇者システムがあれば反旗を翻しているとも言えるが。

だが何も無い、何も無いからこそ、行き場を彷徨い続ける感情は溢れ続け、留まり続ける。

 

(いっそ、お兄ちゃんを……閉じ込めたら…ずっとずっと、私の元に置いたら……そうだ、お兄ちゃんが何も出来ないようにすれば私とお兄ちゃんは---)

 

考えては、踏み込んではいけない領域の思考へと持っていかれる。

少しも発散することの出来ない感情は、日々強まっていき、歪んでいく。

兄だけでなく、友人と大切な部活の人たち。

思い出の中から変化していく彼と彼女たちの姿を思うと、ますます押し潰されそうになる。

ただ一人の少女が抱える悩みにしては、彼女にとってはあまりにも大きすぎた。

 

 

「…小都音ちゃん?」

「………!」

 

ずっと来ないからだろう。

帰ってきたと思われる麗花に声をかけられ、小都音はハッと顔を上げる。

思考を埋め続けていた深く暗い闇が晴れ、瞳が正気を取り戻す。

 

「…大丈夫?」

「…うん、大丈夫だよ麗花おばさん」

 

心配した様子で声をかけてきた麗花に小都音は笑顔を浮かべてそう返し、立ち上がると髪を整える。

 

「ちょっと、考えごとしてたみたい。うん、大丈夫。それよりも、お兄ちゃんお腹空かせちゃうよね、早くお料理しよっ!」

「……ええ、そうね」

 

明るさを取り戻したのか小都音は麗花に近づくと、手を握って笑顔を向ける。

そんな小都音を変わらず心配するような目を向けながらも、何も言えない麗花は小都音と一緒に歩いていく。

義理の家族のような存在。

互いに家族とは思っている。

ただそれでも、本当の家族ではないのだ。

血の繋がった家族を失った悲しみは、他人である麗花には共有することなど出来やしない。

だからせめて、気分転換でもさせようと。

 

(……いけない、お兄ちゃんは頑張ってるもんね。私は、大丈夫…お兄ちゃんは、私を置いていったりしない。いつもそうだから。ぜったい、ぜったい……)

 

ただ、間違いなく言えるのは彼女の心は、()()()()の心は不安定になっているということだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

感じられるようになった気配がひとつ、ゆっくりと近づいてくる。

気配的には縁側の方から来ていた。

家の構造が分からないが、去っていく気配と近づいてくる気配の速度からしてそっちの方が早いのだろう。

紡絆はなんか脳裏で色々と話し合ってるけど全く理解出来てないので流し見するような感じで欠伸をしていた。

 

「……んー?」

 

そしてふと、何かを感じた。

胸に手をやり、やっぱり分からない。

さらに考えるのをやめた。

この男に考えるという思考はないのだろうか。

間違いなく、日に日にバカになっている---いや、平常運転だった。

 

「………!」

 

暇と思いつつ座ったままぼうっとすると、気配が感じ取れる。

縁側へと視線を向けると、カーテンにシルエットが映った。

杖のようなものに手を置いた、背中の曲がった影。

 

「……む?」

 

そうして縁側から扉が開くと一人の老人が入ってきて、はてと首を傾げる。

紡絆と視線が合い、空間を沈黙が埋め、先に老人が上から下まで紡絆を見た後に、頷いて口を開く。

 

「…うむ、元気そうじゃのう」

「お陰様で。ありがとうございました」

 

明らかに包帯巻き巻きの人間を見てどうしてそう思ったのか、良かったと言わんばかりに何度も頷く老人に紡絆は笑顔で返す。

うむ、と相槌を打った老人はよいしょとジジイ臭いというか見た目通りの動作で紡絆の対面に座り、一息付く。

 

「………」

「………」

 

そうして無言が辺りを占め、また見つめ合う二人の姿があった。

何かを探るような視線を受け、紡絆はすまし顔で過ごしている。

警戒することもなく、敵意を抱くわけでもない。

 

「……御託はいらぬ、か」

「……ん?」

「分かっておるのだろう、ワシの正体が」

 

観念したように息を吐いては顔を伏せ、老人が口を開く。

紡絆はそれを見て、頷いた。

 

「ならば---」

 

目の前から老人が消え、紡絆は驚くことすらなく目を閉じていた。

一瞬で姿を消し、新たに出現した気配は背後。

しかし、後頭部に何かを押し付けられる感覚がある。

 

「なぜ警戒しない、ウルトラマン」

「………」

 

敵意を剥き出しに、声が変わる。

明らかに老人ではない声。

だが紡絆は傍にエボルトラスターも、ブラストショットも傍に置いたまま手を伸ばすことすらしてなかった。

自身の正体を看破した相手というのに。

 

「あなたからは殺気も悪意も感じられない…今も俺を殺せたのに、どうして殺さなかった?」

「……… 」

 

相手は何も答えない。

続けろということなのだろう。

紡絆は目を開け、天井を眺めながら紡ぐ。

 

「俺はファウストを殺したことがある。言い訳しない、そうするしかなかったから。でも敵意もなく、悪意もなく、共存出来る道がある相手に対して一方的に武力を行使するのは、それこそ血を吐きながら続けるマラソンになるだろ。そんなの、悲しいだけだ」

「……ふむ」

「それに、手段を間違えてる。

貴方はウルトラマンを知っている。だったら、ウルトラマンには変身するためのアイテムが必要なのはわかってるはず…けれども俺を助けた割には奪わなかった。とても聞き及んでいた貴方のような宇宙人がやるはずがない---そうじゃないのか」

 

ようやく紡絆が振り向き、その影響で空いている片腕で抑えられている突き出されたもうひとつの黒い腕が紡絆の顬に向けられることになる。

それでもなお紡絆の目は、真っ直ぐだった。

 

()()()()()()()

 

黒いずんぐりとした体型と、()()()を持ち、耳の尖った悪魔のような顔が特徴。

紳士的かつ慇懃無礼な態度とIQ1万という桁外れの知性で知られ、ウルトラマンと同等以上の戦闘力を持つと言われている悪質宇宙人。

その名を、メフィラス星人。

彼は手を降ろし、腰を下ろした。

 

「ほぉ…見事だ。それにワシを知ってるか」

「まぁ…俺の知るあんたとは違うけど、似た存在と出会ったことがある」

 

それが口なのか口元の発光体が光り、意外そうな反応をしながらメフィラス星人は若干背中を曲げて座っていた。

宇宙人の割に、地球人というかジジイ臭い。

しかしそう語る紡絆は、何処か嫌なものでも思い出したかのように苦虫を噛み潰したような表情だった。

 

「そういうお前さんは…マルチバース出身、か」

「そういうことになる…かな。俺の場合は説明が難しいから。あんた…メフィラス星人は違うのか?そもそも一体なんの目的でこの地球に?」

 

人間と宇宙人。

その割には殺伐としたわけでもなく互いの空気感は平穏で、紡絆の疑問は最もだった。

それに関しては聞かれると思っていたのか、メフィラス星人は何処か哀愁を漂わせる。

 

「メフィラス星人はワシらの種族だ。ワシの名はイレイズ。

しかし…それにしてもそうか、お主は地球人だから知らんのか」

「イレイズ?それが名前か…で、なんのこと?」

 

何も知らない紡絆。

何かあったのだろうかと疑問符を浮かべるが、前世はあっても彼は地球人だ。

 

「ベリアル……と聞けばわかるか?」

「…ベリアル? ああ、光の国が生んだ初めての悪のウルトラマン…だっけ、聞いたことはあるけど、詳しいことは知らないな」

 

知識として随分前に聞かされたのを思い出し、引っ張ってきた情報を伝えるとメフィラス星人のイレイズは頷く。

 

「ああ、今宇宙ではベリアルの残党が大暴れしておってな。現に---ベリアルに着いたワシの親友…同胞は、やつを復活させるために暗躍…いや、やつのことだ。ベリアルのやつはもう復活しているのだろう」

「確信しているのか?」

「ベリアルのカリスマ性は高い。そもそもやつが銀河帝国を作り上げれたのは偉大なるカリスマと強大な力だ。その者には当然、弱者と強者は集う。優秀な者たちも、な」

「へぇ……てか、帝国?」

「かつてウルトラマンゼロという光の国の若き最強戦士と多くのウルトラ戦士。

レイブラット星人の血を継ぐ者と人間たちが、無限牢獄の封印から解かれ光の国をほぼ壊滅に追い込んだベリアルとぶつかり合い、ウルトラ戦士たちはなんとか勝利をその手に掴んだ。

だがベリアルは生きており、やつは光の国への復讐を兼ねてアナザースペースを含む全宇宙制覇を目的として一大帝国を作ったのだ。それはウルトラマンゼロと彼の仲間であるウルティメイトフォースゼロが企みを打ち砕いたわけだが---ん?」

 

知らない情報を紡絆が聞いていると、突如として傍に置いてあったエボルトラスターが反応して輝く。

それに気づいたのか、イレイズは言葉を区切っていた。

紡絆も意外だったのか目を瞬きさせ、小首を傾げる。

 

()()()()()()…ウルティメイトイージス?」

「なぜそれを…いや、ウルトラマンゼロの持つ、次元を超える力のことだろう。ワシが最後に知った情報ではウルトラマンコスモスとウルトラマンダイナの力を得たらしいが…それは良い。

問題はその後だ。さっきも言ったがワシの同胞はベリアルを復活させるためにそのウルトラマンゼロの肉体を狙うことにしたらしくてな…そこから先はワシも知らん。

だがワシがこの地球に来たのは、帝国が滅ぼされた後にベリアルの残党に追われ、追っ手から逃げていたら宇宙船を破壊されて偶然不時着したのがこの地球…というわけだ」

「なるほど…イレイズは目的があってきた訳じゃなかったのか」

 

わざわざ何も知らない紡絆に宇宙で起きていたことを説明してくれたが、色んなことを含めてイレイズが地球へ来たのは本当に偶然だったのだろう。

 

「でも侵略とか企みをしなかったのか? いつ不時着したのかは知らないけど、イレイズは地球に慣れてるように見える……その時にはウルトラマンはいなかったはずだ」

 

過去にウルトラマンが居たという証言はなく、イレイズは宇宙人と思えないくらいに地球に染まっている。

明らかにメフィラス星人の知能と技術を使えば、ウルトラマンのいない星など侵略出来ても可笑しくない。

だからこそ紡絆はそう聞いたのだが、イレイズは遠い目をしているように感じれて、懐かしそうな様子を漂わせる。

 

「……最初は考えたよ。だがワシがベリアルの残党や同胞から逃げてきたのは、戦うことが嫌になったからに過ぎん。何よりも…地球人を愛してしまったんだよ、ウルトラマン」

「………」

「ただ宇宙船が不時着したなら問題はなかった。だがワシは致命傷に近い傷を負っていて、命からがら宇宙船で逃げたら撃墜されたのだ。明らかに助からないと判断されたのか追っ手は地球には来なかったが……その時、麗花に出会って救われたのだ。本来の姿でも懸命に接してくれた彼女に、な。軽く、地球単位では40年ほど前かのう」

「……そういうことか」

 

頭の良くない紡絆でも、そこまで聞けば分かった。

目の前の宇宙人は戦いから逃げて、命を狙われて、死にかけたところを麗花に出会ったことで地球人を愛するようになったのだと。

一体それまでにどんな経緯があったかまでは分からないが、イレイズが地球を侵略しなかったのも、自分を襲わなかったことについても、戦いを嫌ったからだと。

ウルトラマンと同じく、人を好きになったからだと。信じてくれたからだと。

 

「この宇宙の地球人は、四国以外が滅んでいるというのによく生きておる。今は神樹とやらのお陰で瀬戸際で生きているようだが、必死に諦めることも無く毎日を生きている。

それがよりワシの心に変化を齎したのかもしれんな……。まぁお主がいると分かったから侵略しなくて正解じゃったな、ハハハ」

「い、いやそれは流石に笑い事じゃないような気がするなぁ……」

 

一歩でも間違えたら、少しでも起きたことがなければイレイズがこの地球を侵略してたのかもしれないと思うと、流石の紡絆もぞっとする。

しかも40年前となると紡絆は生まれてないしウルトラマンが居たのかすら知らない。

もしかしたら、完全にこの世界は滅んでたのかもしれない。

 

「それで、ワシは宇宙人だが地球人として生きてきた。

ゆえに愛した人間を出来る限り助けることにしたのだ。

まぁ…情けないことに娘を()()()救えなかったが。

ああ、心配しなくとも後悔はしておるが人間に対する思いは変わっておらんしウジウジしていたら娘に嫌われるからのう。仮に復讐で侵略でもしたらあの世で幻滅されるわい。その方が耐えれん」

「そ、そうか…それは何と言ったらいいか分からないけど……」

 

さらっと重たいことを告げてきたイレイズに頬を引き攣らせるが、彼自身がそう言うならと踏み込まないことにした。

といっても、紡絆も両親を喪ってるのでアレなのだが、もしイレイズが復讐心で侵略していればやっぱり地球は滅んでいただろう。

紡絆はこの地球は何度危機が訪れかけているのか考えたくなったが、今もなってるので考えるのはやめた。

 

「それにしても二年前……か」

「…どうした?」

「いや…なんか二年前って色々あるんだなーってさ。俺の友人に記憶を失った友人がいるから…」

「……何?」

 

自身の言葉を拾ったイレイズが訝しげに---しているような気がして、紡絆は首を傾げる。

何かおかしいことを言ったかと。

 

「これは…偶然か? いや、しかし……どうにも妙に違和感が…どうなっておる…?記憶の齟齬が…」

「…イレイズ?」

「いや…気のせいじゃろう……いずれにしても、娘を喪ったのもあってお主の妹を引き取った後の日々は存外悪くなかったのう。どうじゃ、ワシらの家名も名乗ってるようだしワシらが預かっても---」

「いや話が急に変わりすぎだろ!なんでそうなった!?」

 

いつもは引っ掻き回す紡絆が後手に回っている。

目の前のイレイズ、もといメフィラス星人はカッカッカッと笑うだけだ。

やはりおじさん臭い。

 

「くっそ、ギャップが凄すぎるだろなんだこのメフィラス星人……。俺のイメージとまるっきり違うぞ、慣れる気がしねぇ…はあ」

 

色んなメフィラス星人のことを前知識で知っているだけあって、今までに見たことの無いタイプに紡絆が困惑しているどころか、呆れてため息を吐いた。

ここまで紡絆を引っ掻き回すのは彼だけでは無いだろうか。

 

「さて半分冗談のことは置いておいて…」

「半分は本当かよ……それはもう妹に聞いてくれ」

「ハハハ…ああ、一応言っておくが、この地球にはワシ以外にもベリアル軍から逃げてきた宇宙人は存在する。もしかしたら怪獣も眠っているかもしれんな」

「……マジ?」

「うむ、しかし怪獣は知らんが、宇宙人はワシみたいなやつらだから人間と共存してるだけじゃよ。仮に一人でも暴れれば、ワシらはそいつを全員で抑えるだろう。特に、お主のようなウルトラマンがいると分かればより、な」

「………まあ、暴れたら止めはするだろうな」

「ほぉ……」

 

他にいることに驚きはしたものの、苦笑いを浮かべながらも、紡絆は決して殺すとは口にしなかった。

だからか、イレイズは意外そうな声を漏らしていた。

 

「…なんだ?」

「いや、なるほど…なに、お主のことを理解出来たような気がしてな」

「……んん?」

「お主は真っ直ぐだ。嘘も付かず、差別すらせず、宇宙人であろうと和解しようとする。必要な優しさを備え、時に必要な覚悟を持ち、歩み寄ることの出来る勇気もあれば、お主の胸の中にある確かな光は眩いほどに輝いてある。きっと周りに与える影響も大きいだろう」

 

ほんの少し、長くいたわけでもなく、長く話したわけでもなく、短い時間でイレイズは紡絆の本質を理解し始めているどころか理解していた。

紡絆がわかりやすいのと、メフィラス星人の頭脳を持ってすれば造作もないことかもしれないが。

まぁ、それにしては二人の距離感は友人のように近くなっているのだが、さすがはコミュ力お化けの紡絆か。

 

「え、急に何?別にいつも通り普通にしてるだけなんだが…」

「元から戦うつもりはなかったとはいえ、お主の素がそれだからこそ、ワシは警戒すらしなかったのかもしれんな…ただ」

「…ただ?」

 

妙に不穏な空気感をただ漂わせるイレイズに紡絆は何が言われても良いように身構える。

 

「…いや、なんでもない」

「ないのかよ---ッッ!」

 

が、無駄に終わった影響で前のめりになり、傷が痛みを発して顔を顰める。

すぐに隠すように表情を取り繕うが、無意識に左肩を抑えていた。

 

「…さて、ワシのことはいいだろう」

「あ、ああ…最初から心配してなかったけど、戦う気がないのは分かったし、企んでるわけでもなさそうだからな」

「ならば……お主、()()()()()いる?」

「……?」

 

話を変えるように、紡絆に対して疑問を投げかけるイレイズ。

紡絆はその質問が理解出来なかったようで、どう答えばいいか分からないといった様子だ。

 

「何と戦っている?」

「……ああ、そうか」

 

それでようやく理解した紡絆は、宇宙人だからいいかと説明していく。

メフィラス星人の頭脳なら、役に立つかもしれないので間違った判断ではないだろう。

バーテックスの存在、スペースビーストの存在、闇の巨人(ウルティノイド)、ウルトラマンの結界や遺跡のこと、勇者の存在、満開のこと、神樹様のこと、樹海のこと、融合型昇華獣、ネオ融合型昇華獣、嘘の下手な紡絆はそれらを包み隠すことなく話した。

 

「……なるほどのう、神樹とお主のウルトラマンの結界…それがこの地球を守ってるモノか。バーテックスとやらとスペースビーストが現実世界へ現れない理由も…それ、と。新たに侵略者や宇宙怪獣が来ないのも、バーテックスやスペースビーストがいるのにお主以外にウルトラマンがいない理由もそれだろう」

 

ぶっちゃけ紡絆の説明はかなり下手だったが、イレイズは理解したように頷き、掲示板の人たちと同じ結論に至っていた。

あれだけ苦労したのにすぐにそれに行き着いた彼がどれだけ優秀か分かる。

 

「しかし…お主は光の戦士としての素質自体は、地球人と思えないくらいにある。ウルトラマンに関してはワシのよく知っている光の国のウルトラマンたちやネオフロンティアの戦士ではないようだが…お主を見ていて分かることが…言いたいことがある」

「……うん?」

 

明らかに色々知っているイレイズが意味深げに拳を軽く胸にぶつけた。

コツン、と軽くだが硬い、腕の感触。

それだけで紡絆は口に出しそうになって、唇を噛み締める。

 

「ウルトラマン、もう変身してはならない」

「………ッ」

「お主の体はとうに限界を迎えている---今のでも相当痛かっただろうし、その左目…見えてないのだろう?」

 

流石、というべきか。

いつの間にか気づかれていたようで、イレイズから逃れるように視線を逸らす。

だがそれは答えを言っているようなもので相変わらず嘘は下手らしい。

 

「このまま変身し、戦えばお主は一回…持って二回で死ぬ。

特にそのネオ融合型昇華獣とやらと、な。無理をしなければ三、四回ほどは()()()()()()()()問題ないだろう。なにより肉体が回復していないことにも気づいているはず」

「それは……なんでかは分からないけど、メタフィールドをあと一度なら展開出来るくらいの余裕はある…と思う」

「メタフィールド…噂に聞く不連続時空間か…。例え戦えたとしても、お主は戦いをやめた方がいい。勇者とやらに任せるべきだ」

「……いや、それはできない。スペースビーストは俺が倒さなくちゃいけない…そんな気がするんだ」

 

この場合、イレイズは全て正しい。

彼の言った通り、紡絆は限界だ。メタフィールドを貼れるとは言っているが、貼れても崩壊寸前の空間。

はっきり言って、確証もないのに使命感のように戦いから身を引かない紡絆の方が間違っている。

 

「そうは言うがな…その左目から感じる強烈な、それこそウルトラマンですら無力化出来ないほどの毒…いや祟り(呪い)か。お主の肉体が回復しないのはそれによって回復を妨げられているからだぞ。それも、初ではなさそうだ」

「呪い? それに初じゃない…?」

「ああ、何らかの力が作用しているように見える。今はお主の中のウルトラマンが抗っているようじゃが、そのウルトラマンですらもエネルギーをかなり消費して残り少ないように感じる…拡大してないのは彼のお陰か。

ただ左目から感じる呪いとは別で、体内にナニカが蓄積しておるな…こっちは、毒か?いや、それもあるが…ダメージを受け続けたから、か?」

「体内に…? けどそうか、ウルトラマンが…ずっと…。なんだ、そうだったのか…」

 

今まで紡絆の体は、決して回復するということがなかった。

以前まではストーンフリューゲルを使えば、連戦に次ぐ連戦によって効果は薄かったが多少回復した。

しかしバーテックスの総戦力戦の後、目が覚めてから傷が治らなくなったのだ。

それには2つ理由があったらしい。

ひとつは以前受けた、自身の左目を破壊した謎の光弾、呪い。

イレイズ曰く、その呪いが原因だという。そしてまた、呪いが広がらない理由はウルトラマンのお陰だと。

そしてもうひとつは()()()()と言っている。

振り返るのは、最初の戦いだろうか。

あの時、紡絆の身に起きたこと。

彼は一度、()()()()を注入されている。あの時はコアファイナルで吹き飛ばしたと思われていたが、完全に除去ができてなかったのだろう。見えないほどに蓄積され、気づかないぐらいに溜まっていた可能性は十二分にある。

それに毒霧を直接吸い込んだり、別のネオ融合型から毒を食らったこともあるのだ。

その他には融合型昇華獣にはバーテックスの力が備わっており、毒だけでなくその他にも色んな攻撃を許容値を超えるレベルで何度も受け続けたのが原因だった。

正しく、塵も積もれば山となる---それをバーテックス側は実践して見せたのだろう。

故に、紡絆の肉体は自然回復の機能は完全に潰されたと見ていい。

分かりやすく言うならば、何度も受け続けた致命的なダメージで回復機能が低下し、呪いによって完全に破壊された。

紡絆はその事実よりも、ウルトラマンが自身を今も守り、負担をかけていることに申し訳なさ半分、助けてくれてることに嬉しさ半分といった感じだった。

 

「それでも……戦うのか?」

「ああ」

 

もう一度、問いかけるように言われた言葉。

だが紡絆は迷うことすらなく、即答した。

 

「何故だ。何故お主をそこまで駆り立てる…ウルトラ戦士はいつもそうだ。か弱き命のために自身の命を投げ売り、救おうとする。時に敵とも和解を目指し、自身の犠牲を厭わない。誰かのために戦う理由など、なかろう。もっと自分を大切にすべきだ。

戦いが嫌になったワシには、お主の戦う動機が理解ができん」

 

それは、彼の本音なのだろう。

今までとは声質が変わり、理解の及ばないことに困惑しているように見える。

 

「さぁ…どうだろう。誰かを助けたい思いは当然ある。

でも俺は生きてきた記憶がない。

ただ元から人助けが好きらしいから。でもさ、他のウルトラマンも俺も…別に理由なんてないんだと思う。

俺も彼らも戦う理由は、純粋に『守りたいと思った』からじゃないかな。それが我儘だろうと理想だろうと、それを成すのがウルトラマンだ。

少なくとも、俺はずっとそのために戦ってきた。

今もこの世界を救うためにも、俺は戦いたいと思ってる。

けれどもしかしたら、俺は求めてるのかもしれない」

「…求めている、とは?」

「俺が得た、光の意味。ウルトラマンの答えを。

だってそうだろ、この光は…ウルトラマンの光は俺が得なくたってよかったはずだ。俺の元に来なくたって、よかったはず。でもウルトラマンは俺の元に来た。

それは…彼が俺を選んでくれたんだ。その意味を知りたい、どうして俺だったのか。偶然かもしれないけど…。

でもそれは戦いの先にあるような、そんな気がするんだ」

 

胸に手をやれば、紡絆は感じられる。

いつも傍に居てくれている、光を。

受け継がれて、継承されて、未来へと導かれた希望の輝き。

 

「……お主は、眩しいな」

「へ?」

「お主は多くの人を導き、希望を与えてきた。光を与え、誰かを照らしてきた。

自覚はないようだが、ウルトラマン…お主は希望なんだ。小都音にとっても、きっとお主の周りでも……な」

 

誰もが紡絆を例外なく『光』と例えた。

彼の本質がそう成すというのもあるだろうが、紡絆の手によって多くの者が小さいことから大きいことまで、彼によって助けられたことが多いのは事実。

そしてそれは---目の前のイレイズにも、該当するのかもしれない。

 

「その様子だと、誰が何を言っても引き下がらなかろう。戦いは好まないとはいえ手伝ってやりたいが、ワシには結界や樹海とやらには入れん。

だから、託そう---お主に絶望を覆す、未来への向かうための片道切符を」

 

イレイズが膝に手をやり、もう片方の手で床を押すようにして立ち上がるとそのようなことを言った。

紡絆は座ったまま見上げ、意味が分からないため首を傾げた。

 

「…一度だ。

一度だけ、お主を全力で戦えるようにする。その怪我の影響で、まともに戦えんのだろう。もはや地球人が負っていい傷を、限界を超えているからな」

「まぁ…でも、どうやって?」

「ほれ」

 

ひょい、と何かを投げられ、紡絆は両手で慌ててキャッチするが、バウンドして落としそうになるのを必死にキャッチして、焦ったように額を腕で拭った。

あんなこと言った割に、扱いが乱雑すぎる。

 

「なんだこれ」

「一度っきりのドーピング剤みたいなもんじゃ。そうだな…お主らに因んで、ベータリベラシオンカプセル…とでも名付けよう」

「へえー」

 

形としては明らかに見たことのあるような変身アイテム型のペンライトみたいな感じだが、カプセルというだけあって物凄く小さい。

紡絆は投げ渡されたそれを興味津々に見ていたが、飽きたので見るのを辞めた。

 

「ベータというだけあって試作品に過ぎんが…それを使えばお主は傷を無視して全力で戦うことが可能になる。

しかし…」

「デメリットがあるってわけか」

「うむ、三分じゃ。それ以上は効果が持たない上、効果が切れれば受けたダメージは倍になって返還される。諸刃の剣と言えるようなもの…ここぞという時にしか使ってはならない」

「…ウルトラマンと同じ、制限時間」

 

これほど重傷な紡絆ですらも全力で戦えるようになるだけで凄いが、相応のデメリットがあるだけあって、使い勝手は悪いようだ。

強大な力を得るには、いつも犠牲になるものがある。

それを表すかのようだった。

 

「ただし、お主の場合は三分も持たん。恐らく一分か二分。

その呪いがどのような存在にやられたか分からぬが、上位の存在のはず。故にどれほど影響を与えるか未知数…」

「大丈夫、十分だ」

 

ドーピング剤---ベータリベラシオンカプセルを大切そうに握りしめ、傍に置いてあるエボルトラスターを紡絆は握る。

 

「ウルトラマンに悪影響は?」

「ない。あくまで直接投薬するお主のみだな」

「じゃあ…問題ないな。イレイズ、あんたは信じられる。だから信じて使わせてもらって---絶対に勝つ。あんたが愛してくれた人間を、地球を守るためにも」

 

紡絆も立ち上がり、確かな光を宿した瞳で真っ直ぐにイレイズを見つめる。

イレイズは少し眉を曲げ、眩しいものを見るかのように見て、ふと笑った。

 

「ワシの分も背負うということか。お人好しじゃな」

「よく言われる」

 

同じく紡絆は笑い、その手を伸ばした。

イレイズは固まったように紡絆とその手を見て、はてと疑問符を浮かべる。

 

「友好の証…ってやつだ。それに感謝してる」

「…そういうことか、礼は良い。ワシにとってもこの地球は大切だ。

正直、最初はただウルトラマンを宿すだけの少年かと思ったが、お主を気に入った。だから生きて、また話し相手になってくれればな」

「そっか…死ぬつもりはないよ、答えは見つけてないし…俺はまだやらなくちゃいけない『依頼』が多くある。それに俺も、イレイズには特に隠す必要も無いから話しやすいしな、追求されたらすぐボロ出るし」

「お主はあまりにも分かりやすいからのう…だが、いくら全力で戦えても一人では勝てない戦いもある。それだけは忘れてはならん」

「…うん、分かってる。だから俺は---」

 

その続く紡絆の言葉を最後まで聞いて、メフィラス星人のイレイズは安心したように笑い、紡絆の手を握る。

宇宙人と地球人。

種族が違えども、分かり合うことは出来る。

それを示すかのように、新たに紡がれる絆によって、光はより強まる。

相対する敵はあまりにも大きく、脅威で、深く、深淵のような闇。

それでもなお、紡絆の中の---否、紡絆の光は決して闇に負けることなく、弱々しくも輝き続ける。

こうして、ここにウルトラマンを宿す人間と宇宙人であるメフィラス星人は確かに、分かり合うことが出来たと言えよう。

イレイズが好戦的じゃなかったとはいえども戦いに発展することも無く、無事へ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真偽さん、紡絆くん。ご飯出来たけど大丈夫?」

 

互いの信頼を分かちあっていると、ノック音が聞こえた後に襖の奥から麗花の声が聞こえてくる。

 

「…しんぎ?」

「地球での名だが、気にせずともいい。

---ちょうど話しは終わった。すぐに行く」

 

聞いたことのない名前が聞こえた紡絆はそれに反応するが、イレイズが代わりに答えた。

すなわち、人間として生き、人間として過ごすための名前なのだろう。

 

「お兄ちゃん早く来てね、真偽おじいちゃんも!」

「ああ、分かった。俺も行く。先に行っててくれ」

「はーい」

 

どうやら二人ともいるらしく、今度は明るい小都音の声が部屋に聞こえて来るが、紡絆はすぐにそう答えた。

すると返事とともにまた離れていき、紡絆はイレイズを見ると、彼の姿は人間としての老人へと戻っていた。

 

「…一応聞くが、そんな老人の姿にする意味は?擬態なんだろ?」

「…言っただろう。人間として、と。それにこっちの方が合っているんでな」

「やっぱりそうか」

 

宇宙人としては、そこまで老いているわけではないのだろう。

しかし人間として過ごしてきた時間、宇宙人として人間の年齢を換算すると、若者よりも老人の方が本人的には合っているということだろうか。

やけに動きはジジイ臭い時があるので、確かに合ってそうだった。

 

「とりあえず、今は飯食べにいこう。イレイズ…いや、真偽さん…かな」

「…名は好きに呼べ」

「そうする、イレイズ」

 

紡絆はどうやら彼の本当の姿の名前を選んだらしく、そう呼んで先に廊下に繋がっているであろう襖の方へと向かう。

その姿をイレイズは見て、僅かながらに不安を覚える。

 

(…彼はあまりにもの真っ直ぐで、純粋すぎる。眩しすぎる光は、時に毒になる。

故に、闇に染まればそれはどれほどの脅威となるか……。だがもし、その輝きを保ち続けられたなら先に続く未来は---きっと。

しかしもまあ…自分ではなく、ウルトラマンの心配をするとは…自己犠牲もここまで来るともはや病気だな。いや自己が存在しないか…。

せめて彼の未来に、幸あらんことを)

 

隠していたが、紡絆の在り方に危機感を覚えたイレイズは希望に満ちる明日ではなく、暗雲に包まれながらも陽が差し入る、どちらに転ぶか分からない空を見て、ため息をひとつ零す。

果たして続く道は、希望か。それとも絶望か。

それらは誰にも分からず、唯一イレイズに分かることは、全ての命運を握る鍵は彼の仲間とウルトラマン。

何よりも目の前にいる、底無しの明るさを持ち、年不相応な覚悟と精神力を持つお人好しな少年であるということ。

 

(…それにしても、二年前…か。ワシら…いや、()()()()()()()は何か、大事なことを忘れてるのではなかろうか。

娘を失ったのと彼の友人の記憶の喪失。

言わなかったが、妙な違和感がある…果たしてこれは、偶然か?)

 

考えても分からず、ただ所持している記憶に齟齬が起きないようにまるで作り替えられたかのような、そんな違和感だけを胸にイレイズは一度目を伏せ、歩いていく。

---果たしてそれに気づけたのは彼が宇宙人だからか。

そして---今日のご飯は何かと明るく歩む少年は気づいているのか。

少なくとも、傍から見れば紡絆の姿は間抜けな程に呑気だった。

 

 



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「-家族-オブリゲーション」

 

 

◆◆◆

 

 第 36 話 

 

 

-家族-オブリゲーション 

 

×××

 

日常編その②

天海小都音編・後編

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その風景を、紡絆は見ていた。

一歩離れたところで眺めている。

その先には小都音が笑顔で話していて、麗花と真偽---メフィラス星人のイレイズがいる。

本当の家族ではないのに、それはどこか家族のようにも見えて、僅かに残る、紡絆の家族の記憶。

懐かしくもあり、もう二度と見ることの出来ない日常風景。

父親は死に、母親は一度…否、二度殺すことになった。

そう、紡絆は自らの手で壊してしまった、壊すことになったのだ。

 

(…確かに、ありかもしれないな。小都音が幸せなら、それでいい。彼女にはイレイズは正体を教えてないらしいし、さすがに俺の怪我や左目についても気づいてない。

母親を殺したことは伝えれないし…だったら、俺が決めることじゃないがこのままここで暮らした方が幸せなのかもしれない。

でもイレイズ曰く、俺の変身回数はもう限られてるっぽいし…自分の体のことはわかってる。

ネオ融合型昇華獣相手には持って二回。なら…バーテックス相手でも三回ほどか?)

 

半分冗談と言っていたが、提案されたことを思い出す。

短期間だが、紡絆はもうイレイズを信用しているのだ。それに小都音がかつてお世話になっていたのも事実。

だからこそ、小都音を託せると思っている。

無論小都音の思いを尊重するが、彼はもう自身の限界を知らされている。

あくまで推測に過ぎないとはいえ、だ。

ただひとつ間違えていることがあるとすれば、彼が思っているよりも妹の小都音は紡絆のことに気づいているという点。

 

(…まぁそれでも、俺に出来るのは戦うだけだな。守るために。

そのためにも、悩んでる暇は無い。俺が負けたら、ウルトラマンも世界もまずいんだ)

 

決して紡絆はその枠へと入ることなく、義理のような家族の風景を見ながら、決意したかのようにスマホを取り出し、操作した。

しばらくしてスマホを収納し、顔を伏せながら自身の胸に手をやって握りしめる。

 

「……本当に、ごめん」

 

その言葉は、誰に紡がれたのか。

確かな覚悟を持ちつつも、申し訳なさそうに謝る紡絆。

当然返事する者はおらず、紡絆は顔を上げて、前を見据える。

二人のデュナミストに導かれた紡絆は、やはり、何処までも迷うことはないらしい---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イレイズとは話が合うからか何度か話して、麗花とは畏まりながら話して、一日というのはすぐに過ぎていく。

あくまでお世話になるのは一日という話だが、紡絆は居心地の良さを感じていた。

だがそれは逆に留まりたくなる可能性が出るわけで変にそんな気が起きないように、紡絆は早々と寝ようと用意された寝室へ向かおうとしていた。

 

「…紡絆くん、ちょっといい?出来れば、こっちに」

「…はい?」

 

しかし廊下に出た瞬間、紡絆は麗花に呼び止められ、手招きされる。

流石に泊めて貰っている相手に無視することも出来ないため、紡絆は素直について行くと、リビングから離れた廊下で対面することになる。

一体なんなのか、そう思いつつも、目の前の麗花は不安を隠せなさそうな表情で心配ごとがあるような様子だった。

 

「ここなら…大丈夫かしら。ごめんなさいね、こんな時間に。もう夜遅いから、寝たいでしょうに」

「いえ、麗花さんにはお世話になってる側なので…それで、小都音じゃなくてどうして俺に?」

「それのことなんだけど…実は小都音ちゃんのことで、伝えておきたいことがあるの」

「小都音のことで?」

 

全く予想も出来ないからか、紡絆は目を丸くする。

イレイズからなら分かるが、麗花から何かを言われるとは思わなかったのだろう。

 

「あたしの杞憂ならいいんだけどね…今日一日中、傍に居ることが多かったけどあの子、結構精神が不安定になってきてるように見えてね…だから気にかけてあげて欲しいの。きっと怖くて…寂しいんじゃないかなって」

「小都音が…? そう…ですか。分かりました、ありがとうございます」

「ええ…あたしに出来ることはこれくらい。ごめんなさい」

「いえ、そんな…小都音にとって、麗花さんやイレ…真偽さんはもう一人の家族のようなものだと思うんです。

ですから、良ければまたいつも通りに過ごしてあげてください。それだけで、小都音は嬉しいと思うので」

 

まだ小都音はリビングから出てきてないため、紡絆はリビングを見つめる。

見つめる視線と表情は、妹を想う年相応な優しい兄の姿だった。

 

「…そうね、あたしたちも家族だと思ってる。もちろん、貴方のこともね」

「はは…ありがとうございます」

 

苦笑いに近い笑みを浮かべつつも、何処か紡絆は複雑そうだった。

紡絆にとってはまだその段階では無い、とも言えるだろう。

だって彼は、まだ一日しかここに居らず、関わってないのだから。

 

「それじゃあ、俺はこれで…おやすみなさい」

「おやすみなさい、もし何か困ったことがあったら言ってね」

「はい」

 

わざわざ小都音のことについて教えてくれたという意味でも、気遣ってくれたことという意味でも頭を下げ、紡絆は背を向けて歩いていく。

 

「小都音ちゃん……大丈夫だといいのだけど…」

 

麗花の脳裏に浮かぶのは、昼前の小都音の姿。

着いてこないことに気づいて戻ったとき、一瞬しか見えなかったが小都音の顔色が悪かったのだ。

そして何処か、辛そうにも。

だからこそ麗花は何も出来ない自身の無念さを恨みつつも、せめて出来ることはしようと、話したのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麗花と離れてから、数分。

寝室へ戻ることなく、リビングからさらに離れると、紡絆は横目で曲がり角を見た。

 

「…で、今度はあんたか。イレイズ」

 

壁に背中を預けながらも、空を眺める宇宙人。

と言っても、今は擬態の人間態だが。

 

「何か用か?」

「いや…ちょいと、な」

 

徳利を手に持って揺する姿を見て、紡絆は察した。

わざわざこの時間に話しかけてきたということは何やら要件があるのだろう。

 

「…付き合うよ」

「それはありがたい」

 

軽くため息を吐く紡絆だが、イレイズは何処か嬉しそうに笑みを浮かべた。

少し移動して、縁側に座る二人。

 

「ほら」

「うむ」

 

特に会話することなく、紡絆は置かれた徳利を手にすると慣れたようにお酌する。

酒が注がれ、イレイズは一口呑んでいた。

紡絆は自分も飲む---のは肉体年齢的にまずいので流石に辞め、普通に水の入ったコップを手にしていた。

 

「………」

「………」

 

特に会話があるわけでもなく、互いに手にある物を飲みながら、雨の降る暗い夜空を眺める。

イレイズは懐かしそうに見つめ、紡絆は何処か楽しそうに見ている。

空が晴れておらなくとも、二人の目には星々が見えていることだろう。

 

「イレイズ」

「ん?」

 

そんな空間がずっと続くかと思われたが、紡絆がイレイズを見ながら口を開いた。

 

「お前も小都音のことか?」

「お前も…ということは麗花から聞いたのか」

「ああ、さっきな」

「そうか…理由も分かっておるようじゃな」

「そりゃあ…戦って、いつも怪我してるし…お陰で俺の体はこんな感じだ」

 

服を捲れば、そこはもう包帯しかない。

仕方がないと言うように苦笑するが、家族が怪我して、今回に至ってはまた死にかけていたのだから小都音の負担はどれだけのものか。

 

「だが戦うのだろう?」

「スペースビーストからみんなを守れるのは俺だけ。樹海に入れるのも勇者を除けば何故か俺だけ。だから、みんなを守るためにやるしかない。兄としては失格だよ、俺は」

「……はぁ…」

 

そう語る紡絆は真剣だが何処か優しそうな表情で、自虐気味で、理由が分かったと言わんばかりにイレイズは顬を抑えながらため息を吐いた。

姿はいつの間にか、メフィラス星人になっている。

 

「どうした?」

「まったく…お主はバカだな」

「おい、いきなり失礼なやつだ。よく言われるが俺のどこがバカなんだよ」

「それがバカなんじゃろうかて」

 

唐突な罵倒に文句を言いつつジト目を向けるが、イレイズは意に介した様子は無い。

少しして、無駄だと判断したのか紡絆はメフィラス星人の姿でどう飲んでるのだろうか、とかどうでもいいことを考え出した。

 

「まぁなんだ。心配だけではないのだろう」

「他にあるってことか?」

「さぁ、そこは自分で考えるんだな。ワシから言えるのは、お主はもう少し自分を大切にすべきだ」

「自分を大切に…ね。してるけど…ってなんだよその目は」

 

本気で言ってるのかと言わんばかりの視線を向けられ、紡絆は機嫌を若干悪くした。

どうやら本気らしい。

改めてイレイズはため息を吐く。

 

「重症じゃな…」

「まぁ確かに重傷だな」

 

言語とはなんと難しいことか。

文章化すれば分かるような意味でも、同じ発音を言葉で解釈すると意味がまるっきり変わっていた。

 

「でもさ俺は心の底から誰かを助けたいって気持ちが溢れて、気がつけば人を助けてしまう。

何でか分からないけど、困ってる人が居たら助けなきゃって思うんだ。ずっと昔から…これが憧れなのか、使命なのか、何なのかは分からないけど」

「ふむ…そうか。それは恐らく、お主は……」

「ん?」

「いや…やっぱりバカじゃな。お人好しにも度が過ぎておる」

「結局それかよ!

ったく、そう言われてもなぁ…」

 

何かを分かったかのような言い方をした割には、行き着く先が同じだった。

紡絆は後頭部を掻くと、体を後ろに倒して両手を後ろに回して体を支える。

首の位置が斜めになり、より夜空を眺める体勢。

 

「悩むのは俺らしくない。俺は誰に何を言われても、俺らしく居るだけ。そうしなくちゃ、俺には合わせる顔がないもう会えない人たちがいる。

みんなには申し訳ないけど、誰かの幸せを守れて、笑顔が見られて、それだけで俺は満足なんだ。もちろん心配させたりしないよう気をつけるようにはしてるけどな」

「つくづく光の戦士に向いておるのう…。ウルトラマン、ならばそれを伝えるしかあるまい。どうせお主は変わらぬのだ。

変わるならば、とうの昔に変わっておるだろう」

「あ、確かに。止められた時に変わってるか」

 

今更ながらに気づいたと言うように頷く紡絆。

フォローするなら自分を客観的に見るのは存外難しいということくらいか。

 

「ただまぁ…一つ言っておくならば、誰もがお主より強いわけではない。一体何があって、どんな経験をしてきたのかは知らぬが……肝に命じておくといい」

「…俺が強い、かぁ」

「ん?」

「俺は強くないよ、未だに未熟だ。過去の適能者(デュナミスト)が居なければ、()()()()がなければ、俺はウルトラマンとして押し潰されてた。でも、だからこそ今は前に進みたいって思ってる」

「……そのことを言ってるのだがな」

 

警告するように告げられた言葉だが、理解してなさそうな紡絆の様子に、イレイズは何処か呆れていた。

今の言葉にすら、紡絆は空白を開けることなく答えて見せたのだから。

 

「…?何が言いたいか分からないが…とりあえず今日は寝ることにする」

「そうか」

「じゃあな」

「うむ…」

 

結局諦めた紡絆は飛び跳ねるように体を起こし、背を向けて歩いていく。

イレイズは人間態に戻って見えなくなるまで見ると、無言で夜空を眺めながら酒を飲んでいた。

果たして彼は、紡絆の背中を見て何を想っていたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宛てがわられた部屋で、紡絆は布団に横になっていた。

目は開いており、寝ているわけではない。

ただ何かを考えているように見える。

手に握っているエボルトラスターを目元まで持ってくるとそれを見つめ、ふと仰向けになると天井を眺める。

 

「…ッ?」

 

特に何かがあるわけでもなく、ただ素材であろう木材だけが見える。

その筈なのに、紡絆は目を何度か瞬きさせて、右目を左手で覆い隠して頭を振っていた。

そして首を傾げると、気のせいかと判断したのか両手を後頭部に回して天井をまた眺める。

そうして暫し思案すること数分。

考えが纏まったのか紡絆は頷いた。

 

「よし、決めた。隠さずに言おう。嘘ついても追求されたら無理そうだし」

 

一体誰に、そしてなんのことなのか、それは分からない。

しかし紡絆は満足したように体を横に向けて、今度こそ寝る体勢へと入った。

そのタイミングでコンコンコン、と控えめに叩かれた音が聞こえる。

 

「…ん? この時間に…誰だ?

…はーい」

 

思い当たる節と言えばイレイズだが、お酒を飲んでたので違うだろう。

となると残り選択肢は2人になるが、どちらにせよ開けたら分かる紡絆は返事をしつつ布団から這い出て襖を開けた。

襖を開けた先、紡絆の視界に映るのは髪をストレートに降ろして、半袖半ズボンのピンク色のパジャマに身を包んだ、いつもと違った印象を受ける小都音。

胸に抱かれているのは枕で、小都音は真っ直ぐ紡絆を見つめる。

 

「お兄ちゃん……」

「小都音か。どうしたんだ?こんな時間に…」

 

時刻はもうすぐ日を跨ぐ。

だべっていた紡絆とは違って、小都音は部屋に戻ったと聞いていた。

だからてっきり寝ていたかと思ったのだが、彼女は今ここにいる。

それに普段と違って、紡絆でもわかるくらいに何処か様子がおかしかった。

 

「……一緒に、寝ていい?」

「……へ?」

 

だからだろうか。

予想外の言葉に、紡絆は固まった。

いつものような冗談かと思っても、至って真剣で、ふざけているようにも見えない。

まぁ、彼女の言動はいつも本気だったりするのだが。

 

「………」

 

それはともかく、思わず一瞬思考が止まったものの、不安そうに枕を強く抱きしめている小都音の姿を見て、紡絆は安心させるように笑いかけながら、手を伸ばした。

 

「よく分からないけど、小都音がそうしたいならいいぞ」

「…うん」

 

相変わらず様子はおかしいが、伸ばされた手のひらに小都音が手を乗せる。

少し、声は嬉しそうだったので間違ってなかったのかなと思いつつ紡絆は小都音を部屋に招き入れる。

 

「さて、と…」

 

部屋に招き入れたのはいいが、残念ながら紡絆は部屋に詳しくない。

用意された布団以外何があるのかすらも分からず、下手に弄ってもあれなのでイレイズにでも聞きに行こうかなと思ったが、小都音が俯いているのを見て流石に部屋から出るわけにもいかない。

考え無しだった紡絆は悩みが増えた。

 

「…一緒の布団で、寝よ?」

「え?でも…」

「お願い」

「………分かった」

 

いくら身内とはいえ、中学生になって男女が、それも他人の家で一緒に寝るのは世間的にどうかと思われた…が、仕方がないと言わんばかりに紡絆は苦笑し、布団に誘う。

互いに背を向けるような形で入り、布団は大きいわけでもないので流石に狭い。

ほぼ密着してないとダメなくらいだ。

 

「………」

「………」

 

そして何より、会話がない。

申し訳なさと何から切り出せばいいのか分からない紡絆と、何を考えてるのか分からない小都音。

互いに口を開こうとせず、このままでは何も進まないだろう。

寝るためなら別にいいが、不思議と紡絆はそれだけじゃないと確信していた。

故に。

 

「…急にどうしたんだ?」

 

口を開いたのは、紡絆からだった。

元々気になっていたことではある。

記憶を失い、家族として暮らすようになった。

でも小都音は妹として接することはあったが、記憶を失った紡絆にスキンシップは取っても深く接触しようとすることは少ない。

普段の行動力からは意外だが、こうやって一緒に寝るのは初めてだった。

 

「…別に、なんでもないよ」

「そうか……」

 

声は明らかに元気はなく、でも理由が分からない。

紡絆は確かに時々()()()()()()()鋭くなるが、察し能力は皆無に等しい。

だからこそ、分からなかった。

彼は、自分のことになると関心が薄いに留まらず、無いと言えるほどなのだから。

 

「記憶、か……」

 

ただ遠くに思いを馳せる。

過去を失った紡絆は取り返すことが出来ない。

一体自分が何をして、どう関わって、何があって、記憶を失ったのかすら知らない。

気がつけば記憶がなくて、自分が何者か分からなくて、死にかけていて、光のような宇宙人に助けられた。

果たして、自分は小都音にどう接していたのだろうと。

もし記憶があれば、彼女が今何を考えているのか分かったかもしれない。

 

「小都音」

「……」

 

名前を呼んでも、小都音は答えない。

彼女は沈痛な面持ちで、さらにくっつくように背を預けるだけ。

見えない紡絆には、小都音がどんな表情をしているのかすら分からなかった。

 

「…ごめん」

「……」

「ごめんな」

 

だからこそ、謝罪の言葉が出てきたのだろうか。

その謝罪は、一体どんな意味があるのか。

無理を続けていることか、騙していることか、記憶を失ったことにか、戦っていることにか、何度も心配をかけさせてしまっていることにか。限界を、迎えかけていることにか。

思い当たる節はとてつもなく多く、どれが正解なのか…もしやどれもが正解なのかもしれない。

ただ紡絆は、何度も謝る。

 

「…どうして」

「…ん?」

「どうして…謝るの……?」

 

そうしてようやく、小さな声だが言葉が返ってきた。

紡絆は返答に迷い、考えてから再び口を開く。

 

「分からない。俺は小都音が何を考えてるかなんて分からないし、こんなんだからさ…どうすればいいかも分からなかった」

「………」

「だからごめん。

謝ればいいと思ってるわけじゃない…でも無理なんだ。

俺は誰かを助けたい、守りたい。笑顔を守りたいし、明るい明日を作ってあげたい。俺が戦うことで誰か一人でも救われたら、それだけで嬉しいんだ。俺が俺に出来ることを、人間のためにやりたいんだ」

 

決して変わることのない、想い。

記憶を失う前の紡絆がどんな人間かなんて、今は小都音くらいしか知らないだろう。

紡絆自身は知らない。

ただ記憶を失った後の自分は、前世の記憶を取り戻す前から人助けが好きで、誰かの役に立つのが好きで、笑顔を見るのが好きだった。

それが紡絆の良いところではある。

生まれながらにしてヒーロー気質。

悪く言うならば、正気の沙汰では無い。あまりにも、狂気的だ。

誰かのために迷いなく命すら投げ捨てられる人間なんて、一体どれだけいるのか。

 

「……てる」

「……?」

 

聞き取ることの出来ない、ボソボソとした声。

何を言ったのか分からなかった紡絆は聞き取るためにも、耳を傾けた。

 

「…分かってるよ、そんなの……」

「こと---ッ!?」

「わかってる…っ!」

 

涙混じりに呟かれた声に、反応して振り返ろうとした紡絆だが、振り返るよりも早く、背後から回された小都音の両手が紡絆のお腹をホールドし、柔らかくも温かい感触が背中から伝わる。

今の紡絆から見ても、触れたら簡単に壊れてしまいそうな、そんな脆さと儚さを感じさせる人肌。

 

「…分かってるの、お兄ちゃんのことなんて、全部しってるよ…」

「小都音……?」

「私、ずっと、ずっと…お兄ちゃんを見てきた。お兄ちゃんが何を言っても、変わらないってことも…知ってる。だって…お兄ちゃんの背中を一番見てきたのは、私だもん…。でも、でも…頭では理解していても、こわいの。私は、お兄ちゃんほど強くない……」

 

回されている両手は震えていて---いや、両手だけじゃない。

彼女は間違いなく、身震いさせていた。

なにかに、怯えるように。

 

「勇者部の人たちは身体機能がひとつ失って、樹ちゃんは声が出せなくなって…お兄ちゃんは、何度も怪我をして…死にかけて……()()()()()()… 」

「……!」

「失うのがこわい…何よりも、もう、わからないの…。今まで分かってたのに、お兄ちゃんのこと何でもわかってたのに…今はもう、お兄ちゃんのことが、わかんないよ……」

 

隠していたことが、気づかれていたということを知って、目を見開く。

不安を隠せないというようにぎゅっと回されている手が少し強まるが、今紡がれている言葉は、小都音の心の内なのだろう。

 

「…なんで、なんでおにいちゃんばかり傷つくの…なんでわたしの大切なものは、奪われていくの…?

人助けなんて、どうでいいよ…わたしにとって、たいせつなのはおにいちゃんなんだよ…?なのに、なのにッ!なんでおにいちゃんは、自分を大切に出来ないの……おにいちゃんは…どうして、離れていこうとするの……?」

「いや…俺は別に---」

「わたしは…ッ!」

 

涙声で次々と溢れ出る思い。

背中から両手を回していた小都音は体をより密着させ、口を開いた紡絆の声を遮る。

 

「わたしは…おにいちゃんが、すき…ずっとずっと、一緒にいたい…居たいだけなの。毎日わたしが作ったご飯を食べて、毎日他愛もないことを話して、学校に行ったり部活したり、お出かけして…家に帰ってきて、お風呂に入ったり寝たりして……かけがえのない、そんな普通の日常を過ごせるだけで、いいのに……」

「………」

「おにいちゃんが、みんなが選ばれなかったら……ふつうでいられたのに…!

いやだよ、また離れるなんて…また、()()()()()になるなんて……つらいよ…こわいよ…分かんないよ…!

なにもかも、ぜんぶぜんぶ、わかんない…!わたしはどうしたらいいの?わたしはどう居ればいいの……!?どう過ごしていけばいいの…!?みんなきずついてるのに…だいすきなおにいちゃんがきずついて…わたしだけぶじで…なんにもっ……できなくて…!! 」

 

小都音自身も、もう何を言ってるのか分からないのだろう。

ただ強く、離せば消えてしまいそうな兄の背中に泣きながら顔を埋めるだけで、感情を爆発させているだけ。

 

「おれは……」

「っ…いやっ! やめて…喋らないで…聞きたくない……!」

 

ただそれでも、小都音の中の不安というのは、ますますと大きくなっていく。

心に根付いた闇は、簡単には消せない。

 

「ばか…おにいちゃんのばか…ばかぁ…っ!」

「こと………っ。…ごめん」

 

コン、と背中に何かが当たる。

頭でもわざとぶつけたのだろう。

涙を流して暴言まで吐くようになった小都音に何かを言おうとして、名前を呼ぼうとして、結局、紡絆は何も言えなかった。

彼は()()()()()()涙を流す小都音に対しても、何も言えない表情しか出来ない。何にも、感じられない。

唯一感じられるのは、申し訳なさのみ。

無論、他にもある。

これが小都音じゃなければ、紡絆はフォロー出来た。

でも紡絆は過去を知らず、自分が何者だったのかすら分かっていない。小都音のことも分かってない。

そんな自分に何かを言う資格はあるのか、小都音に伝える資格はあるのか、そもそも---家族として過ごす資格すらあるのか。

そんなの、馬鹿な紡絆には分からないのだ。

ただ分かるのは本当に、自分は何を言われても止まらないと言うことだけ。

 

「ずっといてよ…そばにいて…そうしたら、こわくなくなるから…なにもしないでいいから…なにもやんなくていいから……わたしをひとりにしないで…わたしだけをみてくれたらいいから……こうして、ずっと、ずっと……」

「…それは」

「きずつかないで、いいんだよ…もうたたかわなくて、いい…。わたしがおにいちゃんをしあわせにするから…おねがいだから、もうやめて…。世界なんてどうだっていい…ぜんぶぜんぶ、どうだっていいの!

わたしには、わたしにはおにいちゃんさえいてくれたらそれだけで、それだけでいいの…!おにいちゃんだけでもいてくれたら、それで……!」

 

必死に懇願するように告げられる言葉を聞いて、紡絆は僅かに顔を上げて、小都音の手に自身の手を乗せる。

確かに小都音に従えば、紡絆はもう傷つくことも、小都音が傷つく可能性も減るだろう。

ただし---そこに世界の犠牲と勇者のことを考えなければ、だ。

 

「おに、ちゃん……?」

「…小都音に心配させてるのは、分かってる。申し訳ないと思ってるし気持ちは嬉しい。けどさ…それは出来ないんだ。

小都音と生きるにも、世界は必要だ。俺だけが助かっても、一緒に『これから』を過ごせない。仮に俺が戦わなかったとしても、勇者は戦わなくちゃいけない。

見て見ぬふりなんて、出来ないんだ。だって俺は---()()()()()()なんだから」

 

家族として兄を心配して、やめさせようとする小都音も正しい。

『ウルトラマン』として世界を守ろうとする紡絆の言葉も正しく、どちらが正しい間違ってると決められることでもない。

強いて言うならば、世界がなければ紡絆と小都音は一緒に生きることが出来ない。

そして、紡絆の口から出てきたウルトラマンという単語には、凄まじい重りのようなものがあった。

ウルトラマンに選ばれたからこその、使命。宿命、運命。

背負うべき、背負わなくちゃいけないもの。

彼にしか背負うことが許されず、彼が絶対に背負わなければならないもの。

 

「じゃあ……じゃあ、わたしは…わたしのことは、どうでもいいの…?世界を守っても、わたしはどうなってもいいの? おにいちゃんがかえってくるたびに、ボロボロになるたびに…いなくなるたびに、胸がぎゅっと締まるの…。いつも、いつも。

わたし、つらいよ…耐えられないよ…お兄ちゃんがもし居なくなったら、私は私で居られない…」

「…大丈夫」

「あ……」

 

回された手をそっと解いた紡絆は、小都音の方へと振り返る。

対面になり、顔が見えるようになる。

顔はくしゃくしゃで、今も泣いている小都音と、泣くことも怒ることも、表情を変化させず、優しい表情を向ける紡絆。

 

「これからも心配かけると思う。不安にさせると思う。

でも、俺は絶対に世界を守って小都音やみんなを守る。俺も…帰ってくる」

「………」

「信じてもらえないかもしれないけどさ、例え何を言われても俺は止まれないと思うんだ。今も、小都音の言葉を聞いても、俺の決心は揺らがなかった」

 

指で涙を拭い、小都音の頭を優しく撫でる。

落ち着かせるように、気が少しでも楽になるように、小さな子供をあやすように。

 

「でも…ううん…なんで、どうしてお兄ちゃんだったの…?ウルトラマンだからって…お兄ちゃんが犠牲になることも…お兄ちゃんが絶対に戦わないといけない理由なんて、ないでしょ…?これ以上傷つく必要も、ないでしょ……お兄ちゃんが一人で抱え込む必要なんてないでしょ…一人で戦い続ける理由なんて、ないでしょ!?

そんな責務、そんな責任をお兄ちゃんだけが背負うなんて、おかしいよ…!ずっとずっと傷ついて、誰かを庇って、これ以上お兄ちゃんだけが背負う必要なんてないよ…。

それとも…ウルトラマンはたった一人で人や地球を守り続けなくちゃいけない義務でもあるの……?そうしなくちゃならない理由はなんなの…?ぼろぼろになって…傷ついて…死にかけて……それでも戦わなきゃダメなの!? みんないるのに、お兄ちゃんはひとりじゃないのに…!わたしだって、わたしだって……っ」

 

強く両手で服が握られ、よれる。

必死の訴えで、疑問で、それは、身内だからこそ強く思うことだった。

紡絆とは違い、小都音は頭も良くて、より考えてしまって、色んなことを背負って、精神的に強い訳では無いのだ。

現に、そんな小都音の言葉にすら---

 

「…いや、責務とか義務とか、そんなんじゃない。

俺は俺がそうしたいから、ウルトラマンの意思じゃなくて、俺の意思なんだ。

俺はウルトラマンの力を借りてやってるだけ。ウルトラマンは、あくまで俺に力を貸してくれてるだけだと思う。

俺もさ、こんなんだけど悩んで、探してるんだ。

自分が得た光の意味を。

なんで俺だったのか、俺じゃなくてもよかったんじゃないか、そう思う時もあるけど…きっと、俺が、俺だからこそやれることがあると、守れるものがあると…そう信じたい」

 

紡絆は、迷いなく答えて見せた。

さらにそう語った紡絆は懐からエボルトラスターを取り出し、それを少し見つめると、小都音の手を取って握らせる。

エボルトラスターは特に反応を示すことはないが、一体なんのつもりかと小都音は今にもまた涙を流しそうな揺らぐ目で紡絆を見た。

 

「それでも…どうしても嫌なら、小都音がそれを持っていてくれたらいい。そうしたら俺は戦わない、戦えない。樹海には連れていかれるだろうけど、スペースビーストや融合型昇華獣とは…進化したネオ融合型昇華獣とは戦わなくて済む。

これ以上ボロボロになることも、ない。ただ世界を守れず、友奈や東郷、風先輩に樹ちゃん。それから、夏凜に全てを託すことになるだけだ。彼女たちを守れなくなる、それだけ」

 

そう告げる紡絆はさっきと変わらずに表情も声も優しくて、本当に全てを小都音に任せるつもりなのだろう。

それがどんな選択でも、自身の生命線ともいえるエボルトラスターを小都音に任せるというのだから。

 

「…っ。そんなの…むり、だよ…ずるい、ずるいよ…お兄ちゃん……そんなの、選択肢を与えてるって…言えないよ……」

「…分かってる。ごめん、こんな兄で」

「…っ。わたしは、おにいちゃんがすき、大切でも…わたしにとって、みんなも、たいせつ……なんだ…。どれだけおにいちゃんが一番でも…もう、かけがえのないものに、なってる…」

「………」

 

唇を噛みしめ、ただ小都音は悲痛な表情を浮かべる。

それでも、紡絆は何も言えない、出来ない。

 

「………ごめんなさい、おにいちゃん」

「………」

「すきだよ…ほんとうに、だいすき……記憶が無くても、あっても、私のだいすきなお兄ちゃんは、お兄ちゃんだけだから…」

 

小都音が顔を近づけると、額同士が重なる。

あと少しでも動けば口付けするような距離。

小都音は目を閉じて、しばらく動かなかった。紡絆も特に動くことなく、じっとしている。

そして目を開けた小都音は一瞬迷うように目を伏せ、再び顔を上げた時には涙を貯めながらも悲しそうな、辛そうな笑顔を向けた。

 

「っ……」

 

その笑顔は儚く、脆く、紡絆は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

そんな紡絆に対して小都音は胸に顔を埋める。

紡絆は迷いつつ、少しでも慰めようと償うように左手を小都音の頭に手を置き、撫でる。

そうして少しして、空いている右手に何かを握らされた感覚があった。

---それが、小都音の選択だと理解して。

 

「……ほんとうに---」

「………小都音?」

 

何かを小声で呟いた小都音の言葉が聞こえず、首を傾げる。

何かをボソボソと言ったようだが、本当に聞こえないレベルでの早口と声量。

 

「……なんでもないよお兄ちゃん」

 

ただ言葉が返ってきた時には、小都音は紡絆の胸に顔を埋めたままより強く抱きつき、胸の中で咽び泣いていた。

 

「…お兄ちゃん、おやすみなさい」

「…ああ、ありがとう」

「………」

 

小都音が取った、選択。

それから心配。色んな意味を含んだ感謝の言葉を述べる紡絆だが、小都音はそこから特に返事することはなかった。

 

(……なぁ、ウルトラマン。今度は、勝とう。悲しみを断ち切るためにも……)

 

だからか、紡絆は小都音が寝るまで頭を撫で続け、彼女の体を抱いていた。

守るべきものを、感じるように。

せめて、約束した大切な存在を守るためにも、世界を守るためにも、覚悟を改めて胸に抱きながら。

---右手に握られたエボルトラスターは、小さく輝く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玄関の前で、紡絆と小都音は一緒に居た。

振り向いた先には、イレイズと麗花が笑顔を浮かべている。

 

「一日、お世話になりました。ありがとうございました」

「いいのよ、でも本当に大丈夫?別に今日も居てくれたって…」

「いえ、長居は出来ないので…」

「そう、残念ね…」

 

本当に残念そうな表情をする麗花に僅かに罪悪感が胸の中で生まれるが、紡絆は困ったような笑みを浮かべる。

 

「まぁまぁ、別に今日で最後なわけじゃないんだ。また来てもらえばいい、のう」

「…そう、だな。またいずれ、来ます」

「ええ、いつでも歓迎するわ」

 

イレイズの意味ありげな目配せを受け、紡絆は咄嗟にそう言うと、麗花は嬉しそうに微笑む。

紡絆はほっと安堵の息を吐くと、イレイズに目線でお礼を伝えた。

 

「小都音ちゃんもいつでもまた来てね、待ってるから」

「…うん、ありがとう。麗花おばさん」

 

小都音の頭を軽く撫で、優しくそう告げる麗花に、小都音も嬉しそうに笑う。

それは無理をして作った笑顔ではなく、それに気づいた麗花は安心したように離れる。

 

「もし嫌になったら小都音ちゃんさえ良けりゃ養子として預かるからな」

「おい」

 

さらっと小都音をスカウトするイレイズに呆れた目で見る紡絆だが、目の前の宇宙人は笑うだけだ。

全く効いてもなければ割と真面目だった。

 

「あはは…真偽おじさんもありがとう。でも大丈夫、お兄ちゃんは誰にも渡さないから」

「あら…」

「愛されておるな」

「………」

 

紡絆の腕を胸に抱き、決して離さないというようにくっつく小都音だが、微笑ましそうに見てくる麗花とからかうように言ってくるイレイズに紡絆は何とも言えない様子だった。

 

「えへへ…当然、お兄ちゃんのこと大好きだもんっ」

「…何はともあれ、お世話になりました。ありがとうございました」

「おう」

「いつでも待っているわ」

 

このまま話し込んでもどうかと思ったのか別れの言葉を告げると紡絆は動きにくい状態で頭を深く下げる。

 

「行こうか」

「うん、またね麗花おばさん、真偽おじさん!」

 

勢いよく手を振る小都音に二人は小さく振り返し、紡絆はそれを横目で見つつ玄関を開けようと手を置いたところで、一瞬止まる。

 

『ウルトラマン。無理をするな…と言っても聞かんだろう。だから生きろ、お主が大切にしているものは多くあるはずだ』

 

脳内に響いた声は、イレイズのもの。

紡絆はそれがテレパシーということに気づき、思わず振り返る。

振り返った先に見えたのは真剣な表情をしているイレイズの姿で、紡絆はただ頷く。

そうして、今度こそ紡絆たちはドアを開け、家を出ていった。

雨雲は去っていないが朝日が照らす場所へ歩んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

222:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

はい

 

 

223:名無しの転生者 ID:/BGwKkz6K

はいじゃないが

 

 

224:名無しの転生者 ID:H/UJM07HM

なんかうまく終えたみたいな雰囲気出してる割には一切解決してないのクソすぎる

 

 

225:名無しの転生者 ID:iiWm+4JC2

それにすーぐウルトラマンバレするとかマジ?反省して、どうぞ

 

 

226:名無しの転生者 ID:moB6Tcslz

いやはや、まさかメフィラス星人がいるなんて…しかも明らかにベリアル復活してんじゃん。バーテックスとザギさん問題解決してもやばそうなんですがそれは

 

 

227:名無しの転生者 ID:F1xyNL8A3

とりあえずイッチは極刑だな

 

 

228:名無しの転生者 ID:zsS4S4htD

異論なし

 

 

229:名無しの転生者 ID:w7wr+nD38

当たり前だよなぁ?

 

 

230:名無しの転生者 ID:V2FLJmcjR

妹ちゃんを泣かせたイッチの罪は大きい

 

 

231:名無しの転生者 ID:DG2IgXVAC

それに何も解決してないからな、反省しろバカ 自分を大切にしろハゲ。

あれどうすんの、お前がメンタルやられるなら分かるのに、なぜか周りが追い詰められてるんだけど

 

 

232:名無しの転生者 ID:guQehVK30

てかさあ、俺らがあんな話して辿り着いたのにメフィラス星人はすぐ辿り着いたのすげーわ…敵に回したくねえ…。

そもそもイッチは本当にどこ出身だよ、メンタル化け物かよ。おかしいだろ、そんな答え出せねーよ

 

 

233:名無しの転生者 ID:Uf6yN3r4w

イッチって、さては超ウルトラ8兄弟のような世界出身なんじゃないか?

 

 

234:名無しの転生者 ID:Nmhue85Eh

そんなことよりも変身回数残り二、三回ってガチ?

 

 

235:名無しの転生者 ID:WqzcqDjVW

ついにはっきりと変身回数まで限られたかあ…どうしよ、これ

 

 

236:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

>>231

何回言わせんだよハゲてねーよ!

 

>>234

んまあ、変身回数は持って三回だな、ネオ融合型相手するなら持って二回(その時には生きてるとは言っていない)だと思う。

正直、ウルトラマンよりも俺がもう限界だ。最近になって、なんかおかしいんだよな。

昨日の夜もあったんだが目がチカチカするというか、なんというか…なんかなんて言えばいいか分からんけど、限界。

だからもう、なりふり構ってられない

 

 

237:名無しの転生者 ID:c7coMY4IW

一応こっちでも対応策考えたが…正直、今のイッチがファルドンの能力を突破するのはひとつしかない

 

 

238:名無しの転生者 ID:Kht7ODG2b

以前やってただろ、ネクサスハリケーンを地面に埋めるって作戦。

お前がやったあれを参考にするしかない。

ゴリ押しになるが、イッチの体を考えるなら短期決戦は不可欠。

となると、複数同時に全体攻撃を行なうしかないんだよな

 

 

239:名無しの転生者 ID:XjrF9GKI9

簡単に言えばノスファルモスの幻影ごと全部まとめてぶっ倒すって作戦やな…ただそれは最終手段。

ミスしたら終わり

 

 

240:名無しの転生者 ID:xqaHbo+id

呪いが厄介だなぁ…つまるところ、あれがなければイッチの体は回復する可能性あったってことでしょ

 

 

241:名無しの転生者 ID:t4HOlzDhw

妹ちゃんも妹ちゃんでなあ…結局解決してないから、痩せ我慢してるようにしか…

 

 

242:名無しの転生者 ID:aOW830H9x

これは間違いなく、イッチが無能

 

 

243:名無しの転生者 ID:Jm6H3I1gu

家族がウルトラマンってなるとね…きついよな、妹ちゃんからすれば記憶喪失の兄だから実質一度死んでるし

 

 

244:名無しの転生者 ID:TTH3hOe/W

そういや、メフィラス星人からイッチは何か貰ってたな…なりふり構ってられないってそれか?

 

 

245:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

イレイズから貰ったカプセルは全力で戦えるようになるらしい。

んで、なりふり構ってられないってのは…すぐわかるわ。

小都音に関しては、どうなんだろう。普通に元に戻ったように…いや、なんかスキンシップがより激しくなった気はするけど

でも記憶ないからしゃあないじゃん?前世の記憶ですら完全に戻ったのって割と最近だからな?

 

 

246:名無しの転生者 ID:Tfaq9KEBr

はぁぁ(クソデカため息)

 

 

247:名無しの転生者 ID:KhAT/6TsT

なんでさらっと新情報出してんだこのバカ。前世の記憶全ては思い出してなかったのかよ

 

 

248:名無しの転生者 ID:2W1rd2eN6

いつもの!詰んだ!終わり!解散!

 

 

249:名無しの転生者 ID:lii6UYYpQ

メフィスト残ってる上にティガニキたちを追い詰めた敵も残ってる…イッチは変身回数が限られた。

どないするねんこれ

 

 

250:名無しの転生者 ID:8rzvXlBEU

勝てる方法があるゾ

イッチがノア様に覚醒すりゃいいんだよ

 

 

251:名無しの転生者 ID:PyL3PHMN+

不可能で草

 

 

252:名無しの転生者 ID:qM5n6ib9k

覚醒しようにも絆の力絶対足りてないしメフィラス星人曰く、呪い抑える方に力注いでるらしいから無理じゃないですかね…多分ノア様がそっち方面に力注ぐのやめたらイッチ即死ゾ…

 

 

253:名無しの転生者 ID:WXsJAOJsp

もういっそのことイッチが誰かに光託して妹ちゃんと生きればいいのでは?

 

 

254:名無しの転生者 ID:IUUS+sqpi

光託しても樹海には連れて行かれるから死ぬし呪いが放置されたままになるから死ぬ定期

 

 

255:名無しの転生者 ID:61bsF7YqD

>>236

この感じからしてマジらしいもんな…うん、どうしたらいいんだろうね!

 

 

256:名無しの転生者 ID:M00bao7M6

怪獣眠ってる可能性もある…というか多分怪獣は利用されたんやろうなぁ。

後は宇宙人…平和的らしいが、いるしねぇ…まだ暴れてないだけマシだけどさ

 

 

257:名無しの転生者 ID:moJZhBnZs

とにかく今はネオ融合型昇華獣の対策をだな…

 

 

258:名無しの転生者 ID:ECavn6P57

…ん?イッチ、どこ行く気だ?

 

 

259:名無しの転生者 ID:588JLx6zN

おい、妹ちゃんをまた泣かせる気かおめー

 

 

260:名無しの転生者 ID:EeFeFmOwK

これ以上の無理はシャレにならんぞ…まだ一人でやる気か?

 

 

261:名無しの転生者 ID:H2he/h2vE

色々と謎は解けたけどなぁ…メフィラス星人も俺たちが言ってたウルトラマンの結界については同じ意見だったみたいだし。

でも脅威は変わらんしね…とりまこれ以上の敗北は終わる

 

 

262:名無しの転生者 ID:26nlwwtpj

明日のことより今だが…マジで宛があんの?

とりあえず情報収集してくれ

 

 

263:名無しの転生者 ID:dptAkn6ot

見た感じ、どっか行くっぽいが…どうする気だ?

 

 

264:名無しの転生者 ID:NOsoAyixR

あれ、嘘やろ…?

 

 

265:名無しの転生者 ID:/JyjoYVG7

おい、こいつ本当にイッチか?頭打ったのか!?

 

 

266:名無しの転生者 ID:rJybaG0Sy

ば、バカな…あのイッチが…あのイッチが!

 

 

267:名無しの転生者 ID:jgWIuz0HO

正体現せ!偽者だろお前!

 

 

268:名無しの転生者 ID:hZKDv4REp

そうだそうだ!イッチがこんなことするはずないだろ!

 

 

269:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

いや、黙って聞いてたら失礼だなお前ら!?

さっきも言ったけどなりふりかま---

 

 

270:名無しの転生者 ID:M5VXxG1K7

散々言われてたこと実践したらめちゃくちゃ言われるの状況が状況で笑えないんだけど、ごめん。

普通に笑えるわ

 

 

271:名無しの転生者 ID:6VRsG6t2T

いやだって、なぁ…?

 

 

272:名無しの転生者 ID:LvMRJkD9I

お前…あのイッチがやで…?

それほど余裕ないってことだけど、イッチがやぞ…? 自己犠牲しか脳がないイッチがやぞ?

 

 

273:名無しの転生者 ID:56XMWJmNZ

なりふり構ってられないってそういうことかぁ…確かに唯一の選択だわな。

考えたな、無能だけど有能!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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「-崩壊-シークレット」

 

 

◆◆◆

 

 第 37 話 

 

 

-崩壊-シークレット 

 

×××

 

出題編(?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---少し前。

家に帰って来られたのは、昼過ぎだった。

紡絆は制服に身を通し、エボルトラスターを片手に玄関に居た。

 

「…やっぱり、いくんだ」

「…ああ」

 

背中から聞こえてくる声は、予想通り通った感じで、暗く低い声だった。

どんな表情をしているのか、分からない。

ただ紡絆は振り向くことはしなかった。

 

「そう……お兄ちゃん」

「…ん?」

 

一切振り向かない紡絆を見て、小都音は顔を伏せる。

手をぎゅっと強く握りしめ、顔を挙げた小都音は笑顔を作った。

 

「いってらっしゃい、ご飯作って…待ってるから」

「…ああ、いってきます」

 

一瞬だけ振り向き、紡絆は頷いてから傘を取ってすぐに扉を開く。

小都音はその背中を見つめ、扉が閉まる---その時にはもう彼女は今にも泣き出しそうな表情をしていた。

唇を噛みしめながら、ただ見て。

それはつまり、見送った時の小都音の笑顔は、無理して作られたものだと言っているようなものだった。

 

「…おにいちゃん」

 

既に紡絆の姿はなく、何処にもいない。

手を伸ばしても、何をしようとしても届くことは無い。

ただその場に座り込み、暗い表情を浮かべたまま瞳から輝きが失われる。

---そんな小都音に手を伸ばす者は、誰も居ない。

彼女はただ、ただ待つことしか出来ないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家を出て傘を指しながら走ること数分。

紡絆は時刻を見て、少し焦りつつ目的地である讃州中学にたどり着く。

休日なのもあるが、雨が降ってるのもあって人はやはり少ない。

それを無視して、紡絆は家庭科準備室---つまり勇者部の部室の扉を勢いよく開ける。

 

「すみません、遅れました…!」

「あっ、紡絆くん!」

「やっと来たわね…」

「呼んだ本人が遅れるってどういうわけよ…」

「あ、あはは。ごめんごめん」

 

そこに居たのは、いつもの勇者部のメンバー。

友奈も東郷も、風も樹も夏凜もいる。

どうやら、紡絆が意図的に呼んだらしい。

 

「昨日、突然大事な話があるから来て欲しいってグループで来た時は驚いたけど…何かあったの?」

『紡絆先輩にしては、珍しく緊迫した感じでした』

「…ああ、手遅れになる前に、順を追って説明する。何か聞きたいことがあったら話が終わってから言ってくれ」

 

前日メールを送った相手は勇者部のみんな宛だったらしく、紡絆は早速扉を閉めるとおふざけなしの真剣な表情で周りを見渡してそう言っていた。

 

「……どうやら真面目な話のようね。わかったわ」

 

そんなレアな姿に、一同は僅かに緊張を胸に風が代表して口を開く。

紡絆は頷き、少しずつ語り始める---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話が終わると、勇者部の部室はこれはまた異様な空気に包まれていた。

紡絆が話したこと、それは今までのことだった。

バーテックスの総力戦が終わったあとの話で、目が覚めて意識を取り戻しみんなと話し終えた後の話。

意識を取り戻した日の夜、スペースビーストの襲撃に遭い、戦ったこと。

ファウストとは別に、新たな闇の巨人(ウルティノイド)であるダークメフィストが現れたこと。

融合型昇華獣が、新たなに進化してネオ融合型昇華獣として現れたこと。

その時は何とか一人で倒せたが、次に現れたネオ融合型昇華獣と既に三度交戦して撤退させるのが精一杯のこと。

今回みんなを呼んだのは、ネオ融合型昇華獣と戦う際に協力して欲しいこと。そのネオ融合型昇華獣の特性と能力について。

今まで隠していた、戦いを紡絆は明かしたのだ。

唯一話してないのは、左目とメフィラス星人のイレイズや宇宙人たちのこと。

当然、そんな話をすれば---

 

「そんな…。じゃあ…うそ…でしょ……? どうして、どうしてそれを隠してたのよ!? あんたは今までずっと一人で戦ってたってこと!? あたしたちが普通に過ごしている間も…知らないところで、一人傷ついて、苦しんで、悩んで…それでもあたしたち人間を、世界を…守り続けてたってことなの…!?」

 

こうにもなる。

怒りを隠さず、風が誰よりも早く動揺しながらも声を荒らげた。

いや、風だけではない。

気が付かなかったことにショックを受ける者も居れば、一人で抱えていたという真実に悲しそうにする者もいる。

血が滲むほどに拳を握りしめ、口を噤む者も居れば、悄然と、愕然とする者も。

 

「風先輩……」

「紡絆くん、風先輩の言葉も最もだわ。どうしてそんな大事なこと、言ってくれなかったの? そんなに…私たちは頼りにならない?」

「そ…そうだよ!悩んだら相談…でしょ?」

「ごめん、そうじゃないんだ。俺が戦いを始めた時には、もうみんなの端末は大赦に回収されてた。どうやっても呼べないだろ?」

「それはっ!」

「…風。残念だけど、紡絆の言葉は事実よ。気持ちは分かるけど、返ってきたのは最近なんだから…」

「……っ」

 

悲しそうにする東郷や友奈に対して、紡絆は正論を述べる。

それを風が否定しようにも、夏凜が悔しそうな表情で止めてきた。

風は怒った表情のまま何か言いたげな視線を夏凜に向けるが、夏凜が血を滲むのではと言うくらいに握っている手を見て、口を閉じる。

そう、勇者たちはつい最近まで戦闘が出来なかったのだ。

何よりも、バーテックスとの戦いを終えたと思ってたのだから、変身する覚悟があったかなんて怪しいところだ。

ある程度時間が経っているからともかく、もし言われてしまえば、戦意が消失していた可能性は限りなく高い。

 

『でも…話すくらいは…』

「みんなは十分戦った。身体機能を失って---満開をすれば、また失うかもしれない。みんなが失ったのは満開の直後なんだからな。

だからその後に戦えって言われてもキツいだろ?もしかしたら、また喪うかもしれない、何処か悪くなるかもしれないって。

それに端末もないのに俺が戦ってるって話をしたら、より負担をかけてしまう」

「あたしらを、気遣って……?」

「別にそれだけじゃないです。スペースビーストは元々ウルトラマンが戦う相手…あの遺跡には俺は召喚されるし、俺しか戦えないならやるしかないでしょう」

 

紡絆らしい答え。

全てが真実なのだから、なおのこと否定することが出来ない。

遺跡はウルトラマンの力があれば入れて、勇者が入れるのは紡絆のエボルトラスターから発せられた光の影響。

じゃなければ、樹海と違って入れないのだから。

 

「そんな……」

「…っ。確かに事実よ…私たちは端末がないから、言われても戦えなかった。でもあんたも同じでしょ!あの時、近くにいた私はどれだけ酷かったのか一番理解しているつもり…!

あんな傷を負って、仮死状態になって…!一歩間違えば死ぬところだったのよ!?それも進化した相手に対して戦って…一人でってあんた、アホなの!?」

「アホじゃないぞ、今生きてるじゃん」

「それは結果論でしょうが! もしもその戦いで命を落としてたら、どうするつもりだったのよ!たたでさえ、あんたはバカみたいなことして危険な目ばかりにあってんのに…」

「それはまあ…でも仕方がないのは仕方がないだろ」

「っ…仕方がないって、あんた……ッ!何度も何度もいい加減に---」

「ま、待って夏凜ちゃん!落ち着いて!」

 

夏凜の言葉は否定し切れるものでもなく、逆に夏凜たちも紡絆の言葉を否定し切れない。

互いに正論ではあるのだ。

ただそれでも、紡絆の異常さが際立ち、思わず頭が熱くなった夏凜が掴みかかるように行動に出そうになった途端、友奈が慌てて止めていた。

 

「…確かにね、紡絆くん。紡絆くんの言葉は私たちのためでもあるんだと思う。バーテックスの生き残りがいるって知って、ショックはあったわ。

もしスペースビーストもいるってわかってたら、それ以上に」

「東郷……」

「でも…それでも私は怒ってるのよ。紡絆くん、嘘ついてるわよね?

私たちに勇者になるための端末がなかったのは事実。でも紡絆くんが言ってるのは、()()()()()()()()()。そうでしょう?」

「あっ!」

『!』

「確かに…紡絆は一度もなかった時としか言ってないわね…」

「……どうなのよ?」

「…え、ええっと……」

 

東郷の言葉に、気がついたみんなの言葉に紡絆は言い淀む。

さらっと正当化しようとしていたが、紡絆がさっきから言い訳がましく言ってるのは端末がなかったということ。

 

「つまり、紡絆くんは私たちに端末が返却された後も…戦い続けてた。違う?」

「………」

 

故に頭は冷静に思考していた東郷にあっさりと見破られ、紡絆は目を逸らした。

その態度に、紡絆に視線が集まる。

 

「紡絆くん…そうなの?」

「…ソンナコトナイッス」

『紡絆先輩……』

「紡絆くん?」

「ごめんなさい、一人で戦ってました…」

 

友奈の言葉には紡絆の口調がおかしくなったが、否定して貫こうとしたものの、悲しそうにする健気な後輩と逆らっては危機感の覚える東郷の笑顔にあっさり屈して自白した。

 

「…まぁ紡絆くんのことでしょうから、それも私たちに負担をかけさせないためよね」

「うぐ…」

「それは紡絆くんらしいね……」

「…例え紡絆がそうだとしても…言ってくれたってよかったでしょ」

「そうね、少なくともバーテックスの生き残りがいるってわかってから言ってくれたなら良かったと思うわ」

「はい…すんません。で、でもこうやって話したし!」

「いや、それが遅すぎるんでしょうが!」

「…………」

 

優勢だったはずが、完全に縮こまる紡絆は明らかに論破されていた。

やはり紡絆は話術がクソザコ---ではあったが、不思議と辺りを包んでいた不穏な空気は既に霧散していた。

 

「……はぁ。そうだった、そうだったわ。あんたってそんなやつだったわ…忘れてたあたしがバカみたい…」

「…それもそうね」

「ちょっとどういうことですかそれ」

「どうもこうもないでしょ」

「ええ、言葉の通りだけど?ん?何か文句でもある?」

「……あっ、ないです」

 

代わりに緩い空間が作り出されると風と夏凜はそのことを思い出し、呆れたようにため息を吐く。

その態度にムッとする紡絆だが、やはり何も言えなくなった。

むしろバツが悪そうに後頭部を掻く紡絆の裾を、誰かが引っ張る。

 

『紡絆先輩…』

「…樹ちゃん?」

 

それは、樹だった。

珍しい姿に目を見開き、紡絆は首を傾げる。

 

『私たちのことを心配してくれてたんですよね』

「そりゃ…まあ。()()()()()失ってるわけだし」

『その気持ちは嬉しかったです』

「い、樹ちゃん…!樹ちゃんは俺のみk---」

『でも私も怒ってます。皆さんも同じかと…』

「………」

 

そう言われ、周りを見渡せば未だに笑顔なのが若干怖い東郷と不機嫌な夏凜、怒りを通り越して呆れている風とあの友奈ですら、微妙な表情をしている。

目の前の樹も、よくよく見れば悲しそうでもあるが機嫌が悪そうだった。

 

「いやほんとすみませんでした…でも話すタイミングなかったのだから仕方がないっ!」

「ええっ、開き直った!?」

「…まあ、紡絆くんらしいというかなんというか…」

「まともに相手すると、頭痛が痛くなるわ…」

 

紡絆の開き直りっぷりに怒っている者はおらず、むしろ驚いていた。

普段の紡絆を知る者たちなので、諦めたという表現の方が正しいかもしれないが。

 

「ま、まあ…過去のことは水に流して」

「当事者が言うものじゃないと思うんだけど」

「普通はあたしらが言う立場だからね」

「…話進まないので勘弁してください」

 

比率的に全面的に悪いのは紡絆とはいえ、このままでは話が進まない紡絆は両手を挙げて降参のポーズを取ると、また真剣な様子を作り出す。

 

「今さらですけど、ネオ融合型昇華獣についてはさっき話した通りです。正直、三度交戦して、俺は勝てなかった。

もう一度戦ったら、今度は負けるかもしれない…自分勝手なのは承知の上です。

巻き込まないようにして、心配させないようにって黙っていたのは多分、きっと、ちょっとくらいは、おそらく、反省してますけど…力を貸して欲しいんです。もう一度戦うとなると気持ちの整理とか付かないと思います。それでも---出来れば、また力を貸してください」

 

本当に反省しているのかと思われる---間違いなくしてないというか出来ないが正しいと思うが、そのような発言をした割に、紡絆は真摯に頭を下げていた。

事実、頭を下げる前の紡絆は何処か心苦しい表情が表に出ていた。それほど、本気なのだ。

まぁ、本当はこのまま戦うことなく過ごして欲しいとでも思っているのだろうが。

そんな紡絆の態度に、勇者部のメンバーは顔を合わせ---

 

 

 

 

 

 

 

 

「もちろん私は手伝うよ!紡絆くんを一人にはできないもんね!」

「ええ、そうね。放っておいたら無茶するんだもの。その方が不安だしね」

「仕方がないわね…まぁ、今日ちゃんと話してくれたってことと…うどん一杯で手を打つわ」

「…ふん、やってやろうじゃない。どのみちバーテックスは現れるんだから、ちょっと早くなるだけよ」

『力を合わせて、です』

「…みんな」

 

すぐに紡絆の協力をする判断をしていた。

紡絆には嬉しいような、嬉しくないような、微妙な感情が渦巻く。

 

「でも、そう言ったって簡単に覚悟決まらないだろうし、無理なら無理って言ってくれても…」

 

だから理由を付けて、そんなことを言っていた。

どうせ自分のことを棚に上げて、身体機能のことを考えると、やはりお願いした側と言えども戦わせるのはどうかと思ったからに違いない。

 

「何今更なこと言ってるのよ?そもそも頼んだのはあんたでしょ」

「それに夏凜ちゃんも言ってたけど、バーテックスとは戦うことになるでしょうしね。私からすれば紡絆くんを一人で戦わせる方が怖いわ」

「何よりも紡絆くんが居るんだもんねっ!紡絆くんだけじゃない、みんなが一緒にいる。ならきっと大丈夫だよ」

「私に関しては覚悟なんてとうに出来てるわ。伊達に完成型勇者じゃないのよ」

『私は…戦えない小都音ちゃんの代わりにも…頑張りたいですから』

「…分かった、ここは素直に任せる。ありがとう」

 

しかし勇者部のメンバーたちは引く様子もなく、紡絆もまた己の限界を知っている。

故に紡絆は渋ることなく、任せることにした。

まぁあの紡絆が再び自ら勇者に助けを求めるくらい余裕がないのだから、当然といえば当然の結果になったといえる。

 

(…それでも何とか、出来る限りは守ろう。また巻き込んでしまうのだから、それくらいはしないとな)

 

ただ、相変わらず自己犠牲の精神を持つ紡絆がそんなことを考えているのは流石に勇者部の者たちも気づけないようで、その考えを彼方へ吹っ飛ばしつつ、紡絆はネオ融合型昇華獣と戦った際の情報を出来る限り思い出し、再びこれからの説明をしていった---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

460:名無しの転生者 ID:yfZuBCjsZ

まさかイッチが勇者部を頼るなんてなあ。偽者かと思ったゾ…

 

 

461:名無しの転生者 ID:sn7Dc/jCK

それほど余裕がないってことやろ

 

 

462:名無しの転生者 ID:FBLpIcRid

ならついでに情報探るか。有明浜だっけ、そこ行かないか? ほらイッチが召喚されて帰される場所ってあそこじゃん。なんかあるんじゃないか?

 

 

463:名無しの転生者 ID:see/Q3OLK

そーいやそうだったな

 

 

464:名無しの転生者 ID:e0FickJZ6

色々ありすぎて俺らすら整理ついてねーからな。人足りてないですよ、派遣しろ

 

 

465:名無しの転生者 ID:GbVuMC/Ed

しっかしそれにしても昨日から不穏だな

 

 

466:名無しの転生者 ID:u2ugaBiCo

昨日は大雨降ってて、雷も鳴ってた…んで、今日は雨振ってるし雷鳴りそうな雰囲気だし、こういうのってよくある『何か』ある前兆だよな

 

 

467:名無しの転生者 ID:syfUVKndf

どうしよう、この世界だと『何か』がめっちゃ怖く感じるな…

 

 

468:名無しの転生者 ID:e3+BgbiYn

まあ、何があっても結局俺たちは掲示板を使うしか出来んからイッチに頑張ってもらうしか…敵の警戒とかは能力とかフォローできる範囲はするが

 

 

469:名無しの転生者 ID:QjXvNttDB

はぁ…問題は多いねぇ。最優先事項はイッチの体と妹ちゃんとノスファルモスか……

 

 

470:名無しの転生者 ID:MkN4A8Bpy

で、んな事言ってたら早速巻き込まれてますけど

 

 

471:名無しの転生者 ID:bMv4YVcsR

変身回数は限られてる。

ここが正念場だ、必ず勝て!

 

 

472:名無しの転生者 ID:v+PgIWZM1

むしろ負けたらガチで終わる!

 

 

473:名無しの転生者 ID:VY4OwBjoy

こっから出来る限り支援するが…いいな?メタフィールドだけは展開するなよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それほど時間は経っておらず、時刻は夕方に近く。夕刻だと言うのに随分暗い空の下で、紡絆はひとり、海と高く大きな壁を眺める。

そこは自分がイレイズに助けられる前、遺跡から投げ飛ばされた場所だった。

いや、正確に言うならば、遺跡の外に投げ出される時はいつも砂浜に戻されていた。

まるでそこに、何かがあるように。

 

「以前言ってた推察から考えると、この付近が結界の位置…か?の割には、特に俺の目でも何も見えないな…ちょっと違和感はあるけど」

 

既に解散前に紡絆は勇者たちに遺跡へ召喚されたら以前のように呼ぶことを伝えており、いつ敵が来るかは分からない。

だから紡絆は情報収集のためにここへ来ていた。

そう、いつもここなのだ。

現実に帰還すれば、必ずこの付近に転移させられる。

樹海の際は神樹様が帰還させてくれるが、遺跡の場合は何故かここ。

明らかに何かあると見ていいが、紡絆の目にはただの海と壁にしか見えない。

やはり、何かあるとは思えなかった。

しかし突っ込もうにも流石に今は壁を登れるほどの身体能力を引き出すのは厳しい。

あくまで見るだけだったが、ほんの少し違和感を感じるだけで何も見えない。

 

「偶然かなぁ…まぁいいや…とりあえず小都音が心配してるかもしれないし、一度帰って---ッ!?」

 

何かを考えても分からない紡絆は思い過ごしかと判断し、振り返って帰り道を歩もうとした、その瞬間。

海の方へ振り返り、傘を投げ捨てた。

そして空いた手でドクン、と鼓動したエボルトラスターを既に持ちながら警戒心を高める。

 

「…来た、か。ノスファルモス…全力で行くしかない。イレイズ、有難く使わせてもらうぞ」

 

例のごとく、紡絆の体は光に包まれる。

しかし紡絆はいつでも戦えるよう、イレイズから貰ったベータリベラシオンカプセルを手にしていた。

デメリットは大きいが、本当になりふり構うつもりは無いらしい。

そうして紡絆の体は、遺跡へと飛ばされる---残った現実には、()()が発生していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が降り、()()()()()()な怪しい空模様の遺跡へ転移された紡絆は迷うことなくエボルトラスターを上空に掲げる。

エボルトラスターから光が発せられ、五つの光球が遺跡のオブジェクトの中へと入っていった。

それを見届けると、既に現れているネオ融合型昇華獣のノスファルモス、闇の巨人の一人、悪魔の二つ名を持つダークメフィストを見据える。

 

「もう負ける訳にはいかない……だから終わらせる…。短期決戦だ!」

 

手にしていたベータリベラシオンカプセルを口に含み、飲み込む。

そしてエボルトラスターを引き抜き、紡絆は即座にウルトラマンネクサスへと変身した。

それと同時に、五つの光が導かれるように遺跡へと落ちてきた。

光は地面にゆっくりと着地するや否や霧散し、そこには勇者服に身を包んだ五人が現れる。

 

「うわっ…と!」

「あれが紡絆くんの言ってた…」

「確かに見た目は中々凄いことになってるわね」

「それにもう一人の巨人…厄介そうだわ。みんな、気を引き締めていくわよ!」

『頑張りましょう…!』

 

話は予め聞いていたのもあり、勇者たちは各々の武器を取り出す。

対峙しているネクサスとメフィストはそれに気づいたのか一瞬だけ顔を向けると、すぐに睨み合う。

 

『フン……』

『シュアッ!』

 

ネクサスが駆け出し、メフィストとノスファルモスも同時に動いた。

ただ一直線に進むネクサスに対して先に接敵したのはノスファルモス。

ネクサスは走る勢いそのままでショルダータックルし、僅かに弾かれながらもノスファルモスの右腕を脇に挟み込み、背を向けると左手で胴体を数発打ち付ける。

しかしアンファンスだとダメージがイマイチなのか、そこまで効いた反応はなくノスファルモスの左手から現れた爪による振り下ろしが放たれる。

その攻撃をネクサスは挟み込んでいた腕を離し、体を反転させて両腕で受け止めると力強く上に振り払い、弾いた後に反撃せずバク転した。

そこへ空中から何かが落ちてきたかと思えば、ネクサスはパーティクルフェザーを片手から放ち、ダークレイフェザーがそれを相殺する。

だがその際のほんの僅かな爆風で見えなくなった視界の中から、溶解液が放たれていた。

降りかからんとする溶解液。

ネクサスは反応し、瞬時に地面を蹴ると空中で後方に回りながらアームドネクサスを輝かせた。

水面に水滴が落ちたかのような音ともにネクサスの体を青い光が包み込み、着地と同時にジュネッスブルーにタイプチェンジを完了させる。

メフィストが駆け抜け、着地したネクサスに拳を振りかぶった。

ネクサスはメフィストの攻撃に対して何も反応を示さず---

 

「させない!」

 

ネクサスの後方から放たれた青い銃弾が、メフィストを何発も襲い掛かる。

思わず足を止め、腕で防御するメフィストだが---ネクサスはもう、独りではなかった。

 

「そこっ!」

「あたしらもいるって忘れてもらったら困るわ!」

 

大剣が振られ、刀がメフィストを斬り裂く。

しかし勇者の力といえど、相手は人智を超えた存在。

僅かにノックバックしただけで、防御されたのもあってダメージはない。

それでも、十分過ぎた。

 

『デェアッ!』

 

高速の光が戦場を駆け抜ける。

メフィストを通り過ぎたネクサスの相手は、ノスファルモス。

そのノスファルモスは真っ直ぐに突っ込んでくるネクサスに己の武器である左爪を突き出す。

ウルトラマンの装甲を持ってしても貫くほどの威力はあるノスフェルの爪。

だが、その爪は大きく弾かれることとなった。

 

「紡絆くん!」

 

ダメージにならなくとも、勇者の力はバーテックスを倒せる力はある。

融合型を超えたネオ融合型昇華獣は装甲も強まっているが、友奈の拳はバーテックスをも吹き飛ばすのだ。

当然、爪如きならば殴って逸らすことは可能。

それでも人型の怪獣であることから右爪があるわけで、今度こそ攻撃のために振り下ろされるが、それはワイヤーによって妨害される。

 

「……!」

 

必死に引っ張り、絡みついたワイヤーがノスファルモスの爪を離さない。

そこに辿り着いたネクサスはノスファルモスの腹に飛び蹴りを与え、怯んだ隙に連続で二発両手で殴るが、ノスファルモスは三体の怪獣と融合している相手。

武器はそれだけではなく、鼻から放たれた青色破壊光線が周辺にばら撒かれる。

ネクサスは咄嗟にアームドネクサスで防ぎ、友奈はワイヤーを離した樹を抱えて範囲外へ逃れる。

そうなるとノスファルモスに時間を与えることとなってしまい、背中の亀裂から霧のような光が発せられる。

 

『!』

 

全域を包み込み、遺跡の世界を霧が覆い尽くした。

それほどの力は無いはずのファルドンの能力。

初めての技だがネクサスも勇者たちも、見えなくなってしまう。

 

「見失った…!」

「何も見えないんだけど…!?こんな力あるなんて紡絆から聞いてないわよ!?」

「ど、どうすれば!?」

「まさか…この場で成長した…!?」

 

そう、それこそが何よりも警戒すべき能力。

スペースビーストは成長する生き物であり、バーテックスは進化した上に頂点へ至った者。元となったバーテックスは頂点へと至ってはいないが、その過程なのだ。

故に双方が合わさり、驚異的な成長速度を持っている。

過去にあった前例であれば、超再生がわかりやすい例だ。

そしてこのノスファルモスは既にネクサスと三度交戦していることを考えれば、より強くなっているのは明白。

 

『……フッ!』

 

何も見えない真っ白な世界。

突如として腕がネクサスの真横から伸び、ネクサスは手のひらで逸らした。

 

『!?』

 

しかしネクサスの背中から衝撃が走り、ネクサスの体は強制的に前に進まされる。

瞬時に振り向くが、やはり霧で見えない。

それどころか濃い霧の能力として気配を殺す力があるのか、何の気配ひとつしないのだ。

 

「わわっ…!?」

「っ……!?」

 

ただ爆発音が響き、誰かの声と思わしきものが霧の世界から聞こえる。

被弾はしてないようだが、ネクサスだけではなく勇者も狙っているのだろう。

それでもネクサスは焦ることなく、その場で俯いた。

何処か諦めたかのようにも見える行動。

当然周囲を警戒しないということは敵にとってチャンス。

 

『……ハアッ!』

 

霧の中から、青い光弾と紫色の光弾が場所を悟らせないように何箇所から遅れて飛んでくる。

ネクサスは顔を上げ、ただ左へ振り向くと拳を突き出しながら地上を物凄い速さで滑るように前進する。

大量の二色の攻撃をスピードを活かして抜き去る。

そして何も見えないはずで、場所も分からないはずで、だというのに---打撃音が響き、何かが落ちる音とともに霧が薄れた。

霧が徐々に貼れ、周囲の景色が戻っていく。

そうして姿が見えるようになったところで、倒れているノスファルモスとその前にネクサスが立っているのが見えた。

 

『ふ---ッ!』

 

そこをメフィストが襲い掛かる。

背後から拳を振り抜き、反応したネクサスは振り向こうとするが、迎撃が間に合わない。

せめて防御しようとネクサスが腕を動かすが、メフィストの一撃の方が早く、ネクサスに直撃する---直前でメフィストがその場から飛び退く。

ワンテンポ遅れて衝撃によって地面がひしゃげ、煙が舞う。

 

『……厄介だな』

 

まるで予想していたかの行動。

近くにいたのは、友奈と東郷だった。

最も紡絆という人間と関わっていた二人だからこそ、信じて動いた結果、といったところか。

 

「紡絆くんの邪魔はさせない…!」

「間に合って良かった!でもよく分かったね、紡絆くん!」

『……シュ』

 

何も見えない状況だったのに的確にダメージを与えた紡絆に対して友奈はそう言うが、当の本人は喋れないので頷くだけしか出来なかった。

 

「友奈たちこそ、今のよく間に合ったわね…」

「流石の私でも気配が読めなかったのに……」

 

次々へと集まり、勇者たちは警戒するように陣形を組む。

そして、倒れていたノスファルモスが急に消えた。

 

「えっ、消えたよ!?」

「なにそれっ!?ずるいんだけど!?」

 

あったはずなのに消えたことに驚いて目を見開く友奈たちだが、敵は待ってくれない。

厄介な勇者から排除しようとしたのかメフィストがダークレイフェザーを数発放ち、ネクサスが瞬時にサークルシールドで守る。

 

「は---ッ!」

「そこよ…!」

 

勇者を守るために行動したネクサスは動けなくなるが、即座にノスファルモスの存在に気づいた夏凜が刀を投げつけ、東郷が射撃する。

だがそれらは全てすり抜け、サークルシールドを貼っていたネクサスの真横に突如として出現した。

 

『……ッ!?』

 

気づいたネクサスが顔を向けるが、既にノスファルモスは爪を振り下ろしている。

このままでは直撃するが、割り込むようにして入った大剣が爪を防ぎ、樹が風をワイヤーで支えることで一撃を耐えてみせる。

即座にサークルシールドを解除したネクサスが横蹴りを放つが、すり抜けた。

 

「やぁぁ---っ!」

 

今度はネクサスの背後へと出現し、反応して地面を蹴ることにより加速した友奈の拳がすり抜ける。

 

「これが言ってた能力…!?まったく厄介すぎるでしょ!」

「喋ってる暇があるなら攻撃しなさいよ!」

「でも当たらないよ!?」

 

複数体現れたノスファルモスに勇者は次々と入れ替わるようにそれぞれ攻撃するが、全て当たらない。

何よりもノスファルモスを狙おうとしたネクサスの動きを止めるためか、メフィストは畳み掛けるように勇者を執拗に狙い、その度にネクサスは全て庇う。

一度も勇者たちに被弾させることなく守り、ノスファルモスの反撃に対しては己の体を持って防御する。

ただそれでも、勇者たちの攻撃は当たることはなく。

その名の通り、蜃気楼の如き消えていた。

 

「く---どうしろってんのよ!?」

「想像以上に反則でしょこれ…!何体現れてんのよ!?」

「紡絆くんが守ってくれてるお陰で私たちは大丈夫だけど……」

「ええ、このままじゃ紡絆くんの体が持たないわ……!」

 

見るだけで、十体以上は確認できる。

それほどいるのに誰も一度も被弾はしていないのは紡絆が全て庇っているからで、満開ゲージを少しでも貯めさせないようにしてるのだ。

ただそれでも戦況的に追い詰められているのには変わらず、離れた距離にいたメフィストがかかと落としで勇者たちを踏み潰そうとし、ネクサスが即座に割り込んで右腕で受け止める。

 

『ぐ……シェ、シュアァ!』

 

一瞬だけ東郷へと視線を送ったネクサスは、メフィストに左拳を突き出すが、メフィストは受け止められていた右腕を蹴ることで後方回転しながら回避し、ネクサスは衝撃でノックバックする。

そこへ目の前に出現したノスファルモスがハサミ型の腕をネクサスの腹部に打ち付け、くの字となったネクサスが打ち上げられる。

 

「紡絆くん! でも……!」

『シュッ……!』

 

何かを理解した東郷が迷う素振りを見せる。

そこで空中へとネクサスがいるうちにノスファルモスが溶解液を放とうと口を開くが、ネクサスは空中から地上へ加速し、ノスファルモスを掴みながら妨害しつつ再びアイコンタクトをとる。

 

「…わかったわ。みんな、援護を!」

「言われなくたって!」

 

喋れないネクサスが唯一話の通じる東郷へと何かをお願いしたようで、メフィスト相手に次々と攻撃するのではなく、足止めするように地面を攻撃したり遠距離から妨害に出る。

 

『…ん?』

 

メフィストはそれらを余裕をもって防ぐが、動きの変わった勇者たちに訝しんだ様子でネクサスを見ていた。

その本人たるネクサスはノスファルモスに投げられ、両足でしっかりと着地しながらジュネッスブルーからジュネッスへとタイプチェンジした。

そんなネクサスを、十体以上のノスファルモスが囲む。

どれかが本体で、どれかが幻影。

 

『ほぉ、自ら死地に飛び込むか…』

「…ッ!」

 

一人で立ち向かうことを選んだネクサスを見てメフィストは少々驚いたような声を出すが、援護するように放たれる東郷の銃撃を油断することなく腕を伸ばして防ぐ。

そしてその隙に走り抜けようとした友奈や夏凜、風、樹の前に立ち塞がっていた。

それに対し、友奈たちは顔を見合せ、ただ頷く。

それが狙い通りだったというように。

 

そんな様子に気づくことはなく、メフィストは勇者たちを妨害しながら囲まれているネクサスを見ていた。

次々と攻撃を仕掛けられ、いずれ敗北する姿を見るためか。

だがそれは---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『デェヤァ!』

 

覆ることになる。

ネオ融合型としてではなく、ノスファルモスの最大の能力。

正確にはファルドンの能力だが、それは複数体の幻影を召喚し、瞬時に入れ替えることが出来る点。

つまり、実質何体も居ることになる。

それも今まで以上の数が現れているのだ。

だというのに、ジュネッスにタイプチェンジし、囲まれているはずのネクサスが追い詰められるのではなく、逆に追い詰めていた。

次々と襲い掛かるノスファルモス。

様々な能力を駆使しているというのに、ネクサスの拳が、蹴りが、頭突きが、エルボーカッターが、全て当たる。

どれだけ似た動きをさせようが、同じ動きをしようが、()()()()()()ように反撃され、ノスファルモスの攻撃が逆に届かない。

まるで今までとは真逆で、その状況にメフィストも勇者たちも、戦いが止まっていた。

 

『バカな、以前までとは動きが…。どうなっている……!? いや、まさか…!』

「あたしたちの攻撃は当たらなかったのに、紡絆の攻撃だけどうして…?」

「…! そういうことか…ッ!まったく、相変わらずとんでもないことしてるわね、あいつッ!」

「え?え?どういうこと!?」

「???」

 

誰も理解出来てない中、夏凜は気づき---いや、東郷とメフィストも気づいた。

ただそれは、やってのけることの方が難しいこと。

 

「友奈ちゃん…紡絆くん、自分に当たる直前で反応して反撃してるのよ。そんなこと、普通は出来ないわ」

「え……?」

「1コンマでもズレたら致命傷になりかねないってのにやってんのよあいつは。簡単に言えば、ほんの一瞬でも遅れたら終わりってこと!」

 

その言葉で、ようやく全員が理解した。

紡絆のやっていることがどれだけ危険で、どれだけ馬鹿げていて、どれだけ---異常なことかを。

 

『デェアァァァ!』

 

そして、ネクサスの蹴りがノスファルモスを勢いよく吹き飛ばし、背後のノスファルモスと入れ替わり、同時に腕を振り抜いたネクサスの攻撃が当たる直前でさらに入れ替わったノスファルモスが、異常な速度で反応したネクサスのアッパーカットに打ち上げられた。

これこそが、紡絆が考え、導き出した答え。

唯一彼ができる最前の攻略法であり、攻撃は最大の防御を体現した行動。

それを成し得ることができ、ノスファルモスの敗因となった出来事はただひとつに収束する。

単純明快で、スペースビーストという敵をジュネッスにならずに撃破したことのある彼が、()()()()()()ようになっているということ。

ただそれだけだが、もう少し細かく見るならば後のことを考えず、今だけを考えている彼はダメージを気にしなくていいこと。

元々紡絆という人間の反応速度が高いこと。

そして彼はとてつもなく馬鹿で、愚直で、とんでもないほどにお人好しの自己犠牲野郎だった。

それらが合わさった結果、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というとち狂った行動が出来るようになったこと。

それに所詮は幻影。

幻影には当たらなくとも、逆を言えば幻影も紡絆を攻撃出来ない。

彼が意識を失った時も、ノスファルモスはそれでやられている。

なぜならノスファルモスは幻影と入れ替わるという強い能力があっても、攻撃する際には必ず()()()()()のだ。

()でない限り、倒せない敵では無い。

故に、それが---敗北となる。

 

『フッ!シュアっ!』

『…チィッ!』

 

ジュネッスからジュネッスブルーへ。

再びタイプチェンジしたネクサスが追撃に出るが、メフィストがネクサスに向かって飛ぶ。

 

「なっ!?しまっ---」

「まずい…!」

「速い…!」

「紡絆くん、気をつけて!」

 

いきなり飛んだメフィストに遅れ、唯一狙える東郷が銃弾を放つものの、メフィストは見ることなく回避し、空を飛ばれてしまえば勇者たちは追いつくことなど出来ず、追いついたメフィストが蹴りを繰り出す。

 

『!』

 

それに気づいたネクサスは蹴りを受け流して回避すると、メフィストは反転して両拳で高速の連撃を繰り返す。

ネクサスは素早い身のこなしで次々と避け、振り絞って放たれた拳を掴むと相手をしている時間はないというように下へ投げ飛ばし、すぐにノスファルモスの元へ向かう。

下の方ではメフィストが体勢を戻して無視するネクサスに再び攻撃をしかけようとしていたが、そこへ次々と攻撃が飛んできて行動を中断させられる。

 

「今度は間に合った…!」

「ギリギリだけどね」

「でも、これ以上は邪魔をさせる訳にはいかないわ」

「とにかくこのまま攻撃するわよ!」

 

そう、勇者たちだ。

彼女らは空を飛ばれるとウルトラマンのように高速機動で戦うことは出来ないし浮遊は出来ない。

満開という切り札を除いて、だが。

しかしそれでも今のメフィストなら妨害することくらいは可能で、メフィストは鬱陶しそうにしつつも動けないからか様子を見るように視線を上空へ向ける。

一方で空中で身動きの取れないノスファルモスの元へと辿り着いたネクサスだが、身動きが取れない也にノスファルモスは口から溶解液を吐き出してネクサスへと攻撃する。

 

『シェ---ッ!』

 

しかし速度重視のジュネッスブルーにその程度の足掻きが当たるはずもなく、当たらないように発射されている溶解液の周りをぐるぐると避けながら近づいていき、口を閉ざすように顎をアッパーカットで打つ。

衝撃で口を閉じる羽目になり、怯むノスファルモスをネクサスは両腕で掴むと加速。

高速で一気に下降し、地面に叩きつけるのと同時に自身は前転して立ち上がる。

 

『シュアッ!デアッ!』

 

ノスファルモスの方へ向き、フラフラしている姿を捉えながらネクサスは構えると走り、速度を活かしたまま力強く地面を蹴って跳躍すると、両足で蹴りを繰り出し、ノスファルモスを一気に吹き飛ばした。

 

「…!やったっ!」

「喜ぶのはまだ早いわよ。ほら、今度は封印!」

「はい!」

「…!」

 

風の指示で、メフィストの足止めをしていた勇者たちが一斉に散開する。

そうなるとまとめて攻撃することは出来ないが、メフィストは攻撃することなくネクサスを見て跳躍すると、近くに降り立った。

起き上がったネクサスは気配を感じると首を動かして斜め前を見るが、警戒するだけで動かない。

 

「…!あいつ、なんで私たちじゃなくて紡絆のところに……!?」

「それは分からないけれど……少し警戒した方がいいかもしれない。向こうは私が警戒するわ」

 

そのことに最初に気がついたのは夏凜で、彼女の言葉で皆怪訝そうにするが答えを持つものはおらず、ひとまずは狙撃者の東郷が見ることになった。

それよりも紡絆が危険を犯してダメージを与えたノスファルモスを封印しなければ、回復された後にまた幻影を生み出されてしまう。

それに倒してないから動くかもしれない。

だからこそ、最大戦力で行くしかなく、援護に行くことは出来なかった。

それを証明するかのように、ノスファルモスは立ち上がる。

 

「あれだけ受けたってのにしぶとすぎるでしょ…」

「でもあと少しですよ、きっと!」

「……それだけだといいのだけど、なんだか嫌な予感がするわ」

「そうだとしても結局はやるしかないでしょ」

 

安心することも出来ず、ただ胸の中で漠然としない不安を感じた東郷がそれを伝えるが、まだ万全じゃないのか幻影を生み出さないノスファルモスを封印するチャンスが今しかないのも事実。

勇者たちはそれぞれ封印するためにノスファルモスを囲む位置に付く。

 

『っ---デェヤッ!』

 

勇者たちが行動し出したのを見たネクサスは、トドメを刺すために警戒しつつも己自身も動く選択をし、一直線に駆けていく。

少しずつメフィストへと近づいていく。

しかし少しずつ接近して来るネクサスにメフィストは何もせず、構えることすらしないままただ視線だけネクサスを追い、ネクサスはメフィストの横を通り抜ける。

それでも何もされず、流石のネクサスも怪しみながらノスファルモスを目指し、トドメの準備をするために胸のコアゲージに右腕を翳し---

 

 

『ヴァ……ガハ…ッ!?』

 

動きを、止めた。

投影された光の弓が弾かれるように消失し、ネクサスはその場で崩れ落ちる。

片膝を着き、胸のエナジーコアを抑えていた。

同時にコアゲージが鳴り始める。

 

「…紡絆くん!?」

「紡絆!?」

「…!嫌な予感はこのことだったの…!?」

「…まずいっ!」

 

異変に気づいた勇者たちが反応して振り向く。

片膝を着いた状態から立ち上がろうとしているが、再び崩れ、また膝を着く。

突如として訪れたネクサスの異変に、勇者たちは封印するよりも向かおうとするが、メフィストが放ったであろう黒い光刃が勇者たちの動く先の地面に当たり、土埃が舞う。

 

『フッ---!』

『ウガッ……!』

 

そしてまるでこれを狙っていたかのように、メフィストが駆け、ネクサスの腹を蹴り飛ばした。

ガードすることすら出来ず、ただ吹き飛ばされながら何かにぶつかり、ネクサスの体は地面にうつ伏せに倒れる。

 

『フン、やはりか。焦るような戦い方をしているとは思っていたが、勇者が封印の準備をするまで動かなかったことで理解した。貴様は無理をしていた、とな』

『………グッ』

 

否定することも出来ず、ネクサスは起き上がろうと両手に力を入れる。

だが、起き上がることが出来ない。

つまり、ネクサスの---紡絆の限界が訪れた。

全力で戦うための手段として用意されたベータリベラシオンカプセルの効力は短く、効果が切れれば蓄積されたダメージが倍になって還ってくる。

あと少しだったとはいえ、ただでさえ通常時でも今の紡絆では変身して戦うのはかなり弱体化するほどに厳しいのに、薬が切れてしまえばこうなることは当然の帰結だった。

 

 

『……ッ!』

 

それでも、立ち上がらなければならない。

強引に体を動かし、ネクサスは立ち上がるが、いつ倒れてもおかしくないほどにふらふらで、前には進んでいるが呼吸も乱れている。

 

『ハアッ!』

『……!デ---ィッ!?』

 

メフィストが走りながらメフィストクローを展開する。

迎撃しようとするネクサスだが、力があまり入ってないのかあっさりと打ち負けるとクローの攻撃を受け、何発もダメージを負ってしまう。

火花が散り、今にも倒れそうなほどふらつきながら後退し、振り下ろされたクローを咄嗟に右腕で防御する。

 

『フンッ!』

『グァアアア!?』

 

精一杯な抵抗も無駄というように、メフィストは防御の上から体まで一気に切り裂いた。

あまりにものダメージに片膝を着きかけ、なんとか倒れないように維持する。

 

『デェヤッ!』

『うぁ……!』

 

そんなネクサスに対してメフィストはクローを連続で叩きつけ、前蹴りで蹴り飛ばす。

 

「この……ッ!」

 

軽く吹き飛んだのを見届け、メフィストは振り向くことなく腕を後ろに薙ぐ。

それだけで銃弾は弾かれ、メフィストはクローを戻しながらダークレイフェザーをネクサスに対して放った。

 

『……!』

 

しかしその一撃は大きく外れ、ネクサスの()()の遺跡へと直撃した。

両膝を着きながらダメージを減らすために腕で顔を覆っていたネクサスはすぐに振り向き、気がつく。

そこには、遺跡のオブジェクトがあることに。

そのオブジェクトには結界のように神秘色のバリアが展開されていた。

 

「あれは……!?」

「この世界を守るためのものってことね…」

「急がないと……ッ!?」

 

急いで紡絆の元へと向かう勇者たち。

そんな勇者たちの前には、数十体のノスファルモスが出現する。

そうなるとヘタに突っ込むことは出来ず、足を止めてしまうことになった。

 

『ハァアア!』

『グッ……ウ…ァァッ!』

 

また、ネクサスの方はと言うと、自身を狙おうとせずにダークレイフェザーを連発するメフィストから守ろうと両腕を広げながら遺跡を庇っていたが、上空から降り注ぐ散弾を受け、再びネクサスの体がうつ伏せに倒れる。

 

『シュア……』

 

倒れたネクサスの瞳に映るのは、こちらに来ようとしてノスファルモスの妨害を受けている勇者たちの姿。

そこへ手を伸ばすが、伸ばした手は力尽きたように落ちる。

 

『このまま終わらせてやる……!』

 

そう言ったメフィストは遺跡に手を伸ばし、ネクサスは意識はあっても動くことは出来ず、メフィストの手が遺跡へと触れ---弾かれる。

 

『フン……ハァアア…!』

 

それは予想通りだったのか、特に驚くことも無くメフィストは数回バク転して距離を離すと両腕を交差した後に左右に広げて両腕を下に大きく回した。

闇のエネルギーが纏わり、全てを終わらせるためのエネルギーがチャージされる。

それを見てもなお、ネクサスは動けなかった。

 

『ハアッ!』

 

メフィストクローを後ろ側に構えることで放たれる、メフィスト最強の必殺技。

ダークレイ・シュトローム。

ネクサスの持つオーバーレイ・シュトロームと同等の威力を誇るそれはネクサスの頭上を通り過ぎ、オブジェクトのある遺跡へと直撃する。

青く、神聖を感じられる結界が展開されることで防御されるが、ダークレイ・シュトロームの出力は途切れることなく継続し、結界とただぶつかり合う。

 

「結界が!? まずいわ…!」

「くっ…ここはあたしと樹が!みんなは早く紡絆の元に…!」

「そうは言っても…ねえっ! 」

「このぉぉおおおおお!」

 

連続で攻撃することで攻撃をさせないようにしているが、ノスファルモスは幻影と入れ替わる力のみを使っている。

ダメージを回避し、勇者をそこに縫い付けるための行動なのだろう。

敵からすれば時間を稼ぐだけでいいのだから、わざわざ攻撃する必要などないのだ。

攻撃して勇者がウルトラマンの元へ辿り着くことが、一番の問題なのだから。

 

『ゥ……ォオオオオ---!ウァッ……』

 

ピキッとガラスにヒビが入るような音が周囲に響き、ネクサスは起き上がろうとするが、やはり起き上がれずに地面に縫い付けられたかのように伏せてしまう。

しかし音はさらなる音を立て、連鎖的にヒビが入るような音が---否、発生源たる結界が目視でも分かるほどにヒビが入っていた。

当たり前だ、メフィストの光線技は継続的に流され、徐々に高めることも出来る力。

一方で遺跡の防衛装置として貼ったであろう結界は、展開されればそれで終わり。

一方的に流されていくエネルギーと、発動してしまえば力が補充されない結界であるならば勝つのは当然、光線である。

結界がどれだけ強固のものでも、同じ場所に集中攻撃されれば時間の問題であり、むしろ結界はよくもっている方だと言える。

ただ、ただそれでも---

 

『ハアアァァ……デェアアッ!』

 

限界というものはいずれ訪れるものである。

入っていたヒビが大きく広がり、ダークレイ・シュトロームがより強い火力へ引き上げられる。

そうなるとゆっくりと結界から鳴っていた音がより早く連鎖的に響くようになり、音が一層大きくなる。

 

『……ッァ……!?』

 

そしてついに、ガラスが割れたような音が響くと共に結界が弾け飛ぶように壊れる。

結界という遺跡を守るものがなくなってしまえば、撃ち続けられているダークレイ・シュトロームを防ぐ術はなく、メフィストの光線技があっさりと遺跡に直撃して爆発する。

傍で倒れていたネクサスは衝撃と爆風で吹き飛び、勇者たちは足を止めて遺跡の方角を見る。

 

『……フッ、貴様の---』

 

爆風が晴れる前に光線技が止み、メフィストは嘲笑うかのようにネクサスを見ながら両手を広げる。

 

『負けだ』

 

爆風が霧散し、勝利を確信したように告げるメフィストの言葉が周囲に木霊する。

その言葉を裏付けするように、煙が消えた場所には聳え立っていた立派な遺跡のオブジェクトは見るも無惨な姿へと変化を遂げてしまっていた。

つまり、結界が完全に壊れてしまったということになる。

 

「そんな……!」

「結界が…破壊されたッ…!」

「じゃあ、この世界は……」

「! みんな、アレ……!」

『……!?』

 

ネクサスのメタフィールドが崩壊する時と同様、光の泡が空間を立ち込める。

作られていたであろう夕焼けの遺跡の世界は徐々に割れていき、空間の光が消えていく。

その光が消える中に、映し出されるようにひとつの街並みが見えた。

 

「あれは讃州市……?」

「あっ、私たちの学校も…!」

 

呆然とした様子で、夏凜が言葉を漏らす。

その言葉を聞いた友奈も、自分たちが過ごしてきた学校が映し出されていることに気づき、指を指していた。

 

「ってことは、こいつらが現れるってことじゃない! この世界が消える前に、早く倒さないと…!」

「確かにネオ融合型昇華獣が現れるとなると…せめてダメージを与える手段があれば…!」

『!』

 

全員の頭の中に()()が浮かび上がる。

現実世界へ出現し、過ごしてきた四国が蹂躙されてしまうという出来事を。

多くの人々が死に、完全に滅ぼされてしまう絶望の未来が過ぎってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

621:名無しの転生者 ID:2rBvG8XKj

ま、まずい! ネオ融合型昇華獣はスペースビーストを取り込んでいる!

そいつが街に現れたらパニックと恐怖で人々は支配されて、手の付けられない強さなのにさらに強化されるぞ!

 

 

622:名無しの転生者 ID:XCOklH8N/

詰んだぁああああああ!結界も壊された!イッチはもう動けない!

ここで終わりか……もうどうすることも出来ねぇ……終わったな……

 

 

623:名無しの転生者 ID:yKXPIqtFB

せめてあの薬がまだ効果あれば何とかなったのに……どうすることも出来ねぇなこれ。援軍も期待できない時点でお察しだろ。ほんとよく頑張ったよイッチは……もう諦めていい。勝てねぇわこれ

 

 

624:名無しの転生者 ID:7cbiGjEBF

……おいイッチ?

お前何する気だ?もう何しても無駄なはずだろ、お前が動けない時点で勝つことは……

 

 

 

625:名無しの転生者 ID:DeCuJ10m5

違う、イッチは諦めてないのか…。この状況だというのに…だったら、俺らも諦めてる暇はないな。

戦ってるイッチが諦めてないんだ、俺たちは俺たちに出来ることをするしかない…!

 

 

626:名無しの転生者 ID:h4l3YH13e

嗚呼、戦ってない俺たちが諦めるのはイッチに失礼だ。

頼むぞイッチ!この状況を打開してくれ!

 

 

627:名無しの転生者 ID:AQRAoXqpv

崩壊具合からして計算すると、遺跡の世界が持つのは5秒ほどだ!

それ以上はネオ融合型昇華獣もメフィストも現実世界への存在を確定され、人々に認知されてしまう。

けどまだ間に合う…がんばれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もはや手遅れにしか感じられない状況でも、まだ諦めてない者が一人…いや、二人居た。

 

『ハァァァァ……!!』

『…!?』

 

その人物たちは、ウルトラマンと紡絆。

動けないはずの体に鞭を打ち、膝に手をやりながら立ち上がったネクサス。

まだ諦めてない姿にか、起き上がったことにかメフィストが驚愕する中でネクサスはアームドネクサスを交差する。

一秒。

 

『ハアアアアァァ……デエッ!シュアッ!』

 

流れるような動作で両腕を動かし、青く輝く右拳を天に突き上げる。

二秒。

細く青白い光線が天へ舞い上がり、消えた先から黄金色の粒子が降り注ぐ。

三秒、四秒。

世界が形を失い、消滅していく。遺跡の世界から現実の世界へと変化しつつある中で、黄金色の空間が消滅しかけの遺跡を覆い尽くす。

五秒。

遺跡は消滅し、世界は現実世界ではなく、神秘に満ちるメタフィールドの世界へと変異した。

---後に分かることだが、四国の雨雲が漂う真っ暗な空を、一筋の星が輝いていたという。

つまるところ、遺跡の世界が消える前にメタフィールドが全てを隠し、メタフィールドが閉じられた光が一瞬だけ映ったということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神秘に満ちる世界。

コアゲージが鳴り続ける状況でのメタフィールドの展開をしたネクサスは、胸を抑えたまま敵を見据える。

何処か苦しそうで、しんどそうで、けれども引く気はないという様子だった。

 

「ここは…メタフィールド?紡絆がやったのね」

「現実の世界へに戻る前に隔離した…ってことね。けど、あの体じゃかなりの負担を負っているはず」

「じゃあ、より急がないとダメってことだよね…!」

 

見渡す限り最悪は回避されたが、あくまで時間を伸ばしただけに過ぎないことはこの場の誰もが理解していた。

 

『この世界を展開出来る力があるとは…だが、それもむい---ッ!?』

 

しかし忘れてはならない。

メフィストはファウストと違い、ダークフィールドを展開出来ることに。

結局のところメタフィールドが切れるか消える前に倒せば解決なのには変わりはなく、メフィストクローを展開したメフィストがダークフィールドに塗り替えるために地面に突き刺そうとしたが、クローが弾かれる。

 

「紡絆くんのお陰で助かったみたいだけれど…それ以上はやらせるわけにはいかないわ」

『シュアァッ!』

 

どうやら上手いこと東郷が射撃で防いだらしく、ネクサスは隙を逃さず走り出し、跳躍。

メフィストのクローにキックを繰り出し、防御したメフィストが後退する。

片手を着きながら着地したネクサスは即座に追撃に出て、突如として現れるノスファルモスの幻影に囲まれる。

 

『…!?』

「紡絆くんっ!」

『……!』

 

ハッと振り向き、ネクサスは迷うことなくパーティクルフェザーを正面に放つ。

当然の如く回避され、左横のノスファルモスが爪を振り下ろす。

反応が遅れ、回避不能な一撃にネクサスはダメージを負う---ことなく、ズドンッという重い一撃が響き、ノスファルモスの体が引き離される。

 

「あ…当たったッ!」

「はぁぁ…やっと成功したわね…まったく苦戦させられたわ」

「ほんと、二人でも難しいってのに---って、友奈!後ろ!」

「へ?」

 

どうやら幻影全てに残る四人が一斉に攻撃したようで、何度もそれをしていたがようやく成功した、ということだろう。

だがようやくダメージを与えれたことに喜ぶ暇もなく、出現した正面の幻影と入れ替わったノスファルモスが友奈に対して踏み潰そうとしたが、胸元から火花を散らせながら怯む。

 

『……シェア』

 

原因は、ネクサスのパーティクルフェザー。

いくらダメージを負っていても、ここはどこか。

メタフィールドという隔離空間であり、最大の特徴は闇の力とスペースビーストの力を弱める能力、ウルトラマンと勇者の力を強化する作用があるのだ。

その隙に友奈は離脱し、それを見届けたネクサスはメフィストの方へ向こうとするが、既に居た場所からは消えていた。

 

『ハアッ!』

『ッ!』

 

ネクサスが位置を探ろうとしていたところで、左から跳んできたメフィストにワンテンポ遅れ、咄嗟に片腕を立てることで防ぐが、さっきと入れ替わるように後退した。

ただ違うところがあるとすれば---

 

『ウッ……。グァ…ッ……!』

 

防御したというのに、ネクサスがふらついている点。

たった一撃を防御しただけでこれなのだ。

もしまともに大ダメージとなるような攻撃を受ければ、どうなるか。

 

「こっちは任せて!」

「そうね、もう一度やればいいだけよ…ッ!」

 

友奈と夏凜が同時に飛び出す。

幻影との入れ替わる能力だけではなく口から溶解液やら破壊光線を背部や鼻から放つが機動力の高い二人には当たることなく、拳と刀が同時に襲いかかる。

バカの一つ覚えのようにノスファルモスは幻影を生み出し、攻撃を避けた。

 

「そこっ!」

「……!」

 

友奈と夏凜の攻撃は避けたが、避けた先に大剣と鋭利な形を作られたワイヤーがノスファルモスを裂き、反撃に振るった爪はあっさりと回避される。

当たらなかったはずの攻撃が当たるようになったからかどこか焦っているようにも見えるノスファルモスが距離を離す。

友奈たちは勢いづいているチャンスを活かすために距離を縮めようとするが、彼女たちが向かう先に巨大な影が地面に生まれた。

慌てて咄嗟に止まることには成功するが影はすぐに落ち、轟音を立てた。

 

「うわ、なによ!?」

「新手---?いや、まさか……!」

『ァグ……ハァッ、ハァ……!』

 

何かが落ちてきた際の衝撃によって起こった風圧で顔を覆っていた友奈たちは、問題が無くなるとすぐに状況を理解するために目を向けた。

そこには悶えつつも早く戻るために背中を起こそうと足掻いているネクサスの姿があって、銃撃と爆発の音が何度も響いていた。

 

「この音…東郷さん!」

「ちょっ、友奈!?」

「あぁもう! 紡絆立てる!?立てるなら友奈をお願い!あいつはあたしらが引き受けるわ!」

『…デヤ…!』

 

ネクサスが飛ばされてきたことから、この場に唯一居ない人物である東郷の姿を思い浮かべた友奈は彼女を援護するために向かい、気合いで体を起こすネクサスはふらつきながらも走ることはせず、数cm浮いて飛んで行く。

しかし飛行速度すらも落ちていて、飛行していても安定しておらず、それでもネクサスは急ぐ。

 

『ハッ!』

「……ッ!」

 

片手から光刃を飛ばすメフィストと、逃げながら銃を撃っていく東郷。

食らってもそれほどダメージがないメフィストと一発でも当たれば精霊が護ってくれるとはいえ、大ダメージは間違いない一撃。

東郷は勇者の中でも機動力が低いのもあって不利だが、上手いこと戦えているのは彼女の思考能力が高いお陰だろうか。

 

「く……しまっ…ッ!」

 

それでもいずれは崩れ去るもので、足場が崩された東郷は咄嗟に後ろへ跳ぶが、メフィストは既に動いていた。

超人らしい速度で迫り、クローを振り下ろしている。

すぐに手に持つ散弾銃を放とうとするが、間違いなくクローの方が速い。

東郷は次に来るであろう痛みに堪えるように唇を噛み締め---

 

「おりゃあああぁぁぁ!」

『ウオッ……!?』

 

弾丸のような速度で跳んできた友奈がクローごとメフィストをノックバックさせる。

 

『デェヤアァァ!』

『グアァァ!?』

 

さらに、弾かれるように後ろへ下がったメフィストに高速で飛行するネクサスが頭突きを喰らわせ、吹き飛ばしながら自身も派手に地面に落ちる。

 

「友奈ちゃん!?どうして…」

「紡絆くんに投げてもらったんだ。間に合って良かった…ってそうだ、紡絆くんは!?」

「紡絆くんならそこに居るわ。……無理して来たのね、ありがとう」

 

メフィストを後退させた一撃はネクサスが投げた速度を生かしたものらしく、投げた本人たるネクサスは胸を抑えながら周囲を見渡し、東郷を見てほっとしたように息を吐く動作をした後に慌てて横へ転がる。

 

『……シュア!?』

『チィッ……!ハァァ!』

 

ネクサスが転がる前に居た位置にクローが突き刺さり、メフィストがクローを巻き上げるように引き抜くと地面が抉れ、衝撃波と共に抉れた地面が襲いかかる。

それらを不安定な態勢のまま反応したネクサスがサークルシールドを貼ることで防ぐが、解除した瞬間には左横からクローが横振りで迫ってきていた。

 

『ぐぁあ!?』

「……!」

 

またしても反応が遅れ、攻撃を受けて転ばされるネクサスは次々に迫るメフィストの攻撃を自ら転がることで避けていく。

ギリギリで連続攻撃を避けているが、東郷はそのネクサス---よりかは紡絆の動きにほんの少しの違和感を覚えた。

けれども違和感は所詮確信を持ったわけじゃないため、正体が掴めない何かに引っ掛かりを覚えながら狙撃銃でメフィストを撃つと、銃弾はネクサスの頭上を通り過ぎ、メフィストは身を反らして避ける。

東郷は避けられたことに関して特に驚くことも無く、それが狙い通りだったかのように次々とわざと当たらない銃撃を行う。

当然ダメージがあまりないとはいえ、意味もなく何発も食らうのはよろしくないため避けるメフィストには隙が出来るわけで、ネクサスは転がりながら手を地面について飛び起きると、東郷の銃弾を壊すためにもダメージを与えるためにもメフィストが突き出してきたであろうクローの勢いをそのままにネクサスが受け流すように背後へ投げ飛ばす。

力の流れを殺すことなく活かされ、メフィストの体がネクサスから大きく離れる。

ようやく一息付けるかといったところで、何処からか現れたのかノスファルモスがネクサスの左横に現れ、ネクサスはあっさりとハサミ型の腕を腹に受け、もう片方の腕で背中を叩かれる。

 

「なっ…!さっきまでと違って能力が高まってるってわけ!?」

「こいつ…あたしらを無視して紡絆のところに…!」

 

夏凜と風、樹が相手していたはずのノスファルモスが霧のように消滅し、ネクサスの真横に出現した。

間違いなく、成長速度が上がっている証拠。

否、正確には()()()()()()()()()というのが正しいか。

留まることを知らない、強引に強さを引き上げられた未完成体である星座型のバーテックスが、まさしく完成型の頂点に相応しい者に至ろうとしている進化の過程。

 

「紫色の…光?」

「…!スペースビーストを強化する、アンノウンハンド…!」

 

ふと見上げた空。

ほんの一瞬だがメタフィールドに干渉し、紫色の光が空に消えていた。

過去にも起きたことだが、友奈と東郷はノスファルモスが急激な成長速度を見せた理由を理解する。

 

『グアッ…デヤァ!?』

 

何よりも厄介なのが、霧を使うことで幻影の位置を惑わせ、一種のテレポートに近い速度でネクサスの()から現れ続けるという点。

 

「これじゃ攻撃出来ないじゃない…!」

「どうしたら…!」

 

動こうにも相手は消えるように動き、下手な攻撃はネクサスを巻き込む。

さらに戻ってきたメフィストが同時に攻撃をしかけ、ネクサスはただ一方的に嬲られるだけになってしまっている。

もはや前も後ろも右も左も上も関係なく、ぐらつくネクサスは反応出来ても間に合わず、コアゲージが早鐘のように点滅を鳴らしてメタフィールドが崩壊の兆しを見せ始める。

 

「……!やっぱり気のせいじゃなかったッ!」

「え、夏凜ちゃん!?」

「こうなったら行くわよ!」

 

何かに気がついた夏凜が駆け出す。

慌てて友奈や風、樹も夏凜を追うが、夏凜の方が圧倒的に早い。

目指すはネクサスの元で、そのネクサスはメフィストの下からの一撃を受けて反転し、うつ伏せに倒れていた。

再び霧を発生させて消えるノスファルモスだが、夏凜は消えたのと同時に急に方向を変えた。

 

「……!」

 

背後で覗いていた東郷が、夏凜の動きを見て確信が大きくなる。

スコープで捉えていたのをメフィストからネクサスに変え、東郷は迷うことなくトリガーを引いた。

 

『……ンッ!?』

 

後ろを向いていたメフィストを通り抜け、一直線にネクサスに向かう銃弾。

明らかな狙いミスにしか見えない一撃だというのに、違和感を覚えたメフィストが咄嗟に振り向いて、すぐに銃弾の方へ視線を移す。

銃弾は止まることなく加速し、変わらずネクサスへ向かう。

 

「え、このままじゃ直撃するんじゃあ…!?」

「!?」

「---大丈夫ですッ!東郷さんはきっと考えがあるはずですから…私たちにやれることは真っ直ぐに!」

 

東郷の狙いが分からず流石に驚く風と樹だが、友奈は信じて夏凜を追う。

 

(……!そう、東郷も気づいたってわけ。私は紡絆と組手したから気づけたけど、大したものだわ。

だったら私に出来ることは、信じるだけ、か。ここまでやってあげるんだから、絶対勝ってもらうわよ、紡絆……!)

 

もう少しで予測地点に辿り着く。

しかし夏凜は自身の目の前をひとつの銃弾が通り抜けたのを見て、改めて狙撃手の目と腕、何よりも察しの良さに舌を巻く。

 

『……ヘエッ!?』

 

そして狙われていることを知らなかった本人たるネクサスはメタフィールドが崩壊寸前になりかけているのとコアゲージの速度が凄まじいことになっているのを感じながら何とか顔を上げると、銃弾が間近にあることに驚く。

あと数秒、いや三秒も経たずに直撃するだろう。

 

(……確信があったわけじゃなかったけれど、見る限り紡絆くんの反応速度が()()だけあまりにも遅すぎる…。どの攻撃も、左から来る攻撃だけ一泊遅れて反応して、間に合ってなかった…!

それがどうしてかは分からない。調べるにも情報が足りない…でも私はあなたのことを守るって、勇者になった時に決めたから。

今は私を信じて、紡絆くん…!)

 

紡絆の身に東郷は何があったのかは知らない。

なぜ反応が遅いのかも知らない。

それでも、思いを伝えるように東郷の目は真っ直ぐに見ていて、顔を上げたお陰で東郷の姿が見える紡絆は、ネクサスは、右腕のアローアームドネクサスを輝かせていた。

そんなネクサスに迫る銃弾---さらに変わることなくうつ伏せに倒れたまま動かないネクサスの()()()霧が現れ、姿を現す人型の影。

鋭い爪を振り上げながら姿を現すノスファルモスは死を引き寄せる死神のようにも見え、事実としてこのあとにネクサスの体は貫かれるに違いない。

それでも、紡絆は信じたのだ。

決して一人では出来ず、独りでは起こせない。

奇跡にも等しく、絶望を覆せる逆転の、最後の一手を掴むために。勝利を、掴むために。

そしてついに爪が振り下ろされ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

確信があったのだろう。

東郷がスコープを覗くのをやめ、皆の元へ急ぐ。

それを証明するかのようにネクサスに突き刺さる寸前、弾丸がネクサスをギリギリのところで通過し、ノスファルモスの爪を弾いた。

予測して放たれた、賭けにも近い一撃。

いや、『賭け』というのは失礼か。間違いなく『確信』のあった一撃。

ノスファルモスは何度も何度も、ネクサスの左横から出現していた。

ネクサスの弱点を知って、『確実』を求めるからこその失態。

反応が遅れる左からの攻撃はネクサスに有効だとノスファルモスは学習してしまっているのだ。

確かにノスファルモスの中に組み込まれている、ファルドンの幻影を生み出し、入れ替わる力は強力だ。

はっきり言って、紡絆や勇者たちが戦ってきた中でも、『最強』と言ってもいい。

何よりもただでさえ学習能力が高いスペースビーストを超える融合型をさらに超えるネオ融合型昇華獣の成長速度はめざましく高く、彼らは()()()()()()()()()()()()をスペース振動波で思い知らされている。それ故に油断をせず最も確実性に殺せ、最も合理的な判断をしてしまった。

それが、敗因になるということを知らず。

 

「そこぉおおおおおお!」

 

ノスファルモスが幻影を生み出すよりも早く、既に接近していた夏凜が両手に持つふたつの刀でノスファルモスの目を斬り裂く。

生物としての本能か、どれだけ強固な肉体を持っても弱点である目を斬られ、視界が閉ざされたノスファルモスが悲鳴を挙げた。

 

「友奈!」

「任せて!」

 

空中を自由に動けない夏凜は追い打ちが出来ない。

しかし後続に居た友奈が跳び出し、力強く握られた拳がノスファルモスの胸を打つ。

 

『シェッ!シュアアァ!』

 

ほんの数ミリだが後退させられ、輝くアローアームドネクサスをコアゲージに翳したネクサスが、振り向きざまにノスファルモスの体を下方から上方を光の剣、シュトロームソードで切り傷を残す。

片膝を着いた状態から振り上げられた、光の剣。ノスファルモスには上下に裂かれた一筋の線が残っている。

ただトドメにはあまりにも浅く、届かず。視界を奪われ、斬られてもなお、ノスファルモスが最期の抵抗と言わんばかりに道ズレ覚悟で幻影を数百を超える数を生み出した。

相手も限界を超える、火事場の馬鹿力と見るべきか。

 

『クッ……ハァッ!ハァァァ……!』

『フッ!? デヤッ、ハアアアァァァ!』

 

予想外の出来事に驚愕していたメフィストが状況を理解し、ハッと意識を取り戻した彼はこのままでは倒されると判断したのかダークレイ・シュトロームを放つために両腕を交差して引き離し、闇のエネルギーを纏い出す。

メフィストの動きに気づいたネクサスはシュトロームソードを出したまま 両手で握り拳を胸元で作り、エナジーコアが輝く。

エナジーコアから流れるエネルギーは左拳へ収束し、青い輝きが纏われる。

さらに右腕のシュトロームソードには泡立つメタフィールド内の光が変換されたのか同じ黄金色の光が纏われ、勢いよく両腕を振り下ろしたネクサスは左拳を真っ直ぐ天へ突き上げる。

フェーズシフトウェーブと同じ青い光線が天へ突き、雷雲がメタフィールド上空を覆い尽くす。

 

『な……ッ!?』

「こ、これは……」

「雷雲!?まさか……!」

『ハァァァ…ハッ!デェアァァァァ!』

 

雷雲を発生させる、想像を遥か斜め上へ突っ切る衝撃にも程がある出来事に勇者が、メフィストが、この場の全員が驚く。

まるで、現実世界の雷雲を持ってきたかのように。

そして、ネクサスは体を左腕と一緒に右側へと捻り、体を起こすのと同時に左腕を振り下ろして今度は黄金色の光を纏うシュトロームソードを真っ直ぐに天へ掲げる。

黄金色の光が雷雲を貫き、雷雲から凄まじい轟音共に辺り一帯へ青い雷が降り注いだ。

それらの雷は数百をも超えるノスファルモスを()()()()()()()焼き払い、咄嗟に光線技をキャンセルしてダークディフェンサーというバリヤーを貼るメフィストを痺れさせる。

無事なのは、シュトロームソードを天へ突き上げるネクサスとピンポイントで当たることも掠ることすらなかった勇者たちのみ。

 

「か、雷……?」

「流石にそれは予想出来なかったわ、紡絆くん…」

「む、無茶苦茶にも程があるでしょ、バカ!」

「!」

「い、いやほんとそうだわ……って、それよりも勇者部一同、封印開始!」

「は、はい!」

「そうでした…急ぎましょう!」

「ええ、これで終わりよ!」

 

とんでもないことをやってのけたネクサスの姿に勇者の気持ちは無茶苦茶だという夏凜の言葉に同感のひとつだったが、全ての幻影を焼き払っただけでノスファルモスは倒したとは言えず、雷撃によるダメージで倒れただけ。

トドメを刺すべく、ノスファルモスを囲んだ友奈たちはついに封印の儀を開始した。

封印の儀に抗うノスファルモスだが、足掻いたのは一瞬で刹那にも満たぬ時間で御魂を吐き出す。

 

「今度こそ……って回転!?」

「…!弾かれる……!」

「やっとここまで来たってのに!」

「無駄に逃げ足も早い!樹のワイヤーで止めようにも……!」

「……!」

 

ドリルのように凄まじい回転をし、東郷の銃弾を弾き、夏凜の刀を弾き、風の大剣は質量的な問題か少量の霧を発生させて回避する。

樹のワイヤーに関しては相性が最悪で、纏わり着いた瞬間には次々と切られ、無理というように彼女は首を横に振っていた。

回転を止めようにも友奈の拳は当たれば止まるだろうが、火花を散らすほどの回転をする御魂を殴るのは不可能だろう。

さらにネクサスは先程の雷撃でのエネルギー消費で打つ手はない---そう思われたが、帯電するような音が何処からか聞こえる。

 

『シェアアアァァ……』

 

その音は、ネクサスから聞こえていた。

突き上げたままのシュトロームソードの先には展開されたであろう黄金色の竜巻、ネクサスハリケーンが存在する。

そこへ雷雲から黄金色の稲妻が降り注ぎ、雷雲が消失する。

元のメタフィールドの空へと戻るが、シュトロームソードにはさながら巨大な竜巻状の高エネルギー体のプラズマが纏われていた。

 

「紡絆!?何する気……!?」

「……!逃げ道を塞ぎましょう!」

「それなら私にも!」

「!」

「ったく…仕方がないわね!」

 

危機を感じたのか逃げようとする御魂を、何重にも重ねられたワイヤーの網が巨大な壁を形成し、その前には巨大な壁として大剣が添えられる。

さらに銃弾と刀、メタフィールド内に存在する砕かれた岩の欠片を投擲され、動こうにも高速回転する御魂の勢いが僅かに止められ、ノックバックさせられるため脱出不可能な空間を生み出される。

 

「あとは頼んだわよ!」

「紡絆くん、お願い!」

「やっちゃいなさい!」

「紡絆くん……!」

「……!」

 

今出来る最大のことをやり、友奈たち勇者は紡絆に全てを託す。

彼ならやってくれる、そう信じて行われた行動に報いるためにも、決着をつけるためにも、今残る全てのエネルギーを空間の維持に回し、気合いで変身を保つ。

 

『ハアアァァ---デエッ!デェアアアアッ!』

 

竜巻状のプラズマを纏うシュトロームソードを空中で回し、物凄い風圧を撒き散らしながら竜巻状の閃光は圧縮され、円盤型へと変化していく。

いわゆる、巨大な光輪と呼ばれる形を作り出したネクサスは御魂を見据え、一気にシュトロームソードを力強く振り下ろした。

同時に巨大な大剣が御魂をネクサスの方へと吹き飛ばし、プラズマを纏う光輪が地面を削り、燃やし帯電させながら御魂へと接近する。

高速回転する御魂相手に大剣では砕くには至らない。

しかしネクサスの今持ち売る全力を尽くして放たれた光輪を考え、さらに高速回転するが故に速度が上がるということを考えれば当然---御魂は、真っ二つに斬り裂かれる。

虹色の光が天へと還り、御魂が消滅する。

 

「やった……?」

「まだよ」

「ええ、敵はまだ……」

「向こうも消耗、こっちも消耗といったところね……」

 

喜ぶのは、まだ早い。

もうメタフィールドが限界に達しようとしているのかあちこちで現実世界が見えているが、ネオ融合型昇華獣が消滅してもメフィストが生き残っていた。

あの雷を受けてもなお、メフィストは満身創痍で立っていた。

 

『……シュア』

 

コアゲージが停止寸前になりかけているが、ネクサスはメフィストを警戒する。

 

『チィ……貴様との決着は預ける。覚えていろ、次のゲームで貴様は深い絶望に陥る。なぜならもう貴様らの世界を守るものがないだからな……!』

『……!』

 

メフィストの体が薄まり、直視せざる得ない現実を伝えながらそれだけを言い残して消える。

その場にはもう、ネクサスと勇者以外気配はなく、消えかけていたはずの()()()()()()()()()()()()()()()()

それでも、ただそれでも、激戦を乗り越えられたのは確かで、ネクサスの体が輝くと青い光が弾け、アンファンスへと強制的に戻されてメタフィールドも完全に崩壊する。

現実世界への帰還が成される前にネクサスは友奈たちを見て、笑顔を浮かべる姿を見ると幻影のように消失する。

小さくなっていく光、そして勇者たちを光が覆い尽くし、僅かに輝く遺跡の世界は完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最期に残された光。

六つの光が紡絆が遺跡へ召喚される前の砂浜へ現れ、粒子が流れて散っていく。

 

「はぁぁ……物凄い疲れたわね」

「流石に私も疲れたわ」

「でも無事に終わってよかったぁ」

「無事……と言っていいのかしら」

『遺跡の結界が……』

 

皆が疲労感を隠せてないが、終わったからといって楽観視できるものではなく、最後に言い残された言葉が思い返させる。

確かにノスファルモスは倒せた。

倒せたが、同時にスペースビーストから現実世界の侵入を防いでいたであろう結界は破壊された。

深い絶望とはなんなのか。

今回の戦い、果たして勝ちと言っていいのか、大丈夫なのか、そういった不安が浮かび上がる---。

 

「だい……じょうぶ。大丈夫! 未来なんて誰にも分からないんだ、それよりもみんなのお陰で勝てた。じゃあ今は勝ったという事実さえあればいいだろ?誰かの日常が壊されることも、笑顔が壊されることもなかったんだからさ、今を守った。明日のことは明日考えればいい!」

 

そんな不安を、たった一人の男が簡単に消し去る。

曇っていたはずの空から僅かな光が降り注ぎ、月の光が海と砂浜を照らす。

ボロボロだが笑顔を浮かべる紡絆の姿。

その姿は何処までも前向きで、不安だった心に不思議と入り込む。

それが先延ばしにするだけだとしても、彼の言葉だけでなんとかなる気がしてしまうのだ。

そして同時に、改めて勝利したという実感が湧いてきた。

 

「あいっかわらずブレないわねぇ……」

「そうですね、流石と言うべきか……」

「うんうん、紡絆くんの言う通りだよね。今考えても分からないし!」

「俺は明日考えても分からないけどな!」

「いや、そこ言った本人が自信満々に言っちゃダメでしょ……」

『そこが紡絆先輩らしいです』

「なんかバカにされてるような……」

 

本当にさっきまでの雰囲気は何処へやら。

あっさりと空気が塗り替えられ、それぞれ帰路に着くために動き出す。

 

「さて、帰りましょ」

「わっ、確かにもうこんな時間だ!」

「まぁ、そりゃそうよね。そもそも遅かったんだから」

『明日も早いですしね』

「ちょ、ちょっ、まっ……いいっ!?あー!いたい、全身ものすごく痛くて動けないんですけどー!」

 

しかしみんなが話しながら動く中、紡絆一人だけ一歩動くと砂浜に顔面から突っ込んでいた。

ベータリベラシオンカプセルの後遺症とメタフィールド、大技の疲労。治ってない怪我のせいで動けない彼は一人では動けなかった。

 

「あ、じゃあ手を貸すね!」

「い、いたたたたた!そ、それは嬉しいけど引っ張らないでくれ…死ぬっ!!」

「ええっ!?死んだらダメだよ!」

「すげー痛いんだもん……」

「ああもう、面倒臭いわね。ほら!」

「ぎゃああぁあああ!?」

 

紡絆に気づいた友奈が手を引っ張るが、泣きたくなるような痛みに懇願する。

しかし容赦なく夏凜に引っ張られて紡絆は鳴いた。

それはもう悲鳴を上げたが、なんだかんだ夏凜は肩を貸し、紡絆は皆の手を借りながら動き出せた。

空は暗くとも、彼ら彼女たちの世界は明るく、何があったとしても時は止まらない。

遺跡の結界が破壊され、何があるかは分からない。

もしかしたら明日、もっと大変なことが起きるかもしれない。

そんな考えは皆の胸の中にあったが、今は、今だけはこの日常を大切にしてもいいだろう。

そう、明日が分からなくとも今と明日を守ることは出来た。

あのネオ融合型昇華獣、ノスファルモスに勝ったのだ。

勝つことが出来たのだ。今は、それだけでいいだろう。

 

(……紡絆くん。貴方はもしかして私たちと同じように……。いいえ、それ以前の問題。紡絆くんに関しては大赦はやっぱり何かを隠してるに違いない…色々と謎が多いんだもの。どうして勇者システムもないのに樹海に入れるのか、ウルトラマンになれたのか……。

色々と調べる必要が…あるわね)

 

---隣に歩んで笑顔で話しかけてくる紡絆の言葉を聞きながら、東郷は何かを半ば確信し、行動に移す決心をしたようだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

969:名無しの転生者 ID:wTQ9TgJJD

やっぱりアレは結界だったっぽいな…。何とか今回は凌いだが……

 

 

970:名無しの転生者 ID:n37QtvKMk

ああ、イッチが完全に限界だ。もし次ネオ融合型昇華獣が現れれば……

 

 

971:名無しの転生者 ID:YMfuWR/Yb

終わり、か…しかも現実世界に干渉が可能となってしまった。

まずい、不味すぎるぞ。後遺症の影響が出てしまってるせいでイッチがまともに動くことすら危うくなってきてやがる。既に運動キツいって言ってたのに、歩くのだけで精一杯っぽいんだよな

 

 

972:名無しの転生者 ID:bDDw2GesH

これどうするんだ…イッチが誰かに光を託すしか選択肢がないぞ。何か手は無いのかよ

 

 

973:名無しの転生者 ID:HxHLGNRYu

そう言われてもなぁ…正直詰んでるとしか。あの状態でメタフィールドもよく展開出来たなって感じだったし…

 

 

974:情報ニキ ID:JoUHou2in

可能性は三つ。

一つ目はイッチが神樹様に取り込まれる(?)

二つ目はノア様に覚醒

三つ目は割とやってる謎現象…奇跡に賭ける。

ただ上二つ、特に一番上は間違いなくイッチは死ぬ。二つ目は難しい。

まあ、奇跡を呼び起こすしかないね。

でもイッチ自体が割と俺らも知らない未知の進化してるからなあ…わんちゃんそれに賭けたら何とかなるかもしれん。その場合、イッチは人間じゃなくなりそうだが。

正直人間として生きるなら一体化は無理だし、そもそもあのノア様が融合するかって言われると微妙というか、ほんへザ・ワンの言葉からしてイッチの人格が消滅しそうな感じはあるからねぇ…仮にそうじゃなくても、イッチの状態的に消滅しそう

 

 

975:名無しの転生者 ID:nRe1iYP81

となると奇跡か。奇跡…奇跡ねぇ……戦闘力的にはやっぱり前世で何かあったレベルっぽいが、今の肉体じゃ関係ねぇしな。

いや、全く知らん能力使ってるけど。

ネクサスハリケーンを応用して光輪を作ったり炎パンチや氷ビームだったりよく分からん雷使ったり癒しの力っぽい能力で地面修復したり…

 

 

976:名無しの転生者 ID:WM6H9MBJK

イッチが一体何したって言うんだ……

 

 

977:名無しの転生者 ID:NbCPkJSo+

ここまで狙われてたりすると記憶喪失前のイッチがガチめに気になってくる…未だに樹海に入れる理由が謎だし、ウルトラマンだからって言われたら結局おしまいなんだけどさ

 

 

978:名無しの転生者 ID:PiX84w+OM

明らかにスペースビーストもバーテックスもザギも狙ってるしなぁ…あ、神樹様もちょっとやったか?

でもまあイッチが厄介(コンマ差で殴り返して幻影との入れ替わりを破ったり未知の力使う人間)だから総攻撃するのも致し方ないというか…

 

 

979:名無しの転生者 ID:BZavjJpnH

誰を信じればいいんだよこれ

 

 

980:名無しの転生者 ID:8M7K91GRO

やはりノア様だけが希望

 

 

981:名無しの転生者 ID:IMatUeGcw

イレイズに頼ろうにも知識面しか頼れないしな。うーん…どうにかしてイッチの肉体を回復させれたらな

 

 

982:名無しの転生者 ID:ISMAS8/ES

何はともあれ、最終決戦は近そうだな…勇者たちの後遺症も治らないし…。

やっぱり…モチーフが花だから、花は散るもの…。

 

 

983:名無しの転生者 ID:gppPiUnET

……色々とヤバそうだな、イッチのメンタルが強いのが救いか。ただこのままじゃ妹ちゃんも壊れる…てか壊れかけてる。依存具合からしてヤンデレ化しても不思議じゃないし、なんか夏凜ちゃんと東郷さんはイッチに違和感覚えてるっぽいんだよなぁ…。

左目やイッチの体に関してバレるの多分近いだろうし、ノア様助けて。もうイッチがガチで死ぬ寸前まで来てっから、助けて。

神樹様すらもう信頼出来ない時点で俺らの希望はノア様だけなんや……

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---窓から見える外の空を見れば雨雲は去り、夜の世界となっていた。

ここはある病院。

そこには、痛々しくも包帯で巻かれた二人の少女が搬入されている場所。

ベットに寝転んだ状態で、金髪の少女が息を吐く。

 

「こんなものかな〜」

「終わったのか?」

「うん、ちょっとしか動かないからやっぱり書きづらいんよ」

「そりゃそうだよ」

 

そんな少女が話すのは、隣のベットに寝転ばされている、金髪の少女よりちょっとマシ、としか言えないくらいの同じく包帯が巻かれている銀髪の少女。

 

「そういえば、もうそろそろって言ってたよね?」

「ああ、そういや調べてもらってたんだっけ…」

「個人的にだけど気になることもあるから---なんて言ってたら、来たみたいだね」

 

これほど酷い怪我を負うほどのことがあったのかと事情の知らない者が居たら聞きたくなりそうな少女二人だが、彼女たちが何かを話し合っていると病室にノックする音が響く。

 

「入って大丈夫だよ」

「……失礼致します」

「うん。それで、その様子だと---調べられたんだ」

 

病室に入ってきたのは仮面を被った神官らしき女性。

彼女は病室に入っても慣れているのか驚くことすらなく、唯一何かがあるとすれば胸元に抱えられた一冊の黒いファイルだろう。

無駄話はする気がないのか、それを見た金髪の少女の目が鋭くなる。

 

「はい。全て用意出来たわけではありませんが、こちらが()()適能者(デュナミスト)である()の記録です」

 

神官の女性から渡される黒いファイルには、一人の名前が載っている。

それを受け取った金髪の少女は一度見て、神官の女性に視線を移した。

 

「へぇ〜それがウルトラマンに関する情報かあ」

「そうみたいだね〜。それにしては随分時間かかったみたいだけど?」

「上層部しか閲覧出来ない機密情報をバレずに調べるのに少々時間がかかりまして……()()()()からの提供がなければ、もう少しかかっていたかと思います。最新の情報はどうやって手に入れたのか分かりませんが…」

 

銀髪の少女が好奇心を表に出してファイルを見る。

金髪の少女は銀髪の少女に返事をしつつ、笑顔を浮かべて問いかける。

ただ包帯に巻かれてるだけで非力そうな少女だというのに凄まじい圧を感じさせ、神官の女性は淡々と述べる。

()()()大赦の人間ならば、そんな彼女の態度を知れば冷や汗を描くものだが、その神官の女性は慣れているようにも見える---いや、そもそも恐怖を感じていない。

恐怖を感じる相手に、これほど忠実に尽くすのもおかしな話だ。

どちらかと言えば、返しきれない恩を抱いているというべきか。

 

「ふぅん…その人には感謝しなきゃだね。大赦の機密情報を知れるほどの人物というのは引っかかるけど」

「なんか怪しくないか?」

「…見たこともないお方でしたので私もそう思いましたが、情報は確かだと思います。私が知る彼の情報は全て正しかったので」

 

上層部の人間なのか、上層部の人間が裏で流しているのか、それとも全く関係なく、知れる何らかの手段を持っているのか。

それは今の彼女たちには分からないが、金髪の少女は神官の女性に一定の信頼を置いているのか納得したように頷く。

 

「考えても仕方がないかなー。それよりも、今はこっちだよ」

 

そう言って金髪の少女は唯一動く片手でゆっくりとだが、開いたファイルを手に持つ。

そこに書かれている名前は、()()()()と書かれていた。

 

「継受紡絆…紡絆くん。紡絆くん、かぁ」

「いい名前だな」

「うん」

 

反覆するように金髪の少女が名前を呼び、ファイルに目を通していく。

ファイルの中には複数枚の紙があり、それは()()()()()()()()()()()()()()()()プロフィールが纏められ、様々な経歴や写真が載っている。

生まれた年から、何をして、どう生きて、何が起きたのか。

何の変哲もない、ちょっと変わった程度のお人好しの少年の経歴。

いや、ちょっとでは済まないお人好しの少年が正しかった。

 

「……凄いぎっしりだねー」

「どうやら上層部の方も過去を詳しく調べていたようで。人に寄りますが、彼は利用すれば勇者を犠牲にせずに済み、なおかつたった一人の犠牲で済む立派な()()でしょうから」

「………」

 

それを聞いた金髪の少女はニコニコとした笑顔を浮かべているが、それだけじゃない。

間違いなく怒っている---いや、銀髪の少女からも間違いなく()()の感情が隠せなく出ている。

特に前者の方が笑顔なぶん、凄まじく怖いだろう。

流石に神官の女性も冷や汗を掻くが、それでも彼女は特に態度が変わることは無い。

 

「あぁ、ごめんね、八つ当たりしちゃったかな」

「いえ……気持ちは分かります」

「…あたしもついやっちゃったな。で、結局何が書かれてるんだ?」

「うーん…あっ」

 

過去にでも行ってきたのかと疑いたくなるレベルでぎっしりというか、ストーカーなのかと疑いたくなるくらい日常での写真も含めたくさんあり、普通なら引くレベルというかドン引きレベルなのだが、金髪の少女は関係ないところは後で読むつもりなようで飛ばし、気になる情報がないか見ていく。

そうしてページを進めていくと、明らかに赤色の紙というわざわざ紙の色を変えるという異質なページがあり、目が止まる。

 

「……!これって…」

「どれだ…って、これ…本当なのか?」

「………ええ、機密情報のところです」

 

流石に二人も驚いたように目を開き、同時に怒りと呆れが半分ずつ内側から浮かび上がってくる。

 

「…こんな情報まで知ってて、今までずっと隠してきたんだね」

「………」

 

ため息を吐き、金髪の少女は次々とページを読み進めていく。

そこには、すでに紡絆がウルトラマンとして戦い始めた歴史のページが全て残っていた。

()()()()()()()()()()

 

「うん、色々と知れたよ。ウルトラマンの名前も姿も、()()ウルトラマンのことも色々と載ってたし、()()()と違ってかなり変わってる…ううん、力を取り戻してるのかな?

それ以外にもこの中に気になる情報はまだまだあるけど、()()に聞くからいいかな。

今はそれより本人にも誰にも聞けない()()がどういうことかなのか知りたいな〜。ねえ、()()()()()()()()()()なんだろうね?」

「これは……」

「…………」

 

金髪の少女が開いたファイルの中にある、()()()()()()()()()()()()()()()情報。

それは機密情報として扱われるだけあって、上層部しか知り得ないものなのだろう。

なぜならそれは、()()()()()()()()()すら知らない情報だったのだから。

その情報とは---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()

一般市民どころか、()()()()()()()()()()()()もので、大きな爪痕を残した()()の事件。

事件の概要が詳しく書かれており、それだけで驚くには値する内容だが、挟まれていたであろうもう一枚の紙には被災者リストがある。

その中にはかなりの名前があり、このファイルに情報が纏められている本人である()()()()という名前も載っていた。

改めてファイルの方を見れば、五年前のある日、災害に見舞われた彼は小学生の身でありながら皆が逃げ惑う中、命の危険を犯してまで被災場で人助けに勤しむという異常な行動を取っていたようだ。

そんな彼は人々を逃がしていたが、ある時■■■■■■■■■■■■■で意識不明の重体に陥る。

落ち着いた頃、病院へ搬送された彼は生きているのか死んでいるのか分からない状態で不明と診断され、突如として症状が回復、意識を取り戻したと。

だがその文書の中にはひとつ、おかしな点があった。

誰かが故意的に消したかのように、真っ黒に染まっている部分が二つあるのだ。

ひとつはさっきの意識不明に陥った原因であろう部分。

残るもうひとつは、唯一見える前の文には、表にはなっていないが大赦に所属する科学関係者と医療関係者が調べた結果、現在の医療技術では治療が不可能に近いで状態あり、正確な症状を識別することは叶わない。

診断の結果、()()()()()()()()()()()()()()()()しており、現実的では無いがまるで()()()()()()()しているようで科学的な証明すらも不可能。

最も近い状態としては仮死状態に近いが心臓が動いてないため仮死状態ではなく、治療が不可能なことから()()()()()1()0()0()%()、死亡したとして扱うと書かれている。

そのことから、消された部分にはそう判断されたその理由か詳細な情報かそれは分からないが、丸々一ページ染まっているので様々なものが書かれているのだろう。

それ以外は何も分からず、予想するためのヒントもどこにもない。

しかし考えても無駄なのもあるが、問題ではあるが今の問題は紡絆のことではない。

そのような事件があったのに、()()()()()()()()というところだ。

そんな大災害が四国で起きた記述もなければ、大きな事件になったはずなのに誰も覚えていないのはおかしい。

何よりも、大きな災害が過去にあったことを上層部の人間だけが知っていることだろう。

何故上層部は知っているのか。そしてこの情報を彼女たちに提供した者は何者なのか。これらの情報は全て正しいのか。

謎は深まるばかりだか、ここで一番謎が深まった存在は間違いなく、継受紡絆という人間だった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





▼まとめ
○継受紡絆
少しでもゲージを増やさせないため出来る限り攻撃を庇った。
ちなみに神樹様に取り込まれかけたり本人の知らないところで知らない過去が露見したり死ぬ一歩手前だけど元気でーす(SOS)(やけくそ)
しかし、継受紡絆という人間は五年前、とある事件で既に死んでいるらしい(?)

○ウルトラマンネクサス
神樹様に取り込まれかけた紡絆を寸前で助けたが、流石に神の呪いを抑えるとなると弱体化した今では、彼自身もかなり消耗しているらしい。お陰で神樹の世界に入るのに時間がかかった。
過去にも出現した事例はあるらしく、とある少女『たち』は知っているようで、()()()とは姿が異なるらしいが…?
時系列的には、銀河帝国でゼロに力を託した後に地球へ来た。

○天海小都音
気丈に振舞っているが、メンタル崩壊寸前。
たすけて、神樹様。

○天海真偽/メフィラス星人、イレイズ
比較的温和なタイプだが、昔はやんちゃだったらしく、名前が体を現している。
真偽→まことといつわり。
イレイズ→抹消、削除、消去
ちなみにダークネスファイブに属する魔導のスライとは親友同士の仲で戦闘力は同等なので、つよい。
だがベリアルに忠誠を尽くすスライと、あるウルトラ戦士(ゼロではない)の姿を見て戦いをやめるようになったイレイズは喧嘩別れすることになり、放っておけばウルトラ戦士の方について(掲示板の奴らが苦労して解いた謎を聞いてすぐ解いたことからわかる通り)陛下の脅威になりかねる可能性もあったので殺されかけた。
しかし戦いは嫌になっても死にたい訳では無いため、反撃することなく逃げ続けていたので限界を迎え、宇宙船が大破して死にかけながら40年前に偶然地球へ落下。
子供の頃の麗華に助けられて以降、助けられた恩もあるので人間を見定めることにし、少しずつ愛するようになって今に至る。
実はメフィラス星人の他に候補はレギュラン星人、バルタン星人、マグマ星人、ツルク星人、カーリー星人、レイビーク星人などなど宇宙人が居たが、どいつもこいつも裏切りそうだったし血迷った選択になってるし人型がよかったので結局シン・ウルトラマンで話題になったメフィラス星人になった。

○転生者掲示板
やる時はやるやつらなのでめっちゃ真剣になって完全に世界の謎を解いたやべーやつら。
一応戦闘時でも方向やタイミングを計算したりして教えてるが、基本的に感覚派の紡絆くんには通じてない、可哀想。ドンマイ。
彼らの総意→ノア様だけが希望。

○神樹様、???
紡絆くんを取り込もうとした神。
掲示板連中からは半ば敵で、今はオレンジゾーン。紡絆くんは別になんとも思ってない。
そして紡絆くんを助けた少女。
紡絆くんはどこか知り合いに似てるようで似てないと感じたようだが、一体…?

○ノアの結界
スレ民たちは正解だったが、結局壊されたのでもうスペースビーストを止める術はない。

○協力者らしい神官
予め言っておくと、オリジナルキャラで先生じゃないです。

○金髪の少女と銀髪の少女
かなり久しぶりの登場。
紡絆くんと世界の謎に大きく迫った。
様々なことを知る彼女たちがどう行動するかが、物語の鍵を握るだろう。


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「-延長戦-アディショナル」


さて、ゆゆゆネクサス輝きの章最終章、始まります。
ウルトラマンでよく言われるラスト三部作…今までしなかったゆゆゆ式予告を出そうかなと思ってますが、まだ先なので未来に託します。
この話から伏線回収というか答え発表というか、まあ駆け抜けていくかな、と。
無事輝きの章は終われそうでなによりです。飽き性なのによく失踪しなかったね、俺!(気が早い)





 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 第 38 話 

 

 

-延長戦-アディショナル 

 

 

シルフィウム

手引き

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紡絆がウルトラマンになり、勇者部のみんなが勇者になり、もう一学期も終わって二学期。

9月へと入り、まだまだ暑い日が多いが、秋に入ったのもあってこれから少しずつ気温が下がっていくだろう。

長くも短くも、あの激戦の日々は所詮数ヶ月でしかなく、紡絆は学校では包帯を取ってるので特に見た目も中身も変わることなく授業をほぼ全て睡眠時間に注ぎ込み、目を覚ましては欠伸をしていた。

前世の記憶を持つ故の余裕なのだが、悲しきかな。

彼の持つ記憶はこの世界からすると昔に分類される時代の物であり、同じものが出るとは限らないのである。

そのため、実はテストでは知っている範囲は余裕だがこの世界特有の問題は授業を聞いてないため、全問間違いするレベルにまで悲惨になってきている。

一年の頃はギリギリ赤点回避、または赤点だったのだが最近は赤点を取る方が多い。

しかしそれも仕方ないといえば仕方ない。

紡絆の肉体は人間の知能を遥かに超え、宇宙から来訪してきた宇宙人であるメフィラス星人のイレイズからも限界を超えていると言われている。

ウルトラマンによって生かして貰ってるだけで、本来なら紡絆はもうこの教室どころか世界から居なくなっていても不思議では無いのだから。

何はともあれ授業も終えて残る終礼は流石に聞き、起立、礼の後に続く神樹様に拝というこの世界特有の作法を行うとそれぞれ解散していくが、紡絆は友奈と東郷と合流して一緒に部室へ向かうために移動を始める。

 

「バーテックス、全然来ないねぇ…」

 

廊下を歩きながら、車椅子を押す友奈がそんなことを口から零す。

それを聞いて、紡絆は隣で歩きながら思い出していた。

あれから数日は経ち、黄道十二星座に関しては一ヶ月。

遺跡の結界が壊されたのもあって出現が増えるかと思われたのだが、一度も来ることはなかった。

バーテックスだけなら分かる。しかしスペースビーストも現れないのだ。

 

(結界のことは報告したけど、イレイズは未だに侵略者やウルトラ戦士が干渉できないようになってるって言ってた。多分、みんなが言ってた神の力……)

 

ウルトラマンが宇宙に出られると困るのか、それとも宇宙人や別のウルトラマンが来訪されると困るのか、地球を覆うナニカは強くなっているらしい。

それとも、あの時夢見たザギというウルトラマンに似た見た目を持つ者が何らかの干渉を起こしたのか。

それは分からないが、紡絆はスマホを取り出してあるニュースサイトを見る。

 

(……嫌な予感がする。でも反応はないしなあ)

 

そこのニュースサイトには、()()()()()()()()()()というニュースがあり、この数日間で既に数百単位で消えている。

てっきり結界が壊された影響でスペースビーストが現れてるのかと思われたが、それならウルトラマンが感知出来ているはずなのだ。

もしかしたらそういったことに特化したスペースビーストがいるかと予想したが、そんな存在はいないとのこと。

というか、可能性のあるパンピーラが倒されてるというのが正確か。

残る可能性は、ネオ融合型昇華獣だろう。

けれども考えたって仕方がないことなのだ。

紡絆はあっさりと思考を投げ捨てた。

 

「確かにこの前はネオ融合型昇華獣の方は現れたけど、気にしすぎるのはよくないわ、友奈ちゃん」

「そうだぞ、気にしたって分からないしな」

「二人とも落ち着いてるなぁ。その秘訣は?」

 

バーテックスを話題に出した友奈に東郷と思考放棄の紡絆が答える。

どうやらその姿を見て落ち着いてると思ったらしいが、前者はともかく後者は考えるのをやめてるだけなのだが。

 

「かつて国を守り戦った英霊たちの活動記録。うちで映像見る?」

「で…できればわかりやすくアニメになってるのがいいな〜」

「大丈夫、あるわ」

「あるんだっ!? ち、ちなみに紡絆くんは?」

「え?それはあれだ、気合い!そもそも考えても俺には分からん」

「気合いかぁ……」

 

やはり頼りにならない答えを紡絆は提示したが、どうやら友奈は納得し、気合を入れるように両拳でガッツポーズしていた。

こっちの方が分かりやすいというのもあるかもしれない。

 

「あでっ」

 

そんなふうに話していると、突如として紡絆が声を挙げる。

何かあったのかと友奈と東郷が紡絆を見てみれば、そこには紡絆の頭の上に火炎を纏った猫のような姿をしている精霊と牛鬼が乗っていた。

 

「ありゃ…火車まで出てきちゃった。もう、急に出てきて、紡絆くんに迷惑かけちゃだめだよ」

「いいよ。もう慣れたし」

「噛まれながら言われると説得力あるわね…」

 

慌てて消せそうとする友奈を静止した紡絆だが、牛鬼には頭を咥えられ、火車は紡絆の両肩で跳んだりしたかと思えば、首にくっついていた。

もはや恒例行事となりつつある状態に紡絆は慣れてしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちはー。結城友奈、入りまーす」

「こんにちは」

「ちはー」

 

牛鬼に噛まれたまま、ついに火車にも首筋を噛まれた状態で入ってくる紡絆と敬礼しながら入ってくる友奈と東郷。

 

「ウィーッス!」

『ウィースです』

 

紡絆だけは二文字しか言ってないが、ノリノリな犬吠埼姉妹と挨拶を交わす。

部室を見れば、既に全員揃っているようだ。

 

「すっかりそのキャラ定着しましたね」

「いや~こんなに眼帯が似合うとはね」

「風先輩の見た目ならば何でも似合うでしょ。美人ですし」

「んな……」

「兄さん……」

 

不意打ちに褒める紡絆に一瞬固まる風とため息が零れる小都音だが、その空気を紡絆の目の前に現れた精霊、鼬のような見た目をした鎌鼬が紡絆の頬へ擦り寄ることで変わる。

 

「あっ、察し」

 

その瞬間、これから訪れる未来を察した紡絆は、一斉に現れた全ての精霊に顔面を覆われて後ろへ倒れた。

 

「ちょっ……紡絆!?あんたらの精霊どうなってんの!?」

「いや夏凜の精霊も行ってるわよ」

「義輝ーッ!?」

『諸行無常…』

むぐぐぐ…(苦しい)

 

どちらかと言えば諸行無常と言いたいのは紡絆のはずだが、全員分の精霊を受け止めるのは今の紡絆にはキツく、仰向けに倒れたまま固まっていた。

 

「いっそのこと文化祭、紡絆くんが演劇やる時はこれで出たらいいんじゃ…」

「一般の方には精霊は見えませんから、ただただ兄さんが何も見えない状態になるだけかと…あとそれは私が許しません」

「てかこれ生きてる?」

「流石に紡絆くんが大変なので戻しましょう」

 

色んな要素のあるキメラのような被り物を着た変な人と化した紡絆がチーン、といった効果音が鳴りそうな状態からピクリとも動かないため、流石にスマホを取り出して精霊を消すと、牛鬼だけ残して消えた。

 

「たすかった……」

「ほんと、どうなってんのよあんた」

「俺が聞きたいんだが…?」

 

呼吸ができるようになった紡絆は息を吸い込んでは吐き出すと、残った牛鬼を両手で掴んでは見つめる。

牛鬼は満足そうな顔をしていた。

紡絆はジト目で少し見つめるが、諦めたように自ら頭に乗せ、夏凜の疑問には困惑した表情で返していた。

 

『紡絆先輩は優しいですから』

「まぁ、でも絵面がなかなかに凄いけど…いつものことだし、さっきの方がアホ面がマシになるならいいんじゃない?」

「おい、なんか俺の扱いだんだんと酷くなってない?というか俺はアホでは無いぞ」

「いやまあ、だって指示聞かないんだもん。むしろ紡絆に何らかの非があるんじゃないかしら…」

「なんで俺が悪いみたいな展開に!?」

「流石にそれはないかと…。ですが私の精霊まで聞きませんからね…これはまた躾なければ…」

「そうだよ。紡絆くんは悪くないよ。その…うん、アレ!」

「フォローになってないです、結城さん」

「でも真面目な話。端末がアップデートされたからかしらね」

「確かに一番近いかもしれないわねそれ」

「はへぇ…」

 

ふざけてたのから一点して、真面目な考えを大赦と関わりのある風と夏凜が有り得そうな可能性を述べる。

あくまで可能性だが、確かに牛鬼はともかく他の精霊がここまで懐くようになったのは端末が返ってきてからだ。

人を惹きつける何かがある紡絆に、精霊も作用したのかもしれない。

 

「ま、平和なのは良いことか。精霊も元気なら元気でヨシ!なあ、牛鬼」

『多分、そういうところかと』

「へ?」

 

ポジティブに考えた紡絆ら自身の頭の上にいる牛鬼を撫でるが、樹の文字を見て首を傾げる。

 

「しっかし紡絆のことはいつもだからいいとして」

「え」

「バーテックスの方は来ないわねぇ。神樹様も予知のミスくらいするのかもしれないわね」

「ですね、気のせいならそれはそれでいいですし!」

「私の勘では来週辺りが危ないと見たわ」

『もしかしたらこのまま来ないかもしれませんね』

「来る気配は確かにないものね、そうなのかも。紡絆くんもスペースビーストは出てきてないのでしょう?」

「ああ、あれ以降一度も来る気配すらない。ウルトラマンも感知してないし」

「あの…皆さん。ひとつ良いですか?」

 

ふと話題に出たバーテックスのことになるとそれぞれ感じてることを言葉にし、スペースビーストの出現が今もないことを証明するようにエボルトラスターを取り出した紡絆は無反応の状態であることを見せる。

そんなことをしていたら、小都音が何か言いたげな表情をしていたので、全員の視線が向けられた。

 

「どうしたの?」

「何か分かったことでもあったり?」

「いえ、その…そういった発言は控えた方がいいんじゃないかなあ、と…」

「ああ、確かに。フラグだしな」

「フラグ?何を言うかと思えば、そんなのフィクションでもないんだからあるはずが---」

 

友奈と風が代表してか小都音に聞くが、紡絆は理解したように数回頷いていた。

確かに明らかなフラグ発言であり、まるで召喚の義みたいなものだ。

それを現実的に考えて否定する夏凜だが、夏凜が言い終える前に勇者部の部室から一斉に音が鳴り響く。

 

「…………」

『来ましたね……』

 

思わず固まった勇者部の中で、樹のスケッチブックだけが真実を語っていた。

スマホには、樹海化警報とある。

 

「噂をすれば…ってことですね」

「あんたたちが変な話をするから…」

「うっさいわね。夏凜も勘を外してるじゃない」

「ちなみに夏凜もフラグ発言してるぞ」

「あ、あはは……」

「なんでそんなことは覚えてんのよ!いつも忘れてるでしょうが!つーか忘れてなさいよ!」

「覚えてたら覚えてたらでそんなこと言われるっておかしくないか!?」

『あの、もう時間が』

「ええい、このまま行くわよ!」

 

世界が止まり、明らかに樹海化の兆しが出ているのに呑気に言い合ってる夏凜と紡絆を見て、慌てた様子で樹がスケッチブックを見せるが、収まる気配がない。

もう時間はなく、風の締めるような発言と共に、紡絆たちは樹海化に巻き込まれた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

20:名無しの転生者 ID:Rhe8jW4yc

ついに来たか…やっぱり、このままじゃ終わってくれないんだな…

 

 

21:名無しの転生者 ID:czF+hYGPq

おいイッチがフラグ建てるからだぞ。どうするんだ、これ。お前もう変身回数ねぇだろ

 

 

22:名無しの転生者 ID:MENMKMOOl

初見なんだけど、なんでこの世界こんなやべぇの?

 

 

23:名無しの転生者 ID:Kab18FFdR

まぁザギさんがいるからなあ

 

 

24:名無しの転生者 ID:GputBKiSy

ザギさんいることがほぼ(姿は見てないからいるかわからんが色々干渉してるしイッチも夢で見たからほぼというより既に存在が)確定してるからな。

あとバーテックスの存在とそいつらと融合したり他の怪獣を取り込む存在になったりとか、他のウルトラマンが来れない状況だったりと色々と酷い。

何よりも酷いのはイッチの傷が癒えない、疲労が消えない、連戦続き、限界ということ。

てか予想に過ぎんが相手も神だと思われるので、ふつーにやばい

 

 

25:名無しの転生者 ID:Omu0ZsdUr

いうて原作基準なら残るスペースビーストは片手で数えれる程度だし…

 

 

26:名無しの転生者 ID:tNela5wfX

逆を言えばいくら勇者がいるとはいえ、イッチは継承することなくほとんどのスペースビーストとウルティノイド一人をたったの一人で倒したのか…変態かな?

 

 

27:名無しの転生者 ID:8EkKeX7iv

イッチはデザイナーベビーみたいな感じの敵に備えるために創られた化け物説ある…?

 

 

28:名無しの転生者 ID:VMz8+/Ou9

アンファンスでスペースビースト倒してる変態に何を今更

 

 

29:名無しの転生者 ID:K+xOqn6YK

なんか静かですねぇ

 

 

30:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

限界は迎えてる。

でも、大丈夫だ。それでも死ぬ訳には行かないんだ、俺が得た光の意味を俺は必ず探し出す

俺はやれることをやる!

 

 

31:名無しの転生者 ID:bZY1F6tUf

そうだな、タカキも頑張ってるし

 

 

32:名無しの転生者 ID:51dt8O00N

なんか不穏になってきたな?

 

 

33:名無しの転生者 ID:jbYfQhYir

イッチの発言がフラグに変えられてないか、これ。お前ら実は敵だろ

 

 

34:名無しの転生者 ID:1243nDuA6

イッチの味方なんて(日常的な場面ではいつも)最初からいねーだろ

 

 

35:名無しの転生者 ID:RF+q3q/CU

イッチは愛すべきバカだからな

 

 

36:名無しの転生者 ID:RlPwJ5LOr

むしろ俺らにとっては愛のあるムチだし

 

 

37:名無しの転生者 ID:0fMyq2EPU

飴はありますか?

 

 

38:名無しの転生者 ID:L+epA9dma

そもそもイッチが他の転生者と違って知識を貸すことしか出来ないくらいに迷いがないからねぇ。覚悟ガンギマリ過ぎる。

>>30こいつ二週目だろレベルのメンタルだぞこれ。自己完結してんだもん

 

 

39:名無しの転生者 ID:niEA+jHC6

イッチは割と最初からこんな感じやったで。でも一回だけ一人で抱えまくって精神やられかけるクソアホバカゴミナメクジう○ちムーブしてた

 

 

40:名無しの転生者 ID:5fKOfsjBl

当時見てた民からはいつもボロクソ言われるの面白すぎるだろ

 

 

41:名無しの転生者 ID:D8uxBFO1J

そりゃ今もだけど聞かれなかったから言わなかった理論で情報出してくるやつだし出す時は最初から言えよクソがばかりだったからな……あの時の恨みは深い

 

 

42:名無しの転生者 ID:JjUP3XtDh

あれー?イッチ、めっちゃやばいというかほぼ詰み状態なのにおかしいな…スレがいつもと変わらないぞ?

 

 

43:名無しの転生者 ID:g/nWi59cS

イッチの扱いはこれがちょうどいい。あとちょうどよくラノベorエロゲ主人公ムーブしてくれたらいいよ。サービス待ってるわ

 

 

44:名無しの転生者 ID:1AynF5fYa

もう草

 

 

45:名無しの転生者 ID:vT3eicwqO

アニメなら最終回レベルの状況なのにこれでいいんですかね

 

 

46:名無しの転生者 ID:2xDKnRGEv

もしかして俺ら(バーテックスとの)最終決戦これで迎える気か…?マジかよ、正気の沙汰じゃねー…いつもだわ

 

 

47:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

いいでしょ、変なこと言われる方がなんかきもい

 

 

48:名無しの転生者 ID:Da9uHBazw

当事者がそれを言うのか…イッチらしくていいよ

 

 

49:名無しの転生者 ID:IoNzY/RCS

>>47

なんだかんだ寛大だしスレ民にはたまに容赦のない発言するイッチ俺は好きだよ。だから生きろよ、アホ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界が変化を遂げ、延長戦が始まる。

勇者部のみんなは既に変身しており、紡絆だけは変身後は喋れないのでまだ変身せず、エボルトラスターを握りながらバーテックスの居る方向を見て捉えていた。

 

「敵は一体、あと数分で森を抜けます」

「あの速度ならまだ時間はかかるな…見た感じスペースビーストの気配もなければ、アンノウンハンドが干渉してくる気配もない。メフィストが居ないのが気がかりだが……前回のダメージが残ってるのかもしれないです」

 

紡絆の目視とスマホの情報には、双子座のマークが一つだけあり、これまで複数体来ることもあれば単体で来ることもあったが、今回は後者…というか残りが一体しか居ないからだろう。

空に関しては暗雲があるわけでもなく、スペースビーストの気配はエボルトラスターも反応がないので存在しない。

つまり、バーテックス一体だけを寄越してきた。

相手ももう戦力がないということだろうか。

メフィストに関しては、前回の傷が響いているのかもしれない。

 

「一体だけなら何とかなりそうだね」

「…ああ、だからって油断は出来ないけどな」

 

一応注意を出す紡絆だが、一瞬だけ友奈が自身の満開ゲージが描かれている腕を見てるの見て、エボルトラスターを少し強く握り締めた。

そして見渡すようにして、透視能力を使用する。

それぞれの満開ゲージがどれほど貯まっているのか。

攻撃をしたり受けるだけでも貯まるゲージ。

まだMAXになっているものは居ないが、前回の戦いの影響でほとんどの勇者のゲージはかなり貯まっている。

特に満開を一度も使用していない夏凜が一番危ういか。

それを確認した紡絆は一度目を伏せ、自身の状態を理解しつつ唇を噛み締めながら目を開ける。

 

「紡絆の言う通り、油断は出来ないけどこれで延長戦は終わり。スペースビーストの反応もないみたいだし、向こうもネタ切れなのかもしれないわ。

とにかく今はまたアレやろうか!」

 

この場でわざわざ言うアレなんて、以前樹海でやったことしかないだろう。

なお紡絆は首を傾げていたが、他のみんなが次々と肩を組んでいき、紡絆は慌てて気づいたように近寄って入っていく。

ちなみに、紡絆、夏凜、樹、友奈、風、東郷といった感じで紡絆は夏凜と樹の間に入って円陣を組んでいた。

 

「ホントに好きね、こういうの」

「風先輩が体育会系気質だからね」

「この方が気合い入るだろうしな」

「そゆこと。

さぁ、敵さんをきっちり昇天させてあげましょう! 勇者部ファイトォー!!」

「「「「オーーーッ!!!!」」」

 

喋れない樹を除き、皆が参加していた。

声の出せない樹もその顔にやる気を漲らせていて、円陣が終わると紡絆は一人、前に出た。

 

「さて、それじゃあ俺も…行きますか…!」

「紡絆くん、まだ治ってないんだから無理しちゃダメよ」

「出来たらそうする!」

「そこは嘘でもしないって言って欲しいんだけど…言うわけないか」

「こいつに何言っても無駄でしょ」

「やっぱり俺の扱い酷くね?」

 

もうすぐ戦いだって話なのに、不思議と紡絆という存在が緊張を和らげる中和剤のような役目を果たしていて、この場には緊張が存在してなかった。

無論、これが延長戦初めての戦いではなく、前回戦った影響もあるのだろうが。

何はともあれ、紡絆は気を取り直したように深呼吸をする。

 

「行こう、ウルトラマン!」

 

そして自身に宿る存在にいつものように声を掛け、紡絆は両足を大きく開いて腰を入れ、横向きにしたエボルトラスターの鞘を一気に外すと、空に向けて掲げる。

エボルトラスターから光が発生し、紡絆の体を包み込むと、その体は---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シェアッ!……へエッ!?』

 

2()4().()5()()()()()という普段のネクサスの半分な上に、既にエナジーコアが早鐘を鳴らしていた。

いつもと違う視線の高さに違和感を覚えたネクサスが慌てて自身の体を触るが、原因が不明だった。

 

「…なんか小さくない?」

「…小さいわね」

「い、いつもより小さくなってるかなー…たぶん」

「それにエナジーコアが鳴ってるということは…短期決戦になりますね」

『……ハァ』

 

流石にみんなも違和感をすぐに覚えたようで次々と言葉を投げかけ、ネクサスはため息を零すように俯いたが、気がついたように顔を挙げる。

そこには、ほかのバーテックスたちと違って、小さな影が高速で走ってきていた。

 

「あっちも小さい!」

『!?』

「あれって樹が倒さなかったっけ?」

「……!」

「双子座という名前の通り、元々2体のバーテックスなのかもしれませんね」

「双子ってこと?」

『でぇアァ』

「紡絆くんもそうかもしれないと言ってるわ。双子座はギリシャ神話では仲の良い兄弟を現した星座…で語られてる、だって」

「そーゆーのは無駄に詳しいのよね、あんた」

『?』

 

何気に叫んだ友奈の言葉に思わぬダメージをネクサスは受けたが、安定で何故か通じる東郷が紡絆の言葉を代弁する。

すると無駄な知識を披露したことにか夏凜からは呆れたような目をネクサスに向けられていたが。

 

「いずれにせよやることは今までと同じッ!」

『シュワッ!』

 

いくら半分ほどの体長や体重しかないとはいえ、スペックはさほど変わらない。

夏凜が先に飛び出し、続いて友奈と風、樹も跳んで向かっていくが、ネクサスは走りながら飛行態勢へと入る。

若干体がぐらついていたが、ネクサスは誰よりも早く倒すべく一気に加速---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウゥ……ぐぁああ!?』

 

したところで、地面に頭をぶつけながら物凄い速さで転がっていく。

しかも運が悪いことに、斜面だった。

 

「つ、紡絆くーん!?」

「……あのバカ、なにやってんの?」

「さぁ…?まるでボウリングね」

 

ぐるぐると転がされたボールのように回転し、勢いが留まることを知らず、そのまま真っ直ぐに転がり、時に浮きながらも加速を続ける。

その速度は、走ってくるバーデックス以上の速さになっていた。

 

「あっ……」

「あ」

「えぇ……?」

 

そして転がって行ったネクサスは、見事ピン(ジェミニ)を上空に吹っ飛ばした。

流石のバーテックスも予想外の攻撃で、何よりジェミニは素早く機動力は高いが、急に止まることなど出来ない。

跳躍して回避はしようとしたようだが、他のバーデックスと違って3mしかないジェミニはいくら丸まっているとはいえ、全長24.5mはあるネクサスは十分巨大だ。

それが自身を超える速度で向かってきたのだから、反応しただけでも頑張っただろう。

ちなみに転がって行ったネクサスは顔面から巨木にぶつかって白色光の瞳が暗転し、身動きひとつすらせず完全に伏していた。

 

「え、こんなのでいいの…?」

 

思わず戦場だというのにこの場にいる四人が呆然と固まっていると、上空に吹っ飛ばされたジェミニがきりもみ状に回転しながら落ちてくるが、無惨にも長距離から放たれた銃弾がジェミニの頭を吹っ飛ばし、ジェミニは何も出来ないまま落ちた。

 

「と、とにかく封印しちゃいましょう!」

「そうね、とっとと終わらせましょう」

「よ、よし!それじゃあ事故はあったけど封印開始!」

 

最後の割には呆気ない戦いでもなく交通事故で終わってしまったが、バーデックスを囲む東郷を除く四人は封印の儀を開始する。

桜、黄、赤、白の色とりどりの光の花びらが舞い、バーテックスの足元に封印の文様が浮かび上がると御魂が出現した。

 

「出た!」

「な……なにこの数!?」

 

確かに出現した。

それはいいが、問題は量だ。

一体そんな小さな体に取り込んでいたのか、大きさとしては小さいが御魂が洪水のように絶えることなく湧き出続けてくる。

そんな想像以上の量に驚いてる勇者たちに、容赦な樹海の侵食が始まる。

 

『……ハッ!? シュアッ!』

 

意識を取り戻したネクサスの瞳に光が灯され、頭を抑えながら首を振り、即座に気づいたようにバーデックスの元へ跳躍した。

四人の元へひとっ飛びし、空中で回転しながら着地しようとして、失敗して御魂の近くで転ける。

急激な衝撃で四人が若干浮くが、それによって復活したことに気づく。

 

「紡絆くん!」

『ぐっ……フッ!』

 

痛みに悶絶する暇もなく、起き上がったネクサスは皆に引くようにジェスチャーし、次にアームドネクサスをエナジーコアに翳すと一気に振り抜く。

 

『シュ……ッ!?』

 

いつものように水のような波がネクサスの身に振りかかり、ネクサスの体が赤く輝くと、その姿は()()()()()()()()()だった。

変化してないことに気づいたネクサスは慌てたように再びアームドネクサスを翳し、振り下ろす。

今度も頭上に光が降り注ぎ、青い光が発せられるが、弾けるように光は飛散し、ネクサスは片膝を着いた。

 

「紡絆!?」

「もしかしてエネルギーが…?」

「だったらエネルギーがないやつは引っ込んでなさい!私がやるわ!」

『!? シェッ!ハァァァ……』

 

ネクサスの様子がおかしいことに勇者たちも気づいたが、夏凜が刀を構えたのを見えたネクサスはすぐさま起き上がり、ジュネッスにタイプチェンジ出来ないならば別の手段を取ればいいと、右腕を勢いよく斜めに振り下ろし、抜刀するような構えを取った。

すると右手と左手を行き来するように不安定な青い稲妻のようなエネルギーが迸る。

 

『ハアァァァ…シュワッ!』

 

エネルギーが光に変わり、その光がネクサスの手のひらに纏われると、ネクサスは光を保ったまま両腕を今度は右胸付近に持ってきて、腕を十字に構えた。

クロスレイ・シュトローム。

アンファンスでも放つことの出来る光線技。ジュネッスよりかは威力は圧倒的に劣るが、耐久値は間違いなくないであろうジェミニの御魂程度なら十分な威力を誇るそれは、ネクサスの両手から放たれる前にポスン、という音と共に、不発に終わる。

 

『!!?』

 

驚愕のあまりネクサスは両手を見て固まるが、すぐにクロスレイ・シュトロームの構えをもう一度取り、不発に終わる。

 

「このままじゃ被害が……!」

「だから私がやるって……」

「ダメよ、夏凜。その役目は部長であるあたしが……!」

「私は元々助っ人よ。そんなの関係ないわ!」

「今は勇者部でしょうが!部員なら部長の言葉には従いなさいよ!」

 

徐々に侵食も酷くなっていき、攻撃に巻き込まれたら溜まったものでは無いので誰も攻撃出来ないが、ネクサスが何も出来ないと見ると何故か言い合いになっていた。

 

『ハアッ、ハァ……デェ---ッ!?』

「そうは言うけれど早くしなきゃ影響が大きくなるじゃない……って、紡絆!?」

「…紡絆!?」

 

エナジーコアの点滅が加速しだし、ネクサスは言い合っている内に行おうと最後の手段としてアームドネクサスを輝かせて横薙ぎするが、放とうとしたパーティクルフェザーすら飛ばすことが出来ず、ネクサスの体がふらついては薄らぎ、幻のように消失する。

 

(っ…!

また誰かが満開すれば身体機能を失うかもしれない。皆前回の戦いでかなり溜めてる。紡絆も消耗してたみたいで変身が解けたみたいだし、ここはあたしが絶対にやらないと……)

「やっぱり私が---」

「夏凜!それはあたしの---」

「はああああああ!!」

「なっ!?」

 

話を聞かずに壊そうとする夏凜と皆の代わりに自分がやろうと止める風だが、いきなり大きな掛け声が聞こえたかと思うと、そこには既に宙に飛び上がり、足に炎を纏いながら降下してくる友奈の姿があった。

 

「勇者……キーーーック!!!」

 

友奈の蹴りが炸裂すると炎が広範囲に巻き起こり、1つ残らず御霊を焼き尽くし、消滅させた。

さっきまでの圧巻の光景はもうなく、バーデックスの死体は()()()()()()消失していた。

しかし御魂は壊したのだから、生き残りのバーテックスは勇者達に大敗したといっていいだろう。

 

「何事もない…うん、思ったより簡単だったね、みんな〜!」

「ちょっと友奈。なんで勝手に……」

「えへへ、ごめんね。前回は使えなかったから新しい精霊の力使いたくなっちゃって」

 

バーデックスの反応が消えてるのを見て、夏凜の文句に対して謝りながらそんなことを言うが、友奈の拳に描かれている花弁の満開ゲージは残るひとつで貯まるほどになっている。

皆がそれを見てるのに気づいた友奈はサッと隠していた。

 

「友奈ちゃん…体は平気?」

「………!」

「大丈夫大丈夫、凄く元気だし!」

 

心配と言った様子で近づく東郷は友奈の手を取り、近づいた樹は喋れないので目で訴えていたが、友奈は安心させるように樹の頭を撫でていた。

それから何かを探るように見渡す。

 

「それより紡絆くんは?」

「…ってそうだ、あのバカ!」

「やばっ、バーデックス居たから探すの後回しにしてた…!」

「私も探して見たけど、少なくとも私が来た方には居なかったわ。だから別の方向にいるかも……」

 

友奈の言葉で紡絆の存在を思い出した夏凜と風と樹だが、東郷はここに来るまで探していたらしく見つからなかったようで別の場所に居るのではと予想をつけるが---

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい!」

 

探す必要はなく、紡絆は手を振りながら駆け寄ってくる。

見た感じでは特に怪我を負ったわけではなさそうなので、姿を見た一同は安心したように息を吐いた。

 

「ちょっと、どこ行ってたのよ」

「ごめんごめん。あの後普通に気絶してた!あはは、何の役にも立てなかったなぁ」

「そんなことないよ、紡絆くんと東郷さんの連携で倒したようなものだし!」

「ああ、そうだ。ありがとう東郷。追撃は無理だったからあの射撃に助けられた」

「ううん、それは別に。でも紡絆くんも何ともないの?」

「!」

「大丈夫大丈夫、めっちゃ元気!」

「あんたら二人とも、どうして同じようなこと言うのかしら…」

「ん?どゆことです?」

 

心配してくれる二人に笑いかけながら答えると、風が頭を抑えて呆れたように言っていた。

しかし紡絆はさっきの会話は聞いてなかったようで、なんの事か分からずに首を傾げる。

 

「私もさっき同じようなこと言ったんだ」

「ああ、それでか。元気なのは元気としか言いようがないからなあ。まあ終わり良ければ全てヨシ!」

「うんうん!」

 

そこで友奈の説明を聞いて納得したようだが、紡絆の言葉には同感らしく、友奈は頷いて二人仲良くいえーいとハイタッチしていたが、勇者の力は保たれたままなので、紡絆は痛みに手を抑えて蹲り、友奈が謝りながら心配する。

そんなふたりを見ていたからか、緊張感はすっかりと薄れ、普段の勇者部らしい和やかな空気が生まれ始めていた。

そうしていると時間が訪れたようで、樹海化が解けていく。

大きな揺れと共に極彩色の吹雪が舞い、世界がもとに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ〜…何はともあれ終わったわねぇ」

『お疲れ様です!』

「それを書くのはまだ早いわよ樹。紡絆と友奈にはしっかりと説教する必要があるんだから。いい?今日は二人とも泊まりなさ---」

「っあの…兄さんたちは?」

 

現実世界のいつもの讃州中学校の屋上に戻ってきた風たちはそれぞれの思いを口にしていくが、急いで登ってきたであろう小都音がドアを開ける音とともに周囲を見渡し、そう呟く。

 

「何言ってんの?紡絆たちも一緒に…って、あれ?紡絆と友奈は?」

「それに東郷もいないじゃない…。紡絆、東郷、友奈ーッ!?

一体何がどうなって……」

『間違った…とか?』

「……兄さん」

 

小都音のお陰で気づいた夏凜と風、樹も周りを見渡して居ないことを理解すると呼びかけるが、返事はなく。

この場に帰って来たのは、三人しか居なかった。

その事実を知ったとして、何もしない訳には行かない。

不安を隠せない表情で何処かを見る小都音を樹が手を握り、彼女らはひとまず出来る手段を取る事にした---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして屋上へ居なかった当人たる紡絆と友奈、東郷はそれぞれ同じ場所に居た。

 

「戻ったけど……」

「学校の屋上じゃないよねここ……みんなは?」

「っ…いない。それと……どうやら大橋のところまで飛ばされたらしいな」

 

一人座っていた紡絆は膝に手をやりながら力を込めて起き上がると、何とか声や表情に出さずに立ち上がることができ、その際に目印となるものが見えたので友奈の言葉に答える感じになっていた。

瀬戸大橋。

橋としての役目はもう果たしておらず、無惨な姿として残っているが、どうやったらそんな曲がりかたをするのかと思うくらいに天に向かって伸びるような歪な形に曲がっている。

 

「本当だ…結構離れたところに来ちゃったね」

「戻す場所を間違えたのかしら……?」

「どうだろうか…でも場所が分かったなら帰ることは出来るから、問題ないな」

「そうだね、じゃあ風先輩たちに連絡入れて---あれ?」

 

冷静に状況を分析し、この場に居るということを伝えるためにそれぞれスマホを取り出すと、友奈がスマホを手に首を傾げていた。

 

「電波入ってない…紡絆くんと東郷さんは?」

「ううん、私の改造版もダメ」

「うげっ……俺のは壊れてるからまず無理だ」

 

起動すらせず、スマホの部品すら見えてる紡絆はそれを見せてからポケットに仕舞う。

こうなると、連絡手段が途絶えたことになる。

一応紡絆にはウルトラマンだからこそ使える連絡手段というのがあるが、それを使ってもまず残ってる面々は理解できないだろう。

ひとまず何か動くべきだろうと紡絆は考えて動こうとして、人の気配を感じ取り、同時に---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっと呼んでいたよ~、わっしー。会いたかった~」

 

そんな声が、聞こえてきた。

のびのびとした、少女と思われる声。

驚いた三人が顔を見合わせ、声がした方向へと向かう。

声がしたのはお社の奥、海を臨むその場所にはおよそこんな場所には似つかわしくないベッド。

その上に体を横たえながら僅かに身を起こす一人の金髪の少女と、更にもうひとつあるベットには銀髪の少女が居た。

そんな少女たちの視線は東郷に向けられており、親しみと懐旧の込められた眼差しで、何より嬉しそうな、寂しそうな目で見つめていた。

見知らぬ二人の少女、そして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと、やっとまた会えたね……。ずっと、ずっと長い時間、このときを待ってたんだ……はるるん」

「陽灯……」

 

二人の少女は今にも泣き出してしまいそうなほどに目に涙を貯め、深く感情の籠った声で名前を呼びながらその視線は確かに、()()()()()()()()いた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





○継受紡絆/はるるん、陽灯?/ウルトラマンネクサス
不完全なウルトラマン。
ベータリベラシオンカプセルが切れた後も無茶した影響と長きに渡った戦闘でもはや戦うことが出来ない状態へ至る。
今の彼は、飛行すらまともに出来ず、変身することしか出来ない。
やっぱりお前じゃないか…((みんな)知ってた&二次創作特有&いつもの)

○ウルトラマンネクサス
半分の状態で実体化をしたちょっとちびトラマン。
(紡絆が)ジュネッス、ブルーになるのが不可能になり、光線や牽制技すら使えなくなってしまった。
49mの実体化は紡絆の体が持たないため、ウルトラマンが実体化出来るサイズへと調整したことにより変身は出来たが、思っていたより紡絆の体が酷く、調整しても持たなかった。

○結城友奈
紡絆が変身解けたのを見て、自分が早く終わらせばいいと御魂を破壊。
だがそのせいで、満開ゲージは誰よりも……

○東郷美森/わっしー
金髪の少女からわっしーと呼ばれる。
だが、彼女自身は……

○金髪の少女
東郷をわっしー、紡絆をはるるんと呼んだ少女。
一体誰なんだっ!

○銀髪の少女
紡絆を陽灯と呼んだ少女。
一体だ以下略

○ジェミニ・バーテックス
可哀想な倒され方をしたやつ。
交通事故に遭うとこうなるから気をつけようねというジェミニさんからの子供に対する教え



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「-全貌-システム」


ブレーザー見てテンション爆上がりした俺氏。ネクサスを思わせる演出と見た目いいゾ〜これ。でも正直、ウルトラカウントダウンしてたレグロスよりULTRAMANの予告がテンション上がりました(自白)

そんなことでテンション爆上がりで書き終えてテンションダダ下がりしたこの話。
正直ここまで来ると何しても紡絆くんが曇る展開が予想できないんだけど、周りが何故か曇っていく展開しか浮かばない。おかしいな…。
ただこの場合誰よりも妹ちゃんにクリティカルヒットするのなんなんだろうね。
なお紡絆くんは勇者部全員どころか深く関わりのある人たちなら全体特効持ちの模様。
そういえば関係ないけど、この小説って明確的に恋愛感情を抱くような描写をしたことって(微ヤンデレ枠の)小都音ちゃん以外なかったりします。
匂わせ程度は何度もしてますけどねっ!てか自分の小説見直したら割と凄まじい誤字してたの笑った、誰だよアサルトリリィのレアスキルをSimejiの変換に入れてるやつ。俺だよ、明らかにおかしいのあったら変換のせいなので感想でも誤字報告でもなんでもいいので報告して貰えると助かります。いちいち英語打つの面倒いからシンフォギアの聖詠とか入ってたりするんで…







 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 第 39 話 

 

 

-全貌-システム 

 

 

青い薔薇

神の祝福

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと、やっとまた会えたね……。ずっと、ずっと長い時間、このときを待ってたんだ……はるるん」

「陽灯……」

 

深く感情の込められた視線と声音。

今にも泣き出しそうな二人の少女は確かに紡絆だけを捉えていて、友奈は首を傾げる。

 

「わっ…しー?はるるん……はると?」

 

二人の少女が呟いた言葉を拾った友奈が聞き返すように呟く。

誰かの愛称、そして名前であることは察することは出来てもこの場にそのような名前を持つ者は居ない。

二人のうちのどちらか、ということもなさそうな雰囲気で、どちらかというと東郷と紡絆に向けられていた。

 

「貴方が戦ってるのを感じてずっと、呼んでたんだよ」

「須美のこともな」

 

そういって嬉しそうに微笑む少女たち。

しかしまた新しい名前が出てきて、視線の先を友奈が辿って口を開く。

 

「えっと…二人の知り合い?」

「…いいえ。初対面だわ」

「………うーん、俺も会ったことがない」

 

首を振って答える東郷と限界まで唸り、記憶を呼び起こしていた紡絆も首を振る。

多くの人々を助けてきた紡絆は知り合いは多いが、知っていたら流石にここまで包帯巻きにされている少女たちは紡絆の記憶でも深く残るはずなのだから。

 

「っ……!」

「あ……はは〜……」

 

それを見た少女たち---特に金髪の少女は紡絆の反応を見た後、誰も気づかないほどに、ほんの僅かに辛く悲しそうな表情をして一瞬目を伏せた。

 

「………?」

 

だが一瞬、見ても分からない程度だというのに強化された目を持つ紡絆は認識し、何故そんな悲しそうにしていたのか知らないため、首を傾げる。

まるで改めて真実を知ったかのような反応にも見える。

 

「…わっしーとはるるんってのはね、私たちの大切なお友達の名前。いつもその子たちのことを考えてて二人でよく話してたから、つい口に出ちゃうんだよ」

「そう…なんだよ。ごめんな」

 

そう言って誤魔化すように金髪の少女は笑い、銀髪の少女は重ねてしまったことにか謝罪をしていた。

ただ間延びした口調で話すのと謝罪するのとは裏腹に彼女たちからは悲しみの感情が伝わり、それでもそれを押し殺して笑うその痛々しさに、友奈の胸はぎゅっと締め付けられ、東郷と紡絆は何を思っているのか。

ただ、分かるのは彼女たちは自分たちを呼び、何か目的があったということ。

 

「あの…私たちを呼んだって…」

「そこの祠だ」

「祠?」

「バーテックスとの戦いが終わった後でなら、その祠を使って呼べると思ってね〜スペースビーストが出現した時にも試したんだけど、何らかの()()があって無理だったんだ」

「!」

 

そういって少女が指さす方向には、樹海から戻ってきたときに目の前にあった祠がある。場所こそ違えど、それは確かに学校の屋上に建てられている祠と同じものに見えた。

しかし、そんなことよりも気になるのは---

 

「スペースビースト……」

「バーテックスもご存知なんですか?」

「一応、あなたの先輩…ってことになるのかな。私、乃木園子っていうんだよ。それで、こっちは---」

「---銀。三ノ輪銀。隣にいる園子の、友達だよ」

 

スペースビーストの存在と、バーテックスの存在を知る乃木園子と名乗った金髪の少女と、三ノ輪銀と名乗った銀髪の少女。

だがバーテックスはともかくスペースビーストの存在を知ることに紡絆は目を驚いたように見開いていた。

バーテックスは伝手があれば存在を知っていたって不思議ではない。

実際、彼の妹は大赦という組織からバーテックスの存在を知っていた。

でもスペースビーストという存在は知っていなかったのだ。つまり、バーテックスと違ってスペースビーストの存在はバーテックス以上に秘匿されていると思われる。

故に、知っていることに紡絆は驚いた。

 

「わ、私! 讃州中学二年、結城友奈です!」

「東郷……美森です」

「…あ。継受紡絆」

 

名乗られたのもあって二人が名前を名乗ったのに遅れて気づいた紡絆は慌てて自身も名乗るが、スペースビーストという存在を知っている人物がいるという事実に反応が遅れたのだろう。

 

「友奈ちゃん。…美森ちゃん。---紡絆くん、か」

「よろしく……な」

 

そう言って小さく名前を反芻した少女、乃木園子と挨拶語を告げる少女、三ノ輪銀。

 

「あの…先輩というのはつまり乃木さんや三ノ輪さんも?」

「うん。私たちも勇者として戦ってたんだ。隣にいるミノさんともう二人。友達と四人で、えいえいおーってね。今は、こんなになっちゃったけど…」

「バーテックスが、先輩をこんな目に合わせたんですか…?それとも、スペースビーストが…?」

「あ。ん〜とね。敵じゃないよ」

「これでもあたしら、そこそこは強かったからな」

 

明らかに普通ではない怪我を負っている二人。

しかし敵にやられた傷ではなく、彼女たちも勇者。スペースビーストにもやられたわけではない。

そうなると、答えはもう、ひとつしかないだろう。

 

「えっと……あぁ、そうだ。友奈ちゃんは、『満開』…したんだよね? わーって咲いてわーって強くなるやつ」

「は、はいっ。しました、わーって強くなりました!」

「……私もしました」

「そっか…」

「……まさか」

 

園子はわかっていて、それでもあえて確認の為に聞いたのだろう。

しかし三人の頭の中には満開をした時の姿が思い浮かぶが、珍しく東郷ではなく、紡絆は気がついたように声を漏らした。

友奈たちの返答を聞いた彼女は少し目を伏せ、そして小さく息を吸い込んで---何かに気づいた紡絆を肯定するかのように真実を口にした。

 

「咲き誇った花は、その後どうなると思う?」

「…散る、ってことか」

「そう、正解。満開には『散華』という隠された機能があるんだ。満開の後---体のどこかが不自由になったはずだよ」

『!』

 

心当たりがある。

友奈と東郷は自覚している部分に思わず手をやり、それがより一層、彼女の言葉の信憑性を増すことになる。

 

「それが『散華』。神の力を振るった、その代償。花一つ咲けば一つ散る。花二つ咲けば二つ散る……でもその代わり、勇者は決して、死ぬことはないんだよ」

 

突きつけられた本当の真実。

つまるところ、勇者は満開を使用すればするほど、身体能力を失っていく。神の力という強大な力を、何の負荷もなく振るえるはずもない。

ただ代わりに、失いはするが死ぬことはないということだ。

 

「で、でも死なないなら……」

「…本当にそう思うか?あたしたちは死なない。けど、死なないからこうなった」

「…………」

 

ただ励まそうとしたのかもしれない。ただ自分たちの不安を少しでも和らげたかったのかもしれない。

ただそれでも、その言葉は長くこの状態で生きているであろう二人には何の慰めにもならないのだ。

何より紡絆は理解して、口を開こうにも開けなくなった。

彼女の、乃木園子の容態を。三ノ輪銀の状態を、彼だからこそ知れた。

特に乃木園子の方は---

 

「私たちも……戦い続けてこうなっちゃったんだ。元からぼーっとするのが特技でよかったかなって。全然動けないのはきついし、それに隣にミノさんもいたから」

「…痛むんですか?」

「痛みはないよ。敵にやられたものじゃないからね」

「満開して戦い続けて、こうなっただけだからな。もちろん敵はちゃんと撃退した」

「満、開して…戦い、続けて…」

「それじゃあ、その体…は…代償で…?」

 

話を聞いても、信じたくない。

既に分かり切っていて、答えは出ているのに聞かざる終えなくて、ほんの少しの期待に縋って聞く。

だが---

 

「うん、そうだよ」

 

そんな期待は、あっさりと打ち砕かれた。

(かぜ)が強く吹いている。

海から吹くその風は、体だけではなく心にまでしみこんで、その心を乾かしていく。

 

「ど…どうして…私たちが……」

 

いつもは明るくポジティブに振る舞う友奈のスマホを握る手は、体は震えていた。

ただ口から漏れた言葉は間違いなく彼女の本音で、それを聞いた園子はただ答えを述べる。

 

「…いつの時代だって、神様に見初められて供物となったのは、無垢な少女だから。穢れ無き身だからこそ、大いなる力を宿せる。その力の代償として、体の一部を神樹様に供物として捧げていく。

---それが、勇者システム」

「私たちが…供物……」

 

友奈だけじゃない。

流石の東郷も大きくショックを受けていて、唯一変わらないのは紡絆だけだ。

ただそれでも、拳を強く握りしめているところから思うところはあるのだろうが。

 

「大人たちは神樹様の力を宿すことができないから、私たちがやるしかないとはいえ、酷い話だよね〜…」

 

それが、勇者システムの全貌なのだろう。

無垢な少女でしか宿すことの出来ない勇者の力。

だからこそ、真実を隠すしかない。真実を語ってしまえば、勇者という存在はこの世界から消えてしまうのだから。

それこそ自分の身を一切顧みないほどの自己犠牲の精神を持つ者が居ない限り。

 

「それじゃあ…私たちはこれからも…体の機能を失い続けて…?」

 

掠れた声を絞り出した東郷の体は、小刻みに震えている。そんな東郷の肩を、友奈がしっかり抱きしめた。

そして東郷を安心させるように、目を見つめながら無理やりにでも笑顔を作る。

 

「でも、十二体のバーテックス()倒したんだから、大丈夫だよ東郷さん!」

「倒したのはすごいよね。私たちの時は、追い返すだけが精一杯だったから…」

「そうなんですよ!だからもう、バーテックスとは戦わなくてもいいんです!」

 

まるで自分に言い聞かせるように友奈はそう、言葉を重ねた。

神樹様が予言した、十二体のバーテックスは全てちゃんといなくなった。

であるならば---もうひとつの存在は?

 

「そうだといいね……でもね。スペースビーストはいつ現るかは分からないんだよ。それに貴方たちが呼称した融合型昇華獣だって、ウルティノイドだって」

「そ、それは……」

「…みんなには戦わせない。俺が戦えばいいだけの話だ。ウルトラマンなら身体機能が失われることもない」

 

(かぜ)に消え入ってしまいそうな程にぽつりと呟かれた声に、紡絆以外は気づけないが、続いて告げた言葉に黙っていた紡絆が答える。

すると園子も銀も、僅かに悲しそうな表情を浮かべた。

 

「…それは出来ないだろ?」

「…散華はないよ。でもウルトラマンは無敵じゃない。神様でも……ね。それは、変身者である貴方が一番分かってるんじゃないかな?」

「…っ」

 

まるで自分のことを知っているような二人の発言に僅かに驚くが、紡絆には否定する材料はなく口を閉じるしかなかった。

さっきの戦いから考えると実体化出来るのは通常時の半分、それも変身することが出来るだけ。

紡絆はあの時、ただ気絶していただけだと言っていたが、正確には違う。

エネルギーが切れた影響で変身が解け、全身を襲う痛みに意識が持っていかれ、力尽きていただけなのだから。

 

「そ、そうだ…! 失った部分は…ずっと、このままなんですか!?皆は…治らないんですか!?」

「治りたい…よね。私も治りたいよ。歩いて大好きな人に会いたい。友達と一緒に…また遊びたいよ」

 

一瞬だけ園子の視線が紡絆に向けられ、それは紡絆すらも気づくことはなかった。

しかし彼女の言葉はほんの少しの希望すら抱かせないもので、何よりも二人のその状態が希望が無いということを物語り、簡単に打ち砕かれる。

残酷な現実を前に、再び友奈は言葉を失った。

 

「ッ!?」

 

二人の少女から残酷な現実を知らされた三人だが、紡絆は突如として複数の足音が近づいているのを感じ取り、瞬時に友奈と東郷を庇うように前に出る。

瞬く間に現れたのは仮面を付けた神官の装束を纏った人間。仮面の特徴な勲章はこの世界の人間なら誰でも知っているもので、大赦のものだ。

神官達は一言も言葉を発する事なく紡絆たちを取り囲み、紡絆はエボルトラスターを迷いなく手にしていた。

不気味で、嫌な予感がしたからこその行動。

無論攻撃ではなく逃走のために変身出来るようにしていたのだが---

 

「彼女たちを傷つけたら許さないよ」

「ああ、なにかしようってもんならあたしらも黙ってないぞ」

 

今までの会話からは考えられないほどに冷徹な声が発せられる。

のほほんとした間延びした声、隠しきれない人の良さと優しさを感じさせた声から一転して、圧の掛かった言葉。

それに大赦の神官たちは顔を二人に向けていた。

相変わらず、喋らない。

 

「何よりも、彼の機嫌を損なうのは貴方たちにとっても良くないと思うけれど?」

「……?」

 

園子のその言葉を聞いた瞬間、神官たちはさっきの態度が嘘のように跪いて平伏していた。彼女に従うように。

妙な、奇妙な光景。

異質な光景ではあるが、今の友奈と東郷にはそれを気にする余裕はなく、紡絆は違和感を覚えるだけ。

 

「あれだけ言ったんだけど、会わせてくれなかった。だからあたしらは自力で呼んだんだ」

「私たちは崇められちゃっててね。特に私は半分神様見たいなものだから…」

「……神、か」

 

エボルトラスターを収納しながら、紡絆が見つめる先にいる二人の少女。

彼からすれば、彼女たちが神のようには思えず、被害者にしか見えない。

まだ若く、これからだというのに供物として捧げられ、今や人として見られてないのだろう。

果たしてそれは、どれだけ辛いものなのか。

そして自分に対して大赦の人たちが取る態度が彼女たちと()()であることを、紡絆は無意識のうちに理解する。

 

 

「…悲しませてごめんね。大赦の人達も、このシステムのことを隠すのは一種の思いやりではあると思うんだよ〜。……でも私は、そういうの…ちゃんと言ってほしかったから…。 分かってたら、友達ともっともっと遊んで…。だから……伝えておきたくて…」

「園子……」

 

唯一見える左目から涙を流す園子を、銀は心苦しそうに見つめ、そんな彼女を放っておけなくなった紡絆が動こうとする前に、東郷が車椅子を動かしていた。

紡絆は足を止め、ベッドに自身の車椅子を寄せた東郷に任せることにしたらしい。

そして東郷は園子に手を伸ばし、溢れる出る涙を手で拭った。

触れた手の感触に園子は少し驚いて、そして懐かしそうに微笑んだ。

でも東郷には、何故彼女がそんな顔をするのかわからない。

 

「そのリボン……それとバッジ、似合ってるね。バッジはふたつ、ちゃんと持ってるんだ…」

「この…リボンとバッジは…何故か分からないけれど、とても大事なものなの…。どうしてふたつ持ってるのか、分からないけど…凄く大切で、離せなくて…でも両方とも無くしちゃいけない大切なものってことだけは覚えてるのに…ごめんなさい。私…何も思い出せない…っ!」

 

胸に付けられた二つの流星のバッジ。

そして青いリボンを見た少女は嬉しそうに、悲しげに告げる。

対する東郷は頭の横で結ばれたリボンに手をやり、涙を流しながら謝っていた。

事故に遭って、気がついた時このリボンは自分の腕に巻かれていて、バッジに関しては絶対に無くさないと言うように強く握りしめていた、と聞いていた。

だからこそ、その二つが大事なものだという事だけはすぐに理解できたのに、何故そうなのかがどうしても思い出せなかった。

バッジに関しては、どうして同じものがふたつあるのかすらも。

でもきっと---彼女と自分にとって、とても大事で繋がりであることだけは、東郷の頭では今は分かっていた。

 

「方法は…このシステムを変える方法はないんですか!?」

 

友奈の悲痛な叫びが、海辺に響き渡る。

その言葉が無意味であることを理解しても、してしまっても、そう望ませざる負えない。

 

「…ない、と思う。神樹様の力を使えるのは勇者だけ、神樹様が作り出した結界が展開されて樹海で戦えるのも勇者だけ」

「そして勇者になれるのはごくごく一部、私たちだけなんよ……たった一人、勇者でもない例外を除いて……ね」

「例、外……?」

「そ…それって……」

 

銀と園子の視線が、東郷と友奈の視線が、この場で唯一、勇者システムを持たずして樹海には入れ、止まった時間の中でも動ける存在である明らかなイレギュラーである紡絆に視線が向けられ、流石の友奈も言いたいことは理解したのだろう。

強いショックを受けたように、目を見開きながら涙を貯めていた。

 

「…俺か」

 

そしてまた、紡絆も理解しているようで、紡絆の言葉に園子は悲しげに頷いた。

 

「それはどうしてなんだ?なんで俺だけが樹海に入れる?俺が、ウルトラマンだからなのか?」

「…それは私にも分からないんだ〜…。どうして貴方なのか…どうして貴方しかダメなのか…なんで貴方は傷つき続けなくちゃいけないのか……どれだけボロボロになっても、戦い続けなくちゃならないのか……

。酷い話だよね、本当に……酷いよ…。これ以上……なんで……」

「………俺は---いや、やっぱり、やめておく」

 

少しずつ尻切れが悪くなっていく声。

途中から聞こえなかったが、そうは思わない。そう言おうとしたところで、その発言は彼女を、彼女たちを傷つけるということを察した紡絆は口を閉じる。

自分のために何故か悲しむ少女たちに対して、彼はそのようなことを言えるような性格をしていない。

ただ唯一言えるのは、このシステムをどうしても変えたいなら、彼を犠牲にすれば誰も使う必要はなくなるということか。

無論、紡絆はそれを知ったら迷うことは無いだろうが。

 

「…あはは。暗くなっちゃったね…私からの話はおしまい。

---いつでも待ってるよ、大丈夫。こうして会った以上、もう大赦側も貴女の存在をあやふやにはしないだろうから…」

「じゃあ…これで。帰してあげてくれ」

 

東郷にだけ告げられた言葉。

当然超人的な聴力を持つ紡絆にも聞こえてはいるのだが、言葉の意味はよく分からない。

そして別れを告げる銀の言葉に従ってか、大赦職員が彼女たちを先導する。

話が終わったからだろう。

未だにすべてを受け止めることができていない友奈と東郷は、何も言葉を発さないまま先導する大赦の人について行き、紡絆だけは先に行くように告げて一人残っていた。

余裕がないのか、二人はただ頷いて用意されていた車に案内されて向かって行ったが、紡絆は友奈と東郷が十分離れたのを見て、改めて二人の少女と対峙した。

 

「…行かないのか?」

「そう…だな。正直、残った理由はある。

色々と聞きたいことがあるんだ。どうして俺がウルトラマンということを知っているのか、どうしてスペースビーストの存在を知っているのか、一体どれだけのことを知っているのか。過去の俺はどうだったのか、どういう存在だったのか。俺の記憶が失った理由を知っているのか。俺にとって、君たちにとって、俺はなんなのか。

でも…なんだろうな。今はそういうのどうでも良くて、俺はやらなくちゃいけないことがある、そんな気がするんだ。会った時から、ずっと。

だから今、それに従おうと思う」

「……?」

 

まるで話が繋がってない発言に園子も銀も首を傾げていた。

紡絆は一度目を伏せ、息を吸い込んで口を開く---

 

 

 

 

 

 

「ごめん…!」

「……え?」

「は……?」

 

ただ頭を下げ、突如として謝る紡絆に、園子も銀も呆然とした。

何の脈略もない行動。

むしろ平然と居られる方がおかしいだろう。

 

「…急に謝られても困るのは分かる。俺もさ…分からない。分からないんだけどさ、二人を見たとき、不思議と謝らなくちゃいけないって思った……」

 

紡絆自身も、その理由はよく分かっていないのだろう。

ただそう思っただけに過ぎず、でもするべきだと思った。

だからこそ謝った。

 

「そっ……か」

 

色んな感情が渦巻いているのか、唇を震わせながら、何とか振り絞るようにして園子がそれだけ呟くと、無言が生まれる。

何かを口にしようとして、躊躇って、我慢しているような、感情を抑え込んでるような、そんな姿。

その姿を見て、紡絆は一歩踏み出した。

 

「俺、記憶ないんだ」

「……うん」

「二年前からずっと、俺の記憶は無い。死にかけて、気がつけば助かってて、家族が居て、思い出すこともなければ今も思い出せない。なんの手がかりも掴めない」

 

一歩と、また一歩と近づき、紡絆は自身のことを話していく。

決して記憶は蘇ることはなく、存在していたのかすら怪しくなるくらいに少しも思い出せない。

 

「だけど、君たちは過去の俺を知っているんだろ?だって俺の事を親しげに呼んでいた。

そして---きっと、顔見知り程度の関係性じゃなかったと思う。だって二人が俺に対して向ける感情は、明らかに異常だったんだ---もう会えないと思っていたような人物と出会った時のような、そんな感じだった。

何より俺が、君たちの悲しむ顔を見て、胸が凄く痛くなった。申し訳なさ…っていうのかな…」

 

それはきっと、紡絆がそうだったからだろう。

二度と会えないと思っていた家族と再会し、暮らせるようになった。

かつて経験したからこそ、理解したということ。

何よりいくら紡絆とはいえ、見知らぬ他人に対して心苦しく、胸は痛めても知り合いより強く痛めることはない。

それに二人の少女が否定することがなかったのが、紡絆の正しさを証明する。

 

「だからごめん。記憶を失って……悲しい思いをさせて、ごめん」

「っ……」

 

誰が悪いとか、何が原因とか、そういうのは今は関係なかった。

そもそも、紡絆という人間は誰かを責めず、自分を責める。

ただ間違いなく、紡絆が彼女たちを知らないと言った時、辛い思いをさせた。

悲しませてしまった。

その事実だけで十分で、傷つく彼女たちを、彼は放っておけなかった。

それが、紡絆という人間なのだから。

 

「……はるるんは……紡絆くんは、悪く、ないよ……」

「…そうだとしても、記憶を失ったのは俺だ。それに変わりはない。何があったかまでは分からない……けどさ、俺は必ず記憶を取り戻すよ。だから君たちも諦めないで欲しいんだ」

 

園子の隣に歩み寄った彼は、膝を曲げて視線を合わせる。

いつもと何ら変わらぬ、彼が彼たらしめる笑顔を浮かべて。

彼の心の光は真実を知っても砕かれることはなく、絶望の中でも、どんな時だって輝き続ける。

だからこそ、誰もが紡絆のことを()だと例えるのだ。

 

「絶対に治る。俺が必ず見つけ出してみせる。だからもう少しだけ、まだ諦めないで欲しい。希望を、捨てないで欲しい。俺に何が出来るのか、それは俺も分からないんだけどな……でも俺に出来ることならなんだってする。だからまだ、ほんの少しだけでもいいから……諦めないでくれないか?」

 

なんの確証もない。

何をやればいいかすらも分かっておらず、感情的でしかない。

それでも紡絆は、治らないから諦めるという選択を持っていなかった。

希望を、持って欲しかった。

 

「……貴方は、変わらないんだね…」

「…記憶を失っても、敵いそうにないな」

「俺は俺だからな。たとえ記憶を失ったとしても……変わることはないんじゃないかな」

「そっか……じゃあひとつ、お願いしてもいい?聞いてくれたらきっと、私は勇気を持てるから」

「…ああ。何だって言ってくれ。叶えられることなら、二人の願いくらい聞いてやる。叶えてやる」

 

治らないという現実を知って、いつか治ると、希望を持つのは、諦めないのはとても難しくて、信じることほど相当な勇気がいるものは少ないだろう。

だから紡絆は自分に出来ることなら、なんだってする気だった。

何を望まれたとしても、それで二人が勇者を持てるならば、彼はなんだってするだろう。

彼の目が、本気だと物語っていた。

その視線を受けた園子は考えるように目を伏せ、まとまったのか目を開けると色んな感情を含んだ笑顔で僅かに動く手を紡絆に伸ばした。

 

「それじゃあ……ぎゅっとして欲しいな…」

「…分かった」

 

何故そんなお願いをしたのか、自分でいいのか、そういった野暮な質問をすることなく、紡絆は一切の迷いもなく優しく園子の体を抱きしめた。

普通であるならば感じないはずなのに、その体は凄く脆く感じて、壊れてしまいそうなくらいに震えていて、やはり紡絆にとっては、神様でも何でもなく一人の少女にしか思えなかった。

 

「……うん、ありがとう。もう、大丈夫だよ」

 

どれだけそうしていたか。

それほど時間が経っておらず、園子の声が耳元で聞こえた紡絆は離れる。

 

「そっちは…何かあるか?」

「……あたしは」

 

次に紡絆は、銀に問いかけた。

彼女からは別にお願いしていいかと聞かれてはいないが、きっとそうする必要があると思ったのだろう。

 

「…手を握ってくれたら、いい」

「……分かった」

 

園子の傍から離れ、銀の元へ向かった紡絆は彼女の願い通り、その手を覆うように握った。

優しく、壊れないように。

 

「……やっぱ、変わんないな」

「そうなのか?」

「ああ……」

 

ただ懐かしげに儚く笑う銀の姿を見ても、何も思い出せないが自身を知る彼女がそう言うならそうなのだろうと納得する。

そして彼女の手を握って少しすると、銀の方から離したため、紡絆もやめていた。

 

「これでいいのか?」

「大丈夫だ、ありがとうな…」

「…そっか。心配しなくたっていい、みんな戻す。世界も守る。バーテックスは、あれが最後じゃないんだろ?」

 

再び話を戻すように、紡絆は園子に視線を送りながら問いかける。

紡絆が聞いたのは、友奈の言葉を肯定する言葉じゃなかったからだ。

 

「…もし最後じゃなかったら、貴方はどうするの?」

「決まってる、戦うしかない。スペースビーストも全て倒せていない。メフィストの決着もつけてない---これ以上、みんなに失わせる訳には行かないからな。ウルトラマンに散華はないだろ?」

「うん…ないよ。でも、私たち勇者と違って貴方は、ウルトラマンは---死んじゃうかもしれないんだよ。現に、貴方の体はもう…」

「---知っていたのか」

「……うん、私もミノさんもね」

「そっか……そうだな、そうかもしれない。だとしても---俺はウルトラマンだ。背を向けて逃げることなんて、絶対に出来ない。

戦いから逃れることは、出来やしないんだ。この力は、いつだって誰かを救うために、大切な一人の人間や多くの人間、守りたい者を守るために受け継がれてきた光だからな」

 

死、という言葉は至ってシンプルだ。

生命が生命活動を終了するということ。

普通の人間なら死ぬという現実に立ち止まり、戸惑い、躊躇し、歩みを止める。

それが()()。それが人間。

しかし既に()()()()を教えられた紡絆は少しも迷うことなく答えてみせ、真っ直ぐに向けられる視線に目をそらすこともなかった。

そんな紡絆を見てか、園子は息を吸い、ため息を吐くように息を吐く。

誰であろうと、それが半分神様のような存在であっても、止めることは出来ないのだろうと。

彼を止めることが出来るのは、それこそ彼に宿る存在だけかもしれない。

 

「…大赦の人たちは貴方を神様だと思ってる」

「……俺が神様?」

 

急に大赦の話になったからか、紡絆は意図が理解出来ずに首を傾げた。

そんな紡絆を見てもなお、話を続ける。

 

「そう、無垢な少女でしか使用できない勇者システム。バーテックスに対する唯一の対抗手段だったのが勇者。

でも例外である存在がこの世界に現れた。だから大赦にとって---ううん、人々にとっては、神様」

「それが、ウルトラマンか……」

「うん。誰がなんと言おうと、ウルトラマンの力はとてつもなく強力で、人からすれば神様のようなものなんだろうね…バーテックスにも対抗出来て、スペースビーストすらも倒せる強大な力。

だからこそ、スペースビーストという存在が現れた今は、特に。

だからそれを宿す貴方は、彼らからすれば神様。状況を打破できる都合のいい何か…ってところかな」

 

デウス・エクス・マキナ、という言葉はご存知だろうか。

演出技法のひとつ、古代ギリシアの演劇において、劇の内容が錯綜してもつれた糸のように解決困難な局面に陥った時、絶対的な力を持つ存在が現れ、混乱した状況に一石を投じて解決に導き、物語を収束させるという手法。

この世界にはバーテックスという存在、スペースビーストという存在がいる。

バーテックスは人類では勝つことができる存在ではなく、勇者という存在が必要。勇者の犠牲の上に、乗り越えることのできる存在。

対するスペースビーストは人類が乗り越えるにはあまりにも文明が崩壊し衰退しすぎてしまっている。

この世界の切り札的な存在である勇者は満開を使用しなければ倒すことは出来ず、満開を使用し続けてようやく一体、というところか。

しかし分子分解するほどの力は持たないため、結局スペースビーストを殺すには足りない。

なによりバーテックスと違い、スペースビーストの学習能力は凄まじい。

そもそもスペースビーストという存在に関しては、宇宙からやってきた人類からすればオーバーテクノロジーにも匹敵する科学力を持つ者たちが人類に協力しても殲滅するのは不可能だった。

いくら神樹様の力を宿す勇者でも、倒せない。

だが、そんなスペースビーストやバーテックスに対抗する力を持つ者がいる。

この世界は滅びの道に行きつつあり、ただでさえ追い詰められていた人類が新たな脅威に絶望したとき、遥か宇宙の、別次元からやって来て、倒してくれる存在---

 

「ウルトラマンは神様じゃない……でも人からすれば神様のような存在……」

 

そう、それがウルトラマンだ。

人類からすれば、勇者とはこの世界の切り札、救い手。ヒーロー。

人類からすれば、ウルトラマンとは解決困難な状況を覆し、絶望を希望に変えてくれる神様。

ならば、()()()()()宿()()()()はどうだろうか---?

 

「さっきの大赦の人たちが俺に対して態度がおかしかったのはそれか?でも、どうしてそれを…?」

「別に特別な意味は無いんだ。ただ---」

「…大赦の人たちは何かあれば、必ず貴方を頼ると思うんよ。たとえ貴方がどうなろうとも---」

 

そう、誰も彼もウルトラマンを宿せる訳ではなく、ウルトラマンは一人しかいない。

そして継受紡絆という人間はウルトラマンに選ばれ、今のこの世界で唯一のウルトラマンだ。

そして継受紡絆という人間は、この世界で唯一男であるにも関わらず勇者システムを使用せずして樹海へと入れる人間。正真正銘のイレギュラー。

無論過去には樹海の世界に入れるかはともかく、ウルトラマンを宿す存在がもしかしたら居たかもしれないが、今は彼がウルトラマン。

だからこそ、大赦は半分神様である園子と似たような態度を紡絆にとる。いや、園子以上の態度、まさしくこの世界の神である、神樹様と同等のような存在のようなもの。

例え紡絆が死にそうになっても、死にかけても、何かがあれば頼る。

なぜなら、継受紡絆という人間が子供でも、人の身であろうとも、事情を知る人間からすれば神の化身のような存在なのだから。

いつの時代にだって、人は神様という都合のいい存在を頼ってきたのだから。

縋るしか、もはやこの世界が生き残る術がないのだから。

だから関係ない。全員がそうでなくとも、必ず誰か一人は神のような存在である紡絆に願う。救いを求める。

その末に、たった一人の人間が死んだとしても、必要な犠牲。人柱。

どこまでも愚かで、醜くて、汚くて、身勝手で---けれども。

 

「…心配してくれてありがとう。けど、大丈夫。絶対にこの世界を救ってみせる、君たち勇者も、人も、みんな救ってみせる!

だから---決して諦めるな」

 

紡絆という人間は確かに()()()()()()()()()()()のだ。

それだけの資質を、兼ね備えてしまっているのだ。

そんな人類の願いすら、彼は断ることをしないだろう。

だが、彼が今言った決意は雲を掴むような話。言葉だけでは簡単だというのにただ、何故だろうか。

不思議と、笑顔でそう告げて見せた紡絆を見てると、信じてみたいと思えてしまうのは。

まるで底が見えず、どんな暗闇をも照らす光のような、それを体現したかのような彼の姿。

 

「……そうだね、うん。分かった…」

「……じゃあ、俺はもう行く。二人を待たせてるしさ」

「自分の過去のことは……いいのか?」

「ああ、いい。俺自身が思い出さなくちゃ意味がないし……きっと君たちにとって記憶を失う前の俺は……陽灯という人間は大切だったと思うから。でも、そうだな…俺が生きてる理由は、記憶がなくて何も覚えてなかったのに生きなきゃと思ってた理由は、きっと君たちに会って、謝りたかったのかもしれない。それでも過去の俺は後悔してなかったはずだ、君たちのことを悪いとも思ってないはず。どんな状態であろうと、生きててくれたことが、嬉しいと思う。

---だから、生きててくれて、ありがとう」

「ぁ---」

「……っ!」

 

分かったわけでも、知ってるわけでもない。

思い出せたわけでもない。

だがその言葉は、全てを知る園子と銀にとって、特別な意味で、自覚はなくとも救いの言葉で、でも辛い言葉でもあって、彼女たちは色んな感情を含む表情で無意識に涙を流していた。

 

「今度は……次こそは必ず、全て掴んでみせるから。辛いだろうけどもう少しだけ、辛抱してくれ」

 

そんな彼女たちに、紡絆は少しでも気が楽になるように両手で頭を撫でて、ただ優しく、それでも明るく微笑みながらそう告げた。

---二人の記憶にしかない、一人の少年の記憶。

明るくて、お人好しで、優しくて、温かくて、中心に居て存在するだけで周りを照らすような人物。もう、会えないと。ようやく知れた情報で同じ存在と知ってもその少年は変わってるかもしれないと不安だった胸の内。

だが過去と現在の姿が重なり、何ら変わらぬ姿に抑えていた感情は爆発したのだろう。

勇者でもなければ神様でもない。たった二人の、年相応の少女でしかない女の子の泣く姿だけが、三人しかいない空間に轟く。

そして紡絆は、一人決意していた。

 

(---記憶もないのにおかしいと思うけど、俺は彼女たちに笑顔でいて欲しい。

でもきっとそれが残り少ない、俺に果たせる役目なんだ。それまで、力を貸してくれ……ウルトラマン)

 

紡絆のポケットに隠されたエボルトラスターは、反応が返ってこない。

ただ紡絆は確信したように目を伏せ、別れを告げてからこの場を去る。

---全ての決着の日は、間違いなく近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

20:名無しの転生者 ID:vbWTYYF67

これが勇者システムの全貌か……

 

 

21:名無しの転生者 ID:mG89mD+U3

やっぱろくなもんじゃねーなクソだわ。この世界がクソだわ

 

 

22:名無しの転生者 ID:LgiWsc/+a

満開を使用する度に身体機能は失われ、勇者は決して死ぬことは無い…だから戦い続けられる存在ってことか…大人が戦えず、少女しか戦えない

 

 

23:名無しの転生者 ID:M314U+1f1

で、イッチはイッチで先代勇者と関わりがあったっぽい…と。

名前が明かされたが陽灯ね……絶対元適能者でネクストだろお前

 

 

24:名無しの転生者 ID:kBrW+pvtB

なにそのイッチに対するイジメ。…勇者の方も予想通りとはいえ、相当えぐいぞこれ

 

 

25:名無しの転生者 ID:4dOvY3xIU

さて…やることは決まったな

 

 

26:名無しの転生者 ID:d7eg5sOgZ

勇者を戻す、イッチを殺させない、世界を守る……か。いや無理じゃん。まだザギもいるんだぞ?

 

 

27:名無しの転生者 ID:+e+LAFSr4

イッチは変身出来るのか? それにあんなこと言ってたが勇者を戻す方法は思いついたのか?

 

 

28:名無しの転生者 ID:wj31U17ks

もうろくに戦えないやつが戦ってもな……

 

 

29:名無しの転生者 ID:vXT18Cqbu

分かるのはひとつ、やっぱり勇者部のみんなに満開を使わせちゃいけないってことだけだな。あの言い方的にバーテックスもまだ居そうだもんなぁ…

 

 

30:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

方法は分からないし俺もそう長くは無い。

変身に関してはスケールを縮めればあと一回変身は出来るけど、その辺は考えてるから問題ないよ。少なくともメフィストとの決着までは持たせられる。

問題は勇者の代償だが---神樹様が供物として取ったなら、俺の身体機能を全部捧げるのはどうだろうか。ほら、俺ってウルトラマンに強化されてるから多分人の二、三倍くらいは価値あると思うんだけど

 

 

31:名無しの転生者 ID:gpQarUhhB

今に過ぎたことじゃないけど何言ってんのこいつ

 

 

32:名無しの転生者 ID:uIXfb6f9W

とち狂ってるだろ、ざけんな。

真面目にやれよ

 

 

33:名無しの転生者 ID:Qps/zzWtq

てかもう手遅れだからお前が捧げても無駄に終わるだけだろ。

まぁ、方法はおいおい考えていくしかないような

 

 

34:名無しの転生者 ID:BMYjROvTH

今は優先すべきは勇者たちの心だと思う。多分この真実を知ったら、相当追い詰められるから何をしでかすか分からん。

これでイッチの状態を知ろうものなら暴走してもおかしくない

 

 

35:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

それはなしかぁ…そうだな、ひとつずつやれることをやろう。

過去に関してはごめんだけど全く分からん。そもそも俺がネクストっていうウルトラマンだったとしても戦闘の記憶はないし樹海に入れる理由も未だに不明だからさ。それに仮にそうだったとしたら、過去の俺は守れたってことだろ?

ならそれはそれでよかったって話だ。今はそんなことより、彼女たちを戻さなくちゃいけない

 

 

36:名無しの転生者 ID:5VsOV5nlC

でもスペースビーストもいれば、メフィストもザギさんも、ティガニキたちを追い詰めた最強の敵も残ってるし、バーテックスもいるだろ。

イッチの動ける回数はマジでないから、相当考えないと……

 

 

37:名無しの転生者 ID:2icuQVcyc

これだから信じるべきじゃなかったんだ。

元々きな臭いシステムだったし、明らかに頑丈すぎる精霊バリアも勇者を殺させないための力だったりしてな

 

 

38:名無しの転生者 ID:x64Jy/NPg

有り得そうなのがまたなぁ…

 

 

39:名無しの転生者 ID:5dtf4y0ks

ひとまず過去のイッチに関しては今はいいだろう。こいつが記憶戻らない限りは予想したって無駄だし、仮にネクストだったとしても終わった話だからな。ただ先代勇者の彼女たちとイッチの関係性は気になるが……。

特に乃木園子の方は明らかにイッチに抱いてる感情違ったぞおい

でもやるべきことをまとめると三つ。

ひとつ、イッチはこれ以上無理をするな

ふたつ、勇者たちのメンタルケア

みっつ、勇者たちを戻す方法と次の戦いを生き残る術を考える

 

 

40:名無しの転生者 ID:NIIS8SZa7

もう余裕がないからな、謎はあっても捨てるしかない。

今は現実を見て一つ一つやるしかねぇ

 

 

41:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

>>39

そんな感じあったかな…?あんま変わらなかった気がするけど。どちらかというと東郷に向けられてたのでは?

 

あ、そういえばなんだけど、ひとつ思ったんだ。

俺って…そもそも何?

 

 

42:名無しの転生者 ID:wQMomBm6y

急になんだよ。知らねぇーよ

 

 

43:名無しの転生者 ID:lIv0wpYFF

主人公でしょ

 

 

44:名無しの転生者 ID:XssaXSt0o

相変わらず空気変えるの上手だな、舐めてる?

激クソ鈍感野郎だろ。むしろどうして向けられたのが東郷さんだと思ったのか。明らかに違ったろバカ

 

 

45:名無しの転生者 ID:TSKzts3kW

流石に真面目なのに変なこと聞き出したイッチには辛辣だな…いつもか

 

 

46:名無しの転生者 ID:ETvEzeFO9

女たらしとしか…

 

 

47:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

いや、割と真面目なんだが。それに俺はいつも通りなだけで口説いてるわけでもないんだけど…?

 

それとごめん。言い方悪かった、もしかしたら俺、この世界にとって特別な感じだったりする? いや違うな、なんて言えばいいか分からんけど、まあそんな感じかどうか気になった

 

 

48:名無しの転生者 ID:tvDS2w2RL

話聞いてなかったんですかね、このバカは

 

 

49:名無しの転生者 ID:aMCULvvxy

少女にしか使えない勇者システム、樹海に入れるのは勇者のみ。なのに入れて、記憶がない。

先代勇者と関わりがあると思われ、なおかつウルトラマンを宿して神樹様を含む全勢力から狙われる。

どこに特別じゃない要素があるんだ…?

 

 

50:名無しの転生者 ID:R73OLN5Aw

てか、割とお前に全てかかってるぞ

 

 

51:名無しの転生者 ID:/XkjT7cvk

つまり…転生者らしいな?

 

 

52:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

転生者だもん

 

 

53:名無しの転生者 ID:M3mMGghuH

あっそうじゃん

 

 

54:名無しの転生者 ID:9yTZM6WAo

スレのIQ下がってね?

 

 

55:名無しの転生者 ID:7XLgXEuUh

イッチ以下は致命傷すぎる

 

 

56:名無しの転生者 ID:0scoMQkIF

なんでそんなこと聞いたし

 

 

57:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

いや…何かあるってわけじゃないんだが俺が居るからスペースビーストが現れたのでは?って今更ながら思った。多分相当有力だと思うんだけど

 

 

58:名無しの転生者 ID:pNB7YjdAP

なわけ

 

 

59:名無しの転生者 ID:S22IUmdQH

お前(何があったか知らんけど)二年前(スレには)居ないじゃん

 

 

60:名無しの転生者 ID:x7xjH/I7f

最初のスレ建てて一年も経ってないし…え、経ってないのこれ

 

 

61:名無しの転生者 ID:xCVGek/PV

濃厚すぎるというか、一年は経ってるイメージだった。まだ半年くらいだぜ、これ

 

 

62:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

えー…スペースビーストが現れた理由もしかしたらって思ったのに。でもそうか、仮にスペースビースト居なくともイレイズがこの地球にいる時点で俺関係なしにウルトラマンが居たのか…

 

 

63:名無しの転生者 ID:IevKB6689

元々そういう次元宇宙だったんだろうな。だからスペースビーストが現れたのは必然なんだろうが……だからこそイッチが転生者として召喚されたんだと思う。いや、この場合憑依…?それとも元々この世界に存在していたパターン…?

にしたって確かに、本来役目を終えたはずのイッチに再びウルトラマンが宿るのはおかしいよな。本来なら無意識にでも選んだ次の継承者に行くはずだが……

 

 

64:名無しの転生者 ID:BvVI5oqva

あー確かに。話逸れるけど、それはそれで謎だな

 

 

65:名無しの転生者 ID:8v+EcXk04

……陽灯という人間(過去のイッチ?)が役目を終える→次の適能者にバトン→実はこの世界には(神樹様という存在がいるため頼りきりだから)適正を持つ者が他に誰もいない→居ないけど脅威は去ってない→誰かに宿らないとウルトラマンが戦えない→唯一宿せたイッチに再びだったりして

 

 

66:名無しの転生者 ID:mxTZoWCK5

いやいや、それはないだろ……ないよな?

 

 

67:名無しの転生者 ID:bNVE1smUp

…ん?待ってくれ、やめろ。これ以上絶望的な状況出すな。

つまり---イッチ死んだらウルトラマン居なくなるじゃん…

 

 

68:名無しの転生者 ID:GwvnJaDX2

え……なにこの詰み的な状況。

ちょっと待ってくれ、このままじゃBADEND直行ルートじゃねぇか!嘘だろ!?

イッチが光を託せないってなると、こいつ死ぬぞ!?間違いなく死ぬぞ!雑魚だぞ、今!木偶の坊だからな!?

 

 

69:名無しの転生者 ID:rHpwFJg4X

と、とにかく…ここからは慎重にことを進めよう。

イッチはひとまず勇者たちを何とかしろ、代償に関しては俺たちは俺たちでどうにか出来ないか考える。

少なくとも最悪なのは、お前が死ぬことだ。お前が死んだら俺たちは干渉出来ないからな…それにお前が死んだら勇者たちがさらにやばい。メンタル崩壊するぞ。

あーくそっ、せめてイッチが変身回数限られてなければなぁ…

 

 

70:名無しの転生者 ID:wMYXboHo/

全てを終わらせたら戻る可能性…って選択もあったからな…

 

 

71:名無しの転生者 ID:JDV8pYYyR

ノア様に覚醒出来ないのがな…

 

 

72:名無しの転生者 ID:r1E9cJJDB

あ、でもさ。あの子たち…流石に今日はあれだけど、乃木園子と三ノ輪銀だっけ、あの子たちにもう一度話を聞きにいくのもありだよな

 

 

73:名無しの転生者 ID:pk9P8Mdwd

いや、でもな。あの様子からしてイッチが過去の記憶を失ってるってことから彼女たちがイッチと会うのは辛そうなんだよな…忘れられてるんだから

 

 

74:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

……ん? あれ……

 

 

75:名無しの転生者 ID:ZzGWlBXc9

…イッチ?

 

 

76:名無しの転生者 ID:AA0Wt1neL

なんだ、動きでもあったのか

 

 

77:名無しの転生者 ID:39ePB9t1A

まだ車の中では?帰ってるんだろ?

 

 

78:名無しの転生者 ID:1DcodALqC

まさかスペースビーストか!?

 

 

79:名無しの転生者 ID:K9+1M0Wpz

ここで出るか普通!?いや、さすがにそれはないんじゃ…!ああ、でもこの世界なら有り得そう!

 

 

80:名無しの転生者 ID:BK7xG4B1t

やめろー!やめろー!

 

 

81:名無しの転生者 ID:tgCyCCPm+

おい早く状況教えろ!

 

 

82:名無しの転生者 ID:KDj+JdrMt

何があった!?襲撃か?それともトラブルか!?洒落にならんぞ!?

 

 

83:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

いや、ごめん。そういうのじゃなくて……その、さ。

こんな時になんだが……めっちゃ言いにくいし申し訳ないんだけど俺、左腕動かないし温感も感じられないんだけど

 

 

84:名無しの転生者 ID:dKOm9XR/N

……は?

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乃木園子と三ノ輪銀。

二人の話を聞いて、自分が先代勇者と何らかの関わりがあったことを知った。

彼女たちを鼓舞し、これからだというのに---ただ車の中で、妙な違和感を覚えた。

機能を失った左目が熱を発し、熱いという感覚が伝わってきたかと思えば静まり、また熱くなる。

それの繰り返しで、ポケットの中で異常を知らせるかのように素早く鼓動音が鳴っていた。

 

(……ウルトラマン?)

 

ただエボルトラスターを右手で握ると、小さな鼓動が脈のような速さで発せられる。

しかしその鼓動は普段よりも徐々に弱くなり、感じられる光は小さかった。

そして光は消沈し、休眠に入ったかのように動かなくなった。

それと同時に急に左腕が熱く感じたかと思えば、突然と熱いという感覚が失われ、胸が苦しくなる。

だが表には出せない。

隣には暗い表情を浮かべる東郷と友奈が居て、これ以上のことはどれだけの負荷になるか。

隠し切るしか選択肢は無い。

 

(…ま、さか……)

 

嫌な予感とは、当たるものか。

力が入る右腕と違い、左腕を上げることが出来ない。

本音を言うならば、あまりにも苦しくて、耐えきれない痛みに胸を抑えて蹲りたかった。

だが紡絆はそれをせず、右手で自然と左腕を掴み、持ち上げる。

---だが力は入らず、まるで血が通っていないかのように左腕の感覚がない。

かつての戦い。

紡絆がダメージを受け、機能を失うことになったのは左目だった。

あの時は確証がなかったが、それは神の呪いだという。

今まではウルトラマンが呪いの進行を抑えることで防いでいたが、さっきの戦いはどうだ?

ウルトラマンは、普段の半分しか実体化出来ない。その問題が紡絆とはいえ、本来の実体化は出来なかった。

だが---普段でも進行を止めるのが精一杯であるなら、少なからずエネルギーを消費していると考えたらどうだ?

人間が免疫力が低下し、病気にかかるように、ウルトラマンにとってエネルギーの消耗は今回の場合は抵抗力の低下を意味する。

だが、あくまで呪いを受けたのは紡絆であり、ウルトラマンはただ防いでエネルギーを消費しているだけ。

だからウルトラマンに悪影響はなく、紡絆を護っていただけに過ぎない。

そして今、左目だけでなく左腕を失った。

つまり、受けた左目から徐々に()()()から呪いが侵攻しつつある、いやほぼ侵食されているということ---

 

(……どうにか()()()()()()()()()()()()()()()()方法も見つけないとな……)

 

---それが、呪いを抑える役目を放棄させることであり、自身の死であることを理解していながら、紡絆は自身の命を、簡単に捨てる。

今まで力を貸してくれた恩を、返すように。自分がどうなったとしても勇者を、ウルトラマンを救う道を。

探さなければならなくなってしまった。

なぜならウルトラマンの死は---地球にとっても世界にとっても、宇宙にとっても大きな損害へとなるのだから。

ウルトラマンという希望は、決して無くしてはならないのだから。

 

 

 

 





○継受紡絆(陽灯)/ウルトラマンネクサス/ネクスト(?)
適能者(デュナミスト)
勇者システムを知った上でも諦めず、既に自身の命が長くないことを自覚してる上にウルトラマンのためについに分離を考え始めたやつだけど、他人の気持ちを考えるべきだと思う。
でもぶっちゃけ人類からすると自分が死ぬことになっても勝手に守ってくれるのでマジの『都合のいい存在』
現在の状態→(遡ると腹から背中まで貫通してる傷跡があるけど)全身包帯ぐるぐる巻きレベルでボロボロな上に傷だらけかつ(服のお陰で分からないが溶解液でほぼ全身が)爛れてるし蓄積されてる毒でたまに吐血してるし左目の視力が消失してるかと思えば温感と左腕を持っていかれた+まともに動くのも厳しくて常に祝福(呪い)で一定のダメージを受けるデバフ。なお左半身はほとんど侵食されてるらしい。
だが、これらはあくまで紡絆本人が自覚し、()()()()()()()()である。
となるとこれだけとは限らないが、どちらにせよ彼の命は風前の灯火。
変身回数は残る一回。

○ウルトラマンネクサス
ここで第一話へ戻ると分かるかもしれない。
ちなみにもし分離したら、ウルトラマンは(エネルギーを使ってるだけなので)復活するが……。


○結城友奈
原作より曇った。
そりゃ(システムを変えたとして自分たちが助かる代わりに紡絆くんだけが犠牲になるってなったら)そうなるわ

○東郷美森
実は原作よりも曇ってる。
バッジはどうやら園子も関わりがある…ようだ

○乃木園子
先代勇者で半分神様のような存在。
五話の時点では確信はなかったが、前回の紡絆くんファイルで正体を完全に確信。
(紡絆くんは全く気づいてないけど)明らかに彼女だけは他の面々より並ならぬ感情を抱いてると思われる。
紡絆くんの状態は呪いや毒に関しては知らないけど(アンファンスでエナジーコア鳴らしてる情報は持ってるので)肉体が限界だということは知っているよ

○三ノ輪銀
実は園子より満開してないので、半分神のような扱いは受けてない。
割と黙ってたし控えめだったが、我慢しているだけ。
紡絆くんのことを確信したのは園子と同じく前回。

○大赦
ウルトラマンを神樹様と同列に考え、なおかつウルトラマンを宿す紡絆は神様同然だと思っている(らしい)
彼ら彼女らは人類に危機が迫ったとき、間違いなく継受紡絆という人間を頼るだろう。
それが身勝手だとしても、生き延びる術はそれしかなくて、ウルトラマンこそ神様なのだから。
それでも、彼は応えて見せるのだろう。その末に、己がどんな結末を迎えたとしても、彼はウルトラマンに選ばれてしまったのだから---


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「-残酷な現実-インセイン」

人は希望を求め、人は光に魅力され、人は誰かに縋っていく。
人は一人で生きることは出来ず、人は光を強く求める。
闇に飲まれそうになったとき。絶望が這い上がってきたとき。影に支配されかけたとき。
光は希望を与え、人はその光と希望を深く求める。
少年は光だった。
その輝きは誰もが持てるものではなく、とても眩しくとても強く、誰もが望む『理想の偶像』であった。
どんな状況でも諦めず。
どんな状態でも明るく。
どんな時だって前を向いて。
どんなことがあろうとも誰かを助けようとした。
そんな彼が本物のヒーロー(ウルトラマン)に選ばれるのは、運命だったのだろう。
宇宙の光(ウルトラマン)が少年の()に共鳴したのは、必然だったのだろう。
少年が世界の希望(ウルトラマン)として戦うことになったのは、宿命だったのだろう。
なれば、そんな少年の存在はどれだけ大きいのだろうか。
もし真実を知ってしまえば、彼と深く関わる少女たちの心は、どうなってしまうのだろうか。
少年が居なくなってしまえば、彼女たちはどうなるのか---それは神すら分からない。







 

 

◆◆◆

 

 第 40 話 

 

 

-残酷な現実-インセイン 

 

 

紫陽花

無常

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ傍に居る。

それしか出来なかった紡絆は力の入らない左腕を抑えながら、家へと入る。

もはやここまで目立つものは隠し切れることでもなく、 小都音には話さなければならないだろう。無論、呪いであることは隠して、一時的にという形にして。

それより今の問題はふたつ、死ぬつもりはなくとも自分の命が尽きようとしていること。

もうひとつは、皆の精神状況が芳しくないこと。

車の中で友奈が自身の気持ちを抑え込んでいたのを見ていた紡絆は、彼女自身も危ういと理解している。

だが、なんの確証もない、中身のない言葉だけを伝えても意味が無い。

ならば、出来ることは---

 

「おに…ちゃん?」

 

そんな思考は、目を見開いて呆然とする小都音の姿を見て、掻き消された。

スマホは壊れたが、電波が入るようになってから連絡は入れてもらっていた。

しかし小都音の場合はそうではなく、紡絆の様子を見て、だろう。

 

「どう……したの?その、腕…」

「これは…」

 

だからこそ話すしかない。

自身の命のことは話さず、左腕と左目のことを。

そうして紡絆は、 事情を説明していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

長きに渡る戦闘の影響で回復が追いついておらず、無理しすぎた結果、左腕が一時的に動かなくなり、左目に関しては攻撃を受けた際に視力が悪くなって見えなくなっていること。

温感に関しては目立つものでもないので、話さなかった。

 

「それは、治る……の?」

「あぁ---いや、俺よりもみんなだ」

「…みんな?」

 

確証がない。

故に嘘のつけない彼は答えずに話を変えると、何か言いたそうな様子ではあったが、みんな、という発言に違和感を覚えたのだろう。

暗い表情を浮かべたまま小都音は聞く。

 

「ほら、延長戦が終わったけど、まだ後遺症が残ってるだろ?解決しないとなーって。それが解決するまで、延長戦は終わったって言えないだろ」

「…お兄ちゃんは本当にいつも、他人ばかりだね」

「…小都音?」

「ううん…正直、私にはどうすればいいか分からない。でもお兄ちゃんがこのことを話したってことはみんなに心配かけたくないから。隠したいんでしょ」

 

確かに左腕という明らかにバレる箇所でも、話さないことは出来るはずだ。

確かに紡絆は嘘をつけないが、あくまですぐバレる…のと自ら自白するだけで決して嘘の発言が出来ないわけではないのだから。

わざわざ小都音に話したのは、何か案がないか聞きたかったのもあるだろう。

 

「俺だと浮かばないし…小都音にはバレると思ったからさ。左目のことも、バレたしな。でもよく分かったな」

「お兄ちゃんのことは、誰よりも見てるもん。いつも無理ばかりして、自分のことを顧みなくて、ただ突っ走るお兄ちゃんを」

「…なんか、ちょっと棘があるような…」

「気のせいだよ」

「いや」

「気のせいだよ?」

「アッハイ……」

 

明らかに言葉の節々に棘があるような発言だが、ただ笑顔を浮かべてるだけなのに妙に圧のある笑顔に紡絆は屈した。

 

「……お兄ちゃんがそうするって言うなら、私は止めない。止められないから。でも、これだけは約束して」

「……?」

「絶対に無事に帰ってくること。私の元に……帰ってくること。そうしてくれたら、私は協力する」

 

紡絆の覚悟は頑固たるもので、誰であろうと崩すことは出来ない。彼はもう---いや恐らく、ウルトラマンに選ばれた時から既に止まれない領域に来ている。

あれだけ言ってもなお、紡絆は決して止まることはしなかったのだから。

ならば、小都音に出来るのは止めるのではなく、場所を作ること。

だがそれは無意味に等しい。なぜなら---

 

「…?当たり前だろ、小都音は俺の家族で、ここが大切な居場所なんだ。俺はウルトラマンだ。

俺が戦う理由は、人を救うだけじゃなくて、みんなと、小都音と生きるためでもあるんだから」

「-----」

 

既に紡絆は、答えを持っているからだ。

死ぬために戦うのではなく、生きるために戦い、皆を生かすために守り、自分も生きてまた次に誰かを助けるため、()()()()()()()()()

それは人である限り誰もが持つ欲望と呼ばれるもの。

しかし全てを救おうだなんて、人の身では不可能で、烏滸がましいだろう。

例えそれが不可能であっても、紡絆の望むそれは人が手を伸ばすにはあまりにも大きすぎて、成し得なくて、出来るものがいるからば、神にも等しい。

それでも足掻き続ける。

誰であろうと救いたい。笑顔で、幸せな日々を送って欲しい。

それが紡絆の決して変わらぬ、奥底。

強さで、彼をウルトラマンとたらしめる要素の、ほんのひとつに過ぎない。

 

「そ……か」

「大丈夫だって、俺はこんな感じになっちゃってるけど、()()()の身体機能()必ず戻してみせるからさ!」

「………」

 

机から乗り出すようにして、小都音の頭を撫でる紡絆は、笑顔だった。

それを見て、小都音は目を伏せる。

眩しいものから、目を逸らすように。

 

(---そこに、お兄ちゃんはいないんだ……。誰かのことばかり考えて、誰かのためだけに行動して……例え()()()()()はなくとも、お兄ちゃんの中にはいつだって、()()()()()()自分はいないんだね……)

 

自身の状態を知っていながらも、またしても他人。

自分の容態に気づいていながらも、天真爛漫の如き笑顔と太陽のように明るく過ごす。

---自分を数に入れないのが、彼だ。それは本人たる紡絆自身が、かつて千樹憐から光を継いだ時に語っている。

 

「小都音?」

「…なんでもないよ」

「そうか?」

 

きょとん、と人の気も知らず、人が心配していることも知らず、自分自身ですら数に入ってないことにも気付かず、不思議そうに見つめる紡絆から小都音は決して目を合わせることは出来なかった。

 

(……ねぇ、お兄ちゃん。私は、何も出来ないんだね…。力があったら…違ったの?私は……お兄ちゃんに、みんなに守られるだけしか、出来ないの……?お兄ちゃんばかりが苦しむなんて…絶対に間違ってる、おかしいよ……)

 

ただいつも通り、何も変わることなく過ごす紡絆。

だが、紡絆はそうでも周りはそうとは言えず---。

 

「……ね、お兄ちゃんの体は……ううんお兄ちゃんは…大丈夫なの?」

「……あ〜…えー……と」

 

真実を確かめるべく、そう告げてきた小都音の返答に、紡絆は曖昧に返すことしか出来なかった。

嘘が付けない、ついたとしてもすぐにバレる。本気で隠す努力をしたとしても、多少は隠せてもやはりすぐバレる。

それが紡絆の利点でもあり---また同時に弱点でもあった。

明らかに怪しくて、明らかに平気ではない状態。

 

(……やっぱり、そうなんだ…。お兄ちゃんはもう…()()()())

 

だからこそ、小都音は紡絆の反応を見て、完全に確信した。

確信、してしまった。

紡絆と違い、頭が良くて、兄のことをしっかり見ていて、故に小都音は戦いの場にいなかったとしても、紡絆の様子を見ていなくとも、全てが確信していく。

 

(きっと…身体機能も、お兄ちゃんの場合は治らない。まるで、日に日にお兄ちゃんがお兄ちゃんじゃなくなっていくみたいで…ぜんぶぜんぶ、こわれる…壊れてく……私からお兄ちゃんを奪っていく世界…そんなの、本当に必要なの…?

きっとお兄ちゃんは…帰ってこない、帰ってこられないんだ……だって、お兄ちゃんはもう……次に戦うことになったら、死ぬから…そんなの…私は、私は……むり、だよ…絶対に、もう……耐えれない……どうしたら、よかったの…?どうしたら、いいの……)

 

俯いたままの小都音は、膝元に置いた手のひらを握りしめる。

彼女の心には依然と変わらず泥沼のような感情が濁流のように押し寄せては渦巻き、まとわりついていき、絶望という二文字が相応しいものが浮かぶ。

それでも、それでもほんの少しの、ほんのミリ単位の希望に縋り付くように、小都音はこの場だけでもいいから否定してくれることを願って、視線を上げる--

 

「そ、そうだ。そういえばさ、今度の文化祭、結局まだ決まってないけど、どうなるんだろうな」

 

しかし、結局紡絆は誤魔化すという手段すら取る事が出来ず、その話題転換は全てを肯定するのと同義。

小都音の中に、信じたくて僅かに残っていた希望すら打ち砕かれ、自らのスカートに皺が出来ることも気にせず丈を握り締める。

紡絆が話している言葉が耳から流れていくほどに頭が真っ白になり、瞳は光を失ったかのように虚ろだった。

全ての気力を失ったかのように脱力し、小都音は無言で立ち上がった。

 

「…小都音?」

 

突然立ち上がったことで、小都音の様子がおかしいことにようやく気づいた紡絆。

だが、気づくのはあまりにも遅すぎる。

この場で彼女が欲しかったのは、嘘でもいいから『大丈夫』という発言だったのだから。

 

「……お兄ちゃん、ごめんなさい。私寝るから……またふたりでどこかに出かけようね」

「え?あ、ああ…それはいいけど…?」

 

しかし小都音は微笑むような笑顔でそれを告げると、振り返って部屋に帰るようにささっと出ていってしまう。

それを見ながら急に出かける約束になったことに紡絆は目をぱちぱちと瞬きさせ、考えるように唸っていた。

 

「うーん……気のせいか?まぁ、やっぱり樹ちゃんのことも気になるんだろうな…なるべく早く、俺のことがみんなにバレる前に治す方法見つけないとな…!」

 

笑顔だった、というのもあるのだろう。

全く見当違いの考えを導き出し、紡絆はより一層気合を入れる。

やはりどんな真実があったとしても、どんなことがあったとしても、彼は彼だった。

もはや自身の命は、あと僅かだと自覚しているにも限らず---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

201:名無しの転生者 ID:cgP4zua9b

で、どんな感じなん?

 

 

202:名無しの転生者 ID:SK9iqeBcX

悪いけど、やっぱ思いつかねえんだわ。勇者システムの全貌が分かったところで、システム自体の情報がなけりゃ解析が出来ん…

 

 

203:名無しの転生者 ID:sEvPyVW1L

こっちもこっちで世界の技術、割と高いんだけどやっぱ神の力使ってるだけあって方法分かんねーっす。理論もクソもねぇからな…神の力なら神樹様と直接話すしかないかもしれん

 

 

204:名無しの転生者 ID:W08pEnKWj

そりゃそうなるよな…せめてイッチの世界に行けたら解析出来るかもしれんが、そんな能力もなければそもそも地球に行けないっぽいし…やはり乃木園子と三ノ輪銀に話を聞きに行くべきでは?

 

 

205:名無しの転生者 ID:32TVm6E02

それがいいだろうな、ちなみにイッチの体は?

昨日は左腕と温感喪ったとか言ってたが

 

 

206:名無しの転生者 ID:YYmpBUQ9e

強制はいやーきついっす

 

 

207:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

今のところ、特に何も無いな。

ただ侵食は進んでる感じはする。あとめっちゃ視界がチカチカするというか光が見える。あの、ほら…なんて言えばいいのかな、視野の中央部に見えるヤツ。

目眩が半端ない……

 

 

208:名無しの転生者 ID:ZwqO094VU

それ光視症じゃね?いや閃輝暗点か?

どちらかと言えば脱水症で出来る症状では…?

 

 

209:名無しの転生者 ID:COv59axo3

それは水分摂ってくれとしか

 

 

210:名無しの転生者 ID:jPn08HImJ

いやでも、呪いの影響で視覚障害が起きてる可能性あるからなぁ…左目なんて実質永久失明だろ?

 

 

211:名無しの転生者 ID:27E7wBkhG

これ、どないしろと…?

 

 

212:名無しの転生者 ID:DXtCyQSsN

いやー…さすがに思いつかねーわ。一晩相談したが、何も案出ない。

 

 

213:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

とりあえずは、勇者システムのことは風先輩には報告しようと思う。

ただちょっと気になることがあるというか……

 

 

214:名無しの転生者 ID:XdFg4yZvP

気になること?なんだ?

 

 

215:名無しの転生者 ID:fjFxMJ/4H

素直に話せ、流石にこれ以上隠し事は冗談抜きでやばい

 

 

216:名無しの転生者 ID:jz/xNj03M

もしかしてノア様もやばいとか…?

 

 

217:名無しの転生者 ID:SeM6lkhte

それはマジでやばい(語彙力皆無)

 

 

218:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

いや、なんかさ、スペースビーストの振動波が全くないんだ。それが不気味でさ…でも何故か行方不明者が日に日に多くなってる。

ちょっと気になって…クソしんどかったが夜中に現場に行ってみたら物だけ落ちててさ…明らかに救えなかった証拠だった。俺がもっと早くに駆けつけていれば…。

けど、これ本当にスペースビーストの仕業?バンピーラは倒したよな?

それにしてはみんなから聞いてたのと違って、振動波が感知出来ない。

 

 

219:名無しの転生者 ID:iI6UZufLC

いや、お前無茶すんな言ったのになにやってんの…?

 

 

220:名無しの転生者 ID:sYnIy2qiz

…もしかして、あいつかもしれん。

作中最強のスペースビースト、ザ・ワンを超える存在…全てのスペースビーストの能力を使用できる怪獣…!

やつなら時を風に仕掛けてくるだろうからな。

 

221:名無しの転生者 ID:zqLF16Tpb

奇しくも憐編と似た状況……か

 

 

222:名無しの転生者 ID:7EkhgIItj

そうなるとイッチにとって、それがウルトラマンとして最後の最終決戦になるか…

 

 

223:名無しの転生者 ID:aDoruENFI

しかし…本当にそうか?

もしかしたら、やつも強化されてるんじゃないのか

 

 

224:名無しの転生者 ID:FbuKgMEjc

強化…まさか、それがティガニキたちを追い詰めた敵か?確かにいくら最強とはいえ、ウルトラマンが四人も居たら倒せるはずだ。

それこそ、無限の再生能力でも持たない限り…

 

 

225:名無しの転生者 ID:GlgKjRD9O

つーことは…まさかネオ融合型の力も継いだか?

 

 

226:名無しの転生者 ID:PFCCxQHT3

そんなはずはない…と思いたい。

でもグリッターの力が必要言ってたしな…それくらいのクラス、それこそガタノゾーアを超える力、または能力を有しているってことだ。

そうなると『ウルトラマンだけ』では倒せない敵かもしれない。

バーテックスの力があって、超再生などの力を持ってるなら恐らく、ネオ融合型の力も持ち合わせている。

そう判断していいだろう

 

 

227:名無しの転生者 ID:ZnCSEBap8

ダイナニキは音信不通になったし、ティガニキも最近は音信不通。

まあイッチの宇宙に干渉してからティガニキたちの時空は一気に動いたっぽいから、多分干渉した影響で何らかの異変が発生したのかも。元々あの宇宙、イッチの宇宙とは信じられないほどに転生者が多いから歴史変わりまくってるし、いつ来ることが不可能になっても不思議じゃないからな。

その代わりイッチの宇宙は状態を伝えてくれる転生者がいないから状況不明で、少なくともゼロファイト2が終わってるか始まっているか…。

なおかつウルトラマンの増援は期待出来ず、最強の敵はほぼほぼ確定…そしてまさかの強化された状態説…イッチは身体機能消失してる上に自分から長くないと言うレベル

 

 

228:名無しの転生者 ID:3SBN+cEy3

……どないすんの、これ。知りたくもない真実を掘り当ててしまったぞ

 

 

229:名無しの転生者 ID:MByYsKsMb

いや〜ちょっと……流石に無理じゃないですかねこれ……もう無理だわ。なんか色々追い詰められてきてる…もしあいつがその最強の敵なら、イッチは絶対に勝てないし勇者は満開を何度使用しても勝つことは出来んぞ…

 

 

230:名無しの転生者 ID:4653HHWoI

転生者って言っても滅びる世界は滅びるし守れないものは守れない。

誰も彼もが全てを救えるようなヒーローになれるわけでもなければ、ハッピーエンドを迎えられる訳では無い…それは分かってる、分かってはいるんだが……

 

 

231:名無しの転生者 ID:6kQT700Iz

いくらなんでもイッチ一人に背負わせすぎだし残酷すぎるでしょこの宇宙。

転生者はまだ分かるし色んな理由も推測も出来る。でも、なぜイッチの宇宙のウルトラマンすら地球に入れないんだよ本当に……!

 

 

232:光と絆継ぎし転生者 ID:NEXU_ultra

>>227

それは悪いことしたかな…ティガニキにはウルトラマンの重圧を抱えてた時にお世話になったし、今度は俺が助けに行かなきゃなあ。

 

それとみんな。

大丈夫だって、俺は決して諦めない。

何時からかは分からない。でも違和感を覚えたのは、総攻撃後の、目覚めたときから徐々にだったんだと思う。

ただ普通に生きてきた()()()()()()()の前世の記憶。

でも、俺の記憶はそれだけじゃなかったからな。もう全部、前世の記憶は思い出したんだ。彼にあんなこと言って、俺が地球を守れないなんて情けないにも程がある。口だけの人間には、なりたくない。

俺は守るよ、この宇宙も、地球も、ウルトラマンも勇者も、人も、みんなも。

だから諦めないで、俺に協力してくれないか?俺一人じゃ、きっと乗り越えられない。

俺は知識もなければ、みんなみたいに深く考えるのは無理だ。けど、俺はみんなが好きだから、守りたいんだよ。

多くの希望を背に、悪に屈することなく勇気を持って立ち向かい、勝利を掴み次世代へと紡いでいく---それがウルトラマンだ。

もし俺が死んだとしても、俺の生きてきた証は、光は次へと託される。

だから、俺が今を守るんだ。そうすることで、きっと誰かの幸せを守ることは、できる。俺が立ち向かうことで、きっと意味はある。

ウルトラマンは、決して諦めちゃダメなんだ

 

 

233:名無しの転生者 ID:0bKaTgOek

おまえ……

 

 

234:名無しの転生者 ID:dfDUsuZZm

…なんつーか、イッチがウルトラマンに選ばれる理由が分かってくるな…ほんと

 

 

235:名無しの転生者 ID:p3zAAwntF

にしたって、なんかイッチもちょっと……おかしい、ような。本当に前世で何があったんだ、こいつ…? もう死ぬかもしれないってのに一切迷いがない。

けど、そうだな…ああ、諦めたら終わりか

 

 

236:名無しの転生者 ID:nXoy3DG99

まさかイッチに励まされる日が来ようとは…。

でも1つ修正があるとしたら、お前も生きなくちゃダメってことだ

 

 

237:名無しの転生者 ID:nNyn88szq

どんな絶望の中でも、立ち向かう強さ。諦めない思い……か。

だからきっと、ノア様はイッチを選んだのかもしれないな。自分自身の力を託せる、人間に。

『絶対に諦めない』という考えを持つ存在に

 

 

238:名無しの転生者 ID:VFkkp3RzW

イッチが俺たちを頼ったんだ。

俺たちも俺たちで、まだ諦めちゃダメだな…だったら、応援してやろうじゃねーか。

直接戦うことは出来ない、何もすることは出来ない。

けど、ウルトラマンが立ち上がれる力を、イッチに勇気を与えることは俺たちだって出来るはずなんだ。

それをいつも、テレビで見てきたんだからな…!

 

 

239:名無しの転生者 ID:pIbm8rafd

そういや、異星人やら宇宙人が居たって前言ってたな… その経験が今のイッチを作り上げたっぽい? 確かに最初に比べて、イッチも逞しさを感じるようになってきてるし。

けど『彼』って誰のことだ…?

 

 

240:名無しの転生者 ID:6ubwEwvKw

そんなことは今はいい。この戦いが終わったら、全部聞けばいいんだよ。

だからイッチには絶対に生きてもらうぞ。

俺らの情けない姿をこれ以上、いつも弄っているイッチに見せるわけにはいかねぇ…!

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乃木園子と三ノ輪銀に出会った日の翌日、自身の左腕の機能が停止した件についてはバーテックスとの戦いで転んだ時にヒビが入っていて、帰った後に骨折していたことに気づいたという小都音の提案を使った紡絆は、周りを納得させれた。

というのも、あれだけ凄まじい速度で回転していたのだから、否定出来る人物がいなかったのもある。

それはともかく、勇者部の活動も程々にタイミングを計り、三人は風を屋上へ呼び出した。

 

「勇者は…決して死ねない?体を、供物として捧げる…?」

「満開を使った後、私たちの体はおかしくなりました。身体機能の一部が欠損しているような状態です。お医者さんの言う通り、あくまで一時的なのだと思ってましたが…乃木園子と三ノ輪銀によればそれが体を供物として捧げるということだと言っていました」

 

わざわざ屋上へ呼び出した理由は、昨日聞いた話の真実を全て話すためだ。

まだ樹や小都音、夏凜には話さず、先に部長である風には話を通そうという提案で、東郷が代表して語った。

その真実を知らされた風は言葉を失うが、しばらくして口を開く。

 

「…この話、樹や小都音、夏凜にはもう話したの?」

「いえ…。まずは風先輩に相談しようと思って…」

「そう…」

 

その話を他にしたのか風は確認すると、友奈から誰にもまだ話してないことを知らされる。

この真実を知ったのは、ここにいる四人。

風が僅かに瞑目する。

三人が取った行動は正しかっただろう。

いくら嘘をついてない様子だったとしても、その真実が本当かどうであれ、この目で実際にそうなったのか見た訳では無い。

あまりにもの重大すぎて、仮に事実ならばどうなるかなんて想像出来ない。

 

「じゃあ、まだ二人には話さないで。確かなことがわかるまで、変に心配させたくないのよ」

 

あくまで問題を先延ばしにするだけだが、風の方針に異論を唱えるものはいなかった。

そして邪魔しないように喋ってなかった紡絆は自身のギブスに何かが落ちてきたことに違和感を覚えて空を見上げると、 雨が降り始めた。

 

(……なんか、イレイズと会う前の時みたいだな)

 

随分前、ではない。

割と最近のことだが、あの時もまた、このような天気だった。

実際、紡絆はその後に自身の肉体がどうなっているのか知らされてしまったのだから。

しかし今度もまた、こういう時に雨。ただひたすらに不穏さを漂わせる雨雲。

紡絆はまるで空が彼女たちの状態を示すかのようにも泣いているようにも感じ---ひとまずこの場は解散となったが、紡絆だけは屋上に残って雨の降る街並みを遠い目で見ていた。

唯一動く片手に握られた市販の新しいスマホ。

そこには、今日もまた()()()()()が続出しており、紡絆はスマホを強く握りしめる。

そう、反応はない。

一度もエボルトラスターがスペースビーストの出現を知らす反応もせず、毎日毎日と行方不明になる人々が紡絆の知らぬ間に増えている。

明らかに人為的ではなく、超常的な現象だろう。

それでも、今の紡絆には何も出来ない。もはや彼には、探し回れるほどの力は残っていないしそもそも何故そうなってるのかすら分からないのだから。

だからこそ、今出来ることをしなければならないだろう。

 

「ひとまず…安価だな?」

 

---この世界はもうダメかもしれない。

この男、あまりにも平常運転だった。

けどまあ、どうせこの後は帰るだけで、やれることは今は無いのだから普通に過ごすという意味では、彼は正解なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真実を伝えられ、間違いなく口数が減っていた勇者部の活動も終えて、晩御飯を食べ終えた。

 

『お姉ちゃん、何かあったの?』

 

残る洗濯物を畳む作業をしていると、不安そうな表情を浮かべる樹の姿があった。

どちらかというとそれは心配から出ているもので、可愛い妹の気遣いに嬉しく思いつつも風の頭にはひとつのことが浮かび上がる。

 

友奈や東郷からもたらされた情報。

『満開』の代償。今も樹の声は戻る気配はなく、スケッチブックに可愛らしい丸文字で文章を書き会話をしている。

その事が無意識に表情に出ていたのだろう。

取り繕うように表情を切り替え、話題をシフトさせる。

 

「なんでもないわよー。敢えて言うならあたしの女子力が日に日に上がっていくから困りものだなって思っただけ」

『本当に?』

「本当よ、ホントー。そう、アレはアタシがチアリーダーの助っ人に駆り出されたときの---」

『それは何回も聞いたよ?』

 

耳に蛸が出来るくらいに聞かされた同じような話。

特に身内である樹は散々聞かされていたので、苦笑を浮かべていた。

けれども何も変わらない話は、普段と同じ日常というものを感じさせるもので、例え失ったものがあっても変わらないものがあると実感出来る。

同時に、そのいつも通りのものが壊れてしまうのが怖くて、風は気丈に振る舞う。

自分は姉で、姉の自分が不安だと妹の樹も不安にさせてしまうのだから。

 

「それよりほら、もう遅いから寝なさい。アタシもこれが終わったら寝るから」

『うん、おやすみなさい』

「ちゃんと温かくして寝なさいよ?もう夜も冷える季節なんだから風邪を引いちゃうかもしれないし、あのバカと違って体が強いわけじゃないんだから」

『流石に紡絆先輩でも風邪は引くんじゃないかな……』

「そぉ?アイツ、だいぶ前だけど39度の熱あったのに普通に動いてたわよ?」

『そうなの!?』

 

この場に本人が居たら文句のひとつは言われていたが、哀れなことにバカで通じてしまうことにツッコミを入れてくれる人物はここに居なかったが、まさかの情報に樹は驚いていた。

 

「ま、依頼終わったら倒れたんだけどね」

『なんていうか…紡絆先輩らしいね』

「あの時は相当焦ったなぁ……自分の体くらい管理しろーって文句は言ったけど、困ってる人優先とか言い出したから総出で無理矢理寝かしたわ。それでも床を這って動こうとするから拘束したけど」

 

不思議なことに、その光景を知らない樹ですら浮かぶ。

相も変わらずいつまでも平常運転なのは紡絆らしいのだが、流石に病を患っている時まで人助けなのはどうなのだろうか。

 

「樹はそんなことしないって分かってるけど、風邪を引いたらしんどいだけなんだかんね」

『そんなこと出来るのは紡絆先輩だけだよ…』

「それはそうね」

 

これに関しては体の強弱は関係なさそうだが、ほとんどの人間はそれほどの高熱だと寝込むのが普通だ。

一体どこに這いつくばってでも高熱を出しながら外に出て人助けしようとするようなやつがいるのか---。

多分本人はほとんど意識はなく、本能で行動していただろうが。

 

「というわけだから、参考にならないやつは忘れて、樹はちゃんと温かくしなさい」

『うん、小都音ちゃんにも心配かけたくないし、そうするね』

「ならよし」

 

紡絆のせいで少し無駄話してしまったが、風は部屋に帰る樹を見届けてから再び思考に没頭する。

話題転換には持ってこいの存在だが、思考を放棄する訳にはいかない。

立場が立場なだけに考えることは山ほどあるし、未だに分からないこともあるのだ。

そもそも風は勇者部の中では年長者だが、まだまだ子供。

逃げ出したくなることだってあるし知らないことも多い。

少し前みたいにただ戦って生き残るだけの方が、何も考えなくて良い分楽だろう。

しかし先代勇者、満開の代償。

日常生活にも支障が出るそれは、もはや無視し切れるラインを超えている。

それでも、風は勇者になれなければただの中学生。

出来ることの方が少なく、大赦にはメールを送っているが帰ってくる答えは毎回似たようなものだ。

一時的、調査中といったもの。

その繰り返しで、何よりも不可解なのは紡絆の存在だ。

こちらも同じくずっと大赦にメールを送ってきたが、まるではぐらかすかのようにウルトラマンを宿した存在、同じく調査中ということしか返ってこない。いつまで経っても、紡絆に関してだけはちゃんとした返事は来ない。

じゃあなぜ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

今日伝えられた真実のこともあって、本当は紡絆のことも分かっているのでは、と勘くくってしまう。

でも考えても分からないのも事実であり、それでも唯一の救いは紡絆の存在だろうか。

 

「…はぁ」

 

紡絆だけは勇者ではないため身体機能を失うことは決してなく、いつも通りに過ごしてくれる。戦うことで怪我はあれど、後遺症があるわけではない。

そのお陰で、いつもの日常を過ごせていた。誰も不安にならず、押し潰されることもなかった。

だからこそ、不安なのだ。

紡絆の身に何かが起こったら、どうなるのだろうと。

もし何かが起きてしまえば、自分も含めて勇者部がどうなるかなんて想像が出来ない。

特に彼はもう、変身しただけでエナジーコアを鳴らしていたのだ。

以前聞いた説明を考えると不安の種で、恐らく全員が言わないだけで気づいているだろう。

同時にまたそれほど継受紡絆という存在が勇者部の中でどれだけ大きな存在になっていて、自分たちが彼を頼りすぎているということに気づいて苦笑する。

 

(けどまぁ、紡絆ならきっと、大丈夫よね。変わった様子はなかったし、いくらエナジーコアが点滅していたって言っても前の戦いからそう時間経ってなかったのもあるでしょうし……)

 

---現実は残酷で、容赦なくて。

そんな希望すらも、あっさりと打ち砕く。

果たして本当のことを知ったとき、いつも通り過ごすことは出来るのだろうか---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い部屋。

月光に照らされながら、少女---東郷美森は息を荒らげる。それは死の恐怖だった。

否、人間なら誰しも()()()()()()()の感情。

その感情を持たぬ人間など、自分の命に本気で一切の執着を持たない者くらいだろう。

彼女の手に持つ小太刀は暗い部屋の中で鈍く光を反射して、鋭さを主張する。

 

「はぁっ…はあっ…!っ…!!」

 

渇ききった喉に唾を落とし、己の正気を疑う。

深く息を吸おうとも、直ぐに軽く短い吐息に飲まれる。本能が危険を感知し、視界が点滅する様な感覚に陥る。

だがそれでも、東郷は小太刀を汗ばむ手で握り締めて決して離さない。

 

今からやろうとすることを考えると、覚悟を決めた身でも躊躇してしまう。

それが普通であり、それが人の持つ本能。本来持っているはずのブレーキ。持っていなければならない制御装置であり、恐怖という名の防衛本能。

そんな東郷の脳裏に浮かぶのは、あの日の乃木園子との言葉だった。

初めて会ったはずなのに、なぜか懐かしい雰囲気を纏った彼女たちだったが、彼女は遠回しに言った。

満開の代償で失った部分は二度と戻ってくることはない、と。

彼女たちが嘘をついているとは思えない。彼女たちの状態が、確かにそれを示していたのだから。

だが、そうなんだと簡単に受け止められるような内容ではないだろう。

なればこそやらなければならないことがある。

東郷を含め仲間たちは、体が本当に治らないのかということを確かめる術を持っていなかった。

それでも、確かめる術はひとつだけ残っているのだ。

 

頭の中では、何度も何度も自問自答が繰り返される。

 

---本当にここまでして試すべきなのか?

 

---彼女たちの言葉だけでも信じられるのでは?

 

---もし推測が外れてしまえば?

 

---ここまで怖い思いをして、最悪の事態を迎えてしまえば?

 

浮かんでは消えていく弱音を、ただ強引に捩じ伏せる。

このような結論に至ってしまったのは自分であり、これからやることは他の人に頼めるようなことではない。

でも誰かがやらなければ証明できるものも出来なくて、確信を持つには必要なこと。

だからこそ、やらなくては行けなかった。

 

東郷は手に持つ小太刀を柔らかい腹部に宛てがう。

だがやはり、覚悟を決めたというのにいざ行うとなると、目前に迫る危機を感じた体の反応は正直で、背筋が泡立つ感覚と共に額からは汗がとめどなく流れ、肺は過度に酸素を求め、二酸化炭素を吐こうとしない。異常なくらいに息が乾き、視界が白くなり、今にも恐怖で気絶しそうだった。

 

考えないようにしても嫌に身体の全神経がその部分に集中して、次の瞬間に来るであろう熱にも似た痛みと熱さを脳が勝手に想像する。

 

「っ…!っ…!!」

 

視界の端には自身で改造を施した()()()()()()()

電源は切られ、バッテリーすら抜かれている。電源が点かないことも確認したし間違っても起動はしない。

そもそもこうなると、どうやっても起動出来ない状態。

全て抜かりはなかった。

 

それを最後に改めて自身の状態と向き合い、己の中にある恐怖心を全て飲み込んで小太刀の頭に手を添える。

肺の空気を少しだけ抜き、息を止めた少女は目を閉じるのと同時に、次の瞬間には躊躇することなく腹部に刀身を力の限り込めて一気に押し込む---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---ゆっくりと、目を開く。

痛みは無い。それも当然だ。

視線の先、東郷の腹を貫くはずだった切っ先は、本来であるならば鮮血に染まるはずの刀。

だが皮膚に到達する直前に()()()()()()()()()()

 

「っ!?……はぁっ、はぁっ…!……やっぱり、そうなのね……っ!」

 

力を失った東郷の手の中から、するりと小太刀が零れ落ちた。

落下した小太刀が床へと衝突し、鈍い金属音を響かせる。

その音を気にせず、東郷は執拗く全身に響く心臓に手を添える。まだ、間違いなく生きている。何処も傷ついてなければ、何処も痛くは無い。

それに安心し、喜ぶのも束の間。

実験は成功し、東郷の立てた()()()考えは当たっていることになり、喜べることなどやはり一切ない。

 

 

「……やっぱり…やっぱり…っ!彼女たちの言葉は全部正しい……ッ!

()()()()()()()()()()…!!」

 

そう、傍らには()()が存在し、いつの間にか現れていた青坊主によって防がれたのだ。

無論、念の為言っておくが、ここには東郷しかいない。

さっきも確認したがスマートフォンは電源を切っているし、内部バッテリーまで取り出している。

だから、誰もスマホを起動出来る者もいなければ、勇者システムは---勇者アプリは起動する筈がなかった。

だが現実は、残酷だった。まるで勇者を死なすことを許さないと言わんばかりに精霊が現れては護って見せた。

否、それは果たして---()()()()()()()()()()()()()()

東郷の視線の先、今も、卵の殻の割れ目から除く無機質な双眸が、じっと東郷を見上げている。

今まで自分たちをサポートしてくれていた精霊たち。

だというのに、今の東郷には精霊たちが護ってくれているようには一切感じられず、もはや得体の知れないただのバケモノに思えて仕方が無かった。

 

「でもまだ……確認しなくちゃ……」

 

東郷はまだ、やるべきことがあった。

もはや自害は無意味。

だとすれば、自分が、自分だからこそ調べなくてはいけないことを調べるために脱いだ服を着用し、場を片付けてから何度か深呼吸。

気持ちが落ち着いたことを自覚すると、起動したパソコンの画面と向き合う。

既に、傍らには役目を終えたかのように精霊は居なかった。

真実を知ってもなお、彼女を突き動かすのはなんなのか。

確かに信じたくなくて検証して、信じるしかなくなってしまったこともある。

でも、彼女にとってまだ大切なものが残っていた。絶望をするには、まだやらなくちゃいけないことがある。

こっちを後回しにしていたのは、簡単な話だ。

こっちに関しては東郷の命には関わることでは無い。

じゃあ、それが誰なのか?

それは---

 

 

 

 

「紡絆くん……」

 

そう、勇者でもない身で樹海に入ることが出来、ウルトラマンを宿した人間。

紡絆の事だった。

彼女は、彼女たちは勇者になった時くらいに紡絆からウルトラマンのことに関して情報を共有されている。

でも、思い返して見れば紡絆は総襲撃後からおかしいのだ。

以前からは考えられないくらいに落ち着きがあって、過度な行動はしないようになっていて、動くことが少なくなっていた。

まるで()()()()()()()というように。

 

「何より不可解なのは……以前の戦い」

 

ネオ融合型昇華獣、ノスファルモス。

スペースビーストと本物のバーテックスにはなれなかった星座の力を含んでいるのもあって、凄まじい力を持つ敵。

そこは良い。

問題なのはそっちではなく、紡絆が右に対する反応速度は一瞬だったのに対して()()()()()()()()()こと。

それを調べるために、東郷はパスワード付きのフォルダを開いて入力。

そこには()()()()()の紡絆の画像があり、9月、と書かれているフォルダをさらに開く。

何処も彼処も、笑顔を浮かべていたり明るい表情を浮かべる姿の方が多く、こういう状況ならば見ているだけで此方が元気になりそうな画像。

スクロールしては見ていくが、やはり画像だけでは分からない。

そのため東郷は動画を次々と開くことにした。

すると、どういうことだろうか。

どの動画にも、いつからか()()から人が突然来た時には反応が遅れ、驚き、また曲がる時や何らかの要因で右目を閉じた時の紡絆は、()()()()()()()ように壁に顔面からぶつけたり、転んだりしている。

瞬きの一瞬だけでも、今気づいたと言わんばかりに数フレーム遅れて反応していた。

何よりも、体が痛みを発したかのように行動の節々の動作がmm単位で遅れていて、浮かべている表情にも普通ならば気づかないほどに、僅かに苦しそうな様子があった。

明らかな違和感。

東郷の脳裏には以前の戦いが思い出され、過去のデータを照合する。

バーテックスやスペースビーストとの戦いが始まる前の始まった直後、しばらくした後、それから最近の動画ファイル。

継受紡絆という人間は動いてないと気が済まない人間で、東郷はもはや彼の日常風景を見た者が引くレベルで保存している。

そんな彼女にとっては似たような動画を発見するのはそう難しくはなく、そもそも紡絆自体がこういうデータが必要な時には打ってつけの人間だった。

改造したパソコンなのもあって、動画時間を合わせて限界までスローにしながら照合する。

複数の動画が重なり、ちょっと遅く反応する動画、()()に反応する動画、()()()()()()()()動画。

しかも後者に関しては、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にも関わらず遅すぎた。

流石に戦いの記録はないが、東郷の記憶内にあるデータを脳内で照合すると、ますます確信が強くなる。

あの時のノスファルモスの分身を、紡絆は真正面から破ってみせた。ワンフレームのミスも許されない状況なのに、彼は驚異的な反応速度だけで乗り越えたのに、左から突如現れる時だけは、絶対に遅れていたのだ。

さらに日常風景でも確認出来るmm単位で遅れている行動の節々。反応、反射速度。

どれも不自然に遅れているし、人助け命の紡絆がそういった場面でも気づくのが遅れるなんて、以前までなら有り得るはずもない。

それから導かれる結論は一つ。

 

「やっぱり紡絆くんは---()()()()()()()()()

 

何らかの要因で、機能を失ったということ。

だが、紡絆は勇者では無い。だとしたらウルトラマンか?と言われると、間違いなくNO。

奇しくも先ほどの検証が、ウルトラマンが原因であることを否定する材料になる。

なぜなら乃木園子は()()()()()()()()()()()()と答えていたし、紡絆自体もそんなのがあるとはいっていない。

むしろあったら、最初の頃に伝えていたはずだ。メタフィールドのデメリット、エナジーコアやコアゲージの理由も答えていたのだから、わざわざそこだけ隠す必要などない。

じゃあそれは、()()()()なった?

 

「最初の頃は、怪我を負っていただけ……だとすれば---」

 

自分たちが満開したあとは、紡絆にそういった異常は見られなかったし、その前の戦いはだいたい一緒だ。

ウルトラマンのダメージは還元されるとはいえ、今まで身体機能の停止なんてなかった。

でも、()()()()()()()()()()()()()()がある。

紡絆が目覚めたあとの戦いから、前々回の戦いまで。

おそらく、その中のどれかで何らかの異変が起きた。

原因は不明だが、戦いのことを一切言わなかった紡絆のことだ。

彼のことをよく知る東郷は、それらもまた自分たちに負担をかけないためだというのは理解している。

それに今見返すと、それ以降の動画から紡絆の行動が少しずつ遅れたり硬直が増えているのだ。

最近のであれば、スローにしなくても分かるほどに。

それは、日に日にボロボロになっていたという証拠。

 

「紡絆くん、あなたは……」

 

さらに。

あの時は考えることが別にあってそうだと納得はしたが、以前の戦いで何かがあると確信した東郷は、それはもういつも以上に紡絆を観察していた。

しかし紡絆は樹海に居た時も帰ってきたあとも別に痛むような様子はなかったのだ。

いくら骨にヒビが入ってたとしても、紡絆には痛覚があるのだから痛みを感じるはずで、現に今日も欠伸して右目を閉じていた紡絆は階段で転んで痛がっていた。

その他にも、あの時一時間くらい帰ってこない姿に違和感があって、友奈と一緒に屋上へと戻ったのだ。

確かにまだ肌寒い日ではない。

けれども、雨にずっと濡れれば人間というのは寒くなる。

もう真夏でもないのだからびしょ濡れになれば寒い、と感じることはあるだろう。

けれども紡絆は服から雨粒が落ちるほどに濡れても寒いと言うこともなければ、肌寒くなると思って差し出した()()()()()すら熱い時に平気で飲んでいた。

思い返せば思い返すほど不自然な場面が出てきて、パズルのピースのように繋がっていく。

信じたくない、出て欲しくない答えを、東郷の頭は勝手に導き出していき---

 

「温感と、左腕も……失ってると、言うの……?」

 

東郷は、完全に()()してしまった。

それが本人に聞かないと分からないとしても、原因は分からないとしても、答えが出てしまう、出てしまったのだ。

 

「だとしたらウルトラマンに変身して、すぐにエナジーコアがなった理由も、納得がいく……じゃあ、紡絆くんはこれ以上戦えば---」

 

ウルトラマンのエナジーコアは変身者の生命活動を意味する。

前回の戦いでは、紡絆は変身して間もなく鳴っていた。

前々回の戦いではすぐには鳴ってなかったのに、だ。

しかも一切攻撃が出来ていなかった。光線を打とうとしても、打つことは不可能だった。本来のウルトラマンの身長の半分でもあったし、飛行すら出来てなかった。

それは体がボロボロだから、生命力が低下しているから、動くことすらままならなかったのだろう。

つまるところ、変身する力がやっとだということ。

だからこそ、東郷の頭は理解してしまう。

回復することもなく、戦う度に傷は増えて、左目を失っていたかと思えば、今日の紡絆を見ていつの間にか左腕と温感を失っていたことに気づいた。つまり、紡絆の体は今は想像も出来ないくらいに酷い状況のはずで、表に出さないだけで、動くだけでも痛いのだろう。

さらにエナジーコアが変身直後に鳴るのは、変身者の命が失われかけていること。

ならきっとこれ以上戦い続ければ……次に戦えば、継受紡絆という人間は勇者と同じく身体機能を失い続ける---いや

 

「紡絆くんが、死ぬ……?」

 

言葉にすると、不思議と心にストンと落ち、記憶が駆け巡る。

最近の紡絆は、以前と違って動く方が少なかった。以前までなら部活を始めようとしたら止めるまもなく即座に依頼へ向かっていこうとするのを、みんなが慌てて止めたはず。

でも今は最低限動く程度。とても紡絆らしくない行動。

それは、()()()()()()()()()からでは、と。

でも、変身だけでエナジーコアが鳴るということは、次に戦いがあれば待つ先は死。だが、紡絆は間違いなくそれを言わないし戦うだろう。

言ったら、彼は必ず止められると知っているから。

それに気づいた東郷は動揺し、全身の力が抜けたように腕がぶらりと揺らぐ。

掴んでいたはずのマウスが地面に落ち、動かしていたはずの意志は折れ、その瞳には絶望と呼べる暗闇が宿る。

 

「そんな…紡絆くんが死ぬ、だなんて……うそ…だって、いつも、いつもあんなに……ッ!」

 

頭で理解しても、感情が追いつかない。

次々と浮かべば、一度違和感を覚えたせいで異質感だけ残して消えていく紡絆の姿。

どんなときも明るく、そんな気配を一切感じられないほど普通に過ごしていた。

でも、こうやって考えてしまったら、目覚めてからの行動がおかしかったことが分かる。

信じたくない、というように首を振るっても、何も変わらない。ますますと大きくなっていき、勝手に脳が整理しては真実だけを突きつけてくる。

もっと早く気づいていれば、という後悔が巡り、それでもたった一つの希望が浮かんだ。

 

「ぁ……だ、大丈夫……だって、紡絆くんは約束を、破らない。いつも、いつも守って……まも……て?」

 

ふと思い出す。

本当に、そうかと。

確かに紡絆は約束を破ることはしなかった。それこそ約束を果たせない状況---例えば交通事故にあったりしない限り。

これまでの戦いだって、なんだかんだ交わした約束は全て守ってきた紡絆だが、東郷の脳はここでも無情にも記憶を再生する。

つい最近、約束をしたのはいつだ?

久しぶりに二人きりで出かけて、帰っていくその背中を見てると不思議と不安になって、思わず叫んだ言葉。

『また一緒に出かけよう』と。

 

「やく……そく……? やく…そく、だなんて……いつ、したの……?いつ、したんだっけ……?」

 

そう、果たして紡絆は()()と言ったか?

あの嘘が全くつけない紡絆が、自身の肉体が限界だと知っている頃に、果たせない約束を交わすか?

あの時の紡絆はそう---()()()()()()()()笑顔を浮かべて手を振っていた。

---彼は、たったの一度も()()という言葉を口にしていなかったのだ。

それを口にすれば、東郷ならば必ず気づくと分かっているのだから。

 

「ぁ……あぁ……っ」

 

気がつけば、全てが変わってしまう。

気が付きたくなかったことを、自身の頭が自分の意志に関係なく真実へと到達してしまう。

誰も約束してない。自身の体が危ういということを伝えられていない。

なぜもっと早く、身内以外ではずっと近くにいた自分が気づかなかったのか。気づいてあげられなかったのか。

()()()()()()()()()()()()彼を止めなかったのか。

いや、止めるか云々はともかく以前までの東郷なら必ず気づいていたはず。

前兆はあった。

あの合宿の時から、ずっと。

ふと不安になる紡絆の笑顔。

何処か遠い場所を目を見る姿。

それは---紡絆が何処か遠くに行ってしまうと、心のどこかで思ってたからでは、と。知っていたからでは、と。

そう、本当に気づく可能性はいくらでもあった。あったのだ。

でも、考えたくなくて、そんなはずは無いと思って、考えに蓋をしてしまっていただけ。

だってそれを考えたらもう---

 

「いや……いや……いやぁっ…!」

 

現実になってしまうと、無意識に理解していたのだから。

ウルトラマンではなく、ちっぽけな人類の一個体に過ぎない紡絆が脅威として扱われる理由。

それは、彼の存在が勇者部の支柱になっており、紡絆がいるだけで本来勝てないはずのスペースビーストに対して、融合型に対して、勇者が拮抗し、勝つことが出来る。

流れが、勢いが乗るのだ。

何故なら、紡絆は()()()()()。今までの戦いが証明している。

どれだけ絶望があっても、どんな絶望の中でも、紡絆が諦めなかったからこそ、今が続いていた。

でももう---

 

「たえ、られない……そん、なの……確認しなきゃ…紡絆くんに確認しないと……!大丈夫、気を取り戻さないと…私が私らしく居なきゃ、紡絆くんに心配かけちゃう…。大丈夫、大丈夫…ッ!ずっと、ずっと一緒に居られる…居られるはずだから……!紡絆くんならきっと、いつもの顔で、大丈夫だと言ってくれるはずだからッ!!だって、紡絆くんは私の…私の希望だもの……ッ!!」

 

---人というものは、必ず何かに縋る。

絶望的な状況に陥った時、気づいてしまったとき、なにかに助けを求める。

周囲の人間、両親、親しい存在、誰にもある何かに縋って、救いを求める。

それは東郷も同じで、彼女は藁にもすがる思いで自身の心を保つ。

ただ分かるのは、それが崩れ去ってしまえば、彼女の希望は打ち砕かれるということ。

奇しくもファウストの言葉が全ての的を得ていたかのように。

歯車は既に、狂っていた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日は過ぎ、秋もちょっとずつ近くなっていく。

より一層肉体がやばくなっていることを紡絆は他人のように考えつつも、流石にギブスは外して包帯を巻くだけにしつつ、ただ日常を過していた。

しかし過ごす日常は何処かおかしくて、誰もがいつも通りに過ごせるはずもなく、お役目や代償に関して話題が出ない。

そもそもひとつの疑問が残っている。

延長戦は終わった。

じゃあ、何故()()()()()()()()()()()

 

(スペースビーストならば俺に任せたらいい。大赦もウルトラマンを神聖視してるなら、わざわざ勇者を使うはずがない)

 

勇者は限られている。

だからいつか脅威が現れてもいいように、対抗手段として勇者という存在が必要で、温存しておきたいだろう。

乃木園子の言葉が正しいなら、勇者はごく一部しかなれないのだから。

スペースビーストのみなら、それこそウルトラマンに任せるはず。

だが、まだバーテックスが存在するなら?

ウルトラマンがスペースビーストの対抗出来る存在であるように、この世界では勇者がバーテックスに対抗出来る存在。いくらウルトラマンでもバーテックスに対抗出来るとはいえ、だ。

バーテックスがいるからこそ、まだ大赦は勇者部から端末を取り上げないのでは、と簡単に予想がつく。

無論、そのような予想を紡絆が立てられるわけがないので、彼の予想ではないのだが。

 

(多分だけど、夏凜と樹ちゃんは問題ない。一番危ういのは東郷かもしれないな)

 

実は今日、紡絆は東郷に家に来て欲しいと呼ばれている。

真実を知っているのは、自分を含めて四人。

友奈、東郷、風だ。

その中でも東郷は一番頭が良いだろう。

最下位は紡絆だが、どちらにせよ今危ういのは先ほど挙げた三人。

しかしながら紡絆の体はひとつしかなく、そもそもその体すらまだ問題ないが、左半身を侵食しかけていることからいつ左足から全身まで動かなくなるのか分からない。

後は時折視界がチカチカすることか。もしかしたら視力が完全に消されるのかもしれない。

今の紡絆にとって、最大の敵は時間だ。

自分が死ぬ前に解決しなくてはならない。自分が動けなくなるまでに救う手段を見つけなくてはならない。自分が何も出来なくなる前に戦いを終わらすかウルトラマンを救わなければならない。

そこに自分が助かる、という選択がないのが、良くも悪くも狂っている彼らしいが、結局のところ全て時間なのだ。

 

(まぁ、やれることをやるしかないか……)

 

ただそれだけを考え、紡絆は東郷の家へと入っていく。

既に見知った靴が二足あり、どうやら紡絆がラストだった。

慣れた様子で歩いていき、集まるように言われている東郷の部屋へと入ると、そこには当然ながら東郷が居て、友奈と風も居た。

 

「っ……!」

「…?遅れました、すみません」

「やっと来たわね……で、話してくれるんでしょうね、東郷?急に話があるって言ってたけど…」

 

入ってきた紡絆は東郷の様子が少しおかしく感じたが、気のせいかと思いつつ遅れたことに謝る。

そのことに特に気にした様子はなく、早速本題へと入っていた。

このメンバーが集められたことから、どんな話を切り出してくるか予想するのは容易い。

それでも呼び出した本人からは要件は伝えられてなくて、努めて明るく、いつもの調子で場を作った風に東郷は深呼吸をして心を落ち着かせると、瞑目する。

 

「三人に、見てもらいたいものがあって」

 

車椅子を動かす東郷を紡絆たちは視線で追う。

彼女は自身の学習机と思われるところへと向かっており、紡絆はとりあえず座っている友奈とその横で立つ風の近くに移動した。

するとカタン、と軽い音を鳴らしながら引き出しから何かを持ち出した東郷は、戸惑う三人へと向き直る。

東郷が取り出したのは、短い長さの棒…のように見える。

長さ30センチ程度のその棒には、黒い下地に金の装飾。そして小さく青い花が彫られていた。

いや、それは棒などでは無い。

■■■■にとって、何度も見たことのあるものであり、とてつもなく見覚えのある物。

この場で紡絆はその手に持つものがなんなのかを誰よりも早くに理解した。

しかしそれが見せたいものかと思い、首を傾げる。

そんな三人の前で東郷は何も言わず空いた右手を棒の端に添える。

チャキリ。と一つ音がして、その中から鈍色に光る刀身が現れた。

 

「ッ!」

 

その瞬間、紡絆は迷うことがなかった。

距離にして数m。

ポタ、と水音に近い音が静かな部屋に響き、ゆっくりと床に流れていく。

 

「と…東郷さん……?」

「っ……いま、の…」

 

東郷が自身の右側の首筋に向け、勢いよく押し付けようとした小太刀を、紡絆は寸前で掴んだ。

その際に()()()()()()()()()()から血が流れたが、止めたはずの紡絆が何故か驚いたように目を見開いていた。

完全に自害しようとしていた光景。

しかし東郷の目は不自然に静かで、何処か確信を得たかのような、奥に見える僅かな暗い空虚の瞳を見た紡絆はそれが理解出来なかったが、行動の理由は理解した。

 

「あ、あんた今!紡絆が止めなかったら「いや……風先輩、違います」……どういうこと?」

 

忘我から抜け出した風が詰め寄ろうとした言葉に被せるように紡絆が否定する。

そう、見ただけでは明らかに東郷が自殺のためにやった行動にしか見えない。

けれども、紡絆の身体能力は今や常人ではない。

 

「今、ほんの僅かですけど精霊が現れるところが見えました。俺が止めるまでもなく、精霊が守ってたと思います」

「精霊が……!?」

 

そう、紡絆の目は確かに捉えた。

小太刀が当たる直前、精霊が出現しようとしていたところを。

紡絆の目ですら僅かなのだから、当然風や友奈には見えてないだろうが。

 

「……やっぱり、紡絆くんには見えたのね。本当は風先輩たちにも見てもらおうと思ったのけれど……その通り、私はこの数日間、十回以上自害を試みてきました」

「なっ……!?」

 

紡絆という人間がここにいる時点で、止められることは察していたのだろう。

一瞬だけ申し訳なさそうな表情を浮かべたが、僅かに俯いた東郷は衝撃的な言葉を言い放つ。

そんな東郷に友奈と風は言葉を失う。

紡絆はやっぱりか、といった表情を浮かべていたが、まるで紡絆と東郷の言葉を証明するかのように東郷の精霊が全て出現し、今も小太刀を掴んだ状態の紡絆の手から、刑部狸が小太刀をそっと取り、引き離しては机に置いていた。

 

「切腹。首吊り。飛び降り。一酸化炭素中毒。服毒。焼身…そのどれもすべて、精霊に止められました」

 

まるで他人事のように淡々と東郷は語る。

その表情からは、どんな感情も読み取れない。

ただただ事実を並べるように、とても信じられないようなことを東郷は口にしていた。

 

「何が…言いたいの…?」

 

風がかろうじて絞り出した言葉は、とても弱々しかった。

カラカラになった喉がひりついて、僅かに痛みを訴えている。

風は瞬きも忘れて東郷の次の言葉を待った。

そんなこと、聞かなくても本当はわかっているだろう。

あの紡絆ですら分かっている。

 

「今私は、勇者システムを起動させてはいませんでしたよね」

「あっ…そういえば、そうだね」

「それにもかかわらず精霊は勝手に動き、今も刀を持っていきました。精霊が、勝手に」

 

「だから…何が言いたいのよ東郷!!」

 

語気を荒げる風に対し、あくまで東郷は冷静だ。

冷静に、誰にとっても---それこそ自分にすらも、残酷な事実と推測を告げる。

 

「精霊は、私たちの意志とは関係なく動いている、という事です。

精霊は私たち勇者の戦う意思に呼応して私たちを助けてくれる存在だと、そう思っていました。でも違った。精霊の行動に私たちの意志など関係ない。前提として、もっと早くこの結論に至るべきだったんです。

風先輩や友奈ちゃんも、見たことあるでしょう?私たちの意思に関係なく精霊は現れては()()()()()()()()()()()()

「あ……」

 

その言葉で、思い出したのだろう。

友奈が一番自覚しているはずだ。

牛鬼が特に、そうだったのだから。あまりにも精霊は、自由すぎた。

例え端末から戻そうとしても、戻ることがなかったことがあったのだから。

どの精霊にも当てはまる。

 

「---それに気づいたら、この…精霊というシステムは勇者の御役目を助けるものではなく、勇者を御役目に縛り付けるもの。死なせずに戦わせ続けるための装置なんじゃないかって思えたんです」

「で…でも、私達を守ってくれたって事に変わりは無いし、それは悪いことじゃないんじゃ…」

「友奈ちゃん……私はそうは思わないの。

なぜならアプリを起動しなくてもシステムが動くってことは、もし端末が無くても、私達は樹海化に巻き込まれるということ。それこそ、紡絆くんみたいに。

なにより一番最初の頃はともかく、二度目のとき私は戦意を持てなかったのに樹海化に巻き込まれたもの」

「………」

 

自身のことを挙げられ、何とも言えない表情を浮かべる紡絆。

しかし東郷の言葉も最もで、事情を知っていた風以外は一番最初の時なんて戦う気持ちはなかったはず。

その時は()()()()()()から巻き込まれたとしても、戦いに身を投じることになって、一番最初の戦いが終わった時は東郷は恐怖に支配されていた。

でも、二回目は普通に巻き込まれているし紡絆に関しては端末もなしに普通に入れてる。

いくら紡絆だけは不明とはいえ、今のこの話に確実性を生むには材料となり得る。

 

「…乃木園子の言葉には嘘がなかった。私たちは死ねないし満開の後遺症が治ることはない。先代勇者という前例があった以上、大赦は全て知っていたはず。私達は、何も知らず騙されて、私たちは最初から大赦にとって消耗品でしかなかった…ッ!」

 

勇者の不死性。そして満開の代償。

あの日、乃木園子が語ったこと。信じたくないと目を逸らした勇者の真実。

東郷が行った『検証』によって、 それは正しいということが証明されてしまった。不確かな情報が、確かな事実へと変わってしまった。

人間というものは、所詮見る聞くだけじゃ完全に信じることなど出来ない。

行動し、それを経験してようやく確信を持つことが出来る。

---それにしては、東郷の行った行動はあまりにも危険極まりなく、異常すぎるが。

だが、改めて乃木園子や三ノ輪銀の言葉に嘘が何一つなかったことが突きつけられる。

 

「そんな…そんな…っ!」

「じゃあ樹の声も……みんなの失ったモノも……治らない…?私たちは、生贄…ってこと…?」

 

『生贄』。

読んで字の如く。身を捧げて最後まで敵と戦うことを義務付けられた存在。それが『勇者』であり、生贄だ。

満開などという、明らかに人類を超えた存在であるウルトラマンに近しい力を無償で手にするなど都合のよすぎる話はあるはずがない。

物語であるならば勇者という存在は土壇場で覚醒し敵を打ち砕くだろう。

でも、この世界の勇者は違う。

先代の勇者は大赦の嘘を一種の思いやりだと諭した。

失う前提を知らせず、気楽とは言い難くとも気負いはせずに戦えるようにとの配慮。

実際にその作戦は功を奏し、バーテックスが七体出現し、その上ファウストや融合型昇華獣という敵が居てもウルトラマンの力があったとはいえ『満開』することで乗り越えることは出来た。

倒すことが出来た。

そして乃木園子や三ノ輪銀は自分たちの頃は追い返すのが精一杯だと言っていたのだ。

間違いなく今代の勇者は強い。追い返すのではなく、バーテックスを倒せるのだから。

でも強いが特別優れているわけではない。

だからバーテックスを打ち倒すために意図して代償を払い一時的に力を得てバーテックスを倒すしかない。

スペースビーストにも対抗して行かなければならないため、想定よりも多くする必要も出てくるだろう。

そうしていずれは身体機能をほとんど失い、動けなくなっていく。

それこそ勇者の辿る確定された未来、運命。決して覆すことの出来ないもので、そうしなければ世界は破滅を迎える。

人類が生き残るための消耗品として使い潰され続ける。

全ての戦いに決着が着くまで---。

 

絶望がまとわりつき、友奈と風の心を闇が覆うように這っていく。

そんな中でも、東郷は紡絆に視線を送る。

確かめねばならない。

聞きたくないという思いと確かめなければならないという相反する感情を胸にしながら、ほんの僅かな希望を抱いて。

 

「それと…紡絆くん。それは()()()()()()()()

「…ッ!?」

 

突然と矛先が向けられ、紡絆は表情に出してしまう。

続いて言われたなら、取り繕うことは出来たかもしれない。

だが油断しきった状態で言われ、紡絆は素の反応で東郷を見つめ返した。

 

「え……ど、どういう…こと?紡絆くんも、同じ……?」

 

ただでさえ治らないという情報だけでもいっぱいいっぱいだったのに、新たな情報が出てきた。

同じ、同じとは一体なんの事か。勇者でもない紡絆は満開を出来ない。樹海に入れるが、それだけだ。

でも同じという発言をこの場で考えるならば、それは---

 

「…紡絆くん、左目が見えないのよね?」

「…はっ……!?」

「え……?」

 

確信を持って言われた言葉。

風と友奈の視線が紡絆に向けられ、紡絆は驚いたような表情を浮かべていた。

 

「み、見えないって……どういうことよ…どういうことなのよ、紡絆ッ…!」

「い、今までそんなこと…本当、なの?」

 

なぜ東郷が気づけたのかは、紡絆は分からない。

でももはや隠し切れるものでは無いと理解したようで、目を一度伏せると、口を開く。

 

「あちゃ〜……いつ気づいた? 俺にしては割と隠せてたと思ったんだけど」

「…気づいたのは最近。でも……」

「ああ、俺は左目が見えない。視力を失ってる」

「あたしと……同じ?う、うそ……でしょ……?そんな、そんなこと…そんな様子一度も…ッ!」

 

潔いといえば潔いだろう。

かなり重大なことを、軽い口調で告げる紡絆だが、周りはそうではない。

なぜ隠していたのか、なぜ一言も言わなかったのか。

どうして左目が見えなくなっているのか。

ウルトラマンに満開と同じような力は、無い。

メタフィールドという命を削る技はあるが、それだけ。

 

まるで現実から逃れるように、縋るように言葉が口から漏れる。

そんな風の姿を見て、困ったような表情で紡絆は首を振るしかなかった。

それは紡絆がバレないように振る舞っていただけだし、片目だからこそバレなかっただけ。もし両目だったらすぐにバレていただろう。

 

「それだけじゃない……でしょ?」

「…そこまで気づいてたかぁ。いや、それもそうだよな」

 

紡絆は左腕が動かなくなってから今に至るまで、一度も動かしたことは無い。

動かないのだから動かせないのだが、東郷を止める時も紡絆は左手ではなく右手を逆手にして止めた。

本来突然のことで止めるとしたら、早い方でやるだろう。あの場合ははっきり言えば、左手で止めた方がやりやすいし早い。

特に普段の紡絆ならば、自身の手が傷つくことを構うことなく凶器を掴んでいたはず。

でもわざわざ右手で止めたのだ。

 

「そうだよ、俺は左腕の感覚と温度が感じられない、温感も失った」

「……え」

「っ……やっぱり」

 

愕然とした様子で友奈の口から声が零れ、東郷は信じたくなかった事実を確信して、握り拳を強く握っていた。

 

「なんで……どうしてあんたはいつも、いつもそんな大事なことを隠してんのよ……なんで、相談してくれなかったのよ…あたしたちよりも失って、なんでいつも通りで居られるのよ…ッ!」

「……?別に()()()()()()()?」

「は……っ!?」

 

何故そこまで気にしてるのかと、そういったように紡絆は首を傾げる。

まるで理解出来てないといった様子で。心底不思議そうだった。

 

「失った理由は俺も分かりません。でも良くないですか、死ぬわけでもないですし、俺がそうすることで()()()()()()

 

()()()()

確かに紡絆という人間は何処までもお人好しだし自己犠牲の塊だった。

だが、その思考はどう考えたっておかしい。

今目の前にいる人間は、本当に自分たちの知る男の子なのか?普段とは考えられない、どこか不気味な在り方を持つ姿に、風は---いや友奈も東郷も背筋が凍る。

 

「つ、紡絆くん……?何を言って……」

「これ以上満開をすれば、みんなは確実に失っていく。でも、失う原因が分からないからこそ、俺は戦える。それで何かを失ったとしても、()()()()誰も何かを失わない。だったらそれが一番かなあって」

 

震える声で、友奈が口を開いたが、返ってくる言葉は優しさを込められつつも自身のことを一切顧みない発言。

嘘は言っていない。

紡絆の身に降りかかる現象は予想を立てているもので、確信しているものではない。

だからこそ失う原因が正確に何かは分からないし()()()()()を悟っているからこそ、自分の何を犠牲にしても気になっていない。

所詮は不便だな、と思う程度で、紡絆という人間は元から壊れている…いや、その表現は正しくないだろう。

しかし今の彼は、()()()が無事ならいいし戻せたらいい。

じゃなければ、自らの身体機能を捧げたらどうかとといった提案はしない。

 

「ね、ねぇ、じょ…冗談…だよね? 失ってるっていうのも本当は違うんだよね…?違うって、言ってよ…紡絆くん!」

「………」

 

友奈の必死の訴えにすら、紡絆は何も答えられない。

それを答えてしまえば、()()()()()とバレるし、否定する言葉を言ってしまえば、嘘になるからこそ答えられない。

---沈黙は、肯定だ。

 

「っ……事実なのよ。友奈ちゃんも風先輩も、知っているでしょう?紡絆くんは以前のネオ融合型昇華獣との戦いで、()から来る攻撃に反応は遅れていた。私を止める時も左を使わなかったし紡絆くんは骨折したといった日から一度も左腕を動かしたことはない…だから…信じるしか、ないよ…」

 

東郷自身も信じたくはないはずだが、ここまで答えが出てしまえば彼女の頭では全て理解している。

そもそもこの話をする前から、ほとんど確信していたものだった。

ただ、残酷な真実だけが知らされていく。

 

「っ……で、でもっ!な、治る可能性もある…んだよね?」

「いや、残念ながらないだろうな。俺の左目が失われたのは海に行った後の戦いだ。それからずっと、治ることもなければ…今度は左腕と温感が消えた、それだけだ。でも()()()()()()()()()()()()()()、それならみんながもう、何かを失う必要はないし」

 

希望が壊されていき、過去に起きた出来事が全て積み重なり、今の結果を作り上げていく。

紡絆の言葉に、友奈は何かを口にしようとして、口を噤む。誰も、口を開けないのだ。紡絆の発言に言葉を失ってしまっている。

紡絆の言葉に、在り方に『不気味なナニカ』を感じ取って、何も言えない。

もはや、この場の誰も楽観的な思考も持ってなければ希望を抱くことすら出来なかった。

そしてあらゆる真実に追い詰められ、残酷な現実が立ち塞がり、限界を迎えてしまえば---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あたしの…せいで……あたしのせいで、みんなが……樹が……紡絆が……っ!」

 

瓦解する。

色んなものを抱えて、勇者部を作って、みんなを勧誘して、戦いへ参加させてしまって、責任を感じていた風には特に、一気に降り掛かってきた。

 

「全部……あたしのせい……大赦は、これも知ってたの……?だから、だから勇者じゃない紡絆を……違う、あたしが勇者部に、入れたから…だから紡絆までも……う…ぁあああああああ!」

「!風せんぱ---がぁッ!?」

 

混乱する頭でも、自分が原因であることを自己完結した風はその場から逃げ出すように目元を隠しながら駆け出していく。

それに気づいた紡絆は、彼女を追うように手を伸ばすが、突如として()()()()()が零れ、体が崩れ去る。

 

「…!風先輩…!紡絆くん!」

 

ただ目の前の出来事に固まっていた友奈は紡絆が倒れたのを見て慌てて近づくと、紡絆は体を丸めるように蹲っていた。

 

「あぐっ…げふ、げほっ……!ぐぁ…ぐ、ぅぁ、あああああぁぁぁ!?」

 

左胸を抑え、ただ苦悶に満ちた悲鳴に近い声が部屋に木霊する。

既に温感はない。

熱いという感覚ではなく、苦しくなるような痛みが襲いかかり、咳が酷くなっていく。

 

「つ、紡絆くん、どうしたの!?あつっ…!? し、しっかりして!」

 

異常すぎる光景に何をすればいいか分からず、 紡絆の体を抱きしめるように支える友奈だが、高熱が出ている時のように熱く、それでも放っておくことが出来ないため背中を摩る。

 

「大丈……ぶ?」

 

違和感を感じた。

何をやればいいかなんて分からなかったし何故突然苦しんでいるのかも分からなかった。

ただ放っておけなくて、紡絆の体に触れて、触れてしまったからこそ、感じた。

手のひらにぬちゃり、とした生暖かい感触があって、見るべきではないというように警報を鳴らす。

でも気になって、それがなんなのか知りたくて、友奈はその警報を無視した。

()()しまった。

 

「え---?」

 

自身の両手の手のひらに付着していた()()()()

灰色だった服の色を服を汚す赤。

口元から零れる赤い液体と、生気を感じさせない真っ暗な左目。両目から流れる赤い涙のようなモノ。

いつもと違って、余裕のない苦しそうな表情。呼吸をするだけで精一杯で焦点は定まっておらず、傷口が開いているのか血が留まることなく流れていく。

---全てが、物語っていた。

 

「あ……ああ…ああぁぁ…!!」

「…ッ、ゆ、友奈…大丈っ……ぶだから…落ち、着け…!」

 

血の気が引いたかのように蒼白になり、友奈の瞳が虚ろになると脳が現実を遮断するように視界が真っ暗になる。

そんな友奈を落ち着かせようと紡絆が声をかけるが、胸の苦しみは消えた訳じゃなく手で強く握りしめたままだった。

 

(声が、届いてないのか…?くそっ、目が…チカチカする……。頻度が増えてきたこれは……なんだ?ダメだ…苦しい、とにかく痛すぎる……何も考えられない…。違う、ダメだ、ダメだっ!まだ終わってない…まだ、彼女たちを救ってない…!この身が朽ち果てようと、それだけは、それだけはしなくちゃ……いけないんだ……!)

 

原因は分からない。

ただ恐らく自身を蝕む呪いというのは推測出来るが、意識を失いそうな程に苦しくて、それでも保って、視線の先はランプのように点滅する。

それでも変わることはなく、心臓が握りしめられているかのような苦しみを味わい、体中からは叫びたくなるほどの痛みが何度も発せられる。

そんな状態でも紡絆は足掻いて足掻いて足掻いて足掻き続けて---()()

 

「……!」

 

紡絆の全身から()が空間を占めるほどに発せられ、拡大した光は左胸---心臓へと収束し、先程の苦しみが嘘のように消えた。

それはまるで、紡絆の生きる意志が呪いを抑え込んだかのように。

 

(収まった…?ウルトラマンの力か?エボルトラスターは動いてなかったが……いや、なんだっていい!)

 

血に関してはどうしようもないし、痛みが消えた理由はまったく分からない。

分からなくとも、収まったならやるべきことはひとつ。

絶望しそうになっている目の前の、普通の女の子に光を与えること。

 

「ゆうな…友奈ッ!」

「え……あ……つむ、ぎくん……?」

「ごめん!大丈夫だから、もう大丈夫だから!」

 

友奈を安心させるように抱きしめて声をかける。

錯乱状態になりつつある彼女に言葉は通じない。

なら、生きていることを証明すればいい。

温感というのはあくまで感じられないだけで、他人は感じられる。体温があるということは、死んでいる訳では無い。

この場では最も確実で、頭が真っ白になった友奈には一番効果的だった。

 

「ほん……とうに?」

 

血だらけだというのに確かめたいのか。

弱々しく、背中に回された手が紡絆の存在を温もりという形で認識する。

 

「ああ、傷が治ってないだけだから…大丈夫だ、もう平気だから。悪かった。友奈が思っているほど体調は悪くないよ」

「そ……か」

 

それは嘘だ。

あからさまにあれほど苦しそうにしていたのだから、悪いに決まっている。

友奈もそれは理解していたが、無事かどうあれ『生きている』ことを頭が認識すると、『生きている』という事実を徐々に受け入れていく。

ひとまず紡絆は何とかなったことに安心したが、友奈がこれならまったく反応がない東郷はどうだ---と思い、視線を動かした先。

 

(……東郷?)

 

彼女は妙に()()だった。

一切取り乱すことなく、ただ顔から表情が抜け落ちているかのように()()を得たかのように紡絆を見ていた。

しかし東郷もまた似たような状態になっているのではと思っていた紡絆は普段通りの彼女に違和感を覚えただけで、何ともなさそうな姿に心の底から安心した。

---だからだろうか。その瞳が暗く光を感じさせないことには一切気づかなかった。

彼女は間違いなく紡絆の状態を確信してしまったというのに。

 

「よかった……感じる、かんじられる…っ。よかった…紡絆くん…。生きてるよね…?生きてる……っ!生きて、るんだ……っ」

「ごめん…ちょっと痛くなっちゃって。もう平気だから、だから安心してくれ」

 

ひとまずは解決し、自身を蝕む呪いも今は何も影響がない。

この場から離れた風を追うためにも紡絆は友奈を離そうと優しく肩に触れて---

 

「ぁっ…やぁ…まっ…て。いや、はなさ、ないで……やだよ…やだ……っ」

 

強く抱きしめられた影響で、紡絆は固まる。

普段、あれほど誰かの目の前で、それも東郷の前では気丈に振舞っていた彼女が気にも留めずに体を震わせて、涙を貯めて、声が震わせて離そうとする紡絆に抵抗していた。

弱音を吐くことのない彼女が、今はただの普通のか弱い女の子のように紡絆に縋っている。

しかしあのまま風を放っておくわけにもいけないのも事実で、何ともない東郷には意外だったが、明らかに様子が可笑しくなっている友奈も放っておけない。

 

「やだぁ…はなれないで…。いっしょに、いて……おね、がい、だから…いなくならないで……つむぎくん…っ」

 

無理もないはず。

彼女は、彼女だけは何度も見てる。見てしまっているのだ。勇者部の誰よりも、紡絆の死の間近を何度も、何度も目撃した。

一度目は腹を貫かれたとき。二度目は総力戦。三度目は宇宙空間での変身解除。四度目は帰還後。五度目は今回。

もっと深く辿れば、まだまだ過去にあるだろう。

それらが積み重なり、()()()()()()()()()()()という不安と紡絆の言動、以前から感じている違和感が現状の状態を生み出してしまっている。

何より、友奈自身の両手に付着した大量の血と紡絆の状態を押し潰されそうになっていた不安定な精神で見てしまったのが大きいだろう。

今の友奈は間違いなく、普通ではなかった。

もし引き離そうものなら、一体どうなるのか想像もつかない。

いや、この状態の彼女を見捨てるなど継受紡絆という人間には出来ないし、そうしてしまえばきっと完全に壊れてしまうだろう。

 

「…居なくならないよ。大丈夫だ、俺はずっといる。友奈の傍に」

「……うん」

「気が済むまで好きにしてくれていいから。なんだってするから、落ち着いて……な?」

「……うん、うん……っ」

 

結局。

紡絆は友奈を落ち着かせることにした。

風も心配だが、友奈を優先しようと思ったのだろう。

ただ優しく告げ、唯一動く右手で彼女の頭を撫でていく。

---慰めるためにも抱きしめてあげることは、紡絆には出来なくて、冷静じゃなくなっている友奈ですら()()使()()()()ことを理解してしまい、ますます彼女は力を強めた。

だがそれは---

 

 

 

 

 

 

(そう……そうなのね……紡絆くん、あなたは、もう……長くないんだね…。全てを知らなくちゃ……彼女たちに会って、全てを知って、答えを…。答えを出すのは、それから。でもね、紡絆くん。

私は貴方が居ない世界なんて---)

 

彼女だけじゃなかった。

()()自身の心に答えが出ている自覚をしつつも、東郷はこれからの方針を決める。

徐々に這い上がるようにそれぞれに纏わりついていた黒い衝動。

それが溢れ出る時は、近い。

---彼女の、彼女『たち』を支える光は失われ、支えていた光は失われつつある。

そうして全てが壊れ、全てが崩れ、ただコワレていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
(曇らせタイム)お ま た せ
完全に前世の記憶取り戻した(左腕と温感を失ったあとくらい)
(過去のデュナミストの導きによって至った)精神力カンスト+精神力カンスト(前世の経験)が合わさり、最強のメンタルへ昇格。
が、その代わり前世の影響で自己犠牲力に磨きがかかったので狂気度補正+です。
ちなみに友奈たちに対して例の如くやらかしてる(言葉が抜けてて足りてない)
■■■の呪いを謎の光が一時的に封じたようだが…?

〇結城友奈
メンタル死ぬぅ!寸前。
実は作中で最も『紡絆くんが死にかける』場面を近くで見続けた女の子。
今回はタダでさえ精神的に追い詰められてた上に追い討ちを受けたので、割とピンチ。これも曇らない紡絆くんが悪い。
紡絆くんに縋ることで何とか精神を繋ぎ止めた。
ちなみにここでもし紡絆くんが彼女を放置して風先輩のところに行くと、彼女はコワレていた(友奈ちゃんがヤンデレ化するか心の壊れた彼女を紡絆くんがずっと介助するルート)
まぁそれ以外でもなるヤンデレ化に関しては誰もが可能性はあるんですけどね初見さん

〇犬吠埼風
紡絆くんの狂気的発言と責任感によって押し潰され、その場から逃げるように逃走。
ちなみにあの場で吐血現場を見た瞬間、即BADENDの暴走ルートへ(そして紡絆くんは呪いの痛みを無視して止めようとするので最終的にしぬ)
なお、場合によっては…。

〇東郷美森
既に答えを持ち、全てを察した女の子。
だが彼女はまだ『知らなくちゃいけない』。
失ってしまった■■■■■を。
もし乃木園子と三ノ輪銀に出会う前に紡絆くんのことに気づいた場合はそこで拘束END
ただし、彼女の場合はその後のタイミングでも『コワレル』可能性有り。

〇天海小都音
誰よりも早く紡絆くんの状態に気づいたが、様子はおかしく……。
一応紡絆本人に対しては笑顔を見せたが、彼女の心も…。
ぶっちゃけどの場面でもルート分岐するので責任取れ紡絆くん

〇ティガニキの時空
ティガ(ダイゴ)、ダイナ(アスカ)、ガイア(我夢)、アグル(藤宮)、ネオス、ナイス、ゼノン、ヒカリ、セブンX(別のセブンとして存在する)、ジョー二アス(ヒカリ超一郎)、ゼロ(前世が人間という記憶だけ有り)、カオスロイドUとロボメビウス(さりげなく光の国陣営)が現状確認されている転生者。
ゆゆゆネクサス時空→紡絆(陽灯)くん一人。


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「-真実-アナザー」


真実はまだ明らかになっておらず。
その真実が、明かされる時が来た。
ウルトラマンという存在。
スペースビーストという存在。
バーテックスという存在。
世界の真実。
そして何より、この世界で最も特異点である人物の過去が---







 

 

◆◆◆

 

 第 41 話 

 

 

-真実-アナザー 

 

 

(はぎ)

過去の思い出

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知らなければならなかった。

絶望を味わい、希望を失い、大切な人が長くないということを知っても、全ての答え合わせをしなければならない。

自身の記憶のない、二年間の記憶。二年前以前の全ての記憶が無い紡絆。

これらは、果たして偶然なのだろうか。

それにしてはあまりにもタイミングが合いすぎていて、あまりにも違和感しかない。

考えないようにしていたことから逃げることはもう許されず、全てに向き合う時が来た。

 

---今でも東郷は鮮明に覚えている。

初めて目が覚めた時、腕にはリボンが巻かれていて、手の中にはふたつの流星のバッジがあった。

それが何なのかは分からなくて、それでも大切なものだということは理解していた。

朝になると、医者から告げられたのは事故によって二年間の記憶と足の機能が失われてしまったこと。

決して記憶が戻ることは無かったが、母は自慢の娘だと()()()()()で告げてきたのだ。

 

そして退院して車椅子での生活にある程度慣れた頃、親の都合で引っ越しが決まった。

住み慣れたところを離れ、車椅子の生活を強いられるだけではなく二年間の記憶を失って、誰も知らない見知らぬ場所でやっていけるのかとなると、誰もが不安になるものだろう。

東郷も例外ではなかったが、その不安は友奈と紡絆のお陰でかけがえのない日々へと変わった。

優しくて、明るくて、何も分からない東郷に親切にしてくれた大切な親友(友奈)

ちょっと変わった出会いだったとはいえ、誰よりもお人好しで困ってる人が居たら迷うことなく誰かを助けようとする()()()()()()()()()()()のような男の子(紡絆)

彼の姿は東郷の目にはとても眩しくて、似た境遇だというのに自分のことより誰かのことを心配して、時々彼の行動には肝を冷やすことは多いが、まるで光のようだと東郷は感じていた。

 

そして随分前になる。

車椅子で生活するだけではなく、お菓子作りをすることも慣れてきて、初めてぼた餅を二人に食べてもらったときがあった。

東郷は今まで結城さん、と呼んでいたが、その時に毎日食べたいと言ってくれた友奈のことを『友奈ちゃん』と名前で呼ぶようになって、()()()()()でずっと食べてられると言ってくれた紡絆の言葉が胸に染み渡るような、不思議と何よりも嬉しくなる感覚があった。

 

---そう、この時の私は、二人に出会わせてくれた神樹様に感謝をしていた。

こんな私に、大切な二人に巡り会わせてくれて。

 

そんな二人と一緒に過ごす毎日。

いつもと何ら変わらぬ幸せで楽しい日々を過ごしていたが、風に誘われたことが日常を変えた。

三人は勇者部へ入ったのだ。

しかし勇者部の創設となると、まだ何も分からないし何も実績がない。

イチから始める活動は大変で、それでも楽しくて、紡絆の頑張りは相変わらず凄かったが、何も出来ないと密かに思っていた東郷はみんなが頼りにしてくれたことがとても嬉しかった。

そうして少しずつ、本当に少しずつ有名になって、知られるようになって、あっという間に一年が経つ。

そうなると後輩が入ってくるわけで、勇者部には風の妹である樹が入ってきた。

彼女を歓迎するにあたって人と接するのが苦手だと聞いていた東郷や友奈はどう不安や緊張を無くそうかと考えて実行して、紡絆も考えていたが、実は樹は紡絆のことを知っていたため避けており、紡絆だけは上手く行かなかった。

まあそんな彼はいつの間にか樹と親しくなっていたのだが……そこは流石というべきか。

そんな感じで五人揃った勇者部だが、東郷は毎日毎日、楽しく感じていたのだ。

でも……運命というのは残酷なものだ。

そんな大切な日々は、長くは続かなかった。

東郷たちは勇者になって、紡絆はウルトラマンになった。

なって、しまったのだ

 

それからはスペースビーストとバーテックスとの戦い。融合した敵との戦い。

何度も危機に瀕して、紡絆は何度も死にかけて、それでも力を合わせて、敵は融合型へと進化し、ネオ融合型昇華獣へと進化するということがあったが、何とか全てのバーテックスを倒すことが出来た。

スペースビーストはまだ居るかもしれない。でもバーテックスは全て倒した。

そんな彼女たちに待っていたのは体の機能の欠損。

満開の後遺症の可能性があるというところまでは一人調べていた東郷は推測出来て、いずれ治るという言葉に縋って考えないようにしていた。

彼女たちに会うまで。

 

『ずっと呼んでいたよ~、わっしー。会いたかった~』

 

 

乃木園子と三ノ輪銀。

出会って数日しか経ってないが、あのとき初めて見たはずなのに、東郷は不思議と心が締め付けられているかのように苦しさを感じていた。

園子と銀は東郷のことを『わっしー』と『須美』と呼んでいた。

 

---きっと、かつての私は彼女たちを知っていたのだろう。

 

でも、東郷は忘れてしまった。

彼女たちに辛い思いをさせてしまったことに心が深く痛み、真実を伝えられてからというもの、東郷はより色んなことを調べることにした。

自分が思っているよりも大事な過去だとわかったから。

だからなのだろう。

東郷は自分の過去のこと、彼女たちの言葉のことを、紡絆のことを、ひたすら毎日調べた。

 

---分かったのは私が()()()()()()()だということ。

精霊の数は一人一体。何故私だけ最初から三体居たのか。

それは総力戦後に帰ってきた端末で半ば確信した。

精霊の数が増えた者と増えてないもの、その違いは満開したかしてないかの違いだった。

満開をした四人は増えて、満開してない夏凜ちゃんだけが増えてない。

さらに私が失った記憶と足は満開の代償ということを考えたら、最初から三体居た私は先代勇者であることが誰でも分かる。

 

だがここで問題がひとつ。

東郷自身のことや乃木園子と三ノ輪銀、つまり先代勇者のことは分かったのに紡絆のことだけは()()()()()()()()()

だからこそ、東郷は探した。

どこまでもどこまでも、どんなことでも、どんなときでも、どんな細やかなことでも、毎日毎日毎日探して調べて探して調べて探して調べて探して調べて探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して探して---寝る間も惜しんで探して、調べて、そしてまるで情報が規制されているかのように、紡絆---『陽灯』という人物は()()()()()()()かのように全て彼に繋がる情報が消されていた。

 

それは、どういうことなのだろうか?

情報があるとしても別人で、故意的に消されたかのように全て消えているのはどう考えたっておかしい。

例え何もしてないとしても生きているだけで情報があってもおかしくなく、継受紡絆という人間の過去が陽灯と呼ばれる人物なら多少の性格に変化はあれども、何かがあったっておかしくないはず。

だけど、何も無い。

おそらくそれらのことは大赦が管理しているのだろう、と考える方が妥当だ。

なぜならこの世界で大赦は強い権力を持っている。

紡絆が樹海化した世界に入れることも、ウルトラマンに選ばれることも全部全部大赦は知った上で紡絆を利用した、とそう東郷は判断した。

 

それは間違ってないと言えるだろう。

大赦が紡絆の存在や樹海に入れることを知ってないと、勇者部へわざわざスカウトしたことが矛盾するし大赦が勇者になれない紡絆を『ウルトラマンに選ばれる』と予め知っていたなら、指名した理由だって辻褄が合う。

なぜなら、先代勇者の二人が紡絆のことを『はるるん』、『陽灯』と呼んでいたのだから。

 

もし東郷に記憶があればもっと深掘りすることも出来たはずだ。

彼女も先代勇者の一人なら過去の紡絆---陽灯という人間と関わっていたはずなのだから。

それがどんな関係だったかまでは分からなくても、先代勇者のうちの二人が関わっていたなら友達くらいの関係には絶対になっているはずである。

 

ここまでが東郷の推測と調べることの出来た情報で、紡絆に関してはほぼ全てが今までの情報から整理して出された、東郷の持論。

より詳しいことを聞くには、彼女たちに会わなければならないだろう。

 

何よりも、東郷は紡絆の状態を知ってから検証した結果や推測を話すために紡絆と風、友奈を呼び出して---紡絆の状態を言われずとも理解した東郷は時間が無いと確信した。

彼の体は左目だけでなく左腕、温感を失い、吐血するようになっている。原因は分からないが、もう、急がなくてはいけないのは誰の目から見ても明らか。

自分なりの答えを出して、真実を知って、全て知って、出来るなら、紡絆を二度と戦わせない。

そのためなら東郷はなんでもする気だった。

例え彼に恨まれるようなことをしてでも、どんな手を使ってでも。

なぜなら東郷にとっては、彼が居るだけで救われるのだから。自分を救ってくれた、一人なのだから。

そうして今日、東郷は乃木園子と三ノ輪銀が居ると思われる病院へとついに足を運ぶ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい、わっしー…じゃなくて今は美森ちゃんか。来ると思ったよ〜」

 

薄暗い病室。

二つのベッドの前には小型の鳥居が建てられており、壁や天井は不気味なまでに形代や御札で埋められている。

それはまるで()()()()()()()ような異質な雰囲気が立ちこめている。

 

病院内を案内され、通された病室には二人---乃木園子と三ノ輪銀が待っていた。

 

「わっしーで結構よ。たとえ記憶が無くとも…確かに私は()()()()だったのだから」

「流石須美、賢いな。そこまで分かってるってことは粗方自分のことは判って来てるんだろ?」

 

東郷がここへ来たのは、答え合わせをするため。

だからもう、自分が過去に鷲尾須美という名前で生きていたことも調べがついている。

ただしその答え合わせは見当違いであって欲しいもので、東郷は自身の出した結論を否定して欲しいと願いながら固い表情で口を開く。

 

「---適性検査で勇者の資質を持っていると判断された私は、大赦の中でも力を持つ鷲尾家に養女として入ることになり、そこでお役目についた」

「鷲尾家は立派な家柄だからね。高い適正値を出したあなたを娘に欲しがったんだよ」

「両親はそれを承諾したのね…」

「あの頃は家格が求められたのもあったけど、神聖なお役目だからなぁ」

 

逆に言えば今の勇者たちが養子に出されたりしていないのは家格を求める制度が廃止されたから、ということだろう。

両親からすれば神聖なお役目に選ばれた娘を差し出すのは喜ばしいことのはず。

なぜなら神樹様に選ばれた、という名誉ある事なのだから。

 

「……私は貴女たちと一緒に戦って、散華によって両足と記憶の一部を失った。だから私は次の戦いに回された…」

「大赦は身内だけじゃやっていけなくなって勇者の素質を持つ人を全国で調べたんだよ〜」

 

そうして調べた結果、勇者部に居る皆の適正値は高かった。

だから大赦から派遣された風が適正値の高い人間を集めた、といったところだ。

まぁ、例外が居るのだが。

 

「東郷の家に戻されて両親も事実を知って黙っていた。事故で記憶喪失と嘘までついて…引っ越し先が友奈ちゃんの隣だったのも仕組まれたものだったのね」

「彼女は検査で一番高い適正値を持っていたからね。彼女が神樹様に選ばれるのは大赦も分かってたんだ。わっしーが彼女の隣になったのは、はるるんが既に居た、というのもあるよ」

「あいつは唯一樹海に入れる存在。だから適正ある者の近くに居るだけで選ばれる。大赦からしても適正値の高い人間の傍に置いておきたかったんだろうな……あの性格だからお役目で精神的支柱にさせるって目論見もあったらしいけど」

 

陽灯、東郷たちにとっては紡絆だが、紡絆が適正値の高い友奈と居れば選ばれても対処できる。

樹海に入れる存在を傍に居させることで神樹様に選ばれる可能性を高められるしそもそも一番高いという時点でほぼ確定していたようなものだ。

全部、大赦は計算づくで利用したのだろう。

仮に違ったとしても紡絆だけは確実に樹海化された世界へ行くため、デメリットは少ない。何より、記憶が無い時点で勇者たちに真実が知られることもないから使いやすい。

そして友奈たちが選ばれたなら、今みたいな状況を作り出せるのだから。現に紡絆が勇者部の中心となったお陰で()()()乗り越えてきた。それもバーテックスだけではなく、下手をすればそれ以上の脅威となりうるスペースビーストに対して。

 

「……神樹様は人類の味方じゃなかったの?バーテックスやスペースビーストを倒すために私たちは自分たちの身を捧げるなんて……」

「味方だよ。満開して散華すると身体の一部は失う。だけど神樹様は命までは取らないでしょ?

神の力を矮小な人の身で宿せる。神樹様はかなーり譲歩してくれてる方だと、私は思うなぁ」

「まあ、あのバーテックスやスペースビーストを、特に融合型だっけ。神樹様の力なしで倒すのは無理だもんなぁ…。出来るとしたらウルトラマンを宿すあいつくらいだよ」

 

神樹様は神様であるが、神であっても無限に力があるわけではない。

人にとって神と同義であるウルトラマンもエネルギーがあるように、神樹様は限られた力で四国に結界を貼り、力を貸してくれる。

だけど、そんな神樹様からさらなる力を得るにはそれ相応の代償が必要となる。

その代償が身体機能であり、神樹様が悪神なら間違いなく命を取っているだろう。

何より神樹様が人類から得てるのは、信仰のみに等しい。そう考えたら、神樹様がどれだけ人類に与えてるものが大きいのか。

結界で守ってくださるだけではなく、生活するための恵みまでも与えてくれている。

 

「じゃあ、ウルトラマンは一体……何なの?どうして紡絆くんに宿ったの?スペースビーストって、一体…?」

「うーん……それを教えるのは難しいね。わっしーは()()()()()()()事件を知ってる?」

「……事件?」

「やっぱり分からないか。あたしらも知ったのはつい最近…いや思い出したって方が正しいか」

 

わざわざ言い直したことにますますと疑問が浮かぶ。

東郷の記憶には五年前に起きた、それこそ大きな事件があったなんて記憶は無い。

それも当然だろう。

そんなものは()()()()()()()()のだから。

 

「五年前、四国に巨大隕石が落ちてきて甚大な被害を出した事件があったんだ〜()()()はね」

「……表向き?」

 

表向きということは、そのままの意味。

取り繕うために見せかけでそうしたのだろう。

だが表向きが巨大隕石となると、実際のところは何なのか東郷でも分からない。

そもそも隕石が落ちてきたなら、必ずもっと表沙汰になっているはず。それこそニュースにもなるし四国に住む人たちは今も覚えているはずなのだ。

だがそんな記録はどこにも無い。ネットの中にすらひとつも無いのはおかしいのだ。

 

「私やミノさん、わっしー。そしてはるるんが二年前に現れ、戦った始まりのスペースビースト、()()()()。今のスペースビーストは全てザ・ワンの元になったものなんだ」

「え……?も…元々は、一つのスペースビーストからあれほどの数が生まれたってこと…!?それに、ということは……」

「ああ、陽灯は()ウルトラマンだ。陽灯って名前も養子に出された時にそうなったらしい。本名は『継受紡絆』だけど養子に出された際のフルネームは『遡月(さかつき)陽灯(はると)』。あたしらと一緒に戦った、大切な……友人だよ」

「ちなみに、わっしーが持ってるバッジの一つは、はるるんのなんだよ〜」

「…えっ?」

 

まさかの発言に、東郷は固まる。

何気に紡絆が過去にウルトラマンになってるという重要な情報が出てきたが、自分が目覚めた時に持ってた大切な物のひとつ。

そのひとつが実は過去の紡絆が自分に渡していたものだとは流石に予想外だった。

東郷はどちらかというと、目の前の二人から貰ったものだと思っていたのだから。

 

「あたしらも持ってるから。ほら」

 

そう言って、銀も園子も()()()()()()()()()()を取り出して見せていた。

それは東郷と持ってるものと一致していて、本来は過去の紡絆、過去の東郷、園子、銀が持っていたものなのだろう。

 

「た、確かに…で、でもどうして私に?」

「それを持ってたら、はるるんがわっしーを守ってくれるって思ったから…リボンと一緒に渡したんだ。だってそれ、はるるんの手作りだし」

「守るどころか、また引き会わせてくれるとは思わなかったなー」

 

手作りという意外な情報が出てきたが、過去に説明された時や砂浜で遊んでいたとき、紡絆は小さなウルトラマンを作っていた。

それを考えると、変なところで変な技術がある紡絆が出来てたって不思議ではない。

 

「あっ、話が逸れちゃったね。えーと……ザ・ワンが今のスペースビーストの源ってところまでだったかな?」

「え、ええ……」

 

空気が和んだが、それも一瞬。

さっきの話を思い返すと今まで現れた全てのスペースビースト。

それはザ・ワンと呼ばれる存在から生まれたということであり、紡絆が今代の勇者の元へ派遣されたのも、ウルトラマンに過去になっている、というのもあるのだろう。

この世界で唯一、ウルトラマンになったということは再びウルトラマンを宿す可能性が最もある。

逆に言うと、大赦ですらウルトラマンを宿した理由を知らない、ってことだ。

しかしそれはあくまで二年前。

五年前とは関係ないはずである。

 

「けどね、ザ・ワンもウルトラマンも、その前から居たんだよ。四国で起きた事件は巨大隕石なんかじゃなくて、宇宙から飛来してきた()()()()()とそれを追うように宇宙からやってきた()()()()()がぶつかりあった影響で出来たのが、五年前の事件の真相。はるるんはその時、巻き込まれて()()()()()()んだって」

「……え?ええ…っ!?」

「あたしらも直接見たわけじゃないしあくまで大赦の調べた情報を見ただけ。けど、あいつは間違いなく死んで、生き返ってる」

 

驚きの連続で、さらなる衝撃の事実を伝えられた東郷はただ混乱する。

宇宙?死んだ?でも生き返った?そう言われて、すぐさま理解できるはずがない。

だが銀が一枚の紙を渡すと、そこの紙には紡絆のことが書かれていた。

重要な箇所を挙げるならば、意識不明の重体と()()()は診断されたが、実際には()()()()()()()()()()()()()()意識がなく、心臓も動いてないため死亡率は100パーセント、死亡したとして扱う、と書かれているところだろう。

だが突如として症状が回復、意識を取り戻したとある。

 

「……多分、その時なんだろうね。はるるんはね、ウルトラマンのことを()()()()()()()()()って言ってたし、ウルトラマンもはるるんのことは友人と思ってたはずなんよ。ウルトラマンなら、死んだ人間を蘇らすことが出来たって不思議じゃない。ウルトラマンは人間には理解の及ばない()()()()をたくさん持ってるから」

「じゃあ…その時から、紡絆くんはもう…?」

「戦うことが決まってたんだろうな。樹海に入れる可能性も、その時にウルトラマンを宿したから、ってのが近いかもしれない。実際にどうかは分かんないけどな。

で、あたしらもザ・ワンと何度も戦い、最終的にはザ・ワンは倒された、んだと思う。でも……陽灯はウルトラマンとして走り切った代わりに、記憶を失った。生きてたのも奇跡なレベルの重傷だったらしいし、どんな戦いになったかまでは分からない。あたしらが知ったのも、満開を使用したあとだからな」

「厄介なのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という力があったこと。今のネオ融合型昇華獣という存在も、その性質からしてザ・ワンの元の力が核となってるんじゃないかな」

 

次々と予想もしていなかった真実が伝えられる。

かつてウルトラマンとしてスペースビーストと戦い、記憶を失った紡絆。

彼が目覚めて記憶がなかったのは、おそらく戦いの影響なのだろう。

そして今の現状は、全てたった一体のスペースビーストが生み出した悲劇。

これに関しては、()()()ウルトラマンを宿す紡絆すら知らない事実。

でも不思議としっくりと来る。

なぜなら東郷は()()()()()()()()()()()()のだから。

 

「紡絆くんの場合は戦いの影響で…?それなのになんで、どうして紡絆くんがまた……なぜ紡絆くんにまたウルトラマンが宿ったの…?」

「そこはウルトラマンに聞かないとね〜。けど彼も、はるるんを巻き込みたくなかったと思うんだぁ…」

 

そう語る園子は何処か悲しげで、過去を偲ぶように目を細めた。

深く、感情の籠った表情で。

 

「はるるんはね……それはもう、背負いすぎたの。人の希望も、地球の未来も、命も、罪も、人の醜悪も、全部全部背負って、人の身では余るくらい、とーっても大きなものを。でも彼は諦めなかった。彼には善悪なんかなくて、ザ・ワンにすら()()()()()()()()()。でもザ・ワンは狡猾かつ残忍。相手の心を弄ぶ事に愉悦する共存不可の邪悪な生命体で、通じなかったの。それどころか…ううん。

それよりも、昔も今も、彼は()()を掴もうとしてる。そんなこと無理なんよ、でも止められない。例え誰であっても、ウルトラマンだろうとも、神樹様だとしても、はるるんを動かす()()は決して止められない。だから極力、ウルトラマンははるるんに協力を求めるつもりはなかった…んじゃないかな。そうしたら、今度こそはるるんは()()()()()()()()()()から」

 

スペースビーストにすら手を伸ばす、それは今まで戦ってきたことから分かる通り、どれだけか()()なことか分かる。

だが紡絆自体が闇の巨人(ウルティノイド)にすら何度も手を伸ばすくらいの()()()()()()()なのだから有り得るだろう。

それが初のスペースビーストとなると、尚更。

故に園子の言葉は東郷も不思議と納得してしまう。

紡絆という人間がどういう存在なのか。彼は誰かを救うことに限っては、あまりに狂気的だ。

誰が止めてもするし、人を助ける際に自分の命なんて二の次、というよりは無いに等しい…いや、間違いなくない。

そんな彼がウルトラマンという大きすぎる力を持てば、さらに背負うだろうということは彼の存在を知るものからすれば簡単に予想がつく。

 

「でもウルトラマンはひとりじゃ戦えないみたいでね、地球に長期間滞在するには人に宿る必要があるらしいんだ。そしてはるるんに再び宿ったのは彼がこの世界で()()()()()()適能者(デュナミスト)だから。多分だけど、彼の心の光に、ウルトラマンが共鳴したんじゃないかな〜。所々は私の"勘"だけどね」

 

そう締めくくった園子の表情は微妙な表情で悲しそうな、嬉しそうな、そんな相反する感情。

ウルトラマンがいなければ、紡絆という人間は園子や銀、勇者部と出会わなかったかもしれない。

出会いをくれたことに対する嬉しさ。一緒に生きて行けたことに対する喜び。

色んなを抱えることになってしまったことに対する悲しみ。途方もなく大きな、定められた運命を背負うことになった残酷さ。

そういった様々な正と負を思ったからだろう。

 

「紡絆くんは、過去にも……今も、そんなものを…私たちと同じくらい……いえ、私たち以上に……」

「…だろうな。あいつは……母親を殺してしまってるし」

「……!?」

「あっ、ミノさん。それは…」

「え?やべっ……!?」

 

話すつもりはなかったのだろう。

園子に言われたことで銀は慌てて口を抑えるが、東郷は強いショックを受けたかのように目を見開いていた。

手遅れだ。

 

「どう……いう、こと…?紡絆くんはそんなこと…それに母親に会ったような様子も……!」

「……仕方がないね。本人が言ってないから私達も黙っておこうと思ってたんだけど…」

「ごめん……」

 

申し訳なさそうな表情を浮かべる銀だが、こうなれば隠し切れる問題ではない。

というか、話さなかったら確実に追求してくるだろう。

 

「ほら、あたしらは知らないけどさ、須美たちはファウストってやつと戦っただろ?」

「ええ……まさか…っ!?」

「そう、そのファウスト…正確には『ファウストの正体』が陽灯…いや()()()()()

「ウルトラマンが人間を必要とするように、似た存在の闇の巨人(ウルティノイド)も人間を必要としたのかも。

ただ……それが、()()()()母親だった……みたいだよ。これ以上は本当に、何も知らないけど……そもそも私たちが知ってるのは二年前のことだけで、他は全部調べただけだから」

 

それが、彼女たちが知るウルトラマンとスペースビースト、紡絆についての全ての真実。

隠された、もうひとつの真実。

過去に一度死んで生き返るようなことがあり、陽灯という人間としてウルトラマンとして戦って記憶を失う。

それから重傷を負って目が覚めると記憶がなくて、皆がよく知る紡絆として生きて、またウルトラマンに選ばれて戦ったかと思えば、何度も死にかけて、自分たちが知らないだけで本当は母親を殺していた。

 

「紡絆くんは、それを……」

「知って、やったんじゃねぇかな……だって、ファウストを倒したのは陽灯なんだろ?そうするしか、世界は守れないし誰も守れない。資料を見た感じ、光線を撃つのを躊躇ってる様子があったからな」

「っ……そんな、こと…あって、いいの…!?あんなに、あんなに誰かのために行動して、誰かを助けて、誰かを笑顔にして、誰かに希望をあたえてっ……!

多くの人のために行動してきた彼が…あまりにも、あまりにも報われないじゃない……!」

「…………」

 

東郷の言葉に二人は何も言えない。

そう、彼女の言葉は正しい。

報われない。紡絆という人間は、報われてもいいほどに色んな事をやってきた。もう傷つかなくてもいいくらいに戦ってきた。これ以上何も背負わなくてもいいくらいに抱えてきた。

困った人が居たら助けて、泣いている子が笑顔を取り戻して、解決して、危ない目に遭っていたら救助して、誰かを思いやって居場所を与えて、どんな時だろうと誰かに笑顔と希望を与えるような、光を体現する存在。

彼は見返りを求めてもいいのに求めず、それどころか一体どういうことなのか真逆なことが起きていた。

関係性がとても良く、仲の良かった家族を殺させるような過酷な運命を世界は彼に背負わせていた。

継受紡絆という人間は、家族を愛していたのに。近所では仲睦まじい姿に微笑ましそうに見られるほど、よかったのだ。

そんな愛していた人物すらも、唯一血の繋がっている家族という存在すらその手で殺させた。

でも彼は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

なぜならそれが、()()()()()()()宿()()なのだから。

 

「母親のことだけじゃないっ…!

紡絆くんは身体機能を失ってる…!左目も左腕も、温感も、失って、ボロボロになって、もう、命を失いかけるくらいに酷い状況になってるのに!そんなの、おかしいじゃない…どうして紡絆くんだけそこまで背負わなくちゃいけないの…彼が、彼が何をしたのっ!?」

「…待って。はるるんの身体機能が…失われてる?」

 

知らなかったのか、園子が東郷の言葉を止めると、彼女は驚いたような表情を浮かべており、銀も同じような様子だった。

つまり、二人は知らなかったことで、東郷も意外だったのか『黒い衝動』はあったが、僅かに落ち着きを取り戻す。

 

「…ええ、本人が言ってたわ」

「…どういうことだ?ウルトラマンに散華のような力は…」

「…スペースビーストの能力?ザ・ワンの持つ特性から考えたら『満開』の力を再現すれば……あるかもしれないけど……」

 

流石の二人も困惑した様子で顔を見合わせていたが、答えが出るような様子はない。

これに関しては、実際に紡絆ですら分かった訳では無い。

唯一答えを導き出せたのは、紡絆の『友人』であり、人類を超越した頭脳を持つメフィラス星人のイレイズのみ。

彼だけが、()()だとあっさり看破した。

 

「…ごめんね、それは分かんないや」

「力になれなくて、ごめんな」

「いえ……逆に良かったわ。今日話を聞いてたら、二人が本当に紡絆くんを思ってるって、分かったから……」

「当たり前だろ?本当なら殴ってでもあいつを止めたいよ。出来たら苦労しないんだけどな。殴っても動くだろうし」

「例え記憶がなくたって…彼は私たちにとっても()だもん。それに私たちの大切な友人だし…うん、()()()()友人」

 

冗談かと思うほどの言葉だが、本気を物語っている銀の笑顔や何処か意味深な言い方をする園子の真意までは分からなかったが、何処か()()()()感じがする雰囲気に、自然と僅かに笑顔が浮かぶ。

でも、昔を懐かしむ空気などでは無い。

 

「さて、本当はこのまま話してても良いんだけど……」

「いつまでも出来るわけじゃないからね。わっしーには今、二つの選択肢があるよ」

「…選択肢?」

 

平常は保っているが先程、いや今まで以上に重たい空気が場を支配する。

何処か辛さを隠しきれない園子の様子に東郷は酷く嫌な予感を感じ取る。

そう、まるであのとき---紡絆が初めてウルトラマンだと明かした時と同じくらいに。

いや、今までの経験以上だ。

 

「一つはこのまま昔話に花を咲かせて、少しでも幸福感に浸かって帰ること。こっちを選ぶなら、それはもう私たちのこと、はるるんのことをたっくさん話すよ。はるるんに関しては、恥ずかしいことから、かっこよかったところまでぜーんぶ。ふふん、とくに『あの』はるるんが二度と嫌だ、というくらいのとっておきがあるんだから。写真付きでね。あっ、小さいはるるんの写真もあるよ」

 

わざとなのかもしれない。

何処かおどけた様子でそう告げるのは、きっと()()()()()()()()という彼女の思いやりだろう。友を想う優しさという名の愛情なのだろう。

そうすればきっと、今まで通りには行かなくとも多少はマシになる。

ただし、その先に待つのはまだ残ってる可能性のあるスペースビーストとの戦いだろうし、紡絆の問題は間違いなく何一つ解決しないまま---それどころか今も彼がとてつもなく重たいものを背負ってるのに、過去にも背負っていたということを知っておきながら見て見ぬふりをしなければならなくなる。

東郷と違って、満開の代償でないということはいずれ記憶は蘇るかもしれないからだ。

 

「…もうひとつは?」

「辛くて悲しくて、光も希望もない()()()()()という名の真実を知ること」

「正直、あんまりおすすめはしないけどな。知って欲しいとは思うけど、こればかりは…あまりにも()()()()()。この真実を知って耐えられるのは、間違いなくこの世界には居ない… ああ、陽灯は例外だぞ」

 

真実。

この場合はウルトラマンや紡絆、勇者のことでもないのだろう。

かつて満開をし、散華を繰り返した先代勇者ですら希望がないと、絶望というほどの真実。

それは、()()()()()()()()()()()という遠回しの発言。

何度何度も満開を繰り返した勇者ですら、勇者は決して死ねないということすら度外視して語る、絶望というたったの二文字で表現するほどのもの。

前者を選んでも、誰も責めない。

ただいつも通り、以前と同じく自身の過去から逃げて、無闇に知る必要のない真実に目を逸らし続ければいい。

誰も耐えられないと思い切って言うほどなら、それは東郷には耐えれないはず。

幼い身体で途方もなく重たいものを背負い、ウルトラマンという大人でも苦悩するというのに子供の身で抱えきれない責任感を抱え、例え母親を自らの手でそうするしかなかったとはいえ殺してもなお、闇に屈することなく輝きを保ち続けた紡絆だからこそ耐えれる、というくらいにヤバい代物ということだろうか。

そんな人間自体が奇跡のようなものではあるが。

 

しかし人というのは、甘い蜜を用意されてしまえば、酷く魅力的に見えてしまうものだ。

だけど、ここで逃げ帰っても何も変わらない。

ただ消費し続ける、後が長くないであろう大切な人が苦しむ姿を見るだけ。

脳裏に浮かぶ、今日の紡絆の姿。

あんなに血を吐いて、苦しそうで、はっきり言って()()()()自分なら耐えきれてなかった。

それでも東郷の知る彼なら、逃げることなく必ず前へ進むだろう。

既に実感はある。

知ってしまえば、耐えられないということくらい。でもこれ以上知ったところで、今更と言われれば今更だ。

既に自身の心が悲鳴を挙げていると気づいている。

だとしても、東郷美森は---

 

「後者を……進むわ。きっと、紡絆くんならそうするだろうから」

 

()()を選ぶ。

どんな絶望があろうとも、抗うつもりで---それが、どんなものなのかを、無知とはどれほど恐ろしいものかというものを知らず。

なぜなら東郷美森は全てを『知らなくちゃいけない』のだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/遡月(さかつき)陽灯(はると)/ウルトラマンネクサス
何も知らない人。
五年前、つまり小学生の頃にウルトラマンとザ・ワンが()()で戦闘を行う中、人助けに勤しみ、死んでウルトラマンと一体化したと思われる。
そして二年前に途方もなく大きなものをその身で抱え、ザ・ワンとの激闘の末に世界を救った英雄。そりゃ強い。
その影響で記憶を失い、肉体は傷だらけだったことから死闘だったことが窺える。
でもやっぱり前世があっても無くても昔から命投げ出してたしあのザ・ワンにすら手を伸ばすやべーやつだった。
名前は『遡る』という意味で『過去』を連想させたかったのと特撮作品には切っても切れない『月』と『太陽』の漢字が入れたかったのもあってこの名前。
ちょうど作者が名前を考えてた時に雪下の誓いを見てたのもある。

〇ウルトラマンネクサス
かつての友人である紡絆を再び巻き込むことになってしまったウルトラマン。
紡絆の中にある『光』に共鳴し、引き寄せられたのだと思われるが実際は不明。
だがしかしどんなときも諦めず足掻き、決して希望の光を枯らさない紡絆は遅かれ早かれウルトラマンになっていただろう。

〇ザ・ワン
元々の紡絆くんのクソ強メンタルを作り出した原因だと思われる。
融合型の存在もネオ融合型の存在も、スペースビーストの存在も全部こいつのせい。

〇東郷美森/鷲尾須美
かつての先代勇者の一人。
彼女が目覚めた時に持っていた流星のバッジは過去に陽灯くんが作成し、園子と銀から紡絆のバッジが渡されたので二つ持っている。
何気に紡絆の知らないところで紡絆の全てを知った上、世界の真実と実は紡絆が母親を殺してたことも知った子。
『知らないといけない』という使命感で動いてるだけで、もうとっくにメンタルは瀕死。
この後の真実を目の当たりすれば…。

〇乃木園子
かつて共に戦った先代勇者の一人。
流石に紡絆が身体機能を失ってることは知らなかったが、友を思う心は変わらない。
何気に紡絆(陽灯)くんが本気で嫌がるという二度とないであろう過去を知っているらしい。

〇三ノ輪銀
園子と同じく共に戦った先代勇者。
同じく身体機能に関して知らなかったが、口を滑らせて紡絆の母親のことを話してしまった。


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「-夢-プレーヤーソング」


こっからクソ長いのでキリのいいとこで分けました。なんなら曇らせ展開祭り。刮目せよ。
でも多分50話行くわこれ。計画のなさがバレる。
けど本当に1つの章のラストへと向かってる展開になってるので、なんて言うんでしょうか。感慨深いです。




 

 

◆◆◆

 

 第 42 話 

 

 

-夢-プレーヤーソング

 

 

約束×復讐

シロツメクサ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、どれほど経っただろうか。

ひとまず少しはマシになった友奈の手を引いて自身の家へと招き入れた紡絆は割と気まずい空気の中、自身の胸に顔を埋める友奈に身動きを取ることをしていなかった。

 

 

 

105:光■絆継ぎし転生者 ID:NEX■_u■t■■

俺、どうしたらいいかなぁ、これ。そもそもどうしてこうなったのだろうか

 

 

106:名無しの転生者 ID:MuU4hq0Yp

クッソ問題ある発言したからだろバカ。普通にタダでさえボロボロで変身してすぐコアゲージが鳴っているという状態を皆に見られてるのにあのタイミングで教えた上にあんな発言したらそうなるわアホ

 

 

107:名無しの転生者 ID:cdgeAbXP5

イッチが死にかけすぎなんよ…つーかマジで死ぬ状態だから何もフォロー出来ねぇんだよな。せめてイッチが嘘の上手いタイプなら何とかなったが…

 

 

108:名無しの転生者 ID:sI1iI3i/z

てかIDバグってね?

 

 

109:名無しの転生者 ID:nZ/o81UIN

また色々起きてんだけど……イッチが発光してたしID消えかけてるしコテハンほぼ死んでるし

 

 

110:名無しの転生者 ID:jnpulgIqR

つーか…もしかして、こういう現象起きてるのって存在が消えかけてるんじゃないのか?

前も似たようなのあったが、イッチの身に起きてる呪いって神の呪い説があるから、同じ神の力なら消されたって可笑しくないし…

 

 

111:名無しの転生者 ID:Y0jR6V9p/

東郷さんの様子も気になるし部長も気になる…妹ちゃんも気になるし、友奈ちゃんは実質ダウン…どうすんのこれ

 

 

112:名無しの転生者 ID:GaoPZd+Sp

ぶっちゃけイッチの発言に引いた

 

 

113:光■絆継ぎし転生者 ID:NEX■_u■t■■

いやだって、俺の事なんてどうでもいいだろ。まだ救えてない人いるし俺は最期まで諦めるつもりないし

 

 

114:名無しの転生者 ID:SVIV3j2UZ

おい。いつも、いつもそうだわ!

その『大事な箇所』が抜けてんだよアホぉぉおおおおおぉおおおお!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つの発言が起爆剤となったのか容赦なく降り掛かってくる罵倒の嵐に流石の紡絆は頭が痛くなって抱えた。

 

「つむぎ……くん。もし、かして……ほか、にも…!」

「あ、ああいや他にはないよ。少なくとも俺が自覚してるのはさっき言った三つだけだから!」

 

紡絆の様子に気づいたのか心配する友奈に慌てて言葉をまくし立てると、落ち着かせるように友奈の手に自身の手を乗せる。

 

「ぁ……ぅ、ん……。そ、か……」

 

今回は間に合ったようで、友奈は小さく頷くと乗せられた手を動かして紡絆の手を握っていた。

いつもとは違い、何処か弱々しく見える姿。

勇者であろうとする友奈ではなく、ただの結城友奈という少女の弱りきった姿。

このまま放っておくことなど出来ないだろう。

 

「……友奈」

「……っ」

 

友奈は無意識に察したのか、俯いて決して顔を見ずに、まるで逃がさないように、離さないように、ただただ強く握る。

紡絆の呼び声に答えることもせず、その手をにぎり続ける。

それでも、紡絆は友奈を見つめて言葉を紡いでいく。

 

「……星ってさ、凄い綺麗なんだよな。記憶が戻ったわけじゃないけど、今は自信を持って見るのも調べるのも好きだって言える」

「………」

 

反応することなく、友奈は顔を上げない。

全く関係のない、脈略の無い話。反応しないのも当然かもしれないが、伝えたかったのかもしれない。

記憶がない頃の跡を辿っていただけで、継受紡絆という人間が本当に星が好きなのかどうか、彼は自分でもわかってなかった。

でも今は、分かってるということを。

 

「俺が星という天体が好きなように、みんなそれぞれ別々の好きなものがあると思う。大切なものがあると思う。

俺は、そんなみんなが好きを好きでいられるように、誰かが幸せを得られるように、明日を迎えさせたいんだ。

---だから、全部話すよ。聞かなくていい。忘れてくれてもいい。逃げてもいい。俺に出来るのは結局、ただ本当のことを告げるだけなんだ」

 

素直に嘘を吐いたら、きっと友奈は信じるだろう。

それが嘘だと理解しながら、現実から目を背けるだろう。今の友奈の精神は、あまりにも弱っている。

だが、紡絆はそれをしない。そうしたら、彼女が二度と立ち向かうことが出来ないと()が告げている。

 

「本当の……こと?」

「ああ---と言っても特別隠してることは無いけどな。俺が今、『感じてる』こと。いや、確信してるって言うのかな、これは」

 

言葉選びが難しいと苦笑する紡絆は、やはり何も変わらない。

いつも通りの彼で、身体機能を失っているのに、悲観するような様子すら何一つ見られない。

---逃げ出せば、きっと今は守れるだろう。

でも逃げ出しても得られるものなんて、ない。

一つを得ることはあるかもしれない。でも、一つ得られるだけ。

逆に立ち止まって、歩けなくなって、同じ止まった時間を歩み続けるのだろう。

何も無い、ただ偽りの日々へ。そしていずれ、深い後悔に苛まれる。

ただの女の子なら、そっちを選ぶ。

明日ではなく、今を。

でも---

 

「……聞かせて、全部」

 

例えどれだけ弱っていても、どれだけ辛い目に遭ったとしても()()()()()()()()()()

一つじゃ満足出来ない。バッドエンドなんて、勇者は選ばない。

ここに来て、彼女の心の内にある『勇者の心』が、彼女を奮い立たせ、虚ろな状態でも僅かに顔を上げた。

 

「……そっか」

 

その返答を聞いた紡絆は、隠すことなく嬉しそうな笑みを浮かべた。

彼女なら、そう選ぶと信じていたのだろう。

これでも紡絆は、友奈が普通の女の子に過ぎないと分かってる上で、それでも勇気ある女の子だと分かっているのだから。

 

「でも…手を、繋いで……くれる?本当はこわい、聞きたくない。逃げたい……けど…紡絆くんがを感じられるなら…離れないで居てくれたら、私は『勇者』でいられるから…」

「……分かった」

 

しかし、あくまで仮初の勇気でしかない。

だからか紡絆は従うように、握っていた手を繋ぐ。

友奈からすれば、今はまだ、感じられる人の温もり。

もしかしたら、突然消えるかもしれない温もり。

身体機能の消失の条件がどういった原因が分からない以上、いずれは紡絆という人間は色々と失うかもしれない。

全てを失うかもしれない。

 

「正直、俺はもう長くないと思う」

「っ……!」

「例えウルトラマンにならなくても、なっても、戦う戦わない関係なしに、俺はいずれ…死ぬと思う」

 

いきなりぶっこんで来たが、流石の紡絆も理解してしまっている。

そもそもウルトラマンとして戦うことすら不可能になってきていたのに、身体の状態を無視して全力を引き出せる、いわゆるドーピングして無理した。

効力が切れれば戦えないのに、そこでも無理をして限界を超えた。

その時点で、継受紡絆という人間が持つ可能な許容範囲を大きく超えてしまったのだ。

それがなければ、もう少し長く生きられただろう。

だが自身に降りかかる呪い。それがある限り、紡絆という人間は生きられない。

人間に備わっている自然治癒力が殺されてる今は、自己修復プロセスは作動しないからだ。だから傷は増える。傷は治らない。

予想が的中してるなら、それらは神の呪いなのだから人間の構造を破壊するなど容易いだろう。

そもそも神の呪いを人の身で耐え続けてる時点で、異常なくらいだ。

 

「どう、して……」

「…俺の体は限界を迎えてるらしくてさ、宇宙の事とか、ウルトラマンの事とか、詳しい友人がいるんだ。

その人に聞いたら、俺の体は限界だって言っていた」

 

友人というのは、イレイズのことだろう。

さすがに正体を明かすと、情報が漏洩した際に彼の身が狙われる可能性があるため伏せたようだが、こういう時でも彼は他人を気遣う。

 

「じゃ、じゃあ……もう……紡絆くんは……」

 

否定しきれない。

友奈はもう、目の前の男の子が何度も死にかけて、さっきもまた苦しそうにしていた所を見ている。

正解を導き出してしまう。

 

「そうだな…俺に未来はない。でも、みんなの未来はあるだろ?だったら俺は最後まで駆け抜けるだけだ。一人でも多くの人を救えるように、俺らしい俺で生き抜く」

「紡絆くん……」

 

友奈には、友奈にすら理解が出来ない領域。

何故死ぬことになっても、他人のことを考えられるのか。何故いつも通りに居られるのか。何故死ぬことへの恐怖心すらなく、いつも通りの明るさがあるのか、優しさがあるのか、温もりがあるのか、輝きがあるのか。

友奈ですら恐怖心はある。死ぬのは怖いと思う。きっと、隠しきれない。

でも彼の場合は、取り繕っているわけじゃなく、自然体でいる。

どんなときも、どんな辛いことがあっても、紡絆という人間は笑顔を、明るさを忘れることはなかった。

 

「……だけど未来がなかったとしても、俺は諦めない。未来がないなら、無い未来を掴み取りたい。

そのためにも友奈にお願いがあるんだ。これはきっと---友奈にしか頼めないことだから。俺が友奈だからこそ、任せたいと思ったことだから」

「私にしか……?」

「ああ、俺の知る結城友奈なら、 勇者を目指す君なら、きっと。ウルトラマンでも俺でもない、結城友奈という俺が信頼してる()()なら、俺は信じられる。だから俺が友奈を信じるように、友奈も俺を信じて欲しい」

「……私、は」

 

再び俯く友奈。

紡絆は声をかけることなく、ただ見つめる。

例えどう選択しようとも、それが友奈の意志なら尊重するだろう。

嫌だと言えば、納得してさせない。やるといえば、紡絆はそのまま託す。

そんなのは想像するのが容易くて、ただ考える友奈を見ながら紡絆は待ち続ける。

時間が進んでいることを知らせるように、秒針の音と息遣いだけが聞こえる部屋。

手から感じられる温もり。

数秒かもしれない。数分かもしれない。数十分かもしれない。数時間かもしれない。

長く感じられるような空気の中、突如として紡絆の指が絡められる。

友奈の指が、紡絆の指を包むように。絡めて、握られて。

 

「…信じるよ、信じてるよ。私は、紡絆くんのこと。いつだって信じてきた。だから……紡絆くん。私も頑張るから、私に出来ることを、なんだって。だって勇者は---」

 

顔を上げて、真っ直ぐに見つめられる眼光。

紡絆から見ても、今の友奈の眼は、その光は()()だと感じた。

暗闇ではなく、光を。

勇気を持つ少女の、強い眼。その眼差しはウルトラマンにも、紡絆にもない彼女だけの強さ。

 

「諦めない……か?」

「…うんっ!」

 

力強く、それでいて確かに頷いた友奈は立ち直っていた。

打ち砕かれた心に光が差し込み、僅かに立ち上がる勇気を与えられた。

また転ぶかもしれない。でも今は、立ち上がれた。

 

「じゃあ、友奈に頼むよ。うっすらと予感がある。また戦いは終わってないって。だから---」

 

紡絆は誰でもない、記憶のない自分が一緒に過ごして、身内以外で誰よりも一緒に居て、似たようで似てない一人の少女にひとつの、たったひとつの簡単な言葉を伝える。

その言葉に友奈は驚き、そしてまた、()()()()ことだというのに、()()()ことを告げてきた紡絆に嬉しさがあった。

 

「---これが、俺が友奈に頼みたいこと。もしもの場合の話。

それでも必ず俺は友奈に()()()を残すから……俺の願いを、叶えて欲しい」

「……うん。分かったよ。紡絆くんにとって、それが……一番なんだよね。戦わないって選択肢はないんだよね……」

「ああ。俺が戦うことで誰かの未来を守れるなら、それでいい」

「そっ……か」

「でも()()する。最後まで抗うって。死ぬつもりは無いってのは、本当のことだ。そうじゃなきゃ、また誰かを助けられないからな」

 

紡絆は約束を破ったことは無い。

というより破れる性格をしておらず、もとより無理な約束はさすがに彼も結ばない。

そんな彼が約束、と言った。

死ぬつもりがないといった。

それだけで、十分だろう。

それは最後まで足掻き抗うという意思証明なのだから。

 

「……本当に、凄いなぁ…」

 

全部全部、この場だけを誤魔化せる嘘をつけば解決するのに。

全部、事実だけを告げた。

その事実が辛いものであっても、こうやって友奈に僅かに立ち上がる力を与えた。

 

「……今も辛いのは変わらない。紡絆くんがどうなるかって考えたら、すごく怖い。またさっきの姿を見たら、私はきっと…崩れちゃう。紡絆くんが諦めてなくても、死んじゃうんじゃないかって……」

「友奈………」

「でも、今は……大丈夫。こうして紡絆くんと繋がってられると、紡絆くんを感じられてると、勇気が湧いてくるから。安心出来るから。紡絆くんが残す可能性が、私たちにとっての『希望』なんだもんね…。それで紡絆くんを救えるかもしれないなら…なんだってするから」

 

そう言って手から感じられる温もりを大切にするように、空いている手で包み込むと胸もとで抱え込む。

 

「きっと私にとって、()()()()()()()()()()()なのかもしれない……ね」

「---」

 

ほんの少し、無理したような笑顔を作る友奈を見てか、紡絆は僅かに固まっていた。

その様子に友奈は首を傾げる。

 

「…紡絆くん?」

「いや…驚いただけ。でも、そうだな。俺にとってその言葉は、一番の褒め言葉なのかもしれない」

 

何処か曖昧気味にそう返す紡絆。

その言葉の真意までは分からないが、紡絆という人間にとってウルトラマンが特別な存在なのだろう。

しかしまだ先は分からない。

未来に希望は灯されていない。

それでも今を立ち上がれた友奈のことを考えると、これからどう動くべきか考えようと思考したところで、ふと背後に気配を感じる。

 

「……私には関係ないですけど、いつまで兄さんの手を()()()()で繋いでるつもりですか、結城さん。顔も体も近いです」

「!?」

「ふぇぁ!?」

 

気配を感じ取ったのも遅く、第三者の声が聞こえたかと思えばいつの間にか背後を取られていたことに気づいて驚きのあまり固まる紡絆。

そして状況を理解して顔を真っ赤に染めた友奈は飛び跳ねるように離れた。

 

「い、いいいつの間に……」

「凄いなぁって場面から…です。あと下履いてないんですから普段通りに動くと見えますよ」

「あっ……!?」

 

呆れたように視線を送りつつ、この場にやってきた小都音はそれはもう氷のように冷たい雰囲気を纏っていた。

ちなみに言っておくと、友奈は紡絆の血に触れた影響で血だらけになっていたのでシャワーを浴びた後に紡絆の服を着ている状態だった。

妹の服を借りようにも探る訳にもいかず、自分の服を貸したまではよかったが、サイズ的に小都音のスカートやら男性用の着用できるズボンがあるわけではないので、跳ぶと色々とまずいだろう。

無論、ちょうどいいサイズじゃなければさっきまでの友奈なら危なかったというのもあるが。

むしろなぜ今まで気づかなかったのかって話になるが、さっきまでいつ壊れてもおかしくないほどに精神的に弱りきっていたので気づく余裕などあるはずもない。

 

「小都音はいつの間に…?」

「兄さんとお出かけしたくて、準備しておいてって伝えたかったの。……なんだか色々とあったみたいだけど。結城さんってあんな表情するんだ」

「……?そっか、まぁ友奈も女の子だしな」

 

相変わらず気配を感じられないことに驚きが隠せず、ようやく意識を取り戻した紡絆が問いかけると、要件を伝えに来ただけだったらしい。

それがこの場面に遭遇した、ということだろう。

 

「……そっちじゃないんだけど…いいよ。私もう少しだけ席外しますから、くれぐれも兄さんを襲わないでくださいね…今の兄さんは抵抗出来ないと思いますし。抱きつくくらいなら許容しますが…キス、は…ちょっとなら……まあ」

「し、しししないよっ!?だ、抱きついたりも、そういうのも、今はいいから……っ!」

「…俺、今襲われたら死ぬ自信しかないなあ」

 

さっきと打って変わってあっさりと全てを諦めたような目で遠くを見る紡絆。

何だか三人というより約一名だけ全然別の意味で捉えているが、なんだかんだ、マシにはなっただろう。

まだ友奈も不安定ではあるが、ひとまず一時の解決はした。

完全に解決するにはみんなの身体機能を治さない限り戻らないが、後は風の方へ行かなければならない。

が、紡絆は予め夏凜に任せる旨を伝えているのでそこまで心配はしていなかった。

 

(……生きないとな)

 

果たして、それは本当に可能なのか。

自分自身の状態を理解して、諦めるつもりが無くても、体は意思とは関係がない。

自身の回復を妨げ、機能を奪ってくる呪いに関しては、紡絆がどうのこうのできるようなものではないのだ。

もちろん完全に助けれてない今は死ぬつもりはないが、死ぬくらいならウルトラマンを助けてから死ぬ。

誰かを助けてから死ぬ。

その思考だけは、何がなんでも消えることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

259:名無しの転生者 ID:u3vQRdbaX

シャツだけの友奈ちゃんエッッッ!!

 

 

260:名無しの転生者 ID:21M6PnL1q

実質告白じゃねーか!

はよ付き合って幸せになって生涯終えろ

 

 

261:名無しの転生者 ID:LWu7mRarR

いっそ3Pしろ

 

 

262:名無しの転生者 ID:ymfFaQ5+2

ところで下着はどうした?

 

 

263:名無しの転生者 ID:KnNqb17Eu

絶望しかない中で友奈ちゃんをたったの一言で立ち直らせたイッチがやばい件について。今までの言動はわざとだった…?惚れる…掘れるわ

 

 

264:名無しの転生者 ID:AadAe/rLB

弱ってる友奈ちゃん乙女すぎて可愛すぎる上に何だかえっちぃんだが。もっと曇らせて♡

 

 

265:名無しの転生者 ID:hPdHVLPSg

掲示板、変なやつらばっか来てんの草 いや草生やしてる場合じゃないんだが

 

 

266:名無しの転生者 ID:gJr6i551

そもそも風呂の時はどうした?

 

 

267:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

>>259

>>262

>>266

最初はいくら弱まってるとはいえ強化されてる身体能力を持つのに連れて行かれそうになったけど冷静になったら傷つくかもしれないからドアの前にいることを条件に何とか防いだ。

服は家族でも小都音の服借りるわけにはいかないし俺の服。ズボンはいいサイズがなかった。というより戦いの影響かボロボロなのしか無かった。

下着は流石にないからどうかは知らん。

ところでこのタイミングでそんなこと聞くのいつも通りで逆に安心出来るよ

 

 

268:名無しの転生者 ID:fhHa7eR7o

むしろ律儀に答えてるイッチにも安心出来るわ。お前の状態をつい忘れてしまいそうになるくらいな!!

 

 

269:名無しの転生者 ID:3M2eKeFzv

おいちょっと待て、イッチなんかマジで消えてるんだけど>>105の時より見える部分減ってるんですけど!!

 

 

270:名無しの転生者 ID:yTQFLBGP1

>>260

この状況でそれは…と思ったけどただただイッチの幸せ願ってただけだったわ。

同感だ、もうこれでいいよ。頼むから何もしないで…(絶望)

 

 

271:名無しの転生者 ID:oSyJDk11t

>>267

ちなみにこいつ全身ボロボロな上に吐血するし左目左腕温感消失してるからな。マジでそのまま友奈ちゃんとくっつけばいいんじゃないですかね…もう世界とかどうでもいいからマジで

 

 

272:名無しの転生者 ID:Fs0r2yp8T

いつ見てもやばいよな。世界観壊れてるやろ…明らかに外から四国だけを見るとそこまで終末迎えてる世界じゃないんだけどね…

 

 

273:名無しの転生者 ID:clCLerOEb

なんで風呂一緒に入らなかったんですか?

 

 

274:名無しの転生者 ID:I1aUfE2ib

一緒に入ったら目覚めてから傷が一度も治ってないイッチの肉体を見てさらに曇るんだよなぁ

 

 

275:名無しの転生者 ID:lgS/LUDjC

はよイチャイチャしろ。それでいい、そうしたら平和だ。戦わなければイッチは生きられる

 

 

276:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

いや俺ちょっとやることあるんで……みんなの元に行かなきゃだし風先輩も東郷も心配だし

 

 

277:名無しの転生者 ID:pjSTjSH28

ダメだこいつ、何もしないという選択がねぇ……

 

 

278:名無しの転生者 ID:OrMRuoRKB

わかってたことなんだよなぁ……

 

 

279:名無しの転生者 ID:WLQYrbkm/

風呂入ったばっかなのもあって割と色っぽい友奈ちゃん。しかも普段とは違って髪も解いてるからまた別の魅力があるのにそれを前にして正常でいられるイッチ…凄いな?

 

 

280:名無しの転生者 ID:BdMRbITp8

割とBADENDになりつつあるよなここ

 

 

281:名無しの転生者 ID:BkHCixYGW

あまりにもの絶望感に諦めてる勢とイッチを応援する勢とイッチが諦めてないから諦めてない勢の三勢力だからな

 

 

282:名無しの転生者 ID:YtZBggz3B

この状況で諦めないイッチが凄い定期。そりゃウルトラマンに選ばれるよ普通はSAN値直葬だわこんなん。転生者の大半なんか絶対序盤で脱落してるから

 

 

283:名無しの転生者 ID:tQkHrlr4D

むしろイッチがあまりにも普通なのに対して俺らがダメージ受けまくってんのなんなん?

 

 

284:名無しの転生者 ID:j6Iy0Gkjd

あの様子からして下着も身につけてないよね友奈ちゃん。まあでもかなり参ってたしな……本当にどうなるんだろうか

 

 

285:名無しの転生者 ID:P1LPgxpqs

そもそもイッチが友奈ちゃんに告げたことは出来ることなんですかね…?なんの確証もない上に理論も作戦もクソもねえ。しかも曖昧すぎる。

イッチの言葉からしてその可能性とやらが戦況を変えるかもしれんが…

 

 

286:名無しの転生者 ID:t9YjElL45

正直友奈ちゃんもこのまま大丈夫なのか不安ではあるけどな…なんというか、精神的に不安定すぎる

 

 

287:名無しの転生者 ID:K4v9gMa0W

イッチは自分という存在の重大さにもっと気づくべきだと思う

 

 

288:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

分かってるよ、俺はウルトラマンだから俺が死んだらウルトラマンも死ぬ。スペースビーストに対抗する手段がなくなる。

けどみんなを守る力があるなら、守りたいだろ?俺にしか出来ないなら絶対にやってみせる。絶対にウルトラマンを殺させたりはしない。それに…俺は先代勇者の彼女たちも救いたいからさ

 

 

289:名無しの転生者 ID:pPl6YSIhk

あっ、これ分かってねーな?

 

 

290:名無しの転生者 ID:IZYQjoEa5

期待するだけ無駄やろ……俺らがイッチを生かすことを考えるしかないからな

 

 

291:名無しの転生者 ID:UGiRt+z/u

誰かイッチを殴ってでも止めろ。マジでやばいぞ

 

 

292:名無しの転生者 ID:nAfvJPrMf

殴っても多分止まらんぞこのバカ。そもそも前世の記憶取り戻す前からウルトラマンの力なしで人助けのために命投げ出してたやつだし

 

 

293:名無しの転生者 ID:JuFcTJl65

いやそうじゃないんだが? 変なところで変な解釈してるんだよなぁ…はぁ。うん、諦めよう。

せめて最後まで見届けるためにも付き合うしかないな…

 

 

294:名無しの転生者 ID:/wU0FXocL

精一杯の援護はするけど所詮知識を渡せるだけだからね。それでもないよりかはマシか……頼むからイッチ、妹ちゃんも勇者部のみんなが幸せになる未来を掴んでくれ

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---家に帰ってくる頃には、少しは落ち着いていた。

ここは風と樹が暮らすマンション。

家の中は、静まり返っていた。カチカチと鳴る時計の針も普段は心地好いが、今はそれが苛立ちを覚えさせる。

ため息が零れる。

分かっていた、わかっていたつもりだった。

 

「………」

 

継受紡絆という人間は何処までも自分を犠牲にする。

ウルトラマンとして戦う前から、他人ばかりを助けて、自分のことなんて一切考えなくて、命の危機があろうとも躊躇なく行動に移す。

いつもいつも、毎日毎日がそうだ。

ウルトラマンになったとしても、それは変わらなかった。

メタフィールドという命を削る力。自分には身を守ってくれるような力はないのに、精霊に守られる勇者たちすら守ろうとする。

全部引き受けて、背負って、だけど決して立ち止まることは無かった。

風が怖かったのは、それでいつか()()()()()ということ。

当たり前だ。

人間が人である限り、生を終えることが人の最期。

紡絆の場合はいつ訪れてもおかしくなくて、ただ同時に、自身の身体機能を失っても変わらなかった紡絆に対して()()という感情がまず浮かんだ。

 

---自己嫌悪だ。

巻き込んだのは自分。みんなを戦いに参加させたのは自分。

そして大切な後輩である紡絆を、一瞬とはいえ怖がってしまった。

いつも誰かを助けて、自分たちすら助けてくれた紡絆に対して、風は向けるべきでは無い感情を抱いて、向けてしまった。

無論、紡絆は気づいてないのだが当事者は納得がいくものではない。

知ってて、親しい関係にもなって、そんな相手に向けてしまったのだから。紡絆という人間が『不気味』と思ってしまったのだから。

 

あの場で仕方がないといえば、仕方がない。

満開の代償が治らないと知らされて、それだけで辛いのにさらに紡絆の情報。

何よりも辛いのは、例え紡絆がそれを知ったところで、犬吠埼風という人間を責めないこと。そうしてくれたら、自分を素直に責めることが出来たのに。

彼のことだから、風が悪いというのではなく、そんな思いを抱かせた自分を責めるだろう。

彼はあまりにも優しくて、甘くて、途方もなくバカなお人好しなのだから。

過去だろうと今だろうと、彼が彼を足らしめる要素はいつだって変わることは無い。

 

「……はぁ」

 

再びため息が漏れる。

風自身も、どうすればいいか分からなかった。

紡絆のことだけじゃなく、この事実はどうすればいいのか。

最愛の妹に話すことも、夏凜に話すことも難しい。

特に夏凜は大赦の人間だ。もし大赦が隠してて利用していたと知れば、どれほど辛い感情を抱くか。

考えれば考えるほど、無限という程に溢れる悩み。

 

---そんな心中を知らず、一つの機械音がこの場に似つかわしくない音を鳴らす。

bururu、という固定電話の電子音。

その電話に出なければ、或いはすぐ近くに最愛の妹が居れば違ったのかもしれない。

だが今のこの部屋にいるの風は一人であり、負は連鎖するものだ。

電話が鳴ってから妙に感じられた胸騒ぎ。

杞憂だと自分に言い聞かせながら、受話器を取る。

 

「……はい、犬吠埼です…」

『突然のお電話失礼致します。伊予乃ミュージックの藤原と申します』

「…え、えっと…」

 

電話の相手に心当たりはない。

"伊予乃ミュージック"という社名程度なら聞いたことがあるが、所詮その程度。色々と勇者部として活動する中で増えた知識で持っている程度だ。

間違い電話でも無い限りは、自分達の家に電話を掛けられる覚えなどなかった。

電話先の相手にも風の困惑が伝わったのか、少なくとも、相手が目的の人物では無いことだけは伝わったのだろう。

 

『犬吠埼樹さんの保護者の方ですか?』

「は、はい…そうですけど」

 

まだ状況は掴めないが、樹の名前が出たということは間違い電話ではない。

ただ何故会社の方から樹の名前が出たのか、風は知らなかった。

 

『ボーカリストオーディションの件で一次審査を通過しましたのでご連絡差し上げました』

「えっ…な、何の話…ですか…?」

『あ、ご存知ないですか。樹さんが弊社のオーディションに---』

「い、いつですか…っ?」

『えっと…三ヶ月程前ですね。樹さんからオーディション用のデータが届いております』

 

---三ヶ月前。

それは樹が声を失う前のとき。

丁度、歌のテストの件で勇者部が一丸となり解決に励んだ時期。

それに気づいた時、風は全てを察した。

手の力は抜け、未だに繋がれている電話を滑り落として彷徨うように樹の部屋へと向かう。

 

「樹……いつき……?」

 

部屋に入ると誰もいない。

机の上の開いたままのノートや、つけっぱなしのパソコン。

状況から察するに、すれ違いで出掛けたことが伺えた。

徐ろに開いたままのノートに目を向けると、そこに書かれているものは---

 

「っ!?」

 

風の目に入ってきたのは、“目標”と大きく書かれたページ。

その後には声が戻ったらやりたい事がリストアップされていた。

 

---勇者部の皆とワイワイ話す

---クラスのお友達とおしゃべりする。

---カラオケに行く

---歌う!!!

 

横のページには“体の調子を良くする為には”との文字の下に、『たっぷり寝る』、『栄養のある物を食べる』と綴られている。

さらに。

見上げた先にある、本棚に目が吸い寄せられる。

そこにはいつの間にか買ったのか、たくさんの知らない本が並んでいた。それらは全て例に漏れず、“声”に関係するもの……発声のしくみやボイストレーニング……喉の不調を治す方法……とにかく今できることを取り込んで、いつか治った時のために努力を怠っていなかったことが窺える。

 

これだけの本。

ノート。

全て夢に関することならもしかして、と風はパソコンに目を移した。

ノートパソコンの画面には、紅茶のページ。

恐らく喉通しを良くするためのものを調べていたのだろう。

だがそのページよりも、デスクトップにある一つのファイルが気になった。

勝手にノートパソコンを使うことに躊躇う余裕もなく、自然と操作したマウスで“オーディション”という名前の音楽ファイルを開いた。

 

『えっと…これで……あれ? もう録音されてる!? あ…ぼ、ボーカリストオーディションに応募しました、犬吠埼樹です。讃州中学校一年生、十三歳です!よろしくお願いします……!』

 

ファイルを開けば久しぶりに聞く、最愛の妹の声が流れ出した。

慣れてないというのが分かる様子が聞いて取れるが、すぐに彼女は気を取り直して話していた。

 

『私が今回オーディションに申し込んだ理由は…』

 

そうして語られる、樹の想い。

歌うのが好きだから。

それだけではなく歌手を目指すことで、自分なりの生き方を見つけたいのだという。

 

『私には大好きなお姉ちゃんがいます』

 

姉は強くていつもみんなの前に立って歩いていけるが、逆に自分は臆病な人間だと語る。いつも姉の後ろを歩いてばかりで、そんな弱い自分は嫌だと…姉の隣を一緒に歩けるようになりたい……自分の力で歩くために自分自身の夢を、生き方を持つために歌手を目指していると、力強く語られていた。

 

『実は私---』

 

元々歌を歌うのは得意ではなかった。あがり症で人前で声が出なくなる……それを“勇者部”のおかげで克服できたと。

そうして夢のきっかけとなった友人と、眩しくて優しく勇気をくれる先輩が後押ししてくれたのもあって、自分の好きな歌を一人でも多くの人に聞いてほしいと思った---と嬉しそうな声音で。

 

『あ、勇者部というのは---』

 

自分がこうも成長出来た勇者部についても語られる。

勇者部の部活内容。

そして人見知り故に最初は不安だったが、優しい先輩達や手を引っ張ってくれる友人に囲まれて毎日が楽しい最高の部活動であると、喜びを隠しきれないハキハキとした口調でパソコンから流れていく。

そのタイミングで、手に持つスマホから着信音がなる。

届いたのは、()()()()()()

 

『勇者の身体異常については調査中。しかし肉体に医学的な問題は無く、じきに治るものと思われます』

 

もう散華の事を知っているのに、それを隠そうとする内容。

治るなどという言葉などもはや見えきった嘘の答えだというのに、散華の存在を意図的に、何度も何度も大赦は隠す。

---風の中で、黒い衝動が沸き上がる。

蝕まれてきた心が悲鳴をあげ、ナニカが膨れ上がる。

 

『あ、ごめんなさい!余計なことまで話しすぎちゃいました。では、気を取り直して歌います---』

 

樹のパソコンから流れる、樹の心情を表すかのような歌詞の曲。

穏やかで、優しく、可愛らしい歌声。理不尽に奪われてしまった樹の『感謝』が深く込められた祈りの歌。

広がる世界。愛や希望で溢れる、そんな歌。

 

「…ううッ……うう…ぅ…!」

 

風は耐えきれず、泣き崩れる。

今、彼女の心には妹への愛情とその声を、歌を、夢を奪われたことに対する絶望と悲しみ。

そうして---

 

『継受紡絆の調査内容。

彼の状態は()()()()把握済みである。調査の結果、失われた身体機能は()()()()()()()()()()、二度変身しようものなら()()()()()()()

 

そんな風の視線に広がった()()()の文。

届いていたもうひとつのメールは、樹の歌を壊すだけではなく、風を完全に絶望へと追いやる一文だった。

『日々は』続かず、脳裏に浮かぶのはそこにいるべき---いや、()()()()()()()()()の、支えであった者の、死。

宛先は、()()

今まで紡絆のことを知らせなかったというのに()()()()()()()()()()()()()で、送られてきた一文。

風がもし冷静なら気づけたかもしれない。何故紡絆について隠していた情報を今更ながら開示したのか、と。何故変身回数を分かるのか、と。

そこを追及出来れば、怪しむことが出来たかもしれない。

それが選択の分け目となっただろう。

だが今の風の思考では散華のことも含め、何より紡絆を勇者部に入れるように指示した大赦は紡絆のことも全部知って、こうなることすら予見していたのでは、と決めつけた。

以前から把握していた、という箇所がそう判断させた。

そう理解してしまうと頭が真っ白になり、次の瞬間には真っ黒に塗り潰される。

 

怒り。悲しみ。恨み。後悔。恐怖。絶望。憎しみ。

---数え切れない負の感情が犬吠埼風の心を黒く染めあげ、溢れる。

何とか保たれていた理性が失われ、闇が身体中を支配した。

 

「潰す…ぶっ潰す!! 大赦を壊すッ!アアアアァァァァァ!!」

 

黄色の花弁が部屋中に散乱し、風の服は彼女の心とは真逆の黄色と純白の勇者服へと変わる。

流れる涙を乱雑に振り払い、マンションの窓から飛び出した。

 

戦うためではなく、壊すため。

大人がのうのうと生きていて、妹が『夢』を永遠に失い、大切な後輩は身体機能を失い、必死に戦ったみんなが傷つく。

なら大赦も命を懸けて戦っても失うことしかない現実を。不条理なものを、 全部全部壊すために、勇者の力を身に纏う風は大赦の方角へ向かっていく---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏凜は送られてきたメッセージを見ながら風のマンションへと訪れていた。

 

『風先輩が様子が心配だから、今は何も言わずに頼む』

 

紡絆から送られてきたメッセージ。

何故自分が行かないのかは不思議だったが、仕方がなく夏凜は従ってきていた。

それに最近勇者部に顔を出してないのもあって、気がかりだった、というのもあるだろう。

 

「ッ…?風!?」

 

その行動は正解だったようで、勇者へと変身した風が2階の窓から跳び出し、何処かへと向かっているところが見えた。

しかもその手には彼女の得物である大剣が握られている。

ただ事ではないと瞬時に悟り、夏凜は乗っていた自転車を乗り捨てて勇者へと変身。

直ぐに風を追い掛ける。少しして人気が無い山中の道路辺りまで来たところで、強引に止めるべく動いた。

 

「風! 待ちなさい!!」

「っ!」

 

夏凜は風の上を取り、当てるつもりの無い刀の投擲で動きを制限する。と、そのまま落下して蹴り落とす。

咄嗟に風は大剣を盾にして防ぐものの、防いだことで地面に降り立ち、夏凜の思惑通りにその動きを止める。が、夏凜のことを睨み付けた後に彼女を無視してまた何処かへと向かって跳ぶ。当然、夏凜も並走して追い掛ける。

 

「あんた、樹海化もしてないのに変身して何するつもり!?」

「大赦を……潰してやる!!」

「なっ!?」

 

今まで見たことのない怒りの形相と共に返ってきたのは、そんな言葉だった。想像もしていなかったことに驚くが、それで足を止めるわけにはいかない。

山中にある鉄橋に共に降り立ち、夏凜が邪魔になったのか風は大剣を彼女に向かって縦に振るう。

その行動に対しても驚く夏凜だったが体は直ぐに対応し、刀を横にすることで防ぐ。

 

「大赦は私たちを騙してた……!満開の後遺症は…治らない…!」

「な、なにを……!?」

 

夏凜の知らなかった事実が突然告げられ、困惑を隠せない。

当然だ、夏凜は何も知らない。

その隙に風が跳躍し、この場から離れようとするのを見た夏凜はすぐに追う。

さっきの言葉が正しいなら風は大赦へ向かっているはずで、夏凜はそれを止めるべく移動しながら斬りかかってくる攻撃を防ぎ、鉄塔が見える橋に降り立った風へ斬りかかると風はそれを跳躍して避ける。

すぐに後を追い、大剣を振り被ろうとする行動を阻害するように夏凜は組み付く。

 

「大赦は初めから後遺症のことを知ってた!なのに何も知らせず騙して、利用してきた!」

「何を根拠に…ッ!」

 

再び斬りかかる夏凜の攻撃を避け、広場と思わしき場所からまた別の場所へ。

瀬戸大橋の近く、以前紡絆や友奈、東郷が先代勇者である乃木園子と三ノ輪銀に呼ばれた場所の近く。瀬戸大橋記念公園。

向かい合う風と夏凜だが、夏凜は刀を突き出して風から視線を外さない。

 

「根拠ならある!犠牲になった勇者が私たち以外にもいた!何度も満開してぼろぼろになった勇者がっ…!そして今度は私たちが犠牲にされた!」

「……!」

 

動揺したのもあるのだろう。

振るわれた大剣に刀が弾き飛ばされ、咄嗟に下がることで攻撃を避けると、振り上げられた大剣が勢いよく振り下ろされる。

咄嗟に両手に呼び出した刀をX字にして防ぐが、大剣の方が質量は大きく威力も大きい。

直接受け止めた夏凜の負担は計り知れない。

 

「そうだとしても……!」

「私たちだけじゃない…!紡絆だって同じだった!」

「えっ……!?」

 

押し潰さんと力をより強く入れる風に対して、否定しようとしたが予想もしない事実を告げられたことに集中が途切れる。

考える余裕がないというのに、その言葉の意味を頭が勝手に考えようとし、戸惑った影響で力が緩み、足が徐々に着きそうになっていた。

 

「紡絆も身体機能を失っていた!左目も、左腕も、温度を感じることも出来てなかった!二度変身したら、()()()()って!大赦は全部全部知っていながらも、紡絆を勇者部へ入れたんだ!ウルトラマンのことを知っておきながら、全部隠して、紡絆がどうなるかも知っていたのに隠していた……!世界を救わせるために!」

「え……ど、ういう。だっ、て……そんな、こと……ッ!?」

「だから私が、全部を終わらせる!これ以上樹も紡絆も、みんなを苦しませないためにィッ!!」

「っぁ……!」

 

まともな会話は成立しない。

ただ言いたいことを表に出してるだけ。

しかしその言葉で、十分すぎる効果を発揮していた。

完全に混乱して、一瞬とはいえ頭が真っ白になった夏凜の力は抜け、渾身の一撃が夏凜を吹き飛ばす。

斬られることはなかったが、手に持っていた刀は消えており、尻もちを着いてしまう。

 

「これ以上邪魔をするってなら---消えろォォォォ!!」

「ッ……!」

 

本気の殺意。

勇者としての夏凜が行動に移そうとし、三好夏凜という勇者部の少女が動きを止める。

訓練してきた夏凜としてない風ではまともにやりあえば夏凜に分配は上がるが、彼女の心が乱れていること。

何より、()()なのだと理解して、止めるという意思が折れかけていた。

だからこそ、握りしめた拳の力を抜いて、次に訪れるであろう痛みに堪えるように目を伏せる。

そんな夏凜に、トドメを刺すように風は容赦なく大剣を振り下ろして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……風先輩!それ以上はダメです!」

 

声が聞こえた。

夏凜が目を開けると、目の前には腕を交差しながら牛鬼の精霊バリアによって本気の一撃を受け止めている、勇者となった友奈の姿がある。

 

「ゆ、友奈!?」

「ごめん夏凜ちゃん、遅くなっちゃった……!」

「そこを退きなさい!あんたも邪魔するっての……友奈ァァ!」

「嫌です!こんなの間違ってる……!風先輩が人を傷つける姿なんて私は見たくありません!!」

「うるさい!退きなさいって言ってんのよ---ッ!!」

 

バーテックスやスペースビースト、融合した存在すら壊されなかった精霊バリアは勇者の攻撃も同じく防ぎ続け、意味が無いと本能で理解したのか風は大剣を横に振るう。

友奈に衝撃だけが走るが、それでもバリアは壊されなかった。

---友奈の満開ゲージが()()となった。

 

「っ……あんたも知ってるでしょ!?このままじゃ紡絆が死ぬ!この世界がある限り、大赦がある限り、あいつは絶対に止まらない!自分が何を失っても何があっても、何でもやる……!例えその先に、死が待っていても!!」

「……!そ、それは……」

 

追撃がなく、距離が離れたのが幸いか。

風の言葉で、思い出されるのは東郷の家で見た、紡絆の様子。何度もフラッシュバックされ、友奈の心に深い傷を残した姿。

震える。拳が下がる。

その言葉が正しいと、事実なのだと、友奈の頭でも理解出来るくらい紡絆の様子は異常だった。

けれども、意思は折れなかった。

さっきまで感じていた体温。耳に残る言葉の数々。

友奈の意思を奮い立たせ、風を止めるために友奈は体の震えを抑え込む。

 

「でも……だから!紡絆くんなら必ず、風先輩を止めます!例えそうであっても、紡絆くんは()()()()()だから!」

「うるさい、うるさい!あいつが死ぬ運命なんて認められるか!みんなが何かを失う世界なんて……樹が夢を失う未来なんて、必要ない!それともあんたはあいつが死んでもいいって言うの!?」

「言わない!認められない!でも私は、私たちは勇者…!方法も見つける!死なせない!今度は、紡絆くんを私が救う!けれどその前に、風先輩が誰かを傷つけて、誰かに武器を向ける姿なんて、紡絆くんは喜ばない!樹ちゃんも喜ばない!

ですから、いつもの風先輩に戻ってください!」

「っ…れ。ま……れ!だまれ、黙れ、黙れッ!うるさいうるさい……!邪魔ダァアアアアア!!!」

 

冷静じゃなくたって、喜ばないことくらいは分かっているのだろう。望むようなことでないことも分かってるのだろう。

友奈の言葉が正しいことも、分かっているのだろう。

けれど現実が認められず、許せなくて、彼女を突き動かす『復讐心』はとめどなく溢れる。

激昂した風は、障害となるものを排除するためにその大剣を巨大化させた。

 

「友奈、避けなさい!」

「出来ないよ!風先輩を止めるためにも、私はここから絶対に引かない!逃げない!」

「夏凜も友奈も、私の前に立ち塞がるってなら敵だ!だからそこを---どけぇえええぇぇぇぇッ!」

「……ッ!」

 

振るわれる剣。

その威力はかつてバーテックスをまとめて斬り裂くだけでなくスペースビーストにもダメージを与えてきた。

精霊バリアを持ってしても防ぎ切れるかと言われると確証はない。

何より、友奈の満開ゲージは既に貯まっており、避ければ夏凜が危ない。

だからこそ、友奈は一瞬だけ自身の満開ゲージに視線を向ける。

瞬間、散華のことが頭に過ぎるが、時間は待ってくれるはずはない。

それで止められるならば、と迷いを振り切るように息を勢いよく吸い込み、口を開く---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

()()()

友奈の目の前で大剣が大きく逸れ、満開をするより早く、困惑が最初に生まれ固まるが説得が出来たわけでもなく目の前の風も目を見開いて驚いている。

そして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神秘の光が、二人の間に降り注いだ。

徐々に形を作っていた光は人型を形成し、150後半から160cmはあるであろう肉体。

銀色の体に甲冑を思わせる見た目。

その姿こそ---

 

「…んで……なんで、なんで変身して…っ!?なんで、邪魔するのよォ!!紡絆ィィィィ!」

 

かつてこの世界に宇宙から飛来してきた赤い球体の正体。

継受紡絆という人間と同じ身長になっている、いわゆる等身大と言われるスケールになっている銀色の巨人。

ウルトラマンネクサスがアンファンスの姿で風に立ち塞がるように立っていた。

エナジーコアは鳴っておらず、明確な殺意を持ちながら迷いなく大剣を構えて突撃してくる風に対して、喋ることの出来ないネクサスは何も答えることは出来ず、ただゆっくりと動く。

 

『シュアッ!』

 

そしてネクサスはここに来て、()()()()()()()()()()()()()()()()()()を向けた。

---その両手は、拳ではなく平手だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





○継受紡絆/ウルトラマンネクサス
忘れられてるかもしれないけど死にかけてる理由が自然治癒能力が消されたため、あらゆる『回復』の手段がないから。
本人としてもまだ死ぬつもりは無いが、紡絆くんの意思には関係ないのでその時はその時で死ぬ前に誰かを救う覚悟しかない。ただ友奈に言った『可能性』が鍵を握るだろう。
なお自分の重大さは全く気づいてない。
そもそもスレでも言ってるけど自分が重要な存在=ウルトラマンを『宿してる』と思ってるので、自分ではなくウルトラマンのことって思ってる(鈍いアホ)
最後の最後で、ラストの変身を果たして駆けつけたようだが……?

○結城友奈
ただの女の子らしい一面を多く見せているが、大切な親友が死ぬ(それもほぼ確定してる)だなんてなったら、いくら彼女でも精神的にやられるだろう。
それでも正常で居られる者がいるならば『どうでもいい』と思っているか『諦めてない』者のはず。
だが結局のところ『結城友奈は勇者である』。
故に主人公(ヒロイン)が友を救うために勇気を出せないはずがない。
どんなに辛いことがあっても彼女にとっての『光』があれば結城友奈はいつでも『勇者』へと到れる。
だが同時に『終わった』わけではないので精神的にはまだ不安定だが、必要であれば満開を使う覚悟はある。
余談だが彼(紡絆くんの)シャツな上に下着はない(風の元へ駆けつけた時は着替えた後)

○犬吠埼風
後輩である紡絆に恐怖を感じ、不気味だと思った(正しい感性)ので自己嫌悪に陥ったが、例えそれを知っても紡絆は絶対に責めないと知ってる(実際にしない)のでますますと追い詰められていた。
そんなところに妹がオーディションを受けていたこと、樹の想いや夢が壊されたという現実。大赦のメール。紡絆くんのことを『以前から』把握してたメールが理性を闇が塗り替え、破壊衝動に駆られる。
目的は『大赦という大人』たちへの報復。
そしてそれを必ず良しとしない『光』へと増大された怒りは向けられた。

○三好夏凜
紡絆くんが予め頼んでいたのは、すぐに駆けつけられないけど任せられると信頼してるから。
何気にそれは正解で、彼女がいなければ間に合わなかっただろう。
ちなみに本作の夏凜なら紡絆くんバフがあるので、彼についての言葉(デバフ)がなければマジで止めてた。

○紡絆くんについての狙ったタイミングのメール
ヤッ、ヤッタノハイッタイダレナンダー(棒読)


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「-選択-デシション」


紡絆くん視点の答え合わせ。多分これでほとんどの伏線は回収したはず…実は最後の方の展開は6話の時くらいから考えてたんですけど、だいぶ前に感想欄に近い答えのがあった時は普通にビビりました。
てか見直したら紡絆くん26話くらいから肉体回復せずにここまで戦ってきたんやなって。
化け物すぎる…そこも理由あるんですけど。
そしてディアボロ…貴様は、貴様だけは絶対に許さん!!(レグロス視聴後)
あと誕生日過ぎたけど誰か祝って♡(30日)
今年で二歳です(大嘘)




 

 

◆◆◆

 

 第 43 話 

 

 

-選択-デシション

 

 

心の痛みが判る人

鳴子百合

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は数時間前。

あれからこの場を去った小都音の手によって荒らされた場には顔を赤める友奈と対面する首を傾げる紡絆が存在していた。

残念ながら鈍感な紡絆は一切気づかない。

一方で友奈は身を守る服がTシャツ一枚のみ。

いくら洗った後のとはいえ同級生であり、異性である男の子の服と意識すれば、いくら友奈でも女心は出てしまうというもの。

しかも唯一ただの女の子としての自身の弱さを見せている相手なのだから。

 

「……落ち着いた、か?」

「う、うん……」

 

そうは言うが、調子はまだ戻っていない。

まだ不安なのだろうか、と見当違いのことしか浮かべない紡絆だが、彼に出来ることはない。

しかしながら友奈も中学生。

彼女は純粋な性格なのもあって割と知識方面は疎いが、流石にTシャツ一枚で抱きついていたとなると色々と問題はあるもので、落ち着いた今は羞恥心に駆られて恥ずかしかった。

 

(まぁ……大丈夫か)

 

紡絆の目から見て、今の友奈はさっきと違って顔色が良い。

あれほど弱った姿は流石の紡絆ですら初めて見たが、それに比べれば今の状態はだいぶマシなのだろう。

実際にはただ恥ずかしがってるだけで、本当に何かがあるってわけじゃないのだが。

 

「つ、紡絆くん……」

「…ん?」

 

か細い声で名前を呼ばれ、紡絆は視線を向ける。

ただ真っ直ぐに見る紡絆の視線に耐えられないのか友奈はすぐに目を逸らして、落ち着きなく脚を擦り合わせていた。

 

「あまり見られると…その、恥ずかしくて……」

「……あっ。ごめん」

 

今更気づいたと言わんばかりに視線を逸らした紡絆だが、そうなるとどうすればいいか分からない。

無言の空間が作られ、紡絆は視線をどこにやるか困った。

ひとまず虚無を見つめているが。

 

「紡絆くん……」

「どうした?」

「えっと……」

 

名前を呼んだまではいいが、話す内容までは考えてなかったのだろう。

悩むように視線を彷徨わせ、カレンダーに目が入った。

 

「文化祭、近くなってきたね」

「そうだな」

 

ちゃんと文化祭と星マークで印の付けられた個所があり、そのことを話題に出したが広がるわけこともなく一瞬で終えてしまう。

どうにも、普段通りの話が出来ない。

 

「東郷さんや風先輩…大丈夫かな」

「……東郷は分からないな。東郷は俺より考えて動いてるし」

 

思い出したように暗い顔をして、どこか不安そうにする友奈の姿を見ると紡絆は首を横に振った。

紡絆が考えてなさすぎなのもあるが、彼には彼女の行動は読めない。

 

「でも、風先輩のことは夏凜に一応頼んでおいた」

「え、いつの間に!?」

「友奈が風呂に入ってるとき…だけど。あっ」

「…ッ〜!?」

 

友奈と離れたタイミングはその時だけであり、紡絆がスマホを使えたのもその時のみ。

墓穴を掘ったと珍しく気づいた紡絆だが、時すでに遅し。

今度はまた別の意味で恥ずかしくなった友奈が顔を真っ赤に染め上げた。

なぜなら、紡絆が止まったお陰で一緒に入った訳では無いが、近くに居たことは確かなのだから。

 

「……ごめん」

「……だ、大丈夫…だ、よ」

 

配慮が足らなかったことに気がついた紡絆は謝罪するが、友奈は絞り出すようにそれだけ告げると、無言になって俯いてしまった。

ひとまず何か落ち着けるように飲み物でも持ってこようとした紡絆だが、体が引っ張られて動けなかった。

思わず視線を向ければ、友奈が紡絆の裾を掴んでいて、どこか潤んだ目で見つめられていた。

どうやら離れるのはまだ無理らしい、と紡絆は自身が原因なのもあって座り込むと、彼女の傍にいることにした。

それで落ち着けるなら、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に大丈夫か?」

 

少しすると紡絆は友奈の家の玄関前に居た。

紡絆が近くに居なくても大丈夫にはなったが、万全の状態ではない。

いや紡絆の方が全く万全でもないのだが。

 

「大丈夫……とは言い切れないけど…うん大丈夫!」

「そっか。友奈が良いなら、別に泊まっていってもよかったんだが」

「それはまた…今度にしようかな」

「…今度?」

「うん、今度。だから()だよ」

 

それは暗に今回で最後ではない、と言っているようなものだ。

それほどヒントを出されると紡絆も分かってるようで、苦笑いする。

 

「そうだな」

「それに…風先輩や夏凜ちゃんも心配だから」

「ああ……俺も後で行くよ」

「うん、紡絆くんは小都音ちゃんとの時間を、大切にしてあげて」

 

紡絆の状態を知った友奈は、残った家族である小都音との時間を作るためにもこうして紡絆の家から出てきたのだろう。

本当はまだ、怖いという感情は残っている。

 

「分かった。じゃあ俺は戻るけど……またみんなのところで落ち合おう」

「……うん」

「じゃあ、またな」

 

軽く微笑みを浮かべた紡絆は友奈の家から離れるために、背を向けた。

一歩、また一歩と離れる姿を見ると友奈の胸中が騒ぎ立てる。

紡絆が自身の元から離れる、という現実が友奈の中で()()()()をイメージさせる。

さっきまでは必ず紡絆は居た。少しは離れても、そこに居た。

目の先に居て、視界の中に居て、彼の無事が分かっていた。

でも離れたら、分からなくなる。

 

(…こわい。はなれたく、ない。きっと…大丈夫。私がちゃんとしてなきゃ、これ以上迷惑をかけるわけには……でも、でも---)

 

恐怖というのは一度身に染みてしまえば早々と消せるものでは無い。

大切な親友の死のイメージ。

簡単に想像出来るようになってしまった今は、それが足枷となる。

結城友奈という少女は確かに強い勇気を持っているが、普通の子と変わらない。身近な人の死というものは、彼女の精神を蝕む。

震える体を抑え込んで、息を吸い込んで---

 

「あっ、そうだ」

「……ぁ」

 

離れたはずの温かな手が、友奈の左手を包み込んだ。

いつの間にか振り返っては、戻ってきていた紡絆。

右手しか動かないから、両手を包むのは出来ない。だから片手を包み込んだ。

そんな彼は、自身の状態がどれだけやばいか分かっているのに、自覚しているはずなのにニコニコとした笑顔を浮かべていて、何も変わらない眩しさを感じさせて。

 

「はい」

「…ふぇ?」

 

そんな彼は友奈の手のひらを表にして、懐から取りだしたちょっと派手なパッケージのパウチタイプゼリーを手のひらの上に置いた。

思わぬ出来事に固まる友奈に、紡絆は不思議そうな表情を浮かべた。

 

「いや、あれ…うん?お腹空いたのかと思ったんだけど、違ったか?」

 

どうやら空腹を感じてるのだと判断したらしく、今の行動はそれが理由なのだろう。

にしたってゼリーでどう空腹のお腹を膨らませろという話なのだが---

 

「…ん、ふふ……あはは、ううんありがとう。貰っておくね」

「そっか」

 

その影響なのか自然と笑うことが出来た友奈は素直にゼリーを貰うことにし、紡絆はゼリーを受け取って貰えたことにちょっと嬉しそうな声音だった。

 

「紡絆くんって…ゼリー好きだよね」

「楽だし美味いからな。記憶を失って目覚めた時から好んで食べてる。あっ、でもこのことは小都音には秘密にしててくれ。バレたら怒られる……!」

「あはは、分かったよ!じゃあ、今度こそまたね、紡絆くん!」

「ああ」

 

渡すものを渡したからか、今度こそ紡絆は自分の家に帰っていく。

友奈は服を着替えるために家に入ろうとして、ふと気づいた。

自分がもう、震えてもなければ怖いという感情が浮かんでないことに。

振り向けば、既に紡絆は居ない。

ただ貰ったゼリーに視線をやり、友奈は何処か嬉しそうに自身の家に入っていく。

---ああ、やっぱり彼は、いつだって勇気を与えてくれる、とそう思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

405:名無しの転生者 ID:s/GXy00DG

いやさぁ…そこはもっとこう、なんかないの?

 

 

406:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

お腹空いてたわけじゃなかったの?それにゼリー美味いだろ!!!!!!!!

 

 

407:名無しの転生者 ID:ZdqsC5nig

期待する方が無駄だ

 

 

408:名無しの転生者 ID:+HfgF8U1s

熱量が凄くて草 どんだけ好きなんだよ

 

 

409:名無しの転生者 ID:+rPMWRRb4

イッチが怒られるのはゼリーばっか食ってまともに飯を食わないからなんだよな…

 

 

410:名無しの転生者 ID:IEw+G0mmf

そりゃ怒る

 

 

411:名無しの転生者 ID:qu3rPZ3QP

エネルギーや必要な栄養素は確かに補給出来るけどさあ

 

 

412:名無しの転生者 ID:jkbNmE2g2

んで、どうするんだ?正直やれることと言ったら部長のところか東郷さんのところに行くくらいだけど…でもイッチの負担を考えるなら動かないが一番いいな。外で吐血するのが一番まずいし

 

 

413:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

ひとまず、小都音が行きたいところあるらしいから出かけようかなと。それが終わったら皆の元へ行く

 

 

414:名無しの転生者 ID:WdoH8yXQz

まぁそうなるか。しかし妹ちゃんとこのタイミングでお出かけって……

 

 

415:名無しの転生者 ID:myWuHT4M2

まるで最後の思い出作りだな

 

 

416:名無しの転生者 ID:aqJtxs17F

あながち否定出来ないのがなんとも

 

 

417:名無しの転生者 ID:EOvu6iIW4

イッチの肉体をどうやって治すんだ、って話だからな。役目を終えたらノア様が治療してくれるかもしれないけど、ノア様も消耗してるっぽいし微妙

 

 

418:名無しの転生者 ID:rrGF51Cu3

イッチも基本諦めない!気合い!みたいな考えしか持ってないからねぇ…もし次の戦いにアレが出てくるなら打つ手があるかどうか

 

 

419:名無しの転生者 ID:Rrq+zTDk1

ぶっちゃけテレビ本編状態なら何とかなるけど、進化してるなら俺たちの知識も役に立たんからな。とりあえず最初から全力で叩くしかないとしか言えないし

 

 

420:名無しの転生者 ID:NG1YuaYWs

友奈ちゃんは今大丈夫そうだしな…もう少し居てもよかったんやで

 

 

421:名無しの転生者 ID:5QsuL2yfi

ぶっちゃけイッチはそろそろ刺されるかと思ってた。今回もだけどたらしこんでるし

 

 

422:名無しの転生者 ID:XCSI5IfSh

確かに、今思えばイッチって未だに刺されてないんだよな。最初は刺されるだろうな、と思ってたけど

 

 

423:名無しの転生者 ID:CX6Zmb74d

腹刺されたんだよなあ(毒針)

 

 

424:名無しの転生者 ID:6IZaNvyG1

そっちはイッチがマジで死にかけたやつ

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仲睦まじく手を繋いで、二人は歩く。

引っ張られる形で紡絆は歩きながら白いワンピースに身を包む小都音を後ろから見ていた。

小都音は紡絆の手を決して離そうとしない。

そして紡絆が自ら離さないのは申し訳なかったからだ。

自分の口で伝えられていないこと。再会したのにまた居なくなってしまうこと。

 

「…お兄ちゃん?」

「ん、ああ…いやなんでもない」

「そう……」

 

互いが互いを気遣ってるかのように、会話が弾まない。

いつものような穏やかな、柔らかい空気もなく。

ただどんよりとした重たい空気がある。

 

「えーと……そういえばどうして花屋に?」

 

そんな中、紡絆は小都音に尋ねる。

今もこうやって引っ張られているが、紡絆たちはちょうど買い物を終えたところだ。

 

「…そろそろ、入れ替えないとだから」

 

そう言われると紡絆も理解した。

仏壇に供えている花は生け花。いずれ枯れて散るものであり、買い換える必要がある。

だからさっき花屋で花を買ったのだろうと。

 

「………」

 

自然と紡絆の足取りは止まり、それに気づいた小都音が止まって振り向く。

何一つ変わってない、未来を見据え、希望を宿す真っ直ぐな、穢れのない黒い瞳。海のような透き通るような色は身を潜め、薄暗く濁ったような青い瞳。

互いに見つめ合う。

紡絆は一つだけ誰にも伝えてないことがあった。

かつて戦い、激戦の末に殺すことになった闇の巨人(ウルティノイド)の一人。魔人の別名を持つダークファウスト。

その正体を。

もう隠す必要は、ない。

話さなくちゃいけなかった。

それがきっと、自分に残された時間で出来ることなのだろうと。

 

「小都音、話があるんだ。ちょっと、休まないか?」

「……うん」

 

紡絆にしては珍しい真剣な様子に小都音は重大さに気づいたのか、素直に頷くと、二人は近くの公園へと足を運び、ベンチに座り込む。

一度目を伏せ、軽く息を吸い込んだ紡絆は、真実を話すべく小都音を見ながら口を開いた。

 

「実は---」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆が満開した時の、総力戦の戦いの出来事。

それらを包み隠すことなく話す。

バーテックス同士が合体して一つの個体になった強大な敵のこと。融合型昇華獣のこと。

何より、ファウストのこと。

ダークファウストの正体は母親で、紡絆は母親に何度も助けられた。

トドメを刺されそうな場面を何度も防いでくれて、最期には勝つためのチャンスをくれて。

そして、そんな母親のことを紡絆自身が殺したことを。

 

「……恨むなら恨んでくれていい。母さんを殺したのは俺であることに変わりは無いから」

 

本当はもっと、早く言うべきだったのだろう。

でも言えなかった。

言ったら、小都音が辛いだろうと。けど、もし紡絆が死んでしまえば真実が明らかに出来ないかもしれない。

だから彼は話したのだろう。その真実がどれだけ辛いものでも、例え恨まれることになろうとも。嫌われるようなことになったとしても、知っておくべきだと思ったから。

 

「そう……だったんだ」

 

話を聞いていた小都音は、理解するのが追いついたのか。

彼女は俯き、両拳を強く握る。

その姿を見た紡絆は、再び口を開く。

 

「俺は母さんを救えなかったどころか、逆に殺すことになった。ごめんな、ウルトラマンの力を持っていても俺は救えなかったんだ。許せないなら許せないでいい。けど母さんは最後まで、俺や小都音のことを想ってくれてた…それだけは分かっていて欲しい」

 

事実、紡絆は母の愛に助けられ、今もここに居る。

子を想う気持ちが闇を一時的にとはいえ封じてみせたのだから。

それに最後に伝えられた言葉は、想いは、今も変わらず紡絆の中にある。

光を、その手に掴んだのだから。

だから自分が何を言われても、母のことだけは悪く思って欲しくなかったのだろう。

 

「……違うよ」

「……?」

 

どんな厳しい言葉も、罵倒も、悪態も、恨み言も、全部受け止める覚悟をして話した紡絆だったが、小都音の言葉に首を傾げた。

 

「違うでしょ…お兄ちゃんは、悪くない……ずっとずっと、一人で抱えてきたんでしょ…?お母さんを自分の手で殺めたことを、お兄ちゃんの方がずっと辛くて、苦しいはずなのに」

「………」

 

救えなかった後悔。

紡絆の記憶にはまだそのことはある。無論、そのことで立ち止まることはないが、それとこれとは別だ。

何度も何度も、あったんじゃないかと思う時はある。

何も知らなくて、記憶のない紡絆に愛情を注いでくれた母親なのだから。

あの時はそうするしかなかったとはいえ、救えたのではと。

いくら背負う覚悟は持ったとしても、母を殺したという罪は紡絆の中に永遠と残り続けているのだろう。

 

「お兄ちゃんは悪くない…だからお兄ちゃんは恨まないよ…例え何があっても、私はお兄ちゃんは恨まないから……だから、ごめんなさい」

「…小都音?」

 

顔を見せることなく、小都音は紡絆の体を引き寄せるようにすると胸元で抱きしめた。

行動はともかく何故謝られたのか分からない紡絆はされるがまま名を呼ぶ。

 

「気づいてあげられなくて…私も抱えるべきことだったのに、一人で抱えさせて……ごめんなさい」

「………いや」

 

唯一動く右手で小都音の手を取ると、紡絆は自ら離れる。

小都音の目に映る紡絆の表情は、少しも翳りはなく---

 

「大丈夫だ。俺が抱えるべき罪なことに変わりは無い。俺は抱えて生きるって決めてるから、今更気にしてないよ。小都音はいつも通り、ただ笑顔でいてくれたらいいからさ」

「………」

 

ただ笑顔でそう告げ、紡絆は小都音の頭を撫でた。

そう、紡絆はかつてそう決意をした。

その決意は消して揺らぐことはなく。

今も過去の適能者(デュナミスト)の言葉も力も、想いも全て紡絆は受け継いでいる。

 

「そ、か……ねえ、お兄ちゃん」

「ん?」

 

特に反応することもなく、今度は小都音は紡絆の手を取ると、強く握った。

普通ならば少し痛い程度だが、スペースビーストの攻撃に耐えうる肉体を持つ紡絆には普通に握られてる程度の感覚しかない。

 

「お母さんは……なんて言ってたの? …どうして、ファウストに?」

「…たぶん、ファウストになってたのは心の闇を利用されたのかもしれない。人なら誰しも、闇は持ってる。そしてアンノウンハンド、俺たちが戦う時に介入してくる闇の力は、凄まじい力を感じるからな」

 

そうは言うが、紡絆は本当は正体も知っている。

ただ正体を知っているのは知識で、直接現場を目撃した訳では無い。

でも、見たことはあった。

一度夢で、黒い巨人を。ウルトラマンの神と言うべき存在を模造し、造られたウルトラマンだと。

あの肌で感じる強さは、今の自分でも勝てないと確信できるほどに強かった。

 

「それと、母さんは…最後に言ってた。小都音のことをお願いって。俺に託してくれた。だから俺は、約束したんだ。母さんのためにも俺のためにも小都音を守るって」

「私を……?」

「ああ、今の俺に出来ることなんて、少ないと思うけどな」

 

自身の状態を自覚してるからだろう。

苦笑しながら告げる紡絆だが、小都音はただ辛そうな表情を浮かべた。

紡絆の手を離して、服を握りしめて、唇を噛み締める。

 

「けど俺はやれることをやるよ。少なくとも、今の日常を壊させる訳にはいかない。みんな戦って、身体機能を失った。辛い目にあった。だから次は幸せになる番なんだ」

「………」

 

自分を棚に上げつつも誰かの幸せを変わらず願う紡絆に小都音は何も言わずに立ち上がると数歩歩く。

 

「お兄ちゃん」

 

小都音は紡絆に背を向けながら、振り向かずに夕陽を見るように僅かに首を上に向けていた。

釣られるように紡絆は立ち上がりながら見ると、ゆっくりと沈もうとしているが燦燦と煌めいている。

数時間後には、沈み切っているだろう。

 

「本当のことを言うね」

「…?本当のこと?」

 

一体なんのことなのか、紡絆には分からない。

流石の紡絆も他人の思考は読めないし心も読めない。

それでもきっと大事なことなのだと聞き逃さないように耳を傾けた。

 

「私、お兄ちゃんのそういうところ好きだよ。誰かのために行動して、誰かのために頑張って、必ず誰かを照らすその姿。

お兄ちゃんは、記憶を失っても……昔からそうだったから」

「………」

 

知らない、自身の過去。

記憶を失ったあとも、ただそうしたいから、と人助けに専念してきた紡絆ではある。

しかしそれは、過去を知る小都音の言葉から察するに、記憶を失う前もそうだったのだろう。

 

「今も昔も、一切変わらないお兄ちゃんは、本当に()()()()()()()()()だなって思う。でもね、私にとってお兄ちゃんは…眩しすぎるの。ずっと後ろに居た。ずっとお兄ちゃんの背中を見てきた。お兄ちゃんのようになれないしお兄ちゃんみたいに私は輝けない。だから同時に……私はお兄ちゃんが怖い」

「小都音………」

「他人ばかりで、自分のことは考えない。自分が死ぬことになることがあっても、手を伸ばそうとする。他人が悪い状況でも、恨むことなく自分だけを責める。私にとってお兄ちゃんが一番なのに。大切なのに。傷ついて欲しくないのに、お兄ちゃんは絶対に聞いてくれない。()()()だって、それでお兄ちゃんは……。けど、それがお兄ちゃんの良さでもあるんだよね」

 

今の紡絆が昔と変わらないのは、どんなことがあろうと、ウルトラマンを宿そうとも自我が強いからだ。それこそ、全てを忘れてしまったとしても、その根本的な部分にあるのは()()()()()()()()

例え辛い思いをしようとも、紡絆という人間は誰かのために全てを背負い、誰かのために何かをしようとする。

動物、人間、世界、神、ウルトラマン、闇の巨人(ウルティノイド)

どのような存在が相手だろうと、彼は決して何もしないという選択を取ったことはなかった。

継受紡絆という人間は、ただのお人好しに見えて、この世界で誰よりも狂っているのかもしれない。

まるで、常に何かに突き動かされているかのように。

 

「気がつけば消えてしまいそうで、居なくなってしまいそうで、怖い。けど、それ以上に好き。止めたいと思っても、やっぱり止められないって……改めて思うんだ。だってお兄ちゃんは、いつだって私を助けてくれたから。誰かを助けるお兄ちゃんが一番かっこよくて、輝いていて、本当に()()()()だから。

お兄ちゃんは…今も私にとっては身近なヒーロー(勇者)だもん」

 

好きでもあり、怖くもある。

自分を大切にしない生き方は、確かに求められるヒーロー像としては正しいのかもしれない。

けれど家族にとって、身近な人にとっては間違っている。

小都音にとって、自分のことを考えない紡絆がいつか目の前から失われるかもしれない、というのが怖いのだろう。

それでも、そんな兄の背中を見続けた小都音にとっては決して否定出来るものではなくて、他人を思いやれる姿が誇らしくて、眩しくて、好きなのだろうと。

 

「……俺が勇者、か」

 

紡絆はいつも考えては分からないという結論が脳裏に浮かぶ。

何故ウルトラマンという光を、自分が得たのだろうと。

戦う理由とは別の、未だに見つかってない答え。

 

他人を思いやれる優しさ。非情になりきれない甘さ。

諦めない強さ。諦めの悪い煩わしさ。

眩い光を持ち、暗い影を持たない。

紡絆という人間はそういった真反対の性質を持っている。

彼の性質はそれこそ光。皆が光と例えるほどに紡絆という人間は闇とは真反対である存在。闇の者からしたら脅威と言われるほどに。

そんな彼だからこそ、光の象徴であるウルトラマンが、人類という種の中でも最も性質が近しい紡絆に宿ったのか。

それともまた、別の理由なのか。

今も尚、答えは分からないし考えてもやはり見つけられない。

ただ紡絆はきっと、見つかるまで自分が得た光の意味を探し続けるだろう。

 

「もしかしたらそれが運命…ってやつなのかもね。私の前から、お兄ちゃんが消えるのも」

 

そう言って振り向いた小都音はただ悲しそうで、寂しそうで、やっぱり全てを察してるかのような、そんな表情だった。

 

「…小都音、もしかして---」

「…分かるよ、下手だもん。お兄ちゃんは嘘をつくのも隠すのも」

「そうか…やっぱり、気づいてたんだな」

 

紡絆も特に驚いた様子はなかった。

それはそうだ。小都音は鋭い。

紡絆なんかよりも賢い。雲泥の差、それほどに。

東郷が答えに辿り着けたなら、妹である彼女が辿り着けないはずがない。

 

「でも俺は…諦めたわけじゃない」

「それも知ってる」

「…まだ救えてないからな」

「…前から、変わってないよね。止まってくれないんだよね」

「ああ」

「傷つくのはお兄ちゃんだよ。戦っても、感謝されるわけでもないし痛いだけ。苦しいだけなのに…この世界があったとしても息苦しいだけ。なのにお兄ちゃんは…諦めないの?」

「それがきっと……俺なんだろ?」

「……そうだね」

 

決して折れない意思。

こんな状況であろうと何も変わることもない。この先も、昔も今も絶対に揺らがないのだろう。

 

「…私にできることはきっと、ないんだと思う。私は勇者でもないしウルトラマンでもないから」

「それは……」

「何も言わずに聞いて」

 

小都音の言葉を否定しようとしたのだろう。

しかしそれを遮る言葉に、紡絆は押し黙る。

 

「ウルトラマンは嫌い。神樹様も嫌い。この世界も嫌い。お兄ちゃんを傷つけるもの全部、私は嫌い。でもお兄ちゃんのためなら私は、なんだってするよ。だから今私に出来るのは---これを渡すことだけ」

 

小都音は紡絆に何かを差し出す。

ただ黙って聞いていただけの紡絆はそれを見て、首を傾げた。

見た目は小さな箱。

包装はされておらず、外見だけでは中身までは分からない。

透視能力を使えば分かるのだが、それは野暮だろう。

 

「これは?」

「…誕生日プレゼントだよ。去年渡せなかった、プレゼント」

「……ああ」

 

そう言われて、紡絆は思い出したかのように納得する。

紡絆の誕生日はまだだ。

ただそれでも、去年の誕生日には既に家族は居なかった。

正確には父親は分からないが、母親はファウストにされ、妹の小都音は天海家に居たわけだが。

 

「…開けても?」

「うん」

 

普通に片手でも開けられるタイプのようで、開けていい許可を貰った紡絆は落とさないように慎重に開けると、箱をベンチに置いてから中身を取り出した。

指で持てるくらいの軽さと大きさ。

黄金色に輝く金属に、ぶらりと揺らぐもの。

 

「ネックレス…これ、太陽か」

 

太陽---言わずもがな地上から見える最も明るい恒星。

地球も含まれる太陽系の物理的中心であり、太陽系の全質量の99.8 %を占め、太陽系の全天体に重力の影響を与えるもの。

そのネックレス。

しかしそれだけではなく、月のペンダントが重なるように存在していた。

 

「それと…もうひとつ」

 

もうひとつのは花が描かれた栞。

夏から秋にかけて咲く花。

ちょうど今の季節くらいだろう。

優しいピンクの花柄で誰でも見た事があるような花。

 

「結城さんに作ってもらった押し花」

 

紡絆でも見た事がある花で、その栞を小都音は紡絆の胸ポケットに挿し込む。

 

「何も出来ないけれどお兄ちゃんを見送ることはしたかったから。何かを、贈りたかったから…」

「…そうか。ありがとう、最後まで大切にするよ」

 

不思議とすんなりと納得が行く。

これが最後になるかもしれないから、だと。

紡絆はネックレスを箱に戻し、ポケットの中に突っ込むと笑顔を浮かべる。

そんな紡絆とは対称に、小都音はさっきも今も、暗い表情のままだ。

 

「そういえば、さっきの花は何の花なんだ?」

「…あれは---」

 

ふと気になって、紡絆は聞く。

確かに見たことはある花だったが、名前までは知らない。

当たり前だろう。

花に興味がなければ、花の名前なんて覚えてる方が少ない。

薔薇だったり紫陽花だったり向日葵だったり桜だったり、本当に誰でも名前を知ってるような花なら別だろうが、紡絆は星に特化している。

当然知り得ないので、小都音は答えるために口を開き---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()がした。

 

「小都音ッ!」

 

妙な違和感。

感じられた鼓動。

ウルトラマンを宿す紡絆だからこそ、気づけたのだろう。

上空に現れた()()()

ブラックホールのような、ワームホールのようなナニカ。

 

「え---」

 

小都音の背後に見えるそれから守るために、紡絆は迷うことなく自分と小都音の位置を変えながら抱きしめた。

 

「がっ!?」

 

そして妙に固く()()()()()()()()が紡絆の首に巻き付き、締め付ける。

咄嗟に小都音を強く押すことで距離を離したのが幸いとなったのか、狙われていたのかは定かでは無い。

しかし物凄い力で首を締めつけられ、唯一動く右手で引きはがそうとするが外れない。

 

「お、おに---」

 

それどころか、尻もちを着いて目を見開く小都音の声を遮るように至る所から悲鳴が聞こえた。

男性だけではなく女性も含め、周囲の人間が悲鳴を挙げる。

呼吸が困難になるほどに圧迫され、酸素を取り込めない中、引き寄せられるように紡絆の体が徐々に異空間の方へ持っていかれそうになる。

ウルトラマンによる身体能力の強化を()()で使うことで留まるが、触手は外れることがない。

それに紡絆の身体能力を持ってしても、その力は紡絆をも上回っていた。

 

(こ、この気配……そうか!今まで感じられなかったスペースビースト振動波の正体はコイツか!?別の異空間に連れて行き、人間を捕食してたのか……!!)

 

そう、その正体はまさしく()()()()()()()()

ただ姿は見えず、敵の正体は分からない。

それでもこの場にいる殆どの人間を連れて行こうとすることから、複数の触腕を持っていると判断するのは容易く、なおかつゲートのように様々な空間から触手が伸びているのが厄介なところだった。

 

(ま、まず……ッ!)

 

忘れてはならない。

紡絆は確かに首に巻きついた触手を剥がすことは叶わず、抵抗するように全力で踏ん張っている。

だが、触手の力は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()があるのだ。

だとすれば、何の力もない、ただの一般人はどうなるか?

当然---浮く。

異空間に連れていかんとする触手に気づき、紡絆は懐から取り出したブラストショットを迷うことなく()()に放つ。

ブラストショットによって放たれた、小型のスペースビーストならば一撃で倒せる真空波動弾は一直線に飛んでいき、今にも連れていかれそうになっていた人の触手が貫かれ、力を失ったことで解放される。

 

「お兄ちゃん…ッ!」

「に…逃げろ……ッ!!」

 

苦しい中、全員に届くように全力で叫ぶと、解放された人は逃げ出すが、小都音は逃げ出すことはせずに紡絆の首に纏わりつく触手を剥がそうとしていた。

そんな小都音が邪魔になったのか触手が伸びてきたのが見えた紡絆はもう一発。

迫ってきていた触手に放ち、なおかつ射線状にいた別の人を一気に解放する。

しかしブラストショットは元々装填されている弾数は二発しかなく、装填するには()()が必要となる。

つまり紡絆にはもう弾数を補充することが出来ず、これ以上の人を救えない。

そのためブラストショットと入れ替えるようにエボルトラスターを取り出す。

すると脅威だと識別されたのか自身に迫る触手に気づき、小都音を再び引き離すように押すと、そのタイミングで右腕に触手が纏わりついた。

思わぬ痛みにエボルトラスターを落とし、次に左腕と両足まで拘束する。

 

「……!じま---ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

666:名無しの転生者 ID:3H6fErxoP

ショタ相手に触手プレイやんけ!!興奮するだろッ!!

 

 

667:名無しの転生者 ID:3sqwXP3Wc

そんな場合じゃねーよ!アホ!今のイッチにビーストの攻撃はマズイですよ!しぬぅ!!

 

 

668:名無しの転生者 ID:oWQRluP7A

こいつの存在忘れてたなぁ!!そういや別の位相にいるんだったか!!

 

 

669:情報ニキ ID:JoUHou2in

EPISODE.22、EPISODE.24に登場したフィンディッシュタイプビースト、クトゥーラ!

『異形の海』という空間(ダークフィールドの応用と思われる)を根城にするスペースビーストで恐らくビースト振動波が感知出来なかったのはそれのせいだ!

こいつはスペースビーストの中でも特に醜悪な姿をしていて、サンゴやタコなどの海洋生物を合成させた体に「ムンクの叫び」や某ホラー映画の殺人鬼の様な顔がついているのが特徴な見た目を持っている!

 

主な武器は全身の穴から出す細い触手で、ウルトラマンを捕縛したり投げ飛ばす程の力を持つ上に、フィールド内から触手のみを伸ばしてイッチの世界をほぼ一方的に攻撃することができる厄介さを兼ね備えているぞ!

さらに口のような大きな穴からは敵に触れると爆発する黒い煙を吐く能力もある!

なによりこいつは姫矢准が限界を迎えていた為、禄に戦えない状態であったとはいえ、ウルトラマンネクサスを正面対決で倒してみせたスペースビーストだ…!

 

 

670:名無しの転生者 ID:LAbi2rRjr

あっ、マジでやべぇ!

 

 

671:名無しの転生者 ID:hOg8shlvp

まずいまずい!イッチが異形の海に連れて行かれたら詰む!

 

 

672:名無しの転生者 ID:oetBlFGI1

あー!変身!はダメだもんな!というか落としてるし!どうするんだよこれ!たすけて!誰か助けてー!転生者ー!イッチの世界に転生した方いませんかー!!

このタイミングでスペースビーストが現れるなんて聞いてねーよ!

 

 

673:名無しの転生者 ID:jU7SM5jWm

というかこの状況で他人優先するイッチホントなんなのブレなさすぎだろ!

 

 

674:名無しの転生者 ID:oAjb3Y5jP

まぁそこはイッチらしいよなあ…そんな場合じゃないんですけどね!!

 

 

675:名無しの転生者 ID:6ACofzEaF

おっ?今のはまさか……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲホッ、ゲホッ!?な、なんだ!?」

 

いくら身体能力が強化されていても四肢を拘束された上に首まで締められてしまうと意識が消えかけていた紡絆だったが、突如として自由になった体に驚きながら地面に着地すると、さっきまであった触手のゲート---異形の海を繋げる空間が閉じられ、次々と周囲の触手が切り刻まれていく。

 

「スペースビーストの触手を……!」

 

自身の身体能力でも片手とはいえ引き剥がせないほどに強い拘束力を秘める上に、真空波動弾でも全て破壊しきれないくらいには頑丈なはずが、全て解放されていた。

一体誰なのか気になったが、小都音を守るためにもエボルトラスターを取り返すためにも紡絆は引き離された距離を一気に駆け抜ける。

すると周囲の人々を狙うのをやめたのか、複数の触手が紡絆を囲むようにして出現した。

 

「!?」

 

まさか対象を絞って自由自在に干渉できる空間を作れるとは思わず、囲まれた紡絆に迫る触手。

すんでのところで回避するが、今度は触手が捕まえるのではなく、紡絆に攻撃するように振り下ろされる。

咄嗟に右腕でガードするが、その威力は凄まじく。

衝撃で紡絆の体が反転し、触手が腹に巻き付くと一気に引っ張っていく。

 

(こいつ…俺を狙ってる…!くそ、両手が使えたら……それになんだ、さっきからなんなんだ、これは……!)

 

意識が遠のき視界が、眩い光を映していた。そして意識が戻り、また光が見える。

それを繰り返すだけで、ただ見るたび、胸が僅かに熱くなる。

それでも今はそんなことに構っていられる暇はなく、頭を振るって意識を取り戻すと足に力を入れるよりも早く動いた触手は紡絆を連れていかんとしていた。

咄嗟に右手で剥がそうとするがやはり取れない。

異形の海の空間が近づき、あと数秒もすれば紡絆は現実世界から居なくなるだろう。

諦めることなく片手で何とかしようと足掻いていたが、間に合わないかと思われたとき()()()()()が触手を弾き飛ばす。

さらに別のところから飛んできたであろう緑の光が次々と触手を弾き、諦めたのかゲートと共に触手は姿を消した。

 

「今のは……まさか」

 

驚いたように、紡絆は緑の光が飛んできた場所を見ると、やはりというべきか。

 

『大丈夫ですか?』

「…樹ちゃん」

 

勇者の力を纏う、犬吠埼樹が心配した様子で---喋れないのでスマホのメモで書いた文字を紡絆に見せていた。

さっき驚いたのは紡絆は樹が来ていたことが予想外だったのだろう。

 

「ありがとう、スペースビーストが急に現れて…来てくれなかったらやばかったよ。お陰で助かった…他のみんなが連れていかれることもなかったし、最後もやばかったからさ」

「………?」

『どういたしまして』

 

その言葉に僅かに違和感を覚えたものの、樹は特に追及することなくお礼を受け取ると小都音の方へ早歩きして近づいていき、紡絆は割と痛かった腹を軽く抑えながら歩いて向かっていく。

 

(樹ちゃんに助けられてなかったら危うく連れて行かれるところだったな……)

 

四肢を含め首も拘束されていた時はともかく、最後のことに関しては紡絆は()()()()()()()らしく、樹に助けられたと思い込んでいる。

そして樹が違和感を覚えたのは間違いなくそこなのだが、樹が喋れたならその答えは解けただろう。

 

『小都音ちゃんも大丈夫?』

「あ……樹ちゃん……。来て、たんだ」

『うん、帰るところだったけど騒ぎが起きてたのが気になって……』

「…そ、か」

 

座り込んでいた小都音の手を取った樹は彼女を起こすと、ここに来た経緯を話していた。

当然といえば当然だが、あれだけ周囲の人々が異様な状況に巻き込まれていたら騒ぎになるだろう。

最初に紡絆が叫んだ影響か、周囲にはもう人が居ないが。

 

「その姿が…勇者の服なんだ……似合ってるね」

『あ…ありがとう』

「……あと兄さんを助けてくれて、ありがとう」

だ、大丈夫……!?

 

姿を褒められ、照れる樹だが小都音は覇気のない様子でそれだけ告げると、力が抜けたように樹の胸にもたれかかる。

樹は受け止めると、どこか怪我でもしたのかと慌てた様子だった。

 

「小都音……怪我はないか?」

「……うん。兄さんの、おかげで……兄さんは…?」

「俺も樹ちゃんのお陰でな」

そ、そんな…私は偶然来ただけですし…

 

紡絆の顔を見ないためか、それとも表情を見せないためか抱きつくように樹にくっつく小都音の影響でスマホが打てずに首だけを振る樹だが、紡絆は樹の頭を軽く撫でる。

 

「あれは別の位相にいるスペースビーストなんだ。だからきっと、あのままなら俺も……樹ちゃんが助けた人々や小都音も危なかったかもしれない。特に俺は変身する暇がなかったしな、だからありがとう」

「………ッ」

 

別に言葉は通じてる訳では無いが、反応から見て遠慮してるのだろうと気づいた紡絆は撫でながら告げると、樹は恥ずかしそうに頬を赤めながら頷いた。

満足したのかよし、と頷き、紡絆はエボルトラスターを探すように見渡すと、遠くに落ちてるのが見えた。

 

『そういえば紡絆先輩。今も……この前から左手使ってませんでしたけど……何かあったんですか?』

「……あーそれは」

 

あの状況でも気づいていたのか。

いや、そもそも紡絆は誰かを助けるためなら絶対に自身の力を全て使ってただろうし、何より最後に連れていかれそうになったとき樹は既に近くにいた。

そこでも右手のみしか使ってなかったし日常でも使うような場面を見なかったからだろう。

疑問を抱いても何の違和感もないしさすがに誤魔化しきれない。

それにもう全部隠す理由もない。

どうせいずれは知らなければならない真実で、紡絆はそれを話すために場所を変える提案をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話された真実。

紡絆の自身の身体機能が失われていること。失われた部分。自身の命がもう尽きようとしていること。

そして勇者システムの真実。満開の後遺症。先代勇者のこと。

まだ話すなとは言われていたが、紡絆の性格上隠すのが苦手だったのか普通に話した。

全部を話し終えると、樹は喉元に右手をやり、ショックを受けたのか顔を伏せていた。

治らないと言われて、思うところがあるのだろう。

樹の隣にいる小都音が、樹の左手に触れる。

 

「ごめん。本当は話さない方がよかったかもしれない。それかもっと早く話すべきだったかもしれない。でもきっと、近いうちに知ることだと思うから」

 

俯く樹に紡絆は残酷な真実を話すしたことに申し訳なく思うことしか出来ない。

果たしてこの選択が正しいのか紡絆は知らないからだ。

話さない方が精神的には良いかもしれないが、何も知らないというのはそれはそれで辛い。

結局どう転ぼうとも紡絆は話しただろうが。

ただこの真実を話したのは紡絆であることから彼は樹が耐えられないなら支えるだろうしもう勇者にならないことを選ぶならそれはそれで尊重するだろう。

しかし---

 

『紡絆先輩は悪くありません。でも尚更…お姉ちゃんのところに行かなきゃ』

 

紡絆の予想を超え、顔を上げた樹には暗い表情が見られなかった。

自身の身体機能が治らないと言われたようなものなのに、彼女は足踏みすることなく前を見据えている。

 

「……驚いたな。辛くないのか?」

『辛いです。もう治らないって伝えられて、紡絆先輩が長くないって知らされて…でも』

「でも?」

 

スマホで打たなければならない分時間がかかるが、樹も辛くはあるのだろう。

ならば、彼女を動かす根源はなんなのか。

 

『紡絆先輩、諦めてませんよね?』

「ああ」

『なら私も諦めません。だって、紡絆先輩と約束しましたから』

「………」

 

こんな状況でも、樹は笑顔を作る。

確かにこの真実を伝えられて、平気で居られる人間はほぼ居ないだろう。

紡絆が異常なだけで、他の皆は心に深い傷を負ったはず。

だけど樹は、紡絆との約束がある、というだけで前を向けていた。諦めてなかった。

 

『それにお姉ちゃんの方がもっと辛いと思うんです。たくさん一人で抱えて…だから心配です』

「そうか、樹ちゃんは強いな」

『それはお姉ちゃんや小都音ちゃん、友奈さんや東郷先輩、夏凜さん。そして紡絆先輩のお陰ですよ』

「そっか」

 

そう告げる樹に、紡絆は微笑む。

最初に会った時とは比べずとも分かるくらい、勇者部というものが彼女を強くしたことに。

紡絆はそんな樹に対して褒めるように頭をポンポンと優しく撫でると、さっき移動した際に拾ったエボルトラスターを手にして---

 

「ッ!?」

「…お兄ちゃん!?」

紡絆先輩!?

 

頭を抑える。

さらに突然と膝を着く紡絆に黙って聞いていた小都音が駆け寄り、樹も携帯で文を打つことすらせずに駆け寄っていた。

そんな二人を安心させるためか、大丈夫というように頭を抑えていた手を向けると、紡絆の頭の中に何かの、映像のようなものが浮かぶ。

まるでBlu-rayやDVD、ビデオといったものを再生したかのように。

 

「……東郷?」

「…お兄ちゃん?」

『紡絆先輩…?』

 

この場にいない人間の名前を呼ぶ紡絆に二人は訝しげにしていた。

しかし紡絆は気にした様子はなく、ただ強い光を目に宿しながら立ち上がった。

 

「病院…先代勇者の二人……?行かないと」

 

紡絆の中で駆け巡ったのは記憶。

東郷がどこかの病院に入り、受付の人に案内されて先代勇者と会っているところ。

そこで映像が切れたが、自身の中で警報のような、使命のようなものが宿る。

いわゆる嫌な予感というもの。

 

「ごめん、樹ちゃん!小都音を頼む!風先輩のところには夏凜が行ってるし俺も後で行くから!」

えっ!?紡絆先輩?ど、どういう…っ!?

「…!ま、まって、お兄ちゃん!」

 

何の説明もなく小都音を託す旨だけでなく姉の元にいつの間にか夏凜を派遣していた紡絆に樹は色々と聞きたかったが、聞く暇もなく紡絆は走り、小都音の呼び掛けに足を止めた。

 

「どうした?」

「えっ…と……」

 

咄嗟に振り向いた紡絆だったが、呼び止めた小都音は何かを言いたそうで、言いたくなさそうで、何処か迷うような素振りを見せると取り繕うような上辺だけの笑みを浮かべた。

 

「いってらっしゃい……気をつけてね」

「ああ、ごめんだけど樹ちゃんも頼んだ!」

 

それに気づくことはなく、紡絆は走り去っていく。

去る背中を見つめながら、伸ばしていた手を握りしめると小都音は樹にも笑いかける。

無理をしてるかのような、弱々しい笑み。

 

小都音ちゃん……?

「…樹ちゃんは、大丈夫?」

う、うん…私は大丈夫だけど…

「そっか…樹ちゃんは私と違って、強いね…」

 

そういう小都音の声には感情は乗って居らず、今も紡絆が走り去った先に視線を向けていた。

 

『紡絆先輩なら…きっと大丈夫だと、思う』

「……」

 

樹は何と言うべき解らず、当たり障のない事を言うしか出来ない。

それを一瞥した小都音からは、暗い表情は消えず。

瞳に宿す暗闇は一層濃くなる。

けれども、それは誰にも気づけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザワつくような、漠然としない嫌な予感を胸に紡絆は駆ける。

果たしてそれは、一体なんなのか。

ただ何かが告げて、導かれるように紡絆は行動していた。

きっと自分は行かねばならない、と。

 

「……ここか」

 

急ぎたい気持ちを抑え、目的地である病院へ入って受付の人に声を掛ける。

 

「あの」

「ご案内致します」

「…!」

 

まるで自分のことを知ってるかのような対応で、何も言っていないのに動く受付の人の姿に流石の紡絆も驚いたが不思議と理解できた。

大赦の仮面を着けていることから、大赦の人間だということを。

 

そして病院内であることから走れないため、歩いて案内された先には明らかに異質な部屋。

隔離されてるようで、他の病室とは大きく離れてる上に祀っているかのような光景。

それらを軽く見渡すと、先程視た映像と同じであることを理解する。

 

「……ひとつだけ、どうしても言いたいことがあります。ずっと言えなかった、後悔が」

「……?」

 

部屋の前に着くと、案内してくれた女性は仮面を取ると、振り向く。

顔立ちは良く、黒い髪に茶色の目。

前世の地球で何処にもいた日本人そのものの見た目をした女性が、複雑そうな表情を浮かべている。

その姿を紡絆は、不思議と()()()()と思った。

 

「ありがとう…そしてごめんなさい」

「…え?」

「………」

 

見覚えのない謝辞に事情が呑み込めず、目を見開いてぼんやりする紡絆に目の前の女性は酷く辛そうな、悲しそうな表情を一瞬浮かべると、それを隠すように仮面を被る。

 

「---」

 

小さな声で何かを呟いたようだが紡絆には聞き取ることは出来ず首を傾げる。

だけど---

 

「…あの。なんで感謝されたのか謝られたのか、分からないんですけど。

何か俺のせいで抱えてるなら、気にしないでください。以前の俺も、今の俺も、それは望まない。感謝するってことは俺が何かしたんだと思うけど、感謝されるようなことをしたなら良いことを出来たと思うんです。ならそれで()()()()ですから」

「……ッ!」

「あ、勘違いだったらすみません」

 

多くを語ることをしなかった女性に何かまでは分からない。

だが言葉から察するに、記憶を失う前の紡絆は関わっていたというのは分かる。

だからこそ紡絆は自分が原因だと看破して笑顔でそう告げたのだが、女性は一瞬固まり、手を強く握りしめて、何も言わなかった。

そして要件は済んだというように、女性は()()()()()()()()紡絆の背後に控えた。

話も案内も終わり、ということだろう。

行動で察することが出来た紡絆は病室をノックした。

 

「は〜い」

 

伸び伸びとした、つい数日前に聞いた少女の声が聞こえた。

紡絆は悩むことも無く、ドアを開けると中に入る。

少し歩き、相変わらず部屋の中も異様ではあるが気にすることなくベッドへと近づくと、二人の少女が驚いたように紡絆を見ていた。

 

「あれ…はるるん?」

「どうしてここが…」

「東郷がここに来たことが…視えたんだ」

 

神官の女性は相変わらず後ろに控えているが、ここに来た理由を説明すると金髪の女性---園子は理解したような表情を浮かべた。

 

「ごめん。本当は話すこともあると思うし、俺も話したいとは思う。けれど」

「…時間が無い、んだよね」

「……!知ってたのか」

「わっしーから聞いたんだぁ。散華のないはずのはるるんが、()()()()()()()()()って」

 

たったのそれだけで紡絆の状態に行き着くのは凄いとしか言いようがないが、紡絆は肯定を示すと、やはり園子と銀髪の少女---銀も悲しそうな表情をする。

 

「東郷がここに居ないってことは……何かあったってことだろ?教えて欲しい、俺は行かなくちゃならない。東郷を一人にするわけには行かないんだ」

「それはいいけど……お前、その状態で動く気か?」

「足は動くし、口も動く。頭も…まあ働きはしないけど動くから問題ないよ」

 

間違いなくそういう意味で言われたことではないが、紡絆の返しに呆れたように銀はため息を吐いた。

 

「やっぱ変わないな、陽灯」

「そうなのか?」

「そうだよ。誰かのために真っ直ぐ突き進む姿はいつだって変わらない」

 

今も紡絆がここにいる理由は、東郷のためだ。

彼の脳裏に流れてきた映像には確信を持ったような様子で入っていく姿が映っていた。

そして小都音だけではなく、二年前。

陽灯として生きた期間を知る彼女がそういうなら昔も、紡絆という人間は誰かのために行動していたのだろう。

 

「…いいよ。はるるんの知りたいことはきっと、()()()()()()()。でも一つだけ聞かせて?」

「世界の、真実…?それを聞けるなら、答えられるものなら何でも答えるけど…」

 

やはり情報を持っていたようで、東郷はそれを聞いたのだろうと察したが、園子が何を自分に聞きたいのか分からない紡絆は予想がつかない。

 

「今のはるるんを突き動かすのはどっち?()()()()()()なのか、継受紡絆という()()()()()としてなのか聞かせて欲しいんだ」

 

おっとりした様子は身を潜め、彼女は鋭く真っ直ぐな瞳で紡絆を射抜く。

嘘は許さないと言わんばかりに、ウルトラマンを宿す紡絆ですら気圧されるほどの気配。

それはシステムを纏わずとも()()の園子だった。

けれども---

 

「決まってる、()()だ」

 

紡絆は空白もなく即座に返した。

威圧感に支配されることも無く、嘘をつくこともなく、真っ直ぐに返した。

 

「私は『どっち』かって聞いたんだけどなぁ〜…?」

「俺はウルトラマンを宿す人間だ。だからウルトラマンも継受紡絆という人間も()()だろ?」

「それは屁理屈って言うんだよ、はるるん」

「そうかもしれない。けど俺という人間もウルトラマンも誰かを助けたいと願う心に偽りはひとつもないんだ」

「その回答は…ずるいね」

「ごめん、けど」

 

求めていた回答ではなかったのだろう。

無理筋を通してでも紡絆は説得するためか口を開こうとするが、園子が遮るようにゆっくりと動かされた人差し指が紡絆の口を塞ぐ。

 

「しーっ」

 

口を塞がれた紡絆は目をぱちくりと瞬きさせ、その言葉を呑み込むと試されたということを理解した。

 

「はるるんはきっとこれを知ったら、自分を責めると思う。わっしーの元に行くと思う。それで…彼女を止めようとするはず」

「分かるのか?」

「だってそれが、貴方だから。私の知る、はるるんだったら絶対ぜーったいそうするよ」

「…そうか、そうだな。少なくとも東郷の選択が()()()()()なら止めるよ。東郷が闇に呑まれたなら、助け出す。きっとみんなの状態を知って、俺の状態を知って、二人から話を聞いて、頭のいい東郷なら何かの結論を導き出しただろうから」

「そっか」

 

確信を持った表情で告げられ、紡絆はそれを否定せず眼光に強い輝きを宿し続ける。

その瞳を見て、園子は一度目を伏せると銀に視線を送った。

 

「ミノさんもいい?」

「ああ、どうせ止められないしな」

「今の俺も過去の俺もそう言われてる気がするな……一体どう思われてるのやら」

「聞きたいか?」

「いっぱい言えるよ〜?」

「い、いや…遠慮しとく」

 

ちょっとした好奇心が言葉になったが、園子と銀の笑顔に嫌な予感を感じた紡絆は自身の勘に従って聞かないことにした。

それはともかく話は逸れたが、紡絆は園子と銀が話し出した真実に聞き逃さないように集中した---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが世界の真実だよ」

 

そう締めくくった園子は口を閉じた。

全部を理解することは出来なかったが、重要と思われる部分を反芻するように紡絆は一部の単語を口にした。

 

「天の神…バーテックス……神樹様…結界…ザ・ワン……」

 

話されたのは紡絆も知らなかったこの世界の真実のこと。

バーテックスと神樹の存在とその結界。かつてこの世界を襲った始まりのスペースビーストの存在。

逆を言えばそれ以外の話はしておらず、当然ながら園子と銀は二年前、つまり紡絆が陽灯という人間だった頃の話はしていない。

 

「…話の途中、申し訳ありません」

 

そんな中、紡絆の病室の扉前に佇んでいた神官が紡絆たちに声をかける。

園子と銀は視線を送り、紡絆は何かを考えているようだった。

 

「何かあった?」

「今代の勇者である犬吠埼風様が暴走した…との報告が」

「ッ!?風先輩が?」

 

報告を聞いた紡絆は知っている名前を聞いて反応する。

それと同時にスマホが鳴り、一瞬だけ画面を見ると風を止めろというメールが大赦から送られてきていた。

どうやら本当のことらしい。

 

「確かに来てる…でもなんで二人にも?」

 

その疑問は当然であり、彼女は紡絆だけに言ったのではなく、この場の全員に告げた。

といっても声は淡々としていて、本当にただ仕事をしただけって感じではあったが。

 

「あ〜本当はね、私たちは勇者が何らかの形で暴走したら抑える役目なんだよ〜」

「抑える…ってその体でか?」

「いや陽灯だけには言われたくないんだけど。まあ精霊の数が段違いだからな」

「たくさんの武器でどかーんだからね〜。今の私たちはスペースビーストにも勝てるよ」

 

満開を繰り返したことで強くなり、スペースビーストにも勝てるということは実力自体はウルトラマンに匹敵するということ。

 

「陽灯は真実を知った。 一つだけ話してないけど…それは自分の目で見た方がいいと思う。ただ須美は間違いなく、確かめるために壁の外に向かったはずだ。ああ、ちなみにあたしらは何もするつもりないから。今の勇者たちの選択に従うし須美や陽灯の選択も否定しない」

「はるるんはどうするの?犬吠埼風さんの取った選択。壁の外を見てわっしーが選んだ選択を止めようとする?」

 

銀と園子が問いかけるように再び紡絆を見る。

しかしその目は穏やかで、友を想うような、慮るような様子だった。

そんなふたりに対して---

 

「止める」

 

どんな真実を知ったとしても、紡絆はやはり迷わなかった。

紡絆はただポケットに手を突っ込み、エボルトラスターを取り出す。

 

「話を聞いてさ、ひとつ、分かったことがあった」

「分かったことって?」

 

紡絆はエボルトラスターを強く握りしめ、嬉しそうな、誇らしいような、そんな喜びの感情を浮かべながら見ると、顔を挙げて二人に視線を変えて語る。

 

「俺の力は多くの人に受け継がれてきた物なんだ。そして勇者も同じだったってことだろ?なんというか、運命的なものを感じてさ。西暦の頃から、勇者のバトンは繋がれてきたんだと思う。だったら()の名を持つ俺が、そのバトンを()()な形で終わらせる訳にはいかない。思いを無駄にはさせられない」

 

ウルトラマン---紡絆に宿るウルトラマンは『絆』の名を持つ光の巨人。

はるか昔、それこそ数万年前から受け継がれ、多くの者に託されてきた光。

勇者は西暦の頃から神世紀に渡り、多くの者に託されてきたバトン。

双方ともに受け継がれてきたもの。

そして継受紡絆という人間の名にも『絆』の字が入っている。

複数の偶然が重なり、それは今、運命のように収束していた。

 

「だから……俺は行くよ。それがきっと、俺の成すべきことだと思うから」

 

紡絆の残る変身回数は一度のみ。

それ以上の変身は紡絆の命を奪い、彼はこの世から消えるだろう。

だが、その程度で止まる紡絆ではない。

暴走した風を止めるため。

真実を知った東郷を止める、否。

救うために。世界を救うために。この世界に生きる人々を救うために。みんなを救うために。誰かの心に、光を灯すために。絶望を打ち払うために。

 

「本当にそれでいいのか?陽灯は死ぬかもしれない。須美たちや今の勇者たちと戦うことになるかもしれない」

「…それに陽灯が選ぶその選択は、間違いなく大赦の人が望む選択だよ。はるるんは散々騙されて、利用され続けて、それでも大赦を含め世界を救う選択をするの?大赦のいいようになるの?」

「いや、違う」

 

まるで最後の警告をするように告げる銀と園子は真剣な顔で、遠回しに告げられた大赦の駒になり続けるのかという言葉を紡絆は否定する。

 

「俺は死なないし戦うわけじゃない。俺が選ぶ選択は誰のものでもないんだ。俺がやりたいからやる。その末に()()()()利用されることになってもそれは俺の意思であることに変わりは無いからな。 世界を救うために、俺は残った最後の力を使う」

「…相変わらずむちゃくちゃなこと言ってるなお前。言い訳にしか聞こえないんだけど」

「それは否定しないな。結果的には、そうなるだろうし…けど俺は()()()()()()()()()この世界を救わなくちゃいけない」

 

行動としては、結局大赦の言いなりになっているようなもの。

違う点といえば、そこに紡絆の意思があるかないかの違いでしかない。

ただそれでも、彼はウルトラマンを宿した。

例え利用されたとして、例え敵として扱われたとして、例え怖がられたとしても、どんなことがあったって、この地球に罪は無い。

だからこそ、ウルトラマンとしては救わなくちゃならない。それが宿命だ。

 

「じゃあ……はるるんとしては?」

「分かってるだろ?友達が()()()()んだから助け出す!そして必ず東郷も風先輩も勇者部のみんなも、君たち二人も。みんながまた元通りに幸せになれる未来を必ず掴む---それだけだ。そのために誰も欠けさせない。誰も傷つけさせない。スペースビーストにもバーテックスにも、闇の巨人(ウルティノイド)にも、誰にもこの世界を終わらさせない。壊させない。絶対に滅ぼさせない」

 

歩む。

その手に持つエボルトラスターが、紡絆の覚悟に呼応するかのように光を取り戻し、鼓動を鳴らす。

赤く。熱く。灯火のような燃える命の鼓動を。

 

「…やっぱりはるるんは、いつまで経ってもはるるんだね。少しくらい迷ってくれてもよかったんだよ〜?」

「迷ってる暇があるなら、誰かの笑顔を作るよ」

「実際に出来そうなのが何とも言えないなあ……けど、それが陽灯の選択なんだな」

「ああ、今度こそ()()()()()。それが間違ってると言われても正しいって言う」

「はっきり言うと、その道は険しいよ。凄く難しくて、凄く苦しくて、痛くて、茨の道」

「大丈夫だ。全部受け止めて、全部背負ってでも貫き通す。何度転んだって、歯を食いしばって、また立ち上がればいいからな」

「…何を言っても、止まらないんだよね」

「ごめん。それが俺なんだ」

「しょうがないなぁ……じゃあ約束してくれる?」

「…約束?」

 

何をしても、何を言っても止まらない。仮に銀と園子が武力を持ってして挑めば、今の紡絆ならば止められるかもしれない。

けれどそれを彼女たちはしない。

なぜなら紡絆の選択もまた、彼女たちにとっては止めるものでもないからだ。

勇者の選択も紡絆の選択も、全部正しい。人が人である限り、それぞれ選ぶ結論は違うのだから。

だからこそ仮に紡絆が世界を放置したとしても二人は認めるし、滅ぼす選択をしても止めはしない。無論、絶対にないし止めたとしても紡絆は這いつくばってでも行くだろう。

彼は絶対に我武者羅に走り続けて、幸福(希望)の未来を掴む選択をする。

継受紡絆という人間を知るものなら、必ず誰かのために行動するというのは分かりきったことなのだから。

 

()()()()()()()()()()

「………それは」

「はるるんが居ないと、私は()()()()()()()よ?」

「アタシも元通りに戻れないな」

「いや……あの、ちょっと待って。それってズルくないか?」

「えー?だって〜約束してもらわないと、困るんよ〜。そうじゃないと私は一生幸せになれないんだよね。だから約束して欲しいなぁ。私たちが()()()()()()()()()ように」

 

にこやかにそう告げてくる園子に、紡絆は短い間で察した。

あ、これ敵に回してはならないタイプだと。

しかも紡絆の外掘りをしっかりと埋めた上の発言で、遠回しに脅しまでかけている。

もしここで約束しなければ紡絆の言葉は()()矛盾してしまう。

困ってる友達を助け出すという言葉も、元通りにするという発言も、幸せになれる未来を掴むという言葉も。

 

「…敵わないな。分かった、()()だ。俺は必ず帰ってくるよ、たとえ死んだとしても、どれだけ掛かったとしても」

「うん、()()ね。もし破ったら、何処までも追いかけるから。宇宙から地の果てまででも逃がさないんよ」

「その発言は俺でも怖いんだが!?」

「それはあたしも思った」

「ええ〜?はるるんにはそれくらいがちょうどいいかなーって」

「…それもそうだな?」

「え」

 

唐突の銀の裏切りに固まる紡絆だが、諦めたように息を吐くと、窓の方を向く。

そして改めてエボルトラスターを強く握りしめて表情を引き締める。

約束してしまった。

上手いこと乗せられることになったが、約束をしたならそれはもう、果たさなければならない。

約束を破れば誰かが悲しむ。誰かが悲しむことが、どんな事があっても前を向ける紡絆が一番辛いことなのだ。

他人のことしか、彼は見てないのだから。

 

「……行くんだな?」

「…ああ、行ってくる」

 

もう準備も、覚悟も、とっくに終えているのだろう。

背を向けた紡絆の様子に気づいた銀は呼びかけると、すぐに返事が返ってきた。

 

「はるるん」

「ん?」

 

二人は止めるつもりはない。

それが紡絆の選ぶ未来で、選択だから。

神官の女性に関しては表情も見えないのもあって見えないが、成り行きを見守っているだけで何も言わない。

 

「ううん…はるるんだけじゃないね。はるるんとウルトラマン。

最後に今の貴方たち()()の姿を、見せて欲しいな。今のふたりが、どんな姿になるのか」

 

園子はわざわざ訂正し、ウルトラマンも頭数に入れた。

紡絆はその意味を理解すると、園子と銀の方へ振り返る。

真っ直ぐでありながら穏やかな優しい光を宿し、勇気と希望を瞳に宿す。暗闇は何処にもなく、迷いもない。

覚悟が決まっていて、曲がりのない芯の強さを感じさせる。

光がないというのに輝いてるように見えて---いや、実際に紡絆の体は光になっていた。

エボルトラスター握る手から軸に、紡絆の体を光が覆っていく。

そして片腕の動かない手ではもう引き抜くことの出来ないエボルトラスターが勝手に引き抜かれ、紡絆は本体を胸元に添えた。

するとエボルトラスターが宙に浮き、紡絆の胸に赤いY字状の器官---エナジーコアが現れると同時に紡絆の肉体は銀色の肉体に変質する。

人際強く輝くと、その場にはもう紡絆の姿はなく、黒と銀色の体色なメインとなっている光の巨人---ウルトラマンネクサスが人間サイズ(等身大)で姿を現していた。

甲冑を纏ったような、和を連想させる見た目。

 

「…あたしらが知ってる姿と全然違うな」

「それが今の貴方の姿なんだ」

 

懐かしむような、少し驚いたような様子。

そんなふたりに対してネクサスは何も言わない。

喋ることの出来ない彼は、何も言えない。

 

「ああ、話せないのか。仕方ないな…行ってこい、陽灯。須美はちょっと生真面目で頭が固いけどさ、お前なら連れ戻せるよ」

「私たちはどっちかを選べないから、はるるんとわっしー、二人の味方。だからはるるんを、わっしーを、みんなをお願い、()()()()()()

『---シュアッ!』

 

果たしてそれは、ウルトラマンの意思なのか。それとも紡絆の意思なのか。

銀と園子の二人に頷いたネクサスは体を反転させると振り返ることなく、窓に向かって飛ぶ。

閉じられた窓を光球となったネクサスがすり抜け、その姿は瞬く間に消えていく。

 

「貴女は…何も言わなくてよかったの?貴女にとってはるるんは…」

「伝えたいことは伝えました。それに私は()()()()()を守れず、貴女たちも含めて彼のことも守れなかった…それどころか、救われてしまった。だから……何も言えないわ」

「…そっか。息子さんは元気?」

「…あの時、救ってくれた彼のお陰で」

 

大赦の人間としてではなく、一人の母親として彼女は話した。

どうやら彼女は、紡絆ではなく陽灯という人間と少し深い関わりのある女性らしい---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

766:名無しの転生者 ID:jBsRFoEJo

……なあ、イッチ。俺らで話し合ってさ、ひとつの結論に至ったんだ。少し聞いてもいいか? 本当は否定して欲しいんだけど…

 

 

767:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

いいけど。

手短にしてくれ。これから俺は風先輩を止めて、東郷を連れて帰って来なくちゃならないんだ。ここから先、余裕はないからさ

 

 

768:名無しの転生者 ID:MBE/UCcUV

じゃあ代表して俺からまず言うけど、お前勇者部のみんなのことどう思ってる?

 

 

769:名無しの転生者 ID:Fx4UD0Uj5

あ、先代勇者のことも含めろよ〜

 

 

770:名無しの転生者 ID:vtXOmJs9r

ちなみに印象のことじゃないからな。好きか嫌いかだ

 

 

771:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

?『みんな』好きだけど

 

 

772:名無しの転生者 ID:+szqFetS1

>>768

あ、これお前意味伝わってないぞ

 

 

773:名無しの転生者 ID:r8fj2ZMTn

むしろイッチがそれで察せられるはずないだろ…何を見てきたんだ。代表して聞くやつ間違えてんぞ

 

 

774:名無しの転生者 ID:HTzqBMH0f

答えを言うと、異性として好きかどうかな

 

 

775:名無しの転生者 ID:nAtV48s2x

いや、そっちの意味だとそりゃそこ抜けてたらイッチには通じねぇよ…

 

 

776:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

>>768

>>774

ああ、そういう…ごめん、分からないんだ。確かに彼女たちのことは好きだけど、好きじゃない。でも嫌いでは無いけど、これが好きという感情かと言われると微妙だと思う。なんて言えばいいのか…分かるのは、『等しく』好きってだけだ

 

 

777:名無しの転生者 ID:fkIfKPZqG

…ああ、やっぱり

 

 

778:名無しの転生者 ID:xPSCaLiGD

そういう、ことか…

 

 

779:名無しの転生者 ID:Oo7byQRe9

…繋がって行ったな、完全に

 

 

780:名無しの転生者 ID:jmrVoT6N/

もうそこまで来てたんだな、イッチ

 

 

781:名無しの転生者 ID:HFAKvEL2f

ずっと疑問だったんだよな。なんていうか、最近になってイッチはよく自分はウルトラマンとかよく言うようになってたし、自分とウルトラマンを分けてるような発言してたし

 

 

782:名無しの転生者 ID:dePheLofs

それにさ、なんでイッチが姫矢ジュネッス、憐ジュネッスにタイプチェンジ出来るようになって継承していったのか

 

 

783:名無しの転生者 ID:Dsu9h9x8L

後はノア様の力の一部と思われる能力が使えていたのか、とか。時たま、何故か何もいないのに振り返るし独り言言ってたのかとか

 

 

784:名無しの転生者 ID:O8MR6bJjl

さっきもそうだけど、体内から光溢れてたしなぁ…より正確に言うと心臓辺りから

 

 

785:名無しの転生者 ID:xrSvpxazx

身体能力もいくらウルトラマンを宿してるとはいえあまりに高すぎるし、たまに意味わからん能力使うし

 

 

786:名無しの転生者 ID:Pje/6fjl+

もっと前から気づけたら…いや気づいても変わらなかったか

 

 

787:名無しの転生者 ID:eifN3vuv3

>>776

>>781

この回答で確信した。なんというか最近、イッチって異性に対しての感情が薄くなってるというか、先代勇者含め勇者部のみんなに向ける感情がおかしいというか…人間自体に向ける感情が違うって言えばいいのかな

 

 

788:名無しの転生者 ID:G6why4SLz

イッチの好きってのは異性という意味でも友人に向けるものでもなくて『人間』が好き。

つまり、イッチのその感情は『人類』に向けられる感情だ。

……お前はもうウルトラマンになりつつあるんだろ?

 

 

789:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

…いや、ごめん。普通に驚いた。

いつ気づいた?

 

 

790:名無しの転生者 ID:j43debnq+

否定してくれないか……

 

 

791:名無しの転生者 ID:Uc9GRoC7/

お前こそ、いつ気づいたんだよ。

俺らが気づいたのはさっきの返答とお前が『サイコメトリー』と言われる超能力に分類される力を使ってたからな。あと呪い。

バーテックス…天の神だったか。そいつの呪いを受けても耐え得る肉体なんていくら負担を消されててもウルトラマンくらいしかいねーだろ

 

 

792:名無しの転生者 ID:WsaoSv4r/

というかイッチの場合はおかしな部分が多すぎてな……思い返せば姫矢さんから継承してからイッチに少しずつ変化が訪れた気がする

 

 

793:名無しの転生者 ID:XoTU2aPLZ

大きく変化したのは間違いなく憐から継承した後だろうな。記憶を完全に取り戻しかけつつあったってのもあるだろうが

 

 

794:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

うーん隠すつもりだったんだけどなー。

正直、俺も確信はなかったよ。

うっすらと思ってただけで確信したのは俺もさっき。

でもずっとさ、違和感はあったんだ

 

 

795:名無しの転生者 ID:9C+kbzcdY

違和感…?

 

 

796:名無しの転生者 ID:dRj8ebWVg

いや何隠す気でいとんねん…いつもだけど

 

 

797:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

総戦力後、目が覚めてから変身する度に強くなっていった身体能力。

知らないはずの技が使えたこと。

エボルトラスターよりも早くにスペースビーストの気配を感じられるようになったこと。

たまに感じられる誰か…いやウルトラマンの気配。

今までは何となくそうだろう、としかエボルトラスターを通して思えなかったのに、ウルトラマンの声が聞こえてた。

そして今もだけど、俺の存在が消えつつある…というよりは人格が薄れてきてるんだと思う。

この感じからして、ウルトラマンと人格が統合しつつあるっての正解だと思うな。同化って言えばいいのか?

だからたまにウルトラマンの気配も声も聞こえるようになってたんだと思う

 

 

798:名無しの転生者 ID:vZO0BPgUP

つまりULTRAMANでザ・ワンがしたように、ウルトラマンとの完全なる同化が進んだってことか。ノア様は望まないだろうから…イッチの意思か?

 

 

799:名無しの転生者 ID:b+/ySZewg

どちらにせよ、そうなるとイッチは死ぬのか。

そりゃそうだよな、同化するってことは間違いなくイッチの人格は消える。

ウルトラマンと人間なんて比べるまでもないし、上位的な存在であるノア様。なおかつイッチは極限まで弱りきってる。

何も出来ない瀕死の虫が恐竜と戦うようなもんだ

 

 

800:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

まだ人格は残ってるよ。

たぶん、この感じからすると俺が死ななければ大丈夫。

同化の理由はなんでか分からないけど、多分俺が望んだからじゃないかな。自分のことはいいからウルトラマンを救いたいって

 

 

801:名無しの転生者 ID:eJ00vSEez

いや、おま…お前さぁ…

 

 

802:名無しの転生者 ID:byvbD2wok

確かに状態的には常時瀕死でいつ死ぬか分からん状況だけど……

 

 

803:名無しの転生者 ID:ElGvmZz/b

でも回復の手段がないし限界が近いから否定は出来んしな……それでもねぇ…

 

 

804:名無しの転生者 ID:uEHGQ3n72

あーでも…そう聞くと納得出来るよなぁ

 

 

805:名無しの転生者 ID:PcPf2l6bo

あの炎パンチとか明らかにノア・インフェルノだしな。他の技も元々ノア様が持つ力の応用だ

 

 

806:名無しの転生者 ID:xcmxodePQ

だからこいつ、友奈ちゃんとあんなくっついて平常でいられたんか

 

 

807:名無しの転生者 ID:vxbiXPO0w

いやそれは多分、変わらんと思う。だってイッチだぜ?

 

 

808:名無しの転生者 ID:2q2Yfvld2

イッチのことだから絶対にそういった方面は気づかないし平常心のままなんだよなぁ

 

 

809:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

でも約束しちゃったし、死ぬつもりもないぞ。

スペースビースト…クトゥーラがまだ生き残ってるって分かったし、これ呪いの影響と俺のせいだから。

それにウルトラマンはどちらかというと拒否してるって感じ。じゃなきゃ俺の人格はとっくに消えて天の神の呪いも一緒に消えてると思う。ここまで俺が無事なのもウルトラマンが天の神の呪いを抑えてくれてたからだと思うし、呪いはあくまで俺にしかないからな

 

 

810:名無しの転生者 ID:9skjQUyy1

ややこしいな、誰か分かりやすく1から説明してくれ

 

 

811:名無しの転生者 ID:DqBuhlzpa

こういう時の情報ニキ!

 

 

812:情報ニキ ID:JoUHou2in

いやあんまり分からないんだけど…推測も含めて今までのをまとめるとこんな感じ

①イッチが過去にザ・ネクストとして戦い、役目を終えたのか分離。

②前世の記憶を取り戻した際に、スペースビーストが現実世界へ現れようとしたので、精神世界でウルトラマンと再び一体化(ただし何故またイッチなのかは不明)。身体能力が上昇。

③アンファンスしかなれなかったのは不明だけど姫矢さんからジュネッスを継承、その影響でジュネッスにタイプチェンジ可能になり、さらに身体能力が上昇。

でも一回だけ未来予知してたことを考えると、この時からちょっと影響は受けてたのかも。

④イッチが憐の光を継承することで、ジュネッスブルーへとタイプチェンジ可能に。この際にイッチの身体能力は大きく上昇し、『次元』を移動する力を持つノア様の影響か、思い出しきれなかった前世の記憶(何かまでは知らない)が蘇りつつあり、継承が完了した際にウルトラマンに近づく土台が出来上がったと思われる(恐らくこの時からイッチが『人』に向ける感情に変化があった?)

⑤ジュネッスとジュネッスブルーの使い分けが可能となり、イッチが無意識にノア様に『近づく』ことで能力を一部引き出した(恐らくザギと対面し、記憶を覗いたのもこの影響)

⑥天の神の呪いを受けた際にノア様は呪いを抑えようと力を注いだが、神の呪いなので不完全なノア様では消しきれずに逆に自身がエネルギー消費して弱まる。

⑦天の神の呪いの影響でイッチは身体機能を失っていったが、そもそも呪い自体はウルトラマンに影響がないからイッチの魂に結びついている(?)

さっき本人も言ってたが、エネルギーを消費したウルトラマンを救いたい。

⑧ノア様は死にそうなイッチを救いたい。

⑨同化することで人格(魂)が消えるから(肉体という器のみが残るため)ウルトラマンを救うことが可能なので、イッチは無意識に完全なる同化をしようとしてる。

逆にノア様はそうするとイッチが死ぬので、 拒否してる。

⑩互いを思ってイッチとノア様がイチャイチャしてるだけ

 

 

813:名無しの転生者 ID:b/O4QkNYr

最後が台無しで草

 

 

814:名無しの転生者 ID:IJo6Qya4W

なんでラスト入れたんだよw

てか割とイッチには過保護だよな、ノア様。まあ二回も巻き込んでるんだからそう考えたら分かるけど

 

 

815:名無しの転生者 ID:8AQHLUiCB

もうお前らが付き合えよ(錯乱)

 

 

816:名無しの転生者 ID:aD8sm1l6+

>>812

結局どうすればええんやこれ。イッチ死亡ルートじゃねーか

 

 

817:名無しの転生者 ID:FlZCaA5Tf

>>812

いやこれ、天の神の呪いのせいだ。

それさえ消せば同化する必要がないから止まるし、イッチも戻ると思う。今はどちらかというと自分が死んでもノア様が戦えるように『ウルトラマンになりつつある』って感じだから、イッチの思考がウルトラマン寄りになってるんじゃないか?

 

 

 

818:名無しの転生者 ID:68j/G8Lvq

ああ、だからあんな感じで自己犠牲も酷いのか

 

 

819:名無しの転生者 ID:hMuKy97dW

それは元からだぞ

 

 

820:名無しの転生者 ID:0QXEBkn3D

イッチー。

ウルトラマン宿してない前提というか…力がないとして。

以前と同じ感じで答えて欲しいんだけど、目の前に救える命があって、行動すれば救えるけど自分が死ぬってなったらどうする?

 

 

821:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

救うが?

 

 

822:名無しの転生者 ID:oEQQTVygR

あっ、元からじゃん

 

 

823:名無しの転生者 ID:/rMFxCRwE

即答で草。悩めよ

 

 

824:名無しの転生者 ID:Rq4kPBFmy

そもそもイッチはウルトラマンを宿す前から人助けしてた言ってたし……そう考えるとこいつ、本人が知らないだけでまーだなんかありそうなんだよなぁ。

ただノア様の思考も入ってるからただでさえ自己が存在しないイッチがさらに酷くなったのかもしれん…

 

 

825:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

それより風先輩が見えた。

あれは止めないとまずいな。東郷が気になるが……先に風先輩を止めよう。

あと一応もう一回言っておくと、本当に死ぬつもりはないからな。同化に関しては俺も分からないからどうしようもないが、生きて帰らないとヤバそうだし救いたい人達がいる。

死ぬとしたらその人たちを救ってからだ……あっ、でもそれしかないなら選ぶかも。諦めはしないけど

 

 

826:名無しの転生者 ID:hFx6TVVHr

なんで最後に不安を煽るような言葉を残して行ったんだよ、バカアァアアアアア!!

 

 

827:名無しの転生者 ID:H+a4oGhVL

てか、みんな忘れてるけどイッチって、もうラストの変身…

 

 

828:名無しの転生者 ID:mb5Sd0n4j

あっ

 

 

829:名無しの転生者 ID:gsTI3/bcK

やべ、わすれてた。どうすんのこれ。スケールを縮めることでエネルギー消費を減らす発想はいいと思ったが……

 

 

830:名無しの転生者 ID:GjUnC71AE

やっちゃったもんは仕方ない。イッチが諦めないって言ってるなら大丈夫だろ。

 

 

831:名無しの転生者 ID:87re8b53b

まぁ、当の本人がずっと前から死ぬかもって感じなのにこれだからねぇ、今も全く変わらねぇもん

 

 

832:名無しの転生者 ID:6ck9jCo7j

(メンタルが)あらゆる鉱石より強そう

 

 

833:名無しの転生者 ID:xnRIacroS

とりあえず変身したなら何とかしろ。後のことは後で考えるぞ!

 

 

834:名無しの転生者 ID:YywSeejnb

せやな、ひとまず目の前のことだ。

どうする?むしろどう止めたらいいんだ、明らかにあれ普通じゃ止まらんぞ。目の前のことが見えてないっつーか怒りと憎悪に支配されてるな

 

 

835:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

大丈夫だ、止める

 

 

836:名無しの転生者 ID:gkV2J+bsp

なんというか、不思議と安心感あるよな

 

 

837:名無しの転生者 ID:EhIZn1leY

さすがノア様の意思に反して同化しようとしてるやつだぜ!

 

 

838:名無しの転生者 ID:p2kPPvdtN

そう言われると頭おかしいな?

 

 

839:名無しの転生者 ID:cClbmwo+d

元からおかしいんだよなぁ

 

 

840:名無しの転生者 ID:mEUZNydlq

ひとまず見守るか……

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

加速する。

友奈に対して振るわれた巨大な大剣が見えたネクサスは、飛行しながら左腕のアームドネクサスに右手を翳し、右手を前に突き出すと光粒子エネルギーの刃を飛ばす。

その一撃は風の大剣を大きく逸らし、二人の間へ割り込むように光が降り注ぐ。

 

「…んで……なんで、なんで変身して…なんで、邪魔するんのよぉ!!紡絆ィィィィ!」

 

姿を形作り、現れたネクサスに対して怒りを隠せないのか、風は明確な殺意を持ちながら斬りかかってくる。

闇に支配され、怒りを身を任せ、衝動的に動く風は例えネクサスだろうと敵と判断し、道を妨げる邪魔な存在としか認識しない。

 

『シュアッ!』

 

そんな風に対して、ネクサスは平手でファイティングポーズを取り、迎え撃つようにぶつかり合う---

 

 

 

 

 

 

 

 





○継受紡絆/ウルトラマンネクサス
今はウルトラマンと完全なる同化(自身は消滅)しかけてるため、元々自己が存在しない紡絆くんがより酷くなってる。
そしてウルトラマン寄りの思考になりつつある。超能力等や身体能力の強化もそれの影響だったり。
なので光を継承→ウルトラマンになりつつあったということ(前回友奈の言葉はあながち間違えてないので驚いた)
そして既に半分がウルトラマンになりかけてる(消滅しかけてる)ので、紡絆くんが誰も意識してない理由が『個人』ではなく『人類』として見てるから。
だからウルトラマンとしてみんなを見てるのもあるし残る紡絆くんの部分では『大切な友人』として捉えてる部分もある。
簡単に言えば、紡絆くんの中で『ウルトラマンの人格』と『継受紡絆という人間の人格』がせめぎ合って、『誰かを救う』ことに関して想いが強くなっている。まぁ紡絆の人格が汚染されてるようなものなので実は本人は気づいてないけどちょっと不安定だったりする。

そういえば紡絆くんの容姿を出したのって髪色(黒髪)以外初では?身長は低めです、ショタだし。実際には156cmくらいだと思う。あんま身長変わらないというか風先輩より小さいという。なんなら東郷さんよりも低い

○ウルトラマンネクサス
紡絆くんを二度も巻き込んだからか、作中通して割と過保護だったりする。
彼としては紡絆くんを救いたいが、紡絆くんもウルトラマンを救いたいという相思相愛(?)

○犬吠埼樹
何気にクソつよつよな子。
武器の扱いが上手くなってた。
でも彼女が居なければやばかっただろう

○天海小都音
察し能力が高いのと地頭がいいが故に、色々と気づいた。
そのお陰で兄がもう死ぬと理解しているが、どうしても止められない。
なぜから彼女にとって、いつだって紡絆はヒーローなのだから。
それは今も変わらない。
ちなみにネックレスを贈る意味は『あなたとずっと一緒に居たい』『あなたは私だけのもの』つまるところ『誰にも渡さない』という束縛の意味もあったりするが、彼女の場合だとその意味が正しかったりする。

○乃木園子
多分紡絆くんが身内以外だと一番勝てない。
紡絆くんの扱いが上手く、彼に約束をさせた。
破ったら多分地獄だろうと天国だろうと、どこであろうとマジで追ってくるかも…もう逃げられないゾ♡

○三ノ輪銀
便乗した上にあっさりと裏切った。
どんな選択をしようとも、彼女も園子も見守るだけなので紡絆を止めたりしなかった(武力でなら瀕死の紡絆くんは二人に、なんなら銀単体でも負ける)

○神官
何やら深い関わりがある模様。
別に彼の母親とかじゃないよ、詳しくはいずれ。



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「-世界-カタストロフィ」


再び刮目せよ。これが真のルナティックだ。
この話を読む前に難易度がルナティックということは念頭に置いて読んで欲しいです。
そしてちょっとした余談ですけどルナティックっていうのは英語で『狂気の』意味を持ち、形容としては狂った、またはとてもばかげた。キチガイな。常軌を逸した。という意味があります。
ゲームでは最高難易度として扱われていますが……この話こそがその意味をつけた理由となります。
絶望の始まりには希望の終焉が相応しいって絶望(ダンロン)が言ってた






 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 第 44 話 

 

 

-世界-カタストロフィ

 

 

絶望

マリーゴールド

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハッ……!』

 

振るわれた大剣を、横から叩くように逸らし、同時に真横へ移動したネクサスは大剣を奪うべく手を伸ばす。

だがそれをさせまいと翻された大剣を反応したネクサスがアームドネクサスで防ぐ。

地面を削りつつ距離が離れ、大剣に振り回されて体勢を崩している風の姿が見える。

 

「どうして……」

『………?』

「どうして、あんたは、なんで平気なのよ…なんでっ!騙されて、利用されて、何度も怪我して死にかけて!死ぬかもしれないのに!なのになんでいつも通りで居られるのよ…!!」

『………』

 

ただ振るわれる。

いくら生身が瀕死であっても、その攻撃を読むのは超人的な視力を持つネクサスには容易い。

ネクサスは右腕のアームドネクサスで弾き、何度も何度も振るわれる攻撃をただ逸らし、弾く。

 

「今もこうやって変身して!なんで私の前に立ち塞がるのよ…どうして邪魔する…ッ!!」

『………』

 

何も語らない。

そんなネクサスに対して大きく引き離した風は小刀を投げつける。

誰も知らない、もうひとつの能力。

初見の攻撃に対し、アームドネクサスで全て叩き落としたネクサスはその隙にスイングするように振るわれた大剣を左腕で受け止め、下から平手で打ち上げるように大剣を叩く。

 

「っ……あたしが、あたしがあんたたちを勇者部に入れなかったら、こんなことにはならなかった……!あたしが紡絆を入れなければ、そこまで傷ついて、死にかけることもなかった…!代償があるって知らされてたなら! 私は皆を巻き込んだりしなかった!」

『……』

「勇者部なんて()()()()()()()()()()!!」

『………!!』

 

何を思ったのか、その発言を聞いた途端にネクサスは拳を握りしめる。

そして先程ネクサスの一撃によって振り上げられた大剣を、力任せに振り下ろすという隙の大きすぎる攻撃に対し、ネクサスは拳を---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グァッ!?』

 

解いた。

それにより、ネクサスは大剣を逸らすことも弾くこともせず、振り下ろされた大剣に斬られる。

火花を散らし、数歩下がる。

 

「紡絆くん…っ!」

「っ、何やって---」

『…!シェアッ!』

 

ダメージを受けたのを見たからか、こちらに来ようとした友奈と夏凜に向かって手のひらを向ける。

来るな、と言いたいのだろう。

 

「私がみんなを巻き込んだから…こうなった!」

『ぐっ……!』

「樹も友奈も東郷も、紡絆も!誰も傷つくことはなかった!体の機能だって、失わなかったんだ!」

『ウアッ……!』

 

ネクサスは何もしない。

ただ攻撃を受けて、立ち上がって、攻撃を受ける。

それを繰り返すだけで、防御のひとつもしない。

 

「樹は夢を失わなかった…!みんなが苦しむことだってなかったのに!だから大赦を壊す!そうするしか、ないのよ…アタシがみんなのために出来るのは…みんなの幸せを奪ったアタシに罪滅ぼしとして出来るのは!これ以上傷つけさせないためにはそれしかないのよぉおおお!!」

『グァ……!?』

 

より力の籠った一撃が、ネクサスを吹き飛ばす。

地面を転がり、何度もダメージを負ったネクサスはそれでも起き上がり、白光色の瞳は風を離さない。

 

「なのに…どうして分かってくれない!?どうしてまだ…そうやっているのよ…!!」

『………』

 

決して前へは進めない。どれだけ攻撃しようとも、どれだけ傷つけようとも、ネクサスは必ず風の前に立ち塞がる。

それこそ、ネクサスを殺さない限り進めないだろう。

 

「あんただって失ってるんでしょ!?だったらあたしの気持ちも、あたしたちの気持ちも知ってるはずなのに…なんでッ!!」

 

小刀と大剣。

ふたつの攻撃を持って風は仕掛けるが、ネクサスは冷静に小刀を避け、大剣をアームドネクサスで受け止めた。

 

「あんたはいつだってそうよ…!いつもいつも、人の気も知らず無茶するくせに…今も私の前にいる!どうしてそんな強く居られるのよ…変わらずに居られるのよ!なんで…笑顔で生きられるの…!あんたは…眩しすぎるのよ…ッ!!」

『……ッ!』

 

風は今にも泣きそうな声で叫び、顔は見えないから分からないがネクサスが何処か驚いたように、固まる。

力が増し、ネクサスは片膝を着く。

咄嗟に左腕で支えることで防御を保つが、受け止めているアームドネクサスと大剣が火花を散らし続けていた。

 

「まずいッ!」

「っ…!」

「友奈!?」

 

このままでは間違いなく、ネクサスは受け止めきれなくなるだろう。反撃をしないから、身を削るだけ。

それを察知した夏凜は飛び出そうとするが、友奈は夏凜の手を掴んだ。

 

「違うよ…夏凜ちゃん。紡絆くんは受け止めてるんだ、風先輩の気持ちを。話せないから、全部全部、吐き出させて…だから、邪魔しちゃダメだよ」

「でも……」

 

結局それは、紡絆の身が危ないことは変わらない。

しかし、掴まれているからこそ気づけた。

友奈の手も震えていて、本当は飛び出して助けたいのだと。

だからこそ、夏凜は諦めたように息を吐くと、傍観することにした。

そして現に---

 

 

 

 

 

 

「どれだけ自分が傷ついても止まらない!自分が悪くなくても、他人のせず自分のせいにして!他人を恨まなくて、憎しみを抱かなくて…!他人ばかりを思いやって、明るくて!私を見るその真っ直ぐな瞳は、私には眩しかったのよ…ッ!!」

『う……ぐぅ……!?』

 

憎しみや絶望、そういった感情よりも、風の心そのものが口から出ていた。

ずっと言わなかった、紡絆の在り方。紡絆に対する本音。

復讐心を抱き、復讐を誓った上に復讐のために戦ってきた風とは真逆で、自分よりも他人を。誰かを助けるために。誰かの幸せのために戦い、悪意のひとつも抱くことがなかった紡絆は、いつだって風の目には眩しく映る。

 

「あんたと居ると復讐心を抱いていた私が情けなくてっ…!けれど、居心地が良くて…っ!あんたがいてくれたから、私はずっと勇者部の部長でいられた…!みんなを笑顔にしてくれたから、幸せなまま居られた…!」

『ぁ…ぐ……!』

 

両腕でも抑えきれなくなってきたのか、ネクサスの顔面に少しずつ大剣が迫る。

感情を剥き出しに次々と口から言葉が流れて、涙が溢れて。

 

「困ったときいつだってあんたが居てくれたから…バカみたいに考えもなく動く紡絆が居てくれたからどんな時だって諦めなかったのに…!なのにそんなあんたが居なくなりそうになって、皆の身体機能が治らないなんて……どうしたら、どうすればいいのよ!どうすれば良かったの!?いつもみたいに…助けてよ!ずっと傍にいなさいよ……!何とかしてよっ…!助けて見せてよ…!出来ないでしょ!?なら大赦潰す以外に、私にどうしろってのよ…何したらいいのよ!!」

『……ッ!?』

 

いつだって、紡絆は中心へ居た。

どうしてもダメで、困った時。

紡絆の明るさや能天気さ、誰も予想の付かない行動が助けになった。

お役目のとき、どれだけボロボロになって、どれだけやられても、立ち上がり諦めずに戦う紡絆の姿は、勇者部の皆にも勇気を与えていた。

本人は知らない。気づかない。絶対に、決して理解しない。

自分がそれほど重要で重大な、必要不可欠な存在になっていることに。勇者部の皆の心に、深く居ることに。

だからこそ、変わってしまう。

紡絆が居なくなれば、いつも通りに過ごすことは出来ないのだ。

紡絆が死ぬと分かってしまった今、樹の夢が叶わないと分かった今、東郷の左耳や友奈の味覚が治らないと分かってしまった風にはもう、選択がない。

 

「だから、そこをどけぇええええええ!!」

『---デェアッ!!』

 

大赦を潰すために立ち塞がる敵を打ち倒そうと振り上げられ、再び振り下ろされた渾身の一撃。

その一撃に合わせ、防御しかして来てなかったネクサスがアームドネクサスを輝かせ、掬い上げるように上げられたエルボーカッターが風の大剣を吹き飛ばす。

 

「ッ!?」

『デアッ……!』

 

手元から武器を失ってしまい、ネクサスの一撃は風の目を見開かせ、大きく仰け反らせる。

驚く暇もなく、ネクサスの腕が伸ばされ、風は次に来るであろう衝撃と痛みに思わず目を閉じた。

だが---

 

 

 

 

 

 

 

「え……」

 

痛みは一切来ることなく。

闇を取っ払うほどの温もりを風は感じられて、目を開ける。

ネクサスが行ったのは攻撃ではなく、風を抱き寄せることだった。

言葉は通じない。

正確には喋れないが正しいのだが、風の思いを聞いたらこその行動。

 

「離し……離しなさい…ッ!」

『………』

 

当然ながら、落ち着いたわけでも冷静になったわけでもない風は暴れるが、勇者の力を持ってしてもウルトラマンの腕力に勝てるはずもない。

変わらず、どんなことがあっても変わらない光が、温かな光が風を取り囲む。

 

「離して……離してよ……!私は、みんなのためにも……苦しまないためにも…大赦を……ッ。これ以上、あんたに背負わせないためにも……死んで、欲しくない…死なせたくない、のに……!」

 

徐々に力が失われていき、それでも止まられない風の意思も固く。

そんな彼女を、もうひとつの温もりが包み込む。

 

「い……つき……?」

『もういいの。誰も悪くないから』

 

親愛する妹の姿を見て、風はようやく止まる。

そんな風に樹は携帯のメールの画面で文字を見せていた。

彼女も喋れないからこそ、そうするしかない。

 

「でも…っ!でも…私が、勇者部を作らなければ……」

 

どれだけ憎しみを抱こうが、行き場のない悪意を大赦という原因の一つに向けただけで、風は自身が原因だということも気づいている。

勇者部の設立の発端となったのは風で、紡絆や友奈、東郷は参加しただけ。

それも誘われでもしなければ勇者部という名を聞かない限り出会うことはなかっただろう。

作らなければ、皆が苦しまなくとも。皆が失わなくても済んだのかもしれない。

紡絆だって、もうウルトラマンと出会うことはなかったのかもしれない。

残念ながら紡絆に関してはその可能性はもとより無かったりするのだが。

 

違うよ、お姉ちゃん

 

樹は大切に折り畳まれている紙を取り出すと、風に見せる。

風がその紙を見ると、そこに書かれていたのは以前、歌のテストの皆で書いた樹への寄せ書き。

勇者部の五人が樹の為に書いてくれた、樹の大事な宝物。

誰かを想う皆の心が詰まったその宝物の、欠けた最後のピースを埋めるように、樹が自分の素直な気持ちを書き記す。

 

“勇者部の皆に出会わなかったら、きっと歌いたいって夢も持てなかった。勇者部に入って本当に良かったよ。樹”

 

今まで文には書かれてなかった、勇者部の最後のピース。

必要不可欠な最後の一人。

それは樹本人。

今の勇者部は七人。七人の勇者部。

誰かが欠けてしまえば、それはもう勇者部ではなくなってしまうのだ。

全員が居て、みんなが居て、本当の勇者部。

 

『……デア、デェア…!シュ!』

「……???」

 

また別の涙を流す風に対して、何かを伝えたそうな様子のネクサス。

樹のスマホを指差し、手を一度合わせると、次に自分に指差す。

---残念ながら樹に伝わらない。

むしろ変な行動にしか見えず、割と空気感が台無しになりつつあった。

 

「紡絆!」

『!』

 

そんなネクサスに、割と凄まじい勢いで投げられるもの。

ウルトラマンの視力からすればそこまで早くないので片手で止めると、そこにはスマホが。

投げられた方向には夏凜が居て、ネクサスは頷くとスマホの画面を見つめる。

 

『風先輩。

俺はみんなのように何かを考えて動くのは出来ない。俺に出来るのは、風先輩の感情を受け止めることだけです。約束を守るだけでした』

「やく……そく……?」

 

継受紡絆という人間は不完全だ。

自己が存在せず、頭は良くない。要領も悪い。人の気持ちに聡くない。他人のためにしか生きられない。世界のためにしか戦えない。人の未来を作るためなら自分すらも殺そうとする。一度決めれば、走り抜けるだけ。

たとえその身が血に汚れ、親すら殺すことになろうとも全てを背負って。罪を背負い、希望を宿し、絶望を打ち払う。理不尽な現実にも反抗する。

人として、酷く歪だろう。

結構のところ彼のその身にあるのは、太陽のような、ウルトラマンのように眩しすぎる光のみ。

故に純粋で無垢。心には闇はなく光しかない。

 

『もし困ったら、何かあったら力になりますし俺が守るって。風先輩の明日も笑顔も。もし風先輩が道を外すことをするなら、止めるって。危険なことをするなら、止めるために手伝うって。約束したから』

「………ッ!?」

 

思い出したのだろう。

紡絆がかつて風に対して告げた言葉。

頭は良くないくせに、紡絆はそういったことだけは覚えていた。

今も変わらない。戦いという危険なものに参加し、道を踏み外す風をこうやって止めるために傷つきながらも立ち塞がった。

 

『俺、勇者部に入って、一度も後悔したことは無いです。誰かを助けられた。笑顔に出来た。たくさんの人に感謝されるような喜ばれることが出来た。困ってる人が、元気がない人が前へ向けるようになった。

ウルトラマンに出会って、俺はみんなを守れた。誰も悪くないし、このまま終わらせません。

俺も死なない、みんなの身体機能も取り戻す。さっきの言葉、約束します。絶対に助ける。

だからもう自分を責めないでください。勇者部を否定しないでください』

 

スマホを打つことなく、ただ見るだけで紡絆の思いが綴られた文が生成された。

偽りなき言葉。

紡絆が思ったことをそのままスマホに投影した。

喋れない状況で樹がスマホを使うというところを見て、そうすれば良かったのかと今更気づいた遅すぎる発想。

 

「風先輩…私も紡絆くんと同じ気持ちです。もし後遺症のことを知らされても、私たちは戦ってたと思います。それが…人のためになることだから。勇者部に入ってよかった。風先輩や樹ちゃん。夏凜ちゃんに出会えてよかった。勇者部がなければ、会えなかったんです。風先輩は、私たちみんなを出会わせてくれたんですよ」

「私が……みんな、を……?」

『ジュア……ァ!』

『夏凜も、そうだろ?』

 

そう微笑む友奈の言葉が、さっきの紡絆の文が、樹の温もりが、風の中の闇を取り除いていく。

そして気づいた割にスマホを使うことすら忘れてネクサスが声を発したが、意味無いことにすぐ気づいてスマホの画面を夏凜に見せた。

 

「わ、私は……あぁ、もうっ!そう、そうよ!本当のことを言うと、感謝してる!あんたたちと会えて、私は変わることが出来たのよ。勇者部が、かけがえのない場所になったのよ!だからもう勇者部を作らなければなんて言うな!これで満足!?」

『…シュッ』

 

相変わらず素直にはなれないのだろう。

何処か投げやり気味に叫ぶ夏凜に満足したような様子のネクサスは近づいてスマホを返却した。

 

「つ、むぎ……友奈…夏凜…皆…あぁ…ああああ…うあああああああああ」

 

暖かい皆の想いが、傷ついた風の心に沁み込んでくる。

光が差し込み、闇の中にいる風を救い出す。

この場にいる全員が手を差し伸べ、闇の沼から風を引きずり出していた。

自分自身がやったことの大きさ。罪悪感。傷つけてしまったことへの後悔。大切な後輩で仲間である者たちに武器を向けてしまったことへの自己嫌悪。

様々のものが降りかかり、決壊する。

ただ唯一違うのは、もう復讐心からでも絶望からでもなく、取り返しのつかないことをしてしまうことだったことへの涙。

こんなに手を差し伸べてくれて、温もりを与えてくれて、救い出してくれたことへの感謝。

子供のように泣きじゃくる姿を樹は抱きしめて、ネクサスは再び寄り、片膝を着く。

 

「こ、めん……ごめん……ごめんなさい……!私は、みんなをきずつけ……夏凜を、友奈を……紡絆を……ッ」

『……シュワ』

 

ただ首を振り、ネクサスは風の肩に手を置いた。

謝る風に対しての許し。

声は聞こえないはずだが、風は不思議と理解出来た。

気にしてない、と。

事実紡絆は傷つけられたとは思っていない。

痛くはあったが、それで止められるなら安いものとしか考えてないだろう。

それに仮に傷つけられたと思っても、自分が傷つくだけで誰かを助けられたなら彼は満足する。

 

「うぁ……うっ…ああ…ぁぁぁぁ!」

『!?』

 

そんなネクサスに風は強く抱きついた。

思わず尻餅を着くが、ネクサス---紡絆は仮面の下でただ優しげな表情で風の頭を撫でた。

 

「……ったく、それにしたって無茶しすぎでしょ。あんたはそれしか出来ないの?話からしてあんた、体がもうすこぶる悪いんでしょ」

 

問題が解決出来たが、正直紡絆のやり方は褒められたものではない。

結局のところ、彼らしいと言えば彼らしいが自分を犠牲にする行動だ。

もし風が止まらず、それこそ満開でも使えばウルトラマンの身でも危なかった。

それに死ぬと言われるくらいの段階まで来ているのにその体で勇者の攻撃を受けるなどどういう了見なのか。

やり方はもっとあったはずなのに、そんなことするバカはこの世界で紡絆くらいだ。

 

『……シュア、デェアァ』

「いやわかんないわよ!」

 

夏凜の言葉に思うところはあったのか、夏凜に対して発声するが、翻訳機能がないので分かるはずもない。

 

『ヘェエエッ!?』

「うーん、ごめんなさい、でも反省はしてないって言ってるのかな…?」

「え、分かるの……?」

「うん、何となく!」

『東郷先輩みたいです。というか紡絆先輩は反省してください』

『フッ!?デェアァ』

「…なんて言ってるの?」

「…お腹空いた、とか?」

『!デ、デェア!シュアアァ!』

 

さっきの空気は何処へやら。

泣いてる風を差し置いて話は進んでおり、ネクサスは慌てたようにバタバタとし、やっぱり言葉は通じなかったが、不思議と穏やかな雰囲気が漂う。

 

「……あっ!ゼリーが食べたい!」

『……デ、デアッ! 』

「うどんが食べたい!」

『シュア……』

「じ、じゃあ眠たいとか!」

『デェ…………』

「…えっと、星がみたい?」

『………』

 

ちょっと悩んだものの、否定するような反応。

途中から大喜利になりつつあったが、ネクサスは諦めたように無言になると、樹からスマホを借りた。

 

『どうしたらいい?』

「最初からそうしなさいよ……」

 

風の対応をしつつも困った様子のネクサスを見て最もな夏凜の呆れ声が響き渡り、誰も助けてくれなかったネクサスは黙って慰めるように風の背中を撫でて向き合うことにした。

結局紡絆の存在は、空気を変えていつだって明るくするのだろう。

この場の全員が紡絆の状態も、満開の代償を知っているのに。

周囲には、自然と笑みが溢れていた。

紡絆が中心となって明るく笑顔にして、友奈がより輝かせて、皆が繋げていく。そうやって絆はまた、強固になっていく。

繋がれ、結ばれ、継がれ。そして受け取る。

もう闇は、この場に無い。

---光は、いつだって暗闇を照らして強く輝くのだから。

 

 

「…そうだ、東郷さんは大丈夫かな」

『分からない。でも何があっても何とかする。力を貸してくれ』

「…もちろん!ぜったい、ぜーったい紡絆くんを死なせたりしないから!」

「ふん、仕方がないから協力してやるわ」

『助かる。それにやっぱり優しいな、夏凜は』

「は、はぁ!?」

『ウルトラマンの姿で普段の紡絆先輩の状態を出されると……なんと言うか、その、変な感じがしますね……』

『……!?』

 

なおショックを受けたかのように固まるネクサスの姿は、紡絆そのもので、緊張と重たい空気は死んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

123:名無しの転生者 ID:sKsNZqtex

相変わらず無茶してんなぁ……こいつ

 

 

124:名無しの転生者 ID:5b2y+vitR

けど、よかった。ぶちょーに関しては解決したみたいだな、にしても無茶しすぎだが

 

 

125:名無しの転生者 ID:mp4Wt/xWa

行き場のない怒りを、ぶつけるしかなかった…ってところか。で、それを抑えるためにイッチは自分の身を犠牲に立ち塞がって思いを吐き出させた…と。

はぁ、ほんと学ばないな……ま、イッチらしくて逆に安心出来るな…

 

 

126:名無しの転生者 ID:OXA3yDabm

何があったかまでは分からないけど、多分言葉から察するに樹ちゃんの夢を知ったのが原因だろうな。

知ってるの妹ちゃんとイッチだけみたいだったし。あとはイッチの状態も何処からか知ったみたいだな

 

 

127:名無しの転生者 ID:PY3cbuBRJ

そりゃ満開の代償を隠して戦わせて、失ってからも隠し続ける。その上イッチまで死ぬって分かったらそうなるわ。

そんなの対象が大赦になるのも仕方がないわな…みんながそうなったのは大赦だし。イッチは違うけど

 

 

128:名無しの転生者 ID:ShNxl59y4

割とイッチに対して重たい感情抱いてない?気のせい?

 

 

129:名無しの転生者 ID:kbhhT3pAf

結局風先輩も誰かを思っての行動なんだよな、なんだこの聖人しかいないとんでも部。

これが中学生ってマジ?

 

 

130:名無しの転生者 ID:+D/KxPUjf

やり方を間違えただけだな……

 

 

131:名無しの転生者 ID:SNRTPs3Xy

というか、抱える物の重さがおかしい。大人でもキツいわ

 

 

132:名無しの転生者 ID:lYrL/mhBM

大赦も大赦で割と問題だと思うけどなぁ……ちょっと隠しすぎじゃない?

 

 

133:名無しの転生者 ID:KgoMlKTQo

何はともあれ…イッチの体は大丈夫だろうか。エナジーコア鳴ってないのが救いだが、今の状態を考えるとダメージ受けるのはな…

 

 

134:名無しの転生者 ID:x3uBSRvfW

イッチは反省してくれ

 

 

135:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

解せぬ

 

 

136:名無しの転生者 ID:7KOnwMsJK

いや理解しろよ

 

 

137:名無しの転生者 ID:krz75Huim

するはずがないだろ!

 

 

138:名無しの転生者 ID:L1ett1it+

それはそう

 

 

139:名無しの転生者 ID:+SeKAqspJ

してたらこんなことにはなってない

 

 

140:名無しの転生者 ID:2aKX/u0EN

なんで今の体で思いを受け止めるためとはいえ、攻撃受けるんだよって話ではあるんだけどな

 

 

141:名無しの転生者 ID:uUfco+zAS

イッチなら怒りに支配されていた風先輩の攻撃を捌くことは出来ただろうにね

 

 

142:名無しの転生者 ID:0mN0GFly7

多分行動で示すためだろうねぇ…

 

 

143:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

まだ終わってない

 

 

144:名無しの転生者 ID:7KenJWO0P

ああ、部長に関してはもう暴走することはなさそうだが

 

 

145:名無しの転生者 ID:pAOD+Q8hZ

東郷さんの元へ行かなくちゃあな。話からして、壁の外に行けば真実が分かる

 

 

146:名無しの転生者 ID:5Krh0C7no

その真実が一体なんなのやら……天の神とやらの正体が分かるのか?

 

 

147:名無しの転生者 ID:u/8Muaah4

そこは行ってみないとな

 

 

148:名無しの転生者 ID:Zk7K0pOTC

ザ・ワンのことも気になるな……話からしてマジで存在してやがったし

 

 

149:名無しの転生者 ID:GcCmgI/y4

ワンチャン、マルチバースの影響で他のビーストが来た説が良かったんだけどな…

 

 

150:名無しの転生者 ID:S71+tI72J

完全に復活する気やんけ、やめろよ。やっぱり例のアイツ生まれかけてるでしょこれ

 

 

151:名無しの転生者 ID:Rt4Uxu4m8

最強のスペースビースト……か

 

 

152:名無しの転生者 ID:A+BXglUqH

とにかく、早く行ってやれよイッチ。先代勇者が本当の世界は見たら分かるって言ってたんだしそこに東郷さんもいるんだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻---乃木園子と三ノ輪銀から聞いた話を確かめるべく、東郷は四国を取り囲む壁へ来ていた。

今更疑っている訳では無い。

外の世界に蔓延するウイルスから人類を守っているという結界---この世界が無事な理由のひとつであり、人が生きていける理由。それはこの世界に生きる者の共通認識。

 

「綺麗な景色だけど……これは…」

 

東郷の視界に映るのは、夕陽で輝いて見える海や山々だ。

とてもウイルスが蔓延しているとは思えないほど美しい見事な風景。高い場所なのもあって、より絶景に見える。

 

『壁を越えれば神樹様が見せていた幻が消えて、真実が姿を表すよ』

 

しかし乃木園子はそう語っていた。

それを思い返しながら東郷は疑問を抱いたままその一歩を何気なく動かした。

動かして、しまった。

 

「…………え…?」

 

瞬間、()()()()()()()

比喩表現でも誇張表現でもなく、ただただ文字通り変わった。

メタフィールドやダークフィールド、遺跡や樹海とは違う。

終わりの光景を彷彿させるダークフィールドに近いが、正しく表現するならば、そこは()()

 

「こんな……ことって……」

 

宇宙のような空間を廻る灼熱。火の海としか言い表せられない世界で、かつて人が思い描き、畏怖した地獄と呼ばれるものを再現したかのような宇宙規模の空間。

東郷が立っている場所は黄金色の大樹の上。

これこそ、神樹の造り上げた結界の本来の姿。真実の世界。

 

「これが、世界の…本来の姿……!?」

 

いたるところに泳ぐように飛び回っている、人よりもふた周りは大きい口らしき部分だけがある白い生命体。否、小さなバーテックス。

その数は百体、千体、その程度では数え切れないほど夥しい数の化け物が跋扈している。

まさしく()()()いる。

 

『西暦の時代、人類を滅亡寸前にまで追い込んだのはウイルスじゃないんだ』

 

思い返されるのは三ノ輪銀と乃木園子が東郷にだけ語った真実。

そんな中、灼熱の世界をただ漂っていたバーテックスが、東郷の存在に気づいたのだろう。

明らかな敵意と殺意を持ちながら、口を開いて襲いかかってくるバーテックスを咄嗟に取り出した拳銃で撃ち抜きながらその場から離れるように後退する。

 

()()()()が粛清のために遣わせた生物の頂点---バーテックス』

 

圧倒的な物量というのはいつの時代も脅威である。

四方八方あらゆる箇所から襲いかかってくるバーテックスは、一体一体はスペースビーストや大型のバーテックスにも満たない強さしかないが、減らすよりも攻められる量の方が上回り、噛みつきを避けるも体制が崩れて倒れてしまう。

あまりにも敵の数に絶望しかけるが、上手く動けなくて柔らかいクッションのような物の上に倒れ込んだのだろうと判断するが、妙な違和感に気づいて見てしまう。

その結果。

決してこの場に相応しくないクッションなんかではなく、下から自身を喰らおうと迫ってきていたバーテックスだと、一瞬で理解してしまった。

 

「いやああああああああっ!!」

 

拳銃から散弾銃に変え、跳躍しながら真下のバーテックスを撃ち抜くと、次々と目に見えるバーテックスを片っ端から撃っていく。

狙いを定めることすらせず、ただ目に映る存在に対して乱射する。

現実を、目の前のことを否定するように。逃避するように。

 

『人類に味方してくれた地の神様たちは力をあわせ一本の大樹となり四国に防護結界を貼った。その時、神様の声を聞いたのが今の大赦……神樹様を管理してる人たち』

 

何とか追っ手を打ち払うと、元いた場所にたどり着き、大きな葉のようなものに隠れる。

神樹様の力が込められた結界の一部だからか、見失ったからか、バーテックスは寄ってこない。乱れた呼吸を整えつつ、また上に視線を向ける。

 

「そんな……アレは紡絆くんと友奈ちゃんが倒したはずの……」

 

かつて正体不明だったウルトラマンと友奈が協力し、初めて倒した敵。

乙女型、ヴァルゴ・バーテックス。

無数の白いバーテックスが集まっていって、最初に戦った乙女座の形を成していっている光景があった。

 

「バーテックスが生まれてる……!?」

 

乙女型だけではない。

その他にも倒したはずのバーテックスが形作られていっている。

違ったのだ。前提が、違う。

バーテックスは十二体ではなく、十二種類。未完成も含めれば、現行八十八種類のバーテックスが存在していることになる。

そしてそれらは、いずれまた攻めてくるのだろう。

その度に勇者たちは迎え撃たなければならない。満開して、身体の機能を何度も何回も失いながら動けなくなるまで。

だけど---

 

「ッ!?」

 

()()()()それすらも凌駕してきた。

衝撃に吹き飛ばされるように、東郷の体は転がる。

神樹様の一部からは落ちなかったお陰で身が火の海に投げ出されることはなく、バーテックスからは見つからないで済んだからか狙われてない。

けれど攻撃された。

正体を見るべく周囲を見渡し、視線を上げた先。

 

『けどな、結界はもうひとつ存在するんだ。存在していた、が正しいけどな。今は壊されたウルトラマンの結界。あれは()()()に突如作られた神樹様と同質の防護結界。護る、という形ではそれ以上の効果を発揮していたもの……』

 

その先に存在したものこそ、全ての希望を打ち砕く存在。

ウルトラマン、という人類史にとって訪れた救いだった光をも覆い尽くすだけではなく、勇者という切り札すら無にも帰す暗黒。

何度も満開をした先代勇者を前にして絶望と言わせしめた存在。

光も希望もなく、救いようのない絶望の権化---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……あぁ……っ。なんでっ!」

 

目前に広がったのは新たに生み出されるバーテックス。

それは先程と変わらない。

十分ショッキングな光景ではあるが、それすら()()として片付けてしまいそうになるほどのもの。

 

「どうして、なんでっ!どうして……どうして!?なんで、死んでないの……ッ!?あんなに、あれほどボロボロになって、苦戦して……命を、消費してまで……紡絆くんが倒したはずなのに…ッ!!」

 

彼女の目が捉えた衝撃の真実。

一体一体がウルトラマンに匹敵する力を持ち、ウルトラマンを追い詰めるほどの力を持つ存在。

そこに居たのは()()()()()()()()()()()

かつて紡絆が苦労して倒し、時に勇者と協力し、完全に分解して倒したはずの敵。

ぺドレオン、ガルベロス、グランデラ、バグバズン、ラフレイア、ゴルゴレム、パンピーラ、ノスフェル---かつて倒した()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そして東郷を攻撃したのは、小型のスペースビースト。

アラクネアとフログロス。

ただバーテックスと違い、スペースビーストは時間がかかるのか二体の上級ビーストと分類されるガルベロスとノスフェル---特にノスフェルは倒されたばかりだからかまだまだ完成しそうな様子はない。肉体と思われる肉体は生成されておらず、ガルベロスすら腰あたりから下まで。

他は図形のような形だけが象られている。

ただし他のスペースビーストの肉体は()()()()が既に組み立てられていた。

そんな中でもぺドレオンとアラクネア、フログロスの他に()()()()()らしきスペースビーストも無数に存在する。

それに肉体を作り上げつつも完成された設計図のようなものがあるということは、いずれスペースビーストは()()()()()()()()()()()()ということ。

 

『あれはきっと、ウルトラマンが()()()()を振り絞って作り上げたものだと思うんだ。あの結界がある限り、スペースビーストの存在は切り離されていた。恐らく闇の巨人(ウルティノイド)も。だから本当は、壊されちゃダメだったんだよね……今は神樹様が負担して何とかスペースビーストの侵入だけは防げてる程度みたい』

 

「はぁっ……はぁっ……!うぇ…ッ!」

 

絶望で動かなかった体を強引に動かして結界の中に戻り、真っ青な顔で荒い息を吐くと、突如やってきた強い吐き気を抑えるべく胃の中から込み上げてきたものを飲み込もうと口元に手をやるが、抑えきれずに嘔吐物を吐き出す。

荒い呼吸を繰り返しながら少し気持ちを落ち着かせて後ろを見るとあの地獄は無く、また綺麗な景色が広がるだけ。

侵入を防いでるというのは本当なのか、迫ってきていたスペースビーストはこちらには来ていない。

だがもし、再び顔を出そうものなら眼前に広がるのは---

 

「うっ…ぁう……ひっ……ぐぅ……ううううっ!! うああああああああっ!!」

 

涙が自然と零れる。

理解した。理解してしまった。

彼女たちの言葉、誰も耐えられないという言葉。

あの光景は、地獄はまさしく『死』の具現化。『厄災』の果て。『絶望』の権化。世界の終わり。

初めから、この世界に希望はなかった。

光もなかった。

比喩や過大表現では無かった。

本当に、絶望しかない。どれだけ倒しても、どれだけ苦戦して撃破しても、どれだけ完全に倒そうとも、バーテックスは生み出され、スペースビーストは蘇り、何度も何度も繰り返される。同じ時を繰り返し、同じ苦しみを味わい、同じ敵と戦う。

どれだけ頑張っても、スペースビーストは無限に強くなる。

それでもあの光景を見たとしても、誰よりも明るくて、光のように眩しくて、ウルトラマンを宿した親愛する彼なら、立ち向かうだろう。

皆が挫け、立てなくても。彼だけは必ず立ち上がるだろう。身体機能を失ってもなお、継受紡絆という人間は戦い続けていたのだから。

だがしかし、東郷美森はそれほど強くなれない。彼のように常に『希望』では居られない。『光』で在ることはできない。

『希望』がひとつも見えなかった。

知ってしまった以上、見て見ぬふりをして偽りに塗れた『平和』に溺れることなども、出来ない。

 

「どうしよう…どうしよう……どうにかしないと、どうにかしなきゃ……いやっ、嫌っ、だって、だって彼はもう……これ以上傷ついたら、これ以上失ったら、これ以上戦ったら、死んじゃう…失う…そんなの、嫌…!絶対に嫌…ッ!!」

 

知ったら、間違いなく戦う。

けれど東郷は知っている。

東郷は見てしまっている。

紡絆は身体機能を失い、戦いや日常にも支障が出ており、まるで生命活動の停止が近いかのように血を吐くようになっている。

もはや戦ったら、変身したら死んでしまう体のはずなのだ。

 

「生きてる限りみんなが戦わされる……!紡絆くんは、戦う……!紡絆くんが死ぬ姿を見て……私たちは戦って……それでも失って……!無意味な戦いを何度も…何度も…いずれ、彼のことも、忘れて……戦うことに、なって」

 

死ぬことの無い勇者。

死ぬときは死ぬウルトラマン。

紡絆が仮に戦いの果てに死んだとしても、勇者の心が折れようと、神樹様が、大赦が、勇者の力がお役目を強要する。

仮に戦わなければ、世界は破滅する。

だが満開を使用すれば身体機能を失う。記憶すら失う。戦いの果てに自分たちは生きていても、死に絶える紡絆の存在も忘れてしまう。

思い付かない。それでも、考えるをやめるわけにはいかない。

やめてしまえばみんなが傷つく。失う。

東郷にとって、生きて欲しい人が、傍に居て欲しい人が消えてしまう。

けれど、残る未来は戦いしかない。先の未来は暗闇で、光は一欠片もない。

こんな苦しいだけの世界から、こんな救いのない現実からみんなを救う方法を、これ以上彼が戦わずして済む方法を---

 

「……あった」

 

それを、東郷は導き出して見せた。

たったひとつ、全てを救う方法。

誰も苦しまず、誰も傷つかず、これ以上大切な人が傷つく必要のない、そんな手段を。

 

「どうして…思いつかなかったんだろう……。でも、こうするしかないじゃない…きっと紡絆くん(貴方)は認めない、紡絆くん(貴方)は諦めない。きっと友奈ちゃん(彼女)も同じ想いを抱く…。

……私のことを嫌いになってもいい。でも私には、私にはこんな世界、そんな結末は、耐えられない……!」

 

瞳に闇にも等しい暗闇を宿し、光を一切宿さぬ瞳を向ける。

人の犠牲で成り立つ世界も、真実を隠し最後まで騙そうとした大赦も、自死すら選べず死ぬまで身を捧げ続け、いずれ大樹のように動けなくなるまで大切な友人たちを使い潰し、ずっと前から一人の少年に色んな重荷を背負わせ、利用してきたこの世界を破壊すべく、東郷は引き金に手をかけた。

例えそれが、この行為が---自分が大切だと思う人物と敵対するような行動であっても、東郷は突き通す。

 

「こんな世界は……必要ない…!」

 

やることはただ一つ。

この世界を保っているのは、戦いを強要するのは、全部全部---神樹という神様なのだから。

それを、破壊すればいい。

東郷はそれに気づいた時には---狙撃銃で四国を守るその外壁に向け、トリガーを引いてみせた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
割と罪深い男。
風の勇者部を作らなければよかったという発言は今までの自分たちの全てを否定する言葉だったので、実は内心怒ってた。
喋れない(変身解除したら詰む)ので、風先輩の思いも感情も物理的にも精神的にも全部体で受け止めた……が、肉体が死ぬ寸前なのに何してんの(ドン引き)的な反応を脳内でされてた。
ちなみに紡絆くんはザ・ワンの存在やバーテックスの正体、天の神、結界の存在は聞いたけど壁の外の現状は知らない。

〇犬吠埼風
復讐よりも紡絆に対する想いに変わってたが、今までの本音を全部紡絆にぶつけた。
彼女の紛れもない本音であり、闇からの支配から逃れたものの後悔が一気に降り掛かってきた。
下手をすれば紡絆を殺し、なおかつ世界を破滅へ追いやる行為だったので仕方がないだろう。
なお、なんだかんだでかなり紡絆に依存はしてた模様。

〇犬吠埼樹
少し遅れて合流。
風の本音を聞いて、止めるために動いた。
けれども事実、彼女を強くしたのは勇者部の存在である。
彼女の曲にあるように彼女にとっては勇者部に『出逢えて良かった』のだ。

〇東郷美森
原作より酷い真実を見て、深い絶望を味わった人。乃木園子や三ノ輪銀が死なない自分たちでも無理といった理由でもある。
だが仮にスペースビーストの存在がなくとも彼女は必ずこうしていただろう。
それでも、このまま戦えば彼女は、彼女たち勇者はいずれ『彼』を『忘れてしまう』。
故に苦しみから解放するために、絶望を終わらせるために世界に引き金を引いた。

〇スペースビースト
あくまでザ・ワンの細胞から生まれた存在(逆に言えばこの世界で『も』完全に倒せなかった証)
ただ本当に無限にいるわけではないので、希望がないわけではない。
実際には無数の星屑が融合して大型のバーテックスを形成するところを『学習』したので、自分たちも同じことをしている。
つまり最悪な組み合わせが、最悪な能力を作り出したので、例え分子分解しても()()
でもオーバーレイやコアインパルスといった分解能力がなければ倒せないし再生が速くなる。
ただ上級ビーストは時間がかかる模様。他のビーストは割と早く、小型は再生がクソ速い。
そもそもバーテックスが人間以外を襲わずに植物や動物はそのままなため、スペースビーストが増える原因の一つでもある。
あとは本作においてTLTも来訪者もいないせいで数が減らせないから増える一方(実際に本編で描写されてる部分だけでもあれほどの量なんだからもっと酷いのは当然の話)

〇遡月陽灯
二年前の紡絆くん。
かつて世界を救った英雄は、皮肉にも世界を絶望へと追いやってしまった……故に彼は---

〇ルナティックである主な理由
①:ウルトラマンネクサスという作品
②:結城友奈は勇者であるという作品
③:無数に存在するバーテックス
④:それらを学習したため、実質無限に存在する異生獣
⑤:ダークザギの存在
⑥:天の神の存在
⑦:他のウルトラマンが助けに来れない
⑧:傷が治らない。
⑨:ノア様ですらエネルギー消費してる
⑩:間違いなくクソゲー


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「-友達-ホープ」

またしてもスランプに陥りました、次回からストックないので頑張ります。
今回は敢えて表現の仕方を変えてます、別人が書いたとかそんなんじゃないよ。終わり的に後書きを書くと空気感台無しなので、今回はあとがきもなしです。というかあれに関しては一度書いて引けなくなった感。まぁ描写できない部分の補足だったり作者のメモ的扱いでもありましたけど。
何はともあれ、ここからも怒涛の展開になるかと思いますので、様々な予想や感想をお楽しみにしています。私から言えるのは、輝きの章はラスボスを除いて難易度はもう上がりません。これ以上あげたら次章BADEND確定だわ。
それじゃあ、ようやく出せたサブタイトル回をどうぞ。紡絆くんはやれる子です、勇者『は』救ってくれるでしょう。
それにしてもブレーザーくん見た目に反して神秘性の欠片もないしうるさくて草





 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 第 45 話 

 

 

-友達-ホープ

 

 

いつまでもあなたと一緒に

アングレカム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ち着いたのだろう。

目元を赤くしつつも、自身の行動が何をしてたのか思い出したのか風はネクサスから離れていた。

 

「…ごめん。ありがとう」

『シュア』

「気にしてないって言ってますよ!」

「それ、合ってるの?」

「たぶん!!」

 

さっきは分かってなかったのに、何故か自信満々に言ってのけた友奈に夏凜はため息を吐く。

しかしネクサスは頷いていた。

あっていたらしい。

 

『今度はあってましたね』

「ここに来る前、私は紡絆くんと深く繋がったからね!紡絆くんから貰った暖かいものは私の中にあるから」

『えっ!?』

「え、ど、どういう……!?」

『……?』

 

何処か嬉しそうに微笑む友奈の言葉。

割と爆弾発言というよりは、問題のある発言に何故かネクサスに視線が集まり、彼は首を傾げた。

 

「私も風先輩みたいにぎゅーってされたんだ」

「あ、ああ……。あんた、誰にもやってんのね……」

『辛い目にあったとき、温もりがあった方がいいだろ?というか、友奈に関しては…』

「そ、それ以上はダメーっ!」

『何があったか分かりませんけど、紡絆先輩らしい回答ですね』

「…ふふふ」

 

無事本人の手で解決がなされたが、素直に全部伝えようとしたネクサスの腕を友奈が降ろさせることで妨害した。

そんな不思議な空気感に、我慢ならずといった感じで何処からが笑い声が聞こえる。

 

『ジュ』

「あ、風先輩が笑った!」

『お姉ちゃんも笑いますよ、爆笑ではないですけど』

「樹ってずっと前から思ってたけど案外毒舌よね……」

 

気づいたようにネクサスが風を見れば、誰が笑ったのか特定された。

最もこの場で精神に深いダメージを負って、崩れていた風が笑ったのだ。

 

「ふふふ、あはは…ごめん、何なのかしらね……紡絆を見てるとおかしくなっちゃって」

「いつもでしょ、こいつ」

「それが紡絆くんだからね!」

『……?』

『えっ、今の理解してないんですか!?』

 

少しのことで、気が楽になる。

いつもと何ら変わらぬ空気感が生み出されたことで、いつもの調子が戻ってくる。

遠回しにバカにされたことには気づかなかったが。

 

『それより東郷を探そう。夏凜もありがとう』

「別にいいわよ。でもそれは同感ね」

「そうだね!みんなで探せば---ッ!?」

 

風もある程度動けるようになったと判断したのかまた借りていたスマホをネクサスは返し、友奈の言葉が最後まで紡がれるより先に、スマホからけたたましい警報のような音が鳴る。

 

『!?』

 

即座に反応し、ネクサスを除く皆のスマホから音が鳴る。

取り出してなかった者のスマホも現れており、『特別警報発令』の文字が夥しく並ぶ。

 

「こ、これって…いつもと違う!?」

『もしかして、スペースビースト…?』

『……!!』

 

騒々しいアラーム音は止まることなく、樹の文をネクサスが首を振ることで否定する。

いくら別位相の存在であろうと、スペースビーストの出現の際には樹海化が起きなかった。

クトゥーラが特別という可能性もあるが、この世界に現れた時点でネクサスに変身してる紡絆なら感じ取ることができる。

それがないということは---

 

「バーテックス……?」

「そ、んな……!?」

 

信じられないと言うように友奈がその単語を出す。

そう、この現象はバーテックスの出現。

終わったと思っていたバーテックスとの戦いが再び始まることに風はショックを受けたように固まる。

しかし遠くから向かってくる光の波は容赦なく勇者とネクサスを巻き込み、世界が変化を遂げた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

極彩色の空に、無数の木々。

神樹様がバーテックスが出現した際に展開する四国を守る結界、樹海化。

 

『ッ!』

「ま、待って紡絆くん!」

「そうよ、落ち着きなさい!現状確認が一番!だいたいあんたは無茶出来ないでしょ!」

 

一切の躊躇なく飛行しようとしたネクサスを友奈が手を掴むことで阻止することが出来たが、奇しくも友奈の精神状態が以前と同じじゃなく、紡絆を気にかけていたのが幸いだった。

早速突っ込む気だったネクサスに文句を言いつつスマホでバーテックスの位置や出現した敵を確かめるべく画面を見た夏凜は目を見開く。

 

「なに……これ!?」

 

画面に現れたのは()()()()

画面の半分ではなく、画面全体を埋める赤。

さらにその画面の奥。

大量にいるバーテックスのところに、東郷の反応が1つ。

 

「敵の近くに東郷さんが…! 私、行かなきゃ……!」

「なっ……待ちなさい友奈!」

『シェ---』

「っ…あんたは絶対にここに居なさい!私が行く!!」

 

画面をネクサスが見てなかったからか、反応する前に友奈が勇者の脚力で跳んでいき、そんな友奈を追おうとしたネクサスの足元に刀を数本突き刺した夏凜が代わりに追う。

 

『………』

 

力づくとはいえ止められたネクサスは向かおうとせず、冷静に視線を後ろへ向けた。

そこには樹がいるが、立ち直った訳では無い風は戦いが終わってないという現実に打ちしがられ悄然としている。

ここで向かえば、この数が攻めて来た時には樹一人で対処しなければならなくなってしまうだろう。

紡絆の体が限界に近いのもあるが、無数の星屑を相手するならウルトラマンの殲滅力は必要になる。

 

紡絆先輩……

 

だからこそ、ネクサスは踏みとどまれた。

少なくともまだ動くべきでは無いと、理解したから。

ネクサスの目ならば、ここでも状況は見えるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東郷の元へ向かう途中---友奈はその量に、愕然とした。

視線の先には壁の空いた穴。無数の白い口しかない化け物。

星屑と呼ばれるなりそこない。

名前の通り星の数と表現する方が正しいくらいに多く、数えるのが嫌になるほとだ。

 

「東郷さん……?」

 

壁の空いた穴を見ていた友奈は壁の上に降り立った東郷の姿が見え、跳躍して壁の上に向かう。

するとそこには---

 

「東郷さん……?なに、してるの?」

 

淡々と向かってくるバーテックスを新しい精霊の力で撃ち落としている東郷の姿があった。

聞こえなかったのか、返事は無い。

 

「東郷さん!」

「……壁を壊したのは私よ、友奈ちゃん」

 

状況を見れば分かる事だった。

銃声が止んで静まり返る中、東郷が振り返ると自ら自白するように告げた。

深緑の瞳が友奈を見据える。

 

「え……?」

「もう紡絆くんにも友奈ちゃんにも、傷ついて欲しくないから。これ以上紡絆くんに背負わせないために…命も、悪意も」

 

友奈はただ呆然とする。

その言葉の意味を脳が理解しようとして、友奈には()()()()()()

行動も、その意味も、全て。

そんな友奈にうようよと浮いている星屑が迫る。

気づいた時には星屑は既に近くにいて、ようやく追いついた夏凜が二刀で星屑を切り裂く。

 

「どういうことよ、東郷……あんた、壁を壊したって……!」

 

刀を向ける夏凜の言葉に何も返さず、壁の方へ振り向いた東郷は狙撃銃を構えていた。

その行動が意味するのはひとつしかなく---

 

「また壁を……!?東郷さん!」

「やめなさい!」

 

さっきの問いかけから言葉では止まらないと理解したからか、夏凜が素早く近付いて止める為に斬りかかる。

東郷はすぐに狙撃銃を盾にすることで防ぎ、互いに弾かれるように距離を取る。

 

「あんた、自分が何やってるのか分かってるの!?」

 

牽制のために右手の刀を向け、夏凜は問いかける。

四国を守る壁の破壊。それは、世界そのものを危険に晒すことであると誰もが理解出来る。事実、今こうして大量の小型のバーテックスが入り込んでいる。

夏凜だけじゃなく、今の東郷を見ると正気の沙汰とは思えないだろう。

 

「……分かってる。分かってるから、やらなきゃいけないの」

 

だが、東郷は正常だった。

錯乱してるわけでも混乱してるわけでもなく、正気で、自分の意思で破壊したのだ。

そして悲しげに表情を歪めた彼女は結界の向こう側、壁の外へ移動する。

 

「東郷さん!」

「私達も行くわよ!」

 

すぐに壁の外へ出た東郷を追いかけるために、友奈と夏凜も結界の向こう側へと飛んだ。

瞬間---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()を見た。

 

「---は?」

「なに……これ……?」

 

そこはまさしく、地獄。世界の終わりを、終末を迎えたような光景。

大地を覆う火の海。

空を埋め尽くす無数のバーテックス。

そんな世界に聳え立つ黄金の大樹。

かつて人が空想した地獄の光景をそのまま映し出したような世界が広がっている。

何よりも---溢れんばかりの()()()()()()()()()()()

どこを見てもスペースビースト。どこを見てもバーテックス。

どの方向にも、敵しかいない。

それだけではない。

 

「スペースビーストと、バーテックス……!?」

「あれって……あの時の…!?」

 

再生しつつある、これまでに勇者部が倒してきた星座の名を冠するバーテックス。

姿形が形成され、今にも再生しようとしている異性獣。

紡絆が命を懸けてまで、命を削って倒してきたスペースビースト。

夏凜が初めて見たスペースビーストのラフレイアだって、そこに居た。

 

「分かったでしょ、二人とも」

 

背後から聞こえた声に友奈と夏凜は振り向く。

そこには悲しそうにこちらを見つめる東郷の姿がある。

 

「これが世界の真実の姿。壁の中以外、全て滅んでいる……。バーテックスは十二体で終わりじゃなく、無数に襲来し続ける。それは()()()()()()が既に証明していた。

そしてスペースビーストは無限に生まれ続ける……」

 

無限---それは限りの無いこと。

彼女の言葉は正しい。

バーテックスは、十二体ではなく十二種類。黄道十二星座のバーテックスが十二種類居て、星座型のバーテックスは星座の数いる。

スペースビーストに関しては、メタフィールドという世界を隔離する空間で分子レベルで分解されたはずなのに、そんなことは関係ないと言わんばかりに今も再生し、倒されたスペースビーストは消えることは無い。

本来ならば、終わりであるはずなのに。

故に無限。

終わりはなく、死ぬことは無い。

ただ増え続け、スペースビーストの特性上いずれはウルトラマンでも手も足も出ないくらいに強大になっていってしまう。

 

「この世界にも、私達にも未来はない。私達は満開を繰り返して、身体の機能を失いながら戦い続けて……いつか、大切な友達や楽しかった日々の記憶も忘れて…ボロボロになって、それでも戦い続けて…命を削り続けた紡絆くんが死んだ後も、私たちは死ねない……!」

 

そう語る東郷の声は、震えている。

体も震えて、涙も浮かべて、希望のカケラもなく、絶望しかない真実に怯えて、打ち負けて、苦しんで。

 

「もうこれ以上…大切な友達を、大切な人を犠牲にさせない…!生贄でしかない『勇者』という存在も全てを背負う『ウルトラマン』という存在もこの世界も---私が断ち切る!私が終わらせる!」

 

世界を終わらせるという()()()()()()()を選ぶしかなかった。

光は守るべきものが多く、果たさなければならないことが多い。

けれども、守ることをやめるなら壊すだけでいい。壊せば終わる。壊せばこれ以上苦しまない。

たったの一言で解決する。

この世界を、破壊をするだけでいいのだから。

そうするしか、方法が思いつかないのだから。

 

「ま……待って…!そんなことしたら……!」

 

壁に向かって二丁拳銃を構える東郷を止めるためか、夏凜は刀を向ける。

これ以上壁が広がれば、この中にいるバーテックスがより外に出る。スペースビーストが外に出てしまう。

 

「夏凜ちゃん……何故止めるの?」

「だ…だって……私は、私たちは大赦の勇者で…」

「大赦は私たちに真実を隠し…貴女も道具として扱ってたのに!?私たちだけじゃない!大赦は前から紡絆くんを利用してた!記憶を失った彼に、また多くのものを背負わせて、()()戦わせて…!」

「っ…!ま、た……?」

 

道具といった言葉に酷く動揺し、刀が力なく垂れる。

しかしそれよりも、たったひとつの言葉が気になった。

また、とはどういうことか。

何度も戦ったことなのか、それとも別のことなのか。

 

「紡絆くんは二年前にもウルトラマンとして戦っていた…それで、記憶を失った……!大赦はそれを知ってたのに!知ってたのに隠して、知らないフリをして紡絆くんに戦わせてたのよ……!」

「なっ……そ、んなの聞いたこと……」

 

大赦に居た夏凜はそんなこと一度も聞いたこともない。

ウルトラマンが過去に居たという言葉すら、聞いたこともないし見たこともなかった。

だが、東郷がわざわざこんなことで嘘をつくとは考えられない。嘘をつくにしたって、記憶を失ったという部分は必要ない。

当たり前だ、これらは先代勇者含め上層部の大赦と一部しか知らない。

 

「で、でも……!」

「分かって、友奈ちゃん……。こうするしか方法がないの。勇者部の皆も……私が忘れてしまった大切な友達の二人も…私が忘れてしまった大切な()()()も…。 大切な人が失われる未来も死ぬ未来も…これ以上見たくない!! そんなの、私は耐えられない……耐えられないの!」

 

涙を流しながら、握る二丁拳銃と体を震わせる東郷にあるのは()()。失うことへの、怖さ。

その嘆きは友奈と夏凜の心を打ちのめす。

そのダレカが誰なのかも、大切な人が誰かなど、考えれば誰だってわかる。

勇者部の中で唯一、死ぬ可能性のある---否。

もうその命を尽きさせようとしてるのは、たった一人しかいない。

 

「東郷さん……っ!?」

「…はっ!?」

「まずい!」

 

不気味な気配を感じ、三人が振り向いた。

その先に居たのは、既に復活を果たした乙女座の名を冠するバーテックス、ヴァルゴ。

下半身の産卵管のような部分から爆弾が射出され、東郷はこの場に残るように回避し、咄嗟に夏凜は友奈を掴んで結界の中へ向かう。

 

「……罠!?」

 

だが、そこへ迫る()()

まるで夏凜が結界の中へ向かうことを予想していたかのように、頭上を超えて進路を変更してきた火球が夏凜と友奈に襲いかかる。

夏凜はすぐさま刀を投げて爆発させるが、爆風に巻き込まれて距離を離され、再び振り向いた先。

ヴァルゴの背後に、ひとつの影が見えた。

甲殻類に似た外見をし、何処かサソリを思わせる姿。鋭い鋏や長い尾、尾の先端にはハサミを持つというバーテックスにはない特徴---クラスティシアンタイプビースト・グランテラ。

過去にネクサスを追いつめたスペースビーストが、既に復活を終えていた。

そして再びヴァルゴが爆弾を放ち、グランテラは六門の気門から次々と火球を放ってくる。

 

「夏凜ちゃん!東郷さんがっ!」

「一旦引くわよ!」

「だ、だけど……」

「いいから!!」

 

夏凜の頭が警報を鳴らす。

ヴァルゴの爆弾もそうだが、グランテラの火球を見たのは初めて。

それでもそれが、どれだけ厄介で、脅威なのか。彼女の勇者としての勘が告げる。

あれは精霊の力を持ってしても危険だと。

 

「こ……んのォッ!!」

 

だからこそ一刀の刀を近くの地面に突き刺し、爆発させることで目眩しをすると友奈を引っ張って結界の中へ向かうために跳躍する。

その判断は正しかったのか、火球と爆弾は互いにぶつかって相殺される---だが、()()()()()()の話。

 

「…!夏凜ちゃん、横ッ!」

「しまっ---ッ!」

 

もうバーテックスは一体だけではなかった。

さっきと違い、迫ってくる攻撃は間違いなく防げない。

友奈を引き連れてるのもあるが、先程のように爆弾でも火球でもないことが一番の原因だろう。

鋭い針。長い尾。禍々しい色。

猛毒を持つさそり座の名を冠するバーテックス---スコーピオン。

かつて尻尾による攻撃で友奈の意識を奪い、ウルトラマンを殺す寸前にまで追い込んだ敵。

本来ならば全身の穴という穴から血を流す毒。

紡絆という存在だったからこそ、()()()()()()()()で済んだ敵。

その針が夏凜と友奈を叩きつけていた。

 

「っぅ……ゆ、友奈…平気……?」

「なん、とか……」

 

結界の中から遠ざけられてしまったが、精霊バリアのお陰で死ぬことはなかった。

ただ受けた時と叩きつけられた時の衝撃で痛みが走っただけで、二人は起き上がる。

 

「っ、やば---」

「避けられない…!」

 

そんな二人の視線の先。

グランテラが青白い光球が迫り、上空からは毒針が襲いかかる。

凄まじい威力を誇るそれは間違いなく戦闘不能にするほどの力が込められている。

だが避けるには受けたダメージが回復しておらず、なおかつ光球は避けられても毒針が貫くだろう。

つまりやれることは賭けに出るしかない。

迎撃するという危険な行為をするしかなく---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶望を穿つ希望の光が、戦況を覆すように。

()()()()()()が全てを貫く。

 

「今のは……まさか!?」

 

光球も。スコーピオンも、グランテラすら貫き、とてつもない貫通力を発揮した不死鳥は消える。

バーテックスに関しては御魂ごと、グランテラに関しては堅い装甲をも無視して、全てを穿った。

やったことは単純。

スコーピオンの尾が当たる前に、本体を貫き、グランテラの必殺技のような光球と本体をまとめて消し去っただけ。粒子が、散る。

でもそんなこと出来るのは、たった一人しかいない。

 

「紡絆くん……!?」

 

色褪せることのない白光色の瞳。

49mもある身長。

上級武士の裃袴を思わせる青い生体甲冑。肩には鎧の肩当てのような板状のプロテクターがあり、右腕のアローアームドネクサスはファイナルモードを形成していた。

放たれたのは思いを届かせる最強の一撃---オーバーアローレイ・シュトローム。

かつて紡絆へと受け継がれた思いを繋げた青年(青い果実)の力、ウルトラマンネクサスの強化形態(ジュネッスブルー)

 

『デェアァァァ!!』

 

放たれる、クロスレイ・シュトローム。

光の光線を撃ちながら動かし、周囲にいる小型のスペースビーストと星屑を殲滅していく。

それですら、まだちょっと削った程度。

所詮強さ自体は大したことの無い小型のみだが、胸のコアゲージは既に、点滅していた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友奈と夏凜が東郷の後を追って少しして、ネクサスと樹の視線には、無数の星屑がいた。

ネクサスは自身のエナジーコアを見つめ、そして樹を見た。

彼女の目に絶望の色はなく、ただ強い意思を秘めている。

ならば、迷う必要などない。

 

『デアッ!』

 

その体に、英雄の力を纏う。

継承し、託された力のひとつ強化形態(ジュネッス)

自身の肉体に負担がかかり、エネルギーの消費が激しくなる。

だが、こうでもしなければ今のネクサスはまともに戦えない。

そして一人、迎撃に出ようとネクサスは地面を駆けようとして、緑色の光がネクサスよりも早く星屑を次々と薙ぎ払う。

複数の線を束ね、ムチのように攻撃していた。

 

『……!?』

紡絆先輩、私も戦います……!

『……フッ』

 

その攻撃は樹によるもので、ネクサスは驚いた様子を見せた。

僅かに視線が交差し---理解する。

互いに通じてはいないだろう。

それでも心は繋がっていた。

ネクサスは駆け出すことをせず、樹の横に立つと手の先から青いエネルギーを形成する。

敵は軍勢。

数千どころか、数万にも届くかも知れない。いくら強くなくとも、物量というのはいつだって脅威だ。

そんな相手にたったの二人で何が出来るのか。

 

『デェアァ!』

「---!」

 

簡単だ。

たった一言。抗える。

ネクサスの形成したエネルギー、セービングビュート。

光の鞭と緑の鞭が襲いかかってくる星屑を迎撃する。

樹海の世界なのもあって木々が絡み合っている。

視界を遮る木の間から次々と来る星屑に二つの光が迎え撃つが、仲間意識があるのかは定かではないもののそこに何かがいる、と認識されたのだろう。

さらに数が増える。

空は白く、動いている。

全く綺麗でも何でもないが、その空は現実で言う雲だ。

片手では増援が来る方が早く、樹のフォローをするようにさらに片手でセービングビュートを発動させると、自身に迫る星屑よりも樹に迫る星屑を優先して撃破していく。

 

『…!シェアッ!』

「っ!?」

 

作業のように敵をひたすらに倒し続けてきたが、突如樹に向かって高速で迫ってきたナニカに気づいたネクサスが鞭を消すと、即座に割り込んで両手で三日月型の光刃を発射する。

高速で飛来してきたものへ直撃し、爆発を引き起こす。

 

スペースビースト……?

『………』

 

ただでさえ星屑だけでも終わりが見えないのに、星屑に紛れて数体のスペースビーストが居た。

大半はペドレオン。しかし脅威なのは間違いない。

ペドレオンというスペースビーストは体の95%が水分で構成されている。

地球が海の星であることから、ペドレオンに関しては元々生まれやすい存在なのだ。過去に紡絆が、多くのペドレオンを相手にしたように。

 

『…シュア』

 

敵があまりにも、多すぎる。

巨大化すれば、ネクサスのエネルギーは一気に消費される。

あくまで等身大になって出力エネルギーを減らしてるからジュネッスにもなれるだけで、巨大化すればコアゲージは点滅するだろう。

だが巨大化すれば一気に倒せる。

そして何より---隔離さえすれば。

だからこそ、ネクサスは樹の前へ躍り出ると、サークルシールドを展開する。

次々とバリヤーに星屑が突撃し、それらは飛行型(フリーゲン)も例外では無い。

数が増えれば増えるほど抑えられる時間は少なくなり、ジュネッスのパワーを持ってしても受け止め切れることは出来ない。

故に樹へと視線を送る。

今は風を抱えて逃げろ、と。

 

「……!」

 

それは伝わったのだろう。

樹は風を見ると、彼女は膝を折り曲げながら両手で膝を抱えていた。

戦意は見られない。

風を守るには、それは正しい選択だ。

この場で最も有効な手段はネクサスを置いて逃げること。

でも、それは---

 

いや……です

 

継受紡絆という人間を犠牲にすること。

ここで逃げれば、彼は瞬く間に形成する。

命を削る、空間を。

 

紡絆先輩だけに任せるなんて、出来ません!一人で戦わせるなんてさせません…!私も最後まで紡絆先輩の隣で一緒に戦いたい……一緒に居たい…!だって私も勇者ですから!

 

鋼鉄糸が上空の敵を追い払い、砕くためにサークルシールドへと攻撃するバーテックスたちを拘束していく。

いつだって、彼が自分を犠牲にしようとする姿は変わらない。

だけど、樹は勇者だ。まだ種でしか無かった小さな輝きは、強い光に呼応して芽吹く。

隣で歩みたいと願う、純粋な少女の気持ちは何にだって負けはしない。その覚悟は誰にも奪えはしない。

 

『……ハアッ!』

 

バリヤーを解除し、同時に赤い色の光が抑えられていたバーテックスとペドレオンの動きを封じる。

無意味だと諦めた。

彼女の思いを無碍にするのは紡絆がするはずがない。その瞳を、知ってるから。その瞳を見て分からないほど、他人の心に鈍感では無い。

言葉で通じなくとも、行動で理解する。

ならもう、違うのだろう。

()()()()()()ではなく、()()()()()としてネクサスはオーラミラージュで動きを止めて居た目の前の敵をその拳で打ち払う。

しかし拳一発で全て倒せるはずがないので残りはしたが、倒せない敵に()()()()()

なぜなら、先に樹のワイヤーが切り裂く。

瞬時に地面を蹴り、エルボーカッターが残る敵に振る舞われていく。

回転し、右手を横へ突き出した状態で停止すると、背後に居た敵は全て倒されていた。

そして、光の瞳が樹を捉える。

互いに見つめ合い、ネクサスはただ頷いた。

嬉しそうに小さな花は咲き、表情を引き締めた。

言葉にせずとも分かる。

樹には紡絆の言葉が、彼の背を見てきたからこそ。

彼は言ったのだ、なら共に戦おう、と。

終わりのない戦い。でも樹は戦える。

近くにいるひとつの光が、諦めないからこそ。彼女が絶望に屈することはない。

それに彼女と彼が交わした約束と勇気と。

何より夢が。

大切な友人と大切な先輩に背を押されて、見出した夢を追いかけるという想いが、彼女をどこまでも奮起させていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数十分。

逃げずに、彼女は逆に前へと進む。

まだ半年前くらい、背後にしか居なかった妹の姿。

絶望しかない、未来のない戦い。

風の目にも映っていた。

今の光景は、一言で言えば世界の終わり。終末。

どれだけ抗っても、無数といるバーテックスと紛れ込んでいた一体一体が厄介のスペースビーストに対して勝てるはずもない。

 

「っ……!ッ---!」

『シュア!グアッ……!フッ---!』

 

増える度に疲弊する体。

その影響か倒すことが間に合わず、樹は星屑に吹き飛ばされていた。

それでも地面に手をついて、起き上がろうとしている。

そんな彼女に放たれた雷撃をネクサスはその身で受け、怯みながらも反撃に振るわれた光粒子エネルギーのカッター光線がペドレオンを撃破する。

上空から口を開けてネクサスに襲いかかる星屑を緑色の光の線が押しとどめる。

即座に低空飛行し、足を突き出して樹の横を通過したネクサスの蹴りが一体の星屑に突き刺さり、まとめて吹き飛ばす。

着地したネクサスに放たれた火球が途中で爆発し、すぐにペドレオンを拘束する。

 

『デェ---ァァラァ!』

っ、囲まれた……!?

『グッ……!?』

 

二発のカッター光線が拘束されたペドレオンの生命活動を停止させ、全方位から放たれた火球に気づいたネクサスと樹だが、気づいた頃には間近く。避け切れるはずもない。

新たな精霊の力、鏡から植物の茎が生えたような外見を持つ雲外鏡が鳴子百合の模様を模した巨大な緑色半透明の円型シールドを前方に発生させ、敵の攻撃をはね返すが全ては不可能だった。

咄嗟に庇うようにネクサスが彼女の体を包み込み、二人の体を大きく吹き飛ばした。

 

---それでも、()()()()()

互いにフォローをするように戦っているが、この数に敵うはずがない。

一見優勢に見えても、数は減ってない。

正確には減っているが、減っているように見えないのだ。

ペドレオンだって数体しかいなかったはずなのに、今は数十体は確認出来る。

小型なのが救いだが、もしかしたら他のスペースビーストだっているかもしれない。

ネクサスと樹の頭の中には、あの時触手だけを放ってきたスペースビーストの存在もチラついている。

だとしても、抗わなければ全てが終わるのだ。

 

「いつの間にか……」

 

風の目に映る樹はもう、後ろにいなかった。

風の隣を歩きたいと願った少女は、前へと歩んでる。

その先、彼女が望んだ男の子と並び立っている。

風が眩しいと思い続けた後輩は、どんな状況でも前進し続けている。

彼の中に止まるという考えは無い。誰かを守るためなら自分のなんだって犠牲に出来る---そのくせして、他人が犠牲になることは認めない。それが紡絆という人間。ある意味、誰よりも我儘だ、

着々と今も命を消費しているのに、死ぬ未来が待っているのに。

 

「わたし、は……」

 

目の前で樹とネクサスは戦い続ける。

苦しんでいるのに。痛みを負っているのに。紡絆は分からないが、樹は怖いのを我慢しているのに。無秩序に暴れまわる星屑やペドレオンから自分を守るために。世界を守るために、戦っているのに。

命を、燃やして。

 

「私は……?」

 

果たして何をしているのか。

こうやって座り込んで、諦めない妹と後輩の姿を見るだけで、何もしてない。

護られるだけで、何も出来ていない。

勇者部という部活の部長で、誰よりも先輩なのに。何も出来ないままでいいのだろうか。

 

「私は………!」

 

変わらず眩い背中があって、自身の前を歩く小さな背中があって。

ここで蹲っていても何も始まらない。黙って下を向いて弱気になって、どうなるのか。

何も進めない。二つの背中に、置いて行かれるだけ。親愛する妹と在り処とする後輩に。

---その瞳が光を宿し、手に力が籠る。

 

 

 

 

 

 

 

厄介だと星屑もペドレオンも高度な知能が理解させたのか。

樹とネクサスは数の暴力によって引き離され、樹に向かっていた敵も全てのペドレオンも()()()ネクサスを攻撃した。

樹が驚きながらワイヤーを飛ばすが、数体の星屑が壁になる。

援護が届かず、星屑と火球、雷撃といった全ての攻撃をギリギリのところで捌くネクサスの体は複数体のぺドレオンの口部から放たれた衝撃波によって吹き飛ばされ、吹き飛ぶネクサスに数十体の星屑が一緒になって容赦なく体当たりしてさらに吹き飛ばす。

 

どうして、紡絆先輩だけを…!?

 

木に背中をぶつけ、地面へと倒れたネクサスは木に手を着きながら立ち上がり、顔を上げると巨大な火球が迫っていた。

即座に両腕を下方で交差する。

輝きが纏われ、膨大なエネルギーが稲妻を発生させる。

エネルギー消費が激しすぎるため、一度の変身に一回しか使えないオーバーレイ。

ネクサスの持つ光線技が火球ごと敵を打ち払うために溜められる。

しかし---

 

『!!が……ァ!?』

 

突如目眩でも起きたかのようにネクサスが膝を着く。

瞳の光は消灯と点灯を繰り返し、まるで()()()()()()()()()()

頭を抑えながら首を振るうことで意識を戻したが、その隙があれば十分だ。

 

紡絆先輩---ッ!

 

必死に駆けて、手を伸ばす樹の姿がネクサスの目が捉えていた。

そして、直撃せんとする火球も。

死なないだろう。

当たっても、大ダメージを負うだけ。けれど、今の肉体なら話は別だ。

大ダメージという時点で、致命傷に繋がる。

だがネクサスの体が動かない。朦朧とする中で抗おうとしているの立とうとして、ふらついて片手を地面に着いた。

 

『ッ---!』

 

数秒先の未来をイメージさせ、だけど瞳は前を見ている。

諦めないという意志を宿し、巨大な火球が---

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあああぁぁぁ!」

 

同じく()()()()()が受け止めていた。

横から殴るように振り動かされた大剣と火球が、ネクサスの目の前でぶつかり合う。

 

『……!』

今の、もしかして……!

「ごめん二人とも……情けない姉で、頼りにならない部長で……護られてばかりで、頼りきってばかりで…。それどころか、助けられて……!」

 

火球を受け止めている風の独白を二人は黙って聞いていた。

どこか申し訳なさそうで、懺悔するように。

迷惑をかけてしまったことを、謝罪するように。

 

「でも…私は姉として、部長として……!妹や後輩に頼りきってるわけにはいかない!護られてばかりではいられないのよ!」

 

だからこそ今度は護るために。

見てるだけじゃ、何も始まらないから。

 

「だから負けるかぁぁぁぁあああ!!」

 

渾身の一撃が巨大な火球を跳ね返す。

その一撃は容赦なくぺドレオンを焼き尽くし、()()()()全て居なくなっていた。

その姿を背後で見ていたネクサスは、力を抜いてゆっくりと立ち上がる。

今の風は、心が折れてるわけでも失意の底にいるわけでもない。

その身に纏う力同様、勇者。

彼がよく知る()()()()()()()()()だった。

 

お姉ちゃん……!

 

完全に復帰を果たした姉の姿を見て安心したのか目尻に涙を貯めながら嬉しそうに樹は駆け寄る。

そんな樹の頭を風は優しく撫でた。

 

「もう大丈夫よ、樹。ほんと……逞しくなったわね。まったく、誰かさんのお陰なのかしら…いつの間にか追い越されちゃってた」

「……っ!っ〜!」

『……?』

 

僅かに寂しそうな様子はあったが、姉として妹の成長は喜ばしいことなのか嬉しいという気持ちの方が大きいらしく、微笑みながら何処か意味ありげな視線をネクサスへ送ると、樹は顔を赤くしていく。

ネクサスは視線には気づいたが、真意までは読み取れず首を傾げていた。

 

「さあ、散々サボった挙句護られてばかりだったけど、ここからは反撃開始よ!このまま追い抜かれたままだったら姉として立つ瀬がないからね」

…うん!

『…デュア』

 

いつまでも話せるわけではないからか、撫でるのも程々に風は大剣を背負いながら上空を見つめる。

現状は星屑のみとなったが、星屑は全く減っていない。それにこの敵たちは全部、壁の外からやってきたのだ。

無論スペースビーストも含めて。

ならば途中から反応が消え、壁の外へ向かったであろう友奈や夏凜、それに東郷はどうなのか。

結界の中でこれなら外はもっと酷いはずだ。

なるべく早く、減らさなければならない。

だからこそ、ネクサスは一気に殲滅するためにコアゲージの前で腕を交差する。

オーバーレイではなく、もうひとつの高威力の光線で蹴散らそうという考えなのだろう。

しかし---

 

「紡絆、色々とありがとうね。あんたには相当、迷惑かけた」

『……?』

 

突然風から感謝され、彼女の手によって手を降ろされたネクサスは、戸惑った様子で見つめた。

確かにその身で攻撃を受けながら止めたり、星屑やペドレオンから守っていた。

でもその言葉が理解出来ないのだろう。

なぜならそんなこと紡絆にとって()()なのだから。

 

「今のあんたの状態は…知ってる。本当はこんなこと言いたくないし、させたくない…。けど、どうせ止まらないんでしょうから、私から言うわ」

『………』

「友奈や夏凜…そして東郷をお願い。ここは私と樹が受け持つから。この数の中でも、あんたなら行けるでしょ?」

『……!』

 

風を見つめていたネクサスが、驚いたような様子を見せる。

いくら星屑だけとはいえ、この量は異常なのだ。

ネクサスと樹がある程度倒しても、全く減っていない。ここで戦力が減るのは得策では無いだろう。

でも逆に、ウルトラマンではなく()()()()()()()()のも得策ではないのだ。

今の風がそうだったであるように、彼の光が必要なのはもう一人、間違いなく居るはずなのだから。

 

紡絆先輩、行ってください。東郷先輩が心配ですし…友奈さんや夏凜さんも心配ですから

「安心しなさい。犬吠埼姉妹の女子力をあいつらに見せつけてやるわ!だからあんたは信じて行きなさい!」

 

言葉が聞こえずとも、樹も風と同意見と言うようにネクサスを見つめる。

真っ直ぐな、二人の視線。

それを受けて、信じろと言われて---信じないはずがない。

二人の覚悟と意思を受け取ったネクサスは頷くと、覚悟を決めたように胸のコアゲージに右腕を翳し、振り下ろす。

水のような波紋がネクサスの全身に流れ、もうひとつの強化形態(ジュネッスブルー)へと変化する。

 

『シュワッ!』

 

そして球体となった黄金色の光が、無数といる星屑の中へ突っ込んでいき、潜り抜けていく。

決して振り返らず、ただ前へ。

ここで振り返るというのは彼女たちを信じていないという証。

故に、ネクサスは一切後ろを見ることなく、光速で躱しては結界の外へと向かう。

目的はただ一つ---()()()()こと。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

609:名無しの転生者 ID:zuiFP2cnG

やったぜ!

 

 

610:名無しの転生者 ID:Ch6knklcc

ぶちょーも復活したし、勝ったな!風呂入ってくる!!

 

 

611:名無しの転生者 ID:lc6fIsk9O

そうだな!よし解決だ!!

 

 

612:名無しの転生者 ID:eoa7mgl2U

いや現実逃避するんじゃねーよ!なんだあのバーテックスの量!アホか!?おかしいだろ、空一面小さなバーテックスじゃねーか!

 

 

613:名無しの転生者 ID:XGgzI9Zvu

というかジュネッスまで使ってイッチは平気なのか!?

 

 

614:名無しの転生者 ID:mhnOzJfIk

スケールを縮めてるから問題ないと思う。でも巨大化すれば……

 

 

615:名無しの転生者 ID:LmlQQ7USt

……え?

 

 

616:名無しの転生者 ID:oA2vhryDs

……は?

 

 

617:名無しの転生者 ID:UHtYggwzM

いや、は? いや、まて、待て待て待て!!

 

 

618:名無しの転生者 ID:olqs02XlH

え、なんで巨大化!?ってイッチー!?

 

 

619:名無しの転生者 ID:T0d0Varxj

しかもファイナルモード?お前いきなりオーバーレイ使う気か!?

コアゲージ鳴ってんぞ!早く縮め!

 

 

620:名無しの転生者 ID:DPFKKppF7

なんで言った傍…か、ら……?

 

 

621:名無しの転生者 ID:75CL3AAkw

……な、んだこれ

 

 

622:名無しの転生者 ID:6wx6Hmzes

これが、この世界の真実だと……?

違う、だろ……ただの、地獄だ……!

 

 

623:名無しの転生者 ID:6SmzraryG

待て、あれは…グランテラ!?それに小型のビーストが至る所に…!

なんでだ!?グランテラに関してはあの時確かにオーバーレイで倒したはずだろ!?

 

 

624:名無しの転生者 ID:vZjS7wbGr

グランテラだけじゃねぇ!なんだあれは!?スペースビーストが次々と再生していってる!?

 

 

625:名無しの転生者 ID:YKSM1G5X+

違う、生み出されてるんだ!バーテックスも同じく、スペースビーストも同様に……!

 

 

626:名無しの転生者 ID:P5L3HX89j

うそ、だろ……てことは、最初からこの世界は……

 

 

627:名無しの転生者 ID:Cccmw7y1C

滅んでたって……ことか?

 

 

628:名無しの転生者 ID:Vpr4DNXx/

つまり…バーテックスは、十二種類。そして大型種は星座の数が居て、さっきみたいな、小型の無数のバーテックス。

スペースビーストは……無限?

 

 

629:名無しの転生者 ID:xbQVo6Dip

なんだよ、これ……イッチの戦いはなんだったんだ…?勇者の戦いは、なんだったんだよ……!!

 

 

630:名無しの転生者 ID:4JjlBGNf4

こんな世界…希望なんて初めからないじゃないか……!絶望しかない…こんなのどうしろってんだよ……もうイッチは長くねえってのに……

 

 

631:名無しの転生者 ID:cyOK9LXAP

まさに全てを無に還す絶望……。

はっ、最初から俺らも含めて天の神とやらとザギの手の掌の上ってことか……

 

 

632:名無しの転生者 ID:+et1YznuK

そうだ…!友奈ちゃんや夏凜ちゃん。美森ちゃんはどうなんだ!?こんな敵居たらやばいんじゃないか…?

 

 

633:名無しの転生者 ID:oOkZdnn/G

待て、あそこに二人いるぞ…ってやばい!

スコーピオンの尾とグランテラの光球が……

 

 

634:名無しの転生者 ID:o+okL5HcU

いやでも…救ってどうなるんだ…?どうすることも出来ないだろ、これ…正直最強のスペースビーストが完成したと思ってたのに……想定外にも程がある……

 

 

635:名無しの転生者 ID:ZyaMFlpcD

あんなに苦戦して、あんなに命を懸けて、死にかけて……その末がこれかよ…こんな希望のない未来を見せられるのかよ……!

 

 

636:名無しの転生者 ID:psGvsNx5v

流石のイッチもこれは……おい!?

 

 

637:名無しの転生者 ID:S4K4U9vnK

お前……まさかこれを見ても諦めてないのか?バカか!?こんな世界の真実を知って、足掻いてどうするんだ…!?苦しむだけだろ…!

終わってるものにもう、抗っても無理だろ……

 

 

638:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

さっきからごちゃごちゃとこっちは余裕がないんだよ!

人の脳裏でねがてぃぶな発言してる暇があるなら考えてくれ!

諦めてどうなる!?絶望しかないなら、未来がないなら新たに創ればいい!

キラメク未来は必ずある!闇しかないなら、光を灯すのがウルトラマンである俺の役目だ!

東郷もみんなも救う!虚構を見てるような気分で見て諦めるなら黙って見てろ!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---灼熱の世界。

一筋の光が、一帯を駆け回る。

敵は無限。

こちらは限られている。

それでも、その光は絶望に屈してなかった。

終わりしかない、いや終わりを迎えた世界。

地獄へとたどり着いた時、紡絆はまず彼女たちの表情が浮かんだ。

先代勇者の二人が壁の外に行けば真実が分かると語ったとき---彼女たちは悲しい表情をしていた。暗い顔を浮かべていた。

それが()()なのだろう。

敵は無限。決して消えることはなく増え続け、こちらは有限。

()()()()()()()

 

『シュワッ!デェアッ!!』

 

継受紡絆という人間はウルトラマンを宿した。

そして彼は決して諦めることは無い。

希望がない---今の体(ウルトラマン)が希望だ。

闇しかなく未来は閉ざされている---未来を切り開けばいい。

もう長くは無い命---死んだら約束は果たせない。

意味は無い---だったら、何故人類は300年もの間生きてきたのか。

簡単な話、繋げられてきた。

ウルトラマン同様、光は受け継がれてきたのだ。

一体どれだけの人間が殺されたか。死んだのか。

それでも人類は生きている。

つまり、()()()()()()なのだろう。

絶望しかないしても、諦めなかったのだろう。今の世代は無理でも、いつか、いつの日かは、と。

先代勇者の二人だって同じだ。

滅ぼせば良かった。全部全部、諦めて、望んでないなら世界を終わらせればよかった。

ウルトラマンに近い力を持った彼女たちなら出来ただろう。手段はいくらでもある。その時に紡絆はウルトラマンではなかった。

でもしなかった。

それはこの世界が滅ぶことを願ってなかった。例えそれが、どんな理由であれとどまらせる何かがあったということだ。

ならば、ウルトラマンが諦めてしまえば---どうなる?

希望の象徴は、諦めることを許されない。輝き続けなければ、全てが折れてしまう。

故に彼は今---()()()()()()()()()()()()()()()抗っていた。

 

『デェアァッ!』

 

サジタリウス、 ピスケス、キャンサー・バーテックスが貫かれる。

サジタリウスは矢を、ピスケスは突進、キャンサーは反射板を利用していたが、その上からネクサスは射った。

アローモードを形成していたアローアームドネクサスが限界を迎えたように閉じられる。

ネクサスは即座に地面へと向かい、友奈と夏凜を両手で包み込んだ。

 

「っ…紡絆!なんであんた、ここに……」

『デア』

「樹ちゃんと風先輩が行くようにって……?」

「そういうこと…!だったら合流して!ここで戦えばやられる!」

 

話を手短に要件だけ伝えられると、ネクサスは即座に跳躍する。次々へと火球が地面を通り抜け、振るわれた鋏による一撃を避ける。

フログロスとアラクネア---ペドレオン同様、小型のビーストであるからかその数は凄まじいが、構ってる暇がないネクサスは無視した。

 

「でもまだ東郷さんがこの場に……」

『シェアッ!』

「ちょ、紡絆---ああ、もうっ!そういうやつよね、あんたは!!」

 

友奈の言葉を聞いてか、東郷の姿を捉えたネクサスは即座に駆けた。

次々と突進してくる星屑を避け、残っているヴァルゴの爆弾が飛んでくる。

ネクサスはそれを避けない。

 

「ったく---これは貸しよ!」

 

ネクサスの手の上で立った夏凜が刀を投擲する。

爆弾へ直撃し、連鎖的に爆発する中を二人を守るように体を丸くしながら爆風の中を突き抜け、元の飛行態勢へと戻ると東郷の姿を改めて捉える。

 

「っ、紡絆くん……!?」

『フッ---!』

 

何をする気だったのかネクサスは分からないが、銃を構えていた彼女を無視して片手で包み込むと、マッハムーブによる加速で結界の中へと向かう。

立ち塞がるアラクネアとフログレス、ペトレオンだが小型のビーストに加速したネクサスは止められるはずもなく、吹き飛ばしながら一直線に移動する。

そして結界の中へと---

 

 

 

 

 

 

『ウワァアアアア!?』

 

背部から起こった爆発が、ネクサスを結界の中へと吹き飛ばす。

戻れたのまではよかったが、その際のダメージで地面を転がり、衝撃で手が放されたのか勇者たちも空中へと投げ出されていた。

すぐにネクサスは振り向き、爆発を起こした正体、結界の中へと侵入してきたヴァルゴをクロスレイ・シュトロームが撃ち抜く。

 

『ハァッ、ハァ……!』

 

コアゲージの点滅が速く。

その身に纏われていた鎧が光となって消滅し、基本形態(アンファンス)へと強制的に戻された。

ジュネッスを保つエネルギーがなく、さらに巨大化していたはずが等身大になっている。

 

「う…っ。…つ、むぎくん…大丈夫!?」

 

消耗のあまり両膝を着いたネクサスに近くで倒れていた友奈が立ち上がって駆け寄ると支えるが、もうエナジーコアは点滅している。

万全ではない状態でオーバーアローレイに、アローレイ。クロスレイ---本来の戦闘で使うエネルギー以上に消費している。

 

『シァ……』

「そうだ…!夏凜ちゃん、東郷さん!」

 

同じくネクサスの手の中にいたはずの二人を思い出し、ネクサスと友奈は周囲に視線を巡らせる。

夏凜は勇者の姿から元に戻っていたが、意識はないのか倒れたままだ。

あの時---爆発をネクサスが受けた時に咄嗟に友奈を庇ったのが夏凜だった。

友奈がすぐに起き上がれたのは、そのお陰でダメージを軽減されたからだろう。

しかし東郷はどこにもいなかった。

しっかりとネクサスが掴んでいたのに居ないはずがない---もしかしてと思い、友奈が視線を移すと東郷は既に結界の中へ向かおうとしていた。

 

「待って、東郷さん!」

 

友奈の呼び掛けに、東郷は止まって背後を見た。

表情からは何も読み取れない。元々東郷美森という少女は行動を読めるような人物ではない。

余計に、分からない。

 

「……ごめんね、友奈ちゃん。もう時間はないの。紡絆くんが死ぬ前に私は……終わらせなきゃ行けない」

「っ……」

 

話は済んだと言うように、東郷は前を見る。

友奈を悲しませたことに心が痛むが、終わらせたらそれも消える。

だからこそ東郷は進もうとして、止まった。

 

『………』

 

いつの間に移動していたのか、結界の外へと行かせないというようにネクサスが立ち塞がっていた。

エナジーコアを鳴らしながら、命を消費しながら、真っ直ぐな目で東郷を射抜いている。

 

「…紡絆くん。邪魔をしないで」

『---』

 

断る、という返答。

予想出来たことで、東郷は驚くこともなかった。

ただ深緑の瞳は酷く冷やかだった。

 

「そこを退いて、壊せないわ」

『---』

 

退かない。

短銃を向けて脅したとしても、ネクサスはその場にいる。

当たり前だ、紡絆という人間は例え生身でも()()()()()()()()()()()()()人間。

 

「そう……邪魔するのね。そうね、貴方は……いつだってそうだった。今も、あれを見ても諦めてない。無意味なのよ、戦ってもいずれこの世界は終わる」

『---』

「戻れない。もう止まれない---私は貴方が傷つくくらいなら、世界だって滅ぼす。この世界が残っても、貴方は傷ついて死ぬだけ。だから邪魔をするなら、例え動けなくしてでも。無理矢理にでも退いてもらうわ……ッ!」

 

言葉を伝えたとしてもネクサスは動かない。

だからこそ、東郷は手に持つ短銃をネクサスに放つ。

青い銃弾は微秒だにしないネクサスの横を通り抜ける。

その意味は、警告。

 

『---』

「ッ!」

「紡絆くん!」

 

だというのに、ネクサスは歩を進めた。

瞬間、東郷は撃った。友奈の悲痛な声が響き、一寸分の狂いもなく対象に放たれた銃弾は()()へと直撃し、ネクサスは左肩を抑えて片膝を着く。

傷の回復が遅くなり、結局回復することは無かった左肩。

過去のダメージがさらに強い痛みを残す。

 

「これで分かったでしょ。私は紡絆くんでも撃てるのよ……だから、やめて」

『---』

 

普段なら心配していただろう。

だが東郷は冷淡と白い目で見ていた。今度動こうものなら、本当に殺す気だろう。

そんな視線を受けてもなおネクサスは立ち上がって一歩歩み、今度はネクサスのエナジーコアが火花を散らした。

進んだ分よりも数歩下がり、胸を抑える。

銃を下ろす気もなく、東郷は油断なく見ていた。

そんな中、ネクサスが両腕を交差する。

 

「……ッ?」

 

東郷は何かするつもりかと警戒の色を濃くした。

ウルトラマンという予想のつかない力を持つのが紡絆だ。何か動きを制限したりメタフィールドのような隔離空間を展開されたら何も出来ない。

だからこその警戒だったが、次の瞬間には驚いたように目を見開く。

その理由は---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう、つもり……ッ!?」

「……決まってるだろ」

 

ネクサス---いや、()()()()()()()()()()()のだ。

普通、止めるならば実力行使だ。

それをせずとも、相手は撃つ覚悟があって、実際に撃たれた。だったらウルトラマンで居た方がダメージは減らせる。

だというのに紡絆は、自ら変身を解除した。

流石に、想定外にも程がある。

 

「理解したんだ、東郷。お前を止めるには、ダメなんだ」

 

左肩から、血が流れる。

胸は真っ赤に染まっていて、体はそこら中が血が流れていたりボロボロ。

元々ボロボロだったのに風の攻撃を受け止めて、星屑やバーテックスの攻撃を受けたのもある。

それにウルトラマンの肉体ではなく生身に戻ったからか、左腕は一切動く様子はない。

 

「……どういうこと?」

「ウルトラマンの力に頼っても、お前を救えない」

「………」

 

だから変身を解除したのか。思考が読める東郷ですら流石のそれだけは理解が及ばない。

()()()()()()()だ。

自ら手段を殺すなど、愚の骨頂。

でも考え無しではない。

理解したと言った。

ならその答えは---

 

「だから俺は()()()()()()()()()じゃなくて()()()()()()()。お前の()()()()()止める!!」

 

そういう、ことなのだろう。

実力行使をすればウルトラマンの力ならば勇者の一人くらい止められる。けれど心は救えない。

その心を救うには、ウルトラマンの紡絆ではなく、継受紡絆という()()()()()()()でなければいけない。

 

「……ッ」

 

何処までも眩しく、光を体現する存在。

闇の存在にすら脅威とされるだけあって、彼の眼差しは優しく穏やかで、それでいて強い。

何故そんな目で見るのか。なんでそんな温かな目を向けてくるのか。責めるような感情も恨むような感情も、なにひとつ無い。

迷いを振り切るように、東郷は引き金を引いた。

 

「ぐっ……!」

 

正確に()を狙われた紡絆は、ギリギリで反応して避ける。

いくら紡絆の反射速度とはいえ、小さな銃弾を捉えて避けるのは容易ではない。銃口から予測しなければ確実にやられる。

それに彼の体はもう、ウルトラマンの強化などないようなものだ。傷の影響で身体能力は一般人と同等くらいしか出せない。

 

「紡絆くん…東郷さん…私は……」

 

その一方で友奈は動けなかった。

東郷が紡絆を撃った事実が信じられなかった。東郷が苦しんでいたということも、気づけなかった。

泣いていたのに、手を伸ばせなかった。

大切な友達なのに分かってあげられなくて、きっと満開の代償や紡絆の状態を知った東郷はもっと苦しんだだろう。

誰よりも早く気づいたのだから。

それでも、何もしてあげられなかった。それどころかその時友奈自身は紡絆に縋って、助けられていた。

記憶が思い起こされながら、攻防を続ける二人の姿に友奈は何をすればいいのか、分からない---

 

 

 

 

 

 

 

「どうして分かってくれないの……ッ!」

 

東郷は何度も紡絆を狙う。容赦なく、致命傷だけは避けるように狙って。

その度に紡絆は避け、地面を駆ける。

光の力は、もう彼には纏えない。

故に彼は、()()相手に人の身一つで挑む。

その身に宿す光を再び纏うとき、継受紡絆は消滅するのだから。

 

「くそっ!」

 

しかし相手は東郷だけではない。

迫り来る星屑を避けながら接近しなければならないという、よりキツい状況。

東郷自身は隔誘導攻撃端末で自身に迫る星屑を倒しているが、残念ながらウルトラマンの力がない紡絆には星屑を倒すことすら出来ないため、避けるしが出来ない。

なぜなら物理攻撃が通用しないのだから。

 

「もういいのよ……紡絆くん」

「何がいいって!?」

「貴方は十分戦った!貴方一人が頑張ってもこの世界は救えない!もう終わってるのよ!」

 

地面を蹴るようにして加速し、横に転がると星屑を避ける。

星屑と紡絆を巻き込むように放たれた散弾銃の弾を転がって避け、勢いを殺さず起き上がる。

 

「やって見なきゃ分からないだろ!」

「分かるよ!なんでそう言えるの!?なんで諦めてくれないのっ!」

「俺が諦めてどうなる!?誰も救えない!誰の幸せも守れない!」

「誰かの幸せなんてどうだっていい!」

「俺は良くない!!」

 

その拳を握りしめ、ただ真っ直ぐ突き出す。

星屑を殴って、跳ね返される。

転がる紡絆に口を開いた星屑が迫り、回避するように右手を地面に着きながら勢いよく両足を上げて回ると、起き上がる。

 

「この世界は必ず救う!俺がウルトラマンとして戦ってきたのはみんなを救うためだ!誰かの幸せを笑顔を守りたい!その想いは今も変わらない!変わることは無い!」

「違う、違うのよっ!私はそんなことして欲しくない!その末に貴方は犠牲になる!苦しんで、利用されて、報われないまま、ただ人柱にされるだけ!」

「違う!犠牲なんかじゃ---があっ!?」

 

ボールのように、右腕で防御した上から吹き飛ばされる。

しぶとく抵抗していた人間を殺すためか、星屑は集まって、起き上がれない紡絆を狙う。

 

「邪魔を……!」

「せえええいっ!!」

バーテックスは私たちが相手します…!

 

口を開けて、ギシギシと音を立てて迫った星屑が撃ち抜かれ、斬られ、捕まえられる。

新たな影が、舞い降りた。

 

「風先輩と樹ちゃんか…!?」

「東郷を任せるわ!」

紡絆先輩の邪魔はさせませんから!

「っ、悪い!」

 

追いついてきた風と樹が、紡絆を援護する。

東郷を説得するには星屑は邪魔だった。攻撃しても通用しないのだから、今の紡絆にとって天敵だ。

だからこそ、倒せる二人に任せて東郷に向かって走る紡絆だが、なにかに気づいたようにバックステップすると火球が次々と着弾し、爆風で吹っ飛ばされる。

地面に倒れ、睨むように結界の外を見た。

スペースビーストが、ウルトラマンを宿す紡絆を殺そうとやってこようとしていた。

しかし、そんなスペースビーストたちは突如爆発する。

次々と目まぐるしい展開に周囲を見ると、刀を携えた勇者が乱入してきた。

 

「何が何だか分からないけど、私も混ぜてもらうわよ!」

「…全く、本当に頼りになるなぁ…」

「トーゼンよ!ここは任せて行きなさい、あんたにはあんたにしか出来ないことがあるでしょ!」

「…ああ!そういうところ好きだぞ!」

「ちょ、こ、こんな時に何を言ってんのよ……!」

 

こういう時にすら素直に思ったことを口にし、笑顔を浮かべる。

僅かに動揺しつつ夏凜は増えてきたバーテックスの足止めをしていた。

そうしてただ、一心不乱に前を見据える。

紡絆の視線の先で、東郷は唇を噛み締めて、今にも泣き出しそうな顔をしている。

なら紡絆は余計に()()()()()()()()()()

 

「どうしてみんな、分かってくれないの……こんな世界に、光なんてないのに……。一緒に消えたら、楽になれるのに……これ以上苦しむことも、傷つくことも失うこともないのに……」

「だから……!」

 

服も体もボロボロで、それでも起き上がる。

何度も、何度も。

何ら変わらぬ、光の眼差しを向けて。諦めの色が何一つ見えない目で。

大きく息を吸い込んで。

 

「だからッ!人の心に光を灯さなきゃならないんだろ!勇者は、希望だろうがっ!!」

 

一歩踏み出して、紡絆は叫んだ。

説得するように、闇を打ち払うように。

そんな紡絆を言葉を東郷は否定し続ける。

 

「それで大切な人が傷つくなら、友達を守れないなら…私はもう、勇者じゃなくていい……!」

「っ、東郷……」

 

それほどの、硬い意思。

散弾銃が火を噴き、紡絆の体もまた大きく吹き飛ばされる。

直撃はしなくとも近ければ近いほど高威力を発揮するそれは、生身でしかない紡絆を吹き飛ばすには衝撃だけで十分だ。

 

「そこでじっとしていて…これ以上、何もしなくていい……!」

 

絞り出すように告げられ、だけど立ち上がる。

その度に東郷は唇を強く噛み締めて、狙撃銃が紡絆を撃つ。

身を逸らした紡絆の横腹を掠め、痛みで顔を顰める紡絆は右手で抑えながら次に来た一撃が肩を掠めた。

一歩歩めば、今度は頬が。

髪が。

腕が。

脇腹が。

膝が。

足が。

血を流しては、傷だけが増えていき、紡絆の体は再び大きく投げ出される。

近づけない。言葉を投げかけても、届かない。

それでも立ち上がらないと、誰が彼女を救えるのか。

 

「う---ッ!?」

「っ……?」

 

起き上がろうとした紡絆は咄嗟に口を抑え、俯く。

何かの異変を感じたのか東郷は訝しむような視線を向けるが、抑えた手のひらから微かに赤い液体が溢れる。

---限界が、少しずつ訪れようとしている証。

 

「…ほら、もう無理なのよ」

「ぅぐ…はぁ、はぁっ…なに、が……!」

「紡絆くんはもう、長くない。ずっと貴方を見てきた。初めて会った時から、ずっと…だから分かるの。もう時間はない、どれだけ理想を掲げたって、現実は変わらない!綺麗事だけでは何も変えられない!」

「……そう、か」

 

血に染まった手を握りしめ、ふらつきながら紡絆は立ち上がる。

左目はもう力が無くなってるのか開いていない。元々見えないのだから、問題はない。

唯一開かれた右目。何の色にも染まってなく、透き通るような黒目。その奥にある、誰にもない輝き。

表情は、苦しそうではなくて絶望に焼かれていない。

 

「その言葉……聞けてよかったよ」

「どういう……」

「深い意味はない。ただやっぱり俺はさ……俺らしくしか無理なんだよな」

 

時間経過、戦況。実力差。

あらゆる面で、追い詰められているのは紡絆だ。

だというのにこんな状況でも、紡絆は笑った。

諦めたわけでもなく、いつもの顔で。みっともなくて、痛々しくて、傷だらけで。血を垂らして。

だとしても、笑顔を浮かべていた。

苦しいのは紡絆のはずなのに、逆に東郷が何処か苦しそうに顔を歪める。

 

「どうして、笑えるの……なんでっ!分かってるくせに!自分が死ぬって!限界だって!なんでいつものように、私にそんな笑顔を向けるの……!変わらず手を伸ばしてくるのっ!やめて、やめてよ……!!」

「簡単な話だろ---絶望したって何かを憎んだって、悲しんだって何も変わらない!ただ今目の前の友達が困ってるから。泣いてるから!()()()()()()()()()()()()()()から!だから手を伸ばすんだよ!!そこに幸せがないから!終わらせた後のお前が苦しむから!間違えた道を行こうとする友人を止めるのが、友達だろ!!」

「わたしは、私は……望んでない!助けなんて必要ない!そんなのどうだっていいのよ!貴方の居ない世界なんて、耐えられない……!今も着々と、貴方は限界を迎えかけてる!だからもう、立ち上がらないで……すぐに終わらせるから!苦しまないでよくなるから……だからこれ以上何もしないで!」

「ッ……!?」

 

弾丸が(かぜ)を突き破りながら進む。

予測が間に合わず、弾道を読むのがあまりにも遅れた。

---弾丸が、見えた。

 

(これは---!?)

 

世界がスローモーションとなっていた。

初めての経験ではない。夏凜と手合わせした際にも起きた現象。

だが今回は避けきれないと紡絆は理解した。木刀と銃弾ではあまりにも速度が違いすぎる。

狙われたのは足。

紡絆を殺すつもりないのか足を狙ったようだが、今度は肉体が上手く動かず反応が遅れた。

光を纏う力は失われてもウルトラマンであることに変わりは無いから、死ぬことは無い。でも間違いなく、貫通して動けなくなるだろう。

まだやられるわけにはいかない。

精一杯の抵抗をするように、両脚に力を入れた紡絆は後ろへ跳ぶ。

だがやはり間に合わない。何処か他人事のように考えつつも、希望を捨てなかった。

そうして紡絆の体は---()()()()と共に地面へ勢いよく倒れていた。

 

「ぅぐ……!?」

「っ……そうだよね」

 

目を開ければ、紡絆の体の上に乗りかかる一人の女の子の姿がある。

真っ直ぐな瞳を持っていて、覚悟を決めたような友奈の姿。

片目しか開いてない黒い瞳と深紅の両目が互いの色を映し出す。

状況から見て、紡絆を押し倒すことで助けたのだろう。

 

「簡単なことだったんだ……」

「…ゆ、うな……?」

「遅れてごめんね、紡絆くん。でも分かったんだ…友達に失格とかない。東郷さん、泣いてた---だったらもう、それだけで十分だったんだよね」

 

友奈はずっと、悩んでいた。見ていた。

自分に止める資格があるのかと。

二人が、友人同士が争ってるのを見て、心が痛かった。

大切な人が、大切な人を傷つける姿が、見たくなかった。

友達なのに何も理解出来てなかった。そんな自分に何が出来るのか---その答えは、単純で簡単な事だったと気づけたのだろう。

起き上がった友奈は答えを教えてくれた紡絆に笑顔で手を差し伸べて、紡絆は何処か嬉しそうに頬を緩ませるとその手を取る。

起き上がった紡絆は友奈と並び立ち、東郷(友達)を見つめる。

 

「---ああ、そうだった。主役は遅れてやってくるもんだからな。気にしなくていい。それよりもう大丈夫なのか?」

「うん、もう決めたんだ。私が勇者部も世界も、紡絆くんも。東郷さんも守る!」

「そうか、だったら俺がそんな友奈を守る。友奈だけじゃない。全部、この手で守ってやる!」

 

宣言するように告げられた言葉。覚悟の証明。

一人ではなく、共に。

紡絆は唯一動く右腕を真っ直ぐ右に伸ばして、拳を向けると友奈は理解したように左拳を合わせた。

 

「東郷の元へ行きたい。だから行くぞ、()()に」

「うん、()()に!」

 

かつて星空の元で交わされた約束---それの再現。

一人では紡絆は間違いなく接近も出来なければ避けるだけで精一杯だろう。それどころか避けることすら、至難。

そもそも動けるのは短時間だ。これ以上の無理は、間違いなく出血多量で死ぬ。

それほど無理する必要があるくらいに東郷の射撃の精度は高い。

だが、二人なら別。

紡絆が記憶が失ったあとから、出会ってずっと一緒にいた友人。

そんな彼女と紡絆は、互いの性質が似ているのもあって他の友人よりも互いが分かる。

何よりもう、繋がったから。深く。絆は、より更なる高みへ。

そうして、分かるようになった。

今みたいに、何をするのか。

 

「友奈ちゃんまで……」

 

その姿を見て、東郷の胸に言いようのない痛みが走る。

より強く入れ替えるように握られた短銃が、二人に向けられる。

 

「どうして分かってくれないの……誰も、どうして……」

「……ううん分かるよ…東郷さんの気持ち。私も一人なら、立ち直れなかったから。だから今度は私が手を差し伸べるんだ!

この世界がなくなったら、みんなと居られないから。東郷さんと居られないから!」

 

紡絆という人間が居たからこそ、今ここに友奈は立てている。

無論彼女だって今隣にいる男の子がいつ死ぬかなんて、分からないし考えたくもない。出来るなら傷ついて欲しくないし苦しんで欲しくないと思っている。

ただでさえ、さっきから血を流してるのに。

でもその程度で、紡絆が止まるような人物ではないということも知っているのだ。

友奈が出会った時から、ずっとそうだったから。

いや、過去の勇者たちの言葉を信じるならば、それより以前から。

それこそ、紡絆という人間が生まれた時からそうだったはずだ。

 

「誰かがしなくちゃダメなのよ……じゃなきゃ!この生き地獄は終わらない!戦いは永遠に続いて、苦しいだけの日々が続くだけ!こんな世界があるから、そんな思いをするの!」

 

短銃が火を噴く。

分かれるように左右に避けた紡絆と友奈が同時に駆け出し、自身と同じ勇者の力を纏う友奈に短銃を連射する。

 

「地獄じゃないよ……!苦しいだけじゃない!この世界がなかったら、私たちは巡り合わなかった!」

 

手甲で短銃の弾を防ぎ、東郷を友奈は真っ直ぐに見つめる。

威力不足を悟ったのか散弾銃へ変わり、友奈は前に飛び込むことで避けた。

 

「だとしても、この世界がある限り辛いだけ…!」

「東郷…俺はさ、お前みたいに怜悧じゃないんだ。でも分かることは一つだけある。お前はまだ、本当の気持ちを曝け出してないだろ…!

確かにこの世界があったら辛いことはある。生きてる限り、幸せだけがあるわけじゃない!絶望だってある!だとしても俺たちが過ごしてきた日々は、勇者部で活動した日々は、勇者として戦ってきた日々は、辛いだけだったか!?」

 

遠隔誘導攻撃端末が、紡絆に襲い掛かる。

ほんの一瞬、全ての弾道を()()紡絆は()()()()()と身を捻っては躱し、避けきれない分を致命傷を避けて受ける。

---肉は削られ、皮は裂け、血が鮮明に流れる。

血を失いすぎた影響か全身の感覚が無くなりつつあったが、痛みは無視した。

それどころか、全部振り絞る。

限界を、超える。何度だって。

 

「っ……私は貴方のように強くない!私たちは散華を続ければそんな日々も忘れて、大切な気持ちや想いもなかったことにされる…!戦い続ければ、紡絆くんは必ず死ぬ…!そうして全部忘れるんだよ…貴方のこともッ!」

「っ、まず……」

 

オールレンジによる攻撃だけでも避けきれなかったのに、そこに散弾銃が加えられると躱し切れない。

咄嗟に体の一部を捨てる選択を取ろうとしたが、友奈がそれをさせない。

守るという言葉に嘘はなく、端末の弾幕を防ぎ、散弾を見極めた紡絆が友奈を抱き寄せては全てを避け切る。

即座に駆け、今度は紡絆が全ての弾幕を()()()()()()()

 

「……!その瞳……」

「さっきから東郷は決めつけてるけどな、俺は死なない!人の限界を勝手に決めつけて、勝手に諦めるなよ!例えお前らが散華して、失ったとして!俺が面倒を見てやる!何度だってやり直してやる、治る道を探してやる!何度だって思い出させてやる!」

 

止まない弾幕---さっきと打って変わり、紡絆は全て視えてるかのように避けていく。

最低限で、最小限必要な動きのみで。

何より紡絆の瞳は---()()()へ変質していた。美しく、琥珀色に近い。本当に光を宿したかのような、輝く目。

 

「そんなの出来るはずがないよ…忘れたら取り返せない…失ったらもう、還ってこない!紡絆くんだって同じじゃない…記憶を忘れたままじゃない!」

「ああ、ないよ。けど約束したんだ、必ず記憶は取り戻す!」

「そんな言葉に意味はないのよ…もう嫌なのよ……!これ以上大切なものを忘れるのは… 過去に私が貴方の記憶を失ったように!全部、全部無くすのは…!いずれみんなのことだって忘れる…苦しくて辛くて、生きるのが嫌にやっても、死ぬことは出来ないのに!きっとあなたも友奈ちゃんも私のことを忘れるでしょ…忘れてしまうでしょ!!」

 

例え弾幕が二丁に増えても、全て当たらない。遠隔誘導攻撃端末と一緒に放たれたとしても、当たらない。

狙いを定めることもせず間断なく暴れ狂う弾幕の中を黄金色の瞳に変異した紡絆は軽々と避け、避けることが不可能な攻撃は友奈が阻止する。

 

「忘れないよ!」

「誰がっ!二度と失わない!二度も失ってたまるか!」

 

泣き叫ぶような東郷の言葉を、二人は強く否定する。

そして一気に加速した。

東郷の元へ、二人は接近する。

 

「どうしてそう言えるの……!」

「私がめちゃくちゃ強く、そう思っているから!」

「俺が忘れたら、死んだら!近くに居なけりゃ思い出させられないだろうが!だから何があったって、覚えて居てやる!」

 

近づけば近づくほど、攻撃は激しくなる。

だとしても、何故か当たらない。一発も、掠ることすらなく。狙いは正確なのに。

攻撃を防げる友奈。全てが視える紡絆。

二人のコンビネーションは、まるで思考が繋がっているように。以心伝心しているかのように。

互いの死角を全て殺して、互いの危機を守って、踏み込む。

懐へ入り込んだ二人には遠隔誘導攻撃端末は機能しない。

咄嗟に距離を離そうとした東郷に、紡絆が手を伸ばした。

間に合わない。

一瞬のアイコンタクト。

距離の離れた東郷が装填の早い短銃を構え、紡絆は止まることなく前へと進んだ。

放たれた弾が紡絆の耳を掠め、なお地面を強く蹴り、東郷へと手が伸ばされる。

空中にいる紡絆は回避出来ない。

だから連発しようとしたところで、友奈が東郷の手を取った。

機動力が低く遠距離に特化してるからか近接特化の友奈に呆気なく武器を奪われ---東郷は飛び込んできた紡絆に勢いよく押し倒された。

 

「---約束だッ!!」

 

誰もが例えるように。そうだったように。

惹き込まれるような温かくも優しく。綺麗でひとつの濁りもない、汚れもない。輝かしくも美しい光の目が東郷を真っ直ぐに捉えていた。

揺れる瞳。涙を流して、怖がって、絶望に満ちた東郷とは正反対。

ただそれでも、東郷は紡絆から目が離せない。逃げ出すことが、出来ない。

抵抗すれば、離すことが出来るのに。出来ない。

 

「やく……そく……?」

「ああ、約束だ」

「うそ……」

「俺がこんな時に嘘をつけるほど器用なわけがないだろ!」

 

信じられないといったように口から言葉が出てくる。

対する紡絆は、自虐に近い己も他人も、誰もが認識してることを叩きつけた。

弱点でもあって、利点でもある部分を。

今までの行動が、今までの生き様が。今までの在り方が。

この場では最も、信頼出来る発言へ。

 

「でも…けど……!」

「東郷さん。私も紡絆くんも忘れないよ」

 

まだ信じることの出来ない東郷に、友奈が手を握る。

自分が不安だった時、勇気を貰えた時と同じように。

目の前には光があって、手からは大切な温もりがある。

---まるで、月明かりが太陽と共に闇を塗り替えるかのように。

 

「…ほん、とうに……?」

「私はずっと、東郷さんと一緒に居る。そうすれば忘れないでしょ?」

「死なないって言葉に嘘は無い。そっちの方も、約束しちゃったからな。東郷が言う地獄が希望に変わるまで、俺もずっと居るよ」

 

優しくも穏やかな笑顔。

いつもと変わらぬ、東郷に希望を与えてくれた笑顔。

消えそうなものでも、遠くに行きそうなものでもない。

明るくて、いつも賑やかに、希望に満ちた顔。

 

「友奈…ちゃん……つむ、ぎくん……」

 

東郷が抱いていた本当の気持ち。感情。

それは---恐怖。

忘却と消失。いずれ孤独になるという不安と絶望。

けれど。

結局、変わらなかった。

いつだって。

どんな時だって。

東郷を救いあげるのは、二人だ。

どんなことがあっても、必ず光は差し込む。

そう、東郷にとって紡絆は希望(ヒーロー)。友奈は希望(勇者)だった。

そんな大切な二人が、二つの希望(ヒーローと勇者)が揃っては、東郷が敵うはずがない。

救われない、はずがなかった。

 

「う、うぅ…ごめんなさい……。わたし、わたし…!大変なことを…私も…皆とずっと一緒にいたいのに…!友奈ちゃんと離れたくなかったのに……紡絆くんとずっと一緒に居たかったのに……!」

「間違いは誰だってある。でも間違えていいんだ。東郷にはさ、俺だけじゃない。友奈もいるし夏凜もいる。風先輩や樹ちゃんも、ここにはいなくても小都音や先代勇者のふたりだって。間違えたら何度だって戻してもらえばいい。俺が何度だって、手を伸ばす」

「うん、私も間違えちゃった。東郷さんの気持ちに全然気づいてあげられなかった……でもみんなや紡絆くんが、私に正しい道を示してくれたんだ。一人じゃダメかもしれない…でも紡絆くんがいれば、みんなが一緒なら、大丈夫!」

「うん……うん……!」

 

涙を絶え間もなく流しながら東郷は紡絆に縋るように抱きつく。

唯一動かせられる手は地面に着いてるため、紡絆は何もしてあげられない。

だからか、友奈が東郷に寄り添うようにその背中を優しく撫でていた。

そしてその姿を、三つの影が見守っていた。

辺にいたバーテックスもスペースビーストもいない。

 

「無事に解決……したみたいね」

紡絆先輩だけじゃなくて、友奈さんもいますから

「問題はこっちか……」

 

否。

正確には()()()が正解か。

確かにある程度は減らした。けれど無数と言える相手に、満開してない勇者三人で勝てるなら苦労はしない。

何故か、結界の外へと戻ったのだ。

まるで()()するように。

けれども今は、今だけは、忘れていいだろう。

風も樹も、夏凜も。目が離せなかった。離したくなかった。邪魔をすることなく、見守っていたかった。

たとえ世界の危機だろうと、この光景だけは美しくも輝かしい、誰よりも共に生きてきたであろう三人だけの、他には無いたったひとつの、唯一無二の物語なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

普段の大人びた姿から考えられないほど、子供のように咽び泣いて。

泣きついて、慰められて、光を浴びて。

目元は赤くなっているが、涙はもう、なかった。

悲しむ姿も、苦しむ姿も、なかった。

 

「……大丈夫か?」

「…うん」

 

深緑の瞳に黄金色の瞳が真っ直ぐに映る。

改めて見えた、その瞳。

いつもの水晶のような澄み切った純粋な黒目では無い。何処までも眩しい、希望の輝き。

見るだけで吸い込まれるような、そんな目。

手に力が籠る。

そうすると、紡絆の肉体は東郷の方へ引っ張られる。

抱きつくのではなく、彼の体を感じるように抱きしめていた。

地面に着く必要がなくなった手が、東郷の頭を撫でた。

どこか、小さな子供をあやすように。困ったように。

それがどれくらい続いたのか、分からない。

長く感じた。でもまた、短かった。

温もりは離れる。

名残惜しさを感じるが、やはりそう言った面での東郷の気持ちには気がつかず、紡絆は起き上がろうとして、ふらつく。

 

「紡絆くん」

「…助かる」

 

友奈が手を取った。

転ばないで済み、足でしっかりと地面を踏みしめて手を離す。

しかしその体はあまりにも傷だらけだった。血だらけだった。

いくらウルトラマンの強化があったとしても、無理をしすぎた反動だ。

全ての反動が、治ってない全てのダメージが波のように振り返してきた。

でもまだやらないとダメなことがある。

この世界を、救わなければならない。

今の紡絆の意識を動かすのは、それだ。それが無ければ、倒れて、意識を失っている。もしかしたら、死んでたかもしれない。

けど罪は消せない。それは紡絆が何をしたって、東郷が壁を壊した事実は消せないし世界が危機に瀕したことに変わりはない。

だとしても、またやり直せばいい。また、戻せばいい。

 

「東郷」

「うん……わかってる」

「今度は、一緒に行こう。もう置いていくことはしない。きっと、次は」

「三人だけじゃないよ。みんなで、ね」

 

それはきっと、気のせいだったのだろう。

偶然だったのだろう。

深く深く。忘れてしまった、散ってしまった記憶の名残り。残留。

()()()()()の姿が奇しくも重なる。

同じく手を伸ばして、変わらない笑顔。失っても、失うことのなかったもの。

---残ってるモノも、失わなかったモノも、新しく得たものも、ずっと傍にあった。

ただ視野が狭くて、見逃してただけ。

少し、ただ少し視野を広げて、相談して、頼れば。この二つの手を取れば。

全部、よかったのだ。

 

「……ありがとう。友奈ちゃん、紡絆くん---」

 

だから今度は、それを大切にすればいい。

取り返しのつかないことをしてしまったけど、過去は変えられなくても、今からは。

今からでもきっと、東郷にとっての二つの希望は共に生きて、ずっと居てくれて、新たな未来を照らしてくれるだろう。

抗えば、諦めなければきっとまた、輝かしい日々が。一人じゃなくて二人で、二人じゃなくて、三人。

そして、みんなと。

そうして東郷は、二人の手を、希望を取る---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()

 

「え---」

 

誰の声だっただろうか。

東郷か、友奈か。離れたところで見守っていた風か、夏凜か。それとも声が出ない樹が発することが出来たのか。

唯一わかったのは、それは()()()()()()()()()()()()()

肉の裂ける音。骨が砕ける音。

そして何より---

 

「が、あァ……!?」

 

()()()()()()()()()()

耐え切れるはずもない。()()()()()

人が人である限り、生命を維持する臓器のひとつ。血液循環の原動力となる中枢器官。

一寸も狂いなく、貫かれた。

鋭く、深く。あっさりと、感じられない速さで。

吐き出された血が、静寂な世界で舞う。

---紡絆の両膝が、地面に着いた。

そう、()()()()()()()

考える必要もない、この場で死ぬ可能性があるのは誰でもなく、紡絆しかいない。無論過去に存在していたファウストの剣があれば別だろう。

それでも精霊の持たぬ、唯一命を守られない人物。

何より最も厄介な存在であり、ウルトラマンを宿すイレギュラー(バグ)

それでも容赦なく、血だまりは作られる。僅かに溢れた血は、近くにいた東郷と友奈にも付着した。

時間は、止まってくれなかった。

同時にまた、誰も---動けなかった。理解、出来なかった。

敵の速さか。認識が遅れたからか。信じたくないことに目を逸らしたかったからか。それとも目の前の現実に逃避したかったからか。

誰も、紡絆が貫かれたという事実を頭が受け入れてなかった。

それでも、本能か。

原因を突き止めるべく、全員の視線が、そこへ集まる。

人が殺される場面。信じたくない現実を、目の当たりにした。

そうして---

 

 

 

 

 

 

 

 

鮮やかな()()()()()()()()()()()()()()

乾いた、空気の(かぜ)が辺りに吹く。

 

()()()()()。そう、言ったんだけどなぁ……」

 

誰もが、信じたくなかった。

誰もが、認めたくなかった。

誰もが、否定したかった。

誰もが、嘘だと言って欲しかった。

誰もが、夢だと思いたかった、

誰もが、現実だと信じたくなかった。

なぜなら、どうして、なんで。

 

「ねぇ、()()()()()

 

何故彼の、継受紡絆という人間の、()()()()()()()()が彼を貫いたのか。

 

「こ、と……ね……」

 

誰よりも早く、やられた本人が、振り向いて、残酷な現実を目の当たりにする。

自身を貫いた相手、天海小都音---継受紡絆という人間に残された、唯一の宝物(家族)()()()()()()()だった。

未だに垂れ、落ちる血。

でも、()()が引き抜かれてないから溢れるようなことはない。

彼女の手に、存在する---鉤爪。

かつての戦いで何度も猛威を振るった、黒と赤がメインの武器。

()()()()()()()()

現実はいつだって非常で。

無情で。

ひたすらに、残酷だった---

 

 

 

 

 



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「-愛憎-ルナティック」



実は最新話投稿して起きてから6時間程度で完成していたという余談(修正する時間が無くて投稿できなかった)
あまりにも筆が乗りました。軽く書いてこれとかマジ?なんで一話使ってるんですかね…この小説には何故か愉悦部の方が多いので、お楽しみください。
それ以外の方には言っておきます。この話には過激、残酷な描写が含まれるので閲覧注意です。苦手な人は苦手かも。
一応これでも修正してだいぶ軽くしたんやで。




 

◆◆◆

 

 第 46 話 

 

 

-愛憎-ルナティック

 

 

永遠の愛

黒薔薇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---いつだって変わらない。

ウルトラマンを宿す。

それは、運命を背負う。

それは、世界を背負う。

それは、命を背負う。

それは、希望を背負う。

手にして、平和を目指して、守った。

多くの命。多くの心。多くの人。多くの日々。

けれども。いつだって、落ちていた。

その手から、零れ落ちていく。

誰かを守って助けて、救って、守って---それでも一番大切なものは、いつも手に出来なかった。

ウルトラマンを宿した者は、やはり、残酷な運命を背負う宿命なのかもしれない---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはっ、あははっ、あはは、アハハハハハハ………ずっとずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと---待ってた。お兄ちゃん、ねえお兄ちゃん。私はこの時を、ずぅーっと待ってたんだよ。やっと、やっと殺せる……やっと、終わらせられる……!」

「うぐっ……ごふ……っ!」

 

引き抜かれ、振り向かせられた紡絆の胸に栓に蓋をするように、ぐさり、と深く突き刺さる。

血が吐き出され、濡れる。

白いワンピースが、紡絆の血で染まった。

けれど構わなかった。

彼女は紡絆を抱きしめて、また血に濡れる。

頬は紅潮していて、瞳に色はない。

濁りきった青い目は、光がなかった。

闇だけが、あった。

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃんお兄ちゃんっ、お兄ちゃんッ!好きだよ!好き、大好き!愛してる!ずっと隠してた、ずっと話せなかった!でももういいよね、終わったら関係ないよね?好きなの、お兄ちゃんのこと。愛してるの、妹としてじゃなくて一人の女の子として!

ドキドキするの、傍にいるといつも止まらなかった。溢れるのを我慢してた!この気持ちを抑えるのが苦しかった!はぁ、お兄ちゃん♡お兄ちゃんッ!すきっ♡すきすきすきすきすき---だーいすきっ♡」

 

---黄金色の瞳が、失われる。

狂気を感じるほどの恋募。

抱いてはならない感情。

矛盾する行動。

困惑を、隠せなかった。頭が、情報が、混乱していた。

 

「苦しい?苦しいよね、ああ、ごめんねお兄ちゃん。せっかくいつもより綺麗な目をしてたのに、戻っちゃった。でも大丈夫、私は普段のお兄ちゃんも好きだから、どんなお兄ちゃんでも愛してるから気にしないでね。ふふ♡お兄ちゃんの血、お兄ちゃんの体、お兄ちゃんの心も魂も全部ぜーんぶ私のものだよ!ほらお兄ちゃんの血もこうやって私の中になってる。私のになってる!!」

 

嫌がることもなく、紡絆の流れる血で体を濡らして、舐め取って、動く度に血が溢れる。

もはや全身の力は入らず、その体は徐々に冷たくなっていた。

 

「……ぁ」

「え?ちゃんと言ってくれないと聞こえないよ。ねえ、なんて言ったの?ごめん、ごめんね。いつもならお兄ちゃんの言葉聞き逃さないのに、騒いじゃった。ダメだよね、反省しなきゃ。でも今は無理なの。なんでかな、分からんないけどずっとドキドキしてる。ねえ聞く?聞いて、私こんなふうになってるんだよ、ずっとなってたんだよ。毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日お兄ちゃんのこと想う度に考える度になってた!」

 

無理矢理胸に埋めさせるように紡絆の頭を抱きしめては、その鼓動音を聞かせようとする。

---今の紡絆には、聞こえない。声も。何を言ってるのかも。鼓動も。

見ることが精一杯。見るだけが限界。

ただうっすらと、自覚だけをしていた。

---これは、死ぬと。

諦めから来る考えではなく、確信。かつての記憶。前世の記憶。

()()()()()()が蘇る。

涙を流す、誰かの姿を。諦めなかった、一人の姿を。最期に見た絶望に立ち向かう、英雄の姿を。多くの、姿を。憧れた、その背中を。

 

「ねえ、聞こえてる?お兄ちゃん。まだ聞こえてるよね、話せるよね?本当はもっと話したかった。一緒に暮らしたかった。でも仕方がないよね、安心してね。お兄ちゃんが寂しくないように、私がぜーんぶ壊してあげる。ぜんぶこわして、ぜんぶうばって、私だけしか見れないようにしてあげる。必要ないよね、こんな世界。だってお兄ちゃんは苦しむ。お兄ちゃんは傷つく。神樹もウルトラマンもスペースビーストもバーテックスも()()()()()()()()もんね。だから全部利用して、全部使って、私が終わらせるからね!そうしたら一緒にいられるから、もう不安なことも苦しくなることもない。私がお兄ちゃんの世話をしてあげる。お兄ちゃんのことを愛してあげられる。お兄ちゃんには私以外必要ないって教えてあげる。だってお兄ちゃんのことを分かってあげられるのは私だけなんだから。お兄ちゃんのことをわかってるのは私だけなんだから。お兄ちゃんのことを知ってるのは私だけなんだから。お兄ちゃんのことをずっと見てきたのは私だけなんだから。分かるよ、お兄ちゃんは認めないよね。それも知ってる、諦めないよね。それも分かってる。だってお兄ちゃんのことだもん。ぜーんぶわかるよ。だから終わらせる。全部消えてしまえば、お兄ちゃんを縛るものもなくなる。お兄ちゃんを苦しめるものもなくなる。お兄ちゃんが諦めない理由もなくなる!」

 

まさしく狂気。

普段の姿からは考えられず、間違いなく正常ではない。

言動そのものが、常軌を逸している。

 

「こ……小都音ちゃん……?」

 

誰が、呼んだのか。

冷めたように表情が消えた小都音の目が、紡絆から外れる。幽鬼のようにただ首を動かす。

何の感情も宿していない瞳。

それらが向けられた瞬間、ぞわりと肌が粟立つのを全員が感じ取った。

それこそ()()と対峙したような、猛烈な不気味な気配。

恐怖にも近く、本能が警告していた。

けれど。

それでも、聞かなければならない。今起きたことを。起きてることを。

 

「なに、して……」

 

息を吸い込み、勇気を出した友奈の口から言葉が振り絞られる。

友奈---いや、この場の全員が冷や汗を掻き、まるで別人のように豹変した彼女を見て呆然としていた。

 

「何って……見たら分かりませんか?」

 

右手が引き抜かれる。

左胸から鮮血を撒き散らし、倒れる紡絆の体を小都音は優しく降ろすと、元の彼女のものに戻った真っ赤に染まった右手で紡絆の頬を優しく、愛おしいものに触れるように撫でた。

 

「つ、紡絆くん……っ!」

「わ、分からないよ…そんな、こと……したら……!」

 

返事は無い。

身動きひとつすら取る力が残ってないのか。

顔を真っ青にしながら名を呼ぶ東郷の声すら聞こえてないのだろう。

友奈の問いに、小都音は紡絆を見下ろすと表情を消し---()()が友奈と東郷に放たれた。

 

「ッ!?」

 

距離があまりにも近く、回避不可能な一撃。

精霊バリアが発動するが、()()()されたように衝撃で二人は吹き飛ばされる。

 

「ゆ、友奈……!?」

「っ…東郷も……!あんた、何して……!」

 

それでようやく、今を認識したのだろう。

夏凜も風は吹き飛ばされた友奈と東郷に駆け寄って体を起こす。

樹だけは、信じられないものを見るかのように小都音を見ていた。

血に染まった右手には、薙刀のような、黒い棒状のアイテムが握られている。

何処かエボルトラスターに近く、だけど違う。

---それはダークエボルバー。

 

「分かりませんか?分かりませんよね、別にいいですけど。分かってもらおうだなんて思ってませんし、どうでもいい。終わったら、それまで。どうせこの世界は滅びる……話しても無意味なんですから」

 

精霊のバリアを無効化するということは死ぬ可能性があった。

だが小都音は友奈と東郷を撃った。怪我ひとつも無いのは殺傷能力がないようにされていたからか、バリアがダメージだけは防げたか。

どちらにせよ行き過ぎた行動だというのに何とも思ってないような、興味無さそうな目で。酷く冷たい目で見るだけ。

 

「こ、小都音ちゃ、ん…なんで……?」

「………」

 

それでも、友奈は問いかける。

分からないから、理解が出来ないから、認めたくないから。

けれども、返答は無い。

 

「そ、そうよ…小都音ちゃん。このままじゃ紡絆くんが……!」

「貴女がそれを言いますか?お兄ちゃんを傷つけたくせに」

「っ……そ、それは!」

「お兄ちゃんを傷つけて、壁を破壊して、余計な敵と戦わせて、世界を危機に追い込んでいる、貴女が言いますか?」

「………!」

 

口を開いたかと思えば、東郷を責める言葉。

何も言えない。

小都音の言葉は、全て正しい。

東郷は壁を破壊した。そのせいで紡絆はエネルギーをより消費したし、今現在進行形で世界は崩壊の道を辿りつつある。

改めて罪を突きつけられ、罪悪感からか東郷の瞳に涙が浮かぶ。

 

「わ、わざわざそんなこと言わなくたって……!」

「貴女もある意味同罪ですよ、風先輩。お兄ちゃんは貴女が暴走したから駆けつけた。お兄ちゃんの体に負担をかけさせた。傷つけた。自分だけが辛い?自分だけが苦しい?だから自暴自棄になって、大赦を滅ぼそうとでも考えましたか?大赦のやり方は確かに滅べばいいとは思います。でも正しいんですよ、()()()()()()()()()()()点で考えれば。大人たちは利用するしかない。例え辛くても、子供を使うしかない。でも貴女の行動はこの世界の人間全てを殺しかねない行為だった。樹ちゃんも含めて。そしてこの世界で生きて、辛いのは貴女だけじゃない。お兄ちゃんはもっと苦しんだ……!」

「っ……」

 

そしてまた、同様だ。

小都音自身も大赦は好きではないらしいが、これら全てを知っていた大赦のことを考えれば非人道的ではあるが正しい。

世界を救うには無数といるバーテックスと無限に蘇るスペースビーストを倒し続けねばならない。

そのためなら、利用出来るものは全部しなければ、抵抗出来ずに滅びるだけだ。

紡絆のように、全を救おうとは出来ない。

だから大赦は一を捨てて、九を救おうとした。少しでも、多くの命を。

少数の命で大勢が助かるなら、人類が生き残るにはもう、それしかないのだから。

 

「ええ、でも感謝はしてます。特に東郷さんには」

「……ぇ?」

「お陰で()()出来るようになった。お陰で滅ぼせるようになった」

 

僅かに、目が背後へと向けられた。

憎悪に満ちた目で睨みつけられ、遥か先にあるのは大樹。

この世界を守護する神樹様。

 

「ま、さか……あんた、ずっと影から……この時を…?今まで紡絆を騙してたの…!?」

「---は?」

 

夏凜が小都音に問いかけると、ギリっと強く歯噛みをした後に、明確な殺意と共に睨みつけられる。

何より彼女のモノとは思えないほどに、怒りに満ちて、殺意に溢れて、酷く、低い声だった。

---それだけで、体が震えそうになるほどに。

 

「騙す?私が?お兄ちゃんを?何の冗談ですか?冗談ですよね?冗談って言うなら今なら許しますけど。まさか本気でそう思いました?私がお兄ちゃんを騙すとでも?ふざけないで……ふざけないでよ!私はお兄ちゃんを騙したりしない!そんなことしたらお兄ちゃんに嫌われる!裏切ることになる!そんなの絶対しない!お兄ちゃんの信頼に答えるのが私、お兄ちゃんを愛するのが私、お兄ちゃんの傍にいるのは私、お兄ちゃんの世話をするのが私、お兄ちゃんのためだけに生きるのが私の生きる意味。お兄ちゃんだけが私の支え。お兄ちゃんだけが私の全て…!

だって私はこんなにもお兄ちゃんが好き。お兄ちゃんとずっと二人っきりになりたかった。ひとつになりたかった。ずっとずっと昔からお兄ちゃんを愛してきた…!そんな私がお兄ちゃんを騙すとでも!?」

 

捲し立てるように早口で告げられ、地面が強く踏みつけられた。

見た目からは考えられない衝撃が走り、それは勇者の力を纏っていても踏ん張らないと吹き飛ばれるほど。

衝撃が通り過ぎた後に残るのは、彼女のものと思えないほどの気迫。纏う雰囲気にただ圧倒される。

言葉を失う。

その言葉の数々。

確かな愛情を含みつつも怒りが載っていた。

 

「……まあメフィストのやつが勝手にお兄ちゃんを傷つけたのは事実です。私は記憶を共有してない。共有されたのはついさっきだから。

知った今は、もちろん許さないけど。その上()()()あのゴミ(クトゥーラ)を呼んでお兄ちゃんを殺そうとしたのは許さないし殺しに行こうかなと思ったけど。仕方がなく、ほんっとうに仕方がなく今回は許してあげただけ」

 

一息付くと落ち着いたのか。

怨恨を抱きつつも、興味を無くしたかのように吐き捨てるように告げた。

しかしこの場の誰も、彼女の闇に呑み込まれ、動くことすらままならなかった。

---そんな中、小都音の背後で倒れていた紡絆が残る力を振り絞るようにエボルトラスターを、握った。

背後を見てない小都音には分からず、対面にいる勇者たちだけが気づいた。

まだ生きているということを。

それでも喋りかけるわけにも気づくわけにはいかない。

ウルトラマンに変身さえ出来れば、全てが覆る。

だからこそ---

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、何しようとしてるの?」

「っぁ……!?」

 

エボルトラスターが、遠くに飛んでいく。

血潮が噴き出し、右手にはナイフが突き刺されていた。

瞳は一人しか映さない。

一切の熱も感じられず、冷徹で凍えるほどに冷たくて、暗い。

瞳孔は開かれ、吸い込まれてしまいそうなほどに、闇は濃かった。

 

「ねえ…ねえ、ねえっ!!何しようとしてたの、何する気だったの!?人のお兄ちゃんの体を使ってッ!人のお兄ちゃんの体を操って、操作してッ!これは貴方のじゃない!私のお兄ちゃんの体!私のお兄ちゃんのものなのに!私だけのお兄ちゃんなのに!!どうしてそんなことするの?そこにいるんでしょ、お兄ちゃんの体の中にいるんでしょ!?分かってるんだよ、ウルトラマンは人の体を使わなければ地球には居られない。だからお兄ちゃんの体が必要なんでしょ?でもなんでそんなことするの?貴方が動かなければお兄ちゃんをこれ以上傷つける必要もないのに、お兄ちゃんが苦しむこともないのに!今もそうやって生かして!()()()()を持たない貴方には何も出来ないくせにッ!」

 

紡絆の上へ跨った小都音は胸倉を掴むとひたすら揺らす。

例えそれで吐き出された血を被ることになろうとも、彼女は気にせずに。

そしてすぐに落ち着いたのか、胸倉を離すと紡絆に跨ったまま見つめる。

 

「はぁ……逆に、気づいてないと思ったの……?私がっ!私がお兄ちゃんのことでッ!!気づかないとでも思ってたのッ!?」

「っ……!?」

 

失望したように告げると、何かに取り憑かれたように癇癪を起こしながら突き刺したナイフを引き抜くと、再び突き刺す。

悲鳴を上げたくなるほどの痛み。 目を背けたくなる光景。

いや、誰もが目を背けていた。

 

「お兄ちゃんがこうなったのは貴方のせい。貴方がこの地球に来なければこうはならなかった。ザ・ワンが居なければ世界はこうならなかった。貴方が居なければ()()()は来なかったッ!今更お兄ちゃんのことを助けようとするの?今更お兄ちゃんを守ろうとするの?なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでッ!!

なんで今なの!お兄ちゃんを()()()()()()()()()()()()!!お兄ちゃんの()()()()()()()()のは貴方のせいなのにッ!!今守るならもっと前に守ってよ!出来なかったくせに!これ以上私のお兄ちゃんを巻き込まないで、これ以上私のお兄ちゃんに何もしないでよッ!」

 

狂乱するかのように、突き刺す。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も---抵抗出来ないように。

それこそ、二度と使えなくさせるように。二度と何も出来ないように。

そうして、小都音の動きが止まった。

銀色のナイフは塗装でもしたのかと思うほど赤い鋭利なナニカに変化していて、紡絆の手は、指のひとつすら動かない。神経が切られて、もう感覚はないだろう。

 

「ハァ、ハァ、ぁ……。あーあ……ごめんね、お兄ちゃん……こんなするつもりはなかったの。本当だよ?私お兄ちゃんのこと愛してるもん、傷つけるのは心苦しいけど…でも仕方がないよね。こうやってお仕置しなきゃお兄ちゃんは諦めないでしょ?言っても分からないんだから、体で教えるしかないもん。

けどこれで分かったよね、これで何も出来ないよね?いいんだよ、お兄ちゃんは何もしなくて何もやらなくて。私が全部やるから、私が全部お兄ちゃんの世話をするからね。いつまでもずぅっと面倒を見てあげる。だからお兄ちゃんを守れなかったウルトラマンもお兄ちゃんを巻き込む神樹もお兄ちゃんを傷つけたバーテックスもお兄ちゃんを殺そうとするスペースビーストもウルティノイドもみんなみーんな殺してあげるから。ふふふ、そうしたら今度こそ、今度こそずっと一緒。いっぱいいーっぱい一緒に幸せになろうね」

 

小都音がそっと紡絆の頬に片手で触れて、空いている手で髪を撫でる。今も少しずつ色を失いかけ、僅かに開かれた目に、最後まで自分だけを映すように。

触れた体は心底冷たくて、体温を感じられなくて、けれども可愛らしく微笑んだ小都音は立ち上がると、血の気が引いたように見つめる勇者たちを見た。

気圧される---だけど、一人。

顔を青くして、揺れる緑の目が、濁りきった青い目と交差する。

 

小都音、ちゃん……

「……なぁに?」

 

いつもと何ら変わらない、透き通るような優しい声音と穏やかな笑顔が向けられた。

声の出せない彼女にだけは、変わらない態度だった。確かな友愛が、そこにある。

だが、いつも通りで居られるような状況でもない。

 

紡絆先輩が…… !

「あぁ……うん、死んじゃうだろうね。今は余計なことをするウルトラマンのお陰で生きてるみたいだけど。でもそれでいいと思うんだ。だってそうしたら私とお兄ちゃん、一緒になれるの。私の中で永遠に生き続ける、永遠に居られる。それに苦しまなくて済むようになるんだよ?傷つかないで良くなるし何かを失うこともない。それは樹ちゃんも一緒。

私はお兄ちゃんが好き。でも樹ちゃんのことも好きなんだよ。だからこうするの。世界を滅ぼす---みんなを解放するにはそれしかないから、人の夢を奪って、私のお兄ちゃんを利用し続けるこの世界を、ね」

 

態度は変わらずとも、小都音を占める狂気は収まることを知らない。

ダークエボルバーが、再び勇者たちに突きつけられる。

疑いのない、明確な殺意。先程のバリアを無効化した力から考えるに、次はもうない。

漂う血の香りが戦場へと場を変質させる。

 

「さぁ、どうしますか」

「ど、どうするって……」

「はぁ…分かってますよね、決まってるじゃないですか。私は世界を滅ぼす。貴女たちは守る。だったらもう、殺し合うしかない。……ちょうど、()()みたいですし」

 

この期に及んでも戸惑った友奈の声に呆れた小都音は位置を示すようにダークエボルバーを軽く振る。

同時に強烈な気配と熱気が、勇者たちの背後から放たれる。

二つの合図でようやく気づいたのか、振り向いた彼女たちが見たのは、ウルトラマンを超えるほどの体長を持ち、太陽を思わせる外見とは裏腹に絶望を体現した最強のバーテックス。

レオ・スタークラスター。

 

「こ、こいつって、あの時の…!?」

「もう復活してた!?っ……本当に、本気みたいね……」

 

レオは動かない。

しかし無意識にか戦闘態勢を取る勇者たち。

信じられない光景。認めたくない現実。まだ頭の整理がついてなくても、時間は止まらない。

僅かに、紡絆へと視線が注がれる。

身動きひとつ取らず、呼吸をしてるのかすら分からない。ただ血まみれの地面に、血濡れで倒れてるだけ。

唯一動かすことの出来た右手は、原型を留めているのか分からないくらいに悲惨なほどに刺傷で埋め尽くされている。

 

どうして、そんなに……あの時の言葉も、今までも…全部、嘘だったの……?

「……樹ちゃん。私、貴女には嘘つきたくない。だから教えてあげよっか。今までの言葉も行動も、嘘じゃないよ。樹ちゃんのことは好きだし夢を叶えて欲しいなって思う。

それにお兄ちゃんのことは愛してるし勇者部の皆さんも嫌いじゃない」

 

今までの事を思い返すように目を閉じ、語る小都音の雰囲気は柔らかい。

それは、彼女が本当にそう思っているから、嘘では無いからだろう。

だがそれも一瞬。

また、冷たい目をしていた。

 

「でもね、もう無理なの。お兄ちゃんを救うにはこうするしかない。お兄ちゃんを守るにはこうするしかない。関係のない人間?世界?どうでもいい…きれいごとだけじゃ救えないものはあるから。お兄ちゃんがみんなを選ぶなら、私はお兄ちゃんを選ぶだけ」

(小都音ちゃん……)

「で、でも…まだ、終わってないよ。みんなで、頑張れば……」

 

何かを言おうとして、樹は口を閉じていた。

声が出せないのもあるが、考えがまとまらないのだろう。

そんな彼女に代わるように、友奈は自身かそれともみんなをか。鼓舞するように、か細い声音で発言していた。

 

「だからそれが綺麗事なんですよ」

 

そんな友奈に、小都音は露骨に不快感を露わにしていた。

現実的な考えからして、この世界は終わっている。

みんなで。頑張ったら。

そんな明確な未来図もなく口先だけで解決するなら、何も困らない。

 

「私は自分の手が汚れても構いません。それでお兄ちゃんがもう苦しまないなら、なんだっていい。どんな罪だろうとどんな罰だろうと…受けていい」

「っ……その気持ちは、分かるわ。私も、さっきまで似た考えを持ってたから…」

「…そうね、あたしもそうよ。だからこそ、取り返しのつかないことをさせるわけにはいかないんでしょうが…!」

 

対象は違えど、似た考えを持った東郷と風が、僅かながら肯定を示す。

東郷はみんなのため、そして失う恐怖から世界を滅ぼそうとした。

風は家族の夢を奪われ、みんなが傷つけられ、騙されて大赦を壊そうとした。

そして小都音は---ただただ、兄を想っていた。

その愛情が、途方もなく重たくて歪だろうとも。

 

「取り返しのつかないこと……ああ、それで思い出した。皆さんはファウストの正体、知ってますか」

「ファウストの正体……?なんで今更そんなこと…」

「……!まさか…!」

 

何かを思い出したように問い掛けられた言葉に夏凜が、みんなが困惑を隠せない。

それでも、唯一知っている東郷だけは気づいた。

 

「ファウストの正体は、私のお母さん。つまり---お兄ちゃんは母親を殺したってことなんですよ」

「……は?」

 

あっさりと、衝撃的な事実が言い放たれた。

ほとんどのものが知らない真実。

逆に言えば、紡絆はそれを知っていた。

知っていてなお、戦い続けていたのだ。

気軽に話せるような内容ではないとはいえ、事情を知っていた東郷以外は頭を殴られたかのような錯覚に陥っていた。

戦意を削ぐには---十分だった。

 

「辛いはずなのに。お兄ちゃんは隠してた。苦しいはずなのに、抱えてた。自分の手で母親を殺めても、お兄ちゃんは戦うしか無かった。この世界が、なくなるから。選択肢なんて、お兄ちゃんにはなかった。取り返しのつかないことを、お兄ちゃんは既にやっていた…でもこの世界が無くなれば、もうそんなこともなくなる……!」

「確かに、そうかもしれない…。でも紡絆くんは……この世界が無くなることを望んでなかったはずでしょ…?」

「だから私はお兄ちゃんを選ぶんです。この世界より、お兄ちゃんがこれ以上何もしなくていい世界を---話は、おしまい」

 

完全に興味を無くしたのか、小都音は目を伏せると振り向いて紡絆の体を抱く。

既に血まみれだからか、これ以上汚れることは無い。

 

「---。お兄ちゃん」

 

ただ耳元で囁き、小都音は紡絆に顔を近づけて、そっと触れた。

顔を離せば、小都音はゆっくりと立ち上がる。

もう、会話を出来るような様子でもない。

小都音は明確に勇者たちを敵として、邪魔者として睨みつける。

 

「じゃあ……こわすね、お兄ちゃん。お兄ちゃんを縛るもの全部---私が終わらせてあげる。疲れたよね、みんなを守るのも。頑張るのも、安心して、何があっても一緒だから。だからおやすみなさい。全部終わったら…楽になれるから…!」

 

小都音はその手のダークエボルバーをゆっくりと左右に開く。

深く、色濃い闇が溢れ出し、紫電が迸る。

紫色の渦がその体を包み込み、闇のエネルギーが変異させる。

黒い瞳に、赤と黒の体。

所々に銀のラインが入っているだけでなく、背骨や肋骨状のモールドに死神の意匠を入れている他、胸にはネクサスのエナジーコアに似た模様も刻まれている闇の巨人---ダークメフィスト。その、等身大。

何度も勇者やウルトラマンと交戦した、巨人。

その正体が、小都音だったと真実が改めて突き付けられる。

 

『ふん、やっと出番か……』

 

紡絆とは違い、人格は入れ替わるタイプなのか。

肩を鳴らしたメフィストは、その手をレオに、その上空へと向けた。

真っ暗な闇がレオの頭上で生まれる。

 

「何をする気…!?」

 

警戒するように夏凜が刀を向ける。衝撃的なことが一気に起きていたが、何もしないわけには行かない。

 

『来い、()()()()()

 

---この世のものと思えない甲高い獣の声が、響く。

闇の中、何かが蠢いていた。

今まで感じたこともない異常なほどの威圧感。

恐怖を感じるほどの気配。

姿が露になる。

その姿は、あまりに異質だった。

怪獣型の二足歩行の肉体を持ち、頭部は爬虫類型。

左肩が過去に戦ったグランテラと見たことはないが既に組み込まれているリザリアスグローラーと呼ばれるスペースビーストの頭部。右肩が同じく見たことの無いメガフラシと呼ばれるスペースビーストのものと、ノスフェルの頭部。

尻尾の先端がグランテラの尾。

首筋から尾の先端までの背中全般がガルベロス。

胴体と背中の突起物はかつて存在していたザ・ワン。

胸にはバンピーラの顔があり、腹部にはムンクの叫びのようなクトゥーラの顔。

右腕はノスフェルの腕とラフレイアの花弁。

左腕はゴルゴレムの頭部。

右足膝にペドレオンの頭部、左足膝がバグバズンの頭部で構成されている異形の姿---()()()()()()()()()()()()()()()()()フィンディッシュタイプビースト、イズマエル。

()()()()()()()()()()()が、そこに居た。

 

「なに、あれ……」

「今まで戦ったスペースビースト…それに見たことないスペースビーストが、ひとつになってる……!?」

 

見上げた先に見えた姿に、風は唖然として、東郷が答えを導き出す。

そう、ひとつになっている。

これは本来存在するスペースビーストが全て組み込まれることで、()()()()()()()()()()()()()()姿()

言うならば、強化版ザ・ワン。

 

『今度こそ完成させろ!やつを喰らい、真の姿を現せ……!』

 

メフィストの指示に従うように、合体怪獣であるイズマエルが雄叫びを挙げる。

同時に、100mはあるであろう巨体なはずのレオがイズマエルが居る闇の空間へと引き寄せられていく。

 

「え……!?」

 

そして次の光景に驚愕と戸惑いが生まれた。

レオ、それもスタークラスターは勇者の満開を持ってしても、ウルトラマン一人の力でも倒しきれない強さを持つ。それほど強力な存在を---あっさりと、()()()()()()()()()()

 

『さぁ、ラストゲームを始めようか。万物を喰らう究極融合型昇華獣---イシュムーア!』

 

メフィストの声が響き渡る。

その瞬間、闇の空間から凄まじい速度で何かが落ちてきた。

それは、スペースビースト。

さっき見たイズマエルだ。

けれども、変化は僅かにあった。

レオを喰らった影響か、イズマエル本来の姿の背部の上に日輪のようなものが生成されている。

つまり、これがイズマエルの融合型昇華獣としての姿。

完成され、最強であるが故に変化は必要ない。

 

『まず手始めに---闇に染めろ』

「……!な、なに!?」

「これは……!」

「樹海を……!?」

 

イシュムーア。

そう呼ばれた怪獣の体から、黒煙が発生し、それは瞬く間に広大な樹海全域を覆い尽くし、暗黒の世界を作り出す。

光を一切通さず、ただ夜のような暗闇の世界。

目で見える程度の明るさしかなく、これが現実世界だったならば何も見えなかっただろう。

 

『貴様らに与えられた選択は二つ。逃げて世界が滅ぶのを待つか。それとも足掻くか---どちらにせよ、()()()()()()()()()()()()()()()

「っ……」

 

改めて、突き付けられる。

あれから、紡絆は一度たりとも動いていない。

心臓を貫かれて、かなり経っている。

いくらウルトラマンを宿す紡絆でも心臓を貫かれると長く生きることは不可能。

もう脈も止まって、彼の意識は既にこの世界にはないのかもしれない。

 

「紡絆……っ。あたしが巻き込んだから……」

「風……今は後悔してる暇じゃないわよ……!あいつは、何かがやばい…!それに紡絆なら、紡絆はきっと……生きてる。私より長くいるあんたらが信じなくてどうすんのよ!紡絆は約束を破るようなやつじゃないんでしょ!?」

 

その言葉が、なんの意味も成さないその場を取り繕うだけのものでも。

ここに居続けるのはまずいと、何かが訴えかけてくる。

それは本能か。

 

「っ…そうね……ありがとう、夏凜。とにかく今はこの場から一旦離れて---」

「……友奈ちゃん?」

 

どちらにせよ距離を置くべきだと判断し、指示を出そうとしたところで、東郷の声が僅かに聞こえる。

それに反応するように風も夏凜も視線を東郷が見ている先に向けると、友奈が座り込んでいた。

勇者の力は失われ、桜色の衣服へと戻っている。

今まで声を発することもせず、呆然と力なく倒れている紡絆の姿を見ていた。

 

『---フンッ!』

「ぁ…紡絆くん……ッ!」

 

触れようとして、確かめようとして、だけど触れられずに。

本当に死んでいたら、死んでたら、触れたら肯定してしまうが故に中途半端に伸ばされた友奈の手。

メフィストはそれを見て、さらなる絶望を与えるかのように容赦なく紡絆の体を蹴り飛ばした。

宙へ浮き、地面に落ちたかと思えば衝撃で浮いては砲弾のような速度で紡絆の体は()()()へ消えた。

触れることの出来なかった手が、気力を失ったかのように地面へ着く。

 

『---そう怒るな。どうせやつは死んでいる。仮に生きていたとしても、壁の外で喰われるだけだ』

 

僅かに動きの止まったメフィストが誰かに告げるように独り言を漏らす。

すると自由になったのか手のひらを頭上へ掲げていた。

 

『ラストゲームに相応しいステージにしてやろう。終焉の地をで、な』

 

世界が、変貌する。

太陽が黒煙に染められた世界。

そこからさらに、どこか珊瑚に覆われた岩のようなものだけがある暗黒の世界、ダークフィールドに近くも違う世界。

異形の海---またの名を、終焉の地。

かつてとある英雄がひとつの戦いを終わらせた、戦場。

その世界に神樹のみを残して樹海の世界は消え去っていた。

そして何より、そこにももう一体のスペースビーストがいる。

イシュムーアの腹部の部位となっている触手を持つ異形のスペースビースト---クトゥーラ。

そのクトゥーラは触手を伸ばし、イシュムーアからはグランテラの尾、左腕からゴルゴレムの口吻、右足膝のペドレオン。リングのように存在するレオの日輪から火球。左肩のリザリアスグローラー、そして口から放たれる熱線が一斉にその場を襲う。

 

「なっ……退くわよ!」

「樹!」

「友奈ちゃん!」

 

咄嗟にその場を離脱し、勇者の力を失われていた友奈を近くにいた東郷が。

メフィストを見つめていた樹を風が抱きしめて離れる。

爆音が轟き、凄まじい衝撃となって勇者たちを吹き飛ばす。

咄嗟に刀を投げる夏凜と小刀を投げつける風、片手銃を放つ東郷だが、イシュムーアの目の前に巨大な壁が生成され、跳ね返される。

さらに吹き飛ぶ勇者たちを狙うように、上空から大量に()()()()()が雨のように降り注ぐ。

 

「---!?」

 

かつて見たことのあるもの。

反射板と矢。

キャンサーとサジタリウス---つまりバーテックスの力。

精霊のバリアが発動し、想定外の出来事に動けなかった全員が容赦なく地面に叩きつけられた。

 

「ぅ、ぐ…なに、よ……あれ……!!」

「い、樹……平気…?」

「友奈ちゃん…大丈夫…!?」

 

精霊が居なければ間違いなく今ので串刺しだったと思うとゾッとするが、起き上がった夏凜は文句を言いつつ、風は樹を。東郷は友奈を心配していた。

 

「……った」

「え……?」

 

樹はバリアがあるからか問題なく起き上がると返事をするように頷いたが、友奈は一応怪我は無いものの両手を地面に着いて、虚空を見つめて、何かを呟いていた。

 

「……友奈?」

「まも……かった…」

「…友奈ちゃん?」

「友奈……?」

 

全員の視線が、友奈へと集まる。

様子のおかしい彼女の姿を。

それでも、友奈は気づかず。

ただひとつの方向---紡絆が居た場所を見ていた。

 

「私…約束したのに……さっき、守るって……言ったのに……紡絆くんを…まもれなかった……。助けられて、ばかりで……守ることが出来なかった…ッ!

 

深く後悔が含まれた声音が、辺りに響く。

ついさっき、ほんの数分前に宣言した。

ほんの数分前まで隣に居て、誰よりも近くにいて、守れる位置にいた。

仕方がない。誰も反応出来なかった。ウルトラマンを宿す紡絆ですら気配に気づけなかった。それでも---無力感が場を支配する。

あの場で助けることの出来たのは、間違いなく友奈か東郷だったのだ。

なのに、目の前で刺される場面を見て、何も出来なかった。

東郷と違って、ちゃんと立っていた友奈は特に動けたはずなのだ。

でも、無理だった。

全員、この場にいる皆が思っていることでもあるだろう。

動かなかったのは、同じなのだから。

 

『………小都音ちゃん。紡絆先輩…』

 

そしてまた、その不安も恐れも後悔も伝播するように、空気が重たくなる。

そんな中、樹が一つの影を見た。

岩場に突っ立ってこちらを見下ろしているメフィストの姿。

その背後にはクトゥーラとイシュムーアがゆっくりと歩いてきている。

完全なる、絶望。

さっきの星屑が無数といただけの状況が優しく見えてくる。

いつも空気を変えてくれた人物はもう居ない。そして残る一人も、誰かを見る余裕が無い。

 

「……風先輩。樹ちゃん。夏凜ちゃん。……本当にごめんなさい。だから、私が---」

「…何言ってんのよ、東郷。私も行くわよ」

 

こんな時ですら、時間はなかった。

もう少しで敵は攻めてきて、神樹を破壊しようとするだろう。

だからこそ東郷は一人、この状況を作り出してしまったのもあって行こうとしたが、夏凜がその腕を掴んで止める。

 

「樹、友奈をお願い出来る?」

「……!でも……」

「この状況で誰かが一人になるのは危険だからね。そんなことしたら、間違いなく狙われる。あいつらはあたしらに任せて、二人は少し休んでなさい」

「…………」

 

風の言葉の裏に、気遣いがあることを気づいた樹はそれ以上何も言わず飛び去っていく二つの影を見送った。

小都音のことで、樹もまた思うところがあったから。

十全に戦えるかと言われれば、無理だろう。それどころか間違いなく足を引っ張る。

それを理解してるから、樹はこの場に残った。

 

「…友奈ちゃん。私、信じてるから。紡絆くんのこと、友奈ちゃんのこと。二人が救い出してくれたから…私、まだ勇者でいられる。やれることがあるから……だから、待ってる。諦めないから、絶対」

「…東郷さん……」

 

そして残った東郷は先程されたように、今度は友奈の手を握った。

僅かな温もり、そして震え。

果たしてそれは、どちらの震えだったか。

顔を挙げた友奈の前には優しく微笑む東郷の姿があって、彼女はすぐに表情を引き締めてその場を離れる。

伸ばされた手は、今度も届かない。

ただ遠ざかっていく背中を見て、友奈はスマホをタップしても勇者の力を纏えない自分に、唇を噛み締めた。

こんなことしてる場合じゃないのに、と。

そんな友奈に何かを言ってくれるものは居なくて、樹は友奈の傍で座り込んで背中を摩っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました」

「東郷…もういいの?」

「はい。命を懸けてまで紡絆くんが守ろうとした世界……彼が生きた証を壊させる訳にはいかないですから。せめて、それだけは…守らないと」

「…そうね、こうなったのはあたしのせいでもあるし……でもここで立ち向かわないと二度と前を向けない」

 

東郷と風が、何故戦えるのか。

それは罪滅ぼしと言えるだろう。

紡絆が実の妹に手をかけられるショッキングな光景を見ても戦う意思を保てたのは、それだ。

もし何事もなく、ただ普通に見てしまったなら友奈同様勇者の力を保てたかと言われると無理だったかもしれない。

 

「…夏凜ちゃんは?」

()()()()()を取り返す…それだけ。 それに友奈も樹も、絶対に帰ってくる。それまで誰かが折れずに居ないと帰って来れないでしょ。……紡絆も、ね」

「……うん」

 

そして夏凜は、ただ信じている。

友奈を、樹を、何より紡絆を。

いつもピンチになって死にかけて、それでも必ず帰ってきた男の子を。

今こうして()()()()()()()()()のに、あの男が放置出来るわけがないと。

 

『話は終わったか?』

「……!」

 

声が聞こえてきた瞬間、三人は緊張と共に戦闘態勢へと入った。

それぞれの武器を手にし、メフィストを見た。

未だに巨大化はしていないが、イシュムーアとクトゥーラがいる。

必要ない、そう判断されているのかもしれない。

 

「随分律儀ね。わざわざ待ってくれるだなんて」

『最後くらい慈悲を与えてやっただけだ。どうせこの世界は滅びる。外の世界、何よりウルトラマンがいないこの地球に未来はない』

 

刀を向けられても、微秒だにしない。

ただ真実だけを述べるように淡々と答えるだけ。

 

「っ…小都音ちゃんを返して」

「そうよ、人の妹を利用してまであんなことを……!」

『ふん、返せ、利用だと?何を誤解している?』

「誤解ですって?どういうことよ!?」

 

風が怒鳴るように問いかける。

メフィストからは、嘲笑うかのような笑い声が漏れていた。

 

『ククク…返すも何も、俺の存在がなければ小都音という少女は死を迎える。俺は助けただけだが?そして俺は彼女の心にある闇そのものだ。その闇の器にこの身が与えられたにすぎん。兄を想う愛情。憧景。執念。周囲への嫉妬、軽蔑。ウルトラマンや神樹、スペースビーストやバーテックスに対する嫌悪。憎悪。怨恨。敵愾心。そして生と力への渇望---』

「何が、言いたいの……!」

『分からないか?さっき語っていた言葉は嘘偽りない本音だ。俺はただ待ち続け、限界まで膨れ上がった闇に俺自身の闇を付与して増大させただけ。力を()()()()()()だけだ。

まさか()()()()()()()()()()()姿は酷く滑稽で期待以上に楽しく面白かったがな。誰かのために戦い続けた兄は育ててくれた母親を。兄を想い続けた妹はその兄を。ここまで悲劇な物語を作れる家族というものはそうそういないだろう。ああ、だが最後の結末は情けなくて無様だったがなァ』

 

くぐもるような笑い声が楽しそうに。貶すように。罵るように。暗黒の地に響き渡る。

英雄の物語というのは、いや物語には常に悲劇というものがついてくるもの。悲劇が起きるからこそ、成長にも繋がる。でもどうしようもない出来事だって起きるのだ。

紡絆の場合が、これだった。彼の場合、英雄にはなれなかった。彼では()()()()()は救えても()()()()()は救えなかった。

それだけの話。

 

「そんなの結局言いようじゃない!小都音ちゃんを利用したのは変わらない…そうやって貴方たちが何度も何度も紡絆くんやその家族を…!許せない……許さない…!絶対に!」

『憎しみで戦うか?闇を感じるが---所詮は人の器で収まりきる程度か』

「違うわよ、紡絆やみんなが正しい道に戻してくれた。だから今度こそ守るために戦うだけ…!」

「大赦の勇者じゃない。勇者部の勇者として---ねッ!!」

 

それが戦いの開戦となったのか。

刀を持つ夏凜と大剣を構える風がメフィストに斬りかかり、東郷が短銃で狙う。

メフィストはそれらを見向きすらせず後ろへ跳ぶ。

 

『だったら、ウルトラマンのいない人類がこいつらに勝てるか見物させてもらおうか…!』

 

手を前へ突き出したメフィストに従うように、クトゥーラとイシュムーアが入れ替わるように前へ出る。

 

「上等ッ!」

「勇者部の底力見せてやるわ…!」

「今度こそ紡絆くんにはもう何も失わせない…!」

 

敵は強大。

それでも戦うしかない。

刀と大剣。そして狙撃銃。

それぞれ異なる武器を持つ勇者。

そして最強のスペースビーストにして最恐であり最凶の究極融合型昇華獣。

何処か神話生物を思わせるスペースビースト。

人類と世界の存亡をかけた、最後の戦いが幕を上げる---

 

 

 

 

 

 

 

 





〇継受紡絆/ウルトラマンネクサス
前世では何者かに殺されたらしく、死を確信。
吹っ飛ばされて場外へ。

〇ウルトラマンネクサス
適能者の命の危機を察したため、強引に体のコントロールを奪い、紡絆の体を動かしたが察知されて変身が出来ず。

〇結城友奈
誰よりも守れた可能性があり、なおかつ約束を果たせなかったことへの精神的ダメージにより勇者の力が解除された。

〇天海小都音/ダークメフィスト
暗黒適能者の一人。
ただし今まで自分がメフィストだということは知らなかった。
兄に対する想い、友への想い。
なんなら変わることはなく、ただそれが歪められ、記憶を(メフィストと)共有化された際に溜め込んでいた闇が解放されただけ。ただし、それとは関係なく以前からウルトラマンのことは知っているような口振りで…?
彼女が憎むのは勇者部でも兄でもなく、ただ世界と神と、この世界にやってきたイレギュラーな者たち。
それでも彼女は何があっても兄を選ぶ。兄が苦しまない世界を。悲しまない世界を。傷つかなくていい世界を。たとえその末に、全てがなくなろうとも。

〇ダークメフィスト
ウルトラマンの結界、壁の外が壊されたため自由に干渉が可能へ。
闇の強化(暗黒適能者との完全な融合)により、勇者の精霊バリアは無効化出来るらしい。
終焉の地というかつての地を再現した。
ただ変身時に小都音の意識はなくなる。

〇クトゥーラ
ゴミ扱いされたスペースビースト。
終焉の地に居るため、参戦。

〇アイツ
アイツ。小都音がこうなったのも記憶を共有化させたのもクトゥーラを操ったのもこいつ。

〇イズマエル
全てのスペースビーストがひとつに集約した最強のスペースビースト。

〇イシュムーア
究極融合型昇華獣。
姿はイズマエルと変わらず、背部の上に日輪のようなものが生成されている。つまりスタ〇ゲイザーガ〇ダム。
今までは()()()だったが、レオ・スタークラスターを喰らうことでようやく完成した『最恐』にして『最凶』の『究極』の融合型昇華獣。
今までは地球外でのウルトラ一族(兄弟含む)排除係だった。
『全てのスペースビーストとバーテックス』の力を有する。
イズマエル→元ネタと思われるイシュエル。元ネタではないけどイシュタル(女神)、イシュタール文明(オーブ)→イシュ
ムーア→イズマエルと『融合』したムルロア→ムーア
ふたつ合わせてイシュムーア。

〇宇宙大怪獣ムルロア
昭和なので知らない人もいると思うので軽く解説。
本編では「ちょっと強い」程度の扱いだったが、かつてあのウルトラマンタロウを相手に圧勝し、ウルトラベルを使わせたという見た目に反して強豪。
口から放つ強力な溶解液「ホワイダースプレー」に加え、体からアトミック・フォッグという毒性の黒煙を放出する。
ちなみにアトミック・フォッグで地球全体を暗黒に陥れるという宇宙大皇帝や超古代の邪神、破滅をもたらす天使の眷属といったラスボス級のようなことをした。
こいつに弱点なかったら絶対やばかった。(地球ではほとんど視力がない。光源、特に太陽光を嫌う)
が、実は元々は宇宙にある「ムルロア星」という星に住んでいた宇宙生物。地球のヨーロッパの某国が開発した終末兵器「トロン爆弾」の実験によって、故郷の星を破壊された上、その影響で突然変異して巨大怪獣となったという人類の過ちで被害者。


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「-命の輝き-フィーニス」


50話で終わります。50話はエピローグなので実質あと二話です。
次の章考えたら鬱ですけどね、こっちとは違ってネクサス面強くするので。シリアスが目覚める。
つーか前回の話、思ったよりみんなドン引きしたのかお気に入り数も割と減っていったの面白すぎるだろ。
安心してください、ぶっちゃけ作者も書いてて自分でドン引きしてました。
えっ、俺得意分野でも無い方でこれなの……?って。束縛や監禁の方が得意なんですけどね、書いたことは無いけど頭の中で書いたことはある。
まさかあんな攻撃型をスラスラと書けるとは。
カタカナ変換したらヤンデレ文になるだろ思考はないので文章考えるのは割と難しいです。カタカナはそれっぽくはなるけど、あれって読み手からすると読みづらいからね。
あ、今回は狂気的な展開はないよ、難易度的には本作において一番狂気的だと思いますけど。





 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 第 47 話 

 

 

-命の輝き-フィーニス

 

 

あなたを救う

アキメネス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二つの音波が直線上を駆け抜ける。

咄嗟に夏凜と風は分かれるように避け、東郷は転がって避ける。

怪音波と超音波。

タウラスの力とネオ融合型のクロウが使っていたアリゲラの超音波。

イシュムーアが放ったそれは避けられたが、今度は地面が急激に揺れる。

地上にいる勇者たちはその影響を受け、イシュムーアの目が赤く光る。

突如平衡感覚が失われ、足取りが覚束なくなるとイシュムーアとクトゥーラの姿が分身する。

振るわれる触手と爪。

迎撃するように小刀を投げる風と刀で逸らそうとする夏凜。

そして弾を放つ東郷だが、それらは全て当たることなくすり抜けた。

 

「これは……!?」

「幻影……!?」

「あの時の!これは幻覚よ!」

 

霧のような能力ではなく、一気に現れた。

しかも入れ替える訳ではなく、ただすり抜けただけ。

唯一過去に経験したことのある風が大声で叫ぶ。

地震は夏凜が倒したカプリコーンの能力。幻覚はガルベロスの力。

視界の情報が頼りにならないからか、夏凜は自ら目を閉じて情報をひとつ消した。

 

「そこッ!」

 

視覚の情報を消すことで他の情報をより鮮明に取り込めるようにした夏凜が刀を振り向きざまに飛ばす。

まっすぐ飛んで行った刀はクトゥーラの触手に弾かれるが、場所が把握したため、銃弾が一気に襲いかかる。

しかしノスフェルの爪にエネルギーを纏ったイシュムーアが斬撃と共に全て消し去り、それらは地面を大きく削って破壊していく。

バグバズンと融合した存在の能力。

 

「くっ……しまっ!?」

 

そして糸。

精霊バリアは強いが、音波や水球は通していた。

だからこそ、一番厄介な存在と判断されたのか、夏凜に巻きついた糸は致死量ダメージにはならないのもあり精霊による守りが発動しなかった。

ウルトラマンですら引き剥がせない糸は彼女を強く締め付けていく。

そんな彼女を大きく振り回し、投げ飛ばす。

パンピーラの糸。

さらに抵抗出来ずに吹き飛ぶ夏凜に追い打ちをかけるように、雷と火の破壊光線が彼女を地面へと叩きつけ、爆発が起きる。

ゴルゴレムとアリエスの融合型の能力。

 

「夏凜!」

「まさか…全ての力が使えると言うの……!?」

 

安否が気になるが、そんな余裕はなかった。

イシュムーアが空を覆った()()()()()と毒霧、花粉を撒き散らす。

ありとあらゆる、視力を奪う能力を発動されてしまえばただでさえ暗いこの世界では東郷と風は互いの位置も敵の位置も見失ってしまう。

そうなると攻撃しようにも攻撃することは出来ず、辺りを花粉だけが徐々に集まっていって---

 

「「ッ!?」」

 

何をするのか理解した二人が離脱しようとしたとき、その行動を嘲笑うかのように東郷と風の体が急激に重たくなり、地面に縫い付けられる。

過去に存在したバグバズンの融合型としての能力、重力操作。

そしてクトゥーラが口のようなものから黒い黒煙を吐き出し---花粉に煙が触れたその瞬間、大爆発が起きた。

重力操作が解け、爆発を受けて吹き飛ばされる東郷と風。

可燃性のある花粉に爆発性を含む黒煙が触れたことで一気に誘爆した結果、起きた爆発。

地面に大きく穴を開け、煙が晴れると東郷と風は倒れ伏せていた。

しかしその爆発の範囲は広く、自分たちも巻き込むほどだったのだが---イシュムーアは地面から出てきた。

地中を移動する、ピスケスの能力。

一方でそれほど特別な能力を持たないクトゥーラには霧のバリアが発生している。

ネオ融合型になった元々パンピーラだった存在の御魂が持っていた能力であり、御魂の能力すら有しているということだろう。

 

お姉ちゃん…… !

「東郷さん…夏凜ちゃん……!」

 

その場を、二人は見ていた。

圧倒的。

勇者の力など歯にもかけない強さを見せる敵の姿を。

 

「行かなきゃ……行かないと……!」

 

いつまで見ていても、何も変わらない。

それどころか犠牲がまた出るかもしれない。

だというのに、どれだけ言葉で取り繕ろうとも勇者の力は纏えない。

そしてまた、樹も疲労が原因か今は勇者の力を纏っていない。

そんな二人が向かったところで、無駄死にするだけ。

自分の不甲斐なさにか焦りを覚えつつも唇を噛み締める友奈と、退屈そうに戦場を見下ろすメフィストを何処か悲しげに見つめる樹の姿だけがあった。

 

 

 

 

 

精霊のバリアのお陰で死にはしないが、あくまで致死量ダメージを防ぐだけ。

ある程度のダメージは受けるし、意識が消えて気絶する場合だってある。

だが東郷と風は、立ち上がれるほどの力は残っていた。

---いや、残されたというべきか。

風と東郷、二人は気づいている。

もしイシュムーアと呼ぼれる存在が本気を出して攻撃してるなら、間違いなくさっきのでやられていたと。

最初に放った攻撃はスペースビーストのほとんどの部分から全方位に攻撃していた。

でもさっきから使ってるのは、指で数えれる程度の能力。

---弄ばれている。強者が弱者を嬲るように。希望を見せて、踏みにじるように。

だとしても、戦わなければ終わりを迎えるだけで、選択肢などありはしない。

東郷と風は互いに視線を交差させると、それぞれについている花弁を見て、息を吸い込んだ後に迷いを振り切るように叫んだ。

 

 

「「満開!」」

 

二つの花が、荒れ果てた戦場でも美しく咲き誇る。

オキザリスの花とアサガオの花。

黄色と青の光が輝き、風には神道の神官をイメージさせる服装へ。東郷には白を基調とした羽衣も纏った和服へと変化すると同時に巨大な大剣と移動砲台が現像される。

勇者の切り札、満開。

もはや身体機能が失われる恐怖など、二人の脳裏にはない。

敵を打ち倒すための手段なら、使うしかないのだから。

 

『フン、ようやくマシな戦いになりそうだな』

 

巨大化したメフィストが、地面に降り立つ。

ただでさえ手の付けられないイシュムーアがいるのに、そこにメフィストとクトゥーラが存在する。

不利でしかなく、勝てる見込みは薄い。

それでも、可動砲台から放たれた砲撃と巨大な斬撃が三体に襲いかかった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな口が開かれる。

食餌に群がるように、次々と集まってはソレは弾かれていた。

感情を持たないはずが、何処か困惑してるようにも見え、辺りをうようよと彷徨っている。

気を逃すことなく、待って、喰らうために。

だが火球が全てを呑み込む。

全てがなくなり、また別の存在が触手を伸ばすも弾かれていた。

---壁の外。結界の外側の出来事。

力無く、無重力空間のように宙を彷徨う一人の少年が、()()()()に包まれながら漂っていた。

蹴り飛ばされてまだ少ししか経っておらず、左胸には風穴が空いており、頭からも血を流して、右手は赤いということくらいしか分からないくらい酷い有様だった。

ただ状況は宜しくなく、スペースビーストも星屑も、間違いなく少年、紡絆を喰らおうとしている。

虹色の光が弾いてはいるが、それもいつまで持つか分からない。

僅かに、目が開かれた。

 

(俺、生きてる…の、か?生きてるのかな……いや、生かされてる……熱い……)

 

継受紡絆として、人間として心臓を貫かれた今、もう死んでいる。だが死んでいるのは紡絆としてであって、既に()()()()()()()()()になっているお陰で生きているのか。

それとも---左胸から発生している()が生かしてるのか。

それは定かではない。

だが温感は失っているはずだが、不思議と紡絆はそれが熱いと感じていた。

 

(……小都音)

 

朦朧としてきた意識。

いずれ限界は訪れるだろう。けれども、そんな時ですら浮かべるのは自分が生きる道ではなく別の誰か。

 

(小都音……泣いてた……)

 

脳裏に浮かぶのは、最後に耳元で囁かれた一言。

そして紡絆が樹海で最後に見た妹の顔。

 

『ごめんね……お兄ちゃん』

 

奇しくも、記憶に残っている最後の記憶と最期の記憶と似ていた。

喧嘩別れしたあの日。

彼女の手で殺された今日。

だが最後に見た小都音は今回もまた確かに()()()()()

 

(……たすけないと)

 

それだけで、十分なのだ。

紡絆が生きる理由として、生かされてたとしても、その命を最後まで使うには。

彼女が抱える重圧や過去の出来事。自身の無力さ。そういった色んなものに押し潰され、闇に呑まれたのだろう。楽な道を選んだのだろう。

それでも紡絆を想う小都音としての正常な意識が僅かに残っていた。

でなければ、あの狂気に陥った状態の彼女が泣くはずがない。謝る必要もなく、そのまま紡絆の体を消し炭にでもすればよかった。

脳を破壊すれば良かった。

なのに、やらなかった。

なんで泣いていたのか。それは()()()()()()のだろうと。

 

(……たすけないと)

 

力はもうない。

エボルトラスターがこの場にないのもあるが、次に変身すれば死ぬ。変身してもエネルギーは残ってない。

 

(たすけないと)

 

だからといって、継受紡絆という人間は止まれない。こんなところで、じっとしていられるような性分ではない。

そんな中、真っ赤な右手がうっすらと、黄金色の光を発する。

 

 

 

901:名無しの転生者 ID:gCGMyQvZl

イッチ!おいイッチ!しっかりしろ!!

 

 

902:名無しの転生者 ID:V0BWylUI7

やっぱり…妹ちゃんがメフィストなのかよ……!

 

 

903:名無しの転生者 ID:6xi135lz3

クソッ!間違いなく心臓をやられてる…!何故か知らないけどバリアは貼られているが、イッチが死んでたら意味がねぇ…!

 

 

904:名無しの転生者 ID:2T35rw4OZ

待て、よく見ろ!右手が……!

 

 

905:名無しの転生者 ID:e/0BvJmlJ

生きてるのか!?いやでも、生きていてももう変身する力は……それに変身したとして妹ちゃんを殺さなきゃいけなくなるんだろ…?結局イッチにとっては辛いことばかりだぞ…!

 

 

906:名無しの転生者 ID:5dPkbWyAb

一体どうすればいいんだ……どうしろってんだこの世界…!たった一人で、既に終わってるような世界で…!

何か手段はないのか…!?

 

 

907:光■絆■し転生者 ID:N■X■_u■t■■

生き、てる……で、も…ご…めん。い…てた……最…期の…手、段……つか、う……。や…やく、そ…く……や、破る……けど……

 

 

908:名無しの転生者 ID:rR7DpunYT

最期の手段!?嘘だろ?おい、嘘だろ……!

 

 

909:名無しの転生者 ID:8X827sB2R

何をするつもりなんだ、お前……!?

 

 

910:名無しの転生者 ID:/6xZuD/Jg

なんだ……?何が起きて……!?

 

 

 

 

 

 

 

光が収束していく。

輝いていた右手に、集まった光が象っていく。

徐々に形を作っていったそれは人際強く輝き、辺りの星屑とスペースビーストを吹き飛ばす。

右手に現れたのは短剣---エボルトラスター。

落としたはずのものが、彼の手元へと戻っていた。いや、呼び寄せられたというのが正しい表現か。

 

(ウル、トラマン……ごめん、もう……持たない。でも……まだ)

 

体が落ちていく。

纏われていた光は消え、辺りに敵がいないのが救いか。

エボルトラスターを握る力もなく、僅かに開かれた右目が目の前にあることを認識する。

正真正銘最期の力。

浮かぶのは後悔ではなく、これからのこと。

ただ長く付き合わせて、助けてもらって、それでも何も出来なかった相棒への謝罪。

 

『---』

 

しかし紡絆が何をするつもりなのか気がついたのか、エボルトラスターから現れたネクサスが、紡絆の行動を止めるように手のひらを突き出して首を振っていた。

それでも、紡絆は少しだけ口角を上げて笑顔を作ろうとしながら、同じく首を横に振る。

 

(ごめん……君の命は、受け取れない。でも俺は、みんなを救って…小都音を取り返すために……。人間を……守らないと。この世界を、守らなくちゃ……。希望を、作らないと……。だから、だから俺の最期の力を、()()()()使()()……!それにキミだけは死なせるわけにはいかない……そのためにも、俺の生命力を、光に……これで、今までのこと…少しでも……返せ、るかな……?)

『ッ---!』

(……約束、破るな。いっぱい、あったけど……風先輩…樹ちゃん、夏凜、東郷、友奈…先代勇者のふたりと……小都音……後、母さん。怒るかな……怒るだろうな…結局。記憶は取り戻せなかった……でもみんなが生きる世界は、これからの世界は……ッ!)

 

力が戻る。

右目が開かれ、瞳は再び金色へと変化し、ウルトラマンの姿を掻き消すようにエボルトラスターを勢いよく握ると、同時に全身が黄金色の輝きを解き放つ。

紡絆の体は光へと変換され、右手のエボルトラスターの中へと集まっていく。

 

(例え全ては無理でも、母さんとの約束だけは果たす!この世界の未来のためにも!だからこれが最期の……最期の---ウルトラマンッ!)

 

そうして、紡絆の姿がエボルトラスターの中へ消えるのと同時に、エボルトラスターもまた輝く。

形成されるは人型。

水面から、地獄から這い上がるように、水色の光の奔流が爆発し、赤色の光へ変化しながら今度は人間の大きさではなく、それを大きく上回る巨人というに相応しい49mの光の人型へと姿を変化させた。

 

『シュワッ!』

 

そして巨人---ネクサスは結界の中へと、凄まじい速度で向かっていく。

胸のエナジーコアは一切鳴っておらず、ネクサスの本来の力が出ているのか速度も早い上に安定した飛行。

なぜならそれは、継受紡絆という人間の全て。

文字通り、()()()()()。生命力をウルトラマンへの光に変換することで成し得る、最初で最期のエネルギーを最大限まで引き出す手段。

ウルトラマンに近づいたことにか、それとも彼が持つ光の力が成し得たのか。

それは分からない。

けれどもネクサスは、紡絆は全速力で結界の中へと向かう---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

触手が焼き払われ、大剣が吹き飛ばす。

満開した勇者の二人。

その力を持ってすれば、()()()スペースビーストならば通用する。

故にクトゥーラを相手に追い詰めることは出来ていたが、東郷が放った八門の砲撃をメフィストは手を翳すだけで防ぎ、イシュムーアに振るわれた大剣は爪撃で防がれる。

そして反撃に放たれた三日月形の光線と熱線を、東郷と風はギリギリのところで避ける。

 

「くっ……!まだっ!」

『ハアッ!』

 

一気に撃つのではなく、時間差で連射することで弾幕を作る。

だがメフィストはダークシールドを貼って自らを守り、イシュムーアはまともに食らうが、全て吸収し、全身からそれらを放出する。

---吸収と無効化を持つライブラの能力。それを更に昇格させた力。

 

「!?」

「やらせるか…ッ!」

 

自身の攻撃が跳ね返ってきたことに驚き、反応の遅れた東郷に風が大剣を盾にすることで防御し、力づくで上空に逸らした。

僅かな隙。

それを逃すことなく、イシュムーアが巨大な水球を放った。

 

「私が……!」

 

収束された砲撃が水球を撃ち抜く。

しかし砲撃を避けるように向かってきていた小型爆弾が東郷と風の周囲で爆発し、悲鳴を挙げながら二人が落ちていく。

花は散り、満開が消える。

代償---散華。

どこが失われたか、それすらも気に出来る暇もなく、メフィストの拳が迫っていた。

 

「ッ……!」

 

気がついた頃には拳が叩きつけられ、精霊バリアが発動するも割られてしまい、吹き飛ばされる。

意識が飛びそうなほどに強い衝撃が走るが、戦意で意識を保つ。

そして---

 

「「満開…ッ!」

『ん?』

 

二度目の満開。

速攻で攻撃を行い、不意打ちの攻撃をメフィストはあっさりと反応して避けた。

追撃で次々と弾幕が貼られていくが、紙一重でそれを避ける。

 

『無駄だ。宿()()()闇の力で強化されているオレには通用せん。いい加減諦めたらどうだ?苦しませず楽にしてやってもいいが?』

「私はもう、諦めない…彼が、紡絆くんが!友奈ちゃんが!みんなが……一緒だから!」

「こっちとらねぇ……諦めの悪いバカのせいで簡単には諦められなくなってんのよ!」

『ならば---』

 

メフィストが起こした衝撃が東郷と風を後退させる。

満開した状態でも吹き飛びそうになるほどで、堪えてそれだ。

力量的には既に、ネクサスを超えている。

 

『抗う意思を折るだけだ……!』

 

メフィストが近くにいたイシュムーアに指示を出すように前へ手を突き出した。

すると次々と上空には矢と火球、水球、重力球が浮かび上がり、イシュムーアの頭部と左肩からは熱線、右肩には雷、胸からは電磁ビーム。左腕と尻尾、右足は火球。

それらを放つためにほとんどのスペースビーストの部位からエネルギーを貯めていた。

さっきまでのは本当に全力を出さず、弄んでいたというのが分かる。

今までの融合型にスペースビースト、バーテックスの能力を持ち、融合型として『究極』と名付けられただけあって複数ではなく全て一斉に発動させることも出来る。

その結果がこれであり、見るだけで冷や汗が流れる。

東郷が全砲門にエネルギーを貯めるが、焼け石に水に過ぎないだろう。

 

『フッ---』

 

さらに。

両腕を左右に広げ、大きく下方に回したメフィストの両腕には闇のエネルギーが纏われている。

対する遠距離能力を持つのは、東郷の満開のみ。風は近接攻撃しか持たず、背後には神樹が存在する。

---受けたら終わり。避けても終わり。

いや、避ける選択はない。

受け止めるべく大剣を構えて、砲門のエネルギーを高めて。

全てを賭けた一撃と全てを終わらせる一撃が今---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『!?グッ……!』

 

突如振り向いて手を上空へ翳したメフィストが、()()()()()()に弾かれ、直撃はしなかったが怯む。

突然の出来事に風も東郷も、イシュムーアすら固まっていた。

さらに次々と上空にあった矢や火球などといった能力が掻き消され---

 

『デェヤァァァァァ!!』

 

一筋の流星が、イシュムーアへと高速降下していく。

しかし上空に存在したものが消された際に位置はバレたようで、イシュムーアは振り向いて上空に首を向け、同じく東郷や風も視線を映す。

その先。

 

「紡絆……!?」

「紡絆くん……!」

 

光る右脚を突き出しながら一直線に降下する銀色の巨人---ウルトラマンネクサスがアンファンスの姿で向かっていた。

それを見て驚きつつも無事な姿を見たからか、安堵の表情を二人は僅かに浮かべ、直ぐに引き締める。

そしてイシュムーアは向かってきた対象にキャンサーの反射板を六枚生み出しては盾として使用すべくネクサスに向ける。

ネクサスの蹴りが反射板に直撃する---が、いくら落下速度を加えたとしても簡単に砕けるようなものでもなく、蹴りが止められる。

そこでネクサスが高速で回転し出した。

炎の竜巻が作り出され、反射板を貫いた。

蹴りの勢いは留まらず、そのままイシュムーアへと---

 

『グワァアアア!?』

 

当たることなく。

荒れ狂う竜巻が炎の竜巻を掻き消し、ネクサスを吹き飛ばした。

本来なら高速回転することで竜巻を起こすというライブラの能力。

それを放ったのだろう。

地面へ落ちたネクサスへ熱線が放たれ、次々と火球が直撃しては爆発が起きていく。

 

『シェッ!シュアアアアァァ!』

 

爆煙の中、ネクサスが飛び上がる。

赤い鎧をその身に纏い、ジュネッスへと強化変身したネクサスは両手を胸の前で揃え、右手を肩の高さまで掲げると右手の指先に歯車状の巨大なプラズマを纏う光輪が生成される。

自身の身長と同じくらいのサイズで形成され、ネクサスはその光輪をイシュムーアへと投げつける。

空中から一直線に向かってくる光輪に対し、それは脅威になると判断されたのかバリアが複数枚展開される。

ひとつ。キャンサーバーテックスの持つ6つの反射板。

ふたつ。円形のゴルゴレムのバリア。

みっつ。ラフレイアの融合型の御魂が持っていた霧のバリア。

よっつ。溶解液を板状に展開したバリア。

まず反射板が溶けたように貫かれ、ゴルゴレムのバリアとぶつかり合う。

火花を散らしつつもバリアが砕けず、その場で回転し続ける光輪と展開されたままのバリアが存在し続ける---青い砲撃が、光輪を後押しした。

思わず目を離し、砲撃の方向を見た。

 

『……!』

「聞きたいことはある…でも!援護は任せて……!」

 

思い返されるのは、左胸を貫かれた姿。

明らかに普通なら死んでいてもおかしくは無い。だが、こうやってウルトラマンの姿でいる。

だからこそ、東郷は後回しにして強敵を打ち倒すことに専念しようとしているのだろう。

そのことにネクサスが頷き、そのタイミングでバリアが砕けた。

プラズマの光輪はひとつひとつ、確かに破壊していく。

反射板が溶けたように、光輪にはプラズマが纏われている。当然ながらエネルギー密度は濃い。

生半可な防御手段で防げるほど弱いはずもなく、ゆっくりとイシュムーア本体に近づいていく。

霧のバリアへ向かったところで---消失した。

 

『ッ……!』

『ハァッ!』

 

限界を迎えたのと明らかに毒々しい霧の影響だろう。

ウルトラマンの技ですら本体にダメージを与えることが出来ず、僅かに動揺したように固まるネクサスへ首を曲げて見上げていたメフィストが地面を蹴って跳躍。

拳を構えながら加速し、突き出す。

 

「させるかっての!」

 

反応が遅れたネクサスが咄嗟に防御態勢へ入るが、その前にメフィストはバックし、宙に浮いた状態で対峙する。

振られた大剣が空を切り、ネクサスが守ってくれた風へと視線を移す。

 

「避けられた……けど大丈夫!?」

「無事だったの……?」

『………』

 

ネクサスの方へ振り向いた風と移動台座に乗りながら傍まで寄ってきた東郷が呼びかけるが、ネクサスは何も答えない。

いや、()()()()()()()()が正解か。

誰も知らない。

知っているのはウルトラマンと紡絆のみ。

紡絆が今こうしているのも、こうして居られるのは、あと僅か。

空は暗闇に覆われ、光は何処にも射すことは無い。

まるで、彼の命を現すかの如く。

 

『シュア……』

 

だとしても、彼は構える。

唯一残された、家族を。

闇に利用された大切な存在を取り返すべく、その拳をメフィストに向かって構える。

 

『あの状態から生きているとはな……だが貴様からは()()を感じられない……フッ、そういうことか。なら良いことを教えてやろう』

『………?』

 

一人。

何も言われていないのにメフィストは自己完結したように納得を示すと、戦意を保っているネクサスを何処か愉しそうに笑いながら指差す。

 

『お前は妹を、小都音を救いたいと願っている』

『………!』

 

的を得た発言だったのか、ネクサスが仄かに俯く。

ますますと、メフィストはせせら笑うようにくぐもり声を漏らした。

 

『しかし不可能だ。何故か分かるか?』

『………』

「まさか……!?」

「紡絆くん、聞いちゃダメ!」

 

既にメフィストと小都音の関係性を断片的にとはいえ聞いた東郷と風が今にも語ろうとするメフィストの口を閉じさせようと攻撃を仕掛けるが、砲撃はバリアに防がれ、大剣は地面から飛んできた複数の触手に防がれる。

クトゥーラの触手だが、出しているのはイシュムーアだ。

 

『彼女の命は既にこの世にはないからだ。あの時の事故を覚えているだろう?あの事故で両親共々命を失っているからな。

あくまで死ぬ寸前にオレが持ちかけた()()として仮初の命を与えてやっただけにすぎん。つまりオレを倒せば小都音は死ぬ』

『……!?』

 

告げられた真実。

流石の紡絆もこのことにはショックを受けたのか、握られた拳から力が抜ける。

小都音は生きていた訳ではなく、死んでいた。正確に言うと生かされていた。

メフィストという存在の命を、借りることで。

ウルトラマンが人と同化することで同化した人間の命を死なさずに居られるように。

メフィストも同じようなことをしただけで、メフィストを倒しても分離させたとしても、小都音は死ぬ。

けれど果たしてそれは契約といえるのか。死ぬ寸前に持ちかけるなど考える時間なんてあるはずも無い。

---まさに悪魔の契約だ。

 

『さぁ、選べ!()()()()()世界を救うか。それとも妹を選び、世界が滅ぶのを見ているだけか、何もせず大人しく殺されるか---貴様は()()()()()()。だが悩む必要はないだろう?()であるお前は、自分を選べない。貴様という()()()()()()()()は自分を選べない…!他人しか選べない!妹を選べば人類は滅びる!世界は滅びる!妹を選ばなければ世界と人類は救えるかもしれない。ならば再びその手で奪って見せろ、あの時そうしたように。自身の母を殺した時と同じように!言い訳をして、仕方がなかったと思い聞かせて!罪を背負え、その手を汚せ!自身に残された最後の家族の存在をな……!』

『………ッ!』

「紡絆くん……っ」

「紡絆……」

 

迷うように俯いて視線を右往左往させる姿を、東郷と風は見ることしか出来なかった。かける言葉がなかった。

二人とも確かに世界を危険に晒す行為と晒す寸前まで行ったが、命は奪っていない。奪ったことは無い。その重さは、誰にも分からない。唯一奪った、紡絆にしか。

そしてネクサスの拳が握られる。

紡絆の脳裏に浮かぶ、ファウストを殺した時の記憶。

メフィストの言葉は否定出来ない。

罪を背負うと決めた紡絆は、仕方がなかったと納得するしかない。背負うしか選択が残されてなかった。

なぜならそうしなければ、世界が、人が、みんなが死ぬかもしれなかった。

故に、紡絆は救えた可能性がゼロではなかった母親の命を奪い、世界を救って見せた。みんなを救って見せた。

全てを救うのではなく、九を助けた。

だとしてもその罪は、永遠と付き纏う。命を奪ったという事実は何があっても消せるものでは無い。

他人ならば、まだ少しは重さが違ったかもしれない。しかし奪ったのは肉親。育ててくれた親。自身を産んでくれた母。赤ん坊の頃から愛情を注いでくれた母親。

与えられた選択は、妹を。小都音を殺せば世界と不特定多数を救える。逆に妹を選ぶということは、メフィストを放置すると同義であり、世界と人類は滅びる。何もしなければ結局、世界は滅びる。

どれを選んでも、どれを選んだとしても必ず何かがある。背負うものがある。

残念ながら、妹も世界も人類も全てを救うという選択肢はない。初めから、はなっからそんなのは存在しない。

何故ならウルトラマンは神ではない。それもまた、ウルトラマンを宿す継受紡絆という存在も神でもなんでもなく、所詮は矮小な存在。

救えないものは、必ずあるのだ。そもそも神の集合体である神樹様ですら、全てを救えてないのだから。

だが答えは出さなければならない。出さなければ、今ここで出さなければ時間経過は紡絆を殺す。

故に---

 

『……シェア』

 

迷いを振り切るように、ネクサスが加速する。

拳を握って、ただ一直線に。

そんなネクサスを見てもメフィストは何も構えを取らず、両腕を広げた。

選択を待つように。

そして---

 

『デェヤァッ!』

『グォ!?……フフフ---ハハハハッ!!』

 

メフィストの言葉を証明するかのように。

ネクサスは、紡絆は---メフィストを地面へ叩き落とす。

期待通りというように、地面へ落下したメフィストは土煙を発生させながら、ひたすらに笑う。嗤って、哂って、呵って、咲って、嘲って、嘲笑う。

選んだ選択。

継受紡絆という人間は()()()()()()。選べない。絶対に。何があっても、選ぶことは無い。理由もなく、ただ選ばない。

そこに他人しかないから、自分を選ぶことは決してないのだ。自分が死ぬか不特定多数を選ぶか。悩むことすらなく後者を選ぶ。

自分の手が汚れる方を、どうしようもなく選んでしまう。自分が傷つく方しか、選べない。

誰かを救いたいと願って誰かを助ける少年は---皮肉にも自身にとって大切な存在は、やはり救えない。なぜならそれは『自分』だからだ。

自分にとって大切だからこそ、助けられない。自分を選べないから、救えない。

彼がもう少し、自分と向き合える存在なら。自分を一ミリでもいいから大切に出来たなら、選べるかもしれない。

けれども運命はひたすらに残酷で過酷で哀しくて悲しくて辛くて。

妹を選ぶという選択そのものが、まず存在しないのだ。

なぜなら妹を選んだとしても---世界が消滅する。

全て無に還って無くなるのだから。これは選択と言ってはいるが選択ではない。

実際には強制だ。無慈悲なことに、この道しか残されていない。

それが敵が望んだ結末だろうとも。

それを理解してるから妹を選べないのだ。

 

『期待通りだ!足掻け、抗え、やって見せろ!世界を救うにはオレを殺すしかない。妹を殺すしかない。その末に貴様が光を保ち続けられるか、闇に堕ちるか見物だ……!』

『……ッ!』

「それが、目的ってこと……!?」

「そのために小都音ちゃんも…紡絆くんも…その家族を……!絶対に、紡絆くんには殺させない。やらせない!」

 

継受紡絆という存在は良くも悪くも純粋だ。

性質は光。しかしながら決して闇に染まらないわけではない。

故に、敵の目的がはっきりする。

彼の光は強い。眩いほどに強いが故に---闇に染まれば闇もまた深く濃く、強くなってしまう。

母を殺した彼が大切な家族である妹を殺せば。

果たして光を保てるかなど、分からない。

それにそれは、紡絆の理念も信念も破壊されてしまう。

最期に交わした母親との約束---忘れていない彼にとって、どれだけ惨いことになるのか。

 

『………ヘェアッ!』

 

それでも、やるしかないのだろう。

ネクサスは空中から見下ろし、空気を蹴った。

それが再開の合図。

雄叫びを挙げたイシュムーアが重力場を作り出す。

 

『!?』

 

突如重たくなった肉体が一気に地面へ縫い付けられ、動けなくなる。

立ち上がろうと抗うが、重さは高まるばかりで地面が没落していく。

ただしカウベアードと違ってイシュムーアへと至った際に対象のみに出来るようになるよう強化されたのかメフィストは影響を受けておらず、イシュムーア本体も動けるらしく、重力に支配されているネクサスに攻撃を仕掛けようとしたところで砲撃が次々と炸裂する。

その影響で僅かに軽くなった瞬間、ネクサスは離脱するように転がって反転する。

 

『シュア---デェアッ!』

 

立ち上がりながら頭上に両手を伸ばし、胸のコアゲージの前で丸を描いては回転させる。

そして地面に右手を突き出し、徐々に上げて黄金色の竜巻を作り上げると、両手を合わせて叩きつけた。

ネクサスハリケーンが、イシュムーアへと迫っていく。

対するイシュムーアは竜巻を作り上げて放つ。

ふたつの竜巻が暴風を撒き散らしながら中心で拮抗していた。

竜巻と竜巻がひとつになるわけでもなく互いに潰し合おうとしている。

その影響で颶風によって誰も近づけず、それはネクサスやイシュムーアも同様。

 

『ハアァァァァ……』

 

だからかネクサスが胸のコアゲージの前でアームドネクサスを交差し、両手に光を練ると両腕を広げて大きく両腕を回し、頭上で再び重ねると右腰付近に両腕を固定。

左手の光が右手に集まり、右手からは冷気。拳は氷に覆われ、神秘的な青白い色をしている。

 

『デェッ!』

 

右手を大きく引き絞る。

そして左拳の甲が下に上になるように左腰に固定すると、大きく右足を一歩踏み出しながら同時に右拳を真っ直ぐ突き出す。

対象を凍らせる光線技。

その光線は未だに消えることの無い竜巻へ直撃し、双方の竜巻を凍らせた。

幻想的な、一種の芸術作品のような美しさ。

戦場には似つかわしいもの。

 

『シュアッ!』

 

それと同時に動けるようになったネクサスが走り、跳躍と同時に低空飛行で足を突き出す。

両腕を大きく振るい、さらに加速すると蹴りが氷を砕き、崩れていく氷が暗闇の中でもうっすらと輝く。

それすら目にくれず、ネクサスの蹴りが反応出来なかったイシュムーアへと直撃する。

僅かに下がらせることに成功し、着地と同時に駆けると握り締めた右手をまっすぐ突き出し、時間を与えることなく左拳を横から繰り出し、また右手で殴れば膝で腹部を蹴り、手刀を頭に叩きつける。

けれど。

効いている様子は一切なく、ノスフェルの爪が顔面を狙って振られる。

咄嗟に身を横に逸らし、懐へ潜り込むとちょうどクトゥーラの顔の部分を右拳で力強く殴るが、やはり一切動じることすらない。

逆に殴るために突き出していた腕が掴まれる。

掴まれた手を引き離そうとイシュムーアの爪に刺さらないように手を掴んで抵抗するが、ハサミのような腕に変化したイシュムーアが仕返しと言わんばかりにネクサスの腹部に叩きつける。

凄まじい衝撃が通り抜けるように走り、たったの一発でネクサスが吹き飛んでいく。

 

『ウッ---!?』

 

地面へ落下しても止まれず、大きく削りながら少ししてようやく止まれる。

受けた部分を抑えながら悶えつつ顔を挙げると、既に鋭利な切っ先が迫っていたことに遅れて気づく。

メフィストがメフィストクローを展開して、仕掛けてきていた。

起き上がろうにもダメージが響いているのか起き上がれず。

切り裂かれる直前で自分から頭を地面に倒すことで回避すると、突き刺そうとしてくる攻撃をなんとか首を動かすことで避けていく。

 

「紡絆!---ッ!?こいつ、まだ……!」

「紡絆くん…風先輩……!」

 

ギリギリで回避しているが、このままではいずれやられるであろう姿を見た風が援護に回ろうとするが、今まで姿を現さなかったクトゥーラが突如出てきた。

イシュムーアが隠していた、というべきか。

急に現れたことに驚きつつ対処する風だが、このままではネクサスの助けには行けず、東郷もまた避けるだけで精一杯。

 

『デェアッ!』

『グッ……!』

 

トドメを刺すべく捉えたメフィストがクローを刺そうとした。

両手でメフィストの腕を掴み、当たる寸前で受け止めたネクサスに対し、メフィストは押し込もうと体重と手で支える。

急激な重さに僅かに先が当たり、それでも耐えていた。

 

『ッ!』

 

そして足を動かしたネクサスがメフィストの腹を蹴るようにして背後へ投げ飛ばす。

投げ出されたメフィストは受け身を取り、転がるようにして起き上がるとネクサスは既に勢いをつけて右拳を振り下ろしていた。

 

『フンッ…!』

『ゥグッ……!』

 

ネクサスの攻撃を身を逸らして避け、流れるように外から打ち込まれる左拳を腕で防ぐと、両肩を掴んで引っ張り、腹部に膝蹴りを食らわせる。

その影響で動きが止まり、下を向いたネクサスが顔を挙げた瞬間には頭突きを与える。

 

『ハッ、デェアッ!』

『ウッ……グ、シュッ!アアアァッ……!?』

 

反撃に出ようとネクサスが飛び蹴りを放つが、逸らすように避けられる。

それだけではなく、側面に移動したメフィストはネクサスの背中を回し蹴りをし、数歩前へ進むネクサスが振り向きざまに右腕を後方へ振るうが、懐へ潜ったメフィストが拳を胸に打ち付ける。

そこから右横腹を蹴り、思わず右横腹を抑えたネクサスを今度は反対側の横腹を蹴り、回りながら後ろ蹴りで吹き飛ばす。

あっさりと肉体が吹き飛ばされ、岩場に背部をぶつける。

構えを解くメフィストの姿が瞳に映り、ネクサスは岩場に手を付きながら起き上がっていた。

本来の戦闘力ではメフィストとネクサスの実力はほぼ同じ。基本的には戦闘の流れを掴んだものが勝ち、ネクサスは何度も逆転をしてきた。

だが闇の力で強化されていると本人が言っていた通り、その強さはネクサスを凌ぐレベルに至っている。

さらにその他にもイシュムーアという強力な相手が存在し、もはや()()()()()()()()()

 

『デェェアッ!!』

『ダアッ!』

 

ネクサスが駆け込む。

対するメフィストはその場から動かず、突き出された拳を首を動かして避けると肘を打ち付け、後頭部を抑え込んで叩きつける。

衝撃で地面が砕け、顔面を蹴り上げて転ばせる。

地面に両手を付きつつネクサスは体を起こし、立ち上がれてないネクサスにメフィストクローを展開して振り下ろし---

 

『!シェアァッ!』

『グォ……!?』

 

地面から手を離したネクサスが素早い身動きで両手から放つボードレイ・フェザーがメフィストの胸へ直撃し、距離を引き離す。

 

『ハァァァァァ……シュッ!』

 

その間に立ち上がったネクサスは両腕を下方で交差する。

交差した両腕は光に包まれ、そのまま胸の前で両腕を広げていくと稲妻のようなエネルギーが行き来する。

両腕をV字を描くように頭上に掲げ、そのタイミングで胸を抑えていたメフィストが気がついた。

オーバーレイ・シュトロームを放つ動作を既に終えているからか、それとも間に合わないからかメフィストは自らの光線技を準備しようとしない。

戦況をひっくり返せるかもしれない、またも無いチャンス。

故に、ネクサスは()()()()()()自身の最強技を迷うことなく---

 

 

 

 

 

 

44:名無しの転生者 ID:gupZ+Ufc+

やめろイッチ!お前妹を殺す気か!?

 

 

45:名無しの転生者 ID:47YA67Pw6

奴らの目的はお前に妹を殺させることだ!そしてお前を取り込むこと!冷静になれ!

 

 

46:名無しの転生者 ID:vjRl0a31D

だがイシュムーアとやらはイズマエルの強化版のような存在だ…メフィストもいるのに対処するのは……!

 

 

47:名無しの転生者 ID:a93DsZlFG

とにかく絶対にやるんじゃねぇ!これ以上お前が背負う必要はないだろ……!

 

 

48:名無しの転生者 ID:WEyj3Ahcl

ひとまずメフィストは置いておけ!二人が危ない!

 

 

49:名無しの転生者 ID:Kd/oLtB7p

妹ちゃんのことはどうにか方法を考えるしかない!意識が残っているなら救える可能性はあるが……とにかく後回しだ…!

 

 

 

 

 

『デェ---ッ……』

 

L字に組もうとした腕が、止まる。

保たれていたエネルギーは消失し、光線を撃つための力がなくなってしまう。

戦いの場だと言うのにネクサスは動かなくなり、メフィストを見たまま組もうとした腕を途中で止めていた。

彼の脳裏に浮かぶのは、今や唯一となってしまった家族の一人。

世界や人類のためにはやるしかなくて、やるべきだというのに。

ネクサスは踏ん切りを付けることが出来なかった。

ここに来て、躊躇をしていた。

 

『………』

『………ハアッ!』

『ウワァアアアアア……!?』

 

互いに身動きひとつせず、ネクサスは力なく腕を降ろした。

まるで分かっていたかのようにメフィストが駆け出すと、ネクサスにメフィストクローを突き出す。

構えを解いていたネクサスは反応出来ず吹き飛ばされ、メフィストがなんからの合図をした。

その瞬間、吹き飛ぶネクサスの背後から飛んできた爆弾が背中に直撃し、周囲でも爆発が起きる。

ヴァルゴの爆弾がネクサスを傷つけ、爆煙が消える頃には片膝を付いていた。

けれども、ネクサスはメフィストに対して光線技を撃つ動作も撃とうとする気概も感じられない。それどころか、間違いなく迷っていた。

分かっているのだ、本当は殺すべきだと。

それでも継受紡絆という人間は、諦めたくなかった。諦めていたなら、メフィストを殺してただろう。

だが残された唯一の家族を、大切な人と約束したことを果たしたいと。それだけは叶えねばならないと。一種の呪いとなって残り続ける思いは、ここに来て救いたいと願い続けてしまっている。

諦めたくないと、心が叫んでいる。

だからこそ---

 

『ッ!』

 

ただ拳を強く握りしめ、振り向きざまに両腕を交差する。

ネクサスの姿がブレ、メフィストの前から姿を消していく。

取り乱すこともなく冷静にネクサスの姿を目で追ったメフィストは、イシュムーアの方へと高速で向かっていくのを見ていた。

メフィストを倒すことは出来ない。だからこそ、融合型を打ち倒す選択をしたのだろう。

---その行為をメフィストは見逃した。

勇者やウルトラマンからすれば神樹を守りつつ全ての敵の撃破。何より、メフィストの変身者である天海小都音の奪還。

メフィストや融合型、スペースビーストからすればウルトラマンの殺害と神樹の破壊。

勝利条件はそれで良く、だから見逃した。

まるで勝敗が分かっているように。

だがただで見逃すのは癪だったのか、メフィストクローを収納してダークレイ・フェザーを放つために腕を立てたところで、青い砲撃と大剣が襲いかかった。

咄嗟に避けると、ネクサスと入れ替わるように現れた満開した勇者が二人。

そしてネクサスは、イシュムーアとクトゥーラを相手しようとしていた。

 

『なるほど……そう来たか』

「時間は稼がせてもらうわ」

「返してもらうわよ、うちの部員を……!」

 

納得を示したメフィストは、敢えて乗ることにしたのかダークレイ・フェザーを放った---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フッ---!』

 

クトゥーラの触手を避けていき、接近するとショルダータックルからの肘打ち。そして左手でアッパーカットで宙に浮かせると、前蹴りで一気に吹き飛ばす。

それを見ながらアームドネクサスを十字に交差した後。左手で右腕を上から下に撫でるように添えると、その右手に炎が纏われる。

振り向くように回転し、イシュムーアに対して炎の拳を叩きつける---はずだった。

 

『シュ……ァアアアア!』

 

拳を前に突き出したネクサスへ、蛇のような頭が九本生み出されると、炎の円柱と九つの頭から放たれた火炎放射が互いに与えんと衝突した。

力は同等……なんかではなく、ネクサスの突き出した腕が少しずつ戻されていき、炎の円柱が呑まれていく。

明らかにネクサスが押されている状況で、さらにグランテラの尻尾とゴルゴレムの管状の口吻であるゴルゴレムプロセスからネクサスの背中に火球が直撃し、僅かに怯んだ瞬間にネクサスの体が炎に呑み込まれ、吹き飛んでいく。

 

『グゥッ……デェアッ!』

 

だが、跳ねるようにして起き上がり、着地と共に足を踏み出すと、胸から高熱光線---コアインパルスを放つ。

吹き飛んだ際にエネルギーを貯めていたようで、突然放たれた必殺技にイシュムーアは反応が出来ない。

バリアを生成する暇すら与えず、コアインパルスが直撃し、大爆発が起きる。

 

「……っ?もしかしてやった…?」

「なら後はスペースビーストとメフィストだけ---ッ!?」

『……フェッ!?』

 

爆風が東郷や風、メフィストの元にも届き、互いにネクサスとイシュムーアの方向を見た。

明らかに光線技が当たり、倒したようにも見える。

だが爆煙の中から、熱線が放たれた。

咄嗟に両腕を前に突き出してサークルシールドを展開して身を守るネクサスだが、熱線が収まるのと同時に驚愕する。

コアインパルスはスペースビーストですら倒すことの出来るほどに高火力だ。

だがその威力を持ってしても、()()()()()()()()

しかも右肩は一瞬で再生する。

再生力からして、その再生を見せるためにわざと受けたのだろう。

超再生---そして御魂の能力。元々備えているノスフェルの再生力。

 

「そんな……」

『ヘェアッ!ハァァァァァ……デェアアッ!』

 

絶望が漂う。

それに屈することなく、下方で両腕をクロスさせたネクサスはゆっくり上げつつエネルギーを溜めていき、肘を腕の外側を向けるように曲げて、最後に両腕を斜め上に広げてからL字に組むことで膨大なエネルギーの奔流を解き放つ。

最強技のひとつ、オーバーレイ・シュトローム。

幾度も強敵を打ち払い、絶望を塗り替え、何度も勝利へ導いたネクサスを代表する必殺技。

命中させた相手を内部から分子分解することで直接内部に大ダメージを与えて撃破するという特性を持つ光線。

その光線が、イシュムーアへと直撃する。

流石に究極の名を冠するだけあって尋常ではない耐久力を持つが、それすらも無視して内側から分解を表す青い粒子が溢れる。

全身が青い粒子へと変換されていき、さらに威力を込めるとイシュムーアの肉体は後退していき、さっきまでの耐久力が嘘のように爆発する。

爆煙の中を()()()()()()()()が光り、粒子が空気中に拡散していく---

 

 

 

 

 

『無駄だ』

『!?』

「なっ……!?」

 

容赦なく吐き捨てられた言葉が響くのと同時に光っていた小さな()()()の元へ拡散された粒子が戻り、()()()()()()()()()()

分子レベルで分解したはずなのに、敵は驚異の再生能力で復活した。

僅かに見えたのは人の指サイズくらいでしかない大きさの御魂。

この『究極型融合昇華獣』という存在はスタークラスターのように大きい訳ではなく、真逆。

御魂を限りなく凝縮し、とても小さな形へと変化させている。

ならばその小さな御魂に入っているのは、一体どれほどのものなのか。

融合してるスペースビーストやバーテックスで考えれば12体×12体+α。

単純計算で2()4()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『ウッ…!?ガ……アアアアアァッ!?』

 

そして胸のパンピーラの顔から放たれた電気を纏う糸が驚きのあまり動けないネクサスの両腕を左右の腰に固定させ、拘束する。

全身を襲う痺れ。それに抗うように身を捩るが、簡単には外れるはずもない。

 

「再生!?しかもあんなに小さな御魂なのに……そんなの卑怯でしょ……!」

『卑怯?そもそも最初から勝ち目があると思ったか?奥深くに存在する()()。そして肉体を()()()壊さない限りそいつの再生能力は破ることは出来ない』

「紡絆くんの技は表面だけだったってこと……?あの技でも装甲を剥がすだけ…違う、そもそもあの時と違って避けようとも防ごうともしてなかった……。脅威って思われてないということ…ッ!」

 

余裕の現れか、メフィストがわざわざ答えてくれた。

それによって東郷は最初、光輪を投げた際のことを思い出す。

あの時はバリアを貼っていたが、それは脅威を感じたということ。逆に言えば、オーバーレイ・シュトロームは継続的に流されるだけで貫通力は低い。何よりさっきのは、表面を分解しただけだ。

自身の御魂には傷が付けられない、そう思われていた。何より一番の理由は、敢えて食らうことで()()を身をもって解らせようとしてきているのだろう。

例えウルトラマンであろうと勇者であろうと、殺すことは出来ないと。抗うことが無意味なのだと。

 

『グッ……デェアッ!』

 

それでもまだ、まだ諦めていないのだろう。

ネクサスの全身が輝き、青い光が降り注ぐ。

赤い鎧は青く染まり、その際に生じた光が糸を弾き飛ばす。

ジュネッスからジュネッスブルーへ。

速度を重視する形態になったネクサスがイシュムーアに向かって構えを取る。

そんなネクサスに対し、次々と火球や火炎弾が放たれていった。

避けるように地面を強く蹴り、後ろへ跳ぶと何発かは地面を削ったが、追尾してくる。

上空へ高く舞い上がり、左右に身を逸らしていくことで避け、通り抜けた火球や火炎弾は跳ね返るようにして再び向かってくる。

上と下。

上下同時に向かってきたが、空気を蹴るように当たる寸前で後方回転し、上下に迫ってきた火球や火炎弾を互いにぶつけて破壊し、下方から追加するようにまた火球が撃たれる。

 

『デヤッ!デヤッ!』

 

身を逸らしつつ直線ではなく斜め左右に移動しながら避けていき、避けきれない攻撃はパーティクルフェザーを数発放って相殺した後に高速で空中を駆け回る。

しかし今度は追加はされず、むしろ追尾式ではなく操っているのかネクサスの軌道に合わせてくる。

ジュネッスブルーの速度に合わせられる程の精密な操作と反応速度。

どれもこれも、全てを上回ってくる。

誘爆させようとしてもフレーム単位で合わせてくるせいで出来ず、撒こうと動いていたネクサスは空中で止まることになった。

 

 

『……!』

 

視線を張り巡らせ、逃げ場がないことを悟る。

今までの行動も、迎撃出来ていたのも全部、このためだったのだろう。

いつの間にか、火球と火炎弾に囲まれている。

避けれていたのではなく、誘導されていた。確実に逃げ場を殺すための場所を作るために、そこへネクサスを連れていくために。

つまり、やろうと思えばネクサスを墜落させることは出来ていた。

そして、周囲に存在する火球と火炎弾。

何よりイシュムーアの両手から作り出す青白い光球がネクサスへ一斉に襲いかかる。

動いたということはズレもあるはずで、素早く抜け道を探すが、どれも統制の取れた同じ速さで動いている。

バラバラではなく、円形の線をそのまま縮めているかのような、巻き戻ししてるかのような動き。

例えひとつの火球を破壊したとしても穴が開く前に別の火球がそこに入り込み、完全に詰み。

少しでもダメージを減らすために両腕を交差するが、守れるのは前のみ。

後ろは守れず、ダメージを覚悟したところで---。

 

「させるかぁぁぁ!」

「………ッ!」

 

周囲で爆発が起きる。

ネクサスに影響はなく、周りを見渡すと巨大な大剣が火球を一気に破壊し、連射される砲撃が撃ち落としていく。

瞬く間に囲んでいた攻撃は消え失せ、それを壊した風と東郷は浮いたままネクサスの隣まで寄ると、ネクサスが光刃を左右から放った。

二人に放たれた闇の光刃と守るように放たれた光の光刃が互いに相殺し合い、戦闘が一度止んだ。

地上から見上げるイシュムーアとメフィスト、復活しているクトゥーラ。

対する上空にいるのはネクサスと戦艦母艦に乗る東郷と巨大な大剣を持つ風。

 

「マズイ……あたしらの攻撃じゃ足止め程度にしかならない」

「でも同時に壊せばいい……なら、紡絆くん。あの弓の技は打てる?」

『………』

 

律儀に待ってはくれているが、いつ敵の気が変わるか分からない。

それにこのままでは拉致が開かないのも確かで、東郷の言葉にネクサスは自身のコアゲージを見た。

まだ青く、エネルギーは残っている。

本来ならオーバーレイを一度使用した後なら紡絆の肉体的には割とギリギリになるのだが、まだ技は使える。

それも自身の生命力が無くならない限り、だが。少なくともまだコアゲージが鳴ってないということは多少の無茶ならば通る。

逆に言えば無理をしなければ勝てる相手ではなく、平気だと言うように東郷へ顔を向けて力強く頷いた。

 

「だったら一緒にやりましょう。私なら紡絆くんの攻撃に合わせられる。行動に合わせることができるから……!」

 

何処からその自信が来るのかは定かでは無いが、彼女の表情に一切の不安要素は見られない。

真剣で、けれども紡絆は何処か懇願するような感情が込められているような気がした。

この状況になったのは自分のせいだと思っているからなのだが---流石に彼はそこまでは分からなかった。

 

「じゃあ防御はあたしに任せなさい。この武器じゃ遠距離だと無理だしね」

 

役割は決まった。

たったの数分。それだけでまともに戦えば勝てないと理解させられるほどの実力と能力を敵は持っている。

だとしても戦うしか道はなく、メフィストは倒せなくともイシュムーアやクトゥーラは倒せるのだから。

そしてまた、メフィストたちは戦意を喪失してないということを理解したらしく、戦場となった空間で殺気が充満する。

 

『---シェアァッ!』

 

最初に動いたのは、ネクサスだった。

胸のコアゲージにアローアームドネクサスを装備している右腕を翳し、その手に光の弓を形成する。

アローモードへと変化させ、同時に東郷の戦艦母艦に備わっている八つの砲門がそれぞれエネルギーを充填し、丸を描くように巨大な青いエネルギーを貯めていく。

当然、敵もただ見てる訳では無い。

邪魔するためにか、イシュムーアは物量に優れる火球を発射し、メフィストが三日月状のダークレイ・フェザーを。クトゥーラは触手を伸ばす。

 

「大量ね……けど、勇者部部長の、先輩としての底力を見せてやろうじゃない!」

 

大剣は質量は大きいが、小回りは効かない。

それは満開の力を持ってしてもあまり変わらず、だがこの場においては小回りの効かないデメリットよりも大きいという部分がアドバンテージへと変わる。

ひと薙するだけで火球が一気に爆発し、誘爆で触手の数が減る。

ダークレイ・フェザーだけは突き抜けてきたが、少し遅れて触手が加速した。

薙いだ大剣を戻す際に切り裂き、連続でX字に動かして触手を切り裂いていく。

その間に通り抜けたダークレイ・フェザーに対し、最後の触手を大剣の腹で叩きつけると、即座に大剣を大きく振り上げた。

 

「つっっ……!」

 

強引に振り上げた影響か、それとも数発のダークレイ・フェザーを受け止めた影響か。

痺れるような痛みが両腕に走る---

 

『ハァァァァァ……』

 

しかし僅かな時間稼ぎは幸を成す。

弓から発せられる虹色の光がネクサスにかかっており、同時に彼のコアゲージの点滅が始まってはいたが限界まで引き絞られていた。

エネルギーは最大。

もはや残るエネルギーは少ない。

 

『デェアッ!!』

 

それでも、抗い続ける斬撃のような衝撃波のような弓矢がネクサスの腕から放たれた。

アローレイ・シュトローム。

威力だけならばオーバーレイ・シュトロームに匹敵か、それを超えゆる破壊力を持つ矢。

流石に不味いと理解しているのかその場から離れるメフィストとクトゥーラ。

ネクサスが狙ったのはもとよりイシュムーアであり、真っ直ぐ飛んでくる光矢に対してイシュムーアは自身の首を九本増やし、花粉を解き放つ。

(かぜ)に飛ばされていく花粉を毒霧が包み込んで固定し、総勢十本の口から一斉に火炎と熱線が花粉によって強化され、爆発力を宿しながら弓矢とぶつかる。

徐々に押されていくのは弓矢。

アローレイを持ってしても破れない技---

 

『デア!ハアアアァァァ……!』

 

その弓矢を、クロスレイ・シュトロームが足りない威力を上げる。

まともに当てるならば相手の強さから考えると威力不足でしかない光線技ではあるが、後押しするように使った場合は別。

押されていた光矢を押し戻す。

 

『フッ---シュア!』

 

さらにイシュムーアの熱線や火炎放射を上回り、一気に威力を高めた光線が弓矢と共にイシュムーアへと向かっていき、イシュムーアは迎撃が不可能と見たのか攻撃をやめていた。

 

「いまっ……!」

 

同時に今までの比ではない最大出力の砲撃が追従する。

並の融合型ですら間違いなく倒されるしかない場面。

仮にネクサスの技を防いだとしても消耗はするし、彼女の自信の通り、完璧に合わせて撃ってきた。

だからこそネクサスの攻撃を防いだところで、東郷の砲撃が着弾する---ただし、()()ならば。

『究極』とは最終到達点。

バーテックス、スペースビースト。双方の存在が極限に合わさった結果生まれた存在。

そしてザ・ワンの細胞は未だ成長途中。

 

『!?』

 

なればこそ、ネクサスの必殺技が当たる直前で()()したのは必然なのだろう。

驚愕したようにクロスレイを照射するのをやめて注視するネクサス。

遅れてやってきた東郷の砲撃---それすら()()()された。

理解不能。未知の能力。

否。

防いだのは前方に掃射された()()()()()

無重力光線---メガフラシが持つ能力。

その力はウルトラマンの光線技やビーム兵器を無効化するという、ネクサスと東郷にとって非常に相性が悪い能力。

 

「そんな力まで……!?」

『シュッ---!』

 

まるで何者かに何かを聞いたことを理解したように頷いたネクサスが加速した。

一瞬で地面に降り立ち、イシュムーアの背後を取ったネクサスは右手のアローアームドネクサスをソードモードへ変化させ、光の剣であるシュトロームソードを展開すると横に一閃---消えた。

剣ではなく、イシュムーアが消えた。

すぐさま周囲を見渡し、ふと感じた気配に振り向きざまに剣を横に振るう。

当たらない。

またしても別の場所から気配を感じ、剣で攻撃してもやはり当たらず、次々と伸びてきたクトゥーラの触手を切り裂いていく。

そして、今度は回し蹴りを放った。

背後から現れるイシュムーア---

 

『ヘェッ!?グッァ!?』

 

やはりすり抜け、爪が振り下ろされたタイミングですぐさま右手を輝かせたネクサスが拳を叩きつける---ジェネレード・ナックル。

だがその攻撃は、軽々と受け止められていた。

引き抜こうにも相手の力の方が強く、同時に雷撃がネクサスを引き離す。

咄嗟に食らった際に吹き飛ばされた衝撃を利用し、再び展開したシュトロームソードで、継続的に流される雷撃を振り払う。

追撃を避けるためか、横へ転がり、イシュムーアが居た位置へ振り向いた先。

 

『グワァアアアアア!?』

 

黒煙を撒いてきたイシュムーアの攻撃をバリヤーを展開しようとしたネクサスが、背後から黒煙に包まれる。

自身の肉体から火花が散るほどに装甲にダメージを受けていく。

イシュムーアとクトゥーラ。いつの間にか囲まれていた---いや、誘い込まれた。

イシュムーアの持つ幻影、幻影と入れ替わる力。ゴルゴレムが持つ透明化。ガルベロスが持つ幻覚。

四つの力が連続して働いた結果、ネクサスは()()()()クトゥーラの位置が分かっておらず、切り裂いた触手だって幻覚だ。

イシュムーアにはそもそも当てることが出来なかったのは幻影と透明化の力だった。

そしてまた、風や東郷にすら幻覚は作用していた。

 

「くっ……紡絆!」

「こっちが本体…!」

 

幻覚が解除されたのか、正確な位置を把握した二人が攻撃を仕掛ける。

大剣を振り下ろし、砲撃を放ち、全て暗黒のバリアに防がれる。

 

『フン……』

「っ、小都音ちゃん……!」

「いい加減にしなさいよ!あんたの兄が傷ついてんのよ!?それで本当にいいの!?」

『説得しようとも無駄だ。既に意識は無い』

「だったら目を---」

『う、ァ……ア、アアアァァ…ッ!』

 

風の言葉が最後まで呟かれる前に、黒煙に包まれていたネクサスが両膝を着いて、地面へ倒れ伏せていた。

 

「紡絆くんッ!」

 

力尽きたように伏せたネクサスの元へ向かおうと東郷が次々と青いエネルギーを撃ちながら動くが、再び放たれた虹色の波動が無情にも全て無効化する。

そして東郷に向かって、イシュムーアが猛烈な風圧を発生させると移動砲台ごと東郷を吹き飛ばした。

 

「東郷!?このッ!」

 

すぐさま大剣を手に動く風だが、背後へ振りかぶって振り下ろそうとした大剣が停止する。

思わず視線を背後へ向けると、複数の触手が大剣に巻きついて離さない。

散々やられていたクトゥーラが仕返しをするように、防いだ。

しかも振り解くどころか、逆に引っ張られるほどの力で。

さらに抵抗していた風へ三日月状の光刃と青色破壊光線が直撃し、地面へ落ちていく。

冷静さを僅かに欠いた結果、招かれたのがこの状況。

戦況は、あっさりと傾く。

精霊のバリアがあることから落下をしても風と東郷は無事だろう。しかしこの融合型相手には、どう足掻いても勝てる要素が見当たらなかった。

虹色の波動は光線技を無効化し、やろうと思えば透明化と幻覚だけで完封できるはずなのだ。

けれどしない。

なぜなら生きているから。ウルトラマンという存在は希望であり、その光はどんな状況でも輝く。

故に、敵は徹底的に折る。勝てる見込みを少しでも持たせて、希望を抱かせて、本当はそこに絶望しかないのに。

 

『ッ……!』

 

勝てない。

自分の全てを変換してもなお、全力を出せても勝てないと思わされるほどの強さ。

例え倒したところで、イシュムーアの再生能力は決して破れない。

御魂が無事だったとはいえオーバーレイ・シュトロームで分解されても()()()()()()になるほど再生速度は速いのだ。

すなわち、やろうと思えば再生が上回ることが出来る可能性だってある。

 

『---シェッ!』

 

だとしても。

寝そべっていたネクサスの手が、地面に着いていた手が砂を巻き込んで握りしめられる。

迷うように僅かに視線を逸らして、次に東郷や風が居るであろう場所を見て、樹や友奈がいるであろう場所を見て、何より。メフィストを捉えて。

そうして起き上がったネクサスが、イシュムーアへ向いたまま再びコアゲージに右腕を重ねた。

形成されるのは光の弓、そして光の剣。

ファイナルモードを形成したネクサスがついに、最期の力を振り絞る。

背後でクトゥーラが動き出す気配がするが、それすら無視した。

メフィストが動こうとも、視線のひとつもやらない。

弓を引き絞り、コアゲージが限界まで早鐘を鳴らして、紡絆は選んだ。

自分の命と引き換えに、目の前の巨悪を討ち果たす選択を。

 

『ハァアアア---デェェェアアアアアツ!』

 

放たれるは、不死鳥の光矢。

周囲を放った際の衝撃が動きを停止させる。

この技はかつて『最強』と謳われたスペースビーストを打ち破ったことがあり、現状紡絆が持ちうる、ネクサスの最強の必殺技。

全てのエネルギーが込められた、オーバーアローレイ・シュトローム。

文字通り最期の必殺技。

その技は、能力を使わせるよりも早くたどり着く。

数秒先の未来。間違いなくイシュムーアは貫かれるだろう。能力を使わせることなく、再生すらさせない。

だが、不可能なはずの反応をイシュムーアはやってのけた。

何も能力をしようとせず、敢えて受け入れるように両腕を広げている、

当然そうすれば、不死鳥の光矢を阻害するものはなく、今度こそ全身を完全に消滅させる---

 

『ッア……?』

 

はず、だった。

例え御魂があっても、不死鳥の矢は間違いなく貫く。

相手が()()でなければ。

直撃したはずの不死鳥の矢。

イシュムーアは---()()だった。

前提が違ったのだ。

さっきまでの攻撃も、さっき分解されたのも、全部全部わざと。これが()()の強さ。

イシュムーアの本気。

オーバーレイだろうとも()()()()ということ。

 

『ぐ……ハッ!』

 

ネクサスの持ちうる()()()()が通用せず、エネルギーも残り少ないネクサスが最後まで抗おうと拳を向けたが、そんなネクサスの右腕にゴルゴレムの口吻が巻き付き、背後から放たれた触手が両足を拘束する。

唯一残った左腕で剥がそうとすると、いつの間にか発生していた霧のような鎖が動かそうとしたネクサスの腕を防ぐ。

点滅音と共に鼓動のような音が響く中、拘束を解くために藻掻くネクサスへ、イシュムーアがトドメの一撃を作り出す。

それは尻尾。

()()()()()()()であり、赤く禍々しいオーラを纏っている。

ただの毒ではなく、全力で警報を鳴らすほどのオーラ。

それはかつてのものと同様()()()()()()

 

『っ!ッ!』

 

確実にウルトラマンを殺す一撃が、ネクサスへ向けられる。

ネクサスの全身を輝き、そして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ガアァアアアアア!?』

 

エネルギーが無くなった影響でアンファンスに戻ったネクサスの心窩が貫かれ、針が突き抜ける。

拘束が解かれ、凄まじい速度で山壁に叩きつけられる。

磔にされたように動かなくなったネクサスに毒が回り、侵食が始まり、呪いが行き渡り、抉れ、肉を裂くような音が響き、()()()()()()()()()がネクサスの四肢を覆う。

苦しみ、悶え、痙攣し、コアゲージの点滅が遅鈍になり、最後の最後で弾かれるように空へ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()していく。

けれども。いくら抵抗しようとも力は一方的に失われていく。

目の光を失い、呆気なく()()()()()()()()()()()()()()

そうして、終焉の地にて。

希望の象徴であったウルトラマンネクサスは敗北を喫し、光であった存在は闇を打ち倒すことも出来ず命尽きた。

世界は、絶望と闇に覆われる。ウルトラマンの体も、人の心にも、世界にも、それはまた---神にすら。

もはや抗う術も希望も、何一つなく。

滅亡へのカウントダウンが始まった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





○継受紡絆/ウルトラマンネクサス
元々最後の手段として残していたのが生命力を引き換えにすること。
なのでこの時点で、紡絆くんの体は消滅してます(意志だけがウルトラマンに宿っている状態)。なお実は左半身の身体機能は完全に消滅してたり。
アキメネスの『あなたを救う』とは紡絆くんからウルトラマンに向けてのことですね、はい。

○ウルトラマンネクサス
紡絆が何をするか気づき、自身の命と引き換えに紡絆を助けようとしたが紡絆が断ったので出来なかった。
紡絆くんのお陰で実はフルパワー。

○天海小都音/ダークメフィスト
死ぬ前に持ちかけられた契約によって助かったらしく、彼女には選択はなかった。
何故なら悩む時間はなく、契約をしなければ兄と会うことは叶わなかったのだから。
故に、『悪魔の契約』を結んでしまった。
メフィストの命で生きているため、メフィストがやられたら彼女も死ぬ。

○究極型融合昇華獣イシュムーア
スペースビースト、バーテックス、御魂、ネオと通常融合型のあらゆる能力が使用することが出来る他に、一つ一つではなく全能力を一斉に発動することすら可能。
素のスペックも再生力もあまりにも高く、勇者の満開やウルトラマンを相手にしても打ち倒すことは敵わない。
学習能力も半端なく、何回か受けたことのあるオーバーアローレイすら無傷というほどの強さを持つ(逆にプラズマの光輪は1回しか受けてないので油断せず警戒している)
御魂は超小型で凝縮されている。
嬲っていただけで、本来ならネクサスを瞬殺出来ただろう。
故に、完成させてはならなかった。
完成すれば、勝ち目がなかったのだから

○メフィスト
どれを選んでも、何をしても最終的に紡絆が辛い目にあうか世界が終わるということしか起きないという、まさに悪魔の所業。

○掲示板
復活したけど有能。
でも何も出来ない。

○スコーピオンの尾
(今回は天の神の力付きとはいえ)ウルトラマン絶対殺すマン。
勇者特効を失ったかわりにウルトラマンキラーを持ってるんじゃないかって言うくらいに殺ってる(二度も殺ってる)




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「-光の継承者-ULTRA FLY」

長すぎて草。
絶対に一話で纏める話じゃねぇよ。強引に抑えたけど、一話足した方がよかったかもしれん。まあいいや。
さてウルトラマンを失った勇者たちはどうするのか、その続きをどうぞ。
てかようやく紡絆くんの由来が明かすことが出来ますね、今回の話こそが『輝きの章』の最終回とも言える、象徴的な回です。まだ終わりじゃないけど





 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 第 48 話 

 

 

-光の継承者-ULTRA FLY

 

 

あなたとの約束

花虎の尾

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗雲に包まれた空。広がる闇。

唯一輝きを保っているのは四国を守護する神樹様から発せられる光。

希望であり続けたネクサスの(輝き)は失われ、光は鎖されてしまった。

ウルトラマンの敗北---それはこの世界において初では無い。

何度もピンチに陥り、追い詰められ、時に相討ちになって、それでも必ず立ち上がり、より強い光を手にして勝利を手にしてきた。

だが今回は違う。

エナジーコアの停止、それは適能者(デュナミスト)が死を迎えた際に起こる現象。

今までは停止することのなかったものが、完全に停止してしまった。

つまり、変身者である継受紡絆という少年が死んだことへの証明。

さらに動かなくなったネクサスはフジツボのような山に磔にされ、宛ら公開処刑を思わせる。

四肢を拘束する触手のような蔦(闇の力)が少しずつネクサスの肉体を侵食するように増えていき、一体何が起ころうとしているのかは分からないが、良いことではないことには違いは無い。

だからといって、何かが出来るわけでもなかった。

今のこの場に存在するのは究極融合型昇華獣のイシュムーア、クトゥーラ、メフィスト。

ウルトラマンは力尽き、戦っていた勇者の行方も今は分からない。

動けるものは、誰もいなかった---

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ何もすることが出来ず、何かをやれたわけでもなく、気がつけば戦いは終わっていた。

遥か先に見える山。そこへ磔にされたネクサスの姿。

敵が居なくなったからか、神樹の方を見るメフィストの姿。

 

「……紡絆くん」

 

死んだと思ってたら、ウルトラマンに変身して戦って、そしてやられた親友の姿を友奈はただ見ていることしか出来なかった。

もし駆けつけることが出来たなら、勇者の力を纏えていたなら、力になれたかもしれない。

だが現実は何も出来なかった。

後悔と無力感に支配されながら、力が抜けたのか握っていたスマホが軽く地面に落ちる。

 

「……ッ!」

 

しかし樹だけは立ち上がっていた。

スマホを手にして、覚悟を決めた表情で。

このまま放置すれば終わりを迎えるのは確か。なら戦うしかない。

 

「樹ちゃん……?」

 

今にも敵は神樹へ侵攻しようとしている。

友奈は驚いたように見上げると、樹の真っ直ぐな目を見た。

しかし視線を落とせば、その手は僅かに震えている。

恐怖からか、それとも悲しみか自身の無力感にか。

喋ることの出来ない樹からは、何も聞くことは出来ない。

 

「……どうしてだろうね」

「っ……?」

 

そんな後輩を姿を見たからか、ゆっくりと立ち上がった友奈は確かにスマホを手にして、樹の傍に寄ると震えていた手を握った。

包み込むように、優しく。

 

「紡絆くんはいつも諦めてなかった。今も、今までもずっと。小都音ちゃんのこと、一番自分が辛くてショックなはずなのに…どうしたらいいのか、何をしたらいいのか、どうやったら小都音ちゃんを取り返せるかも分からないのに、戦ってた…」

 

結局紡絆は妹を殺すという選択だけは取らなかった。

世界のためにはやるべきだというのに、彼は妹も()()()()()選んでしまった。

その結果が、これ。

光を失い命を失った。

もし紡絆が妹を捨てていたなら、世界は救えたかもしれない。両方とも救えなかった可能性もあるが、勝率は上がってたはずだ。

けど諦めることが出来なかったから、メフィストを殺さなかった。イシュムーアを倒そうと優先し、負けた。

 

「どうしたらいいのか、何をしたらいいのか、私も分からない。勝てるかも、私に何を出来るかも分からない…私は紡絆くんを守れなかったのに」

『友奈さん……』

 

悔しさからかどこか苦しそうに、胸を握る友奈の姿を樹は思い出したように悲痛な眼差しを向ける。

誰だって同じだ。あの場では確かに可能性のあったのは友奈だった。

誰かが悪いというわけではない。それでも納得出来るかと言われれば違った。頭では分かっていても、感情か許さない。

だとしても。例え心を蝕んだとしても---

 

「でも。でもね、樹ちゃんを行かせることなんて出来ないよ。友達を殺させたりなんて、絶対……!」

 

結城友奈という少女は、誰かのために勇気を振り絞れる人間だ。

今が辛くとも、引きづっていたとしても、震える後輩を見逃せるはずもない。

 

「私も小都音ちゃんを救いたい。紡絆くんも諦めてなかったはずだから……きっと手段はあるって信じたい。勇者部は誰かが欠けたらダメなんだ。みんなが居て勇者部だから…樹ちゃんも、助けたいって思ってるんだよね?」

「……ッ!」

 

樹は力強く頷く。

世界を守るためには、一番手っ取り早いのは殲滅すること。

けど世界を救っても、そこに居るべき存在が居なければ意味が無い。

算段は残念ながらこの場の誰も持っていない。

 

「樹ちゃんも辛いはずなのに、戦おうとしてる……諦めずに助けようとしてる。紡絆くんだってそうだった。ううん、紡絆くんが居たらきっと、私と同じことを言うと思う…尚更、樹ちゃんを一人にさせられない。救う方法があったとしても、一人で行っても勝ち目なんてないから」

 

順位付け出来るものではないが、紡絆の次に辛いのは一番親しくなっていた樹のはずだ。

メフィストと戦うということは、小都音と戦うと同義。殺し合うと言える。

正体を知ったとき、戦闘に参加出来なかったことから察せられるだろう。

本当は戦いたくないと。

一人で戦っても、ウルトラマンですら負ける相手だ。殺す気で行っても勝てる確証は全くない。

相手が友達と分かってる分、余計に戦いたくない。でも戦わなければ世界が終わる。でも殺したくない。でも救う方法がない---

 

「………」

「大丈夫」

 

改めて思い知らされる現実に俯きがちになる樹に、友奈は痩せ我慢と分かる笑顔を向ける。

不安の混じる表情。彼とは違って到底安心させられるほどのものではない。

でも不思議と、その言葉は呑み込める。

 

「私も行くよ。だって紡絆くんは諦めてなかったから……こんなところでいつまでも立ち止まっていられない!それに樹ちゃんを一人には出来ないし私も一人だと何も出来ないってわかってる…だから一緒に来てくれる?」

 

友奈も樹も、精神面でも肉体面でも万全ではない。

だけど紡絆が最後まで抗い、戦った姿は彼女たちにほんのささやかな勇気を与えていた。

一人では戦えないだろう。あっさりやられるだけだし、足元がくすんでしまうかもしれない。

そういう時にこそ---

 

「……!『もちろんです…!』」

 

共に立ち向かう者が居れば、また変わるのだ。

互いに覚悟を決めたように頷き合うと、友奈と樹はスマホを手に、並んで見つめた。

遥か先にいる、光を失ったネクサスの姿。

 

『紡絆先輩……』

「紡絆くんは……悩まなかったのかな。ううん…悩んでたとしてもきっと、同じだったよね。だってそれが紡絆くんだもん。今も諦めてないはずなんだ、紡絆くんは生きてるって私は信じる。だから行こう、樹ちゃん!」

…はい!

 

脳裏に刻まれた最後まで諦めずに立ち向かった姿を思い返し、確かな勇気を胸に不安定だった心を抑え込みながら二人は勇者システムを起動する。

山桜と鳴子百合の花が咲き、その姿を勇者へと変化させる。

死んでもなお、彼の姿は誰かに勇気を与えたらしい。

そしてまたそれは---ひとつひとつ、小さな糸でしかないけれども。

繋がっていく。

 

「ったく……遅いわよ……」

「ッ!?」

「!夏凜ちゃん……!」

 

木々を手で伝いながらやってきたのは、勇者服に身を包む夏凜。

敵の攻撃にやられてたからか、服は汚れてはいるが満身創痍というわけではない。

軽く意識を失っていた程度なのだろう。

 

「これで三人。二人より、いいでしょ。私もあいつが簡単に終わるとは思ってない」

 

睨むように、夏凜もまたネクサスの姿を見ていた。

未だに光が宿ることなく、ただ闇の蔦が侵食しようとしている姿だけがある。

 

『紡絆先輩は…誰よりも諦めが悪いですもんね』

「そうだね…私たちに出来るのは信じるだけだもん。だから信じる。紡絆は生きてるってきっと戻ってくるって。だから紡絆くん…紡絆くんは私たちを信じて!私は諦めない!私はもう諦めたりしない!私たちは何度だって、絶対に諦めないから!」

 

それはひとつの宣言だった。

自分自身を鼓舞するだけの言葉だったのかもしれない。樹や夏凜を励ますための言葉だったのかもしれない。

折れそうな心を奮い立たせるための覚悟の証明だったのかもしれない。取り繕うための発言だったかもしれない。

言葉に表すことで、心を保つためだったのかもしれない。少しでも戦意を保つためだったのかもしれない。

いや、それら全てなのだろう。希望はなく絶望しかない。はっきりいって、無駄な抵抗だ。

ウルトラマンですら勝てない相手、満開しても勝てない相手。勝敗なんて分かりきっている。

けれど。

その言葉が。

意志が。

諦めないという想いが。

信じる心が。

誰かを思いやる心が。

人の思いが、()()を手繰り寄せる。

 

「えっ?きゃっ……!?」

「!?」

「な、なに!?」

 

戦意を胸に戦場へ向かおうとした三人の元に、突如として膨大な眩い光が発せられた。

目が開けていられないほどの、辺り一面に広がる光。

敵の攻撃かと一瞬警戒するが、痛くもないし何か異変があるわけでもない。ただ癒すような包まれるような温もりだけは感じられて、ただ安心出来るような温かさがあった。

そうして辺り一面に広がった光は次第に友奈の手の中に集まっていき、友奈の手の中で形を作っていく。

 

「それって…」

『紡絆先輩の…?』

 

形作られたそれは、一つの短剣。

エナジーコアを思わせるY字ものが柄にあり、その上にコアゲージのような青い半球体。

青いクリアパーツを保護するような鞘が取り付けられている、適能者(デュナミスト)と呼ばれる紡絆がウルトラマンに変身するためのアイテム---エボルトラスター。

それが何故かこの場に、友奈の手に存在していた。

ドクン、ドクン---と心臓の鼓動音を鳴らし、半球体は緑に。青いクリアパーツは赤く点滅している。

 

「……あ」

 

鼓動音を鳴らし続けるエボルトラスターを見て、友奈は何かに気づく。

この戦いが始まる前に、友奈は紡絆と一緒に居た。

数時間前のことだが、数日前のようにも感じられる。

 

「可能性……そういうことなんだ…!」

「どういうこと?なんでこれが……」

 

一人納得しても、夏凜と樹にはどういうことなのかさっぱり分からない。

だからか説明するために、友奈はエボルトラスターを二人に差し出す。

僅かに首を傾げるも、差し出したということは触れて欲しいということなのだろう。

夏凜も樹も、乗せるように触れた。

そして驚いたように目を見開く。

 

「紡絆くんは、まだ死んでない。まだ助けられる…!託してくれたんだ、紡絆くんは私たちに…最後の力を振り絞って、あの時のことを…」

 

思い出されるのは、数時間前に話したこと。

立ち直れず、不安定になった心で、ただ失う恐怖に打ち負けていた友奈に紡絆は勇気を与えて、それと同時に一つ、頼んでいた。

友奈はそれを思い出したのだろう。紡絆はあの時、こう言ったのだ---

 

 

 

 

『じゃあ友奈に頼むよ。うっすらと予感がある。また戦いは終わってないって。だから---俺に何かあった時、()()()()()()()

 

と。そんなたったひとつの簡単な言葉。

自分一人で抱える紡絆が、誰かに助けを求める。予感はあったのだろう。

こういう事態になるとは思わなかっただろうが、自身の肉体の限界に気づいていたのだから。

故に似ているようで似ていない少女にだからこそ、頼めたひとつのこと。

無論、友奈を少しでも元気づけるための発言でもあっただろう。

 

『これが、俺が友奈に頼みたいこと。もしもの場合の話。

それでも必ず俺は友奈に()()()を残すから……俺の願いを、叶えて欲しい』

 

後に続く言葉は、間違いなく今の状況を説明出来る。

可能性---それはエボルトラスター。つまり紡絆はちゃんと可能性(希望)を残していた。

最後まで抗って、約束も果たしていたのだ。

 

「こういう時でも……あいつは誰かに力を与えるのね」

『私たちを信じて、くれたんですね…』

「うん…これは紡絆くん。ううん、紡絆くんの命なんだ。そしてウルトラマンの命…」

 

触れた手から、友奈たちは確かに感じていた。

鼓動音は一切止むことは無い。

生きていることを示すように、心臓のように脈を打ち続ける。

重い。軽いはずなのにエボルトラスターはとてつもなく重くて、持てなくなりそうなほどだった。

人の命を一人抱えて、ウルトラマンの命を抱えて、これだ。

でも紡絆はこの重みを一人背負って、何人何十人何百人何万人と---数え切れない数を抱えて戦い続けていた。

あの小さな体で、子供でしかないのに。

 

『やりましょう……!』

「えぇ、紡絆を生き返らせて、小都音を取り戻して、全て終わらせる…!」

 

けれども今は、その重さが良かった。

それほどに重大なもので、やるべきことも決まったから。

この場にいなくとも、紡絆は友奈や樹に、夏凜に勇気を授けた。自身の命と共に、光を与えた。

もはやこの場に、諦めている者も絶望している者もいない。

全身を力が巡って、強固な意思が形成され、希望を宿す。

 

「待ってて、紡絆くん。必ず返すから、この光を。私たちが絶対に!」

 

三人の勇者が再起する。

目的はただひとつ---ウルトラマン(継受紡絆)の奪還。蘇生。

託された可能性を手に、闇に侵食されつつあるネクサスを救出するために動き出した---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗く。昏く。無が広がる。

何処にも光はなく、無数に広がるのは黒。

音があるわけでも、特徴的な何かがあるわけでもない。

その世界に置いて、 何処にも光は無い。

 

(……光)

 

否。

どんな暗闇の中でも、瞬くものもある。

遥か彼方、現実世界であるならば空の上にでもあるのではと思えるほどに遠く、見上げなければ見えない星のように瞬く光。

その光を、暗黒の世界で唯一存在する人物---継受紡絆は気がついていた。

 

(……ウルトラマン)

 

動こうにも動けなかった。

自身の四肢はまるで囚人のように拘束され、引き剥がそうにも鉄の塊ではなく紫色の、何らかのエネルギーと思われる鎖。どちらというと有刺鉄線を思わせる。

 

(あの光を……掴まないと。みんなが、戦ってる……俺も行かないと……)

 

時折見えていた、光。

どうしてその光が見えていたのか、紡絆は知らない。でも不思議とあの光は掴まなければならない、と自分の中の何かが騒ぎ立てる。

自分が、自分だけが見えるのもそれが理由のはずと。

しかしどうにも出来ないのも事実だった。

肉体は既に光へと変換されたため、肉体は消滅している。今この場に残っているのは紡絆の精神体。

その精神体を拘束する闇は、一体何なのか。

少なくとも今の紡絆に分かることは三つ。

一つ目は自分は敗北し、動けない状態であること。

二つ目は自分という存在は助からないこと。

三つ目は、ウルトラマンとの接続が切られているということ。正確にはウルトラマンの存在を感じられないのだ。

つまりウルトラマンの意識と継受紡絆の存在が切り離されている。僅かな糸のような繋がりはあるが、それだけ。

無事なのかどうかも分からない。

 

(なんだ、あれは……?)

 

何も変わらない世界の中で、紡絆の目は蠢く存在に気づいた。

徐々に侵入してきたかのように空間が広がり、中は見えないが曇天の空を描いたかのような竜巻を思わせる穴。

 

(まさかアンノウンハンド……!?)

 

何者かを理解したのと同時に、そこから波動が放たれる。

咄嗟に避けようとするが、当然ながら身動きの取れない紡絆は避けられるはずもなく、波動は紡絆の頭部へ直撃した。

 

「ぐっ……ぁ、アアアアアァアアアァァ!?」

 

波動はその場に留まり、紡絆の全身を覆っていく。

だが痛みとは全くの、別のものが紡絆を襲っていた。

もし両手が動いていたなら頭を抱えていただろう。動けない身でありながらも暴れ、頭を振っている。

 

(こ……これは…人の、感情……!?)

 

知らない誰かの記憶。

知らない誰かの感情。

知らない誰かの体験

例えば交通事故。例えば病死。例えば災害。例えば裏切り。例えば戦争。

ありとあらゆる人間が『悪意』と分類した感情が紡絆に襲いかかり、体験した『絶望』を()()()()()()()させられる。

自分のことでもないのに胸が苦しくなり、抑えようにも抑えられない。

ただ強く我を保つことで耐えるしかなく、徐々に何かが這い上がってくる。黒くも粘り着くような、何らかの衝動。

簡単な話だ。継受紡絆という人間に闇の部分がないならば作ればいい。

だからこそアンノウンハンドはそれを実践しようとしている。

精神汚染。一人一人、全く別のマイナスの感情。全く別の絶望。

それらを受け止めるとなると、流石の彼も危ういのか余裕のない苦渋に満ちた表情を浮かべている。

だが、どれだけ苦しくともどれだけ辛くとも、心の光を保ち続ける。

目的は分からなくとも、いずれ訪れるであろうチャンスを逃さないために。

ただ仲間たちを信じて---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異変が起き始めたのは、少しした頃だった。

友奈、樹、夏凜の三人はあまりにも離れすぎていたため、木々を跳びながら移動していると、ようやく近づいてきた頃にネクサスを覆う闇が濃くなり、蔦はよりエナジーコアと全身を覆うように侵食が早まっていた。

 

「ッ!?」

 

それを知らせるように、エボルトラスターの鼓動音が少し弱まっており、握っていた友奈は気づいて立ち止まった。

 

「急がないと……」

 

ネクサスの侵食が始まれば、エボルトラスターも弱っていく。

全てが闇に染まったとき、彼もウルトラマンも死ぬ。

ただでさえ余裕がないのに、焦りが生まれる。

少しでも早く。一秒でも早く。

友奈は逸る気持ちを抑えきれず、飛び出そうとした。

 

「友奈!」

「ッ!?」

 

それを、夏凜が止める。

闇雲に突っ込んでも、辿り着けるはずがない。

まだメフィストやイシュムーア、クトゥーラには気づかれていない。

だが神樹の方に侵攻しているため、また時間もない。

 

「夏凜ちゃんでも!急がなきゃ……!」

「いいから落ち着きなさいっていってんの!焦る気持ちがあるのはあんただけじゃないわよ」

『……!』

 

夏凜の言葉に同意を示すように、樹も首を縦に振っていた。

それを見たからか、友奈も少し冷静さを取り戻す。

この場の誰もが、時間はないと理解している。

世界の滅びと紡絆とウルトラマンの死。どれも着実に、少しずつ近づいている。

 

「友奈、樹」

「夏凜ちゃん…?」

『……?』

 

そんな中、友奈の手を離した夏凜が前に出る。

二人は名前を呼ばれたことに反応を示すが、夏凜は背を向けたままだった。

 

「私、ここに来て、勇者部に出会えて、入ることが出来てよかったと思ってる」

 

突然、関係ないことを告げられたからか友奈も樹も困惑する。

 

「馬鹿みたいに騒がしくて、毎日が忙しくて。私には無縁なものなんだろうなって思ってたものがたくさんあった……」

「夏凜ちゃん…」

「私にとって今の勇者部はね、楽しくて、そこが居場所で幸せなのよ。でもアイツがいなくちゃ意味が無いわ。

だからあんたは何があってもそれを届けなさい。止まることなく、前に進んで。その代わり他のやつは私が何とかしてあげるから」

 

夏凜の本音。

そしてその決意は、理解させられる。

勇者が二人満開しても勝てず、ウルトラマンが居ても勝てなかった相手。

虚勢だ。いくら夏凜でも勝てる戦いでは無い。

しかし今の勇者にとっての勝利条件は、エボルトラスターを紡絆へ届けること。

 

『………!』

「…そうだったわね」

 

しかしまた、夏凜一人ではないのだ。

裾を掴んだ樹が、首を横に振る。

その意味を察した夏凜は苦笑しながら樹の頭を撫でていた。

 

「修正するわ。私と樹で止める---友奈は絶対に、届けなさい」

「二人とも……」

 

悪くは無いだろう。

全員で刃向かったところで、勝てる敵では無い。

そもそもウルトラマンが復活したとして勝てる見込みは一切ないのだから、意味は無いように見えるだろう。

あの戦いで、紡絆は全てを出し切った。持ちうる技を使い、最強の技は全部使用したが勝てなかった。

だからといって抗わない理由にはならない。反抗をやめる理由にはならない。

 

「……分かった。任せて、絶対に届ける!」

 

一瞬の逡巡。

友奈は二人の覚悟に応えることにしたらしく、力強くエボルトラスターを握りながら頷く。

そんな友奈に僅かに微笑した夏凜と樹は、表情を引き締めて前を見据える。

 

「行けるわね?樹」

『はい!』

 

改めて意思確認。

そんなの必要ないとばかりに返ってきたが、樹の強さを明確に感じつつ、夏凜は息を深く吸うと吐き出し、口を開く。

 

「さぁさぁさぁ!!遠からんものは音に聞け!!近くば寄って、目にも見よ!!これが讃州中学二年勇者部所属、三好夏凜の実力だ!!!」

 

勇ましい名乗りと共に空へと飛び出した夏凜に、気がついたイシュムーアとクトゥーラ。

次々と放たれた触手は夏凜を消し去るべく迫る。

それに対し、夏凜は悩むことは無かった。

 

「満開ッ!!」

 

左肩に備わるサツキの花。

その部分が光を放ち、樹海から集まる光の根が夏凜を包み込むと、巨大なサツキの花を開花させる。

満開発動によって変化する服装。

夏凜の場合は白色の神事に着るような服装だった。

4本の巨大な刀とそれを持つ巨大な4本の腕。そして夏凜の両手にはいつもの二刀が存在する。

計六本---それが夏凜の満開だった。

次々と伸びてくる触手に対し、夏凜は四本の刀を一気に振る。

それだけでまとめて斬り落とすことに成功している。

だが敵も手はやめず、夏凜は接近しながら次々と刀を振ると、キリがないと気づいたのか回転するように斬り飛ばし、クトゥーラに二刀の刀を叩きつける。

 

「友奈ッ!!」

「ッ……!」

 

合図をするように名前を叫ぶと、夏凜はクトゥーラの追撃に向かう。

友奈は少し躊躇するものの、即座に地面を蹴って跳ぶと、進む。

目的はネクサスのもと。

樹も併走するようについてきているが、敵は一体ではない。

クトゥーラの代わりにか、火球を生み出すイシュムーアが次々と放ってくる。

狙ったわけではない、ただ闇雲に放たれた火球。

今はそれが十分すぎる効果を発揮する。

上空から降り注ぐ逃げ場のない火球群に対し、友奈と樹が取れる手段はない。

一斉に降り注ぐため、タイミングがズレてないからだ。

それでも現実は容赦なく、友奈たちへ向かっていき---四本の刀を盾に夏凜が受け止めていた。

 

「ぐっ…ぅぅぅ…!!」

「夏凜ちゃん!」

 

ウルトラマンにさえダメージを与えるそれは、満開した勇者ですら削られる。

徐々に押されていく夏凜の姿は、はっきりいって長く持たないだろう。

 

「いいからッ!早く……いけぇえええええ!」

 

全力を振り絞ったかのように、四本の刀が勢いよく交差する。

二つのエックス字を描き、火球が爆発するが間近くで爆発を受けたのもあり、夏凜の体が吹き飛びながら花は散る。

散華---許容範囲を遥かに超えたダメージによって消耗した満開が解除されるが、夏凜はイシュムーアを睨みつけながら再び満開を発動させると、即座に空を駆ける。

邪魔をするように乱入してきたクトゥーラの無数の触手と六本の刀がぶつかり合う。

 

(何としても、食い止める……!!)

 

例えその身が使いものにならなくなってしまったとしても。代償を何度支払ったとしても。

夏凜は己の術を引き出して役目を果たす。

その先に繋がる未来が、ウルトラマンではなく継受紡絆という存在が、いつも照らしてくれた希望への道を信じて。

 

 

 

 

 

 

 

イシュムーアとクトゥーラを突破し、友奈と共に駆けていた樹は立ち止まる。

振り返った先には、メフィストが跳んできていた。

それを見て覚悟を決めたように表情を引き締める。

 

『ハアッ!』

満開……!

 

声は出ないが覚悟を表明するように口を開くと、背中にある鳴子百合を模った刻印が光り輝いた。

巨大な鳴子百合が花開き、神官や巫女を思わせる服装となり、背後に巨大なアーチと花が現出する。

そこから射出されたワイヤーは拳を突き出してきたメフィストに巻き付き、動きを停止させる。

 

小都音ちゃん……

 

友と戦うことへの辛さ。

例え意識が違っても、利用されている肉体は彼女の友で、大切な先輩の家族。

友という関係で辛いのに、家族というより強い縁で結ばれていた紡絆は一体どれほど辛かったのか、樹には想像も出来なかった。

けれども、今この場で戦えるのは自分しかいないと分かっている樹はただ止めるために戦う。

他の勇者たちは皆攻撃型だが、樹のは動きを止めることの出来るワイヤーだ。

きっと自分の武器がこれなのは、この時のためだったのだろう、とそう思いながら動きを封じるために自身のワイヤーを操作する。

すると拳に巻きついていたワイヤーが強引に外され、操っていたワイヤーが避けられ、クローで斬られる。

 

(強度が足りない……!)

 

満開をしても、風や友奈と違って樹には圧倒的に物理的な力が足りない。

だからこそ、樹は他で補う。

思い出すのは、光の剣。

シュトローム・ソード---ネクサスの持つ剣をイメージし、ワイヤーを複雑に絡ませて形成すると、一本ではなく数十本生成する。

 

『……!』

 

当然ながら威力は圧倒的に劣る。

しかし樹の頭上に浮かぶ剣は今まで扱っていたワイヤーとは全く異なる使い方だ。

樹が手を突き出し、それに従うように剣が射出される。

長さでは劣るが、範囲のみでならば樹は攻撃範囲と攻撃速度においては勇者の中でも随一。

そんな彼女だからこそ行うことの出来る芸当。

放たれた剣がクローとぶつかるが、ワイヤーのように斬ることは出来ずに逸れ、メフィストは防ぐのではなく次々と避けていく。

あくまで目的は時間稼ぎ。

それで十分なのだ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走って、跳んで、ようやく。

ようやく近づいてきた、という実感が湧いてくる。

友奈の耳に届く戦闘音は間違いなく背後で二人が戦っている証。

 

(樹ちゃん…夏凜ちゃん……!)

 

心配ではあるが、立ち止まることはしない。

ここまで来れたのは、二人のお陰だろう。

一人では絶対に辿りつくことはできなかったはず。

 

「あと少し---ッ?」

 

あと数分。いや勇者の力ならば数秒で十分だ。

焦る気持ちを抑えながら脚に力を入れ、全力で地面を蹴ろうとしたところで、エボルトラスターが大きく鼓動した。

まるで何かの合図をするように鼓動したエボルトラスターに目が行き、その瞬間。

鋭利な爪のようなものが、友奈の眼前に突きつけられる。

 

「うっ……!?」

 

衝撃で僅かに吹き飛ぶが、片手を地面に着きながら両足で摩擦を起こしながら勢いを殺す。

すぐに顔を上げれば、そこには抉られるようにできたクレーターとイシュムーアの姿。

もしエボルトラスターがなければ、間違いなく戦闘不能になっていただろうと思うと、友奈はゾッとした。

だが、イシュムーアは夏凜が抑えていたはずで、ここに来るというのはおかしい。

もしかして、と最悪な考えが浮かび上がったところで---

 

「こっ---のぉおおおおおお!」

 

二振りの剣が、イシュムーアの頭部へぶつかり、硬いものでも叩いたかのように弾かれる。

 

「くっ、やられた…!幻影を利用するなんて……!」

 

夏凜が遅れてやってきたが、弾かれた際に距離を離していた。

どうやら幻影を利用して妨害に来たようで、何かするつもりなのだと判断したのだろう。

残念ながら、このイシュムーアには勇者も脅威になる時があると学習されてしまっている。

 

「ッ!後ろ!」

 

けれど。

相手は一体ではない。

友奈の声にハッと振り向いた夏凜だが、遅すぎた。

 

「しまっ……!?」

 

追うようにやってきたクトゥーラの触手がアームを掴んでいた。

刀を持つ部分を機動させるために必要な部分を防がれば、刀を使うことは出来ない。

実質夏凜を無効化したからか、イシュムーアが口から溶解液を友奈に向かって吐き出す。

咄嗟に避けるように上空へ跳ぶと、先程まで居た位置は空間が削られたかと錯覚するほどに削れており、溶解する力は今までの比ではないのだろう。

例え精霊のバリアだとしても、溶かされるかもしれない。

だが敵の狙いはそんなものではなく---

 

 

 

 

「くっ……あああぁ!?」

 

空中へ逃げてしまえば、勇者は自由に動くことが出来ない。

容赦なく振るわれた爪が、友奈に直撃する。

精霊バリアによる守護は発揮するが、衝撃は襲いかかってくる。

弾かれるように吹っ飛ぶ友奈の手元から、エボルトラスターが上空へ吹き飛んでいく。

 

「友奈!こんの……!!」

『なるほど、まだ抗っていたか……だが』

「ッ!!」

 

必死に引き剥がそうと剣を振るおうとするが、クトゥーラにはウルトラマンですら拘束出来るほどの力が備わっている。

容易に外れるわけもなく、目的に気がついたメフィストがエボルトラスターを奪うように跳躍する。

速度で負けているため、遅れてやってきた樹が剣や刀といった武器をワイヤーで形成して飛ばすも、メフィストの機動力には追いつけない。

残された、最後の希望。

それを打ち砕くべく、メフィストはエボルトラスターを掴まんと手を伸ばす---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ……せるかぁあああああ!勇者部五箇条---ひとおおおおぉぉつ!!」

 

軋む音が響く中、四つのアームが砕ける。

同時にまた、花弁が散る。

満開が解けた証、散華。

しかし拘束から逃れることが出来た夏凜はまたしても満開を発動させて見せた。

考えも作戦も、どうすればいいか分からない。

ただ我武者羅に前へ。

 

「挨拶はああああっ!きちんとぉーーーーっ!!」

 

形成された四つのアームと共に、振るわれた六つの刀が咄嗟に両腕を交差したメフィストを吹き飛ばす。

その際に両手の刀が砕けたが、夏凜はエボルトラスターを手にした。

その手に存在するエボルトラスターからひとつ、鼓動がする。

ただの根性でしかない。けれど、夏凜はどんなときも立ち上がって見せた彼を見てきた。

 

「これを……ッ!?まずっ……」

 

無事に回収することは出来たが、脅威が去ったわけではない。

いいや、むしろ増えてしまったのだろう。

『ソレ』が鍵と理解させてしまったのか、クトゥーラとイシュムーアが一斉に夏凜を狙う。

クトゥーラは自在に操れる武器である触手を。イシュムーアは巨大な竜巻を解き放った。

逃げ場を殺すように、挟み撃ちをしていた。

周囲に視線を巡らせるが、竜巻の影響で移動するのも簡単ではない。

そして理解する。

やられる---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっせぇえええええい!」

「ッ!?」

 

その瞬間、巨大な大剣が竜巻とぶつかり合い、触手が焼き払われる。

第三者による攻撃。

驚愕を顕にする夏凜の目の前には、満開した風の姿が。

遠くには、満開した東郷の姿も。

 

「風!?それに今の……東郷!?」

「まったく、相変わらず世話を焼かせるんだから……!」

 

余裕はないだろうに不敵な笑みを浮かべる風の姿を見て、夏凜もまた笑みで返すと、触手が次々と撃ち落とされるのを見て頷き合う。

 

「合わせなさいよ、夏凜!」

「分かってる---ってぇのぉぉ!!」

 

そしてウルトラマンの技と同等の威力を持つ竜巻に対して、大きく振りかぶった四つの刀と大剣が真っ二つに割って見せた。

飛散する風圧。

しかし、それすら読まれていたのか。

雷撃が夏凜と風を襲いかかり、得物で防御しながら後退させられるが、凄まじい威力に夏凜の手からエボルトラスターが零れ落ちる。

そのタイミングを狙ったかのように、空間に穴が開き、『別の位相』から伸びてきた触手がエボルトラスターを掴もうとしていた。

それを捉えた夏凜に焦りが浮かび上がる。

 

「!?あれを取られたら、ヤバいっ!」

「だったらぁ……!こんな時こそ、勇者部五箇条!ひとぉーつ!」

 

雷撃を防ぐだけで精一杯なために動けなかったが、なんと風が大剣を蹴り飛ばした。

蹴りによって飛んでいく大剣はわずかに壁としての役割を果たし、その場から離脱する。

 

「よく寝てぇ…よく食べえぇぇぇぇるっ!!」

 

そして別の位相から伸びてきた触手に凄まじい速度でタックルを食らわせると、空間の中へ戻す。

即座に方向を転換した風がエボルトラスターを掴んだ。

また、鼓動が鳴る。

一歩間違えれば命の危機に瀕していたであろうかなりの無茶な行動。

けれど、風は誰かのためにもっと危険で無茶な行動をする後輩の背中を何度も見てきた。

 

「よし---樹ぃっ!」

「………!」

 

爪撃が飛んできたのを見た風が、空中で返りながら即座にエボルトラスターをぶん投げた。

明らかに外れた軌道---それを、樹は理解したように先回りし、掴み取ってみせた。

姉妹だからこそ、視線だけで気がつけた。言葉がなくとも、どうするのか分かった。

 

「ッ!?」

 

またひとつ、鼓動が鳴る。

掴んだからこそ、手で取ったからこそ理解が出来る。

手から感じる重さも、思いも。

夏凜も風も、間違いなく感じ取ったはずだろう。

そしてまた、樹にも感じることが出来たことがある。

 

『チィッ』

『小都音ちゃん……勇者部五箇条ひとつ!悩んだら相談!』

 

向かってきたメフィストに対し、ワイヤーを飛ばすのではなくスマホを取り出した樹が画面を見せる。

彼女の、メフィストの変身者である友の名を打った画面を。勇者部という部で作られた、約束ごとを。

迎撃するような行動ではないことに僅かにメフィストが困惑したが、関係なしと言わんばかりにエネルギーが腕に纏われていた。

 

『何をするかと思えば、やつの意識はもう---』

『それから!!夢と、約束!』

『ッ!?』

 

それから続く文を見たメフィストの拳は、樹の眼前で停止していた。

あと少しでも遅れていたら、叩きつけられていただろう。

けれど止まっていて、メフィストは動かそうとしているようにも見える。

 

『いつか一緒に、歌を歌おうって……!!』

 

それはきっと、樹と小都音が交わした、ひとつの約束なのだろう。

夢を見出して、夢を後押しされた際に。

今でも鮮明に思い出せる、樹の決意が出来た日のこと。

やりたい夢を見つけられたのは、樹にとっては彼女のお陰だったのだから。

 

『樹ちゃん、兄さんが言ってた通り本当に歌が上手だね。それなら歌手とかならないの?目指すなら私、応援するし協力するよ?』

『へっ?で、でも……』

『だってこんなに綺麗な歌声で、優しくて、とっても可愛らしいのに。勿体ないよ。樹ちゃんの意思は尊重するけど、歌は嫌い?』

『う、ううん…歌うのは、好き、だけど……出来るのかな…』

『出来るよ、絶対に。誰がなんと言っても、否定しても、私がそう言ってあげる。なんだって兄さんばかり見てる私が樹ちゃんの歌に聞き惚れるくらいなんだよ?』

『じゃあ…目指して、みようかな…だけど……』

『だけど?』

『その、いつか…一緒に歌ってくれる?あのとき小都音ちゃんの歌を聞いて……とってもドキドキしたの。すごい、素敵だなって。だからいつか、いつか一緒に、やりたいなって…だ、ダメかな……?』

『なんだ、そんなこと?いいよ、いくらでも一緒に歌ってあげる!樹ちゃんがそれで、目指せるなら!心配なら、約束!』

『……!うん、約束…!』

 

道を示してくれて、きっかけをくれて。

あの日のことがあったから、今がある。

それを---覚えていたのか。

メフィストの動きが、完全に停止していた。

 

『なっ…こ、これは……!?』

 

誰かと分かり合おうと、止めようとする勇気---それが樹がエボルトラスターから感じられた、ひとつのこと。

彼はどんなときも、手を伸ばそうとしていた。

その意志もまた、誰かへ託されるもの。

 

(やっぱり小都音ちゃんの意識は、残ってる……!)

 

確信した樹は、メフィストに手を伸ばそうとして、霧が逃がすようにメフィストを覆い隠した。

咄嗟に飛びつくが、霧が即座に晴れると既に消えている。

 

(っ、届かなかった。でも、今は……!!)

 

もう少し早ければ届いていたかもしれなかったと思うと、心残りがあるが、大事なことを知れただけでも今は十分だった。

それを伝えるために、樹はネクサスの方を見て、飛んできた振動に弾かれる。

空気振動---能力を組み合わせられるイシュムーアが放ったのだろう。

 

東郷先輩!

 

直撃した樹は、弾かれながらもエボルトラスターをワイヤーで掴むと後方に向かって投げる。

遠心力を活かして投げられた先。

移動台座に搭乗する東郷へ、行き渡る。

 

「勇者部五箇条ひとつ……なるべく諦めない!そうよね……!」

 

エボルトラスターがまた、大きく鼓動を鳴らした。

そして東郷の移動台座が砲撃を貯める。

次々と伸びてくる触手を迎撃し、イシュムーアが火球や光弾と言った弾幕を貼る。

だとしても、東郷はもう俯かない。前を見続ける。

 

「今度は私が……だからッ!」

 

どれだけボロボロになろうとも、笑顔で諦めることなく誰かを救おうとする姿を、東郷は知っているのだから。

東郷にとっての()()()()ならこんな状況でも諦めないと確信出来る。

故に---

 

「お願い、紡絆くんに届けて---友奈ちゃんッ!!」

 

また同じく、東郷にとっての()()も諦めないはずがない。

巨大な砲撃が全てを消し去り、東郷は彼女の元へ投げる。

一筋の光となって---空中で掴み取られた。

想いは繋がり、絆は広がり、希望が紡がれていく。

 

「ありがとう、東郷さん!みんなが繋いでくれた、みんなの想いが込められたこれは、絶対に届けるッ!!」

 

鼓動を鳴らし続けるエボルトラスターを手に、友奈が向かう。

もう少しで辿り着く---その前へ塞がるようにイシュムーアが口から火を貯める。

そんな相手に、右拳に備わる満開ゲージが輝く。

虹色の光が友奈を包み込み、巨大な山桜の花が満開する。

勇者共通の背部のリングに加え、左右に巨大なアームが発現し、両手のナックルガードが巨大化する友奈の満開。

 

「うぉおおおおおおおおおッ!!」

 

最後の切り札を発現させ、アームを動かして右手のナックルガードを握りしめた友奈に向かって、膨大な熱量を持つ青い熱線がイシュムーアから解き放たれた。

今までの比ではない威力。

それこそ、ウルトラマンのオーバーレイにすら匹敵---いや遥かに超える力を有している。

そんな熱線に、友奈は真っ向から拳を叩きつけた。

熱線と巨大なナックルガードがぶつかり合う。

 

「う、うあぅぅっ!」

 

友奈の満開は攻撃特化だ。

勇者の中では誰よりも攻撃力がある。

だというのに---そんな友奈の拳でも、イシュムーアの技には、熱線には打ち勝てない。

均衡しているのではなく、徐々に押されていく。

最初で最後のチャンス。

これを逃せば、二度目はない。

メフィストも復活して、距離を離されて、時間が切れて終わり。

満開を使える数も多くない。

なおさら、今全ての力を込めるしかない。

押し負けそうになっても、力が足りなくても。

心は負けない。

 

「ゆ、勇者部五箇条……ッ!ひとぉおおおおつ!!」

 

鼓舞するように、挫けないように、友奈は叫ぶ。

ようやくたどり着いて、みんなから託されて。

負ける訳にはいかないのだから。

 

「なせば大抵ぃいいいい---」

 

今は傍に居なくても。

皆に勇気を与え、希望を与えた()であった彼の姿を友奈は見てきた。

 

(私の全部を、私たちの全部を紡絆くんに!だから紡絆くん---私たちに力を貸して!!)

 

神の力だけでは足りない。勇者の力だけでは足りない。だとしても、ここで諦める理由にはならないだろう。

足りないなら振り絞れ。今は力も知恵も運も必要ない。

ただ決して()()()()()だけを。

()()を振り絞る。

 

「なんとかなるっ!!」

 

そんな彼女の姿に応えるように。彼女たちの想いに報いるように。

()()()()()()()()()()()()()()()()()宿()()

光は受け継がれるものである。

そしてまた---光とは誰の心にも、宿っているのだから。

 

「勇者ァ---パアァァァァァンチ!!」

 

気合いの籠った一撃。

光が宿った拳は熱線を上回り、装甲を穿ち、ウルトラマンを相手にビクともしなかったイシュムーアの肉体を大きく吹き飛ばす。

それはウルトラマンと勇者の力が宿った()()()だった。

 

(っ、今の、紡絆くん……!)

 

人の力が、想いが、ウルトラマンを。究極を上回った。

それでも倒すには至らない。

体勢を整えたイシュムーアと友奈が復帰するのは同タイミングだった。

振るわれる爪を、ナックルカードを押し付けることで動きを留め、パージしたアームの上を友奈が走る。

 

「帰ってきて!!紡絆くん-----ッ!!」

『やらせるわけには……!』

 

駆け抜けた友奈がイシュムーアを飛び越えると、友奈は全力でエボルトラスターを投球する。

投擲されたエボルトラスターは回転しながら突き進み復帰したメフィストが、エボルトラスターの道を防ぐように手を伸ばした。

されど。

 

『いっけぇええええええ!!』

 

そんな障害は打ち砕かれる。

想いの叫びが力となったのか僅かに早く、エボルトラスターはメフィストを突き抜けた。

全員の視線がネクサスの元へ集まり、光り輝くエボルトラスターは---真っ直ぐ、一寸の狂いもなく、ネクサスのエナジーコアへ吸収される。

 

「やっ……やった……ぁっ!?」

 

届いたことに、喜びの声を挙げる---それよりも早く、アームを破壊したイシュムーアの爪が友奈を叩き落とす。

 

「友奈ちゃんっ!」

「友奈!?」

 

友奈が勢いよく地面に叩きつけられ、同時に満開も勇者の姿も解除されていた。

気を失ったのか動くことなく。

そしてようやく届いたというのに闇の蔦に拘束されたネクサスは、身動きひとつ取らない---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紡絆の全身を黒いモヤが覆っていた。

全身の力が抜けているかのように一切抵抗が見られず。

ただ闇ともいえるものに包まれても、その瞳は色褪せる事はない。

真っ直ぐな光を、常に宿している。

 

『---何故抗う』

 

暗黒の世界に広がる、何処かゲートのような紫色の穴から()()の影が問いかけるように紡絆を見ていた。

 

「ハァ、はぁ……はは…き、まって……る。信、てる……から、だ……!」

 

数分か数時間か。

この世界において時間という概念は存在しない。

どれだけ経ったのか外の世界がどうだったのか。

もはや紡絆には全てが分からない。色んなものを体験させられ、()()()()()廃人になってもおかしくはないのに。

紡絆は今も尚抗っていた。

悪夢を見たかのように汗ばんで、片目は閉じられていて、酷く辛そうでも。苦しそうでも。疲弊していても。

 

「どんな、絶望の中、にも……光は、ある……!俺一人じゃ、むり…でもっ!」

 

力など残っていないはずなのに、紡絆の瞳が変異を繰り返す。

暗黒の世界で、光が宿り始める。

 

「みんなが……守りたい、人達が…い、いる…から!お…俺は、諦めない……ッ!離れ、ていても……繋がって、る……!!」

 

黒いモヤが、光へ変換されていく。

闇しかない世界に。光が徐々に拡がっていく。

それはエボルトラスターから放たれたものでも、影から放たれるものでもない。

たった一人。ちっぽけな人間から放たれた輝き。

 

「世界を…次元を……時空を、突き抜けて……ッ!俺は---独りじゃないッ!!」

 

 

564:名無しの転生者 ID:HM2KW6c5B

そうだ、独りじゃない!

 

 

565:名無しの転生者 ID:wiaKCrVk2

俺たちだって!

 

 

566:名無しの転生者 ID:j6lcFdpx0

勇者たちもな!

 

 

567:名無しの転生者 ID:Q69RErk7S

このバカはなぁ……絶望しかなくたって、抗うしか脳がないんだよ!バカだからな!その分どんな時だって眩しいくらいに輝き続けるんだよッ!!諦めの悪さ舐めんじゃねえぞ!世界一諦めが悪ぃんだから!!

 

 

568 :名無しの転生者  ID:QZockz0kD

俺たちに出来ることはなくたって、声援を。応援することは出来るんだ!!

 

569:名無しの転生者 ID:ZKM4Ml0Pd

いつもテレビの向こう側にいるヒーローを応援するようにな!!

 

 

 

 

 

そう、この世界だけでは無い。

別次元。別時空。

異なる宇宙の者たちだって---繋がっている。

遥か遠く、認識すら出来ないほどに離れているのに。

ならば認識が出来るほどに身近な存在との繋がりを---全てを断ち切る世界であろうと感じられないはずがない。

 

「ッ!?」

 

突如として眩い光が発せられ、紡絆は目を閉じる。

反射的に閉じた目を開けば、紡絆の目の前にはエボルトラスターが佇むように存在していた。

 

「これは……そ、うか……届けて、くれたんだな……」

『無意味だ』

 

全てを否定するような声が響く。

しかし紡絆は触れなくたって、察することが出来ていた。

伝わってくる、諦めない姿を。気持ちを。

そして自分を呼ぶ声が。

ならば、いつまでこうしているのか。

いつまで囚われているのか。

いつまで---閉じ込められているのか。

信頼に応えなければ、なんの意味がある。

 

「俺はそうは思わない。皆が苦労して、繋いでくれた」

 

瞳に光が宿る。

黒い目は、琥珀色とも金色とも言える目へと。

拘束された四肢に力が入る。

 

「皆が紡いでくれた光は……俺に力をくれる!限界を超える力を。理屈じゃ測りきれない力を与えてくれる!どれほど闇が濃くたって、お前が何をして、世界を絶望に包みこもうが照らしてみせる!それが俺の!俺たちの役目だッ!!」

『………!』

 

瞳だけではなく、()()()()()()()

覚悟を後押しするように、暗黒の世界に光が満ちた。

その光は四肢を拘束した闇も。黒いモヤも。

紫色の闇も。

全部全部吹き飛ばして見せる。

体の自由を取り戻し、自身の右手の手のひらを見つめる。

 

「約束したんだ。戻るって。守るって……!お前こそ、なんで壊すことしか、奪うことしかしない……!力を使い方を、変えるだけで変わるってのに……!お前にだって、光はあるはずなのに…!お前だって守るべきものがあったはずなのに!そのための力だったはずなのに!」

 

握りしめられた右拳に、力が強く籠る。

目の前の存在を睨み、紡絆はその存在を。

その存在の()()の名を---右指で指差して叫ぶ。

 

「お前もッ!ウルトラマンだろ---()()ッ!!」

 

Y字型の器官である、ネクサスの持つエナジーコアに類似したものを持ち、50mはあるであろう黒いボディに赤いラインが走っている巨人の姿---ウルティノイド・ザギ。

()()()()()が、そこに居た。

 

『---見事だ』

「ッ……?」

 

まるで自身の正体を知っているのは想定内と言わんばかりに、称賛したザギと呼ばれる巨人は納得したように、()()していた。

ただ見られている。それだけで、紡絆の中で警報が鳴る。

生物からしての差。

本能が警告している。

 

『にしてもその力……やはりそういうことだったか。ようやく()()()()()を掴むことが出来た』

「俺の、正体……?力?」

 

自身の変化に何も分かってないようで困惑したような様子を見せる紡絆だが、その瞳は元の黒目に戻っている。

 

『何れにしても俺の計画を止めることは出来ない』

「待てッ!まだ話は---!」

 

興味を無くしたように振り向いたザギの姿が、闇に包まれていく。

気になることも多いが、紡絆は何も考えることなく、ただ手を伸ばす。

 

『抗え。全ては俺のために---勇者も貴様も、そのための道具に過ぎない』

「っぐ……!?」

 

首だけを動かし、ザギがそれだけを言い残すと、紡絆の体が弾かれたかのように吹き飛ぶ。

転がる紡絆が顔を上げた時には、既に闇も姿も、全てが消えていた。

 

「いったい、どういうことだ……?」

 

ザギの言葉が何一つ分からなかった紡絆は思わずそう呟いてしまうが、考える時間はなかった。

現在いる空間が、地震でも起きたかのように揺らぎ始め、前後左右からはモノクロの波が迫っていた。

さらに下からは闇の触手とも呼ぶべきものが紡絆を狙うように向かってきている。

 

「まさか……空間ごと俺とウルトラマンを取り込む気か!?」

 

それがどう言ったものか、不思議と確信出来た紡絆は脱出口を探す。

けれども黒しかない世界に、当然ながら逃れる場所もない。

ゆっくりとだが確実に迫ってくる死に対し、紡絆は探し続けて---

 

「そこか……!」

 

次々と脳裏に流れてくる情報に従うように上を見た。

遥か上。

暗く昏く。真っ暗な暗闇しかない世界に灯された光。

時折しか見えなかった光が、今はそこに在ることを証明するかのように輝きを解き放っている。

即座に空間に浮かんでいるエボルトラスターを掴みに行き、紡絆は空間を蹴るように飛ぶ。

地面はなく、風力もない。

ただ泳ぐようなイメージで、飛行するようなイメージで光の源へ向かう。

迫るモノクロの波。

向かってくる闇の触手。

 

(間に合うか…?いや、間に合わせるしかない!!)

 

間違いなく、一度でも捕まれば終わりだ。

モノクロの波は闇すらも変換してることから、掠っただけでも良くないことが起きるのは確実。

だからこそ、紡絆は右手を光に向かって伸ばす。

エボルトラスターを決して離さないように強く握りしめて、光を求めるように。

もう少し。

あと少し。

そうして、紡絆の手が---

 

「うっ……!?」

 

届くよりも早く。

闇の触手が紡絆の足を捕まえた。

物凄い力に引っ張られかけ、全身に力を入れて抗いながら手を伸ばし続けるが、その体は光から遠がっていく。

さらに一度捕まえたからか、闇の触手が這い上がり、足から腹へ。腹から胸へ。胸から肩へ。

素早く拘束するように侵食されていく。

思わず下を見れば、広がるのは無数の闇。

 

(クソっ!あと少しで!もう少しで!これか!?)

 

引き摺り込まれるように、だんだんと離されていく。

無数の闇の中に入ってしまえば、二度と抜け出すことは叶わないだろう。

それどころか、ここまで繋げてくれた皆の想いも無駄になってしまう。

 

「そうだ…皆んなが、待っている……呼んでいる……!!」

 

何をすればいいかなんて分からない。

ただ、届けてくれている。

呼んでいる。

待ってくれている。

自分の帰りを。

 

「まだ……まだだッ!」

 

皆の想いが、紡絆に限界を超えさせる。

自身の全てを出し切るように、再び瞳が変化した。

全身から溢れた光が触手を弾き飛ばし、一気に加速する。

その速度は、最早人間の速度を超越する。

それこそ、一筋の光のように。

引き離された距離がたったの一秒で縮まり、それどころかより近づく。

眼前に広がる、眩い輝き。

それに対し、今度こそと必死に手を伸ばして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ……!?」

 

されど。

モノクロの波が壁を形成し、光に触れる直前で阻止されてしまった。

振り絞った力は失われ、まるで全力で運動をした後のように力が抜ける。

紡絆の力は、体力を消費するものだったのだろう。

底が尽きた影響か落下の始まる紡絆の体を触手が再び捕まえては這い上がる。

 

(ち、くしょう……)

 

くの字となるように体が落下していく。

脱力感に抗おうとも力が入らない。

迫ってきていた闇の中へ落ちていき、水中にいるかのように呼吸が出来ない。

それでも、動く右手を伸ばす。

体が浸かっても、徐々に呑み込まれようとも。

諦めずに伸ばして、伸ばして---届かなかった。

 

(………ここまで、か)

 

落ちて、墜ちて、堕ちていく。

光が強ければ、闇はそれを覆い隠す。

最後まで抗っても、結果は変わることは無かった。

このまま取り込まれて、何も守れない。

これが、現実。全てが上手くいくことなどない。

皆の想いに答えることも出来なかったことに後悔はあったが、紡絆は全身の力が入らなくなった感覚に、終わりだということを悟る。

そうして目を閉じた紡絆は諦めて---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『諦めるな!!』

 

そんな声とともに。

紡絆の右手を()()()()()()

 

「---ッ!?」

 

驚愕と共に目を見開いた紡絆。

同時に。

次々と伸びてきた()()()()が紡絆の腕を掴み、闇の中から引っ張り上げられる。

眩い光の世界へと入っていき、直視出来ないほどの輝きに紡絆は目を逸らしながら、闇から抜け出す。

 

「ゲホッ、ゲホッ!?」

 

肺に水でも入った時のように、咳き込む紡絆は落ちていた体が今足を着いて、座り込んでいるのを認識する。

周囲は黒しか無かった暗黒の世界から一転し、ただ真っ白。

一面に広がるのも白。何処を見ても何も無く、ただただ純白さを感じさせる世界。

 

「こ、ここは……今の、声は……?」

 

自身の記憶にある、ひとつの出来事。

記憶を失った直後の時。

あの時と同じ言葉を掛けられたかと思えば、気がつけば助かっていた。

ただ()()()()()いて、混乱する頭を必死に動かすと、()()()()が現れる。

 

「!?」

 

まだ何かあるのかと僅かに警戒を顕にするが、その姿を見て警戒が解かれた。

現れたのはスペースビーストでもウルティノイドでも、ザギでもない。

人だった。

 

「間に合って良かった」

「---?あなた、は……?」

 

座り込んでいるのもあるが、声を掛けてきたのは紡絆が見上げる必要があるほどに高く、身長は180cmほどある優しげな青年だった。

その身に纏う服装は、ブルーとブラックを基調としたものに、右腕には小型ユニットが装着されている。

彼の言葉から察するに、助けてくれたのは彼なのだと理解出来るが、当然ながら紡絆は誰か知らない。

 

「僕?僕は()()()()。姫矢さんや憐と同じ適能者(デュナミスト)と言えば分かるかな?」

「孤門、一輝……って、適能者(デュナミスト)!?」

「僕だけじゃない」

 

孤門(こもん)一輝(かずき)と名乗った青年はそう言って背後へ目を向ける。

同じく紡絆を視線を移せば、そこには様々な人がいた。

男だろうと女だろうと、また紡絆と似た身長の子もいれば明らかに人間ではない異形の存在すら。

そしてそこには、かつて光を託してくれた姫矢准や千樹憐の姿もある。

 

「姫矢さんに、憐まで……どうして……」

「あーそれなんだけど……」

「悪いが、話してる時間はないらしい」

 

それがどういうことか、と疑問に思うよりも早く。

真っ白な世界が揺らぎ始める。

 

「な、これは……!?」

 

何かに侵食されかけているかのように、空間にヒビが少しずつ入っていく。

時間がないというのは、つまりこの空間が保てる時間があまりないということなのだろう。

だが紡絆はこの空間のことを知らなければ、何故この場にいないはずの適能者がいるかも分からない。

 

「ここはかつてウルトラマンとなり、役目を終えた者たちが集う場所。彼の記憶が作り出した世界。この空間が崩れるということは、ウルトラマンに時間が無いということよ」

 

多くの人々や人外の中から、一人の女性がやってくる。

その人物も孤門と同じ服を着ている。

いやどちらかと言えば隊員服、というべきか。

 

「貴女は…いや、貴女も適能者(デュナミスト)…?」

西条(さいじょう)(なぎ)。言ったでしょう?役目を終えた者が集う場所、と」

「……ああ、そうか。じゃあ俺も……」

「いや、君だけは違うよ。君は選ばなくちゃならないんだ」

 

同じく役目を終えたのかと思ったようだが、孤門がそれを否定すると頭上を見上げる。

孤門だけではなく、全員が見上げて、釣られるように紡絆も見た。

そこには、あの空間の中でもずっと見えていた1つの、星のような光。

 

「ここで諦めて楽になるか。それともあの光を手にするか。そのどちらかを」

「……光を」

 

地面に手を着いて、立ち上がった紡絆はただ見上げる。

遠く、遠く。途方もなく遠くて、だと言うのに眩しく感じるほどに見える強い輝き。星のように太陽のように。

それを見て、気づく。

何故あの光は、ずっと輝いているのか、ということを。

手から感じる温もり、エボルトラスターは鼓動を鳴らし続けている。

あの光に、共鳴するように。

 

「そうか……あそこに、ウルトラマンが……」

 

繋がりが薄くなっていたのは、既に気づいていた。

つまるところそれは、ウルトラマンと紡絆。二人の死が近づいていたからだ。

だがそれでも、ウルトラマンは紡絆を優先し続けていた。

何故肉体を光に変換した紡絆が生きているのか、何故勇者の手にエボルトラスターだけが形成されたのか。

それは、ウルトラマンが残る力で紡絆を助けるために全ての力を行使したからだ。

だからこそ、あのとき。ネクサスがやられた際にエナジーコアからエボルトラスターの光だけが上空へ放たれていた。

紡絆の命を宿す、エボルトラスターが。

 

「あそこにいけば……ウルトラマンがいるんですか。彼を、助けられるんですか?」

「ああ。でもそれを選ぶと君は傷つく。戦いから逃れることが出来ず、また戦うことになる。運命から逃れることは出来ない。仮に戻っても、君は家族を討たなくちゃならなくなる。そもそも勝てる見込みはない。それでも君は……選べるかい?」

 

そう、仮にウルトラマンの力を取り戻したとして、結果は変わることがない。

メフィストが妹に宿った時点で、殺し合う運命になっている。

戻れば今度こそ、殺さなければならないだろう。戻れる確証もないから戻れるということが奇跡に等しいのに、仮に戻れても同じく何も出来なければ、今度こそ全てが終わる。

然しながら、紡絆に迷いはなく、試すように問いかける孤門に真っ直ぐ答える。

 

「簡単です。さっき言いましたよね、諦めるな、と。だったら答えはそれで十分だ。あの光を手にするには、それだけで」

「そうして掴んだ光で、どうする?どちらかは救えるかもしれない。だけどふたつは選べない。世界か、君の大切なものか……それとも何も守れないかもしれない」

「そうかもしれない。あの敵は……どう足掻いても勝てるって思う事は出来なかった。

俺が扱える技全てを用いても、届かない。最初から全力で来られたら、俺は何も出来ずにやられていた……例え戻れても、俺は勝てない」

 

基本的に、紡絆は前向きだ。

後ろ向きな考えを持つ方が少なく、諦めることなんてそうそうない。

そんな彼ですら、勝てないと確信して言っている。

戦ったからこそ、理解したのだろう。

この場の者たちは、紡絆の独白に何も言葉を送らない。

でもまた、確信しているかのように彼を見ている。

 

「だとしても抗わない理由にはならない。その先にザギが思い描く未来があったとしても、 思ったんだ。どうしようもなく、心から思い続けているのがある。俺が俺でいる限り、消えることがないもの。

それは…みんなを守りたいという思い。誰かの幸せ、誰かの笑顔、誰かの希望。そういったものを守っていきたい。だから俺は……戻らなくちゃならない。果たせてない約束のためにも。帰りを待ってくれる仲間たちのためにも。そして、闇に囚われる妹を救うためにも。俺を助けてくれたウルトラマンや神様も。全部全部救う!俺が()()()()()()()()()()!人が生きれる未来を。人が暮らせる世界を。俺はこの世界を、守りたい!」

 

紡絆が戦っていた全ての答えは、そこなのだろう。

その中にすら自分が入ってないのが彼らしいが、結局のところ彼は『守りたい』という一心で戦い続けた。

どれだけ苦しくとも。辛くとも。誰かの笑顔や幸せが、そこにあるから。

その覚悟は---誰であろうと打ち砕けない。例え底無しの絶望がそこへあろうとも、彼の輝きは色褪せることなどないのだから

 

「……うん、そう言うと思った。いや信じていたの方が正しいか」

「…え?」

「だから私たちがここにいる。貴方をウルトラマンの元へ届けるために」

 

それが、この場にいる理由なのだろう。

ここに集まるのは歴代、何千何万年にも渡って受け継がれてきた光の継承者たち。

 

「言っただろう。光は絆と」

「そっ、そして希望でもある」

「絆と、希望……」

 

思い出されるのは、初めてジュネッスとジュネッスブルーの力を解放出来たとき。

あの時も、紡絆は二人から同じことを言われた。

 

「貴方の覚悟は伝わってきたわ。けれど生きるために戦うことを忘れないようにしなさい。誰かの未来を守る。言葉では簡単でもその行動には責任が伴うものよ。貴方が自分自身の未来も守らなければ意味ないのだから」

「凪さん…」

 

なんだかんだ命を捨てることが多いからだろう。自分を入れるという選択はこれからも取れないだろうが、それでも凪は紡絆に伝えていた。

彼はまだまだ未熟な適能者(デュナミスト)

所詮はウルトラマンを宿した子供に過ぎない。

そんな彼を導くように、彼らは言葉を贈り、託していく。

 

「僕が言えることを全部言われちゃったけど……この場にいる全員、思っていることは同じなんだ。ウルトラマンと君の大切なもの達を今度こそ守って欲しい、と。僕たちも大切なものを失ってきたからね……だから僕はこの言葉を贈る」

 

孤門が紡絆に背を合わせるようにしゃがむと、両肩を掴んで真剣な眼差しを向ける。

それこそ、子供に言い聞かせるように。

 

「例え昨日までの現実を失い、恐ろしい現実に直面しても。大切な物を失くし心引き裂かれても。思いも寄らぬ悪意に立ちすくんだとしても。僕たちは生きる。何度も傷つき、何度も立ち上がり、僕達は生きる。僕達は一人じゃないから。君は一人じゃないから---だから絶対に。最後まで諦めるな」

「っ……!」

 

その言葉の重さを、無意識に理解する。

当たり前だ、孤門一輝---様々な困難を乗り越え、諦めない強さを身につけ、かつて伝説の力を人々ともに取り戻す奇跡を起こした一人の英雄。

その言葉こそ、彼が経験した、まさに彼の人生を体現するような言葉だ。

 

「皆さん……」

 

伝えられた言葉を大事に締まっていく。

同時に世界の揺らぎが激しくなり、ヒビが強まっていった。

だから、余計に分かってしまう。

これが()()なのだと。

 

「どうやらここまでのようね…」

「僕たちの力を、君へ。必ず成し遂げるんだ。そして僕…いや()()()の個人的な頼み。石掘隊員---かつての仲間だったザギを、止めてあげてくれ。君なら必ず出来る。なぜなら君は運命を書き換えられる()()()だから」

 

紡絆が持つエボルトラスターから光が放たれ、全ての適能者の手に再びエボルトラスターが生まれると続々と光になっていく。

黄金色の輝きが、何も染まってない世界へ生まれ、メタフィールドを形成する時同様、黄金色の色彩に彩られる。

 

「……ありがとうございました、約束します。必ず妹を。みんなを。世界を救う。神樹様も、ウルトラマンも。そしてザギを止める……だから!」

 

小さな背中には、一体どれほどのものが背負っているのか。

俯いた紡絆が覚悟を決めたように、金色へ変化する。

色濃く。なんピタリとも消すことの叶わない強い輝きを瞳に宿しながら、紡絆は上空に存在する光を見た。

前も後ろも見ない。

進むのは今でも過去でもない。見るのは現代でも昔でもない。

未来だ。

 

「俺は絶対に諦めないッ!!」

 

その宣言を全員が覚悟と見たのだろう。

無数の光が紡絆へと集まり、様々な想いを背負い、全身に光を纏った紡絆が勢いよく跳ぶ。

遥か先、光を超えて。

その中へと突っ込んでいく。

そうして見えた景色---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多次元宇宙---()()()()()()

無数とある宇宙。その中でも人際強く、目立つように輝く光がある。

その中へ迷うことなく向かった紡絆は、いつもの場所にいた。

神秘性を感じさせる青黒い世界。

うっすらと輝く銀の輝きが、神秘性をより強める。

 

「ウルトラマン……」

『………』

 

視線の先に存在するのは、エナジーコアが()()しているウルトラマンネクサス・アンファンス。

繋がりが薄らいでいるせいか、紡絆は彼の声が聞こえなかった。

それでも、エボルトラスターが点滅していることに気づいた紡絆は、彼を見ながら呟く。

 

「助けを、求めているのか……?」

『………』

 

無数の宇宙の中では、間違えれば二度と戻ってくることは叶わない。

そんな中でも迷わなかったのは、ウルトラマンの導きだろう。

だからこそ、紡絆はこう考えた。

SOS信号なのでは、と。

 

「俺に出来ること、それは君を見つけること……だから見つけるよ、必ず助け出す。俺も君も、生きて帰るんだ。明日にまた会うために……だから、ウルトラマン。俺を信じてくれ!」

『……---』

「ッ!」

 

その気持ちに、答えてくれたのか。

ネクサスがゆっくりと頷く。

紡絆は嬉しそうに笑うと、強く手を握りしめて加速する。

目指すはウルトラマンのもと---ではなかった。

 

(皆さん、力を貸してください……!!)

 

一筋の光が、ネクサスに向かって、エナジーコアに向かって加速する。

そうして紡絆の体は---()()()()()()へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ぐぅ…あ…ガァアアアアアア!?」

 

凄まじい奔流の嵐。

多くの者から託され、その力を持ってしてもウルトラマンのエネルギーには耐えるのだけで精一杯だった。

人間とウルトラマン。

格が圧倒的に違う。

体内に秘めるエネルギー量など、紡絆に宿ったウルトラマンは並のウルトラマンすらも優に超える。

そんな中で、光の濁流に耐えながら次々と流れてくる、ウィンドウのようなものに目が吸い寄せられる。

 

(こ、れは……ウルトラマンの、記憶……歴史……!?)

 

それは、ルーツ。

様々な人物が巨人へ変身し、戦ってきた戦いの歴史。

宇宙のどこか。

どこかの星。

紡絆たちがいる地球とは別の、別次元の地球。

怪獣や宇宙人、スペースビーストとの激闘の日々。

そしてもちろん。紡絆が知っている人物もいた。

 

『俺は今度こそ守ってみせる……この光で…。それが…俺に与えられた使命だ!』

 

ひとつ。

赤き力を身に宿した、英雄の姿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺は戦う……!俺は生きる! 生きて、この光を繋ぐ!!』

 

ふたつ。

青き力をその身に宿し、次へ繋げた青い果実の姿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫、ウルトラマンは負けません』

 

みっつ。

かつて復讐に囚われ、復讐を乗り越えた者の姿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『絆---■■■■!』

 

よっつ。

様々な苦難を乗り越え、青い果実から英雄へと至った姿。

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『駄目だ……ここで墜ちるなんて、駄目だ。俺には守らなきゃならない約束がある。こいつを倒すこと……それが俺の、ラストミッションなんだ!』

 

約束と家族のために戦った()()()()()の姿。

 

(これが、歴史。ウルトラマンの……記憶……。どこだ……何処にいる?ダメだ、流れが……頭が痛い……!!)

 

鼻や耳から血が零れ落ち、目からは血涙が流れ、意識が遠のいていく。

それも当然。

ウルトラマンの記憶。人間は長く生きれても百年だ。

だがウルトラマンはその人間の数百を遥かに凌ぐ。

今紡絆の脳には()()()分の歴史が紡がれてきた記憶が流れてきている。

 

(だ、めだ……意識が、薄れる……託されて、ここまで来た、のに……!!)

 

気がつけば、光の奔流に逆らうことすら難しく、体が戻されていく。

それでも、紡絆は諦めていない。

どこかに存在するはずの、()()()()()()()()()を探すために。

数分前に決心した決意を、信じてくれたウルトラマンに応えるためにも。

そうして探るように両手を伸ばして、掻き分けるように動かして、胸元のポケットが眩い輝きを放つ。

ポケットから落ちたのは、花の栞。

戦いになる前に、小都音から貰った栞。友奈が作った押し花。

 

(しおり……?)

『---!』

 

それを認識した途端、()()()()()()()()()()が聞こえ、足りなかったものを補うかのように()()()()()が紡絆の体へ入り込み、紡絆は加速する。

導かれるように体が動き、中心---エナジーコアの中に眠る、もうひとつの輝き。

 

(今のはまさか……っ。そこにいるのか、ウルトラマンッ!!)

 

迷いなく両手を伸ばした紡絆は、その光を握りしめる。

同時に、紡絆の左胸から発せられた()()の光が纏われていた光を塗り替え、包み込む。

意識が消える寸前---紡絆は確かに()()()()()()()()()()()()()が目に映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その場に倒れるようにうつ伏せに倒れていた紡絆は、うっすらと目を開ける。

最初に見えたのは、自分の両手だった。

右手にはエボルトラスター。左手には()()()()

視認した時には、銀色の光は手に吸い込まれるように消えた。

 

(届いたのか……ウルトラマンに。でもあの声は、もしかして……)

 

色々なことがありすぎて、頭の整理がつかないが考えるのは後だと紡絆は頭を振るうと、現状を知るために起き上がると周囲を見渡す。

 

「ここは……樹海!?まさか、もう終わって……ッ!」

 

絡み合う木々。

色とりどりな極彩色を放つ異空間。

神樹様が作り出す結界の世界。

唯一違うのは世界の色が()()だということ。

戦闘音も仲間の姿も、敵の姿すら見えないことに世界が終わったのかと焦る紡絆は周囲を忙しなく見渡す。

 

「大丈夫。終わってないよ」

「……!?」

 

誰もおらず、自分だけしかいない世界で一人の女の子の声が背後から聞こえる。

その声が()()()()()声に似ていたので、紡絆は振り向くと驚愕する。

その姿。その顔。その見た目。

それはまるで---

 

「……ゆ、うな……?」

 

そう、彼の知る、結城友奈そのもの。瓜二つな容姿だ。

ただ唯一違うのは髪の結び方が彼の知る友奈が左なのに対して目の前の友奈は右側だということ。そして髪から飛びてている短い毛と、身に包む讃州中学では無い別の制服だろう。

 

「いや……違う。俺の知る友奈じゃない…君は?」

「わぁ、すごい!よく分かったね、私は高嶋(たかしま)友奈(ゆうな)!」

「高嶋……?」

 

高嶋友奈と名乗った女性は紡絆に接近したかと思えば、覗き込むようにして見つめてくる。

聞いた事のない苗字に首を傾げながら、紡絆は距離感の近い彼女から逃れるように背中を反っていた。

 

「あ〜えっと…貴方たちから見れば、初代勇者…って言えば分かるかな?貴方は継受紡絆くん、だよね?」

「初代勇者…!?って、どうして俺の名前を?」

 

高嶋が言葉を選ぶように口元に手を当て、可愛らしく首を傾げながら確認するように聞くと、紡絆は流石に驚いた。

しかし彼の知る結城友奈とは違うこと。何より自分の名前を知っていることに疑問が浮かぶ。

ただ彼らしいというべきか、警戒心はなかった。

 

「ずっとここで見てきたからね。それに覚えてない?私、貴方に会ったことあるんだよ」

「会ったこと……もしかして、以前来た時か?」

「正解!あの時はびっくりしちゃった。私と同じようになるところだったから」

「同じ……?」

「そう、同じ」

 

ただでさえ混乱していた頭がより負荷がかかり、もはや何がなにか分からなくなっていたが、高嶋は神樹様が聳え立つ、紡絆の背後を見ていた。

同じく見れば、変わらずこの世界に存在し続ける神がある。

 

「私、今は神樹様の一部をやってるんだ。何だか特別だったらしくてね、こうして魂だけになってる。あ、正確には私がそう呼んでるだけだからね!?」

「……そっか」

「はぇ?」

 

自分自身の知る結城友奈を思い出すような言動に、思わず紡絆が笑うと高嶋は首を傾げる。

 

「いや、知り合いに本当に似てると思って」

「ああ、結城ちゃんのことだね」

「うん、あまりに似てるから……けど先祖ってわけじゃなさそうだな」

「神様からしたらそう変わらないらしいよ?」

「ウルトラマンのことは分かるけど、流石に神様のことまでは分からないなぁ……」

 

どちらもどっこいどっこいなはずだが、初めて話すはずの紡絆と高嶋はそうとは思えないほどにあまりに自然だった。

二人揃って、神樹様が見える方を見て高い位置にある太い枝に座って見ている。

 

「ね、紡絆くん。良かったら聞かせてくれる?貴方たちのことは見てきたけど、やっぱり本人の口から聞きたくて」

「まあ戻り方も分からんないからそれはいいけど……現実の方が心配になる」

「そこは大丈夫。ここと現実は時間の流れが違うんだって。ここだと止まってるみたい」

「じゃあいいか。そうだな、まず勇者部のことなんだけど」

 

あっさりと信じては、紡絆は次々と思い出を引き出して高嶋に話していく。

多種多様で、個性豊かな勇者部のメンバーのこと。勇者部のこと。やってきた依頼のこと。お役目やスペースビーストとの戦いのこと。過ごしてきた日常の日々---覚えているものを全部、紡絆は話した。

一体どれだけ長い話だったのか、ただ相槌を打って、驚いたり笑ったり、悲しんだりと受け手が様々な反応を見せたのもあっただろう。

もしここが現実であったなら、数時間は話していたはず。

 

「本当に、いっぱいだ」

「ああ、いっぱいだよ」

 

多くのことをしてきた。

そしてまた、多くの笑顔を作っては守ってきた。

それはたったの二年だ。

たったの二年でしかない。だとしても濃密で、豊潤で、これからも続く歴史の一部。

 

「いいなぁ、勇者部。とても楽しそう」

「毎日忙しいけどな」

「ふふ、知ってるよ。紡絆くん、子供に特に大人気だったよね」

「俺は普通にしてるだけだけどなぁ」

「それがいいんじゃないかな。だって、紡絆くんって本能に従って動いてるでしょ?」

「考えるのは苦手だ。それに考える時間があるなら、動いた方がいいだろ?」

「そうかも」

 

互いに顔を見合せて、ただ笑い合う。

それこそ、一つの日常の風景のように。

 

「ただ割と怒られるんだよな」

「それは……うん、ごめんね、私も気持ちは分かるから何も言えないかなぁ」

「え?」

「ああ、やっぱり自覚ないんだね……」

「???」

 

危険性を理解してない紡絆の姿をこうして目の当たりにしたからか、高嶋は苦笑していた。

しかも紡絆本人はやはり疑問符を浮かべまくるだけだ。

 

「でも、それが紡絆くんのいいところでもあるよ。その変わらない部分は、私も素敵だなって思う」

「そうか?」

「うん!」

「それは素直に嬉しいな。だけど君も同じだ。話して間もないけど、君が優しい心を持ってるのは伝わってくる。その笑顔や在り方にきっと救われた人もいるだろうなって。俺も君のそういった部分はとても良いと思うよ」

「えへへ、そう言われると照れるかも」

 

可愛らしく笑顔を浮かべた高嶋に、紡絆もまた笑顔を浮かべる。

第三者が居たら逆に恥ずかしくなりそうではあったが、ここには彼女と彼しかいない。

せいぜい神がいるくらいだ。

 

「さて…本当はこのまま話しててもいいんだけど…悪い。まだ終わってないんだ」

「うん……」

 

表情を引き締め、改めて現実へ戻る。

そう、世界も戦いも、全て終わった訳では無い。

この戦いを終えたとしても、まだ天の神がいる。ザギがいる。

苦難は続くだろう。

 

「行くんだよね」

「時間が無いんだ、この世界の時間が動かないとしても、行かなくちゃならないからな」

「そっか……」

 

分かっていたように言えば、返ってくる言葉は肯定だ。

迷いがまるでない。

 

「ここに居たら、傷つかなくていいんだよ?苦しいこともないし悩むこともない。それでも行くの?現実は、辛くて厳しくて、痛いよ」

「約束したから、帰るって。託してくれた人たちにも必ず救うって。だから俺は、行かなくちゃならないんだ」

 

立ち上がった紡絆は、エボルトラスターを見ながら真剣な眼差しを高嶋に向けている。

一方で高嶋は表情を和らげていた。

 

「だよね、紡絆くんならそう言うと思った。ここで私が行かないでって言っても……行くでしょ?」

「……ああ、俺にしか出来ないことをやるために」

「うん……じゃあ、案内してあげる」

 

それが今彼女がここにいる理由なのだろう。

手を差し伸べる高嶋を見て、紡絆は僅かに彼女の手と顔に視線を彷徨わせると、そっと握る。

 

「本当はここに居て欲しかった。たくさん傷ついて、苦しんで……頑張ったね、休んでいいよって慰めてあげたいんだけど…」

「俺が望んだことだよ。君が何か思う必要はない。俺はきっと、この選択をしたんだと思う」

 

高嶋が手を引いて、紡絆はただそれについて行く。

彼女は紡絆を見てきた、と言っていた。

ならばそれは今までの戦いも、紡絆の知らない過去も、全部見たのだろう。

それこそテレビで番組を見るように。ただフィクションではなく、リアルなものを見てきた。

 

「今からでも引き返すことは出来るよ。私が貴方を守ってあげられるし、一人には絶対にさせない。だからその選択をしても誰も責めない」

「気持ちは変わらない。今なら分かるんだ。俺はずっと、導かれてきたんだろ?」

「…うん、覚えてないと思うけどね。紡絆くんは特別だし」

 

徐々に迫っていく。

この世界で、明らかに人以外に、背景に色がある神樹様へ。

どんな言葉を掛けても、揺らぐことはなく。

それが悲しくて、それでも嬉しくて、妙な感情に支配されながら高嶋が立ち止まると、手を離して紡絆へ振り返る。

遠くから見ても大きな神樹様は、今は見上げなければならないほどに近く全体は見えない。

 

「案内はここまで。その選択に後悔はない?この先に進めば、もう引き返すことも。それにきっと紡絆くんは---」

 

その先の言葉を、察していたのだろう。

言わせないというように紡絆は首を横に振って言葉を重ねることで止める。

 

「俺がここまで来れたのはみんなの力だけど、君の、君たちの力でもある。君たちが繋いでくれたバトンが未来に。現在(いま)に繋がってる。だから繋がれたバトンも、今度は受け継いで未来へ続けさせるよ」

「紡絆くん……」

 

そう、高嶋友奈は自身を初代勇者と言った。

もし彼女たちが居なければ、紡絆たちの今いる未来は存在していない。

それに紡絆は『継承者』なのだ。それがウルトラマンの光の継承者だとしても、継ぐものである。

 

「…でも、君はどうなるんだ?」

「変わらないよ、私はここで見守るだけ。本当は紡絆くんと話すのは、私が止めたらダメだから…あんまり良くないことなんだけどね、神様ってほら気まぐれだから」

「……そっか。もう話せないのか?」

「どうだろ…そこは私も分からないや…。また話せたら嬉しいけど、多分会えない。寂しくはなるけど、それは仕方がないことなんだ」

 

この空間のことを全く知らない紡絆には、また目の前の高嶋友奈という少女と会えるかなんて分からない。

彼女が分からなければ分からない。

彼女がそう言うなら、そうなのだろうと思うしかない。

唯一紡絆でも分かるのは、この世界において彼女以外誰もいないということだ。

それは少し、寂しいだろう。

 

「友奈」

「どうかした?」

 

ここに来て紡絆が初めて名前を呼ぶと、まとまってないのか俯いて考える素振りをする。

数秒かもしれないし数分かもしれない。

それほど経った時、決心したかのように顔を上げると口を開く。

 

「決めたことがある」

「決めたこと?」

「ああ、未来がどうなるかなんて分からない。でも俺はやっぱり自分の気持ちに嘘が付けないらしい」

「……?」

「約束するよ」

 

言葉の意味がよく分からず、首を傾げる高嶋に紡絆は彼女の手を包むようにして取る。

突然のことに僅かに驚いたように目を見開くと、彼女は紡絆を見た。

その瞳はこの世界にきても、未だに金色で吸い込まれるほどに綺麗だった。

 

「いつか君を、君たちを必ず迎えに来る。遠い未来になるかもしれないけど、絶対に。だからその時は、たくさん話そう。次はたくさん一緒に過ごそう。色んなことして、色んなところに行って、たくさんの思い出を作ろう」

「---それは……難しいよ?私は神樹様の一部になってるから生きてるだけ。ここから出ることは出来ないし、それに私たちは……」

「過去は変えることは出来ない。それは分かってる…けど例え不可能でも可能にする!それがウルトラマンだから!」

 

いつまでも変わらない笑顔で、そう宣言して見せた。

確証も、出来る保証もないのに。可能なのでは、と思えるような不思議な力を感じさせる。

継受紡絆という人間の強さたる部分。

頭の良さでも実力でも何でもなく、その心。

前向きに諦めないという強さ。受け継ぐ度に強くなるそれは、測り切ることが出来ない。

その眩しさが、彼が持つ一番の強さなのだ。

 

「…ふふ。本当に、見てきた通り。ヒーローみたいにかっこいいなぁ。じゃあ、信じて待ってようかな。いつかその時が訪れること。紡絆くんなら不思議と出来ちゃいそうだもん」

「ヒーローか…そうだな、頑張る。だからひとまずは---家族と人間を、世界を救ってくるよ」

 

この約束がいつか、巡り合わせるものと信じて。絆を結んでくれると信じて。

紡絆は手を離し、高嶋の横を通り過ぎると神樹様の方へ歩いていく。

一瞬、高嶋は離れた手に目をやっていたが、直ぐに振り向くと叫ぶ。

 

「うん、頑張って!紡絆くんならきっと、大丈夫!だって紡絆くんは正義のヒーロー(ウルトラマン)だから!」

 

応援するような励ますような声援を背に、紡絆は手を挙げると、振り向くことなく神樹様の中へ入っていく。

残された高嶋は最後に握られた手を見て、何処か嬉しそうに、恥ずかしそうに息を吐くと、ふと視線を逸らした。

そこには()()()がついて行くように紡絆の後を追って、それを見た高嶋が笑顔を浮かべると桜の花吹雪が通り抜ける。

花吹雪が消えたとき、そこにはもう彼女はいなかった。

そうして神樹様の中へ入った紡絆は肩に乗った烏の存在には気づかないまま、次々と体に何かが巻きついていく。

それに一切抵抗はせず。

ただ気づいたように左胸を服越しに握りしめる。

 

(そうか……分かった気がする……。俺がここに来た理由。俺が生きている理由。俺が特別って言われた理由も。それはきっと---)

 

エボルトラスターから光が発せられる中、意識が途切れる直前に紡絆は何かを確信しながら、その光に身を委ねた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エナジーコアの中へエボルトラスターが放り込まれても、変化は起きなかった。

ネクサスは変わらず闇の蔦に包まれたまま、手遅れになりつつある。

だが知っている。

メフィストも、スペースビーストも。バーテックスも。究極へ至ったのは知能もだ。

必ず何かが起きる、と。

 

『神樹を破壊しろ…!』

 

故に。

その後の行動はあまりにも迅速だった。

メフィストの指示に従うように、イシュムーアが口から再び高熱集める。赤い火から、青い火へ。

さっき、何とか打ち砕けた力を再び放とうとしている。

そしてメフィストはトドメを刺すようためか、ネクサスの元へ向かっていた。

 

「くっ…友奈ちゃん……!」

 

全力で力を使い果たして攻撃を受けたのだ。

友奈は立ち上がるどころか意識はまだなく、復帰は難しいだろう。

しかし敵は待ってはくれない。

収束の済んだイシュムーアがその熱線を神樹に向かって解き放つ。

 

「やばい!神樹様を守るわよ!壊させるわけにはいかない!」

「当然!防ぎ切る!」

 

メフィストの動きも気になるが、それよりもやばいのは世界を保つ神樹の破壊だ。

超高熱と言えるほどに熱量を持つ光線を防ぐべく、風も夏凜も樹も、友奈が心配な東郷も咄嗟に神樹様とイシュムーアの間に入り込み、熱線を受け止める。

 

「っ……!」

「なにっ…んの、威力…ッ!?」

 

しかしその力は、四人の満開を上回る威力。

防ぐつもりのはずが、ぶつかりあった途端に押されていく。

必死に堪える勇者たちと、有り得ないと知りながらもしかしたら、という()()()を殺そうとするイシュムーアの熱線。

ウルトラマンを歯にかけないほどの強さを持ちながらも『究極』の敵は恐れている。何度も経験してきた『未知』への焦り。

だからこその、本気。

 

「耐えきれ---ッ!?」

 

そして容赦なく。

熱線が四人の勇者を蹴散らし、爆発と共に満開が解除される。

空中に浮くことが出来ない勇者たちは地面へ墜落するが、あくまで満開のダメージ許容範囲を超えただけなのだろう。

 

「神樹様は!?」

 

即座に顔を上げると、そこには熱線はなかった。

満開の力が切れた時に起きた爆発が、何とか防ぎ切ることに成功したのだろう。

だが逆に---()()()はもういない。

次々とイシュムーアの頭上に浮かぶのは炎球。それこそ、太陽のような炎。

 

「な……に、あれ……」

 

誰の声だったか、圧倒的すぎる強さ。圧倒的な絶望。

これが本気なのだろう。

ウルトラマン相手にすら、さっきの勇者たちにすら、イシュムーアは力を残していた。余力を残し、切り札は温存していた。

そう、この戦いは勝つか負けるなんかじゃない。

初めから()()()()()()戦い。

そしてまた、メフィストも同様だった。

 

『これで終幕だ……!!』

 

完全に、確実にトドメを刺す方を選んだのだろう。

メフィストクローを展開したメフィストがネクサスのエナジーコアを狙うために腰部に跨るように両足を開いて立つと、大きく腕を引き絞る。

さらにイシュムーアからは見た目とは裏腹に炎球が高速で放たれる。

 

「や……やめろぉおおおおおおお!」

 

それは、この場の誰もが思ったことだろう。

終焉の地。

終焉とは命の終わりを意味する。

地とは大地。

文字通り、終わりの地を意味する場所。

その場所にてメフィストはクローを全力で突き出し、その威力を象徴するかのようにネクサスを拘束する藤壺のような山が崩れ、その際に発生した土煙が姿を覆い隠し、世界を守護する神樹様が炎に呑まれ---()()()

そう、一人、いやウルトラマンを含め二人の命と最後の砦である神の命が、あっさりと終わりを告げた---

 

「そ、んな……つむ、ぎくん……!いや、そんなの……いやっ……!」

「嘘、でしょ……こんなにやって……頑張っても、 ここまでなの……?終わりなの……!?」

「くそ、クソッ!私たちは、守れなかったってこと……?」

「っ…!ッ………!!」

 

それを証明するかのように、樹海となった世界にヒビが入り、炎に焼かれながら神樹様が折れ、崩れていく。

空間を保つ力も長くないだろう。神は殺され、希望は消し去られた。

どれだけ人間が諦めが悪かったとしても、抗ったとしても、定められた運命はひっくり返すことなど出来るはずもない。既に確定した未来は、戻すことなど出来ないのだ。

所詮人間はちっぽけな存在でしかなく、世界は終わりを告げる。

人間の足掻きなど、取るに足らないものだった。

それだけだ。

希望が打ち砕かれたとき、誰もが浮かべるもの。

それは絶望なのだから。

 

「世界が、終わる……」

 

言葉通り、世界が揺れる。

数秒もない。世界全体にヒビが入り込み、狭間には虚無だけが広がる。

すなわち。

勇者の、敗北。

ウルトラマンは負け、地の神は天の神に焼き払われ滅ぼされた。

どんな思いを抱こうとも、現実は変わることがない。

守りきれなかった後悔。不甲斐なさ。怒り。無力感。色んな感情が流れ込むようにやってきながら、戦意は折れる。

いや、正確には世界の終わりを理解してしまった。本当の意味で、終わり。

抗う意思すら折られ、ただ負けたという事実だけが残る。

そう、物語は希望に満ちるわけでもない。勇者だから勝てるなんてこともない。

時に悪が打ち勝つことだってある。この世界はそうだっただけだろう。

最後まで健闘した。頑張った。ただ闇が強く、絶望があまりにも深かっただけ。

褒められることはあれど責められることは無い。

そうして、勇者の心は折られ、世界は救済されることなく崩壊する。

そこにはもう、何も残らない。人も、神も、世界も。全部が終わり。

こうして、五人の勇者と光の巨人が紡ぐはずだった物語はBAD END(不幸な結末)を迎えた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『諦めるな!!』

 

()()()()()

その声は、誰の声だったか。

決して大きな声では無い。

けれど崩壊する世界に響き渡るその声は、何処までも木霊したかのように誰の耳にも届き、その心に()を灯す。

さあ、顔を上げよ。希望を宿し、勇気を出せ。

物語はまだ終わっていない。

なぜなら、相手が絶対であるならば、絶望の中に残されるものがあるように。

この世界にはまだ---絶対的な()()が残っているのだから。

 

『ッ!?な、なに……ッ!?貴様っ、離せッ!!』

 

遥か先。

崩壊せんとする世界が()()する中、メフィストが突き出したはずのクローが、エナジーコアに直撃する寸前で()()()()()()()()

瞳は変わらず色はなく。

されどその力は、メフィストがどれだけ引っ張ろうとも蹴ろうともビクともしない。

その姿を、その光を。

誰もが知っている。

どれだけ絶望が深く、どれだけ希望が打ち砕かれ、可能性が消されようとも。

最後まで諦めず、どんなときも立ち上がり、誰かを守るために立ち向かうその姿が、その存在こそが---誰かの希望となる。

だからこそ、人々はその光(巨人)に対して、憧れを込めてこう呼ぶのだ。

---光の巨人(ウルトラマン)と。

 

『ぐううっ……!?』

 

ネクサスを拘束していた蔦が崩れ、光の如く黒煙に包まれた空へとネクサスが飛び出した。

力は無いはずなのに、エナジーコアは止まっているのに。

エネルギーもないはずなのに。

何故かネクサスが動き、メフィストすら抵抗できない強さを引き出している。

そんな力は一体、何処から生まれているのか。

ただそんな中、紡絆は感じる。

己の近くにいる存在を。

 

(ウルトラマン……俺、ずっと悩んでたんだ。どうして俺に光が宿ったのか。なんで俺だったのか。俺が得た光の意味を、ただ考えていた)

『………』

 

紡絆は分からなかった。

力の意味は知った。戦う理由も見つけた。光の力の意味を教わった。責任感を持った。心構えを身につけた。諦めない強さを得た。

 

(でもさ結局、見つからなかったんだ。情けないよな…散々考えて、今になっても見つけられないなんて。答えは見つけられなかった。でも…ひとつだけ分かったことがある)

『………?』

 

そう、光を得た意味だけは見つけられなかった。だけど、別のことは分かった。

それが何なのか、ネクサスは分からない。

だからこそ、紡絆は伝える。

言葉で伝えることが大切だから。

 

(君はずっと、俺を守ってくれてたんだろ?俺から離れても、君はずっと俺を見守って、俺をいつも護ってくれてた。君と再び一体化する時まで、した時もずっと)

 

何故紡絆が何度も変身が解除されたのに無事だったのか。

何故今まで適能者として死ぬ攻撃を受けても生きていられたのか。

それは全部、ウルトラマンのお陰だった。

変身の強制解除はウルトラマンが紡絆に出来る、精一杯のアシストだったのだろう。

 

『---』

(守れなかった?違う…君が居なきゃ俺は立ち上がれなかった。君が居てくれたから俺は戦えた。君がいてくれたから、多くのものを守れた。たくさんの笑顔を、君と一緒だったから守れた。君がずっと俺を見守ってくれたから。君がずっと俺の傍に居てくれたから。だから俺は---)

 

高く。高く。もっと高く。

黒煙を超え、闇を超え、暗闇が照らされる。

音を、雲を、星ですらも。

一人じゃきっと堕ちてしまうけれど。たどり着けないけれども。

 

(飛べる!この空を!どんな闇の中でも、どんな場所でも!どこまでだって!君と一緒なら、俺はまだ飛べる---ッ!!)

 

---そう、まだ飛べる遥かなるこの空へと。

FlyAgain(もう一度飛ぶ)

何処までも高く。その輝きの果てまで。

どこまでも続く、希望の光。

限りなく続いていくはるかな未来(あす)を目指して---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『例え世界が終わりを告げても、決して諦めない!』

 

メフィストを掴む手が離れ、凄まじい速度で上昇するネクサスの風圧に弾かれる。

彼の視線の先には太陽と星があって、力強く振り向く。

 

『果たすべき約束がある!守りたい人たちがいる!守りたい世界がある!俺は……()()()はッ!!』

 

そうして星と太陽を背に。晴れ渡る空に。

崩れていく神樹様から放たれた()()()()がネクサスを包み込んでいく。

 

()()()()()()だッ!!』

『ッ!?』

 

瞬間。

ネクサスの瞳に光が灯され、エナジーコアが()()()の光を放出する。

ネクサスの全身を覆うほどの輝き。いや世界全体を覆う光の波。

その光が、黒煙に包まれた樹海の世界に光を復活させる。

アンファンスだからこそ持つ、奇跡の力---『コアファイナル』。

黄金色の輝きに混じるように、虹色の光が混ざり合う。

それはとても、誰もが見ても分かるほどに美しく綺麗で、全てを魅了する輝き。

眩い光が、少しずつネクサスの姿を作り出していく。

銀色の肉体を持つネクサス。

その体は銀から金へ。

右脚は金に対し、左脚は金色に草木を連想させる()()()のラインが左腕にかけて走り、所々に左腕のアームドネクサスには樹木の枝のような黄緑色のパーツが巻き付くように装着され、その側面のフィンは桜色。

右腕には金色のアームドネクサス。両腕の菱形のクリスタルは空色に染まっている。

そしてネクサスをたらしめるエナジーコア、その半球体のコアゲージは青ではなく黄緑色に変化し、赤と青のクリスタルが左右に生まれ、コアゲージと三角を描くように存在する。

さらにエナジーコアを囲むように一種ずつ赤、青、銀、紫色の順に細いラインが走っていた。

両肩の鎧の肩当てのような板状アーマーは金と銀の半々に分かれ、瞳は変わらず白光色。

その姿こそ、本来の適能者(デュナミスト)の力が完全開放された真の姿---()()()()()()()()()

誰もが『光』と例える継受紡絆に相応しい『最強』のネクサスの形態。

新たな姿、未知の形態。

その形態の真の力---

 

『ハアァァ……ハアッ!』

 

黄緑色のパーツが装着されている左腕のアームドネクサスから、光が解き放たれる。

その光は太陽のように浮かび上がり、星のような輝きを放ち、()()()()()

誰も回転したわけでも、体が動いてる訳でもない。

ただ世界だけが回っている。

 

「これは……?」

「散華した部分が……治っていく?」

 

否。

散華した勇者の体が戻り、消費した満開のゲージすら回復する。

世界を守る空間のヒビがなくなっていき、何より折れたはずの神樹が戻っていく。

それはつまり---

 

「まさか…紡絆くんが……時間を、巻き戻しているというの……?」

 

()()()()

それは奇跡の力。

破壊されたはずの神樹が嘘のように戻り、()()()()()()となると同時に頭上の光が眩い輝きと共に消失する。

そう、有り得ないことを成す---ウルトラの奇跡。

今ここに、()()を宿すウルトラマンが誕生した瞬間であった。

 

『なんだ……なんなんだその力は!?その姿は!?』

 

理解の追いつかない能力。

破壊したはずの神樹も。エネルギーを失ったウルトラマンも。失ったはずの勇者の身体機能も。

何もかもが、戻っている。

理屈では説明出来ない力。

あまりにも不可解な力に、()()()()()にメフィストがただ喚く。

 

『守りたいものを守り抜き、未来を切り拓く---()()()の力だッ!』

 

そんなメフィストにネクサスは---いや紡絆はそう返した。

そう、この力は、この姿は紡絆だけの力ではない。

諦めないみんなの心が引き起こした、奇跡なのだから。

だからこそ、光は応えた。

絶望に抗い、諦めない意志と絆によって彼が得た姿---その輝きは、誰にも消すことは叶わない。

こうして、BAD END(不幸な結末)を塗り替える新たな奇跡を宿すネクサスが誕生した---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





○継受紡絆/ウルトラマンネクサス
光の継承者。
ウルトラマンネクサスという作品のキャッチコピーは『受け継がれる魂の絆』。
継受紡絆という名前は『受け継ぐ』。『紡がれる』。『絆』の三つの意味がある。
それを本編の内容を入れ込んでまとめてしまえば、『(遥か昔から)紡がれてきた(全ての)絆を受け継ぐもの』。
故に彼は『(この世界において)最初で(彼で終わりという意味で)最後の継承者』なのである。
ある意味、生まれながらに『光の継承者』と言えるだろう。

○ウルトラマンネクサス
実は本作のヒロイン
実は作中での強制解除は紡絆くんを助けるために彼がやっていた。
繋がりが絶たれ、相変わらずエナジーコアが点滅するレベルでエネルギーがなかったので元凶の手で多次元宇宙に強制的に飛ばされたところを紡絆くんが見つけ出し、彼の中に眠り続ける『本来の姿』である『神秘の巨人』の力の一部が譲渡された。

○黄金色のジュネッス(名称不明。決めてないから誰か助けて)
継受紡絆の適能者としての力が完全に解放された真の(オリジナル)形態。
当然ながら彼に一番適した力を持ち、紡絆くんが望んだウルトラマンと『共にある』為の形態でもある。
いわゆる最強形態に位置する姿。
全体的に金、銀、赤、青、黄緑をメインに。黒、空色、紫、桜色の計九色が入っている。
その身に内包する力は、『奇跡』『絆』『光』の三つの力であり、名前の由来と同じ数だったり。
が、これらは勇者たちの諦めない意志、紡いだ想いと絆。
紡絆(陽灯)くんが持つ■■■■■■■■■とイッチが持つ■■■■■■■■■が合わさり、継受紡絆が持つ■■■■■■。
さらに『歴代の適能者』たちと『神秘の巨人』の力の一部。『神樹様』の力。
と言った感じでバグにバグを重ねて起きた未知の形態。力の比率は紡絆くん十割、神秘の巨人二割、神樹様八割。
が、実はこの形態は継受紡絆という人間に■■■を直接■■■形態であり、一種の■■■。■■■の応用の力。
時間操作は所詮は力の一端の過ぎず、この形態のみ喋ることも可能。
ただし、その力は『人』が持つにはあまりにも絶大すぎるため、強大な力には当然ながら……。

()()()紡絆くんの適能者の力なので従来と変わらず金色のジュネッスで『光』しかなかったりする。
ちなみに歴代の適能者による絆バフがあるので今は無限のエネルギーがあるが、それがなければ『今の』紡絆くんが万全だろうと瀕死だろうとこの形態を維持するには30秒が限界(参考程度にコスモスのエクリプスが約1分なのでその半分)
色が九色構成な理由もある。

○高嶋友奈
初代勇者の一人であり、神樹様の一部となっている者。
何気に『この時代』の彼女はウルトラマンを除いて彼の家族や友人たちよりも一番紡絆くんを知ってたりする。
本人曰く別に結城友奈の先祖ってわけではないとか。
何気に告白紛いというか(紡絆くんはそんなつもりないけど)完全に告白さ(口説か)れてた子。

○天海小都音
実は最初に樹に夢を与えた人物。
その約束が闇に囚われた彼女の中にも強く残っていたのだろう。
彼女の意識は『まだ』存在する。

○歴代の継承者
ウルトラマンの記憶に残留する思念のような存在。
彼らの光は全て紡絆くんへと受け継がれたので、もう姿を現すことはないだろう。
セリフにはないだけで、他の適能者も実は紡絆くんに色んなことを伝えたりした。

○ダークザギ
本作においての黒幕。
何かを企んでいるようだが、紡絆くんたちが抗うことが彼の利になるらしい。
力は取り戻してるのか、姿自体は既に暗黒破壊神。
なお紡絆くんの正体とやらに気づいた模様。

○勇者部五箇条
順番は原典と同じ。今回変えたのはそれぞれに合わせたため。

○掲示板
紡絆くんが闇に囚われなかったのは一人ではなく、彼らがいたから。彼らの声が届いていたから。
新たな力もこの世界にいない彼らがいなければ実現しなかっただろう。

○花の栞
小都音が友奈にお願いし、小都音から紡絆へ渡されたもの。
その花の名とは『花虎の尾(ハナトラノオ)』。
花言葉は『望みの達成(成就)』『希望』『あなたとの約束』等など。


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「-英雄-ヒーロー」


ゆゆゆいCS版予約始まってましたねぇ。え?特典多いのにどれにした?
無論エビテンで上下巻限定版で買いましたけど(約11万) 全部欲しい人は全部買って、どうぞ(100万円超えるとか)

そんな来年のプライベート資金死亡のお知らせはともかく、そろそろ章が終わるので言っておきたいことがあります。
何故本作を『輝きの章』にしたのか、ってことですね。
輝きの章→紡絆くんと紡絆くんが発現させる形態のこと、でした。初めから決まってたんですよね、その二つは。多分そこまで深読みしてた人は居ない。
あとオリジナル形態に関しては今出てる案で良いなと思ったのもありますが、募集し続けます(規約的に活動報告にて)。
まだ能力がどんなのか分からないと思うので、この話見て考えてくれたらなあと。
案が来なかったらクソザコネーミングセンスを持つ作者が既に持ってる案出しますけど、その案を知りたい人は活動報告載せておくんで見てください。技名も募集しようかな、炎パンチと浄化光線と氷ビームと雷ズドーン。
さて本編ですが、実はこの結末もオリジナル形態(と能力)もこの作品を書くと決めた際に決定してました。ようやく書けた話を、どうぞお楽しみください!
長きに渡った、輝きの章の終幕です!(あと一話あるけど)







 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 第 49 話 

 

 

-英雄-ヒーロー

 

 

愛情の絆

アサガオ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奇跡を宿す黄金色のジュネッス。

その力によって全てが巻き戻され、全てがリセットされた。

いや、元通りではないだろう。

ウルトラマンの復活、つまるところ継受紡絆という人間が生き返った証だ。

 

『ならば再び……!』

 

遥か上空に存在する、眩いネクサスの姿。

即座に地上へ振り返ったメフィストが、再び神樹を破壊しようとイシュムーアに指示を出した。

地上にいるイシュムーアと上空に存在するネクサス。

そう、狙うのが早いのはイシュムーアだ。

再び貯められる熱線。

絶大な力が誇るそれは、復活した神へと向けられ---

 

 

 

 

 

 

 

 

イシュムーアが()()()()()

 

『!?』

 

誰も視認が出来ず、何が起きたのかすら認識出来ていない。

それは勇者たちも同様で、ただ分かるのはいつの間にか地上に降りていたネクサスが拳を突き出していた。

それだけ。

上空を見れば、既にそこはもぬけの殻。

その存在が脅威とみなしたのだろう。

次々とクトゥーラが触手を伸ばしていくと、背後から一斉に襲いかかる。

ネクサスは気づいていないのか、何の反応も示していない。

すぐに伝えようと勇者たちが口を開こうとするが、それよりも早く辿り着く。

明らかに間に合わず、ネクサスは拘束される---のではなく、触手が()()()()()()()()()()()()され、姿が消える。

 

『デェアッ!』

 

そして、クトゥーラの背後から現れたネクサスが横蹴りで蹴り飛ばしていた。

しかしすぐに起き上がったクトゥーラが無数の触手を向かわせ、ネクサスが左手を向ける。

すると、どこからとも無く生えてきた木が、枝が分かれるように分裂し、次々と無数の触手と打ち合う。

無数の触手と無数の木々。

いずれは決着は着くだろうが、簡単には決着はつかない。

次の一手を打つようにクトゥーラが()()()から生み出した触手を地面から這わせ、足元を狙う。

ネクサスは気づいていたのか、視線を向けると共に左手を向けると、光の波動が触手の動きを()()させる。

すぐさま右手を上空へ翳せば、手のひらから放出された光が、流星のような軌道を描きながら次々とクトゥーラに光弾が直撃していた。

 

『ハァァァァ……フンッ---!』

 

そして両腕を大きく回し、胸元でクロスしたネクサスに光が集うと、一気に払うように両腕を広げる。

半月型のギロチンを思わせる光が無数の触手を切り裂く。

それと同時にネクサスが消えたように急接近し、左腕のアームドネクサスのフィンが鋭利に伸び、右腕のアームドネクサスがソードモードへ変化。

触手を失い、クトゥーラが抵抗するように残る黒煙を吐き出すも、ネクサスは自身の肉体を光で覆うとそれらを無効化しながら展開したシュトロームソードを勢いよく薙ぎ一閃。

回転による遠心力を利用しつつフィンを振り上げながら通り抜ける。

青白い光にクトゥーラが包まれ、ネクサスの背後で爆発しながら分子分解されていた。

それを振り返ることなく。

両腕に備わるアームドネクサスは元の形状へと戻っていた。

(かぜ)に流されて飛んでいく粒子。

分解された粒子がイシュムーアにこっそりと吸い取られる。

その事に誰も気づくことはなく。

然しながら、クトゥーラは確かにこの場では一番弱いが、それでも相手はスペースビーストだ。

だというのにネクサスに触れることすら叶わず、瞬殺された。

間違いなく、パワーアップしている。

本人も力まではよく分かってなかったのか、手を開いては握り、視線をいつもとは全く違うジュネッスになっている自身の肉体に向けていた。

 

「紡絆くん!」

 

自身を呼ぶ声に反応してみればネクサスの元に四人の勇者が合流する。

本来ならば樹を除いて満開を複数回使用した彼女たちは代償として身体機能を捧げ、補助パーツが目立つ部分に追加されてもおかしくないはすが、一向に増えていない。

その理由は、時間を戻したのが原因。

ネクサスが戻した時間は、最終決戦が始まる前。

つまり、満開を使用する前だ。だからこそ満開ゲージは溜まりきっているし、皆は身体機能を新たに失っていない。

ただ既に失ったものは取り返すことが出来ないからか、風の左目も樹の声も、東郷の左耳も両脚も記憶も戻すことは出来ていなかった。

 

「まったく…遅いわよ。どれだけ待たせんのよ」

「それにやっと起きたかと思ったら今度は新しい力に、時間を操作するって……助かったけど、想定を超えてくるというかなんというか…うん、紡絆らしいわ」

 

何処か文句を言いたそうに、それでも隠しきれない喜びがあって、夏凜と風は声を掛ける。

返事が返って来ないことは分かっているが、何か一言でも言いたかったのだろう。

遅刻にも程がある。一度世界が滅びてから目覚めたようなものだ。というか一度滅んだ。

むしろ一言もない方がおかしい。

 

「紡絆くん…もう大丈夫なの?」

『悪い……でもみんなのお陰だ。ありがとう』

「!?」

 

突如紡絆の声が脳裏に響き渡ることに、それぞれ驚きながら頭を抑えると、思わずネクサスを見た。

どうやら、声を発しているわけではなく脳に直接呼びかけているらしい。

 

「え?頭の中に紡絆の声が聞こえてくるのだけど…」

「いやいや、まさか。夏凜、貴女は疲れてるのよ。うん、気のせいでしょ」

『いや、気のせいじゃないぞ。いわゆる精神感応(テレパシー)という力だ』

「はあっ!?」

 

時間操作だけには飽き足らず、今度は精神感応。

流石にこれ以上驚くものはないだろうと高を括っていたのに、風は思わず声を発していた。

というか、東郷を除いて全員が驚いていた。

実際には本来ウルトラマンならば可能で、出来ない紡絆がおかしいだけなのだが、他にウルトラマンがいないため彼女たちはそれを知らなかった、というのもある。

逆に知ってたらできないことに驚いてただろうが。

 

「というか何があったらそうなるのよ。話しなさい」

『えーと話せば長くなりますけど』

「じゃあいいわ」

『うわひどい!話せって言ったの風先輩なのに!』

「はあ……二人ともそんなこと言ってる場合じゃないでしょ」

『あはは……でも紡絆先輩が無事で何よりです』

 

さっきまでの様子はどこに行ったのか、普段と変わらぬ空気感になりつつあったが夏凜は呆れ返り、樹がスマホを見せると、風も夏凜も、そしてネクサスも同感と言わんばかりに頷く。

 

「いない……」

 

そんな中、東郷が何かに気づいたように呟くと周囲に視線を向けて必死に何かを探るように見回していた。

 

「東郷?」

「いないって……どういう---いや、まさかそういうこと……!?」

 

東郷の様子に気がついた風が呼び、夏凜も同じく周囲を見渡せばなにかに気づいたような反応をし、樹もハッと気がつく。

 

「やっぱり!友奈ちゃんが…何処にもいない……!」

 

その言葉が発せられたのと同時に、ネクサスが振り返った。

合流しないのは意識が戻ってないからと分かる。

それでも居たはずの位置に居ないのはおかしいわけで---

 

『動くな』

『………』

 

一歩踏み出そうとしたネクサスの動きが止まる。

その先、空中に浮かぶシャボン玉のような闇の玉が存在しており、その中には友奈がいる。

意識がないため、仰向けになったままで。

 

「友奈ちゃん!」

「友奈!」

 

咄嗟に武器を取り出す東郷と夏凜だが、行動を中止せざる得なくなる。

展開され、闇のエネルギーが纏われたメフィストクローが向けられていたからだ。

攻撃をするよりも早く、友奈に向かってエネルギーが放たれるだろう。

精霊がいるから安心、とはいかない。これがイシュムーアならともかく、メフィストは精霊の守りを無効化できる。

 

「友奈が人質ってわけ……!?」

『そうだ』

「っ……!」

 

人質というのは戦略的には有効だ。

それを気にしないものならば無意味だが、小都音がずっと人質に取られているように、友奈まで人質に取られれば紡絆だけではなく他の者も動けなくなる。

 

「くっ、卑怯な……!」

『卑怯だろうと勝者が全てだ。さぁ、どうする?ウルトラマン。貴様の命と引き換えならばこの女は助けてやってもいいが…選択肢は必要ないか』

『ああ、必要ない』

「紡絆!?あんたまさか……」

 

悩む素振りすら見せず、ただ一歩だけを歩む。

それが選択なのだろう。

咄嗟に風も夏凜も止めようとするが、東郷が二人の腕を掴んで動きを止める。

 

「東郷!その手をはなしなさ---」

「夏凜ちゃんも風先輩も……紡絆くんを信じて。きっと大丈夫よ」

「大丈夫って……あんた何を根拠に---」

「根拠は…簡単です。紡絆くんですから」

『確かに、紡絆先輩はいつも……!』

 

勇者たちを他所に、ネクサスは構えすら取らず、ただメフィストを見ていた。

何もしないというように、無防備に。

それを見たメフィストがエネルギーを貯めていた。

メフィストクローに大量のエネルギーを集め、禍々しい球状のエネルギーを形成する。

密度が今までの比ではなく、今のネクサスでも危ういだろう。

 

『ハアッ!』

『……!シェアッ!』

 

 

メフィストが放つのと同時に、ネクサスの姿が光の粒子となって消滅する。

その事を理解したのか、メフィストはクローから黄緑色の破壊光線を友奈に向かって放っていた。

少し距離はあるものの、ネクサスが守るよりもそれは早く爆発が起こる。

 

『デェアッ!』

『ッ!?』

 

だが。

なんとネクサスは友奈を守ることをせず、一瞬で目の前に現れるとただその拳をメフィストの胸に突き出し、同時に拳から発せられた衝撃波がさらなるダメージを与える。

一回の攻撃で実質二連発の攻撃に怯み、胸を抑えながら後退するメフィストは驚きながら顔を上げる。

なぜならその行動は、他人をどこまでも優先し続ける、自分を選べない紡絆が他人を選ばなかったこと。

 

『バカな……見捨てたというのか!?』

 

ネクサスが身を持って庇う。

メフィストが考えていたのは、そのことだろう。

あの状況で友奈を守るには光線技でも牽制技でも間に合わない。ただネクサスの速度ならば間に合う。

そういった距離だった。

しかし。

 

『さっきも言ったはずだ---この力は守り抜く力とッ!』

 

また紡絆も考え無しに攻撃したわけではなかった。

爆発が晴れる。

そこには友奈を覆っていた闇の玉が光の玉になっており、友奈もまた無傷で無事だった。

何故そうなっているのか、それは至って簡単。

 

『闇の力を()()()()しただと…?』

 

本来エネルギーの限られるウルトラマンの光の力は闇に弱い。

例を挙げるならばメタフィールドがわかりやすいだろう。

メタフィールドを展開したらダークフィールドには簡単に塗り替えられるが、ダークフィールドをメタフィールドでは塗り替すことが出来ない。

無論、ウルトラマンのエネルギーが無限にでもなれば可能になるが、限られている中では闇の力を光に変換するのは困難なはずなのだ。

しかしネクサスは困難なそれを容易にやって見せた。

 

『シェッ!』

 

光のムチであるセービングビュートが球体を包み込み、引き寄せるのと同時に光の球体が晴れる。

ネクサスの右手には、傷一つない友奈が乗せられていた。

人質という手段は使えなくなったということ。

そしてまた、何かに気づいたようにネクサスは神樹の方へ振り向いて見ると、左手を翳す。

()()()()()()()が生まれ、不意を付いたであろうイシュムーアの熱線を防ぎ切る。

 

『!?』

 

失敗した際の保険すら作っていたのだろう。

手段を選ばず明らかに神樹を狙い、世界を破壊する選択をした。

それですらネクサスが防いでみせたことに、メフィストが動揺する。

その間にネクサスが再び消え、勇者たちと合流する。

 

「え、いつの間に!?」

「友奈は!?」

『フッ』

 

またしても一瞬で現れたことに味方ですら驚いているが、夏凜の言葉に無事を知らせるため屈んだネクサスが手の甲を地面に着きながら拳を広げると、友奈が乗せられている。

 

「よかった…友奈ちゃんは無事みたい」

「ん……」

 

ネクサスの手のひらの上に乗り、無事を確認した東郷が皆に知らせると誰もが安堵の表情を見せた。

そして友奈が僅かに動き、気配で気づいたのか視線が集まる中ゆっくりと目が開かれる。

 

「……東郷、さん……?」

「…!友奈ちゃん!」

 

一番最初に友奈の目に映ったのは、覗き込んでいた東郷の顔だった。

意識を取り戻して脳が覚醒していないのかぼやける視界で首を動かせば、何故か視線は高いが皆の顔が見える。

勇者の力を纏って、無事に喜ぶ顔が。

 

「そうだ、紡絆くんは!?」

 

そこで自分が何をしていたのか気づいた友奈は慌てたように体を起こした。

突然起き上がったことに傍に居た東郷が僅かに驚くが、次第に優しげに微笑む。

 

「友奈ちゃん、大丈夫よ」

「え?」

「あんた、まだ寝ぼけてんの?」

「そっちよそっち」

 

誰も慌てることもなければ、呆れる者もいるが皆の様子に困惑した友奈が風が指差す背後に振り返る。

そこには、全身が輝く黄金色のジュネッスとなっているネクサスが頷いていた。

 

「紡絆…くん?」

『シュア』

 

まるで現実じゃなくて夢でも見ているかのように、信じられないといった表情を浮かべる友奈は自身の頬を軽く抓る。

 

「いたっ……夢じゃない…本当に、本当に紡絆くんなの?」

『ああ、友奈のお陰で、みんなのお陰で帰って来られた』

「よかった……よかったっ、よかったあぁぁぁああ!」

『!?』

 

喋れないはずの紡絆が喋れていることに疑問を思うことも無く、無事だと理解した時には友奈が飛びついた。

勇者の力を身に纏ってないのにそのような行動に出る友奈に割と、かなり焦ったネクサスが右手を動かしかけて東郷がいることを思い出して、慌てて左手の人差し指を友奈に向けて光の膜を作り出すと、身体能力も強化してしまうのか割と速い速度で顔面に直撃する。

等身大ならば受け止めることが出来ただろうが、巨大化してるネクサスには不可能なのである。

しかし自身でやっておいて痛かったのか、弾かれるように首が上へ向いたネクサスは空いている左手で顔面を抑えていた。

 

「わ、わあぁ!?ご、ごめんね、紡絆くん!私、もうダメかと思って、それで嬉しくて……!」

『い、いや気をつけてくれ』

「って、紡絆くんの声がちゃんと聞こえる!?なんで!?」

「おっそ!?」

「なんで今更!?」

 

光の膜が存在していたお陰で無事に着地できた友奈が自身の行動で若干のダメージを受けたネクサスの姿に申し訳なさそうにしたかと思えば、遅れて声が響くことに驚いていた。

そして忘れずツッコミを入れる風と夏凜だった。

 

「でも……ごめんね。私、約束したのに…守れなかった」

『約束を果たせなかったのは俺もだ。それでも友奈は俺の願いを叶えてくれた。俺を助けてくれた。友奈だけじゃない。みんなが俺の元に届けてくれたから、俺は死なずに居られたんだ。だから気にする事はない。お互い様だろ』

「紡絆くん……うん!」

「この二人が揃うと戻ってきたって感じするわねぇ」

「騒がしくなったの間違いでしょ」

「え、ええ!?」

「あら、そうは言っても夏凜ちゃんだって嬉しそうじゃない」

「ばっ……そ、そんなことは…!」

「そうなの?夏凜ちゃん?」

「う……そ、それは」

「素直になりなさいよ、このこの」

「っ、あーっ!もう!嬉しくないなら反応しないわよ!」

「夏凜ちゃーん!」

「ちょ、抱きつくなー!!」

 

ここが何処なのか忘れてるんじゃないかというくらいに騒がしくて、それでも何処か楽しそうで嬉しそうで。

集まってワイワイとして、友奈が抱きついたり夏凜が顔を真っ赤にして困ったような表情を浮かべたり、風がニヤニヤと楽しそうに見ていたり、東郷が笑顔を浮かべつつも何処か怖い雰囲気を纏ってたりと。

少しずつ、前までの日常を取り返しつつある。

けれども。

 

『でもまだ……』

『ああ、まだだ。樹ちゃん、小都音の意識はメフィストの中にまだあるんだろ?』

『はい、たぶん……いえ、絶対に残ってます…!』

 

足りないものがある。

今纏われている形態のお陰で気づいていたのか、それとも届けられた際に知ったのか、樹に聞くと彼女は確信を持って告げた。

曖昧ではなく、断言して。

それに頷いたネクサスが立ち上がり、メフィストとイシュムーアを睨む。

敵は既に準備を終えているのか、いつ戦闘が始まってもおかしくはない。

ただ何もしなかったのは、最後のチャンスを与えたのか。それとも神樹を守るように形成されたままの花弁が邪魔で無意味だからか。

どちらにせよやることを定めたネクサスが、紡絆が皆に声を掛ける。

 

『みんな、頼みがある』

「頼み…ね。真剣な話のようね、話してみなさい」

 

何一つ巫山戯る様子が見られない姿にその話の重大さに気づいたのか風が代表して聞くと、ネクサスはひとつ頷いて言葉を紡いでいく。

 

『俺は小都音を救いたい。でも俺一人じゃ救えない。だから力を貸して欲しいんだ。方法はひとつの賭けに近いが、上手く行けば救えるはずだ』

「そんなの当然だよ!でも方法って?」

「そもそも失敗する可能性もあるってわけ?」

『ああ、説明する時間はない。ただ言えるのは失敗すれば俺は二度と帰って来られない。でも』

「諦めたくない、でしょ?」

『………』

 

東郷が先を読んだように告げた言葉に、ただ沈黙で返す。

それは肯定とも同義であり、二度と帰って来れないことから危険な行為なのだろう。

 

「私たちはどうすればいいの?」

『…あいつを、融合型を抑えて欲しい。それだけだ』

 

手段は何であれ、必ず障害となるのはイシュムーアだ。

ウルトラマンの力を持ってしても敵わないほどの敵。

その敵を抑えて欲しいということがどれだけ困難なことか。

戦って、負けた紡絆もそれは分かっているはずだ。

それでも、難しいことを言っていることを自覚しながらも彼は頼むしかなかった。

 

「聞いたわね?」

「ええ、私たちの役目はアイツを抑えること。やってやろうじゃない」

「任せて、紡絆くん」

『…いいのか?』

 

それだけで十分だというように、それぞれ戦意を漲らせる。

しかし相手は満開を持ってしても勝てる敵でもない。

それも分かっているはずなのに、紡絆は不釣り合いにもそのようなことを問いかけてしまう。

 

「良いも何も、小都音は部員の一人だし樹の大事な友人だからね。妹が助けを求めてるんでしょ、だったら助ける役目は兄である紡絆しかいないわ」

「……仲間なんでしょ。それだけで十分じゃない。それに放っておいたらあんたは勝手にやるでしょ」

「貴方が私を助けてくれて、変わらず向かい合ってくれたから私は頑張れるのよ。だから今度は私の番。小都音ちゃんと紡絆くんがお話出来る時間くらい、稼いでみせる。守ってみせるから」

「うん、みんな同じなんだよ。紡絆くんが小都音ちゃんを助けたいって思うように、私たちもそうしたいと思ってる。だから紡絆くんはただ前を見て、いつも誰かを助けるように、今度は小都音ちゃんを助けてあげて」

『小都音ちゃんを取り戻せるのは、きっと紡絆先輩だけなんです。だから助けてあげてください。誰かの中に光を灯せる、そんな紡絆先輩だからこそ、可能だと思いますから』

『---』

 

聞かれるまでもない、そういったように次々と述べられ、無作法だったと反省しつつも紡絆は頼もしさを感じて、覚悟を決める。

 

『…任せた!』

「ふん」

「まっかせなさい」

「任されました!」

「よぉーし!」

 

ようやっと役者が出揃った。

ネクサスを中心に左右に分かれ、並び立つ。

その隣に立つ友奈が、ネクサスを見つめる。

 

「紡絆くん、 私は…ううん私たちは信じてるから。頑張って!」

『…ああ、必ず救い出す!』

 

気合いの籠った表明を聞いて、それぞれが笑顔を浮かべると、友奈が改めて勇者の力をその身に纏う。

準備は整った。

そしてまた、敵も同じく準備を終えていた。

無数の火球や火炎弾、矢に重力球。

広がるのは数えるのが嫌になるほどの絶望的な光景。

それらの絶望を翻すように---

 

『満開!!!』

 

端から全力で立ち向かうためにも出し惜しみはせず、五つの巨大な花が咲き誇る。

それぞれ別の天衣に別の武装。

まさしく最後の戦いに相応しい光景だ。

 

『やれ……!』

『シュア!』

 

合図と共に、イシュムーアが攻撃を放ち、ネクサスが駆ける。

左手に光を集め、上空に手を翳して手の先から青い鏃型光線が矢を撃ち落としていき、両腕を重ねて突き出すと、菱形の破壊光弾を連射する。

さらに砲撃とワイヤーが続くように一気に破壊し、ネクサスが両腕をコアゲージの前で交差すると消える。

 

『デェアッ!』

 

そしてイシュムーアの背後へ現れたネクサスが黄金色の光に纏われた拳を叩きつけて強引に距離を引き離すと、即座に振り向く。

その背後では体勢を建て直したイシュムーアが爪にエネルギーを貯めて振り下ろそうとして、巨大な大剣と四つの刀が左右の爪を同時に弾き、口に貯めた熱線が発射されるが巨大な拳が顎を打ち上げて逸らす。

僅かに逸れた熱線がネクサスの頭上を通り過ぎた。

 

「邪魔は絶対にさせない!」

 

攻撃を全て阻害され、イシュムーアの攻撃対象がウルトラマンから勇者へと切り替わり熾烈さが増す。

攻勢から防勢になってしまうが、それでもイシュムーアの意識がウルトラマンから逸れた。

そうなると一対一となるわけで、ネクサスとメフィストは互いに向き合いながら構えていた。

 

『確かに厄介な力を発現させたようだが、結果は変わらない。貴様に妹の命を奪えるか?』

『………』

『出来ないならば、大人しく世界が滅ぼされる様でも見ているといい…ハアッ!』

 

闇の球体を放ち、それらは上空で一気に拡散する---ダークレイクラスター。

降り注ぐ闇の光弾。

それらに対して赤、青、銀、金の光球を自身の周りに浮かび上がらせる。左腕を右から左へ戻しながらカード状のエネルギーを平面に次々と生み出すと右手で回収するように重ね、手裏剣を打つように素早く上空に投擲する。

さらに両腕を左右に伸ばすと周囲に展開された十字架形の光が発射されるのと同時に四つの光球からは一斉にエネルギーが吐き出され、無数の光弾を全て相殺して上空では巨大な爆発が起きていた。

 

『これ以上、妹の体を好きにはさせない。誰かを傷つけさせたりしない、手を汚させたりしない!』

『ハッ、言ったはずだ!貴様に妹は救えない!命を奪うしかないのだ!俺から分離させれば、小都音は死ぬのだからな……!』

『悲劇しか生まない結末はもう懲り懲りだ!いい加減俺の妹を、小都音を返してもらうッ!』

 

黄緑色のコアゲージから発せられた光が右手に集まり、真っ直ぐに突き出された手のひらから放たれた光のリングがメフィストを拘束する。

 

『ッ!?』

『ハァァァ……シュワッ!』

『な、何を…!?ぐっ…やめろォォオオオオ!』

 

身動きを封じられたメフィストは光のリングを外そうと体を動かすが、外されるよりも早くネクサスの全身が輝きを放つ。

全身を光が包み込み、ネクサスの体が徐々に光の粒子へ変換される。

それを見たメフィストが激しく抵抗を始めるが、光の粒子は一直線に黒く染まったメフィストの胸のランプへと入っていった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い光の奔流が凄まじい勢いで流れている。

色は濃く、どこにも光がないようにも感じられる世界。

 

(やっぱり入れた……!だったら後は小都音を……!)

 

ここは闇の巨人と言われるメフィストの体内。

まるで予想通りといった考えだが、其の実自身の肉体を光の粒子にするという、一歩間違えれば死ぬ大変危険極まりないことを行うことで侵入した。

しかもこの世界は闇そのものであり、ウルトラマンとの繋がりをほぼ絶たれ、敗北した後にいた暗黒の世界よりもさらに危険さを増している。

全身を光の膜が守るお陰で紡絆は入っても無事だが、それがなければウルトラマンと繋がっている今の紡絆ですら弾かれるか呑み込まれるだろう。

なぜなら継受紡絆という存在が適応出来るのは光であって、闇ではない。本来の暗黒適能者ではない彼にはこの世界は危険が多すぎる。

 

(勢いが強すぎる……!何処だ?みんなが力を貸してくれたんだ、絶対に見つけないと……!)

 

流れに逆らうように、泳ぐように前へと進もうとするが、体は全く進んでくれない。

それどころか光の膜が徐々に闇に染まっていく。

どこを見ても闇で、視界は殆ど見えていない。

この中からたった一人の人間を見つけるのは至難の技であり、相変わらずその瞳が金色になっていても見つけられるような特殊能力はないらしい。

掻き分けるように探すが、何処にも姿形が見当たらない。

ただ奥へ、奥へとゆっくりと進んでも、無数に広がっているのではと錯覚するほどに奥深い。

 

『---』

(……どうしたんだ、ウルトラマン?)

 

奥へ進みながら見つけられず、手を焼いていると背後からふと気配を感じて声に反応した紡絆が背後を見れば、うっすらとネクサスが現れていた。

 

『-----』

(この世界ではいくら俺や君でも見つけられない?俺たちの力は封じられる……?)

『---』

(縁があるものが必要?触媒……?でも記憶が無い俺が、そんな小都音と俺を繋ぐような思い出の品なんて持ってるわけ……)

 

ネクサスの語りかけに紡絆は考えるが、ポケットを探ろうが何も無い。

あるのはゼリーくらいで、役に立たないだろう。

なんなら全てのポケットがゼリーで埋まっていた。やっぱり役に立たない。

だが時間が無いのも確か。

光の膜は半分くらいが闇に覆われ、奥に行くたびに侵食は強まっている。

しかし傍にウルトラマンが居るから焦りはなく、紡絆は『みんな』に呼びかける。

何か、方法はないかと。

 

 

114:名無しの転生者 ID:gtNwJTmfn

いや、そう言われても記憶が無いとな…

 

 

115:名無しの転生者 ID:MFT93suhi

何かあったか?

 

 

116:名無しの転生者 ID:Ww3psOjVP

そもそもこっちも驚きの連続で頭が動かないというか……

 

 

117:名無しの転生者 ID:GXN5WhKPJ

うーん……あとちょい少し時間があれば考えが色々浮かび上がるだろうけどなあ

 

 

118:名無しの転生者 ID:SrzqTcYV+

縁があるものだろ?となると彼女がずっと持ってたものとか、写真とか……?

 

 

119:名無しの転生者 ID:xYEakwkpQ

思い出自体ではダメなんだよな?それに写真は流石にないだろ。あっても燃えてるだろうし、やっぱり物に残るものになるのか…ん?

 

 

120:名無しの転生者 ID:84r1fWtEB

待て、物?しかも妹ちゃんが持ってたやつ?思い出せ、あるじゃん!あるじゃねぇか!とっておきの!!

 

 

121:名無しの転生者 ID:hmHXZaOqY

あー!あれだ!おいバカ!あれ!えーとどこだ!確か箱に入れてたよな!?

 

 

122:名無しの転生者 ID:rb0oxMXuM

胸だ!胸ポケット探れ!!

 

 

 

 

 

「---これかっ!?」

 

ネクサスの姿が消える。

答えを導き出したように、奥へ進むのをやめて振り返り、吹き飛ばされないように背中で闇の奔流を受け止めると紡絆は慌てて胸ポケットに手を突っ込んで取り出す。

すぐに中身を取り出して箱をポケットに突っ込むと、手のひらに置いたソレを見つめる。

ソレは---ひとつのペンダント。

太陽と月が一つになった、変身する前に小都音から貰った()()()()()だ。

 

「ぐ…うっ……!?」

 

時間が無い。

光の膜が薄まり、息苦しくなる。

これが最後のチャンスだろう。

紡絆は胸もとでペンダントを握りしめ、目を閉じる。

 

(頼む……これしかない!俺を導いてくれ……!!)

 

貰った花の栞は、ウルトラマンを見つけだす際に消滅している。

だからこそ、紡絆は唯一残っていたペンダントに賭けるしかなく、ただ念じる。

小都音はあの時、ずっと渡せなかったと言っていた。

つまりそれまで彼女の()()()だったはずなのだ。これで無理ならば、もう手段はなく。

紡絆の全身が輝き、闇に呑み込まれる寸前で転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何が起きたかを確かめるべく、目を開ける。

視野が回復していく中、脳が認識するのと同時に紡絆は目を見開いた。

 

「ッ!?」

 

気がつけば勢いは消えて、光の膜は消滅している。

体が重力に引かれるように自由落下しており、紡絆は辺りを見渡していた。

景色は何も変わってなく、どこもかしこも紫色が掛かった闇の世界。

 

(ここは……上手く、いったのか…?)

 

手のひらを広げれば、ペンダントが残っている。

それでも失敗したのかもしれないし、弾き出されたのかもしれない。

姿を確認するまでは安心出来ず、ペンダントを収納すると暫くして落下していた肉体が勢いよく地面に着地する。

 

「っと……」

 

予め下を見ていたお陰で両足を曲げて着地したが、ウルトラマンを宿してなければ足は砕けていただろう。

改めて自身に宿るウルトラマンにお礼を告げながら、首を左右に動かして何も無いのを確認した後、ふと何かを感じとって振り返る。

そこには闇に囚われている小都音の姿があった。

両手首には拘束具のように闇が絡みつき、手が力無く垂れていて、それによって吊るされている影響で浮いている。

意識がないのか俯いていて、動く様子は見られなかった。

 

「小都音---ッ!?」

 

すぐに駆け寄ると、見えない壁に勢いよく弾かれる。

空中で体勢を整え、即座に取り出されたブラストショットを二発放つと壁が僅かに実体化する。

 

「見えたッ!」

 

壁に対して右肩から突進し、弾かれる。

ただの壁ではなく反射も含まれているのか突進のダメージが倍になって跳ね返ってくるが、起き上がるとまた突進し、弾かれ、突進し、弾かれ、突進しては弾かれ、時に拳や頭突きを加えるが、どの攻撃も全て反射されてしまう。

何度も転んで、吹き飛ばされて、血が額や鼻から、肩や両拳から零れていた。

果たしてそれは、何回繰り返せばそれほどの怪我を負うのか。

少なくとも数十回は超えているだろう。

 

『---』

「ダメだッ!俺がしなきゃ、意味が無い…!君の力じゃなくて、俺の力で!君の力はこの先に必要になる!だからっ!」

 

それでも金色の瞳は未だに諦めの色が見られず、血で赤く染まった拳を強く握りしめる。

ウルトラマンの力を使えば、壁を壊すのは容易い。しかし紡絆は自分の力でやることに意味があること、後々ウルトラマンの力が必要になると気づいてるからこそ、今は使えないと判断していた。少しでも可能性を高めるために、消耗は避けなければならない。

だからこそ、紡絆は駆ける。

 

「ウウウウウゥゥゥゥ!グゥアアアアアア!?」

 

()()()()()を壁に全力で叩きつけ、壁が倍にして跳ね返そうとする。

それを耐えながら拳を突き出し続け、反射に抗う。衝撃が直接跳ね返り、拳から腕へ。

鳴ってはならない音が響き渡る。

骨が砕けていくような音。

凄まじい痛みに思わず絶叫を挙げるが、その腕を光が覆っていく。

 

「さっきから俺の!俺たちの道を!家族との繋がりが!そんなちっぽけな壁で隔てると思うんじゃ---ねぇえええええええええッ!!」

 

空いている左拳に、右腕の光が伝わる。

金色のオーラを纏った紡絆が左拳を全力で叩きつけた。

それと同時に大きくヒビが入り、一気に割れるような音ともに崩壊していく。

その際に両拳に破片が突き刺さり、右腕が使い物にならなくなったかのようブラブラとして力が入らなくなるが、振り抜いた際に崩れた体勢を強引に立て直すと、気にすることなく駆け寄って見上げる。

 

「こいつが原因…!今度こそ返してもらうぞ…!」

 

右足に光が集まり、地面を蹴ると跳躍し、そのまま小都音に抱きつく。

一人の体重程度ではビクともしないのか、揺れるだけで外れない。

しかし右腕はもう使い物にならない。

ならば---

 

「ん、のぉおおおおお!!」

 

全身が光を解き放つ。

力の入らない腕を背中に回し、小都音を支えるようにしながら眩い輝きが拘束する闇を掻き消す。

拘束具としての役目を果たし、吊るしていたものが消えたのもあって落下が始まるが、流石に右腕が使い物にならないのもあって上手く着地するのは無理だと判断した紡絆が自らを下敷きにして背部を強打する。

 

「っでぇ……」

 

背中は痛かったが、目を開けて視線を下げれば、自身の上にうつ伏せに倒れる小都音の姿があって、耳を澄ませば、息も聞こえる。

それで無事に助け出せたと気づいた紡絆は安堵の息を吐いた。

 

「ん……」

 

そのタイミングで意識が戻ったのか、僅かに小都音が身動きし、ちょっとした擽ったさを感じつつも紡絆は左手で彼女の頭を撫でる。

いつもと変わらず、優しく。

そうして少し撫でれば、小都音がうっすらと目を開いた。

前見た時とは違い、瞳には何一つ汚れもなく、透き通るほどに美しき海のような爽やかな瞳。

対して青い瞳に映るのは、輝くほどに眩い光の瞳。

 

「おに…ちゃん……?」

「ああ」

「おにいちゃん……おにぃちゃんっ……!おにぃちゃんっ!!」

「いっだぁ!?」

 

後ろ首に両腕を回され、勢いよく抱きつかれた紡絆は下敷きのままなのもあって痛みに叫ぶが、小都音の啜り泣くような声に無理矢理こらえる。

 

「わた、し……私っ!お兄ちゃんに大変なことを…お兄ちゃんに酷いことしちゃった……!傷つけたくなかったのに…おにいちゃんを守りたかっただけなのに…ただずっと一緒に居られたら、それでよかったのにっ!傷つけて、酷いことばかりして、怪我させて……!自分の手でおにぃちゃんをっ……!」

「小都音……」

 

自分がやったことを覚えているのだろう。

何処か怯えるように震えてしがみついて、不思議とそんな彼女に懐かしさを覚えながら紡絆は抱きしめた。

 

「いいんだ、過ぎたことを言ったって仕方がない。元々俺はあれが最期のはずだったんだ。でもこうして生きてる。それにあれは小都音のせいでもないだろ?人の心には闇がある。それを利用されただけ。ただ闇があったとしてもさ、光だってまた必ずどこかにはあるんだ」

「………」

「少なくとも俺は気にしてないよ、まだやり直すことだって出来る。だから一緒に帰ろう。みんなが待ってるんだ、俺を。小都音のことを」

 

優しい声を掛けながら髪を撫でる紡絆は、責めるようなことは何一つ言わなかった。

それがとても彼らしいのだが、時にその優しさは、人を傷つけるものでもある。

疼くような例えようがない痛みが小都音の胸に襲いかかり、小都音は紡絆の服を強く握ると首を横に振っていた。

 

「…むりだよ」

「無理じゃない」

「むりだよ…むりなの…出来ないのッ!私はおにぃちゃんほど強くない!おにぃちゃんと違って、私にはそんな強さも輝きも……何も無い……。きっとまた私は抗えない…きっと傷つける…!誰かを傷つけて、大切なおにぃちゃんを手にかけて……!そうしていつか、いつか引き返せないことを…っ!」

 

涙を流して、強く握って、子供のように大声を挙げる。

二人しかいない世界にその声はよく届き、それを聞いた紡絆は目を伏せた。

紡絆は元凶と思われるダークザギと対峙してなお、様々な体験をさせられてもなお心の輝きを保ち続けた。

普通ならば間違いなく良くて廃人になっているほどのものを、抗い、打ち破った。

対する小都音は闇を利用され、ただ支配されるがままに動いていた。

その強さは確かに紡絆にしかないだろう。

 

「小都音、それは違うんだ」

「……え?」

 

だがひとつ、間違えていることが分かる。

それを修正するために目を開いた紡絆は小都音の頬に手を添えると小都音は愕然としていた。

 

「俺は一人じゃ無理だった。みんなが居てくれて、色んな人が力を貸してくれた。様々な人が手を貸してくれたから、俺はここまで来られた。ウルトラマンで居られたんだ。そこにはもちろん、小都音も入ってる。記憶のない俺には目覚めた時だって自分という存在すら曖昧だったけどさ…今みたいに()()()()()()があったから、俺は俺らしく、自分が望むままに生きようって思ったんだ」

 

そう、紡絆は多くの者に助けられ、ここまで来ることが出来た。辿り着くことが出来た。歴代の適能者(デュナミスト)、勇者たち、次元も時空も違う、別世界の者たち。何よりも、ウルトラマンと家族の存在。

それでも、紡絆にだってどうにもならない事態はある。そんな時、いつも彼の中にあるのは守るべき者の存在だ。

世界、家族、友人、知人、そういった彼が守りたいと願うものがあったからこそ、いつなんどきも立ち上がることが出来たのだから。

 

「大丈夫だって、お前はウルトラマンを宿す兄の妹なんだぞ?そんな妹なんてこの世界においては小都音にしかいないんだからさ!それに小都音の周りには俺や真偽や麗華さんに大勢の人もいる、勇者部のみんなだっているだろ?それでももし、不安なら。無理だってまだ言うなら---」

 

ポケットに手を突っ込んだ紡絆はペンダントを取り出す。

ここへ導いてくれたアイテムであり、かつてプレゼントとして渡されたもの。

それを手のひらを閉じることで覆い隠し、手の中で僅かに発光する。

光が晴れると、紡絆は()()()()()うちのひとつ、太陽のペンダントを小都音の首にそっと掛ける。

 

「これ……」

「きっとそれが、小都音の道標になってくれる。どうやら俺には、太陽は必要ないらしいからな」

 

本来は太陽と月、二つ一緒になっているものだが、太陽と月に分かれていた。

太陽は生命力の象徴。強い光で闇を照らす他に、そのモチーフには『力強さと成功』『魔よけ』などの意味もある。

困難に打ち勝つために、適したものだ。

 

「あとさ小都音も強いよ」

「何を言って…だって私は……」

「いや、小都音は負けなかっただろ。樹ちゃんが教えてくれた。意識が残っていたってことは諦めてなかった証だ。勝つことは出来なかった。だけど負けなかった。それなら小都音だって必ず光になれる!俺が保証してやる!」

「お兄ちゃん……」

 

いつもと同じく、普段と変わらない笑顔を紡絆は浮かべる。

それが、その在り方が小都音には眩しくて、ちょっぴり目を伏せてしまうけれど。

 

「私も……強くなれるかな。本当に…今度は、負けないくらい」

「ああ---もちろんだ!」

 

不安げに、それでも前を向いた小都音に、紡絆は迷うことなく肯定を示す。

そんな紡絆に薄らげに笑顔を作った小都音は、頬に添えられてる手に自身の手を重ねる。

 

「みんな…怒るかな?樹ちゃんにも…辛いことをさせちゃったかも。結城さんを傷つけちゃったし東郷さんや風先輩、三好さんにも酷いこと言っちゃった」

「その時は俺も一緒に謝るよ。怒られるかもしれないけど、それは怒りからじゃない。じゃなきゃ俺がここに来るための協力なんてしてくれないだろうしさ、心配かけさせたことや何も言ってくれなかったことに対して相当怒られるんじゃないか」

「だったら…お兄ちゃんはもっと怒られるね。だってこんなに無理して……こんなボロボロになってるもん」

「……うげ」

 

指摘されて、ようやく気づいたと言わんばかりに嫌そうに頬を引き攣らせるが、腕は使い物にならず、また血だらけになっているのだから間違いなく説教をされるだろう。

が、そもそもの問題として既に変身してはならないのにやった時点で手遅れだったりする。

 

「ふふ、私も叱られてあげるから大丈夫だよ、私も叱るけど」

「そうか、一人じゃない分はマシ…うん?」

 

何やら一つおかしいことを言われたような気がして首を傾げるが、その疑問を解消するよりも早く小都音が紡絆の上から退いて立ち上がると見上げていた。

遅れて紡絆は左手を着きながら立ち上がると同じく視線を移す。

見れば空間が徐々に狭まっていってるだけでなく、闇が迫っている。

 

「これは……俺の位置がバレたみたいだな。そのまま取り込む気か」

「お兄ちゃん……ごめんね。巻き込んじゃった」

「大丈夫だ、もとより巻き込まれるつもりで助けに来たからな」

「ううん、そうじゃないの。お兄ちゃんは戻れても私は戻れない。だって私はメフィストの命で生きてる。メフィストから離れたら私は---」

 

その続く一句を小都音が言い噤む。

言われなくても分かるだろう。

既に失われた命は、戻すことは出来ない。残念ながらそれは、様々な現象を引き起こせる紡絆の力でも『奇跡』を内包したウルトラマンの新しい力でも無理だ。

 

「でもいいよ。お兄ちゃんと最後に会えたから。けど樹ちゃんには約束を果たせなくてごめんねって伝えて欲しいな」

「断る。約束ってのは果たすからするんだろ。その約束は絶対に叶えさせる」

 

まるで最期の会話と言わんばかりに言伝を告げてきたが、紡絆はそれをあっさりと断ると、小都音が困惑したような悲しげな表情を浮かべた。

 

「お兄ちゃん……その気持ちは嬉しいけど、いくらお兄ちゃんでも出来ないよ。お兄ちゃんに宿るウルトラマンが本来の力を取り戻してるなら別だと思うけど……」

「心配すんなって、小都音は死なない。ただ…俺を、ウルトラマンを信じてくれるか?」

「………うん、お兄ちゃんのことはずっと信じてる。ウルトラマンのことは…今なら信じられる、かな」

「そっか、じゃあ大丈夫だ!」

 

一体何が大丈夫なのかは分からないが、不思議とそう思わせるような力がある紡絆に、小都音は呆れたようにため息を吐くと、笑う。

 

「お兄ちゃんらしいね。わかった、もう何も言わない。お兄ちゃんたちを信じる」

「ああ、一緒に帰ろう。みんな待ってるからな!」

「うん…!あっ」

 

時間も闇も迫っている。

紡絆がエボルトラスターを取り出し、いざ変身しようとしたところで小都音が声を挙げたことが気になったのか、止まる。

 

「どうした?」

「伝えなきゃいけないことがあったんだ。これだけはすぐに伝えないとって」

「伝えたいこと?」

 

どうやら思い出したから声を挙げたらしく、紡絆はなんの事か当然ながら知らないし分からないので首を傾げると、小都音が深刻な表情で口を開く。

 

「お兄ちゃん、気をつけて。アイツは……ザギはお兄ちゃんをいつも見てる。()()()()()()()()()()で、人の中に溶け込んでる。勇者もウルトラマンも、全部利用して何かを企んでる」

「最も監視しやすい場所……?まさか」

「うん、お兄ちゃんの考えてる通りだよ。わざわざ私たちに力を与えて、お兄ちゃんと戦わせてたのも…きっと意味があると思うの。もし今までのことがアイツのシナリオ通りで私たちが踊らされていただけなら、良くないことになる…そんな気がして」

「……そうか、教えてくれてありがとうな」

 

不安そうにそう語る小都音に、紡絆は何の曇りもない笑顔を浮かべながら頭を撫でると、改めて前を見据えてエボルトラスターを強く握った。

 

「……何を企んでいても、結局俺たちは守るために戦いをやめるわけにはいかないからな。だけど今考えるべきなのはそのことじゃない。明日より今日のことだ。明日を考えるには今を生きなくちゃいけない。そのためにもここから出る……行くぞ!」

 

エボルトラスターを引き抜き、闇の世界に黄金色の光が溢れる。

体長はそう変わらない等身大での変身。

黄金色のジュネッスへ直接変身したネクサスが小都音の前に出て振り向くと、向かい合う。

 

「貴方にも…ごめんなさい。本当はお兄ちゃんを助けようとしてくれてたってのは分かってるの。でも感情が抑えられなくって、自分でも分からない何かが溢れて……」

『-----』

「……そ、か。貴方は貴方でお兄ちゃんを。私たちを巻き込んだことに責任、感じてたんだ…。ありがとう、あのとき…お兄ちゃんを助けてくれて」

『---』

 

頭を下げてまで謝って、お礼を告げてくる小都音にネクサスは首を横に振ると、彼もまた頭を下げていた。

まるで、全ては自分の責任だと言わんばかりに。

 

「そうかもしれない。お兄ちゃんが貴方を助けた。でもお兄ちゃんを助けたのも、貴方なの。だから…この話は、もうおしまい!その代わり、私は貴方を…許して、信じる。もし貴方が私を許してくれるなら---」

 

一度言葉を区切った小都音は深呼吸を挟み、真っ直ぐにネクサスを見て続く言葉を述べる。

彼女が一番知る、どこまでもお人好しな目の前にいる二人のように。

手を差し伸べて。

 

「私を……助けてくれる?」

『シュアッ!』

 

力強く頷いたネクサスが、行動で示すように小都音の手をそっと掴む。

そして上を見上げて時間が無いことを悟るとネクサスは自らしゃがみ込み、両腕で相手の背中と脚を持ち上げるように抱き抱える。

いわゆるお姫様抱っこと言われる抱え方をすれば、小都音も気づいたのか抱きつくようにネクサスの肩に手をかけていた。

それで問題ないとわかったネクサスは地面を蹴り、一気に飛んでいく。

出口はなく、そこは闇しかない。

そのまま空を飛んでも意味は無いだろう。

 

『出口がないなら、作ればいい!』

 

しかしそれを、紡絆は簡単に塗り替える。

元々ネクサスにはメタフィールドという隔離する空間を作り出す能力がある。

そしてこの形態は『神樹』の力も宿す形態だ。神樹が持つ能力として挙げられるのは空間の四国結界、時間の樹海化がある。

もはやエネルギーとして向かってきた闇に対し、ネクサスは時間を固定し、メタフィールドを展開して隔離するのではなく、その逆。

メタフィールドは閉じるものだ。それを神樹の持つ空間操作能力でさらに拡張。

メタフィールドのような()()()()()()()()()

そうして開かれた光の穴へ時間すらも追い抜いて光速で入っていった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メフィストが一切動かなくなって数分。

勇者たちが吹き飛ばされる。

いくら五人揃ったところで、究極には届くはずもない。

そろそろ満開の維持も厳しくなってきたのあるが、満開時の武器がボロボロになっている。

 

「紡絆は!?」

「っ、まだ!」

 

状況を確認するように叫ぶ風に、夏凜が即座に返す。

失敗したら二度と帰って来れない、そのようなことが一瞬頭に浮かぶ。

 

「大丈夫です!紡絆くんならきっと小都音ちゃんを連れて帰ってきます!だから私たちは私たちにできることを!」

「そうね、私たちは紡絆くんたちの帰る場所を守らないと!」

 

そのような不安はすぐに掻き消され、巨大な拳と砲撃が同時に尾を弾く。

すぐに刀と大剣が振り下ろされ、すり抜ける。

不意をつくように背後からイシュムーアが現れ、振り下ろす爪を無数のワイヤーが防ぐ。

 

『必ずって言ってましたもんね……!』

「…そうね、まったく。すっかりみんな強くなっちゃって!」

「まぁこれも、アイツの影響なんでしょうね…ッ!!」

 

拳が。砲撃が。大剣が。ワイヤーが。刀が。

雷撃、溶解液、火球、光弾、毒液とぶつかりあった。

互いに弾かれ、距離が離れる。

 

「つっ……あっ。アレ!!」

「……!もしかして…!?」

 

ダメージの比率は明らかに勇者側が多いが、何とか地面に叩き落とされることはなかった友奈が顔を挙げると、さっきまで動いてなかったメフィストの胸のランプ(カラータイマー)から光の粒子が流れている。

 

「はぁ、相変わらず遅いんだから」

「まったくよ」

『でも絶対に大丈夫って思ってました』

 

それが何を意味するのか、分からない勇者たちではない。

流れる粒子の数が徐々に増えていき、一気に光が溢れ出る。

光が左手の形を形成し、その後に腕を。さらに頭部、両肩、コアゲージとエナジーコア、右腕と右手、下半身を生成するとぐんぐんと伸びていく。

 

『---シュワッ!!』

 

左手の手のひらを突き出しながら、右手の甲を下にしつつ何か持つように全ての指を曲げながら腹部に添え、メフィストの中から出てくるのと同時に巨大化したネクサスが空中で回転しながら地面に着地する。

 

「紡絆くん!」

「紡絆!」

 

両手で包み込むようにしていたネクサスがその手を地面に降ろすと、勇者たちが名を呼びながら即座に駆け寄る。

ネクサスは顔を挙げて勇者たちが近づいて来るのを見ていた。

 

「成功したの?」

「小都音は?」

『シェ』

 

失敗したのか上手くいったのか、当然結果が気になるため聞くと、ネクサスはただ頷いてそっと両手を開くと地面に優しく降ろしていた。

ネクサスが手を退けると、そこには横たわる小都音の姿がある。

 

『小都音ちゃん…!』

 

誰よりも早く傍に寄った樹が体を抱く。

しかし何の反応を示すことなく、体を抱いた樹だからこそ気づく。

 

『ハァ、ハァ…馬鹿なヤツだ。言ったはずだ…分離をすれば命は無いと…!』

 

体内に存在する小都音を無理矢理引き剥がされたようなものなので、苦しそうにメフィストが胸を抑えながら告げる。

が、その通りだった。

呼吸もしてなければ、脈も動いていない。

体温も冷たくて、完全に死体へ戻っている。

 

「っ……!」

「そんな…!」

「ダメだったってわけ……?」

「紡絆くん……」

「樹……」

 

ただ唇を噛み締めながら力強く抱きしめて、こんな時ですら声を出すことは許されない。

そんな樹の背中を風が撫でて、友奈がショックを受けて、夏凜が拳を握って、東郷は紡絆に心配するような視線を送っていた。

しかしネクサスは特に変わることなく、両腕をゆっくりと動かす。

 

『ハァァァァ……』

 

握り拳が自身へ向くように両腕をエナジーコアの前で立てると、エナジーコアが輝く。

何かをしようとしているネクサスに気がついたのか、視線が集まるが、本人は何の反応も示さず行動に移した。

 

『シェア……!』

 

そしてネクサスが樹に抱きしめられたまま動かない小都音に向かって左腕を伸ばせば、エナジーコアから緑と光の粒子が小都音に向かって放たれた。

さながらそれらは雪のように降り注ぎ、小都音の体を包み込んでいく。

光に全身を包み込まれ、一瞬だけ全身が輝くのと同時に光は晴れる---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぉ……お、おに……ちゃ、ん……」

 

弱々しく声が口から発せられ、ゆっくりと伸ばされた手を咄嗟に樹が両手で握った。

体温を感じられる。鼓動を感じられる。呼吸音も脈も、人間が必要なもの全部。

それこそ()()()()()ように。本当に、奇跡が起きたように。

 

「っ…!っ……!!」

 

ぽたぽた、と小都音の顔に雫が落ちる。

うっすらと開かれた目が、原因を捉えた。

ちょっと視線を上げれば、その先には樹の顔があって。

両目から流れている涙が、落ちてきたのだろうと。

心配させて、不安にさせて、それでも嬉しくて。だから樹は泣いている。

そんな彼女を少しでも慰めるように、小都音は震える手を樹の頬に手を添えた。

 

「ぁ…。ご……めん、ね……い、つき…ちゃん……」

「……!………!!」

 

安心させるように。

ゆっくりと笑顔を浮かべた小都音に、樹は首を横に振る。

それでも涙は止まらなくて、ゆっくりと目元の雫が小都音の指に拭われる。

 

「よかった……本当によかったわね、樹」

「ほんと…言って欲しかったくらいよ。こっちがハラハラしたんだから」

「うん…でも、良かったよ!私もなんだか涙が出ちゃいそう…!」

「ようやく、やっと……取り戻せたのね、紡絆くん」

 

全部は終わっていない。

しかしながら一件落着---そう言えるような光景に、笑顔の花が咲く。

絵になるような状態ではあるが、残念ながらそんな時間は長くは続かない。

 

「………」

「……?小都音ちゃん…?」

 

伸ばされた手は力なく落ち、小都音の目が閉じられていた。

唖然とする樹に、全員がまさかの事態を考えてしまう。

 

『心配ない。小都音はいずれ目覚める』

 

それを打ち消すように告げられた言葉に、樹は慌てて小都音の左胸に耳を当てると、心臓はちゃんと脈を打っている。

つまり眠るように意識が途切れただけだった。

 

「じゃあ、もう大丈夫ってこと?」

『………』

「ああ、そうね。確かに大丈夫じゃないか…」

「まだやるべきこと、残ってる…!」

 

風の言葉に一度ネクサスは頷き、次にメフィストたちを見る。

そう、小都音は生き返ったがここで負ければ全てが終わる。

 

「大丈夫、私たちにはウルトラマンがいる。ウルトラマンには私たちがいる。だから絶対、勝てるよね?」

『デアッ』

 

これが最後の戦い。

樹は小都音をそっと寝かせて、ネクサスは小都音を守るように光の膜を貼る。

改めて、黄金色のネクサスと満開を保つ勇者たちが出揃う。

準備は万端。

 

『バカな……ありえない。ありえるはずがない。そんな力、認められるか。奇跡だと?巫山戯るな、貴様の光は失われた筈!なかったはず!そんな力が一体何処から生まれたッ!?』

 

ゆっくりと構えを取るネクサスに対し、メフィストは展開したクローを自身の胸のランプ(カラータイマー)に添えると赤黒いエネルギーが纏われる。

 

『ハアッ!』

『ヘェアッ!』

 

まとめて消し去るようにメフィストは真っ直ぐに突き出し、メフィストクローから闇弾が何発も発射される。

その闇弾をネクサスは左腕で受け止めていた。

 

『分からないのか?だったら()()()()言ってやる!この力は決して希望を捨てず、信じてくれた皆がくれた力だ!壊すためじゃなく守るための…決して明日を諦めない人々のためにある!それに気づけないお前が---俺たちに勝てるはずがないッ!』

 

受け止めた左腕に赤黒いエネルギーが纏われ、左腕のアームドネクサスから発せられた輝きが光に変換する。

青白いエネルギーが纏われ、ネクサスはその場で回転し、遠心力を生かしながら投げつけるように槍状のエネルギーを飛ばす。

直線上に飛ばされたエネルギーはメフィストへ直撃し、爆風が覆い尽くした。

その言葉の数々は、ウルトラマンの記憶を覗いた紡絆とメフィストだけは、分かっているはずだ。

 

『……笑わせるな』

『ッ…!?』

 

しかし、大ダメージにはならなかったのか、片膝を着くだけで済んだメフィストが立ち上がる。

瞬時にネクサスは警戒するが、メフィストは拳を握りしめた。

 

『人々のためだと?醜く人を貶めるしか能のない人間に価値などない!全てを壊してやる。全てを呑み込んでやる!』

 

かつて同様、道は交差はしようとも繋がることはない。

光と闇の関係でしかない両者には互いに分かり合えないとそれだけで十分だった。

 

『……シェアッ!』

 

言葉はもはや不要。

イシュムーアが殲滅力の高い火球を大量に生み出し、放たれるのとネクサスが消えるのは同じだった。

それが戦闘の合図となり、次々と落ちてくる火球を勇者はさっきまでのが嘘のように全て弾き飛ばすと、誘爆させて破壊することで一気に駆ける。

 

「もう関係ない!一気にぶちかますわよ!」

「とっとと御魂を壊して終わらせる!」

 

小都音という人質も失われ、ウルトラマンも勇者も心置きなく攻撃ができる。

そして消えたネクサスはイシュムーアの頭上へ出現し、降下キックを与えようとするが、イシュムーアは位相を移動して回避する。

 

『ハッ!』

 

位相を移動して避ける能力は強力だ。

ただし、それが新しい力を解放したネクサスというウルトラマンじゃなければ、だが。

即座に左手を翳したネクサスがイシュムーアの()()()()()()()()ことで強制的に人間世界の物理法則下に引きずり込む。

 

「紡絆くん!」

『デェアッ!』

 

強引に透明化が無効化され、姿を現したイシュムーアに巨大な拳が放たれ、同時にネクサスが蹴りを放つ。

透明化は無効化されても、相手は複数の能力を併せ持つ。

二人の攻撃は地中へ潜り込まれたことで外れ、ネクサスの背後から現れると十二本の尾が一斉に襲いかかり、砲撃とワイヤー、大剣と刀が全てを弾く。

 

『ハアッ!』

『フッ---!』

 

イシュムーアを飛び越え、クローを突き出しながら落下してくるメフィストを側転で避け、拡散するように放たれた雷撃が降り注いでくるが、ネクサスが78枚---タロットの総数と同じ紫のカードを右手を左から右に動かすことで生み出し、ばら撒くように空中に拡散させると雷撃を凌ぐ。

そこへ横に振られた刀と大剣がメフィストに襲いかかり、離れようとしたメフィストがワイヤーに封じられ、砲撃に妨害され、拳が強引に押し当てる。咄嗟にメフィストはクローで大剣と刀を受け止めたが、拳による加速により威力が上昇しているため、弾かれていた。

ネクサスが駆け、蹴りを放とうとしたところでドーム状の紫のエネルギーが空間を纏うと、勇者もネクサスも一気に体が重たくなって膝を着く。

 

「重力……ッ!」

 

相も変わらず苦戦させられる技だが、ネクサスが冷静に黄金色のフィールドをエナジーコアから展開すると、空間が相殺されたかのように破壊された。

 

「軽くなった!?」

「あれ、そっちに……?」

 

瞬時に消えるネクサスに対し、動けるようになった勇者たちが後退するが、なんとイシュムーアは上空に熱線を放った。

明らかに何も無いところで、神樹様も関係ない。

 

『!?』

 

しかしその上空には光が集まり、ネクサスが姿を形成していた。

驚いたように固まり、空中でバク転して避けるネクサスがまた姿を消すと、熱線が薙ぐように動かされる。

 

『シエッ……!』

「読まれてる……まさかもう学習してる!?」

 

咄嗟にサークルシールドで身を守るが、またしても位置がバレている。

いやバレているのではない、学んだのだ。

圧倒的な学習能力。

位置がわからないはずが、イシュムーアは予測で当てている。

次々と消えるネクサスに対し、溶解液を弾のように発射していく。

さらにメフィストは闇の球体を頭上に解き放ち、次々と光弾を降らせていた。

 

『ッ!』

 

能力が通用しないと見ると、ネクサスは360度に回る。

光刃が一気に放たれ、全ての弾を相殺すると、飛び込んできたメフィストから放たれた拳を避け、容赦なく顔面を蹴り上げながら回転すれば、無数の矢がネクサスの居た位置へ降り注ぎ、追尾していく。

空気を蹴り、加速したネクサスが両手からパーティクルフェザーを放つも矢は消しされず、両手を頭上へ翳し、真っ直ぐに突き出すと丸い月のようなものから無数の針を生み出して相殺する。

そして炎を纏う斧状のエネルギーを形成したネクサスが消えるとイシュムーアの目の前に姿を現しては縦に切り裂き、回し蹴りで吹き飛ばす。

しかしイシュムーアは即座に再生し、無数に分身していた。

ここにきて最適な()()をした。

 

「なあっ!?」

「避けて!」

 

囲まれたネクサスに()()()()()火炎放射が放たれるが、ネクサスは避けるよりも先に振り向いて右手のアームドネクサスを振り下ろし、縦に裂くように放出された光が壁を形成する。

さらに左手は神樹様に向けられており、光の花弁が展開されていた。

それと同時に爆発が起き、光の壁が勇者たちを、花弁が神樹様を守る。

 

「私たちを庇って……!」

「紡絆は平気なの!?」

 

分身に併せた、幻覚と幻影によるコンボ。ただ分身といっても本体ほど強くは無い。

それでも間違いなく、全力の一撃。

火炎の威力が物語っており、爆心地を中心に舞い上がる突風が火を消し去っていく。

姿が現れると、片膝を着いたネクサスが若干よろけながら片手を着いていた。

上空に逃げたメフィストが降り立ち、ネクサスはただ顔を挙げる。

 

『どんな力を得ようが、貴様らに勝ち目はない…イシュムーアは何処までも成長する。再生する……!対抗出来るのは貴様一人だ……!』

 

それはネクサスの動きを予測したことから、考えられることだ。

しかも再生速度は異常に高く、例え今のネクサスでも難しいだろう。

あくまで対抗出来るだけで、再生能力が上回ることが出来なければ勝ち目などない。

仮に倒せる火力を所有していたところで、メフィストが間違いなく妨害するだろう。

ウルトラマンはエネルギーを放出する光線技が主な必殺技なのだから。

 

『どうかな。確かにひとりじゃ勝てないかもしれない。そんなの分かってる……でも俺は一人じゃない!』

 

一瞬のアイコンタクト。

それだけで理解出来た勇者たちが戦略もクソも捨ててただ頷く。

 

「そういうこと…一気に行くわよ!」

「攻撃は最大の防御ってわけね」

「うん、信じてる!」

「だから私たちは私たちの役目を……!」

 

イシュムーアは究極ではあるが故に『ウルトラマン』が『一人』だと勝てない。一人でなくても()()()()()()()()では勝つことは不可能。

だがイシュムーアとは、『究極』であっても『融合型』に過ぎない。

そしてまた、融合型とは怪獣と異生獣(スペースビースト)、バーテックスが合わさった存在。

究極であっても『バーテックス』でもあるのだ。

改めて立ち上がったネクサスが、両拳を強く握りしめた。

 

『見せてやる!俺たちの光の絆!』

 

そう叫ぶは否や、ネクサスが右足を一歩踏み出し、腰を入れる。

その瞬間、ネクサスのエナジーコアから発せられる()()の光と()()の光が入り交じり、力を解放した際と同じく混ざり合う。

虹色を覆う金色の輝きが全身を覆い尽くし、ネクサスが光の粒子となって消滅した。

何をするつもりかは不明だが、イシュムーアは生物としての本能か、勇者たちを排除することを選んだらしい。

囲むように幻影と分身を生み出し、全ての部位から能力を発動させ、エネルギーを溜めている。

どれも同じ行動。タイミングも一緒。

拳や銃撃、刀、大剣、ワイヤーが次々と攻撃していくが全てすり抜けていく。つまり、幻影。

さらにメフィストは上空へ移動し、両拳を交差してから広げていた。

間違いなく数秒後にはやられるような状況。

地上はほぼ全てを複数のイシュムーアと幻影が埋めつくし、空中ではメフィストが地上に向けて光線を放とうとしている。

消えたネクサスがどこへ行ったかは分からないが、仮にどちらかを吹っ飛ばしたところで間に合わない。

そしてエネルギーがチャージされ、メフィストは光線技を。イシュムーアが光球を放とうとしたところで---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『デェアァァァッ!!』

『グォオオ!?』

 

高速で向かってきた()()()()()()()になっているネクサスがメフィストを蹴り飛ばす。

速度を活かした蹴りはメフィストを容易にぶっ飛ばし、地面に叩きつける。

そこを追撃するように空間内のエネルギーを集めたネクサスはスピルレイ・ジェネレードをメフィストへ直撃させる。

しかしメフィストを攻撃したということは、イシュムーアはフリーということだ。

上空に浮きながらジュネッスになっているネクサスがイシュムーアを見下ろす。

すると既に。

グランテラの尾、左腕からゴルゴレムの口吻、右足膝のペドレオン。リングのように存在するレオの日輪から火球。左肩のリザリアスグローラー、そして口から放たれる熱線、右腕の花粉。

鼻から青色破壊光線に生み出されたヘビのような首から火炎放射、頭上に生まれる矢、小型の爆弾、反射板、放電、快音波、竜巻に放水---文字通り、攻撃として使える全ての能力が一斉に解き放たれていた。

今から向かっても遅く。

例え精霊のバリアがあろうとも、関係の無い無慈悲な一撃が勇者たちを襲う---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シュアァ!』

 

高速で地上を駆け回る()()()と光の剣が幻影と分身を()()斬り裂く。

すぐさま本体を見つけ出し、マッハムーブで勇者たちの前に立つ青いジュネッス。

ジュネッスブルーは向かってきた攻撃に対して右腕をエナジーコアに翳してアローモードを形成。

さらに左腕に空間内に漂う闇のエネルギーを集めて光に変換し、変換した力をエネルギーとして拳から解き放つナックレイ・ジェネレード。

青色破壊光線と放電を相殺すると即座に放たれる光の矢が火炎放射や熱線とぶつかり合う。

だが、残っている能力はまだまだある。

 

「他は紡絆に任せてあたしらも!」

「板は私たちが!」

「うん!」

「爆弾も忘れるんじゃないわよ!」

 

叩きつけるように向かってきた板は殴り飛ばし、斬り落とされ、撃ち抜かれる。

爆弾は纏められ、刀でまとめて破壊され---それでも足りない。

 

『ハアッ!』

 

上空から降り注ぐ()()()()()()()が矢を崩壊させていく。

さらに火球に対しても続々と降り注いでは爆発を繰り返し、やはりまだ足りない---

 

『デェアッ!』

 

放たれるネクサスハリケーンとコアインパルスが放水を撃ち抜き、竜巻を押し留める。

だが残る音波とぶつかり合い続ける熱線と火炎放射は止める術はなく、呑み込まんと---

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヘェアアアアアァッ!!』

 

黄金色の磁場が音波から守り、同時に放たれたクロスレイ・シュトロームが熱線と火炎放射を破壊し、膨大な熱量と共に世界を爆炎が覆った。

邪魔な煙を振り払うように、煙が一つに収束していく。

それはネクサスの元へ集まっていき、煙が晴れた先には---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シュア!』

 

赤い鎧に身を包む、ある英雄から光を受け継いだウルトラマンネクサス・ジュネッス。

 

『ヘヤッ!』

 

青い鎧に身を包む、青い果実から光を受け継いだウルトラマンネクサス・ジュネッスブルー。

 

『フッ---!』

 

ネクサスとどこか違い、全身が凸凹しつつも鎧を被せたような外見に筋繊維状のように関節部は赤く。また後頭部の襟足に突起物があり、全身に血流をイメージした赤いラインが入っている。腕には鋭い武器のような刃が出現し、背中や脹脛ヒレが存在する銀色のボディを持つ誰も見た事のない---ウルトラマン・ザ・ネクスト・ジュネッス

 

『デェア……』

 

そして、金の体色を持つ計九色のカラーで構成された黄金色のジュネッス。

()()()()()()()()()が勇者たちを守るように油断なくファイティングポーズを取っていた。

 

「……ん?」

「……え?」

「……えっ!?」

「はえ……?えっ、ええええぇええええ!?」

 

そして当然ながら、衝撃的すぎる目の前の出来事に思考が停止し、全員が驚愕に彩られていた。

思わず叫んでしまうのも無理はなく、二度見する者もいれば夢かと錯覚して目を擦るものもいる。疲れてるのかと目を抑えるものもいて、目を瞬きさせる者も。

 

「つ、つつ……紡絆くんが!紡絆くんが!紡絆くんが増えてるーっ!?」

「え、ちょ…うそ、えっなにこれ、どゆこと?どういうこと!?」

「あれ、本人?ウルトラマンってこんなことも出来んの!?てか見たことないやつあるんだけど!?」

「!……!?」

「どうしてかしら……なんだか、あの姿を見てると不思議な気持ちになる……。紡絆くん、なのよね?」

 

それぞれ違う反応を示す勇者たち---まあ樹は喋れないので口をパクパクさせてただけなのだが、確認するように聞く東郷に四人のウルトラマンが同時に動くと、一斉に頷いた。

---どういう原理なのだろうか。時間操作したり空間の穴をこじ開けたり、物理法則下に引きずり込んだり、超能力を駆使したり。ただでさえむちゃくちゃなのに今度は増えた。

 

『奇跡と---』

『絆と---』

『光』

『これが俺たちの本当の力だ!』

 

流石に予想外だったのか、それとも自身の全てを防がれたからか、究極の名を持つイシュムーアが完全に固まっていた。

いや、全ての力を行使した結果、その分消耗しているのもあるのだろう。

 

『言ったはずだ。俺たちは一人じゃない。ウルトラマンは俺一人じゃない!』

 

奇跡。それは神樹の力。

絆。それはウルトラマンの力。

光。それは可能性の力。

これこそ、紡絆が発現させた力の、真の力。

絶望に抗う、奇跡の形態。

 

『これが、絆の力だと……奇跡だというのか……!?ならば全部だ!そんなくだらないものなど消し去ってやる!貴様の全部を寄越せ、イシュムーア!』

『ヘエッ!?』

「何をする気!?」

「まだなにか来るってこと!?」

「止めなきゃ……!」

「私と紡絆くんで!」

 

ふらつくメフィストはしがみつくようにイシュムーアを掴むと、応えるように雄叫びを挙げる。

咄嗟に四人のウルトラマンが駆け出し、遠距離から放てる東郷が貯めることなく連射する。

しかし辿り着くよりも早く、メフィストの肉体が膨大な闇に覆われ、凄まじいエネルギーを発した。

 

『『『『ッ!?』』』』

 

向かっていた四人のウルトラマンたちがエネルギーに耐えようとするが、近くまで寄っていたのもあって、あっさりと衝撃波によって吹き飛ばされ、背中から倒れる。

さらに。そのエネルギーはウルトラマンより後ろにいた勇者たちにすら降りかかり、彼女たちは何とか耐えるだけで精一杯だったが、バリアが発動している。

つまり、()()()()()致死量ダメージを超える威力だ。

 

『ふ……フハハハ。究極を超える---貴様らもこの世界も!全部!この次元そのもの消し去ってくれる……!』

 

闇に包まれたイシュムーアとメフィストだったが、闇の中から声が聞こえる。

ゆっくりと、少しずつと闇が晴れていく。

 

「っ…何よ、何なの…あの大きさ!?反則でしょ……!」

「メフィストでもバーテックスでもスペースビーストでもなく…まだ成長するってわけ!?」

「と、とにかく大きい……!」

「一体、何が……起きたの…!?」

 

四人のウルトラマンが起き上がる。

特にダメージはなかったようで衝撃にやられただけらしい。

だが彼らは驚いたように固まって()()()()いた。

勇者たちとウルトラマンが遥か先に見た存在。

それは。

 

『---』

『似た存在を知っている?っ、みんな気をつけろ!』

 

イシュムーアとメフィストが融合。

いやメフィストが自ら()()()()()異形の姿。

紡絆に宿るウルトラマンが『似た存在』を知っていたが、それらとは違う。

それはどちらかと言えば。

 

 

150:名無しの転生者 ID:ngEn5O6of

ネオカオスダークネスIIみたいなことになってやがる!?

 

 

151:名無しの転生者 ID:DImfus0Cc

まさかメフィストと究極融合型昇華獣がひとつになったのか!?

 

 

 

 

 

イズマエルの胸部分がズレ、メフィストの顔面がそのまま付いている。

全体的に体も大きくなり、その身長は50mを持つネクサスを軽く超え、100m、200m、300mはあることは目測で分かる。

イシュムーアともメフィストとも言える異形の存在---究極融合型昇華獣と闇の巨人がひとつになった、安直にイシュフィス・ダークネスとも呼ぶべき存在が闇の光弾を一気に降らせる。

その数、数千を遥かに超える。

 

『シェアッ!』

 

咄嗟に巨大なサークルシールドを三人のネクサスが前に出て展開する。

守られているとはいえ、勇者システムを持たない小都音をネクストが体で覆うことで守り、砕けるギリギリのところでバリヤーが全ての光弾を防ぎ切る。

が、逆を言えば三人で守って壊されかけている。しかも、明らかに牽制技でしかない光弾で。

 

『デェアッ!』

『ハアッ!』

 

ジュネッスがアームドネクサスを輝かせ、ジュネッスブルーがシュトロームソードを構えながら空中を駆けて斬り掛かる。

金属を叩いたような音がなり、弾かれるジュネッスとジュネッスブルーに対し、ノスフェルの爪が叩きつけられた。

 

『ンンンン---シュアァァァァ!!』

 

半分くらいまで飛んだ黄金色のネクサスが両手を胸の前で揃え、右手を肩の高さまで掲げると150mはあるであろう歯車状の巨大なプラズマ光輪を生み出し、体勢を崩しつつも打つ。

それはイシュムーアですら警戒したものであり、より強くなっている。

それだけでは無い。150m、ネクサスを遥かに超える光輪は次々と分裂し、ネクサスを構成する九つの色と同じ量が一斉に襲いかかる。

それすら、闇のエネルギーを纏った爪が光輪をたったの一度、()()()()で全て破壊し、溜めもなく全部位から放たれた光線が黄金色のネクサスへ直撃する。

避ける暇もなく直撃したネクサスが、弾丸のように飛ばされた。

 

「紡絆をあんなにあっさり!?」

「技が通用しないなんて…!」

「なにより巨体なのに速いわ!」

「と、とにかく今は避けて---!?」

『ハッ!』

 

瞬時に駆け出したネクストが反応が遅れた勇者たちを守るべく高速で放たれる火球を腕に備わるストラトスエッジで弾き、反撃の一撃を放つべく腕を振りあげようとするが、熱線が既に迫っていた。

 

『グッ……ガッ!?』

 

避ける訳にはいかないネクストが右腕を使って受け止めるが、元々強かったイシュムーアにメフィストの力も加わっているようで、抑えきれず両腕で防ぎ、押されつつもその場で熱線を掻き消す。

それでもダメージにはなっていたのか、右腕を抑えている。

 

『シュア……!?』

 

そして今度は、イシュフィスから熱量を感じるとまたしても姿が変化していく。

イシュムーアとしての体が溶けていき、その体が球体へ変わる。

超高温・超高圧の火の玉---それは太陽を思わせる。

言葉通り、全てを終わらせるために燃やし尽くす気なのだろう。

しかしそれをするには邪魔がいる。

排除するために、極太のレーザーがネクストに向かって発射される。

 

『デェ---ッ!』

 

すぐさま両腕のエネルギーを貯めるが、発射されてからでは間に合うはずもなく。

極太のレーザーはネクストの腹部へ直撃し、レーザーと共にネクストがその場から強制的に離脱させられる---守る者が、完全に勇者の元から離された。

 

「紡絆!?」

「紡絆くん!」

「このままじゃやばい!」

「神樹様を護らないと!」

「ッ……!」

 

咄嗟に全員が振り向いた先には、ネクストは木に叩きつけられて倒れていたが、片手を着きながら起き上がろうとしている。

しかしあくまで邪魔者を消し去っただけで、本来の狙いが別だと気づいた夏凜と東郷は同時に飛び出すと、他の皆も同じく飛び出す---()()()()だった。

元々時間稼ぎでダメージは受けていた。

限界を迎えた満開は消失し---

 

「「「「満開ッ!」」」」

 

五人の勇者が巨大な花々を咲かせながら太陽のような火の玉を受け止めた。

世界を燃やし、熱気を放ち、全部を燃やし尽くした最後の一撃。

その破壊力はとんでもなく。

 

「と、止まらない!?」

「でも、絶対に押し返さないと……!」

「この……諦めてなるもんか!勇者部をなめるなああああああ!」

「よく言ったわ!恐らくこれが最後!全部出し切る!気合い入れるわよ!勇者部---」

『ファイトォオオオオオオ!!』

 

ここが正念場。

友奈も東郷も風も樹も夏凜も、誰もが諦めることなく力強く叫ぶ。声が出せない樹も、全力以上に力を出す。

諦めない強い想いに神樹様が応えてくれたのか、それとも人間の底力が限界を超えさせたのか。

五人の力が増し、溢れた勇者としての力が大きな六つの花弁を持つ光の花を作り出して空に咲き誇る。

その力を持ってしても、太陽は止まらない。止まるはずもない。

例え勇者の力だろうと神ごと呑み込まんと押し出していく。速度は遅くはなった。けど、止められない---黄金色の巨大な花弁が重なる。

 

『そうだ、いつだって変わらない』

『どんな時も、協力してきた!』

『人とウルトラマンが手を取り合う……そうして幾度も!』

『絶望を打ち砕いてきたんだ!』

 

速度が停止し、黄金色の花弁にヒビが入っていく。

停めることには成功したが、結局はいずれ壊れて動き始める。

それよりも早く、ネクストが、ジュネッスが、ジュネッスブルーが、黄金色のネクサスが四角形に囲むように降り立つ。

ネクストは両拳を力強く握りしめつつ両腕をエナジーコアの側まで挙げ、雷の如き光の稲妻を行き来させながら両腕を少しずつ近づけていく。

そしてバックスラッシュを切るように動かし、右腕を斜め上に、左腕を斜め下に持っていくと同時にエナジーコアが輝いていた。

ジュネッスは両腕を下方で交差し、胸の前にまで高く上げる。

エナジーコアの部分の傍に両腕が来たときにはゆっくりと両腕を左右に広げていき、両腕に稲妻の如き青白いエネルギーを纏われる。

そのエネルギーはネクサスの両腕を行き来しており、ネクサスはそれを纏ったまま両腕をV字型に高く伸ばし、稲妻ではなく、光のエネルギーを両腕に纏う。

ジュネッスブルーは右手のアローアームドネクサスを光り輝くコアゲージへと翳すと、エナジーコアの形をした光が一瞬現れ、光が収束することでアローアームドネクサスはエナジーコアを投影する。

するとアローアームドネクサスは光の弓を形成し、アローモードと呼ばれる形へと変化する。

ネクサスは光の弓を引き絞り、それと同時に光の弓から剣が伸びることでファイナルモードを形成すると限界まで弓を引き絞る。

虹色の光が、そのエネルギー密度を示すようにかかる。

最後に、黄金色のネクサスが両腕をY字を描くように伸ばせば、左手に備わる黄緑色のパーツからは虹色の。右手のアームドネクサスからは黄金色の光が溢れ、エナジーコアが眩い輝きを解き放つ。

エネルギーを凝縮するように伸ばした手を胸元まで戻し、エナジーコアの前で両腕を広げながら立てると黄金色に混じる虹色のエネルギーを纏う。

右腕は立てたまま弓を射るように左腕を動かし、バックスラッシュを切るように動かしながら両手を広げて右腕を斜め上に左腕を斜め下に向ける。

 

『ハアッ!』

『デェアアアッ!!』

『ヘェアアァッ!』

『シェアアアアアッ!』

 

ネクストは両腕を回すように十字に手を組み、同時に力強く足を一歩踏み出すことで放つ最強光線---エボルレイ・シュトローム。

ジュネッスはL字型に腕を組むことで膨大なエネルギーを発射する最強の必殺光線---オーバーレイ・シュトローム。

ジュネッスブルーは弓を射ることで放つ最強の必殺技。不死鳥を思わせる光矢---オーバーアローレイ・シュトローム。

黄金色のネクサスは両腕を大きく回すと頭上で交差し、右足を一歩強く踏み出しながら十字に手を組む、虹と金色の光線---ウルティメイトレイ・シュトローム。

それぞれが持ちうる、四つの最強技が()()()()()()太陽へ直撃した。

再生する太陽。削る光線。

徐々に赤から青白く染まっていく太陽は、分解に抗っている。

勇者が負けるか、ウルトラマンが負けるか、それとも闇が負けるか。

勝敗の分からなくなった戦いは、ひとつ崩れると変わる---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ……!」

「ッ!?」

 

太陽が急激に重たくなった。

体に力が入らなくなったように、花びらが散る。

一人落ちていく。

それは、いつも明るく居て、励まして、勇ましい精神を持つ---

 

「友奈!?」

「友奈ちゃん!」

 

友奈だった。

彼女はこの中で、一番ダメージを受けている。

ウルトラマンに光を届けた際、イシュムーアの一撃を防御することすら出来ずにまともに受け、一度勇者の力が解除されるほどだった。

そのダメージは計り知れず、力を振り絞って無理をした結果だ。体が限界を知らせるように、勇者システムが解除される。

一人崩れれば、拮抗していたものは一気に---

 

『ハアアアアッ!!』

 

崩れるよりも先に。

黄金色のネクサスが十字からL字型に組むことで、凄まじいエネルギーの奔流が太陽を一気に青白く染めていく。

一人の分を、二人分の役目を。それ以上を果たす。

そのお陰で動かなくなった太陽だが、ネクサスは信じている。

人の可能性を。

紡絆は信じている。

ずっと近くにいた、弱くも強い少女を。

 

「はあ……はあっ……つ、むぎくん……みんな……!」

 

散華。

動かなくなった体を、必死に動かす。

両脚を捧げ、動かない。

動く部位を使って、手を使って、強引に動かす。

それでも動かなくて、力が無くて。

顔を挙げた友奈が見たのは、気力を振り絞って耐える勇者たちと、光線と光矢を継続させる三人のウルトラマン。

何より---こちらを信じて見つめてきた、黄金色のネクサス。

 

「ッ!」

 

伝わってくる、その想い。

もう無理だ、もう力はない。もう、動けない。そんな考えが一気に吹き飛ぶ。

そう、信じているのだ。

みんな。

そして頼ってくれている、いつも誰よりも前に立つ、友奈が()()()者が。()()()()()()()()()が。

なら立ち上がらなければならない。

気力も力も、ないけれど。

信じるその力が---勇気に変わる。

 

「うおおおぉぉおおおぉおおおおおおお!!!」

 

友奈の叫ぶに応えるかのように、樹海や精霊から光が集っていく。

そうして再度現れる巨大な腕で地面を叩き付けるよう飛び上がり、遅れて羽衣が身に纏われると、拳を振り抜いた。

 

「私は…!!! 讃州中学勇者部!!!」

「友奈ァ!」

「……!!」

「友奈ぁああ!!!」

「友奈ちゃん!!!」

 

みんなが名前を呼ぶ。

それを見た黄金色のネクサスが太陽が青白く染まりきったのを確認した後に瞬時に消え、その身を光に変換すると友奈の拳へ光が集っていく。

 

『---友奈』

「---!結城友奈!!」

 

それだけで十分だった。

()()()()()()()()()()()()を叩きつけ、太陽の中へと侵入していく。

バリアも防具も全部貫通するような熱気。それをウルトラマンが防具としての役割を果たし、炎を打ち払いながら勇者は進む。

巨人が守り、勇者が進む。

僅かなやり取りで決められた役割。

溶けていく。

巨人を宿す巨腕が溶け、光は服へ移動する。

しかし焦りが生まれる。

その焦りを、宿る光が落ち着かせる。

満開の服装が溶け、勇者の服へ---。

火の玉の奥に、闇の御魂が見えた。

 

「紡絆くん---」

 

勇者服が、変身が解ける。

光の膜として存在する巨人が、直接ダメージを受け止める。その頃には火の玉の中を更に進み、二人は自分達と御霊しか存在しない白い空間へと来ていた。

手を必死に伸ばす。

もう少し、あと少しと。

最後の力を、振り絞れ。

 

「届けええええええええええええっっ!!!!」

 

伸ばされた手。

光が闇を溶かし。抵抗するために能力を発動させようとする御魂を抑え込む。

そうして伸ばされた手が、友奈の手が御魂に触れ、勇者達も、樹海も、神樹も、ウルトラマンですら。

何もかもを真っ白な光が飲み込んでいった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人のウルトラマンが太陽を上空へ運び、役目を終えたように消滅する。

同時に真っ白な光が世界を照らし、終焉の地は樹海へ。

勇者たちは円を描くように倒れていて、精霊たちが覗き込むように見て、消えていなくなる。

そして労るかのように、空から花弁がひらひらと舞い落ちて、勇者たちの体に降り掛かっていた。

さらに黄金色の球体がゆっくりと降下し、地面に降り立つのと同時に友奈が東郷と風の間に倒れており、光が晴れると無傷の黄金色のネクサスが勇者たちを見下ろすように佇んでいる。

 

「……終わっ、たの……?」

「………?」

 

力を使い果たして、全部を振り絞った。

もう動く力はなく、みんなボロボロだ。

それでも実感が湧かなくて、風の呟きに誰も答えられない。

ただ一人、まだ動けるネクサスだけは変身を解いてなかった。

そのことに疑問を感じるが、ネクサスは空を見上げている。

少しして、再び見下ろすように視線が注がれた。

 

『……風先輩、勇者部を作ってくれてありがとうございました。お陰でかけがえのない、大切な思い出を作ることが出来た。いつも引っ張ってくれて、迷惑ばかりかけたかもしれないけど、楽しかったです』

「…紡絆?あんた、急に何を……」

 

始まりは彼女だった。

風が勇者部を作って、紡絆たちを誘わなければ友奈や東郷とは一緒に居ただろうが、風や樹、夏凜とすれ違うようなことはあっても親しくなることはなかったかもしれない。出会いをくれたことへの感謝。

 

突拍子もないことをするのは普段と変わらないが、何処か雰囲気が違って、その言葉が呑み込めない。

分かったのは横に視線を動かし、今度は樹を見たということ。

 

『樹ちゃん。妹の友達になってくれてありがとう。小都音が目覚めたら、また一緒に話したり遊んでやってくれ。身勝手なお願いだけど、小都音のことを頼む。それと夢が叶うこと、応援してる。樹ちゃんなら必ず叶うよ。なんだって君の中には強い勇気が誰かを思いやる優しさがあるんだから』

紡絆先輩……?

 

声は出なくても、樹は困惑したように名前を呼んでいた。

紡絆は知っている。樹が初めてのお役目のとき、誰よりも早く姉の風についていく決断をした強さと自身の身体機能が治らないと知らされても姉の風を心配する優しさを。

 

『夏凜。出会いはちょっと変だったけど、俺は会えてよかったって思ってる。もう必要ないと思うけどさ、夏凜の居場所は勇者部にある。だからこれからも勇者部の仲間として、みんなを支えてくれ。夏凜がどれだけ頼りになるか、俺は知ってる。今回も、今までも。夏凜が居なかったら俺はここまで来れなかった』

「紡絆…?な、何よ、唐突に---」

 

今度は、夏凜だった。

出会いとしては紡絆が死にかけて、それを偶然助けたのが夏凜だった。

それから紡絆に翻弄されっぱなしだったが、夏凜が居なければ紡絆は何度か死んでいただろう。

冷静に戦況を見極める目。彼女が培ってきたセンスは彼らを何度も助けてきた。

 

「東郷。これからはもう一人じゃないんだ。みんながいる。やったことは簡単に許されるようなことじゃないかもしれないけれど、東郷は十分役割を果たした。それと……悪い、最後の最後で、約束を果たせそうにない。それでも俺は、今日のことを。東郷のことを忘れない。だから友奈を、俺の分まで頼んだ」

「え……?紡絆くん…?それはどういう---」

 

東郷にも言葉を贈る。

東郷のやったことは結果的に間違いではあったが、みんなを救いたいという心があったのも確か。

ただそれでも、彼女の戦いにおける分析能力は強力な力となっていた。

常に後ろに彼女がいるという安心は、みんなにも何らかの影響を与えていただろう。

 

『友奈。俺の願いを叶えてくれてありがとう。頼んでよかった、お陰で俺は、みんなを救う力を発現させることが出来た。想いは、みんなの声はちゃんと俺の中に届いていたよ。友奈の誰かのために立ち上がれる力は、俺にも力を授けてくれた……友奈ならきっと、()()()

 

最後に、意識がないのか身動きの取らない友奈に言葉を投げかける。

いつだってそうだ。彼女はみんなに力を与えた。諦めない強さは、紡絆も励まされたのかもしれない。

紡絆同様、彼女も勇者部にとって光だったのだろう。

それでも彼女自身はただの女の子。弱い部分は確かにあって、それでも誰かのために勇気を振り絞れる少女。

紡絆はそれをよく知っている。だから()()()()()のことを思うと、少し申し訳なかった。

それだけを告げたネクサスが振り向きざまに、上空を再び見る。

その姿は、紡絆のその言葉はまるで、もう会えないような。

今生の別れのようで---

 

『シュワッ!』

 

そうして、ネクサスが飛んだ。

両手を広げて、空を。

皆に背を向けて、振り向くことは二度となく。

 

「紡絆……!」

「紡絆!」

紡絆先輩……!

「紡絆くん!まっ---」

 

必死に動かそうとする。

友奈を除いて、意識のある全員が取り返しのつかないことが起きるような、今動かなければ後悔するような予感を感じて、起き上がろうとする。

しかし疲弊し、限界を迎えている肉体は動いてくれない。

どれだけ動くように言っても、叫んでも、体は動いてくれなかった。悲痛な声が響いて、涙が溢れて。

遠ざかっていく。

いつも前へ進み続ける少年は、誰よりも高く。誰よりも速く。誰よりも遠くに遠くに。いつだって止まらなかった彼は、こういう時でも止まってくれない。

ひたすら前進して、星の先へ。未来へ進んでいく。

遥か先、未だに消えない太陽のような玉。

金色の光の領域が広がり、外側に次々と色とりどりの色が発生していく。

金、銀、紫、青、黒、空色、黄緑、赤、桜色---それらはネクサスが太陽の中へ侵入した瞬間に太陽を包み込む。

神樹様が四国全域を守るために貼った四国結界。世界を隔離するメタフィールド---それの応用技。

灼熱の世界をただ進み続けるネクサス。

 

(---ごめん、ウルトラマン。本当は君だけでも助けたかった。それでも俺のワガママに付き合わせて)

『---気にする事はない。紡絆、共に行こう』

(……ありがとう。行こう!全て、終わらせる!!)

 

進み続けたネクサスの目は、中心部で闇のエネルギーを放出し、太陽を黒く染めて圧縮しているメフィストの姿があった。

そう、それが紡絆が変身を解いてなかった理由だ。

あの時倒されたのは、究極融合型昇華獣のイシュムーアのみであり、メフィストはイシュムーアの力すら奪って練り上げていた。

両手に集めるエネルギー量は、もはや計り知れない。

いくらネクサスが破壊したとして、それは地球どころか宇宙すら影響が出るだろう。仮にエネルギーが溜まりきったとすれば、それはこの次元すら消滅するかもしれない。

それもそのはずで、メフィストは自分ごと全て終わらせようとしているのだから。

故にネクサスが結界を貼った。メタフィールドと四国結界の合わせ技はこの奇跡の形態でしか為せない。

黒炎がネクサスの身を焦がしながら、飛行するネクサスは右拳を握りしめる。

エナジーコアから発せられた黄金色の光が集まり、虹色の輝きをその拳に宿すと、右腕を振り絞り---

 

『デェアァッ!』

『!?』

 

()()()()目掛けて虹色の拳を突き出した。

虹色の拳は黒い太陽を貫くとエネルギーが膨張していき、膨張したエネルギーが破裂する。

虹色の光が世界を染め、メフィストとネクサスは至近距離で膨張した際に起きる大規模な爆発を受け、その身が消えていく。

空間内で眩い青白い光が全てを覆い尽くす中、外ではネクサスの手によって貼られた世界を隔離する結界が世界の隔たりを貫き、次々と崩壊していく。

一枚、一枚と割れていき、最後の一枚である桜色の結界にヒビが入り、ガラスのように割れるのと同時に樹海が解けていく。

神樹様の采配のお陰か、勇者たちが現実世界へ帰還して行く中で彼女たちが最後に見えたのは、ウルトラマンでも継受紡絆の姿でもなく---世界を巻き込むほどの爆発力を見せる光景だった。

その爆発力はさながら---超新星爆発(スーパーノヴァ)に匹敵していた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

982: 光の継承者 ID:NEXUS_h16

これしか、手段はなかった。

自分の世界の事じゃないのにさ、俺やみんなの心配をしてくれて、知恵を貸してくれて、何かあったとき。

一緒に考えて提案をくれて、嬉しかった。楽しい日々をくれて、俺の知らない世界を知れて楽しかった。ワイワイ騒いで、ふざけあって、なんだかんだ幸せだった。

みんなが居てくれたから、俺はスペースビーストや融合型、ネオ融合型や闇の巨人たちと。究極融合型昇華獣を倒せた。

何より、救えなかった母さんと違って……今度はちゃんと、妹を救えた。守れた

 

 

983:名無しの転生者 ID:7kYtQ0RF+

イッチ……?

 

 

984:名無しの転生者 ID:rRZYfXrhy

どうしたんだよ、急に

 

 

985:名無しの転生者 ID:aAVD74Hpk

ふざけんじゃねぇよ、結局俺らもお前に助けられてんだよ

 

 

986:名無しの転生者 ID:f6APTRb3d

ああ、確かに俺らは関係ねぇよ。でも同じ転生者っていう仲間だ。本当にやばいときは協力し合うってのは暗黙のルールだからな

 

 

987:名無しの転生者 ID:OSIVcR9jY

そうだぞ。イッチたちの世界も見ていて楽しかったしな

 

 

988:名無しの転生者 ID:sGIFACjCx

まぁ絶望しかなかったけど。それでもお前や勇者たちが居れば、もしかしたらって思えた。

なんというか、こっちまで勇気が貰えたんだよな

 

 

989:名無しの転生者 ID:J3dVlfCR3

俺の世界も割と詰んでるんだけど、まだまだ諦めれないなって思ったよ……

 

 

990:名無しの転生者 ID:DfugalMvc

次元を超えてまで影響を与えたんだ。誇っていいんだぞ、イッチ

 

 

991:名無しの転生者 ID:0ppdsgQlu

応援しか出来なかったけど、それでも力になれたならよかったと思う

 

 

992:名無しの転生者 ID:Un9347b2u

そうそう、だからさ、その……お前さ…そんな言い方やめろよ……らしくないぞ……

 

 

993:名無しの転生者 ID:V59HXwnkS

まるでこれが最期みたいじゃん…違うだろ、ありがとうでいいんだよ。それだけで、それだけで十分なんだ。

あとはいつもみたいにバカやって、いつもみたいに笑ってりゃいいんだよ。まだまだ、終わらないだろ?

 

 

994:名無しの転生者 ID:OZzS93e0l

お前にはまだやり残したことあるだろ?約束忘れんなよ、妹ちゃんはどうするんだよ。みんなはどうするんだよ……!

生きろよ、絶対に死ぬなよ!

 

 

995:光の継承者 ID:NEXUS_h16

……ごめん。次にこの世界に誰かがやってきたら、教えてやってくれ。きっと光も、意志も継がれるはずだ。

だから最後まで諦めるなってさ。

俺から言えることはないけど、闇に囚われなかったのはお前たちのお陰なんだ。その応援だって、俺に力をくれた。

みんなも自分たちの世界で頑張ってくれ。きっと乗り越えられる、どんな壁だって。世界は違えど、最後まで見届けてくれて、共に戦ってくれた!

みんなも勇者だ!

だから、ありがとう---いや、ありがとうございました!

 

 

996:名無しの転生者 ID:/cCIVJQqz

おい、何勝手に自己完結してんだよ!?

こっちとらまだ言い足りねえことあんだぞ!?

 

 

997:名無しの転生者 ID:2DFDDNKwR

散々情報渋ってさ!誤解させてさ!どんだけ振り回されたと!?文句の一つや二つじゃ言い足りねぇよ、戻ってこい!

次は絶対に罵倒で埋めつくして寝かせねぇぞ!

 

 

998:名無しの転生者 ID:iasuvMOsy

最後の最後まで人の心配ばかりして、人のことばかり!他人ばっかり……!

お前に言われなくたって、お前の勇姿を見てきたものは分かってる!

いい加減にしろ!お前が生きなきゃ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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余談:ここでEDのAurora Daysにて紡絆くんが少しずつ薄らぎ、サビで消滅(一番後ろを歩く→みんなを見守るという理由だけではなく、居なくなっても誰も気づかない)
性格上中心の筈が、撮る写真が真ん中ではなく端が多い→消えても違和感が少ない


活動報告→https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=302751&uid=271214


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「いつも心に太陽を」


ということで、ようやく一章終わりです。
約二年間、長い時間をかけてここまで来れました。それもこれも感想をくださった方や高評価を入れてくださった方、お気に入り登録してくれた方々のお陰です。もしそれらがなければ作者は失踪してたかもしれません。
完結までは残る三章となりますが、多分この章よりかは長くならないと思います。無理矢理50話に収めましたけど一万文字で単純計算したら126話くらいは行ってますからね、この作品。アホか?
何はともあれ、最後の輝きの章をご覧下さいませ。ちなみにこの話においてのある場面に答えは存在しませんし出しません。どっちかは皆さんの解釈にお任せします、自分がいいな、こっちだったら素敵だなと思った方で考えて頂ければ…。
では、どうぞ!
あっ、それとオリジナル形態と技に関しては次の章が終わるまでには決定しときます。頑張れ、未来の俺。





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 第 50 話 

 

 

いつも心に太陽を

 

 

あなたに微笑む

山桜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから数日。

戦いは終わった。

外の世界の惨状を考えれば終わったとは言えないが、今代の勇者たちの役目は終わったと言えるだろう。

あの戦いは現実世界に大きな影響を与えた。

事故だったり火事だったり、土砂崩れや山火事---厄災といえるものが複数発生するほどの影響。

幸い怪我人や重傷者はいても死者は居らず、()()()()後遺症も命に危険があるほどの者はいなかったという。

そして病院に運ばれた小都音は目覚めることがない。ただ命に別状もなければ体に何か起きたわけでもないようで、後は彼女自身に寄るだろう。

東郷も風も樹も夏凜も、満開で失ったはずの後遺症が治りつつあり---ただ一人。友奈だけが治らなかった。

人形のように動かなくなって、何の受け答えもしなくて、魂が抜け落ちてしまったみたいに無反応で、焦点が全く合わない目だけが開いている。

守ったはずで、帰ってくるはずの日常は帰ってこなかった。

それから、もう一人。

あの場で、確かに戦いを終わらせた張本人たちであるウルトラマンと一人の少年は、一度も姿を見せていない---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一室の病室に、一人の少女が眠っている。

換気のために開かれた窓から流れてくる(かぜ)が青い髪を小さく揺らす。

もう夏も終わり、秋に入りつつある。

彼女は未だに目覚めず、眠り姫のように眠りについたまま。

 

「こ…とねちゃん……」

 

ようやく。やっと、呼んであげられた。

完全に治ったわけじゃないからか、名前を呼ぶのすらたどたどしさを感じさせるも、眠る少女の名を呼んだ本人---樹は動かない小都音の手にそっと自身の手を乗せた。

 

「わ…わた、し……や、っと…喋れる、ように……なっ、たよ…?」

 

本当はもっと早くに、声が出てたら変わった結末があったのかもしれない。

樹自身、例えそれは無理でもあの戦いの時に、名前を呼んであげたかった。

それでも無理で、ようやく呼ぶことが出来て、報告ができた。

 

「な…おっ、たら……れんしゅう、しないと…だよ、ね」

 

夢を忘れたことは一度もない。

少しずつだが治ってることを知ったとき、嬉しかった。

夢を貰って、大切な先輩に後押しされたものを再び追えるようになったのだから。

でも、樹にとって本当の意味で喜べることは無かった。

兄であり、ウルトラマンである紡絆のお陰で小都音の命は救われた---でもそれっきり、目を覚まさない。

 

「い…っしょに……歌う、って…や、くそく……だ、よ」

 

反応のないと分かっていても声を掛けて、小都音の手を両手で包み込むと、悲しい表情でも不安な表情でもなく、曇りのない笑顔を向ける。

辛くても、見せる表情は笑顔の方が、いいと思ったから。

 

「ま、た……来る、ね」

 

毎日訪れて、帰って、また来て、それの繰り返し。

数日で目覚める保証はなく、それでも樹は通い続ける。

本来来るべき人物が来れない分も自分がと。

一人にはさせないように---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

満開の代償で松杖をつかないと歩けない夏凜は風と共に居た。

海を眺めて、沈む太陽を見ている。

時間を戻されたお陰で失ったのはひとつで、全員そこまで影響がない箇所だった。

もしかしたら、それも『奇跡』の力を使ったのかもしれないが。

朗報と言えば、治りかけていることだけでは無い。

大赦からのメールで“当分の間、襲撃はない。精霊を失った貴女は勇者の力も失っている。学生として生活を続けなさい”と送られてきていた。

 

「大赦の言っている通り、変身も出来なくなってるし大赦から連絡は一方通行」

「欠損したものも戻ってきてるしアタシたちは神樹様に開放してもらえたってことかもね」

「もう必要ないってことか……東郷も足の治癒が始まって、記憶も少しずつ戻ってきてるらしいわ。そっちは、樹はどうなのよ?」

「少しずつだけど、喋れるようになって…今は小都音のところに毎日通ってる」

「そう……小都音も、目を覚まさないのね」

「………」

 

利用され、運命に翻弄され、黒幕の手のひらで転がされるしかなかった。

そんな小都音をようやく救い出して---これか。

悲痛な面持ちを浮かべ、どうにもならない現状に二人はため息を吐く。

 

「こういうとき、アイツならなんて言うんでしょうね……」

 

あの戦い、最後の最後で自ら太陽の中へ飛び込んだネクサスは、樹海が解けてもどこにもいなかった。

生きているなら神樹様が現実世界へ戻すだろう。なのに、一向に姿を現さない。

 

「さぁ……ただ、こんな顔をしてると間違いなくバカなことをして、アタシらを励まして、笑顔を浮かべさせると思うけど」

「そうね、やりかねないわ…本当に」

 

不思議とその場面は、浮かんでくる。

相当に毒されてきたらしい、と互いに苦笑する。

認めない、認める訳にはいかないだろう。

必ず帰ってくる、そう信じるしかないのだから。

 

「後は---あの子ね」

 

満開の代償が治って来ていても未だに戻ってこない、結城友奈という少女----

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

毎日毎日、動けるようになって東郷は友奈の病室に通っていた。

何の反応も示さない彼女を見る度、東郷は締め付けられるような痛みが走る。

それでも泣く訳にはいかなくて、時間だけが過ぎていく。

更に数日が経ったその日の夕方、友奈のお見舞いに来た東郷は病室から友奈を車椅子に乗せて中庭に連れ出し、学校で起きた出来事等を語って聞かせる。

途中で風と夏凜がやってきて、樹は小都音の病室に行っていたのか遅れてやってくる。

遅れてやってきた樹がお手製の部員を模した押し花を手渡したり話し掛けたりするが……やはり、友奈は反応を返さない。

 

「私は……私が大切な友達を、大切な人を犠牲に……ッ」

「言うな!誰も、誰も悪くないのよ…二人なら、友奈と紡絆なら…絶対にそう言うに決まってる」

 

そこに笑顔はない。

誰もが悲痛な面持ちで、誰の心にも陰が生まれる。

数日経っても帰って来ない。数日経っても意識が回復しない。数日経っても反応が返ってこない。

失ったものはあまりに多くて、残酷にも時は進み続ける---。

 

 

 

結局友奈も回復しないまま、そろそろ文化祭が近づいてきた。

目を逸らすわけではないが、文化祭のことも真剣に話し合わなければならない

 

「さて、文化祭も近いわ。今後のことなんだけど、配役は……」

「…あの。友奈ちゃんと紡絆くんの役はそのままにしておきたいです」

 

挙手して意見を伝える東郷。

今回の文化祭、台本は今までとは大きく異なる。今までは勇者と魔王だったが、完成した台本には勇者が一人ではなく二人に変わっている。

その役が友奈と紡絆であり、現状主役の二人が抜けている状態。

小都音は裏方だが、それでも文化祭は全員揃うからこそ意味がある。なにより裏方だって重要な役割だ。

ただ現実的に考えるならさっさと変えてしまうのがいいのだが---

 

「東郷の言う通りよ。二人のこと割り切るの、私も嫌だ……」

「アタシだって、割り切ってなんか……」

「お…お芝居……練習を…続けましょう……。友奈さんと紡絆先輩なら……きっと…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ時間が過ぎて、過ぎて、ひたすらに過ぎていく。

風の目も戻って、夏鈴の脚も治って、樹の声も戻って、東郷の脚も戻った。

小都音は未だ目覚める予兆すらなく、友奈も同じく変化は無い。

そしてウルトラマンと紡絆は、やはり帰ってこない。

それても、各々日常へと帰っている。

風は家事をして、樹は歌の練習をして、夏凛は鍛錬して、東郷は毎日毎日通っては文化祭の台本を読んで、みんなで文化祭の衣装や小道具を準備して。

今日も今日とて中庭のベンチに座りながら、東郷は隣で台本を読む。

 

「---勇者は傷ついても傷ついても決して諦めませんでした」

 

月日が経っても変わらない。

ただそれでも、東郷は風作の文化祭の台本を読む。

タイトルは、明日の勇者へ。

 

「全ての人が諦めてしまったら、それこそ世界が闇に閉ざされてしまうからです」

 

すっかり夏の暑さは過ぎ去って、秋の涼しさへと変わっていっている。

何度読み聞かせたのか東郷は分からない。

何度だって、何度も読み続ける。

 

「勇者は自分がくじけないことが皆を励ますのだと信じていました。そんな勇者をバカにする者も居ましたが、勇者は明るく笑っていました」

 

押し花の数はひとつから増えて、三つに増えた。

いつもいつも面会時間ギリギリまで傍に居て、友奈の傍に居続けた。

それが、約束だから。

 

「意味がないことだと言う者もいましたが、それでも、勇者はへこたれず、どんな時だって笑顔を浮かべ続けました」

 

ずっと、そうしていた。例え反応が無くても、いつか、きっといつかはと、そう思って繰り返した。

あの時救われた言葉を、大切な人が残してくれた言葉を覚えているから。みんな、最後の言葉も。最後の戦いを、覚えているから。

信じたからこそ起きた、あの奇跡。

だから信じ続けると、皆で決めた。

そうすれば今度もまた、必ず。必ず奇跡が起きるはず、だと。

 

「皆が次々と魔王に屈し、気がつけば勇者は一人ぼっちでした。勇者が一人ぼっちであることを誰も知りませんでした。一人ぼっちになっても、それでも勇者は……」

 

気付けば、木々が紅く色づき始めていた。

押し花の数も、5枚になった。勇者を司っていたそれぞれの花。

微笑みの山桜。愛情の絆である朝顔、輝く心のオキザリス、心の痛みを判る鳴子百合、情熱の躑躅。

その上に、東郷は()()()()()()と海のペンダントをひとつ乗せた。

かつて、継受紡絆という人間ではなく朔月陽灯であった彼が先代勇者へ渡し、東郷の元へ差し出されたように。

今度は、東郷から友奈へ。

勇者ではない二人の分は、別のもので代用したのだろう。星が好きな彼の、彼が作ったもの。美しさと可憐さを備えた海を思わせる彼の妹のもの。

そうしてまた、何時ものように読み聞かせる。

 

「それでも勇者は、戦うことを決して諦めませんでした。諦めない限り、希望が終わることは……ない、から……です……っ」

 

何度繰り返したか。

数え切れないほど待ち続けた。数え切れないほど繰り返した。

その物語は、まるで自分たちのようで。諦めなかった、彼と彼女を表しているようで。

それでも奇跡は起こらず。

一人は眠ったまま。一人は反応しない。一人---二人は、消えたまま姿を現さなかった。

 

『---約束だッ!』

『私はずっと東郷さんと一緒にいる。そうしたら忘れないでしょ?』

 

そう言ってくれた光という希望を失って、勇者という希望を失って。

平和の代価以上に、大切なものが消えてしまって。

待ち続けて、待ち続けて、そうして---

 

「何を失っても……それでも…それでも私は……っ! 大切な人も、大切な友達も、失いたく……ないっ……!」

 

我慢して、堪えて、耐えて。

限界を迎えたものが、抑えていた想いも、感情も、全部が溢れ出す。

 

「いやだ……いやだよ…!! 寂しくても…! 辛くても…! ずっと……! 近くにいるって……ずっと一緒にいてくれるって…言ったじゃない………っ!!」

 

弱音が溢れて、涙が零れて、悲痛な声を挙げても慰めてくれる者はいない。

普段であれば彼女を慰める人物は必ず二人居た。

その一人が隣にいても、友奈が隣に居ても、泣き叫ぶ東郷に何かをすることは叶わず。

友奈には決して届かない---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上下が灰色の雲に覆われた不思議な空間の中に、桜色の、明らかに肉体ではない体の友奈は居た。どこか夢心地でふわふわとした意識でいる友奈には、どれだけの間その場所に居るのか分からなかった。

分かるのはあの時、最後の戦いで御魂に触れて、気がつけばこの空間にいた。

何も無く、誰もいない。

今の自分が何なのかも分からなくて、彷徨っていると烏が居て、神世紀元年の勇者---すなわち、初代勇者から言葉を送られた。

ただ『生きろ』と。『生きてくれ』と。

大切な人たちのことを思い出して、みんなに会いたいと願って動いた。

戻りたいと、悲しませたくないと動き続けて。

どれだけ時間が経ったのか、どれだけ動いたのか。

 

(私、どうすればいいんだろう…)

 

行き場も分からず。ただ動いていた友奈は無限にでも続いてるような空間にどうすればいいのか分からなくなっていた。

時折聞こえてきたみんなの声は一筋の希望で、それでも何処にいるか分からなくて、手を伸ばしても、声を挙げても届かなかった。

そうこうしているうちに、友奈の心が軋む音を鳴らす。

 

(東郷さん、泣いてる……)

 

ここに居るんだと言っても届かない。

泣いてる彼女に手を伸ばしても、慰めたいと思っても何も出来ない。

ただ何も出来ないという事実に、戻れないという現実に打ちしがれて、ただそこで体育座りの状態で膝に顔を埋めてじっとしていることしか出来ない。

大切な友達が泣いているのに、何も言ってあげられなくて、心が折れたように、諦めたように俯いて---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやだ……いやだよ…!! 寂しくても…! 辛くても…! ずっと……! 近くにいるって……ずっと一緒にいてくれるって…言ったじゃない………っ!!』

 

鮮明に聞こえたその言葉に、友奈は奮起するように顔を上げる。

大事なことを、忘れていた。

それを、今思い出した。

確かに言ったのだ。

 

(---そうだ……。約束した。大切な友達に『約束』したんだ。『誓い』を立てたんだ。もう諦めないって……!勇者は泣いてる友達を放っておいたりしない。彼なら…紡絆くんなら絶対にそんなことしない…!)

 

瞳に力が宿る。

確かな意思が宿る。

戻り方なんて分からない。帰り方なんて分からない。どうやったらこの世界から出られるかなんて分からない。

分からない、分からないけれど。

 

(東郷さんの元に。みんなのところに!)

 

きっと誰かが()()()()()()()()

声がする。

だったらもう、それでいい。友奈にとって、それだけで十分なのだ。

分からない。分からないなら分からないなりに。勇者なら勇者なりに。根勇気と根性だけで---進む。

進む。

進め。

進め。

進め。

進め。

進め。

進め。

進め---!

 

(絶対に、帰るんだッ!!)

 

烏が飛び立つ。

灰色の空に烏が飛んで。

その世界で。

何も無かったはずの世界で。

何も無いはずの世界で。

眩い輝きが、発せられる。

友奈の目の前に、Y字の赤い発光体が生まれ、そこから徐々に大きな人型を形成していく。

人間がちっぽけに見えるほどの大きさ。ウルトラマンがちっぽけに見えるほどの大きさ。バーテックスや闇の巨人すら。

今まで見てきた全てを凌ぐほどに巨大な光。

銀の体。銀の輝き。白銀の光。

それはまるで---

 

「……神、様?」

 

背中に()()()()()()()()()()()()光の巨人。

あまりに神秘的で。あまりに美しく。神々しく。

思わず、そう思い込んだ友奈が瞬きすると、その姿は彼女の知る()()()()()()だった。

銀色の肉体を持つ、ウルトラマンネクサス・アンファンス。

Y字型の器官であるエナジーコアは、輝きを完全に取り戻して点滅などしていない。

 

「違う…。気のせい…?ううん、そんなことより、来てくれたんだ---」

 

刹那の出来事で、目を擦って見てみれば姿は何も変わらない。

彼女がよく知るウルトラマンそのもので、ただ幻視したのだと、幻覚だと判断した。

何故幻として見えたウルトラマンを神だと思ったのかまでは友奈自身にも分からなかったが、今はそんなことよりも、帰れないという事実よりも。

友奈はやっと会えて。何日も会ってないような感覚があったからこそ。

変わらない在り方に。困ったとき、一番に来てくれる彼に。どうにもならない時に、必ず助けに来てくれる彼に。

笑顔でその名前を呼んだ。

 

「紡絆くん!」

 

彼女が大切に思う、密かに憧れる男の子を名前を。

このような世界にも、来てくれたんだと。

ただその事実が何よりも嬉しくて。

そんな時では無いというのに、友奈は自然な笑顔を浮かべていた。

しかし---

 

『………』

 

目の前の男の子は、巨人は、()()()()()()()()()()()

ただ友奈を見つめるだけで、何の反応も示さない。

そのことに違和感を覚えた友奈は、困惑する。

 

「紡絆くん……?」

『………』

 

もう一度名前を呼んでも、反応はなくて。

どうして何も言わないのか、何も言ってくれないかと聞くよりも早くに。

()()な事実が脳裏を過ぎって、胸に手をやりながら巨人に問いかけた。

 

「紡絆くんは……無事、なんですか…?」

『………』

 

それは、目の前の巨人が『ウルトラマン』なのか『継受紡絆』であるかの確認でもあるのだろう。

それでも、巨人は何も返さない。反応せず、ただゆっくりとその手を、場所を差すように左に動かして、友奈が視線を辿る---。

 

「あれは……出口?」

 

巨人からしたら左だが、対面である友奈からしたら右側。

巨人が指した方向。

そこには、光があった。

地平線に浮かぶ朝日のような、白光色の光。

 

「あっちに行けば、帰れるの?」

『---』

 

その質問に、初めて巨人が反応を示す。

ただゆっくりと、頷くという行動。

すなわち、肯定。

 

「っ、あ---」

 

行けば帰れる。

行かなければ帰れない。

光は少しずつ小さくなっていて、時間が経てば帰れなくなるのだろう。

ただそれでも、友奈は巨人に、ウルトラマンにどうしても聞きたいことがあって、確認したいことがあって、例え帰っても()()()()()()()としても。

言いたいことがあって---開こうとしていた口を、友奈は閉じた。

体を右側に動かして、出口方向を見る。

 

「出口を教えてくれてありがとう!私はみんなの所に戻らないと。戻らなくちゃダメなんだ……!」

 

お礼を述べても、何かを言っても、やはり巨人からは声も聞こえないし反応は見られない。

ただそれでも、友奈の顔は下を向いてなんかなく。

ただ前を、真っ直ぐに見ていた。

---迷いは、無い。

 

「だから……だから!」

 

進んでいく。

灰色の世界から、大切な人たちがいる世界に戻るために。

光という出口を掴むために、右手を伸ばして。

あと少しで届くというところで、振り返った友奈の目には()()()()()()()()けれど。

 

「私は……私たちは……待ってるから!ずっと!貴方が帰ってくるって信じて!絶対絶対、帰ってくるって!それまで待ち続けるから!紡絆くんッ!」

 

きっと自分にも聞こえていたように。

どこかにいるはずの、居ると信じる友奈はそう叫んで---光の中に、友奈は消えていく---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とう…ごう…さん……」

 

顔を埋めて泣いていた東郷の耳に、聞き間違えるはずがない声が聞こえて。

思わず顔を挙げた東郷は、ただ隣を、友奈がいる場所を見て。そこには---泣きながらも微笑む、友奈の姿があった。

 

「……一緒にいるよ……ずっと…」

「ゆ…友奈ちゃん……友奈ちゃん……!」

 

今まで何の反応もなかった確かに声を発していて。それは気のせいでも、幻聴でも、何でもなくて。

いつだって笑顔を振り蒔いていた友奈が……目を覚ましていた。

 

「聞こえてたよ、みんなの声……東郷さんの声…」

 

言いたいことも、伝えたいことも、たくさんあった。

ただそれでも、今は。

一番言いたいことを、お互い伝えるように。

たった一言、今言うべき言葉を互いに言い合う。

 

「おかえり、友奈ちゃん…!」

「ただいま…東郷さん」

 

そう言ってふらつく友奈の体を東郷が支えて、手を繋ぎ指を絡ませる東郷と友奈は、夢でないことを示すようにお互いの体温を感じながらも、泣きながら笑いあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、意識を取り戻した友奈は退院することになった。

最後の満開の代償で両脚をしたらしく、散華が治るまでの間、友奈が車椅子で過ごすことになった。

久しぶりに学校に行って、久しぶりの勇者部では帰ってきたことを祝われて。

ただその準備をしていたみんなとばったり会うというまさかのハプニングがあったが、それでも笑い合うことが出来た。

そうして下校していく中で、以前とは真逆で東郷に車椅子を押されるた友奈と共に風や樹、夏凜は帰り道を歩く。

 

「全くもう……このまま目覚めないかと思って、本当に心配したんだから」

「私ももう無理だと思ったんだけど、えっと……あれ?」

「なんでそこを覚えてないのよ……」

「神樹様が助けてくれたんでしょうか?」

 

何かがあったはずで、それを思い出せない友奈は考え込むが、何も分からなくて首を傾げる。

一番大事な部分を覚えてなかった友奈に夏凜が呆れ、樹がそれらしいことを述べるが、友奈は首を横に振った。

 

「分からないけど、目が覚める前に…光を見た、そんな気がする」

「………!」

「……た、たぶん」

 

否定した割に断言することなく、曖昧な言葉を付け足す友奈に周囲がずっこけそうになるが、すぐに苦笑して、車椅子を押す東郷はそんな友奈に微笑む。

 

「友奈ちゃんは、友奈ちゃん自身の強い意志で帰ってきたのよ。そしてきっと、そんな友奈ちゃんを助けてくれたのは……」

 

そこから先の言葉を、東郷は紡ごうとはしなかった。

ただこの場の全員が、理解してそう()()()()()

確信はなくても、何故かそう考えられて、思えて、表情が和らいでいた。

全てが戻った訳では無い。

戻ったのは、あくまで友奈一人。

それでも、彼女たちは生きる。

ここからすぐに文化祭が始まって、それまでに演劇を仕上げるために練習を繰り返したりセリフを覚えたり、と大変な日々が待っているけれど。

信じ続けて、居場所を守っていく。帰ってきたとき、たくさんの話が出来るように。少しでも、誇れるように。

一人の少年と、一人の光の巨人が守ってみせた、この地球を。日常を---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風が靡き、包帯が外れていく。

ブロンドカラーの少女と灰色の髪を持つ少女は互いに足で立って、燦々と輝く太陽と海を眺めていた。

その手には()()()()()()がそれぞれあって、涙を浮かべながら景色を見ていた。

 

「また、こうしていられるなんて思わなかった。本当に、治るなんてなぁ……」

「……うん、でも」

 

二年間。

二年間もの間、一切治る予兆すらなかった。

けれども今は嘘のようにほとんどの部分が治っている。

二人の少女は互いにわかってたように顔を見合わせて、口を開く。

 

「信じてた、でしょ?」

「信じてた、か?」

 

考えていたことは一緒で、そのことにただ笑い合う。

失って、失って、失って、辛い目ばかりあってきた。

ようやく、こうして本当の意味で笑えるようになった。

それは諦めないように言ってくれて、ほんの僅かに希望を与えてくれて、記憶を失ってもなお、誰かの支えとなる()のような少年のお陰だろう。

だからこそ。

 

「陽灯のやつ、戻ってくるよな?」

「戻ってくるよ、絶対に。そう約束したから」

 

彼女たちもまた、信じ続ける。

約束を結んで、困ってる人が居たら、誰よりも早くに駆けつける度が過ぎるほどのお人好しを。

いつまでも変わらない、光を。

 

「そうだな、あいつがみんなを、誰かを悲しませたまま放っておくはずもないか」

「うん。けど戻ってきたら、やっぱり説教しないとだね〜帰ってこなくても絶対ぜーったい、見つけ出すけど---ふふふ」

「そ、園子さんや、こえーっす……」

「え〜?じゃあミノさんは許せる?」

「いんや、無理かなあ。人の気も知らないで人を置いていってさ、 一度くらいは怒っても許されるだろ」

「だよね。だから絶対、約束を守ってね---はるるん」

 

二人の少女---乃木園子と三ノ輪銀は、かつての友人に思い馳せる。

いつかまた、四人が揃える日が来ることを願って。

 

「あっ、そういえば、はるるんとミノさんの小説なんだけど」

「今それ!?」

 

ちょっと話はズレたが、彼女たちもまた、日常へと戻れる日が近いはずだ。

それがいつになるかは、今は分からなくても。

今の彼女たちの中にはもう、絶望なんてないのだから---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

笑い声が絶えず、楽しそうに。笑顔なものもいれば、必死そうにしているものもいる。ちょっと怒ってたり、喧嘩に発展しかけている者もいるが、それもまた人間が持つ一面。

人間が人間である証拠で、何よりも平和である証拠だった。

小さな子供たちがワイワイと騒いで、ボールで遊んで、追いかけっこして、砂遊びして、色んなそれぞれの楽しみ方で遊んでいる。

それを一人の老人が、微笑ましそうに見ていた。

そんな老人に、一人の男の子が近づいてくる。

 

「あっ、ごめんなさい!」

 

老人が視線を下げれば、足元にはボールが転がってきていた。

謝れるだけ親の教育が行き届いているのか、それとも迷惑をかけたことを自覚しているのか、何はともあれ老人は転がってきたボールを拾う。

 

「ほれ」

「ありがとう、おじちゃん!」

 

そっとボールを渡せば、見た目から判断したであろう純粋な子供の言葉に老人は苦笑した。

しかし『地球人』から見れば何も間違ってはおらず、また見た目は老人なので仕方がないだろう。

彼の正体が分かるのは、『地球人』じゃない者だけだ。

 

「気をつけてな、怪我しないように遊ぶんじゃぞ」

 

故に老人は否定することなく、目の前の男の子の頭を撫でながら優しく告げる。

これがもし、面倒臭い人間相手なら子供相手にも容赦なく暴言をぶつけたりする者も居るかもしれない。

その点で考えれば、男の子は運が良かったと言えるだろう。

 

「うん!いっぱい一緒に遊んでくれた兄ちゃんが何度も言ってたから大丈夫!」

「む…知り合いか?」

「うん、兄ちゃん!えっと、紡絆兄ちゃん!いつもね、泣いてたり困ったりしたら一緒に考えて悩んでくれるんだ!それでいつも解決してくれてた!すごいんだよ!」

「ふ…そうかそうか。ならば儂から言う必要はないみたいじゃな」

 

まるで家族を自慢するように、純粋な眼差しで語る男の子に微笑ましく思うのと同時に、とても()()()姿が浮かんで、老人は頬が綻ぶ。

 

「今度また一緒に遊んでくれるって約束してくれたからね、楽しみなんだ!」

「うむ、その日が来れば存分に遊べば良い。だが今は---」

「おーい!」

「友人が呼んどるぞ」

 

いつまでも帰ってこないからか、遠くから別の声が聞こえて、手を振っている。

男女共に居て、どうやら性別関係なく遊んでいるらしい。

それに気づいた男の子はハッとしてボールを落とさないように両手で持ちながら走っていく。

 

「あっ!おじちゃんもまた話そうね〜!それからボールありがとー!」

「うむ」

 

何も言ってなかったことに気づいたのか改めてお礼を述べながら去っていき、集団の輪に入って行く姿を見た老人はその場を後にしていく。

歩きながら行き先を決めては、そこへ向かいながら街を眺めていく。

誰も何かが起きたとは知らず、ただ普段通り、変わらない毎日を過ごしている。

それを守ったのは、一体誰なのか。

老人は知っていた。

 

(どこへ行っても、良い評判しか聞こえない。それどころか、多くの者に影響を与え、笑顔が耐えぬ、か……。やはりお主はそうなのだな、ウルトラマン---)

 

一瞬、姿が変わる。

ずんぐりとした体型に、悪魔のようなフェイスを持つ宇宙人。

その老人はメフィラス星人だった。

何かを理解したように、何かに気がついたように、老人は()()を目指して歩く。

 

(ならば、覚えておこう。その名を。存在したという記憶を。ウルトラマン、いや---光を宿す人間の名は、継受紡絆、だったか。小都音も、お主の仲間も、人々も。待っているぞ)

 

晴れ渡る空。

それを、一人の少年と巨人が守ったことを知る老人は、真偽---メフィラス星人のイレイズは確かに記憶に思いとどめ、未だ目覚めぬ、娘のような人物に会いに歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタカタ、とひたすらキーボードを打つ音だけが響く。

慌ただしく忙しく、動いたり声が響いたり、誰もがピリピリとした緊迫した空気の中で、その人物もまた仕事に精を出していた。

勇者と光の巨人が終わらせた戦い。バーテックスとの戦い。

スペースビーストを含め、イレギュラーな者たちとの戦いは終わりを告げた。

しかし全部が終わった訳ではなく、その戦いで起きた影響は凄まじい。

現実では厄災となって様々なことが起きて、その自己処理はどれだけ大変か。情報操作することは容易ではなく、多くの人物が時間を割いて、ようやくとなる。

戦いが終わってしばらくしても、中々休めそうにない。

だが逆に言えば、()()()()なのだ。

世界が終わってないからこそ、今がある。

そう考えれば、仕事がいくら積み重なってるなどなんのその。

 

「ふぅ……」

 

一人の男性、先程ひたすらキーボードを打っていた成人した青年が傍に置いていた缶珈琲を飲みながら一息つく。

どうやらひとまずの仕事は終えたらしく、疲労した肉体を解すように肩を回していた。

それから周囲を見てみれば、まだまだ忙しそうな様子。

ただ似たような神官のような服装で、大勢の人間が作業してる様は中々にインパクトのある絵面だ。

そう、ここは大赦が管理する場所---だが、別に男は偉い立場というわけでもなく、下も下。

その男は新人だった。

 

「さて、と…」

 

カバンから取り出した自作のノートパソコンを弄る。

自前なのもあって慣れているのか素早く、それでいて迷いもなく手を動かす男は大赦支給のパソコンと自作のノートパソコンをケーブルで繋ぎ、支給パソコンにUSBメモリを突き刺すと、強固なプロテクトを意図も簡単に突破しながらデータを()()()していく。

それを待っている間に自作のノートパソコンであるファイルを開き、それを見た男の口角は自然と上がっている。

画面上に広がるものは色んな情報。

()()()()()()に関するものだった。

『ウルトラマン・ザ・ネクスト』から始まり、『ジュネッス』。『ウルトラマンネクサス』。『アンファンス』。『ジュネッス』。『ジュネッスブルー』。そして、『黄金色のジュネッス』。

次々と姿を変えて行った巨人であり、その変身者たる人間の情報がずらり、と並んでいる。

大赦の上層部しか知り得ない、機密情報である変身者の情報が何故男が持っているかは定かでない。

しかし何より特筆すべきなのは発現したばかりの力である『黄金色のジュネッス』の情報がある部分だ。

まだ不明な点ばかりで、分かっていない部分の方が多いだろう。

それは男も大赦も同様で、『新たな力を発現させた』としか知らない大赦。

その『姿を知っている』男の違いでしかない。

所持できないはずの画像を表示し、軽く姿を眺めた男は手を画面に翳す。

その瞬間、存在しないはずの『映像』が画面に映された。音は出ていないが、間違いなく勇者とウルトラマンが、『究極』となった融合型昇華獣や闇の巨人たるメフィストと戦い、勝利を収めたものだ。

それは作りものでも何でもなく、 映像には現実と一寸の違いもない。

ネクサスが飛び立ち、爆発が起きて、樹海が解けた。

映像はそこで途切れている。

ただ男は戦いの結果には興味はないのか映像を一気に戻す。

そこには『神樹』から発せられた()()()()がウルトラマンに集まり、内包する光を解放した(黄金色に輝く)ネクサスの姿があった。

新たな姿。それから『時間を巻き戻す』だけでなく『四人』に増えるところ。

どれも『個別』に動いており、それぞれに『意識』が存在している。

つまり、文字通り『増えている』のだ。それもウルトラマンと変身者の両者が。

異なる時空から呼んだ、というわけでもない。

ただその力は、今までのウルトラマンを大きく上回る力を秘めている。

 

「………」

 

それを見ても何を思っているのか、ニヤニヤと笑い顔を浮かべる男ははっきりいって怪しいどころか不審者なのだが、それに気づけるものはおらず。仮に気づいたものがいてもドン引きするだけだろう。

男は()()()()()()()()()()()()()をコピーし終えたUSBを抜くと()()()()()()ようにアクセスした記録を全て()()()()()()削除する。

そして何らかの情報をまとめた資料のようなものをノートパソコンで表示すると、そこには写真と共に経歴があった。

 

「おーい」

「ん?」

 

自身を呼ぶ声が聞こえ、すぐにノートパソコンを閉じつつカバンに収納し、振り向いた先には同じ同僚らしき人物が近づいてきたかと思えば、男の肩に手を回して組んでいた。

 

「仕事一段落着いただろ?休憩がてら飯行こうぜ」

「ああ。もうこんな時間か。そうするか」

 

時刻を見てみれば、既に昼飯時を過ぎている。

ひとまず男は同僚を引き剥がし、先に行くように伝えてから立ち上がるとデータの保存を念の為にもう一度行い、パソコンを消すとカバンを手にする。

そのまま同僚を追おうとして、男は思い出したかのように立ち止まって振り向く。

その視線の先には、何も無い。

支給のパソコンがあるだけだが、男の表情は怖いぐらいに感情が失せている。

 

(()()()のことはあったが、計画は概ね順調……。多少の修正をすれば問題ない。

大事な駒を失いはしたが、お陰で()()の正体は掴めた。この世界に生み出されたイレギュラー…それにあの形態は間違いなく、『神樹』の力。()()()()()()()()、か……。……警戒をしておくに越したことはないな)

 

立ち止まったまま来ない男を訝しんだのか、未だに立ち止まったのを見て同僚が近づいてくる。

それに気づいた男はハッとしたように首を振り、苦笑を浮かべる。

 

「おい、早くしないと飯食えないまま休憩終わるぞ?」

「悪い、ちょっと考え事をしていたみたいだ」

「悩みごとか?」

「いや、大したことじゃないんだが…最近()()()が死んでな」

 

改めて歩きながら男は()()()な表情を浮かべながら告げると、同僚はバツが悪そうな表情をした。

踏み込むべきではない話題だった、と思ったのだろう。

申し訳なさそうに口を開く。

 

「そうだったのか……それはなんか、ごめん。大丈夫なのか?」

「悲しくはあったが、得られたものもある。それに気にしすぎて仕事を辞める訳にもいかないしな」

「そうか……まぁ、なんだ。その、何かあったら力になってやるから無理すんなよ---()()

「助かるよ。じゃあ昼食は奢ってくれ」

「おう、任せ……なんでだよ!?」

 

そうして男---『石掘』と呼ばれた男は同僚と共に仕事場から抜けていく。

ポケットに、()()()()()()のデータをコピーしたUSBをポケットの中で弄りながら、楽しそう(愉しそう)に笑って。

そのことに気づいた者は、大赦の中には誰もいなかった。それは上層部ですら、誰も気づけない。

 

(計画を次のステップに移行する。……さあ、貴様はどうする?何が出来る?何をしようとも、無意味だ。全ては俺の手の中なのだからな、()()---)

 

ニヤリと意味ありげな笑みを浮かべたその男の、石堀の影には一瞬だけ()()()()に変化していた。

しかしそれらは誰も気づかない。気づけるはずもない。そんなやわな失敗をするようなものなら、ずっと前にバレている。

そう、本当は既に、中枢組織の中にずっと前から悪意が入り込んでいたことを。

近くにいるはずの彼の同僚ですら、それには気づかなかった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルトラマンネクサス

×

結城友奈は勇者である

-輝きの章-

 

〜完〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()は蠢いていた。

白色の袋のような身体に、触手と巨大な口のような器官が備わった、星屑と呼ばれるバーテックス。

それは次々と集まり、灼熱の大地に、星座型になる途中の状態の存在を、『成りかけ』。『バーテックス・モドキ』。『プロトスター』と呼ばれる存在を生み出した。

戦いは終わりを迎えたわけではなく、次に備えていく。敵は、無数に存在する。そんな平和など、長く続くはずもない。

そしてそこには、ペドレオン・グロースとバグバズンが復活を果たしていた。

そんな終わりしか見えない、すぐにでも敵が攻めて来るような敵しか存在しない生命を感じられない世界で---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()のバーテックスが四体、スペースビーストが二体……どうやらそれほど、()()()を天の神は許せない存在になってるらしい。いや、それ以前からだったか…より酷くはなってるみたいだけど」

 

一人の男が、その手に()()を持ちながら対峙していた。

スペースビーストもバーテックスも、その男を敵と認識しているのか。

威嚇をするように、スペースビーストが鳴き声を挙げる。

 

「託されたんだ、力も願いも想いも。多くの人から、光を受け継いだ。

---必ず叶えてみせるよ、君の夢を。()()()()()も俺が必ず果たす。それが約束、だもんな」

 

その手に持つ短剣は、本体が()()に染まっており、青いクリアパーツは()()に発光している。

赤いY字型の上に備わる半球体は()()に。

枝のような絵柄が追加され、()を思わせるように左右にブレードのように広がっていた。

 

「だから安心して見ててくれ。この世界は、絶対に終わらせたりはしない!行こう、ウルトラマン!」

『---もちろんだ、()()。共に戦おう』

 

いつも傍に、どんな時だって居てくれる。相棒(友達)の声に頼もしさを感じ、男は、()()()()が誰もが()と例えたように、こんな状況下でも笑顔を浮かべると、表情を引き締めて白銀の鞘を左手で持ち、左腰に構える。

そして。

 

『見せてやる!俺たちの光の絆!』

 

右腕で金色の本体を、()()()()()()()()を前方に引き抜き、左肩に当てるのと同時に右腕を伸ばし、エボルトラスターを空に掲げる。

その瞬間、灼熱の炎に包まれた世界を、黄金色の輝きが世界を照らした。

どこまでも眩い、優しさと強さを感じさせる光の輝き。

紡絆の姿は消え、その姿は少しずつ巨大な人型を形成していく。

 

『シュアッ!』

 

そうして死が広がる灼熱の世界に、()()()にて()()を宿す()()()()()()()()()に変身したウルトラマンネクサスが、スペースビーストとバーテックスを相手に独り---否。

二人で立ち向かっていった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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???の章
「■■■■■■■■■■■■■■」



お待たせしました。ブレーザーが前回総集編やってたのでこの作品も総集編です。
嘘です、偶然でした。
といっても総集編ではないんですけど、総集編回らしきものです。実際にはEX話(51.5話)になります。
ついでに新形態の名前のアンケ、どうぞ。最後は作者が決めますが参考にさせてください


 

 

 

◆◆◆

 

 第 ?? 話 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1:蜈峨?邯呎価閠

あれ、これでいいのかな……確かこうだったような…?あれ?間違えたかな?えー、と、えーと…あの、分かりますか?

 

 

2:名無しの転生者

うん?誰だ?

 

 

3:名無しの転生者

まさかイッチ…じゃあねぇよな、あれから二週間も音沙汰ないし

 

 

4:名無しの転生者

もしかして新しい転生者とか?

 

 

5:名無しの転生者

にしてはコテハンもIDもおかしくないか? IDは真っ黒だしコテハンに関しては文字化けしてる…

 

 

6:名無しの転生者

不具合じゃね?いうてこのパターンは見たことないけど、過去のイッチもバクってたからなあ

 

 

7:名無しの転生者

まぁ待てよ、とりあえず答えてやろうぜ

 

 

8:名無しの転生者

>>1

ちゃんと出来てるし見えてるよ。伝わってるから安心して

 

 

9:名無しの転生者

さては初心者だな?スレのことあんま分かってなさそう

 

 

10:蜈峨?邯呎価閠

す、れ…?あっ、ああ!はい!ごめんなさい、僕使ったことなくって、インターネットは触ったことあるんですけど……これ、考えたことがそのまま反映するんですね、すごい!

便利だなぁ〜

 

 

11:名無しの転生者

うーん初々しい!

 

 

12:名無しの転生者

なんつーか、あれだね、今回のイッチって素直というか……

 

 

13:名無しの転生者

俺たちが失った眩しさを前以上に感じる……

 

 

14:名無しの転生者

あれだ、純粋な感じが凄い出てるわ

 

 

15:名無しの転生者

俺らも昔はあったんやで……

 

 

16:名無しの転生者

くっ……!

 

 

17:名無しの転生者

おいやめろ

 

 

18:名無しの転生者

まるで俺たちが汚れてるかのような言い方はだな

 

 

19:名無しの転生者

事実なんだよなぁ

 

 

20:名無しの転生者

むしろどこが綺麗なんですかねえ

 

 

21:名無しの転生者

よろしい、ならば戦争だ

 

 

22:蜈峨?邯呎価閠

えっ、あっ、あの。あ、争うのは良くないと思うんです!ほら、話し合えば解決出来ることですし!もちろんどうしたって解決出来ないような……そんな、相手っています…けど

 

 

23:名無しの転生者

あー……

 

 

24:名無しの転生者

心配せんでもマジでやるわけじゃないから

 

 

25:名無しの転生者

なんて言えばいいか、まぁアレだよ。これも俺たちなりの会話みたいなもんだって

 

 

26:名無しの転生者

マジで初めてなんだな

 

 

27:名無しの転生者

にしてはイッチってかなり子供っぽくない? スレの存在も知らなかったみたいだし、触る機会がなかったのか。見る機会がなかったのか

 

 

28:名無しの転生者

どちらにせよ俺らは見習うべき

 

 

29:名無しの転生者

それはそう

 

 

30:名無しの転生者

気がついたら汚くなってるし猥談始めるし喧嘩してるからな

 

 

31:名無しの転生者

文章化されると割とダメージ受けるわ

 

 

32:名無しの転生者

やってる時は気にしてないけど改めて突きつけられるとなんか申し訳なくなる

 

 

33:名無しの転生者

ここでイッチの意見を聞いてみたい

 

 

34:名無しの転生者

確かに、どう思ってんだ?

 

 

35:蜈峨?邯呎価閠

あんまり分からないですけど、それぞれの意志は大切かな、と思います。みんなが楽しいならそれでいいですし、笑顔になれるなら何でも。それなら僕は良いと思いますよ。

ただ争いを見るのは好きじゃないですけど……

 

 

36:名無しの転生者

ふーむ…なるほどな?

 

 

37:名無しの転生者

ちょっと性格見えてきたな

 

 

38:名無しの転生者

一言で言うなら……やっぱりひとつしかないか

 

 

39:名無しの転生者

お人好しだな

 

 

40:名無しの転生者

多分、このイッチも人助けとかしてんだろうなぁ…

 

 

41:名無しの転生者

そして周りに怒られるやつ

 

 

42:名無しの転生者

いや、あれは正直ね…うん。最後の最後まで自分の命のこと考えてなかったし

 

 

43:名無しの転生者

そういやイッチって今何歳?やけに子供っぽいけど

 

 

44:名無しの転生者

いうて前のイッチも前世の年齢の割に中々子供だったような…

 

 

45:名無しの転生者

>>44

それは言ってやるな

 

 

46:蜈峨?邯呎価閠

年齢ですか?すみません、覚えてないんですけど……

 

 

47:名無しの転生者

覚えてない?自分の年齢を?

 

 

48:名無しの転生者

それだけ長生きした…ってコト!?

 

 

49:名無しの転生者

まさか人外転生説…?

 

 

50:名無しの転生者

いや待て、記憶喪失なのかもしれんぞ

 

 

51:名無しの転生者

記憶喪失でも年齢くらいは分かるのでは?

 

 

52:名無しの転生者

人によるんじゃね。家族居たり学生なら分かるだろうけど

 

 

53:蜈峨?邯呎価閠

えーっと…あっ、確か11歳です

 

 

54:名無しの転生者

ウッソォ!?

 

 

55:名無しの転生者

小学生じゃねーか!

 

 

56:名無しの転生者

まさかの真逆かよ!

 

 

57:名無しの転生者

つまりショタ…?

 

 

58:名無しの転生者

もしかして神様ってロリコンとショタコンしかいないのでは……

 

 

59:名無しの転生者

神様変態の集まりじゃん…

 

 

60:名無しの転生者

11ってことは…小学5か6年だよな…?

 

 

61:名無しの転生者

ぐへへ、一緒に気持ちいいことしない?

 

 

62:名無しの転生者

おい変なやついたぞ

 

 

63:名無しの転生者

>>61

つまみだせ

 

 

64:名無しの転生者

>>61

ギルティ

 

 

65:名無しの転生者

にしても、他にスレが立つならともかく同じってことは同じ世界だろ?この世界、割と詰んでるんですけど……

 

 

66:名無しの転生者

いやー小学生にそれはないだろ。一体何をしたらそんなもん背負わせようと出来んだよ。非人道的じゃん

 

 

67:名無しの転生者

イッチは怒っていいよ

 

 

68:蜈峨?邯呎価閠

えっと…その辺はどうでもいいんですが…

 

 

69:名無しの転生者

い、いやいや!

 

 

70:名無しの転生者

待て待て、何を言ってるか分かってる?

 

 

71:名無しの転生者

それめっちゃ大事だから!どうでもよくないことだから!

 

 

72:名無しの転生者

うわぁ、似たタイプすげぇ見覚えあるわ。なんなら二週間前まで普通に居たわ

 

 

73:名無しの転生者

この世界の転生者ってこういうやつが多いんか?

 

 

74:名無しの転生者

致命傷は何度も負うわ身体機能は失うわ敵は強くなる一方だわ一度世界終わりかけるわ敵は無数いるわ記憶は失うわ…その他色々でろくな世界じゃないんやで…?

 

 

75:名無しの転生者

改めて思うとエグいですね…

 

 

76:蜈峨?邯呎価閠

でも僕が頑張れば誰かが守れる。僕がやれば誰かの笑顔が守れる。僕がやるから誰かの日常を守れる。だったらそれでよくないですか?

 

 

77:名無しの転生者

覚悟ガンギマリしすぎでは…?

 

 

78:名無しの転生者

これが小学生ってマジで?一体どういう教育したらこんな人格出来上がるんだよ

 

 

79:名無しの転生者

割と大人顔負けな精神持ってるな…

 

 

80:名無しの転生者

だが、よくないと思うぞ

 

 

81:名無しの転生者

ああ、お前を大切に思う人もいるからな?失ったら悲しむ人だっている。前のイッチは一切気づいてなかったが…

 

 

82:名無しの転生者

あれはもはや鈍感の域を超えてる

 

 

83:名無しの転生者

そもそも自己が存在してないやつだったからな

 

 

84:名無しの転生者

それでも同じ行動させるわけにはいかんでしょ。特に小学生でそれは危うすぎる

 

 

85:名無しの転生者

そのまんま成長したらとんでもないことになるしな

 

 

86:名無しの転生者

というか、既に居ない人物に容赦ないのなんなん?

 

 

87:名無しの転生者

いや、だってさ。勇者部のみんなのことを考えろよ。普通に説教されても反論できない行動だったし

 

 

88:名無しの転生者

責任を取らなくちゃいけないことが多いからな…ちなみに俺もゆ゛る゛さ゛ん゛!!

 

 

89:蜈峨?邯呎価閠

あの、すみません…話変えちゃうようで申し訳ないんですけど、もし良かったらどんな人だったのか聞かせてもらえませんか?

ずっと気になっていたので

 

 

90:名無しの転生者

あーそれもそうか

 

 

91:名無しの転生者

知ってるはずないわな

 

 

92:名無しの転生者

つってもなぁ、正直毎回瀕死レベルのボロボロだったイメージが強い

 

 

93:名無しの転生者

バカではあったな

 

 

94:名無しの転生者

あと究極のお人好し

 

 

95:名無しの転生者

自分を簡単に捨てるヤツ

 

 

96:名無しの転生者

女たらし

 

 

97:名無しの転生者

すっげぇ鈍感だった

 

 

98:名無しの転生者

メンタルが(いい意味で)おかしかった

 

 

99:名無しの転生者

むっつり助平

 

 

100:名無しの転生者

子供

 

 

101:名無しの転生者

他人しか気にしないようなやつ

 

 

102:名無しの転生者

なんなら人間を遥かに超越するウルトラマンや神の集合体である神樹すら優先したり心配してた

 

 

103:名無しの転生者

独特な発想力もあったよな

 

 

104:名無しの転生者

よく太陽のような笑顔浮かべるね

 

 

105:名無しの転生者

月のように穏やかな優しさも持ち合わせてた

 

 

106:名無しの転生者

後は何があっても諦めるということをしなかった。何度やられても、例え世界が滅んでも、立ち上がって全部を取り戻してたよ

 

 

107:名無しの転生者

ちょっと詩人っぽいやつもいたが…まぁ、不思議なやつだったかな

 

 

108:名無しの転生者

いや、割と出るな

 

 

109:名無しの転生者

確かに。まだまだ浮かぶというか、途中から悪口言いたくなってくる

 

 

110:名無しの転生者

罵倒してる奴はいたけどな

 

 

111:名無しの転生者

結局んとこ、行き着く先は『光』みたいだったってところなんだよな。困ってる人や泣いてる人が居たら迷いなく助けて、笑顔の花を咲かせて、決して諦めない姿が多くの者に力を与えて救った。

確かにアホだしバカだし鈍感だし女たらしだし情報は渋るし人の心配を無碍にして突っ込むし何故かゼリーばかり食うし……それでもさ、眩しくて。

こんなやつがいたら暗い気持ちにはなれないなって思わせる何かがあった

 

 

112:蜈峨?邯呎価閠

ふむふむ……なるほど、皆さんにとってその方は大切な方だったってことなんですね。ここは世界が繋がってないから直接会うことは出来ないって知ってます。それなのにそんなに想って、心配するなんて

 

 

113:名無しの転生者

本人には言いたくは無いが……まー否定はしない

 

 

114:名無しの転生者

なんだかんだ面白かったしな。俺達には理解できない行動したりするし、たまにイチャイチャしてる場面を見せられて砂糖吐きたかったけど

 

 

115:名無しの転生者

それに、その世界には必要な人材ってのは間違いないよ。もし居なかったら勇者たちは負けて世界は滅んでたかもしれない

 

 

116:名無しの転生者

精神的なバフが半端ないからな……

 

 

117:名無しの転生者

居るだけで安心感もあったけどね、最初なんてアンファンスでありながらジュネッスくらいの力を引き出してたし、最後には奇跡を実現するような形態になってたし

 

 

118:名無しの転生者

最初だけなんですけどね。実際には戦う度にボロボロになって生死を彷徨うことがあったりで、肉体が持ってなかったというのもある

 

 

119:名無しの転生者

ただな……スレは一向に立たない。返事もない。全てのスレが削除されている。前のイッチは自ら消すことなんてしなかったから、強制的に全て消されたってことだ

 

 

120:名無しの転生者

生きてる可能性が限りなく低いし、新しい転生者が来たなら死んだってことだろ。今更クソ神が追加するなんて思えんし

 

 

121:名無しの転生者

俺らにできることはないからな

 

 

122:蜈峨?邯呎価閠

そうですか……じゃあひとつお願いがあるんですけど、その人が歩んだ歴史を教えてくれませんか?皆さんは見てきたんですよね、もっと知りたくなったんです

 

 

123:名無しの転生者

それはいいが、面白いとは思えんぞ

 

 

124:名無しの転生者

ある程度なら伝えられるけど…でも知ってどうすんの?

 

 

125:名無しの転生者

何か得られるもんでもあるかねぇ

 

 

126:名無しの転生者

どうやろ、映像があれば別だけど覚えてることを伝えるだけなら難しいよな

 

 

127:名無しの転生者

あくまで言葉で伝えることになるからな。とりまなんかこう、感想みたいな感じでええんちゃうん?

ちゃんと内容を入れ込んで

 

 

128:名無しの転生者

そうするしかないか

 

 

129:名無しの転生者

じゃあウルトラマンらしくあれだな、アレで行こう

 

 

130:名無しの転生者

アレね、アレか!アレかぁ……アレ?

 

 

131:名無しの転生者

アレとは

 

 

132:名無しの転生者

誰も理解してなくて草

わからん

 

 

133:名無しの転生者

そもそもイッチはなんでそんな興味津々なん?

 

 

134:名無しの転生者

ふつーはそこまで掘り下げようとせんしな

 

 

135:名無しの転生者

そーいや理由までは聞いてなかったな

 

 

136:名無しの転生者

マジで面白い話じゃなくて笑えない話だからな…難が去ったことなかったし、なんなら一瞬減っても増えることしか無かったわ

 

 

137:蜈峨?邯呎価閠

ええっと……あんまり声を大きくして言うようなことじゃないと思うんですが……僕、実はヒーローものが大好きなんです。誰かの笑顔とか、守りたいものを守るために辛くても、傷付いても立ち上がって戦う姿がかっこいいなあって。だから知りたいんです。その人の生き様を

 

 

138:名無しの転生者

あー…別にいいんじゃねぇの?

 

 

139:名無しの転生者

好きじゃないなら俺らですらウルトラマンとか知らないよ

 

 

140:名無しの転生者

年齢なんて関係ない。好きなら好きでいいんだよ。大事なのは愛だからな

 

 

141:名無しの転生者

どちらにせよ、イッチがその世界で生きるなら前のイッチの話は必要だからな

 

 

142:名無しの転生者

と言っても知らない部分は知らんけどな

 

 

143:名無しの転生者

知ってるのはイッチが前世の記憶を(ちょっとだけ)思い出して転生者掲示板の存在を知ってからだもんな。それまでスレッドがなかったから流石に知らん

 

 

144:名無しの転生者

とりあえずそこから話すか

 

 

145:名無しの転生者

アレらしく行くかー

 

 

146:名無しの転生者

だからアレってなんだよ

 

 

147:名無しの転生者

アレか。ウルトラマン好きなら分かるんじゃね?

 

 

148:名無しの転生者

ああアレね

 

 

 

149:名無しの転生者

アレはアレしかないか

 

 

150:名無しの転生者

ウルトラシリーズを終わらせることなく続けてくれた例のアレだな

 

 

151:名無しの転生者

列伝!行くぞー!

 

 

152:名無しの転生者

どちらかというとクロニクルだな!

 

 

153:名無しの転生者

イメージとしてはそうだよな オデッセイだよ

 

 

154:名無しの転生者

統一感ねぇ!!

 

 

155:名無しの転生者

んまウルトラマンネクサス The・CHRONICLE N&Bといったところかな

 

 

156:名無しの転生者

勇者とネクサスってことね、把握

 

 

157:名無しの転生者

ついでだしネクサスの分もやるか

 

 

158:名無しの転生者

これは長丁場になりそう

 

 

159:蜈峨?邯呎価閠

大歓迎ですよーウルトラマンの歴史も知れるのは嬉しいです。僕は皆さんのようにウルトラマンを知りませんから

 

 

160:名無しの転生者

さすがに端折るが、重要な部分は全部やるっきゃねぇな

 

 

161:名無しの転生者

さて、じゃあやる前に…情報二キー!

 

 

162:名無しの転生者

カモン!カモンカモン!

 

 

163:名無しの転生者

多分見てるだろ、俺は信じてるぞ!

 

 

164:名無しの転生者

他人任せじゃねーか!

よし、俺は今からネクサスのCOMPLETE DVD-BOX見ながら伝えるわ

 

 

165:名無しの転生者

じゃあ俺は北米版で

 

 

166:名無しの転生者

じゃあ俺はセブン見るから…

 

 

167:名無しの転生者

俺はティガにするかな

 

 

168:名無しの転生者

あっ、俺オーブにする

 

 

169:名無しの転生者

メビウスでも見るか

 

 

170:名無しの転生者

コスモスで

 

 

171:名無しの転生者

名作ばっかじゃねーか!俺は当時録画してたナイス見るんで

 

 

172:名無しの転生者

CMで草 サブスクで見ろ()

 

 

173:情報二キ

ツッコミ不足すぎる…ひとまずその世界は本編終了後から分岐した世界っぽいから本編から行こうか

 

 

174:名無しの転生者

いやいや、マジでやんの?

 

 

175:名無しの転生者

39話分かぁ

 

 

176:名無しの転生者

世界によってはない人いるんだけど、どうすりゃええのん?うちんとこ似たシリーズはあるけど、ネクサスそのものはないんだけど

 

 

177:名無しの転生者

諦めろ

 

 

178:名無しの転生者

覚えてる部分でいいんじゃね?

 

 

179:名無しの転生者

いうて博識ニキたちが何とかしてくれる

 

 

180:名無しの転生者

映像出せたら楽なんだけどなー

 

 

181:名無しの転生者

それは結局39話分視聴させるだけやんけ

 

 

182:名無しの転生者

言ってても終わらんしな

 

 

183:名無しの転生者

必要な知識分だけで良いでしょ

 

 

184:名無しの転生者

ぶっちゃけただの自己満だしね

 

 

185:名無しの転生者

そもそもイッチはええんか?

 

 

186:蜈峨?邯呎価閠

いくらでもドンと来いです!時間は気にしなくていいので!

 

 

187:名無しの転生者

心配するだけ損っぽいですね…

 

 

188:名無しの転生者

しゃあない

 

 

189:名無しの転生者

俺らもついでに予習といくか

 

 

190:名無しの転生者

中々難しそうだが…

 

 

191:名無しの転生者

いけるいける

 

 

192:名無しの転生者

(適当)

 

 

193:名無しの転生者

(ファミチキください)

 

 

194:名無しの転生者

(ポップコーンとコーラ用意しなきゃ)

 

 

195:名無しの転生者

(直接脳内に!?)

 

 

196:名無しの転生者

行くゾー!

 

 

197:名無しの転生者

まず世界観は独立している。

ファンからはNワールドとして扱われていて、従来のウルトラ戦士は誰も登場しない

 

 

198:名無しの転生者

テーマはNEXUS TRINITY(三つの連鎖) ULTRA N PROJECTの第三弾

 

 

199:名無しの転生者

主人公である山岳救助(レスキュー)隊員の孤門一輝はある日、非公然防衛組織TLTへの配属を突如として命じられる。

 

そこへ向かう途中、彼は謎の怪物ペドレオンに襲われる。それは最近頻発していた行方不明事件の真相、人々を襲って喰らうスペースビーストと呼ばれる凶悪な宇宙生命体の攻撃だった。孤門が諦めかけたその時「諦めるな!!」という言葉と共に、降臨した赤い光から銀色の巨人が現れて怪物を叩き潰し、孤門を救った。

 

その後、TLTの実働攻撃部隊ナイトレイダーへ入隊した孤門は、非情とも思えるような組織の姿と事件に関わった人々の記憶を消すやり方に困惑しながらも、ビーストの脅威から人々を守るべく、銀色の巨人であるウルトラマンネクサスを信じて戦っていくってのがあらすじ。

ここからウルトラシリーズの中でも例を見ないハードかつシリアスな重苦しいものでストーリーが進んでいく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

580:名無しの転生者

そうしてついにウルトラマンネクサスは本来の力である『ウルトラマンノア』と呼ばれる姿を取り戻し、ダークザギの脅威から地球を守った、とさ

 

 

581:名無しの転生者

そこから先は来訪者の星でのダークザギ誕生の過ちを繰り返さないためか、世界中に出現したスペースビーストの殲滅には乗り出さず、その後は孤門の中で人々の希望を信じて事態を静観していたらしい。

そして本編から3年後、新たな闇の巨人・ダークルシフェルの出現し、ノアが再び立ち上がる…で終わってるが、後々客演が度々あることから無事に打ち勝ったと思われる

 

 

582:名無しの転生者

おっわったああああああ!!

 

 

583:名無しの転生者

マジでやるとは思わねーよ!なんスレ目だよ!

 

 

584:名無しの転生者

39話分を語るには…さすがに30では足らなかったな?

 

 

585:名無しの転生者

45スレ目です(白目)

 

 

586:名無しの転生者

誰が一日で語れと……

 

 

587:名無しの転生者

完全記憶能力持ってるやつ絶対いるでしょ。セリフ完コピしててビビったわ

 

 

588:名無しの転生者

話数以上になってるんですがそれは

 

 

589:名無しの転生者

そりゃあ途中で豆知識入れたりしたらそうなるわ

 

 

590:蜈峨?邯呎価閠

なるほど……デュナミスト達が命を懸けて希望を見出し、絆を紡いでいったからこそ、ハッピーエンドを迎えたんですね。

幾人もの人間が関わり合い、束ねられた絆の光や、闘いを見守っていた人々がウルトラマンの記憶を取り戻し、諦めなかったからこそ、ウルトラマンが想いに応えた……うん、悲しくて辛くて、苦しいお話はありましたけど、それを乗り越えたからこそ、ヒーローになったんですね。僕、好きになりました!映像がないのが残念で仕方がないですけど…それでも感動できる場面もあって、共感できる部分もあって、不思議と魅力があるお話でした

 

 

591:名無しの転生者

イッチはめっちゃ真剣だった……

 

 

592:名無しの転生者

良く集中力途切れんかったな…こっちが疲れたんだけど

 

 

593:名無しの転生者

まぁ…イッチは39話分の内容を話してる間も受け答えしてたからな

 

 

594:名無しの転生者

体力おばけかよ…

 

 

595:蜈峨?邯呎価閠

次はこの世界にいた人のことを教えてくれるんですよね、どんな物語を紡いでいったのか気になります!

勇者たちと共に歩んだ人の歴史が知れるってことですもんね!

 

 

596:名無しの転生者

嘘やん、やだこの子つよい

 

 

597:名無しの転生者

小学生でネクサスは中々きついと思うんだがなぁ……

 

 

598:名無しの転生者

おら覚悟決めるぞ

 

 

599:名無しの転生者

付き合ってやるよ、最後までな……!!(一週間徹夜)

 

 

600:名無しの転生者

時間軸が違いすぎる……(1ヶ月徹夜)

 

 

601:名無しの転生者

こっちでは三日だがイッチの世界では何日経ってるやら…

 

 

602:名無しの転生者

>>559 >>600

お前らは休め

 

 

603:名無しの転生者

明らかに人間じゃないやついましたね

 

 

604:蜈峨?邯呎価閠

どうなんですかね〜時間に関しては僕は分かりません。 外が見えないですし…体感的には数日経ってますが

 

 

605:名無しの転生者

外が見えないってことはどっか別んとこいるってわけか

 

 

606:名無しの転生者

とにかくラストパート行くか

 

 

607:名無しの転生者

ここから先は原作の存在しない、その世界に生きていたやつが紡いだ物語だからな

 

 

608:名無しの転生者

一体どれだけスレが増えるやら

何はともあれ、やるぞ

 

 

609:名無しの転生者

勇者とウルトラマンが主役の物語!

はっじまるよー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

60:名無しの転生者

もう無理ぽ……

 

 

61:名無しの転生者

お疲れ様でしたー!おやすみー!!

 

 

62:名無しの転生者

長かった!もうやらん!!

 

 

63:名無しの転生者

結局倍くらいになりましたね……

 

 

64:名無しの転生者

途中から愚痴も入ってたからなぁ…思い返すと愚痴が増えたわ

 

 

65:名無しの転生者

死人に対しての扱いよ

 

 

66:名無しの転生者

生きてるとは思いたいが……あの爆発の中生きてるのは流石にないだろうしね

 

 

67:名無しの転生者

隔離する世界を九つ作った上に神樹が樹海を解除したから何とかなったが、全てギリギリだったからな。

中心にいたウルトラマンとメフィストは間違いなく消滅したと思われる

 

 

68:名無しの転生者

で、どうよイッチ。俺らに気持ち分かるだろ?

 

 

69:名無しの転生者

あの自己の存在しないくせに他人しか気にしないクソバカヤローのことをさ

 

 

70:蜈峨?邯呎価閠

あはは……確かに結末としては『不幸な結末』なのでアレですけど……その人の気持ちも確かに分かります。

僕だって同じ選択を迫られたら、自分が死んででも世界と大切な人たちを守りますから

 

 

71:名無しの転生者

そういやこのイッチも同じタイプだったわ…

 

 

72:名無しの転生者

聞く相手を間違えたぜ

 

 

73:名無しの転生者

まぁ、結局はさ。

こんなふうに勇者は身体機能を失って、前のイッチは左半身を全て捧げて、『奇跡』を起こしたお陰で世界は守られたってわけよ。

ただ代償がデカすぎるけどな

 

 

74:名無しの転生者

外の世界には未だバーテックスやスペースビーストは無数に生きてる。だからイッチがこの世界に派遣されたんじゃない?

 

 

75:名無しの転生者

正直なかなか厳しいと思うけど、頼まれたからな。可能な限り全面的にバックアップはするぞ

 

 

76:名無しの転生者

知識を貸すことしか出来ないけどねぇ。せめてそっちの宇宙のウルトラマンに応援を頼めたらな…

 

 

77:蜈峨?邯呎価閠

でも僕は……せん

 

 

78:名無しの転生者

ん?

 

 

79:名無しの転生者

どうした?

 

 

80:名無しの転生者

せんべい?

 

 

81:名無しの転生者

線?1000?戦?

 

 

82:蜈峨?邯呎価閠

えっと…なんか、嫌です

 

 

83:名無しの転生者

いやって言われてもな

 

 

84:名無しの転生者

どうした、藪から棒に

 

 

85:名無しの転生者

なんか雰囲気変わってねーか?

 

 

86:名無しの転生者

俺らに出来ることはマジでないんだぞ?

 

 

87:名無しの転生者

これからの世界はお前が守らなくちゃいけないんだし

 

 

88:蜈峨?邯呎価閠

そうじゃありません。

話を聞いていたら、彼が世界を守れたのは皆さんが『信じた』結果です。誰かが欠けていたら、辿り着けなかったと思います。

なのに今じゃ、大半の方が諦めたように見えるんです。無論信じてる人もいるみたいですけど…それが僕は嫌です

 

 

89:名無しの転生者

そう言われてもねぇ

 

 

90:名無しの転生者

ここにアクセスするのは生きてる限り可能だ。ウルトラマンと一体化する時見たく特殊空間とかでは無理みたいだけど、だいたいは可能にできる。

でも連絡が一切ないんだぞ?あれから一ヶ月は経ってる

 

 

91:名無しの転生者

イッチの世界でも恐らく三週間くらいは経ってるだろ。知らんけど

 

 

92:名無しの転生者

少なくとも日数を数えると最低限それくらいは経ってる。多分秋になってるんじゃないか?

 

 

93:名無しの転生者

そう考えると生存は不可能だよな…仮に生きてても何処にいるか分からないし、仮に現実世界に戻ってなかったら飯もなければ水もないから生きれん

 

 

94:名無しの転生者

理屈じゃどう考えても無理なんだ。現実を見る必要がある

 

 

95:名無しの転生者

小学生のイッチにこういうのは酷だろうけど、どうにならないものはならないんだ

 

 

96:名無しの転生者

そりゃ俺らも認めたくないけどな。あいつがいなくなれば勇者部のみんながどうなるか分からないし

 

 

97:名無しの転生者

少なくとも悲しませるだろうね

 

 

98:名無しの転生者

だろーな。残念だけど、諦めるしかないんだ

 

 

99:名無しの転生者

そうそう、それこそとびっきりの奇跡ってやつが起こらん限り無理でしょ

 

 

100:名無しの転生者

その奇跡を起こせる相手がいないんだけとね…

 

 

101:名無しの転生者

前のイッチが生きてたなら可能だったかもな

 

 

102:蜈峨?邯呎価閠

じゃあ起こしましょうか。その奇跡を。

そのために信じてください。その未来を。少しでも希望があるなら、信じ続ければきっと叶います。

それに皆さんのおかげで必要なものは揃いました

 

 

103:名無しの転生者

どういうことだ?

 

 

104:名無しの転生者

必要なもの?

 

 

105:名無しの転生者

俺らがしたのはウルトラマンや前のイッチの歴史を語ったくらいだが……

 

 

106:名無しの転生者

待て、そもそも勝手にそうだと決めつけていたが、本当に転生者か?スレの存在も知らない、IDも設定出来る名前もバグってる。

それでいてウルトラマンの存在を知らないくせに、驚くことは無かった。それに何故勇者の存在を知っていた?

 

 

107:名無しの転生者

え、つーことは…何?イッチの掲示板を勝手に誰かが使ってるってこと!?

 

 

108:名無しの転生者

そんなことが可能なのか?

 

 

109:名無しの転生者

いや、分からん。あんまり例はないが、転生者の魂と同質か、それとも結びついてるなら可能だと思うけど

 

 

110:名無しの転生者

でも何かを企んでるって訳ではないんだよな、考えてることがそのまま文章化されるんだから

 

 

111:名無しの転生者

なら、信じるべきなのか?

 

 

112:名無しの転生者

でも信じたって何がある?神でもなんでもない存在に、人の蘇生など不可能なはずだ。その世界は命の概念が軽くなってたりしないし…なってたら自分の手で殺すことになった母親を救ってるだろ

 

 

113:名無しの転生者

それもそうなんだよな…おいおい、ますます分からんぞ

 

 

114:名無しの転生者

一体何者だ?

 

 

115:名無しの転生者

イッチ、教えてくれ。本当にお前は転生者か?味方か?

 

 

116:名無しの転生者

何が目的なんだ?

 

 

117:蜈峨?邯呎価閠

すみませんがそれは『制限』の影響で答えられません。でもすぐ分かるかと。

ただ言えるのは今僕に必要なのは力です。僕だけの想いの力ではなんにもなりません。さすがに根性ではどうにもなりませんでした。

でも、ここなら別ですよね?ここは色んな世界に繋がってる。僕の世界のみんなが願えば可能かもしれませんけど、戦いの結末や存在を知ってる人はほぼ居ません。それは神樹様から聞きました。

ですから僕は考えたんです、他の世界から集めたら、何とかなるんじゃないかって。

もちろん皆さんに何か悪影響があるってわけでもありませんし、願うだけで構いません。後は神樹様が僕を通して皆さんが持つ彼の記憶などを拾い上げてくれますから

 

 

118:名無しの転生者

神樹を通して?ますます何者だよ…ただの小学生ってわけではないよな

 

 

119:名無しの転生者

信じるか信じないか……ね。信じて奇跡が起きることを願うか、信じずに疑うだけ疑って否定するか…二択か

 

 

120:名無しの転生者

仮に信じたとして……出来るのか?

 

 

121:名無しの転生者

いや、必要なもんは揃ったって言ってた

 

 

122:名無しの転生者

正直知らない人を信じちゃいけませんって母ちゃんから習ったんだけど

 

 

123:名無しの転生者

が、逆を言えば信じる価値は今までの行動からあるってわけだ。

文から察するに、本当は戦いの全てを知ってたんじゃないか?ウルトラマンの歴史は知らなくとも、ウルトラマンと勇者の戦いは知ってたんだと俺は思ったな

 

 

124:名無しの転生者

なるほど、つまりわざとだったってわけか?

 

 

125:名無しの転生者

信用を少しでも勝ち取るために話題を使った、ってこと?ちょっとでも親しくなるために。

しかも俺たちに信頼されるために違和感のない理由もつけて?

 

 

126:名無しの転生者

いや、食えねぇやつだなおい。それが事実ならまんまと引っかかったぞ

 

 

127:名無しの転生者

まぁ、前のイッチ同様お人好しつーか嘘が苦手そうなタイプ。真っ直ぐな感じではあったよな、ずっと

 

 

128:名無しの転生者

思ってることがそのまんま出てるって感じ

 

 

129:名無しの転生者

なら信じる価値はある、か。そもそも信じるか信じないか、なら信じないメリットがない。

信じるだけでいいなら安いもんだろ

 

 

130:名無しの転生者

俺たちに影響はないって言ってるもんな。もちろんそれがブラフの可能性もある。イッチは自分の存在を小学生であることと年齢以外話してないからな

 

 

131:名無しの転生者

ただ神樹って神の集合体だろ。その神がイッチに力を貸すってことはイッチが『潔白』ってことだ。悪意持つものに力を貸すはずがない…と信じたい。『無垢な少女』にだけ力を貸すロリコン神を信じるかは微妙だけど

 

 

132:名無しの転生者

そう言ってしまえばいくらでも浮かんでしまうけどな

 

 

133:名無しの転生者

…だぁああ!めんど!考えるのめんど!

 

 

134:名無しの転生者

それは思った

 

 

135:名無しの転生者

おいイッチ!本当にそれだけでいいんだな!?

 

 

136:蜈峨?邯呎価閠

はい、僕は神樹様を通して勇者と『彼』の戦いは全部見てきました。

ただ見るのと聞くのじゃ違うので純粋に皆さんの思いを聞きたかったのもあります。

 

そして必要なのは世界の理を壊すことが出来る『想い』です。本当は僕一人の力でやれたらいいんですけどね……本音を零していいなら僕は不幸な結末よりも幸せな結末の方が好きなので。ヒーローの作品にはやっぱりハッピーエンドがお似合いですから!

 

 

137:名無しの転生者

そうか……嘘ではなさそうだな。この場面で嘘ついたって俺らがやらないだけだし

 

 

138:名無しの転生者

やってみる価値はある、か……つまりあのバカが生き返ることを願えばいいってことだろ

 

 

139:名無しの転生者

都合よく行くとは思わないが……まっ、メリットしかないな

 

 

140:名無しの転生者

もし上手くいったら殺れるな!

 

 

141:名無しの転生者

ああ、そうだった。一度殺らないといけないんだった

 

 

142:名無しの転生者

とりあえず百合の間に挟まった罪と勇者部のみんなを傷つけた罪かな

 

 

143:名無しの転生者

そうと決まればヤるしかないな

 

 

144:名無しの転生者

雑念入り込んでるぞ、追い出せ

 

 

145:名無しの転生者

なんで度々ヤろうとするやつが出てくるんですかねぇ……?

 

 

146:名無しの転生者

知らんがな。まあ…貸しを一つってことで、やってやろうじゃん

 

 

147:名無しの転生者

ソシャゲの最高レアだったりサインを当たるように願う気持ちでやればいいな

 

 

148:名無しの転生者

得意分野やん!

 

 

149:名無しの転生者

そうか!なら任せろ!

 

 

150:名無しの転生者

やるだけやってみるか!

 

 

151:名無しの転生者

気がつけば諦めるっていう思いがなくなったな

 

 

152:名無しの転生者

なんというか、前のイッチみたいだわ

 

 

153:名無しの転生者

確かに

 

 

154:名無しの転生者

実際にどうなるかまでは分からんが……

 

 

155:名無しの転生者

賭けてみる価値はあるぜ

 

 

156:名無しの転生者

イメージとしてはステージにあるウルトラチャージだな!

 

 

157:名無しの転生者

とりあえずそれぞれイメージが出来るのでいいでしょ

 

 

158:名無しの転生者

よし、行くゾ〜!

 

 

159:蜈峨?邯呎価閠

良かった……ありがとうございます!

それと最期に…短い間でしたけど皆さんと話せて良かったです。知らないヒーローの物語を知れました。お陰でもっと理解出来たと思います。

これでようやく、僕の生きていた理由が果たせると思います!

 

 

160:名無しの転生者

えっ

 

 

161:名無しの転生者

ちょ、まっ

 

 

162:名無しの転生者

おま、最期!?最期って言ったか!?

 

 

163:名無しの転生者

待て待て待て、ということはもしかして…イッチが代わりに死ぬってこと!?

 

 

164:名無しの転生者

えっ、待って。どうすんの!?あれ、なんか光が体の中から出てきたんだけど

 

 

165:名無しの転生者

あっ、体の中から飛んでったわ

 

 

166:名無しの転生者

これが想いの力かあ…いやこわっ!?特に影響ないみたいだけどこえーよ!

 

 

167:名無しの転生者

あー!あー!違います違います!俺ウルトラマンじゃありません!この光はなんか勝手に出たんです!ウルトラマンはそこにいる若いルーキーなんですぅー!僕知ってますぅー!

ってかお前ウルトラマンでしょーが!そこで天然発動すんなぁあああああ!!

 

 

168:名無しの転生者

ああっ!やばい!怪獣の目が向いたんですけどー!?

 

 

169:名無しの転生者

ちょっと待て、スレがカオスになりつつあるというか被害出てんじゃねーか!

 

 

170:名無しの転生者

というかなんでイッチもイッチで大事なこと言ってなかったんだよ!お前も同じタイプじゃん!いい加減にしろよお前らァ!!どんだけ人を引っ掻き回せば気が済むんだよ!?

 

 

171:名無しの転生者

あっ、おい待てぃ!カオスヘッダー!カオスヘッダーがくるぅ!

 

 

172:名無しの転生者

あーあー!行けませんお客様!(明らか修正前の)マグマレッドキングはまずいですよ!

 

 

173:名無しの転生者

なんか割とハードな世界に転生してるやついるんだが!?

 

 

174:名無しの転生者

えっ、ちょっと待て。なんでこいつ居んの?シルバーブルーメやん!これ!やばい、やばーい!って、時期的に円盤シリーズだ!!

 

 

175:蜈峨?邯呎価閠

あっ、すみません、ちょっと彼の力を利用してるので光という形で想いの力を具現化してます。一部しか僕には扱えないので、脅威を打ち払う力はありませんけど…というかこうしないと神樹様が回収出来なくって……その代わり神樹様の加護が一日くらいは僅かに付与されるので、身を守ることに関しては大丈夫です。ゲームのようなステータスで表現すると、加護(小)みたいな。

思わず忘れてました、えへへ

 

 

176:名無しの転生者

うーんかわいい!じゃねーよ!

 

 

177:名無しの転生者

わぁ!本当だぁー!傷一つつかなーい……めっちゃ怖いんですけどォ!?

 

 

178:名無しの転生者

勇者たちの気分を味わえるよ!やったね、○○ちゃん!

 

 

179:名無しの転生者

おいバカやめろ

 

 

180:名無しの転生者

なんというか、土壇場で覚醒した主人公みたいだ(障壁で守られてる)

 

 

181:名無しの転生者

怪獣の攻撃すら防げるって神樹様すげー!

 

 

182:名無しの転生者

感動的な別れのシーンにしたのに防がれたんだが。これじゃ曇らせ出来へんやんけ!

 

 

183:名無しの転生者

やっぱ神樹様なんだよなぁ(手のひら返し)

 

 

184:名無しの転生者

むしろドリル

 

 

185:名無しの転生者

全くもードジっ子なんだからーってならねぇからな?

 

 

186:名無しの転生者

そもそも次元や時空を超えて回収出来る部分に誰か突っ込まんの?

 

 

187:名無しの転生者

いやーノア様と神樹様の力考えたらいけるでしょ

 

 

188:名無しの転生者

時間の巻き戻しをしてたしな。恐らく神樹様が樹海化する時の時間停止と四国結界という空間の応用技だろ

 

 

189:名無しの転生者

若干ノア様の力は使ってそうだけどな

 

 

190:名無しの転生者

流石チートだぜ!

 

 

191:名無しの転生者

というかイッチが死ぬのでは?

 

 

192:名無しの転生者

あっ

 

 

193:名無しの転生者

 

 

194:名無しの転生者

忘れてた

 

 

195:名無しの転生者

そういやそうじゃん!

 

 

196:名無しの転生者

いやほんとさぁ、なんで大事なこと話さんの?おかしくね?なんなん?お前らマジで何なんだよ!

 

 

197:名無しの転生者

その世界に転生した奴らはどいつもこいつも自分を犠牲にすることしか脳がないのか?

 

 

198:名無しの転生者

今いるイッチは転生者か怪しいけどな

 

 

199:名無しの転生者

というかマジで返事返って来ないんだけど……

 

 

200:名無しの転生者

おいおい、本当に成功したのか?

 

 

201:名無しの転生者

でも光がどっかに飛んでったしなぁ(無数の蝗に襲われてる)

 

 

202:名無しの転生者

そうだよなぁ(研究所でダダに縮小光線撃たれてる)

 

 

203:名無しの転生者

どーしたらいいんだろうねぇ(ギャオスに襲われてる)

 

 

204:名無しの転生者

まずお前らは自分をどうにかしろ

 

 

205:名無しの転生者

イッチのお陰で助かってよかったね……

 

 

206:名無しの転生者

いやーMP使わなくて突破出来るなんて素晴らしいぜ

 

 

207:名無しの転生者

何気に死ぬ寸前だったやつらいるのなんでだよ

 

 

208:名無しの転生者

おん?映像が……ついた?

 

 

209:名無しの転生者

こ、これは……さてはホラー展開!?こわい!

 

 

210:名無しの転生者

真っ暗じゃねーか!

 

 

211:名無しの転生者

待て待て、なんか雲行きが怪しく……ん?は?

 

 

212:名無しの転生者

えっ、嘘だろ?

 

 

213:名無しの転生者

まさかここって……!

 

 

214:名無しの転生者

エスメラルダ鉱石…!?いや、ちょっと違う…ってそこで映像途切れるんかーい!気になるじゃんかよー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処かの遺跡。

いや、それは神殿、というべきだろう。

緑色に輝く、宝石のように綺麗な神を祀るための場所。周りには鉱石が埋まっている。

そんな神殿だけが存在し、空は青空で所々に綿菓子のような雲が浮かんでいた。

だがその他の周囲は全て色褪せたように灰色の世界。

明らかに異質なものとして神殿のみが存在しており、そんな異常ともいえる世界に一人の男が倒れていた。

身長はだいたい156cmあるかないか。男が童顔というのもあるが、容姿から見て取れるのは黒髪の中学生ほど。

ただ服装は服装と言えないほどにボロボロであり、破れたり切れてたりする。

 

「ん……?」

 

男が目を覚ましたのか、ゆっくりと起き上がると周囲を見渡す。

どこもかしこも色のない灰色の世界。相変わらず神殿だけは存在するが、特別他になにかあるわけではない。

 

「ここは…?俺は確か……なんで…?」

 

その男には記憶がなかった。

正確に言うならば、()()()()最後の記憶までしかなかった。

何故ここに来たのか、男は知らない。

彼が知っているのは、最後の戦い。

太陽の中へ突っ込み、次元をも壊しかねない黒い太陽を壊すべく、全身全霊の拳を叩きつけて黒い太陽のエネルギーを破壊したところまでである。

 

「何も感じられない……」

 

胸に手をやり、困惑した表情を浮かべる。

『転生者』だからこそ使える物も、自身の力の源であり大切な友人である『ウルトラマン』の存在も、何も無い。

それどころかどういうことか、胸に手をやったからこそ男は気づけたが、()()()()()()()()()

 

「……まぁいいや」

 

思考を放棄した男は、その場で寝転ぶ。

この空間が死後の世界かもしれないし夢を見てるかもしれない。

目の前に存在していた神殿を考えれば、前者か。

どちらにせよ、男は満足だった。

 

「みんな元気かなぁ……約束いっぱいあったのにな…守れなかったなぁ。いつも、そうだったっけ……あの時も、守れなかったもんな」

 

今世では約束を何個も破ってしまった。

だが男に存在する『前世の記憶』では約束を果たす前に、『殺された』。

違う点と言えば殺された前世と違い、今回は自分の意思で、自分がやりたいからこそ、命を使い果たした。

そのお陰で、申し訳ない気持ちはあっても後悔はなかった。

 

「幽霊って未練がなかったら成仏するんだっけ……けど、まぁ…ちょっと休もう……かな」

 

別に嫌とかやりたくないとか今更思わない。

男は自分がやりたくてしてきた。

何度も戦った。何度も傷ついた。何度も死にかけた。何度も苦しんだ。それでも何度だって立ち上がった。

記憶は失ったし、体中は傷だらけになったし、時に腹に風穴が空いたことだってある。時には毒に侵され、時には体が麻痺して、時には皮膚が爛れて、時には身体機能すら失い、最終的には左半身の機能は全て消滅した。

はっきりいって、中学生の肉体とは思えないほどに酷くて、あまりにも惨い状態だろう。あまりにも過酷な人生だろう。

端的に言えば、男は疲れたのだ。

今までの日々は楽しかったが、あまりに酷使しすぎた。守りたいものが多くて、だから負けられなくて。

命を燃やしてでも守りたかった。

這いつくばってもがいてもがいてどんな絆も強さに変えてまた立ち上がり続けた。

それが遥か続く光の軌跡を受け継いだ者としての役割で、自分がやりたいことだったから。

もう頑張った。

役目を果たした。

男はもう休んだって、許されるはずだ。誰も責めやしないだろう。

だから男はほんの少し、抗うことをやめて従うことにした。

目を閉じれば、意識は闇に溶けていく---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「---それは困ります。起きてください、本当に死にますよ」

「……っ?」

 

何処からか聞こえてきた声が、()()()()()()が男の意識を引きずり出す。

鮮明になる視界で体を起こした男は、頭を抑えながら首を振るとゆっくりと見上げる。

そこには---

 

「……は?」

「おはようございます、■■■■さん。そしてお久しぶりです……いえ、()()とは初めまして、と言うべきでしょうか?継受紡絆さん」

 

信じられないものでも見たかのように、男---紡絆の表情は驚きに染まっている。

そんな紡絆を気にすることなく、紡絆の目の前にいる一人の人物---黒髪の少年は挨拶をしていた。

明らかに紡絆のことを知っている。それに何も無かった空間には机と椅子が用意されていて、少年は対面になる位置の椅子に座りながら紡絆を見ていた。

 

「き、みは………」

 

だがそんな挨拶すら返す余裕すらなく、唯一紡絆に出来たのは、絞り出すような声を出すことだけだった。

 

「はい、お察しの通りです。僕は貴方---遡月陽灯です。()()()()()ですよ」

 

そうして、心を読んだようにそう名乗った少年---遡月(さかつき)陽灯(はると)はにっこりと微笑んだ。

 

 

 



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「■■■■■」


ブレーザーが総集編だったのでこの作品も総集編---って、なんでそんな重なるんですかねぇ…。
何はともあれ、これで終わりです。といってもあくまで輝きの章とは分けたかっただけなので、一章というわけではありません。次回から二章ですが。ただちょっと、この辺りはややこしいかもなので次回辺りに解説入れるかも。

それでアンケートの件ですが、作者的にはルクスが気に入ってます。アンケート書く前に直前で思い出したやつでしたけど…。
で、最後にこの小説マジで二年目に到達しました。これからも頑張りたいと思いますので高評価だけをください()







 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

穏やかな青空が光源としての役目を果たし、目の前の少年が手を差し出すと椅子が勝手に動き、座るように勧められる。

表情は変わらず、ただ笑顔を浮かべる陽灯に対して紡絆は何とも言えない表情で腰を掛けた。

目の前にいるのは間違いなく()()()()()

なぜなら身長は150にも満たなくて、顔立ちは今よりも幼い。

だが自身と同じ声で、自身と同じ顔で。

仮に年の離れた兄弟と言われても信じてしまうだろう。

 

「それで、えっと……君は…」

「陽灯で構いません。ややこしいでしょう?それに僕にとってこの名前はかけがえのない大切な名前なんです」

「…そうか。ということは君は俺の知らない、記憶を…」

「はい、僕には貴方が失った二年前以前の記憶を全て持っています」

 

その言葉で紡絆は色々と察してしまった。

目の前の存在が本当に過去の自分だということも。

何より---

 

「君はずっと……俺の中には居たのか?」

「ええ、正確には貴方の魂に取り憑いていました」

「取り憑く?」

「ほら幽霊っているじゃないですか?そんな感じで、僕の場合は貴方の魂に取り憑いていたんですよ。そのお陰でリアルタイムで貴方の活躍を見れました」

 

そうやって何処か嬉しそうに語る陽灯に対して、紡絆の表情は苦々しいモノへと変わっていく。

 

「じゃあ、もしかして俺が意識が消えたとき---」

「僕が一時的に体を動かしました。貴方に死んで欲しくありませんでしたから。でも僕が戦ったのは二回だけです」

「…二回?いや、だが」

「一度目はファウストとの最終決戦であり、バーテックスの総力戦。二度目はメフィストとの初戦闘でネオ融合型昇華獣が生まれた時です」

 

その二回は普段の紡絆とは違う動きをして、構え方をして、戦い方も違っていた。

紡絆はその記憶が存在しないが、スレ民たちはそう言って言ったし本人たる陽灯がそう言うならばそうなのだろう。

だが不可解なのはまだある。

彼は二回と言ったが、紡絆の記憶が正しければ()()のはずなのだ。

ノスファルモスとの二度目の戦い。

幻影の能力に翻弄され、手も足も出ずに敗北したのに気がつけば敵がやられていた。

なのに陽灯でないのであらば---

 

「三度目は僕ではなく、()()()()()()()()です」

「……やっぱり、そうなのか」

 

残るは彼しかいない。

薄々気がついていたのか、腑に落ちたように呟く紡絆に陽灯は頷く。

ノスファルモス戦での戦いは紡絆とも陽灯とも異なる。素人の戦い方でも齧った程度でもなんでもない。

冷静に敵を見極め、攻撃を逸らしては防ぎ、隙を作り出すと反撃し、攻撃のチャンスがあれば連続で畳み掛ける。技の使い方も使うタイミングも素早く、避けなければならない攻撃に対しては動きも最小限で、翻弄されることなく本体を攻撃した。

長きにわたって培われてきた戦闘経験。

歴戦の戦士の戦い方だったのだから。

 

「なら、あの時の声は……」

「あの時?」

「俺がウルトラマンを探し出そうとして意識が薄れたとき、確かに声が聞こえた」

「そのことですか。あの時は力の発現には多くの絆と力が必要でした。歴代の適能者(デュナミスト)たち。そして貴方の力。

それを覚醒させるにあたって足りなかったものを補った---僕の力が必要だったので」

 

その結果。

紡絆は()()()ウルトラマンを見つけ出し、その力の一部を受け継いだ。

目の前の彼には気が付かないところで助けられ、力を貸してもらっていた。

 

「それなら……どうして……?」

「はい?」

「どうして俺に渡したんだ…?託したんだ?そのままだったら、君に全てを返せたのに……!君が生きることは出来たはずなのに……」

 

目の前の人物が過去の継受紡絆という存在で、彼が朔月陽灯として生きてきたならば本来の存在は陽灯に他ならない。

それに彼は先程体を一時的に動かした、と言った。

そのまま奪うことも出来たはずなのに返した。

紡絆は知らなかった。

知らなかったからこそ、肉体はボロボロになって、身体機能を失って、取り返しのつかないところまで来てしまった。

もう自覚しているのだ。この空間に来て、目が覚めて、陽灯に出会って。

紡絆は自分が()()()ということを。

 

「ああ、それは別に良いんです」

「は?」

「第一、誤解してるようですけど貴方も僕なんです」

「何を言って……だって俺は……」

 

別人格のように、今目の前に存在するのは過去の自分。

だが紡絆には()()()()()が存在して、その経験もある。

陽灯という存在ではなく、前世の存在が自分であるはずで、別人のはずなのだ。

 

「貴方は確かに■■■■さんの記憶も経験も持ってます。ですが同時にあなたには僕の記憶と経験もあります。だから貴方は僕であって、僕じゃない。そして貴方は■■■■さんであって■■■■さんでもない」

「……どういうことだ?」

「貴方という存在は僕と■■■■さんの存在がひとつになったからこそ生まれたんです。だから僕であって僕でもないし■■■■さんであって■■■■さんでもない。貴方こそが継受紡絆という存在です」

 

それが今を生きる紡絆のルーツ。

つまるところ、紡絆は思い込んでいるだけなのだ。

自分が目の前に存在する過去の陽灯ではなく、前世の者だと。

本当は、今の紡絆こそが陽灯であって前世で生きた者なのに。

だがそれでも---

 

「っ……だとしても、それで済ませていい話じゃないだろ……。君にはまだまだ人生があったんだ…長い時間が残されていたはずなんだ…中学校に入って、たくさんの思い出を作って、卒業したら進学したり就職して…友人や家族と…いつかはかけがえのない人を作って幸せを掴んでたはずなんだ…なのに俺という存在が生まれたから……!」

 

紡絆という存在が朔月陽灯という人間を殺した、という事実は消すことは叶わない。

彼の存在がなければ目の前の少年は生きていたはずだ。その立場を奪ってしまった。

本来の世界で本来の時間を生きるべき人間が、別の者によってなくなったのだ。

確かに紡絆は陽灯だが、目の前の存在もまた陽灯であり紡絆だ。

少しの自身に対する怒りと目の前の彼の立場を奪ってしまった不甲斐なさに紡絆の拳が握られる。

 

「---いつからだったか」

「……?」

 

そんな紡絆の様子を慮るように、陽灯が口を開く。

テーブルの手に置いた手をじっと見つめながら思い出すようにぽつりぽつりと語られる。

 

「ソイツは、誰かの役に立つことが好きでした。特別理由があったわけでも、何かがあったわけでもない。きっと小さい頃、誰かのために行動したことでその人が笑顔になったから。もしかしたら母さんかもしれないし父さんかもしれない。近所の人や別の誰かかもしれない。でもそうすれば誰かの幸せを守れるんだと思ったのかもしれません」

「………」

 

何かを言おうとして、邪魔をすると思った紡絆が口を閉じると、陽灯は一瞬だけ目配せしてまた語り続ける。

 

「それからソイツは一つの目標を持ちました。みんなを守れるようになって、誰かの笑顔が作れるような、かっこいいヒーローになる、と。小学生にもなってない、現実も世間も知らない非力なガキが大層な夢を持って人助けをすることに躍起になったんです」

 

理想でしかないのに、バカですよねと嘲笑したが、紡絆は笑うことは出来ない。

人の夢を笑う権利は紡絆にはない。なぜなら紡絆には夢そのものがないから。ないからこそ、持つ人は応援したいし何か手助けしてあげたいと思うのだ。

ただ彼と違うのは、理由もなく何かになりたいわけでもなく、ただ人助けをしたいというところか。

 

「けれどソイツは上手くいってました。いえ、()()()()()()()()()んです。だからこそ、ソイツは間違ってないんだと確信しました。その体がどれだけ傷ついても、心が痛んでも。その後に見える幸せな姿がソイツにとって全てになってしまったから。そうしてソイツは来る日も来る日も、人助けをしては傷を作っていきました。痛いのも苦しいのも我慢して、誰かがそれで笑顔になるからいいと」

「----」

「そんなある日、ソイツには運命とも言うべき出会いが二つ訪れました。一度は特別な場所で特別な出会いがあって。ソイツは誰もおらず、何も無い世界を見て、()()()()と感じたからそこへ椅座ることにしました。相手もまた、ソイツに対して何かを言うわけでもなく。ただ気がつけばソイツと相手は友達になってました。毎日毎日、ソイツが笑顔を向けて、楽しそうに話して、心を開いて貰ったのかもしれません。そのお陰かソイツも相手も、日に日に喋る機会が増えました」

 

話としては成功談であり、新しい友達が出来て仲良くなった。

喜べるような話だ。

特に何かがあるようには思えない。

 

「もう一つはある日の夜、ソイツは光と出会いました」

「……ウルトラマンか」

「はい。戦場となった場所を駆け回って、怪我しても恐れられても、()()()()()()()()()でソイツはたくさんの人を助けました。ですが何を思ったのか、人間を簡単に殺せる存在を相手に戦いを止めようとしたんです。結果は呆気なく殺され、ウルトラマンに選ばれたことで死を免れた」

 

それだけじゃないですけど、詳しくは後ほど分かるかと思います、とだけ告げて陽灯は一度話を切ったが、紡絆は何が言いたいのかまでは察せられない。

話から分かるのは、人助けをしていたこと。普通ではない出会いがあったことだ。

 

「力を得たソイツはこの力があればより多くの人を助けることが出来ると、喜びました。より身を粉にして、人助けを始めた。それから数年後、お役目に選ばれたソイツは家を出て、養子に出ました。でも…それが本当の始まりだったんです」

 

何を思っているのか、陽灯は拳を強く握りしめている。

どれだけの力が入ってるのか手は震え、その顔は今にも泣き出しそうな、()()の顔だ。

 

「ソイツは変わりませんでした。どれだけ経っても、その中に()()が存在したから。誰もが幸せになって欲しいという願い。誰もが笑顔を浮かべられるようになって欲しいという想い。みんなを守れるようなヒーローになるという誓い。誰とだって分かり合えると信じて人助けを繰り返した。

それでも上手く行って、今まで間違えたことがなくて……だから()()()()()()なった……!」

 

今までの、どの会話よりも深く感情の込められた言葉。

唇を噛み締めて、深く後悔しているかのような姿。

後悔に苛まれている姿に、紡絆は何も言えない。

知らないから。陽灯という存在がどういう生き方をし、どう生きてきたのか。記憶のない紡絆には知らないからこそ、何も言えない。言ってあげられない。

ただ無意識に、紡絆も手を強く握りしめる。血が出るんじゃないかって言うほど強く。力強く。

記憶がなくとも、心が覚えていたのかもしれない。魂が覚えていたのかもしれない。

そんな紡絆に気がついたのか、陽灯が気遣うような表情を浮かべながら、遡月陽灯は思い切ったように『誰かの』物語を語る。

 

「ソイツは分かり合えると信じていました。誰とだって、どんな存在であれ。それが()()()()()()生命体でも。何故ならソイツは、光と相互理解を出来たから。だから可能だと信じて---ソイツは多くの命を奪ってしまったんです…」

「---っ!?」

「光は…ウルトラマンは止めてくれました。彼は分かってたから、訪れる未来を予想出来てたから。でもソイツはその静止を振り切ってしまって、その真っ直ぐな想いが多くの人を殺してしまった…相手が悪かった。仕方がなかった、では済む話じゃないんです。ソイツは……重すぎる罪を背負うことになりました」

「---」

 

紡絆はかつて一人の命を奪った。

母親の命を奪い、世界を守った。

それだけでも辛いということは分かっている。なのにより多くの命を奪ったとなれば、それはどれほどの重さなのか。

話から推測するとソイツはお人好しで。純粋で、誰かを思いやれる優しさを持っていて、危険に飛び込める勇気を確かに持っているのだろう。他人を思いやり、自分ではなく誰かの幸せを願い続ける歪な子供。甘さを捨てきれないとも言い切れるが、ソイツは現実を知らなかった。

もし一度でも失敗をしたなら、挫折があったなら、運命は変わったのかも知れない。

だが上手くいってしまったからこそ、失敗談がなかったからこそ、その心が、()()()()()()()()()()()せいで悪意に付け込まれ、利用された。

今まで悪意に触れなかったことで、おぞましいほど邪悪な心を持つ存在に騙され、裏切られ、あっさりと引っかかった。

 

「---僕が、全部悪いんです。世界がこうなったのも、スペースビーストが溢れたのも。あの時、()()()()を完全に消滅させられなかった僕のせいで貴方にも勇者たちにも、辛い思いをさせました……多くの人の命を奪っておきながら、託されておきながら、僕は何も成せなかった。僕はヒーローになれなかった…いいえ、成る資格がありませんでした」

 

そう、「ソイツ」は目の前の少年だった。

遡月陽灯は、忘れそうになるくらいに何処か大人びているが、まだまだ幼かった。

自身の愚かな行いを直視出来ずに「ソイツ」の物語として語ったのだろう。

そしてその罪の意識も、責任も、重さも未だ彼の中に残留している。

何故たった一人にそれほど背負わせるのか。彼が何をしたのか。どうして今も苦しまなければならないのか。

彼はきっと誰かを守るために戦ったのだろう。誰かのために戦い続けたのだろう。

ウルトラマンという希望を宿したから。誰かの希望として地球(ほし)の命も人の未来も、罪も命も何もかも背負って背負い続けて、全部を掴もうとして零れ落ちた。

不思議と紡絆は理解出来る。似ている、ともあるが目の前の彼がもう一人の『自分』だからなのもあるかもしれない。

ここまで己を責め続ける彼に何も出来ない紡絆は、自身の無力さに歯軋りする。

しかし、陽灯は先程の様子から一転して笑う。

 

「だけど貴方は違った。多くの人を助けて守って、笑顔を作っていた。どんなときも諦めずに立ち上がろうとして、絶望に抗い続けていた。貴方の光はいつだって強く輝いていた。そしてついに、貴方は世界を救った。本来救えないはずの命を、僕の妹を救ってくれた!貴方は僕にとってヒーローなんです!」

 

自分のことのように嬉しそうに陽灯は告げる。

その表情は誰から見ても笑顔で、心からの言葉なのだろう。

逆に紡絆は表情を曇らせる。

紡絆は確かに色んな人を救ってきたが、彼の中にも失って残り続けるものがある。

それを思い出したのだろう。

 

「君が思ってるほど…俺は出来ていないよ。俺は母さんを救えなかった」

「それは違います。小都音には『メフィスト』の命がありましたが、母さんはとっくに死んでいました。例えあの時、あの力を覚醒させたとしても救う方法はありません。むしろ貴方の行動のお陰で母さんはこれ以上手を汚さずに済んで、子を殺さなくて済んだ。傷つけることも無く、貴方は母さんの心を救った」

「俺が……救った?」

 

紡絆の中には永遠と母親を殺した罪は残り続ける。

それは自分のせいだと言う紡絆の言葉を、陽灯は即座に否定した。

 

「はい、母さんは優しかった。でも言う時は言うんです。嘘が嫌いな人でしたから。そんな母さんが貴方に妹を託して、お礼を告げていた。本当は貴方は()()()はずでは?」

「……!それは……ああ、そうだな」

 

思い返すのは最期。

オーバーレイ・シュトロームでファウストごと消滅させた後に、紡絆は確かに粒子を掴んだ。

目を逸らしていただけで、本当はそれが母親にとって正しいことで、救われたというのを知っていた。

改めて告げられたことで、それを直視しただけだ。

 

「けど、そうだとしても俺に出来ることはないだろ。俺はもう、死んだんだ」

「いえ貴方はまだ生きてます」

「…え?」

 

この空間に来て確信していたことが揺らぐ。

死んでここに来たなら、まだ分かっていた。

なのに生きてるとすれば、何故自分は居るのか。そもそもあの戦いでどうやって生き延びたのか。

全く見当がつかない。

 

「あの時、御魂とひとつになりましたよね?」

「ああ、メフィストの力が残ってたし友奈の勇者の力は無くなっていた。いくら精霊が守るとはいえ、メフィストの力で無効化されたら意味が無い。それにあの状況では俺が力を抑え込むことが最善だったからな」

 

あの時の戦いを思い返す。

太陽の中へ友奈と共に突っ込んだまではよかったが、あれほどの灼熱の中を進むのは難しい。それにメフィストの力が入ってると考えるのが普通であり、ならば精霊の防御は貫通するだろう。

だから紡絆は自らの存在を防具とすることで友奈を守り、最終的に御魂を抑え込むために御魂に宿った。

 

「それが原因で貴方は肉体と魂の境界線があやふやになりました」

「肉体と魂が?」

「はい、もっと簡単に言えば魂が半分現実に具現化した、と言えばいいでしょうか。その後に貴方は自ら練り上げていたメフィストのエネルギーを暴発させた。その時の爆発があやふやになっていた魂に影響を大きく与え、消滅したんです」

「だからその後を覚えてないのか……」

 

紡絆が覚えているのは、爆発が起きた部分までだった。

その理由が消滅したからというならば、納得も出来る。

ただ不可解なのは、魂が消滅したということは紡絆はここに居ることすらないはずなのだ。

明らかに現実では無いのは確かだが、魂が消滅すれば転生すら出来ない。

 

「じゃあ、なんで俺はここに居る?」

「神樹様の助けを借りて、ウルトラマンの力を借りて、皆さんの力を借りることで貴方の魂を復元しました」

「そんなこと可能なのか?いや、俺がここにいるってことは可能にしたってことだが……」

「普通は無理ですね。そもそも貴方の魂は僕と■■■■さんの魂がひとつになって生まれたものです。存在そのものが変則的ですしあまりに複雑……だからけいじばん?ってものを勝手に使わせてもらいました」

「転生者掲示板のことか……」

「あれは世界を繋げる鍵みたいですし。このユニバースの地球(ほし)に存在する()()()()()()()()()()という記憶をかき集めて存在を確立し、想いをひとつにして『奇跡』を引き起こしたんです」

 

それにしてはあまりにも規模が違いすぎる話だろう。

魂の復元もそうだが、やったことは多次元宇宙を巻き込んだ蘇生法だ。

もし失敗すればどうなってたのか想像が出来ない。

 

「だとしても、ウルトラマンや神樹様の力を使っても難しいはずだ。そもそも奇跡なんてのがそう簡単に起こせるはずが……」

「忘れてませんか?貴方は僕です。逆を言えば、僕も貴方。『あの力』の一部くらいなら僕にだって使えます」

「そう、か……あの力が、俺を救ったのか。それにみんなが……助けられてばかりだな」

 

歴代の適能者たちの力。人の諦めない意志。神樹とウルトラマン。そして今代の適能者である紡絆自身の力。

様々なものか収束した結果、生まれた力の結晶。

何より次元も時間も違う転生者たち。

色んな人たちに助けられて、紡絆は再び蘇ることが出来た。

 

「そうですね……僕たちは助けられてばかりです。覚えていないかもしれませんが、貴方の中に存在する■■■■さんにも助けられました。彼は僕の肉体という器に入り、これからを生きるはずが自らの存在を殺して僕たちを生かしてくれましたから。自分はもう長く生きたから、僕たちが生きるべきだと」

 

今の紡絆ではなく彼が持つ記憶の、前世の誰かが紡絆として生きるはずだったのだろう。

だが蓋を開けて見れば、陽灯と■■■■が合わさった存在が今を生きている。

 

「……いや、ひとつ間違えてる」

「?」

 

しかし紡絆は不思議と、それは間違いだと思った。

どういうことか、と首を傾げる陽灯に対して、胸を握りしめながら確信を持った表情で紡絆は告げる。

 

「俺という存在がいる限り、両方とも生きているんだ。君も、前世の俺も。だから俺たちは死んでいない」

「---です、ね」

 

予想もしていなかったのか陽灯が目をパチパチと瞬きさせ、一度目を伏せると肯定を示しながら軽く微笑む。

 

「さて…ここに居る意味も生きてるという意味も分かった。俺にはまだ()()()()()()()()()。そうだろ?」

「天の神の脅威は終わりません。そして…ザギも」

「ああ…分かってる。対抗するにはウルトラマンの力が必要だ。俺が生きているなら、俺は俺の役目を果たさなくちゃならない」

 

戦いは終わった。

でもそれは、全てが終わったわけじゃない。

あくまで一時的な終わりを迎えただけ。

元凶がいる限り、世界は何度も危機に瀕するだろう。それに抗うために、ウルトラマンは必要だった。

 

「僕たちは()()ではありますが、()()じゃありません。どちらかといえば小都音の方が該当するでしょう。小都音は()()()()() を持ってますから」

「小都音が?」

「神樹様から教わりましたので小都音自身が気づいてるか分かりませんが……どちらにせよ、来るべき戦いのために貴方の…僕たちの中に眠る力を完全に覚醒させる必要があります。あの姿には、もうなれないでしょう?」

 

特異な体質とやらは気になったが、陽灯が言う姿とは黄金色の輝きを纏ったジュネッスのことだろう。

指摘されたことに、紡絆は自信なさげな表情だった。

 

「多分……あの力は奇跡が収束した結果生まれた力だ」

「そうですね……そもそもあの力を発現させる条件は大きく分けて三つ。一つ、()()()ウルトラマンの力を得ること。二つ、神樹様の力を得ること。そして三つ。僕たちの中に眠る、()を覚醒させること---」

「力……?」

「貴方は何度か不完全に発動しているはずです」

 

そう言われて、思い返す。

時々世界がスローモーションになったこと。身体能力が大きく上がったこと。

少なくとも東郷を説得する時の紡絆には変化が訪れていた。

 

「あとは未来予知や過去視(サイコメトリー)などもありますけどね」

「……?そんなものは…」

「近い記憶であれば子供の探し物を見つけた時。す…東郷美森さんの攻撃を躱した時でしょうか」

 

顔に出てたのかそれとも自分自身だからか、心を読んだように指摘されたことには驚かなかったが、陽灯が挙げた部分には自覚はなかったために否定しようとして、明確に言われてしまうと否定できなくなる。

何故なら彼が言った部分は、紡絆も自覚しているからだ。

情報の多さに鼻血は出たものの、ぬいぐるみを探した際に発動していたし東郷の攻撃は間違いなくちょっと身体能力が高いだけの状態まで弱っていた紡絆には回避不可能だった。でもそれを回避して見せた。

恐らく後者は無意識に発動したのだろう。何より、初めて融合型に引き分けた時に紡絆は『夢』として敗北し世界が終わりを迎える『未来』を見ている。

 

「まぁ、力に関しては見た方が早いですよね」

 

てい、と陽灯が手を軽く振ると、空一面が『画面』に変わり、樹海で()()()()に変化している紡絆や黄金色のジュネッスとなっているネクサスが映し出された。

 

「……カラコン?」

「すみません、したことないです」

「俺もない……あれがソレか?」

 

自分自身で見たのは何気に初だった。

樹海に鏡なんて持っていってるわけないし、あっても見る余裕はなかったはずだ。

ただ見て分かるのは、()を思わせるということ。

実際その光が触手を弾いたり、加速したり、回避不可能と思われるような弾幕の中をスレスレで避けたり、と自覚はなかったがとんでもないことをしていたことに紡絆は驚く。

だがどれも、すぐに消えている。不完全というのは少ししか発動出来なかったり、自分の意志で発動出来ないことなのだろう。

 

「この姿は『僕たち』と『神樹様』の力が源です。これがなければ恐らく戻っても負けるだけかと。ザギの目的は僕でも神樹様でも知りません。それでも間違いなく僕たちの想定以上に強くなってます…過去にウルトラマンに倒された存在ですから」

 

以前、紡絆は聞いたことがあった。見たことがあった。

ザギというのは『ノア』と呼ばれるウルトラマンを模倣して来訪者の手によって生み出された存在であり、その力は同格だと。

さらにザギには戦いの中で無限に進化する自己進化プログラムがあると。

 

「敵の進化に対抗するために奇跡を意図的に起こせるようにするってわけだな……確かにあの力は時間遡行の他にも様々な力があった」

「分かりやすく言い換えれば『超能力』に特化した形態かと。ですが長く使用することは()()()()()()()()ですし、この姿自体が想定にない形態ですからね」

「想定にない…そうか、本来のジュネッスは適能者によって違うと聞いたが、あの姿は他とは大きく異なる」

 

消えたように移動する高速移動はテレポーテーションが近いだろう。

その他にも光を操ることで色んな形にして技として使用する他に、テレパシーや位相に干渉するなど従来のジュネッスには存在しない力がある。

それらをまとめると超能力という表現は適切かもしれない。

 

「あの時は気にする暇もなかったし分からなかったが、改めて考えるとさっきも言っていた神樹様の力を得る…そんなこと勇者でもない俺に出来るものなのか?」

 

人の身で神の力を宿すということがどのようなことか、紡絆はその目で見てきた。

紡絆はよく理解出来なかったものの、勇者たちは霊的回路というものを形成して勇者という力を得られるらしいが、そもそも元々が神樹様由来の力だ。

満開というのは神樹様の力をさらに解放するという意味で、代わりに代償として身体機能を捧げる。

強大な力を得るにはリスクは付き物、ということだろう。何の苦労もなく手に入れられるはずもない。

ならば、紡絆はどうだ?

紡絆は『勇者』ではない。故に勇者システムは渡されていない。

代わりにウルトラマンの力を持つが、いくらウルトラマンでも神樹様の力をその身に纏うのは不可能だろう。それも弱体化しているのだから。

もし出来たら既にやっているはずで、なのに紡絆はウルトラマンの姿で神樹様の力を纏った。

それに自分の力や本来のウルトラマンの力も含まれているとはいえ、紡絆は正真正銘の男だ。

残念ながら端っから適正は無いはずだった。

なのに、紡絆は勇者でいう『満開』に相当するようなことをやって見せた。()()という言葉だけでは説明がつかない。

それは大して頭がよくない紡絆ですら分かっていた。

ならその答えは---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()

「ッ……!」

「貴方が『呪い』と呼ぶものです」

 

告げられた言葉に紡絆が驚く。

それは紡絆の身を侵し、身体機能を奪っていった、まさしく呪いだ。

しかも勇者たちが満開したら力を得られるとは別で、紡絆の場合は一方的に時間経過で消滅していた。

 

「今の貴方は理解しているでしょうが、あれは僕たちにとって弱点とも言えます。だから貴方の身体機能は天の神によって()()()()()()。でも初めに失ったのが目で良かった、とも言えます」

「そうだな……もし心臓や脳なら、俺は即死だ」

 

初めてノスファルモスという存在が生まれた時に干渉して来たのが天の神だった。

バリヤーは壊され、咄嗟に回避行動を取ったお陰で狙いから反らせたが、あの一撃はバリヤーがなければ心臓部であるエナジーコアを。身を捻らなければ頭部を狙われていた。

目だからこそ生きていたが、あれが心臓や脳が存在する場所であったなら紡絆はあの場面で死んでいたのだ。

良くは無いが、生きているだけでも僥倖といえた。

 

「ですけど、当然ながら神の力です。解呪方法なんてものはないですし実際問題貴方の体は最終的に半身不随に陥りました」

「ああ、確かに左半身が動かなかったからな。自分の肉体ごと光に変換しなければ……って待ってくれ。俺の肉体はあの時に消滅したはずだ。例え無事でも魂と一緒に消滅しててもおかしくは無い。その辺はどうするんだ?」

 

衝撃的な展開や色んなことをありすぎて忘れていたが、前提として魂が無事でも肉体がなければ紡絆は戻ることは出来ないだろう。

 

「そこで、あの姿にも貴方の肉体にも『タタリ』が関係してきます」

「……タタリ?」

「天の神は言葉通り『神』です。天照大神…?なんですかね、僕は星ならともかくその辺は詳しくないですし理解出来ませんでしたが、どうやら『僕』の時から天の神にとって存在がタブーだったらしく…まぁ今思えば当然なんですけど。

でもスペースビーストはウルトラマンを宿す貴方を。バーテックスは主神にとって許せない存在である貴方を狙っていました」

「確かに、バーテックスもやけに俺を狙っていたな。あれはウルトラマンが厄介だからと思っていたのだが……今の俺にも分かる。天の神にとっては確かに俺たちは許せないはずだ」

 

どの戦いにおいても、バーテックスはウルトラマンというよりはウルトラマンを『宿す』紡絆を狙っていた。

その理由が、紡絆の存在が禁忌に該当するということか。

 

「だから天の神は()()()ながら俺を狙った、と」

「天の神にとっては干渉が長く出来ずともあそこで殺せれば良く、殺せなくても時間が経てば殺せるからよかった---()()()()()は」

「……もしかして」

 

そう言われて、思い当たる節があったのか紡絆は気がついたようにハッと視線を送る。

陽灯は頷き、その答えを告げるために口を開いた。

 

「さっきも言いましたが、あの力は『神樹様』の力と僕たちの力を主に持ちます。そして力を殆ど覚醒させた貴方の足りない力を僕が補い、その状態で僕を含む様々な時代の適能者(デュナミスト)に導かれて貴方は()()()()()()()()()の力に触れた」

「……ああ、そこで天の神のタタリが、呪いが関連するんだな?」

「はい、ウルトラマンが持つ力。本当の力に触れた際に、貴方の肉体が変換されました」

 

ある程度は察したようだが、そこまでは分かってなかったらしく。

紡絆は首を傾げる。

変換、というのはどういうことか。紡絆は自分で変わった、という感覚はなかった。

 

「呪いって、厄災を招いたり不幸をもたらす、と言われています」

「そうだな、怨霊とかがいい例だ。天の神が俺に行った災いこそ、機能の破壊。正確には俺の呪殺か」

「そうです。ですがあのとき、ウルトラマンに触れた際に完全な『器』が出来上がったんです。その影響で、本来成し得ない---僕たちだけではなく、神樹様とウルトラマンの力がひとつになった、三つの力が連鎖した形態が生まれました」

「確かに、本当は別の力…少なくとも時間操作や分身のような力はなかったはずだ。だけど器?」

 

そもそも時間操作というのは神樹様が持つ力であり、それだけは間違いなく持っていないはずだった。

紡絆の存在を考えれば、持っている本来の力は光の力である『超能力』のみのはず。

あのように増えたりすることも出来るはずがない。

 

「呪いと祝福は表裏一体---つまり、貴方の肉体の半分は触れたウルトラマンの力によって天の神の『呪い』なんかではなく、それを反転させた『神の祝福』を受けた体になったんです」

「……!そうか…だから『器』か」

「加護とも呼べるものに変わった肉体には『神を宿す』権利が与えられ、そこに『人の可能性』を見た神樹様が入り込んだ結果、色んなものが混ざりあった『奇跡』の力が誕生しました。精霊がそうだったように、既に僕の肉体が()()()()()()肉体や魂だったというのもありますけどね」

 

複雑に絡まった事象は、ひとつずつ繋がり、全ては未来を生み出すための『奇跡』へと辿り着く。

前世の存在と過去の自分である陽灯から生まれた継受紡絆という存在。やけに精霊に好かれやすかった紡絆。ウルトラマンを唯一宿せる存在。

バーテックスによく狙われていたこと。天の神が狙っていた理由。

タタリという名の呪詛。

そして、本来は存在しないはずの黄金色のジュネッス。

歴代の適能者(デュナミスト)が導き、人の想いが立ち上がる強さと勇気を与え、時空の違う者たちが手を貸し、過去の自分と今の自分がひとつになり、ウルトラマンという希望が神樹の神の力と共に大いなる光の力を得る。

それらは全て、継受紡絆という存在が居たからこそ引き起こせた、文字通りの『奇跡』。

闇を光へ。呪いを祝福へ。

『光』である少年は、全てをもひっくり返したのだ。

辿り着けるはずのない明日を、終わるはずの世界を。

不幸な結末すらも。

そう言われても、紡絆には実感というものが湧かない。

必死に目の前のことを解決しようとして、その結果が今になっただけなのだから。

 

「さて…そろそろ時間ですね。もうすぐ体が戻ってきます」

「だったら君が戻れば……」

「それは出来ません。僕は貴方じゃない。僕は遡月陽灯であって継受紡絆ではないですから」

「本当に、それでいいのか?」

「それが一番いいんです。それに僕にはもう……時間がありません」

「……そうか」

 

よくよく見て見れば、陽灯を形成している体が光となって崩れていっている。

理解した。してしまった。

目の前にいる彼は、そもそも戻ることは出来ないのだろう。

なぜなら■■■■という魂がやってきた時には『肉体』は既に空いていた。

その時にはもう、陽灯は居なかったのだから。

だが■■■■の魂が陽灯とひとつになったお陰で陽灯は魂のみが現世に留まることが出来たため、今ここにいる。

目の前にいる陽灯は---魂にこびりついた残滓に過ぎず今、その残りカスも今燃え尽きようとしている。

 

「神樹様が()()()()()()を終えたら、僕は貴方に本来持つべき全てをお返しします。失った時間を。失った二年前から前の記憶を、全部。分からなかったところも本当の力も、知らなかった過去も、それで思い出せますから」

「…分かった」

 

覚悟が伝わってくる。

もうじき消える陽灯は、紡絆に全てを託そうとしている。

残った自身が持っている全てを渡そうとしている。

それを止めることは彼を無駄死にさせてしまうことであり、紡絆は受け取るしかない。

選択なんて、ない。

 

「あと少し。もう少しでウルトラマンは()()()()を取り戻せます。でも……足りなかった。僕たち適能者(デュナミスト)や共に戦った勇者。掲示板の方々の想いだけでは、まだ不足しています。だけど貴方にも時間がない……それでも」

「ああ、それでも俺はやる。スペースビーストもバーテックスもまだまだ生まれ続ける。だとしても足掻き続けてやる。必ず、今度こそは全て掴んでみせるから。俺はもう、諦めることはない」

「……はい。貴方でよかった。貴方だからこそ、僕は安心して任せられる。託すことが出来ます。僕はヒーローにはなれなかったけど、貴方は僕のヒーローです」

 

もう既に紡絆は多くの者から託されている。

その想いも力も消えることはなく、迷いのない姿に陽灯は嬉しそうな、眩しいものを見るかのように笑いかけた。

そんな陽灯の頭に紡絆は手を置いた。

体の分解が始まってるからか触れることは出来ない。

それでも光が伝っていく。

肉体的ではなく、精神的に。心から伝える。

 

「そうだな…君はヒーローになれなかったかもしれない。君自身がそう言うなら、自分自身が認められないんだろうな。だけどこれだけは否定させて貰う。君は万人を救うヒーローにはなれなくても、ある者たちにとってはちゃんとヒーローになれたよ」

「……え?」

 

言葉の意味が理解出来なかった。

かつて陽灯はウルトラマンの力を得た。幼い少年が得るには大きすぎるもので、責任が伴う。

きっと陽灯は()()になることが許されなかったのだろう。大人のようになるしかなくて、過ぎたる力(ウルトラマンの力)を持った陽灯は責任を背負い続けた。

前世の人格を持つ紡絆ですら大きな力を得て悩むのは、 同じだったのに。

 

「見てきたんだ。乃木園子と三ノ輪銀、そして東郷---いや鷲尾須美、だっけ。彼女たちは生きてる。君が居たから、笑顔で生きられるんだ。彼女たちは後悔をしていなかった。むしろ思い出を大切に思ってた……それを、あの子たちの笑顔も明日を守ったのは、君なんだ。だから少なくとも彼女たちにとって君はヒーローだ。それだけじゃない。君は…今から俺のヒーローでもあるんだから」

「……ッ!」

 

そのような捉え方をするなど露にも思わなかったのだろう。

目を見開いて固まり、しばらくするとようやく追いついたのか陽灯の瞳から涙が零れる。

 

「あれ……おかしいな……。泣いちゃ、ダメなのに……僕にはそんな資格は無いのに……」

 

とどめなく溢れていく涙はいくら拭っても消えることは無い。

他の誰かがなんと言っても、自分が肯定する訳には行かなかったのだろう。

今までの僅かな記憶から察するに遡月陽灯は今も後悔するほどの罪を背負い続け、泣くことなく()()()()()()生きてきた。

ヒーローになりたいと夢見た少年はその道を自ら閉ざして、自らを否定した。

だけど世界を守るために。人を守るために戦い、走り抜いた。

紡絆はそれを、眩しく思える。

前世の自分には、そのようなこと出来ただろうか---と。

紡絆の記憶にある前世は、子供じゃない。だから今までの戦いだって苦しいことも痛いことも辛いことも我慢できた。

でも目の前にいる陽灯は、まだ小学生なのだ。

本当はまだまだ周りに甘えて、夢を見て、子供であるべきだったのに。大人にならなければなかった。

周りにもし、彼を『子供』にさせてくれるものが居たなら、彼も変わったはず。

でも居なかったからこそ泣くことも許されず、逃げることも許されず、大切な人たちを守るために痛みも苦しさも辛くとも全部全部我慢して、誰かを助けていた。

その時点で、彼もまた立派な小さなヒーローだったはずなのに。

だからこそ---

 

「泣きたい時は泣けばいいんだ。君も子供なんだから」

「ッ……は、い……ぃ……!」

 

紡絆はそれらを、否定する。

大人であろうとすることを。ヒーローではないと拒む彼を。

彼自身が認められないなら、もう一人の自分(継受紡絆)が肯定する。

否定していたのは自分(陽灯)だが、もう一人の紡絆(自分)に肯定されてしまえば、認めるしかない。

だって、彼らは同じなのだから。

それを理解していない彼ではない。

涙を流し続ける小さな子供(ヒーロー)を、紡絆は優しい眼差しで、触れられなくとも抱きしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目元が若干腫れて赤くなっているが、泣き止んだ陽灯は真剣な様子で、それでいて少し申し訳なさそうにおずおず、と紡絆に声をかける。

 

「あの、最後に色々と押し付けて、背負わせてしまって申し訳ないんですけど、あと一つ…僕の最初で最後の我儘を聞いてくれませんか?」

「ああ、できることなら叶えるよ」

 

これがきっと、最期の会話。

それは不思議と紡絆は分かっていた。

別にそう伝えられたわけでもないのに、分かったのだ。

相手が自分だから、というのもあるかもしれない。彼の体が光に変換されてると言うのもあるかもしれない。

でも残念ながら紡絆は何でも出来るわけではない。出来ないことは無理というしかない。

 

()()()()()()()になってください。世界…いえ宇宙にも名が轟くような、すごくかっこいいヒーローになって、僕の夢を叶えてください」

 

それが彼の願い。

幼い頃から今に至るまでずっとずっと抱き続けた理想。周りが現実を見るようになっても、彼だけは追い続けた夢。

それに対して---

 

「---ああ。任せろ!」

 

即答。

それを聞いて初めて、今までで一番の、とびっきりの()()のような笑顔を陽灯が心から浮かべた。

大人になるしかなくなってしまった少年は、初めて心の底から子供になれたのだ。

本当の自分を、取り戻せた。

そうして、陽灯の体が光に変わっていく。

紡絆と同じ、黄金色の光。違うのはそこに銀色が混じっている。

 

「気をつけてください。天の神はこれからの貴方をより消そうとします。ザギの目的も分かりません……ただそれでも、貴方ならきっと---」

 

続く言葉は、不要だった。

光が、紡絆の中へ入り込む。

それは最後の継承。

唯一完了していなかった『自分』という存在を継承した紡絆は、空間が光に包まれて視界が白く染まる。

戻る、そういう確信を持ちながら紡絆は己の中に存在する光を確かに感じ取った。

---魂は、受け継がれる。もう二度と会うことが出来なくなろうとも、例え形を失おうとも、形を変えて『絆』というものが永遠に残り続ける。

そうして夢を持ちながらも叶えることの出来なかった少年の夢を、夢を持たなかった者が受け取る。

これも、一つのバトン。

こうして夢のバトンも、絆のバトンも同じく受け継がれた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心地良くなるような温もりが体中を支配する。

このまま居られたらどれだけ良いのか。

どれだけ楽で、どれだけ穏やかに過ごせるのか。

でもやることがあった。やらなきゃいけないことがあった。やり残したことがあった。

それを果たすために無理矢理意識を浮上させていく。

 

『---』

 

声が聞こえた。

聞き覚えのある声。

何度も助けてくれて、何度も救ってくれて、いつ何時だって味方であり続けてくれた大切な友の声。

 

『---絆』

 

起きなければならない。

このまま眠り続ければきっと、起きることはもう無いだろう。

でも、さっきまで持っていた休もうという考えはもうない。

託された。託されて、見つけた。

叶えなければならない願いを。追わなくちゃいけない夢を。

 

『---紡絆』

 

意識がはっきりとする。

声が鮮明に聞こえ、目がゆっくりと開かれる。

()()から真っ暗だった視界は少しずつ色を取り戻していく。

視界上に広がるのは赤。どこもかしこも赤で、現実離れした灼熱の世界。

熱に覆われた炎の世界---つまり結界の外。

 

「……俺は、確か……」

 

混乱する頭の中を整理する。

どうしてここに居るのか、何があったのか。何が起きたのか。()()()()()()()

モヤがかかったかのように頭の中は曖昧で、体が痺れたように動かなかった。

 

『紡絆』

「……そうだ。そうだった」

 

名前を呼ぶ声が()()から聞こえて、霧がかかった頭は意識の覚醒と共に晴れると全てを思い出す。

自分が誰なのかを。何があったのか。何をしようとしていたのかを。文字通り、記憶という()()を。

そして動かなかった体は、()()()()ように少しずつ動くようになっていく。

 

「ありがとう、ウルトラマン」

 

体をゆっくりと起こして、胸を握りしめる。

自分の中に存在する、大切な友に伝えるように。

誰かが呼んでくれなければ『自分』を見失っていたかもしれなかったから。

 

「……ウルトラマン」

『?』

 

それだけじゃなかった。

言わなければならないことは、たくさんあるけれど。

伝えたい言葉も向けたい感情もたくさんあるけど。

少なくとも、今彼に言わなくてはならないのは---

 

「---ただいま」

 

きっと、これだと紡絆は思って。

心から、闇を照らすほどの眩しい笑顔を浮かべた。

そんな紡絆を帰還を、彼は快く迎え入れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1:光の継承者

ということで、たっだいまー!

 

 

2:名無しの転生者

ファッ!?

 

 

3:名無しの転生者

生きとったんかワレェ!?

 

 

4:名無しの転生者

マ!?

 

 

5:名無しの転生者

王 の 帰 還

 

 

6:名無しの転生者

す し ざ ん ま い

 

 

7:名無しの転生者

【悲報】気がつけば目の前に知らない遺跡があるんですが…【なにこれ】→【速報】気がつけば目の前に知らない神殿があったんですが……【なにあれ】

何気に初スレのタイトルと似たような感じ出してくるの…なんというか、こう。分かってるわ

 

 

8:名無しの転生者

分かる。イッチの場合は新章が始まった感あるよね

 

 

9:名無しの転生者

ていうか、マジで生きてたのかよ。今まで何してたんだ

 

 

10:名無しの転生者

あのさあ。こっちが散々心配してたのに、普通に家に帰ってきたみたいな感覚でスレ立てするのはどうなのよ

 

 

11:名無しの転生者

よく無事でしたねぇ……

 

 

12:名無しの転生者

ハッピーエンドだな、ヨシ!

 

 

13:名無しの転生者

おら、早く勇者部のみんなを映すんだよ!お前の仕事だろ!

 

 

14:名無しの転生者

カメラマン見たいな扱いで草

 

 

15:名無しの転生者

そりゃ美少女の方が見たいからな

 

 

16:光の継承者

>>13

いやーそれはちょっと無理。というか、そもそも俺生きてた訳じゃないからね?スレ出来なかったのは許してくれ。それに復活したてでスレ立てるのはキツかったからちょっと休んでたんだ

 

 

17:名無しの転生者

確かに前スレはイッチじゃないみたいだし

 

 

18:名無しの転生者

結局誰だったんだろうな

 

 

19:名無しの転生者

あとあの神殿みたいなやつもなんなん?すぐに映像途切れからよく分からなかったが

 

 

20:名無しの転生者

少なくともネクサスにはなかった

 

 

21:名無しの転生者

生きてた訳じゃないってどういうことよ

 

 

22:名無しの転生者

とりあえず説明求む

 

 

23:光の継承者

神殿は俺も分からん。多分心象風景的なやつじゃない?

説明したいのは山々なんだが……悪いけどもう少し待ってもらっても?見てくれたら分かるけど、今この状況

 

【目の前にバーテックスとスペースビーストがいる画像】

 

 

24:名無しの転生者

ん?

 

 

25:名無しの転生者

…マジ?

 

 

26:名無しの転生者

なんでそんな今にも殺される可能性があるタイミングでスレ立てしたんですか?頭おかしいよ

 

 

27:名無しの転生者

イッチの頭は元からおかしいでしょ

 

 

28:名無しの転生者

確かに

 

 

29:名無しの転生者

スペースビーストもう復活してんのかよ。融合型じゃないのが救いだが、バーテックスもいるな。今まで見てきたやつとは違うけど

 

 

30:名無しの転生者

てか、大丈夫なん?イッチって生きてたわけじゃないって言ってたし蘇ったばっかりってことなんでしょ

 

 

31:名無しの転生者

病み上がりみたいなものか それに体動くんか?確か身体機能失ってたはずだが

 

 

32:名無しの転生者

前スレのやつが奇跡起こすっつってたからな どういう手段を使ったかまでは分からんけど……

 

 

33:名無しの転生者

いくら融合型がいないとはいえ、スペースビースト二体はキツくないか?バーテックスもいるし…いくらジュネッスやジュネッスブルーになれる上にイッチ自体が強くとも……

 

 

34:名無しの転生者

あの金色の姿になればいいのでは?分身能力あるみたいだし

 

 

35:名無しの転生者

あー四人に増えたやつか

 

 

36:名無しの転生者

中々にチートよな

 

 

37:名無しの転生者

能力的には遠距離寄りの形態に見えたけど、近接が出来ないってわけでもないしね

 

 

38:名無しの転生者

そう簡単になれるもんなんかな、あれって。どちらかというとグリッターに近い感じがしたが

 

 

39:名無しの転生者

シャイニングっぽくもあったな。無自覚にやったパターンでは?

 

 

40:名無しの転生者

有り得そうなのがまたなぁ……

 

 

41:名無しの転生者

最初の頃、戦い方とか光線とか能力とかそういった情報一切なかったからね……

 

 

42: 光の継承者

んー、大丈夫っぽい。今の俺なら使えるよ。前のままなら無理だったけど、必要な『力』は全部解放された…いや取り戻したって方が正しいか

 

 

43:名無しの転生者

取り戻した?元々あった力ってこと?

 

 

44:名無しの転生者

どういうことだ?

 

 

45:名無しの転生者

分からん……が、生き返った時に何かあったらしいな

 

 

46:名無しの転生者

気にはなる……

 

 

47:名無しの転生者

でもそんな暇はないよなぁ

 

 

48:名無しの転生者

ひとまず目の前のことを片付けないとな

 

 

49:名無しの転生者

あの形態になれるならなっちまえ。正直ジュネッスやジュネッスブルーで戦うとなると勝てたとしても間違いなくイッチはダメージを受けるだろう

 

 

50:名無しの転生者

相手の学習能力高いからな…

 

 

51:名無しの転生者

前回の戦いから考えるに肉体を光に変換してたから緊急回避にも使えそうだしね

 

 

52:名無しの転生者

見たことない形態だから正直推測しか出来ないけど

 

 

53:名無しの転生者

イレギュラーな敵にイレギュラーな形態……ただ、そう易々と使っていいものなのだろうか?

 

 

54:名無しの転生者

確かに、普通とは大きく異なる……

 

 

55:名無しの転生者

なーんかさ。特撮ってそーゆーの怪しいよね?

 

 

56:名無しの転生者

人間やめそう

 

 

57:名無しの転生者

肉体消滅しそう

 

 

58:名無しの転生者

神樹の力だし身体機能失いそう

 

 

59:名無しの転生者

暴走の可能性もありそう

 

 

60:名無しの転生者

トリガーみたいに強すぎる光に身を滅ぼしそう

 

 

61:名無しの転生者

なんなら寿命削ってそう

 

 

62:名無しの転生者

とにかく負担がでかそう

 

 

63:名無しの転生者

味覚から失っていって、そのうち人として生きれなく……

 

 

64:名無しの転生者

ろくなもんなくて草枯れる

 

 

65:名無しの転生者

まぁ強い分デメリットが大きすぎるやつって意外とあるから……

 

 

66:名無しの転生者

可能性としてありそうなのは、ウルトラマンになる……かな?

 

 

67:名無しの転生者

見た目も能力も『光』だもんな

 

 

68:名無しの転生者

ウルトラマンと言えば光みたいなところあるもんね

 

 

69:名無しの転生者

それはそれでシャレにならねぇ……

 

 

70:名無しの転生者

そこんとこは正直実際に予兆が起きないと分からないだろうけど

 

 

71:名無しの転生者

まぁ今は目の前のことをだな…

 

 

72:名無しの転生者

一体何が起きたのか、何があったのかは後で話してもらおう

 

 

73:光の継承者

詳しいことは全部後で話すよ。記憶も戻ったから分かったんだけど、俺の力に関して話すにはどうやら二年前のことも話す必要がありそうだし、今は行ってくる

 

 

74:名無しの転生者

ちょっと待て。記憶戻ったのか…!

 

 

75:名無しの転生者

いつの間に!?しかも二年前か……イッチが記憶を失った時だよな、それ

 

 

76:名無しの転生者

この話ぶりからして何かありそうだなぁ……

 

 

77:名無しの転生者

考えたら考えただけ不穏な気配がしてくるぜ……

 

 

78:名無しの転生者

まぁ例の形態に関してはポンポン使わない方がいいのかもね

 

 

79:名無しの転生者

どういう力を元にしてるのか分かればまた別だろうけど、神樹の力は絶対使ってるだろうし

 

 

80:名無しの転生者

とにかく今は目の前のことを解決しろ。その後は詳しく聞かせてもらうからな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エボルトラスターを握ったまま前を向く。

もはや今更、覚悟など決める必要すらなかった。

目の前に存在するのは人類を滅ぼそうとする敵に過ぎず、共存など不可能な敵。

身を持ってそれを知った紡絆に、悩む時間すらいらない。

目を閉じて、ただ深く。深く潜っていく。

自分の中に眠る、輝きの光。

宿るウルトラマンとは異なる力。

『過去の自分』と『現在の自分』。そして『前世の自分』。

三つの存在を持つ紡絆だからこそ、発現出来た力。この世界の神たる神樹様の力を宿し、奇跡の力を宿す。ウルトラマンの力を宿し、絆を宿す。光の力を宿し、可能性の力を秘める。

それらを引き出すように、己の中の光を紡絆は確かに掴み取った。

 

「---」

 

その瞬間、紡絆の中から溢れ出る光が全身を覆い尽くし、両目が金色に染まる。

そして手に持つエボルトラスターに全身の光が収束していき、その形を大きく変えた。

エボルトラスターの本体が彼の本質を思わせるような()()に染まっており、青いクリアパーツは神樹様の力を示しているのか、それとも多種多様な人の心のように色を表しているのか()()に発光している。

赤いY字型の上に備わる半球体は自然を思わせる()()に。

枝のような絵柄が追加され、()のようなものが左右にブレードとして広がっていた。

 

()()()のバーテックスが四体、スペースビーストが二体……どうやらそれほど、()()()を天の神は許せない存在になってるらしい。いや、それ以前からだったか…より酷くはなってるみたいだけど」

 

敵は油断の許せない脅威。

だが目の前で咆哮を挙げるスペースビーストにすら怖気付くことはない。

なぜなら彼は、ひとりじゃないから。

色んな人の繋がりが、共に有る友人が、傍に居てくれている。

何よりも---

 

「託されたんだ、力も願いも想いも。多くの人から、光を受け継いだ。

---必ず叶えてみせるよ、君の夢を。()()()()()も俺が必ず果たす。それが約束、だもんな」

 

多くの適能者(デュナミスト)

ここにはいない友人たち。

何よりも、過去の自分自身から。

その光を受け継ぎ、魂に刻まれた夢というものを継いだ。

その末に、ようやく辿り着くことの出来た力。

本来であれば二度と変身することは叶わなかった。

本来であれば継受紡絆という人物の物語は終わりを告げ、ここに居ることは無かった。

本来であれば、継受紡絆は最初から存在するはずがなかった。

本来であれば、生まれてくるはずの存在ではなかった。

本来であれば、もう何も出来なかったはずだった。

でも今、ここにいる。助けられ、導かれ、託されて、生きることができる。

それは『奇跡』を収束させ、人々が可能性を見せ、神々や光の化身が答えてくれたから。

さらにその身は神の『呪い』を受け、『祝福』へ変換されたもの。

ならばもう一度、可能にしてみせよう。

『奇跡』を二度も三度も何度だって自発的に引き起こす。『奇跡』と『偶然』ではなく『必然』に。

『必然』と『運命』に。

絶望へ反旗を翻すための輝き。

それが『運命』であるならば『奇跡』ですらも。

自分自身の手で起こそう。

無論、そのようなもの一人では起こせない。可能に出来ない。

けれども---

 

「だから安心して見ててくれ。この世界は、絶対に終わらせたりはしない!行こう、ウルトラマン!」

『---もちろんだ、()()。共に戦おう』

 

ずっと傍に居てくれた彼となら、ウルトラマンとならば。

継受紡絆という存在は、何度だって。どこへだって。まだまだ。高く遠く飛ぶことが出来るのだから。

故に---

 

『見せてやる!俺たちの光の絆!』

 

その力を、『奇跡』を宿す光の絆の力が、ここに本当の意味で具現化する。

右腕で金色の本体を、エボルトラスターを前方に引き抜き、左肩に当てるのと同時に右腕を伸ばし、エボルトラスターを空に掲げる。

その瞬間、灼熱の炎に包まれた世界を、黄金色の輝きが世界を照らした。

どこまでも眩い、優しさと強さを感じさせる光の輝き。

紡絆の姿は消え、その姿は少しずつ巨大な人型を形成していく。

 

『シュアッ!』

 

死が広がる灼熱の世界に、()()()にて()()を宿す()()()()()()()()()に変身したウルトラマンネクサスが再び姿を現した。

そうして『奇跡』を()()()()()にした可能性の力が神の使徒と宇宙から飛来したX獣に牙を剥く---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 継承の章 

 EX 

 

光のバトン

 

 

 

 



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流星の章
「過去」



新章スタート




 

◆◆◆

 

 第 1 話 

 

過去

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

444:光の継承者

ということがあって、俺が生き返ることが出来たんだ。

みんなの中にある『俺』の記憶を掻き集めたから出来たことだな。あと俺が時間を巻き戻せる力に目覚めてたのもあるらしい

 

 

445:名無しの転生者

なるほど…それでもう一人のイッチ……ややこしいから陽灯くんと呼ぶけど、陽灯くんのお陰でイッチは生き返ることが出来て記憶も全部取り戻したと

 

 

446:名無しの転生者

俺たちの記憶が必要なのもそれか

 

 

447:名無しの転生者

代わりに陽灯くんは消滅したんだな

 

 

448:名無しの転生者

なるほどなぁ……

 

 

449:名無しの転生者

イッチってマジで死んでたのか…

 

 

450:名無しの転生者

魂の復元って何気にとんでもないことしてますね…

 

 

451:名無しの転生者

えーと……つまり?

 

 

452:名無しの転生者

陽灯くんはイッチでイッチは陽灯くんってわけだな?

 

 

453:名無しの転生者

ちょっと何言ってるのか分からない

 

 

454:名無しの転生者

>>452

+前世

 

 

455:名無しの転生者

三人の存在があって今のイッチが出来上がってるということね

 

 

456:名無しの転生者

というかイッチも勝手に終わってたとか戦ってた自覚なかった言ってたけどアレって陽灯くんがイッチの体を使ってたんだな…小学生やろ?強すぎねぇか?

 

 

457:名無しの転生者

撃破とは行かなくてもものの数秒で敵を吹っ飛ばすレベルだからな…お前ら絶対まだなんか隠してるだろ

 

 

458:名無しの転生者

絶対まだまだ秘密あるゾ おら全部吐くんだよ

 

 

459:名無しの転生者

なんならさっきも言ってたけど新形態も何かありそうなんだよなぁ

 

 

460:光の継承者

も、モウナニナイヨ…

 

 

461:名無しの転生者

はいダウト

 

 

462:名無しの転生者

イッチの性格で何故隠し通せると思ったんですかねぇ……?

 

 

463:名無しの転生者

バカだからでしょ

 

 

464:名無しの転生者

まぁでも今は話す暇ないわな

 

 

465:名無しの転生者

割とチートだよなぁ バグバズンとペドレオン、未完成とはいえバーテックス四体瞬殺されたんだが

何分だよ

 

 

466:名無しの転生者

20秒くらいだな

 

 

467:名無しの転生者

まさに天晴れだった

 

 

468:名無しの転生者

素のスペックが一気に上がったのかジュネッスブルーよりも速いしジュネッスよりパワーある

 

 

469:名無しの転生者

イッチクラスのウルトラマンが四人になるんでしょ?こんなん勝ったな

 

 

470:名無しの転生者

その能力があっても敵は無数なんだよね

 

 

471:名無しの転生者

何だこの世界は…それでも勝てる未来が見えないの恐ろしすぎる

 

 

472:名無しの転生者

そもそもイッチは何してんのよ

 

 

473:光の継承者

戦いが終わったから外の世界を散歩中。で、さっきも言ったけど隠すつもりないから詳しくはまた話すけど、マジで今は無理。ちょっと…いや割りと一大事なんだ

めっちゃ腹減った……

 

 

474:名無しの転生者

ですよねー

 

 

475:名無しの転生者

何かないの?

 

 

476:名無しの転生者

と言っても…どこも赤ばかりで何も無いよな。普通にあつそう

 

 

477:名無しの転生者

動物とか居ればまだ食料確保出来るんだけど、見た感じどこにもいないというか…居たと考えてもスペースビーストがいる世界で生存してるとは思えん

 

 

478:名無しの転生者

後、問題は水だな。このままじゃ結局イッチが死ぬ

 

 

479:名無しの転生者

こういう時に一番欲しいと思うのが四次元ポケット

 

 

480:名無しの転生者

マジでそれ

 

 

481:名無しの転生者

アイテムボックスとか異世界に転生したヤツら持ってるの羨ましすぎる

 

 

482:名無しの転生者

どうにかして送れたらいいんだけどな

 

【ステーキ】

 

 

483:名無しの転生者

あーうめー

 

【鰻重】

 

 

484:名無しの転生者

甘いものもいいよね

 

【ケーキ】

 

 

485:名無しの転生者

やめたげてw

 

 

486:名無しの転生者

>>482->>484

お前ら容赦ないな……

 

 

487:名無しの転生者

この状況で飯テロはイッチにとって地獄すぎる

 

 

488:光の継承者

余計に腹減ったじゃん!

いいよ、俺も飯あったからそれ食っとくわ。備えの大切さを前世ぶりに知った

 

 

489:名無しの転生者

え?あったの?

 

 

490:名無しの転生者

なんて用意周到なんだ……

 

 

491:名無しの転生者

ちなみに?

 

 

492:光の継承者

ポケットに大量に入ってたゼリーだけど?

 

 

493:名無しの転生者

し っ て た

 

494:名無しの転生者

むしろなんでゼリーなら入ってるんだよw

 

 

495:名無しの転生者

あーそういやイッチって戦いに行く前に家中のゼリーをポケットに突っ込んでましたね……アホか?

 

 

496:名無しの転生者

懲りもせずに買ってるの草

これは間違いなく怒られるな…

 

 

497:名無しの転生者

いうて数日分もないなそれ…なるべく早く帰らなければ餓死不可避

 

 

498:名無しの転生者

そのゼリー大丈夫?

 

 

499:光の継承者

全然美味い

 

 

500:名無しの転生者

お、おう……

 

 

501:名無しの転生者

躊躇いもなく吸うのか…(困惑)

 

 

502:名無しの転生者

パウチタイプでよかったね…

 

 

503:名無しの転生者

ゼリーだけとか健康に悪すぎるでしょ……いつもだったわ

 

 

504:名無しの転生者

だから飯が全然腹に入らなくなるんだよなぁ。それで空腹は抑えられると思ってるイッチがおかしいのよ

 

 

505:名無しの転生者

そもそもイッチってなんで壁の外で生き返ったんだっけ

 

 

506:名無しの転生者

さっき言ってたぞ。えーと確か…

 

 

507:名無しの転生者

簡単に言えば、イッチ曰く御魂に生身に触れたら魂だけの存在になるらしい(?)んだけど(実際に友奈ちゃんはそうなってたらしい)、イッチはウルトラマンの状態で禍々しかった御魂を抑えるためにひとつになる→ウルトラマンだったお陰で肉体と魂が分離することはなかったが、境界線があやふやになる(魂が肉体のように現実に具現化してると思った方が分かりやすい)→世界を壊せるほどの爆発を至近距離で受ける→肉体は咄嗟にウルトラマンが守ったお陰で完全に崩壊はしなかったが、流石に魂の保護は不可能で消滅。抜け殻になった肉体はグロテスクになりながら吹っ飛びすぎて外の世界へって感じ

 

 

508:名無しの転生者

で、その肉体は使い物にならなかったから神樹様が修復(再構築)した……と

 

 

509:名無しの転生者

それで>>442と>>444に繋がる

イッチの中で存在し続けていた陽灯くんが自身の消滅をトリガーにして(正確には元通りのひとつになったらしいけど)イッチは使えるようになった黄金色のジュネッスの力を使うことで自身の魂を肉体に戻したわけよ

 

 

510:名無しの転生者

陽灯くんは残りカスみたいなもんだったってイッチが言ってたし…それしか手段がなかったんだろうね。奇しくも名前のように風前の『灯の光』だったわけだな…

 

 

511:名無しの転生者

いや、さらっと言ってるけどとんでもないな。多次元宇宙にアクセス出来るウルトラマンと掲示板があったから助かった…ってことか

 

 

512:名無しの転生者

いつもだけど、イッチって常にギリギリを生きてるよね

 

 

513:名無しの転生者

そりゃ体はすぐボロボロになるし、なんなら日常でも酷使してるし黄金色のジュネッスにならなければ全て終わってたし…

 

 

514:名無しの転生者

色々奇跡的すぎる

 

 

515:名無しの転生者

で、イッチは進展あったん?何も景色変わらなくて退屈だぞ。美少女は何処だ!!

 

 

516:名無しの転生者

欲望に忠実

 

 

517:名無しの転生者

多分9割が後者 俺はそう

 

 

518:名無しの転生者

ここにいるヤツらほとんどがそう

 

 

519:光の継承者

むしろこの世界に俺以外が居るとでも?ウルトラマンとひとつになってる俺ですら夏の暑さと同じくらいなんだぞ?

それにそう言われても迷子中だからなぁ……いやマジでどこだここ

 

 

520:名無しの転生者

いや正直マグマとか焔にしか見えない世界で夏の暑さくらいしか感じてない時点で十分おかしいよ

 

 

521:名無しの転生者

絶対温度湿度やばいよな。死のウイルスが蔓延してるーって浸透させたってことは外の世界は人間が耐えられる温度ではない。

少なくとも見た目的には1500度はあるだろう。実際はわからんけど

 

 

522:名無しの転生者

腹が貫通した上に毒に蝕まわれていても生きていた男だ。今更驚きはせん

 

 

523:名無しの転生者

それでも俺らが暑いなーと思うくらいの感覚でしかないとか実は人間やめてません?

 

524:名無しの転生者

ちなみに言っとくと、イッチ。

お前来た道戻ってんぞ

 

 

525:光の継承者

え、マジ?

 

 

526:名無しの転生者

方向音痴で草

 

 

527:名無しの転生者

ダメだ、ただでさえ頭がアレなのに方向音痴とかもう救いようがない……

 

 

528:名無しの転生者

記憶を取り戻したところでイッチはイッチなんやなって

 

 

529:名無しの転生者

変わらないで安心した

 

 

530:名無しの転生者

素がそのままだったのか

 

 

531:名無しの転生者

これじゃいつ出られるか分かりませんね……まだバーテックスとかが現れてないのが救い。別に全域にいるって訳ではないのね

 

 

532:名無しの転生者

ステルスしてるってのもあるだろうな。流石にウルトラマンに変身できても消耗はある

 

 

533:名無しの転生者

にしても変わり映えがしない。なにかもっと変化あればいいんだけどな。あの星屑?だっけ。あんな感じのやつらが集まってるのが敵の本拠だったりしない?…流石にないか

 

534:名無しの転生者

人の気配とか本当にないのか?もしかしたら勇者システムのプロトタイプとかあってもおかしくはないだろうし、それを使って誰かが来てるとか

 

 

535:名無しの転生者

もしくは似た装備を作り出したとか

 

 

536:名無しの転生者

この世界も割と技術力はあるだろうし、ないとは言い切れないよね

 

 

537:光の継承者

うーん軽く探ったけど、ない。地道に結界を探すしかなさそう。

だけど……そうだな、今なら時間あるしどうせなら俺の過去でも知る?

いつかは話さないと行けないし、このユニバースの地球のことも知れると思うんだけど。あと俺の力とか

 

 

538:名無しの転生者

イッチの過去?

 

 

539:名無しの転生者

そういや、以前もウルトラマンになってたんだっけ…陽灯くんがそうだったもんな

 

 

540:名無しの転生者

つまり先代勇者と一緒に戦った時のこと?

 

 

541:名無しの転生者

それは気になるな。今までは記憶がなかったからどうしようもなかったが、イッチの秘密も知れるし何があったのかも知れる。一石二鳥だな

 

 

542:名無しの転生者

まぁ初めから勇者システムの満開とかあったわけじゃないだろうしね。そうなる経緯があったはず…あと前回の勇者たちを知れるのも大きい

 

 

543:名無しの転生者

本音は?

 

 

544:名無しの転生者

 

 

545:名無しの転生者

前の勇者たちをもっと知りたいです!!

 

 

546:名無しの転生者

イッチよりもあの二人のことを見たいしね!

 

 

547:名無しの転生者

美森ちゃんも先代勇者だったみたいだし、そこんとこも気になる

 

 

548:名無しの転生者

割と激重感情向けてたしな……

 

 

549:名無しの転生者

俺はイッチのことを知りたい

 

 

550:名無しの転生者

イッチも色々と謎ばかりだもんな。記憶喪失。ウルトラマンを宿せる。勇者でもないのに勇者部に誘われた理由。樹海に入れる。謎の光。ザギが言ってた正体とやら。二年前に何が起きたのか、ウルトラマンの出会いとか、あとはイッチの異常性。前世。天然ジゴロな部分

 

 

551:名無しの転生者

そうやって見ると本当にイッチって分かってないこと多かったんだなぁ

 

 

552:光の継承者

一応言っておくと俺も含めて小学生だからな。そんな変な記憶とか期待してるような場面はないぞ

ただ割と俺…分かりやすく陽灯くんと言うが、陽灯くんにとっても辛いことがあるし。なんなら記憶を取り戻して改めて思ったよ

ところで俺の異常性ってなに

 

 

553:名無しの転生者

そこ自覚してないの流石だわ

 

 

554:名無しの転生者

あのイッチですら辛いって……怖いんだけど

 

 

555:名無しの転生者

ネクサスかな?ネクサスだったわ…

 

 

556:名無しの転生者

深夜31半の作品だからな…暗い部分は間違いなくある。なんなら以前の戦い時からあった

 

 

557:名無しの転生者

またまたーどうせイッチのことだからやっちまってんでしょー?暗い内容だけとは思わねぇからな!

 

 

558:名無しの転生者

でもなーんかありそうなんだよねぇ。そもそもイッチの家族が死んだ理由すら明かされてないし…可能性としては狙われた可能性が高いけど

 

 

559:名無しの転生者

ただネクサスと同じくらいの覚悟はしておく必要ありそうだ

 

 

560:名無しの転生者

そもそもこの世界ってなんでウルトラマンとスペースビーストが居るのか。いくら不死身とはいえ何故ザギが蘇っているのかすら分かってないもんな…

 

 

561:名無しの転生者

絶対重いやつじゃん…

 

 

562:名無しの転生者

なんだかんだイッチならシリアスブレイクしてそう

 

 

563:名無しの転生者

結局は知るしかないか…謎を明かすには間違いなくイッチの過去が関わっているはず

 

 

564:名無しの転生者

さあ鬼が出るか蛇が出るか…

 

 

565:名無しの転生者

ただどう過去を伝える気だ?

 

 

566:名無しの転生者

いくら思い浮かべるだけでいいとはいえ、1からは時間かかりそう

 

 

567:光の継承者

あーその辺は大丈夫。俺の記憶をそのまんま転写するから。ただそれだと分からない部分も出てくるし一部神樹様の記録を借りるけど…分かりやすく言えばアニメみたいな感じの視点でやりつつ分けて動画として出す

 

 

568:名無しの転生者

はへーなる

 

 

569:名無しの転生者

それは分かりやすそう

 

 

570:名無しの転生者

待てお前ら。イッチだぞ…期待はしない方がいいんじゃないか

 

 

571:名無しの転生者

確かに。イッチにそんな複雑なことが出来るとは思えん

 

 

572:名無しの転生者

てか、どっから出す気なの?生まれ立ちから?

 

 

573:名無しの転生者

小学生からじゃね?

 

 

574:名無しの転生者

少なくとも話から考えるにイッチや先代勇者たちが戦ったのって小学6年生の頃だろうし…

 

 

575:名無しの転生者

改めて思うけど小学生に世界の命運を託すとかこの世界クソすぎるな…

 

 

576:名無しの転生者

そんな小学生の時に今のイッチですら辛いと思う出来事が起こったとかやばすぎん?

 

 

577:名無しの転生者

先代勇者含めてよく心が壊れませんでしたね……いやイッチの馬鹿みたいに頑丈なメンタルなら大丈夫だろうけど

 

 

578:光の継承者

待って。えーと……小学6年生の頃だと多分分からんし遅すぎるな。今から8年前…えー大体6〜7歳くらいかな。いうて普通の子供だったが

 

 

579:名無しの転生者

……はい?

 

 

580:名無しの転生者

ちょ、待て待て。普通に園児か小学校入ったばっかの頃じゃねーか!

 

 

581:名無しの転生者

幼児イッチ来たァー!!

 

 

582:名無しの転生者

ガチショタktkr

 

 

583:名無しの転生者

えぇ……そんな時から何か起きてたの?想像以上にやべぇよこの世界

 

 

584:名無しの転生者

俺はそれより美少女が見たいんだけど

 

 

585:名無しの転生者

誰得やねん…

 

 

586:名無しの転生者

得するやつはいるだろ!

 

 

587:名無しの転生者

逆に考えるんだ。イッチが幼い頃ならば、ロリ小都音ちゃんも見れると…

 

 

588:名無しの転生者

ハッ!?

 

 

589:名無しの転生者

天才か?

 

 

590:光の継承者

そこだけ切り抜いとくわ

 

 

591:名無しの転生者

やめろォ!

 

 

592:名無しの転生者

それでも人間か貴様!

 

 

593:名無しの転生者

人道的じゃねぇ!

 

 

594:名無しの転生者

なんて酷いことをするんだ……!

 

 

595:名無しの転生者

変態しか居なくね?

 

 

596:名無しの転生者

何を今更

 

 

597:光の継承者

まぁ冗談はやめて、その辺から流しつつ関係ない部分は飛ばしていく。

8年前の出来事が終わればその3年後(8〜9歳くらい)。そのあとはさらに3年後(11〜12歳)までは特に何も起きないし…せいぜい俺が人助けしてるところくらいだよ

 

 

598:名無しの転生者

めっちゃ当たり前みたいな言い方してるけどなんで小学生になる前から人助けに奔走してんの?

 

 

599:名無しの転生者

普通ってなんだよ

 

 

600:名無しの転生者

イッチ…普通はその歳で他人を優先するやつは居らんぞ…

 

 

601:名無しの転生者

やっぱりイッチって最初からおかしいじゃないか

 

 

602:名無しの転生者

というか8年前に何かが起きて、その3年後にはまた何かあって、また3年後くらいには多分バーテックスとの戦いなんだろうが…起きすぎでしょ

 

 

603:名無しの転生者

一体何があったんだ…

 

 

604:光の継承者

8年前はすぐ終わる。だいたい俺が人助けしてるし…まぁ何はともあれ、やっていい?

 

 

605:名無しの転生者

そこが既におかしいんだけどなぁ…

 

 

606:名無しの転生者

それを普通だと思ってるイッチの脳みそが意味不

 

 

607:名無しの転生者

まあまあ、見たらわかるでしょ知らんけど

 

 

608:名無しの転生者

ただ生まれながらにそうなってたって考えるとイッチは昔からやべーやつだったんやなって

 

 

609:名無しの転生者

どこで自己を失ったんですかねぇ…

 

 

610:名無しの転生者

生まれた時からでしょ

 

 

611:名無しの転生者

有りうる

 

 

612:名無しの転生者

むしろそんな人助けする必要があるほどのことがあるんですか

 

 

613:名無しの転生者

まぁほんの些細な困り事でもイッチは力になろうとするからなぁ

 

 

614:名無しの転生者

大きなものならまだ分からなくはないけど、例えば物を落としたってだけでも手伝うし荷物が重そうという理由で力を貸すしで……

 

 

615:名無しの転生者

自転車が倒れてるから起こしたり公園にあったゴミ拾いとか海岸とか…誰も見てないようなこともしてるんだよね。そんなことまで含んでたらそりゃアホほど増えるよ

 

 

616:名無しの転生者

でも勇者部が出来上がってイッチの負担はちょっとは減ってたよね。こいつが勝手に休むことなく行動するからまじでちょっと程度だけど

 

 

617:名無しの転生者

と、いつまでも話したってしょーがない。

お手並み拝見といこうか

 

 

618:名無しの転生者

せやな。頼むわ

 

 

619:名無しの転生者

ようやっと経緯が知れるんやなって

 

 

620:名無しの転生者

よくあるアレ、過去回だな

 

 

621:名無しの転生者

正直過去のイッチもあんま変わらなそう

 

 

622:名無しの転生者

それは確かに

 

 

623:光の継承者

あんま変化はないかもしれない。自分じゃよく分からないからな…結局んとこは見たら分かる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---神世紀292年。

一人の黒髪の少年が何かを探しているように走っていた。

容姿はだいたい110cmあるかないかと平均よりも低めで、まだまだ幼い子供。

おそらくようやく流暢に喋れるようになり、ちゃんとした意思疎通も可能になったくらいの年齢だろう。

後は小学校に入学してるかしてないか、それくらいで至って普通の子供だ。

ただ一つ、異質な部分を除いて。

その少年の体の至る所には絆創膏が貼られている。例えば腕や足、それから頬だったり額だったり…と。

まるでイジメでもあったのかというくらいには酷く、まだまだ幼い子供がそんな怪我をするものでは無いだろう。

そんな少年は周りを見渡してぱあっと明るい表情を見せると、何かに気づいたように大慌てで飛び込み、芝生の堤防斜面から勢いよく転げ落ちた。

---イジメなんかではなく、怪我の原因は明白だった。

 

「き、キミ!大丈夫か!?」

 

自転車に乗っていることから通りすがりと思わしき人が声を掛ける。

目の前で小さな子供が勢いよく転がっていったのだからそれも仕方がないだろう。

 

「だ、だいじょぶでーす…!すみませんでした!気にしないでくださーい!」

 

が、転げ落ちた少年は全然平気そうに手を振りながら大声を出す。

それを見て安堵の息を吐くと、大事には至らなかったのと本人がそう言ってるのもあって、自転車を漕いで去っていく。

それを見届けた少年は転がったせいで服が汚れたので叩いて落としつつ、歩こうとしたところで顔を顰める。

 

「いてて……うーん…いけると思ったんだけどなあ」

 

よく見てみれば擦り剥いたのか膝蓋骨である膝の皿からは円に近い血が流れており、見えないだけで他も怪我してるだろう。

流石に痛いようで、傷口を触って痛みに思わず手を離すが、普通に血が付着した。

そもそも怪我してる部分をわざわざ触らない方がいいのだが、何はともあれ少年は一つ深呼吸を置くと、地面を叩くように起き上がる。

その際に勢いが強かったのか僅かに揺らぐものの、倒れることなく引き摺るようにして片手で何かを持ちながら登っていく。

 

「……よし!」

 

何がよしなのかは分からないが、本人は満足そうに頷くと周りから感じる視線を無視して歩いていく。

本人の中ではまだ終わってないらしい。

 

「ん?おーい!」

 

しばらく歩いていると、不安そうな表情で周囲に視線を巡らせる見知った姿が見えた少年は場所を知らせるように手を高く挙げながら笑顔で振っていた。

少年の声に気づいたのか、水色の髪をツーサイドアップに結んでいる少女が涙目で駆ける。

 

「おにーひゃん……っ!」

「おっ……!?」

 

兄と呼びながら勢いよく少女が抱きつく。

少年は倒れないように両足に力を入れて止めるが、怪我した部分が僅かに痛みを発する。

 

「うう……おにーひゃん……」

「ごめんな、一人にしちゃって。でもほら!」

 

ぐりぐりと頭を擦り付けてくる少女を撫でると、少し引き離して後ろ手にしていた腕を動かして見せるように突き出す。

するとウサギのぬいぐるみが少女の目の前に現れる。

どうやら探し物をしていたらしく、それを持ってきたのだろう。

 

「ふわあ……!」

 

差し出されたぬいぐるみを見て、少年が頷いたのを見た少女が両手で取ると、嬉しそうに抱きしめる。

先程涙を浮かべてたのが嘘のように明るくなったのを見て、少年は満足そうに微笑んだ。

 

「ありがとう、おにーちゃん!」

「お礼なんていいよ。それよりも早く帰ろっか」

「うん!……あ」

 

さっきは視界が歪んでいたのとくっついていたからだろう。

ちょうど目を落としたときに少年の足が見え、割と大きな傷口が目に入った。

 

「お、おにぃちゃん……」

「え?ちょ、ど、どうした!?」

 

兄と呼ぶことから年下なのだろうが、幼い身でありながらもその怪我の原因を理解したようで、泣きそうな顔になった少女に少年が慌てる。

 

「ご、ごめん!間違えた?それともケガした?」

「ち、ちがうの……だって、だって……おにーちゃんケガしてる……!」

「あーそれは……」

「わ、わたしのせいで……」

「ま、まってまって!平気!ぜんっぜん大丈夫だから!慣れっこだし、これはそう、あれ……あの、あれ…えっと、転んだ!転んだだけだしさ!」

 

ちょっとした嘘を付けば簡単に誤魔化せるのだが、全然言葉が出てこなかったようで結局似たようで似てないことを話していた。

が、間違っては無い。転んだのは事実であり、それが偶然だったのではなく自ら転びに行っただけの違いなのだから。

 

「ちょっと痛くはあるけど、大丈夫だから!それに小都音のせいなんかじゃなくて()の不注意だし!ね?」

「で、でも……」

「大丈夫!」

 

安心させるように笑顔を浮かべる。

実際骨が折れてるという訳でもなく普通に動くので、多少痛い程度だというのもあるだろう。

 

「それよりもさ、帰ろう?母さんが心配してるかもだし!」

「……うん」

 

笑顔で手を差し伸べる姿を見ると何も言えなくなったのか、小都音はそっと手を乗せると少年は優しく握ってゆっくりと歩みを進め、帰路に着く。

 

「おにーちゃん」

「んー?」

 

歩を合わせるように歩いていると呼ばれた少年は返事をすると、小都音はただぬいぐるみを抱いて肩を寄せた。

 

「えへへ」

「???」

 

はにかむように笑う小都音に対し、少年は全く行動に理解が出来ずに疑問符だけを浮かび上がるが、なんだか機嫌が良さそうなので何も言わずに頭を撫でると、アホ毛がピンッと立って尻尾のように動いていた。

ますます機嫌が良くなっているみたいで、そんな姿に少年は明るく笑った。

 

 

856:名無しの転生者

う、うぉおおおおおおおおおおお!!(萌)

 

 

857:名無しの転生者

きゃわたん!きゃわたん!

 

 

858:名無しの転生者

これは将来が楽しみですねぇ!いやもうこの時から予兆はあったのか…!

 

 

859:光の継承者

いや、騒がしすぎるんだけど

 

 

860:名無しの転生者

可愛いは正義やぞ、イッチ

 

861:名無しの転生者

どっちに言ってるんですかね

 

 

862:名無しの転生者

イッチも可愛いだろ!

 

 

863:名無しの転生者

妹ちゃん可愛すぎるッ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも変わらない。

少年はここ最近、不思議な夢を見ることになっていた。

いつも歩いているのだ。何処か分からない場所。何があるかすら分からない場所。

なんの色もない、灰色の世界。

その世界をずっと歩く。

どれだけ歩いても歩いても景色が一切変わらなくて、だけど何かに突き動かされるように少年は歩いていた。

どうしてそんなことをしているのか自分ですら分からないけれど、少年はひとつの想いで動き続けていた。

その先に困ってる者がいるなら、力になりたいと。

歩み続けることが良いことだとは限らないが、こんな何の色もなくて何も無い世界に誰かがいるならきっと()()()だろうと。自分がここにいるということは、誰かが何かを求めているのだろうと。

だから歩いて歩いて---いつも、()()()が見えた時には、夢が醒める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学生の身である少年は当然働くことなんてことは出来ず、休日となると家に居てもやることはない。

無論家に何も無いという訳ではなく、両親が怪我して帰ってくることを案じたのかゲームなどはある。

だがそれらは少年自ら欲しいと言ったわけではなく、むしろ真逆。

彼は自分から何かが欲しいとか、これが欲しいとか、まだまだ子供の割にそういったことを進言したりしないのだ。

子供らしくないと言えばないだろう。

外に出て遊ぶ時は誰かに誘われたか、誰かを笑顔にさせるためのひとつの手段としてしか遊ぶことはせず、楽しくないわけではなくとも一人で何かをしたりはしない。

なぜなら彼は、誰かの力になれることこそが一番の幸せなのだから。そんな暇があるならば駆け回って手助けするという考えで動く。

そしてそんな人助けしか頭にない彼は、現在進行形で両手に袋を持っていた。

 

「紡絆くん。こんばんは」

「あっ、こんばんは」

 

声を掛けられ、足を止めた少年が振り向くと笑顔で挨拶を返す。

相手は主婦なのか、手提げカバンに食材や調味料らしきものを持っている。

その隣には子供らしき茶髪の少女が居て、母親が僅かに背を押すと少年と対面になる。

 

「ほら」

「う、うん……」

「?」

 

母親に言われてか、何処か緊張した面持ちの少女に少年は不思議そうにするだけだ。

 

「こ、こん、ばん……は」

「うん、こんばんは」

 

目の前の少女とは全くもって緊張する様子もなく普通に返す少年に対し、少女は挨拶が出来たことに嬉しそうに笑顔になる。

が、理由が分からない少年は首を傾げた。

 

「あら、こんなところに。小都音ちゃんもこんばんは」

「……う」

 

見えにくい位置に居たせいで遅れて存在に気づいたのか屈しんで出来る限り背を合わせると挨拶をする相手に小都音は少年の背に隠れるように抱きついた。

 

「あ、ごめんなさいね。怖がらせちゃったみたいで……」

「あー…いえ。こちらこそすみません。あんまり話すのは得意じゃないみたいで」

 

盾にするように隠れつつも小都音はひょこっと顔だけ出して少年の目の前にいる少女に猫のように威嚇していた。

流石に困った表情をしており、それに気づいたのか苦笑した少年は宥めるように小都音の頭を撫でる。

 

「今日は買い物ですか?」

「それもあるけど、本当は---」

「っ---!」

 

少年が話を変えるように問いかけると、母親は何かを言おうとして少女に叩かれていた。

突然の行動に少年は驚くが、母親はそこまで気にしてないようでむしろ笑っている。

仲は良さそうなので、止めるべき案件ではないらしい。

 

「あ、そうだ。里香ちゃん、だったよね。あれから大丈夫?」

「へっ……!?は、はい……」

 

目の前の少女との出会いを思い出しながら聞けば、里香と呼ばれた少女は叩くのをやめてゆっくりと頷く。

そんな大それたような出会いだった訳では無いが、簡単に言えば高いところから降りれなくなった彼女に対して少年が手を差し伸べただけ。

あとはちょっとした相談に乗ったことくらいだ。

 

「そっか。それは良かった」

「……あっ」

 

安心したように微笑み、里香の頭を優しく撫でる少年に里香の顔は一気に真っ赤になる。

そして後ろでは小都音が引き離すように少年の服を強く引っ張った---が、残念ながら力負けしてるので動くはずもなかった。

その状況を母親は楽しそうに見ている。

 

「何かあったらいくらでも力になるし気軽に言っていいからね」

「あ、あり…がとう…」

「うん!あっ、それじゃあ小都音が帰りたそうにしてるので僕は行きます」

「ええ、また娘とお話してね」

「はい!」

 

引っ張られていることには流石に気づいていたので勝手にそう解釈した少年は頭を下げると、くっついたまま離れない小都音と一緒に去っていく。

その姿を未だ顔を赤めたまま明らかに他人とは違う視線を向ける少女がいるのだが---それは余談か。

なお母親は全部気づいてるのか里香が復帰する頃にはからかっていた。

 

195:名無しの転生者

これマジ?

 

 

196:名無しの転生者

おいおい、この頃から既に前兆出てんじゃねーか!てか、これいる?

 

 

197:名無しの転生者 

うわあ、昔から天然ジゴロだったのかよ…スケコマシめ!魔性すぎる。しかもこいつの場合ただの善意による行動なのがな…。ほんとよく今まで刺されなかったなお前

 

 

198:光の継承者

え?何が?

あっ、ちなみにこの子は養子に出るまでは関わってたから出しただけね。他にも色んな子と出会ってるけど、流石に全部記憶から抽出してたら終わらんし…いつかはまた話したいね

 

 

199:名無しの転生者

いる(鋼の意思)

 

 

200:名無しの転生者

イッチってなんで出会うところで美少女ばかり会ってんの?この子ちょっと前髪が長い影響で目が隠れてるけど、間違いなく美少女だよ。しかもそんな子が恥じらいを見せてるの破壊力やべーよ

 

 

201:名無しの転生者

これが主人公か……

 

 

202:名無しの転生者

今でも気づいてないイッチが面白すぎるでしょ

 

 

203:名無しの転生者

昔から鈍感だったんやなって…

 

 

204:名無しの転生者

嫉妬する妹ちゃんがかわいい

 

 

205:名無しの転生者

もうこの子ルートでいいのでは?

 

 

206:名無しの転生者

イッチのせいでこの子恋愛出来なさそうなんだけど。いまも忘れられず過ごしてそう

 

 

207:名無しの転生者

イッチが全員娶れば解決でしょ

 

 

208:名無しの転生者

それだ!

 

 

209:光の継承者

さっきからみんなが何のことを言ってるのか全く分からないのは俺だけか?

 

 

210:名無しの転生者

安心しろ

お ま え だ け だ

 

 

211:名無しの転生者

誰も肝心の夢に関して触れてないのワロタ。あれ絶対重要なイベントでしょ

 

 

212:名無しの転生者

というか、この頃の妹ちゃん全然違うな。いつもイッチの後ろについて行って隠れてるし話す時もイッチや家族以外にはたどたどしい

 

 

213:名無しの転生者

多分この子以外も被害者が……あっ、勇者たち全員がそうでしたね!

 

 

214:名無しの転生者

イッチが強すぎる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





○継受紡絆ウルトラマンネクサス(光の継承者)
一度魂ごと抹消されたものの、神樹様と光のジュネッスの力によって別次元から記憶をかき集め、思い出からひとつずつパーツを集めるように魂を復元された。分かりやすく言えば、もやしと同じ復活方法(MOVIE大戦2010)
その後、魂だけでは復活出来ないので陽灯くんとひとつになることで命を貰い受け(この時点で陽灯くんは消滅)、文字通り生き返った。
が、あくまで元通りの自分になっただけなので特に変化は無い。
ただ復活と同時に神樹様による再構築で今までの傷は癒えてるので、常に万全の状態で戦うことは可能。なお空腹(万全になれるとは言っていない)。
ちなみに現在何してんの?と言われると、普通に結界の外で呑気に迷子中。

○ウルトラマンネクサス
紡絆くんが万全なので彼も万全の状態で復活。
友奈ちゃんの前に現れた時にエナジーコアが鳴ってなかった理由がこれ。
時系列的には友奈ちゃん植物状態→紡絆くん復活→友奈ちゃん復活→今頃友奈ちゃんリハビリ中で紡絆くんは迷子中。

○遡月陽灯(ややこしいので過去の紡絆くんは陽灯くんとして扱う)
黒髪の少年であり、まだ小学1年生のガチショタ。現時点では6歳
この時からもう既に人助けはしており、小学生に上がって出来ることが少し増えたので活動が広がっている。
常に生傷が耐えず、体中に怪我はあるもののそれらは全部自分が負った、もしくは負いにいったというもの。
笑顔が耐えず、コロコロと色んな表情を見せるが紡絆くん同様嘘は余程鈍感じゃなければバレるくらいにヘタクソ
この時から既に天然ジゴロではあるものの、やはり他者から向けられる好意には気づけない。
実は最近変な夢を見る


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「邂逅」

投稿遅くて草
おい、もうすぐCS版来るのにわすゆ入ってないんだけど。
文字数減った分投稿早くなるかと思ったら全然そんなことありませんでした。モンハンワールド楽しい









 

 

◆◆◆

 

 第 2 話 

 

邂逅

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩いて、歩いて、歩く。

何度繰り返したか分からない。

何度同じ夢を見てるか分からない。

分かることは前に進まなくちゃ行けないということ。理由があるわけでもないが、そうすべきだと何かが駆り立てる。

だからその先に何が待ち受けているのか分からなくとも、少年は歩み続けた。

そうして---光が見えた。

 

(嗚呼。今日も、ダメなのかな……)

 

夢が醒める。

いつもと変わらない。同じ景色を歩いて歩き続けても、何処にも辿り着くことがない。

まるでゴールなどないように。

いつもそうだった。

いつも帰るだけだった。

いつも目が覚めて、いつもと変わらない日々を過ごすだけだった。

けれど。

 

(僕は……助けになりたい。僕がここいる意味はきっと誰かが()()としていると、思うから…!)

 

諦めずに、その手を伸ばす。

確信があったわけでも、何かが見えたわけでもない。

ただ単に、ほんのちょっぴり勇気を出して手を伸ばしただけ。

だとしても、そのちょっぴりの勇気が夢をついに変化させた。

光から伸びてきた()が腕に絡みつき、少年の体は()()の光に包まれる。

いつもと全く違う出来事に驚きはするが、不思議と嫌な感じをしなかった少年は抵抗することも無く、流れに身を任せるように目を閉じた。

腕に絡みついた枝は次々と少年を覆い隠し、次の瞬間には全てが消滅する---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うぅん……?」

 

少年が目を覚ましたのか、ゆっくりと目を開く。

最初に感じたのは違和感だった。

少年はちゃんと布団で寝たはずで、誰かが布団の中に入ってきたような感覚はあったが至って普通に布団で寝たはず。

しかしやけにゴツゴツしている。

いくら寝返りが激しく布団の中から出ていくことがあっても、そんなゴツゴツとした場所など家の中にはないし、そもそも少年は寝相は良いのでそんなこと起きるはずもない。

だとすれば、このゴツゴツとした…それこそコンクリートのような、地面に寝転んでるような感覚は何なのだろうか。

 

「……あれ?」

 

そう思って体を起こし、目の前の光景に言葉を失う。

目前に広がるのは変わらず灰色の世界ではあるものの、その世界は木々が複雑に絡み合い、いつも何も無い灰色の世界とは大きく異なる。

それこそ、今見える世界に正しい表現をするならば、それはまるで---()()ではないだろうか。

 

「ここは……?」

 

目の前の光景に目を奪われたが、起き上がるために手を地面に着いたところで、全く布団もなくただ木の地面だったということに気づく。

ゴツゴツとしていた理由が解明出来たのは良い事だが、立ち上がって周りを見渡しても、その世界は木ばかりが存在する。

残念ながら、色んな場所を歩いたり走ってきた少年の記憶にもこのような場所は見たこともない。

 

「とりあえず……」

 

何処に行けばいいのか分からないが、いつまで止まっていても何も変わるはずもない。

すぐに行動を移すという思考に至った少年は複雑な木々の中へ入っていく。

小さな枝もあれば大きな枝もあり、気をつけなければ転んでしまうかもしれない。

掻き分けるように手を動かすと、子供の力でも簡単に動かせる。

それほど強度がないというわけでもないのに。

()()()()()()ようだ。

 

「あだっ…!?」

 

そんなふうに進んでいたら、足が縺れて顔面から転んでしまう。

先に手を着いていたお陰で多少軽減は出来ていたが、痛いものは痛い。

しかしそれはおかしいだろう。

 

「……あれ、痛い?」

 

そう、痛いのだ。

少年はさっきまで『夢』を見ていた。現実の体は眠っているはずで、痛みなど感じるはずもない。

でも、今は痛いと感じた。

いくら少年がバカでも幼くとも、いつも経験していることだからそれくらいは分かる。

この世界は痛みがあるということ---すなわち、ここは現実。それとも現実に近いどこか、というのが正しいだろう。

その結論に至った少年は首を傾げるが、結局考えても分からないので思考を投げ捨てた。

元々考えるより先に動くタイプの彼は、当たって砕けろの精神に切り替えて歩みを進めた。

そうして進み続けた先に見えたものは---

 

 

 

 

 

 

大きな樹木だった。

混雑していた木々が嘘のように広がった空間に聳え立つ巨大な木。

世間一般で見るような色でもなく、何処か神々しさを感じさせるような黄金色のモノ。全ての色が消え去った世界で唯一、それだけが色を保っていた。

 

「これは…?」

 

規模の大きさに驚きはしたが、すぐに我を取り戻した少年は見上げる。

自身の身長を優に超えるほどの巨大な樹木。

明らかに他とは違うもの。

 

「君は…そっか。君が神樹様なんだ。ありがとう」

 

()()() 目の前の木の存在が神樹様だと確信を持てた少年は今までの事に感謝の言葉を伝えながら根元まで近づく。

当然ながら返事は返ってくることはないが、少年は僅かに考える素振りを見せるとその手で、木に優しく触れる。

 

「ずっと僕たちを見守ってくれて。守ってくれて。助けてくれて。色んなことをしてくれたんだよね。何を伝えるか悩んだけど、やっぱり一番最初に伝えたいことはこれしかないんだ。『ありがとう』っていうありふれた言葉。でもね---」

 

想いを伝えるように浮かぶ言葉を次々と口にすると、少年は不安げな表情となりながら、再び伝える。

 

「寂しくないの?ずっとここに居て、一人でいて…僕たちをずっと助けてくれて、辛くないの?疲れないの?大丈夫なの……?ねえ、神様だって寂しい時くらいあるでしょ?」

 

触れた手をゆっくりと労わるように動かす。

それこそ、いつもやっているように。神だからと崇めるわけでも、神だから讃えるわけでもない。神だからと敬うわけでもない。

人と接するように、ただ少年は『心配』しただけ。

 

「残念だけど僕に出来ることはないかもしれない……僕はそんな力ないから。だけどね、でもね。

一緒にいることは出来るから。その寂しさを埋めることは出来るから。、お話することはできるから。君を労ることはできるから。だって、僕がここに来た理由は…き……っ、と……そ、の…ため……」

 

最後まで言葉を伝えることは出来ずに、限界を迎えたのか少年の体が倒れていく。

どれだけ歩いたのか、小さな身では疲労は凄まじいだろう。

しかし果たして、目の前に『神』が居て、少年のように『思いやれる』ようなものが居るのだろうか。

形作っていたならば、居るかもしれない。その体が人の形だったなら、人間と思って優しい言葉をかける人も居るかもしれない。

だが神樹とはこの世界の、少年の世界における神だ。

恵みをもたらし、護ってくださる神。

感謝することはあれど、それが『普通』となっている世界でもある。

なぜならそれは少年でも知っているような一般常識なのだから。

そもそもの問題。神とは 人の範疇を超え、人間を超越した存在。多くは尊崇するか畏怖するかのどちらかに分かれ、絶対的存在として伝わっている。

だというのに、神に出会った少年は特別何かを願ったわけでもない。ただただ、一人で存在する神に少年は邪な考えなど一切持つことなく思いやった。

気遣った。労った。感謝した。そして『助け』になろうとした。

そう、彼は神であろうと人間であろうとも同じく、『対等』に感情を向けた。

明らかに表情もどういったことを考えているのかも分からないのに。自分の方が疲れてるだろうに、初めに彼は他者を心配した。

神からすれば、そんな少年はどう映ったのだろう?

少なくとも---

 

 

 

 

 

神樹が倒れそうになった少年を守るように。

どこならともなく伸びてきた小さな枝が人が寝るようなベッドのような形を作って受け止めるように支えたことから、()()()()感情を抱いているのは確かだろう。

無論、神に人間のような価値観や感情があるかは定かでは無いが。

 

「………まも、る……から……」

 

まだ子供でしかない少年は、自身を支えてくれた枝に()()ように。()()()()()ということを、『独り』ではないことを伝えるように無意識に優しく握って、何かを呟いていた。

現実のようで、夢のような世界。夢のようで、現実のような世界。

元の場所で戻すように。少年の居場所はここではないというように。いや、本来の居場所に戻すために。

少年の意識が醒めていく---

 

(……だいじょうぶだよ…ぜったい、ひとりにはしないから……また、会いにくるから……だから、待ってて……)

 

うっすらと開かれた目が、光のような眩しさに閉じられていく。

最後に見えた姿は、何処か嬉しそうで、寂しそうで、悲しそうで---少年はそれが、酷く嫌だった。

だからこそ、少年は遠く意識の中で無理矢理手を伸ばし---世界は、容赦なく塗り替えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

白色の袋に鋭く鋭利な歯と大きな口を付けたような姿をしたバーテックス。

いわゆる星屑と呼ばれるモノ。

それらが一気に雪崩のように流れ込んでいく。

しかし発射された光の刃が止まることなく切り裂き、光の刃は消えることがなく一直線に貫いていく。

星屑はこのままでは全滅することに気づいたのか左右に分かれると、そのまま左右に分散して襲いかかる。

 

『フッ---』

 

星屑が襲いかかる相手は、49mほどの銀色の巨人。胸にY字型の器官が存在し、銀色の両腕に黒と赤のラインが走り、中心に青色の半球体が存在するアームドネクサスを備えている存在---ウルトラマンネクサスだった。

彼は両腕を動かすことで、アームドネクサスの側面から伸びている金色の刃であるエルボーカッターで迎撃していく。

数こそ多いが、ネクサスにとってはさほどの脅威にもならない。あっという間に数を減らしていき、何かに気づいたネクサスが遠くを見上げると右手のアームドネクサスを振り下ろしながらその場でバク宙する。

その瞬間、物凄い速度で先程まで居た位置にナニカが駆け抜け、回避したネクサスの全身を光が包み込むと、青い鎧をその身に纏う。

俊敏に優れた強化形態---ジュネッスブルー。

 

『シェッ!』

 

変化した右手のアローアームドネクサスがソードモードを形成し、シュトロームソードを生み出したネクサスが加速。

星屑を一気に消し去り、牛を思わせるバーテックスのようなスペースビーストのような融合型になりかけた『進化体』を目にも止まらぬ速度で滅多斬りした。

シュトロームソードが役目を終えたように戻り、背後では天に還るように虹色の光となって消滅していた。

それを見届けたネクサスが両腕を交差すると、みるみる縮んで一人の少年の姿へと戻る。

 

「ふぅ……なんか見たことないやつが生まれてくるな」

 

ウルトラマンに変身していた黒髪の少年は、さっき戦った敵に関して記憶がなかった。

彼が知る基本となるバーテックスは黄道十二星座と拷問器具が元になった存在と、スペースビーストと融合する88星座に存在する星座のみである。

 

「まぁ倒せたからいいか……さて、いつ帰れるかなぁ」

 

考えても分からないからか考えることをやめた彼は熱された世界を歩いていく。

明らかに危険地帯であるのに、その心は荒れることも焦ることも無く平常心だった。

それどころか帰れる算段が一応あるのか、あまりに落ち着いていて---

 

『---紡絆。その方向はさっきと同じだ』

「あっ……こっちか!助かったよ、ウルトラマン」

 

ただの迷子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

558:名無しの転生者

マジでイッチ強すぎね?あれ、未完成とはいえネオ融合型になりつつあった個体だよな?

 

 

559:名無しの転生者

お前……だってこいつ、今までの戦いは全部瀕死レベルの傷で戦ってたんやぞ?

 

 

560:名無しの転生者

なんならガチで瀕死だったからな。その状態で勇者の協力ありきとはいえメフィスト+ネオ融合型を相手に勝つバケモノやぞ

 

 

561:名無しの転生者

バケモノ呼ばわりは草

 

 

562:名無しの転生者

万全の状態(頭打ってた)初戦に関してはガルベロスをアンファンスで討ったからな……多分ギャラファイのようなノア様本人クラスに近づく強さはあんじゃねーの?

 

 

563:名無しの転生者

万全のイッチの安心感半端ねー!

 

 

564:名無しの転生者

こりゃザギも警戒してて可笑しくはないな

 

 

565:名無しの転生者

ジュネッスブルーでアレだもんなぁ…明らか上位互換の黄金色の形態になったらどうなることやら

 

 

566:光の継承者

悪い、切ったな。また記憶再生するわ。というか再生しとくから見といて、また星屑襲ってきたからしばらく相手する。どちらにせよ四国に行かれたら困るし相手しないといけないしな

 

 

567:名無しの転生者

出来るなら最初からやれ定期

 

 

568:名無しの転生者

今アップデートされたんやろ(てきとー)

 

 

569:名無しの転生者

生身で突っ込むイッチはバカなのだろうか

 

 

570:名無しの転生者

バカだから突っ込んでいくんでしょ

 

 

571:名無しの転生者

まぁ変身するやろ。それよりも…おっ、再生され……ん?

 

 

572:名無しの転生者

え?…あんれぇー!?

 

 

573:名無しの転生者

ちょっ、はっ?マジ?え、かわいい

 

 

574:名無しの転生者

いやいやいや!それよりもイッチって記憶思い出したくせに気づいてないのか!?

 

 

575:名無しの転生者

この時、何気に出会ってたんかーい!

 

 

576:名無しの転生者

でも相手も気づいてる様子なかったしなぁ

 

 

577:名無しの転生者

小さい頃だから仕方がないとはいえ、意外な縁があったな…

 

 

578:名無しの転生者

まあイッチは鈍いから気づくはずないか

 

 

579:名無しの転生者

小学生くらいだし、流石に覚えてないんだろうなぁ…この時のイッチって僕っ子みたいだからより印象違うだろうしね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年の方が背が高いからか、少年はしゃがみ込んで少女の背に合わせると、怖がらせないように優しげに口を開く。

 

「どうかした?」

「え……?」

 

ハンカチを取り出した少年は差し出しながら声を掛けると、少女は泣き止む。

というよりは驚きが勝った影響で混乱してる、というべきか。

 

「泣いてたから気になったんだ。僕で良ければ力になるから、話してみて?」

「え、と……あっ、ああああの…そ、その……」

「ゆっくりで大丈夫。自分のペースで話してくれたらいいから」

 

中々言葉が出てこない少女を見かねてか、そう言った少年は持っていたハンカチでそっと涙を拭うと、ただ待っていた。

 

「そ、その……お、おねえちゃんと…はぐれちゃって……」

「そっか。じゃあ僕と一緒に探そう!大丈夫!こう見えて何かを見つけるのって得意だから、絶対見つけ出すよ!おーぶねに乗ったつもりでいいから!」

 

すぐに理解出来た少年は胸を張って得意げに笑いかける。

それで警戒が解けたのか、ただ緊張してたのかは分からないが、少女はゆっくりと頷いた。

 

「よーし!れっつごー!」

「わっ……!?」

 

即断即決。

少年は少女の手を優しく取ると、ゆっくりと歩いていく。

突然の行動に驚いたものの、行動力の塊とも言うべき少年は気にした様子もなく少女に話を振りながら人探しに精を出す。

---が、ほとんど少年しか喋ることはなく、少女は聞いてるだけだった。

どうやらコミュニケーションを取るのは苦手らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

特徴だけを聞いた少年は名前を呼びながら探して、不安そうにする少女にも気をかけながら少しでも安心させるように強く手を握って笑顔を向ける。

まるで太陽のような少年に釣られてか、時期に少女も不安な表情はなくなっていったが、簡単には見つけられないのだろう。

そもそも子供の身なのもあって視野は狭い。

それでも少年は諦めるつもりなど毛頭なく、内心で考え込みながらも、声が枯れようとも見つけ出すつもりだった。

 

『--きー!』

「…んー?」

 

その時、思考が遮られる。

遠くから聞こえてきた声ではあったが、誰かを呼ぶような声だ。

状況的に少年は隣の少女なのではと思い顔を向けると、少女は気がついたように周囲を見渡していた。

となれば、正解なのだろう。

動きすぎて遠くなってしまえばせっかくのチャンスを失ってしまう。

故に少年は足を止めると、目を閉じた。

 

「……?」

 

傍では目を閉じて止まった少年のことが気になったのか少女は首を傾げてるが、手が繋がれてるのもあって動けない。

が、少年は集中してるため目を開けない。

聞こえてきた場所を探るように少しでもいらない音を遮断し---

 

『--つき!』

「うん、こっち!」

 

気づいた少年が方向を転換して走っていく。

無論、少女に気を遣って全力ではなく早歩きよりちょい速い程度で。

少女は引っ張られる形で後ろから着いていき、そうこうしてる間にだんだんと声が大きくなっていく。

さらに周りを探しながら声を出している別の少女の姿が見え、こっちの存在に気づいたのか駆けてくる。

 

「ほら、安心させてあげて」

「っ……はい!」

 

それを見た少年は手を離すと、少女の背を優しく押す。

一瞬だけ振り向いたが、すぐに少女は前を向いて走り出し、再会を喜ぶように抱きついた。

 

「もう、心配したんだからね。大丈夫?ケガはない?」

「う、うん…ごめんなさい」

「ううん、私が悪い部分もあるし…それよりも無事でよかった」

 

姉と思わしき少女は申し訳なさそうにする少女を大切そうに抱きしめながら頭を撫でて、安心したように息を吐いていた。

そんな姿を見て、少年はただ嬉しそうに微笑む。

目の前の少女たちが悲しんでないからだ。

大したことはしてないが、役に立つことが出来た。笑顔が見られた。

それだけでもう、十分だった。

邪魔者はこっそり立ち去ろうと音を立てないように後退りしていく。

が、事情を聞いたのか姉と思わしき少女が気づいて近づいてくる。

 

「あっ、待ってください!樹を…妹をありがとうございました!」

「あー…いえ、僕にも妹が居ますから慣れてるんです。ただ今度は目を離さないであげてください。見た感じこの辺りに慣れてる感じはありませんでしたし、そんな場所で一人になると不安でしょうから」

 

にお礼が欲しくてやったわけじゃないため、ちょっと困ったように笑いながら、姉と思わしき少女に目を合わせて答える。

そしてゆっくりと背を降ろし、すっかり姉にくっつく少女に似た光景が思い浮かんだ少年は既視感を覚えつつ目線を合わせる。

 

「今度はお姉ちゃんとはぐれないようにね」

 

そしてそれだけ告げて軽く頭を撫でると、少女は姉に隠れてしまった。

それを見て苦笑すると、姉の方も苦笑していた。

 

「何はともあれ、見つかって良かったです。それじゃあ僕はやることがまだまだあるので、これで!」

 

あまり長居するわけにもいかず、少年は振り向く前に頭を下げてきた二人に会釈だけして走り去っていく---と、即座に何かを見つけたのか方向転換して男の子に声を掛けていた。

 

「なんというか……忙しない人ね…って名前聞くの忘れてた!」

「ま、また会えると……いいね」

「---そうね。にしても、珍しいね。樹が他人に、それも男の子相手にそんなこと思うなんて」

「へっ!?そ、そうかな……?」

 

そのような会話があったことは知らず、お互い名前も知らぬまま二人の少女と少年の道は分かれる---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつけば灰色の世界に居て、気がつけば眼前には樹海が広がっていた。

以前までは歩く必要があったのに、いつの間にか居た。

なぜここにいるのか、どうやって来れたのか、一瞬そんなことを考えた少年は分からないので投げ出し、即座に行動に移す。

駆け出し、木々を潜り抜けていく。

その先にあるもの。その先に存在するものに会わなければならないから。

そうやって駆け抜けた後に、やはり巨大な樹木が存在していた。

そこにあったことへの安堵の息を少年は吐き、ゆっくりと歩み寄ると見上げる。

 

「えっと…こんにちは…ううん、こんばんは、かな?」

 

何を言うべきか僅かに考え、ひとまず挨拶することにした少年は大樹に声をかける。

だが、何も返ってくることはない。

 

「ん…こほん。まずは自己紹介だよね。僕は継受紡絆って言うんだ、得意なことは特にないけど、好きなものは誰かの笑顔を見ること!幸せな姿を見ること!あとは---あっ、星とか!星って色んな種類やたくさんの名前があってね、本で知ったことしか分からないけどいつか宇宙に出ることが出来たら、たくさんの星が見れたらいいなーって思ってる!」

 

ニコニコと笑顔で自分のことを語る少年---紡絆は幼い子供らしさが全開だった。

嘘のひとつも着くことはなく、あまりに純真。

 

「君は?」

 

素朴な質問をする紡絆だが、少し待っても何も返ってこない。

何の反応もなく、流石にどうすればいいか分からなくなって沈黙するが、すぐに何かを思いついたような反応をする。

 

「そうだ!僕のことをよく知ってもらいたいし、僕のことをたくさん話すね!そうしたら寂しくないし、一緒に居られるから!それがきっと、僕がここに居る理由だと思うんだ!」

 

元気いっぱいにそう告げた紡絆だが、当然の如く神樹からは何も聞こえないし反応は返ってこない。

そのせいもあり、ここには現在目視できる範囲には紡絆と神樹のみしかないため問題ないが、傍から見れば木に話しかける変人だった。

 

「それじゃあ、今日のことから話そうかな〜今日は朝の6時には起きて、最初はお母さんの手伝いをしてね---」

 

少しでも警戒を解くためか、純粋に何も考えてないのか、無警戒にも木に背を預けて、今日一日の始まりから紡絆は話していく。

その間にも、紡絆の表情は笑顔だったりちょっと落ち込んだり驚いたりと様々に変化をさせながら、意識が消えるまで話し続けた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が消えたら、気がつけば現実に戻っている。

そして眠ったら、また気がつけば紡絆は樹海に居た。

距離は前回よりも離れておらず、すぐに木々を潜り抜けた紡絆は挨拶しながら定位置と言わんばかりに同じ場所に座って、見上げながら口を開く。

 

「神樹様、今日も会えたみたい!

それじゃあ今日は何を話そうかな?あっ、僕の妹のことを教えてあげるね。僕の妹は小都音って言うんだけど、いつも僕の後ろに着いて来てくれるんだ。他人と喋るのが苦手で僕や家族以外だと隠れがちだけど、本当は凄く優しくて---」

 

自分のことのように何処か誇らしげに語っていく彼の言葉を聞いても神樹は相変わらず何も反応はしないが、紡絆は気にすることなく語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度は僕の母さんのことを話してあげるね!母さんはいつも僕たちのことを大切にしてくれて、優しくしてくれるんだ。それにね、家庭的でとっても優しい!僕と同じで嘘が苦手みたいだけど、僕も母さんもそこまで気にしてないんだ。だって本音で話し合えるってことでしょ?だったら誰とでも分かり合えると思うから!だから僕はそんな自分が好きだよって…これ、僕の話になっちゃったよね、反省反省…!

こほん、改めて。他にも母さんは---」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前回は母さんのことを話したから、次は父さんのことだよ!といっても、僕が普段外に居るのもあってあんまり会う機会は少ないんだけどね。普段は僕たちの生活費のために働いてくれて、一緒に過ごせる休日の日にはよく出かけたりしてるんだよ。父さんは釣りをするのが好きでね、僕もちょっとはできるんだ!でもでも、何故か分からないんだけど父さんはお魚さん釣れるのに僕は釣れないんだよね…いつも逃げられちゃうの。あっ、でも一匹だけはぐれてる子が居てね、その子は釣れたんだ!その後は群れの方に返してあげたけど、不思議とね、その子が困ってるように見えたんだ。お魚の言葉が分かるわけじゃないのにな〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は何を話すかちゃんと考えてきたんだ〜。今日は星について話そうと思ってる!そのためにね、本を---えーっと……あっ!ああーっ!ない?ここには持ってこれないの忘れてた…!ご、ごめんね、どうしよう…!えと、覚えてる範囲でいい…?まだ全然勉強してなくって……つ、次!次からはちゃんと覚えてくるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---何日も何日も少ない時間の中で少年が喋り続けている。いつの間にか日課のようなものになったそれは、もう数ヶ月たっても同じだった。

返事がある訳でもないのに、少年は喋り続けるのだ。

楽しそうだったり、嬉しそうだったり、喜ぼしそうに。悲しそうだったり驚いたり色んな表情を見せて。

それでも、いつだって最後には神の目には『笑顔』の少年が映っていた。

あまりにも眩しくて、あまりにも綺麗だった。

少年の『魂』は子供だからというのもあるが、真っ白なのだ。純真で真っ直ぐで、穢れが一切なく眩いまま。どれだけ日数が変わろうとも影響されることがない。

普通、子供とはいえど『嘘』や『見栄』というものは見せようとするものである。しかし目の前の少年はそういったものは一切ない。

無論魂ごと神の目すらも欺けるほどならばどうしようもないが。

だが今も安心しきったように背を預けて眠る少年がそんなことをするとは到底思えないし、するはずもない。

少年の人生を『視た』上の判断だが、本当にそのまんまを話している---といっても語彙力的な問題で曖昧な部分はあるが。

いずれにせよ、悪意を隠しきって近づいたとしても、こうやっているのはリスクが高すぎるだろう。

あまりに無防備過ぎる。

仮に悪意ある神ならば少年を食らっていたかもしれない。

それを自覚しているのかしてないのか、恐らく後者だと神々の意見は一致した。

 

「んう……うう……」

 

そのような判断をしてる間に、少年の体が僅かに震える。

それに気づいた神は根を動かし、少年を包み込むようにして囲いを作る。

それを終えた頃には震えは止まっており、神は見続ける。

目の前にいる少年は()()()入り込んできた異物のようなものであり、残念ながら少年には『勇者』の資質も『巫女』の資質もない。

故に言葉は届かないし、本来ならばここへ来ることはないはずだった。

ならば何故ここへ入れたのか?

神は考え、気づく。

目の前の少年の中に存在する『ナニカ』。何処か眩しく、何処か穏やかで、何処か優しく、何処か力強く、どこか美しく。あまりに表現しようがない形も姿も何もかもが曖昧な『ソレ』はなんなのかは不明だった。

それでもそれが導いたのだろう、と確信が持てる。

何より似た気配を知っている神が共有し、知っている神々が納得を示す。

だが同時に、神は悲しんだ。

少年が辿る道は、もう『普通』ではいられないのだと。いつしか笑顔を失い、大切なものを失い、いずれは自分を壊してしまうかもしれない。

それは神にも分からない。

『過去』ではなく『未来』だからだ。

変化しない過去と変化する未来には大きな違いがある。

それでも分かるのは、少年の『日常』は消え去ってしまうということ。いずれ自分たちは少年に頼ることになってしまうこと。

彼の中に存在する『ナニカ』は、そういう宿命を背負うことになる。背負わせてしまう。

彼には『勇者』の資質もなければ『巫女』の資質もないが、『英雄』の素質が存在してしまったから。

この世界においてそれは、過酷な運命を辿る決定的なものへとなる。

だが、神は何もしない。何も言わない。

ただ最後の瞬間まで寄り添い、人類の選択に従う。

神樹とは個人の自由を尊重しどこまでも人類の我が儘につきあってくれる存在なのだから。

それでも神は、不思議と確信があった。

きっと目の前の少年は突き進むのだろうと。

なぜなら少年は、継受紡絆という子供は『守られるべき立場』なのにも関わらず、神にすら手を伸ばすほどにお人好しで、この世界に生まれ落ちた正真正銘のイレギュラー(英雄)なのだから---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ……男の子?」

 

そんな姿を、一人の少女(勇者)が目撃してたのを神は気づいた。

 

 

 





○継受紡絆(過去)
僕っ子。
なんか知らんけど最近見てた変な夢の中で歩き続けてたら()()()神樹様の世界に入り込んだやつ。
この頃から人助けはしているが、比較的そこまでやべーことはしていないらしい。

○継受紡絆(現代)/ウルトラマンネクサス
迷ってるバカ。
が、傷が癒えてるのでバケモノみたいな強さになってる。
実は過去の出会いに関しては全く気づいてなかったりする…というよりは、助けた人の数が多すぎて関わりが薄かった人物に関してはいちいち覚えてない。
もしかしたら他にも会ってるかもしれないし会ってないかもしれない。

○犬吠埼姉妹
過去に紡絆くんとちょっぴり出会っていたが、覚えてないと思われる。
そもそも過去の僕っ子紡絆くんと現代の俺っ子紡絆くんが違う部分あるので仕方ないといえば仕方ないしここから先に二人に訪れることを考えれば、ちょっぴりのことを覚えていないのも仕方がないだろう。

○神樹様
運命の出会いのひとつ。
実は神樹様は何もしてなかったりするが、自身に対する接し方や紡絆くんの魂と人生を視て勝手に好感度爆上がりしてる。
が、結局選択は人類に任せる方針らしい。


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「憧憬」

年内最後の投稿となります。
というか話ここしか区切れないので何とか区切りました。次からが本番です。
それ終わったら出会いを書いてわすゆ本編かな。
ではよいお年を。


 

◆◆◆

 

 第 3 話 

 

憧憬

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、どうしたの?」

 

少年が話しかける。

巨大な樹に向かって声をかけて、返答は何も無い。

それでも目の前の少年はいつもの笑顔ではなく、真面目な顔だった。

巨大な樹は、神樹という複合された神々は疑問を思う。

何が、と。

 

「神樹様、なんだか悲しそうな気がして。僕でよければ力になるから、何かあるなら伝えて欲しいな。ほら、話せないなら何か書いたりとかして!」

 

驚く。

少年はそれほど他者の気持ちに敏いわけではなかった。

そもそも樹としての形を作っている神に悲しそう、などといった言葉など浮かぶはずもない。

いずれ大きな使命を背負うとはいえ、まだ幼い子供でしかない彼に心配させたことに心が痛む。

だが悲しんでいるのは、彼の未来だった。

分かるのだ。神々はそういった存在を見てきた。何年も何十年も何百年も前から。

徐々に予感というものを感じてきている。

何より、あれから二年近く経った今、目の前の少年が生身の人が立ち寄れるはずのないこの世界に()()()居ても弾かれなくなっている、というのもあった。

それはつまり、適合しつつあるのだろう。彼の中に眠る『ソレ』は日に日に少年の成長と共に強くなっている。

だけれど、今は---

 

「……そっか。うん、何かあったら言ってね。いつでも力になってあげる!」

 

少年を心配させないように、伸ばした根で人が首を振って否定するように根を左右に動かす。

すると大丈夫ということだと判断したのか、少年はすぐに笑顔を向けてきた。

自分が何かを望むわけでもなく、神を相手にしても力になろうとする。

目の前の少年はそれほど心優しく、同時に別の温もりがあるのだろう。

だからこそきっと、少年の中に眠る()()()()()のだろう。

 

「わっ!?ど、どうしたの?やっぱり何かあった!?」

 

ゆっくり動いた根が少年の頬を撫で、少年は突然のことに驚いたが、くすぐったそうにしながらやり返すように根にしがみつく。

すると少年を遊ぶように根はゆっくりと動き、少年は楽しそうに笑っていた。

声は聞こえない。

ただいつの間にか、神と少年は別の方法でコミュニケーションを取るようになっていた。

基本的には肯定と否定しか出来ないが、どっちでもない時は止まる。

それが少年から提案されたことであり、一年前からずっとそうしてきた。

もう少年と出会って、三年近くが経つ。

気がつけば距離感はとても近いものとなっており、少年は神に向かって友達、と呼んでくれた。

そんな少年に、神は温かいものを感じた。

しかし何もしてあげられない。

いや、正確に言うならば少年は望まないのだろう。

それでも神は、嫌な予感を感じ取っていた。一年前からずっと感じていたそれは次第に大きくなり、確信を得る。

何かが起こる、と。

それが現象か異変か、介入か。本質は何も分からないが、間違いなく世界に異変が訪れる。

少年の中にある『ナニカ』もそれを感じるはずで、少年の身にもここ数日間の間で何度かナニカが起きてるだろう。

神に出来ることは、声の届けることが出来る存在に天啓を与えるだけ。

神々ですら予知が不可能な正真正銘のイレギュラー。それは相反する存在の天の神すらも。

だからこそ、向こう側が既に動いていた気配を感じ取っている。

 

「ん…ごめん。もう眠いや……」

 

うとうと、と船を漕ぎ始めた少年を見て神はその様子に気づいた。

休ませるようにそっと降ろし、手を振るように根を動かすと少年は眠そうな顔でゆっくりと微笑んだ。

そうして、少年が眠りにつく。

 

「---おやすみなさい、継受紡絆くん」

 

少年の意識がなくなったからか、一人の少女がゆっくりと近づくとどこから持ってきたのか毛布を被せて樹木を見上げる。

少年と違って神はその少女の存在にずっと気づいていたが、何も言わない。

むしろ感謝している。彼女との出会いは、早すぎる。まだ起こってはならないからだ。

現世に生きる()()の存在と見た目が近い今ここにいる少女を見て、少年が誤解してはダメだから。

故に神は干渉しない、という傍観の意を示す。

そのことは伝わったのか、少女は頷くと傍で眠る少年の髪を撫でた。

何も言わず、何処か悲しげに撫でる。

これから突き進む道はきっと、酷く険しいから。

自分たちが歩んできた歴史を辿らないことだけを、少女は願い続ける。

願わくば、この少年が笑顔で未来を生きることができるように。

 

「ぼくは……まも、るよ……」

「……!」

 

返事をしたわけではないのだろう。

誰に向けて言ったわけでもないが、その言葉を聞いた少女は慈しむような目で少年の頭を膝に乗せながら髪を撫でた。

ほんの少しでも、自分の勇気を分け与えるために。

そうして、少年の姿は灰色の世界から消えていく。

 

「頑張って、小さなヒーローさん」

 

その姿を、少女は最後まで見届けながら届かない応援を伝える。

このことを、少年が覚えていなくとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不思議な夢を見ていた。

赤と青の球が互いを引き合い、交感し合い、交錯する。

何処で行われてるのかは分からない。

少年には見た事もない場所で、ただ本の知識で知っていた。

色んな惑星や石が存在しつつも真っ暗な世界。

それは真空の世界---宇宙空間。

灼熱に燃える恒星の周りで幾度もぶつかり合い、青い発光体が大きく弾かれ、逃げるようにどこかへ向かっていく。

それを追おうとした赤い発光体は青い発光体が放った炎弾を次々と避けながら追っていくが、突如として赤い発光体は止まると、真空の世界に次元の穴が開かれる。

そこから伸びてきた黒いふたつの手から光線と呼ぶべきものが放たれ、赤い発光体は直撃して堕ちていく。

 

「あ……」

 

まるで映画やテレビといったフィクションの世界。

何が何か少年には分からなくて、ただ不思議と赤い発光体が堕ちていく姿を見て手に力が籠る。

青い発光体に対しては何も浮かばなかったのに、少年は思った。

赤い発光体には、やられて欲しくないと。

でも少年には何も出来なくて---黒いナニカが、此方を見たような気がした。

 

『-----』

 

夢だと分かっていても体が震え、息が出来なくなる。

実際に見られてるかどうかなど分からない。

ただ少年が感じたのは、尋常では無いほどの恐怖。

生物としての差。本能の警告。

何かをされたわけでもないのに、逃げ出したくなる。

声を出そうにも出なくて、呼吸が出来なくて、足も手も体中の全てが金縛りにあったように動かない。

 

「---っ!」

 

ただ。

ただそれでも、少年は手を伸ばした。

赤い発光体に向かって、手を伸ばす。

恐怖が消えたわけでも、自分がやったわけでもない。

無意識に、体が勝手に動いて。何かが出来るわけでもないのに、助けたいという心だけが動いていた。

そして---

 

「が…がんばって…!」

 

ほんの少しの勇気が、小さくもか細い応援が口から出た。

それを最後に少年の意識が一気に遠のいていく。

夢はいつか醒める。

それでも少年の目は赤い発光体に向けられていて。

そうして、ひとつの()()()()が宇宙を駆け抜け、黒いナニカと青い発光体と共に何処かへ去っていった。

ほんの一瞬の出来事。

星々を駆け抜ける流星のような光。

それは見惚れてしまうほどに眩く。かっこよく。

まるで、()()()()()のようで。

目に焼き付いたそれに、少年は生まれて初めて曖昧だった夢が鮮明になっていく感覚を覚えた。

いや、もっと分かりやすく言えば、少年は見たのだ。

()()()()()()()の姿を。

そしてその気持ちを言葉にするならば、きっと、()()なのだろう

---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飛び上がるように目が覚める。

胸から発せられる動悸。全身から流れる汗。 呼吸が乱れる苦しさに必死に酸素を取り込もうとする。

見渡せば、何も無い。

普段と変わらない部屋で、変化は見られない。

だが、さっきの夢が本当に夢かどうかがいまいち分からなかった。

夢のようで、何処か現実らしさがあって、頭の中では夢と分かっていてもあの光景が目に焼き付いてしまう。

何よりあの、黒いモヤのようなナニカとしか表現しようのないモノに見られたとき、『死』という言葉が浮かんだ。

少年はもう八歳だ。

あれから三年経っているのだから誕生日を迎えれば九歳になる。

だからある程度の知識は昔に比べてついてるし普通の子供よりも色んな経験をしてきたが、さっきのは初めてだった。

 

「---おにーちゃん?」

「っ……?」

 

隣から声が聞こえ、視線を移す。

そこには小都音が寝起きなのか目を擦りながら紡絆を見ていた。

その姿を見たお陰かここが本当の現実だと脳が判断し、紡絆は一息つくと苦笑しながら頭を撫でた。

 

「また入ってきたんだ」

「え…えへへ」

 

どうやら一緒に寝ているというわけではなく、いつの間にか潜り込んでいたようで小都音は誤魔化すように目を逸らした。

が、特には気にしてないのかすぐに起き上がる。

 

「おにーちゃん…だいじょうぶ?」

「うん、ちょっと変な夢を見ただけ。それに…悪いことばかりじゃなかったから」

「?」

 

こうして起きても、頭の中にこびり付く恐怖。

そして憧憬。

銀色の光。銀色の星。銀色の流星。

あれを見てから、紡絆は胸の中に何か違和感のようなものを覚えた。

胸を抑えて見ても、特に怪我をしてるわけでも変化が起きてる訳でもない。

感覚的に、ちょっと変な感じがするだけだ。

そんな紡絆の様子を不思議そうに小都音が見ているが、なんでもないと紡絆は首を振る。

 

「あっ、そうだ。おにーちゃんっ!」

「ん?」

「今日、お祭り行くんだから忘れちゃダメだよ?」

「………あ」

 

言われて思い出したのか、僅かに時間が空いたが小都音の訝しむような視線に気づいて逃れるように目を逸らす。

 

「……わすれてた?」

「あ、アハハ……」

 

誤魔化すように笑うが、当然誤魔化せるわけもなく。

過ぎたことは仕方が無いと紡絆は小都音に手を差し出す。

 

「久しぶりに母さんと父さんとも行けるから、今からはちゃんと頭の中に入れとく」

「…うん、ぜったいだよ」

「ああ、分かった。じゃあ俺は着替えるから先に降りててくれ」

 

手を軽く引っ張って起こしてあげると、紡絆は優しくぽんぽん、と頭を叩くと小都音に先に降りるように伝えるが、彼女は動かずに見つめていた。

無論、紡絆に意図を察せられるはずもなく首を傾げる。

 

「おにーちゃんならだいじょうぶだよ?」

「いや、えっと…まあ俺も気にしないんだけど周りがというか誤解をうみかねないというか…ほら、小都音だって見られたくないだろ?」

 

流石に八歳となると多少程度なら何がダメなのかの区別くらいはつく。

兄としての尊厳と妹の将来を考えての発言だったのだが---

 

「おにーちゃんならいいよっ!」

「…………」

 

何故か今まで以上の勢いと明るさに紡絆は僅かに固まり、思考を速攻で投げ捨てた。

考えるのは苦手なのもあるが、別の手段を出せる気がしなかったからだ。

なので紡絆は小都音の両肩に優しく手を置いた。

 

「おにーちゃん?」

「はい、回れ右」

 

突然の行動に不思議にする小都音にそう言いながら向きを変えさせ、紡絆はそっと前進させて扉を超えさせると、ゆっくりと閉めた。

ちょっと強引な手段だった。

 

「…むぅー!」

「小都音も着替える必要あるだろ?ちゃんと出来たら今度何か言うこと聞くよ」

「ほんと!?」

「うん、嘘は言わない」

 

扉越しに伝えると、嬉しそうな声音と共に去っていく足音が聞こえ、素直に従う姿が兄としてちょっと心配にはなったが一人になった紡絆は妹が嬉しそうなことに自分も嬉しく思いながら服を着替えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---少年は何も知らなかった。

自分という存在がこの世界においてどれだけ異質で、神樹様という神と一方通行の声を聞くのではなく、コミュニケーションを取ることが出来るのがどれほど異常なことかを。

少年は知らなかった。

この世界には、隠された真実があることを。

少年は知らなかった。

脅威はもう、既に存在していたことを。

少年は知らなかった。

内に秘めたるその力の存在を。

少年は知らなかった。何もかも知らなかった。

現実というものすら知らず、ただ鮮明になった夢のための行動がどんな出来事を引き起こすのか。

神は気がついていた。

この世界の歯車が、いつの間にか狂っていたことを。

未来は変化を繰り返し、もはや誰も予測は出来ない。

率直に言うならば、つまるところ時は満ちた。

世界の運命を大きく変える異変が、歴史を分岐させる運命の日が訪れる。

それに気づいたものは、ごくわずかしかいない---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある夏の夕刻。

蒸し暑い夏場。

甚平を纏う一人の黒髪の少年が同じく甚平を着た男性と手を繋いでいる。

少年と同じく黒髪で身長は180を超えているだろう。

顔立ちはそこまで似てはいないが、何処か親しそうで二人の関係性は窺えるだろう。

 

「ねぇ、父さん」

「ん?どうした?」

 

手を繋いでいた少年である紡絆が父親を呼ぶと、優しい声音で返ってくる。

紡絆は周りを見渡すと、父親に聞くように口を開いた。

 

「母さんと小都音とどうして一緒に行かなかったの?」

 

子供ゆえの素朴な疑問。

確かに一緒に来た方が早いと言えば早い。

なかなか答えるのが難しい言葉に父親は考える素振りをし、紡絆の頭に手を置いた。

 

「女性には色んな準備があるんだ。それも俺たちよりも長い時間がかかる。けど待った甲斐があるって思うほど素敵なものが見られるからな。紡絆にはまだ早いかもしれないけどね」

「ふーん、そうなんだ」

 

わかっているのか分かってないのか。

間違いなく後者な紡絆の姿に父親は苦笑する。

しかし、そんな紡絆でもいずれ分かる日が来るだろう。

一緒に過ごす時間は短くても父親である彼は紡絆が普段何をしてきたのか分かっていた。

困ってる人があれば打算なく行動に移す。

そんなことが出来る者は極小数だろう。

嬉しく思う反面、無理をしないで欲しいという親心を持ちながらそれでも行動出来る息子が誇らしくて、紡絆の頭を撫でる。

 

「え、な、なに?」

「いや、俺たちの息子は凄いなーと思ってな」

「?」

 

撫でられて嬉しくはあるのか、僅かに照れた様子を見せる。

ただなんのことかはわかってないようで疑問符を浮かべていたが。

そんなふうにしていると、普段聞くことは無いカラン、コロンといった音が聞こえてくる。

 

「…来たみたいだな」

「え?」

 

まだ聞き覚えがないからだろう。

独特な音ではあるが、振り向いた父親に理解が追いつかないまま紡絆も振り向く。

 

「ごめんなさい、時間掛かっちゃった」

「---」

 

振り向いた視界の中に入ってきたのは青い髪を結び、ポニーテールにした紺色を軸に青と白の模様が入っている浴衣を着ながら巾着を持っている大人の女性と、その女性に隠れるようにして覗き込んで来ている後頭部に髪を結び、水色に花形の涼しそうな浴衣を着用した少女だった。

 

「いや、そんな待ってないよ。それよりも…うん、似合ってる。綺麗だ」

「ありがとう。貴方も似合ってる」

 

ピクリとも動かなくなった紡絆とは違い、経験の差というべきか、互いに照れることなく褒め合うと、僅かに会話をしていた。

そして復活したのか紡絆はそんな二人に対して首を傾げていた。

 

「母……さん?」

「そうよ〜。もしかして紡絆は別人かと思った?」

「う……思った…」

 

紡絆に近づいた女性が身を屈めると、紡絆の両脇に手を差し込んで抱える。

されるがまま抱えられるが、紡絆はバツが悪そうに目を逸らした。

 

「ふふ、ごめんね。別に責めてるわけじゃないの。気にしないで」

 

母親なのもあって、紡絆が何を考えてるのか分かったのだろう。

---申し訳なさそうな顔をしている紡絆が分かりやすいのもあるだろうが。

 

「でもでも、いつも以上に綺麗だと思った!」

「あら……もう実践?そう言われると女性は嬉しいものなの。すぐに出来るだなんて、紡絆は偉いわね〜」

「…?だって本当のことだよ?」

 

降ろした紡絆を褒めるように撫でる母親だが、紡絆は不思議そうにしながら素直に撫でられていた。

どうやらお世辞やらご機嫌取りのような考えは存在しないらしい。

 

「…みたいね。あ、それじゃあ…はい、どう?」

 

そのことに母親も気づいたのか苦笑したが、ふと思いついたような顔で未だに背後に隠れていた少女を紡絆の目の前に差し出した。

 

「……!?お、おかあ…あう……」

 

差し出された本人は遅れて気づいたのか驚きながら不満を言おうとして、恥ずかしそうに浴衣の裾を握っていた。

父親とも母親とも()()()()()()()()()とは違い、母親と並ぶと親子---というか実際にそうなのだが、本当に母親を幼くしたような容姿をしているのが小都音だった。

そんな優れた容姿を持つ小都音が浴衣を着ているのだ。

誰に言うわけでもないが、そこに羞恥を感じている姿が加われば正しく鬼に金棒。

破壊力は倍に増加するのだが---

 

「ほら、大丈夫だって!小都音も可愛いし綺麗だよ!それは僕が保証するから!」

 

紡絆には全く意味はなく、ただ単に自信が無いのかと判断しながら小都音を褒めていた。

 

「ほ、ほんと……?」

「うん!」

「…えへへ」

 

否定することなく肯定されたからか嬉しそうな笑顔を浮かべた小都音は母親の元から離れて紡絆にくっついていた。

少し驚きはしたが、受け入れた紡絆は小都音の頭を撫でる。

 

「二人とも、相変わらず仲が良いな」

「うーん…そう言われても僕は普通にしてるだけだよ?」

「二人とも全く喧嘩したりしないものね。小都音はそんなにお兄ちゃんが好き?」

「うんっ!」

 

今までよりも力強く、それでいて即答した小都音に両親は思わず笑みが零れていた。

一方で、紡絆は嬉しそうに笑うだけだ。

 

「さて、二人の仲の良さを改めて確認出来てよかった。でも、そろそろいい時間だし行きましょう?」

「ああ、もうこんな時間か…そうしようか」

 

時間を確認すれば、もう始まっている時間帯だ。

ちょっと出遅れる形になったが、同じように浴衣を着て歩みを進める者たちもいることから目的地は同じだろう。

あまり人が多すぎると待つ時間や人混みに飲み込まれかねないため、紡絆たちも動くことにした。

が、しがみつくように小都音がくっついていて紡絆は動きにくそうだった。

 

「小都音、そんなにくっつかなくても大丈夫!何かあっても必ず僕が見つけ出すから!だから手を繋いでいよう?流石に僕も動きにくくて…」

「……ん」

「ありがとう」

 

動きにくいことを伝えて別の手を提案すると小都音は紡絆の腕を抱きしめる形で妥協したらしく、マシになったからか苦笑するだけでそれ以上は何も言わなかった。

後ろから付いてきながらそのようなやり取りをする兄妹仲睦まじい姿に母親も父親も安心と若干寂しさは感じたが、それを表に出すことはなく腕を組んで歩む。

彼らの目には、活気溢れる光が少しずつ近づいていた。

 

 

 

 

 



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「未知」


新年、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
本当は先週投稿したかったんですけど、無理でした。クソ長いです、切れるところなかったので実質三話分なので許して。新年そうそうこんな話でいいのかと思いましたが。
さて本編に行く前にほんのちょっぴりお付き合い下さい。
まず『結城友奈は勇者である』では『継受紡絆』と『結城友奈』のダブル主人公でお送りしましたが、この章において紡絆くんは主人公ではありません。本当は別にいます。
それにゆゆゆでは死者は明確に出ていませんが、この章において普通に人が死にます。
それだけ頭の中に入れていただければな、と。
まあ注意喚起みたいなもんですね。いらんと思うけど。どっかで言ったと思うけど、ネクサス要素というかグロ要素出すので。









 

 

 

◆◆◆

 

 第 4 話 

 

未知

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏祭り。

夏に開催される祭りの名称であり、夏の風物詩のひとつ。

元来祭りというのは『神に感謝する』目的があり、豊作を妨げる害虫や台風を追い払うこと、疫病退散を目的とする夏祭りも多くある。

しかしこの世界においては前者の方が意味合いとして大きいだろう。

そして当然ながら祭りというのもあり、様々な人々がやってくる。

子供から大人。大人から年寄りまで多くのものが参加し、中にはカップルや夫婦だって多く存在する。

夏祭りには屋台も多く、夕食目的で来る人だったり遊び目的でやってくる人も居るだろう。

特に制限もないため、参加するのは本当に千差万別。

天気にも恵まれ、それがより人を増やす要因となっている。

そのせいもあり、ちょっと目を離せば簡単に迷子になりそうだ。

ただそれでも、辺りを見渡せば通路の両側にずらりと出店が並んでいる。射的や金魚すくいだったりヨーヨー釣りなどなど様々なものもあれば、綿あめやりんご飴といった甘いものやかき氷などの季節に因んだもの。たこ焼きだったり焼きそばといったお腹の膨れやすいものだってたくさんある。

目移りしてしまうほどに店があって、歩いてるだけでも楽しめるような光景。

そしてそんな色んなものがある中で---

 

「……あれ?」

 

紡絆は迷っていた。

いや、正確に言うならば困ってる子供の姿が見えたので突撃して解決したら、今度は自分が家族の姿を見失ったという状況である。

いつもはくっついている小都音も流石にお祭りの中では無理だったのか、紡絆の最後に見た記憶の中には母親と手を繋いでいた姿があった。

しかし散々お祭りに来る前に気をつけるようにと注意されていたのに、守れなかったことにちょっと申し訳なく思う。

ひとまず困った紡絆は頭の上に付けている狐のお面を少しズラして横にし、周りを見てみる。

ぐぅぅといった音が鳴り、逆効果だった。

 

「うーん……まぁ何とかなる!」

 

空腹は感じるが、立ち止まっていたって何も変わらないのは事実。

ひとまず人の波から外れる必要があるだろう。

来た道を戻っていきつつ、一応周りを見て探すが---視界の傍で座り込んでる人がいればそこへ向かったり、鼻緒が切れて困ってる人がいたら代わりの草履を買ってきたり、迷子になった子を親の元へ届けたり、と大体の対象は場所が場所なのもあって子供ばかりだがそうこうしてるうちにいつの間にか祭りの中心に足を踏み入れていた。

本当は離れるはずが、人混みの中に入っている。

そもそもの問題として困ってる人を見かけたら放っておけない紡絆がそんな周囲を見ながら動けばこうなるのも当然なわけで、なんだかんだ自分の方が迷子になっている状況に内心で苦笑する。

横を見ても人。前を見ても人。後ろを見ても人。

どこを見ても人の姿しかなく、身長が低いのもあってほぼ視界がないと言っていい。

動いた結果、状況が良くなるどころか悪くなっていることに流石に紡絆も手がなく、真剣にどうするべきか考える。

十秒。二十秒。三十秒。

そうして熟考すること一分。

 

「……どうしよう?」

 

何も思いつかなかった彼は、打開するための手を考えれなかった。

このままではただ両親に心配させて余計な不安を与えてしまう。

いや、もう既に迷子になってる時点で手遅れなのだが、それを望まない紡絆はいっそ大声で叫ぼうかと思ったときだった。

 

「ん?」

 

体に僅かな衝撃が走り、一歩踏み出す程度で済んだが自身のお腹に小さな両手が回されていた。

もしかして誰かが転びそうになって、咄嗟に両手を伸ばしてそうなったのかもしれない。

それか勘違いでされたのかもしれない。

どちらにせよ、自身に抱きついたと思われる相手が困ってたら力になるべく紡絆はゆっくりと振り向くと、そこには。

 

「…小都音?」

 

見慣れた青い髪に顔。

服装が変わって印象は違うものの、長いことずっと居た相手を間違えるわけもなく。

抱きついてきた相手が小都音だと気づいた紡絆の表情には困惑の色が見える。

なぜ、どうしてここに?といった疑問が思考を埋め尽くす。

 

「おにぃちゃん……おにぃちゃんっ」

「え、おおう…よしよし?」

 

体の向きを変えて抱きしめると、ぐりぐりと胸に顔を押し付けてくる小都音を撫でる。

すると、すぐに人混みを掻き分けて誰かがやってくる。

 

「紡絆!」

「よかった……小都音が見つけてくれたのね」

「…あっ、父さん母さん。おかえりなさい!」

 

男女の二人組。

黒髪の男性と青髪の女性であり、彼らの両親は心配した表情で紡絆と小都音を抱きしめる。

 

「わっぷ…!?」

「もう…あれだけ言ったのにどうしてはぐれるの?」

「心配したんだからな…!」

「ご、ごめんなさい。困ってる人が居たから、放っておけなくて…そしたら気がつけば…。そ、それよりも!僕はもう大丈夫だから!このままじゃ小都音が潰れちゃう!」

「うー……っ」

 

何とか空間を開けようと頑張っているが、このままでは息が出来なくなってしまうかもしれないと心配させたのに離れるようにと言うことに申し訳なさそうにしながら伝えると、二人もすぐに理解したのか離していた。

 

「…こほん。理由は紡絆らしいけど、それで自分がはぐれたら意味ないでしょう?」

「う……」

「もしかしたら何かあったんじゃ、誘拐でもされたんじゃないかって思ったんだぞ」

「うぐぅ……」

 

自覚はしていたが、改めて言われると罪悪感が浮かんできたのか少しずつ萎縮していく。

 

「小都音がすぐに気づいてくれたからよかったが…」

「それに小都音ってばお兄ちゃんが居ないって泣きそうになってたのよ?」

「おっ、お母さん……!」

「でも居てくれたから紡絆を見つけられた。ありがとうね、小都音」

「…!うん……」

 

紡絆が居なかった時の状況を言われたからか、僅かに焦りを見せるも母親に褒められて小都音は嬉しそうに笑う。

が、心配させるだけさせてしまった紡絆は何も言えなくなっていた。

 

「まぁ、目を離した俺達も悪いと言えば悪いから…一概に紡絆だけが原因ってわけじゃない」

「もう少し、紡絆ならどうするかってことをちゃんと頭の中に入れておくべきだったね。本当に、無事でよかった」

 

その様子に気づいたのか、両親のフォローが入る。

確かに目を離してなければこうなることもなかった。

ちゃんと一緒にいて視界の中に入れておけば、はぐれることはあまりないだろう。

しかし紡絆は否定するように首を振った。

 

「わ、悪いのは僕だけだから…本当にごめんなさい。でもきっと、僕は同じことをしてたと思う。悪いとは思ってるけど、後悔は出来ないんだ。僕が否定をしたら、他の人に失礼かもしれない。だからダメな気が…する」

 

事実、紡絆がこうなったから助けられた人も居た。

中には怪我して歩けなくなった子もいたし、なかなか泣き止まない子だって居た。

迷子に関しては親と会えることがなかったかもしれない。

全て『かもしれない』になってしまうが、紡絆がそれを後悔すればその者達のことまで否定してしまう。

だからこそ紡絆は謝りこそすれば、後悔は出来なかった。

申し訳ない気持ちは、それはもういっぱいではあるのだが。

それは伝わっているのか、両親は互いに顔を見合わせると苦笑した。

 

「…まったく、そう言われると言いづらいな」

「まぁまぁ、この話は終わりにしましょ。過ぎたことは仕方が無いもの」

 

母親の正論に話は切られたのか、紡絆はほっとした顔をしていた。

しかしすぐに不思議そうに自身に抱きついたまま離れない小都音を見て、小都音はこてん、と小首を傾げていた。

 

「ねぇ、ちょっと気になったんだけど…どうやって僕を見つけたの?僕も探そうとはしてたけど、正直居場所なんで全く分からなかったよ。小都音が僕を見つけたみたいだけど……」

「あー…」

「それは本人から聞いた方がいいんじゃない?」

「!?」

 

話を振られた本人は驚いていたが、紡絆の疑問も最もだ。

人助けばかりしてたとはいえ、一応紡絆も周囲を探っていた。

なのに影すら見つけられなかったのに、このように多くの人がいる中で紡絆を見つけたのだ。

普通は難しい…というか、不可能に近いだろう。

 

「えっ、えっと……」

「あっ、無理にとは言わないからね。小都音が話しても良いなら話せばいいし。ただちょっと気になっただけだから!」

「あう…うう、そ…その、ね…」

「?」

 

また紡絆の胸に顔を隠すように埋めているが、オドオドとしながらゆっくりと口を開いていく。

 

「お、おにぃちゃんのことは…ずっと見てきた、もん……。だ、だからど、どこにいるのかすぐに分かる、の……い、色々と……」

「そっか〜小都音はすごいなぁ」

「そっ、そんなことない、よ…」

 

素直に関心したような様子で褒めるように小都音を撫でると、僅かに背中に加わる力が強まっていた。

照れてるのか、顔は全く見せない。

 

「でも、それなら安心だね」

「……?」

「小都音が僕を今回みたいに見つけてくれるなら、僕は何処かに消えることないでしょ?それで、もし小都音が彷徨ったら今度は僕が見つける!それなら僕たちはずっと一緒!」

「……うんっいっしょ…えへへ」

 

太陽のような明るさと共に眩い笑顔を浮かべる紡絆の姿。

そして、そんなとき。

偶然かもしれない。

ただ紡絆に呼応するかのように、夜空に何かが打ち上げられ、空中で破裂した。

凄まじい音を鳴らしながら放物線状の軌跡を描き、中心に星の軌跡が生まれ、星が広がると満開の花を思わせるものへ変化し、消えては次々と打ち上げられていく。

花火。

それに照らされる姿に小都音は僅かに目を細めながら嬉しそうに笑って、手を繋ぎながら空を見上げる。

紡絆もまた、花火の音を聞いて夜空を見上げた。

色とりどりの星。色とりどりの花。色とりどりの火花。色とりどりの光や形。

派手なのもあるが、綺麗だと思えるような光景にこの場も誰もを魅力して、大声を挙げるものもいれば撮影する人など様々な人がいて、魅力されていたのは紡絆たちも例外ではなかった。

手を繋いで見る兄妹に、肩を寄せ合って見る夫婦。

その輝きはすぐに消えてしまうが、何度も何度も打ち上げられては空中で爆発を描く。

しかしどれだけ綺麗なものでも限りというものはあり、花火の最後を最後を飾るように今までよりも連続で連射され、爆発する。

連続連射花火は数十〜百発をも数を打ち上げ、短時間でしかないが最後に相応しい派手さと美しさだけを世界に残して、儚く消えていった。

音が消え、余韻に浸かっているからか静けさが辺りを占める。

うっすらとアナウンスのようなものが聞こえるため、花火は終わりなのだろう。

時間も時間なのもあって、そろそろ人も居なくなって来る頃合い。

それはまた紡絆たちも同様だ。

 

「やっぱり花火はすごいなぁ」

「いつになっても綺麗なものね」

「ギリギリ家族集まって見れてよかったな」

「うん。小都音はどうだった?」

 

花火を見た感想を述べながら、紡絆は振り向いて小都音にも感想を聞こうとする。

小都音は僅かに考えるような様子を見せると口を開く。

 

「きれい…だったけど、おにぃちゃんもまけてない……」

「えっ、僕は花火じゃないんだけど…うん、でもよかった」

 

流石に予想外の感想に困惑したが、楽しめたことには変わりないのだろう。

その点に関して紡絆はちょっと嬉しそうだった。

 

「はい。花火も終わったことだし、いつまでここに居ても仕方がないわ。もう少し見て回って帰りましょう」

「紡絆も小都音も欲しいものがあったら言ってくれ」

「う、うん……おとうさん」

 

周りは既に動き始めていて、両親に着いていこうとした小都音は珍しく何の返事もしなかった紡絆を不思議に思って振り向くと、紡絆は頭を抑えながらしゃがみこんでいた。

 

「おにぃちゃん……?おにぃちゃん!」

「---」

「…紡絆?」

「どうかした?」

 

どこか様子がおかしい姿に両親も気づいたようで、小都音と共に駆け寄ると母親が紡絆の顔を覗き込もうとして---

 

 

 

 

 

 

「なんだ、あれ?」

「流れ星?」

「え、花火じゃない?まだ終わってなかったの?」

「こんな予定あったっけ…?」

「きれー!」

 

誰かがそう言い出すと、気になったのか次々と空を見上げるとザワザワと騒がしくなっていく。

終わったと思った花火がまだ続いてるのか、それとも別のイベントでも急遽入ったのか。周りが騒がしくなれば大半の人は好奇心というものが芽生えるわけで、次々と伝染していく。

帰路に就こうとした者や離れようとしていた人たち。

ご飯を食べていたものや並んでいた人たちも皆が見ていたものを見るように見上げる。

そんな突然の変化に混乱しながらも紡絆を除いた周囲の人々も同じく見上げると、星のような丸い光が流れ星のような軌道を描き、空中でひとつの爆発が起きた。

さっきの花火とは違って爆発としか表現出来ないものの、これもなにかの催しと思ってしまうのは仕方がないだろう。

 

「……めだ」

 

だが一人だけ、空を見ていない紡絆は尋常ではない汗と()()()()()()()ように体を震わせながら何かを呟く。

その顔色は蒼白で、明らかに異常だった。

だが次々と空中で起きる爆発がその声を殺し、凄まじい速度で爆発が()()()()()()起こっている。

 

「だ、だめ……ッ---!?」

 

伝えようと、震える心を抑え込んで大声を挙げようとした瞬間、何かに引き寄せられるように空を()()

そこに存在した『人型』のナニカとフィクションにでも出てくるような、それこそ『怪獣』と呼べるナニカがぶつかり合っている姿を。

街も木も全てが燃え盛っている地上を。

多くの人々が苦しんで、叫んで、泣いて、絶望して、死んでいく光景を。

それらを視覚した途端現実に引き戻されるように遠のくと同時に頭の中で凄まじい警報が鳴り、同時に紡絆は何もかも分からないまま今視たものを再現させないために、勇気を振り絞って叫ぶ。

 

「ダメだ---逃げてッ!」

 

遠くまで聞こえるほどに大声を挙げ、その声は空を見上げていた人々にも届いたのか家族を含めて紡絆に視線が集まる。

しかし、誰も動こうとはしない。

当たり前だ、子供でしかない彼がそんな唐突に言ったって何も分からない民衆が動くはずもなければ、戯言としか思われないだらう。

当然誰も信じることはなく、唯一紡絆がおふさけでそんなことをしないと分かっているのは家族のみで母親が聞こうとしたときだった。

空中で起きていた爆発が止み、飛行機のような何かが堕ちてくるような風を切るような音が耳を通り過ぎる。

それに釣られて夜空を見上げると、暗い夜の世界でも分かるくらい明るい()()()が流れ星の如く上空を通過し、人気のなさそうな森の中へ堕ちると轟音と共に巨大な爆発が起きる。

森は焼け、木々は燃え盛り、焦げ臭い硝煙の匂いが風に乗ってやってくる。

更に。

赤い光とは別の()()()は一直線に堕ちてくると、立つのが困難な程に地震のような揺れを起こしながら爆発を起こす。

灼けるような熱風。砕けた石と土が粉塵となって舞い、これがイベントでもなんでもない()()だということを周囲の人々は徐々に理解して---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か……怪獣だああああぁぁぁぁ!!」

 

果たしてそれは、誰が言ったのか。

日常から非日常へ変貌させる異変。

粉塵が晴れていき、姿を現したのは人型の2()0()m()はあるであろう異形の姿。

あまりにおぞましく、あまりにおそろしく、あまりに醜い。何処か人間と同じく知性を感じさせるような顔。だが怪獣たらしめる部分は背中一面にびっしりと生えたトゲ、ズラリと鋭い歯が並ぶ口、所々に甲殻を思わせるものがあり、凶悪な爬虫類のような、獰猛なトカゲという風貌がある、といったところだろう。

ただ違和感を感じる部分があるとすれば、そんな見た目の割にその甲殻は()かった。

動く。

怪獣が一歩動き出す。

夢でも幻でもない。

この異常な出来事が現実だと理解させられ、同時に恐怖が場を一気に支配した。

恐慌に陥った人々はどうなるか。それを抱くこととなった元凶が目の前に存在すればどうなるか?

簡単な話だ。

誰もが我先にと逃げようとする。

人の流れが、一気に変化した。

 

「っ…小都音!」

 

恐怖が消えたわけでも頭の痛みが消えた訳でもない。

ただ咄嗟の行動だった。

近くにいた小都音を守るように抱きしめると、人の流れに巻き込まれるように押されていく。

すぐに振り向くが、もう両親の姿を捉えるのは難しいだろう。

つまり大人がいない状態になりつつあって、紡絆は叫ぶ。

 

「小都音は僕に任せて!父さんは母さんをお願い!」

「わかっ---つけ---よ!」

 

周囲の声に掻き消され、上手く聞き取ることは出来なかった。

しかし通じたと良い方向に考えるしかなく、今は自分たちの身を守らなければならない。

体が上手く動くかどうかは分からない。得体の知れないナニカが這いずり上がってくるような、妙な感覚がある。

ただ次々と浮かんでくるものは焦燥感。

急がなければ、急いで逃げないと。急いで合流しないと。急いで離れないと。そういった焦りが支配し、なにより子供の体型では今の場所に留まるのはまずいと判断した紡絆は周囲を必死に見渡して道を探し、ふと気づく。

震えている。

両手から伝わってくる。恐れるように震えて、涙を浮かべて、しがみつくようにくっついている小都音の姿。

それを見て、ようやく紡絆は落ち着きを取り戻していく。

 

(何をやってるんだ僕は…!違うだろ、僕が落ち着かなきゃ。僕が冷静じゃなきゃダメだ!僕が怖がってどうする!?僕がしっかりしないと小都音を守れないだろ…!)

 

逸る心を無理やり抑え込み、決して離さないように強く抱きしめながら、倒れないように流れに身を任せる。

こういった際に一番危険なのは将棋倒しになってしまうこと。

それを避けるために少しずつ人込みから抜けるように動いていく。

ひとまずの安全を確保するために道外れの路地へ入ると、若干の疲労に息を吐く。

といっても脅威は未だ存在しており、休ませるように座らせてから紡絆は覗くように祭りの場を見る。

怪獣が暴れているのか、火が上がっていた。

どうやら中央付近に存続してるらしく、近くなかったのが幸いか。

 

「………」

 

だというのに。

紡絆には喜びも安堵も一切抱くことは出来なかった。もし近くに現れていたなら、間違いなく殺されただろう。

相手にそんな意思がなくとも、あれほどの身長と体重を持つ存在が動くだけで死ぬ危険性は十分ある。

 

「お、おにぃ…ちゃん?」

「…………」

 

無意識に拳が強く握られ、不安そうな表情を浮かべる小都音の姿を見て頭を振る。

 

(今やるべき事は小都音を守ること…母さんと父さんと合流して、それで逃げて---逃げて……逃げて、どうする?)

 

多くの悲鳴が聞こえてくる。

暴言を吐くものもいれば、叫ぶ者もいて、押し退けて逃げる人もいれば家族を支えたり友人同士で共に逃げるものや助けを求める人も。

それから誰かが連絡したのか避難誘導をする自衛隊の者もいるが、パニックになっている民衆があっさりと静まるはずもなく統制を取れていない。

 

(小都音を安全なところに連れていかなきゃ…逃げるべきだ。いつもと違うんだ。僕が何をしても何かができるわけでもない。ダメなんだ、逃げないと、僕がそうしないと小都音を守れないんだ……!)

 

何かが叫ぶ。

それでいいのかと。後悔はしないのかと。

それがお前の本当の思いなのかと。

本当は別の、違うことをしたいんじゃないか…と。

僅かに見えた光景。

死の光景が思い返される。

このまま行けば、再現されるだろう。

それこそ、都合よく物語に出てくるような()()や主人公がこの世界に生まれるわけもない。突然出てきて、何もかも解決してくれるはずもない。

 

(仕方が、ないんだ……僕には小都音を守るだけで、一緒に逃げることだけが限界で……)

 

そう、仕方がない。

仕方がないのだ。逃げ遅れた者から死ぬ。そんなのどうしようもないことで、まだまだ子供の身である紡絆には選択肢が少ない。

出来たとしても、大声で避難先を伝えている自衛隊の人と同じことくらいか。

だが、遠く離れたところでこれ。ならば異変の中心である中央広場ではどうなっている?

それはもう、怪我人や逃げ遅れた人や何かの下敷きになっている人もいるかもしれない。

もしかしたら怪獣の手で殺されてるかもしれない。もしかしたら知り合いがいたり、両親がいるかもしれない。

見ていない紡絆には分からないが、間違いなく悲惨なことになっている。

 

(だから、これが正解……)

 

子供であっても、想像くらいはできる。

仮にここで小都音を放り出したら、彼女を一人にしてしまっては危険なのだから正しい。傍にいた方が守れるし不安にさせないだろう。

これが()()。それが取るべき選択。

どんな言い訳をしようとも、人間が人間である限りほとんどの者は自分自身が大切で正当化した選択を取る。

そうあるべきで、そうすべきで、紡絆は小都音の手を握った。

 

「おにぃちゃん……?」

「じょうぶ……大丈夫!僕が傍にいるから。僕が守るから。だから…こわくないよ。任せて!」

「……うん」

 

人混みから離れた今なら、遠い場所へ逃げることは可能だろう。

両親がどこへ行ったか分からないし無事なのかも分からないが、合流方法なんて生きているならどうともなる。

だからこそ紡絆は小都音を不安にさせないために笑顔を向けると、胸にこびり付くような未練を振り払って逃げるために離れようとした瞬間---

 

 

 

 

「ッ!?」

 

凄まじい爆発と共に、轟音が周囲に響く。

地震のような揺れに体勢を崩しかけて強引に保つと、慌てて路地から抜け出す。

煙から何かが抜け出す。

そこには、巨人が居た。

銀色の肉体。溶岩が冷え固まったような暗色をし、体表は怪獣と同じく生物的な肉質をしているが、胸に存在する赤いY字型のは巨人にしかないものだ。

さっきまで居なかったのに、何故か存在していた。

思い出したかのように森の方を見る。木々は何かが駆け抜けたかのように折れていて、火は既に収まっていた。

それを見て、紡絆は俯く。

 

「僕は………」

 

あの巨人の正体も目的も分からない。

怪獣の方だって分からない。

だが、戦っているのだろう。

あのまま逃げることも出来たのに。戦ったら傷つくだけなのに。

それでも巨人は、自ら前に出た。自ら怪獣の元へ向かった。

なのに、自分はどうだ?

自分には守るべき、守らなきゃいけない存在が傍にいる。

何度そう、自分に言い聞かせてきたか。

何度そうやって、言い訳を述べて。

何度そう、逃げているのか。

 

「う……」

 

独りにしたら危険なのは、間違いないだろう。

周りは責めても、両親はきっと責めない。むしろよくやった、と褒めてくれるはずだ。

身内や大切な人が死んだ人々は生き残ったものを非難する。それは行き場のない感情を向けてしまうことで、仕方のないことだ。

例えその未来があったとしても自分が、自分たちが大切なのは正しくて、間違えてなくて。

 

「がう……ちがう……違う……!」

「お、おにぃちゃん…?どうしたの…?」

 

様子がおかしくて、小都音は不安そうな表情を浮かべたまま聞く。

この場で、危険しかなくて、怖いのだろう。どうなるか分からなくて、どうすればいいか分からなくて。

頼れる両親はいなくて、彼女にとって唯一頼れるのは紡絆だけなのだから。

 

「…行かなくちゃ」

「え……?」

 

俯いていた紡絆が顔を挙げる。

顔を挙げた紡絆は覚悟をした者の表情そのもので、何のことか分からない小都音は戸惑う。

 

「僕は……僕にはやらなくちゃ、やるべきことがあるんだ。やり残したことがあるんだ」

 

小都音に言い聞かせるように背を合わせて両肩を優しく掴みながら、真っ直ぐな瞳で告げる。

何のことか、何をか、何をする気なのか。

小都音には分からなくて、ただ無性にそれは()()()()ことだけは理解出来た。

だから止めたくて、声を出そうとして、そう思っても体は上手く動いてくれない。

そんな小都音の様子に気づいたのか、それとも偶然か。

 

「---大丈夫。僕は絶対に帰ってくる。だって母さんと父さんに小都音を会わせなきゃいけないから。僕が死んだら悲しむ人がいるかもしれないから。僕は必ず生きて帰ってくる。だからほんの少し、ちょっとだけのお別れだ」

「きゃ……!?」

 

優しげに笑顔を浮かべる姿はいつもと変わってなくて、こんな時ですら同じで、完全に理解するよりも早く紡絆は小都音を抱きかかえた。

突然の浮遊感に小都音は驚きの声を挙げると、未だ言われた言葉に混乱する。

もしある程度成長していたならば、即座に理解して何か言えただろうが、紡絆も小都音もまだまだ子供だった。

だからこそ、こんな緊急事態になったら整理が追いつかない。

だが自分が何をするかを決めた紡絆は考える必要はなくて、そのまま走っていく。

路地裏から出て、人を避けながら一直線に向かった紡絆はそのまま口を開いた。

 

「すみません!この子を安全なところまでお願いします!」

「え、あ…キミは!?」

 

向かった先は先ほどから大声で民衆へ指示を出していた自衛隊の人がいる場所だった。

突如預けられた自衛隊の男の人は戸惑うも、すぐに冷静になったのか紡絆へ問う。

 

「僕にはやるべきことがあるので……! あとはお願いします!」

「やるべきこと…ッ!? ま、待ちなさい!」

「お、おにぃちゃん…!ま、まって、おにぃちゃん!おにぃちゃん!!」

 

背後から聞こえてくる静止も、涙まじりの声も。

全部全部無視して紡絆は走る。

その先は中央広場がある場所で、自衛隊の人が止めようとしたのも納得が行くだろう。

しかしいくら大人といえど、子供を抱えたまま全力疾走する子供に追いつけるはずもなく、どちらしか選べない。

だからか、唇を噛み締めると今にも追おうと暴れる小都音をあやしながら避難を優先した。

そう、助けられない命よりも確実に助けられる命を守るのは、正しいことだ。

それはいつだって、変わらない。

短な会話から二人の関係性が兄妹だったとしても、それで恨まれることになろうとも。

その男は、それを理解しながらも自衛隊を志したのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人の流れに逆らい、自身が持ちうる全てを使う。

子供だからこその身軽さ。培ってきた技術。

それらを使って紡絆は中央広場へ向かうが、人々は何事かと思うだけで止めようとはせずに逃げることに必死だ。

いつ自分たちに被害が及ぶか分からない状況なのだから、仕方がないと言えば仕方がない。

だからこそ紡絆は体勢を崩した者や倒れそうになった人が見えたら支えるだけ支え、中央広場へ急ぐ。

あと少し、もう少し。

温度も湿度も高いのか風が生温く煙も濃くなっていく。近づけば近づくほど、身を蝕むナニカは広がっていた。

 

(怖い、逃げなきゃ、こわい、こわいこわいこわい---ダメだッ!気を確かに持たなきゃ…。僕はずっと逃げてた。怖いから。()()姿()を見てからずっと震えていた。夢で見た時から、ずっと。だから僕は小都音を言い訳にして、守らなくちゃいけないからって。そんな最低なことをして…自分に言い聞かせて逃げてた…!)

 

そう、逃げていた。

正当化させて、理由をつけて。

本当の想いからずっと。

 

(僕が死んだら小都音は悲しむ。母さんも父さんも悲しむ。そんなの、わかってる。このまま向かったら僕は死ぬかもしれない。他人の命よりも家族をことを想うなら自分の命を守るべきで…分かってるんだ。僕だって死ぬのは嫌だ、怖い。死ぬのはきっと凄く痛くて苦しくして、経験したくないほどに悲惨なはずだから)

 

恐怖というのは誰にも存在する。

それは紡絆だって同じだった。

だから紡絆は向かう勇気がなかった。正しいことだと納得のいかない心を無理矢理納得させようとしていた。

なぜなら自分の行動が、家族を悲しませると分かってたから。

自分が死にたくないという自己保身もあったが、その中には家族に対する想いも入っていた。

 

(でも、この世界には御伽噺のような勇者はいない。架空の人物のような主人公もいない。ヒーローは存在しない……)

 

颯爽と何も現れないのが証拠だ。

明らかに異物である巨人と怪獣が戦ってるのに、何も変わらない。

それどころか被害は増え、殺気に満ちた空気が場を支配し、足が止まる。

もはや人間が居られるような領域ではなく、脳が警告した結果。

じゃあ、逃げ遅れた人々は?動けないまま死を待つしかないのか?ただ死を受け入れるしかないのか?

何も存在しない。誰も助けてくれない。

ならば。

 

(だから誰かが立たなくちゃならないんだ。誰かが立ち向かわなければならないんだ。誰かがならなくちゃならないんだ!

みんなを守れるような、みんなを助けられるような、誰かを笑顔に出来るような、不安を消し去って安心させられる…希望を与えられるヒーローが必要なんだ!僕にはそんな強さはきっとないけど、何もやらないままじゃ変わらない!強くなるんだ、誰かを守るために。この願い()を叶えるためにも弱い自分を、ここで捨てるッ---!)

 

子供が持つべきものではない考えを抱きながら、その考えが彼の『これから』を大きく歪ませることを、誰も指摘出来ないまま。

紡絆は確かな勇気と覚悟を持って、目的地に向かう。

そのように走りながら、不思議と胸の内が熱くなるような感覚が芽生え、目に熱が籠る。

ただ元凶とされる場所へ辿り着くからだと紡絆自身は思っただけだが、その実。

彼の体には異変が起こっていた。

黒い瞳を持つ紡絆の瞳が、()()と黒色に繰り返し点滅をしている。

鏡や何か投影するようなものがないため異変に気づけないまま、紡絆はようやっと中央広場へ辿り着くことが出来た。

さっきとは比べものにならないほどに熱く、酸素が薄く、それでいて鼻につくような血の臭い。

地面は亀裂が走り、抉れ、割れている。

さらに顔も体も見えるに耐えないほどに抉られた死体があって---

 

「う……っ!?」

 

明らかに怪獣の爪に引っ掻かれたかのような、臓器が外に出ている死体。皮が焼け、爛れた死体。手足が欠損した死体。首のない死体。上半身がない死体。下半身がない死体。骨が露出した死体。首から下がない死体。半分しかない死体。脳味噌が見えた死体。原形を止めてない肉片のようなナニカ---

 

「おえぇえぇえええ……ッ!!」

 

他にも様々な死体が転がっており、目玉や臓器が落ちていたりなど明らかに逃げ遅れた人たちのものだ。

そんなショッキングな光景を見て普通で居られるはずもなく、胃の中からむせ上がってくるのを感じ取った紡絆は口元を抑えながら蹲ると、激しく収縮する胃によって勢いよく吐瀉物が吐き出される。

粗方吐いてしまうと、絞り出すようにトロトロと口から唾液とも胃液ともつかぬものを吐いて、やっと嘔吐が収まった。

真っ青な顔色で、荒い息をついている。

むしろこれほど無残な惨状を見て平気で居られる方がおかしい。それも大人ですら目を背けたくなるほどのものなのに、吐くだけで済んでるのは彼の精神力が強いお陰か。

それだけではない。

紡絆はその惨状を見て、目を離さない。

吐いた影響で異物感や不快感は残っているが、その現実を紡絆は受け止めようとしていた。

 

(間に合わなかった……間に合わなかった間に合わなかった間に合わなかった!僕がもっと早ければ…僕がちゃんとしてたら一人でも助かってたかもしれないのに……ごめんなさい…ごめんなさい…!僕のせいだ……僕は知っていたのに……ナニカが来るってわかってたのに……)

 

誰も責めない。

逆だ。子供がたった一人居た程度で死体が増えるだけで、何も出来ないだろう。

それに彼は出来ることをしていた。

いち早く察して大声で逃げるように言ったのに、周りは聞かなかった。

妹を助けることはしていたし、精一杯のフォローは他者にもしていた。

もし仮に中央広場へ居ても同じことが起きただけ。

まぁ、知っているのと知ってないことに対する差はあるため、一人でも助かっていた可能性はあっただろう。

だとしても必ず死者は出ていた。

分かっていても避けられない運命というものはあるのに、誰もそれを教えてくれない。誰も伝えてくれない。

だからこそ、彼はこの惨状を誰かのせいではなくて、分かっていたのに行動に移さなかった自分のせいだと、自分だけを責める。

自分が、全ての原因だと思い込む。

本当は、誰のせいでもないのに。

 

(……まだだ。泣くな、泣いちゃダメなんだ!後悔するよりも、探さないと……せめて、せめて誰か一人でも助けなきゃ…この人たちを救えなかったなら今出来ることをしなきゃ……反省も後悔も全部全部後にしなきゃ……!僕には、()()()()()()()()()んだ…)

 

今にも泣きたくなるような、心が悲鳴を上げる。

それらを無視しながら手に力が籠り、俯きながらふらふらとした足取りで歩みを進める。

自分がやるべき、使()()にでも動かされるかのように体は動き、前方で爆発音が聞こえた。

熱風と衝撃が襲いかかり、咄嗟に顔を覆いながら顔を上げると巨人と怪獣がすぐ近くで戦闘を行っていた。

殴り、蹴り、引っ掻き、噛みつき、フィクションのような戦い。

けれど現実で、紡絆は足が縺れて勢いよく転んだ。

 

「っつ……」

 

超常的な存在の戦いが近くで行われていて、人がまともに動けるはずもない。

顔も足も痛かったが、動く力がないのか伏したまま地面を見ていた。

このまま居ても、いずれ先ほどのような死体と同じように焼かられるか殺されるかの二択になるだろうが体が動いてくれない。

 

(起き、ないと……やるべきことが、あるのに……強い自分にならないと…痛いのも、苦しいのも、全部全部我慢できる…そうだ、僕のことは()()()()()()()!だから、だから動け、動け…!!)

 

手に力が入らない。

ただ脱力感だけが体を支配し、紡絆は唇を強く噛み締めた。

覚悟を決めて来たのに、何も出来ていない。何も成せていない。

それどころか多くの人の死体だけしかなくて、自分自身の無力さに。自分がどれだけ小さな世界に生きていたのか自覚して、心が軋む。

保っていた火は薄れ、光は失いかけて、視野が狭まって、涙が溢れそうになる。

結局、人助けをしても小さなものしかしたことはなくて。

結局憧れがあったとしても辿り着けなくて。

結局、人の笑顔や喜ぶ姿が好きでもこんな状況になったら簡単に奪われてしまって。

結局、この世界にヒーローも勇者も主人公も居なかった。

なろうとしても、なれなかった。

現実というものだけを思い知り、もういっそのこと、自分も楽になるべきなんじゃないか、と諦めようと目を閉じようとしたとき---

 

 

 

 

 

 

「ママー!パパー!たすけて!だれか、だれかたすけてぇえええ!」

「ッ!?」

 

誰かの、助けを求める声が耳に入った。

その瞬間、考えるよりも早く体が動く。

力の入らない体に鞭を打ち、ふらふらな足取りでも走る。

さっきまで動けなかったのに、動けている。

それは紡絆の心が折れていたわけではなく、酸素の薄い空間で胃の中身を吐き出した上に走り続けた影響で体力が失われ、酸欠と脱水によるものだったのだが、そんなことを知るはずもなく動けるならばそれで良いと紡絆は急いで走って、自身よりも小さく幼い男の子が泣き叫んでる姿が見えた。

 

(なんで、こんなとこに…ッ。いや、それよりも親は!?いない、はぐれた?巻き込まれた?分からない。分からないけれど、僕の目が届くところなら、僕の手が届くなら、絶対に助ける…!)

 

紡絆が居ないところで起きたのが、死体の数々だ。

それに関してはどうすることも出来ない。紡絆は納得しないだろうが、仕方がないのだ。

だが、今は違う。

距離は遠いが、手が届く範囲内だ。

今度こそ、今度こそはと走るが全力の速度が出なくなってるせいでいつもなら遠くないのに遠く感じていた。

それだけではない。

運命とは残酷なものなのか。

怪獣の爪を巨人が横に避けた時に背後にあった鉄柱が怪獣の手によって引き裂かれ、支えを失った鉄柱は男の子の頭上へ堕ちていく。

 

「やばいッ…!」

『---!?』

 

紡絆と巨人が気づいたのは同じタイミングだった。

すぐさま起き上がって向かおうとした巨人は怪獣によって拒まれ、避けながら進もうとするがそのせいで遅れている。

紡絆もまた、本来の力を出し切れない。出し切れる体力が無くなっている。

数十---いや、後二秒もすれば潰されて死ぬだろう。

 

(ああ……ダメだ。間に合わない…。間に合わない……?だからどうした?間に合わないなら間に合わせろ…!何のためにここに来た、何のために僕はこうしている?諦めるな…!自分がどうなっても死んだとしても、助けるんだ…ッ!)

 

世界がスローモーションになる錯覚を覚えながら、紡絆は必死に足を動かす。

諦めそうになった心を鼓舞して、ただ必死にもがく。

 

「け……どけ……とどけ、届け、届けえーーーッ!!」

 

加速する。

風を抜き去り、落下してくる鉄柱よりも素早く紡絆は抱きつくように飛び込んだ。

堕ちてきた鉄柱は容赦なく潰し、埃が煙のように舞い上がる。

 

『---ッ!』

 

怪獣を引き剥がした巨人は振り向く。

土煙が発生していて何も見えないが、巨人の目には直前に何者かが飛び込んだ姿が映っていた。

ゆっくり、ゆっくりと土煙は風に流されていく。

落ちた鉄柱は地面に突き刺さっている。

けれども、その鉄柱には血痕がひとつもついてなかった。

つまり---

 

「はあ、はあ…へ、へへ…ぎ、ぎりぎり…だった……けど、だいっじょぶ……!?」

 

踏み潰されるギリギリの位置に、二人の少年が居た。

一人は倒れて、一人は乗っかかっている。

そして助けた本人である紡絆は、ゆっくりと体を起こしながら下敷きになった際に擦れた背中に顔を顰める。

服は破け、痛々しい擦れ傷がうっすらと見える。

 

「だ、だい…じょうぶ」

「そっか…!お母さんやお父さんは?」

「あ、あっちに…」

 

何が起きたのかいまいちよくわかってないのか、戸惑いながら男の子が指差す。

追うように視線を向ければ、そこには瓦礫の山があった。

 

「一緒に来て!」

 

一瞬だけ目を怪獣の方へ向ければ、まだこっちには気づいてない様子。

置いていくわけにもいかず、紡絆は男の子の手を引きながら瓦礫の山へ近づく。

問題は埋もれているのか道を塞がれているか。

後者ならば最悪何とかなるかもしれないが、前者ならば手遅れの可能性が高い。

後者であることを願いながら紡絆は凝視し---

 

「ッ……」

 

二人の大人が瓦礫に埋もれていた。

つまり前者だったということ。

また救えなかったことに後悔しそうになって、よくよく見れば踏み潰されることなく空白があるのが見えた。

慌てて息を確認するように耳を近づけると、僅かだが聞こえる。

 

「に、兄ちゃん…?」

「……!大丈夫、生きてる!」

 

しかし奇跡的な位置で潰れてないだけで、下手に動かせばそのまま潰れてしまう。

それに石は拳くらいの大きさでも重たいものである。

それが巨大な石となれば、動かすのはどれほど至難な技か。

持ち上げようとしても、持ち上がらない。

押すわけにはいかず、それこそ巨人ほどの力がなければ無理だ。

 

(どうする?どうしたらいい?どうしたら助けられる?考えろ、考えろ考えろ……!)

 

使えるものがないかと周りを見て、角材が落ちてるのが見えた紡絆は引っ張って突き刺し、持ち上げようとするいわゆるてこの原理を利用しようとしたが角材が先に折れる。

それに一つだけ動かしても崩れるだけで、それは分かっているのか細かく邪魔な石を投げ捨てていくが、それだけでもどれだけ時間がかかるか。

 

「パパ!ママ!」

「くっ……!?」

 

必死に石を掻き分けていると、大きな音が聞こえた。

音の発信源へ目を向ければ、巨人が倒れて怪獣がこっちを見ていた。

投げられたのか、すぐには巨人は起き上がれない。

しかしゆっくりとだが確実にこっちに向かってきており、見つかってしまったのだろう。

 

「時間が無い…!」

 

自身の爪が傷つくことも指が痛むことも厭わず、小石をかき分けては少し大きめの石を投げ捨て、少しでも早く軽くする。

それでも問題は大きなひし形のような石をどう持ち上げるかであり、ひとつでも苦労するのにふたつも積もっていたら時間が足りずに怪獣が先に到達してしまう。

 

「…う……に、にげて……」

「!?」

「ママ…?そ、そんなのいやだよ…!」

 

意識があったのか男の子が母親らしき人物が振り絞るように呟く。

それを聞いた子供は反対するが、現実はそうはいかない。

あと数秒もすれば転がっていた死体のように、四人とも引き裂かれる。

 

「お、おねがい……こん、かい…だ、け……いい、子だ…から…き、いて……」

「イヤっ!イヤイヤ!ママもパパもいっしょがいい!」

「ご、ごめ…んな。ぱ、パパも…ま、ママも…い…けな、いんだ。た…頼みます…そ、その…子を……一緒に…」

 

間に合わないことを悟っているのか、せめて子供だけは逃がそうと母親も父親も紡絆に託そうとする。

この場で頼れるのはちょっと歳上なだけの子供だからか、二人とも申し訳なさそうで、それでも託すしかないのだろう。

男の子がどれだけ泣いても、我儘を言っても、どうしようもない。

 

「……僕は」

 

紡絆は拳を握りしめながら動けなかった。

もう爪は割れたり削れたり、血が出ていて頼りにならないようになっている。

選択としては正しい。

このまま全員が死ぬくらいなら、親としては子だけでも助かって欲しいのだろう。

だから二人の言う通り、紡絆が男の子を連れて逃げれば助かるかもしれない。

助かって、どうする?

男の子だけは無事かもしれない。けれど男の子の親はもう居ない。子に必要なのは、親だ。

まだお金や他のことを大事と思う年頃ではない。一番大切なのは、家族だ。

刻一刻と選択は迫られる。

逃がすか、死ぬか。

 

「……なんだ」

 

揺れが近づく。

怪獣が近づいて、子供が泣いて、親は慰めながらそれでも懇願して。

起きている全てから遠のいて、紡絆の耳には何も届いてなかった。

迫られた選択。

決断しなければならないとき。

命だけは助けるか。心だけを救うか。

 

「違う……そんなの、それだけは違う。ダメなんだ…!」

「に……兄ちゃん…?」

「な、なに……を……!?」

 

血が流れ、汚れた両手で紡絆は掻き分ける。

その行動に子供の親は驚くが、紡絆は痛みに顔を顰めながらも顔を見て口を開いた。

 

「違うだろ…!認めちゃ。選んじゃダメなんだ!この子の親は貴方たち二人しかいないんだ!例え子供が生きたとしても、親という宝物を失ったこの子は辛いだけ…です!」

「け…れど……」

「心も命も!全部無事じゃなきゃ!絶対絶対助ける、助けてみせる!」

 

そう、紡絆は選ばなかった。

逃げて命を助けることも。一緒に最後まで居させてあげることも。

選んだもの。

それは、これからも共に生かせるという選択。

しかし現実的ではなく、理想でしかなかった。

まだまだ取らなくちゃならないものはたくさんあって、音はかなり近くなっていた。

振り向けば怪獣はもうすぐそこで、あと数歩もすれば殺される。

 

「わた、し……たち…の、こと…い、いい……から」

「に、にげ……」

「できない、できない!この子が大切なら!この子ことを想うなら、本当に想ってるなら!生きて…!生きてこの子と共に歩んでください!絶対に助ける!助けます!だから、だから諦めないでください!」

 

賭けに出るように、瓦礫の山ではなく下敷きになっている原因のひし形の岩に手を突っ込む。

陰が差す。

ゆっくりと、少しずつ巨大な影が紡絆や男の子を、瓦礫に埋もれる夫婦を包む。

 

「救うんだ…今度は、今度こそ強く…今、強く…!そのために僕は……僕は……()()---ッ!!」

 

影が動く。

何かを振り上げたのか、いや腕に備わる巨大な爪が振り上げられる。

同時に何かがキッカケとなったのか、紡絆の目が黒目と金色に点滅し、金色に染まる。

 

「た、い……ぜ……だ、い…!ぜっ、たい……絶対諦めないっ---!!」

 

そして巨大な岩が持ち上がった。

人が動ける空間を作り出し、紡絆は歯を食いしばりながら持ち上げ続ける。

それを、その姿を見たからか。

男性も女性の目にも諦めの色が見えなくて、瓦礫の山から抜け出した。

しかし振り上げられた爪が容赦なく振り下ろされて---

 

「だ………らぁあああアアアアァァ!」

 

気合と共に紡絆はその岩を上空へ投げ飛ばす。

子供とは思えない力。子供とは思えない速度。

それでも所詮、人の域を越えていない。

世界はどこまでもどこまでも残酷で非情で。

爪によって岩は簡単に破壊され、精一杯の抵抗も無駄に終わる。

紡絆の背後では子供を抱きしめて、男の子もしがみつくようにくっついて。

だとしても、そうだとしても、紡絆だけは即座にそんな三人を庇うように前に出て両手を広げていた。

その目に、決意の光を保ちながら。

そして無惨にも、そんな勇気ある少年と助けられた親子は怪獣の爪によって殺される---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(痛みが……ない?)

 

次に来るであろう苦痛を覚悟していたのに、体のどこも痛いという感覚もなければ、身体のどこかに異常があるわけでもなかった。

ただ風圧だけが凄くて、何が起きたのかを確認するように紡絆は目を開く。

 

『デェアァァ!』

 

するとそこには巨人が怪獣の尻尾を引っ張り、勢いよく引き離すように投げている姿が見えた。

巨人の手によって投げ飛ばされた怪獣は紡絆たちから離れ、遠くへ腹から落ちる。

それを見届けた巨人は紡絆たちの方を見て、紡絆は僅かながら警戒する。

 

『………』

「……!」

 

特に何かをしようとする様子もなく、巨人はただゆっくりと頷いた。

喋ったわけでも、頭の中に声が響いたりとかそういったことを伝えられたわけではないが何が言いたいのかを理解出来た紡絆は同じく頷くと、すぐに振り向く。

 

「少しじっとしててください…!」

 

返事を待つことなく、その辺にあった鋭利なもので自身の服を引き裂くと包帯代わりに男性の足に巻いたり女性の腕に巻いたり、と応急処置を施す。

専門的な知識があるわけでもないのに、『なぜか』どこが怪我をしているのか分かったからの処置だった。

 

「これで……よし。時間がありません。出来る限り早く、無理しない程度に逃げてください。ボク、俺はもうついて行くことは出来ない…だからキミが両親を守るんだ。出来るだろ?」

「う、うん……でも…」

「俺にはやることがあるんだ。だからほら、行って!今両親を守れるのはキミしかいないんだから!」

 

いつ怪獣が向かってくるか分からない。

だからこそ、立たせた紡絆は気合いを注入するように男の子の背中を軽く叩くと、笑顔を浮かべた。

チラチラ、と何度か紡絆を見るものの、男の子は覚悟を決めたのか両親の手を握っていた。

 

「あ…ありがとうございました」

「この恩は忘れません…!」

「いえ…そのまま真っ直ぐいけば自衛隊の人たちがいます。あとは彼らを頼って!」

 

それだけ告げると、感謝を示すように頭を下げる男性と女性に背を向けて走り出す。

僅かに後方へ視線を送れば男性が足を怪我してるのもあって肩を借りながら急ぎつつゆっくりと向かっており、早歩き程度の速度しか出てないが無事に帰れるだろう。

怪獣の方もまだ起き上がっていない。

それを見た紡絆はやるべきことをやるために巨人に近づいて口を開く。

 

「巨人さん、ありがとう!」

『---』

 

助けてくれたことに対するお礼の言葉。

僅かに『まだここにいる』ということに驚いたように固まった巨人ではあるが、すぐ気にしてないというように首を横に振る。

 

「そっか…じゃあここからは俺に任せて!この周辺にいる人々は何とか避難させるから!だから安心して!」

『………!』

 

巨人は何かを気にするように戦っていた。

それが何なのかを察した紡絆は巨人に伝えると、巨人は止めようと手を伸ばしていたのだが既に行動に移っていた。

今の紡絆は視野が広い。聴力も上がっている。

何よりも---

 

(なんだろう……?不思議と力が溢れてくる…今ならもっと多くの人を救える…もっと多くのことが出来る…!)

 

先ほどの瓦礫の岩を投げた時といい、今といい、身体能力が異常なほどまでに高まっている。

それに、分かるのだ。

今の紡絆には何処に何人いるのか、どういう状況なのか、それが『視えている』。

この周辺の人々を避難させなければ、いずれ戦いに巻き込まれるだろう。

そうしてあの死体の数々のように命が失われてしまう。

それを阻止すべく、紡絆は動く。

怪獣が立ち上がり、巨人がぶつかりに行く。

言葉は一方にしか通じてないだろうに、協力関係が出来ていた。

 

「こっちへ…!こっちからなら避難できますから!」

 

閉じ込められていることを知っているため塞いでいた岩を押して退けると、逃がす方向に手を振りながら中に閉じ込められていた五人の男女を誘導する。

その際に助けてくれたことに対する感謝と同時に子供が出せるような力では無い力で退かした姿に畏怖するような目を向けられる。

しかし気を取り直すように頬を叩くと、次の場所へ移動した。

脚を怪我した人に応急処置を施したあと抱え、平坦な道まで連れていくと避難先を伝える。

一緒に逃げないのか、と聞かれてもやることがあると断りを入れ、また次へ。

鉄柱を退かして、木を退かして、岩を退かして、時に引っ張って持ち上げて、抱えて、庇って、走って、火の手が迫ってきたとしてもそこにいる人を必死に助けていった。

けれども、人の感情に聡くない紡絆ですら向けられるものが何なのかをうすうすと理解していた。

今まさに暴れている怪獣と戦っている巨人。

そんな二体のように、自身を見る目や言葉は()()()()と同じように、恐れられている。

時に殴られたり、近づくなと言われもした。無論全員がそうだったわけではなく、少数で殆どは余裕がなくて感謝ばかりだった。

ただ、紡絆はそれでもよかった。

誰かを助けられるなら。恐れられても、怖がられても。殴られても。

ちょっと胸の辺りが痛くなるだけで、我慢出来ないものじゃない。

人が死ぬよりも、マシだから。

 

「ま、だ……」

 

頬が腫れ、炭が付き、指は血だらけで、脚はもう限界を迎えているのか引き摺っていて、服はボロボロ。息も絶え絶えで、酸素が不足している。

だとしても、頭から血を流して、目眩がしていても。

倒れる訳にはいかないと必死に動いていく。

周囲に人の気配はなく、逃げ遅れた人はもういないだろう。

かなりの時間を費やしたが、ようやく全てが終わった。

だがその瞳の光は薄れ、既に元の色へ戻ってしまっている。

さらに紡絆の体は意思に反して倒れてしまった。

あまりに酷使すぎたため、脳が休もうとしている。

 

(だ、め……いか、なきゃ……かえ、らな…いと……)

 

このまま眠れば、巨人と怪獣の戦いが激化して巻き込まれるだろう。

そうなれば、家族とはもう会えない。

何より、ここに居るだけで邪魔になってしまう。

もがいて、抗おうとして、全身の力が失われていく。

 

『---ぐァアア!?』

 

意識が消えようとした紡絆の近くで、大きな衝撃と共に何かが聞こえた。

うっすらと目を開くと、巨人が傍で倒れている。

疲労してるのは紡絆だけではない。

長いこと戦って、何度も攻撃を受けた。

10mしかない巨人は20mの怪獣を相手にしていたのだ。

時間が経てば経つほど、追い詰められるのは当然だった。

 

「きょ……じ、んさ……ん」

 

手を伸ばす。

何をしようとか何かやるべきことが分かってたわけではない。

ただ心配で。ただ守りたくて。

 

『…フッ!?』

 

その声を聞いて気づいたのか、巨人は紡絆の体を覆うように手で隠すと、同時に巨人の背中には稲妻のような、雷光が直撃した。

威力の高い攻撃なのか巨人が耐えきれず再び地面に伏せてしまうが、すぐさま転がって紡絆を降ろすとふらつきながら立ち上がっていた。

 

(うご、かないと……このままじゃ…やばい……。おわ、らせないと…戦いを、終わらせないと……!)

 

既に尽きた力を絞り出し、限界を示すように震える脚に動け、と叱咤する。

それに応えるように動いて、一歩、一歩と着実に前へ歩んでいく。

 

「げほっ、げほっ……」

 

火が回りすぎて、どこもかしこも火と煙ばかり。

煙たい空間で長いこと息をすることなど出来ないし、まともに呼吸することすら出来ない。

より体力を奪っていく環境でひたすら動く。

動いて動いて動いて動いて、崩れるように両膝を着いてしまった。

 

(もう、もた…ない……。ごめ、ん……俺は、なにか…出来たのかな……)

 

頭痛も目眩も吐き気も耳鳴りもして、呼吸は苦しくて眠気は凄くて体は痙攣を始める。

歩くことすらままならなくなり、集中力は途切れてしまっている。

まだ紡絆は知らないが、一酸化炭素中毒といわれる症状だ。

危険な領域にまで達しており、生きてるだけでも奇跡だ。

よく持ったと言ってもいい。

 

(あ…でも……)

 

徐々に意識が薄れていく中。

今にも目が閉じてしまいそうな時に紡絆の頭の中を何かが過ぎった。

 

(俺が死んだら…神樹様と会えなくなっちゃうな……神様でも悲しんでくれるのかな……悲しんで…欲しく、無いな……。ほか…の人が……母さんや父さんが…みんなが、笑顔な…せ、かい……に…)

 

薄れる。

最後の最後まで、神樹様や家族といった他の人たちを思い浮かべて心配するだけで、そこに自分という存在が消えている。

生きて帰る、ということを忘れたように。

紡絆は重たくなった瞼を閉じた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「--ん!」

 

体が揺れる。

力尽き、意識を失いそうになった紡絆の耳に何かが聞こえた。

残念ながら力は入らない。

しかし聞こえてくる声は何かと言われれば走馬灯、というわけでもないだろう。

 

「お---ん!」

 

不思議なことに、その声は紡絆の中に強く、深く響く。

まるで子供が泣きじゃくってるような、そんな声。

泣いている。

誰かが、誰かが泣いていた。

 

「おに---ゃん……!おに---ん!」

 

それが誰なのか、目を開けないことには分からない。

けれども、力が入らなければ何も出来ない。

嫌だった。

目を開けたら、そこには悲しむ誰かがいる。

嫌いだった。

人が悲しむ姿なんて、辛い姿なんて。

好きになった。

人の笑顔を見て、幸せそうな姿を見て、綺麗だと感じた。

 

(起きないと……泣いてるなら、俺が拭わなきゃ……俺の近くで、誰かが泣いているのに。今起きたら拭えるのに…。嫌だ……そんなことも出来ないまま、死ぬなんて…俺がやらなきゃ…ここにいるのは、俺だけなんだ……俺がやらないと、誰が今泣いてる子を笑顔に出来る……!?)

 

火が灯る。

自身の奥底に芽生える、暖かい温もり。

それがなんなのか分からない。知る由もない。ただ分かったのは、それを掴めば自分はまだ死ぬことは無いということ。

だからこそ動かないはずの体を、ただ眠って死ぬだけだったはずの意識を『根性』という名の気合いだけで覚醒を促し、死という逃げ道を。死神の迎えを振り払うように、迷いなくその火を、その光を掴む。

自分のためじゃない。

誰かの為に。

近くで泣く誰かを支えるために、紡絆は死という概念をぶち破る。

 

「おに--ちゃん!」

 

鮮明になっていく意識。

その声は、幾度も聞いてきた声。

大切で、守りたくて。そのために逃がしたはずだった。

そう、本来ならここには居ないはずの人物。

 

「おにぃちゃん!おにぃちゃん!おきて、おきて!やだ、いやだよぉ…!!」

 

広がった視界に移るのは、顔がぐしゃぐしゃになったのも気にすることなく縋るように泣きつく少女の姿。

泣いている。泣いていた。

いや、泣かせてしまった。

 

「こ……とね……」

「………!」

 

力が入らないからなんだ。

動けないからなんだ。

苦しいからなんだ。

痛いからなんだ。

そんなの、他の人に比べればまだまだマシだ。

巨人に比べれば、微々たるものでしかないだろ。

そんな()()()()()()()で彼女を泣かせたままでいいはずがない、と紡絆は自分自身を叱咤しながら小都音の頬に手をやる。

 

「おに……ちゃ、ん…」

「な、んで……来た……?」

 

自身の手に手を重ねる小都音に、紡絆は疑問をぶつける。

ここへ来る前、紡絆は確かに預けた。

他の者たちよりも積極的に助けようとしていた人だったから。

そんな人物が危険と分かってる場所にみすみすと行かせるはずもない。

 

「だって…だって……!」

「っ!」

 

その疑問に小都音が答えようとして、紡絆は何かに気づいたように小都音を抱き寄せる。

それと同時に、眩い光が覆い尽くす。

目の前を見てれば、怪獣の口から放たれた雷光を巨人が両腕で防ぎながら、僅かに此方に目をやっていた。

 

「まも……ってくれたの?」

「ゴホッゴホッ……か、彼は…味方…だ、と思う…から……いこ、う」

 

ずっと見てきた紡絆はわかっていたが、小都音は初めて見たからだろう。その表情は驚きに染まっている。

説明している暇はないし詳しくは紡絆も知らない。

ただ何かを喋った訳では無いが、『逃げろ』と言っているように思えて、紡絆は短めに答えながら鞭を打って小都音の手を取ると起き上がる。

 

「う、うん……けほっ」

 

話は後にしてやるべきことをやろうとしたが、死にかけていた空間にいるのもあって小都音は少し苦しそうに顔を歪めている。

それを見た紡絆は何かを探すように服を探り、ポケットに入っていた物を取り出すと小都音の口と鼻を覆うようにそっと当てた。

 

「おにぃちゃん…?」

「ちゃ、んと……おさえ、てて…くれ」

 

余裕のない、真剣な顔。

そんな姿を見たからか、小都音は大人しく紡絆から渡されたハンカチで口と鼻に当てる。

少しでも小都音が苦しくないようにした紡絆は、ふらふらな足取りで少しずつ小都音を引っ張っていく。

咳き込んで、息切れを起こしながら。

元々限界だった体力も体も気合いで何とかしてるだけの状態なのに、紡絆は必死に動く。

 

「あ、の人……は?」

「お、おにぃちゃんが…帰ってこないから、心配で…だ、だから暴れて振り払って……そこから、見えなくちゃって…わかん、ない」

「そ…か」

 

怒られるのでは、と思ったのかちょっぴり怯えたようにここへ来た経緯を説明する小都音に、紡絆は怒ることはなかった。

怒る権利は無いし、その言葉を信じるなら無事なのだろう。

元々自分の役割を押し付けただけで、罪は無い。

それに来てしまったものは仕方がないため、あとは無事に連れて逃げられるかどうかだけ。

 

「はっ……はぁ……」

 

気遣う暇すらなく、荒々しい呼吸を繰り返しながら紡絆は小走りで動く。

引っ張られる小都音はついていくだけで精一杯で、ふと耳に何かが聞こえる。

それは紡絆も同様で、動きを止めて振り向いていた。

背後。

何が起きていたのか。

考えなくとも分かるだろう。

怪獣と巨人が戦闘していた場所。

かなり近くだった。そこまで離れてないわけではない---いや、離れてはいた。

怪獣と巨人の距離は確かに離れており、地面は擦れ跡が残っている。

そこから考えられるのは巨人が押されていた、ということ。

 

『グッ……ガヴァ……』

 

巨人が片膝を着く。

見た時には何も無かったが、巨人の体に稲妻が帯電している。

ビリ、ビリと小さな音を紡絆だけが聞き取れた。

巨人は立とうとする。

しかし立とうとしたところで、片手を地面に着いてしまい、聞き覚えのある音が辺りに響いた。

 

「な、なに…?おと…?」

(これ…心臓の音…?もしかして、そうなのか…?そうだったのか…?)

 

呆然と立ち尽くすしかなくて、紡絆は自身の手に力が籠るのを感じた。

理解した。してしまった。

この音の発生源がどこなのか。この音がどういった意味をしているのか。何より、巨人がどんな存在なのかを。

この世界に舞い降りた神、というわけではない。全てを解決してくれるような全知も全能も持っていない。

 

(キミも…俺と同じなんだ。俺たちと、人間と同じなんだ……殴られたら痛いし殴っても痛い。弱点だってあって、死ぬときは死ぬんだ…この音は、キミの命の光なんだろ…?これが止まったらキミは死ぬんじゃないのか…?)

 

一見、巨人は超常的な力を持ったナニカだ。

未確認生命体としか認識は出来ず、何を目的で来たのかなんで戦ってるのかも分からない。

ただ、巨人は命を懸けていた。

命懸けで戦って、怪獣を止めようとしていた。

どっちが悪いかなんて、今はどうだっていい。

劣勢なのは巨人の方であり、人間を守ってくれたのは彼だ。

 

(俺は……)

 

はっきり言って、長くはないと紡絆は理解していた。

そもそも沈みかけた意識を強引に叩き起しただけで、身体の異常が消えた訳では無い。

さっきに比べれば力も全く出ず、視界はぐらつくし耳鳴りは酷くうるさい。

 

「ど、どうしたの…?おにぃちゃん…?」

「……!」

 

逃げることも話すわけでもなく、ただ立ち尽くすだけ。

そんな紡絆に小都音が声を掛けると、紡絆はハッとしたように小都音を見て、巨人を見て目を伏せる。

 

(……ごめん)

 

心の中で謝罪する。

果たしてそれは、誰に向けたのか。

しかしやるべきことを定めたように顔を上げると、小都音の手を改めて強く握る。

変わらない。今できることを精一杯するしかなくて、やれることをやっていくしかないのだから。

 

「行こう……!」

「う…うん……」

 

巨人と怪獣から背を向けて、手を引いていく。

僅かに交わされた会話が聞こえていたのか、背を向けて離れていく兄妹を見た巨人は前を向く。

ここで退けば、彼らの命はない。

その判断を肯定するように、巨人は行動で示そうと立ち上がろうとしていた。

そんな巨人に怪獣は急速に迫り、その爪を叩きつける---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二体の未確認生命体から離れ、紡絆はあらかじめ『見た』場所に小都音と共に隠れる。

戦いによって出来たのか、塹壕のような溝。

周りに倒壊の危険性はないし、ある程度ならばやり過ごせるだろう。

 

「小都音、ごめん」

「え……?」

 

紡絆が突如謝罪の言葉を述べる。

今までの行動の中で、謝るようなことがあったか。

言葉の真意が理解出来なかった。

 

「いいか、外には絶対出ちゃダメだ。俺はまだやり残したことがあるから、これ以上は一緒に逃げられない。下手に逃げるより、ここにいた方が安全だと思うから」

「お、おにぃちゃんは…どうするの……?」

「………」

 

また離れるような言い方をする紡絆にどうするつもりなのか聞くが、紡絆は何も答えなかった。

険しい表情でどこかを見て、そして『いつも』のように笑った。

 

「じゃあ……行ってくる!」

「ど、どこに……きゃっ…!?」

 

溝から抜け出し、走り出す。

小都音は紡絆を止めようとしたが、石礫が降り注いで道を妨げる。

紡絆はそれらを回避しながら明らかに巨人と怪獣の方へ向かっていっているが、身動きが取れなかった小都音は追いつくすべがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

避けて、動いて。

失われたはずの体力も力も、不思議と湧いてくる。

いや正確に言うならば、リミッターが外れてしまったのだろう。

限界を超え、幾度も引き出していたせいで緩みが生まれ、そこから溢れ出た。

アドレナリンが分泌されてるのもあるだろうが、落ち着けば暫くは動けなくなるかもしれない。

どうでもよかった。

紡絆にとって動けるならそれで良くて、今自分がどんな状態かすらも気にしていない。

動けるから動く。動かなくとも動かないと行けないから動かせる。

たったのそれだけの理由であり、想いに応えるように視界が鮮明になっていく。

広がった視野。前方に見えるのは、怪獣の爪を両腕で何とか防いでいる巨人の姿。

力が入らないのか怪獣の威力に圧倒されているようにエビ反りになっており、引き離す力は無いのだろう。

 

「はあ…はあ……なに、か……」

 

息を整えながら辺りを見渡す。

このままでは巨人が負けてしまう。

しかしちっぽけな存在でしかない人間に出来ることなどあるのか。

 

『ウアァァァ---!?』

「っ…!?」

 

そうこうしてる内に巨人が怪獣に蹴り飛ばされる。

咄嗟に右へ飛び込むことで踏み潰されることを避けるが、すぐに紡絆は土煙の中へ突っ込む。

 

「けほっけほっ!きょ、巨人さんしっかり…!巨人さん、しっかりして…!」

 

鼓動音は収まらない。

脈打つように音は鳴り、胸元が赤く点滅している。

紡絆は巨人の傍で揺するように腕を両手で掴むが、小さすぎて揺することも掴むことも出来ず、引っ付くという状態にしか見えない。

 

『へァ……!?』

 

だが巨人は紡絆の存在に気付いたようで、体を起こしながらどこか驚いたように見ていた。

ダメージはあったが無事な姿に紡絆は安堵の息を吐く。

だとしても、状況は何一つ変わっていない。

立ち上がろうとした巨人は立ち上がれず、人間のように荒い呼吸を繰り返している。

さらに砂埃で上手く見えないが、怪獣がいるであろう部分に光が見える。

それは分からない。でも嫌な予感がすることから、間違いなく例の雷光だ。

 

「………俺が何とかしないと…!」

『……!』

 

それを見た紡絆は振り向き、巨人は思わず手を伸ばす。

然しながら手は届かず、傍から離れた紡絆は砂埃から抜け出し、怪獣の近くまで近づく。距離からしてざっと5m

おかげで見えたが、口に貯められている雷光は今までよりも大きく、それでいて密度が濃い。

間違いなくこれで終わらせる、という意志を感じさせ、紡絆も巨人も死ぬだろう。

 

(止めないと……あれを停止させないと、巨人さんが死ぬ……!考えろ、どう止める?どうやったらいい?何かを投げる?叩きつける?ダメだ、多分気づかれない。じゃあしがみついて逸らす?無理だ、武器がないと何も出来ない。なにか、なにかしないと……!!)

 

必死に考えを巡らせて、考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて---容赦なく、タイムリミットが迫った。

 

「……めろ……」

『デア……!』

 

怪獣が大きく頭を後ろへ反り、その動作は御伽噺のドラゴンのブレスを思わせる。

同時に巨人も動いた。

紡絆を守るように前へ立ち、怪獣の一撃を自身の体で防ぐように両腕を広げて。

それがほんのわずかの出来事。

そして。

 

「やめろ…やめろぉぉおおおおおぉぉぉ!!」

 

前方から感じる眩い光に、紡絆は反射的に目を閉じながら叫ぶことしか出来なかった。

目を閉じても眩しい光が覆い尽くし、体が吹っ飛ぶことも痛みが走ることもなかった。

それはきっと、巨人が守ってくれたから。

目を開けるのが恐ろしくて、確認しないといけなくて、恐る恐る紡絆は目を開けた---

 

 

 

 

 

『---!?』

『フッ!?』

 

呆けやけた視野が戻っていき、何かの声が聞こえた。

ゆっくりと目線を上げていくと、巨人は変わらず心臓のような音を発しているが目を閉じる前と何も変わっていない。

唯一変わっているのは、紡絆を見ていることだろう。

そしてその背後の怪獣の方は、混乱しているかのように視線を左右へ忙しなく動かしていた。

放たれたはずの光はどこにもない。

 

「え……?」

 

一体何が起きたのか。視覚をシャットダウンしていた紡絆は知らない。

この場で何が起きたのか知っているのは、いや。

見たのは巨人だけだった。

怪獣の方ではなく、紡絆を見ている。紡絆自身ではなく、ある部分を。

紡絆はその視線に気づいたが、困惑した表情を浮かべるしか出来ない。

 

(だけど、あの時と……同じだ。違うのは、今にも倒れそうなくらい疲れてる……)

 

力が溢れるような、視覚も聴覚も色んなものが強化されたかのような感覚。

紡絆は分からないが、巨人から見れば『変化』が確認出来ていた。

ある部分、瞳。

そう、紡絆の目が黒から()()へと変化していた。

それから考えられるのは巨人が何かやったわけではなく、紡絆が怪獣の力を()()()()()()にしたか、()()()()()()のどちらかだ。

 

『---ぐっ……』

「……!巨人さん!」

 

無理をした反動か、巨人は力が抜けたように倒れる。

何がなにか分からないまま、巨人がどうにかしたのだろうと納得して慌てて近づくが、巨人は片膝を立てることで倒れるのを避けていた。

 

(ダメだ…結局何も変わらない。それどころか、巨人さんから聞こえる音が変化してる……それほどヤバいってことなんだ…!)

 

よく聞こえるようになった耳からは、鼓動音が速くなったような気がして、紡絆は即座に前に躍り出た。

 

「どうして、どうしてこんなことをするの!?周りを見たら、どんな状況か分かるはずだ!みんな傷ついて、苦しんで、中には死んだ人だっている!人が何をした?みんなが何をした?ただ生きて、必死に生きて、何かを求めて、笑いあって悲しんで!今日みたいに、ただお祭りを楽しんでただけなのに……なのになんで、なんでこんなことをした…!!」

 

一体どれほどの人間が死んだのか。

一体どれだけの人を救えなかったのか。

一体どれほどの損害が出たのか。

考えることが出来ない。

どこもかしこも燃えては灰になり、あったはずの家も、人の生活感すらも焼き払われた。

それをやったのは間違いなく怪獣と巨人の存在であり、どちらの味方というわけでも、どちらを責めたいというわけでもなかった。

紡絆はただ、内に秘める感情をぶつけたかっただけ。

自身の無力さにひたすら怒りを覚えて、何も出来なかった、守りきれなかった弱い自分が嫌で、否定したかった。

言うならば、これはただの八つ当たりだ。

けれども。

 

「やめてくれ…もう戦っても傷つけ合うだけだろ…?互いに痛いだけじゃないか…!ちゃんと話せば、言葉が交わせるなら、俺の言葉が通じるなら!きっと話し合いで解決できる、できるはずなんだ!誰とだって手を取って、誰とだって仲良くなれるはずなんだ!それは巨人さんや、あんただって同じのはずだろ!だから、もうこれ以上戦うのは---」

 

戦いを止めたい、という思いもあって。

必死に言葉を伝えようとする紡絆に、怪獣がギョロり、と目を向けた。

例えるとすれば今まで道端に転がる石のように認識していた怪獣が、目を向けたのだ。

本物の殺意。本物の敵意。本物の威圧。

紡絆というたったの一人の人間を、怪獣は()()()認識した。

数時間前の紡絆ならば、それだけで体が震えて逃げたくなっただろう。

今は違う。

紡絆はそれを真正面から受けながら、決して目を離すことも恐怖を抱くこともない。

いや、そうでもないだろう。正確に言うならばさっきまで紡絆は命の危機を感じて『死』に対して恐怖を抱いていたのに、継受紡絆という人間は()()()()()()について、自分自身の命に関して、()()()()()()()と言うべきか。

彼にとって弱い自分の中に、()()()()()()()()()()()が存在していたのだから。

あの時、あの覚悟と共に。決意と共に。強い自分になった時に、全てを捨て去ってしまった。

故に、恐れない。

故に、逃げない。

()()()()が喪われることに恐れることはあれど、もう彼に逃げるという考えは存在しなくなった。

震えることも、泣くことも、身が竦むことも、腰を抜かすことすらも。

巨人は、怪獣は、その目を知っている。その覚悟を、よく知っている。

だから、()()()()()()()()()

 

『---オ……マエ』

「!? しゃべっ---」

 

怪獣が、人の言葉を発した。

巨人とは違って、日本語を発した。

そのことに驚くが、怪獣は紡絆に顔を近づけると真っ直ぐに見た。

両目に輝く、光を。

 

『オマエ……カ?ナンダ、イマノチカラハ……』

「な、何を…言って……」

『イヤなケハイダ……ヤツにニタ、カンカク。ケハイ。ニオイ』

 

分からない。

話せるということだけしか分からなくて、怪獣の真意が、言葉の意味が紡絆には全く分からない。

 

『コロス。オマエ、オレのジャマにナル…!』

「な……っ!?」

 

頭で理解するよりも早く、怪獣の極太な脚が紡絆を打ち上げるように蹴り飛ばした。

ゴギィッと鳴ってはならない音が鳴り、吹き飛んだ紡絆は地面へ落ちると数回バウンドした後に地に伏した。

蹴られたと思われる場所から、血を流しながら。小さな血の池を、作りながら。

 

『ッ……!?』

 

巨人がゆっくりと振り向く。

何が起きたのかを確認するために見て、動かなくなった少年の姿が映った。

元々元気だったという訳ではなく、死ぬ瀬戸際の状態を保っている状態だった。

何とか生きていたのに、今は動かなくなっている。

 

『ぐ……ウゥ……!』

 

悔しさか、怒りか、別の感情か。

巨人は震えるほどに拳を強く握りしめ、怪獣を睨むようにして見る。

限界は近い。

それでも何もしなければ、少年の勇気も。少年の行動も。少年の心すら守れないまま終えてしまう。

そのためにも---

 

「…ったら……れを……!」

『…? ハッ……!?』

 

立ち上がろうとした巨人は、再び背後へ振り返った。

聞こえた声に、反応して。

少年が、紡絆が立ち上がっている。

両目の輝きは未だ消えず、怪獣の一撃を、殺すための攻撃を受けていながら、紡絆は引きずるようにして動く。

 

『ナゼ、ナゼだ。ナゼイキテイル……!?』

 

得体の知らない存在。

明らかに死ぬはずの一撃なのに、生きていても長くはないはずなのに、紡絆は確かに一歩ずつ動いて、再び怪獣の前に立つ。

 

「や、めろ……」

『ナニ……?』

 

生きている、死んでいる。

そんな話では無い。

怪獣は本能で理解した。

どういう原理なのか理由なのかは知らなくとも、生半可な一撃では死なないことを。

何より両目の光が薄らいで、点滅している。

生きている原因の候補のひとつは、それだろう。

 

「お、れを…殺せば、いい…!ただ、代わりに…これ以上、誰の命も奪うな。誰かを、傷つけるな…。巨人さんも、傷つけるな……!戦いを、辞めるんだ…!」

『…………』

「俺は…邪魔になる、んだろ……!」

 

放っておけば死ぬ傷だろうに、そんな話を伝えてくる。

わざわざ聞く必要はなく、殺せば終わりだ。

巨人は消耗し、そもそも()()()()()()()時点で巨人は戦闘は難しい。

ここは()()()()()()とは違うのだから。

故に、そんな案など---

 

『---イイダロウ』

「……!」

『オマエ、コロス。()()()ナニもシナイ』

『………!』

 

乗るはずがないのに、怪獣はその言葉に乗っかった。

紡絆自身も予想外だったのか目を見開くが、覚悟を決めたように頷く。

それを阻止しようと、()()()()()巨人は動こうとするが、やはり体は上手く動かない。

長期に渡る戦闘。適応しない環境での戦いは、彼を強く消耗させてしまった。

ダメージを受けすぎたのもあるだろう。

それを知ってか、知らずか、紡絆は振り向くと優しげに微笑む。

 

「巨人さん。俺たちを……()()()を守ってくれて---」

 

ずっと守ってくれたのは巨人だった。

被害を最小限にして戦って、庇って、その行動は人を守ろうとしていた。

ならば今度は、人の番なのだろう。

それを示すように交渉した紡絆は、自身の死など考えずに巨人を慮るように最後の言葉を伝える。

 

「ありが---」

 

ぐさり、と最後の言葉を伝えるよりも早く貫かれた。

貫いた場所は左胸。

鋭利な尻尾が貫き、空中に持ち上げられている。口から大量の血を吐き出して、直ぐに力が抜けたように宙ぶらりんになると目の色が徐々に失われていく。

間違いなく、心臓をやられている。

貫通どころか、まず形すら残っていないだろう。

貫かれた先から雨のように降る血を、巨人は見るしか出来なかった。

さらに怪獣は強く尻尾を振るい、引き抜くのと同時に紡絆は勢いよく地面に叩きつけられると転がっていく。

ぴくりとも、微塵たりとも動かない体。

生命活動を終えたように、起き上がることも喋ることもなくて。

ようやっと止まっても、衝撃を受けても反応はなかった。

それだけではなくて---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ…!ぇ……おにちゃ……ん?」

 

運が悪いことに。

いや、必然なのだろう。

言いつけを守らずに出てきた小都音は何かを探すように周りを見渡してたようだが、求めていたものを見つけたように喜ばしそうに駆け寄った小都音は血の気が引いたように顔を真っ青にしながら、膝から崩れると目の前の現実を受け入れたくないといったふうに紡絆の体に触れる。

 

「こ、こんなところで…寝たら、あぶない…よ。起きて、おきておにぃちゃん…!」

 

そっと揺らして、流れてる血にも目をくれず、その手が赤く染まっても、本当は寝てるだけなんじゃないかと揺らす。

返事は、ない。

 

「うそ…だよね?お、おにぃちゃんのうそはカンタンにわかるんだから…ね、ねぇ…おにぃちゃん。ねてるだけなんだよね?わ、わたしを驚かせようとしてるんだよね…?も、もー…!」

 

返ってこない。反応も声も、何もかも返ってこない。

両眼からは雫が溜まってきて、今にも泣きそうな顔をしながら小都音は必死に揺する。

 

「おにぃちゃん、もう十分だよ。もう分かったから、起きて…おきて、ねえっ…!い、や…いやだ、よ……そっ…んなの…う、そ…」

 

体温が失われていく。

握る手は冷たくなってきて、呼吸が聞こえなくて、嫌でも小都音は理解した。

理解させられてしまった。

風穴の空いた左胸。致死量を優に超える血溜まり。

夢だと思いたくても、目の前の光景が容赦なく現実だと知らせてくる。

いつものように、明るく振る舞うこともしない。いつものように勇気をくれる言葉をくれるわけでもない。

何かあっても、助けてくれることもない。

そう、継受紡絆という存在は今日この時、間違いなく---

 

「おに…ちゃん…おにぃちゃんっ!!」

 

居なくなって、しまったのだろう。

涙腺は崩壊し、涙の雫が落ちていく。

誰かの涙で目が覚めるだなんて、都合のいい奇跡が起きることもない。

失ったら終わりで、死んだら帰ってこない。

それどころか、もう冷たくなって死体でしかない紡絆に泣きつく小都音に怪獣が近づき、その爪を振り上げた。

 

『---ジャマダ』

「おにぃちゃん……おにぃちゃ…ぁ……」

 

さっきの、命を引き換えにしてまで取り付けた約束を、怪獣は最初からなかったかのように振り下ろした。

影が差したことで違和感を感じた。

それも遅く、逃げることなんて出来ず。

 

(もう、いい……おにぃちゃんがいないなら---)

 

最後の最後まで諦めることなく、やれることをやり遂げた紡絆とは違って小都音はすんなりと諦めた。

数秒もかからず死ぬだろう。

死の恐怖よりも、小都音は紡絆の元へいける、ということの方が大事で。

覆い被さるようにして目を閉じた---

 

 

 

 

 

 

『シェッ!』

 

痛みは一切来ることもなく。

心も体も苦しいままだった。

死ねばそういったものから解放される、そう思っていたのに。

分かるのはまだ触れているという感覚が残っていること。

真っ暗な視界じゃ何も見えなくて、小都音はゆっくりと目を開ける。

さっきと同じく、呼吸すらしない紡絆の死体があって。

何が起きたのか確認するように首を後ろに向ければ、怪獣の爪を両腕で受け止める巨人の姿があった。

 

『モウ、おソイ…!』

『グ……』

 

力が戻ったわけじゃないのか、未だに心臓の音のようなものは響いている。

受け止めるのも厳しいようで、片膝を着いて、それでも受け止めながら巨人は視線を小都音と紡絆へ向け、すぐに怪獣を見た。

 

『……ォ---ォォオオオオ……!』

『!?』

『デェアァァ!!』

 

両拳が強く握りしめられ、巨人が起き上がる。

怪獣の体重が乗せられた爪をもろともせず、何処か気合いの籠った掛け声とともに立ち上がりきった瞬間、大きく弾きながら怪獣の腹を一気に蹴り飛ばす。

 

『……ッ!』

 

吹き飛んだ怪獣に目もくれず小都音を、紡絆を見た。

紡絆の血に濡れ、顔も服も髪も汚しながら泣いている少女。

自分が死ぬとわかっていたのに、死んでも他の誰かが無事だと信じたからか、()()()()()()を浮かべている少年。

力もエネルギーも、殆どの力を失った。

それでも巨人は、間違いなく()()()()()

 

「……おに……ちゃん」

 

助けられたのだと理解した小都音だが、無事なことに喜んでいる様子は何一つない。

まるで生きる糧を失ったかのように、世界に絶望したかのように虚ろな目でうわ言のように紡絆に縋りつく。

今の彼女には、生きていることも死んでいることもどうだっていいのだろう。

 

『……!……シュアッ!』

 

それを見て何も思わないほど、巨人は無愛想ではない。

睨むように頭を動かし、怪獣を見た巨人は走っていく。

巨人を迎撃するように雷光を放つも、さっきと打って変わって巨人はあっさりとそれを弾く。

簡単に仕留められるとは思ってなかったのか、近づけさせることを恐れているように怪獣は次々も球状の電撃を放ち、巨人は全て捌く。

僅かな時間を取られたが、途絶えた瞬間を狙おうとした巨人は走り、同時に怪獣はより大きい球状の電撃を放つ。

それは巨人から()()()位置。

 

『オワ、リダ』

『……ハッ!?』

 

そう、巨人に対する攻撃など牽制でしかない。

目的は引き離すこと。

放たれる先にいるのは、少年の死体と少女のみ。

気がついた巨人はすぐさま走り、地面を滑りながら追いつくと、腕にあるブレードで真っ二つに切り裂くも、拡散した。

 

『!?』

「---きゃあ!?」

 

拡散した球は周囲に散り、爆発が起きる。

直撃はなかったが、その爆発に巻き込まれた小都音は飛ばされ、それは紡絆も同様。

どこかに強く打ち付けることはなかったが、それは人の身には威力としては十分すぎた。

 

「に……ちゃ……お、にぃ……ちゃ……ん。っ…と、い……しょ……だ…よ……」

 

服が敗れることも、肌が傷つくことも、痛いことも。

全部気に留めずに気力を振り絞るように這いながら紡絆の元へ向かった小都音は、その手を伸ばした。

 

「ぜ…ったい……だ、……ら……やく、そく……した……も、ん…。かえっ……てく……て。だ、よ……ね………」

 

絶対に帰ってくる。

確かにそう言った紡絆は、もう返事することも無いけれども。

小都音は思い出したその言葉に縋って---意識は、そこで途切れた。

その手は---紡絆に届かないまま。

 

『シュ……!』

 

爆風を吹き飛ばし、気づいた巨人はしゃがみながら小都音を見る。

息もある。心臓も動いている。

怪我はしているが、小都音はただ単に意識を失っただけだった。

 

『-----』

『ハッ、ハハハ』

 

何を、思っているのか。

怪獣は高笑いし、巨人は俯いたまま立ち上がっている。

言葉を発さない時点でそれは誰にも分からない。

そもそもこの戦いを、誰も見ていない。

ただ分かるのは、片方は怒って。片方は嗤っている。

言葉なんて、もう必要ない。

怪獣は鼻から守るつもりはなかった。巨人は()()()()()()()()()

だったらもう、終わらせる方法はひとつ。

 

『……ハアッ!』

 

怪獣が雷光を放ち、巨人は無視して突っ込んだ。

体で受け止め、拡散させないようにしながら。音が速くなっても、歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて---

 

『!?』

『フン……ッ!デア!』

 

口を閉じさせるように、怪獣の顎を拳が打つ。

口の中で暴発し、堪らず後退しながら発射をやめた怪獣に巨人は半回転しながら左肘をぶつけ、右拳で頬を殴り、連続で上下左右に打撃を加えると喉元に膝蹴りを食らわせる。

離すことなく怒涛の連撃を更に与えていき、力強く胸を打つ。

 

『ヘェアァ!』

『ッ---!!!』

 

そして懐へ潜り込んだ巨人は、腕の刃を光らせながら怪獣の横腹から入れ込むと腸を抉るように引き裂く。

聞いたこともない悲鳴を発し、腕の刃から放たれた光の刃がさらに抉って見せた。

 

『---ウッ……!』

 

仕留めるには十分な程の絶好のチャンス。

追撃を仕掛けようとした巨人だが、今度こそ限界を迎えたように膝から崩れてしまう。

怪獣は抉られた腹を抑えながら憎々しげに見ると、巨人は顔を上げながら再び腕の刃を輝かせる。

互いに満身創痍。

だからか、怪獣は警戒しながら数歩下がっていくと、追撃が来ないと分かったのか素早く跳んでいく。

巨人に怪獣を追う力はもうなくて、地面に両手を着きながら見逃すしかなかった。

 

『………』

 

ドクンドクン、と鼓動が加速する。

すぐにでも倒れそうなほどに消耗してしまい、それでも巨人にはまだやるへきことがあった。

首を横に動かせば、2mほど離れた位置に少年と少女が倒れている。

少年に向かって手を伸ばして、意識を失った少女。

唯一の救いは、何かが落ちてくるような場所ではなかったということ。

 

『…………』

 

ゆっくりと、ゆっくりと、少しずつ歩いた巨人は人が喘息するように胸を上下させながら、ゆったりと片膝を降ろす。

そしてそっと、優しく掬うように少年を両手で持ち上げた。

巨人の目にも、少年はやはり笑顔で映っている。

少女とは違って息もしてなく、何も聞こえない。

本来助けるべき存在なのに、巨人は助けられた。

もし彼がいなければ、周囲に残された人々はたくさんいた。

彼がいなければ消耗しきってたとはいえ、怪獣を追い払うことすら出来なかっただろう。

もし彼が命をかけて時間を稼いでくれずに追撃されていれば、負けていたかもしれない。

だが、もう手遅れだった。

 

『………ッ!』

 

巨人は、弱まっていた。

()()()姿()であったならば、少年の命を救えた。

せめて、()()()()()()姿()であるならば、助けられた。

しかし今の巨人の姿は、いわゆる()()()()と呼ばれ、幼体に位置する。

そのため本来の能力や戦闘力は発揮できないし、闘争本能で戦うしかないゆえに戦闘向けの形態ではなかった。

この地球に、この次元に来る際に。

自身の宿敵とも呼べる存在と()()()()()を相手しなければ、まだ余裕は遺されていただろう。

然しながら、先程も挙げたように本来の力を持たない巨人に、()()少年は救えない。

唯一救う方法はあるが、それをするには遅すぎた。

今やってしまえば、それはもう少年ではない。

外側が少年なだけで、中身は全く別の、巨人そのものになってしまう。

『器』の中身がなければ、彼には救えなかった。

だからこそ、遅すぎた。

悔やむように、自身の力不足を恨むように。謝罪するように。

巨人は紡絆をそっと包み込む。

人によっては無謀というだろう。

事実、無謀でしかなかった。

だが巨人からすれば、彼は間違いなく勇気ある少年だった。

誰かのために行動し、自身がやれる最大限をやり遂げて、自身よりも強大で巨大な存在に立ち向かって見せた。自身の命に全く頓着しない危うさはあったが、誰よりも他者を想いやっていたのだから。

しかも、まだまだ未熟で幼い小さな身で、だ。

口だけなら誰だって言える。実際にこのようなことなど、出来るものは大人ですら難しいはずだ。

その勇気に敬意を表し、巨人は伝わらなくとも称賛する。

巨人は分かっている。

もう時期自分自身も尽きるだろう、と。

異なる次元、さらにその地球上で活動するには、人の体が必要だった。器が必要だった。

本当は、今いる少年か少女に取り憑くべきで、使命を果たさなければならない。

それでも、巨人には出来なかった。

少女はまだしも、少年の場合は乗っ取ることになってしまって、それをしてしまえばさっきの怪獣と変わらないと分かっているから。

 

『………?』

 

せめて場所を変えようとした巨人は、ふと違和感を感じた。

強い風が靡き、それに釣られて草や花が舞う。

空からは火を消化するように強い雨が降り注ぎ、地面には花が咲いていた。

おかしい。

周囲は燃えているのに、突然周囲が変貌していく。

あっという間に火の手は収まり、長く生きる巨人は経験則から警戒はするが、悪い感じはないことに戸惑いを覚え---

 

 

 

 

 

 

『!?』

 

どこからともなく出てきた()()()()が這い上がり、両手に乗っている少年を包み込むと、少年の体が宙に浮く。

思わず見上げる巨人だが、特に悪影響を及ぼすものでないとだけ分かると周囲を見渡す。

そんな巨人に何かを伝えるように、球状の虹色の光が巨人の顔の前に来ると、くるくると回る。

 

『……!シュア……』

 

どんな会話が成されたのかは巨人と光しか分からない。

ただどうやら、光が少し落ちて上がったことから人で言うお辞儀のようなものをしたのかもしれない。

立場的には巨人の方が上なのか。そこはわからないが巨人に何かを()()()したようで、巨人はそれを首肯していた。

感謝を示すように光はくるりと回ると、少年の()()に入り込んだ。

それだけではなく全身を包み込み、光がそっと消えていくとふわりと風に乗せられてるかの如くゆっくりと落ちていく。

巨人はそれを見届けてから両腕を交差し、次第にその体は()()()()になり、少年の体を覆い尽くす---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして残されたのは、()()()()()()()()()となった少年と手を繋いでいる少女だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





○継受紡絆(過去)
この世界にはまだ主人公も勇者もヒーローも存在しなかった。
だからこそ、主人公じゃないけど、主人公(ヒーロー)になろうとした者。
色々ととんでもないことをしていたが、この時から()()()()はあったようで…。耐久値が半端ないのもそれが関与してると思われる。
まだ正常だった頃であり、おかしくなり始めた頃。
この時は死の恐怖もあったし自分自身の命に関してもちゃんと考えていた。
ただ弱い自分を捨てる必要があり、この結果がこれだった。
ちなみに現代紡絆と対話した際に『僕』だったのは『素』だったということ。

○巨人
何処か別の次元、別の星に存在されるとされる光の巨人。
今の彼は大きく消耗し、不完全体にまで弱体化してしまっている。
この次元と地球に来る際に強大な敵と怪獣、他の無数の怪獣を相手にしていたらしく……

○怪獣
知性を感じさせる怪獣。
しかし、()()とは違って、その体は大きく。それでいて持っていないはずの能力や既に進化済みだったり甲殻が白かったりと、色々と違いがあるようで…?
ちなみに数分もすることなく約束破ったように見えるが、その時は『今は』としか言ってない。

○妹ちゃん
実は居た。
なんなら紡絆くんが死ぬところモロに見てたりする。

○継受紡絆(イッチ)
前世イッチが入っている現代紡絆と差別化してた理由がこのお話。↓
紡絆くん(過去)→怖いし逃げたいとも思う。だから迷って考えて、結局他者を選ぶけど自分自身のことも頭の中には入ってちゃんと天秤にかけられる子。
イッチ→考えるよりも先に動き、迷いなく助けていた(まずそこに自分が存在しない)


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「別離」


ブレーザー良かったです。
最後に光線持ってくるのいいね、こっちはまだまだ原作入らないんだけどどうなってんの…。
予定だとあと2話後かな。ゆゆゆい発売したら多分もっとやる気出るでしょう。やってたMMOやめたし。
余談はこれだけにしておいて、短めです。これからは切れそうなところは切って、無理そうなのは長くなるかと。
だいたいは15000字で収めます。あとタグ弄りました





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 第 5 話 

 

別離

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

203:名無しの転生者

えっ、なにこれ……(ドン引き)

 

 

204:名無しの転生者

これマジかよ……

 

 

205:光の継承者

何って、俺の過去だけど

 

 

206:名無しの転生者

いやいや!予想外だわ!

 

 

207:名無しの転生者

イッチ死んでんじゃん!やばいことになってたじゃん!

 

 

208:名無しの転生者

なんか大したことなさそうな感じで言ってたくせに、普通にグロすぎるんだが……

 

 

209:名無しの転生者

ええ、イッチこんなやべーことしてたの?

 

 

210:名無しの転生者

そもそも、この世界においてこんなことあったら人々は忘れなくないか?過去に怪獣と巨人が戦っていた記録なんてイッチから聞いたことも見たこともないぞ

 

 

211:名無しの転生者

確かに、見た感じスペースビーストの襲来を予知して対策してたとも思えん。つまり、ここに来訪者は存在していなかった。

ネクサス本編がズレたってわけでもなく、やっぱり本編後か…一体どういう経由で蘇ったんだ?

それに何故人々は忘れた?

 

 

212:名無しの転生者

正直情報多すぎてやばいんだけど、何がやばいってイッチの行動がやばすぎる

 

 

213:名無しの転生者

いくら対話不可とはいえ、立ち向かえるか?いやむりだろ速攻で逃げるわ

 

 

214:名無しの転生者

これで8歳とか信じられねーよ、人生二度目かよ

 

 

215:名無しの転生者

二度目でも無理だわ

 

 

216:名無しの転生者

つか、イッチってこの後どうなるんだ?間違いなく死んだよな?

ウルトラマンが何かしようとしてたみたいだけど

 

 

217:名無しの転生者

その辺は見れば分かるが……これ、さては本編より強化されてるだろ。既に見た目は第四形態に該当するレプティリアになってたし

 

 

218:名無しの転生者

しかもデカかった

 

 

219:名無しの転生者

なんというか…以前まではイッチだけが深夜番組の住人だったのに、全部が深夜番組に変わったみたいなグロさになったな。

あんな臓器とか目玉とか死体とか見ること普通ねーよ

 

 

220:名無しの転生者

流石のイッチ…というか、この頃は前世の記憶あるわけでもないもんな。

吐いてたもん

 

 

221:名無しの転生者

むしろトラウマになってないのか、あれ…

 

 

222:名無しの転生者

妹ちゃんが過保護になるのも分かるわ。イッチが心臓刺されたところ見てたじゃん

 

 

223:名無しの転生者

もうあれだ、ただのウルトラマンネクサスだわ、これ

 

 

224:名無しの転生者

本編と違って一切カットされてないからより酷いんだよなあ

 

 

225:名無しの転生者

まぁ、あくまでイッチの記憶だしモザイク掛けられないからな。やれるなら絶対裸とかモザイク掛けてくるぞ

 

 

226:名無しの転生者

それは困る

 

 

227:光の継承者

ロリコンは良くないぞ

 

 

228:名無しの転生者

は?見たいのはイッチなんだが?

 

 

229:名無しの転生者

 

 

230:名無しの転生者

そっちかよ!

 

 

231:名無しの転生者

ショタコンじゃねーか!

 

 

232:名無しの転生者

うーんいつもの如く話が脱線する

 

 

233:名無しの転生者

と言うよりは勢いがない…グロ耐性ないやつら退場したろ

 

 

234:名無しの転生者

吐くだけですぐに動けたイッチがおかしいんだよなぁ

 

 

235:名無しの転生者

イッチの人生ハードモード過ぎないか?ただでさえ死にかけて、その上死んだというか消滅したのに過去でも死ぬ+トラウマ不可避の出来事起きるとか……

 

 

 

236:名無しの転生者

本来はウルトラマンと同じく10mなはずなのに20mくらいあったしな……これでウルトラマン一人しかいないってマ?

 

 

237:名無しの転生者

それもこれも天の神とザギってやつの仕業なんだ…

 

 

238:名無しの転生者

ちゃんと対策してる辺り流石って感じ

 

 

239:名無しの転生者

少なくともここにいるヤツらはイッチの悲惨な過去にドン引きしてるよ。なんならイッチにもドン引きしてるよ

 

 

240:名無しの転生者

正直ここまで凄惨な過去を持ってるとは思いませんでした

 

 

241:名無しの転生者

イッチが言ってた、これの三年後に…小学6年になったら起きる事件って、絶対これじゃん

 

 

242:名無しの転生者

逃げられてたもんなぁ。ここまでウルトラマンが消耗してたのは、間違いなくイッチが見た例の戦いの影響だろうけど…あの前から他の怪獣とも戦ってたんだろうな。割と残骸残ってたし

 

 

243:名無しの転生者

で、ネクサス→ネクストに戻されたってわけか

 

 

244:名無しの転生者

どちらにせよ、イッチが生きてるってことは勝ったというネタバレにもなってるんだよね…えっ、どう勝ったの()

それにこれよりも酷いこと起きんの?

 

 

245:名無しの転生者

本編ですらギリギリ(適能者が真木さんじゃなければ負けてる)だったのにあれ以上強化されてたらもうネクサスじゃなきゃ絶対無理でしょ……いやでも、イッチ曰く陽灯くんは自分のせいでスペースビーストが増えた言ってたし…まさか普通に勝ったの?

 

 

246:名無しの転生者

まあ見たら分かるでしょ

 

 

247:名無しの転生者

見た結果想像以上にやばい過去を持ってたことが判明したんですがそれは

 

 

248:名無しの転生者

ほんと、こうやって見ると痩せ我慢で作ってるわけでもなくて、素で明るく前向きに生きているイッチの凄さが分かる

 

 

249:名無しの転生者

こりゃあザギさんも無理ですわ、こんなやつ闇堕ちとかどうさせるんだよ、思いつかねーわ

 

 

250:名無しの転生者

普通なら今の事件の影響で多少なりとも心に傷が出来てつけ入る隙が生まれるんだけどね…

 

 

251:名無しの転生者

やっぱりイッチは普通じゃなかったんやな!

 

 

252:名無しの転生者

あの場で逃げずに向かう時点で手遅れでしょ

 

 

253:名無しの転生者

けど、今のイッチとは違うよな。なんというか、悩んでたり怖がってたりとか、子供らしい一面はあったし

 

 

254:名無しの転生者

今のイッチはほら、前世の記憶+経験×さっき見た過去の経験が合わさってるから多少はね?

 

 

255:名無しの転生者

そもそも異星人とか居た世界で生きてたらしいんで、前世のイッチは頭は相当イってたと思うよ

 

 

256:名無しの転生者

なぜこうなったんだ……

 

 

257:名無しの転生者

この事件がきっかけだろうねぇ

 

 

258:名無しの転生者

もう既に怖くて足が竦むくらいなら無視して動け、とか誰かが危ないなら関係ないって感じだったもんな…そしてだいたい気合と根性で何とかしてた

あっ、それは今もか

 

259:名無しの転生者

過去のイッチは見た感じ無理しない程度の人助け(当社比)だったけど、今は無理どころか命に関わることでも関係なくやるからね

 

 

260:名無しの転生者

無理しない程度(割と痛そうな怪我)

 

 

261:名無しの転生者

今に比べたらマシだから(震え声)

 

 

262:光の継承者

え、なんかバカにされてる?

 

 

263:名無しの転生者

自覚があるようでなにより

 

 

264:名無しの転生者

お前のようなバカはあんま居ないぞ

 

 

265:名無しの転生者

良い意味でバカだからな

 

 

266:名無しの転生者

救いようはないけど

 

 

267:名無しの転生者

てか、治せる人いたらびっくりだわ。イッチは洗脳とか普通に跳ね除けそうだもん

 

 

268:名無しの転生者

そういえば、あの目が金色になるやつ。この時から発現してたのね

 

 

269:名無しの転生者

見た感じ無自覚に使ってたみたいだけど、あれなかったら死んでたくね?そもそもなんなんだよ、あの力って感じだが

 

 

270:名無しの転生者

以前使ってたのと合わせて確認出来た能力は身体能力の強化がメインっぽいね。あとは衝撃波みたいなの出す

 

 

271:名無しの転生者

力持ちだったもんな…

 

 

272:名無しの転生者

100トンは優に超えてただろうな…お前ウルトラマンかよ

 

 

273:名無しの転生者

今はウルトラマンというか、イッチの命を救うためにウルトラマンが一体化したっぽいけどね。赤い球体になって入ってたし

 

 

274:名無しの転生者

むしろあの場面でそれもなく起き上がったら怖いわ。ゾンビか、それとも人間じゃないナニカだよ

 

 

275:名無しの転生者

流石のイッチでも心臓をやられれば死ぬわな

 

 

276:名無しの転生者

現代の方を見てきたから生きてても驚くくらいで済みそう。腹貫通しても普通に戦ってたもん(+毒)

 

 

277:名無しの転生者

今更だけど、過去イッチって言い方はおかしくない?この頃ってイッチになる前の存在なわけで、イッチがイッチじゃないときなわけ…ゲシュタルト崩壊起こしそう

 

 

278:光の継承者

あくまで俺の一部でしかないからなぁ。普通に陽灯くんでいいんじゃない?この後、実際その名前になるわけだし。

この頃は前世の記憶も、俺の中に前世の存在も居ないからね

 

 

279:名無しの転生者

じゃ、それで

 

 

280:名無しの転生者

確かに分けた方がいいか

 

 

281:名無しの転生者

あっ始まった

 

 

282:名無しの転生者

何も言わずにやるんかい!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()の落下から約二年。

数千人にも及ぶ死者が出るほどの大きな被害を出した事件は四国中へ広まり、決して消えることの無い災害の事件となった。

生き延びた人、亡くなったもの。

怪我をした人。後遺症が残るほどの大怪我をした人。

多くの人がいる。

それでも二年近く経った今は、記憶の奥底に眠ったまま人々は忘れていく。

しかし、それほど月日が経ってもなお目覚めない者が一人---

 

 

 

 

 

 

 

 

ある病室の一室。

痛々しいほどに包帯に巻かれ、眠ったままの少年が一人いる。

そんな病室へノックする音が響き、ゆっくりとドアが開かれた。

青い髪に、まだ小学生くらいの女の子。

 

「お兄ちゃん……」

 

未だ目覚めることのない少年を見て、少女は悲しそうな表情を浮かべる。

あの事件において、()()()()()()中心部に倒れていたのが二人。

無事に救助された後に病院に運ばれ、途中で意識を取り戻した小都音は身動きひとつ取らない紡絆に泣きついた。

両親は避難出来ていたらしく合流が遅れたものの、その状態を目撃すると涙を流した。

家族だけではない。

今まで彼が、紡絆が助けて関わって来た人がやってきて悲しんでくれた。

悲しむ姿を見るのが好きじゃない紡絆は、自ら悲しませてしまった。

それでも目覚めることは無い。奇跡なんて起きるはずもない。

 

「お兄ちゃん…わたし、ちょっと成長したよ。二年近く経ったんだから当然だよね」

 

一年というだけで、一体どれだけの時間があるのか。

どれほど、色んなことが出来たか。

それがもう二年目に到達しようとしている。

 

「……お兄ちゃん。私ね、あれからたくさん頑張ったんだよ。お兄ちゃんの後ろに隠れてばかりで、何も出来なかった私。お兄ちゃんの後ろにいたら、お兄ちゃんの近くにいたらお兄ちゃんがずっと守ってくれた。大切にされてるってわかって…嬉しかった」

 

あの事件でも、そうだった。

どんな時も、何があっても、小都音はずっと紡絆の後ろにいた。ついて行った。

一緒にいることが、幸せだったから。

 

「最初は泣いてた…お兄ちゃんが起きなくて、声を掛けても触れても反応がなくって、毎日毎日泣いてた」

 

意識不明の重体。

それが告げられた状態であり、治療の仕様がなく、ここから先は紡絆次第とも。

 

「それで気づいたんだ……私、強くならないとって。あのとき、私がお兄ちゃんの足を引っ張ったからこうなった…だからもう、お兄ちゃんを傷つけさせないために強くなろうって……今だと、普通に話せるようになっちゃった」

 

二年近くもずっと目の前に居てくれた人物が居なくなった。

だからこそ、いつまでもそのままでいる訳には行かないというのもあっただろう。

 

「でも……でもね…ずっとずっと…寂しいの。ここが空いたように虚しくて、悲しくて、寂しくて……お母さんやお父さんが居ても、一緒。ううん…二人とも、いつも私が居ないところで辛そうな顔をしてる」

 

胸を抑えて、今にも泣きそうで。それでも泣くことを我慢しているような顔。

紡絆はずっと眠ったままで、生きているのか死んでいるのかすら分からない。

何か一声や反応があれば別だろうが、それもない。

病院の先生が診断しても分からない。機械でも分からない。

 

「それにね。いっぱい、大勢の人が来たよ…お兄ちゃんの行動で助けられた人。申し訳なさそうにしながら、それでも感謝してた」

 

あの場で、あの被災地で、誰かのために動けるものなんているだろうか。

しかもまだ子供で、何の訓練もしていないのだ。

訓練を重ねても厳しいであろう環境で彼は失われるはずだった命を、少し救った。

 

「お兄ちゃんが褒められて嬉しかった。だけど、目覚めないお兄ちゃんを思うと胸が痛くて……喜ぶことは出来なかった、かな…」

 

当時のことを思い出しながら小都音は伝えていく。

聞こえてなくてもいい。意識がなくてもいい。ただ口に出したくて、話した。

 

「……私、覚えてるから。絶対帰ってくるって…言ってくれたもん。だから、またすぐに…来るから」

 

毎日毎日、小都音は足を運んだ。

今日もまた運んで、明日もきっと来るだろう。

それをずっと繰り返して繰り返して、けれども。

紡絆が目覚めることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ歩く。

一体どれだけの時間を使ったか、時間の感覚はない。

自分という存在が生きているのか死んでいるのすら曖昧で、紡絆は黄金色の光によって包まれた世界を歩み続けた。

 

(俺は………生きてるのかな)

 

紡絆の記憶に残っている最期の場面は、心臓を貫かれたという自覚をしたところのみ。

それ以上先の記憶はなかった。

 

(巨人さんは無事かな。他の人たちは…小都音は大丈夫なのかな)

 

やはり他者のことを考えるが、考えたって何かあるわけでもなく。

周りを見渡しても同じ景色で、どこにも何もなかった。

 

(どこに行けばいいんだろう)

 

止まっていても仕方がないから歩いているが、紡絆は行く宛てがなかった。

このまま歩いていたって、変化が訪れるとは思えない。

 

(懐かしいな……)

 

けれど、同時に思った。

以前。もうだいぶ昔のこと。

夢で見続けた世界を歩いて歩いて、歩き続けた。

そうして辿り着いたのが、神樹様が存在していた世界。

どこがその感覚と似ていて、紡絆は無意識に笑みが溢れる。

 

『---』

「……えっ?」

 

昔の記憶を思い出しながら歩いていると、何かが聞こえた。

何か、人の言葉とは思えない言語で何を言っているのかは分からなかった。

 

「誰かいるの?」

 

言葉は返ってこない。

気のせいだったのかと首を傾げながら、音に集中する。

 

『---』

「気のせいじゃない…!」

 

また何かが聞こえて、紡絆は聞こえた方向に向けて走り出した。

例えそれが罠だったとしても、唯一見つける事のできた変化。

もし逃せば、この世界に居たまま何も出来ないかもしれない。

だからこそ走って走り続けて、世界が黄金色から虹色に変化する。

虹色の光のトンネルを潜り抜けた先。

大きな樹木が聳え立っているのが見えた紡絆は、旧友に会うような嬉しそうな表情を浮かべて駆け寄る。

それは何度も何度も見て、話して関わってきた存在。

 

「神樹様…!」

 

辿り着いて、満面の笑みを浮かべた。

いつも通り、何も変わらない純粋な笑顔。

でも、いつものような反応はなくて、神樹はどこか悲しげだった。

 

「神樹様…?」

 

不思議に思って再び声を掛けてみるも、紡絆が笑顔を浮かべると、声を掛けると。

神樹は悲しげに、申し訳なさそうになる。

 

「どう、したの…?」

 

紡絆は神樹の声が聞こえる訳では無い。

神樹が紡絆の言葉に返事代わりに反応するだけで、二人はそうやってやり取りしてきた。

 

『………』

「言ってくれないと…分からない。俺は、声が聞けるわけじゃないから」

 

何もなければ、何を考えているのかも分からない。

何故悲しんでいるのか。どうして申し訳なさそうにしているのか。

 

『---』

「…!な、なんのこと---ッ!?」

 

引っ張られる。

肉体ではなく、魂が。

この世界に居ることを神樹が()()しているかのように、紡絆の存在が引っ張られてしまう。

 

(ダメだ…!ここに留まらなきゃ、俺はもう神樹様に会えない気がする…!)

 

その予感が合っているかどうかは分からない。

どちらにせよ紡絆は必死に抵抗して、留まろうとした。

その姿にを見た神樹は木の枝を動かしてそっと紡絆を浮かせた。

 

「…!?」

 

保つための足場を失った紡絆は、一気に引っ張られる。

抵抗は無意味であり、それはもうこの世界に居られなくなるということを意味する。

せっかく出来た話し相手に。友達に。

お別れを言えずに離れるのは嫌で、紡絆は手を伸ばした。

 

『---』

「え………」

 

しかしその手は、悲しげに弾かれる。

行動と内容が一致してなくて、理解が出来なかった。

自身を離れさせようとして、どうしてそれほど悲しそうなのか。

ただ分かったのは、言葉が通じなくとも分かったことは、ひとつ。

神樹は、謝っていた。

何に対してかは不明だか、確かに謝罪していた。

だが取れる手段はなくて、紡絆の存在は容赦なくこの世界から弾かれる。

最期に目に映る神樹の姿はやはり悲しそうで、申し訳なさそうで。

()()()()に対して悲観しているかのようだった。

()()()()に対して、辛そうで。罪悪感を感じているようだった。

 

(---ごめん。俺は、神樹様にも笑顔になって欲しかった。幸せな思いをして欲しかったのに)

 

何も出来ない。

もう声を出すことは叶わず、紡絆の存在は神樹の存在する樹海から完全に消滅する---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流れる。

自身の体が落ちていくように、肉体が流れていく。

まるで優しい波に攫われているかのような緩やかさ。

オーロラのような神秘な光の奔流の中で身体を委ねる。

 

(やっぱり俺は…死んだのか。いや、生きてるはずがないもんな)

 

人が生きる上で最も必要なのは脳だが、心臓も同じだ。

他にも重要な役割を持つ臓器はあるが、今大事なのはそこではない。

怪獣が持っていた鋭く太い尾は紡絆の心臓どころか、左胸全体に穴が開けられるほどだった。

それほどの傷を受けて生きているはずもなく、この光景も夢の続きか、死後の世界なのだろう、と納得する。

 

(……やり残したこと、いっぱいあるな。神樹様のこと、巨人さんのこと、怪獣のこと、両親のこと、小都音のこと。俺が知り合って友達になってくれた子たち。もっともっと、みんなを笑顔にしたかった…)

 

目を閉じて思い浮かべる。

短い人生の中で出会ってきた人々のこと。

齢八歳。たったの八年間の人生で濃い生き方をしたのは、間違いないだろう。

 

(もし、もしまた次があったら俺は……もっと多くの人の力に、もっと多くの人を救いたいな)

 

ちょっとした後悔もあったけれど、次があったとしてもやはりその中に自分のことはなくて、他人のことだけを想う紡絆はふとやってきた眩い光にうっすらと目を開くと---

 

(え……?)

 

橙色の光がY字を描くように形成され、そこから徐々に腕や脚、首や頭といったパーツを形成し、瞬く間に光は()()の姿を形作った。

その姿を、見たことがある。

最後まで強く記憶にこびりついている姿。

 

(光の、巨人……)

 

そう、あの時怪獣と戦った巨人。

目を見開いて驚いていると、巨人がゆっくりと首を下方に向けて、紡絆を見た。

紡絆もまた巨人を見上げて、見つめ合う。

何かが聞こえるわけでも伝わるわけでもない。

ただ見つめ合って、光に流されて動く紡絆は巨人に近づいていったところで意識が途切れる。

その肉体が、巨人と触れ合って---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大隕石の落下からちょうど二年。

これからの世界で、あのような事件が忘れられることはないであろう。

それほど誰もが知っている事件になるほどまで広がっていた。

 

(---みんな、同じだ)

 

小都音はいつものように、冷めた目で目的の病室に向かって歩いていた。

時折聞こえる声は巨大隕石の事件のことばかりだが、二年経っても話題に尽きない。

それも当然か。隕石が堕ちてくるなんて滅多にあることでもないし、あれほどの被害を出しておいて忘れられるわけもない。

事件に巻き込まれた人へ鎮魂の儀を意味する行事が新しく出来るくらいだ。

それほどまでに大きく、仮に次同じことが起きればより多くの命が失われるだろう。

こういってはあれだが、中心となる場所ではなくあの場でよかったともいえる。

まだ他の街から比較的離れた場所だったからこそ、数千人程度で済んだ。もっと近いところならば一万人以上だったかもしれない。

 

(誰も知らないんだ。誰も分かってないんだ……。ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんはあのとき、たくさんの人を助けてた。逃げて来る人がたくさんいたから。

どうしてお兄ちゃんは、そうしたのかな…)

 

人助けをよくしていたのは小都音もよく知っている。

その姿が好きで、眩しくて、かっこよくて、ずっとずっと後ろで見てきた。

だけど、あのような危険すぎる場所へ飛び込む姿は初めてだった。

いつも大怪我をするような危険には飛び込んでいたが、死ぬようなところへ行くほど自殺志願者と言うわけでもない。

それこそ()()()()()()ようだった。

 

(お兄ちゃんはどれだけ痛かったのかな。どれだけ苦しかったのかな。どれだけ辛かったのかな…私があの時、何か出来るくらい強かったら…お兄ちゃんの力になれたのに。そうすれば、きっと……)

 

こんなことにはならなかったのだろう。

二年。もう二年経って、ずっと意識が回復しない。

二年間の間、小都音だけは何があっても毎日通っている。

お陰で病院の看護師や医師とは顔見知りになっている。

両親は仕事があるから仕方がないといえば仕方がないが、空き時間を作っては来ていることからどれだけ大切に思っているのかは分かるし、確かな愛情がある。

 

(ダメだよね…お兄ちゃんなら、受け入れて前を向く。過ぎたことを言っても仕方がないもんね……私には、祈ることしか出来ないけれど。それでもまた、お兄ちゃんと一緒に……)

 

扉の前でいつものように一度深呼吸する。

何が待ってるか分からず、もしかしたら気が付くと亡くなってるかもしれない。

そんな恐怖から一歩踏み出すための覚悟を決めて、小都音は扉を開ける。

 

「お兄ちゃん---」

 

まだ眠ってる人物に、今日も今日とていつもと変わらない言葉を掛け---

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん?小都音…か?」

「…え」

 

()()()()()()()()()()()()体を起こしていた紡絆がこちらを見て、小都音は思わず固まった。

 

「どうした?」

 

変わらない。

依然と優しい声音で、穏やかな表情で、相手を思いやる目。

心配するような目を向けてくる紡絆に小都音は自身の頬に手をやって、軽く抓る。

 

「いたい……」

「ほ、本当にどうした!?」

 

紡絆からすれば謎の行動にしか見えず、小都音にとっては痛みが夢でないということの証明になって、眦に涙が溜まってくる。

 

「おにぃちゃん……お兄ちゃんッ!」

「うおっ!?」

 

小都音が紡絆に泣きつくように抱きつくと、紡絆はよく分かってないまま小都音の頭を優しく撫でていた。

温もりも手つきも少しも変わらなくて、それが小都音をより安心させて、より涙が出てきて、小都音はしばしその温もりに浸かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しして小都音は自ら紡絆から離れると、椅子を持ってきてベッドの横に陣取る。

泣いた影響で眦が赤くはなっているが、落ち着きはしたのだろう。

 

「落ち着いたか?」

「うん…」

 

確認のために聞いてくる紡絆に小都音は小さく頷く。

というのも小都音の反応は仕方がないだろう。

二年間も眠っていたのに、それを感じさせないくらい普通に起きていて、普通に声を掛けてきたのだから。

 

「なんか、ごめんな」

「う、ううん…お兄ちゃんが戻ってきてくれたから…今はいい。それよりも!いつ起きたの!?」

「あーついさっき…かな」

「そう…なんだ」

 

もっと前から起きてたのではなく、目覚めたばかりだったらしい。

実際に嘘をついてる様子は見られないため、納得した小都音は紡絆から見られているのを感じて首を傾げる。

 

「お兄ちゃん?」

「いや……なんか、記憶にある小都音と違うな、と。もうちょっと小さかったような……?」

「……もう。当然でしょ」

 

まだ寝惚けているのかといった視線を向けるが、紡絆は分かってなさそうだった。

 

「二年。もう二年経ってるんだよ、お兄ちゃん」

「へえ、二年…ん?二年!?ああ、道理で……」

 

体が重たく感じていた理由が分かって、紡絆は色々と納得した。

二年間も眠ってた割には体は()()()()()()()()が、以前と比べるとまだ体が慣れていない。

しばらくはリハビリをしなければまともに動くことは出来ないだろう。

それはともかく、小都音と雑談していると回ってきた看護師さんが慌てて医師を呼びに行くというちょっとした騒ぎは起きたが、紡絆は無事に意識を取り戻すことが出来た---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

簡単な検査を受けて()()()()()()()りはしたが、急いで仕事から抜け出してきた両親と紡絆は再会した。

無事であることに安心して、母親は泣きながら抱きしめて父親は褒めてくれて、紡絆はいつものように笑顔で返していた。

といっても、流石に動けないので車椅子に乗っての再会になったのだが。

けれどリハビリをすればまた動けるとのことで、その辺は多少我慢すれば問題なくなるはずだ。

 

(二年かぁ……俺、なんで生きてるんだろう?元通りになってるし…)

 

死ななかったのは良かったが、紡絆は分からなかった。

心臓を貫かれたのは間違いないはずなのだが、左胸に手をやれば小さく脈打っている。

まるで()()()()()したように。

 

「…お兄ちゃん?」

「…ん?」

 

今は病室に帰っている途中で、両親は医者から話があるとのことで別れている。

その帰り道で小都音がなにかを言っていたらしいが、紡絆は全く頭に内容が入ってなかった。

 

「あ…もう。聞いてなかったでしょ」

「ごめん…それで?」

「だからね、お兄ちゃんのために食べれそうなの作ってきたの。まだ習ってる途中だけど…でも病院食は食べちゃダメだよ」

「え、それは嬉しいけど…良くないか?」

「だめ」

「でも出されたら」

「ダメ」

「いy」

「ダメだよ?」

「あっハイ……」

 

紡絆の記憶の中にはたまに強引な時はあったが、ここまで圧を出すような記憶はなかった。

逆らえないような、そんな圧にあっさり屈してしまうが、そもそも病人のために出される病院食がなぜダメなのだろうか…と疑問を抱く。

 

(…まあいいや)

 

が、元々の頭がアレな紡絆は考えるのをやめた。

別に小都音に悪意があるわけでもなく、純粋に想ってのことだということ。二年間も眠ったまま心配させ続けてしまったという理由もあったが。

 

(今はそれよりも気になることがあるし…俺が意識を失って、眠っている間に何があった?巨大隕石?そんなの知らないぞ……怪獣や巨人さんは?小都音も俺も、どうやって助かった?何があったんだ?聞いてみた方が、早いか…)

 

紡絆が目覚めたということは病院内に行き渡ってしまい、その中で()()()()()()()から二年経って目覚めた男の子、といった会話が聞こえてしまった。

おかしいのは、そこだ。

紡絆は隕石でこうなったわけじゃない。()()()()()のに、誰も怪獣や巨人のことは挙げない。

足が使えたら調べることが出来るが、残念ながら立つだけで精一杯だ。

となると唯一聞ける相手は小都音しかなく、紡絆は悩んでいた。

 

(思い出させちゃう、もんな……俺は途中から()()()()()()()けど)

 

紡絆ですら一度は足が竦んで動けなかった。

怖くて、逃げたくて、色んな理由をつけていた。

いつからか、必死に動いてる間にそのようなものは一切感じ無くなっていたが。

聞くということは、あの時のことを再び思い出させる。

二年も経って、記憶から薄れたかもしれないのに。

 

「お兄ちゃん、着いたよ」

「ああ、ありがとう」

 

聞こえてきた声に、思考をやめると病室に入って手を貸して貰いながらベッドに戻る。

今日はもう夜も近いのもあるし、目が覚めていきなりリハビリなんてするわけにもいかない。

紡絆的には血液もちょっと多めに取られて割と力が入らなかったりするので、良かったと言えば良かったと思っていた。

 

「ねぇ…お兄ちゃん」

「どうした?ごめんだけど()は動けないから、前のように何かをしてあげることは今は出来ないぞ?」

「……!」

 

何に反応したのか、小都音は僅かに驚くとすぐに元の顔に戻って首を横に振る。

違う、ということ。

 

「ん、じゃあ何か別の話か?」

「えっと…そう、なんだけど……そうなんだけどね……」

 

どこが歯切れが悪く、紡絆は疑問符で埋め尽くすことしか出来ない。

言いづらい何かがあるような、そんな感じで。

 

「お…にぃちゃんは大丈夫?」

「あ、うん。傷は寝てる時に治ったみたいだし」

「そ、そうじゃなくって…!そ、その……ね。覚えて、る?お祭りの、あと……」

 

自分のことも、家族のことも、今まで何をしてきたのかも。

別に記憶を失った訳では無い紡絆は当然全部覚えてるわけで、何が聞きたいのか分からなかった。

でも小都音の表情は真剣で、意図が読めない。

あのような濃い一日というか、自分が死にかける原因となった出来事を忘れるわけがなくて。

 

「ああ、それって---ッ?」

「……お兄ちゃん?」

 

言葉にしようとして、紡絆が口を閉じた。

突如訝しげな表情を作る紡絆に小都音は不思議そうに見つめると、紡絆はハッとして困ったような笑みを浮かべる。

 

「…ごめん、その時の記憶ないみたいだ」

「……そっか。うん、()()()()が近くに落ちたもんね…それも仕方がないよ」

 

今にも胸が張り裂けそうだと言うほどに辛そうな表情を浮かべて告げる紡絆に小都音は何かを悟ったような様子で頷くとフォローするように付け足す。

 

「お兄ちゃん、そろそろ時間だし私もう行くね。絶対に外に行こうだなんて考えちゃダメだからね?」

「あ、ああ…うん」

「じゃあ、また来るから」

 

念を押すようにそれだけ言い残すと、小都音は病室から出ていく。

足音が遠のいていくのを待つと、自分以外誰も居なくなった病室の中で紡絆は周囲を見渡した。

何かがある訳でもなく、至って普通の病室。せいぜい持ってきたであろう荷物と何かが入ってるであろうバックがあるだけ。

ますますと、紡絆は困惑していた。

 

「そこに…誰かいるの?」

 

どこを見ても、見渡しても、人の気配は何一つない。

逆に言えば、人の気配がないだけ。

何らかの生物か、何者かがいるのかもしれないと声に出して聞いてみる…が、返ってくるのは静寂のみ。

 

「……居ない?じゃあ、なんで…」

 

何もなくて、何もいなくて、ならば一体どういうことなのか。

紡絆にはもう分からないことだらけだ。

だから聞くしかない。ここにいる誰かに、いるはずのナニカに。

 

「どうして、止めたの?小都音にあの時の…()()()()()()()が居た時のことを。確かに情報はどこにもなかったけど、俺は覚えてる」

 

巨大隕石が落ちてきた、という事件。

紡絆自身の記憶とは全く異なる処理のされ方をしており、その事件は日付も場所も時間も同じなのに、記憶の中にあるものとは違う。

世間では巨大隕石の衝突とされているが、紡絆の記憶では怪獣と巨人が戦った影響だ。

なのにも関わらず、()()()()()()()()

だからこそ、紡絆はそれを言おうとして、真実を伝えようとして、ナニカに止められた。

 

「……え?伝えたら、巻き込むかもしれない…?それだけじゃなくて、利用される?何に?そもそもこの声はどこから…君は、一体…?」

 

あまり期待はしていなかったのに、声は返ってきた。

相変わらず姿も形も見当たらないが、何者かは何かを懸念しているらしい。

しかしそれっきり、紡絆の言葉に何者かは答えることはなく、紡絆も無駄だと思ったのか渋々と納得だけして体を休めるために横になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院内を歩きながら、小都音は考え込むように口元に手をやりながら俯いていた。

思考しつつも前方や横など人が飛び出してきたりやってきたりしないように注意しながら、その顔は険しい。

 

(どうして…嘘をついたの?お兄ちゃんは、覚えてる…あの時のことを。お兄ちゃんはきっと、嘘をつきたくてついたわけじゃない。あんな苦しそうに話すお兄ちゃんは見た事がなかった。でもおかげで、お兄ちゃんが本当の出来事を覚えてるのは分かった…)

 

考える。

元々紡絆とは違って勘も良ければ理解力も高い彼女はちょっとした情報から整理し、まとめていく。

小学生とは思えないくらいだが、紡絆がアレなのでその影響力もあるだろう。

 

(じゃあなんで、なんで誰も覚えてないの?私だけなら気のせいかと思ってた…でもお兄ちゃんは覚えてる。だけど、テレビでも新聞でも他の人からも、誰からも()()()()()の存在すら出てこない……まるで、そこだけが記憶が消されたみたいで、変えられたみたいで、ちょっと不気味…)

 

そう、誰も覚えてない。

巨人が居たということを。怪獣が居たということを。

誰も覚えていない。

例外を除いて。

 

(覚えてるのは私とお兄ちゃんだけ…なんで私たちだけ?当事者だったから?近くにいたから?そもそも私は巨大隕石なんて知らない…そんなの、見たことないのに……それが普通になってる…。おかしいよ、こんなの…なによりお兄ちゃんが隠そうとしてたのがよく分からない…)

 

その唯一の例外が、紡絆と小都音だった。

紡絆は間違いなく知っていた。嘘が苦手すぎてバレバレだったが、紡絆なりに隠し通そうとしていた。

 

(……でもきっと、私が弱いから。だからお兄ちゃんは抱え込もうとしてるんだ…お兄ちゃんがどこまで知ってて何を知ってるかまでは分からなかったけど、お兄ちゃんが私のためを思ってたってことは分かったから…)

 

隠そうとした理由は推測の域を出ないが、小都音は間違いなく確信していた。

少なくとも紡絆は小都音のことを思っていたので、間違ってはない。

 

(もっともっと。せめて、お兄ちゃんを支えるくらい強くなる…お兄ちゃんの世話をできるくらい、私が面倒見てあげられるくらい色んなことを知って勉強して学習して…そのためにも、分からないことを考えてる暇はないよね…待ってて、お兄ちゃん。私はお兄ちゃんのためにお兄ちゃんのためだけにいっぱいいっぱい、お兄ちゃんが何もしなくて済むように、お兄ちゃんの傍にいられる女の子になるからね…もう二度とあんな目には遭せないから…!)

 

紡絆が決断したように、小都音もまた覚悟を決めていた。

ずっと見てることしか、守られることしか出来なかった。そうして紡絆が二年間という長い時間を眠って過ごすことになってしまった。

あの場で、あの時間で、あの日に起きた怪獣と巨人の戦いは少し歪な方向へと導いてしまった。

一人は天秤の中に自分という存在を失い、他の誰かを。

一人は最も大切な存在へ深い愛慕を。

奇しくも相反する方向へ行ってしまったが、そうなるということは遅かれ早かれなっていたということ。

元々その一人はいつ自分が死ぬか分からない危険へ飛び込むか分からなかったのだから。

前兆はずっとあって、偶然にも引き金となる事件が起きただけ。

結局のところ、そうなったら連鎖的に同じ運命を辿る。

ただちょっとだけ、早まっただけなのだろう。

そんな各々の変化に両者は気づかないまま日は過ぎていく---

 





○継受紡絆(過去)
実は二年間眠ってた(イッチがしばらく何も無いと言ってたのは殆ど寝てたため)
しかしその割には体は至って健康体で痩せ細ってるどころか、変わってない。
まだ起きたばかりで上手く動けないが、なぜかめっちゃ血取られたのでどちらにせよ動けない。
ちなみに心臓どころか左胸の穴は完全に再生している。

○妹ちゃん
ちょっと歪んできたが、紡絆くんがアレなので遅かれ早かれなってたと思われる。というか二年間も辛い思いさせた紡絆くんは反省すべき。
真相を誰も知らない中、唯一彼女だけは真実を知っている。
実は輝きの章でもそれっぽい描写はしてたり

○巨大隕石の衝突
世間に浸透した()()()の事件。現代からは五年前。
甚大な被害を出し、まだ復興は済んでいないとか。
ちなみにだが、()()()()()の存在は誰も知らず、そのようなものは確認されていない。

○掲示板
陽灯くんの過去にドン引きした。なんなら行動にもドン引きした。
耐性ない人は割とグロすぎて異世界や現実でゲロ吐いてたりする


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「養子」


ちょっと脳が侵略されてたので遅れました。理由知りたい人は明日分かるよ、作者のページにでも飛んでくれれば。
んなことより次回から原作キャラ出てきます。こっちはなんか(この話までの)ヒロインちゃんとイチャイチャしてるだけ。
実際読者様がどう思ってるか聞きたいところですけどね、作者は割と愛着持ってます




 

◆◆◆

 

 第 6 話 

 

養子

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

紡絆が目覚めて一週間後。

動くことを禁止された紡絆は、暇なので歩いて中庭へ向かっていた。

下手くそな隠れ方をしているが、奇跡的にも見つかっていない。

 

(なんだろう…以前と違って遠くまで聴こえる気がする。それに視野も広いような……()()()よりかは聴こえないし見えないけど…)

 

怪獣と巨人が居た場所で誰かを助けようとしていた時はもっと見えていたし聴こえていた。

それは瞳が金色になっていた時のことだろう。

今はそれよりも効果は低いが、ある程度の範囲まで広がっている。

向こうが限定的であるならば、此方は常時か。

 

(お陰で抜けだせる)

 

バレたら叱られるし小都音になんて特にバレる訳にはいかない。

二年眠っている間に何があったかは分からないが、怒った小都音には逆らえないような何かがあった。

それでも、動けなかった数日間紡絆は落ち着かなかったのだ。

そのためこうして中庭へ向かって、辿り着いた。

花に木など自然色のものが埋められ、何処にもあるような中庭。

憩いの場としても仕事しているのか椅子やベンチ、テーブルなどあって中庭でご飯を食べる者もいる。

目を閉じると、ちょっと暑い風が頬を撫でる。

 

(うん、暑い)

 

夏だから当然といえば当然なのだが、普通に汗をかく。

日差しは強めで、夏だと知らせるようにセミの鳴き声が僅かに聴こえる。

特別ここへ何かをしに来たわけではなく、病院内を歩くよりも見つかる可能性は低いだろうと珍しく頭を使ってきただけ。

 

(そういえば……今日は聴こえないな)

 

時折、知らない誰かの声が聴こえる。

名前も姿も知らないけど、話せるなら友達になりたいと紡絆は思っていた。

 

(やることないなぁ…)

 

元々遊ぶにせよ何かやるにせよ、家ではなく外ばかりにいるアウトドアなのが紡絆だ。

ゲームもやれないことはないが、さほどやらない。

しかも制限されている。歩いてる時点で手遅れだが、走ったり跳んだり激しい運動は流石にまずいだろう。

せめて話し相手が居たら別なのだが---

 

「つ、つむ…つむぎ、くん…」

「ん?」

 

そう思っていたところで、タイミングよく声を掛けられた。

自身の名前を知ってることから、知り合いなのは間違いない。それに裾を掴まれてる感覚もある。無論例え誰であろうと無碍にはしないが、今のタイミングは嬉しかった。

ただ声だけじゃ分からないため、紡絆は振り向く。

 

「……お」

「や、やっと…みつ、けた」

 

二年間眠っていた---感覚はぶっちゃけ紡絆にはないが、前提に考えるなら懐かしい姿だ。

やはり記憶の中にある人物とは異なるが、茶髪で前髪が長くて目が隠れている。

両肩で息をしてることから、若干疲労してるのが見て取れる。

 

「久しぶり、里香ちゃん」

「う、うん…って、そうじゃ、なくて…!どうして、ここに…?」

 

紡絆の記憶にもよく残っている人物であり、よく話したり遊んだりしていた。

言うならば彼と彼女の関係は幼馴染に近いだろう。

 

「あ、えーと暇で…ここならバレないかもしれないし、困ってる人が居たら手伝えるかなと…」

「……!そ、それでも抜け出しちゃ…めっ」

「あはは」

 

可愛らしく叱られてしまったが、とりあえず笑っとけの精神でどうにか誤魔化そうとする。

そんな紡絆に諦めたのか息を吐くとなにかに気づく。

 

「そ、そうだ…小都音ちゃんは…?」

 

里香はきょろきょろと見渡して、何処にも居ないことを認識する。

昔の話だが、彼女はいつも紡絆の傍に居た。

近くに居ないことが珍しいほどだ。

 

「本当は急ぎたいけど遅れてくるって言ってた。俺は別にいいって言ったんだけどね。それ言ったら絶対行くから動かないでって言われたよ」

「…さっそく守ってないんだ」

「………」

 

指摘されたからか紡絆は目を逸らす。

今度は言い訳すら出来なかったらしい。

いや、さっきも言い訳出来てなかったが。

 

「え、と…こ、このことは内密で…」

「……どうしようかな」

「えっ!?ば、バレたら怒られる…なんでもするから!」

 

怒られたくないなら初めからやらなかったらいい話ではあるのだが、そんなこと出来るはずもなく懇願するように両手を擦り合わせて頼み込んでいた。

 

「本当に…?」

「う、うん。俺に出来ることなら…」

「…ん。じゃ…あ、ふたりのひみつ、だね…?」

「それでお願いします…」

「ふふ…な、なんで…敬語…なの?」

「いやぁ…何となく」

 

くすくす、と面白そうに笑う里香。

そんな彼女を見て僅かに視線を上へ向けた紡絆は勝手に納得でもしたのか視線を里香に戻して微笑む。

 

「な…なにかついて、る?」

「ううん、やっぱり綺麗だなってさ」

「…ふぇっ!?」

 

しばらく顔を見ていたら変なところでもあるのかもしれないと思ったようで髪をいじったり服を整えたりしていた里香は紡絆に言われたことに顔を真っ赤にした。

紡絆は不思議そうにしつつ、周りを見渡す。

 

(ここはみんなが幸せなわけじゃない。俺でも病気を治す方法はないから助けられない。だけど人が幸せそうにしてるところは、 なんというか、輝いてるんだ。きらきらしてて、美しくて、尊くて。

だから…守りたくて……救えなかったな……)

 

医療は専門外であり、紡絆に出来ることはそうなる前に助けることだけ。

それと同じように、紡絆がどれほど助けたいと救いたいと願っても手が届かないものの方が多い。

 

「紡絆くん……?」

「あっ…ごめんね。なんか言った?」

「急に止まったから…どこか、わるくなったのかな…って」

「大丈夫、心配してくれてありがとう」

 

無駄に不安をあたえてしまったことを反省しながら紡絆は里香の頭を撫でる。

また顔が赤くなっているが、心地よいのか気持ちよさそうにしている。

 

「うん、里香ちゃんのお陰で分かった気がする」

「…へ?」

「俺、この日常が好きなんだと思う。小都音や母さんや父さんと過ごす日々。家族だけじゃなくて里香ちゃんみたいな大切な友達と話す日々。たくさんの人の姿や人の営みを見るのが好きなのかもしれない。みんなが幸せな姿が好きなんだ。

そのためにやれること、きっとあるはず…ううんやらなくちゃいけないことがあるような、そんな気がするんだ。俺が、俺にしか出来ないことが」

 

突拍子もなくそのようなことを語る紡絆に、里香は大人しく聞いていた。

まるで遠くに行ってしまうような、何処かに消えてしまいそうな雰囲気があって。ちょっとばかし大人びてるようにも見えて。

『大人』のように抱えようとしてるようで。

 

「………」

「里香ちゃん?」

「あ……」

 

無意識にその腕を掴んでいた。

里香本人もその理由は分からず、ハッとした時には遅い。

 

「え…と……あ…の……」

 

言葉が出てこず、しどろもどろになる。

しかし掴んでる手とは逆の手は胸もとを握っていて、怪我をしてるわけでもないのに痛かった。

残念ながら紡絆には伝わるわけもなく、彼は首を傾げるだけだ。

 

「わ……わた…し……」

「……?」

「そっ、その……」

「?」

 

要領が得られず疑問符だけを浮かべる紡絆。

一方で元々臆病な性格な里香は若干パニックになっている。

時間だけが過ぎていく中、やってきた突風が髪を靡かせる。

普段は隠れている目が風によって晒され、不安げに揺れるアメジスト色の瞳とどんな色にも染まらない黒い瞳が交差する。

今も何とも思ってなさそうな紡絆と、何処か不安そうな里香。

胸もとで作っている握り拳に力を込めて、深呼吸して。

 

「ひゃ…っ?」

 

体が急に動くとぽすん、と紡絆の胸もとへ優しく抱き寄せられた。

何をされたのか、どういう状況なのか理解するまで数秒かかり、ようやく何をされたか気づいた。

 

「あっ…ああああのつ、つ…紡絆くん……!?」

「あれ、違った?ごめん」

「ぁ……も、う…少し……」

 

思ってた反応とは違ったようで紡絆が離そうとすると里香は止めるように背中に手を回す。

目を丸くさせ、すぐに微笑む紡絆は何かを言うことなく抱きしめながら頭を撫でる。

それこそ慰めるように。

 

「………」

「………」

 

互いに何も発することはなく、穏やかな時間が流れる。

夏らしくギラギラと燃える太陽の日差しが強く、普通にいるだけで暑いのにこうしてくっついてるともっと暑いだろう。

だけど今は、そんなことは些細な問題だった。

里香にとっては大事な時間なのだから。

 

「……ね…ねえ……」

 

いつまでやっていたか。

数分かもしれないし数時間かもしれないし数秒かもしれない。

沈黙に耐えかねたのか里香は紡絆の服を握りながら見上げて口を開く。

アメジスト色の瞳は今も不安げに揺れていた。

 

「?」

「ど……どう、して……こう…してくれた…の?」

 

何かを言ったわけでもないのに、紡絆は抱き寄せて今も撫でてくれている。

そのことを聞きたいのだろう。

紡絆は悩むようにんー、と唸り、里香の頭を撫でるのをやめて真っ直ぐな目で見つめた。

 

「上手く言葉に出来るか分からないけど、里香ちゃんが今にも泣きそうなくらい不安そうに見えて。特に里香ちゃんの目っていつもは隠してるけどこうやって見たら宝石みたいに綺麗でそんなキミを泣かせたくないなぁって」

「ぇ……あ……へっ……!?」

 

髪をそっと退かして、両瞳を見えるようにした紡絆は恥ずかしげもなくサラッと言ってのける。

逆に里香は一度固まり、徐々に顔を赤くしていく。

周りから見れば口説いてるような現場なのだが。

 

「俺、何すればいいか分かんないから。温もりを与えれば良いかなって思ったんだ。突然したのはごめんね」

「ぁう……ぅう」

「わっ、どうしたの?」

 

さっきと違って、顔を胸に埋めるように抱きつく里香に紡絆は不思議そうにしながらまた頭を撫でる。

変なところでは鋭いくせに、別のところでは鈍感らしい。

 

「い……いま……見たら…だめ……」

「んーよく分からないけど分かった。好きなだけしていいよ!」

 

本当に分かってないのはとても彼らしく、里香が落ち着くまでぼうっと周りを見てると、やけに微笑ましそうな視線を向けられていることに気づいた。

完璧に子供同士がイチャイチャしてる姿にしか見えないのもあるだろう。

家族かって言われると見た目が全く違うことから、別の関係性の二人にしか見えないのもあるかもしれない。

見られてることを言うべきか悩んだが、黙ってる方が良さそうなので紡絆は気にすることをやめた。

 

「あれ、もういいの?」

「う……うん……」

「そっか」

 

少しして離れた里香は耳まで真っ赤になっているのだが、紡絆は何かを思うことなく納得したように微笑むと手を差し伸べた。

 

「俺、バレたら怒られるからそろそろ戻るけど里香ちゃんも来る?帰るなら見送るけど」

「い…いって、いい…なら……」

「多分大丈夫!じゃあ一緒に戻ろう!」

「あ……」

 

以前と同じように、紡絆は里香の手を優しく包み込む。

いつも引っ張ってくれていた紡絆は例え二年間経ったとしても同じで、変化はなくて、それが無性に嬉しいのか里香は自然と笑顔になった。

 

「うん、やっぱりその方がいいね。俺は好きだな〜」

「んん……も、もー……」

 

無自覚なのだろうが、すぐに恥ずかしくなるような言葉を言ってくる紡絆に里香は顔を逸らした。

 

「…いこ?」

「うん、そうしよう---」

 

チラッと里香が僅かに見ると、紡絆は頷いて歩を進めようとする。

しかしなにかに気づいたように立ち止まると、手を離した。

 

「紡絆くん…?」

「ごめん!ちょっとまってて!」

「えっ…?」

 

本来は歩くことすら禁止されている紡絆だが、既に駆け出している。

突然の行動に驚く里香を置いて、紡絆は木に向かって跳んでいた。

軽く3mほどの跳躍力。

それから木を蹴り、枝に引っかかっていた帽子を取った紡絆は着地すると持ち主と思われる女の子が駆け寄って、何かを話すと紡絆は帽子を被せてあげていた。

ちょっと深かったのか帽子を両手で位置を直したあと笑顔で手を振って親と思わしき人物と合流する。

頭を下げられ、女の子には手を振られると紡絆は返事がわりにただ満足そうに微笑んでいた。

 

「や…やっぱり…かっこいい…ね、紡絆くん」

 

女の子が木の近くにいたならともかく離れていたのもあって誰も気づいてない中、真っ先に飛び出したのが紡絆だ。

周りを良く見てなければ気づくはずもない。

事実傍にいた里香は帽子の存在など気づかなかったし、他の人も同様だ。

そもそも風に攫われた帽子を捉えるなど紡絆からの距離では不可能なはずなのだが。

 

「……里香ちゃん」

「…?」

 

それはともかく。

紡絆は振り向くことなくその場で立ち尽くしたまま名前を呼ぶと、里香は首を傾げる。

声が少し真剣だったから、というのもある。

もしかして何か重大な話でもあるのかもしれない。

そう思って少し身構えると。

 

「ごめん…足挫いた」

「…へ?」

 

まさかの発言にポカーンと呆然とする。

よくよく見れば紡絆の足はプルプルと震えていて、ついには足を抱えてダウンしていた。

歩くことを禁止されていたのは、二年間眠っていた人間がいきなり運動出来るかって言われればそんなわけがない。

むしろ目覚めて二日目から松杖といった補助具なしで動く紡絆がおかしいわけで、急にあのような激しい動きをすれば足は限界を迎えるだろう。

 

「だ、だだだ大丈夫!?ど、どうしよう…こ、こういうとき…えっと…えっと……!」

「あー…えと…里香ちゃんが嫌じゃなければ肩を貸して欲しいな…」

 

自分よりも焦る人物が居れば相対的に落ち着くものらしい。

元々痛い程度にしか思ってないというのもあっただろうが、本人よりも慌てる里香の姿に紡絆は苦笑する。

 

「あ……う、うん。まかせて…!」

「ごめんね」

 

こうなってしまっては戻れないため、紡絆は申し訳なく思いながら頼むと里香は冷静となったらしい。

肩を貸してもらった紡絆は出来る限り体重をかけないように心掛けながら病室へ戻っていった。

なお入院期間は増えた上に看護師の人や医者にも怒られ、少しして遅れてやってきた小都音には物凄い怒られたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

603:名無しの転生者

アホすぎて草

 

 

604:名無しの転生者

身体能力やばすぎね?

 

 

605:名無しの転生者

これはウルトラマンと一体化してますね間違いない

 

 

606:名無しの転生者

ただこの時はまだ自分の中に存在してるってことは気づいてないのね

 

 

607:名無しの転生者

誰もいないところで誰かいるのかと聞いたり話す陽灯くん……

 

 

608:名無しの転生者

文字に起こししたらやべーやつやんけ

 

 

609:名無しの転生者

精神的に病んでるのかと思われそうだな…

 

 

610:名無しの転生者

ところでこれで付き合ってないとかマジ?

 

 

611:名無しの転生者

いくら幼いとはいえ付き合っててもおかしくないレベル

 

 

612:名無しの転生者

イッチといい陽灯くんといい素で口説いてるしな

 

 

613:名無しの転生者

案の定美少女でした…

 

 

614:名無しの転生者

今この子どうしてるんだろうか。イッチは会ってないみたいだし

 

 

615:名無しの転生者

陽灯くんみたいなの忘れられそうにないだろうしな…

 

 

616:名無しの転生者

会ってやらねーの?イッチ

 

 

617:名無しの転生者

今はさらに成長してるだろうしもっと可愛いんだろうなあ

 

 

618:名無しの転生者

イッチも陽灯くんも色んな意味で記憶に残りやすいしな

 

 

619:光の継承者

うーん向こうは覚えてるか分からないぞ?正直あれから約四年近く会ってないし、もしかしたら彼氏とか居たら逆に邪魔になるかもしれない。いなかったとしても友達同士で過ごしてるかもしれないし…

 

 

620:名無しの転生者

は?

 

 

621:名無しの転生者

何言ってんだこいつって多分俺以外も思ってる

 

 

622:名無しの転生者

いやいや絶対無理やろ…脳焼かれてるでしょこれ

 

 

623:名無しの転生者

これ見てて陽灯くんとかいう過去の男忘れるなんて想像出来ないんだけど?

 

 

624:名無しの転生者

だってあれじゃん、この子って自分自身の容姿や性格にコンプレックス持ってたじゃん?特に目の色が不気味って言ってたじゃん。他の子からも忌み嫌われてるって言ってたじゃん!自分自身も嫌いだって言ってたし!

 

 

625:名無しの転生者

陽灯くんはこの子助けたあとにそれを聞いて否定するどころか、逆に綺麗だとか色々言ってたしな…挙げるとこっちが恥ずかしくなりそうだからこれ以上挙げないけど

 

 

626:名無しの転生者

いやーあんな真っ直ぐ自身が嫌ってる部分を肯定するようなことを言われたら、ねえ…?真っ赤になるのも仕方がないというかー

 

 

627:名無しの転生者

若いって、いいね……

 

 

628:名無しの転生者

とにかくお前、会いに行ってやれ

 

 

629:名無しの転生者

つーか行けアホ

 

 

630:名無しの転生者

流石に可哀想がすぎる

 

 

631:名無しの転生者

イッチってあれやろ?行方不明扱いになってんだろ?過去のスレから察するに今も前も。

つまりこの子はイッチ(陽灯くん)が無事か分からないまま居場所も分からずじまいってわけ

 

 

632:名無しの転生者

うわ、イッチひでー

 

 

633:名無しの転生者

不安にさせたままでええんか?

 

 

634:名無しの転生者

おら、これも一種の人助けだぞ。それでもお前はいかんのか、ああ?

 

 

635:名無しの転生者

イッチさいてー!くずー!女の敵ー!

 

 

636:光の継承者

ええ…なんでそんな言われないといけないんだ。わかったわかった、居場所は…まあウルトラマンの力使ったら見つけられるだろうし会いにいくって。それでいいんだろ、こっから出られたらになるけど。それでいいなら会いに行くよ

 

 

637:名無しの転生者

よろしい

 

 

638:名無しの転生者

最初からそうしとけばいいんだよ

 

 

639:名無しの転生者

ふへへ、どんな成長してるのかなあ

 

 

640:光の継承者

会いにいくときは映像写さなくていいか…

 

 

641:名無しの転生者

やめろォ!

 

 

642:名無しの転生者

ばっか!そこは見せろ!

 

 

643:名無しの転生者

一部の変態が湧くだけでそんな目的のために会いに行けって言ったわけじゃないからまじで!

 

 

644:名無しの転生者

そうそう、6割くらいしかねーから!

 

 

645:名無しの転生者

半分以上でくさ

 

 

646:名無しの転生者

まぁ結局イッチが壁の外にいる限り無理なんですけどね

 

 

647:名無しの転生者

なぜまだ帰れないのか…

 

 

648:名無しの転生者

まあまあ、流石にイッチでも敵が無数にいる世界じゃ変身保つのは不可能だからな…疲労残ったまま動けば仲間もいない今の状態だと変身解除された時詰むしネオ融合型クラスが疲労困憊の時に来たら厳しくなる

 

 

649:名無しの転生者

なお負けるとは言っていない

 

 

650:名無しの転生者

それでも勝てるとかやっぱイッチはイカれてやがるぜ…

 

 

651:名無しの転生者

新しく手に入れた力がチートすぎるんだよなあ

 

 

652:名無しの転生者

いうて奇跡の力(ザギに対抗するための力)だし多少はね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏休みを寝て過ごす(監視付き)羽目になった紡絆は無事に退院を果たした。

ちなみに入院期間はわずか三週間である。

捻挫した翌日には捻挫を回復させ、隙を見て脱走。

病院内の困ってる人を見つけ次第手伝い、見つかって病室に戻され、怪我して怒られて回復して、見舞いに来てくれた人と会話して、両親に注意されたり小都音に世話されたり里香に世話されたり(紡絆曰く、二人の間に火花が見えたとか)など割と他の人が見たら羨ましいようなイベントが起きたりしていたのだが、驚異的な回復力でたったの三週間で退院した。

といっても、ほぼ怪我を自ら増やしたり骨が折れる寸前になったりなどしたせいでここまで伸びただけなのだが。

それはともかく、退院したら変わる…わけもなく、人助けに精を出したり友人と遊んだり、前以上に一緒に居る時間が増えた小都音と里香と過ごしたりなどしているうちに、気がつけば猛暑は過ぎ去り紅葉の候。

紡絆が目覚めてはや二ヶ月。

特に変化はなく、唯一変化があったとすれば。

 

「宇宙、かぁ……」

 

珍しく自室で過ごしている紡絆は本を読んでいた。

無限の宇宙といったタイトルで、文章は難しい言葉ばかり。バカな紡絆には絵くらいしか分からず、せいぜい理解出来るのは中学生レベルの用語くらいだ。

それでも小学生が持つには十分すぎる知識なのだが。

 

「そうだ。キミはどこから来たの?」

 

部屋の中には誰もいない。

だと言うのに紡絆は誰かに聞いていた。

わざわざ誰かを指す二人称の人代名詞も使って、だ。

そんな声に対して。

 

『多次元宇宙---ここではない宇宙から、私はやってきた』

 

どこからもなく声は返ってきた。

正確に言うならば、紡絆の脳裏に直接言葉が返ってきたの方が正しいか。

しかし紡絆はその言葉に首を傾げる。

 

「ここじゃない宇宙…?まるちばーす?」

 

多次元宇宙とは量子力学にある1つの理論であり、現代物理学の分野なので紡絆は知らない。

 

『…壁を挟んで無数の宇宙と世界が隣り合っている、と思えばいい』

「ええっと…つまり俺のいる宇宙とは別のユニバースがあるってことだよね」

 

配慮してくれたのか比較的簡単に説明され、自分なりに整理した答えを出すと肯定が返ってくる。

つまるところ、今紡絆たちが生きる宇宙とは違って別の歴史を歩んだ宇宙から次元を渡って声の主は来たということだ。

まだ確証のない研究されてる理論であり、何気にそれを証明する存在から教えられるという発表すれば一気に有名になれるほど重大なことを知ったのだが…紡絆は純粋に感心するだけだった。

 

「すごいね、俺はまだここから星を見るだけで精一杯で手が届くことも宇宙に行くことも…空すら飛べないよ」

 

ほんの少し、いやかなり残念そうに苦笑しながらそのようなことを呟く。

過去には平成という暦が存在していたが、人は自分の手で空を飛べたことはない、と紡絆は読んだことがあった。

機械の力を借りて飛ぶことは出来ても、人間だけでは飛べなかった。

 

『紡絆、キミは……』

「ん!何でもないよ。ただちょっと…空を飛べたら、どれだけいいかなーって。そうしたらどれほど手が届くのかなって。あの時見た…あの光みたいに」

『…………』

 

その目は純粋で、輝いていて、口ではそう言っていてもそれが何なのかは簡単に伝わる。

それは『憧れ』なのだろう。

空でも宇宙でもなく。紡絆が見た光に対する。

その事を知ってか知らずか、声の主はそれっきり黙ってしまった。

悪いことをしたかな、と申し訳なく思いながら紡絆はベッドに体を預ける。

思い返すのは三日前のこと。

三日前、紡絆は二年前よりも体が軽くなってるのもあって以前よりも人助けに勤しんでいたら突如として声が聴こえるようになったのだ。驚きはしたが、聞いた事のある声だったので慌てることはなかった。しかしそれはもう変な目で見られていた。

だけど紡絆にとっては良い話相手であり、紡絆の知らない世界を声の主は親身になって教えてくれる。

まぁ会話が出来るようになったのが三日前のことなのでそこまで多く言葉を交わしたわけではないのだが。

そんなふうに思い返していると、程よい涼しさの季節になったのもあって、背中を預けて天井を見ていた紡絆は睡魔がやってきたのか視野が狭まっていく。

このままでは寝てしまう、と思った紡絆は起きようとしたが、体に力が入らず不思議と抗うことが出来ないまま眠りについてしまった---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは突然のことだった。

紡絆が眠ってる間にインターホンの音が鳴り、休日で家に居た父親がモニターを見ると、神聖そうな服装にお面を被った人たちが扉の前にいる。

それを見た父親は母親を呼び、無視するわけにもいかないので二人は紡絆と小都音を呼ばずに玄関へ向かい、扉を開ける。

 

「継受瞬也様、継受瑞稀様。突然の訪問によるご無礼をお許しください。我々は神樹様の信託を受けて此方へ出向いて参りました」

「神樹様の信託……?なぜうちに…」

 

それが何を意味するのか知っているのか、父親と母親---瞬也と瑞稀は驚いたように目を見開く。

わざわざこうして訪問してきて、信託を知らせてくるだなんて1つしかない。

それにこの家の中で、その対象となる者は一人しかいなくて---

 

「つきましては、 継受紡絆様並びに、そのご家族に()()()の件でお伝えしたいことが」

「…は?紡絆に、用……?」

「…あなた。ここだと迷惑になるわ。ひとまず上がってもらいましょう」

「そう…だな。こちらに」

 

予想が大きく外れたことに、理解が追いつかなかった。

二人の頭に真っ先に浮かんだ人物ではなかったからだ。

しかしこのまま外で会話をしても騒ぎを起こすだけだと瑞稀は気づいたようで家に上げるように言うと、瞬也も意図を組んだように大赦の人たちを家の中に上げる。

 

「それで何故紡絆にお役目が?娘ならば納得は出来ずとも理解出来ます。しかし()()に男がなることは……」

 

テーブルを囲み、お茶を出して互いに向かい合う形で座ると早速本題へ入る。

 

「ご存知の通り、勇者の適性があるのは()()()()()だけです。そちらのご子息である継受紡絆様には適性はないとされています」

「じゃあ、どうして?」

 

そう、勇者になれるのは無垢な少女のみ。

紡絆は当然ながら男であり、大赦の使者も自ら『ないとされている』と言っている。

これが紡絆ではなく、小都音ならば話はまだ分かるだろう。

 

「何故男性であるご子息が選ばれたのかは我々にも理解出来ておりません。しかし神樹様は確かに継受紡絆様が必要だと、ご子息を神樹様自ら直接指名する旨を神託で告げたのです。彼がこの世界の()()になると。だからこそご子息には勇者の役目に着いて貰う必要があります」

「っ……そ、そもそも勇者を輩出するのは大赦でも伝統ある家からでは?勇者として行くわけでなくとも、我が家は…」

「ええ、ですのでご子息には大赦の伝統ある家柄の1つ、遡月(さかつき)家へと養子に出てもらうことが決まりました」

 

あまりに勝手な話だろう。

つまるところ勇者でもないのにそういう体で養子に出せと言っている。

瞬也も瑞稀もそれがどういう意味を持つのか知っていた。

何故ならこれでも()()()()()()()()()身なのだから。

だからこそ“お役目”も“勇者”も、“神樹様に選ばれた”重要性も理解している。

何よりも神樹様が自ら直接指名した、ということは紡絆の存在がそれほど重大なのだろう。

 

「でも、そんな急な話、納得なんて…」

「それでも納得して貰わねばなりません。神樹様の為、何よりもこの世界の為に。神樹様が重要視するほどの案件であるが故に、ご子息には必ず来てもらわなければなりません」

「っ……」

 

納得出来ない瞬也や瑞稀に大赦の使者は無感情に、無機質に告げる。

例え何を言っても変化は起きないだろう。

しかし一体誰が好き好んで子供を死なせるかもしれないお役目に。戦場へ行くことを許せるのか。

だが断ることも出来ないのはまた事実。勇者としてのお役目は、大赦に所属する者ならば誰もが知る最重要案件。

そのお役目に神樹様が必要と言うならば、世界が。多くの人々が困る。

それでも、はい分かりましたと渡せるはずもない。

この決定を変えるには上里や乃木家といった大赦の中でも発言力のある家でないと不可能だろう。

残念ながら継受家の家柄ではどう足掻いても決定を覆すことが出来ない。

どうにかして、その決定を変えることは出来ないかと二人は考えて---

 

 

 

「---行くよ」

 

リビングの外から、そんな声が聞こえた。

瞬也も瑞稀も、大赦の使者も含めて声の聞こえた方へ顔を向けるとそこに真っ直ぐな目をした紡絆が真剣な表情でリビングに入ってくる。

 

「紡絆!?」

「それがどういう意味なのか……っ」

「分かってるよ、父さん。でもさ上で話を聞いてたら俺が必要なんですよね?」

「………」

 

確認するように紡絆が大赦の使者へ目を向ければ、小さく頷かれる。

しかし上で話を聞いていたとはどういうことか。

それほど大きい声でもないのに、二階にまで声が届くはずない。

 

「だったら俺は行くよ。神樹様が俺を選んだなら……何より、それはきっと俺が()()()()()()いけないことだと思うんだ。ただ一つ、お願いしたいことがあるんです。いいですか?」

「……出来ることであれば」

 

紡絆にとって、神樹様が直接選んだということは特別な意味をする。

それはここに居る者たちは知らない。

無論、それだけでは無い。

紡絆が行かねば困るということは誰かが必要としていることであり、紡絆にとってそれは耐え難いものだ。

だからこそ紡絆はたった一つの条件を告げる。

 

「時間をください。みんなにお別れを言う時間と…家族と話す時間を」

「お望みのように」

「ありがとう…ございます」

 

これが通らなければ考えたかもしれないが、あっさりと許可をもらったため紡絆は笑顔を向けてお礼を伝える。

 

「いえ…一週間後、お迎えにあがります。それまでお好きなようにお過ごしください。それでは失礼致します」

 

そんな紡絆に対しても感情の乗っていない淡々とした声や態度で大赦の使者たちは家から出ていく。

残された紡絆は悲痛な面持ちを浮かべる両親に苦笑する。

 

「ごめん、勝手に決めちゃって。母さんも父さんも俺のために頑張ろうとしてくれたのに」

 

紡絆とて両親の想いに気づいていないというわけではなかった。

自分自身を大切に思ってくれてるのは分かっていて、これ以上苦労をかけないようにするための選択でもある。

 

「紡絆…分かってるのか?いいか、この役目を引き受けるってことはもしかしたら死ぬかもしれないんだ」

「分かんないよ。死ぬかもしれないって言われても何をするのか、何をやるのか。でも確実に死ぬわけじゃないんだ。そのお役目を引き受ける覚悟は決まってる」

 

いつもは優しい両親もこの時だけは厳しい目を向けてくる。

普段と違う穏やかではない空気。

両肩を父親に掴まれて、逃げられないようにされて脅しにも近い言葉や圧を受けても、紡絆は引き下がることなく目を逸らすこともない。

どこまでも真っ直ぐな、彼らしい目だ。

 

「………」

「………」

 

時計の音だけが静かな部屋に響く。

覚悟が揺らがないことを示すように、紡絆は一向に動かない。

そんな沈黙を破るように、瞬也の手を誰かが取って紡絆の肩から離させると口を開く。

 

「…瑞稀」

「これ以上言っても、紡絆は曲げないから。こうだって決めたら突き進む子だもの」

 

いつだって、そうだ。

家族として過ごしてきて、紡絆は必ず成し遂げようとするところを瑞稀は何度も見てきた。

両親は知らないがあの日、命のかかった場でさえ誰かを助ける決断をして最後までやり遂げたように。

 

「母さん……」

「正直な気持ちとしては、無理矢理にでも止めたいのが親心というもの。だけどね、子供のやりたいことをやらせてあげるのもまた親の役目なの。瞬也さんも紡絆を心配して聞いただけだから」

「…うん、分かってるよ。母さんも父さんも俺を大切にしてくれてたってよく知ってるから」

 

二年間も眠っていても、仕事終わりに様子を見に来ていたと紡絆は聞いていた。

大切にしてないなら仕事で忙しいのに来るはずない。毎日毎日、一瞬でも通うなんてどれほど大変な。

 

「だから認めます。その代わり、三つだけ約束を交わしてくれる?」

「約束?」

 

それが出来る譲歩というものなのだろう。

瑞稀は姿勢を正しながらしゃがんで紡絆の背に合わせると、頬に手を添えながら瞳を射抜くように真っ直ぐに見つめる。

紡絆もまた見つめ返して、青と黒の目が交差した。

 

「一つ、何があっても決して曲げないこと。紡絆がやるって決めたことは、決して途中で投げ出さないで」

「分かった」

 

即答。

ちょっとでも迷うことがあれば、考えは変わるかもしれない。

そんなのをないと証明するように紡絆はすぐに頷く。

 

「一つ、どんなことが起きても自分らしさを捨てないこと。特に紡絆の誰かを助けたいと思う気持ちは、貴方の一番素敵なところですもの。それを忘れてはダメ」

「それはもちろんだよ」

 

人を助けたいと願う気持ちは、紡絆が紡絆になった頃からあった想いだ。

意識を持って初めてそれを抱くのははっきりいって異常ではあるが、その部分は多くの人を助けてきた。

近しい仲ならば、小都音と里香が分かりやすい例だろう。

 

「そして最後に…必ず帰って来なさい。私は、私たちは紡絆を待ってる。お役目を終えて帰ってくることを。この三つを…ちゃんと約束出来る?」

「うん…約束!」

 

真剣な顔から、子を想う優しい母親の表情になった瑞稀に紡絆は自分らしさを示す、いつもの明るい笑顔と共に小指を差し出す。

 

「…はい、約束。必ず、守るようにね」

「うん!」

 

本当は止めたいだろうに、一瞬だけ躊躇はしたものの瑞稀は紡絆と小指を絡めて確かな約束を交わした。

例えここで説得しても、紡絆は必ず行動に移す。

無論権力的な意味でどうしようもないのも事実ではあるため、そういった側面の理由もある。

 

「瞬也さんも、構わない?」

「…仕方がない、か。父さんに出来ることはないけど、紡絆の無事はずっと祈ってる。だから何があっても帰ってきてくれ」

「がんばるよ」

 

諦めを悟ったように息を吐いた瞬也は紡絆の頭を撫でる。

紡絆はただされるがままだった。

 

「あ、それと小都音にもちゃんと伝えること。そうじゃないとあの子拗ねちゃうから」

「そっか…そうだね、ちゃんと伝える」

「一週間。たったの一週間しかないけど、最後までよろしくね」

「…うん!」

 

両親にも紡絆にも、悲嘆に暮れるような空気はなかった。

いつものように、何ら変わらない状態。

心の内までは分からなくとも、泣いて別れたり問題を後回しにするより早く答えを出して、笑顔で送り出す方がきっといいから。

笑顔で別れた方が、きっといいから。

だからこそ、瞬也も瑞稀も悲しみを表に出すことは決してなかった。

そして紡絆は、眩い光のような笑顔を曇らせることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---そうして、一週間が過ぎた。

一週間というのは短すぎる期間だった。

小都音の説得に三日費やし、知り合いや近所の人たちとのお別れを伝えるのに一日。

一番親しいと言える友人だった里香ともお別れを告げ、最後の一日はほぼ一日中家族と過ごし、小都音は紡絆から離れることはなかった。

それでも時間というのは進むだけで、戻ることはない。

起きたとき、紡絆は迎えが来るのを待って、来たら行く。

それだけだ。

ただ、今の問題はそれではなく。

 

(ここは……?)

 

オーロラのような神秘な光の奔流の中。

来たことがあるような場所で、紡絆はぼうっと前を見ていた。

夢ならば、もう時期覚めるだろう。

そうすれば家族と別れになる。

お役目を終えたら戻って来れる確証はないが、無事に完遂したらその程度の我儘は聞いてくれるはずだ。

そのためにも目を覚まして、頑張らないといけない。

そう思っていても意識は現実へ戻らずに、眩い輝きが視界を一瞬だけ妨げる。

 

(キミは……)

 

気がつけばそこには()()が居た。

光の線で形作られているが、間違いなく巨人だ。

それもあの時見た、自分たちを守ってくれた光の巨人。

なぜここで会えたのか、どうして今になって会えたのか、当然分からない。

 

『---紡絆』

(え……?この声……)

 

けれど紡絆は、その声を聞いたことがあった。

最初に目覚めて聴こえて、最近会話するようになった『ダレカ』。

 

(そっか……キミはあの時の巨人さんだったんだ)

 

ようやく、紡絆は理解してきた。

聴こえてくる声が、一体どこからだったのか。

声の主の正体が何者か。

何よりも、死ぬはずでしかなかった自分自身がなぜ生きることが出来たのかを。

そして。

 

『キミの力が、必要になる---』

 

光の巨人は、手のひらを差し伸べる。

大きな手で、紡絆を求めるように。

 

(うん……行こう、一緒に!)

 

そんな巨人に対し、紡絆は躊躇することなく自身の手のひらを伸ばして、小さな手と大きな手が互いに握られる。

その瞬間、紡絆の意識は一気に現実世界へ引き戻される。

繋がった手に、確かな温もりを宿しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紡絆は目を覚まし、家族といつものような最後の朝食を済ませる。

特別な何かがあるわけでもない。ただ日常を過ごしてきた。

ここで特別なものにしてしまえば、これっきりになってしまう予感があったのかもしれない。

誰も、変わったようなことはしなかった。

 

「……っし!もう行かなくちゃ」

 

家を出てほんの少し歩けば、大赦のものと思われる高級車がある。

これから乗って、別の誰かと家族として暮らさなければならない。

先の分からない未来があっても、紡絆は怖気付くことはなかった。

 

「約束は…覚えてる?」

「ちゃんと覚えてるよ、大丈夫」

「無理だけは…するなよ」

「善処するよ」

 

しばらく会えなくなる、最後の会話にしてはどこかよそよそしい。

いや、何と言えばいいのか分からないのだろう。

このような経験、普通はするはずないのだから。

それでも両親は、無理をしてでも笑顔を浮かべる。

 

「小都音…何も言わなくて、いいの?」

 

そんな中で、小都音は自身のスカートを強く握りしめながら俯いていた。

長くは居られず、もう時期行かなくてはならない。

いつもなら兄にべったりな小都音もこの時だけは大人しくて、気づいた瑞稀は声を掛けるが小都音は俯いたまま何も言わない。

困ったような顔を浮かべる両親に紡絆は苦笑いを浮かべて、小都音の頭を一度撫でると息を大きく吸って吐き出す。

 

「それじゃあ……行ってきます!」

 

その言葉を最後に、最後の最後まで明るい笑顔を浮かべて。

紡絆は振り返ると大赦の高級車に向かって歩みを進める。

別れの時間だ。

小さな背中が離れていく。

これが最後になるかもしれない。もっと伝えたいことはあっただろう。

もっと思い出を作りたかっただろう。

この決定は覆ることはなく、少しずつ遠くなっていく背中を瞬也も瑞稀も互いに手を握って、俯いたまま静かな小都音の手を握って見送る。

そうして紡絆は高級車に乗り込む---

 

 

「---お兄ちゃんっ!」

「……ん?」

 

その寸前で小都音は両親から離れて急いで駆け出すと、肩で息をしながら紡絆の背中に声を掛ける。

まだ車に乗り込む前だったのもあって紡絆は振り向くと、色んな感情が混じった表情を浮かべている小都音と目が合う。

 

「たし……わたし、頑張る!次にお兄ちゃんにあったとき、お兄ちゃんのお世話を私が出来るように、頑張るから!お兄ちゃんが驚くくらい、いっぱいできるようになってるから!」

「…そっか」

「うん……私がどれだけ変わったのか、成長したのかたくさん見せるよ。料理だって、お兄ちゃんが虜になるくらい上手になってるからね。だから……だから絶対に帰ってきて。そして帰ってきたら…帰ってきたら…感想…聞かせてね」

「ああ、楽しみにしてる。俺も俺で、頑張るよ。小都音に負けないように、向こうで頑張ってる。お互いに頑張る---約束だ!」

「……!約束、だよ…絶対に守ってよ…?」

「大丈夫だって!俺は出来ないことの方が多いけど嘘だけは……約束だけは破らないからな!じゃあ、母さんも父さんも。小都音も元気で!里香ちゃんや他のみんなにも、そう伝えてて!」

 

不安そうにする小都音に、輝かんばかりの笑顔を浮かべた紡絆はそれっきり振り向くこともなく高級車に乗って去っていった。

家族はその車が見えなくなるまで見送り、見えなくなったところで限界を迎えたように涙を流す。

瞬也も瑞稀も静かに涙を流しながら、泣き崩れる小都音を抱き締めていた。

せめて、残った小都音だけでも離さないように。

 

大赦の伝統ある家なら、神樹様に選ばれたことを誇りに思い、諸手を挙げて喜んだだろう。

神樹様に選ばれるなんて、とても誇らしく光栄なことなのだから。

しかし継受家は普通だった。

どこにもいるような一般的な家庭。

紡絆が明るい性格なのもあって、表ではあっさりと決めていたが覚悟も心構えも出来ていたわけではない。

もっともっと、幸せな日々が続いていたはずなのにそれが唐突に奪われてしまったのだから。

ただでさえ、二年間も空白の時間が開いたのに。

これが神世紀297年の出来事。

何よりも、継受紡絆の苦難が始まる予兆が出てくる頃でもあった---

 

 

 

 

 





〇継受紡絆(過去)
Q.なんで帽子が飛んでいくのが分かったの?

A.周り(他人)しか見てないから

Q.迷いは?

A.んなのあったら誰も困らない

〇巨人
割と最近話すようになった謎の存在。
その正体とは二年前にやってきた発光体のひとつ、光の巨人。
ようやく姿を現すことが出来たことから、それまでずっと紡絆の中で回復してたと思われる。

〇継受小都音
交わした約束は彼女の中に残り続けた。故に彼女は今の彼女にまで成長したのだろう。
しかし二年後には……。

〇里香ちゃん
紡絆くんに脳が焼かれている(と思われる)子。
アメジスト色の瞳を持ち、過去に不気味だとか怖いだとか呪われるだとか言われ、コンプレックスを抱いて隠していた。
しかし過去に助けられた際に見られ、紡絆くんにべた褒めされた。
目が奪われるほどに綺麗、とあの紡絆くんですら評価するほど。
が、実は紡絆くん以外に自分自身で瞳を見せることは無い。
人見知り気味なのは紡絆くんが眠っていた二年前からあまり変わってなかったり(これはどちらかと言うと紡絆くんが相手だから、というのも大きいが)

〇継受瞬也、継受瑞希
ようやく名前が出てきた二人。
実は大赦に勤めていた(小都音ちゃんが大赦に接触出来た理由がこれ)
そのため、お役目がなんなのかは知っている。

〇神樹様
紡絆くんを直接指名したとか。
そうせざる得なくなったということを知っているのは、神のみである。


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「遡月」


コロナに掛かったり脳がアカネちゃん(グリッドマン)に侵略されてたりブレーザーの映画期待しつつ観に行ったりめっちゃよかったと感想を抱きながら3km以上学生の時以来走ることになったりとかしたら遅れた。
わすゆ本編は多分次回の次回。次までは勇者メンバーとどう関わるようになったのか書く。
ところでVシネでレギュラーメンバー全員死ぬ戦隊が居るらしい。マ?




 

◆◆◆

 

 第 7 話 

 

遡月

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

大赦の人たちによって送迎された紡絆はこれから過ごすことになる家を見上げる。

すると、ここから先は邪魔になるからか役目を終えたように頭を下げて車に戻る大赦の人たちに紡絆は気づいて振り向くと笑顔で手を振る。

 

「あっ!ここまでありがとうございましたー!」

 

返事は無い。

顔もお面を付けているから表情も見えない。

ただこちらを一瞥して、大赦の人たちは車に乗ってどこかへ行く。

それを見送った紡絆は改めて家を見た。

人の気配は、家の中以外にはない。

 

「巨人さん。ここ大きいねー俺が過ごしてきた家より大きいよ。広い!大きい!」

 

胸に手をやりながら素直な感想を述べる紡絆は子供らしくて、実際に敷地は広い。

家は屋敷、とまでは行かないが普通の家と比べると一回りは大きい。それに和を感じさせる作りだ。

 

『……紡絆。無理していないか?』

「んー?」

『家族と離れるのは辛いことだと、私はそれをかつて目にしてきた』

 

『かつて』とは巨人が別の、違う宇宙で生きてきた時のことだろう。

紡絆とは違って、巨人は多くの経験を何万年も経験してきている。

当然、彼は『地球人』のことも詳しい。

 

「無理はしてないよ。寂しくはあるけど……やるって決めたから…俺がやらなきゃいけないことだから。それに俺、ひとりじゃないじゃん!こうやって俺の中に巨人さんが居てくれるんだから!」

『…そうか』

 

それが嘘なのか本当なのか、話せるレベルまで回復した巨人には判断が付く。

だからこそ、今言った紡絆の言葉が偽りのないことだと理解出来た。

どこか背負い込みがちな部分はあるが、紡絆が辛くないならば良いと巨人は沈黙した。

静かになったことを感覚的に理解した紡絆は覚悟を決めたように歩みを進めた。

出迎えるのは二人の夫婦。

実際には分からないが、見た目だけで判断するならば二十歳前半くらいだろうか。それほどに若く見える。

どちらも美男美女といったようで、和服を着こなし、赤い瞳と黒い髪を持っている。夫人の方はおしとやかで儚げな雰囲気を。主人の方は育ちの良さを感じさせ、知的な雰囲気を纏っている。

その夫婦は優しげな表情を浮かべていた。

 

「ようこそ遡月家へ。キミが継受紡絆くんだね」

「はい、今日からよろしくお願いします!」

 

歓迎してくれる二人に紡絆は清々しいほどに眩い笑顔を浮かべた。

一切の不安もなく、活気ある笑顔。

そんな彼に夫人はゆっくりと近づくと、これはまた上品に腰や手足を曲げて紡絆に背を合わせると口を開く。

 

遡月(さかつき)(みお)です。いきなり母親と思うのは難しいと思いますけれど、仲良くしてくださいね。ゆっくりと慣れていきましょう?」

 

紡絆の手を掬うように取り、優しく握ってくれる。

澪と名乗る夫人が、これからの母親になる人物だ。

 

「はい、お世話になります!」

「ふふ、もっと砕けた喋り方でも大丈夫ですから」

「はい……えっと、うん!」

「いい子ですね」

 

我が子を愛でるように紡絆の頭を撫でた澪は微笑むとゆっくりと立ち上がって離れると元の位置に戻った。

 

「じゃあ次は俺かな。遡月(さかつき)夜霧(よぎり)って言うんだ、これからよろしく頼む。今日からここがキミの家だから自分の家だと思って過ごしてくれていいからね」

「はい---うん。改めてよろしく…です!」

 

砕けた口調と敬語が合わさってしまったが、夜霧とは握手を交わして、紡絆は受け入れられた。

 

「さて、色々と話したりする前に荷物を置いてくるといい。それから家の中を案内するから」

「うん!」

「荷物運ばせましょうか?」

「大丈夫!これだけだから!」

 

そう言ってキャリーケースを紡絆は持って見せる。

いくら子供とはいえど、小学生だ。

もっと荷物はあっても可笑しくないはずだが。

 

「それだけでよかったのかい?」

「着替えとか歯ブラシとかひつじゅひん?だけでいいと思ったから、それだけ!あっ、でも本は入ってるよ!」

 

ニコニコと笑顔で中身を包み隠すことなく開けて言っていく。

入ってるのは本当に生活に必要なもの程度で、娯楽のものはあまりに少ない。

というか本しかない。

これは別に紡絆が虐げられていたわけではなく、彼の欲があまりに薄すぎて自分で何かを欲しいと言うことがないからなのだが。

澪と夜霧は顔を見合わせ、互いに頷いていた。

 

「欲しいものがあれば、遠慮せず言ってくださいね」

「無理強いはしないけど、もっと自分の欲しいものがあるなら言って構わないからな」

「?うん、その時はお願いします」

 

何故そんなことを言われたのか紡絆は分からずに疑問符を浮かべるが、ひとまず納得を示すと澪が改めるように両手をそっと合わせて口を開く。

 

「はい。まずはお部屋に案内しましょうか。此方へ」

「わっ。分かった!」

 

ちょっと慌てたように荷物を収納すると、抱えて近くに寄る。

そんな紡絆をずっと澪は優しい眼差しで見ていたのだが、紡絆は気づかずにそのまま後ろをついて行く。

 

『…キミは欲がないな。私が今まで見てきた者たちと異なる』

「そうかな…俺、人助けが出来たらいいから」

『………』

 

誰にも聞こえないくらいとても小さな小声で言葉を返すと、また静かになった。

澪には聞こえなかったのか特に何かを言われることも無く、部屋に案内される。

 

「わあ…」

「どうでしょう?」

「広い!俺なんかが使っていいの?」

「なんか、とは言ってはいけませんよ。貴方を引き取ったのは私達です。本来共に生きるべき家族と引き離してしまいました。ですから、これくらいのおもてなしは当然です」

 

負い目を感じているような何処か申し訳がなさそうにそう告げる澪に紡絆は素直に受け取ることにしたのか、部屋の中に足を踏み入れて振り返る。

 

「じゃあ……ありがとう。大事に使うね」

「はい」

 

そうして荷物を置くと部屋を後にして階段を下りていく。

その間にも通る道でどういった部屋か教わり、紡絆は完全にとは行かないがある程度把握することが出来た。

しかしずっと気になることがひとつあり、紡絆は聞くことにした。

 

「あの…澪さん」

「なんでしょうか?」

「ずっと気になってたけど…もっと砕けた口調でもいいよ?俺、そんな特別な人間でもないし…」

 

そう、彼女は紡絆に話す度に丁寧語で話す。

それなのに自分は砕けた喋り方だったのもあって、気になっていた。

まだ実感は湧いてないが、これから家族になるのだから。紡絆としてはもっと親しくなりたいというのが本音だった。

 

「ああ…えっと…気に障りましたか?」

「ううん、そういう訳じゃないよ。気になっただけ」

「そうですか。そうですね…私はこれが普通ですから、貴方だからというわけではないんです」

「あ…ごめんなさい、そういう人もいるって分かってたつもりだったんだけど…」

「いえ。私と仲良くしたいと思ってくださってると気持ちは伝わりましたから。むしろ嬉しいです」

「それならよかった…のかな?」

「よかったのですよ」

「そっか!」

 

理由を知れて納得を示すと、紡絆も澪も互いに笑顔を浮かべた。

紡絆が元々距離感を縮めるのが上手いのもあって、見知らぬ他人から知り合い程度には仲は深まっただろう。

さすがに親、とまではまだ行かないが。

 

「さて、ここがリビングです。夜霧さんも待ってますよ」

「うん!」

 

そうこうしている内に辿り着いたらしく、リビングが開かれる。

内装もそうだったが、リビングは当然予想よりも広く。

椅子に座って何らかの書類に目を通している男性と傍には使用人らしき人達が数人。

紡絆はそのような人たちを実際に目をするのは初めてなので、若干驚いていた。

 

「ん?どうだったかな?」

「あ、えっと…よかったです(?)」

「ははっ、それならば良かった。これでも緊張していたからね」

「え、そう見えないよ?」

 

遅れて気づいたようで書類から目を離した夜霧に対する返答には疑問符になってしまったが、紡絆の視線の先には緊張の『き』の一文字すらなさそうな姿が見える。

あまりに堂々としていた。

 

「大人は隠すものさ」

「そういったものなの?」

「人それぞれ、でしょう。ですけど、慣れると分かりやすいものですよ。少し指先が震えているでしょう?」

「んー…ほんとだ」

「…そこは言わなくてよかったんだけどなあ」

 

指摘された影響で紡絆にバレてしまい、夜霧は苦笑いを浮かべる。

すぐに気を取り直すようにコホン、と咳払いをひとつする。

 

「何はともあれ、キミを歓迎するよ。澪も紡絆くんも席に着いて」

「あ、うん…うーん…?」

「こちらで構いませんよ」

「ありがとう」

 

何処に座ればいいかわからずに立ち尽くしていると、澪が椅子を引いてくれたので紡絆は大人しくそこに座ると、夜霧と澪と向かい合う形になった。

 

「さて、キミの名前を決めないといけないね。同じ名前を使う訳にも行かないだろうし、本当の親御さんに申し訳が立たない。何よりも紡絆くんには遡月の名を名乗ってもらう必要があるからね」

「そういうものなんだ」

「名は体を現す、それと同じものですから」

「ふんふん…」

 

説明を聞きながら頷いているが、本当に分かってるのか分かってないのか。

しかしそんな突然言われてたって思いつくはずがない。

 

「分からなくても気にする必要はありませんからね」

「よかったあ」

 

わかってなかったらしい。

安心したような笑顔を浮かべる。

まあ一切関わりのなかった小学生に家柄のことで理解しろと言う方が無理がある。

 

「学校に行くまでの間に決めれればいいのですけれど…」

「学校?」

「神樹館小学校。格式の高いこと以外は普通の学校だよ。同じくお役目に着くことになる子たちもいるから」

「そうなんだ、どんな人たちかな。そこは楽しみだなー」

 

ニコニコと紡絆は純粋な笑みを浮かべる。

他者と関わるのは紡絆は好きな方だった。前の市で老若男女問わず仲良くしていたように。

 

「…うん。思いついたかもしれない」

「へ?」

 

先の未来のことを考えていたら、そのような言葉が聞こえて首を傾げる。

何をか、と聞きたいのだろう。

 

「キミはここに来てからたくさん笑顔を見せてくれる」

「そういえば私が案内していた時もそうでしたね。とても魅力的な、眩しく感じるほど純粋に。こちらが元気を貰えるようでした」

 

普通ならば多少不安がったりするものだろう。人によっては警戒するはず。

が、紡絆はそういった感情は一切なく何もかもが新鮮な、楽しそうな様子ばかりだ。

ほんの少しの時間しか話してない夜霧にさえも、そう印象を与えるほどに。

 

「太陽のような光。照らして明るくする灯火。仏教では闇を照らす智慧の光ともされるが---そこから取って、陽灯(はると)はどうだろうか?」

「私はとても素敵だと思いますよ。本人の気持ちが大事ですから、嫌でしたら嫌と言ってくださいね」

 

太陽の『陽』と灯火の『灯』それを合わせて『陽灯』だと夜霧は紙に書いて見せる。

それは夜霧や澪が紡絆を見て、短な時間で抱いた紡絆の印象なのだろう。

当然、候補のひとつとして出しただけで本人が嫌ならば別のを考えるのだが。

 

「陽灯……陽灯……かあ。名前はいいけど、名前負けしてないかな…」

「太陽のように誰かを照らすような者になって欲しい、という思いもある。紡絆くん本人がそう思うならば、そうなるようになってくれたら嬉しいんだけどね」

「…うん、じゃあ頑張るよ。せっかくつけてくれたし、覚えやすいから」

 

ここまで理由をつけて、意味をつけて、名付けてくれた。

それを無碍にするのは紡絆は嫌だった。

何よりも陽灯という名前が嫌なものではないというのもある。

 

「では、決まりですね。手続きはこちらでやりますから必要な時だけ呼ぶので、その時はお願いしてもいいですか?」

「うん、俺に出来ることなら何でもするよ。ありがとう」

「そういったものは此方がやることだからね。紡絆くん……いや、陽灯が気にすることじゃない。改めて、これからよろしく」

「私の方も、よろしくお願いしますね。陽灯さん」

「…!よろしくお願いします、夜霧さん。澪さん」

 

名前が決まり、今度こそ『家族』として迎え入れられた。

継受紡絆という名前ではなく、遡月陽灯として。

奇しくも月と太陽の光を冠する名前となって、遡月家の一員になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから暫くは雑談をして、苦手なものや好きなものを共有して。

食事が出来れば使用人に呼びに行かせるとのことで、紡絆は部屋に戻ってきた。

またしてもわざわざ案内してくれた澪にお礼を言い、部屋を好きにしていいと言われたのは良いもの、特に荷物が多いわけではなかった。

 

「うーん…」

 

とりあえずキャリーの中身を取り出し、本を数冊取り出すと本棚があったのでそこに入れ込んでおく。

部屋はピカピカと言えるほどに綺麗で、勉強机やら椅子やらベッドやら必要なものは全部揃っている。

特に移動させる必要もなければ、別に位置に拘る性格でもないので終わってしまった。

 

「ふわあ」

 

手が空いてしまったため、ベッドに顔から倒れ込むと今まで触れたこともないほどに柔らかい布団が受け止める。

あまりにふかふかで、心地が良かった。

 

「陽灯…だって。どうかな?」

 

仰向けになりながら胸に手を当て、天井を見ればちょっとオシャレな電気が見える。

部屋には誰もおらず、外にも気配は無い。

 

『紡絆に相応しい名前だと…私は思うが』

「あはは、名前負けしないように頑張らなきゃだねー」

『……キミは既に』

「……?」

『いや…あの時、キミの()が私に力をくれた。紡絆は自身を誇るべきだ』

「巨人さんにそういわれると嬉しいよ。正直、あの時は必死だっただけだけど」

 

多くの死者が出た。

あの事件は隕石の落下という扱いになっているが、紡絆の記憶にはちゃんとした記憶が残っている。

あの時見た、光の巨人も。恐れた怪獣の姿も。

今は恐怖心は消えたにも等しいが、その経験は今の紡絆を創る。

 

「そうだ。夜霧さんも澪さんも…優しくて良い人だったね。使用人?の人たちは分からないけど、雰囲気はよかった」

 

いきなり外出するわけにも行かず体を横にして、紡絆はさっきまで居た時のことを思い出す。

養子に出ることになって、不安がなかったわけではない。

もし手を出す親なら。平気で虐待したりする親だったならば、紡絆は我慢はしたがこのように楽に過ごせることはなかっただろう。

使用人の人たちも紡絆は一般家庭から来たというのに厳しい目を向けることもなかった。

 

「だから、よりお役目頑張らないとだね。世界も人も、神樹様(友達)も全部守れるように」

『紡絆……』

「あ、それと!今日から俺は遡月陽灯だから、陽灯って呼んでくれる?まだ俺も慣れてなくて、自分の名前名乗っちゃいそう。巨人さんが良いなら、そう呼んで慣れさせて欲しいんだ」

 

学校に行けば、間違いなくどちらかで呼ばれる。

慣れなければ返事が遅くなって迷惑をかけるかもしれないという思いもあり、紡絆は---陽灯は自身の中に居る巨人に頼んだ。

 

『キミが望むならそうしよう---陽灯』

「うん、ありがと」

 

特に忌避感などもなく、呼び方を変えてくれた巨人に少し申し訳なく思いながらも紡絆は笑顔を浮かべた---。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡月家の養子となって三日後。

色々とあった手続きも終え、紡絆は正式に遡月陽灯となった。

最初に比べれば仲も深まり、陽灯は両親となった二人のことを知った。

まず夜霧は学者らしく、日々調べたり考えたりしていた。それが何なのかは分からないものの、執務室に入り込んだり外に出たりと忙しい。

澪は色んな種類をまとめたり書いたり、指示をしたりと家にいることは比較的多いが外にも出る。

なんでも大赦でやることが多いとか。

それもあり、使用人が居るのではなく使用人が必要という家庭で料理や洗濯など使用人に任せっきりになっている。

と言っても澪は家事が好きらしく、たまに自分でやったりしているらしいが。

それを見ていて陽灯は無理矢理時間を作らせてしまったのでは、と申し訳なく思ったが、夜だけは夜霧も澪も一緒に居る時間を作ってくれている。

そのことを聞けば、やりたくてやってると言われたので陽灯は何も言えなくなってしまった。

そこで遠慮すれば二人の思いも無駄にしてしまうし、陽灯も陽灯で一緒に過ごす時間があった方が嬉しいからだ。

 

そして今、陽灯は走っていた。

日々の走り込みをしてるわけではなく、珍しくその顔は緊迫した様子。

 

「や、やばいやばいっ!どうしようどうしよう…どうする!?」

『陽灯、学舎は真逆だ』

「ああ!?ありがと!でもごめん!やっぱりこっちに用が出てきたから!」

 

そう言って陽灯は学校とは真逆に走っていき、困ってる様子の人に話しかけていた。

その姿を見て、巨人は押し黙る。

陽灯の中にいる巨人は陽灯の視界を通して世界を見ることができる。それどころか360度見通すことだってできる。

だからこそ巨人は陽灯のその背中をただ見ていた。助けることはしない。

もし陽灯が求めるなら別だろうが、彼は相談することはあっても直接助けを求めることはなかった。

無意識に拒んでるのか、単純に自分の力で解決しなければならないと思ってるのか、理由は謎のまま。

そうして陽灯は無事に解決したようで、お礼を言われて気にしないように言っている。

話は着いたようで、陽灯は今度こそ学校の方へ走っていく。

 

「うう、やばいぃ…このままじゃ転校初日から遅刻しちゃう!あと10分で間に合うか…!?」

『………』

 

両親や使用人がしっかりしている人たちなので、言われて時間に余裕を持って出たのが陽灯だったのだが、残念ながら10分で間に合う距離では無い。

身体能力が強化されている陽灯でも間に合わない距離だ。周りの被害を考えない全速力ならば話は変わるものの、前提として陽灯が人助けをしてなければ時間に余裕しかなかったりする。

 

「あっ!向こう行かなきゃ!」

『………』

 

そしてまた道から外れる陽灯。

巨人はそれが原因だとは思ったが、口には出さなかった。

それはきっと、彼が彼らしくある理由のひとつだと思ったから。

しかし遅刻確定になってしまう点についてはどうなのだろうか。恐らくもうその事は一時的に頭から離れてるのかもしれない。

陽灯は困ってる様子の老婆と銀髪の少女に話しかけ、説得するように幾度か会話をすると銀髪の少女は申し訳なさそうな顔で渋々離れ、変わるように対処していた。

ランドセルがあることから、同学年か下くらい。自分が代わりにやるから行くようにとでも言ったのかもしれない。

自分も学生なのだが、やはり自分のことは抜けてしまっているようだ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局陽灯が辿り着いたのは一限目の途中。

ひとまず陽灯は職員室に行って更衣室を借りた。

 

「いやー朝から大変だったね」

『……何の躊躇もなく川に飛び込むのは君くらいだ』

「あはは、笑顔になってくれたからよかったじゃん。寒いけど死ぬわけじゃないしちゃんと替えも持ってきてたからね」

『分かっていたのか?』

「いや、妹に外出する時には絶対毎日二・三着くらいは持っていくように言われて」

『………』

 

おそらくこの会話を聞いてる人がいれば困惑するだろう。

現に人類を超越する存在ですら無言になってしまった。

あれ、と首を傾げながら案内してくれる大人について行く。

ただもし替えの服がなければ、一日下着も含めてびしょ濡れという状況なので彼の妹が居なかったらどうなってたのかなど考えたくもない。

 

「今日からここが遡月くんのクラスよ。安芸さ…先生がいるから入ったら先生の指示に従ってね」

「はい」

 

5年1組。

ちょうど二学期になって数日経った後の転校になったため、進級まで半年あるかどうかだ。

それでも陽灯は出来る限り仲良くなりたいと願う。

緊張するのではなく、割とワクワクしているという珍しい転校生の姿に微笑んだ案内の先生はノックする。

すると教室内の声が静まり、メガネを掛けたどこかクールな感じを思わせる大人の女の人、安芸先生が陽灯を案内した先生といくつか言葉を交わし、案内してくれた先生は振り向く。

 

「じゃあ、頑張ってね」

「ありがとうございました!」

 

流石に大声は出さず控えめに抑えながら頭を下げると、去っていく姿を見ながら陽灯はいよいよ同級生と対面出来ると気合いを入れるように顔を引きしめる。

 

「それじゃあ、呼んだら入ってきてくれる?」

「分かりました」

 

事情を説明しに行ったのだろう。

安芸は陽灯より先に教室に入っていく。

 

「仲良く出来るかなあ」

『陽灯ならばそこまで心配する必要はないはず。何かあれば私も力になる』

「ありがとう、それならすっごく安心だ」

 

確かな自分とは全く別の、暖かい温もりを感じながら紡絆は入ってくるように声をかけられたため、元気よく返事しながら扉をゆっくりと開ける。

黒板には授業に関する内容が書かれていて、空いている箇所に名前が書かれている。

教壇に立ち、これから共にするクラスメイトたちを見る。

が、残念ながら陽灯に一瞬で顔を覚えれる頭はなかった。

 

「今日からクラスメイトになる、けい---遡月陽灯です! 引っ越して来たばかりで分からないことばかりなので、教えて貰えると嬉しいです。あと! 神樹館小学校の全員と友達になりたいと思ってるので、男女問わずたくさんお話しましょう!」

 

自己紹介を終えた陽灯にちょっとした空白はあったが、皆からの拍手で迎えられる。

大方、堂々と宣言して見せた姿に驚いたといったところか。

 

「では、遡月くんの席は……窓側の一番後ろね」

 

言われた場所を見ると、当然ながら席は誰もいない。

陽灯はニコニコと笑顔で歩いて鞄を置くと、席に座る。

 

「よろしくね!」

「うん、こちらこそ」

「おう」

「それでは授業を再開します」

 

隣と前しかいないが、初めて会った男女にも挨拶をすると、陽灯はハッと慌ててカバンから荷物を取り出していた---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休み時間。

一限目を終えた陽灯は多くの人に囲まれていた。

転校生の運命というべきか、質問責めに合っている。

どこから来たのか、兄弟姉妹はいるのか、家はどこかなど。

それらに関して陽灯は前の自分である継受紡絆ではなく、遡月陽灯として答える。

 

「どうして遅れてきたの?」

「それは川で物を落とした人が居てね、取りに行ったり道案内したりとか、荷物代わりに持ったりとか色々やってたら遅れたんだ」

「え、大丈夫だったの!?」

「うん、慣れてるから大丈夫! びしょびしょにはなっちゃったけどね、ちょっと寒かったな、あはは」

「そ、それは笑うところなの?」

「あーだから髪濡れてるんだな」

「拭いたけど流石に乾かなくて」

 

多くの人が気になったであろう質問にも答え、実際のところ陽灯の髪は濡れている。

川に飛び込んでそれほど経ってないから分かりやすいが、誇張してるわけでもなく本当のことだと物語っている。

 

「ねぇねぇ、いつもはなにしてるの?」

「いつも? うーん両親が帰ってくる時間まで外に居て、歩いてるよ。困ってる人が居たら、力になれると思って」

「趣味は?」

「人助け! あっ星は好きだよ。宇宙のこととか勉強してるから強いて言うなら読書になるのかな?」

「好きな人はいた?」

「? みんな好きだけど」

「そういう意味じゃなくてほら、特別に好きというか…異性として好きとかはっ?」

「よく分からないけど、特別はなかったかな? でも仲の良かった幼馴染が居て、その子は一番大切だったと思う。こっちに来る前に、離れることを伝えたくらいだったから」

「好きなスポーツとかはあるのか?」

「体を動かすことなら全般好きだよ。一番とかはないかなー」

「ゲームとかしないの?」

「たまにするし、よく小さい子と遊んだりはするね」

 

男女関係なく質問をされつつ、陽灯はちゃんと全部答えていた。

まあ一部の質問の答えには女子から甲高い声が響いたりはしたが、特に大きな問題はなかった。

 

「それじゃあ---」

「みんな、気持ちは分かるけどそこまでにしましょう」

「ん?」

 

全然気にせずドンと来いといった様子だった陽灯は知らない声が聞こえてそこを見ようとしたが、囲まれてる影響で姿が見えない。

 

「あっ、鷲尾さん」

「もう言ってる間に休み時間が終わるわ。彼も大変だし周りの子も座れないし皆も先生に注意される。だから一旦ここまでにして、次の休み時間にしましょう?」

「うわ、ほんとだ」

鷲尾、という人物が時間を伝えたようで、その際に確認したのだろう。

昼休みでもないため、少ししか時間は無い。

陽灯も時間を確認すれば、もう一分もなかった。

 

「じゃあ、私たちは戻るね、陽灯くん」

「鷲尾さんも教えてくれてありがとう」

「うん、またいつでも答えるから好きな時に来てね。あと、困ったことがあったら遠慮せずに言ってねー!」

 

さっきまで囲まれていたのが嘘のように、次々と離れていく。

今近くにいるのは、元の席の男女と陽灯と鷲尾と呼ばれた女の子。

陽灯はわざわざ教えてくれた人物を見る。

髪を後ろへ纏め、どこか真面目な印象を抱かせる少女。

 

「ありがとう、えっと……」

「鷲尾須美よ。気にしないで、やりたくてやっただけだから」

「そっか、でも教えてくれなかったら気づいてなかったから。それのありがとう」

 

陽灯が名前を知らないことに気づいた彼女は自身の名を名乗ると、またお礼を言われたため、素直に受け取ることにして戻ることを伝えると戻っていく。

そして数秒後にはチャイムが鳴り、また授業が始まる---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み。

2限目、3限目の休み時間も囲まれていた陽灯だったが、昼になると落ち着きを取り戻している。

正確にはご飯の時間があったから流石に質問責めに合わなかったという理由だったが、今は数人に囲まれている程度だ。

質問も少なくなり、普通に談笑している。

 

「なぁ、あんた!」

「?」

 

そんなとき、ちょっと大きめの声が聞こえて陽灯が視線を向けると、どこかで見たことのあるような姿をしている女の子に声をかけられた。

知り合いはいないはずなのに、引っ掛かりを覚えて首を傾げる。

 

「朝はごめん! それとありがとうな! あの後、どうだった?」

「ん? 朝……ああっ!」

 

言われて陽灯は思い出したように声を挙げる。

既視感のあった理由は会ったことがあるかららしい。

困っていた老婆と一緒にいた少女。

 

「問題なく送ったよ。君こそ、間に合った?」

「ああ、お陰さまでギリギリな!」

「なんの事か分からないけど、銀ちゃん。間に合ってなかったでしょ」

「ぎくっ!? で、でも始まるまでには着いたし……」

「遅刻は遅刻なんだけどなー?」

「大丈夫! 俺は授業中の途中だから!」

「そこ胸を張って言えることじゃないからね!?」

 

フォローするように発言したと思われるが、残念ながら何のフォローにもなっていない。

陽灯に比べればマシ、という意味ではなってるかもしれないが、結局二人とも遅刻である。

 

「そもそも遡月はもっと早く出てたら間に合ってたんじゃないか?」

「え? 6時に出たけど?」

「……ごめん」

「…? どうして謝るの?」

 

6時に出て3時間半近く掛かったということは、陽灯がそれほど人助けに専念していたということになる。

流石に周囲も何も言えなくなったようで、なんと言うべきか分からないと困ったような表情だ。

悪いことをしているならともかく、良いことをしているのだから余計に何かと言いづらい。

 

「そ、そういえばさ! 自己紹介してなかったよな?」

 

そんな空気を察したのか、話題を変えるように銀と呼ばれた少女が陽灯に言うと、周りはあからさまにナイスといった合図をしていた。

 

「あ、うん。確かに名前知らないな…じゃあ俺から。遡月陽灯、好きなものは誰かの笑顔。趣味は人助けの普通の男の子だよ」

「あたしは三ノ輪銀! 趣味は漫画を読むことかなー」

「……いや、ちょっと待って。普通に自己紹介しないで。普通とは?」

「遡月だけは絶対違うと思う」

「なんで!?」

 

深刻なツッコミ不足で流れそうになっていたが、誰もがそうするような言い方をした陽灯に総ツッコミが入っていた。

 

「にしても凄いよな、三ノ輪も遡月も」

「凄い?」

「あたしがか?」

「あー確かに」

「誰かのために動くって考えただけでも勇気いるのにね」

「そうそう、それに大変だろ?」

「うーん俺は別に大変だと思ったことは無いかな。やりたくてやってるわけだし」

「それはあたしも同意見。そりゃ、場合によっては大変かもしれないけどな」

「そっかーなんか二人は似てるね」

「こう、キラキラしたものがあるな」

「え、俺そんなのになってる!? え、こわい!」

「例えだから! 例え!」

「あ、ほんと? びっくりしたぁ」

「遡月くんは純粋だなぁ」

 

簡単に真に受ける姿に誰もがその感想を抱き、陽灯という人物を少しずつ理解していく。

 

「一言で言うなら、遡月はお人好しだな」

「でも、良いよねー。かっこいいと思うよ!」

「ありがとう、そう言われると嬉しいよ! でもキミたちもかっこいいし可愛いと思う!」

「え、あ、そ、そう?」

「うん!」

 

笑顔でさらっと言ってのけた陽灯に、一部は頬を赤める。

お世辞ではなく、本気だということが陽灯の顔から判断出来て、実際に思ってるからそう言ってるのだろう。

 

「お、お前な…冗談でもあまり言うことじゃないぞ?」

「俺、本当のことしか言わないから、本気で思ったことしか言わないけど。昔から嘘は言わないようにしてるから!」

「…あっ、これマジなやつだ!?」

 

ふざけてるような様子もなければ真剣で、本気ではないと思っていた者たちもようやく理解した。

 

「天然か……」

「へ?」

 

誰かがボソッと言った言葉に同調し、皆が頷く姿に陽灯は首を傾げていたが、少ししてまた普通の雑談へと変わっていく。

質問というよりは会話になってきているが、まだ初日だというのにクラスメイトとの距離が友達と呼べるレベルまで縮まっているのは彼の独特な雰囲気と純真な姿勢が齎した結果だろう。

さらっと遊びに行く約束を交わすレベルだった。

 

「あ、もう時間だ。そろそろ戻った方がいいんじゃない?

「わ、もう昼休憩終わる! ありがとうね、陽灯くん。また話そう!」

「俺らも戻らないとな。じゃあ、約束忘れるなよ!」

「約束は忘れないよ! またねー」

 

席に戻っていくのを手を振りながら見送ると、まだ銀だけが残っていた。

 

「時間大丈夫?」

「いや、なんというか初日と思えないくらい馴染んでるなあって」

「皆優しいからじゃないかな。三ノ輪さんもそうだけど」

「それだけじゃないと思うんだけどな…あ、銀でいいぞ?」

「じゃあ俺のことは陽灯で。ってそれより本当に時間!」

「やべっ! じゃあ、また来るからな、陽灯!」

 

あと数秒まで近づいてきたのもあって、急かすように言うと銀は陽灯の名前を呼びながら慌てて戻っていく。

僅差で何とか間に合ったようで、ほっと息を吐いている姿に苦笑した陽灯は、机に突っ伏しているクラスメイトに気づいた。

起こすべきか、と思って立ち上がろうとしたところで顔を上げたクラスメイトは周囲を見渡して、首を傾げていたが何も問題なさそうなので大人しく席に座った。

 

(そういえばあの子、さっきも寝てたなぁ…)

 

ブロンドカラーの少女。

ずっと一人で寝てばかりで、気になっていたといえば気になっていた。

しかし陽灯はすぐに囲まれてしまうため、話しかけにいけない。

余裕がある時に近づいてみようと心の中で誓いながら、陽灯は午後の授業を受けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





〇遡月陽灯
普通に名前呼びされるレベルでクラスメイト数人と仲良くなっている。
多分一週間後にはクラスメイト全員と親しくなってそう。目標は神樹館小学校の全員と友達になること。
ただ、たらしっぷりは常時発動型なのでお前いい加減にしないとまたハートキャッチ(物理)か刺されるぞ定期

〇光の巨人
陽灯の中に存在する光の巨人。
陽灯くんが最も信頼を置く友人であり、巨人は時折相談に乗っている。
彼が居なければ多分辿り着いたのは三限目の途中だっただろう。

〇遡月夜霧
陽灯くんにとっての養父。
知的な雰囲気を持ち、クールぶってるが、割と緊張してたりなど気遣ったりなど隠しきれない人の良さが出ている。
学者らしく何らかを調べているようだが、それは不明。
なぜ引き取ったのかも不明であるが、陽灯に対する対応から悪い考えでは無いのは確かだと思われる。
陽灯という名前は『太陽』と『照らして明るくする灯火』から取ったらしく、苗字と合わせると月と太陽の二つを持つ名前となっている。
その名前は『ある形態』を思わせるもので、忘れていても継受紡絆にも受け継がれていたのだろう。

〇遡月澪
陽灯くんにとっての養母。
おしとやかで儚げな雰囲気を持ち、誰に対しても敬語で話す。
家事は得意な方のようで、時折しているらしい。
夜霧とは違って事務関連の作業が多いが、勤め先は大赦で指示を出せる立場から上の方だと思われる。
積極的に陽灯と接しており、遡月家では一番仲が良い。



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「友達」


キミを連れて駆け出すよ


 

◆◆◆

 

 第 8 話 

 

友達

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

使用人が作ってくれた朝ごはんを食べた陽灯は学校へ辿り着いていた。

今日は特別遅刻というわけでもなく、余裕のある登校だ。

いつもいつも困ってる人がいるわけでもないため、こういう日だってある。

そもそも明らかに登校ルートでもないのに、声が聴こえたり見えたりしたらそこへ迷いなく向かうのが原因なのだ。

まぁ、ちょっとした人助け……というか動物助けはしたりしてたが。

 

「おはようー」

「あっ、遡月くん。おはよー」

「おはよう、陽灯」

 

たったの一日。

それだけしか経ってないにも関わらず、陽灯は既に登校して教室にいる同級生と挨拶を交わすほどの仲となっていた。

男も女も関係なく、中には名前で呼ぶ者もいる。

そこから陽灯のコミュニケーション能力の高さが窺えた。

流石に全員とは行かないようだが、数人と出来てる時点で十分すぎるだろう。

陽灯は同級生たちと話していると、何かに気づいたように会話をやめて周りを見渡す。

そして程々に会話を区切ると、そこへ駆け寄っていった。

 

「---おはよう!」

「……! おはよう、なんよ〜」

 

陽灯は太陽のような笑顔を浮かべながらブロンドカラーの少女に挨拶すると、返ってきたことに嬉しそうにする。

なぜ挨拶をしたのか。それは今彼女が教室に入ってきたばかりで、そこから視線を感じたからだった。

陽灯は転校生というのもあるが、彼の性格故に人気者だ。少なくとも、もう周りから見れば友人に見える関係は作り出している。

しかし今陽灯が話した少女は何故か寝てることが多かったりぼうっとしてたり、一人でいることの方が多かった。

別に陽灯は一人で居たいというなら尊重するが、目の前の少女はそういうわけではなく別の理由があるような気がしていた。

言うならば、ただの勘である。

そしてその勘が当たってたりするのだが。

 

「つっきーは朝、早いんだね〜」

「つ、つっきー? 今日は普通に来れたからねーそれと、ごめん! 名前、なんだっけ?」

「覚えてないの〜? 昨日ちゃんと自己紹介したのに」

「流石に10人とかならまだしも、たくさんいるからまだ覚えれてないんだ。結構話した人たちは覚えてるけど…ほら、三ノ輪さんとか」

 

三ノ輪銀という少女に関しては初登校の前に会ってたというのもあったので、陽灯の記憶には残っている。

だからこそ例として挙げると、目の前の正直は納得半分驚き半分といった感じだった。

少女がチラッと他の生徒を確認すると、陽灯の発言に信じられないといった顔をしている者、何を想像したのか青ざめている者、何やら口パクで伝えようとしている者もいる。

陽灯とよく話してた生徒に関しては、やっぱりかーといった顔や、しまった、といったように頭を抱えていた。

何か空気がおかしいことには気づいた陽灯は首を傾げるも、よく分かっていない。

陽灯からすれば彼女はただの女の子である。むしろ誰にも言ってないだけで、かの光の巨人と共にいる自分の方が異常という自覚はあった。

まぁ逆に言えば、知らない者が居ないと言えるほどに有名な名前でもあるわけだが。

 

「それじゃあ、あらためまして……乃木さんちの園子です~」

 

ブロンドカラーの少女は変わった名乗り方をした。

乃木園子。

大赦の中でも上里とツートップの位置に居る名家、乃木家。当然ながら元一般家庭の陽灯とは天と地ぐらいに地位に差があり、その名は神樹館小学校---いや、四国にいるものなら誰でも知っているほどの苗字だ。

それほどのネームバリューがあり、無論のこと陽灯も---

 

「乃木園子…それが君の名前なんだ。覚えた!

じゃあ、こちらも…遡月さんちの陽灯です。よろしくね!」

「! よ、よろしく〜」

 

残念ながら知ってるはずもなかった。

しかし他の生徒ならば間違いなく態度を変えたり慌てるところを、陽灯は全く気にせず、むしろ彼女に合わせて自己紹介している。

そのことが嬉しかったのか、園子はどこか嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業が始まると、陽灯はしっかりと授業を受けている。

ノートはしっかり取っており、頭から煙が出てるような錯覚を周りが覚えるくらいの状態にはなっていたが、黒板に答えを書くように求められた際には分からないと答える潔さがあった。

少なくとも当てられて全部そう答えてたので、彼の頭がアレなのは間違いなく周知の事実になったことだろう。

その後を笑いに変えてたのだけは、誰かを笑顔にする才があるのかもしれない。

そして休み時間には男女問わず話し掛けられており、そこには銀も混ざっていた。

授業中であっても度々陽灯を観察していた園子はそれが少し羨ましく思えた。

園子にその気がなくとも、彼女が話をしに行くと周りは乃木家の令嬢ということで遠慮してしまうだろう。それが嫌で動けず、しかしこのままでは昨日と同じく何も話せないまま一日が終えてしまうという危機感を覚える。

話したいけど話しにいけない。自身のことをよく知るからこそ、動けない。

いくら園子はそう思っても、現実は彼を囲む生徒はあまりに多くて。

 

「---ごめん。俺、ちょっと話したい人が居るんだ。また明日話そう!」

 

そんなとき、申し訳なさそうに周りにそう伝えて彼は一人の生徒のところへ向かった。

机に頭を置いて今にも寝そうな姿。

 

「乃木さん!」

「…はぇ?」

 

眠る前に話さねば、と話しかけると、間に合ったらしい。

顔を挙げた園子は驚いたように陽灯を見ている。

まぁ彼女からすれば人に囲まれていたはずの陽灯がいつの間にか目の前に居たのだから、仕方がない。

 

「つっきー?」

「えーと……よし! 俺も一緒に寝ていい?」

「---うん、いいよ〜?」

「じゃあ、椅子持ってくる!」

 

予想外のことだったのか、僅かに固まった園子はすぐに許可すると、陽灯は小走りで自身の椅子を持ってきた。

そして園子と対面になるように置くと、そこへ座る。

 

「おやすみなさーい!」

「おやすみ〜」

 

何かを話すわけでもなく、一応気を使っているのか机に少し頭を置く程度にしながら陽灯は一瞬で寝た。

普通に考えたら相手は困惑したりするはずが、その園子も園子で天然かつのんびりとした性格なのも相まって、少し陽灯を見てから眠りにつく。

まるで二人だけの世界のような光景で、関係ないはずの周りが呆然としていた---

 

 

 

 

 

 

ちなみに普通に寝過ごして怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後になると、陽灯は囲まれていた。

楽しげに会話していると、陽灯は昼休みの行動を聞かれた。

正直どうしてあんな発想に至ったのか誰も分からないだろう。

 

「んー同じことをしてみようかなと思っただけだよ。仲良くなるには相手を知ることが大事かなって!」

「それであんな行動に…?」

 

周りは困惑した。

そりゃそうだ。ぶっちゃけ陽灯の行動は命知らずがやることで、もし彼女が権力を行使するタイプの人間だったなら斬首待ったナシである。

不敬にもほどがある。

昔で言うならば、乃木園子という少女はお姫様みたいなものだ。

 

「でも気になるんだよね。あの子はちゃんと会話してるけど、みんなから距離感を感じるというか、遠慮してる気がして」

「まぁ上里家と並んで最高の権力を持つ名家だから、流石に畏まるというか…」

「上里?」

「えっ、そこから?」

 

そういった知識は全部投げ捨てた陽灯だったので、家について全く知るはずもなく、何も知らなさそうな姿に同情してか一から説明が始まってしまった。

全てを聞き終えた時、陽灯が真っ白になったのは余談だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一緒に帰っていた同級生たちと別れて、帰り道を歩く。

誰も居なくなったことを確認した陽灯は自身の胸に手をやって、小さな声で喋り始める。

 

「ねぇ、巨人さん。けんりょく?ってそんな凄いの?」

 

あれこれ聞かされたが、結局のところ陽灯は乃木園子という少女の家が凄いという認識しかしていない。

それでも分かった部分があったから、聞いてみたのだろう。

人間ではない光の巨人に聞く理由はさておき。

 

『どの世界にも大半は権力・権威というものは存在する。場合にも寄るが、物理的強制力や潜在的な社会的圧力を強いることで人を支配している。

キミたち人類の法律や憲法も同様だ。より簡単に言うならば、権力は人が他者を抑えつけて支配し強制させる力』

「強制…それって絶対?」

『その地位に着くものに寄るはずだ』

「そうなんだ。じゃあ、それでみんな?」

『遠慮している理由のひとつだと私は思う』

「でもあの子はそんなけんりょくって使うようには見えなかったけど…」

『権力ある者にはそれだけではなく、立場というものがある。大まかな理由はそこだろう』

「…むむ、むずかしいねぇ」

 

知識豊富な友人のお陰で陽灯は乃木園子、というよりは乃木家の存在を認識していくが、その顔は少し悲しげだ。

 

『…例え彼女が許しても周りは許さない。彼女自身にも問題がある部分はあるといえばあるが……』

 

巨人が一日で分析した部分から彼はそう語るが、陽灯はんー、と唸って考えていた。

一応、頭には入れているようだが。

 

「でも…悲しいじゃん。誰も彼女自身を見てない。あくまで皆が見てるのは、乃木家の乃木園子という女の子で……うん、やっぱりおかしいよ。そんなの良くない。彼女の本音が分からないからなんとも言えないけど…俺は彼女と友達になる。そんなの関係ないんだって行動で示すんだ」

 

権威、権力。

陽灯は知らないが、遡月家にも同様のものがある。

悪用すれば様々なことができ、悲劇も喜劇も起こせるもの。

しかし遡月家の力では乃木家よりかは低く、対等になることはない。

親の力も借りられない陽灯には抗う術はないのに、陽灯は決心したような顔でそう語った。

 

『キミならばそう言うと思っていた。今の私に出来ることは少ないが---キミのやりたいようにやればいい。私がそれを支えよう』

「---うんっ。ありがとう、巨人さん」

 

呆れたわけでも驚いたわけでもなく、予想通りといったような声音で味方であり続けると遠回しに言ってくれた巨人に陽灯は嬉しそうな笑顔を浮かべて、明日からのことを考えながら帰り道を歩く。

その歩調は暗いことを一切感じさせないほどに軽やかだった。

 

「そういえば、巨人さんってけんりょくもよく知ってるんだね?」

『宇宙は広い。私のような存在は他にも多く存在し、組織となって動いている者たちもいる。光の国---地球から約300万光年離れたM78星雲と呼ばれる場所に存在する星で別の次元に存在する者たち』

「それってオリオン座の? あれ、でもオリオン座は1600光年じゃ…」

 

陽灯は宇宙や星などに関しては一般の小学生よりかは詳しい。

自分自身でもそうでは、と自認しているしそれほどの知識を秘めている。

実際に星を知っていてもその中にある恒星を知っている者はそう多くはないはずだ。

だからこそ、光の国と呼ばれるものがないということを知っている。

 

『さっきも言ったが、この次元の話ではない。キミが知る宇宙とは全く異なる進み方をしている宇宙に存在している星だ』

「ああ、宇宙が複数あるってやつ…たしか、マルチバース! うんうん、四国だけでも広いのに、あの先はもっともっと広いんだねぇ…ゆにばーす!すごい!」

『そうだ、いつか陽灯の世界ももっと大きく広がるだろう』

「うん、その時は巨人さんも一緒だ!」

『……それは』

「えへへ、楽しみだなーどんな未来が待ってるかなあ」

『…………』

 

宇宙、空を見ながら()()()()()()()()()に夢見る陽灯に巨人は何かを言えず、そのまま黙ってしまった。

会話を終えた陽灯は少し歩き、家の中に入ると荷物を持とうとする使用人に遠慮するがあっさり奪われてしまい、また親しそうに、笑顔で喋っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食の時間になると、養親は仕事がある日でもやめて食卓に戻ってくる。

陽灯と過ごす時間を作るためだろう。

大丈夫なのかと聞いても、子供が心配するようなことではないと返されるだけだ。

客観的に見ればしっかりしている二人なので、陽灯も何も言わなくなったが。

 

「今日は二日目、でしたね。学舎の方はいかがでした?」

「うん、今日は普通に授業を受けて、友達と話してた」

「まあ…」

「もう友達が出来たのか? すごいなぁ…」

「えへへ、皆が優しいからだと思うよ?」

 

心配な部分もあったのか学校について聞かれて答えると、澪も夜霧も感心したように褒める。

陽灯はそれを周りのお陰と返すが、澪は首を横に振った。

 

「例えそうでも、人間関係というのは複雑なんですよ。周りがではなく、貴方自身も優しいからだと私は思います」

「そんなものなのかなー」

「そんなものです」

 

厳しくではなく、優しく諭す澪に陽灯は納得したように数回頷くと、ご飯を口に含む。

以前まで食べていた味とは全て異なるものの、昔も今も変わらず美味しくて陽灯は幸せそうな顔だった。

当然ながら全てにおいて今の家の方が質も味も良いのだが、前の家の料理は料理で好きだった陽灯はどちらかを選べない。

 

「あ、そうだ」

 

出された食事に舌を打っていると、思い出したと言わんばかりに声を挙げた陽灯に夜霧も澪も首を傾げた。

 

「けんりょくある人って近づき難いって思われるの?」

「突然だね」

「学校でね、ある女の子にみんなが遠慮してるというか…うまく言えないけど、近寄られたら話すけど、皆からは話しに行くことが用でもないとなさそうなのが気になったんだ。嫌いとか、虐めとかそういったわけでは無いと思うけど…」

 

全く何も知らなさそうだった陽灯が権力などと言い出して意外そうな顔をしたが、理由を聞いて得心がいったようで二人は少し困ったように眉を曲げる。

 

「それは少し、難しいですね。その女の子がどういった立場に居るのか、それに寄りますから」

「えっとね、乃木園子って女の子」

「乃木家の令嬢のことだったかぁ…」

「ああ、向こうは覚えているか分かりませんが…昔見た彼女はとても可愛らしいお方でしたね」

 

夜霧も澪も会ったことがあるようで、夜霧は片手で顔を覆い、澪は懐かしげに微笑んでいた。

言葉から察するに、今よりも小さい時なのだろう。

 

「彼女は少し難しいというか……まぁ、変わってるというべきか。悪い子ではないのは確かだと思うよ」

「ですけど、周りから見れば近づき難い存在かもしれませんね。乃木家というのは……陽灯さんに分かりやすく言うならお金持ちですから」

「なるほど……」

「それで、どうして乃木家の令嬢のことを?」

「仲良くなりたいんだ。よく寝たりぼうっとしてるから……もっと笑顔で楽しい学校生活を送って欲しいって。俺に出来ることを増やすためにも少しでも何か聞けないかなって…」

 

打算があるわけではなく、純粋にそれだけを思っている。

それを理解した二人は顔を見合わせると、陽灯に優しく微笑む。

 

「でしたら…陽灯さんの思うがままに行動してみては?」

「え? でも、ちいって向こうが上なんでしょ? 夜霧さんや澪さんにも俺がやらかしたら何か起きるかもしれないのは……俺嫌だよ」

「なに、その時は何とかしてみせる。それとも何かい、陽灯は何かやるつもりなのかな?」

「ううん、仲良くなって話して、一緒に過ごして遊ぶくらい! そう、友達になる!」

「なら大丈夫だ。陽灯は陽灯らしく接していけばいい」

「俺は、俺らしく……」

 

宣言して、心に留めるように言われた言葉を反芻する。

それで覚悟を決めたのか陽灯はパンっと頬を強く叩いた。

突然の行動に夜霧も澪も待機していた使用人も目を丸くした。

本人は痛そうな顔をしており、両頬が赤くなってるが力強い目をしていた。

 

「ありがとう、俺頑張る!」

「あ、ああ…うん」

 

割と痛そうな状態になっているため、夜霧は何とか返事をし、澪は濡らしたタオルを持ってくるように指示を出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日。

やることを決めた陽灯は学校に着くと、同級生と話す。

みんなと仲良くしたいという思いは変わらず、自分自身を曲げない彼は困ってる人が居たら力を貸す。

特に変わったことのない時間を過ごしながら、園子が登校してくると陽灯は向かった。

 

「乃木さん、おはよう!」

「…ふぇ? お…はよ〜」

「大丈夫? 眠たい?」

「大丈夫だよ〜」

「そっか、無理はしないで…っと呼ばれてるからもう行くね!」

 

ほんの少し会話を交わすと、陽灯はさっきまで話してた者たちの方へと向かっていく。

わざわざ話しかけに来てくれたからか、園子はそんな陽灯を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四日目五日目六日目---陽灯が転校してきて一週間。

それほど経ってもなお、陽灯は園子が来る度に声を掛けていた。

何度も何度もタイミングがあれば話そうとする姿に、気のせいではないと園子自身も分かっていた。

そうなると、興味というものが出てくるもので園子は最近観察するようになっていた。

が、やはり一人にならないので話せるタイミングがない。話しかけに行って会話を邪魔をするのも忍ばれるからだ。

何より一週間経っても陽灯の人気は消えるどころか、むしろ人の密度が濃くなっている。

これに関しては、彼のコミュニケーション能力が高いせいだろう。

誰かと話したいからと蔑ろにすることもない。誰かが特別だとかそういった差別や区別もなく、彼は平等に話す。

それが男の子でも女の子でも変わらず、嘘を全く吐かない裏表のない性格が安心し受け入れられてるのもあるかもしれない。

場合に寄っては空気が読めないという欠点を持ってしまうが、それをカバー出来るほどのコミュニケーション能力を持っている。

彼はいわゆるコミュ強だった。

当然、墓穴を掘ることは多いが。

そして休み時間が終わると、授業を受ける。

相変わらず座学系統には弱いようで頭から煙が出ている錯覚を覚えるが、体育に関しては話が別。

スポーツ全般成績が良く、身体能力は間違いなく学校一だろう。

運動会が始まる前に居なかったことを悔やまられるレベルだった。

しかも見てる側が楽しそうだと感じるほどに楽しそうな様子なのが憎めないひとつのところ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陽灯はいつも教室にいるわけではなく、休み時間になると遊ぶわけでもなくどこかへ行く。

誘われたら遊ぶが、特に何もないなら彼は自由気ままに行動する。

ようやく訪れたチャンス。

園子は陽灯の元へ向かおうと足を動かそうとして、同級生ではない誰かと話している姿を見た。服からして女の子。

学年では見たことがなく、下か上。

敬語を使ってないことから下の可能性はあるが、陽灯は話を聞いて頷くと後ろをついて行っていた。

また話すタイミングを失い、戻ろうかと考えた園子だったが好奇心には打ち勝てず、後を付けることにした。

辿り着いたのは二つ下のクラスであり、会話は聞こえないが仲介しているようにも見える。

話を終えたのか、男の子二人が互いに頭を下げてる姿があり、陽灯は二人の両肩を軽く叩くと、しーっと口元に人差し指を立てながら包装されたクッキーを渡して解散と言わんばかりに数回手を叩く。

すると騒ぎはすっかり収まり、陽灯も戻ろうとしたところでなぜか人が殺到して抜け出せなくなってしまった。

流石の陽灯も予想外だったようで驚いて僅かに固まると、次々と質問責めにあっていた。

苦笑しながら陽灯はそれらに答えていき、もう時間がないことに気づいたのか手を合わせながら人混みを抜け出していく。

戻るつもりだろう。

話す機会と言えばそうだが、喋りかけて授業に遅れてしまえば迷惑をかけてしまう可能性があって園子は仕方がなく先に戻ることにした。

 

「…あれ? いま誰かいたような…ってやばっ!?」

 

見たことのあるような。綺麗な髪が僅かに見えた陽灯は首を傾げるが錯覚だったのかもしれないと思い込んで時間がないことに気づいて戻っていく。

なお普通に遅刻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後になると、陽灯は何かを考え込んでいた。

 

「やっぱり…気のせいじゃないよね」

 

小さく口に出てしまっているが、流石の陽灯もうすうすと勘づいていた。

宿っている巨人も肯定するのだから気のせいではないのだろう。

ならば、と陽灯は行動に移すことにした。

 

「乃木さーん!」

「ん〜?」

 

帰ろうとしていた園子は立ち上がっており、机の前に来た陽灯は口を開こうとして、周りの視線を集めてることに気づいた。

何をしでかすか分からないからだろうか。

 

「放課後時間ある?」

「? あるよ〜?」

「じゃあ、ごめん。良いところがあるんだ、行こう!」

「え?」

 

気を遣ってか一言謝ってから園子の手を取ると陽灯は走り出す。

流石に園子も呆気に取られたようで、手を引かれていた。

彼女からすれば急すぎる行動で、けれど全速力というわけではない。

ちゃんと園子のペースを見て走る速度も落とし、合わせていた。

教室から離れ、辿り着いたのは芝生に包まれた場所だった。

遮るものがなく、太陽の日差しが直接降り注いでくる。

軽く息を整えながら陽灯と園子は向き合っていた。

 

「ごめんね、ちゃんと話すには皆から離れた方が乃木さんも気を遣うことはないかなって思ったんだ」

「驚いただけだから、大丈夫だよ〜」

「そっか、なら良かった」

 

安心したような笑みを浮かべる。

自分自身でも強引だった自覚はあったのか、申し訳なく思っていたようだ。

しかしそれっきり互いに口を開くことがなかった。

園子は思いがけず出来たチャンスに何から話せばいいか考えて、陽灯は何を考えているのかただ悩んでいる。

 

「…うん、そうだ」

 

口を開いたのは数秒くらい後のことだった。

陽灯は一人で納得したように真剣な顔で園子を見つめると、真面目な話だと判断したように園子も耳を澄ます。

 

「うじうじ考えてるのは俺らしくない。実はみんなから聞いたんだ、乃木家のこととか、君のこと。上里家のことも」

「あ〜……うん」

 

知らなかった。

無知だったからこそ、陽灯は積極的に話しかけてくれた。何も分からないから乃木園子という人間と関わりを持とうとしてくれた。

知らないからこそ、大胆に声を掛けてくれた。

たったの一週間でしかなかった。

時間としては酷く短く、一日もないだろう。それでも嬉しくて、友達になれるかもしれないと思っていた園子は何かを察したように目を伏せる。

最初は誰も同じだ。同じ名前がいるという可能性もあるから話しかけてくれても、園子が上里とツートップの乃木家の令嬢と知れば人が変わる。

関わりが少なくなる者。遠慮する者。媚びる者---結局は壁が出来てしまう。

それは仕方がないことだと納得していたが、今回も同じなのだろう。

だから園子はいつもと変わらない自分のまま口を開こうとして。

 

「だから、俺と友達になろう!」

「…え?」

 

そんな予想もしなかった言葉に驚いて、何も考えられなくなったのも仕方がないのかもしれない。

園子の様子に気づかずか、陽灯は一歩踏み出す。

その壁を、見えなくとも隔てている壁をあっさりと飛び超えるように。

 

「家のこととか権力とか、お金持ちとか立場とかそんなの関係ないよ! そりゃ他の人たちは気にするかもしれないけど、俺は気にしない!

だって俺は乃木さん…園子ちゃんと仲良くなりたいから! 同じクラスの、ただの乃木園子という女の子と仲良くなりたいんだ!」

 

そう言ってとびっきりの笑顔を見せる陽灯は、太陽に照らされて眩しさを感じさせる。

まるで陽灯自身が太陽の光であるかのように輝いて、綺麗で。

 

「…いいの? 私のことを聞いたなら分かってると思うけど、つっきーにも迷惑かけるかもしれないよ?」

「迷惑だなんて思わないよ! もし何かあったなら、俺が解決する。こう見えても人助けは得意なんだ! あっただこれは俺が勝手に思ったことで、乃木さんが嫌ならちゃんと距離感とか諸々考えるというか……と、とにかく! 嫌なら嫌と言ってください!」

 

ちょっと台無しになってしまっているところもあるが、これは陽灯の心そのものだ。

誰にもそうなのだろう。園子は家が家なこともあって多くの人を見てきたが、ここまで純粋で真っ直ぐな人物は見たことがなかった。

遡月家の家柄的に乃木家には匹敵しない。ある意味敵が増えることになる。だけど、彼はそれすらも迷惑じゃないと言ってくれた。

興味が湧いてくる。

もっと知りたいと。もっと話したいと、ここに来る前よりも園子の気持ちは強まっていた。

何よりも---

 

「名前…」

「…へ?」

「名前で呼んで欲しいんよ〜あ、つっきーがいいなら、あだ名でもいいよ?」

 

さっきのように呼んで欲しくて、そのようなことを言っていた。

乃木家の園子ではなく、乃木園子として呼んで欲しくて。

それに関しては伝わったのか、陽灯は悩むように俯いて考え始めた。

 

「あだ名、あだ名かあ…俺そこまで得意じゃないんだよね。乃木園子だから…のこちゃん? ののちゃん? その…っちとかうーん……」

 

小声で挙げながらチラッと陽灯が見れば、園子は期待するような目で見ている。

逃れることは出来なさそうだ、と陽灯は考えるが、元々頭は大して良くない彼がこれといったものを浮かべることは出来ず。

 

「じゃあ……安直だけど、園ちゃん! で、どう?」

「おお〜それがいい〜」

「なら、そう呼ぶね! そうだ、それならつっきーも悪くないけど、俺のことも名前で呼んで欲しいなーその方が友達!って感じがすると思うんだよね」

 

目を輝かす彼女に安心しつつ、陽灯もまた提案すると園子は自分で納得したのか思案した後にぴかーんと閃いたような様子を見せる。

 

「じゃあ〜つっきーは…はるるん、かなぁ?」

「うん、それで大丈夫! 園ちゃんが決めてくれたものだから、俺は嬉しいよ!」

 

ニコニコと裏を読む必要がないくらい嬉しそうなオーラのようなものすら見える。

だからか---

 

「はるるん…はるるん」

「ん? なに?」

「えへへ、呼んでみただけ〜」

「そう---」

 

嬉しそうに何度か名前を呼んで、園子は笑顔を浮かべた。

陽灯が来てから、初めて見た心からの笑顔。

笑顔になってくれたことへの喜びを感じつつ、陽灯は園子の笑顔に見惚れて僅かに固まる。

 

「そっ……っか! 今日から俺と園ちゃんは友達。だからもっともっと、たくさんお話しよう。学校でも、プライベートでも!」

「うん、不束者ですがよろしくお願いします〜」

「お、おお…こちらこそ、まだまだ未熟といいますか逆に迷惑かけちゃうかもだけど、よろしくお願いします」

 

それも一瞬で陽灯は我に返ると、ぺこりと頭を下げる園子に同じように返すと、何処かおかしく感じたのか二人して笑い合った。

 

「さて! 園ちゃん、時間も時間だし暗くなる前に一緒に帰ろう?」

 

まだ余裕があるとはいえ、小学生である二人は早く帰るべきだ。

だからこそ、陽灯は誘った。

手を伸ばして、一緒に帰ろうと。

そんな陽灯の手と顔を園子は往復する。

下校。クラスメイトとの、友達との下校。

なんと心躍る響きだろうか。

当然ながら、園子は経験がなく、その手を取っていいのか考えかけたが遠慮がちに手を伸ばして。

 

「行こっ!」

「---うん!」

 

その手を包み込むように握った陽灯は園子を優しく引っ張る。

それがきっかけになったのか園子は自らの足で歩き出した。隣に並んで、

新しく出来た初めての友達と。

今度は、園子自身が壁を飛び超えたのだ---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

陽灯は普通に遅刻した。

理由はまぁ、例の人助けによるものだが、遅れた原因は自分にあるので陽灯は特に言い訳せず謝り、授業に途中参加しただけでこれといって特別なものはない。

いつものように休み時間になったり囲まれ、遅れた理由を聞かれたらそのまま答える。

そうして話していくうちに、陽灯は視線を感じると視線の主に安心させるように微笑む。

それがきっかけとなったのか。

 

「---はるるん〜」

『!?』

 

園子が名前らしきものを呼びながら足を進める。

明らかにその人物はこの教室には居ない。つまりあだ名しか選択にはなく、周りが驚いてる中で園子は陽灯の前に立つと陽灯は手を差し伸べる。

 

「いらっしゃい、園ちゃん。座る?」

「…! うん、ぜひぜひ〜」

『!?』

 

優しく迎え入れるような言葉と行動に、何より昨日と同じあだ名で呼んでくれた陽灯に園子は嬉しそうにその手を取った。

なお園子のことをあだ名で呼ぶ陽灯にまた驚かされる同級生たち。別のクラスの者ですら驚いている。

 

「……って、そっち!?」

「だめ?」

「い、いや園ちゃんが良いならいいけど」

「やったぁ」

 

そしてまた、今度は椅子---ではなく陽灯の膝上に乗る園子の行動に三度の驚きが生まれたのは言うまでもなく。

陽灯は休み時間が終わるまで質問責めされた。

けれども。その会話の中には確かに園子も居て、以前までの空気や遠慮が少し減っていた。

それは陽灯が緩衝材として上手く会話を回したのもあるだろう。

ただ女子が同性である園子に質問責めするくらいには仲良くなれている姿に、自分のことでもないのに陽灯は嬉しそうに笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一ヶ月。二ヶ月。三ヶ月。四ヶ月。五ヶ月。六ヶ月。

月日は過ぎ去ってゆき、気がつけば四月。

進級し何人かとは分かれたが同じクラスメイトになった者たちも少なくはなく、そこには園子と銀、須美もいる。

半年も過ぎればすっかりと陽灯は有名になってしまい、本人は知らないが女子の中で人気が出ている。

男子も含めて相談や頼れる人物という印象を抱かれるようになったのは、陽灯が毎日困ってる誰かが居たら助けていたからこそ、彼の行動の影響だ。

最初は家柄的に近づき難いだけで容姿の整った乃木園子とよく一緒にいること、彼女の性格も相まって人気のある三ノ輪銀と親しくなっているといった部分の他に男女問わず親しい陽灯に妬むものも居たが、今は全く居なかった。

というのも、いわゆる『いいやつ』に分類されるのが陽灯だ。

実際に関わると彼の良さがよく分かってしまう。本人が苦手なだけでしかないが嘘を言わず、愚直なまでに素直で純粋。何よりとびっきりのバカだ。

はっきり言って悪感情を抱くのがバカバカしくなるし、仮に喧嘩になっても陽灯は決して誰かを殴るということをせずされるがまま。

どんなことがあっても許せる器。

見返りを一切求めず誰かのためだけに全力で行動する姿。

その在り方が眩しくて、だんだんとそういった人物は減っていった。

無論、人が人である限り好き嫌いというのは千差万別。

陽灯の在り方や性格が苦手だったり嫌いなものは居るが、表立ったものはない。

まぁ下級生には喧嘩を仲介してくれる人みたいな印象も抱かれたりはしてるのだが---何はともあれ、陽灯はちゃんと神樹館小学校の一員になれたと言ってもいいだろう。

桜が散った春。

陽射しを浴びながら見上げた空は大きく広がり、翳りがなかった。

 

「今日も頑張ろう、巨人さん」

 

---神世紀298年。

四月。

ここから始まるのが始まりの物語。

終わりの物語ではなく、未来へ託す物語だ。

どんな結末を迎えるかなど、誰も知る由はない。

なぜなら既に、歴史が変わっている。神である神樹も、とある存在も。

正体不明の存在や過去に現れた怪獣や光の巨人。

その誰もが知らず、未知の歴史。

それでもきっと、彼ならばより良い未来を創れるだろう。

どんな時も明るく、人を笑顔に出来る彼ならば。神ですら思いやり、友で在ろうとする彼ならば。

その結末は彼が夢見る英雄(ヒーロー)のように。

御伽噺に出てくる勇者(ヒーロー)のように。

大円団(最高のハッピーエンド)を迎えられるかもしれない---

 

 

 

 

 

 

 





○遡月陽灯
権力や権威に恐れることなく相手をちゃんと知った上で、園子を『乃木家の園子』ではなく『一人の女の子』として接することで友達になった。
一週間であだ名呼びに変わってる二人の様子にはクラスメイト全員が驚いた模様。
ちなみに進級時には既に小学校の中で有名人。
人助けをしまくった結果男子からは信頼され、女子から人気はあるが、告白されたことはない。その理由は……下記の通り、そういうことです。
むしろ陽灯に告白出来る人は正しく勇者だと思う

○乃木園子
元々転入生ということで気になっていたが、話しかけるタイミングがなく観察ばかりをしていた。
しかし陽灯は毎日一言だけでも会話をしにきてくれ、家の事を関係なく受け入れてくれたことから、本当の意味で初めての友達が出来た。それもあって陽灯は他の者たちよりも彼女の中では特別なのだろう。
ちなみに陽灯のお陰で喋る相手はめっちゃ増え、以前よりも子供らしく楽しそうな姿が目撃されているとか。
何より、陽灯とあだ名を呼び合うようになって友達になって数日後、彼女は陽灯とほぼ一緒に居ることになってたりするのだが……陽灯が女子からの人気が凄いことになっていったことから理由は察せられるだろう。



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「嚆矢」

新しいウルトラマン出ましたね、ウルトラマンアーク。鎧も纏うとかかっこいい。何より二週(作者は配信2週間前のを連続で見てる人なので)連続ジェネスタのネクサスはやばすぎる。惚れた。
ところでこの作品終わりそうですか? ギャラファイ4出る頃には終わってます(適当)





 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 第 9 話 

 

嚆矢

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもと変わらぬ朝を迎え、陽灯は体を伸ばして時間を見ると時刻は4時だった。

小学生なのもあって深夜に外を出るのは禁止されているため、陽灯は基本的に22時くらいには寝ている。

欲を言えばあと二時間くらいは外に出たいと密かに思ってはいるが、不安にさせたくない気持ちもあってそれは控えてることにしていた。

睡眠時間的には6時間ほどか。子供と考えるならばもっと寝るべきだが、これでも彼は寝ている方なのだろう。

 

「巨人さん、起きてる?」

『---どうした?』

「ううん、気になっただけなんだ。巨人さんが休めてるなら、いいんだけど…見えないからさ」

『…そうだな、少なくとも長くキミの中に居たお陰である程度回復することが出来た。もしヤツが再び現れても戦えるだろう』

 

ヤツというのは陽灯の記憶の中に存在する怪獣。

自身を殺し、多くの人々を殺した上に甚大な被害を齎した存在。

 

「そっ、か……」

『…心配はいらない。やつも回復しているということだが、 陽灯は何もしなくていい。その時、私はキミから一時的に離れよう』

「違うよ」

『…む?』

「俺は離れない。その時は俺も巨人さんと戦うよ。俺はキミと居なければ生きられないんでしょ? だからそれしかないなら、やるよ。ただね、巨人さんが心配だったんだ。戦うのはきっと痛いことだし苦しいことだと思うから、俺は巨人さんに何をしてあげられるのかなって。守ってくれるキミに何を返せばいいのかなって」

『---』

 

強い眼差しだった。

いくら巨人の力で死から逃れたとはいえ、自身を殺した元凶を相手にする可能性が出ている。

にも関わらず恐怖も怖気つくこともなく、ただ巨人を心配する。

とても心優しい彼らしい姿だった。

 

『必要はない』

「え?」

『私はもう、キミにたくさんのものを貰っている。初めて会った時から、今も』

「…そうなの?」

『無論だ』

「そっか、じゃあ…よかった!」

 

それがなんなのかまでは深掘りせず、ただ励ますための嘘ではなく本当のことだと理解しているのだろう。

陽灯は嬉しそうに笑顔を浮かべて、布団から出ると畳んでいく。

陽灯はきっと自覚していない。

彼の変わらぬ笑顔がいつも誰かを救っていることを。誰かを照らしていることを。陰りを消し去っていることを。

それが、宇宙人にすら影響を与えていることを。

共に毎日を過ごす日々が、それだけ心地が良いということを。

 

 

 

 

 

 

 

陽灯が部屋から降りてくると、既に数人の使用人が仕事をしている。

朝から夜まで、というわけではなく朝にしか会えない人たちも居るからこそ陽灯は早起きなのだ。

無論、別にお城というわけでもないのでそんな朝に10人も20人もいないが。

朝昼晩の合計ならば超えているかもしれないが。

 

「おはようございます!」

 

いつものように笑顔を浮かべながら元気よく挨拶を交わすと、気づいたようでその場に居合わせた者たちに優しげな表情を浮かべながら挨拶を返される。

陽灯はそれから目的の女性を見つけると、声を掛けた。

 

「おはようございます、よく眠れましたか?」

「うん、ばっちり! ね、那由さん。澪さんや夜霧さんは?」

「奥様と旦那様はまだ就寝しております」

「あー…大丈夫なの?」

「お仕事が長引いてたようなので…」

「そっか…しょうがないね。起こさないであげてね」

「はい。それよりも陽灯様は御二方が居らずとも朝食はちゃんと召し上がってくださいね。また心配させてしまいますので…どうせ今日も抜こうとしていたでしょう?」

「うっ……そ、そんなわかりやすい?」

「それはもう。半年以上も世話をしていたら」

 

使用人の中でも、陽灯と長くいる人物はいる。養親が仕事柄ずっと居ることが出来ないのあって、いわゆる役割分担である。

身の回りの世話として付けられたのが三名ほどおり、那由と呼ばれた女性は黒髪で髪が短く真面目そうな雰囲気を感じさせる人物だ。

基本的には朝しか居ないので、陽灯はいつも休みの日にたくさん話している。

だからか、何度か朝飯を抜いて家を出たことは思い切りバレていた。

 

「そ、それより! いつも言ってるけど、様なんていいよ! 俺は俺だし…」

「それも同じです。仕事は仕事ですから」

「むむ…一回だけ」

「ダメです。早く召し上がってください」

「はーい……今日はどんなのかなー」

「今日は丹花さんですから、和食かと」

「そっか! ありがとう! またねー!」

 

教えてもらったことにお礼を述べると、陽灯は最後まで笑顔で那由の方を見ながら手を振って食卓に向かう。

その姿を那由は毅然とした態度で頭を下げるものの、口元は緩んでいる。

仕事に真面目なだけで、陽灯を思いやっていることは一目瞭然だった。

そうして仕事に戻ろうとしたところで、同僚にそこを指摘されてからかわれるのはもはや日常である。

 

 

 

ご飯を食べ終わると、陽灯はちょっとのんびりしたり家事を手伝ったら慌てて追い出されたりはしたが、歯を磨いて顔を洗い、しっかりと準備する。時刻は7時ほど。

いつもよりは遅いが、普通に行けば間に合うだろう。

 

「じゃあ、行ってくるけど澪さんや夜霧さんにはちゃんと行ったって伝えておいてね。二人は心配しなくていいって!」

「はい。気をつけて行ってらっしゃいませ」

「うん、那由さんもお仕事終わって、帰る時気をつけてね! 俺に出来ることあったら手伝うから!」

「……学校でしょう」

「あっ……と、とにかく出来る時なら!」

「そうですね、その時が来れば」

「うん! 行ってきまーす!」

 

いつものように明るく出ていく陽灯の姿を那由…と他の使用人たちも見送る。

いつも明るく学校へ行く彼の姿は子供らしいというのもあって、彼女らには一種の癒しだ。

本人は全く分かってはないが、陽灯が来てから遡月家は少し変わったというのは全員の共通認識になっている。

主に元気一杯のお人好しのお陰で賑やかになり、特別悪かったというわけではない全体の空気はより穏やかになっていったのだ。

つまり、彼は清涼剤だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家を出ると、陽灯は空を見る。

空は晴れ渡っており、雨雲はひとつもない。

春の陽射しは心地が良く、眠気がやってきそうだ。

しかし陽灯は学校に行く必要がある。

何より絶好の人助け日和なので、そんなことをしている暇などない。

 

「今日も頑張ろう、巨人さん」

 

残念ながら春を知らせる桜は散ってしまったが、春を迎えたという証明でもある。

四月とは出会いの季節である。

もう進級した後だが、新しい出会いといえば新しい一年生。

陽灯ですらまだ数人くらいしか話せてないが、困ってることがあったら助けてあげたいと思っている。

…まぁ、既に数人と知り合ってるのが可笑しいのだが、それはもう陽灯なので今更だろう。

 

「---あら? 陽灯くん?」

「おわ……裕香(ゆうか)さん…と」

 

学校に向かおうと敷地内から出たところで、タイミングが合っていたのか声が聞こえて横を向くと、一人の女性と小さな子供が居た。

黒紫の女性と薄い黒い髪の少年だ。

家の場所からして隣人だろう。

陽灯は少年に近づいて背を合わせてから口を開く。

 

「おはよう、紹夢(つぐむ)くん」

「…! おはよう、陽にぃ!」

 

話しかけられるということは知り合いである証拠であり、紹夢からは慕われてるような呼び方をされていることから間違いなくいい関係を築いてるのは想像に絶やすい。

 

「うん、元気そうだ。今日は大丈夫そうですか?」

「ええ、本人も体調がいいみたいで。無理をしてるわけでもないみたいだから」

「そっか……俺がどうにかしてあげられたら、いいんですけど」

 

陽灯は事情を知ってるようで、紹夢の頭を優しく撫でると彼は嬉しそうにしている。

しかし陽灯の表情は優しげでありながらも、何処か悔しそうだ。

まるで手が届くのに何も出来ないのが歯痒いような。

 

「紹夢と遊んでくれるだけで、十分だから。いつもありがとうね、陽灯くん。息子と遊んでくれて」

「いえいえ、生まれつき体が弱くとも悲観して生きて欲しくないんです。気持ちは分からないけど…いつか治るかもしれないですし…笑顔で生きた方が楽しくいられると思うので。俺に出来るのは、紹夢くんに笑顔を与えてあげられるだけ。裕香さんは紹夢くんのためにいつも頑張ってて、凄いと思います」

「そんなこと…その笑顔を与えるっていうのはとても大変なのよ。私にはとてもじゃないけれど難しいから。親としては、きっと私は良くないのでしょうね…。でも陽灯くんがこの子と仲良くしてくれるようになってから、多かった暗い顔が無くなって笑顔が増えたわ。それがとても嬉しい。紹夢ね、いつか陽灯くんみたいなヒーローになるって毎日言ってるのよ」

「…へ? い、いやいやヒーローなんて。俺はまだまだ…それに裕香さんだって、良いお母さんです」

「ふふ、ありがとう。けれど陽灯くん。貴方はこの子にとってはヒーローなのよ。いえ、きっとこの子だけじゃないかもしれない」

「あはは…」

 

なんと言えばいいのか分からず、照れたように陽灯は頬を掻く。

会話から察するに裕香の息子である紹夢は生まれつき体が弱い。

先天性のもであり、治療の見込みがないのであろう。

実際に陽灯が出会った時は酷い顔だったのは彼も覚えており、できることをやろうとした結果遊んで仲良くなっただけだ。

陽灯自身、自分がそんな大それたものになれたなど思っていない。

ヒーローとは自身の体に宿る巨人のような存在なのだと陽灯は常々思っている。

 

「そういえば、最近澪せんぱ---さんはどう?」

「澪さんですか? 仕事で忙しいみたいですけど、元気というか…いつも優しくしてくれます」

「そう……変わらないのね。あの人は…」

 

会話を変えるように話が移行し、陽灯は素直に答えると裕香は遡月家の家を見た。

 

「よく、聞いてきますけど…直接会わないんですか?」

「それは、ちょっとね…あの人と話すのは、心の準備が必要だから」

「? 何かあったんですか?」

「ううん、そういう訳じゃないのよ。ただ…本当はもっと上に行ける人なの。下で使われるような人じゃない。出世を願わず、人としての幸せを選んだ。それが悪いなんて思わないし、陽灯くんのような子供を養子に出来て前よりも幸せそうなのは嬉しい。だけど、とても優秀で優しくて、賢くて判断も正確で……とても眩しい人で…学生の頃から何も変わってなくて、今もあの人は私にとって---ってごめんなさい。気にしないで」

「は、はい……」

 

若干の陰があったことに違和感を覚えるが、陽灯は自身が踏み込んでいいものでは無いと無意識に理解する。

当人たちの問題というよりは、感情の問題だ。他者が口出ししていいものでは無い。

陽灯はこういったことは何となくで分かる。ただそれでも。

 

「…よく分かりませんけど、澪さんは裕香さんのこと話すとき、とても懐かしそうで、嬉しそうで楽しそうでした。話す機会があれば話したら、どうですか? 俺も手伝いますから!」

「……ありがとう。その時はお願いするかもしれない」

「はい!」

「ただ、あいつ(夜霧)には知られたくもないし会いたくもないから内密に、ね?」

「はっ……はい…」

 

何があったのかまでは分からない。

しかしそう言って笑顔を向けてきた裕香は、笑っているのにも関わらず後ろに何かが見えるくらいの怖さがあって、陽灯の頬は若干引きずった。

なんなら名前を呼ぶ時にすら棘を感じる。

仲が悪いのだろうか、とも思ったが触れない方が良いと頭の中から警報が出たので陽灯は大人しく従った。

 

「引き止めてごめんなさい。陽灯くん時間は大丈夫?」

「え? あ…やばっ!? ご、ごめんなさい。俺そろそろ行かないと! 紹夢くんもまた時間ある時来るから、その時遊ぼう!」

「うん! やくそく!」

「気をつけて行ってらっしゃい」

「もちろん! 裕香さん、ありがとうございます! そちらも気をつけてー!」

 

時間を指摘され、携帯で時間を見た陽灯は慌ただしく立ち上がると、紹夢に約束をしてから走り去っていく。

裕香は改めて遡月家を見ると、ある部屋に向かって冷たい目を向けてから気を取り直すように紹夢と手を繋いで歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---鷲尾須美の朝は早い。

毎朝5時に起床すると、裏庭の井戸へ行く。

そこで身を清めるのが日課であり、その後徒歩で神社に向かうと祈りを捧げる。

帰宅してからは朝食の準備をする。

料理をするのが好きだった、というのもあるが一番の理由はやはり鷲尾家の両親が洋食派という部分が大きかった。

己が米と味噌汁こそ至高の朝食だと思っているからだ。しかし親の作るものに文句を言うなど言語道断。

真面目な彼女が出した結論は、不満があるなら自分自身で責任を持って作るということだった。

今では両親も須美の料理を楽しみにしており、洋食から和食派に好みを塗り替えるという彼女の作戦は成功しつつある。

そうして登校準備を済ませれば、いつものように通学するだけだ。

神樹館六年一組。

それが須美が通う学者とクラスの名前である。

世界の全てである『神樹』の名前がついている学校なので格式は高い。

普通の学校と造りは変わらないが、警備は厳重で衛生管理なども隅々行き届いている。

 

クラスの前に着くと挨拶をして入る。

すると同級生も挨拶を返してくれる。男女とも分け隔てなく話しているが、何かと話題が尽きない学校というのもあるだろう。

残念ながらまだ想い人のような存在は居ないが、充実した学校生活だった。

しかし優等生の須美も人の子であり、三十人いるクラスメイト達の中で苦手な方に分類されてしまう人物が二人---いや三人居た。

その中の二人は女子だが、もう一人は男子だ。

そのうちの一人は今まさに須美の隣の席で机に突っ伏して寝ている。

須美に言わせれば惰眠を貪っていると表現出来てしまう。

ケチをつけたいわけではないので、誰だって眠たい時はあると自分自身に言い聞かせる。

細かいことに目くじらを立ててしまいそうになる。そんな自分を恥じるが、だからこそこういう気持ちになる隣のクラスメイトが苦手だった。

その同級の体がビクンと動く。

 

「あわわっ、お母さんごめんなさい!」

 

そんなことを叫びながら慌てたように両手を合わせている。

突然のことにクラスが静かになった。

 

「…はれぇ? 家じゃない〜…?」

「ここは教室で、朝の学活前よ、乃木さん」

「てへへ…おはよう〜鷲尾さん」

「おはようございます」

 

冷静に突っ込みを入れる須美に隣の女子は照れたように笑いながら挨拶をしてくる。

当然真面目な須美はちゃんと返した。

上品な顔立ちに似合わぬドジっ娘ぷりを見せつけた彼女は乃木園子。

この国を支える組織である大赦の中でもトップクラスの発言力を持つ乃木家の威厳からは想像も出来ないほど、彼女は常時ぼや〜っとしている。

これでもマシにはなった方なのだが、ある人物が居ない時の彼女はだいたいこんな感じだった。

苦手な理由のもうひとつの理由は“お役目”に就いているということ。

天然系な性格を見ていると神聖なるお役目が果たせるのか不安になってしまう。

そうこうしているうちに、担任の先生が挨拶しながらやってきた。

去年と同じ担任で二十代半ばの凛とした女性。安芸(あき)先生だ。

普段は厳しくて子供たちから恐れられているが、生徒想いのことは伝わっているので嫌われてはいない。

そして日常の行事である学活がはじまる。

それを知らせる号令を日直がかけようとしたとき。

 

「はざーっす! ま、間に合ったっ!」

「三ノ輪銀さん、間に合っていません! まったく貴女は…」

 

教師の後で駆け込んできた三ノ輪銀という少女は、ばん、と軽く出席簿で頭を叩かれていた。

時代が時代なら体罰になりかねないものの、この時代には過度でなければ問題はない。

クラスの皆がドッと笑い、銀は早足に自分の席に戻っていくとすぐにクラスメイトに話しかけられていた。

その周囲がぱぁっと華やぐ。

底抜けた活発さが彼女の魅力なのだろう。それが周りにも影響を与える。

しかし教科書を忘れたという言葉が聞こえ、須美は底抜けすぎではないかと思った。

ただのクラスメイトなら気にしないが、彼女は大事なお役目に就いている三人のうちの一人。当然ながら、お役目についてるということは大赦でも名誉ある家のひとつである。

その銀の姿が須美にはいい加減に見えてしまっていた。

そのようなアクシデントはあったが、気を取り直して日直が号令をかける。

 

「起立」

 

生徒たちが立ち上がる。

 

「礼」

 

生徒達が敬意を表すように頭を下げる。

 

「拝」

 

そして今度は、礼をしたまま手を合わせていた。

 

「神樹様のおかげで今日の私たちが在ります」

 

感謝の言葉を世界の全てである神樹様に捧げる。

 

「着席」

 

ここまでが一連の流れだった。

しかし皆が席に座ろうとした瞬間、扉の方から勢いよく音が鳴り響く。

突然の音に固まり、好奇心に駆られて全員の視線が向けられると一人の男の子が息も絶え絶えで両膝に手をやりながら居た。

 

「お…おは、はぁ…よ、よう…ござ、ます!」

 

顔を挙げながら挨拶をした男の子はまだ春だというのに酷く汗もかいている。

身長は男子にしては割と低めであり、黒い髪に何の色にも染まっていない黒い目をしている。

容姿は十分優れているだろう。

 

「間に合っ」

「間に合ってません」

「えぇ!? って、やばっ!?」

 

驚いた際になにかに気づいたように声を挙げた彼の服が動き、襟元から何かが出てきた。

 

『ワンッ!』

「………」

「………」

 

空気が固まるとはこのことか。

襟元から出てきたのはまだ小さいチワワだ。つぶらな瞳は愛くるしさを一層強くするが、今はそんな時じゃなかった。

バツが悪そうな顔をする男の子と呆れたようにため息を吐く担任。

そして数人を残して一斉に駆け寄るクラスメイト。

もはや授業の空気が消え去ってしまい、男の子は一瞬にして囲まれた。

残った中には須美も居たが、呆然とするしかない。

彼こそ、須美が苦手な最後の一人。なんなら、一番苦手かもしれない。

別に彼が悪い人物というわけではなく、今みたいに純粋に予想が出来ないのだ。

誰がこの学校に犬を連れてくるのか。目の前の彼くらいしか見たことがない。

しかも間違いなく拾い犬だろう。

さすがに収集が付かなくなると判断したのか、担任が止めに入ることで生徒達は先程来たばかりの犬を抱えた男の子を残して戻って行った。

男の子は向き合うと、真剣な顔で口を開く。

 

「先生! この子寂しそうにしてて…だから俺見捨てられなくて…ちゃんと飼い主も探すしそれまで世話するので出来るのであれば---」

「……職員室で事情を話してきなさい。ただし許可されたとしても放課後ちゃんと迎えに来ることが条件です」

「! はい! 失礼します!」

 

今度はまたそそくさと教室から離れていく。

離れていく足音的に、走っているのだろう。

 

「あと、廊下は歩くように!」

「すみませーん!」

 

安芸の声に反応して声だけが返ってくる。

嵐のような人物だった。クラスメイトたちはそんな彼に笑っていたが、担任はため息を一つ吐いて気を取り直すように授業を始める旨を伝えると---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如と教室内が不気味なほどに静かになった。

周囲の動きが止まり、瞬きすら誰もしていない。

 

「みんな?」

 

一瞬何が起きたか分からずに声をかけてみるが、やはり誰も動いていない。

それどころか壁に掛けられた時計が止まっている。

秒針は動いてなければならないはずなのに、全てが止まっているのだ。

それが意味することはただひとつ---

 

「来たんだ、私たちがお役目をする時が……」

「ねぇねぇ。これって敵が来たってことじゃないの?」

「三ノ輪さん…動けるのね」

 

そう、つまりはそういうことである。

二人が動けるということは当然園子も動けるわけで、彼女は呑気に自身の席で欠伸をしていたが。

しかし敵が来たということが正しければ時間停止現象の後にやってくるのが、神樹様の力によって行われる大地の“樹海化”。

それを理解してすぐ、三人……いや、世界を極彩色の光が呑み込む。

その光に三人はとても目を開けては居られず……再び目を開けた時、先程まで居たハズの神樹館の面影など何処にもない、巨大な樹木に埋め尽くされた世界が広がる。これこそが“樹海化”。神樹様を狙う敵と戦う為のバトルフィールドである。

 

「うわ〜すごっ!」

「わ〜初めて見た〜。綺麗だね〜これが神樹様が作った結界の世界?」

「樹海…!」

「凄いね〜全部木だ---あっ。あれが大橋かな?」

「多分! だけど分かりやすくていいな」

「神樹様も分かりやすいね〜」

 

樹木の他に唯一橋だけが無事だった。

さらに須美たちがいる位置からでもうっすらと見える樹海の奥地には神樹が大木となり、神々しく光り輝いていた。

 

「あれが……」

「ええ。私達人類の……敵」

 

結界の向こうと四国を繋ぐ大橋、その上を進む……トゲとアンコウのような触覚の生えた青い巨大なゼリーに同じく巨大な水玉をくっつけたような、なんとも説明に困るビジュアルのナニカ。

水瓶座の名を冠するアクエリアス・バーテックスと呼称される存在である。

このバーテックスが大橋を渡りきり、神樹様へと到達した時、人類は滅びる。敵が現れた以上、こうして呑気に喋っている場合ではない。

三人は頷いた後にスマホを取り出す。

その画面の中心には花のマークが描かれたアイコンが表示されており、事前に説明されていた三人は迷い無く変身アプリをタップした。

瞬間、スマホから花弁と共に光が溢れ、三人の体を包み込む。

その光が消えると三人の姿は先程までの制服とは違う、それぞれ別の色合いの服を着用していた。須美は薄紫、園子は濃い紫、銀は赤を基調とした服装。

さらにそれぞれの手には武器が存在しており、須美は弓。園子は複数の穂先が浮いた槍。銀は双斧だ。

三人の中でとてつもない力が湧く。

神である神樹様の力を与えられて人類が造り出したシステムなのだから当然だ。

ただこの力を現在使えるのは三人しか居らず、今も戦えるのは三人しかいない。

 

「合同訓練はまだだったけど…」

「敵がご神託より早くに出現してしまったから」

「まぁ大丈夫だよね」

「二人とも、慎重に戦いましょう」

「よーし! ぶっ倒す!」

「あ、ミノさん待って〜」

「ちょっと!? 待ちなさい!」

 

昂っているのは恐らく全員が同じだ。

しかし聞いてるのか聞いてないのか先に行く二人を須美は追っていくと、身体能力が向上している影響で数分かからず到着する。

すると目の前には遠巻きでも確認できたバーテックスが存在していた。

遠くからでもはっきりと見えただけあり、その姿は奇妙かつ巨大。

小学生の小さな体と比べるとあまりに差がありすぎており、例えるならば蟻と像が想像しやすいか。

しかし三人はこれからこれほど巨大な相手を幾つも相手取らなければならない。

こんなところで怖気付いたり先のことを考えている余裕はない。

目の前の敵に集中しなければ、まず次が訪れないのだ。

 

相手が何かをする前より早く、銀が速攻する。

そんな銀に対して次々と水球を生み出すバーテックスだが咄嗟にジグザグに動くことで避け、跳躍しながら中心のゼリーのような水を斬り裂く。しかし斬られるよりも早く水球を盾としたのもあって、深く切ることは出来なかった。

それどころか彼女が着地する頃には新品同様に再生し、元通りとなっていた。

 

「浅かった! くそー再生とかずるいだろ!」

「ミノさん、危ない!」

「園子! 助かっ」

「あっごめん、これ無」

 

浅い手応えとあっさり再生した姿に怒りを向けて地団駄を踏む銀目掛け、バーテックスは水流を放つ。それを事前に察知した園子は銀の前に出て槍を突き出し、複数の穂先を傘のように展開、水流を受け止める。が、園子の小さな体では踏ん張りが利かず、数秒と保たずに2人まとめて水流に流されてしまった。

 

「二人共!?」

 

二人が流されたことに焦る須美は矢を番えながら水球を避けるように走り、矢を連続して打つ。

水球によって勢いが殺され、攻撃が防がれるも何発かは直撃する…が、やはり簡単に再生されてしまう。

仮にダメージを与えても、大きなダメージにはならない。

こっちは避けるので精一杯なのにも関わらずだ。

それは須美の心に大きなダメージを残す。

 

「そんな…防がれ……いや、直撃してもこのままじゃ…あうっ!」

 

反撃として須美目掛けて放たれる水流。

一度見ていたというのもあったお陰で須美は何とか反応して避けることに成功するが、躓いて転んでしまう。

しかし自分たちが諦めては世界が終わってしまうと自身を奮い立たせると直ぐに体を起こし、バーテックスを睨み付ける。

その瞬間須美の戦意を砕くように、ほんの数ミリ横を水流が通り過ぎ、橋の表面を砕いた。

 

(私達が諦めたら……世界が終わるのに……)

 

橋の向こう側、バーテックスがやってきた方向から少しずつ橋が黒く染まっていっている。その現象は“侵食”と呼ばれ、侵食が広がると現実世界に影響を与え、不幸や事故という形で現実に被害が出る。

 

(こんな敵……どうすれば……)

 

須美に少しずつ迫るあまりに巨大かつ強大な敵。

お役目を成し遂げるという使命感を持ち、世界を守る為だと奮起して挑んだ戦い。

須美自身、それを誇りにも思っていた。

だが敵は攻撃を与えても再生するせいでダメージが入っているのか分からず、敵の一撃は重い。現に須美だって掠っただけなのに頬から血が流れている。

弓も斧も槍も軽い攻撃じゃ倒すことは出来ず、須美にはこの状況をひっくり返す策が思いつかなかった。

考えれば考えるほど絶望というのものが広がってゆき、心を蝕んでいく。

戦意が喪失しかけ、それによって行動すらも停止してしまった。

しかしここはどこだ。

戦場といってもいい場所であり、戦いの場で無防備な存在を放置することなどありえない。

敵からすれば自身の目的を妨げる敵を葬れる絶好のチャンスに他ならない。

案の定、バーテックスは須美目掛けて水流を飛ばしてきた。

 

「あ---」

 

明確な死のイメージ。

直撃すれば死。運良く助かっても重傷。

戦意が折れかけていた須美は気づいても体は動いてくれず、そのまま須美はバーテックスの水流によって---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鷲尾さんッ!!」

 

当たる直前、誰かの声と共に須美の体が勢いよく横に倒れる。

次に来るであろう傷みに誰かなのかを確認するより早く目を閉じてしまう。

 

(あれ……痛くない……?)

 

いつまで経っても、痛みが来ない。

誰かの声が聞こえた。

しかし痛みがないということは即死か。そう考えるには自身の体から感じる別の温もりが死を否定する。

ならば何があったのかそれを確認するように須美は目を開けると、そこには。

 

「っう……よ、かった。間に、合った……!」

「さか、つき…くん……?」

 

息切れを起こしながら、このような場ですら安心したように笑顔を作る本来この世界に居るはずもないクラスメイトがそこには居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




〇遡月 陽灯
使用人含め、隣人との仲も良好。既に入学してきた一年生とも交流がある。つよい。バケモノかな?
ただし、彼にも救えないものは存在するので、彼自身は何も出来ないことを悔やんでいる。

〇光の巨人
長く陽灯くんの中に居たので、ある程度の回復はしている。
が、残念ながら力は取り戻してない。
ちなみに分離したら陽灯くんは(巨人が戻らないと)死ぬ。一時的なら仮死状態になるため、三分くらいなら問題ないと思われるがしないので設定だけ。
これは真木同様、陽灯くんが同化時に既に死んでるため。

〇鷲尾須美
原作主人公。
実は陽灯との仲はさほど良くはなく、むしろ苦手。
行動が予想出来ないのもあるが、遅刻も多すぎて気になるため。
なお未来

〇裕香さん
隣人。
何やら澪と関係があるらしく、夜霧を嫌ってる様子。
激重感情持ってると思われる。

〇紹夢くん
陽灯のことを『陽にぃ』と慕う裕香の息子。
()()()()()のため、病弱体質。陽灯がどう足掻こうとも救えない人物でもある。
ただ遊んだだけ、と陽灯は言っていたが、同じ目線で病気の有無関係なく優しく接してくれたことが子供にとってどれだけ救いになるのか。
少なくとも紹夢の『心』は救われてるため、陽灯という人物はまさにヒーローそのものなのである。



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「変異」


正直ザ・ネクストでもバーテックス一体なら勇者と協力したら問題なく勝てると思うんですよね。アンファンスなら苦戦するでしょうが、ジュネッスになったら撃破するわけじゃないから飛行能力解放+巨大化で単体でも勝てるでしょうし。
そもそも紡絆くんのポテンシャルってわすゆネクストから二年後の話であるゆゆゆネクサスにおいて、この時の経験が体に残ってると考えたとしてもネクサスのアンファンスであのスペースビーストを撃破(うち一体は上級)するレベルなので陽灯くんならアニメでいう『たましい』の話までは余裕でしょう。
え? なんでこんな話をしたかって? つまり、そういう(タグの通りという)ことです。
ちなみにこの話を書いてて思いついたBADENDルートあるんですけど、書くか分からないから後書き載せとくね。







 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 第 10 話 

 

変異

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数刻前。

職員室に向かう陽灯は機嫌よく歩いていた。

腕の中にはチワワを抱えている。

そんな機嫌よく歩いていく場所でもないはずだが、もしかしたら預かってくれるかもしれないのだ。

もしダメと言われたらこっそり飼い主探しをするつもりだったが、誰かに預かってもらった方が安心出来るというもの。

 

「よかったねー君を大切に飼ってくれる人絶対見つけてあげるからね…ってうわ!?」

 

自身のことを考えてくれているということは人では無い犬にも理解されているのか、甘えるように頬を舐められると陽灯は擽ったそうにしながら笑っていた。

すると。

 

『クーン……ワン! ワンワン! ワンッ!』

「わ、わわっ!? ど、どうし---」

『……! 陽灯!』

 

急に吠え出した犬に陽灯はあやそうとしていたが、自身の内から切羽詰まったような呼び声が聞こえて遅れて陽灯も気づく。

あの、あれほどの力を持っていた巨人が警戒しているのだ。そのうえ言葉には表せないナニカを感じた陽灯は急いで犬をランドセルの中に入れると地面に置いた。

 

「ごめんね。絶対に迎えに来るから、大人しくしてて! 大丈夫、何とかするからね!」

 

直ぐに立ち上がった陽灯はそれを伝えると、警戒するような鳴き声が途切れた。

犬を見てみると陽灯を見ながら停止しており、近くの教室を覗けば生徒も先生も全員が動きを停めている。

 

「これは……? それにこの音…鈴の音?」

 

風鈴のような音。

全てが停まっている世界で聴こえてきた音に陽灯は首を傾げる。

全く状況を分かってないどころか知らない状態だった。

 

『外だ』

「外?」

 

言われて窓に近づくと、大橋の方向に帯電が生まれており、次元を裂くような線が一瞬出来るとそこから一気に世界を塗り替えるような黒いモヤと色とりどりな虹を思わせる光が発生する。

 

「…綺麗だ」

『これは…結界だろう。私が持つ力とは似て異なるものだが、このようなことを出来るのは神樹のみだ』

「神樹様が……そっか…。じゃあきっと、俺のやるべきことなんだ。一緒にやってくれるかな? 巨人さん」

『…いつだって私は君の味方だ』

「ありがとう、巨人さん!」

 

極彩色の光が迫る中で、確かな確信を持ちながら自身のやるべきことを定めた陽灯は見続け、光は陽灯を、世界を覆い尽くした。

瞬間的に目を開けられないほどの眩しさに閉じてしまったが、目を開けた時には異質な空間が存在していた。

普通ならば異質で異常で色とりどりに絡み合った樹木の世界。

樹海化現象。

それが陽灯が巻き込まれたもので、この世界こそ樹海だ。

そんな世界で感じたものは、懐かしさだった。

 

「このためのここだったんだ……」

 

そう、陽灯は知っている。

何度も何度も神樹という存在と、友達と話すために何度も来たことがあったから。

半年以上も前、夢で見れなくなってしまった世界でもあった。

ただ違うのは何一つ色のなかった灰色ではなく、この世界は色がある。

 

『陽灯、問題ないか?』

「大丈夫、それよりも---」

 

心配する声に返事しながら、陽灯はもうとっくに気づいていた。

言われるまでもない。

どうすればいいか分からなくて、何を言えばいいか分からなくて。

でもやっぱり、自分らしく在ろうと陽灯は混じり合う色んな感情を投げ捨てて振り向きながらとびっきりの笑顔を浮かべる。

 

「久しぶり、神樹様」

 

そう、陽灯の真後ろに存在していたのは圧倒的な大きさで聳え立つ大木。

神々しく光り輝くこの世界に恵みを与え、世界の全てでありながら神そのものである存在。

もう二度と会えないと思っていた、友人だった。

神樹はただそこに聳え立つだけで陽灯に何も反応しない。そのことに悲しそうな目で陽灯は見ていた。

 

「やっぱり…何も反応してくれないんだね。うん…けど、大丈夫だよ。俺がここにいる意味は何かあるはずだもんね」

 

その意味を探すべく陽灯は周りを見渡す。

木々しかない世界で、唯一瀬戸大橋だけが残っている。

その事に違和感を覚えて注目するが、遠すぎて何も見えない。

 

「巨人さんは分かる?」

『…向こうの方に、ナニカがいる。おそらく、敵だ』

「向こう?」

 

言われた先を見ると、やはり何も見えない。

いくら肉体強化があっても、完全に人外の領域にいるわけではない。

しかし不思議と嫌な気配だけは感じていた。

ドクン、と何かが鳴る。

あの方向に行かねばならない。行かなくちゃならない、と急かせるものがあった。

 

『どうやらキミの同級生たちがいるらしい』

「! だったら行かないと!」

『………』

 

その言葉を聞いた瞬間、陽灯はもう迷いがなかった。

動く前にもう一度神樹を見て、傍まで寄る。

 

「敵がいるってことは狙ってるってことだよね、神樹様。俺が守ってあげるから、安心して! ずっと話したかったのに話せないのは残念だけど、変わらないよ。君はずっと俺の友達だから。困ってる友達を助けるのに、理由なんていらないから。だから、行ってきます」

 

手を添えて、想いを伝えるように抱きつく。

不思議な温もりを感じさせる。

それは神も生きているという証でもあって。

---伸びてきた小さな枝が陽灯を掴むとゆっくりと引き離した。

 

「……神樹様? んぇっ!?」

 

割れ物に触るかのように、陽灯の頬をひと撫でする。

突然の行動に目を丸くするが、直ぐに微笑んだ。

 

「……きっと、みんなが幸せになれる世界を掴むからね。俺が必ず未来を守るから。そのためにここに来たんだと思うから!」

 

宣言するような発言に、枝は撓う。

喜びでも嬉しく感じるわけでもなく、ただ悲しむように。

陽灯はそれを不安に感じてると思って、気合を入れるように振り向くと強い眼差しで駆け出した。

背後では枝が伸ばされていた。

人の手のように、駆け出した陽灯を掴むように。

しかし途中で力を失ったように折れる。

それをするのは、彼を止めるのは間違いだと。

神樹からは遠くなっていく姿しか見えない。けれどそんな彼から、眦と思わしき部分から一筋の光が線のようにうっすらと伸びて空気に溶けていたのが見えた。

 

「あれが……敵!?」

 

さっきまで見えなかったのに、さほど距離が近づいたわけでもないのに、陽灯の目は存在を捉えていた。

確かな異形の存在。自身が知る異形といえば怪獣のことだが、それは違うものだった。

大きさは過去に見た怪獣よりもデカく、二足だった怪獣とは違って浮いている。

顆粒を束ねたような姿で、水瓶の左右に大きな玉が二つあるような見た目。

どこか釜茹でを連想させる存在だった。

 

「それに…あれは銀と園ちゃん! あと…鷲尾さん!?」

 

何か見たことの無い武器や服を着ているが、戦っている。

それを見た陽灯はより加速した。

その速度は人間を超越する。

時速100km/hほど。

瞬間速度は1秒にも満たぬ、人間かどうか既に怪しい。というか動物で有名なチーターを超えている。

 

『水球と高圧水流。後者は私たちでも危ういだろう』

「それでも行かないと。みんなが危ない!」

 

今更死ぬかどうかで止まる彼ではなかった。

速度は増していく。

しかし相手の方が速い。

陽灯の視界には流されていく園子や銀の姿があって、攻撃する須美の姿があって。

 

「……! 神樹様!?」

 

目の前に、巨大な巨木が坂のように出来上がる。

一瞬だけ背後を見たが瞬時に振り向いて、全力で駆け登ると陽灯は両足に全力を注ぎ込んだ。

力を入れ、先を考えない行動に出る。

 

「巨人さん!」

 

自身の中にいる存在に呼びかけて、陽灯は一気に跳んだ。

全力の加速と共に跳躍した影響で肉体にGがかかる。

だいたい5Gほど。

イメージとしてはF1で言うコーナリング時。

ジェット戦闘機のアクロバット飛行と同等といえば分かりやすいか。

やっぱり人間をやめてるかもしれない。

そんな彼は距離を一気に縮め、受け身を取りながら普通に着地するとまた加速した。

対して筋力が発達してるわけでもないのに一切の損傷が見られないどころかさらに速くなっている。

即座にブレーキを掛け、靴の裏底が死んだが気にせずに速度を強引に落しながら次々と跳んでいくと、座り込んでいる須美と今まさに水流を放とうとしている敵の姿が見えた。

速度は既に戻っている。というかあの速度で突っ込んだら危険しかないため、陽灯は自身が出せる全力で飛び出す。

速度を落とさなければ余裕で間に合っていたが、その速度を落としてしまった今、出せる全力からギリギリだ。もしくは届かない。

それは巨人が飛び出す前に教えてくれたので、陽灯は唯一助け出せる方法を取った。

 

「鷲尾さんッ!!」

 

水流が放たれる。

見てきた威力から考えるに人ならば即死。

陽灯の速度はそれほど速くはなく、故に。

横から勢いよく押し倒すように掻っ攫うと鮮血と共に衝撃が襲い掛かる。

咄嗟に須美の後頭部を守るように抱きしめて、先に自身の背を地面に打ち付けることで少しでも勢いを殺しつつしばらく転がると止まる。

 

「っう……よ、かった。間に、合った……!」

 

何とか止まれると、須美を押し倒す体勢になってしまったが、頬以外に傷がないのを見ると息を整えながら心の底から安堵の息を吐く。

すると目を閉じていた須美が目を開ける。

黒い目と翡翠色の目が映り合って。

 

「さか、つき…くん……?」

 

信じれないものを見るかのような彼女に、陽灯はなんて言えばいいか分からなくてとりあえず安心させようと微笑んだ。

 

「無事でよかっ……っつー!?」

「遡月くん!?」

 

が、痛すぎてすぐに顔を歪めてしまう。

そんな顔を見た須美は何がなんだか分からなかったが、気づいたことがあった。

陽灯の横腹辺りから、血がポタポタと流れて勇者服に染み込んでいく。

 

「ご、ごめん…ふ、く……」

 

本人も気づいたのか横腹を抑えながら立ち上がるが、かなり削られている。

当たり前だ、勇者であっても危うい一撃であり、陽灯は生身で受けてしまっている。

彼が取った行動は、鷲尾須美という少女を助けるために自身の肉体を犠牲にするというもの。

 

「そっ…そんなこと言ってる場合じゃ…! なんで、どうして……!?」

『---陽灯』

「く……俺も分からないけど、後で! ひとまずごめん!!」

「え……きゃっ!?」

 

彼女にとっては分からないことだらけで混乱してるのだろう。

何から言うべきかこんがらっていて、陽灯も説明しようにも分からない。

何より内側から聞こえた声に反応した陽灯は痛みを無視して須美をお姫様抱っこで抱えると即座に跳躍した。

軽く5mほどの跳躍。

もはや勇者と同等と言えるくらいだが、ちょうど居た位置が水流レーザーで削られている。

 

「っ…と。ごめんね、鷲尾さん」

 

着地した陽灯はその際に傷が傷んだが、何とか隠れて須美を降ろすと、申し訳なさそうに謝った。

が、須美は愕然と座り込んでいる。

 

「…? 大丈夫?」

「…え、あ……あの…」

「あ、そっか……怖い?」

「っ、う……」

 

色々あって、言葉が出てこない。

そんな須美に陽灯は優しげな顔で背を合わせると、震えるその手を握った。

 

「怖いよね、俺も昔怖いって思った経験をしたことがあるんだ。だけど鷲尾さんはすごいよ、戦ってたんでしょ?」

 

少しでも安心させようと温もりを与えるように、柔らかい手を包み込む。

これでちょっとでも、不安が消しされたらと思って。

 

「俺は逃げようとしてた。怖くて死にたくなくて……たくさんの人を見捨てようとした。なのに俺とは違って鷲尾さんは立ち向かってた。それって、凄い勇気なんだよ。怖くて当然だ、その怖さは決して克服しちゃいけない」

 

かつて現れた、誰も覚えていない怪獣。

あれは今居る敵とは、バーテックスとは全く違う恐怖を感じさせる存在だ。

人が嫌悪する姿を持つ存在だ。

だがどちらも、人類を超越するという点では変わらない。

陽灯は過去に逃げようとした。言い訳をして、自分たちだけを守ろうとした。

しかしある存在が、立ち向かっていたのだ。

自分よりも大きく力強い相手に、勇敢に立ち向かった。

その姿に、勇気を貰った。

 

「だけど恐怖で身を竦んでても何も変わらない。恐れてたって、何も出来ないんだ。それを乗り越える勇気が大切なんだよ。立ち向かおうとしていた鷲尾さんなら、大丈夫。それでもね、もしどうしても立ち上がれないその時は、俺が支えるよ。一人じゃ無理でも、誰かが居れば違うと思うから。だからきっと、大丈夫!」

 

その恐怖という感情自体が欠落してしまっていることに自分自身は気付かず、須美を鼓舞する。

力強さを感じさせる笑顔を作って。絶望という感情に囚われた心を溶かすような温もりを与えて。

 

「ど、うして……遡月くんは……。っ、危ない!」

「…!」

 

呆然と陽灯の顔を見ていた須美は陽灯の背後から迫る水球に気付いた。

即座に反応した陽灯は振り向いて動こうとしたが、背後から放たれたであろう矢が横を通って水球を相殺したのを見て、笑った。

 

「うん、やっぱり鷲尾さんは凄いよ。ありがとう」

「い…今のは、体が勝手に……」

「それでもいいじゃん! 行動することが大事なんだよ。ほら、ここに居たら危ないし、行こう」

「---えぇ」

 

手を差し伸べた陽灯に調子が戻ってきたのか、不思議とそんな状況でもないと言うのに口角が上がり、須美はその手を取るとゆっくりと体を起こされる。

 

「! また来る…!」

「乃木さんと三ノ輪さんも心配だわ…!」

「じゃあ、あいつは俺が引きつけるからお願い!」

「え、ちょっ---」

 

止める暇もなく、自ら体を出した陽灯目掛けて水球が多く放たれた。

ジグザグに避けながら回避していくが、時折動きが鈍くなる。

そこを狙うように、水流が放たれた。

身を反らして避け、陽灯はバーテックスに殴り掛かる---が、目の前に水球が生み出されていた。

 

「……!」

「させない!」

 

矢が撃ち抜き、陽灯は咄嗟に地面に落ちると矢を番える須美の姿が見える。

完全復帰と言えるだろう。

陽灯はすぐに後退するも、水球が背後から迫る。

 

『後ろだ』

「……!」

 

矢を打つより辿り着く方が速い。

なので、陽灯はただの回し蹴りでぶっ壊すと、連続で後ろに跳んで戦線を離脱していく。

そんな陽灯を容赦なく狙うバーテックスだが、陽灯に注目しすぎたのだろう。

玉の一つが一閃される。

 

「これなら…ってそれも再生するの!?」

「あ、銀!」

「ん……? はあ!? え、陽灯? なんで!?」

 

注意が僅かに逸れ、ちょうど銀が陽灯の近くに着地すると驚いていた。

説明しようとすると、須美が合流のために降り立つ。

 

「三ノ輪さん! 乃木さんは!?」

「ああ、園子なら……」

「はるるんだ〜!」

「へ…あぁあああ!?」

 

心配する須美を他所に、陽灯は転がって行った。

血だけが舞う中で、勢いを失った陽灯は自身のお腹に抱きつくブロンドカラーの少女が見えたが、流石に痛かった。

 

「ちょ、ちょっと乃木さん! 遡月くんは怪我してて……!」

「…! ごめんね、はるるん…」

「大丈夫大丈夫、園ちゃんは無事? 怪我ない?」

「うん、えへへ」

 

全く気にしてない様子で園子の頭を撫でた陽灯は、横腹を抑えながら立ち上がる。

血が治まる気配がない時点で、大丈夫ではないと思うのだが。

 

「と、とりあえず止血しないと…」

「いいよいいよ、気にしなくても」

「ダメ! 私がしっかりしてたら……」

「うーん…放っておけば治ると思うけどなあ……」

「いやいや」

「止血しよ?」

「そこまで言うなら…」

 

流石に全員に言われてしまえば押し通すことは出来ず、陽灯は渋々受け入れて全員で隠れる。

バーテックスはそのタイミングで再生を完了はさせていた。

 

「これで……どう? 痛くないかしら…」

「うん、ありがとう鷲尾さん。動けるし、問題ないよ」

 

普段から怪我することが多いのもあって、包帯がポケットに入っていた陽灯は巻いて貰うと、軽く摩りつつ礼を述べる。

礼を受け取った須美は浮かない顔をしているが。

 

「そういえば、どうしてはるるんはここに?」

「確かに! お役目って三人って聞いてたケド」

 

あまりに馴染んでいたが、誰もが思ってることを聞く。

三人が聞かされていたのはお役目につくのが鷲尾須美、乃木園子、三ノ輪銀の三人で陽灯のことは聞いていない。

そもそも一人だけ制服なのを見る限り、勇者の力はないだろう。

 

「遡月くんにも勇者の適性がある? でも無垢な少女のみが選ばれると聞いているし、混乱が起きる可能性を考えると大赦も隠すとも思えないけれど……。となると違うと想定出来る…けど遡月くんの身体能力は明らかに勇者の力を持つ私たちに近しいものがあるしここにいる理由は一体……」

「じゃあ、はるるんも一緒?」

「ふふん……さぁ?」

「本人が分からないんかい!」

 

深く考え始めた須美は答えを見つけられず、意味ありげな笑みを浮かべる割に、はてなマークばかり浮かべる陽灯に苦笑せざるを得なかった。

 

「…まぁ、分からないことばかり考えても仕方がないわ。今はお役目を果たさないと」

「それもそうか」

「だね〜」

「よーし、行こう!」

「いえ、遡月くんはここに……って、あれ?」

「はるるん待って、私も行く〜」

「もう行ってるよ、鷲尾さん」

「三人とも! もうっ!」

 

本来勇者の力を持たない陽灯は居るべきというか、居ることがまず異常なのだが全く気にせずにバーテックスの方へ向かっていく姿に慌てて須美も追う。

 

「遡月くん! 通常の兵器でもバーテックスには効かないって分かってるでしょ? 対抗出来るのは神の力を宿す勇者だけだって! 確かに遡月くんの身体能力は凄いし私も助けられたけど、それでも貴方は……」

「えっ、そうなの? まぁでもほら、四人寄れば真珠の知識って言うし!」

「…んん?」

「えっと……?」

「それを言うなら三人寄れば文殊の知恵だよ〜」

「あっ、あれー?」

 

陽灯にしては難しい言葉を覚えていたようだったが、全然違ったことに首を傾げる。

今から戦いだというのに、陽灯が居るだけで不思議と緊張感が和らいで、安心感すら覚える。

事実銀も園子も笑っていて、須美はそんな感覚を覚えていることが理解出来なかった。

さっきまで戦意が喪失していたのに、今は全くないのだから。

 

「こ、こほん。とにかくさ、何とかなるよ。皆が力を合わせたら乗り越えられない壁はないって信じてる!」

「誤魔化してないか?」

「良い感じに締めたね〜」

「……はぁ。なら無理はしないで」

「わかってるって! がんばろー!」

「「おぉー!」」

「まったく……」

 

本当は折れるべきではなかったのだろう。

けれど須美には止められる気がしなかった。

それどころか、彼が居ることで何かが変わるような予感があったのだ。それも良い方向へ行くような。

今だって誰も、暗い考えはなかったのだから。

もしかしたら、彼はジョーカー(切り札)なのかもしれない。

実際問題、陽灯に関して大赦は確信もなかったのだが。

 

「問題は再生能力だよなー」

「殴ってみる?」

「うーん」

「…大丈夫、よね?」

 

とは思っていても、全く策のなさそうな様子に須美は一株の不安を覚えた。

だけど言っている場合ではない。

侵食が始まれば現実世界に影響が与えられてしまう。そうなればどんな被害を受けるのか分からない。

 

(それに、なんだかんだ見える範囲に見てもらった方が……)

 

もし見えない所で何かあってしまえば須美は間違いなく後悔する。

その点、見えるなら助けに入ることも出来るだろう。

何とか前向きにそう考えて、改めて戦いの覚悟を決める。

三人ではなく四人に。

一人増えただけに過ぎないが、やることは変わらない。

バーテックスは神樹を。

勇者とおまけ一人はそれを阻止するだけだ。

 

「とりあえず俺が引きつけるかな」

「え、大丈夫なのか……って行ってるし!」

「お〜はるるんすご〜い!」

「言ってるそばから!?」

 

既に跳躍して向かった陽灯に初めて身体能力を見た銀は驚き、園子は呑気な感想を述べ、須美は呆然とした。

しかしもう戦いの場だ。

すぐに銀は追い始め、園子もまた追う。

須美は役割を理解してるため、狙えるポイントにつく…が、全く問題ないことに気付く。

それどころか体調も状態も良くなっている。

コンディションは万全。それもこれも、陽灯のお陰なのだろう。

本人は別に狙ってやったわけではないのだが。

 

「悪いけど、神樹様の方には向かわせないよ。俺は守るって決めたんだ。それはやり通すって約束だから!」

 

たった一人の、勇者でもなんでもない存在が立ち塞がる。

バーテックスにとっては取るに足らないはず。

けれどバーテックスは、侵攻するよりも即座に水流レーザーを陽灯に放った。

まさかいきなり放たれるとは思わず、陽灯は驚きながら回避する。回避した先に遅れて放たれた水流が襲いかかり、容赦なく責め立てていた。

それらを木々を蹴りながら軌道を変えて変則な動きによって避けていくが、包帯が赤く染まっていることから傷が開いてるのが丸わかりだ。

このまま責め立てればいずれ動きが鈍くなって消し去れるだろう。

それが一人であるならば、の話だが。

銀と園子が左右から狙う。

陽灯を集中狙いしていたせいで遅れて気付いたバーテックスは下がろうとするが、その動きを連続で放たれた矢が阻害した。

いくら再生するとはいえど、ダメージはある。

そこへ再生が完了した場所に銀の双斧と園子の槍が突き刺さる。

脅威は二人の勇者だ。遠距離など水球で防げる。

そのはず、そのはずだというのに。

バーテックスは二人よりもたった一人の人間を全力で殺しにかかる。

 

「!」

 

目視できる範囲は反応出来ても視界に収まらない部分は彼でも避けられない。

そもそも勇者システムを持たない陽灯は素の身体能力だけで避けているだけだ。

仕留めるには最も良い手段をバーテックスは取り、それは拡散されるように撃たれた。

その水流レーザーを強引に体を横に反らして避ける。

頬が掠め、血が流れた。

そんな陽灯の上空には集った巨大な水球が出来上がり、取り込もうと高速で落ちてきた。

レーザーに目を奪われた彼に避ける術はない。

なのに、避けた。

まるで分かっていたように。見えていたようにその場から後退して、水球は水溜まりとなって消える。

ならば、とホーミングを放てばただの蹴りで打ち消された。

理解不能。

ある存在に遣わされた存在は、”未知“を恐れた。

それだけでは無い。

下等な存在でしかないたったの一人が現れただけで、勇者の動きが変わったのだ。

まるで訓練も出来ていない連携の”れ“のひとつすらなかった勇者が、連携を始めた。

男は体力の限界。何より、傷の痛みで顔を歪めている。

チャンスなのに、勇者がそれを許さない。

園子の槍は急所を狙うような突きが刺さり、銀の双斧は怒涛の連撃。

そんな二人に直撃することなく、なおかつ陽灯の動きを一切阻害しない遠距離からの正確な弓射。

時折連射ではなく、威力を高めるチャージした一撃が放たれる。

そうして、ついにバーテックスの巨大が大きくぐらつく。

 

(このままなら、いける……! 遡月くんが攻撃を受けないように、早く……!)

 

弓を強く引き絞る。

清楚な花がひとつ、ひとつとまた輝き、花弁を思わせる陣が出来上がる。

射られた矢は凄まじい勢いで放たれ、風を切って直撃した。

バーテックスの体が、ついに倒れた。

そうなればもう、バーテックスは脅威ではない。

トドメを刺すべく、園子と銀は駆け出す。

陽灯は体力の消耗によって荒い呼吸を繰り返しながら横腹を抑えつつ膝を着いて---心臓が”ドクン“と鼓動を鳴らした。

 

『……!? まずい、この気配は……!』

「…ぁ。そ、園…ちゃん! 銀! さ、下がって! 下がって!」

「え?」

「はるるん?」

 

チャンスだというのに、聞こえてきた声は後退の指示。

思わず足を止めて振り返ってしまうが、陽灯の顔は酷く焦ったような顔だった。

矢を携えていた須美ですら目を丸くしている。

 

「いいから…早く…は゛や゛ぐ゛ッ゛!」

「…! ミノさん! はるるんに従って!」

 

その理由は、簡単だ。

中から発せられた今まで以上の警告と自身の予感を無意識に理解したからこそ、余裕のない喉を震わせるような全力の叫びを挙げる。

それは届いたのか、園子はいち早く気づいた。

迷いは無い。この中で一番陽灯の傍に居たのは園子であり、園子は陽灯が嘘をつくような性格でもふざけるような性格でないことを理解している。

だからこそ、即座に迫るのをやめて、銀に届ける。

二人に言われたからか、理解出来ないまま銀は下がり、その瞬間。

()()()()()()()()()()()がバーテックスに降り注いだ。

咄嗟に斧を盾にする銀に、槍を展開して傘のようにガードする園子。

瞬時に須美の元へ向かい、彼女を守るように抱きしめる陽灯。

それは離れていた陽灯に凄まじい衝撃が掛かるほどの力。

エネルギーは直ぐに止んでくれたが、生身だった陽灯の背中は焼けていた。

 

「な、なにが……起きたの? 遡月くん…」

「あ、ぐぅ……わ、かんないけど…そ、園ちゃんと…銀は……!?」

 

須美は無傷だ。

陽灯が身を呈して守ったお陰だが、彼らより接近していた銀と園子はどうなったのか。

すぐに背を向けてバーテックスが居た方を見る。

そこには多少の傷はあるが、無事に武器を構えている姿があった。

下がって、これだ。

勇者の身体能力ならば後ろに跳ぶことでかなり距離を稼げる。なおかつ防御して、これだった。

つまり陽灯の言葉がなければ、最悪二人は悪くて重傷。軽くて中等傷といったところか。

 

「! 遡月くん私を庇って……!? 傷が……」

「だ、大丈夫…今はそれより……!」

 

問題は、勇者ではなく陽灯だ。

横腹から血が流れてたのに、今度は背中に火傷したような損傷がある。

勇者には回復能力を向上させる能力があるが、陽灯自身にそんな力もなければ特別な材質で作られているわけでもない制服は戦いの場には相応しくはなく、役に立っていない。

しかし心配してる暇すら与えてくれない。

ゆっくりと、確実に起き上がったバーテックス。

そのバーテックスにはさっき与えたはずのダメージは一切見られず、水のような色が濁ったような水に変化している。

この場の全員が、()()()()()()()という認識をした。

 

「! ごめんッ!」

「え? きゃっ!?」

 

誰よりも早く、陽灯だけが反応した。

横に居た須美の肩を右手で強く押し飛ばし、同時に陽灯の右肩から血が吹き出る。

遅れて振り返った園子と銀に、尻もちを着いた須美は何が起きたか見えていなかった。

 

「い、今、のは……」

『超高圧水流を光線としてではなく、円盤状に高速回転させたのだろう。キミたち人類が開発したウォータージェットのようなものだ』

 

反応は出来ただけで、陽灯は見えた訳では無い。

何かが来た。ただそれだけだが、あの位置は確実に須美を仕留める位置だ。

もし陽灯が反応出来なければと考えれば、ゾッとする話になる。

ウォータージェットは人体を貫通する威力がある。それをより大きく、速く、強くしたものと思えばいい。

 

「さ、流石にそれは……きついなぁ……」

 

万全ならまだしも、深く切られた肩は途方もなく痛い。

遡月陽灯となるずっと前、怪獣と出会う頃の彼ならば間違いなくこれだけで意識を失っていた。

 

『やはり私が……』

「…言ったでしょ。俺も戦うって。一緒にやるって。だから俺は、まだやれる……!」

 

実質片腕が使用不可になってしまったが、陽灯の目に諦めの色は見えない。

ここで巨人にお願いすれば、彼は一人で戦うだろう。

ただそもそも陽灯は一度死んだ身である。巨人のお陰で生き長らえている彼に長い時間の分離は命が持たない点から、なかなかその行動は出来ない。

巨人は理解し、陽灯は理解してないが気づいている。

そんな彼らに唯一取れる方法がある。

その方法は、巨人しか知らない。

一度してしまえばもう、運命が彼を逃がさない。宿命が彼に継がれてしまう。

それにいつだってギリギリまで頑張らなければ意味がないのだから。

頼るだけなら、誰にだって出来る。神のように縋って、助けを求めて、それだけならきっと、いずれ同じことの繰り返しになってしまう。任せることしかしなくなる。

限界までやって、どうして無理な時に助けてもらえる。助けを乞うのではなく、『助けたい』と思って貰えるからこそ、意味があるのだから。

 

「鷲尾さん、援護お願い出来る?」

「…!? もしかして……」

「やれるだけ、やってみるよ」

「……っ! 分かったわ…悔しいけど、私には反応出来なかったから……」

「…鷲尾さんは十分凄いよ。キミのお陰で、俺も園ちゃんも銀も前に出られるから。だからそんな自分を誇りに思って。後ろは任せるから!」

 

こんな時ですら、他人を励ます。

そんな陽灯に、何処か眩しさを感じる。

須美にはない陽灯の魅力。

いや、これこそが。彼の在り方そのものが、きっと大勢の人々を魅了するのだろう。

駆け出す陽灯の背中は、どこまでも突き進む光そのものだ。

 

『今の陽灯では避けることはまず不可能だ。あれを反応出来たキミの反射速度は凄まじいが、それだけに過ぎない。なら私がキミが反応するより早く来る位置を伝える。私を信じられるか?』

「聞くまでもないでしょ。ずっと信じて、今ここに居るから!」

 

人類を超越した存在ですら彼の反応速度には目を見張るものがあるが、強化されている身体能力ですら回避は間に合わない。

なら回避出来る早さで反応すればいいだけで。

 

『右』

 

放たれた円盤状の超高圧水流を左に避けて躱す。

言葉が聞こえたのと同時に動くという、脳筋プレイだ。

それを為せる彼は、ただ全幅の信頼を巨人に置いているからこそ出来る芸当だ。

 

『左。後ろ。上。右、右---』

「全部避けてる!?」

「わぁ、負けてられないね〜ミノさん! 鷲尾さん!」

 

その光景に、彼女たちも勇気づけられる。

強化されたからなんだ。

残念ながらこの少年は、かの光の巨人が見定め、選んだ存在だ。

たったそれだけのものに絶望するほどヤワではない。

呼応するかのように、銀が前に出る。

気づいたバーテックスが、同じ円盤状の水流を飛ばした。

それを斧を地面に突き立てることで避け、園子は普通に避けている。

前者は何度も見た経験に気合いと根性。後者は勘だった。

何より、最高速度で放たれているのは陽灯の方だけで二人の方は少し遅いというのもある。

流石に全てが最高速度で放てる力は無いらしい。

脅威はやはり、バーテックスにとっての『未知』だった。

ならば。

 

「なっ……消えた…!?」

「---! はるるん!」

 

銀の斧と園子の槍。須美の矢が直撃し、バーテックスの体が溶けるように沈んでいく。

死んだ…訳では無い。それで死ぬなら苦労はしない。

なによりお役目が何なのかを聞いている須美たちは、知っているから。

お役目は”撃退“である。

 

「……?」

 

ただし、一人を除いて。

姿が消えたバーテックスを見失い、周りを見渡す陽灯は何が起きたか分かっていない。

 

『陽灯! その場から---』

「……!?」

 

警告よりも早く。

水の柱が陽灯を囲むように生み出された。

マズい、と理解した瞬間にはもう手遅れだった。

弾力があり、水の中には突っ込めない。破壊しようにも、陽灯の強化されている蹴りですら通じない。

頭上には水が徐々に集まり、その姿を形作っていく。

異形の姿を。巨大な姿を。

アクエリアス・バーテックスとしての姿を。

頭上を覆われ、逃げ場を隠され、息を呑む陽灯を確実に仕留めるべく。

バーテックスは、落下した。

プレス攻撃。

回避不可能な一撃。

なのに陽灯の目は一切絶望に覆われておらず、それを不気味に思いながらもバーテックスは---押し潰した。

衝撃で一部が損傷し、バーテックスは宙に浮いて再生を始める。

 

「っ、この……!」

「遡月くんが……そんな…ッ!? 三ノ輪さん、ダメッ!」

 

真っ先に怒りを覚え、突っ込んでいく銀を静止させる声が響く。

死体がなかったのが救いか。

もしあれば、本当に死んだということを理解して武器を落としていただろう。

しかし怒りに飲まれた銀は止まることはなく、再生中のバーテックスは動きが単調になった銀の頭部を水色の水球で閉じ込めた。

やられた前の力も使えるのだろう。

息が出来なくなり、引き剥がそうにも弾力があって外れない。

駆けつけた須美も手伝うが、無理だった。

このままでは溺死してしまう。それどころか、全滅だ。

未知に対して、未知が生まれたことで流れが塗り替えられてしまった。

 

「はるるん……?」

 

呆然と、潰された先を園子は見ることしか出来なかった。

バーテックスは勝利を確信したように呑気に再生している。

勇者を一人消せる上に、未知の脅威を自分自身の手で直接踏み潰したのだから確信したのだろう。

 

「み、三ノ輪さん! 三ノ輪さん! これ、どうしたらっ……!」

「…! ミノさん…!」

 

必死に足掻く銀と焦りだけが感情を支配し、どうすればいいか分からず呼びかける須美に気づいた園子も呼びかけるが、外部からはどうしようもなく。

目をカッと見開いた銀は、なんとその水を全て飲み干した。

 

「三ノ輪さん、大丈夫!?」

「それよりも陽灯が!」

「はるるん…はるるんっ!」

 

銀は自身のことよりも、陽灯が気になったのだろう。

すぐに先程居た位置を見ると、園子がすぐに跳んでいく。

誰だって心配なのは変わらない。それでも彼女にしては珍しい行動で、僅かに固まった二人はハッと我に返ると追い始める。

けれど辿り着いた先では園子が座り込んでいて、須美も銀も近づけばそこには何も無かった。

あるのは血溜まりだけで、死体のひとつもない。あれほどの体を持つバーテックスに落下速度が加わって潰された。

死体は木っ端微塵にでもなったか、地面に埋まったか。

ただ穴だけが開いていて、最悪の考えが浮かび上がって陰りが差す。

バーテックスは、やはり動かなかった。

つまり、それが答えだ。

遡月陽灯という存在は戦死。

その事実を気づいたのか。知ったのか。

拳を強く握り、悔しそうにする銀に唇を噛み締めながら涙に堪える須美。

そしてその槍を強く握り、ゆらりと立ち上がった園子と分かれ、彼女だけがバーテックスを睨み---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅ……ぁ……」

「!」

 

うっすらと、声が響いた。

穴の先。

その声に真っ先に反応した園子は槍を落として振り返る。

何も見えない。

気のせいかもしれないが、反応したのは園子だけでは無い。

まさか、と須美も銀も穴の先を見た。

穴の中から眩い青い光が溢れ、そして---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ……ぁぁ……ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛!!」

 

反響する声と共に一瞬の赤い閃光が樹海の空を貫く。

赤い光が収まり、青い光が白色に変化しながら光が登ってくる。

否。

その光は大きくなっているだけに過ぎず、次第に光が視界を奪っていく。

あまりに眩しい光に須美たちは反射的に目を閉じ、光が晴れるとようやく目を開けることが出来た。

そこには。

人型の巨体。溶岩が冷え固まったような暗色をし、体表は生物的な肉質をしているが、でこぼことしていて石をイメージさせる。

その存在には胸に存在する赤いY字型の輝きがあり、顔は何処か仏のような顔立ち。

そのような存在が、穴から跳んで抜け出す。

穴の中に居たせいで足までは見えなかったが、穴に埋まってる中で須美たちでも腹部までしか見えなかった。

だがこうして地面に降り立つと、より目立つ。

巨体は10mほどあり、まさしく巨人そのものだ。

 

「きょ、じん……?」

「……はるるん?」

「陽灯? こいつが!?」

 

呆然と眺めるしかない須美たちだが、園子は気づいたように名を呼ぶ。

しかし陽灯の身長は10mもない。なんならこんな姿をしていない。

なぜそう思ったのか、それは二人には分からない。

 

『………ハァッ!』

 

巨人が動き、勇者を通り過ぎる。

すると弾けるような音が響いた。

振り向いた勇者たちが見たのは、拳を突き出して水しぶきに照らされる巨人の姿。

つまり、守ったのだ。

 

「守った…ということ?」

「じゃあ、本当に? この巨人が陽灯なのか?」

「そこまでは…」

「きっとそうだよ。あの時聞こえた声も、間違いなかったから」

 

確信を持って二人に告げる園子に、それ以上は何も言えなかった。

本人かどうかは分からないが、味方であるには変わらないのだろう。

味方じゃないならバーテックスの攻撃を避ければいいし、わざわざ避けるように通る必要もない。真っ直ぐ駆けて踏み潰せばよかったのに、そうしなかった。

ならばもう、園子の言葉を信じるしかない。なんだかんだ彼と長く居た彼女だ。そんな彼女がそう言ってるというだけで、信じるに値する。

 

『---シュア!』

 

低い声だ。

明らかに彼とは違う誰かのもの。

巨人は一直線にバーテックスに向かってジャンプした。

ただ跳んだだけで樹海の空へ辿り着き、再生を完了させたバーテックスが退くよりも早く拳が直撃。

巨人よりも大きなバーテックスが弾丸のように地面に叩きつけられ、土埃が舞った。

浮遊能力はないのか、重力に従って巨人は両脚で着地する。

 

「す…すげえ……」

「本当に……って、感心してる場合じゃないわ! 私たちも!」

「うん…!」

 

それぞれの武器を手にして、 バーテックスの方へ向かう。

その一方で巨人は追撃するように駆け出し、すぐさま身を逸らした。

巨大な円盤状のものが通り過ぎ、巨人は飛び蹴りを放つ。 弾力性のある水の壁が浮かび上がる…が、蹴りによって水が吹き飛ぶ。

部が悪いと判断したバーテックスは即座に距離を引き離そうとするが、どこからとも無く飛んできた矢が僅かに傾かせる。

傾いた位置を槍と斧が叩きつけられ、大きく体勢が崩れる。

そこを巨人は逃すことなく、助走を付けて軽く跳ぶとドロップキックを決めて吹き飛ばす。

すぐに起き上がった巨人は吹き飛んだバーテックスを追い---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『---()()()()

『グオォッ!?』

 

おぞましい声が聞こえるのと同時にバーテックスの背後から放たれた火球が巨人に直撃して片膝を着く。

その姿は勇者たちにも見えていた。

 

「新手!?」

「どこから来たんだ!?」

「…あそこ!」

 

距離が縮まったお陰で、独特なシルエットが映る。

胸を抑えながら巨人が見上げた先、倒れたバーテックスの背後には2()5()m()ほどの巨体のナニカが存在していた。

白く、鎧のような甲殻を思わせるものがあり、獰猛なトカゲという不気味な風貌。

獲物を突き刺せるような鋭利な爪に背中一面にはトゲ。何処か爬虫類を思わせ、人型の存在。

明らかにバーテックスではない、異物。

それこそ、特撮ヒーローやアニメにでも出てくるような。

 

「怪獣……?」

 

誰が言ったか。

そう、それはまるで怪獣。

否、怪獣そのものだ。

ギロリ、と擬音がついてそうな目の動き。

巨人を見て、怪獣にとっての勇者()を見た。

ぞくり、と今までにない恐怖心を煽られる。

気がつけば手が震え、口が震え、体が震え、心が震え、冷や汗が流れる。呼吸が出来ない。

見られた。見られたというたったひとつのことで戦意が折れそうになる。

それは殺意。殺気。悪意。絶望。

本能が最大限の警戒を鳴らす。

持っているはずの武器が、神の力で作られた武器ですら足りないと感じるほど頼りなくて。

 

『……ッ!』

 

立ち上がった巨人が、視線を遮るように勇者たちの前に立った。

解放されてもなお、蒼白になりながら息を整える必要があるほどだった。

バーテックスとは根本的に違う。

お役目とは違うという部分もある。聞かされてたものと違うというのもある。

ただ言えるのは、この怪獣は危険だということ。

まるで人間を餌としか見てない。脅威とすら見ていない。

小学生の身でしかない三人がこうして立っていられるだけで、頑張ったと言える。

逃げないだけ、彼女たちの心が強かったという証でもある。

ただやはり、一番は彼女達の前にいる大きな背中。岩のようで、何処か温かさを感じさせる巨人の背中が安堵を与えたのだろう。

 

『オマエ……()()()居ルナ』

「喋って…!?」

『……シェッ!』

 

何かを言っている怪獣に対して驚く勇者たち。

が、問答無用。

巨人は()()に従うように怪獣に殴りかかる。

怪獣はただ避け、腹部を蹴った。

それだけで巨人は大きく吹き飛び、背中から落ちる。

当たり前だ。巨人は10mに対し、怪獣は25m。

圧倒的な体格差があり、攻撃力にも大きな差がある。

そんな巨人に容赦なく雷光が放たれた。

咄嗟に起き上がった、巨人は両腕を交差することで受け止め、そこへバーテックスの水流が加わり苦悶染みた唸り声が発せられる。

 

「っ! あのままじゃやばい!」

「助けないと…!」

「三ノ輪さん、乃木さん---私も!」

 

少しして雷光と水流は途切れる。

受け止めきった巨人の全身に雷が帯電し痺れたように両膝を着く。怪獣が爪を振り上げ。

 

「ぉおおおおお!」

 

斧がその爪を攻撃する。

だが、斬れない。弾かれ、着地した銀を今気づいたと言わんばかりに見た怪獣は、蹴り飛ばそうと脚を動かす。

 

「えぇぇぇぇい!」

 

背中から槍が突き刺さる。

鎧にでもぶつかったような音が鳴り響き、槍が突き刺さることはない。

されど神の力。僅かに怯む。

 

『デアッ!』

 

その隙を逃さず、巨人は怪獣にタックルした。

ほんの数cm吹き飛ばすほどの威力だが、体格差がありすぎるのだろう。大きなダメージにはならず、左から振るわれた右腕の攻撃を両腕で防御しながら巨人はあっさりと飛ばされ、その先に複数の水球が巨人に襲いかかる。

反応したが、遅い。

水球を防ごうとしても間に合わず、直撃するより早くに矢が撃ち落としていく。

すぐに振り返り、巨人は怪獣に向かって飛び蹴りを放った。

胸に直撃し、怪獣は裏拳を叩きつけた。

あっさりと巨人が地面に叩きつけられ、地面が没落する。

踏み潰さんとする怪獣からすぐさま逃れ、肘から生えたブレードのようなものが、脚を斬り裂いた。

小さな切り傷を残し、跳んで両肩に掴みかかる巨人に怪獣は頭突きを与え、頭が反れ視界から外れた瞬間に巨人を横に蹴り飛ばせば、突撃してきたバーテックスが加速して巨人の背部へぶつかった。

複数回地面を転がり、勇者たちは慌てて巨人の方へ向かう。

 

「大丈夫か!?」

『………ッグ……!』

「追撃しないと! でもバーテックスだけなら、何とかなるかもしれないけど……こんなのどうしたら…」

「効かなかったもんな。こうなったら根性で…」

 

歯が立たないとはこのことか。

巨人は力不足。銀の斧でも園子の槍でも須美の矢でも倒し切るには至らない。

怪獣の外皮は固く、生半可な攻撃は通さないだろう。

力を入れて、勢いを付ければダメージは入るが素直に許してくれるとは思えない。

はっきりいって、このままでは負ける。

だからこそ須美は考える。

考えて、考えて、焦りだけが募っていく。

 

「……あっ!」

 

そんな時、思いついたかのような声を挙げた園子に須美も銀も何かと見ると。

 

「ぴっかーんと閃いた!」

 

目を輝かせながら、何か策がありそうな様子の彼女に須美と銀は顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

起き上がった巨人が怪獣に向かっていく。

迎撃するように振るわれる腕に対し、しゃがんで滑る巨人は逆に体格差を活かし、腰部に肘打ちして平手打ちで左脚を攻撃すると右脚からの攻撃を両手で受け止め、吹き飛ぶよりも早く両手を全力で振り下ろすことで跳び箱のように跳躍する。

怪獣の上を通り過ぎ。

 

『デェアアアァァ!』

 

巨人は両手で掴んだ怪獣の尻尾を自身の左肩に乗せ、全力で15mの差など関係ないと言わんばかりに前方に投げ飛ばした。

前から落ちた怪獣に対して飛びかかった巨人は背中に乗り、何度も何度も拳を叩きつける。

暴れる怪獣を殴りながら耐えていると、怪獣の尻尾が巨人の首を絞めた。

 

『ゥグ!? ァ、ォオオ……!』

 

締め付けてくる首を引き離そうと両手で尻尾を掴んでしまい、その隙に怪獣は尻尾で巨人を叩きつけ、起き上がって強く締め付ける。

絞め殺す気なのか巨人は抵抗しているが、相手の方が強く外れない。

少しずつ力が抜けていく感覚を感じながら、巨人の視線の先にはバーテックスに矢を放つ須美が移る。

邪魔されたバーテックスが侵攻をやめ、水球を放つ。

傘を展開した園子が守り、須美が連発して矢を放つ。円盤状の攻撃が飛んできたら銀が斧で弾く。

その顔は誰もが必死で。

 

『ォォオオオオ!』

『無駄ダ』

 

抜けた力を目一杯込め、巨人が走る。

尻尾が伸び、肘のブレードを輝かせた巨人に怪獣は雷光を放った。

何をするか怪獣は理解していたのだろう。

 

『! ェアアア!』

 

だが巨人は肘のブレードで受け止めると、回転しながら光刃を放った。

雷を纏った光刃が何処か彼方へ飛んで行く。

しかし首に巻きついている状態で回転した巨人の首はより締まることになってしまい---

 

「来た!」

 

追い詰められたバーテックスは水流を放つ。

園子の槍が真正面から受け止め、その背中を銀と須美が支える。

押されそうになるのを必死に堪え、止まるのではなく前進していく。

そうしてしばらくの放射の後、途切れた瞬間に勇者たちが一斉に跳んだ。

空中なら移動できない。

そんな勇者たちにトドメを刺すべく、高速回転する円盤状の水流が今まで以上の大きさを形成し、そして。

放たれた水流は、怪獣の尻尾を斬り裂く。

 

『!?』

 

バーテックスにとっての高火力である水流を防げば、間違いなく全力を使うというのは容易に想像出来る。

水球の可能性を消すために確実に使う要素を生み出すのは空中だ。

機動力の掛ける空中なら確実に殺せるとバーテックスは踏むだろう。なぜなら矢であれば水球は相殺されるからだ。

水流を放つ前に槍に防がれていたのも大きい。

案の定、バーテックスは全力を使った。

全力の円盤状の水流は誰も反応出来ないからだ。

当然、反応出来ないということはそのまま行けば殺されていたが、そこへ飛んできたのが巨人の光刃。

樹海の世界を一周し、遅れてバーテックスの方へ向かっていった刃がバーテックスの左玉を破壊し、体を大きく削った。

それによって放つ寸前に逸れた体がそのまま逸れたまま発射されて怪獣に直撃したということ。

成功すればよし、失敗しても確実にバーテックスには大ダメージが入る。

バーテックスが別の攻撃をしたとしても、尻尾の切断は出来ずとも尻尾に攻撃は入るため緩む。

それらが失敗したとしたら、どうせ脅威と思われていない空中にいる勇者たちが尻尾を狙えばいい。

そこからの手段も数多く存在する。

もしかしたら巨人自身が何とかしてたかもしれないが、その辺は成功したのだからいいだろう。

もしもの話など、今は必要ない。

 

予想外の出来事に驚く怪獣に対し解放された巨人が即座に尻尾をバーテックスへ投げつけると隙だらけの怪獣を大きく蹴り飛ばした。

 

「行くよ、ミノさん!」

「頼んだ!」

 

バーテックスが怯んだ。

その隙を逃すことなく、勇者たちが近くの木を再び蹴って大きく跳躍する。

もうボロボロだが、まだ終わっていない。

最後の抵抗と言わんばかりに水球を飛ばしてくるバーテックスに対して傘を展開している園子が防ぐと銀を振り回すように投げ飛ばす。

勇者としての力によって強化されてるのもあり、銀は加速する。

 

「狙いづらいけどッ! 三ノ輪さん!」

「うぉおおおおおおおおお!!」

 

バーテックスの方へ飛んでいく銀の正面に存在する水球だけを須美が空中で正確に撃ち抜く。

妨害するものが消え、水流を放つよりも早くもうひとつの玉を銀が炎を纏った両斧で斬り裂き、即座に振り向いて跳躍。

本体らしい肉体を凄まじい乱舞で斬り裂く。

そして、突然花が舞う。

 

「これ……」

「鎮花の儀……?」

 

桜の花びら。

そういう状況でもないのに綺麗だと感じてしまうほどの幻想的な光景。

これは鎮花の儀と呼ばれるもので、バーテックスにある一定以上のダメージを与えると神樹様がバーテックスを処理してくれる。

つまり戦闘不能になるまで弱らせたら、神樹様が消し去ってくれるということ。

事実、ボロボロだったアクエリアス・バーテックスの姿は桜が消えるのと同時に無くなっていた。

すなわち、勝利だ。

だが終わったのはバーテックスとの戦いのみであり、本当の意味で戦いは終わっていなかった。

先ほど蹴り飛ばした怪獣に向かって巨人は追撃しようとして。

 

『……ハッ!? ア…ッ……!』

 

突如止まった巨人のV字型の胸が赤く点滅する。

ドクンドクン、と心臓の鼓動を思わせる音と共に徐々に音は早く鳴っていき、両膝と片手を地面に着く。

見惚れていた勇者たちは異変に気づき、巨人に駆け寄る。

 

『……! …ソウカ。()()()同様、人間ト完全ナ融合ヲシテイナイノカ…!』

「……?」

 

起き上がろうとしても、もう片方の手まで着いてしまう。

怪獣の言葉に訝しげにする園子と須美だが、怪獣が先に復帰してしまった。

チャンスでしかないところを逃さないつもりだろう。

口から雷光を貯め。

 

『……ッ!』

「はるるん!?」

「陽灯!」

「遡月くん!」

 

発射された。

起き上がれない巨人は即座に身を丸め、勇者たちを覆い隠す。

そう、傍には勇者がいるのだ。

仮に起き上がって避ければ勇者が犠牲になる。

故に選択肢なんてなく、巨人は自らの体で守った。

鼓動音が鳴り続ける中で守られている勇者たちは衝撃に目を閉じながら耐えるしかなく、()()()()()()()()()同時に目を開く。

 

『ァ、アア……』

 

そうして、巨人の体は横になって力尽きるように倒れた。

須美にも園子にも銀にも、今の攻撃で負った怪我はない。

巨人が全ての攻撃を肩代わりしてくれたから。

それを理解した彼女たちは、怪獣に対して武器を構えるとすぐに攻撃しようとして、違和感に気づいた。

怪獣は攻撃をすることなく、ただ見ている。

なぜ、追撃しないのか。

よくよく見てみれば、怪獣の肩には大きな切り傷が出来ていた。

それこそ、さっきの攻撃のような。

 

『……ッ!』

 

巨人が体を起こし、腕を立てる。

光が肘のブレードに宿り、怪獣は唸り声をあげる。

さっきの一撃。

自身の体を犠牲に、巨人は光刃を飛ばしたのだろう。

交差する形で放たれた刃は肩を。怪獣の雷光は巨人の背を。

互いに痛み分けとなり、怪獣は背を向けて逃げていく。

それを追おうとする巨人は立ち上がるが、駆けようとすると同時に胸の光がより速くなり、前から倒れてしまった。

青白い光が樹海を照らし、光が縮まりながら赤と青の光が弾けるように晴れる。

そこには頭頂部から額にかけて血を流している陽灯が倒れていた。

巨人の正体が本当に陽灯だったことに愕然とする須美や銀。すぐに駆け寄って抱き抱える園子が居て。

戦いが終わったことを知らせるように、強い揺れともに樹海が晴れていく。

樹海が晴れた後に広がったのは瀬戸大橋が見える展望台。

そこには(ほこら)があり、樹海化から戻るとその場所に帰されるらしい。

生傷は残っているが、三人の勇者は無事に勝利を掴むことが出来た。

その勝利を喜ぶ---なんて出来るだろうか。

普通なら目の前に広がる景色を眺めて三人で勝利を喜べたはずだった。

しかし。

 

「はるるん…はるるん! しっかり!」

「陽灯は!?」

「と、とにかく救急車を呼ばないと…!」

 

抱き抱えたら陽灯の体は全身の力が抜けてるようにだらん、と脱力した状態になっている。

意識は既に無いのか返事はないが、息だけはしている。

唯一の救いは樹海から此方に戻ってきたときから出血が止まったことだろう。

あのまま血を流していれば、死んでいたかもしれない。

そうしてすぐに救急車を呼ぼうとした須美だったが、大赦の人が車で迎えに来てくれた。

仮面で見えはしないが、こちらに来た際には陽灯の姿が見えたのだろう。

須美たちが何かを言うよりも早く、何処か驚いてるような慌てたように指示を出しては連絡したりと言った姿が見えて、何も分からないまま須美たちは学校へと帰ることになった。

陽灯は学校に戻るまでの間、応急手当てはされていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





○遡月陽灯
ツッコミどころ満載のやつ。
①神樹様の目の前に飛ばされる
②身体能力、人間やめてた
③反応/反射速度が光の巨人ですら褒めるレベル(未来では夏凜すら驚愕)
④やっぱり死にかけてる
⑤ワンチャン右肩から右手が切断されてた
⑥存在そのものが(精神的な)バフ

○光の巨人
陽灯くんをアシスト。
しかし変身後、その戦い方は()()に従っただけのような戦い方のようで…。

○鷲尾須美
最初に戦意を失いかけ、陽灯くんに鼓舞されていたのもあって最後まで戦えた。
もし言葉がなければ、陽灯くんがやられた時にはもう戦えなかったかもしれない。
ちなみにもし陽灯くんがいなければ詰みだったし、右肩切断されてたら責任感や罪悪感で…。

○三ノ輪銀
陽灯とは普通に仲がいい。
なので、普通に怒りに呑まれた。
もしも陽灯くんの言葉や園子の言葉を聞かずに従わなかった場合、意識を失って戦闘不能。
代わりに陽灯くんが突っ込む模様。
無事に倒したところで、目を覚ました銀は悲惨な状態となった陽灯くんを目にすることになり…。

○乃木園子
樹海した世界でも会えたことに嬉しさのあまり抱きついたり撫でられてニッコニコになっていたが、戦闘においては土壇場の閃きが一気に戦況を変えた。
陽灯に関しては信頼しかないので自身の勘もあったので疑うことなく従ったという有能。
もし陽灯くんが巨人の力を持たず、変身しなければ陽灯くんはプレス攻撃で死亡。なんならその前の円盤状の攻撃で次第に追い詰められて死ぬ。
憎しみに囚われた園子はバーテックスを瞬殺し、この場は勝利するが復讐心に駆られ…ちょっとこの後は救いようがマジでなくて書くのがつらい。
簡単に言えば、バーテックスは倒せる。ただしゆゆゆ編において原作より酷い状態になるし心は廃れ復帰は不可。大満開/勇者の章で詰み。
ザギの介入を考えたら、もっと酷い未来になる。

○アクエリアス・バーテックス
ゆゆゆネクサスよりかはしょぼいが、能力が強化された。
その能力は巨人ですら危うく、怪獣ですらやばい。
どれだけヤバいかって言うとドラゴンボールの気円斬みたいなもん。

○怪獣
ここでわすゆネクスト4話を思い出したら地味にやべー違いが分かる。
()()()とは一体……?

○黒色のエネルギー
バーテックスを強化した未知のエネルギー。
察して、どうぞ。その通りでしかないと思う





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