暗い闇が月光に照らされる夜更け、そこに途絶え途絶えに足音が二つ聞こえて来る。
「ごめんね。こんなことに付き合わせちゃって」
桜色の髪に宝石のように輝く紅と翠の二つの妖瞳が特徴な彼女は、申し訳なさそうにもう一人の『親友』にそう言った。
その親友は、足取り不確かな彼女を支えながら目的の場所へと歩いて行く。
「覚えてる?昔、ここでよく遊んだりしてたわよね〜」
気の抜ける声、いや、気どころかそのまま倒れ伏してしまいそうな弱い声色で、彼女は自身のことの歴史を振り返り始める。
「ここで二人で遊んだり、花騎士ごっこだーって遊んだりしてたかしら」
遠い日の眩しさに微笑むと共に、歩みと話は続く。
「騎士学校に入ってからも、何かあったりしたらここに来たわよね〜」
そんな彼女の声を、唇を噛み締めながら親友は聞き続ける。
「正式に花騎士になってからは、二人でコンビを組んで・・・『最強の花騎士』なんて呼ばれてたかしら、私達」
彼女の止め処めもない話を聞きながら、親友はその言葉との記憶を重ねる。
春麗らかなこの地で、私達は育った。近場には彼女しかいなかったから、仲が良くなるのは必然と言えたのだろう。気がつけば二人寄り添いあい、そうして今、ここにいる。
そんなことを考えながら進み続け、そしてついにその歩みを止める。目的地に着いたのだ。
彼女と同じ名前を冠する大木のある丘の上、そこが終着点であった。
しっかりと佇むその大木の幹に、彼女をそっと座らせる。
ゴポッ、と彼女がその口から咳まじりに喀血を吐く。
親友は彼女の背を優しくさする。
そう、彼女は病を患ったのだ。
いかに最強であろうと、人が人である限り逃れようのないモノに彼女は蝕まれた。
「私ね。いつも戦ってる時は必死だし、こうなってから気づいたことがあるの────」
彼女が声色を震わせながら言う。
「私、まだ死にたくない。死にたくないよぉ…」
彼女は泣きじゃくった。そんな彼女を親友は抱きしめ、ただ沈黙を貫いていた。
少し経っただろうか。彼女が涙を枯らしきり、今では終わりを告げる瞼の重さと戦い続けていた。
「私ね。貴女に最期に伝えたいことがあるの」
言葉もふわふわとし、意識が定かではない状態で、心の内を吐露し始める。
「貴女とずっと一緒にいて、友情を感じてた。でも違った」
「私はきっと貴女に恋を、愛を抱いてたのよ…」
そして最期の言葉が放たれる。
「もし、生まれ変わってもまた、一緒に遊んで…愛してくれる…?」
「ああ、勿論だ」
親友は最期の言葉に即答をして、彼女を強く、想いの限り抱きしめる。
月光に照らされ、星も瞬く空の下、彼女が微笑みながら守り続けたすべてがキラメク景色を眼下に、愛しいものの胸の中で彼女はその意識を永遠に失わせた。
春を象徴する二つの木々が、哀しげにその花びらを溢していった。
♪buck-tickより『さくら』
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