東方雲入人道~人間と妖怪の共存~ (大剛毅)
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プロローグ「ある男の独白と最期」

初めましての初投稿です

東方のSS自分も書きたいなって思ってて
書いてみようと今決断して書くことに決めました
色々至らぬ点とかおかしい点があると思いますが
ゆるりとたのしんでくれたらなーと思います

~それではようこそ物語へ~



ーー生まれた時からこの世界は地獄だったーー

俺は人に"見えないもの"が見えていた。

赤子だった俺はそれを見て笑っていたらしい。何も知らないからだ..あぁ何も知らずに生きていられた方がどれほど幸せだったのだろう..

物心ついたころ、知らずにいたものが何なのかを知り恐怖した。

どこへいこうとも、家の中にいようとも、寝る時だろうとも俺に安息はなかった。

ただそこらへんにいる、それだけならこの先にある地獄に比べればマシだっただろうに..

成長したある日、突然"それ"は襲い掛かってきた。

昔はただこちらのことを見ているだけだったというのに

周りから見れば俺は突然パニックになるやばい奴に見えていただろう。

事実、両親は俺の見たものも言うことも信じてはくれず病院に連れていかれた

その後俺は家に引きこもるようになった。

部屋の扉を強固にし、部屋の外へ出るにも常に警戒をしながら出なければならなかった。

そんな俺を見た両親は..両親は..

俺を捨てた。

誰も理解してくれない、誰も自分のつらさを分かってくれない、みんな俺を避ける、どこに行っても避けられ、奴らには襲われる。

そして俺は悟った

この世界は地獄だとー

 

ある日の晩、ある森の中、誰も立ち寄らない場所で一人静かに、

俺は自分の首筋に刃を当てていた。

鉄特有の冷たさ、匂い、ぬらりと朧げに輝く刃先、普通の人間ならば自分自身の首筋にあてることは恐怖だろう

"普通ならば"

俺は自分で命を絶つよりも「奴」に見つかる恐怖が大きい、その恐怖は刃で自分の命を絶つよりも強く、俺はなんの躊躇いもなく刃をあてることができる。

「奴」に見つかれば想像を絶する苦痛により死ぬだろう。

それならば自分自身で安息な死を選ぶ。

 

覚悟を決め刃に力を込め思いきり引く

首筋と刃を持った手が熱くなる。

血が流れていくたびに俺の意識が暗闇へと引き込まれる、体の感覚も地面の感覚も何も感じることもできないほどに引き込まれていく

走馬灯が頭の中に流れていく、思い出したくもない忌まわしい記憶とともに。

あぁ..死ってこんななのか..

死ぬことにどこか満足感を覚えている自分がいる。

そんなことを考えていると

女性の声が不意に聞こえる

「あら..なんてもっ..ない.ね、特別に...助け.....ようこ..幻想郷へ...は全て....受け..る」

瞼が完全に閉じる前に俺は目の前に誰かがいるのに気付いた

なぜ女性がこんなところに..?

考える前に俺の意識は完全に闇へと消えた。

 

 

 

つづく




定期的に更新を続けていきたいと思います

感想や改善点などありましたら是非どんどん書いてください


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第1話「出会い」

最近東方酔蝶華の三巻をよんで白蓮がより一層好きになりました
でもすまない白蓮、今回のヒロインはタイトルとタグで見ればわかると思うが一輪なんだ




幻想郷「命蓮寺」

 

 妖怪や人間、神々が暮らす楽園。博麗大結界によって現代と隔てられている。

そんな幻想郷では妖怪と人間も平等であると掲げる寺、「命蓮寺」があり、多数の妖怪が命蓮寺に身を寄せている。妖怪に限らず人間も命蓮寺に訪れ、人妖問わず修行し、仏教を信仰している。

 

「よし、今日も異常なしかな」

 夜の境内を見回っている、一人の少女「雲居一輪」もまたこの命蓮寺で修行している者の一人である。

不届き物や侵入者がいないかどうか確認した少女は最後に境内をぐるりと見渡して確認し、寺に戻ろうとする。

 しかし、彼女とともに行動する雲山が引き留める。

「どうしたの雲山?」

 雲山が指す方向を向くと、一人の青年が倒れていた。

「ちょっと! あなた、そんなところで何をしているんです!」

境内を見回ったはずなのになぜか急に現れた青年に驚きつつも声をかけ、その体を起こす。

髪は黒だが、白髪がたくさん混じっている、服装はこの幻想郷には珍しい服装、おそらく彼は幻想郷を隔ててる結界の外から来た「外来人」だ。首筋には大きな切り傷があるが血が出ている様子はない。

一輪は首をかしげる、妖怪ならともかく人間ならば首に深い切り傷をつけようものならすぐ死んでしまうはずだ、なのにこの青年はなんともないように生きている。

それだけじゃない、異様にこの青年が魅力的に見えた。この青年が美青年であるわけではない、確かに顔は整ってはいるがそういったものとはまた別の魅力。

力を感じるのだ。

 徳の積んだ人間や僧を食えば妖怪の格が上がる、そういった人間に近い魅力を感じたのだ。

現に入道である雲山はこの青年に釘付けであり、一輪も心の底でこの青年から力が欲しいという欲求にかられていた。

妖怪と人間の平等を掲げる白蓮の基で修行して、白蓮からの教えを守っている彼女だが、揺らぎが生じる。

 しかし、白蓮の教えを思い出し、欲求をかき消し、青年を寺の中へと運んだ。

「聖様!聖様!大変です!」

一輪の声が夜の命蓮寺に響く。

 

 

ーーーーーー

 

「ん」

 目が覚めた、覚めた目が最初にみたのはどこかの天井だった。

布団で寝ていたのか。

周りを見渡す。畳と襖、どこかの和室のようだ。

 ふと首に手を当てる、血が流れていないが傷跡はどうやら残っているようだ

だが、なぜ生きている?普通の人間だったらあれで死んでいたはずだ..

死後の世界とも考えたが首の傷が若干痛む、死んでいるのならいたくはないはずだ。

 考えを巡らせていくと襖の外から足音が聞こえてきた。

誰かくる..しかもこの霊力、ただ者じゃあねえな。

 とっさに身構える、もしこれが妖だったなら大変まずい状況だ。

襖がスっとあく。

「よかった、気が付いたのですね!」

足音の主は頭頂部から紫のグラデーションがかかったブロンド髪の女性だった。

警戒する俺を見て笑顔で声をかけてきた。

「あなたは境内で倒れていたのを発見されたのですよ」

倒れていた..? 境内? 神社か寺で倒れていたのか? 俺は森の中で自害したはずだ。

境内に倒れていたという部分に引っ掛かる。

そういえば、自害する瞬間女性がたっていたような、だがこの女性とは声が違う、そいつがわざわざ運んだのか?いや、近くにそんな建物とかはなかったはずだ?それに首の傷は?

疑問がどんどん湧いて出てくる。

女性は俺の寝ている布団の横に正座すると自己紹介をしだした。

「申し遅れました、私は聖白蓮と申します。ここ、命蓮寺で住職をしています。まだ混乱しているとことと思いますが、私たちを頼ってくださいね」

住職、なるほどそれで高い力を持っているのか。とりあえず俺も自己紹介するか。

「体道事(たいどうじ) 陽真(ようま)だ。正直、なんで自分がこんなところにいるかもわからないんだ」

聖は頬に手をやり考える。

「おそらくあなたは外の世界から迷い込んできたみたいですね」

「外の世界?」

どうやらここは俺の住んでいるところとは別の世界で幻想郷というらしい、普通は特殊な結界に隔てられており外からは確認できないとのことだ。

俺は迷い込んだ原因に心当たりがある

「あの時に見たあの女性が関係してるかもな..」

「なるほど、あなたはどうやらスキマ妖怪に連れてこられたみたいですね」

スキマ妖怪..?

「スキマ妖怪基八雲紫は幻想郷の大賢者で外と幻想郷を行き来できる能力があります、おそらく意識を失ったときにみた女性というのは彼女でしょう。」

スキマ妖怪か、なるほど最後にみた女性はそいつだったのか。

だが疑問が残る、自分から命を絶とうとし、死にかけの俺を助けるメリットがあるのだろうか。

妖怪のくせに俺を助けるとは何か企んでいるのか?

嫌悪感が一気にこみあげてくる。

顔が険しくなる俺を見て聖は慌てて

「あ、博麗神社に行けばきっと元の世界へ戻ることは可能ですよ、ですからすぐに行きませんか?」

と俺に促した。

「いやいい」

思わぬ返事を聞いて聖は驚いた顔をする。

「元の世界に帰ったところで待っているのは地獄だ、俺の居場所はどこにもない、俺は..本当は死ぬ予定だったんだ..」

聖は何か言おうとするが、何も言うことができなかった。

そりゃそうだ、迷いこんだ人間が元の世界を地獄として死にたがっているんだからな。

なんて言葉をかければいいのかわからない聖、うつむきながら自虐的に笑みを見せる俺、完全に空気が死んでいる中

「聖様!倒れていたた人は大丈夫でしょうか」

大きな声が廊下から聞こえてくる

襖から顔をだしてきたのは頭に尼が被るような紺色の裾がギザギザの切れ込みが入っている頭巾をかぶった髪が空色の少女だった。

「あっ目が覚めていたんですね。はぁ~夜中に境内で倒れていて介抱するの大変だったんですからね。」

空色髪の少女は腰に手を当て溜息を吐きながら俺を見る。

俺は自虐気味に笑いながら

「それはすまなかったな、だが放置していてもよかったぜ、あのままくたばっちまった方が俺はよかったかもしれねえな」

それを聞いて座っていた聖は身を乗り出す

「あなたは--

「何言ってるんですか!!」

聖の言葉を遮り少女は大きい声をだす

「いい?聖様はずっと心配してあなたを介抱していたんですよ!命を粗末にするのも許せないけど、聖様の気持ちを無下にするなんてそれが一番許せない!」

俺はまくしたてられるが、少女は聖に静止され、まくしたてるのをやめるもその眼はまだ何か言いたげだった。

「ヨウマさん、あなたに何があったかは詳しくは聞きません。ですが、命を投げ出すということは絶対にしてはいけません。」

聖は真剣な顔で俺の目を見つめる。

彼女の真剣な表情にどこか懐かしさを感じる、俺は思わず目をそらしてしまった。

「すまない..あなた達の気持ちを考えていなかった..最初に言うべきだったな、当たり前のことを忘れていた。ありがとう」

俺はぶっきらぼうながら感謝の気持ちを伝える、感謝の言葉を伝えるのはどこかむず痒い気持ちだった。

ぶっきらぼうな感謝の言葉を聞いた聖は微笑みを見せた。

「もしあなたがよかったらなんですが、ここで修行..いえ滞在しませんか?行くところがないのでしたら是非」

寺で暮らすというのもいい話だと思う。だが俺は自分の血への不安が脳裏によぎった、確かに俺の居場所を作ってくれるのはわかるが、俺の血が、また壊してしまうのではないかという不安が頭を埋め尽くす

俺はここにいていいのだろうか?

「遠慮することはないですよ!一人増えたところで大丈夫ですし、お手伝いはしてもらいますがそんなに苦労はしないから是非!」

迷っている俺の背中を押すように空色の少女は笑顔を見せる

「っつ..あぁわかった、よろしく頼むよ」

俺は手を差し伸べてくれる二人の手を掴んだ

「そういや君の名前をまだ聞いてなかったな俺はヨウマだ」

「雲居一輪です、一輪と呼んでください!」

これが空色の少女..いや、雲居一輪との出会いとこれから続く物語の始まりだった。




ここから命蓮寺のメンバーとのお話がスタートしていきます
ですがまだ一輪が妖怪であることや命蓮寺が妖怪のお寺であることを知らない妖怪嫌いな主人公
ここから一波乱がおきていくでしょう
それをどうやって乗り越えていくのか..
それでは続きをお楽しみに


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第2話「確執]

アトレ秋葉でグッズ買いました!
華扇のアクリルスタンドを買いましたー
いやー可愛いですねーまあ今書いてるのは一輪メインなんだけどね
いつか書くんでよろしくおねしゃす


「起きてください!朝ですよ!」

布団が勢いよく引きはがされ、大声で俺を呼ぶ声

「ちょおまっ!まだ日が出たばっかりじゃあねえか、ふざけんなよ..」

外の世界では引きこもって昼まで寝ていた俺にとって、朝は妖怪に続いて第二の天敵といえよう、うらめしそうな顔と文句をぶつけられ、昨日出会った修行僧である空色髪の少女、雲居一輪はムッとし、

「何言ってるんですか!修行しないとはいえ居候するのなら、偉そうに寝てないで少しは寺の手伝いをするべきです!うちはただ飯食いを置くつもりはないのよ!」

「ぐっ!」

ただ飯食いの言葉は今の俺に突き刺さる、外の世界でも穀粒しなり、ニート等散々罵倒されていた、そんな俺にただ飯食いと平然と言い放つとは..

こいつ、恐ろしいやつだ。

 

結局一輪にたたき起こされた俺は渋々一緒に境内へと出る

俺への案内を兼ねた、異常がないかの見回りだ

ここで初めて俺は命蓮寺の全体像を知る。

門の前には大量のお地蔵さんが置かれており、敷地内には大きい寺には必ずある石畳の参道と灯篭、本堂に鐘、奉納 毘沙門天とかかれた旗。

「なるほど、由緒ありそうなお寺だな..」

「当然!聖様の作った寺なんですから!」

えへんと胸を張る一輪。

お前が作ったわけではないのにどうしてここまで胸を張れるんだろうか。

「おはようございます!!」

「おっおっおー!?」

不意な挨拶によってキョドってしまう、そう引きこもりであるが故俺は急な挨拶等に弱いのだ。

「挨拶になってないですよ..」

若干引き気味に言う一輪

やめろ、そのまなざしは今の俺に致命傷だ。

「挨拶は心のオアシス!しっかり挨拶しないといけません!ではもう一度

おはようございます!!

「おっおはようございます!」

やはりでけえ声での挨拶は慣れねえ。

「うーんまだまだ声は小さいですが、しっかり挨拶できたのでOKです!」

笑顔でOKマークを作る少女、俺は少女の姿を見て絶句した

そう、その少女..いやこいつには人間のものではない耳と尻尾がついていた

「どうしたんですか?私の顔に何かついてますか?」

キョトンとする少女と顔がどんどん険しくなる俺の顔

何かを察した一輪は少女を俺から離した

少女の立っていたところに拳が飛んでくる、おそらくそこにいたままだったらもろに喰らっていただろう

「ちょっと、どういうつもり!」

一輪は拳を突き出す青年に問う、だが青年の顔は険しいままだ

「どうしてそいつが..いる!」

青年の声に怒りがこもる

 

「なぜ、妖怪がいる!」

 

青年の怒号が寺の境内に響く。

その声を聞き本堂から聖含め住人たちが出てくる。

「なんだと..!?」

寺から出てくる住人の姿、感じる"こいつら"はほとんど妖怪だ

「一体どうしました?ヨウマさん落ち着いてくださ--

「てめえ、妖怪側の奴だったんだな..目的はなんだ?俺の血か?」

今日の朝は気づかなかったが、命蓮寺全体で妖怪の力を感じる

「なるほど、ここは寺であることは建前で本来は寺に来ていた人間を食うというわけだな、危うく俺も犠牲者の一人になるところだったぜ..!」

「違います!私たちはそのようなことは..」

「黙れ!てめえら妖怪のことなんざ信じられるか!俺はお前らからすべてを奪われた..もう何も奪われてたまるか!」

俺は背を向け駆ける。

「「ふざけんな!聖様はそんな人じゃない!不当に迫害受ける妖怪たちを導いてきたんだ!助けてもらった恩を仇で返すなんて私が許さない!謝れ、聖様に謝れ!馬鹿者!」」

後ろで一輪..いやあいつの声が聞こえる、迫害されただと?当然だろうが、害しか与えねえ妖怪のことだ、当然じゃあねえか

「クソ..クソが!!」

俺の叫びは空へと消える。

 

 

 

~命蓮寺~

私はとても腹が立っている。

あの青年、聖様や私たちに助けられたというのになんたる仕打ち!怒りが湧き上がってくる。

「一輪、ヨウマさんを追いかけてください。」

「あんな奴、探す必要があるんですか!」

憤る一輪とは対称的に悲しげな顔をする聖

「確かにあなたが怒るのもわかります。ですが、放っておけばヨウマさんは確実に死にます。私はヨウマさんの過去を詳しくは知りませんが、ヨウマさんの言葉と顔、そして最初に対面したときの顔を見て私は..

彼を救いたいと思いました。」

まっすぐに自分の気持ちをぶつける聖。

「どうしてなんですか?分かり合えるはずがないじゃないですか!」

一輪のいうことはもっともだあれだけ憎悪の目を向けられれば普通は分かり合えないと感じるだろう。

「彼は、ヨウマさんは確かに私たちに憎しみを抱いています。ですが彼の心には憎しみだけではないと感じました、彼は救いを求めています。私にはあの哀しげな顔を、救いを求める心を見捨てることはできません。怒る気持ちはわかります。ですが、どうか彼を見つけてください。」

だが聖は極度のお人好しだ、相手が誰だろうと手を差し伸べたくなるのだ。

それはずっと仕えていた私たちがよく知っている。

聖のお願いを聞いて私たちはすぐに行動を開始した。

「わかりました聖様!不敬を働いた罪をあいつにわからせます!」

「ほどほどにするのですよ」

苦笑いしつつも信頼できる部下に青年の捜索を任せる

聖は青年の血について調べるために本堂に戻っていった。

 

 

~どこかの森~

 クソ!クソ!クソ!

 相手は妖怪だ今までだって、こんな風に逃げてきた!いつも通り当然のことをしただけだ!

でも..なんで、なんでこんなに胸が痛いんだ..

 悲しそうな聖の顔と、空色の少女の怒りの声と表情、思い返すたびに胸がどんどん締め付けられている

全てを奪った妖怪だ、なのに..

「あら?憎んでた妖怪に思った以上に入れ込んでいたのかしら?」

 どこからともなく女性の声が聞こえる。

「っつその声は!」

 そう簡単に忘れてたまるか、こいつは俺がここに来るときにいた女だ!

見た目は奇麗なブロンド髪のロング、フリルのついたドレスにリボンが巻き付けてある帽子、普通の人間ならば可憐な少女に見えるだろう

だが見た目は少女だが膨大な妖力を感じる、この妖力は..神に匹敵する!

そんな奴が俺を助ける意味は?

「俺をここに連れてきた目的は一体なんだ?」

「あなた、私が妖怪だってわかっているなら薄々気づいているのではなくて?」

予想が当たったようだ、俺をここに連れてきた奴が妖怪ならばその目的は一つしかない

「俺の..血か?」

「ええ、その通りですわ。あなたの血は私たち妖怪にとってとても価値のあるものです。そんな価値のあるものを自分からなくそうとするなんて勿体ないと思いここに連れてきたわけですわ」

「なるほどな、だが残念だな!」

俺は隠し持ってたポケットナイフを取り出し、そのまま首へと突き刺そうとする..が

「なに!?」

いつの間にか、俺の懐まできたスキマ妖怪に止められてしまう。とてつもない力、少女の腕とは思えないほどの力。

「だから言ったでしょ、それは価値のあるもの、それをなくされたら私は困りますわ」

「俺をもの扱いとはな..だからお前ら妖怪は屑なんだよ、わかるか?」

「あら?それは心外ですわ、あなた達人間の価値観ではごく潰しで自分から命を絶とうとしている方が屑ではなくて?」

「てめぇ!」

俺は激昂し、スキマ妖怪に拳を叩き込む。だが、こいつの体は鉄のように固く、逆に俺の拳が痺れてしまった。

スキマ妖怪は俺からナイフを取り上げると俺の腕を切り裂いた。

「ぐっ..!」

腕に激痛が走り血がドンドン流れていく

スキマ妖怪は俺から流れ出る血を凝視している。

「これは思った以上にすごい血ね..確かにこれを飲めば妖怪の格が上がり強力になっていく..なるほど..これはたくさんの妖怪があなたの血を求めるわけだわ。

そうね..あなたの能力は『格を上げる程度の能力』かしらね」

そう、俺の血は"力と格を上げる"血だ。妖怪は高僧などの徳を積んだ人間を食えば力と格が上がりより一層強力になる。俺の血はそれと同じ効果があり、しかも少量でも絶大な効果らしい。

今の現代では徳を積んだ高僧なんてものはほぼ存在しない。そのため妖怪たちは俺を探し出し、見つけると全力で俺を食おうとしてくる。

そりゃそうだ、仮にもし高僧がいたとして、高僧は妖怪を追い払う力を持っていることが多いし最悪自分が退治される危険性もある。

だからこそなんの力も持たず、さらに少量の血で絶大な効果を発揮する俺の血は現代に生きる妖怪たちにとって格好の餌だ。

「たくさんの妖怪に狙われるから、自分から命を絶った..やはり、実に勿体ないですわね。」

「妖怪に狙われているから命を絶った..か、お前は一つ勘違いをしているぜ」

俺はニヤッと不敵に笑い、もう一つのポケットからあるものを取り出しスキマ妖怪に突きつける

「お守り..?」

そして俺はお守りを地面で滴っている俺の血に落とした。

するとお守りは輝きだし奴の体が弾かれる。

「なっ!どうして..?」

面食らった顔をするスキマ妖怪を俺は嘲笑う。

「確かにてめえらは強い。だが、てめえら如きで自分の命を絶っているなら俺は今の今まで生きていねえ!俺には対妖怪の切り札があるんだよ」

「切り..札?」

俺は血に汚れたお守りを拾いスキマ妖怪に見せる

「俺の血は力と格を上げる能力がある、そしてお前らの格も上げることができる。だが、格を上げられるのはお前らだけじゃあねえんだよ!お守りの格と力を上げてお前ら妖怪から身を守ることなんて簡単だ!

それに俺が自分から命を絶ったのはお前らじゃあねえ..お前らよりも..っつ!」

あの日の光景が呼び覚まされる。思い出すだけでも震えが止まらねえ。俺は頭を振りあの日の光景を押し戻す。

「じゃあなスキマ妖怪、確かにてめえの力はすげえが俺のほうが一枚上手だったようだな。言っておくが地面にある血は時間が経ってもう効果はないし、俺の腕の血もお守りの力で止まったようだ。残念だったな血を利用することができなくて。」

俺はそのまま嘲笑いながらスキマ妖怪に背を向ける、奴はとても悔しそうな顔でこっちを見ていた。

あー気分爽快!してやったぜ!よくもごく潰しとか言ってくれたな!(一番切れた)

「新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のような気分ってこんな感じなんだなー」

だが脳裏によぎる一輪や聖、爽快感は一瞬で消えていた。

俺は一体ここからどうすればいいんだろうか..

 

 

 

八雲紫は考える、あの日あの青年を連れてきた日のことを。

あの血に惹かれてその場についてみれば自ら命を絶つ彼の姿を見た。

人間がダイヤやお金を目の前で燃やされると勿体ないと感じるように、妖怪に価値のある血がなくなるのはとても勿体ない、だから有益に使おうと考え傷を手当し幻想郷に送り込んだ。

あの時、周りにとてつもない力を感じたが、彼の話をきくにその相手は妖怪ではないらしい..

紫はその点が気掛かりだった。

「妖怪以外にあの能力を有益に使えるのは...やはり彼を回収したのは正解だったみたいね。」

たとえ彼が妖怪のことを憎んでいようと、ここに連れてきたのは彼自身のためなのかもしれない。

不穏な空気が漂う中紫はスキマへと消えた

 

 

 

「はぁ..はぁ..」

主からの命で命蓮寺から出ていった青年を探すため森を駆ける空色髪の少女一輪。

「たく、どこにいったのよあいつ!」

出ていってからそんなに時間は経っていないから近場にいると踏んでいたが..

「全然いない..」

どうやら予想以上に遠くまで行ってしまったようだ。

「雲山、そっちはどう?」

自分の相棒である入道「雲山」に状況を聞く

「うーんやっぱりいないかぁ」

あいつは一体本当にどこに行ってしまったのか..

「これは..!」

血で汚れた地面に血の付いたお守りを発見する

私は嫌な予感がした。

「絶対、謝らせてやるんだから。だから、生きていなさいよ!」

一輪はまた駆けだす。

あの青年を反省させるために。




いやはやすぐに急転回ですね
ですが、彼の妖怪嫌いという設定のためしょうがない部分がまああるのです。
もし完結したならば最初と見返してみて、彼も成長したなーとみてもらえるようにしてえなって


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第3話「出会いと別れ」

東方新作やりましたー
イラストの感じが独特でいい感じでした
普通に村紗とかピックアップされてたりでいい作品でしたね(語彙不足)

まあネタバレになるからあんまり色々言えないんですわw



 俺は今最大のピンチを迎えている..そう生命にかかわる最大のピンチだ..

「腹減った..」

そう今俺はもうれつに腹が減っている!これはもう絶体絶命の大ピンチよ!

「はぁ..命蓮寺で飯食ってから出ていくべきだったか。いやあのままいたら俺が朝ご飯になっていたところだぜ」

青年はとりあえず歩くと門を発見する。

門の扉を開け中に入ると、そこには里が広がっていた。

見た感じ田舎の方にありそうな家..いや里の人の姿は着物だ、田舎の里というより江戸時代の里だ。

「タイムスリップでもしたような気分だな..」

俺が呆然と里を見ていると

「こんにちは」

「ここっここっ..こんにちは」

突然の挨拶に声のした方へ振りむき、俺はクソ挨拶をかましてしまう。

あーなぜ俺はクソ挨拶をかましてしまうのか。命蓮寺でもあんな風になってしまうし、人には二つある!突然のあいさつにキョどる奴、普通に挨拶できる奴!俺はそのだめな方なんだカイジ!

頭を抱えて自分を責めている俺を若干困った顔をしながらみる和服の少女

やめてくれ!困った顔されたら俺マジでいたたまれねえよ!

「あのー..外来人の方ですよね..?」

さらに頭を抱える俺に困惑しつつも声をかけてくれる少女

「外来人?ていうのがわからねえんだが」

「あ、そうでしたね。外来人とは幻想郷の外の世界から幻想郷にきた人のことなんです。」

「なら俺はその外来人になるか。で、そんな俺に何かようか?」

「ここで話すのもなんですから、よければ私の家でお話よろしいでしょうか。」

「別に構わない」

俺は紫髪の着物の少女..稗田阿求の家まで歩く、彼女の家についたとたん俺は委縮した。そうこの里の中で一番豪華なでかい屋敷。そこの令嬢だと俺は悟ると同時に若干無礼を働いたのかもしれんとビビった。

「それではこちらです。」

「ハイ、オジャマシマスデスゼ」

俺の口から怪しい日本語が出る。また阿求を困惑させてしまった。

 

 

使用人もいたり屋敷の中が豪華すぎて委縮して怪しい日本語を連発してしまったが阿求から普通でいいといわれたのでなんとか平静を取り戻し、とりあえず机に向かい合い話始める。

「それで何の話をしようと思ったんだ?」

「えっとヨウマさんへの御用は簡潔に幻想郷に来た経緯を教えてほしいんです。」

俺は命を絶とうとしたことと俺の血のこと、命蓮寺のことを伏せて阿求に今までの経緯を話す。

「なるほど..やはり連れてこられたのですね..」

「あぁ、まあ正直外の世界にそんな未練はないんだ..すまんな変なこと言っちまって」

「いえ..そうだ、せっかくでしたら里を見て回りませんか?私が案内しますので」

手を合わせて提案してくる阿求。ここを拠点に今後は生活するのだから確かに下見はしねえといけないし、普通にありがてえ。

「それはありがたい、せっかくだからお願いするよ」

 

そして阿求と俺は里へと足を向ける。

「ふふふ、ヨウマさん目がすごく輝いていますよ」

「そんなに目輝かせていたかなぁ?」

「ふふふ」

里の風景は現代で住む俺にとってはなにもかもが珍しい、歩く人々は全員和服で、畑や古い民家、江戸時代にきてしまったようでついつい食い入ってみてしまう。

そんな子供っぽい青年の姿をみて阿求はまたクスリと笑うのだった。

「そろそろお昼時ですね。」

少し里を見ていたが意外にもまだ昼。出ていって、長い間歩きまくってたから昼は過ぎていたとおもっていたが、よくよく考えれば俺は命蓮寺で早く起こされたっけな。

「よかったらお昼ご飯食べませんか?」

ここで待望の飯のチャンス。そう俺は昨日から何も食っていないためお腹がとてもすいている。そんな俺にとってご飯に導いてくれるとはこの子天使だわ!

「かたじけない」

つい嬉しすぎて武士口調になってしまった。

 

「うまい!」

俺は里の店で出された蕎麦を食べておいしさのあまりに声に出してしまう。それもそのはずだ、だってマジで昨日から何も食っていないのだから!

「ふふふ」

うまそうに蕎麦を食う俺をみて阿求は微笑む、なんだか包容力のある笑顔だなとおもいつつも蕎麦を食う

「かーうまかった!」

「すごい食べっぷりでしたね」

「昨日から何も食ってなかったからな、ほんまにおいしいご飯ありがとうな」

「いえ、そんなに喜んでいただけるなら、あっ..」

阿求が急に立ち止まる。阿求の視線の先にはかんざしがあった。彼女も年頃の少女だこういうのも欲しくなるのだろう。

「ちょい待っててな」

キョトンとする阿求を待たせ、店の外で荷物運びをしている店主に声をかけ手伝う。引きこもっていたとはいえ対妖怪のために運動は欠かさず行っていた、なんなら妖怪に追いかけられるだけでもいい運動になるしな。そして荷物を運びおえ阿求の基に戻る。

「あの、ヨウマさん?」

「待たせて悪かった。ほら、これ」

俺は阿求の欲しがってたかんざしを差し出す

「これ、どうしたんですか?」

「いや店主が店の中に荷物運ぶの大変そうだから手伝ったらお礼にくれたわ。まあ人助けの礼ってやつだ。まあ俺からの蕎麦の礼だと思ってくれ。」

「ヨウマさん..私のためにですか?」

「いんや、店主が困ってたからだ、ほらまあなんだ困ってる人は見過ごせない主義でね、まあうんそういうことだ」

「ふふふ、そういうことにしておきます。」

「まあそれで頼むわ」

不器用すぎる俺の返事に阿求は笑う。俺もなんだかおかしくなり笑ってしまった。

 

そして一通り里を見回って屋敷の前まで戻ってくる。

「今日はありがとうな、いろいろ見れて楽しかったよ」

「いえ、私もヨウマさんと回れて楽しかったです。」

「まあとりあえず里の中で野宿でもして暮らすかな、用があったらとりあえずそこらへんにいるから声かけてくれ。今日はマジでありがとうな。」

感謝の言葉を伝え、背を向ける青年。

「あ、あの!」

背を向け歩き出す青年の姿をみてつい声をかける。振り返った青年の顔を見て少しドキッとする。

「もし、もしなんですが..よろしければ、私の屋敷に..」

阿求が言い終わる前に誰かの悲鳴が聞こえる

「なんだ!?」

「入口の方です!」

突如聞こえた悲鳴に阿求とヨウマは駆けだす。

 

 

声のする方に向かうとでけえ獣がいた。

「妖怪..!」

「どうして..!」

どうやら里の内部に妖怪が侵入したようだ。阿求はとても驚いた顔をしていた。

「おいここの里って大々的に妖怪の襲撃は受けるのか?」

「い、いえ確かに里の内部に妖怪が侵入する場合もあります。ですが、その場合人間の中に溶け込むだけでこんな風に大々的に襲撃するってことは..」

「珍しいってことだな」

妖獣タイプの妖怪か..目的は分かっている。薄汚い獣野郎は鼻がするどいやつが多い。俺の血の匂いを嗅いでここまで来やがったか。俺は腕の傷を見て、拳を握る。

妖獣は手当たり次第に暴れる、その結果建物が破壊されていく。

「阿求!妖怪退治できる奴はいるのか?」

「います、ですが今からだと時間がかかるかもしれません」

「そうか」

時間がかかるか、なら足止めするしかねえな。ポケットに手を突っ込みもう一つのお守りを手に持ち妖獣に向かった。奴は俺に気づくと気味の悪い笑みを浮かべる

「ヨウヤク見ツケタ」

「ケッ、クソ妖怪のしかも獣のくせに人の言葉をしゃべるとはな、反吐が出るぜ」

嫌悪感が俺の体を駆け巡る。あー本当に妖怪っていうのはクソだな。

幼獣は迷わず俺に突っ込んでくる。妖怪とはいえ所詮獣か。俺はナイフを使って傷口を開いて血を出す。そして流れ出た血をお守りにつけ妖獣めがけて投げる。

妖獣が弾きとばされる。だが再び体制を立て直し向かってくる。

「なんだと..!あれを食らって立てるなんてな。血の量が少なすぎたか..やべ!」

妖獣の爪が俺に襲い掛かる、間一髪よけもう一つのお守りを奴に投げる。また弾き飛ばされ民家に激突する。

「すまねえ..」

俺は心の底から申し訳ない気持ちがする。

「ヨウマさん!」

「阿求今は近づくな!」

妖獣はまた体制を立て直し怒りで理性を失ったのか腕を無造作に振り、近くにいる阿求に襲い掛かる

俺は駆け出し奴の攻撃から阿求を遠ざけるが..

「グっ!」

奴のするどい爪が俺の右肩を切り裂く。肩から血があふれ出る、俺はその血を利用するためにお守りをだそうとするも痛みで腕が動かない。

「キサマ!モハヤ血ナンテ関係ナイ」

奴は大きく腕を振りかぶる。俺はとっさに目をつぶる。

「グオオオ」

奴の叫び声を聞き恐る恐る目を開けると俺の目の前に紅白の巫女がたっていた。

「まさか、人間の里で大暴れするやつがいるとはね」

紅白の巫女はお札を取ると妖獣に投げつける。妖獣はそのまま苦しみ動かなくなった。

「ふう、これで解決かしらね」

「いやまだだな」

「ちょっとあんた!」

俺は巫女からお札を取ると自身の血をしみこませ妖獣に投げつける。投げつけられた妖獣は苦しみそのまま消滅した。やはりな

「あんたどういうつもりよ」

「しぶとく生きているからトドメを刺したそれだけだ。」

紅白の巫女は俺をにらみつけるが俺は意に返さず淡々と返す。

俺は周りを見渡す。ひどい惨状だ、民家は一部が破壊され、人々は逃げ惑い怯えている。

俺のせいだ..俺のせいで..俺の血のせいで..

俺の危惧していたことが最悪にも起こってしまった。

「ヨウマさん!肩の傷大丈夫ですか!?」

「阿求、お前の方こそ大丈夫か?」

「私はヨウマさんのおかげで大丈夫です。それよりヨウマさん早く手当を..えっ..」

そう俺の肩の傷がふさがり始めていたのだ。

「阿求、すまない。俺はここには住めねえや..」

「どうしてですか!」

「あの妖獣がここを襲撃したのは俺の血のせいなんだ..俺の血は妖怪を引き寄せる血なんだ..だから俺はここには住めない」

「そんな..それでも私は構いません!ですから..」

「阿求、いいんだ。お前がよくても、里の人たちが俺を受け入れても、俺は..、俺自身のせいで誰かが泣くのを見たくないんだ。阿求..その気持ちだけでうれしいよ」

青年は阿求に微笑みかける。だがその笑みはどこか寂しく、悲しい笑みだった。

青年は阿求に背を向け歩き出す。青年を追いかけようとするが青年の言葉と悲しげな彼の顔がよぎって前に進めない。青年は門をくぐり去っていく。その姿を彼女はただ涙を流しながら見ることしかできなかった。

 

 

阿求は完全に青年の姿が消えるとその場に泣き崩れた。出会ってすぐの関係だが、思った以上にあの青年に夢中になっていたのだ。整っているが少し儚い感じの顔、少し子供っぽく不器用だがとても心優しい青年。

そんな彼に惹かれていた。最後まで青年に伝えられなかった思いは、おそらく彼に届くことはないと確信している。彼は妖怪に狙われる血を持っているのだから、里の外へ出ていった彼は妖怪たちに狙われ続けるだろう。そんな彼が助かる見込みは少ないとわかっていたのだ、そしてそれを止めようとしたが、止めることはできなかった。阿求はそんな自分への不甲斐なさと恋をした青年がいなくなったことにただただ涙を流し続けることしかできない。

 

 

 

紅白の巫女、博麗霊夢はイライラしていた。

「あーもうなによあいつ!急に私からお札を奪っておいて妖怪を消滅させて、挙句の果てにどっかいくなんて!文句くらい言わせなさいっての!」

勝手にお札を取り勝手に退治し、勝手にいなくなる青年になんか言ってやりたかったが阿求と彼の会話に入ることができなかった。二人ともあんなに悲しそうな顔されれば文句も言えない。そして、泣き崩れる阿求に事情を無理にでも聞くことはさすがにできなかった。

霊夢はいろいろもやもやしたまま帰路につく

「里で起きたことについて教えてくれませんか?」

声の方向を向けば空色髪の入道使いが息を切らせていた。

「あら、入道使いじゃない。命蓮寺の妖怪が里に赴こうとするなんて珍しいわね」

「色々事情がありまして..とりあえず、里で何が起きたか話してくれませんか?」

「別に話すも何も、私も詳しい経緯はわからないわ。珍しく妖獣が大々的に襲撃したってことね。あと、少しムカつく男がいたくらいね。」

「その男ってどういう人ですか!」

男という単語を聞いて過敏に反応する一輪。

「ちょ、近い..」

「あーすいません..」

グイっと詰め寄ってくる一輪に霊夢は困惑しつつも男の特徴を細かく伝えていく。

「やはり、ここにいたんですね..それでその人はどこに?」

「知らないわよ、私に何も言わずに里の外に出ちゃったんだから」

「里の外に!危険じゃないですか!」

「そこも知らないわよ、ただ阿求との会話を少し聞いたんだけど、妖怪が襲撃したのは、あいつの血で妖怪が狙ってくるだとかどーたらこーたらって。」

一輪は絶句する。あの青年から感じた魅力の正体、それは彼から発せられる血の魅力だった。甘い蜜に虫が引き寄せられるのと同じように、彼の血に妖怪は引き寄せられる。里という安全なところにいるならまだしも、妖怪たちが数多く生息している里の外に出るのは自ら食ってくださいと命をさしだすのと同じだ。

一輪はまた駆けだす。霊夢が何か言っていたが、その声は一輪の耳には入ってこない

(絶対に生きていなさいよ!)

聖の約束を果たすためというのもあるが、一輪は本気であの青年を心配していた。

 

 




俺は一輪がヒロインのラブコメを書こうとしていたが、いつのまにか阿求がヒロインらしくなっていた..何を言っているのかわかるとおもうが、主はなんか阿求にスポットを当ててしまった。しかもなんかヒロインらしいことになってるし..
詐欺だろ思った皆さまご安心をこの後は一輪との関係を書く予定なんで
はい、嘘はつかないです。


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第4話「和解」

今のところこの小説の構成は考えておりますが、それを形にするのって難しいですねw
とまあぼちぼち書いていきますね。




「はぁ..はぁ..クソ」

俺は肩の傷を抑え森を駆ける。里の襲撃の怪我によって血があふれ出る。その血の匂いにきづいた低級妖怪共が俺に次々と襲い掛かってくる。

クソ..早く止血しねえとな。

俺はポケットから健康祈願のお守りに血をたらし、そのまま傷口に当てる。健康祈願お守りの格と力を上げた影響で傷口がふさがり血が止まる。厄除けお守りを取り出し、傷口のまわりの血につけ手に握る。襲い掛かってくる妖怪共は全員吹き飛んだ。

「お守りの在庫は!もうねえか..」

また走り出すと妖怪共は急に追いかけるのをやめた。

「なんだ..一体どうして急に..っ!」

近くにさっきの低級妖怪共とは比べ物にならない妖気を感じる。スキマ妖怪ほどではないがそれでも普通の妖怪とは一線を画す妖気。俺はあたりを見回すと一つの洞穴を見つけた。その洞穴からでかい妖気があふれ出てくる、そしてその妖気が徐々に近づいてくる。

「大蜈蚣..!」

洞窟から這い出たのはとても大きなムカデだった。

「なるほどな、妖怪共が近づくのをやめたのはこいつのせいか..まだ成長途中とはいえ厄介なのがでてきやがった!」

大蜈蚣は見た目はただのデカいムカデのようだがその実力は日本の妖怪でも指折りの実力者だ。平安時代には龍神を迫害したりその娘を喰らうなど、龍と同等またはそれ以上の強さを誇る。

さらに大蜈蚣は強力な毒を持っており龍ですら避けるという。

若い個体とはいえこいつの相手はまずい。

大蜈蚣は威嚇するとそのまま毒液を飛ばす。

間一髪よけるが、大蜈蚣の突進を避けることができずもろに喰らう。

「ガハッ!」

腹に衝撃が走る、胃の中のものがそのまま全部でちまいそうだ

すまん阿求、せっかくの蕎麦出しちまうかもな..

俺はそのまま胃液混じりの唾を吐く。

すると大蜈蚣は一瞬固まる。俺は不思議に思い、試しに唾を大蜈蚣に吐く

予想通り大蜈蚣は唾を避ける。

「そうか、こいつ唾を嫌うっていう特性があったな!よし!」

俺は唾をどんどん大蜈蚣に吐きかける、唾を吐きかけられた大蜈蚣はいやがり俺から離れる。俺はその姿を見てどんどん唾を吐く、気分はさながらダーブラだ。

だが、調子に乗っていると大蜈蚣は怒ったのかまた突進してくる。

「ぐへぇ!」

野郎..完全に調子に乗っていた..あぁ..だめだ..意識が..ここで食われるのか..

俺の意識は完全に途絶える。

 

 

 

一輪は森で倒れている青年とその青年を食べようとする蜈蚣を発見する。

「やっと見つけた..コラ!食べてはいけませんよ!」

青年を食べようとする大蜈蚣を止める。この大蜈蚣は命蓮寺に所属している毘沙門天の代理が青年を探すように命じた使いなのだがまだ若いらしく青年の血の魅力に勝てなかったらしい。

「食べる前でよかったわ、もし食べていたら厳罰が下されてたでしょうね。」

大蜈蚣は一瞬身を震わせる。

「さてと、よいっしょっと、あら、意外と軽いわね」

はやく聖様のところへ連れてって手当しないと..

一輪は青年を背負い命蓮寺に向かう。

 

 

..っ!..ここは?..

懐かしい光景だ、、俺は家族におぶられる夢を見た。疲れているのか全く体が動かないし、声も出せない..

懐かしい家族の姿、そして唯一覚えている家族のぬくもり..もし俺が、普通だったならば..このぬくもりはいつでも感じられたのかな..いや、もしもの話をしたところで今は今なんだ..これは、走馬灯なのだろうか、それとも願望の現れなのか、どっちでもいい、今の俺には永遠に手に入らない暖かさ、ただただ、今はこのぬくもりを、家族の暖かさを..感じていたい..

俺の頬に涙がつたう。

 

 

 

「ヒャッ!?///」

一輪は顔を赤くし思わず声を上げる。

背負った彼の腕が一輪を抱きしめたからだ。

「ちょっ!ちょっ!あんた何を..」

今すぐにでもたたき起こして文句を言いたかったが、それはできなかった。

彼の頬をつたう涙をみれば言いたい文句もすべて消える。

まだ詳しい話はしらないが、彼はいくども命の危機にあったに違いない。そんな彼の苦労を考えると一輪の胸が締め付けられる。死にたいと思っていた彼、妖怪を憎む彼、どれも悲しげな顔をしていた。

捜索するとき常にその顔が頭の中から離れなかった、そのたびにある思いが沸いていた。

あぁ..私は、彼を助けたいんだな..

一輪はまだ紅潮する顔をたたいてシャキッとし一刻もはやく命蓮寺へと足を進めた。

 

 

 

両親は急に足を止め俺をおろす

「いやだ..待ってくれ..おいてかないで!お父さん!お母さん!」

あの時と一緒だ、珍しく与えられた家族のぬくもりは..

"最後のぬくもり"

俺を捨てた時も最後に抱きしめてくれた..そして誰も来なかった..

だからこそわかる、この感じこれは最後のぬくもりだと。

両親は泣き叫ぶ俺に背を向け歩き出す。

「待って!」

その腕を掴もうと手を伸ばす。だがどれだけ伸ばしても俺はの手は決して届かなかった。

俺はそれでも懸命に懸命に腕を伸ばす、暗闇へと消える両親の手を掴むために、俺は暗闇に腕を伸ばしたが届かない

あぁ..俺の手はもう..つかめそうにねえや..

闇の中で伸ばした手は虚空を掴もうとしたその瞬間

「!?」

誰かの手が俺の手を掴む、暖かい手..冷たい俺の闇を切り裂くように現れた手。

俺はそのぬくもりと光を掴み続けた。

 

 

「ん,」

ふと目が覚める、光が差し込んでいる、どうやら眠っていたようだ。

さっきのは夢だったのか..いやそんなことよりだ..ムカデにやられてたが、食われなかったのか?

いつのまにかどこかに運ばれていたらしい。

怪我した右腕を動かそうとするもピクリと動かない。

俺は首を動かし右腕のほうを見る、、、見覚えのある空色髪の少女が俺の腕を握ったまま寝ていた。

寝ていた..寝ていた..寝ていた!?

おいおいおいおいおいどういうこった、俺は大蜈蚣に食われたと思ったが、実は生きてていつのまにか命蓮寺で少女と寝ていた。なんだこの展開!?正直な話をしよう、俺は女の子とまったくもってかかわった経験がない、だからこういうシチュエーションなんて想定外だしどうすればいいのかわからねえ。

完全に頭の中から大蜈蚣のことやなぜ生きているのか等すべて吹っ飛んでいったが、急いでかき集め、乱れた心を冷静にし考える。

大蜈蚣から一輪が助けに来てくれて、俺を命蓮寺に運んだ..そこまでは予想できる。だが!なぜ俺の隣で寝ているのかが全く持ってわからねえ!

「ん~..」

俺が悶々としていると目を覚ました一輪と目が合う。

驚くと同時に頬が紅潮していく一輪はつながってる手を見てふるふると震えて

「いつまで握ってるんだい!」

「ぐへぇ!」

俺は殴られた、親父にもぶたれたことないのにな..

 

 

その後、聖も駆けつけ俺は聖と一輪と向き合う。

「なにかいうことは」

一輪はジト目で俺に問う。

「....」

「ちょっと!」

「まあまあ、」

何も言わない俺に怒る一輪をなだめる聖、俺を見つめ安心した顔をする

「ヨウマさん、ご無事でよかったです。」

「まあ怪我して無事ではないんだけどな」

ぶっきらぼうに答える俺に一輪は何か言おうとしたが聖に止められる。

聖は静かに口を開く

「ヨウマさんの血のことは調べました..力と格を上げる効果があり妖怪に狙われやすいということも。」

「はっ、それでそれを知ってあんたはどうするんだ?この力を使って味方の妖怪の力と格でも上げるってか?」

「私たちは、そんなあなたを助けたいのです。」

は?俺を助けたいだと..こいつ何を言っている..

驚く顔をする俺に聖はほほえみかける

「私たちの目指す目標は妖怪と人間の平等、共存なんです。いきなりこんな話をしても信じてもらえないと思いますが、これでも本気で目指してるんですよ。」

「人間と妖怪の共存..本気で言ってるのか!妖怪は人を襲い、人は妖怪を恐れる。そんな二つの関係は決して相容れない机上の空論、ただの夢だ。」

バカバカしい..そんなことがありえるはずがねえ、絶対にだ

「聖様の夢はきっと叶います。この命蓮寺には人間の信者もいます。共存への道は確実に一歩ずつ進んでいるわ」

一輪はまっすぐな目をして聖と同じく夢を語る。

「本当かよ」

俺は夢を否定するように笑う。

「なんでそんなにひねくれているのよ!」

一輪はムッとしながらいう

俺はその一言にカチンとくる

「ひねくれてるだー!?おめえら妖怪のいうことなんざ信じられねえし、絶対無理だ!」

「なんで無理だときめつけるの!」

「俺がその無理っていう証拠なんだよ!俺の血はどんな妖怪も求めるものだ!血の魅力に抗えた妖怪はいない!」

「「むむむむ!」」

売り言葉に買い言葉で言い合いにらみ合う俺らをなだめ聖はある提案をする

「もし信じられないというならここに所属して自分の目でみてみるというのはどうでしょう?もちろん衣食住や身の安全は保障します。」

「なんだと、俺にここに住めというのか、この妖怪寺に!」

即お断りだ!と思っていたら一輪が会話に入ってくる。

「命蓮寺以外だったらどこに行くの?人間の里は自分の血のせいで住めないって言ってたじゃない」

「ぐっ!」

そうだった..俺は自分の血によって里の人たちに迷惑がかかるから暮らすことをやめた。そして今この命蓮寺で暮らすことを断れば俺は完全に行き場がない。しかも、外には妖怪共がうじゃうじゃいて安息なところは完全にない。

聖は俺の手を優しく握りまっすぐな目で

「もう一度、私を信じてください..」

こんな顔されたら男はNOといえない、頷くしかねえ。頷く俺を見て勝ち誇った顔をする一輪

そんな一輪の顔をみて俺は悔しさと屈辱で一粒の涙が流れる。

「泣いてよろこんでいるのですね」

「あぁもうそれでいいよ..」

 

 

 

「さてと、もう一度聞くけど何か言うことある?」

「聖、これからお世話になると思う。だからよろしく頼むのと、俺を心配して助けてくれて本当にありがとう。」

「いえ、当然のことをしたまでです。」

聖は頬に手を当てウフフと笑う。奇麗だな..

「で私に言うことは?」

「一輪も俺を助けたり、看病してくれてありがとう。」

俺の言葉を聞いてフフンとドヤ顔で胸を張る一輪。

そんな姿にイラっとした俺は爆弾を投下してやる。

「わざわざ俺の手を握ってくれてずっと隣で寝てくれてありがとうな」

。一気に頬を紅潮していく一輪。

聖は頬に手を当てながら「まぁ!」と驚いた顔をしつつどこか嬉しそうに微笑む。

「そのことはとっとと忘れなさいよ!」

俺はこの発言をしたことを一気に後悔した。そして、顔を真っ赤にした一輪に殴られた。

「ぐへぇぇぇ!」

殴られた俺だが、家族のぬくもりに近いものを感じていた。

 

 




ようやっと和解することができましたね。
これからヨウマと命蓮寺の面々は仲良くなれるのか
それではお楽しみを


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第5話「一から一歩ずつ」

第5話になりましたー何気にしっかり続けられるように頑張れていますね
実は私ムカデが好きなんですね(唐突)
前回でムカデが出てきたのはそういった理由としっかり毘沙門天の使いであるというところがあります。
なので皆さんムカデすきになりましょう!。



「ほら、さっさと起きる!」

「うおおおだから早いだろぉ!」

朝一番。まだ、日が完全に出る前、命蓮寺では二人の男女の怒号が響く。

その男女のうち一人は俺、そして女の方は空色髪の少女一輪の声だ。

 俺は昨日苦渋の決断の上、一応は身の安全を保障してくれる命蓮寺に所属することになったのだが、こんな朝早くから修行するなんて聞いてねえぞ!

「ほら、寺に住むことになったんだから、寺のことに従ってもらうよ!何もしないごく潰しを養うつもりはないんだからね!」

腰に手を張ってフンっと鼻息を荒くしながら、相変わらずグサッとくる言葉をぶつけてくる一輪。こいつはほんまに言葉を選べ!

一輪っていつもそうですね!俺のことなんだと思っているんですか!

結局俺は起きざるをえなかった。

俺はいやいやながら布団をたたみ押し入れにしまう。

「はぁ..来たばっかとはいえ気が緩みすぎているわね。」

「そりゃあまあ今までそういった生活とは無縁だったからな」

「はぁ..これからは自分で起きられるまで私がたたき起こしてあげるから、しかも今の時間よりも早くにね。」

「お前の起きる時間って今よりもっと早いのか..」

「当り前じゃない!修行僧なめないでもらえるかしら。そもそも同じ部屋で寝ているんだから私が起きたことくらい気づきそうなもんなのに..」

一輪は若干頬を赤らめつつ溜息を吐く

そう今現在俺と一輪は同じ部屋で睡眠を取っている。俺も一輪も乗り気ではなかったんだが..

 

 

時はさかのぼって昨日の夜、聖から俺の身の安全を守るうえで寝込みを襲われる可能性があるとして護衛として一緒の部屋にいるという提案をしてきたことが始まりだ。

「一輪、ヨウマさんと同じ部屋にいてくれますか?」

それを聞いた一輪は一気に顔を真っ赤にした

「ひひ聖様、ささ流石に一緒の部屋で寝るというのは..」

頭から湯気が出て慌てふためく一輪

「まあそりゃそうだいきなり、親しくもねえ男と同じ部屋にいるなんざ嫌だろうよ。無理せんでも一人で俺は大丈夫だ、襲われたらそれはそれでここを出ていくだけだしな。」

「ムッ!まだ言ってる!聖様は絶対身の安全を保障してくれます。嘘つくひとではないですから!」

「はっすげえすげえ」

「わかったわ!私が一緒の部屋にいて守って、身の安全を保障できるって証明してやるんだから!」

「お前、いやなんじゃねえのかよ..」

「信用されないほうがもっといや!」

 

というわけで結局護衛ということで一緒の部屋で寝るということになった。

男女屋根の下同じ部屋で、何も起きないはずもなく..まあ何もおきねえんだけどね

 

 

そして今現在掃除をさせられている。

「それでは行きますよ!おはようございます!!」

「おはようございます!」

「声が小さいです!おはようございます!!!」

「おはようございます!!」

「ちょっとうるさいわよ!」

「理不尽!!」

山彦の幽谷響子に挨拶の修行?をさせられていたが一輪に怒られてしまった。理不尽だ..

「しかしなんで大声だすんだ」

「命蓮寺の戒律の一つに『挨拶は心のオアシス』ってあるんです。だから挨拶は大事なんです!」

「大声を出すって理由になってねえな..」

「とにかく!命蓮寺に来たなら挨拶は大事です!それに私に手をあげようとしたこと忘れてませんからね!」

「グッ!」

痛いところをついてくる。確かに俺は罪悪感を抱いている、だからこうしてそれを出されるのは弱った。

「はーわかった..よし、おはようございます!!!」

「おぉ!いいですよ!それではオアシスのアでありがとうございます!!!」

「ありがとうございます!!!」

その後、挨拶を続けて大声でやっていき声が若干枯れた。

 

 

そして朝の掃除も終え朝食をとるために寺の中に入る。

「あ、ちょっといいですか?」

寺の中に入ってちょうど呼び止められる。

「あーと、アンタは確か..

「寅丸星です、毘沙門天の代理をしています。まあ白蓮の弟子のひとりでもあるんですけどね」

毘沙門天の代理か、あながち嘘ではないようだな。ただ神の力だけじゃなく妖怪の力も混じってるな。

毘沙門天..あっ!俺は思い出した。

「もしかして、ここを一回出ていった後、俺を襲ったムカデ野郎はもしかしてアンタの使いか!」

「その節はすみません。」

申し訳なさそうに謝る代理。

ムカデは毘沙門天の使いとされていて、どうやらこの代理に俺を探すよう命じられてたが、そんな俺を食おうとするとんでもねえ奴だった。

「まあそれはいい、要件はなんだ?謝りに来たってわけじゃあないんだろ?」

「要というほどじゃないんですが、一応自己紹介とかしときたくて。」

真面目な奴やな、まあ真面目じゃなかったら代理になんてなれんだろうな。

「体道事ヨウマだ。ヨウマでいい。まあここで修行するというわけじゃあねえがよろしく頼む」

「修行しないのですか?」

「まあなんだ、聖からの勧めでここにいさせてもらってるからな、一応掃除とかはそこら辺の手伝いはするから安心してくれ」

「一応、掃除とかも修行のうちに入っていますが。まあほかの修行をすれば自分の身を助けると思いますがね。おっと、長く留めてしまって申し訳ない。」

「いや全然大丈夫だ。」

代理は一礼して去っていく。さて、俺も行かねば

「いやーあなたがいきなり怒って脱走した新人さん?」

また呼び止められる。腹減ってるんだがな..振り返るとセーラー服、といっても水兵が着るような服をきた一輪と同じくらいの年の感じの少女がいた。こいつも妖怪であることは見てわかる

「脱走したというかまあ、間違ってはいねえかな。それで一体何の用だ」

「私も一応自己紹介しとこうかなと思いまして、村紗水蜜です。ここに来る前は舟幽霊をしてました。」

舟幽霊か、海で死んだ人間の霊で船を沈めるというなかなかに迷惑な野郎だ。

「ヨウマだ、それで呼んでくれ」

「ヨウマさんだねーそれじゃあ今後もよろしくお願いしますね」

「あぁ..」

なんだろうな、舟幽霊にしては明るいし正直な話すると割と苦手なタイプかもしれん。明るく話してくる奴はなんか苦手意識が..

「船と明るいやつ..か..」

そこでふと思い出す。外の世界でのことを、明るくて船や海が大好きだった奴のことを

「おーいヨウマさんそろそろご飯だよー」

そうだった。俺は腹が減っていることを思い出し急ぐ。

 

 

「いただきます」

やっとだ..やっと飯にありつけるううう。俺は目の前に出された飯に食らいつく。

圧倒的だ..うますぎる..ひと仕事の後の飯はどんなものよりうまいかもしれん!

「落ち着いて食べなさいよ..」

「これが落ち着けるか!うますぎるんだよ」

「まあ、そんなに喜んでくれるなら作ってよかったと思うわ。」

若干頬を赤くしながらそっぽを向く一輪とうまそうに飯を食う俺。それをみて微笑む聖と代理。舟幽霊もニヤニヤしながら見てくる。何が面白いんだか。

 

「そういえばヨウマさんって入門しないんでしたっけ」

飯を食い終えて一休憩中に舟幽霊が聞いてくる。

「あー代理にも伝えたけど、入門はしないな。一応掃除とかそこら辺の手伝いはするが、入門して修行っていうのはする気はないな。」

「勿体なくないですか?せっかくここに住んでいるのに。」

「そうよね、せっかくここにいるんだから入門して修行してもいいんじゃないかしら?」

一輪も俺に入門を勧めてくる。俺は誰がなんと言おうと入るつもりはないんだがな

「まあまあ二人とも、本人の意思次第ですから。」

「聖様は本当のところどう思っていますか。」

「えっと、私もせっかくですから入門してほしいなーってところはありますね」

おい、この住職本音をあっさり言うなや、ますますこれ入門する流れになりそうじゃねえか

「ゴホン!聖少しいいか。」

「あっ話変えた」

黙っててくれ舟幽霊

「オホン!まあ頼みというかなんていうか、俺はまだ幻想郷について何も知らねえ部分が多い。それでまあ少し色んなところを見てみたいんだ。」

幻想郷、妖怪がたくさんいることを除けば、ここはとてもいいところだ。まさに幻想的な場所だ。阿求によれば妖怪の山というでかい山があり、湖や紅い館に竹林などの色んな名所があるらしい。俺はそんな色々な名所と景色を見てみたいと思っていた。

「色んなところを見るって、妖怪に狙われるじゃないの」

一輪の言うことはもっともだ。また命蓮寺の外にいようものなら妖怪に襲われるだろう。そこで俺はある奴に目をつけていた。

「そこでだ。代理、前回のムカデを貸してほしいんだ。」

「ムカデって一回食われかけたことがあるのにか?」

「あぁそのムカデだ。」

全員不思議そうな顔をする。そりゃそうだ、一回食われかけたことのある奴と一緒に行くなんて自殺行為だからな

「あのムカデは若いながら他の妖怪とは一線を画す力を持っているし、毒を持っているから近づかれねえ。だからこそ俺の護衛にはピッタリだと思うんだ。」

「でも、また血の魅力に抗えずに襲われるかもしれませんよ?」

「それをなんとかしてこそ毘沙門天だろ?」

俺はニヒルに笑う。

「ふむ、そういわれたならこっちでなんとかしなくちゃですね。少しお待ちを、しっかりと護衛が務まるように言ってきますので。」

「頼むぜ、毘沙門天様」

フッしてやったぜ。

「外出許可まだでてませんけどね」

「あーそうだった!聖どうだ?」

「かっこつかないですね..」

 

結局聖から許可をもらい門限付きだが外出することになった。

俺の護衛として先日俺を襲った蜈蚣と行動を共にする。

「次は襲うんじゃあねえぞ」

蜈蚣は高速で頷く。おそらく代理に色々圧をかけられたんだろう。

蜈蚣は俺の体に巻き付き護衛する。ぶっちゃけ気持ち悪いがまあこれで妖怪に襲われないならいいだろう。

「無事にしっかり帰ってくるのよ」

「なんだ、俺のこと心配なのか?一輪よ」

「別に、怪我して帰ってきたりしたらまた手当で手間かかるのが嫌なだけだから」

フンっとそっけない感じでそっぽを向く一輪。入道の親父が手を振る。いたのか..

「んじゃ行ってくるわ」

 

そして俺は外を歩いて気づいた。

「なんか馴染んじまったな..」

妖怪嫌いなんだが、なぜか馴染んでしまった。正直妖怪とは分かり合えないと思うし、妖怪と仲良くする気はない!でもなぜだろう、どこか悪くないと思う自分がいる。

「調子狂うぜ!」

俺はそのまま人間の里へ向かうことにした。




ラブコメが始まっていくと思ったらそんなに一輪と一緒にならないという。これもう詐欺といわれてもしょうがねえんじゃねえのか。
安心してください!一応一輪はメインヒロインです。


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第6話「小さい鈴と御阿礼の子」

またまた命蓮寺を離れて人間の里へ。
さてまたまたあの子が出てきます。みんな、ちょっぴり期待してくれよ。
多分よくなるかなって



「ふう着いた..」

俺はこの幻想郷の色々なところ巡りたいと思い、命蓮寺を離れ巡ってみることにした。といってもしっかり門限までには帰るつもりなんだがな。

ぶっちゃけると、里であんな事起きたのに今更のこのこ訪れるというのは流石に気まずい..

だが、ここで止まってるわけにはいかない。

「蜈蚣、お前は里の周りで妖怪が襲撃できねえように睨みをきかせといてくれよ。」

指示された蜈蚣は『なんでお前の指示受けるんだ!』といいたいばかりに若干不満気だ

こいつ、立場を分かっているのか?

「お前は、代理の言いつけを破って俺を命の危機に陥れた。本当ならお前は処分されるかもしれなかったんだが、俺が代理に言ってお前にもう一度チャンスを与えてやったんだ。協力してくれるよな?」

俺は最大限嫌味ったらしく立場を分からせてやる。蜈蚣は渋々頷き、俺の体から離れる。

「んじゃ、頼んだぜ。」

俺は蜈蚣をそのまま放置して里の門をくぐる。

 

 

やっぱりな..門をくぐって最初に目に着いたのは前回の襲撃で破壊された民家だった。

民家を直すため、たくさんの大工や里の人間たちが資材を運んでいる。

罪悪感を抱きつつ、俺は見たことのある後姿を発見する。

正直、彼女に声をかけるのは気まずくてなかなか声をかけることができない..

声をかけるかどうか悩んでいると少女が振り向く、そして俺と目が合う。

紫髪で着物の少女は俺の姿を見ると、一気に顔がパーッと明るくなり駆け寄ってくる。

「ヨウマさん!無事だったんですね!」

「や、やぁ阿求。その..あーすまねえ」

涙を浮かべながら笑顔で抱き着いてくる阿求に、俺は若干キョどって返事が変な感じになってしまった。

「あぁ!?」

「ん?」

俺の後ろの方で誰かが驚いたような声がしたと思ったが誰もいない..気のせいのようだ..

 

「あっ、すいません..つい..」

阿求は顔を赤くしながら俺から離れる。

「い、いやこちらこそ、すまねえ..」

正直な話、悪い気はしねえ。アハハと乾いた笑いをしていると

「何デレデレしてんのよ..」

また声がする。回りを見渡してもやはり、誰もいない。一体なんなのか?

いや、今はそんな変な声よりもだ、俺は真剣な目で阿求を見つめる。

「なあ阿求」

「は、はい!」

阿求の顔は変わらず赤くなっており、さっきよりも頬が紅潮している。

「すまなかった!」

「え!えっと..」

俺は思いっきり頭を下げた。

阿求は予想外の言葉に拍子抜けした。

「それまあなんだ..復興を手伝わせてほしいんだ!俺の責任でもある。正直あの後なんの始末をつけずに出ていってしまったのは俺の身勝手だ..正直ここの住民たちから恨まれてもおかしくない、だから責任を取らせてくれねえか」

俺は頭を必死で下げる。命蓮寺の面々には色んなところを見て回りたいといっていたが、正直な話それもあるのだが、自分のせいで起きたことにケジメをつけたいという思いもあった。

「ヨウマさん..頭を上げてください..」

俺は恐る恐る頭を上げる。だが阿求は変わらず笑顔のままだ

「ヨウマさん、自分をそんなに責めないでください。確かに、ヨウマさんが引き寄せたもので、そのせいで家を無くしてしまった人たちもいます。その人たちから恨まれてもおかしくないです。」

「あぁ..」

「でも、しっかり誠意を持ってやればきっと許してくれます!ですから、自分をそんなに責めないでください。」

「阿求..」

「それに、私はヨウマさんに助けてもらったんです!襲撃の件はヨウマさんを恨む人がいたと思います。でも!私みたいにヨウマさんに感謝している人もいるってことを忘れないでください!」

俺はその言葉で涙があふれた。大の大人が大粒の涙を流すなんてな..だがその涙は俺の心の中にある罪悪感や気まずさを洗い流してくれた。

 

「取り乱してすまなかった。阿求の言葉に救われた気がするよ。ありがとう。」

「いえ、それでは早速お願いしていいでしょうか?」

「おう、なんでも言ってくれよ!」

早速阿求からの指示で資材を運ぶ。さて、俺の力見せてやるぜ!

 

「なかなかいい根性してるんじゃない。」

頑張るヨウマを陰で見て感心するが、その後彼はすぐ撃沈した。

「はぁ..さっきの言葉は取り消そうかしら..。」

フードの人物は溜息を吐く。

 

そう俺は引きこもりであるが故、力仕事に不慣れ、なので早々に撃沈した。

一応、妖怪から逃げるために走っていたから体力あると思っていたが

「そうだよなぁ、重い物を持ち運ぶなんていままでやったことなかったからな」

足の方は鍛えていても、腕は鍛えてないからな..

「かっこつけておいて、このザマなんてな..」

「無理することないですよ、ヨウマさんも頑張ってますから!」

うぅ..こんな情けない俺に暖かい言葉をかけてくれるなんて..天使や。

「阿求~復興どうなってるー?」

元気の良い声が聞こえてくる。声の方向を向くと阿求と同じくらいの歳で、飴色の髪をツインテールにした少女が手を振っていた。

「あ、ヨウマさん紹介しますね。私の友達の小鈴です。」

「はい、本居小鈴です。鈴奈庵の看板娘してます。」

看板娘って..自分でいうのか?

「俺は体道事ヨウマだ、最近ここにきた外来人ってやつだな。」

「ふーむ」

俺の自己紹介を聞くと小鈴は俺をジーっと上から下まで見る。

そしてとんでもない発言をした。

「阿求の彼氏さんってこんな感じなのね..」

「ファ!?」

「小鈴!」

俺と阿求は盛大に大声を出してしまった。

そしてその声に反応するようにどこからか大きな物音もした。

 

 

顔を赤くした阿求が俺たちの関係を否定しながら小鈴に怒る。

「えぇでも、前に阿求とヨウマさんが楽しそうにデートしてたのを見たっていう人がいっぱいいたんだけど。」

さらに燃料を投下する小鈴、阿求は頭から湯気をだし爆発した。

「小鈴、その辺にしておけ。阿求も落ち着くんだ」

俺はこれ以上の燃料投下を阻止する。

「第一、俺なんか彼氏にしたところでいいところないでしょ。」

「そんなこと!あっ..」

思いがけない言葉が返ったように聞こえたんだが..?

「阿求今のは..」

「し..知らないです!」

そっぽを向く阿求とそれをみてニヤニヤする小鈴に困惑する俺

あーもうめちゃくちゃだ..

 

「そういえば小鈴は結局何しにきたんだ?」

「あっ、何しにきたんだっけな?」

おいおい、忘れるなよそんな大事なことは。まあ俺もたまにあるけどさ。

うーんと考える小鈴。落ち着きを取り戻した阿求は手をたたき

「もうお昼なので、よろしければお弁当でもいかがですか?」

「あーもうそんな時間なのか、んじゃせっかくだからもらうとするよ」

「あああぁそうか!」

お昼という言葉を聞き小鈴は大きな声を出し

「私もお弁当を作ってきたから、阿求と食べようと思っていたんだった!」

と風呂敷をどや顔で出す。

「なるほどな、それでわざわざ来たんだな」

「そうそう、ヨウマさんも一緒に食べよ食べよ!」

「あいよ。」

思えば二人の少女と飯を食う俺って外の世界だったらアウトな気が..まあ気にしないでおこう

俺は小鈴に手を引かれて昼飯へ。

 

「ほお、可愛らしいな。」

「えへへ」

小鈴のお弁当は年頃の女の子らしく華やかで、可愛らしい弁当だ。うさぎリンゴかー懐かしいな..

「阿求の弁当は..で、でけえ。」

阿求のお弁当は箱がでかかった。見た目も正月に食うおせちみたいな箱してるし、想像どおりの良家だな。

「しかし、せっかくの君の弁当を俺が食べても大丈夫なのか?」

「大きいのでやっぱり私には量が多いので、遠慮せずにどんどん食べても大丈夫ですよ。」

「そうか、んじゃ遠慮なくもらうとするかな」

俺は真っ先に煮物に手を付ける。ゴボウをじっくり見て食べる。ゴボウのシャキッとした歯ごたえ、固いためどんどん咀嚼が促され、噛めば噛むほど味がどんどん出てくる。

「うまい!」

やはり良家の弁当、味は一級品のようだ。とはいっても良家と普通の家の煮物の味の違いなんてそんなに分からないんだがな。

「私のも食べてみませんか?」

小鈴は自分のお弁当箱を差し出してくる。

「悪いね、いただきます。」

小鈴の弁当からまたまた煮物の人参を取り口に運ぶ、小鈴の煮物は甘さが少し強い、だがこの甘さがいい感じだ。人参は比較的野菜の中で甘いと思うがその甘さがより引き立てられている。阿求の弁当の煮物は塩分が少し多かったので、しょっぱいもん食ったら甘いもの食いたいよね、って効果でうまさが増す。

「うまい!二人の弁当には二人の弁当にしかない味があっていい感じだ!」

頭の中で考えるとすげえ詳しく言えるんだけど、口に出すと語彙力ってなんかなくなるんだよな。

「ふふふ、喜んでもらえてよかったです。」

「えへへ、これ私の手作りなんだ。」

「そりゃあすごい。」

和気あいあいと昼飯を取り、時間は過ぎていく。

 

 

「ふう、ごちそうさまでした。二人ともありがとうな、おいしかったぜ。」

「ヨウマさん、すごくおいしそうに食べてましたね」

「ふふふ」

飯を食べ終えて少し余韻に浸る。

「なーんかご飯を食べ終えると少しぼーっとしちゃうのよね」

「あー、飯食うと消化のために胃に血が行ってぼーっとしちまうらしいぞ」

「へーヨウマさんって物知りなんだね。」

まあ俺もイタリアのギャングの幹部のセリフで知ったんだけどね。

「そういえば、ヨウマさんって煮物ばっかり食べてませんでした?」

「あー俺、煮物が好きなんだよ。なんかさなんやかんやで煮物ばっか食っていたんだが、飽きるから色々味とか調味料を変えていったりして食ってたら、いつのまにか好きになってたんだよな。」

それを聞いて小鈴は阿求にニヤニヤしながら

「へぇ~いいこと聞いたね阿求。」

「な、なんで私に!」

またまた、頬を紅潮させる阿求

「もう!小鈴はいい加減にしなさい!」

「えへへー阿求ほっぺが真っ赤~」

「な!」

真っ赤にしながら怒る阿求とそれをからかう小鈴。なんか微笑ましい..今の俺の顔はすごく穏やかなんだろうか。

俺は、心が少し暖まっているのを感じた。

 

 数分後、本気で怒る阿求の姿に小鈴と俺は思わずビビっちまった..

まさかあれほどとはな..

穏やかな人を怒らせてはいけないっていうことはどこも同じなんだな..




小鈴ちゃんと阿求の二人の弁当を食べられるヨウマ、お前そこ変われ


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第7話「守護る」

なんか里にいる時間の方が多い気がするんだよね。


 その後、怒る阿求をなんとかなだめた後

「ヨウマさんって外の世界から来たんですよね、よかったらうちに来てください!」

小鈴に誘われ小鈴の家が営む『鈴奈庵』へと足を運ぶ、鈴奈庵は貸し本屋であり、幻想郷の本だけでなく、外の世界の本も大量にあるらしい。

阿求曰く、外の世界の物は幻想郷によく流れついてくるらしく、外の世界の物を集めている店が里のはずれの方にあるらしい、今度行ってみるとしよう。

 

「つきました、ここが私の家の鈴奈庵です!」

中に入るとどこを見渡しても本だらけ、流石本屋だ。

本棚から本を手に取る、タイトルは..みかんの選別方..本当に外の世界の本だな。

日本語だけでなく、英語や中国語、どうやら多様な本がここにきているらしい。

「いや、なんでナチスの本がここにあるねん!」

思わず関西弁になってしまった..ナチスの本はやばくねえか?ドイツ語だったとはいえこんなのここにあったらやべえだろ..

「ヨウマさん、タイトル読めるんですか?」

「あぁ、一応タイトルだけな。一つ聞くけど、この本、まあこの本に限らずこの言語の本を読める人はいるのか?」

「えーっと私以外にこの本を読める人は多分いないと思います。」

「小鈴はこれを読めるのか。」

「はい、私色んな字の本を読んでるうちに、文字を読めるようになったんです。だからここにある本は全部読めるんですよ!」

えっへんと胸を張っていう小鈴。 

「なるほど、特殊な能力を持っているのか」

「阿求も同じように能力を持っているんですよ。」

「そうなのか?」

「はい、私は『一度見たものを忘れない』程度の能力を持っているんですよ。」

なるほど、人間の中にも特殊な能力を持つ人間はいるんだな。

「ヨウマさんも何か特殊な能力を持っているんですか?」

小鈴の質問を聞いて一瞬顔が険しくなってしまった。

それをみてばつが悪い顔をする阿求と困惑する小鈴。

その時俺は本で指を切ってしまい、血が出た。その瞬間!

「うお!」

本からいきよいよく妖怪が飛び出してきた。

「妖怪だと!?」

ネズミ型の妖怪は俺を見つけるといきおいよく向かってくる。

「危ない!」

とっさに阿求と小鈴を抱えて身を盾にする。

「ガハ!」

背中に衝撃が走る、小さいながら力は強い。

「「ヨウマさん!」」

阿求小鈴の声が店に響く。

二人を守らねば..

お守りを取り出そうとするもお守りを切らしているのを忘れていた。

俺は二人の盾になり妖怪の攻撃を喰らう。頭にやつの突進を喰らう。

まずい..脳震盪か..ここで倒れるわけには、

「うおおおお!」

俺は最後の力を振り絞りネズミやろうの顔面にパンチを喰らわせる。しかし、すぐさま体制を立て直しとどめを刺すために力をためるネズミ。

ダメだ..これ以上は..

意識が暗闇に落ちる瞬間、俺の目の前にたちはだかる、誰かの姿を見た。

「一..輪?」

 

 

ハッと目が覚め、いきよいよく体を起こす。

「阿求、小鈴!」

二人の少女を探すも見当たらず、さらにここは鈴奈庵ではなく、どこか別の場所らしい。

頭が痛い、あのネズミやろう!

ネズミやろうに怒りを抱いていると、襖があく。

「ヨウマさん!」

阿求が嬉しそうな声で俺を呼ぶ

「阿求無事だったか?」

「私は無事ですけどヨウマさんが..」

「ヨウマさん!」

阿求が言いかける前に小鈴がいきよいよく入ってきて俺に抱き着く。

「もしヨウマさんになにかあったら私!」

「大げさだな、小鈴もけがはないか?」

泣きそうな顔をする小鈴の頭を撫でる。

「二人は無事だよあなたのおかげでね」

小鈴と阿求とは違う声がし、襖の方に目をやると銀に青が少し混ざった長髪に青い服装に四角の変な帽子を被った若い女性がたっていた。声の感じと見た目から誠実さと真面目さがにじみ出ていた。

「はじめまして私は上白沢慧音だ。この里の寺子屋で教師をやっている。小鈴が大急ぎで呼ばれて君をここまで運んだんだ」

「体道事ヨウマです。妖怪に襲われているところを助けていただいてありがとうございます。」

俺は感謝の言葉を伝え頭を下げる。しかし、慧音さんは首を傾げ、

「妖怪から助けた?私がしたのは君をここまで運んで介抱しただけだが?」

「なに?小鈴、阿求誰かいなかったか?」

そんなはずはない小鈴に聞くも

「うう、怖くてヨウマさんにしがみついてました。」

小鈴は見てなく、阿求も詳しく見れていなかったという、ただ

「ヨウマさんが倒れる前に叫んで殴る音が聞こえたんです。」

そういえば、確かに倒れる直前あいつを殴った気がするが、それでもあいつは倒れなかったはずだ..

「ヨウマさんすごい!妖怪を倒しちゃうなんて!」

目をキラキラしながら俺を見つめる小鈴、そのまま俺が妖怪を倒したということになってこの話は終わった。

 

 

「そういえばヨウマは前からこの幻想郷に来ていたらしいが、住むあてはあるのか?」

「あーそれ私も気になっていたんです。」

あーそういえばまだ伝えてなかったな。

「あ、あの、もし..もし、まだ住むところがなかったら私のところで..暮らしませんか?」

阿求がうつむきながらそう提案する。

それを聞いて小鈴はキャー//といい慧音さんは驚いた顔をしている。

なんか変な期待されてる?だが、俺は正直に話す。

「阿求、すまねえが住むところは一応今はあるんだ..」

「そう..ですか..」

阿求は若干悲しそうな声をだし、小鈴はあちゃーと顔に手をあて、慧音さんは優しい顔で阿求の頭を撫でていた。

「でも、人里の外から来たってことは外で暮らしているんですか?」

「命蓮寺に一応身を置かせてもらっているんだ。」

「命蓮寺ですか!?なんでですか!」

阿求が驚いた顔で大きな声を出し俺に詰め寄る

「いやその..」

思わずたじろいでしまう。

「妖怪にひどい目にあわされたのにどうして!!」

「阿求落ち着け」

ヒートアップする阿求は慧音さんに止められる。

阿求のいうことはもっともだ、俺は妖怪にあれだけひどい目にあわされたりした。時に死にかけたこともある。なのに俺はその妖怪寺に所属している。

あの少女の真剣なまなざしが一瞬よぎる。

そんなことはないよな..

「里に被害が行かないからだ。俺の血によって毎回襲撃されれば、里の被害は増える。それによって俺に恨みを抱くやつも多くなる。一応さ、命蓮寺は力のある住職がいるんだ。そいつが俺の安全を保障してくれるからな。」

「それでも、私は反対です!妖怪に襲われてヨウマさんが死んだら私..」

阿求は胸を抑え悲しげな顔をする。

「ここにいてください。もし襲撃されても、霊夢さんが来て退治してくれますし、慧音さんもいます..ヨウマさんが責められても私が里の人たちを説得します。ですから!」

阿求の瞳に涙が溜まる。それを見ても俺の答えは..

「阿求、俺はやっぱりここにはいれないよ。君の気持ちはわかる。でもな、襲撃され続けて君が里の人を説得したとしてもどこか溝ができちまうんだよ。表面上はうまくいってるかもしれない、だけどなどんどん溝ができていくものなんだ。それに俺が無事でも無事じゃあない人もいる。俺はそんな人たちを犠牲にしてまで生きたくはない!」

「ヨウマさん..」

「それにな阿求、一番の要因は君に傷ついてほしくないんだ。妖怪の襲撃だけじゃなくて、もし俺をかばって君になにか起こるかもしれない。君がここで里のみんなと幸せに暮らすんだ。俺はやっぱり住めない。」

俺は死にたがっていた、だから阿求や里の人間が俺のせいで傷つくのを見ていたくないし、それのおかげで生きていることは俺には耐えられない。

「大丈夫だ、暮らせねえってだけで、もう二度と会えないってわけじゃあねえ。またここに来るさ、一応幻想郷の色んな所に行きたいって考えててさ、今度教えてくれないか?阿求は物知りだからさ教えてくれたら嬉しいな。」

泣く阿求の頭を撫でる。阿求は静かにうなずく。

 

 

日が沈みかけ俺は帰るために里の門へ阿求たちと行く。

「本当に大丈夫ですか?」

「あぁ、頭はもう大丈夫そうだ、全然痛くねえししっかり歩けるしな。」

「あんまり無理するんじゃないぞ、一応頭を打ったんだからな」

「そうですよ、妖怪の頭突きより慧音さんの頭突きの方が強いですから。」

「小鈴?」

「..ごめんなさい」

他愛もない話をしながら歩くも、若干気まずい。阿求がしゃべらなくなったからだ。うつむいた阿求と隣り合って歩いているが、やっぱきまづい。

そして、門が目前というところで慧音さんが

「そういえば小鈴また変な妖魔本を集めていたな。」

「うっ..それは..」

「詳しく話を聞かせてもらおうか。すまないが私と小鈴はここまでだ。阿求、彼の見送りを頼んだ。」

「う~ヨウマさん助けて!」

俺は引きずられる小鈴にただ苦笑いしながら手を振ることしかできなかった

そして必然的に阿求と二人きりになる、気まずい。

「あー阿求、また来るからさ、そん時は色んなところを教えてほしいなって..えーっとそれじゃあな」

俺は気まずさに耐え切れず門の扉に手をやると

「待ってください」

声がして後ろを向くと、阿求は涙を着物の裾で拭って聞いてくる。

「また来てくださいね。その時は色んなところを教えるだけじゃなくて一緒に行っても大丈夫ですか?」

「あぁ約束だ。一緒にな。」

「約束ですよ。」

阿求はまだ涙が残った笑顔を作る。そんな彼女の姿に心奪われた自分がいた。

俺は阿求と指切りをし背を向けまた門をくぐる。彼女の笑顔がずっと焼き付いて頭から離れなかった。

次もまた..

 

里の外にいた大蜈蚣に声をかけ帰路につく。

 




なんだろう、ヒロイン変わってねえか?


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第7.5話「謎の声の軌跡」

前回の謎の声、謎の正体が明らかに
裏で起きた出来事のお話ですので6,7話の補完となっております



さて、ヨウマが人里を訪れ、三人で和気あいあいしている間でもう一人、ヨウマと同じように里を訪れた来訪者がいた。

時を遡り~

 

 

「んじゃ、行ってくるわ。」

後ろを向き手を振る青年を見送った。

彼は最近この命蓮寺に来た人間なのだが、あろうことか聖様に無礼を働き、さらに出ていき心配をかけさせ、いざここに住んでみれば入門せず、色んなところを見たいと聖様に無理を言ってまた寺を出る!

「せっかく寺にいるんだから、入門くらいして聖様を喜ばせなさいよ..」

色々彼には文句を言いたいところだが、聖様に止められている。聖様はなぜあんな青年の肩を持つのか、私にはまったくもってわからない!

「はぁ、門限までに帰らなかったら、今度こそ文句言ってやるんだから!」

私は怒る気持ちを相棒の雲山になだめられながら本堂に戻る。

すると聖様と寅丸さんがなにやら話している。

「聖様、あいつの見送りしておきました。」

「あっ、ちょうどよかった」

?と首をかしげる一輪

 

「えぇ!あいつの後をついていけと!」

「あぁ、正直大蜈蚣にはきつく言っておいたんだが不安なんだ。」

「寅丸の不安もそうですが、万が一のことがあったらいけないと思いまして、やってくれますか一輪?」

もー、なんで二人ともあいつに甘いのかしら。

「わ、わかりました。」

二人にお願いされたら断れないじゃないですか。

 

 

私は聖様の命であいつを探し、里の近くへ行く。

「あら?」

里の外でうろうろしているあいつと一緒にいるはずの大蜈蚣を見つける。

「ちょっと、あいつは?」

 

「ふむふむ、なるほど。里の中に入るからこの前みたいにならないように警戒をしておけと言われたのね。」

聞いてみれば里の周りで襲撃してくる妖怪がいないかどうかの警戒と牽制として任されたらしい。

里を襲撃するような妖怪は普通はいない。なぜならすぐに博麗の巫女によって退治されるし、幻想郷のルールに反しているからだ。だけどあいつの血の魅力はそのルールを破らせるほど強力だ。

「あなたみたいに神の使いに警戒をさせるあいつの判断は懸命だけどまだまだね!」

妖怪は里の中にひっそりと隠れながら生活しているものもいる。そいつらがあいつを襲ったら、あいつの聖様への信頼が落ちてしまう、それだけは避けなければ!

蜈蚣に里の周りの警戒を任せ里の門の前へと行く。

「うっ..」

私は有事のこと以外では里に立ち寄るのを禁じられている。しかし、今回は里の中にあいつがいたら、何かあった時に守れないということで立ち入ることを許可された。久々の里だけど、今まで言いつけを守っていたから入るのに少し抵抗を感じる。

でも、あいつを守らねばならない、私は覚悟を決める。

「雲山、絶対に出ちゃだめだからね」

雲山に言い聞かせ、雲山もそれに頷き姿を消す。

深呼吸をして門をくぐる。

 

 

門をくぐって私が一番最初に見たものは..

紫髪の少女に抱き着かれデレデレいている青年、ヨウマの姿だった。

「あぁ!!」

やば、思わず声が出ちゃった。

私はすぐさま物陰へと隠れる。ちょうどあいつが振り返ったところだった。

「はぁ..私がいるってバレたらまずいわ..」

 

紫髪の少女があいつから離れる。

それをみてどこか安心した..が、まんざらでもなさそうに笑うあいつに少しイラっときて

「何デレデレしてんのよ!」

思わず声に出てしまう。

どこか、心がちくりとするのを感じる。

 

 

そして、ヨウマは自分の罪の贖罪のために村の復興のために資材を一生懸命運んでいる。

「なかなかいい根性してるんじゃない。」

私たちの前では生意気で態度が少し悪いけど里の人間に対しては素直なのがちょっとムカつく。

しかし、ヨウマは何往復かして徐々に遅くなり、撃沈した。

「はぁ..さっきの言葉は取り消そうかしら..。」

やっぱり修行して、心身ともに鍛えたほうがいいかもしれないわね。

帰ったらあいつに色々言わなきゃ!

 

疲れたヨウマと阿求?だったかしら。里の偉い家のお嬢様だったはずだ。

「あの子、あいつと距離が近すぎるわね」

ムムムッ..つい顔をしかめてしまう。

 

座る二人に声をかける飴色髪の、たしか貸本屋の娘だったかしら。

「ふーむ..」

その子はあいつをジーっと見て一言

 

「阿求の彼氏さんってこんな感じなのね..」

 

私の中で何かが爆発した。

なに!?かかかか彼氏!?てててことはとなりにいる子はあいつのかかか彼女!?

わなわなと体が震えだす。雲山が心配そうにしているが今の私には届かない

あいつ、ぶん殴ってやる!

握りこぶしを作りヨウマの所へ向かおうとするも雲山に止められる

「止めないで雲山!」

 

二人の発言により誤解が解け一輪は落ち着きを取り戻した。

 

お昼になりお弁当を食べ始める三人。

ヨウマは二人の少女のお弁当を大変おいしそうにたべていた。

「お弁当一応用意しておいたんだけどな..」

聖様の命で一応あいつのためにお弁当を作っていた、しかし渡す機会もなく渡せなかった。

あいつ用に用意してたお弁当を置いて、自分の分を食べる。

おいしそうに食べて二人の少女と楽しげな彼の顔。私たちには見せたことがない顔。心が締め付けられつつもお弁当を食べた。

 

お弁当を食べ終えて、雑談をする三人。私も食べ終えて再び様子を伺う。

「俺、煮物が好きなんだよね」

へーあいつ煮物が好きって意外ね。今度作ってあげようかしら。どんな煮物ならあいつは喜んでくれるかな。なんの煮物をつくろうか頭の中で考える。

一輪の頭には喜ぶ彼の顔が浮かぶ。

ハッ!なんであいつのことを..つい顔を緩ませてしまった..

 

 

その後飴色の少女に手を引かれるヨウマをこっそり後ろから追いかける。

そのまま三人は貸本屋へと入っていた。

気になる..何を話しているのか..何をしているのか..異様に気になってしまう。

どうせあいつはまた楽しそうにしているのだろう。

しかし、あいつを守るのが私の受けた命令だが、妖怪が襲撃してくる気配がない。それにあいつがこの貸本屋から出てくるのも時間がかかるだろう、なのでとても退屈だ。命蓮寺で修行する方がよかったかもしれない。

ここであることに気づいた。今の私は自由の身珍しく里に行っていいと許可が下りてる。つまり、こっそりお酒を飲むこともできる!

「せっかく、里に来たんだから飲まないと勿体ないわ。ちょっとだけなら..」

あいつが出てくるまでの間だけ、ちょっとだけなら..

『一輪、彼のことよろしく頼みましたよ』

ハッ!私は何ということを!聖様の頼みに背きかけるなんて!

頭を抱え後悔に苛まれていると

 

「「ヨウマさん!!」」

 

貸本屋から叫び声が聞こえてくる。

「ヨウマ!!]」

急いで貸本屋の中へ入る。ヨウマが倒れ、とどめとばかりに力をためる妖怪。このままでは!

「雲山!」

雲山に妖怪の攻撃を受け止めさせ、前へと立ちはだかる。

「絶対に手は出させない!」

ここでもしヨウマに何かあれば私は聖様の命を破ったことになる。それだけはあってはならない!

それに、死なれたら!あいつとの約束を守れなかったってことになる。あいつには見せてやるんだから、聖様の目指す世界を!

「雲山!」

私の思いに応え雲山はその拳で妖怪を握りつぶした。

「ありがとう、雲山」

この妖怪は幻想郷のルールに反する妖怪だ。私が手を下さなければ里の人間に被害がいく。里を襲うことはタブーなのだから。

「あ、あのー」

「あっ忘れてた..」

そう二人の少女の存在を完全に忘れていた。私は妖怪である身、特にこの確か稗田家だったかしらのお嬢さんは私のことをよく知っているし、命蓮寺で修行している私たちが普段里を訪れることを禁止されていることも知っているだろうからこの状況はまずい。即座に出なければ

「えっと、じゃあね!このことはこいつに内緒でおねがい!」

そのまま飛び出しそそくさと路地へ戻る。

貸本屋から飴色髪の少女が急いで店を出てたし、多分大丈夫だろう。

しかし、助けるためとはいえ姿を見せてしまった、それになんか今日は私らしくない気がする。

「今日はいろいろ疲れる日ね。」

 

 

その後日が暮れ、ヨウマ達は里の門の前にいる。後は大蜈蚣に任せればきっと大丈夫だろう。

外にいる大蜈蚣に後を任せ、帰路につく。

寺に戻り、ふと右手に持つ包みの存在を思い出す。

「お弁当どうしよう..」

せっかく作ったがのだが、あいつの基にはいかず処理に困ってしまった。

はぁと溜息が出る。

 

~寺を出る前に遡り~

「あっ、後お弁当を作ってあげてください。」

「お弁当ですか?」

「ヨウマさんなにも持たずに出たので、きっと途中でお腹がすいてしまうと思います。」

聖様に言われあいつの分のお弁当まで作らなければいけないとは..

「もう!あいつが変な行動ばっかするお陰で私に色々来るんだからね!」

そういえばあいつの好きなものってなんだろう、嫌いなものは?思えばあいつのことまだまだ何も知らないな。このお弁当、おいしいって言ってくれるかしら。

「はっ!こんなこと考えてないで早く作っていかなきゃ!」

 

 

「せっかく作ったんだけどな..」

心が締め付けられつつも寺の敷地に入ろうとするが

「あっ?一輪そんなところで何してるんだ?」

振り返ると大蜈蚣を巻き付かせている青年がたっていた。

「別にただ少し出かけていただけよ。」

思わずそっけなく答えてしまう。

「そうか、ところでその右手の包みはなんだ?」

「こ、これは昼食だったんだけど作りすぎちゃって余っちゃったの..」

本当はあんたの分として作ったものだけど..

「そうなんだ、それどうすんだ?」

「悪くなってるだろうし、捨てちゃうかな。」

「馬鹿野郎!」

「ヒャ!」

急に大声を出されて、びっくりしてしまう

「はぁ食べ物を粗末にするなって仏教になかったっけ?もったいねえから食わねえならくれ、ちょうど腹減ってるんだ。」

「別にいいわよ!私が食べるって!」

「妖怪は信用ならん!」

そういうと無理やり私の手から奪って包みを開けた。

「これって..」

そう、全く持って手がつけられてないお弁当だ。余ったというわりにきれいに全部残っている。

「なあ一輪これって..いや、いただくぜ。」

「ちょっと本当に食べなくていいって、悪くなってるから。」

そんな私の言うことを無視してそのまま階段に座って食べ始めるヨウマ、一口、また一口と箸を運んでいく。そして私に笑いかけながら。

「うまい!」

その一言で締め付けられた心が一気に晴れるのを感じた。

「よかった..」

つい私も笑いかけてしまった。そのまま階段に座りお弁当を横から取って食べる。

そのお弁当の味は、昼に食べたお弁当よりもとてもおいしく感じた。

次作るときはおいしい煮物をいれないとね。

 

 

日が沈む中、石階段に座りどこか暖かくお弁当を食べている二人の後姿を微笑ましく見る雲山と大蜈蚣だった。

 

 




やっと、ヒロインらしいことができた気がする。
阿求二点、一輪二点ってところかな
これからどんどん一輪が点差開くと思うんで頑張ります!(なんの点だよ)


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第8話「雨降って寺留まる」

今回はしっかり命蓮寺パートです。

最近ゴットガンダムのRGが発表されてとてもうれしい限りです。
なんでこんな話するかというと東方不敗ってキャラがいるんで東方つながりです。
はい。




「ほら、早く起きる!」

またまた叩き起こされる。窓に目をやると全然暗い..

「まだ日が出てねえじゃねえか!」

「何言ってんの!前言ったでしょ、私の起きる時間に起こすって!」

だぁーそんなこと言ってたな、嘘だろこいつこんな早いのかよ..元ヒッキーの俺には堪えるぜ..

結局俺は愛しい掛布団と引きはがされてしまう。あぁ..掛布団よ、さようならだ..

「それじゃあ、早く着替えなさいよ。私も着替えてくるから。」

眠い目をこすって一輪の方に目をやると

「ちょっと、見ないでよ変態!」

「ふざけんな、誰が変態でい。」

怒られてしまったが、なかなか新鮮なものを見れた。いつもは僧侶みてえな恰好をしているが、寝間着で白い着物を着ている。体のラインが割とはっきりしてみえてしまい。

妖怪のくせにどきどきしてしまった。

その後つい見入ってしまい、一輪からげんこつを喰らってしまった。

 

 

「はぁ~殴るこったあねえのに。」

まだ痛い頭をさすりながらも着替えて本堂に向かう、本堂には村紗や一輪、代理に聖それに話したことのねえ少女もいて和気あいあいと話していた。

思えばここ命蓮寺にいる女子全員ぶっちゃけると美人だ。俺のいたところではおそらく声をかけられるだろう。そんな女子の輪の中にいることは俺にはできねえ..

そう俺は談笑している命蓮寺の面々を柱の陰から見ている。なんという悲しき陰キャの習性。

 

「はぁ、よくこんなところにいるよな俺」

思わずため息が出る。よく考えれば自殺しようとして知らねえ世界に放り出されて妖怪がいて。変な話だ。

「お前さんは一体そこでなにをしているんじゃ?」

「うおっ!?」

思わず大きな声を出してしまった。

「ふぉっふぉっふぉっ、すまんすまん急に声をかけてしまっておどろかせてしまったのう」

外見は一応若いが話し方が老人ぽいし、この妖気はやはり妖怪か。しかも、とても強い妖怪。耳とでかい尻尾で分かるこいつは、

「化け狸か。」

「正解じゃ、お前さん博識じゃの~」

「へっ、化け狸なんてその尻尾みりゃあ誰でもわかるつうの。」

「ふぉっふぉっふぉっ、それもそうじゃの。」

こいつの馬鹿でけえ尻尾、相当の力だな。狐や狸の妖怪は尻尾で格がわかる。九尾の狐のように尻尾の数だったり、こいつのように尻尾の大きさで力の強さがわかる。

「聞いた話によるとお前さんは外の世界からきたらしいのう。」

「あぁそうだが」

「儂と同じじゃな。儂も外の世界から来た外来妖怪なんじゃ、外の者同士仲良くしようじゃないか」

「外の世界から来た化け狸ってことは佐渡からきたんか?」

化け狸は驚いた顔をする。

「お前さん、なぜ儂の出身地を知っているんじゃ?」

「聞いたことあるんだ、化け狸の国が佐渡にあるってな。そこの出身者じゃねえかなって思ったんだ。」

「ほう、それを知っている者は何者なんじゃ?」

それを教えてもらったのは..教えてもらったのは..?誰だっけ..?

「...」

「どうした?」

「いや、すまん聞かないでくれ、話はここで終わりだ」

「ちょっ!」

話を無理に切って呼び止める狸を無視して寺の外へと駆ける。

 

 

「はぁはぁ」

俺は忘れている気がする..なにかとても大切なことを、必死に頭を回転させるでも、思い出すことができない。

境内の端から端まで行ったり来たり、歩きながら考える。なんだろうなすっきりしねえと気が済まねえというか、絶対思い出してえというか。うーん

「ちょっと、そんなところにいたら風邪ひくわよ!」

声が聞こえるが今はそれにかまってる場合じゃあねえな、構わず歩み続ける

「なにやってるの!」

腕を掴まれ振り向くとずぶ濡れの一輪が立っていた。

「お前、なんでそんな濡れてんの?」

純粋に疑問をぶつけると一輪はワナワナと震え、

「あんたが雨の中外にいるから呼びに来たのよ!!!」

「ぼかぁけあ!?」

思いっきり一輪のビンタを喰らい吹っ飛ぶ。

そのまま仰向けになって空を見る。

「あぁ..雨降ってたんだな。」

「そうよ馬鹿!」

考えすぎてて気づかなかった..

 

 

雨でびしょ濡れになり、さらに一輪に吹っ飛ばされ体中泥だけになりながらも本堂に入る。

もちろん本堂にいた全員びしょ濡れの二人をみて盛大にびっくりして質問攻め、正直いちいち説明するのがめんどくさいんで「すまん」とだけ言って後にした。

 

 

「先お風呂入りなさいよ。」

「いや、お前から入れよ。」

「なんでよ!」

「俺は平気だ、風邪ひくから早く入れよ。」

「それはこっちのセリフよ!」

ぐぬぬぬとにらみ合う二人。あのあと風邪ひくからとお湯を沸かせて風呂に入るように促され、どっちが先に入るか譲り合っていたのだ。

「もう、そもそもアンタが外に出なきゃこんなことにならなかったんでしょ!」

「ぐっ、だから迷惑かけたお詫びに先譲ってんだ。別に遠慮せずに、入ればいいのになんで入らねえ」

「もう!だからあんたに風邪ひかれると困るからよ!」

「俺もお前に風邪ひかれちゃ困るんでい!」

「「あっ!」」

二人とも言ってしまった本心。あれだけわーわー騒いでいたが黙ってしまう。

一輪は恥ずかしそうにそっぽを向く。俺もそっぽを向いちまった。雲山は呆れつつも早く入るように促す。そしてまた言い合いが始まる。

「もうわかったわよ!」

呆れた一輪が使った最後の手段とは..

 

 

「どうしてこうなった..」

一輪がとった最後の手段とは二人で風呂に入ることだった。大浴場で仕切りとして一応入道の親父が動いてくれてはいるが

(きまずい..)

先に浴場に入ったと思えば、その後入道に俺を引き込ませ風呂に入れる強引さに驚きしかないぜ。

「雲山どかして覗こうとしたら絶対許さないわ!」

「許さねえどころか殺すだろ俺のこと、てかよく俺も入れようと思ったな」

「あんたが頑固だからよ!」

はぁ、だからといってこんな真似するなんてな。入道の親父と目が合う。入道の親父は若干申し訳なさそうにしていた。

おめえも主人に振り回されて大変だな。

お湯が俺の汚れを洗い流し、冷たいからだが暖まる。

「そういえばさ..」

「ん?」

一輪が入道親父越しに聞いてくる。

「あのさ、話したくなかったら言わなくていいんだけどさ、なんで外にいたの?」

まあだいたい予想はできていた。

「あぁ、あの理由か..」

「雨降ってるのにも気づかないくらいだったけど。」

「思い出せなかったんだよ..」

「へっ?」

「なんかよ、思い出せなかったんだよ。大事なことをさ。それがなんかいやでいやでしょうがなくてな。ほら、知りたいことを知れないってもやもやするだろう?それが嫌だから考えてたんだよ。昔からよ物を思い出そうとしたり考えたりすると歩き回る癖があるんだ。まあそれで境内を歩き回ってたってわけだ、雨が降ってたのにはマジで気づかなかった。」

「馬鹿」

「うるへー」

そのまま湯船から上がって脱衣所の扉へ手をかける

「んじゃ、先風呂あがってるからよ。」

「脱衣所にある私の着替えに触らないでよね!」

「誰が触るか!」

クソ、俺を何だと思っているんだ。

「変態だと思ってるわ」

「なんで心の声読めるんだよ!」

俺はそのまま脱衣所へ出た。

風呂から上がると案の定納得してない聖たちかまた質問攻めを受けた。

正直醜態さらすのは一輪だけにしときたいので「すまん!」で無理矢理話を切った。

外は相変わらず雨だった、今日も出かけようと思ったんだけどな。

修行するつもりもねえし、かといって境内の掃除も雨でできねえ。

どうするかな。

 

 

扉が閉まった音がする。

「ふぅ」

さっきまで心臓の鼓動が激しかったが、ようやく落ち着いてきた。

思い出したいこと、あいつはそう言っていた。雨の中濡れることも気づかないほどに考えるってことはとても大事なことなのだろう。

湯船から出て脱衣所でいつも通りの服を着て本堂に入る。

聖様たちから色々聞かれたが、正直に話すのはあいつに悪いと思うから雨の中にとりあえずいたとだけ言っておいた。

話す中で化け狸から気になることを聞いた。

「儂の出身地を過去に誰かから聞いたと話しておっての、それでその者について聞いたら話を切ってそのまま外に駆けていったんじゃ」

思い出したいことってここに来る前のことなのかもしれない。

思えば私はあいつの過去のこととか何も聞いたこともないし、あいつについて何も知らない。

「知りたいことを知れないってなんかもやもやするんだよな」

あいつの言葉がよぎる。確かに知りたいことを知れないってなんか嫌だな。

「聖様一つお願いがあります。」

私は聖様に頼んだ。

 

 

結局やることもなく、ごろんと寝転がっていると。

「ちょっといい?」

襖から一輪の声

「あいよ」

一輪が入ってくる。いつも通りの服だが髪は濡れている、そりゃそうださっき風呂入っていたからな。

「なんのようだ?修行は?」

「うーん今日はあんたのことをよく知りたいなって。」

予想外の答えだ。俺のことを知りたいって。

「別に俺のこと知ってなんになるんだよ」

「知りたいから聞く、それじゃあダメ?」

一輪のまっすぐなまなざし、ふと記憶がよみがえる。

 

『僕なんかに近づいてもいいことなんてないよ』

『俺は君と一緒に遊びたい!それじゃあだめ?』

 

「!?」

一瞬フラッシュバックした光景。俺が思い出したかったのはこれかもしれん。一から全部思い出せば..!

「ヨウマ?」

一輪が顔を覗き込む。顔近いな..ぶっちゃけこいつも顔だけ見れば美少女だ、普通にドキドキしちまうぜ。

「わわわわかった。教えるよ。俺のこと色々な」

つい顔を逸らしてしまう。

「うん、全部教えてもらうから。」

はぁ、妖怪じゃなければ..いやいや、俺は何を考えている。

「さてまずはだな..」

ここでハッと気づく。そうだ、俺には苦い思い出もある。正直、思い出したくもない..しかし、話すと言っちまった手前引き下がるのは..

「えっと、話したくないことがあったら話さなくていいよ..」

俺の様子を察したのか気を遣ってくれている。だが、

「いや別に話すよ、お前がなんでかしんねえが俺のこと知りたいって言ってきて俺はそれにいいよっていった、だから遠慮するなって話したるから。」

気を遣われたことと申し訳なさそうにする一輪に対してつい意地を張ってしまった。だが俺の予想に反して一輪は静かに語る。

「私が急に知りたいって言ったのはヨウマのこと何も知らないなって思ったから。さっき言ってたと思うんだけど『知りたいことを知らないってなんかいや』って聞いたからヨウマのこと聞こうと思ったんだけど、ヨウマが暗い顔したから申し訳ないなって..聞いといてあれなんだけどね。」

「..」

「だからさ、話したくなかったら話さなくていいから。」

申し訳なさそうに笑う一輪の顔をみて自分自身への苛立ちが出てくる。純粋に俺を思ってくれているのに変に意地張ってしまったことに。

「一輪は悪くねえよ..」

「へっ?」

スーッと深呼吸して

「俺は約束は守るからな!別にそんなに面白いこともないし、聞いててうわーってなるかもしれないけどそれでも大丈夫か?」

若干顔が引きつりつつの笑顔で一輪に聞く。

「うん!しっかり聞いてるし、辛くなったら私の胸で泣いていいわよ」

「泣くか!」

とんでもねえこと言いやがって..

でも、こいつにならすべて打ち明けていいと思える自分がいる。

もしかしたら、一輪のことを..いやたとえそうだとしても気づかないでおこう。

俺は人間で彼女は妖怪だからな。

 

「よしまずは、俺の生まれた時だな。」

 

 

 




次回はヨウマ君の過去を掘り下げられていきます。思えば彼の情報って少なすぎるんだよね。親に捨てられたことと妖怪に狙われていることくらい。まあこの時までに設定とか固まってなかったんだけどね


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番外編「キャラ紹介」

次にヨウマの過去の掘り下げをするのですが、ヨウマの今のスペックとか書かなきゃなって思って過去を書く前に書きますね



主人公

体道事 陽真(タイドウジ ヨウマ)

年齢:19歳

職業:無職

能力:『格と力を上げる程度の能力』(仮)

身体的特徴:白髪混じりで白髪の方が多い。ウルフヘアーに近い感じの髪型。服装はフード付きのジャケットに白いシャツ。服装にこだわりないため普通にだぼだぼだったりする。命蓮寺からもらった和服も着ている。

身長:175cm

顔:普通より整っている(一輪談)

性格:ザ陰キャ(自称)で人と話すのが苦手らしいし、不意な挨拶にキョドる、話しかけると若干ビビる。敬語を基本は使わないが一応使おうとするときはする。阿求や小鈴の前では好青年だが命蓮寺の面々には若干口が悪く尖っている。野良妖怪相手だと口が余計悪くなる。

 

来歴

自分で命を絶とうとしたが、その血の有用性を惜しんだ八雲紫から傷を治され幻想郷へと連れてこられる。そこで介抱され一時は聖や一輪を警戒してなかったが、命蓮寺の実態(妖怪寺であること)を知って一方的に敵対し出ていく。出ていった先で紫と対峙し退けることに成功し、人間の里で阿求と出会うも妖怪の襲撃により里にいれないとして別れる。

その後大蜈蚣に食われかけたところを一輪に助けられ、命蓮寺の面々と一応は和解し身を置く。一輪と聖との出会いで少しだけ丸くなるも妖怪に対してはまだまだ溝がある。

 

関係性

一輪:たびたび衝突しており、なんやかんや一緒にいたりで仲はある程度いい

 

聖:ヨウマのことを気にかけており、妖怪とも共存できるようにしたいと考えている

 

阿求:お互いの身を案じていたりとお互い大事な人と認識しあっている。

 

小鈴:阿求とヨウマの関係が進展することを望んでいる。普通にいい関係

 

響子:ヨウマと境内を掃除しており、挨拶の修行をつけている。                                    

 

寅丸星:ヨウマのために護衛の大蜈蚣を付けている。

 

村紗:ヨウマ曰く明るく話しかけてくる奴はなんか苦手意識が..

 

他の命蓮寺面々:新しく入ってきた奴程度の認識

 

外の世界の関係性

船と海が好きな明るいやつ:過去系なので次回掘り下げられる

 

両親:ヨウマを捨てた人、身勝手ながら捨てる前に与えた家族のぬくもりは今でもヨウマのトラウマになっている。

 

ヨウマの血

妖怪は徳を積んだ僧や仙人などの格が高い人間を食うと力と格が上がり強力な妖怪になることが可能。ヨウマの血はそれをはるかに上回る効果でヨウマの体一つでおよそ数百人くらい。

この血は妖怪だけでなくお守りや神などの類の力も上げることが可能でお守りに使えばお守りの守るという効果が絶大に上がる。

 

ヨウマの血の利用

健康運お守り:病気になりにくく、傷口の治りも早くなる。

厄除けお守り:妖怪などの厄を弾き飛ばす。

博麗の巫女のお札:妖怪に対する効果を上げ一枚で妖怪を消滅させることも可能。

 

 

メインヒロイン

雲居一輪

種族:妖怪

能力:入道を使う程度の能力

 

解説

一番最初に幻想郷に来たヨウマを発見した人物で彼を介抱する。

なにかと彼とかかわることが多く、聖からヨウマのことを頼まれている。

ヨウマに対して最初はとてもムカついていたが彼の事情や彼の涙で考えを改め、彼を気にかけている。

彼に対してたびたび言い争いをしたり、彼に怒ったり色々しているが彼のためにお弁当を用意したり喜ぶ顔が見たかったり、彼のことを知りたかったりで気にかけている

ヨウマと命蓮寺の中で一番打ち解けている人物で、一番かかわりのある相手である。

 




実際にヨウマ君の姿を描こうと思ったんですけど、描くモチベの方までなかったぜ


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第9話「過去と居場所」

普通に誤字報告いっぱいもらってて俺アホだな~(軟式グローブ風)と思ってたんですけど、しっかり文章読んでくれているってことなのでとてもうれしいですね。
普通になんでもいいので感想とか待ってます。


「ねぇねぇ、おかしゃん、あそこに変なの浮いてるよ?」

昔から俺は他の人と見ている世界が違かった。普通の人には見えていないものが見えていた。

幽霊、人魂、妖怪、神こいつら存在が見えていた。

いつから見えていたのか、物心をついたときには既に見えていたが、当時の両親曰く赤ん坊の時からなにもないところをみて反応していたりしたらしい。

 

5歳くらいの時には普通にその辺をただうろついていたりしてたし、別にこっちに気づいたところで害を与えてきたりとかはなかった。だが、周りと違う物を見れるということはどうしても他の奴との壁や溝ができやすかった。

「ねえねえあそこさなんか飛んでるよね?」

「はあ?何も飛んでねえぞ」

「いや飛んでるんだって」

「何言ってるかわかんない!」

小さいガキ同士ならまだわからないってだけでよかったが、大人だと違う。

俺のことを頭がおかしいやつだと思い邪険にして、それの影響で他の奴からも距離を置かれた。

だから俺は孤立した。でもそれだけでもよかったんだ、後々起こることを考えればな

それに友達も多少はいたしな

 

「あんたって友達いたんだ。」

「ふざけんな!友達くらい今でもいるから(震え声)」

 

いつも独りぼっちだった俺に話しかけてくれたのは俺の近所に住んでたやつで、父親が漁師で船と海が大好きでいつも明るくて元気いっぱいな奴だった。

 

「命蓮寺にいる舟幽霊がちょうど似ている感じだな。」

「確かに船と海好きで明るいわね。」

 

後もう一人いたんだがなぜだろう、思い出せない。

 

「そのもう一人があんたが思い出そうとしている人?」

「あぁ..多分な」

 

二人のおかげで一応は悪くなかったな..

ある時だ、幽霊たちが好奇の目で見てくるのを知ったのは。徐々におかしくなっていったんだ

徐々に徐々にな..

ある日俺は一人で外を歩き回っていた、そこで俺は初めて襲われた..

妖怪のやつらは陰湿で精神攻撃で幼い俺を惑わしたり、直接実力行使できたりいろんな奴がいた。

ただただ逃げるしかなかった。正直周りから見ればただただ叫びながら走ってるおかしいやつに見えたんだろうな。

 

「よく今の今まで生きていけたわね。」

「あぁ、正直自分でも状況がわからない中頑張ってよく逃げたよな。」

 

そっから追われることに疲弊して俺は家に籠るようになっていった。

それでも友達二人は遊びに来てくれて、俺の妖怪が見えるってことも信じてくれていて心配してくれたんだが、一人は親の事情で引っ越してしまった。だが、そいつからもらったお守りやお札類に後々助けられることになる。

 

またお守りを持って歩いていた時に毛むくじゃらの猿みたいな妖怪が襲撃してきた、とっさに逃げようとしたが、つまずいて転んじまった、後ろを振り返った時に見た間近のあいつの眼が忘れられない。俺をまっすぐ見つめる眼はライオンが獲物を狩るときのような強い殺意。妖怪という存在のことはいつも逃げてて詳しく見れてなかったのだが、この時に実感したんだいつもその殺意のこもった眼で俺を見ているという事実に背筋が凍った。そして、転んだ俺を見てじりじり追い詰め歓喜の顔をしたあいつの顔、不気味で悪意や殺意に満ちたあの顔。恐怖に染まる俺の顔を見て狂気的な笑いをしながら俺にとどめを刺そうとしてきた。

恐怖のあまり近くにあった石やその辺にあった物をとにかく投げつけたが、奴はじりじり近づいてくる。

そして俺の腕をつかみ腕に傷をつける。そして流れ出る血をおいしそうになめる妖怪。その時から俺は妖怪という存在に心底嫌悪感を感じた。俺は必死に引き離そうとするも奴の力はとても強く子供の俺の力では引きはがせない。奴をそのまま殴るもあっさり受け止められ、舐めることをやめ腕に嚙みついてきた。激痛、ただただ痛い、気持ち悪い、恐怖そして走馬灯が流れてきて、俺は激痛で意識が朦朧とした中、突然強烈な光が発せられ妖怪と俺を包みこんだ。

目を開けると奴はいなくなっていた。一瞬さっきまでのことは夢かと思ったが腕の激痛が夢でないことを教えてくれた。流れた血のたまりにはもらった一つのお守りが落ちていた。この件で俺は自分の血に秘められた力と特性、そして妖怪への嫌悪感を理解した。

俺はその日から妖怪の顔が脳裏にこびりつくようになった。あの殺意がこもり血走った眼と俺を痛めつけ喜ぶ気味の悪い顔を..

 

 

まだこの時は嫌悪感しかなかったんだ..このときは..

 

一人引っ越してもう一人の友人の奴とも交流は続いていたし。

お守りのおかげである程度妖怪への対処ができていたから、自由には出歩けるようになったから、よく外で一緒に遊んだり、海沿いの街だから漁師やってる友達の親父さんに船に乗せてもらってたり一応は普通だったんだ。

だけど、俺はあの時をよく覚えている..

血の効果を知って二年がたった時に起きたことだ。

その日は曇りで昼なのにとても暗かった、いつものように出歩いてた俺はふと海へ立ち寄ってみたんだ。海の様子がいつもと違かったんだ、ただならぬ嫌な気、あれは多分妖気だった。

海からの気はあいつを連想させた、あの殺意がこもった眼の感じと同じだったんだ。

その日そいつは夜釣りしてくると嬉しそうに俺に話していたんだ。もしでけえ魚捕ったら、お前にも分けてやるよとかいつも通り他愛もない話をしてたんだ。

夜になって家の中にいても感じた、海の方から発せられる妖気を、

(あいつが危ない!!)

俺は家を飛び出て必死で走った。だが妖怪共は立ちふさがり、俺の血を求め集まってきた。

奴らの攻撃を必死で躱し、とにかく走り続け海へたどり着いた、

そこで俺が見たのは..俺が見たのは..

 

あいつの船とそれに群がる複数の手だった。

そしてそのまま船が目の前で沈んでいく光景を俺はただ、見つめることしかできなかった。

 

「もし、俺があの時早く止めることができていたらあいつは死ななかった..」

 

『あっあああああああああ!』

妖怪共の計画だったのだ、ただ俺を狙うんじゃなくて俺の親しいやつに危害を食わえ冷静さを失った俺を狙うという作戦だったのだ。俺は一心不乱に妖怪共に突撃した。必死で自分の指を嚙み切って血を流しお守りやお札に血を付けて妖怪共に投げつけた。気づいたときには船は完全に沈み切っており、複数の手が船のあった場所に群がっていた。

『お前が!お前らが!』

俺はそのまま海に飛びこもうとしたが、船が沈むのを見に来た人に止められた。

遺体は見つからなかった..

子供ながら必死で妖怪がやったのを見た!といっても誰も信じなかった。

俺はそれから部屋に籠りっきりになった。唯一の友人を失った俺は完全に孤立した、外にも部屋にも出なかったし親ともある程度の会話しかしなかった。俺を理解してくれる人はいなくなった。

 

両親は俺を元気づけようとして色々話しかけてたけど、俺はただただ理解してくれない両親に当たり散らしていただけだった。自暴自棄になって意味不明なことを言っている俺に両親は疲弊していたんだろうな

ある日旅行に行かないかと誘わた。そこは引っ越してたやつがずっと行きたがってた場所だったからせっかくだから行くことに決めた。のどかな自然の中、三人でゆったり過ごしたが、いつまた妖怪に襲われるか警戒していた俺は素直に楽しむことができなかった。

 

「今でも覚えているんだ、その時お弁当を食べて眠ってしまったんだ..そん時見た夢を覚えている、お父さんがさおんぶしてくれたんだよ。お父さんの背中はでかくてあったかかった。俺を下ろしたあと俺を抱きしめるお母さんの姿もな二人で抱きしめてくれたんだけど、そのままどこかへ離れていく夢を。」

「もしかして..」

一輪は何かを察する。

「あぁ、俺はその日両親に

  捨 て ら れ た の さ。」

悲しげに笑う彼の姿に一輪はただただ気まずい顔しかできなかった。

 

目が覚めた時に悟った、俺は捨てられたのだと。ただただ茫然と立ち涙を流すことしかできなかった。誰にも理解されずに理解してくれた人も奪われた。俺の居場所はもうない。なぜ俺がこんな目に合わなければならないのか。ずっと考えていた、もし妖怪がいなければ、もし俺が普通の子だったら..いなくなった友人と笑い、ずっと笑顔で家族といれたのか..

許せなかった、妖怪という存在が、ただ俺を狙うだけじゃなくて俺を精神的に追い詰めるために俺の親しい人の命を奪った妖怪が

許せなかった、普通の暮らしができず家族から捨てられる原因になった、俺の血を俺の人生を..

 

「....」

「まあ、こんな感じだ。俺が妖怪を憎む理由と嫌いな理由、それに俺の不幸な人生。どうだ?だから言っただろう面白いことなんて何一つもないってな。あぁまた申し訳なさそうにするなよ、この通り俺は平気だからよ」

「嘘ばっかり..」

「嘘なんかついてねえよ」

「じゃあなんで、泣いているのよ。」

「へっ、」

俺の頬に手を当てると濡れていた。

「なんだよ、これ..なんで俺は..」

涙が止まらない、あふれ出してくる

気にしてないつもりでいた、忘れたつもりでいたんだ..

「俺の居場所はないんだな..この血がある限り..妖怪がいる限り..」

そうだ、俺はこの先この血に縛られる。この血がある限り妖怪に狙われ、普通の生活を送ることができないでいる。記憶をよみがえらせることで改めて突き付けられた事実。

妖怪への憎しみと永遠にない安息ー

 

「一..輪..?」

「あんたの居場所はここよ。」

ただただ一輪に抱きしめられつづけた。そんな一輪から家族のぬくもりを感じた。

 

その後落ち着いてきて気まずくなり、一輪を引きはがし背中を向けて座った。なんだか恥ずかしく一輪の方を向くことができない..

空気が重くなる

 

「あのさ,」

重い空気の中一輪がしゃべりかける。

「私、今までずっとムカついてきたの。聖様や私たちに対する態度にね。でもあんたの話をきいてその訳がわかったわ。」

思わず振り返ると一輪が頭を下げていた。

「ごめんなさい!私あんたのことよく理解せずにきつい態度取っちゃって、それにつらいこと嫌なことも思い出させちゃって本当にごめんなさい!」

あの一輪が俺に頭を下げている。俺は何をしているんだ、きつく当たったことも、態度悪くしたのも俺のせいだってのに謝らせている。彼女は俺を理解しようとして聞いてきただけで、俺はそれにOKして教えた。それなのに彼女は罪悪感を感じてこうして頭を下げている。

馬鹿だな、俺は..

「一輪顔を上げてくれ..」

「ヨウマ?」

「本当にすまん!」

俺は土下座した。

「ちょっちょっと!」

「すまん一輪、態度悪くてムカつかせたのも俺が悪いんだ、お前らと俺を襲ってたやつは全然関係ねえのになにもしてないお前らに敵対心を出すのはお前がムカついて当然だ!それに俺を理解しようとお前らなりに歩み寄ってくれていたのにも関わらず俺はずっとお前らを拒絶してきた。それでもお前は俺の居場所はここだと言ってくれた!」

そうだ、俺を襲ったやつとこの命蓮寺の面々は無関係だ、それなのに一方的に敵視したんだ。それなのに気にかけて歩み寄ろうとしてくれた聖や一輪。それでも拒絶した。

 

「俺は今まで誰かと深い関係になろうとしなかった、誰かに親切にされても突っぱねてたし近寄れねえ雰囲気を自分から出してたんだ。誰も理解できるやつなんていないって自暴自棄になっていたんだ、自分の居場所なんかないってさ、それでもお前や聖は作ってくれたんだ俺の居場所を!」

 

ずっと気づいていたんだ、自分の居場所はできるって、自分でその場所を消していたんだ。

それに今気づくなんて俺は馬鹿だな。

 

「本当に言うのが遅くなった..ありがとう」

「ねえヨウマ顔を上げて。」

 

俺はおそるおそる顔を上げる。

 

「あんたが私にちゃんと謝って感謝しているの初めて見たわ。」

「へっ」

一輪はいつも通りの笑顔だった。

「あんたの居場所はここで、私や聖様が保証するって言ったでしょ?」

「へっ、俺の居場所は今回いつまでもつかな」

「もう!素直になりなさいよ!」

「さっきは素直になりました~」

「もう!」

(ありがとう一輪..)

 

また他愛もない争いをしていると一輪が窓の方へ向かった。

「あっ、雨もうあがったみたいよ?」

「おっマジか!」

 

窓の外を二人で見る。雨はすっかりあがり雲の間から光が差し込んでくる。

 

「今日は出かけるの?」

「うーん今日はいいかな。それにまだ俺のこと話してないしな。」

「え?もう大丈夫なの?」

「あぁ別にもう大丈夫だ。」

あぁ本当に大丈夫だ、俺の居場所は..

「ちょっ!何ジーっと見てるの変態!」

「だから変態じゃねえって!」

「変態!」

「NOT変態!」

 

俺の居場所は一輪の隣だ。

 




今までツンツンしてたヨウマ君が自分の記憶を思い出し、一輪とのかかわりでデレ始めました。そうヨウマ君はツンデレだったのだ。


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第10話「修行と変化」

前回ついに明かされた過去。一輪との関係は今後どうなっていくのか!



結局、思い出してみても知りたかったことを思い出すことができなかった。

なぜか、捨てられた後のことから俺が幻想郷に来るときまでの記憶がほとんど抜けていたからだ。それに、もう一人の引っ越していった友人の手がかりも思い出すことができなかった。でも、収穫といえば一輪とのわだかまりが消えたことだな。

 

「へぇ、そのロボットと雲山どっちが強いの?」

「流石にロボットの方じゃねえか、カッチカチやからな~攻撃通らねえし、ビームとか腕飛ばせるからな。」

「ムッ!雲山も腕飛ばせるし多分勝てるわよね?」

「..!」

フルフルと首を横に振って無理だという雲山、そりゃそうだ、ただ殴るだけじゃなくてビームとか撃ってくるしな、流石の入道も黒鋼の城にはかなわねえ。

相方の雲山が負けるはずないとムキになって「あなたならできる!」と某熱血テニスプレイヤーみたいなことを言ってる。

 

そんなわけで他愛もない話を二人でしてたが、

「おーい二人共、昼ご飯の時間だよ~」

襖がガラッとあき舟幽霊が昼飯のため呼びに来たのだ。

もうそんな時間か、

「おう、すまねえな今から行くわ。」

素っ気なく答えてしまうも舟幽霊はニヤニヤして

「どう?一輪とはお楽しみでしたか?」

野郎、とんでもねえ爆弾を投下しやがった。

「おまっふざけry

「ちょっとおおお!何言ってんのよおおおお」

「ぐへぁ!なんで!」

思いっきり突き飛ばされた。こいつ強い..!

「いや~ごめんごめん、楽しそうな話し声が外にも聞こえてたもんで。」

「もう!」

怒りながら抗議する一輪と笑う舟幽霊、俺は!吹っ飛んで倒れた俺は!何か言えよ!触れろよ!

俺のそばに近寄って大丈夫かと気にかけてくれる入道の親父

入道の親父!!気にかけてくれてありがとうよ!お前..ほんまええやっちゃな..

 

 

「いただきます。」

うむ、今日も質素だが相変わらずうまい飯だ。そのまま何もなくご飯を黙々と食べる。

「ごちそうさまでした。」

ふう今日もうまかったぜ。食べ終えた皿を運ぶ際、聖に声をかけた

「あのさ聖。」

「なんでしょう?」

今日一輪と二人きりで話して思ったんだ、俺も歩み寄ろうと。

「修行していいか?」

それを聞いて驚いた顔をしつつもすぐに笑顔になり

「ええ、是非!ちょっと待っててくださいね!」

そのまま嬉しそうにどこかへ行った。

「どういう風の吹き回し?」

そりゃ今まで修行しねえと言ってたやつが急に修行するなんて言うてきたから気になるわな。

「なーに、お前らのこと知りたいと思ってな。」

「なるほどね。でも修行は大変よ、辛くなって途中で投げ出さないようにね」

「投げ出さねえよ。これでもやるときはやるんだぜ」

「本当かしら?」

ぷぷぷと笑う一輪にイラっとしてると聖が戻ってきた。

 

 

「よく似合ってますよ」

「少しはちゃんとしたんじゃない?」

「そ、そうかな」

さっそく聖が持ってきた修行服を着た。ぶっちゃけ二人に褒められて悪い気はしねえ。

「それじゃあまずは座禅から始めましょうか。」

「この修行は姿勢を正しく座って精神統一して自分と向き合う修行よ。」

一輪が見本として座り方を見せる。あーなんかこの座り方なんか覚えているな。とりあえず一輪と同じように座る。

「こんな感じでいいか?」

「そうそう、そこから静かに目を閉じて呼吸を整えて、心の中で自分を見つめなおして精神統一する。」

スッと静かに目を閉じる一輪。

「もし、雑念を払えていなかったり、眠くなってうとうとしたら聖様が喝を入れるからね。」

聖が笑顔で棒を持っている。

なるほど、これで叩かれるんだな。痛くしないでくれよ。

舟幽霊や、山彦たちも同じ形に座り、座禅開始。俺も目を閉じ精神を統一させる。

 

 

(ふふ、そろそろ聖様に喝を入れられる頃合いかしら)

チラッと横目で彼を見る。しかし彼は微動だにせずに集中していた。

(意外とやるのね..)

意外と彼は集中できるタイプのようだ。それもそうか雨に気づかず、ずっと思い出すのに集中してたくらいだ。

数十分経ち

(そろそろ眠くなってくる頃合い、流石に喝を入れられるんじゃないかしら)

またチラっと横目で彼を見る。しかしさっきと変わらず微動だにせず、なんなら響子が喝を入れられているところだった。

(え!?)

思わず目を見開いて彼の方を見て動揺してしまう

 

ペシッ!

 

喝を入れられ悔しさを滲ませ、また目を閉じる。

 

 

「はい、そこまでです。」

聖の掛け声で目を開ける。意外と座禅は苦にならなかった。

「すごいですよヨウマさん!初めてなのにあそこまで集中できるなんて。」

「いや~集中するのは得意だからよ。」

褒められるのも悪い気はしねえな。それに聖は美人だから褒められると余計嬉しい気がするぜ。

チラッと横目で見ると一輪がありえないという顔をしていた。

こいつ、俺のこと舐めているな。

「そういや一輪は喝入れられてたな、お前の方がこれやってるから余裕だと思ったんだが」

そう若干嫌味ったらしく言うと一輪は悔しそうな顔をしていた。

「そうですね、一輪どうしたのですか?いつものあなたならなんてことないはずなのに。」

「う、すいません。」

隣で口を手で抑えて笑うのを堪えていると

「フギャ!?」

思いっきり足を踏まれた..結論、結局座禅は痛かった。

 

 

「いってえな、思いっきり踏むことねえのに..」

あの後文句を言おうとしたものの、一輪に笑顔で「なにか?(ゴゴゴ)」と凄まれてしまい結局、文句を言えなかった。

 

「すごいですね、初めてなのにあそこまで集中できるなんて!」

目を輝かせながら俺を見る山彦。

「別に集中することが得意なだけだよ。」

「それでもすごいですよ!私も、負けてられないな~」

今俺は山彦と境内を掃除してる。

「こんにちは!」

相変わらず元気よく寺を訪れる参拝客にあいさつする。元気やな~

「ほら、ヨウマさんも挨拶しましょう!」

「わかったわかった、フゥー.. ここ、こんにちは!」

「こ、こんにちは..」

大声出すとき盛大に噛んでしまい変になり、若干引かれた。俺のライフは0だ..

「なんですかその挨拶は!もっとはっきり、こんにちは!!はい、」

「こんにちは!!」

「そうです、こんにちは!!」

「こんにちは!!!」

「うるさい!」

「二度目!」

これどこかでやったよな。

 

 

その後里の人間たちと一緒に聖のありがたい話を聞くために本堂へ行く。

本堂には毘沙門天..の代理である寅丸星がなんか神々しくたっていて里の人間はそれをみて拝んでいる。

なんだろう..少女に拝むって変な宗教にしか見えない(偏見)

そのまま聖のありがたいお言葉(笑)を聞く。

正直な話すると座禅よりも眠気が来たわ。一番後ろの方でうとうとしてたら代理の部下?のネズミに喝を入れられ起こされ続けた。

 

「君は一応修行しているのだから、しっかり話を聞きたまえ。」

「すまん」

「まあまあナズーリン。初めての修行で疲れていたのだろう。」

話が終わり、ネズミ妖怪に怒られて毘沙門天の代理に擁護される。どういう状況なんだろう..

 

 

「あっヨウマさ~ん」

境内の掃除を再開しようと思ったら舟幽霊に呼び止められた

「なんだ?」

「ちょっと洗濯物干すの手伝ってくれない?」

お願いする舟幽霊の足元を見ると複数の洗濯桶に洗濯物が

「なるほど、確かに多いな。手伝ったるわ。」

「さっすがーお優しい。」

調子のいいやつだ、あいつを思い出すから少しな..

「あっこっちの桶じゃなくてそっちの桶をお願いします。」

「なんでだ?」

「いや~そっちは聖様の洗濯物なんで、一輪のだったら..

「ダメに決まってるだろ!!」

ほんまこいつ何言ってんだ!?

結局俺の分の洗濯物だけ干しておいた。いくら妖怪といえど少女の洗濯物を触るのはダメだろ。

「あっそうだ、一輪がご飯作ってると思うんで手伝ってきたらどうです?」

「あー手伝うか。」

炊事担当は一輪か、そういや弁当も作ってたっけな

空の洗濯桶を舟幽霊に任せそのまま炊事場へ向かう。

 

 

「うーんこれでいいかしら..うーん..」

何やら鍋と睨めっこし唸っている。

「うーんこれであいつは喜んでくれるかしら..」

「なに唸ってんだよ。」

「ヒャッ!?」

「そんなに驚くなよ..」

「集中してるところにいきなり話しかけられたらびっくりするわよ!」

「はいはい、でお前は何してんだよ。」

「煮物をちょっとね。」

煮物か、確かにどんな味にするか悩むわな。辛くするか、甘くするか、はたまたちょうどよくするか。確かに味付けで悩むな。

「ね、ねえあんたはどんな味がいい?」

「俺か?うーん」

正直気分次第ってのもあるが強いて言うなら

「やっぱ基本の黄金比に少し醤油を多めに砂糖を少々だな。ちょいどいてくれ。」

「えっ、ええ..」

慣れた手つきで俺は醤油とみりんを追加でそそぎ砂糖をパラっと入れた。

「んじゃあとは少しだけ待つか。でほかに何を手伝えばいい?」

「あーじゃあ米を研いどいて。」

「了解。」

さてやるか!

(へえ意外と料理できるのね..)

 

 

「うん、うまい!これだこの味だ。」

できた煮物を一個いただくと俺の好きな味になっていた。やっぱこれだね..トッポは出ねえぞ

「えっとさっき聞き忘れてたけど、黄金比って何?」

「あー出汁:10 醤油:1 みりん:1のことだよ、俺はその醤油の部分を2にして砂糖を加えた奴が好きなんだよ。」

「なるほど、覚えておかなきゃ。」

やけに熱心だな。

飯を作っていたらいつのまにか日が暮れ始めた。意外と長かったような..

そのままできた煮物やご飯を皿に盛り運ぶ。そして全部用意したら早速全員呼ぶか。

 

「おーいご飯だぜ。」

「はい!すぐ行きます!」

相変わらずでけえ声..元気いっぱいだな。

 

「おーい、もうご飯だぜ。」

「はいはーい、今洗濯物取り込んでいるのでお待ちを。」

「おう俺も手伝うからよ。」

「それじゃあそっちを取り込んでください。」

指示され洗濯物を取り込む。

あ、なんか俺の服より一回り小さいな..

「一輪の寝間着なんであなたの部屋に運んでおいてください。」

「おま、馬鹿!なんで俺の部屋に運ぶんだよ!」

「えっ、一輪もそっちの部屋で寝ているからちょうどいいんじゃないんですか?」

こ..こいつ..舟幽霊、恐ろしいぜ。

流石に俺の部屋に運べねえと舟幽霊に渡して、自分の洗濯物だけ取り込んだ。

 

「おう、ご飯できたぜ。」

「もうそんな時間か。」

「そういや修行してるわけじゃないのに、なんでお前はそこにいるんだ?」

「ふぉっふぉっふぉっお前さんと同じ居候の身じゃからな~」

「ごく潰しって言われんなよ」

「ふぉっふぉっお前さんと違って儂はしっかり働いておるぞ。」

グッ、こいつ。俺の嫌味をあっさり躱してカウンターとは、流石だ..

 

「いただきます!」

とにかく全員集合し、晩飯を食べる。

「ん、煮物が少し味が違くて、おいしい..」

「確かにうまいのう。」

フッ、舟幽霊も化け狸もおいしいという俺の料理の腕を見たか(味付けを決めただけ)

「あーそれヨウマが味付けしたのよ」

「なるほど..ヨウマは料理ができるのだな。」

毘沙門天の代理に褒められる俺の腕、流石だぜ(味付けしただけ)

若干どや顔していると一輪が

「じゃあ、明日からヨウマに料理全部任せようかしら」

「ファ!?」

「まあ、確かにいいかもしれないですね」

聖!?お前がそれ言うと確定の流れになるぞ!確かに料理はできるが、作るより作ってもらった方が..

まずい..みんなの期待のまなざしがすごい..

「手伝うことはする、大々的に料理を作るのは疲れるからやらん!」

「なんでよ!」

「俺はいつも本気で料理をつくるんだよ!だ、だから疲れるから勘弁..(震え声)」

あーとみんな少し落胆の顔。なんだ、俺が悪いのか..なあ俺はどうすればよかったんだ。

 

 

「はぁ~疲れた」

少し空気がアレな状態の食事は終わり俺は一足先に部屋に戻って布団の用意をする。

そう、今俺は部屋から出ることを禁じられている。

なぜなら女性陣みんな風呂の時間だからだ..別に覗き行為なんてしないってのに、一輪の奴から念のためということで閉じ込められている。俺、なんなんだろうな..

布団に寝転がり窓に目をやる。

あー星が奇麗だな..

ここにきて夜空を見たことがなかったな。今まではずっと神経をすり減らしていたからな..

 

 

「全員上がったからあんたも早く..ふふ、何よ思った以上に疲れてたんじゃない。」

布団に横たわり寝息を立てている青年を見る。完全に無防備な青年の姿をみて思わず笑ってしまう。

前まで決してこんな顔を見せなかったのに..

彼を起こさないようにそーっと布団へ

「おやすみ..」

そのまま一緒に眠りへと..

 

 

 




はい、変化の起きたヨウマ君と命蓮寺の面々の関係はよくなってきましたね。ここからどうなっていくのか、また引き裂かれるのかうーんどうなるんでしょう。


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第11話「確執再びそして博麗へ」

ようやく本格的に原作主人公とかかわりますね


「ほら!起きる..ってええ!」

「おう、おはよう一輪」

さて今日も一輪に起こされるんだろうと思った諸君、二度あることは三度あるだって?ないんだよなぁ。俺だって学習して早く起きれるようになるのさ!

まあ実際は昨日早く寝すぎて早く起きたってだけなんだよね。

 

一輪は信じられないという顔で固まっている。

こいつ、俺をなんだと..

入道の親父も珍しく目を見開いて驚いた顔で固まっている。

お前もか..お前らっていつもそうですね!俺のことなんだと思ってるんですか!

まあこの反応を見ればわかる、だらしねえ奴だとな..ちくしょう!

 

「おはよう、山彦!」

「おはようございます!あと私は山彦じゃなくて響子です!」

「はいはい」

ぷりぷりと怒りながらもいつも通りあれが始まる。

「それじゃあ今日も行きますよ!」

「お手柔らかに頼むぜ。」

「それでは!おはようございます!!」

「おはようございます!!」

「一回目からその声..もう私に教えることはないかもしれません..悔しいですが!」

「悔しいってなんだよ。」

悔しそうな顔をする山彦、こいつからもどう思われてたんだ..

 

 

「なんか今日ヨウマさん調子にいいね~」

「なんかね..今日早く起きててびっくりしたわ..」

「いつもは起こされていたのにね」

そう、ヨウマはなんか調子がいいのだ。外から聞こえる声も響子と同じくらいの声量だし..まさかとは思うが昨日の修行の成果なのだろうか..

「ヨウマさんはきっと昨日修行したので心身共によくなったんじゃないですかね?」

「あっ聖様もそう思います~」

「確かに、考えられるのは修行をしたからだと思いますが..一日でこれほど効果がでるなんて..」

「いいじゃないですか、ヨウマさんがしっかりと私たちに合わせようとしてくれてるのですから。」

確かに聖様の言う通りだ、今までのヨウマは修行もしなかったり、私たちへの態度も尖っていた。でも昨日話をした後から急に変わり始めたのだ。

「ねえ、一輪。ヨウマさんが変わったのって二人で話をしたのが関係ある?」

「うん、多分それだと思うわ。」

「何をお話したのですか?」

昨日の事を全て話した。彼の過去の詳しい内容をほぼ伏せたうえで

「なるほど、それであそこまで距離を縮めてくれたんですね。」

「でもさ、なんで一輪だけじゃなく私たちのも縮まったんだろ。」

「聖様や私たちが歩み寄る姿勢を見せられたから、俺も歩み寄ってみる。って言ってたわ。」

「まあそれは!」

聖様がとても嬉しそうな顔をする。歩み寄ろうとしてたけど彼とはどうしても距離があった、それでも聖様は根気強く歩み寄ろうとしたのだ。そんな中彼が自分から歩み寄ってくれたんだ、嬉しくないはずもない。

聖様が嬉しいそうで私も嬉しい..

 

「キャアア!?」

響子の声!?

何か!ヨウマ..

 

 

「クッソったれ!」

すっかり油断していたぜ..

「ココニイルトハナ..」

ここ最近音沙汰なしだから油断していたが、ここには妖怪も来るんだってな。

最初はただの参拝客だと思って響子と一緒に挨拶をしたら突然獣に変化するとはな..

「お前、ここがどこだかわかっているのか?」

「貴様ノ方コソ、ワカッテイルノカ?ココハ妖怪ノ寺ダ」

「そうだったな..」

 

「待ちなさい!」

一輪、舟幽霊、聖が俺と響子を守るように前へ出て即座に戦闘態勢に入る。

「お待ちなさい、あなたは命蓮寺に通っていたはずです。なぜそんなあなたが彼を襲うのですか?」

一輪がそう問いかけるも妖怪は

「妖怪ハ自分トイウ存在ガ失ウノヲ恐レテイルノハ貴方達モ知ッテイルハズダ..」

「自分という存在が消えないように修行しているはずでしょう!」

「修行ダケデ本当二消エナイノカ分カラナイ、ソレナラソノ人間ヲ食ッテヨリ高度ナ存在二ナッテヤル!」

 

なるほどな、妖怪共がここにきていたのは自分の存在が消えないようにするためか。

妖怪は人間の精神に依存している部分が大きい。妖怪という未知の物の恐怖心から奴らは生まれた..外の世界で栄えていたこいつらが消えたのは化学が発展しこの山彦の響子のように原理が解明されたりして妖怪なんていないと完全に否定されることだ。完全にいないと否定されると奴らは存在が保てなくなる。

そこで奴らは俺の血を狙っているのだ。格と力が上がるのもそうだが上がり続ければ神よりも高度な存在になり消えることも永遠にないだろう。

思えば俺の安全を保障してくれたとはいえ、ここ命蓮寺にいることは危険なのかもしれない。なぜなら命蓮寺にはこいつのように人間なしでも存在を保つために来る奴が多いのだから。

 

「教えを破るとは..仕方ない。力で説き伏せるしかないか。」

「お待ちなさい、一輪少し話を」

「はい、聖様」

聖に止められすぐに雲山を引っ込める。

「他人に頼ってはいけません。自分の力で成し遂げなければいけないのです。でなければ目的が達することは永遠にありません。」

「黙レ!我ラヲ修行サセテ、ノウノウと自分達ハソノ男ノ力デ高度ナ存在二ナルキダロウ!」

「いえ、違います!彼はただ保護をしているだけで..」

「聖様!?雲山!」

妖怪は聖に襲い掛かる。一輪が聖の前へ立ち雲山が妖怪を拳で吹っ飛ばす。だが妖怪は体制を立て直し向かってくる。そして一輪と距離をどんどん詰め、その腕を振るおうとした。

「調子に乗んじゃねえ妖怪如きが!」

咄嗟に一輪と妖怪の間に割って入り指を噛み切りこの前調達しておいたお守りに血をたらし掲げる。

血の量が多いため妖怪はさっきの比じゃないほどに吹っ飛び痙攣する。

「クソ獣が!」

俺は使い終わったお守りを放り投げ。新しいお守りを出しまた血をたらす。

「ヨウマさん、待ってください!」

聖の静止を振り切り動けずにいる妖怪にお守りを落とす。

「グガアアアア!」

妖怪はピクリとも動かなくなった。だが呼吸の音は聞こえる、完全にとどめはさせねえか..

「ちょっと何やってるの!」

腕をつかみ突っかかってくる一輪

「俺があぁしなければお前はやられていただろ。」

「確かにそうよ!でもここまでしなくても..」

「妖怪にか?馬鹿言うなこんなんで死ぬわけねえだろこいつらが..」

「死ななくても!痛めつける必要なんてない!」

「必要あるさ!二度と俺に襲い掛からねえように徹底的にやる!そうすれば、こいつらは襲わなくなる!」

「それをすればもっと別の方法であんたを襲撃するわ..あんたの友人の時みたいに..」

「ッツ!?そいつの話は関係ねえだろうが!」

「二人とも落ち着いて!」

舟幽霊が止めてくる..だが、それは逆効果だ。

「黙れ舟幽霊!てめえさえいなければあいつは生きていられたんだ!」

「えっ?」

自分に矛先を向けられ困惑する舟幽霊。そんな舟幽霊に対しもう一つお守りをだしそれに血をたらそうとする。

「待ちなさい!」

「離せ!」

「あんたの友人を襲ったのとは無関係よ!落ち着きなさい。」

「離せ!」

彼の目を見た一輪は一瞬固まってしまう。彼の眼には憎しみしか宿っていなかったからだ。その眼を見てたじろいでしまうがそれでも腕に力を入れ。

「絶対に離さないわ!」

「クソ!」

そのままお守りを手放し一輪の腕から離れ奴らから距離を取る。

「ッツ!すまねえ..少し頭冷やしてくるわ..」

俺はそのまま奴らに背を向け駆けた。

 

 

「大蜈蚣!」

その掛け声とともに大蜈蚣が茂みから現れヨウマの後を追う。

「ヨウマさん一体どうしちゃったんですか?」

響子が涙目になりながら聞いてくる。

「大丈夫ですよ、私たちが傷つけられそうになってそれに対して怒っていただけですから」

そっと頭を撫でる聖。

 

「ねえ一輪、彼の私へのあの憎悪の意味わかる?」

「えぇ..あいつには悪いけどこの際にすべて話すわ..雲山!一応その妖怪運んで監視しておいて、目覚めて暴れないように。」

やっぱりすべて話すべきだわ、今後彼との生活をしていくうえで理解しなければいけないのだから。

 

 

「はぁ..はぁ..またか..」

またこの感じだ、命蓮寺が妖怪寺だと知って同じように出ていったな。

歩み寄ろうとしたが、完全にお互い手をつなぐ日は遠いな..

あの舟幽霊..村紗に悪いことをしてしまったかもしれん。

「妖怪関連になるとやっぱりな..」

奴らとのかかわりで少しはマシになったわけじゃない。まだまだ全然憎い。あいつらが特殊なだけだ。

とにかく歩いていく、里の道に行く気分でもない..ただ遠くへ行きたかった。

「あ、階段?」

途中から道ができていて階段があった。

ここは..前に阿求に聞いた博麗神社ってところか..

とりあえず今は階段を上ってみることにした。

 

 

「はぁ..結構長いんだな..」

やっとの思いで登り終わると目の前には人がいない若干さびれた神社が立っていた。

「博麗神社..こんな感じなんだな。」

もう見ただけで分かるさびれ具合。おそらく人もそんなに来ないのだろう。

一応商売敵になるであろう命蓮寺と比べこのありさまとはな。

 

「ん、お前は誰だ?」

後ろから声がして振り向くと魔法使いみてえな黒い帽子に黒と白の洋服に金髪に箒を持っている人物。もう見た感じ魔法使いだな。

「あー俺は外来人だな。」

「だよな、その恰好で分かる。で外来人がこんなさびれたところになんのようだ?」

「ちょっと魔理沙!変なことをいわないでよね」

神社の方から博麗の巫女..紅白に彩られた服を着た巫女が出てきた。一度だけ見たことがある初めて里を訪れた時に..博麗の巫女は俺を見て目を見開き

「あんたは!あの時のムカつくやつ!」

「俺色んなやつにムカつかれてる?」

 

 

続く

 




高低差が激しいジェットコースターですね。
少しわかり合えたとしても結局根本的に分かり合うことは難しいのです。
ヨウマ君と命蓮寺の面々は少しは歩み寄れましたが完全に手をつなぐのにはまだまだ足りないのです。
これは人間関係とよく似ていますね。人種間の違いや文化や習慣の違い。勉強してその文化を理解することができても、完全に根本的に理解することは難しいですね。そのせいで今でも世界で言い争いなどが起きています。
人類同士が完全に分かり合う日はないのでしょうか..
いえ分かり合うことはできると思います。


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第12話「溝を埋めるのは宴会」

宴会ですね。宴会。まあ作者は大規模な宴会とかそんな経験はないですね。
そこ、省かれたとかいうな。


その後、巫女に里を訪れた時に勝手なことをしたことに対してすごい勢いで文句言われた。

「まあまあ霊夢、こいつも謝ってることだし。」

「あぁすまん。」

「まあ別に謝ってくれるんだったら別にいいわ。誠意は分かってるわよね。」

お金のマークを作る巫女。こいつ..

「すまんお金今ねえんだ..」

「なによ..」

と不満げな顔をする。

「ところでお前が来た理由聞いてなかったな。なんでこんなところに?」

「あぁ、実はだな。」

幻想郷に来るまでの経緯と命蓮寺に身を置いていることを語った。

「へぇ命蓮寺から来たのか」

「そんな命蓮寺に来たアンタがうちになんのよう?」

巫女に威圧される。まあ商売敵だしな。

「安心しな、俺は命蓮寺に身を置いているだけで入門しているわけじゃあねえよ」

「そうなのか、じゃあ里にいないのか?」

「里にはいられないって言ってたのを聞いたわ。なんでか知らないけどね。」

「あぁそのことだが。」

俺は血のことと過去に妖怪に襲われ続けたことを語った。

「えー妖怪に襲われたのに、どうして命蓮寺にいるんだよ。」

「一応安全を保障してくれるらしいから。それに里にいたら前みたいに襲撃されて里の人間が危険だからな。命蓮寺にいるしかねえんだ。」

「ほーん命蓮寺も安全だがここの方がもっと安全じゃないのか?」

「ちょっと魔理沙どういうことよ!」

「いや、確かに妖怪共は集まってくるけどお前の存在で安心なんじゃないかと思ってさ」

「だとしてもいやよ!こんなごく潰し置いておくなんて!。」

ひでえ言われようだな..

「いやごく潰しだとしても少しは役に立つかもしれないだろ?」

「ないわね。」

「俺なんか悪いことした?」

とにかく俺はこの霊夢にボロクソに言われるほど嫌われてるらしい..なんでや。

 

ガサガサッ!

茂みから音がした瞬間霊夢は茂みに向かって目にもとまらぬ速さでお札を投げる。

投げられた茂みから大蜈蚣が出てきてそのままピクリとも動かなくなった。

 

「うお、なんだそいつ。でけえ百足じゃあねえか。」

「あぁ、お前ついてきてたのか。」

「あんたが連れてきたの?変なもの連れてこないでよね!」

「いや連れてきたというか、勝手についてきたというか..」

そういや呼んでおいたな。

とりあえずそのまま放置しておいた。

 

「はぁ..とにかく、私はゆっくりしたいの!邪魔するなら出ていきなさい!」

「すっげえ拒絶してくるなおめえ..」

ぐぅ~と腹の音が鳴る。

そういやまた何も食わずに出てきちまったな..

「なんだ、腹減ってるのか。だったらここで食っていきな。」

「ちょっと勝手に決めないでくれる!?」

「まあまあ霊夢少しは優しくしてやろうぜ。お前もただで飯もらうって考えじゃないだろ?」

「あぁ、色々手伝わせてください..」

「な?こいつもこう言ってるんだから。」

二人の頼みに霊夢は折れ

「はぁ..わかったわよ!今からご飯作るの手伝いなさいよ!」

「飯は作れるからな、任せとけ!」

 

霊夢と二人で飯の支度をする。

「魔理沙も手伝いなさいよ。」

「ヨウマの奴がいるからいいじゃないか。」

「あのね!」

「まあまあ、俺が魔理沙の分まで動くからよ。」

「んじゃ頼むわ。」

魔理沙に助け船を出してもらったからには動かねえとな。

「あんたすごく手際いいのね。」

野菜を切っていると霊夢が感心した顔で見てくる。

「あっ、ああ。一応料理はできるんだ。」

「ふうん、少しは役に立ちそうね。」

相変わらず素っ気ない返事。

「よし、煮物ができた。これ食ってみてくれ。」

小皿に煮物を一つ置き霊夢に食べてもらう。

霊夢は煮物を口に運ぶと目を見開きそのまま租借を続ける。

「うん、なかなかね。」

とまあ相変わらず素っ気ない返事だが横顔が嬉しそうでなかなかの好反応だ。

 

「いただきます。」

「これがお前の作った煮物か」

自信作の煮物を早速魔理沙が口に運ぶ。

「うまいじゃないか!お前本当に料理できるんだな。」

「うまいなら何より。」

「霊夢お前もうまいと思うよな。」

「ま、まあおいしいんじゃない。」

と素っ気ないが一番多く煮物を食べていた。

よろこんでくれてなによりだ。

 

「ごちそうさまでした。」

命蓮寺で飯食う時はしゃべらず食ってたが、食いながら話すってのは新鮮だ。

そのまま食器を運び皿を洗う。

「皿洗い終わったら、雑巾がけしておいてね。」

「はいよ!」

霊夢に指示され雑巾がけやら箒で境内を掃いたりと働く。

神社はみるみる奇麗になっていった。

「よっしゃ奇麗にしたぜ。」

「こんだけ奇麗になっても人は来ないんだよな..」

「そうだよな、阿求も言ってたけどここ郷の外れだもんな~」

奇麗にしたとはいえ、魔理沙の言う通りだ。こんな外れのところじゃ参拝客なんてほぼこねえだろうな。

霊夢はポンと手を叩き何か思いついたようだ。

「あっそうだ。あんたもう少しだけ手伝ってくれる?昼食も出すから。」

「どうした急に」

「おっ、もしかして」

魔理沙は霊夢の意図がわかってるようだが俺はわからねえ。

「そう、宴会よ宴会」

「宴会?なんでまた」

宴会って今日は特別な日かなにかなのだろうか?

「一応お前の歓迎会という名目でその実はただ酒飲んで騒ぎたいだけなのさ。」

「酒飲むってお前ら未成年だろ?」

「別にここじゃあみんな飲んでるぜ、関係ない関係ない。」

無法地帯だな..思えば命蓮寺の面々が酒を飲まなかったのは仏教徒だからか。

「それじゃあ、準備始めるから。酒の肴とか作るのを手伝ってもらうわよ!」

「嘘だろ..」

「あらなんでもするって言ったじゃない。」

「なんでもするとは言ってない!」

俺は宴会の準備に駆り立てられた。

 

 

「酒の肴だけに魚を調達しろとはな..」

釣り竿やらいろいろ渡されたが、これで自分で取れとな..

「大蜈蚣、お前どこかにいい川があるか知らねえか?」

巫女の攻撃から回復し、相変わらず俺を守っている大蜈蚣に問うもそんな場所は知らないようだ。

「買えばいいのにお金がかかるっていうから釣ってこいだなんてとんでもねえ野郎だな。」

一応蜈蚣が護衛についているおかげで妖怪に襲われねえが、めんどいな。

とりあえず適当な川について釣り糸を垂らす。

「釣れなかったらあいつ怒るだろうな..」

魚が釣れずにブチギレる紅白の巫女の姿を想像する。あいつのことだから、なんかお祓い棒で頭真っ二つにわられそうだ..

「釣れねえ~」

そうぼやいていると

「隣いいですか?」

「あぁ構わねえ..が」

聞いたことのある声がした。思わず横を見ると--

「なっ、舟幽霊!?」

「どーも。隣失礼しますね。」

「あっああ..」

そのまま村紗は俺の隣に座り釣りを始めた。

無言..無言、とにかく無言、気まずい。朝怒りの矛先を村紗に向けてしまったからな。

とにかく空気が重い。話しかけるべきか悩んでいると。

「聞きました。」

「へっ?」

「一輪からあなたのこと聞きました。」

舟幽霊がそう口を開く。

「私のことというか、種族のことや妖怪を憎んでいる理由も知りました。」

舟幽霊の顔を俺は見れていないが、その声のトーンは少し悲しげだった。

「お前は悪くねえよ..正直怒りで混同してた。俺はお前に怒りも因縁も何もないのにな。」

「それじゃあどうして避けたりしてたんですか!やっぱり私が不快な思いをさせてるからじゃないんですか?」

確かに俺は彼女をどこか避けている節があった。目を合わせなかったり、話をしてもどこか素っ気なかったりしてたと思う。

「似てたんだ..」

「へ?」

「避けているつもりはないと断言はできねえがそれはお前が嫌いだからとか憎いからじゃねえんだ。似てたんだ、あいつにさ..お前と同じで船や海が大好きですげえ明るい奴。お前とそいつを重ねていたんだ。ならなんで避けるんだって思うかもしれねえが村紗とあいつをなるべく重ねたくないって思いがあったんだ。どれだけ似てるとしても、村紗は村紗であいつはあいつなんだって。一緒にしたらお前にもあいつにも悪いと思ってな..無意識にお前を避けていたかもしれねえ。すまない。」

俺は村紗の顔をはっきりと見てそう伝える。そして微笑みかける

「はは、やっぱりあいつとは似てねえや..今までどうかしてたかもな..」

「ヨウマさん..やっと舟幽霊じゃなくて名字で呼んでくれましたね! 私ヨウマさんに嫌われていたと思うと悲しくて悲しくて」

ヨヨヨと目頭を押さえるふりをする。

「まあそんなわけだ。村紗にはもう怒ってもいねえし、逆に申し訳なく思うよ」

「村紗ってのもいいんですが、やっぱり距離感じちゃうんで水蜜って呼んでくださいよ、一輪みたいに」

「別に聖も聖って名字で呼んでるんだし別にいいじゃねえか」

「やっぱり名前呼びする一輪とは特別な関係なんですね。」

「おまっ!」

やっぱニヤニヤしてとんでもねえ発言しやがるなこいつ。

「あっ竿引いてますよ」

「おっマジか! よっしゃ!」

「頑張ってくださいね~」

その後見事魚を釣り上げることに成功し、これで霊夢の鉄拳は避けられるぜ。村紗との溝もなくなったしな。

 

「そういえば、なんでこんなところで魚釣りを?」

「あぁ、霊夢の奴に酒の肴を頼まれてな。」

「あ~霊夢さんに頼まれたらそんなに断れないですね~」

「そうなんだよな~」

朝の出来事なんてなかったようにほのぼのと話続けていると

「あっいたいた。」

一輪もやってきた。

「おう一輪か。」

「もう二人とも大丈夫なの?」

「えへへ~密接な会話をして仲を深めましたよね、ヨウマさん?」

「おい、おまっ!」

またニヤニヤしながら語弊のある言い方をする村紗。

「へ~どんな内容なのかしら、私とっても気になるな~ヨウマ?」

「なんで! なんで俺に来るの!? しかも顔笑ってるけどオーラが! オーラがなんかやべえぞ! 」

その後、首根っこ掴まれ話していた内容をすべて話させられた。すべてをきいた一輪は

「なーんだ!」

と笑顔になり魚釣りに加わった。俺首根っこ掴まれたんだが..

 

「おう、大漁大漁」

一輪も手伝ってくれたから思った以上に魚が取れた。

「霊夢の奴腰抜かすんじゃあねえか」

「確かに驚くかもね」

「お前らも数匹持ち帰るか?」

「私たちは仏教の教えで..」

「へ?」

話を聞くと魚や肉を食べることは教えで禁止されているらしい。仏教は肉と魚は食ってはいけないし、酒も飲んではいけない。外の世界だったら別に食っても問題はないだろう。だが、ここは外の世界とは違う。仏教も前のものになっているのだな。

「そうか、お前ら魚とか食えねえんだな。宴会にも参加できねえわな。酒も飲めないんだし。」

「そうそう。だから一輪、大人しく聖様にヨウマさんの様子を伝えに行こう。」

「う..うん」

一輪は宴会という言葉に反応してたが、村紗に促され渋々帰るように見えた。

俺は霊夢との約束があるので大量の魚を持って帰るとするか。余ったとしても干物とかにして食うかな。

 

 

「お帰り、どうかしら。魚は取れた?」

「おう、見て驚くなよ! こんだけ取れたぜ。」

俺は自信満々の顔で大量の魚を霊夢に見せつける。

「なかなかやるじゃない。そんなに役に立つなら今日の朝、魔理沙が言ってたとおりここに住まわせてもいいかもしれないわね」

あれ?俺もし暮らすとなると霊夢を養う側になるのか?ニートの俺が扶養だと..!いやだな。

「遠慮しておくわ」

「そう、それは残念ね。それじゃあ早速その魚使うから手伝ってよね!」

「はいはい。」

なんとか印象は少し良くなったみたいだな。

 

 

そして宴会の時間になり..

「おいおい、聞いてねえぞ。」

俺は神社の隅で様子を伺っていた。なぜなら..

「女子しかいねえ..」

そうここに参加しているもの全員女子なのである。しかも人妖問わずだ。

ただでさえ女子が苦手とはいえなおかつ妖怪までいるなんて..拷問だ。

「ちょっとあんた。そんなとこにいないでこっちに来なさいよ。」

「そうだぜ、じゃないと襲われて食われちまうぞ」

ぐっ!それもそうだ。霊夢が抑止力になっているから霊夢の近くにいなければひっそり食われてしまう。

隅から真ん中まで移動しようと歩くが見慣れた奴の姿が目に入った。

頭巾を深くかぶっているがもう後姿からわかる。

「なあ一輪何してんだ?」

「ヒャッ! これはその!あのえっと!」

と声をかければ慌てふためく一輪だった。

「ってヨウマじゃない..なによ」

「なによって..お前こそ何してんだよ」

何しているか問うとバツの悪そうな顔をする一輪。そういや川での会話でお酒って単語に若干反応してた気が..

「お前、まさか!そうまでして酒が飲みたいのグオ」

無理に口を抑えられ、

「いい!絶対に言っちゃだめよ! 言ったらどうなるか!」

と凄み拳を作る。これ口答えしたら飛んでくるパターンだな..

そのまま大人しくして霊夢の元へと向かう。

「うんうまいなやっぱ。この煮魚すごくうまいよ」

「あーありがとうな魔理沙。煮魚も結構自信作だからもっと食べてくれよ」

「本当においしいわね..どうここで暮らしておいしいご飯作ってくれない?」

思わぬプロポーズだ。といっても完全に自分のためのものなんだがな。

「ダメです霊夢さん!ヨウマは聖様が保護している大事な人なんですから!」

一輪がどこから聞いてたのか俺と霊夢の間に割って入る。

「へぇ~、あんたんところ妖怪寺なのに、こいつを守れるのかしら」

「あら、こんな寂れて妖怪だらけの神社でなおかつ、冷たい霊夢さんのところじゃ自分の命を差し出してるのと変わらないと思いますが?」

「あんたいい度胸ね」

霊夢が指をぽきぽきと鳴らす。これは一触即発の予感。

「二人とも、喧嘩ならヨソでやるんだな。」

「「なによ!」」

「せっかくの飯がまずくなる!!!」

二人で凄むも逆に俺に一喝され二人は黙って渋々引き下がった。

せっかくのうめえ飯が台無しになるだろうが!たく

「うまい!」

相変わらず飯ってのはうまくていいな。

 

そして宴会も佳境に入ろうとした。全員お酒を飲んで酔っ払い始める時である。

俺はお酒飲むのは未成年なんで一応遠慮しておいた。

ブーブー文句言われたが、しょうがねえだろ..

全員ほぼ酒が入ってて酒が入ってねえのはなんかこの和装の中でメイド服着ているメイドさんくらいかな。

一応彼女からも俺の料理の腕は褒めてもらった。美人に言われると悪い気はしない。

そして今俺は仏教徒のくせに酒が入った一輪に絡まれていた。

「ちょっと聞いてるの~」

「聞いてっからよ..」

そう朝の件について色々言われてる最中である。

「いい、感情的にならないこと! あの時私が止めなかったら村紗になにかあったんだから!」

「はいすいません」

「それに私をかばったことだけど、私をかばったらあんたが危なかったのよ!なんであんなことしたのよ」

「それは..」

「それはなによ!」

「それはだな..」

「はっきり言いなさいよ」

だぁ!この酔っ払いうぜえええしょうがねえ言うしかねえな。

「お前が!傷つけられるのが嫌だったんだよ!!」

思わず大きな声が出てしまい反響する。一斉に全員静かになった。

「あっやべ..」

一輪のほうを向くと顔が赤い。いやもともと赤かったっちゃ赤かったんだけどなんか余計赤くなってるような

目を見開いて俺のことをじっと見てる。

「おい、一輪どうした?」

顔を近づけるとそれに気づいた一輪が

「ば、馬鹿あああああ!」

「ひでぶびばああああああ」

俺はそのまま酔った一輪に殴り飛ばされた。理不尽だ.. 俺の意識は暗黒へ落ちた。

 

次の日、目が覚めると毛布が掛けられており霊夢が宴会の後片付けをしていて一輪は先に帰っていたようだ。

そのまま霊夢と一緒に後片付けをした後、命蓮寺に帰ると一輪の奴が顔を合わせてくれなかった。

昨日の大声がいけなかったのだろうか..

 

 

 




順調に溝を埋めていってますね。このままヨウマ君は妖怪嫌いを克服できるのでしょうか。さて次回もなんか凄そうだったりそんな大したことなかったり。うんまだ書く内容決めてねえや。


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第13話「変化と成長」

プロローグから三話まで友人に添削してもらってたんですが色々至らない点が多くて修正しました。途中から割と爆笑されてましたねw



「いや..そのあの..」

昨日は宴会の場にいて、そのまま命蓮寺に帰ってきたのだが。一輪には顔を合わせてもらえねえし、帰ったとたんネズミ妖怪に腕を引かれ、聖達の前で正座させられている、空気が重い。

重い空気の中、ネズミ妖怪が口を開いた。

「君は修行していたのに、昨日は宴会にいたようだね」

「あぁ、昨日は博麗神社の宴会にいました」

「そこで君は何をしていたのかね?」

なんだこれ..浮気した後薄情させられている浮気旦那か?はたまた犯罪起こして取り調べ受けている容疑者なのか?とにかくそんな気分だ。

「やましいことがなければすんなり答えられるはずだが?」

完全に浮気旦那パターンじゃねえか..

「ナズーリン、圧をあんまり掛けるんじゃない」

「はい..」

ネズミ妖怪は代理に止められ引き下がる。

「やましいことも何もないです..俺は宴会の準備を手伝って、料理を食べていただけです」

思わず敬語を使ってしまう。

「聖様、ヨウマさんは確かに魚を釣って博麗神社まで運んでいました。なので宴会の準備っていうのは間違っていないと思います」

村紗が証言をしてくれてる、なんだろう裁判かな。

「お酒は飲んでないのですね?」

聖が静かに聞いてくる。

「お酒なんてまだ飲めないよ、俺まだ酒飲めねえ歳だしな」

「あれ、ヨウマさんは今何歳なんですか?」

「19だ、ギリギリ日本の法律で20歳を満たしてねえから、酒もたばこもできえねよ」

「意外と若かったんですね~」

妖怪からしたら50も100年も変わらず若いと思うんだがな。

「そうですか、お酒は飲んでいないのですね」

「あぁ、一応仏教でお酒は飲んじゃあいけねえしな。法律のこともあるが一応ここにいるからには郷に入っては郷に従えってな、まあ魚は余らせるともったいねえからいただいちまったけどな」

「それは素晴らしいです。入門しているわけではないのに、仏教や私たちのことを思って自分からそれを拒むのはとても立派なことですよ」

聖がすごく喜んでくれている、なんなら嬉しいってオーラがすげえあふれ出ていて見えるくらいだ。

「うん、やはり君が入門しないのは非常に惜しいと私も思っているよ。自分からお酒を断つという精神力、どこかの誰かさんも見習わなければな」

とネズミ妖怪がチラッと一輪と代理に目を向けると二人は目を逸らした

一輪はまだしも代理..

 

「それでは修行に入りましょうか」

聖の掛け声で各々動き出す。あれ?これだけか?

「なあ聖、この話はもう終わりか?」

「えぇ、ヨウマさんが夜帰ってこなくてその訳を聞いていただけですので」

「うっ..それはすまない」

「ふふふ、何もないそうでよかったです。あっそうだ、ヨウマさん今日は私と一緒に来てもらっていいですか?」

「それは構わないが」

「それではこれとこれを着ますので動かないでくださいね?」

「ちょっ!なんで服に手をかけ--

ああぁぁぁぁっ!俺は一体どんなことをされてしまうんだーー

 

「よく似合ってますよ」

変なことは起きずに単純に僧侶が着ているゴテゴテの着物を着せられたのであった。

しっかしシンプルだな。

「なあこんな着こんでどこにいくんだ?」

「こっちです」

歩きにくいし動きにくい..若干暑い..聖も同じような恰好をしてある場所へと向かった。

聖とともに部屋に入るとたくさんの人が正座していた。

「うおっ!」

すげえ妖気..こいつら全員人じゃなくて妖怪か..

「「聖様!」」

とそのまま全員頭を下げる。妖怪のくせに息ピッタリじゃねえか。

正直この場所にいるのはきつい。いつ襲われるかわからないしな。

聖は俺の方をみてニコっと「心配しないで」と微笑みかけるが..心配しかねえ。

妖怪共にいつも通りありがたい話をしていた。それを真剣な顔で聞いてる妖怪共。

里の人間とそんなに変わらないな..

そして話が終わると、妖怪の一人が口を開いた。

「聖様そちらにいる方はいったいどちら様でしょうか。言いにくいのですが、彼にとても魅力的な物を感じるのですが」

やはり気づいていたか、と一瞬身構えようとするが聖に手を握られ止められる。

「この方は命蓮寺を訪れてくださった、とても位の高いお方です」

「それだけの徳を積んだ方なのですか..」

妖怪たちの俺を見る目が俺のよく知っている目とは全然違った。いつものように力を求めた殺意の眼ではなく羨望のような..そんな感じがする。

「この方のように徳を積めば力も格も上がり高度な存在になることができます。私も含め皆さんもしっかり修行をして精進しましょう」

「「はい!」」

なるほどな、考えたな聖の奴。俺を聖より偉い人間に仕立てることで俺への襲撃を無くそうという算段だな。

そして偉い話も終わり、俺は早々に部屋の外に出るかと思ったが妖怪達に引き留められる。

「お名前は何というのですか?」

名前..どうしよう。

「ヨウマと申す」

とりあえずこんな感じなら高貴な感じがするだろう。

「妖魔様というんですね! 妖魔ってお名前..もしかして聖様と同じように我々妖怪も救っていただけるんですね」

なわけねえだろ!妖怪なんて救うわけねえだろボケがぁ!

といいたいところだが抑えて静かにうなずいておいた。

「やはりそうなのですね!私たちここにいる者たちは少しのいたずらだったり、驚かしたりしていただけなんですが..力が弱いためすべての妖怪の悪行の責任を押し付けられ迫害されてきました..」

「…」

「私たちはとても弱いです。人間にも軽く退治されるほどに。それでもここ命蓮寺の聖様は人間だったにも関わらず私たちに手を差し伸べてくれました。そしてあなたも私たちを救うためにここに来てくれたんですね!」

ただただ明るい眼差し..妖怪とは思えないほどに明るい眼差し。俺は思わず目を逸らしてしまった。

「それでは私たちは失礼いたします」

聖とともに頭を下げ部屋を出る。

ずっと妖怪たちの話と眼が忘れられなかった..

そしてそのまま聖の部屋に座り話す。

「どうでしたか?」

「どうって言われてもな..一ついうなら妖怪も人間も変わらねえなって..」

「というと?」

「里の人間たちは代理を見て拝みながらお前の話を聞いていた。その姿が妖怪も同じってとこと、人間も妖怪も弱くて救いを求めているというところだな..」

そう、なにも変わらなかったのだ。妖怪といえど力の弱い妖怪と同じく力の弱い人間はなにも変わらないし代理を見る人間の眼と俺を見る妖怪の眼も同じだった。

「今日ヨウマさんについていただいたのはここに訪れる妖怪のことを知ってほしかったのです。確かに昨日のように力を求める妖怪もいます。ですが、あの者たちのように人間と変わらず救いを求めている者もいるのです。妖怪も人間も変わらない、だから私は平等と共存を掲げてどちらも救いたいとおもったのです。ヨウマさんは妖怪が憎いとおっしゃってましたが、本当に妖怪だけが憎いのでしょうか?」

聖の言う通りだ..妖怪だけが憎いというわけじゃないのかもしれない。両親に捨てられたり周りから迫害を受けたのは話を聞いていた妖怪と同じだ。普通は人間も憎むだろう、なのに俺は妖怪だけを憎んでいる。それを聖は言っているわけだ..妖怪は昔から日本にいるし、人間もやってることは妖怪となんら変わらない。

「それでも俺は..憎いんだ..俺の周りにいる人間がやったことも妖怪となんら変わらないってわかっているんだ。それでも憎いんだ..もし妖怪がいなければって思う自分がいるんだ..あいつらのことも憎むべきではないってわかっているはずなんだ。それでも!それでも!憎しみが取れねえんだ..」

わかっている、妖怪全体を憎んだところで俺の人生も友達も帰ってくるはずないって、ここで平和に暮らしてるやつらに憎しみと怒りをぶつけたところでって命蓮寺にいて分かっていたのにな。

体が憎しみに支配され震える、でも俺の眼には涙が流れている。この涙は一体..

聖に抱きしめられる

「今はそれでいいんです..今はそれで..」

「聖..」

聖に抱きしめられて感じる暖かさはまさしく捨てられる前にもらった家族のぬくもりと同じだった..

俺は男のくせにそのまま泣いた。

 

 

この青年も変わり始めている。

最初は私たちに対しても攻撃的だったが、真摯に向き合い続けたおかげで変わっていっている。彼には足りなかったのだ愛情が。人は親や他人からの愛情を受け成長していき徳を積んでいく。逆になければ他人をなんとも思わない人間になっていく。

この青年もそうなる前に変わってよかった。

「聖様、少しよろしいでしょうか?」

襖がスっと動く

「あっ一輪少し待って!」

そう止めるもすでに遅く。

「聖様それで要件は--

一輪に見られてしまったわ..そのまま一輪は絶句し立ち尽くしていた。

「これは、その違うんです..そのなんというか私が..」

「何やってんの!聖様から離れろおおおおおおおお」

「バベロニアあああああ!」

そのまま青年は首根っこを掴まれ引きはがされた。

 

 

「別にやましいことはしていなかったんですね」

「えぇヨウマさんを抱きしめたのは私からです」

「俺は無実だ」

聖を引きはがさなかった俺もあれだが、少しは加減してほしい。

「はあびっくりしましたよ。聖様があんたにやらしいことをされそうになってると思ってね!」

こいつ本当に俺のことをなんだと!プッチン!完全にキレたわ!

「俺がそんなことするわけねえだろオオオ!!」

「どうかしらね!」

「んだとこの尼!」

「何よこの変態!」

「「グヌヌヌ」」

「まあまあ二人とも..」

 

言い合う一輪とヨウマをみて私は思う。

一輪は分け隔てなく誰でも接するからきっとヨウマさんの心を開かせてくれたのかもしれない。それにしても一輪はヨウマさんのことを誰よりも気にかけているきがする、もしかしたら..ふふ、一輪も乙女かしら。

 

お互い一歩も引かずに言い争う姿をどこかほほえましく思う聖なのであった。

 

 

 




1話から見返すとなんかどんどん主人公がツンデレになってきてるなとおもいました。
最初に想定したキャラと大きくぶれたけどまあええか


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第14話「万年置き傘にご注意を 正体不明にもご注意」

島根ってすげえいいところなんですよ(唐突)
昔島根に三回くらい遊びに行ったんですが、とても楽しかったですね。
宍道湖に松江城の堀めぐり、出雲大社等面白い!


「はぁ~クソ、なにかいるのかよ..」

命蓮寺の裏には墓がある、その墓の方で謎の音が聞こえ確認のため寝ている命蓮寺の面々を起こさずこっそり寺を出る。

外は完全に真っ暗ではなく、月明かりによって照らされており、明るい時の境内しか見たことない俺からしたら月明かりで照らされる境内はどこか幻想的に感じた。

「奇麗だな..」

とりあえず俺はお地蔵さんの方に向かい

「大蜈蚣いるか?」

と声をかける。呼びかけに大蜈蚣はするっとでてきて俺の足元へと来る。

「墓のほうに何かいるかもしれん、悪いが付いてきてくれ」

大蜈蚣は眠そうな感じだがいつも通り俺の体に巻き付いた。これがいつものスタイルだ。

「悪いな起こしちまって」

思えば俺、この大蜈蚣に妖怪ほどの嫌悪感がないんだよな。百足だからか?

 

早速、裏の墓まで行ったはいいんだが

「不気味だな..」

正直普段幽霊とか見えてる俺からしたら、幽霊というのは怖くない!怖くないはずなんだが..なんか立ち入るのを体が拒んでしまう。

手に持つ灯が風で揺れる。そのたびに光が消えそうになり一瞬完全な闇になる。

「この一瞬、闇になった時にまた明るくなったら目の前になんかいて発狂するパターンなんだよな」

とフラグ建築について大蜈蚣に語り掛ける。

また風が吹き炎が揺れ一瞬消えかけ闇に染まる。そして炎が復活して明かりがついた瞬間

「う~らめしや~」

はい出た。フラグ回収早かったな~水色髪のオッドアイの少女がおどかしてきた。

ふふふ、うらめしや言ってるけど妖気で誰かいることは把握してたから全然驚いてねえんだよなこれが。

あれ?体が動かねえ、なんでだ。震えてるビビってるのか!?この俺が!

「あれ?お兄さん動かないけど、もしかして驚いちゃいました?」

満面の笑みで煽ってくるとは..この小娘になんか言ってやるぜ!

「ばばばばば、馬鹿野郎、おおおお驚いてなんかねえからなバーカ!」

圧倒的小物臭、驚いてるのがバレバレな噛み。俺の敗北だ..

「いや~驚いてくれるなんて、お兄さん夜の墓に来て度胸あるのかなって思ったら意外と臆病なんですね~」

クソ!不覚!悔しい!m9(^Д^)プギャーといわんばかりにあおられる。こんな少女に煽られるなんて..いや妖怪だったなこいつ。

暗いのとびっくりしたので気づかなかったが紫色の傘を持っていた。

「お前、唐傘お化けか。ザ妖怪という妖怪もいるんだな」

「はい、唐傘お化けの小傘って言います!ここ命蓮寺には入門してませんが、ここの墓場に訪れる人を驚かせるためにいます!」

元気よく自己紹介する小傘。やってることは驚かすだけと無害っちゃ無害だけど迷惑な野郎だ。

「ふう~お兄さんが驚いてくれたおかげで満腹になりました」

「満腹..そうか、お前は心を食べる妖怪か」

妖怪には人間を直接食べるタイプと精神的に追い詰めて心を食うタイプもいるんだっけな。しかし、驚かすだけだなんて人畜無害な野郎だな。

「ところでお兄さんはなんでこんなところにいるんですか? 大きい百足を巻き付けて墓に何の用ですか?」

「あっ、そういやそうだったな」

小傘に尋ねられ俺は本来の目的を思い出した。それと同時に大蜈蚣が俺の体に巻き付いているのにも思い出した。大蜈蚣も固まってやがる..

かくかくしかじか、夜中に墓の方で変な音がしたから調べに来たことを伝えた。

「それでまあ来たんだが、お前一人分の妖気しか感じなかったな。なんか音の正体とか知ってるか?」

「う~ん確かに変な音が聞こえたような..」

小傘は腕を組んで考えている。こいつアテにならなさそうだな。

「あっそうだ!あっちに何かが飛んで行ったような気がします」

「気がするって..おめえな..それに俺は飛べねえんだよ」

どうやら聖や一輪達は飛べるらしいが普通の人間である俺は飛ぶことができねえ..霊夢と魔理沙みたいに人間だけど特殊な力で飛べる奴もいるが、あいにく俺の能力は飛べる能力じゃあねえ。正体を知ろうにもな

「それじゃあ私にしっかり掴まっててくださいね!」

はっ、この小娘何言ってるんだ。小傘に腰のあたりに腕を回して掴めと促される。マジかよ..

 

 

「たけえなおい!」

うおおおたけえええええ。結局小傘の後ろからつかまり一緒に飛んでいる。

「そうですか?いい景色だと思うんですけど」

「いや確かにいい景色だけどよ!」

落ちねえよなこれ..怖い!

腕に力が入ってしまう。

「ちょっと、そんなに力入れられたら苦しいです!」

「すまんが無理だ!落ちたら困るんだ。大蜈蚣!お前も落ちねえように俺と小傘にしっかり巻き付いておいてくれよ!」

大蜈蚣は万が一俺の腕が離れたとしても大丈夫なようにロープ代わりに巻き付いている。

「だあああまさかこんなことになるなんてな!」

傘を持った人物が空とんでそれに掴まって空を飛ぶ。いやトトロかよ!

ぎゃーぎゃー騒ぎつつもたどり着いたところは

「人間の里..?」

小傘が指を指した方向は人間の里方面なのか..

酒に酔ったおっさんがふらふらしてたりしている。その時

「ヒョーヒョー」

この音だ!俺が寝ているときに聞いた音は。不気味な鳴き声。

酔っ払いのおっさんはそれを聞くと慌てて走りそのまま転ぶもすぐに立ち上がり一目散に逃げていった。

「もしかしてこの声って..小傘、お前も周りを見渡してくれ」

「は、はい!」

周りを見回し俺はあるものを見つけた。

「UFO?」

こんな幻想郷にか? しかも小さい。

「小傘、こっそりだ。ゆっくり近づけよ」

「わかりました!」

「シーッ!静かにな..」

「はぁーい..」

静かにゆっくり近づく。

「ははは、人間が正体不明に恐怖する姿はやっぱり笑えるわね」

正体不明..?そうかこいつは..

「やっぱり人間は恐怖する姿が一番いいわよね?」

「気づいていたか..」

「そこの唐傘お化けが返事したあたりからね」

俺は小傘に回している腕の力を強める

「うっ、すいません..」

「はあ、バレちまったらしょうがねえ、お前鵺だろ?」

俺はUFOに指を指そうとするも手離すと落ちるのでできなかった。

 

「あーバレちゃったか。よいしょっと!」

UFOは一瞬で黒いワンピースに変な羽の生えた少女の姿へと変貌した。

「あんたが寺にいたのは知ってたけど自己紹介してなかったわね。私は封獣ぬえ、正体不明がウリの妖怪よ。」

「ぬえ?そういやお前、寺にいる姿は見たことあるが輪に入れずにぼっちしてたな」

そう、俺は聖や一輪達の女子の輪に入れなかったが、同じように入らずにいた奴がいたことをおもいだした。

「な!あんたにだけは言われたくないわ!あんた外の世界でも一人ボッチだったらしいじゃない!」

「ぼっちじゃねえから!友達いたから(震え声)」

友達はいた。今はいねえってだけだから..

「とにかく、あんたのことは少し気に食わなかったのよね。寺で偉そうにしていたからね!」

三又の槍を出現させると槍からエネルギー弾を打ち出してきた。

「小傘、よけろおお!」

「は、はい!」

間一髪よけたが激しく動いたため。腕が解けそうになる。

「うおおおあぶねええ」

「だから苦しいです!」

まずい、ぬえの野郎が俺たちに向けて第二の攻撃をする。安全性はなくなるが

「大蜈蚣!」

俺の掛け声に命じられ大蜈蚣がその体を盾にしてエネルギー弾から身を守った。

まずいな、防戦一方だ..

「小傘!お前もエネルギー弾打てるか?」

「打てますけどお兄さんがいるからうてません!」

大ピンチすぎる!大蜈蚣に防がせるのはいいけど俺の腕もそろそろ限界だ。

「さああんた、私に無礼を働いたことを謝りなさい!そして命蓮寺で偉そうにしてないで聖様たちのために尽くすのよ!」

妖怪に謝るのは正直嫌だ!こんな奴に謝らなければいけないってのが嫌だ!

「断る!聖達のためには一応動いてやるがお前には謝らねえ!」

「なんですって!なら私に詫びて死になさい!」

「ぼっち発言程度で切れてんじゃねえぞ!」

「あんただってごく潰しくらいで切れてたじゃない!」

「それはきれるだろおおおおお!」

「変わらないわよ!」

ぬえがエネルギー弾を大量に放つ、大蜈蚣が防御してくれるがその衝撃で小傘の体が揺れて、俺の体も..

まずい、まずいぞもう腕がもたねえ..

「しぶといわね、でもこれでおわりよ!懺悔の用意はできたかしら?」

特大のエネルギー弾を準備するぬえ。まずいぞ、大蜈蚣も俺の腕も小傘も耐えられねえ。

「小傘、俺が腕を放す!だから大蜈蚣と一緒によけろ!」

「でもそんなことしたらお兄さん落ちて..」

「馬鹿!全員やられるわ!早くその手どけろ」

「無理です!」

俺は腕を放そうとするも小傘がそれを抑えている。このままじゃ三人とも..こうなったら

「小傘!」

「はい?」

「スカートめくれてる」

「えっ///」

小傘の手がスカートを抑える。よしいまだ!

「あっ」

「よけろよ!」

 

よし、これで二人は助かったな..そうだった..

 

馬鹿だな俺は、妖怪嫌いなのになんで妖怪助けてるんだよ..ははは

妖怪が嫌いなくせに咄嗟に自分を犠牲にしてまであいつら二人を助けようとするなんてな..

このままじゃ死んじまうな..まあ悪くねえ人生だったな..

ただこのままだと里に落ちちまうな..阿求と小鈴が俺の遺体を見ないように秘密裏に処理されたいけど無理そうだ..すまねえ聖。

命蓮寺にいる聖や村紗、代理にナズーリンたちの顔が浮かび、そして最後に、一緒に行動をしてきた一人の少女の顔が浮かぶ。

その顔が浮かんだ瞬間我に返った。

「いや、俺やっぱ死にたくねええええ!」

何余韻に浸ってるんだ!俺は死にたくないいいい。

「うおおおお」

地面までもう数メートル意外と時間がゆっくりに感じる。だが俺にはなにもできねえ

俺はこのまま死ぬのか!?

地面に近づき思わず目をつぶる。

「........」

恐る恐る目を開けると地面すれすれで浮いていた。

「なんで浮いているんだ..入道の親父!?」

入道の親父の手が俺を掴んでいた。入道の親父がいるってことは上を向くと

「こんなところでなにやってるの!」

腰に手を当てご立腹の一輪が浮いていた。そのまま地面に降り、俺も地面に下ろされた。

「うおおお一輪!」

「キャッ!?ちょっと!」

俺は思わず抱きついた。

「流石に死ぬかと思った..」

「馬鹿!離れて!変態!」

「ぐへっとおお」

そのままボディーブローを喰らい俺の意識は遠のいていった。

 

 

「あっやっちゃった..」

ヨウマが抱きしめてきたのでつい驚いて殴ってしまった..

「とりあえず雲山、ヨウマを持っておいてくれるかしら?」

雲山にヨウマを抱えてもらい再び宙へ

「ちょっとあんたたちなにやってるの?」

宙に浮かんでいる小傘と大蜈蚣をにらみつける

小傘は泣きそうな顔で

「一輪さん!お兄さんは無事なんですね!」

とヨウマの無事を安心しているようだった。

「もう一度聞くわ、こんなところで何をしているのかしら?」

「それが..」

かくかくしかじか小傘から詳しい事情を聴くと。馬鹿ヨウマが変な音の発生源を調べて無茶をしたという内容だった。

「それでそのぬえは一体どこに?」

「そこに..ってあれ?いなくなってる」

はぁ..逃げ足が速いんだから..これは後でお灸をすえとかねば。

「まあ二人ともお疲れ様。この馬鹿ヨウマに振り回されて大変だったわね」

「いえ、ヨウマさんと一緒の空の旅はとっても楽しかったです!」

「どうやって二人で空の旅ができたの?」

「はい!ヨウマさんは私の体に掴まってもらってましたから」

「...」

小傘はまずい!という顔をしていた。

「そう、ヨウマが体に腕を回して掴まっていたのね..いいこと教えてくれてありがとう..」

「は..はいい!」

 

一輪の顔は笑顔だがそのオーラとゴゴゴという擬音に恐怖する小傘なのであった。

 

 

一輪は思う。小傘の話を聞くにヨウマが妖怪のために自分の身を犠牲にしようとしてたことを。

彼が変わり始めている。妖怪嫌いだから初対面である小傘に敵対するはず、なのに話を聞けば最初っから割と友好的だったという。

(やっぱり変わり始めているのね、ヨウマ)

幻想郷に来てからずっと彼と行動を共にした一輪は彼の成長具合をみてとても嬉しく思うのだった。

 

 

 




さて命蓮寺にいる面々と一応は交流を深めてきましたね。
交流していくたびにどんどん自分で気づかないうちに変化していくヨウマ君
どうなっていくんでしょうか。またジェットコースターで溝ができるのか!
うんどうなるんだろ。(おい作者しっかりしろ)



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第15話「蜈蚣の気持ち 前編」

百足って足が多いから色々あって毘沙門天の使いになったけど、ゲジゲジも足多いからもしかしたらゲジゲジが毘沙門天の使いになってた可能性も..


大蜈蚣は龍に匹敵するほどの強力な妖怪である。

百足は軍神と財宝の神である、毘沙門天の使いとされており、あの武将武田信玄などの戦国武将たちは武具甲冑などに百足を用いたりしたという。さらに百足は鉱山の坑道に似ているため鉱山の守り神ともいわれている。さらに、足がたくさんあるため「客足」と掛けて商売繁盛のご利益があるとされているところもある。まさに毘沙門天にぴったりな使いである。

しかし時は現在、もはやそんな話も知ってる人はそんなにいなく、見た目が不快で毒を持っているため何かと敬遠しがちな百足..

 

「百足って意外とすごいんですね」

関心した声で本を読む少女..小鈴は目をキラキラさせて外来本に熱中していた。

「あぁ、百足って昔から毘沙門天の使いなんだよ。寅がなんか毘沙門天の使いとして今いるけど、昔は百足だったんだよな」

鈴奈庵内で腰を掛け同じく百足についての本を読みながら俺は小鈴の話の補足をする。

 

そう今現在俺は鈴奈庵に来ている。なんで俺が鈴奈庵にいるかというと

時を遡る--

 

「んじゃ、今日は里に行ってくるわ」

「はい、これお弁当。いい?しっかり門限までに帰ってくるのよ」

一輪にお弁当と小言を渡される。

「はいはい、一輪は心配性だな」

「なにいってんの!昨日の夜勝手に抜け出して死にそうになってるんだから!心配して当然じゃない!私としては勝手に変なことしてほしくないんだけど..」

「スミマセンデシタ」

ゴゴゴと相変わらず怖いオーラ出してきやがるのでとりあえず謝ってその場を切り抜けた。

 

「大蜈蚣!」

俺はそのまま大蜈蚣を呼び、それに応じて大蜈蚣もササっと出てきて巻き付いてくる。

「おー早い..」

「常に一緒に行動しているからな!」

大蜈蚣のスピーディな反応に感心する一輪に、俺と大蜈蚣は一緒にドヤ顔をしてやる。まあ大蜈蚣のドヤ顔はわからないんだがな。

「それじゃあ行ってくる」

「はいはい、気を付けるのよ」

といつも通り一輪に見送られて寺を出る。

 

すれ違う参拝客は最初はびっくりするが、一応毘沙門天を信仰しているので蜈蚣が毘沙門天の使いだと知ってる人が多いため何事もなくスルーされるどころか手を合わせられるなどしばしばある。

 

大蜈蚣は一応妖怪っちゃ妖怪なのだが毘沙門天所属の妖怪という特殊な立ち位置だ。妖怪を引き寄せちまう俺を守るために代理から借り受けている。こいつは本当に護衛にちょうどいい。龍をも殺す強さに強力な毒、こいつに喧嘩を売るのは人間でいうところのメイウェザーに喧嘩を売るのに等しいといえよう。こいつに喧嘩を売れるのは大蜈蚣の上司の代理か強力な鬼クラスの妖怪くらいだな。

 

さーてもうそろそろ里の門だな~

「ヨ、ヨウマさん!?」

あっ..門の前に見たことのある飴色髪に鈴の髪飾りのツインテールの子「小鈴」が驚いた表情で立っていた。

見られた..

「いや小鈴そのだな..」

「き..キャアアアアアアアア!?こないでえええええ」

「えっ?」

「ムカデーーーー!」

やっぱな..

「悪い、お前離れろ」

蜈蚣は若干しょんぼりしながらも離れてもらいなんとか小鈴をなだめようとする

「いやーー!こないでええええ」

「おい小鈴落ち着け..もう百足はいないからさ..」

あーなんかやばいことになったぞ..俺がこれ不審者になるパティーンじゃあねえか..

「大丈夫か!」

案の定大人の男たちが現れて、

「助けてー」

と小鈴が男たちのもとに駆けてゆき

「ちょっと来てもらおうか!」

「..はい」

はい、事案です。畜生!俺は連行された。

 

その後阿求と慧音さんによって小鈴はでかい百足を見たから取り乱して、俺がその百足を追い払い落ち着かせようとしたところだったということになり、なんとか誤解が解けた。正直俺に対していい感情を抱いている人がそんなにいないと思うので誤解が解けたのはありがたい。

 

「取り乱しちゃってすいませんでした」

「いや小鈴が謝ることはないよ、誰だってあんなでけえ百足いたらビビるわな」

「そうですよ!なんであんな百足巻き付かせてたんですか!私びっくりしてもう..」

「まあまあ小鈴落ち着いて、それででかい百足は一体なんだったんですか?」

小鈴をなだめ、ムカデについて聞いてくる阿求

「あぁ、あのムカデは命蓮寺にいる毘沙門天の代理の部下でな、俺の護衛としているんだ」

「護衛って一応妖怪なのに大丈夫なのか?」

慧音さんのいうことは最もだ実際俺は大蜈蚣に襲われて食われかけたことがあったからな。だが、それ以降一緒にいると奇妙な信頼感ができてきて、なんやかんや頼りにしている。

 

「あぁ、あいつは俺を食わないってそう確信しているんだ。意外とさ、長くいたからよ。外出る時もいつもあいつとセットだから変な信頼感つうかなんつうか..いて安心するっていうかまあそんな感じだ、わかりやすくいうなら相棒だ」

「ふふ、相棒か。妖怪が憎いって言ってたが、命蓮寺にいてやっぱり変化がでたみたいだな」

「変化?」

「あぁ、君は自分が気づかないくらいにだいぶ変わってきているよ。変わってきているというより成長しているって方が正しいのかな?」

やはり俺は変わり始めているのか..確かに昔の俺ならば、おそらく妖怪が近くにいることさえ拒んでいただろう。そんな俺が一輪や村紗、大蜈蚣たちが近くにいても何も気にすることがなくなっていった。昔の俺には考えられないことだ。

「ヨウマさんってすごいですね、私百足とか苦手で..絶対あんな大きいのなんかと一緒にいられないのに、よくいられますね。というかそもそも毘沙門天の使いが百足なんですか!寅じゃないんですか!」

 

 

という感じで小鈴が疑問を大量に投げかけてきたわけで今こうして鈴奈庵で二人でムカデについて調べているところだったのだ。

 

「ムカデってただ気持ち悪いと思ってたけど、すごいのね」

「だろ、ムカデってとてもすごいんだぜ」

「それでも百足は苦手ですけどね..」

「....」

結局どんだけすごくても見た目がな..

 

「今日は勉強になりました。百足について知らないことだらけだったので」

「いや、まあ嫌だろうにわざわざ調べてくれてありがとうな」

「いえ。あっ、ここがちょうどいいですね。お弁当食べましょう!」

「あいよ」

百足について調べ終わった時にはお昼時になっていたので小鈴と一緒にお昼ご飯だ。

「しかし、阿求も大変だな。今日は忙しいって」

「阿求も当主だから色々あるんですよね」

まあ当主ってのもたいへんだな。と一つ気になったことがあった。

「あっそういや小鈴、あった時門の外にいたけど何しようとしてたんだ?」

「ああああ!忘れてた!霊夢さんのところから貸した本を返してもらうためにいこうとしてたんだわ」

Oh..あの巫女返してなかったんだな..

「んじゃ、弁当食い終わったら博麗神社へ行こうぜ」

「付いてきてくれるんですか?」

「博麗神社に行くのに慣れているらしいが、一応妖怪に襲われるかもしれん。まあ護衛みたいなもんだな」

そう聞いた小鈴の顔が若干曇っている。

「もしかして..ムカデも一緒にいますか?」

「蜈蚣がいねえと妖怪に襲われる確率高くなるからな..」

はあ..とため息をつく小鈴。なんか申し訳ないが、危険と比べれば多分マシだろう。

 

 

「大蜈蚣!」

相変わらず速攻俺の基へとやってくる

「ひっ!」

やっぱり小鈴は百足が苦手らしく俺らから少し離れた。

そのまま大蜈蚣を体に巻き付かせ、

「よし、行くぞ」

と声をかけるも小鈴は少し離れた後ろからついてくる。

「すまんな大蜈蚣、お前は悪くないんだ」

大蜈蚣は「全然大丈夫気にしてないよ」といわんばかりに頷いている。

そして、後ろをちょくちょく確認しつつ博麗神社へとたどり着く

小鈴の顔を見ると青かった。多分小鈴にとっては生きた心地がしねえだろうな..

 

「れ、霊夢さーん!本返してもらいにきましたよ~」

その声を聞いて巫女が扉をガラッとあけ、あくびしながら出てきた。

こいつ昼寝してたんだろうな。眠そうな顔をしていたが俺を視界にとらえると

「あら、ヨウマと百足じゃない。あんたたちも何か用かしら?」

普通の対応。前回と違って反応は普通だった。

よかったもう嫌われてねえみたいだな。

「もう!霊夢さん、貸した本早く返してくれますか!」

「はいはい、上がって上がって」

適当に俺たちを家に上げようとするが大蜈蚣は入るのを躊躇してた。

「あ~百足も別に入っていいわよ」

「だってさ、お前も入んな」

その言葉を聞いて大蜈蚣は嬉しそうに俺に巻き付いたが、小鈴の顔は引きつっていた

ごめん小鈴..

 

「しかし霊夢、お前百足平気なんだな」

「別に確かに気持ち悪いっちゃ気持ち悪いけど、なにもしないなら別にいても構わないわ」

なるほど、こいつは妖怪も人間も差別しない、ある意味平等な奴なんだな。

そのまま居間に案内され霊夢の持ってきたお茶を飲む。

俺と小鈴がお茶を飲んでいる間に貸していた本を探しに行った。

「ヨウマさんって蜈蚣をいつも巻き付けているんですね..」

「まあいつもこんな感じだな。もし遠くで誰にも見つからないように隠れているだけじゃあ、もしかまいたちみてえな早い奴に襲われたときに対処が遅くなるしな。だから体に巻き付けるほうが鎧を着ているみたいでいいんだよ」

「へ、へえ~すごいですね。あはは..」

すげえ引かれた。

「はい、小鈴ちゃんこれ」

ちょうど空気が若干重くなったところで霊夢が小鈴から借りた本を持ってきた。

「はい、これで大丈夫です」

小鈴は笑顔で本の確認をする。

「それじゃあ里に帰るんでしょ?送ってあげるわ」

霊夢の提案に小鈴は満面の笑みで

「本当ですか!?霊夢さんがいれば安心ですね」

「はいはい、あんたたちはどうするの?」

「お、俺たちは少し、この神社の周りを見てから帰るよ」

「そう、じゃあ行きましょうか」

「はい!」

そのまま笑顔の小鈴を連れて霊夢は出ていった。

 

そして蜈蚣と二人きりになり空気がすごく重くなった。

「あのさ、言いにくいんだけどさ。あんな笑顔見せられたら一緒にはいけねえよな..」

 

そう、行くときはとても引きつった顔をしたり、この世の終わりのような顔をしていた小鈴が霊夢と一緒ってところに満面の笑みを見せたことは大蜈蚣と蜈蚣を巻き付けてる俺の心をへし折ったのだ。

小鈴に悪意はないが一人の少女に拒絶されたという事実が突き刺さる。

 

「なに?『嫌われてるのは慣れていると思ってたけど、やっぱりつらい?』だよな..」

 

男はつらいよで寅さんだけど今は、俺たちはつらいよでムカさんになっている。

 

「大蜈蚣..この状況なんとかできねえか考えてみるよ」

俺は動くことを決意した

 

 

後編へ続く

 




初めての前後編ですね。
どうしても見た目で嫌われてしまう大蜈蚣、その姿にヨウマ君はなにかを感じ取って何とかしようと考えるのでした。


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第16話「蜈蚣の気持ち 後編」

前回の続きとなります。蜈蚣のためにヨウマ君にはなにができるのでしょうか?



前回のあらすじ

俺と大蜈蚣は小鈴に若干拒絶され心をへし折られた。

大蜈蚣にどこか自分を重ね、なんとかこの事態を変えたい。そのために俺は動き出すのであった!

 

早速命蓮寺へと戻る。

「あっヨウマさんおかえりなさい!」

「おう!ただいまだ!急いでるからこの辺でな!」

俺はおかえりをいう響子をすっ飛ばし、

「あっヨウマさんおかえりなーー

「すまん後でな!」

「えっ?」

村紗もすっ飛ばし、本堂にいる聖の基へ。

「聖!!」

「は、はい?」

「頼みがある!」

開幕土下座する

「えっええ?」

 

 

 

「なるほど、事情は分かりました。里の店がたくさん並んでいるところに"蜈蚣神社"を作りたいということですね」

「あぁ」

「なんで急に蜈蚣神社を作ろうと思ったの?」

その場に居合わせた一輪が聞いてくる。

「蜈蚣神社があれば毘沙門天の信仰回収にもつながると思ってな。百足は毘沙門天のつかいだ。なおかつ客足が多いという風に百足と掛けて商売繁盛のご利益がある。だから店がたくさんあるところの近くに建てれば、人間は百足に商売繁盛を願い信仰すると俺はおもうんだ」

百足は商売繁盛のご利益や鉱山の守り神として何かとお金関連に関わってることが多い。百足が信仰されれば、おそらく蜈蚣を見る皆の眼は変わってくれるはずだ。

「なるほど、ヨウマさんのいいたいことはすべてわかりました。それを聞いて私の答えは..申し訳ないですができないです」

聖から帰ってきたのはNOという答えだった。やはりそうか..

「商売繁盛やお金に関したことで確かに信仰は増えると思います。ですがその分欲が増え執着というものも増えていきます」

「そうか、商売繁盛のご利益だと思えば、人間はどんどん欲が出てきて金に対する執着もすごくなるってことか」

そう仏教では喜捨といって自分が持つ財を「喜んで差し出す」というものがあり、それは財への執着や欲を捨てるという意味がある。

「欲や煩悩を捨てる仏教には反しているってことだな」

そんな仏教のこの寺で財への執着や欲を強めそうな神社を建てることは到底できねえな..

「はい、なので申し訳ないですができないのです」

「...いや、こっちこそ急に変なこと言って悪かったな、思い付きでしゃべっていただけなんだ、気にしないでくれ」

俺は頭を下げる聖に気にするなと伝え本堂を出る。

 

「はあ、やっぱり無理だよな..」

「ねえヨウマ」

本堂の外に出て溜息を吐く俺に一輪は話しかけてくる。

「どうして急に蜈蚣神社のことを出してきたの?あんたが信仰のために動くだなんて私には考えられないわ」

うっ、まあ信仰のために動いたことは一度たりともないからな..

「はあ、やっぱ一輪には勘づかれてたか」

 

そして俺は今日蜈蚣と一緒にいて、あった出来事と蜈蚣のことをなんとかしたいという思いについて語った。

「そう、蜈蚣のことを気の毒に思ったのね」

「あーそういうこった」

ジーっと俺を見つめてくる一輪は核心を突いたことを口にする。

「蜈蚣に肩入れするのって、もしかしてアンタの過去も関係している?」

はっ、やっぱこいつは..

「あたりだ、お前には敵わねえな」

そうだ、俺が蜈蚣に肩入れするのには俺の過去が起因している。

 

昔の俺は人間に迫害されていた。他の子どもには見えないものが見えていて、とても不気味だったからだ。

 

『お前気持ち悪いんだよ!』

あーそうだ、気持ち悪いな

『お前は変な奴だ!』

そうだ、変な奴だ

『お前がいると嫌な気分なんだよ!』

そうかい、嫌な気分になるんだな

 

『だから』

『だから』

『だから』

 

『『『死んじゃえ!!!』』』

 

 

「ッツ!」

「ヨウマ大丈夫!?」

「いや大丈夫だ..やっぱり思い出すのって辛いな..」

一輪は俺の手を握り心配そうな顔をする。俺はその手を放させまた語る。

「俺さ、百足もゲジゲジも嫌いじゃないんだ..むしろ好きかもしれねえ。見た目は気持ち悪いって思うかもしれねえけどさ、それだけじゃあねえか!ただ生きているだけじゃあねえか!それで見た目で勝手に不快に感じてそれを口に出し、挙句の果てに死ねだと!?ふざけるな!」

俺はずっと昔から心に貯めていた憎悪を吐き出す。

「ヨウマ..」

「だから俺は、あいつをなんとかしてやりたい。もし神様の使いとしてご利益のある存在だってみんなに知らしめることができれば変わるんじゃないかと思って頼んでみたが、そう簡単にいかなそうだ」

俺の浅はかな考えではやはり一筋縄ではいかないようだった。

「私からも聖様に頼む?それかアンタ里のお偉いさんの娘と仲がいいからその子に頼むとか、私もアンタの話聞いて賛同する部分があるからなんとかしたいのよね」

一輪の提案はとても嬉しい、だが。

「いや頼まんでええ。命蓮寺は仏教でただでさえお金がないんだ。負担もかかるし、仏教に反するものを作れば信者から何か言われかねん、阿求に頼むっていうのもありっちゃありだが建てるためのお金を阿求に出させるのも悪い」

「それじゃあどうするの?」

「それを今からかんがえる!」

はあと頭を抑え溜息を吐く一輪。

まあそりゃあこんな解答じゃあ行く先が思いやられるよな。

 

 

その後も考えたが、頭の悪い俺にはいい案は結局でなく次の日になっていた。

その日俺は、和服を着て里を訪問することを聖に言われた、なんでも命蓮寺の一員になったから一応里の人間に顔を覚えてもらえとのことだった。

俺は初めてゴテゴテの僧侶の格好をして、外来人のヨウマとしてではなく、命蓮寺所属のヨウマとして里に訪れることになった。

「大蜈蚣!」

早速大蜈蚣を呼び、大蜈蚣が巻き付く前に大蜈蚣をその場に止めた。

「自分で体を巻いてコンパクトにできるか?」

そう大蜈蚣に指示すると大蜈蚣は平たい丸になった。

「よし、サイズはちょうどだな」

俺は頭にかぶる、菅傘という修行僧が付ける傘に大蜈蚣を入れそのまま頭にかぶった。

「よし!これならお前がいてもバレねえな」

前回の失敗を反省し、大蜈蚣を菅傘で隠し混乱させないようにしたが、これにはもう一つ理由がある。

傘をしているから妖怪への抑止力が見えないのでは?と思うかもしれないが、大蜈蚣は瘴気というか妖怪にしか感じられないオーラが出ているためしっかり妖怪を遠ざけることが可能だ。

 

 

早速僧侶の格好で、里へ訪れると道行く人の一部が俺に合掌してきた。人々の反応を見るに、大蜈蚣がいることはバレてないらしい。よかった..

 

「あんちゃん命蓮寺からきたのか!」

「は、はい。修行中の身です」

「そうか!修行辛いと思うが頑張れよ!」

 

順調に里を回っていくと行く先々で人が俺に声をかけエールを送ってくれる。

やはりここはいいところだな。

「大蜈蚣、聞こえていると思うが、お前がいつも守っている里にはこんなにいい人がいるんだ。お前は誇りをもっと持て。こんな素晴らしい里を妖怪から守っているってな」

頭の大蜈蚣に最大限の賛辞を贈る。大蜈蚣はとても嬉しそうで、俺も嬉しかった。

 

「ヨウマさーん!」

道を歩いていると飴色髪の少女、小鈴が手を振って近づいてきた。

「こんなところで何しているんですか?」

「ああ、命蓮寺に一応所属してるから、命蓮寺メンバーとして里に打ち解けておけっていう聖から言われてな」

「そうなんですね、もう打ち解けていると思っていたんですけどね」

「まあ、まだ全体的に打ち解けてるわけじゃねえし、外来人よりお坊さんのほうが打ち解けやすいってことなんだろうな」

「そうですかね?」

軽ーく談笑をしながら里を歩いていくと子供の話声が聞こえてくる。

 

「うわやっぱ気持ち悪いな!」

「変な形だよね」

「見てていやな気分になるよ」

 

幼少期の思い出がフラッシュバックする。

「あー小鈴すまない、ちょっといいか?」

「別に大丈夫ですが?」

小鈴を少し待たせ子供たちの方へと向かう

 

子供は弱った百足を三人で囲っており、さっきの言葉はすべてこの百足にむけられていたものだったのだ。足が数本かなく、胴体もちぎれており虫の息だった。

 

「気持ち悪いから死んじゃえ!」

真ん中の子供が今まさに石を振りかぶってとどめをさそうとする。

「痛っ!」

俺はその子供の腕を思いっきり掴んでいた。

子供三人は俺の姿を見て顔が恐怖に染まっていた、一人に至っては泣きそうな顔をしていた。

ああ、今俺はすごく険しい顔をしているんだな..

俺は目を閉じ深呼吸し、振りかぶられた腕を放し、子供たちに聞く。

 

「今何をしようとしたんだい?」

「虫がいて、気持ち悪いから..」

「それでとどめをさそうと石を振りかぶっていたんだね」

「..」コクっ

子供たちはバツの悪い顔をして頷く

「そうか、正直に言ってくれてありがとう」

「えっ」

きっと怒られると思っていたのだろう。俺の言葉に驚いている。そして俺は子供たちに微笑みかけ諭すように語る。

「いいかい、確かに百足とか虫は気持ち悪いって思うかもしれない。でもそれだけじゃないか。この虫たちは君に危害を与えなかっただろう?」

「うん..」

「虫一匹、一匹に君たちのように人生があるんだ。だからその人生を終わらせるようなことはしちゃいけないよ。この百足は必死に生きようとしているだけなんだ。ただそれだけなんだ。ただ動いて、ご飯を食べて、必死に必死に頑張っているんだよ。君たちもただ生きているだけなのにいるだけで気持ち悪いとか、不快だとかぶつけられて、そのまま殺されそうになったらどう思う?」

「あっ..」

「それにこの百足の姿を見てごらん」

瀕死のムカデはとても苦しそうにうごめいている。その姿はとても痛ましくそれを見た子供たちは自分のしたことの重さを理解したようだった。

「グスっ、ごめんなさい」

「僕たちはダメなことを..」

「ごめんなさい!」

俺は涙を流す子供たち三人の頭を撫で

「辛いと感じるだろう?だからもう二度とこういうことしちゃいけないよ」

「「「はい..」」」

そのまま子供たちを帰し瀕死の百足を見つめる。

生命力が強い百足といえどおそらくもう命は長くないだろう。

「ヨウマさん、今泣いていた子供が三人くらい..あっ..その百足、あの子たちが..」

「ああ、でも俺が言っておいたからさ、もうあんなことはしないだろう」

「そうですけど、でもその百足は..」

「見てて辛いだろ?」

小鈴にそう問いかける。

「はい..気持ち悪いって言ってもここまでだと..」

「これが気持ち悪いって言われている者たちの末路なんだ。こうして皆から虐げられてこうなってしまう奴が大半だ。人間も例外ではない、俺がそうであったようにな..」

「えっ..」

 

俺は袖をまくって肩の方にある傷を小鈴に見せる。

「それって..」

「ああ、俺は昔幽霊とかそういうのが見えててな、周りから気持ち悪いとか変なやつって言われ続けた結果がこの傷だ」

そう、だから俺は少しでも大蜈蚣のような境遇の者の見方を変えたかったのだ。俺やこの瀕死の百足のようにただ生きているだけで傷つけられる者を増やさないために。

 

「小鈴、今回の件は俺にある決意をみなぎらせてくれたよ」

「決意ですか?」

俺はちぎれた百足の胴体をくっつけ健康お守りを出し百足の近くに置く。

そしてそのまま指を噛み切り、出てくる血をお守りに垂らす。

お守りはまばゆい光を放ち百足を包む。

 

「あれ?百足の体が..」

小鈴は信じられないという顔をしている、なぜなら体がちぎれて瀕死だった百足の体が再生して何事もなかったかのように俺の手のひらを歩いていたからだ。

「ヨウマさん!一体何が起きたんですか?」

「俺の血の能力で健康お守りの効果を最大限までに上げた。原理は不明だが、どうやら健康になったらしい。ただ失った足までは戻せなかったな」

 

俺はそのまま手のひらで歩く百足を草むらの上に置いた。

「もう傷つけられないようにな」

百足は俺の手に触覚をこすりつけた後、そのまま草の上を走っていった。

 

「さて、また里を歩き回らねえとな」

よっこらしょと立ち上がりまた移動する。

「あっ!ヨウマさんさっきの決意っていうのは?」

「ああそれか、それはなーー

 

 

 

「聖様、無理を言っているのは承知です。ヨウマや蜈蚣のために百足神社を作っていただけないでしょうか!」

一輪は主に頭を下げ頼み込む。

「一輪、あなたは何故ヨウマさんの意見に賛同するのですか?」

「彼の過去と彼の考えを聞いたからです。彼自身も虐げられた者の一人です。だから蜈蚣のような見た目で嫌われている者の印象をよくするためにあのような提案をしたのです。私は彼のそのまっすぐな願いをかなえたいって思いました。彼も変わり始めています、ですから彼のためにどうか!」

必死で頭を下げ懇願する。

「ふふ、一輪も同じ考えなのですね」

「へっ同じ考えってことは聖様も..」

「今度ヨウマさんと一緒に里に行くので、その時に神社を建てるのにいい場所を探しましょうか」

「聖様..!」

我が主も同じように彼のことを考えてくれたのだ、あいつの!ヨウマの想いが叶うと思うとこんなにうれしいことはない..!

 

 

「ただいま戻った」

「おかえりなさい!里はどうでした?」

かえって早々笑顔の響子が出迎えてくれた。

「おう、普通だ。あっこれやるよ、お土産だ。」

俺は里で土産として買おうとしていた髪留めをお布施としていただいていたのだ。

「わぁ!奇麗な髪飾り!ありがとうございます!!!」

「お、おういつも世話になってるからな。喜んでもらえて嬉しいぜ」

相変わらず声の大きい響子、まあ喜んでもらえてよかった。

「おかえり、どうお弁当は?」

「ばっちりだ!特に煮物がうめえ!」

「よかったわ」

同じく出迎えてくれた一輪にお弁当の感想を伝える。

「そうだ、明日聖様と一緒に里を訪れるわよ」

「また急だな」

「それも命蓮寺メンバーとして大事なことよ」

「入門はしてねえんだけどね」

「そういえばそうだったわ」

そのまま何事もなくいつも通り飯を食い、いつも通り寝た。

 

 

~~次の日~~

 

「はあ三人で出かけるってのも初めてだな」

「ふふそれもそうですね」

一輪と聖の二人+一匹の蜈蚣と俺で里へと向かう。

なんでも里で宗教活動をするとかで俺も呼ばれたらしい。

里に着き、広場の近くで演説の準備を一輪とともにしていると。

 

「あー百足のお兄ちゃんだ!」

「あー本当だ虫のお兄ちゃんだ」

「また面白いお話聞かせて~」

里にいた子供たちが一斉に俺の基にやってくる、その中には昨日の三人の子供も混じっていた。

 

「ちょっとヨウマどういうこと?」

「あぁ、昨日里を訪れた時にな」

 

昨日俺は百足を助けた後、小鈴と協力し里の子供たちを集め、虫についての話を皆に聞かせたのだ。

百足のありがたい話や、百足が実は龍よりつよいという話などなど、子供たちにはとても面白い時間だったようで『虫の兄ちゃん』『百足の兄ちゃん』として面白いお話を持ってくるという約束をしていたのである。

 

「ねえ、昨日ね百足さんがいて怖くてどっかにやっちゃえって思ったんだけどね、お兄ちゃんのお話きいてしっかり百足さんにバイバイしたよ!」

「そうか偉いな!」

「僕はねお母さんにつぶされそうになった蜘蛛を逃がしてあげたんだ!」

「おっきっと穴に落ちても蜘蛛が糸を垂らして助けてくれるな」

「僕はね!」「私はね!」

子供たちの話を一人一人丁寧に話を聞いてあげる。そうか、俺の話はこの子たちにとどいてくれたんだな。

「なあ聖、この子たちに向こうで色々話していいか?」

「ええ構わないですよ」

「助かる」

俺は聖に最大限の礼をして

「それじゃあ虫について話そうかな、みんなあそこまで移動しててね」

「「「はーい!」」」

子供たちが移動して俺は一輪に話しかける。

「言っただろ、ほかになんかしてみるって」

「えぇ、本当になんとかできたわね」

俺は最大限のピースを向けて子供たちの基へと向かう。

 

 

「神社がなくても印象を変えることができたようですね」

「はい、あいつの努力はあいつ自身が叶えたみたいです」

 

「それじゃあ話をしよう!今日はカマキリについてだ!みんなはカマキリについてどうおもう?」

「かっこいい!」

「そうだな、かっこいいってのが一番だと思うよな!」

 

子供たちと和気あいあいと話をするヨウマの顔は誰にも曇らせることはできないだろう。

「さあ一輪、準備始めますよ」

「はい!聖様」

 

 

その後、大人には百足が商売繁盛のご利益のある、ありがたい毘沙門天の使いだという話が広まったことで、『是非蜈蚣神社を作ってほしい』との声がでてきた。

里の人間達と命蓮寺と共同で晴れて百足神社が完成したのであった。

その際呼ばれたヨウマは大蜈蚣を里の人間の前に披露し、さらに彼が助けた百足やたくさんの百足たちが集まったことにより、ヨウマは「百足使い」として里から歓迎された。

 

ーーーーー

「あっ!ヨウマさんさっきの決意っていうのは?」

「ああそれか、それはなだなーー

俺はずっと腐っていく心の中でもずっと願望があったんだ。俺の願い、そして決意を今改めてときはなつ。

 

「俺は、虐げられている者たちのために動いて救いたい!」

 

虐げられてきた青年の決意は今ここに!

 




ヨウマ君の願いと夢。死を望んでいた青年に訪れた転機
さて割と長くなってしまいましたが、個人的に一番書いてて原作デビルマンのようにもう降りてきた文をただただ打ち込んでいきましたね。


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第17話「山の旅路と阿求の恋路 前編」

阿求とのお話になりますね


幻想郷は今日も快晴だ。

こんないい天気の日にはどこか出かけたくなる

今日はどこにでかけようか..

 

「今日も出かけるのにいい日だな~」

「そんなところに突っ立てないで、邪魔よ!」

「相変わらずだな..」

雲一つない青空を眺めていると、相変わらず一輪がきついこと言ってくる。

 

「どうせ、里にいる娘と密会でしょ」

「いや密会じゃねえよ」

「私たちに黙って行ってるんだから同じでしょ!」

「なんでそんな不機嫌そうなんだよ..」

「考えてみれば?」

プイっとそっぽを向きそのまま本堂に戻ろうとする。

俺なんかしたかな? なんで不機嫌なんだ..

あーそうか、そういうことか!

俺はそこで原因を突き止めた、早く呼び止めなければ。

「一輪!」

「ん、何?」

 

そうだよな、そりゃあ怒るよな、

 

「お前が怒る気持ちわかったよ」

「えっ//」

「今まで気づかなくてすまない!」

「いや、別に謝らなくてもいいわよ//」

 

「これからは....お前の前で里に行くって話を慎むわ」

「えっ?」

一輪は緊急時以外里に入るのを聖から禁じられている、そんな一輪の前で、里へ簡単に訪れることのできる俺が嬉しそうに話すことは嫌味になる。

「だからこれからは気を付けるよ」

「あっそう..」

 

あれ?一輪の反応が薄い。というかジト目で俺を見つめ、そのまま素っ気なく背を向けて歩いて行った。

えっ?えっ?違うんか?

「ヨウマさん、全然違いますよ..」

俺と一輪のやりとりを見ていた響子が呆れたように話しかけてくる

「違うって、里に行けねえってことじゃないのか?」

「全然違います!里の娘と会うってところです!」

えぇ..里の娘って、阿求のことだよな..あれか!

「そうか、阿求と会って遊ぶことで俺が修行を全然しなくなると懸念しているんだな!」

「全然違います!!!なんで出てこないんですか!!」

響子にめっちゃ怒られた。なんで~

 

結局、一輪の不機嫌な理由や、響子の呆れてた理由の真意を知ることは出来なかった。

「ということがあったんだが、村紗わかる?」

「わからないですね~」

 

「ということがあったんだが、聖はなにかわかるか?」

「ふふふ、私の方からは何とも言えないですね」

 

色んなやつに聞いてみてもわからないの一点張りでなおかつ、一人を除いてニヤニヤしながら答えてやがった。なんだってんだ..

 

「はい、お弁当」

「お、おう」

いつも以上に素っ気なく弁当を手渡され

「じゃあね」

そのまますぐに戻っていった。

「うっ..」

「ヨウマさんいいですか?」

見かねた響子がわざわざ掃除を中断し俺に耳打ちをする。

「えぇ!そんなんでいいのか?」

「そうです!」

響子から提案された策。とりあえず帰るまでになんとかしねえとな。

 

 

相変わらず百足を巻き付け里の道を歩く。正直こいつを巻き付けて歩くのも重くて大変だ、一輪達みたいに空を飛べれば少しは楽になれるんだが。

「よし着いた!」

いつも通りの重厚な門にたどり着き、いつもなら大蜈蚣を下ろしているが、今は違う。

普通ならば妖怪として恐れられ、騒ぎになっているだろう。だが今は違う。

 

「おっ蜈蚣のあんちゃんじゃあねえか」

「蜈蚣様も一緒なんだな!」

 

そう受け入れられている。

「おう、皆さん商売どうですか?」

「いやー商売繁盛してますよ!百足のおかげかもしれないね」

よかった、百足神社はいい感じらしい。

 

百足神社は商売繁盛の利益のある特別な場所になっているが、俺にはもう一つ特別な場所になっている。

「すまん阿求。待たせちまったかな?」

俺は百足神社の前で待っている少女、阿求に声をかける。

「こんにちはヨウマさん、全然待っていないので大丈夫ですよ」

奇麗な笑顔で俺を迎えてくれる阿求、天使だな。

「あっそれに百足さんもこんにちは」

俺に巻き付いている蜈蚣にも丁寧にあいさつしてくれる阿求。いい子だな本当に。

蜈蚣の奴、若干デレデレしてんな。まあ気持ちはわかるぞ。

 

今日阿求と一緒にいるのは、いつかの日に「幻想郷の名所を回ろう」という約束をしたからである。そんな約束をして結構時が経ってしまったので、ようやく彼女との約束を果たすときが来たのだ。(作者も俺も忘れてたからな)

 

 

「それじゃあ、どこが一番いいかな?」

そう尋ねると、阿求はうーんと少し考える。

考える姿もなんというかサマになるよな。

「守矢神社がいいかもしれないですね」

「守矢神社?博麗神社だけじゃなかったのか」

「はい、この幻想郷には博麗神社だけでなく、守矢神社という神社が妖怪の山の頂上にあるんですよ」

妖怪の山の頂上..いやたけえところにあるな!

阿求の指が示していた頂上はすげえ高い。参拝客これねえだろ

「そこに行くって、山を登るのか?」

これを歩いて登るのって富士山より難易度高くね?それとも飛んでいくのか?

「いえ、ロープウェイがありますので、それですぐに行けますよ」

「ロープウェイ!?そんな高度なもんがあるの!?」

どうやら阿求の話を聞くと、妖怪の山に住んでいる河童の科学力がすごく、電気が通っていたりして色々快適らしい。

「妖怪の山..恐ろしい!」

 

 

「これがロープウェイか..マジでロープウェイだな」

思った以上に本格的なロープウェイ、材質は木材だがよくできていた。

「それじゃあ行くか」

俺は阿求の手を引きロープウェイまでエスコートする。

客はどうやら俺と阿求しかいなかったらしく、二人っきりだ。

ロープウェイから見える景色はとてもきれいだった。

もうこの時期は秋。紅葉がとってもきれいな季節だ。里の近くではまだまだ青い葉っぱが多かったが山の途中からは赤く染まった木がちらほら出始めており、青と赤の境界線がくっきり見えてそれはもうとても幻想的だった。

「奇麗..」

阿求もその光景を目を輝かせ釘付けになっていた。

そんな阿求が少し震えているのに気付いた俺は、自分の上着を景色に夢中になっている阿求にそっとかけてやる。

「えっ?ヨウマさんこれは..」

流石に気づくよな..

「山の上は寒いだろうからそれで暖をとっておいてくれ」

「ヨウマさん..でも、ヨウマさんが寒くないですか?」

「大丈夫だ、俺には蜈蚣がいる!」

ぶっちゃけ、俺も若干寒い..だけど阿求は若干体が弱いということを使用人の人から聞いていたからな。俺なんかより阿求の方が大事だ。

「でも、ヨウマさん..」

「なんだ?」

「ヨウマさんも少し震えてますよ..」

「....いやー紅葉奇麗だな!」

「えぇ!」

俺は雑すぎる誤魔化しをした。

「あの、やっぱりこれ..」

「おっ阿求!なんか飛んでるんだけどなんだあれ!」

とにかく雑すぎる誤魔化しをしつづければ折れてくれる!

と思いきや..

「もう!ヨウマさん、ちゃんとお話し聞いてください!」

阿求に普通に怒られた..

「ヨウマさんの気持ちは嬉しいですが、無理しないでください!」

「無理してないよ、阿求が風邪ひいたら大変だと思って」

「ヨウマさんの方が風邪ひいてしまいます!」

「阿求が風邪ひく方がやばいだろう!」

「それは、私が里の権力者だからですか..」

...一気に重たい空気が流れる。

そうか、阿求は里の権力者だ、皆から頼りにされ相談される。そんな阿求が病に倒れれば里は混乱するだろう。里の権利者に倒れられては困る!という思いが、阿求を悩ませていたんだろうな。皆が心配するのは里の権力者としての自分だと。

 

「里の権力者?何言ってるんだ、俺は阿求が風邪ひいて辛い思いをしてほしくねえから言っているんだ」

彼女の眼をまっすぐ見つめ伝える。

「阿求が風邪ひいたらさ、俺すげえ心配なんだよ、俺だけじゃあねえ小鈴や慧音さんもだ。阿求が風邪ひいたら小鈴も慧音さんも心配するし、俺もすげえ心配する!阿求熱だして苦しくねえかなってな。だからそんなことになってほしくないんだ」

「ヨウマさん..」

「俺がお前の立場を気にして心配してるんじゃねえ!そんなこと言う奴がいたら俺はぶん殴ってやる。お前は俺の大事な人だ。だからそんな人に辛い思いをしたくない、それだけだ。だからそれ着て暖かくするんだ」

俺はそう言い切って景色を見る。少し無言で静かだったが。

「なあ阿求、飛んでいる奴らは一体何なんだ?」

「あっ、えっとあれは白狼天狗です」

「白狼天狗?なんじゃそりゃ!」

「えっと白狼天狗はですね..」

何事もなかったかのように俺たちのロープウェイの旅は続いた。

 

 

私は名家「稗田家」の当主だ。転生を繰り返して今は九代目。

九回繰り返した人生の中で権力者故の苦悩が多数あった。

名家の生まれであるから、皆とどこか差を感じていたのだ。

それは九代目の今もそうだった。里の人間はとてもいい人なのだが、やはりどこか委縮したり、敬語だったりと距離を感じる。使用人の皆も私のために動いていてくれたりいい人なのだが、少し過保護な節がある。

ある日ふと考えてしまった、皆親切で私に過保護なのは私という里の権力者の部分しか見ていないのだと。そう思い今まで私に親切にしてくれる人と使用人を少し遠ざけてしまったことがある。

そんな中、私が名家でも気にせず対等に話してくれる人ができた。鈴奈庵の一人娘の小鈴だ。小鈴は私と歳が近くて私の家に遊びに来てくれたり、とてもいい子だ。

地位なんか関係なく接してくれる小鈴は親友だった。

 

それでもやっぱり周りの年上の人達とはどこか差を感じていた。

そんな中、ヨウマさんがこの場所にきた。

私が名家と知って態度は固くなっていたが、すぐに元に戻り、小鈴と同様に対等に接してくれたのだ。

年上なのにどこか子供っぽく、口では否定してたが私に何かプレゼントしてくれたりしてくれて少し不器用なところもある。

そして今日彼の言葉をきいて。私を守ってくれたのも、私を思って行動したことも、権力者としての私じゃなくて..

『お前は俺の大事な人だからよ』

人間としての阿求を大事な人だと言ってくれた。見てくれていた。想っていてくれた。

あぁ、やっぱり私は、初めて会ったあの日からずっと...

 

 

彼のことが好きなのだろう...

 

 

「はあ着いたな、山の上から見る景色ヤバいな」

「すごくいい景色ですね」

ロープウェイも頂上にたどり着き山の頂上からの景色を見渡す。

幻想郷のすべてが見えるといっても過言じゃないのかもしれねえ。

 

 

後ろにそびえるのはもう一つの神社、早速阿求の手を引き階段を上る。

阿求のペースに合わせて階段を一つ一つ上っていく。

一つ言えることは

 

 

頂上思った以上に寒いな..

 

 

 

続く




なーんか阿求がラブコメ要因みたいになってるうう


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第18話「山の旅路と阿求の恋路 中編」

なんか前後編連続させるのもよくないかなーと思います。まあでもかいちまったからにはしょうがねえ。書きます!


阿求のペースに合わせてゆっくりと階段を登り終えると。

「こりゃあ立派だな..」

登り終えた俺の視界に飛び込んでくるのは、博麗神社とは比べ物にならねえほどの立派な神社だ。

ロープウェイに乗っているときに阿求から、この守矢神社は外の世界から来た神社で、

外の世界で信仰を得られねえからわざわざ来たって教えられたから、もっと博麗神社みたいにボロッちいのを想像していたのだが..まさかここまで立派とは予想できんかった。

敷地内はしっかり掃除されており、細かいところも隅々まで手入れされていてすごくきれいだ、本堂にいたってはなんかピッカピカでオーラがすげえ!

もうぶっちゃけると博麗神社とは月とスッポンだ、霊夢は噛みついてくるしな。

「しかしこんだけ立派で敷地内もしっかり奇麗ってことは、巫女もあいつ(霊夢)とは対照的にしっかりしているんだろうな。」

「はい、ここの巫女はとても真面目なんですよ」

「なるほど、やっぱ月とスッポンだったのかもしれねえな」

「あはは..」

 

阿求は青年の言葉に苦笑いしつつ、この場に霊夢がいなくてよかったと思うのであった。

 

 

「はっくしょん!」

「なんだ霊夢、風邪でも引いたか?」

「何だろう、どこかでとても貶されてる気がするわ..」

守矢神社は神々しいオーラが出ていたが、今の博麗神社は禍々しいオーラが巫女によって発せられているのだった。

 

 

一緒についてきた大蜈蚣は鳥居をくぐろうとすると俺の体から離れた。どうやら博麗神社に行った際に霊夢にやられたことから神社に入るのが嫌らしい。しょうがないので蜈蚣を待機させてそのまま鳥居をくぐる。

紅葉の季節だが、落ち葉一つ落ちてない奇麗な参道を歩き境内を見渡していると、赤く染まった葉っぱをせっせと箒で掃いている緑髪の巫女の姿が見えた。

 

「あれがここの巫女さんか」

なるほど、霊夢とは違った巫女装束だが腋の所があいているのは共通なんだな。

顔立ちや境内の様子、せっせと箒で掃いているところから真面目っていうのがひしひしと伝わってくる。

阿求は掃除に夢中になっている巫女に声をかける。

「早苗さんこんにちは」

「あ、阿求さんこんにちは」

阿求に丁寧にあいさつし頭を下げる。挨拶だけで礼儀正しさと真面目さが伺える。某巫女なら来たとしても放置しておくだろう。

この子が外来人..髪の色的に外の世界にいたって言われてもなかなか信じられん。

「阿求さん、そちらの男性の方は?」

「あっ、俺はええーと」

考えていたら急に声をかけられてしまい、安定のクソ挙動。何やってんだ俺!

「こちらにいるのはヨウマさん、幻想郷について知りたいとのことでここにきました。それに、ヨウマさんは外来人ですので貴方と話が合うと思いまして。」

若干キョドル俺の横で阿求は丁寧に俺を紹介してくれる。

阿求!助かった、マジで神!

「外の世界から来たんですか!」

俺が外の世界から来たと知った瞬間彼女の顔は輝きだす、年頃の女の子って感じの顔でじっと俺を見てくる。そういうのちょっと苦手だわ..女の子の熱い視線慣れねえわ

慣れねえ中とりあえず

「あーっと..ヨウマだ..外の世界から来た」

安定のクソ自己紹介をする。

そんな自己紹介を聞くと、少女は目線を戻し、俺と向き合って、

「私は東風谷 早苗です。ここ守矢神社の巫女を務めています。ヨウマさんですね、よろしくお願いします」

と笑顔で挨拶する。やべえ、笑顔が眩しすぎて目を合わせられねえ。

「あぁよろしく」

思わず目を逸らす俺に早苗は不思議そうな顔をしていた。

 

目を逸らしちまったが、改めて早苗を見る。紅白巫女と対照的に青白巫女だった。

腰まで届くほど長い髪の毛は緑色でなんか蛇の飾りがついている。蛇好きなんかな思たらカエルの髪飾りもついていた。両生類と爬虫類が好きなのか..

歳は19の俺より下だと思う。こんな年下の女の子が真面目に巫女の業務をこなしている中俺は..

その事実だけで俺は顔を合わせることができねえ..

 

「あの、なにかあったんですか?」

またも顔を逸らす俺に早苗は聞いてくる。

「いや眩しすぎてな..」

「?」

 

とりあえずなんとか顔を向けることができ、阿求と一緒に神社に参拝する。

「水冷たくないか?」

手水舎で手を清めようと柄杓で水を汲んで手にかけると秋なのと山なのでとても冷たかった。

なので思わず阿求を心配してしまったが、

「大丈夫ですよ」

阿求はなんともなさそうに手を清めていく。

正直、過保護になっていっているのかもしれねえ。

冷たい水で手を清めるのに若干てこずっている中、横の阿求をチラッとみると、手慣れた手つきで右手、口と順に清めていく。そんな姿が「美しい」と感じた。阿求は見とれている俺に気づくと

「お水、やっぱり冷たいですね」

笑顔でいう阿求に心臓が高鳴る。なんだが少し恥ずかしくて

「あぁ、冷たいな」

思わずぶっきらぼうに返して、手元に視線を戻してしまった。

 

清めた後、本堂の賽銭箱に向かい、お賽銭を阿求と投げ、鈴を二人で鳴らし合掌。

こういう時って祈願するらしいので、とりあえず命蓮寺の面々と阿求や小鈴、一応霊夢の安全とか健康を祈願しておいた。

合掌を解き参道に戻るため階段を降りると、紅葉を掃き終わった早苗が声をかけてくる。

「あの、お二人ともこの後お急ぎですか?」

「あー別に、急ぎの用はないな。阿求は?」

「私も大丈夫ですよ」

「そうですか。もしよければなんですかお話しませんか?」

あーそういうことか。外の世界の人間だからな、色々聞きたいこともあるだろう。自分のいなくなった後の様子を知りたいんだろうな。

「俺も色々聞きたいことがあったからさ、俺は別にそのくらい大丈夫だ。阿求は?」

「はい、私も大丈夫です」

「ありがとうございます!ここでは寒いですので、こちらへ」

 

早苗が普段生活しているところに案内された。中は博麗神社にもあった釜戸が置いてあった。

そのままあがり、和室へと案内される。和室には女性と少女の二人組が座ってお茶を飲んでいた。

「神奈子様!諏訪子様!外の世界からのお客様ですよ!」

早苗が声をかけるとお茶を飲んでる二人の目線が俺に集中する。

やめろおおそんなに見るんじゃねえ!そんなに見ると

「あー、えーと..ヨウマです..外の世界から来ました..」

クソ自己紹介しちまうだろうがあああ

 

「自己紹介変なの~」

金髪で変な帽子かぶっている少女の言葉が俺の心にぶっ刺さる。

「まあまあ諏訪子。彼も初めての人と話すのが苦手なのだろうから、言ってあげるな」

「てことは神奈子も変だって感じたんだよね?」

「ま、まあね」

 

グサ、パリーンドカ―ーーン(心の音)

俺の心が完全に破壊されその場に崩れ落ちる。

そんな俺を阿求は背中をさすり慰め、貫禄のありそうな女性も早苗も慌てて何か言っていたが俺には届かなかった。

 

「いやーすまない。諏訪子には私からきつく言っておくわ」

「ごめんなさーい」

頭を下げてくれる女性ととりあえず謝っている少女。

「いや、こちらこそ取り乱して悪かった。改めて俺はヨウマだ、外の世界から幻想郷にきた。よろしく頼む。」

「おーやればちゃんと自己紹介できるんだね」

「諏訪子様!」

少女は早苗に怒られ「は~~い」と黙る。

そういやこの二人は早苗に様付けされている。どういう関係だ?

「私は八坂神奈子、外の世界から幻想郷にやってきた神だ」

青髪に赤い服装、背中の注連縄に神か..なるほどな、さっきは取り乱して気づかなかったが確かに神の気を感じる。そりゃあすげえ恰好に縄なんてついてるわな。

てことはこの金髪少女も神なのか。

「私は洩矢 諏訪子。よろしくね~」

神なのに軽いなこの子は。壺装束っていう格好をしていて、帽子にはなんか目玉が二つ付いてる。まあ神様だからな。変なファッションって言っちゃいけねえ。人間からしたら変ってだけだ。といっても幻想郷の格好は人間も神も妖怪も変だと思うけどな..

 

八坂さんは俺を珍しそうに見ている。

「神って言っても意外と君は驚かないんだね」

あーそうか普通神っていえば驚くか笑うかだからな。

「まあ俺は少し特殊でな、外の世界で神と妖怪を見たことはあるからよ珍しくはねえんだ」

「神だけじゃなく妖怪も見えてたか..それは君のその血の影響かな?」

気づいていたか、まあ当然だろうな。早苗は首をかしげている。

「俺の血は特殊でな、格と力をあげる能力があるんだ。だからその血の影響でみえるんだよ」

「あーそうなんですね。それはとてもすごい能力なんですね」

「いや、そう喜べるほどの能力じゃねえよ..」

「えっ..」

俺の意外な反応に早苗は固まってしまう。

「えっと、その能力故にヨウマさんの血を狙った妖怪がたくさん襲ってきたってことがあったんです」

「そ、そうなんですね..すいません軽々しく言ってしまって」

空気を重くしてしまったな。

「いや、気にすんな。とりあえずなんでこの幻想郷に来たのか詳しく教えてくれねえか?早苗や、この二人の神様のことよく知りてえからさ」

「ヨウマさん..はい、わかりました!」

ふうなんとか場の空気を回復させてやったぜ。

 

「なるほどな、外の世界だと十分な信仰を集めることができずに二人の存在維持のために外の世界からこの世界に来たということか」

「まあそういうことになるね」

「今は大丈夫なのか?」

「ええ、大丈夫です。ロープウェイのおかげで人間も来てくれますし、山の妖怪たちもいますから」

「そうか」

八坂さんはとりあえず今は大丈夫らしい。

「意外と優しいんだね~」

洩矢さんよからかってくるんじゃあねえ、こいつ苦手だわ

 

「しかし、まあ確かに今の現代じゃあ神も存在維持のために必死な世の中だな」

「やっぱりそうなのね」

「ああ知ってると思うが宗教ってのは自由になってきた。別に信仰してもいいし信仰しなくてもいいってなって海外の宗教とごっちゃになっている。」

そう、クリスマスパーティはキリストの誕生日のお祝いなのにあり、正月には初詣で寺や神社に訪れる。さらにハロウィンで騒いだりと、日本はいろいろ融合してしまっているのだ。

 

「それに現在、宗教というと危ないか怪しいイメージを持たれているしな。」

「えっそうなんですか!?」

「おう、某真理教の影響もあるだろうし、俺の周りにいた奴も宗教のことになるといい顔するやつはいなかった。世間一般的に宗教ってのはそういう感じになっているから、信仰集めるのは難しいな」

「そうなんですね..」

「しょうがない早苗、時代の流れはそういうものだから」

しょんぼりする早苗を慰める洩矢さん。神の事情も大変だな。

 

「そういえば君はどうして幻想郷に来たんだ?」

「あー次は俺のターンか、んじゃ俺の話をしようか」

 

さて話すといってもな、流石に過去のこととかあれだから話せねえな。来た理由も正直やばいしな。

「といっても俺が幻想郷に来た理由は普通にスキマ妖怪に連れてこられたってだけだな」

「それって本当?首の傷が関係しているんじゃなくて?」

「ッツ..」

「首の傷?..ッツ!?ヨウマさんそれ..」

洩矢さんの言葉に隣にいた阿求が驚いて口を抑える。

はあ、バレちまったか。正直誰も気づかなかったから、うまく隠せていたつもりだったんだがな。こんなんでも神ってことだな。

「神の前ではお見通しってわけだな..わかった、バレたからには洗いざらい話す。気分が悪くなったり色々引いても後悔はしないな?」

「..はい、ヨウマさんのこと私もすごく気になります」

 

 

一瞬怯んでしまったが、彼のことを知るチャンスだ。覚悟を決め阿求は青年の話に耳を傾けるのだった。

 

 

 

続く




結構長くなってしまうので一回ここで切る感じになります

なるべく5000文字以内に収まるようにしています


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第19話「山の旅路と阿求の恋路 後編」

さてまとめることができるのか
今から頑張ります。


洩矢さんは気づいていた俺の首の傷。

今俺は隠していた阿求にもこの話をすることになる

 

「それじゃあ俺の首の傷とここに来た時の話だ。単刀直入に言おう..

俺はここに来る直前に... "自分で自分の命を絶とうと"していたんだよ」

「えっ..」

まあそうだろうな、そういう反応をするのが正解だ。阿求も早苗も八坂さんも目を見開いて驚いている。それが普通だ。

 

「その時に刃物でやった傷がこれだ」

と俺は堂々と首に残る傷跡をその場にいる全員に見せる。

阿求はまた口を抑えており、早苗も思わず目を逸らしていた。

そうだろうな、鏡で見たが痛々しい傷の後がくっきり残っているんだからな。

そんな傷を見ても八坂さんは一切取り乱さず聞いてくる。

「なぜ君は、自分で自分の命を絶つことを」

「あぁ..それはだな..何かに追われていて..?」

「どうした?」

「いや..なんだこの感じ..もしかして、その何かを覚えてないのか..?」

 

そんなはずはない!確か..いやその確かがでてこねえ..

「何に追われていたのか覚えていないのか?」

「来たばっかりの時には覚えていたはずなんだが..」

なんだこの違和感、ただ忘れただけとは違うこの違和感。覚えている、あの日何かに追われて..何かに追われて..

 

「もう埒が明かないからいいんじゃない?」

「ああそうすることにするよ、すまない洩矢さん。とりあえず俺は何かに追われていてそいつに捕まるくらいなら!って覚悟で絶とうとしたんだ。それで血が流れている間にスキマ妖怪の奴に幻想郷に連れてこられたってわけだ」

とまあ首の傷の秘密っていってもそんな壮大なわけじゃないけどな

 

「なるほど、それでここに来たというわけだな」

「君も大変だったんだね~」

「まあそうだな。正直大変だった」

神二人は普通に話をするが、早苗と阿求はとても気まずそうな顔をしていた。

そうだろうな、自殺しようとしている奴の話を聞いて普通でいられねえだろうな。

 

「それで君はそのあとどうなったんだい?」

「あぁあの後命蓮寺に拾われてな、今はそこに身を置かせてもらっている」

「命蓮寺..妖怪が憎いのにあそこにいるのか」

「まあそのなんだ、正直な話すると最初はあいつらのことを嫌悪してたんだ。妖怪は嫌いだからな。それでも、里にいると俺の血で妖怪は引き寄せられ被害が行く。実際に起きちまったからな。里に被害が行かねえのと聖が衣食住、安全を保障してくれるから身を置いていた」

「でもさ~ずっといるとなんか嫌にならないの?」

そうだな、いくら里の被害を考慮していたとはいえ、妖怪の寺だ。揉めたこともあった、それでも俺がいる理由は--

一輪の顔が浮かぶ、一輪だけじゃなく寺の奴らの顔、それに聖にすがる迫害された妖怪達の顔。

「きっと俺はあいつらに感化されたのかもしれねえ」

「感化されたって妖怪の考えにですか?」

ずっと黙っていた阿求が口を開く。

「そういうわけじゃない、俺はさ正直この血のせいで決して幸せな人生ではなかったんだ..それで、俺の居場所なんかないって思っていた。自分が簡単に命を絶つことができたのは、外の世界で俺の居場所はないって思ってたからだ..」

「ヨウマさん..」

また空気が重くなっちまったな..

「でもな、ここにきてあいつらと一緒に過ごしてきて思ったんだ。妖怪とはいえ俺の血とは関係なく接してくれる奴ら、そこで分かったんだよ..あいつらは作ってくれたんだ、俺の居場所を..な。俺はもう今度こそ手放さねえし手放したくもねえ..やっと見つけた俺の居場所なんだ」

「居場所..」

「あぁ居場所だ。そこで気づいたんだよ、外の世界に俺の居場所なんてねえ、ここが俺の居場所だってな」

「そうね、それはとても素晴らしいことだわ」

「神奈子も居場所を探していたからね~、君の気持ちすごくわかってると思うよ」

そうか八坂さんも同じ気持ちでここにきたんだな。

 

「それで妖怪嫌いもある程度は大丈夫になったな」

「それは命蓮寺で修行している妖怪と一緒にいたから~?」

「そうだな、あいつらが歩み寄ってくれたからだな..」

そうもし彼女らが出ていった俺を見つけてなければ、もし追いかけていなければ、俺を受け入れてくれなければ、今の俺はいないのだろう。

 

とりあえず空気は戻ったみたいだが、一人だけ口を開いてねえ奴がいる。

「なあ早苗どうした?」

そう早苗だ、俺の首の傷と自殺しようとしてた話を聞いてから一向に下を向いてしゃべらない。

「..なさい..」

「あっ?」

「ごめんなさい!」

頭を上げた早苗の顔は今にも泣きそうだった。

「ヨウマさんが、それほど思い悩んでいたのに私..私..」

あーそうか、『それはとてもすごい能力なんですね』多分これを引きずってるんだろうな。俺にとっては呪いのようなもので自殺の間接的な原因になったものを無神経にもほめてしまったことに関して。

はあ、正直俺が悪いわな。確かにこの血はそう喜べる能力じゃないと思うが..

「早苗、気にすんな」

「で、でも!」

「確かにこの血の能力はそう喜べるもんでもなかった。それでもだ、俺はこの血に感謝しなければいけねえこともあるんだ。」

「感謝..?」

「俺の血は昔の俺の関係を壊したし、俺の居場所を無くしたかもしれねえ。けどなこの血のおかげで幻想郷にたどり着いて最高の居場所を見つけることができた。それにこの境遇のおかげで俺には目標ができたしな」

「目標..ですか..?」

早苗の眼に溜まった涙はなくなっていた。

「ああ、命蓮寺にいるときにできた目標だ。俺はそれを叶えたい。その目標は..ッツ!?」

この気配!?

「あっヨウマさん!」

「ちょっと!?」

「あ~行っちゃった」

 

妖怪の強い気を感じ慌てて外に出ると、遠い空の向こうから黒い羽の少女がこちらに向かって飛んでくる。

あの羽もしかして

「うおっ鴉天狗か!?」

「あやや、わかりますか!」

鴉天狗の少女は俺の体にぶつかるスレスレで止まった。

鴉天狗、日本の中でもメジャーな妖怪だ。天狗というとだいたいはこの烏天狗を指す。牛若丸を鍛えたともいわれていたり、信仰もされており、神として崇められたりしている。

しかし、ロープウェイで飛んでるやつがいると思っていたが、まさかこいつとはな..

「なんのようだ、俺の血か?」

臨戦態勢を取るも鴉天狗の少女は笑う。

「あはは、別にあなたの血は求めていません」

「なら目的はなんだ?」

「取材させてください」

「ファ!?」

何言ってるんだこの鴉天狗!?

「なんだ、鴉天狗じゃないか」

「八坂さん、こいつと知り合いなのか?」

「まあそんな感じね」

「なんだよ、身構えて損した」

「あはは、驚かせてしまい申し訳ないです。なので、"周りに待機している虫たち"の警戒を解除しておいてください」

「気づいていたか..お前ら、こいつは大丈夫だ」

そう俺が呼びかけると茂みからスタンバイしてた百足たちが一瞬顔をだし、そのまま戻っていく。

「やはり噂通りの蜈蚣使いでしたね」

「ふっ、あれに気づくなんて流石有名妖怪だな」

「えぇ、仮に彼ら虫が来ても、鴉には勝てませんよ」

「はっ、そういう割には..後ろ取られてるんだな」

「なっ!?」

鴉天狗の真後ろには大蜈蚣が顎を首に突き立てる直前だった。

「蜈蚣はでかけりゃ小鳥も食えるんだぜ?」

鴉天狗は両手を上にあげ

「まいりました」

俺たちの勝ちだな。(指示しただけ)

 

 

「いやー油断しちゃいました、流石噂の蜈蚣使い!」

結局、この鴉天狗..射命丸文はこの守矢神社とも知り合いで俺に取材したいとのことだったので、とりあえず中にいれて詳しく聞くことにした。

「里の噂って、なんの噂されてるんだ俺は」

すげえ気になるわ

「はい、人間からは蜈蚣神社を建てた蜈蚣使いがいると。妖怪からの噂は命蓮寺には、嫌われている大蜈蚣を巻き付けるとっても位の高い高僧がいると噂になってました」

「いや後者よ!」

前者はまあまだわかるが、後者に至っては別に高僧じゃねえし、聖が勝手に言ったことだし。

「それと、入道使いと恋仲であると..

「ちがーう!」

「えぇ!」

俺と阿求の声が部屋に響く。

一輪と俺が恋仲!?誰だ変な噂流したやつは!

「匿名で鵺と山彦が言ってましたが、違うんですか?」

「ちげえわ!てか鵺と山彦って..」

ぬえはともかく、響子の野郎..なんでこんなことを..

「ふむ、ガセを書くことは出来ませんし..とりあえず蜈蚣神社誕生の経緯とか教えてもらっていいですか?」

「いや今、八坂さんたちと話しているところなんだが」

「いや私たちは構わないよ」

「はい、蜈蚣神社のこととか気になりますし」

「そうか、なら話すぜ」

八坂さんと早苗の許可が下り蜈蚣神社誕生の経緯を話す。

 

「なるほど、あなたは村の人間に繁盛をもたらし、毘沙門天の信仰を集めようと思い建てたんですね」

「ああ、そうなるな」

「なるほど、ヨウマといったな。君は商売敵というわけだな」

「いやーまあそういうことになる」

そういや信仰集めるってのは守矢も同じだったな..

てこは霊夢にも文句言われるパティーンじゃあねえか。嫌だなーどうせただ働きさせられるんだ。

「なるほど、おもしろい記事ありがとうございます!それでは」

そういうと文は窓から飛んで行った。正直スカートの中が見えちまってたがまあいいだろう。黒だった..

 

「ふう行ったか」

「ヨウマさん今の話は本当なんですか?命蓮寺に染まってしまったんですか?」

「あー正直な話すると嘘だ」

「へっ?」

俺が命蓮寺に染まったのかと聞いてくる阿求に俺は恥ずかしながら本当の理由を話す。

 

「早苗にも言ったと思うが俺の目標の一つのためでもあるんだ」

「その目標は..?」

「俺は、虐げられている者たちを救いたい!それが今の目標さ。だから同じように見た目とかで虐げられていた百足たちの印象をよくするために建てたのが本当の理由だ。百足だけじゃねえ、ゲジゲジだろうと誰であろうとも、俺は虐げられている者たちに手を指し伸ばしたい。俺が必要だったものを、俺が与える側になりたい、それが俺の血が生んだ悲劇と俺の決意だ」

この思いもきっと手を指し伸ばしてくれた聖や一輪と、俺とずっと一緒にいた大蜈蚣の影響なのだろう。

 

「だからよ早苗、俺の血は呪いだったが、その血が壊した人生は、今という新しい道を作ってくれたんだ。今の俺に後悔はないよ。だから自分の言ったことを気にすんなよ。この血には一応瀕死のやつを助ける力もあるにはあるからよ」

「はい、ヨウマさんってすごく心優しいんですね..だから蜈蚣たちがあなたの基に..」

「まあそういうこった。俺は別についてこんでもいいって言ったんだけどね」

「ふふふ、素直じゃないんですね」

早苗の心に残ったもやもやはこれで解けたかな。

その後は外の世界について二柱や早苗、阿求とすごく盛り上がって話すことができた。特にボールに入ってるモンスターの話や黒鋼の城等のロボット物は早苗にとてもうけた。ネットの中には電脳戦士がいるって話は二柱と早苗にうけていたが、阿求にはさっぱりわからなかったみたいだな。

 

 

早苗たちと話していて時が経つのも早く、終わったころには日が沈みかけるところだった。

「お二人とも今日はありがとうございました。とても楽しかったです!」

「いやこちらこそお礼をしたい。二柱の昔話はすごくおもしろかったからな」

「ふふ、私と諏訪子の話が退屈じゃなくてよかった」

「それじゃあ、そろそろ門限で命蓮寺まで帰らねばならないからよ」

「はい、名残惜しいですが..」

寂しそうな顔をする早苗。そうだよな、同年代くらいで俺と同じで外の世界の住人だ。どこか思うところがあるんだろうな。

そんな顔する早苗に俺は寂しくならないように言ってやる。

「また、遊びに来るよ。今度はさ、二柱や俺の話じゃなくて、早苗自身の話を聞きたいからよ」

「ヨウマさん..はい!是非また遊びに来てください!」

そうそれでいい、お前は笑顔がすげえ似合っているんだから。

精一杯手を振り見送ってくれる早苗に背を向け阿求と歩き出す。さっきからずっと阿求の表情が暗いのはなんでだろうか?

 

 

『幻想郷にたどり着いて最高の居場所を見つけることができた』

彼の言葉が阿求の脳裏に焼き付いている。そう彼の居場所は命蓮寺で、鈴奈庵で本の中にいた妖怪から助けた入道使いがきっと彼の隣にいる。私は彼の隣どころか彼の居場所にもいないのだ。その事実がとても、とても悲しかった。

 

「なあ阿求」

彼はきっと暗い顔をしている私に声をかけてくれる。私はただ「はい」と答えることしかできなかった。

「言い忘れてたんだけどさ、俺の居場所はさ阿求や小鈴のいる里もそうなんだ。だからさ、ずっと言いたかったんだ、ありがとうって。俺に最初に声をかけてくれてありがとう。こんな血の俺を受け入れてくれてありがとうって」

あぁ本当にずるい人だ..そんなこと言われたら..

「阿求!?どうした、涙流れているけど!」

そんなことにショックを受けている私が馬鹿みたいじゃないですか..本当に..

「いえ、大丈夫です。少しうれしくて」

本当に愛しい人..

 

 

「あっロープウェイ動かすスイッチを押さなきゃいけないことを忘れてました。神奈子様、諏訪子様、私行ってきます」

「ああ気を付けていくんだよ」

慌てて駆けだす早苗を見送り私は考える。

「ねえ、神奈子も気づいたみたいだね」

どうやら諏訪子も気づいていたみたいだ。

「えぇ、彼の話を聞いた時からね。彼の頭からすっぽりと記憶が抜けていた。これは私たちが神社ごとこの世界に来たのと同じ..」

「人々から忘れ去られる術を"ヨウマの死のきっかけになった者"が使った可能性が高い..」

「彼が単純にド忘れしてた方が変に警戒しなくていいんだけどね..」

そう、彼はここに来る直前を鮮明に覚えているはずなのに追っている者について完全にすっぽりなくなっていた。

「もし彼のド忘れじゃなかったら..」

「近いうちにここに来るかもしれない..」

私たちが恋した幻想郷に不穏なことが起きないといいのだが..

「あーそれと別に、何年か前の外来人の幽霊がここにきているらしいよ」

「何年か前のって」

「どうやら閻魔の裁判を待つときに三途の川を渡って逃げ回っていたらしいよ」

「ふむ、いろいろ大変なことが起きるかもしれないわ」

本当に不穏なことが起きないといいけど

 

 

その不穏なことはスキマ妖怪である紫の身にも起きていた。

「この私が、あの日の一部を忘れるなんてね..」

あのヨウマという青年を見つけた日のことを必死で思いだすも、周りに何がいたかとても思い出すことができない。

「もしかしたら、守矢のところの神と同じで幻想郷に侵入するために術を使ったかもしれない..これは警戒と結界を強固にしなくてはいけないわね」

紫はスキマを通り結界の基へ、危険な侵入者を拒むため。

 

 

 




すげえ長くなりましたね。
阿求の恋路はつづくよどこまでも。ようやくなんかシリアスな不穏な空気が出始めたぜ


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第20話「山の旅路は終わるが阿求の恋路は終わらない」

さて今回も阿求パートになります。
阿求パートの後には一輪パートが入ります。
てか普通に一輪よりヒロインしてる気がする。



「あ~日が暮れちまったな..」

「はい..」

「...」

「...」

「いやー守矢神社すごくいいところだったな。俺すごく楽しかったよ..」

「喜んでもらえてよかったです..」

「...」

「...」

気まずい!なんだこの空気。かれこれロープウェイに乗ってからずっと、いや、守矢神社の参道の帰りあたりからだな。

さっき、俺は阿求に日頃の感謝を込めてありがとうと言ったのだが、なんか泣かれてしまって、阿求は口では「大丈夫です」というけど..

正直なんかすげえむずがゆい中言ったら、泣かれるってすげえあれなんだけど!

阿求と目を合わせようとしても、阿求はプイっと常に顔を逸らしてくる。

うーん感謝の言葉がよくなかったのか?いやしかしな..

結局悶々としたまま、阿求とはほとんど言葉を交わさず、ロープウェイは人間の里へとたどり着いた。

 

ロープウェイから降りると辺りは夜のように暗くなっていた。

秋は日が落ちるのが早い。里は居酒屋や各民家の家から明かりが漏れている。そのため里の中は比較的明るいのだが..

「帰り道は暗いだろうな..」

命蓮寺の帰り道は完全な里の外なので明かりになるものが全然ない。命蓮寺の門の近くに行けば明かりはあるのだろうが、そこまでに行く道のりには完全な闇だ。それに夜は妖怪の時間である。奴らの活動が活発になる時間に里の外で周りが完全に闇の中を歩くのはいくら大蜈蚣がいようと自殺行為に等しい。

「しょうがねえ今日は里の中で野宿かな..大蜈蚣、一輪たちに謝罪と明日の朝らへんに帰るって伝えてくれねえか?」

俺は巻き付いている大蜈蚣に、心配しているであろう聖や一輪に現状を伝えるよう頼み、大蜈蚣もそれを了承してそのまま壁を這って里の外へと出ていった。

「それじゃあ阿求、家まで送っていくよ..」

「ヨウマさんはこのまま里の外に帰るんですか?」

「いやー流石に外は危険だからさ..とりあえず、里のどこか安全そうなところで朝まで待つかな..」

はははと乾いた笑いになる。阿求の顔は相変わらず下を向いていてわからない..

「あの!!」

「うおっ!?」

と思っていたら顔を急に上げてきてびっくりした..

「も、もし、もし..!」

「お、落ち着いて」

阿求は頬を紅潮させ言葉を出そうとするも、つっかえてしまっているようだ。

「スゥー..ハァー..スゥー..ハァー..」

阿求は二回ほど深呼吸すると驚きのことを口にした。

「もしよければ、私の家に泊まっていってください!!」

「えっ!?いやそれは..流石に」

流石にだ、こんな女の子の家に泊まり込むなんて俺のような陰キャにはできない!(命蓮寺にいるくせに)

「ダメですか..?」

「うっ..」

頬を紅潮した阿求が目に涙を浮かべ、上目遣いで俺に聞いてくる。その仕草に俺の心臓がバグバグする。

「う、すまねえ。泊まらせてもらうよ..」

「..ッ!?はい!それでは、暗くなるといけないのでこちらへ!」

ま、まあ流石にね、外で朝になるまで待つのってすげえ疲れるしな。うん、これは流石に阿求に世話になった方がいいな。もし待っている間に襲われたらひとたまりもねえしな!うん!

俺は必死に自分に言い聞かせ、阿求の家まで阿求と歩き出す。

横にいる阿求の顔をちらっと見る、彼女の顔はすっかり笑顔で元の阿求に戻った。いやーよかった、彼女の笑顔が戻ってくれるなら、この選択は間違いないはずだ!

後に、この選択が間違いになることを俺は知らなかった。

 

 

「相変わらず豪華だ..」

相変わらず阿求の家はでけえ。彼女の家の敷居を跨ぐのに少し気を引き締めてしまう。

そういや、阿求の家の門をくぐるとき、一瞬なにかが光ったような..気のせいだろうな。

「ヨウマ様のお夕飯を御用意致しますので、少々お待ちください」

「は、はい」

阿求が俺を居間に案内した後、使用人がわざわざ来て、ご飯を用意することを伝える。

わざわざ俺の元まで言いにこなくてもええと思うけどな。

しかし、阿求の家の晩御飯..一体どんなものが出てくるのか。

「ふふ、ヨウマさんは固くならなくていいですよ」

「いやー、流石になんか固くなっちゃうんだよ」

「ヨウマさんは私の大事な..お客様ですから」

なんかいいかけてなかったか?まあいいか。

阿求の顔をみると、どこかソワソワしている。頬もまだ少し赤い。まあ、男がいるなんて落ち着かねえわな。

「とりあえず、今日は守矢神社に行ったから、次はどこにいこうか?」

「あ、そうですね。次に行くところ決めておきましょうか」

とりあえず候補としては里の西側にある魔法の森という場所の近くにある外の世界の物を扱っている店だ。どうやら魔法の森には魔理沙の家があるらしいが、人間は長くはいられないらしい。そんなところの周辺で店を構えているとは..

霧の湖や鈴蘭がたくさん咲く丘や夏にヒマワリが大量に咲くところもあるらしい。しかし、妖怪が多いためやはり人間にはいくのは難しいから一人で行くか。

「失礼します、お夕飯の用意が」

「はい、ありがとうございます」

「ああ」

てきぱきと料理をテーブルに置いていく使用人。多いんだけど!

想像通りだったんだが、皿の数が多い..

「阿求、いつもこんなんなのか!」

「いえ..今日は大事なお客様がくるってことで多めになっているだけです」

「嘘だろ..」

俺が大事なお客様で豪華にしてくれるとか、嘘だろ..

用意された料理は旅館に出てきそうな料理だった。煮物に煮魚、炊き込みご飯というか赤飯?おめでたいことでもあったんかな?阿求は赤飯を見て顔を赤くして、使用人に少しなんか抗議してる。赤飯嫌いなのかな?しかし、使用人になにか耳打ちされて黙り込んでしまった。

なにを言われたのだろうか?まあいいや、とりあえず手を合わせて

「いただきます!」

さてと煮物から食うとしよう。うまい!と同時に違和感を少し感じた。他の料理の野菜は切り口とか形とかはすごく整っているんだが、煮物のだけ形がいびつだった。前に阿求のお弁当に入ってた煮物は形が整っていたし、味は前よりもよくなっている..

煮物を口に運ぼうとすると阿求がジッとこちらを見ている。

なるほどな、これは阿求のか..

「ごちそうさまでした!すげえ美味しかったわ!」

「喜んでもらえてよかったです」

「阿求、俺が煮物好きだって、覚えててくれたんだな」

「気づいてましたか..」

阿求は恥ずかしそうにモジモジしていた。

「すげえ、おいしかったわ。ありがとう」

そう伝えたら阿求が急に真後ろを向いてしまった。

「阿求?」

「み、見ないでください!」

そのまま扉から出ていってしまった。

「なんでだ?」

 

 

私は今とても幸せだ。ついに、愛しい彼を家に呼ぶことができたからだ。私には彼が遠くにいると感じていたが、それは私の思い込みだったようだ。彼は変わらず私の隣にいてくれたのだ。

そして、私の作った煮物をおいしいと言ってくれた。鈴奈庵で調べた、煮物の黄金比?を実践しようと思ったが醤油を入れすぎてしまったり、野菜の形がいびつになってしまったが、あんなに満面な笑顔でおいしいって言われたら..

私の頬と目はとても緩んでいるのだろう..嬉しくて勝手に緩んでしまう。つい彼の前から逃げてしまったが、こんな顔を彼に見せることは出来ない!

いつかきっと彼と一緒になれたら..いや彼と一緒になってみせる!

私はそんな想いを抱きながらなんとか緩んだ顔を戻そうとする。

 

 

「それでは、ヨウマさんのお部屋はこちらになりますので」

「ああ、はい」

「浴場はあちらになりますが、今は阿求様が入っていますので」

「ああはい、もし彼女があがったら入るんで」

「それではごゆっくりどうぞ」

そのまま襖を閉め足音をたてて遠ざかる使用人。しょうじきあそこまで固く接されるとなんかな..

結局阿求はなんだったのかわからずじまいだったしな。

 

コンコンッ!

 

「あっなんだ?まさか..」

急に窓がコンコンと叩く音がした。妖怪ならば律儀に窓をコンコンと叩きはしないと思ったが、気になって窓を開けたところを襲うつもりなのだろうか、俺は念のため、早苗から貰っておいたお守りを懐から取り出し、恐る恐る窓をバッと開ける!

「なんだ、大蜈蚣じゃあねえか。一輪たちに伝えてくれたか?」

コクコクと頷く蜈蚣。どうやら命蓮寺に伝言を伝え、帰って来てくれたようだ。

「で、一輪はどうだった?怒ってたか?」

正直、一輪が怒っていないかが気になるところだ。怒っていたら、明日の俺は死ぬかもしれねえ..

フルフルと首を横に振る。どうやら怒ってはいないようだ。

「何々?心配はしてて文句は言ってたけど、怒ってはいないって。そうか、心配かけさせたのは申し訳ないな」

そうか、心配かけさせてしまったか..明日は本当に早く帰らねばな..

 

「ヨウマ様、よろしいでしょうか?」

うお、やべえ使用人だ。

「大蜈蚣、とりあえず館周辺を警戒しておいてくれ」

大蜈蚣に大急ぎで指示した。

「はい、大丈夫だ」

「阿求様が出ましたことをお伝えします」

「そうですか、わかった」

「それでは」

ふう、やっぱ変な気分だ..敬語で接されるとなんかな..って、聖も敬語じゃあねえか。

とりあえず、浴場へと向かうとするか。

俺はそのまま、用意されたタオルを持ち、そのまま浴場へと向かう。

 

 

服を脱ぎ、体にお湯をかけ体を洗う。

体を洗い終わったら湯船に入る。暖かいお湯は山で冷えた体を内部から暖めていく。

寒い日の風呂は最高だ。これぞ日本の文化だな。しかし、なんかいい匂いするな..

ハッ!?

俺は今気づいた..この風呂、阿求が先に入っていた事実に!

まずい、その事実に気づいちまったら..いや、いやああ気づかなかったことにしよう!だめだこんなこと考えるなんて、俺は最低だ!こんな風呂で悶々するなんてな!

俺は速攻湯船から出て、高ぶる気持ちを抑えるため水を浴びた。冷たい..

せっかく暖まった体は一気に冷えたのであった。

 

 

 

ふう..緩んだ顔をなんとか直すことができた。何度も普通に戻そうと顔をはたいたりしたけど、彼の顔を思い出すだけで..まずい、口元が少し緩みかけてきた。落ち着かなければ..

阿求は自身の顔をパンパンと軽くはたき普通の顔になる。

 

さて、今日のことを書き記さなければ。

うっ、書き記すことがどうしても彼のことしか出てこない。これは後世に残るものだ。こんな恋文みたいなものが残ると思うと..

「これは、隠しておいて。別の物を書きましょう..」

私は彼について書いたものをこっそり押入れの中に隠し、新しく書くことにした。

「ふう、とりあえずこれで大丈夫でしょう」

新しく今日の記録を書き終えた。

「そろそろ寝る時間..」

使った道具を片付け、寝室へと向かう。

寝室の扉を開けて布団へと..向かおうと..

「な!?」

寝室に敷かれた布団は二つあった、二つあったのである。

「な、な、なあああああ!?」

私の叫びが屋敷内に響く。

 

 

なんか阿求の叫び声が聞こえたような..

あの後、冷水で心を落ち着かせ、再び湯船で暖めなおし、再び阿求のことが出てきて、また冷水での繰り返しをしていたら。外から阿求の声が聞こえた気がした。

今は冷水で体を冷ましていたところだが、何かあったのかもしれねえ。

俺は即浴場を出て、体の水分をタオルで取ってから、消防隊員のようにすぐに着替える。

声の出どころへとすぐ出撃!

あれ?なんか俺のいた部屋からじゃね?まさか、蜈蚣が見つかったのか!?いや蜈蚣は阿求も知っているはずだが..まあ夜にでけえ蜈蚣見るとびっくりすると思う。

案の定俺の部屋の前で、顔を真っ赤にした阿求が使用人に何か言っていた。

「おーい阿求、何かあったのか?」

「ああ!ヨ、ヨウマさん!」

阿求の元へ行って気づいた。俺の部屋には、布団が二つあった、布団が二つあったのである。

「なんでだ!?」

俺の声も屋敷内に響くのであった。

 

 

「あ、あの..その..」

「いや..まあな..」

気まずい。使用人曰く寝室はこの部屋しかないから敷いたとのこと。阿求は嫌だろうなと思い、廊下でもいいから敷いてくれと言おうと思っていたが。阿求が、

「そういうことでしたら..しょうがないですね。ヨウマさん、申し訳ないですが、ここでお願いします」

と迫られたため、断れなかった..

もう、なんでこんなことになるんだよ!守矢神社の帰りも同じことが起きていたぞ!?

なんでこう気まずくなるんだああ!

「な、なあ阿求」

「はい..//」

なんか覚悟決めた表情で顔を赤くしてる。まあ恥ずかしいしな..

「俺、明日の朝には、ここを出るから..」

「そうですか..」

うっ、しょんぼりした顔になっちまった..その顔みるとより一層気まずくなるからよ。

「だから寝るわ。おやすみ..」

「は、はい..おやすみなさい」

そのまま明かりを消して掛布団を掛ける。環境が変わると眠れねえし、阿求が近くにいると思うとな..

無言、全く持っての無言。完全な闇の中の無言。

「あ、あのヨウマさん起きてますか?」

不安そうな阿求の声がする。

「まだ起きてるぞ」

「あぁ、よかったです」

「なんでよかったんだ?」

「それは..」

阿求の声は不安そうなままだ。

「とても、暗くて静かで..どこか心配で..」

「そう、俺は別にすぐにいなくならないよ」

「わかっているんですけど、ずっとずっと心配してて..」

そんな彼女の声は少し震えていた。そこで俺は気づいた。

「夜に、会ってからずっと俺のことをすごく心配してたんだな..」

「...はい..」

そうだな、俺の血は妖怪を引き寄せ、ずっと危険な里の外にいた。もし次会えるかなんて不確定だ。

阿求はずっと心配しててくれてたんだな..俺がただ暮らしている中でもな..

「阿求、手出してくれ」

「手、ですか?」

「おう」

俺は阿求に布団から手をだしてもらい、その手を握る

「!?///」

「これで、俺がいるって心配しなくてもいいだろう?」

「っ..はい!」

そのまま俺と阿求は手を繋ぎながら今日の守矢でした話の続きを話し合った。

阿求は幻想郷の成り立ちのことを、俺は外の世界の名所のことを。それは阿求の反応が完全にしなくなるまで続いた。阿求の反応がない、どうやら眠ったようだ。俺も明日に備えて瞼を閉じ、深い眠りへとついた。

 

 

次の日、朝の日差しが俺の顔に当たり、眩しくて思わず目を覚ます。

覚めた目で最初に見えたのは、目を見開いて顔を真っ赤にして、俺の手を自分の頬にあてがっている阿求の姿であった。

「あー阿求、おはよう..」

「おっ、おはようございます..//」

優雅?な朝の始まりだった。

 

 

「それじゃあ世話になったな」

「朝ご飯、用意させることもできますが」

「いんや、流石に朝ご飯までもらうのは悪いからよ、それに命蓮寺の面々も起きていて心配してるだろうしな」

「そうですか..」

また寂しそうな顔をする阿求。そんな時俺が言うことは一つしかねえな

「また会いに行く。今度もまたどこかへ行こうぜ」

「はい!」

そう、やっぱり阿求は笑顔が一番だ。

 

俺は見送る阿求に背を向け、命蓮寺へと帰路につく。

朝の日差しはいいな~今日もいい一日になりそうだぜ!

もしかしたら、これは嵐の前の静けさだったのかもしれない..

 

 

 

「あっ、あいつ!!」

一輪は激怒していた。その怒り具合は周りにいる、村紗や響子、聖すらも圧倒されていた。

 

そんなことも知らずに悠々と歩みを続ける青年、さてはてこの先どうなることやら。

 

 




さて今回も長くなってしまいました。
嵐の中で輝いて..ヨウマ君は嵐の中で輝けるのか。


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第21話「居場所と隣と二人の時間」

投稿して一カ月程たちましたーーーー!
これも見てくれる皆さんのおかげであります。
モチベーション維持には皆さんの力が不可欠でした。1500人くらいの方が見てくれましたが、本当にすげえ嬉しいであります。
まだまだ小説初心者で、誤字が多かったり、語彙力がゴミだったり、話の作りが甘かったりあると思いますが、何卒温かい目で見てもらえればなとおもいます。
さて今回は一輪パートになります。一カ月記念っていう意味もこめて、今回は特別に長くなりますので、ご了承ください。
それでは皆さん。
最初に言っておく、今度もヨウマ君と一輪をよろしく!あっついでに俺も
「「馬鹿!!」」by.ヨウマ&一輪



この俺、ヨウマは今最大のピンチを迎えている

そう、怒らせてしまったのだ彼女を。

なんでこうなってしまったのか、全然わからない。

というかあの鴉天狗が全部悪いんだよおおおおお

事の経緯を話すと時は少し遡る。

 

 

阿求の家に泊まり、朝になりすぐに命蓮寺に向かった俺だったが。命蓮寺前の石階段にたどり着いた時に、なんか嫌な予感を感じてしまった。

こう、禍々しいオーラ?に似た何かを感じた。

「な、なんだ?殺気だっているような..」

とりあえず、階段を登らなければ始まらない..よし!覚悟を決め階段を登る。

 

階段を登り終え、命蓮寺の門の前へ。門の前には境内を掃除している響子と修行している入道使いの一輪が立っていた。

なんだ、待っていてくれたのか。

と単純な気持ちでいた俺だったが、近づいて察した。この変なオーラは一輪から発せられていることに

響子は一輪の発せられるオーラに気圧されて怯えている。

一輪の覇気が籠った眼が俺を捉える。

まずい!と思って逃げようと思っても、もう遅い。俺の首根っこは一瞬で一輪に掴まれていたのだから..

「い、一輪..心配かけてすまない..」

とりあえず引きつった笑顔で謝罪するも、首根っこを掴む力は変わらなかった。

「あんた、昨日何してたの..?」

「昨日は、守矢神社に行って、そこの巫女と話し込んでいて遅くなっちまって里にいたんだ..」

「そう..随分楽しい時間だったみたいね..」

後ろの一輪の顔は見えないが、おそらく彼女の顔はきっと..

「確かに、遅くなっちまったのはわかるけどさ!そんなに怒らんでもええんじゃねえか!?」

そうだ、確かに遅くなってしまった事は申し訳ないが、昨日大蜈蚣がそんなに怒ってないって言ってたのに!なんでこんなにキレてるんだよ!

「これ..」

「なんだこれ」

一輪に一枚の紙を渡される。その紙はぐしゃぐしゃになっており、おそらく一輪がやったのだろう。

「な!?」

俺は驚愕した。その紙は新聞であった。新聞だけでだったら驚かねえが、その内容が..

『熱愛!?稗田家の当主と蜈蚣使いの密会!』

なんだこりゃあああ!しかも使われている写真が、俺が阿求の手を引いて守矢神社の参道を歩いている写真と、俺と阿求が屋敷に入るときの写真だ!?

誰だ、これやったやつは!一人しかいねえなぁ!あのクソ天狗!!

いやそんなことはどうでもいい!なんで一輪がこの程度で怒ってるんだ!?

「いや、確かにこの子のうちに泊まったが、熱愛って関係でもねえし!てかこの程度で怒るなよ!ぐえっ!」

まずい、地雷を踏んだらしい。俺を掴む腕の力が強くなっている。

「この程度ですって..こんの馬鹿がああああああああ!」

バッと首根っこを離され、思わず後ろを振り向いた俺の目の前にあったのは

「ぐはぁ!!!」

一輪の拳だった。俺の体が宙に舞う。体が地面にたたきつけらる寸前で大蜈蚣が間に入ったことでなんとか衝撃を全部受けずに済んだ。

一輪を見上げる、その顔は怒りで真っ赤になって、涙を流していた。

その顔に心が締め付けられる..

「あんたなんか!大っ嫌いよ!!」

そう叫ぶと一輪は俺に背を向け、本堂へと駆けていった。

「一輪..」

その姿を追いかけたかったが、痛みで追いかけることができなかった。

 

 

ということがあったのだ。改めて、新聞の記事を読む。デマもいいところ!あのマスゴミ天狗!!

「ヨウマさん大丈夫ですか..?」

響子が心配そうに俺の顔を見る。

「あぁ、別に大丈夫だ..なんで一輪はあんなに怒ってるんだ?」

「わからないんですか!?」

響子は心底呆れたように溜息を吐いた。

「もう、なんでわからないんですか一輪さんの気持ちを..もう私は知りません、自分で考えてください」

ジト目で冷たく突き放されてしまった。

そういや昨日響子に言われていたことがあったな。

「そういやお前に、この前言われてたことを忘れてたな。それ実行して謝ったら、あいつ許してくれるかな..」

「覚えていたんですね!そうですそれを実行して、なんで怒っていたのかを理解して一輪さんに謝りましょう!」

もう知らないって言ってた割には、アドバイスしてくれるんだな。優しいな本当。

「とりあえず、聖にこっそり伝えてくれ。少し里に出るってな」

「あっ、お金はあるんですか?」

「おう、一応蜈蚣神社のお金がある」

「えっと、少ないですけどこれを..」

そういいながら小銭を取り出し渡してくる。雀の涙ほどだがすごく嬉しい。

「ありがとう、一輪が怒った理由は俺がしっかり考えなきゃな」

俺は響子に感謝し人間の里へと向かうことにした。

響子は手を振って俺を見送ってくれる。

なんで一輪があれだけ怒っていたのかわからねえけど、とりあえずこれだけはやっておかねえとな。

 

 

響子は不安だった。

 

『ヨウマさんいいですか?』

『お、おう』

『いいですか、一輪さんに何かプレゼントをしてあげてください。そうすれば、一輪さんの機嫌を直せます』

『えぇ!そんなんでいいのか?』

『そうです!』

 

と言っておいたが、今の状況では無理かもしれない..それでもなんとか仲直りしてほしい。

さて、聖様にヨウマさんが里に行くってことを伝えておかなくては。

「聖様!ヨウマさんなんですが..一輪さん!?」

ヨウマさんに早く伝えなきゃ..!

 

 

里の店を見てみるのはいいのだが..

「女の子って何渡せば喜ぶんかな..」

俺は迷っていた。正直今まで誰かに、プレゼントをするために選んだことはない。それに相手が女の子なんてもう初めてだ。

かああああ俺はどうすればいいんだ

その時、ふと目に留まった。これだ..!

「すんません!これください!」

「おう、だけどそれ特別なものでな..高いぞ?」

店主のおっちゃんが指を指す。そこには驚くべき値段が書かれてあった。

「うっ..たけえ..」

「だろ?これすごく珍しいからな~」

とおっちゃんがケラケラ笑っている。

これじゃなきゃダメだ!って気がするんだ..響子よすまねえ。お前から借りた小銭でも足りそうにねえぜ!

「ッツ!クっ..すまん足りねえ..」

「まあそうだろうな..こんな高いもの買おうとしてたらしいけど、どうしてだい?」

「あぁ、プレゼントを渡したくてさ、思えばずっとあいつからは貰ってばっかりで、俺からは何も返してねえってな..だからこれが目に留まって、これだ!って実感したんだが、足りなかった..すまない、おっちゃん、手間取らせちまったな」

俺はあきらめて別の店に行こうと振りかえろうとするが

「そういや、兄ちゃん。蜈蚣神社建ててくれたのは兄ちゃんだよな?」

おっちゃんに呼び止められた。

「あぁそうだが..」

「やっぱりそうか、蜈蚣神社のおかげでうちも商売繁盛してるんだ。だから、何かお返ししねえと思ってな。だからこれ、安くするよ」

そういうとおっちゃんは値段安くしてくれた。この値段ならば響子から貰った小銭は返せる。

「いいのか!?こんな高いものを..?」

「おう、兄ちゃんの気持ちに負けたところもあるからな。貰いぱなしで何も返せねえ悲しさは知ってるからよ」

「あっ..」

店主のおっちゃんは近くにある家族写真を手に取って悲しそうな顔をしていた。そうか、きっと..

「だから、遠慮すんな!」

「ありがとう..本当にありがとう」

「おう、しっかり感謝の言葉伝えておくんだぞ!人生の先輩からのアドバイスだ」

「あぁしっかりとな!」

おっちゃんはわざわざ巾着袋に入れてリボンで装飾を付けて渡してくれた。

よし、早く一輪の元に行かねえとな!

 

 

店を出た時、俺は見慣れた奴を見つけた。

「響子..?」

命蓮寺にいると思ってたが、きょろきょろと誰かを探しているようだ。

里の人間は響子の獣のような耳を見て、妖怪だと勘づいているのか、少し警戒をしている。

まずいな、これ以上人目についたら。

俺は響子の手を引き、人気のないところに連れていき、問いただす。

「響子、そんなところで何しているんだ?」

「一輪さんが..一輪さんが!」

なに?一輪が!?

「おい、落ち着けって!一輪がどうしたんだ?」

俺は響子の両肩を掴み落ち着かせる。

「一輪さんが..倒れたんです!」

なんだと..?一輪が倒れた?

「ど、どういうことだ?」

「ヨウマさんを殴った後、本堂に戻ったらしいんですが..その時倒れてしまったみたいで..熱もあって..」

「嘘だろ..!妖怪は病気にならねえんじゃねえのか!?」

そうだ、妖怪が病気になるなんて聞いたことねえ。というか病気をまき散らす妖怪もいるくらいだ。

「一輪さんは、元人間なんです..」

「なに?」

「私や寅丸さんみたいに妖怪として生まれたわけでもなく、村紗さんみたいに亡くなって妖怪になったのではなく、純粋に長生きしていたらいつのまにか妖怪になっていたんです」

初めて知った..あいつ人間だったのか..

「そうか..それでお前はどうして里にいるんだ?」

「里に、薬を売っている人がいるんです!その人を探したんですけど、今日はいないみたいで」

「薬って、薬で治るもんなのか?」

「その薬屋は特殊な薬屋で妖怪も治せる薬も取り扱ってるんです、でもいないみたいだから行かなくちゃ」

「どこにだ?」

「迷いの竹林の奥にある、永遠亭です..」

「迷いの竹林だと!?」

 

阿求から聞いたことがある。迷いの竹林はたくさんの竹が生えていて、さらに竹の成長速度が異常に早くなり、常に景色が変わるという。入れば確実に迷い込み、なおかつ妖怪も普通に生息しているから入るのは危険だ。迷宮!出られないどころか妖怪に食われる可能性もある..

だが、そこにしかねえなら!

 

「響子、俺が薬を取ってくる!お前は一輪を見ていてくれ!」

「竹林に行くって、迷うかもしれないですし、妖怪もいます!」

「そんなあぶねえところにお前を行かせるわけにはいかねえ。大丈夫だ、俺には蜈蚣たちがいる。絶対に帰ってくる!だから一輪を頼む」

「わかりました..!一輪さんへのプレゼントは買えましたか?」

「あぁ、しっかりな!」

「絶対に帰ってきてください..」

「あぁ、早く行きな」

響子は振り返り急いで命蓮寺へと向かっていった。

「確か迷いの竹林があるのはこっちの方だったな!」

待ってろよ、一輪。

俺は妖怪の山の方面とは正反対の方面へと走る。

「お前達!!俺に力を貸してくれ!」

そう俺が呼びかけると、一斉に草むらやら、木の上から大量の百足たちが出てくる。

迷わねえためにもこいつらの力が必要かもしれん。

 

「ここが、迷いの竹林..!」

たくさん生えている竹に、深い霧が立ち込めている。

なるほどな、こりゃあ入ったら迷っちまうな。妖怪の気配も大量に感じる..

だが躊躇っている暇はねえ!一刻を争うんだ!

俺はお守りを手に持ち百足たちと共に竹林へと入る。

 

突入したはいいが、一瞬で迷い込んでしまう。舐めていた。正直たかが竹林だろうと舐めていたが..

「ここ、通った気がするな..」

まさかここまでとは..緩やかな傾斜もあるため、方向感覚が狂う。それにこの竹たちだ。無作為に生えている、それに霧のせいで空や日の光が遮断されているため、方角や時間がわからない。百足たちといざ突入したが、百足たちも迷っていったようで、振り返るたびに数が減っていった。

「まずいな..このままじゃ戻れねえ..」

竹林をさまよっていると一つの影が飛びかかってきた。

「うおっ!?」

俺は咄嗟に避けそいつを見た。

狼型の妖獣だった。

「どういうことだ?大蜈蚣がいるのに襲いにくるなんてな..」

俺はそこで気づいた。

「そうか..お前ら群れでいるのか..!まずいな..囲まれるとはな..」

狼型だけでなく習性も狼らしい。奴らは群れをなして竹の陰から次々出てくる。

「確かに..そんだけ群れでいれば勝てるかもな」

人間も妖怪も群れるだけで自分が強くなると錯覚するんだな..

「負け犬は吠えてりゃいいんだよ!」

俺は指を噛み切りお守りを構えて奴らの群れに蜈蚣と共に突っ込んだ。

 

 

 

「ハァ..ハァ..」

ようやく命蓮寺にたどり着いた。

私はヨウマさんに頼まれたとおりにすぐに一輪さんの部屋に向かう。

部屋にたどり着くと熱を出して寝ている一輪さんとそれを診ている聖様がいた。

「薬は買えましたか!?」

「いえ..」

「それでは、なぜ戻ってきたのです?」

「ヨウマさんが、薬は取ってくるから、一輪を頼むって」

「よ..ヨウマ..?」

不意にヨウマさんの名前を出したら、一輪さんが反応し起き上がる。

「一輪、あまり動いてはいけませんよ」

「よ..ヨウマがどうしたの..?」

「ヨウマさんは永遠亭まで薬を取りに行っています」

「永遠亭にですか!?それはまずいことになりましたね..」

聖様は険しい顔をしていた。

「ヨウマが..危ない..」

「一輪、寝ていなさい!」

立ち上がろうとするも、聖様に静止され寝かされる一輪さん。

「聖様!私、ヨウマさんを追いかけます!」

「それはなりません!あそこは入ったら出ることが難しい..帰ってくるのを祈るしかありません..」

「そんな..」

「なので、私が直接行きます。一輪をお願いしますね」

聖様はそう笑顔で私の頭を撫でてくれました。

ヨウマさん..無事だといいんですが..

「ヨウマ..」

「一輪さん、ヨウマさんは絶対戻ってきますから..」

一輪さんのためにも絶対戻ってきてください..

 

「数が多すぎる!」

犬共を捌ているうちに大蜈蚣とはぐれてしまった。俺はお守りを使って奴らをどんどん吹っ飛ばしていったが..数が多すぎる!吹っ飛ばしても吹っ飛ばしても次々出てきやがる..キリがねえ!

「グッ!この犬っころが!」

爪で腕を引っかかれ、引っかいた狼をぶん殴る。硬い..やはり素手じゃあ相手にならねえ..

肩からは血が流れ、狼共の歓喜の遠吠えが竹林に響く。

「もう勝った気でいやがるのか!おめでてえ奴らだな..」

奴らの遠吠えの中に一際低い遠吠えが近づいてくる。

この声..思えばこの声が聞こえてから狼共の動きが少し変わったような気がしたが..

「まさか..!」

複数の狼がそいつに道を譲るように開けていく。そしてその道を堂々と歩き、俺の前に出現したのは人型の狼..狼男だ!

「お前がこの群れのボスか..」

「イカニモ俺ガ、コイツラノボスダ!」

「なるほどな、遠吠えが聞こえるたびにこいつらの動きが少し変化していたと思ったが..お前が指示していたんだな..」

狼はやっぱり厄介だな。大将格が賢ければ群れは強力になる、それが群れの強さだ。

狼男が拳に力をため殴りかかってくる。俺は咄嗟に腕をクロスさせ受け止めたが、

「グファ!」

人間とは桁違いの威力のパンチを喰らい吹っ飛ぶ、竹に体がぶつかるも止まらず竹がへし折れ、一本、また一本と竹にぶつかっていく。

「ぐっ..」

どれほど吹っ飛ばされたかは知らないが視界が揺らいでいる。まずい頭を強く打ったか..

それに腕には折れた竹が突き刺さっていた。

ない!俺のポケットに入れてた一輪へのプレゼントが!

「はっ!」

狼男が倒れている俺の元へズンズン歩いてくる。そいつの歩く先にはプレゼントの袋が!

「そこに来るんじゃねえ!」

俺は視界が揺れている中血の付いたお守りを奴に投げつけた。奴はお守りの効果で吹き飛ばされた。

そのすきにふらふらと視界がままならないが巾着袋を手に取る。

「貴様..ヨクモ!」

「ぐあ!!」

すぐに復帰した狼男が俺の顔面を蹴り上げる。俺の体は宙に舞い地面にたたきつけられた。

まずい..意識が..持っていかれそうだ..

俺は背中を丸め巾着袋を守ろうとする。狼男は攻撃の手を緩めず動けずにいる俺の体を攻撃し続ける。

痛い..意識が吹き飛びそうだ..それでも俺は!絶対に..これと薬を渡して見せる!

「うおおおお」

俺は最後のお守りを使い奴を吹き飛ばす。

「ハァ..ハァ..」

「貴様!!大人シク、喰ワレロ!!」

激昂し俺にとどめを刺すべく向かってくる狼男。

これまでか..すまん一輪、響子..戻れそうにねえや..

「グオオオオオ!!」

どこからともなく炎が飛んできて狼男の体が燃え盛る。そのまま奴の体は燃え尽き黒焦げになりその場に崩れ落ちた。

それを見た狼共はボスを失ったことで散り散りに逃げていった。

やはり、所詮は獣の群れだな..

「あんた、その怪我大丈夫か?」

俺に話かけてくるのは白髪とも銀髪ともいえる長い髪に深紅の瞳、髪には複数のリボンがついていて上が白で下が赤の服装をしている少女だ、炎の出どころはこの少女か?

「あっああ..すまん助かったよ..」

「しかし、なぜここに来たんだ?といってもまずはその怪我が優先だな。怪我を治してくれるところがこの先にあるから案内するよ」

「それは永遠亭か!?」

「あ、ああ。もしかして、永遠亭に用事があったのか?」

「そうだ、案内をお願いするよ」

少女はこっちだと言い竹林を歩きだす。

「ハッ!」

手元に持っていたはずの巾着袋がない!さっきの余波で吹っ飛んでしまったか!?俺は辺りを見回す。

「あいつは!」

一人の兎耳の少女が巾着袋を持って立ち去る姿を見た。

「待て!」

「ちょっと、どこ行く!」

あれは絶対に持っていかせるか!足が少しふらふらして、体中すごく痛い。それでも、俺はあいつを追いかけ体にムチをいれて走った。

 

 

「はぁ、はぁ」

体を無理に動かしながらも追いかけていたら、少し開けたところに出た。

そこには巾着を持っていたうさ耳の少女と同じ姿をした少女..いや、妖怪たちが複数いた。

「はあ..巾着袋を返せ..!」

お守りがないのにも関わらず、俺は妖怪兎の前に行き巾着袋を返すように迫った。

「おやおや人間がこんなところにいるなんて、しかも死にかけじゃない。そんなあなたがなんの用かしら?」

兎達の中から黒髪で桃色で裾に赤い縫い目のあるワンピースを着たボスっ格ぽい奴が出てきた。

「そいつらの誰かが、俺の巾着袋を持っていきやがった。それは大事なものだ、返してくれないか..」

俺はそいつに返すように迫った。

「へえ、誰かこの人間の言うもの持ってる?」

ボス格の問いに巾着袋を持った兎が出てきてそいつに渡した。

「これを返してほしいんだよね。でも私たちは妖怪だ、ただで返すとでも?」

「ああわかっている..」

こいつら妖怪の求めているものは俺が一番理解している。俺は腕に突き刺さってる竹を引き抜き、血を流した。

「これでいいな..だからそれを返してくれ..」

俺の行動をみて、一瞬目を見開いて驚いていたが、すぐにいたずらぽい笑顔になった。

「なんだ、こんな物のために自分の身を捧げるんだね。まあ安心してよ、そんな血は私たちには不要だから」

そういうと俺に巾着袋を投げ渡す。中をしっかり確認すると壊れていなかったようだ。よかった..

俺は安心感から一気に膝から崩れ落ち、そのまま視界が闇で覆われた。

 

 

 

一輪の姿が見えた、彼女は里や博麗神社を訪れ、必死に誰かを探していた..あたりに日が落ちているのにも関わらずだ。

(なにを探しているんだ..)

必死で探して、必死に探して走り回っている彼女を止めようと、声を出そうとしたが声が出なかった..

腕を伸ばそうとしても腕は全く動かない..

そして命蓮寺まで帰ってきたときに大蜈蚣が一輪になにか伝えていた。それを聞いて少し怒っていたが、安心した顔をしていた..

(そうか..一輪は必死に探して、心配してたんだな..それなのに俺は..)

 

『てかこの程度で怒るなよ!』

 

今日の朝、一輪との会話を思い出した。すごく心配して必死に探しててくれたのに..

涙があふれた。俺は..最低だ..そして一輪の怒った顔を思い出した..あの涙の意味を今知った..

早く..一輪の基に行って..謝らなければ..早く..早くするんだ..俺!

 

 

「一輪!?」

ガバッと起き上がるとどうやら布団の上で寝ていたようだ..あたりを見回すと、どうやら診察室みたいだ。

「あら?起きたのね。少し動かないでちょうだい、包帯巻いているから」

そう包帯を巻いてるのは青と赤で左右に分かれた服装に長い銀髪を三つ編みにしている女性だった。

「えっと..あんたは?」

「私は八意永琳。医者をしています。よし、これで大丈夫そうね」

永琳と名乗る医者は包帯を巻き終えていた。

「あんたが医者ということは、ここは永遠亭か..」

「はいそうです。あなたがここにきた理由はすべて妹紅から聞かせてもらいました」

「妹紅?」

「あぁ、自己紹介がまだだったな、私が妹紅だ」

壁に寄りかかって自己紹介をする少女、彼女が妹紅か。

「すまん、君には助けられたな」

「気にしなくていい、急にどこかに駆けだしたからびっくりしたけど」

「すまない..兎共から取り返さなきゃいけないものがあったからな」

兎共という言葉に八意医師は反応した。

「あら、てゐにあったんですか?なるほど、それでその血があっても運よく運び込まれたというわけですね」

「俺の血のことを知っているのか?」

「えぇ、あなたの血はとても稀なものだけど、たまにいたのよね」

俺の血のことを知っているとは..この医者何者だ?

「さて本題に入りましょうか。あなたの求めている薬だけど、妖怪の薬が欲しいんでしたよね?」

「ああ、妖怪といっても、元人間らしいからどっちがいいかわからないんだけどな」

「なるほど、あの入道使いですね..それならこれがちょうどいいと思います」

そういうと八意医師は戸棚から薬を取り出し、俺に渡してくる。

「これがあれば一輪を..」

ポケットに手を入れお金を取り出すも、響子から貰ったすくない小銭しかなかった。

「すまん、金足りねえかもしれねえ。今度返す!だからこれで勘弁してくれ!」

おそらく高いだろう、俺は必死に頭を下げ小銭を見せた。すると八意医師は俺の手から小銭を取り微笑んだ。

「あら、充分足りてますよ。これで安心して渡してあげてくださいね。あと、あなたの治療費は特別にタダにしておきます」

笑顔でそう言ってくれる先生。

「先生..!ありがとうございます!」

いい人だ..

早速これを持って一輪の元に行こうとベットから立ち上がると、

「ちょっと待て、あなたは妖怪から狙われる血を持っているんだろ?それに怪我もしている。そんな中、今の竹林に入るのは危険だ!」

そう妹紅に止められるも俺の意志は揺るがない

「それでもだ!早くこれを渡さなきゃならねえし、それに戻るって約束もしちまったからな..」

俺の言葉に折れたのか妹紅は溜息をつき

「はあ..そういわれたら断れないな。わかった、さっきみたいに急に駆けだすなよ」

「ああ」

八意先生にお礼をして出ていこうとすると。

「師匠!命蓮寺の住職が来ています!」

大きな声で入ってくる少女。さっきの兎と同じでうさ耳が生えた少女だが、髪は薄紫色で紅い瞳をしていた。それに服装も女子高生の制服みたいな。しかしこの少女、今命蓮寺の住職といわなかったか?

「探している人がいると言っていますが」

「多分、彼のことを言っているのね。ちょうどいいわ優曇華、住職と妹紅と一緒に彼を送っていってくれるかしら?」

「あっ、はい」

そう指示を受けると俺の前にやってきて

「えっと、鈴仙・優曇華院・イナバと申します。命蓮寺まで安全に送りますので任せてくださいね」

笑顔で自己紹介する兎。

「あぁ、よろしく頼む、えっとどれで呼べばいいんだ?」

「別になんでもいいですよ、鈴仙でも優曇華でも」

「んじゃ鈴仙で」

とりあえず、まだふらふらする体を鈴仙に支えられながら、永遠亭の外へと出る。

 

「ヨウマさん!怪我大丈夫ですか!」

永遠亭の外には聖が待機しており、俺の姿を見つけると大慌てで駆け寄ってきた。

「あぁ一応大丈夫だ..ただ、頭を強く打っただけだ」

「頭を強く打っただけって..」

「とりあえず、薬貰ったから。一輪の元に行こうぜ」

俺はなにか言いたがっていた聖を押し切って帰路につく。

お守りはなくなってしまったが。鈴仙の能力で妖怪から認識されないようになっているらしい。

どんな能力なんだ?

「うおっ、お前ら!大丈夫だったか!」

竹林を歩いているとはぐれていた大蜈蚣たちの姿が見えて声をかけたが、見えなくなっているのかきょろきょろと声の出どころを探していた。

「すまん鈴仙、一回解除してくれねえか?」

「は、はい」

鈴仙に解除してもらって再び大蜈蚣に声をかけると大蜈蚣の眼に涙があふれて俺に向かってきた。

「ひゃあ!」

鈴仙はびっくりして俺から離れて、俺のバランスが崩れてしまったが、大蜈蚣が絡みついて支えてくれた。

「お前どこ行ってたんだよ!俺このまま迷ってお前らと会えねえと思ったよ」

大蜈蚣の頭を撫で大蜈蚣も俺の頭の上に自身の頭をのせる。率いていた百足軍団も俺の体に引っ付いてくる。

その光景を妹紅と鈴仙はドン引きしてた。やめろ!そんな目で俺をみるな!

大蜈蚣曰く、狼共との戦いで少しの数の百足が死んでしまったらしい。

「そうか..」

俺は無言でその場で合掌と黙祷をした。

お前ら..ありがとうな..

 

 

そのまま大蜈蚣たちと合流して竹林を抜け出した。

意外と時間は経っていなかったようで日は沈んでいなかった。

「それじゃあ、あとは大丈夫だろう」

「ああ、ありがとうな妹紅、それに鈴仙」

俺は二人に頭を下げ礼した。

「本当に命蓮寺まで送らなくてだいじょうぶですか?」

心配そうにする鈴仙に俺は

「蜈蚣が支えてくれるからな」

というと、

「そうですか」

若干引きつった顔をされた。なんだろう心痛い。

二人と竹林の入り口で別れた後、聖と並んで帰路につく。

 

「ヨウマさん、あまり無理してはいけないですよ」

「はいはい、ところで一輪の容態はどうだった?」

「一輪はまだ熱が下がらなくて辛そうでした」

「ならなおさら帰らねえとな」

「あぁ無理せずに!」

俺はそんな聖の言葉を無視して早歩きで命蓮寺へ。

 

 

「あっヨウマさん!」

無事に命蓮寺に着くと村紗が出迎えてくれた。

「村紗、一輪の容態は?」

「一応眠っていますが、熱はやはり下がってないです。というか、その腕の怪我大丈夫なんですか!?」

「あぁ、少しヘマしちまってな、って言ってる場合じゃねえ」

俺はすぐに一輪の部屋へと向かった。一輪の部屋では響子が看病しており、一輪のそばにいた。

「響子、ただいま」

「ヨウマさん!無事に帰ってきたんですね!」

俺が声をかけると響子は涙を流しながら抱き着いてくる。

「馬鹿、泣くやつがあるかよ」

「でも、でも!」

「響子もヨウマさんのことをすごく心配してたんですよ」

「そうか、すまねえな」

俺は泣きじゃくる響子の頭を撫でた。

 

「さてと、一輪大丈夫か?」

眠っている一輪の隣に座り顔を除きこむ。顔は熱で赤く、呼吸が少し荒く、辛そうだ。

近くにいる雲山に一輪を少し起こしてもらった。

「んっ..ヨウマ..」

一輪は目を開け少し嬉しそうな顔で俺を見てくる。

「無事だったんだね..」

こんな状況なのに俺の心配してくれるなんてな..

「一輪、無理してしゃべるな。これ薬だ。少し起き上がれるか?」

起き上がった一輪の体を腕で支えながら、薬の飲み口を一輪の口元へと運ぶ、薬を飲ませた後ゆっくりと腕をさげ一輪を寝かせる。

「これでよくなるはずだ..おやすみ一輪」

「うん..おやすみ..」

そのまま目を瞑り、一輪は寝たようだ。

「響子、聖、すまないがあとは頼む」

俺はそのまま廊下に出た。俺も頭を強く打った影響で少しふらふらしている、少し意識が..倒れまいと踏ん張り、俺の部屋になんとかたどり着く。

そのまま、俺の布団を出し寝ころび、また俺の視界は闇に覆われた..

 

 

夢を見た。それもこの幻想郷に来た時から今までの夢だ。ずっと近くに一輪がいた。ずっと、ずっとだ。

毎日顔を合わせて、会話して、名前を呼び合った。彼女に過去を全て曝け出したこともあった。

あいつはずっと、俺と一緒にいて..俺の隣にいてくれたんだな..

会ったときも今もずっと変わらない..

 

「あっ..」

いつのまにか眠っていたようで、目が覚めたら日が出始めたところだった。

「とりあえず、昨日風呂入ってねえから体だけ洗うか..」

俺はそのままタオルと着替えを持って浴場へ向かった。

朝風呂に入ってるときも一輪の顔が浮かんだ。

 

風呂から上がり、髪が濡れたまま外にでるとこれがまた気持ちいい。

しかも朝日を浴びてなのでさわやかだ。

日が当たる境内を見回っていると村紗が珍しく掃除していた。村紗は俺に気が付いたようで

「あっ、ヨウマさんおはようございま~す」

と相変わらず明るく挨拶してくる。

「おう、村紗。今日はお前が境内を掃除しているんだな」

「響子が一輪の看病をしてますからね。聖様が診ているって言っても『ヨウマさんと約束したので!』ってずっと言ってるんですよ。随分仲が良くなったんですね~」

響子がそんなことを..

「仲が良くなったつうか、あいつが勝手に懐いているだけだよ」

「珍しく素直じゃないですね」

「ほっとけ!」

まあ意外と懐かれていて悪い気分ではない。

「そうだ、一輪の様子を見てあげてください」

「なんでだ?」

「多分一輪もヨウマさんが来たら喜ぶと思うので」

「まあわかったよ。俺も気になってたしな」

「やっぱりですか~」

相変わらずニヤニヤしてくる村紗にイラつきを感じるも、気になるのは否定できないからな。とりあえず一輪の部屋へと向かう。

 

「入るぞ」

そう一声かけて襖を開ける。響子はずっと付きっ切りだったようですっかり眠っていた。おそらく、ずっと俺との約束のためにいたのだろう。俺はそんな健気な響子の頭を撫でた。

「むにゃ~」

眠っている響子からは少し幸せそうな声が出ていた。

 

一輪の顔を除きこみ、おでこに手をやる。どうやら熱は引いたようで顔色は普通で寝息も一定だ。

「よかった」

腕をどかすと俺の腕を一輪の手が掴んだ

「!?」

「んっ..」

ね、寝ているはずなのに..!こいつ、最強のグラップラーか!?

どうやら本当に寝ているようで、指をゆっくり開かせ解放することに成功した。

「ふう、急に掴んできてびっくりしたぜ..」

「そこで、何やってるの?」

ビクッ!?

どうやら今ので起きてしまったようで、一輪がジト目で俺を見ていた。

「寝ている私になにしようとしたの?変態!」

「違う!」

一輪はそのまま起き上がり

「そもそも、私の部屋になんでアンタがいるのよ!」

「村紗にお前の様子を見てくれってたのまれたんだよ!」

「本当..?嘘じゃないでしょうね?」

目が泳いでしまう..ますます怪しまれるだろうな。

「嘘言ってることは分かっているわ!早く白状しなさい、変態!」

「変態じゃねえよ..俺が来たのはお前が心配だからだ!」

「へっ?」

「お前が心配で、容態を見に来ただけだよ!」

「そ、そうなのね..」

なんだよ、本音を言ったら言ったで、なんでこんな空気になるんだよ..一輪もしゃべらねえし!

俺は思わずポケットに手を突っ込むと巾着袋に当たった。

そうだ、これ。

「なあ、一輪」

「ん、なに?」

「これ、」

俺は意を決して巾着袋を渡した。

「なによこれ?」

「開けてみてくれ」

「う..うん」

不思議そうな顔をする一輪に開けるよう促す。

開けられた巾着から出てきたのは青くて輝くきれいなブレスレット、ただの青いブレスレットじゃなくて、青翡翠という貴重な石を使ったブレスレットだ、

「これって..」

「あのさ、一輪。俺今までお前に色々なものを貰っていたんだ、形あるものだけじゃない、色んなものをさ。貰いっぱなしで、何も返してねえって思ってさ..それで日頃の感謝を込めてそれを買ったんだ..」

「ヨウマ..」

「昨日はごめん!門限まで、帰ってこなかった俺を心配してくれたんだな..それなのに俺があんなこと言っちまったらすごく怒るよな..お前の気持ち考えてなかった」

 

「ヨウマ..」

私の眼から涙が流れてくる。私はあの子に嫉妬していた..心配してたのにあの子と楽しそうにしていたっていうことにとても嫉妬してヨウマに強く当たってしまったのに..それなのに、ヨウマは..

「一輪!?どうした?本当にすまねえ!この通りだ!」

慌てて謝り続けるヨウマ..もう、本当にそんな反応されたら..

私はヨウマを抱きしめた。

「えっ一輪!どうした?」

「ううん..ごめんね私も..ごめん..」

「一輪は悪くねえよ..」

本当に優しい。いや、優しくなってくれたのかな?それでも私はヨウマの気持ちが嬉しいのとヨウマへの申し訳なさで涙が止まらなかった。そんな私をヨウマは抱きしめてくれた。

ヨウマを抱きしめる腕に力を入れる。ヨウマも同じように力を入れてくれている。

 

ああ私はきっと..

ああ俺はきっと..

 

この時間がずっと続けばいいと思っているのだろう..

 

 




とまあ、想定以上に長くなってしまいました。
まさかの約13000文字!?
話にして三話分くらい!
とまあ長い話を読んでいただきありがとうございます。
これからもヨウマ君と一輪の二人をメインに書いていきますので
今後もよろしくお願いします。


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21.5話「入道使いの嫉妬」

前回はとても長くなってしまいました。
今回はヨウマが阿求とデートをしていたところから前回冒頭の話までの裏で起きた話。



結局二人で抱きしめ合っていたのだが、響子がいることを忘れていたので、起きてしまった響子にがっつり見られてしまった。

「な、なにしてんのよおおおお!」

「ぐへええ!」

恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤に紅潮させた一輪に引きはがされ、盛大にビンタされてしまった。

理不尽だと思うのは俺だけか?

 

 

「いやお前から抱きしめてきたんだから、ビンタすることはねえだろ?」

「だとしても、何どさくさに紛れて私に手まわしてるのよ!変態!」

「うっ..」

まあどさくさに紛れて抱きしめてしまったのは本当だ。

「やっぱり!変態じゃない!」

何も返さない俺に「変態!」と頬を紅潮させたまま大声でまくしたてる一輪。ぶっちゃけ何も言い返せねえ..

変態と罵倒している一輪とそれを黙って受けている俺をただニコニコしながら見てる響子、お前見せもんちゃうぞ..

 

 

「それでは!私は境内の掃除とかしなくてはいけないので、ヨウマさん一輪さんのことお願いします!!」

「ちょい待て!」

変に気を利かせて、俺と一輪を二人きりにしようと響子は元気よく立ち上がり、止める声を聞く前に出ていってしまった。

響子の元気な声の後の部屋はいつにもまして静かだった。そんな状況の中さっきまで抱きしめ合った男女が二人取り残される。男女二人っきり何も起きないはずもなく..だから何も起きねえって!

とにかく、恥ずかしい気持ちも気まずさも全て抑え込んで、意を決して一輪に話しかける!

「あーっと、一輪。その..熱は下がってとりあえず治ったみたいだな..」

前言撤回、俺は恥ずかしさも気まずさも全て抑え込めなかったぜ..正直一輪の顔が見れねえ..

「う、うん。お陰様でね..」

会話がそこで止まる。なんか、昨日もロープウェイとかで阿求と同じようなことがあった思うんだがな..

あまりの無言さえ思わず一輪のほうに顔を向けると

「...(ドキッ!)」

心臓が高鳴る、それもそうか。

俺から貰った青翡翠のブレスレットを、愛おしそうに撫でている一輪の顔を見れば誰だってドキッとするだろうよ。嬉しそうな一輪の顔に悩殺されてしまった。

そんな横顔に見とれている俺に気づいた一輪は、すぐにムスッとした顔になり、いつものように変態と罵るのであった。

そんなこんなで、お互いまたいつものように言い争いになった。

「だー、変態じゃねえって!」

「だったら、変態って言われるような行動取るんじゃない!」

「しゃあねえだろ!」

「何がしゃあねえよだ!そう言ってるってことは意図的にやってるからでしょ!あんたは無神経なのよ!昨日の朝だって!」

「うっ..すまん」

それを出されちゃ俺は謝るしかねえ。

「全く心配して探したら全然いないし!」

「すまん..」

「第一どこに行くか話しておきなさいよ!」

「うっ、申し訳ない!」

「色々だらしないのよ、入門しなさい!」

「すまん、無理だ..」

とにかく繰り出される言葉にただただ謝ることしかできねえ。てか今どさくさに紛れて勧誘しなかったか?

 

「たく!まあ別にあんたが"心配かけたことには"怒ってないんだけどね。大蜈蚣に伝言して連絡くれたしね」

ん?俺が"帰ってこなくて心配かけたことには"怒っていないだと..?じゃあなんで、あの日の朝に怒っていたんだ?

「なあ一輪少し聞いていいか?お前が一昨日大蜈蚣が俺の伝言伝えた時はその..怒ってなかったのか?」

「別に?確かに探してたときは『なんで帰ってこないのよ!』って思ってたけど大蜈蚣があんたが謝っているって言うから別に怒っていなかったわ。それがどうしたの?」

大蜈蚣の言う通り、怒っていなかったみたいだ。そん時に俺が帰らないことに対して怒っていないのだとしたら、なぜ昨日の朝にキレてたんだ?もしかして、思い出し怒りってやつなのか?

俺はその疑問をキョトンとしている一輪にぶつけることにした。

 

「一昨日俺が帰ってこずにいたことは怒っていなかったってことだよな?」

「だからそうよ。別に伝言で帰れない理由伝えてくれた時点で怒りなんてほぼ消えてるわよ」

そういう風に何言ってるんだと顔をしている一輪。だがお前には矛盾が発生しているぜ。

「じゃあさ、なんで昨日の朝、すげえ切れていたんだ?」

「うっ!」

俺の疑問がどうやらクリティカルヒットしたようで彼女の反応を見るに、どうやら聞かれたくないことのようだ。

「それは、アンタが帰ってこなかったからで..ハッ!?」

「一輪、それは怒っていないって言ったよな。もう一度問おう、なんで昨日の朝怒っていたんだ?」

「それは..」

俺が詰めていくと目がドンドン泳ぎだす一輪。これは何か隠していやがる!

「なんでだ?」

「あーもうなんでもいいじゃない!」

「よくない!一輪がなんで怒っていたのか!次に気を付けるために必要だろ?」

「うっ、そうだけど..」

押され気味の一輪、このまま押せば言うか。

 

 

 

(絶対に言えないわ..)

一輪には絶対に理由を話すことができなかった。何故言えないのか時はさかのぼって..

 

「うーんあいつ遅いわね..」

日が沈みかけたころ、普通ならあいつがそろそろ帰ってくる時間帯。なんだけど..一向に帰ってこない!

「ヨウマさん、今日は珍しく遅いね」

私が命蓮寺の門の前で右往左往としてくると村紗が話しかけてきた。

「本当にね、あいつ何かあったんじゃないかしら..」

「うーん大蜈蚣もついているし、ヨウマさん自体お守りとかでなんとかできるし、一輪の考えすぎじゃないの?」

そう村紗は言うが..あいつに何かあったのかと考えると体がソワソワして落ち着かない!

村紗と立ち話しながらあいつを待っても日が沈むだけだった。

「やっぱり、何かあったに違いないわ!私探してくる」

「あっちょっと!一輪!」

もし、あいつになにかあったら..こんなところで立ち話している暇はないわ!

私は命蓮寺を飛び出し、里の方へと向かった。

 

有事のこと以外で里に入るのは禁止されているが、ヨウマが帰ってこないのは十分有事だ!

「よーし、行くわ!」

門に手を掛けるも..聖様の言葉を思い出し抵抗感により、手が門を開けることを拒んでいる..

こうなったら..

「こ、この前みたいに博麗神社で手伝っている可能性があるかもしれないわ!いくわよ雲山!」

 

ーーそのまま踵を返し走り去っている間、ヨウマはロープウェイに乗っていたのであった。ーー

 

 

「うっ、禍々しいオーラがあふれているわね..」

相変わらず人っ子一人もいないとても寂しい神社から禍々しいオーラがあふれ出ていた。

「霊夢さーんいますか?」

とりあえず博麗の巫女を呼ぶと、母屋の方から出てくる。

「あっ霊夢さん、うっ..」

顔が引きつる。なぜならこの禍々しいオーラはこの巫女から出ているのだから..

「何?なんか用かしら入道使い?」

明らかに不機嫌だ。ここは下手に刺激しないように..

「いやーそのヨウマが来ていないかなーって。前みたいに霊夢さんの所にお邪魔していないかと..」

「ヨウマですって!」

「ひゃ!ひゃい!」

ヨウマに反応する霊夢さん..その名を聞いた瞬間明らかにオーラが増えたような..

「あいつなら知らないわ..どうせどこかで私を貶している気がするわ!いや、あいつなら貶しているはずよ!」

 

ーーヨウマは実際に博麗神社を貶していたーー

 

「い、いやーさすがのヨウマも霊夢さんを陰で貶すような真似は..」

「なにあいつのこと擁護しているのよ!」

「いやーその..」

「アンタ達が他の宗派を貶しているっていうのはよーくわかったわ!」

「なんでそんな話に!?」

その後陰陽玉を出され、弾幕を放たれ、あやうくピチューンするところだった..

 

 

「うっ里に入るしかないわね..」

結局博麗神社ではあいつはいなくて、巫女に攻撃されたでなんの収穫もなかった..

それで里の門まで戻ってきたのだが..やはり、入るのに抵抗感がして門が押せない..

「スー..ハー..よし!」

私は深呼吸をし里の門を押す。あいつを早く探さなきゃ!

 

里の様子はもう少しで日が落ちるので仕事を終え帰路につく人であふれていた。

居酒屋はそろそろ開店している時間である。

そう、居酒屋があくということは酒を飲んで楽しそうにしている人たちの声が聞こえるということで..

「うっ..一杯だけなら..いや違う!」

ふらーと居酒屋に入ろうとしてしまうが、ぐっと堪え、自分の目的を思い出す。

正直名残惜しいが、堂々と飲むわけにもいかない..うっ..飲みたいわ..

 

里を一通り周り探してみるも、ヨウマはどこにもいなかった。

必死で走り回り里の道を何度も往復したりして、すべての道を通った。だが彼の姿はなかった。

「はぁ..はぁ..もう!あいつ、行き先くらい言ってもいいのに!もし言ってくれたら、こんなに歩き回らなくてもいいのに!はぁ..はぁ..どこに行ったのよ..」

あいつに対する文句が出てくる。

「しょうがない..一回戻って皆にも協力してもらうわ。雲ざ..ん..ここではまずいわね」

私だけじゃ探しきれない..おそらくあいつは里の外にいるのだろう..

人に見られるとパニックになってしまうのでこっそりと門から出てから飛ぶことにする。

 

飛べば命蓮寺まではあっという間につく。

今度あいつも飛べるようにすればいいのでは?とも思ったが、あいつは血が特別なだけでそれ以外はただの人間..

あーもう!なんでただの人間なのよ!もし妖怪だったら空飛べて、二人で色々行けたのに!

命蓮寺に着いたが、秋は日が落ちるのが早く。とても暗くなってしまった。

とてもまずい状況だわ..妖怪は夜に活発になる。そんな中ヨウマが外にいることは、どうぞ私を食べてください!と言っているのと同じだ。

早く見つけなきゃ..でもどこにいるのかしら?

 

「あっ一輪さん、ヨウマさんは見つかりましたか?」

門に着くと響子が心配そうな顔をしながらヨウマのことを聞いてくる。

そういえば、ヨウマは響子にすごく懐かれていたわね。あんなツンツンして素っ気ない態度を私たちにはしていたが、響子には割と優しいイメージだ。

ずっと境内を掃除しているし、そんなヨウマを響子はとても慕っている。境内を掃除していると、だいたい楽しそうな声を出している。

だからこそ、慕っているヨウマがいなくて彼女もすごく心配なのだろう。

「ううん見つからなかったわ。多分色んな所を巡りたいって言ってるから、もしかしたら守矢神社にいるのかもしれないわ..」

二人でどこに行ったのかを考えていると、

「あっ、一輪さん。ヨウマさんの蜈蚣さんです!」

ヨウマの護衛の大蜈蚣が階段を登っていた。彼の護衛を任されていていつも二人なのだが、今いるのは大蜈蚣だけだ、もしかして!とも思っていたが、大蜈蚣に慌てた様子もない。

「どうしたんでしょうか?ヨウマさんと一緒にいるはずなんですが..」

大蜈蚣は階段を登ってるとき私を見つけると、階段を登るスピードを速くしてすぐに私たちの前までくる。

「ヨウマはどうしたの?あんたが慌てている様子はないからきっと大丈夫なんだろうけど..」

大蜈蚣の言っていることは私はなんとなくわかるが、響子はわからないようで頭に?がたくさん出ていた。

 

「はあああ!?守矢神社で話し込んでいて門限忘れてたあああ!?」

私の大声が命蓮寺に響く。コク、コクと頷く大蜈蚣。

はあ、まさか話し込んでいて門限を忘れるなんて..

拳を握る力が強くなり震える。

大蜈蚣はそれを見て大慌てで身をくねらせたりしている。

「何々?怒っているかだって?」

確かに、あいつが行き先言わないせいでもあるし、話し込んでいるんじゃないわよ!とも思うけどそんな文句や怒りよりも..

「別に怒っていないわ、少し怒りたい気分だけど、今はヨウマに何もなくてよかったわ」

全く..と呆れる気持ちが多いけど、それでもあいつが無事ならなんでもいいわ。

それを聞いた大蜈蚣は、またヨウマの元に戻らなきゃいけないのでそのまま里まで帰っていった。

「ヨウマさん、無事でよかったですね」

「えぇ..あいつには言いたいことも色々あるけど、ひとまず無事でよかったわ..」

はあ、安心して少し力が抜けたわ..あと秋だけど冷え込んできて少し寒かったわね。

 

 

そして、翌日

はあ、あいつったらいつ帰ってくるのかしら..?

命蓮寺の門の前でヨウマの帰りを待つため..いや!文句を言うためよ!そのため、門の前で待つことにしている。

「ソワソワしながら待っているね~ヨウマさん早く帰ってきてくれるといいね~」

「別にあいつを待っているのは、あいつに昨日言いたかった文句を言いたいからよ!」

「ふふ、ヨウマさんは最近素直だけど、一輪は素直じゃないね~」

「もう村紗!からかわないで!」

全く、村紗は..

「はいはい、二人っきりでいろいろ話すといいよ~」

彼女はイタズラっぽい笑顔を浮かべて本堂に向かっていく。

もう!

 

「まだ帰らないのかしら..」

おそらく、さっきよりそんなに時間は経っていないが、それでも待つ間はとても長く感じる..

それに冷え込んできたのか、なんだがとても寒いわ..

「ヨウマさん遅いですね」

響子も門の前まで来てヨウマの帰りを待っている。なのに一向に彼が帰ってくる気配はない。

二人でまだかまだかと待っていると

 

「新聞でーす!」

という声が聞こえると上から新聞が降ってくる。上を見ると鴉天狗がどうやら新聞を配っていたみたいだった。って!

「あの鴉天狗は!」

そう、射命丸文といったかしら?そいつは鯨呑亭(げいどんてい)の幽霊騒ぎがあった時期に私たち命蓮寺に取材を申し込み、あらぬことを捏造しそれを新聞にしていたのだ。おかげで命蓮寺の評判が少し悪くなったわ!

「はあ、全くどうせ今日も変な記事でも書いているんでしょうね..」

とりあえず、書いてることを読もうと新聞を開くと..

 

「...」

「一輪さん、なにが書いてあるんですか..?」

「...」

「一輪さん..?」

「あ、あいつ!」ブワッ!

「ヒッ!?」

あいつ、許せないわ!!私が修行している間!あの娘とデ、デートなどと!それに私が心配して探している間に!あの娘の家に上がり込んでいただとおおおお!!

「絶対に許さないわ!!」

 

 

一輪の怒りの炎が激しく燃え上がり、それを見た響子や村紗、はては聖までも気圧されているのだった。

 

 

ーーーー

絶対に言えないわ..だって、だって..

あの娘とデートするだけじゃなくてあの娘の家に上がり込んで二人屋根の下にいるという状況が許せなかっただなんて..

 

「い..言えないわ!」

 

 

その答えを聞いてもヨウマはぐいぐいと詰め寄ってくる。

調子に乗って詰め寄ったせいで、お互いの顔の距離が近くなり、息を吐けば当たってしまう程距まで思わず近づいてしまう。

それに気づくももう遅い、顔を赤くした一輪によってヨウマは吹っ飛ばされた。

そして、響く一輪の罵声。

 

その様子を部屋の窓の外からのぞく新聞記者の射命丸文は

「ふふふ、守矢神社での仕返しはこれで..」

守矢神社での仕返しの結末を見届け、不敵に笑いそのまま飛び去るのだった。

 

 

 

 




いやー更新遅くなってしました。少し用事や出かけなくてはならなかったので..
てことで、一輪も嫉妬で怒ってしまったあたり、二人の関係は進んでいますね。


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第22話「幽霊調査とロボットの墓」

今回はヨウマと外の世界との接点や関わりが出てきます。
あと少し他の方の小説とか読んで少し書き方変えてもようかなと思いまして
少し書き方変えてます。


「ったく!そんなに言わんでもいいのによ...」

そう悪態をつきながら襖を締める。

さっきまで風邪引いた修行僧で入道使いの一輪に理不尽にも『変態』と罵倒されていたのである。せっかく薬とか、命がけで取ってきたんだがな..

まあ、変態って罵れるくらいは元気だ。今日一日安泰にしとけば明日にはもう復帰できるだろう。

そう思いながらまた外に出るため自分の部屋に行こうとすると

「あっヨウマさん。少しお話よろしいですか?」

ここ、命蓮寺の住職である聖白蓮に呼ばれた。

 

 

「なに、外からやってきた亡霊だと?」

「はい、どうやら何年か前に彼岸から逃げた亡霊が幻想郷に来ているとの話が入りまして」

頼み事があると話を聞いてみりゃ、どうやら何年か前に亡くなり、閻魔の裁きを受ける前に三途の川の船を強奪して行方不明になった亡霊がこの幻想郷に来ているという話だった。

「それで、頼みってのはその調査を俺にしてほしいというわけだな」

「はい、私はここを離れるわけにはいかないのと、外の世界の亡霊ですのでヨウマさんならば話が通じるかと」

まあそうだな、亡霊といえど外の世界で死んだ奴の霊だ。同じように外から来た俺なら、まあ外国人や相当歳食ってるやつ以外なら、コミュニケーションは取れるだろう。

「しかし、なんでそいつが外から来たということが分かったんだ?」

「この幻想郷にはサボってばっかりの死神がいて、その死神から聞きました」

サボりな死神って..大丈夫なのかそれ?

「よしわかった。んじゃ行ってくるとするかな」

「あっお待ちください!ヨウマさん一人では大変でしょうから、彼女と一緒に調査をお願いします」

「彼女?」

 

 

「でええええこうなるんかよ!」

俺は今、空を飛んでいる。一緒に調査する相手は紫色の傘を持った少女..唐傘お化けの小傘だ。

前に変な鳴き声を調査したのと同じで、こいつの体にしがみついて空を飛んでいるというわけだ。大蜈蚣が俺と小傘に巻き付いて、命綱代わりになってくれているが怖い..

「そもそもなんで、お前と一緒の調査なんだ!?」

「しょうがないじゃないですか、一輪さんは安静にしなくちゃいけないので」

そう本来ならば聖は一輪と俺に頼む予定で、雲山の手に俺が乗って飛んで探すという算段だったが..

一輪は体調不良になって安静にしている。それで困っていた聖に自分から協力すると申し出たのが小傘とのこと。前に一緒に飛んだことがあるからだとか、いやそもそも飛ばないで調査したほうがいいんじゃねえかな?

「とにかく、どこに向かおうってんだ?」

「無縁塚です」

「無縁塚だと」

無縁塚は幻想郷に存在する場所である。聖に話を聞いたところによると弔ってくれる縁のない者の墓地であるという。人間の住む場所は限られているので、里の人間には縁のない者は存在しない。なので、ここに埋葬されている者は「俺と同じ外の世界から来た人間」だ。おそらく、俺の別の末路だ。人間、妖怪問わずここは危険な場所とされている。なんでも、外の世界だけじゃなく、冥界ともつながっているのだとか。

外の世界にも冥界にも近い、例の亡霊が確かにいそうだな。

「着きました!」

そう言って大地に降りる小傘。俺も大蜈蚣もようやく地に足を付けることができて安心する。

「ここが無縁塚..」

墓場といっても墓標もなにもなく、ただの石っころが転がっているだけだった。

この石っころはおそらく墓石代わりなのだろう。

とりあえず、その墓に合掌し黙祷する。

「見てくださいヨウマさん!変な人形が落ちてますよ?」

「変な人形って、えぇ..なんでお前こんなところ落ちてるんだよ..」

小傘の持ってきた人形がここに落ちている事に動揺する。なぜなら元祖スーパーロボットの人形だからだ。

「あー、腕が取れちゃいますね。これ壊れちゃったんですかね?」

「いやそれ、壊れたとかじゃなくてもともと取れるんだよ。ロケットパンチで腕飛ばすからな」

「ヨウマさん、この人形のこと知ってるんですか?」

「まあな。昔テレビで見ていたよ、といってもリメイクの方なんだけどな」

「?」

アニメの話とかしてもわかんねえか。

しかし、無縁塚には外来人だけでなく外の世界の物が流れつくらしい。周りを見てみると外の世界で見たことのあるものが、ゴロゴロ落ちていた。

ゲッターに機動戦士..ってロボット多くね!?

「はぁしっかし、物が落ちてるだけだな..小傘次行くか」

俺は振り返って人形で遊んでいる小傘に次行くよう言う。すると小傘は悲しそうな顔をして

「ヨウマさん..この子たちやっぱりおいていきますか..」

涙で潤んだ瞳でロボットを見つめている。そうか、こいつは唐傘お化け。捨てられた傘が妖怪化したやつだ。捨てられたものに関しては思うことがあるのだろう。

「いや、懐かしいからな。少しだけでもいいから持っていきたいって思っててよ。小傘も持ち帰るの協力してくれるか?」

「はい!」

俺の言葉を聞いて小傘の顔はパァーっと明るくなり、ロボット達を拾い始めた。

「しかし、捨てられた物が妖怪になるということは、こいつらも妖怪になるのか..」

ロボットが妖怪になったらすげえことになりそうだな..特にこの伝説巨神なんかやばそうだな..

「ヒャアアアア」

「小傘!?」

物を拾っている小傘の悲鳴が上がる。俺は悲鳴の元へと大蜈蚣と共に走るが。

「うおおおおおお!?」

俺もビビっちまった..石の上に座る俺と同じくらいの身長の朽ちたロボット。朽ち果てた姿はとてもおどろおどろしく、力尽きたように座っている。

「な、なんで座っているんですか?」

「俺が聞きてえよ..」

ここは基本妖怪も人も来ねえ。なのにこいつは誰かの手で座らせられている。

朽ち果てたロボットの下には、多数のおもちゃのロボット達の残骸が積み重なっている。

そこで俺は妙な点に気づいた

「なあ小傘、ここには外の世界の物が流れつくにしてはロボットしか落ちてないよな?」

「そういえば..この子たちくらいしか見かけてないです..」

そう、外の世界の物が色々流れつくはずなのに、ここにあるのはロボットしか落ちていないのだ。まるで誰かが意図的にロボットだけを残したかのように..

「おそらくだが、誰かがここにロボットだけを残しているのかもしれねえ..」

「誰かって..誰ですか..?」

「そこなんだよな..」

一体だれがやったのか、人間も妖怪も入ってこないこの場所でだ..おそらくだが

「外来亡霊の仕業かもしれねえな」

しかし、ロボットだけを集めている理由がわからない。よっぽどのロボットオタクなのかもしれない。

「もしかしたら、ここを拠点に活動しているのかもしれねえ。ここで待ち伏せしたいところだが、三つの世界と交わっている危険な場所だ。長居は出来ねえ、一回かえって聖に報告だな」

それに薄気味悪いからな..

「はっはい!」

飛ぶために小傘の体にしがみつこうとすると、ロボットは糸の切れた人形のように力なく石の上から倒れた。

「キャアアッ!?」

「ちょっ小傘!まだ準備が!」

倒れたロボットに驚いた小傘が急上昇する。こっちは心の準備もしてねえし、大蜈蚣も巻き付き終わってねえから落ちる可能性が高い!

「グオオオ!」

小傘は驚いてパニックになっており激しく飛んでいる。振り落とされないように命がけでしがみつづけた。

 

 

「はあ..はあ..死ぬところだった..うっぷ..」

パニックになった小傘にしがみ続けて、ようやく命蓮寺の境内へと降りることができた。

激しく飛んでいた影響で、胃の中のものが出かけたがなんとか堪える。

「怖かったです~」

小傘は命蓮寺についた瞬間安心したのか、俺に抱き着いてきて大声で泣いていた。

そんな状況で目立つなという方が無理で、参拝客にめっちゃジロジロみられるわ、ちょうど外の空気を吸いに来ていた一輪にひっぱたかれるわ、その影響で吐きそうになるわで踏んだり蹴ったりだ..

 

 

「それは大変でしたね..」

苦笑いしつつも、労ってくれる聖。俺は無縁塚であったことを全て話した。

「なるほど..意図的に集められたロボットが..」

「あぁ、まるで墓のように座らされていたロボットに、積みあがっている残骸。おそらく外来亡霊のしたことだろうな。待ち伏せしようとも思ったが、あそこは三つの世界が交っているからな、俺と小傘じゃ長居できねえな」

「ふむ..これは改めて私が調査する必要があるかもしれませんね」

残念だが冥界や外の世界に行ったときの対処は俺にはできねえ。だから、聖みたいな力の強い人物と一緒にいなければ、危機に対処は出来ねえだろう。

「話は聞かせてもらったわ。私も行くわ!」

「一輪!」

どうやら俺たちの会話をこっそり聞いていた一輪が、花京院のように柱の陰から出てきて協力を申し出る。

しかし、彼女は今日一日安静にしなければならない。

「しっかり寝てろよ」

「一輪、今日は一日安静にしなさいって言ったと思いますが..」

「うっ..私はもう大丈夫です!」

安静にしなければならない一輪に大人しくしてるように聖と言うも、奴は大丈夫だとアピールする。

 

「自分で大丈夫って言ってるうちは大丈夫じゃねえんだよ」

「うるさいわね!寝ているだけだなんてできないわ」

要はこいつ退屈なんだろうな。修行もできねえし、かといって出かけられねえし。

「はいはい、暇なら俺が話し相手になってやるから。聖すまない、調査を任せちまって」

「いえいえ、一輪のことしっかり診ててくださいね」

聖に無縁塚の詳しい調査は任せて一輪の腕を掴み彼女の部屋へと引っ張る。

「ちょっと!なんでアンタの世話にならなきゃいけないの!」

「はいはい、病人は寝ましょうね~」

「ちょっと聞いてる!?」

 

 

ギャーギャー騒ぐ一輪を部屋へと連行し、とりあえず布団へと寝かせる。

一輪は頬を膨らませて不機嫌そうだ。

「せっかく聖様と行動できると思ったのに..」

「まあそうぶーたれるな。安静にしてなさい」

とりあえず不機嫌そうな一輪の頭を撫でた。思いのほか少し嬉しそうな顔をしていた気がしたが、またいつものように

「触らないでよ変態安静

と罵られるのだった。変態って否定する気はもうねえ。とりあえずなんか話題振っておくか

「そういや、無縁塚まで亡霊調査をしたんだが、これを拾ったんだ」

「なにそれ?」

「俺の過去話したときに一緒に話したロボットだよ」

「あぁ!あんたが言ってた雲山より強いロボット?...フッ、なによ雲山の方がかっこいいわ!」

うっ、まあ確かに昭和に作られたものだから装飾とかがしょぼく感じる。

「こんなの雲山の拳で一発ね!ほかにもあるの?」

「おう、ほかにもいろいろあるぞ」

ロボットはやはり珍しいのか、一輪は興味津々にロボット達をみていた。

捨てられ、忘れ去られて無縁塚にいた時はどこか寂し気だったが、今はロボット達が輝いているように感じた。

 

 

 

「ふむ、ヨウマさんの言った通り、形跡がありましたが..おそらくもうここを離れていることでしょう」

ロボット達の墓標を見ながら聖は空を見る。

外の世界から来た亡霊はおそらく彼岸の時に来たと予測する。

外の世界の物を扱っている店の者がいて、よく彼岸の時にここにきて色々拾っていくが、ロボットだけ放置するとは思えない。おそらく、外の世界の亡霊が接触してロボットだけを残してもらったかもしれない。

「一体どこにいってしまったのでしょう..」

 

 

 




大量のロボット達の墓標..犯人は私と同じロボット好きだ!

私がロボット好きでまあ書いたと思われるかもしれませんが、一応しっかりとした理由はありますのでご安心を。


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第23話「幽霊調査と死神」

さて今回は花映塚の二人が登場します。


「ふふん!やっぱり雲山が最強に決まっているわ!」

そう高らかに宣言し、胸を張っている修行僧一輪は俺の持って帰ってきたロボット達を見て勝ちを確信する。

「これはおもちゃだ、実物はもっと強いし!おもちゃ程度に勝ってよろこんじゃうとか、一輪さんぷぷぷ」

好きだったロボットを馬鹿にされイラついた俺は一輪を挑発する。

「なんですって!」

もちろん挑発にキレた一輪が俺に掴みかかってくる。

「なんだよ!」

俺も負けじと抵抗する。

ドッタンバッタン大騒ぎだ。

「二人とも静かに!」

「「はい..」」

俺たちの騒ぎを聞きつけた、毘沙門天の代理である寅丸に二人そろって怒られてしまった。

 

「一輪。貴方は修行した自分は冷静さを失わないなんて言ってなかったかしら?」

「うっ、それは」

意外だな、一輪がそんなこと言ってたんだな。俺の前だとバリバリ冷静さ失っているような気がするんだけど。

「とにかく、一輪もヨウマさんもしっかり修行した方がいいと思います。では」

そう言い残し去っていった寅丸代理

 

「お前、冷静のれの字もねえじゃねえか」

「うっ..」

それを指摘すると一輪は何も言わなくなってしまった。

ジッと見つめていると

「あ..あんたも、妖怪が嫌いって言ってた割に今は小傘達にも甘いじゃない!」

やっと口を開いたと思ったら何言ってんだ?

「いや、その話今関係なくねえか?」

「関係あるわ!」

「どんなふうに?」

「そ..それは..あんただって、昔言ってたことと今の状況が全然違うじゃない」

「それで?」

「だから私だけがあんたに一方的に言われるのは癪だってことよ!」

ただの意地張りか。

「はいはい、安静にしましょうね」

「もう!」

適当にあしらいそのままロボットをいじくりまわす。

いじくりまわしていると俺は一つの違和感に気づいた。

「これって..」

 

「ヨウマさん!聖様がお呼びです!」

じっくりロボットを見つめていたら、響子が襖を思いっきり開けて俺を呼ぶ。

「うお!襖開けるときは事前になんか言え」

「あっごめんなさーい」

うっかりした~といいたいばかりに頭に手を当てて笑っている。

「はあ次気を付けてな」

「は~い」

呆れつつもとりあえず注意しておき、そのまま聖の元へ向かおうと立ち上がる。

「あっ、響子。一輪がここから出ないように見張っててくれ」

「はい!」

「ちょっと!待ちなさい!」

「はい、一輪さん安静にしましょうね~」

一輪のことだ、おそらく聖のところへ行くだろう。

だから響子に任せるとするか。

 

 

「で、調査結果はどうだった?」

俺の問いに聖は静かにあるものを差し出す。

「これは、無縁塚に落ちていた残骸じゃねえか」

差し出したのは朽ち果てたロボットの近くに積みあがっていたロボットの残骸だった。

「一応持ち帰ってみたのですが、件の亡霊はヨウマさんの言う通り意図的にこれを集めていたのでしょう。

外の世界の物を収集している者がいるのですが、その者が敢えて残したあたりおそらくですが、亡霊が彼と交渉して残してもらったと考えてます」

あの無縁塚に物を回収しに来るとは、相当な強者がいるんだな..

「それで、このロボットの残骸から何かおかしな点等はありましたか?」

「あぁ、今この残骸を見て確信したよ、おそらくだが亡霊は部品が狙いだな」

「部品ですか..?」

そう、さっきロボットをいじくっていて分かったが、金属部品だけが抜き取られていて、ソフビみたいなビニールの所だけは残っていた。聖の持ち帰った物は超合金シリーズで腕だけ金属になっているはずなのだが、腕部分は無くなっており、残りのプラスチック部品しかない。

「金属製の部品だけなくなっている。おそらく金属を集めるのが目的なんだろうけど、なぜロボットだけなのかという点が引っ掛かる。ほかに家電とかが落ちていればそれを使えばいいのに..」

考えれば考えるほど、謎が多い。亡霊の考えていることがわからない。

「無縁塚にはもう既にいないかもしれねえな。回収し終わって残骸をあそこに積み上げて残しておいたんだろうな」

「はい、それだけは確かですね。さっき言った外の世界の物の収集家は彼岸の時に来るそうなので」

「一カ月くらい前か..だとするとなんで今その存在が確認できたんだ?」

「おそらくですが、死神達だけで探していた。けど見つけることができずに私たちに協力を要請した..ということだと思います」

自分たちだと探せねえから、幻想郷に助けを求めたというわけか..ん?てことは

「霊夢や早苗たちにもこの話は行っているのか?」

「はい、多分そうだと思いますが..」

「それなら、早苗と霊夢にも聞いてみるとするかな」

早苗はともかく、霊夢の奴が亡霊見つけたらどんな目に合わせるか分かったもんじゃあねえな..

おそらく秒で『成仏しなさい!』って言われて即消滅だよ..同じ外の世界から来た奴だ、少しは話をしたい。だから、霊夢より先に見つけねえとな..

 

 

「てなわけで、亡霊についてなにか知ってるか?」

「知らないわよ!!」

開口一番知らないわよと言い放つ紅白巫女の博麗霊夢。相変わらず神社には人はおらず、霊夢は母屋の中で座っている。

「死神に頼まれたんじゃないのか?」

「あぁ、その件ね。別に外の世界から来た人間の霊なんて珍しくないわ」

そういいながら呑気にお茶を飲んでいる霊夢。

まあ、この世界じゃ霊魂とかそういったものは珍しくないんだろうな。前の宴会でも幽霊みてえなの連れていた子がいたしな。

「そんなことよりあんた、うちの神社を陰で貶してないわよね?」

「...」

笑顔で聞いているけど、目が笑ってねえ..しかし、俺が守矢神社を見て心の中で馬鹿にしていたことを察知するとは..どうなってるんだ?

「ねえ、結局どうなの?」

「...全然。俺調査しなきゃいけねえからじゃあな!」

俺はそのまま後ろを向き、全速力で駆ける。

「ちょっと待ちなさい!」

霊夢が俺を呼ぶけど、立ち止まって振り返ったら死ぬ!

 

 

霊夢から逃げ切り、人間の里へと避難する。

博麗神社の次は守矢神社へ聞かなければならないのだが

「次は守矢神社なんだが..ロープウェイがなー」

守矢神社はロープウェイで行かなくてはいけないので、少し面倒だ。

明日行くか!と思っていたら。

「ヨウマさーん!」

と噂をすればなんとやら、どうやら里に守矢の巫女早苗がちょうど来ていたみたいだ。

「おう、早苗。里でなにしてたんだ?」

「布教活動の方を少々。ヨウマさんは一体どうしたんですか?」

「あぁ、実はだな..」

 

早苗に外来亡霊の話をしたら

「えぇ!外来亡霊がここにきているんですか!?」

いや、初耳だったのか。

「あぁ、それで霊夢とかに何か情報がないか話を聞いて、次は早苗の所に聞こうと思ったんだが、反応的に知らないみたいだな」

「はい..神奈子様も諏訪子様も何も..」

「そうか、二柱もお前につたえてないということは知らないのだろうな」

内心山の上まで行かなくて済むのは俺にとっては超ラッキーだ。

「まあ霊夢の方も調査する気はねえから収穫はないんだ。死神に直接聞くのがまあ手っ取り早いんだがな」

「あっそれでしたら!」

早苗が手を合わせて笑みを浮かべる。何を思いついたんだ?

 

 

「いや、死神ってサボっていいのかよ..」

「普通はだめですけどね..」

早苗に連れられて少し日の当たるところに出たと思えば、死神だと一目見て分かる鎌を近くにおいて気持ちよさそうに寝ている、赤髪のツインテールの女性の死神だ。リンゴ好きのあいつを思い浮かべたんだがな。死神っておもしろ。

「しかしまあ、こいつはいつもこんな感じなのかよ」

「そうですね..いつも大体サボっている姿を見ます」

いつもサボっているとか..やる気ねえ死神は確かにノートの死神もそうだったんだが..

「う~~ん、誰だい?」

俺と早苗の話声に気づいたのか、死神が体を起こし腕を伸ばす。

「お前が外来亡霊を探している死神か」

「ふぁ~、そうだよ。あたいがその亡霊を探している死神さ。それでアンタは?」

「命蓮寺の聖の命で調査を任されたヨウマだ。死神本人から直接情報を聞きたくてな」

「あー、命蓮寺に最近所属している人間ってアンタのことか。ふぁ~」

眠そうな目を擦りまたでかいあくびをする死神。死神ってこんなんなのか。

「あー、多分誤解してると思うけど。あたいだけだよ、こんなに休憩している死神は」

「いや、休憩って範囲超えてる気がするんだが。あと心の声読むな」

「まあ気にしない、気にしない。で、例の件だろ?」

おっようやく本題だ。

「正直な話、あたいたちも上に言われただけで、その亡霊がどこにいるとかはわからない」

なんだとおおおお!

「それで、あたいたちじゃお手上げだから、色んなやつに協力を求めたってわけさ」

「おいおい、嘘だろ..」

「しょうがないよ、だってここ幻想郷には幽霊とか普通にその辺にいたりするからね。亡霊の姿もわからないし。広いし、多くいる中で見つけ出すのは困難なんだ」

「はあ..まあお前の感じから期待はしなかったがな..」

「そんなわけで用はすんだかい?あたいはもう少しサボっ..休むことにするよ」

今サボるって言いかけただろ。

「早苗、こんな奴放置して帰るか」

「そ、そうですね..」

そのままこいつを放置して帰ろうとすると

 

「こら、小町!あなたはまたそんなところでサボって!」

「し..四季様!」

死神を叱る声が聞こえてきて後ろを振り向いた。飛び起きたであろう死神がそのまま緑髪で帽子を被り笏を持っている女性の前で正座になっていた。

そしてその女性はそのまま

「あなたはこんなところで何をしているのです!あなたには仕事があるはずですが?」

そのまま叱り始めた。死神をしかりつけるってことは..

「なあ早苗、あの人もしかしてだが」

「はい、閻魔様ですよ」

「やっぱりい!」

もう手に持ってる笏で分かる。この厳格な感じも閻魔というならうなずける。

「大体あなたは!」

もう説教まで始めちまったよ..とりあえず、上の者だ。おそらく亡霊に詳しいだろう。

「あの~ちょっといいですか?」

流石に閻魔だし、恐る恐る話しかける。

「少し取り込み中なので、後にしてもらえませんか?」

閻魔様の眼に怯んでしまうも、このまま後にするとなると日が暮れちまうだろう。

「いや、今じゃないとだめなんです。ここ幻想郷に現れた、外来亡霊について聞きたいんだが..」

「外来亡霊ですって..小町!その調査はあなた達の役目のはずですが?」

「うっそれは..」

どうやら上司に内緒で俺たちに協力を求めていたらしい。

「はぁ..本来は私たちで対処しなければならないのですが..しょうがない。そうですね、私が知っていることを全てお話いたします」

溜息をつきながら、話すことを決めた閻魔様。正直苦労してるだろうな。

「それではお願いします」

「ヨウマさん珍しく敬語なんですね」

「流石にな..」

俺は正直こういうタイプの女性は苦手だし、なおかつ閻魔で失礼な態度を取ったらおそらく長い説教が飛ぶだろう。それだけは避けねばならない!

さて、いい情報を手に入れることができればいいんだが..

 

 

 




最近少し忙しくなるので、更新頻度少し落ちるかもしれません。まあでも頑張って更新したいんでなるべく頑張ります。


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第24話「亡霊は海を想う」

投稿ペースが前より少し落ちてしまったような気がする。


「それじゃあお話お願いします」

俺は外来亡霊の調査を命蓮寺の住職である聖に任されて調査をしていたが、手詰まり状態だったところに、亡霊調査の大本である閻魔様に、これから情報を教えてもらうところだ。

 

「まず初めに亡霊が逃げ出した経緯からお話しないといけませんね。小町から聞いたとは思いますが、閻魔の裁きを待っている死者が何を思ったか、三途の川を渡る船を奪って逃げてしまったのです」

「三途の川を渡っちまったって、普通は幽霊に出来ねえだろ?」

三途の川には風がなく手で漕ぐ必要があるし、幽霊は肉体がなく船を漕げねえはずだが..それに距離もそいつの善行で長さが変わる、そんな中どうやって逃げられたんだ?

「普通はそのはずです。ですがなんらかの特殊な能力で、三途の川を渡り切ることができたのだと思います」

「それで、その亡霊の姿の特徴と名前は?」

「亡霊の特徴は霊魂なので詳しい姿はわかりませんが..名前ならわかります」

名前だけ分かったところで霊共は何も言わないからな..

「"オオハラ カイ"」

「なんだと!?あんた今なんて言った!?」

「オオハラ カイと言いましたが?」

オオハラカイだと!?ありえん、ありえねえ..いやあいつは..あり得るかもしれねえ。

「ヨウマさんどうしました?顔色が..」

「あぁすまん早苗、少しな..」

「伝えられる情報はお伝えしました。本来ならば人間であるあなた達に頼むことではないのですが」

ジト目で死神を見る閻魔、見られた死神は体がビクッと跳ねた。

「情報ありがとうございます..なるべく見つけられるように努めます」

「いえ、こちらこそ捜索の協力ありがとうございます」

そのまま頭を下げ、閻魔様と叱られている死神を背に向けて里に向かう。

「オオハラ カイか..」

思わずその名を呟く。死神達より早く見つけねえとな!

 

 

「名前だけ教えてもらっても、わからないと思うんですよね」

確かに普通ならそう思う。だが、俺は違う。

「いや、そうでもねえ」

「えっ?」

「湖があるんだよな?そこに行ってみようぜ」

「は、はい..」

湖という単語を聞いて、まあ驚くだろうな。急に湖に行こうぜって突拍子もねえからな。だが、俺は名前を聞いて確信を持った。奴はおそらく水場にいるであろうことを。

 

「ここが霧の湖です」

霧の湖..なるほど、霧が常に出ているから霧の湖なのか..霧のせいで湖がはてしなく広く感じる。

「霧の湖には何があるんですか?」

「あぁ霧の湖は海に見えるからな、あいつならもしかしたら来るかもしれねえ」

「来るって亡霊ですか?」

「あぁ!」

とりあえず、湖の周りをまわってみるか。俺と早苗は湖の周りを歩き出す。

「ヨウマさん、亡霊の名前を聞いてから少し積極的なような..」

「あぁ、まあ確信があるわけじゃないんだけどな」

「それならどうして..」

「オオハラカイってさ、昔死んだ俺の友達と同じ名前だったんだ」

「えっ..」

早苗は黙り込んでしまう。まあ、いきなり死んだ奴の話されたら何も言えなくなるわな。

「オオハラカイってやつは海とか船とか好きな奴だったからよ。もしそいつなら、というのもあるが、オオハラカイって名前だから海とか好きそうかなって。ワンチャン、湖を海と勘違いしてそこにいるんじゃねえか?」

「ま、まさかそんな..」

あははと苦笑いしている早苗は前方を見て驚愕の顔になる。

「本当にいるんですね..」

そこでは船をせっせと整備している男の姿があった。海賊の帽子に派手な赤いコート、だがコートの中に着ている服は完全に死に装束に袴をはいていやがる。洋風と和風の融合...幻想郷も同じようなもんか。

しかし、歳が俺や、早苗と同年代に見える。俺の知ってる奴は子供の時に死んだはずだが..?

「船のためなら~えんやこら!♪」

陽気に歌まで歌っていやがる。自分の立場を分かっているのだろうか?いや、わかっていたなら、こんな陽気にいねえだろうな。

とりあえず、話を聞いてみるとするか。

「おい、お前。そこで何しているんだ?」

「あーこらよっと~♪」

完全に聞こえてねえな..

「お前、オオハラカイってんだろ!」

「あっ?」

大声出してようやく振り向き立ち上がる。顔をまじかに見る。少しふくよかな感じで、体の方はガタイもなかなかいい。顔にはあいつの面影を感じる、もしかして..

「あんたなんの用だい?俺の船に乗りてえなら乗せてやるからよ!少し待っててくれな?」

フレンドリーな亡霊。こいつ本当に三途の川の船を強奪したやつなのか?

「いや、お前。オオハラカイって名前なんだろ?」

「おん、俺のことだな。なんで名前知ってるんだ?」

「お前が逃げ出したと聞いたから、まあ捕まえに来たと思ってくれ」

「マジ~俺まだやることあるんだけど~」

こいつのこのペース..間違いねえ、こいつは..

「お前、俺のこと覚えているか知らねえけどよ。体道事ヨウマってんだ」

それを聞いてキョトンとするカイ。人違いだったか?

「ヨウマ..?うーん俺の友達でヨウマって子はいたけど..体道事って名字だっけ?」

うーんやっぱ人違いだったんかな。

「俺の知ってるヨウちゃんは妖怪に狙われていたんだけど?」

「いや、それ俺だ!」

妖怪に狙われている奴なんてそう滅多にいねえし、それをまともに信じてる奴もいねえ!これで別人だったら因果どうなってる!?こんな特殊な奴、地球どころか過去を遡ってもいねえだろ!

「早苗!連行だ」

「えっ?」

「こいつが逃げ出した外来亡霊だ」

「そうなんですか..?別人の可能性も」

だぁ!早苗もさっきの会話で混乱してやがる。

「いいから連行だ..って、その腕は..」

俺はカイの作ってる船の近くにある、ロボットの腕を拾った。

「ロケットパンチ..」

「おっ君もこのロボット作品知ってるのか?」

「あぁ..覚えてるよ。三人で一緒にTVで見たよな..そうだろう、カイちゃん?」

思わず昔に呼んでいたあだ名を口にする。それを聞いて驚きながらも、嬉しそうに。

「やっぱ、ヨウちゃんか..大きくなってるから気づかんかったわ」

俺たちの間にあった壁はどうやらなくなったみたいだ。

「俺もだ..と言いてえところだが。体道事って名字くらい覚えておけよな」

フッとかつての友に笑いかけ言う。しかし、奴の反応は意外な物だった。

「いや、体道事って..よっちゃんの名字じゃなかったっけ?」

「なに..?」

「よっちゃん..引っ越していった子が確かその名前だった気がするんだ」

なにを馬鹿なことを、俺は体道事ヨウマのはずだ..?

「早苗..閻魔たちの元に連れていくのは変更だ」

「えっ、どうしてですか?」

「すまん、こいつはおそらくだが。俺の抜け落ちた記憶を思い出すのに必要かもしれねえ」

俺の抜け落ちた記憶。俺は両親に捨てられた後の記憶が全くといっていいほどにない。捨てられた場所に住んでいる誰かが拾ってくれたはず..だがそこが詳しく思い出せないんだ..。

困惑する早苗と俺が色々考えている前で

奴は再び船の整備を始めていた。

「お前は自分の立場わかってるのか!」

後ろから思いっきり拳骨を喰らわせてやる。

「いって~ぶつことねえじゃん!」

「お前な..」

こいつは昔からこんな感じだ。彼は自由すぎる男なのだ。彼曰く、

『海は自由の象徴!だから俺も自由だ!』

などという謎理論を持っている。はぁ..まあそこがこいつのいいところなのかもしれない。何にも縛られずに自分を持っている、そんな姿勢には憧れを感じる。

「なんでそんなに船に拘ってるんですか?」

「そこに海があるから!」

「???」

早苗の問いにも意味不明な答えをするカイ。残酷かもしれねえが伝えるか。

「ここは海じゃなくて、湖だぞ」

「へっ?」

船を磨く腕が止まる。

「海じゃないの..?」

やっぱり、湖を海と勘違いしてたか..

「えぇ!本当に海と勘違いしてたんですか!?」

「うぐ!」

早苗のありえない!という感じの一言が彼の心に突き刺さる。

カイはそのまま体育座りをして落ち込んでしまった。

「はぁ..相変わらず馬鹿な男だ」

このままじゃ埒が明かないので、無縁塚のロボットのことを聞くことにした。

「そういや、ロボットだけが無縁塚に落ちてたな。あれは、お前がやったんだろ?」

「うん、外の世界の道具を集めている人にお願いして譲ってもらったんだ」

聖の予想通りだな。収集家にお願いしたんだな。

「墓を作ったのもお前か?」

「うん..自分の好きなロボット達だったから弔いの意味を込めてね」

「なんで金属パーツだけはぎ取ったんだ?」

「それは、スクリューをこの船に付けるためだよ」

「スクリュ―だと?」

その問いを聞くとカイはロボット達の金属パーツに手をかざした。彼の腕からは特殊なオーラが発せられており、それを受けたパーツたちが輝きだした。

輝き終えると、そこにはスクリューができていた。

「な、どういう原理なんだ?」

「どういうことかわからないけど、俺はどうやら材料から船の部品とか作れるようになったみたいだ」

「物体変化形の能力か。でもなんでロボットの金属パーツなんだ?あそこなら、家電とか落ちているはずだろ?」

それを聞いて少し黙ってしまったが、ぽつぽつ語りだした。

「ロボット達がかわいそうでさ..俺たちが好きだったヒーローのロボット達が壊れた状態で捨てられててさ。だから、生まれ変わらせたいなって思ってたんだ。まあ、ソフビ部分とかプラスチック部分はそんなに必要じゃ無かったから残りの部分はあそこに置いてきたんだけど、一部品でもいいからロボット達の想いを使いたくてさ」

「変わらないな、お前のその性格。昔から物を大事にしまくって、捨てる時は一部品だけ別の形として利用してたな」

例えば、おもちゃのライフル銃が壊れた時はライフル銃の細い部分をプラスチックストローとして利用したりな。こいつにとって適任な能力かもしえねえな。

「とりあえず、船はこれで完成かな」

スクリューを取り付けて船を完成させたカイは、そのまま船を湖に浮かべた。

「でもよ、スクリュー付けたのはいいけど、どうやって船の上から操作するんだ?」

「あっ!?」

こいつ頭悪いわ。よく三途の川渡れたな。

「あの、ヨウマさん。そろそろ日が暮れる時間帯なので、早く戻った方が..」

「マジか、命蓮寺に帰らんとな..カイ、お前も一緒にこい!」

「えっ!俺の船は!?」

「そんなのどうでもいいだろ!」

「マイシップ~!」

 

ごねるカイを連れてとりあえず命蓮寺へと帰ることにする。とりあえず、こいつからはいろいろ聞かねばならねえな。

 

 

 

 




さて、またまた明かれたヨウマの過去とヨウマと関係のある外来亡霊。
そしてもう一人の友人の存在。一体どうなってしまうのか。


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第25話「外来亡霊と外来人」

さて、もうすぐ年末ですね。(気が早い)来年は寅年ですね!
寅と言えば寅丸ですよ!
なんかイラストとか描いてみますね。それか友達に頼みますw



「聖、今帰ったぞ」

「おかえりなさいヨウマさん..とそちらは?」

「おう、外来亡霊ゲットだぜ!」

「えっ..?」

よう、俺は命蓮寺のヨウマ!そしてこっちは相棒の大蜈蚣!

外来亡霊の探索を任された俺は、見事そいつを捕まえることに成功したぜ!

とまあおふざけはこの辺にしてと。

 

捜索していた外来亡霊は、昔、舟幽霊によって亡くなった友人であった。

本当なら、少し会話して閻魔様の元に突き出すと決めていたのだが、俺が忘れている記憶について知ってそうなので、連れて帰ることにしたのである。これは閻魔様にも内緒だ。

 

「えぇ!それで連れて帰ってきてしまったのですか!?」

「あぁ、こいつは俺の昔亡くした友人でもあるし、それに俺の知らないことまで知っている。こいつから色々聞き出さなきゃいけねえことがある。だから、少しでいいからおいてくれねえか?」

「ヨウマさんが言うなら..」

「私は反対よ!」

俺と聖の間に、病気明けで安静にしているはずの一輪が割り込んでくる。

「一輪..お前寝てろよ」

「ゴホン!そんなことより、アンタの友人を置いておくのは私は反対だわ!」

いや、そんなことって..俺も聖も寝ていなさいって口酸っぱく言ったと思うんだがな?

「しかし、なんで反対なんだ?」

「命蓮寺の経済状況を圧迫する気?ごく潰しがもう一人増えるのはごめんよ!」

こいつ!またごく潰しって言いやがったな!

「おい!ごく潰しはねえだろ!」

「そうだぜ!ごく潰しはヨウちゃんだけだ!」

カイ!?お前..昨日の友は今日の敵か!?

「ふん!」

とそっぽを向く一輪。

俺二人からナチュラルにディスられたんだが..

しかし、一輪が突っかかってくるとはな..なんでだろうか?

「ま、まあ一輪。一晩だけ泊めてみてそこから考えてみませんか?」

聖が一輪をなだめ一晩泊めようと提案してくる。

「おぉ、流石住職!奇麗で心も広いなんてすげえ~!」

「調子いいやっちゃなお前..まあ奇麗で心が広いのは俺も同意だな」

「ふ、二人とも、褒めても何も出ないですよ」

二人で聖を称えた結果、聖は快く泊めてくれた。

喜ぶ俺とカイと聖を横目に少し不満げな顔をする一輪なのであった。

 

 

「いや~ご飯ご飯!うまそうだな~」

「おう、急にもう一品作ってもらってすまないな、村紗」

「いえいえ、ヨウマさんのご友人なんですね」

「おう、俺とヨウちゃんマブダチ~」

「はぁ..」

こいつのテンションの高さ、昔はついていけたが、今はついていけねえな。陰キャになるとな..

「いやーうまいな~ヨウちゃんいつもこんなの食ってるの?」

「おん」

「うらやますぃ~」

まずい、本当に反応に困る奴だわ。俺こんな奴と昔、友達だったのか。

 

「いや~風呂気持ちええ~」

「あぁ、そうだな」

てか亡霊って幽霊みたいなの想像してたけど、飯食えるし、触れるんだな。

 

「いやーお布団暖かい~安心して寝れるぜ」

「今まで、どんなところで寝てたんだ?」

「とりあえず、色んな所で寝てたな~」

「そうか..」

しかし、寝ることもできるんだな..てか!俺さっきまで陰キャみてえな返事とかしかしてねえ!

やばい、やばいぞ!俺ってどんなんだっけ!?命蓮寺の面々と話している時みたいになれねえ!

 

悶々としている俺に対してカイはグースカ寝ているのであった。

 

 

「さーてと、あいつのことだから絶対にまだ寝ていると思うわ」

私はようやく病気明けで復帰できる。どうせ、私がいない間に腑抜けているであろう男。ヨウマの奴をまた今日から喝をいれてやらなくては!それに、ムカついたとはいえ、私を想って安静にするように言ってくれたんだし、感謝の言葉くらい伝えなきゃ。私はあいつと違って素直なんだから!

「さあヨウマ!おきなさい!」

襖に手を付け思いっきり開ける!

 

「いやーヨウちゃん早いね~」

「お前も割と早く起きるんだな」

って二人とも起きてたわ..

 

「おう、一輪。今日から復帰だっけ?」

「え、えぇ..そうよ」

まさか、自分から起きるだなんて..

「しかし、よくこの時間に起きるってわかったなお前」

「いや~目覚めちゃってさ、寺修行ならこの時間に起きるかなって」

アハハと楽しそうに話し合う二人。少し疎外感を感じた。

でも、昨日のことだけは、伝えなきゃ!

 

「ねえ、ヨウ--

「ヨウちゃん!朝にはなにするの?」

「あー朝にはな..ってお前にここを案内することから始めるか。よし行くぞ!」

そのまま二人は部屋から出ていってしまった。

「...」

私も追いかけることにした。

 

「ねえヨ--

「なあヨウちゃん、今日の朝ご飯はなんだい?」

「今日は煮物とかかな」

「うおーマジか!」

「...」

 

「ねえ!ヨウ--

「うおおおおお!でけええムカデがいるうううう!?」

「落ち着け、そいつは俺の相棒だ!」

「相棒!?こんなのがあああ!?」

「こんなのいうな!」

「...」

 

 

「もうなんなのよ!!」

「ヒャア!?一輪さんどうしたんですか!?」

遂に私の怒りが爆発したわ!なんなのよ、あいつら!!

「もーーう!私が復帰してせっかく鍛えてやろうとしたのに!あいつったら私そっちのけで、亡霊と戯れて!!それに伝えなきゃいけないこともあるのに..」

「あー、ようするに、一輪さんはヨウマさんをカイさんに取られて悔しいんですね」

「そんなわけない!!」

「じゃあどうしてそんなにイライラしてるんですか?」

うっ..響子の一言、鋭いわね..。

「えーっと、疎外感を感じて..」

「それって、ヨウマさんとの距離が遠くなってしまったと感じてるんですね」

「う..」

響子の発言が私に突き刺さる。この子恐ろしい..

 

「おう響子、一輪。カイの奴にとりあえず、命蓮寺のこと教えておいたけど、あいつには何させておく?」

「ヒャア!?」

「あ、私聖様に呼ばれたので!それじゃあ!」

あちょっと響子!?あの子ったら..

「あー響子じゃあな。で、一輪どうする?」

「えっと、そのね、ヨウマ..あのね..」

 

「うおおおおっとおおおおお!?」

遠くからあの亡霊の叫び声が聞こえてきた。

「すまん、あのバカ何かやったかもしれん」

「あっヨウマ!」

そのままヨウマのバカは駆けて行った。

「なによ..なによおおお!!」

私の叫びが空へと消えてゆく..

 

その様子を見て、あちゃーと手を当ている響子なのである。

 

 

「はあ、お前なにやってんだよ..」

俺が駆けつけてみれば満足そうな小傘と驚いた顔をして固まっていたカイがいた。

「お前、そんなに驚くほうだっけ?」

呆れていると

「なによおおお!」

一輪の叫び声も聞こえる。もうなんだめちゃくちゃだな..

 

結局腰を抜かしたカイに肩を貸し本堂まで戻ってくる。

本堂に戻ると聖がいて、俺らの様子に驚いていたけど、適当にあしらってカイと一緒に話をすることにした。

 

「ほら喋れるか?」

「うぅ..びっくりした..」

小傘程度で驚くなんてな..いや俺も夜の墓場で驚いたが、あれは、夜でなおかつ墓場って要因がでかいから!こいつと一緒にするなよ諸君!

「とりあえずだ、カイ。お前はどうやって三途の川から現世に来たんだ?それに今までどうやってにげたんだ?」

「あぁ、その話か..俺の能力のおかげだな!」

「能力ですか..?」

そういや聖にも言ってなかったな。俺は試しに昨日カイが作ったスクリューを聖の目の前に置く。

「ほら、これ元に戻してみ」

「おん」

手をかざし、スクリューを元のロボットの残骸へともどした。

「これは..」

「こいつは物を別の物に変換する能力を持っているんだ。この金属パーツをさっきの船の部品に変えていたというわけだ」

「なるほど、ですがそれでどうやって」

「うーんと、彼岸つうのかな。まあ急に連れてこられて、閻魔の裁きがあるって急に言われて..それで俺まだやることがあるから、三途の船を奪ったんだ」

いや、奪うという発想力よ..

「でも、そん時は霊魂状態だからどうにもできないだろ?」

「三途の川の渡しの鎌とかから金属を生成して、後はモーターとかスクリューを作って船に取り付けたんだよ」

マジか..霊魂状態でここまでできるとは。だが、流石に出来すぎている..なぜだ?

「ヨウちゃんは、霊魂状態だと触れないって言ってたけど、俺はいろいろ触ることできたよ?」

「なんだと?」

「それはきっと亡霊状態だからじゃないですかね?」

聖によると亡霊は死者の霊のうち、死んだ事に気付いていないか、死を認めたくないという念が強過ぎるものが、成仏出来ずになるらしい。しかし..

「成仏できずになるって..一回彼岸にはたどり着いたんだろ?」

そう、カイは舟幽霊によって殺されたが、死を認めて彼岸にたどり着いている。亡霊とは違うはずだが。

「おそらく、彼岸に着いた時に未練が出てきて亡霊化して、曖昧な存在になってしまったのだと..そうとしか私には言えません」

「うーん、まあでもどっちでもいいと思うよ俺は。ヨウちゃんにも、もう一回会えたし、外の世界で海を旅できたし!」

「あのな、お前がよくても、俺らや閻魔様たちはよくないんだぜ」

「そうなのか?」

はあ..こいつダメだ。

「とにかく、三途の川の脱走の経緯はわかった。次にお前に聞きたいのは、俺の名字とよっちゃんって奴のことだ」

俺にとってはここが本題になる、昨日言ってた体道事は俺の名字じゃないって発言が気になる..

「あーっと、よっちゃんって引っ越しっていったんだよね?俺それくらいしか知らないけど」

「よっちゃんの名前は憶えていないのか?」

「うーん、よっちゃんってことと、体道事って名字くらいしか..ヨウちゃん覚えてないの?」

「あぁ..俺もそのよっちゃんってあだ名も抜けていた..」

「ひどーい!」

本当にお気楽なやっちゃ..

結局、俺の元の名字も体道事のこともよっちゃんのこともそこまでだった..

 

 

「はあ..何の成果もなしか..」

よっちゃんという存在のことも、俺の名字の謎も..カイに聞けば解決するかと思ったが、さらに謎が深まったぜ。

「よっちゃんか..今はどこでなにをしているのだろうか....!?」

頭が..!?すごく、痛い!なんだこの頭痛は..立っていられない..

膝から崩れ落ちる。

うっ..よっちゃん....より..みつ..?うっ!?

「はぁ..はぁ..」

よっちゃん..何か裏がある気がする..

 

 

 

~~とある場所~~

 

「人から忘れ去られているのは確認できているが、いまだに行ける気配がない..しょうがない、直接探し出していくとするか」

怪しい男の手には博麗神社の写真が握られていた。

 

 

 




割とストーリーが進んでいってますね。よっちゃんとは何者なのか..
50話まで書きたいと考えていたので25話はちょうど折り返しになりますね。


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第26話「羨望と嫉妬」

実は、前にもいいましたが、二部の方を書くことも予定してまして。平行して書くかなと考えております。
いつになるかは多分10話先になると思います(予想)
さて、なんでこんな話をするかというと第一章がほぼ折り返しくらいだからですねw



「ヨウちゃん大丈夫か?」

膝から崩れ落ちた俺に外来亡霊で俺の友人だったカイが声をかけてくる。

「いや、大丈夫だ..お前を探すの時の疲れが少し残ってたかもしれん」

とっさに嘘をつく。正直な話、よっちゃんという人物はなにか裏がある..これを同じ親友であるこいつに、言うわけにはいかないだろう。

「今日はゆっくりしたほうがいいんじゃない?」

「いや、少し休めば大丈夫だ。朝飯食い終わったら、どこか出かけるんだが、お前も行くか?」

「おお!里を案内してくれよ!ここに来る時に里は通ったけど、詳しく見れてなかったからさ」

「OK、んじゃとりあえず、飯食うか」

「おーう!ご飯ご飯!!」

こいつは本当に昔から単純で無邪気な奴だな。だからこそ、この不穏なことは隠さないといけないな。

 

 

「「いただきます!」」

さてと、朝飯の時間だ。いつも通り質素だが、これがまたうまい。

思えばカイの奴も質素な料理で十分満足しているようで、うまそうにご飯を食べている。

「煮物、おいしいね」

「あぁ、俺が来てから毎回この味だ。俺の好きな味覚えてくれたんだな一輪」

「そ、そうよ..普通においしかったからね」

「いや~一輪さん本当に射射」

「なんで中国語..」

昔よりキャラが濃くなってる気がする..濃いのは煮物だけで十分だ。

 

 

そして朝飯も食べ終えてひと段落の中

「カイさんって、三途の川から逃げてきたんですよね!逃げた後って何してたんですか!?」

響子が目をキラキラさせながら聞いてくる。まあ三途の川から逃げてきた奴なんて珍しいしな。

「いや~逃げた後はさ、現世に戻ってきちゃって、能力で廃船とかを作り変えて、とりあえず海を航海してたんだ」

「へえ~航海ってどこに行ったりしたんですか?」

航海という言葉に村紗が食いついてくる。

「色んな所を航海したな、中国とかロシアとか..正直、彼岸から逃げたこと後悔はしてないな!」

「航海だけにですね~」

「「アハハハハハ!!」」

この船亡霊コンビ..

「で、その衣装はあれか?航海するんだったらそれっぽい格好しようってことか?」

「そうなんよ、どう?趣があるでしょ?」

「趣はねえだろ..」

海賊が着る派手な赤いコートに海賊帽、しかし下に着ているのは和服..全然統一感がねえこれを趣があるという奴はキメラが好きなんだろうな..

とりあえず、カイの航海話は村紗や響子だけでなく、化け狸のマミゾウだっけなや、ぬえ、いつの間にか小傘までも集まってきて、カイの話を聞いている。あいつは喋り上手だから、話は面白い。俺にとっては、外の世界のことは珍しくないが、奴の話に引き込まれそうな、奴の話術はそんくらいの凄みがある。

いつのまにか奴を中心に輪ができており和気あいあいとしている。

流石だな、昔からお前はそうだったな..でも、なんだこの気持ちは..

少し輪から離れたところでカイの話を聞く。だが、少し居心地の悪さを感じてその場を離れた。

 

「あっ、ヨウマ少しいい..かしら?」

一輪はヨウマに声をかけるも、ヨウマは気づかずにそのまま素通りしてしまった。

「ヨウマ..?何よ、気づかないなんて!」

 

 

「はぁ、大蜈蚣」

俺はとりあえず大蜈蚣を呼んだ。呼びかけに応えるようにスルリと、素早く茂みから出てくる大蜈蚣。

「おう、今日は里に出かけるよ。そうだな、あの外来亡霊も一緒に連れていくよ..ってなんだ?」

大蜈蚣は俺の表情に違和感を感じたようで、カイのことについて尋ねてきた。

「あぁ?カイの奴となんかあったかって?別に、何も起きたわけじゃあねえんだ」

それならなぜ少し表情が曇っているのかと聞いてくる大蜈蚣。

「いやさ、なんだろうな..昔と今のギャップっていうかさ。昔と今だと俺も成長しているからさ、なんか少し距離感を感じてな..カイの奴と再会したときはもちろん嬉しかったぜ、昔の親友と出会えたんだから..ただなあ、なんだろうな..まあそういうことだ」

カイと再会して、自分が成長した影響なのか、カイといるのが少し疲れるように感じた。

それともう一つ、何か思うところがあるのだが、言葉にできない..

「はぁ..少しもやもやするんだよなー」

 

 

 

無視されたことに少しムカついたが、とりあえず本堂に向かうと。ヨウマの友達を中心にみんなが集まっている。どうやら外の世界での話をみんなで聞いているようだ。

「あっ、そうだ!ヨウちゃんとそろそろ里に行かなきゃいけないんだった。それじゃあみんな、この辺で」

「あ~そうなんですか」

「うぅ..もう少しお話聞きたかったです」

どうやらヨウマと里に行く予定らしい。話が終わり、みんな少し残念そうにしていた。

本当にヨウマと正反対ともいえるような性格をしていると思うわ。ヨウマだったら、輪の中心に入らずに端っこの方でひっそりといるだけだもの。

「あっ、一輪さんだっけ。ヨウちゃんはどこにいるかわかる?」

「あぁ、多分外に出ていったんじゃないかしら?」

「おう、ありがとうございます。しかし、話をしてたらいつのまにかいなくなってたから、少し心配したんだよね」

そのまま外の方に歩いて行く外来亡霊。

思えば、外来亡霊と再会してから、彼とヨウマは一緒に行動している。

ご飯を食べる時も、寝る時も..ヨウマの隣には彼がいる..この感じ前にもあったわ。

「雲山..私、里の女の子だけじゃなくて、彼にも嫉妬しちゃってるわ..まだまだ修行が足りないわね」

とここで私は気づいた。

『話をしてたらいつのまにかいなくなってたから』

多分きっとヨウマも..

 

 

 

「おう、ヨウちゃん。話し込んでいてすまない。それじゃあ行こうか!」

大蜈蚣と二人で門の前で待っていたら、話を終えたカイが来る。

「あぁ、んじゃぼちぼち行きましょか」

大蜈蚣は俺の体に巻き付き、いつものスタイルになる。菅傘は正直、洋服には合わないから被らねえし。それに里ではこの姿でも問題は一応ない。博麗の巫女は難色示しているがな。

「えぇ..ヨウちゃん巻き付けていくのか..」

少し引きながら聞いてくるカイ。まあそりゃあ気持ち悪いと感じるだろうな。

「いやさ、こうでもしねえと、俺のこと狙ってくる妖怪がおるからさ」

「そうか、妖怪に狙われとんのか..ほな守ろか!」

なんかエセ関西弁使ってるけど怒られないのか?(自分もたまに出る)

とりあえず、下らねえ話はおいておいて、命蓮寺の門をくぐり里を目指した。

 

 

別に何も起きずに里の門へとたどり着く。

「よし、里に着いたぞ」

「おーう!やっぱり門がでかいな!」

「そりゃあ妖怪を侵入させないようにするためだな」

思えば分類上こいつも妖怪だ..里にこいつをいれていいのだろうか?

 

「おぉ!人がいっぱいいるな!」

「そりゃあ、里だからな..」

人がいっぱいいるだけではしゃげるとは..

「ほえええ!すごいな!古い!もうね昔だ!」

すげえ目をキラキラさせて見入っている。ここに来たばかりの俺も同じような感じだったんだろうな。

二人+一匹で歩いていると見たことのある二つの後ろ姿を見つけた。

「おう阿求、小鈴、そんなところで何してるんだ?」

二人に話しかけるとゆっくり振り返る。

「あぁ!ヨウマさん久しぶり!」

「ヨウマさん..!」

阿求も小鈴も相変わらず元気そうでなによりだ。

「あの、そちらの方は?」

「あー、昔亡くした友人だよ」

「「えええええ」」

まあそりゃそんな反応するよな。

 

 

とりあえず人気のないところまで移動して、詳しい事情を二人に話すことにする。

「ここら辺なら、人がいねえし聞かれることはねえだろう」

「なあなあヨウちゃん、川が流れてるよ!」

「おう、見てきていいぞ。大蜈蚣、一応あいつのこと見ててくれ」

大蜈蚣にカイのことを任せる。なにか、しでかさないようにな。

「とまあ、阿求は色々言いたいことがあると思うが、少しの間でいいから頼む」

「本当は堂々といるのはルール違反ですが、ヨウマさんの頼みなら」

「ありがとう、阿求」

ひとまず、里のお偉いさんである阿求の許可を得た。

「しかし、どうして亡くなったヨウマさんの友人がこんなところに..」

「あぁ、どうやら三途の川の船を強奪して戻ってきたらしい」

とまあ三途の川の強奪の経緯を全て打ち明ける。

「なるほど、これはとても珍しいケースですね」

「やっぱり珍しいの?」

「えぇ、一応死者の魂が戻ってくるというのはあるのよ。でもね、三途の川の船を強奪するなんて話は聞いたことないわ」

「まあだろうな..はは」

乾いた笑いが出てくる。だってさ、強奪だぜ?普通ありえねえよというか絶対にありえねえことだぜ。

「それで、あの方も命蓮寺に所属するのでしょうか?」

「あぁ..きっとそうだろうな..」

「ヨウマさん、少し顔が暗いよ?」

「えっ?」

小鈴に指摘される。意識していなかったが、暗くなっていたのか..

「何かあったんですか?」

「いや..その..まあ、なんだろうな。少し距離感を感じてな..カイの奴と再会したときはもちろん嬉しかったし。昔の親友だからな。再会して、一日くらい一緒にいたんだが、カイといるのが少し疲れるように感じてな。それと、ここに来る前に命蓮寺の面々とあいつが中心になって盛り上がっててな、それからなんか少し沈んでいるって感じかな」

「それって..カイさんに嫉妬してるんじゃないでしょうか?」

「嫉妬..?」

阿求に嫉妬していると指摘され、そんなことない!と言おうと思ったが、嫉妬という言葉を繰り返すことしかできなかった。ずっと心で表せない俺の思い。それが嫉妬だとすれば、全て合致する。

 

「でもさ阿求、ずっと昔いた親友なんだよ?そんなことないんじゃない?」

ずっといる親友..そうか、俺は,,

「いや、阿求の言う通りだな」

「ヨウマさん..」

そうだ、昔から知っているからこそなんだ。

「ずっと昔から知っているからなんだよ。俺は昔から憧れていたんだ。あいつは話すのがうまいし、それに明るくて誰とでも打ち解けることのできる性格だ。ずっと昔っから俺とは全く持って正反対だ。そんなあいつに憧れていて、あいつのようになりたいと思っていたんだ」

「そんなに憧れていたならなんで..」

「だからこそなんだ、強い憧れはいつか強い嫉妬を生むんだ。憧れて、その人のようになりたいって思っていても結局なることはできなかった。そして、今再会して、昔と変わらずにずっとそのままでいたっていうことが、俺の嫉妬の原因なんだ..俺は成長しても人と話すの苦手だし、あいつのように輪の中心になれずにひっそりといるんだよ。あいつといると、それを突き付けられているような気がしてな..」

 

そう、例えば会社に入社して、同期にすごいやつがいるとする。最初はそいつを見てすげーと羨望し自分もそうなろうと頑張っていく。しかし、その同期が出世していくたびに自分は同期のようになれずに、何もできていないという事実を突きつけられる。そして、羨望はいつのまにか「なぜあいつばかり!」と嫉妬に変わってしまう。

 

「どうして..どうして、そんなふうになっちゃうんですか?私も阿求も親友で、時に嫉妬することもあるけど..それでも一緒にいて、とても居づらいなんてことない!」

「成長して、大人になる過程で変なプライドがついちまうんだよ。そのプライドが邪魔をしちまうんだ..

カイと一緒にいて一緒にいるのが疲れるのは、ただ単にの奴テンションについていけないというだけじゃない。俺が無力で何の取柄がねえと突きつけられていると感じているからなんだろうな。俺の器が小さいからなんだよ」

「ヨウマさん..」

 

はあ、やっぱり空気が重くなっちまうな..俺は器が小さいからな..

 

「ヨウマさん!」

「は、はい!」

小鈴に呼ばれ、思わず跳ね上がってしまった。

「いいですか!確かに、人に嫉妬してしまうことはあります。でも、それを妬んでいてもヨウマさんが変わるわけじゃないです!」

「あっああ..」

「私も阿求に嫉妬します。家はお金持ちだし、記憶力もよくて頭もいい!それでも、私は自分を無力だとも取柄がないとは思わないわ!私は妖魔本だけじゃなくて、外来語も全て読めるもの!それは阿求にも他の誰にもない私の取柄なの」

「う..うん」

「私がいいたいのは!相手のいいところをみて比較して落ち込むんじゃなくて、自分のいいところを探してそれに誇りを持つことが大事なの。そうすれば、きっとそのもやもやは解消できるわ」

「小鈴..」

「それと、ありのままのヨウマさんのことが好きな人だっているんだもの、だから無理して変えたりしないで」

そうチラッと阿求を見る小鈴。見られた阿求は顔を少し紅潮させていた。

「せっかくの友達なんだから、仲良くしてくださいね」

「はは、そうだよな..俺、どうかしてたわ。そうだよな、大事な友達なんだから、そういうの抜きにしねえとな」

 

「おーいヨウちゃん!見てみて、カメがいるよ~」

「ほら、大事な友達が呼んでますよ!」

小鈴が俺の背中をグイグイ押してくる。

「おいおい、わかったから..カメみつけたんか!!」

全く、本当にお気楽な奴だよ..でも、そこがお前のいいところだ!

 

 

 

「やっぱり、ヨウマさんはあのままでいいわ。本人は悩んでいるのかもしれないけど、少し不器用で、優しいヨウマさんのままで..」

「あんたはヨウマさん大好きだもんね」

「ちょっと..!」

「新聞見たよ、熱愛になっているなら言ってくれればいいのに」

「うっ..//」

 

『うおおおおカメ噛んできた!』

『あー、水に戻してやれ』

 

「もうわだかまりはなさそうね」

「えぇ」

 

二人で楽しそうに笑う姿を里の娘二人は微笑ましく見る。




嫉妬と羨望って誰にでも起こりうると思うんですよね~それが親しい人だとしても..

(注意)作者はそういった体験とかないのでご安心をというかカイに近い人間だからそういうの意識したことねえやw


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第27話「外の世界の情報、里の情報」

実は前回の26話が全体含めて30話目の投稿なんですね。
いやー約一カ月、大体三日以内には書いているという計算になる(多分、ガバガバ)
更新早いのはいいことなのか、はたまたそうでもないのか..わからない。

さて割と殺伐とした雰囲気出したりしてたんでほのぼの話書かねえとタグ詐欺になってしまうーーーー。
今回は外の世界関連のネタが多いので元ネタ知らねえと??じゃねえかなと思います。



「へえ小鈴ちゃんって貸本屋やってるのか~なんか外の本とかあるかな?」

「一応、前に少し見た時は日本の本も何件かあったぞ。ほかにはドイツ語だったり、英語だったり、色んな言語の奴があったぜ」

「はい、品揃えはすごくいいんですよ!」

阿求と小鈴にカイの事情を話し、小鈴のおかげでカイに対するモヤモヤも全て取り払われた俺は、今から小鈴の実家の貸本屋『鈴奈庵』へと足を運ぶ。カイも外の世界出身なので、外の世界の本を見れるのは嬉しいだろう。

 

 

「ほえー本がいっぱいだ!!」

「そりゃ貸本屋だからな」

何を当たり前のことを言っているのか..

カイは大量の外来本を手に取り、目を輝かせてページを開き、内容を見る。

「本当に色々な本があるんだね!小鈴ちゃんは読めるの?」

「はい、全部読めますよ!」

カイの質問にえっへんと胸を張って誇る小鈴。自分の得意分野に自信を最大限持てるところは小鈴のいいところだ。

「でも、文字が読めてもわからないことが多いんですよね、インド?とかって国のこととか」

なるほど、その字を読むことができたとしても、外の世界のことだから詳しく分からないこともあるのか。

「知らねえことがあったら、わかる範囲で教えるぞ」

「それじゃあヨウマさん、ベルリンの壁崩壊や、ソビエト崩壊って読んだことあるんですけど、ヨウマさん知ってます?」

社会主義の終わりの本まであるのかよ..

「あぁ、知ってるけど」

「崩壊しちゃうなんて工事が雑だったんですか?」

「うん、少し違うね..」

ベルリンの壁もソビエトも欠陥工事で崩壊してたらとんでもねえ歴史だよ..

「あとは、インドで人を丸のみにした蛇がいたとか..」

「まあたまにあるだろうな..」

「えぇ!よくあることなんですか!?」

「まあ、世界は広いしな..何が起きても不思議じゃあねえ。動物に食われていてもおかしくはねえ」

本当に世界は広い、今でもひっそり何かに食われている人もいるのだろう..

「外の世界..恐ろしいわ..」

「いや、ここも恐ろしいけどな..」

妖怪が大量にいるこの世界もなかなか恐ろしいと思うのだがな。

 

 

「お、漫画もあるよヨウちゃん!!」

「何?漫画だと!」

カイがどうやら漫画を見つけたようだ。俺はすぐさまカイの元へと向かう。

そう、ヒッキーであった俺は漫画をよく読んでいた。その影響で漫画は大好きなのだ。

「うわなっつ!」

「懐かしいよ、俺らが子供の時にやってた奴だね!」

「あーそれ、カエル型の宇宙人が地球?を侵略するって話よね」

カイの持ってる本を阿求、小鈴と共に覗き込む。

とても懐かしい漫画だ、カエル型の宇宙人が地球を侵略する、ほのぼのギャグ漫画だ。アニメ化もされてて、そっちの方をよく見ていたな~

「これで侵略者なのね..」

「見た目は可愛くて、へっぽこで全然侵略に向いてなさそうなのよね」

「そうそう、みんなこんな感じでよく侵略者できるよな」

「何..?」

このにわか共が!この小隊の実力を分かっていねえな..

「見た目だけで判断しちゃいけねえ!こいつらは小隊クラスはFだが、メンバーはこれでも全員Aクラス、つまりとても上位の実力者だ!特にこの青いのは一人で地球を堕とせる実力がある!それにーーー

 

スイッチが入った俺は、べらべらと熱く語った。もうとにかく語りまくった。もうみんな引いてる。引いていることにも気づかずにとにかく喋った。喋って喋って、喋りまくってもうこれでもか!というくらい喋った。

「つまり!こいつらはとてもすごいけど!漫画の存続のために、侵略ができていねえんだ!以上!」

「お..おうわかったよ、ヨウちゃん..」

「よーし!んじゃ中身読もうぜ!」

喋り終えて満足した俺はそのままカイと共に漫画のページをめくった。

 

 

「よ、ヨウマさんって変なスイッチ入るのね..」(ヒソヒソ)

「う、うん..私もあんなに口が回るヨウマさん初めて見たわ..」(ヒソヒソ)

「幻滅しちゃった?」(ヒソヒソ)

「そんなことないわ!!..はっ!?」

「どうした阿求?」

思わず大声を出してしまう。ヨウマさんとカイさんがこっちを向く。

「い、いえ..なんでもないですわ..ハハハ..」

なんとか誤魔化し小鈴の顔を見るとニヤニヤとイタズラっぽい顔をしていた。

「ふぎゃ!?」

ムカついたので足を踏んでおいた。

「どうした小鈴?」

「い..いえ、なんでもないです」(泣)

「そうか」

う~と唸りながら恨めしそうな顔をする小鈴に

「あんたが変なこと言うからよ」

と返しておいた。

「そうね..あんたが、愛しいヨウマさんに幻滅するわけないわ。変なこと言ってごめんなさいね!」

それでも爆弾を投下するのが小鈴である。

「〇×△VG!?!?」

私は言葉にならないことを叫んでいた。

 

 

「なあ、ヨウちゃん..」

「ん?」

「女の子って怖いな..」

「だな..」

顔を真っ赤にして小鈴に怒っている阿求と、それを見ていたずらっぽい顔をする小鈴をただただ、眺めていることしかできなかった。

なんか、愛しいヨウマがうーたらこーたらって聞こえたんだけど..

多分小鈴は阿求の地雷踏んだんだろうな。

「ねえヨウちゃん..阿求ちゃんと付き合ってたの?」

「ファ!?」

カイの奴が手に持って見せてきたのは、マスゴミ天狗が書いた、俺と阿求の熱愛報道の紙だった。

もちろんそんな事実はない!というか、お前も地雷踏むの!?

「ばばばば馬鹿野郎!!!」

 

その後、鈴奈庵の騒ぎを聞いた慧音さんに、その場にいた全員怒られたのだった。

 

「ふうとりあえず怒られちまったから、大人しく本でも読むかって..なんだこれ?」

「あーそれ、ヴィジャボードってやつです」

「ヴィジャ盤か」

ヴィジャボード基ヴィジャ盤は海外で流行った物だ。降霊術の一種で霊と会話できる..まあ、こっくりさんの外国版だと思ってもらえればいいかな。

「ヴィジャ盤って死のメッセージを出して、全部揃うとデュエルに勝つんだっけ?」

「死のメッセージもダークネクロフィアもでてこねえよ..」

闇バクラじゃねえんだから..

「しかし、アンティークもあるんだな」

「幻想郷すごいノーネ」

なんで、クロノス教諭に..あっ、アンティークか!なるほどな。

しかしまあ、こういう外の世界で知ってる物が出てくると興奮するな!

「まあ、やりてえところだが、このままそっとしておこう」

「なんで?」

「正直、降霊術なんてものは素人がやるとろくでもねえし、なおかつ俺の血の影響でどうなるかわからんしな」

そう、降霊術という点が一番不穏だ。どんな霊が来るかもわからねえ。もし悪霊を引き寄せたらとても大変なことになるだろうし、俺の血の影響でもしかしたら危ない目に合う可能性も高いというわけだ。

「そうか..ヴィジャ盤はカードゲームに限るね!」

カードゲームから離れろよ..エグゾディアそろえるぞ!

 

いやーしっかし、ゴシップ詩が多い気がするな~闇営業..そんなこともあったな~

懐かしい記事ばっかり出てくるぜ。

「えっと、こっちは..長州力ブチギレ!..どうでもいいがな」

キレてないキレてない、俺キレさしたら大したもんです。って本人も言ってるから、キレさせた奴は大したやつなんだな。

「ねえヨウちゃん!圓楽師匠って亡くなったの!?」

「また懐かしいものあるなおい!」

今は腹黒の紫の方が名前継いだんだよな..

「しっかし、流石ゴシップ本。色んな年代の出来事が書いてあって懐かしいな」

「やっぱり外の世界の人たちってみんなこの本を見ているんですか?」

「いんや、本を買う奴や新聞を買う奴はいるけど、俺はネットとかテレビで見たな」

「ネット?」

あーそうか、ネットとかテレビとかねえもんな

「まあ、情報の入り方が今は紙だけじゃねえってこった。今は知りたい情報もすぐ探せる時代になったしな」

「外の世界って便利なのね..」

「本当に便利になったねー」

カイと小鈴は関心している。ってカイ!お前ギリギリ知ってるだろ!?

 

とまあ外の世界の本をあらかた見終わった。

「ふう、しっかし、懐かしい記事が多すぎて色々盛り上がったね」

「あーそうだな。阿求と小鈴には何がなんやらわからなかったと思うが」

「いやー小鈴ちゃんありがとうね」

カイは小鈴にペコリと頭を下げた。

「いえ、お二人ともすごく楽しそうに本を読んでいたので、楽しめたようでよかったです」

カイにとっても俺にとってもいい体験ができた。

「いやさ、外の世界の本を読んでいると外の世界に帰りたいな~って思うんだよね」

「外の世界か..まあ懐かしいなとは思ったけど、別に帰りたいと思ったことはないな」

外の世界に対する未練はもう残ってはいない。というよりも、外の世界よりも居心地の良い場所を見つけたのだ。

「外の世界にはもう、興味も何もないの?」

「あったりめえだ!元からボッチなんだし、外の世界には家族もいねえ!友達もいねえ!俺の居場所もねえからよ!」

戻ってきたところで別に今より幸せになれるとは到底思えないね。

「外の世界はいいところなんだけどな..」

「確かに、いいところかもしれねえ..だが、そこにいる人間が俺を受け入れてはくれねえからよ。俺は一回打ち捨てられてんだよ。そんな俺が帰ってきてたところでだからな」

「うん..そっか」

「まあ、確かに外の世界の情勢とかは気になるわな」

アニメの続編とか気になる~シンエヴァは見ておいてよかったわ..

 

 

「それじゃあこの辺でな」

「はい、ヨウマさんもカイさんも大蜈蚣さんもお気をつけて」

「あれ、大蜈蚣いたの?」

「小鈴が百足苦手だから」

「あ~」

「ヨウマさんとカイさん、またうちにいらしてくださいね。冷やかしでもいいですから」

「ハハハ..今度何か買わせてもらうよ..」

門の前で阿求や小鈴たちと別れて帰路につく

 

 

「しかし、今回はいい収穫だったね。外の世界の本とか色々あって楽しかったよ」

「あぁ、確かにいい収穫だった。外の世界の情勢も知れたし、里の情勢もな..」

「へっ?」

鈴奈庵にあったのは何も外の世界の情報だけじゃあねえ。おそらく小鈴が残したであろう、里の出来事についても知れた。それに、あのマスゴミ天狗が書いたであろう新聞の数々。それのおかげで俺の考えは確信を得たようだ。

「お前、この里がいいところだろうって思ってるよな」

「あぁそうだけど。人間だけのところで、妖怪に襲われる心配はあるにはあるけど、それでも安心っちゃ安心ってところだしね」

「その里が妖怪に管理されているとしたら?」

「えっ?」

やっぱりな、俺だけだぜ気づいたのは。流石だぜ俺!俺の血の影響ナイス!

「いいか、妖怪と人間ってのは一方的な関係じゃねえんだ。人間は妖怪を襲うっていうだけじゃねえ。妖怪はもともと人間の恐怖心が生み出した物なんだ。つまりだ、人間がいなくなれば、妖怪もその存在を保てなくなる」

「だから、妖怪達の多いこの幻想郷に、人間の里という人間が絶滅しないための施設があるっていうこと?」

「そうだ」

妖怪は人間がいないと生きていけない、だから保護区のようなものが人間の里だ。

そして、鈴奈庵にあった里の記録や前に見せてもらった阿求の記録、そして天狗の新聞をみて確信した。

「表向きは人間が管理しているが、里の見えないところでは妖怪共が里の権利をかけて争っているな」

「なんで、それがわかるんだ?」

「天狗の新聞と阿求や小鈴の記録と照らし合わせたんだよ。天狗の新聞の記事で大体の里の人間はパ二くったりと影響されている部分が多い」

「それがどうしたんだ?」

「要は情報による支配や統制が容易いってことだ。例えば里の人間の情報源が一人の作った新聞しかないとする。そして、その新聞の影響を受けて新聞のことは本当だと思う奴が大量になった。これが何を意味するかわかるかな」

「そうか、その一人が自分の都合のいいように書けば、それの影響を受けたり信じる人が増えて..」

「そう、その新聞を作る奴が人々を動かすことができる。つまり支配と統括だ」

今の外の世界では、ネットやテレビといった多数の情報源があり、あまり情報を鵜呑みにしないように心掛け警戒している人間が多いが。里の人間は違う、情報源が人伝いか新聞しかねえのだからな。

「それに、里の違和感に気づかねえのか?」

「違和感..?」

「昔の江戸時代は誰が一番偉かったんだっけ?」

「徳川家康だね」

「じゃあ、村を収めている人物は?」

「村長..あっ!?」

「わかったか」

そう、人間の里には支配者と言える人物がいないのだ。阿求のところは他のところと比べて影響力とかは大きいだろうが、それでも支配というにはほど遠いし、実権を握っているわけでもない。少しお金持ちなご近所さんみたいなものだ。

「つまり、色んな妖怪が..」

「あぁ、人間の里から人間の支配者が出る前に、里を手中に収めたいんだろうよ」

「もし、里から人間の支配者が出たらどうなるの?」

「多分、外の世界と同じになるのかもしれねえな..」

妖怪も里も一枚岩じゃねえってこった。

外来人を積極的に喰らおうとするのもおそらくそれが関係しているんだろうな。

 

外来の情報や道具で支配者になられたらたまったもんじゃあねえだろうしな。

あいにく俺は、ここにはない道具もないし、役に立たなそうな情報しかねえし、人の上に立つ器でもねえ。

だからこそ俺は、妖怪が支配しているこの世に嫌悪感を感じている。

俺が命蓮寺に滞在を続けるのを決めていたのはその考えもあったからな..

さてと、平等なところへと帰るとするかな。

やっぱり、平等な方が俺は好きだな。

 




まだまだ、続くカイ君のおはなし。
途中ほのぼの~としてた気がするんだけど最後シリアスになっちまった..

俺はシリアスを書かないと死ぬのかもしれない。


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第28話「亡霊は何を求め彷徨うか」

いやはや、鈴奈庵とか色々読み返してみると、そんな話あったなーって思うんですよね。
なるべくキャラ崩壊とか設定におかしいところがないように原作やら漫画やら色々読んでいるんですが、思った以上に忘れてる話ありますね。
でも、塩旦那の話だけは強烈に覚えているんですよねw後味の悪いような話って、無駄に記憶に残りやすいというか、俺自身そういう話とか割と好きなんですよね。

しかーし!この物語の後味は悪くならないと思う!


「うーし、帰ってきた」

帰り道に里の真実をカイに全て話し終えたところで命蓮寺の前へと来た。

「妖怪と人間の関係か..外の世界の人間ってここの妖怪たちにとっては相当恐ろしいんだね」

「まあな、奴らは自分の存在意義を否定されると死ぬのさ」

「妖怪も大変だね」

「人間の方がもっと大変だわ」

階段を登りながら他愛もない話を続けていると

 

「お二人ともお帰りなさい!」

「おう、響子ただいま」

命蓮寺で修行している山彦の響子が門の前で待っていてくれたらしい。

「それに一輪もただいま」

「うん、おかえり」

同じく修行している入道使いの一輪も待っていてくれたようだ。

「今日はなにしていたの?」

「別にいいじゃあねえか、なにしようが」

「あんたねえ!」

「なんだ!」

結局俺と一輪はいつも通り口論を始める。もうね、なんで突っかかってくるかなこいつ!

 

「で、結局貸本屋で外の世界の本を読み漁ったのね」

「だから、そうだと言っている!早くどいてくれ..重グオオオオ」

「そっから先は言わせないわ!」

「だから重っぐへええええええええ」

俺は今組み敷かれている。正直抵抗しただけでこの仕打ちする必要がどこにある!

「悪いのはこの口か!」

「ぐむううううう」

「一輪さん..もうその辺にしましょう..」

響子に止められようやく解放された。

「はぁ..たくおもっ

「あんたねえ..!」

「すまん!」

俺は指を鳴らす一輪から逃れるために謝りながら駆けだすも

「待ちなさい!!」

すぐさま一輪に追いかけられるのだった。

 

「いつもあんな感じなの?」

「えぇ..ヨウマさんと一輪さんはいつもあんな感じです」

苦笑いしながら見るこの子の反応を見るに、二人はとても仲がいいんだな。

「ヨウちゃんもあれだな~」

 

 

「わりぃ..俺死んだ..」

結局俺は再び捕まり今も組み敷かれている。

「まだ死なせないわ。本当にあんたは余計なことしか言わないごく潰しね!」

「取り消せよ..今の言葉!!」

「何度でも言ってやるわ!ごく潰し!ごく潰し!」

こいつは許せねえ!いくらなんでも許せねえよおおおおおおおお

「うおおお、言いやがったなてめええええ。この大酒飲みのダメ修行僧が!」

「なんですってええ!?」

売り言葉に買い言葉、俺と一輪の口論は激しさを増す。

「お二人とも落ち着いて..」

「そうだぜヨウちゃん。もうこんなことはやめるんだ!ジャスティス!」

二人の静止により、ようやく解放される。

「やめてよね、本気でケンカしたら、アンタが私にかなうはずないんだから..」

某コーディネイターみてえなことを言いながら俺を見下ろし、そのまま本堂へと去っていく一輪。

一輪の言う通り、俺が一輪にかなうはずがねえ。情けない話だが、俺は弱すぎるからな..

 

服についた土ぼこりを手で払い俺は響子に問う。

「はぁ、いつにも増して、一輪の俺に対するあたりが強いと思うんだけど。響子知らない?」

「あぁ..もうヨウマさんには一生わからないと思います..」

響子は呆れたような顔をする。

あれ?俺またなんかやっちゃいましたか?

「お前のその反応を見るに、また俺がなんかやったんだろうな。何をしたのかまったくもってわからねえんだわ」

ため息を吐く響子。前も同じようなことがあった気がするな。

とりあえずなんで怒っているのかをまた考えながら、本堂に行くことにした。

 

「乙女心というのを学べばいいんじゃないかな~ヨウちゃんはそれさえ知って実行できればいいんだけどね」

「そうなんですよね~乙女心が分かれば、いつもあんなふうにならないと思うんですよね」

「そういえば、あの二人っていつも一緒にいるの?」

「えぇ、ヨウマさんが幻想郷に初めて来たときもずーっと、二人一緒ですよ!」

笑顔で二人のことを話す響子だったが、対照的にカイの顔は少し寂しげだった。

「そうか..ヨウちゃんの居場所は..」

「えっ?」

響子はカイの言ったことの意味を知りたかったが、聞く前にカイは歩き出してしまった。

「カイさん..」

 

 

本堂に着くと、なぜか正座している一輪と、命蓮寺で祀られている、毘沙門天の代理である寅丸が立っていた。本堂の空気はとても重苦しい。

そして、俺を視界に捉えると、一輪の隣に座るように促す。

圧を感じるので大人しく一輪の隣へと座る。

そして重苦しい空気の中、寅丸代理の口が開かれる。

「二人とも、前に言った私の警告は覚えている?」

「「はい、すいませんでした」」

とりあえず俺も謝っておいた。

怒られた内容は境内で騒ぎすぎたことだった。

「全く、前にも言ったと思いますが、二人とも落ち着きがなさすぎる!」

「「うっ..すいません..」」

「それに一輪、少しヨウマさんに厳しすぎじゃないですか?」

「うっ..それはこいつが!」

「別にヨウマさんはやましいことも悪いこともなにもしてないでしょう!」

「うっ...」

はっ、怒られてやんの、ぷぷぷ

「どうして、そんなにヨウマさんに対してあたり強いんですか?」

「うっうう..」

粘るな一輪のやつ。そんなにいいたくないことなのだろうか?どうしてそこまで言いたくねえんだ?

「ま、まあその辺にしておいてくれ。俺はいろいろやらかして心配させまくったから、それで厳しくなっているんだろう。だからそんなに責めないでやってくれ..」

それを聞いた寅丸代理は驚いた顔をするも、すぐに元の厳格な顔に戻り

「そうですね、ヨウマさんも改めて心配をかけさせないように、前のように里で泊まることになったりしたときは大蜈蚣を使って状況を伝えてください。一輪は少しはヨウマさんへのあたりを弱めなさい。話は以上です。それではご飯を食べましょうか」

寅丸代理は話を終えて飯を食うべく立ち去っていった。

ようやく、話が終わった。

 

 

「ふう、まあ次はお前に怒られないように、詳しいことは話すからよ、あんまり心配せんでもええで」

「う..うん」

寅丸さんは話を終えていなくなり、本堂には私とヨウマしかいない..今がチャンスだ!

「ね..ねえヨウマ..」

「あっ、なんだ?今まで俺へのあたりを強くしたことの謝罪か?別に謝らんでもええよ」

「違うわ!えっとね、昨日と一昨日なんだけど..」

いざ感謝の言葉を伝えるとなると..うまくでないわ..

「えっと、昨日と一昨日なんだけど、私のこと..色々..その..ゴニョゴニョ..」

「あ?はっきり言ってくれねえとわからんぜ」

あーもう、なんで言葉が詰まったり、小さくなっちゃうのかしら..

「あのね--

「おーい、ヨウちゃん!飯の時間だ、早く食おうぜ?」

「おうカイ、少し待っててな。すまねえが、飯食った後でいいか?」

言おうと思った直前にあの亡霊のヨウマを呼ぶ声がして、ヨウマはそれに応じる。

「う、うん..ご飯食べた後にね..」

「おん、すまんな。カイいま行くから」

そのままヨウマは立ち去ってしまった。

雲山は心配そうな顔で私を見てくる。

「悲しそうな顔をしているって?うん..そうかもね..」

正直、あの亡霊が来てから、あいつの隣には亡霊がいるようになった。あいつが小さい時からずっと一緒にいるんだなってことが彼らの関係から見てわかる。

きっと、私の知らないヨウマの部分もたくさん知っているんだろう..

「ヨウマの隣にはあの亡霊がいる。それは今も昔も変わらない..とても羨ましいわね」

静かに思いを吐露しながら、私はヨウマから貰った青翡翠の腕輪を撫でる。

「でもね、例え彼の隣に一番にいられなくても..私の思いは変わらないわ!さて、私も早くみんなの所にいかないと!」

私は頬をバシッと叩きシャキッと顔をして本堂を出た。

 

 

「いやー今日もうまかったなー」

「肉とか魚はないとはいえ、普通にご飯や煮物がとても美味しい。命蓮寺の飯は健康的でうまいな」

「あっそうだ、少し夜風に当たっていいか?」

そう言って境内へと向かうために駆け出すカイ。

「今普通に夜は冷えるぞ。風邪ひくなよ!」

「亡霊だから風邪ひかねえよ〜」

そうだった、こいつ亡霊だったわ..

そのまま、夜の境内へと駆けていくカイの背中を見て、俺も行こうと思ったが、風が冷たくて行くことを断念する。亡霊にはなんともない..か。

 

「ヨウマさん..今よろしいでしょうか?」

「あぁ..聖か、話は分かっている」

話しかけてくる聖の顔を見ればわかる。少し言いづらそうな顔をしていた。

だから俺は聖が言う前に口を開く。

「カイのことだろう?」

「はい..」

そうだ、あいつの件にケリをつけなければならない。

あいつは死者だ、本当はここにいるべきではないのだから..

 

 

 

「俺の居場所はやっぱりここじゃあねえな..」

空を見上げる。月は雲に隠れ、夜の冷たい風が俺の体に打ち付ける。

とても、とても冷たく、暗い。それはまるで、俺のいるべき場所が"これ"だとというように..

それもそうだな..俺は..

「死んでいるからな..」

死人で、脱走したのはもっと世界を見たかったからだ。俺の居場所は大海原だと思い込んでいた。

自分の居場所は海だ!と叫んだ親父も、歴代の数多の海賊たちも、死ねば冷たく暗い世界へと行く。

死んで幽霊になれば、二度と外の世界へ..自分の居場所へと戻ることは出来ない。

新しい居場所は..冷たく何もない死者の世界なのだから..

「それでも..俺は..見つけてみせる!」

 

 

死者は何を求め彷徨うか..人は誰でも自分の居場所を求める..それは死者も例外ではない..

 

 




いやーすげえ時間かかってもうて申し訳ない!
なんか、少し筆が遅くなってしまったんだよね


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第29話「赤より紅い館と黒より漆黒の空」

いやはや、投稿ペース落ちてしまったことはイカンですわ。
少し戻さねばいけませんね。
大体三日以内には書けていたんですが..年内は三日のペースで書きたいですね。
1月からは少し忙しくなりそうです。

さて、まあ俺の話はおいておいて。今回はカイ君の視点が多くなりますね。


「やはり、カイは死者の世界に行かなきゃならないよな..」

「えぇ..やはり..」

その問いに静かに口を開く聖。

「本来はまあ、輪廻転生なり、地獄に行くというのが地上で生きる者の定めだ。それに抗うことは出来ないし、死者は決して蘇ってはいけない..まあ、明日には死神と閻魔様の元に送らねばならねえな」

「いいのですか?」

「あぁ、奴を引き留めてしまったが、それは行く前に話や思い出を少しでも作りたかったんだ。ずっと、あいつを..カイを忘れないためにな」

少しの間でも、少ない時間でもいい。俺はあいつとの思い出を作りたかった。あいつが、死者の世界に行っても寂しくないように..

「それに、ずっと言いたかったこともあるんだ」

「言いたかったこと?」

「あぁ、それはあいつとお別れするときに伝えるつもりだ。そろそろ、境内で夜風に当たっているあいつを呼びにいくから。おやすみ、聖」

「はい、おやすみなさい..」

聖は律儀に頭を下げ、自分の部屋へと戻っていく。

 

さてと、早く寝ねえと明日起きられねえからな..

「おーいカイ、そろそろ寝っぞ!」

俺の声が境内に響くも、返ってくるのは夜の静けさだけだった。

「おい!寝っぞ!」

もう一回呼びかけても何も返ってこない。

あいつ、何やってんだ?しゃあねえもう一回

「寝っぞ!」

「寝っぞー!」

「は?」

返ってきたのはいつのまにか隣にいた響子の素っ頓狂な声だった。

「お前なにしてんの?」

「あっ!?すいません..山彦なんでつい..」

そういえばこいつ山彦だったな..

「全く!今カイの奴呼んでたんだよ!こうしてやる!」

「ヒャア!?手冷たいです~」

ムカついたので、冷たくなってるであろう手を響子の頬に押し当てると響子の悲鳴が上がる。

その反応が面白いので長く押し当てた。ヒャア――と冷たそうにしている響子を見て若干可愛いなーと思った。

って!こんなことしてる場合じゃねえ!

カイの声が返ってこないってことは、あいつになにかあったのかもしれん!

「風が冷たいだろうが、しゃあねえ。カイの奴に何かあったかもしれん!行くぞ!..って、いつまでそうしてるんだよ!」

俺は自分の手で必死に頬をさすっている響子に声をかける。

「ヨウマさんが冷たくするからですよ~」

「いいから!はよお前もこんかい!」

「うぅ..いじわる~」

恨めしい顔をする響子を引き連れて夜の境内を見回る。

しかし、カイの奴の姿が一切見つからない。墓場には小傘が相変わらず脅かしに来るだけで、小傘に聞いても知らないとのことだ。

「墓場にもいねえとは、どこ行ったんだ?」

「もしかしたら、こっそり戻っている可能性も!」

「なくはねえな..行くぞ!」

「はい!」

急いで自分の部屋へと直行した。

 

「カイ戻ってるか!」

「ちょおおおお!///」

「何してんだ!?」

俺の部屋の襖を開いて真っ先に目に飛び込んでいたのは、俺の布団の中に潜り込んでいた一輪だった。

一輪は慌てて俺の布団から出て。

「慌てているみたいだけど、なにかあったのかしら?」

平静を装っていやがる。色々ツッコミてえところだが、今はどうでもいい!

「なあ、カイ見なかったか?」

「ううん、あの亡霊はずっとアンタと一緒にいたはずでしょ?」

「なん..だと..」

俺は絶句した。こんな夜に出歩くなんて、自殺行為じゃあねえか!

「早く探しにいかねえと!」

「待ちなさい!」

「待てるかよ!」

一輪の止める声を振り切って探しに行こうとするも響子と雲山に立ちふさがれた。

「今ここでヨウマさんが出ていく方が危険です!」

「止めないでくれ!あいつをもう一度死なせてたまるか..」

「死なせないって、もう死んでいるのに?」

「あ..」

一輪の言葉でようやく冷静になれた。このまま勢いよく出ていけば俺の方が危険になるであろう。そのことに気づかなかった..

「今は友達のことは心配だと思うわ。残念だけど、今アンタができることはないわ。だから朝になったら、すぐに探しに行きましょう。だから落ち着いて」

「あぁ..すまん」

「それじゃあ、明日のために寝るわよ」

そのまま、俺の布団へと入る一輪。

「それ、俺の布団なんだが」

「あ!えっと..細かいことは気にしないで明日に備えて寝ましょ!」

「あぁ..もういいよ」

しょうがないから、もう一つの方の布団へと入った。

「私も一緒に寝ていいですか?」

響子が一輪の布団に潜り込む。

「私もカイさん探しのために協力します!ですので私も一緒に入れてください~」

呑気な野郎だ..だが、一輪の言う通りだ。今俺にすべきことはない。今できることはしっかり睡眠を取って明日に備えるだけだ。

カイ..また、いなくなっちまうのか..

 

 

「ヨウちゃんに一声かけるべきだったかな?いや..その必要はないか..」

かつての友の顔を思い浮かべて、夜の道を歩き続ける。周りは暗く人間ならば、何も見えていないと思う。でも、俺は亡霊だ。生きているときに夜釣りを何度も経験しているから、暗いところも慣れている。それに亡霊になった影響かな、一応は道が見えるようになっている。

妖怪の時間とヨウちゃんは言っていたが、その通りだ。複数の妖怪が暗い道をうろうろしている。俺の姿を見ては、物珍しそうにジロジロ見ている。割と奇抜な格好しているってヨウちゃんも言ってたしな。やっぱり珍しいのかな?

居場所を探すといって出てきたが、俺は亡霊だし、行くべきところの海もここにはない..

「しょうがない..湖に行くか..」

湖も海みたいなもんでしょう!

しかし、湖に行くには里を通る道しか覚えてない。

ヨウちゃんがいたから俺がいてもよかったんだけど、俺がいるとな..

通るべきか、通らずに新たな道を探すか..うーんと腕を組んで考え事をしていると

「うーん..ってえぇ!?」

いつの間にか湖についたようだ..なんでだろ?

「ちょうどいいや!里を通るか悩んでいたしな、もしかしたら考えている間に近道を通っていたんだな、ラッキー!」

疑問よりも、里を通らずに湖についたことが嬉しくてとりあえず考えるのをやめた。

 

夜の霧の湖は、霧が出ておらず周りをよく見渡すことができた。

昼間にしか霧が出ず、夜には霧がないというのはとても不思議だけど、考え出したらキリがないってね。

なんだろう、風のせいかな..さっきより寒い気がする。

霧がない湖は新鮮だ。ヨウちゃんに見つかった日に初めてここに訪れたから霧の出ている湖しか知らない。

なので、霧のないおかげで湖の全体の大きさを見ることができた。

「いや、これを海と勘違いしてたの恥ずかしいな..」

そう、思った以上にでかくなかった..これを海と見間違えてた俺はアホだと思う。

「ん?なんだあれは?」

霧のない湖を見渡していると、一つの建物を発見した。

とても、紅い屋敷。紅い屋敷..シャアか!?

とりあえず、少しだけ様子を見てみるか。

 

「いや本当に紅い..」

深紅に染まった屋敷で時計台がついており、館には窓が非常に少ない。周りの景色に対してとてつもなく浮いている。これ外の世界だと多分訴えられるんじゃないかな?

館をよく見たいから門の方へと近づくが

「あっ、そこの人。ここから先は進入禁止ですよ」

女性の声に止められる。

「あぁ、すいません。紅い屋敷が少し珍しくてつい..」

咄嗟に謝り、声の主を見る。華人服とチャイナドレスを足したような服を着ていて、赤髪のロングヘア―に帽子を被っている女性だった。口調と声の感じから温和な感じがする。その人は笑顔で俺に語り掛ける

「確かに、紅いと少し珍しくて近づいてしまいますからね~ってこんな夜中に外にいるなんてどうしたんですか?」

「いや~気分転換で夜風に当たりたいなって..月もこんなに奇麗だし」

「あははは、変な方ですね。今は新月で月は出てないですよ?」

そうか、新月だったんだ。

 

「それに気分転換にここに来るなんて、相当お強いんですね」

「いや、その..」

「その方は人間ではないわ」

とまた声がして赤髪の女性かと思い見るも首を横に振っていた。どうやら別の人の声らしい。

周りをきょろきょろしていると目の前に急に銀髪のメイドさんが現れた。

「うおっと!?あなたは?」

「私は紅魔館でメイドをしている十六夜咲夜です」

「あぁ..どうも。オオハラカイです..」

丁寧にあいさつをする咲夜さん、俺も思わず名前を名乗ってしまった。

「あっ、私は紅美鈴です」

「あっ、わざわざありがとうございます」

門番の美鈴さんにも丁寧に頭を下げておいた。

「カイ様、唐突ですが、この館の主があなたに会いたがっていまして」

「紅い館の主..シャアか?」

「いえ、この館の主人はレミリア・スカーレットと申します」

渾身のボケを真面目に返されてしまいとても恥ずかしかった。

どうやらレミリアって人は俺に会いたがっているらしい..面識はないはずなんだがな..

 

美鈴さんが門の扉を開けてくれて、咲夜さんの後ろをついていく。庭の道も紅く、なにもかもが紅い。

おそらくこの館は色んなものが三倍なのだろう。

そんなことを考えていると前を歩いていた咲夜さんの動きが止まる。まだ庭だというのに

「えっと?」

「この先に主人は待っておられます」

「はぁ..」

咲夜さんに促されて庭の道を進んでいく。すると、机と椅子が用意してあり、そこで紅茶を飲んでいる二人の少女の姿が見えた。一人は青みがかった銀髪にウェーブがかかった髪型をして帽子を被っていて背中にコウモリの羽根が生えている少女。もう一人は長い紫髪にこれまた帽子を被って本を読んでいる少女の姿だ。

コウモリ羽根の少女はおもむろに振り返り、俺の姿を見つけるとクスリと笑い。

「あら、あなたが運命に背いて現世に来た亡霊かしら?」

っつ..!?なんでそのことを..

見た目は子供なのだが、強者のオーラというのだろうか、それに気圧されしまう。

「そんなに怯えなくてもいいわ。さ、あなたも紅茶でもいかがかしら?」

もう一つの椅子の方を指差し、座るように促す。俺は無言で大人しくその席に座った。

優雅なお茶会が始まった。

 

 

「それじゃあ改めて、初めまして、レミリア・スカーレットよ。この館の主をしている吸血鬼よ」

「俺の名前はオオハラカイです」

「そう、カイっていうのね」

見た目は幼い少女だが、この子の立ち振る舞い..そしてレミリアって名前。ここの館の主なのか。

「パチェも挨拶したら?」

そういうと、視線をもう一人の紫髪の少女に向けた。

そういわれた長い紫髪の少女は溜息を吐いて、読んでいた本を閉じて俺の方に視線を向けて。

「パチェリー、魔法使いよ..これでいいかしらレミィ?」

そう素っ気なく自己紹介してすぐに本を読むことを再開させる。

「パチェはいつもこんな感じだから気にしないでね」

「はあ..」

とりあえず、ティーカップの中に入ってる紅い紅茶を口に運ぶ。味の方は微妙だった..

「ごめんなさいね、咲夜は変なものを紅茶に淹れる癖があるから。無理して飲まなくてもいいわ」

「いえ、別にまずくはないですよ..ははは」

一応お世辞を言っておいた。って、そんなことよりもだ

「どうして、俺を呼んだんですか?」

「興味を持ったから」

「興味?」

首をかしげる俺をみて、レミリアさんはとても嬉しそうに語る。

「人は死んで死者の世界に行く運命なのだけど。それに抗い、現世に戻ってくるというところに惹かれたわ。絶対の運命に背く人間なんて初めてだもの」

「運命..」

「あぁ、言い忘れていたわね。私は『運命を操る能力』を持っているの。だからあなたの運命とかも見ることができるの」

「俺の運命を見れる..それなら聞きたいことがあるんです。俺の今後は..俺の運命は!どう動きますか?」

俺はレミリアさんに頭を下げて自分の運命を教えてほしいとお願いした。その姿を見てレミリアさんはまたクスリと笑い。

「いいわ..でも、もしかしたらあなたの望む運命じゃないかもしれないけど、それでもいいかしら?」

 

俺の運命..俺の居場所..それのためなら俺はどんな運命も受け入れて見せる..

俺は悪魔の誘いに..

「えぇ..お願いします..」

乗った...

 

 




さて、まさかの紅魔館初登場。
カイ君の運命はどうなるのか!


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第30話「赤より紅い運命」

30話目まで来ましたー
ここはターニングポイントになるのではないでしょうか!
とまあ、半分くらい来てしまったのかもしれないですね。
第二部のスタートもおそくはないですね。それでは皆さん赤より紅い運命を..


 居場所が欲しかった。その気持ちが出てきたのはいつからだろう。

僕は広くて青い海が大好きだった。全てを受け入れてくれる、そんな海が大好きで、その海を渡る船の上が自分の居場所だと思っていた。だから、お父さんから貰った『海(カイ)』って名前がとても嬉しかった。

そんなある日のこと、いつものように夜釣りをしようとお父さんに誘われて船に乗った。夜の船はとても静かで寝る時のやすらぎのようなものを感じていて、一生船の上にいたいと思っていた。

でも、海はただ優しいだけじゃなかったんだ..

『なんだあれ!?』

『お父さん何あれ!?』

無数の手が海から生えていた。その手たちが僕達の船に群がってくる。どんどん船に水を淹れていく。

『舟幽霊か..』

『舟幽霊!?』

徐々に船は沈んでいった。お父さんは絶望に歪んだ顔をしていたけど、僕はどこか満足だった..

大好きな海と一緒になれるって..とても嬉しかったと思う。

『あぁ..海と一緒に..』

息ができなくて、とても苦しかったけど..それでも僕は満足できていた。

 

目が覚めると船に乗せられていた。漁船でもクルーザーでもなく、昔の手で漕ぐ船に。

体を起こして周りを見回してみても、何もない無限に続く水。船頭に声を掛けようとしても声が出てこない..

それに着ている服は死装束だ。ここで、僕は自分が死んで三途の川を渡っていることを自覚した。

『海と一緒にいられると思ったのに..』

海への執着、それが僕の..いや、俺の逃げた理由だ。

 

彼岸にたどり着いた時に俺は死神達の持っていた六文銭を奪った。他の魂たちは人魂の姿をしていたが、俺だけはなぜか生前と同じ姿だった。死神達はまさかの抵抗に動揺して、六文銭や死神の鎌を強奪するのは容易かった。そして、それを作り変えてモーターを作り出し俺は三途の川を逃亡した。

 

「逃亡した後は現世に戻ってきた..これがあなたの経歴かしら?」

「えぇ..間違いないです」

「なかなか壮絶な運命じゃない」

「いや、そんな..」

運命を操る能力を持っている紅い館の主で吸血鬼のレミリア・スカーレットさんは俺の経歴を褒めてくれるが、そんなに褒められることでもないと思うんだけど。

なぜ、俺の経歴を振り返っているかというと、俺の今後の運命を知るためだ。運命を操るだけでなく、運命を視れるという。俺は今後自分の居場所が見つかるかどうかを知りたかった。

 

「それじゃあ、経歴を確認したことだし、カイの運命を単刀直入に言うわ。あなたは二度と海に行くことは出来ないし、居場所にたどり着くことはないわ」

「そんな..」

レミリアさんから突きつけられたのは、海に行くことができないという事実。それは俺の居場所はないというに等しい。俺はショックのあまり、持っていたティーカップの紅茶を飲みほした。まずい..

「なんとか、なんとかならないんでしょうか!?海がねえなら俺の居場所は..」

「カイは、どうしてそんなに居場所が欲しいの?あなたはどんなものを求めているのかしら?」

「それは..」

レミリアさんに聞かれて、言葉に詰まる。なんで、居場所をすごく求めているのか..

「羨ましかったから..」

俺の口から不意に言葉が出た。

 

 

俺は亡霊で住むべきところも、帰るべき場所もなかった。ただ、船に揺られて海を一人で漂っている。一人の孤独も、海と一緒ならばと思った。あの日までは..

ある日、船がぶつかってばらばらになってしまい、陸に上がった。そして、船の材料を探しているときに無縁塚にたどり着いた。そこで道具屋さんから材料を譲ってもらって霧の湖に船を出して、また一人旅を続けようと思っていた。でも、

『なあお前亡霊だろ?』

かつての友達と出会った。そして、ヨウちゃんと一緒に行動して俺の中にある感情が出てきた。

羨ましいという感情が。たくさんの人に囲まれて、とても楽しそうに暮らしているヨウちゃんが..

「羨ましいと思ったんです..」

それを聞いたレミリアさんは嬉しそうに笑い。

「そう、あなたが求めていたのは海じゃない..あなたは誰かといることを求めていたのよ」

レミリアさんのセリフが俺の記憶を呼び覚ます。

そうだ..そうだ..俺が逃げたのは..あの日俺が逃げたのは..

ヨウちゃんやよっちゃん、残されたお母さんや友達のみんなの顔が浮かんだから。暗い死者の世界に一人になりたくなかったからだ..

「そうだったんだ..俺は一人になるのが嫌だったんだな..」

だからこそ、ヨウちゃんを羨ましいと感じた..それにヨウちゃんと命蓮寺のメンバーに感じた疎外感。それが俺を駆り立てたんだな..

「そして、あなたの今後の運命だけど..カイは一人じゃないわ、今もカイのことを大事に想っている人もいる。居場所にたどり着けないわけじゃない。既にたどり着いていたのよ」

「ははは、意地悪な人だ..最初っからそれを言ってくれれば、俺はショックを受けて紅茶を飲み干さなかったのに..」

「ふふふ、ごめんなさいね」

クスリと笑うレミリアさんの姿がとても奇麗に感じた。幼いイメージだったが、この人すごい人だ..

「そうだ、カイ。外の世界について少し教えてくれないかしら?今の外の世界は何があるのかしら?」

「いやー海にいることが多かったんで、お気に召す話はないと思いますよ?」

「構わないわ、話してちょうだい」

心の中のもやもやがすっと晴れたところでお茶会を再開した。

他愛もない海での話をするも、レミリアさんは目を輝かせてグイグイ聞いてくる。こういうところは少し子供っぽいのかな。

話を続けていくと、昔の話を聞かれたので、よっちゃんとヨウちゃんの話をした。

「へえ、特別な血を持っているのね、そのヨウちゃんっていうのは」

「一応幻想郷にいるんで、いつか会えるんじゃないですかね?」

「よっちゃんって男のことも少し気になるわね」

「えぇ..私もとっても気になりますわ」

「ほえ!?」

俺の後ろから、レミリアさんともパチュリーさんとも違う声がし、振り返る。

「あら、紫来てたの」

「えぇ、少し面白そうなお話をしているみたいなので」

紫のドレスに、長い金髪に帽子を被っている。可憐な少女に見えるけど、レミリアさんに似たオーラを感じる。

「そのよっちゃんっていう人物について少し知りたいのだけど、話していただけますか?」

よっちゃんのことをなぜ知りたがっているのかわからないけど、二人から話すように言われたら話すしかないね。

 

 

 

「やっぱり、俺には無理だ!」

俺はそーっと布団から抜け出し、お守りを大量に懐やらポケットにしまいこむ。

響子と一輪は寝息を立てて熟睡している。今がチャンスだ。

襖をそーっと開けて抜け出す。

新月なのか、完全な闇になっている。大蜈蚣を呼ぶも、大蜈蚣の方も俺を見つけることができずにいるらしい。

「大蜈蚣!声の方向でわからないか?ってやべえ、大きな声出してはいけねえ」

ようやく大蜈蚣を見つけた俺はそのまま奴を巻き付かせる。

完全な闇、おそらく妖怪共もうじゃうじゃいるが、カイのためだ..俺は覚悟を決めて歩き出そうとする

「やっぱりね..」

「一輪..!」

振り返ると、一輪が立っていた。どうやら彼女も寝ていなかったようだ。

「止めないでくれ一輪。俺はもう、あいつを失うわけにはいかねえんだ..」

「わかっているわ」

一輪が言い終わったと同時に雲山の手が俺と大蜈蚣を掴んだ。

「アンタのことだから、どうせこうなるってわかっていたわ。それに、友達は大事だからね」

「一輪..本当にありがとう..」

微笑みかける一輪をみて、俺は思わず涙を流してしまった。

「さあ、行くわよ雲山」

俺と一輪は夜の空を飛ぶ。

「って、飛び方なんとかならないんか?」

「我慢しなさい!」

 

 

 

「これで、よっちゃんについて知ってることは以上です」

「そう、ありがとう話をしてくれて」

「えぇ..これでようやく理解したわ..」

「?」

お二人の意図がわからないけど、とりあえずよかったのかな..

「そうそう、カイ。門の方に向かった方がいいわ」

「へっ?」

唐突なことに思わず目を点にさせてしまった。

「ほら、いい運命が来るから」

「レミリアさんがそう言うなら..」

レミリアさんは運命を視れるから、こういわれた素直に従うしかない。

席を立ち、門の方に向かう。途中立っている咲夜さんにお茶のお礼をした。

 

 

「よっちゃんね..彼がカイやヨウちゃんの運命だけじゃなくて、幻想郷の運命に大きく影響するわね」

「やっぱりね..ヨウマさんは彼のことを忘れていた..これは守矢の神が幻想郷に来るのと同じものを使った可能性が高いわね..」

「まあ、これがどう転ぶのか私にはわからないわねって..いなくなるのが早いわね」

いつの間にかいなくなった紫、彼女の思惑は。

 

 

「あれ?もうお帰りですか?」

「いや..なんか門の前に行けってレミリアさんが..」

とりあえず門に来てみたんだけど何も起きない..

ふと、空を見ると

「あ!」

ヨウちゃんと一輪さんと、入道のおじさん?が空を飛んでいた。

俺は二人の姿をみて心が高鳴った。

『今もカイを大事に想ってくれている人がいるわ』

そうですね、レミリアさん..俺は既にたどり着いていたんですね。ヨウちゃんと再会してから..

「ヨウちゃーーーん!!」

思いっきり手を振り二人を呼んだ。

もう冷たい風は吹いていなかった。

 




しかし、レミリアとカイが話している間もずっとパチュリーさんは本を読んでいたんですね..すごいな


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第31話「亡霊は妖々の夢を見る」

東方のタイトルを小説のサブタイトルに入れたいなって思いました。

関係ない話なのですが、ウマ娘プリティーダービーのアプリで私が大好きなタマモクロスが実装されました。
タマモクロスのレースをうちの母は実際に見ていて母も大好きな馬だったんですね。
親子二代タマモクロス大好き人間でございます。



 俺の運命は、いい運命だ。そうだろう?ヨウちゃん..

俺を迎えに来た生前からの友である、ヨウちゃんを抱きしめる。

「カイ..どこ行ってたんだ、本当に心配したんだぜ..」

友の口から安堵の声が出る。

「へへ、心配かけてごめん..」

「いいってことよ」

友の優しさが今の俺の心に染み渡った。

 

 

ふう、ようやく逃亡していたカイを見つけることができた..どうやら怪我もなく無事でいてくれたようだ。

しっかし、なんかいきなり抱きしめられて感動的なムードになってる..

でけえ門の前に立っている中華服の赤髪の女性が目頭を押さえている。泣くところちゃうやろアンタ..いや、一輪と雲山もかよ..

「とりあえず、苦しいから離れてくれねえか?」

「あぁ..悪いね..」

照れくさそうに俺から離れるカイ。まあ、こういうところは昔と変わっていない..

カイに気を取られていて気づかなかったが..

「この館、紅いな!シャア専用か?」

「ヨウちゃん..それ俺も思ったよ」

「だよね!?」

真っ赤すぎる館、周りの景色をガン無視している..これ外の世界だと訴えられるんじゃねえか?

 

「私の言った通りだったみたいね..そうでしょ、カイ?」

カイを呼ぶ幼い声..青みがかった銀髪にコウモリの羽根がついている少女..なるほど、吸血鬼の館だったのか..

「あなたがヨウちゃんかしら?随分面白い運命をしているのね」

ヨウちゃんって...まあしかし、幼い見た目に反してオーラがすごい..こいつは大物だな。

「あぁ、そうだ。うちのダチがどうやら世話になったみてえだな。礼を言っておく」

「別に、カイには面白い話をしてもらったし」

吸血鬼にしては話の分かる奴のようだな..

「それで、ヨウちゃんとそこの入道使いもお茶でもいかがかしら?」

「生憎だが、明日に備えなきゃいけねえからよ。これで帰らせてもらうぜ」

「そう、残念ね..」

吸血鬼は残念そうな顔をするが、すぐに元の表情に戻り。

「最後に、ヨウちゃんとカイに一つずつ言いたいことがあるわ」

「「言いたいこと?」」

「まずはカイね、あなたはこれからもずっと一人じゃないわ..ずっと誰かがあなたと一緒にいてくれるわ..たとえ死者の国に行ったとしてもあなたの今いる場所も人も変わらないわ」

「レミリアさん..」

なるほど、ようやくカイの出ていった理由が分かった。命蓮寺に居づらくなって自分の居場所を探そうとしていたのか..んだよ、悩んでるなら言ってくれりゃあいいのによ..水臭いじゃあねえか。

「それとヨウちゃん」

ずっとヨウちゃん呼びで、どこかむずがゆいな。

「そうね、この先新しい困難があるわ..でもあなたなら大丈夫よ」

「それって、どういうことだ?」

「さあ、詳しいことはまだよくわからないけど、近いうちにくるとだけは伝えておくわ」

「それは、警告として捉えればいいのか?」

「うーん、どうかしら。命にかかわることか..はたまた、パートナーに関すること..かしらね」

どういう意味だ?こいつの言ってることははっきりしねえな。

まあとりあえず、これで話は終わりだ。

 

俺とカイは雲山の手に乗り、レミリアや門番たちに見送られながら、紅い館を離れる。

レミリアの警告に引っ掛かりを覚えつつも、もう夜も遅い。とりあえず寝て明日考えることにしよう。

 

 

「カイとヨウちゃんか..面白いわ」

「レミィ..あの亡霊とヨウちゃんってのが気に入ったの?」

「もちろん、カイは運命に抗ったところが気に入ったわ..ヨウちゃんの方はこれからの過酷な運命にどう対処するかが気になるわ」

月のない空は不穏な雰囲気を感じさせた。

「紫の感じからして、おそらくこの幻想郷にもそう遠くない日に運命が大きく揺れ動くかもしれないわ..それに、何人かの外来人がここに来る..はたして彼らにはどんな運命があるのか楽しみね」

レミリアは不敵に笑う..彼女の見た運命はどうなっていくのか..それは未来にしかわからないのかもしれない。

「あーそうだ。咲夜、変な物を紅茶に淹れないでちょうだい!カイもまずそうな顔していたんだから!」

吸血鬼たちのお茶会はまだ終わらない。

 

 

「いや、そのヨウちゃん..勝手なことしてごめんなさい!」

俺は心配して探してきた友に名一杯頭を下げる。ヨウちゃんからの返事はなく、静寂が訪れる。

「ヨウちゃん..」

恐る恐る頭を上げると

「うお!?」

ヘッドロックを掛けられた

「お前な..!そんなに思いつめるんだったら俺に相談しろよ!友達なんだからよ!」

「いてててて..ごめんってヨウちゃん!」

「たく!水くさいんだよ!そんなに俺は信用できねえんか!?」

「違うって..」

「問答無用!」

ヘッドロックを掛けられて痛かったけど、ヨウちゃんはやっぱり優しいな..

「もう、遊んでないで、早く寝るわよ」

「「はーい」」

 

 

「「「おはようございまーす!!!」」」

昨日のことは夢だったのかと思うように、何事もなく朝が来た。

ずっと眠っていた響子は朝になって、戻ってきたカイにびっくりしていたが、いつものように三人で境内の掃除だ。もちろん挨拶付きでな!

「おはようございまーす」「おはようございまーす」「おはようございまーす..ってブックオフかよ!?」

いつも通りの一日が始まると思っていたんだ。

「邪魔するよ」

声のする方向を向くといつぞやの赤髪のツインテールでサボってばっかりの死神が立っていた。

どうやら聖は早めに行動をしていたんだな...

「要件は..って言わなくてもわかる」

「あぁ..住職に聞いたよ。でもね、これも仕事だからさ」

そう、死神が来る理由はたった一つ。カイを連れ戻しに来たことだ。

「響子、すまんが聖達も呼んできてくれねえか?」

俺は響子にみんなを集めてもらうようにお願いした。

深呼吸をして心を落ち着かせて..

「カイ、ちょいと来てくれねえか?」

「おう、今行く」

俺は親友を呼んだ..

言うんだ..いつか来るってわかりきっていたことなのによ..どうしても..

「ヨウちゃん..どうして泣いているんだい..?」

「えっ..」

俺の眼からは大量の涙が流れ出ていた。

「そうか..俺彼岸に帰んなきゃいけないんだね」

カイは俺の涙ですべてを察したようだった。

「すまねえ..すまねえ..」

俺はただただ親友への謝罪の言葉しか出なかった..

「いいんだよ..」

そんな俺の肩を握る友の手は震えていた。

 

 

「みんな世話になったね。短い間だったんだけど..忘れねえわ」

響子ちゃんに呼ばれて集まってきたみんなに最後の言葉を告げる。

「さみしいけど..お元気で」

「海の話はとても面白かったです」

「ふぉっふぉっ、あっちの世界でも元気でな」

みんな思い思いの別れの言葉を言われる。そんな中

「ねえ、本当に帰っちゃうの!」

一輪さんだけは違かった。

「えぇ、本当に帰ります」

その言葉を聞いて一輪さんは顔を曇らせて

「本当にそれでいいの!?ヨウマともせっかく会えたのよ!」

「一輪..そのくらいにしておけ」

ヨウちゃんが一輪さんを止めるも

「ヨウマこそいいの!?大事な友達なのよ..ずっと想っていた友達なんでしょ!?帰っちゃって悲しくないの!」

「悲しいさ!!!」

ヨウちゃんの言葉に一輪さんは何か言おうとしたが、何も言えなかった。

「ずっと..ずっと..後悔していた..あの日、カイを夜釣りに行かせたことを..ずっと、想っていたことは本当だ..でも、それでもなんだ!」

「ヨウちゃん..」

「それに、お前に会いたかったのはずっと言いたかったんだ..あの日お前が死んでからずっと..最後に言えなかったことを..」

「それはなんだい?」

「ありがとうと..さようならだ..俺はずっと言えなかった...ずっと心の中で想っていたことなんだ..ずっと伝えたかったことを..」

涙で言葉が詰まる

「カイ...こんな俺と友達でいてくれて...ありがとう..そして、さようなら..だ...」

俺の眼から涙がたくさんあふれ出てくる。昔の思い出が走馬灯のようにぐるぐると駆け抜ける..

「俺こそ..俺の方こそ!友達でいてくれてありがとうだよ..ヨウちゃん..だからさ..最後は笑顔でいてよ..」

「それはこっちのセリフだよ...お前は笑顔がよく似合うんだから..」

ヨウちゃんは涙を拭って笑顔を見せる。俺も負けじと笑顔を作る。

「それじゃあ、小町さん。行きましょうか..」

俺はみんなに背中を向けて死神の小町さんに声をかけ、共に三途の川へと向かった..

 

 

カイと死神は去っていった。俺はそれを追いかけることが出来ずにその場に立ち尽くしていた。

「なあ、一輪..」

「なに、ヨウマ?」

一輪は俺の手を握ってくれる。

「やっぱり悲しいな..別れって..」

「そうね..」

 

 

三途の川の船は何年か前と変わらず何もなかった。

「すまないね..あんたにも、あの友人にも悲しい思いをさせたようでね」

「いえ、それがあなたたちのお仕事ですから。気にする必要はないですよ」

船を漕ぐ小町さんは申し訳なさそうにしていたがしょうがない

「さあ、着いた。あとは四季様に聞いてくれ」

「えぇ..六文銭がないのに乗せてもらってありがとうございます」

「いいって、特別だからね」

そのまま手を振って見送り、また現世へと船を漕いでいった。

さて、裁判か。

そのまま、道を進んでいきある人物の元にたどり着く。

「あなたが脱走した魂ですね?」

厳格な声で問う一人の女性。この裁判の裁判長..そう閻魔大王様だ。

「はい..オオハラカイと申します..私は脱走をしました..厳罰をーー

「判決は私が決めます。あなたはそこで少し待っていなさい」

有無を言わずに黙るように言われる。厳しい..でもこれが閻魔大王様か..

「それでは、判決を言い渡します..」

「はい..」

もう覚悟はできている、脱走した俺は地獄行きが確定しているだろうよ

「あなたは..冥界行きです」

「へっ?」

予想外の判決だ..

「それでは、あちらに..」

「ちょ!ちょっとまってください!地獄行きじゃないんですか?」

「いえ、あなたは地獄にはいきませんよ」

「そんなどうして!!」

納得していない俺に諭すように閻魔様は語る。

「いいですか..確かにあなたは脱走しましたが、それは裁判において関係はありません」

「そうなんですか..」

罪に問われないなんてね..

「あなたは脱走して彼岸を混乱させました、そうあなたは少し身勝手すぎる!」

説教が始まりそう..

「でも、あなたが生前にたくさんの人との繋がりを得たおかげ。そんなあなたのことを大切に想っている人達がいるから、あなたは地獄に行かずにすんだということです」

「俺の善行..」

「あなたは何気ない行動をしていたと思います。でも、そんなあなたの何気ない行動で救われた人がいたんです」

「そうですか..俺は..たくさんの人に愛されていたんですね..」

「えぇ..だから生まれ変わってもこの調子で徳を積むことですね」

「はい..閻魔様ありがとうございます..」

俺の裁判は終わった。

『そんなあなたのことを大切に想っている人達がいるから』

ありがとう..ヨウちゃん..でも、もう戻れないんだ。

俺は覚悟を決めて冥界へと飛び込んだ。

 

 

「ほえー」

冥界というから暗いところを想像していたんだが、意外と明るいというか..自然がある。

目の前にある長い階段を登る。登って登って登り続けると和風の屋敷が見えた。

「なんだここは..」

屋敷の前で立ち止まっていると

「あら、あなた幽霊なのに人の姿なのね」

俺に声をかけてきたのはピンク髪でフリフリのついた着物の女性。この女性も帽子を被っていた。

「えっと..一応ここは冥界なんですよね..」

「あら、死んだんだから当たり前じゃない。もしかして、地獄の方がよかった?」

「いえ!そんなことは..」

とんでもないことを言ってくるので、動揺してしまった。

「ふふふ、ちょうどいいわ。あなた人の姿をしているから少し身の回りを手伝ってもらえないかしら?」

「えっ?」

手伝い?えっ?

「それじゃあ、早速お願いするわ」

「あーちょっと!」

俺は着物の女性に手を引かれて屋敷の中に引っ張られる。

「ちょっと待ってください~!」

「自己紹介がまだだったわ、私は西行寺幽々子、ここの冥界の管理を任されているわ」

「あっ、丁寧にありがとうございます。オオハラカイです」

って自己紹介している場合じゃない!

「カイっていうのね、それじゃあしばらくよろしくね!」

「ちょっ..ええええ!」

俺はどうやら冥界で新しい生活をするようです。

『ずっと誰かがあなたと一緒にいてくれるわ..たとえ死者の国に行ったとしても』

レミリアさんの言うことは間違いじゃないみたいだ..

 

 




これでひとまず亡霊編は完結です。
カイ君は今後は冥界にいますね。

皆さんも善行を..特に人との繋がりを大事にしましょう。それは人だけじゃなくて動物もですよ。蜘蛛の糸みたいに助けてくれるかもしれませんね。


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第32話「聖夜のお誘いは断れない」

さーてクリスマスだー



「ヨウマさんの様子はどうですか?」

「ううん、やっぱり少しね...」

少し前に、彼岸から逃げ出した外来亡霊が幻想郷に来ていたのだけれど、実はその亡霊はヨウマの亡くなった友達だった。1週間前にヨウマは大事な友人との2回目の別れをした。

彼は覚悟を決めていたのだけどやっぱり悲しいみたいだわ...

 

「やっぱりまだ引きずってるんですかね...挨拶も少し元気ないみたいで...」

「挨拶はいつも通りな気がしたけど、そうなのね」

落ち込んでいる彼の姿を見るのは心が痛い。どんな事を言彼をえば彼を慰めてあげられるのか考えたけど、結局見つけられなかったわ...

「はぁ..どうすればヨウマを元気づけられるのかしら...」

「うーん..ヨウマさんを元気づけるには...」

響子も考えてくれる..

 

 

一方、里の方でも二人の少女が悩んでいた。

「ヨウマさんやっぱり元気がない感じよね..」

「ええ..元気そうに振舞ってるけど、やっぱり..ね」

親友である小鈴の貸本屋で私は、ヨウマさんを元気づけるのに何かいい方法がないかと外来本を読み漁っていた。

小鈴も一緒に考えてくれる..

 

この瞬間離れているにも関わらず同時に二人の少女にあるひらめきが走った。

 

「「クリスマス!!」」

 

そうシンクロニシティである!!

 

 

「クリスマスって..なんかパーティするっていうのは知っているけど..」

「どうやらクリスマスは雪の降る中、男女二人で楽しむものなんですよ!!」

「男女二人..!」

顔が熱くなるのを感じる。

「それに、新聞を見たんですが..」

「あの天狗、また新聞を配布したのね..」

「どうやら、里はクリスマスの飾りつけがあって、クリスマスツリーも飾ってあるそうです!ご丁寧にカップルに最適と書いてますよ!」

「誰がカップルよ!!」

私とヨウマがカップルな訳ないじゃない!!

「でも、一輪さん..そうなりたいと思っているんですよね?」

「うっ..///」

相変わらず鋭いわ..

「いいですか..これはきっかけになるかもしれません!!二人の仲を進展させるための!」

「うっ..うん」

「それじゃあ、ヨウマさんを誘いましょう!」

この子すごくグイグイ押してくるわ..でも、響子の言う通りだわ..

「わかったわ..でも!関係の進展はどうでもいいわ」

「なんでですか!?」

響子はありえないという顔をしているが、そもそも私が悩んでいたのは..

「ヨウマに元気になってほしいから..それを優先させるわ...自分の気持ちよりヨウマの方が大事だもの..」

「一輪さん..すいません、そうですよね!やっぱりヨウマさんが大事ですからね!!」

「ちょっと、変な勘違いしてない?」

「それじゃあ、聖様に明日の許可を取ってきます!!」

「ちょっ..響子!!」

響子は私の話を聞かずにそのまま走り去っていった。

「ありがとう..響子」

でも、とても嬉しいわ。

 

 

 

そして、里の少女の方では

「かかかか、カップル!?」

「あー阿求落ち着いて!」

阿求は顔を真っ赤にし、頭から湯気を出して暴走している。原因は響子や一輪も読んでいた天狗の新聞である。

「阿求、今がチャンスよ!関係性を進展させるにはこれしかない!!」

「そ..そうなんだけど..」

うう..デートだなんてそんな..

心臓がとても高鳴る。顔はすごく熱い。

「さあ、早くヨウマさんを誘うのよ!クリスマスは明後日なんだから!」

「わかったわ..覚悟を決める!」

「それじゃあ今から作戦会議よ!どうまわるのか決めるわよ!」

作戦会議室になった鈴奈庵で私は小鈴と共にデートの計画を練る。

「一応いうけど、一番はヨウマさんが元気になるための物だって忘れないでよ」

「もちろん!ついでにアンタとヨウマさんの関係も進展するためのものなんだから!」

「う..うん///」

小鈴は本当に積極的だ..

 

 

「はぁ..寒くなった気がする..」

カイが冥界に旅立ってから一週間が経ったみたいだ..完全に冬になり、寒さも増している。だけど、寒いのはきっと環境だけじゃないのかもしれない...

いつものように、朝早く起きて、飯を食べたり、寺の掃除やらを手伝ったり、里に行ってチビ達にいろんな話をしたり、阿求や小鈴と外来本を読んだりしていたはずなんだが...

「詳しく覚えていねえな...」

俺はどんな顔をしているのか..きっと、みんなの前では作り笑顔をしているのだろう。また心配かけちまったかな。

大蜈蚣はあの日からずっと、心配してくれているが、適当にあしらってしまった。

このままじゃよくねえってのもわかるんだけどよ..

「はあ...やっぱり、すぐ立ち直れねえよ」

親友との二度目の別れ。一度目とは違って、ちゃんと感謝の言葉もさようならも伝えられたのにな。

 

「ねえ、ヨウマ..」

後ろで聞きなれた声がする。いつも通り二人でいたけど、あまり会話をしなかったな..俺はその声の方へ振り返った。

「なんだ?一輪、何か用か?」

「う、うん..」

いつもだったら、ズバッと話してくるのに、珍しく言葉に詰まっているようだ。

「あ..あのね!その..」

とモジモジしてまどろっこしい。一輪の後ろで響子や聖、寺の妖怪共が陰で見ていやがる。

「明日なんだけど、一緒に出かけない?」

珍しいな..一輪から里に行きたいだなんて。

「お前、里に行っていいのか?」

「ちゃんと聖様に許可もらったわ!」

「しっかし、なにするんだ?」

そう聞くと、一輪は手を胸に当てて深呼吸をしだす。いつもと比べて様子がおかしい..

「クリスマスツリーとかあるみたいなの!クリスマスに興味があるのよ..だから一緒に行って教えてほしいなって」

「なんだそんなことか..わかった。明日行こうか」

「っ..本当?」

一輪の顔がパーッと明るくなった

「おう、男に二言はないってな」

「うん!明日楽しみにしてるから!」

一輪はそのまま嬉しそうに柱の陰にいる面々たちの元に向かっていた。

そんなにクリスマスが楽しみなのか..女子ってこんなもんなんかな?

とまあ、一輪と出かけるのは久々だな。というか、最近はカイと一緒だったしな..

やばい、気分が落ちてきた..

 

 

「そ、そんな..」

気分が落ちたのはヨウマだけでなく、阿求もだった。

 

「そんな...」

倒れそうになる阿求を必死で支える小鈴。

「まだだ、まだ終わらんよ!」

「でも..でも...」

阿求は泣きそうな顔になる。そりゃそうだ、せっかく関係が進展する計画を練ったのにパァーになるのだから。

「いい、阿求。明日はクリスマスイヴよ!明後日にはクリスマス!こっちが本命なのよ!だから、明後日に一緒にどうですかって誘うのよ!」

「そ、そうね!」

阿求は再び立ち直り、愛する青年の元へと向かう。

 

 

「ヨウマさん!」

「あれ?阿求じゃあねえか、どしたん?」

ここに阿求が来るなんて珍しいな。それに小鈴もいる。

阿求は顔を真っ赤にして、さっきの一輪みたいに深呼吸を繰り返している。

顔が赤いということは相当寒いんだな..

「ヨウマさん!!あ、あああさ、あさあさ!」

「落ち着いて」

「スゥーハァー..明後日、一緒にクリスマスを過ごしませんか!!」

「えっ、クリスマスって明日じゃ..」

「いえ!明日はクリスマスイヴで本命は明日です!」

「そうか..イヴがあったな..」

クリスマスってイヴと二つあるんだよな..別にイエス様が誕生したクリスマスだけがお祝いでもいいと思うんだけど..まあ意味があるんだろうな。

「どうでしょうか..?」

阿求は瞳を潤ませ、頬を紅潮させながら上目遣いで聞いてくる。

「おう、いいぜ」

もちろん断る男がいたら、しばくぞ!!

俺の返事を聞いて

「よ、よかった...」

阿求はへたりこんでしまった。

「阿求大丈夫か?」

「えぇ..すこし疲れてしまって..」

「はは、疲れるのに、わざわざ誘いにきてくれたんだな。ありがとうな阿求」

俺はそんな阿求の頭を撫でた。頭から湯気が出てて少し熱かった..

「そんじゃあ、里まで送っていくから」

「は...はい...よろしくお願いします...」

下を向きっぱなしの阿求と目をキラキラさせて喜んでいる小鈴を里まで送ることにした。

 

 

「ま、まさか!!」

「ライバル出現ですね!」

そう、入道使いと阿礼の子の二人の争いが始まるのだった。

 

 

 

 

 




うおおおお
なんとか二人のクリスマス話を書かねばいけないので諸君!
二人のクリスマスを楽しみにしててくれ!



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第33話「聖夜の入道使いと蜈蚣使い」

皆さんクリスマスでーす!
特別に私がイラスト描かせていただきました。
正直クソ下手なので、暖かい目を下されば




~クリスマスイヴ~

 

「ほう、ホワイトクリスマスになりそうだ」

早朝、窓を開けてみると白い雪が!

俺もまだ子供だな、雪程度でこんなにココロオドルとは!

「ホワイトクリスマス?」

「あぁ、クリスマスの日に雪が降るとホワイトクリスマスって言われるんだ。雪で白くなるからさ」

確かそうだったと思うけど。

「クリスマスね~いままで縁がなかったわ」

「だろうね」

命蓮寺は仏教で、クリスマスはキリスト教だ。そら他の宗派とは縁はないわな。

 

「それじゃあ、私着替えてくるから」

「おう..」

さて、今日は一輪と二人で里に行く予定だ。里に有事以外では近づいてはいけない一輪がなぜ里に行こうと誘ったのか。それはおそらく、カイがいなくなって落ち込んでいる俺のためだろう。一輪だけじゃなくて、阿求も俺のために誘ってくれたしな。俺のことを想ってくれている人がいる、ここにきて三カ月..外の世界の一年よりも充実したよ。

ここ幻想郷で初めてのクリスマス、とても楽しみだ。

 

さて、出かけるとはいえ、こんな朝早くからでかけても何もない。だから、俺たちが出かけるのは昼だ。

昼までは寺でいつも通りのことをする。しかし、今回は雪が積もっているので、雪かきをせねばならぬ。

「雪かきなんて初めてやで」

「ヨウマさんの住んでいたところは雪がこんなに積もらなかったんですか?」

「あぁ、雪がそんなに積もらない関東圏近くにいたからな」

「都会っ子ですね~」

「いやお前、なんで底のねえ柄杓でやってんだよ!」

舟幽霊の村紗が底のない柄杓で雪かきをしようとしている..

底がねえから雪が運べねえだろ..って!柄杓でやらねえだろ!?

「あはは、バレちゃいました?」

あははじゃねえだろ..

「俺も響子もやってるんだから..お前もやらんかい」

「はーい」

渋々雪かき道具を持ち、しっかり雪かきしだす。そう、それでいいんだよ。

一輪がこの場にいないことが気になったが、おそらく出かける準備をしているのだろう。女の子の準備は時間がかかるってな。

「ふう、疲れるな..」

雪かきは意外と疲れる..

「毎日雪が降りますから、朝の日課になりますね」

「嘘だろ..」

都会近くに住んでいる自分がいかに恵まれていたのか、改めて気づかされたな。

「ヨウマさん、二人で頑張りましょうね!」

「箒で掃くのから雪かきになるのか..」

あぁ..このままいけば鍛えられるかもしれねえ。

「朝ご飯の時間ですね~」

「もうそんな時間か。まだ雪が残っているんだけど」

「続きはご飯を食べた後ですね」

クソ..雪がこんなに大変だとはな..田舎の人よ今まで雪が積もっていいなって思ってごめんなさい!!

 

 

「いただきます..って一輪まだいないんだな..」

「一輪さんには別のところで朝ご飯を食べてもらっています」

「そうなのか..」

「サプライズですよ!サプライズ」

「サプライズねー」

サプライズって何があるかわからないけどさ。いつも通りでいいんだけどね。

 

その後朝飯を食って、再び雪かきに行かなければ!と思っていたが..

「あぁ、ヨウマさんは出かける準備しておいてください!」

「あ、あぁ..」

響子や村紗に促されて自分の部屋に戻る。

 

「準備って言ってもな..青いパーカーくらいしかないな..」

里の服屋で見つけた外の世界のパーカー。青一色なんだが暖かそうだし、それに..一輪の頭巾と同じ色だったから、買ってしまった..というか!思えば俺の服は命蓮寺の和服とフード付きジャンパーしかねえんだよな!今度色々買っておこうかな。

青いパーカー..着るか。

 

髪を整えて..って!俺の髪変だな!黒髪に白髪混じりで白髪が多いって..逆になってる!?黒髪混じりの白髪だわ!

まじまじと自分の顔や髪を見る。髪はほぼ白髪だ..若白髪は小さいころから結構あったけど、ストレスで白くなったんだな..てかもういっそ全部白髪になった方が..

うわーなんかうまく決まらないな!俺って陰キャだからよ!マジでおしゃれとかわからない!わからないよおおおお!

結局青いパーカーだけが変わったところだった。

 

「うっ..俺はダメかもしれん..」

境内の門の前で項垂れる。

「よ、ヨウマ!」

声を掛けられ後ろを向くと。一輪が立っていた。正直恰好はいつもと変わらない..と思ったが、胸に紅い球がついている。髪もいつもよりしっかりウェーブがかっていていつもと少し違う。でも、その少しがとても大きく感じる。

「ど..どうかしら?」

恥ずかしそうに聞いてくる一輪。

「あっ..ああ似合ってるんじゃあねえか?その胸の紅い球とかクリスマスぽいよ」

「ほ..本当?」

うっ..この感じ..いつもと違う感じ..ダメだこのままじゃ俺の何かが変わりそう。

だから思わず、

「あぁ..トナカイの鼻みたいに真っ赤だ」

と言ってしまった。

「なんですって!」

一輪はいつものようにムスッとした顔になる。

「はは、ごめんごめん」

「もう!!」

ごめんな一輪..でもこうでもしねえと少しドキドキしすぎて話せねえや..

「もう、アンタって本当にデリカシーないのね!」

「すまんすまん。思ったことを口に出してしまって..」

「なんですって!!」

一輪に追いかけまわされる。あぁいつも通りだな。さっきの控えめな一輪もいいが、やっぱり..

 

 

結局あの後ビンタを喰らった。寒いのでビンタがすごく痛かった。

「ふう、しっかし、完全にお前と二人きりなんて初めてだな」

「そうね、雲山も大蜈蚣も寺に残って雪かきとかするって..」

そう珍しく二人きりだ。雲山も大蜈蚣もどうやら雪かきとかにいそしんでいるみたいだ。

「それじゃあ、里に着いたら昼飯を食うんだな」

「えぇ、里はどうやらクリスマス料理を出してるところが多いみたい、楽しみね!」

「う、うん...」

俺はこのセリフを聞いて少し返事が濁ってしまう。だってクリスマス料理って言ったら..

 

「メインの焼き鳥でーす」

「...」

「...」

やはりこの空気になるか..そう、クリスマスのメイン料理といえば鶏!命蓮寺では肉絶ちをしている、その為、一輪は肉を食うことができない。

「鶏肉..」

「すまない..」

だされたものを食わねばいけないので、仏教徒になっていない俺が食うことにした。一輪は野菜を食べている。ごめん、先に言っておけばよかった!!

「おいしい?」

「う、うん..」

「そう、よかったわ」

一輪の笑顔が俺の心を締め付ける。くうううすまない!!

しかし、メインがローストチキンで食えないとしても他のものはうまいはずだ!

「鳥ご飯でーす」

「...」

「...」

なんでチキンライス!!よりによって!!

「ごめん、メインが全部肉入ってて..」

「ううん、ヨウマは悪くないわ。それに野菜もおいしいわ」

うう、気を遣わせている。申し訳ない..

「トマトスープでーす」

そうか!ミネストローネがあった!

「このミネストローネうまいんだぜ」

「そうなの?」

よし、一輪が食える料理も出てきた!これで口に合えばいいんだけど。

「うん、おいしいわ」

「よ、よかった..」

俺は安堵した。ようやく一輪においしいものを食べさせられた..

 

 

「美味しかったわ、そのみねすとろーね?っていうの」

「あぁ、おいしかったね」

昼飯を食い終わって里をぶらぶらする。

そして商店街へと足を運ぶ。たくさんの人が集まっており、各々の店を見ている。

「相変わらずここも、繁盛しているようだ」

「百足神社のおかげかもね」

百足神社のおかげで前よりも人でにぎわっている気がする。

俺と一輪は百足神社に足を運ぶ。神社って言っても博麗神社や守矢神社みたいにでかい本殿があるわけじゃなくて、小さい祠のようなものがあるだけなんだがな。

神社の様子を見ると、どうやら里の人たちが雪をどけたりしてくれてたみたいで、丁寧に整備されていた。

ありがたい..俺は祠の扉をそーっと開けてみる。そこにはたくさんの百足達が寒い冬を乗り越えるために集まっていた。

「メリークリスマス..」

俺はそのままそっと扉を閉じた。

「さて、百足の様子も確認できたし、なにか買うか」

 

俺と一輪は色々な店を巡った。

女の子が好きな小物とかを見て回ったが、意外と一輪はそういったものに興味はないようだった。

「お前、こういう女の子が身に着ける系の物とかいらないんだな」

「えぇ、あまりね。それに、今はこれがあるもの」

「俺のプレゼント、ずっと大切にしてくれてるんだな」

「えぇ..なによりも嬉しいわ」

そんなに気に入ってくれるなら全財産はたいてよかったぜ。

青翡翠の腕輪を嬉しそうに眺める一輪を見て、俺も嬉しい。

「ふふ、あんた、なんで嬉しそうなの?」

「いや、なんか大事にしてくれて嬉しいなって..」

「ふふふ」

「ははは」

そうか、どんなものよりもこれが一番か..嬉しいよ..全く。

 

再び、一輪と店を見て回るときに不意に一輪が俺のそばから離れ、店の中に入っていった。

「お、おい!」

そのまま追いかけてみると、一つの服屋だった。一輪は店主の人にお金を払い終わったようだった。

「一輪、どうした?欲しいもんでもあったか?」

「ううん、私のじゃなくて..」

そういうと一輪は俺の首に黒いマフラーをかけてくれた。

「これって..」

「はい、私からのクリスマスプレゼントよ。クリスマスってプレゼントを渡すんでしょ?」

「はは、そうだったな..」

「どう?これで寒くない?」

「あぁ..もう寒くねえよ...」

首のところに風が当たって寒いなと思っていたが、一輪に見抜かれていたのか。

本当にこいつには勝てねえや。

 

里の広場を行くとでかいクリスマスツリーがあった。

「誰が用意したんだ..」

里の中心にこんなものなんてあったけ?

ご丁寧にイルミネーションのためのライトも巻き付いてあり、装飾も豪華だ。

「へえ、クリスマスツリーって奇麗なのね」

「あぁ、夜のほうがもっと奇麗だけどな」

まだ昼だからか、ライトアップはされてないみたいだ。

「夜になったら、どうなるの?」

「それは夜になったら見ようぜ?」

「そうね..」

俺に聞くより、その眼で見たほうがいいってもんだ。

 

そして、二人でまた里の中をぶらぶら歩く。歩いている間は他愛もない話をする。外の世界のクリスマスの話をする。だけど、この時間が一番楽しいと思う。

いつの間にか人でにぎわってる里の商店街に戻ってきたようだ。さっきよりも人が多くなっている。

「人が多いわね..」

「そうだな、ほら」

俺は一輪に手を差し出す。

「これは..」

「これはって、はぐれねえように手繋ぐんだよ」

「えっ..」

「いやか?」

「別に、はぐれないようにしないとね」

そういって手を繋ぐ。一輪の手はやっぱり暖かくて、柔らかかった。

俺は前の方で彼女の手を引いているから彼女の顔とかが見えない。でも、ぬくもりはずっと伝わってくる。

 

私は今、ヨウマと手を繋いで歩いている。正直こんなことは初めてで少し心が落ち着かない..

でも、ヨウマの手はとても暖かい..私は今とても満ちているのかもしれないわ..

そんなことを思っているとふとヨウマが立ち止まる。

「少し、外で待っててくれないか?」

「えっ..」

「ここの店の店主には世話になったんだよ。お前のその腕輪を売ってくれたのはここだからよ、少し挨拶してくる」

そう言って、店の中に入っていくヨウマ。私の手から彼の手が離れる。手が離れたとたん、少し寂しいと感じてしまった。

 

ヨウマはどうやら話込んでいるようで、まだ戻ってこない。外で素直に待っていると、

「あら、入道使いじゃない..」

「あっ、霊夢さん..」

博麗の巫女の霊夢さんに出会った。

「こんなところで何をされているんですか?」

「それはこっちのセリフ..ははーん」

霊夢さんはニヤニヤと意地悪そうな顔をしだした。

「な..なんですか?」

「ヨウマとデートってところかしら?」

「な!?」

顔が一気に熱くなる。

「ちょっ..ちょっ!」

「あはは、堅物と思っていたけど、意外ね」

「な!な!」

からかわれて、どんどん熱くなってくる。

「そうだ、神社で宴会やるから、ヨウマの奴にまた手伝ってほしいんだけど、伝えておいて。それじゃ」

からかうだけからかって、ヨウマをこき使おうとは...相変わらずだ。

「おう、一輪」

「あっヨウマ、話は終わった?」

「おう、待たせて悪かったな。それより霊夢の声が聞こえた気がしたんだが」

「あぁ..それなんだけど..」

私は博麗の巫女の伝言を伝えた。

「なにいいいい!霊夢の奴が宴会するからまた手伝ってほしいだって!?」

「えぇ..」

「かーー、あいつ!と文句言いてえところだが、夜までやることはないしな。せっかくだし手伝ってやろうぜ」

「えっ..えええ!」

ヨウマのバカバカ!人がいいんだから!!せっかく二人きりなのに..いや待って..!宴会ということはお酒が..うん行くしかないわね!

「やっぱやめるか?」

「いえ!すぐに行きましょう!なんなら宴会に参加しましょう!!」

「お、おう..」

 

 

~博麗神社~

「あら、よく来てくれたわね」

博麗神社にたどり着くと、宴会の準備をしている霊夢に迎え入れられた。

「あぁ、せっかくだから手伝ってやろうってな」

「ふふふ、いい心がけじゃない。あんたのこと見直したわ」

現金なやっちゃな。

「それじゃあ、ヨウマと入道使いには料理を任せるわ」

「OK..って毎回料理を俺に任せるんだな」

「はは、霊夢はお前の料理が好きだからな」

「ちょっと魔理沙!」

はは、俺の料理を楽しみにしてくれるのか、少し嬉しいな。

「ふぎゃ!」

足に衝撃が走り、横を見ると、一輪が不機嫌そうな顔をしていた。

「なんだよ..」

「別に!」

 

さてと、俺の料理の腕を見せてやりますか!

「一輪、野菜を切ってくれねえか」

「はいはい」

一輪に野菜を切ってもらい、俺は出汁の用意をする。さて、まずは塩気が強い奴を作るか。

俺は醤油、みりんを用意し鍋に注いでいく。

「ふふふ、俺の能力は醤油やみりんの割合を目だけ計れる能力だ!」

「なに馬鹿言ってるのよ」

料理になるとテンションが少しあがってしまうぜ。

「失礼します、厨房使わせてもらえないかしら?」

台所に銀髪のメイドさんが入ってきた。

「あぁ、別に大丈夫だ。一輪は?」

「ええ、私も大丈夫よ」

「ありがとうございます」

そういって銀髪のメイドさんは料理の準備をしだした。

というか、この人どこかで会った気が..

「あ、あなたは、いつかの宴会で煮物を作っていた方ですね?」

「あ、あぁ..」

「うちのお嬢様があなたの作った甘味が少し強い煮物がお気に入りでして、作っていただけると..」

思い出した、前に宴会に参加したときに会ったな。そういや煮物褒めてくれていたな。

「あぁ、前と同じ煮物は今回も作る予定だ」

「助かります。あなたの煮物を食べてから、宴会のたびにお嬢様は『あの煮物はないの?』って聞いてくるもので」

「そんなに喜んでもらえているなんて嬉しいな」

「ふふ、あなたの煮物はおいしいですもの」

うわーこんな美人に褒められるとやる気でない男はいないわな。

「そういや、それってローストビーフだな」

「お分かりですか」

「あぁ、クリスマスといえばそれだしな」

「流石外の世界の方ですね」

「いんや~それほどでも..いて!」

一輪の野郎..また足踏みつけやがって..

「どうかされましたか?」

「いや、なんでもない。とりあえず、早く作らねえと」

「そうですね」

そのまま、俺たちは宴会の料理に取り掛かる。

 

 

「ふう、完成した!」

人数分の煮物をようやく完成させた。塩気が強い物、黄金比、俺のお気にいり、甘味が強い物。これで完璧に出来上がった。やっぱ煮物だわ!クリスマスに合ってないって?そんなの関係ねえ!そんなの関係ねえ!煮物が一番なんだよ!!はい、オパピ!!

 

ちょうど、いい感じに人が集まってきたな..いや、人じゃなくて妖怪だったな。

外も少しだけ暗くなってきた。宴会の始まりと行こうか。

俺は一輪と共に料理を運ぶ。メイドさんはお嬢様を呼びに行くとのことで代わりに料理を運んでおくことにした。

さて、暗くなったからおそらく、クリスマスツリーはライトアップしているはずだから、戻るとするかな。

「一輪、暗くなったから里に戻ってみようぜ、ツリーが光っているだろうし」

「え!宴会は..」

しょんぼりする一輪。あぁそうか..宴会楽しみにしてたのか..

「いや、お腹すいたし、少しいさせてもらおうか」

「うん!」

一輪の顔がパーッと明るくなった。まあ用意しておいて何も口にしないのは流石にな。

後に、一輪が求めていたのは酒だと知って、全力で止めた。

 

 

「うう、お酒..」

「お前は仏教徒だろう?」

「ううでも!でも!」

一輪が瞳を潤ませている。

「はぁ..一本だけな」

「やった!」

根負けした。俺の意志は弱い!

渋々酒を注いでやると嬉しそうに酒を飲む一輪。こいつ..後で聖に密告したろか?

 

ふう、クリスマスか..あいつとのクリスマスは楽しかったな。

カイの奴とのクリスマスの思い出に浸る。

「あれ、ヨウちゃんじゃねえか」

ヨウちゃんと呼ぶ声が後ろから聞こえるが

「呼びました?」

どうやら人違いなようだ。

「いや、妖夢ちゃんじゃなくて、ヨウちゃんって友達を呼んだんだよ」

「なんだ、カイさんも紛らわしいですね」

ん?カイ..?

俺は勢いよく振り返る。俺の後ろには銀髪の刀を持った少女と一緒にいる、かつての友、カイの姿があった。

「あれええええ!?」

間抜けな声が出た。多分顔も間抜けになっただろうな。

「おお、やっぱりヨウちゃんだったかメリクリ~」

カイの奴が明るくしゃべる。俺はその一言にイラっときた。

「なにがメリクリだよおおおおおおお!」

俺の声が博麗神社に響いた。

 

「すまない、ようちゃん..」

「全くだぜ!」

そのまま、カイの奴に詳しく話を聞いたところ、幻想郷はとある者の影響で、冥界とつながってしまい、どうやら冥界から幻想郷に行き来可能らしい。

「クソおおおおお!俺のあの涙はなんだったんだああああ」

俺は全力で叫んだ。あの日あの時の涙を返せってんだバッキャロオオオ!!パルキアのバカやろう!!

 

「ごめんごめん、でもさまた会えてうれしいよ」

「まあ、そうなんだけどさ、お前は冥界で何をしているんだ」

「幽々子様の身の周りの手伝いだよ」

「幽々子様?」

と俺の疑問の声にさっきの刀の少女とピンク髪の着物の女性が間に入ってくる。

「はーい私が西行寺幽々子よ。カイ君には助かってるわ」

「えっと、私は魂魄妖夢と言います。カイさんと共に幽々子様の身の周りのことをしています」

「あっ、ヨウマだ。よろしく」

妖夢か、変な幽霊みたいなの連れていたのは。

「しっかし、カイの奴から聞いたが、冥界と幻想郷がつながるって何があったんだ?」

「ふふ、私の友人のせい..かしらね」

濁されてしまったか。まあだいたい検討はついている。あの世とこの世の境界線を曖昧にした..あのスキマ妖怪のせいだな。

 

「あら、カイとヨウちゃん。久しぶりね」

後ろを振り返ると、いつぞやの紅い館の吸血鬼じゅあねえか。って、あの銀髪メイドさんはここの従者だったか。

「あぁ、レミリアさんお久しぶりです」

「どう、私の言った運命は?」

「えぇ、言う通りでした。感謝してます」

「ふふ、そうよかったわ」

カイは吸血鬼に感謝の言葉を伝え、吸血鬼も嬉しそうにしている。まあ、友人の悩みを聞いてくれていたし、ありがとうだな。

「それで、ヨウちゃん」

話の矛先がどうやら俺に向いたようだ。

「咲夜から聞いたわ!あの煮物作ったのヨウちゃんなのね!とてもおいしいわ!どう?うちの館で作ってくれないかしら?」

目をキラキラさせてグイグイと来る吸血鬼。さっきは大人っぽかったのに、急に子供っぽくなった。ギャップの差が..

「私からもお願いしますわ。レシピとかいろいろ聞いておきたいですし」

「うっ..二人に頼まれたら断れねえや..今度作りにいくよ」

「本当!やったー」

はぁ..子供だな。

そのまま、吸血鬼も加えて宴会を続ける。

一輪は幸せそうにお酒を飲んでいた。こいつ、どんだけお酒すきなんだよ..。

とりあえず、吸血鬼や亡霊たちと会話に花を咲かせる。

 

さて空もすごく暗くなり、宴会も佳境に入る..って!宴会してる場合じゃねえ!ツリーを見ないと!

「ヨウちゃんどこ行くの?」

「里に行くんだ、クリスマスツリーを見なくちゃ!」

「そう、いってらっしゃい」

手を振りながら、料理を食べて楽しそうに話すカイ。まあ元気そうでよかったわ。

 

「一輪、里に行くぞ!」

「ええ!まだお酒が..」

「明日も宴会やるらしいから」

「わかったわよ..」

渋々お酒を飲み干し、立ち上がる一輪。顔は紅潮しており酔っていることがわかる。

 

俺は一輪の手を引き急いで里へと戻ってくる。

やはり遅い時間だ、店は大体閉まっており、誰も外を歩いていなかった。

「もしかしたらツリーのライトが消えてるかもな」

俺は不安に駆られた。人が出歩いていない時間、ライトアップも終わっているかもしれねえ。

「ねえ、戻る?」

「いや、お前にどうしても見せてえんだ!」

「ヨウマ..」

俺は一輪の手を引き、雪の積もった里を歩く。

そして広場の前に着くと、やはりツリーのライトアップは終わっていたようで、真っ暗だった。

「やっぱりか..」

俺の声のトーンが落ちてしまう。

「ごめんねヨウマ..私が宴会にいたいって思っちゃったから..」

一輪が申し訳なさそうな顔で謝ってくる。

違う!俺はこんな顔が見たくてツリーの元に来たわけじゃない!

「よ、ヨウマ!?///」

俺は思わず一輪を抱きしめていた。

「そんな顔しないでくれ..お前は悪くないんだ..俺がここに来たのは、喜ぶ顔が見たかったからなんだ..だから、そんな顔しないでくれ...」

「ヨウマ..でもね、私が悪いわ。宴会で酒の誘惑に負けて、その結果こうなってしまったんだもの..やっぱり酒を断つべきだったわ..」

「一輪..」

一輪は悲しげな声を出す。俺は一輪に悲しい思いをさせてしまって、それがどうしても悔しくて涙を流してしまった。

俺の涙が地面に落ちた瞬間

急にクリスマスツリーがパーッと明るくなった。思わず、一輪から離れてツリーの方を見る。

「ツリーの明かりが..」

ツリーの明かりは、外の世界の都会のように豪華なものではなく、とても淡い光を放っていた。

それでも、金や銀に彩られた装飾達を輝かせるには十分だった。

雪が降り始める、まるで輝きだしたクリスマスツリーに応えるように..

とても、とても幻想的な..おとぎ話にきたような..景色だった。俺の眼は釘付けになった。

「奇麗ね..」

「あぁ..」

俺は一輪の横顔を見る。さっきの悲しげな顔も声も変わって、嬉しそうな声に嬉しそうな顔に染まった。

 

ようやく見られたな..

 

その顔が見たかった,ツリーに見とれている顔が..思った通りとても、とても、奇麗な顔だ..

ただでさえ美人だというのに、嬉しそうな顔とツリーの光に照らされて..いつにも増してとても美人だ。

 

俺が一輪に見とれていると彼女が俺に向き合った。

「ヨウマ..聞いてほしいの」

「あぁ..」

顔を赤くした彼女の顔はやはり、いつにも増して奇麗だった。

「ヨウマ..左手を出して」

俺は言われた通りに左手を差し出した。

懐から取り出したものを俺の左の薬指にはめた

「これって..」

俺は顔を真っ赤にする彼女の顔を見つめる。俺の手にはめられたのは青翡翠の指輪だった。

彼女は俺の顔を見つめ返して口を開く。

「ヨウマ..私、あなたと二人きりで過ごす時間がとても好きなの..それはいつからなのかはわからないわ..でも、いつの間にか好きになっていたわ..」

これって..いや..

「それで、病気になって、必死に薬を運んできたことと、この青翡翠の腕輪を貰ったときにわかったの..ヨウマ!私はあなたのことが..っつ」

彼女が言い切る前に俺は人差し指を彼女の唇に当てて、止める。

「ヨウマ..」

一輪は何か言いたそうな悲しい顔をするが、俺はそんな彼女に笑いかけ、

「俺もさ、お前といる時間がとても好きだったんだ..カイの奴とも、阿求や小鈴といる時間も好きだけど、お前といる時間は特別だと思っていた」

俺は一輪の左手を手に取り、懐から青翡翠の指輪をお返しにはめる。

「ヨウマ..」

「俺は、お前にすべてを話した日から..いや、お前が命蓮寺から逃げ出して助けてくれた日から..俺は、俺は!..っつ..」

 

言葉が詰まる、あと少しあと少しなんだ、言うんだ!!

 

「俺はお前のことが..(言え!いうんだ!..)っつ..お前が

 

 好きだ!!

 

ようやく言えた..ようやくだ..

俺は恥ずかしくてすぐに目線を逸らしてしまった..が、また彼女の顔を見る。

彼女の眼から涙があふれ出ていた。

「っつ..!?」

そのまま、俺の胸に顔を埋め俺の背中に手を回して抱きしめてくる。

「馬鹿!馬鹿ヨウマ!」

「一輪..」

俺は涙を流している一輪の頭をそっと撫でる。

クリスマスツリーはそんな俺たちの様子を見届け、再び真っ黒になった。

この光は奇跡だったのだろうか?いや、今はそんなことはどうでもいい..

俺はようやく伝える事が出来たのだ..

 

涙で濡れた一輪が顔を胸から離し、俺を見つめる。俺も彼女の顔を見つめた。

そして、そのまま目を閉じた彼女に近づいて...

 

優しく降る雪は俺たちのことを祝福するかのように..

 

この時間が永遠に続けばいいのに...

 

 

メリークリスマス..

 

 

 

 




いやあああクリスマスまでに間に合わなかったあああ
ごめえええんみんな!!(土下座不可避)

そんなことより(おい!)
遂に一輪とヨウマの恋路がああああああ
唐突だったかな?

まあでも二人の関係がよくなったZ

こちら、途中で赤い球をトナカイの鼻みてえだなとからかわれてムッとする一輪です
下手ですまない!勉強中なんです..

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第34話「聖夜の阿礼の子」

クリスマスの後にクリスマスの話を書く何が起きているのか..
単純に俺がやらかしただけだよ!!
すいませんでした!!
というか書く順番間違えたくせえな。
メインヒロイン告白後に阿求に会うのって...
やらかしたな。
小説始まって以来のやらかしかもしれない..(作者が気づいてないだけでやらかしてそう)



「ん~ヨウマ..はっ!」

勢いよく起き上がると、博麗神社の境内に寝ていたようだ。

クリスマスツリーでの前のことは夢だったのかと一瞬思い、左手を見る。

「よかった..夢じゃなかったのね..」

左手には昨日、ヨウマが薬指にはめてくれた青翡翠の指輪があった。

あの日の光景を思い出すと、顔がとても熱くなる..そう、私は彼と..キ..

あああ!思い出すだけで..もう..

「はっ!ヨウマは!?」

辺りを見渡しても彼の姿はなかった。

本当に夢だったのかしら..

「あら、起きたなら後片付け手伝ってくれない?」

ヨウマの姿が見えなくて落ち込んでいる私に博麗の巫女の霊夢さんが話しかけてくる。

「あの..ヨウマは?」

「あぁ、ヨウマ?用事があるからって、先に帰ったわよ」

「そ..そう」

そういえば、里の娘たちと約束してたわね..

大丈夫よね..

「あっそうそう、ヨウマと二人で抜け出してたみたいだけど、いい事あったみたいね」

「へっ///」

「その指輪と、寝言でヨウマヨウマって嬉しそうに言っちゃって、堅物だと思ったけど、意外と乙女なのね」

と意地悪そうな笑顔でからかってくる博麗の巫女。

「わ..忘れなさああああい!!」

私の声が静かな博麗神社に響いた。

 

 

「はあ..俺ついに言っちまった..」

一輪と顔を合わせるのが恥ずかしくて、逃げるように博麗神社から出てしまった...

夢かと思ったけど、俺の左手にある青翡翠の指輪を見て夢じゃないと確信した。

青翡翠の指輪..一輪が用意しているとはな..

俺も、昨日商店街に行ったときに、腕輪を売ってくれたおっちゃんから受け取ったんだが..渡せてよかったよ..

一輪から貰った黒いマフラーと指輪を見るたびに俺の心は高鳴る。

「ふう、らしくねえよな..」

昨日の光景を思い出すたびに死にたくなる。恥ずかしいからな!!

そのまま俺は命蓮寺までダッシュした。

 

 

 

「うううう...」

「いよいよね!」

里の貸本屋兼、一人の少女の恋路を応援する会議室である『鈴奈庵』では二人の少女が準備をしていた。

「ねえ、変なところない?」

「ないわ!完璧よ」

何度も何度も確認する阿求にばっちりと満面の笑みで安心させる小鈴。

そう、阿求は世紀の大勝負!!ついに愛しの彼との関係を進展させるのだ!!

 

だが、彼女らは知らない。この思いがもう受け入れられない事を..

 

 

「ただいま!」

命蓮寺で雪かきをする響子たちに声をかける。

「あっおかえりなさい!」

と元気よく出迎えてくれる響子。響子は目を輝かせて俺にとんでもないことを言う。

「昨日はお楽しみでしたか!!」

「お前、意味わかってんのか!?」

この小娘!何を言ってるんだ。

「別に、ただクリスマスの料理食べたり、博麗神社のクリスマス宴会を手伝っただけだよ」

「それで、うまくいったんですか?」

「うん...っておい!」

「えへへ、やっぱり。その手の指輪を見ればわかりますよ。だって、その指輪は聖様が事前に一輪さんに渡した指輪ですから」

「お前らグルか!!」

こいつら全員グルだったんやな!!ってよーく見ると、村紗や寺のみんながこっちを見てニヤニヤしてやがる!聖に至っては完全に母親の顔だ。命蓮寺..恐ろしい..!

「それで、どうでした?」

「だーーー!もう後は一輪に聞け!俺はまた出かける!!」

俺は恥ずかしさのあまり、逃げるように自分の部屋の窓まで逃げて、そこから入った。

「かーーーーー、ハッズ!」

急いで着替えねば。

 

 

「それじゃあ、武運を祈るわ!」

「う、うん///」

 

出かける支度のできた阿求に最大の応援をする小鈴。

阿求は向かう。まずは、彼女と彼の待ち合わせ場所へと。

 

 

「さってとー行くか!!」

昨日着た青いパーカーを脱いで、いつもの黒いジャンパーへと戻す。ジャンパーだけだと寒いので、昨日一輪から貰ったマフラーも一緒につける。

「いや、俺の格好モノクロだな!」

髪も白黒。服装はジャンパー、マフラー、長ズボンが黒でジャンパーの下は白いシャツ。俺このまま回転したら灰色になるんじゃねえか?まあいいか。

と気にせず、外に出ると..

「えええい!お前ら見んじゃねえ!!」

ジロジロとみている面々に圧をかけて、外に出る。

俺は陰キャだ。ジロジロみられるのは精神衛生上よくないんだよ!

フンっと鼻息を荒くして歩くも、

「愛しの一輪を迎えに行くんですか~?」

「ちげえよ村紗!」

俺の圧は意味がないのか!?

「だあああもう、じゃあな!」

そのまま逃げた。俺はこの後、いじられ続けるだろう。

 

 

そして、そのままダッシュし里へとたどり着いた。

「ふう、金は十分あるな..よし!」

いくら相手が金持ちとはいえ、出してもらうのは年上として、男として情けないからな。

今日は俺が出す!

そう、男には男のプライドがあるのだ。俺は財布をポケットにしまい、歩き始める。

「ポケットと言えば..うぅ..忘れてないよバーニィ...」

クリスマスとポケットで一人の少年の未来のために散ったジオンの青年の事を思い出し、俺は悲しくなった。

 

 

「落ち着くのよ..私」

私の心臓は高鳴りが抑えられない。ずっと深呼吸しているのに。

「阿求、待たせちまったかな?」

びくっと体が跳ねる。

「い、いえ。私も今来たところです」

 

大嘘である。実際は相当前から待っていた。

 

「それじゃあ、昼飯時だからなんか外で食うか」

「ええ..そうしましょうか」

ふう、彼の顔を見たら余計に心臓が..ご飯食べて落ち着きましょう..

 

 

「焼き鳥でーす」

よし、今度は気まずくならずに料理を食べることができるぞー。

俺は出されたローストチキンに食らいつく。

「ヨウマさん、すごいですね。そのまま行くなんて」

「そうか?骨付きってこんなもんだと思うんだけど」

「外の世界では、そうやって食べるんですね」

と箸でチキンの身を切り分けながら食べる阿求

「そうか..女の子は手が汚れるのがな..」

「そうですね..それに、はしたないって言われちゃいますから」

「女の子って大変だな...」

女の子は本当に大変だ。のび太としずかちゃんが入れ替わる話でも同じような事あったな。

「どうだ?クリスマス料理はおいしいか?」

「えぇ、とても美味しいです」

しかし、誰がクリスマスを持ち込んだんだろうか..まあこんなふうに、喜んでもらえるのならいいんだけどね。

と、一通りの料理を食べた後、残るのはデザートだ。

「ケーキだ」

阿求はイチゴのショートケーキ、俺はチョコレートケーキを頼んだ。

「甘くておいしい!」

ケーキを一口食べた阿求は、そのおいしさに頬に手をあて喜んでいる。

やっぱ、女の子って甘い物好きなんだな。

「俺のも半分食うか?」

「えっ!いいんですか!」

と目を輝かせる阿求。この顔されちゃあ快くあげるだろうよ。

チョコレートケーキも食べてさらに喜ぶ阿求。あぁ喜んでもらえてよかったな..

 

その後、思った以上に料理は高かった。俺の財布は早くもダメージを受けてしまった。泣けるで...

「さて、次は何か店で買う物でも見るか!」

ダメージを受けたにも関わらず、自分から余計にダメージを増やそうとする俺は一体何なのか..

 

 

相変わらず商店街は人であふれていた。はぐれたらやばい..

俺は右手を阿求に差し出す。

「はぐれないようにしなきゃな。もし気になる店があったら言ってくれよな」

「えっ..はい..//」

阿求は一瞬戸惑っていたが、手を握った。そして、阿求の手を引き、ゆっくりと歩く。

一輪の時は、通るだけだったが、今回は店を見るためだからな。ゆっくり歩かねえと見れねえぜ。

 

 

私の心はまだ高鳴っている。さっきは料理が美味しくて落ち着かせることができたが、今は..

彼と手を繋いでいる。彼の手はとても暖かい..

二人で店を見回る。

「どういうのが好きなんだ?」

「私はこういう色のものが..」

二人で並んで店を見る。それだけでとても幸せと感じている。

「それじゃあ、阿求。これクリスマスプレゼント」

「いいんですか?」

彼は奇麗な髪飾りを買って私に差し出す。少しだけ、欲を出してもいいよね。

「髪につけてくれますか..」

「お、おう。いいよ」

ヨウマさんが少しぎこちない手つきで私の髪に髪飾りを付ける。

そして、見えてしまった..彼の左手についている指輪を...

 

 

「これでいいか?」

阿求に髪飾りをつけてくれと言われたので、つけてみたんだが..

反応がない。

「阿求?」

「あっ、すいません!大丈夫です!」

「よかった..」

少し、阿求の顔が曇った気がするんだ..

 

その後も、色々店を見回った。さっきの阿求の顔は気のせいかなと思っていたが、でも、彼女はやはりどこか..

 

そして、里のクリスマスツリーの前へと着いた。

「なあ、このクリスマスツリーって誰が作ったんだ?」

「えっと、実はなんですが...河童が置いていったものです..」

「河童だと!?」

「ヨウマさん声が大きいです」

「すまん..」

そういや里の中で妖怪の話はあんまりしないほうがよかったな。

河童について阿求に教えてもらったが、技術力が相当進んでいるらしい。外の世界とほぼ変わらないな、話を聞く限り。

河童は大陸から渡来した技術者のことを指してたって説があったが、まさかな..

ツリーのライトアップの時間まで色々阿求に河童について教えてもらった。

どうやら、山に電気が流れていたり、ロープウェイがあるのも河童のおかげとか..

えぐいな..

 

冬なので、夕方になるのがとても早い。

そして、空が赤から黒になるころにツリーの明かりが灯った。

昨日一輪と見た時は淡い光だったが、今日のツリーは昨日よりも光っていた。どういうことなのだろうか..

まあでも、奇麗だからいいか!

阿求とツリーを眺める。やっぱり、外の世界と比べちまうと霞むが、それでも奇麗という言葉以外出てこないや。

 

「ヨウマさん..」

阿求に不意に声を掛けられる。

「どうした阿求?」

俺は彼女の方を向く。彼女は下を向いているため顔を見ることができない。

「その..ヨウマさん..聞いてほしいことがあるんです..」

「あぁ..」

俺はこの状況に既視感を感じていた。そう、昨日の一輪である。阿求の顔も、クリスマスツリーのライトに照らされて奇麗に感じる。

「ヨウマさん..私はその...初めて会って..それで..そこから..いつの間にか、あなたのことが...」

あぁ、この感じ..俺はこの子の思いを受け止めなければならない...でも、この思いを受け入れることは出来ないだろう..俺にはもう、既に...

 

「好きです!!」

 

俺の予想通り阿求の愛の告白。それを聞いて嬉しいという気持ちと悲しい気持ちがあふれて出てきた。

彼女の紅くなった顔..おそらく、覚悟を決めての発言なのだろう。

俺はこれから、彼女の覚悟を打ち砕く...

 

「阿求、この左手が見えるか..」

俺は左手を阿求に見せつける。俺の左手の薬指には、一輪から貰った青翡翠の指輪がハメてあった。

「はい..気づいてました...」

「そうか..」

そうか。気づいたからこそ、暗い顔をしていたのか..

「この指輪を見て、わかると思う。俺にはもう既にな..阿求の気持ちはとても嬉しいって思う..でも、俺は君の気持に応えることは出来ない..」

「そう..です..よ...ね」

阿求の言葉が小さくなっていく。彼女の眼にはたくさんの涙が溢れていた。

「ごめんなさい..わかっていたはずなのに..涙が...」

「うん..」

「今日は..プレゼント..と食事を...あり..とう...ござい..ま..」

阿求は涙を流しながらも俺に頭を下げて感謝の言葉を伝える。だが、涙でうまく言葉が出ないようだ。

「あぁ、俺も今日は楽しかった..その気持ちに嘘はないよ..」

「はい..それじゃあ..失礼し..す」

阿求は俺に背を向けて駆けだす。俺はそれをただ見ていることしかできなかった。

もし、阿求が昨日で、一輪が今日だとしても。俺はきっと一輪を選んでいたと思う..

「ヨウマさん、お帰りなさい!!」

「あぁ...」

どうやらいつの間にか命蓮寺についていたようだ。

「元気ないですけど、どうかされましたか?」

「いや..少しな..恋ってなんなんだろうなって」

「?」

 

 

「グスッ..ヨウマさん...」

「そうか..一日早ければ..」

鈴奈庵で、泣く阿求を慰める小鈴。阿求の顔はたくさんの涙で濡れていた。

「ううん、きっと一日早くても..あの人は..ヨウマさんは..入道使いを選んでいたわ...」

「阿求..」

小鈴に..彼女の親友にできることはただ一つ。

「ねえ、阿求..今日はあんたの家に泊まっていい?」

そうそばにいてあげることだった。

 

 

俺は、一人の少女の心を傷つけてしまった..でも、その気持ちに応えることは絶対にできない...

だって...

 

「ヨウマ、おかえりなさい」

「あぁ..ただいま..」

 

俺には愛する人がいる..裏切ることはできない。

 

 

この件は阿求と俺の心に傷をつけた..だが、悪いことではないいつか..きっと...だ...

 

 

 

 




あぁ、心苦しかったです。
すまない皆。

前回のタイトルでは入道使いと蜈蚣使いと二人いましたが、今回は一人だけ、そうそれは、一緒になれないということを示していたのです。(ド畜生)


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第34.5話「それぞれの恋路」

クリスマスの続きとなります。
実は、これを書く予定はなかったんです。
そのまま、大晦日に行こうと思ったんすけど、流石にあれで終わるのはちょっと..



クリスマスも終わった..

とても、嬉しくて、とても悲しい、そんなクリスマスが..

 

 

クリスマスの終わった人間の里では、みんなが寝静まっているころに、クリスマスツリーを撤去している河童たち。おそらく、明日は皆驚くだろうよ。

 

「おい、お前ら河童だろ?」

「うおっ!?」

河童たちに指示している、リーダー格っぽい青髪ツインテールの河童に声をかけるとびくっと体を跳ねて振りむいた。

 

「なんで、人間がこんなところに..」

「俺は外の世界の人間だからな..」

俺はあのクリスマスツリーと河童の事が気になり、夜の命蓮寺を抜け出してきたのだ。

大蜈蚣がいるとはいえ、結構な数の妖怪共を相手にした。少々骨が折れたが..まあ好奇心に勝るものなどないな。

「そうか、君は外の世界の人間なのか..」

「あぁ、命蓮寺の方に所属している..といっても仏門に入ってるわけじゃねえが、妖怪に対して理解はある。別にお前らを里から追い出すわけでもねえ。単純に意図を聞きたかったんだ」

それを聞くと、河童はホッと一息をついた。

「クリスマスツリーの事なら、別に教えてあげてもいいよ」

「そんじゃあ、なぜここに置いたんだ?」

「それは、河童と人間は古来からの盟友だからね」

「盟友..それは人間が好きだからか?」

「もう、恥ずかしい事言わせないでほしいな。そう、河童は人間が好きなのさ」

「だから、クリスマスツリーを置いて人間に喜んでほしかったんだな」

「そういうこと」

なるほどな..芥川龍之介の河童では河童の国があって、友好的だったが、ここでもそうなのか。

「なるほどな、教えてくれて助かる。クリスマスツリーは実際に奇麗で楽しめたよ」

「楽しめたならよかった」

「にしても、お前らの技術力は進んでいるんだな、この幻想郷にしては。どんくらい進んでいるんだ?」

「おっと、そこはいくら盟友でも教えられないな」

チッ..気になってたんだがな..しゃあねえか

「そ..そろそろ、帰って寝た方がいいんじゃないか?」

「あぁ..急に聞いて悪かったな。それじゃあな」

「そうだ、君を命蓮寺に送ってあげるよ!」

「別にいいけど..」

「いやいや、妖怪に襲われないようにね..」

「そら助かる」

人間に友好的ってのは本当だな。送ってくれるとはありがたい。

そして、『河城にとり』は命蓮寺まで俺を送ってくれた。

河童はいい奴やな。

 

しかし、河童の真意はというと..

「ふふふ、これで命蓮寺所属の人間を味方にすることに成功した。我々に借りを作ったことで命蓮寺に店も出しやすくなるだろうし、クレームも入れられなくなるだろう..いやー持つべきものは盟友だ!」

そう、河童は得を取る。

このクリスマスツリーもスキマ妖怪の依頼なのだから。

 

 

~翌日~

 

「ほら起きる!!」

「はい!!」

こんなこともあってか、俺は一輪に叩き起こされてしまった。

「もう、毎日起きられたのに、急に起きられなくなるってどういうことよ!クリスマスで腑抜けたのかしら?」

と威圧してくる一輪。そんな一輪に寝起きの影響で少しイラっとし

「お前こそ、酒禁止されてたのに飲んでいて、緩んでいたんじゃねえのか?昨日もどうせ酒飲んでただろ?」

と嫌味を言った。一輪はキレるだろうと思っていたが..

「ふふん、昨日はお酒は飲まなかったわ!」

「なん..だと..!?」

予想外だ、この蟒蛇の大酒飲みが..!?

「だって..一昨日みたいになって、ヨウマの悲しい顔見るのが嫌だから..」

「一輪..すまんな..」

「ちょっと..ん...//」

俺は思わずまた抱きしめてしまった。一輪は顔を赤くしながらも抵抗せずにそのまま身をゆだねてくる。

しかし、今回はこの場に二人っきりというわけではない..そう、雲山が気まずそうに見ていたのである。

「あっ..雲山いたんだった..」

「なっ!離れなさいよおおお!!」

「まじんぶうううう」

俺はそのまま殴り飛ばされた。

あぁ、結局いつも通りだよ。

 

 

 

「おはよう」

「うん、おはよう」

私は隣で眠っていた貸本屋の娘で親友である小鈴に朝の挨拶をする。

「どう、落ち着いた?」

「うん..」

昨日はとても取り乱してしまった私を、小鈴はずっと慰めてくれたのだ。

睡眠を取ることで乱れた私の心は今落ち着いている。

「昨日は見苦しい姿を見せたわね」

「ううん、しょうがないわよ..それより、今日は気分転換で外に行きましょうか」

「えぇ」

私と小鈴は朝ご飯を食べて、いつも通りに外に出かける。まだ雪は残っており、白い景色が昨日と変わらずにあった。今はその白い景色が少し心を締め付ける..けど、立ち直らなきゃ..

私は一歩前へとすすんだ。

「あれ、阿求ちゃんと小鈴ちゃんだっけ。久しぶり!」

と私と小鈴を呼ぶ声がして、視線を向けると。

「「えぇ!!」」

彼岸から逃げてきた外来亡霊で、ヨウマさんの親友であるカイさんが立っていた。

「どうしたん?死人に出会ったような顔をして」

「いや!彼岸に帰ったんじゃ..」

「あぁ、その件ね。まあ色々あったんですわー」

と笑うカイさん。相変わらずお気楽そうだ..

「まあ冥界から幻想郷に行くことが可能でさ。今は妖夢ちゃんと一緒に買い物しているわけだね」

「そ..そうなんですね...」

思わず苦笑いする私と小鈴。

「ヨウマさんも知っているんですか?」

「おう、ヨウちゃんとは一昨日会ったからね。ヨウちゃんには怒られたよ」

アハハ!と笑うカイさん。本当にお気楽だ。

「一昨日はね、博麗神社でヨウちゃんと宴会してたんだけど、急にツリーを見るからって、一輪さんを連れて行っちゃって、戻ってきたと思ったら二人とも無言だったな~ありゃ、甘酸っぱいことが起きたかもね」

「そうですか..やっぱり一昨日..」

「へっ?」

一昨日のことを聞いて私は思わず暗い顔になってしまった。その顔を察したカイさんは

「もしかしてだけど..ヨウちゃんと何かあった..?」

この人は鋭かった..

 

流石に外で話すことは出来ないので、私たちは小鈴の貸本屋へと入った。

そして、胸が痛くて言葉も詰まったけど、カイさんは私の話をすべて聞いてくれた。

「そうか..。まあヨウちゃんの選択だ..俺がどうこう言える立場じゃないけどね。でも、すごく悲しいってことだけはわかるよ」

「はい..」

「そうか..ヨウちゃんも罪な男だな..」

と静かにつぶやくカイさん。

「まあ、俺には阿求ちゃんを慰めてあげることしかできないな..」

「うん..でも、正直、愛していたのに..その思いが届かないのはやっぱり...」

小鈴は静かに言葉を発する。

「確かにね..愛した思いが相手に受け止められなかったってことはとても悲しいと思う。まあでも、そういうもんなんだ。愛しいから、愛されたいって思っていてもうまくはいかない。思う人に、思われずってさ..」

「カイさんに何がわかるんですか!」

と小鈴がカイさんに声を荒げる。でも、カイさんはそのまま小鈴を見つめて語りだす。

「わかるさ..それに、思いを届けることができる時点で阿求ちゃんもヨウちゃんも恵まれてると思う。俺はもう、思いを伝えることが無駄だったんだから..」

「どういう意味なんですか..?」

「うん、例え好きな人が増えたとしてもさ、死んでるからね~俺は」

「あっ..」

「例え思いを伝えたとしても絶対に伝わらないし、生前に思ってた人も昔はいたけど、結局思われなかったよ。亡霊なんだから..」

そうだ、カイさんは亡霊で、私たちやヨウマさん、妖怪とも違って、近いうちに輪廻転生でまた別の存在に生まれ変わる運命が決まっている。だから、彼は思っていたとしても、伝える事ができないのだ。

「それに、ある人が言ったんだよ返ってくれると期待をする愛なんてにせものだって..だから、俺は思うだけで満足つうか、もうそれだけでいいって思うんだ」

「カイさん..すいません..」

「いいって、小鈴ちゃんも親友のことを思っているんだからね。俺もね、少し上から目線だったわすまないね」

と変わらず明るい顔をするカイさん。

「阿求ちゃん、最後に一つだけいいかな?」

「はい..」

「ヨウマの事、どう思う?」

「ヨウマさんへの思いは正直、消えてないです..やっぱり急にあきらめるなんてできないです..だから、これからも彼の隣に立ちたいです」

「そうか、それでいいと思う。と、買い物の途中だったわ!すまない、それじゃあ!」

と言い残して去っていったカイさん。

「あの人、よくわからないわ」

「まあ、確かに、何がしたかったのかわからないけど、恋をすることができて..思いを伝えられることができたのはいいって事を伝えたかったんじゃない?だから、恋を..思いを伝えることを恐れるなって、カイさんなりのエールなのよ」

「そうなのかな~」

 

 

 

「正直な話、想いなんてものは罪なものだ..。でも、一度だけでいい、俺も誰かに想いを伝えたいって思う..それを経験しておきてえな。最後に..人間としての..ね」

「カイさん!探しましたよ!」

「おう、すまない妖夢ちゃん」

俺をずっと探していたようで、息を切らしながら走ってきた妖夢ちゃん。

「もう、何してたんですか..」

「ん-恋について話してたな..」

「恋?」

「おう、恋だ恋。妖夢ちゃんは誰かに恋したことある?」

「わ、私はそういうのは!!」

と顔を赤くして慌てふためく妖夢ちゃん。初心だなこりゃ。

「ははは、もうちょい成長しねえと縁がねえかもね」

「なっ!私だって恋の一つくらい!あっ..」

「えっ?」

「忘れてください!!」

と怒られてしまった。しっかし、恋なんてもうしねえだろうな..

 

 

 

恋..それは時に喜びや悲しみを生む...それはとても罪深い物なのかもしれない..悲しみになった時はとてもつらい..

でも、

 

「お正月になったら、命蓮寺に行ってヨウマさんに会いに行くわ」

「えっ、いいの?」

「うん、確かに振られたけど、それでもやっぱり..会えるだけで嬉しいから..」

 

人の心を成長させるのだ..

 

 

 




まあ、阿求は敗北してしまいましたが、これで終わりというわけではありません。

それでも、彼女はヨウマと一緒にいるでしょう。


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第35話「一年の締め、里の締め」

大晦日です。前回はすみませんでした!!
今回は大晦日に間に合うぜ。



「明日は大晦日よ!いい?」

「おう、大丈夫だ。俺も一応ここにいるんだからな」

「そう、ならいいわ」

一輪と俺は打ち合わせをしていた。

なぜなら、明日は大晦日である。寺ではお煤払いといって、本堂に一年の間で溜まっていた埃を取ったり、仏具を磨いたりする。まあ大掃除と変わらん。だが、普通の家と違い、ここは広い。つまり掃除はとても大変なのだ!それに加えて、除夜の鐘の準備やら正月の準備やらで忙しい。

「そのためには早く寝るわよ!!」

「おーう!」

俺と一輪は拳を高らかに上げて眠りにつく。

正直な話をしよう。動きたくない..

 

 

~次の日~

「ほら、起きるわよ!」

「いつもより早い!?」

「当り前よ!いつも通りだったら終わらないわよ!」

「なん..だと..!?」

俺はこの時実感した..俺の安息はないと..

 

「それじゃあ、そこにあるお地蔵さんを磨いておいて」

「ういーっす」

俺は布を渡されて、大量のお地蔵さんを奇麗にするべく布で磨く。

てか、お地蔵さん磨いたら、頭がピカーってなって、参拝客が『眩しい!』ってなるんじゃね?

とまあ失礼なことを考えてないで、無心に磨く。

「おっ、地蔵菩薩を奇麗にしてあげてるとは、地獄に落ちてもすぐに助けてくれるかもね~」

「あっ?」

お地蔵さんを磨いていると不意に後ろから声が聞こえたので振り向くと、いつぞやの赤髪ツインテの死神が立っていた。

「お前、何してるんだよ仕事は?」

「休憩中」

嘘だな。

「まあそんなことよりも」

そんなことって..

「お地蔵さんを磨くだなんていいじゃないか」

「まあ頼まれて磨いてんだ。で、なんの用だ?」

と適当に来た理由を聞きつつも、地蔵磨きを優先させる。このサボり死神にかまっている暇などないのだからな。

「外来亡霊の件なんだけど、四季様から感謝の言葉を伝えてくれって頼まれちまってね」

「直接来ればいいのにな」

「まあ、大晦日だろうと死者はいるからね~忙しくて来れないんだ」

「なら、お前も尚更働かなければいけないはずだが?」

「うっ..ま、まあ伝える事は伝えたからじゃあね!」

痛いところを突かれた死神は一目散に逃げる。あいつが、説教をくらように呪ってやる。

 

「どう..って!ぴかぴかにしすぎ!!」

「ええええええ!!」

様子を見に来た一輪の理不尽さに不満で大声を出してしまった。

「何をどうやったら、そんなに頭がピカピカになるのよ!!」

そう、俺はお地蔵さんの頭を磨きすぎてしまい、みごとに頭がピカピカに!

「いや..すいません..」

流石にこれは悪意あるよな..とりあえず、全員並べてみたが..

「うっ、眩しいわね..」

「参拝客もみんな眩しがるぜ..」

正直、禿げ頭のおっさんですら、こんな眩しい光ださねえぞ。

赤髪の死神は『地蔵菩薩を奇麗にしてあげてるとは、地獄に落ちてもすぐに助けてくれるかもね~』と言ってたが、助けてくれねえな...地獄落ちたら、猛攻撃喰らいそうだよ。

「はあ..まあ、赤い布つけておけば大丈夫でしょう..」

と苦笑いする一輪。まあ、赤い布かぶせれば誤魔化せるな。

 

 

「で、次は何すればいい?」

お地蔵さんを磨き終えた俺は、命蓮寺の本堂を手伝おうと思い、一輪に次の仕事を求めるが。

「アンタは百足神社があるんだから、そこをやったら?」

「そういや、百足神社の管理や責任は全部俺持ちだったな」

すっかり忘れてた..俺の我儘で作ってもらった神社だ。祠だけの小さいところだから、大丈夫だろうと思ってたな。自分の神社を手入れしねえと博麗の巫女と同じになっちまうな..それだけは避けねばならぬ!

「んじゃ、里に行ってくるわ」

「いつ帰ってくる?」

「昼には帰れるかな」

「じゃあ、お昼ご飯作って待ってるから」

「おう、ありがとうな」

と一輪に笑顔で見送られ、階段を下りているときに俺に電流が走る。

「あれ?今の会話..夫婦ぽい!?」

いや、一応付き合い始めたっちゃ始めたんだけどね!?

うおおおと頭を抑え悶々としている俺に大蜈蚣は早く行くぞと催促をした。

 

しかし、悶々としているのは彼だけでなく。

「え、今ちょっと夫婦ぽく見えたですって//」

「うん、ずっと一緒にやってきたオシドリ夫婦みたいだった」

「ちょおおお//」

と村紗にその様子を見られ、からかわれ、彼女もまた悶々としているのだった。

 

 

「さて、人里に着いた..」

クリスマスの深夜以降、俺はここに足を運ばなかった。

正直、あの子の顔が脳裏によぎるからである。

「はぁ..馬鹿...俺は別に悪いことはしていない!しょうがないじゃあないか..」

と自分に言い聞かせて、里の門を開ける。

目に入ってくるのはクリスマスムードの終わった白い里だった。

皆は、大掃除に忙しいようで、民家の外には畳が置いてあったりしていた。

畳の後ろに番号書いて置かねえとどこの奴かわからなくなるんだよな。

とまあ、そんな民家を横目に商店街の方へ。

商店街もやっぱり、大掃除のシーズンで、大体の店は休業していた。

「百足神社も一時休業だな」

商店街が休業なら、百足神社のご利益は意味ないからな。百足神社も一時休業だぜ。

 

「さーてと、まずは祠の外側を水で洗うか!」

祠の外側は汚れが溜まっており、水で濡らした雑巾で拭いたら、雑巾が真っ黒になった..

「まだ、立って半年も経ってねえのにこの汚れ..一年経つとどうなるんだ..」

俺は少し戦慄したと同時に好奇心が少し湧いた。

外側の汚れをなんとかふき取り、次は中だが..

ガチャ...バタン!!

俺は開けて、すぐ閉めた。

なぜなら、祠の中ではたくさんの蜈蚣が寒い冬を乗り越えるためにひしめき合っていた。それはとてもおぞましい..正直、何も知らない人に開けさせたら確実に発狂するだろう。スプラッターだ...

「ここは、触れないでおくか..」

触らぬ百足に祟りなしだ!

後は、敷地内に落ちてるゴミを適当に広い集めたり、柵を拭いたりして掃除は完了だ。

「あとは..」

忘れちゃいけねえ、お賽銭だ。少ないが、命蓮寺の食費の足しとかになる。それに俺のお小遣いにもなるしな。

「どれどれ..なかなか入ってるな..」

やっぱり、商店街で人通りがいいからだな。

「博麗神社の倍はあるな..って、博麗神社はどうせ0だから0を倍にしても0か!!ハハハ!」

と思わず笑ってしまう。心の中だけで留めて、口に出さなければよかったのにな..

「ハハ、帰るか!...れ、霊夢さん..」

振り向くと、怖い顔をしている、『博麗の巫女』霊夢が立っていた。

「今日もご機嫌..悪そうだね...」

「誰のせいだと思ってんの!!」

「ボビィ!?」

うん..許されねえってわかってた...

俺は彼女の持つお祓い棒で思いっきり叩かれたのだった。

そして、そのまま俺の賽銭のほとんどは、彼女に強奪された..鬼だわあいつ...

 

「いてて..まあ俺が悪いわな...」

殴られた頭をさすりながらも、帰路につこうとするも、一つの店が見えてしまい、足が止まる。

その店とは、鈴奈庵である。

別に堂々と前を通ればいいじゃねえかと思うかもしれねえが、クリスマスの時に気まずい雰囲気になってしまった子の親友がいるからな..何を言われるのか、怖いわ。

どうやら、その子は中で作業をしているようで今はいないみたいだ。よし、今がチャンスだ!と店の前を通る。

「ふう..少し新鮮な空気吸わないと...あっ..」

「あっ..」

神がいるなら聞きたい。なんでこんなにタイミング悪いの!?どうやら自分の家である貸本屋を掃除していた小鈴と鉢合わせてしまう。

とりあえず、挨拶をしなければ!

「や、やあ..」

安定のクソ挨拶をかます。ちくしょおおお!

「あ、どうも。ヨウマさんは寺で大掃除していると思ったんですけど、里にいるんですね?」

あれ?普通の対応だ。まあ、ちょうどいいや。

「あぁ、百足神社の掃除でな。半年も経ってねえのに雑巾が真っ黒になっちまってな、一年経つとどうなるのか少し怖いぜ..」

「多分外にあるからですよ。まあでも、うちも結構汚れが多いです。それじゃあ、私は掃除に戻りますね」

「あぁ、それじゃあ」

と会釈し、立ち去ろうとすると

「あぁ!今年一年ありがとうございました!よいお年を!」

「あぁ..こっちこそ、世話になったよ...よいお年を」

と笑顔で手を振って見送ってくれる小鈴。俺も小鈴に手を振り、鈴奈庵を後にした。

思えば、カイとのわだかまりを無くしてくれたのは小鈴だったな..彼女にはとても感謝しかないぜ..

 

小鈴と別れて、あの子の元を訪ねようと思った。

ここにきて、一番世話になったのは命蓮寺の面々だが、同じくらいここで世話になった..

だから、感謝の言葉を伝えたい..

俺は屋敷の前へとたどり着く。敷居を跨ぎ、扉を少し叩く。

「はい、なんでしょう..」

と女中さんの声がする。

「ヨウマと申します。阿求..阿求さんいますか?」

「はい、少々お待ちください」

さて、彼女は会ってくれるか..

外で待つ。大蜈蚣には、少し離れてもらった。二人っきりで話をしたいからな..

 

ガラッと扉が開き、俺は扉の方へと視線を向ける。そこには、相変わらず大和撫子で奇麗なこの館の主、稗田阿求がいた。

「急に、すまねえ。一年の終わりだからさ..言っておきたくて..」

ぎこちなくなってしまう。やはり、少しな..

「いえ..少し、場所を移しませんか?」

と阿求に提案されて場所を変えることにした。阿求が選んだ場所は里の門の前だった。

 

「ここで、ヨウマさんと初めて会ったんですよね..」

「あぁ、幻想郷に来たばっかで、混乱していた俺に声をかけてくれたな」

「あれから、結構経ったと思ったんですが、意外とそんなに経ってないんですね」

「あぁ..俺もそう思うよ」

俺が初めてここにきて、だいたい3カ月くらいか..一日一日の内容が濃いから、結構経ってると思うが、そんなに経ってないんだな..

「そして、阿求に色々教えてもらったな..この幻想郷のこととか..」

「はい..」

お互い次に出す言葉が出てこない..だから、俺は一つ聞いてみることにした。

「なんで、俺のこと好きになったんだ..?」

「えっ..?」

阿求は驚いた顔をする。まあ、そりゃそうだな。

「別に無理していう必要はないんだが、気になっちまってな..」

「初めて会った日から私は..想っていました..」

「そんなにか..」

「はい..子供っぽくて、優しく、私を守ってくれて..私が良家の当主だと知っても、対等に接してくれて..私を大事だと言ってくれた...その思いは今も変わりません..」

「でも、俺は..」

「わかってます..好きな人が別にいることは..でも、諦めるなんて..できないですよ...」

阿求の眼からまた涙が流れ落ちる。あぁ..また泣かせちまったな...

「恋人としては、あなたの隣にはいれません。でも、友達として..いさせてください」

「あぁ、もちろんだ..」

阿求は俺の胸に飛び込んでくる。俺は彼女の頭をそっと撫でた。

俺にも、阿求にもどうやら踏ん切りがついたみたいだ..

 

「取り乱してすいません..」

「いや、こちらこそすまない」

まだ彼女の眼は赤いが、いつも通りの笑顔に戻っていた。

「まあ、本題なんだが今年は本当に世話になった..だから今年最後の挨拶をしておきたくてな」

「いえ、私の方こそ、ヨウマさんに会えて..本当にうれしいことがいっぱいありました..良いお年を..」

「あぁ..良いお年を」

俺は阿求に手を振って門をくぐる。

これでわだかまりはなくなった..快く新年を迎えることができるな..

 

 

「やっぱり..諦められないわ..」

愛しい彼の後姿を見て、やっぱり私の考えは変わらないかもしれない。

私はこれからも、来年も、彼を愛しているのだろう。

「ヨウマさんも罪な方です..本当に愛しい..」

 

 

命蓮寺に着くと、掃除はあらかた終わったようで、来年の正月の準備を始めているみたいだ。

ご丁寧に門の前には門松が!

そして、門の前には門松だけじゃなく、

「おかりなさい、ヨウマ!」

ずっと帰りを待ってくれた一輪もいた..

「あぁ、ただいま一輪」

今年は、今まで生きてきた年の中で一番幸せだと思う。

だって、俺のことを想ってくれる人がたくさんいるのだから..

 

 

 

 

 




ふう、早く賀正のイラスト描かねば!
間に合え俺よ!!


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第36話「振り返る年はいい年か」

さて大晦日はもう一話だけあるんじゃ!


里から帰ってきて、掃除をあらかた終えた命蓮寺の面々と一緒に、寺の正月の準備を手伝った。そして、日が沈み、完全な闇になったが、寺ではまだやることがある。

 

それは除夜の鐘を鳴らすことだ。除夜の鐘は108回鳴らす。そして、最後の一回は年を跨ぐ時に鳴らす。そのため、遅くまで起きなくてはならない。

除夜の鐘を鳴らすのに、まだ少し時間がかかるので、俺の部屋で一輪と二人っきりで待機することになった。

 

 

今年も最後なので、やはり色々な思い出が頭を駆け巡る。

「そういや、今年は俺はここに来てから三カ月くらいしかいなかったけど、充実していたと思うよ」

「急にどうしたの?」

隣で座っている一輪に声をかけると不思議そうな顔をされた。

「いや、今年も終わりだから振り返ろうと思って..」

「なるほどね..一年も終わりだし、一緒に振り返ってみましょうか!」

一輪と二人っきりで昔を振り返ることにした。

 

「そうね..ヨウマが初めて来たときは..」

 

『黙れ!てめえら妖怪のことなんざ信じられるか!俺はお前らからすべてを奪われた..もう何も奪われてたまるか!』

 

「って、最初のころは攻撃的だったわね」

「うっ..忘れろ!」

まだ、妖怪に対して嫌悪感があったとはいえ、トゲトゲしすぎじゃあねえか、昔の俺よ。

「それが今はね~」

「うっ..//」

ニヤニヤしながら痛いところを突いてきやがって..

 

「そこから、脱走して大蜈蚣に食われかけた俺を助けてくれてな..」

「そうそう、結構大変だったんだから」

調子に乗って唾を吐きかけて、逆上した大蜈蚣に殺されかけたな..今は立派な俺の相棒だがな!

「本当、殺されかけた蜈蚣が今は相棒だなんて」

「当時は、襲われないようにするための道具だったんだが..まあ一緒にいるとな..」

それと、助けてくれたあと、俺を看病する時に握ってくれた一輪の手は暖かかったな。

 

 

「雨が降った時は、ヨウマの過去を話してたわね」

「そうそう、あの時は辛いこと思い出して取り乱しちまったわ..」

思えば、この時だな、一輪のことが気になりだしたのは。

 

『あんたの居場所はここよ』

 

って抱きしめられたときは、すごくうれしかったな..

 

「そのあとまた喧嘩しちまって、村紗に当たっちまったな」

「そんなこともあったわね..今はもうすっかり平気そうだわ」

カイを殺した舟幽霊と村紗を重ねちまって、酷いことを言ってしまったが、一緒に博麗神社の宴会で出す、魚を釣るときにわだかまりを無くすことができた。

 

『村紗は村紗であいつはあいつなんだって』

 

「って、言ってくれましたね」

「うお!村紗!?」

いつの間にか部屋に来ていて話に参加する村紗。思えば、カイの奴と全然似てねえよな、どうかしてたぜ。

「この件は、博麗神社に感謝だな」

「そうですね、霊夢さんが魚釣るように言ってくれたおかげですね~」

「あの巫女もたまには役に立つわね」

「言うね~」

今度は、貶した事を察知されねえといいな..。

まあでも、霊夢がこき使ってくれたおかげだな..いや、こき使われた事に感謝って..

「で、次の日の朝に一輪とヨウマさんが博麗神社の宴会に行って怒られてましたね」

「忘れてちょうだい..」

「この蟒蛇が」

「うるさい!!」

 

そうだった、その日には白蓮に連れられて、高僧だと嘘ついたな..

「思えばその日は俺が妖怪への嫌悪感を払拭できた日だな」

「何をしたの?」

 

『この方は命蓮寺を訪れてくださった、とても位の高いお方です』

 

まさか俺を位の高い高僧扱いにするとは思わんかった..まあでも、そのおかげで血を狙う奴は命蓮寺からいなくなったな..

 

「でまあ、ここに訪れる妖怪達の話を聞いて、俺は考えを改めたな..それと同時に俺の心にある考えが出てきたんだよな。ほんと、聖に感謝だな..」

「ふふ、そういってもらえると嬉しいです」

「あっ、聖様」

いつの間にか聖の奴も俺の部屋に来ていた。いや、本人を目の前にして感謝するって結構恥ずかしいんだけど!?

「ヨウマさんもあの日から変わっていただけたようで、私はとても嬉しいです」

「ま、まあな。正直、妖怪も人間も変わらねえってことを教えられたよ..」

「あの、妖怪嫌いのヨウマさんをここまで..」

「流石聖様ね!」

「ふふふ、私は何もしてないですよ..」

「「そんなことないです!!」」

 

はあ..この馬鹿弟子と住職が...

俺のことはそっちのけで、一輪と村紗は聖をほめたたえており、聖もまんざらでもないのか、頬に手を当てて、うふふと笑ってやがる。まるで、過剰に持ち上げる信者と持ち上げられた主みたいだ..って、命蓮寺は宗教だったわ!ある意味正しいのかもしれん。

その日からだな、俺の心が変化したのは..ただ腐っていく俺を導いてくれたのは間違いなく聖だ。

「本当、聖はすごいよ...」

「よ、ヨウマさんもですか..」

まあすごいのは本当だから、俺も参加しておくか、聖の反応も可愛いしな!!

その後、褒めたたえまくっていたら、騒ぎを聞きつけた響子もやってきた。その時点で聖に静止され、話すことを再開する。

 

 

「それでまあ、百足神社が数日後に建ったな」

俺の心が変化して数日が経った後、俺は相棒である大蜈蚣や百足達は人から嫌悪されている現状を嘆いた。

虐げられている彼らの姿を、昔の自分と思い重ねていたからだ。

百足の地位向上..とまではいかないが、百足達やゲジゲジ等の虫たちのイメージをよくする目的で、百足神社を建てた。そのおかげか、里の商店は繁盛してくれているようで、皆が百足を愛してくれるようになった。それだけじゃなくて、俺自身も里の子供たちに虫のことを話したりして、無益な殺生をさせずに保護をさせるようにした。

でまあ、その過程で死にかけの蜈蚣を助けたら、なんか蜈蚣が俺の指示を聞いてくれたんだよね。

「虐げられたアンタだからこそ彼らの気持ちがよくわかるのよね」

「だから、百足達はあなたを慕って指示をよく聞くようになった」

「蜈蚣使いの誕生ですね!」

その結果、俺の異名は蜈蚣使いだ。もっとかっこいいのなかったのかな?

 

「ヨウマさんの行動はとてもいい事ですよ。無益な殺生はしてはいけないですからね」

仏教においては殺生等はNGだ。俺の行動は聖や命蓮寺の面々からしたら、とてつもなくすごいことをしていたらしい。まあ、それのおかげで百足神社の建設にまで至ったんだよね。

「ちなみに、操れるつうか..まあ、俺の指示を聞いてくれるのは何も蜈蚣だけじゃあねえぜ」

「ほかに何が操れるの?」

「まあ、ゲジゲジとかゴキ――

「それ以上は言わないで!!」

「はい..」

すげえ勢いで止められた..俺の力をフルに使っても、ゴキは救えなさそうだ...無念。

 

 

「その一週間後くらい後に、一輪さんがすごく怒ったり、倒れちゃったり..」

「あぁ..そんなこともあったな..」

阿求と一緒に守矢神社に行って、そのまま帰るのが遅くなって阿求の家に泊まったんだが、その次の日がなかなかの修羅場だったな...

「結局、なんでお前は怒ってたんだ?」

「うっ..もういいでしょ、その話は!」

案の定聞いたら一輪に怒られた。

「別にもう時効だ!教えてくれてもいいじゃないか!」

「もうしつこいわね!」

「「グヌヌヌ!!」」

とにらみ合う俺と一輪。この状況になるのは久しいな。

「まあまあ一輪。一年も終わりですから、教えてあげてもいいんじゃないですか?」

「そうそう、一年の終わりなんだしもやもやしたまま過ごしたらよくないですし」

「ヨウマさんならきっと受け止めてくれますよ!」

「うっ..聖様まで..」

聖や村紗達に促されてしまい、もう言うしかないだろう..さあ言え!いうんだ!

一輪はみるみる顔を真っ赤にさせて遂に口を開く。

「アンタが他の女の子の所で寝泊まりしたのが許せなかったのよ!!それに、熱愛だなんていうのが嫌だったの!!!」

一輪の声から出てきたのは思いもよらない答えだった。

「えっ..それって」

嫉妬してたのか..

一輪は全て言い終わったあと、顔を赤くしたまま下を向く。

それを聞いた村紗と響子はキャーと盛り上がっており、聖も顔を少し赤くして「あらまあ」とか抜かしてやがる。

そして、

「それじゃあ、私たちは早めに準備してますから、ヨウマさんと一輪は後で来てくださいね」

と変に気を利かせて、響子と村紗を連れていきやがった。

やめろよ!!変に気を利かせんなよ!てか雲山も出ていくなよ!!二人っきりって恥ずかしいやん!

 

聖達が部屋から出ていくと、一輪が俺に抱き着いてきた。顔を俺の胸に埋めているから表情を読むことは出来ないが、俺の体に回す腕の力は強かった。

「なあ、いつから俺を好きになったか、聞いていいか?」

俺はそんな彼女の頭を撫でて聞いてみることにした。

「知らないわ..でも、私がアンタを好きだと自覚したのは、アンタが倒れた私のために薬を持ってきてくれた辺りよ..」

「そうか..俺はさ、お前に大蜈蚣から助けてもらったときから意識していたんだ..」

俺の告白に一輪の抱きしめる力が増す。そして、真っ赤に染まった顔を俺の胸から上げた。

やっぱり、顔が赤くなってもとても奇麗だった。

「来年も一緒よね..」

と不安げに聞いてくる一輪が可愛くてしょうがなかったが。俺は彼女の眼をしっかりみて

「あぁ、来年もずっと一緒だ!来年だけじゃねえ...これからもな!!」

と伝えると一輪は安心した顔をして、また俺に身をゆだねてくる。全く、可愛いやつだな。

「でも、浮気したら..」

「いてえええ!しないから!!!」

腕の力を最大限まで強めてきやがった!さっきの発言撤回したろか!?

「てか、いつまで強めているんだ!骨折れるううう」

「なら、あんたも..抱きしめなさいよ...」

俺は突っ込む暇もなく、すぐさま彼女の体に腕を回す。そうすると彼女は腕の力を弱めてくれた...

普通に死にそうになったわ...

俺が抱きしめると、一輪は嬉しそうに顔を上げて俺に微笑みかける。

「ふふ、これからもよろしくね//」

「あぁ..」

お互い顔を近づけた...

 

そして、その後は除夜の鐘により一年の終わりと始まりが訪れたのだった。

 

 

~白玉楼~

 

「ねえ、外の神社の様子はどうだったの?」

白玉楼のお嬢様である西行寺幽々子は友であるスキマ妖怪の紫に尋ねる。

「大晦日だというのに人が多かったわ..でも、その中で一人気になる人を見つけたわ」

「気になる人?」

「えぇ、たどり着くだけでなく、私を認識できた人よ」

「それは、気になるわね~」

「ふふ、だから招待することにしたわ..」

「そう、きっとこの幻想郷に馴染んでくれるわね」

 

紫によって見定められた外の世界の住人..新しい物語が今動き出そうとしている..

 

 




さーて、新ストーリーが始まります。

大剛毅の所を押すと新ストーリーが出ますのでどうか、皆さんお楽しみに。
並行して書きまーす。


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第37話「一年の始まりと新たな始まりの予感」

1月1日あけましておめでとうございます!ってもう過ぎてる!!

今年は寅年ですね。寅丸の正月イラスト描いておきました!
もちろんへたくそだけどな!!

新シリーズ、東方表裏受拒も同時並行でスタートしましたー
いいんじゃないですかね。(何が?)




「「「新年あけましておめでとうございます」」」

今日はお正月。命蓮寺では人がわんさかきて、とても大変だぜ。

先日知り合った河童たちは店を開いており、儲けを出している。どうやら、河童は大体そうらしいな。

 

さて一年の始まりだ!まずすることと言えば!

「はい、こちらが本堂になります」

命蓮寺に来ている参拝客の案内などである。......いや地味じゃない!?

新年早々すげえことをやると思っていたが、まさか普通のことをするとは。

「はーい本堂お参りの方はこちらにお並びくださーい」

なんで俺は新年早々列の整備をせねばならぬのか...

「はーいこちらが本堂お参りになりまーす」

悲しいかな、割り振られた仕事をしっかりこなす俺。

やってられるか!!って放り出すことなんてできねえぜ...

「ヨウマさん声が小さいですよ!お参りの方はこちらでお並びくださーーーーい!!」

響子のやつ新年早々元気なこった...いや、これが正しいのかもしれん。

新年早々元気よく行けば、その年はいい年になるってな!誰かが言ってた気がするぜ。

「はい!こちら本堂お参りになりま――――す!!」

「いいですね!!こちら本堂です!!!お参りの方はこちらへどうぞおお!!」

新年早々、命蓮寺には俺と響子のバカでかい声が響いた。

もちろん、新年早々から声が少し枯れた...

 

 

時間と共に本堂にお参りを済ませた参拝客が帰ったりと、人数はどんどん減っていった。

もう誘導しなくとも、お参りできる状況になって、ようやく飯にありつくことができた。

「ふう..流石に疲れるわ...」

「お疲れ様。はい、これお雑煮」

「おうありがとうな」

一輪から手渡された雑煮の出汁を一口飲む。正月だが、外はやっぱり寒いので暖かい飲み物は体に染みわたる。これがたまらない。

「ふう、新年早々一輪の手料理が食べられるなんて、嬉しいな」

「ッツ///馬鹿!!」

一輪から照れ隠しの一撃を貰ってしまった。はは、可愛い奴だ。

と和やかに飯を食っていたんだが..

「寅丸代理の姿が見えねえな」

そう、寅丸代理の姿が一向に見えねえ。

「なあ、寅丸代理は?」

隣で飯を食っている一輪に耳打ちすると。

「本堂の方にいるわ...でも、今は近づかない方がいいかもね」

そういいながらお雑煮の出汁を飲む一輪。

俺はそんな彼女の意図がわからず、頭に?を浮かべていたが、その言葉をよく聞くようにすればいいと後悔するのだった。

 

 

「さてと、寅丸代理は本堂にいるんだってな..」

早速飯を食い終わり、本堂へと向かう。

参拝客を横目に本堂の扉をそーっと開けると

「うおおお何の光ィ!?目が!?目があああ!?」

まばゆい光が溢れ出てきて、俺はムスカ大佐のように目を抑えてしまった。

この光の眩しさを例えるなら、夜中寝てたら急に電気をつけられたような..そんな感じだ!割と地味だけど強力だ。

さて、その光を出しているのは何者なのか。そう、答えは簡単、飯の場にいなかった寅丸代理だ。

「ぐおお!寅丸代理、なんでそんなに光っているんだ!?」

「ヨウマさんですか。ふふふ、今年は寅年!つまり私の年だからです!!」

「何言ってんだ..」

そういや、一応毘沙門天の代理だったけど、彼女は寅だったな...でも、寅年でこんなになるのか!?

「私の年だああああ!!」

より一層輝きを放つ代理。やべえどこぞの檀黎斗神になってるうう。

ここは退避するしかねえな。

 

「はぁ...はぁ...まさか寅丸代理があーなってるとはな」

「全く、困ったものだ」

「うおっ!?ナズーリンいたのか...」

寅丸代理の変貌ぶりに動揺してたら代理の一応立場上の部下のナズーリンが話しかけてきた。

「主は今とてもテンションが高いんだ。12年に一回の年だからね」

「まあそうなんだが...寅年くらいであーなるとは...ん?子年の時のお前もあんな感じなのか?」

「何を言ってる!私があんなバカみたいなことをするとでも?」

「すまん..」

おい、今こいつしれっと主をバカ呼ばわりしたよな?

「全く君は居候の分際で...そもそもね!!」

この後、長い説教基文句を言われた。泣けるぜ...

 

 

「だああ!新年早々こんな目にあうなんてどういうこった!!」

寅丸の光に目がやられた挙句、ナズーリンから長い文句を言われるなんてな!

「まあまあ、正月ですから。許してあげてくださいね?」

その怒りを聖にぶつけると、聖は苦笑いして、俺をなだめる。

手を合わせて頬にあてる。あざとい...あざとすぎるぞこの住職。そんなので大の男が許すと思ってんのか!!

「まあしょうがねえ...12年に一回の年だからな」

俺はちょろいな..ちょろいというか女性に弱いというか...

それを聞いて聖はパーッと明るくなった。これで許さねえ男がいたら俺が殴るわ。

 

 

その後、聖から自由を貰った俺は、適当に境内にある店を見ていく。

「やあ、久々だね。ヨウマといったかな」

店を見ていると、リーダー格っぽい青いツインテールの少女『河城にとり』に声をかけられた。

「あぁ、にとりか。どうだい?商売繁盛はしているかな」

「もちろん。君に贔屓にしてもらったからね」

とニコリと笑って、指で〇を作る。どうやら、相当儲かってるらしい。まあ、こんだけ人がいるんだからな。

「さて、色々贔屓にしてもらってるし、何か安くしておくよ」

「そりゃあ、ありがてえ」

にとりからのお礼で、きゅうりを大量に安くしてもらった...いや、きゅうりしかねえのか!?

冬にきゅうりは流石にな...

 

 

しょうがないから、大量のきゅうりを貪る。何が悲しくて、この季節にきゅうりを味噌につけて食うなんてな...夏だったらサイコーなんだが...

「うぅ..寒い...」

寒い中、冷たい物を食うとは。というか、売れねえから俺に在庫処理したんじゃねえのか!?

河童..恐ろしい奴だ...

河童の狡猾さと、冬の寒さに震えていると見たことのある姿を見つけた。その人物は俺を視界にとらえると、笑顔で駆け寄ってきた。

「あっ、ヨウマさん!」

「おお小鈴か」

里で貸本屋の娘の『本居小鈴』だった。いつもの服装とは違って、今日は飴色の振袖を着ている。正月の初詣は皆振袖を着ているもんか。

「ヨウマさん、こんなところで何してるんですか?」

「きゅうりを食ってる...」

「あはは、今冬なのに?」

ぷぷぷと口に手を当てて笑う小鈴。やめろおお!!そのぷぷぷって笑い方は今の俺の心に刺さるんだよ!!

「アハハ、すいません。少し笑いすぎちゃいました..」

「い..いや、気にしてないよ」

実際は超絶気にしている。

「あけましておめでとうございます」

「あぁ、あけましておめでとう。今年もよろしくな」

小鈴が頭を下げたので、俺も頭を下げてしっかりと挨拶をした。その時俺はようやく気付いた。

あれ?阿求がいない。大体セットでいると思っていたのだが。

「なあ、阿求は一緒じゃないのか?」

「あぁ、阿求はあとできます。和菓子屋さんから呼ばれたから、準備とか遅くなって時間がかかるって言ってました」

「あぁ..まあ女の子は準備とか色々かかるからな」

「そうなんですよ。で、ヨウマさんこの格好どうですか?」

小鈴が俺の目の前でくるりと回る。飴色の着物が小鈴によく似合っている。

「あぁ、いつもよりもかわいいよ」

「えへへへ、やっぱり可愛いですよね///」

自画自賛するとは..まあ、容姿とか含めて可愛い方ではあるからな。小鈴でこれってことは阿求も...

いや!一輪のも見てみたい...

俺の脳内が色欲にまみれてしまった。

「ヨウマさん..?」

「あぁ!すまんすまん..遂見入っちまってな...」

「もう、ヨウマさんったら!!///」

「痛い痛い...」

俺の誉め言葉に顔を赤くして照れながら、俺の肩をべしべし叩いてくる小鈴。乙女だな~

 

 

「寒いだろうから何か奢るよ」

「本当ですか!何にしようかな~」

風が吹いてきて、小鈴が少し震えていることに気づいた俺は、紳士であるため暖かい物を奢ってあげることにした。

小鈴は目をキラキラさせながら、河童共の出店を見ている。そして、暖かいお雑煮を選択しておいしそうに食べている。体も暖まって元気そうだ。

一方俺は、まだまだ残っている在庫処分のきゅうりを貪るのだった。

お雑煮をおいしそうに食べてる少女の横で、季節外れのきゅうりをボリボリ貪る男。絵面的に俺は要らないだろう。泣けるぜ...

 

「あっ、ヨウマさん!小鈴!」

 

並んで食っていると、俺と小鈴を呼ぶ阿求の姿が見えた。

紫髪に紫の着物...とてもよく似合っている...小鈴は色が明るくて、明るい小鈴にぴったりだ。

阿求の着物は控えめな紫。阿求の大和撫子感に合っている。可愛い...

「可愛いな...」

「え!?///」

おっと、思わず思ってたことを口にしてしまった。唐突に言われて顔を赤くしたまま固まってしまった阿求、正直その姿も可愛いな..って!!こんなこと考えていたら一輪に殺されるわ!!

「改めて、あけましておめでとう。今年もよろしく」

「はい、あけましておめでとうございます..今年もよろしくお願いしますね」

「ヨウマさんが暖かい物奢ってくれるみたいだから、一緒に食べましょう」

「いいんですか?」

「まあ、そのくらいならいいぜ」

小鈴と同じように阿求にもお雑煮を奢ってあげた。阿求と小鈴の二人の美少女がお雑煮を並んで食う。これはもう映えるわ!俺みたいなきゅうりを貪る男が並んでいいわけねえわ。

 

お雑煮を食い終わって一服する二人。俺もようやくきゅうりを貪り終えた。

「あっそうだ。ヨウマさん少しいいですか?」

「おん、なんだ?」

阿求の顔が真面目な感じになったので、思わず身構えた。

「実は...ヨウマさんとは違う別の外来人の方が来ています」

「なんだと..?」

別の外来人とは..

「どんな奴だった?」

「ヨウマさんよりも年は上で恰好は」

そういうと阿求は床に外来人の特徴を描いた。中折れハットを被った昔のギャング映画に出てくるような男だ。

なぜ鮮明に覚えて、描けるのかというと、彼女の能力は一度見たものを忘れない程度の能力だからだ。

「話をした感じですと、幻想郷に来て混乱するどころか...逆に馴染んでましたね」

「それは...強者だな」

ここ幻想郷に来て混乱しないとは...とんでもねえ奴だな(こいつも割と早めに馴染んでた)

「まあ、悪い人でもなさそうでしたし。今度会ってみてはどうです?」

「うーん、まあめんどくさいな~」

「めんどくさいって...」

 

 

その後、日が沈んだ後に、命蓮寺の面々に新しい外来人のことは報告しておいた。まあ、俺にできるのはこのくらいだな。新しい外来人か...まあ、いつか関わることがあるだろうな。

 

 

 

~博麗神社~

「なあなあ、霊夢。あの倒れた人は大丈夫だったのか?」

「えぇ、一応永遠亭に運んだけど、どうやら意識が戻らないみたい。とても重傷みたいだわ」

「珍しいな、重傷を負ってくる外来人なんて」

「はあ、せっかくのお正月なのに...」

「まあまあ霊夢。正月はこれからだぜ」

 

一年の始まりは新しい何かの始まりなのかもしれない。

 

 




皆さま!!すいませんでした!!

あぁこれ寅丸の正月イラストです。意識が朦朧してる中描きました。なので雑です。

【挿絵表示】



えっと明日から北海道に行かねばならぬので、投稿頻度マジで落ちます。でも失踪はしねえから安心して。


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第38話「現代入り...?」

はいみなさんお寒い時期だと思いますが元気ですか?
北海道はマイナスですねー
2度だったんですけどまだ暖かい方ですね。
ボチボチ書きます


ジリリリリリリ!!

「ん...うるせえな....。おめえそんな声だっけ....」

ジリリリリ!!

「だから、お前はそんな声だっけ....」

ジリリリガチャッ!!

「ガチャって....急にどうした.....」

「寝ぼけてないで早く起きなさい!!!!」

「はいいいいいい!?」

声に違和感を感じていたら、少女の大きな声が俺の耳元に響き、思わず布団から飛び起きてしまった。

さっきまでの眠気は何処へやら、飛び起きた反動で全てどこかへ吹っ飛んでしまった。

「ふあ〜。まだ日が...出てる!?」

重い瞼を擦って窓を確認すると、いつもなら暗い空が明るくなっていた。

なんだと...!?いつもなら日が出る前に起こすくせに!?

「ほら!早く支度する!!」

動揺してくる俺にまたまた大きい声をかけてくるのは入道使いの修行者である一輪....なんだが、格好が....セーラー服になってる.....

いつもの僧侶みてえな服はどこへやら、今俺の目の前にいる少女は女子高生の鉄板であるセーラー服を来ているじゃねえか!?

しかも、頭巾をいつも被っていたはずなのに、今は自身の綺麗な空色髪を全て公にしている....

何が起きている...これは新手のスタンド使いの仕業か...!?そういや阿求が昨日新しい外来人がきたとか言ってたな!そいつのせいか、はたまた妖怪のせいなのねそうなのねなのか...

「ちょっと、何ジロジロ見てるの?」

「いや、新鮮で可愛いなって思って」

「ッツ...!馬鹿!!///」

「ぐぼえーー」

あぁ、今日も殴られたよ...

 

 

「いただきま〜す」

「って!悠長に食べている暇はないわよ。ほらパン咥えて!」

「少女漫画かよ...」

こういうのって女の子が咥えるもんじゃねえの?

てか、ここ命蓮寺なのになんでパン?

「それじゃあ聖さん行ってきます!!ほら、ヨウマも!」

「えっおま、今聖さんって言ったか..?」

「普通でしょ?ほらいく!!」

「えっえぇ...」

「2人とも気をつけてね〜」

エプロンをつけた聖に笑顔で見送られる。

どういうことだ!一輪がJKの格好で聖がエプロンつけて朝食作ってたし!

 

 

寺の外を出てみるとあらびっくり!

命蓮寺の周りには現代の...俺の住んでた外の世界の景色が広がっていた。

普段の命蓮寺ならば周りが木で囲われいるんだが、今はコンクリートの建物で囲われている。ますます混乱してきた....

「それじゃあ私はこっちだから」

「えっ...一緒じゃないんか?」

「女子校に行く気!?」

何言ってるんだって顔で俺を睨みつける一輪。普段だったらここで変態と罵られる、だが今の状況は違う。命蓮寺の前にはふつうに通行人が歩いている。和服ではなく、洋服やらスーツをきた通行人が。人前なので言わないあたり、一輪の優しさが出ているな。

しかし、だとすると俺は...

「俺はどこに行けばいいんだ..?」

どこへ行けばいいかと問うと一輪は呆れた顔でため息を吐いた。

「ハロー○ークでしょ....あんた穀潰しのニートなんだから働きなさいよ...全く...」

ええええぇぇ!?俺この変な世界でもニートなのおお!?

俺の心に衝撃が走る。現実世界だけならず、こんなところでも無職だとは...泣けるで。

そして何より俺の心に一番効いたのは一輪のゴミを見るような目である。現役JK怖えわ...

「う..うん...それじゃあ気をつけていってらっしゃい....」

「うん、いってくるわ。あんたもしっかり働き口見つけるのよ」

「....はい」

一輪は俺に釘を刺してそのまま俺と反対の方向へと向かっていった。スカートを靡かせて走る彼女の後ろ姿は美しかった。

 

 

さて諸君。この俺がしっかりハロー○ークに素直に行くと思うか?答えはNOだ!!

ニート舐めんな!卍!!

ってのもあるが、まずはこの世界のことを把握しなければいけねえからな。

変な世界に飛ばされたならまずはそれ優先だ、働いてる暇なんてない!!

しかし、どこへ行けばいいのやら...

適当に見慣れぬ街を歩く。コンクリートで舗装された道の感触がどこか懐かしい。

それに行き交うたくさんの人達に遠くの空にそびえ立つビル群。たくさん人がいるから喧騒がすごい。完全に都会だな。

「商店街...」

俺の足が商店街の入り口で止まる。普通ならばそのまま素通りしてただろうが、止まったのには理由がある。『蜈蚣商店街』という名前が目に止まったからだ。

そのまま商店街へと足を進める。まるで何か引き込まれるかのように。

 

商店街は人で賑わっており、沢山の人とすれ違う。どの店もどうやら繁盛しているようだ。

「百足神社...」

沢山の人で賑わっている商店街の中にたった一つ、人が立ち寄らない場所...それは幻想郷の里にもある百足神社だった。

通行人は百足神社に気づかず素通りしていく。

俺はこいつに呼ばれたのか?ポツンと誰もいなく佇んでいる祠から何かを感じた俺はそのまま祠に手を触れた。

しかし、何も起きなかった...

いや何も起きねえのかい!!ここはなんかイベント発生して世界の真実に気づくところだろ!?

ただ、人が寄りつかねえだけだったのかよ...めっちゃ思わせぶりやん....

 

 

「何一つ成果を得られねえ...」

ハ○ワで働くことを犠牲にしてまで彷徨った結果がこれだよ。

なんの成果も得られませんでした!!

世界の真実は今んところ把握できず...

俺はトボトボ現代の街をひたすら歩き続ける。

結局俺は命蓮寺の元へと帰ってきてしまった。

本堂の方に向かうとお経が聞こえてくる。どうやら聖がお経を読んでいるらしいな。本堂の扉をそーっと開けるとお経を読んでいる聖の後ろ姿が見えた。

「うっ...声を掛けづらいじゃねえか...」

熱心にお経を読んでいるやつの邪魔はできないしな。

俺は野暮な男ではないので、聖がお経を読み終えるのを待つことにして適当に座った。

(まだ終わらねえのか...)

聖のお経は長く続いた。いつ終わるのかもう全然わからない...やべえ眠くなってきた...彼女の綺麗な透き通る声のお経は子守唄の作用があるようだ....まずい....このままだと俺....ねむっちまう...........

 

「...さん....きてください...」

ん?なんだ?ようやく元の世界に戻れるのか?

「ヨウマさん起きてください!」

よしこれでこんな世界とはおさらばだぜ!

「おう、起きたぜ」

「ヒャッ!?」

俺が勢いよく飛び起きると聖は可愛らしい声をあげた。

「聖!帰ってきたぜ!」

「えっと...おかえりなさい...?」

さてと、元の世界に帰ってきたぜ。

意気揚々と本堂の扉を開けて、元に戻った世界をこの目に焼き付けようとするが...

「あ...れ...?」

俺の目に飛び込んできたのは現代の建物で囲まれた命蓮寺だった。

全然元に戻っていなかった....嘘ーン!?

どうすれば元に戻れるんだよ!?

「あ、そうだ。ヨウマさんがいてちょうどいいわ」

「へっ?」

元に戻れずに悶々としている俺とは対照的に聖のやつが手を叩いて喜んでいる。なにわろてんねん。

「ヨウマさんにお願いがあるんですけど〜」

両手を合わせてそのまま頬にやって身を少しよじったりする聖。あざといなこの住職。

「あぁ、一応頼みは聞くぞ」

「ありがとうございます〜」

こんな美人の頼みを断るやつがいたら俺がぶっ飛ばす。

 

「はい、これを一輪へ渡してもらえますか?」

聖から手渡されたのは女の子らしく空色で花柄の包みに入ったお弁当。

「えっと...女子校にこれを持って行けと?」

「はい!」

はい!じゃねえだろこの住職!!女子校に俺を行かせるだなんてハードルの高いこと頼みやがって!

「しかし、なんで忘れたんだ?それに俺に頼むんだ?」

一応ここは平常心を出して、理由を聞き出すとする。

「えっと...お弁当を一輪に渡し忘れちゃって...ヨウマさんに頼んだのは、この後はまだやることがいっぱいで..えへへ///」

えへへと照れ笑いしながら指と指を絡ませる聖。だからあざといってこの住職は。

そもそもえへへじゃねえだろ。

「わかった、しっかり俺が届けるよ」

「はい、お願いしますね」

もちろん断るやつがいたらどうなるかわかってるよな?(ボキッ、ボキッ)

 

 

「さてと...確かここら辺だったよな?」

聖から渡されたメモを確認しながら道を進んでいく。

幻想女子校...どんな名前だよ...中等部と高等部があるエスカレーター式らしい。

さて、一つ問題があるとすれば、俺みてえな男がここに入ることだ。こんな時間に男が1人、確実に不審者に見えるだろうよ。さて、どうするか...校舎の時計を見ると二つの針が一番上で重なる。

「授業の終わりか....」

チャイムが鳴ったと同時に、窓から大きな号令が聞こえてくる。どうやらこれが授業の終わりで、今から昼休憩が始まるらしい。

昼時になると沢山の少女が校舎の外からワラワラ出てくる。

まずい、こんだけ多いと萎縮しちまうぜ...

校舎とは別の方向を見てなんとか怪しまれないように...いや、これでも怪しいわな。

「あれ?ヨウマさん...?」

不意に名前を呼ばれてビクッと体が飛び上がってしまった。

この声は...

「阿求か」

「やっぱりヨウマさんでしたか。こんにちは」

「あぁ...」

いつもは和服を着ている阿求がセーラー服だなんて...新鮮すぎて、可愛すぎて、目が合わせられねえ...

「校門の前に見たことのある姿があると思って来てみたら、やっぱりヨウマさんでしたね」

「あぁ...」

「どうしました?」

「い...いや、なんでもねえ」

目が泳いで動揺している俺と頭に?を浮かべてキョトンとする阿求。こういう関係はここでも変わらねえな。

「それで、どうしてここにいるんですか?」

「あぁ、そうだ!」

すっかり忘れてたぜ。俺にはお弁当を渡すっていうミッションがあったんだ。

「お弁当を一輪の奴に渡さなきゃいけないんだ」

「お弁当ですか?」

「あぁ、一輪に渡したいんだが...俺がここに入ることは....」

「入れますよ」

「えっ?」

「忘れ物の届けはよくありますので、全然気にしないで入っても大丈夫ですよ」

俺は阿求の言葉を聞いて力が一気に抜けたのを感じた。俺が今まで悩んでいたことは一体....女子校ってハードルたけえんだよ!!

「そ...そうか、それなら入って探すとするか」

「良ければ私もご一緒しますよ」

「おっ悪いな。阿求が一緒なら安心だ」

阿求というとても心強い存在を味方にした俺は女子校を突き進む。

阿求と2人ならば行けると思っていたが、やはりジロジロと見られる度に心が折れそうになる。

阿求が『ここが一年生の所で...』と色々説明してくれているが、周りからの視線が俺の心を砕きそうになる。

(早く一輪の元に辿り着け...)

心の中で強く願う。

「一輪さんのいる所は校舎の一番端ですね」

しかし、無情にも道は長く続くらしい。泣けるぜ...

「あ、ヨウマさんじゃないですか」

「おう、小鈴か」

阿求と廊下を歩いていたら、扉から小鈴のやつが飛び出してきた。

小鈴も阿求と同じでセーラー服を着ている。新鮮だな本当に。

「ヨウマさんどうしたんですか?もしかして、阿求に会いにきたんですか?」

「違うわ。普通にお弁当を届けにきただけだ。それに阿求に会うなら、わざわざ女子校行かんでもいいしな」

この小娘...何言ってやがる。

「あはは、そうですよね」

そういうと小鈴は阿求の元に駆け寄り耳打ちする。耳打ちされた阿求の方は顔を真っ赤にして湯気を出しちまった。

何を言ったんだこいつ?

とここで、周りにいた女子のヒソヒソ話が、やめろ!ヒソヒソ話は俺が一番効く!!

思わず耳を塞ぎたくなるが、お弁当を持ってるせいで塞げねえ...そのせいか喋っていることが丸わかりだ..

『あれが稗田さんの彼氏?』(ヒソヒソ)

『そうらしいよ、稗田さん顔赤くしてるし..』

って...えぇぇぇぇぇ

「「ちがーーーーーう!!」」

俺と阿求の声が廊下に響くのだった

 




うおーーー寒くないのかって聞かれたら寒いと答えるぜ


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バレンタイン特別編「バレンタインっていいな!!(byヨウマ)」

バレンタインですね!今回はバレンタイン特別ですよみなさん!!

でも日を跨ぐのが俺クオリティ


「はー今日は天気がいいな」

俺は今現在、里へ向かうための道をのどかに歩いている。

2月の中旬で寒いとはいえ、太陽が出ていれば、その光で少しは体がポカポカと暖かくなる。だから俺は、雲一つない今日のような天気はとても好きだ。

「いやー今日も楽しい一日になりそうだな!大蜈蚣もそう思うだろ?」

俺に巻き付いてる大蜈蚣も俺の言葉に同意してうなずいている。

 

今回俺達が里へと足を運ぶのは、阿求や小鈴と会うためだ。一月は寺の方が忙しかったから、阿求や小鈴に会えてないからな。

さてと、楽しみだな!!

 

しかしこの後、この楽しみな気持ちが粉砕されるとは思わなかった....。

 

 

「なっ!?な、なんで...!?」

里について俺の目に真っ先に移ったのは....。チョコを渡している若い女性と、それを貰って嬉しそうにする若い男性の姿だった。

「なぜチョコが!?まさか!?いや、そんなことはない...」

俺は自分にそう言い聞かせて、商店街の様子を見る事にした。

たくさんの店がバレンタインのチョコを売っているじゃあねえか!!

 

「うおおおおお!?今日は2月14日だったのか!!」

2月14日と言えばバレンタインだ。

バレンタインといえばこの俺の宿敵とも呼べるものだ!非モテの男にとっては地獄ともいえるイベント!!

諸君はきっと、母親からチョコを貰った事だろう....まあ、俺にはその母親もいなかったんだが.....。

とにかく、俺はこのイベントを見るたびに胸が締め付けられる!!

今日この日に来たことを後悔するぜ!!

俺はそのまま、ムスカ大佐のように目を覆い、里を離れることにした。

 

「今日は最悪な日だぜ!!」

 

だが、大蜈蚣はそれを良しとせんと、俺に引き返すように促す。

「止めるな!!俺はこの場にいると俺が俺でなくなる!!」

俺の精神は限界だ。止めないでくれーーーー!!

 

「あれ?ヨウマさんじゃないですか!」

「むっ、その声は...」

俺と大蜈蚣が格闘していると後ろから聞きなれた声が聞こえた。その声がした瞬間大蜈蚣はすさまじい速さで俺から離れていった。

振り向くと、飴色髪のツインテ少女、小鈴が立っていた。なるほどな、大蜈蚣が離れたのは小鈴のためか。

「おう、小鈴じゃあねえか。...その箱と袋は」

小鈴の手にはリボンでラッピングされた箱と同じくリボンでラッピングされた巾着袋を持っていた。

「あぁ、これですか?いつもお世話になっている方に配っているんです。ヨウマさんもどうぞ!」

「おう、ありがとうな」

と、巾着袋の中から包装紙で包まれたチョコを渡された。

あぁ、なるほどな。義理チョコをこうして配りまわっていたんだな。好きな男の子でもいるのかと思ってビビったぜ。

これが人生初の異性から貰ったチョコだ。嬉しい....。

「で、この箱は阿求に貰ったチョコですね」

「友チョコってやつだな。しかし、高級感あふれるチョコだな」

「阿求はいいところのお嬢さんですから...ハハ」

「そ、そうか...」

まあ、確かに阿求ならこんくらいの物渡してきそうだな。

「それで、ヨウマさんはどうしたんですか?」

「あぁ俺か。小鈴や阿求、里の子供たちに会おうかなって思って。一月中は俺が変な状況になったしな...」

「変な状況?」

「まあ、気にしないでくれ。ハハハ」

(俺に何かあったかはまた今度話そう)

 

「それじゃあヨウマさん、阿求のところに行きましょうか!」

「ファ!?」

「阿求に会いに来たんでしょ!早く早く!」

「ちょっ引っ張るなって!!まだ心の準備が!?」

 

積極的な小鈴によって、俺は阿求の家の前に連れてこられてしまった。

「ここで一回待っててくださいね」

「あっ、ああ.....」

阿求の家の前で待たされる。なぜ待たされるのかわからないが....。

 

ん?その時俺は気になる後姿を見つけた。

「聖?なにやってんだ?」

珍しいな。聖はよく里へとお布施をもらいに行っているが...今回はそれをしてないなんてな。

 

「ん?」

阿求の家からなんか大声が聞こえた気が....。気のせいか?

っと、聖は...

阿求の家の方を向いていたら、聖を見失ってしまった。聖がなんのために里にいるのか気になったが、彼女のプライベートだ。詮索するのはやめよう。

 

「お待たせしましたヨウマさん!」

と、小鈴が扉を開けて俺に声をかけてくる。

「おう、なんか大声が聞こえた気がしたんだが?」

「気にしないでください!それより、阿求の家でチョコを食べませんか?」

「あぁ、別に構わないが」

とまあ、なぜか小鈴に案内されて阿求の家に入り、阿求の部屋へと通された。

阿求は今席を外しているようで、適当に小鈴と向かい合って座った。

「なあ、阿求は?」

阿求がいないことに違和感を抑えられなかった俺は小鈴に聞くお、

「阿求は今大事な作業してますから」

小鈴はニヤニヤしながら頬杖をついている。

彼女の意図が今は分からなかったが、後で思い知ることになる....。

 

 

 

~命蓮寺では~

「ヨウマさんは予定通り出かけていきましたね」

「今がチャンスですね!」

ヨウマが出かけた後に命蓮寺の面々は会議を始めていた。

 

「それでは、ヨウマさんにバレンタインのプレゼントを渡す件について始めましょう」

そう、バレンタインについての会議である。

「ひとまず、賛成の場合手をあげてください」

聖の言葉に、一人を除いてほとんど全員が手を挙げる。

 

「お主はなぜ反対なんじゃ?」

命蓮寺の居候である化け狸のマミゾウは隣にいるぬえに理由を問う。

「ふん!あんな奴にプレゼントなんて渡したくないわ!」

ぬえとヨウマには因縁があった。因縁といっても周りから見れば可愛いものだ。

「しかし、また一人だけ参加してないと、ヨウマの奴に『ぼっち』って言われるぞ?」

「グッ!?」

ぬえとヨウマは最近では、喧嘩する仲になった。ぬえとしては、ヨウマに付け入るスキを作りたくない。そのため、ぬえは

「わかったわ!参加する!あいつのことは気にくわないけど!」

渋々参加することを決めた。

 

「さて、満場一致ですね。では、材料は私が買ってきますので、準備をお願いしますね」

「「「「はい!!」」」」

命蓮寺面々のバレンタイン作戦が始まる。

 

 

~阿求の家~

 

「おっ、お待たせしました.....」

阿求の部屋で小鈴と二人くつろいでいると、阿求が部屋へと入ってきた。

「おう阿求!久しぶりだ.....なあああああ!?」

振り返って阿求の姿を見たが、その姿に思わず声を大きくしてしまった。

阿求はいつもの着物姿なのだが....なぜかリボンを体に巻き付けている。

この姿はまさか!?女の子が自分にリボンを巻き付けて、『私を貰ってください』ってパティーン!?

ま、まさか...阿求に限ってそんなわけ.......

 

「あ、あのヨウマさん...」

「な...なんだ?」

阿求が顔を赤くし、身をよじる。

「わ、私を....」

ま..まさか!?

「貰ってください!!」

だめだこのお嬢様、なんとかしなくては!?

誰だ、阿求に入れ知恵した奴は!

「ハッ!?」

小鈴の方を向くと、小鈴は笑いをこらえている。お前か!!

「ヨウマさん...?」

「いやーーー!!もらえねえよ...」

「うっ...そんな.....」

「だあああ泣かないでくれー!!」

「アハハハハハ!!」

もうめちゃくちゃだ!泣く阿求に、大爆笑する小鈴。そして慌てふためく俺。バレンタインはやっぱりクソだったな!

 

 

「さきほどはすみませんでした....」

「ああ...俺も取り乱してすまない。小鈴!お前も謝らんか!」

「えへへ、ごめんね阿求」

ふう、結局あの後、小鈴を小突いてなんとか収拾させた、つかれるぜ。

 

「それじゃあ、チョコ食べましょうか!」

「おう」

そう言って小鈴がチョコレートの箱を開ける。すると小分けにされたおいしそうなチョコが出てきた。

「阿求に貰ったチョコですねこれが」

「それでは私も」

阿求も、小鈴から貰ったチョコをテーブルに並べる。チロルチョコみたいな台形のチョコが複数個。味はどうやらイチゴとかあるらしい。

「それと...」

また顔を赤くしながら、阿求が俺にチョコを差し出した。

「これは...」

「手作りです...」

ハート形の大きいチョコだった

「あんた頑張って作ってたもんね」

「小鈴!!」

「はは、すげえ嬉しいよありがとうな阿求」

「は..はい!///」

初めて貰った本命チョコか...嬉しいな....

 

そのあとは、チョコを食べながら談笑をした。久々に話をしたが、元気そうでなりよりだ。

ずっと、バレンタインは陰鬱な気分だったが、今日は違う。こんな思いは初めてだな。

 

「バレンタインっていいもんだな!!」

阿求から貰った、チョコを手に持ち、帰路につく。今日は最悪の日だと思っていたが、いい日になった!

バレンタインサイコおおおおお!!

 

そして命蓮寺へと帰る。

命蓮寺は仏教なので、おそらくバレンタインのチョコとか無縁だろう。

 

「たっだいま~!」

気分ウキウキ、とても嬉しそうな声が出てしまった。

本堂をガラッとあけると、

「なああああああ!!」

自分の体にリボンを巻き付けた一輪が待っていた。

「おっ、おかえり...ヨウマ、あのね...///」

このパターンは!?

「私を貰って!!」

本日二回目えええええ!?

「うぉおおおい!お前らどういうことだ!!」

俺は柱に隠れているであろう、面々たちに怒号をぶつける。

するとニヤニヤしながら村紗達が出てきた。

 

「いや~、えへへへ」

「なにわろてんねん村紗!!」

「そんなことよりヨウマさん!これを」

「これをって!バレンタインチョコ?」

代理を皮切りに村紗や聖と次々チョコを貰っていく。

「はいこれ!」

聖や村紗はともかく、ぬえの奴が作るとは珍しいな。

「あれ?珍しいな、お前が渡すなんて毒でも入ってるんじゃあねえのか?」

「なんですって!?」

とまあ、案の定喧嘩になったな。ぬえとも、この一カ月で大いに関係が進展したものだ。まあ、これにも色々あったんだ。

 

「ちょっと!!私を無視しないで!!」

「あぁ、忘れてたわ」

恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらも一輪がチョコを渡してくる。一輪のチョコは阿求と同じで手作りだが、阿求のよりも大きかった。

でも、俺はチョコの大きさで人の愛を計らない男だ。こんなの誤差だぜ。

 

「ありがとうな一輪。俺すげえ嬉しいよ...」

「喜んでもらえてよかったわ...」

「でも、流石に私を貰ってはないかな...」

「なあああ!!馬鹿ぁぁ!!!!!////」

「グへええええ」

 

 

ハッピーバレンタイン....だな!

 

 




バレンタイン特別編。

正直な話をすると、ヒロインがリボンを巻き付けて私を貰って!!っていうのを書きたいがために作りました。俺っておかしい!?


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第39話「エンドレス..?」

皆さまお久しぶりでございます。
まず一言、言わせてください。

遅れて申し訳ありませんでした!!!

新しいポケモンと遊戯王が楽しくて....
あと若干スランプなのとPC使えない環境にいるので....


「やっぱ女子校って怖いわ!!」

女子校の屋上で、そう叫ぶ無職の男がいる。それはこの俺、ヨウマだ。

 

ひょんなことから、幻想郷にいるはずの俺が現代にいて、なぜだか知らんが一輪や阿求たちが女学生になっていた。

そして、女学生である一輪の忘れもののお弁当を届けようとして、阿求と出会い、そして阿求の彼氏と勘違いされてしまい、思わず逃げてきたというのがここに至るまでの経緯だ。俺自身もどうしてこうなったかもうわからねえ。

 

「って!屋上で叫んでいる場合じゃあねえ、一輪にお弁当を届けなくては...」

早く弁当を渡さないとお昼休みが終わっちまう!!

しかし、その場から逃げた結果、阿求と小鈴とはぐれてしまった。これでは、女子校を歩くことができえね...あっ!?てことは外に出れねえじゃあねえか!!

まずいぞ、この状況...絶体絶命の状況だ!!

この話が始まってすぐに大ピンチとは、構成どうなってやがる!?

 

「!?」

詰みを悟り、絶望に打ちひしがれている俺に更なる追い打ちが!

そう、屋上の扉から誰かの気配と話す声が!?

阿求と小鈴ならいいが、もし違う奴だったら俺の人生は詰みだ。

元の世界に帰るどころか、逮捕されて刑務所で過ごすことになるのか!?まずい!

だが、身を隠す場所がない。見つかることは避けられない。

「さよならだ...俺の人生」

チェックメイト。俺はそう悟り、突っ立ているしかなかった。

そして、扉がゆっくり開いた。

 

「あんた....そんなところでなにしてるの?」

「その声は!?」

扉を開けて現れたのはセーラー服を着ていた一輪と、同じくセーラー服を着ていた村紗だった!!

「うおおおお!!お前らサイコーだぜ...」

「ちょっと!?なんで泣いてるの!?」

「あ~一輪がヨウマさん泣かせた~」

「えぇ!?」

安心感からか、思わず涙が溢れだしてしまった。

 

 

「ほら、お弁当。聖がお前に渡し忘れたって」

「ありがとう!お昼なくて困ってたのよね!!」

やっぱり困っていたか。まあ、そうだろうな。お昼ご飯ねえと午後から大変そうだしな。

「よかったら、ヨウマさんもお昼ご飯食べませんか?」

「おっ、いいのか?」

「えぇ、ヨウマさんもいたほうが楽しいですし、ね?」

「なんで私の方をみるの!?」

村紗の誘いで俺も弁当を食べさせてもらうことになった。朝飯から何も食っていなかったからありがたい。

 

 

「それで....あんたはハ〇ワにいったの?」

「.....いやー今日はいい天気だな!!」

「誤魔化さない!!」

案の定仕事について聞かれたので、誤魔化しを試みたが、一喝されてしまった。

「まあまあ、ヨウマさんが行かないのにも色々考えがあるのよ」

「そうだぜ一輪。村紗の言う通りだ」

「黙りなさい!!」

村紗の援護射撃も、一輪によって一掃されてしまう。って、村紗の発言って援護射撃なのか!?思わずそうだぜと答えちまったが、行ってねえこと自分から認めてるみたいなもんじゃねえか!

 

「はぁ....あんたが働かないなんて事、わかりきっていたわ。まあでも、あんたがいなかったら聖さんの手を煩わせていたし、お弁当もこうして届けてくれたしね」

「まあ、俺も頑張ってるよ」

「はいはい、今日は許してあげるわ。でも、明日からは...」

「わかってる!!行くから....」

ジト目で圧力をかけられたら、俺はYESとしかいえねえ。もしNOといったら、俺は殺されるだろう。

 

「おっ、二人ともお弁当はおにぎり二つとおかずセットか」

「そう、聖さんのお弁当は最高なのよ!」

村紗と一輪のお弁当は聖が作っているようで、おにぎり二つと、おかずの入った箱の二つだ。おかずには煮物がメインだ。煮物が好きな俺にとっては喜ばしいものだ。

「それじゃあヨウマさん、おにぎりをどうぞ」

「おっ、すまないな」

「はい、私もおにぎり一個あげるわ」

「かたじけねえ!」

一輪と村紗から、おにぎりを一個ずつ恵んでもらった。それを一口食べる。いい塩加減だ。塩が疲れた体に染みわたる。

そして、おにぎりを食べて空を見上げると満天の青空...。

 

「働いた後に食う飯はうまいな...」

「いや働いてないでしょアンタ!」

 

 

そのあとは、ずっと食べてる途中に一輪から小言を色々言われたけど....まあ、うまいからよしとするか!

 

「あ、阿求と小鈴のことを忘れてたな」

 

そういや、あの二人に悪いことしたな...。まあこの世界にも鈴奈庵があるだろうし、そこに行った時謝ろう。

 

 

「んじゃ、俺はここいらで帰らせてもらうぜ」

「うん、校門前まで送って行くわ」

とまあ、お昼の時間も過ぎて、弁当を食べ終わった俺は一輪と村沙に校門前まで送ってもらった。

学校内を歩いてる時に、やはり女子の視線が俺に集まってきて心が少し落ち着かん。

 

「それじゃあ、この辺で。いい?しっかりハロー○ークで仕事を見つけるのよ!」

「へーい....」

「明後日の方向、向かないの!」

 

チッ...。ハ○ワ行けとか、耳にタコができるくらい聞いたぜ!俺は少しうんざりしながら、一輪とわかれた。

もちろん、ハ○ワにはいかない。ほら、よくあるでしょう?勉強しようと思ってたけど、『勉強早くしなさい』と言われて、『今やろうと思ったのに!あーやる気なくしたよ!!』という現象だ。

だから俺は今日は働かない!!(クズ)

 

「はあ、しっかし暇だな〜」

一輪に弁当を渡すというノルマを達成したら、フリーな状態だ。

この世界のことについても手がかの一つもねえ。

はぁ...家帰って昼寝でもするかな〜

「っと....す!すんまへん!」

考え事をしていたら、フードを被った男の人の肩とぶつかってしまった。フードの男が俺の方に顔を向けたが、肝心の顔がフードに隠れて表情が読みとれなかった。その男は俺を見た後、気にせず歩いて行った。

「許してもらえたのかな...?ふう、半グレかなんかだったら面倒だったな....」

俺はその男に何も言われなかったことに安堵した。

なんだろうな、なんとも言えぬ恐怖というのが.....だって顔が見えないからな。

 

「ふう、ただいま」

「あっ、お帰りなさい!」

寺に帰ってくると、境内を掃除している聖が俺を笑顔で出迎えてくれた。

「おう、一輪の弁当を届けておいたぜ」

「はい、ありがとうございます。ところで見つかりましたか?」

「何が?」

「お仕事です」

「........」

「....?」

聖の奴も仕事の話を俺に振るとは.....。

こんなことを聞かれたが、もちろん俺のやることはただ一つ

「いやー、疲れたからじゃあね!」

「あっ!?」

「逃げるんだよおおお!」

某ジョースターの異端児の如く逃げるぜ!

腕から茨が出せれば、逃げるのは容易なんだがな。

 

「ふう....。仕事の話をするとは、弟子共々とんでもねえ奴らだぜ!」

俺の部屋へと逃げ帰り布団を引いてダイブする。あーこの感触...心地よさ.....会いたかったぜ布団.....。

俺は引きこもりであるため、体力がそんなにない。だから外に出るだけでヘロヘロだ。

「えっと、今何時だ...」

いつの間にか手元にあったスマホを見て時間を確認する。

「8月16日の13時50分か...。八月にしちゃ、熱くなかった気がするんだが...」

異常気象なのだろうか...8月は30度を超えるはずだが、熱さを感じない。それに俺がここに来る前は一月だったはずなんだが...。

そんなことを考えていたのだが、外に出ていてヘロヘロな俺が布団へとダイブし、そして動かずに時間が経つとどうなるか......。

「Zzz....」

こうなるのさ。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

ジリリリリリリ!!

「ん...うるせえな....。おめえそんな声だっけ....」

ジリリリリ!!

「だから、お前はそんな声だっけ....」

ジリリリガチャッ!!

「ガチャって....急にどうした.....」

「寝ぼけてないで早く起きなさい!!!!」

「はいいいいいい!?」

うおっとおお!?少女の怒鳴り声で目が覚めた。

「あれ?いつのまにか朝になってたのか....」

窓の外を見ると朝の日差しが差し込む。どうやら寝落ちして、いつの間にか朝になってしまったようだ。

「はあ...元に戻ってねえのか......」

「何言ってるの?」

俺を起こす一輪の格好は昨日と同じで、セーラ服だ。

この事から、俺はまだ戻れてねえんだな....。

 

「ほら、早く起きて!出かけるわよ」

「はいはい....」

 

また現実の朝が始まるのか。

「っと、今日の日付は”8月16日“....か」

さて、カレンダーで日にちも確認したし、外にでも出るか....。

 

あれ8月16日?昨日スマホで見たような...。

「...まあいいか」

 

 

「それじゃあ私は学校行くから、アンタはハ〇ワでしっかり仕事探すのよ!!」

「へいへい(チッ!)」

命蓮寺の門の前で一輪から仕事を探すように言われる。もはや、耳にミズダコができるぜ。

同じ事を何度も言いやがってよ...。

 

もちろん、俺がそんなことを守るはずもなく...。

一輪が向かった方向とは逆方向に行ったふりをして、命蓮寺の自分の部屋へと戻る。

「はあああ..やっぱり、元に戻ることができないな...。今日は、情報取集に勤しむとするか」

俺は自分の部屋にあったノートパソコンの電源を付ける。

 

「さてと、この世界が本当なのか調べるとするか!」

 

俺の情報収集能力を舐めんなよ!

 

~数分後~

 

「今のゲームってオープンワールドが主流なんだな、今度買いに行くか!あとは...え~ククルスドアンの島映画化とかなんでまた...」

 

しばらく現代から離れて生活していたから、俺がいない間の現代の情報とかが全部新鮮に感じる。これが浦島現象、ジェネレーションギャップか!(違う)

 

「って!こんなことを調べている必要はないだろ!元の世界に戻らねえと...」

きっと、俺がいなくなってあっちの世界の一輪はどうしているのだろうか...。

空色の頭巾を被っている少女の笑顔が浮かぶ。

(こんなところでダベっていちゃだめだな!なにかねえと)

ノートパソコンの電源を切り、勢いよく外へと飛び出す。

 

「あら、お仕事ですか?」

「まあ、そんなもんだ!」

境内を掃除している聖の前を素通りして門を出る。

とにかくだ!小鈴や阿求がいることを考えれば、ほかに幻想郷の人物がいるはずだ。

そこをたどればたどり着けるかもしれねえ!

 

そして、門の外へ出てみると...

 

「どういうことだ...!?」

馬鹿な、そんなことが......。

「どうして、場所が変わっているんだ....」

 

俺の目の前に広がっていたのは、ビル一つもない景色だった...。

 

「俺は一体どこにいるんだ....」

 

 




ふう、ようやく帰ってこれました。PCでやると作業が進む進む。


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