ウマ娘になりました。全距離芝ダート重賞目指して頑張ります (ウマ娘に転生しててぇてぇを見守り隊)
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競馬は厳しい世界だけど、夢がある

ウマ娘 プリティーダービー。

元々競馬好きではなかった私に、新しい風を吹かせたゲーム・アニメ。

 

今となっては開催中は最も近い新潟競馬場へ毎週末足を運ぶ競馬好きである。ちなみに福島もバイクをかっ飛ばして見に行くこともある。

1度だけ、JRA八冠馬(海外含めると九冠)のアーモンドアイの引退式を見に中山競馬場へかっ飛ばしたこともある。

 

私の推しキャラとしてはメジロマックイーンやライスシャワーといった長距離ステイヤーが多いのだが、競馬という意味では短距離競走が好みである。あの圧倒的なスピード感と短い間に行われる駆け引きに魅了された。

 

 

 

 

だが、私は1度たりとてウマ娘になりたいとは思ったことは1度たりとてない。

ないったらない。

 

こんなにも言うことを聞かない走行。なのに気持ちはより速く、より前へ。

 

 

 

福島にかっ飛ばしていた時にブレーキが壊れたバイク。

山道を走っていた私は思わず生きていた前輪ブレーキを強く握ってしまった。スピードがのってるバイクで前輪だけをロックした場合、どうなるのかなんてお見通しだ。

軽く吹っ飛んだ私は崖から空へ。

 

そして、意識を取り戻したら、何故かウマ娘の世界でウマ娘になっていた。

 

これまた人馬一体かと思いきや、言うことを聞かないこの体。特にレースと甘いものについては全く言うことを聞かない。まだエンジンの機嫌の悪い私のバイクの方が素直だ。

 

 

 

 

ウマ娘は人の一形態である…らしい。ウマ娘についてまとめた本によると…

ヒト(普通の人とウマ娘の両方)の性染色体はX、X'、Yの3種類。ウマ娘はこのX'が2つ揃った時にのみ発現する。

 

ちなみに、在野にもX'の遺伝子は存在している。

とある女性がX'Xの遺伝子を持って、普通の男性XYとの子供を作る。

そうすると、4分の1の確率で男性X'Yができる。

その男性の人がX'Xの女性と子供を作ると、4分の1の確率でウマ娘が産まれる可能性がある。

 

X'X'ウマ娘とX'Y男性の交配でウマ娘の家系は確実に次世代にウマ娘を輩出している。

 

 

ちなみに10数年前に、メジロ家が『ウマ娘同士で子供を作る』ことに成功したが、もちろん我が家…我が零細家系が手を出せるほど安い買い物ではない。

 

 

さてそんな中、家系の始祖の娘にクラシック二冠からの有記念を制した芦毛のウマ娘がおり、その先祖と同じ芦毛の私は期待されていたという訳。

 

だけど、成長するにつれて体格が小さく細いため、見限られていた。

 

 

それでも私の身体は『1着』を求めて走りたがっていた。

そして、私もウマ娘の世界に来たからには中央トレセン…トゥインクル・シリーズを目指したい。

 

日本のウマ娘レース…ケイバの最高峰、日本ダービーを含むトゥインクル・シリーズを目指して……

 

 

 

 

数年後。

私は零細血統ながらもなんと中央トレセンに合格。これには実家も驚きと私への再注目で応えられた。

 

賞金や名声を得られやすいトゥインクル・シリーズへの参戦がしやすいこと。

広大な敷地に芝・ダート・ウッドチップ・ニューポリ・プール・坂路などなど、日本最大級のトレーニング施設が多数存在すること。

練習着やら食事等の料金も、入学・入寮以降でデビューの日から180日間までは全て無料で生徒たちに提供されていること。

その他、多数の利点がこのトレセン学園にはある。だからこそ中央トレセン学園は倍率が高い。

 

そんなわけで、私が中央トレセンに入学できたことはとても凄いことなのだが、中央トレセン学園は完全なる実力主義。

新入生として入学した者は4年、転入生は1年以内にメイクデビューに漕ぎ着けなければ退学となる。これはとても恥じる行為であるとして、多くのトレーナーと契約出来なかったウマ娘たちは自主退学、または地方トレセン学園への転出をする。

また、メイクデビューから180日を過ぎたウマ娘には学費の納入が必要となる。月にして80万円。要するに前世の競馬で言うところの預託料。それが2ヶ月滞納した時点でこちらも退学となる。

 

ウマ娘の収入はトレーナーとの契約にもよるが、全賞金の内、トレーナーが10~30%、ウマ娘が70~90%辺りが平均である。

中央トレセンの学費は、ウマ娘の割合が80%として、最下層の未勝利クラスや1勝クラスの子たちは毎月コンスタントに1.5~2回くらい走ってようやく払えるか払えないかというレベル。2勝クラスはまだカツカツだし、3勝クラス以上にならないとやはり余裕や将来的な貯蓄には回せない。

ちなみに、ほとんどのウマ娘は家系の組合に所属しており、自分の取り分の賞金の4分の1くらいが血統維持のために使われる。それも考えれば2勝クラスでも厳しい。

私的には(出走できるレースが多いから)3勝クラスでのんびり入着を繰り返すのが安定して稼げるのだが…

 

ウマ娘たる私の本能はそれじゃあ収まらない。より速く、より先へ。

どうしても、その欲求には抗えない。

デジたん先輩曰く、据え膳食わぬはって言う状況で我慢できるかと同じくらい抗うことには難しいらしい。意味不明だけど。

ゴルシ先輩曰く、世知辛いよなぁ…だそう。意味不明だけど。

 

 

それはともかく、年間4,000人超ものウマ娘たちが入学する。

新馬戦・未勝利戦は年間およそ1,400ちょっと。

つまり、1年に1,400人くらいしか1勝クラスに上がれないということ。

引退までにオープンクラスになれるのは、一世代およそ100人ちょっとくらい。

私が本能と理性の妥協によって目指している重賞ウマ娘になれるのは、本当に僅かだ。

 

 

本能に従えば、もちろんGI総なめとか夢を見る。

でも、前世の競馬を知って、この世界の競バを知っている私の理性はオープンクラスに上がるのでさえ難しいと警告する。

 

 

勝てずに…現役中にお金を貯められなかったウマ娘の末路は悲惨だ。

もちろん、養ってくれる人を見つけられれば良いが…

 

実家を出奔するだけのお金も稼げなければ、実家の家系のために文字通り繁殖に回される。

精神的に繊細なウマ娘を雇う会社なんてない。

あったとしても看板になれるオープンクラス以上のウマ娘ばかり。

 

実家の繁殖にも回されないほどになると、もう生活保護で生活するしかないが、ウマ娘の食欲を生活保護でどうにかできる訳もなく。

 

気性が穏やかなウマ娘ならその持ち前のバ力を必要としている職場は無くはない。でも、そのほとんどは肉体労働。

 

 

ちなみに、そんなウマ娘を救うべくシンザンやシンボリルドルフ等の大物がウマ娘年金保険機構の設立を企んでいるらしい。

 

 

そんなわけで、私の場合は実家も金がある訳では無いため実家の世話(繁殖)にはなれない。

私の場合『馬』の本能が強いのか気性難を自覚しているので、職場にもありつけないだろう。

 

そうすると私は最終的にいくつかの選択肢しか残されていない。

 

1 競走バとして生涯分の賞金を稼ぐ

2 最低でも企業の看板やウマ娘のレース解説等に出れるくらい知名度をあげる

3 養ってくれる人を探す(ヒモになる)

 

うん、2は重賞ウマ娘になれば行けると思う…

1は重賞ウマ娘になれるくらいならお金も溜まってるはず。

よし、どっちにしても重賞ウマ娘にならないと!

えい、えい、むん!

 

 

え、マチカネタンホイザさんから習ったんだよ?(すっとぼけ)



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トレーナーが契約してくれません!

中央トレセン学園は退学まで4年の猶予がある。

とはいえそれに甘んじていい訳では無い。

 

定期的に行われるトライアウト(模擬レース)でウマ娘との契約を求めているトレーナーに、自らの才能を見せつける必要がある。

年間6回、奇数月に行われるこのトライアウト。

6×4=24回のチャンスがある訳では無い。

 

4年目の1月末と3月末は流石にデビューするのに期日を超える可能性が飛躍的に高まるため、4年目の11月のトライアウトに落ちた者の多くは転出・自主退学をしていく。

そもそも、4年目になる前に辞めていく者も少なくない。

 

 

さて、そんな中で私は最初のトライアウトに参加している。

トライアウトは全部で5種目。

芝・短距離(芝1,200)

芝・マイル(芝1,600)

芝・中距離(芝2,000)

ダ・短距離(ダ1,200)

ダ・中距離(ダ2,000)

 

この中で1種目だけ走ることが出来る。

8頭立てで、なんとゲートも使う念の入れよう。既に契約しているものの、デビュー前で実践訓練のために出走してくる娘たちも含めて多くのウマ娘たちが集う。

 

まぁこれでも今年は少ない方って仲良くなったマチカネタンホイザが言ってた。

 

「今年はあのトウカイテイオーがデビュー予定なんだよ〜。みんなデビュー回避だよぉ。うーん、私は見るだけにしようかなぁ」

 

去年入学したマチカネタンホイザはまだ時間がある。

 

 

私は最終的に芝の短距離に出走。8頭立ての6着に終わった。

 

どうしてもコーナリングのポジション取りが苦手みたい。まぁまだ模擬レースも初めてだし、そんなもんだよね。

 

 

 

季節は変わり、夏、そして秋、冬…そして春。

1年目のトライアウト、5月、7月、9月、11月、1月、3月と全て受けたものの、1度も1着は取れず。最高着順はなんと8頭立て4着。

やっぱり才能の壁かなぁ…

 

 

トレーナーからはほとんど声をかけられたことは無かった。

唯一話があった所はイクノディクタスとナイスネイチャとダブルエンジン…じゃなかった、ツインターボを擁するカノープス。

1度仮所属したものの、私と彼はお互い腹を割って話した結果、『受け入れる力』は高くても『凡庸を抜け出す力』は無いトレーナーと、凡庸な才能しかない私の重賞への夢はどちらもお互いに悲しい結果しか残さないだろうと結論を一致させ、彼との本契約は結ばないことにした。

代わりにマチカネタンホイザを推薦して、その後チームに所属した。来年デビュー予定らしい。

 

 

さて、カノープスのトレーナーのご厚意で仮所属のままである程度面倒を見てくれることになった。トレーニングをカノープスが借りてる時間に、カノープスのトレーナーや現役中のウマ娘たちとこなせるのはとても有意義な時間だ。

特にオーバーワークを止めてくれる存在は、多くのウマ娘にとっても重要だ…まぁ一部例外もいるが。ゴルシとかセイウンスカイとか。そのセイウンスカイだっていざとなればオーバーワークもするだろうし。

 

 

そして迎えた2年目の5月トライアウト。

私は芝2,000に挑戦。結果は3着と初のウイニングライブ圏内へ。

 

だけど……

 

「3着はこいつか…」

「才能はあるんだがなぁ…」

 

という声を聞いて、サッと物陰に隠れる。どうやらトレーナー数人で私について話しているらしい。

 

「全距離適性Cってところか?」

「脚質だって全然見えねぇ。かろうじて逃げか?」

「いや、差し以外なら全部Cじゃねえか。差しはDか」

「まぁな…評価値はこんだけ高いが、器用貧乏やな…入試委員会も入学基準見直し要求しといた方がええな」

「あれで粘りか差し足があればなぁ…」

 

数人が揃ってため息をつく。

まぁ私の評価なんてそんなも―――

 

「だが、コーナリングは上手い。ダートが走れりゃローカルシリーズ殴り込みで重賞取れるかもしれんぞ」

「四大主場以外はスパイラルカーブ中心だからなぁ…上手く回れれば欲しいな」

「しかしダートを走れるほどのパワーがあるとは思えませんがね。あの小柄な体躯に」

「そこなんだよなぁ…やっぱり福島か小倉しか使えないか…?」

「だなぁ…」

 

なるほど…芝もダートも走れれば…!

 

 

 

 

 

2ヶ月が経って、7月のトライアウト。

ダート中距離を走った私は逃げを打って4着に沈んだ。

 

そして、再びあのトレーナーたちの世間話を隠れて聞いた。

 

「……あれは得意なことは無いが苦手なことも無いタイプか?」

「ダートも可もなく不可もなく…」

「パワーも無いことはないが、あるとも言えんな」

「平凡で影の薄い子ってことで終わりだな」

「だなぁ…」

 

トレーナーたちはそのまま歩き去っていった。

私は少しばかり落ち込みながら、夢は叶わない可能性が高くてもデビューは約束されているカノープスしかないのか…と落ち込む。

 

そんな時だった。

 

「おい、そこの嬢ちゃん!そんな顔してどうしたよ」

 

黒いサングラスをかけたゴルシだった。

 

「今日はなんですか?」

「あぁ?任侠ごっこだよ」

「……組長、あっしのことは置いていってください…仇を…!」

「ノリいいな、お前。だがよ、そんな顔で置いてけって無理な話だぜ☆」

 

ゴルシは私に麻袋を被せて、誘拐して行った。

 

「ちょっと!?どこ行こうとしてるわけ!?」

「決まってんだろ!お前のトレーナーのところだよ!」

「はあ?」

 

とても広いトレセン中を駆け回っているようだ。

 

「そこのゴルシ!止まれ!誰を抱えてるんだ!」

「止まれと言われて止まるヤツはいねぇぜ!」

「ちぃっ」

 

そのうちゴルシの後をエアグルーヴが追跡し始めた。

 

「貴様、また誘拐か!」

「ゴルシちゃん急便でーす!」

「止まらんか!」

 

ゴルシって逃げもできるんちゃう?ってか障害レースも走れるよね?子さっきっからフワッと浮いたりドシンという音が聞こえてきたりするんだけど。しかも、担がれてる私はほとんど揺れないし。

 

「くそっ、積荷のあるあやつになぜ追いつけん!」

「ふっ、メジロ家御用達の激重蹄鉄を履いてるからさ」

「は!?」

「ゴルシちゃんってば天才!自分が遅くなるなら、周りをさらに遅くすればいいんだぜ!」

「さっきから足が重いのは…!」

 

エアグルーヴは気づいてなかったの!?

流石に蹄鉄変わってたら分かるでしょうに…

 

「まもなく〜田辺トレーナー室〜」

 

田辺…?

聞いたことないトレーナー。

 

「おう、田辺T!コレは土産だぜ」

「は?」

「それじゃあ、うちらのシマに戻るけ」

「貴様、逃げられてると思っていたのか?」

 

いつの間にかいなくなっていたエアグルーヴが、スっとゴルシの首根っこを掴む。

 

「さぁ、生徒会室でじっくり説教をしてやろう。通路は走るな、誘拐するな…とな」

「うぉぉおおお!田辺T!助けてくれ…!」

「人間がウマ娘のパワーに勝てるわけがないだろうに」

 

田辺Tと呼ばれた男はゴルシに手を振った。

 

 

 

よくよく見ると、おっさん…というよりオジサマ系。どっかのカフェのバリスタとか、バーのマスターと言われた方が納得出来る出で立ちである。

 

「で、君はどうしてうちに誘拐されてきたんだい?」

「私は―――」

 

誘拐された経緯を話す。

 

「ふむ、少し身体に触れてもいいかね」

「ええっと…?」

「君の走り方を知りたいのだが…どうかな?」

「ああっ、すみません、どうぞ」

 

田辺トレーナー…いや、この姿ならマスターと呼ぼう。マスターは私の足に触れたあと、腰や肩、更には腕や首まで…それこそおしりや胸以外はじっくりと触った後、こう言い放った。

 

「…君はどうしてピッチ走法しか使わないんだい?」

「ピッチ走法以外考えたこともなかったですね…まぁコーナリングはピッチ走法の方が楽ですかね」

 

というより、日本人は長距離陸上でもやってない限りストライド走法なんて使わない。

 

「というより、君の走り方は『人』の走り方だね…ウマ娘の性能を発揮しきれてないんじゃないかな」

 

……なるほど、一理ある。

確かに、私は人間だった。そんな私が馬の性能を持った身体になったとしても、それを活かしきれるとは思えない。

 

「ピッチ走法も正しくない。トレーニングシューズ、蹄鉄よりも踵と内側がダメになる方が早くないか?」

「…なんで」

「ウマ娘のピッチ走法は、人のようにつま先で走るのでは無く、『蹄鉄』で蹴って走るんだ」

「トライアウトで、私は何度も走っていますし、カノープスのトレーナーの下でもトレーニングを積んでいます。でも、なんで他のトレーナーさんは気づいていないのですか?」

「いや、上位のトレーナーは気づいているさ。カノープスのトレーナーはクセのある子を受け入れる力はあれど、トレーナーとしてはまだ未熟。上位のトレーナーからすれば、恐らく君の走り方を矯正したところでGIIIはともかくGIは厳しいと思って―――」

「重賞…GIIIで勝ち星を取れるのですか!?」

「きちんと走り方を矯正すればその可能性はある。だが、それを見抜ける人物たちは目標がGIレベルのトレーナーたちばかりってことだ。オープンクラスを目指すようなトレーナーたちでは見抜けないさね」

 

トライアウトに来るトレーナーはGIを争う人達は来ない。自分で勝手に入団テストをしているから。

 

「…私はもうすぐ引退しようとしてたんだが…君が望むなら、勝利へ導いてあげよう。私なら、君を重賞ウマ娘に…上手くすればGIウマ娘にしてやれるさ。まぁURAからの受けは悪くなるがな」

「私が…GIウマ娘に…?」

「あぁ。しかもだね、芝もダートも長距離も短距離も、全ての条件で重賞を勝つ…タケシバオーを超えるウマ娘になれ」

「…夢を見ても…いいの?」

「ウマ娘たるもの、夢を追わなければ勝てない。それが私の持論さ」

 

マスターは渋い口髭を撫でながらそう言った。

 

……そんなこと言われたらさ…元競馬好きな人間としての理性だって、GIの夢を見始めちゃうじゃん。ウマ娘としての本能を重賞ウマ娘という肩書きで抑えようとしてたのに…GIなんて夢のまた夢だと思ってたのに……

 

「さぁ、歴史に名を刻む君の名前を聞かせてくれないか?」

「私は…私の名前は―――」

 

 

 

―――ハッピーシュガーです。

 

 

 

私のハッピー家の特色…全距離適性・バ場不問を微妙に受け継いだ、小柄な芦毛。それが私、ハッピーシュガーです。



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もうメイクデビューするの!?

この物語のレースは2018のJRA競馬番組を元に作成しております。


8月。

 

ウマ娘は馬と同じで暑さに弱い。したがって…

私は夏バテして体重がグッと落ちてしまっていた。

 

「うーむ、流石に体重落ちすぎだね」

 

ウマ娘はアスリートである。もちろん、トレーナーが男性だったとしても体重の報告は毎日行われる。元人間の私はこれがとても恥ずかしかったのだが、ひと月もしたら慣れた。

 

「さてさて、これまでは君にほぼ毎日坂路2本のトレーニングのみを課していた…というより、それ以外のトレーニングを禁止していたという意味でもあるのだが…今日からメニューを変える」

「はい」

「まずはこのエナジーバーを食べなさい。今日の昼食ね」

 

渡されたエナジーバーは一般的な人用と同じくらいの大きさだ。

うん、美味しい。これなら食欲なくても食べられるかも。

 

「ちなみにそのエナジーバーはウマ娘用の災害時非常用食料の買い直しで貰った期限ギリギリのものでな。これから数週間それを食べてもらう」

「ウマ娘の災害時非常用食料?」

「ウマ娘は人間の数倍以上のエネルギーを必要とするからな…」

 

うん?ちょっと待って。

人間用の災害時非常用の備蓄エナジーバーって確か…前世では……はっ!?

 

「ちょっと待って。このエナジーバー超高カロリー!?」

「確か…10M(メガ)calだったな」

「め、メガって…SI接頭辞の?」

「……そうだ」

 

SI接頭辞のM(メガ)10^6(10の6乗)を意味している。つまり…

 

「これ1本で10,000キロカロリーなの!?」

「なに、ウマ娘なら非常時には必要だろう」

「ウマ娘でも1日で13,000~18,000キロカロリーくらいなんですけど!?1日で!今私5本渡されて食べちゃったんですけど!?」

「50,000kcalだな。夏バテで体重落ちてるのにちょうどいいだろ?」

「太るわ!」

「太らせてんだが」

「はぁ!?」

 

お、乙女に何を言ってやがるこいつ…

 

「太りたくなければ、今日から坂路増やすしかないな?」

「…くっ」

「まぁ慣れるまでは坂路5本な。来週からは7本まで。まぁそこまで走ったら根性勝負だな。太りたくなければ走れるだろう?」

 

マスターは意地の悪い顔をしながら付け加える。

 

「明日以降、このエナジーバーを朝1本、昼4本、夜なしの食事に切り替えなさい。飲み物は経口補水液と無糖のお茶か水に限る。分かったね?」

 

坂路…5本……いや、来週から7本…?

しかも毎日50,000キロカロリー?

やばい。これはやばい。

ふ、太る…

 

だいたい、ウマ娘の平均1日摂取カロリーは引退したウマ娘で12,000くらい、現役で強度の運動(トレーニング等)をしている場合は18,000くらいと、現役中なら人間の女性の10倍近いし、引退後も6倍くらい。

確かに、ウマ娘に専用の非常用食料があるのは頷けるのだけど…

 

「ちなみに在庫処分なので、私も1本を数日に切り分けて食べています」

「マスター身体大丈夫!?」

 

いくら切り分けても、満腹感はないはず。

マスターだけにそんな思いをさせるとか…私も頑張るしかないなぁ。

 

 

 

 

中央トレセン学園は坂路コースが2本…数年前に2本目が作られたのだが、ある。

坂路コースは坂路Aと坂路Bと呼び分けられ、コースには特徴がある。

まず共通しているのは、ウッドチップコースであること。

坂路Aは幅員14m、全長750m、高低差20mのコース。

坂路Bは幅員16m、全長1,050m、高低差34mのコース。

 

私は基本的に坂路Bを使用しており、5本と言うと距離にして5,250m、高さにして170mも登らなければならないということである。

 

キツい。

 

 

 

3本目を終えて、スタートに戻る。もうヘトヘトである。

 

「ほいほい、ラップタイム落ちてるぞ!」

 

マスターは手元のタブレットで、私の首に付けられているICで自動でタイムを測定する機材から情報を受け取り、そう言った。

 

「スピード落ちてる!太るぞ!」

 

ちなみに『一杯』で坂路を既に3本走っているのだ。そりゃあラップタイムも落ちる。

 

逍遥馬道を通り、スタート地点に戻る。

 

 

4本目…!

 

走りきったところで、マスターが何か言ってる。

 

「そこまで。ちなみにエナジーバーは嘘だから、安心しろ。あれは1本3,000カロリーくらいだから」

 

もう身体に力が入らない…でも走らないと…太る…

 

「おい、止まれー!」

 

ん?

 

ドンッていう音と共に走った衝撃で私は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

「起きたか。すまんな。エナジーバーは嘘だ。ちゃんと非常食ではあるが、たかが3,000kcalだな。まさかお前が倒れるまで全力で走るとは思わなかったぞ」

 

倒れた…

 

「だが、あの坂路でお前の癖が壊れたはずだ。最後の1本は正しいピッチ走法だったぞ」

 

……?

 

「さて、お前のデビュー戦だが、来月だ」

 

 

 

………?

 

 

「は?」

 

「来月の中山4回開催5日目第5レース、メイクデビュー中山の芝1,200だな」

 

「こ、こここ、こんなに早くデビューするの!?」

 

「ふん、早めから走った方がチャンスは広がるさ。本格化してないからまずは短距離で重賞取るぞ」

 

……マジか…マスターは常識なんて通用しないのか…

 

 

 

これから毎日ヘトヘトになる坂路4本を走らされ、メイクデビューに備えた。

ひたすらに坂路を走り、正しいピッチ走法を身体に叩き込むのだとか。

 

毎日坂路は故障する可能性が高くなるため、休養日はプールでトレーニング……つまり休養日はない。プールでスタミナをつけるためにバタフライでひたすらに泳ぎまくる。

 

 

 

そして迎えたメイクデビュー。

 

13頭立てで行われるレース。私は6枠8番。

マスターの指示はとにかく逃げて逃げて逃げまくれ。

つまり、スタートからゴールまで全速という指示。

 

そして、時間になってパドックへ。

 

『6枠8番、ハッピーシュガー』

『3番人気に推されています。ニシノフラワーといいハッピーシュガーといい、今年は小柄なスプリンターが活躍するのか!?』

 

さぁ…行こう。

地下バ道を通ってレース場へ。

 

初めてのレースに、私は心を震わせてターフへ駆けて行った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……お、おなじみ3着ぅ…

 



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未勝利でも…

メイクデビューで3着に敗れた私は、マスターに負けた理由とこれから勝つための方策を講義されていた。

 

「…つまり、お前が負けたのは痩せすぎだ」

「……やっぱりエナジーバーをもっと食べるしか…」

「………確かに真面目に考える必要があるな」

 

私はこのひと月、かなりハードなトレーニングを積んだ。その代わり失ったのは体重だった。夏を終えてちょっとは朝方が涼しくなってきたにも関わらず体重は戻らず。

痩せすぎによるスタミナという意味ではなく『体力』がすり減っていたのは確かだった。

 

「まぁそれだけが理由ではないが…まず、お前は走り終えて感じたことはあるか?」

「そうですね…正確なラップタイムが分からないことでしょうか。今私が走っているのは果たして12秒台なのか13秒台なのか…」

「それは正しい認識だな。高速で走っているウマ娘の思考は細かいことを考えるのが難しい。だからこそ逃げは難しいんだ。対比する相手がいないからね」

 

マスターは笑った。

 

「今回の敗因はスタミナ不足と体調不良だ。スタミナ不足は本格化してないこともあって、短距離でもとにかく周りの本格化したウマ娘と比べれば少なすぎる。そこにさらに夏バテときたもんだ。勝てるわけがないな。

 だが、私は体調が万全でも、スタミナがある程度付いていてもあのレースは勝てなかったと断言しよう」

「どういう?」

「心技体の全てにおいて周りのウマ娘に負けていた。技と体は仕方ない。ジュニア級で本格化もまだなのにデビューさせた私の判断だし、2年目デビューだからね。

 だけど、1番まずいのは必ず勝つという気迫…心が足りない。マルゼンスキーやシンボリルドルフやオグリキャップを見ればわかる通り、GIや重賞を勝つウマ娘はオーラが違う。そのオーラの初期段階である気迫はウマ娘なら誰しもが持ち使う代物だ。他者にプレッシャーを飛ばしたり、他者からのプレッシャーに負けない守りの気迫もある。

 君にはこの気迫が薄い。ウマ娘のこの手の気迫は天性のものだ。これがないと差しウマ娘になるのは難しいと言われている。気迫のないウマ娘が勝つための必勝法をこれからひと月で学んでもらう。いいね」

「は、はい!」

「あぁそれとね…」

 

マスターがめちゃくちゃ怖い笑顔なんですけど!?

 

「歌の練習も増やそうか」

 

 

……音痴すぎて私のソロパートで大爆笑が起きたのは事実です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから1ヶ月。私はまたしても「明後日レースね」と言われてターフに立っていた。

 

『京都レース場、本日の第8レース、500万以下特別レース《なでしこ賞》。現在出走するウマ娘14人が周回運動やストレッチなどを行っています。さて、このレースの1番人気は―――』

 

そう、私は何故か格上挑戦である。

 

『大外8枠14番、ハッピーシュガー。3番人気です。先日のメイクデビューでは3着と好走しましたが…』

『《あの件》でファンが増えましたかね。実力以上にファンが多い様です』

 

うるせぇー!

こうなったら実力を証明しないと…!

 

 

『1番、粘る!ハッピーシュガー、並びかけるが…1番粘りきった!1着は1番…!』

 

 

 

 

 

なお、私の名前を呼んで大歓声が起きた。私2着なんだけど…そんなに音痴が面白かったか!?クソが!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なでしこ賞で使った戦法は先行。だけど、逃げウマ娘を捉えきれず典型的な前残りのレースにしてしまった。

 

「やっぱりまだ1,400は長かったか」

 

ぶつくさ独り言を呟くマスター。

そして、私は少し前世のコラムで読んだことのある調教を思い出した。

レースを調教に使う…ということがあるらしい。マスターはその手の調教を私に施しているように見えた。

 

「ダートだったのもあるか。まぁとにかくまた次を走ってもらおうか」

 

 

2戦0勝。私の重賞…GIへの道のりはまだまだ遠そうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに2ヶ月が経ち、私はよく坂路で一緒になるウマ娘とそれなりに仲良くなっていた。

 

「ふぅん。ブルボンちゃんはクラシック三冠路線を目指してるんだ」

「肯定。次走は朝日杯FSを予定しています」

「骨膜炎から復帰したばっかりなのにすごいね…連戦連勝で。私なんてメイクデビューもなでしこ賞も入着こそしてるけど…ね」

「慰撫。音痴も魅力的だったと思います」

「ぐっ…」

「事実。オープンクラスと同格のウマスタフォロワーがいますよね?」

「それは…まぁ」

 

ミホノブルボンは薄く微笑む。

 

逍遥バ道を下る私たち。

次で4本目である。

ミホノブルボンが澄ました顔をしているのに、私がへばってるのを見せるのはなんか負けたみたいなので、根性で堪えているところである。

 

 

 

勘弁して欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、私は11月の第5回京都のファンタジーステークスに格上挑戦。

またしてもおなじみ3着…かと思いきや。

 

1着入線のウマ娘は差しウマ娘だったのだけど、中団を4コーナー出口で捲った後、内にヨレたことを裁決委員が問題視して降着処分となったことで、着順が繰り上がり、2着となった。

この時点で、ファンタジーステークス(GIII)の2着となったことで収得賞金が600万円加算された。

 

3戦0勝、収得賞金600万円。

 

 

 

 

 

さて、この頃から私は坂路を離れ、ひたすらにプールを泳ぎまくる日々。

足の負担を抑えつつもスタミナトレーニングだそうで。

 

 

「次のレースはマイルに挑戦だ。もっとスタミナつけないと勝てないぞ?」

 

 

 

 

そのレースは年明けそうそう…クラシック級になってすぐのレースだった。

 

 

 

フェアリーステークス(GIII)

 

マイル距離の重賞で、2月のクイーンカップ(GIII)と並んで桜花賞トライアルへ繋がる大事なレース。

 

 

『2枠2番、ハッピーシュガー。2番人気です』

『3戦0勝ですが、前走ファンタジーステークスで2着と既に収得賞金が入っているため未勝利・500万下を上回るクラスです。これまでよりも長いマイルで本領発揮となるかがポイントですね』

『実力以上の人気を誇るウマ娘です』

 

実力以上とか余計なことは言わんでいいわ!

 

 

14頭立てのこのレース。

内枠だし…逃げよう。

 

 

 

 

 

 

 

『14番がゲートに入り、職員が離れます。今スタートしました!1番、9番、出遅れたか!?』

 

『ハナに立ったのは…2番ハッピーシュガー』

 

『すぐに続いて4番。11番、追走』

 

『3番、6番、10番、14番、一塊だ!』

 

『その後ろに1番人気の13番。期待通りの結果が出せるか!?』

 

『さらにその内に5番。その後ろに8番。2バ身離れて7番。そこから1バ身はなれて1番、12番』

 

『最後方に9番という隊列です』

 

『ハナに立ったハッピーシュガー、加速していく!かかってしまったか!?スパートにはまだ早い!まだハロン棒にも到達していない中で2番手の4番とは3バ身から4バ身のリード!さらに広げていく!』

 

『ハッピーシュガー!予想を覆す大逃げだ!マイル走で5バ身程のリードができるのはとても珍しい光景です!』

 

『さぁ、残り1000メートルを通過して、ハナは譲らない大逃げ、ハッピーシュガーを捉えるべく後方が少しづつ加速しているぞ!』

 

『だが、ハッピーシュガーも加速している!差が縮まらない!残り600!』

 

『このままハッピーシュガーの独走を許すのか!?』

 

『さぁ、最後の直線!リードは8バ身ほど!これはセーフティーリードか!?』

 

『最後の坂で減速!だがまだリードはあるぞ!』

 

『残り200メートル!9番が凄まじい足で上がってくる!』

 

『ハッピーシュガー粘るか!9番差すか!もつれあったままゴール!』

 

『3着には13番!』

 

『今、写真判定の文字が表示されました!』

 

 

 

 

 

走りきったところで、観客席がいつもと違う。

 

「これは…写真判定…」

 

 

その後、私たちは20分もの間待機していた。そして、ようやく結果が表示された。

 

 

 

 

 

 

 

『今掲示板が確定の表示!1着は9番!ハナ差で2着はハッピーシュガー!』

 

 

 

 

………3着、3着、2着、2着……

 

 

ブロンズ・シルバーコレクターね、これじゃあ。

 

 

はぁ…とため息を吐いた。

 

よし、9番の子に賛辞を送りに行こう。

 

 

4戦0勝、収得賞金1,300万円。



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トリプルティアラを目指して…ました

フェアリーステークスを終えて、短期の休養に入った私。

もどかしいけど、身体を休めないと数多くのレースを走り抜けることは出来ない。

 

ゴルシも本気で走ったことは無いって言ってたし。

 

休養日は愛車のバイク(原付2種)に乗って銚子へ。

銚子は前世で来たことのある場所だった。

 

漁港に近いお店でマグロづくしを食べ、店を変えて今度は金目鯛づくし。

銚子の美味しい海鮮を味わい尽くす。

 

もちろんカロリーや栄養価の調整はしているけど、どうやら本格化の兆しが出てきた私の体はエネルギーを欲している。

 

そのまま前世でよく来ていた長浜ラーメンのお店へ。

なんと前世と同じように営業していた。

 

中に入ると、店主のおやっさんが目を光らせた。

 

「いらっしゃい!ウマ娘ってことは記録に挑戦しに来たのかい?」

「記録?」

「知らないで来たのか?」

「ここのとんこつラーメンは美味しいって聞いたから」

「そいつァ嬉しいな。あぁ、説明するとな、1時間以内にどれだけ多くの替え玉を食べれるかっていう記録を測ってて、ウマ娘と人間の男と女の三種別で記録を争ってんだ。ウマ娘の記録はなんと67杯。ちなみに新記録を樹立かタイ記録を樹立したらお代無料だぜ」

「…そういうの興味無い。満足いくまで、時間も気にせず食べたいから。店主、ベタナマアジタマアオネギキクラゲニンニクオオメで」

「では厨房の方を振り返ります」

「サンドじゃないから」

 

店主はそのハゲ散らかした頭を捻りながら呟いた。

 

「なんかお前さんとは初めて会った気がしないぜ…記録更新を狙ってくるウマ娘以外にウマ娘…しかも芦毛なんて全く記憶にないんだがなぁ…」

「まぁいいから。ほら、ラーメンよろしく」

 

僅かに1分も経たずに出てきたラーメンを、うら若き乙女としてはどうかと思う勢いですする。

そもそも、普通のウマ娘ならきっとこのラーメンを写真でも撮ってウマスタに挙げてから食べるのだと思う。でも、ラーメンだけはダメだと思うのよね。ラーメンってのは、出てきてすぐに食べる1口の衝撃が大事なの。

丁寧な下ごしらえを感じる雑味のないとんこつスープ。いい塩梅のタレの使い方。そして何よりこの青ネギ。

美味い。

 

「店主、替え玉」

「あいよ」

 

替え玉をどんどん胃袋へ放り込む。

 

コレコレ。これこそとんこつラーメンだよね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、マスターに「ダイエット、しようか」と言われた時、後悔したのは後の祭りである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、短期休養を挟んで次のレースはなんと桜花賞トライアル『チューリップ賞(GIII)』へ。

収得賞金が意外にも1,300万円と高水準なので、抽選や除外されずに済んだ。まだ勝ったこと無いのに……

 

 

『5枠8番、1番人気のニシノフラワーです』

『圧倒的な支持に堂々としたレースが期待されます。クラシック級の初戦、無傷での桜花賞へ前進あるのみです』

 

『7枠12番、ハッピーシュガー。6番人気です』

『未だ勝ちレースの無い4戦0勝ですが、収得賞金は1,300万円とこの時期のクラシック級としては高水準です。好走ウマ娘としての意地で桜への切符を手に入れるか』

 

『大外14番がゲートに入り、体勢整いました…今スタートです』

 

『12番ハッピーシュガー、出遅れたか』

 

『ハナに立ったのは3戦3勝の11番』

 

『11番はこれまで逃げよりの先行でしたが、今回は完全に逃げています』

 

『1番人気のニシノフラワー、バ群に埋もれているぞ!』

 

『順位を振り返ります』

 

『1番手には11番』

 

『少し開いて4番、13番が先団』

 

『少し後ろに1番人気ニシノフラワー』

 

『それを蓋をするように1番。さらに外に5番。10番追走』

 

『後方集団の先頭は7番と14番』

 

『それを見るように3番。その外ならんで6番』

 

『2番、9番がこれに続きます』

 

『最後方はここまで無勝、12番ハッピーシュガー』

 

『彼女は逃げや先行が多かったですが…彼女の二の矢に期待ですね』

 

『1番人気ニシノフラワー、苦しい表情だ』

 

『完全に内ラチ側に追いやられました。これは厳しいですよ』

 

『残り800mを通過…全体的にスローペースの展開です』

 

『差が詰まって来ています。バ群が一塊です。こうなってくるとまぎれがありそうですよ!』

 

『11番、逆噴射だ!』

 

『バ群に沈んでバ群がバラけます!ニシノフラワー、インを突く!』

 

『ハッピーシュガー、外からハッピーシュガー!』

 

『最後の直線、バ群の中で脚を溜めたニシノフラワーか、後方待機していたハッピーシュガーか!一騎打ちです!』

 

『ハッピーシュガーはメイクデビューの借りを返すのか!?それともニシノフラワーが無傷の桜へむかうのか!?』

 

『阪神競馬場の直線は短くはない!そして最後に坂だ!』

 

『ニシノフラワー、僅かに前!』

 

『粘る粘る!ニシノフラワー!ニシノフラワー!』

 

『桜の切符まで残り100!』

 

『ハッピーシュガー、坂で逆噴射!これは珍しい!坂を得意とするハッピーシュガーが逆噴射だ!』

 

『ニシノフラワー!今完璧に走りきってゴール!1着はニシノフラワー!ニシノフラワー!強かった!2着にはハッピーシュガー!』

 

 

お、おなじみ2着ぅ…

 

 

 

5戦0勝、収得賞金2,350万円

 

 

 

にしても…ニシノフラワー、かわいいよね。

まさか私の音痴に釣られてて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チューリップ賞2着の私には桜花賞への優先出走権がある。

 

「なので、また同じコースだ。お前に足りなかったのはスタミナ…ではなく、賢さだな。足が残っていなかった」

 

なんと、賢さGだと申すか!?

 

「まぁここで言う賢さっていうのは走ってる時にどこまで冷静に思考できるか…というものだから、普段が賢さGと言ってはいないからな」

 

鍛え方は…

 

「走りながら計算問題を解いて貰う」

 

……暗算にがてなのにぃ!

私完全文系なんだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『トリプルティアラの一冠目、桜花賞』

 

『トリプルティアラを夢みる数多くのウマ娘たちの中でもひと握りしか出走出来ません。しかし、勝ちを取れるのはさらに少なく、たった1人。GI…トリプルティアラの冠を取得するのは誰だ!』

 

『圧倒的1番人気はこの子、5枠9番、ニシノフラワー』

 

『ここまで無敗。同じコースで走った前走のチューリップ賞は圧倒的な力量を見せました』

 

『続いて5枠10番、ハッピーシュガー。8番人気です』

 

『未だに勝ちを拾えないものの、2着3回、3着2回と複勝率は100%。初の勝ちをGIの桜で彩るのか』

 

 

 

桜花賞……おなじみ3着。

 

 

 

 

 

優先出走権を得たオークス。

2着。

7戦0勝、収得賞金4,550万円。

 

 

 

 

 

「……そろそろだな」

 

 

「何が」

 

 

勝てなすぎて少しやぐされ気味の私はマスターにそう言い返す。

 

 

「夏は休養なんて無しだ。サマー2,000シリーズの優勝を狙う。ついでに重賞初制覇だな」

「ついでって…」

「賞金稼ぎもしたかったんだろ?今までは本格化が微妙だった上にちゃちな重賞しかなかったからな。サマー2,000シリーズなら優勝でさらに賞金も出るし箔付にもなるだろう」

「……意図してたんだ」

「トレーナーってのは何手も先を読まなきゃやってられねえよ」

 

「あれ?でもサマーシリーズって斤量のハンデが…」

「確かに、お前の収得賞金じゃ4~5キロ…もう少しか?ハンデが付く。だが、それを推してもお前は勝てるよ。そうなるように調教してきたし」

 

とっても疑問だけど、トレーナーは何十年も競バに携わってきたのだから、信じてみよう。

 

 

 

この日から私のトレーニングがとても軽くなった。

 

 

「こんなに軽いトレーニングで…」

「今のお前ならGIIIクラス…それも夏競バなら勝ちはたやすい。だが、夏は去年お前がバテてた様に夏の難しさがあるからな。疲労を溜めるのは良くない。あと、明日から私の別荘へ行く。1ヶ月は帰らないから、その準備を」

 

だから、そういうのは早く言え、アホ。

 

 

 

 

 

 

 

マスターの別荘は道東にあった。ちなみに私とマスターはバイク移動です。大洗のサンフラワー。

一周1,200mの本格的なニューポリトラックとその外に一周1,400mのダートコースを持つ本格的な調教施設を備えたその内にあったのがマスターの別荘であった。

 

「昔、担当してたウマ娘のために作ったコースだ。今はホッカイドウローカルのウマ娘や個人的な付き合いのある中央のトレーナーに無償で貸してるくらいだがね」

 

さて…と、別荘にバイクと荷物を置いた私に、マスターは早速トレーニングを開始すると言った。

 

「夏に狙うのは七夕賞と札幌記念だ。特に札幌記念は勝ちたい。そのうえで、札幌記念を目標レースとするならば、北海道の重い芝に対応出来るパワーが必要だ。そうなれば、ダートでトレーニングを行い、パワーとスタミナの両立したトレーニングを行う」

 

 

 

 

1ヶ月後、七夕賞。

………2着。

8戦0勝、収得賞金5,350万円。

 

 

 

 

おいこら。



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降着

GII、札幌記念。

3着。

 

この頃になってくると、手抜きだとか本気で走ってないとか色々な噂が流れた。おかげでトレセン学園から離れ、今はマスターの別荘が本拠地となっていた。

 

そして、もちろん私の精神状態も良いわけがなかった。

勝てない上にそんなことを様々なところからぶつけられれば。

 

だいたい札幌記念は定量戦ってこともあってGIウマ娘が3人も殴り込んできたんだよ!?勝てるわけないじゃん…とまでは言わないけど、手抜きなんてしてないし!GIウマ娘のうちの2人よりも先着したことを褒められてこそ、批難される言われはないわ!

 

とまぁイライラしてるわけでございますが。

 

「しまったなぁ…まさか負け癖か…?いや、計算上は……」

 

ウマ娘の負け癖。それは『群れる』ウマ娘の本能の1つで『他のウマ娘の後ろを走りたがる』傾向のあるウマ娘に評されるバッドコンディションの1つだ。

 

「……勝ちきれない…なら」

 

マスターは私を呼びつけて、次のレースと戦術を命じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神戸新聞杯。

京都、芝2,400。

 

菊花賞トライアルである。

紫苑ステークスでも、ローズステークスでもなく、神戸新聞杯。

 

この出走には、各メディアや他のトレーナー達も驚いた様子。

 

しかも、何故か主力ウマ娘はセントライト記念に集中してしまったため、私が1番人気に推される程だった。

ただ1人を除き。

 

2番人気、マチカネタンホイザ。

 

えい、えい、むん!と気合を入れる彼女だけど、そのトモは張りのある美しい仕上がり…らしい。私にそういう眼はないから。まぁね、かわいいとは思うし、その太ももで膝枕して欲しいとは思うよ?

 

その私の作戦はマスターから指示されていた。

 

『私の指示したウマ娘をマークして、ラスト50mで抜く』

 

だそうで、指示されたウマ娘は当然マチカネタンホイザ。

 

「あ、シュガーちゃん!今日はよろしくね〜」

「よろしく、ダンデライオンさん」

「タンホイザだよ!?」

「間違えました。マチカネタンポポさん」

「かわいらしい名前ですね〜、って違うよ!?」

 

いいツッコミ。

 

「スピカに勝つにはここで止まってられないからね!今日は勝たせてもらうから!」

「私だって負けません。まだ勝ったことないですけど」

「自虐ネタ!?」

 

マチカネタンホイザといると、やっぱり笑えるんだよね…きちんとボケを拾ってくれるし。

 

 

『さぁ、大外18番がゲートに入り…今スタートしました。先行争いは―――』

 

『1番人気ハッピーシュガー、2番人気マチカネタンホイザ、並んで後団に控えます』

 

 

 

―――いいか、シュガーの脚質は自在だ。だが、気迫の問題から差しは微妙。だが、マーク屋としての差しならば…

 

 

『1番人気ハッピーシュガー、2番人気のマチカネタンホイザを完全にマークしています』

 

『ハッピーシュガーがマークするというのは珍しいですね。作戦なのか、はたまた挑発があったのか…』

 

『ナイスネイチャによりますと、ハッピーシュガーの紹介でマチカネタンホイザはカノープスに所属したという縁もあるようです』

 

『京都、淀の坂を登り第1コーナーへ』

 

『中団のポジション争いも今回は静かですね』

 

『誰もがハッピーシュガーもマチカネタンホイザを注視しています』

 

『これはスローペースです。前残りになると大荒れですよ!』

 

『さぁ、向正面に入ってハナに立ったのは3番』

 

『逃げウマ娘も自在のハッピーシュガー以外にいない今回は先行のウマ娘がハナに立っています。先行ウマ娘たちにとっては少し走りづらい上にスローペースは後ろの娘たちにもどう響くのか!』

 

『1000メートルを通過して、ラップタイムは中距離競走としては非常に遅い61秒台です』

 

『みんな菊花賞はまだ先ですよ!』

 

『マチカネタンホイザ、ここでマークを嫌って位置取りを下げます』

 

『ハッピーシュガー、これに続いて下がります』

 

『マチカネタンホイザ、焦っているか!?今度は仕掛け始めたぞ!』

 

『ハッピーシュガーは緩く加速して着いていきます』

 

『場内からブーイングが起きておりますが、審議ランプは点灯しておりません』

 

『マチカネタンホイザ、上がっていく』

 

『第3コーナーから第4コーナーへ』

 

『さぁ、仕掛けどころだ!』

 

『マチカネタンホイザ、ハッピーシュガー、先頭集団を躱して一騎打ちです!』

 

『マチカネタンホイザ、早仕掛けで足は残っているのか!?』

 

『残り100!』

 

『並んでいる!』

 

『並んで今ゴール!1着はハッピーシュガー!2着にはマチカネタンホイザ!3着には4番!』

 

 

『これは…1着入線はハッピーシュガー!ですが、審議ランプが点灯しています!』

 

 

 

……先頭集団を躱した時?

それともマチカネタンホイザの進路妨害を取られた?でもそっちはないと思うんだけど…

 

審議委員が私たちから聞き取りと映像による確認を行う。

 

『ただいま確定しました。4角出口付近で、ハッピーシュガーが4番の進路を塞ぐコース取りをしたとして、ハッピーシュガーは3着降着となりました。繰り上げて1着はマチカネタンホイザ。2着は4番となります』

 

10戦0勝。

 

 

 

 

 

 

 

私への風当たりも大分酷くなっていった。

それもそうだろう。条件クラスウマ娘の子たちの多くは1勝から3勝の経験を持っているというプライドが…未勝利とは違うというプライドがある。

未勝利のくせに…と言うやっかみもあって、事態の鎮静化に動こうとしている生徒会や理事長たちも動くに動けない状況なのだそう。

 

そもそもにして、桜花賞3着、オークス2着の私が菊花賞トライアルの神戸新聞杯に出走したことでさえも反感を食らってる。もうどうしようもないよね。

 

正直、今回のタイミングで降着するならマチカネタンホイザも同罪のはず。それを取られなかった時点で審議委員の中にも私への印象の悪い人が多かったのだと思う。あの程度なら、処分があっても降着処分にはならない。せいぜいが罰金くらい。

 

これは根が深いなぁ…

 

 

 

 

 

 

 

「というわけでだ。日本競バ界はほぼほぼ敵に回ってる。というか多くのマスメディアがそういう方面に煽ってる。せいぜいトレセンの理事長やルドルフくらいか、何とかしようとしてくれてるのはな。だが、奴らにいつまでも迷惑をかけるわけにゃいかない。だからこそ……菊花賞で文句無しに勝つ。そしてそのまま海外を飛び回るぞ」

 

 

 

……は!?

 

 

「最大目標はBCシリーズと凱旋門賞な」

 

 

無茶苦茶な…



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無敗三冠阻止

クラシック三冠。

 

それは幾多の馬…ウマ娘が挑戦し阻まれてきた歴史。

 

史上初のセントライト。

近代競馬初のシンザン。

伝説を作ったミスターシービー。

絶対の皇帝、シンボリルドルフ。

 

 

たったの4頭…4人しかいない。

前年度のトウカイテイオーでさえ、骨折で二冠止まり。

 

個人的意見だけど…

皐月賞は早熟な子が取る。速いではなく『早いウマ娘』。

日本ダービーはそのまんま運。これは早熟なウマ娘と徐々に本格化していくウマ娘がその年によって違うからだと思う。

そして菊花賞…ここに限っては超長距離に対応出来る適性距離の問題だ。

 

その全ての困難を備えたウマ娘だけが、クラシック三冠にたどり着ける。

 

そういう意味では、マイルからクラシック距離までのトリプルティアラの方が門は広いと思う。初戦の桜花賞も晩成のウマ娘でもスタミナが持ちやすい短めだし。

 

 

まぁそんなことはともかく…クラシック三冠はただでさえ難しいのは達成者が4人しかいないことで容易く理解出来るはず。そのうえで、無敗の三冠はさらに難しい。これまでシンボリルドルフ以外に出来なかった無敗の三冠に手をかけたウマ娘がいた。

 

 

ミホノブルボン。

 

 

決して良家の血筋という訳では無い彼女。

そんな彼女はスパルタ調教を受けて無敗のまま皐月賞、日本ダービーを制し、この菊の舞台へやってきた。

 

 

『最も強いウマ娘が勝つという菊花賞。雲ひとつない快晴の下、我こそはと意気込む18人のウマ娘たちが集結しました』

 

『ターフは快晴に見守られて良馬場の発表です』

 

『圧倒的な1番人気を誇ります、4枠7番はミホノブルボン。言わずと知れた人気と無敗の三冠をかけて菊花賞へ挑みます』

 

『2番人気はこの子、4枠8番ライスシャワー。ダービー、京都新聞杯、セントライト記念といずれもミホノブルボンについで2着。好走が期待出来ます』

 

『3番人気はマチカネタンホイザ。前走は神戸新聞杯で2着入線で1着となっています』

 

『そして色々な意味で注目されているハッピーシュガー。4番人気です。前走での降着処分に抗議の電話が殺到するほどに、コアなファンの多いこの子も必見です』

 

『さぁ、長旅の京都芝3,000。大外にハッピーシュガーが入って体勢整いました…今スタートしました。ライスシャワー、マチカネタンホイザ、出遅れたか』

 

『これは…キョウエイボーガン、先頭!ミホノブルボンが2番手です』

 

『ミホノブルボン、かかってしまっているか!?』

 

『ミホノブルボンがハナを許したのは朝日杯以来ですから、ペースが狂ってしまっているかもしれません』

 

 

 

 

 

―――いいか?展開としてはキョウエイボーガンは前走でバ群に埋もれて負けていることから逃げ…大逃げを打つ可能性がある。そうなったら…

 

「ブルボンさんはかかる可能性が高い…流石マスター」

 

―――そうなったら1番気をつけないといけないのはミホノブルボンよりも……

 

「ライスシャワーさんとタンホイザさん…」

 

―――マチカネタンホイザは前走でお前のマークを受けているから中団よりも先行寄りの好位置に付けたがるだろう。そうなれば…

 

「後ろについてかからせる」

 

 

 

 

『1,000メートルを通過して、ハナに立っているのは大逃げのキョウエイボーガン。それを追うようにミホノブルボン。2番人気のライスシャワー、3番人気のマチカネタンホイザは先行集団。マチカネタンホイザをきっかりマークする位置にハッピーシュガー』

 

『マチカネタンホイザ、少しペースを上げたか?かかってしまっているのか』

 

 

 

 

 

 

―――マチカネタンホイザがかかった時にまだ残り1,500m以上残っているなら、そこからライスシャワーの後ろについて影を消しつつ風避けにしろ。ここまで来たらあとはライスシャワーとの一騎打ちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子が…ターフの支配者の最後の弟子か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『第4コーナーを回ってミホノブルボン先頭!逃げ切れるか!』

 

『マチカネタンホイザ、ミホノブルボンに食らいつく!』

 

『その後ろからライスシャワー!ライスシャワーが伸びる!残り300メートル程か!?リードは3バ身からどんどん詰まる!』

 

『マチカネタンホイザ、失速!』

 

『1着を争うのはやはりこの2人だ!』

 

『残り200メートル!』

 

『ライスシャワー並んで…躱した!』

 

『ミホノブルボンは絶望的か!三冠の夢のためにここから差し返すか!?』

 

『しかしライスシャワー!差を広げて…いや、ここでハッピーシュガーだ!』

 

 

「……っ!」

 

 

 

『ライスシャワーの影からハッピーシュガー飛び出して今1着でゴール!』

 

『ハッピーシュガー!1着!審議ランプも点灯していない!初勝利をクラシックGI最後の一冠で飾った!2着はライスシャワー!3着にミホノブルボン!』

 

『観客席の落胆の声が響きます!』

 

『今年も三冠バの誕生はありませんでした!』

 

 

 

 

 

「最初は使う気は無かったんだが…お前は私と…いや、俺の支配と相性が良すぎた……だからこそ、お前はこの走りを自分のものにしないと…な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本の競バファンの多くは元々は私に悪感情を持っていなかった。

私に悪感情を持っていたのは多くの他のウマ娘たち…条件戦ウマ娘やGIに出走出来ないレベルのウマ娘たち。

 

だけど、菊花賞を経て日本のファンでさえも敵に回った。

 

もちろん昔ながらのファンやコアなファンや穏健な方々はそうでもなかったけど、流動層等は完全に悪者扱いであった。

 

 

「これって…」

「すみません…私のせいですね」

「そ、そんなことないよ!ブルボンさんのせいなんかじゃ…!」

 

私とライスシャワーとミホノブルボンのウイニングライブの会場は京都競バ場に詰めかけた人の数に対して明らかに少な過ぎた。ガラガラと言ってもいいくらい空いていた。だけど、それはいわゆる『無敗の三冠』に踊らされた流れのファンがあっさり消えただけの話。だからこそ今残ってくれてるファンのみんなに精一杯踊ろうとライスシャワーとミホノブルボンに語った。

 

 

 

 

そして、私とマスターは日本を発った。

 

 

 

 

11戦1勝。

収得賞金、1億2,350万円。

主な勝ちレース、菊花賞(GI)。



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行先は?

菊花賞後すぐに高飛びした私たちの行先は……アメリカ。

マスターが私と折半で買い取ったペガサスワールドカップの出走権。それに出走するためだ。

 

《やぁケント。これからしばらく世話になる》

《まさかターフの支配者がまたUSAに来るとはね…まぁうちとしては使用料さえ払ってくれればなんでもいいさ》

 

 

英語で話すマスターとその…知人?なのかな?アメリカの恐らく白人のおじさん。うん、私は英会話とか無理だからね?入国審査の時点でやばかったし。

 

さて、アメリカのダートはまたちょっと特殊で、土が使われており、日本の芝のような固さがある。まぁ芝とも少し違うんだけど…とにかく、この土に慣れないことには始まらない。

 

ちなみにドバイのダートもアメリカのに近いらしい。

 

 

それはともかくとして…

 

 

とにかく私は菊花賞ウマ娘としても、ミホノブルボンとライスシャワーのためにも半端な成績は残せない。

まぁそもそもにして速さを求めるウマ娘の本能には抗いがたい。

 

まずはペガサスワールドカップを勝って、世界各地に殴り込んだ時に出走出来るだけの実績を作らないといけない。

 

 

砂混じりの土の上を駆ける私。

 

GIウマ娘としての風格というかなんというか…以前の私よりも一杯に追った時のタイムは上がっていた。

 

 

「これはあくまで成長分。普通のトレーナーなら今年デビューさせるんだろうな…だが、君が負け続けた分レースへの経験値は増えてきている。

 君が今年デビューしていれば無敗のトリプルティアラは不可能ではなかったと思うが、恐らく最初に言った全距離バ場不問で重賞制覇という夢には届かない。10戦負け続けた君だからこそ勝てるレースがそこにはある」

 

スピードも、瞬発力も、パワーも、どれをとっても平均して高い。スタミナも菊花賞以降もどんどん増えてきており、超長距離でも不安のないレベルになってきているが。

だけど、なにかに特化したウマ娘…例えばサイレンススズカ……そういえばサイレンススズカもアメリカ来てるんだっけ?まぁいいか。サイレンススズカの最高スピードには私は勝てない。

ゴルシのような無尽蔵のスタミナもない。

エルコンドルパサーのようなパワーもないし、ライスシャワーのような根性もない。

 

だけど、GIウマ娘たちの走力を数値化して平均化したら私の平均の方が高くなる。そう、究極の器用貧乏に仕上がってきているのが私だ。

 

なればこそ、どんな走りでも出来る。

どんな走りも出来るから、マスターの支配力との相性も良いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

年を明けて、1月末。

ガルフストリームパークレース場、ダート1,800m。

 

私はマスターの言いつけ通り、先行逃げ切りを図る。

 

 

―――お前のスタミナは今のところ菊花賞の3,000から天皇賞の3,200くらいが限界だが、そのスタミナを全て遺憾無くダート1,800で発揮出来るようなラップタイムは年末までに叩き込んである…

 

―――ブルボンのような走りを心がけろ。

 

 

ジャパンカップへ向けた調整中に骨折したミホノブルボンに顔向け出来ない走りは出来ない。

……きっと史実と同じくミホノブルボンはもう終わったのだと思う。だからこそ、唯一土をつけた存在として、私は勝たなければいけない。

そして菊花賞を奪ったライスシャワーのためにも。

 

 

《ワァオ、日本のクレイジーウマ娘が独走だ!USAのウマ娘はどうした!》

 

《今1着でゴールしたのは日本の刺客、ハッピーシュガーだ!》

 

 

本賞金 1,200万米ドル。

為替レート1ドル113円計算で13億5,600万円。*1*2

 

11戦2勝(GI 2勝)。

収得賞金 8億150万円。

 

 

 

 

 

ペガサスワールドカップの1着によって、私は世界に名だたる競バ大国に知れ渡った。

なんせ世界一の賞金額であるレースなのだから。*3*4

 

そこで私たちはGI ドバイワールドカップに殴り込むことに。

ペガサスワールドカップ1着を勝った段階で招待されたのだ。

 

ちなみに、今年はいつもよりも賞金額が高くなるらしく、ちょっとウキウキしながらアメリカでの調教に勤しんだ。

 

ドバイのダートはアメリカのダートと似ており、土と砂の混ざったコース。

…そもそも砂オンリーな日本が珍しいだけなんだけど。

 

それはともかくとして、まずは…

 

 

 

 

 

アメリカと言えばこれでしょ!

バーベキュー!

 

アメリカの安い牛肉をふんだんに使ったバーベキュー。

いただきます。

 

いやぁ…ウマ娘なのに肉食べてるとなんか変な気分だけど、もう慣れたかなぁ…

 

そういえばウマ娘って普通の人よりベジタリアン多かったりするのかな?

 

 

 

食べて一休みにマンスリー契約のこの家の庭でくつろぐ。

綺麗に芝が手入れされているのは、ここがアメリカに遠征に来るウマ娘の拠点としてマスターのお友達(ケントさんというらしい)の会社の人が整備しているからだ。言わば貸別荘のようなところかな。

 

基本的に遠征は2人以上のウマ娘とそのサポートスタッフ複数が一般的なので、このコテージはとても大きい。これを2人占めしてるんだから、とても広々と使える。

 

 

 

 

海外遠征中のウイニングライブはとても難しい。

例えばアメリカのGIであるペガサスワールドカップのウイニングライブの曲を覚えたと思ったら、次はどこの曲を覚えないといけないの?という状況になるから。日本のウイニングライブの曲は聞き慣れてるから何とかなるけど…ねぇ。

 

ちなみに次に出走するドバイの国際重賞競走は色んな国からウマ娘が来ることから、1着のウマ娘だけが母国のウイニングライブの曲を行うというスタイルであるので少し楽なんだけど。

 

私は取らぬなんたらって言われるかもしれないけど、『彩 Phantasia』を予定している。私の初めてのGI…桜花賞で踊った曲だから。そういう意味では菊花賞のwinning the soulもアリだったけど…でもやっぱり1番感慨深いウイニングライブだったから。

 

それに…

 

 

 

 

いいよね このまま

世界中 敵に回っても

 

いいよね いいよね いいよね

このまま

離さない ゆずれない 逃がさない 渡さない

 

 

 

 

今の私にピッタリでしょう。

 

*1
本作では為替レートは1円単位の計算で行います。

*2
本作での為替レートは現実とは異なります。

*3
2018年現在の話です。2021年現在においては登録料や出走料などが安くなった代わりに1着賞金は300万米ドルまで下がっております。

*4
2018年現在にはサウジカップはありませんでした。



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骨折

タイトルについて『ウマ娘になりました。重賞制覇なんて夢のまた夢なんだけど』から『ウマ娘になりました。全距離芝ダート重賞目指して頑張ります』に変更します。
GI勝っちゃいましたからね。


日本の下位のウマ娘からのやっかみを私が受けたのは、私が未勝利だったからだけでは無い。

 

ウマ娘の多くは血統主義にまとめられた一族の中にいる。

 

良家でなかったとはいえ、ミホノブルボンの一族は桜花賞勝ちなど、近年でも実績を残していた。

一方私の一族はもはやウマ娘の家系を維持するのも難しい零細…無名の家系。ここ数十年重賞どころかオープン勝ちが精一杯の家系。

 

それこそ、中央トレセンに入れるようなウマ娘ならほぼ全員が私よりいい血筋だろう。

 

そうなれば簡単だ。ミホノブルボンは称えられ、私は嫉妬ややっかみの的にされる。

 

 

お偉いさんたちも、血統主義に染まった頭のお堅い方々なので無名の血統である私はいらないと判断していたのだ。

 

 

 

 

そしてもう1人…

 

 

 

 

 

ドバイワールドカップに出走する日本のウマ娘は私1人ではなかった。

 

 

スマートファルコン。

 

 

ウマドルなる活動をする彼女もお偉いさんに睨まれている存在だ。

今回のドバイワールドカップに送られたのはスマートファルコン陣営の『ウマドルとしての知名度アップを狙える』ことと、お偉いさんの『目障りだからどっか行けや』という思いが交錯した結果であった…らしい。

マスターの受け売りだから知らんけど。

 

 

 

そんな中で走った私たち。

 

さすがにドバイワールドカップに招待された猛者ばかりだけにマスターの指示を完全に遂行することが出来ず、最後の無理なスパートに左足を軽く痛めた挙句、3着に敗れた。

ちなみに2着はスマートファルコン。

 

スマートファルコンはウマドルだけじゃなくて強さも強調出来る結果だったと思う。まぁ今回大逃げを打った私がいなければ勝ってたかもしれないけど…

 

1着はアイルランドのウマ娘だった。

 

 

 

 

12戦2勝(GI 2勝)。

収得賞金 8億150万円。

 

主な戦績

桜花賞(GI)3着

オークス(日本)(GI)2着

菊花賞(GI)1着

ペガサスワールドカップ(GI)1着

ドバイワールドカップ(GI)3着

 

 

 

 

 

 

ドバイワールドカップで3着の私はその足で欧州に入った。

 

ちょっとした休養の後にバルブヴィユ賞(GIII)へ。

あの凱旋門賞をやるパリロンシャン競バ場の芝3,100mの競走だ。

 

強豪はいなかったおかげでレース展開は完全に掌握。途中までをハイペースに逃げ、途中で中団にまでゆるゆると下がり息を入れた後、躱そうとしたところで私は前を走っていたウマ娘の落鉄が飛んできて左足直撃、転倒。競走中止に。

 

前を走っていた落鉄したウマ娘も落鉄で寄れて外ラチに突っ込み故障したそうだ。前のウマ娘はフランスのウマ娘だったらしく、4ヶ月の出走停止処分も食らってた。おつです。

 

13戦2勝(GI 2勝)。

収得賞金 8億150万円。

勝利重賞種別

芝長距離(GI)

ダマイル(GI)

 

 

 

私はウマ娘の専門医に『左足は外傷のみ、右足は骨折。ついた左手は複雑骨折』と診断され、一時的に療養のためアイルランドへ。アイルランドのトレセンに身を寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……いや、テイオーは良くもまぁここから復活したよね。

 

3ヶ月経ち、季節は初夏。

アイルランドは緯度が高いのもあり過ごしやすい気候なのでありがたいのだけど、私は復帰までまだまだ遠そうだった。

 

「焦るな。まだ3ヶ月なんだ。復帰までは半年から1年と言っておいただろうに」

「でも…」

「大丈夫だ。まだトレーニングは再開したばかり。これから少しづつ戻るさ。それに左腕はまだ治りきってないんだ。全力で動くな」

 

 

私の復帰戦はマスターがアメリカのGI メートリアークステークスを目標にしてトレーニングを作っているらしい。芝の1,600mだ。

 

これといった武器のない私には、レース展開を掌握しなければ勝てない。それはつまり、距離が短くなればなるほど不利になる。その中でマイル戦を選んだのは、トレーニングをスタミナ優先からスピード優先に切り替えるためだという。

 

「お前はもう長距離は勝った。あとは中距離より短いレース中心だからな。もちろん来年の秋までに全距離バ場で重賞を取る。そしてその年末、中山に凱旋だ」

 

誰にも文句を言わせない実績を。

……ガラガラの菊花賞のウイニングライブの時みたいな思いは二度とごめんだし、あの時やっかんでいた条件ウマ娘たちを鼻で笑ってやりたい…とまでは言わないけど、見返したいよね。

 

 

 

……もうとっくに老後までのお金は稼いでるし。ペガサスワールドカップの賞金良すぎだよね。ドバイワールドカップの賞金も3着なのに結構貰ったよ。

あとは私の、ウマ娘としての本能にしたがって頂点を目指すことだけ考えればいい。

 

短距離、マイル、中距離、長距離…それぞれで芝・ダートを勝つ…さらに言えば、それを重賞でという注釈も付けたい。競バ界の伝説になる存在…それこそ、シンボリルドルフやミスターシービーにさえ出来なかったことだ。

 

 

だからこそ早くこの骨折を治さないといけない。

今のところ、芝の長距離とダートのマイルは勝ったので、残りは6つ。

 

 

さぁ…リハビリトレーニングだ!

えい、えい、むん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

年末。

 

私の復帰戦はアメリカのメートリアークステークスという話だったよね?

あれは嘘だったらしい。

 

なぜそんなことを言ったのかと言えば、あの怪我をして精神的に脆くなっているところにこんなことを言うのは…とはばかられたと。

 

 

 

 

私は今、日本の地を踏んでいた。



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日本の地へ

全距離バ場重賞制覇という快挙を達成する上で最もネックとなるのは何かと問われれば、私は芝の短距離と答えただろう。

なぜなら、地力が出やすいから。

 

マスターは異なる見解を話した。

 

『ダートの長距離』だと。

なぜなら、レースが少ないから。

 

 

そう、私はダート長距離を戦うために、仕方なくこの日本に帰ってきたのだ。

 

 

 

 

私が出走可能で、マスターのツテのある国のレースに限ると、日本でしか無かったらしい。私も世界中のレースを知ってるわけじゃないからよく分からないけど。

 

 

ここまで来たら私が出走するレースは分かるよね?

チャンピオンズカップ?東京大賞典?

 

 

違います。

 

 

さぁ、当ててみて?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じゃあ答え合わせ。

 

 

正解は名古屋グランプリ(JpnII)。

愛知のローカルシリーズで、中央・地方問わないダートグレード競走として開催される競走。

 

このウマ娘の世界での、距離別仕分け方法は2,500以上が長距離なので、この名古屋グランプリは数少ない長距離ダート競走ということになる。*1

ちなみにウマ娘では未実装レースだった…よね?少なくとも私がプレイしてた時は無かったはず…あれ?でも東京大賞典とか帝王賞があるから…どっちだったっけ。もう十何年も前だし忘れちゃったわ。

 

まぁそんなことはともかく…ペガサスワールドカップに勝った私の評価は、少なくとも多数を占める浮遊層の競バファンはどう見ればいいのか…と距離を置いている。昨年の条件ウマ娘は約4分の1は入れ替わっており、私への風当たりは悪くはなかったがよくもないという感じ。

風当たりが厳しいのは旧良家のプライドばかり高い条件ウマ娘の一部たちと、厳格な血統主義に染まっている頑固な老g…老人たちくらい。

これくらいは慣れたもの。

 

 

さて、名古屋競バ場について説明しよう。

名古屋競バ場は一周1,100mの右回りダートコース。四角からゴールまでの直線距離はなんと194mと現在国内で開催のある競バ場の中でも最短である。

障害競走用の襷コースもあり、ローカルシリーズとして珍しく障害競走を施行している。*2

コーナーはスパイラルカーブ気味。ダート2,500mの場合、四角ポケットからのスタートとなる。

 

 

 

 

当日。

私はお昼過ぎに控え室へ向かう、通りかかったウマ娘たちがぎょっとした目をこちらに向けていた。彼女たちは確か同じ名古屋グランプリに出走するウマ娘のはず。

それもそのはずか。ペガサスワールドカップ1着、ドバイワールドカップ3着という結果を持つ私はダートでも走れることを証明しているし、菊花賞勝ちはスタミナを証明している。だいたいJpnIIのダートグレード競走にGI 2勝のウマ娘が出てくることも少ない。なぜならGIに勝てるダートウマ娘なら国際格付けがある上に、最上位格のGIであるチャンピオンズカップか東京大賞典に向かうから。

名古屋グランプリでも勝てる可能性が高いことは彼女たちやそのトレーナーたちも理解しているはず。

そう、ある意味私にとっては狙い目のレースだった。

 

ここを制して、GI以外のレースも勝つ。

……普通なら意味不明だよね……

 

 

 

 

時間になり、係員の誘導に従ってパドックへ。

係員は流石に頭の固い方ではなかったらしく、GI 2勝ウマ娘である私に恐縮しっぱなしであった。まぁ、ダートグレード競走のJpnIのレースも開催しないこの名古屋競バ場ではGIウマ娘と相見えることは少ないだろう。

 

パドックに入り、中央トレセンの体操服の長袖ジャージを脱ぎ捨てる。

パドックの観客たちはざわめくというより戸惑いの方が大きい様子。とはいえ、GI 2勝の看板は大きいものの、骨折後の復帰レースということもあり3番人気である。

ちなみに体操服や勝負服の中で、背中には重りを吊り下げており、これの重さを斤量と言います。

 

投げ捨てた長袖ジャージを拾ってから本バ場へ向かう。

バ場に入ると、観客席から少しのブーイングと先程の戸惑いの声と少しの歓声を浴びる。

 

私はジョギング位のスピード…ウマ娘のジョギングは20~30km/h位…で準備運動がてらにゲートへ向かう。

 

 

準備運動でバ場で集まっていたウマ娘たちの視線が集まる。

11番の子は私を敵視しているのか睨んでくる。

 

 

 

 

準備運動を終えて時間になりゲート入り。

 

12人のウマ娘がこの名古屋グランプリで鎬を削る。

 

 

 

 

 

『名古屋レース場からダートグレード競走JpnII名古屋グランプリをお伝えします。名古屋、ダート2,500m。天候は晴れですが、前日の雨の影響でバ場状態は稍重の発表です』

 

『夕方ですからね、凍結の心配は少ないですよ!』

 

『各ウマ娘、ゲートに入って体勢整いました…今スタートです』

 

『1番、6番、11番出遅れた!』

 

『3番人気、2枠2番ハッピーシュガー。菊花賞とペガサスワールドカップ勝ちの実績はありますが、骨折療養明けの復帰戦となります』

 

『彼女は今日はどのようなレースを走るのでしょうか。脚質も自在ですから、対策は難しいですよ』

 

『4番、5番、12番、逃げます』

 

『3番、7番、8番、10番が追走』

 

『その後ろにハッピーシュガー』

 

『さらに後方に9番と6番。最後方に1番11番という構えです』

 

『1番は逃げウマ娘ですが…大幅な出遅れです。どうなるでしょうか』

 

『1周目の向正面に入ってハナは12番。続いて4番5番』

 

『ハッピーシュガー、少しづつ距離を詰めます』

 

『3コーナーから4コーナーへ向かいます』

 

『各ウマ娘は縦長の隊列です』

 

『小回りのレース場では珍しく縦長です。後ろの子達は間に合うのか!』

 

『2周目の正面スタンド前、順位の変動はありません』

 

『少々スローペースですね。後ろの子達はかなり厳しくなってきています』

 

『2周目の第1コーナー付近で最後方1番が転倒!巻き込まれる形で11番も転倒!これは大丈夫か!?』

 

『これに驚いたか前の方がかかってしまったか!?ペースが一気に上がるぞ!まだ向正面にも達していない!』

 

 

 

ゴルシ並のスタミナがあれば、全力スパートでもこの1周くらいならバクシン出来る(サクラバクシンオーはそういう意味ではゴルシ並のスタミナを持つ可能性あり)けど、今出走している子達は無理。

スパートを始めた子達は無視して良い。

 

無視できないのは…

 

 

 

『周りがスパートを始める中、ハッピーシュガーと9番はまだ仕掛けない!』

 

 

この9番。

 

こいつ、最初から私をマークしてる…!

自在で、かつレースを支配するタイプの私をマークするのは一か八かの賭けだったかもしれない。でも、今回でいえば彼女と彼女のトレーナーの賭けが当たった。

あの転倒の時点で…いや、1番が大幅な出遅れをした時点で私はアドリブだ。

1番は今回の1番人気だった。

出遅れた時の観客席のため息は正面スタンド前でポジション争いをした私たちの耳にも届いている。

 

さらに、転倒したことで私のアドリブ計画はさらに破綻した。これは…まずい。

 

 

揺さぶりをかける!いや、もうここは…!

 

 

 

『向正面中ほど、ハッピーシュガーが仕掛ける!遅れて9番もスパートに入る!』

 

『第3コーナー手前でハッピーシュガーがハナを奪います!だがオーバースピードじゃないか!?』

 

 

私は身体を内に向けながら、蹄鉄を横に滑らせながらコーナーに突入する。

さらに、小柄な身体をさらに倒して仮柵よりも低くする。

 

 

『ハッピーシュガーが消えた!?物凄いコーナリングだ!』

 

 

これは私とマスターが編み出した私の武器になりうる物だ。

 

スパイラルカーブの出口もさして膨らまずに直線へ。

 

 

『ハッピーシュガー!先頭!療養明けもなんのその!だが9番も追いすがる!』

 

『だが追いつかない!』

 

『コーナー出口で付けた膨らんだ差が9番の邪魔をする!』

 

『ハッピーシュガー1着!1着はハッピーシュガー!』

 

『2着は9番!』

 

 

 

13戦3勝(GI 2勝)

収得賞金 8億1,750万円

主な勝ちレース

 菊花賞(GI)

 ペガサスワールドカップ(GI)

 名古屋グランプリ(JpnII)

勝利重賞種別

芝長距離(GI)

ダマイル(GI)

ダ長距離(JpnII)

*1
名古屋グランプリは名古屋競馬場の移転に伴い、2022年よりダート2,100mに変更されます。また1つ長距離レースが減りますね…寂しいものです

*2
現実の名古屋競馬場は障害競走は廃止しております



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シニア級2年目

今回は短めで失礼


 

 

 

ウマ娘の距離区分について。

 

短距離は1,600m未満。

マイルが1,600m以上2,000m未満。

中距離が2,000m以上2,500m未満。

長距離が2,500m以上。

 

となっている。

 

つまるところ…

 

 

私のシニア級2年目の始動は豪州からだった。

 

 

3月の中頃。

オーストラリアのローズヒルガーデンズ競バ場で行われるGI ジョージライダーステークス。

芝の1,500mは短距離に分類されており、これに勝てば私は芝の短距離の重賞を勝ったことになる。

 

 

オーストラリアは北半球と異なり、ウマ娘の級変更があるのが冬の8月。つまり、今のこの3月という時期は夏競馬から秋競馬に移行し始める最初と言うわけ。

 

このジョージライダーステークスも強者が揃っている。

 

「心配するな。強者だからこそ展開も読みやすいというもんだ」

 

というマスターの言いつけ通りに中団に控える。

 

このローズヒルガーデンズ競馬場は正方形に近い形で、正面の4コーナーからゴールまでが400m超と長いこともあり差しや追込が決まることが多い。先行や逃げでも、スローペースに控えて直線で横一列の末脚勝負になることもしばしば。でも、だからこそ出来る競バもあるとマスターは言う。

 

私の1番の取り柄は器用さ。

スピードも、パワーも、GIウマ娘の中では下位。

唯一GIウマ娘と張り合えるのはスタミナと賢さくらい。

 

だけど、器用さに関してだけは、恐らく世界一だとマスターは語る。

 

特にコーナリングは……

 

鋭角に曲がる第4コーナー。そこをイン突きする。

どれだけ他のウマ娘たちが私を遮ろうとしても、ウマ娘の走行スピードではインが開く。

 

そこにスピードと小回りを効かせた私が割り込んで行く。

 

 

 

この戦法は元々日本の小回り競バ場で使う予定だったのだけど、日本では斜行が取られやすいと判断したマスターが使うのを避けていた代物だった。

 

 

とはいえ、これだけのスピードでこれだけの小回りをこなせば身体にかかる遠心力はとてつもない。

 

一瞬ブラックアウトした視界。

 

それでも足は三半規管にしたがって全速力で走り続ける。

 

中団で脚を溜めていたことと、内側で囲まれていたことから風よけになっていたことも相まって、私の末脚は他のウマ娘を凌駕した。

 

小回りの遠心力をそのままスイングバイのように解き放ち、私は直線を駆け抜けた。

 

 

GI ジョージライダーステークス、1着。

1着賞金、60万豪ドル…為替レートは85円なので、5,100万円。*1

 

 

 

さぁ、年末の中山に凱旋して、私を認めさせないとね…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここまでの戦績

 

 

 

 

 

14戦4勝(GI 3勝)

収得賞金、8億4,300万円

勝利重賞種別

 芝短距離(GI)

 芝長距離(GI)

 ダマイル(GI)

 ダ長距離(JpnII)

 

 

 

ジュニア級

新バ戦 中山 芝 1,200 3着

なでしこ賞(500万下) 京都 ダ 1,400 2着

ファンタジーS(GIII) 京都 芝 1,400 2着

 

クラシック級

フェアリーS(GIII) 中山 芝 1,600 2着

チューリップ賞(GIII) 阪神 芝 1,600 2着

桜花賞(GI) 阪神 芝 1,600 3着

オークス(GI) 東京 芝 2,400 2着

七夕賞(GIII) 福島 芝 2,000 2着

札幌記念(GII) 札幌 芝 2,000 3着

神戸新聞杯(GII) 京都 芝 2,400 3着

菊花賞(GI) 京都 芝 3,000 1着

 

シニア級(1年目)

ペガサスWC(GI) 米国 ダ 1,800 1着

ドバイWC(GI) UAE ダ 2,000 3着

バルブヴィユ賞(GIII) 仏国 芝 3,100 中止

名古屋GP(JpnII) 名古屋 ダ 2,500 1着

 

シニア級(2年目)

ジョージライダーS(GI) 豪国 芝 1,500 1着

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハッピーシュガーへの評価や思いなど

 

………

 

中央元トレーナー、森氏の評価

 

 他のウマ娘の危険行為によって故障したバルブヴィユ賞を除き、全競走で複勝圏内という凄まじい成績ですね。

 血統的に高い汎用性はありますが、血統自体は器用貧乏さが拭えない零細です。しかし、彼女は器用貧乏ではなく万能に近いでしょう。彼女の産駒(注:ウマ娘が産んだ子のこと)からハッピーシュガー系が発展することもロマンに溢れています。

 

 

………

 

 

名古屋GPで惜しくもハッピーシュガーに敗れた9番からの評価

 

 きっちりマークしてたはずなのに、スパイラルカーブの出口でもほとんど膨らまずに直線に入っていて……彼女が膨らまず、私が膨らんだ差が勝負を分けたと思っています。 

 あのレースから、私もコーナリングの練習を増やしました。彼女ほど上手くはないですけど、おかげでローカルシリーズでの活躍の場が広がりました。今後もコーナリングの手本として彼女のレースは見逃せません。

 

 

………

 

 

中央トレーナー、沖野師の評価

 

 いやぁ、凄いぜ。うちのゴルシが何故かあの子を気に入ってるらしくて、俺もあの子のレースは見てるんだが…正直、あのトレーナーと巡り会うべくして生まれてきた様な脚質と器用さを持ってるな。

 あのトレーナー…ターフの支配者との相性もあって、あの子はまだまだ伸びる。

 血統的には超晩成型で現役寿命の長い子だから、うちのとぶつかることがあれば怖いな。

 

 

 

………

 

 

 

血統主義のお偉いさんの評価

 

 あの忌々しい小娘か?あんなバケモン、なんでクズ血統から産まれてくるんだ……クソが…

 

 

 

………

 

 

メジロ家の当主の思い

 

 ……ふーむ。あの子はスタミナと器用さに秀でていますね…マックイーン、いや、ドーベルかライアンと……いいえ、やっぱりマックイーンと彼女の子が……(以降自主規制)

 

 

 

………

 

 

 

中央トレセン生徒会長、シンボリルドルフの思い

 

 彼女には本当に申し訳ない気持ちで一杯だ。彼女への不当な処分やら批判やらを、結局見逃すことしか出来なかった…

 全てのウマ娘に幸福を……やはり夢物語なのだろうか……彼女を批判した条件ウマ娘たちだって、彼女たちも満ち足りた心を持っていれば、こんなことにはならなかったのだろう……まだまだ目標は遠そうだ。

 

 

 

 

………

 

 

マスターの評価

 

 もう引退するつもりだったんだけどなぁ…

 もう俺はこいつにゾッコンだ。こいつの走りを、より多くの人に魅せる。それが私の夢で、目標だ。そして、記録にも記憶にも残る、ウマ娘に仕上げてみせる…!

 

 

 

 

 

*1
為替レートは現実のものではありません。



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外伝 架空史実

あくまでこれは架空史実であり、本編とは異なります。
テイスト程度にお楽しみください。






ハッピーシュガー

 

牝 芦毛

 

1989年3月13日~

(2021年10月現在、存命)

 

父 アップルラバー

母 カノン(母父 Rise Soul)

 

馬主 ハッピー牧場

     →安藤勝敏(繁殖引退後)

 

主な勝ち鞍(GI)

 菊花賞 1992年

 KGVI&QES 1993年

 有馬記念 1994年・1997年・1998年

 凱旋門賞 1994年・1995年

 スプリンターズステークス 1996年

 天皇賞・春 1996年

 ジャパンカップ 1996年

 エリザベス女王杯 1997年

 天皇賞・秋 1997年

 

 

 

 

概要

 

 日本国産馬の競走馬、繁殖牝馬である。

 後年、ハッピー牧場を代表する牝系であるハッピーシュガー系の起点となった偉大なる母として有名。

 当時のGI最多勝記録であるシンボリルドルフのGI 7勝を上回るGI 12勝、国内GIに限定しても9勝は平地の日本馬最多勝となり、未だにタイ記録も許さない凄まじい記録となっている。

 また、1991年デビューから1998年のラストラン有馬記念まで、実に8年もの現役生活を送り、ツインターボやナイスネイチャの世代から98年の黄金世代までの幅広い世代と競走してきた。

 9歳(当時の表記で10歳)まで現役生活を送ったことで、産駒数こそ少ないものの、その数少ない産駒の大半が重賞馬となっている。

 2歳から3歳にかけて12戦連続で敗戦を続けたところから菊花賞を契機に才能を一気に開花させている晩成型。また、GI以外の競走には運がないことが多く、惜敗することもしばしばあった。

 

 後年、98世代のグラスワンダーが種牡馬入りの際にハッピー牧場が40億円で買取り交渉に成功。グラスワンダーの初種付け相手として当時12歳のハッピーシュガーが選出されており、以降のハッピーシュガーの交配相手は2010産駒を除きグラスワンダーのみとなっている。グラスワンダー産駒の初重賞・GI勝利はグラスワンダー供用初年度のハッピーシュガー産駒であるハッピーメレンゲである。

 牡馬と牝馬であるにも関わらず、グラスワンダーとハッピーシュガーは平時から仲が良かったとハッピー牧場の当時の牧場長、竹田氏は手記に記している。牧場の隣合った放牧地で仲良く日向ぼっこやたんぽぽを食べる姿が話題となり、ハッピー牧場にファンがよく見学に来たという。

 グラスワンダーの好物であるたんぽぽを自分の放牧地から摘んでグラスワンダーに渡していたことから、世話焼き女房というあだ名もつけられた。

 

 主戦騎手を務めた安藤勝敏騎手も、ハッピーシュガーの恋人として知られている。ハッピーシュガーの新馬戦を任された時にはもう騎手としては既に引退を考えるほどに高齢(当時49歳)だったが、ハッピーシュガーに騎乗後、馬主のハッピー牧場及び調教師の加藤師と交渉して、ハッピーシュガーの主戦を勝ち取った。その後1992年以降、安藤騎手はハッピーシュガー以外への騎乗を一部の平場戦や条件特別を除き辞めて、ハッピーシュガーの騎乗のために全力を集中させた。

 2020年現在、繁殖牝馬を引退したハッピーシュガーを功労馬としてほぼ無料で譲渡してもらい、ハッピー牧場に預託するという形でハッピーシュガーの馬主になっている。ハッピー牧場の近くに家を建ててそこから毎日通っているほどの溺愛ぶりである。

 ハッピーシュガーと仲の良いグラスワンダーとよく喧嘩をしているとネットニュースになったこともある。

 なお、安藤騎手はラストランの有馬記念時には歳もあり、レースを終えて下馬する時にぎっくり腰をやって、落馬。救急搬送されている。この時57歳。JRAの最年長重賞勝利、最年長海外重賞勝利、最年長GI勝利、最年長海外GI勝利などなど、最年長記録を多数所持することになったがその代償に腰は毎日コルセットが必要になる身体になってしまっている。

 

 

 ハッピーシュガーの産駒で有名なのは第3仔ハッピーメレンゲだが、初仔から活躍馬が多数輩出されている。

 交配がメジロマックイーンだった初仔のメジロシュガーはメジロマックイーンの後継種牡馬として数少ないパーソロン系をきちんと継承した牡馬となっている。また、メジロシュガーはとても珍しい突然変異・優性の白毛の馬であり、このメジロシュガーから日本競馬界に白毛がかなり広がった。

 第2仔は父をミホノブルボンにするハッピークッキー。日本で整備されたばかりのダート路線を舞台に重賞を荒らし回った牡馬で、ミホノブルボン産駒の中では唯一のGI馬となっている。ちなみにダート路線を走っていたにもかかわらず、何故か勝ったGIは海外の芝レースのKGVI&QES。こちらもミホノブルボンの後継種牡馬となり、ハッピー牧場で繁養されている。

 第5仔の牝馬、グラススイートは朝日杯FSを勝利し、父子制覇。その後有馬記念も勝利したグラススイートは両親共に有馬記念の勝利経験を持つ事と母ハッピーシュガーの3回の有馬記念制覇から「年末中山の血筋」なんて呼ばれることになった。*1グラススイートは朝日杯FSと有馬記念を2回制覇したGI 3勝馬である。

 

 最もハッピーシュガーの色を受け継いだ産駒が第3仔のハッピーメレンゲである。ハッピーシュガーと同じくありとあらゆる条件で活躍した。国内外でGIクラスを何度も走り抜き、9歳の冬…有馬記念まで走り中央所属としては破格の100戦を達成した。GI勝利は阪神ジュベナイルフィリーズと菊花賞と天皇賞・春が2回のGI 4勝となっている。なお、牝馬で母娘2代連続菊花賞勝ちは史上初として大々的に報じられた。

 

 頑丈さも売りとなっているハッピーシュガーではあるものの、1993年、フランスでのレース中に前方の馬の落馬転倒に巻き込まれて転倒、その時に骨折を経験している。鞍上の安藤騎手も一時は騎手生命を脅かす大怪我を負ったものの、ハッピーシュガー共々同年の年末に復帰している。

 その大怪我から復帰後、ハッピーシュガーは特にコーナリングを得意とするようになり、怪我から成長した『変態』と呼ばれるようになった。

 2021年9月現在、重賞勝ち馬の存命最年長はラビットボール死去に伴ってナイスネイチャに移ったが、JRAGI勝ち馬に限るとハッピーシュガーが最年長となる。

 

 その頑丈さは産駒ハッピーメレンゲの中央100戦達成にも現れており、1度も怪我や脚部不安を見せずに、出走回避は1度たりともなかった。9歳の年末有馬記念でさえも最終的に捕まったものの、豪快な逃げっぷりを見せて2着に入着している。

 

 現役中に、担当していた松永師が欧州遠征中に亡くなり一時的に加藤厩舎へ転厩。松永師の下で担当厩務員だった大城明菜氏が当年に調教師試験を合格し、ハッピーシュガーは大城厩舎へ転厩。大城厩舎の初入厩馬となる。なお、大城師はJRA初の女性調教師としても有名だが、沖縄出身の調教師としても有名である。

 

 

 

産駒一覧

 

00' メジロシュガー(父 メジロマックイーン)牡

01' ハッピークッキー(父 ミホノブルボン)牡

02' ハッピーメレンゲ(父 グラスワンダー)牝

03' グラスマイスター(父 グラスワンダー)牡

04' グラススイート(父 グラスワンダー)牝

05' ハッピープリン(父 グラスワンダー)牝

06' ハッピークリーム(父 グラスワンダー)牡

07' メジロワンダー(父 グラスワンダー)牝

08' ハッピーワンダー(父 グラスワンダー)牝

09' グラスチョコレイト(父 グラスワンダー)牡

10' (不受胎)

11' メジロパンケーキ(父 メジロベイリー)牝

 

 なお、2009年の種付けシーズンにはグラスワンダーと5回にも渡る種付けが試みられたものの、グラスワンダーが種付けしたフリを何度も行ったことから諦められている。ハッピーシュガーは正常に発情しており、グラスワンダーも馬っ気を出して種付けを行ったものの、グラスワンダーは何故か射精したフリを繰り返した。

 なお、グラスワンダーは同年の他の繁殖牝馬との交配では同様の行為はしておらず、102頭の繁殖牝馬に種付けを行い89頭の産駒を作った。

 同牧場の牧場長の竹田氏(前述の牧場長の娘)は、グラスワンダーのこの行動について原因不明と話した。

 競馬マニアからは、グラスワンダーが高齢で仲の良いハッピーシュガーに配慮したなど、様々な憶測で語られるが本当のことは全く不明であるのを忘れてはならない。

 

 また、2010年の種付けシーズンでも同様のことが起きており、グラスワンダーとの交配を諦め、他の種牡馬と合わせようとすると、グラスワンダーは大暴れしたという。この時グラスワンダーは右前脚を痛めており、同シーズンの種付け数は大幅に落ちた。

 

 

 

 初仔のメジロシュガーは引退後、なんと年間最大160頭の繁殖牝馬に種付けを行い、重賞勝ち馬を量産。その血筋はメジロ牧場のみならず日本とアメリカでパーソロン系を確固たる地位に押し上げた。

 

 

 

 

 

逸話

 

 最初に担当していた松永師は救急搬送された先で1度だけ意識を取り戻すと、ちょうどハッピーシュガーが出走していた凱旋門賞の結果(1994時)を病院の職員に聞くと安心したように永眠した。

*1
グラススイートの出走年である2006年はまだ中山開催である



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遥か彼方へ

 

 

 

 

 

ジョージライダーステークスから香港へ。

 

香港のGI チャンピオンズマイルに出走。

これに勝利した。

 

 

15戦5勝(GI 4勝)

収得賞金、9億2,280万円

 

 

 

 

 

 

 

イギリスへ渡り、KGVI&QESの前哨戦たるプリンスオブウェールズステークスに出走した。

 

ほぼ2,000mの芝であり、中距離戦に分類される。

欧州には運がないのか、私の前5人が転倒。私は障害競走よろしく飛び越えたものの、重い芝での跳躍に足を取られ着地に失敗して転倒。頭を打ち付けたこともあり、万が一を考えてそこから動くのを止め、競走中止。

 

16戦5勝(GI 4勝)

 

幸い、その後の検査では骨折等の異常は無く、打撲程度で済んだ。

KGVI&QESに向けて調整を続けることに。

 

 

 

 

芝長距離(GI)、ダマイル(GI)、ダ長距離(JpnII)、芝短距離(GI)、芝マイル(GI)と勝ってきた私。

まさか、海外でここまで活躍できるとは、最初は思ってなかった。

 

マスターの指示のおかげだった。

 

 

 

 

そう、マスターは転々とする戦場の情報をかき集め、それを自らの脳内でレース展開を何通りも描き、私に指示を出していた。私の調教や出走の手続きや出入国の手続きなど、あらゆるサポートを1人でこなしていた。

本来なら海外遠征の場合は、遠征するウマ娘に対して帯同するサポートメンバーが数人帯同し、地元のコーディネーターを雇い、日本にも後方サポートチームを作る。その仕事を全て1人でここ1年半ほどこなしてきていた。

 

 

 

 

その無理が祟った様に、KGⅥ&QESをマスターの指示通りこなして1着になって、ウイニングライブをキメて、さぁマスターの所に戻ろう…としたところで、見慣れないスーツ姿の男性と女性の2人組が私に話しかけて来た。

 

……マスターが倒れたと。

 

 

 

その2人のうち男性は日本大使館の方で、女性はこの競バ場の職員の方だった。2人の案内にしたがって搬送先の病院へ駆け込んだ。

救急搬送されたマスター。

 

既に白い布が被せられていた。

 

 

 

 

 

 

 

医師の話を大使館の方が通訳してくれたところによると、マスターはだいぶ前から癌を患っていたらしい。正直な話、ここまで世界中を飛び回ってトレーナーとして成果をあげてきたのは奇跡だと。1年前から寝たきりでもおかしくなかったと。

 

 

 

 

事態を知ったトレセンの秋川理事長はURAと交渉し、事務手続き補助員として駿川たづなさんを私に付けることで、『当該海外遠征を終了するまで』マスターに所属するウマ娘としての出走を認めると言ってきた。

 

 

そのおかげで、私はマスターを欠く状態でも次の目標レース…パシフィッククラシックへ出走した。

 

 

 

 

 

 

結果は18頭立ての17着と、中止以外で初めて複勝圏どころか着外…それもボロ負けを喫した。

 

 

 

マスターの指示のない状況では周りのスタミナやスピードを削りきれなかった。

 

 

 

そんな時、マスターから手紙が届いた。

手紙を読んでから気が付いた。

 

マスターは自分が死んでから私がどうなるかまで全て予測していたのだと。

 

 

 

 

―――私はこれまで、お前に競バの勝ち方を教えるようにレースを走らせてきた。お前がもし私が死んでからボロ負けしたなら、それはただの腑抜け。お前がきちんと本気で走れば、トウカイテイオーだろうとメジロマックイーンだろうと、エリシオだろうと負けはしない。

 

 

―――いつかお前が生涯をまっとうしてあの世に来た時、私に叱られない走りを願っている。

 

 

 

 

 

 

私は悲劇のヒロインぶって、腑抜けてたらしい。

 

そうだった。私はいつまでも挑戦者。勝利があれだけ遠かった時を思い出せ…

 

 

 

 

 

 

もう2度と腑抜けたレースはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

米国GI ジャッキークラブゴールドカップ。

 

手紙に書かれていたパシフィッククラシックに負けた時の指示レース。

2,000mのダートレース…ここで勝てば、あとはダートの短距離だけになる。

 

アメリカのダートも、マスター仕込み。慢心はしないけど、負けるとは一切思ってない。自分が勝つという強い想いこそ、ウマ娘()の本能。他者より先へ、他者もり強く。

 

より貪欲に、でも冷静に。それが勝つ秘訣。

 

何度もマスターの下で走ってきた。マスターの支配は身体が覚えてる…はず!

 

 

 

 

『サラトガ競バ場より、国際重賞競走、ジャッキークラブゴールドカップをお送りします。本命はURA所属ウマ娘、ハッピーシュガー。我がアメリカのウマ娘たちの奮闘も期待したいところ』

 

『ハッピーシュガー、前走では17着と大敗を喫しましたが、どうでしょうか』

 

『大外枠がゲートに入って…スタートしました。ハッピーシュガー、いいスタート。ダッシュ良く前に飛び出して、そのままハナに立ちます』

 

………

 

『なんとなんと!残り200!ハッピーシュガーの脚色は衰えないどころか、さらに伸びた!後続は遥か彼方!なんなんだ!日本のウマ娘は化け物か!見えるだけで既に15バ身は離れている!差しや追込のウマ娘も距離が縮まらない!今1着でゴールイン!ハッピーシュガー、1着!これは極東の悪魔だ!』

 

 

 

仕込みは簡単だった。

まずはこちらのマスコミ相手に、私が超長距離を得意とする…というか超長距離のGIを勝てるスタミナ系のウマ娘であることを印象づける。ただそれだけ。別に嘘は言ってないし、事実。だけど、それを印象づけることが大事。

 

逃げはあらゆる位置にいるウマ娘から見える。3,000mオーバーの距離のGIを勝てる私のスタミナを信じて開幕から大逃げ。私が2,000のダートをあのペースで走りきれると思った眼のあるウマ娘はハイペースに飲まれ、走りきれないと思ったウマ娘は気付いた頃にはもう取り返しのつかない距離。

大逃げのお手本のような…走り。マスターが最終的に完成させようとしていた走りに近い走り方だ。

 

 

 

18戦7勝(GI 6勝)

収得賞金 9億9,233万4,910円

 

 

 

 

 

そして次はBCスプリント。

ダートの1,200。

 

これは1番苦労した。

GIのスプリントともなるとスピードが違う。これは差し足では負けるのは確実なのでやはり大逃げを選択する。ただし、距離適性外なので、GIウマ娘としてはただでさえ見劣りするスピードがさらに出ない。

 

そんな私の策はたったひとつ。

『最初から最後までのロングスパート』だ。

スプリントで勝てる要素があれば、それは絶対的なスタミナだけ。それを存分に使い切る…簡単に言えば『バックシーン!』である。

バクシン!で知られる彼女の血統は中距離血統のはず。そのスタミナを短距離に1点集中させたのが彼女だと言われている。つまり、スタミナの消費の多い戦法だって短距離に限ればこなせる。

 

芝ダート全距離重賞勝利に王手をかけている。

 

結果は……1着。

 

 

 

マスターが目標としていたBCシリーズでの快挙。

 

夢朧気に長い…本当に長い海外遠征の最後を迎えたのだった。

 

 

 

19戦8勝(GI 7勝)

収得賞金 10億5,213万4,910万円

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

12月。

 

記念の人気投票は流石にGI 7勝(海外GI 6勝)とシンボリルドルフに並んだ…それどころかシンボリルドルフが出来なかった海外GIを獲った私が選外となることは無かった。

 

 

だけど、そんなことどうでもよかった。

 

 

 

BCスプリントの記念に貰った優勝トロフィーのレプリカ…レプリカで悪いんだけど、これを持っていくことが最も重要だった。

 

マスターの墓へ。

 

 

 

 

 

マスターが、おくびにも出さなかったけど、最も心待ちにしていた報告…BCシリーズに勝ったことと、全距離バ場重賞制覇…それも、ダート長距離以外は全てGIという偉業の報告だ。

 

 

 

とっくに日本で火葬・納骨されていたマスターに、ようやく報告しに行ける。

 

 

 

 

 

あなたのウマ娘が歴史に名を刻んだのだと。



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年末の中山、彼女は伝説となる

『さぁ、年末の中山。今年1年を締めくくる総決算です、冬のグランプリ有記念。私の夢、あなたの夢は叶うのか。出走する11人のウマ娘をご紹介しましょう』

 

『1枠1番の好枠を引いたのは、レースに復帰したばかり。シニア級4年目を迎えましたメジロマックイーン。まさかの復帰レースがこの有記念となりました。11番人気となっています』

 

『2枠2番はこの子、ビワハヤヒデ。今年の天皇賞・春と春のグランプリ宝塚記念を勝ったウマ娘です。ここで勝って春秋グランプリとなるか。3番人気に推されています』

 

『3枠3番はマチカネタンホイザでしたが、残念ながら蕁麻疹で競走取消となっています』

 

『続いて4枠4番はこちらは去年の覇者、トウカイテイオー。春から秋にかけて4度目の骨折で休養。有記念専用機とまで言われる始末。8番人気に推されています』

 

『5枠5番はツインターボ。言わずと知れた大逃げっぷり。今日は2,500だが燃料は持つのか!7番人気です』

 

『5枠6番はミホノブルボン。1年半近くの療養の後、今年の秋に復帰しました。今年初のGIの大舞台、返り咲けるのか。そして菊花賞の借りを返す時だ。10番人気です』

 

『6枠7番はヒシアマゾン。秋華賞ウマ娘がクラシック三冠ウマ娘とシニア級が集まったこのレースに殴り込みだ。6番人気です』

 

『6枠8番、ナイスネイチャ。3年連続有3着は伊達ではない。今年こそは年末の栄誉を手にするのか!4番人気です』

 

『7枠9番はライスシャワー。今年は不振が続いていますが、この子としても菊花賞の借りを返すチャンスです。5番人気となっています』

 

『7枠10番はナリタブライアン。言わずと知れた今年の三冠ウマ娘です。この豪華な顔ブレの中でも三冠ウマ娘として貫禄を示すのか!1番人気です』

 

『8枠11番はナリタタイシン。秋は体調不良で休養していたこともあり人気薄での出走となりました。9番人気となりました』

 

『大外の8枠12番、ハッピーシュガー。トレーナーがお亡くなりになって沖野トレーナーの下に転入。GI 7勝の彼女。シンボリルドルフ越えが期待されます。2番人気です』

 

 

『おおっと、ここで暴走です。ツインターボ、暴走!発走時刻になっていますが、ツインターボ、ターフを1人駆けています。今、誘導ウマ娘が捉えようとしますが…ダメですね。ツインターボ、脅威の逃げ足だ』

 

 

 

 

 

 

『発走時刻の繰り下げをお知らせ致します。ツインターボの暴走により、30分の繰り下げを行います。また、本日第11レース有記念5枠5番ツインターボは暴走による疲労から競走除外となりました』

 

 

 

 

『再度発走時刻となります。今年は回避するウマ娘が多い中、12人の寂しい有記念。さらにマチカネタンホイザとツインターボが減り、10頭立てとなっております』

 

『中山の芝、2,500m。バ場状態は良の発表です』

 

 

 

『ゲート入りはスムーズに…いえ、トウカイテイオーがゲート入りを拒みます。今係員の補助を受けて…入りました。続々とゲート入りが行われています。さて…最後は大外ハッピーシュガー。ゲートに入って体勢整いました……』

 

 

『今スタートしました』

 

 

『ツインターボのいない中、ダッシュ良く前に飛び出したのはミホノブルボンとハッピーシュガー。ハッピーシュガーは2番手で追走する構え』

 

『1バ身ほど離れて、3番手にはメジロマックイーン』

 

『ナリタブライアン追走』

 

『すぐ後ろ、ライスシャワー』

 

『その外にトウカイテイオー』

 

『それを見るようにナイスネイチャ』

 

『1バ身離れてビワハヤヒデ』

 

『さらに後ろでヒシアマゾン』

 

『外にはナリタタイシン』

 

『4コーナーを抜けて、1度目のホームストレッチに入ります』

 

『今回の有記念、トウカイテイオーの連覇、ビワハヤヒデの春秋グランプリ、ハッピーシュガーのGI勝利数単独1位と、様々な記録がかかります。その中で5番人気のライスシャワー。怖いぞ』

 

『さらに言えば、悲願のGIナイスネイチャに、ミホノブルボンとしてもトウカイテイオーよりも長い療養明けでのGI勝利記録が懸かっています』

 

『さぁ、第1コーナーへ』

 

『先頭に戻りましょう』

 

『ミホノブルボンとハッピーシュガー並んで先頭。ペースは遅めなので、競り合っている訳ではなさそうです』

 

『3番手に上がってきましたナリタブライアン。かかっているのか』

 

『それを完全にマークしているのはライスシャワー』

 

『メジロマックイーン、トウカイテイオー、並んでいる』

 

『その後ろにはナイスネイチャ』

 

『外目にビワハヤヒデ』

 

『2バ身ほど離れてヒシアマゾン』

 

『さらに1バ身ほど離れてナリタタイシン』

 

『先頭から殿までおよそ10バ身ほど』

 

『逃げと追込以外は団子状態です。これは紛れがありそうです』

 

『坂を降り、向正面へ』

 

『ハッピーシュガー、ここで上がってきました。ハナに立ちます』

 

『ミホノブルボンはまだ自分のペース』

 

『バ群も少しペースを上げたでしょうか。下り坂で息を入れた分か?』

 

『ハッピーシュガー、2番手のミホノブルボンと2バ身から3バ身へとリードを開いていく』

 

『残り800。ここでメジロマックイーン、早仕掛け!ロングスパートを始めた!』

 

『ナリタブライアン、メジロマックイーンを追走する!ライスシャワーも上がっていく!』

 

『3コーナーから4コーナーへ』

 

『トウカイテイオー!伸びてきた!』

 

『ミホノブルボン、厳しいか!メジロマックイーン、ナリタブライアン、ライスシャワー、躱した!』

 

『外からヒシアマゾンとビワハヤヒデが鋭い差し足で飛んできた!』

 

『ハッピーシュガー、粘る!まだリードは2バ身から3バ身はあるぞ!』

 

『メジロマックイーンはここまでか!残り200!』

 

『ハッピーシュガーに迫るはナリタブライアン!ライスシャワー!』

 

『さらにナイスネイチャもスルスルと伸びた!』

 

『ナリタブライアン!ライスシャワーが躱す!』

 

『ライスシャワー、ハッピーシュガーに並びかける!』

 

『躱すか!今並んでゴールイン!』

 

『ステイヤー同士のぶつかり合いでしたが、どうでしょうか…写真判定です!』

 

『3着はナイスネイチャ!4年連続3着!これはこれで凄い記録だ!』

 

『1番人気、三冠ウマ娘ナリタブライアン、これは掲示板までです』

 

 

 

 

『ただいま確定しました』

 

『1着はハッピーシュガー!GI 8勝目!シンボリルドルフを超えた!歴史的偉業を達成した!URA所属ウマ娘として、単独最多GI勝利記録を樹立した!』

 

『2着にはライスシャワー!惜しくもハナ差で敗れました!』

 

『3着は2バ身差でナイスネイチャ』

 

『4着には半バ身差でナリタブライアン』

 

『5着にはメジロマックイーン!』

 

 

 

 

 

 

 

 

中山 11R 有記念

1着 ハッピーシュガー 2:32.2

2着 ライスシャワー ハナ

3着 ナイスネイチャ 2バ身

4着 ナリタブライアン 半バ身

5着 メジロマックイーン 1バ身半

6着 トウカイテイオー アタマ

7着 ナリタタイシン 2バ身

8着 ビワハヤヒデ ハナ

9着 ヒシアマゾン ハナ

10着 ミホノブルボン 2バ身

除外 ツインターボ

取消 マチカネタンホイザ

 

 

 

 

 

 

 

 

ハッピーシュガー

これまでの獲得賞金*1

 

新バ戦 3着 225万3,000円

なでしこ賞  2着 446万5,000円

ファンタジーS 2着 1,247万4,000円

 

フェアリーS 2着 1,444万4,000円

チューリップ賞 2着 2,144万4,000円

桜花賞 3着 4,244万4,000円

オークス 2着 4,444万4,000円

七夕賞 2着 1,650万4,000円

札幌記念 3着 1,850万4,000円

神戸新聞杯 2着 2,244万4,000円

菊花賞 1着 1億2,044万4,000円

 

ペガサスWC 1着 1,200万米ドル

  為替レート113円 13億5,600万円

ドバイWC 3着 120万米ドル

  為替レート112円 1億3,440万円

バルブヴィユ賞 中止

名古屋グランプリ 1着 3,200万円

 

ジョージライダーS 1着 60万豪ドル

  為替レート85円 5,100万円

チャンピオンズマイル 1着 1,140万香港ドル

  為替レート14円 1億5,960万円

プリンスオブウェールズS 中止

KGⅥ&QES 1着 49万6,213ポンド

  為替レート140円 6,946万9,820円

パシフィッククラシック 17着

ジョッキークラブゴールドカップ 1着 60万米ドル

  為替レート116円 6,960万円

BCスプリント 1着 104万米ドル

  為替レート115円 1億1,960万円

記念 1着 3億50万4,000円

 

 

 

合計 26億1,203万7,820円

 

*1
実際の賞金額とは異なります



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記事 有マ記念

 

 

 

 

 

 

 

 

 

URA最多GI勝利記録、塗り変わる

 

 

 

 

 

 年末の中山。日本競バの総決算、有記念において偉大な記録が塗り替えられた。

 URA最多GI勝利記録はこれまで現在ドリームトロフィーリーグに所属しているシンボリルドルフ(東条T)の持っていた7勝だった。それを塗り替えたのは一昨年の菊花賞で一躍悪評と共に有名になったハッピーシュガー(沖野T)だ。

 

 3年前にデビューを果たしたハッピーシュガー。重賞2着でオープンとなるものの勝ちきれないレースが続いた。負け続けること10戦。とうとう掴んだ勝利は、ミホノブルボンの無敗三冠がかかった菊花賞。それまで桜花賞3着、オークス2着と来ていたハッピーシュガーがわざわざ菊花賞に殴り込み、ミホノブルボンの三冠を阻止したことや、それまでわざと負けていたのではないかという憶測からの悪評が国内に広がった。

 

 血統的には全く期待のなかったハッピーシュガーだが、菊花賞を契機に一気にGIウマ娘として開花した。

 世界最高賞金額のペガサスWC(米国GI、ダ1,800)1着、ドバイWC(UAE GI、ダ2,000)3着と、新年始動は海外の高額賞金ダートレースからだった。ダートレースだったものの、海外のダートは日本のダートよりも硬い土のコースなので選んだのかと思いきや、その年の12月には日本の砂コースであるダートグレード競走名古屋グランプリ(名古屋 JpnII、ダ2,500)を勝利。更には今年に入ってから、ジョージライダーS(豪州GI、芝1,500)やチャンピオンズマイル(香港GI、芝1,600)やKGⅥ&QES(英国GI、芝2,400)、トラヴァーズステークス(米国GI、ダ2,000)、BCスプリント(米国GI、ダ1,200)と距離もバ場も国までバラバラにGIの勝ち星を量産。年末の中山にGI 7勝、全距離バ場重賞勝利という偉業を携えて帰ってきた。長い長い海外遠征を終えた彼女は10連敗していた時とはまるで『デキ』が違った。己の短所と長所を利用してターフを支配した。

 

 彼女は、ハッピーシュガーは決して勝ちきれなかった頃に全力を出していなかったという訳では無い。本紙は彼女の初代トレーナーである故 田辺Tの存命中にビデオ通話によるインタビューに成功していた。

 それによると、彼女を『ただのGIウマ娘』にしたければ、デビューは翌年になっていた。本格化前に本番のレースを何度も経験させることで下積みをさせていたという。特に桜花賞・オークスでの3着2着の後にシニア級を交えた七夕賞等でも複勝圏に入り込んだことからも、彼女の成長は伺えたという。特に神戸新聞杯では不等な降着処分がなければ1着だったと語った。(神戸新聞杯での降着処分には田辺トレーナーによる異議申し立てが行われたものの、棄却されていた。競バ解説者の山森氏によると、あれは降着処分にまでは相当しないか2着入線のマチカネタンホイザも同罪として降着させるかのどちらかだったという)また、故 田辺Tは自分の生きているうちにハッピーシュガーの名前が歴史に刻み、それを見届けたかったという欲がなかった訳ではありませんと語ったが、それが真実なのかは不明である。

 

 

 今年の有記念では他にも記録が達成されている。南坂Tの管理するチームカノープスである。3人のウマ娘が出走する予定だったものの、マチカネタンホイザは蜘蛛を誤飲して蕁麻疹で出走取消、ツインターボはなんと15分にも渡って返しウマからの暴走を起こし除外、4年連続3着という珍記録を作り出したナイスネイチャと、話題には事欠かないチームである。特にナイスネイチャの4年連続3着はハッピーシュガーのGI 8勝と同じくらい大きな話題となっており、彼女の人気ぶりがよく分かる。

 話題性は非常に高いカノープスだが、悲願のGI勝利はお預けとなった。

 

 

 最後にメジロマックイーンとトウカイテイオーの翌年以降について。

 メジロマックイーンはシニア級5年目を天皇賞・春、宝塚記念、天皇賞・秋、有記念の4レースに絞りレースに挑む予定となっている。左足に負った繋靭帯炎の再発防止のため、叩きのレースにも出走しない意向である。

 トウカイテイオーは同チームとなったハッピーシュガーの帯同として欧州遠征を行う予定であるが、もちろん彼女自身も欧州での活躍が期待される。大目標レースはハッピーシュガーと共に出走予定である凱旋門賞である。

 

 

 




本作はここで完結となります。

続きは皆さんの妄想と共に


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外伝 架空史実実況 ラストラン

『さぁ、今年も中央競馬の総決算、有馬記念がやって来ました。中山競馬場、芝2,500で争われる夢のグランプリ。今年の有馬はあのハッピーシュガーとエアグルーヴのラストランで入場規制が行われるほどの動員数です』

 

『さらにさらに、3歳チャンピオンのグラスワンダー、今年の二冠馬セイウンスカイ、エリザベス女王杯でエアグルーヴを破ったメジロドーベル、天皇賞馬メジロブライトとオフサイドトラップ、前年の菊花賞馬マチカネフクキタル等、とても豪華なメンツが揃っております』

 

『さらに春秋天皇賞2着、宝塚記念2着のシルバーコレクター、ステイゴールドも念願のGI制覇へ向けています』

 

『この有馬記念、ハッピーシュガー、マチカネフクキタル、セイウンスカイと歴代菊花賞馬が揃っております。この戦いにも注目ですね』

 

 

『さあ、まもなく本馬場入場です』

 

『まず最初に登場したのは1枠1番の好枠、前年の菊花賞馬マチカネフクキタル。今年は怪我に悩まされ今ひとつの結果となっていますが、あのサイレンススズカを捉えた驚異的な末脚は炸裂するのか。5番人気です』

 

『続いて1枠2番、グラスワンダー。クラシックは怪我で参戦できませんでしたが、この大一番で復活を示すのか3歳チャンピオン。6番人気です』

 

『2枠3番はエアグルーヴ、本日の3番人気です。勝ちきれない競馬が続いていますが、有終の美を飾るのか、その底力に期待があります』

 

『2枠4番、ダイワオーシュウ。初の重賞制覇がこの大一番有馬となるのか』

 

『3枠5番、ステイゴールド。稀代のシルバーコレクターが今度こそ戴冠するのか、その走りに注目です。11番人気です』

 

『8歳馬のベテラン、3枠6番は今年の秋の天皇賞馬オフサイドトラップ。3度の屈腱炎を乗り越えて天皇賞馬となったこの馬。この馬もラストランを宣言しております』

 

『この馬が本馬場入場すると、観客席から大歓声が上がります。2番人気、前年の覇者にして日本唯一の凱旋門賞馬、4枠7番ハッピーシュガー。10歳になった今年、調整のためGIはこの有馬記念にのみ照準を絞った陣営の選択。直近では、ダートGII浦和記念に勝利しています。これに勝って有馬記念連覇、有終の美を飾りたいところ』

 

『さぁ、4枠8番はシルクジャスティス。人気薄ですが、一発に期待出来ます』

 

『5枠9番、サンライズフラッグ。少々厳しいメンツではありますが、年末のお祭りですからね。期待しましょう』

 

『5枠10番、メジロブライト。4番人気です。天皇賞馬としての格の違いを見せつけたいところ』

 

『6枠11番に1番人気、セイウンスカイ。二冠馬の実力を見せつけたいところ。芦毛の馬体が冬枯れのターフに映えます。圧倒的な前走の菊花賞を背景に1番人気に推されています』

 

『6枠12番はユーセイトップラン。同じ距離であるアルゼンチン共和国杯を勝っていますが、メンツは厳しめです。ダークホースとなりうるか』

 

『7枠13番、キングヘイロー。緑のメンコはおなじみのスタイル。春には三強とも呼ばれたその実力をきちんと発揮出来れば一発狙える位置にいます』

 

『7枠14番、メジロドーベル。エアグルーヴを破った勢いでこの有馬記念へ殴り込んできました。不利な外枠でも彼女の末脚ならば大穴となりうるでしょう』

 

『8枠15番、ビッグサンデー。人気はありませんが、それ故に気を楽に走れるか』

 

『大外16番はエモシオン。クラシックでは三強に敗れたものの、将来性は抜群。雪辱を晴らすか!』

 

 

 

 

『ゲート入りはスムーズに行われています。まもなく大外エモシオンが収まって…スタートしました』

 

『何がハナを切るのでしょうか』

 

『ハナを切ったのはセイウンスカイ。続いてハッピーシュガー』

 

『エアグルーヴは中団に付けています』

 

『ハッピーシュガーがするすると下がっていく。内ラチ側をゆるゆると下がるハッピーシュガー』

 

『これは…ハッピーシュガーは追込策!スタートは持ち前の良さで飛び出したもののスタートダッシュは避けて脚を溜めている!』

 

『後続の内ラチ側にいた馬としては邪魔になります…マチカネフクキタル、グラスワンダー、ダイワオーシュウがハッピーシュガーが垂れて共に後退』

 

『エアグルーヴ、ポジションを少し押し上げます』

 

『先頭は変わらずセイウンスカイ』

 

『続いてステイゴールドが2番手まで上がっています』

 

『1度目のホームストレッチに入って、歓声が響きます』

 

『その中で先頭はセイウンスカイ、レースを引っ張ります』

 

『2番手も変わらずステイゴールド』

 

『グラスワンダー、かかってしまったか!ポジションを押し上げ始めました』

 

『1番人気のセイウンスカイ、レースを引っ張ります。しかしながら周りも圧倒的な菊花賞での走りを警戒してかセイウンスカイに圧力をかける位置取り。マークが厳しいがどうか』

 

『ハッピーシュガーは最後方!ここから届くのか!10歳牝馬!今年はまだ無冠!ラストランのこの有馬記念で有終の美を飾りたいところだ!』

 

『向正面に入って未だに先頭のセイウンスカイとシンガリのハッピーシュガーとの差は15馬身から20馬身と言ったところ。しかしながら、後方の馬も少しづつ距離を縮めています』

 

『グラスワンダー、位置取りを少しづつ上げていきます。それに続くようにマチカネフクキタル』

 

『グラスワンダー、春の骨折からの復帰後は不振の続く3歳チャンピオンが返り咲きを果たすべく、3コーナーから進出し始めた!』

 

『さぁ、勝負の最終コーナー、先頭は未だにセイウンスカイ!セイウンスカイ先頭!』

 

『2番手はステイゴールド!ステイゴールド、ここで勝って勝ち鞍を2勝クラス阿寒湖特別からGI有馬記念へ飛び級更新するのか!』

 

『内はエアグルーヴ!伸びないか!』

 

『中でステイゴールド伸びてくる!』

 

『グラスワンダー、ステイゴールドを躱し、セイウンスカイを躱す!』

 

『メジロブライトも伸びている!』

 

『グラスワンダー先頭!グラスワンダー、これは決まったか!いや!大外にハッピーシュガー!飛んできた!まるで見えていなかった!あっと言う間にハッピーシュガー!ハッピーシュガー!グラスワンダー!並んだ!ハッピーシュガー!グラスワンダー!ハッピーシュガー!グラスワンダー!今もつれたままゴール!』

 

 

『3着はメジロブライト、4着にはステイゴールド!1番人気のセイウンスカイ、これは掲示板までです』

 

『1着と2着は写真判定となっています。確定までお手持ちの投票券は大切にお持ちください』

 

『仮にハッピーシュガーが勝ちますと、単勝はおよそ3.0倍。グラスワンダーが勝ちますとおよそ14.8倍の倍率となっております』

 

『誰もが今か今かとハラハラと見守る写真判定』

 

『もしも10歳馬ハッピーシュガーが勝ちますと、ハッピーシュガー自身の持つ最高齢GI勝ちの記録を更新します』

 

『仮に2-7-10の順ですと、それぞれ単勝が2番人気、6番人気、4番人気となり、三連単のオッズは424.2倍。逆に7-2-10の順ですと、三連単のオッズは762.9倍と、どちらも万馬券誕生の可能性が高いです』

 

『三連複は2-7-10で締切の段階で65.4倍になっております』

 

 

 

 

 

『入線から5分が経過しましたが、まだ着順は出ませ…と、ここで着順が…えっ、あっ…これは…同着です!2番グラスワンダー、7番ハッピーシュガー、これは同着です!』

 

『1着は2番グラスワンダーと7番ハッピーシュガーの同着!3着は10番メジロブライトが5馬身差、4着には5番ステイゴールドがクビ差、5着は11番セイウンスカイが半馬身差で確定しました!』

 

『怪我を乗り越えたジュニア王者、有馬記念を戴冠!そして、10歳馬のGI戴冠!これは魅せてくれた!』

 

 

『1,200から3,200まで走り抜けた伝説の12冠の牝馬と、若き最強世代が肩を並べました!歴史に残る偉業です!』

 

 

 







実況中の年齢表記は旧表記で数え年となっており、現代の年齢の数え方とは異なります。

グラスワンダー→3歳チャンピオン(現表記2歳)
ハッピーシュガー→10歳馬の戴冠(現表記9歳)


2022 4/21
三連単のオッズを変えました。


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外伝 GI 札幌記念 札幌 芝 2,000

トライアル結果

GIII 七夕賞 福島 芝 2,000
1着 センターファイン

GIII 中京記念 中京 芝 1,600
1着 ミヤヅクルセイド


 

 

 

 

 

 

 

 

『今年から夏競馬唯一のGIに昇格しました札幌記念。初の戴冠馬はどれになるのでしょうか』

 

 

『1枠1番、タダヨモート。前走は大敗してしまいましたが、休養を挟んでどうでしょうか』

 

『鹿毛の実力馬の登場です。1枠2番、アール。今年の安田記念を制したそのスピードで、夏競馬初のGIを制覇するか』

 

『2枠3番、ラコーニインダラ。直線勝負に強いこの馬にとって、今日のペースは流れて欲しいところ』

 

『昨年の年度代表馬の登場です。2枠4番、ミコノデストロイ。昨年だけで宝塚記念、天皇賞・秋、有馬記念の3レースを制覇し、今年に入ってからも好成績ではありますがGIでは惜敗が続いています。ここは勝って格の違いを見せつけたいところ』

 

『葦毛の暴れ馬、ゴールドシップを思い出すこの馬。是非勝ってゴールドの系譜を繋いで欲しいところです。デイジーゴールド』

 

『3枠6番にはスピードライトレス。逃げ馬としては内枠の好枠です』

 

『4枠7番はセンターファイン。トライアルに指定された七夕賞を勝ってここに来ました。父系を遡ればあのシンボリルドルフにトウカイテイオー。ここは勝って、パーソロン系に久しぶりのGIをもたらしたいところ』

 

『昨年の皐月賞馬の登場です。同じ芝2,000右回りの舞台で久々のGI制覇をこの新たなGIで狙います。4枠8番はミシュー。ライバル共々故障休養を明けての一戦に期待がかかります』

 

『今年のダービー馬の登場です。ウオッカ以来の牝馬のダービー馬であるだけではなく、未勝利からの青葉賞2着…初勝利が12番人気だったダービーでした。今日はダービー以来の出走です、ヒマワリチャン』

 

『昨年のダービー馬、イダタトモヒコ。療養明けですが、負けられないライバルとの熱い戦いを期待しましょう』

 

『6枠11番はアサマセレスタイト。好位につけてスっと前に出れば勝機ありと陣営はダークホース発言。勝ち名乗りをあげられるか』

 

『6枠12番はまくりの帝王、ミヤヅクルセイド。トライアル指定された中京記念では圧巻のまくり劇を見せてくれました。ここでもあっと言わせることが出来るか』

 

『昨年、GIIとして最後の札幌記念を制し、その勢いそのままにエリザベス女王杯を制したこの馬、フラワリン。連覇なるか』

 

『ナイスネイチャ二世、ステイゴールド二世など、散々な言われ方をしているこの馬。とはいえその実力はGI戦線を戦い抜いていることからも無視できません。アウターワールド』

 

『外枠の不利もなんのその。メジロパーマーを思い出す走り方と逃げは一種のアイドル性すら兼ね備えています。しかし、その底力はパーマーと同じくGI級。アズミノサン』

 

『大外は昨年の二冠牝馬、今年もヴィクトリアマイルを制しGI 3勝のこの馬、ハッピーストライク。4代前の牝系にはハッピーシュガーがあります』

 

 

 

『今や日本の一大牝系となりつつあるハッピーシュガー系。その直系牝馬が二頭出走します。この二頭にも注目です』

 

 

『さて、16頭のうち、なんと5頭ものGI馬が集結したこの札幌記念。新設のこのGIに、どんなドラマが待ち受けるのでしょうか』

 

『一番人気は9番のヒマワリチャン。ウオッカ以来のダービー勝ちの評価は高いか』

 

『二番人気はハッピーストライク。桜花賞勝ち馬で札幌記念を制した馬と言えばソダシがこれに当たりますが、これに続けるか』

 

『三番人気は2番のアール。安田記念の衝撃は忘れられません』

 

 

 

 

 

『夏は牝馬という言葉通り、上位人気は牝馬が多数名前を連ねています、札幌記念』

 

『さぁ、この札幌記念のGI昇格に合わせて作られた、GIファンファーレが鳴り響きます』

 

『3枠5番、デイジーゴールド、枠入りを嫌っていますが、どうでしょうか。既に1番タダヨモートをはじめとする奇数番の馬は枠入りしています。デイジーゴールド、動きません』

 

 

 

『枠入り始まって2分、ようやくデイジーゴールド入りました。これは先入りしていた馬は厳しい戦いになりそうです』

 

『大外枠のハッピーストライク、ゲートに入って…今スタートしました』

 

 

 

『ポンと飛び出したのは枠入りを嫌っていたデイジーゴールド。まるでゴールドシップを思い出します。ミシュー、この馬も好スタートを切りました』

 

『おおっと一番人気のヒマワリチャン、出遅れたか』

 

『スピードライトレス、行きました。続くようにアズミノサン』

 

 

 

『先頭からもう一度見ていきましょう』

 

『ハナに立ったのはスピードライトレス。少し開けてアズミノサン』

 

『間を開けてフラワリン。その外からセンターファイン。少し後ろからデイジーゴールド』

 

『それをピッタリ付けているのがショナヴァージン。その後ろにタダヨモート。ミシュー、いい位置』

 

『アサマセレスタイト、その後ろに付けています。アウターワールド、その前に進出』

 

『ハッピーストライク、中団後方に付けます』

 

『一番人気のヒマワリチャンは…いちにさんよん…12番手』

 

『まくりの帝王、ミヤヅクルセイドこの位置。アール、控えてこの位置』

 

『イイダトモヒコ、ラコーニインダラ、共に追込体勢』

 

 

『第1コーナーから第2コーナーへ向かいます。先頭はスピードライトレス』

 

『直線の短い札幌では珍しく縦長の展開です。これが後方勢にどう影響するか』

 

 

『ハッピーストライクの鞍上、安藤亜矢奈騎手はハッピーシュガーの主戦として知られる安藤勝敏元騎手の曾孫に当たり、ハッピーシュガーとハッピーストライク、安藤勝敏元騎手と安藤亜矢奈騎手は同じ曾孫の関係にあります』

 

 

 

『さぁ、3コーナーから各馬動きます』

 

『さぁ先頭はスピードライトレス。2番手にアズミノサン』

 

『4コーナー、先頭はスピードライトレス。その外にアズミノサン、食い下がる!デイジーゴールド、伸びないか!?』

 

『大外回ってミヤヅクルセイド!真ん中馬群を割ってセンターファインも来た!その外からハッピーストライクとヒマワリチャンも飛んでくる!』

 

『スピードライトレス、粘るか!差し追い込み勢が差し切るか!』

 

『スピードライトレス、脚色が悪いか!粘れるか!』

 

『ミヤヅクルセイドも伸びない!』

 

 

『真ん中3頭に絞られたか!内でセンターファイン!中でハッピーストライク!外でヒマワリチャン!』

 

『3頭の叩き合い!もつれたまま今ゴール!』

 

 

 

『大接戦のゴール前!なにが勝ったか、全く分かりません!』

 

『4着にスピードライトレス、5着にミヤヅクルセイド!』

 

 

 

 

『長い長い写真判定がまだ終わりません。人気としてはヒマワリチャンとハッピーストライクは単勝3倍台、センターファインは九番人気18倍ほど。仮にセンターファイン1着ですと三連単は万馬券となるか…』

 

『っと、ここで確定しました!?1着同着!1着はハッピーストライクとセンターファイン!3着にハナ差でヒマワリチャン!勝ったのはハッピーストライクとセンターファイン!』

 

 

 

 


 

 

 

ハッピーストライク

 

4代前の牝系直系にハッピーシュガーがある。父系はエイシンフラッシュからの系譜。

6歳の年末に引退するまでに、桜花賞、秋華賞、ヴィクトリアM、札幌記念(GI)、天皇賞・秋、東京大賞典×2、フェブラリーS、マイルCSのGI9勝をあげた。

マイルから中距離の芝ダート問わず活躍した様から、2代目変態などと称された。

 

 

センターファイン

 

父側ではあるもののハッピーシュガーの血を引く名馬。

父系を辿るとクワイトファインを介して皇帝の血筋を引く。

GI勝ちは札幌記念のみとなったものの、翌年も連覇してGI2勝。産駒は走らなかったものの、1頭だけGI勝ち馬を輩出し血筋は守った。

 

 

 

ヒマワリチャン

 

未勝利から青葉賞2着で未勝利を抜ける(収得賞金を加算=未勝利では無い)と、本番の日本ダービーでは12番人気を覆して9馬身もの差を付けて先行押切。その後再び低迷するも、5歳のジャパンカップを制し大復活を遂げ、翌年の宝塚記念、有馬記念とグランプリ連覇を達成した。

主な勝ち鞍は日本ダービー、JC、有馬記念、宝塚記念、目黒記念(GII)。

 

 

 

デイジーゴールド

 

札幌記念の枠入り不良で3ヶ月の出走禁止となった。

主な勝ち鞍はスプリングS、富士S、アルゼンチン共和国杯。



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