目が覚めたら勇者に憑依していた (yuuyyuyuyuyuyu)
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憑依したのは異世界の勇者でした

早速書きたくなったので、続くかはわかりません
次話は全く違う話になってるかもしれないけどそこはご容赦ください。
そもそも続くかもわかりませんのでそこもご理解いただけると幸いです。

ゆっくりみていってね!


私の名前は明空 翼 (みよく つばさ)

 

そして、私はたぶん、死んでしまった。

明晰夢のようにはっきりとした意識の中、私は真っ暗な世界で、一人呆然と立ちすくんでいた。

わかることは、私が死んでいるということだけ。

 

死んだ理由は、なんだったかな・・・。誓って自殺とかはしてないはずだけど、よく思い出せない

でもたぶん、学校から家に帰る途中だったと思う。

 

今日の晩御飯の当番は私だったし、今頃、弟たちがいつまでも帰ってこない私に怒ってないかな。明日、智ちゃんと遊びに行く約束すごく楽しみだったのになぁ・・・。父さん仕事頑張りすぎてないかな、お母さんと一緒に作ってた手編みのマフラーだってまだ完成してなかった。みっちゃんとサイクリングにいく約束も、もう守れないんだ。

 

今日死んじゃうなんて、思ってもみなかった。まだまだたくさんやりたいこと、あったのに。

 

みんな、泣いてくれるかな・・・、私が死んじゃった事、悲しんでくれるかなぁ・・・

 

嫌だよぉ・・・

 

死にたくなんかなかったよぉ・・・っ

 

涙は出てこない、だけど、すごく悲しくて、辛くて、怖くて、もうみんなに会えないことが、信じられなくて、私は泣いた。ただ泣き続けた。

 

私の意識はそこで一度途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

「っ!お姉ちゃん!みんなお姉ちゃんが・・・っ!!」

 

次に意識を取り戻したとき、私は全く見知らぬ場所にいた。視界には空色のボブヘアー少女が何か叫びながら外へ出ていき、その声に反応して、外が騒がしくなり始めた。

 

 

 

 

 

どうやら私は異世界の勇者の体に憑依してしまったらしい。

勇者の名前はソフィア・アインホーンというらしい。

あの後すぐに色んな人がやってきて、混乱していたところ、ものすごい存在感のあるおばあさんが周りの人を部屋から出して教えてくれた。

私には、三人の仲間がいるらしくて、その人達と勇者として魔王討伐をしてほしいと、おばあさんにお願いされてしまった。そんなの無理だ、私は剣なんて持ったことないし、魔法の使いかただって知らない。なにより、殺し合いなんて恐ろしいことが、私に出来るとは到底思えなかった。

でも、その時のおばあさんの顔はとても辛そうで、私はおばあさんの手をとって戦ったことなんてないけど、頑張りますと言ってしまった。おばあさんは目を潤ませながら、ありがとう、ごめんねと何度も私に謝っていた。

 

それからおばあさんとの話し合いで、仲間の三人には、私がソフィアさんではないと話すことに決めた。おばあさん、ロゼさんは最初、記憶喪失になったことにしようと提案してくれたけど、私はあんまり嘘をつくのが得意じゃないし、命を預ける仲間なら、本当のことを話しておいた方がいいと、ロゼさんを説得して、本当の事を話すと決めた。

 

 

 

私は三人の仲間、魔法使いであり、ソフィアの妹である、ユリーカ・アインホーン、戦士で幼馴染のカレン・ヴァーハント、僧侶で同じく幼馴染のルミアにソフィアはすでに亡くなっており、彼女の体に私の魂が憑依したことを告げた。

 

 

彼女たちの反応は思っていた以上に大きく、ソフィアという女性がどれだけ人徳のある人物だったかが窺える。そんな彼女の代わりが、私なんかに務まるのだろうか。

ある種の不安を抱えながら、彼女たちの反応を待つ。

 

結果として、私は選択を間違えてしまったのかもしれない、話し方がまずかったのか、記憶喪失ということにしておいた方が良かったのか、後悔してももう遅い。私は彼女たちに拒絶された。心無い言葉で罵られ、ユリーカからは「お姉ちゃんを返して!」と怒鳴り散らされた。

 

仕方がないことだ、彼女たちにとってソフィアさんとは、それだけ大きい存在だったのだから、ユリーカさんだって、姉がいきなり別人になったら混乱するにきまってる。だから、これは仕方がないことなんだ、彼女たちの事を考えず、唐突にソフィアさんの実質的な死を告げた私が悪かっただけの話なんだ。私は三人から向けられたあの視線を思い出し、震える身体を抱きしめてその日は眠った。

 

翌日から旅を再開することにした、ソフィアさんが重症を負ってからすでに、日が経っており、その間も魔王の配下による被害は出ており、私たちは、急いで仕度を整え出発した。

彼女たちとの距離は以前遠く、私は三人から少し離れたところを歩いていた。

 

 

 

初めて、生き物を殺した

 

生き物を殺した時のぐちゃっとした感触が未だに残っていて、忘れられそうにない。私が殺したんだ。

気分が悪い、今にも吐きそうになるのをこらえながら、野営の準備をする。

幸いにも、戦い方などは、身体が覚えていてくれて、剣や魔法を使うことに違和感などは無かった。それでも、カレンさんから戦い方がなってない、ソフィアはもっと強かったお前とは違うと物凄い剣幕で怒られてしまった。

それはそうだ、私はソフィアさんじゃない、私は明空翼なんだから。

 

野営の時も、三人とは、距離を取ってしまった。三人の視線は相変わらず、私を目の敵にしているのがひしひしと伝わってくる。三人の目につかないところで食事をとり、三人から離れた場所で眠る。真っ暗闇の中、一人で眠るのはとても怖かった。

 

今日は初めて人を殺した

 

最悪の気分だ、殺したのは山賊で、たまたま寄った村で近くの村々で山賊の被害が出ているということで、討伐の依頼を受けたのが始まり。

山賊を殺した時の悲鳴と殺される直前のおびえた表情が頭から離れない。

ふらふらと倒れそうになる足に無理やり力を入れて、倒れないよう踏ん張る。山賊を倒したころにはすでに太陽が沈みかけており、そのまま山の中で野営をする。

戦闘中は、連携をとるために声を掛けてくる三人だが、そこにもやはり敵意がこもっており、こうして戦いが終わると、全く話してくれない。私は仕方ないと自分に言い聞かせて、刺すような視線から逃げた。

 

初めて人を殺した感覚が忘れられず、私は晩御飯に食べたものをすべて吐き出してしまった。

 

 

 

やっやめてくれえ!

 

殺さないでくれェ!!

 

く、来るなぁ!!

 

あああああぁアア!

 

 

「っはぁ!」

 

夢か

 

辺りはまだ真っ暗で、まだまだ日は上りそうにない。

 

私は殺した人たちのことを必死で頭の隅に追いやり、無理やり眠りについた。

 

 

 

 

旅に出てから一月ほど時間が経った。

相変わらず、息が詰まるような生活を続けている。

戦いには慣れてきた。だからといって殺すことに慣れたわけではないけれど、この一か月で数えきれないほどの生き物たちを殺してきた。

三人との関係は相変わらず。変わったことと言えば、私の体調くらいなものだ、食事が喉を通らなくなってきて、無理やり詰め込めんでは胃の中のが空っぽになってもひたすらに胃液を吐き出してしまうようになったことと、寝ると必ず、仲間の三人から罵詈雑言を吐き捨てられる夢や、街や村の人から、勇者様、ソフィア様と助けを求めてくる声が、今まで殺してきた人や生き物たちの恨みや悲鳴が聞こえてくる夢を見るようになったことが原因で眠れなくなってしまった。

 

頭がおかしくなりそうな日々を今でもこうして続けられている理由はロゼさんに魔王と倒してくると約束したからに他ならない。ユリーカたちだって、本当はとっても優しいんだ。ただソフィアさんのことで折り合いがついていないだけなんだ。私がそのストレスのはけ口になることで、三人が魔王討伐に向かうことができるのなら、それはとてもいいことだ。早く、早く魔王を倒してしまいたい。

 

 

先日、ユリーカさんと二人雪山にある洞窟に閉じ込められてしまった。

街で受けた依頼の最中、突然の吹雪で視界が悪くなっていたところ、イエティに襲われ、私たちは散り散りになってしまった。その時に近くにいたのがユリーカさんだった。

吹雪が一時的に止んだ頃にはすでに日は落ち、雪山の中で遭難してしまった私達。途中ユリーカさんが体調を崩してしまい、私は彼女を背負って、歩き続けた。

たまたま見つけた、洞窟、横穴かな、を見つけたので、ユリーカさんを下ろして、容体を確認する。熱が上がっており、汗もかいていたため、私は下着を脱いで、それを使ってユリーカさんの体を拭いた。横穴の中は外よりかましでもとても寒く、私はユリーカさんが冷えないよう風避けになりながら彼女の体を抱き、温めた。食べ物は携帯していた保存食しかなかったけれど、どのみち私が食べても吐き出すのがオチなのでユリーカさんにすべて渡した。

 

 

それから二日程経って、ユリーカさんの容体も安定し、カレンさんたちとも合流出来、雪山を降りることが出来た。

 

 

 

それからも、色んな事があったものの、私たちはついに魔王のもとに辿り着いた。

私がこの世界にやってきてから、実に3か月ほど経っていた。

といっても、ここ一か月半ほどの記憶は朧気にしか覚えていない。

 

 

「はあぁああ!」

「っぐぅ、おのれ、勇者!」

 

苦悶に歪む魔王に私は刀身に光を纏わせ、切りかかる。

 

「これっデ!・・・お、わり!!」

「ぐわああああぁアアアアァ・・・・・ッ!!」

 

 

 

おわ、っタ

 

こレで、ヤ、っと

 

ユ・う・・しゃ、っも、オ・・ワ、リ

 

 

 

翌日、勇者ソフィア・アイホーンは三人の仲間の元から姿を消した

 



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お母さんが女の子を拾ってきた

この話はもうちょっと膨らみそうだから、一本化します。たぶん
もうちょっと続くかもしれないし、続かないかもしれない。
それでも良ければ読んでやってください。

今回もゆっくりみていってね!


走る

 

あてもなく、ただ一刻も早く、あの場から離れたくて。

 

胸が今にも張り裂けそうな勢いで、肺に酸素を取り込むことすら難しく、呼吸が著しく乱れて

 

喉の水分がなくなり、カラカラになって口の中に鉄の味が広がって

 

空っぽの胃から登ってくる何かで嫌悪感に苛まれながら

 

頭がくらくらと意識が何度も飛びかけることさえ自分の中に押し込んで

 

限界を迎えた足が痛みより熱を帯びて、今にも崩れ落ちそうな膝を崩れる前に前へと出す。

 

 

 

魔王を倒した後、ボロボロの状態で泥のように眠る三人の元を離れ、休むことなく走り続けた私は、夜が明けその目に正面から明かりが差し込んできたことにより、走ってきたときとは比べ物にならないほどの眩暈に襲われ、足を止めてしまった。

 

一度止まった足は、再び動くことを許さずその場で崩れ、顔から地面に突っ伏した。

 

顔面を地面に強打した衝撃で繋ぎとめることもままならず、私は意識を手放した

 

 

 

 

 

 

 

 

村に住むナタリーは、今日も朝早くから、いつものように教会へお祈りを済ませ、娘と旦那に朝ごはんを作るために家へと帰るところだった。

 

「ん?何だい・・・あれ」

 

家に帰るナタリーの視界に映ったのは、村にある牧場の普段とは違う光景だった。

普段ならばこの時間は眠っているはずの乳牛や、家で飼われている犬や猫などの動物たちが一か所に集まっていたのだ。よく見れば、野生の小鳥なんかも乳牛たちの背に乗っている。

 

ただならぬ光景に、ナタリーはすぐさま動物たちのもとに駆け寄った。

 

動物たちは、ナタリーが来たのを確認すると、ナタリーをそこに案内するように、道を開けた。

ナタリーは動物たちが作ってくれた道を歩いていく。そして、彼女を見つけた

 

動物たちに囲まれていたのは、ボロボロの服を着て、体中傷だらけの腰に剣を差した黒髪の少女だった。そして何より驚いたのは、周りの動物たちが少女を守るようにしていたことだった。

 

ナタリーはボロボロの少女に近づく、動物たちは普段の彼女の気立てと面倒見の良さを知っているからか、別段抵抗することなく、ナタリーを少女に近づかせる。

少女の傍まで来たナタリーはこのままここに寝かせておくのも忍びなかったので、少女をうちまで運ぶことにした。途中動物たちが少女について家まで来ようとするのをなだめ、少女を家まで運んだ。

 

家に帰ると娘のリニャが起きており、私が背負ってきた少女を見て目を丸くして声を上げた。

リニャの声で起きたのか、旦那が起きてきて、私を見るなり娘と同じ反応をしていた。

私は無遠慮ではあったが、傷ついた少女の服を剥ぎ、体中にあった傷を濡らしたタオルで拭いていく。泥だらけの服はリニャが洗ってくるというので、その間に家に会った少し大きめの服を着せ、ベッドの上に寝かせた。先ほどより幾分ましな寝顔になったことに安心して、服を洗い終わったリニャに少女を任せ、朝ごはんを作ることにする。

 

もしかしたら、途中で起きてくるかもしれないので4人分作ることにした、起きてこなかったら、きっとリニャが食べてくれるだろうし。

 

それにしてもあの子、どっかで見たことがあるような気がするのよね。腰に差してた剣も随分な業物みたいだし・・・って今気にしても仕方ないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けると、そこは知らない天井だった。

 

・・・少し前にも、同じことがあった気がする。

 

身体を起こして、辺りを見回してみる。日本に戻ってきた・・・わけじゃないみたい。

私はいつも着ていた服ではなく、サイズに少し余裕のある楽に着れる肌触りのいいものになっていて、おそらくどこかの民家の一室に寝かされているであろうことはわかった。

ドタドタと、おおげさに歩く音が聞こえて、一人の少女が部屋に顔を出す、

そして私が起きていることを見るや

 

「お母さん!起きてる!」

 

と言って引っ込んでしまった。

そしてすぐに、少女の代わりにおそらく母親であろう女性が部屋に入ってきた。

 

「目が覚めたみたいだね、あたしはナタリー。色々聞きたいことはあるけど、とりあえず朝ご飯が出来たところだから、食いな。丸一日寝てたんだ、お腹減ってるだろう?」

「まるいちにち・・・」

「そうだよ、ほれ早く来なじゃないとリニャがあんたの分も食っちまうよ」

 

呆然としていた私の手を引いてナタリーは朝ごはんが並べてあるテーブルへと私を案内した。

テーブルには先ほどの少女と、男性が一人座っており、こちらを見ていた。私は少女の隣に強制的に座らされ、ご飯を見る。

至って普通の、朝から食べるにはちょうどいい量のパンとコーンスープに、ボールに入ったサラダを三人が取り分けていく、少女が私の分のサラダもとりわけ、私はそれを受け取った。

 

「豊穣の神よ我らに恵をお与えくださり感謝します」

 

三人は祈りを捧げ、それから朝食を食べ始めた。

 

どうしたらいいだろうか

 

あの日から、

食べたものを吐き出してしまうようになってから、ほとんど食べ物を口にしていなかった私は、これらを食べられるという自信が無かった。

口に入れた瞬間、またあの吐き気に襲われるかもしれない。どうしようかと悩んでいると、隣にいた少女から声が掛けられる。

 

「食べないの?おいしいよ」

 

少女は不思議そうにこちらを見つめていて、他の二人も、直接的には見てこないが、こちらを気にしているようであった。

 

「・・・いただきます」

 

意を決し、呟くようにそう言って、私はパンを手に取ってかぶりつく。

 

 

おいしい

 

 

一口、また一口とパンを口に入れては噛み続ける。

 

「あっ・・・」

 

いつの間にか、パンを食べきってしまった。すると、再び隣から

 

「えへへ、おいしいでしょ、私の分もあげるよ」

 

そう言って少女が私にパンを手渡してくる、私は受け取っていた。

そしてまたパンにかぶりつく

 

 

今度は何だか、暖かかった

 

 

一口、また一口、食べれば食べる程、私の胸の内から温かいものが湧き上がってきて、胸がキュッとして苦しくて、必死になってパンを噛んでそれを押し込めようとするけれど・・・

 

「だ、だいじょうぶ?」

 

隣にいた少女が急に慌て始めて、気付けば、ポロポロと、涙が流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

隣にいた女の子の目から、急に涙が流れ始めて、私はすっごくびっくりした。

 

「だ、だいじょうぶ?」

 

慌てて声を掛けると、女の子はそれまで自分が泣いていることに、気付いてないみたいだった。

 

「えっ、あ、・・・あ、れ」

 

何が起きているのかわかっていない様子で、女の子が何度も涙を手で拭っているけど、

全然止まらない

 

「ぅう・・・な、んで、とま・・らな、い・・」

 

大粒の雫が、ポタポタと流れ落ちる、その姿をみて、私はいつの間にか、女の子を抱きしめていた。

 

「んぶっ・・・ぇ」

 

びっくりしたのか、一瞬涙が止まった。私は女の子の背中をさすって頭をポンポンと撫でる。

 

「ぁ・・・、っぁあ!」

 

女の子が声を上げて泣き始めた、小さくてか弱い泣き声が、部屋の中で静かに木霊する。女の子は縋るように私の体にしがみついて、泣き続ける。

その姿がなぜだか、とても愛おしく思えて、私は女の子を抱きしめる力を少し強める。

 

女の子はひとしきり泣いた後、再び眠ってしまった。

 

私は、眠った女の子の頭を撫でてあげる。そうすると、女の子の顔が少し和らぐから。お母さんにも、女の子のこと見ておくように言われたし、いいよね。

私はついでと言わんばかりに女の子の体を濡れたタオルで拭くことにした。凛とした顔つきとは対照的な、病的なまでに青白い肌と、力を入れれば今にも折れてしまいそうなほどにやせ細った腕と足は、今までちゃんとしたご飯を食べてこなかったことを如実に物語り、体中に付いている生傷は、ここに来るまでにどれだけの危険を冒していたのか想像することは難くない。

心が苦しくなった。

そんな感情に苛まれながらも、女の子の体を拭う手は少し汗ばんでしまう。

憐憫と熱のこもった視線を、女の子の身体に向けながら、リニャは女の子の体を余すことなく拭いていく。

 

 

 

 

 

「っあ、の」

「へ?」

 

上半身を拭き終わったリニャは今度はつまさきから拭いていき、太ももを拭こうとした時だった。

不意に声を掛けられ、思わず声の方を見ると、すっぽんぽんの女の子が上半身を服で隠すようにしながら起きていた。

 

「えっと~、身体、拭いちゃうね」

「えっ、あ、ありがとうございます?」

 

私は何事も無かったかのように話しかけた。

よし、許可も取ったし、拭いちゃおう。

 

「んっ・・・、ぁ」

 

女の子が起きたことで、先ほどまで身体をこする音だけだった部屋に女の子の小さな声が混じる。流石にさっきまでのようには拭けないと感じたリニャは、急ぎふとももを拭き終え、女の子の下着に手を掛ける。

 

「っ!あ、のそこは自分で」

「・・・あー、そ、そうだよねー」

 

下着に手を掛けたところで女の子からそういわれて、私は若干の悔しさを感じながら、タオルを手渡す。女の子はタオルを受け取ると、後ろを向いて、身体を毛布で隠しながら、タオルで身体を拭う。

 

「えっと、これ洗いますね」

「あぁ、私がやるよ」

 

身体を拭き終えた女の子から、半ば強引にタオルを取り上げて、用意していた新しい水の入った桶にタオルを入れ、外に出る。女の子も、服を着た後私の後をついてきて、タオルを洗う私のことを見つめている。何もしていないのも退屈だろうから、私は女の子に話しかけることにした。

 

「私はリニャ、あなたの名前は?」

「なまえ・・・」

 

そう、小さくつぶやいた女の子に、やっちゃったかも、と思って振り返る。

 

「つばさ、みよく つばさ。つばさが名前」

 

振り返った私に、女の子、もといつばさははっきりと自分の名前を教えてくれた。珍しい名前にだったけどその目に嘘偽りがあるようには思えなかった。そのことに、私の心は否応なく嬉しくなる。

 

「そっか!つばさちゃんだね!よろしく!」

「うん・・・、よろしくリニャ」

 

少し照れた様子で私の方を見るつばさ、めちゃくちゃ可愛いじゃん!!

 

タオルを洗い終えた私は、つばさの事を聞くのは後にして、この村について、話すことにした。もちろんまだ本調子じゃないだろうから、家のベッドに座ってね。

 

もちろん私はつばさの隣に座ることにした。

つばさは私が隣に座った時、ちょっと驚いてたけど、別段いやそうじゃなかったから、私は調子に乗って、つばさの手を握ってみたりする。

流石にいきなり距離が近すぎたかなってやってから反省したけど、つばさは何も言わずに握り返してくれた。

明らかに照れてるのが見ていて可愛かった!!

 

 

それからは、私が今まで村であったいろんなことを話して聞かせた。つばさは、それを聞いて質問してきたり、感想を言ってくれたり色んな反応をしてくれて、喋っていてとっても楽しかった。

 

そろそろお昼を作るのに、お母さんが帰ってくる時間かな

 



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お姉ちゃんがお姉ちゃんじゃなくなった日

8日0時投稿にしようと思ったんだ。
書き終わったの午前3時だった。
ということで、予約投稿
何時に投稿するのが一番いいんですかね。どうでもいいね

今回もゆっくりみていってね!


あの日、私のお姉ちゃんはお姉ちゃんじゃなくなった

 

油断していた、いつもより楽な依頼だったから、周りを見ることを怠っていた

 

そんなことが許される場所じゃないことはわかっていたはずなのに

 

しっかり周りを見れていれば、気付けたはずなのに

 

そんな馬鹿な私の事を庇ってお姉ちゃんは致命傷を負ってしまった

 

頭が真っ白になった

 

ルミ姉が必死に回復魔法を唱えていて、カレン姉がお姉ちゃんを背負って走っていて

 

私は目の前で血を流し続けるお姉ちゃんを見ていることしか出来なくて

 

街に戻ってから、ようやく意識を取り戻した私は、急いでロゼおばあちゃんのところにテレポートした。ロゼおばあちゃんに状況を説明して、お姉ちゃんのところに連れて行って、それから

 

 

 

 

一週間経って、目を覚ましたお姉ちゃんは知らない人になっていた

 

 

「私は皆さんが知っている、ソフィア・アインホーンさんではありません」

 

 

最初、お姉ちゃんが何を言ってるのかわからなかった。目が覚めた時、とっても嬉しかった、ロゼおばあちゃんからもしもの時の事は聞かされていたけど、そうはならなかったことに、心底安心していた。やっぱりお姉ちゃんは勇者だから、すごいんだって誇りに思った。それからお姉ちゃんとロゼおばあちゃんが二人で、話に行って、帰ってきたお姉ちゃんが、そんなことを言ったのだ。質の悪い冗談か何かだと思った、だって目は覚めたんだよ?一時は生死の境をさまよってたお姉ちゃんが、それを乗り越えてやっと目を覚ましてくれたのに、冗談にならないよ。

 

「な、に・・・いってるの。おねえちゃん、う、うそでしょ?じ、じょうだん・・・っ」

 

縋る思いで、だした声は、びっくりするほど震えていて、最後まで言葉に出来なかった。

 

「ユリーカさん、ごめんなさい」

 

お姉ちゃんが、お姉ちゃんの形をしたなにかが、頭を下げて謝る。

 

嘘だ

 

嘘だ嘘だ嘘だ!!

 

こんなの知らない、私の知ってるお姉ちゃんじゃない

 

私の知ってるお姉ちゃんは私にさんなんて付けない

 

私の知ってるお姉ちゃんはかっこいいんだ

 

いつだって周りにいる人を笑顔にして

 

困っている人がいれば何よりも優先して助けに行って

 

戦ってるときだってカレン姉より強くて、私が使えない光属性魔法だって使えて

 

いつだって私達を助けてくれた

 

私の大好きなお姉ちゃん

 

世界に一人だけの私だけのお姉ちゃん

 

なのに

 

知らない、私のお姉ちゃんがこんな、こんな気が弱そうなわけがない

 

私達を暗くさせるような事を言うはずがない

 

違う、こいつはお姉ちゃんじゃない

 

こいつは、こいつが私からお姉ちゃんを奪ったんだ

 

返してよ、ねえ、私のお姉ちゃんを返してよ・・・

 

返せ返せ返せ、お姉ちゃんを返せよ!!

 

お姉ちゃんの身体でそんな目をするなよ!

 

お前は敵だ、お姉ちゃんを奪った敵なんだ!!

 

許さない、絶対に絶対に許さないっ・・・!!

 

 

 

 

それからの私は、ソフィアを敵視し続けていた。

 

旅を再開してから、私達と、ソフィアは距離を取って歩いていた、別に離れて歩けと言った覚えは無かったけど、無神経に近くにいられるよりはましだった。

戦い方は素人同然で、魔物を殺した時の表情なんか見れたものじゃなかった。

 

お姉ちゃんはそんな顔一度もしたことなかった。

こいつより、お姉ちゃんのほうがずっと、ずっーとすごいんだ。

 

次の日は山賊を退治しに行った。

その日のソフィアの様子は今思えば、尋常じゃない震え方だったと思う。

けど、その時の私はその様子を見て、お姉ちゃんを奪ったことに対する溜飲を下げていた。

 

それみろ、お前なんかにお姉ちゃんの代わりが務まるわけがないんだ。

 

そんなことを思いながら、冷たい目でソフィアを見ていた。

 

 

それから、一か月

 

私はソフィアと雪山で遭難していた。

 

街で受けた依頼を完了し、後は帰るだけになって、私達は帰り支度を始めていた。

その時近くには、周囲の警戒をしているソフィアがいて、カレン姉とルミ姉は少し離れたところで荷物をまとめていた。

 

山の天気は変わりやすい、さっきまではあんなに晴れていた空が、一瞬のうちに影を落とし、雪が降り始めた、雪の勢いはすぐに強くなり、1メートル先も見えないほどだった。

私はすぐに、探知魔法を展開しようとして、何かに突き飛ばされた。

 

身体が宙を舞った、

 

まずい

 

このままではまともに受け身もとれないまま地面に激突する

 

この吹雪の中、動けなくなるような怪我を負ってしまったら・・・

 

死ぬ?

 

いや!こんなところで死にたくない!

 

なんとか、なんとかしなくちゃ

 

そうはいっても、パニックになった頭では、冷静な判断が下せるはずもなく。

刻一刻と、地面が近づいてくる。

 

今から、魔法を展開しても、もう遅い・・・。

なまじ魔法を使うことにかけては、他の者より数段長けていたユリーカ。

だからこそ、今から何をやってももう間に合わないことを悟って、冷静になってしまった。

 

ぁあ、お姉ちゃん、私もそっちに行くね

 

死の覚悟を決めたユリーカは地面と激突する衝撃に目を瞑った。

 

しかし、ユリーカの覚悟していた衝撃は訪れず、代わりに柔らかい感触が身体を包み、グルグルと身体が転がっていく。私を包んでいた何かが、別の何かにぶつかる感触が伝わってきて、ようやく私の体に自由が戻ってきた。

 

閉じていた目を開けると、目の前には傷だらけのソフィアが横たわっていて、私の無事を確認すると、体を起こした。

 

「ま、にあった」

 

そのセリフで私はようやく理解した、ソフィアが私をかばってくれたのだと。

 

「・・っあり、がとう、助けてくれて」

「い、いよ。そ、れより、ここから移動、しよう。風をしのげる場所、探さないと」

 

ソフィアは、そう言って私の手を握ると、歩き出す。

 

「ちょっ、なん」

「手、握ってないと、この吹雪の中じゃすぐバラバラになる」

 

確かに視界は悪い、そしてソフィアの言っていることは正しい。

だから、不満は飲み込んだ。本当はお姉ちゃんを奪ったこいつの言う事なんか聞きたくないけど、助けてくれたし、言ってることも正しい。わざわざ噛みついて、口論している間にも体温は奪われていく、こいつと一緒に死ぬよりかましだと思って割り切ることにした。

 

それからまた、しばらく吹雪の中を歩く。私の炎魔法で作った、膜で身体を覆っているから、多少は寒さに耐えられているけど、そろそろ魔力も肉体も限界が近い。

 

 

どこか休める場所を見つけないと・・・。

 

ぐらり

 

 

視界がブレる、前を歩いていたソフィアが異変を感知して振り返るのがわかった。

私はそのまま膝をつき、意識を手放した。

 

 

目が覚めると、そこはソフィアの腕の中だった。

私が身を捩って離れようとしたのに気付いたのか、ソフィアが声を掛けてくる。

 

「だ、いじょうぶ?」

「うん・・・」

 

まだ身体が怠いけれど、今はとにかく、こいつから離れたかった、んだけど。

全然放してくれない。私が必死に抵抗していると、ソフィアが何かを手に持っていた。

 

「これ、食べて」

 

渡されたのは干し肉、携帯食として、用意していたもので、普段は小腹が空いたときによくカレンが食べているものだった。私はあんまり好きじゃないから持ち歩いていないけど。

ついでに、片腕を動かしたときに少しソフィアの体の先が見えて、どうやら、ここはどこかの洞穴らしく、外はまだ吹雪いていることがわかった。

私は、黙って干し肉を受け取ると、口の中に入れる。

 

やっぱりあんまり、好きじゃない。

 

何となく、身体を引っ付けている理由もわかったので、それ以上の抵抗はやめた。

ソフィアが、私の背中をさすって、頭を撫でてくる。

くすぐったくて、ちょっと気持ちいい。

 

そういえば、お姉ちゃんはこういうことあんまりしてくれなかったな・・・

 

気怠さが残っていた私の体は、その心地よさに再び眠りについた。

 

 

目が覚めた、身体の調子もよくなったと思う。

ソフィアは変わらず私の体をさすっていて、私の体は、温かかった。

しばらく、そのままじっとしていると、ソフィアの手が止まった。

顔を上げてみると、ソフィアは目を閉じて、眠っていた。

 

ずっと温めてくれてたんだ。

 

そのことに、何だか胸が熱くなって。

仕方ないからソフィアが眠っている間は私がソフィアの体を温めてあげよう。

そう思ってソフィアの背中に手を回して

 

「っ!」

 

そのあまりの冷たさに、伸ばした手を引っ込めてしまった。

もう一度、背中に手を伸ばす。

今度は、手の甲に刺すような痛みの冷たい風が吹いてきて、再び手を戻してしまった。

 

ソフィアの背の冷たさが、外から吹き付ける痛みを伴う寒風が、そしてそれらからユリーカを庇うように今もなお自分の事を抱きしめているソフィアのことが、ユリーカには理解できなかった。

 

なんで・・・

あんなに酷い態度をとっていたのに、どうして

 

ユリーカの中のよくわからない感情が暴れだす、

一体どれだけの時間ソフィアはこの風に背を当てていた?

何でこんなことをする?

自分の事だけを考えていればいいのに、なのに何で、こんなに冷たい身体になっても私を庇うの?

 

違う

 

そうじゃない

 

ユリーカはソフィアの息が浅くなっていることに気付いた。

 

このままではソフィアが死んでしまう

 

嫌だ

 

また、また私は、私のせいで、

 

ユリーカは、急いで炎魔法を使いソフィアを温めた。私を守るために冷え切った背中を必死で温めた。

 

魔法を使っていたからか、ソフィアが起きた。

 

「あ、っためてくれてたんだ、ありが、とう」

「な、んで。私、あなたに、ひどいこと」

「ユリーカさん」

 

この時謝れていたのなら、どんなによかっただろう。

 

「いい、んです、それで、私は、ソフィアさ、んの代わり、にはなれないから」

 

「だけど、がまん、して、ほしい。ソフィアさん、のためにも」

「お姉ちゃんのため・・・?」

「きっと、ソフィアさんは、自分で魔王を倒したかった。だけど、それはもう出来ない、から。せめて、魔王を倒す、まで、私が、ソフィアさんの中に、いることを許して、ほしい」

「・・・っ」

 

ソフィアはそれだけ言うと、目を閉じた。

私は、何も言えなかった。

 

 

次の日、吹雪は止み、カレンたちと合流した私たちは、ようやく下山することができた。

 

 

その日以来、私は、ソフィアに謝る機会を探していた。

そこでようやく気付いた、私達が一方的に作り出した溝は、私が想像していた以上に深くなっていて、私は初めてソフィアが私達にどれだけの気を使っていたのかを知った。

ソフィアは普段から私たちの視界に出来る限り入らないようにしていたこと、野営で晩御飯を食べる時も、ルミ姉からお椀を受け取ってからは一度も姿を見せずに、次の日には、しっかりと洗ってお椀が元の場所に置かれていること。戦いで私たちの足を引っ張らないように、毎朝私達が起きるより早くに訓練していたこと。

 

何一つ、私は知らなかった。そして、私は、彼女の事も何一つ知らなかった。

本当の名前も、年齢も、何が好きで何が嫌いなのか、元の世界に家族はいたのか。どうしてこちらの世界に来たのか。私は彼女の事を知ろうともしていなかった。

 

そして、ついにそれらを知ることも、謝ることも出来ないまま、魔王との戦いの時が来た。

 

両者一歩も譲らない激しい戦いは、私達の勝利で幕を閉じた。

 

そして、戦いの疲れで、一日野営を取ってから帰ることにした私達は、泥のように眠り

 

次の日、彼女が私達の前から姿を消したのだ

 



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目が覚めたら、服を脱がされていた

めっちゃぎりぎり投稿

今回もゆっくりみていってね!


目が覚めたら、裸だった。

そして、女の子が私の体をタオルで拭いていた。

 

とりあえず、落ち着こう。

 

私は、近くにあった毛布を掴んで、女の子に話しかけることにした。といってもこっちに来てから会話らしい会話をほとんどしてこなかった私が久方ぶりに人に話しかけるとなると、緊張するわけで。結局私は、女の子に身体を拭かれることになった。

 

さすがに、下着に手を掛けられたところで止めたけど。

 

あのまま寝てたらお嫁にいけなくなるところだった。

 

女の子はリニャって言うらしい。私の身体を拭き終わったタオルを洗いながら、私とリニャは軽く自己紹介をした。名前を聞かれたとき、一瞬どっちの名前を言おうか迷った。

 

きっとここで勇者(ソフィアさん)の名前を出せば、村でちょっとした騒ぎになることは間違いないだろう、勇者(ソフィアさん)の名声は私が思っている以上に人々に影響を与えていて。

私にはそれがたまらなく怖くて、

勇者(ソフィア)として振舞わなければならないのが苦しくて、

勇者(ソフィア)のようにはなれないことが辛くて、

周りにそれを知られるのが恐ろしくて、

あの三人のように失望されるのが怖くて、

その名前から逃げたくて・・・

 

ごめんなさい、ソフィアさん。私には勇者(ソフィアさん)として生きていくのは荷が重かったみたいです。ごめんなさい、許してほしいとは思いません。恨んでもらって構わないです。本当にごめんなさい

 

でも、もう限界なんです。

 

結局、勇者(ソフィアさん)の名前に耐え切れなくなった私は、気付けば元の名前を答えていた。

私が名前を伝えると、リニャはにっこり笑ってくれた。

 

タオルを洗い終えたリニャが私の手を引いて、家へ戻る。

それからベッドに腰かけて、リニャから、村の話やリニャのお父さんお母さんの話を聞いた。

その時わかったことだけど、リニャは結構、人との距離が近い、となりに座って来たかと思ったら、そのまま手も握ってきたものだからびっくりした。

だけど、リニャがそういう子で良かったって思っている自分がいる。

リニャの手から伝わる温かさが、今の私にはどうしようもなく心地よいもので、私からそれを手放そうとは思わなかった。

控えめに握り返すとリニャは顔をパッと明るくさせて私を見る。

それが少し気恥しくて、私は顔を逸らす。

それを見てリニャは楽しそうに笑った。

 

頭ではわかってる。これ以上リニャに甘えてはいけないって

このままリニャに甘えてしまったら、たぶん、私は離れられなくなってしまう。

こっちに来てから初めての温かい感情に、私の荒んだココロが満たされていく。

だからこそ、これ以上はだめだ、

 

これは毒だ、一度知れば着実に私の心を蝕む甘い毒の蜜。

 

早く、

 

一刻もはやくリニャと彼女の両親に礼を言ってこの場を去らなくては・・・

 

そう思いながらも、私はリニャから与えられるそれから離れられない。

 

もしかすると、もうすでに・・・

 

私はそれ以上考えるのをやめた。

 

 

もういい

この先どうなっても

 

だから、今はこの太陽のような温かさに身を委ねよう。

 

 

ナタリーさんからお昼ご飯に呼ばれるまで、

となりで楽しそうに話すリニャの肩に身を預けていた。

 

お昼を食べてから、私は二人に何かできることはないか聞いてみたら、ナタリーさんからリニャの相手をしてあげてと言われたので、昼食後はリニャさんに村を案内してもらった。

道中村の人たちが気さくに挨拶してくれて、私も自然に挨拶を返せたと思う。

 

夕暮れ時になって、リニャがそろそろ晩御飯の時間だから帰ろうと私の手を引く。

家に戻ると、すでにナタリーさんが晩御飯の仕度を終えていて、リカルドさんも帰ってきていた。

晩御飯を食べている間はリニャが今日あったことを話したりして、リカルドさんとナタリーさんがそれを楽しそうに聞いていた。

今度はちゃんと泣かずにご飯を食べることが出来た。

 

村には温泉が湧いているらしく、晩御飯を食べ終えた私は、ナタリーさんとリニャに連れられ、

温泉へと向かった。

旅をしていたころは、他三人にどうしているのか聞けず、よくて近くの水場で水浴びをするくらいしかしていなかった私は、久しぶりの温かい湯にまた涙が溢れそうになるのを我慢する。

リニャが私の背中を流すと言って強引に私を引っ張っていく。そのままリニャに頭と背中を洗ってもらった。優しい手つきで、まるでマッサージを受けているみたいに、気持ちよかった。お礼にと、私もリニャの体を洗いたいと申し出ると、リニャは笑顔で受け入れてくれた。

 

こうしていると、弟たちの体を洗ってあげていたころを思い出す。

まだ小さかった弟たち、あの子たちの元気な姿が目に浮かぶ。

もうあそこには帰れないんだ。

弟たちの成長をこの目で見ることは叶わない、わかってはいたけれど、その事実に心がざわつく。

 

「大丈夫?」

 

手が止まっていたのか、私のことを心配そうにリニャが見ていた。私がリニャと目を合わせると、リニャはそのまま私の頭を撫でる。

 

あぁ、どうして。どうしてそんなに優しくするの・・・

 

震える身体を抑え、湧き上がる熱い情動も抑えて止まっていた手を動かす。

リニャもそれ以上は何も言ってこず黙って私に背中を預けている。

 

私はそれに感謝して、手を動かし続ける

 

今は誰にも顔を見られたくなかった、きっとひどい顔をしていただろうから

 

 

背中を洗い終えた私に、リニャは「前は洗ってくれないの?」って言ってきたけど、流石にそれは恥ずかしいと、逃げるように湯に浸かった。少しして、身体を洗い終えたリニャがナタリーさんと一緒にやってきた。リニャはそのまま私の隣にやってきて、身体を引っ付けてくる。腕に柔らかい膨らみが当たって、顔が熱くなる。ナタリーさんはそんな私達のことを楽しそうに眺めていた。

 

温泉から上がった私達は、家へと戻り、夜も更けてきたので眠ることにした。

私が初めに眠っていたベッドは、普段リニャが眠っている場所らしく、それを聞いた私は床で寝ると言ったが、それを聞いた二人は顔をしかめてそれはダメだと言われた。

結局私は、リニャと一緒にベッドで寝ることになった。幸いベッドは私達が二人で並んでも窮屈にならないほど大きく、私はリニャに迷惑をかけないように少し離れてベッドの隅に移動する。

そんな私の考えを知ってか知らずか、リニャは、隅にいた私を中央に引き寄せて、

その温かい手で私を包んだ。

あまりに唐突なことに一瞬抵抗しようとしたが、私の体はその考えを否定するように、柔らかいぬくもりを感じさせるリニャの体に身を預け瞼を閉じた。

 

その日から私は夜が怖くなくなった

 



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拾ってきた女の子と温泉に入った

寝て起きたら閲覧数と評価がえらいことになっとる
ともかく!
この小説を読んでくださった方、お気に入り登録してくださった方、評価をしてくださった方、感想を書いてくださった方々に感謝です!!
皆さんの期待に応えられるかはわかりませんが今後も頑張って書いていけたらいいなと思ってます!

今回もゆっくりみていってね!


お昼を食べている時、つばさちゃんの目が今朝と同じように潤む。

今度もそれがこぼれない様に顔を強張らせながら、お母さんが作ってくれたご飯を食べている。

私はそんなつばさちゃんを見て、やるせない気持ちになる。

 

私は女の子が好きだ。

 

楽しそうに笑っている姿が、

 

幸せそうに微笑んでいる姿が、

 

嬉しそうにはしゃぐ姿が、

 

恥ずかしそうに照れる姿が、

 

そんな女の子が私は好きだ。

 

ついでを言うと、はしゃぐ女の子の上下する胸元も・・・

 

っごほん

 

幼いころからの私のこの感覚が、周りの人と違うのは、何となくそのころからわかっていて、

小さな私にはそれを抱えて生きるのは酷な話だった。

そして、耐え切れなくなった私はそのことを両親に相談すると、

なんとお母さんが

 

「いいんじゃないかい?女の子が好きなんだったら、好きでいいじゃないか」

 

それに続いてお父さんも

 

「そうだねぇ、お父さんもリニャがそれでいいなら何も言わないよ。

けど一つだけ約束してほしい。嫌がる女の子に無理やり手を出したらいけないよ」

 

そう言って微笑んでくれた。

とうぜん!と言わんばかりに私は頷いて、こんな私を受け入れてくれた両親に感謝した。

 

だから、こうして悲痛なつばさちゃんの姿を見ていると、私も辛くて、彼女のために何もできていない自分が悔しくなる。

 

もっと私を頼ってほしい。

 

でもそれを伝えると、目の前にいる今にも壊れそうな彼女が、再び泣いてしまいそうで憚られた。

今のつばさちゃんはとっても脆い、それこそ手に取ればすぐに壊れてしまいそうなほどに。

だからその話をするのは少なくとも、今じゃなくていい。だって、つばさちゃんは今、

頑張ってるから・・・

 

お昼を食べてから、つばさちゃんが自分にも手伝えることがないかってお母さんに聞いていた。

 

もっと休んでいていいのに。

 

そんなつばさちゃんに、お母さんはまだ村に慣れてないだろうから、案内ついでに私を見ていてほしいってお願いしていた。

 

流石私のお母さん!

 

そう思ってお母さんの方を見ると、つばさちゃんに見えない様に、私にサムズアップしてた。

 

ありがとう!大好き!

 

お母さんのお願いに頷いたつばさちゃんの手を掴むと、私は意気揚々と村の案内を始める。

 

村を回っていると、いつものように村の人達が声を掛けてくる、村の人たちは、つばさちゃんの方を見ると、ちょっとびっくりしてから、つばさちゃんにも声を掛けていた。

つばさちゃんは、自分に声が掛けられたと認識すると、びくびくしながらも、しっかりと挨拶を返していた。村の人たちは、つばさちゃんに色々聞きたそうにしていたけど、つばさちゃんの様子を見て、挨拶だけにとどめてくれた。

 

この村は旅人に好意的な人が多いというかほとんどの人がそうだ。というのもここを開拓した人が冒険者で、冒険仲間の人たちと一からこの村を作ったらしい。

以来、冒険や旅を終えてこの地に腰を落ち着ける人たちが定期的にやってくるので、村の人たちは外から来る人々に対して歓迎ムードなんだ。私もそんなこの村の雰囲気が好きだ。

 

一通り村を回ると、そろそろ日も暮れ始めていた。

 

家に帰ると、お母さんがすでにご飯を用意していて、お父さんも帰ってきたからみんなで食べる。

私は今日あったことを二人に聞かせながら、つばさちゃんの様子を見ていた。つばさちゃんは私の話に耳を傾けながら、顔を綻ばせてご飯を食べていた。

その様子に安心して、お父さんとお母さんの方を見ると、二人も安心した様子で息をついていた。

 

晩御飯を食べ終えた私たちは、そのまま村に沸いている温泉に入りに行くことにした。

 

温泉と聞いたつばさちゃんの目が心なしか輝いていたのは、きっと気のせいじゃない。

 

 

温泉に着いた私は、つばさちゃんの背中を流すことにした。

 

先日の傷がまだ癒えきっておらず、所々が痛ましいものの、とてもきれいなつばさちゃんの白肌が私の前にさらされる。

鍛え上げられた身体と女性的な柔らかな肉感も併せ持ったその身体は、芸術的な美を奏でている。

 

私はつばさちゃんの肩まで伸びた真っ黒な髪の毛に手を入れる。

サラサラと指の中で揺れるに一抹の不安を覚えつつも、私はその髪にしっかり触れ梳いていく。

 

髪を流し終えた私は、次につばさちゃんの身体に触れる。

 

「次、背中流すね」

「ぅん」

 

生返事を返す彼女に、私は生唾をごくりと飲み込む。

目の前につばさちゃんの背中があって、私は今その背に手を触れている。

ダメだってわかってはいる・・・けど、やっぱりこの生の感触を忘れないように、ゆっくり丁寧に、彼女の背中を触っていく。

自分の息遣いが荒くなっているのを感じる。

 

「っふ、ぅー」

 

冷静になれ!あたし!

 

と自分に言い聞かせた時には後の祭り、散々つばさちゃんの背中を触りまくって流し終えていた。

 

「ありがとう。あの、今度は私が・・・リニャの背中、洗うよ」

 

・・・!!

 

ようやく理性を取り戻したリニャの頭は、再び夢の中へと旅立った。

 

つばさちゃんに身体を洗ってもらっていると、ふと彼女の手が止まる。

不思議に思って振り返ると、つばさちゃんの顔が暗くなっていることに気付いた。

 

「大丈夫?」

 

口をついて出たのはそんなありきたりな言葉。

だけど、それを聞いたつばさちゃんは、今にも泣きそうな顔で私を見た。

反射的に私は彼女の頭を撫でる。

 

触れた手のひらに、彼女の震えが伝わってくる、つばさちゃんの手が動き始め、私は再び背中を預けた、後ろからは、時折すするような音が聞こえてくる。

 

背中を流し終わったつばさちゃんに、私は冗談めかして前も洗ってよって言ってみたら、顔を赤くして逃げられちゃった。思っていた以上の反応に、少し期待してしまいそうになる頭を横に振って身体を洗った。

湯に浸かる前に、身体を洗い終わったお母さんと合流して、つばさちゃんがいるところまで歩いていく。

 

さっきのことを思い出し、少し試してみようと思って、私はつばさちゃんの隣に腰を下ろすと、そのまま引っ付いてみる。

 

そしたらなんと!

 

つばさちゃん顔を真っ赤にしていました。これは、もしかすると、もしかするのでは!?

 

私のテンションはうなぎのぼり

 

しばらくの間、恥ずかしがるつばさちゃんを見て楽しんだ後、私たちは温泉を出た。

 

 

 

温泉を出るころには私の頭も冷え、さっきやったことを思い出して、自責の念に駆られていた。

 

どうしよう

嫌われてないかな・・・。

 

段々不安になってくる。ものの、確認できるわけでもなく、家に着いた。

 

温泉から家に帰ってくる頃にはすっかり日も沈んでいて、今日は疲れているだろうからそのまま寝てしまおう、ということになった。

 

問題はつばさちゃんの寝るところなんだけど。

今日つばさちゃんを寝かせていたベッドって実は私が普段寝てるところなんだよね。

そのことを話して、どこで寝るかを考えるお母さん。

私としてはつばさちゃんと一緒にベッドで寝たいくらいなんだけど、さっきの事もあってちょっと躊躇していたら、

 

「じゃあ、私は床で寝るので大丈夫です」

 

そんなことを言い出したので、慌てて引き留め、結局私のベッドで一緒に寝ることになった。

 

やったね!一緒に寝ることを拒否しないってことは嫌われてないってことだ!

 

とか思ってベッドに入ると、今度はつばさちゃんがベッドの隅っこで寝ようとしていたので、さりげなく引き寄せて抱きしめてみたりする。

つばさちゃんはびっくりしていたけど、私の腕から逃れようとすることはなく、少しすると小さな寝息が聞こえてきた。

 

私はつばさちゃんの頬に手をあてて、寝顔を楽しみながらまどろみに身を委ねた。

 



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壊したモノは戻らない

やべーよやべーよ・・・
お気に入り200超えてたよ!!
ありがてぇ
UAも5000を超えました!!
まさかの事態に作者もびっくり。
感想まで頂けてニッコリしながら。
続きが思いつかないことに焦りを感じる今日この頃


今回もゆっくりみていってね!


 

私は、私は・・・赦し難い罪を、犯してしまった

 

 

 

 

 

 

魔王を倒した翌朝、目が覚めた私は能天気にも昨日までのあの重苦しかった雰囲気が、

幾分かましになった気がしていた。

 

ここ二か月ほど、私たち4人の雰囲気は、控えめに言って酷いものだったと思う。

 

それも当然と言えば、当然のことで、もとよりその空気を作り出したのは私達3人で、

それをよしとしていたのも私達だったのだから。

 

ソフィアが変わってから最初の一か月、私達3人は当初、ソフィアの雰囲気が全くの別人へと変わったことに、動揺を隠すことが出来なかった。

 

ソフィアの態度のあまりの変貌っぷりに、

ただ茫然と、私はロゼ様と目の前のナニカの話を右から左へと流すほかありませんでした。

 

あの時の話では、確か・・・

そう、肉体の修繕は間に合ったものの、すでに精神と肉体が乖離していたソフィアは助からず、その時たまたま精神のみとなっていた彼女の魂が、魂だけが抜けたソフィアの身体に入ったとロゼ様はおっしゃっていたと記憶しています。

 

もちろんあの時の私は、そんな話を聞いている余裕なんて、無いに等しい状態でしたが。

 

それからの私達といえば、酷いものでした。

 

姉の死を受け入れられないユリーカが彼女を責めるように糾弾し、

隣にいたカレンもまた、同じように言葉にはしないものの、

その目は彼女を殺さんとばかりに鋭い物となっていました。

 

そしてただ茫然とその様子を見ていた私もきっと、二人と同じような顔をしていたのでしょう。

 

だからその時、目に映ったよく知る彼女の顔が、今まで見たことも無いほどひどく歪んでいることになんて、これっぽっちも気付いていませんでした。

 

それから私達三人は、極力彼女との関りを持たない様にしていました。

いえ、私達がなんておこがましい話だったかもしれません。

彼女が私達と距離を取ってくれていたのです。

あのまま私達が彼女と一緒にいれば、何をしでかすかわかりませんでしたから。彼女が、私達を気遣って、そんなこと、本当ならしていられるような状態じゃなかったでしょうに。

 

でもそんなことにも気付くことすら出来ないほど、あの時の私達は、明らかに正気じゃありませんでした。今にしてみれば、彼女を貶めていたことに対する言い訳にしかすぎませんが。

ただそれでも、それだけソフィアの死は深く、重く私達に乗っかかっていたのです。

 

そうやって、ソフィアの死から目を逸らし、

目の前の彼女に全ての責任を押し付け一か月が過ぎました。

 

 

このままではいけない

 

 

ようやく、ソフィアの事に折り合いがつき、私には彼女に気をまわすだけの、彼女に気を回せるだけの余裕が出来ました。

そして、彼女の状況を客観的に考えることが出来るようになってしまった私は、

 

 

 

 

絶望した

 

 

 

 

 

私がこうしてソフィアの死から立ち直れた理由には、無二の友人である、カレン、ユリーカの存在があったことが大きいでしょう。あの状況で、ソフィアの死を受け入れるまでの期間を支え合える友がいたから、壊れることは無かった。そして、胸に渦巻く黒い感情を一方的にぶつけるだけの相手が、彼女がいたから私は立ち直ることが出来ました。

 

では、彼女は?

 

気付けば、見知らぬ土地に一人、頼れる相手なんてもちろんおらず、知りもしない人間に成り代わってしまったとしたら。

 

もしその立場が私だったら?

 

考えるまでもなく身体が震える。

 

そして、唯一頼れるはずの人間から悪感情を向けられ、敵視されたら。

 

戦ったことも無いのに突然命の奪い合いをさせられあまつさえその相手が他種族や魔物でなく、

同じ人間だったら。

 

あの時は気にも留めていなかった彼女の顔が脳裏に浮かぶ。

 

今にも泣きだしそうなあの顔が、ソフィアの時は常に凛々しく冷静で、表情を崩すことが無かったあの顔が、恐怖に引きつっていたなんて。

 

耐えられない、耐えられるわけがない。

もしその私がその立場にいたなら、壊れてしまう。

 

なら彼女は、彼女は平気だった?

 

少なくとも、私が同じ立場なら彼女のように私達に気を遣っている余裕なんてなかったでしょう。他人のために身を犠牲にしている余裕なんて、

 

そんな状態でも私達のことを気遣うだけの精神力を持っていた彼女なら大丈夫だったのか

 

 

 

 

 

今も最前線で、顔色一つ変えず剣を振るう彼女は、どうしようもなく壊れていた。

 

 

 

 

 

もっと早く気付かなければなりませんでした。

 

自分の状態も顧みず、私達の事に彼女は気を配っていたのに、

自分たちの事ばかり気にして、彼女の状態に気を配っている暇が無かったなんて、

言い訳にもなりませんね。

 

一度出来た溝は、私達が気付けぬうちに、さらに時間をかけて深く、広がっていた。

私達はその溝を深める手伝いをしただけ。

 

他の二人より少しだけ早くそのことに気付いた私は、

 

それを、すぐさま行動に移すことが出来なかった。

 

当時、二人はまだ彼女に悪感情を抱いており、ここで私が彼女の側に立つことで、残る二人と彼女の関係がさらに悪化してしまうことを恐れたから。

 

この時なりふり構わず彼女に手を差し伸べることが出来ていたら、

 

私が彼女の逃げ道を作って上げられれば、

 

この後起こる悲劇を、防ぐことが出来たのかもしれません。

 

その後、ユリーカさんと彼女が雪山で遭難する事件が起き、私達が洞穴で寒さを凌いでいた二人を見つけた時には、少なくともユリーカさんが今まで持っていた悪感情が、無くなったといっていいほどまでになっていました。

 

それからは、ユリーカさんが彼女に話しかけるタイミングを探していたのですが、彼女は基本的に戦いなど、やむを得ない場合を除いて、私達の視界に入らないよう、私たちの邪魔にならないよう常に気を配っていましたから。

加えて私達の戦いもそれから苛烈を極め、日々満身創痍で、戦いの後は疲れによって泥のように眠ってしまったため、彼女と話す機会を作ることが出来ませんでした。

 

そうして、私達が眠っている間も、彼女が苦しみ続けていることには気付かずに。

 

そのまま魔王討伐がなされた昨日まで、起きている時間は街で受けた依頼をこなし、魔物討伐をし続け、それが終了次第、野営をするか、街戻ってはすぐに眠る生活を続けていました。

 

戦っている間の彼女は、まるで何かにとりつかれたかのように剣を振るい続けていて、とてもじゃないけどそんな彼女に話しかけることは出来ませんでした。

 

 

 

 

魔王討伐から一夜明けて、

私はようやく落ち着いて彼女と話すことが出来ると、少し浮かれていたのです。

 

私は昨晩の野営の残りをお椀によそっていました。

 

異変に気付いたのはその時でした。

いつもなら必ず置いてあるはずの、彼女のお椀が無いのです。

 

今までこんなことは無かった、どんな時でも彼女は私達から離れた場所でご飯を食べ、

私達が眠った後に洗ったお椀を返しに来ていたのですから。

それまでの彼女の行動からは想定していなかった事に、

ルミアの背に冷たいものが流れ、一抹の不安が募っていく。

 

まさか・・・、そんな。

 

何度もかぶりを振ってその考えを否定する。私は再び彼女のお椀がどこかに無いか、何度も何度も周囲を見渡し、見つからないお椀に焦りを覚える。

 

その時だった

 

ソフィアを呼びに行ったユリーカが、何かを持ってこちらに走ってくるのが見えた。

目は潤み、今にも泣きそうになりながら、何度もも転びそうになりながら、走ってこちらに来るユリーカが両手に抱えるようにして持っているそれに、私は見覚えがあった。

 

しかし、すぐさま私の頭がそれを否定する。

 

そんなはずがない、

 

あれは別の何かだ。

 

だって、おかしいじゃないか

 

いつも空になって置かれているはずなのに、

 

なのに、なんで・・・

 

なんでユリーカが持っているソレには、

 

昨日私が彼女に渡した時と同じように、

 

中身が入ったままになっているの・・・

 

 



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目が覚めたら、そこは楽園だったかもしれない

友人からランキングに乗ってると言われて
ランキング機能を初めて使いました
びっくり


今回もゆっくりみていってね!


目が覚めたら、可愛いらしい女の子の顔が目の前にあった。

 

朱色のふわっとしたくせっけが小動物を思い起こさせるような可愛らしい少女。

 

リニャちゃん。

 

私はリニャちゃんに抱き付かれるようにして眠っていたようで、

腰にリニャちゃんの手が回っている。

 

どうしようか・・・

 

目が覚めたのだし、ナタリーさんたちが起きているのなら、お礼を言いに行かなければと思う反面、このままリニャちゃんが起きてくるまで腕の中でゆっくりしていたいと思う自分がいる。

出会ってまだ一日とちょっとしか経ってないのに、

不思議と彼女の腕の中にいると落ち着くから・・・。

リニャの温かさに触れていると、自然と心が落ち着いて張っていた気持ちもゆっくりと解けていくのを感じる。

 

もう少しだけ・・・いいかな

 

結局、欲に負けた私は、リニャが起きるまでの間彼女の寝顔を眺めていることにした。

何時ぶりだろうか、こんなに心が休まる時が来るのは。

 

こっちの世界に来てから、こんな風な気持ちになる余裕なんて、つい先日までの私には無かった。

 

やっぱり、生き物でも人でも、殺すのは怖かった。

今だって、その時の事を思い出すと、手が震えてくる。

こっちの世界から見れば、私はきっと情けなくて、弱いやつなんだと思う。

 

でも、こればっかりは、

殺すことにだけは慣れなかった、慣れたくなかった。

だって、殺すことになれたら、私が(つばさ)じゃなくなってしまいそうだったから。

 

だけど、殺さなかったら、私が殺される。だから、殺さなくちゃいけない。

誰かを、何かを殺すたび、私の中の何かがなくなっていくみたいで、怖かった。

 

この世界は、私が生きてきた世界とは何もかもがまるで違っていて、それがこんなにも辛いことなんだって、自分が周りと違うことが、周りに合わせられない自分が怖かった。

 

戦いが終わった後、血まみれになった自分の手が、

自分の物じゃないように思えてしょうがなかった。

 

何度洗っても手に着いた血が取れない気がして

いっそこの手を切り落としてしまおうと思ったこともあった。

 

大丈夫、私はまだ壊れてない、まだ大丈夫。

 

そう自分に言い聞かせていたころには、もうとっくに壊れていたんだと思う。

 

いつからか、眠れなくなった。

戦いどおしで身体は疲れ果てていたのに、夜になっても目は冴えたままだった。

何もしていないと一人の夜は怖いから、眠るためにも私は剣の練習をしていた。

気付けば夜が明けていて、夜通し練習していた身体は、朝が来た事を感じると、糸が切れたように力が抜けた。

 

それでも眠ることは出来なかった。

 

 

 

「んぅ、つ、ばさ?おはよ~」

 

リニャの声が聞こえて、我に返る。

 

リニャは寝ぼけ眼で私を見ると、途端に真剣な顔つきになって、腕の力を強めた。

 

「リ、リニャ」

「大丈夫、大丈夫だよ、つばさはここにいていいんだよ」

「っぁ・・・」

 

そう言ってリニャは私の頬を撫でる。

 

「ほん、と・・・?」

「うん!」

 

おどおどする私に、リニャは笑顔で答えてくれる。

私はそのことがどうしようもないくらい、嬉しくて。

同時に、こんなにも私に優しくしてくれるリニャが、迷惑していないか、不安でしょうがなかった。

 

ここから離れたくない、

 

リニャに捨てられたくない、

 

もしリニャに捨てられたら・・・、

 

心臓が早鐘を打って、呼吸が不規則になっていく。

 

「リニャ、何かしてほしいことない?私、何でもする、から・・・だからっ!」

 

焦った私からそんな言葉が口をついて出た。

 

「つばさ!」

 

ピシャリとリニャの鋭い声が私の耳を打つ。さっきまでの優しい表情が一変して、リニャは今にも泣きそうな顔で、怒りに震えていた。

 

「そんなこと、軽々しく口にしちゃダメだよ、つばさは女の子なんだよ?なのに・・・

もっと、自分をだいじにしてよぉ・・・」

 

最後の方の言葉は、弱弱しく震えていた。

泣きそうになるリニャを前に、私はどうしたらいいかわからなくて、リニャが私にしてくれた時のように、手を背中に回し、ぎゅっと身体を抱き寄せる。

 

「ごめん、なさい」

「ぁ、えへへ。いいよ、でも今度あんなこと言ったらもっと怒るからね!」

 

私が謝ると、リニャは、パッと顔を明るくして、許してくれた。

 

「でもそうだなぁ、何でもしてくれるって言うんなら・・・、これかも一緒にいたい、かな?」

「ぇ?いいの?」

「なんでも聞いてくれるんでしょ?」

「そうだけど・・・」

「それより、そろそろ朝ごはんだよ!いこ?」

 

リニャのお願いに困惑していると私をよそに、、

そう言いながら、リニャはベッドから身を起こすと、私の手を取って今日の朝食を見に、ナタリーさんのいる台所に向かった。

 

 

 

 

朝食を食べ終えた私は、今日もリニャと一緒。

少し嬉しいなと思いつつ、今日は村の外を案内してくれるというので、それに従った。

 

村の外となると、魔物とかがうろついて危なくないのか聞いてみたら、近くにある森の奥に行かなければ、滅多に村の近くにはこないらしい。

何でも村には元冒険者や旅人が多く住んでいて、

彼らの魔力や、闘気を怖がって、村には近寄ってこないらしい。

村の周りは豊かな自然に囲まれていて、色んな動物たちも暮らしているらしい。

私に見せたい景色もあるとリニャが言っていたので、私は、それを楽しみにしつつ、

着いていった。

 

 

 

 

 

 

想定外のことが起きた。

リニャは何とか村の方に逃がすことに成功したからいいとして・・・

 

こいつ、明らかにやばい。

 

目の前にいる、狼人間のような魔物から微かにだけど、魔王の残り香みたいなのを感じる。

せっかく魔王を倒したのに、まだ私を戦わせるのか・・・。

とにかく今は一人で戦わなくちゃいけない、

 

怖いけど、やるしかない。

 

 

 

 

魔法が出ない・・・

 

おかしい、なんで?

 

痛い・・・

 

痛い痛い痛い!

 

うで、うで、が・・・っ!

 

っ!殺される!

 

逃げなきゃ・・・、

 

死にたくない、

 

今から、村に逃げれば、

 

逃がしたリニャから事情を聞いたであろう元冒険者の人たちが助けてくれるかもしれない。

 

でも、もしその人達が負けてしまったら、あの村は、リニャはどうなる?

 

この魔物、かなり強い。

 

そもそも、森の中で激しく、戦っていたから、村がどっちかわからない。

 

腕から流れでる血が止まらない。

 

このままじゃ、長くはもたない・・・、

 

とにかく、逃げなきゃ、殺される。

 

あいつは、私を追いかけてきてる。

 

走れ、早く、もっと動け、

 

足場の悪い場所を走り続けてきた足が震えだす、

 

何度も打ち付けられた体中が痛む、

 

あいつに蹴り上げられた腹部が悲鳴を上げている。

 

だけど、止まるわけにはいかない。

 

立ち止まったら、あいつに殺されてしまう。

 

怖い、

 

痛い、

 

誰か・・・、

 

誰か、

 

 

 

 

 

助けて

 

 

 



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帰ってきたら、英雄がいた

UA一万超えありがとうございます!!

天然水ばっかり飲んでる今日この頃。天然水シリーズおいしいよね
小口から大口の油に変えたら、あまりにも油が出過ぎて、カルボナーラ作るだけなのに、フライパンから火が出るかと思った。あとハムがめっちゃ跳ねた。


今回もゆっくりみていってね!


エルフ族のリズ・カヴァリエーレは冒険家であり騎士である

 

今日は、少し長めの旅から第二の故郷であり、今の家がある村に帰っている途中、

持ち前の千里眼で、森の方から誰かが走ってきているのが見えた。

 

(あれは・・・、リニャじゃない、どうしたのかしら随分と焦ってるみたいだけど。)

 

リズはのんびりと歩いていた足を速め、リニャのもとへ向かった。

 

リニャはパニックになっているのか、今にも泣きそうな顔をして、おぼつかない足取りで、何度も転びそうになりながら、村へと向かっていた。

その様子に嫌な予感を感じたリズは、再び転びそうになったリニャの体を支えると、声を掛ける。

 

「どうしたの、リニャそんなに慌てて」

「あっ・・・、リズ、さん!リズさん!助けて!わた、し、森に、魔物がっ!それで、つばさが、ひとりで!」

 

気が動転しているせいでリニャの言葉は要領を得ない、それでも森で何か異常が起きていることを察したリズは、リニャに安心させるよう声をかけ、彼女が走ってきた方へ向かった。

 

森の中に入ったリズは、周囲を警戒しながら、歩みを進める。

 

(一体何が、ん?あれは・・・)

 

そんなリズの目に、抜き身の剣が目に入る。

 

簡素な装飾が施されたその剣に、リズは見覚えがあった。

 

以前一度だけ見たことがある、世界に二つと無い

ドワーフの名匠トールキンが打った世界最高と呼ばれる三本の剣のうちの一つ、

 

翔剣『ウェルテクス』

 

あまりの軽さに、使用者は剣を持っていることを忘れてしまいそうになるとも謂われたその剣は、魔王討伐に赴くことになった勇者ソフィアが、彼から賜った一振で、いつかの街で勇者ソフィアを見かけた時に、これと同じ柄の剣を差しているのを見たことがあるから間違いない。

 

(ここに勇者が・・・?)

 

そんなはずがない、とリズは考えを横に振る。彼女には三人の仲間がいるはず、それも全員同じ村の出身で幼馴染、随分と仲が良いと聞いている。そんな状況で一人どこかに行くとは考えられない。

なら四人でここに?それもない、勇者は先日、魔王を討伐したばかりで凱旋中のはず。なら、勇者が誰かにこの剣を預けたのかしら・・・

 

思考を巡らせながら、現場を眺めていたリズはその場所に目が釘付けになる。

 

真新しい鮮血が、大量に木の根元についており、血は点々と奥へ続いている。

 

リズは急ぎ血を追った。

 

 

血を追っていたリズは二つの気配を感じ取り、少し離れたところから様子を伺う。

 

そこには、右腕から今もなお出血を続けている、さきほどの血の主であろう少女を、

異様な雰囲気を持った魔人がまさに今少女にとどめをささんとしていた。

 

リズはすぐさま手にしていた弓を引き絞り、

魔力を込めた矢を魔人に嵌っている魔石めがけて発射する。

 

神速と呼ばれたその一矢は魔人が彼女にその腕を振り下ろすよりも早く、魔石を打ち抜き、

魔人は跡形もなく消滅した。

 

リズはすぐさま少女に駆け寄る。

 

「大丈夫?」

「・・っあ」

 

声を掛けられた少女は、涙目になっていて、私に気が付くと、右腕のを抑えながらこちらに近づいてくる。

 

「た、すけ・・・て」

 

そう言って私の体に身を預けるように倒れてしまった。

リズは彼女の腕の傷に応急手当を施し、すぐさま村へと戻る。村ではすでにリニャの異常に気付いた人々が、リニャの側で何か言いながら、何人かが戦うための準備をしていた。

彼らに近づきながら声を掛ける。

 

「帰ったわよ」

 

リズの声に反応した何人かが、リズの方に目を向け、後ろに背負っている少女に気付くと、慌ててこちらにやってきた。

それにつられて他の面々もリズたちに気が付く。

 

それからはもう大騒ぎになった、私は少女を預け、何があったのか集まった面々に話す。

リニャは少女の方に泣きながらついていっていた。

 

話の中、少女の事を聞いてみた、村にやってきたのはほんの4日前で、その時もずいぶんボロボロの状態だったらしい。

 

もちろん彼女が勇者であることも聞いた、彼らも冒険者や旅人として、勇者の容姿については、見たことがあるか、聞いたことがあるはず。彼女はその時に見聞きした姿に相違ないと感じたはず。

 

村の面々はそれについて、彼女にあまり詮索するのを良しとしていなかった。

ここに来たばかりの彼女のことを知っているからだろう。そのことについてリズはとやかく言う気は無かったし、自分が同じ立場だったらそうしたかもしれないから。

ただ、彼女の性格上、本人に話を聞かなければ、納得いかないことも確かで、リズは心の中で目が覚めたら彼女に話を聞こうと決めていた。

 

少女は、名をつばさと名乗っているらしく、ナタリーさんが早朝に牧場で動物たちに囲まれているのを見つけたらしい。それから今日までは、ナタリーさんの家で過ごしていたようで、リニャとはその時に仲良くなったみたい。

リニャは元から人懐っこい子ではあったものの、ああも心を許しているところを見ると、やはり勇者のカリスマを感じざるを得ない。

なので少女が来てからの事は、ナタリーさんより、ずっと一緒にいたリニャに聞く方がいいとのことだったけど、流石にあの状態のリニャに話を聞くのは忍ばれるので落ち着いた頃に聞くことにしよう。

 

 

 

 

彼女の治療が終わったみたい。結果としては、命に別状はないみたいで、今もリニャが彼女の傍にいるとのこと。ただ腕の傷があまりにも深く、繋がったこと自体が奇跡のようなものだったため、右腕には深い傷がありありと残ってしまい腕自体も、後遺症なく動くかと言われれば、何とも言えない状況らしい。最も、勇者の仲間であった大僧正ルミアであれば、傷や後遺症を残さず治せたであろうと言っていた。

それを聞いて、彼女の仲間たちは一体何をしているのか、リズは無性に腹が立った。

 

リズは普段は冷静に物事を判断する能力を持つが、仲間や友が危機的状況に陥った時には彼らを助けることを最優先として考える。

 

これは、エルフ族の中でもカヴァリエーレ家という騎士の家系に生まれたが故の考えというわけではなく、リズにとって仲間や友はそれだけ大切な存在であると、これまでの旅を通じて自らが到達した答えの一つであり、それを蔑ろにする者はあまり好きになれない。

というのがリズの見解であった。

もちろん、彼女たちにも何か事情があるのだろうから、これはリズの個人的な感情に過ぎないわけで、頭ではそれがわかっているから余計にやるせない。

 

それでも、だからこそ彼女たちには確かな絆があるのだと、リズは信じていた。

離れ離れになっていても、互いが互いを思っているモノだと、

リズは盲目的に英雄たちの事を信じていた。

勇者とはすなわち冒険者たちの最終到達点のようなものなのだと、無意識の中で決めつけていた。

 

彼女が目を覚ますまでは

 

 

 



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目が覚めたら、エルフがいた

お気に入り500件突破ありがとうございます!!
今回から、しばらくつばさ視点でお話を進めていきたいと思います!
と言いつつ他のキャラ視点が入っていても温かい目で見守ってください!!
色々迷走中につき、アンケートを取ろうかと思ってます!
それまでは物語の進行を優先しよかと思っておりますので!
これからもよろしくお願いします!!

今回もゆっくりみていってね!


どれほどの時間、気を失っていたのか。

 

ここはどこかの部屋のようで、辺りはすでに暗く周りには誰もいない。

 

あの後何があったんだっけ、

 

最後の記憶は・・・、そうだ

 

私は、あの化け物からリニャを逃がして・・・

 

魔法が使えなくなってたんだ、

 

それから・・・っ!

 

右腕に鈍い痛みが響く

 

そうだ、あいつにやられて・・・っ

 

あの時の恐怖が今になってやってくる、

 

左手で痛む右腕を抑え、震えを抑えようと試みるも、

震えは留まるどころかその揺れを増していく。

 

苦しい、

 

息が詰まって、胸が張り裂けそうになる。

 

じわじわと心臓が締め付けられていくような、

誰かに心臓を握られているような気持ちの悪い感触が、全身を支配していく。

 

怖い、

 

あの時の化け物の顔が、愉快そうに私の命を握っていると言わんばかりのあの顔が脳裏をよぎる。

 

腕を振り上げて私の命を刈ろうとした時の光景が、ゆっくりと、再生される。

冷たい何かが、頬を伝った。

 

いやっ、いやだ、いやだいやだいやだ!

 

しにたくない、

 

いたいのは、こわいのは、

 

たすけて、だれか・・・

 

 

 

 

・・・!ど・・・?

 

つ・・・!

 

ぎゅっと身体を抱かれ、ぶわっと柔らかい感触に包まれて、温かいものが頬を流れる。

 

「つばさ、ごめん・・・ごめんね」

「あったか・・ぃ」

 

リニャだ、リニャが泣いてる、

 

私は右腕の痛みも忘れてリニャの目元に両手を当てて、涙を拭う。

 

「泣かないで?」

 

私の顔を見たリニャが、泣き笑いの顔で私の頬に手を乗せる。

 

「つばさも、泣いてるじゃん」

 

私、も?

 

そっか、私も、泣いてたんだ。

 

温かいリニャの身体に触れていた私は、それまでの嫌な緊張感が解けて気が抜けたのか、

そのままリニャに身体を預ける様にして、再び眠りについた。

 

 

 

 

 

 

ひとしきり泣いた後、眠りについた二人を見て、リズはその場を後にした。

彼女に話を聞くのはもう少し時間が経ってからにしよう。

 

リニャが彼女の体を拭くためのタオルを取りに行っている時に家を訪れた私は彼女が起きることを期待して、リニャに着いていく事にした。

 

彼女は起きていた。

 

そしてすぐに彼女の様子がおかしいことに気付いた。

 

水の中で溺れているかの如く息を切らせ、焦点の合っていない目で、異様な雰囲気を纏いながら身体を震わせ、胸を押さえながら苦しみ悶えている。

 

リニャはすぐさま彼女に駆け寄って何度も声を掛ける。

 

何度も声を掛け、リニャが彼女を抱きしめると、ようやくそこでリニャの存在に気付いたのか、

彼女がリニャの方を見た。

 

その目には大粒の涙が溜まっていて、ポロポロと零れ落ちていく。

 

二人は互いに涙を拭いあいながら、リニャが彼女に言葉をかけ、時折彼女もリニャに声を発する。そのまま私がいることには気付かずに二人は眠ってしまった。

 

(まあ、顔を合わせるのは明日でもいいわね)

 

リズは涙を流す少女に、今までにないほど心を揺さぶられていることから一旦目を逸らし、帰路に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

再び目を覚ますと、今度は目の前にリニャが眠っていて、部屋にはもう一人、私達を見守るように女性がイスに座っていた。

 

プラチナブロンドの長い髪と先端がすこし尖った長い耳、キラキラと輝いて見える翡翠のような瞳が特徴的な女性。

 

私が起きたことに気が付くと、その女性が声を掛けてくる。

 

「おはよう、よく眠れたかしら」

「えっと、はい。あなたは・・・?」

 

私がそう尋ねると、女性は少し顔をがっかりさせたようにしながら

 

「まぁ、仕方ないわね、私はリズ・カヴァリエーレ、あなたが森で襲われていたのを助けたのだけど、覚えてないかしら」

「あっ、そうだったんですか、ごめんなさい」

 

彼女の言葉を聞いて私はその時の事を思い出そうとする、

 

・・・っ

 

「あぁっ!無理に思い出そうとしなくていいから」

 

そう言って朗らかな笑みを浮かべて私を安心させるように頭に手を乗せ、そっと撫でるリズさん、

 

「ごめ、なさい」

 

リズさんに気を遣わせてしまったことが申し訳なくて、謝罪の言葉が口に出る。

 

「いいわよ、それより、腕は大丈夫?」

 

一転して心配そうな顔になったリズさんに言われて、怪我をした右腕を動かしてみる。

少し痛むものの別段支障はなさそう。

 

 

「動かすとちょっと痛みます、でもそれだけで、後は何ともないです」

「そう・・・、良かったわ。何かあったらすぐに言って、私にできることがあれば何でもするわ」

 

私の言葉を聞いて頬を緩ませたリズさんの言葉に、

リニャや村の人達と同じような温かさを感じる。

 

「んぅ、にゅう~」

 

隣で眠っていたリニャが目をこすりながら起きてくる、起こしちゃったかな。

 

リニャは目を覚ますと、私が起きているのを見て、抱き付いてくる。

 

「つばさちゃん!良かった!本当によかった!」

 

何度も何度も体を摺り寄せながら、私の事を抱きしめて離そうとしない。

リズさんがいることには気付いていないみたい

 

「リニャ、リズさんが、見てる、よ?」

 

私が耳元でリニャに囁くと、びっくりしたように身体をのけぞらせて顔を真っ赤にしていた。

 

「昨日は慌てていたから、落ち着いて話すのは久しぶりね、リニャ」

「あぅう」

 

リニャは顔を真っ赤にしたまま部屋を出て行ってしまった

 

「ふふっ、リニャは相変わらずみたいね」

「仲、いいんですね」

「まぁ、あの子が生まれた時から見ていたから付き合いは長いわね」

 

生まれた時からって、リズさんは今何歳なんだろう。

 

「今年で74?75だったかしら」

心を読まれた!?

「心は読んでないけど、考えてそうな事はわかったわよ、エルフは長寿だから、人間でいうとこの20歳くらいみたいな扱いよ、ようやく大人の仲間入りしたかしてないか、まぁ100歳過ぎれば大人って言われているわ」

「そう、なんだ」

 

というか今ちゃっかりエルフって言ってた!

やっぱりそうなんだ、うすうすそんな気はしていたけど、人間以外の種族ってよく見る機会が無かったから改めて聞くと人間とは考え方とかも違うんだなぁ。

ってことはドワーフとかフェアリーとかそういう元の世界ではいなかった種族とかもいるのかな。

それから、リズさんから最近まで旅に出ていて、ここに返ってくるのは一年ぶりだってこととか、旅先であった出来事なんかを聞いていた。話の中では妖精族(フェアリー)小人族(ドワーフ)獣人族もいることが分かった。旅の中であった話のそのどれもを楽しそうに話すリズさんが少し羨ましかった。

 

「・・・一つ聞きたいことがあるのだけど」

「なんですか?私に答えられることだったらなんでも答えます」

 

話が一段落着いたところで、リズさんが真面目な顔で聞いてくる。

この時私はすでにリズさんに気を許していて、すぐに了承した。

だから続く言葉に身体が凍ったように動かなくなる。

 

「あなた、勇者ソフィア、よね?」

 

 



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カヴァリエーレの異端騎士と壊れかけの勇者

総合評価1000突破ありがとうございます!!
どえらい評価に肝を冷やしつつも、めちゃくちゃ嬉しい!!
これからも自分のペースで頑張りつつ書いていきたいと思ってます!!

アンケートの方もご協力ありがとうございます!とりあえず今週いっぱいまでアンケート期間は儲けようと思っておりますのでよろしくお願いします!!
百合ハーレムを求める声が思ったより大きすぎて草
後、つばさ曇らせたがりすぎィ!!でも曇らせ好きだから許す。

今回タイトルめえっちゃ悩んだ結果何も出てこなかった

今回もゆっくりみていってね!


「あなた、勇者ソフィア、よね?」

 

 

「ぇ?」

 

 

リズから告げられたその言葉に、さきほどまでの温かかった体が急激に冷たくなっていくのを感じる。目の前から光が消え暗い闇が迫ってくる。

 

否定しなければ、私は勇者じゃないって、そう言わなければならないのに、

私は口をパクパクさせるだけで声が出ない。

 

リズさんは(勇者)を知っている、知っているからこうして聞いてくるんだ。

 

これは質問じゃなくて確認、

 

どうしたら、勇者だって自分で認めたら、もうここにはいられないかもしれない。

何で(勇者)がここにいるのか聞かれたら、彼女たち(勇者の仲間)から逃げたことを知られたら・・・

また、私はあそこに戻るのだろうか、また彼女たちと・・・魔法も使えなくなったのに?

 

そうだ、私はもうあの魔法を使うことが出来ない、彼女たちと一緒にいる時に使い続けていたあの魔法を、私が戦場で生き延びるために使い続けていた唯一の心の支えが。

 

無理だ、今の状態で彼女たちの元に戻っても、あの時以上に私は弱くなってしまった。

そんな私に彼女たちがいい顔をするはずがない・・・。

 

あの時の罵倒が蘇る、

 

今度は何を言われるか、

 

彼女の姉を奪った私が今度は勇者(ソフィア)の魔法を奪ってしまったなんて知ったら、

 

彼女の親友を奪った私が、戦うチカラすら無くなったと知ったら、

 

彼女(ソフィア)の体を傷つけた私が、これ以上何かを失ったと知ったら。

 

どんどん、薄暗い灰色の感情が私の心を蝕んでいく。

 

 

 

不意に、肩に手が触れる。

 

いつの間にか下を向いていた顔を上げると、リズさんがこちらに微笑んでいた。

 

「大丈夫よ、私はあなたの味方だから、今のあなたはつばさ、昔の事なんて関係ない。そうでしょ?」

 

続く言葉に、私の目が開く。

 

「あなたが勇者であることは私とあなただけの秘密、だから安心して」

 

「あなたは私が守ってあげるから」

 

最後の言葉に、それまでの恐怖心が一気に絆されていく。

優しく微笑むリズさんに、私はリニャとは別の安心感を感じていた。

私が震える手でリズの手を握ると、彼女はその手をぎゅっと両手で包むようにして握り返してくれる。

 

私が守ってあげる

 

つばさの心に、リズのその言葉が深く染み込んだのがわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

リニャに連れられ朝ごはんを食べに行った二人が見えなくなってからリズは口角を上げ、

さきほどのやりとりを思い返す。その表情はどこか恍惚としており、翡翠のように煌めいていた瞳は暗く濁り、光から新芽を隠す生い茂った木々のような深緑が広がっていた。

 

これは、そう

 

一目惚れ、というやつね

 

昨晩のつばさのあの異様な雰囲気と表情にリズは今までにない心の高鳴りを感じていた。

 

弱弱しく陰るあの表情が、

 

何かに怯え震えるあの身体が、

 

その時のつばさが行ったすべての言動が、

 

どうしようもなくリズの劣情を煽ったのだ。

 

つばさの事を考えるのなら昨日の今日で聞くべきことではないことはわかっていた。

 

それでもリズは自分の中に湧き上がったこの気持ちを確かめるために、

つばさの気持ちが落ち着く前にあの質問を投げたのだ。

 

そしてそれを聞いた時のつばさのあの表情。

 

それまで楽し気にリズの話を聞いていたつばさから表情が抜け落ち、

代わりに驚愕と絶望、恐怖の感情が入り混じったぐしゃぐしゃな顔になった。

その藍色の瞳からは光が消え、

少しつついただけで崩れ落ちてしまいそうなほどに脆くなったつばさを見て。

 

 

リズは確信した

 

 

私はこの子が好きなんだと。

 

それは愛と呼ぶにはあまりに歪んでいて、

リズ自身、何故つばさが苦しむ姿にこんなにも心が昂るのかわからなかった。

しかし、幸いな事にリズの愛はそこで終わりではなかった事、

暗い絶望の淵に立ったつばさに対し、リズが抱いた感情。

 

庇護欲

 

壊れそうになったつばさを優しく抱きしめたい、リニャに見せたあの縋るような表情を、リニャに抱きしめられた時に見せた安心した顔を自分にも向けて欲しい。

只々、つばさを甘やかして守ってあげたい。

 

それこそが、リズがつばさに抱いた最大の感情だった。

とどのつまり、つばさを絶望させることは、その後にリズに甘えさせるための手段でしかなかった。もちろんつばさの絶望した表情を見ることも、彼女にとっては大切な事に違いないのだが。

 

さて、それだけの理由をもってしてもリズの性格上行動を起こすには、少し足りないものがあった。なぜならリズはエルフなのだ、彼女は人間よりも長い間生きることが出来る時間がある。

 

そう、リズは時間の感覚が人間とは違っていた。

 

普段のリズであれば、少しずつ、つばさとの距離を縮めていったであろう。

ならば何故、今回はそうしなかったのか。

 

それはひとえに、つばさに今最も近い彼女がいたことが原因だった。

 

リニャ

 

村一番の明るさを持った彼女は、

知っている者は多くないが同性愛者であるということをリズは知っていた。

そして現在、リニャが想いを寄せているのがつばさなのだということはすぐにわかった。

 

だから、つばさが今最も信頼し、心を許している相手がいるとすれば、十中八九彼女であることは確かで、昨晩のやり取りを見ていたリズは二人の距離の近さに驚いた。

 

そして悟った、

 

このままではリニャ以外の相手に一定以上の表情を見せなくなると、彼女の心の中心をリニャが独占してしまうのも時間の問題になりつつあると。

想像以上に近い二人の距離に焦りを感じたリズは、これ以上の遅れを許すわけにはいかないと、普段はのんびりと眺めているだけの腰を上げ、行動を開始したのだ。

 

幸いにして、リニャはつばさが勇者であることに気付いていない事を知ったリズは、

すぐさま計画を立てた。

 

二人だけの秘密の共有

 

リニャよりも短い間に、リニャと同程度までつばさとの距離を縮めるためには、

何か特別な事が必要だった。

時間も情報も何もかもが足りないリズには手段を選んでいる暇が無かった。

村の面々はつばさに対し直接彼女が抱えている秘密について探るような真似をしないということは、すでにわかっている。

 

 

ならば、私は彼女に踏み込もう、

 

彼女の傷に、触れよう、

 

彼女の見られたくない部分に目を向けよう、

 

そしてそれでも尚彼女を愛そう、

 

彼女が欲するすべてを捧げよう、

 

彼女の重荷を少しでも背負ってあげよう、

 

私が彼女を守る騎士となろう。

 

だからほんの少し、ほんの少しでいいから暗い顔も見せてね?

 

 

計画は、成功した。

 

 

それまで本心から、優しく接していたこともあってか、それとも、それほどまでにつばさには余裕が無かったのか、つばさは驚くほど簡単にリズの手に堕ちた。

 

その時のつばさがリズに向けた表情は、

リズの渇いていた欲望を満たすのには十分過ぎるものだった。

 

そのことにリズは嬉しい気持ちの反面それほどまでに追い込まれていた勇者だったころの彼女の待遇に、再びふつふつと怒りが沸いてくるのを感じた。

 

とはいえ、これでつばさの心には少なくともリズの存在が焼き付いたことだろう。

 

これからはゆっくりとつばさを愛でていけばいい。

 

時にはリニャに甘えている姿を見るのもまた一興。

 

もしこのリズの考えを知る者がいれば疑問を持つものが現れるかもしれないが、何もリズは最初からつばさを独り占めしようとは思っていなかった。リニャやつばさがよしとするならば二人でつばさを愛そうと考えるほどには寛容な性格をしていた。もちろんつばさがリズを選ぶというのなら喜んで受け入れるし、リニャが彼女を独り占めにするというのなら、その時は徹底的に戦うまで。

つまるところつばさを放すつもりは無いだけの事なのだ。

 

願わくば、彼女を余すことなく愛したというのも本音であるし、誰にも取られたくないという気持ちが無いわけでもないのだが、それでつばさを失っては元も子もないのだから。

 

 

それがお家で異端と呼ばれたカヴァリエーレ家の次女

 

リズ・カヴァリエーレというエルフであった。

 

 



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子供たちはその少女に何を見た

セピアの触手様、ハコ割れ様、愛煙家様、balmung様、癒月ルナ様、浮浪雲様
誤字脱字報告ありがとうございます!

同世代、年上とくれば次は・・・わかるね?

新キャラを出すときは毎回時間かかりすぎるぅ~

それと今回時間無くて短いです!すみません!

今回もゆっくりみていってね!


リズさんと別れてから、朝ごはんをリニャ達と食べようとして、右手に力を入れた時、

ちょっとした違和感があったものの、特に何事もなく食事を終えた。

 

終始リニャが私の腕の怪我を気にしていて、

半ば強引に食べさせてもらっていたから、自分の手は使ってないんだけど。

 

ともかく、今日は一日中リニャがお世話焼いてくれるらしい、

断る理由もないしお願いしようと思う。

 

そう伝えたら、すごい勢いではしゃいでた。

 

私が怪我してしまったから昨日の村の外の案内はしばらく先にしようってことになって、

その日は村の子供たちに私の事を紹介しようとリニャが言い出した。

 

私の弟たちと同じか、少し小さい子供たちが広場に集まっていて、

リニャが子供たちに私の事を伝えて、私は子どもたちの前に出る。

 

私の紹介が終わってからも、子供たちは皆、

警戒心が強いのか、人見知りなのか、私が近づきにくい雰囲気を出しているのか、

私の方には来ず、リニャと遊んでいる。

 

私の方も、子供たちになんて声を掛ければいいかわからず、その場に立ち尽くしていた。

前までは弟たちの相手をよくしていたから、すぐに声を掛けれていたのに・・・。

今では、少し、声を掛けるのをためらってしまう。

 

怖いんだ

 

自分より一回りほど小さい子供たちですら、私は怖いと思うようになってしまっていた。

その事実に、私は自分が情けなく思えてくる。

 

そんな中、一人の少女が私の方にやってきた、

白い髪と赤い目の少し大人しそうな印象の女の子だった。

 

女の子の名前はクレーヴェルちゃん、長いから子供たちはベル(ヴェル)ちゃんって呼んでいた、ベルちゃんは他のみんながリニャと遊んでいる間、私とお話してくれた。

利発そうな子供で、たぶん誰にも話しかけられない私のことを見かねてきてくれたんだと思う。

ベルちゃんはその後も帰る時間まで色んな話をした。

帰り際、また遊ぶ約束もして、その日は別れた。

子供たちと遊びまわってくたくたになったリニャと一緒に帰る。

晩御飯を食べながら、私はベルちゃんと話たことを夢中で三人に話していた。

 

温泉に入って後は寝るだけになって、私はリニャとベッドに入る。

リニャは昼間あれだけはしゃいでいたからか、すでに眠たそうだった。

私はリニャがよく眠れるように、背中に手をまわし、

一定のリズムで優しく子供をあやすように叩いた。

 

リニャの寝息が聞こえてきてから私も目を閉じる。

 

こんな日がずっと続くといいな・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すごくきれい・・・

 

それがその場にいた子供たちが、クレーヴェルが初めに彼女を見た時の感想だった。

 

整った容姿に黒くて長い髪、どこまでも深い青い綺麗な目をした凛と佇むつばさに、

周りの大人から聞いていた勇者様の姿を重ねてしまったクレーヴェルは、彼女に目を奪われた。

 

他のみんなも同じように、彼女の姿をみて、何かを感じたのか、感嘆の息が漏れていた。

結果、クレーヴェルを含めた子供たちは、彼女に話しかけることが出来ず、

話しやすいリニャの方に集中していた。

子供たちはつばさの姿に委縮してしまっていたのだ。

 

彼女は子供たちに囲まれるリニャの方を見ながら、少し曇った顔をしていた。

それを見たクレーヴェルは、彼女に勇気を出して声を掛けることにした。

 

クレーヴェルが声を掛けると、つばさは少し驚いたような顔をしてから、

すぐにその顔に喜びの表情を見せた。

つばさの事をよく知らぬ大人が見れば、その表情の機微には気付かなかったかもしれない。

しかし、子供は時に、大人よりも感情の機微に優れていることがある、

つばさの表情の変化を感じたクレーヴェルは、

自分の中に湧き上がる初めての感覚に少しの戸惑いと、それを上回る感情の昂りを感じていた。

 

つばさとの会話の一つ一つに感情が左右されて、

つばさが自分の話を聞いてくれることがこの上なく嬉しかった。

 

つばさに話しかけられなかった他の子達が知らないつばさを知っていることが、

クレーヴェルの心をさらに昂らせる。

 

私だけのおねーさん

 

日が暮れ始め、つばさと別れなくてはならない事を残念に思いながら、

クレーヴェルはつばさと今度また二人で遊ぶ約束が出来たことを喜んでいた。

 

おねーさん、えへへ

 

つばさおねーさん

 

それは、初めてクレーヴェルが恋を知った瞬間だった。

 



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夢なら覚めないで

今回あとがき書いてます、
あとがきなんて知らねって方は読み飛ばしてやってください。
準備回のような何かです。

今回もゆっくりみていってね!


ね・・ゃ・!おー・・

 

だ・・・う・?・・さ・

 

 

・・・?

 

何だろう、

 

懐かしい喧噪に、遠のいていた、意識が戻ってくる。

 

 

「おーい!ねーちゃん!起きてるー?」

「ねーさん、大丈夫?」

「あぁ、うん。ちょっとぼーっとしてた」

 

私、さっきまで何してたんだっけ・・・?

 

いまいち記憶が思い出せない。まぁ、大したことじゃいよね。

 

「ぼーっとしてんなよー、俺腹減ったー、晩飯まだー?」

「今日は何作るんだっけ?手伝うよ」

「今日はハンバーグ、仕込みはほとんどやってるから、後は焼くだけだしいいよ」

 

純一(じゅんいち)(いつき)の声に反応して、私は靴を脱いで、ようやく玄関から動き出す。

 

そういえば今日は私がご飯当番だったなぁ。

 

なーんか、久しぶりに家に帰ってきた気がするなぁ・・・。

何でだろ、毎日帰ってきてるはずなのに。

 

 

ハンバーグの種を作り終え、フライパンに火を通していると、玄関が開く音がして、

ふと懐かしさを覚える聞きなれたはずの声が響く。

 

「ただいまー、もうすぐお父さん帰ってくるってー」

「おかえりー」

「おかえり」

「おかえり、もうすぐご飯出来るから、お母さんはゆっくりしてて」

 

母が帰ってきた。

 

「ありがとー、翼ほんと助かるわぁ~」

「はいはい」

 

いつもの会話、何気ない日常のほんのふとしたこの時間が、私は好きだった。

 

・・・・だった?

 

私は、何を・・・っ!

 

 

 

 

 

暗転

 

 

 

 

 

「つーちゃん、つーちゃん。ねぇ聞いてる~?」

「え?う、うん聞いてるよ」

 

今日は、智ちゃんとデパートにショッピングに来てる、智ちゃんは、私とみっちゃんの幼馴染で、小さいころから三人一緒だった。

最近は、三人一緒の時もあれば、

二人が一緒の時より私がどっちかといる時の方が多いかもしれない。

 

「ほんとにぃ~?じゃあこっちとあっち、どっちが似合うかな?」

「ん~、智ちゃんには、こっちのほうがいいんじゃない?

「もぉーやっぱり聞いてないじゃん!今は、つーちゃんの服選んでるんだよぉ?」

「そ、そうだった、ごめんごめん」

「もぉー、どっちも着てくれたら許す!」

「えぇー、・・・わかったよ」

「わーい!やったぁ♪」

 

子供のようにはしゃぐ智ちゃんの姿をみたら、服を着るぐらいでいいなら、と思わなくもない。

 

大人になっても智ちゃんとこうして二人で遊びにいったりしているのかな・・・。

 

「・・・っ」

「つーちゃん?っつーちゃん!」

 

めまいのような、気持ち悪さが全身に広がり、立っていられなくなる。

隣にいた智ちゃんが、そんな私の様子を見て驚いた様子で私に何度も声を掛けてくるが、

それに応えられるほどの余裕がない

頭の中を誰かにかき回されてるような感覚に陥って。体中が倦怠感に苛まれる。

誰かが私の体に触れる、

 

「あぁぅ・・・」

 

声にならない声が、漏れ出して、私はそのまま意識を闇の中に落とした。

 

 

 

 

 

「翼、そこはこうして・・・、翼?」

「ぇ?あぁ、ごめん、ぼーっとしてた」

「もう、まだこの前の事気にしてるの?」

「ぅん」

「急に調子が悪くなっちゃったんだから、しょうがないわよ。智ちゃんだってあなたの事すごく心配してたでしょう?」

「そぉ、だけど」

「智ちゃんにはちゃんとお礼言ったんでしょう?ならいいじゃない。はい、この話はこれでおしまい」

「うん・・・」

「それにしても、やっぱり翼は器用ね~、もう少しでマフラー、完成しそうね」

「えへへ・・・そうかな?」

「そうよ~、そういえば聞いてなかったけど、誰に渡すの?もしかして好きな人でも出来た?」

 

ニヤニヤしながら聞いてくるお母さん。

お母さんの声が聞こえていたのか、テレビを見ていた樹と純一がこちらにやってくる。

話には入ってこないけど聞き耳を立てているお父さん。

 

「えー!ねーちゃん好きな人出来たのかー!」

「ついに、ねーさんにも春が来たの?」

「いないし、きてないよー」

「なんだよー、つまんねーなー」

「ねーさんは色恋沙汰に疎いから仕方ない」

 

興味をなくしたように、テレビへと戻る二人。

その先で私の言葉にほっと息をつくお父さんが少し可笑しくて、

お母さんと顔を見合わせて笑ってしまった。

 

 

 

「さてと、今日はここまでにしよっか、明日、早いんでしょ?」

「うん、みっちゃんとサイクリング」

「なら早く寝ないと、寝坊したら大変だものね」

「そうする、お母さん、その今日・・・」

「うん?」

「一緒に寝たい」

「いいよ・・・ふふ、昔から甘え下手なんだから。もっとお母さんに頼りなさい」

 

そう言って胸をドーンと叩くお母さん。

 

ベッドに入ると、お母さんは私をぎゅっと抱きしめてくる。

あったかくて安心する。

 

「大丈夫、怖い夢は、もう見ないわ、翼はずっと翼のままよ」

 

何度もそう言って私の背をさするお母さんの声が、だんだん意識出来なくなってくる。

 

「お、かあ・・さん」

 

優しいぬくもりに包まれて、私は微睡みの中に意識を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ行こうか」

「おっけー」

 

私達はペダルを漕ぎ始める。

スピードが乗りはじめ、徐々に風の膜を身体に感じながら、さらに足の回転を上げる。

 

風を切る音が心地いい。

 

 

 

今日はどこまで行こうか

 

決めてなかったの?

 

そうだね

 

じゃあ、海か山

 

ふむ、なら山にしようか、この間から目をつけていた場所があるんだ

 

じゃあそこで

 

 

なんて話で行き先を決めたのがついさっき。

 

みっちゃんとのサイクリグは、あらかじめ場所を決めている時と、

その日の気分で決める時とがある。

今日は後者の日だったらしい。

 

「ねぇ、翼」

「なぁに?」

「このままどこか遠くへ行ってみるのも悪くない」

「そうだね」

 

いつものようにみっちゃんが話しかけてくる。

みっちゃんはいろんな場所に行くのが夢だと、いつも言っていた。

まだ見ぬ場所へ、自分の足でいく事に。

 

「・・・もし」

 

「もしも、本当に今からどこか遠くへ行こうと言ったら、翼は付いてきてくれるかい?」

「私?そうだなぁ・・・」

 

いつになく真剣な声で聞いてくるみっちゃんに私は答えあぐねた。

前を走る彼女の表情は、わからない。

 

私は・・・

 

「・・・それも、いいかもね」

 

何となく、考えていたことが外に漏れてしまった。

 

「本当に?」

 

みっちゃんが、再び聞いてくる。

まぁ、みっちゃんとなら、どこに行ってもきっと楽しいし。

 

そこまで考えて、

 

私は少しスピードを上げて、彼女に並んでからもう一度答えた。

 

「うん、みっちゃんとなら、いいかもねって」

「そっか、そうだね」

 

みっちゃんは少し驚いたような表情をしていた。普段からあまり感情が顔に出ない彼女の珍しい表情を見れたことに、ラッキーなんて思っていると、みっちゃんは少し顔を下に下げてから

 

「私も、翼となら、どこにでも行ける気がするよ」

 

そう言って、明るく微笑んで何か言った。

 

 

視界がぐにゃりと歪む、

 

「えっ?」

 

突然の事に、私はまぬけな声を上げていて、

みっちゃんが何か叫んでいる。

 

私の体はそのまま横に倒れ、

 

瞬間、体中に衝撃が走った

 




前書き長すぎるわ、という読者の声を恐れた筆者が、
あとがきならいいっしょってことで裏話的な事を書きたくなった。

まず最近一番悩まされた新キャラの名前について、
最初はむしろ結構適当に付けてた節があったんだけど、リニャ、リズを出した時に気付いちゃったんだよね。

名前にリ付き過ぎじゃね?って。
すでにユリーカ含めて3人いるからね、
しかもリズを登場させたとき、投稿するまでリズとリニャでリ続きになってることにに気付いてなかった。リニャ、リズはめっちゃ書き間違える。それくらい違和感がねーです。

リ 万能説

実はクレーヴェルの初期ネームもリがついてたりします。
さすがに気付いて変えましたけども、
こう、しっくりくる名前に リ が付いちゃうんだよね。

ラ行も万能です。カレンもカリンと悩んでユリーカいるからカレンになってたり、
まぁ初期のメンバーは考えなしに付けたと言っても過言じゃないんですけどね。

後は、お風呂に浸かりながら小説の案を考えたりしてるんだけど、大体風呂上りには忘れてるという。
メモ帳を用意するべきか・・・、風呂場にメモ帳持ってけないけども。

というわけで今回の裏話はこの辺で、また何かあったりしたら書くかもしれません

その時はまぁ飛ばしてもらっても構いませんので~


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目が覚めたら魔法が使えなくなっていた

間が空いてしまってすみません!!

中々続きが書けず、うんうん唸っていたんですけど、
半分くらいかけたところで、
フレンチトースト風アイスバーを食べていたら案が浮かんでしまい、
今まで書いてた内容ほぼ消して書き直してたら結構時間かかってしまった。

そして相変わらずの5分前投稿になってしまった。


今回もゆっくりみていってね!


びくん、と自分の体が跳ねる感覚で、私は目を覚ました。

 

目に入ったのは、十数年、慣れ親しんだ白い天井ではなく、木目の入った茶色い天井。

それは、さきほどまで夢でも見ていたかのように、急にあの頃(転生する前)の事を思い出した私を、

(異世界)という現実に引き戻すには十分だった。

 

「ふぅ・・・」

 

疲れた、

 

元の世界に帰りたい、

 

諦めろ、

 

元の世界に帰る方法なんかない、

 

みっちゃんやお母さんたちとはもう会えないんだよ。

 

こちらに来てからもう何度目かもわからない自分への問答。

 

答えなんか決まっている。

 

それでも私がそれをやめないのは・・・。

 

深呼吸を何度か繰り返し、落ち着いてきたところで、身体が少し汗ばんでいる事に気付く。

 

あまり気にはならなかったけど、とりあえず、タオルで拭いておこうと思い、

ベッドから出ようとする。

 

グイッ

 

と急に体がベッドの方へと引っ張られる。

 

「どこ・・・いくの?」

 

私をベッドへ押し倒したのはリニャだった。まぁ、一緒に寝てるわけだし、当たり前だけども。

リニャは不安そうな顔で私の方を見ている。

 

「ちょっと汗かいてたから、タオル、取ってこようかなって」

「そ、そっか、ごめん私勘違いしてたみたい」

 

私がリニャを安心させるように、頭を撫でながらそう言うと、

リニャは顔を赤らめながら、恥ずかしそうに謝ってくる。

きっとリニャは私の事を心配してくれたんだろう。

 

「いいよ、心配してくれたんでしょ?」

「あっ、いや・・・」

「リニャは優しいね、ありがと」

「あうぅ・・・」

「タオル、とってくるね」

 

何故か私が喋る度、どんどん委縮していくリニャを不思議に思いつつ、

私はタオルを取りに行った。

 

ベッドに戻ってくると、リニャが、私が拭くよ!と言って私の手からタオルを取ってしまったけど、せっかく拭いてくれると言っているしそのまま拭いてもらうことにした。

 

それから朝ごはんを食べた私とリニャ。

 

今日はどうしても確認したいことがあったので、

一度部屋に戻った私は、リニャにお願いして、人の出入りの少ない、

開けた場所を案内してもらうことにした。

 

昨日は、子供たちと遊ぶため置いていった剣も持っていく。

 

私はいつものように、台に置いてあった剣を右手で持ち、

 

うっかり落としてしまった。

 

ごとっと音がして床に落ちた剣は、危うく足にぶつけるところだった。

 

「大丈夫~?」

「うん、ちょっとうっかりしてただけ」

 

物音がしたからか、出掛け仕度をしていたリニャが声を掛けてくるのに応えて、

今度は落とさないよう両手で丁寧に剣を持つと、腰に差した。

 

リニャに案内されやってきたのは、少し前まで牛舎があったという、

今は手入れされていない草の生い茂った場所だった。

何でも牛舎を建てたはいいが、日当たりが悪く動物たちの健康にも影響が出そうだったので、

すぐに移転したんだとか。

 

そんなこんなで現在は手つかずの場所と、リニャは丁寧に説明してくれた。

 

「何するの~?」

「・・・ちょっとね、確認したいことがあって」

 

不思議そうに頭を傾げてこちらを見るリニャに、一瞥して、私は左手を前に出す。

 

そして、今までと同じように、魔力を操り、

(ソフィア)が使う光属性の魔法≪ライトニング≫の行使を試みる。

 

本来であれば、突き出した手のひらから淡く光る球体が現れる。

 

普段なら、すぐに出てくるはずなんだけど・・・。

 

私の手には全く光が集まってこない。

 

やっぱり・・・。

 

一昨日あの化け物に襲われた時、私は確かに魔法を使おうとしていた。

 

魔法は出なかった。

 

あの時は焦っていたせいで上手く魔力がコントロール出来ていなかったのだと思ったけれど。

 

それ冷静に考えればあり得ないことで、

 

私は勇者として、言ってしまえもっと焦らざるを得ない状況に置かれている時も、

普段と同じように魔法を扱えていたのだから。

 

 

なら・・・、

 

なんで、

 

なんで今になって魔法が使えなくなるの?

 

魔王を倒すまで・・・っ、

 

魔王を倒すまでは、ちゃんと使えていたのに、

 

わからない、

 

わかりたくない、

 

魔王を倒したから?

 

違う、

 

パーティの三人から離れたから?

 

見当違いもいいところ、

 

魔法の鍛錬をやめたから・・・?

 

そんなはずないでしょ?

 

じゃあ・・・なんっ、

 

本当はわかってるくせに、

 

そんなこと、ない。

 

嘘つくなよ、

 

知らない、私は、わた・・しは、

 

じゃあ教えてあげる、

 

・・・、

 

勇者としての役目を放棄したから?

 

やめろ、

 

一応これも理由の一つだよね、

 

うるさい!

 

でもこれじゃない、

 

もういい、

 

本当の理由は、

 

もうやめて、

 

私が・・・

 

違う、

 

勇者を、

 

ぃやだ、ちがう、ちがう、そんな、わたしは、そんなつもりじゃ・・・、

 

ソフィアさんを拒絶したから、でしょ?

 

ぁあ・・・、

 

 

その時、私は魔法が使えなくなったことを、理解した。

 

頭が痛い、気分は最悪で、目がチカチカしてくる。

 

誰かが私のを、つばさの名前を呼んでいる。

 

やめて・・・っ、

 

いま、その名で呼んでほしくない、

 

私は、わたしは・・・っ!

 

 

 

今は、誰にも近くにいてほしくない

 

 

 

一人にしてよ・・・

 

 

 

 

声を出すことも億劫になって、

 

私は無意識のうちに、右手で腰に掛かった剣を抜き、

 

声のする方へ向けようとして・・・、

 

足元に剣を落とした。

 

「・・・ぁえ?」

 

 

 

 

 

 

 

つばさちゃんの様子がおかしくなったのは、

二人で牛舎跡地の今は誰も手入れしていない場所まで案内して少し時間が経った頃。

 

無造作にその場に立ったつばさちゃんの邪魔にならないよう、

脇に移動してつばさちゃんを眺めていると、

 

つばさちゃんは左手を突き出した状態で、真剣な顔で何かに集中していた。

 

たぶん、何かの魔法を使おうとしていた・・・のかな?

 

時間が経つにつれ、段々とつばさちゃんの顔に汗が流れ始めて、

 

どんどん顔色が悪くなっていくのが分かった、

 

つばさちゃんは手を下ろし、

リニャはすぐさまつばさちゃんに声を掛けながらつばさちゃんに近づいていく。

 

その時、つばさちゃんの右手が、腰に掛かっている剣に触れた。

 

「つばさ・・・ちゃん?」

 

つばさちゃんはそのまま剣を抜き、

 

それを地面に落とした。

 

剣の刃は危うくつばさちゃんの足を切ってしまうのではないかというほどの場所に抜き身で落ち、

リニャは、思わず声を上げ、つばさちゃんを見て、一瞬立ち止まってしまった。

 

つばさちゃん自身、何が起きているのかわからない、といったような表情で、右肩を抑えながら、

地に落ちた剣を拾おうとする。

 

そっと、大切なものを扱う様に、丁寧に柄を右手で握り、持ち上げようとして、

 

ごとりっ

 

その音と共に再び剣は地に落ちた。

 

つばさちゃんは、それを見て、もう一度、震える右手で剣を掴む。

 

今度は勢いをつけて持ち上げようとして、剣は剣先と柄の位置を入れ替えるように裏返った。

 

その様子を見て、いよいよつばさちゃんの顔から血の気が消えた、

 

身体は目に見えてガタガタと震えだし、何かを呟いている。

 

リニャは急いでつばさちゃんに手を伸ばす。

 

つばさちゃんはびくりと身体を跳ね、リニャから離れようとする。

 

「待っ・・・!つばさちゃん!落ち着いて!」

「いゃ、ぁ、ああああ!!ちがっ、あぁああああああ」

 

このままじゃ、つばさちゃんが危ない。

 

錯乱状態になっているつばさちゃんを見て、直感的にそう感じたリニャは、

つばさちゃんの体を掴み、逃げないよう押さえつける。

 

つばさちゃんの両手が、リニャから逃れようと抵抗してくる。

 

「ぅああああ!!やだっ!やめて!」

「つばさちゃ、・・・いっ!」

「・・・!」

 

左手からは驚くほどの力が入れられ、

リニャは腕を折られるかもしれないと思うほどの痛みに顔を歪める。

 

その顔をつばさちゃんが見た瞬間、目が見開かれ、

つばさちゃんの左手から力が抜け、反対に右手で懸命に抵抗し始める。

 

今度は、つばさちゃんの右腕から伝わるあまりの力の無さにリニャは驚いた。

 

いったい、どうなってるの!?

 

わけのわからない事態に、混乱しながらも、

リニャはつばさちゃんを落ち着かせられるように抱きしめる。

 

「やめっ!いゃあああ!!やめて!おね、が・・・!」

「つばさちゃん!しっかりして!」

「あぁあああ!!わ、たしは・・・そん、な。そんな・・っ!」

 

今までにないほどの錯乱状態に陥ったつばさちゃんに、今のリニャの言葉は届いていない。

リニャはそのことに歯噛みしつつも、それでもつばさちゃんに声を掛け続ける。

 

「大丈夫!だいじょうぶだから!つばさちゃん!」

 

「あぁああ、ちがっ!ああ、り、にゃぁ、やめ、やめ・・・て」

「大丈夫だよっ!私が、私がついてるから!」

 

その言葉が、彼女を余計に追い詰めていることなど、知らずに

 

 



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やっと見つけた

今回は余裕をもって30分前投稿なのです!
・・・だいぶ間が空いてしまったことについては、本当に申し訳ない!
執筆前に他の方の小説読んだりしたらダメね。ついつい時間を忘れて読んでしまう。

今回もゆっくりみていってね!


となりで眠るつばさと、つばさに寄り添うように眠るリニャを見守りながら、

リズはあの日の出来事を思い出していた。

 

もう一週間も前のことになる。

 

朝、つばさと別れたリズは、久々に返ってきた村を回ることにした。旧友との久々の再会などに花を咲かせていたリズは、遠くから微かにつばさの悲痛な叫び声が聞こえるが早いか、

リズは声の聞こえた方向へ走りだしていた。

 

そこでリズが目にしたのは、焦った様子でつばさを抱きかかえるリニャと、

ただならぬ様子でリニャの腕の中を暴れているつばさの姿だった。

 

つばさの顔は、何かに怯えるように歪み、うわごとのようにちぐはぐな言葉を垂れ流している。

 

リズはすぐさま二人に近寄り、つばさを魔法で眠らせて、

ひとまずリニャの家のベッドに寝かせる。それからリニャに何が起きたのかを聞いてみたものの、

リニャも何が起きたのかわからないといった様子で、要領を得ない。

 

それでもわかったことは、つばさは今日何か確認したいことがあったということ。

そしてその結果つばさはああなったと見て間違いない。

 

理由は分かった、でも原因がわからない、

つばさは一体何を確認したのかしら。

 

翌日から、つばさはリズが初めて言葉を交わした時以上に、精神面が脆くなってしまっていた。

それこそ、リニャやリズと話すことすらままならないほどに。

 

リズはそんな彼女の姿を見て、心が痛んだ。

 

この一週間、リズとリニャはつばさに付きっきりで世話をした。

 

少し目を離せば何をするかわからないほど、彼女は弱っていたからだ。

つばさは起きている間、常に何かに怯えるように震え、食事もろくに喉を通らず、少し食べてもすぐに吐き戻し、一度眠っても、その顔は険しく、夜中に何度も目を覚まし、何かにとりつかれたようにふらふらと部屋の中を歩き回る。

 

3日ほど過ぎた頃、遊ぶ約束をしていたという、ヴェユノークの一人娘がやってきた。

彼女はリニャがつばさの事をぼかして遊べないことを伝えると、一目つばさの様子を見るだけでいいと言うので、私達が付いていくことと、あまり長くは会わせられないことを条件に、

つばさの元へ連れて行った。

 

少女は部屋に入ると遠慮がちにつばさに近づいていった。このころはまだつばさの精神が安定していなく、リニャも私もつばさが少女に何かしないか警戒していた。

少女はつばさの側までやってくると、その手を頬に触れる。

つばさは少女を見て、少し驚いたような顔をしてから、その手に自分の手を当て、謝り始めた。

少女はそんなつばさを励ますように優しい口調で何度もつばさの謝罪を受け入れ、

また遊ぶ約束をしてから早々に帰っていった。

リズはその時のヴェユノークの娘の顔を、瞳を見て、内心狼狽していた。

 

少女の絡みつくような瞳に自分とは別の狂気を感じ取ったのだ、

年端もいかない少女にあんな顔が出来るのかと。

 

少女が帰ってから、我に返ったリズはつばさに思考を移す。

 

どうしてつばさがこんな目に会わなければいけないのか。

初めて出会った時でさえ、ひどい有様であったのに、

これ以上一体何を彼女から奪おうというのか。

 

 

 

あの子は私が守らなくては、

 

あの子を苦しみから守るのは、

 

あの子を苦しめていいのは私だけだ、

 

苦しめて苦しめて、壊れそうになった彼女を、

 

優しく受け入れて、甘い言葉で掬い上げ、

 

蕩けるほどに甘やかしてあげたい。

 

だからこそ許せない、

 

私以外が、あの子を苦しめるのが、

 

度を超えて彼女を壊そうとすることが、

 

あの子の心に消せない傷をつけようとすることが、

 

あの子にあんな苦しみを与えようとすることが、

 

その全てが許せない。

 

あの子を苦しめていいのは私だけ、私だけなのだから・・・

 

 

 

リズは眠っているつばさの顔を撫でる。

 

その顔は、先日までとは違って少し穏やかな表情になっていることに、リズも破顔した。

つばさには明るい顔が似合うと思っている。

もちろんそれと同じくらいに暗い表情も似合っていると思っているし、

リズはその顔も非常に好きである。

だからこそ、普段は明るく元気でいてほしい。

暗い感情や苦しみの表情は私の前でだけ見せて欲しい。

 

リズはそっとつばさの額に口づけをした後、瞼を閉じ隣で眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もぞもぞと、傍で何かが動く気配を感じて、リニャは目を覚ます。

 

目の前で、つばさちゃんがなにやらもぞもぞと動いていた。

 

「つばさちゃん?」

 

私が声を掛けると、つばさちゃんはびくっと身体を震わせて、こちらを振り向いた。

 

「リニャ、その・・・、汗かいたから、拭こうと思って」

 

と言いながら少し恥ずかしそうに俯きながらつばさちゃんは続けた。

可愛い

 

「タオル、取に行こう、と思ったんだけど、その二人を起こすのも悪くて」

 

そう言って、つばさちゃんは反対側に目を向ける、そこには、すやすやと寝息を立てているリズさんがいた。

 

「そっかごめんね、私タオル取ってくるよ」

「えっ、うん。ありがとう」

 

きょとんとして私の方を見ていたつばさちゃんが、

少しぎこちないながらもふんわりと笑みを浮かべてお礼を言ってくれた。

 

久しぶりにみたつばさちゃんの笑顔に、

私は一瞬見惚れそうになるのを我慢して、タオルを取りに行った。

 

この一週間、つばさちゃんが元気にならないんじゃないかってずっと心配だったけど、さっきの笑顔を見れたからには安心だ。これからもずっとつばさちゃんが笑顔でいられるように頑張ろぉー!

 

そしてゆくゆくはつばさちゃんとあんなことやこんなことを・・・っとと、いけないいけない、

元気になってきたつばさちゃんを見れたからってちょっと浮かれすぎだよ!わたし!

 

「つばさやーん、タオル持ってきたよ~」

「ありがとう、リニャ」

 

軽快な足取りでタオルを取って戻ってきた私をつばさちゃんが笑顔で迎えてくれる。

 

よしっ!

 

「つばさちゃん、私が拭いてあげるよっ」

「えっと・・・じゃあ、お願いしようかな」

 

私の言葉に、つばさちゃんは少し逡巡してから答えてくれた。

 

えへへ、ここ最近毎日のようにつばさちゃんの身体には触れていたはずだけど、

こんなに心が躍るのは久しぶりな気がする!

 

この一週間、つばさちゃんの体を洗うのを手伝ったり、一緒に寝たり、色んな事があったけれど、

こうして少しでも元気を取り戻してくれたことが、一番うれしいっ!

やっぱりつばさちゃんは元気じゃないとね!私も元気が出ないよ。

 

つばさちゃんの背中をタオルで優しく拭っていく。

 

「前、自分でする?」

「・・うん、ありがと」

 

あぁー前も私が拭いてあげたい!

そしてできることならあの控えめな果実をもみした・・・ゲフンゲフン

 

ともかく!この調子でつばさちゃんが元気になってくれたらいいなぁ・・・。

 

きっと大丈夫だよね、

 

つばさちゃん、

 

元気になるよね。

 

今日もつばさちゃんとリズさんと、外に出かけよう、

今日は天気もいいし、一日中部屋の中にいたら気が滅入っちゃうもん。

 

リズさんが起きてきて、みんなで朝ごはんを食べてから、村を歩いて回った。

お昼は村で一番大きな木の下で三人で作ったサンドイッチを食べた後、

 

つばさちゃんが少し眠たそうにしていたからそのままお昼寝することにした。

一番最初に眠っちゃったつばさちゃんが、無意識に私とリズさんの手を握ってきて、

すごくドキドキした。

リズさんも少しびっくりしててでも嬉しそうだったなぁ。

 

明日も天気が良かったらみんなでお出かけしよう。

明日はどこに行こうか、村は以外と広いからまだまだ案内出来てない場所が結構あるし、

とっておきの場所も教えてあげたい。

 

そんなことを考えているうちに私もすっかり眠っちゃって、

 

目が覚めた時、なんだか地面が柔らかいなとか思ってたら、

つばさちゃんの綺麗な顔が間近にあって、

私はつばさちゃんの膝に頭を乗せてて、つばさちゃんが私の頭を撫でてて・・・!

慌てて飛び起きたら、つばさちゃんが不思議そうに私を見ていた。

 

しっ心臓に悪いよぉ。

 

しばらく恥ずかしすぎてまともにつばさちゃんの顔を見れないでいたら、つばさちゃんの肩に頭を乗せて寝ていたリズさんが起きてきて、もう夕暮れ時になっていたから、

その日は帰ることになっちゃった。

今日も色んな所に案内したかったのにな~。

 

・・・つばさちゃんの膝、スベスベで、もちもちしてて気持ちよかったなぁ・・・。

 

えへへ、

 

案内は出来なかったけど、私的には最高の一日だったかな。

明日もお昼寝・・・、今度はつばさちゃんの肩に頭を乗せて・・・!

でもとっておきの場所も案内したい・・・っ!

 

うぐぅ~どうすればぁ~!

 

私は二人と家に帰りながらそんなことを考えていた。

 

 

そんな三人の様子を遠くから見ている少女が一人

 

「やっと・・・見つけた」

 



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約束は何度でも 前編

白よもぎ様誤字脱字報告ありがとうございます!
そしてごめんなさい!
今回はあまりにも進捗が遅いので、
現行で書けている分を前編とさせて頂きたいと思います!
ちょっとこの先をどうするか悩んでまして・・・。
本当に申し訳ねえ

というわけで今回もゆっくりみていってね!


「大丈夫、きっと怒ったりしないよ」

 

そう言ってリズさんが私の頭を撫でる。

 

 

 

温泉から上がった私はリニャが眠るのを待った。

 

限界だった

 

リニャが隣で眠った事を確認した私は、右腕で剣を持とうとした時に痛みを覚えたこと、

リズさんに魔法が使えなくなってしまったことを、そしてもしそれが彼女たち(彼女の仲間)に知られてしまったらという不安を話した。

 

リズさんは、そんな情けない私の話をしっかりと聞いてくれた。

そのうえで私の事を嫌ったり、邪険にしたりしないで優しくしてくれた。

私はそれが嬉しくて、嬉しくって。

 

 

でも・・・、

 

本当はすべて話してしまいたかった。

 

自分が本当の、本物の勇者(ソフィアさん)でないことも、

 

勇者の皮を被っただけの凡人だってことも、

 

この世界の住人じゃないってことも、

 

ぜんぶぜんぶ、話してしまいたかった。

話して楽になりたかった。

 

出来なかった。

 

この話をしたら、リズさんも、もしかしたら彼女たち(勇者の仲間)のように私の事を嫌ってしまうかもしれないと思ったら、彼女たち(勇者の仲間)に邪険にされてきた時の事を思い出したら。

 

それ以上に、一度優しくされてから突き放されてしまったら。

 

そうなったら、

 

こんどこそわたしはこわれてしまう

 

だから、私は自分を守るように、

リズさんに話をするときも、自分が勇者(ソフィアさん)でない事は極力隠して話した。

 

苦しかった、リズさんに嘘をついているみたいで、隠し事をするのはとても辛かった。

 

この時の私は一体どんな顔をしていたんだろう。

後ろめたさからかその時のリズさんの顔を私はよく見ていなかった。

 

頭を撫でていたリズさんの手が止まる。

不意にリズさんの手が私の顔を包み、顔をあげさせられる。

 

「それに、たとえそいつらが許さなくたってあなたのことは私が守ってあげる」

 

不敵にそう笑って私を見る。

 

突然のことに一瞬呆けてしまった私をリズさんはベッドに運び、

倒れこむようにベッドに入り込んだ。

 

「もう今日は夜も遅いから、ゆっくり休みましょう?大丈夫私が付いてるから」

 

何度も背中をさすりながら、リニャが起きないよう小さな声で囁くように子守唄を歌うリズさん。

落ち着いていて澄んだ声で紡がれる唄を聞いているうちに、いつしか私の意識は落ちていった。

 

 

翌朝、私はリニャに起こされるまで、ぐっすりと眠っていた。

 

今日はリズさんがこの前の森へ調査へ行く日らしく、起きた時にはすでに森へ発った後だった。

私達が襲われてから何度も村の人たちで調査をしているみたいだけど、

特に異常は見つかっていないらしい。

 

何もありませんように

 

朝食を食べ終え、心の中でリズさんの無事を祈っていると、リニャが部屋に顔を出す。

 

「今日、お出かけする?」

 

控えめに聞いてくるリニャを見て、私は何とも言えない気分になる。

リニャは本当によく気が利く子だと思う。

朝からリズさんがいなかった事に私は少なからず動揺していたらしい。

リニャがこうして気を使ってくれる時は、たいてい私が後ろ向きになっている事が多い。

私は昨日の事を思い出す。

昨日はすっかり日が暮れるまでお昼寝をしてしまった。リニャは本当はもっといろんなことがしたかったんだと思う。目が覚めた時に少し残念そうにしていたのを覚えている。

リニャにはもっと笑顔でいて欲しい。

 

「うん、リニャと出かけたい。いいかな?」

「っ!うん!えへへ、じゃあ準備してくるね!」

 

ぱあっと花が咲いたように明るくなった顔を見て、私も嬉しくなる。

 

リニャが出てから、少し経って何やら部屋の外が騒がしくなり、部屋の扉が開かれる。

 

「ベルちゃん?」

 

部屋に入ってきたのは以前や遊ぶ約束をしていたクレーヴェルちゃんだった。

 

「ん、約束。遊びに、きた、よ?」

 

ベルちゃんは私のそばまで寄ってくるものの、距離感を掴み兼ねたているのか、その場でオロオロとしていた。

 

「ベルちゃん、おいで」

「っ!」

 

表情事態に変化はあまりなかったけれど、ベルちゃんの纏う雰囲気が少し明るくなったのが分かった。

 

ベルは一気に私の方に近づいてきて、私に抱き付いてくる。

 

「今日は、何する、の?」

 

ベルが上目遣いで私の方を窺ってくる。

その瞳には、期待が籠っているように見えた。

 

「今日は、リニャと一緒に村を見て回るんだ」

 

その言葉に、一気に落胆したことが伺える。

 

「えっと、ベルも一緒にいく?」

「・・・」

 

何となく、すぐに返事をしてくれるかなと思って言ってみたんだけど、

ベルの反応は芳しくなかった。

 

「いやだった?」

 

続く私の問いかけにはすぐさま首を横に振って否定してくれた。

だけどそれなら何でだろう?

考えてもわからないので、私はベルが話してくれるのを待つことにした。

 

「やくそく」

「約束?」

 

反芻するように言葉を口にした私に、ベルちゃんがコクコクと何度も頭を振った。

 

「つばさと、あそびたい、けど、リニャも一緒、約束、使いたくない」

 

約束を使うっていう表現に若干の疑問を感じつつ、私は思ったことをそのまま言葉にする。

 

「じゃあ、また約束しよう、今日も遊んで、次もまた遊ぶ約束したらいい」

「いいの?」

「うん」

「二人だけで、遊んで、くれる?」

「いいよ」

 

私がベルちゃんの疑問に答えていくたびに彼女の纏う空気が晴れやかかで明るいものになっていく事に、微笑ましさを感じる。

 

「じゃあ、今日も一緒にお出かけしよっか」

 

今度はベルちゃんが嬉しそうに首を縦に振って即答してくれた。

 

私がベルちゃんとそうして会話を楽しんでいる間に、

リニゃも準備が整ったようで、部屋に顔を出す。

 

「二人とも~準備出来たから行こ~」

「じゃあ行こっか」

「楽しみ」

「ふふっ、そうだね」

「二人ともはやく~」

 

にっこりと笑うベルちゃんの手を握って、私もまた笑みを返した。

 

 



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輝かしき痕跡を追って

鳥瑠様誤字脱字報告ありがとうございます!

遅くなりましたが明けましておめでとうございます!!
お久しぶりです!かなりの間が空いてしまって申し訳ない!
今回は後編じゃないです。すまねぇ・・・
ただ後編に関りのある話でもあるのでぜひ読んでいただけたら嬉しいです!
後編は・・・もうしばしお待ちを!毎回こんなんですみません!!
こうピンと閃いたから早めに形にしておきたくて(汗)
というわけで風呂入ってきます(唐突)

というわけで、今回もゆっくりみていってね!


そう遠くない未来

 

生まれたばかりの少女は

 

死ぬ事が決まっていた

 

少女にとって死の運命に抗う事は些末な問題だった

 

ただその少女は運命に抗うには少し賢すぎたらしい

 

運の悪いことに、生まれて間もない少女は

 

自分の行動がその後、どういう結果に繋がるのか悟ってしまった

 

少女はすぐに死の運命に抗うことを諦めた

 

せめて残された余生を楽しく生きられるようにと

 

 

 

 

 

しかし、少女にとってはそれすらも過ぎた願いだったのか

 

 

 

 

 

彼らは少女が運命に抗うことを恐れ、少女から自由を奪うことにした

 

少女に抗う意志は無かった

 

すでに一度、生を諦めた身

 

この先にどんな破滅が待っていようと

 

少女にとってどうでもいいことであった

 

そうして暗く無機質で熱を感じない世界に一人残された少女は

 

暗く閉ざされ光差さない石のなか、

 

まるで初めから誰もいなかったかの様に静かで無機質な室の中で

 

息を殺し、

 

心を殺し、

 

自分を殺し、

 

 

 

ただ運命を待ち続けていた

 

 

 

月日が経ち、少女は自分の運命の日が近づいてくることを肌身に感じ、少女の心は再び動き出す。

 

悲しみか、恐怖か、怒りか、憎しみか、喜びか、

 

はたまた無か。

 

自分の心の棚を丁寧に整理しながら、その時を待つことにした少女は、

 

己の中に今まで感じたことのないナニカを感じた。

 

 

時間はまだある

 

 

少女は退屈凌ぎに己の内から溢れ出るソレで時間を潰すことにした。

 

それから少し時が進み、

 

とうとう少女が自分の運命を目の前に認識した時

 

 

 

暗く無機質で何もない世界に、一筋の光が入り込んだ

 

「あの・・・だいじょうぶ、ですか?」

 

天から注がれた音に反応し、少女は空を見上げる。

 

そこにあったのはいつも見慣れた薄暗い灰色の天井ではなく、

 

淡い光に身を映した黒髪の蒼い瞳がこちらを不安げに覗いていた。

 

「もう・・・だいじょうぶ、です。あなたは、きっと・・たすかる。ので」

 

光はそう言って少女の頭をそっと撫でると踵を返して世界から出ていった。

 

残された少女は再び暗い世界に取り残される。

 

 

だがそこには確かに、彼女の残した光が灯っていた

 

 

次の日、少女は運命の楔から解き放なたれた

 

少女は光に会いに行った

 

 

一言お礼を言いたかった、

 

 

というわけではなかった。

 

もちろんお礼も伝える予定だったが、それ以上に少女はその光に強く惹かれ、

光の事が知りたくなったからだった。

 

少女が光を見つけたのは、夜も耽り、人々が皆寝静まった後のことだった。

 

昼間、あれだけ輝いていた彼女とはまるで別人のようだった。

 

光は鳴りを潜め、月明りに照らされた彼女の周りには殊更深い暗闇が広がっている様だった。

 

その様子を見て、少女はさらに光に興味を持った。

 

少女は一人空を見上げる光に近寄り声を掛けた。

 

光は少女に気付くと、柔らかで温かい光に身を包み少女を振り返った。

 

少女は夜も遅いから明日、光と話がしたいと願い出た。

 

少女の言葉に光は首を横に振って応える。

 

聞くと、明日にはここを発ち別の場所へと行ってしまうらしかった。

 

少女は悲しんだが、

日が昇るまでなら話し出来るよと申し訳なさそうな顔をした光が提案してきた、

 

少女はその言葉に喜び光の隣に腰を据えた。

 

光と話しているうちに少女はいくつか気が付いたことと気になったことがあった。

 

光には火と氷と水の供がいたが、どこか距離を掴み兼ねているように見えた。

 

会話の途中光は何度も「大丈夫」と口にしていたが、少女にはそれが呪いの言葉のように思えた。

 

光は村の人々にその光を灯してくれた

 

その度、少しづつ彼女の纏う光が薄くなっていっているような気がした。

 

彼女は多くの人に光を灯すことが出来る。

ただ、もし・・・彼女の光が失われたら、いったい誰が彼女に光を灯すのだろうか。

 

彼女の供である三人は少女から見ればあまりにも関係が希薄に写り、光を支えるどころか、

彼女を囲う巨大な壁のように見えた。

 

 

 

しばらく喋っているうちに、光が突拍子も無いことを話しだした。

 

曰く、自分は本物の光ではないこと、

 

曰く、本物の光は既にこの世におらず、代替えとして、その体に魂だけを入れられたこと。

 

曰く、供の三人が本物と旧知の仲であり、あまりいい感情を持ってもらえていないであろうこと。

 

曰く、本当は戦うのがとても怖いということ

 

曰く、それでも彼女たちの為にも一日も早く魔王を倒したいということ

 

そんな話を寂しそうに、辛そうに、苦しそうに話してくれた。

 

きっと彼女も疲れていたのだろう。

 

本来なら絶対に誰にも話せないような話を。

おそらくは、私と再び会うことはないだろうと思ってしてくれたに違いなかった。

 

少女は彼女の言葉を信じた。

 

その上で、少女は彼女に同行したいと願い出た。幸い自分には彼女に着いていく事の出来る力が備わっていた。少女は彼女の支えになりたいと、一心に願った。

 

少女の願いは聞き届けられなかった。

 

この先は本当に危ない戦いが待ち受けているから、

自分のせいでまた誰かが傷つくのが嫌だから・・・と。

 

泣きそうな顔でそう断りを入れる彼女に、少女は折れるほか無かった。

 

間もなく夜が明ける。

 

最後に

 

少女は彼女の本当の名を聞くことにした。

 

その問いに彼女は・・・

 

「わたしのやくめがおわって、もういちど・・・あえたら、もういっかい、きいて・・ほしい」

 

その言葉を残し、光は次の場所へと旅立った。

 

 

 

それから一月ほど過ぎ、勇者一行が魔王を討伐したという報せが世界中に広まった。

少女はその報せを聞く前に、故郷の村を離れていた。

 

日に日に弱くなっていく光の痕跡を追って、愛しき彼女に会いに行くために。

 

少女の追っていた光は、最後には泡沫の夢のように弾けて消えてしまったけれど。

 

 

少女は間に合った

 

 

「やっと・・・見つけた」

 

 



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約束は何度でも 後編

いやぁ本当にお久しぶりでございます。
つい先日まで1月の気分だったんですけど・・・(汗)
引っ越しとかまぁいろいろありまして、なんだかんだ忙しくしていたら気付けばもう3月これはいかんと急ぎ書き始めて投稿という形に出来たのですが。
如何せん設定やらなにやら頭から抜け落ちている部分も多く、
今回割と雑というかザルというか、
その辺り目を瞑っていただけるとというかまぁ、
全体的に今まで以上に温かい目で見ていただけると助かります!!

長々と書いてしまいましたが、



今回もゆっくりみていってね!



つばさおねーさんのところに遊びに来た。

 

おねーさんはリニャおねーちゃんと二人でお出かけするらしい。

リニャおねーちゃんはおねーさんがやってきてから毎日一緒にいる。

 

 

ずるい・・・

 

 

おねーさんと一緒にいる時のリニャおねーちゃんの顔はいつも笑顔だ。

 

ずるいずるいずるい!

 

わたしもおねーさんと一緒にいたい、昨日だって一昨日だってずっと、ずーっと我慢してきたよ。おねーさんにめいわく掛けちゃいけないからって思って、

 

・・・だから

 

ちょっとぐらい、わがままいってもいいよねってそう思ってたのに。

 

目の前に広がる光景を見るクレーヴェルの眉間にはしわが寄っていた。

というのも、目の前の少女が現れてから、つばさの様子がおかしくなったからであった。

 

また、邪魔された

 

震えるつばさに対して懸命に話しかける少女を見て、

そんな負の感情がクレーヴェルの頭の中を渦巻くなか、

その原因となった件の少女がつばさの前に現れたのは、ほんの少し前の事。

天気がいいからと三人で青空の下、

丘の上に立つ大きな木の陰でお昼ご飯を食べようと話していた時だった。

 

三人が話しながら丘を上っていると、木の下に誰かが座っているのが見えた。

 

三人がそのまま近づいてくと、少女もこちらに気付いたのか、こちらに振り向いて三人を、

いや・・・歩いていた三人のうちの一人、つばさの事を見て口を開いた。

 

「随分と探すのに苦労したけど、うん。良い眺めだ。いいところを見つけたんだねぇ・・・

 

 

 

ソフィア」

 

少女の言葉に三者三葉の反応を示す中、つばさの表情は硬く強張り青ざめていた。

 

 

一方で少女はというと、

 

 

 

彼女を見つけた翌日、

 

少女の心は不安でいっぱいだった。

 

彼女は自分の事を覚えてくれているだろうか。

 

あの時の彼女は明らかに異常で、それでもなお表面的には何の問題も無いように見えていたのが、今思えばどれだけ気味の悪い状況だったのかがわかる。

 

少女と話をしていた時の彼女も半ば朦朧とした意識の中にいた可能性が高い。

 

そう考えると、少女は彼女と会うのを少しだけ躊躇ってしまう。

 

もし自分の事を覚えていなかったら、

 

彼女に何て声を掛ければいいのだろう、

 

彼女が自分と会うことを望んでいなかったら・・・。

 

それでも会いたい、彼女とまた話がしたい。

 

出来ることならば彼女を支えてあげたい。

 

様々な考えが頭を擡げ、気が付けば少女は一際目立つ大きな木の下までやってきていた。

 

そこからの眺めと言えばそれはもう、

これが夕暮れ時であったならと思わずにはいられないような素晴らしいものだった。

 

ここで少し落ち着こう。

 

丘上からの景色を見ているうちに冷静になった少女は、

ぐちゃぐちゃになった頭の中を整理することにし、その場に座り込んだ。

 

そうしていくばくか時間が経った頃、こちらの方へとやってくる声が聞こえてきた。

そのうち二つは知らない女の声で、随分と楽しそうに弾んだ様子の声色で、

 

最後の一つは・・・

 

少女は思わず声のした方へと振り返ってしまった。

 

そこにはあの時少女を暗い部屋()から救ってくれた彼女の姿があった。

 

彼女の姿をその目に映した瞬間、それまで頭を擡げていた様々な感情や思考は遥か彼方。

 

その時の少女の胸中にあったのはその身に抱えきれないほどの喜びだった。

 

だからつい、うっかりと思ったことがそのまま、口をついて出てしまった。

 

今の彼女の状態に、気付かぬままに。その言葉がどれだけの意味を持つのか知らぬままに。

 

少女の言葉を聞いた彼女の顔がどんどん青ざめ血の気が引いていく。

 

彼女の表情の移り変わりを見た少女は、すぐさま自分の発した言葉を思い返し、

以前彼女から聞いた言葉を思い出した。

 

このままではまずい、そう考えた少女は、両脇の二人が動き出すよりも早く、彼女に駆け寄った。

 

 

今、このまま私が彼女の元を離されてしまえば今後彼女の側にいることに支障が出てしまうかもしれない。それは・・・それだけは看過出来ない。どれだけ私より彼女といた時間が長くても、いくら彼女と交わした言葉が私より多くても、たとえ私よりも彼女らを信頼していたとしても、

彼女の異常に気付いていない彼女たちには任せることは出来ない。

 

私は・・・私にはわかる

 

私だけはあなた(救世主)を知っている。

 

そして今、私は・・・

 

 

 

「やく、そ・・く・・・?」

「うん、約束、もう一度会えたら、君の本当の名前教えてくれるって約束」

「わ、たしのなま、え・・・」

「覚えてない・・・か」

「ぁ・・・」

「そんな顔しないで、いいんだ、君が覚えていなくても、私が覚えているから、

だからどうかな・・・もし君が、私の事を少しでも信じてくれる、

もしくは何か思うところがあるのなら、約束を果たしてはくれないかな。

私は君の本当の名前を知りたいんだ、あの時の紛い物の名前じゃない、本当の君の名前を」

 

 

「・・・つばさ、わ、たしのなまえは・・みよく、つばさ・・・です」

 

 

 

・・・私は(つばさ)を知った

 

思わず握っていた手に力が入る。

あの時と同じ、時折どもりながら答える姿に、私は懐かしさを覚え頬が緩む。

でも、きっとこれは本当の君の姿じゃないんだろう?

私の軽率な発言のせいで君に嫌な事を思い出させてしまったみたいだから。

君に再び光が灯るように、これからは私が支え続けるよ。

 

ふと目線の先に金色の線がこちらに向かってやってきているのが見えた。

 

どうやら迎えが来たみたいだね。

 

私は両脇の二人が私達の間に割り込んできそうな気配を感じ、自ら繋いでいた手を離す。

 

その時君が見せた名残惜しそうな表情に、随分弱くなってしまったんだなぁと思う。

 

でもそれでいいんだよ。君はもう十分頑張ったんだから、後の事は全部私に任せてくれればいい。

 

もう頑張らなくていいんだよ・・・つばさ

 

 



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光は脆く、闇は深く

一か月経つの早くね?
どのくらいの需要があるかはわからないが、今回はおねロリでいこうと思うんだ。
最近クレーヴェルちゃんがあまりにも不憫な役回りしてねって思ったんだ。
だから誰が何と言おうと今回はおねロリ回です!!

今回もゆっくりみていってね!


明くる朝、

 

昨日は随分と色々あって疲れたな。

 

あれから、私が勇者として活動していた時に出会い、

再会の約束をしたエジーちゃんが村に住むことが決まった。

あの時は彼女(ソフィアさん)の名前に気を取られ過ぎていて思い出せなかったけど、一日経って落ち着いた今、ぼんやりとだけどエジーちゃんと話した夜の事を思い出せていた。あの時私がエジーちゃんとどんな話をしていたかまでは思い出せなかったけれど、最後に再会の約束をしたことだけはなんとか思い出せた。

 

エジーちゃんはリズさんがしばらく面倒を見ると言っていて、二人は何か話があるのか今日は挨拶だけで別れることになった。エジーちゃんが握っていた左手に少し寂しさを覚えながらも、

明日からまたいくらでも会えるようになったんだからと意識を切り替える。

 

今日はリニャもナタリーさんの手伝いで朝早く出かけてしまったので、家には私一人。リニャに私も手伝いがしたいと言ってみたけど、まだ調子も戻っていないからダメと言われてしまった。

リニャは私を家に置いていくのも心配だって言っていたけれど、流石に大丈夫・・・だと思う。

 

今日は何をしようか、日ごろお世話になっているお礼に少しでも何か役に立ちたい。部屋の中の掃除くらいなら、一人でもある程度はこなせる・・・かな?

 

そう思い立って箒を取りに行こうと立ち上がった時、玄関の戸が叩かれる音がした。

 

「いま、でます」

 

私はそのまま足の向きを変え、玄関の戸を開く。

 

「すみ、ません・・・いま、わたし、しか・・・ベルちゃん?」

「つばさおねーちゃん、あそぼ?」

 

玄関の先にはベルちゃんが可愛らしく上目遣いでこちらを見て立っていた。

 

どうしよっか、そういえば、なんだかんだでベルちゃんとはちゃんと遊べていなかった気がする。

 

「ダメ?」

「あっ、ごめん、ううん、いいよ」

「やった」

 

小さくガッツポーズをとるベルちゃんに、私も微笑ましい気持ちになる。

ベルちゃんに連れられて、やってきたのは、周りの家よりも一際大きなお屋敷だった。

 

 

「ここ、ヴェルのいえ」

「そう、だったんだ」

 

ここ、ベルちゃんのおうちだったんだ。周りにある建物で同じくらいの大きさのものといったら、リズさんの住んでいる屋敷と、集会所として扱われているらしい教会くらいしかない。

 

今からここに行くんだよね・・・。

 

私がベルちゃんの家の大きさに圧倒されて気後れしていると、

ベルちゃんが不思議そうな表情で顔を覗いてくる。

 

「どうしたの?はやくきて」

「あっ、うん」

 

ベルちゃんに手を引かれて、私は緊張しつつも正門をくぐった。

 

「おかえりなさいませお嬢様」

「ただいま」

 

屋敷に入るとまるでベルちゃんが帰ってくるのを見計らっていたかのように、

たくさんのメイドさんや執事さんに出迎えられる。

その光景に呆気にとられる私。

執事さんやメイドさん、それも本物なんてファンタジーやメルヘンの話だと思ってた。

こんな大きな屋敷に、たくさんのメイドさんたちがいるなんて、もしかしてベルちゃんってすごくいいところのお嬢様だったりするのかな。

 

「そちらの方がお嬢様にお話しいただいた、つばさ様でございますね」

「うん、つばさおねーちゃんだよ」

 

私がそんな風に目の前の状況に思考を巡らせているうちに、

メイドさんの一人がベルちゃんに話しかける。

ベルちゃんがメイドさんに言葉を返すと、握っていた手を離して今度は腕に抱き付いてくる。

ベルちゃんと話していたメイドさんがこちらに向き直り、再びカーツィを用いて挨拶される。

 

「ようこそお越しくださいました。つばさ様本日はごゆっくりお過ごしください」

「え、あっはい。えっとお招きいただきありがとうございます・・・」

 

メイドさんの言葉に続いて後ろに控えているメイドさん、執事さん達も再び頭を下げる。

その光景に圧倒されつつ、慌てて私もそれに倣いお辞儀で応える。

 

これで合ってるのかな。

どうしよう、お屋敷の礼儀作法なんてわかんないよ・・・。

 

「つばさ様、どうかそう構えず気を楽にしてください。つばさ様はお嬢様のご友人、ならばと我々使用人一同少々気合を入れるぎてしまったのです。申し訳ありません」

 

そんな私の心情を察したのかメイドさんがどこか気恥しそうな様子で話してくれた。

少々とは・・・、とつい言ってしまいそうになるも口を噤む。

それよりも屋敷の人たちがベルちゃんをとても大切にしている気持ちが伝わってきて、

なんだか嬉しくなってしまう。

 

「ちっ、ちょっとびっくりしただけなので、大丈夫です。それに、その・・・いいと思います、

そういうの。ちょっとだけベルちゃんが羨ましいくらい、です」

「・・・ありがとうございます」

私がそう伝えるとメイドさんは朗らかにほほ笑むと、

ベルちゃんの部屋まで案内してくれた。

 

 

 

「それでは何か御用がありましたら外に控えておりますので申し付けください」

「ありがとう、ございます」

「ではごゆっくり」

 

メイドさんはそう言って部屋から出ていった。

名前聞きそびれちゃった、外に控えてるって言ってたし後で聞いてみよう。

 

それにしてもここがベルちゃんの部屋・・・。

広い。

キングサイズのベッドだろうか大人が二人寝そべっても余裕のありそうなベッドがとてもこぢんまりとして見えるほどに、ベルちゃんの部屋は広かった。

 

 

部屋に入るなりベルちゃんは私をベッドに連れて座らせる。

 

「な、なにして、遊ぼっか」

 

私の問いかけにベルちゃんは応えず、そのまま隣に腰かけ、私の手を握る。

ベルちゃんはそのまま俯いて何もしゃべらない。

しばしの間、二人の間には沈黙が流れる。

 

こんな時、何を話せばいいのか、私はわからなかった。ただじっと何をするでもなくベルちゃんの様子を見ている事しか出来なかった。

そうやって何もできずにいる私を他所に、ベルちゃんがぽつりと話始める。

 

「わたし、つばさおねーちゃんがすき、だいすき」

「うん」

 

ベルちゃんの言葉に素っ気無く返してしまう私。言葉通りに受け取るのならば、私は喜ぶことが出来たのだろう。ただ、その声はどこか悲しそうで、本当に言葉通りの意味なのか、何か別の意図があるのか、私より一回り小さいはずのベルちゃんが発した言葉に私は混乱していた。

 

「だけどね、ときどき、つばさおねーちゃんのことがきらいになっちゃうの」

「・・・」

 

私はいよいよ俯いたままのベルちゃんが今、何を考えているのかわからなくなった。

それでもベルちゃんはそんな私を置いて話を続ける。

 

「つばさおねーちゃんはとってもやさしくて、いっしょにいるとむねがポカポカするの」

「でも、つばさおねーちゃんがつらそうなとき、いつもがまんしちゃうの」

 

「・・・!」

 

ドクンと心臓が跳ねる。私は何も言えないまま、ベルちゃんの言葉を否定することも出来ず、

ベルちゃんを止める事も出来ず、ただ続く言葉に耳を向ける。

 

「がまんしてるつばさおねーちゃんのことみるとね、ぎゅってむねがくるしくなるの。あたまのなかがつらそうなつばさおねーちゃんでいっぱいになって、でもわたしがまだちいさいから、つばさおねーちゃんはたよってくれなくって。そうおもうとまた胸がきゅってなってあたまのなかがモヤモヤでいっぱいになって、だから・・・っ。だからね、つばさおねーちゃん」

 

ベルちゃんが顔を上げてこちらを見る。年相応の笑みを湛えたその顔はとても可愛らしく、

それでいてどこか妖しく揺らめく瞳に私は目を奪われる。

 

「つらいときは、がまんしないで?もっとわたしをたよるって・・・約束して、ね?」

「・・・っ」

 

あぁ・・・、ダメだ。ベルちゃんはまだ小さい子供なんだよ、

それなのにお姉さんの私が弱ったところを見せるなんて、出来ない。そう言ってしまえばいいはずなのに、思う様に口が動かない。ベルちゃんの握る手に力が入る。顔が近づく、ベルちゃんの目が私を見据えている。出来ないって言わなきゃ・・・。

 

「ねぇ、約束、約束して」

 

どんどんベルちゃんが近づいてくる。身体は、動かない。ベルちゃんの瞳から目が離せない。迫りくるベルちゃんを前に、これ以上正常な思考を保つことも難しくなってきた。頷いてしまおうか、ここで頷いてしまえばきっと楽になる。だから・・・。

 

不意に扉を叩く小気味の良軽い音が部屋の中に響く。

その瞬間、私はベルちゃんの瞳から意識を外すことが出来た。

 

「お茶とお菓子をお持ちいたしました」

「ん、はいっていいよ」

 

先ほどのメイドさんの声に、ベルちゃんが反応する。

 

メイドさんはお茶とお菓子を置くと、私たちの邪魔にならない様にと、

足早に部屋を出てしまったけれど、私は安心していた。

ベルちゃんの雰囲気がさっきまでとは違い、普段のベルちゃんに戻ったようだったからだ。

 

 

「そういえば、ベルちゃんの、お母さん、とお父さんは?」

 

ふと、ベルちゃんと屋敷を案内してもらっている時に浮かんだ事を声に出してしまった。

 

「ママとパパは、ぼうけんしてる」

「ぼうけん?」

 

うん、とあまり興味のなさそうな様子で答えるベルちゃん。

あんまり聞いてはいけないことを聞いてしまったかもしれない。慌てて私は口を開く。

 

「そ、そっか、寂し、かったら、いつでも言ってね」

「・・・さみしいっていったら、そばにいてくれる?」

「うん、ベルちゃんが、寂しい時、はいつでも、そばにいるよ」

「約束?」

「約束」

 

ぎゅっとベルちゃんが抱き付いてくる。

 

やっぱり、寂しいのかな。

 

寂しいよね、家族と一緒にいられないのは

 

ベルちゃんのまだ小さな体を私はぎゅっと抱きしめた

 

ベルちゃんが寂しい思いをしなくてすむように

 

私が涙を流しているのを気付かれない様に

 

 



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残された者、変わり果てた友 前編

誰かキングクリムゾンしてるんじゃねーかってぐらい時間が経つのがはえーです。

この前まで明日ちゃんを見ていたはずなのに、
すでにスパイファミリーが始まっている・・・だと

お久しぶりです、勇者パーティ回です。

今回はあとがき裏話あります!


今回もゆっくりみていってね!





私の親友は正義感が強くて、誰にでも物怖じすることなくはっきりとモノを言う性格だった。

自分には厳しく、他人には優しく、特に親友の妹には甘くて、とても仲が良い姉妹だった。

困っている人を放っておくことが出来なくて、つい厄介ごとに首を突っ込んでは、たくさんの人に感謝されていた。でもそれが時には危なっかしく見えて私が守ってあげなくちゃって思わされる。

そんな私にはもったいないくらいの最高の親友で、最高に可愛い妹分だった。

 

魔王討伐に最初に名乗りを上げたのは、親友だった。

親友には特別な力があって、親友と仲の良かった妹は魔法にとても精通していてついていくと言った。幼馴染は治癒の魔法を使うことが出来るからと二人に伝えた。

 

私は、私には何もなかった。

 

妹のように光、闇以外のすべての魔法を操る力も知識も。

 

幼馴染のように、どんな傷をも癒し、支える力も。

 

私には何一つ無かった。

 

だから私は守る力を求めた。

 

親友たちと共に魔王討伐の旅をしながら、ひたすらに体を鍛えた。

 

何があっても、守れるように、この手が届くようにと。

 

辛いこと、苦しいこと全部四人で乗り越えてきた。

 

この先もそうして四人でどんな敵とも戦っていくんだと思っていた。

 

魔王を倒し旅が終わった後、

故郷に帰り、今までの旅路を子供たちに聞かせたりして、

みんなで今までの事を笑いあって思い出になっていくのだと信じてやまなかった。

 

 

 

 

 

そんな自慢の親友は夢半ばにして帰らぬ人となってしまった。

 

いいや

 

眠りについただけならば、二度と目が覚めることが無くなっただけというのなら、ただ安らかに休めるというのならば、どれだけ良かっただろうか。

 

親友は死んでなお、その体を誰かのためにすり減らさなければならないのか。

 

もしくはこれが、あの時二人を守れなかった私への罰だとでも言うのだろうか。

 

 

親友は妹を庇いその身に致命傷を受けた。それから一週間後、奇跡的にも目を覚ました親友は、

すでに親友ではなかった。彼女が何を言っているのか、言葉は聞こえていても頭がそれを理解することを拒んだ。

 

親友が死んだ。その言葉を親友の形をしたナニカが私達に告げる。

 

やめろ

 

親友が、彼女が私達に話続けている。聞かなければ。

 

やめてくれ

 

親友の見せる表情、言葉遣い、委縮した姿勢、全てが私の知る親友とはかけ離れている。

 

あぁ、ダメだ。この感情を持ってしまったら、もう戻れない。

 

彼女の妹が叫び声をあげる。怒りに満ちたその目で彼女を睨み続けながら。

隣では幼馴染も彼女の事をじっと見つめている。その表情に普段の優しい笑みは無い。

 

そして私は・・・

 

彼女を殺さなくては

 

親友はもう十分頑張ったのだから。

 

死んだあとまで頑張る必要はない。

 

これは冒涜だ。死者への冒涜だ。ここまで必死で戦ってきた親友への侮辱だ。

 

親友を休ませなければ。

 

そんな思いが私の中を渦巻いていた。

 

 

 

しかし、私は結局彼女を、親友を殺すことは出来なかった。

 

失った親友を再び手に掛けることなんて私にはできなかった。

 

私はどこまでいってもちっぽけで卑怯な臆病者だった。

 

心のどこかではまだ、親友が動いていることに喜びを感じていたのだから。

 

 




というわけであとがき裏話回2回目ということで。

今回は勇者パーティとの絡みが未だに訪れない部分について触れたいと思います!
核心的なことについては触れていないと思いますが、
今後の展開のネタバレにもつながるので、
苦手な方はバッと飛ばしちゃってください!










というのもですね、皆様もう覚えていらっしゃるかわからないのですが、
つばさちゃん、もといソフィアちゃんは元勇者なのです。
実は第十四話 「やっとみつけた」 にて最後のセリフを発したのは、
当初、勇者パーティの仲間の予定で進めていました。
その後、旧第十五話 「私と勇者と〇〇」 へとつながる予定だったのですが、
突然とち狂った作者が新しいキャラクター設定を思いついてしまい、
急遽第十五話が変更になるという事態が発生してしまいました。
その結果、本来登場するはずだった勇者仲間の話が見送られることとなってしまいました。勇者パーティとの絡みを待っていてくださる方には本当に申し訳ないです。
ですが!
そろそろ勇者パーティとの絡みを少しづつ増やしていく予定なのでご安心を!




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残された者、変わり果てた友 後編

まさか分けることになるなんて・・・。
今更ポケモンレジェンドアルセウス買いました。
いやぁまさかあんなことになるなんて、趣深いというか罪作りというか。
とまぁそんなことは置いておいて、

今回もゆっくりみていってね!


彼女は親友と違って、弱い人間だと思っていた。

 

戦い方は素人同然、魔物を殺すことにすら抵抗を感じている様子で、

賊を殺した時の顔なんて見れたもんじゃなかった。

 

それでも彼女は生き物を殺すことも、人を殺すことにも耐えて、

私達の知らないところでひたすらに努力を続けていた。

 

あの時顔を背けていたのは私の方だった。

 

 

 

そんな自分の過ちに気付いたのは、彼女との旅を始めてから一か月も後の事だった。

 

最初の違和感は、そう彼女の顔だったろうか、目の下に濃い隈が出来ていた。顔色も悪く、頬はこけて酷い有様だったように思う。代わりに彼女の剣の腕はみるみるうちに倒れる前の頃と同じくらいにまで戻っていた。

 

身体が覚えていたといえば、そうなのだろう。ただ、全く戦いというものを知らなかった彼女がその感を身体になじませるのに一体どれだけの努力をしたというのだろうか。

それこそ、眠る間も惜しんでひたすらに剣を振っていなければ土台無理な話だったものを、彼女はそれを完遂したからこそ、一か月という短い期間の中であれだけ戦うことが出来るようになったのだろう。最も彼女が全くと言っていいほど睡眠をとらずひたすらに剣を振るっていたことに気付いたのは、それから二か月も後、魔王と対決する前夜のことで、それも本当に偶然が重なった結果知ることが出来たのだが。

 

二か月、そう二か月だ。それだけの時間があって、私は彼女に何も出来なかった。息つく暇も無い程の旅程は私に彼女と話す機会を失わせた。

 

いや

 

あの二か月間の間、私はどこかほっとしていた。

それは、彼女との問題を先送りに出来るそんな甘い言い訳を探していたからかもしれない。無理を押せば話す時間なんていくらでも作れたはずだ。それをしなかったということは、つまりはそういうことだったのだ。いつだって私は彼女から逃げ続けていた。彼女の優しさに甘えて、目の前の問題から目を背けていたんだ。そしてそれは今もなお続いている。

 

 

 

 

 

 

魔王を倒した翌日、彼女がいなくなった。

 

最初に異変に気付いたのはルミア、朝食を並べている時に彼女のいつも使っているお椀が無いことに気付いた。昨日は随分と疲れていたし、夕食後すぐに眠ってしまったのだろうと私は思った。

私たち自身昨日は食べた後、泥のように眠りについたのだから。私たち以上に消耗していたであろう彼女がそうなっていてもおかしくない。

それなのにルミアが有り得ないといった様子で顔を青くさせているのが印象的だった。

それからすぐに彼女を呼びに出ていたユリーカが今にも泣きそうな顔で戻ってくる、

その手には彼女が使っていたであろうお椀があり、走りながらやってくるために中身が零れ、

地面を汚していく。

ユリーカに彼女が昨夜眠りについたはずの場所へと連れられ、私たちはまだ彼女が周辺にいないか探すことにした。

 

お椀に入ったままの食べ物、人のいた形跡の残っていない地面によく伸びた草木、野生動物たちが通っているであろう幅の狭い獣道と、それよりも少し幅の広い草木をかき分けた後。

 

ここに彼女はいない、そう物語るにはあまりに状況が揃い過ぎていた。

 

過ちに気付くのが遅すぎたんだ。いつだってそうだ。失ってから初めて気付く。

それでも、もうあの時には戻れない。私は彼女を探すと言ってきかないユリーカとユリーカだけでも彼女を探させてあげてほしいと頭を下げるルミアの言葉に私は耳を貸さず、魔王討伐の報告のため一度王都へ戻ることを強行した。

 

私は再び逃げることを選択した、どうしようもない臆病者だ。

 

途中まで煮え切らない態度でついてきていたユリーカだったが、王都まで間もなくといったところで、突然血相を変えて彼女を探しに行くと今度は止める間もなく行ってしまった。

 

それから数日後、王都に到着し魔王討伐達成を祝した式典に出た後、

ルミアも何かを決心したように彼女に会いに出てしまった。

 

未だ彼女と会うことに踏ん切りがつかず、

かといって王都で何をするでもなく迷い子のように茫然と日が過ぎるのを待つばかり。

 

ユリーカは何故あんなにも焦っていたのか・・・

 

私は取り返しのつかないところまで

 

「逃げてきてしまったのではないだろうか」

 

そう独り言ちた私に言葉を返すものはいなかった

 



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IF~救世主の末路~BAD

お久しぶりです!
びっくりするほど間が空いてしまい申し訳ない!!
実はこの話自体は6月の暮れ頃からもう一つの話と並行して書いていたのですが、段々書く間隔が長くなっていく毎に書く時間を取ることをしなくなってしまい、
結局このような時期になってようやく完成ということになってしまいました。
いやほんとダメ人間すぎて涙出てきますよ。
そして今回の話は加筆するかもしれんです、というのも今回は生存報告なども含めて時間を決めてこの時間に絶対に投稿するという意志の元書いているのですが、すでに時間ギリギリでこれ以上は時間内にまとめきれないなと判断したので、おいおい加筆するかもしれないです!!重ね重ね本当に申し訳ない!!

っとここから下の前書きは6月に書いた時の物となります。

どうしても書きたくなってしまった。
というか、この小説書いてる作者、まぁ自分なんですけど、頭おかしいんですよ、
ほんと、HAPPYEND所謂大団円、そういうのが好きだっていっている割に、
書いてる時常にBADENDばかり思いつくとんでもねーやつなんですわ。
基本的にはそこで話もおわっちゃうし、BAD書きたくない人なのですぐ忘れることにするんですけど。今回、執筆のために過去話見直してた時に思いついてしまった話を試しに一回書き起こすことにしました。

というわけで、今回もゆっくりみていってね!



「おのれ、 勇者どもっ・・・!

忌まわしい!! ここまで手こずらせよって!

だが、その無駄な抵抗もこれまでだ。

まずそこの女傑から葬り去ってくれる!

究極魔法・宵闇の劫火!!」

 

魔王が叫ぶや否やカレンの周りに黒い炎がゆらりと陽炎のように現れる、その炎はカレンの周りを取り囲むと勢いを増しながら高く高く燃え上がる。その勢いは烈火の如き様相で、魔王城の天井を焦がし、あの炎を身に受ければ確実な死が訪れることが理解できる。

 

「くっ・・・」

「これで終わりだ!フハハハハハ!!」

 

黒炎が徐々に収束していき、徐々にカレンに死が近づいてくる。

まず一人目と勇者パーティにおける盾役カレンの死を確信した魔王が高笑いを上げる、

しかしその笑い声に割って入る声があった

 

「させません!アンチマジック・デスペルアーマー!!」

 

ルミアの叫びの後、炎はやがて一つとなり一際大きな炎の柱となって禍々しく立ち昇る!!

しかし、その黒炎の中から身の丈と同等の大きな剣を背負ったカレンが飛び出してくる。その体にはところどころ火傷痕があるものの概ね今の魔法でのダメージは無いと言っていいだろう。

 

「なにぃ!?馬鹿な何故生きている!!」

 

驚く魔王には何も応えずカレンは一瞬後ろを振り返ってルミアに声を投げ、魔王に突撃する。

 

「助かった!よくもやってくれたね!これでもくらいな、グランドスマッシュ・雷!!」

 

目にもとまらぬ速さで加速したカレンは、その勢いを利用して飛び上がると身の丈もある大剣を叩きつけるようにして魔王に切りかかる。

 

「ぐおおぁぁぁあああ!!」

 

殺したと思ったはずのカレンが飛び出てきたことに驚きを隠せなかった魔王は、一瞬判断が遅れカレンの攻撃をもろにくらってしまう。

 

魔王が驚くのも無理はない何故なら、直前にルミアが発動した魔法『アンチマジック・デスペルアーマー』は、彼女が一般的に使われていた魔法防御『アンチマジック・デスペル・〇』から派生させた最強のバリア魔法であり、その防御能力は魔法の天才ユリーカが行使する中で最も攻撃力のある魔法ですらダメージを半分以下に落とせてしまうほど高い。

 

通常の『デスペル・〇』では魔法の属性によって〇の部分を可変させて使う必要がある高難易度の結界魔法として知られている。というのも、デスペルの魔法習熟度の高さも相まって高位の支援魔法使いでも多くて三属性、一属性扱えるだけでも十分重宝されるような魔法なのだ。

しかし、ルミアは全属性を一つのデスペルに落とし込むことを可能にした。これは類い稀なる才能と、魔術における造詣の深さによって生まれた賜物であり、そこからさらにルミアは常に動き続ける戦いの流れに合わせるために結界魔法の法衣化を成し遂げる。これによって対象の人物や建物などに直接魔法をかけることが出来るよう改善をした、その結果として通常の『デスペル』よりかは耐久面が落ちてしまったものの、戦いを大いに有利に進めることが出来るようになった。

 

カレンの一撃によって魔王の片眼を潰すことに成功した勇者一行、このチャンスを無駄には出来ない。既に戦いは終盤戦、勇者一行も半ば満身創痍といったところ。特に消耗が激しいのは先ほどから話題に上がっていない勇者ソフィアと、その妹ユリーカ。

ユリーカはチャンスに備え最後の魔法の準備段階に入っており身動きが取れない状況。

 

そしてソフィアは、息も絶え絶えに肩で呼吸をしながら何とか剣をつくことなく、やっとの思いで両の足を地面に立っている状態。これは勇者のみが使える魔法、ブレイブフォースを常時発動しており、それによって周り三人と比べても明らかに消耗度合いが多くなっているためである。

ブレイブフォースとは周りの味方の能力を全段階上げ、光属性を付与するというもの。

これによって三人は魔王に初めてダメージを与えることが出来るようになる。さらに三人の周りには光の膜が張られ、三人がくらったダメージの数割をソフィアが肩代わりしている。

 

ここで決めなければもう後がない。そう悟った四人は死力を尽くして最後の猛攻に出る。

 

「はぁぁあああ!」

 

カレンが開いている魔王の目を塞ぐように前にでて連撃を繰り出す。

 

「ぐぅおおおおお!これしきの攻撃でぇぇええ!」

「今だ!」

 

カレンは叫びながら横へと回避行動をとる。

 

「これで、終わりっ!超重魔法 グラビティ・ゼロ!!」

 

ソフィアが魔法を唱えると、魔王が急激に地面にめり込み始めた。

 

「ぐ、おぉぉ・・おおお、おお、な、ん・・だ、これ・・は・・・・か、らだ

が・・・うご、か・・・ん・・・・!!!」

 

「おねえちゃん!」

「ソフィア!!」

「ソフィアさん!」

 

「うぐぅ・・・ぁああぁああ!!」

 

三人の声と同時に勇者が走り出す。

 

その表情は苦痛に歪められていて、もう歩くことすら困難なほどに、

ふらついている様子は見るに堪えない。

 

それでも勇者は走る

 

魔王に向かって一直線

 

夜空に流れる一筋の星のように

 

この戦いに終止符を打つために

 

この苦しみが早く終わるように

 

それはまるで御伽噺の一ページのようで、永遠とも思えるような一瞬の時

 

勇者の持つ剣が煌めく、今までのどんな戦いよりも強い光をその身に宿し

 

「はあぁああ!」

「っぐぅ、おのれ、ゆうしゃぁ!!」

 

「これっデ!・・・お、わり!!

「ぐわああああぁアアアアァ・・・・・ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シんだ

 

ま、おうがシんだ

 

たおシた

 

わたシがたおシた

 

わたシが。コロした

 

これで・・・オワ、リ

 

わたシも・・・イラ、ナイ

 

まおう、がシんだら、わたシは

 

どうすれば・・イイ?

 

・・・・・・・

 

そうダ・・・

 

カエさな、きゃ

 

このカ、ラダ・・・

 

あのヒト・・タチニ

 

カエ・・・す、?

 

 

そうだ、

 

 

返さなきゃ、もう全部終わったんだ。

 

返さなきゃ、私がいなくなれば、

 

返さなきゃ、でもどうやって?

 

返さなきゃ、わからない・・・でも

 

 

 

 

 

返すんだ、私が傷つけてしまったあの人たちにこの人を!

 

返すんだ、これ以上傷つけてしまわないように。

 

返すんだ、あの人たちの思い出を!

 

返すんだ、私が踏みにじってしまったこの人の尊厳を!

 

返すんだ、あの人たちに一刻も早く!

 

返すんだ、平和になったこの世界に・・・

 

 

 

どうか、どうかあの人たちが幸せにくらせますように。

 

 

 

 

 

・・・・・・。

 

 

 

 

 

魔王城での死闘を制した私たちは、魔王城付近のセーフポイントまでたどり着くと、

早々に夕飯の支度にかかった。

 

いつもとは少し違い、カレン、ユリーカはかなりの疲労が溜まっていて、セーフポイントに着くなり倒れるようにして休んでしまった。夕飯が出来たら声を掛けてみて、

それでも起きなかったら明日の朝食にしてしまおう。

そう考えるルミア自身も、すぐにでも二人と同じようにして休んでしまいたいと思っていた。

そんな中、いつも通り、そう、いつも通り私達三人の視界に入らないように荷物を離れた場所に置いて、料理が出来上がって少しした後、彼女のお椀を持ってあの子がやってきた。

私は普段通り彼女のお椀を受け取ると、出来上がった料理を入れ、彼女に帰す。ふと、そういえば今日の料理はソフィアが好きな料理だったな、なんてことを思い返しながら。

 

「あ、りが、と、ぅ・・・」

「・・・・・・・・・え?」

 

ルミアはあまりにも唐突な事に呆気にとられる。その間に彼女は再び来た道をふらふらとおぼつかない足取りで帰り始めていた。

 

「あっ・・・。」

 

ルミアが気を取り戻し彼女に声を掛けようとした時、彼女は既に視界から消えてしまっていた。

 

彼女の声をこうしてしっかり聞いたのはいつぶりだっただろうか。弱弱しくて今にも消えてしまいそうな声。思い出すだけで胸がキュッと苦しくなる。

あの子をあそこまで追い詰めてしまったのは私達なんだ。その事実に魔王を倒した今、再び後悔の念が込みあがってくる。あの子はいつもこんな気持ちでご飯を食べていたのでしょうか。

しんと静まり返った場所に二人分の寝息だけが静かに響く。普段は三人で少なからず言葉を交わしながら囲む食事が今は酷く淋しい。

明日はあの子に話しかけてみよう。これまでの事を謝って、たとえ許されなくても遠くからでも、あの子を支えてあげたい。

今日は眠ろうまた明日きっと・・・。

 

 

明くる朝、あの子はもう二度と目を覚まさない眠りについた。

 

 



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絶望のその先

ツヴァイヘンダー派様誤字報告ありがとうございます!

前回投稿から四か月経っている・・・だと

そして今回短いです申し訳ねえ!でもやっと物語が進むよ!やったぜ!
そろそろ百合百合させたい。後登場人物は二人ほど考えてます。
あんまり増やすと管理出来ないからね(既に管理出来てるとは言ってない)

とりあえず後の二人だして上手く纏められたら百合にもっていける・・はず。

というわけで皆様大変長らくお待たせいたしました!!
今回もゆっくりみていってね!


草木生い茂る野原を、獣が凄む森林を、私は歩く。

 

急勾配の坂を統べる山を越え、激流に流されぬように川を渡る。

 

足が痛み、喉は涸れ、身体は熱に浮かされているように覚束ない。

 

あれから、あの日からどれくらい歩いてきたのだろうか。少し前に見覚えのある未だあの激戦の後が残る手つかずの瓦礫の山を過ぎたのは覚えてる。

 

急がなきゃ、もうずっと前、あの人の魔力を感じ取れなくなったあの日から、私はずっと歩き続けてきた。もうどこにいるのかもわからないあの人を、生きているかもわからないけど、それでも私はあの人を探さずにはいられなかった。私はあの日からずっと後悔し続けてた。あの日、あの人がいなくなった時にすぐに探しに行っていれば、こんなことにはならなかったはずなのに。もっと早くカレンの反対を押して動き出していればこんな気持ちを抱かずにすんだかもしれないのに。もっと早くあの人の事を認めていれば今頃は四人で仲良く出来ていたかもしれないのに・・・。もっともっとと考え始めればきりがないIFの話。こんなたらればを考えたところで実際には意味のないことだとわかってる、わかってるけど考えずにはいられない。それは、今こうして痛みを忘れ、飢えを抑え、意識を保ち歩みを止めずにいるためにも、そしてどんな形であれ、あの人と会った後、その先を考えないようにするために、私はたらればに思いを馳せる。そんな愚かな現実逃避。いっそあの人のもとに辿り着かなければ、このまま身体が動くことをやめ、思考が閉じるその時まで、この逃避行を続けていれば、もしかするとその方が私は幸せなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

そんな逃避行(しあわせ)はいともたやすく目の前のアカとクロに絶望へと塗り替えられる

 

 

 

「あ・・ぁ、まにあわなかった」

 

「っう・・・ぁぅ・・、・・・っ」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

リズはその日つばさと初めて出会ったあの場所へと足を運んでいた。

つばさとリニャが襲われてからというもの、この場所近辺への立ち入りを禁止していたものの、

ここ数日警備していた村の者たちからの報告を受け、今回の事件の調査に出向いたのがリズであった。調査の対象となるのは彼女を襲っていた魔物のである。

 

(今まで森にあんな魔物はいなかったはず・・・、もしかすると魔王が討たれたことによって周辺の魔物たちに影響が出始めているのかしら?何にせよつばさ達が安心してこの村で暮らせるようにするためにも、とっととこの辺りの調査を終わらせないとね。)

 

この時リズは普段よりも神経を尖らせ周囲の気配を探っていた。

それが功を奏したのか、非常に微小ながら人の気配を感じ取ることが出来た。

 

(なんでここに人が・・・?村の人たちは入らないよう言っているはず、それにこの気配・・・)

 

それも、あの時と同じ、今にも消えてしまいそうなほどに弱弱しい人の気配を

 

 

 

嫌な予感を感じつつもリズはその気配へと歩みを速める

 

 

その出会いが齎すはある者にとっての希望かはたまた絶望か

その先を知るものは今はまだ誰もいない

 

 

 

 

 



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