チート転生して現地勇者のお供してたけど敵女幹部の超美人がドストライクすぎて思わず攫った話 (まもなう(旧ノリあき))
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チート転生して現地勇者のお供してたけど敵幹部の超美人がドストライクすぎて思わず攫った話

 あ~~~~~~いちゃいちゃして~~~~~~

 

「そっちにいったぞ!」

「任せろ!これでっ!」

 

 女の子といちゃいちゃして~~~~よ~~~~!

 

「おい、アリカ?どうしたんだよぼーっとして」

「片付いたぞー」

「……ああ、うん、ごめん。ちょっと考え事してた」

「しっかり頼むぜ?確かにここら辺りはまだ強い魔物が出ねぇけどよ」

「じゃあいいじゃない。怪我でもした?」

「いや二人ともしてないけどさ……それでも油断は禁物、だろ?」

「ごめんごめん」

 

 どうも。気づいたら所謂異世界転生していた、今生の名をアリカと申します。

 前世ではどうやって死んだのかいまいち思い出せないけど、まぁそれはいい。もう済んだことだし。

 なんか神様的な存在に、特典付きでこの世界に転生してきたのはいい。特典便利だしこの世界新鮮だし。

 勇者君のお供もまぁ、いい。このパーティ3人しかいないけど。まだ王国を出てそんなに経ってないから、RPGゲーだと序盤も序盤。きっとこれから行く先々で増えていくはず。

 ただ、

 

「……女の子がいない……」

 

 女の子がいない。いない、いない……

 オイ!私が前世で見かけた転生ものは大体女の子だらけだっただろうが!本の表紙!アニメのピンナップ!街の、雑誌の、SNSの広告!ハーレム物じゃなくても可愛い女の子いっぱいいたじゃん!なんでこの世界に転生した私の周りには見事に男しかいないの!?

 勿論お母さんはいるし美人さんだよ?でも自分の母にキスしてー!とか言えるか?セクハラできるか?そりゃ幼少期とか赤ちゃんの頃はもう甘えに甘えたけどさ。

 

「おーい、アリカさーん?」

 

 これもしかして主人公の位置私なの?乙女ゲー的アレなの?神様謎の親切心出しちゃったの??いや普通に勇者君が主人公でいいじゃん!私最初からパーティにいるけど中々良い性能してて抜けないヒーラーでいいから!脇役でいいから!そんで主人公のヒロインの親友的位置になってキャラクター紹介で「ヒロインと仲がいい。」とか書かれて合法的にいちゃつきたいだけだから!

 

「……だめだなこりゃ。反応してないわ」

 

 いやそりゃこの子達もいい子よ?今だって突っ立ってる私を呆れつつも心配してくれてるしさ。

 ただこればっかりはどうにもならないわ。美少女欠乏症だわ。王国にいた頃は酒場のお姉さんからなんとか摂取してたけど、勿論お触り厳禁だしさー……

 あ~~触れ合いて~~美人美少女と戯れて~~~

 旅に出てからまだ2日も経ってないけど~~……

 

「あら、今回の勇者はこんなに可愛らしいのね?」

「っ!誰だ!」

 

 というか何で私達は仮にも勇者御一行なのに王国は馬車の一つもくれないのよ?勇者君は張り切って道中の魔物も倒して行こう!って言ってたけど、いや次の村だか町だかまで全部野宿だよ?お風呂もないんだよ?私はチート使って常に全身汚れ弾いてるから大丈夫だけど!その気になれば老廃物すら出ない!消せる!なんだこの身体。因みに勇者君たちも汚いのは私が我慢できないので、浄化の魔法を使って綺麗にしてあげてる。いや便利だわチートありがとう神様。

 

「どっから来やがった……?気配なんてもんは全く……」

「まさか、転移魔法……!?」

「あら、そんなに難しくはないわよ?君達には無理だけど。はぁ、若い芽を摘むのって趣味じゃないんだけどねぇ……」

「……!来るぞ!」

「来るったってこんなのどうすれば……!」

「おい、アリカ!こんな時に呆けんなって!オイ!」

 

 あぁもう、何だよ剣士君。そんなにガクガク揺らされても美女だの美少女は降って湧いて出てこないでしょ?それとも何?君がTSして美少女になってくれるの?

 

 やれやれと意識を現実に戻したところで、私は出会ってしまった。

 今生どころか前世でも見たことないような美貌、出るとこは出て締まるとこはきゅっと締まっている身体、軽くウェーブがかかった長く美しい髪、そしてその完璧な肉体を最大限活かしているであろう妖艶な服装。

 その超絶美人を見た瞬間、私に電流、というか雷が走った。空から。文字通り。チートしてるから私にダメージはない。私を揺さぶってた剣士君は憐れにも気絶してしまった。ごめん。

 

「そんな、たった一撃で……」

「いや、私まだ何もしてないんだけど……」

「くそっ!まだこれからなのに……!」

「あのね、私まだ何もしてないの。あれ多分あの女の子が自分でやったのよ?」

「そんな意味不明なことするわけないだろ!しかも、アリカは回復師で攻撃魔法なんて出来ないんだ!」

「そうは言っても、現に私には自分で自分に雷落としたようにしか見えなかったんだけど……」

 

 ありがとう神様。私をこの世界に転生させてくれて。

 

「う、浮いた!?」

「この魔力……!?嘘でしょ、私より……!?」

 

 ありがとう運命。きっとこれは私がこの世界に転生してきた意味。

 

「なんだ、これ……」

「これは思ったより楽しめそう……っていうか、私でもキツいかも、ねっ!」

 

 体ごとぶつかってきた美女の拳を受け止めて、その美貌をまじまじと覗き見る。驚愕と僅かな期待、それに隠しきれない昂りがその目からは読み取れる。キラキラしていて、でも同時に深い闇も感じる宇宙のような瞳。まつ毛超長い顔のパーツ良すぎ肌すっべすべ超いい匂い。

 私は更に、もう鼻と鼻がくっつきそうな程顔を近づけた。

 いいよね?だって十分我慢したもんね?こんな極限状態だった私の前に現れちゃったこの人……人?が悪いもんね?

 私は突然接近してくれた美人さんの拳を受け止めたまま、反対の手を彼女の頬に添えた。

 

「お姉さん」

「……なに?」

「名前を教えてくれない?」

「……リリスよ。あなたは?」

「私はアリカ。……じゃあそういう訳でリリス、これからよろしくね?」

「えっ?……ん!?」

 

 そう言って私はリリスの瑞々しい唇に、自分の唇を重ね合わせた。

 

「!?……っ!?」

 

 あーすっごい今満たされてるわ私。リリスがびっくりしててちょっと唇に力入ってるけどそれでも超柔らかいあ~~~好き~~~

 暴れるリリスをがっちりホールドしたまま唇を堪能すること数十秒か。可愛い美しい女パワーを貰った私は満足して唇を離した。

 目を開ければ、顔を赤だか青だかにさせて震えるリリス(可愛い)と、何が起きたかまるで理解できていない様子の勇者君がさっきまでの私の様に呆けていた。

 

「むふー……」

「なに……?なんなの……?」

 

 私は狼狽するリリスをお姫様抱っこすると、此方を虚ろな目で見る勇者君に告げた。……体格差が凄いせいで全然格好がつかないが。

 

「ごめん勇者君。私の旅の目的達成しちゃったわ。後は頑張ってね!」

「…………はっ!まt」

 

 激励を投げかけて抱いているリリスに優しく微笑むと、勇者君が何かを言う前に転移魔法を発動して適当な場所に飛び立った。

 あとは任せたよ勇者君!そしてそこでのびている剣士君!人類側の未来は多分君たちにかかっている!私は知らん!リリスといちゃつくからな!まぁいい奴らだからピンチになったら駆け付けるから安心してね!あばよ!

 

 

 

 

「……消えた…………」

「う……なんだ、なにがおこった……?」

「……起きたか、レイジ」

「確か俺はヤバい奴が出たからアリカを……っ!?そうだ、アリカは、あいつは!?」

「消えたよ」

「消えた?」

「アリカが自分に雷落として宙に浮いたらそれにあいつが殴りかかってでもアリカは普通に受け止めて見つめ合ったと思ったらいきなりキスし始めて俺に頑張ってね!とか言って消えた」

「何言ってんだお前」

「何言ってんだろうな、俺……」

 

 

 

 

「……それで?」

「ん?」

「私をどうするつもり?性奴隷にでもするのかしら?」

「え、殺伐としすぎでしょ怖……そんなことしないわよ。ただ超美人だったから思わず一目惚れして攫っただけで」

「もう!貴方は人類!私は魔族!敵同士ってわかってる?」

「私別に人類の味方じゃないし。強いて言えば可愛い女の子の味方。美人でも大歓迎。つまりリリスの味方。わかった?」

「……もういいわ、それで」

「真面目ねぇリリス」

「真面目っていうかあなたが……!ねぇ、あなたホントに子供?落ち着き様といいさっきの魔力といい、そうは見えないんだけど」

「失礼ね、れっきとした12歳よ。……こんな年齢の子供に旅させて魔物やらと戦いに行かせるのおかしくない?」

「そこは常識的なのね……」

「まぁそんなことは今はいいわ!私は生まれてこのかた王国から出たことがなかったから、この世界の色んなとこ見て回りたいの!リリスとならきっと楽しいわ!」

「……変なのに目をつけられたわね、私」

「何か言ったー?」

「いいえ、なんにもー?……はぁ、まぁいいわ。どうせ力じゃ敵わないだろうし、付き合ってあげましょ」

 

 

 るんるんと鼻歌をしながら先を歩くアリカを、ため息をついてリリスが疲れたように追っていく。二人の旅はまだ始まったばかり。これからきっと楽しいことが沢山あるはず!

 ……頑張れ勇者君!最大戦力が職務放棄をしたせいでなんかこううまいこと両陣営を纏めて明るい未来に導けるかは君の手にかかっているぞ!

 

 

「……これどっちに行けばいいの?というかここどこ?」

「とりあえずで歩いてたのね……んーここからなら先ずは──」

 

 

 

☆つづかない……?☆

 

 



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初対面のかけだし勇者のお供に攫われた話

ちょっとだけおまけ
※誤字報告ありがとうございます


「どーん!」

 

 はーいみなさん、こんばんは。私はリリス。一応これでも魔王軍の四天王?なんかをやらせてもらってるわ。カッコつけたがりの魔王様(あの子)が言うには、「お主はそうじゃな……『魔眼』のリリス!どうじゃ!?かっこよかろ?」ですって。

 まぁ確かに私の目は所謂魔眼ってヤツで、制御が難しく色々見えすぎてしまうところがある。だからこそ──

 

「やっぱり疲れた夜にはふかふかのベッドよね~」

「はしゃぎすぎると壊れるわよ?」

「そんな軟じゃないでしょー?それに今の私は5kgしかないからもーまんたいよ」

 

 このよくわかんない言葉を使うこの子のヤバさが解る──

 

「しかも傍らに美女を侍らせてる!ほれもっと近うよれぃぐへへへへ」

 

 別の意味でもヤバいけど──

 

「いいけど先にお風呂にしたら?この部屋確かついてたでしょ」

「んーそれも捨て難い……ねぇ一緒に入りましょ?」

「いいわよー、私も結構汗かいちゃったから入りたいわ」

「えー勿体ない……」

「何が?」

 

 私の目の前で「なんでもなーい♪」とか言ってる女の子が私を攫った張本人、アリカ。

 あの日、新しく勇者が王都を旅立ったらしいからどんなもんか見てきてくれ、って頼まれてちょっと揉んであげようかなーと思ってたら、勇者の後ろでぼーっとしてた女の子にキスされて攫われた。事の顛末だけ書くと意味不明ね。

 攫われた後、しっかり魔眼でアリカを視た私はどうしようもないことを悟り、言われたまま付いていくことにした。彼女の要望は随分平和だったし、いい息抜きになりそうだったしね。

 実際今日も、やったことと言えば適当に歩いて見つけた町を見て回ったぐらい。私が人間が暮らすとこに居ちゃまずいんじゃない?と思ったがそこはアリカ、細工をして私が気づかれないようにしているらしい。方法は教えてくれなかった。なんでも信じてくれないだろうから、らしい。別に素直に信じるんだけれどね。

 

「おっふろ、おっふろ~♪」

「ふふっ、ご機嫌ね」

「そりゃね!」

 

 普通、この子ぐらいの歳の子供は魔族が出た、って聞くだけで震えて泣き出しちゃうのが当たり前なんだけど、アリカは勇者のお供──実際には私よりも強いけど──をしてたからか全く怖がらずにベタベタと甘えてくる。

 

「髪洗ってくれるー?」

「髪だけでいいのかしら?」

「じゃあフルコース!マット付き!」

「娼館じゃないんだからそんなの無いわよ……」

 

 それがちょっと新鮮で嬉しかったりする。

 

「えー……」

 

 あと、外では大人っぽく振る舞おうとしてるけど、私とこういう場所で二人っきりになると、本来の子供らしい口調や性格になって甘えっぷりが増すのがちょっと可愛い。

 

「あら、体洗うだけじゃ不満?」

「んー……じゃあ私にもリリスを洗わせてもらえない?それでいいわ」

「……変なことしないでよ」

「しないしない」

 

 じゃあそのわきわき動かしてる手をどうにかしなさい。

 

 

「ふぅ~~極楽極楽」

「こういうのを生き返るーって言うのかしら?」

「あ^~生き返る~」

「どうやって発音したの今?」

 

 私に背中を預けて倒れ込んでくるアリカを、宿にしては広い湯船で後ろから抱えて一緒に浸かる。私と比べてアリカはまだ小さいから、すっぽり埋まってパズルみたい。

 

「やわらかーいあったかーいいいにおーいさいこうー」

「あなた飽きないわねぇ」

「全然ー。昔誰かが美人は三日で飽きる、とか言ったらしいけど嘘だね絶対」

「ふぅん?」

「少なくとも私は100年は飽きない」

「滅茶苦茶長いわね」

 

 人間にしては。

 

「そういえば魔族ってどれぐらい生きるの?てかリリスって何歳?」

「んー……魔族って言っても色んなのがいるから……どうかしら?長いと2000?ぐらい?」

「へー長っ」

「私ぐらいになると多分万は生きるんじゃない?今はまだ600ぐらいだし」

「もっと長っ」

「これでも他の幹部の人たちと比べると若造なのよねぇ」

「へー……なんか大変そうね。それだけ生きるとなると娯楽がないと退屈で死んじゃいそうだわ」

 

 実際退屈が嫌で人間や、それに協力するエルフ族なんかにちょっかいを出す奴も居たりする。重なれば新たな火種になるので我慢してほしいけど、気持ちはわかる。

 

「その点リリスは安心ね。私がいるもの」

 

 器用に私に包まれたまま振り向いて、自信満々で私の谷間からこちらを覗き込んでくるアリカは、城で飼っているケルベロスが言いつけを守って自慢気に佇んでいるようで、要は可愛らしい。私は得意げな頭を撫でた。

 

「確かにあなたといると、退屈しなさそうね?」

「そうでしょうそうでしょう」

 

 長い髪を纏めたタオルからは、鮮やかな金髪が所々覗いている。

 

「まぁ今の所は私が案内してるだけだけど」

「うぐっ!それはまぁ……ほら……あ!そう!リリスだって世界一周とかしたことないでしょう!?私がいれば溶岩や深海だって楽勝よ!」

「どこまで行くつもりよ……」

 

 呆れつつも、確かに楽しみなのは事実。私も流石にこの世界の果てまで見たことはない。

 

「そして何れこの星から飛び出すの!宇宙には謎が山程あるわ!」

「宇宙……」

「リリスの眼みたいに綺麗なのよ!地上から見るのとは大違い!」

「どうどう」

 

 未来に思いを馳せるのはいいけど、息巻きすぎて顔が近い近い。

 まるで初めて会った時みたいに。

 

「……」

「……急に冷静になられるとそれはそれで怖いのだけど」

 

 ふに。

 

「……」

「……」

 

「……のぼせた、かも」

「……そういうことにしときましょう」

 

 

 まだまだ旅は、始まったばかり。

 

 

 




ご想像にお任せします


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おつかいを頼んだ幹部が帰ってこないんじゃが

ふと降りてきました
感想ありがとうございます!


「のうマキナよ」

「はい」

 

 ここは泣く子も黙る魔王城。その玉座の間で今代の魔王は、傍に控えていた目を閉じている女性に話しかけた。

 

「魔眼のリリスが帰ってこないんじゃが」

「はい」

 

 恐ろしい魔王様は豪華な玉座に座り足を遊ばせながら、頬杖をついてふてくされていた。

 

「偵察に行かせてもうどれぐらい経ったかのう?」

「そうですね、所謂半年ほどでしょうか」

 

 魔眼のリリスが帰ってこないのである。

 

「確かわしはそなたの視た新しい勇者を偵察して来い、と言ったような気がするんじゃが」

「そう記憶しております」

「おかしくない?」

 

 そう、おかしいのである。

 徒歩でぶらぶら向かうのでもなければ、いくらなんでもたかがちょっと顔を見てくるだけでこんなに時間がかかることはないのだ。なんなら魔王様は目の前で転移魔法で赴いたのを見ていた。行きは兎も角、顔を見られた帰りに徒歩で戻るのはおかしいだろうと。

 

「はい」

「というか今までも何の報告もないのおかしくない?」

 

 そう、おかしいのである。

 魔王様やリリスぐらいの実力ともなると、通信魔法などお手の物。連絡や報告ぐらいくれてもいいはずなのだ。いや寧ろくれないと困るのだ。偉大なる魔王様は報連相の大切さを知っているからだ。

 なのに全くそれがないし、なんなら魔王様からどうだった?と聞いてもまるで返事がない。届いていないわけではないが、敢えてそれを無視しているのかは謎だが反応がない。例えると既読無視である。

 

「そうですね」

「ぶっちゃけあのリリスが、かけだしの勇者に負けるとかありえんと思うのじゃが」

 

 魔王様はその可能性も考えていた。勿論本当に負けたとは思っていないが、それでも何かあったのではないかと。

 でも、そうであるなら尚更報告がある筈だし、何よりこの†天眼のマキナ†が気付かぬ筈がないのだ。

 

「はい」

「おかしくない?」

「そうですね」

「……さっきからそなたは返しが適当すぎる!なんじゃわしが心配しているというのに!」

「ふふっ」

「笑うんじゃないわっ」

 

 ぷんすこと怒る魔王様は不服そうである。

 そこでぴこん!と思いついた。というかなぜ今までこのことに気が付かなかったのか。このマキナに視てもらえばよかったのだ。

 

「そうじゃ、マキナに視てもらえば解決じゃの!」

「お気づきになりましたか」

「……何故わしに進言してくれなかったのじゃ?」

「ふふっ」

「ええいっ!」

 

 マキナは天眼の名の通り、リリスと同じく特殊な目を持っている。それは万物を見通し、あらゆる場所はおろか、見ようとすれば未来すら視ることが出来ると言う。

 普段は視えすぎるから、という理由で目を閉じているマキナだが、魔王様が直々に命じれば協力を惜しまない筈である。

 

「ごほん!……では頼むぞ。魔眼のリリスがどうなっているのか視てくれ」

「わかりました」

 

 僅かに一礼すると、天眼のマキナはその閉じられていた目を開いた。こちらから見る角度で色が変わるその瞳を、魔王様は綺麗じゃのうと大層気に入っているのだ。

 

 

『わーすっご!!!!見てあれ超でかいよ!!!』

『何あれ……あんなのがこの海に居るなんて……』

『おいしいかな?』

『あれを目の当たりにして食べようとするのは貴女ぐらいね……』

 

 

「…………」

「どうじゃ?何が視えた?」

 

 マキナはそのまま言うか少し迷ったが、そのまま伝えることにした。

 

「……そうですね、あれは人間の子供でしょうか。女の子と一緒に居ました」

「なんと!?……どういうことじゃ?」

「海底に」

「いやどういうことじゃ!?」

 

 マキナが天眼を通して見たものとは、リリスと人間の女の子が海底を歩き、そこから更に深い海溝を覗き込むと超巨大な魚……魚?を発見した、という場面である。

 一体どういうことなのか。流石に聡明な魔王様をもってしても状況がわからないらしく、頭に?マークを並べて首をひねっている。

 

「全然わからんぞ……そもそもリリスはまだしもその女子(おなご)はなんなのじゃ?普通人間は耐え切れないと思うのじゃが」

「魔法、を使っているのでは?何やらリリスもその人間も、膜の様なものを纏っているように見えました」

「そんな魔法あったかのう……結界の応用かのう?」

「あとで試してみましょうか」

「そうじゃな。……いやそんなことはいいのじゃ!何でリリスが人間と一緒に居るんじゃ!?」

「なんででしょうね」

 

 魔王様は後悔した。そもそもリリスが勇者と会った場面をマキナに視てもらえばよかったと。

 

「(まぁ視てるんですが)」

「わからん……その女子は何者なんじゃ?」

「勇者……でしょうか?」

「勇者だとしたら益々わからんぞ……何故リリスと一緒に居るのじゃ?」

「さぁ……」

 

 魔王様はむむむと頭を抱えている。

 

「……まぁ、よい。健在なことはわかった。状況はわからんがの」

「そうですね」

「うーむ、リリスの様子はどうじゃった?」

「そうですね、手を繋いでました」

「手を!?」

 

 そう、リリスは隣に居た女の子と手を繋いで歩いていたのである。さながらデートだ。場所はともかく。

 

「なんで……?」

「慣れた様子でした。普段からそうしているのでしょうか」

「なんで……?」

「さぁ……」

 

 また魔王様は頭を抱えて唸ってしまった。

 確かに魔眼のリリスは、この魔王城内においても高嶺の花とされていた。その彼女が人間の女の子と仲睦まじく手を繋いでいるのだ。無理もないだろう。

 

「……裏切った……?」

「はぁ」

「リリスはわしらを裏切ったのでは!?」

「なるほど」

「いや、裏切るにしてはやっていることが謎じゃ……何故海の中に居るんじゃ……」

「確かに謎ですね」

「うーむ……もう一回視てくれんか?気になってしょうがないのじゃが」

「私も気になりますね。もう一度視てみましょうか」

「頼むぞ」

「では……」

 

 

『何用だ、そなたら』

『わ!すご!喋られるの!こんにちは!』

『なんで平然としてられるの……?』

 

 

「魚が、喋っています」

「どういうこと……?」

「この城ぐらいの魚と、喋っています」

「どういうこと……!?」

 

 確かに、この魔王様が治めている地には色んな生物が暮らしているが、魚が話すことは今まで報告されていない。これは驚くべきことで、思わず魔王様も口調が戻ってしまっている。

 

「私は初めて見ました……」

「いや、いや、わしも初めて聞いた。確かに喋ったのじゃな?」

「はい……人間が呑気に挨拶してました」

「胆座っとるな!?」

「……もう少し視てみましょうか」

 

 

『……ほれ、また来たぞ』

『あ、これやっぱりそうなんだ?何か覗かれてるなーとは思ってたけど』

『あー私の落ち度ねこれ。すっかり忘れてたわ。ごめんマキナ』

『いえーいマキナさん見てるー???今お魚さんと話してるよー!』

『呵々、愉快愉快』

 

 

「どうしましょう」

 

 天眼のマキナは困った。

 

「な、何を視たんじゃ……?」

「私が視ていることがバレました」

「なんと!」

「しかも口ぶりから一度目からバレていました」

「なんと!?」

「人間にも」

「なんと!?」

 

 あれだけ大きく、永きを生きているであろう巨大魚はそれだけの力があっても頷ける。何より原理は謎だが水中で喋ることも出来ているからだ。だが人間はわからない。しかも10歳程度の子供である。

 そんな子供にマキナの天眼が見抜かれ、声をかけられ手を振られたのだ。

 不覚である。

 

「あ」

「ぬ!?」

 

 ピシリ。

 突如として、この玉座の間の中央の空間が裂かれ、腕が生えてきた。次に足、頭、胴体と続き、それは姿を現した。

 

 

「こんにちは!」

「な、なんじゃ、どういうことじゃ!?」

「…………こんにちは」

「――――ちょっとアリカ!」

 

 

 ここは泣く子も黙る魔王城。ここ最近、騒がしい日が増えたおどろおどろしい場所である。

 



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異世界でもあけおめって言うのかしら

(遅刻)


 

「いえ~いハッピーニューイヤー!」

「はっぴ……なに?」

 

 やあみんな!あけましておめでとう!

 こちらの世界でも偶然にも一年が365日で年越しを迎えました私、アリカと申します。

 

「年越したらそう言うの!新たな一年に乾杯!ってことでね」

「へー」

「あけましておめでとうとも言うわね!」

「随分雰囲気が違うわね?」

「Ein gutes neues Jahr!とかสวัสดีปีใหม่ค่ะ!とも言う」

「いや全然違うわね!?なに、人間はそんなに沢山言語があるの?」

「私のとこではねー」

「いや貴女王都から出たこと無……」

「まーまー細かいとこは良いのよ」

「細かくなくない……?」

「あれよ。本で読んだ」

「今思いついたでしょ貴女。まぁいいわアリカだし」

 

 というわけで、今日も一日リリスといちゃつきながら旅をしていたわけだけども。

 

「そういえばさぁ、魔族にも新年の挨拶ーとか言って親しい人やらにうんたらって文化あるの?」

「んー、魔界(こっち)にはそういうのはないかなぁ。元々長命種が多いし無頓着って感じね」

 

 リリスと出逢って初めての正月!なんだけど、どうも魔族にはあんまり馴染みがないみたいで。

 

「えー勿体ない!問答無用でお休みとか炬燵でみかん!とかも無い?」

「休み……っていうかみんな気ままだしね。普段から休みたいときに休んで働きたいときに働いてるわ。……みかんは兎も角こたつってなによ?」

「それで回ってるの凄いわね魔界。炬燵はまぁ……一度入ったら抜け出せなくなる?」

「怖いわね」

「でもみんな自分から喜んで入って行くよ」

「何なのか想像つかないわ……」

 

 それではそう勿体ない!そう思った私は兵は神速を尊ぶってことで、去年お世話になった人たちのところへ挨拶回りをすることにしたのだ。

 

「じゃあ取り敢えず行こっか!」

「待って?どこに行くの?というか今から行くの?もう夜なんだけど」

「こういうのは早い方がいいのよ!取り敢えずまおーちゃんさまのとこからね!」

「言いながら次元裂かないでわかったわよもう……」

 

 

 

   ◇  ◇  ◇

 

 

 

「魔王様、新しい一年でございます」

「む?もうそんな時期か?あっという間じゃのう」

 

 この城の何者にも内緒だが、魔王様とマキナは昔から一緒のベッドで眠っている。

 始まりは古く、まだ今より幼かった魔王様が、寂しがって出て行こうとするマキナの服を引っ張って泣き喚いてからだ。因みに今ではそんなことはなく、マキナが出て行こうとすると裾を掴んで捨てられた子犬のような目で見るだけだ。

 

「また今年もよろしくお願いしますね」

「うむ、うむ。わしもよろしく頼むぞ。マキナの居ない生活は想像できん」

 

 魔王様はそう言いながら、むにゃむにゃとマキナの豊満な胸へと飛び込んだ。

 ここはやはり天国かと微睡む彼女を愛おしそうに撫でるマキナは、普段は人前に見せない優し気な表情をしていて――――

 

ピシッ

 

「こんばんはー!……あれ?」

「ちょっと声……あら」

 

 突如として二人の時間を裂いたのは、最近よく見る問題児だった。

 

「こんばんは。ですが今日はもう遅いので相手をしてあげられません」

「んんぅ……なんじゃ?」

 

 せっかく気持ちよくなっていたのに、何か騒々しい声が聞こえると魔王様が目をこすって開けると、

 

「へー、へー!なるほどねぇ、可愛いねぇ!」

 

 滅茶苦茶良いところ見ちゃった、と目を爛々とさせる異常者の姿があった。

 

「うわぁ!?なんじゃ、何故お主が今ここに!」

「ごめんねぇまおちゃん。凄いアレな瞬間にお邪魔しちゃって」

「リリスまで!?」

「本当にそうですよ。折角魔王様を寝かし付けられるところだったのに」

「ま、マキナ?」

「冗談です。邪魔されたのは本当ですが」

 

 いいものが見れたとしめしめ顔になっていた異常者も、ずっとジト目で見てくるマキナに旗色を悪くしたのか勢いを無くしていく。

 

「いやぁごめんごめん。年明けたからいの一番に挨拶しに行こうと思ってさ。まおーちゃんさまにはお世話になったから!」

「……それはいいが、また日が昇ってからにしてくれ……わしは眠い。あと魔王様じゃ」

「はーい!おやすみちゃんさま!」

「まおうさま!……まったく」

 

 話は終わったと言わんばかりに一息つくと、魔王様は再び天国に顔を埋めて目を閉じてしまった。

 

「あら」 

 

 そうするや否や、くうくぅと可愛く寝息を立てて初夢へと飛び立っていった。

 

「まおちゃんほんとに眠かったのね……可愛いものだわ」

「あげませんよ」

「別に取らないわよ。私にはアリカが居るし」

「……意外です。貴女からも矢印が出ていたんですね」

「この子だって可愛いところあるのよ?二人の時じゃないと全然見れないけどね」

「リリスにしか見られたくないしそういうとこ出したくないしー?」

「そういうこと」

「……なるほど」

 

 少し解るとマキナは思った。好きな人にしか見せたくない自分の顔がある。好きな人が見せるこの顔は他の誰にも見せたくない。そういった感情は自分にも存在するからだ。まぁ見られてしまったが。

 

「というわけでちょっとアクシデントしちゃったけど、今年もよろしくね!また明日にでもお詫び持ってくるわ!」

「ごめんねーマキナ。じゃまた明日~」

 

 そう言い残すと、あっという間に乱入者たちは次元を裂いてこの場から去っていった。やはり彼女たち、というかアリカは文字通り嵐のようだとマキナは再確認した。

 

「はぁ……」

「くぅ……すぅ……」

「……暫く癒されましょうか」

 

 マキナは胸で眠るふわふわの魔王様(天使)を撫でると、優しく抱きしめて旋毛にキスをした。

 

 

   ◇  ◇  ◇

 

 

「いやーいいもの見れたわ!悪い気もするけど!」

「いいものっていうのは否定しないけど、罪悪感の方が勝っちゃうわね」

「今回は私のミスってことで、明日なんか振舞うわ!ついでに炬燵も作ろ」

「そんな簡単に作れるものなの?」

「え、わかんない」

「え?」

「じゃあ次いこ!」

「この流れで行くの!?もう寝ましょ?」

「大丈夫大丈夫!れっつごー!」

 

 

   ◇  ◇  ◇

 

 

「パパ!ママ!」

「アリカ!?お前、旅に出た筈じゃ……というか今何処から出てきた!?」

「あらアリカちゃん。おかえりなさい~」

「ただいま!あけましておめでと!そんでこちらが私の女!」

「言い方!……えーっと、初めまして?リリスよ」

「あら、別嬪さんねぇ」

「いやその人魔族じゃないか!?」

「パパは細かいこと気にしないの!今日は年越しの挨拶だけだからまた今度ゆっくり話そうね!バイバーイ!」

「あもう行くの!?またゆっくり話しましょうねー」

 

「行ってらっしゃい~」

「……一体アリカはどうなってしまったんだ……?」

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

「いえ~いあけおめ!」

「な、なんだ!ってアリカ!?」

「なんだようるさい……っておわ!」

「あら、ちょっと懐かしい顔ね」

「リアクション似てるわね君たち」

「そりゃそうなるだろ!目の前に急に出てきたら!しかもあの時のヤバい魔族も一緒で!」

「こんな夜遅くに何しに来たんだ……」

「どしたの剣士君滅茶苦茶ダウナーだけど」

「お前のせいだよ!こいつに聞いてもアリカは消えた、しか言わないし!お前がいなくなってから飯はまずいし、身体はやたら汚れるし!」

「飯がまずくて悪かったな!」

「あー……そこはめんご。じゃあ早速だけどお年玉としてこれを授けよう」

「な、なんだ……?そのやたら光ってる右手で何をするつもりだ!?」

「いやこれでもちょっと悪く思ってるのよ?胡麻一粒ぐらい。だから勇者君には飯が美味しくなるおまじないをあげよう」

「うおおおお!なんか頭に無数のレシピが流れ込んでくるうぅぅうう!」

「戦士君には私が使っていた衛生魔法をほれ」

「ぐあああぁ!なんか身体に関する無数の術式が流れ込んでくるうぅぅうう!」

「もうあんまり貴女に対して驚くことは無いと思ってたのだけど……そんなことも出来たのね」

「リリスはこういうのより自分で努力して身に着けたいでしょ?」

「まぁね……こうなりたくないのもあるし」

「そうかわかったぞ……飯とは……栄養とは……」

「俺たちはなんて不潔だったんだ……」

「伝授完了!じゃあ改めてあけましておめでとう二人とも!旅はまだまだこれからだよ!」

「あんまり無理しないようにね?じゃあね~」

 

「……アリカこそが魔王なんじゃないか……?」

「言うな……俺もちょっとそう思ったけど……」

 

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

 

 それからも、深海のでかい魚さんとか火口に住んでるトカゲさんとかに新年のあいさつをして一段落。

 魔王城に戻ってきて、リリスと寝る前のお茶会としゃれこんだ。

 

「いやー、まおーちゃんさまには悪いことしたなぁ」

「可愛かったけれどね?」

「それはそうだけど、私もあの二人のあの時間を邪魔するのは無粋ーって思いぐらいはあるし。んーまた明日ちゃんとごめんなさいしよ」

「アリカは意外と偉いわねぇ」

「意外は余計!」

 

 ぷんすこと怒っても、頭を撫でられる感触には敵わない。リリスの手さばきは私には劇薬なのだ。

 

「ねーリリス」

「なぁに?」

「今年もよろしくね?」

「私こそよろしく。いっぱい私に世界を楽しませてね?」

 

 私にとって去年は激動の一年すぎた。勇者一行として旅を始めた時はこんなことになるとは思わなかったけど。

 私に悪戯っぽい笑みを飛ばしてくるこの美女に会えたのが一番大きいだろう。

 好きだよ、リリス。あんまりちゃんと口には出さないけどね。

 

「……じゃあ取り敢えず今から姫始めでも」

「バカ。……お風呂入ってからね」

 

 今年も、来年も、その先も――――よろしくね?

 

 

 

 




細々とよろしくお願いします


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