バカとテストと五等分 (969)
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バカと五等分の転校生

何となく書きたかったので書いてしまったもの。
続きも書いてあるのですが更新はひと月に2話程度できたらいいなぁ(願望)


「なぁ、明久」

 

麗らかな春の日差し。 そんな朝の一幕で悪友である坂本雄二は僕の名前をおもむろに呼んできた。

 

「なに、雄二? 僕はこれからの新しいクラスに心を躍らせることに忙しいんだけど」

「金太郎飴って知っているか?」

「切っても切っても同じ絵が出てくる飴…だっけ?」

「あぁ、まるで明久みたいだなってよ」

 

それはどういうことだろうか? どの方向から見ても美少年…なんて意味かな。ともすれば珍しく雄二は僕を褒めてくれたことになるのだけれど…怪しい!

 

「何処までいってもバカだって思ってな」

「貴様、僕のどこが馬鹿だというんだ!」

「テメーが着ている服を見直せバカ!!」

 

ふと視線を自らの制服に落とす。

白い布地に赤いリボン。それにふわりと舞うのは紺色のスカート…どこからどう見てもセーラー服じゃないか!

うん、お、おかしく……おかしく……

 

「知らないの雄二? 最近の男子高校生はセーラー服がトレンドなんだよ?」

「そんなトレンドならクソ喰らえだ!」

 

馬鹿な、僕の華麗な嘘も信じないなんてコイツ実は雄二の皮を被った他人なんじゃ…

一触即発の雰囲気が漂い互いに拳を握り睨み合っていると

 

「あの……」

「「は?」」

 

突然声をかけられた。朝早くから住宅街で騒ぎ過ぎたか…ちっ、命拾いしたな偽雄二め!

可愛らしい声の持ち主は声の通り見た目も可愛らしく凄いスタイルのいい文月学園の制服を着た女の子だった。こんなに可愛いなら同学年なら知ってるはずだし…後輩の子かな?

 

「そちらの貴方は文月学園の生徒さん…ですよね。 もし良かったら場所を教えていただけませんか? 私、コンビニで買い物している間にはぐれてしまったみたいで…」

 

話しかけられたのは僕ではなく雄二だった。

いや、僕も文月学園の生徒なんだけど?

 

「ん、あぁ。構わないぞ? 一年生…には見えないから転校生ってところか?」

「はい、今日から文月学園に転入する中野五月です」

「坂本雄二だ。んで、こっちのセーラー服はバカだ」

「よろしくね、中野さん! 僕は吉井明久。 こっちのガラの悪いのがバカだよ」

 

 

ガッガッ!!(←僕と雄二が殴り合ってる音)

 

「えっと、吉井くん? も…文月なんでしょうか? 制服が違うような…」

「朝慌てて家を出る時に間違えて着ちゃったんだよね」

「そんな間違え方ありますか!?」

「まぁ、バカはほっといて早く行かないと遅刻になるぞ」

 

雄二に急かされるように僕と中野さんはそそくさと後ろを付いていく。 うーん、見れば見るほど可愛い子だなぁ…そして見れば見るほど僕の制服浮いてるなぁ…!! 雄二の制服少し大きいけど剥ぎ取ろうかな。

 

「吉井くん、文月学園はどんな所なんですか? 恥ずかしながら初めての転校に少し不安でして」

「んー、どんな所かぁ…面白い人が多いところかな。 女の子みたいな男の子とか撮影のスペシャリストとか毎回学年一位の子に張り合う勉強馬鹿とか」

「それだけ聞いて誰かわかるって身内にしちゃすげぇ個性だよなアイツら。 お前も馬鹿だしな?」

「五月蝿いよ雄二! 見てろ、2年のクラスはDクラスは固いんだからねっ! あ、それと試験召喚獣システムだね面白味は!」

「試験召喚獣…ですか? お話は伺っているんですけどイメージが出来なくて」

 

まぁ、一般的な学校から来た人は分からないよね召喚獣なんて言われても…

 

「簡単に言えば小さい自分みたいなもんだ。 クラスはAからFに分けられていてテストの出来高で割り振りされる。 Fってのは最底辺だな」

「さ、最底辺……」

「噂によると教室はかなり酷いらしいな。卓袱台と畳だとか。 Aクラスは逆にエアコンやらなんやら付いてるんだと」

「あからさまな贔屓じゃない!?」

「だから悔しければテストでいい点数を取って試召戦争で教室を奪い取れってことなんだろうよ」

 

召喚獣の強さは確かにテストの点数だからいい施設を手に入れるには自然と勉強しないといけないのかぁ…やだなぁ…

 

「坂本くんは…どのクラスになりそうなんですか?」

「ぁ? 俺はFクラスだろうな。テストはさっぱりだったし。明久もだろ」

「失礼な! さっきも言ったけどDクラスは固いって言ったでしょ!」

「中野もお前のような馬鹿面がDはありえないって顔してるぞ」

「そんな!? 酷いよ中野さん!」

「してません! してませんから!! 私も…その…転入試験全然ダメでしたし…」

「普通校で言えば全教科赤点レベルじゃなきゃEクラスぐらいには入れるはずだぞ。たぶんな」

 

雄二のそんな言葉を聞くと五月さんはスゥ…と目を細めてどこか遠くを見つめていた。

そんな、こんな真面目が制服を着てるような女の子がFクラスなんて有り得るの!?

あまりの気まずさに僕も雄二も五月さんも黙ってしまい数分、ようやく文月学園が見えて来た。

 

「吉井、お前…」

「西村先生、何も言わないで!? そして宜しければ制服を貸してください」

「お前は前からバカだバカだと思っていたがここまでとは。職員室に来い。制服があるはずだ。それと坂本は封筒を開けろ、所属クラスが書いてある」

 

助かった!! 制服がなければ僕の華麗な二年生生活が真っ暗になるところだった!

ついでに手渡された封筒を開ける。進級時に生徒一人一人に所属クラスを書いた用紙を渡すなんて非効率、と思うんだけれど秘匿性とかなんとか。

 

「あぁ、それと吉井。お前はFクラスだ」

「僕に対しての秘匿性は!?」

「ん、そっちの君は…そうか転校生の中野だな。 一緒に職員室に来なさい」

「は、はい!」

 

納得がいかない。やはり鉄人を闇討ちするしかない……!

如何にバレず鉄人を闇に葬るか、思考の海に潜っていると結論を出す前に職員室へと着いてしまった。

 

「吉井、隣の更衣室に予備の制服がある着替えてこい 」

「ちっ、命拾いしたな鉄人!」

「何を言っとるんだバカ。早く行け」

 

そそくさとセーラーな服をほかの先生達に見られない様に移動をし更衣室の戸を開け、ふと振り返った時、どうにも五月さんが五人居るように見えた。

 

 

 

 

 

「すみませーん遅れましたー」

「早く座れウジ虫」

「貴様、人が愛らしく謝ってるっていうのに!! ってなんだ雄二か。 なんで教室の前に立ってるの?」

「教員が来ないからな。クラス代表としてクラスメイトの把握をしていた」

 

雄二がクラス代表ということは僕が雄二より劣っているということに他ならない。バカな、僕が負けるなんて!

 

「おぉ、明久。来ないから心配しておったぞ?」

「秀吉? それだと僕が最初からFクラスだって思ってたような言い方だよ?」

「………確定事項」

「康太? 君も仲間だからね?」

 

去年から付き合いがある二人でFクラスなのは残念だけれど雄二も含めて知ってる人が居るのは正直助かる。

 

「ってあれ一人居ない?」

「アイツがFクラスにいる訳ないだろう」

「うむ、彼奴は学年次席らしいぞ?」

「………しかも首席と10点差」

 

僕たちとつるんでいた筈なのにどうしてこうも差ができているのだろう。

そんなことを考えていたら先生が入ってきた。

 

「おはようございます。Fクラス担任の福原です。 皆さん、卓袱台と座布団に不備はありませんか?」

「卓袱台の脚が折れそうなんですが」

「木工ボンドとガムテープを支給いたします」

「窓が割れてるんですけど」

「新聞紙とダンボールも用意しますね」

 

設備最底辺Fクラス。

机と椅子はなく、卓袱台と座布団。

教室内はカビ臭い畳が敷かれており窓も須川くんが言ったように所々割れている。

冬場死人が出るのではないだろうか。

 

「さて、2年生になった皆さんに転校生の紹介です。 入ってきてください」

 

転校生。

その単語でピンと来た。五月さんだろう。

なんというか通学路での様子通りだったんだね…こんな女の子が一人しかいない教室に放り込まれるのは可哀想だ! 少し気にかけてあげよう!

なんて意気込んだ僕の気持ちを他所に、開かれた教室のドアから入ってきたのは五人の美少女だった。

五月さんがやっぱり五人居る。

 

「では自己紹介を」

「中野一花です」

 

最初に挨拶をしたのはショートヘアの五月さんそっくりな少女でどこか大人っぽい雰囲気。

 

「中野二乃よ」

 

続いたのはパッツン前髪のロングヘアー、黒い蝶の髪飾りをしていて少し勝気そうな印象を受ける。

 

「…中野三玖、です」

 

セミロングであまり表情が見えない大人しそうな子。

 

「中野四葉です! よろしくお願いしますっ」

 

ボブカットに緑の大きなリボンを付けた元気な女の子。

 

「中野五月です。よろしくお願いします」

 

そして今朝会った五月さんだった。

 

「では、空いてる好きな所に座ってください」

 

「「「「「え?」」」」」

 

うん、戸惑うよね。

とりあえず空いている場所に座り込む五人。

 

「あ、吉井くん。今朝はありがとうございました」

「五月さんと一年間同じクラスだね。よろしく」

 

最低クラスで一緒、というのはあまり喜ばしいことではないけれど。

 

「全員揃った事ですし廊下側の人から自己紹介でもお願いします。中野さん達は皆さんのことを知りませんからね」

 

福原先生の指名を受けたのは先程僕に声をかけてきた秀吉だ。

 

「木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる」

 

独特の言葉遣いと小柄な体躯。

去年一年見慣れていなければ女子と間違えてしまうほどの容姿で双子のお姉さんが居るようだ。 優子さん何処のクラスなんだろ?

 

「──と、言うわけじゃ。 今年一年よろしく頼むぞい」

 

ニコッ、と微笑む姿に僕の心はきゅん…と高な──危な!? 秀吉は男だぞ!?

 

「……土屋康太」

 

次は…うん、康太だ。今更自己紹介を聞くまでもない。口数の少なさは相変わらず、背丈も去年からほぼ変わっていない。

続く須川くんや横溝くんの自己紹介も聞いていると改めて男子の多いクラスだな。

学力最低クラスってこうも女子が少ないのか…中野さん達には悪いけれどFクラスに来てくれたおかげで華やかさがあるのは助かることだ。

 

「趣味は吉井明久を殴ることです」

「誰だそんな恐ろしい趣味を持ってる奴は!?」

「はろはろー」

 

とんでもなくピンポイントで恐怖を煽る趣味を持つ人物に思わず声をかけると笑顔で手を振っているポニーテールの女子。

 

「し、島田さん…」

「今年もよろしく、吉井っ」

 

知り合いがあまりいない新学期が始まると思っていたら知り合いばかりの新学期が始まっちゃったよ。類は友を呼ぶ、というが僕はここにいる人たちほどバカじゃない!

それを挨拶で証明してやるっ!

 

「えっと、吉井明久ですっ! みんなと仲良くなりたいので気軽に『ダーリン』って呼んでください☆」

『ダァァァァリィィィィンンン!!!!!!』

 

とても不愉快だ。野太い声の合唱は警察で取り締まるべきだ。

 

「よろしくお願いしますダーリン☆」

 

大きいリボンをした…四葉さんだ!

可愛──ッ!?

 

ヒュン!!! グサッグサッ!!!

 

頬を掠めてカッターやコンパスが飛来し後ろの壁に突き刺さる。

いきなり殺傷沙汰が起き掛けた。

 

「─次は当てる」

 

「─生きて帰れると思うな」

 

「──死刑」

 

当てるもなにも当たってたからね!?

 

「失礼しました。忘れてください、普通に吉井か明久でお願いします」

 

四葉さんの可愛らしい声で前半の不愉快さは軽減されたものの軽率な行動を取るのは辞めようと思うには十分だった。殺されてたまるか。

自己紹介も順調に進み最後に雄二が立ち上がる。

 

「クラス代表、坂本雄二だ。 ご覧の通りFクラスは設備は脆い、空気はカビ臭い。 それに比べてAクラスの設備は見たか?」

 

Aクラスの設備…一体どんなに凄いのだろうか。

 

「エアコンに個人冷蔵庫、リクライニングシートにその他もろもろ…いくら学力に差が有ろうともここまでの格差があっていいと思うか?」

「そんなに凄いのAクラス!?」

「横暴だろ!」

「同じ学費払ってるのに!」

 

次々に声を上げる野郎共。卓袱台を叩き立ち上がっていく。ちなみに叩かれた卓袱台は砕け落ちた。脆すぎる…

 

「そこでだ。俺たちFクラスはAクラスへ『試験召喚戦争』を仕掛けようと思う」

 

ドンッ! と教卓を叩き迫力を付ける雄二に騒ぎ立てていた男子たちは一気に押し黙った。

 

『試験召喚戦争』

文月学園が取り入れているシステム。

文月学園のテストは百点満点ではなく問題数も無制限故、実力次第で幾らでも成績を伸ばすことが出来る。 そしてそのテストの点数こそが『試験召喚獣』の強さとなる為、FクラスやEクラスの生徒が上のクラスの生徒に勝つためには自然と勉学を頑張らなければならない。

向上意欲を促すシステムだ。

 

「だけど俺たちFクラスが勝てるわけないだろ」

「そうだそうだ! 俺たちとどんだけ差があると思ってるんだよ」

「中野さんたちが居るだけで俺たちはいい!」

 

中野さん達は何の話か分からないと首をひねり、男子たちは無理だと喚き立てる。

僕だってこのクラスがAクラスに勝てる訳が無いとおもっている。 なんたって文字通りAクラスとFクラスでは格が違うのだ。

一人を倒すのに三人…いや下手をしたら五人掛りでも負ける程に。

 

「お前らここで勝って、いい設備を使えるようにしたらカッコいいところを見せるチャンスだと思うがな」

 

『よっしゃぁあああ!! Aクラスなんてなんぼのもんじゃぁぁぁああ!!』

 

なんて単純な奴らなんだろう。

 

「安心しろ勝てる算段はついている。 このクラスには木下秀吉と土屋康太がいる」

「木下ってあの木下優子の…」

「土屋康太…そうか奴が寡黙なる性の探求者(ムッツリーニ)!」

 

やっぱり有名人だよなぁ…あの二人は。

特に康太の方はムッツリとしてだけど。今も畳に顔を押し付け、少し斜め後ろの三玖さんのスカートを覗こうとしていた。

 

「それに俺も全力を尽くす」

「坂本って昔は神童って呼ばれていたよな…っ」

 

雄二も地頭がいいのは認めよう…。

 

「そして吉井明久もいる」

『誰だそれ』

「折角指揮が上がりかけていたのに何故僕の名前を出した!?」

「明久は観察処分者だ」

「観察処分者ってバカの代名詞だろ?」

「使えねーじゃん!」

「みんなの言葉がグサグサと刺さるよ!!」

 

「順を追って計画を伝える! 多少なり勉強はしておけ!」と付け加えるとLHRが終わり雄二がこちらに寄ってきた。

 

「さてと、これでクラスの連中は焚き付けた。どうせお前もやるつもりだったろ明久」

「ま、まぁねぇ…中野さん達が可哀想でしょ。このクラス設備」

「流石のわしもこの設備には驚いたのう…」

「………座布団も固い」

「あの、ちょっといいですか?」

 

僕が座っていた場所に集まってくると、自然と隣に座っていた五月さんも話に巻き込まれる位置になる。

 

「あたしも、話を聞きたいんだけれど。 坂本だっけ?」

「私も聞きたいですっ! 試験召喚獣とか!」

「まあまあ、みんな落ち着いて聞こうよ」

 

二乃さん、四葉さん、一花さんもやって来て華やかさがグンッと上がった。 三玖さんは康太みたく口数が少ないようだけれど無理して話す必要もないしね。

 

「次女に長女に四女に…そっちが三女か」

「名前で呼びなさいよ坂本」

「別にいいだろ。 それで『召喚獣』の事だったな? 明久、福原先生に許可もらって召喚しろ」

「えぇ!? でも理由もなく貰えるかなぁ…」

「デモンストレーションとか言っておけば大丈夫だろ」

 

仕方なく腰を上げて福原先生に掛け合うと少し疑われながらも許可を貰えた。

なんで疑われたんだ僕。

 

「と、とりあえず召喚するよ? 試獣召喚(サモン)!」

 

ボンッ、と足元に現れたのは凛々しい顔つきをした僕のカッコいい試験召喚獣…!

 

「え、ダサっ。小さいヤンキー?」

「……かっこ悪い」

「召喚獣って、その…みんなこんな感じなんですか?」

「あっはは、ちっさくて可愛いね」

 

一花さん以外に不評が過ぎる。

 

「いやダサいのは明久だからだ」

「雄二だって僕のと遜色ないじゃないか!」

 

雄二の召喚獣は白い特服にメリケンサックというどこの時代のヤンキーだって感じの召喚獣。

対して僕のは長丈学ランに木刀だ。

 

「にしてもこれが召喚獣ねぇ………こんなので戦えるの?」

「まぁ、操作はある程度慣れないと難しいのう…一年の頃には授業で操作訓練があったくらいじゃ」

「……明久は学年で一番上手い」

 

観察処分者って召喚獣を使って先生の手伝いとか良くするから自然と召喚獣の扱いが上手くなぁるぅぅううううう!??!

 

「どうして吉井くんは頭を抱えてのたうち回ってるのですか!?」

「あぁ、観察処分者ってのは召喚獣が負ったダメージの何割かをフィードバック…つまり自分が受けるんだ。 そこの四女が明久の召喚獣を叩いてるからだな」

「えぇ!? 吉井さんごめんなさい!?」

「あ、謝らなくていいから叩くのやめ、おおぉおおお!!!!!?」

 

割れる! 頭がパッカリ割れる!!

 

「まあ、こうなるのはコイツだけだ。 中野姉妹にはある程度動かせられるようにしてもらうがな」

「これを見せられて前向きに考えられるわけないわよ」

「……それに人に見せられるような点数でもない」

 

ようやく叩かれるのが止まると二乃さんと三玖さんがドン引きした表情で僕を見下ろしていた。

 

「大丈夫だよ。このクラスに人に見せられるような点数を取ってる人なんていないから!」

「それはそれでどうなの?」

「私は…その勉強を頑張るので…」

「私も!私も頑張りますよ!」

 

うぅん、五人姉妹で前向きなのは四葉さんと五月さんだけか…僕も勉強を頑張るってことは無いけれども。

 

「とりあえず今日は中野達の学校案内が先だろう。島田、頼めるか」

「もちろん。ウチで良ければ学校案内させて?」

 

という訳で、昼休みには島田さんが五人を引き連れて校内探索に出ていったので男だけで屋上に上がり昼食を取る事となった。

 

 

 

「最初はDクラスだ。 ここが弱くもなく強過ぎる相手でもない。Fクラスの士気を上げるにはもってこいの相手だな」

「雄二が言うならそうなんだろうけど…いまいち僕たちが格上クラスに勝てる気がしないんだよねぇ…」

「少なくとも正面からの戦いでは勝てぬじゃろうなぁ…」

「……肉盾戦法」

 

級友の肉体を盾として敵陣にくい込むか…なるほど。

 

「いやDクラス相手なら2対1に持ち込めば負ける要素はほぼない。が、俺達には一発の大きな一撃がないのは確かだ」

 

各々が昼食を取り出して摘みながらあーだこーだと試召戦争に話し始めたので僕も昼ご飯を準備していると二乃さんが屋上に入ってきた。

あれ、二乃さん?

 

「あんた達。美波どこに行ったか知らないかしら」

「どこに行ったも何もお前たちを連れて校内案内してただろ」

「……はぐれたのよ」

 

なんだろう今朝も似たような事があったような気がする。朝は五月さんだったけど。

 

「姉妹揃って迷子気質か」

「違うわ!! 学校が入り組んでるから悪いのよ」

「旧校舎と新校舎でだいぶ違うと思うんだけれど…そういえば朝はどうやってきたの二乃さん」

「五月達と一緒に歩いてよ。あの子がはぐれて地図がなかったから私たちも迷ったけど」

 

五月さん地図持ってたのに迷子になってたの…?

というかこのご時世、携帯で調べられると思うのだけれど。

 

「仏頂面の男子に学校まで連れてきてもらったわ……ところで吉井、あんたが手に持っているそれは何?」

「え、僕のお昼ご飯だよ?」

「お昼ご飯…?」

「うん、今月はちょっと厳しいから塩と水をちょっとね」

「……頭が痛くなってきたわね」

「えぇ、大丈夫!? 雄二、僕は二乃さんを保健室に連れていくよ」

「あんたの所為よ!!」

 

なんで僕が怒られたのだろう。あれ?塩を舐める前から何だかしょっぱいや。

 

「明久、放課後に時間を作って中野姉妹の召喚獣の練習するぞ」

「あ、それいい「無理よ」ね……って無理なの!?」

「むっ、何かしら用事があるのかのう?」

「家庭教師が来るらしいのよ………何よその目。分かってるわ、私たちは勉強出来ないし。でも勉強したい訳じゃないのよ。少なくとも私はね」

 

何処か苛立だしげに遠くを見つめる二乃さんにかける言葉が思い浮かばずに塩を舐めて水を飲み、少しの贅沢として砂糖も舐めているとゴミを見るような目で二乃さんがこちらを見ていた。

無視しよう。

 

「あ、二乃。みんなと居たの?」

「ま、まぁね。」

「皆さんもご飯ですか!」

「吉井くんは…一体何を食べてるのですか…?」

「塩水だよ!」

「それはご飯では無いです!!」

 

三玖さんだけは見当たらないけれど軽い案内は終わったのだろう。

三玖さん、あまり人付き合いが得意ではなさそうだけれど時折気にかけるとしよう。




問題
時に食用できる地下茎を持つ、英語で『Lily』という名の植物を答えなさい。


霧島翔子の答え
『ユリ』

教師のコメント
正解です。霧島さんには簡単すぎたでしょうか。 地下茎は鱗茎と呼ばれ、養分を蓄え厚くなった葉で、ネギやらっきょうなども含まれています。



中野五月の答え
『おイモ』

教師のコメント
芋は種類にもよりますが「potato」や「tuber」と言います。もっと砕けたのスラングな言い方は「spud」となります。
さつま芋は「Sweet potato」ですね。



吉井明久の答
『ジャガイモ! 山芋! さつま芋!』

教師のコメント
あなたも芋ですか。



土屋康太の答え
『百合に挟まる男は死』

教師のコメント
土屋くんの趣向は大いに構いませんが答えは百合だけでいいです。


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バカと次女と召喚獣

名前はまだ出てきませんがもう1人の主人公の影がチラホラと出てきます。
また彼は一年生の頃に明久達と同じクラスだった為……

感想、お気に入りありがとうございます!


翌日

最前に陣取っている二乃さんの機嫌は最高潮に悪かった。

流石にバカな僕でも地雷原に突撃するほど愚かでは無いので逆に上機嫌にパンを頬張っている五月さんに事情を聞いてみる事にした。

そのパンがあれば僕は3日ほど生きていけるカロリーだ!

 

…因みに何とか二乃さん話しかけようとした須川くんは既に罵詈雑言をその身に受けて灰と化して風になった。

 

「家庭教師が昨日の夕方に来たんです。 その、同い年の男の子で…それがどうにも二乃は気に食わないようでして…」

「あぁ、昨日言ってたもんね。人を呼んで勉強とか考えたことも無いなぁ…」

「私も考えてなかったのですが…お父さんが…」

 

厳しいお父さんなようだ。

 

「で、でも凄い家庭教師さんだったんですよ! 授業はとっても分かりやすくて…初対面でお前、不器用だろうって言われて面を喰らいましたが」

 

なんだろう、去年の夏ぐらいに僕も「お前はバカすぎる」って言われたことを思い出した。

 

「今日は私にあった参考書とプリントを持ってきてくれるって言ってました!」

 

なんでこんなに意欲があるのに神様は彼女に相応の学力を与えなかったのだろうか?

天は二物を与えないとかそういう?

 

「あー……でもやっぱり二乃さんはそういうのが嫌なのかな」

「…はい。 二乃もそうですが一花と三玖も家庭教師の人に会うだけで勉強はほぼ…」

「私はちゃんと参加しましたよ!」

「あ、四葉さん。おはよう」

「おはようございます吉井さん!」

 

少し遅れてやってきた四葉さんが僕の前に座るとこちらを向くように座って卓袱台に片肘をついて微笑んだ。

 

可愛───はっ、殺気!?

 

咄嗟にカバンを構えると彫刻刀が突き刺さる。

寸分の狂いのない投擲にこの殺意、康太だな!?

 

「………処刑対象」

「よーし、ムッツリーニ! 僕と取引しようじゃないか!」

「土屋くんおはようございます…その彫刻刀は投げるものでは…」

「ムッツリーニさんおはようございます!」

「……ムッツリじゃない…!」

 

流石に女子にその呼び方をされるのはキツイのか必死に首を振っていたのでこのまま処刑はなかったことにしてもらおう。

 

「吉井さん、五月と何のお話していたんですか?」

「あぁ、昨日来たっていう家庭教師の話を」

「なるほど! 昨日私たちを学校まで案内してくれた方だったんですよ家庭教師!」

 

随分と世間は狭いものだ。

二乃さんが言っていた仏頂面の家庭教師かぁ…そうなると……

 

「今日の放課後も召喚獣の練習は厳しいかぁ…」

「…あ、そうですよね。すみません…」

「あ、いやいや大丈夫だよ! 五月さんも四葉さんも勉強頑張っている訳だし!」

 

とは言ったものの雄二にはどう伝えよう。

僕としては頑張ってる五月さんと四葉さんは応援したいので無理強いすることはしたくない。

 

「ま、最悪Bクラス戦までに召喚獣をなんとか出来ればいい。 Dクラスは相手じゃないしな」

「あ、雄二! おはよう。今日は遅かったね?」

「ちょっと調べ物をな。四女と五女は勉強して学力を上げればどの道クラスとしてはプラスになる」

「坂本さん、せめて名前で呼んでくれませんか?」

「五女って逆に言い難いような…」

「どっちだって同じだろ。 明久、とりあえずお前は残りの一、二、三を何とかしろ」

「最早数字しか言ってないよ!?」

 

そして一二三さんをどうにかするの僕なの!?

 

「吉井」

 

目の前に立つ雄二の横に並ぶように二乃()さんが立っていた。

 

「な、なにかな二乃さん!?」

「放課後やるわよ」

「えっと…僕お金もってないけど…」

「召喚獣ってやつの使い方を教えてくれるんでしょ? それとあんたがお金もってないのは昨日の昼だけで十分知ってるわよ。 本当は美波に教わりたかったけど…美波も吉井が一番上手いって言ってたわ」

 

島田さんが僕を褒めていただって!?

明日は鉄人が降るのではないだろうか。

 

「二乃…今日も……その家庭教師が…」

「…知らないわそんなの」

「二乃…!!」

「その辺にしておくのじゃ。朝から喧嘩なんぞしても面白くなかろうに」

 

秀吉の仲裁で二乃さんは直ぐに席へと戻り、少し離れた席で事を伺っていた一花さんと三玖さんも興味を失ったように腕枕の中で眠りへと向かっていった。

うん、難しそうな話だね!

 

そのまま特に何も無く放課後を迎えると三玖さんが廊下を走りそれを男子が追い掛けていた。

走るっていってもそんな速度ではなかったけど互いに。

一花さんもなんだか理由をつけて帰ってしまったので結局、朝言ってた通りに二乃さんだけが教室に残っていた。

 

「それじゃあ鉄…西村先生お願いします!」

「今、鉄人って言いかけなかったか? まぁ、いい承認する」

試獣召喚(サモン)!」

 

【Fクラス 吉井明久 保健体育 42点】

 

ボンッ! と僕の召喚獣が現れるとちょこちょこと二乃さんの前を左右に軽く歩いてみせる。

 

「…ダサいわね」

「昨日に引き続き今日まで!? そう何度も言わなくたっていいじゃないか! とりあえず二乃さんも召喚して。 試獣召喚(サモン)って言えば出るから」

「はぁ……試獣召喚!」

 

【Fクラス 中野二乃 保健体育 31点】

 

二乃さんの前に出てきたのは鎧を着込み大振りなランスを持った小さな二乃さんだった。

あれかな、ガードの硬さ的なものが召喚獣に反映された?

にしても武器は長物かぁ…僕は木刀だし上手く教えれるかな。

 

「…歩くのも難しいんだけど」

「召喚獣だと視線の高さとか違うからね。ラジコンを操縦する感覚…とはまた違うかも」

 

二乃さんの召喚獣の周りを僕の召喚獣がちょこまかと動き回る。直進とか左右の動きはすぐに出来るようになるんだけど斜めとかジャンプとかって意外と難しいんだよねぇ…

 

「ゴキブリみたいな動きね」

「ゴキ…ぐへぁ!?」

「あ、当たったわ」

 

あまりの言われように驚き召喚獣の動きが止まった瞬間に二乃さんのランスが横殴りに僕の召喚獣を吹き飛ばした。フィードバックが痛いけれどあまり点数差がないのが救いだった。

 

「何をやっとるんだお前らは…」

「見て分かりませんか特訓です!」

「それは分かるがな」

 

呆れた様子の鉄人はそれ以上何かを言う訳ではなく教室の隅で成り行きを見守るように立っている。

不気味だ!

 

「と、とりあえず二乃さんは自由に動けるのが目標だね。その後に攻撃とか回避とか」

「ふーん…ま、いいわ。 時間を潰せるならそれで」

 

不格好ながらも歩き方向転換する召喚獣を眺めながら時折僕の召喚獣が小突く。

イラッとした様子でランスを振るうも先程のような不意打ちでは無いために軽くヒョイと避けてみせる。そんなことを何回か繰り返していると─

 

「いい加減にしなさいよバカ(吉井)!」

「うぇえ!? いや、ほら召喚獣の練習だしダメージも与えてないよ!?」

「人が珍しく真面目にやってるってのにちょっかい出してんじゃないわよ! あと避けるな!」

「避けないと僕が痛いんだって!?」

 

怒りのスイッチが入ると先程までのたどたどしさは何処へやら、確実に僕を仕留めるべく走り突きやら殴打の応酬が襲いかかってくる。

本当に初心者なの?!

それから1時間あまり、つまり完全下校時間までは二乃さんとあと途中から美波と秀吉が加わって召喚獣を動かしていた。

 

「んー、一日で結構動かせるようになったね!」

「そうかしら、あまり実感がわかないけど」

「最低限動けるようになればDクラス戦はそこそこ戦えそうだよ! あ、でも持ち点ゼロになると戦死扱いになって戦争終わるまで補習だから気を付けてね」

「は、はぁ!? なによそれ!?」

 

家庭教師から逃げて召喚獣の練習していたのに戦死すると勉強しないといけないのこれ如何に。

 

「とにかく明日もやるわ。あいつに会わないためなら仕方なくバカに指示を受けるわ」

 

そこまで嫌われる家庭教師、一体どんな人なんだろうか。 僕達と同じ歳って五月さんは言ってたけど。

 

「…一応お礼は用意しておくわ。 あんた惨めだし」

「お礼なんていいよ! 施しは受けるけど!」

 

じゃ、と軽く手を振って帰っていく二乃さんを見送る。

まさか後に家庭教師を巡って雄二が犠牲になるなんてこの時は思いもよらなかったんだけど。

 

 

 

新学期3日目の放課後。

二乃さんとの特訓も終わったし今日は新作のゲームが家に届く日だし受け取りを夜にしておいて良かった。

カバンを担ぎ、下駄箱へと向かうと下駄箱の前に先程まで教室にいた顔が座っていた…いや…

 

「二乃さん…じゃなくて三玖さん?」

「…………たしか………………」

 

僕の顔を見たままフリーズした。

そんなに僕の顔かっこいいのかな。

 

「………ごめんなさい」

「なんで謝られたの!?」

「……名前思い出せなくて」

 

良かった、唐突にフラれたのかと思っちゃった!

 

「吉井明久だよ。吉井でも明久でも好きに呼んでねっ」

「それじゃあアキヒサ」

「うん、それでどうしたのこんな時間に下駄箱の前で座り込んで…あ、二乃さんを待ってた?」

「………ううん。すこし、考え事」

「吉井! まだ帰ってなかった……む、中野……三玖か? どうした」

「あ、西村先生。 三玖さん少し考え事してみたいで」

「そうか暗くなり始める時間帯だから気をつけて帰りなさい。 吉井はバカだが盾ぐらいにはなる男だ。吉井」

「あ、はい! 気をつけて帰ります。 行こう三玖さん」

 

鉄人もこういう時、大人というか教育者なんだよなぁ…と改めて思ってしまった。 4月とはいえ6時を回れば薄暗くなってるし女の子一人で帰宅は危ないだろう。

 

「……無理しなくていいから」

「いやいや、三玖さんみたいな可愛い子がこんな時間に一人で歩いてたら危ないって! それにクラスメイトだし僕としてはみんなと仲良くしたいからね」

「……ありがとう」

 

無言の時間が続く。

学校になれた? とか3日目にして聞くような事じゃないし、僕は気の利いた男子だからね!

 

「…アキヒサは勉強出来ないの?」

「へ? そりゃまぁ…Fクラスにいる程度には出来ないよ?」

「……突然知らない人から、…本当に知らない訳じゃないけれど、そんな人から『お前たちは勉強ができる』なんて言われて信じられる…?」

 

知らない人から勉強が出来るって言われたら…?

うーん、僕は馬鹿だし…でも。

 

「信じられないかもしれないけど、信じたいって思うかな?」

「信じたい…?」

「うん。 三玖さんがそんなに悩んでるってことは…きっとその人が真剣に言ってくれたって思ったんじゃないかな? 真剣に、言ってもらえたことなら僕は信じたいかなぁ」

「……そっか」

 

それ以降、三玖さんは口を開くことなく彼女の家であろうとんでもない高層マンションに到着した。 僕の住んでるところもそこそこイイつもりだったけど、ここは格が違う…!

 

「……送ってくれてありがとうアキヒサ。また明日ね」

「あ、うん。また明日三玖さん!」

 

 

 

「三玖が勉強し始めたんだけどあんた、何か知らない?」

「へ? 勉強し始めることはいいことじゃない?」

家庭教師(アイツ)に教わり始めたのよ!」

「い、いやぁ…家庭教師から勉強を教わらない方が僕としては不思議なんだけれど……」

「………………あ、そうだ吉井。 ほらこれ、一昨日言ってたお礼よ。一応だけれど教えてもらってるし」

 

二乃さんが差し出してきたのは小さな袋に入ったナニか。 思いっきり話を逸らされた気もするけど中身を見た瞬間、僕はそんなことを忘れて受け取ったそれを掲げてしまった。

 

「お弁当!!? いいの!?」

「五人分作るのに一人増えたところで変わらないし」

「ありがとう二乃さん! これだけあれば1週間は生きられるよ!」

「なんでその量を数日に分けて食べようとしてるのよ!? 何日かに一回ぐらいは作ってあげるわ」

「…女神?」

「敬いなさい」

「ははぁ…!!」

 

なんて優しい女の子なんだ…! 今日の二乃さんは輝いて見える。

その時、不意に視線を感じた。 まさか僕から1週間分のカロリーを奪う輩!?

咄嗟に視線を感じた方へと目を向けるとフワッとした髪がなびいて見えたが逃げるところだったからか顔までは見えなかったのだけれど…

 

「姫路さん…?」

「なに、吉井の知り合い?」

「えっと、小中の同級生かな」

 

たしか今はAクラスだったはず…なんで屋上なんかに姫路さんが来てたんだろう?

 

「ここに居たか明久、次女」

「あ、雄二! 今姫路さんとすれ違わなかった?」

「姫路…? あぁ、Aクラスの。すれ違ったぞ。 それよりも次の月曜日だ」

「「月曜日?」」

 

はて、なんの話しだろう。二乃さんも分からないといった顔でこっちを見ている。うーん、綺麗な顔だ。

 

「朝イチでDクラスへ宣戦布告、昼にはそのまま開戦する」

「本当にDクラスで大丈夫なの?」

「次女、Dクラスってどんなクラスだと思う」

「Fクラスよりは頭いいんでしょ」

 

うん。正解。

 

「明久、Eクラスはどうだ?」

「僕達より頭いいよね」

「はぁ……いいか、Eクラスのメンツは主に体育会系部活の連中だ。 部活に精を出し多少勉強を疎かにしているが…中にはCクラス並の連中も居る。 比べてDクラスは上にも下にも動けない成績だ」

「なるほど…」

「それで、来週の月曜ってのには理由があるのかしら」

 

そうだよ、どうせやるなら今日明日のほうがいいんじゃないのかな。なんて言おうとしている雄二は先駆けて理由を説明した。

 

「今週一杯はお前たちには召喚獣の練習を続けてもらう。 それに進級試験が終わったばかりだし俺達Fクラスが試験召喚戦争をやるとは思いもよらないだろう。 そうタカをくくっているうちにこっちは補充試験で点を稼いでヤツらを叩く」

 

確かにクラス替えして最初の週から補給テストなんて受けるわけないか。それにしても雄二って僕と同じバカなのに色々と考えてるんだよなぁ…

 

「って事でだ、少なくとも次女は戦えるレベルになってもらう」

「ま、やるだけやるわ」

「それと宣戦布告は明久にやってもらう」

「待って、下位クラスからの宣戦布告って酷い目に遭わない?」

「これは明久にしかできない事だ」

「嫌だよ!? どうせ荒事になるんだって分かってるからね!!」

 

袋叩きにあうのが目に見えてる。

 

「大丈夫だ。明久なら居てもいなくても大丈夫だからな」

「やっぱりそういう事か貴様!!」

「そんなに嫌ならジャンケンか何かで決めればいいじゃない」

「え、二乃さんもジャンケンしてくれるの?」

「しないわ」

 

しないのか…

まあ、宣戦布告の使者なんて可愛い女の子にさせるつもりはなかったけどさ!

 

「じゃあ雄二、僕は頭を使うよ! 僕はチョキを出す!!」

「なるほど。お前にしては頭を使ったな…じゃあ俺はお前がチョキを出さなきゃ…ぶん殴る」

 

なんて?

 

「ジャンケン…!」

「ちょ、ちょっと待っ─「ポン!」─くっ、ポン!」

 

チョキを出したのに殴られたし負けた。




問題
『少年探偵団』や『怪人二十面相』を世に送り出した、日本の小説家の名前を答えなさい。



姫路瑞希の答え
『江戸川乱歩』


教師のコメント
正解です。さすがですね、姫路さん。
江戸川乱歩は大正から昭和にかけて活躍した、推理小説を得意とした小説家で、アメリカの文豪、エドガー・アラン・ポーの名に因んだペンネームです。



中野三玖の答え
『コナン・ドイル』


教師のコメント
コナン・ドイルは1800年代中期から1900年代前期にイギリスで活躍した人物です。代表作は『シャーロック・ホームズ』シリーズや『ジェラール准将』シリーズになります。
テストにはこのように作者を答えなさい、又はこの作者の作品名を答えなさいのような問題が多く出る場合がありますので、作品と作者の結び付きをしっかりと覚えましょう。 時間がある時に読書をしてみるのもいいかもしれませんね。



吉井明久の答え
『犯人はこの中にいる!』


教師のコメント
先生は犯人ではありません。



中野四葉の答え
『犯人は吉井さん!』


教師のコメント
まさかの展開過ぎて先生は困っています。
彼は何をしたんでしょうか。


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バカと長女と試召戦争

創作用のTwitterアカウントでも作ろうかと思います。
ウマ娘怪文書やら思いついたSSを垂れ流すだけの。


「吉井! 木下たちがDクラスの連中と渡り廊下で交戦開始したわ!」

 

ポニーテールを揺らしながら走ってきたのは僕と同じ前線第二部隊に配属された島田さん。 こうして改めて見ると脚もスラッと長く、顔立ちも整っていてスタイルもいいのにどうして僕は彼女に女性としての魅力をあまり感じないのだろうか…

島田さんに続くようにやってきたは同じ部隊に配属された一花さん。

ふと、一花さんと島田さんを見比べるとピンと来た。

 

「あぁ、胸か」

「どの指から剥がされたいかしら。 大丈夫よ、全部剥ぐから」

「うーん、擁護しきれないなぁ…」

 

不味い、あまりにもな胸囲の格差社会に口から言葉が漏れ出ていたようだ。何とかして話を逸らさなければ。

 

「そ、それより試召戦争に集中しよう! 一花さんたちは初めての実戦なんだし! 一花さんはとりあえず動かせることは出来るんだよね?」

「うん、二乃ほどじゃないけれど明久くん達が教えてくれたからね」

 

先週末、家庭教師が来ない日に二乃さんを除いた全員に、とりあえず簡単な召喚獣の操作を教えることが出来たので後は戦死しないことを心掛けて動いてもらえれば言うことなしだろう。

前線はどんな様子なんだろう、と耳を澄ませると怒号と共に普段嫌という程聞いている声が聞こえてきた。

 

『負け犬共、戦死者は補習だ!!!』

『げっ、鉄人!? い、いやだ…鉄人の鬼の補習だなんて地獄じゃないか…!!』

『黙れ! 終戦まで時間が掛かるだろうからな捕虜にはたっぷりと指導をしてやるぞ。補習が終わる頃には趣味は勉強、尊敬するのは二宮金次郎、愛読書は学問のすゝめという模範的な生徒に仕立て上げてやろう』

『た、助けてくれ!誰かぁ!誰かァァァ!!!』

 

「……」

「…………」

「総員退避ぃー!!」

 

鉄人の補習だって!? そんなの死に向かうようなものじゃないか!

 

「吉井、ウチらが退いたら木下が危ないのよ!?」

「最前線には二乃もいるし私も撤退に賛成は出来ないかなぁ…?」

 

 

 

「大変だ!! 前線の損耗が激しくて崩壊しかけている!」

 

 

 

「総員退避しなさい!」

「うん、退避しよっか」

 

なんという手のひら返し。惚れ惚れする。

 

「あ、吉井隊長!」

「横溝くん? 配置は代表傍付きだったよね?」

「その代表からの伝言だ『逃げたらコロス』」

「よぉし、全員前線へ突撃!! 作戦はガンガンいこうぜ!!」

「「「「「おぉぉぉおおおおお!!!!!」」」」」

 

秀吉と二乃さんは必ず助け出すんだ!

崩壊しかけている前線へ全速力で駆け込むと学年主任の高橋先生が居る。ということは、総合科目か…!

 

「Fクラス吉井明久、召喚します!」

「島田美波、召喚します!」

「中野一花、召喚しますっ」

「承認します」

「「「試獣召喚(サモン)!」」」

 

【Fクラス 吉井明久 総合科目 521点】

【Fクラス 島田美波 総合科目 643点】

【Fクラス 中野一花 総合科目 562点】

 

流石Fクラス。総合科目だというのに軒並み点数が無惨な数値だ。

因みに、僕らが将来的に戦おうとしているAクラスの下辺りで総合科目は2400点とかなので僕らの点数は吹けば消し飛ぶ程度である。

それでも今の相手はDクラスだし、前線部隊とやり合っていた為に彼らの点数は無傷の第二部隊よりもかなり低くなっている。

 

「Fクラスの増援…!?」

「くそ、五十嵐先生と布施先生はまだか!?」

 

五十嵐先生に布施先生ってたしか化学の先生!

学年主任一人だと召喚フィールドが限られるから人数を増やしてDクラスは速攻戦にするつもりか!

 

「島田さん、一花さん! 化学の点数は!?」

「60点台ね」

「たしか50ちょいかな」

「よし、先生2人がこっちに来る前に削れている敵から確実に減らすんだ! 戦死していったクラスメイトのためにも!」

 

そういう僕は30点ちょいだった気がする。

荒れ狂う波のようにFクラスの召喚獣達が手傷を負ったDクラスの召喚獣を飲み込み、次々と戦死者を出していく。

 

「隊長首を取れ! そうすればFクラスなんてバカの集まりだ!」

 

【Dクラス 御厨仁 総合科目 218点】

【Dクラス 涼城白亜 総合科目 334点】

【Dクラス 実原氷里 総合科目 487点】

 

前線部隊が削ってくれていたおかげで僕達でも勝てる!

一花さんも島田さんも押し負けることなくどんどん相手の点数を削っていき、僕も攻撃を躱しながら召喚獣の急所に木刀を叩き込む。

召喚獣も首や関節に攻撃すればその分、大きく相手の点を削ることが出来るのだけれど、よっぽど扱いに慣れていないと狙った攻撃は出来たりしないんだよねぇ。

 

「な、なんで!?」

「どっこいしょおおお!!」

 

バコンっ!と振りかぶった木刀が御厨くんの召喚獣の頭部をしっかりと捉え、彼の召喚獣が粒子となって消えた。

 

【Dクラス 御厨仁 戦死】

 

「戦死者は補習ゥ!!」

「に、西村先生!? ひぃ…ッ」

 

引き摺られるようにDクラスの面々が補習室へと連行され、渡り廊下はFクラスが制圧することが出来た。

今のところ戦況はこちらが有利だろうか…?

学年主任の高橋先生は次の戦場に連れて行かれ、すれ違うように二人の美少女…二乃さんと秀吉がやってきた。

違う、秀吉は男だ。

 

「明久、助かったのじゃ…」

「なんでこっちが崩れるまで来ないのよあんた達…」

「秀吉、二乃さん! 無事でよかったよっ」

「ごめんね木下、二乃。 吉井がひよったのよ」

「逃げようとしてたもんね」

「えぇ!? 二人も逃げるのに賛同していたよね!?」

「三人とも召喚しなさい。 補習室に送ってあげるわ」

 

ヤバい、二乃さんが殺る気だ!

 

「誰か! 前線副隊長が乱心してるから連れてって!」

「ちょ、離しなさいよ!? というかあんたは坂本と一緒に居るはずでしょ三玖!?」

 

いつの間にか最前線にやってきていた三玖さんに羽交い締めにされてFクラスへと連れ去られていく二乃さん。

秀吉を初めとする生き残ったクラスメイトも点数をだいぶ失ったので点数補充のテストを受けるために教室へと戻っていく。

僕達、第二部隊は押し込んだ前線の維持、又は更なる前進が仕事だ。

 

「このままDクラス前まで押し込んで雄二率いる本隊が来るまでみんなで耐えるよ!」

 

第二部隊総勢10名を引き連れ、渡り廊下を進むと布施先生が、そしてそれを挟むように背後の階段から五十嵐先生が現れる。

これってもしかして!!

 

「かかったなFクラス!」

「君は確か塚本くん!」

 

塚本くんはDクラスの副隊長だったはず!

さっきの渡り廊下での戦いは僕達を引きずり出すためだったのか!?

 

「明久くんって結構凄いよね」

「へ? いきなりなんの事?」

「違うクラスの人達もしっかり名前を覚えているでしょ? 凄いなって」

「いやぁそれほどで…ってそんな話してる場合じゃないからね!?」

褒められるのは嬉しいけど相手から挟み撃ちに合ってる最中に言われるのはタイミングが悪いよっ。

 

「塚本くんだっけ? 私は中野一花だよ。よろしくね」

 

しかもご丁寧に挨拶までしてるよ一花さん!? と、思っていたら一花さんがこちらに軽く目配せをしてきた。

も、もしかして一花さん…少しでも時間稼ぎをしようとしている!? 隊長の塚本くんが僕たちに戦いを仕掛けないから他のクラスメイト達もタイミングを逃して視線をキョロキョロと忙しなく動かしている。

 

「私、転校してきたばかりで色々分からなくて」

「あ、あぁ…この学校色々と変わってるから…」

 

と、取り留めのない話をしていると僕達を挟むように立っている片方、五十嵐先生が唐突に姿を消していた。

そしてこちらにしか見えないように柱の影でムッツリーニがサムズアップをしている。

そうか、本隊が向かってきているんだね!!

 

「お姉様! ようやく見つけましたわ!!」

「み、美春!? そういえばあんたDクラス…!?」

「このブタヤロウども、呆けてないでお姉様以外全滅させなさい!」

 

しかし一花さんの時間稼ぎも束の間、Dクラスの方から走ってきた女子生徒が僕たちを取り囲むクラスメイトに向けて檄を飛ばし、ようやく我に返った彼らが次々と召喚していく。

たしか、あの子は清水美春さんだったかな。 どうやら状況を見るに島田さんにご執心らしい。

 

「よし島田さん。任せた」

「ちょっと吉井!? ここは男としてか弱い女子を助けなさいよ」

「いや島田さんには悪いんだけど──」

「お姉様と美春の愛の物語を邪魔をする豚野郎はミンチにしてやります…」

「僕にはこの殺意に飛び込む勇気はないし、一花さんの方が心配だから!!!」

 

清水さんを島田さんに任せて僕は塚本くんの前に立つ。

一花さんだけでは瞬殺されてしまうだろうから。

 

「試獣召喚!」

 

【Fクラス 吉井明久 化学32点】

【Fクラス 中野一花 化学54点】

 

【Dクラス 塚本孝規 化学110点】

 

さすがはDクラス! 戦力差がダブルスコア、トリプルスコアだ!

因みに一花さんの召喚獣をさっきはよく見ていなかったのだけれど、今見ると島田さんの召喚獣みたいに軍服を着てレイピアを構えている。

二乃さんは西洋風?の鎧を着ていたし五姉妹だけど召喚獣は結構違うんだなぁ、とか思ってたりする。

 

「一花さんはとりあえず戦死しないように気をつけて! 僕が塚本くんと切り結ぶ!」

「うん、わかった。無理はダメだよ明久くん。 フィードバック?っていうのあるんでしょ」

 

そうそう、召喚獣の腕を切り落とされたりすると僕自身の腕も焼けるような痛みが走るんだよねぇ…って

 

「危なッ!?」

「ちっ、避けるな吉井!」

「いやいやいや、避けるに決まってるんでしょ…と!」

 

いつの間にか肉薄していた塚本くんの召喚獣の剣を回避するとお返しに木刀を二、三発叩き込む。 点数差が大きすぎるとダメージも上手く与えられないけどね…

 

「そんなへなちょこ攻撃でやられるか!」

「そう簡単にやれるとは思ってないよ! こっちはなんたって二人いるんだし!」

「なっ!?」

「なんてね!」

 

二人いる、と言われて一花さんの召喚獣を探す為に注意が逸れた。それを狙って足払いのように木刀による下段攻撃を放つと塚本くんの召喚獣はそのまますっ転び、図ったかのようにそこには一花さん。

 

「えいっ!」

 

転んだ召喚獣の頭部にブスッ…という音を鳴らしながらレイピアを突き刺す。……なんというかグロテスクなワンシーンになっているけど致命傷も致命傷、点数差なんて関係がない一撃によって彼は戦死した。

 

「隊長塚本くんは一花さんが討ち取ったよ!!」

 

一花さんの代わりに僕が叫ぶとDクラスに動揺が走る。

 

「流石はFクラスの女神が一人!!」

「一花さん愛してるぅ!」

「最高! あと今告白したやつ、異端審問会によって公正な死刑を言渡す」

「素敵っす! 判決は死刑だゴルァァ…!」

 

Fクラスは仲間割れをしていたけれどいつもの事なのでヨシ!!

ところで島田さんはどうなっただろう? 戦死したかな? したらしたで僕の命は繋がるんだけど…

 

【島田美波 化学12点 vs 清水美春 化学81点】

 

ギリギリ持ちこたえていた!?

これはこれで助けに行かないと後々僕がヤバい!

 

「ふふふふふ、お姉様! これでトドメ…私とめくるめく素晴らしい世界を見ましょう!」

「嫌よ!? というかトドメさされたら西村先生の地獄の補習じゃない!」

「地獄の補習もお姉様と二人ならば天国も当然!」

 

掲げられた短剣が振り下ろされる瞬間、咄嗟に木刀をぶん投げて清水さんの剣を弾いた!

 

「なっ!? ─この、ブタヤロウ!!」

 

ヒィ!? おおよそ同級生が放つ言葉と殺気じゃないよ!?

怒り狂った彼女は狂戦士ばりの動きで僕の方へ急接近してくる。 不味い、この点数差だと僕の点数も一撃で消し飛びそうだけど避けるのもギリギリだ。

 

「私も居るよっ」

 

突進してくる清水さんの横合いから一花さんが鋭い突きを放つ。が、驚異的な回避力で一花さんの一撃を屈むように回避。 そのまま転がって僕の方に向かってくる。

 

「さぁ、死になさい! 斬って、開いて、叩いて、捏ねて晒します!」

「具体的過ぎるしなんか料理される気分だよ!?」

「キシャァァァァァ!!!」

 

遂に人語を発することすら出来なくなった清水さんの短剣が召喚獣を穿く。

 

「ぃ゛……こ、のぉ!」

 

間一髪、短剣は左肩辺りに突き刺さり激痛が襲ってくるけど動けないレベルじゃない…!

召喚獣の短い脚でも短剣を突き刺してくるような近距離なら蹴りは届く。 清水さんの召喚獣の腹部に強く蹴りを入れて距離を開けると一花さんと瀕死の島田さんが清水さんの背後から互いに武器を振るって斬りこんだんだけど…如何せん点数差が酷いので何方も致命傷にはならなかった。

 

【Dクラス 清水美春 化学64点】

 

「コロス…ウバウ……オネエサマ」

 

部隊の他のクラスメイト達はまだ手が離せないし三人でこのモンスターを相手しないといけないの!? 三対一だっていうのに勝てる気が全くしないんだけれど!?

 

しかし絶望に打ちひしがれていた僕達に三人の女神が舞い降りた。

 

「…アキヒサ、危ない。 試獣召喚!」

「美波さん!お待たせしました 試獣召喚!」

「一花、よく持ちこたえましたね! 試獣召喚!」

「三玖さん、四葉さん、五月さん!!」

 

三人に続くように雄二が率いるFクラス本隊がDクラスへと猛進してきた!

 

【Fクラス 中野三玖 化学41点】

【Fクラス 中野四葉 化学31点】

【Fクラス 中野五月 化学89点】

 

す、すごい! 三玖さんと四葉さんは無傷なはずなのに下手をすると一撃で殺られる点数だ!?

でも五月さんはDクラスに匹敵する!

そのまま三人は勢いを殺さずに清水さんの召喚獣を攻撃してポリゴン片へと変えてしまった。

 

【Dクラス 清水美春 戦死】

 

「先生!早く連れていってください!」

「おぉ、清水か。しっかりと教えてやる」

「オネエサマ…オネエサマ……」

 

目が虚ろだ。

 

「三玖さん、助かったよ!」

「……この前話を聞いてくれたお礼だよ」

「ねぇ、吉井」

 

お礼だなんて。僕はただ話を聞いただけだ。

 

「四葉さんも助けに来てくれてありがとう!」

「いえいえ、島田さんも一花も無事でよかったです!」

「吉井?」

 

四葉さん、なんて気持ちのいい人なんだ…彼女の爪を煎じて雄二の頭からかけてやりたい。

 

「五月さん、あんな点数取るなんて凄い腕が千切れるように痛いぃぃぃいいいいい!!?」

「ありがとうございます。この前、家庭教師から教わって……吉井くんの腕が変な方向に曲がってますよ美波さん!?」

 

朗らかに援軍の三人と話をしていたら関節をキメられた。

 

「良くもウチを見捨てたわね吉井……!」

「み、見捨ててません! 島田様なら大丈夫だって思いましてぇええ!!」

 

思いの外、ガッツリとキマッていて逃げられない…!

 

「何バカなことしてるんだお前らは…にしても中野姉妹はいい働きをしてくれた。 召喚獣を使い始めたばかりとは思えんな」

「あ、雄二! ホントそうだよね。 二乃さんも前線で頑張っていたし一花さんにも助けられたし…三人のお陰で僕達も戦死しなかったから!」

「明久、俺から話しを振っておいてなんだが関節技をキメられながら平気で話してるお前は異常だ」

 

失礼な。思いの外しっかり決まりすぎていて諦めているだけだ。

 

「須川、島田を教室に連れて行け。俺たちはこのままDクラス代表の平賀を討ちに行く!」

「了解! 動くな島田!」

「は、離しなさい! ウチは吉井を殺さないといけない!」

「須川くん、早く連れて行って!?」

 

二乃さんといい島田さんといい身の危険が身内の間で有りすぎる…!

その後、雄二達の本隊がDクラス内へと乗り込みムッツリーニが見事に平賀くんを討ち取ったらしい。

らしい、というのは僕もかなり点数を失ったのとフィードバックで動けなくなっていたので廊下の隅っこで打ち捨てられていた。

 

「……お前、こんなところで何してるんだ?」

「い、いやぁ…これには水溜まりよりも浅く、小石ほどに小さい理由がありまして…」

 

 

 

 

 

翌日のこと。

 

「Dクラスとは教室交換しない!?」

「あぁ、あくまで俺達の目標はAクラスだ。Dクラスにはちょいとした仕事をしてもらう」

 

まぁ、この手の悪巧みって雄二に任せておけば大抵何とかなるからなぁ…

 

「明久、お客が来ておるぞ」

「僕に? 誰だろ」

 

アイツかな…? いや来る理由はないか。

教室のドアを開けると緊張した面持ちで大きな荷物を持っている可愛い女の子がいた。

 

「姫路……さん…? どうしたのこんな汚らしい場所に」

「え、えっと…吉井くんに用事があって…その……」

 

まさか告白!?

どうしよう参ったな……

 

「「「これより異端審問会開催の準備を行う」」」

 

参ったな!? クラスの前で話すだけで僕の命が!!

 

「お、お弁当作ってきたんです! 食べてください!」

「ありがとう! でも後で受け取るよ!!!」

 

「「「「「「判決 死刑」」」」」」

 

「審議もしてないよぉぉぉぉ!!!」




問題
『家計の消費支出の中で、食費が占める割合を何と呼ぶでしょう』



木下優子の答え
『エンゲル係数』


教師のコメント
正解です。流石、木下さん。ちなみにエンゲル係数という名前は、論文の発表者である統計学者エルンスト・エンゲルに因んで名付けられました。



吉井明久の答え
『今週は塩と水! 時々砂糖水です!』


教師のコメント
栄養素が圧倒的に足りていません。



中野五月の答え
『エンゲル係数』


教師のコメント
五月さんは最近、正答数が増えてきましたね。しっかりと勉強が身に結んでいるようで先生は嬉しいです。



中野一花の答え
『五月』


教師のコメント
中野家のエンゲル係数の比率を見てしまった気がします。


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僕とランチと学年次席

UAが2000超えてお気に入りも70を超えました!
皆様ありがとうございます。


「しかし酔狂な人間も居たものね」

「へ? 何が?」

「吉井に弁当を作ってくる女子なんてよっぽどでしょう?」

 

おかしい、たかだか1週間で二乃さんの中での僕の立ち位置が凄まじい勢いで落ちていってる。

 

「明久如きという点では同意するが、そういうお前だって作ってるだろう次女」

「私はお礼って名目あるし。最近は犬を飼ったらこんな感じかしら?って思いながら施しを与えてるだけよ」

「待って、二乃さんは僕を犬だと思ってるの!?」

「犬じゃないわ。バカ犬よ」

「なーんだ、バカ犬かぁ……って余計に酷いよ!」

「それじゃお弁当はもう要らない?」

犬とお呼びください(ワン)!」

「人としてのプライドがないのかお前は…」

 

プライドでカロリーにありつけるものか!

でも、本当になんで姫路さんは僕にお弁当なんて作ってくれたんだろう。それも重箱で。

「折角の昼飯じゃ、どこか別の場所で食わんかのう?」

「……この時期の屋上は最高。 風が強い」

 

流石ムッツリーニ、パンチラに掛ける情熱を隠しきれていない。

 

「私達もご一緒していいかな?」

「ウチも行くわ! その姫路さんって人のお弁当気になるし…」

「もちろん、じゃあみんなで屋上に行こっか!」

 

文月学園の屋上は新校舎側しか登れないけれども結構広かったりする。加えて教室よりも屋上の方が綺麗なのはEクラスとFクラスぐらいなので、他のクラスの人たちはあまり屋上まで上がってこないから空いているんだよねぇ…。

 

「シート持ってきてる」

「準備がいいね三玖!?」

「こんなこともあろうかと」

 

三玖さんはどんな事があると思っていたのだろう。

 

「そんじゃ飲み物をジャンケンで決めるか。明久、金は貸さないぞ」

「ふっ、雄二。僕を甘く見るんじゃないよ。なんたって今の僕には1500円って強い仲間がいるんだ!」

「まだ四月も初めのはずなんじゃがのう……」

「ジャンケンで決めるんですか? 私もやりたいです!」

「私もやるかなー。 五月は?」

「え、わ、私も……それじゃあ…」

 

あれよあれよと言う間に僕や雄二達に島田さん、中野五姉妹で十人だ。負けられない戦いがここにある!!

 

「それじゃあ行くよ! ジャンケン!」

 

『ポン!』

 

明久→グー

 

9人→パー

 

「………………これ、1500円」

「…あ、ありがとう吉井……その大丈夫?」

「やめて島田さん! 僕だって男なんだ負けた勝負で文句言うつもりは無いよ!」

 

まさか一発で負けるとは思わなかった…! でも仕方ない、ジャンケンで不正なんて出来ないんだから。

 

「あらら〜…」

「本当に坂本の言った通りグー出したわね…」

「驚異的な読みやすさ…」

「ごめんなさい吉井さん!」

「なるべく安いものを選ぶので……!」

「雄二、貴様ァァァ!!!」

 

ジャンケンにも不正があるなんて!!

もっとも僕がグーじゃなくてチョキを出していれば一人勝ちだったわけだけれども。

 

「私たちは飲み物買ってきますね。何か希望ありますか?」

 

五月さんが僕たちのリクエストを取りまとめて一花さん達、女子陣と一緒に買いに行ってくれた。何故か二乃さんだけは面倒くさがって残ったけど。

因みに僕のリクエストは水だ。

 

「それじゃあ開けるよ…!」

 

重箱を開けると煌びやかで彩のいい料理の数々が型崩れしないよう丁寧に詰められていた。

すごい!二乃さんのお弁当とはまた違う感じだ!

 

「へぇ、美味そうじゃねぇか」

「味見してあげるわ」

「あ、ちょっと二人とも!」

 

ヒョイ、と雄二と二乃さんが唐揚げと卵焼きを摘み上げて口に放り込んだ。

 

「ケチケチすんなよ。こんなにある─ゴパァッ!?」

「私の弁当もあるじゃ──カハッ!?」

 

バタリと、雄二と二乃さんは顔面蒼白になりながら倒れ込んでしまった。その身体は物凄い勢いで痙攣している。

 

え?

 

「…………これは、毒」

「まさか、姫路は明久を毒殺しようと?」

「姫路さんがそんな事するはずないよ!? って事になると…」

 

この弁当、姫路さんの実力で作られたヤバいものってこと!?

 

「明…久…………食え」

「僕死んじゃうよ!?」

「吉井…………あの子達をよろしく」

「待つのじゃ二乃、死ぬには早い!」

「…致命傷」

 

雄二はどうなろうと構わないが二乃さんはダメだ! 僕の救世主なんだから!

 

「買ってきたわーって、なんで坂本と二乃が倒れてるの?」

「し、島田さん!? これはその、えーと……眠くなっちゃったんだってさ! あ、そうだ島田さん悪いんだけれどお茶をもう1個追加で買ってきてくれないかな! 何でも言う事聞くし、お金は……僕の財布を持って行っていいからぁ!」

「必死すぎて怖いわよ………なんでもね、分かったわ。五月達は少ししたら戻ってくると思うから」

 

先に戻ってきた島田さんから飲み物を受け取り、追加で買ってきてもらうようにお願いするとお茶のキャップを開けて二乃さんの口に流し込む。生き返って!?

 

「ぷはっ!? はぁ、お母さんが見えたわ……」

「良かった、目が覚めたんだね!」

「あれはなんなの…卵焼きの形をしたナニカだわ……」

 

まさかそこまでの毒性とは……残った弁当どうしよう。投げるのは姫路さんに申し訳ないし…

 

「投げましょう」

「待って二乃さん! それは食材と姫路さんに申し訳ないよ!」

「ならアンタが食いなさいよ! こっちはもうゴメンよ!?」

「……仕方あるまい。わしが食べるとしようかの」

「…………自殺行為!」

「そうだよ秀吉! あの雄二でさえこんな有様なんだよ!?」

「それならアンタが責任取って食べなさい吉井」

 

それは僕もちょっと気が引ける。

 

「なに、わしの胃は鉄の胃袋と言われておるのじゃ。 二乃が直ぐに起きたところを見るに、そこまで強力な毒物でもなかろう」

 

必死に止める僕とムッツリーニを他所に、秀吉は重箱を持ち上げ箸を構える。

 

「では、逝ってくる」

 

ガツガツ! そんな擬音が似合う勢いで咀嚼し一気にその中身を空にした。

 

と、同時に

 

「─ガハァァッ!!!!??」

 

鉄の胃は負けた。

 

「二乃さん……どうしようか」

「どうしようもないわよ…とりあえずアンタは私の弁当を食べておきなさい。土屋は木下を隠して、私と坂本は何事も無かったように振る舞いましょう」

 

ごめんね秀吉。今度必ず何かで返すから…!

ムッツリーニに簀巻きにされて屋上の隅っこに隠される秀吉を涙ながらに見送りながら二乃さんのお弁当を掻き込む。 美味しい……美味しいよ…………でも少ししょっぱいよ……!

 

「あれ…木下くんはどちらに?」

「あ、五月さんおかえり。 飲み物買ってきてくれてありがとうっ! 秀吉なら部活に呼ばれたんだ」

「忙しいんだね秀吉くん」

 

本当はみんなの後ろでブルーシートに包まれているなんて言えない。

 

「え、姫路さんのお弁当食べきったの!?」

「あ、あはは……その…うん」

「ウチも中身ちゃんと見たかったのに……」

「………写真ならある」

「ナイスよ土屋」

 

ムッツリーニはいつの間に写真を撮っていたんだろう……それにしても外見だけならば120点のお弁当だ。恐るべし姫路さん…!

 

「美味しそう……」

「ね! 私たちにも残して置いてくれれば良かったのに……」

「ま、まあまあ……吉井くんが貰ったものですし。私たちには二乃が作ってくれたお弁当があるじゃないですか」

「そういう五月だって食べたそうな顔してるよ?」

「そ、そんなことありませんよ!?」

 

なんて、微笑ましい会話をしている四姉妹を二乃さんは若干の震えと虚ろな瞳で見つめている。

 

「そういえば雄二、次はBクラスと試召戦争するんだっけ?」

「そうだな……色々と仕込みをしなければ勝てないが…勝てるように手を打つつもりだ」

「坂本くんって凄いですね…」

「バカなのに」

「凄いバカ?」

「それは明久くんでしょ」

「ちょっと待って!? なんで急に僕が罵られたのかな!?」

 

一花さんがてへっ、と笑った顔は可愛いけれどそれはそれだからね!?

 

「明日の放課後には宣戦布告するつもりだ。試験受けておけよ」

 

雄二がそう締めくくり僕たちはお弁当を平らげて教室へと戻ることにした。

 

秀吉を回収して。

 

 

 

 

そんな事があった昨日。

僕は姫路さんのお弁当箱…というか重箱を洗ったので返そうとAクラスに向かっていた。

たまたま購買部に向かうつもりだった五月さんも一緒だ。 なんというか僕一人でAクラスに行くと警戒されそうだし、五月さんが居るなら幾分か警戒度を下げてくれるだろう。

 

そこで新校舎へとの間にある階段の上階、普段は誰も使わない中途半端な場所から声が聞こえてきた。

 

「───返してください!」

 

姫路さんの声……?

 

「吉井くん?」

「ごめん、五月さん。すこし静かに…」

 

こくり、と頷いた五月さんも僕に続くように音を立てず階段の中腹まで上がってくる。

 

「いやぁ、驚いたよ。 まさか今どきラブレターなんかを書いてるなんてね」

 

姫路さんの会話の相手は…間違いない、Bクラスの根本恭二だ。

その根本くんの声色だけで彼が今どんな顔をしているか分かる。

 

「それは……!」

「俺も男子高校生だし、姫路さんは人気者だからね。誰宛に書いたラブレターか気になってるんだよ。 それに、まさかFクラスの誰かなんだろう?」

「……っ!」

「姫路さんがトチって入れた場所は誰の靴箱でもなかったけれど、あそこ一帯はFクラスの靴箱だもんなぁ……?」

「……返して、ください…」

 

震える声で訴える姫路さんに対して根本くんは楽しそうに笑っている。

 

─あの野郎、ブチ殺す。

 

隣にいる五月さんと目が合うと、彼女も拳を握って闘志を見せてくれたけど危ないから姫路さんを避難させてもらうとしよう。

決意を固め立ち上がろうとした時、根本くんは信じられない言葉を吐いた。

 

「あぁ、返してやってもいいよ」

「ほ、本当ですか!?」

「もちろん。AクラスがFクラスに試召戦争の宣戦布告を行ったら」

「……え?」

 

え? Aクラスが僕たちに試召戦争を……!?

 

「クラスの説得に時間が必要だろう? 来週まで待ってやるよ。 出来なかったらこのラブレターの中身がバラ撒かれるかもな」

「え、Fクラスになんて!」

「目障りなんだよあいつら。 俺たちが潰してもいいけれど……Aクラスがやった方が早く楽しくなりそうだしさ。 頼んだよ、姫路さん」

 

拙い、根本くんが降りてくる!

五月さんの手を引いて一度階段を下り、根本くんをやり過ごすと上の方から「─くん、ごめんなさい……」と啜り泣きながらの謝罪が聞こえてきた。

姫路さんの好きな人はFクラスにいて、きっとその謝罪はその人に向けて、自分のことでAクラスのクラスメイトに迷惑をかけてしまうことに対して、根本くんの脅迫に抗えなかった自分の弱さについて……色々と綯い交ぜになった謝罪なんだろう。

 

「あの、姫路さんは…」

「聞かれたくない話だったろうし……そっとしておこう。僕たちは、雄二にこの話を伝えなくちゃ」

 

根本くん、絶対に許さない。

 

「AクラスがFクラスにか。 攻め込まれたら瞬殺だろうな」

「だよねぇ……僕としては何とかBクラスを倒したいんだけれど……」

「無理だろうな。よしんばAクラスよりも先に宣戦布告したとしても根本の事だ、嬉々として姫路のナニカを公表するだろう」

「その根本くん? さいてーだね…」

「酷過ぎます! 坂本さん、何か手はないんですか!?」

 

Fクラスの緊急会議が開かれると姫路さんの件はボカシながらもみんなに伝える。

 

「Aクラスが姫路さんの為に動くか?」

「うーん、まぁ一人の為に動くような感じでもないよなー」

「いや、姉上ならば動くじゃろう」

 

クラスの男子たちの否定的なコメントに反論したのは秀吉だった。あ、そうか双子のお姉さんの優子さんってAクラスだもんね。

 

「クラスメイトの為、根本に従わない為に上手い落とし所を見付けるとは思うが」

「根本に踊らされるのは嫌だけれど仕方なくってのはありそうね……」

 

Aクラスの人達って結構知ってる人が居るけれど、頭いい事を鼻にかけるような人は居ないんだよね。 Bクラスの根本くんが酷過ぎるだけで。

と、そこでFクラスの戸が開けられた。

 

「Fクラス。 話がある」

 

そこに立っていたのは僕達がよく見知った男子生徒。

 

「風太郎? どうしたの、ここはAクラスじゃないよ」

「……なるほど、お前が宣戦布告の使者か風太郎」

 

上杉風太郎。 去年僕達とバカをやっていた筈なのに学年次席に位置するほどの努力家で良い奴だ。

 

「上杉くん!?」

「上杉さんだ!?」

「フータロー…」

「何しに来たのよアンタ」

「やっほー、フータローくん」

 

どうやら中野さんたちも風太郎を知っている……というか家庭教師ってたぶん風太郎の事だったよね?

 

「って、えぇ?! 風太郎、宣戦布告しに来たの!?」

「このタイミングで来るってことは宣戦布告か……何かやるつもりだろお前たち」

「話が早くて助かる。 俺たちAクラスは明日の昼にBクラスへ宣戦布告をする」

 

やっぱり宣戦布告……Bクラスに?

 

「霧島や木下が根本に怒髪天でな。 そこで明久と雄二、ムッツリーニ、秀吉、二乃に頼みがある」

「僕たちは分かるけど二乃さんに?」

「何であんたの頼みを聞かないといけないのよ!」

「落ち着け次女。聞くだけ聞いてやる」

「根本の私物が欲しい」

 

「「「「「「「─────ザワッ」」」」」」」

 

「違う誤解するな!? 根本は俺たちのクラスメイトの大切なものを取っている。 明久と五月は知っているだろ」

「風太郎、もしかしてアレを聞いてたの!?」

「人が居ない場所で復習しながら飯を食ってるからな」

「上杉くん、お友達居ないんですか…?」

「余計なお世話だ!? とりあえず、根本が持っているソレが一番ネックなんだ。 それを明日の昼までに何とかお前たちに奪い返して欲しい」

 

つまり根本くんが隠し持っている姫路さんのラブレターを僕達が奪い返したのを見計らって戦争を仕掛けて倒すわけか。

敗戦クラスは3ヶ月宣戦布告は出来ないし…!

僕達じゃBクラスに確実に勝てるか分からないからこれはいい提案なんじゃ……

 

「俺たちにメリットはあるか? ルール外の事をやるというデメリットしかないが」

「坂本くん、メリットとかそういう「五女は黙ってろ」 そんな言い方……っ」

 

他にも声を上げそうになる女子陣を手で制しながら雄二は風太郎を睨み付ける。

 

「……AクラスとFクラスが試召戦争をする時、そっちの提案を二つ呑む」

「二つ? 四つは認めてもらいたいものだな」

「……三つだ。 この交渉は霧島から俺に任せられているがそれ以上の妥協は出来ない」

「わかった、三つだな。手伝ってやる。 それで具体的な案はあるんだろう風太郎」

 

軽く溜息を吐きながらも風太郎はFクラスの面々を前に、いつも通りの仏頂面を見せながら根本くんを嵌める方法を話した。

 

「先ずは二乃。お前の力が必要だ。頼む」

「…………頼むって…なにをよ」

「俺が初めて家庭教師に行った日に振舞ってくれた睡眠薬入りのクッキーを少し作って欲しい」

 

「「「「「「「「────ザワッ」」」」」」」」

 

「違うのよ!? コイツを! コイツを家から追い出すのにだから!!」

 

「これより異端審問会を開催する」

 

「被告 上杉風太郎(以下の者を甲とする)は我らが女神である中野五姉妹の家に訪れるという大変羨ましい行為をしただけでは飽き足らず、次女 中野二乃(以下の者をツンツンとする)にクッキーを振る舞われるという大罪を犯しました」

 

「しかし、甲は家庭教師という任を請け負っております。甲の家庭事情、及びに妹君の健やかなる未来、ツンツンに睡眠薬を入れられていることを鑑みれば情状酌量の余地はあるかと」

「ふむ、それもそうだな……」

 

突然始まった異端審問会だけど内容が内容なので須川くんも落ち着き、いつものマスクを脱いだ。 因みに僕もFFF団のマスクを脱いで片付けをしている。

 

「しかし、吉井明久は毎日ツンツンにお弁当を作ってもらっているのであります!」

 

「死刑!」

 

「待ってよぉおおおお!!!」

 

「言い残したことはあるか」

 

「死刑って何をするのさ!?」

 

「具体的には言えないが、マグロの解体ショーだ」

 

「具体的だよぉ!!」

 

いつの間にかぐるぐる巻きにされて畳の上に寝かされた僕、そしてそれを取り囲むFFF団の皆。

そしてそれを無視して続ける風太郎。

 

「根本は小物でナルシストだ。 二乃のクッキーを下駄箱に入れておけば疑う事もせずに食べるだろう」

「んで、眠っちまったところを俺と明久で物色か」

「あぁ秀吉には根本の声を、ムッツリーニには眠ってる根本を使って痴態を撮影して欲しい」

「了解じゃ」

「……趣味じゃない、が任せろ。最高の写真集を作る」

「…………それと雄二、まだ頼みたいことが」

 

そして、明日が来る。




問題
下の文章の( )に正しい答えを入れなさい。
『光は波であって、( )である』



上杉風太郎の答え
『粒子』



教師のコメント
正解です。流石ですね上杉くん。



吉井明久の答え
『勇者の武器』


教師のコメント
先生もRPGは好きです。



中野二乃の答え
『波は光』


教師のコメント
哲学のように繰り返してもダメです。



土屋康太の答え
『お風呂シーンで胸元を隠したりするもの』


教師のコメント
あとで職員室にくるように。


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Bクラスオブザエンド

新年明けましておめでとうございます。
今年も細々と更新していく次第であります。
あと感想ありがとうございます。感想をいただけると筆が早くなる調子者です。


「根本くん、二乃さんのクッキー食べて倒れたよ!」

「よし、アイツ保健室に連れていくフリして空き教室で片を付ける」

 

翌日の朝イチ。

中野家にムッツリーニと共にクッキーを受け取りに行き、ひと足早く登校すると誰も居ないことを確認して根本くんの下駄箱にクッキーを仕込んでおいた。

案の定というか根本くんは小躍りをしてそれを食べて数分後の今に至る。

というかこれを食べさせられたの風太郎は……!?

 

空き教室に根本くんを引きずり込むと彼の鞄を漁る。 小狡い彼のことだから何かのために持ってきてると思うけど……

 

「……あった、これか明久」

「あ!そう、それだよ僕の探し物!」

「へぇ、見た感じラブレターか」

「…………言い残すことはあるか」

「待って! 僕が貰うわけないでしょ!?」

「そうだな、姫路もこんなブサイクに渡すわけないだろムッツリーニ」

「…………悪かった」

「少しは否定してよ! 僕は365°どこから見ても美少年だよ!」

「実質5°だな」

 

あれ? なんか間違えた?

 

「しかし、如何にそれが俺たちにとっての生命線とはいえ……取り返すだけじゃ勿体ないな」

「とりあえず制服脱がせて捨てておこうか」

「……女子用の制服は用意してある」

 

なんでムッツリーニはそんなものを持ってきているんだろう? どこで手に入れたのか。

あっという間に根本くんをパンツ一丁にひん剥き、慣れないながらも女子制服を着せていくとゲテモノが出来上がった。

 

「…………キモイな」

「…………気持ち悪いね」

「…………これを綺麗に撮れる自信無い。不覚」

 

上手い具合に壁に寄りかからせたり、椅子に座らせてポーズを決めさせたりして特別写真会を開くも普段のムッツリーニの写真に比べれば芸術性が皆無だった。

 

「さて、そろそろチラホラと登校者が多くなる時間だ。 そいつを保健室にぶち込んでおけ」

「雄二は?」

「俺は交渉しないといけない相手がいる。そっちに行ってくる。 秀吉もそろそろ仕込みが終わるはずだ」

「……了解」

「この程度でBクラスを潰せてAクラスに恩を着せられるんだ。 楽なもんだな」

 

空き教室から出ていった雄二を追うように僕とムッツリーニで根本くんを担ぎあげて保健室のベッドに彼を寝かせておいた。

昼までには起きるだろう。たぶん。

その足でFクラスへと戻ると珍しく中野五姉妹が既に登校していた。加えて風太郎までいる。

 

「おはよ、皆! ってさっきもあったけど」

「おはようだな。上手くいったか明久?」

「うん、根本くんの荷物は全部漁ったしダミーでもないと思うよ」

「それならいい。 少し時間を巻いて早めに宣戦布告をしてしまうか…雄二は?」

「えーと、なんでも交渉したい相手が来たからそっちに行くって」

「そうか…わかった。珍しく役に立ったな明久」

「いやぁ、それほどでも……って珍しくってなにさ!」

「二乃、感謝する」

「……なによ、別にクッキー作っただけよ」

 

素直な感謝に驚いたのか二乃さんは少し気まずそうに目を逸らした。

 

「風太郎、頼んだよ」

「任せろ」

 

Aクラスは間違いなくBクラスに勝つだろう。 そこからが僕達の戦いだ。

 

「二乃さん、改めてありがとう!」

「別に私が作らなくても他の手を用意してたんでしょうけど……まぁ、仕方ないわ。クラスの為だもの」

「でもその根本くんって人、大丈夫なの? 事情を知ったら二乃が狙われたりしない?」

「………二乃が危ないのは嫌」

「あはは、大丈夫だよ。 もしなんかしようとしても」

 

「「「「「「「我々が始末する」」」」」」」

 

FFF団

Fクラスの血の掟を破りし異端者の捜索と断罪を行う断罪集団である。

 

「頼もしい?ですね!」

「あまり過激なのは…吉井くんも何回も被害にあっているじゃないですか……」

「自分と人の幸せは別だよね」

 

僕も鎌の手入れをしておかなくちゃ。

 

 

 

 

そして6限目。

新校舎側から怒号と騒音が聞こえ始めた。

始まった!

 

「ムッツリーニ、戦況は?」

「……少し待て」

 

ノートPCを立ち上げ画面を覗き込むと新校舎側の廊下の様子が移されている。隠しカメラ!?

 

「……こんなこともあろうかと、仕掛けておいた」

「凄いよムッツリーニ! でも全部やけにローアングルじゃない?」

「……隠す場所がなかった。たまたま」

「四葉、後で土屋くんのカメラを探しに行きましょう」

「へ? あ、うん」

「……困る」

 

あ、なるほど。パンチラ撮影用に仕掛けていたカメラか。 性への探究心が毎回凄まじいねムッツリーニ。

映像を見ていると風太郎が映った。

どうやら彼が最前線の指揮をしているらしい。

あの風太郎が人を率いているなんて……変わったなぁ。

 

【Aクラス 上杉風太郎 数学 582点】

 

「「「「「「ごっ、500点台!?」」」」」」

 

嘘でしょ風太郎って頭良いとは思っていたけどそんなになの!?

 

「……島田、長女、お前たちの数学の点数は」

「ウチは補充試験で180ちょいだったわ…」

「うーん、100いったぐらい」

「明久お前は」

「あと少しで…あと少しで2桁だったはず!」

「引っ込んでろクソ野郎」

 

話を振ってきたのはそっちなのになんて言い方だ!

しかし下手をすると風太郎一人で僕たち全員戦死させるれるんじゃないだろうか…

 

続いて映ったのは久保くんと木下優子さん。

この二人も400点台で並み居るBクラスの生徒を次々と補習室送りにしていて正直、根本くんのせいで振り回された他のBクラスの人達が不憫に思えた。

 

「こりゃあっという間に終戦に向かってるな…」

「AクラスとBクラスってこんなに差があるの…?」

「違うな三女。 Aクラスのトップ組がコレだ。 今回は翔子…Aクラスの代表が相当頭にキているみたいだな」

「しかしここまでとはのう…姉上も鬼の形相から修羅になっておった」

「それだと普段からあんたの姉は鬼になるけど」

「鬼じゃ」

 

優子さんって優しい気がしたんだけど家族相手だとやっぱり違うのかなぁ。

 

「思った以上に早く決着がついちまいそうだな…明久、秀吉、ムッツリーニ、俺達も行くぞ」

「へ? 行くってBクラスに?」

「取引をしないといけないからな」

 

Fクラスを足早に出ていく雄二を追って新校舎の方へと歩いていくとBクラスはAクラスに包囲されていた。一人残らず殲滅する勢いで既に残っているBクラスの生徒は根本くんと親衛隊の4人程。つまりは36人は補習室送りになっているわけで…

考えただけでもゾッとする。

すると教室の中から声が聞こえてきた。

 

「クソ! クソ! Aクラスが、何故俺達に!?」

「自業自得だ根本」

「姫路さんはどうした?!」

「…瑞希なら体調を崩して休んでいる」

「どこかの誰かのせい、でね」

 

どうやら根本くんが騒いでいるようだ。

 

「どうせ負けるんだ…姫路さんのこれ公開してやるよ……!」

 

根本くんが制服の胸元から取り出した桃色の封筒を無造作に破り開けると数枚の写真が中からこぼれ落ち、広げられた便箋にはこう書かれていた。

 

【残念】

 

「…は? な、なんだこれは…!?」

「切り札は出し終わったか?」

「ひ……!?」

 

床に落ちた根本くんの女装写真を手に取りヒラヒラと振って無表情に語りかける風太郎は何処からどう見ても悪人だった。

 

「………上杉、ダメ」

「分かっている。 Bクラス、条件次第では講和を考えてやる」

「こ、講和…だと? なにを…」

「根本の謝罪と…そうだなその格好の撮影会でどうだ?」

「ふ、ふざけ─ゲフゥ!?「黙らせました」

「お、おぉ…ありがとう」

 

風太郎が出した条件は破格だ。 なんせ代表であり今回の元凶である根本くんを生贄に捧げれば敗戦ではなく引き分けという形で終わらせてクラス設備のグレードが下がることは無い。

Bクラスの残りは根本くんも含めて5人。どう考えたってここから巻き返すことは不可能で…

 

「よぉ、根本。 随分な様子だな」

「坂本…それに吉井…!? そうかお前らが!」

「なんの事かさっぱりだ。 俺達はAクラスに用があってな。 Bクラスなんか眼中に無いんだよ」

「貴様ら…!」

 

ギリッ…と歯を食いしばって睨みつけてくる根本くんなのだが格好が格好のために怖いというよりは気持ち悪いという感想を覚える。

 

「わ、わかった…Aクラス。条件を呑もうじゃないか……だがFクラスは分かってないようだな…! 敗戦扱いにならないということは俺達Bクラスは直ぐにFクラスに宣戦布告が出来るってことを!」

 

あ、そうか! 敗戦クラスは設備のグレードダウンに加えて3ヶ月間の宣戦布告が出来ない。 けど、Aクラスが引き分けに譲歩するとBクラスは試験で点数を回復して直ぐに攻め込まれちゃう!

 

「不味いよ雄二!?」

「安心しろ明久。 小山、分かってるな」

「えぇ、AクラスとFクラスがここまでお膳立てしてくれたんですもの。 しっかりとやらせてもらうわ?」

「ゆ、友香…? なんでここに…?」

 

Bクラスに入ってきたのは……確かバレー部のホープと呼ばれているCクラスの代表 小山友香さんだ。

どういうこと?

 

「Aクラス代表頼める?」

「……わかった。 高橋先生、AクラスはBクラスとの試召戦争を終わらせます」

「分かりました。双方の合意の元、試召戦争を終了します。 この度の試召戦争の勝敗は無いため、どちらのクラスも設備等の扱いは変わりません」

 

………あ!! もしかして!?

 

「高橋先生、CクラスはBクラスに宣戦布告します!」

「友香!?」

「明日の昼から開戦。 よろしくね根本くん」

「ま、待ってくれ!!」

 

え、えげつない…そろそろ完全下校時間だし今日は補充試験は受けれない。

明日だとしても先生達の採点は人によってまちまちで…Bクラスは4人を残して壊滅状態。 その4人も無傷という訳では無い…うわぁ…

 

「坂本くん、どう? 私と付き合わない?」

「根本のお下がりなんて願い下げだ。あんなやつの何処がいいんだ」

「私、頭がいい人が好きなのよ。 上杉くんでも構わないわ?」

「生憎だが俺にも相手を選ぶ権利は有るつもりだ」

「あら残念」

 

雄二と風太郎、小山さんは邪悪な笑みを見せながら言葉を交わしている。 あの三人が手を組むのはこれっきりにしておいた方が二年生のためになると思うんだ僕。

 

「………雄二」

「今回の件について礼は言わねぇぞ翔子」

「………わかっている。 雄二にも吉井にも上杉を通して無理を言った。 AクラスはFクラスとの試召戦争で三つまで条件を呑む」

「条件は五本勝負で先に三勝した方が勝ち、選択はこっちが3科目、そちらが2科目、勝負は一週間後だ」

 

全面戦争だとAクラスに勝ち目がないもんね…。

でも五本勝負で三勝もだいぶ厳しいような…ムッツリーニは勝てると思うけどさ。

 

「………わかった。来週には瑞希も来ているはず」

「お前の事だから代表同士の一騎打ち、とでも言うと思ったが」

「風太郎の言う通りだな。だが保険は掛けておくものだ。ウチにはムッツリーニと観察処分者がいる」

「そうだな、気を抜かないで全力でやらせてもらう」

 

終戦したということもあってAクラスの面々はゾロゾロとBクラスを出ていき、僕達Fクラスも教室を出ていく。残されたBクラスの生き残りの人達は明日のことを考えて燃え尽きているようだし。

 

「1週間、明久お前には集中的に日本史を勉強してもらう」

「日本史? そりゃ確かに暗記だけでそこそこ点数取れそうだけど……僕個人じゃ限界が目に見えてるよ?」

「なんでお前はそんな偉そうに言えるんだ……大丈夫だ。今回は三女と一緒に勉強してもらう」

「へ、三玖さんと?」

「あぁ、最低でも180点は取れ。それだけ取れれば……お前なら勝てる」




問題
女性のバストのサイズを現す単位に『カップ』があります。基準となるAカップの大きさを説明しなさい。



土屋康太の答え
『トップとアンダーの差が10cm。以後2.5cm毎にBカップ、Cカップとカップが上がり、逆に10cmから2.5cm下がるとAAカップ、AAAカップとなる』


先生のコメント
正解です。 詳しいですね。



吉井明久の答え
『島田美波』


先生のコメント
コメントは控えます。



中野四葉の答え
『見たことないサイズです!』


先生のコメント
吉井くんと一緒に謝罪に行くことをオススメします。



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僕と召喚獣とAクラス

ポケモンが発売されましたね


「凄いなぁ…これがAクラス…!」

「座布団とちゃぶ台を見てると理不尽なぐらいの環境差ね」

「向こうの方が落ち着く」

「でもここで勉強が出来たら……うん、落ち着きませんねきっと」

「五月、冷蔵庫にお菓子が入ってるよ!」

「本当ですか!?」

「よしこれを持って帰ろう!」

 

初めて入ったAクラスに…というか冷蔵庫のお菓子に目を輝かせている五月さんと四葉さん、それと僕。

そんな僕たちを後目に雄二とAクラスの代表は何かを話し合っていた。

 

「…雄二、勝った方が好きな命令をできる」

「……別に構わない。勝つのは俺たちだからな」

 

前から思ってたけどあの二人は知り合いなのだろうか。

 

「持っていくのはいいがその菓子は別料金だぞ」

「え、そうなの!?」

「俺もらいはに持って帰ろうと思ったがそれを聞いて少し躊躇っちまった」

 

貧乏性…というか家庭の事情でお金にうるさい風太郎だ。らいはちゃんの為とは言え躊躇うということは…そこそこのお値段なのだろう。

 

「上杉くんと吉井くんは仲がいいんですか? お二人は…なんというか水と油みたいな性格をしていると思うんですが…」

「まぁ…確かにな」

「風太郎、去年の初めは酷かったんだよ? バカだバカだって言ってきたり、時間の無駄だ〜とかさ」

「いや今でもお前のことはバカだとは思っているからな」

「そんな!? バイトとか色々教えてあげてるじゃないか!」

「それは有難いが…今はこいつらの家庭教師で忙しいしな…」

「上杉くん、もしかして家庭教師以外にもバイトを?」

「あぁ、喫茶店とか日雇いとかな」

「……よく勉強をする時間が取れますね…」

「慣れだ、慣れ」

 

風太郎は五月さん達の家庭教師になる前は結構日雇いのバイトをしていた。去年のクリスマスは僕たちとケーキ売りをしてその給料でらいはちゃんにクリスマスプレゼント買って帰ってたっけ。

 

「明久、五女。 そろそろ始めるぞ」

「あ、うん! というわけで風太郎、今日はよろしく!」

「よろしくお願いします。上杉くん」

「あぁ、もし当たるなら手加減しねーからな。 あとあそこでめちゃくちゃ俺を睨んでいる二乃を何とかしておいてくれ」

 

手を軽く振って離れる風太郎に習って僕達も雄二の元へ行くと彼の言うとおり二乃さんが鬼になっていた。

 

「何戦いの前に仲良しこよししてるのよ」

「本当に二乃さんって風太郎が嫌いなんだね…」

「嫌いよ」

「何がそこまで二乃さんを駆り立てるんだろう…」

「お前ら、今日限りであのボロい教室とはおさらばだ。 気合い入れろ!」

「うん、わかってるよ!」

「……準備は出来ている」

「わしは自信がないんじゃがのう…」

 

雄二の号令に僕達は拳を上げ吼えた!

僕たちの戦いは、これからだ!

 

 

 

 

 

 

 

【木下優子 WIN】【木下秀吉 DEAD】

 

「秀吉ぃいいい!?」

 

そして始まったAクラスとの試召戦争五本勝負。 一戦目は古文でお姉さんに挑んだ秀吉は文字通りの瞬殺をされてしまった。

 

「安心しろ明久。 秀吉が負けることは計算のうちだ。 …てっきりAクラスの初戦は久保だと思ったんだが…」

「雄二、貴様! 秀吉になんてことを言うんだよ!」

「雄二くん本当に勝てるの?」

「…まぁ、問題ない」

 

一花さんの問いに雄二は腹が立つ笑みを浮かべた。殴ってやろうか…! 秀吉が今保健室へ連れていかれたというのに!!

 

「第2戦目 Aクラス 久保くん、Fクラス 土屋くん。 前へ」

 

高橋先生の号令で久保くんとムッツリーニがクラスの中心へと出ていくとムッツリーニが保健体育を選択した。そりゃそうだよね!

 

「土屋って強いの?」

「土屋くんが召喚獣で戦っている姿見たことありませんね…」

「心配するな次女、五女。 本来ならBクラスの時、アイツを切り札にするつもりだったが…根本のおかげであいつの実力を知る奴は限られた。ここは絶対に勝てる勝負だ」

 

そう中野さん達は勿論のこと、寡黙なる性の探求者(ムッツリーニ)の真の力を知る人間は僕らを含めてほんのひと握りだ。

風太郎なら知ってるかもしれないけど…。

 

「本当なら風太郎にぶつけてアイツを仕留めたかったが…仕方ない」

 

「「試験召喚獣 召喚!」」

 

【Aクラス 久保利光 保健体育 342点】

 

さすが久保くん…! 余裕で300点台だ…でも!

 

【Fクラス 土屋康太 保健体育 478点】

 

ムッツリーニ(土屋康太)は保健体育のスペシャリストなのだ。

 

「嘘、400後半!?」

「凄いね!?」

「土屋さんってすごく勉強が出来たんですか!?」

「いや、保健体育だけだ。ムッツリだからな」

「素直に凄いとは褒めにくいですが土屋くん、凄いですね…」

「意外な…意外でもない…?」

 

中野姉妹の驚愕に雄二が付け加えるもムッツリーニの保健体育はあの風太郎ですら上回る点数なのだ。久保くんの召喚獣も大きな鎌とか持っててめちゃくちゃ強そうだけど…

 

「……加速」

 

忍者のような姿をしたムッツリーニの召喚獣がブレるといつの間にか久保くんの召喚獣の背後に立っている。

 

「……加速終了」

 

ズバンッ!!! 空気が破裂したような音と同時に久保くんの召喚獣が一刀両断され消滅する。

 

「勝負あり。 勝者 Fクラス 土屋康太」

「さすがムッツリーニだ!」

「あぁ、ムッツリの名に恥じねぇ野郎だ!」

「ムッツリーニ! ムッツリーニ!」

「ムッツリじゃない…!」

 

ブンブンと首を振っているムッツリーニだが、彼の視線は今も尚、中野姉妹達のスカートに目が行っているので全くもっての説得力がない。

負けた久保くんは相手が悪かった。

 

「申し訳ない上杉くん、代表…」

「相手が悪い。 ムッツリーニ相手じゃ俺だって負ける」

「…私より点数が上。土屋、凄い」

 

Aクラスの上位者すら認める保健体育のスペシャリスト…カッコイイような情けないような…

 

「第3戦目。Aクラス 姫路さん。 Fクラス 吉井くん、前へ」

 

っと、呼ばれた!

 

「明久、絶対に勝て。負けたら殺す」

「頑張って明久くん!」

「負けたらご飯抜きよ!」

「大丈夫です吉井さん! 勝てますよー!」

「頑張ってください!」

 

みんなの声援に応えたい!

でも、雄二と二乃さんのは殺害予告だよ!! 僕なんて今は二乃さんのお弁当で日々を生き抜いているのに…負けられない戦いが、ここにある…!!

 

「行ってくるよ、三玖さん!」

「アキヒサなら、大丈夫ッ」

 

そう、雄二の指示で僕は三玖さんと日本史の勉強(ゲーム)をしてきたんだ! 今までの僕とは違う…っ!

………うん、ゲームばっかりしてた気もするけど大丈夫だよね?

 

「よ、吉井くん…よろしくお願いしますっ」

「うん、よろしくね姫路さん!」

「あ、あの…始める前に……根本くんの件、ありがとうございました…っ」

「へ?」

 

なんで姫路さんが僕にお礼を言うんだろう? あの件で頑張った…というか動いたのはAクラスの皆なのに。

 

「上杉くんから聞きました。…吉井くんが、吉井くん達が助けてくれたって…」

 

おのれ風太郎、余計なことをさては言ったな!?

 

「いいんだよ。困ってる人を助けるのは当然だよ!」

「吉井くんは…変わらないですね。 その、この戦いに私が勝ったら…吉井くんにお願いがあるんですが聞いて貰えますか?」

「え、姫路さんのお願い? それならいつでも──」

「中野さんみたく、私が毎日…お弁当を…」

「──高橋先生、科目は日本史でお願いします!!」

「承認します」

召喚(サモン)!」

「え?! えっと、召喚(サモン)ですっ」

 

絶対に負けられない戦いがここにある!!!!!

 

お弁当という単語が出た瞬間、雄二の顔色が悪くなり、ムッツリーニは震え、二乃さんは頭を抱えてしゃがみこんでいる。トラウマまでバッチリだ!

 

「ツンツンだけでは飽き足らず。姫路さんからまで弁当を作ってもらおうというのか被告(吉井)

「我々は許さんぞ」

「断罪せよ!断罪せよ!」

 

あれだけ団結していたFクラスもこの有様だ。姫路さん恐ろしい子!

 

【Aクラス 姫路瑞希 日本史 321点】

 

【Fクラス 吉井明久 日本史 171点】

 

やっぱり姫路さんも300点台…でも、勝てない相手じゃない。

 

「少し目標には届いてないが…姫路の方も想定していたより多少点数が低いな。許容範囲だ」

「アキがあんな点数取れるなんて…三玖何したの?」

「少し勉強をしながら…ゲーム?」

「アイツにはそれが合ってたってことだ」

 

失礼な声が聞こえるけど今は気にしない。

 

「まさかあの明久が三玖と勉強をして点数を伸ばすとは…俺が教えてやった時はカスだった癖に」

「上杉くんが教えてもダメな人って居るのね」

 

風太郎と木下さんも大概失礼だ。

 

「なんだか飼い犬に手を噛まれた気分だわ」

「少し複雑です…」

「ちょっと、何で二乃さんと四葉さんまでそんな反応な…ァぶなぁ!!?」

 

あまりの言われように反応してしまったタイミングで姫路さんの召喚獣が大剣を振るいながら襲いかかってきたのを紙一重で回避する。

フィードバックがあるんだからあんなの食らったら即戦死の保健室送りだよ!?

勝てない相手じゃない、とは思ったけどまともに食らったら一撃で終わりだからね!!

 

次々に斬撃を繰り出して来る姫路さんに対して僕の召喚獣はちょこまかと左右避け、背後に回り込んで木刀で一撃を与える。手応えは十分…!

 

【Aクラス 姫路瑞希 日本史 305点】

 

現実は非情である。

雀の涙程のダメージだよ!!

 

「何かしらね、アキが押してるはずなのに…見てられないわ」

「小賢しいのよね。アイツの召喚獣」

「吉井さーーん! 正々堂々といきましょー!!」

 

美波と二乃さんの評価が辛辣だし四葉さんの応援も心が痛い!

 

「と、言うか美波ってば何時から吉井(バカ)の事をそうやって呼ぶようになったのよ」

「え、えーと…その色々あって?」

「………あんた、アイツはやめときなさいよ…悪いやつじゃないけど…苦労するわ。絶対」

 

二乃さん、美波と何を話してるんだろう。

 

「よ、吉井くん…は…皆さんに色んな呼ばれ方をしてるんですね…?」

「へ? ま、まぁ…一花さんと三玖さんには名前で呼ばれてるし美波にもアダ名だし…」

「ズルいです……私だって同じクラスなら…」

 

不意に姫路さんの召喚獣の動きが鋭くなり切っ先が僕の召喚獣の腕を引っ掛けた。

痛っっっったァ!!!?

 

【Fクラス 吉井明久 日本史 116点】

 

僕の必死の攻撃は20点程度で姫路さんのは掠っても50点ほど持ってかれるなんて…!

左腕がジンジンと痛む。これ以上は掠める事すら許されない…!

でも、大きな回避を続けていても姫路さんに攻め込むことは出来ないから……ァッ!!

 

「─ッ!!!」

 

大剣の縦振りが召喚獣に触れるか触れないかの位置に振り下ろされる。 紙一重の一撃に肝を冷やしながら木刀で放つ突きは姫路さんの召喚獣の眉間を捉えた。

 

バコーン!! という音ともに相手の召喚獣は大きく仰け反ったが…

 

【Aクラス 姫路瑞希 日本史 73点】

 

仕留めきれなかった!?

急所とも言うべき頭に入れた一撃も点数差が足を引っ張った。

しかし姫路さんも決まったと思ったのか一瞬惚けた様子を見せ、まだ終わっていないことに気がついたみたいで慌てて召喚獣が動き始めた。

ごめんね、僕の召喚獣が弱くて!

 

振り下ろされた大剣の峰で殴るように横振りに薙ぎ払いを受ける。咄嗟に足と腕でガードしたけど骨まで響く重さで本当に不味い。

直撃でもそこまでダメージを受けなかったのは距離が近かったおかげだろう。

正直言うと姫路さんの召喚獣操作はそこまで上手くない。 実戦が今日初めてというのもあるし1年生の頃の操作授業は体調を崩して結構休んでいたらしい。 点数を除けばこの数週間、僕と模擬戦をしていた二乃さんの方が断然動ける方だ。

しかしそれを覆すほどのダブルスコア地味た点の差はたった一撃で戦況を変えるし、点数の低いこちらの攻撃は大したダメージにならない。

 

直撃を食らった僕の召喚獣はゴロゴロと転がり受身をとって体勢を立て直す。このまま長引けば確実に負けるので……

 

「これで決めるよ…!」

 

改めて相手に向き合うと一気に駆け出す。

姫路さんも迎え撃つ構えを取った。 だから僕は、木刀を彼女に向かって全力でぶん投げた。

 

「えっ!? あ、…!」

 

ゴン…!! と鈍い音を鳴らしたのは相手の大剣。

頭部を狙って投擲した木刀は咄嗟に振るわれたソレに弾かれ上空へと打ち上げられた。

 

ここまで上手くいくとは思わなかったなぁ…!

 

召喚獣は小さい見た目なのだがその実、人間に比べて力持ちだし身体能力はかなり凄い。

だから僕の召喚獣は跳んだ。

 

「これで、終わりだぁあああ!!」

 

打ち上げられた木刀をキャッチし、落下速度を合わせた勢いのままに振り下ろした縦切りは今度こそ相手の脳天を捉えた。

 

【Aクラス 姫路瑞希 日本史 0点】

 

「勝負あり。 勝者Fクラス 吉井明久」

 

勝った…! 同時に足から力抜けて崩れ転んでしまう。 フィードバックが結構痛かった…!

 

「アキ!?」

「ヒヤヒヤさせやがって…四女、ムッツリーニ回収だ」

「吉井さん、凄かったです! さあ、私たちに捕まってください!」

「……よくやった明久。 秀吉の写真大特価」

「え、本当に!? ダースで買うよ!」

 

まさかの副賞だ。 今月も厳しいけど秀吉の写真のためなら…必要経費だ!

ウキウキしながら肩を貸してくれた二人に捕まり立ち上がると少し心配そうな顔をした姫路さんが近づいてきた。

 

「あ、あの吉井くん…大丈夫ですか?」

「うん、少し痛むけど大丈夫だよ。鉄人に殴られる方が痛いしね」

「そ、そうですか…その吉井くん。 どうして、と言っては失礼かもしれませんが…今回のような点数を取れたのですか?」

 

今回の点数…といっても姫路さんに比べたら全然な点数だけれども……

 

「三玖さんと一緒に勉強したり、雄二に勝てって言われたり…真面目に勉強をする五月さんや四葉さんにいい環境で勉強してもらいたいって言うのもあったけれど──」

「けれど……?」

「─うん、やっぱりAクラスの中に"僕だって出来るんだぞ"ってところを見せたい相手が居たから、かな」

「なるほど…そうなんですね」

 

悔しそうな顔をしながらも姫路さんは頭を下げ、自らのクラスメイト達の元へと戻って行った。あんな顔をさせたくはなかったんだけどなぁ…

四葉さんとムッツリーニに引き摺られながらFクラスのみんな所へ連れ戻されると結構な歓迎を受けた。

 

「よくやったわアキ!」

「明日からお弁当のおかず増やしてあげるわ!」

「明久くんならやれるってお姉さん信じてたよ〜」

「わしの仇を取ってくれたのじゃな明久」

 

瀕死だった秀吉も目を覚ましたようでお祭り騒ぎだ。

 

「これで2勝1敗。 あと1回勝てばこの教室は俺たちのものだ」

「それでは第4戦。 Aクラス 上杉くん。 Fクラス中野さん、前へ」

 

淡々と進行する高橋先生に風太郎は従って前に出てくる。

風太郎と霧島さんは2年生の中でも異次元の成績だと常々噂では聞いているけど…

 

「誰が出るのか知らねーが…来いよ。叩き潰してやる」

 

その風格はまさにボスだった。




問題
以下の意味を持つことわざを答えなさい。
(1)『得意なことでも失敗してしまうこと』
(2)『悪いことがあった上に更に悪いことが起きる喩え』



上杉風太郎の答え
(1)釈迦も経の読み違い
(2)泣きっ面に蜂


教師のコメント
さすが上杉くんですね。正解です。



中野五月の答え
(1)弘法も筆の誤り
(2)踏んだり蹴ったり


教師のコメント
正解です。最近正答が増えてきていますね。この調子で頑張ってください。



土屋康太の答え
(1)弘法も川流れ


教師のコメント
シュールな光景ですね。



吉井明久の答え
(1)誰かの目にも涙
(2)泣きっ面蹴ったり


教師のコメント
『鬼の目にも涙』は無慈悲な者も、時には情け深い心を起こし、涙を流すことがあるということのたとえに使う言葉ですので間違いです。 決して誰かではありません。
それに鬼はキミです。


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バカと秀才と決着

ゴールデンウィークは毎日仕事でした


「Aクラス 上杉くん。 Fクラス 中野さん、前へ」

 

いよいよAクラス戦も四戦目となり、あと一勝でFクラスが勝ちという大事な局面で相手はあの風太郎。 正直いって勝ち目はかなり薄い。

 

「教科選択はこっちでいいんだな。 高橋先生、総合科目でお願いします」

「承認します」

 

召喚フィールドが展開されると意を決したように中野さん達の誰かが前へ踏み出した!

 

「「「「「試験召喚獣 召喚(サモン)!!」」」」」

 

【Fクラス 中野一花 総合科目 644点】

【Fクラス 中野二乃 総合科目 521点】

【Fクラス 中野三玖 総合科目 663点】

【Fクラス 中野四葉 総合科目 554点】

【Fクラス 中野五月 総合科目 695点】

 

フィールドに現れたのは五体の召喚獣…!

二乃さんは…うん、あれだけど他の四人は家庭教師のおかげで若干点数が上がっている! 凄いや!

 

って、

 

「「待て待て待て待て待て!!」」

「どうした明久に風太郎?」

「そうよ、早くやりましょう?」

 

くそ、僕と風太郎が間違っているような反応をしてるよこの人達!

 

「五本勝負と言ったがサシの勝負とは言ってなかったし、なんなら参加者の名前を苗字だけで書いてるだろう? うちにはたまたま中野って苗字が五人居ただけだ」

「おま、それが通るなら……ってこの為に名前を書かせてねーのかよ! 高橋先生!」

「ルール違反ではありません」

「フハハ! 卑怯と言ってくれるなよ風太郎。 これもお前らに勝つ為の知恵だ!」

 

うーん、どう考えてもFクラスが卑怯モノだ。

特に雄二が。

二乃さんは殺る気満々だし、なんというか五姉妹もノリノリだから余計に酷い絵面になっている。

 

「…はぁ、まぁいい。 点数を見るに二乃を除けば多少なりとも伸びているんだろうが…上を見せてやるよ」

「五人を前に随分な余裕ね上杉! ここがアンタの墓場よ!」

「明久達と絡むようになって余計にバカに拍車が掛かってやがる…!」

「ちょっと風太郎!? それは酷いんじゃないかな!!」

 

二乃さんは元からきっとおバカだよ!と続けようとしたら凄まじい殺気の籠った瞳で見られたので正座で待機しておく事にした。

 

「フータロー君、覚悟してね」

「ごめんねフータロー」

「上杉さんも召喚してください!」

「上杉くんがどれほどなのか…見せていただきます!」

 

流石に5対1って余程の点数差じゃないとかなり厳しいはずだ。これはもしかすると最終戦前に決着がついてしまうかもしれない!

 

「……召喚(サモン)

 

【Aクラス 上杉風太郎 総合科目 6412点】

 

『…………は?』

 

「先生、風太郎は不正をしてます!」

「いえ、正常な点数です」

「6000点だと!? 」

「アキが10人いても適わないわね…流石上杉…」

「僕を引き合いに出さないでよぉ!?」

 

僕が姫路さんに勝てたのは点差がまだダブルスコア程度で彼女が召喚獣にあまり慣れていなかったからだ。

でもこの点数差は…

 

「よし、かかってこいお前ら」

「ご、五人で一緒にかかれば…」

「一瞬で蹴散らされるのが目に見えるわね…」

「卑怯に近い点数だよ…」

 

下手をすると風太郎を倒すには霧島さんと久保くんとか…そういえば今日はいないけど武田くんに竹林さんとかが揃って戦わないと勝てないのでは…?

 

「なんだかかって来ないのか。 それならこっちから行くぞ」

「ちょ──」

 

待った、という前に一花さんの召喚獣が木っ端微塵に吹き飛んだ。

あー、あれだけ点数差があると相手が消し飛ぶんだね!

 

「いや、怖いんだけど!? やめてよ風太郎! 何かの間違いで僕と戦うことになっても絶対にその力を使わないでね!? フィードバックで死にかねないよ!?」

「ど、どうしましょう二乃!? 一花が消し飛びました!」

「二乃は吉井さんといっぱい模擬戦してたよね!?」

「無理よ無理! あれに比べたら吉井なんて雑魚の雑魚よ!?」

「アキヒサに失礼だけど、わかる」

 

本当に失礼な姉妹だ!!

 

「こ、のぉ!」

 

四葉さんが飛び出し上段からの一撃を振り下ろすけど、それはいとも簡単に本の背表紙で受け止められた。

ちなみに、風太郎の召喚獣の武器は辞典みたいな分厚い本で一花さんも本で殴られて消し飛んだ。 なんであれが武器になるんだ。

 

「四葉は召喚獣の動きは悪くないな。 点数が全然足りないが」

パンッ!! 炸裂するような音ともに四葉さんも吹っ飛んだ。

 

【Fクラス 中野一花 戦死】

【Fクラス 中野四葉 戦死】

 

「逃げてぇ!! みんな逃げてぇ!!」

 

みんなの召喚獣が弾け飛ぶ姿なんてもう見てられないよ!?

 

「潔く突っ込め。二三五」

「嫌に決まってるでしょ!?」

「でも攻めないと戦いにもならない…」

「うぅ、上杉くん酷いです…!」

 

あまりにも虐殺的な光景にFクラス側からはブーイングが上がる。が、風太郎は何処吹く風で本日三度目の快音を鳴らして五月さんの召喚獣を戦死させた。

 

【Fクラス 中野五月 戦死】

 

「二乃、諦めて戦おうよ」

「アイツ相手に諦めろっての!? それなら吉井に勉強を教わる方がまだ………どちらもごめんよ!」

「なんで度々僕を引き合いに出すのかな二乃さんは!?」

 

意を決したように二人の召喚獣は風太郎(理不尽)に相対すると二乃さんの方がランスを構えて突貫を仕掛けた。

 

「直線的過ぎるだろ…」

 

ヒラリと半歩動くように突きから避ける風太郎はそのまま振り上げた事典で叩き潰そうとしたけど、それは罠だ。

二乃さんに追随するように走っていた三玖さんが振り上げた風太郎の腕目掛けて一閃する。

 

「…ッ!!」

 

【Aクラス 上杉風太郎 総合科目 6312点】

 

「「「「「「おぉぉ!!?」」」」」」

 

圧倒的な点差を前に、初めて一太刀入れたのは三玖さんだ。驚いて当然かもしれない。

体育の時間とかを見ていると三玖さんは他の四人に比べて圧倒的に体力が少なく、なんというか上手く動けてない印象が強い。だけれど召喚獣の扱いはこのままいけば五姉妹の中で一、二を争う上手さだと僕は思っている。

 

「完璧に甘く見ていたな…」

「勝てないかもしれないけど、それでも私は戦うよ」

 

点差がほぼ十倍な事もあってか大したダメージにはなっていなかったけど、それでも風太郎の動きは驚きで一瞬止まった。そしてその隙を見逃す彼女でもない。

 

「くらいなさい!」

 

ドカッ!! 鈍い音を鳴らしたのは横殴りに振るわれたランスだ。 正面と背後からの挟撃に風太郎の召喚獣は足が止まった。

 

「凄い、二乃と三玖息ぴったり…!」

「とはいえ相手は風太郎だ。それにあの点数だと腕輪持ってるだろ」

「腕輪ってなんですか?」

「えっと、ある一定以上の点数を取ってたら特殊能力が使えるんだ。ほら、さっきムッツリーニの召喚獣が加速したでしょ? あれもそうだよ」

「つまりフータローくんはまだ奥の手を残してるってこと?」

 

視線を戻すと風太郎の点数は6000を切った。

あれだけ殴られてもまだ6000切ったレベルなんだ…

 

「確かに召喚獣の扱いは上手いな。転校してきたばかりとは思えない…が、やはり点数が足りない」

 

あ、腕輪が光った。

そう思った時には二乃さんと三玖さんの召喚獣の点数は一気にゼロになった。何があったの!?

 

【Fクラス 中野二乃 戦死】

【Fクラス 中野三玖 戦死】

 

「悔しかったら、俺の授業を受けるんだな二乃」

「勝負あり。 勝者 Aクラス 上杉風太郎」

 

五人がかりで惨敗した我らが中野姉妹はフラフラとした足取りでFクラス陣営へと戻ってきた。

 

「三玖さん凄くカッコ良かったよ!」

「ありがとうアキヒサ」

「うむ、四葉のあれだけの点数を前に斬り掛かる思い切りの良さ。負けてしまったが良いものじゃった」

「ありがとうございます木下さん!」

 

落ち込む様子を見てたから、という訳ではないけれど僕と秀吉は褒めに褒めた!

 

「まぁお前たちが負けるのは想定内だ」

「バカ! 雄二のバカァ! 折角、みんな持ち直していたのにまた凹んじゃったじゃないか!?」

「どの道この最終戦は俺が勝つ」

 

その自信は一体どこから来るんだろうか。相手はあの風太郎より上の霧島さんだというのに。

 

「大化の改新」

「へ?」

「翔子は大化の改新の年号を間違えて覚えている。 だから俺は翔子に小学生日本史 100点満点のテストで勝負を挑む」

「「「「「小学生のテスト!?」」」」」

 

確かに雄二の言う通り、100点満点のテストで相手が確実に間違えることが分かっていればあの自信も頷ける!

大化の改新って1910年で有名なアレだよね!

 

645(無事故)の大化の改新…簡単なものを間違えるの? あと何でアキヒサは頭を抱えて蹲ってるの。頭痛い…?」

「気にしないで三玖さん。なんでもないから!」

「翔子は一度覚えたことはほぼ間違えない。 それが間違いを覚えていたとしても…な」

 

雄二は不敵な笑みを見せながら教室の中央へと歩みを進める。 Aクラスも万が一の敗北を想像して落ち着かない様子だ。それもそうだろう、誰が最底辺クラスを相手に2勝2敗なんて今を予想出来ただろうか?

 

「…雄二、任せたよ!」

「あぁ。 明久、それに五姉妹、バカでもやれるって所…見せてやるよ」

 

雄二の不思議なところはこの説得力だろうか。

そう言えば初めて風太郎と雄二と殴り合いになった時もすぐに協力したっけ。

 

「Fクラス代表 坂本くん。 教科を選択してください」

「教科は日本史 100点満点。 範囲は小学生問題」

 

Aクラスのざわめきが一段と大きくなる。

そりゃそうだ。あの霧島さんに大して記憶力勝負を持ちかけたようなモノだから。

 

「それでは、始めてください!」

 

高橋先生の号令と共に二人の代表がテスト用紙を表にして鉛筆を走らせる。 背後のモニターには僕たちにも問題が分かるように映し出されていた。

大化の改新が出れば、僕達は……!

 

 

 

( )年 大化の改新

 

 

 

 

出た!

 

「吉井、あたし達……!」

「うん。僕達の勝ちだ…!」

 

打倒Aクラスで心を一つにした僕達。

その僕達に勝利の光が差し込んだ!

 

 

 

日本史小学生限定テスト 100点満点

 

『Aクラス 霧島翔子 98点 VS Fクラス 坂本雄二 67点』

 

 

 

 

 

 

「……………………ふっ」

「「「「「「ぶっ殺す!!!!!」」」」」」

 

打倒雄二で心を一つにした僕達。

そこからはリンチが始まった。




問題
以下の意味を持つことわざを答えなさい。
マザーグースの歌の中で
『スパイスと素敵なもので出来ている』と
表現されているものはなんでしょう。



中野二乃の答え
『女の子』


教師のコメント
正解です。マザーグースでは女の子は『砂糖とスパイスと素敵なもの』
男の子は『カエルとカタツムリと仔犬のしっぽ』で出来ていると言われてます。



中野五月の答え
『カレーライス』


教師のコメント
スパイスに引っ張られてしまいましたね。 マザーグースには多くの童謡、歌謡がありますので興味があれば調べてみるのも良いでしょう。



吉井明久の答え
『カレーライス』


教師のコメント
お腹が空いているのでしょうか。同じ答えをするのは二人目です。



中野四葉の答え
『カレーライス!』


教師のコメント
先生の今晩のメニューが決まりました。


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僕とみんなと学園祭準備

めちゃくちゃ久しぶりになって申し訳ないです……
更新していなかったのにお気に入り登録等ありがとうございます!!

続きどうぞ!


「「くたばれぇぇぇ!!」」

「ぐへぁ!?」

 

僕と二乃さんの渾身のタッグストレートが雄二の顔面を射抜き奴の身体は宙を舞い、重力に引かれて地面へと倒れた。

 

「何が、バカでもやれる、だ! バカは結局バカじゃないか!?」

「少しでもあんたを信じたあたし達がバカだったわ!」

 

やいのやいのとFクラスの面々が地面に転がった雄二を踏んずけたり、蹴飛ばしている。市中引き回ししてやろうか!

 

「あー、Fクラス? ウチの代表が戦後交渉したいようなんだが…」

「ちっ、命拾いしたな雄二! 風太郎と霧島さんに感謝しろよ! それで霧島さん、戦後交渉ってどうするの? 僕達から上げられるものなんてプライドすらないよ?」

「……雄二とは負けた方が言うことを聞く約束をした」

「なるほど。それじゃあ雄二は霧島さんにあげるよ!」

「清々しいまでに躊躇いがねぇな…」

「……ありがとう。吉井はいい人」

 

こんなゴリラの命一つで霧島さんにいい人認定をされるなら安いものだ。安すぎるまである。

 

「……それじゃあ雄二。付き合って」

 

瞬間、時が止まった。

 

「お前、まだ諦めてなかったのか」

「……ずっと雄二のこと好きだから」

誰もがフリーズしている中、雄二だけは心底面倒くさそうに顔を顰めながら首を振る。

 

「拒否権は?」

「…ない。今からデートに行く」

「は、離せ!? 俺はデートなん──あばばばばば!!!!」

 

首根っこを掴まれ引き摺られ、抵抗しようとしたらスタンガンをくらった雄二はそのまま霧島さんと教室を出て行った。 えーと?

 

「………あー。下校時間だし帰らないか皆」

 

謎の空気感に耐えきれなくなった風太郎が何とか声を上げるとAクラスの面々はいそいそとカバンを持って教室を出ていく。 Fクラスの皆もカバンを取りに教室へと戻り始めた。

 

「風太郎、今日はバイト?」

「いや、今日は珍しく親父が早く帰ってくるらしくてな。 らいはが三人で飯を食べたいって言うから休みだ」

「そっか。 大変だね家庭教師とか」

「あぁ…明久が五人いる様なものだからな…」

 

それはどういうことだろうか。

 

「「「「「失礼な!?」」」」」

「失礼は君たちだよね!?」

 

五人、声を揃えてなんてこと言うんだ!

 

「風太郎くん、世の中には言っていいことと悪いことがあるんだよ? お姉さん傷ついちゃう」

「一花さんが傷つく前に僕はもうボロボロだよ!?」

 

「吉井と一緒だなんて有り得ないわ! それなら死んだ方がマシよ!」

「そこまで拒絶しなくていいじゃないか二乃さん! それに日本史に関しては君より僕の方がたぶん良いからね!?」

 

「アキヒサはいい人だけど…それはちょっと」

「三玖さんとは分かり合えてたつもりなのに!?」

 

「うーん、ごめんなさい吉井さん!」

「ある意味ストレート過ぎて一番傷つく!!」

 

「わ、私は吉井くんより…その向上心があります!」

「まるで僕に向上心が欠けらも無いみたいな言い方するね!?」

 

五人それぞれの言い分は僕の心をKOするには十分だった。 そんな、皆仲間(バカ)だと思っていたのに…!

 

「……その、なんだ。明久、元気出せ」

「元はと言えば風太郎のせいだよねぇ!?」

 

酷いや! なんて捨て台詞を残してFクラスへと駆け出す僕。 なんというか三下っぽいなぁ、と思いつつ教室へと入ると先に帰ったと思っていたクラスメイト達がみんな固まるように立っていた。

どうしたんだろ?

 

「須川くん何かあったの?」

「黒板を見ろ…吉井!」

「ほぇ?」

 

促されるままに黒板を眺めるとしっかりと強調されるようにこう書かれていた。

 

【Fクラス、成績向上を目指す為、来週から担任が西村に変わります】

 

「て、鉄人だって!?」

「バカな!? なぜ鉄人が!!」

「あぁ、神よ…!!」

「俺たちの青春が灰色に!!!」

 

崩れ落ち涙を流す者までいる始末。いや元々青春なんて灰色なんだろうけど…それでも鉄人が担任だなんて毎日が月曜日みたいな嫌な気分になるじゃないか!

 

「皆さんどうしたんですか?」

 

僕の後に遅れてやってきた中野五姉妹も先程の僕のようなリアクションをしているけど…そうか、五人は鉄人のことをあまり知らないもんね…

 

「……みんな! 僕達は試召戦争を終えたばかりだけどやる事がある!」

「やる事…? これ以上俺たちが何をやるってんだ!」

「そうだ、戦争にも負けてもう俺たちに何が出来るんだよ!」

 

こういう時に雄二が居てくれるとまとめやすいんだけど…本当に必要な時に居ないんだから。

 

「考えてみて、僕達はまだいいさ。 でも、秀吉や中野さん達にあの鉄人の授業を受けさせていいの!?」

「「「「「「「─ッ!!!!!!!!!!」」」」」」」

「秀吉と中野さん達みんなの為に出来ること。分かるよね!」

「「「「「「「鉄人をぶっ殺す!!!!」」」」」」」

 

黒装束を身にまとい、数々の暗殺器具を手に男たちは職員室を目指して廊下へと駆け出していく。

 

「ってことで、僕達は鉄人を殺しに行ってくるよ! みんなは気をつけて帰ってね!」

「え、ちょ、明久くん!?」

「キシャァァァァァァァァァ!!!!!」

「ダメよ一花、既に人の言葉を話してないわ」

「帰ろう」

「少し面白そうなので見てきていい!?」

「四葉も帰りましょう。たぶん、吉井くんたちはタダで済まされなさそうなので…」

 

 

 

 

 

ボコボコに叩きのめされ、完全下校時間になっても二宮金次郎を目指すための鉄人勉強講座が終わらなかった先週の金曜日。やはり奴はこの世から葬り去らなければならない邪悪だ。

 

そして今日は月曜日。あの敗戦から初の登校なのだが……

 

「うわ、酷いねこれ」

「まさか畳とちゃぶ台がゴザとみかん箱になるとはのう…」

「……教育現場としてあるまじき」

「訴えたら勝てそうだな」

 

元々ボロかった教室が廃墟のようだ。まぁ、そもそも負けた僕らが悪いんだけどさ!

 

「ねぇ、坂本。あんたコレ何とか出来ないの?」

「次女か。 出来ない…とは言わないが」

「え、コレを何とかする方法あるの!?」

 

どうせ雄二のことだからなんの考えもないと思っていたのに!

 

「ムッツリーニも言ってたが教育現場としてあるまじき衛生環境だからな。 学園長に訴える」

「意外に正攻法だった」

「坂本さんの事ですからこう…悪い手を使うと思ったのですが!」

「うん、一花さんと四葉さんの言う通りだよ。 雄二熱あるんじゃないの?」

「だが、ババァはロクでもない人間らしい」

 

あれ? 学園長がババアって聞こえたんだけど気の所為かな?

 

「俺としてもあの敗戦の責任はあるからな。 土日の間に学校に来てババアに話をつけてきた。 五姉妹は知らないだろうが、近々学園祭がある。 そこで出店し得た利益は教室の備品に当てていいと言質をとった」

「あくまでも学校側じゃなくて私達次第…ってこと?」

「学校としてどうなんですかそれは…」

「しかしわざわざ言質をとった…などという言い方をするに本来はダメじゃった…というわけかの?」

「本来、教室の設備は試召戦争の結果だ。それを自分達で何とかするのはルールから逸脱した扱いになるらしいが、ババアと取引をしてな。 設備更新を認めさせた」

 

なんかそういう話を聞いてると改めて文月学園って色々と変わってるって感じるよねぇ…。他の高校ってどんな感じなんだろうか? あとで二乃さん達に聞いてみよ。

あと聴き逃しそうになっていたけどシレッと取引とか言ってたよ雄二。 なんで学園長と取引なんかしてるのさ。

 

「と、言うわけでだ。 HRの間に学園祭の出し物を決めたいと思っている」

「いい心掛けだがそれは放課後にしてもらおう。 お前ら席に着けェ!!」

「鉄人!?」

 

趣味がトライアスロンのゴリラが教室に乗り込んでくると同時に、開口一番着席を促す。 何故ここに鉄人が!?

 

「明久、なんで鉄人がFクラスに居るんだ」

「思い出したくない理由があったはず!」

 

そうだった、何か許せない理由があって金曜日に暗殺に向かったけど返り討ちにされたんだった!!

 

「Fクラスの担任は福原先生から今日をもって俺に変わった。理由としては言わずもがな! お前らが、バカだからだ! 特に吉井、坂本。お前ら二人は念入りに面倒を見てやろう」

「なにぃ!?」

「待ってください! 雄二は分かります! でもこんなに真面目で愛嬌のある僕は違うでしょう!?」

 

そこの美少女達、「真面目?」とか首を傾げないで。

 

「教室の備品に対する苦情を学園長まで即座に持っていくとは…バカの行動力は凄まじいものだ。 しかし、学園長から確約を貰っているならば担任として力は貸すつもりだ。 なにか学園側に確認等がある場合は先ず俺を通すことだ」

「て、鉄人が大人だ!?」

「あぁ、腐っても教師だったか…!!」

 

鉄拳をくらいつつ仕方なく今日の授業を受け始めるFクラスの面々。なんだか久しぶりにまともに授業を受けているという現実に驚きつつも設備はダンボールだ。しかも湿気のせいで若干湿ってるので筆記しにくいことこの上ない。

チラリと横に座って板書をしている五月さんを見ると真剣な眼差しで取り組んでいる。 元はと言えば僕たちが試召戦争なんてものをした結果、真面目な五月さんの足を引っ張ってしまっている。 何とかしないとなぁ…

 

だけど何とかするってどうしよう。 学園祭の出し物である程度儲けが期待できる様なモノ。

そもそも旧校舎の隅っこのFクラスまで人を呼べるのか………他のクラスになくてウチにしかないもの……美少女五姉妹? いや、それだと結局五月さん達に負担を強いる事に?

 

 

「明久、知恵熱が出てるぞ」

「ごめん、今僕は五月さん達の魅力について必死に考えているんだ!」

「あの、それを目の前で言われると反応に困るのですが…」

「は!?」

 

僕は一体何を!?

 

「ほら、バカ言ってないで昼よ」

「わーい! 二乃さんのお弁当だ!!」

「すっかり飼い慣らされているのう…」

「……立派な飼い犬」

 

今日のお弁当は何かな〜!

聞こえないフリをしながら蓋をとると、卵焼きに唐揚げ、プチトマトにハムと少しの野菜。 白米の上にはなんと小さいものの鮭まで載っている!!

 

「ほら、結局全体としては負けちゃったけどあんたは学年三位? のあの子に勝ってたじゃない。ご褒美よ」

「一生二乃さんについて行くよ…」

「明久のやつ、マジで泣いてやがる…」

「確かに二乃のお弁当は美味しそうじゃからのう……」

 

凄い!唐揚げが時間が経ってるっていうのにカリッとしてて食感が損なわれていない!

あ、鮭も身がしっかりしていて美味しい…このお弁当一つだけで4日は生きていけそうだ!

 

「ウチのクラスにあって他のクラスに無いものねぇ」

「……どうした島田」

「学祭で売り物をするなら、そういう所を売りにしないと中々儲けって出なさそうに思ったのよ」

「なんだ簡単だろ」

「雄二はもう考えてるの?」

「明久、島田が言ったことでなにか思い当たることあるか?」

「へ? うーん……」

 

お弁当を大切に抱えながら考える。

Aクラスはやっぱり頭を使って商売をするだろうし、Bクラスは根本くんを見世物にするだろう。

Cクラスなんかは小山さんが何か考えてそうかな? そういえば小山さんが雄二に言いよってた、なんて噂があったな。処刑しないと。

Fクラスにあるものかぁ…

 

そこで僕は思いついた。今、僕たちの目の前に腰を下ろし愛らしい姿でお弁当を食べている少女たち。

 

「わかったよ雄二! 美少女の五つ子が居る! それに秀吉も!」

「ま、そういう事だ。 中野達には悪いが設備の、ひいてはクラスの為に手伝ってもらう」

「美少女とか、恥ずかしい…」

「吉井さんは何時も素直に褒めてくれますね!」

「学祭だもの。理由は気に食わないけれど仕方なく手伝うわ…出来ればキッチンの方がいいのだけれどね」

「まぁ、そういう方向性でいく。 詳しいことはHRで決めればいいだろう」

 

なんか僕たち男子がやらかしたことを女子陣に尻拭いさせてる感じがして申し訳ないけど…うん、考えないようにしておこう。




アンケート1
学園祭の出し物を決める為のアンケートにご協力下さい。
『あなたが今欲しいものはなんですか?』



中野五月の答え
『クラスメイトとの思い出』


教師のコメント
なるほど。中野さんたちは四月に転校してきたばかりで色々と大変かもしれませんが、何かあれば直ぐに相談をしてください。 Fクラスの生徒は個性的な面が強いですが、中野さん達にとって楽しく、有意義な学園祭になること間違いないでしょう。



吉井明久の答え
『せめてちゃぶ台』
『中野さん達が楽しめるもの』


教師のコメント
こればかりは試召戦争の結果、と言わざる負えません。しかし、学園祭の出し物の結果によっては何とかなるでしょう。
それと、転校してきたばかりの中野さん達を気にかけてくれているようで先生は嬉しいです。



上杉風太郎
『焼肉抜きじゃない定食』


教師のコメント
それは焼肉定食といいます。


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バカと学祭と中華喫茶ヨーロピアン

「それで出し物なんだが…何か希望はあるか」

「はいはーい! せっかくだし飲食店関係したいなー」

「飲食店。武田」

「任せてくれ上杉君。 飲食店と…」

 

満開に咲き誇っていた桜も散り、緩く吹く風も少しずつ温さを感じ始めた時期。 文月学園の学園祭、清涼祭が行われる為、2年Aクラスはクラスとしての出し物を決めなければいけなかった。

本来ならば代表である霧島翔子が司会進行を行うのだが、生憎、彼女はこの手の進行が苦手だ。 故に副代表である俺と何か意気揚々と、呼んでもいないのにやって来た武田祐輔が工藤愛子の意見を板書している。

去年のこの時期は学祭なんて勉学の邪魔、時間の無駄と捉えていたが…こうして大勢の意見を取り纏めたり、案を引き出したりするのは良い経験になる。

 

「やっぱり展示じゃ味気ないよね」

「竹林、なにか案があるのか」

「愛子ちゃんの意見に乗っかっちゃうけどね。 優子ちゃんとか代表とか、綺麗な子が多いからメイド喫茶でもすればいいんじゃないかな?」

「……一応意見は意見だ」

 

武田の方へ視線を移すと彼は頷き、ホワイトボードに『メイド喫茶』と書き加える。

その後も『お化け屋敷』、『たこ焼き喫茶』やら意見が出続ける。

たこ焼きで喫茶をするのか? よく分からないが。

 

「だいぶ意見が出たな。 この中から一つに絞るぞ。 挙手で頼む」

 

Aクラスは比較的まともな生徒が多く、この手の決め事で揉める事はほぼ無い。 クラスメイトの殆どが竹林、工藤案の『メイド喫茶』に手を挙げた。 なんというか、それでいいのかお前達は。

 

「上杉君。 どうせだ、このまま役割を決めてしまった方がいいんじゃないか?」

「そうだな…先ずは花形のホールを希望する奴は居るか? メイド喫茶だからメイド服を着てしまうことになるが」

 

スっ、と何人か手を挙げた。マジか。

 

「分かった。次にキッチンは」

 

そこで手を挙げたのは姫路と久保、それに武田と女子数名。

そのまま決めてしまおうと思ったのだが、恐ろしい悪寒が背筋を走った。

徐ろに、先日手にしたばかりのスマホを取りだし明久にメッセージを打つ。

 

『姫路、学祭、キッチン』

 

嫌な予感のあまりに箇条書きになってしまったが明久ならば伝わるだろう。 と、考えている間に既読になりすぐに返事がきた。

 

『死』

 

「姫路。お前は体調を崩しやすいだろ。 当日に何かあると互いに負担になってしまうから服飾関係をやってみないか?」

「あ、そうですよね…。 体調を崩して他の皆さんにご迷惑をおかけする訳にもいきませんし。 メイド服のお裁縫頑張りますねっ」

 

危なかった。

あの雑食明久が『死』の一言を送ってくるとは、どれほどの腕前なんだ姫路。

その後も特に問題が起きることなく、割り振り放課後を迎える。 準備期間もしっかり有る、学祭の心配は無く、有るとすれば…

 

「あ、上杉くん……」

「その様子だと、余程クラス設備が酷かったようだな五月」

「はい。その…みかん箱とゴザでした」

 

教育現場と思えねぇ…

文月学園は試験校だから学費が異常に安いのだが…それだとしても最低限Dクラス程度の設備が貧乏高校ぐらいの設備だろうに。

 

「今日も、その願いします」

「時間外労働だが、今更か」

 

先日の試召戦争終了後、週に一度、バイトのない日に五月が家庭教師とは別で勉強を見てほしいと頭を下げてきた。

以前ならば鼻で笑い時間の無駄だと断言していたところだが、やる気がある五月を無下にする事もないだろう。

 

「さっさと図書室にいくぞ。バイトがないとはいえ、あまりらいかを一人にしたくないからな」

「すみません。あの上杉くんはどうして私にこうして時間外でも勉強を教えてくれるんですか? その、覚えが良くないのに…」

「俺にもよく分からないが…敢えて言うなら五月が一番意欲的に取り組んでいると思っているからか。結果は振るわないが」

 

本当に。明久よりも若干ではあるが覚えがいい程度だ。 明久級の学力とは恐れ入った。

 

「お前達の成績が振るわねーと俺がバイトをクビになってしまうからな。 気張って成績を上げてくれ」

「うっ…教わっておいてこういう事を言うのは気が引けますが……そこまでお金が大事ですか? 家庭教師の他にもバイトをしているんですよね」

「あぁ大事だ。別に守銭奴のつもりは無いが、ウチには……そこそこ借金があるからな。 妹をしっかりと進学させてやるには金が必要だ」

 

やはりというか、この話題を出すと五月はフリーズした。

 

「別に同情も何も要らん。欲しいのは成績だ」

「は、はい。頑張ります…ッ」

 

やる気だけは五人の中で一番あるので苦労も疲れもあるがまだ良い。数分、数学に頭を悩ませている五月を視界の端に捉えているとガコンッ……と何かが外れる音がした。 何かではない、正確には天井の点検口だ。

 

「ここまでは追ってきてないようだね!?」

「お前は何をしてるんだ明久(バカ)

「吉井くん!?」

 

天井からバカが降ってきた。

 

「聞いてよ風太郎、五月さん! 僕も臨時収入があったから皆でご飯でも行こう!って二乃さんと話してたらFFF団の皆が追いかけてきて!」

「私誘われてませんよ!?」

「アイツらの居るところでそんな話をしたらそうなるだろう……」

 

思いの外、理由がしょうもないものだったのは良いとして明久が臨時収入? いつも仕送りを使い切って塩を舐めているようなヤツが?

 

「臨時収入って一体どう「いけない! 人を待たせてるんだった! じゃあね二人とも!」 てめぇ、いったい何をした!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ない危ない……風太郎の隠し撮りを匿名希望Mさんにダースで売ったとバレたら何されるかわかったもんじゃないよ…」

 

まさか風太郎のブロマイドが売れるとは思ってもみなかった。世の中意外な所で需要があるものだ。

二階の窓を飛び降りて植木の横を突っ切り外から下駄箱にたどり着けば二乃さんと三玖さんがドン引きした顔でこっちを見ていた。何故に。

 

「なんでたった数分でそこまでボロボロになって外からやってくるのよ…」

「信じられない」

「………いつもの事」

「明久の事で驚いたりするだけ無駄じゃからのう」

「失敬な!? 3日に1回ぐらいの頻度だよ!いつもじゃないって!」

 

毎日だったら流石に僕の身が持たない。

 

「でも雄二がやる気出してくれて助かったよね」

「ん……あぁ、清涼祭? だったかの話?」

「そうじゃな。 やはりクラス代表が先陣を切ると話し合いもまとまりやすいしの」

「………中華喫茶なんてアイデアがあのクラスから出るとは思わなかった」

「二乃が居るからキッチンは完璧」

 

人を呼び込むための美少女達と持ち前の料理の腕、ちょっと教室がボロいことに目を瞑って貰えればFクラスの出し物はかなり高水準と言えるだろう。 明日にでもムッツリーニと二乃さんが試食品用の胡麻団子を作ってくれることになってるし、僕にとって貴重なカロリーになるので有難くいただくつもりだ。

 

「それで吉井。何処か行く宛てあるのかしら。この辺まだ詳しくないのよね私たち」

「出来れば、静かなところがいい…」

「任せて。いい喫茶店知ってるんだ!」

 

学校を出て駅前方面へと他愛もない話をしながら歩いていくと人気の喫茶店の【ラ・ペディス】がある。 因みに僕や風太郎が時折臨時でバイトをしていることもあったりする。

 

─カランッ と小気味のいい音を鳴らしながら入店をすると一人の女性が笑顔で迎えてくれた。

 

「お帰りください豚野郎」

 

迎えるどころか退店を強要された。

 

「お客さんだよ清水さん!?」

「後ろにいる女子お二方は入店してもいいですが豚野郎共は豚箱がお似合いです!」

「待って、秀吉は豚野郎なんかじゃないよ!」

「……では3人は此方へどうぞ」

 

二乃さんと三玖さん、秀吉は案内をされて僕とムッツリーニだけ入口に取り残された。

 

「どうしようムッツリーニ。何とかして清水さんを納得させないと……あれムッツリーニ?」

 

隣に居たはずのムッツリーニが居なくなっており、いつの間にか清水さんとコソコソ話しをしている。

 

「………入店料」

「お、お姉様のブロマイド!? お支払いもお金ではなく写真で問題ありません」

「裏切り者ォ!?」

 

写真で買収なんて卑怯者がすることだよムッツリーニ! あぁ、もう二乃さんと三玖さんは注文してるし!?

 

「ちっ、仕方ありません。貴方も早く座って注文してください。入口に何時までもいられると邪魔なので」

「理不尽過ぎる……」

 

とぼとぼと歩きながらみんなが座った所に向かうと水を差し出された。三玖さん……!

 

「散々な目にあったよ…」

「アンタが悪いんじゃない?」

「男ってだけだよ!?」

 

理不尽なのは慣れてるつもりだけどさ!

さて、気分を変えて注文をしのんびりと話しているとアップルパイが出てきた。美味しいんだよね〜店長(清水父)が作ったアップルパイ!

久しぶりのカロリーに夢中になりながら頬張っていると視線を感じた。 さては僕のカロリーを狙っているな!?

 

バッ! と視線の先を追うと窓に張り付いてヨダレを一筋垂らしている五月さんが居た。

 

「……………」

「……アキヒサ? なんで顔を隠してるの」

「みんな外を見ちゃダメだ!僕のカロリーを盗ろうとしてる!」

「してませんよ!?」

 

くっ、カロリーお化けが乗り込んできた!! 僕のアップルパイは死守せねば!?

 

「どうしたのよ五月。そんなに必死で」

「私を置いて美味しそうなもの食べてるからですが!?」

「五月、フータローと勉強してたから」

「一声あってもいいじゃないですか!」

 

ぷんぷんと怒りながら席に着けば僕と同じモノを注文していた。良かった、いきなり盗られなくて…

 

「明久、中野姉妹をFクラス基準で考えるのは間違いだと思うんじゃがのう…」

「……今や立派なFクラス」

「すっごい不名誉だわ」

「私もちょっと嫌だ」

 

そもそもFクラスで名誉のことなんて何一つ無いから嫌がるのも当然だ。

 

「でもごめんね? 雄二がバカなせいで教室があんなのになっちゃってさ」

「あれは、まぁ私たちにも責任があるので…」

「五対一で負けたし…」

「上杉が悪いのよ」

 

ごめん風太郎。飛び火した。

 

「あやつも副代表じゃからな。仕方あるまい」

「……頭は固いが良い奴」

「悪い人じゃないことは分かってますので」

「フータローはいい人」

 

二乃さんだけはツン、と顔を背けたままだけれど否定はしていないから少なくとも嫌悪まではしていないのだろう。そのまま話は移り変わり清涼祭の話になる。中野さんたちは知らないしね。

 

「そもそも学祭って何やるのよ」

「んー、多分あんまり他の学校と変わらないんじゃないかな? お店出したり、ちょっとした催しがあったりする感じだし」

「うむ。特色としては召喚獣トーナメントがあるぐらいかの」

「……たしか賞品は一年間の学食スイーツ無料券と如月グランドパークの特別券だったはず」

 

ムッツリーニは何でまだ発表されていない賞品を知っているんだろうか。…って!?

 

「「スイーツ無料券!?」」

 

五月さんとハモった。何だかとても恥ずかしいよ!

 

「吉井くん。出ましょう」

「そうだね五月さん。 僕たちの手でスイーツ無料券を栄光を掴み取ろう!!」

 

おー! とノリノリの僕達は考えていなかった。

当たり前のようにこの大会には首席や次席、上級生までが入り乱れる混沌になるなんて。




清涼祭アンケート
学園祭の出し物を決める為のアンケートにご協力下さい。
『喫茶店を経営する場合、制服はどんなものが良いですか?』



中野三玖の答え
『喫茶店のコンセプトにもよる。メイド服とか』


教師のコメント
確かにそうですね。Fクラスの場合は中華喫茶のようですので中華風をイメージした給仕服になるのでしょうか。



吉井明久の答え
『チャイナ服!』



教師のコメント
吉井くんが着る訳では無いですよね? 男性の場合は何を着るのか、まで考えてみるとクラスでのバランスが取れると思います。



土屋康太の答え
『先ずクラスにいる7人のイメージカラーを決め、布に装飾を施す。生地には主流の絹を使い肌触りが良く、それぞれの華やかな雰囲気を演出するように製作。 中野四葉ならば緑を基調とし快活なイメージに合わせて丈は他の女子より若干短めに…(この後、他六人のイメージ三面図までびっちり)』


教師のコメント
一体どこをめざしているのでしょうか。


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