麦わらの一味『占い師』マチカネフクキタル (赤葉忍)
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グランドライン突入編
ROMANCE DOGOOON!!


「な、なんということでしょう⋯⋯!」

 

 ここは、海賊王ゴールド・ロジャーが産まれ、そして処刑された町、ローグタウン。別名、『終わりと始まりの町』。

 

 そしてまさにこの場所は、ロジャーが処刑された死刑台の置かれた広場。そんな海賊時代の始まりの象徴とも呼べる場所で、少女は奇跡を目の当たりにし、震えていた。

 

「なははは。やっぱ生きてた。もうけっ!」

 

 先程まで死刑台の上で首をはねられ死にそうになっていた青年が、何事もなかったかのように麦わら帽子を拾い上げ、笑う。その姿は見る者全てに衝撃を与え、そして、少女もそんな中の一人であった。

 

「う、占いの結果は大凶! 私はあの人が死ぬことを確信して心の中でなむなむと念仏を唱えていたというのに、まさかの生還!? これはまさに、運勢を乗り越えた奇跡⋯⋯!!」

 

 少女の手は、驚愕と感動にぷるぷると震え、その手に持った水晶玉も小刻みに振動する。

 

 そして少女の外見で何よりも特徴的な耳と尻尾も同時にぷるぷると震え⋯⋯少女の足は、自然と麦わら帽子の青年を追いかけていた。

 

「なんて奇跡だべ! あの人は間違いなく未来の海賊王に違いな⋯⋯うぎゃあ!?」

 

 少女の足は、普通の人よりも速い。途中誰かにぶつかった気もしたが、少女は気付かずにあの青年を追いかける。

 

「運勢をはねのける奇跡! あの人こそシラオキ様の御使いに違いありません! あの人についていけばきっと、運勢最高! 占い大吉!! 向かうところ敵無しです!!」

 

 ハッピーな未来を妄想し、むふーっと鼻息を荒くする少女。しかし、浮かれていたのがよくなかった。

 

「どどど、どうしましょう!? 見失ってしまいましたー!!」

 

 急に荒れ始めた天候と、自分の不注意により、麦わら帽子の青年を見失ってしまった少女は、オーバーリアクション気味に頭を抱える。

 

 しかし、こんな困った時はいつだって、彼女は自分の信じる『占い』の力に助けられてきた。慌てながらもぽんっと何もない空間から1本の棒を取り出した。

 

「ふんにゃか、はんにゃか~! 『棒みくじ』よ、私の探し人はいずこに!?」

 

 ていやーっと勢いよく放り投げた棒は、地面に着地し、こてんと左に倒れる。その直後、ぽんっと音を立てて棒は消えるが、その時には既に少女は棒が倒れた方向へ走り始めていた。

 

「棒みくじの示す方向に待ち人あり! きっとこっちにシラオキ様の御使いがいるはずです!」

 

 雨はますます激しさを増す。視界もかなり悪い中、少女は『くじ』の示した方向を信じて夢中で走り続ける。

 

 ⋯⋯夢中になりすぎた結果、少女は目の前で自分を静止する人物の声に気が付かなかった。

 

「お、おい、そこのお前止まれ! 俺は猛獣使いのモージ! 俺にはこの船を燃やすという大事な仕事が⋯⋯ぎゃー!!」

 

「がおーー!?」

 

「ふんぎゃー!?」

 

 少女はライオンに乗った毛むくじゃらの男と思いっきり衝突。三者三様の悲鳴を上げたが、ふっとんで海に落ちたのは男とライオンだけで、少女は運良く海には落ちずに止まることができた。

 

「いたたた。何かにぶつかったような気がするような⋯⋯。むむっ!? この船は何でしょうか。⋯⋯はっ!? まさかこの船に乗れというお告げ!? これに乗ればあの麦わらの御使い様が来るということですね、シラオキ様!」

 

 

 こうして、占いを信じた少女は、船へと乗り込み、少女が1人乗り込んでいるとは知らずに、嵐に追い立てられるようにして出航した海賊船、『ゴーイングメリー号』。そして、『麦わらの一味』。

 

 

「よっしゃ。偉大なる海に船を浮かべる進水式でもやろうか!! ⋯⋯おれはオールブルーを見つけるために」

 

「おれは海賊王!!!」

 

「おれぁ大剣豪に」

 

「私は世界地図を描くため!!」

 

「お⋯⋯お⋯⋯おれは勇敢なる海の戦士になるためだ!!!」

 

「えっと、私は、幸運な未来を掴むために!」

 

「「「「「いくぞ!!! “偉大なる航路”(グランドライン)!!!!!」」」」」

 

 麦わらの一味は、それぞれの夢を口にし、ガコォン!と樽の蓋を蹴り開ける。そして⋯⋯

 

「「「「「誰だお前!!!?」」」」」

 

 少女以外の全員が揃って叫び、そして少女は、そんな彼らに向かって満面の笑みを浮かべて、こう答えた。

 

「はい! 私、マチカネフクキタルです!!!」

 




サブタイトルはROMANCE DAWNと有名実況の台詞をかけたものです。


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おまえ、おれの仲間になれよ!

 嵐に紛れる形で、ゴーイングメリー号に乗り込んだ少女、マチカネフクキタル。そんな彼女は今、甲板の上でグルグル巻きに縛り上げられていた。

 

「おい、お前、いつからこの船に乗り込んでやがった」

 

「んぎゃあああ!!! どうかお助けをぉぉぉ!!!」

 

 剣の刃先を向け、ぎらりと鋭い目つきで尋問するのは、三刀流の剣士、ロロノア・ゾロだ。このような状況に陥ったのは勝手に船に乗り込んだフクキタルが100%悪いのだが、顔を涙でぐしゃぐしゃに濡らしながら命乞いする、そんな女性を見過ごすことはできない男がこの船にはいる。

 

「おいクソ剣士、レディにそんなもん向けるんじゃねぇよ!」

 

 フクキタルとゾロの間に割って入ったのは、麦わらの一味のコック、サンジである。彼は、『女性は死んでも蹴らない』という騎士道精神の持ち主であり、何よりゾロとは犬猿の仲であった。

 

「あぁ!? なんだバカコック。邪魔するんじゃねえ!」

 

「てめぇはもっとレディに敬意を払いやがれ!」

 

 いつの間にか、フクキタルそっちのけで喧嘩を始めた2人。ゾロの威圧から解放されたことで、ほっと息を吐くフクキタルであったが、今度はあの麦わら帽子の青年が目の前に来ていたので、驚きに耳と尻尾をぴーんと跳ね上げた。

 

「ふぎゃあああ!? び、ビックリしました⋯⋯。いきなりそんな近くに来ないでくださいよぉ。心臓飛び出ちゃうかと思いました」

 

「ああ、わりぃわりぃ。ところでおれ、ずっと気になってたんだけれど、なんでおまえ耳と尻尾生えてるんだ?」

 

「ああ、それはですね、私が『ウマ娘』という種族だからでして⋯⋯あ、そういえばシラオキ様の御使い様、あなたの名前を伺っても?」

 

「なんだ、そのシラオキ様っての。おれはルフィ。海賊王になる男だ!」

 

「おお、なんとも御利益のありそうな名前ですね!! ありがたや~」

 

 フクキタルがようやくこの船の船長の名前を知った一方、少し離れた場所では、麦わらの一味の航海士、ナミが窓の外を見て目を見開いていた。

 

「しまった⋯⋯。あの耳の子に気を取られて気が付かなかった。“凪の帯”(カームベルト)に入っちゃった⋯⋯!」

 

“凪の帯”(カームベルト)? なんだそりゃ。嵐が止んだんならいいことじゃねえのか?」

 

 ナミの呟きに首を傾げるのは、長い鼻が特徴的な狙撃手のウソップ。しかしナミは、そんなウソップの問いかけには答えず、必死の形相で全員に指示を出す。

 

「あんた達、その子のことは一旦置いといて、早く帆をたたんで船を漕いで! 嵐の軌道に戻すの!!!」

 

 ナミがここまで慌てるのには理由がある。

 

“凪の帯”(カームベルト)とは、“偉大なる航路”(グランドライン)を挟む、2本の無風の海域のこと。そしてこの海は⋯⋯

 

「海王類の⋯⋯巣なの⋯⋯」

 

 ザバァンとゴーイングメリー号ごと持ち上げ、姿を現したのは、大型の海王類たち。その圧巻の光景に、皆が度肝を抜かれる。

 

「さ、さっきから何事ですかぁ!? わ、私に占いをさせてくださいぃぃ!! 何か不吉なことが起きる予感がしますぅ!!」

 

 そんな中、1人船内で縛られたままのフクキタルだけが状況が分からず混乱していた。その声は甲板に居た全員に聞こえ、そこでナミは、とっさにある判断を下す。

 

「ゾロ! あの子の縄斬っちゃって! この緊急事態よ。あの子にも手伝って貰いましょう!」

 

「お、おお!」

 

 幸いにして、まだ海王類は動く気配はない。おそらくだが、あまりにも巨大すぎて船の存在に気付いていないのだろう。

 

「いやー、ありがとうございます。腹巻きのお方。怖い顔しているけれど、意外に良い人だったのですね! 私は人相占いは出来ませんが、何となく分かっていましたよ!」

 

「いいからお前は黙ってこのオールを持て! そして俺が合図したら思いっきり漕げ。いいな!?」

 

「了解しました! ⋯⋯あ、この目隠しは外しても?」

 

「絶対やめろ」

 

 海王類を見てパニックを起こさないよう、目隠しをして連れてこられたフクキタルは、1人だけ緊張感の足りない様子でオールを構える。ただ、これで人員は確保出来た。

 

 ゴーイングメリー号を鼻の先に乗せた海王類。これが海へ戻る瞬間に思いっきり漕ぐつもりで、皆が息を呑んでその瞬間を待つ。

 

 しかし、ここでとんでもないハプニングが起こった!

 

「「「「「なに~~~!!!?」」」」」

 

 なんと、海王類がくしゃみをしたせいで、船が空中に吹き飛ばされてしまったのだ。

 

「むむむ!? これが合図ですか!? ならば漕ぎますよ~! どっせ~い!!!」

 

 そして、未だ目隠しのままのフクキタルは合図があったと勘違いし、空中でオールを思いっきり漕ぐ。そのスピードは目を見張るものがあったが、勿論空中では何の意味もなく、ただ邪魔なだけである。

 

「うわぁ、ウソップが落ちたぁーー!!」

 

「ぎゃあああーー!! ⋯⋯ぶへぇっ!?」

 

 しかし、幸運にもフクキタルの漕ぐオールに押し返される形で、船から落ちそうになっていたウソップが甲板に戻ってくる。その反動で今度はフクキタルが落下しそうになっていたが、文字通り救いの手が伸ばされる。

 

「耳のやつー!!」

 

 まだ名前を覚えていないのか、変な呼び名を叫びながらルフィが伸ばした手は、フクキタルの胴体をしっかり掴み、無事救出に成功。そしてその直後、ゴーイングメリー号は再び嵐の中へと戻ったのであった。

 

「ふ、ふう⋯⋯。なんか途中で身体が空に浮いたような変な感覚がありましたけれど⋯⋯私、お役に立てましたでしょうか?」

 

「なあ、耳のやつ」

 

「耳? ああ、私ですね! 耳のやつ、マチカネフクキタルです!!」

 

「おまえ、おれの仲間になれよ!!」

 

 ルフィはそう言って、フクキタルににっと笑いかける。

 

 何がルフィの琴線に触れたかは定かではないが、こうしてルフィに認められた以上、フクキタルがこれ以上縛られる理由はなくなった。ただ、フクキタルはまだ目隠しのままだったため、この時のルフィの満面の笑みを見るのはもう少し先になるのであった。

 




少し話の進み遅いかな? とか思ったり。まあまだ2話だし、多少はね?


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ウマ娘という種族

ウマ娘の設定はワンピ世界に合わせ色々といじっております。主に強化方面で。


「──このクジラはアイランドクジラ。“西の海”(ウエストブルー)にのみ生息する。世界一デカい種のクジラだ。名前は“ラブーン”」

 

 ルフィ達にそう説明するのは、“偉大なる航路”(グランドライン)の入り口、双子岬の灯台守をしているクロッカスだ。歳は71歳、双子座のAB型。花みたいな髪型が特徴的である。

 

 “凪の帯”(カームベルト)から無事抜けだし、嵐の中へと戻った麦わらの一味一行は、途中船の舵が壊れるなどのハプニングがあったものの、何とか“偉大なる航路”(グランドライン)突入に成功していた。

 

 しかし、その直後巨大なクジラ、ラブーンに船ごと飲み込まれるという更なるハプニングがあったのだが、飲み込まれた先でラブーンを体内から治療しているクロッカスと出会い、今に至るというわけだ。

 

 ちなみに、ラブーンを捕鯨しようとしていた謎の2人組は、ルフィに殴られた後、ロープで縛り上げられていた。その様子に何となく親近感を覚えるフクキタルであった。

 

「ラブーンは昔、ある海賊達と共にこの岬にやって来た。彼らは、『必ず世界を一周しここへ戻る』といい、ラブーンを私に預けて出発した。もう⋯⋯50年も前の話になる」

 

 クロッカスは、ラブーンが“赤い土の大陸”(レッドライン)に頭をぶつけ続ける理由を、ルフィ達に語る。

 

 50年も経つというのに、未だに帰ってこないのは、おそらくそういうことなのだろう。一味の中でも賢いサンジなどは彼らが既に死んだことを察している様子であった。

 

「う、うう⋯⋯。なんという残酷な占い結果でしょうか⋯⋯」

 

「⋯⋯そこの君、なぜ泣いているんだ?」

 

 何となく重たい空気の中で、フクキタルが急に泣き出し、クロッカスが何事かと尋ねる。そんな彼に対し、フクキタルはその手に持った水晶を指さし、鼻をすすりながら答える。

 

「ぐすっ⋯⋯。わ、私は占いが得意なので、その海賊の方達の安否を占ってみたのです。そしたらなんと⋯⋯既に死んでしまっているという結果が出てきました⋯⋯。これは大凶も大凶。なんとアンハッピーな結末なのでしょうか⋯⋯」

 

「⋯⋯なるほど。君の占いをどこまで信じていいかは知らないが、私が知っているのは、彼らが“偉大なる航路”(グランドライン)から逃げ出したということだけだ。⋯⋯どちらにせよ、彼らがここへ戻ってくることはないだろう」

 

 クロッカスから告げられた事実を聞き、さらに悲しい気持ちになるフクキタル。その沈んだ気持ちに連動するかのように、耳もしゅんと垂れ下がる。クロッカスは、そんなフクキタルをどこか懐かしいものを見るような目で見つめていた。

 

「⋯⋯? あの、クロッカスさん。私の耳がどうかしましたか?」

 

「いや、昔の知り合いを思い出してな。あれは、私が船医をしていた頃⋯⋯」

 

「うおおおおお!!! ゴムゴムのォオオオオ~、“生け花”!!」

 

 しかし、クロッカスの話は途中で途切れてしまう。何故なら、ルフィがゴーイングメリー号のマストを折り、それをラブーンの傷口にぶっ刺すというとんでもない暴挙をやってのけたからだ。

 

「「「何やっとんじゃお前~~っ!!!!」」」

 

 一時は阿鼻叫喚となったものの、結果的にルフィはラブーンと新たに『約束』を取り付けることによって、ラブーンがこれ以上“赤い土の大陸”(レッドライン)に頭をぶつけるのを止めさせることに成功したのであった。

 

「流石ルフィさん! シラオキ様の御使い兼海賊王はやることが違いますね~!! ミラクルパワーを貰うために拝んでおきます。なむなむなむ⋯⋯」

 

「あの野郎船をバキバキにしやがって! おれは船大工じゃねえんだぞ!! おいてめぇ寝てないで手伝えよゾロ!」

 

 ルフィの行動に目を輝かせるフクキタルに、文句を言いつつ船を修理するウソップ、我関せずと寝ているゾロ、ローグタウンで買ったエレファント・ホンマグロを調理するサンジ⋯⋯皆それぞれの行動をとる中、ナミはフクキタルを手招きし、クロッカスの下に来ていた。

 

「ねえ、フクちゃん? そろそろわたし知りたいのよ。あなたの耳と尻尾、それどういう種族なの? クロッカスさんも確かさっき知り合いが居るとか言っていたし、この子の種族のこと何か知らない?」

 

「はい、フクちゃんです! フクって呼び捨てでも構いません! 私の種族は『ウマ娘』といって、見ての通り耳と尻尾が特徴なのですが⋯⋯。正直、私もよく分かっていないんですよね。昔の記憶がちょっぴり抜け落ちているので⋯⋯あ、走ることは得意です!!」

 

「⋯⋯私の知っている範囲だと、『ウマ娘』とは陸上では敵無しと呼ばれるほどの強力な種族だ。海中の魚人族と同じようなものだと思って貰えるといい。その子が言ったように、その強靱な脚力とスタミナで、全力で走るウマ娘に追いつける者は皆無と言っていいほどだ。あとは、そうだな。ウマ娘は女性しかいないことも特徴だ」

 

「女性しかいない!? なんて素晴らしい種族なんだウマ娘!」

 

 ちょうどエレファント・ホンマグロの調理を終えたサンジが、女性しかいないという言葉を聞き目をハートマークにする。

 

 そんなサンジはスルーして、それに⋯⋯と、クロッカスはゴーイングメリー号のマストにかかる海賊旗をちらりと見上げ、こう続けた。

 

「君達も海賊なら、聞いたことくらいあるだろう。世界政府公認の8人(・・)の海賊達、『王下八武海』。そのうちの1人もウマ娘だ」

 

「「王下八武海!!?」」

 

 フクキタルとナミの驚きの声が重なり、その声はルフィやウソップ達にも届く。寝ていたはずのゾロも、『王下八武海』というワードにピクリと反応した。

 

「なんだ、知らなかったのか。じゃあ覚えておくといい。王下八武海の1人、『葦毛(あしげ)海賊団』、“海喰”のオグリキャップ⋯⋯彼女は、間違いなく、ウマ娘の強力さを物語る人物の1人だ」

 

 

〇〇〇〇〇

 

「へっくしゅん!!」

 

 ──ここは、ルフィ達がいる双子岬から遠く離れた海の上。船の甲板の上で、灰色の髪の美女が、くしゃみをする。その音を聞きつけ、小柄な少女が訛りの入った口調でその美女⋯⋯オグリキャップをからかう。

 

「どないしたんや、くしゃみなんかして。風邪でも引いたんか?」

 

「ずず⋯⋯。いや、今朝もご飯をお茶碗100杯分平らげた。体調はいいはずだ。誰か、噂でもしたのかな⋯⋯?」

 

「そりゃあ、天下の王下八武海様なんやから、噂くらいされるやろ。それより、少しは抑えんと、またコックが泡吹いて倒れてまうで?」

 

「ああ、分かってる。だから⋯⋯今日も、あの人達からご飯を貰おう」

 

 そう言って、オグリキャップが見つめる先には、複数の海賊船。そしてその直後、彼女は甲板から姿を消し、さらに僅か数秒後には海賊船内から悲鳴が飛び交う。

 

 その様子を、先程オグリキャップに話しかけた少女⋯⋯副船長のタマモクロスは、呆れた表情を浮かべ眺めるのであった。

 

「海賊船の食糧を奪っても罪に問われないからって理由で、王下八武海に加入したバ鹿は、あいつくらいやろなぁ。目ぇつけられた海賊さんらは、ほんまご愁傷さんやわ」

 

 オグリキャップ率いる、『葦毛海賊団』。彼女たちが麦わらの一味と出会うのは、まだ先の話⋯⋯。

 




ちなみに、まだまだウマ娘は登場させる予定です。お楽しみに!


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ウイスキーピーク編
一本目の航海


「あいつらは、我々の待ち望んだ海賊達だろうか⋯⋯。何とも不思議な空気を持つ男だ。なァ⋯⋯ロジャーよ」

 

 双子岬から記録指針(ログポース)の指す航路へと旅立ったルフィ達を見送り、双子岬の灯台守、クロッカスは1人そう呟く。

 

 さらに続けて、クロッカスはふっと笑みを浮かべ、懐から小さな紙切れを取り出した。

 

「ふっ、それにあの『ウマ娘』⋯⋯。お前は今も自由に生きているんだろう? あいつの義娘だから当然か。久しぶりに会いたいものだ」

 

 クロッカスの掌で僅かに動く紙切れ。そこには、『ゴール・D・シップ』と記されていたのであった。

 

 

〇〇〇〇〇

 

 場所は変わり、双子岬を出た船は、謎の2人組、Mr.9とミス・ウェンズデーの住んでいるという町、ウイスキーピークを目指し海を進む。

 

 そんな旅路の天候は、冬。時々⋯⋯春。

 

「できた! 空から降ってきた男、“雪だるさん”だァ!!」

 

「はっはっは! 見よおれ様の魂の雪の芸術っ! “スノウクイーン”!!」

 

「なんと!! ルフィさんもウソップさんも凄いですねぇ~! でも、私だって負けていられません!! こちら、“白雪のシラユキ様”です!!」

 

「⋯⋯この寒いのに、なんであいつらあんなに元気なの? フクもすっかり馴染んでるし」

 

 雪ではしゃぐルフィ、ウソップ、フクキタルの三人を見て、信じられないといった様子で、船内で少しでも暖を取ろうとするナミ。

 

「ねえ、さっきからずっと舵を取っていないけれど大丈夫?」

 

「え、ついさっき方角は確認して⋯⋯あーーっ!?」

 

 ミス・ウェンズデーの指摘に方角を確認したナミは、船がいつの間にか反転し、進路から逆走していたことに気づいた。そして、ナミの声に何事かと集まってきたクルー達(居眠りしているゾロを除く)に、慌てて指示を出す。

 

「ブレイスヤード右舷から風を受けて! 左へ180度船を回す! ウソップうしろを。サンジくん舵取って!!」

 

「ナミさん、私は何をすればいいでしょうか!? 占いだとこの先天候が酷く変化すると⋯⋯」

 

「知ってる! フクはウソップの手伝いお願い!!」

 

「承知しましたぁ!!」

 

 慌ただしく動くクルー達を見て、毛布にくるまったままのMr.9とミス・ウェンズデーはどこか他人事のようにつぶやく。

 

「波に遊ばれてるな」

 

「あなた本当に航海士?」

 

「偉そうにウダってないでさっさと手伝え!」

 

 しかし、そんな二人もナミに蹴られて動くこととなり、ゾロを除いた全員が“偉大なる航路”の洗礼を受けることになるのであった。

 

 

 

「おい待て風が変わったぞ!」

 

「「春一番だ」」

 

「何で!!?」

 

 

 

「おい、向こうで今イルカがはねたぞ。行ってみよう!」

 

「あんたは黙って!!」

 

 

 

「うぅ、船に慣れていないので気分が悪く⋯⋯吐き気がしますぅ」

 

「ごめん、それは慣れて!!」

 

「がびーん!! 殺生な⋯⋯うっ、おろろろろ」

 

「ぎゃーー!?」

 

 

 

「波が高くなってきた!! 十時の方角に氷山発見!!」

 

「ナミさん霧だ!!」

 

「⋯⋯何なのよこの海はァ!!!」

 

 

 

 ナミの心からの叫びが響く中、一同は氷山を何とか突破し、帆が裂けそうになったのを食い止め(帆に関しては青い顔をしたフクが頑張ったおかげで乗り切ることができた)、そしてようやく⋯⋯。

 

 

「ん~、あー、よく寝た。⋯⋯おいおい、いくら気候がいいからって全員だらけすぎだぜ? ちゃんと進路はとれてんだろうな」

 

 あれだけ皆が走り回っていたにも関わらずに、ぐっすり寝ていたゾロ。彼の言う通りに、ようやく気候は落ち着き、皆ぐったりと疲れ果てていたところだ。そして、全員がゾロの言葉にこう思った。

 

(お前が言うな⋯⋯!!)

 

 なお、ゾロは怒れるナミに拳骨を叩き込まれた模様。さもありなん。

 

ゾロの頭にできた大きなたんこぶを見て、フクキタルは絶対にナミには逆らわないことを誓ったのであった。とりあえずゾロのたんこぶが治ることだけは祈っておく。南無、ほうれん草!

 

「気を抜かないでみんな!! 今やっとこの海の恐さが、“偉大なる航路”(グランドライン)と呼ばれる理由が理解できた!! この私の航海術が一切通用しないんだから間違いないわ!!」

 

「大丈夫かよおい」

 

「大丈夫よ! その証拠に⋯⋯ホラ!! 一本目の航海が終わった!!」

 

 そう言ってナミが指さす先には、サボテンのような島。ルフィたちは、無事一本目の航海の目的地へと到着することが出来たのであった。

 




次はようやくフクキタルの戦闘シーンを書けるかもです。


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大凶の予感!?

「「バイバイベイビー」」

 

 Mr.9とミス・ウェンズデーのコンビはそう言い残し、ルフィたちよりも先にウイスキーピークへと向かう。

 

 果たして彼らはいったい何者なのか⋯⋯。疑問は残るが、皆それよりも目の前に見える島のことに気が向いていた。

 

「⋯⋯つまり、『記録指針(ログポース)』にこの島の磁力を記録しなきゃ、次の島へ進みようがないのよ!!」

 

「おいおい、じゃあここがすぐにでも逃げ出してぇ化け物島でも、何日でも居続けなきゃならねぇってこともあるのか⋯⋯!!」

 

「そういうこと」

 

 ウソップは、ナミから告げられたその事実に、最悪の事態を想定し、ごくりと唾を飲み込む。

 

 そして、そんなウソップと同じく顔を青くするのは、いつの間にか水晶玉を抱えていたフクキタルであった。

 

「ふんぎゃー!!? ななな、なんということでしょう~!?」

 

「ぎゃー!! おいフクお前、いきなり叫ぶなよ! 驚いただろうが!!」

 

「す、すいませんウソップさん。しかし、この水晶を見てください。先程私が占ってみたところ、なんとまさかの大凶!! この島には絶対に上陸すべきではありません!! この島に上陸した瞬間、大いなる災いの渦に巻き込まれることになってしまいます!!」

 

 不吉な予言を、あたかも確定した未来であるかのように話すフクキタル。そんな彼女を見て、ウソップの胸はさらに不安で満たされる。

 

「な、なあ、ルフィ。おれは別にフクの占いを信じているわけじゃねえが、急に持病の『島に入ってはいけない病』が⋯⋯」

 

「大いなる災いの渦⋯⋯。おもしろそーだな~!!しっしっし!! こりゃあ幸先がいいぞ!!」

 

 しかし、この船の船長であるルフィは、フクキタルの占いを聞いてますます島への興味がわいたようであった。こうなれば、この島の上陸は最早絶対である。まあ、フクキタルの占いがなくてもウソップの持病(うそ)は無視されていただろうが⋯⋯。

 

「ななな!? ルフィさん、言っておきますけれど私、占いだけには自信があるんですよ!? いや、それしか取り柄がないとも言えますが⋯⋯私は、『クジクジの実』の“運勢人間”!! クジや水晶で占った結果は、基本的に覆ることはありません!!」

 

「フクちゃんは悪魔の実の能力者だったのか! そんな君も魅力的だ~!!」

 

 ドン!! と効果音が聞こえてきそうな勢いで自身が能力者であることを明かしたフクキタル。皆その事実には驚いた様子だったが、船長が『ゴムゴムの実』というかなり変な悪魔の実の能力者なので、そこまで反応は大きくなかった。なお、サンジが女性を褒めるのは通常運転である。

 

「えへへ、どうもどうも⋯⋯。じゃなくてですね!! このままでは皆さんの身に危険が⋯⋯」

 

「ん~、でも、おれが死ぬって占いは外れたんだろ? なら、なんとかなるって。それに、もし占いで死ぬなら、その時はその時だ!!」

 

 そう言ってにしし! と笑うルフィに、フクキタルはローグタウンで見たあの稲光を幻視した。⋯⋯やはり、あの時の自分の決断は間違っていなかった。そう改めて確信したフクキタルの身体と尻尾が、興奮でぶるりと震える。

 

「⋯⋯分かりました! それでは私は、ルフィさんの⋯⋯いえ、船長(キャプテン)の運を信じることにします!! ハッピーカムカム、ルフィさんと我らの下に、幸運よ来ませり!!」

 

 フクキタルの目は、キラキラと星のように輝く。これから先、どんな占い結果であろうとも、この人たちと一緒なら大丈夫だ。

 

 

 

 ⋯⋯そう信じていた自分を叱りたい。フクキタルは、眼下に広がる無数の“賞金稼ぎ”達を見て、数刻前の決意が早速揺らぎそうになっていた。

 

「な、なぜこんなことになってしまったのでしょう⋯⋯!?」

 

「それはお前がおれに気づいて起きたのが悪い。⋯⋯さて、賞金稼ぎざっと100人ってところか。相手になるぜ、“バロックワークス”」

 

 自分たちの組織名が知られていたことに動揺するバロックワークスの面々。そんな彼らを見下ろすのは、獰猛な笑みを浮かべたゾロと、ぷるぷる震えるフクキタル。

 

「また二つ⋯⋯サボテン岩に墓標が増える⋯⋯!!」

 

 巻き髪が目立つ男、Mr.8が呟く。

 

 ──ここは、ウイスキーピーク。賞金稼ぎの巣。意気揚々と“偉大なる航路(グランドライン)”へとやってきた海賊たちの墓標は、毎夜増え続ける⋯⋯。

 




次回こそフクキタルの初戦闘


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はっけよーい!

最近サンジの曇らせが辛い


「殺せっ!!!!」

 

「のーー!? 殺さないでくださいぃぃ!!」

 

 建物の上にいるゾロとフクキタルを指さし、仲間に合図を出すMr.8。一斉に向けられた銃口に悲鳴を上げるフクキタルは、隣にいたはずのゾロが消えていることに気が付かなかった。

 

「⋯⋯聞くが、増やす墓標は二つでいいのか?」

 

 いつの間にかMr.8の背後に降りてきていたゾロは、特徴的な巻き髪に刀を突き刺し、そう問いかけた。

 

 圧倒的な人数差にも関わらず、どこかこの状況を楽しんでいるようにも感じられる余裕がある。その証拠に、敵に囲まれた状態にも関わらず、ゾロは呑気に建物の上のフクキタルに声をかけてみせた。

 

「うし、おれが9割やる。残りの1割はお前に任せた。⋯⋯ウマ娘の力とかいうやつ、この機会に見せてもらうぜ?」

 

(こ、この人まさか、私を起こしたのはわざと!? なんという鬼畜の所業!!!)

 

 ゾロのぎらつくような視線に、フクキタルは自分が起こされここに連れてこられたのは偶然ではなかったことを悟る。

 

「たかが海賊2人に舐められてたまるか! さっさと殺せぇ!!」

 

 しかし、気づいたところでもう遅い。暴れまわるゾロに敵の注意はかなり向かっているが、フクキタルの方にも少なくない数の銃口が向けられたままだ。

 

 このまま抵抗しなければ撃ち殺されてしまうのは必然。クジを引かなくても分かることだ。当然、フクキタルも黙って殺されるような趣味はしていない。

 

“八卦”(はっけ)、よーい⋯⋯」

 

 両手を下に付き、腰をぐっとおろしたフクキタルは、いまにも走り出さんといった様子で構える。

 

「撃てぇ!!」

 

「のこったぁ!!!」

 

 フクキタルに向け、銃弾が放たれる。その瞬間、爆発的なスピードで駆けだしたフクキタルは、銃弾が先程フクキタルが居た場所に当たるよりも先に、銃を構えた男の前に接近していた。

 

「は、はや⋯⋯」

 

(けん)!!」

 

 驚きに目を見開く男の顔面に、高速で掌を突き出すフクキタル。その衝撃に、見開いた目ん玉をぐるんと回転させ、白目を剥き男は倒れる。

 

「むむむ! 今の一撃、感覚的には中吉ですね。これは幸先よし!」

 

 バロックワークスの社員を1人倒し、むっふー! と喜びつつも、フクキタルの攻撃の足は止まらない。

 

「それでは次のおみくじタイム! 当たるも八卦、当たらぬも八卦。“八卦発勁(はっけはっけい)”、じゃんじゃんいきます!!」

 

 ぐっと足に力を込めると、地面に一瞬、八角形の陣が浮かぶ。その八角形のうち一角がかすかに光り、直後、その方角に向って目にも止まらぬ速さで駆けたフクキタルは、目前の敵目掛け再び高速の突きを放つ。

 

「ふんぎゃろぉ!? 今度は“凶”!! 外しちゃいましたぁ!!」

 

「へ、どんなに早い攻撃でも当たらなきゃ意味ないぜ!!」

 

 攻撃を外し、体勢を崩したフクキタルに、すかさず男が切りかかる。しかし、回避のしようがないと思われたその一振りは、フクキタルの身体に当たることなく、するりとすり抜けた。

 

「な、なんで俺の剣がすり抜け⋯⋯ぐへぇ!!」

 

「なるほど! 確かに、当たらなければ意味がありませんね!!」

 

 ──フクキタルの食べた悪魔の実、『クジクジの実』は、それを食べた者にクジや占いで運勢を占うことのできる能力を与える。

 

 しかし、この悪魔の実はそれだけでなく、“運”を味方につけ、それを力へと変換することもできるのである。

 

これを利用した技が、フクキタルの“八卦発勁”。自分の攻撃や回避の確立を運に任せることで、通常よりも強い一撃を叩き込んだり、絶対に回避できない攻撃を回避することもできるのだ。

 

「まあ、あまり頼りすぎると時々痛い目見ちゃうこともあるんですけれどね⋯⋯」

 

 ふぅ、と息を吐き、フクキタルは一旦能力を解除する。先程は銃口を向けられて切羽詰まった状態なので使用したが、凶や大凶を引いてピンチに陥る可能性もあるこの技はあまり多用するものではない。

 

「あんたらどきな。そこの耳の生えた小娘は、あたしが相手するよ」

 

「み、ミス・マンデー!! ああ、頼んだ!!」

 

 フクキタルの強さに怖気ずくバロックワークスの社員たちをかき分け現れたのは、筋肉の目立つ巨漢の女、ミス・マンデーだ。その腕には折れた梯子を抱えている。

 

「うおおおお!!!」

 

 ミス・マンデーは雄たけびと共に、フクキタル目掛け梯子を力いっぱい薙ぎ払う。その巨体には見合わぬ速さで振られた梯子は、回避の暇すら与えず、誰もが頭から血を流し倒れるフクキタルの姿を想像した。

 

「ぬおおおお!!? いきなりそんな危ないモノぶつけてくるなんて、何考えているんですかアナタぁ!!」

 

「な!? こんな細腕の小娘が、私の力を受け止めただって!?」

 

 しかし、驚くべきことに、フクキタルはぐにに⋯⋯とうなりながらも、ミス・マンデーの薙ぎ払った梯子を、両手でしっかりと受け止めていた。力自慢のミス・マンデーは、自分の渾身の一振りを受け止められたことに驚愕し、目を見開く。

 

 その一瞬の隙をつき、ぱっと梯子から手を離したフクキタルは、姿勢を落とし、ミス・マンデーの足元まで一気に詰め寄る。

 

「! しまっ⋯⋯」

 

 気づいた時には既に遅し。フクキタルは、落とした姿勢をぐっと立ち上げ、その動きに合わせ掌を突き上げる。その一撃はミス・マンデーの顎に直撃し、彼女を天高く打ち上げた。

 

「『天脳衝(てんのうしょう)(はる)』!!!」

 

 ガシャーンと音を立て、打ち上げられたミス・マンデーが地面へと落下する。顎を突き上げられ脳を揺らされた衝撃で、意識はない。フクキタルの完全なる勝利であった。

 

「ふ~! なんとか勝てました。さて、ここら辺はもうやっつけちゃいましたし、ゾロさんの手伝いを⋯⋯いや、あの人私をはめましたし、手伝わなくてもいいのでは?」

 

「おお、そっちも片付いたみてぇだな。こっちもちょうど終わったところだ」

 

「え、ゾロさん、早すぎませんか!? 私、まだ十数人しか相手していませんが⋯⋯」

 

「言ったろ。1割任せるって。⋯⋯それにしてもこれホントにお前がやったのか。ウマ娘が強いってのは本当みてぇだな」

 

 フクキタルはゾロがあっという間にあれだけの人数を相手にして勝ってみせたことに驚愕したが、ゾロも予想以上のフクキタルの強さに驚いていた。

 

(今度改めて全力を見せてもらうのもいいかもしれねぇな⋯⋯。あの“鷹の目”と同じ王下八武海にウマ娘がいるって話も、納得がいく強さだ)

 

 そんなことを考えるゾロは、この後自分が船長であるルフィと本気の殺し合いをすることになるとは、想像だにしていなかったのであった。

 




クジクジの実、運ゲーを自分にも相手にも強要する結構いやらしい悪魔の実。


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やっぱり大凶でした!

これを書くためにアラバスタ編読み返しているけれどやっぱり面白いですね。


「ゴチャゴチャうるせぇな」

 

「勝負の⋯⋯」

 

「「邪魔だァ!!!!」」

 

「「ああああああ!?」」

 

「ふんぎゃああ!? ルフィさんとゾロさんが喧嘩を始めたと思ったらグラサンと傘の人をぶっ飛ばしたぁぁ!? 何を言っているか分からないかと思いますが私にも分かりません!! お助けくださいシラオキ様ぁ!!」

 

 ゾロとフクキタルがバロックワークスの社員を倒したその数刻後。ミス・ウェンズデーがアラバスタ王国の王女であるネフェルタリ・ビビであることが判明したり、バロックワークスのオフィサーエージェントであり、悪魔の実の能力者であるMr.5とミス・バレンタインデーが襲ってきたりと、かなり色々なことが立て続けに起こり、フクキタルの脳は既に容量を超えて限界ギリギリであった。

 

 そこにきてさらに、何故かルフィが激怒してゾロと本気で戦い始めるという謎の事態に陥り、フクキタルはどうしていいか分からず涙を目に浮かべていた。

 

「あ、あわわ⋯⋯。ルフィさんにちゃんと説明すべきでしょうか。あ、でも私もあの人達倒しちゃってますし、下手に弁解すればこっちまで怒りの対象にされてしまいます! も、もうダメです~~っ!!!」

 

 終わった。きっとこのままではルフィかゾロのどちらかが死んでしまう。この島に上陸した際に占って出た『大凶』はきっとこのことを指していたのだろうと確信し、そして事前に分かっていたはずの運勢を変えることができなかった自分を責める。

 

「やめろっ!!!」

 

 なので、たった一撃で2人を止めてみせたナミが、フクキタルには救いの女神のように見えたのであった。

 

 

 

「なーんだ早く言えよ~! おれはてっきり、あのもてなし料理に好物がなかったから怒ってあいつらを斬ったのかと思ったよ~っ!!」

 

「てめぇと一緒にすんな! そもそもおれだけじゃなくてそこに居るフクも⋯⋯」

 

「い、いや~! 兎に角お二人が仲直りされてよかったです。これにて一件落着ですね!!」

 

「何も解決してないわよ! あんた王女なんでしょ? なんで10億払えないのよ」

 

「それは⋯⋯」

 

 ビビがルフィ達に語ったのは、アラバスタで起きている内乱の話であった。ここ数年の間に民衆の間に革命の動きが現れ、国が乱れている。その原因を作った組織こそ、バロックワークスだというのだ。

 

「私がバロックワークスに潜入したのは、我が王国を脅かす黒幕とその目的を見つけるため。奴らの狙いは、アラバスタ王国の乗っ取り! 早く国に帰って国民の暴動を抑えなきゃ、バロックワークスの思うツボになる」

 

「なるほど、そういうことね。これでやっと話が繋がったわ。内乱中ならお金もないか」

 

「おい、その黒幕って誰なんだ?」

 

 ルフィが尋ねたのは、単純な興味からだろう。口角が上がっていることからもそれが分かる。

 

「ボスの正体!? それは聞かない方がいいわ! もし聞いたらあなた達も命を狙われることに⋯⋯」

 

「い、命!? それはごめんです! 私はまだお天道様にご面会したくはありません~!!」

 

「大袈裟よフク。ま、わたしも聞くつもりないけれどね。なんだって一国を乗っ取ろうって奴だもん。きっととんでもなくヤバい奴に違いないわ!!」

 

「ええそうよ。いくらあなた達が強くても、“王下八武海”の一人、クロコダイルには決して敵わない!!」

 

 ビビがその名を口にした瞬間、かぽーんと全員が固まる。ビビは慌てて口を閉じるが、もう遅い。

 

「言ってんじゃねぇか⋯⋯」

 

 ゾロが呆れたように呟く。そう、言ってしまった。そしてこの場にいる全員が黒幕の名前を聞いてしまったのである。

 

 さらに運の悪いことに、この様子を建物から見ていたのは、アンラッキーズと呼ばれる、バロックワークスの任務失敗者への仕置人兼伝達係。謎のラッコと謎のハゲタカで構成された謎過ぎるコンビは、ルフィ達の似顔絵をささっと描きとめると、そのまま颯爽と飛び去っていってしまった。

 

「ちょっと何なの、今の鳥とラッコ! あんたが私達に秘密を喋ったことを報告に行ったんじゃないの!?」

 

「ごめんなさいごめんなさい⋯⋯」

 

「ふんぎゃろー!? “八武海”に狙われるなんてもうおしまいです!! 大凶の占いはこのことだったんですね⋯⋯」

 

 突然降りかかったとんでもない事態に、パニックになるナミとフクキタル。そんな二人にひたすら謝り続けるビビ。

 

「へぇ、八武海か。さっそく会えるとは運がいいぜ」

 

「どんな奴だろうなー」

 

 混沌と化した女性達を尻目に、ルフィとゾロは先程まで殺し合いをしていたとは到底思えないほど呑気な会話を繰り広げていた。

 

「とりあえず⋯⋯これでおれ達4人、バロックワークスの抹殺リストに追加されちまったわけだ」

 

「なんかぞくぞくするなーー!!」

 

 しっしっし! と楽しそうに笑うルフィ。フクキタルはこの時ばかりは、その笑みに安心感を覚えることは出来なかったのであった。

 



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閑話:ローグタウンの看板娘

フクキタル以外のウマ娘も書きたいな~と思いまして、閑話という形であのウマ娘が登場です。この子たちの物語は、今回と同じように閑話という形で時々挟んでいこうと思っております。


 どーも、ナイスネイチャで~す。私はここ、ローグタウンの食堂で店員として住み込みで働いているウマ娘。今日は久々の休日ってことで、ぶらぶらと歩きながらショッピングでもする予定。

 

 ローグタウンって町は位置的にも海賊が頻繁にやって来たりして、お世辞にもあまり治安がいいとは言えない。でも私は、この町の活発な雰囲気を気に入っている。

 

「おいっす~。魚屋のおじさん、元気してた? あ、自慢してたエレファント・ホンマグロ売れてんじゃん」

 

「おー、ネイチャちゃんか! それが気前のいい兄ちゃんが丸ごと買っていってくれてよぉ! 俺も釣ったかいがあるってもんだぜ」

 

「それはよかったね~。あ、この魚安い。1つちょーだい!」

 

「へい、まいどぉ! 今気分がいいからこっちの魚もサービスしちゃうぜ!!」

 

 ありがたいことに、おじさんはただで魚を一匹サービスしてくれた。その気前のいい兄ちゃんに感謝しないといけないな~こりゃ。

 

 おじさんにお礼を言って、私は次の目的地に向かう。お魚はたまたま安かったから買ったけれど、本命は洋服だ。昨日の嵐で1着ダメになったから、新しいものを買っとかないといけないのだ。

 

「あれ、ここに居た占い屋の子、どこにいったんだろ? 店の看板はそのままだけれど⋯⋯」

 

 途中、路地裏に視線を向けると、いつもはそこにひっそりと店を構えているはずの女の子の姿がない。まだちゃんと話したことはなかったけれど、同じウマ娘として気にかけてはいたから、昨日の嵐で怪我とかしていないか、ちょっと心配だ。

 

「誰かあの子のこと知っている人いないかなぁ。この辺に知り合いは~っと⋯⋯あ、みっけ!」

 

 ぐるりとあたりを見渡してみると、ちょうど店先を掃除している知り合いのおじさん、武器屋のいっぽんマツさんを見つけた。あの人、ま~た奥さんに怒られたのかな?

 

「おいっす、いっぽんマツさん。昼時からせっせとお掃除とは、せいが出ますなぁ。また奥さんに怒られたの?」

 

「またってなんだまたって! ⋯⋯まあ、怒られたのは事実だが、俺は今回に関しては後悔してねぇよ。なんせ、男が男に夢を託したんだからな! 女には分からねぇ話さ」

 

「はいはい、どーせ私みたいな小娘には分かりませんよ~。ところで、あそこに居た占い師の子知らない? この時間にはいつも居るはずなのに居ないから、気になってさ」

 

「ん? そういや確かに今日は見かけねぇなぁ。いつもはこっちに聞こえるぐらい騒がしい声で叫んでいるんだが⋯⋯」

 

 いっぽんマツさんと2人、うーんと首を傾げていると、店の奥からいっぽんマツさんの奥さん、いっぽんウメさんが出てきた。

 

 あ、奥から奥さん⋯⋯ちょ、ちょっと面白いかも。

 

「こら、あんた何サボって⋯⋯って、あら、ネイチャちゃんじゃないかい? どうしたんだい、何だかお腹抱えているみたいだけれど」

 

「ちょ、ちょっとツボに入っただけなので、お気になさらず⋯⋯ところでウメさん、あそこに居た占い師の子、どこに居るか知らない?」

 

「あー、あの明るい色の髪の毛した、元気な子かい? そういえば昨日処刑台の方に走っていったのを見たような⋯⋯」

 

「え、処刑台って昨日海賊達が騒ぎ起こしていた場所じゃん! あの子、大丈夫かなぁ⋯⋯」

 

 武器屋夫婦と別れた後も、何人かにあの子のことを聞いてみたけれど、ウメさん以上に詳しい情報を知っている人は1人も居なかった。

 

 こんなことになるなら、せめて名前くらいは聞いておけば良かったなぁ。まあ、今更な話だけれど。⋯⋯とりあえず、無事であることを祈っておこう。

 

「⋯⋯よし、買い物終わり! 今日はもう帰ろっかな」

 

 いつの間にか、随分時間が経っていたみたいで、すっかり夕暮れ時だ。帰り際にもう一度あの路地裏をちらっと見たけれどやっぱりあの子の姿はなくて、私はなんかモヤモヤした気持ちを抱えたまま、食堂へと帰る。

 

 すると、何だか食堂の方が騒がしい。もしかしたら何かトラブルでもあったのかと思って慌てて入り口の方へ駆け寄ると、その騒がしさの原因の1人は、どうやら私の知り合いのようだった。

 

「もうほんっと凄かったよね! ドゴーンで、ピカーンで、ドーン!! って感じで!! ターボすっごくドキドキした!!」

 

「んだんだ、その通りだべ。おれが受けたあの時の衝撃は、まさにそんな感じだったべ。さっすが、おれの盟友は話が分かるべ!」

 

 ⋯⋯うん、1人は知り合いだ。それは間違いない。あの目に痛いほどカラフルな髪の色をしたウマ娘は知っている限り1人しか居ないし。アレは私の友達のツインターボだ。間違いない。

 

 でも、隣にいるいかにも怖そうな顔したヤバい男だれ? え、なんでターボあんなのと仲良く話しているの?

 

「あ、ネイチャだ! おーい、ネイチャネイチャー! こっち来て一緒に話そーよー!!」

 

 しかも何か私呼んできたしぃ!? え、これ行かないと行けない流れ? ここで無視とかしちゃダメかな⋯⋯?

 

⋯⋯ま、無視したらターボ傷つくだろうし、そんなことはしないけれどね。隣の奴は正直すっごく怖いけれど! 今すぐ逃げ出したいけれど!!

 

「え、えーっと。ターボ、とりあえず久しぶり。ところで、その隣に居る男の人は⋯⋯?」

 

 ターボの隣の椅子に座った私は、おそるおそるそう尋ねてみることにした。すると、2人は同時に顔を見合わせ、首を傾げる。

 

「あれ、そういえば名前聞いてなかった! ねぇねぇ、名前なんていうの?」

 

「おれぁバルトロメオっつー名前だべ。そーいうおめーは⋯⋯んっと、ツインジェットでいいだべか?」

 

「ツインジェットじゃなくてツインターボ!」

 

 いやいや、名前も知らなかったのにあんなに仲良く話してたんかい。

 

 そうツッコミたいのをこらえた私は偉い。だって、私この人の名前聞いたことある。確か、マフィアのボスとかが同じ名前だった気がする。絶対に怒らせるようなことをしちゃいけない。

 

 ⋯⋯え、なんでターボはそんなヤバい奴と仲良くなってるの? え、全然分からない。頭パンクしそう。

 

「バルトロメオって長いね~。ロメ男でいい?」

 

「ああ、あの人に感銘を受けた同士であるおめーさんにそう呼ばれるなら大歓迎だべ。他の巫山戯た奴らなら許さねぇけんども」

 

「じゃーロメ男! さっき言ってた話、ネイチャがぴったりだと思うんだ! 仲間に加えてもいいかな?」

 

「ん~? そうなんだべか? まあ、おれぁあんましそういうのは得意じゃないから、ターボに任せるべ」

 

「え、ちょい待ち。仲間に加える加えないって、一体何の話?」

 

 なんか、いきなり私の名前が出てきたから一旦話を止める。何だか猛烈に嫌な予感がするのは、気のせいだろうか。いや、気のせいだと信じたい。

 

「ネイチャ! ターボ達と一緒に、海賊やろうよ!!」

 

「だべ!!」

 

 しかし、私の願いも虚しく、ターボの口から飛び出したのは、到底信じられないようなお願いで⋯⋯それからしばらく、ターボとバルトロメオが海賊団の名前で言い争っているのを、半ば呆然としながら聞くことしか出来なかったのであった。

 




次回は、再び本編に戻ります。


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リトルガーデン編
謎の女、ミス・オールサンデー


「ビビ王女、無事に⋯⋯祖国で会いましょう」

 

 そう告げて、ビビになりすまし一足先に船を出したアラバスタの護衛隊長、イガラム。そんな彼の乗った船がたった今、目の前で爆撃され、炎上している。

 

 唖然とその光景を見ていた一同だったが、既に追っ手が迫っているというならばぐずぐずしている暇はない。

 

「立派だった!!」

 

 ルフィはイガラムの覚悟を讃え、炎上する船から背を向ける。ゾロやナミも、そんなルフィに続き、自分たちの船が泊めてある場所へと急ぐ。

 

「ビビ、急いで! 私達が見つかったら水の泡でしょ!? フクもショックなのは分かるけれど、立ち止まっている暇はないわよ!?」

 

 フクキタルは、ナミの言葉にはっと我に返る。あまりにもショッキングな出来事に、すっかり動揺していた。

 

(そ、そうです。あの人の無事を占っておかねば!!)

 

 フクキタルは不安になった時の癖で、いつものように水晶玉を取り出そうとする。しかし、その途中で、ビビの顔を見てそれを止めた。

 

 ビビは、血が出る程力強く自分の唇を噛みしめていた。きっと、イガラムはビビにとって大切な人だったのだろう。それでも、泣き叫んだり助けに行こうと駆け出したりしないのは、彼女に祖国を救うという使命があり、イガラムはそのために自ら囮を選んだからだ。

 

 フクキタルが占いをして、良い結果が出ればいい。しかし、もし悪い結果が出てしまったら⋯⋯? その時のことを思うと、フクキタルはイガラムの安否を占うことは出来なかったのであった。

 

 

 

〇〇〇〇〇

 

 

 あれから、まだ眠っていたウソップとサンジを文字通り引っ張って、急ぎウイスキーピークから出航したルフィたち一行。そんなルフィ達の下に、予期せぬ来客が訪れる。

 

「船を岩場にぶつけないように気をつけなきゃね。あー、追手から逃げられてよかった♡」

 

「なんであんたがこんな所にいるの!? ミス・オールサンデー!!!」

 

 手すりの上に座り、頬杖をつきながら薄く笑みを浮かべる美女。彼女の正体を知るビビは、その名を叫ぶ。

 

 ミス・オールサンデーは、ボスであるMr.0、つまり“王下八武海”、クロコダイルのパートナー。ビビは、彼女を尾行することでボスの正体を知ることが出来た。

 

 ただ、それはミス・オールサンデーがわざと尾行させていたからであり、ビビ達がボスの正体を知ったことを告げたのも彼女であったわけなのだが⋯⋯。

 

「あんたの目的は一体何なの!?」

 

「さぁね。あなた達が真剣だったから、つい協力しちゃったのよ。本気でバロックワークスを敵に回して国を救おうとしている王女様が⋯⋯あまりにバカバカしくてね」

 

「⋯⋯!! ナメんじゃないわよ!!」

 

 馬鹿にしたようにくすりと笑みを浮かべたミス・オールサンデーに、激昂して叫ぶビビ。しかし、ビビがミス・オールサンデーに手を出すより先に、ルフィ以外の全員が武器を向けていた。

 

 ウソップはパチンコを、ゾロは刀を。そしてナミは棒を構え、あのサンジでさえ銃を向けている。

 

 そんな中、武器らしい武器を持っていないフクキタルは水晶玉をバーンと前に掲げているので絵面は少しふざけた感じだが、本人の表情はいたって真剣そのものであった。

 

「⋯⋯そういう物騒なもの、私に向けないでくれる?」

 

 ため息まじりにミス・オールサンデーがそう言ったかと思えば、サンジとウソップは何かに引っ張られるように手すりから甲板へと落とされ、ゾロとナミの持っていた武器も落とされる。

 

 そして、フクキタルの持っていた水晶玉も叩き落とされ⋯⋯甲板の上に落ちた水晶玉は、パリィンと音を立てて綺麗に割れた。

 

「ふんぎゃーー!!? 私の水晶玉(10万ベリー)がぁぁぁ!?」

 

「おいお前! 帽子返せ! ケンカ売ってんじゃねぇかこのやろー!!」

 

 水晶玉を割られたフクキタルの嘆きの叫びと、麦わら帽子を取られたルフィの怒りの声が響く中、ミス・オールサンデーは全く動じる様子を見せず、帽子をルフィに返し、それと同時にビビにあるものを投げた。

 

「あなた達の記録指針(ログ・ポース)の進路を辿った先にある土地の名は、“リトルガーデン”。おそらく私たちが手を下さなくても、あなた達はそこで全滅するわ。だから、その永久指針(エターナルポース)をあげる。その指針が示すのはアラバスタ一つ手前の“何もない島”だから、追手も来ない」

 

 永久指針(エターナルポース)とは、記録指針(ログポース)とは異なり、特定の一つの島の磁力を記録し、永久にその島のみを指し続けるもの。もし、ミス・オールサンデーの言葉が真実ならば、記録(ログ)を辿るよりも安全に航海することが可能となる。

 

 しかし、当然ながら敵組織の実質ナンバー2とも呼べる存在の相手からの親切を、素直に受け取れるはずはない。ゾロなんかは、はっきりと「どうせ罠だろ⋯⋯」と口に出している。

 

「そ、そうだフク! こんな時こそお前の占いの出番じゃねぇか!?」

 

「た、確かに!! いいことを言いますねウソップさん!! ちょっとこの背中の“にゃーさん”から予備の水晶を出しますので、しばしお待ちを⋯⋯」

 

「いや、その必要はねぇぞ、フク」

 

 背負っている猫型のカバンから水晶玉を取り出そうとしたフクキタルを止めたのは、ルフィであった。ルフィは、フクキタルの前を通り過ぎ、ビビに近づくと、その手から永久指針(エターナルポース)を奪い、力いっぱい握りつぶした。

 

「あのなぁ! この船の進路を、お前が決めるなよ!!」

 

「⋯⋯そう、残念。私は威勢のいい奴は嫌いじゃないわ。生きていたらまた逢いましょう」

 

「いや」

 

 また逢おうというミス・オールサンデーに対し、ルフィの返答はあまりにもそっけないものだったが、ミス・オールサンデーは怒った様子もなく、大きな亀に乗って去っていった。

 

「⋯⋯⋯⋯?」

 

 その去り際、ミス・オールサンデーはちらりとフクキタルの方を見たが、特に何か言うわけでもなく、視線だけを向けられたフクキタルは、不思議そうに首を傾げるのであった。

 

 

 

「⋯⋯モンキー・D・ルフィに、“ウマ娘”。何故、“D”と“ウマ娘”は、いつも時代の渦の中心にいるのかしら」

 

 ミス・オールサンデーが握りしめる新聞の一面。そこにデカデカと載るのは、王冠を被ったウマ娘の写真と、こんな見出しであった。

 

『“覇王海賊団”、聖地マリージョアにて前代未聞の8時間ぶっ通しオペラ公演。大将“黄猿”が出動するも確保には至らず』

 

 

「⋯⋯さて、まずは“リトルガーデン”。見物ね」

 

 そう呟くミス・オールサンデーの表情からは、やはり何を考えているかは読み取れないのであった。

 




イガラムさん、これで何で生きてるんだろうね。ペルも生きていたしアラバスタ民耐久高過ぎ。なおツメゲリ部隊。


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巨人島”リトルガーデン”

フジキセキのショータイム周回してたら少し投稿遅れました。バクシンバクシーン!!


「冒険のにおいがするっ!! サンジ、海賊弁当ーっ!!」

 

 ウイスキーピークから記録(ログ)を辿り、リトルガーデンへと上陸したルフィ達を待ち構えていたのは、耳慣れない動物の鳴き声に、血まみれで倒れる虎。

 

 そんないかにも危ない雰囲気のお出迎えに、ぞくぞくと身体を震わせたルフィは、早速島の中へと冒険しに行くことを決める。

 

「⋯⋯ねぇ、私も一緒に行っていい?」

 

 そして意外にも乗り気だったのがビビである。この王女様、敵会社に潜入するしなかなか行動力がある。

 

 さらに、ゾロも散歩すると言って島に入り、何故かゾロと狩り勝負をすることを決めたサンジもまた、島の中に足を踏み入れる。

 

「あ、私もちょっと興味ありますし、ルフィさんの後を⋯⋯」

 

「「ちょっと待った!!」」

 

 そして、偉大なる航路(グランドライン)特有の個性豊かなリトルガーデンという島に、実は少しだけ興奮していたフクキタルも、ルフィ達の後に続いて島に上陸しようとしたが、ナミとウソップが必死になってそれを阻止してきた。

 

「フク、あんた結構強いでしょ!? わたしとウソップだけじゃ不安だし、あなたはどうかここに残って!」

 

「そうだぞ! 言っておくがおれは全く頼りにならないからな!!」

 

「わ、分かりました! マチカネフクキタル、船に残ります!!」

 

 二人の勢いに押され、フクキタルは船に残ることを宣言する。見るからに安心した様子でほっと胸をなでおろした二人を見て、頼られて嬉しい気持ちと同時に、先程まであまり感じていなかった不安も芽生え始める。

 

「うう、私は一応戦えますけれど、そんなに技術はありませんので、あまり期待しすぎないでくださいよぉ? ⋯⋯それにしても、なんでここはリトルガーデンっていう名前なんでしょうか。リトルって雰囲気の島じゃあありませんよね?」

 

「確かにそうよね。⋯⋯ちょっと待って。そういえばリトルガーデンって名前、本で読んだ記憶があるのよ。何の本だったかしら」

 

 ナミは、ちょっと調べてくると言って船内に向かう。甲板の上に残ったのは、ウソップとフクキタルの二人だ。

 

「お、おい、フク。お前の占いでこの島が危険かどうかって分からねぇのか?」

 

「は!? た、確かに、まだ私占っていませんでしたね。島の雰囲気に圧倒されて忘れていました! 私の取り柄と言えば占い!! ここはウソップさんの不安を取り除くためにも、よい結果が出ることを祈りましょ~!!」

 

 フクキタルは、水晶玉を背中のカバンから取り出し、はんにゃか、ふんにゃか~! と、怪しい手つきと共に呪文を唱える。

 

「ハッピーカムカム! 冷麺、ソーメン、冷ややっこ~!! さあ、占いの結果はいかに⋯⋯!!」

 

「ごくり⋯⋯!!」

 

 水晶玉が怪しい光を放ちだし、フクキタルの顔面を照らす。そのどこか幻想的な光景を、ウソップは息を呑んで見つめていた。

 

 そのため、2人は頭上から近づいてくる巨大な影に気づくことが出来なかった。

 

「出ました! 占い結果は⋯⋯中吉!! 健康運はあまりよくありませんが、よい出会いがあるというお告げです!!」

 

「ほお、なかなか面白いことをするな。どれ、決闘運でも占ってくれないか?」

 

「決闘運ですか? 決闘運は⋯⋯なな、なんと、大吉と出てます! 誇りを忘れなければなおよきとのことです!!」

 

「ガバババババ!! それはいいことを聞いた!!!」

 

「いやぁ~、それにしてもウソップさんも変なことを聞きますねぇ~。⋯⋯ん、肩をつついてどうしたんですか? ウソップさん」

 

 つんつんと肩をつつかれて横を向くと、そこには顔を青白くさせて空を見上げるウソップの姿があった。

 

「フク、それ、おれじゃない⋯⋯」

 

「二人とも大変よ!! この島は⋯⋯」

 

 探していた本を見つけたのか、慌てた様子で戻ってきたナミも、ウソップ同様空を見上げてぴしりと固まる。フクキタルは、そんな二人の視線を追い、恐る恐る空を見上げた。

 

「ガババババ!! 久しぶりの客人だ!! 肉もある、もてなすぞ!!」

 

 そこに居たのは、ジャングルの木々をものともしない背丈の大男。フクキタル達の視線が自分に向いたのに気づいた彼は、ちょうど通りかかった恐竜の首を、斧で真っ二つにしてみせた。

 

「きゅ、きゅぅ~⋯⋯」

 

「フクぅ!? だ、ダメだ。気絶してる⋯⋯。あ、じゃあおれも死んだふり⋯⋯」

 

「今更遅いわよ!!」

 

 大男のあまりの迫力に、白目を剥き倒れるフクキタルに、便乗して死んだふりでごまかそうとするウソップ。そんなウソップに思わずツッコミを入れるナミ。

 

 そんな愉快な三人の様子を見て、大男⋯⋯巨人のブロギーは、再びガバババと豪快に笑ってみせたのであった。

 

 

──あの住民たちにとって、まるでこの島は小さな庭のようだ。巨人島(・・・)リトルガーデン。この土地をそう呼ぶことにしよう。

探検家 ルイ・アーノート




リトルガーデン編のこの導入すき


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巨人の”誇り”

リトルガーデン編からはそこそこオリジナル要素も多め、フクキタルの活躍も増やしていきます!


「ふんにゃかハッピー! はんにゃかラッキー! センキューシラオキ! はい、リピートアフターミー!」

 

「ガバババ!! 変わったまじないだなぁそりゃ。教えてもらったところ悪いが、我ら巨人はエルバフの神以外には祈らねぇ」

 

「おぉ、流石の信仰心! いやぁ、初めて見た時は大きすぎてびっくりしちゃいましたけれど、私だって耳と尻尾がありますし。それに、占いの結果もちゃんと聞いてくれますから、ブロギーさんは良い人ですね!」

 

 和気あいあいと会話するフクキタルとブロギー。そんな二人の様子を、少し離れたところから見守るのは、一緒にブロギーの寝床まで連れてこられたナミとウソップだ。

 

「⋯⋯ちょっと、なんであの子巨人とあんな打ち解けてるの?」

 

「おれに聞くなよ! ⋯⋯話を聞く感じ、信仰心があつい奴どうし気が合ったって感じか?」

 

「いや、それにしたっておかしいでしょ! あの子、恐怖心とかないのかしら?」

 

「まあ、突然海賊船に乗り込んでくるような奴だからなぁ⋯⋯」

 

 確かに、そう考えるとフクキタルは最初からなかなかにぶっ飛んだ行動をしていたなぁと、ナミは若干目の前のウマ娘の少女に対する認識を改める。そして、そのフクキタルはというと、ブロギーの掌の上にのせてもらいながら、むっふー! と得意げに水晶玉を見せびらかしていた。

 

「あなたのような体も心も大きな人に会えた奇跡! これぞまさにシラオキ様の思し召しに違いありません! あ、せっかくなので運勢を占いいたしましょうか?」

 

「ガバババ!! そいつはいいな!! ⋯⋯ん、だが、決闘の合図が鳴った」

 

 爆音と共に島の真ん中にある火山が噴火し、ブロギーはフクキタルを地面に下ろし、その代わりに斧を拾い上げる。

 

「け、決闘ですか? いったいどういった理由で⋯⋯?」

 

「理由か。理由など⋯⋯とうに忘れた!!」

 

 ブロギーが火山の方へと歩いていくと、その反対側から同じく巨人のドリーが、剣を持って現れる。

 

「「おおおおおおおお!!!!」」

 

 そして、ドリーとブロギーの二人の巨人は、お互いに雄たけびを上げ、そして武器をぶつけ合った。

 

 お互いに全く遠慮のない、全て急所狙いの攻撃。100年続く決闘に最早なぜ戦うのかなどという理由など必要なく、お互いの誇りのため、全力でぶつかり合うのだ。

 

 そんな二人の姿に感銘を受けたウソップは、先程までのビクビクした態度から打って変わって、目を輝かせてその決闘を見上げていた。

 

「すげぇ⋯⋯。これこそまさに、戦士たちの誇り高き決闘だ! おれの目指す“勇敢なる海の戦士”ってのは、これなんだ!! おれは、こういう誇り高い男になりてぇ!!」

 

「私も、なんとなくウソップさんの言っていること分かるかもしれません! なんていうか⋯⋯あの決闘を見ていると、ウマ娘としての私の闘争本能が刺激されるような、そんな不思議な感覚に⋯⋯! ふおおおおお!! なんだか興奮してきました!! ちょっと走ってきます!!」

 

 ドリーとブロギーの決闘を見てテンションが上がったフクキタルは、自らの興奮を鎮めるためにも走り出す。

 

「ふんぎゃーー!!?」

 

 しかしながら、興奮して前を見ていなかったフクキタルは、船から持ってきた酒樽にぶつかって転んでしまった。

 

「もぉ、ちょっとフク。はしゃいで怪我したらどうすんのよ。少し落ち着きなさい」

 

「は、はい。申し訳ありません⋯⋯。あ、お酒の樽があんなところまで転がって⋯⋯」

 

 フクキタルがぶつかった酒樽は、ころころと転がって、岩場にごつんと激突した。そしてその瞬間、どごぉんという爆音と共に酒樽が爆発する。

 

「⋯⋯え? わわわ、私のせいで酒樽がぁぁぁぁ!?」

 

「いや、それで爆発するのはおかしいだろ!? あの酒に爆薬かなんかが入ってたんだ!!」

 

「まさか、バロックワークスの仕業!? でも、一体なんでこんなことを⋯⋯」

 

 酒が爆発するという突然のハプニングに混乱する三人。その頭上では巨人たちの決闘が7万3千466戦目の引き分けに終わっていたが、この事態に対する対処のことで頭がいっぱいで、その様子は目に入っていなかった。

 

「とりあえず、悪意を持った誰かがこの島にいるのは確定だわ。わたしたちだけじゃ対処できるか怪しいし、先に島に入ったルフィ達と合流しないと⋯⋯」

 

「ああ、そうだな。これはブロギー師匠が渡そうとしていた酒なんだ。これをもし相手の巨人が飲んだらと思うと、ぞっとするぜ! おいフク、お前も一緒に⋯⋯って、どうした?」

 

 フクキタルに声をかけたウソップは、何やら様子がおかしいことに気が付いた。フクキタルの手はゆらゆらと怪しげな軌道を描き、その瞳は怒りに燃えていた。

 

「こ、こんなことをしたら皆アンラッキーになってしまうじゃないですか! 運気を下げるような鬼畜の所業、占い師として許せません!!」

 

 鼻息荒く、ふんす! と全身で怒りを表現するフクキタルは、クジクジの実の能力で“棒みくじ”を産み出し、それを地面に投げる。

 

「福を掴みとるために、卑劣な外道さんの下まで開運ダーーッシュ!!」

 

「ちょっとフク、一人で行ったら危ない⋯⋯って、もう行っちゃった。あの子やっぱり足早いわ⋯⋯」

 

「おいおい、どうする!? フクを先に追った方がいいか!?」

 

 おそらく、酒に爆薬を仕込んだ犯人のいる方向へと走っていったと思われるフクキタルを、呆然と見送る二人。先にルフィ達と合流するべきか、それともフクキタルを追うべきか⋯⋯そう悩む二人に声をかけたのは、先程決闘を終えて帰ってきたばかりのブロギーであった。

 

「どうした客人よ。そんなに困った顔をして。ところで、あの耳の娘はどこに行ったんだ?」

 

 ──こうして、本来仕掛けられた罠によって傷つくはずだったドリーは、その罠にかかることはなく、ブロギーは何者かが自分たちの決闘に水を差そうとしていたことを知ることになる。

 

 決闘に水を差す行為。それは、巨人の誇りを馬鹿にする行為に等しい。怒れる二人の巨人が、フクキタルの下に助太刀にやって来るまで⋯⋯あと数刻。



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警戒すべきは”ウマ娘”

誤字報告ありがとうございます!!


リトルガーデンの鬱蒼と生い茂る木々の中で、異彩を放つ正方形の白い建造物。その建物の中へと入っていったのは、Mr.5とミス・バレンタインデーのコンビ。

 

「やぁ、戻ったカネ⋯⋯Mr.5」

 

 そして、そんな2人に声をかけたのは、この建造物を建てた張本人であり、オフィサーエージェントの1人でもある男⋯⋯コードネームは、“Mr.3”。

 

 コードネームを主張するかのような『3』の形をした髪型が特徴的な彼は、ルフィ達にやられたMr.5達を非難した後、テーブルの上に古びた手配書を広げた。

 

「この島にいる巨人⋯⋯通称、『青鬼のドリー』と『赤鬼のブロギー』は、100年前世界を震撼させた『巨兵海賊団』の2人の船長。最早昔話の怪物とされていたそいつらが、今私達のいるこの島に生きている⋯⋯!! 奴らの首に懸けられていた懸賞金は、当時の金額で1人頭1億ベリー! 2人で2億だ!!」

 

「「2億っ!!?」」

 

 予想以上の額に驚愕する2人に対し、Mr.3は落ち着いた様子で、優雅に紅茶をすすっている。

 

「やっと事の重大さがわかってきたカネ。任務完了報告に加え手土産に2億の首をとって帰りゃあ、まず我らの昇格は間違いあるまい」

 

「それであの巨人の酒に爆弾をと⋯⋯」

 

「そういうことだ。まともにぶつかってはおよそ我々に勝ち目はないガネ。ちょっと工夫すれば、どんな山でも切り崩すことはできる⋯⋯。さて、巨人に対する対処はこれでいいとして、あと警戒するべきは⋯⋯こいつだガネ」

 

 そう言って、Mr.3はドリーとブロギーの手配書の隣に、アンラッキーズから渡された麦わらの一味の似顔絵を置く。その中で、Mr.3はフクキタルの絵を指さした。

 

「こいつが⋯⋯? 警戒するなら船長じゃないのか?」

 

「はぁ⋯⋯これだから馬鹿は救いようがないガネ。3千万の賞金首など私からすれば敵じゃないガネ。この耳と尻尾⋯⋯こいつは間違いなく“ウマ娘”。危険度なら圧倒的にこっちが上だガネ」

 

 Mr.3は、机の上に置いてあった新聞を広げる。そこには、『“覇王海賊団”、聖地マリージョアにて前代未聞の8時間ぶっ通しオペラ公演』という見出しがデカデカと書かれてあった。

 

「この新聞に載っている大事件を引き起こした海賊団、その船長のテイエムオペラオーに、副船長のメイショウドトウ⋯⋯さらには、船員含め全員がウマ娘だガネ。他にも有名なところで言えば王下八武海の“海喰(うみくい)”に、“海軍四皇(よんこう)”⋯⋯貴様らも、流石にこいつらのことは知っているだろう?」

 

「え、ええ。海軍四皇って確か、中将にして三大将にも劣らない実力の持ち主って言われている奴らのことだったかしら?」

 

「ああ、『女皇(じょおう)』エアグルーヴに、『怪皇(かいおう)』ナリタブライアン、そして⋯⋯『皇帝』、シンボリルドルフ。この3人に加え、『驀進皇(ばくしんおう)』、サクラバクシンオーを加えた4人で、“海軍四皇”と呼ばれとるガネ。ウマ娘が絶対に強者であるとは限らないが、こうも強者にウマ娘が多いとなれば、警戒するにこしたことはないガネ」

 

 ずず⋯⋯と、Mr.3はカップに残っていた紅茶を飲み干す。警戒しろと言いつつも、その表情からは自分が負けるなどとは考えていない、絶対的な余裕が感じられる。さらに、そのペアであるミス・ゴールデンウィークなどは、先程から我関せずといった様子で眠っている。

 

「⋯⋯とはいえ、策さえきちんと練れば、ウマ娘とて対処は可能だガネ。既にこのジャングルには、私のキャンドルトラップを仕掛けてある。その罠で奴らを分断し、ウマ娘が1人になったところを狙えば、人数差で押し切れる。私の計画に狂いはないガネ⋯⋯!!」

 

 これが、『3』の名を与えられたペアの余裕なのか⋯⋯と、Mr.5とミス・バレンタインデーの2人は、自分たちとの実力の差を感じ、ごくりと喉を鳴らす。

 

 しかし、Mr.3のたてた完璧な計画、それが崩壊する足音は、すぐそこまで迫ってきていた。

 

「⋯⋯む? おい貴様ら、何か声が聞こえないカネ?」

 

「確かに、何か聞こえてくるな。またあのトカゲか?」

 

 ここに来る前に大きなトカゲを倒してきていたMr.5は、また同じような生物がやって来たのかと疑ったが、耳を澄ましてみると人間の声と足音のように聞こえる。しかも、それはもの凄いスピードでこちらへと近づいて来ていた。

 

「こ、この速さは⋯⋯まさか!?」

 

 Mr.3が目を見開くと同時に、その声が今度は全員の耳にはっきりと届く。

 

「うおおおおっ! かしこみかしこみぃーー!! 厄敵退散、開運ダーーッシュ!!!」

 

 その大声にミス・ゴールデンウィークも目を覚まし、バロックワークスの4人全員が身構える中、バァン! とドアを勢いよく開けて飛び込んできたのは、まさに先程まで話題に出していたウマ娘、その人であった。

 

「到着です!! って、ギャーー!? なんか4人もいますぅ!? それは聞いてませんよシラオキ様ぁ!!?」

 

「⋯⋯これはこれは、どうやら、わざわざ探す無駄が省けたようだガネ」

 

 この遭遇自体は予期せぬハプニングであったが、状況的には理想に近い。Mr.3は、狼狽えるフクキタルを見て勝利を確信し、口角を吊り上げたのであった。

 



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『カラーズトラップ』

どうやら一瞬だけ日刊ランキングに載っていたようで、大変ありがたいことでございます。拙いところの多い作品ですが、皆さんが楽しめるような物語をこれからも届けていけたらと思っております。

そんなわけで、感謝の連日投稿です。


「ととと、とりあえず、“八卦(はっけ)”よーい!!」

 

「何もさせんガネ! “キャンドルロック”!!」

 

 自ら敵地へと駆け込む形となってしまったフクキタルは、慌てて戦闘態勢に入ろうとするが、そうはさせまいとMr.3は“ろう”を放ち、フクキタルの足を封じ込もうとする。 

「間一髪回避! ありがとうございますシラオキ様ぁ!!」

 

 しかし、咄嗟に発動させていた“八卦”の陣のおかげか、幸運にも回避に成功したフクキタルは、壁を蹴って反撃へとうつる。

 

「おんみょー! よんしょー! “タイ・キョク・ケン”!!」

 

 独特なかけ声と共に、フクキタルはリズム良く跳びはねながら、拳を当てにいく。その拳はMr.3がろうの壁を出したことで止められてしまったが、攻撃を止めたはずのMr.3は苦い顔をしている。

 

「くっ! ウマ娘の機動力を侮ったガネ。この狭い室内ではかえって不利! 一旦ろうを解除するガネ!!」

 

「えっ!?」

 

 Mr.3は、壁に手を付いて、解除を宣言する。すると、それまで固まっていたろうがドルっと溶け出し、ちょうど足を壁に付けていたフクキタルは、足場を無くして宙に放り出される。

 

「“キャンドルロック”!!」

 

「ぎゃー!? 手がろうで固められてしまいましたぁ!? 大大大ピンチです!!」

 

 そして、その大きな隙を見逃さず、Mr.3はキャンドルロックでフクキタルの両手を封じ込める。

 

「フハハハ!! 足はまだ封じていないが、お前の攻撃手段は先程の動きを見るに主に拳! それを封じた以上最早お前に勝ち目はな⋯⋯」

 

「ええいままよ!! なんとかなれー!!」

 

「ガネェ!!?」

 

 両手を封じられたフクキタルは、がむしゃらに両手を振り抜き、ろうの塊をハンマーのようにして勝ち誇るMr.3の顔面をぶっ叩いた。

 

「え、まさかMr.3はやられちゃった⋯⋯ってこと!?」

 

「そんなわけあるかミス・バレンタインデー! Mr.5もぼけっとしていないで、さっさと私に加勢するガネ!!」

 

 流石オフィサーエージェントと言うべきか、一発でノックダウンはしなかったようで、鼻血を流しつつもMr.5とミス・バレンタインデーに指示を送る。

 

「言われなくてもやるつもりだ! “鼻空想砲(ノーズファンシーキャノン)”!!」

 

「ふぎゃー!? 鼻くそ飛ばすなんてばっちいですよ! えんがちょです、えんがちょ!!」

 

 ボムボムの実を食べた“爆弾人間”であるMr.5が飛ばす鼻くそは、ただの鼻くそではなく、爆発する恐ろしい鼻くそだ。

 

 そうとは知らずにばっちいからという理由で全力で鼻くそを回避したフクキタルは、背後で聞こえる爆発音を置き去りに、瞬時に距離を詰め、ろうの塊でMr.5をぶん殴る。

 

 フクキタル本人は全く意図せずほぼ無意識にとっていた行動であったが、Mr.5に触れたことで爆発が起こり、フクキタルはろうの拘束から解除された。しかも、爆発の余波はフクキタル本人にはさほど影響なく、ダメージを受けて吹っ飛んだのはMr.5だけである。

 

「なんか爆発しましたが、怪我はしなかったので大吉です! むっふー!! 幸運が来てますよぉ!!」

 

「う、ウマ娘の身体能力がここまでのものとは、予想外だガネ!?」

 

 4対1の理想的な状況から一転、幸運と身体能力のごり押しで形勢逆転を果たしたフクキタルを見て、Mr.3の余裕が完全に崩れる。

 

 しかしながら、フクキタルの幸運は、パリッという乾いた音によって突然消え去ってしまう。

 

「“カラーズトラップ”、『笑いの黄色』。⋯⋯折角お昼寝してたのに、起こすなんて酷いじゃない」

 

「あは、アハハハハハ!! な、なんだか急に笑いが止まりません~!! アハハハハハ!!」

 

「⋯⋯ふう、流石私が見込んだ『写実画家』。こういう脳筋バカほど、暗示にはよくかかるものだガネ」

 

 フクキタルの動きを封じたのは、それまで呑気にせんべいをかじりながら戦闘の様子を見ていた、ミス・ゴールデンウィークであった。

 

 ミス・ゴールデンウィークは、悪魔の実の能力者ではない。しかしながら、彼女の洗練された色彩のイメージは、絵の具を伝って他人の心に暗示をかけることを可能とする。

 

 勿論、暗示のかかりやすさなどは人にもよるだろうが、占いや迷信を信じるフクキタルはこういった暗示の類いには人一倍弱かった。

 

「あははは、あは、ひぃ、わ、笑いが止まらな、アハハハ!! お、お腹が苦しいです⋯⋯アハハハ!!」

 

 ついにはお腹を抱えて笑い出したフクキタルは、最早立つことすらままならない。完全に無力化されたフクキタルを見て、Mr.3はほっと安堵の息を吐き、ミス・ゴールデンウィークは、もう一押しとばかりに筆を構える。

 

「さあ、私はもう休みたいから、貴女はもう少し役に立ってね。⋯⋯ “カラーズトラップ”、『誘惑のピンク』」

 

 ミス・ゴールデンウィークは、先程の黄色の絵の具を上書きするように、ピンクの色で独特の模様をフクキタルの背中に描く。

 

 すると、それまで目に涙を浮かべて笑っていたフクキタルの動きがピタッと止まる。そして、まばたきを数回繰り返したフクキタルの瞳には、大きなハートマークが浮かんでいたのであった。

 




ミス・ゴールデンウィークの能力、ワンピの中でも屈指の謎能力だと思う。


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まっすぐ!!

巨人はなんかかませ役にされがちだけれど、私は好きです。エルバフちゃんと行ってくれるのかな⋯⋯?


「おーい、フクどこだ~!! ⋯⋯って、おい、あそこに倒れているの、フクじゃねぇか!?」

 

「ホントだ!! フク、あんた大丈夫なの!?」

 

 フクキタルを探して走っていたナミとウソップは、地面に横たわるフクキタルの姿を見て慌てて傍に駆け寄る。その途中、ナミはフクキタルが倒れている場所の周りだけ草が生えていないことに一瞬違和感を覚えたが、フクキタルの安否の方が気がかりだったため、ゆさゆさと肩を揺らしながら声をかける。

 

「う、うう⋯⋯」

 

 すると、フクキタルはうなり声をあげつつ目を覚ます。かすり傷こそあれど、深刻なダメージは受けていない様子に、ナミはほっと息を吐いた。

 

「よかった。無事だったみたいね。ねぇ、あんた、バロックワークスの奴らに何かされて⋯⋯」

 

「そぉい!!」

 

「きゃーーー!!?」

 

 フクキタルは目を開けたとほぼ同時に、ナミの服を力任せに破いた。そのあまりの早業に、ナミは抵抗する暇もなく下着姿に剥かれてしまう。

 

「うおおお!? おいフク何やってんだ! いいぞぉ、もっとやれ!」

 

「何バカなこと言ってんのよ!? フクも正気に戻りなさい!!」

 

「私だけにチューする~♪」

 

 男の性として反射的にフクを応援してしまったウソップに対し、ナミの怒りの声が飛ぶ。そして、顔を赤くしながらナミは何とかフクを正気に戻そうとするが、フクキタルの目はハートマークを浮かべており、一向に元に戻る気配はない。それどころか無理矢理口づけしようと顔を近づけてくる始末だ。

 

「この⋯⋯いい加減にせんか!!」

 

「ふんぎゃろぉ!?」

 

 同性とはいえ無理矢理口づけされるのは嫌だったナミは、フクキタルの頭を思いっきり叩く。その力強い一撃に、フクキタルは奇声を上げてまた倒れてしまったが、正気を失っていたフクキタルへの対処としては正しい判断だっただろう。

 

 しかし、判断は正しかったものの、ナミ達はフクキタルに注意を向けすぎた。

 

「“キャンドルロック”!!」

 

 背後から声が聞こえたかと思いきや、ナミとウソップはろうによって両手足を拘束されてしまう。

 

 そして、2人とも完全に身動きが取れなくなったのを確認して、Mr.3が木の陰から姿を現した。

 

「フッハッハッハ! バカは扱いやすくて助かるガネ!! こんな見え透いた罠に引っかかってくれるとはな! さて、そこのウマ娘も含めて、お前達全員、私の華麗なる芸術作品になって貰おうカネ」

 

 ミス・ゴールデンウィークの“カラーズトラップ”の効果で洗脳したフクキタルを利用して、他の仲間を捕まえるというMr.3の作戦は、ほぼ完璧に成功した。文字通り手も足も出ない絶体絶命のピンチ⋯⋯にも関わらず、ナミは冷静にMr.3を見つめていた。

 

「バカはあんたの方よ。わたしたちが、たった2人で危険な敵地に殴り込めると思ってるの?」

 

 Mr.3は、ナミの言った言葉の意味が理解出来ずに眉をひそめる。そして、単なる負け犬の遠吠えかと無視して拘束を強めようとしたその時だった。

 

「ゴムゴムのぉ~、(ピストル)!!」

 

孔雀(クジャッキー)スラッシャー!!」

 

「きゃああああ!?」

 

 悲鳴を上げてMr.3の元にぶっ飛んできたのは、万が一に備えて木陰に潜んでいたミス・バレンタインデー。そして、彼女を倒したのは、Mr.3も知っている顔の人物であった。

 

「おっし、いっちょあがり! フク、ナミ、ウソップ、大丈夫か?」

 

「その髪型は⋯⋯Mr.3! あなたが黒幕だったのね!」

 

「くっ、“麦わら”に、ビビ王女⋯⋯! 貴様ら、既に合流していたのか! くそ、Mr.5! 貴様も早く出てこい!!」

 

 一気に人数差に不利が産まれたMr.3は、ミス・バレンタインデー同様姿を隠していたMr.5を慌てて呼ぶ。しかし、聞こえてきたのはまたしても悲鳴であった。

 

「鬼斬りぃ!!」

 

「ぐわああああ!?」

 

 ルフィ達とは反対側から、Mr.5を斬りながら姿を現したゾロ。これに驚いたのはMr.3だけではなかった。

 

「え、ゾロ!? あんた今までどこに居たの!?」

 

「いや、船に戻ろうとしてたら知った顔を見たんでとりあえず斬ったんだが⋯⋯お前らこそ何してんだ? 道にでも迷ったか?」

 

「「お前に言われたくないわ!!」」

 

 船を泊めている場所とは全く関係ない場所に居たゾロに対し、ナミとウソップのツッコミが同時にとぶ。

 

 しかし、これでサンジ以外の全員がこの場に揃った。フクキタルにナミ、ウソップは身動き出来ない状態とはいえ、前方にはルフィ、そしてカルーを連れたビビ。後方には刀を構えたゾロ。

 

 一転して不利な状況に陥ってしまったMr.3は、先程までの余裕はどこへやら、冷や汗を流して狼狽していた。

 

「こ、これは流石に予想外だガネ! 一旦逃げて態勢を整えなければ⋯⋯ごぼばぁ!?」

 

 慌てて逃走を図ろうとしたMr.3であったが、突如として頭上から降り注いだ液体によって溺れかける。自慢の髪型も一瞬でしおれ、まさかという思いで見上げた先に待っていたのは⋯⋯絶望であった。

 

「どうだ? 我らの酒は。貴様らは酒を渡そうとしていたようだからな。そのお返しだ」

 

「ああ、安心しろ。お返しはこれだけではない。我らの決闘の邪魔を企み、そして我らの誇りを守るために走った友を傷つけた罪⋯⋯これしきの“お返し”では、とてもじゃないが足りんからな」

 

「た、助け⋯⋯」

 

「「どりゃあああ!!!」」

 

 怒れるドリーとブロギー。2人の巨人を前にして、Mr.3は目に涙を浮かべて命乞いをする。しかし、その言葉を最後まで聞かず、雄叫びと共に放たれた一撃はMr.3を天高く吹き飛ばした。

 

 そして、その様子をこっそり見ていたミス・ゴールデンウィークはそろーっと気付かれないように逃亡を図る。

 

 しかし、その目の前にはいつの間にか回り込んでいたカルーが居た。びくっと身体を震わせたミス・ゴールデンウィークに向け、カルーは口を開け、大きく一声。

 

「クェーー!!」

 

「キャーーッ!?」

 

 ミス・ゴールデンウィークはカルーの鳴き声に恐怖し、戦うことなくジャングルの奥へと逃げ去っていく

 

 こうして、Mr.3の策略は失敗に終わり、リトルガーデンでの戦いはルフィ達の完全勝利で幕を下ろしたのであった。

 

 

〇〇〇〇

 

 

「いや~、なんか途中からの記憶がありませんが、無事に終わったようで何よりです! 一件落着、福福来ませり!! ⋯⋯ところで、ナミさんはなんでさっきから少し顔が赤いんですか?」

 

「うっさい! もう、あんたのせいだっていうのに、全くこの子ったら⋯⋯。はぁ、まあこの件はもういいわ。問題はログよ。ブロギーさんの話だとこの島は1年経たないとログがたまらないみたいだし⋯⋯」

 

「おいおっさん、何とかしてくれよ」

 

「バカ言え。ログばかりは我らにもどうすることもできん」

 

 一難去ってまた一難。急ぎアラバスタに向かわなければならないルフィ達にとって、1年拘束されてしまうことは到底許容出来る問題ではない。

 

 一体どうしたものか⋯⋯と皆で考え込んでいたその時、場の空気をぶちこわす呑気な声が聞こえてくる。

 

「っは~!! ナミさ~ん!! フクちゃ~ん!! ビビちゃ~ん!! あとオマケども。無事だったんだね~~!! よかった~~!!」

 

「よーサンジ!」

 

「あんにゃろ、助けにも来ねぇで今頃現れやがった」

 

 やって来たのは、戦いの場に唯一姿を見せなかったサンジであった。サンジは、ドリー達を見て驚いたり、フクキタルに服を破かれたせいで未だに下着姿なナミに目をハートマークにさせたりとしばらく騒々しかったが、1人で行動している間に彼はとんでもないファインプレーをしていた。

 

「え、この島から動けねぇ? まだ何か用でもあるのか? 折角こういうモンを手に入れたんだが⋯⋯」

 

 そう言ってサンジが取り出したのは、アラバスタへの永久指針(エターナルポース)。それを見てぎょっと驚愕した一同であったが、次の瞬間には歓喜で騒ぎ出していた。

 

「じゃあ丸いおっさんに巨人のおっさん、おれ達行くよっ!!」

 

 目的地への指針を手に入れたならば、急ぎアラバスタに向かう必要がある。別れを告げるルフィを、ドリーとブロギーは引き留めることはしなかった。

 

 そして、ルフィ達が姿を消した後、2人は武器を手に持ち、ゆっくりと立ち上がる。そして、自分たちの誇りを守ってくれた友を見送るべく、覚悟を決めたのであった。

 

 

 

「友の海賊旗(ほこり)は決して折らせぬ⋯⋯!!」

 

「我らを信じてまっすぐ進め!! たとえ何が起ころうとまっすぐにだ!!」

 

「⋯⋯わかった!! まっすぐ進むっ!!」

 

 ルフィ達を見送りに来たドリーとブロギーの謎の言葉。ルフィは、その意味は分からずとも、2人の強い意志を感じ、力強く頷いた。

 

 そして、島を離れたルフィ達の目の前には、巨大な金魚がその大きな口を開けて船ごと飲み込まんと襲ってくる。

 

「舵きって!! 急いで!! 食べられちゃう!!」

 

 巨大金魚を見たナミは、慌てて舵を切るように指示する。しかし、

 

「だ、ダメだ!! まっすぐ進む!! そうだろ? フク、ルフィ!!」

 

「は、はい! 私はお二方の言葉を信じますっ!!」

 

「うん、もちろんだ」

 

 ドリーとブロギー、2人の言葉を信じたルフィは、舵を切らずにまっすぐ進むことを選択した。

 

そして、まっすぐ進んだ船は、巨大金魚の口の中に突っ込んでいく。視界が暗くなり、このまま飲み込まれてしまうのかと思われたその時。

 

「「“覇国”っ!!」」

 

 巨人2人を100年以上支え続けた武器。それを犠牲にして放たれた渾身の一撃は、海ごと金魚の腹を斬り、大きな風穴を空ける。その穴から、ルフィ達は無事まっすぐ前へ進み続けることができた。

 

「でけぇ⋯⋯! なんてでっけぇんだ!!」

 

「海ごと斬った⋯⋯。これが、エルバフの、うう⋯⋯戦士の力⋯⋯!!」

 

「ふんぎゃろぉぉ!? 凄い、凄すぎますよエルバフパワー!! 運気が最高潮になっているのを肌で感じますぅ!!」

 

 そして、そんな離れ業をみせたドリーとブロギーは、ボロボロになった武器を掲げ、友の出航に激励の言葉を贈る。

 

「「さァ、行けぇ!!」」

 

 身体も心も大きな巨人。彼らの生まれ故郷、エルバフへと、いつか必ず向かうことを心に決めたルフィ達であった。

 

 

 そして、リトルガーデン出航から少し経った頃⋯⋯次なる大事件が、ルフィ達を襲う。

 

「ナミさん、やっぱり顔が赤くないですか? お休みした方が⋯⋯」

 

「進路なら私が見ているから、部屋でゆっくり休んで⋯⋯」

 

 島を出た後から、どことなく体調の悪そうなナミ。そんなナミを心配して声をかけたフクキタルとビビの目の前で、ナミが突然倒れる。

 

「み、皆来て! 大変っ!! ナミさんが⋯⋯酷い熱を!!」

 

「あわわわわ⋯⋯。どどど、どうしましょぉぉーー!?」

 

 リトルガーデンでバロックワークスを倒したと思いきや、ナミの突然の高熱。アラバスタへの航路は、やはり一筋縄ではいかないようであった。

 




次回から冬島編。早くフクキタルとあいつを絡ませたいですね


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冬島編
”ブリキのワポル”


ちょっと日にち空いちゃいました。本当は昨日投稿するつもりだったのですがイベントストーリー読んでたら結構いい時間になっちゃったので⋯⋯。

ロリオグリかわいい。あと私服マーベラスまじマーベラス。



「一刻も早くナミさんの病気を治して、そしてアラバスタへ!! それがこの船の“最高速度”でしょう?」

 

 アラバスタの国王軍兵士30万人が反乱軍へと寝返った⋯⋯。そんな最悪な情報を、新聞を読んで知ったビビ。

 

 一刻も早くアラバスタへと戻らなければ多くの国民が命を落とすことになる。しかし、ビビは病気のナミを見捨てて先を急ぐ選択肢はとらず、ナミを救う航路を選択した。

 

「そぉーさっ! それ以上スピードは出ねぇ!!」

 

 ビビの言葉を聞き、満足そうににっと笑みを浮かべたルフィ。そして、ナミの病気を治すため、一旦アラバスタの進路から外れ、“最高速度”で船は進む⋯⋯。

 

 

 

「おいフク、この方向に絶対医者はいるんだな?」

 

「はい、ゾロさん!! 私の『クジクジの実』の能力で産みだした『棒みくじ』、その倒れた方向に探し人、探し物は必ずあります!! メリー号を見つけて乗り込むことが出来たのもこの能力のおかげですし。ハッピーはお墨付きです!!」

 

「いまいち信用できねぇんだよなぁ⋯⋯。ん、ありゃあ何だ?」

 

 見張り台で双眼鏡を覗き、フクが示した方向を見ていたゾロは、海の上におかしなものを見つけ、1度双眼鏡を外す。そしてもう一度覗き、それが見間違いではないことを確認したところで、甲板にいるルフィ達に声をかけた。

 

「おい、お前ら⋯⋯。海に、人が立てると思うか?」

 

「おいおいゾロ、何言ってんだ。人が海の上に立てるわけねぇだろ」

 

「そうですよ! たとえ運勢が大吉でも海の上に立つなんて不可能です!!」

 

「じゃあ、ありゃ何なんだ」

 

 ゾロが、双眼鏡をくいっと動かして前方を指し示す。その方向を見ると、そこには確かに、弓を背負った奇妙な格好の人物が海の上に立っていた。

 

 そのあり得ない光景にルフィ達が目をごしごしと擦っていると、その人物はこちらに向かって唐突に話しかけてきた。

 

「よう、冷えるな今日は」

 

「⋯⋯うん、冷えるよな今日は」

 

「あ、ああ、冷える冷える。すげぇ冷えるよ今日は」

 

「は、はい。すっごく冷えますよね、今日は」

 

「そうか?」

 

「「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」」

 

 自分で「冷えるな」と話しかけておいて、同意すれば意外そうな態度を示す謎の人物のせいで、何とも言えない微妙な空気になる。

 

「浮力上げろぉ~~~っ!!!」

 

 そんな微妙な空気を打ち破り、何者かの声が響く。そして、その声を合図にして、海中から巨大な海賊船が姿を現した。

 

「おい、どうした!」

 

 突然の大きな揺れに、ナミの容体を心配して船内に居たサンジが甲板に飛び出してくる。

 

「襲われてんだ今この船」

 

「⋯⋯まあ、そんなことじゃねえかと思ったけどな。見た感じ⋯⋯」

 

 そんなサンジを待ち構えていたのは、銃を構えた男数人。見るからに敵船の襲撃だと分かる状況で、逆に冷静になったサンジは煙草に火を付ける。

 

「フム、これで5人か⋯⋯。たった5人ということはあるめぇ」

 

 全体的に丸いフォルムの男性が、ナイフに刺した肉をむしゃむしゃと頬張りながらそう呟く。この男こそ、今海中から現れた海賊船、『ブリキング海賊団』の船長、ワポルであった。

 

 ワポルは、あーんと口を開けて、手に持った肉をナイフごと口の中に入れる。そして、一切の躊躇なくそのナイフをバリバリと噛み砕いた。

 

「ぎゃーー!? あの人、ナイフごと食べましたよ!? どういうことですかぁ!?」

 

「えエェ。見てるだけで痛ぇっ!!」

 

 ルフィ達はナイフごと食べたワポルにどん引きしているが、銃を構えた男達は全く動じていないことから、おそらくこれが日常なのであろうことが分かる。ワポルは、ぽいっと残ったナイフの柄を口の中に放り込んでから、ルフィ達にこう尋ねた。

 

「おれ達は『ドラム王国』へ行きたいのだ。『永久指針(エターナルポース)』もしくは『記録指針(ログポース)』を持っていないか!?」

 

「持ってねぇし、そういう国の名を聞いたこともねぇ」

 

「ほら用済んだろ。帰れお前ら」

 

 サンジがワポルの問いかけに冷静に答え、ルフィがしっしっとワポル達に帰るよう促す。しかしながら、ワポルは自分の船には戻ろうとはせず、それどころかとんでもない暴挙に出た。

 

「はーあー、そう急ぐな人生を⋯⋯。持ってねぇならこの船とお宝を貰う。だが、ちょっと待て。小腹が空いてどうも⋯⋯」

 

 ワポルはそう言うと、おもむろに大口を開け、舷縁をガブッと囓り取った。

 

「ふんぎゃあぁぁ!? メリーちゃんがカバみたいな人に食べられちゃいますよぉぉ!?」

 

「おいお前、俺達の船を食うな!!」

 

 フクキタルはショックで叫び、ルフィは船を食べられた怒りで声を上げる。それでもなお、ワポルは船を食べる手を止めようとはしない。

 

「あの“海喰”は海ごと船を丸呑みするという噂があるくらいだ。それに比べたらおれ様の食事は可愛いものだろう。⋯⋯おお、錨綱もあるな」

 

「やめろって言ってんだろ!!」

 

 ルフィは我慢できずにワポルへと向かって行き、それを見たワポルの部下達が銃を撃とうと構える。

 

「お、何だ、やっていいのか?」

 

「始めからこうすりゃよかったんだ」

 

「わ、私も頑張りますよぉー!!」

 

 しかし、これまで無駄な争いになるのを避けて動かなかったサンジやゾロ、そしてフクキタルもルフィに続いて動き出したことで、特に強くもない部下達は軽々と一掃される。

 

「いや待て、話せばわかり合える!!」

 

 唯一逃げ回るウソップも、マストに隠れてなんとか銃弾を避け、事なきを得ていた。

 

「お前、いい加減にしろ!」

 

「ふん! ならばお前ごと食ってやるわ!!」

 

 そして、まだ食事を止めないワポルの傍へとようやく近づけたルフィであったが、ワポルは「食ってやる」という言葉通りに、大きく口を開けルフィを丸呑みしてしまう。

 

「るるる、ルフィさんが食べられちゃいましたぁ!?」

 

「バカ。よく見ろ。ルフィは大丈夫だ」

 

 慌てるフクキタルに対し、ゾロは冷静に指摘し、刀を鞘へと収める。その行動が意味するには、既にこの戦場での戦いに決着が着いたということであった。

 

「吹き飛べぇーーー!!」

 

 ゴム人間であるルフィは、ワポルに咀嚼されてもダメージはなく、口から伸ばしていた腕を一気に戻して、そのままワポルを空高く吹き飛ばした。

 

「「「「ワポル様ぁーーー!!?」」」」

 

 ワポルの部下達は、吹き飛んだワポルを追いかけるようにして慌てて船を出す。

 

「あの人は⋯⋯!!」

 

 ちょうどその直前で甲板に出ていたビビは、ワポルの姿を見て記憶の中のとある人物が頭に浮かぶ。

 

 何故あの人がこんな場所に居るのか。ビビは、予期せぬ再会に、何となく嫌な予感を覚えたのであった。

 



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登るぞ、山

原作のどこの部分をカットするかの塩梅がなかなか難しい。ちょっと投稿間空いちゃいました。


 なんでも食べる奇妙な男、ワポルと出会った翌日、ルフィ達はついに島を発見する。

 

 しかし、上陸しようとしたルフィ達を待ち受けていたのは、銃を構えた男たち。彼らはやけにこちらを敵視しており、警告と共に放たれた銃弾が、ビビの肩を掠める。

 

 仲間を傷つけられ怒るルフィが声を荒げ、あわや一触即発と思われたが、撃たれた張本人であるビビは、ナミを救うためならここで争うべきではないとルフィを諭す。

 

 その言葉を受け納得したルフィは、ビビと共に頭を下げる。そして、その誠意が伝わったのか、とうとう島に上陸することを許可されたのであった。

 

〇〇〇〇

 

「申し遅れたが⋯⋯私の名はドルトン。この島の護衛をしている。我々の手荒な歓迎を許してくれ」

 

 ルフィ達を案内してくれた男、ドルトンが、背負っていた巨大な剣を下ろしながら自己紹介をする。ちなみに、ゾロとカルーは船に残っており、他は全員がドルトンに連れられて彼の家に来ていた。

 

「いえ、気にしていませんから⋯⋯。それより、この島にいる唯一の医者⋯⋯その、『魔女』について教えてもらえませんか?」

 

「うう、魔女とはなんとも不吉な響き⋯⋯はっ!? もしや不思議なまじないで運気を上げられたりするのでは!?」

 

 この島にいるという『魔女』とは、ここに来る途中でドルトンが口にした言葉だ。唯一の医者であるというその人物の情報をビビは知りたがり、フクキタルは『魔女』という言葉の響きに感情を揺さぶられていた。

 

「『魔女』か⋯⋯。窓の外に、山が見えるだろう? あの山々の名は、ドラムロッキー。真ん中の一番高い山の頂上にある城⋯⋯あそこに、人々が“魔女”と呼ぶこの国の唯一の医者、“Dr.くれは”が住んでいる」

 

「よりによって何であんな遠いとこに⋯⋯。じゃあ、すぐに呼んでくれ! 急患なんだ」

 

 ナミの体温は先程測った時点で42度もあり、サンジがそう頼むのも当然のことであった。しかし、ドルトンはそれはできないと首を横に振る。

 

「そうしたくとも通信手段がない。医者としての腕は確かなんだが、少々変わり者のバアさんでな⋯⋯もう140近い高齢だ。あと、そうだな⋯⋯うめぼしが好きだ」

 

「ひゃ、140!? そっちが大丈夫か!?」

 

「ひぃーー!? そんなお年寄りだなんて、やっぱり本物の魔女なんですね!?」

 

 140歳というあり得ない程の高齢に、サンジとフクキタルは驚きを隠せない。しかし、どんなにお年寄りでも、その医者が治療の報酬に欲しい物をありったけ奪って帰っていくタチの悪い輩でも、この国に医者が一人しかいないという事実は変わらない。

 

「おい、ナミ!! 聞こえるか? あのな、山登らねぇと医者いねぇんだ。山登るぞ」

 

 そして、目的地が一つしかないというならば、一切迷いは持たないのがルフィという男だ。ルフィは、ナミの頬をぺちぺちと叩いて起こすと、目を覚ましたばかりのナミに簡潔にそう告げた。

 

「無茶言うなお前! ナミさんに何さす気だァ!!」

 

「そ、そうですよルフィさん! この雪の中登山だなんて、おみくじ引くまでもなく大凶ですよぉ!!」

 

「フクさんの言う通り、悪化するに決まっているわ!」

 

 当然、ルフィの無茶な提案に皆が反対する。健康な人でもこの天候の中歩くのは辛いし、窓から見えるあの高さの山から落ちたら即死は間違いない。

 

 しかし、この提案に乗ったのは、他でもないナミ張本人であった。

 

「⋯⋯よろしくっ!」

 

 弱弱しく笑みを浮かべたナミは、ベッドの中から手を伸ばす。その手をぱしんっ! と叩き、ルフィはにししと笑った。

 

「そうこなきゃな! 任しとけ!!」

 

 本人が行くことを許可した以上、それがどれだけ危険な行為であっても、反対する理由はない。山を登ることは最早決定した。そして、そんな二人を見て、フクキタルも覚悟を決める。

 

「そ、それなら⋯⋯私も行きます!!」

 

「な⋯⋯!? おいおい、フクちゃんまで行くことはねぇだろ!!」

 

 ナミを連れて山を登ることに関しては、反対しても無駄だと諦めたサンジであったが、フクキタルが付いていくことに関しては流石に止める。しかし、フクキタルにも覚悟を決めた理由があった。

 

「私は、リトルガーデンでナミさんとウソップさんに迷惑をかけてしまいました⋯⋯。だから、その時の償いをしたいのです!!」

 

 洗脳のせいでその時の記憶はあいまいだが、フクキタルのせいでナミとウソップが捕まったことは後から知った。それに、ナミの服を破ったのもどうやらフクキタルらしいということを知り、ナミが熱を出したのはもしかして自分のせいではないか⋯⋯と思っていたのだ。

 

「おいおい、フクお前、そんなこと思ってたのかよ。あのなぁ、償いとか言われても、おれもナミも気にしてなんかいねぇぞ?」

 

 ウソップは呆れたようにそう言う。事実、ウソップは怖がりはしていたものの、フクキタルを恨んでなどはいなかった。

 

「ん、ウソップの言う通りだ。⋯⋯よし! フク、お前にナミは任せた。あ、もちろんおれも山には登るぞ?」

 

 そして、ウソップの言葉を聞いたルフィは、しししっと笑って、フクキタルの肩にぽんと手を置く。

 

「え、それって私がナミさんを背負うってことですか!?」

 

「ああ、お前力強いだろ? なら、任せて大丈夫だ。ナミもそれでいいよな?」

 

「⋯⋯うん。フク、よろしくね」

 

「おいおいおい、ナミさんに加えてフクちゃんも行くって言うなら、おれも行くぞ! レディを守るのは騎士(ナイト)の役目だ!!」

 

 フクキタルが突然の大役に目を白黒させている間に、サンジも一緒についていくことを決める。

 

「⋯⋯はい、不肖フクキタル、責任をもってナミさんをどっこいしょ、背負ってみせます!!」

 

 そして、フクキタルも改めて覚悟を決める。こうして、山を登るメンバーは、ルフィにサンジ、フクキタル、それにナミの合わせて4人となったのであった。

 



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”ラパーン”

今日から遊郭編始まりますね。そんなわけで最新話投稿です。


「じっとしててね、フクさん。ナミさんが落ちないようにしっかり縛っておくから⋯⋯あの、じっとしてて?」

 

「いいですかウソップさん! にゃーさんは私にとって福を引き寄せてくれる存在、本当は片時も離したくはないのですが、これを背負ったままだとナミさんは背負えないので、泣く泣く貴方にお預けします⋯⋯。ぜったい、ぜーったいに落としたりしないでくださいね!!」

 

「分かった、分かったからじっとしとけ! ビビが困ってるだろうが!!」

 

 にゃーさんを預けることに未だ不安が残るフクキタルは、何度もウソップに念押しする。ナミを背負う上では間違いなく邪魔となってしまうので仕方ないのだが、ラッキーアイテムを自ら手放すことにはどうしても抵抗があるフクキタルであった。

 

「本気なら止めるつもりはないが⋯⋯せめて反対側の山から登るといい。ここからのコースにはラパーンがいる。肉食の凶暴なうさぎだ。集団に出くわしたら命はないぞ!!」

 

「うさぎ? でも急いでるんだ。平気だろ。おれとサンジがいるし」

 

「ああ、ナミさんとフクちゃんには傷一つ付けねぇ!!」

 

 一方、ルフィとサンジはドルトンから忠告を受けるも、問題はないと最短ルートを進むことを選択する。もしフクキタルがこの時占っていれば別のルートを進むことを提案したのだろうが、占いに使う水晶玉は既ににゃーさんごとウソップに預けてしまったため、助言がなされることはなかったのであった。

 

「⋯⋯よし、これでいいわ。私はかえって足を引っ張っちゃうから残るけれど⋯⋯気を付けてね、フクさん」

 

「ありがとうございます、ビビさん! ナミさんと一緒に、無事に帰ってみせます!!」

 

 ビビは、ナミの身体を布で縛り、フクキタルの腰のあたりで固定する。これで、出発準備は整った。

 

「じゃ、行くか。フク、サンジ!! ナミが死ぬ前にっ!!」

 

「ぎゃあああ!? 縁起でもないこと言わないでくださいよぉ!!」

 

「そうだ、何言ってんだこのクソ野郎!!」

 

 ぎゃーぎゃーと騒ぎながら走り出した3人の顔には、焦りや悲壮感といったものは見られない。その様子に、3人を見送るビビとウソップは、逆に安心感を覚えたのであった。

 

 

 

〇〇〇〇

 

 

「ううう、だいぶ寒くなってきましたね⋯⋯。足元が雪というのも慣れないので、なかなか走りにくいです」

 

「足元と言えばルフィ、なんでお前は下素足なんだよ。見てるこっちが痛ぇだろ」

 

「これはおれのポリスーだ!!」

 

「ポリスーってなんだよ。ポリシーだろ」

 

 ピュオオオと凍える風が吹き荒れるが、3人はまだまだそんな会話をする余裕があった。そんな3人の目の前に、やけに牙の鋭いうさぎが現れ、ガルルルルと威嚇する。

 

「おい知ってるか? 雪国の人たちは寝ねぇんだぞ」

 

「あ? 何で」

 

「だって寝たら死ぬんだもんよ」

 

「えええ!? ホントですか!? 雪国の人たちは凄いんですねぇ」

 

「いやいや、そんな人間いるかよ!!」

 

「本当だよ。昔人から聞いたんだ」

 

 しかし、先を急ぐ3人は、うさぎは無視して走り続ける。そんな3人に何とか襲い掛かろうと、連続して飛びつき、噛みつこうとするうさぎであったが、3人とも身体能力が高いため、ひょいとかわされてしまう。

 

「ガァルルァア!!」

 

 さんざん攻撃をよけられたことで痺れを切らしたうさぎは、ひと際大きな唸り声をあげて襲い掛かる。しかし、痺れを切らしたのはお互い様であった。

 

「うっとうしいんだよさっきから!!!」

 

 とうとう無視できなくなったサンジが、うさぎをドゴォンと蹴り飛ばす。

 

「なんだったんでしょうねあのうさぎ⋯⋯見た目は、ちょっと可愛かったですけれど」

 

「あれ、食えんのかなぁ」

 

 フクキタルもルフィも、あのうさぎが何だったのかは気になっていたものの、どうやらその興味の方向は違うようだった。

 

 それからしばらくは、何事もなく雪道を進んでいた3人であったが、そんな3人の目の前に、突如として巨大な白熊のような生き物が立ちふさがった。

 

「な、なんだよこいつら⋯⋯!!」

 

「白くてデケェから白熊だよ。間違いねぇ!!」

 

「あ!! よく見たら先頭の熊さんの肩にさっきのうさぎさんがいますよ!!」

 

 フクキタルが指さす方向を見ると、確かに、先程サンジが蹴り飛ばしたうさぎが肩のあたりにしがみついていた。

 

「なるほど、これがドルトンの言ってたラパーンって奴か。⋯⋯うさぎってデカさじゃねぇだろ!!」

 

「うおっ! しかもめっちゃいるぞこのうさぎ!!」

 

 一匹でもこの巨体ではかなり厄介に思われるのに、ドルトンが忠告した通り、ラパーンは集団で3人の前に立ちふさがっていた。しかも、先程サンジが子供を蹴り飛ばしたからか、やけに好戦的だ。

 

「いいか、フクちゃん。あのうさぎはおれとルフィで何とかする。フクちゃんはナミさんを守ることだけを考えてくれ!!」

 

「わ、分かりました!!」

 

「よっしやるぞぉ! ゴムゴムのぉ~“(ピストル)”!!」

 

 早速ルフィが腕を伸ばし、一匹を殴り飛ばす。しかし、一匹がやられたことでさらに怒りを買ったのか、ラパーン達はますます激しく3人を襲う。

 

「『腹肉(フランシェ)シュート』!! ⋯⋯くそっ、こいつら全部と戦っていたら流石に日が暮れちまう。何とか逃げ切るんだ!」

 

「フク、お前は先に走れ!」

 

「はい! 脱兎のごとく、逃げることだけ考えます!!」

 

 雪で足を取られながらの戦いはなかなか苦戦するものがあったが、幸いにも戦える人物が二人いるので、フクキタルは回避にだけ専念することができた。

 

 それこそ文字通り脱兎のごとく足を動かし走っていた3人だったが、急にラパーン達は追跡の足を止め、雪山の上の方で何やら飛び跳ね始める。

 

「何やってんだ? あいつら」

 

「あ、諦めてくれたんでしょうか⋯⋯」

 

「⋯⋯ちょっと待てよ。あいつらまさか!!」

 

 突然意味不明の行動を始めるラパーン達に困惑する3人であったが、サンジがいち早くその行動の意図に気づき、目を見開く。

 

 しかし、気づいたところで、どうする手段もなかった。

 

「やりやがったあのクソうさぎ共⋯⋯!! ウソだろ」

 

「おいサンジ、どうしたんだ」

 

「な、なんか揺れてませんか? これってまさか⋯⋯」

 

「そのまさかだ。フクちゃん。とにかく逃げるぞ。どっか遠くへ⋯⋯! 雪崩が来るぞォ!!!」

 

 雪山における最大級の災害。怒れるうさぎ達の手によって巻き起こった自然の驚異が、3人に襲い掛かるのであった。

 



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占い師の役目

注文していたうまよんが明日届くので、最新話投稿です。


「ふんぎゃああ!! 雪崩なんて聞いてないですよぉーー!?」

 

「あのうさぎ共、絶対許さねぇぞ畜生ォ!!」

 

「どうしたらいい!? どうしたらいいんだサンジ!?」

 

「知るかよ!! とにかくナミさんとフクちゃんの安全第一だ! 死んでも守れ!!」

 

 ゴゴゴゴと轟音を立てながら迫ってくる雪崩から必死で逃げる3人であったが、追い付かれるのは時間の問題であった。少しでも高い所へ逃げようと崖の上に登るも、高さが足りず、ついに雪崩にのまれかける。

 

「ひぃぃぃ!! お助けをシラオキ様ぁぁぁぁ!!!」

 

 ナミを守りたい一心でフクキタルは崖の上から決死のジャンプをしたものの、重力には逆らうことが出来ず、涙目でシラオキ様に助けを求める。

 

「フク、サンジ、掴まれ!!」

 

 シラオキ様からの救いはなかったが、文字通りに自らの目の前に伸ばされた手を無我夢中で掴むと、倒れた木をそり代わりにしたルフィのおかげで何とか雪崩には飲み込まれずにすんだ。

 

「ふぃー、死ぬかと思いました。ありがとうございます、ルフィさん」

 

「うん、でもな。これ、雪には沈まねぇけど⋯⋯このままじゃ一直線に山下りちまうんだ!!」

 

「冗談じゃねぇよ⋯⋯!! せっかくあのえんとつ山の麓までたどり着くとこだったのに!! もう一歩で医者だったんだ。何とか止まる方法を考えるんだ!!」

 

 サンジは、ナミを救うまでの道のりがさらに遠くなったことに悔し気に唸る。しかし、そうは言ってもこの状況では止まる手段などない。それどころか、事態はさらに悪化しようとしていた。

 

「ぎゃぼぉぉぉぉ!!? あのうさぎさん達追っかけてきてますよぉ!? うさぎは幸運の象徴のはずではなかったのですかぁ!?」

 

 フクキタルが奇声を上げた原因は、ルフィ同様に木をそりのようにして雪の上を滑り、こちらに向かってくるラパーンの群れを見たからであった。流石雪国の猛獣というべきか、雪に呑まれるどころか逆に活き活きしているようにも見える。

 

「やべぇ!! 前見ろ!!」

 

 木の上という不安定な足場で何とかラパーンの攻撃を避けていたルフィ達であったが、サンジがいち早く進路に岩があることに気が付いた。

 

「うわ、岩だ!! ぶつかるぞ!?」

 

「どどど、どうしましょう!?」

 

 もちろん木にはブレーキなどなく、このままでは衝突は避けられない。そのことを悟ったサンジは、ルフィとフクキタルを木の上から放り投げた。

 

「⋯⋯んじゃ、ナミさんのことは頼んだぜ」

 

 そして、サンジは雪の上を滑っていた勢いそのままに岩に激突し、血を飛び散らせて宙に舞う。

 

「サンジ!!!」

 

「サンジさん!!?」

 

 サンジに救われる形となったルフィとフクキタルは、サンジの名前を叫ぶ。宙に舞ったサンジは、先頭のラパーンにぶつかり、バランスを崩したラパーンが転んだことで、後続のラパーンも次々と転んで雪に埋もれていく。

 

 しかし、当然ながらサンジもまた雪に埋もれ、そのまま流されそうになってしまっていた。

 

「バカお前っ!! そういう勝手なことするなァ!!!」

 

 ルフィはサンジに手を伸ばすが、その手はサンジの手袋しか掴まえることは出来なかった。

 

「ルフィさん、私が棒みくじを投げます!! その方向にサンジさんは埋まっているはずです!!」

 

「ああ、助かるフク!! ナミは任せたぞ!!」

 

 先程ぶつかりそうになった岩の上に避難していたフクキタルは、雪の上に向かいクジクジの実の能力で産み出した棒みくじを投げる。そしてルフィは、サンジを救出すべく迷わず雪の中へと飛び込んでいった。

 

「ああ、どうかお二人ともご無事でありますように⋯⋯!!」

 

 背中のナミを雪に触れさせないようにしながら、フクキタルは両手を組んでルフィとサンジの無事を祈る。

 

 フクキタルは1秒がまるで数日にも感じられる時間の中、ルフィが雪の中から姿を現すのを待ち続けた。びゅううという冷たい風が吹き荒れ、耳と尻尾の毛が凍り始めた頃、ぼこっという音と共に、見慣れた麦わら帽子が雪の中から飛び出てきた。

 

「⋯⋯悪ぃ、フク。ちょっと待たせた」

 

「いいえ!! ルフィさんを信じてました!!」

 

 ルフィの背中には、しっかりとサンジが背負われている。フクキタルは、自分の祈りが通じたことをシラオキ様に感謝したのであった。

 

 

〇〇〇〇

 

 

「ガルルル!! ガルルル!!」

 

 子供のラパーンが、雪に埋もれた大人のラパーンを救うため、必死に雪を掻きだしている。

 

「ふんぬっ!!」

 

 そのすぐそばを通りがかったフクキタルは、そんな掛け声と共にラパーンの身体を雪から引きずりだした。その近くにいたラパーンは、ルフィが片腕で持ち上げて救い出す。

 

 ルフィ達に助けられたラパーンは、じっと2人を見ていたが、先を急ぐ2人はそれ以上ラパーンには関わらずに雪道を歩く。

 

「必ず連れてくからな。死ぬんじゃねぇぞ、2人とも⋯⋯!!」

 

 背中の上でぐったりと動かない2人に、ルフィは激励の言葉をかける。

 

「⋯⋯大丈夫です。私の占いによれば、運勢は大吉。2人は必ず助かります⋯⋯!!」

 

 わちゃわちゃと手を動かすフクキタルの腕の中には、水晶玉はない。クジクジの実でくじを出したわけでもないため、フクキタルは今占いを行ってはいなかった。

 

「おれは占いはそんなに信じてねぇけれどよ。フクの言うことなら信じられる気がするな!」

 

 ルフィは、そう言ってにっと笑う。再び歩き出した足取りは心なしかさっきよりも力強い。『占い師』は、決して占うだけが役目ではない。こうして仲間を鼓舞し、勇気づけることもまた役目の1つなのだ。

 

もっとも、この時のフクキタルは意図してそうしたわけではなかったのだが、この経験はフクキタルにちょっぴり自信を付けることになるのであった。

 



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情けは人の為ならず

うまよんの封入特典の四コマ漫画ブックレット、いろんなキャラが出てくるのでかなり助かる。特典ガチャは微妙な結果だったけれどこれは買って正解でしたわ。


「待ァてェい!! 小僧よくもこのおれに無礼の数々を働いてくれたな!!」

 

 目的地であるえんとつ山へと向かう道の半ばで、ルフィとフクキタルの前に立ちふさがったのは、海でメリー号を襲ってきたワポルであった。

 

「どけよ!!」

 

「まははははは! カバじゃなーい? どく訳なかろうが!! 背負われている二人はどうやら死にかけのようだな!!」

 

「な!? ナミさんとサンジさんに何かするつもりですか!?」

 

 フクキタルは、ワポルの視線からナミを隠すように身をよじる。

 

「フク、この喧嘩は買ってる暇ねぇぞ。早く行こう」

 

「は、はい!!」

 

 ルフィもまた、ワポルを睨みつけていたが、立ち止まることはなくその横を通り過ぎ、そんなルフィを見てフクキタルもその後に続いた。

 

「⋯⋯おおそうだ。新しい法律を思いついたぞ。『王を無視した人惨殺』!! まずは、一番ムシしてやがるその病人とケガ人から殺してやれお前達っ!!」

 

「「そのように!!」」

 

 ルフィ達に無視されたことで癪に障ったらしいワポル。彼は、部下のチェスとクロマーリモに命じて、あろうことかナミとサンジを狙い始めた。

 

「ちょ、やめてください!! 弱っている人を狙うなんて鬼畜の所業、シラオキ様が許しませんよ!!」

 

「まはははは!! シラオキ様だかシラタキ様だか知らねぇが、おれ様の方が偉いのだ!!」

 

「フク、戦ったらダメだ! お前らもうついてくんな!!」

 

 ルフィとフクキタルは人を背負いながらでも戦うことは出来るが、戦いの衝撃が背負っているナミやサンジに響いてはいけない。チェスが放つ矢や、クロマーリモのパンチをかわしながら、2人は全力で逃走する。

 

「雪国名物、『雪化粧』!!」

 

 しかし、雪国での戦いは相手が一枚上手であった。雪に隠れていつの間にか姿を隠していたワポル達が、背中のナミとサンジを狙う。

 

「「チェックメート!!」」

 

「な、やめろぉーー!!」

 

「ああああ!?」

 

 回避が間に合わないタイミングでの奇襲に、ルフィとフクキタルは思わず悲鳴を上げる。

 

「ガル!!」

 

 まさに絶体絶命の状況。それを打破したのは、鳴き声と共に颯爽と現れたラパーンであった。絶対に人にはなつかない動物だと言われているラパーンが、ルフィ達を守るようにして、チェスとクロマーリモを殴り飛ばしたことに、驚くワポル達。

 

 ルフィとフクキタルも、思わぬ助太刀に目を丸くしていたが、見覚えのある子どものラパーンを背負ったラパーンが、『ここは任せろ』とでも言いたげにぐっと力こぶを作ったのを見て、先に進む決意をした。

 

「ありがとう!! 助かった!!」

 

「情けは人のためならず、ですね!! やはりあなた達は幸運を呼ぶうさぎさんでした!!」

 

 

 ラパーン達のおかげでワポルの襲撃からの逃走に成功した二人であったが、目的地はまだ遠い。それでも、背負った仲間の命を助けるために進み続け、ようやく目指していた山の麓についた時には、2人とも息を切らしていた。

 

「はあ、はあ⋯⋯。てっぺん見えねぇや。フク、登れそうか?」

 

「⋯⋯はい! なんて言ったって、今日の私たちの運勢は大吉です!! 登れない山なんてありませんとも!!」

 

「ししし! その意気だ。あ、登る前にサンジが落ちないよう縛っといてくれ」

 

 そう言って、ルフィがフクキタルに差し出したのは、ルフィの羽織っていたコートであった。コートの下は半そでであり、そのあまりに寒そうな格好にフクキタルは一瞬躊躇したものの、自分を見つめるルフィの瞳に強い意志を感じ、フクキタルはこくりと頷いてコートを受け取った。

 

「⋯⋯よし! じゃあ行くぞ!!」

 

「はい!!」

 

 コートでしっかりとサンジの身体を落ちないよう縛ったのを確認し、ルフィとフクキタルの二人は、ほぼ垂直な山の壁面に手をかける。

 

 手をひっかけるための凹凸はわずかなもので、それを頼りに登るにはかなりの握力が必要だった。

 

ルフィもフクキタルも、登りやすいように手袋を外したため、刺すような冷たさが手を襲う。さらに、高さを増すごとに、吹き付ける風も強くなり、徐々に手足の感覚がなくなっていく。

 

「はぁ、はぁ⋯⋯!!」

 

 普段は騒がしいフクキタルも、今は呼吸をするので精一杯で、叫ぶ余裕すらなかった。既に爪が割れ、手には血が滲んでいる。それでも力を緩めることなく、がっしと溝に手をかけ、ゆっくりと、しかし着実に上へ上へと登っていく。

 

 ようやく半分より上へと差し掛かった段階で、意識がもうろうとし始めることが増えたが、そんな時は少し先を行く麦わら帽子を見て、何とか意識を保つことが出来ていた。

 

 一方、ルフィの方も、フクキタルを心配して声をかける余裕はない。しかし、一緒に登る仲間がいるという事実は、ルフィの心を奮い立て、さらには背中に感じる重みが、必ず助けるという強い意志に結びついていた。

 

 それから、どれくらい時間がたっただろうか。ただただ仲間を救いたい一心で登り続けた2人は、ついに頂上の淵を視界に捉えた。

 

「こ、これで、ナミさんと、サンジさんは助かりますね⋯⋯。占い、的中です⋯⋯!」

 

 頂上が見えた安心感からか、フクキタルは震える声でそう呟いたかと思うと、ふっと意識を失ってしまう。

 

「⋯⋯うっし、よくやったな。フク」

 

 落下しそうになったフクキタルの腕を、一足先に頂上に登っていたルフィが掴み、そのまま引っ張り上げる。しかし、ルフィの体力もここで限界がきた。

 

「早く、フクも一緒に診てもらわねぇと⋯⋯。医者⋯⋯」

 

 そう言って、ばたりと雪の上に倒れこんだルフィ。その衝撃で、雪がぼこっと音を立てて崩れ、倒れたルフィやフクキタルも一緒に地面へと落下しそうになる。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

 しかし、その直前でフクキタルとルフィは腕を掴まれて助けられる。2人を無言で助けた謎の人物は、なんとも奇妙な毛むくじゃらの雪男のような姿をしていたのであった。

 



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生きている喜び

投稿遅れました。すいません⋯⋯。理由と致しましては、昨日2000文字ほど書いたところでパソコンがフリーズし、データが全部飛んでいたからですね。その復旧作業に時間が取られてこんな時間です。辛い。

データ保存、大事。


「何だい、チョッパー。そいつらは」

 

 ドラム王国唯一の医者、Dr.くれは(御年139歳)は、自分が医術を叩き込んだ『ヒトヒトの実』を食べたトナカイ、チョッパーが連れてきた4人を見て、そう尋ねた。

 

「こいつら、山を素手で登ってきたみたいなんだ」

 

「この山を素手で登ってきた!? 標高5000メートルのこのドラムロックを!?」

 

 あまりにも常識外れな行為に、驚いて目を丸くするくれは。しかし、経験豊富な彼女は、患者の容体を診て、それが真実であることがすぐに分かった。

 

「この麦わら帽子の小僧は全身凍傷になりかけてる。こんな格好で何のつもりだ!! こっちの娘は⋯⋯おや、ウマ娘かい。この子は小僧ほど酷くはないがそれでも危険な状態に変わりない。すぐに湯を沸かしてぶち込んどきな!!」

 

「こっちは出血が酷いんだ。アバラ6本と背骨にヒビ。おれが手術(オペ)していい?」

 

「1番ヤバいのはどうやらこの娘だね。死にかけてる。チョッパー、フェニコールと強心剤、それにチアルシリン用意しときな!!」

 

 手際よく4人の診察を終え、チョッパーに指示を出すくれは。そんな彼女の腕を掴んだのは、いつの間にか意識を取り戻していたルフィだった。

 

なカバ(仲間)⋯⋯ダンダよ」

 

「分かったよ助ける⋯⋯。チョッパー、治療だ!!」

 

「う、うん!!」

 

 寒さで歯の根が合わず、言葉をちゃんと話せないルフィだったが、何を言いたいかは十分に伝わった。くれはとチョッパーは、急いで4人の治療にとりかかるのであった。

 

 

〇〇〇〇

 

 

「あ、フク起きた?」

 

 フクキタルが目を覚ますと、それに気付いたナミが声をかけてきた。視線を声の聞こえた方向へ向けると、ナミはにっこりと微笑んで手を振っていた。

 

「え、ナミさんが元気になってる⋯⋯? は、まさかここは天国なのですか!?」

 

「こら、勝手に殺すな。フクのおかげで助かったわ。ありがとっ!」

 

 そう言うとナミは、ベッドから立ち上がり、フクキタルと軽くハグをする。すると、柔らかい感触と共に心臓の鼓動が伝わり、フクキタルはナミが生きていることを肌で感じた。その瞬間、フクキタルの瞳からは自然と涙が溢れ出していた。

 

「う、うう⋯⋯。ホントに良かったです⋯⋯!!」

 

「もぉ、あんま泣くんじゃないわよ。折角の美人が台無しよ?」

 

 泣きじゃくるフクキタルの頭を優しく撫でるナミの目にも、僅かに涙が浮かんでいる。自分のために涙を流してくれるフクキタルの優しさが、ナミにはとても温かく感じたのだ。

 

「ヒーッヒッヒッヒ! 他人の住処で乳繰りあってるんじゃないよ、小娘ども」

 

「ち、ちちちちちち!?」

 

 開いていたドアからおもむろに部屋に入ってきたくれは。そのからかうような言葉に、フクキタルは顔を真っ赤にさせて慌てふためく。

 

「ちょっと、この子純情なんだから、あんまりからかわないであげてよね」

 

「ヒーッヒッヒッヒ!! あたしが居ない間にトナカイを誘惑していた小娘には言われたくないね」

 

 ナミの方は多少からかわれた程度では動じることはなく、自然な態度でくれはと会話する。その様子を見て多少落ち着きを取り戻したフクキタルは、当然と言えば当然の疑問をくれはに対し投げかけた。

 

「え、えっと⋯⋯あなたは、どちら様です?」

 

「おや、そういえばアンタには名乗ってなかったかね? あたしゃ医者さ。“Dr.くれは”。『ドクトリーヌ』と呼びな。ヒーッヒッヒッヒ!!」

 

 ナミに名乗った時と同様の名乗り文句で、自らの名を名乗るくれは。フクキタルは、その名前を聞いて目をキラリと輝かせた。

 

「え、Dr.くれは⋯⋯ということは、あなたが“魔女”さんですか!?」

 

「若さの秘訣かい!?」

 

「若さの秘訣!? 確かに聞いていた年齢以上にお若い見た目⋯⋯!! それもまさか魔女の奇跡によるものだというのですか!? 是非、是非とも教えてください!! むっふー!! 魔女の占いなども教えて貰えるとさらにベリーグーです!!」

 

 先程まで自分がベッドで寝ていた患者だったということも忘れ、キラキラと目を輝かせてくれはに迫るフクキタル。その勢いは予想外だったのか、流石のくれはも少々引き気味であった。

 

「ヒッヒッヒ!! まったく、ウマ娘ってのはこんなのばっかなのかい?」

 

「え、魔女さん、ウマ娘のお知り合いがいるのですか?」

 

「ああ、とびっきり変な奴がね。アンタもあいつ程じゃないが相当な変人だね」

 

「いやあ、それほどでも~」

 

「フク、それ褒め言葉じゃないわよ」

 

 何故か照れるフクキタルに、冷静にツッコむナミ。すっかりいつも通りの調子であった。

 

「ナミさんが治ったなら、すぐに出航できますね! これでアラバスタにも迎えます! 運勢最高潮です!!」

 

「それが、3日はここに居ろって言われてるのよ。まあ、解決策は考えてあるんだけれど⋯⋯」

 

 そう言いながら、ちらりとドアの外を見るナミ。既にチョッパーと面識があるナミに対し、フクキタルはその時まだ起きていなかったため、言葉の意味が分からずに首をかしげる。

 

 しかし、フクキタルもすぐにチョッパーの存在を知ることとなる。何故なら、その時既に、ワポルの匂いを嗅いだチョッパーが、くれはの元にそのことを伝えるために走っていたからだ。

 

「大変だよドクトリーヌ!! ワポルが⋯⋯帰ってきた!!」

 

「⋯⋯そうかい。お前達はそこでまだ安静にしときな」

 

 チョッパーが告げた事実に、端的にそう答えた後、ナミとフクキタルに安静にするよう告げ、部屋を出て行く。

 

 そして、突然表れた人語を話すトナカイに呆然としていたフクキタルは、チョッパーが去った後もしばらくその場所をぽかんと口を開けながら凝視していたのであった。

 



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ほらな、折れねェ

グラブルウマ娘コラボ決まりましたね。公式からおそらく出されるであろう戦闘描写が楽しみです。

ちなみにファインモーションは爆死しました。つらい。


「な、ナミさん、さっきの喋るタヌキさんは何ですか!?」

 

「あー、そういえばフクはまだ会ってなかったわね。ヒトヒトの実を食べて人間の言葉を話せるようになったトナカイってくれはさんは言ってたわ。ちなみに⋯⋯あの子が、わたしの言っていた解決策よ」

 

「? それはどういう⋯⋯?」

 

 チョッパーに医術の知識があることを知らないフクキタルは、ナミの言葉の意味が分からずに首をかしげる。しかし、ナミがその疑問に答えるよりも先に、寒い寒いと腕を擦りながらルフィが部屋に入ってきた。

 

「おー、さみーさみー。あ、フク! お前やっと起きたんだな~!」

 

「はい! おかげさまでぐっすり熟睡。体力も100あるうちの70くらい一気に回復したような心地です!! むっふー!!」

 

「しししっ! やっぱフクはそれくらいうるせぇ方が似合うな!」

 

「ねえルフィ、外で今何やってるの? さっき誰かが来たみたいなこと言ってたけれど」

 

耳と尻尾を動かしながら、全身を使って回復をアピールするフクキタルを見て、ルフィは笑顔を浮かべる。ナミは、そんな上機嫌なルフィに対し、先程のチョッパーの言葉で若干気になっていたことを尋ねる。

 

「ああ、ケンカだよ。ここには服取りに来たんだ。ナミかフク、おれに服貸してくれねぇか?」

 

「私なら年中貸し出しおーけーです!! ルフィさんのためなら、えんやーこら!!」

 

「違う、フクじゃなくて“服”よ。ルフィ、わたしの使っていいわよ」

 

「え~っお前のカッコ悪ィじゃんか」

 

「あんたのよりかっこいいわよ」

 

 ルフィは、「そうか?」とあまり納得していない様子だったが、あったかければいいという考えに至ったのか、ナミの服を借りることを決め、部屋から駆け足で出て行く。

 

「よーし、あんにゃろぶっ飛ばしてやる。邪魔口め!」

 

「あ、ルフィさん待ってください!!」

 

 フクキタルは慌ててルフィを呼び止めようとしたが、その時には既にルフィは完全に姿を消していた。

 

「ルフィ達なら大丈夫よ。フクはさっき起きたばかりなんだし、無理する必要はないわ」

 

「むむむ、それは分かっているのですが⋯⋯」

 

 フクキタルも、ナミと同様にルフィ達がどうこうなるといった心配はしていない。ただ、外に居るのはおそらく自分たちを何度も襲撃してきたあのカバみたいな男、ワポルだ。あの時ナミとサンジを狙ったワポルに対するモヤモヤとした感情は、フクキタルの気持ちをルフィが出て行った方向へと向けていた。

 

 しかし、寝起きの自分が加勢しても足手まといになるかもという迷いもあり、ベッドの上でフクキタルはソワソワし出す。

 

 そんなフクキタルの迷いを吹き飛ばすかのように、ゴウン!という爆音が聞こえてくる。その音にピィンと耳を逆立てたフクキタルは、たまらず立ち上がっていた。

 

「ごめんなさい、ナミさん。私、やっぱりルフィさん達のところに行きます!!」

 

「まあ、あんだけソワソワしてりゃあねぇ⋯⋯。別に止めないけれど、無茶だけはしちゃダメだからね?」

 

「はい、分かりました!!」

 

 フクキタルは、ナミの言葉にビシッと敬礼を決めて答え、そしてそのまま部屋の外へと飛び出していく。

 

 思った以上に広い城の内観や、そんな城のあちこちに雪が積もっているのに少し驚きつつ、フクキタルは声の聞こえる城の外へと向かう。

 

「お前なんかに折れるもんか。ドクロのマークは⋯⋯“信念”の象徴なんだぞォ!!」

 

 城の外へと出た直後にフクキタルが聞いたのは、ルフィの大声と、再びの砲撃音だった。

 

「吹き飛べカバめ!!」

 

 まっはっはと目の前で笑うのは、やはりあの時フクキタル達を襲ったワポルだった。そんなワポルの態度と、近くに居るサンジやくれは、チョッパーの表情から、一抹の不安を覚え、彼らの視線の先をフクキタルは追う。

 

「ほらな、折れねェ」

 

 しかし、そこに居たのは、砲弾の直撃を受けながらも、手に持った海賊旗を放すことなく塔の上に立つルフィであった。その堂々とした立ち姿に、フクキタルはローグタウンで初めてルフィを見た時と同じ衝撃を感じた。

 

「これが海賊⋯⋯。すげぇ⋯⋯!!」

 

 そして、チョッパーもまたフクキタルと同じような衝撃を感じたようで、そんなことを呟く声が聞こえた。そんなチョッパーに向け、塔の上からルフィはこう呼びかける。

 

「おいトナカイ!! おれは今からこいつらブッ飛ばすけれど、お前はどうする?」

 

「おれは⋯⋯?」

 

 ルフィの言葉を受け、チョッパーは思った。自分も、恩師であるヒルルクの死を笑った目の前のこいつらを、ぶっ飛ばしたいと!

 

「やめろォ!!」

 

 その思いのまま、チョッパーは再び砲弾を撃とうとしたワポルを殴りに行く。その拳はワポルの部下、チェスとクロマーリモがワポルの能力によって合体し産まれたチェスマーリモに止められてしまったが、チョッパーの根性は全員に伝わった。

 

『ムハハハハ。残念だったな。ワポル様にはこのおれが指1本触れさせん!! どうせ誰からも好かれねぇ人生を送ってきたんだろう、哀れな怪物よ。一人ぼっちのお前が何のためにこの国を救おうってんだ!! 笑わせるな!!』

 

「うるせェ!! 仲間なんかいなくたっておれは戦えるんだ!! ドクターの旗がある限りおれは⋯⋯!!」

 

 チェスマーリモは、戦う覚悟を決めたチョッパーを滑稽だと笑う。しかし、チョッパーの覚悟を笑わず、共に戦うことを決めたものがここに2人居た。

 

「仲間ならいるさ!! おれが仲間だ!!」

 

「トナカイさん、私も一緒に戦います!!」

 

 1人は、塔の上からゴムゴムのロケットで飛び降りて来たルフィ。そしてもう1人は、チョッパーの隣に駆け寄り、ふんにゃかはんにゃかと水晶玉を構えるポーズを取るフクキタルだ。

 

「麦わら帽子! お前大丈夫かっ!? あとお前はまだ寝てろよ! 何で起きてるんだよ!!」

 

「おれは平気さ。ゴムだから」

 

「私も平気です! ウマ娘ですので!!」

 

「ヒッヒッヒ。説得力あるねぇ」

 

 背骨にまだダメージが残るサンジにドクターストップをかけたくれはが笑うのは、ウマ娘の中でもとびきり強くて破天荒な人物を知っているからこそだが、そのことはこの中ではくれは本人しか知らない。

 

「おいトナカイ、お前あいつを仕留められるか?」

 

「何てことねぇ!! あんな奴」

 

「じゃあ決まりだな。そっちはお前とフクに任せた!! おれの相手は邪魔口だ!!」

 

「はい、任されました!! トナカイさん、一緒に頑張りましょー!!」

 

 チョッパーとフクキタル。まだお互いの名前すら知らない2人が、肩を並べて相対するのは、合体戦士チェスマーリモ。

 

 ドラム王国の戦いは、一気に佳境を迎えるのであった。

 



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刻み込む桜の花びら

チョッパーの形態では『腕力強化』が一番好き。『柔力強化』? 知らない子ですね⋯⋯。


「ランブルボールの効力は3分!! 3分でお前を倒す!! 『ランブル』!!」

 

 チョッパーは、チェスマーリモを3分で倒すと宣言し、“ランブルボール”という名の丸薬をガリッと噛み砕いた。

 

『3分!? ムハハハハ!! 3分どころか貴様ごときがおれに勝てるか!! “雪解けの矢マーリモ”!!』

 

 チェスマーリモは、そんなチョッパーの宣言を2重に重なる声で戯れ言だと笑い、火矢を放つ。

 

「“脚力強化(ウォークポイント)”」

 

「ふんぎゃぁーー!! 間一髪回避ぃぃ!!」

 

 火矢は正面のチョッパーとフクキタルに襲い来るも、チョッパーは姿を変えて素早い動きで回避し、フクキタルも無駄に叫びながらも危なげなく回避に成功する。

 

『ハッ! 何をするかと思いきや変形か!! そしてそっちの小娘は変形こそしてねぇが動きが素早い。つまりてめぇらは悪魔の実の能力者だな!! ドルトンと同じ動物(ゾオン)系!! トナカイ人間にウマ人間か!!』

 

「違う、“人間トナカイ”だ!! “重量強化(ヘビーポイント)”!!」

 

「私も“ウマ娘”です!! “八卦(はっけ)”よーい!!」

 

『どっちも同じだ!! まとめて叩きつぶしてやる。“ドビックリマーリモ”『四本大槌(クワトロハンマー)』!!!』

 

 チェスマーリモは、向かってくる2人に対し、その4本の腕それぞれに巨大な大槌を構えると、力一杯振り下ろした。

 

「『飛力強化(ジャンピングポイント)』!!」

 

「ウマ娘パワーを舐めたらいけませんよ~! 幸運上昇、突き上げ運勢!! 『天脳衝(てんのうしょう)(はる)』!!」

 

 振り下ろされる大槌を、チョッパーはまたしても姿を変えて跳んで回避し、フクキタルは下からの突き上げ掌底によって大槌の攻撃を押し返す。

 

そんな2人の行動に、チェスマーリモは動揺を隠せない。何故なら、チェスマーリモが知る限りゾオンの形態変化は3段階のみであり、たった今4つ目の変形を見せたチョッパーはあり得ないことであった。また、ウマ娘のことをよく知っていなかったので、細腕のフクキタルにパワー負けした衝撃は大きかった。

 

『くぅ!? なんだ貴様ら、こざかしい真似をぉ!!』

 

 チェスマーリモは、フクキタルに突き上げられよろめいた姿勢のまま、視界に入ったチョッパーに対し大槌を振るう。

 

「『毛皮強化(ガードポイント)』!! そんなの効かねぇぞ!!」

 

『またか!? 動物(ゾオン)系の変形は3段階が限界のはず!! てめェ一体⋯⋯!?』 

 

 またしても新たな変形を行い攻撃を防いだチョッパーに、最早先程までの余裕は完全に消え去ったチェスマーリモ。そんなチェスマーリモに対し、チョッパーは冷静にこう告げた。

 

「“ランブルボール”は悪魔の実の変形の波長を狂わせる薬さ!! 5年間の研究でおれはさらに4つの変形点を見つけたんだ!!」

 

『“七段変形”だと!?』

 

「な、七段変形面白トナカイ!!!」

 

「七段変形!? ラッキーセブンで縁起がよいですね!!」

 

 チェスマーリモが驚きのあまり発した『七段変形』というワードに目を輝かせるルフィとフクキタル。最早完璧にチョッパーの能力の虜であった。

 

『く、そんな見せかけにまどわされはしねぇぞ!!』

 

「みせかけじゃないさ。『腕力強化(アームポイント)』!!」

 

 そして、また新たな変形を見せたチョッパーは、その強化された腕力でもってチェスマーリモの大槌を砕き割る。

 

「言っておくけどおれの“鉄の蹄”は、岩だって砕けるんだ!!」

 

「お~、ホントにすごいですねトナカイさん! 私はウマ娘ですけれど蹄はありませんので⋯⋯“八卦発勁(はっけはっけい)”!!」

 

 そんなチョッパーに負けじと、フクキタルも掌底で大槌をチェスマーリモの手からはじき飛ばす。

 

「⋯⋯生意気だぞ貴様ら。思い知れ、“ドビックリマーリモ”『四本戦斧(クワトロアックス)』!!」

 

 しかし、大槌を失ったチェスマーリモは、今度は四本の巨大な斧を出し、それを構えて反撃に出る。流石に刃物を素手で受け止めるのは危険過ぎるので、回避に専念するフクキタルとチョッパー。

 

「⋯⋯なあお前、ちょっとだけ時間稼ぎしてくれねぇか? その間に、おれがアイツの弱点を見つける!!」

 

「ラッキーセブンのトナカイさんがそう言うなら、勿論おーけーです!!」

 

 まだ知り合って間もないが、互いにその実力を見て、共通の敵に相対する2人の意思はすぐに通じ合った。チョッパーは1度“腕力強化(アームポイント)”を解除して後ろに下がり、“頭脳強化(ブレーンポイント)”へと変形。その隙はフクキタルが前に出ることでカバーする。

 

『クソ、ちょこまかと!!』

 

「トナカイさん、なるべく早くお願いしますよ!! 私、実は運がなければ3回ほど斧直撃してますので!!」

 

 軽々と斧を避け続けているように見えるフクキタルであったが、慣れない雪の上での戦闘ということもあってどうやら本人にはそれほど余裕はないらしく、クジクジの実の能力が発動した幸運(ラッキー)回避が無ければダメージを受けていたようだ。

 

「『診断(スコープ)』。⋯⋯見えた、アゴっ!!」

 

 フクキタルの限界が近づく中、ついに弱点を見つけたチョッパーは、“飛力強化(ジャンピングポイント)”へと変形し、空中から一気にチェスマーリモへと迫る。

 

『おのれトナカイ、何をするつもり⋯⋯』

 

「よそ見は厳禁ですっ!!」

 

 チェスマーリモの視線がチョッパーを追って一瞬逸れた隙を見逃さず、フクキタルは斧を掌底で弾く。チェスマーリモは体勢を崩し、さらに大きな隙が産まれる。

 

 そしてその隙は、チェスマーリモにとって致命的なものであった。

 

「“腕力強化(アームポイント)”!! “刻蹄(こくてい)” ⋯⋯」

 

「トナカイさんに合わせます!! “八卦発勁(はっけはっけい)” ⋯⋯」

 

 一瞬で懐に潜り込んだチョッパーと、そんなチョッパーの狙う場所を見て弱点を理解したフクキタル。2人は、ほぼ同時に技を放った。

 

「『(ロゼオ)』!!!」

 

「『桜花掌(おうかしょう)』!!!」

 

 チェスマーリモのアゴに刻まれた、蹄と掌の跡。まるで花びらのようなその印は、2人の勝利の証であった。

 

「やったー!! トナカイ!! フク!!」

 

 そんな2人の戦いを夢中で見ていたルフィは、興奮して歓声を上げる。

 

「おいルフィ、あいつは⋯⋯!?」

 

「⋯⋯え?」

 

⋯⋯夢中になりすぎてワポルと戦闘中だったことを忘れていたルフィは、サンジに指摘されてようやくワポルが居なくなったことに気が付いたのであった。

 




ドラム王国編はこの連携技が書きたかった。何で2年後チョッパー『腕力強化』消してしまったんや⋯⋯。


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ヒルルクの桜

色々詰め込んだら少し長くなりました。冬島編、エピローグです!


 ──時は、ラパーンが雪崩を起こした頃に遡る。ビビと顔をパンパンに腫れ上がらせたウソップは、寒中水泳をしていたら雪崩に巻き込まれたというゾロと偶然遭遇していた。

 

「おいウソップ、お前の上着よこせよ。流石に寒ぃ」

 

「自業自得だろ。寒中水泳していたら森に迷い込むバカなんてお前くらいだ!!」

 

(ナミさんって精神的疲労で倒れたんじゃないかしら⋯⋯)

 

 ビビがそんなことを思ってしまう程には、ゾロの行動はあまりにも阿保らしいもので。

 

 だからこそ、そんなバカがもう一人居るということは、全く想像していなかった。

 

「⋯⋯ん? おい、あそこに埋まってるのって⋯⋯」

 

 ウソップが真っ先にそれに気づき、指をさす。そこには、雪からひょっこりと飛び出た尻尾のようなものが冷気によってカチーンと直線状に固まっており、どこか見覚えのあるその形に、3人は思わず顔を見合わせたのであった。

 

「いや~、一般人に助けて頂くとは面目ございません!! 実は私、ある人物を探している途中だったのですが、ちょうどよく寒中水泳に適した川があったもので、ついバクシーン!! と飛び込んだところ、運悪く雪崩に巻き込まれてしまったようで⋯⋯。まあ、これもいい修行になったとポジティブに考えることにいたしましょう!! はっはっはっは!!」

 

 3人が助け出したそのウマ娘は、先程まで雪に埋もれて凍りかけていたとは思えない元気さで、豪快に笑う。何故こんな場所で水着姿で寒中水泳をしようとしたのか⋯⋯などというツッコミは、すぐ隣に半裸のゾロが居るせいでできないビビとウソップであった。

 

「えーっと、その⋯⋯身体は大丈夫なのか? 名前なんていったっけ?」

 

「サクラバクシンオーですっ!!」

 

「お、おう。その調子じゃ問題なさそうだな」

 

 ビシッと胸に手を当てるポーズ付きで力強く名乗ったバクシンオーを見て、ウソップは問題はなさそうだと判断する。

 

 そして、2人目に出会うウマ娘がバクシンオーだったことにより、ゾロとウソップの中でウマ娘とは元気でうるさい奴だという認識が固まったのだが、これはなかなかの風評被害と言えるだろう。

 

 呑気にそんなことを考えていた2人に対し、ビビはバクシンオーの名前を聞いて顔を青ざめさせていた。ここ最近アラバスタの状況を確認するために頻繁にニュース・クーの届ける新聞を読んでいるビビは、バクシンオーがどのような立場にいる人間なのか知っていたのだ。

 

「え、ええっと、バクシンオーさんは確か人を探しているんですよね。そちらの方は大丈夫なんですか?」

 

 突然話題を変えたビビに、ウソップとゾロは怪訝そうな表情を浮かべる。しかし、ビビも必死なのだ。何とかゾロとウソップが海賊だと気づかれる前に、バクシンオーに立ち去ってもらう必要がある。そして、ビビのその願いは天に通じた。

 

「おお、そういえばそうでした!! 奴は神出鬼没、急がなければ折角足取りを掴んだというのに逃げられてしまうかもしれません!!」

 

 そう言って、バクシンオーは走り出す構えを取る。どうやら行ってくれそうだとほっと息を吐いたビビ。しかし、バクシンオーは最後に爆弾を放り投げてきた。

 

「親切な方々、もし何かありました際は、この“海軍四皇”、『驀進王(ばくしんおう)』ことサクラバクシンオーにご相談ください!! それでは⋯⋯バクシーン!!」

 

「「か、海軍んん!?」」

 

 ゾロとウソップが驚きの声を上げるが、その時には既にバクシンオーは雪煙をぼわっと巻き上げ、はるか彼方へと走り去ってしまったのであった。

 

 

〇〇〇〇

 

 

「⋯⋯とまあ、そんなことがあったってわけよ」

 

「なんと!? 私と同じウマ娘が海軍にも居るとは驚きですね~!! 是非お会いしたかったです!!」

 

「バカ、おれたちは海賊だぞ? 海軍って言ったら普通敵なんだよ」

 

 そして、時は戻って現在。ワポルは無事ルフィが倒し、ロープウェイで登ってきたウソップたちと合流し、フクキタルは麓で会ったというウマ娘の話をゾロとウソップの2人から聞いているのであった。

 

「おいお前らも話してないで探すの手伝えよ!! おれは絶対あのトナカイを仲間に入れるんだ!!」

 

 そして、3人の近くに居るルフィはというと、先程からチョッパーのことを大声で呼んでいる。そんなルフィを、ゾロは親指でくいっと指し、フクキタルに話しかける。

 

「なあ。あれ、お前の能力で探してやった方が早いんじゃねぇのか?」

 

「いいえ、その必要はありません。あのトナカイさんなら既に⋯⋯」

 

 フクキタルは視線をある方向へと向ける。そこには、ようやく姿を現したチョッパーの姿があった。

 

 しかし、いっしょに海賊をやろうというルフィの言葉に対し、チョッパーはなかなか首を縦には振らない。目に涙を浮かべながら叫ぶその姿には、チョッパーの心の葛藤が見られた。

 

「おれは“人間”の仲間でもないんだぞ!! バケモノだし⋯⋯。おれなんかお前らの仲間にはなれねェよ!! ⋯⋯だから、お礼を言いに来たんだ。誘ってくれてありがとう⋯⋯。おれはここに残るけれど、いつかまたさ! 気が向いたらここへ⋯⋯」

 

「うるせェ!!! いこう!!!!」

 

 しかし、チョッパーのそんな葛藤を吹き飛ばすかのように、ルフィはシンプルにそう告げる。その力強い言葉は、チョッパーの迷いを打ち消すのには充分だった。

 

「お゛お゛!!!」

 

 チョッパーは、ルフィの言葉に叫ぶように応える。麦わらの一味に、新たな仲間がまた一人増えた瞬間であった。

 

「うう、やはりルフィさんは凄いですね⋯⋯!! 私が仲間に入った時のことを思い出します⋯⋯!!」

 

「いや、お前は割となりゆきで仲間になっただろ」

 

 チョッパーの涙にもらい泣きするフクキタルに、冷静にツッコむウソップ。言われてみれば確かにその通りである。

 

 

 

 くれはにルフィと共に海に出ることを告げたチョッパーだったが、そんな勝手は許さないと包丁を投げつけられ、逃げるようにしてソリを引き、ルフィ達を乗せて山から降りる。

 

 しかし、そんなくれはの行為は、不器用なりの親からのエールだったのだ。そのことを証明するかのように、今ドラム王国の山々はライトによって照らされ、素晴らしい光景をルフィ達に見せていた。

 

「ウオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 その光景を見て、慟哭するチョッパー。彼の脳裏に思い浮かぶのは、恩師ヒルルクの言葉であった。

 

『やったぞチョッパー!! おれの研究は成功した!! これでこの“冬島”に桜を咲かすことができる!!!』

 

 その光景に感動しているのはチョッパーだけではない。ルフィ達もまた一様に見惚れている。その中でも特に大きな反応を示しているのはフクキタルだ。普段から輝いている瞳をさらにキラキラと輝かせて、両手を目いっぱい広げてこの奇跡の光景を全身で感じようとしていた。

 

「雪国に咲く桜⋯⋯!! これはまさに奇跡です!! 今、私たちの運勢が最高潮になっているのを感じますよー!!」

 

 煙突のようにそびえ立つドラムロックの山々に、ピンク色の雪。その2つが重なり、まさに桜が咲いているかのような奇跡の光景を産み出していた。

 

 そして、ヒルルクからこの“奇跡”を託され、チョッパーの旅立ちにその奇跡を実現させたくれはは、目に涙を浮かべながら、激励の言葉を贈る。

 

「さァ、行っといで。バカ息子⋯⋯」

 

 ──後に語り継がれるこの“ヒルルクの桜”は、まだ名もなきその国の自由を告げる声となって夜を舞う。

 

 ちょうどこの土地でおかしな国旗をかかげる国が誕生するのは、もう少し後の話⋯⋯。

 




次回は1話閑話を挟む予定。存在だけ示唆し続けたあのウマ娘が出てきます。


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閑話:浮沈艦、驀進!!

タマモクロス実装記念の最新話投稿。スズカのメインストーリーは明日見るで!!


「ドルトンさーん!! 大変だ、大変なこと思い出しちまった!!」

 

 雪の上に座り、ピンク色の雪を眺めるくれはとドルトン。そんな2人の下に、慌てた様子で駆けてきた男が見せたのは、ルフィの手配書であった。

 

「3千万ベリーの賞金首⋯⋯。彼らが⋯⋯」

 

「ほう、大した悪党じゃないか。ヒッヒッヒッヒ⋯⋯」

 

「あんたに報告するのをすっかり忘れてたんだが、“エース”って奴が麦わら帽子の男がやって来たら、『10日間だけアラバスタでお前を待つ』と伝えてくれと言ってたんだ。この手配書もその時にもらったんだ!!」

 

「なるほど⋯⋯だが、その伝言は伝えるまでもないさ」

 

 ドルトンは、伝言のことを知っても特に慌てた様子は見せなかった。何故なら、ドルトンにはルフィ達の次の行き先がアラバスタであるという心当たりがあったからだ。

 

(どんな事情で海賊たちと一緒にいるのかは知らないが、何か考えがあってのことだろう⋯⋯。立派になられたものだ)

 

 思い返すのは、“世界会議(レヴェリー)”で出会ったまだ幼いアラバスタの王女の姿と、その頃の面影を残した成長した少女の姿。ドルトンがビビのことを思い物思いにふけっているのと時を同じくして、くれはもまた新聞に載った手配書をじっと見つめていた。

 

「Dr.くれは、どうしたんです。ぼんやりして⋯⋯」

 

「⋯⋯お前達、ゴール・“D”・ロジャーを知ってるかい?」

 

「D? ⋯⋯ゴールド・ロジャーのことですか? それならば知らない方がおかしいですよ」

 

「ちげーよ、アタシの親父の名前はゴール・“D”・ロジャーだっての」

 

 ドルトンの言葉を訂正した声は、何故か右隣に居るくれはではなく左から聞こえてきた。先程まで誰も居なかったはずの場所から声が聞こえたことで驚いて横を見たドルトンは、そこに胡坐をかいて座る真っ赤な衣装をまとったウマ娘を見つけ、さらに目を見開いた。

 

「な⋯⋯!? 君は誰なんだ? そして、いつからそこに⋯⋯!?」

 

 しかし、そのウマ娘はドルトンの問いかけには答えず、くれはに向かって笑顔を向け、ひらひらと手を振る。

 

「よっす、くれはのばあちゃん! 10年ぶりくらいか? 相変わらず全然変わらねぇな~。教えてくれよ、若さの秘訣~!」

 

「⋯⋯なんだ、ゴルシかい。アンタの神出鬼没っぷりも相変わらずだね。ヒッヒッヒ!!」

 

 会話を聞く限り、どうやら二人は既知の間柄らしい。しかし、ドルトンにとっては未だいきなり現れた不審人物には間違いないので、警戒態勢を整える。

 

「ヒッヒッヒ! やめときな、ドルトン。お前じゃどうやってもこいつには勝てないよ」

 

「おいおい、アタシをそんな危険人物みたいに言うなよ~。最近は犯罪行為もせずにせっせと割りばし畑で割りばしを摘んでいたんだぜ? ほい、おっさんにも割りばしやるよ」

 

 そう言って、ゴルシと呼ばれたウマ娘がドルトンに差し出してきたのは、木製の2本の棒のようなものだった。いきなり謎のモノを渡されて困惑するドルトンに、ゴルシはさらに畳みかける。

 

「おい、何ぼさっとしてるんだ! 割りばしは取れたてが一番おいしいんだぞ!? 青春も割りばしの旬も、待ってはくれねーんだぞ!?」

 

 急かすようにそう言われ、ドルトンは慌てて割りばしを口にくわえる。しかし、いくら噛んでも嚙み切れる気配はなく、木の味しかしてこない。

 

「な、なあ君、この割りばしって奴はホントに食べ物なのか⋯⋯? 食べられる気がしないんだが⋯⋯」

 

 そう言ってドルトンがゴルシの方を見ると、ゴルシは口元に手を当ててわずかに後ずさっていた。

 

「え、お前何割りばし食べてんだ? 正気かよ⋯⋯。医者に診てもらった方がいいんじゃねえのか?」

 

「ヒッヒッヒ!! 医者ならここに居るよ。⋯⋯とまあ、冗談はさておき、ゴルシ、アンタなんでここに来たんだい? ここ数年表舞台に一切姿を見せなかったお前が、こうやって知り合いのあたしに顔を見せに来たんだ。どうせ何かやらかすつもりなんだろ?」

 

 ゴルシにドン引きされて唖然とするドルトンは放置して、くれははそう問いかける。くれはがゴルシと出会い、過ごした時間は10年前に1週間弱というわずかな間ではあったが、それだけでもくれはの記憶にその破天荒っぷりは残り続けていた。それゆえに、確信をもってこの質問を投げかけていた。

 

「別に大したことはねーよ。アタシにとっちゃこの海は狭すぎてつまんねーけれど、最近なんか面白い奴が増えてきただろ? だから、そいつらにちょっかいかけてやろうと思ってんだ。この夏休みに昆虫採集してそうなワンパク坊主もおもしろそーだな。こんなの被る奴シャンクスぐらいだと思ってたぜ」

 

 ゴルシは、くれはが持っていた手配書を手に取り、空いた方の手を顎においてニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「ヒッヒッヒ!! この“偉大なる航路(グランドライン)”を狭いって言う奴はあんたくらいだろうね。ただ、ちょっかいかけるにしてもほどほどにしてくれよ。そいつの船にはあたしの息子も乗ってるんだからね」

 

「おいおい、ばあさんいつ息子作ったんだよ。人体錬成は禁忌って学校で教わらなかったか? ちなみに必要なのは水35リットルに炭素20キロ、アンモニア4リットルに石灰1.5キロ、追いソイソースにカブトムシ3匹な!!」

 

「ヒッヒッヒ!! 意味わからないね。全くアンタは全然変わらないよ」

 

 ゴルシのよく分からないトークも笑って受け流せるのは、流石くれはの年の功といったところか。先程から蚊帳の外のドルトンたちには全く踏み込めない領域であった。

 

 そして、そんなドルトンにさらに追い打ちをかけるかの如く、カオスは加速する。

 

「ん? ちょっと待てよ⋯⋯。レーダー受信、レーダー受信。バクシンセンサー反応中。⋯⋯っておい、なんでアイツがここにいんだよ! ふざけんな!!」

 

 唐突に謎の動きを始めたかと思えば、いきなり憤慨するゴルシ。その視線の先から、何やらバクシンバクシーンという声が徐々にこちらへと近づいてくる。

 

「バクシンバクシーン!! 山を全制覇してようやく見つけました!! 観念しなさいゴールドシップ!! 年貢の納め時ですよぉーー!!」

 

 そして姿を見せたのは、ウソップたちが雪崩から助けたウマ娘、サクラバクシンオーであった。水着から海軍のコート姿へと着替えたバクシンオーは、ゴルシをビシッと力強く指さす。そんなバクシンオーに対し、ゴルシはげんなりとした様子で肩を落とした。

 

「ゴール・“D”・シップだっつーの! てかお前何でアタシいつも追っかけてくるんだよ。このゴルシちゃんが最近働いた悪事なんてせいぜいニュース・クーの新聞を焼き魚に変えたくらいだぜ?」

 

「それは!! 私がガープ中将の1番弟子であり、あなたがロジャーの義娘だからです!! 私があなたを追う理由などそれ1つで十分!! 最近加わった可愛い弟子のためにも、あなたをひっとらえてみせます!! バクシーン!!」

 

 バクシンオーは、そう宣言すると爆発的な速度で一気にゴルシへと詰め寄るが、先程までゴルシが居た場所に既にその姿はなく、いつの間にか崖のすぐそばへと移動していた。

 

「じゃーな、くれはのばあちゃん!! 100年後、暇だったらラフテルにデートでも行こうぜ!!」

 

 ゴルシはそう言って笑顔で手を振ると、後ろに倒れるようにして崖から飛び降りる。バクシンオー、そして崖から落ちたように見えたゴルシを心配したドルトンが慌てて駆け寄るも、ゴルシの姿は既にどこにもなかった。

 

「ぐぬぬ⋯⋯! またしても逃げられてしまいましたか。流石“ワプワプの実”の能力者、瞬間移動はお手の物というわけですか⋯⋯。しかし!! だからこそ捕まえがいがあるというもの!! あなたは絶対このサクラバクシンオーが捕まえてみせますよ!! バクシンバクシーン!!」

 

 サクラバクシンオーはバクシンバクシーンと大声で繰り返しながら、全速力で駆けていく。そしてそのまま崖から離れ、空中(・・)でもそのままの姿勢でバクシンと叫びながら走り続け、やがてその姿は見えなくなってしまった。

 

「⋯⋯彼女らは、一体何だったのですか?」

 

 取り残されたドルトンは、どこか疲れた様子でくれはにそう尋ねる。くれはは、ぐいっと酒瓶を飲み干してから、こう答えた。

 

「さぁね⋯⋯。ウマ娘ってのは、変なやつばかりさ。そして強いやつばかりだ。“D”の名を持つ麦わらといい、あのウマ娘といい⋯⋯どうやらウチのトナカイは大変な奴について行っちまったらしいね」

 

 こうして、嵐のように現れたウマ娘、ゴール・“D”・シップは、同じく驀進的速さでやって来たバクシンオーと共に、この地を去った。

 

 この時のことをきっかけにルフィに興味を持ったゴルシが、彼らに会いに行くのは、まだ先の話である。

 




次回からアラバスタ編突入。オリジナルキャラも登場する予定ですのでお楽しみに!!


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アラバスタ王国編
オカマとの出会い


年度末で色々と忙しくて更新遅れました。あのオカマがついに登場。そしてようやくオリジナルキャラのタグ回収の時です!!


「ナミさん来て!! 正面に何かあるみたい!!」

 

「海の上でこんなモクモクした煙が出るなんて、不吉な予兆です!! ぎゃーー!!」

 

 冬島を離れ、アラバスタへと向かう航路。その進行方向に不意に現れた煙に、慌てた様子でナミにそのことを伝えるビビとフクキタル。しかし、顔を真っ青にして悲鳴を上げているフクキタルとは対照的に、ナミはいたって冷静であった。

 

「ああ、大丈夫。何もないわ。ただの蒸気よ。そういう煙が出来る原因は、その下に海底火山があるからなの」

 

「海底に火山が!? 私初めて知りました!!」

 

「そうよ。火山なんてむしろ地上より海底の方にたくさんあるんだから」

 

 ナミの解説に、へーと感心した表情を浮かべるのは、チョッパーとフクキタル。一方食べ物にしか興味のないルフィは、ウソップと2人でカルーを餌にして何か釣れないかと釣竿の糸を海へと垂らしていた。

 

「どうでもいいや、食えねぇんじゃ。うわ、ウェホッ、エホッ! なんも見えねえ! 湯気だらけだ!!」

 

「うぐっ! 硫黄くせぇぞ!! おれ鼻がいいからダメだこの臭い⋯⋯」

 

「我慢して、すぐに抜けるから」

 

 そしてそのまま煙の中に船は突っ込んでいき、視界が真っ白に染まる。煙と臭いでむせるルフィ達であったが、ナミの言葉通りすぐに煙の中から抜け出すことが出来た。

 

 しかし、その短い時間の中で、ルフィとウソップは煙の中からとんでもないものを釣りあげていた。

 

「「お、オカマが釣れたああああ!!!」」

 

 カルーにがっしとしがみつく奇抜な格好をしたオカマを見て、思わず絶叫するルフィとウソップ。

 

「シィ~まったァ!! あちしったらなに出会いがしらのカルガモに飛びついたりしてたのかしらん!!」

 

 そして、オカマにとってもこの状況は予想外だったらしく、驚いてぱっと手を離してしまう。そしてそのまま海に落ちてしまったオカマは、泳げないのか浮かび上がってこない。

 

「うわぁー!! オカマが海に落ちて溺れたぞぉ!!」

 

「と、とりあえず助けるぞ!」

 

 見知らぬオカマとはいえ、流石に溺れているのを見捨てるほどルフィ達は人でなしではない。能力者ではないウソップが海に入り、そのオカマを救助したのであった。

 

「いやーホントにスワンスワン。見ず知らずの海賊さんたちに命を助けてもらうなんて、この御恩一生忘れません。あと温かいスープを一杯頂けるかしら」

 

「「ねェよ!!」」

 

 厚かましくもスープをねだるオカマに、この場に居るフクキタルを除いた全員からのツッコミが飛ぶ。ちなみに、フクキタルは初めて見るオカマに衝撃を受けてわなわなと身体を震わせていた。

 

「お前、泳げねぇんだな~」

 

「そうよう! あちしは悪魔の実を食べたのよう。⋯⋯あちしの船が来るまで慌ててもなんだしい。余興代わりに見せてあげるわ。これがあちしの能力よーう!!」

 

 オカマは、そう言ってルフィの顔面をバンっと力強く突く。突然手を出してきたオカマに対し、皆が警戒を強める中、そのオカマはがーはっはっはと豪快に笑う。

 

「待ーって待って待ってよ~う!! 余興だって言ったじゃなーいのよーっ!! ジョ~ダンじゃなーいわよーう!!」

 

「どどど、どういうことですか!? オカマさんが突然ルフィさんにぃ!?」

 

 フクキタルの驚きは、この場に居る皆も感じているものであった。なんと、そのオカマは、先程ルフィに触れた一瞬で、顔や声、体格までもルフィと全く同じになっていたのだ。

 

「がーはっは!! これがあちしの食べた“マネマネの実”の能力よーう!! まァもっとも、さっきみたいに殴る必要性はないんだけどねーいっ」

 

 オカマは、驚くルフィ達の顔に軽く触れていく。そして、ウソップやゾロ、チョッパーにフクキタル、そしてナミの順番で次々に姿を変えていった。

 

「この右手で顔にさえ触れれば、この通り誰のマネでもで~きるってわけよう!! さ~ら~に~!! メモリー機能つきぃ!! 過去に触れた顔は決して、忘れな~い!!」

 

「「「「うおおおっ!!」」」」

 

 マネマネの実の能力にすっかり虜になっているルフィとウソップとフクキタル、そしてチョッパーは、4人そろって歓声をあげる。

 

「⋯⋯え」

 

 ビビは、オカマがメモリーしたという顔の中に予想外の顔を見て、思わず声を漏らす。しかし、そんなビビの様子は知らないルフィ達は、オカマと楽し気に肩を組んでいた。

 

「「「ジョーダンじゃなーいわよおーうっ! ジョーダンじゃなーいわよーうっ!!」」」

 

「もう、フクまで一緒になってはしゃいじゃって⋯⋯。あ、なんか船がこっちに来るわよ。あれあんたの船じゃないの?」

 

 そう言ってナミが指さす方向からは、目立つ白鳥の船首の船がこちらへと近づいてきていた。

 

「アラ! もうお別れの時間!? 残念ねい」

 

「「「「えーーっ!!!」」」」

 

「悲しむんじゃないわよう。旅に別れはつきもの!! でも、これだけは忘れないで⋯⋯。友情ってヤツァ⋯⋯つきあった時間とは関係ナッスィング!!」

 

 目にキラリと涙を浮かべたオカマは、そう言ってぐっと親指を立てる。

 

「また会おうぜ~!!」

 

 そんなオカマとの別れを惜しみながらも、笑顔で見送るルフィ達。しかし、オカマが船に戻ろうとしたその時、そのオカマの横にトンっと身軽な身のこなしで船から1人飛び降りてくる。

 

「⋯⋯君1人だけずるいじゃないか、ボン。こんな華麗な花たちを独り占めするなんてさ。俺にも紹介してくれよ」

 

「がーはっは!! そうねーい!! 折角だしカポちんもご挨拶したらいいわ!!」

 

 オカマに“カポちん”と呼ばれたその人物は、タキシードを身に纏ったいかにも紳士的な風貌をしている。しかし、その顔の右半分はマスクで隠されており、シルクハットを深くかぶっているせいで顔はよく見えない。

 

 さらに言えば、タキシードに包まれた胸元はそれでも隠し切れないほどの膨らみを帯びており、その風貌や口調とは対照的に彼女が女性であることが分かる。

 

 そんな、オカマとは正反対な容姿をした女性は、優雅に一礼すると、胸元のポケットから一輪の薔薇を取り出し、こう名乗った。

 

「俺の名前はダカーポ。フィーネ・ダカーポだ。相棒のボンを助けてくれたこと、礼を言うよ。もし機会があればまた遭おう。可憐な花たちよ」

 

 バチンと目くばせする先は、ナミやビビ、フクキタルといった女性陣のみで、男性陣には見向きもせず、ダカーポはオカマの手を取り、今度こそ船へと戻っていく。

 

「がーはっは!! エスコートありがとね、カポちん!! さあ、今度こそ行くのよ、お前達!!」

 

「はっ!! ボン・クレー様!! Mr.2様!!」

 

「「「「Mr.2!!!?」」」」

 

 ルフィ達は、バロックワークスのオフィサーエージェントの呼び名である“Mr.2”という名前に反応するも、その時には既に彼らの乗る船は離れていってしまっていた。

 

「あいつが⋯⋯ボン・クレー!! そして、Mr.2!!」

 

「ビビ、お前顔知らなかったのか!?」

 

「ええ⋯⋯。私Mr.2とMr.1のペアには会ったことがなかったの。能力も知らないし⋯⋯。噂にだけは聞いていたのよ。Mr.2がペアになったのはごく最近のこと。それまではMr.2はMr.2とボン・クレー、2つの呼び名を持つ唯一の存在⋯⋯。彼は、大柄のオカマでオカマ口調、白鳥のコートを愛用していて背中には“おかま(ウェイ)”と」

 

「「「気づけよ」」」

 

 その分かりやすすぎる特徴に、あのルフィまでも一緒になってツッコミを入れる。

 

 ⋯⋯海の上で偶然見つけた小さな友情。しかしながらその相手は、敵対するバロックワークスの幹部だった上に、姿をマネできるという厄介な能力持ち。その上その相方に至っては全くの未知数。必然的に、ルフィ達は対策をすることを余儀なくされたのであった。

 




オリジナルキャラはボンちゃんの相棒枠。対決相手は察しのよい方ならわかるはず。

次回更新は来年になるかもしれません。もしかしたらあと一話くらい更新できるかも?


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副船長と二番隊隊長

あけましておめでとうございます。

年末年始は実家に帰っていたので更新できませんでしたが、今日から更新再開します。

ところで皆さん、ウマ娘のイベントストーリー見ましたか? フクキタルの良さが詰まったよいイベントでしたよね。着物もよく似合っていました。


「おい、そんなに似ちまうのか? その⋯⋯“マネマネの実”で変身されちまうと」

 

「そりゃもう似るなんて問題じゃねェ。同じなんだ。おしいなーサンジ。お前見るべきだったぜ」

 

 一味の中で唯一ボン・クレーに会っていないサンジにウソップがその能力の説明をしている間に、他のメンバーは“マネマネの実”の対策として左腕にマークを描き、その上から包帯を巻く。

 

「よし! とにかくこれから何が起こっても、左腕のこれが仲間の印だ!」

 

 そして、全員がマークを描き終えたところで、それを確認するように輪になって左腕を前へと突き出した。

 

「じゃあ、上陸するぞ! メシ屋へ!! あとアラバスタ!!」

 

「ついでかよ!!」

 

「あ、実は私もお腹空いていて⋯⋯メシ屋さんは賛成です!!」

 

「ちょっとあんたら、本能での行動は慎みなさいよ!?」

 

 目的地を目前にしても、いつもと変わらない様子でわいわい騒ぐルフィ達。そんなルフィ達を見ながら、ビビは左腕にある仲間の印をぎゅっと握りしめ、笑みを浮かべたのであった。

 

 

〇〇〇〇

 

 

 ルフィ達が仲間の印を見せ合っていた頃、アラバスタ王国の港町にあるとある店では、小さな騒ぎが起きていた。

 

「いや、君ねぇ。こんなに食べといてお金がないってそれは流石に困るよ」

 

「うぅ⋯⋯すいませぇん。財布を一緒に来た子に渡したままなのを忘れていまして⋯⋯。後で絶対お支払いしますのでぇ⋯⋯」

 

「うーん、とはいってもねぇ。そのなり、あんたよそ者だろ? 後で払うって言われても流石に信用は出来ねぇなぁ」

 

「そ、そんなぁ⋯⋯。す、救いはないのですかぁ?」

 

 どうやら、客の1人がお金を払わないことで問題になっているらしい。その渦中にいる少女は、ぷるぷると身体を小刻みに震わせながら、猫背気味の背中をターバンとマントで包んででおり、顔もしっかりと隠している。風貌だけなら不審人物なのだが、今にも泣きそうに震える声が周囲の同情を誘っていた。

 

 しかし、見ず知らずの少女を助け船を出す勇気もなく、どうしたものかと周りの人物が見守る中、その人々の波をかき分け、特徴的な帽子を被った半裸の男が店主と少女の間に割って入ってきた。

 

「あー、店主さん。悪ぃ、そいつはおれの連れでね。おれが彼女の分まで払うから、ここは引いてくれねぇか?」

 

「あ、ああ。俺は金さえ払ってくれればいいんだ。⋯⋯嬢ちゃん、よかったな。知り合いが来てくれたみたいでよ」

 

「え、ええ⋯⋯?」

 

 店主から声をかけられるも、少女は困惑を隠しきれない。何故なら、目の前にいる半裸の青年は、彼女と同行していた少女とは全くの別人だったからだ。

 

 青年の方も少女とは全く面識がないはずだが、そうとは感じられないほどの自然な態度で、店の椅子に座り、その隣に座るよう少女を促す。少女は、青年のことを警戒しつつも、助けてもらったことは事実なので、促されるまま隣に座ることにした。

 

「あ、あのぉ⋯⋯。助けてくださってありがとうございますぅ。でも、私たち初対面なはずですよね⋯⋯? どうして助けてくださったんですか?」

 

「別に礼なんていらねぇよ。おれはただ、噂の海賊団の副船長が“偉大なる航路(グランドライン)”前半のこんな海に居るのが気になって声をかけただけだ。⋯⋯なあ、“覇王海賊団”副船長、メイショウドトウさんよ」

 

 隠していたはずの正体を言い当てられ、ビクンとターバンの下の耳を大きく跳ねさせる少女⋯⋯メイショウドトウ。しかし、動揺したのは一瞬で、むしろ相手の目的が分かった分、ドトウは先程までよりも落ち着いて受け答えすることができた。

 

「⋯⋯それを言うなら、こっちも同じです。“白ひげ海賊団”の二番隊隊長、“ポートガス・D・エース”さん」

 

「おっ! おれの名前を知ってくれているとは⋯⋯光栄だね」

 

「し、知らない方がおかしいと思いますぅ⋯⋯」

 

 当の2人は何気ない様子でかわした会話であったが、特に隠すこともなく明かされた2人のその名前に、周囲は一気に騒然となった。

 

「し、“白ひげ”!? 海賊“白ひげ”の一味か!? そういや、背中の刺青見たことあるぞ!!?」

 

「は、“覇王海賊団”っていやあおい、最近話題になっているイカれた海賊じゃねえか! そんなところの副船長がなんでこんなところにいるんだよぉ!!?」

 

 “白ひげ海賊団”に“覇王海賊団”。かたや四皇と呼ばれる大海賊“白ひげ”の率いる海賊団であり、かたや聖地マリージョアやその他数多の世界政府の管理下にある施設などで次々にオペラ公演を行って悪名を轟かせている今一番危険と噂される海賊団だ。その二番隊隊長と副船長がここにいるという事実に、一部の客は一目散に逃げ去り、また一部の客は恐る恐るといった様子で2人の様子をうかがっている。

 

「わ、私たちの評判ってかなり悪いんですね。なんだかショックです⋯⋯」

 

 そんな周囲の様子を見て、がっくりと肩を落とすドトウ。この様子を見ると、とてもじゃないがあの悪名高い“覇王海賊団”の副船長とはとても思えない。

 

「そりゃあ仕方ねぇだろ。なにせやってることがアレだからな。一部じゃお前らは革命軍の一員なんじゃねぇかって噂もあるくらいだ。⋯⋯で、本題なんだが、そんなお前さんが何でこんな場所に居るんだ?」

 

 エースは、ドトウの様子などは全く気にもかけず話を続ける。⋯⋯いや、そもそも、エースは最初からドトウのことを全く見ないまま話しかけているのだが、それに気が付いているのはドトウも含めて誰も居なかった。

 

「私は、ちょっとオペラオーさんに頼まれて人探しをしていまして⋯⋯。そういう貴方は、なんでここに?」

 

「奇遇だな。おれも人探しだ。⋯⋯弟をね。探してんだ」

 

 そう言って、チッチッと爪楊枝で歯に挟まった肉を取るエース。この時はまだその探していた弟が店に突っ込んでくることになるとは思いもしなかったのであった。

 




ドトウ登場は前々からここと決めていたのでイベントと被ったのはホントに偶然。フクドトコンビいいですよね。


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怒涛の出会い

金曜ロードショーが千と千尋なので最新話投稿します。


「あの店はやけに騒がしいな⋯⋯。何があった」

 

 葉巻を吸いながら部下にそう尋ねるのは、海軍大佐、スモーカーだ。彼はローグタウンで捕まえ損ねた麦わらのルフィを捕まえるべく、部下のたしぎらと共にこのアラバスタまでやって来ていたのであった。

 

「た、大変ですスモーカー大佐!! 大変な奴らがこの町に⋯⋯!!」

 

「何だって⋯⋯!?」

 

 しかし、部下から告げられたその海賊たちの名前は、ルフィを追っているスモーカーでも無視できないものだった。

 

 

〇〇〇〇

 

 

「あのー、そういえばなんで、変装しているのに私がメイショウドトウだって分かったんですか⋯⋯? 耳と尻尾も隠しているので、ウマ娘ってこともぱっと見じゃバレないはずですが⋯⋯」

 

「あー、ちょいと個人的な理由でな。ウマ娘が近くに居ると分かるんだ。腕に鳥肌が立つ。うちの傘下にもウマ娘がいるから治したいところなんだが、どうにもならねぇもんだな」

 

「お噂は聞いていますぅ。白ひげ海賊団傘下に、私たちと同じようにウマ娘のみで構成された少数精鋭の海賊がいると⋯⋯。オペラオーさんも一度会ってみたいと言ってました」

 

 スモーカーが部下から報告を受けているちょうどその頃、エースとドトウの2人はまだ会話を続けていた。その話題はドトウの正体が分かった理由から白ひげ海賊団に所属するウマ娘たちへと移り、そして途中でちらりと語られたエースの体質へと戻っていく。

 

「ところで⋯⋯エースさんの個人的な理由とは、もしかして義理のお姉さんが関係していたりするのでしょうかぁ?」

 

「⋯⋯!! てめぇ、どうしてそのことを知ってやがる!!」

 

 ドトウが『義理のお姉さん』と言った途端、それまでのどこか飄々とした態度を一瞬で捨て去り、剣呑な表情を浮かべて立ち上がるエース。その感情の高ぶりを表すかのように、先程まで座っていた椅子は突然燃え出し、周囲で様子をうかがっていた野次馬たちの悲鳴が飛び交う。

 

「す、すいません! そこまで反応するとは思いませんでした。私がエースさんのお姉さんのことを知っていたのは、仲間にウマ娘の情報にやたら詳しい子がいるせいでしてぇ⋯⋯。というか実はその子と一緒にこの国に来ていたのですが、途中ではぐれてしまって⋯⋯」

 

「⋯⋯いいか、アイツはおれの姉じゃねえし、おれの親父は白ひげだ。次その話題を出したら、問答無用でぶん殴る」

 

「うう、救いはないのですかぁ⋯⋯?」

 

 一気に殺伐とした空気と化した状況に、涙目を浮かべるドトウ。しかし、救いの手は差し伸べられることはなく、追い打ちをかけるかのようにさらなるもめ事が襲い来る。

 

「おいおい、“白ひげ海賊団”の二番隊隊長と、“覇王海賊団”の副船長が2人揃ってなんでこんなところに居るんだ。この国に一体何の用だ?」

 

 野次馬を掻き分け、エースとドトウの前に姿を現したのは、先程部下から報告を聞き急ぎ駆け付けたスモーカーだった。

 

報告を聞いた時は半信半疑だったスモーカーだったが、本当にエースとドトウが居ることに実は驚いていた。しかし、その驚きを顔には出さずに、すっと背中の十手に手を置く。

 

「⋯⋯わりぃな。海軍の兄ちゃん。今おれはちょっと機嫌が悪いんだ。話ならそっちのウマ娘にしてくれ」

 

「ええ!? わ、私ですかぁ!? うう、アヤベさんにも海軍には見つかるなって注意されていたのに⋯⋯。やっぱりついてないですぅ」

 

「話なら檻の中でいくらでもできる。とりあえず、お前達2人とも大人しく捕まるんだな」

 

 そう言って、スモーカーは拳を握りしめる。“モクモクの実”の煙人間であるスモーカーの腕はモクモクと臨戦態勢を整えており、3人の様子を遠巻きに見ていた野次馬達の間にも緊張が走った。

 

「却下。そりゃごめんだ。⋯⋯ただ、このウマ娘さんの戦う姿は見てみたい気持ちもあるな。なあ、アンタはどうする?」

 

「わ、私も捕まるのは嫌です⋯⋯。それに、私手加減が苦手でして⋯⋯医術の心得もないので、怪我しても手当できないですよぉ?」

 

 ドトウの上目遣いの視線は、自分の方に向けられていて、それにスモーカーは僅かに身震いした。

 

 その視線から感じられる“心配”の感情は、自分が敗北することは一切考えていない、傲慢さすら感じられる強者の余裕。おどおどした態度とは正反対のその言葉は、スモーカーのみならず、この場に居る全員に、“覇王海賊団”にまつわるある噂を想起させた。

 

 曰く、“覇王海賊団”副船長、メイショウドトウは一瞬にして大陸の形を変えることすらできる能力者である⋯⋯。

 

 しかしながら、その噂が真実であるかを確かめることは出来なかった。何故ならば、3人の居るこの店の食べ物の臭いを嗅ぎつけ、猛スピードで海岸から突っ込んできた人物が居たからだ。

 

「ゴムゴムの~ロケットォー!!」

 

「ぐあァ!!」

 

「を!?」

 

「ひええええええ!?」

 

 ゴムゴムのロケットで店に突っ込んできたルフィは、スモーカーにぶつかり、その直線状にいたエース共々店の外へと吹き飛ばす。ドトウは間一髪その衝突は避けられたものの、突然現れたルフィに情けない悲鳴を上げてしまう。

 

「うわ、あの時のケムリ!! なんでここに居るんだ!! ⋯⋯どうもごちそうさまでした!!」

 

「待て、麦わらァ!!」

 

「おい、待てよルフィ!!」

 

 ルフィは短時間で口に詰められるだけ料理を詰めた後、スモーカーが居ることに驚き、慌てて逃げていく。そしてそんなルフィを追いかけ、スモーカーとエースも店から去っていった。

 

「な、なにが起こったんでしょう⋯⋯?」

 

 あっという間にいなくなってしまった3人の姿を、呆然と見つめるドトウ。その視線の先に、3人と入れ替わるようにして店に近づいてくる少女がいた。

 

「ふぅ、いきなり飛んでいくなんてルフィさんは流石ですね。⋯⋯む? むむむむむ??」

 

 ルフィを追いかけて遅れてやって来たフクキタル。その視線の先には、先程のごたごたでフードが取れ、耳が露になったドトウが居た。

 

「その耳⋯⋯。まさかこんなところで私と同じウマ娘に出会えるなんて!! これはきっとシラオキ様のお導きに違いありません!! 運命のウマ娘さん、あなたのお名前をうかがっても!?」

 

「は、はぃ!! メイショウドトウといいますぅ!! えーっと、あなたの名前は⋯⋯?」

 

 フクキタルの勢いに押されてつい名乗ってしまったドトウは、反射的に名前を尋ねていた。その問いかけに、フクキタルはむっふーと上機嫌そうに身体を揺らし、元気よくこう答えたのであった。

 

「はい、私、麦わらの一味“占い師”、マチカネフクキタルです!! 以後お見知りおきを、ドトウさん!!」

 




フクドト、いいよね


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ウマ娘も3人揃えば姦しい

前回の話を投稿した後、感想でスモーカーやエースについて触れている方が多くてちょっと面白かったです。

2人ともネタにされることは多いけれど、私は結構好きですよ。

ただ今回の話には出番はありません。2人のファンの方々、すみません!


「すっごく美味しいですねここの料理!! ドトウさんも一緒に食べませんか?」

 

「私は先程食べたばかりなので、遠慮しておきますぅ。あ、そういえば⋯⋯」

 

 ルフィと同じくお腹を空かせていたフクキタルは、ところどころ破壊のあとが目立つ店の中で、ニコニコと楽しそうに食事を続けていた。それもこれも、同じウマ娘に出会えたという偶然を喜んでいたからであり、この時のフクキタルの頭からは先に店に来ているはずのルフィのことはすっかり抜け落ちていた。

 

 そして、そんなフクキタルの勢いに押され隣の席に座っていたドトウは、フクキタルの言葉を聞いて自分がまだ食事の代金を支払っていなかったことを思い出した。

 

「どど、どうしましょう。そういえば私、まだ食事の代金を払っていなかったんでした。かくなる上は、私の首を差し出して⋯⋯」

 

「いや、俺としてはもう代金とかいいから早く店から出ていってほしいんだが⋯⋯」

 

「なな、なんですとぉ!? それは大変ですね。とはいえ、私も自分の食事の代金分くらいしか手持ちはないですし⋯⋯」

 

 ドトウがあの“覇王海賊団”の副船長であると知った店長の心からの願いは、フクキタルによってかき消されてしまった。どうやらすぐに店を出る意志はないらしい。この時のストレスから、店長は以降胃痛に悩まされることになる。

 

 しかし、そんな店長の胃の調子など知らないウマ娘2人は、どうしたものかと頭を悩ませていた。

 

「うう、救いはないのでしょうか⋯⋯」

 

「むむむ、私の占いでもすぐにお金は湧いてきませんし⋯⋯。人や物ならすぐに探すことはできるのですが⋯⋯」

 

「そ、それは本当ですかぁ!?」

 

 もはや打つ手はないのかと項垂れていたドトウは、フクキタルの言葉を聞きばっと顔を上げる。

 

「実は、一緒にこの国に来ている仲間が居まして⋯⋯。その子の居場所が分かれば代金も払えると思うんです」

 

「なんと!! それは不幸中の幸いですね!! それでは早速、その方の居場所を占うことにいたしましょう!!」

 

「す、救いはあったのですねぇ⋯⋯!!」

 

 やっと掴んだ希望に、目を輝かせるドトウは、背中のカバンから水晶玉を取り出したフクキタルを食い入るように見つめる。当然ながら、「だから代金はもういいって!」という店長の叫びは聞こえていない。

 

「ではさっそく、占ってまいりますよ~! うんぎゃら~、もんぎゃら~⋯⋯。かしこみ~、まきこみ~⋯⋯キエエエエエエイ!!!!」

 

「ひょえええええ~~!!!!」

 

 占いに力を込めている証拠か、かなり特徴的な奇声を上げたフクキタルに驚き、悲鳴を上げるドトウ。そんな2人に先程エースと2人で居た時とは別の種類の視線が集まる。

 

「占い結果、出ませり!! あちらの方角から、もうすぐ私たちの前に待ち人は現れるそうです!!」

 

 占いの結果を告げ、ビシィっと店の外を力強く指さすフクキタル。そしてその指の先には、何故かワナワナと全身を震わせている少女が居た。

 

「あ、あれは⋯⋯! デジタルさん!! ホントにすぐ来てくれましたぁ!!」

 

 安心した様子でほっと息を吐くドトウの様子を見るに、どうやらデジタルと呼ばれたこの少女がドトウの仲間らしい。ただ、どうにも様子がおかしい。少女は、全身を震わせながらゆっくりとフクキタルたちへと近づき、そして、フクキタルとばっちり目があった瞬間⋯⋯いきなり倒れた。

 

「ふぎゃあああ!! お目目キラキラウマ娘ちゃん可愛すぎりゅぅぅぅ!!!!」

 

「えええええ!? どうして倒れちゃったんですか待ち人ウマ娘さんんんん!?」

 

「やっぱり救いはないのですかぁぁぁ!?」

 

 ウマ娘3人、全員が絶叫する地獄絵図と化した店内。店長はさらに痛む胃を押さえながら、明日は休業することを心に決めたのであった。

 

 

〇〇〇〇

 

 

「ホント、何から何までありがとうございますぅ⋯⋯。占ってくださったのみならず、デジタルさんの介抱まで手伝ってくださるなんて⋯⋯」

 

「いえいえ、旅は道連れ世は情け。困っていることがあればお手伝いするのは当然のことです! こうして出会えたのもきっとシラオキ様のお導きでしょうし!!」

 

「はぁ、はぁ⋯⋯。み、見知らぬウマ娘ちゃんに手当してもらえるなんてここは天国⋯⋯? デジたんの生涯に一片の悔いなし⋯⋯!」

 

 今にも昇天しそうな程幸せそうな表情を浮かべるウマ娘は、アグネスデジタル。先程フクキタルを見て鼻血を出して倒れたドトウの仲間である。

 

 あれから、倒れたデジタルの懐から何とか財布を取り出し、代金の支払いを済ませて店を出たフクキタルとドトウの2人は、あまり人の居ない小道にデジタルを運び、そこで意識が戻るのを待っていたのであった。

 

 デジタルは意識を取り戻しそうになる度に、ドトウの膝枕や間近で見るフクキタルの顔によって意識を失うことを繰り返し、先程ようやく落ち着くことができたのであった。

 

「ではでは改めまして⋯⋯あたしの名前はアグネスデジタルと申します。“覇王海賊団”の船員、役職は⋯⋯あれ? デジたんの役職って何なのでしょう?」

 

「デジタルさんは諜報に記録、資金の管理調達、そして治療に戦闘⋯⋯。色々やってもらってますからね⋯⋯。本当にいつもお世話になっていますぅ」

 

「いえいえ!! デジたんの方こそ、可愛いウマ娘ちゃんに囲まれて頼られて日々快感⋯⋯じゃなくって、やりがいを感じていますので!! 特に船長と副船長の絡みは⋯⋯むふふ」

 

「な、なんだか個性的な方ですね⋯⋯」

 

 フクキタルは、じゅるりと口元に垂れたよだれを拭き取るデジタルを見て、ウマ娘にも変わった子が居るんだなぁなどと思っていた。もちろん、自分も他人から見れば十分変人であることなどは全く理解していない。

 

「それでは、お2人も無事合流出来たことですし、私もそろそろ行きますね。実は、この国でやらなくてはならないことがありまして⋯⋯」

 

 そして、ひと段落ついたことで、2人に別れを告げて立ち去ろうとしたフクキタルであったが、はっと正気に戻ったデジタルがそれを引き留めた。

 

「あ、ちょっとお待ちください! 副船長もあたしもお世話になったお礼に、一つ教えておきたいことがあるんです。フクキタルさんも海賊のようですし、見たところまだ(・・)のようなので、きっと知っておいて損はないはずです!! ⋯⋯教えてもいいですよね?」

 

「はい、私もフクキタルさんにはお礼をしたいと思っていましたし⋯⋯」

 

「?? 教えるって、一体何を教えてくださるのですか?」

 

 唐突に“教える”と言われても意味が分からず、首を傾げるフクキタル。その動きにときめいて胸を押さえるデジタルだったが、何とか気絶はせずに、フクキタルにこう告げた。

 

「教えたいのは、ウマ娘の“本格化”と、その方法についてです。ウマ娘は、“本格化”を果たしているか否かによって、大きく戦闘能力が変わるんですよ」

 




ウマ娘が増えると書いているこっちも楽しくなってきます。


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ウマ娘の”本格化”

お待たせしました。今回少し長めです。

本格化に関しては、シンデレラグレイやワンピの世界観なども混ぜた独自の設定としております。原作そのままの本格化ではありませんので、ご了承ください。


「“本格化”? それって一体何ですか? すいません私、あまりそういうの詳しくなくて⋯⋯」

 

「いえいえ! 知らない方が教えがいがあるというものですので、お気になさらず! ⋯⋯はっ!? つまりフクキタルさんの初めてをあたしが貰えるということですかぁ!? なんというご褒美! たまりませぬなぁ~!!」

 

「で、デジタルさん、落ち着いてください。フクキタルさんが少し引いていますぅ⋯⋯」

 

 自称ウマ娘オタクのアグネスデジタルは、フクキタルの知らない知識を教えるという状況に思わず興奮し、頬を上気させる。麦わらの一味もだいぶ個性的だが、これまでに会ったことがないタイプの変人であるデジタルに、フクキタルの笑顔も若干引きつっていた。

 

「す、すみません。つい興奮してしまって⋯⋯。それでは、改めて説明いたします。ウマ娘の“本格化”と呼ばれる現象、それは具体的には3段階存在しまして⋯⋯。まず1段階目。この段階での“本格化”とは、体格の変化、そして身体能力の大幅な向上を指します」

 

 ドトウに注意されたデジタルは、いつの間にか垂れていたよだれを拭き取り、どこからか取り出した眼鏡をかけると、きりりと表情を引き締めて“本格化”の説明を始める。フクキタルは、ドトウと並んで座り、ふむふむと頷きながらその説明に耳を傾ける。

 

「これに関しては、全てのウマ娘ちゃんに年頃を迎えると必ず起こることで、例外はありません。“本格化”を迎えるとひと月ほどで急激に身体が成長し、身体能力も通常の人間の何倍にも跳ね上がるわけですね。ついこの間まで幼女だったウマ娘ちゃんが数か月後にはナイスバディの美女に変貌していたりもするわけです。ウマ娘の神秘、ですねぇ⋯⋯」

 

 いつか見たウマ娘の姿を思い出しているのか、どこか遠くを眺めたままうっとりとした表情を浮かべるデジタル。慌ててドトウが顔の前で手を振ることで、何とか妄想の世界から戻ってきた。

 

「はっ! 危うく仰げば尊死するところでした⋯⋯。さて、“本格化”の話の続きでしたね。フクキタルさんも見る限り1段階目は終えられているようなので、重要なのはここからです。“本格化”2段階目は、さらなる身体能力の向上と、ある技術の取得を可能とします。⋯⋯よっ!」

 

 デジタルが軽い掛け声と共に拳を握りしめると、その拳が一瞬にして黒く染まった。その現象に驚いたフクキタルは、反射的にデジタルの拳をぺたぺたと触っていた。

 

「ななな、なんですかこれぇ!? なんか黒くなっていますし、それに鉄みたいに固くなってますよぉ!? これって“悪魔の実”の能力じゃないんですか!?」

 

「ふ、フクキタルさん落ち着いてください⋯⋯! デジタルさんが死んじゃいますぅ⋯⋯!!」

 

「う、ウマ娘ちゃんからの熱烈なお触り⋯⋯。デジたんの生涯に一片の悔いなし⋯⋯」

 

「で、デジタルさぁぁん!!?」

 

 ──閑話休題。

 

 昇天間近だったデジタルは、ドトウのハグにより魂を現世に戻し、未だ鼻血が止まらない鼻に紙を詰めながら、先程見せた現象について解説していた。

 

「えーっとですね。先程あたしが見せたのは、“体鉄(ていてつ)”と呼ばれる、本格化の2段階目を迎えたウマ娘ちゃんが扱えるようになる技術です。文字通りに身体を鉄のように固くすることで、防御は勿論、攻撃にも役立つ技術でして⋯⋯。一般的には別の呼び名があるのですが、ウマ娘ちゃんが使う際には皆“体鉄”と呼びますね」

 

「つまり、“悪魔の実”の能力ではないということですね。でも、私はそんな風に身体を黒くできませんし、まだ“本格化”の2段階目は迎えていないということでしょうか?」

 

「デジたんの鑑定眼によれば、まだですね。この2段階目は全てのウマ娘ちゃんが迎えることの出来るものではありません。2段階目を迎えることのないまま一生を終えるウマ娘ちゃんの方が、総数的には多いです」

 

 デジタルは、そう説明した後、ただ⋯⋯と言って、こう続けた。

 

「ただ、この海で名を挙げているウマ娘ちゃんならば、必ず迎えている段階でもあります。逆に言えば、2段階目を迎えていないウマ娘ちゃんは、戦いの土俵にすら上がることが出来ないとも言えます。1段階目で終わるウマ娘ちゃんと、2段階目を迎えたウマ娘ちゃんの身体能力は、天と地ほどの差があるんです」

 

「そ、それなら、私にその2段階目を迎える方法を教えてください! 私、もっと強くなって、ルフィさん達のお役に立ちたいんです!!」

 

「安心してください。さっきも言ったように、ちゃんと方法も教えます。“本格化”の2段階目を迎える方法にはいくつかありますが、最も手っ取り早い方法、それは、自分より格上の相手と戦うことですね!!」

 

 仲間の役に立ちたいと、身を乗り出してデジタルに詰め寄るフクキタル。そんなフクキタルに提示された手段は、シンプル故に難しいものであった。

 

「格上の相手との戦い、ですか⋯⋯。言うだけならば簡単そうですが、実際にやるとなると難しそうですね⋯⋯」

 

「まあ、もちろんそれ以外の方法もあります。デジたんは数か月ほどウマ娘ちゃんへの愛を叫びながら感謝の正拳突きを続けたら自然と迎えることができましたね!」

 

「わ、私はなかなか2段階目を迎えられなかったのですが、オペラオーさんと勝負した際になんとか迎えることができましたぁ⋯⋯」

 

「え、船長と副船長勝負したことあったんですか!? なにそれ詳しく!!」

 

 お宝エピソードの予感を敏感に察知して食いついたデジタルは、鼻息荒くドトウへと迫る。デジタルの圧にたじたじなドトウの隣で、フクキタルはむむむ⋯⋯と頭を悩ませていた。

 

「うーん、私もルフィさんに勝負を挑むべきでしょうか? いやいや、流石にそれはおこがましいですね⋯⋯。ん? そういえば、デジタルさん、確か最初に“本格化”には3段階あると言っていましたよね? 2段階目でも大変そうなのに、3段階目となると一体どうなってしまうのですか!?」

 

「そういえば、3段階目の説明がまだでしたね。3段階目は⋯⋯お察しの通り、これを迎えることの出来るウマ娘は本当に少ないです。3段階目を迎えたウマ娘は、“領域(ゾーン)”と呼ばれる集中の極致、ウマ娘の限界を超えたその先へと到達することができます。デジたんの知る限りこの段階を迎えているウマ娘は、あの八武海の“海喰”や“海軍四皇”、そして我らが船長のオペラオーさんなど、本当に数えるほどしかいないです」

 

「はぁ~、すごいウマ娘さんが居るんですねぇ~。ちなみに、お二方はどうなんですか?」

 

 フクキタルは占いばかりしていて世情にあまり詳しくなかったので、“海喰”や“海軍四皇”などと言われてもあまりピンとこなかったが、とにかく凄く強いウマ娘であるということだけは分かった。そして、興味本位で2人は3段階目を迎えているのかと尋ねてみたところ、返ってきたのは予想外の答えだった。

 

「恥ずかしながら、私()まだでして⋯⋯。副船長として情けない限りですぅ⋯⋯」

 

「いやいや、副船長は“悪魔の実”の能力があるじゃないですか! デジたんはウマ娘ちゃんには手を出さない主義ですし、“覇王海賊団”のツートップは揺るぎないですよ!!」

 

 明言はせずとも、2人の会話のニュアンスからデジタルが3段階目を迎えているらしきことを理解し、フクキタルはこの日一番驚いたのであった。

 

 

〇〇〇〇

 

 

「いや~、本当にありがとうございました! お二方のおかげで、とても有意義な時間を過ごせました!! やはりシラオキ様のお導きは偉大ですね!!」

 

「私の方こそ、本当にお世話になりましたぁ。デジタルさんの居場所を占ってくれたのみならず、探し人の方も占ってくださって⋯⋯」

 

「いえいえ、大したことはしておりません。私の占いでは大まかな場所しか分からないので、本当にちょっと手助けをしたくらいです」

 

 本格化の説明を聞き終え、フクキタルはその礼にと、デジタルの持っていた海図を借り、“クジクジの実”の能力でドトウ達の探し人の居る場所にざっくりとした印をつけた。とはいえ、占いで示した場所は何もない海のど真ん中で、これで手助けになったのかと不安になっていたのだが、ドトウとデジタルは思いのほか喜んでくれた。

 

 フクキタルが印をつけた海図をじっと眺めていたドトウは、ぱっと顔を上げてフクキタルの顔を見つめる。それまでのどこかおどおどした態度からは考えられないほどまっすぐに視線を合わされ、フクキタルは思わずドキリとする。

 

「あの⋯⋯フクキタルさん、もしよろしければ、私たちの船⋯⋯“覇王海賊団”の一員になりませんか? 船員は皆ウマ娘ですし、きっとオペラオーさんも歓迎してくださると思うんです」

 

 思いもよらない提案に、目を丸くするフクキタル。しかし、それが冗談ではないことは、ドトウの目を見ればはっきりと分かった。

 

 だからこそ、フクキタルもまたまっすぐにドトウを見つめ返し、真剣な表情で答えた。

 

「いえ⋯⋯お言葉は嬉しいですが、お断りしておきます。何故なら、私は既にルフィさんに付いていくと決めましたので!! ルフィさんは、きっと海賊王になるお方!! そんなルフィさんに付いていけば、大大大吉間違いなしなんです!!」

 

「そうですか⋯⋯。それは残念です。⋯⋯ただ、一つだけ言わせてください。海賊王になるのは、オペラオーさんです」

 

 お互いに譲れない主張がある。しかし、だからと言って、この短時間で培った友情が崩れるわけではなく、フクキタルとドトウは、最後に握手を交わし、そして別れを告げた。

 

「ではまた、いつかお会いいたしましょう!! シラオキ様のご加護があらんことを!!」

 

「次に会う時は敵同士かもしれませんが⋯⋯今日の御恩は忘れません。また、どこかで会いましょう」

 

「フクキタルさん!! 私次に会う時までにフクキタルさんを主役にした本を書き上げてみせますよぉぉ!!」

 

 見知らぬ土地で偶然出会った、ウマ娘。フクキタルは、この偶然に感謝しながら手を振り、そして待たせているであろう仲間たちの下へと急ぐ。

 

 そんなフクキタルの背を見送りながら、ドトウとデジタルの2人はポツリと声を漏らした。

 

「あーあ、ふられちゃいましたねぇ⋯⋯。デジたんの目の保養がまた一人増えるかと思いましたのに⋯⋯。それに、この能力。確かにざっくりとした位置しか分かりませんが、これだけ範囲が絞られれば、デジたんなら特定可能です。この付近には、確か海軍の駐屯地があったはず。既に海軍に捕まっていたんですねぇ⋯⋯。どうりで目撃情報が少ないはずです」

 

「残念ですが、仕方ないですねぇ⋯⋯。とりあえず、私たちも急ぎましょう。ウマ娘研究の第一人者⋯⋯アグネスタキオン博士を仲間に加えるために」

 

 ドトウがポケットから取り出した写真に写るのは、白衣を纏い、不敵に笑うウマ娘の姿。目的地を定めた2人は、先程のフクキタルの倍以上の速さでその場を去っていったのであった。

 



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スパイダーズカフェに8時

ちょっと間空いちゃいました。本来昨日投稿予定でしたが、紅の豚見てたら時間たっちゃいましたね。

予定通りなら明日も投稿しますので、よろしくお願いします。


「“火拳”!!!」

 

 ドトウと別れ、メリー号にて無事ルフィ達とも合流出来たフクキタル。次の目的地は、反乱軍の町“ユバ”。反乱軍を説得し、反乱を止めるため、先を急ぐルフィ達を見送るように、ルフィの兄であり、“白ひげ海賊団”の二番隊隊長であるエースは、“メラメラの実”の能力により、バロックワークスの船5隻を一瞬にして沈めるのであった。

 

「来いよ“高み”へ。ルフィ!!!」

 

 くいっと帽子を指で押し上げ、ニヒルな笑みを浮かべるエース。そんな彼に対する麦わらの一味の反応はさまざまであった。

 

「ウソよ⋯⋯ウソ!! あんな常識人が、ルフィのお兄さんなわけないわ!!」

 

「弟思いのイイ奴だ⋯⋯!!」

 

「でも、なんかフクのこと二度見してたよな⋯⋯? お前、面識あったのか?」

 

「いえいえ全く!! あんな強い人がお知り合いに居たら絶対忘れませんよ!! ⋯⋯ただ、なんだか懐かしい感じはしました」

 

「え? じゃあやっぱり会ったことあるんじゃねえか?」

 

「どうなんでしょう⋯⋯? 私、小さい頃の記憶が曖昧でして、その時にもしかして会っていたのかも⋯⋯?」

 

 むむむ⋯⋯と考え込むフクキタルであったが、この時はエースに感じた謎の懐かしさの正体を思い出すことはなかったのであった。

 

 

〇〇〇〇

 

 ルフィ達がユバへと向かっているちょうどその頃。バロックワークスのオフィサーエージェント達は、作戦の決行に向け、スパイダーズカフェへと集結し始めていた。

 

「ハイハイハイハイメリクリメリクリ!! あー疲れた!! 長旅っ!! 疲れた!! 腰っ!! 痛っ!! まったくお前のせいさMr.4! 腰にくるんだよお前のトロさは!! この“バッ”!!」

 

「えっ。ご~め~ん~ね~」

 

 まず最初にスパイダーズカフェへとやって来たのは、ミス・メリークリスマスとMr.4のコンビだ。やたらと言葉を縮めたがるミス・メリークリスマスと、喋りも動きもゆっくりなMr.4のコンビはかなり対照的だが、これでも戦闘時のコンビネーションは抜群である。

 

「フフフフ⋯⋯。お久しぶりね二人とも。今日はあなた達(・・・・)の貸し切りよ」

 

 そんな2人を迎えるのは、このスパイダーズカフェの店主、ポーラだ。席についた2人に、手際よく飲み物を淹れ、差し出す。それを一気に飲み干したミス・メリークリスマスは、きょろききょろと店内を見渡し始めた。

 

「ん? なんだいおめー、この店は変テコな歌をかけるようになったね」

 

「歌? いいえ、今かけているのは独奏曲(ソナタ)。歌はなくってよ?」

 

 ミス・メリークリスマスが聞いた変テコな歌とは一体何か。その疑問に答えるような大きな声が、店の外から徐々に近づいてくる。

 

「アン、ドゥ、オラァ~♪ アン、ドゥ、クラァ~♪ 所詮~んこの世は~男と女~♪ しかし~オカマは~男で~女~♪ だ~か~ら~⋯⋯最強!! 最強!! オカマウェ~イ♪」

 

「いいよ! はい、ラストはビブラート!!」

 

「オ~カ~マ~ウェ~~~~~イ♪」

 

 奇妙な歌に無駄にビブラートを効かせ、バァンと勢いよくドアを開けて店内に入ってきたのは、Mr.2⋯⋯フィーネ・ダカーポとミス・ボンクレー。ルフィ達がアラバスタに来る途中で出会った二人組である。

 

「「ごきげんようっ!」」

 

 二人揃ってポーズを決めながら、店内に居る全員に挨拶する2人。その息はぴったりであった。

 

「あなた達、もう少し静かに入店できないの? ばかじゃない?」

 

「がっはっはっは!! ばかじゃないわっ!! ポーラ。何故ならあちしはオカマだからよ!!」

 

「ああ、それは難しい相談だね。ポーラ。何故なら、君という美しい花の前では愛を歌わずにはいられないから!!」

 

「うっせーなお前ら!!腰にひびくから騒ぐんじゃねーやね」

 

 Mr.4に腰をマッサージしてもらっているミス・メリークリスマスが注意するも、ダカーポとボンクレーは喋るのを止めなかった。

 

「あっそうそう。そういえば今回はMr.1のペアまで動くらしいのよ。何だかんだであちし会ったことないから楽しみなのよーう!!」

 

「俺も楽しみだ。最も、男の方には興味ないけれどね。ミス・ダブルフィンガーはどんな華麗な花なのだろうか⋯⋯」

 

「ふふっ。あなた達はホントぶれないわね」

 

 そんな他愛もない会話を続けているうちに、待ち合わせ時間の8時が迫ろうとしていた。しかしながら、一向にMr.1のペアはやってこない。

 

「あー夜がふける。もうすぐ約束の8時よう!? あーひま。あちし回っていようかしら。回ってることにするわ、あちし!」

 

「ダンスならお相手するよ、ボン。一緒に回ろう!!」

 

「目障りだからやめろっつーの!!」

 

 相変わらず騒々しいMr.2ペアに対し、ミス・メリークリスマスの怒号が飛ぶ。そんな騒がしい店内の時計がちょうど8時を指したその時、ドカァンと店の壁を破壊し、何かが飛び込んできた。

 

「お⋯⋯お前達じゃないのよう!! どうしたの!? なぜ店に飛び込んできたの!?」

 

「あ、あいつが⋯⋯」

 

 店を破壊しながら飛び込んできたのは、ダカーポとボン・クレーの部下であった。血まみれの部下は、震えながら店の外を指さす。

 

「なんだ⋯⋯。オカマコンビ。てめぇらの知り合いか? 砂漠で少々不審な動きをしていたもんでね⋯⋯。なに、死んじゃいねぇだろ」

 

 その指の先には、淡々とした口調で部下を傷つけたことを告げる男がいた。この男こそMr.1。お腹に分かりやすく“壱”と書かれている。髪型が3の形をしているMr.3といい、この組織のエージェント達は基本自分の素性を隠そうとしている気配がない。

 

「コイツラはあちしの部下よーう!!」

 

「待ってくれボン! 君が暴れたらこの店に被害が出る。これ以上ポーラの悲しむ顔は見たくないからね⋯⋯。俺がやる!!」

 

 部下を傷つけられ怒るボン・クレーは、Mr.1に蹴りかかろうとしたが、ダカーポがそれを制止する。しかし、部下を傷つけられて怒っているのはダカーポも同様だったようで、ボン・クレーの代わりにMr.1の前に出て、その肩をポンッと軽く突いた。

 

「⋯⋯これでよし。あ、そうだ。君に一つ訂正しておくよ。俺はオカマじゃない。強いて言うなら⋯⋯男形(おとこがた)、舞台役者だ」

 

「⋯⋯てめぇ、馬鹿にしてるのか?」

 

 ダカーポは、言いたいだけ言うと、Mr.1に背を向けて再び椅子に座る。まるで自分のことを相手にもしていないようなその態度に、Mr.1は青筋を立てて反撃しようとする。

 

「⋯⋯てめぇ、馬鹿にしてるのか?」

 

 しかしながら、その口からは先程と同じセリフが出るだけで、身体が思うように動かない。先程軽く触れられた時に何かされた(・・・・・)のだと気が付いたMr.1であったが、今のMr.1はただただ突っ立って同じセリフを繰り返すことしかできなかった。

 

「⋯⋯Mr.2。能力を解除してくれる? 今8時。揃うべきエージェントは揃ったわ」

 

「⋯⋯おや? その口ぶり。まさかポーラ! 君がミス・ダブルフィンガーなのかい? どうりで美しいわけだ!! 美しい花の頼みとあれば、断る理由はないね」

 

 そう言うと、ダカーポはパン! と顔の横で手を叩いた。その瞬間動けるようになったMr.1は殺意を剥き出しにしてダカーポに迫ろうとするが、ポーラ⋯⋯いや、ミス・ダブルフィンガーがその間に入って止めた。

 

「Mr.1。さっきも言ったけれどもう時間よ。ここで身内同士で争っている暇はないわ。⋯⋯ここから夢の町『レインベース』へ向かうのよ。私たちが今まで顔も知らずに“社長(ボス)”と呼んでいた男が⋯⋯その町で待っている」

 

 こうして、約束の時間を迎えたことで、オフィサーエージェント達は全員でレインベースへと向かう。⋯⋯作戦決行の時は近い。

 




オリジナルキャラの能力チラ見せ回。

次回はユバ到着。新たなウマ娘も登場予定です。


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砂嵐が舞う町での再会

カプリコーン杯、魔改造ライスを無事短距離Sに出来ました。これでチーム短距離RRIが組めますね!!


反乱を止めるため、反乱軍の町“ユバ”へと向かうルフィ達一向。道中でクンフージュゴンを弟子にしたり、鳥に荷物を奪われたり、ルフィがサボテンを食べて幻覚を見たりと様々なトラブルがあったが、何とか目的地まであと一歩というところまで迫っていた。

 

 ちなみに、この道中で助けた女好きのラクダ、“マツゲ”(ナミ命名)はフクキタルも背中に乗せたがっていたが、常人よりスタミナの多いウマ娘であるフクキタルは遠慮して自力で歩いている。

 

「あそこ!! 明かりが見える!?」

 

「うーん、砂が舞っててよくわかんねぇや⋯⋯」

 

 ルフィはビビが指さす方向を見てみるも、砂のせいではっきりと見えない。それに、視界はどんどん悪くなっていき、地響きと共に“ユバ”を襲っている災害の正体が明らかになった。

 

「町の様子がおかしい⋯⋯! “ユバ”の町が、砂嵐に襲われている!!」

 

 砂嵐が“ユバ”の町を襲ったのは、遠目で見るとわずかな時間であった。しかしながら、ルフィ達を待ち受けていたのは、かつてオアシスだった姿は見る影もなく、砂に埋もれ、干からびた“ユバ”であった。

 

「そんな⋯⋯!! 砂で地層が干上がったんだ。オアシスが、飲み込まれている⋯⋯」

 

「そ、そんなぁ!! それじゃあ水はどうすればいいんですかぁ!?」

 

 砂漠の旅路で喉がカラカラだったフクキタルは、期待していた水が出に入らないことに頭を抱える。そして、元のオアシスの姿を知る分、余計にショックを隠せないビビは、呆然と立ち尽くしていた。

 

「旅の人かね⋯⋯。砂漠の旅は疲れたろう。すまんな、この町は少々枯れている⋯⋯。だが、ゆっくり休んでいくといい。宿ならいくらでもある。それがこの町の自慢だからな⋯⋯」

 

 そんなビビ達に対し、シャベルで地面を掘る手を止めないまま話しかけるのは、痩せた老人であった。王女という身分を隠しておきたいビビは、顔をさっとフードで隠しつつ、先程から気になっていたことを尋ねる。

 

「あの⋯⋯この町には反乱軍がいると聞いてきたのですが⋯⋯」

 

 しかし、ビビが“反乱軍”という言葉を口にしたとたん、先程までの優し気な態度を一変させ、老人は目を吊り上げて怒鳴りだした。

 

「反乱軍だと⋯⋯!! 貴様らまさか、反乱軍に入りたいなんて輩じゃあるまいな!! ⋯⋯あのバカ共なら、もうこの町にはいないぞ⋯⋯!!」

 

「「「「な、なんだと~!!?」」」

 

「そ、そんな!!」

 

「び、ビビさんどうしましょう!! 反乱軍が居ないんじゃ、反乱を止めることも出来ませんよぉ!!」

 

 反乱を止めることが目的だったのに、その反乱軍が“ユバ”に居なくてはここまで来た意味がない。その動揺からか、フクキタルはついビビの名前を呼んでしまう。そして、フクキタルの口から出た“ビビ”という名前に、老人は反応し目を見開いた。

 

「ビビ⋯⋯!? 今、ビビと⋯⋯!?」

 

「おいおっさん!! ビビは王女じゃねえぞ!!」

 

「いや、言うなよ!!」

 

 老人に尋ねられてあっさりビビの正体をばらしてしまったルフィに、ゾロが砂漠でへばったウソップをハリセン代わりにしてツッコミを入れる。しかし、老人はそんな2人のことは目に入っていない様子で、ビビを見て目を潤ませていた。

 

「ビビちゃん! 生きてたんだなよかった⋯⋯! 私だよ!! 分からないか!? ⋯⋯無理もないか。少しやせらからな」

 

 ビビの肩を掴み、間近でビビの顔を見つめる老人。その老人の顔に、ビビは懐かしい人物の面影を見た。

 

「まさか、トトおじさん⋯⋯?」

 

「ああ、そうさ⋯⋯」

 

「そんな⋯⋯!!」

 

ビビが知るトトおじさんは、どちらかと言えばふくよかな体系をしていたのだ。それが、今では風が吹けば飛ばされそうな程やせ細っている。その残酷な変化に、ビビはショックを受けて口元を押さえる。

 

「私はね⋯⋯ビビちゃん!! 国王様を信じてるよ⋯⋯!! あの人は決して国を裏切るような人じゃない⋯⋯!! 何度もねェ⋯⋯何度も、止めたんだ!! だが何を言っても無駄だ⋯⋯。反乱は止まらない。あいつらは次の攻撃で決着をつけるハラさ。もう追い詰められているんだ⋯⋯!! 死ぬ気なんだ!! 頼むビビちゃん、あの反乱軍(バカども)を止めてくれ!! もう君しかいないんだ!!」

 

 涙を流しながら地面に蹲るトトおじさんからは、切実な思いを感じられた。そんなトトおじさんに、ビビはすっと布を手渡し、笑顔でこう言った。

 

「トトおじさん、心配しないで。反乱はきっと止めるから!!」

 

「ああ、ありがとう⋯⋯」

 

 トトおじさんは、受け取った布をぎゅっと胸のあたりで握りしめ、噛みしめるように礼を言う。そんな2人の様子を見て、改めてこの国に起ころうとしている惨状の深刻さを実感したルフィ達の表情は、自然と引き締まっていた。

 

「⋯⋯そうだ、ビビちゃん。さっきはああ言ったけれどね。あいつらに付いていかずに残ってくれた子も居るんだ。ビビちゃんも知ってる子さ」

 

「私が知っている子? それって⋯⋯」

 

「おーい、トトおじさーん!! こっちはだいぶ掘り進んだよっ☆」

 

 先程よりもいくらか落ち着いたトトおじさんから、知り合いが居ると告げられ、首をかしげるビビ。そんなビビの疑問に答えるようなタイミングで、こちらへと駆けてくる影があった。

 

「あ、あの耳は⋯⋯まさか、ウマ娘!?」

 

 そして、ぴょこぴょこ揺れる耳に敏感に反応したのは、同じウマ娘であるフクキタルだ。それを聞いてますます首を傾げるのはビビだ。少なくとも、ビビはウマ娘をちゃんと見たのは、フクキタルが初めてだった。

 

 しかし、顔が分かるくらいの距離までそのウマ娘が近づいてくると、ビビはその子の名前がようやくわかったのであった。

 

「え、もしかして⋯⋯あなた、ファル子? ファル子なの!?」

 

「大当たり~☆ そういえば、ファル子がウマ娘だってこと、ビビちゃんには言ってなかったっけ!」

 

 ビビに名前を当てられ、笑顔を浮かべて腕で大きく丸を作るポーズをきめるウマ娘、その名はスマートファルコン。通称ファル子。

 

 ビビが幼いころの記憶を掘り返すと、そういえばファル子はいつも布で頭を覆っていた気がする。その理由など当時は深く考えたことはなかったが、まさかウマ娘だったとは驚きだった。

 

「ファル子がウマ娘だったなんてびっくりした⋯⋯。あなたは、反乱軍には加わらなかったの?」

 

「えへへ⋯⋯。あの頃はウマ娘って知られて変に仲間外れになるのが嫌だったから隠してたんだ。それと、ファル子が反乱軍に加わらなかった理由は⋯⋯戦いなんてしたくなかったから。ファル子は戦いなんかより、歌の方が好き。だから、トトおじさんと一緒にコーザを説得したんだけれど、あいつ頑固だから全然聞いてくれないの! 酷いよね!!」

 

「ふふっ。ファル子は全然変わらないね⋯⋯」

 

 ぷりぷりと頬を膨らませて起こるファル子の姿を見て、ビビはコーザやファル子たちと共に“砂砂団”として一緒に居た時のことを思い出し、懐かしくて笑みがこぼれた。

 

「後ろに居るのは、ビビちゃんのおともだち? え、ウマ娘もいるじゃん!? ねえねえ、ファル子と一緒に歌手目指さない?」

 

「ええ!? わ、私は歌はそんなに⋯⋯。占いくらいしかできないですし⋯⋯。お言葉は大変ありがたいですが、ごめんなさい!!」

 

「ありゃりゃ、振られちゃった☆ ⋯⋯まあいっか! とりあえず、宿に案内するね。その感じじゃ、皆疲れているみたいだし! それじゃ、ファル子のあとに付いてきて~☆」

 

「⋯⋯ウマ娘ってのはこういう元気な奴しかいねぇのか?」

 

 ルンルンとスキップで駆けだすファル子の背中を見て、既にフクキタル以外にバクシンオーというウマ娘に会っているゾロからはそんな呟きが漏れる。フクキタルはゾロの言葉を否定しようとしたが、ドトウとデジタルを思い出しても特に反論の言葉も見つからなかったので、何も言わずにそそくさとファル子を追いかけることにしたのであった。

 




砂→ダート→ファル子という安直な連想ゲーム。

ファル子はアラバスタの臨時加入枠という形でこれからの道中も同行する予定です。


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ビビの涙

今日は父親の誕生日なので最新話投稿します。


 宿屋で一夜を明かしたルフィ達は、反乱軍が向かったという“カトレア”を目指し、早朝から出立の準備を始める。

 

 そんなルフィ達を見送りに来たトトおじさんは、ルフィに小さな樽に入った水を手渡した。

 

「うわっ、水じゃん! 出たのか!?」

 

「ああ、昨夜君が掘りながら眠ってくれた直後にね。ファルコンちゃんも手伝ってくれたおかげで湿った地層まで辿り着いたんだ。なんとかそいつを調整して水を絞り出した」

 

「おおーっ! なんか難しいけれどありがとう。大切に飲むよ!!」

 

「あれ、そういえばそのファルコンさんは今どこにいるんですか?」

 

 そう言ってキョロキョロとあたりを見渡すフクキタル。その視界の端の方から、何やら荷物を背負ったファル子が駆け足でやってきた。

 

「ビビちゃん、ちょっと待って! ファル子も一緒に行くよ!!」

 

「え!? そんな、危険よ。反乱軍は私たちで何とかするから、ファル子はトトおじさんと一緒に居てあげて」

 

「もー、そんなこと言わないでよ! この国のことが心配なのは、ファル子だって同じ気持ち。それに、お友達のビビちゃんが頑張っているんだもん。ファル子だって何か手伝いたいの!!」

 

「ビビちゃんも、仲間は一人でも多い方がいいだろう? 私は一人でも大丈夫だから、連れて行ってあげてくれ」

 

「⋯⋯うん、わかった。よろしくね、ファル子」

 

 ビビは、少しためらう様子を見せたものの、ファル子の協力を受け入れ、笑顔で握手を交わす。ファル子が臨時加入した一同は、トトおじさんに手を振り、目的地へと出発したのであった。

 

〇〇〇〇

 

 

「ねえねえ、そういえばまだ名前聞いてなかったよね、教えてよ!」

 

「そういえばそうでしたねぇ。私の名前はマチカネフクキタル、占い師です。以後お見知りおきを!!」

 

 カトレアへと向かう道中。同じウマ娘ということもあり、ラクダのマツゲには乗らずに、自然と隣り合って歩いていたファル子とフクキタルは、早速和気あいあいとお喋りを始めていた。

 

「へ~、占い師なんだ! 凄いねー!! どんな占いができるの?」

 

「一番得意なのは、水晶を使った占いですね! あとは、“クジクジの実”の能力を使ったおみくじ占いなんかも得意です。タロット占いも、やり方は知っているのですが⋯⋯あまり得意ではないですね。あ、そうだ! 休憩の時に占ってさしあげましょうか?」

 

「ファル子でいいよ☆ うん、占ってほしいかも!! ファル子の夢のこととか、ちょっと気になるし」

 

 はんにゃか、ふんにゃかと水晶玉に手をかざすポーズをしながら占いをすることを提案したフクキタルに、ファル子も顔の横でピースサインを作りながら笑顔で答えた。そんな2人のやり取りを後ろで見ていたサンジが、「フクちゃんにファル子ちゃん、ウマ娘ちゃんが2人並んでいるのを見るのは最高に素晴らしいぜ!」などと、どこぞのウマ娘オタクが聞いたら全力で同意しそうなことを口走って目をハートにさせていた。

 

 一方、サンジが後ろで勝手に興奮していることなど知らないウマ娘2人は、まだまだお喋りが止まらない。こんな灼熱の砂漠の中でも元気なのは、流石のウマ娘のスタミナであった。

 

「ファル子さんの夢⋯⋯歌が好きとおっしゃっていましたよね。それに関係があったりするのですか?」

 

「うん! ファル子はいつか、アラバスタ王国で歌手デビューするのが夢なの! 今はこんなことになっているけれど、この反乱が収まればきっと、皆の心にもゆとりが戻ってくると思うの。そしたら皆、ファル子の歌を聞いてくれるんじゃないかな~って。だから、ファル子が付いていくって決めたのは、自分の夢をかなえるためでもあるの!!」

 

「おお、それは素晴らしい心がけですね~! 私もファル子さんの夢をじゃんじゃか応援しちゃいますよ!!」

 

 ウマ娘2人がそんな会話をしていたその時、前を歩いていたルフィが突然、木にもたれかかって座り込んだ。

 

「どうしたの? ルフィさん」

 

 ルフィの謎の行動に困惑したビビは、そう尋ねる。他の面々も足を止めてルフィを見つめる中、ルフィは唐突にとんでもないことを言い出した。

 

「んん⋯⋯やめた」

 

「やめたって⋯⋯ルフィさん、どういうこと!?」

 

「おいルフィ、こんなとこでお前の気まぐれにつきあっている暇はねぇんだぞ!! さァ立て!!」

 

 反乱を止めるために急がねばならないというのに、座ったまま動こうとしないルフィに対し、サンジは声を荒げる。しかし、ルフィは動こうとはせず、どこか余裕のない表情を浮かべるビビの顔をまっすぐに見つめていた。

 

「なぁビビ。おれはクロコダイルをぶっ飛ばしてぇんだよ。反乱をしている奴らを止めたらよ⋯⋯クロコダイルは止まるのか? お前はこの戦いで、誰も死ななきゃいいって思ってるんだ。⋯⋯甘いんじゃねえのか」

 

「⋯⋯! 何がいけないの!? 人が死ななきゃいいと思って何が悪いの!?」

 

「人は死ぬぞ」

 

 いつになく冷静な口調でそう諭したルフィに、感情を乱されたビビは思わずその頬を叩いていた。そしてそのまま、2人は殴り合いを交えた激しい口論を始めてしまった。

 

「ちょ、お2人ともやりすぎですよぉ!? 早く止めないと⋯⋯!」

 

「待って、フクちゃん。⋯⋯ファル子、船長さんの言っていること少しわかるんだ。だから、ここは2人のことを見守ろう?」

 

 慌てて仲裁に入ろうとしたフクキタルを止めたファル子は、ビビとルフィの様子を真剣な表情で見つめていた。

 

「お前なんかの命一個で賭け足りるもんか!!」

 

「じゃあ一体何を賭けたらいいのよ!! 他に賭けられるものなんて私何も⋯⋯!!」

 

「おれ達の命くらい一緒に賭けてみろ!! 仲間だろうが!!!」

 

 ルフィのその言葉に、ビビの目からは思わず涙がこぼれる。これまで国を思い、イガラムが犠牲になった時や、枯れ果てたユバを見た時でさえ泣かなかったビビが、初めて見せた涙であった。

 

「⋯⋯フクちゃんの船長さんは凄いね。ファル子が言えなかったこと、全部言っちゃった」

 

「⋯⋯はい。私たちの自慢の船長です!!」

 

 ビビの見せた涙に、昔からビビを知るファル子もまたもらい泣きしていた。そして、ルフィのことを褒められたフクキタルは、誇らしい気持ちで胸を張る。

 

「教えろよ。クロコダイルの居場所!!」

 

 ビビの涙を見て、その悔しさを改めて感じ取った一味の心は決まった。ルフィは、まっすぐ前を見据え、ビビに力強く尋ねるのであった。

 




次回、レインベース到着です。


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こちらクソレストラン

ちょっと間空いちゃいましたね。今日は余裕があればもう1話投稿したいと思います。


「こうみょうなわなだ」

 

「ああ、しょうがなかった」

 

「どうするんですか~!! 私達閉じ込められてしまいましたよぉぉぉ!!?」

 

 檻の中で頭を抱えて絶叫するフクキタル。檻の中には、他にもルフィやウソップ、ナミとゾロに加えて、何故か海軍のスモーカーもいる。

 

 何故このような状況にあるのか。それは、レインベースに到着したルフィ達が、スモーカーと再び遭遇したことが始まりであった。

 

 スモーカーから逃げるために、3手に別れたルフィ達は、逃げ込むようにしてそのままクロコダイルの経営するカジノ、“レインディナーズ”へと駆け込んだ。

 

 そんなルフィ達をVIPルームへと誘導するスタッフに従い、その途中の『海賊』と書かれた看板の方へと進んだ結果、落とし穴に落ち、そして今、仲良く檻の中に閉じ込められてしまったのであった。

 

「この檻はおれの“十手”に仕込んであるものと同じ“海楼石(かいろうせき)”で出来てやがる。“海楼石”は海と同じエネルギーを発する石。⋯⋯じゃなきゃ、おれはとっくにこの檻から出ている。お前らを全員、2度と海へと出られねェ体にしてからな」

 

 同じように檻の中に閉じ込められているにも関わらず、敵意を剥き出しにして十手を構えるスモーカー。その敵意に反応するようにゾロも刀を構え、狭い檻の中は一気にひりついた空気へと変わる。

 

「クハハ。やめたまえ。共に死にゆく仲間同士、仲良くやればいいじゃないか⋯⋯!」

 

 そんな空気も、檻の外から投げかけられた言葉で一瞬にして変わる。全員が声のした方に顔を向けると、そこにはコートを羽織った男が椅子に座って優雅にくつろいでいた。

 

「クロコダイル⋯⋯!!」

 

 その男の顔を見たスモーカーは、険しい顔でその名前を口にする。そう、この男こそ、バロックワークスのボスでありアラバスタを乗っ取ろうとしている黒幕、“八武海”の1人、サー・クロコダイルであった。

 

「お前がクロコダイルか⋯⋯!! おいお前ェ!! 勝負しホ⋯⋯」

 

「ふんぎゃー!? ルフィさん、その檻に触っちゃダメですよぉ!!」

 

 目の前にいるのがクロコダイルだと分かったルフィは、早速飛びかかろうとするも、海楼石の檻に触れてしまい力が抜け、フクキタルが悲鳴を上げる。

 

「“麦わらのルフィ”。よくここまで辿りついたもんだ。ちゃんと消してやるからもう少し待て⋯⋯。まだ主賓が到着してねェ。今おれのパートナーに迎えにいかせたところだ」

 

 クハハ⋯⋯とそんなルフィ達の様子を見ても余裕の笑みを浮かべるクロコダイルは、優雅にワイングラスを傾けるのであった。

 

 

〇〇〇〇

 

 

「クロコダイル!!」

 

 ルフィ達が檻に掴まってしばらく時間がたち、ヒマを持てあましたルフィがサンジのマネをし始めた頃、ビビがミス・オールサンデーによって連れてこられた。

 

「ビビ!!」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

 ビビの姿を見て名前を呼ぶルフィ達。そしてそんなルフィとビビを見て、何事か考え込むスモーカー。

 

「やぁ、ようこそアラバスタの王女ビビ。⋯⋯いや、ミス・ウェンズデー。よくぞ我が社の刺客をかいくぐってここまで来たな」

 

「来るわよどこまでだって⋯⋯! あなたに死んでほしいから⋯⋯!! Mr.0!!」

 

「死ぬのはこのくだらねェ王国さ⋯⋯。ミス・ウェンズデー」

 

「⋯⋯!! お前さえこの国に来なければ、アラバスタはずっと平和でいられたんだ!! “孔雀(クジャッキー)”、“一連(ストリング)スラッシャー”!!」

 

 愛するアラバスタをくだらない国と笑われたビビは、怒りを露にクロコダイルへと攻撃を仕掛ける。

 

「⋯⋯気が済んだか、ミス・ウェンズデー。この国に住む者なら⋯⋯知ってるハズだぞ。おれの“スナスナの実”の能力くらいな⋯⋯」

 

 しかしながら、悪魔の実“自然系(ロギア)”、砂人間であるクロコダイルにはビビの攻撃は通用せず、掴まって椅子に縛り付けられてしまう。

 

「⋯⋯クソッ!」

 

「クハハ。そう睨むな。ちょうど頃合⋯⋯。パーティーの始まる時間だ。違うか? ミス・オールサンデー」

 

「ええ、7時を回ったわ」

 

「一体何を⋯⋯!!」

 

 クロコダイルを睨み付けるビビ。クロコダイルは、クハハと笑いながら、ビビに今からアラバスタで実行されようとしている作戦について語った。

 

 それは、アラバスタの王であるコブラの姿を偽り、国民を騙して反乱のうねりを大きくするというとんでもないものであった。しかも、その作戦は既に決行されており、バロックワークスの手で武器を渡される形となった反乱軍は、国王軍に対し総攻撃を仕掛けようとしているのであった。

 

「クハハハハハ!! どうだ、気に入ったかねミス・ウェンズデー。耳を澄ませばアラバスタのうねり声が聞こえてきそうだ!! ⋯⋯そして、心にみんなこう思っているのさ。おれ達がアラバスタを守るんだ⋯⋯!! アラバスタを守るんだとな!! クハハハ!!」

 

「やめて!! なんて非道いことを⋯⋯!!」

 

「ハハハ⋯⋯!! 泣かせるじゃねえか⋯⋯! 国を想う気持ちが国を滅ぼすんだ⋯⋯!!」

 

 あまりにも非道なクロコダイルの作戦に、ビビの悲痛な叫びが響く。そんなビビの声を聞いて愉快そうに笑うクロコダイルは、まさに外道としか言えなかった。

 

「⋯⋯外道って言葉はこいつにぴったりだな」

 

「そんなことシラオキ様が許しません!! 地獄に落ちますよ!!」

 

「あの野郎ォ~っ!! この檻さえなけりゃ⋯⋯!!」

 

 クロコダイルに対し、檻の中の面々も憤りを隠せない。しかし、檻の中から出れず、どうすることもできない。

 

「くっ⋯⋯!! まだ間に合う⋯⋯!! ここから東へ出て“アルバーナ”に向かえば、まだ反乱軍を止められる可能性はある⋯⋯!!」

 

 そんな中、唯一檻の外に居るビビは、椅子に体を縛り付けられた体勢から必死で縄をほどき、這ってでも動こうともがく。

 

 クロコダイルは、そんなビビを邪魔することも無く、馬鹿にしたような目で見下すと、懐から鍵を取り出して下の水槽へと落とした。

 

「クハハハ⋯⋯。反乱を止めたきゃ今すぐにここを出るべきだ。ミス・ウェンズデー。無論、こいつらを助けてやるのもお前の自由。この檻を開けてやるといい。もっとも⋯⋯ウッカリおれが鍵をこの床の下に落としちまったがな」

 

 そして、落とした鍵は、下にいる猛獣のバナナワニが食べてしまい、動揺するビビ。クロコダイルは、そんなビビに追い打ちをかけるように、さらにとんでもない事実を告げた。

 

「⋯⋯なお、この部屋はこれから1時間かけて、自動的に消滅する。罪なき100万人の国民か、未来のねェたった5人の小者海賊団か⋯⋯。救えて1つ、可能性はいずれも低いがな。まったく、一国の王女もこうなっちまうと非力なもんだな。この国は実にバカが多くて仕事しやすかった⋯⋯。若い反乱軍やユバの穴掘りジジイしかりだ」

 

「何だと!? カラカラのおっさんのことか!!」

 

 クロコダイルの言葉に反応したのはルフィだ。ここに来る途中で出会った、ユバのトトおじさん。クロコダイルの言葉は彼を指していると思われた。

 

「⋯⋯クハハ。“砂嵐”ってやつがそう何度もうまく町を襲うと思うか⋯⋯?」

 

 そして、そんなルフィの問いかけに、クロコダイルはにっと口角を上げ、掌の上に小さな砂嵐を作り出す。

 

 それだけで、ユバの町を襲う砂嵐がクロコダイルの仕業であると理解するには十分であった。

 

「殺してやる⋯⋯!!」

 

 ビビは、すっかり痩せてしまったトトおじさんの姿を思い出し、涙を浮かべてクロコダイルに武器を構えるが、それをクロコダイルへと向けることはなく、力なく肩を落としてしまう。先程の攻撃で、自分が攻撃してもクロコダイルに通用しないことを思い知らされたからだ。

 

「ビビ!! おれ達をここから出せ!! おれ達がここで死んだら、誰があいつをぶっ飛ばすんだ!!」

 

 そんなビビに、ルフィが檻の中から声をかける。ルフィの言葉にビビは顔を上げ、そしてぶっ飛ばすと言われたクロコダイルも、ピクリと反応を示した。

 

「⋯⋯自惚れるなよ。小物が⋯⋯!」

 

「お前の方が、小物だろ⋯⋯!!」

 

 クロコダイルを挑発するようなルフィの言葉に、ウソップとフクキタルはひょえー! と跳び上がるが、クロコダイル本人は特に反応を示さず、バナナワニを水槽から出し、ビビにけしかける。

 

「よし、ビビ倒せ!!」

 

「頑張ってくださいビビさーん!! 運勢は末吉!! チャンスはありますよぉ!!」

 

「いやいや無茶言うなよ!! それにフク! その運勢なんか心元ねぇな!?」

 

 檻の中からルフィ達の声援が飛ぶも、バナナワニの巨体の前ではビビだけではどうしようもなく、逃げ回るので精一杯だ。

 

『プルルルル、プルルルル』

 

 そんな絶望的な空気の中、ミス・オールサンデーの持つ電伝虫の着信音が、ルフィ達まで聞こえてくる。連絡かと思いミス・オールサンデーが電伝虫の通信を入れると、その着信を入れた2人の声もまた、ルフィ達まで聞こえてきた。

 

「もしもし、もしもし? これ通じてるのか? おれ子電伝虫使ったことねぇんだよな」

 

「大丈夫だよサンジさん! それで使い方はあってると思う!!」

 

「ファル子ちゃんがそう言うなら間違いねぇな! ホント優しいし強いし頼りになるぜ~♡」

 

「おい、さっさと用件を言え!!」

 

 なかなか用件を伝えてこない相手に痺れを切らしたクロコダイルが声を荒げると、それに反応し、通信相手⋯⋯サンジはこう答えたのであった。

 

「ああその声、聞いたことあるぜ⋯⋯。え~こちら⋯⋯クソレストラン」

 



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戦いの幕が上がる

本日2話目の投稿です。まだお読みでない方は、是非前の話を読んでからこの話をお読みください。


「“反行儀(アンチマナー)キックコース”!!!」

 

 あれから何とか助けを呼ぶために地上へと脱出したビビは、そこでサンジと合流に成功する。ビビに案内されやって来たサンジは、ルフィ達の目の前でバナナワニを一頭蹴り倒してみせた。

 

 そして、ビビに連れられて来たのは、サンジだけではない。

 

「ファル子も頑張るよー!! しゃい☆」

 

 可愛らしいかけ声と共に足を振り下ろしたファル子。しかし、その威力は決して可愛らしいものではなかった。

 

 ザパァン! という音と共に、ファル子の蹴りは床に溜まり始めていた水を斬り裂き、そしてそのままバナナワニの胴体を両断する。その威力の高さに皆絶句する中、フクキタルだけはファル子の足が一瞬黒く染まったのを確認していた。

 

「ふぁ、ファル子さん!? もしかしなくても、本格化の2段階目を既に終えているんですか!?」

 

「本格化? 詳しいことはよく知らないけれど、ファル子、こう見えて結構鍛えてるんだ☆ 歌を歌うにも体力は必要だし⋯⋯。毎日腹筋と背筋とスクワット1000回に、最近はトトおじさんのお手伝いして砂を掘っていたからね!!」

 

 キラキラとした笑顔を浮かべてピースサインをきめるファル子は、とてもじゃないがさっきの蹴りを放ったとは思えない程可愛らしい。

 

 だが、その強さはバナナワニが本能的に恐怖を感じて後ずさりを始めるほどだ。それを見たサンジとファル子は、慌てて鍵を飲み込んだというバナナワニを探すのであった。

 

 

 

「⋯⋯行け。だが、今回だけだぜ。おれがてめェらを見逃すのはな」

 

 あれから、何故かバナナワニの体内に居たMr.3に合鍵を作らせて無事脱出に成功したルフィ達。一緒に助け出したスモーカーは、ルフィ達をまた捕まえようとするのかと思いきや、何か考えることがあったのか、ルフィ達を見逃してくれた。

 

「おれ、お前きらいじゃねーなァ~!! しししし!!」

 

「さっさと行けェ!!!」

 

 スモーカーの怒号を背に、ルフィ達は走り出す。途中でヒッコシクラブという巨大なカニを連れてきたチョッパーと合流し、反乱を止めるべく『アルバーナ』へと急ぐ。

 

「よーし、行くぞーっ!! 出発!!」

 

 チョッパーがヒッコシクラブの手綱を引く。その瞬間、遠くから飛んできたかぎ爪が、ビビを捕らえて引っ張っていこうとする。

 

「ビビ!! あいつだ!! この⋯⋯!!」

 

 そのかぎ爪を見てそれがクロコダイルであると確信したルフィは、ビビの代わりにクロコダイルのかぎ爪へと掴まった。

 

「お前ら先に行け!! おれ1人でいい!! ちゃんと送り届けろよ!! ビビを宮殿までちゃんと!!!」

 

「ルフィさんっ!!!」

 

 敵はおそらく、クロコダイルとミス・オールサンデーの2人。ルフィの身を案じたビビは身を乗り出してルフィの名を呼ぶ。

 

 しかし、ルフィはにっと笑みを浮かべており、相手が八武海であることなど恐れてはいない様子であった。

 

「大丈夫よビビ!! あいつなら大丈夫!!」

 

「はい!! ルフィさんにはシラオキ様の加護が付いていますので、あんな砂ワニさんに負けるはずありません!!」

 

 ルフィに絶対の信頼を寄せているナミとフクキタルは、ルフィの勝利を疑っていない。そして、ゾロやサンジ、ウソップもまた、その思いは一緒であった。

 

「いいかビビ。クロコダイルはあいつが抑える。“国王軍”と“反乱軍”がぶつかればこの国は消える!! それを止められる唯一の希望がお前なら、何が何でも生き延びろ!! この先ここにいるおれ達の中の⋯⋯誰がどうなってもだ⋯⋯!!」

 

「ビビちゃん⋯⋯コイツは君が仕掛けた戦いだぞ。ただし⋯⋯もう1人で戦ってるなんて思うな」

 

「び、ビビビビ!! 心配、スンパイすんなよ!! オレガツ、ガッツいて⋯⋯」

 

 そんな仲間達の言葉を受けて、ビビもまた、ルフィを信じることを決めた。

 

「ルフィさん!! 『アルバーナ』で、待ってるから!!!」

 

「おォオ!!!!」

 

 ビビの声に、ルフィも大声で応える。そして、クロコダイルの相手をルフィに任せ、ビビ達は『アルバーナ』へと急ぐのであった。

 

 

〇〇〇〇

 

 

 途中ヒッコシクラブのハサミ(ナミ命名)が川を渡れないトラブルがあったものの、勝手にルフィの弟子になっていたクンフージュゴンの助けもあり、無事川を越えることに成功した。──制限時間は、あと3時間。

 

「順調に来てるぞ。間に合いそうか?」

 

「難しいわ。マツゲくんに乗っても間に合うかどうか⋯⋯!!」

 

「うーん、私とファル子さんの足なら間に合いそうですが、背負うにしても1人が限界ですからねぇ⋯⋯」

 

 ここまで来れば、あとは時間との勝負。フクキタルとファル子は何とか両肩に2人ずつ乗せることは出来ないかと色々イメージトレーニングをしたりしたが、それをせずに済む救世主がやって来てくれた。

 

「クエ~~ッ!!」

 

「カルー!! それに「超カルガモ部隊」!! 来てくれたのね!!」

 

 そこに現れたのは、ナノハナで1度別れ、王宮へとビビがバロックワークスに潜入して分かったことを伝えてくれていた、カルーであった。しかも、仲間の超カルガモまで一緒に引き連れてきてくれている。

 

「ただこれ、1人乗れないですね⋯⋯。私が走りましょうか?」

 

「ううん、ファル子が走るよ! ファル子の方が、砂の上を走るのには慣れてるし☆」

 

 そして、その言葉通り、ファル子はアラバスタ最速と呼ばれる超カルガモの走りにも、余裕で併走することが出来ていた。この速度ならば、十分に間に合う。目的地、『アルバーナ』まではあともう少しであった。

 

 

──制限時間まで、残り約1時間。レインベースの方角からアルバーナへと入る位置にある西門では、バロックワークスのオフィサーエージェント達が、ビビを始末するためにその到着を待ち構えていた。

 

「オイオイオイオイ!! それ大丈夫かい!? やれ大丈夫かい!? 本当に来るんだろうね、王女と海賊共は。これじゃ先に反乱軍が到着しちまうよっ!!」

 

「⋯⋯間に合わないってケースも十分あるのよ。何しろ『レインベース』で彼らは大幅に時間をロスしてるんですもの」

 

「じゃあ、反乱が先に始まっちゃっタラバ、あちし達はドゥーすればいいのう!?」

 

「どうもしなくてもいいさ、ボン。俺達はただ舞台に上がってきた花々を手折るだけ⋯⋯!」

 

「⋯⋯消せと言われたヤツを、おれ達は消せばいいんだ⋯⋯!!」

 

 オフィサーエージェント達は、流石というべきかどこか余裕すら窺える態度である。そして、ずっと双眼鏡を覗いていたMr.4は、ゆっくりとした喋り口調で、待ち構えていたその瞬間が訪れたことを告げた。

 

「きぃ~て~る~ぞぉ~」

 

 その報告を受け、Mr.4が指し示す方向を見たオフィサーエージェント達は、目を見開く。その中でもリアクションが無駄に大きいボン・クレーは、声を出して驚いていた。

 

「んげげ!! あいつら全員同じマントを!! オノレ、これじゃあどいつが王女なんだか⋯⋯“あやふや”じゃないのようっ!!」

 

 視線の先に居るのは、超カルガモに跨がった6人の人影。その誰もが顔を隠すようにマントを羽織っており、真っ先に始末するべきであるビビの見分けがつかない。

 

 その6人を乗せた超カルガモは、Mr.4の放った爆弾をよけ、それぞれちりぢりの方向へと駆け出していく。そして、それを追いかけるようにして、オフィサーエージェント達もまたバラバラの方向へと駆け出した。

 

「⋯⋯ありがとう、皆。急がなきゃ、反乱はすぐそこまで来てる」

 

 そして、その様子を遠くから見守っていたビビは、オフィサーエージェント達が居なくなったのを確認し、西門へと向かう。ビビを乗せているのはカルー。そしてその隣には、ふんすっとやる気満々で両手を握り締めるウマ娘が1人。

 

「やろうね、ビビちゃん。一緒に反乱を止めよう!!」

 

「ええ、行くわよ。カルー、ファル子!!」

 

 2人と一匹は、皆の無事を祈りながらも、反乱を止めるべく先を急ぐのであった。

 

 

〇〇〇〇

 

 

「ここまで来ればもう正体を隠す意味もありませんね⋯⋯! ドンドコワッショイニホンバレ!! マントに包まれたピカピカの王女もどき⋯⋯その正体はなんとこの私、マチカネフクキタルなのでした!!! 残念ながらハズレです!!」

 

 一方その頃。ビビのふりをしてオフィサーエージェントを1人引きつけていたフクキタルは、満を持してその正体を明かしていた。

 

 しかしながら、フクキタルの目の前にいるその相手⋯⋯Mr.2、フィーネ・ダカーポには動揺した様子はなかった。

 

「ああ、知っていたよ。その可愛らしい耳と尻尾は、マントで隠しきれるものではないからね⋯⋯。俺は、君だと知っていて、あえて追いかけたんだ。俺と一緒の舞台に上がるのに、君以上に相応しい華は居ないと思ったから」

 

「⋯⋯? 何を言っているかは分かりませんが、とりあえず倒させて貰います!! “八卦発勁(はっけはっけい)”、『天脳衝(てんのうしょう)(はる)』!!」

 

 ビビとファル子の安否が気になるフクキタルは、いち早く2人の元へと駆けつけるためにも、最初から全力で向かう。ウマ娘の速度で懐に潜り込み、顎を突き上げる強烈な一撃を放つ。

 

「な⋯⋯!?」

 

 しかしながらフクキタルのその渾身の一撃は、ダカーポの腕によって軽々と止められてしまった。フクキタルの掌とダカーポの腕がぶつかり、衝撃が風を産む。その風によってダカーポの被っているシルクハットが巻き上げられ、フクキタルは驚きに目を見開いた。

 

「その耳は⋯⋯。まさか、あなたもウマ娘なんですか!?」

 

「ふふふ⋯⋯。驚いたかい? だから言ったろう? 君と俺は一緒の舞台に上がるのに相応しいと!!」

 

 シルクハットの下から現れたのは、フクキタルと同じウマ娘の証である耳。腕を一振りしてフクキタルを後方へとはね飛ばしたダカーポは、華麗にターンを決め、そしてフクキタルへと優雅に手を差し伸べた。

 

「さあ、終わらない舞台を二人きりで踊り明かそうじゃないか! 君が死ぬ、その時まで!!」

 




ついにフクキタルの戦闘パート。アラバスタ編で1番書きたかった箇所となります。おそらく決着まではあと2話ほど。じっくりしっかり戦います。


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”舞台名優の再公演”

盛り上がりを保つためにも連日投稿。はりきっていきます!


 フクキタルの掌底をダカーポはひらりと寸前のところでかわし、カウンターで肘打ちをきめる。咄嗟に腕を前に出して防御したフクキタルは、1度距離を取るために後方へと下がるが、ダカーポはすかさず距離を詰め、脚を振り上げてフクキタルを宙へと蹴り上げた。

 

「くっ⋯⋯!!」

 

 腕を交差させての防御は間に合ったが、蹴りを食らった箇所がヒリヒリと痛む。フクキタルは顔をしかめて呻き声をあげた。

 

「ふふふっ! 流石はウマ娘だね。その身体能力はやはり侮れない!」

 

「そう言うあなたもウマ娘じゃないですか!!」

 

 痛みが引いたことを確認し、フクキタルは再びダカーポへと詰め寄る。そして、ふっと一瞬腰を落とした直後、力強く地面を蹴って宙へと跳びはねた。

 

 先程同じような動きで下からの突き上げ攻撃をしていたこともあり、虚を突かれた形となったダカーポの対応が一瞬遅れる。その一瞬の隙にダカーポの真上を取ったフクキタルは、太陽の光を背に強烈な一撃を放った。

 

「太陽の光は幸福の象徴!! 早寝早起き毎日参拝!! “天照(てんしょう)参日拝(まいにちはい)”!!!」

 

「うっ⋯⋯! これは効くね⋯⋯!!」

 

 先程の蹴りの仕返しとばかりに放たれたフクキタルの踵落としは、ダカーポを仰け反らせるには十分過ぎる威力であった。

 

 そして、この一連のやり取りで、フクキタルとダカーポは、お互いの実力が拮抗していることを悟った。身体能力はほぼ互角。それならば、勝敗を分けるのは時の運と⋯⋯そして、能力の差。

 

「⋯⋯うん、やはり君を俺と同じ舞台に上げて正解だった。ウマ娘である君を倒してこそ、俺の舞台は完成する!!」

 

 拳を激しく打ち合わせながらも、ダカーポは口を動かし続ける。一方、戦いに集中しているフクキタルは、ダカーポの独白を聞き流すので精一杯であった。

 

「なあ、産まれた時から配役が決まっている舞台ほど、虚しいものはないと思わないかい?ウマ娘に産まれたその瞬間、“女”を演じ続けることを決められた。俺がこの人生という名の舞台に絶望したのは、その事を悟った時。そして、否応なしに女らしく変わっていく自らの身体を見た時だ⋯⋯!!」

 

 感情と共に、ダカーポの動きも苛烈さを増し、フクキタルは押し負けて突き飛ばされてしまう。だが、素早く立ち上がりダカーポの追撃は許さない。

 

「ウマ娘とは何とも奇妙で、俺にとっては残酷な生き物だよ。本格化の1段階目、それを終えたその日、俺は尻尾を切り落とし、仮面を被り、ただのフィーネからフィーネ・ダカーポという名の舞台役者となる道を選んだ!!」

 

「⋯⋯⋯⋯!!」

 

 尻尾を切り落としたという衝撃な言葉に、フクキタルは目を見開く。確かに、本来尻尾が生えているはずのその場所に、ウマ娘のシンボルとも呼べる尻尾は生えていなかった。

 

「君と俺とでは、舞台にかける熱が違う! 主演の座は譲らない。ウマ娘というしがらみを打ち破り、俺はさらに大きく羽ばたくのさ!!」

 

「⋯⋯あなたにも事情があるのかもしれませんが、こっちだって負けたくない理由はいっぱいあるんですよ!!」

 

 くるりと身体を捻ってダカーポが放った回し蹴りを、フクキタルはしゃがんでよける。それを見たダカーポは追撃を入れることなく1度距離を取り、それに合わせてフクキタルも体勢を整える。

 

 先程までの激しい攻防から一転、静かに見つめ合う2人。はじめより息を荒げつつも、決着の目処はまだ立たない。

 

 そんな膠着状態を打ち破ったのは、ダカーポであった。

 

「⋯⋯君との舞台は、俺の気持ちを最高に昂ぶらせてくれる。でも、物語に終わりが来るように、舞台にも幕引きの時が来る。せめてその時までは君と2人、幾夜(いくよ)でも終わらない夜を踊り明かそう⋯⋯!!」

 

 大きな身振りを交え、高らかとそう歌い上げたダカーポは、勢いよく両手を広げ、能力発動のトリガーを入れた。

 

「“舞台名優の再公演(リピート・アクター・ユー)”!!」

 

 そう声に出し、ダカーポはパァン!と顔の横で手を叩く。しかし、少し経っても何も起こらない。ダカーポが一体何をしたのか疑問に思ったフクキタルは、首を傾げてこう言った。

 

「えっと⋯⋯それ、何をしたんですか?」

 

 ⋯⋯そしてこの瞬間、フクキタルはダカーポの能力の罠にはまってしまった。

 

「えっと⋯⋯それ、何をしたんですか? えっと⋯⋯それ、何をしたんですか?」

 

 フクキタルの口から飛び出るのは、先程と全く同じ言葉。しかも首を傾げる動作までもが繰り返されている。フクキタルは慌てて止めようとするが、口は止まらず、首もずっとこてんこてんと傾げる動作を繰り返すことをやめてはくれない。

 

 そして、そんな無防備な状態のフクキタルにゆっくりと近づいたダカーポは、力強く横腹を蹴り抜いた。

 

 衝撃で吹き飛ばされたフクキタルであったが、ここでようやく身体の自由がきくようになったので、咄嗟に受け身を取りダメージを抑える。しかし、防御することも許されず横腹へと与えられた一撃は重く、痛みで顔を歪ませながらフクキタルは立ち上がった。

 

「う、うぐぐ⋯⋯。今のは、あなたの悪魔の実の能力ですか?」

 

「その通り!! 今のは俺の悪魔の実、“リピリピの実”の能力!! 俺は、触れたものの動きを、任意のタイミングで固定、反復させることができる反復人間なのさ!!」

 

「⋯⋯それ、私に言ってよかったんですか? 能力は秘密にしておいた方がいいのでは?」

 

「こっちの方が舞台は盛り上がるだろう!? それに⋯⋯能力をバラしたところで、君にはもうどうすることも出来ないのだからね!! さあ、“再公演(アンコール)”だ!!」

 

「ふんぎゃあああ!? またですかぁぁ!?」

 

 ダカーポは再び手を打ち鳴らし、フクキタルは今度はふんぎゃろぉと驚愕した表情と叫びを繰り返す羽目になる。そしてまたしても、動けないフクキタルへダカーポが蹴りを放ち、フクキタルは吹き飛ばされる。

 

「ぐはっ!? あ、あれをなんとかしないとこのままじゃやられてしまいます⋯⋯。そ、そうだ!!」

 

 ぴこーんと閃いて耳を立てたフクキタルは、腰を低く落とし、地面を踏みしめる。そして浮かび上がった八角形の陣は、フクキタルの能力発動の印であった。

 

「当たるも八卦(はっけ)、当たらぬも八卦、“八卦”よ~い⋯⋯」

 

「何をするつもりか知らないが、好きにはさせない! “再公演(アンコール)”!!」

 

「のこった!! そちらの方角は吉、運勢最高! つまりは福の道!! 来ます来てます来させます!!」

 

 ダカーポは能力発動のため手を叩くが、フクキタルもまた“クジクジの実”の能力を発動。幸運にもダカーポの立つ方角が吉と出たため、能力の影響を回避して動くことが出来た。

 

 動けないと油断していたダカーポは、フクキタルの猛ダッシュに対処しきれず、鋭い掌底を脇腹に喰らって吹っ飛ばされ、建物の壁にぶつかり背中を強打した。

 

「よし、これでおあいこですね!! サンキューシラオキ、またきてハッピー!!」

 

「⋯⋯成程。そう簡単に舞台を降りる気はないってことか。面白くなってきたじゃないか!!」

 

 お互いにダメージはあるものの、その瞳から闘志は消えない。悪魔の実の能力をぶつけ合う第2幕が今、始まろうとしていた。

 




次回、決着。


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菊の舞台に福来たる

この話がずっと書きたかったです。フィーネ・ダカーポ戦、決着。


「“舞台名優の再公演(リピート・アクター・ユー)”!!」

 

 ダカーポは華麗なステップを挟みながら、フクキタルが動きにくい体勢になった瞬間を見極めて顔の横で手を打ち鳴らし能力を発動、“リピリピの実”の力で強制的にその体勢と動作を反復させ、無防備になったところを容赦なく攻めていく。

 

「ぐぎぎぎぎ⋯⋯! 私も負けませんよぉ!! “八卦発勁(はっけはっけい)”!!」

 

 対するフクキタルは、“クジクジの実”の能力で運勢を操作し、時折幸運を引き当ててダカーポの攻撃をかわしては反撃を入れている。

 

 しかしながら、状況は明らかにフクキタルが劣勢。“クジクジの実”による回避は運がよくなければ発動しないため、ダカーポの能力を完全に無効化することは出来ない。それに、能力の術中にはまると回避が不可能なフクキタルに対し、ダカーポはフクキタルの反撃を回避することが出来る。

 

 フクキタルの方が受けているダメージが多いのは、外見からも明らかであった。フクキタルがいつも背負っている招き猫のバッグは肩紐が千切れて今にも落ちそうだし、服もボロボロ。それでもなお、フクキタルの瞳には闘志が燃えたぎっていた。

 

「分からないな。何故君の瞳からは闘志が消えない? 何がそうも君を奮い立たせるんだい?」

 

「皆を幸せに導くのが、占い師の務め! ここで私が倒れたら、大切な仲間の幸せが壊れてしまうから!! だから、私は⋯⋯この手で勝利と言う名の幸福を招いてみせます!!」

 

 ぐっと拳を握り締めたフクキタルの想いに応えるように、“クジクジの実”による幸運回避が発動、そのままダカーポの懐に潜り込み掌底を叩き込むことが出来た。

 

「速いっ⋯⋯!? くっ、回避は間に合わなかったか。でも、俺と君はウマ娘。このままでは舞台の幕は一向に下りないだろう。俺はそれでも構わないが、互いにそこまでのんびりしている暇はない⋯⋯。だから、ここで“奥の手”を使わせてもらおう」

 

 ダカーポは、ふぅーと息を吐いて全身の力を抜く。フクキタルは、ダカーポの言った『奥の手』という言葉と、全力で集中している様子を見て、いつでも迎え撃てる体勢で構えを取る。

 

「⋯⋯ヴィヴァーチェ、アレグロ、ラルゴ。繰り返し、加速する拳⋯⋯! “鼓動は止まらない(リピートビート)二重奏(デュオ)”!!」

 

 それは、瞬きする間も無い程の、一瞬。先程までとは比べものにならない速度で迫り来るダカーポが放った拳は、2重の衝撃を持ってフクキタルに襲いかかった。

 

「⋯⋯!?」

 

 その衝撃に耐えきれず、フクキタルは吹き飛ばされ、そして石造りの壁へと激突する。激突の衝撃で崩れた壁は、フクキタルの身体を飲み込んで砂煙を巻き上げる。

 

「俺は、“リピリピの実”の反復人間。自分の動きもまた、その能力の対象だ。一瞬の間に動作を反復させることで、速度・威力共に大幅に向上できる。⋯⋯まあ、身体への負担もその分大きいから、あまり使いたくない“奥の手”なんだけれどね」

 

 ダカーポは、瓦礫に埋もれたフクキタルを一瞥し⋯⋯そして、この戦いの幕を下ろすべく、パチンと指を鳴らした。

 

「⋯⋯さらに、俺の能力は、生物のみならず、無機物もまた対象だ。さあ、終わろうか。“舞台名優の再公演(リピート・アクター・ユー)”!!」

 

 ダカーポが指を鳴らして反復させたのは、崩壊した壁の動き。既に瓦礫の下に埋もれているフクキタルに、更なる崩壊の衝撃が襲いかかった。

 

 ダカーポは、数十回ほど瓦礫の崩壊を繰り返し、指を鳴らしてその動きを止める。先程までの豪快な瓦礫の音も止み、静寂があたりを包む。

 

 一切の容赦なくトドメを刺したダカーポは、まさに名優と呼ぶに相応しい戦いを魅せた。しかし、舞台の幕はまだ下りない。ダカーポの誤算は、フクキタルの幸運と、そして⋯⋯ウマ娘の秘めた、大いなる可能性。

 

「ぶはぁーーーっ!! し、死ぬかと思いましたよぉ!? いや、にゃーさんが居なかったら私、確実に潰れて圧死していました!!」

 

 静寂を破り、ドゴォンと音を立てて瓦礫の中から飛び出したフクキタルの両手には、潰れてぺしゃんこになってしまったフクキタルの招き猫型バッグ、にゃーさんがいた。その中に入っていた数々の幸運グッズが緩衝材となり、幸運にもフクキタルを瓦礫の山から守ってくれたのだ。

 

 そして、フクキタルが助かった原因は、それだけではない。フクキタル本人は気付いていないが、瓦礫から出てきたその瞬間、ダカーポはフクキタルの手足が黒く染まっていたのを見ていた。

 

(本格化、その2段階目を迎えたウマ娘のみが使える妙技、“体鉄(ていてつ)” ⋯⋯!! 尻尾を切り落とした俺では絶対にたどり着けないその領域に、君はこの舞台の最中にたどり着いたというのか⋯⋯!?) 

 

 ダカーポは驚愕するも、それを声には出さない。本人が気付いていないならば、その力を自覚する前にもう一度“奥の手”を叩き込むまで。そう思い、再び全身の力を抜く。

 

「あ、またそれするつもりですかぁ!? 痛いから止めて欲しいところですけれど⋯⋯。たぶん、それをする間は私の動きを繰り返すことは出来ないですよね? ⋯⋯ならば、私も全力、幸運パワーフルマックスでいかせて貰います!!」

 

 フクキタルの指摘は正しい。自分に能力を使用する“奥の手”を発動するには、フクキタルに能力をかけ動きを固定する戦法は使えない。

 

「⋯⋯まあ、工夫しようはいくらでもあるよね!!」

 

 ぐっと脚に力を込めたフクキタル。その瞬間を狙い、ダカーポはパァン!と手を打ち鳴らす。確かに同時に発動は出来ないが、“奥の手”を撃ち込む直前にフクキタルにかけた能力を解除してしまえば問題ない。

 

 勝利という名の幕引きへの台本はできあがった。あとは、その台本通りに舞台の上で演じるのみ。

 

 ──そう確信していたダカーポは、舞台の上を走る漆黒の閃光を見た。

 

「⋯⋯っ!? “鼓動は止まらない(リピートビート)四重奏(カルテット)”ォ!!」

 

 気付いた時にはフクキタルがすぐ目の前まで迫ってきており、ダカーポは動揺しながらも、反射的に“奥の手”を放つ。それは、一瞬にして4度の拳を繰り返す、今のダカーポが出来る最高の技。その拳がフクキタルの肩に触れたその瞬間、ダカーポは悟った。何故、“リピリピの実”の能力を発動させたはずのフクキタルが、自分の元まで駆け寄ることが出来ているのか。

 

 フクキタルは確かに、能力にかかっていた。地面を踏みしめたその瞬間、フクキタルはもうその動作しか出来なくなっていた。しかし、その動作たった一回で、フクキタルはダカーポの元まで接近していたのだ。

 

「ふんぎゃろーーーーー!!!」

 

 フクキタルが魂の叫びと共に、両手を前へと突き出す。黒く染め上げられたその両手は、ダカーポの攻撃の威力にも負けず、全身全霊の力を込めてダカーポの腹部へと叩き込まれた。

 

「がふっ⋯⋯!!」

 

 ダカーポは口から血を吐き、膝を地面につく。フクキタルの攻撃を受けた箇所は、まるで大輪の花が咲いたかのように、くっきりと両手の痕が残っていた。

 

 ダカーポは、どこか愛おしげにその痕をさする。そして、身体を酷使して限界を迎えたのか、ぜぇぜぇと息を吐きながら仰向けに倒れるフクキタルを見て、ふっと笑みを浮かべた。

 

「ふ、ふふ⋯⋯。こんな見事な花を贈られては、舞台の幕を下ろさずにはいられない、ね。なあ、この花の名前を、俺に教えてくれないかい⋯⋯?」

 

「ぜえ、ぜえ⋯⋯。は、花の名前、ですか? いや、私も必死だったので、特に名前も考えずに全力でやっただけですが⋯⋯」

 

「⋯⋯ならば、俺がこの花の名前を贈ろう。君に贈るのは、菊の花。真っ赤な、真っ赤な、菊の、華⋯⋯」

 

 ダカーポは、そう言って、力尽きたようにどさりと前に倒れた。その横で仰向けになりながらしばらく息を整えていたフクキタルであったが、やがて息が落ち着くと、すっと立ち上がった。

 

「菊の花⋯⋯。“菊花掌(きっかしょう)”ですね。良い名前を、ありがとうございます」

 

 フクキタルは、途中で脱げてしまっていたシルクハットをダカーポの頭の上にそっと置くと、ふらふらとした足取りでその場を去って行った。

 

 

 繰り返し、繰り返し、砂の国で2人の名優によって幾度となく繰り広げられた名も無い舞台は、投げ込まれた一輪の花によって名前を得、その幕を下ろした。

 

 戦いの舞台の名は、菊。勝者の名は、フクキタル。

 

 ──菊の舞台にも、福が来た。

 




赤い菊の花言葉は、『あなたを愛します』


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ツメゲリ部隊、砂に散る

お久しぶりです。だいぶ間空いてしまいましたが、ぼちぼち更新再開していこうと思います。

ところで、グラブルのウマ娘コラボ始まりましたね。私は戦闘時のウマ娘がどのように表現されるか気になっていましたが、なんか走ってぶつかっていってる感じが割とシュールだなと思いました。

あと、ゴルシがいればだいたいなんでもいけそうですよね。おそらくこの作品もセーフだろうという認識でこれからも頑張っていきたいと思います。


フクキタルがダカーポと戦っているその頃、ビビとファル子の2人は、ボン・クレーの追跡を振り切り、ついに宮殿へと到着していた。

 

 しかし、そこに全ての元凶であるクロコダイルが、ミス・オールサンデーと共に現れたのであった。

 

「30分後⋯⋯国王軍が群がっているそこの宮殿広場に、強力な爆弾を撃ち込む手筈になっている。直径5kmを吹き飛ばす特製弾だ。ここから見える景色も一変するだろうな⋯⋯」

 

「そんなことをしたら⋯⋯!! どうしてそんな事が出来るのよ! この国の人達があなたに何をしたって言うの!?」

 

 あまりにも身勝手すぎるクロコダイルの計画に声を荒げるビビ。そして、激昂しているのはビビだけではなかった。

 

「ビビ様、私はもう我慢なりません!!」

 

「ファル子も怒ったよ! これ以上あなたの好き勝手にはさせないんだから!!」

 

 チャカとファル子は、ビビを隠すようにして前に立ち、戦闘態勢に入る。しかし、それに待ったをかける声があった。

 

「お待ちくださいチャカ様!! 我らにお任せを!!」

 

「お前達は⋯⋯!?」

 

 ミス・オールサンデーの妨害を乗り越えて宮殿に乗り込んできたのは、アラバスタの精鋭部隊、ツメゲリ部隊であった。

 

「我が名はヒョウタ!」

 

「我が名はブラーム!!」

 

「我が名はアロー!!」

 

「我が名はバレル!!」

 

「「「「我ら4人で、ツメゲリ部隊!! カタをつけさせて貰おうか!!!」」」」

 

 クロコダイルを前にして名乗りを上げたツメゲリ部隊。彼らの腕には、特徴的なアザが浮かび上がっていた。

 

「そのアザは⋯⋯! やつら、“一時の力”を得るために、命を削る水、“豪水(ごうすい)”を飲んでいる。最早数分の命、助からぬ⋯⋯!!」

 

「え。チャカさん、そういうの言っちゃっていいの!?」

 

 あっさりとツメゲリ部隊の命懸けの策を明かしてしまったチャカに対し、ファル子は素で驚いて反応する。

 

「あーあー、スマートじゃねえなぁ。命は大切にしろよ。クハハハ、勝手に死ぬんなら、俺が手を出す必要もねェよな?」

 

 そして当然と言うべきか、クロコダイルは戦うことなくツメゲリ部隊の手の届かない所へと移動する。

 

 しかし、その行動を読んで先回りしている人物が1人いた。

 

「ううん、ファル子はスマート(・・・・)ファルコン。とってもスマートでプリティなウマ娘だよ☆ しゃーい!!」

 

 ウマ娘の脚力でクロコダイルが動くと同時に跳躍していたファル子は、黒く染まった脚で蹴りを放つ。ツメゲリ部隊を完全に馬鹿にし油断していたクロコダイルは、ファル子の存在に気付かず、その蹴りを食らって地面へと落とされた。

 

「くっ⋯⋯!! こいつ、“体鉄(ていてつ)”を使えるのか!? なんで一般人のウマ娘がこの技を使えるんだ⋯⋯!!」

 

 ウマ娘の“体鉄”は、“自然系(ロギア)”の能力者の実態を捉えることも出来る。同じ八武海にその技を使える“海喰”が居るため、その事実は知っていたクロコダイルであったが、まさか海賊でもないウマ娘が“体鉄”を使えるものとは思っていなかった。

 

 完全なる不意打ち。しかもファル子の脚力も相まって思わぬダメージを喰らったクロコダイルであったが、地面に激突する前に砂に戻ってそれ以上のダメージは防いだ。

 

 しかし、地面へと落とされたことで、死を待つのみであったツメゲリ部隊にも、戦う機会が訪れる。

 

「「「「うおおおおお!!!」」」」

 

 豪水を飲んだ影響で身体から血を噴き出しながら、全力で突撃していくツメゲリ部隊。それを見たクロコダイルは、慌てずに回避する。

 

「ふん⋯⋯。そんな無茶をしたところで、弱ェ奴はどこまでいっても弱ェのさ。“砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)”!!」

 

「「「「ぐはぁッ!!」」」」

 

 クロコダイルの放った一撃で、あっさりとやられてしまったツメゲリ部隊。しかし、何もさせて貰えずに死ぬよりは遥かによかったと言えるだろう。

 

 ツメゲリ部隊を倒したクロコダイルだが、既に彼らに対する興味はなく、自分を蹴り落としたファル子の方を睨みつけていた。

 

「ミス・オールサンデー!! 奴の動きを封じろ!!」

 

「⋯⋯分かったわ」

 

 クロコダイルは、ミス・オールサンデーにファル子を拘束するよう命じ、ミス・オールサンデーはそれに応える。

 

「え!? この腕は一体何!?」

 

 クロコダイルを睨み返し、警戒態勢を整えていたファル子であったが、ミス・オールサンデーの“ハナハナの実”の能力によって手足を封じ込められてしまう。そんなファル子に向かい飛び上がり、クロコダイルは鉤爪を振りかぶった。

 

「ファル子!!」

 

 ファル子の危機に、ビビが叫び声をあげる。その声に反応し真っ先に駆けたのは、アラバスタの守護神、その一角であった。

 

「“鳴牙(なりきば)”!!」

 

 “イヌイヌの実”モデル『ジャッカル』。“動物(ゾオン)系”の能力者であるチャカがその優れた身体能力から穿つ一撃は、クロコダイルの実態こそ捉えることはなかったが、ファル子への攻撃を邪魔することはできた。

 

「ぬぎぎぎ⋯⋯! しゃいしゃいしゃーい☆」

 

 そして、チャカが稼いでくれた時間を無駄にしまいと、ファル子はつま先だけを器用に使って飛び跳ね、身体を拘束している腕を自分の身体ごと壁へとぶつける。

 

「くっ⋯⋯! なんて身体能力⋯⋯」

 

その衝撃にミス・オールサンデーの拘束は緩み、ファル子は自由に動けるようになった。

 

「ち、どいつもこいつも⋯⋯! 弱い奴らが吠えてんじゃねぇよ!!」

 

「ぐはぁッ!?」

 

「チャカ!!」

 

 クロコダイルは、苛立ち混じりにチャカの身体を鉤爪で切り裂く。血を流し倒れるチャカを見て、涙を浮かべて叫ぶビビ。そんなビビを守るようにして、ファル子はその前に立ち拳を握りしめる。

 

「ビビ!!」

 

 そんな緊迫した場にやって来たのは、反乱軍のリーダーであるコーザ。彼がこの場に来たことにより、事態はさらに大きく動き出すのであった。

 




久々の投稿がツメゲリ部隊ってどうなんだとは思わないでもない。


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砲撃手を探せ!

平日少し忙しくて投稿遅れました。皆さんアクエリアス杯は順調ですか? 私は今までで1番苦戦してます。


反乱軍のリーダーであるコーザが、クロコダイルが首謀者であることを知ったことで、反乱は止められるかと思われた。

 

 しかしながら、反乱軍と国王軍、双方にバロックワークスの社員が紛れていたことにより、反乱は止まることなく始まってしまったのであった。

 

「コーザ! しっかりしてよコーザぁぁ!! みんな⋯⋯皆もう戦わないでぇ!!」

 

 コーザと共に広場に降りて白旗を揚げていたファル子は、撃たれたコーザを涙目になりながら揺さぶる。クロコダイルが巻き起こした塵旋風(じんせんぷう)により視界も音も遮られる広場では、ファル子の悲痛な叫びは誰にも届かない。

 

 そして、宮殿からその様子を見ていたビビの声も当然届くことはなく、そんなビビに近づいたクロコダイルは、その首元を掴んで持ち上げると、残酷な言葉を投げかける。

 

「全てを救おうなんて甘っちょろいお前の考えが、結局お前の大好きな国民共を皆殺しにする結果を招いた。⋯⋯お前に国は救えない」

 

 ビビの目から、絶望の涙がこぼれ落ちる。クロコダイルはそんなビビを、無造作に宮殿から眼下の広場へと投げ落とした。

 

 常人ならば落下すれば即死する高さから落とされたビビ。しかし、そんなビビを救うべく、上空から飛翔してきたのは、アラバスタの守護神の一角、ペル。そして、その背中に乗ったルフィが、ギリギリのところでビビをキャッチした。

 

「ルフィさん⋯⋯! ペル⋯⋯! 広場の爆破までもう時間がないの!! 私の声はもう、誰にも届かない!! このままじゃ国が⋯⋯!!」

 

「心配すんな。お前の声なら⋯⋯おれ達に聞こえてる!!!」

 

 ルフィはそう言ってにっと笑みを浮かべる。そして、ルフィの“おれ達”という言葉通り、広場には既にビビの信じる仲間達が集まり始めていた。

 

「ああああ~~!! ルフィが生きてるぞぉ~~!!」

 

「だから言っただろ!! おれにはわがっでだ!!」

 

「それがわかってたって奴の顔かよ」

 

「トニー君っ! ウソップさん!! サンジさん!!」

 

 チョッパーとウソップは、ミス・メリークリスマスによってルフィが死んだと言われていたこともあり、ルフィが生きているのを見て驚きつつも喜び涙を流していた。そんなウソップを見て、サンジは呆れたような表情を浮かべる。

 

「皆ざん、ご無事だっだんでずねぇっ!! よがったですぅぅぅ!!!」

 

「おいフク、お前暴れるんじゃねぇよ!! こっちだって怪我してんだからな!!」

 

「ちょっとウソップ!! 誰が宴会の小道具作ってって頼んだのよ!!」

 

「フクちゃん、ナミさん、Mr.ブシドー!! みんな無事で⋯⋯!!」

 

 遅れてやって来たのは、フクキタルとゾロとナミの3人。フクキタルは酷い筋肉痛で歩けなくなっていたところ、ナミとゾロと合流し、ここまでゾロに背負って貰ってきていた。そしてナミはというと、天候棒(クリマ・タクト)の制作者であるウソップを思いっきりぶん殴っていた。

 

「悪ぃみんな。おれあいつにいっぺん負けちまったんだ。だからもう負けねェ! 終わりにするぞ、全部!!!」

 

『おォし!!!』

 

 ルフィの声に応えるように、一味全員が気合いを入れ直す。そんな頼れる仲間達の姿を見て、ビビは涙を拭い、再び決意を固めるのであった。

 

 

〇〇〇〇

 

 

「ふんぎゃろぉぉぉ!? あと10分でこの広場に爆弾が撃ち込まれるって、本当ですかぁ!?」

 

「そうなの!! だからその前に砲撃手を探して止めないと!!」

 

「おいおい、でもどうやって探せばいいんだよ!?」

 

 ルフィと別れたビビ達は、砲撃を止めるべく、砲撃手の居そうな場所を探すことにする。ちなみに、現在フクキタルは合流してきたファル子に背負われていた。

 

「チョッパー、あんたの鼻で見つかんないの!?」

 

「無理だよ!! 火薬の匂いは町中からするんだ」

 

「空はどう!? ペル!!」

 

「広場付近の建物の屋上はくまなく探しましたが、どこにも砲撃の用意は⋯⋯」

 

「おいフク!! こんな時こそお前の占いの出番だろ!!」

 

「そ、それがですね。クジを出すには多少体力を消耗するのですが、疲労のせいで今出せば確実に倒れてしまうので、出来ないんです⋯⋯。水晶玉も幸運グッズと一緒に潰れちゃいましたし⋯⋯。うう、不甲斐なしぃ⋯⋯!!」

 

 索敵に長けたチョッパーとペルでも見つけることは出来ず、そしてこういう時に1番役立つフクキタルの占いも、戦闘の疲労により行えず、砲撃手が見つからないまま時間だけが過ぎていく。

 

「どこなの⋯⋯!? もうあと2分半⋯⋯!!」

 

 必死に砲撃手を探すビビの声にも焦りが混じり始める。その隣でフクキタルを背負いながら走っていたファル子は、2分半という言葉を聞き時間を確かめるべく時計台の方を見、そして立ち止まった。

 

「あった⋯⋯! ビビちゃん、あそこだよ!! ほら、昔砂砂団の秘密基地だった、あの場所!!!」

 

「⋯⋯!! そうか、あそこなら、人目に付かず、場所も広いわ!! ウソップさん!!」

 

 幼いビビやコーザ、ファル子たち砂砂団が昔秘密基地に使っていた時計台。その場所こそ砲撃手が居るところに違いないと、同じ思い出を共有する2人は確信した。

 

 そして、近くに居たウソップを呼び、他の皆にも伝わるよう煙玉を撃ってもらう。

 

 砲撃まで残り僅か。ウソップからの信号を受け取り、皆が時計台へと急ぐのであった。

 




明日も投稿予定です。


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”砂のハヤブサ”

アラバスタ編もクライマックスですね。おそらくこの話を含めてあと2、3話で終わります。盛り上げていきましょう!!


「間違いない、砲撃手はあの時計台の中にいるわ!!」

 

 ビビは、ウソップからの合図を受けて集まった仲間たちに、砲撃手がいるであろう場所を告げる。

 

しかし、場所が分かっていても時計台はかなり高い位置にあり、残り僅かな時間では間に合わない。空を飛べるペルがいればすぐたどり着くことが出来るのだが、そのペルは時計台に居た砲撃手に銃で撃たれてしまい、今この場には居なかった。

 

「ビビ!! 場所は分かっても1分じゃあんなとこまで登れないわよ!!」

 

「うう⋯⋯。ファル子も階段はちょっと自信ないかも⋯⋯。流石にあの高さまでジャンプすることは出来ないし⋯⋯」

 

 ウマ娘の身体能力でも、流石に間に合わない距離にある時計台。ここに来て間に合わないのかと思われたその時、頭上からビビ達へと声がかけられる。

 

「おーい、ナミさーん♡ビビちゃーん♡フクちゃーん♡ファル子ちゃーん♡」

 

「よぉ! 探したぞお前ら!!」

 

 なんと、ウソップのメッセージを受け取ったサンジとゾロが、既に時計台を登っていたのだ。(なお、ゾロは北へ行けと言われたので上に向かっていただけで、メッセージは受け取っていなかった)

 

「ねえファル子、サンジ君が今居る場所まで、ビビを背負った状態でジャンプできる!?」

 

「なるほど☆ ナミちゃんの考えていること分かったよ! ファル子に任せて!!」

 

「頑張ってくださいファル子さん! 私は動けませんが、しっかり地上から応援していますよぉ!!」

 

 ナミからの短い指示で全て理解したファル子は、フクキタルからの応援に手を振って応え、ビビをしっかりと背負う。

 

「それじゃあ行くよ~!! やー☆」

 

 キラキラした気合いの声と共に、地面が凹む程の力強い跳躍で、ファル子は一気にサンジが居る場所まで距離を詰める。

 

「サンジ君、後は分かるでしょ!? 時間が無いの!!」

 

「⋯⋯だいたい見当はつくものの、ファル子ちゃんもナミさんも思い切ったことするなぁ。⋯⋯おし、まぁやるしかねェか!!」

 

 ナミの声を聞き、その作戦を理解したサンジも、時計台から飛び出す。そして、空中でファル子の方へと右足を差し出した。

 

「ファル子ちゃん! おれの足の上に!!」

 

「ありがとう、サンジさん!!」

 

 サンジの足の上に乗ったファル子は、サンジの足に押し出される形でさらに上へと飛ぶ。その様子を上から見ていたゾロも、作戦を理解し準備を進めていた。

 

「よし任せろ! 刀に乗れ!!」

 

「ええ!? 切れたりしない!?」

 

「バカびびんな。峰でいく。しっかり乗れ!! あと気をつけろよ。上に変なのいるぞ」

 

「⋯⋯ええ、顔なじみ」

 

 ゾロの忠告通り、時計台には砲撃手であるMr.7とミス・ファーザーズデーが砲撃の準備のために時計台を開けており、ビビとファル子がこちらへ跳んでこようとするのに気付いていた。

 

「アジャスト、“ゲロゲロ(ガン)”!!」

 

「アジャスト、“黄色い銃”!!」

 

 狙撃手ペアはビビとファル子目掛け躊躇無く銃弾を撃ち、とっさにファル子とビビを打ち上げたゾロがもろにその銃弾を喰らう。

 

「“孔雀一連(クジャッキー)スラッシャー”、“逆流(ランバック)”!!」

 

「ファル子、パーンチ☆」

 

 しかし、そのおかげで無事時計台へとたどり着いたビビとファル子は、狙撃手ペアを時計台からたたき落とすことが出来たのであった。

 

「おいおい大丈夫だろうなぁ!? あともう数秒しかねぇぞ!?」

 

「だ、大丈夫なはずです! ビビさんとファル子さんを信じましょう。⋯⋯シラオキ様も守ってくださるはずです!!」

 

 フクキタルは、砲撃を止められることを信じ、手を組んで天に祈る。ウソップにチョッパー、ナミ、そして落下してきたサンジとゾロもまた、揃って時計台を見上げ、砲撃が止まったかを心配していた。

 

 砲撃の予定時刻は過ぎた。それでも、広場は爆発していない。砲撃は無事阻止出来たのか。フクキタルがそう思いほっと胸をなで下ろしたその時、時計台から真っ青になった顔を出したビビが、衝撃の事実を告げた。

 

「大変みんな!! 「砲弾」が“時限式”なの!!! このままだと爆発しちゃう!!」

 

『な、何だとォ~!!?』

 砲弾が時限式、しかも直径5kmの破壊力があるとなれば、たとえ大砲から広場に直接撃ち込まれなくとも、結局広場も町も助からない。クロコダイルの人を嘲笑うかのようなその悪辣な策に、ビビは慟哭する。

 

「一体どこまで人をバカにすれば気がすむのよ、クロコダイル⋯⋯!!」

 

 そんなビビの隣で、ファル子は何も言わずにじっと砲弾を見つめていた。そして、そんな2人の居る時計台にやって来たのは、先程撃たれた傷跡から血を流すペルであった。

 

「懐かしいですね、砂砂団の秘密基地⋯⋯。まったく、あなたの破天荒な行動には、毎度手を焼かされっぱなしで⋯⋯」

 

「ペル⋯⋯! ペル、聞いて! 砲弾が時限式で今にも爆発しそうなの!!」

 

 ビビから状況の説明を受けたペルは、ふっと優しい笑みを浮かべ、ビビを見つめた。

 

「ビビ様私は⋯⋯あなた方ネフェルタリ家に仕えられた事を、心より誇りに思います」

 

 そう言うとペルは、ビビが止める前にハヤブサの姿へと変わり、砲弾を持ち上げ飛び上がった。ペルが何をしようとしているか悟ったビビは、必死にペルの名前を叫ぶ。

 

「ペル!!!!」

 

 しかし、ペルは止まらない。愛するアラバスタを守るため、彼はアラバスタの守護神としての最期の務めを果たそうとしていた。

 

「──もう、ペルったら、ビビが救いたい皆には、あなたもちゃんと入ってるんだよ? だから、ファル子が⋯⋯誰も死なせない!!」

 

 ペルは、聞き慣れた声が頭上から聞こえたことで、目を見開く。そこには、いつの間にかペルの背中に飛び乗っていたファル子が、笑顔でピースサインをしていた。

 

 そして、ファル子はペルの足から砲弾を無理矢理奪い取ると、ペルの背中の上に立ち、全身全霊の力を込めて、砲弾を宙へと放り投げた。

 

「しゃいしゃい、しゃーい☆」

 

 ウマ娘のフルパワーで投げられた砲弾は、ペルが飛行している高度からさらに上へともの凄いスピードで上昇していき、そしてその直後、巨大な爆発を起こす。

 

「きゃーーー!!!」

 

「何て無茶を!!!」

 

 爆発の最も近くに居たファル子とペルはその余波を受け吹き飛ばされる。ペルはとっさに翼でファル子の身体を覆うようにして包み、ファル子を爆発の衝撃から守った。

 

「ファル子ぉ!! ペルぅぅぅ!!!!」

 

 爆発で吹き飛ばされ地面へと落ちていく2人を見て、ビビが悲鳴を上げる。しかし、そんな2人を見て、既に仲間達は動き出していた。

 

「くじを出せるくらいには体力は回復しました!! お2人の落下位置はあそこです!!」

 

「ここからじゃ間に合わないわね⋯⋯! チョッパー、飛ばすわよ! “サイクロン=テンポ”!!」

 

「うおおおお!? “毛皮強化(ガードポイント)”ォォ!!」

 

 フクキタルのくじを元に落下地点を割り出したナミは、チョッパーを“天候棒(クリマ・タクト)”から出した風で飛ばし、チョッパーが“毛皮強化”で落下してくるペルとファル子を受け止めた。

 

「よかった⋯⋯。鳥の人は火傷もあって重傷だけれど、ファル子は軽傷だ。それに、2人とも生きてるぞ!!」

 

 チョッパーの言葉に、仲間達から歓声が沸き上がる。その声を聞き、時計台にいるビビもほっと胸をなで下ろした。

 

 こうして、無事犠牲者を出さず、砲撃を止めることに成功したのであった。

 



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