悪魔の一目惚れ (主義)
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一目惚れ

扉から入って来たのは黒髪の少年。顔立ちは聞いていたよりも幼い感じで身長は180cm近いぐらいある。この部屋に入って来て一目見てから私は彼から目が離せない。

まるで何かに固定されているかのように彼から目を離せない。あの美しい黒髪……幼さを感じさせる顔立ち……優しく私を見つめているあの瞳……そして私にはない、誰かを優しく包み込むような笑顔。

 

 

 

「……愛している」

 

 

私は自然と言葉を漏らしてしまっていた。

 

--------

 

私は今日、お見合いをすることになっている。こういうのは面倒だから断りたいんですが今回の相手の父親はこの国の中でもかなりの発言力をもっているということもあって断っていない。私としては適当に会って、すぐに帰りたい。

 

 

「面倒ね…………」

 

 

 

彼女以外は誰もいないこの部屋に響いた。彼女の本性はお世辞にも姫とは呼べない。表向きは『黄金』と呼ばれ民からも愛されている。そして彼女も民を愛しているということになっている。だが彼女の本性は自己中心的な考え方であり、中途半端に頭の回転が良い事もあって余計に面倒だ。そして彼女の本性はこれからの将来を見たとしても人間にはバレることはないだろう。

 

 

 

「早く終わりにしたいわ」

 

 

 

お見合いは王宮のある一部屋で行われる。まあ、お見合いと言っても今回は顔合わせ程度らしいわ。別に興味ないからどうでも良いのだけどね。私は興味が無いから早く終わりにしたいけど王族として最低限の事はしなくてはならない。いつもより身支度は念入りにしなくてはならない。本当に面倒くさいわね。

 

そして時は流れて私はお見合いが行われる一部屋の椅子に腰を下ろしている。もうそろそろ予定の時刻。すると部屋をノックする音が聞こえてきた。

「どうぞ」

私がそう言うと扉が開かれた。

 

 

 

そして話は冒頭に戻る。

 

 

 

 

「どうされたのでしょうか?大丈夫ですか?姫様」

 

 

私が何も言わない事を変に思ったのか、目の前の黒髪の少年が話し掛けてきた。彼が一歩、一歩と私に近付いて来るのと比例して私の心臓の鼓動はどんどん早くなっていく。

 

 

「……ええ、大丈夫ですわ」

 

 

「何かありましたら言ってくださいね。体調が悪いようであればまたお見合いは後日にするというのも良いのではないでしょうか?」

 

 

「いいえ、大丈夫です」

 

 

「そうですか…それなら良いのですが」

 

 

「それでは自己紹介をさせていただきますね。僕の名前はクラウス・アーベルと言います。よろしくお願いします、姫様」

 

 

「これはご丁寧にありがとうございます。リ・エスティーゼ王国第三王女、私の名前はラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフ。あなたを愛する者です」

 

 

 

 

普段の笑顔よりも数倍以上眩しい笑顔を浮かべながら黄金の姫君は言った。彼女を普段から見ている者でもこれほどの笑顔を見ることはないと言うぐらいの笑顔。これは彼女にとって今の時間が今までの時間のどれよりも幸せな時間なのだろう。

 

 

 

これは黄金の姫と黄金の姫を一目惚れされた相手のお話。



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ラナー王女

お見合いは一時間近く行われた。私にとって生まれてきてから一番充実した一時間だったと断言できる。

 

 

 

 

あの方との会話はとても充実していて、私の欠けていた一部を彼が埋めてくれたような感覚を味わった。それに彼は頭が切れて、私とも対等に話せるほど。

 

 

 

 

そう言えば、見合いの前にお父様が彼はとても頭が切れて、これからの王国に絶対に必要な人物と言っていたかしら。あの時はまだ彼の魅力に気付けてなかったから聞き流していたけど、今はその行為を恥じている。こんなに素晴らしいお方のことをそんな風に思っていたなんて。

 

 

 

 

 

だけど、そんな楽しい時間も終わってしまう。お見合いはあくまで顔合わせのようなもの。すぐに結婚ということにはならない。私としてはいつでも結婚する準備は出来ているし、彼以外との結婚は死んでも嫌だ。だからこそ、私はお父様に彼との縁談に前向きな姿勢を見せる。お父様は私の気持ちを第一に考えてくれているから、私が乗り気でない縁談なのだとしたらそれが国の利益になることだったとしても断ってくれる。だからこそ、お父様に前向きな姿勢を見えることでこの縁談を確実に成功させる。クラウス様のご家系は代々優秀な者を輩出してきた家系だと言っていました。自分もその一人でただ家系の力で生きてきた人間だと。

 

 

 

 

 

 

私には分かる。彼がただの家系の力だけでここまで来たわけではないのが。そこには必ず努力が付きまとっていたということも。確かに頭の回転は元々良い方なのだろう。物事を冷静に判断出来て、その場で適切な対応を取る事は普通の人間には出来ない。ですが、彼の剣の腕や武術などは才能ではなく、たゆまぬ努力の先に手に入れた事を知っている。

 

 

クラウス様はそれを誇ることなく、「誰にでも出来る事ですよ」と言っていた。その謙虚なところも素敵だ。あなたが自分のことをいくら卑下したとしても私はクラウス様のことを分かっている。クラウス様がどれだけの努力をしてきたのか、どれだけ頑張って来たのかを。 

これからは誰よりも近くであなたのことを見守るからね。あなたに危害を及ぼす相手が居るのなら、この世から消してしまった方がいい。

私はあなたと一生、幸せに暮らしていきたい。

 

 

 

 

 

お見合いの日以降、ラナー王女は笑顔を浮かべてしまう日が増えた気がする。その理由に関しては分からないけど、今まで見てきた笑顔と何か違う感じがした。気のせいだとは思うけれど。

 

 

 

 

 

 

「次に会える日が楽しみで仕方ありません。次はどんなお話をしましょうか~」

 

 



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王女はご執心

あの日からクラウス様のことを忘れた日は一度たりともない。寝ても覚めてもクラウス様のことが頭をよぎる。次に会える日が楽しみ過ぎて毎日の全ての出来事が楽しい。今まで憂鬱だったと思っていた、全ての出来事がクラウス様と出会ってから楽しいものに変わっていった。本当にクラウス様のお力はすごい。私にこんなに影響をもたらすとは…やっぱり恐ろしいお方でもあるのですね。

 

 

でも、やっぱり私は王女、彼だってそんなに暇ではなくてお仕事が忙しい。それに関しては私も分かっているつもりです。だけどやっぱり会えない時間がこんなに辛いものだとは思いもしなかった。初めてこんな風な感情を抱いたからこそ知ったこと。

 

彼と会えたことの嬉しさと同時に会えないことの悲しみが同時にやってくる。

 

 

―――――――

 

そこで私は一つの結論に至った。このまま待っていたとしてもクラウス様と会える日がいつになるかは分からない。待っているだけのお姫様では誰かにクラウス様のことを奪われてしまうかもしれない。そう思ったら行動に移すまで時間は掛からなかった。

私が王位を継ぐ可能性はゼロに等しい。

 

だからこそ、私は自由に行動をすることが出来る。例えば、適当にウソを付いて外出する理由を作る事も。王位を継ぐ可能性が高いお兄様たちでは、こうも簡単に出してはくれないだろう。もし、お兄様たちに何かがあったらそれは国を揺るがすことになるから。

 

 

私は使用人にお願いをして馬車を用意して貰って、お父様には適当に言いつくろった。お父様は私のことを信用してくれているから騙すことはそんなに難しくない。これも普段から理想の王女を演じているお陰。

 

そして私はクラウス様のお家まで向かった。

 

 

クラウス様のお家は他の家と比べればかなりの豪邸。それだけでもクラウス様が成功を収めていることがすぐにわかりますね。でも、さすがにアポぐらいは取るべきでしたね。今日のクラウス様の予定はもう調べ済みですから、家にいることは分かっているんですが、急に来たら引かれてしまうかもしれない。

 

馬車から出てクラウス様の家までうろうろしていると…玄関の扉が開いた。

 

 

「姫様、どうされたのです!??」

 

 

「あ、あの……ちょっと近くまで来たのでお顔をご拝見したくて…」

 

 

「そ、そうですか…。姫様にお時間があれば少し寄っていかれますか?」

 

 

「…よ、よろしいのですか!??」

 

 

「はい。姫様がこんな家でもよろしければですが」

 

 

「かまいません!!」

 

そして私はクラウス様のご自宅に入ることが出来た。家の中は色々と高価なものが置かれているが、そんなことよりも私の目の前を歩いている、クラウス様の背中の逞しさの方に目線がいってしまう。初対面の時は気付きませんでしたが、クラウス様は筋肉質ですね。背中を見るだけでも分かるほどに。決してすべてが筋肉って感じではない。でも、しっかりと鍛え上げられた肉体という感じがしますね。

 

 

「触りたい……」

 

 

「姫様、なにかおっしゃいましたか?」

 

 

「い、いえ、なんでもありません!」

 

 

「そうですか…」

 

クラウス様に聞かれてしまうとは。心の声が漏れてしまっていましたね。

 

 

 

 

 

私は応接室のようなところに案内された。正直、私はクラウス様の隣に腰を下ろしたいけど、さすがにここではそんなことは出来ませんね。クラウス様は私が座ってから私の正面に腰を下ろした。

 

「姫様」

 

 

「なんですか?」

 

 

「姫様は僕のことをどう思いますか?」

 

 

「クラウス様はすっごい努力家で何よりも尊敬できるお方だと思いますよ」

 

 

「それはさすがに過大評価をし過ぎだと思いますよ。僕は姫様にそんな風に言ってもらえるような立派な人間ではないです。少し運が良かっただけ」

 

 

「そんなことはないです!確かに私はまだクラウス様と知り合ってそんなに時間は流れていないです。だからクラウス様の全てを理解しているとは言えないです。だからそんな私が言ったとしても説得力はないかもしれませんが、私はクラウス様はとっても立派な人です。王女である、私も多くの人と会ってきました。そんな私ですから人を見る目はあると思っています。私が見てきた男性の中で一番純粋で誰よりも優しくて、人を包み込む包容力のある人です!だから、私は…クラウス様のこと……尊敬しています」

 

 

尊敬……ここで『愛してます』と言いたい。最初に会った時はあんなことを言えたけど、今、思えばとっても勇気があった。今じゃ彼に愛を伝えることがとっても難しいです。本気で誰かの事を愛してしまったから軽々しく『愛している』と言えなくなってしまった。

 

好意を抱いていない人に『好き』というのは難しくない。だってそれは仮面を張り付けて心のこもっていない言葉を言えば良いだけなのですから。でも、本気で愛している人には……言えない。言ったら引かれるかもしれないと考えちゃったり、嫌われちゃうとか考えたら言えなくなってしまう。

 

 

「姫様がそんな風に言ってくれるなんてお世辞だとしても嬉しいですね」

 

 

「お世辞ではありませんよ」

 

 

「ちょっとお聞きしたいことがあるんですがいいですか?」

 

 

「どうぞ」

 

 

「あのお見合いの後に王国の関係者の方から姫様が前向きな姿勢だと言われたのですが、それは本当ですか?」

 

 

「はい、もちろん!」

 

 

「でも、僕よりもすばらしい男性なんてもっといると思いますけど…」

 

本当にクラウス様は謙虚すぎる。

 

 

「私はクラウス様がいいんです!!私がクラウス様とこれから歩いていきたいと思ったんです!私の命が朽ちるまで私の隣に居て欲しいと初めて思った相手なんです!!!」

 

 

 

私が認めて、私が愛して、私が笑顔にしたい人はあなただけなんですから。

 

 



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