最近個性が芽生えました。 (限界社畜あんたーく )
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異変


名古屋市の一角。

周りがビルや住宅街で彩られる何気ない日常に、突如発砲音が響いた。

刹那に響く、一つの甲高い悲鳴。

その発砲音と悲鳴の元は、全国に展開されている三大銀行の一つ、食友銀行の中からだった。

 

 

食友銀行の中には、武装した男たちが居た。

片手に拳銃を携え、白面のピエロマスクを被り、隙間から見える鋭い眼光は床へ──中心に男が伏す血の池へ向けている。

 

 

「ク、クソォ・・・」

 

「ハン、ヒーロー様がたかが拳銃の一発でダウンとはな?」

 

 

撃たれたのは全身を青色のタイツスーツで包んだ若い男だった。

彼は『ブルーマン2号』。この銀行を警備するために派遣されたヒーローである。

個性は『スライド』。自分を任意の位置に一定の速度で移動させることが可能。

速度は原付程の速度まで調整することができ、またこの個性の使用中は移動を除いた動作──殴ったり蹴ったり等──であれば行うことも出来る。

 

愛媛では有名なヒーローで、CMやニュースにも多く出演している。

その実績を認められた結果、つい先日名古屋への拠点移動が決定したのだが・・・。

 

(その矢先にこれじゃ、故郷のみんなに顔向けできないな・・・)

 

拠点を変えたばかりのヒーローは、大抵は銀行の警備や町のパトロールに勤しむことが多い。

何故ならどちらも前衛的に戦うことはなく、あっても別のヒーローに連絡を取るだけで戦闘に積極的に絡む必要が無く済むからだ。

つまり、危険が全く無い仕事のはず()()()

 

 

「オマエ、たしか地方で有名な『ブルーマン』だよな?」

 

「二号だ!」

 

「あーハイハイ、『ブルーマン二号』ね」

 

 

男が拳銃を二号の顎に突きつけると、その引き金に指を掛けた。

振り払おうとするも、撃たれた腹に激痛が走るため動けない。

そんな自分にも苛立ち、それが舌打ちとなって表現される。

 

 

「でよ?なんでオマエ()()()()ヤツがヒーローやってんだ?」

 

「ッ!ォ、俺は人を守るために!」

 

「人を守るために?それがこの様かよ!」

 

 

グッと、喉仏から血が流れる程に強く、拳銃を突きつける。

呼吸が難しくなり、ブルーマンは鼻息を荒げる。

 

 

「なにがヒーローだ!うわべだけじゃねえか!人も守れねえならヒーローなんて辞めちまえ!」

 

 

そう言うと男は拳銃を握った状態で、頭部に拳を打ち下ろす。

鈍い音が響くと同時に、ヒーローの頭部から鮮血が迸った。

 

 

「ぅぐ!」

 

「これがヒーローかよ。弱ェなあ」

 

 

興味を無くした男は、そのまま踵を返し仲間の元へと向かう。

仲間は既にカバン一杯の札束を詰め込んでおり、そのチャックを締めるところだった。

 

 

「大量だぜ!大量!!」

「これだけありゃ一生遊んで暮らせるな!」

「最初はやっぱ飯にするか?それともパチンコ!?」

 

「うるせえ、さっさと出るぞ!」

 

 

男達は手分けしてカバンを持つと、その場から逃げようとした。

 

 

「ま、だだ・・・」

 

「あ?」

 

 

男の足が止まった。

否、()()()()()

 

 

「なんだよ。今更ヒーロー気取りか?」

 

「・・・」

 

 

二号の手は男のズボンの裾を握っており、絶対に離さないという確固たる意志がその眼から漏れていた。

しかし男はそれが気に食わないようで、掴まれている足を使って二号の顔面を蹴り上げた。

 

 

「あのな?オマエがいくら頑張ったところで、俺達を止められるなんてできないわけ。分かる?」

 

「・・・」

 

「金を守れねえ、人も守れねえ、自分のプライドも守れねえ。それでヒーロー?笑わせるなよ」

 

「・・・」

 

「ッチ、だんまりかよ」

 

 

苛立った表情で、男は足の蹴る力をさらに強くした。

そして何度も何度も何度も。

 

ヒーローの顔面を蹴り飛ばした。

 

 

「・・・」

 

 

しかし、どれだけ顔の肉が裂かれようと、どれだけ血が溢れようと、決して手を放そうとしなかった。

いよいよ男の怒り度が限界を迎えたようで、腰に下げていた拳銃を取り出した。

 

 

()()()()()だっけか?オマエ人をおちょくるのもいい加減にしろよ?」

 

「・・・に、ごう・・・だ」

 

「あ?なんだって?」

 

 

 

 

「お、れは・・・()()だ・・・!」

 

 

 

その時、ブルーマンの体がスライドし、力の籠った右拳が男の鳩尾にクリーンヒットした。

 

「ガフッ?!」

 

男は狼狽え、口からゲロを吐きながらそのまま後ろへ倒れ込んだ。

しかしそこまで力が籠っていなかったのか、男は青い顔でゆっくりと立ち上がる。

そして顔を不愉快気に歪ませると、拳銃をブルーマンに向け引き金に指を掛けた。

 

 

 

 

 

「クソ野郎が。さっさと死ね!!」

 

 

 

 

 

そして響く発砲音。

鉛玉が銃口から発射され、軌跡を描いてブルーマンの額へと向か──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SMASH(スマッシュッ)!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壁が木っ端微塵に砕けると共に、弾丸がその風圧で彼方へ吹き飛ぶ。

開いた穴から光が差し込み男の影を作り出した。

 

 

 

 

「よく耐えたね、ブルーマン()()くん!」

 

 

 

マントを風に靡かせ、ブルーマンを庇う様に正面へと立つ。

その巨漢の男はあまりにも神々しく、あまりにも雄々しかった。

その場にいた強盗団を除く全員の頬に、一筋の涙が伝った。

その涙は感動か、奇跡か、幻か。

はたまたその全てか。

 

 

「だが、もう安心だ!!なぜなら・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私がッ!!来たァッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 

強盗団を取り押さえると、あとから駆け付けた警察たちが彼らを連行した。

顔馴染の警部に一礼すると、その場を去ろうとする。

が、そこを担架で運ばれていた英雄(ヒーロー)が呼び止めた。

 

 

「オール・・・マイトさん・・・」

 

「あまりしゃべらない方がいい。傷が悪化するぞ」

 

「いや・・・お礼が、言いたくて・・・」

 

「・・・いや、私は当然のことをしたまでさ」

 

「僕は・・・昔からあなたに、憧れて・・・いて・・・」

 

 

今活動している若手のヒーロー達にとって、オールマイトは青春であり憧れでもある。

実際、若手ヒーローのコスチュームの多くは、どこかしらのポイントにオールマイトっぽい部分を取り込んでいる。

 

 

「僕の、個性は・・・あまりヒーロー向きでは、ありません・・・」

 

 

血を吐くように、万年筆で綴る様に、息も絶え絶えで説明を始める。

もはや止める勇気はオールマイトには無く、大人しく相槌を打つことにした。

 

 

「でも、あなたに憧れて・・・僕はヒーローを目指しました」

 

「・・・」

 

「悔いはありません。こんな個性に生まれたことも、後悔はありません。運が無かったなら、努力するまで。それは、あなたが教えてくれたことです・・・」

 

 

心にズキズキと、刺さるような痛みが走る。

その言葉の先を言わせたくない。

その言葉の先を聞きたくない。

でも、聞かなければきっと、私も彼も後悔する。

唇が裂けるほどに強く、激しく噛みながら、なんとか耐える。

 

 

「オールマイトさん・・・」

 

 

 

 

 

「こんな僕に夢を見せてくれて・・・ありがとう・・・ござ・・・」

 

 

 

その時、二号の持ち上げていた腕がダラリと垂れた。

一瞬ガチ目に焦ったが、どうやら息はしているようなのでほっと胸を撫で下ろした。

 

 

「運が無かったら努力するまで、か・・・」

 

 

ふと何かに思い耽るような、悲しみに満ちた顔を浮かべ──だが、駄目だと頬を両手でパチンと叩く。

踵を返すと、近くの救急隊員の肩を掴み真面目な顔で告げる。

 

「民間人を守った英雄だ。丁重に運んであげてくれ」

 

隊員の力強い相槌を見ると、オールマイトはニッコリと、明るい笑顔に戻す。

ヒーローたるもの、どんな時でも笑顔でなくてはいけない。

 

「私は次の事件へと向かわねばならない!それでは!!」

 

光の速度とは、音を置き去りにするとはまさにこのことなのだろう。

残像だけを残し、目にも止まらぬ速度でオールマイトは跳び去ったのだった。

 

 

 

 

 

 

それから幾度の事件を解決させ、気付けば日が暮れていた。

NO.1ヒーロー(オールマイト)のバックに赤い夕焼け。それが似合わないはずがない。

事件を傍観していた民間人がカメラを用意し、サムズアップを決めるオールマイトを写真に収める。

 

 

「HAHA!では諸君!!さらばだ!!!」

 

 

フラッシュが途切れ始めたところで、オールマイトは空の彼方へ跳んだ。

その場に残ったのは白と黄色の残像のみ。

しかし、その残像でさえも尊敬と畏怖の念を途絶えさせる者はいなかった。

 

 

 

 

暫くして、近くの建物の物陰から、一人の痩せこけた男が現れた。

否、痩せこけた──というのは表現としては不適切か。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と言った方が正しいだろうか。

 

 

「ガフッ!」

 

 

尋常ではない量の血を吐き、口元を拭いながらよろよろと倒れる。

しかし男は悲鳴を上げない。

周りに助けを求めない。

 

「トップヒーローが助けを求めるなんて、そんなのヒーロー失格だからね」

 

その見た目よりも枯れた笑いを口から吐き出すと、男は立ち上がりそのまま歩き出した。

 

 

 

男の名は八木俊典(やぎとしのり)

 

 

オールマイトの、真の姿(トゥルーフォーム)である。

 

 

 

 

 

何度も血を吐き、何度も倒れ込み、そしてやっとの思いで帰った自宅の玄関前には、見覚えのある男がいた。

 

 

「塚内君!?来るなら来るで連絡してよ!」

 

 

塚内直正。

オールマイトの秘密を知る数少ない人物の内の一人。

敵連合絡みの事件を担当する警察官で、信頼が出来る友人でもある。

 

 

「連絡はしたんだけど」

 

「本当?」

 

 

スマホを見れば、確かに塚内から連絡が来ていた。

だがその頃はマナーモードにしていたし、丁度敵と戦っていたであろう時間なので、どっちにしろ気付くことは無かっただろう。

 

 

「それで、用件は何だい?」

 

「明日から静岡の方に行くんだろ?暫く会えなくなると思ってな」

 

「いや、東京には時々戻るけど・・・」

 

「でも会う機会は暫くは無くなるだろ」

 

「それはまあ・・・そうだけど」

 

「だから来たんだ」

 

 

何故"だから"なのかは置いといて、確かに唯一の友人との一時の別れなので挨拶ぐらいはしておきたいと思っていたところだった。

 

 

「でも、何にもないよ?」

 

「だろうと思って、買ってきたさ」

 

 

塚内の右手には、赤ん坊が丸々一人はいるぐらいの膨らみがあるビニール袋が握られていた。

しかしその膨らみ的に、恐らく大半を缶ビールが占めていることが推測できる。

 

 

「ビールは飲まないけど」

 

「そりゃそうだ。だって見せびらかすために買ったんだから」

 

「正直すぎる!」

 

 

近所迷惑になるので声を控えめにツッコミをした。

その衝撃(ツッコミ)で吐血するが、いつもの事なので塚内には無視された。

 

 

家の中は特にこれといった珍しいものはない。

強いて言えばコスチュームと私服が地面に散乱しているぐらいだ。

そんな散らかった地面を飛び越えながら、リビングの床に塚内は座り込んだ。

 

 

「静岡か。名物グルメって何があるんだ?」

 

「いや、観光しに行くつもりは無いんだけど」

 

「でも食べるだろ?」

 

「そりゃ食べるけど」

 

 

お茶や割り箸を出しながら、向かい側に座った。

 

 

「静岡・・・静岡・・・お茶とか?」

 

「お茶は食べれないでしょ。というか、一番に浮かぶべきはウナギでしょ」

 

「ウナギか、なるほど」

 

「あとは、例えばシラスとかイチゴとか・・・」

 

「シラスもイチゴも名産品なのか」

 

「私も最近知ったよ」

 

「・・・実は結構楽しみだったり?」

 

「相当楽しみ」

 

 

子供のような笑みを浮かべる。

 

 

「楽しみだな~ウナギ。お土産は頼むよ」

 

「いや、()()()()()買わないけど」

 

「・・・てことは・・・」

 

「君、確か来週誕生日だよね?」

 

「流石オールマイトだ」

 

 

そんなこんなで他愛ない話や世間話をブラブラを巡っていると、丁度日付が変わった。

既に塚内は酔っており、顔を赤らめ床で崩れた胡坐をかいていた。

一方のオールマイトはアルコールを摂取していないので酔ってはいないが、しかしかなりの睡魔に襲われている。現に首がコクリコクリと曲がっているのが何よりの証拠だ。

 

 

「塚内君。そろそろ帰った方がいいんじゃない?」

 

「それもそうだな」

 

 

ふらりと立ち上がり、ゴミをまとめたビニール袋を持って玄関へと向かう。

酔っている割にここら辺はしっかりしているところを見るに、性格の良さが出ているのだろう。

 

「あ、そうそう」

 

玄関前でクルッと振り返り、帽子を深々と被りながら扉を開く。

外の自然み溢れる風が流れ込み、塚内とオールマイトの髪を揺らした。

 

 

「君が助けたブルーマン二号。リカバリーガールの助けもあって、二週間以内には無事に復帰できるらしいよ」

 

「そうか。それは良かった」

 

「・・・それともう一つ」

 

「うん?」

 

 

 

「彼、個性が原因で昔虐められてたんだってさ」

 

 

 

空気が吸いづらく、重くなった。

まるでオールマイトの心情を感知したかのように。

まるで空気に鉛が含まれたかのように。

 

 

「中学生の頃に君の活躍を見て、将来はヒーローを夢見てたらしいんだけど、周りからは「貧弱な個性だ」なんて言われていたそうだ」

 

「・・・それで?」

 

「いやなに、君に()()()()()()って思ってさ」

 

 

塚内はオールマイトを知っている。

それも、()()()()()()()()()()()()までも知っている。

 

だから正直者の彼は時々、オールマイトとしての心を抉るかのような発言をすることがある。

 

勿論、あくまで塚内は感想として言ったということは承知している。

あくまで嫌味や妬みを篭めた言葉でないことも理解している。

 

それでも、それがまるで自分を咎めようとする言葉に聞こえてしまう。

 

 

「・・・ああ、すまない。君にこんなことを言っても返答に困るよな。それじゃあ失礼するよ」

 

 

会釈を済ませると、塚内は玄関から姿を消した。

 

それからしばらくして、八木俊典は膝から崩れ落ちた。

 

 

 

「・・・私は・・・卑怯者だ」

 

 

幾度となく自分に言い聞かせた言葉。

 

 

この個性は人からの貰い物だ。

決して自分が生み出したモノではない。

ただの運。

ただの巡り。

 

その力を例え私欲のために使っていないにしても、例え人を社会を守るために使っているにしても、自分が人が踏むはずだった階段を何段も蹴飛ばして進んできたという罪悪感は拭いきれない。

 

自分は傲慢だ。

自分は強欲だ。

自分は怠惰だ。

 

七大罪の三つを背負うとは、なんて最低なヒーローなのだろうか。

 

 

「その傲慢さを、強欲さを、怠惰さを行使し続けた結果がこれだ」

 

 

服の上から腹の傷を撫で、そこから走る痛みをしかと食いしばる。

あの時の衝撃は今もなお鮮明に覚えている。

あの時の痛みに比べれば、タンスに小指をぶつける痛みに比べれば、幾万分もマシだ。

 

 

 

 

「・・・これは戒め。私への罰。全てを救う者(オールマイト)が背負う業だ」

 

 

 

 

痛みが若干引いてきたところで、重い溜息を吐いた。

 

 

「・・・風呂に入って、早く寝て、早く起きないと。明日は静岡に行くんだから」

 

 

全身が気怠くなり、鉛が水平移動するかのような足取りで、オールマイトは風呂場へと向かった。

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

水玉のパジャマに着替えた八木俊典は、ふかふかのベッドの上で横になった。

三角帽子の先にあるモコモコが後頭部に抉り込み軽く吐血しながらも、体勢を変えると深く息を吸い込む。

そして瞼を閉じると、深い眠りの世界へと誘われた。

 

 

「・・・ZZZ」

 

 

花提灯を膨れ上がらせ、どんどんと深淵に潜り込んでいく。

 

 

「ZZZ・・・ZZ?」

 

 

だが、潜り込もうとすると息が持たず、そのまま海面へと戻ってしまった。

 

 

 

 

「・・・緊張して眠れん!!」

 

 

 

 

ガバっという擬音と共に起き上がると、近くの時計の針を見つめる。

見れば、寝てからまだ一分と経っていなかった。

 

 

「こうなったら・・・これを使うか!」

 

 

某青狸ロボットの効果音が鳴ると共に、丸めた拳から小さなお菓子袋のようなものを取り出した。

 

 

「す~い~み~ん~ど~う~にゅ~ざ~い~!!」

 

 

リカバリーガール公認であり、オールマイトもCMに出演していることで有名な睡眠導入剤、その名も『スッキリマイト』。

その者の個性に直接関与せずに、ノンレム睡眠へと促すことが出来る薬だ。

CMの売り文句は「夜も戦うオールマイトでさえも、(ヴィラン)の前でぐっすり眠っちゃう!!」なのだが・・・。

 

 

「お手~軽に~睡ッ眠ッ!速~やかに~熟ッ睡ッ!スッキ~リ~マ~イトゥッ!HAHAッ!代償製薬ゥッ!!」

 

 

まさかCMの歌まで歌うレベルの依存だとは、誰も思わないだろう。

 

袋の中から白い粒を取り出すと、それを水と一緒に含んだ。

そしてまるごと飲み込むと、布団を被って横になった。

 

 

「しかし、本当にオールマイトも眠rZZZ・・・」

 

ちなみにフラグを立てる前に寝るのは、CM再現である。

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと気が付くと、辺りは白い空間で構築されていた。

奥行きはどこまでも広く、天井はどこまでも高く、地面はどこまでも深い。

まるで一次元の世界に飛ばされたような未知の光景。

ストレスと幸福感を同時に味わうような、矛盾した心情。

無重力による浮遊感と引き寄せられる引力を同時に感じる矛盾した感覚。

 

その全てに全身を圧迫されてもなお、その思考は冷静を保っていた。

 

 

何故なら()()()()()()()

 

初めての光景を。初めての心情を。初めての感覚を。

 

 

その全てを()()しているからだ。

 

 

「・・・」

 

 

目の前に、黒い靄が立つ。

それが何かは分からないし、しかしこれといった興味も沸かない。

 

 

 

それもそうだ。

 

 

コレは夢の中だ。

夢の中なのだから、いくらでも経験してるし、いくらでも忘れている。

いくらでも答えを知っていれば、いくらでも答えが分からない。

 

自分の中で始動し、自分の中で完結し、自分の中で再発される。

 

変幻自在の形無きソレが、ソレこそが夢なのだ。

 

だからこそ夢には興味は沸かない。

興味があるのは夢が作り出す()であり、夢単体には微塵の興味も沸かないのだから。

 

 

「・・・こんなつまらない夢なんか見せないでくれ。私の理想を、私の願いを、私の不幸を。早く形を変えて見せてくれ」

 

『・・・・・・・・・』

 

 

黒い靄は形を変える。

段々と人型になるソレは顔に当たる部分に逆三角形の空洞を作り出し、そこから空虚な音を作り出した。

 

 

 

 

『・・・ドンナ・・・ユメガミタイ?』

 

 

ふと疑問に思った。

果たしてコレは夢なのかと。

果たしてソレは何なのかと。

 

これまでの()()()()()()()の多くには、共通して既視感というものが存在していた。

どこかで見たことあるような、しかし全く思い出せない状態だった。

 

だが、今は違う。

 

本当に初めての経験だった。

こんな白く広がる空間にも。

こんな流暢し喋る黒い靄にも。

既視感というものは存在しなかった。

 

だからこそなのか、それを既知に変えたいという欲望が、自然と働いてしまう。

 

 

 

 

「なら、私の腹の傷が治った夢。でも見せてもらおうかな」

 

 

 

 

現代医学でも不可能とされる後遺症と内臓の修復。

それを叶えた夢を見せてほしい。

果たして本当に夢を見せてくれるのか。

それとも夢を見せずに暗転するのか。

失せていた興味は期待へと変わり、震えとなって体外に現れる。

 

 

「・・・ワカッタ」

 

 

そう言うと黒い靄は、空気に溶け込むように薄れていった。

一滴の墨汁をバケツの中に落としたかのような余韻と共に、暫くその場から目を離さないように凝視し続ける。

 

 

しかし、何も変わらない。

何も生まれない。

 

 

 

「ホーリーシット・・・夢ってものはここまで融通の利かないものなのか」

 

 

融通の利かない夢など興味はない。

大人しく起きよう。

そう考えた矢先、その瞬間のことだった。

 

 

 

ベチョリィ・・・

 

 

 

右肩に粘り強い何かが乗ったような、気色の悪い感覚が伝った。

 

 

「ワッツ!?」

 

 

違和感のある肩を見れば、そこにはコールタールのように黒光りする、粘液状のナニカが付いていた。

 

 

ベチョリィ・・・ベチョリィ・・・

 

 

そのナニカは次第に面積を広げ、右肩から一気に広がっていく。

 

 

「グゥ!?なんだコレは!?は、離せ!!」

 

 

恐怖というよりも生理的嫌悪感が先に働き、粘液を振り払おうと必死になる。

しかしスピードはむしろ加速するばかりで、粘液はドンドン体を浸食していく。

 

 

ベチョリィ・・・ベチョリィ・・・ベチョリィ・・・

 

 

いくら体を捩ろうと、いくら体を動かしても、粘液は飛ばされることはない。

 

 

 

「こうなったら・・・ハア!!HUN!!!

 

 

 

マッスルフォームへと変身し、全身を力む。

その衝撃波で粘液を飛ばすつもりだったのだが、しかし加速するばかりで、粘液の一滴すら飛ばされることは無かった。

 

 

「クソ!!だが・・・これは夢だ!なら現実に戻りさえすれば・・・!!」

 

 

顔を除く全身を侵され、もはや身動き一つとれない状態でありながらも、しかし思考だけはまだ冷静に動かし続ける。

 

 

「戻れ!戻れ!早く戻れ!!!でないと私は夢の中で最悪を見ることになる!!こんな気色悪い粘液に好き勝手されるのは嫌だ!!」

 

 

もはや最後は自分の願望になっているが、それでも危機感が働いているのは本当の事だった。

いよいよ顔面まで登って来た粘液を避けながら、必死になって叫んだ。

 

 

 

 

「戻れェェエエエエ!!!!早く目が醒めてくれェェ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジリリリリリリリリリリンン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドゥワア!?!?」

 

 

 

スマホのアラームが鳴り響くと同時に、ベッドから転げ落ちた。

時刻は六時。

 

 

「朝か・・・良かったァ・・・」

 

 

額と背中に手を添えると、触れた手がグチョグチョになるレベルの汗を流していた。

気色悪いと感じると同時に、夢でよかったという安堵の思いが心中を渦巻く。

 

 

「それよりも・・・早く着替えて静岡に行かないと・・・!」

 

 

気持ちを切り替え、さっさとベッドから降りる。

朝食用の食パンをオーブンで焼きながらスーツに着替えていると、ふとあることに気付いた。

 

 

 

「腹の痛みが・・・ない?」

 

 

 

正確に言えば無くなったわけではないのだが、しかし痛みが控えめになっているように感じた。

いや、それだけではない。

 

(朝起きたらまず、ベッドから降りた衝撃で吐血するはず・・・)

 

更に言えば、睡眠導入剤の副作用でも吐血をするはずなのだが、しかし今日は未だに一回の吐血もしていない。

 

 

「・・・一体なんだ・・・?もしかして・・・」

 

 

あの黒い靄が関係しているのか。

しかしいずれにせよ、今はそんなことを考える時間ではない。

何故ならもうすでに、オールマイトはあるものとの戦いが始まっているのだから。

 

焼き終わった食パンにジャムをひと塗り。

それを口に咥えると、荷物を持って外に出た。

 

 

 

 

「いっけなーい!遅刻遅刻!!」

 

 

 

 

いつものトゥルーフォームであれば絶対に出さない全力疾走。

スピードはあまり出てはいないが、その声からもその足取りからも、本人が喜々としているのが近くを通った民間人にも伝わった。

 

はたしてこれは奇跡か。

はたまたこれは天命か。

 

いずれにせよ、その正体を知るのはもっと先のことになるのだった。

 

 

 

 




ブルーマン二号

愛媛のヒーロー。
父がブルーマンという名前でヒーロー活動を行っていたため、その思いを継ぐためにヒーローとなった。
今後登場予定なし。(予定)


スッキリマイト

代償製薬の睡眠導入剤。
なお売れ筋はイマイチ。

お気に入り、評価の方お願いします。
作者の励みになります。


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なんか中途半端な感じになっちゃった


電車で移動後ホテルに着き、早速それまで着ていたスーツを脱いだ。

 

 

「・・・やっぱり、なんか体の調子がいいような気がする」

 

 

軽くなった肩を回し、洗面台へと向かう。

鏡を覗くが、しかしこれといって変わった点は見受けられない。

 

(何が原因なんだ?あの薬の副作用でハイになっているだけか?)

 

あの黒い靄が関係してそうな気がするが、しかしそれに繋がる確証が無いのも事実。

 

 

「フム。理由はどうあれ体調がいいのはむしろありがたいこと。この体調が続いている間に、社会貢献!ヒーロー活動!全身ッ全霊で!!」

 

 

コスチュームに着替えると、マッスルフォームへと変身した。

 

鏡の前でスーツの皺がないかの確認をして、最後にニッコリと笑顔を作り出す。

 

 

 

「・・・ッヨシ!!」

 

 

 

準備は万端。笑顔もジューシー。

 

早速ベランダから飛び降りると、小走りで目的地まで向かっていった。

 

 

 

 

 

 

道中でサインを強請(ねだ)られながら、およそ三分弱で目的地へと到着した。

そこはかなり大きめの公園のような場所で、そこには既に多くのマスコミが四角い列を成していた。

 

オールマイトがその公園に片足入れるや否や、シャッターのフラッシュが焚かれた。

 

 

「わ~た~し~が~・・・」

 

 

 

 

 

 

「静岡に単身で来たァ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

キメポーズをとると同時に、太陽光に負けないレベルのシャッターが切られる。

流石に眩しいので目元を少し隠すが、それはそれで様になるようでさらにフラッシュが増えた。

そのマスコミの間を潜り抜けるように、一人のマイクを持った女性がオールマイトの前に立った。

 

 

「すみません!オールマイトさん!!」

 

「なんだね?」

 

「これからは静岡を中心にヒーロー活動を行っていくようですが、その意気込みはどうですか!?」

 

「HAHA!やる気しかないね!!自慢じゃないが、事故最多を記録していた名古屋を、今年は事故数0に押さえられた実績もある!今度は(ヴィラン)事件の多い静岡の、来年の敵事件数を0にしてみせるさ!」

 

 

ちなみにこれは余談だが、静岡のヴィラン事件数が多くなった理由は、オールマイトが名古屋で活動していたのでそこから敵が静岡に逃げたからだ。

なので突き詰めるとオールマイトのせいということになるのだが、だからと言ってオールマイトを責めるような者はいない。

 

何故ならNO.1ヒーロー(オールマイト)だから。

 

何故なら最強(全てを救う者)だから。

 

どうせ敵が集まっても、オールマイトならなんとかしてくれる。

そう信じているからだ。

 

 

「流石オールマイトさん!では今後の予定は!」

 

「静岡の(ヴィラン)事件を中心に、そしていつも通り各都道府県の敵事件に対処していくつもりさ!」

 

 

とはいえ静岡以外の都道府県に行くときは、その地のヒーローでも対処できないような敵が現れた時だけなので、そう頻繁に静岡以外の場所へ行くことはないのだが。

 

 

それから幾度もの質問を終え、段々と人だかりが出来てきた頃合いになって、グルリと背後へと目を向けた。

 

 

「ム!?遠くで悲鳴が!それでは皆!さらばだ!!」

 

「え!?まだインタビューしたいことが・・・!」

 

 

言葉を最後まで言わせることなく、オールマイトの姿が消えた。

その直後、オールマイトが目線を送っていた先で大爆発が起きた。

なんという反応速度。

なんという判断力。

呆気にとられていたマスコミやカメラマン、そしてインタビュアー達は、オールマイトを追いかけるべくその場から走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、やっぱり間近で見ると速いっすねー」

 

「だな。俺たちマスコミが追い付けない、というかカメラの中に収まらない速度で跳んでくとは。流石NO.1ヒーローってところか?」

 

「・・・あ、もう事件解決させたらしいっすよ」

 

「マジか。それライバルのところか?」

 

「ええ。ここのサイト、オールマイトの記事ばっか挙げてるんですよね。僕も今じゃオールマイトのファンっすよ」

 

「全くのんきに仕事しやがって。最近結婚したからっていい気になるなよ!」

 

「えへへ・・・あれ?」

 

「ん?どうした?」

 

「いや、あの地面、なんか割れてません?」

 

「割れてるって・・・そりゃあオールマイトが跳んだところだからな。割れててもおかしくないだろ」

 

「オールマイトは跳ぶときに地面を割らないように気を遣ってるとかなんとかって聞いたような気がして・・・」

 

「噂かなんかじゃねぇのか。それとも緊張して力んだとか」

 

「そんなまさか。あのオールマイトですよ」

 

「だよな。ならただの噂だ。それよかさっさと次の現場行くぞ」

 

「うっす!」

 

 

 

 

 

 

オールマイトは空を跳んだ後になって、自分の身体に起こっている()()()に気づいた。

 

 

(力の制御が利かない・・・なんだ?これは)

 

 

先ほど跳んだときも、あまり力を入れずに跳んだはずが、地面にヒビを入れてしまった。

 

 

 

(全盛期の頃より前、OFA(ワンフォーオール)の力を制御できていなかった頃のような、まるで有り余る力を抑えられないような・・・)

 

 

そんなことを考えながら、地面を蹴って跳んでいると、丁度目の前で大きな爆発音が聞こえた。

 

 

(・・・今は事件の解決が最優先!)

 

心に釘を刺すと、眼前の(ヴィラン)の目の前に飛び降りた。

視界内には建物を崩す個性的な見た目をした(ヴィラン)と、巻き添えから逃げようとする一般市民たちの姿があった。

 

 

「私がッ「やった!オールマイトだ!!」えちょ

 

「何!?オールマイトだと!?」

 

 

建物を崩していた関節を除く体のあらゆる部分が四角い(ヴィラン)は市民の叫びを聞くと振り返り、オールマイトを見るなり叫んだ。

 

 

 

「・・・来たァ!!」

 

 

 

歯切れが少々悪いが、いつもの決め台詞を放った。

 

「まさかオールマイトが来るなんて・・・!そういえば今日来るとかなんとかってニュースで・・・クソォ!」

 

(ヴィラン)は悪態をつくと、地面に手を当てる。

すると、触れた地面が真四角に削られ、(ヴィラン)の手にある小さな袋に収まった。

 

 

「俺の個性『ブロックポケット』は、触れたモノを縦横高さ1mのブロックにして、それを収納する能力!重さに関係なく最大64個持てるんだ!!」

 

「何故説明口調!?」

 

 

しかしかなり強力な個性だ。

思考回路が(ヴィラン)寄りでなければ、いいヒーローに()れただろう。

 

 

「だがこんな俺でもオールマイトには負ける!ここは一時撤退だ!!」

 

 

手のポケットが開かれ、そこから質量保存の法則をガン無視したブロックが幾つも取り出される。

 

 

「必殺!!『積罪(ツミツミ)ブロック』!!」

 

 

ブロックは(ヴィラン)の目の前に展開され、縦横8mの正方形型の壁を作り出した。

遠目から見ればモザイクのように見えるソレだが、しかしその圧迫感は(ヴィラン)のソレとは全く持って異なる。故に市民の多くは腰を抜かし、その場から逃げられない者もいた。

 

 

「必殺技も持っているとは!しかもネーミングセンスもかなりいい!

 

 

 

 しかし!!!」

 

 

拳を引き絞ると、ブロックの壁に向かってダッシュする。

なるべく力を籠めず、辺りに破片が飛ばないようにと意識を集中し──。

 

 

 

 

 

 

「SMASH!!!!!」

 

 

 

 

 

 

壁は隅々まで亀裂が走り、そして破壊された。

破片は周囲に飛び散り、それを全身でオールマイトは受ける。

さながら雨を浴びているようであり、周りの民間人や傍観者の多くからまるで美麗な絵画を見たかのような圧倒された声が漏れる。

眼の前の(ヴィラン)からも思わず「何ィ!?」という驚きの声が漏れている程だ。

誰しもがその光景に、オールマイトたる正義の力を再認識した。

 

 

たった一人を除いて。

 

 

SHIT(シット)、破片が周りに飛ばないように考慮したつもりなんだが・・・)

 

幸い、破片が飛んだ先には民間人はいなかったので、大きな事故にはならなかったが、それでも自分の行為により民間人に被害が広まる可能性があったということに、少々不甲斐なく思う。

しかし本当に、この体はどうしたのだというのか。

 

(否、それよりも───)

 

思考を止め眼の前の相手へ意識を向ける。

 

 

「君の個性とその必殺技、確かにカッコいい!!だが、君は積むべきものを間違えている!!」

 

 

 

 

 

 

「君が積むべきは、努力と徳と・・あと勉学だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

無詠唱化したSMASHで、(ヴィラン)を吹き飛ばした。

そのまま地面を滑っていき、電柱に後頭部をぶつけて気絶した。

 

実際は寸止めして風圧で後ろに倒れるレベルの拳を放ったつもりだったのだが。

 

 

(やはり力の制御が利かなくなっている。もっと出力を抑えるべきか)

 

 

出力を抑えると、精密な力の操作が出来るようになる。

が、その代わりに、いざという時にフルパワーで挑むことが出来なくなる。それを考慮すると、出力はこれ以上下げない方がいいのではないかとも考えてしまう。

 

取り敢えず、今はこの場から離れるべきか。

周りを取り囲むファンの持ち物にサインを書くと、その場から若干離れた位置で足を曲げた。

 

 

「それでは諸君!!今日の夜七時からのクイズ番組で、また会おう!!」

 

 

オールマイトは空を跳び、また次の事件へと向かった。

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

静岡に来てから約三日後。

数多の事件を解決し、力の制御にある程度慣れてきた頃。

 

 

週に一度の休みに入ったオールマイトは、八木俊典(トゥルーフォーム)で外に出ていた。

大好きなコカコ・オレの1Lペットボトルを二本買い、晩御飯用の食材を買い入れたところで、街中をフラフラと歩き始める。

 

オールマイトが何故街をフラフラとしているのか。

それは静岡全域のマップを覚えるためだ。

ヒーローたるもの、どんな状況であっても最速最善を尽くさなければならない。

そのため、例え見知らぬ土地であっても、通りの造りや近道を覚えていた方が良いのだ。

 

 

(ここを通ると銀行があって・・・そういえばマンホールもあるのか。中の構造とかも覚えておいて損はないな)

 

 

足元のマンホールを見たときに、ふと下水道のことを思い出した。

名古屋の方では移動手段として使ったことはなかったのだが、敵の逃亡を追うために活用することは稀にあった。

静岡でも同じようなことが起こるかもしれないし、覚えていて損はないだろう。

 

 

(地図でもあればいいんだけど・・・おっと)

 

 

緩んだ手からビニール袋が落ちた。

それを拾おうとして、ふと着ていた白のTシャツから自分の腹の傷がチラリと見えた。

 

(腹の痛み、本当に無くなってきたな。副作用で消えるようなものではないと思うが・・・)

 

そもそも今までにあの薬を取り込んできて、痛みが消えるような副作用は無かったはず。

では、一体何が原因なのだろうか。

 

やはり、あの黒い靄だろうか。

 

(でもあれから一度も夢で見たことはないし。本当にアレはなんだったんだ?)

 

疑問は疑問のまま解決することはなく、そのまま見出だせない答えを求めてフラフラと意識の波に煽られていく。

いつか周りの光景が見えなくなってきた頃になって、ふと悲鳴が聞こえた。

 

 

 

「強盗だァ!!誰かああああ!!」

 

 

ふと目を向ければ、そこに緑の液体のような(ヴィラン)がいた。

 

 

『捕まえられるもんなら、捕まえてみな!!』

 

 

鉄柱に肩を透かせているところを見るに、ただ個性で液体を纏っているのではなく、体自体があの液体で出来ているのだろう。

 

 

(ヴィラン)か。今日は非番だから休むつもりだったんだがな)

 

 

溜息を吐きながら、しかしその眼には確固たる意志が宿っていた。

 

 

 

非番だから休むのか。

非番だから見逃すのか。

 

 

否。否。否である。

 

 

 

誰かが助けを求めるのであれば、必ずそこに現れ事件を解決する。

 

人を守り、財産を守り、悪を挫く。

 

(ヴィラン)が、悪が、この世に蔓延り続ける限り、ヒーローは決して休むことはない。

 

 

 

 

 

 

「すぐ()()来るのにな」

 

「今朝の混乱に乗じたんだろ。個性もて余してる奴なんていくらでもいるし」

 

「キリねぇなー」

 

 

 

 

「キリはある」

 

 

 

 

民間人の後ろにズンと立つ。

その姿はマッスルフォーム。

 

振り返った民間人は、まるでNO.1ヒーローを間近で見たかのような、目玉が飛び出るレベルの驚きを全身で表現している。

 

 

 

 

「何故って?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が来た」

 

 

 




オールマイト静岡来日の理由
教師になる手続きをするためだが、現時点では表向きにはされていない。
そのため口実として用意したのが、静岡のヴィラン事件の件数を0にすることである。(尚投稿者はにわかなため、多少のガバは許してください)


ブロックヴィラン
オリ。ちなみに元ネタはマイクラ。投稿者はプレイしたことがない模様。



原作突入。
デク君がこれから参戦します。

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明日から投稿頻度落ちるかも。


街中を駆ける敵は、オールマイトを見るなりその速度を上げた。

 

『オールマイトだと?チッ』

 

すると路地裏へと駆け込んでいく。

あそこは確か、行き止まりだったはずだ。

 

「万事休すだな!HAHA!!」

 

ポーズを取りながら、確信をもって行き止まりへと参上すると、そこには誰もいなかった。

 

「ワッツ!?」

 

見ればマンホールの小さな穴から、緑の液体が垂れていた。

おそらくあの穴に入って逃げたのだろう。

 

マンホールをガバッと開けると、そのまま中に降りる。

周囲に目を向ければ、地面に液体が伝った跡が残っていた。

 

「あっちか・・・!!」

 

後を全力疾走で追いかけながら、視界に入る道のりを静岡の地図と重ね合わせながら頭に叩き込んでいく。

どこを通ればどこに出るのか。

今は丁度どこら辺にいるのか。

思考を休めることなく下水道を走っていると、誰かの悲鳴が聞こえた気がした。

 

「急がなくては・・・!」

 

 

 

 

 

 

マンホールの蓋を拳で押しのけると、縮れた髪の少年が件の(ヴィラン)に捕縛されていた。

 

 

「もう大丈夫だ少年!!

 

 

 

 

 

 

私が来たッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

しかし少年の眼はぐるりと白目を剥いており、マトモな意識が宿っているようには見えなかった。

 

(おっと、決め台詞なんか決めてる場合じゃないな!)

 

拳を引き絞り、少々強めに力を籠める。

 

 

 

 

 

TEXAS(テキサス)・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SMASH(スマッシュ)ッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拳は(ヴィラン)目掛け放たれ、発生した風圧によりはるか彼方へと吹き飛ばされる。

捕縛されていた少年は身体を支えていた柱が消え、そのまま仰向けになるように倒れた。

 

「気絶してしまったか。もっと早く来るべきだった」

 

反省をしつつ、取り敢えずビニール袋からコカコ・オレを二本取り出すと、それを唐突に飲み始める。

炭酸が喉に直撃し、思った以上の刺激が走るが、構わずそのまま両方とも飲み干した。

 

COOO(クゥーー)!!やはり仕事の後の一本は格別だな!!」

 

 

空になったペットボトルを器用に使って(ヴィラン)を詰めながら、片手で少年のリュックサックから落ちたノートにサインを施す。

サインを書き終えノートを閉じると、ふとそのノートに疑問を抱いた。

 

(随分と汚れているが・・・ヒーロー分析?なるほど、この少年はヒーローを目指しているのか!)

 

若くていいじゃないか!と思う反面、今この気絶している姿を見て少々残念にも思ってしまう。

 

 

「おっと、いけないいけない」

 

 

気絶している少年をそのまま傍観してしまっていたことに気付き、(ヴィラン)を詰めたペットボトルをズボンに入れると、少年の頬をぺぺぺぺぺぺぺぺぺと叩く。

 

 

「ヘイ!ヘイ!ヘイ!ヘイ!」

 

 

しかしまだ目覚めない。

 

 

 

「ヘイ!ヘイ!ヘイ!ヘイ!」

 

 

すると白く染まっていた目が数回瞬きを繰り返し、瞳孔が映り始めた。

 

 

 

「ヘイ!ヘッ・・・あ!良かったァーー!」

 

 

少年の眼がオールマイトの顔面を凝視する。

その直後、

 

 

 

 

「トぁあああァァ!?!?!?」

 

 

 

 

悲鳴なのか驚嘆なのかよく分からない叫び声を発する。

そのまま後ろにバックしながらも、しかしその眼には羨望の眼差しが込められていた。

 

 

「元気そうで何よりだ!」

 

「オ、オオオールル・・・」

 

「HAHA!いやぁ悪かった!!(ヴィラン)退治に巻き込んでしまった!いつもはこんなミスしないのだが、オフだったのと慣れない土地でウカれちゃったかな!?」

 

 

本当は誠心誠意キッチリと謝った方がいいのだろうが、彼の様子を見るに()()()()()()に対してかなりの憧れを持っているようなので、少々嘘を交えつつ陽気なテンションで謝罪をする。

 

 

「しかし、君のおかげでこの通り!!無事詰められた!!!ありがとう少年!!」

 

 

ペットボトルをBAAAAという効果音と共に見せつける。

中の液体(ヴィラン)は既に伸びているようで、動く気配は無かった。

 

 

「じゃあ私はコイツ(ヴィラン)を警察に届けるので!液晶越しにまた会おう!!」

 

「え!?そんなもう!?まだ・・・」

 

 

ヴィランが意識を戻して、ペットボトルから逃げる可能性もあるので、速めに届けた方がいいだろうし、それに今日はあくまで非番。

早めに家に帰って、明日に備えた方がいいだろう。

()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ヒーローは常に敵か時間との戦いさ。それでは今後とも・・・」

 

 

 

足に力を籠め、しかし地面を割らないように加減をしつつ──。

 

 

 

 

 

 

「応援よろしくねーーーーーー!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

空へ跳──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あばばばばばばばばばばば!?!?!?」

 

 

 

「ってコラコラーー!!」

 

 

 

 

足には少年がしがみついていた。

風圧で顔がとんでもないことになっているが、しかししがみつく腕力だけはいっちょ前だった。

なぜそこまで必死になるのだろうか。

 

 

「だって、今放すと、し、し、死んじゃう!!!」

 

「確かに!!」

 

「僕・・・あなたに直接っ!色々聞きたいこ・・・とがァあ!?」

 

「オーケーオーケー!分かったから口を閉じな!」

 

 

振り落とそうとしていた足を止めて、両足で少年の腕を挟む。

近くのビルに目星を付けると、空中で方向転換した。

 

 

 

 

 

 

 

そのまま()()()()()、オールマイトは近くのビルの屋上に降りた。

 

 

「階下の人に話せば下ろしてもらえるだろう」

 

「こ、怖っかっった・・・」

 

「それで?話というのはなんだい?」

 

 

フェンスに背もたれを乗せながら、少年の瞳を見つめる。

そもそも今日は休みのつもりだったし、マッスルフォームをこのまま維持しても解けることはなさそうなので、この少年の話を聞いてあげようと思ったのからだ。

 

(・・・・・・アレ?今頃だけど、なんでマッスルフォームがまだ維持できるんだ?)

 

 

思えば、それは今日より以前からの話だった。

 

一日目は三時間程。

二日目は三時間二十分。

三日目は三時間五十分。

そして四日目は四時間三十分。

 

コレはマッスルフォームを維持した時間だ。

通常であれば、一日目の時点ですでに限界に近付いているはずなのだが。

 

(流石に昨日は吐血した・・・いやよく考えれば、なんで昨日までずっと吐血することがなかったんだ?)

 

普通の人からしてみれば吐血する方が珍しいのだが。

しかしオールマイトはむしろ、吐血しない自分に恐怖していた。

 

この姿にとって、吐血とは切っても切れないものだったはず。

なのにあの日から急に吐血をしなくなり、したと思ったらオーバーワークをしたときに吐いた、そのたった一回だけ。

これまでは身体の調子がいい、としか考えていなかったのに、段々と不安な気持ちでいっぱいになってくる。

 

これが例えば、『奇跡が起きて内臓や後遺症が全て完治した』とかなら、まだそこまで怖がることはないだろう。

しかしこれがもし、『寿命が近づいて来たから』や、『因縁の相手(AFO)との戦いを体が事前に察したから』、もしくは『OFA(ワンフォーオール)がもうすでに消えかけているから』等々が原因なら。

そうであれば、自分はこれからどうすればいいのだろうか。

その不安と恐怖が自分の身に絡みついてくるのだ。

 

(・・・久しぶりに()に連絡を取ってみるか。()なら原因が分かるかもしれない)

 

懐かしい顔を思い出し、ふと思い出に耽っていると、少年から怪訝な眼で見られた。

 

 

「あの、どうかしたんですか?」

 

「ム!?どうやらボーっとしてしまっていたようだ。それで何の話だったか・・・そう!君が話したかったことだったね!!」

 

 

わざとらしく咳をしつつ、今考えていたことを思考の隅に寄せておく。

 

少年は最初の内はもじもじして言葉を紡ぐことが出来ていなかったようだが、しかし意を決したのか口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"個性"が無くても、ヒーローは出来ますか!?」

 

 

「"個性"のない人間でも、あなたみたいになれますか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「個性が・・・ないのか。君は」

 

少年は恥ずかしがるように、つらつらと言葉を紡ぎ始める。

 

 

「僕は、個性がないせいで・・・そのせいだけじゃないかもしれないですけど、ずっと馬鹿にされてきて・・だからかわからないけど、人を助けるって滅茶苦茶カッコいいって思うんです」

 

「恐れ知らずの笑顔で助けてくれる!あなたみたいな最高のヒーローに、僕もなれますか!!」

 

 

少年はまるで、オールマイトが自分を明るい未来に導いてくれると、そう信じているかのような溌溂(ハツラツ)とした笑顔でこちらを見てくる。

一点の曇りもないところは少年相応のモノだが、しかしだからこそ、少年に真実を告げるのが怖くなる。

 

だが、人が誤った道に行かないように補正するのもヒーローの仕事。

理想から現実に叩きつけるという非情な行為をいつか誰かがしなければ、いつか本当のことに気付き、それまで辿って来た道を振り返り、その時になってようやく深い絶望と挫折に苛まれてしまう。

その衝撃は人の人生観をも揺るがすほど。

 

ならばいっそ、ここで砕いておいた方が彼のためだ。

 

いと若き少年の夢を砕くのには少々気が引けるが、しかしここで折らなければ、ここで憧れ(オールマイト)自らが正さねば、この機会は今後現れることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

「・・・はっきり言おう、少年。『個性(ちから)が無くてもヒーローになれる』とは、とてもじゃないが・・・口には出来ないな」

 

 

 

 

 

「・・・え?」

 

 

まさか否定的な言葉を言われるとは思っていなかったのだろう。

少年の顔が絶望色に染まっていく。

 

 

「個性もそうだが、それだけじゃない。悪に屈せぬ強き心や、正義の名を背負う重圧、またあらゆる状況場面に適応し、柔軟に対処する頭脳も必要なんだ」

 

 

つい最近の、ブルーマン二号のことを思い出す。

彼はお世辞にも強い個性とは言えない。が、その使い方や状況の判断能力、また悪に屈せぬその強き心こそが、彼がヒーローたる所以でもある。

 

この少年には『ヒーローになりたい』という熱い心はあるだろう。

しかしそれ以外がまるで足りていないように、オールマイトの瞳にはそう少年が映っていた。

 

 

 

 

 

「プロはいつだって命懸けだ。()()()()と願うだけでなれるような存在ではないんだ」

 

 

 

 

 

オールマイトの鋭く真面目な瞳を見て、少年の顔がより暗く活気のないものへと変化していく。

 

 

「・・・決してヒーローを目指すな、とは言わないさ。ただ、夢を見るならそれ相応の現実も見ないと・・・ね」

 

 

少年の眼から光が失せた。

それを見てオールマイトの心を罪悪感が抉ると同時に、心の奥底でほっと安堵する。

これが正しかったのかは分からない。これが彼にとって本当に良かったことなのかも分からない。

 

オールマイト(全てを救う者)が、全く情けない。本当であれば彼の悩みに真摯に対応すべきだろうに)

 

しかしどちらにしろソレは、無個性である彼に残酷な世界を見せるだけでしかない。

 

 

「人を助ける事に憧れるなら警察官って手もある。「(ヴィラン)受け取り係」なんて揶揄されちゃいるが、あれも立派な仕事だ」

 

 

励ましにはならないだろうが、せめて将来の筋道ぐらいは示してあげてもいいだろう。

 

オールマイトは足を曲げ、地面に視線を向ける少年から天へと向けた。

 

 

 

 

 

「では、さらばだ」

 

 

 

その場から逃げるように、オールマイトは空へ跳んだ。

 

 




デクのノート
オールマイトが読んだパターン。しかし特に原作で改変されるポイントは無し。
オールマイトからしてみれば「この少年はヒーローになりたんだな!」ぐらいしか思っていない。

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次は投稿が遅くなるって?トリックだよ。

でもそのかわりちょっと短め。


警察の元へ向かいながら、先ほどの少年のことを考える。

本当に、アレでよかったのかと。

 

無個性の子をヒーローにする方法を、オールマイトは持っている。

だが、それを行うに値する相手かと言われれば、正直首を傾げてしまう。

 

 

(せめて彼に、ヒーローとしての素質があるのであれば・・・)

 

 

何かしらの形で、自分にヒーローになりうる可能性を見出してくれればあるいは。

 

 

 

「うお!?オールマイトさん!?」

 

「・・・ワッツ?もう着いたのか!」

 

 

どうやら思考の方にリソースを裂き過ぎて、自分が警察所に着いたことに気が付かなかったらしい。

二人の警官がオールマイトに羨望の眼差しを向けつつ、しかし職務を全うするという確固たる意志がそのまっすぐな背筋に現れていた。

 

 

「一体どのようなご用件で?」

 

(ヴィラン)を捕縛してね!それを君たちに受け取ってもらいたい」

 

「なるほど、(ヴィラン)受け取りですね」

 

 

一人の警官たちが動き、裏から拘束用の四輪車を持ってくる。

一本の柱に六本のベルトがぶら下がっており、そのベルトを胴体に巻いて拘束する仕組みだ。

しかし、それは自分が求めているものではない。

 

 

「オット、説明が足りなかったね。液体状の(ヴィラン)なので、カプセル式のモノを用意してくれるとありがたい!」

 

「カプセル式ですね。・・・して、その(ヴィラン)は?」

 

「ほらここに・・・ここに・・・?アレ?」

 

 

ズボンのポケットの部分に手を当てるが、叩けるのは自分の太もものみ。

両方の太ももを触り、ポケットの底の布を抜き出したりしてみるが、ペットボトルが出ることはなかった。

 

 

(まさか・・・あの時か!!)

 

 

少年が足にしがみついた時。

あの時オールマイトは少年を引き離そうと足を振り回していた。

恐らくその時に落ちたのだろう。

 

 

「・・・オールマイトさん?」

 

SHIT!どうやらヘマをしてしまったらしい!!」

 

「「え、えぇーー!?!?」」

 

 

(どうする?町の中に落ちただけならいいのだが。だが、キャップが取れて、中の(ヴィラン)が暴れ出したりでもすれば・・・!)

 

 

最悪の予想をした瞬間、遠方から爆発音が響いた。

しかも連続して爆発を引き起こしており、それが個性によるものであると察した。

 

 

(ヒーローの中で爆発系の個性を持っている者は静岡県内にはいないはず。また、この連続爆発の仕方は意図的に連続させているものではなく、まるで何かから逃れようとするかのような、なりふり構わず爆発させているような連続の仕方だ。つまり、爆発させているのは一般人で、その近くに(ヴィラン)がいるということ。そしてその敵は恐らく、アイツだ!)

 

 

遠くで響く音だけでここまでの分析を終えると、すぐさま地面に足を踏ん張る。

 

 

「お、オールマイトさん!?」

 

「クゥ?!どうやら取り逃がした(ヴィラン)が暴れ出したらしい!君たちは・・・大きめのゴミ袋を持って現場に向かってくれ!頼んだぜ!!!」

 

「「了解!!」」

 

 

まるで軍の指揮官が自衛隊に命令を下したかのような統率力で、警官一同はせっせと袋を用意し始めた

それを見届けた後に、オールマイトは今日で三度目の跳躍を行った。

 

ちなみに急ぎ過ぎて思った以上の高度まで跳んでしまったが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

爆心地には多くの人だかりができていた。

一同が見ているのは(ヴィラン)に体を包まれた少年。両手から絶えず爆発が起こっており、その余波が傍観者の体を大きく揺らす。

 

 

『オォオオオオオ!!!」

 

 

道が細く動けないヒーロー、爆炎が苦手なヒーロー、消火活動に勤しむヒーロー、流動性のため(ヴィラン)に触れることすらできないヒーロー。

場にいる民間人の多くはヒーローの活躍を求め、ヒーローはよりこの状況に対応できるヒーローを求めていた。

 

故に誰も動かない。

故に誰も助けない。

 

より優れた誰かが来るのを待っている、その希望と期待が渦巻くからこそ、人の波は一向に揺らぐことは無かった。

 

そんな人だかりの中に、一人の少年が紛れた。

 

 

(そんな・・・まさか僕があの時、オールマイトの足にしがみついてたせいで・・・!!)

 

 

少年の心にあるのは、深い懺悔と後悔。

もし、自分がヒーローに憧れていなければ。もし、自分が今よりもっと前に折れていれば。

こんなことにはならなかったかもしれない。

 

 

「つかまってるの中学生だってよ」

 

「スゲータフネス」

 

「てかヒーロー何してんの?」

 

 

傍観者の一部の声が聞こえ、苛立ちが募る。

 

(この場にいるヒーローにはこの状況をどうにかする方法が無い!だから動けないんだ!)

 

状況が理解できない民間人と、理解していても何もできない自分に、呆れと憤りが重なる。

その感情を吐き叫びたい気持ちで一杯になり、しかしその口は自分の手によって押さえられる。

 

(僕が叫んだってどうにもならない。大人しく有利な個性持ちが来るのを待つしかない)

 

 

潔くその場から離れようとする。

どうせここにいたって自分は何もできないのだから。

 

 

(同じ中学生なのに、あんな苦しいのを耐えれるなんて・・・でも、僕には何もできないから。ごめんなさい・・・あともうちょっとでヒーローが助けてくれるから頑張って・・・)

 

 

どこか名残惜しい気持ちを抑えながら、(ヴィラン)を視界から外そうと、顔を傾けた時。

 

 

 

 

 

 

その顔が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで誰かに助けを求めているかのような、悲しそうな顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、自分の足は頭が命令するより前に、既に動き出していた。

否、もしくは命令なんてしていなかったのかもしれない。

 

 

だが、勝手に足は動き出した。

 

本能がそうしたいと叫んだ。

 

 

故に少年は、大地を踏みしめ敵に向けて駆けた。

 

 

 

「馬鹿ヤロォーー!!!止まれ止まれ!!!!」

 

 

 

背後から聞こえるヒーローの声。

 

少年もまた、自分がなぜ走っているのかは理解できていなかった。

 

 

あのガキ!(デク!?)

 

 

(ヴィラン)は肉体を中に取り込んだ結果、より太くなった腕で少年目掛け振り下ろそうとする。

 

 

(どうしよどうしよ!こういう時は・・・25(ページ)!!)

 

 

25P。

シンリンカムイの代表的な技であるウルシ鎖牢について書かれたページである。

ウルシ鎖牢は相手の全面にツルを伸ばし、それにひるんでいる隙に相手を拘束する技である。

被害を抑えるには最善の一手であり、対(ヴィラン)戦にはかなり重宝される技でもある。

 

その技を真似るように、背負っていたリュックを(ヴィラン)の顔面に向け投げつける。

 

 

「しぇいッ!!」

 

『ぬ"っ!?」

 

 

視界が遮られているその隙に、少年は中に取り込まれている者の傍へと近寄り、周りを縛る液体を振り払う。

 

 

 

「かっちゃん!!!」

 

 

 

顔の部分の液体が取り除かれ、かっちゃんと呼ばれた少年は荒い呼吸を何度も繰り返す。

そして息がある程度落ち着いたところで、大きく息を吸い込んだ。

 

 

「何でテメエが!?」

 

 

必死そうな、しかし相手に対する苛立ちを抑えられない、聞き慣れたその声が鼓膜を揺らいだ。

 

理屈や理由はいくらでもあったと思う。

ただその時は、その時に最初に浮かんだのは──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君が、助けを求める顔してた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ッ!!!!!!!」

 

 

 

その時、空の遥か上空で、その様子を見る者がいた。

 

その者は数分前の、自分が少年に向けてかけた言葉を思い返していた。

 

 

 

『悪に屈せぬ強き心や、正義の名を背負う重圧、またあらゆる状況場面に適応し、柔軟に対処する頭脳が必要なんだ』

 

 

 

彼のあの姿は、(ヴィラン)という悪に屈しているだろうか。世間体を気にして足を止めただろうか。何も考えず無鉄砲に突っ込んだだろうか。

 

 

(少年はその全てを満たしている!!そして、もう一つ!!)

 

 

 

彼は何のために今、あの場に立っているのか。

 

ヒーローに憧れたから?

違う。

 

自殺志願者だから?

違う。

 

目立ちたかったから?

違う。

 

 

 

 

彼は人を助けるために、本能のままに動いたのだ。

そして不完全ではあるが、助けられるその前提まで一直線に攻略したのだ。

 

 

 

 

 

 

()()

 

 

 

 

 

AMAZING(アメイジング)ッッ!!!」

 

 

 

 

 

感動により引き起こされる激情。

体の芯から震えが走り、一筋の涙が頬を伝う。

これは感動の涙でもあり、後悔の涙でもあった。

 

 

──どうやら私は、彼のことを見縊(みくび)っていたらしい。

 

 

空から急降下し、少年のすぐ真横に降りると、左手で二人の少年を引っ張り上げ、右拳を力強く握り込んだ。

脈が浮き、筋肉は隆起し、そして金属のように硬質な輝きを放ち始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

「プロのヒーローがッ原石の輝きを見出せないなどッ全くもって情けない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

放つ拳はフルパワー。

質量に似合わぬ超高速を纏った拳は、(ヴィラン)に向けて穿たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DETROITSMASH(デトロイトスマッシュ)ッッ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

豪腕から爆発するように広がった超高威力の風圧。

敵の姿は見る影もないほどに吹き飛ばされ、その威力は静岡県内全域の風の向きを変える程だった。

 

 

  ポタ

 

 

圧倒的な風圧により上昇気流が生まれた結果、一帯の空気が上空で冷やされ、その結果雨雲が出来たのだ。

 

圧倒的な力は、神の顔色(天候)でさえも変えてしまう。

 

 

「おいおいおいおい!!!」

 

「まさか右手一本で天候が変わるなんて!?」

 

「スゲェェェェェエエエエエ!!!!これがオールマイト!!!」

 

「半端ネエエエエエ!!!!」

 

 

民間人、ヒーロー、そしてその場に偶然通りがかった記者や取材陣に取り囲まれ、賛美と羨望、驚嘆と畏怖の喘ぎと叫びが辺りを包んだ。

 

そんな中、オールマイトは地面に横たわる一人の少年(英雄)に、称えるような笑みを浮かべていた。

 

 

 

(よく、よく頑張ったな少年。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君が、君こそが、OFA(ワンフォーオール)を受け継ぐに値する存在(ヒーロー)だ)

 

 

 




空跳ぶオールマイト。

あまりの高さまで一気に飛んじゃったせいで、降りるのにしばらく時間がかかったオールマイト。その代わりにデクのヒーローとしての才覚を見いだせたので、結果ヨシ!

ラストの方のオールマイト。

セリフが思いつかなかった・・・。


次回も短めになる予定。
投稿日は未定。

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うーん、ヒロアカの話を書くのが楽しすぎて、呪術の方が全く手が付けられないぜ!

それはさておき、新作ランキングに載りました。やったぜ。




文才が無いのに名シーンを書こうとするから、なんかめっちゃごちゃついてるけど・・・それは許してください。



住宅街の細い通りを少年──緑谷出久は歩いていた。

 

 

あの後、吹き飛ばされた(ヴィラン)は警察によって迅速に片づけられ、倒壊したビルやその瓦礫の回収はヒーローが行った。

そして緑谷はヒーロー達にはものすごく怒られた。

それもそうだ。確かにあのまま何もしていなくても、オールマイトが助けてくれていたはず。

むしろ、もし緑谷が前に出るタイミングがもう少し早ければ、今頃死んでいたかもしれない。

 

逆にかっちゃん──爆豪勝己は称えられた。

タフネスもそうだが、無意識とはいえ(ヴィラン)をその場に固定することが出来たのは、爆豪の個性とド根性があってこそ。

ヒーローから相棒(サイドキック)に勧誘されていたほどだ。

 

 

「ハハ、やっぱり敵わないや・・・」

 

 

将来偉業を成すヒーローの一人に、かっちゃんも数えられるんだろうな。

 

・・・偉業といえば。

 

 

(オールマイトに謝りたかったな。帰ったらHPにメッセしてみようかな)

 

 

神々しく輝くオールマイトの姿を思い返し、ふと顔が熱くなる

 

 

「デク!!!」

 

「かっちゃん・・・」

 

 

噂をすればナントヤラ。

振り返るとそこには爆豪がいた。

震える拳と唇を締めながら、フツフツと言葉を吐き捨てる。

 

 

「テメエに助けなんか求めてねえぞ!助けられてもねえ!あ!?なあ!無個性の出来損ないが見下すんじゃねえぞ!!!」

 

 

言いたいことは言い切ったのか、踵を返してしばらく歩くと、「クソナードがッ!!」と最後に吐き捨てた。

さっきまで(ヴィラン)に捕まえられていたのに、なんというタフネスか。

 

 

(・・・かっちゃんの言うとおりだ。僕は何かできたわけでも変わったわけでもない。でも、良かったよ。これで自分の身の丈に合った将来を目指せる)

 

怒る気などさらさらない。

彼の言っていることは(言葉は荒いが)本当の事なので、怒る方がむしろ筋違いである。

 

さて、取り敢えず家に帰って、オールマイトのHPにメッセを送らなくては。

トボトボと足を家へと進めようとしたとき、また背後から声が聞こえて来た。

 

 

 

「わ~た~し~が~・・・・」

 

 

 

「・・・え?」

 

 

何度も聞いた声なので、間違えることはない。

しかし"誰"という疑問よりも、"何故"という疑問が打ち勝ち、思わず振り返ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少年の前に来たァァァ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オ、オオオオオールマイトォ!?!?!?!」

 

 

路地から飛び出た巨漢の男。

正真正銘それはオールマイトだった。

 

 

「何でここに?!さっきまで取材陣に囲まれて・・・」

 

「抜けるくらいワケないさ!何故なら私はオールマイト!」

 

「理由になって・・・るのかな!?」

 

 

 

 

 

 

さて、茶番はこれまで。

オールマイトはその笑みを崩し、真面目な顔になる。

 

 

「少年。私は君に謝罪と訂正・・・そして提案をしに来たんだ」

 

「へ?」

 

 

するとオールマイトは、キッチリ90°の深い謝罪を緑谷に向けた。

 

 

「私は君のことを無個性ということだけで、『ヒーローには向いていない』と、そう発言してしまった。申し訳ない」

 

「いや、僕が無個性なのは本当の事ですし、それに僕はあの時何も出来な──」

 

 

 

「そんなことはない!!!」

 

 

 

自分でもびっくりするほどの、心からの唐突な叫び。

ビクンと少年の肩が震えた。

 

 

 

 

「あの時、君が駆け出した時!君以外には誰も動いていなかった!!」

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!」

《/xbig》

 

 

 

 

本来動くべきヒーローも。

本来声を掛けるべき民間人も。

あの状況で誰も動けなかった、その中で一人だけ。

 

無個性の少年(緑谷出久)は動いたのだ。

 

 

 

 

「トップヒーローの多くは学生時代から逸話を残している。そして彼らの多くはその話の最後をこう結ぶ!

 

 

 

 

 

 

『考えるより先に体が動いていた』

 

 

 

 

 

 

と!!」

 

 

 

その時、少年の眼から大粒の涙が生まれた。

折れた未来。

絶たれた将来。

本来進めるはずが無かったその光の道を。

その眼でまるで見たかのような、感動の涙だった。

 

 

 

 

 

「君もそうだったんだろ!!」

 

 

 

嗚咽混じりに、一生懸命に少年は首を振る。

 

 

 

「・・・・・うん・・・!」

 

 

 

 

 

ならば、答えは一つ。

 

 

 

満面の笑みで、溢れた涙を抑えることなく、膝から崩れ落ちた彼に優しく告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君は、ヒーローになれる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕日を背負い、己の影が少年を抱くように包んだ。

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

嗚咽が住宅街に響く中、天からの恵みを受けるが如く両手を広げる。

そして笑みを作ると、少年に語る。

 

 

 

 

 

「君なら私の"力"受け継ぐに値する!!!」

 

 

 

 

「・・・へ?」

 

 

 

ズブズブに濡れた顔でこちらを見つめる緑谷。

しかも膝から崩れ落ちた時に打ったのか、額が赤くなっていた。

 

 

 

「HAHA!!なんて顔をしているんだ!?「提案」だよ!本番はココからさ少年!!

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()という話さ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・チカラヲ・・・?」

 

 

状況が呑み込めないのか、口も体も言葉も全てカタコトになっている。

しかし、そうなるのも頷けるというもの。

 

 

「そう、"力"。正確には、私の"個性"の話なんだけどね。写真週刊誌やらヒーロー雑誌やらでは、幾度となく『怪力』だの『ブースト』だのと呼ばれていた。インタビューでも個性を聞かれた時は爆笑ジョークでお茶を濁してきた」

 

 

ちなみにだが、ネット上にある『オールマイト個性予想ランキング』で第一位に君臨しているのは、『寒いギャグを言うとその分、爆発的な力が体内に溜め込まれる個性』である。第二位は『怪力』で、第三位は『つまらないことしか言えないかわりに超人になる個性』だ。

 

 

「"平和の象徴"オールマイトは、ナチュラルボーンでなくてはならないからね!」

 

 

髪をかき上げ、額のVサインをビンと立たせる。

 

 

 

 

 

 

「私の個性は、聖火の如く引き継がれてきたモノなんだ!!!」

 

 

 

 

 

「引き・・・継がれてきた・・・もの・・・!?」

 

 

「そうだ!個性を"譲渡"する個性であり、私が受け継いだ"個性"!冠された名はOFA(ワンフォーオール)!!!」

 

 

「ワンフォー・・・オール・・・」

 

 

喘ぐように呟く緑谷に、ウムと大きく頷く。

 

 

「一人が力を培い、その力を一人へ渡し、また培い次へ・・・そうして救いを求める声と義勇の心が紡いできた力の結晶!!!」

 

「・・・でも、なんでそんな大層なものを僕に・・・なんでそこまで・・・」

 

「元々後継は探していたんだ。そして君なら渡してもいいと思ったのさ!!

 

 

 

 

 

"無個性"でヒーロー好きな君が、()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 

 

少年の乾いた瞳にまた涙が溢れ、光の反射が眩しく映る。

 

 

「しかし受け継ぐかどうかは君次第だけどさ!さあどうする!?」

 

 

少年の瞳から涙が零れる前に、それを腕で拭う。

そしてゴシゴシと何度も拭くと、覚悟を決めた顔でこちらを見つめた。

 

そこにはさっきまでの、泣き虫の少年はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願い・・・します!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「即答か!しかしそう来てくれると思ったぜ!!」

 

 

 

少年に手を伸ばす。

そして少年も手を伸ばし、そして固い握手が結ばれた。

 

 

「よろしく頼むぜ!!・・・えーっと名前は・・・」

 

「み、緑谷出久です!!!」

 

「ウム!いい名前だ!!緑谷少年!!」

 

 

少年の手を握り、思いっきり引っ張り上げた。

少年は多少よろめきながらも、何とか倒れることなく立ち上がる。

 

 

「す、すごい!オールマイトと握手しちゃった!しかも名前まで呼ばれた!!これは右手を一生洗わないで、でも戦う時にどうせ右手は使うだろうし、やっぱり洗った方がいいかな?いやでも待ってこれって戦う時だけ手袋すればいいんじゃないのか?そうだよ、そうすれば右手も汚れることはないしオールマイトの右手を触れたこの状態を維持できる!」

 

 

緑谷の眼は虚ろに輝いており、オタク特有の陰気なオーラを醸していた。

オールマイトですら引くレベルだ。

 

 

「私の目の前でそんな話をしてくれないでほしいかな!」

 

「あ、すみません!!」

 

「それに手袋なんてつけてたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「トレーニング・・・?一体何を?」

 

「それは明後日のお楽しみさ!HAHA」

 

 

 

 

その後、緑谷との連絡先を交換し合い、詳しいことは明日の夜連絡すると伝えた。

 

 

 

そして名残惜しそうな顔をする緑谷を置いて、オールマイトは空へと跳び去っていった。

 

 

 




君はヒーローになれる
マッスルフォーム版。ちなみに情景的にはデクの前に仁王立ちしてる感じ。
傍から見たら割と犯罪的な絵じゃね?

オールマイト個性予想ランキング
オリジナルランキング。でもヒロアカ世界の2chとかで結構スレ立てられてそう。
ちなみに四位は『ブースト』で、五位は『オールマイト』らしい。


次回はオールマイトの体を調査すべく、ある男が参上します。
先に言っておきますが、そこまで意外な人じゃないです。



お気に入り、評価の方よろしくお願いします。
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アレ?なんか俺毎日投稿してない?



その日の夜。

 

ホテルの自室にて、八木俊典は机の上のパソコンと睨めっこをしていた。

 

少年の体を作り上げるべく、オールマイト直々に作ることを決定したトレーニングメニュー。

しかし人に教育を施す才が皆無なオールマイトにとって、他人のトレーニングメニューを作るなど、屏風に描かれたトラを縛り上げるが如く無理に近い。

不幸中の幸いか、トレーニングに関してはある程度の知識があるので、それをある程度参考にしつつ雲を形にしようとするが・・・。

 

 

「・・・駄目だ。学校での勉強も両立しながら、このレベルのトレーニングとなると、流石に緑谷少年の身が持たない」

 

 

言わずもがな、OFAの継承にはそれに合った肉体を備えなければならない。

一般人に月を一発で砂に変えられる量子咆を与えても、放つどころが狙いを定めることすらままならないのと同じだ。

そのため、緑谷少年の肉体をOFAを継承できるほどの器に仕上げる必要があった。

 

 

頭を悩ませ、首を回して、唸りに唸って。

張り詰めた空気は臨界点に達し、ついに爆発した。

 

 

「AHッ!もう分からない!私には無理だ!!もう無理!!」

 

 

パソコンを無理矢理シャットダウンさせると、ベッドにダイブし、そのままゴロゴロと横に回転する。

その時、そのダイブと回転の衝撃で、胸ポケットのスマホが落ちる。

スマホはベッドの上を数回バウンドし、そしてベッドと壁の隙間にストンと納まった。

 

 

「SHIT・・・はあ」

 

 

起き上がりベッドの隙間に手を伸ばす。

手にスマホの角が当たり、それを頼りに引っこ抜くと、パッと画面に明かりが付く。

どうやら電源ボタンか指紋認証ボタンに触れたらしい。

 

暫くその画面をボーっと見て、無料コミュニケーションアプリのRAIN(レイン)を開く。

『緑谷少年』と書かれたトーク画面を開き、そこに長々と書かれた自己紹介文と挨拶を読む。

 

 

「・・・ハハ」

 

 

ふと笑みが零れてしまう。

念願の後継者。それがここまで可愛い存在だとは、オールマイト自身思っていなかった。

彼もいつか、次世代のオールマイト(全てを救う者)になるのか。

その実感がふつふつと沸き、妄想が膨らんでいく。

 

「おっといかんいかん」

 

トーク画面を閉じ、パソコンに面と向かって座る。

さてどうしたものかとキ―ボードに文字を打ち込もうとした瞬間。

 

 

『レイン♪』

 

「うん?」

 

 

スマホからレインのメッセージ着信音が鳴る。

画面に目を向ければ、そこには懐かしい名前が載っていた。

 

 

 

 

 

「デイヴか!」

 

 

 

 

 

デヴィット・シールド

オールマイトがアメリカにいた頃の相棒。世界的な科学者で、多くのヒーローのサポートアイテムを開発している。

ルーキー時代のヤングエイジ。黒と赤多めにしたシック調のブロンズエイジ。赤と黄色と青がはっきり分かれて配色されたシルバーエイジ。そして現在身に纏っているゴールデンエイジ。

これらオールマイトのコスチューム開発も、全て彼が担当していた。

現在は人工移動島(I・アイランド)に研究所を構え、娘と暮らしている。

 

多忙な日々を過ごしており、簡単に連絡を寄こせるような状況ではないと思うのだが。

 

 

「ま、連絡送ったの私なんだけどね。HAHA!」

 

 

 

緑谷少年と件の話を終えた後、デイヴにあるメッセージを送った。

その内容を簡潔に述べると、

 

 

『連絡を取るのは久しぶりだなデイヴ!調子はどうだ?私は実は結構調子が良くてね!吐血することも少なくなって、マッスルフォームを維持できる時間も延びた!でもその原因がよく分からないんだ。そこで、君に僕の体に何が起こっているのか調べてほしいんだ!勿論その分のお礼はするよ!君は前から寿司を食べたがっていただろう?それを腹が破裂するんじゃないかってぐらい食べさせてあげようじゃないか!それじゃいい返事を期待しているよ!』

 

 

というものだった。

これでも結構長めに感じるだろうが、オールマイトはコレの32倍ぐらいの文量のメッセージを送っている。

 

 

さて、それに対するデイヴの返信はというと、

 

 

 

 

『分かったよ。明日そっちに向かうね』

 

 

 

の、たった一文だった。

 

 

「今忙しいんじゃなかったの・・・?」

 

 

事情はどうかは知らないが、唐突に日本へ行けるほど忙しくないわけでもないだろう。

しかし本人がいいというのであれば、つまりいいということではないのだろうか。

 

 

「・・・なら緑谷少年のトレーニングメニューも作ってもらえるように頼めばよかったかな?」

 

 

自分が作るよりかは遥かに良い出来のモノが作られるはず。

厚かましいが、頼めば作ってくれるのではないか。

 

 

「でも、了承を貰った後にこれを聞くのはちょっと・・・気まずくない?」

 

 

と言いつつも、ニッコニコで作ってもらえるかを頼んだオールマイトだった。

 

 

 

 

ちなみにこの後、『全然いいよ』と一言だけ返って来た。

 

 

「本当にいいのかな・・・?」

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

翌日の昼頃、八木俊典の姿(トゥルーフォーム)で駅前で待っていると、馴染み深い顔が現れた。

 

 

「久しぶりだなトシ」

 

「ああ、本当に久しぶりだな、デイヴ」

 

 

黒縁眼鏡に揃えた顎髭。

髪を短く切り、年相応の落ち着いた印象を受ける。

 

デイヴは両手をバッと広げた。

一瞬何をしようとしてるのか分からず戸惑ったが、その後すぐにハグをする気なんだなと察し、同じように両手を広げた。

そして互いに肩を抱き合い、ハグをする。

 

しかしデイヴはハグした瞬間、プロレスラーもびっくりの鯖折りを仕掛け始め、思わずウゲッと悲鳴を上げる。

 

 

「ちょ、キツイキツイ!!」

 

「・・・本当に吐血しないんだな」

 

「え?何て?」

 

「なんでもないさ」

 

 

するとすぐさま腕を解き、すまないと軽く謝罪された。

 

 

「さて、早速だがこれを」

 

「ん?コレは・・・」

 

 

右手に下げたバッグからファイルを取り出し、その中から束の紙を渡された。

表には『目指せ合格アメリカンドリームプラン』と書かれている。

 

 

「普通の中学生が君の個性の譲渡に耐えられるほどの肉体に仕上げるには、流石にコレぐらいしなきゃいけなくてね。少々ハードになっているが許してくれ」

 

 

パラパラと捲ると、八木俊典(オールマイト)も思わず顔を顰めるような、ハードトレーニングの数々が日程ごとにそれぞれ分けられていた。

しかも、トレーニングのためのバランスの取れた食事メニューや、授業中にも出来るトレーニングメニューの数々まで載っている。

 

 

「これを一晩で作ったの!?」

 

「いや、数年前にこんなこともあろうかと作っておいてね。それを少し書き換えただけだ」

 

「数年前からって・・・」

 

 

相変わらず、デイヴの用意周到さには驚かされる。

しかしだからこそ、疑問に思ってしまう。

 

 

「・・・本当に大丈夫なのか」

 

「大丈夫って、何が?」

 

「いやほら、君って今相当に忙しいそうじゃないか」

 

「・・・ああ、そのことか。それなら問題ないよ」

 

「本当か?」

 

「本当だ」

 

 

嘘を吐いている様子はない。しかしどこか引っかかる。

マジマジとデイヴの顔を見つめていると、流石に白状する気になったのか大きなため息を吐いた。

 

 

「・・・実はメリッサから、『パパは毎日お仕事しすぎ!今日から二日間、絶対に休むこと!!』と言われてね」

 

「ああなるほど。・・・で、日本に行くって?」

 

「伝えたら『それって休んでるって言えるの?』と言われたよ『息抜きには丁度いい』ってすぐに返したけどね」

 

「で、OKを貰えたのか」

 

「『じゃあお土産も買ってね』と釘を刺されたよ」

 

「道理で背中のリュックが(しぼ)んでいるわけだ」

 

 

背中のリュックはお土産用ということだろう。

 

 

「さて、会話も程ほどに、スシに行こうじゃないか」

 

「あまり食べ過ぎないでくれよ?私の懐が南極以上に寒くなってしまう」

 

「ならこれからリキシでも呼ぼうかな?」

 

「狭いカウンターに力士を並べるのか?それは相当暑苦しいぞ」

 

「なら懐も温まるんじゃないか?」

 

「ウマイ事を言うねェ」

 

「寿司だけにウマイって?」

 

「・・・もうやめよう。これ以上喋ると懐どころが体も凍える」

 

「そうだね」

 

 

 

 

 

二人で談笑しつつ、行きつけの高級寿司屋に向かう。

扉にはデカデカと『貸し切り』と書かれているが、それに構わず暖簾を潜った。

 

 

 

「・・・いらっしゃい」

 

 

 

深い皺と濃い眉が特徴的な板前が、少々暗めの挨拶で出迎えた後に、こちらをジッと見つめてくる。

 

 

 

 

「俊典。随分と老けたな」

 

 

 

 

男の名は板前(ばんぜん)三代(みしろ)

オールマイトの正体を知る知り合いの一人で、この寿司屋の三代目の板前でもある。

 

その昔、この店に突如現れた(ヴィラン)を退治したのがオールマイトの師匠グラントリノだった。

グラントリノと板前はその時に意気投合したらしく、それから何度か酒を吞み交わし、グラントリノは酔った勢いで板前にOFAのことを話してしまったらしい。

 

そしてその場にばったり出くわしてしまったオールマイトはその巻き添えを喰らい、今もこうして口止め料(お世話)になっているというわけだ。

 

 

「かれこれ数十年経ちますからね。三代さんも元気そうで」

 

「フン、景気は悪いがな。で、その横のが」

 

「ああ、デヴィット・シールド。私のアメリカ時代の相棒さ」

 

「初めまして」

 

 

デイヴは軽く頭を下げる。

鼻息荒く「フン」と一蹴すると、手に持っていた新聞紙を閉じた。

 

 

「うちにゃナイフとフォークはねえぞ」

 

「大丈夫です。ハシの使い方は前もって勉強してきましたから」

 

「・・・ふうん」

 

 

生返事を返し、せっせと準備を始める板前。

その間、デイヴはカバンからノートPCを取り出していた。

ノートPCからは黒いコードが伸びており、その先はPCを取り出したカバンに伸びていた。

 

 

「じゃあこれから内臓をチェックするから、上着を脱いでシャツを捲ってくれ」

 

「え?どうやって内蔵を見るんだい??」

 

「コレを使うんだ」

 

 

カバンから細長い筒のようなものを取り出した。

筒の先端にはカメラのようなものが付いており、それが光を反射して様々な色を放っている。

 

 

「ナニコレ?」

 

「これは僕が作った『内臓トカスケール君』だ。この先端のカメラを体に当てると、体の内部を一瞬でスキャンすることが出来るんだ」

 

「何そのハイテク装置!?」

 

「僕が作ったんだよ」

 

「それは今聞いたよ!!」

 

 

ツッコむのも程々に、上着を剥いでTシャツを捲る。

割れた腹筋と、そこにヒビのように生えた傷を見せると、デイヴは憎々しげにその傷を睨んだ。

 

カメラの先端にライトが灯ると、それを八木の腹に当てようと手を伸ばしてくる。

 

 

「痛くないよね?」

 

「痛くないよ。ほんの少し冷たいだけだ」

 

「OHッ?!」

 

 

思ったよりも冷たく、体がブルンと震える。

しかしデイヴは手を止めることなく、そのままくねくねと腹全体をなぞる様にカメラを回す。

 

 

「・・・オイ、イチャつきてェならここから出てけ」

 

「イチャついているわけじゃ・・・OHH!?!?」

 

「ったくよ。プロヒーロー様がなんつう悲鳴上げてんだ」

 

 

暫くして、十分データが取れたのか、デイヴは内臓トカスケール君をカバンの中に戻した。

そしてキーボードをパチパチと叩き始める。

 

 

「・・・で、なんで内臓なんて見てんだ?」

 

「いや実はかくかくしかじかで・・・」

 

「ヘェ。道理で吐血しねェ訳だ」

 

 

寿司を握りながら、渋い笑みを浮かべる板前。

 

さて、と一呼吸置くと、色とりどりの寿司が盛り付けられた皿が、カウンターにドンと二つ置かれた。

 

 

「あいよ。醤油とわさびは自分でつけな」

 

「うわー、美味しそう」

 

 

割り箸をパキリと折り、早速食べようとする。

が、箸先はマグロの赤身に触れる前に止められ、目線がデイヴの方向へ向いた。

日本に来たのは自分(八木)のためなのに、私が先に食べるのはどうかなと思ったからだ。

 

 

「・・・食べないの?」

 

 

真剣な顔をするデイヴに水を差すようで申し訳ないが、しかし早く食べたいという欲求が勝り思わず聞いてしまう。

 

しかし、返答は返ることなく。

 

 

「・・・・・・」

 

 

沈黙を二十秒間貫き通した後に、

 

 

 

 

 

「・・・は?」

 

 

 

 

 

煽りなど一切含まれていない、純粋な疑問と驚きによる素の声が、その口から漏れた。

こんな声を出したデイヴは見たことも聞いたことも無い八木は、素直に驚いてしまう。

 

 

「ど、どうしたんだ!?」

 

「ああ、いや、あまりにも衝撃的過ぎてね」

 

 

言葉自体は冷静沈着だが、声色は興奮状態。

声根の部分はブルブルと震え、それは指にも現れていた。

 

 

「・・・本当にどうしたんだ?」

 

「・・・トシ、これを見てくれ」

 

 

デイヴからノートPCをズイと渡される。

目の前の皿を横に寄せて、PCをテーブルに乗せると、その画面をまじまじと見つめた。

 

映っていたのは、CG化された内臓だった。

色彩は全て肌色に染まっているが、形だけ見ればそれが五臓六腑全てを表していることは、八木でも理解できた。

 

しかし、分からないことがある。

 

 

 

 

「デイブ。()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

医学的な知識はないが、その画面に映っているのはどうみても自分の内臓ではなかった。

 

八木俊典の内臓は胃袋が摘出されており、他の臓器にも肉眼で確認できるほどの深い傷が走っている。

不健康と言うにはあまりに不適切。言うなれば()()()()()とも呼べるほどの、あまりに凄惨な環境となっている。

対して画面に映っているのは、中学生の保険の教科書に載ってもおかしくはないほどに、全内臓が完璧な形と配置を保った状態で並べられていた。

 

 

「こんなに綺麗な臓器を比較に出されても、とてもじゃないが参考にはならないぞ?出すなら君の臓器の写真を見せてもらいたいね」

 

「その言い方だと僕の臓器が悪いみたいじゃないか。間違ってはいないけどね。でも、確かにこの写真に写っている臓器は綺麗だ」

 

 

まるで見とれるように、まるで魅入られたように、その臓器をマジマジと見つめるデイヴ。

そしてフウ、と決心がついたかのような吐息を漏らすと、八木を正面から見つめる。

 

 

 

 

「いいかい、よく聞くんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今映っているこの臓器は、君の臓器だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はへ?」

 

 




デヴィッド・シールド:デイヴ
ヒロアカ映画の第一作目に登場したキャラクター。
ちなみに投稿者は口調を覚えていないので、適当になっている。

板前三代
オリキャラ。個性は『長持ち』で、触れたモノの鮮度を三十分間の間新鮮なままで保つことが出来る個性。
頑固というより堅物なイメージだが、意外にもグラントリノとは仲がいい。
何なら酒を持たせて二人を放置すると、ツイスターゲームを二人で始めるレベル。
今後の登場予定は無し。ワンチャン登場かも。

口止め料
口止め料と書いているが、実際は「バラシはしないが、その代わりにうちを贔屓にしてくれ」というもの。

次回は流石に遅くなるだろ・・・遅くなるはず。多分。


お気に入り登録、評価の方よろしくお願いします。
作者の励みになります。


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説明会っぽい何か。


目が点になった八木と、至って真面目な顔をするデイヴ。そして反応に困る板前。

 

 

「何ソレ?冗談でしょ?」

 

「いや本当だ。今の君の内臓は、一般の成人男性と同等の、もしくはそれ以上に正常に動いている」

 

「・・・胃袋は?」

 

「治ってる」

 

「・・・・・・後遺症は?」

 

「治ってる」

 

「・・・・・・・・・マジ?」

 

「マジ」

 

 

問答を終え、背もたれに全体重を掛ける。

パチパチと数度の瞬きを繰り返した後に、自分のほっぺをつねった。

 

 

「言っておくけど夢じゃないよ」

 

「本当だ。夢じゃない」

 

 

しかし確認のため、自分の腹の傷に手を当ててみるが、痺れるような痛みがちょっとだけ走った。

 

「それは縫合の傷か、それとも脳がそう錯覚してるだけさ」

 

顔に出ていたようで、デイヴからそう指摘された。

 

 

「うーむ・・・」

 

 

たしかに言われてみれば、最初は痛かったように感じたが、ずっと触っていると全然痛くなくなって来たような・・・。

 

 

「しかし、これは一体どういうことなんだ??」

 

 

単純に自分の治癒力で治った、なんてまずありえない。

であれば第三者の介入があったのは必然的。しかしその理由は明白ではない。

デイヴは額に手を当て思い浸る。

 

するとそれまで包丁を研いでいた板前が、こちらをすっと覗いてきた。

 

 

「そんなことあり得るのか?無くなった内臓が治るなんてよ」

 

「普通はあり得ない。個性の介入があるならともかく、それ以外の方法では治すことは物理的に不可能だ。・・・いや、クローン技術を応用すれば治るが・・・」

 

「私はそんなことはしないぞ」

 

「僕もそれは分かっているさ。・・・可能性があるとすれば、四つかな?」

 

 

1.誰かが完全治癒の個性又は時を巻き戻す個性を持っており、その個性の効果がオールマイトに働いた。

 

2.理屈は不明だが、オールマイトの中にあるOFAの力が働き、内臓が修復された。

 

3.奇跡が起きた。

 

 

 

4.オールマイトに再生能力を持った個性が宿った。

 

 

 

 

「流石に4はねぇだろ。そもそも個性は小二の頃には絶対に発現してるって言うじゃねぇか」

 

「トシの足の小指の関節は二つ。生涯無個性は確定でしたし、やはり4はあり得ないですかね」

 

「待ってくれ!最近のニュースで、高齢者の個性発現例があったはずだ!」

 

「それは個性じゃないと思っていた長所が、実は個性だったってやつじゃねえのか?」

 

 

八木が言っているのは、昔から妙に跳躍力が高かった男が、60歳を超えたあたりで自分の個性が『跳躍』であることに気付いたという、ネットでも一時期話題になったニュースのことだ。

しかしこれは個性が60歳になってから発現したわけではなく、元々発現していた個性を個性として認識できていなかっただけだ。

 

 

「一応言っておくけど、小学二年生以降に個性が発現した例は今までに一件もないよ」

 

「・・・実例はないだけで0%じゃないんだろ?」

 

「もちろん、100%無いとは言えない。個性にはまだまだ謎が多いからね。でも、少なくとも今わかっている知識と常識を総動員させると、普通はありえないんだ」

 

「・・・じゃあやっぱり、誰かが私の傷を個性で治したのか?」

 

「そんな個性を持ってる人がいるんなら、相当有名になってンだろ」

 

 

そもそも他人の傷を治せる個性というのは、それを持っているだけで英雄扱いされるほどには、希少かつ重宝されている。

その理由は言わずもがな、傷ついたヒーローを即時に癒し、前線にすぐ復帰させることができるからだ。

 

 

「それにリカバリーガールのような、相手の体力を治癒力に変化させるような個性でもない。純粋なる回復・修復の力。その力が君の体に働いたんだ」

 

「俊典。思い当たるフシとかはねェのか?腹の痛みが失せ始めた数日前に誰かと接触したとかよ」

 

「触れ合った人・・・うーん・・・数が多すぎて流石に思い出せませんよ」

 

 

握手やサイン、ツーショットを強請(ねだ)られるのはよくあることだ。

それもオールマイトレベルともなれば、一日で百回以上強請られることも稀ではない。

 

 

「他に何か心当たりは?」

 

「うーん・・・」

 

 

心当たりというか、もはや答えっぽいものはあるのだが・・・。

如何せんその確証が無いので、答えるにも少々躊躇いがある。

それこそ『それ夢だろ。何真に受けてんだ?』とか言われた日には、一生モノの黒歴史になるかもしれない。

 

しかしそれ以外に心当たりが無いのも事実。

渋々絞り出したという形で話すしかない。

 

 

「・・・関係あるかは分からないですけど、実はその日に───」

 

 

カクカクしかじか。

これまで誰にも説明することが無かった夢の中の話を、二人に語った。

 

 

そして説明し終えると、静寂だけがその場に残った。

 

 

「・・・」

「・・・」

 

 

不味い、この雰囲気は恐らく『何を言ってるんだコイツ』というヤツだ。

 

 

「だ、だよね!やっぱり夢だから何の確証m」

 

 

 

 

 

「 「 いや、それしかないでしょ(ねェだろ) 」 」

 

 

 

 

 

見事なシンクロだった。

 

 

「ええェェエ!?!?そうなの!?」

 

「それ以外理由ねェだろ」

 

「個性の関与は確定かな。でもそれだと、相手の目的が分からないね」

 

 

正体を探るよりも先に、目的を推測しているところを見るに、デイヴの冷静さと秀才さが出ている気がする。

デイヴは顎髭をもしゃもしゃと触りながら、深い思考の奥底へと潜っていく。

 

 

「トシの傷を治すのが目的なら、腹の傷(その)情報をどうやって知ったのかが気になるし。いや、情報を知らずともトシの体を気遣って個性を使ったっていう可能性もあるけど・・・そもそも治癒系の個性なら、その黒い靄っていうのはなんなんだ?相手の夢を叶える個性、とは思えないし・・・しかもそれが仮にそうだったとして、じゃあなんで何も言わずにその個性をトシに掛けたんだ?それに相手に気付かれないように振る舞って。その理由は何なんだ?」

 

「私のファン・・・なら普通は説明してくれるだろうし。そもそもそんな強い個性を持っているなら、それこそ私が知ってるはずだ」

 

「個性が知れ渡っていない人層と言えば・・・」

 

「ヴィラン・・・だろうな」

 

「しかしヴィランが君に手を貸す理由は?」

 

「さっぱりだ」

 

「・・・裏でAFO(オールフォーワン)が関わっている可能性は無いか?目的は分からないが、君を陥れようとしているかもしれないし」

 

「それこそ可能性は低いな。奴の深層全てを把握しているわけじゃないが、少なくとも私を陥れるのであれば私に対して直接的なことはしてこないはずだ。もっと回りくどい、例えるなら心を壊そうとしてくるのが、奴のやり方だ」

 

「ますます分からなくなってくるな。・・・例えばヴィランの中に君のファンが居て・・・だがそれなら何故何も言わずに個性を?」

 

 

思考の奥へと潜りこむデイヴに心配の目線を向けていると、板前が「オイ」と声を掛けてくる。

見れば板前は腕を組み、眉間に脈を浮かばせている。

 

 

「あのよ?ここはテメェらが人生相談する場でも、イチャコラする場でもねェんだ。俺はあくまでオマエ(俊典)の身の上話を知ってる一般人でしかねェ。世間話やらを話すのならまだしも、それ以上深入りした話をするなら、俊典だろうがただの客だろうが、こっから出てってもらうぞ」

 

 

厳しい言い方だが、しかし板前の言うことはもっともである。

塚内のように、オールマイトとは友人兼担当のような深い関係でも無ければ、ヒーローとしての研鑽を積み、人並み以上に戦う力がある訳でもない。

板前はあくまで一般人。

口止め料として贔屓にはさせてもらってはいるが、それ以上のヒーローとヴィランの争いに混ざり合うことになりそうな関係にはなりたくないのだ。

 

 

「・・・君とは知り合いとはいえ、今日は客として来たんだものな。すまなかった」

 

 

八木が深く頭を下げると、デイヴも遅れて頭を下げる。

 

あらゆる感情が混ざったような、深い溜息を吐くと、板前は開いたままの新聞紙を手に持った。

 

 

「・・・食い終わったら呼べ。勘定するか追加頼むかはそん時決めろ」

 

 

その言葉を最後に、板前の眼先は新聞紙へと落とされた。

 

 

「それじゃあ、頂くとしようか」

 

「ああ、彼に申し訳ないからね」

 

 

二人はその後、最近起きた身の上話(主にデイヴのメリッサに関する話だったが)をしながら、寿司を食べ終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めての日本はどうだった?」

 

「忍者が居なかったのが唯一の心残りだね」

 

 

場所は駅前、時刻は夕暮れ。

既に二人とも心身ともに疲弊しきった状態で、ベンチに座っていた。

 

寿司を食べ終えた後も二人で話し合ったが、答えは分からず終いだった。

というよりも、答えを出してもそれを確認する方法が無いせいで、予想は空想のままで終わったのだ。

 

 

「結局、君の体には何が起きたんだろうね」

 

「さあ?でも健康であることには問題はないし、むしろありがたみを感じるぐらいだ」

 

「・・・ああ、そうだね」

 

 

リュックはパンパン、横に三つ重なった紙袋は動くたびにガサガサと音が鳴る。

まるで修学旅行の帰りだが、しかし本人は至って真面目な雰囲気だ。

 

 

「悪いね、お土産選びに付き合わせちゃって」

 

「いやいや。むしろ楽しかったよ。それにこっちこそ、今日は来てくれてありがとう」

 

「呼ばれたらいつでも登場するのが、(相棒)の役目さ」

 

「なら、私が悲鳴を上げて君を呼んだら、いつでも助けに来てくれるかい?」

 

「昆虫以外での叫びだったら、いつでも飛んできてあげるよ」

 

「・・・それってつまり、私を()()するってことかい?」

 

「ああ。だって()()()った君を見たくないからね」

 

「それは私にとっても悪夢だな。()()っと()に食べてもらわないとね」

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

ククと笑うと、それに釣られてデイヴも笑う。

その様子はまるで、数十年前のバカな自分たちを写しているようでもあった。

 

 

一頻り笑ったところで、疲れたように溜息を吐くと、ベンチから立ち上がり駅に向かう。

 

 

「何かあったらまた連絡してくれ。いつでも来るよ」

 

「もしかしたら、何もないかもしれないけどね」

 

「そしたら落ち着いた頃に、娘と一緒に旅行に来るさ」

 

「その時はもっと豪華な寿司を食べさせてあげるよ」

 

「それは板前さんに失礼じゃないか?」

 

「おっとそうだね、今の言葉は忘れてくれ」

 

「フフフ。・・・では名残惜しいが。じゃあねトシ」

 

「ああ、また会おう」

 

 

寂しげな背中を見せながら、デイヴは駅に進んでいく。

その背中に、手を振って別れを告げた。

 

その影が消えるまで、ずっとその場で手を振り続け、そして見えなくなった頃に手を下げた。

 

 

「・・・さて、明日は緑谷少年と近くの海浜公園の沿岸で大掃除・・・だっけか?」

 

 

スマホを取り出し、時刻と場所、そして用件を書いたメールを送る。

するとものの二秒で返信が返って来た。

 

 

『分かりました!早速明日のために荷物とかジャージとかの準備をしたいと思います!それにしてもこんな夜遅くまで一体何をなされていたんですか?あ!別に遅いなとか思ってたわけじゃないです!ただ、もしかしたら僕のトレーニングメニューについて考えていたのかなって。いやでもこれでただの勘違いだったら僕自己中すぎですよね!やっぱり今の言葉忘れてください!それでは失礼します!おやすみなさい!』

 

「早ッ!?」

 

 

二秒で打ち込んだとは思えない文量で、流石に引き気味になってしまう。

 

 

「・・・『おやすみなさい』、と」

 

 

しかし返信はしっかりとせねば。

後継者だとしても、自分の弱みを見せてはならないのだ。

 

 

何故なら彼の憧れだから。

 

彼を導くヒーローだから。

 

 

「さてっと。よーし!帰ったら風呂入ってすぐ寝るぞー!!」

 

 

疲れた体に鞭を打ち、物陰でマッスルフォームに変身すると、カバンを両手にダッシュで家に帰った。

 

 

 

 

 

後日、『高速道路に現れた音速マッチョ』という都市伝説が作られたのを、オールマイトは後になって知った。

 

 

 




なおトゥルーフォームはデクには見られてない模様。
これを終盤まで持ってくかすぐバラすかを今考えてる所。


次回、デクのハードトレーニング開幕。


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あれ?ヴェノムくん登場まだ?

あと今回短いです。



朝五時の海浜公園にて。

 

この場所は数年前までは朝の日出が美しい場所として、静岡の名所の一つとして数えられていたのだが、今ではその面影も無く、不法投棄と漂流物の山で形成されていた。

 

そんな海浜公園に、一人のマッチョがやって来た。

 

 

「・・・こりゃあ・・・思った以上だね」

 

 

腰に巻いた小さなバッグからスマホを取り出し、この海浜公園を調べる。

すると出てきた画像には、こんなゴミの山からは想像もできないような、美しい朝日に彩られた写真が。

その写真の中心には二人の男女が手を組んでおり、朝日とは別に、顔にほのかな赤みが差している。

 

対して目の前に広がるのは、足の置き場も無いほどに埋め尽くされたゴミの山。

人の気配は勿論、他に生き物がいる様子もない。

 

 

「・・・早めに来てしまったし、それに緑谷少年にコレを全て任せるとなると、とてもじゃないが十か月以内には無理だろうし!」

 

 

膝を曲げ、手をワキワキと動かし、眼前のゴミの山に鋭い目を向けた。

 

 

「ちょっとだけ頑張っちゃうぞ!」

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

昨日買ったばかりのジャージに着替え、海浜公園に来た緑谷は、上がりたての太陽に向け目を細めた。

いや、もしかしたらその朝日の横で仁王立ちをするマッチョな男の後光に目を細めたのかもしれないが。

 

そのマッチョ──オールマイトは緑谷の姿に気付くなり、HAHAと笑った。

 

 

「時間ピッタシ、いや予定よりも五分早くに来たね!」

 

 

スマホを取り出し時間を確認しながら、偉いぞと褒めてくれる。

 

「いや・・・そんなこと・・・ないでしゅ

 

緑谷にとってそれはあまりに過剰だったのか、顔が極限まで赤く染まり、ボッと煙を吐いた。

しかしそれよりも聞きたいことがあるのか、赤らめつつもそれまで地面に向いていた目線をオールマイトに向ける。

 

 

「それで、何をするんですか?」

 

「ム?事前に言っておいた通りトレーニングだが?」

 

「いや、トレーニングをするのは聞いていたんですけど・・・そもそもどうしてトレーニングをするのかがよく分からなくて・・・」

 

「と、言うと?」

 

「僕が言うのも烏滸(おこ)がましいですが・・・個性を譲渡してからの方が良くないですか??」

 

 

するとオールマイトはきょとんとした様子で、アレ?と素で呟いた。

 

 

「言ってなかったっけ?OFAはいわば、何人もの極まりし身体能力が一つに収束されたモノ!それを生半可な肉体で受け取ると・・・」

 

「受け取ると・・・?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「四肢がもげ爆散してしまう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「四肢が!?!?」

 

 

あまりに衝撃的過ぎて、ビビり散らかす緑谷。

その様子を笑いながら写メで撮っているオールマイト。

 

 

「だからまずは壊れないための身体()を作る、というわけさ!」

 

「なるほど!!・・・それでどうして海浜公園で?」

 

「・・・そういえば、メールではトレーニングについて具体的な説明をしていなかったね。こりゃ失礼!」

 

 

オールマイトは笑いながら、近くの冷蔵庫に体重を掛けた。

しかし想定以上の負荷がかかったのか、冷蔵庫はメコリという悲鳴を立てながら、オールマイトの体に沿って凹んだ。

 

 

「簡潔に言うと大掃除をするのさ!」

 

「大掃除?」

 

「そうだ!調べたところ、この沿岸は数年前からこの状況なんだって?」

 

「ハイ。たしか海流的なアレで漂流物が多くて、そこにつけ込んで不法投棄もまかり通ってて・・・。地元の人もあまり寄り付かないです」

 

「そうなの?初めて知った!」

 

 

すると冷蔵庫から一旦離れ、その上に手を置く。

 

 

ゴミの山(コレ)は本来、ボランティア活動や地元民の善意、そしてヒーロー活動の一環として処理されるべきものだ!だが、それは今では廃れ、その結果ここまで肥大化してしまった!

 

 

 

しかしヒーローってのは本来奉仕活動!!そこがブレちゃあいけないのさ!!

 

 

 

 

そこで君に、ヒーローとしての基本を学んでもらおう!!」

 

 

 

メリメリと悲鳴を立てながら、縦に縮んでいく冷蔵庫。

オールマイトと同じ背丈だったはずが、既に首より下まで圧縮されていた。

 

 

 

 

「君の力で!!君の努力で!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この区画一帯の水平線を蘇らせるッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オールマイトが腰を落とすと共に、冷蔵庫の姿が消えた。

その風圧と共に、オールマイトの背後に眩しい地平線が広がる。

 

 

「それが君のヒーローへの、第一歩だ」

 

 

ゴクリと唾を飲み込み、緑谷は辺りに広がるゴミに目を向ける。

 

 

「第一歩・・・コレを全て・・・僕が全部!?」

 

「そうだ!この量なら十か月もあれば簡単さ!」

 

「簡単って・・・それはオールマイト基準だから言えることじゃ・・・」

 

「私ならこの区域一帯なんて、四時間もかからずに片づけることが出来るぜ!現に今君が立っている場所も、一時間前まではゴミの山が出来ていたんだ!」

 

「えぇ!?」

 

 

冗談に聞こえるが、しかしそれをいとも容易く行うところが、NO.1ヒーローたる所以でもある。

すご・・・と感嘆の息を漏らしていると、黒い影の奥に潜む鋭い眼が、緑谷に向いた。

 

 

「緑谷少年は雄英志望だろ?」

 

「はい!!雄英はオールマイトの出身校ですから・・・行くなら絶っっ対雄英だって思ってます!!」

 

「行動派オタクめ!くー!!」

 

 

オールマイトは腰のバッグに手を入れて、中からファイルを取り出す。

 

 

「しかし雄英はヒーロー科最難関!ましてや君のように"無個性"な君が願うだけで行けるような場所じゃない。つま「つまり入試当日まで残り十か月で、身体を完成させないといけない!!そういうことですね!!」・・・あ、うん。つまりそういうことだ!!」

 

 

そしてファイルからA4紙の束を取り出すと、それを緑谷に投げた。

クリップで止められているため空中で四散することはなく、そのままスッポリと緑谷の両手に収まった。

 

 

「これは・・・!」

 

「そこでソイツ!!・・・えーっと・・・()考案!『目指せ合格アメリカンドリームプラン』だ!!!」

 

 

ペラペラとその紙を捲る。

その瞬間目に飛び込んできた、あまりのハードスケジュールに、思わずゲエと鳴いてしまう。

 

 

「寝る時間まで決められてる・・・凄いなんか・・・その、凄いですね」

 

「うん。私もそれ見た時顔を顰めちゃったもん」

 

「ですよね。・・・え?今なんて?」

 

「ナニモイッテナイヨ」

 

 

ゴッホンとわざとらしく咳をして、無理矢理話を戻す。

 

 

「見て分かる通り、超ハードねコレ。ついてこれるかな?」

 

 

すると、緑谷の両手がプルプルと震えだす。

もしや恐怖したのか、と顔色を窺うと、確かに強ばっていた。

 

 

「そりゃあ・・・もう・・・」

 

 

しかしその目には強い意志が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

「他の人より何倍も頑張らないと僕はダメなんだ・・・!!」

 

 

 

 

 

 

覚悟の決まったその目を見て、オールマイトはウムと頷く。

 

 

「カッコいい横顔じゃないか。痺れるね!!」

 

 

すると早速、バッグから縄を取り出すと、それを近くのタンスに括り付けた。

 

 

 

 

 

「それじゃ!このタンスを運んで貰おうかな!?」

 

 

 

 

 

「あ・・・分かりました・・・」

 

 

早速そのカッコいい横顔は崩れ、絶望色に染まり上がった。

 

 

 

 

 

 

 

こうして地獄の十か月は、幕を開けた──!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──しかしそれはオールマイトにとってもまた、地獄の十か月だった。

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

休日が明け平日、つまり学校が始まった。

 

「お疲れ様でした~・・・ぁぁ」

 

朝のゴミ掃除(トレーニング)を終えた緑谷は、ガクガクと震える体で制服に着替えると、そのまま学校まで歩いて向かう。

 

 

「お疲れ!ちゃんと前見て歩きな!」

 

「ぁい~・・・」

 

 

緑谷を見送りながら、時計の針を見てみればもう七時。

 

「・・・フム。二日目にしては、まあまずまずじゃないかな?」

 

昨日とはなんら変わったようには見えないゴミの山。

しかし彼の努力の後(トラックに積まれたゴミ)を見た後では、その印象も変わってくるというもの。

 

 

「・・・さて!私も私で頑張らないとね!!」

 

 

バッグからコスチュームを取り出すと、それに着替えようとする。

するとその時。

 

 

『お手~軽に~睡ッ眠ッ!速~やかに~熟ッ睡ッ!スッキ~リ~マ~イトゥッ!HAHAッ!代償製薬ゥッ!!』

 

「ンン?」

 

 

バッグから電話の着信音が鳴る。

メロディーは勿論というべきか、スッキリマイトのCMの歌である。

 

 

 

スマホを取り出し、その画面を見た。

 

 

 

そしてオールマイトは──絶望した。

 

 

 

 

「オー・・・マイ・・・ガッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画面中央に映し出されたネズミのアイコン。

 

そしてそのネズミの上に掲げられた、雄英高校校章のマーク。

 

 

 

こんな自己主張の激しいアイコンを使う人間?など、この世に一()しかいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「根津さんからの電話かぁ・・・マジかぁ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

この電話が意味するのはつまり、オールマイトの多忙な日々が始まったという意味でもあった。

 

 

 




ちなみに現時点でのオールマイトの変身持続時間は八時間です。


誤字報告ありがとうございます。一日で10件くらい来ました。なんだこの誤字数!?


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一日放置して投稿したのが4000文字以内ってマジ?



午前十時十分。

 

雄英高校、校長室にて。

二つの影が向かい合う様に椅子に座っていた。

 

 

「久しぶりだね八木君」

 

「根津さんもお元気そうで何よりです」

 

 

小さな椅子に座るのは傷面のネズミ。

向かいに座るのはトゥルーフォームのオールマイト(八木俊典)

大きさ的にはあまりにネズミの方が小さいのに、何故だか八木の方が小さいように感じるのは、目の錯覚だろうか。

 

 

「君が雄英の教師をやりたいなんて言い出した時は、何の冗談かと思ったけどね。ああもちろん、やましい意味ではないよ。単に驚いただけさ」

 

「私がヒーローとして活動できるのも残り僅か。その間に、次世代を任されるであろうヒヨッコ達に、与えられるモノは与えておきたいんです」

 

「枯葉が若葉の養分となる、か。これまた風情だね」

 

 

皮肉に聞こえなくもないが、本人は至ってその話を真面目に聞いている。

それは八木も分かっているようで、特に反応することはなかった。

 

さて、と根津は引き出しから複数枚のプリントを取り出す──前に、八木へそのつぶらな瞳を向けた。

 

 

 

 

「ところで本題に入る前に・・・()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

八木の体がビクリと震え、そして硬直する。

しかしそれも束の間、すぐに強張った体を解すと、背筋を正して根津に向き直った。

 

 

「やっぱり分かっちゃいました?」

 

「そりゃ分かるとも。叫んだだけで吐血するような君が、今日は全く吐いてないんだから」

 

 

やはり判断基準は吐血か。

別に必要は無いと思うが、脳内のメモ帳に書き記しておく。

 

 

「しかし奇妙だね。胃袋全摘に呼吸器官の半壊。その他器官の損傷に加えて、後遺症とその他諸々を腹の中に抱え込んでた君が、まさかそこまでの健康体になるなんてさ」

 

「私もそれを聞かされた時は、思わず目が点になりましたよ」

 

「相手はリカバリーガール?いやリカバリーガールからはそんなことは聞いてないし、考えられるとしたら・・・デヴィット・シールドさんかな?」

 

 

いとも簡単に言い当てられるが、しかし驚きはしない。

根津の個性は『ハイスペック』。

その頭脳は人のそれを軽く凌駕しており、あらゆる事象、あらゆる物事に対しての洞察力は並のヒーローなど相手にはならないだろう。

そんな根津の頭脳をもってすれば、オールマイトの体を診たのが誰なのかを推測するなど、朝飯なんていらないレベルだ。

 

 

「それで?回復の度合いは?流石に全回復なんてことは無いと思うけど」

 

「それが実は・・・」

 

 

カクカクシカジカ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えええーーーーーーー!?!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの小さな体から出たとは思えない、馬鹿デカい声が校長室内に響いた。

 

 

「全回復!?ええーー!?!?」

 

「ね、根津さん!?」

 

 

驚きすぎて痙攣している根津に、流石に心配の眼を向ける八木。

まさか自分の想定以上の答えが、しかも絶対にありえないと考えていた答えが返って来たのだから、そりゃ驚くのも無理はないだろう。

 

 

数分後、ようやく落ち着いたのか、コーヒーをガブ飲みしながら、ゆっくりと深呼吸をし始めた。

 

 

「個性の介入ね・・・確かにその線ならあり得るけど。でも、一体全体何が起こったらこうなるのさ?」

 

「それは私にも・・・」

 

「うーん・・・」

 

 

暫しの思考。

その間に根津の頭では何がどれだけ展開されているのか、八木は知る由もない。が、唯一分かるのは根津がいつも以上に熟考しているということだけだ。

 

そして幾秒か経った後に、まるで開き直ったように笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

「全く分からないね!ハハッ!」

 

 

 

 

 

 

 

流石の根津でもお手上げなのか、両手をブラブラとさせる。

 

 

「根津校長でも分からないことが?」

 

「私は全知全能という訳じゃないからね。ただの頭のいい小動物さ」

 

 

その頭の良さが人のソレを逸しているのだが。

しかしそこにツッコむことはなく、根津は淡々と話を進めていく。

 

 

「しかし、個性が完全修復・・・又は回復とはね。これまた凄い個性だ。そんな個性があるならヒーロー側(コッチ)に情報が来てもおかしくないんだけど・・・」

 

「ヴィラン、という可能性も・・・」

 

「じゃあなんでヴィランになったんだろう?家庭環境?友人関係?人格破綻?はたまたその全て?」

 

 

疑問をいくら深堀しても、出てくるのは疑問のみ。

熟考しすぎて疲れたのか、フウと息を吐いた。

 

 

「分からないね。取り敢えず、このことはヒーローと警察に任せるとしようかな。そっちの方が手っ取り早いし」

 

 

ヒーローの中には、探偵のように情報収集や事件解決などを旨とする者がいる。

そちらの方に頼んだ方が、自分たちの足で探すよりも早いだろう。

 

さて、と根津はこちらに目線を向ける。

その瞬間、全身の毛が粟立つような感覚と共に、上から下まで電撃が走った。

 

 

 

 

「本題に入ろう!これから君が教師になるにあたっての話だけど」

 

 

 

 

(来たか・・・!)

 

拳を強く握り、覚悟を決める。

 

 

「以前言った通り、君が教師になることに対して、反対の者はいなかった。そして先日、重役会議にて話し合った結果、君の雄英高校教師承諾が正式に認められた!」

 

 

根津は引き出しから資料を取り出し、それをババンとオールマイトに見せつけた。

確かにそこには承諾の文字と、その承諾の理由が細かく刻まれていた。

 

 

「ありがとうございます!」

 

「いやいや、むしろ君ほどの逸材が雄英高校の教師になるのに、否定やら不満やらの声が上がるわけがないからね」

 

 

ホッと胸をなでおろし、深めの礼をする。

 

 

このまま何事も起きなければ──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あとは君が教員免許取るだけだね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

根津は引き出しから大量の資料と問題集を取り出しながら、ニコニコと笑った。

八木もそれに釣られるように、引きつるように笑った。

 

 

「本当に取らないといけないんですか・・・?」

 

「そりゃそうとも。君が最高無欠のヒーロー、オールマイトだとしても、無免許での教師活動は問題になるからね」

 

 

プロヒーロー免許はヒーローとしての活動は認められるが、その他の活動は原則として禁じられている。

例えば救助活動。被災地から人を救い出すことは問題ないが、救った被災者に対して治療や手術を行うことは禁じられている。

例えば教育指導。薬物指導等の臨時的な教育者として教育・教養を行うことは問題ないが、それ以外での場での教養・教育を行うことは禁じられている。

これを破れば、警察からの厳重指導や100万円以下の罰金、最悪プロヒーロー免許の取り消しもありうる。

 

 

「でも教員資格を持てば何にも問題は無いさ。それに君は既にプロヒーローで、しかもNO.1。ペーパーテストで合格点を叩き出してくれれば、即座に教員免許を取得できるよ」

 

「ペーパーテストだけですか?」

 

「うん。正直ペーパーテストも要らないかなって思ったんだけど。まあそれだと流石にズルいかなってさ!」

 

「・・・そう、ですか」

 

 

それならペーパーテストも要らなかったのに、と顔には出さないが落ち込む。

 

オールマイトは勉強が嫌いだ。

学生時代はそこまで苦手意識は無かったのだが、年を喰うにつれ何かを覚えるという行為に気怠さを感じるようになった。

その結果、見た目も中身も筋肉マッチョのヒーローが生まれたというわけだ。

 

 

「ちなみに合格点は・・・?」

 

「500点満点中490点で合格さ」

 

「OH・・・」

 

 

前もって取得しておけよと、過去の自分を叱咤したくなる。

しかしタイムマシンがあるならともかく、そんなことは出来ないので潔く諦めるしかない。

 

 

「ペーパーテストは申し込みをすればいつでも受けられるから。頑張って毎日コツコツ勉強するんだよ」

 

「まさかこの歳になって勉強をすることになるとは・・・」

 

「時代が進む限り、人生に勉強は付き物さ」

 

 

その言葉には、どこか遠くを見つめるような。まるで実体験をそのまま語らっているような感じがした。

 

 

「・・・そうですね。人は学習するために生まれたとも言いますし」

 

 

 

 

 

「尤も、私は人じゃないんだけどさ!」

 

 

 

 

そう言うと、根津はHAHAと笑った。

 

それに釣られるように、八木はまた引きつった笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・おっと、もうこんな時間ですか」

 

長話を一旦中断させ、時計を見れば、もう11時を過ぎようかと長針が揺れていた頃だった。

八木は立ち上がり、別れを告げるとその場から退場しようとした。

 

 

「帰るの?ならリカバリーガールに挨拶していきなよ。君、定期検査行ってないでしょ?」

 

「・・・あ!」

 

 

そういえば定期検査をするのをスッカリ忘れていた。

しかも何の連絡も送っていないので、さぞかし心配していることだろう。

 

 

「うわあ、絶対怒ってるよ・・・」

 

「愛の鞭ってやつさ!ベチンと叩かれてくるといい」

 

 

慈悲はないのかと涙目で訴えれば、心底面白そうな笑みを浮かべたネズミがいた。

しかもその片手には、大量の紙が入った紙袋を持っている。

 

(鬼だ・・・)

 

絶句、そして絶望。

勿論顔には出さないが。

 

 

「じゃ、じゃあ少し顔を出してきます・・・はあ」

 

「いってらっしゃーい!!」

 

 

手を振りながら、校長室を離れた。

その背中はトゥルーフォームとはいえ、とてもヒーローのものとは思えない程小さかった。

 

 

 




そういえば根津校長黒幕説ってどうなったんだろ・・・。




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10

投稿遅れてスマナイネ。



ようつべの方でカーネイジの予告の三週目を見てたら、ネタバレが流れて来ました。
怒りのあまりエアポッツの片方を無くしてしまいました~(勿論通報して別の動画見た)


誤字修正ありがとうございます。
十話も多分誤字満載なので、よく目を凝らしてみてください。




廊下を歩く八木。

道中で雄英生徒とすれ違うが、特に声を掛けられることなく(挨拶はされたけど)問題なく保健室までたどり着くことが出来た。

深呼吸をして、その扉に手を掛けた。

本当は鍵でも掛かっててほしかったのだが、扉は八木の指の力に反発することなく、そのまま慣性に従って開いた。

 

「こんにちは~・・・」

 

中心のソファーの上で横になる生徒に、診察をしていたリカバリーガールがクルっとこちらを向く。

八木を見るなり、その細い目を見開くが、すぐに穏やかな表情へと変えた。

 

 

「いらっしゃい。()()()

 

 

声色と顔色に怒りは見えない。

が、もしかしたら必死に隠しているだけで、本当は内心般若の形相をしているかもしれない。

リカバリーガールは八木に向けていた目をすぐに生徒の方へ戻すと、診察を続けた。

 

そして一分経った頃合いだろうか。

 

 

「ハイ、ハリボー」

 

 

診察を終えたのか、生徒は礼をすると、八木の横を通り過ぎ教室へと戻っていった。

 

 

トボトボと自信なさげにリカバリーガールの元へ足を進める。

 

 

「お久しぶりです、リカバリーガール」

 

「全く。定期検査を一週間も遅らせるなんて・・・」

 

「それは本当に申し訳ない・・・」

 

「・・・はあ」

 

 

ため息交じりに呆れられる。

どうやらそこまで怒ってはいないらしい。

 

 

「ところで・・・さっきの生徒は?」

 

「なんでもメンタルが弱いらしくて、それを治してほしいって言ってたわ」

 

「・・・治せたんですか?」

 

「私が治すもんじゃないよ」

 

「ですよね」

 

 

リカバリーガールは聴診器やら精密機器やらの準備を行いながら、ふとこちらに目線を送って来た。

眼先は頭から足まで巡らせて、それを何度も繰り返して、ようやく何かに気付いたのか首をググと傾げた。

 

 

「俊典、()()()()()()()()()()?」

 

「根津さんもそうでしたが、気付くの早いですね」

 

「そりゃそうさ。私は医者だよ」

 

 

答えになっているような、なっていないような。

 

 

「気付いたのは・・・吐血ですか?」

 

「そうさね。アンタが吐血しないなんて相当珍しいことよ」

 

 

やはり吐血か。

デイヴと会った時も、板前に会った時も、根津に会った時も。

全て吐血で判断されている。

それ以外で判断をしてほしいとは言わないが、流石にここまで吐血だけで判断されると、何とも言えぬ心情になる。

 

 

「それで?何が起こったんだい?」

 

「実は──」

 

 

根津にした説明と同じようなモノをカクカクシカジカ。

 

 

 

 

 

 

「──という訳なんです」

 

 

リカバリーガールは驚きもせず、ただ神妙な面で机の上に目を向けていた。

 

「・・・まさか。いやそんなはず・・・」

 

ボソボソと何かを呟くリカバリーガール。

 

 

「あの、リカバリーガール?」

 

「・・・ああ、すまないね。つい考えこんじゃったわ」

 

 

俯いていた顔を八木に向ける。

いつもの顔に見えるが、どことなく何か悩みを抱えているかのようにも見えた。

 

 

「悪いけど、私も心当たりはないわね」

 

「そうですか・・・」

 

 

正直そこまで期待はしていなかったので、大したダメージは受けなかった。

それに今すぐに聞きたいわけでも、解決したい悩みである訳でもないので、急いで情報収集をする必要もないだろう。

勿論、体を治してくれた人が本当に見つかったのであれば、キチンとお礼はしたいが。

 

 

「それで、定期検査はこれからどうするの?」

 

 

そういえばそのことを忘れていた。

(正直定期検査要らないと思うんだけど・・・でも万が一のことを考えると、定期検査には来た方がいいよね?)

これから他の病気になる可能性もあるのだし、定期検査を受けておいても損はないだろう。

 

 

「・・・万が一もありますし、一応続けさせてもらおうかな、と」

 

「そう。分かったわ」

 

 

それじゃあ早速、とリカバリーガールがまた道具の準備をし始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

検査を終えた八木は元の服装に着替え、荷物を持った。

 

 

「それでは、失礼しました!」

 

「あいよ。次は来月の一日に来るんだよ」

 

 

 

八木が保険室から出ていくのを見届けた後、リカバリーガールはフウと重い溜息を吐いた。

 

「・・・黒い靄、ねえ。まさか・・・関りがあるとは思えないけどね」

 

言葉は彼方に消えた後、机の上のPCの画面へと向いた。

 

 

 

 

 

 

 

画面に映るのは、二年前のある事件について書かれた記事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その見出しには、『隕石襲来!しかしオールマイトが木っ端微塵に!!』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 

平日はあっという間に過ぎ、休日に入った。

緑谷出久は自宅のベッドで死んだ魚のモノマネをしており、その眼は光を失っている。

 

 

(これからオールマイトと海浜公園でトレーニング。途中で家に帰って昼ご飯を食べて、少し休憩を挟んだら、また戻ってトレーニング。・・・分かってはいたけど、あまりにもキツイよこれ・・・)

 

折れぬ志を持っているからこそ保ててはいるが、それがなければ今頃ベッドの中でイビキをかいていただろう。

 

 

「・・・でも、これぐらい努力しないと、僕はヒーローにはなれないんだ・・・!」

 

 

PAN!!と自分の頬に強烈なビンタをかますと、気怠い体を持ち上げる。

 

 

 

「行くぞデク!ヒーローになるんだ!!」

 

 

 

震える脚にも喝を入れると、ジャージに着替えて海浜公園へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オールマイト?」

 

「・・・・・・」

 

 

海浜公園に着いた緑谷が目にしたのは、ゴミの山の上に座ったオールマイトだった。

片手にはミネラルウォーター、片手には本が握られており、見方によっては現代版二宮金次郎に見えなくもない。

 

まるで彫像のように動かないオールマイトをしばらく見つめた後、何か考え事してるのかも、と自分の中で解決させると、もはや日課となっているゴミ掃除を始めた。

 

 

(・・・あの本、何の本だろ・・・?」

 

 

表紙的には教科書か何かのように見えるが。

もしや、ドラマか何かの台本だろうか。

 

(邪魔するわけにはいかないよね。流石に音を立てずに、は難しいだろうけど・・・)

 

なるべく邪魔にならないように、と自分に言いつけながら、ゴミの山から木の柱を数本抜くと、それをトラックに運んでいく。

勿論オールマイトが見ていないからと言ってサボることは無く、黙々と作業を進める。

 

 

それから八往復した程だろうか。

 

タイヤを両手に通していると、近くのゴミの山が軋み、少し崩れた。

理由は勿論、あの人が起きたからだ。

 

「・・・緑谷少年?来ていたのか?」

 

ゴミの山からトウ!と降りるオールマイト。

笑みと驚きが六・四で混ざり合ったような、なんとも形容しがたい顔を浮かべながら近づくオールマイトは、ある意味ホラーだ。

 

 

「はい!なんか、集中してたので邪魔したら悪いかなって」

 

「そんなことはないさ。ただ勉強していただけさ」

 

「勉強?オールマイトが?」

 

 

その聞き方だと、見方によっては失礼な気もするが。

 

 

「ウム!おじさんになっても勉強することはあるのさ!」

 

「オールマイトはおじさんじゃないです!・・・それで、なんの勉強をしていたんですか?」

 

 

ヒーローが資格を取るために勉強をしたりすることは、それほど珍しいことではない。

 

プロヒーロー免許を所得すると、別の資格や免許を取るのが比較的容易になる。

分かりやすく言うと、通常は手続きやら試験やらを何度も超えないといけないところを、プロヒーローなら一回クリアするだけで合格、取得することが出来るようになるということだ。

 

 

「うーん、まあ君になら言ってもいいかな?実は前々から、学校の教師になりたいと思っていてね。そのために教員免許を取ろうってことさ」

 

「オールマイトが教師!?い、一体どこの学校に!?」

 

「そりゃあ勿論、雄英だとも!」

 

「ええええええ!?!?」

 

 

腰を抜かしてビビり散らかす緑谷。

 

 

「オールマイトが雄英の教師に!?えええ!?!?」

 

「そんなに驚くことかい?」

 

「いや予想は・・・していましたけど、まさか僕が通う来年からっていうのが・・・」

 

 

運命を感じた、というやつか。

 

 

「私ももう歳だからね。次世代を担う者たちに、教えられることは教えておきたいんだ」

 

「オールマイト・・・」

 

「・・・辛気臭い顔をするんじゃないよ!別に今すぐに引退するなんてことにはならないからさ!」

 

 

とはいえ、個性を譲渡して十数年もすれば、オールマイトからOFAが無くなってしまうだろう。

そうなる前には、後の世代に残せる何かはやっておきたい。

それに、個性が無くなる無くならない以前に、高齢者の仲間入りをするかもしれないし。

 

 

「それに・・・引退しても、今活躍しているヒーローの皆であれば、私程度の空白簡単に埋めてくれるさ」

 

 

脳内に浮かぶヒーローの面々。

どれも頼りがいのあるヒーロー達だ。

 

ふと緑谷の顔を見れば、心配そうにオールマイトを見上げていた。

 

 

「話はソレてしまったが、まあとにかく!私は雄英の教師になるために勉強をしている、というわけさ!」

 

「なるほど・・・でも、オールマイトが雄英の教師って・・・なんかすごいですね」

 

 

喜んでいるというか悦んでいるというか。

自分が学校でオールマイトから教養を受けているところを妄想しているのだろうか。

(・・・私が言うのもなんだけど、今の状況自体が凄いと思うんだけどね)

おそらくオールマイトの後継者になるという重荷と、デイヴ考案ハードトレーニングによって、感覚がマヒしているのだろう。

 

 

「これで雄英を志す理由がまた新しく生まれたわけだが・・・どうだい?」

 

 

耳元で軽く煽る。

 

「そんなの・・・そんなの・・・!!」

 

緑谷はそれに反応し、さらに多くのゴミを両手に持つ。

 

 

 

 

 

 

「絶対に雄英に行くしかないじゃないですか!!」

 

 

 

 

 

雄叫びを上げながらゴミを運ぶ緑谷の背中を見て、オールマイトはHAHAと笑うのだった。

 

 

 

 

ちなみに次の日、体中が筋肉痛で動けなくなり、緑谷がトレーニングを休んだのは別の話である。

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

日が変わり、時計の針が一時を過ぎた頃。

 

いつもよりも若干長めにパトロールを行った八木はホテルに帰ると、すぐさま風呂に入りパジャマに着替える。

そして買っておいた五本セットの魚肉ソーセージを一本食べると、お茶を一杯飲んだ後にベッドへ潜った。

 

 

「朝は緑谷少年のトレーニングに行って、昼はヒーロー活動。夕方はまた緑谷少年のトレーニングに行って、そして夜もまたヒーロー活動に。しかもその合間合間に勉強をしないといけなくて・・・アレ?私って割とハードな日々を送ってないか?」

 

 

緑谷と比べればまだまだ余裕はあるとは思うが、しかし毎日八時間以上もマッスルフォームを維持し続けていると流石のオールマイトでも疲労は溜まっていく。

 

(でも、疲労感を感じるなんて久しぶりだな。前までの私であれば、疲労を感じる前にマッスルフォームの限界が来ていたから、そこまで疲れるようなことは無かったが)

 

皮肉にも制限時間が設けられていたことにより、毎日規則正しい生活を送れていた、というわけだ。

 

 

「やれやれ、マッスルフォームを維持できる時間が伸びても、いいことだけが起きるわけじゃないんだなー」

 

 

別に誰に言うわけでもないが、棒読みっぽく虚空に語る。

もしこの場にデイブが居れば、おそらく苦笑かツッコミの一つぐらいは飛んできただろう。

 

ふと、時計に目を向けると、もう長針が下を向くところだった。

 

 

「おっと。明日も早いんだった。早く寝ないとね」

 

 

薄めの布団を胸の辺りまでかけると、眼を閉じる。

 

睡魔と疲労感も相まって、深い眠りに素早く誘われたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『目覚めの時はもうすぐだ、待ってろよ?オールマイト・・・』

 

 

 




きっと最後のヤツは残忍な性格してるんだろうなぁ・・・。


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11



緑谷が試験を受けるのはまだまだ先になりそう・・・映画公開までにカーネイジを用意するのは無理ぽよ・・・。


「ZZZ・・・」

 

日の明かりが昇り始め、大地を白く染め上げる。

 

「ZZZ・・・」

 

ホテルの一室、カーテンの間から白い光が差し始める。

 

 

「・・・ングカッ!」

 

 

ベッドで寝ていた八木の顔を、直射日光が鋭く照らす。

 

 

「う~ん・・・」

 

 

まるで虫眼鏡のように集中された日光は、次第に瞼の奥に隠した眼球を焼き始める。

 

 

 

「・・・いや眩しッ」

 

 

ベッドからガバッと飛び降りると、日光を避けるように日陰へ移動した。

そして恐る恐る、日光を掻い潜りながらカーテンの元へ向かうと、勢いよくカーテンを閉じた。

 

 

「全く。まだ朝は来てないぜ太陽さん!」

 

 

時計の針はまだ五時半を差している。

もうあと三十分は寝れるはずだったのだが。

 

 

「いい夢を見ていたってのに、全く台無しだ・・・」

 

 

尚、夢の内容は企業秘密だ。

 

八木はそのままベッドにダイブすると、しばらく羽毛の上を泳ぎ続ける。

右へ左へ体を揺さぶり、十数回の往復を繰り返すと、ようやく大人しくなった。

 

 

「モーニングルーティーンは六時からって決まっているんだ。それまでおこさないでくr・・・ネムネム・・・」

 

 

言の葉は途中で途切れ、またも夢の世界へと誘われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 

目を開けると、白い空間の中にいた。

 

「ここは・・・」

 

どこか見覚えのある空間。

しかし見覚えのない空間。

浮遊感と重力を同時に感じつつ、自由と不自由を同時に感じる。

 

 

そうだ。たしかここは──。

 

 

 

 

「黒い靄と出会った場所・・・!!」

 

 

夢の中にて、八木の記憶は覚醒した。

 

 

「どこだ!どこにいる!!」

 

 

恋焦がれるように、必死になって周りを駆ける。

しかし体はその場に固定されているのか、どうにも動いているように感じない。

 

 

「クソ!せめて感謝の言葉でも伝えたいのだが・・・!」

 

 

無我夢中になって、体を動かす。

走る様に足を動かし、泳ぐように手を回し。

 

まるで動いている実感が得られないまま体を動かし続けていると、視界の内にある変化が生まれた。

 

 

 

 

「黒い・・・点?」

 

 

 

 

しかし靄のように気体のような見た目でも、コールタールのように液体のような黒でもない。

例えるなら存在。

例えるなら概念。

まるでブラックホールのような、周りの光をも飲み込みかねない、底が無い黒。

 

点は次第に面積を広げていき、気付いた頃には八木の周りを包み込んでいた。

 

 

「なんだコレは・・・!?」

 

 

両足が地面に着く。軽く飛ぶが、重力には特に変わったところはない。

しかしなぜだか、全身に未だ拭いきれぬ浮遊感が残っている。

未知の体験。まさしく夢の中というべきか。

興味が渦巻くと同時に不安が過り、全身が震える。

取り敢えずは様子見か。

そう思い、足を前へと踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

暫く足を進めていると、遠方に小さな輝きが見えた。

赤く、そして暖かい光だ。

 

「アレは・・・火か?」

 

急ぐことも無く、ゆったりとした足取りで光の下へ進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

「コレは・・・」

 

光の下に着いたオールマイトは、その光の正体に首を傾げた。

 

 

 

 

「焚火・・・いや、篝火か?」

 

 

 

真っ赤に燃えるその炎は未だ衰えることが無く、根元には太い薪がくべられている。

また、薪の周りには白い灰が積もっており、小さな山を築いている。

 

 

「温かく、そして美しい炎・・・だが、一体何故こんなところに?」

 

 

篝火に手を伸ばし、炎に触れようとする。

が、その指は()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベチョリィ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コールタールのように輝く()()が、腕の進行を妨げた。

 

 

炎の中から現れたソレは、いまだ原型を留めることなく流動体を維持している。

まるで孵るのを待つヒナのように──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジリリリリリリリリリリンン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

「ングホッ!?」

 

 

 

目覚めると、八木はホテルのベッドの上で横になっていた。

 

 

「なんなんだ・・・一体あれは・・・?」

 

 

時計を見れば六時二分。

アラームは今も忙しなく鳴り続け、止められるのを今か今かと待っている。

 

 

「オット、考え事をしている暇はないな。今日は朝からバラエティー番組の収録があるんだった!」

 

 

マッスルフォーム用のスーツを用意しながら、八木はスマホのアラームを止めた。

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

とあるヒーロー事務所にて。

青年は鼻歌を奏でながら、手早く資料を纏めていた。

 

「フンフーン!フン!フンフーン!」

 

リズムは極めて不細工ながらも、資料は着々と纏められていき、最終的に一つの段ボール箱にキッチリと纏められた。

 

 

「良し!あとはこれを・・・」

 

 

五キロはあるであろうその段ボール箱を、両手で軽々と持ち上げると、青年はその部屋から廊下に出た。

 

 

 

 

 

 

 

「資料纏めました!!」

 

扉を開き、開口一番そう叫ぶ。

暗い部屋の奥には、何故か眼鏡だけ輝く男がいた。

男の目線は段ボール箱を見つめた後、青年へと向かう。

 

 

「ご苦労。・・・ところで、調子はどうだ」

 

 

資料を置いた青年は、一瞬キョトンとした様子を見せ、そしてすぐにニコと笑う。

どことなく空気を和やかにする、可愛げのある笑みだ。

 

 

「全然問題ないですよ!個性も順調に使いこなせてきましたし!」

 

 

手をワシワシと握ったり開いたりを繰り返す青年を見た後、「そうか」と目線を落とした。

 

 

「やることが地味なことばかりで、少し退屈しているのではと思ってな」

 

「いえ全然!むしろ大満足って感じです!」

 

「・・・雑用ばかりなのにか?」

 

「むしろ雑用だからこそ、やりがいがあるってもんですよ!」

 

「ほう?その心は?」

 

「雑用は簡単に言うと、『あまり周りがやりたがらない仕事』!それを行うということはつまり、『雑用をやりたくないと思っている人』の役に立っているということ!」

 

「つまり?」

 

 

 

「つまりたくさんの笑顔が生まれる、ということです!!」

 

 

 

言っていることがよく分からないし、何故=になるのか分からないし、色々とツッコミどころが多いのだが。

 

 

「ナイスユーモア!」

 

 

取り敢えず元気なのでそれで良し。

 

それからしばらく青年の、笑顔の生まれる秘訣を小一時間聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青年がその部屋から去ろうとした時。

青年は「そういえば」といいながら、270度クルっと回った。

 

 

「昨日のクイズ番組、サーも見ました?」

 

「回転しすぎだ。それと、私はあまりテレビは見ない」

 

「オールマイトが出てる番組だったんですけど」

 

「ああ、『クイズ!オールマイトとスフィンクス!』か。それなら全部録画している」

 

「録画してるってことは見てないんですか?」

 

「こう見えて私も忙しいんだ。・・・家には三週間以上は帰っていないな」

 

「三週間も前から不眠不休で!?」

 

「そういう訳じゃないが。単純に家に帰る時間が無いんだ」

 

「なんだ、そういうことですか・・・」

 

 

目に見えてホッと息を吐いている。

 

(しかし、そろそろ家にも帰りたいな。撮り溜めた番組もそうだが、観葉植物の様子も気になる)

 

一応、全自動水やり機は置いてあるので、枯れていることは無いと思うが。

 

 

スマホを開いて、予定表を見てみれば、明日の予定は特になかった。

普段は仕事が無くても事務所で掃除やら資料整理やらをしているのだが。

 

 

(サイドキックの皆に任せて、明日は家で溜めていた番組でも見るか)

 

 

サイドキックの皆からも「そろそろ休んだらどうです?」と言われていたのを脳の隅で思い出しつつ、男は──サーナイトアイは机の上の紙の束にハンコを押し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰ったサーは観葉植物の点検をした後に風呂に入り、ラフな格好に着替える。

そして諸々の作業を終えた後に、早速録画していた番組を見始めた。

 

 

「・・・・・・」

 

 

ソファーの上で手を組みながら、無言&真顔で番組を見るサーだが、実は結構楽しんでいる。

実際オールマイトがジョークを飛ばす度に顔がカチコチに固まるのは、笑うのを堪えているからだ。

 

 

「・・・・・・」

 

 

時刻はすでに深夜の二時。

サーの瞼もそろそろ鉛を垂らし始めたところで、ふとオールマイトが画面一杯に飛び出て来た。

 

 

『私が来たァ!!』

 

「・・・ん?」

 

 

その声に、その顔に、どことなく違和感を感じた。

ソファーから立ち上がり、フラフラとした足取りで画面に寄った。

そしてリモコンで十秒前に巻き戻し、もう一度オールマイトを画面に召喚する。

 

 

『私が来たァ!!』

 

「・・・・・・」

 

 

その後も無言で、流れ作業のように延々と繰り返し、オールマイトの顔と声を同時に脳に入力していく。

 

 

 

 

『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が来たァ!!』『私が────────』

 

 

 

 

 

若干の違和感を追求する狂気の所業。

それは彼が、この世の誰よりもオールマイトを敬愛(あい)しているからこその正気。

その狂気と正気が織りなす作業の結果──。

 

 

 

 

真実は彼に微笑んだ。

 

 

 

 

 

「オールマイト・・・?」

 

 

 

 

それはまるで、奇跡を目の前にしたかのような、神秘的な感情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一週間の間、事務所にはサーが現れることは無かった。

 




サーナイトアイの家。

タワーマンションの最上階。中は至る所にオールマイトグッズが置かれており、意図的に目を逸らさなければ視界にオールマイトが入る様になっている。


クイズ!オールマイトとスフィンクス!

アクション型の謎解きバラエティー番組。
目玉コーナーは『最強クイズ!オールマイトVSスフィンクス』
オールマイトとスフィンクスが互いに問題を出し合い、問題を十問解いた方が勝ち。
ちなみに負けた側はその場で奈落に落とされる。

視聴率は割と高く、グッズも販売されている。なお家庭用ゲーム版はそこまで売れていない模様。




ちなみに投稿者はサーナイトアイがヒロアカの中で二番目に好きです。


一番は耳郎です。


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12

七月初旬。

いつものように学校帰りにゴミ掃除を行っていた緑谷は、巨大冷蔵庫をトラックに運んだ後、夕日に照らされた砂浜の上で横になると疲れたように溜息を吐いた。

 

 

「これでようやく一割・・・ってところかな?」

 

 

ゴミの山を見上げながら、一か月前の情景と見比べる。

割と前のことなので、若干うろ覚えなところもあるが、しかし相当片付いているのは明白だった。

というか、()()()()()()()()ような気もするのだが。

 

 

「オールマイト・・・驚いてくれるかな?」

 

 

残り期限は九か月。

()()()()()()目標まではあと九割。

ペースとしては十分だが、もう少し上げるべきだろうか。

 

(僕がヒーローに・・・オールマイトのようなヒーローになるためには・・・!)

 

 

拳を固く握り、どっこいしょと重い腰を上げる。

尻の砂埃をせっせと払いながら、そしてゴミの山から鉄パイプを抜──。

 

 

 

「私が~・・・」

 

 

 

「え?」

 

 

 

上空からもはや聞き慣れた声が迫ってくる。

見上げるとそこに居たのは──。

 

 

 

 

 

 

 

「普通にマトモな服で来たァァ!!!!」

 

 

 

 

 

 

現れたのは、ジャケットとスラックスを着たオールマイトだった。

 

 

「オールマイト!?しかもその恰好は・・・」

 

 

テレビでもあまり見ないオールマイトの正装。

緑谷はそれをレアなモノ見ちゃった!という驚き半分、なんでそんな格好を?という疑問半分でガン見している。

 

 

「実は今日の夜、古い友人と夜ご飯を食べることになってね。それでこんな服装をしているというわけさ」

 

「古い友人・・・ですか?」

 

「そうだ、丁度仕事が一段落着いたみたいでね!」

 

「仕事が一段落・・・そしてオールマイトの古い友人と言えば・・・」

 

 

思い当たる人物が一人だけ脳裏に浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「デヴィット・シールド博士・・・ですか?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし確証はないし、そんな超大物が日本に来るわけないとも思っているので、ほとんど信じていないのだが。

 

 

「スゴッ!よく分かったね!」

 

「え!?本当に来るんですか?!?!」

 

「うん」

 

 

何食わぬ顔で平然と肯定するオールマイト。

普通に考えればテレビや雑誌の一面に取り上げられるレベルの大ニュースのはずなのだが・・・。

 

(流石オールマイト・・・なのかな?)

 

 

「東京に行きつけの寿司屋があってね。そこを貸し切るつもりなんだ」

 

 

東京に行きつけの寿司屋があるなんて初耳だ。

いや、プライベートの話なので知らなくて当然なのだが。

 

 

「だが予定の時刻まで少し時間が余ってね。そこで君の様子を見に来たんだが・・・ウム!全く以って心配いらなかったね!」

 

 

HAHAと笑うオールマイトは、踵を返すと足を曲げた。

傍から見ればただの跳躍の前兆だが、オールマイトとなれば瞬間移動の一歩手前へと早変わりだ。

 

 

「もう行くんですか?」

 

「友人とはいえ、五分前行動はしないとね。それに一応、日本に旅行に来たお客様だからね。待たせるわけにはいかないよ」

 

「なるほど・・・」

 

 

たとえプライベートでも、トップヒーローとしての威厳は保たなければならないということか。

 

 

「お土産はデイヴのサインでいいかな」

 

「是非お願いします」

 

「OH、目が血走ってる・・・」

 

 

引き気味で笑うオールマイトと、どこぞの包丁を構えた三代目みたいな真顔をする緑谷。

 

オールマイトはさて、と体をさらに深く、腰を下ろすと勢いよく飛び立った。

 

 

「それでは緑谷少年!また明日の朝会おう!!」

 

 

オールマイトは空へと消えた。

まるで光を置き去りにするかのようなその速度に圧倒されながらも、しかしその眼はいつもの羨望の眼差しを持っていた。

 

「やっぱり・・・オールマイトは凄いなあ・・・」

 

その背中を目で追いかけながら、暫くして緩み切った頬を叩いた緑谷は、またゴミを運びだした。

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

「にしても、あれからまだ二週間ぐらいしか経ってないけど・・・」

 

トゥルーフォームに戻ったオールマイトは、姿を変えたおかげで少々ダボダボになった服装で、駅前で腕を組みながらデイヴを待っていた。

 

 

というのも先日、デイヴからレインで、

『トシ。明日東京にメリッサと一緒に旅行しに行くから。夜は板前さんの所で寿司を食べたいから貸し切りにしといて』

と来たのだ。

 

 

「忙しいんじゃなかったの?本当に旅行にきて大丈夫なの?」

 

 

デイヴが研究しているのは個性に関することで、詳しいことはよく分からないが、それでも抜け出して旅行に来れるほどユルい感じの研究では無かったはず。

しかもそれが一段落しても、ヒーローアイテムの開発もあるのだし、そう簡単に日本に来れる程暇じゃないと思うが。

 

 

「でも本人がいいって言ってるってことは、いいってことか」

 

 

でも細かい事情は聞かないのがオールマイトクオリティだ。

 

 

「というか貸し切りって。割とお金かかるんだぞ!」

 

 

アレでも一応テレビで何度も取り上げられるレベルには有名&高級店だ。

入って寿司を食べる程度にはそれほど金はかからないが、貸し切りとなるとかなり金が掛かる。

 

尚、オールマイトの懐(正確には貯金だが)的に27ダメージぐらいしか入っていない模様。

 

 

「もし私にそこまでの貯金がなかったら今頃怒ってたぞ!」

 

 

怒るだけで、貸し切りはちゃんとするし、お金は全部自分が払うことには変わりないと思うが。

 

 

「全く、デイヴは本当に勝手なんだから!・・・私も大概だがね!」

 

 

HAHAと笑うと周りの目線がこちらに集中したので、ゴホンとわざとらしく咳を上げると、近くのベンチに腰を下ろした。

 

 

 

 

 

 

番組で無茶ぶりを言われた時用の激熱ジョークを考えながら、ベンチで腕を組んでいると、駅からこちらに向けて誰かが近づいて来るのを足音で察知した。

八木は駅に背を向ける形で座っているので、振り向かない限りソレが本人であるかを確認する術はない。

 

(振り返って確認するか・・・ん?)

 

ふと、足音がやけに小さくなった気がした。

まるで気付かれない様にゆっくりと歩いているような・・・。

 

(ああ、なるほどね)

 

察知すると同時に、八木は何食わぬ顔で空をボーっと見つめた。

 

暫くして足音が真後ろで途絶えたと同時に、視界が真っ暗になる。

 

 

 

 

 

「だーれだ!」

 

 

 

 

 

懐かしい声。いや、それよりもっと大人びただろうか。

わざとらしく顎に手をあてながら、唸る様に首を傾げた。

 

 

「誰だろうなぁ。ヒントはこの声かなぁ?・・・うーん、分からないなぁ」

 

 

ほんの少しだけ、目線を後ろに向ける。

勿論視界は真っ暗のままなので、視線の先に当人がいるかは憶測だ。

 

 

 

 

()()()。この天才少女は一体誰の娘かな?」

 

 

 

 

すると暗闇の奥から、まるで噴き出すような笑い声が響いた。

 

 

「プッハハハハハ!全くトシは意地悪だね!」

 

「そうかな?ちゃんと目に手を当てやすいように、上を向いていたじゃないか」

 

「ククク・・・」

 

 

服の擦れる音と共に、掠れるような笑い声を上げるデイヴ。大方ツボって腹を抑えているのだろう。

 

 

「パパ、そろそろ手を放した方がいいかな?」

 

「それはメリッサ次第じゃないかな?」

 

「じゃあこのままで!」

 

「オイオイ、私の意思は尊重されないのか!」

 

 

そう叫ぶと、後ろから二人の微笑ましい笑い声が聞こえた。

 

 

 

 

 

「ゴホン。メリッサ、そろそろ解放してあげなさい」

 

それから約二分ほど経ち、デイヴの口から許しが出た。

 

「はーい!」

 

メリッサはそれに従い手を放すと、視界に光が戻って来た。。

 

 

「ふう、あのまま一生視界が戻らないのかと思ったよ」

 

「そんなことはないよ。メリッサが飽きるまではずっと続くとは思うけど」

 

 

ちなみにメリッサは何か物事に対して興味を持った場合、飽きるまで最低三日はかかるそうだ。

つまりあのまま止められなければ、三日間はあのまま視界を奪われたまま・・・。

 

 

「怖ッ」

 

「マイトおじさま?」

 

「え?ああいや何も。それにしてもメリッサも来るなんて、それなら事前に教えてくれればよかったのに」

 

 

無理矢理話を逸らすが、デイヴは何の疑問も持つこともなく淡々と答えようとする。

 

 

「本当は一人で来るつもりだっ「聞いてくださいマイトおじさま!パパが『日本にまた旅行する』っていきなり言い出して、しかも私も明日は休みなのにおいていこうとするんです!私に事前に一言も言わずに!!」・・・まあ、こういうことだ」

 

 

が、途中でメリッサに阻まれ撃沈してしまった。

 

 

「なるほど。・・・それで、デイヴはどうして?」

 

「いや、ただだったからさ」

 

「・・・え?」

 

 

暇、という単語を聞いて暫く硬直するオールマイト。

その凍りかけた脳味噌を溶かしたのはメリッサだった。

 

 

「パパはこれまで、幾つもの()()()()()()()()をしてたんだけど、最近になって何故か全部の研究チームから抜けたの」

 

「へ!?それは本当かい?!」

 

「ああ、本当だよ」

 

 

個性の研究は科学者の界隈において、史上最も難しい分野とされている。

その理由は勿論、個性は未だ未確定、未知数な点が数多くあるからだ。

そんな研究機関に属するとなればそれだけで知名度もあがるし、それだけで富と名声が与えられる。

 

しかしデイヴは、しかもⅠ・アイランドにおける最高の科学者という身でありながら、チームから抜けたのだ。

 

 

「一体どうしてそんな・・・?」

 

「僕がこれ以上いても、何か新しいモノが見出せるとは思えなくてね」

 

 

爽やかな笑顔を向けるデイヴに若干違和感を感じる。

しかしその正体を探ろうとする前に、デイヴは「それに」と言葉を付け足す。

 

 

「僕は個性の研究よりも、サポートアイテムとかヒーローアイテムとかの開発をする方が好きだしね」

 

「・・・そうか」

 

 

その言葉には、先程のような違和感がなかった。

つまりこれが本心ということか。

 

(もっと理由はありそうだけど・・・それは今ここで聞くことじゃないか)

 

気にはなるが、今すぐに聞きたいほど興味がある訳でもない。そもそもそこまで複雑な理由が絡んでいることはデイヴには基本的に無いので、恐らく個人的な感情か何かがあって研究チームから抜けたのだろう。

 

 

例えば──自分が解決しようとしていた問題が解決された──とか。

 

 

(いや、そんな単純な理由じゃないか。デイヴに限ってそんなことはないない)

 

首をブンブンと振り、浮かんでいた妄想を振り払う。

 

 

 

「それよりもほら、早く寿司を食べに行かないか?」

 

「私も早くスシを食べてみたい!」

 

 

既に二人の胃は寿司を受け入れる準備を整えていたらしい。

 

 

「そうか。・・・それじゃあ、早速行くか」

 

 

疑問は胸の内に残されたままだが、しかし別に今聞くことではない。

 

取り敢えず今は寿司を食べに行って、真面目な話はその後にしよう。

 

そう思って、足を前に踏み出した。

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オールマイト・・・・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで幽鬼の如く、ふらりふらりと横に揺れながら、正面から細身の男が近づいてくる。

影で未だ顔は見えないものの、その声からは生気というものが感じ取れなかった。

 

しかし、気になるところはそこではない。

 

 

(私の正体を知っている・・・だと?)

 

 

 

まさか、体を治した個性の持ち主か?

いや、AFO(オールフォーワン)の仲間だろうか。

もしくは個性か何かでその正体に気付いた一般人だろうか。

 

いずれにせよ、このまま放置するわけにはいかない。

 

 

「・・・君は一体・・・何者だ?」

 

 

声を掛けると、その男はビクンと体を震わせた。

そしてしばらくその場で身体を硬直させた後に、また一歩一歩とこちらに近づいて来た。

 

 

「まさか・・・私を忘れた・・・のか?」

 

「・・・ん?その声は」

 

 

どこかで聞いたことある声だった。

枯れてマトモに聞き取ることすらままならないが、しかしその声の芯に心当たりがあった。

数年前の記憶の底から、その声に似た者を引き出し始める。

 

そして、三秒という長い時間を経た後に、その声は()と一致した。

 

 

 

「・・・まさか君は!?」

 

 

 

 

男は街灯に照らされ、その姿を露わにした。

 

グレーのスーツに赤と白の水玉のネクタイ、髪は緑で一部に金のメッシュが入っている。

眼鏡は細く銀縁で、その奥の黄色い瞳はオールマイトを射抜いていた。

 

頬は痩せこけ、顔色も悪く、数年前に喧嘩した時とはまるで大違いな彼に、八木は震える唇でその名を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サー・・・・ナイトアイ・・・・!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼はその言葉に疲れたような笑顔で応えると、膝から崩れ落ちたのだった。




メリッサ・シールド
世界の天才が集まる人口移動都市Ⅰ・アイランドのアカデミー二年生であり、オールマイトの正体を知る者の一人でもある。

オールマイトのトゥルーフォームについて
胃袋が完全修復されたおかげで食欲が戻ったおかげで、実は前よりも体が全体的に太くなっている。
しかしオールマイトもデイヴもアハ体験的な意味でまだ気付いていない。

デイヴの研究
オールマイトに全盛期の力を取り戻してもらおうと奮起していたが、オールマイトの傷が治ったおかげで研究の意味を見出せなくなる。
結果研究チームから抜けた。


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13

2週間以上も投稿が遅れてスマナイ。
右手を事故でバッキバキに折ってしまったので全く書くことが出来なかったのだ。
おかげでヴェノムを公開日に見に行けなくて・・・ウワアアアァ!!(発狂)

あと、今回の話のクオリティはマジで低いです。
次回からは本調子に戻ると思うので、どうか温かい目でご覧ください。


サーナイトアイは手放された意識の底で、走馬灯に照らされていた。

 

 

 

これまで起きた数々の事件、そしてそれに対応するオールマイトとその事務作業を裏で行う自分。

 

永遠にも一瞬にも感じるその至福の時間が、いつまでも続けばいいのにと、どれだけ願ったことか。

 

 

 

 

しかし運命というのはあまりに残酷だった。

 

 

 

 

オールマイトの未来を視た時、最初は興味本位だった。

しかし後になって初めて自分の個性を呪った。

もし見なければ、あの凄惨な未来が確定されなかったのかもしれないのに。

 

自分のせいで、自分の憧れオールマイトの未来を汚してしまった。

 

未来なんて視なければ良かった。

何も知らずに、ただオールマイトの背中を支え続けていればよかった。

 

そしたらきっと、今よりももっと、未来は明るくなっていたかもしれなかった。

 

 

 

だが、運命は絶対に覆らない。

 

 

 

 

 

誰よりも自分の個性を憎んでいる。

 

誰よりも自分の運命を憎んでいる。

 

 

 

 

誰よりも、自分自身を憎んでいる。

 

 

 

 

 

拭いきれない罪悪感に苛まれ続けながら、赦しきれない絶望感に押し潰され続けながら、ナイトアイはこの五年間を過ごしてきた。

 

そしてそれはこれからも続くのだと、未来を見るまでもなくそう信じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オールマイト・・・!』

 

 

 

 

 

 

 

それは、遡ること三日前の話だった。

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・アイ!・・・ナ・・・トアイ!・・」

 

 

海面から、自分の名を呼ぶ声が聞こえた。

人生で最も聞いて、最も尊敬している者の声。

それが切っ掛けとなり、それまで沈んでいた意識が浮上していく。

 

 

「・・・・・・」

 

「大丈夫か!ナイトアイ!!」

 

「・・・・・・んっ?」

 

 

意識の遥か底に幽閉されていたサーは、その固く閉ざされた瞼をゆっくりと開く。

そして暫く光に慣れさせた後に、視界に映った人影に思わず、それまで細めていた目を見開いた。

 

「・・・オールマイト?」

 

全体的に気怠い体を持ち上げながら、立ち上がろうとする。

しかしバランスを崩し、一瞬の浮遊感の後に、視界が一転し腰に衝撃が走った。

 

 

「ウグッ!?」

 

「アチャ、無理に立ち上がろうとするから・・・」

 

 

オールマイトがこちらに向けて手を伸ばしてくる。

その手は細く人を引っ張るにはあまりにも心許なかったが、しかし人の親切を無下にするほど空気が読めないわけではない。

それもオールマイトのものとなれば、それこそ切腹物だ。

 

伸ばされた手に、地面に付いたことで汚れた右手を伸ばした。

 

 

 

「・・・すまない」

 

 

 

汚れている右手でオールマイトに触るという背徳感。

オールマイトの手を借りて立ち上がるという罪悪感。

そして、オールマイトの未来を視た自分への嫌悪感。

 

その全てが上に積みあがったかのような重い、しかしたった一言だけの軽い謝罪。

 

 

無論、到底許されることではないだろう。

未来を視たその代償、その責任が、たった一言の謝罪だけで許されるだなんて、寧ろ許される方がおかしいに決まっている。

 

これはただの自己満足。

これで少しでも、自分を赦せるようになりたい。

そんな我儘のつもりだった。

 

 

 

「・・・これぐらい、なんてことないさ」

 

 

 

太陽のような笑みと共に返される、温かい返事。

 

傍から聞けばそこまで深い意味は無いかもしれない。

ナイトアイの心情を全て汲み取った上での発言では無かったのかもしれない。

 

しかしそのたった一言の返事だけで。

 

ナイトアイの心は救われた。

 

 

 

「え?なんで泣いてるの?!」

 

 

指摘されてようやく涙を流していることに気付いた。

懐からハンカチを取り出し涙を拭く。

 

 

「ゴミが入っただけだ。問題は無い」

 

「そうかい・・・?」

 

 

暫く目元を抑えつつ、それまで自分が横になっていたベンチに腰を掛ける。

眼鏡拭きで眼鏡を数回拭いた後に、深呼吸を一度挟んでナイトアイは八木に向き直った。

 

 

「ところで、何故オールマイトが東京に?」

 

「フム、それはだね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「トシ、彼は大丈夫かい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

噂をすればナントヤラ。

デイヴとメリッサがこちらに向かって走って来た。

二人の両手には既に紙袋が二つ握られており、歩くたびにガッサガッサと紙同士が擦れる音が聞こえてくる。

 

 

「悪いねデイヴ、それにメリッサ」

 

「いや、謝る必要なんてないだろう?君の友人が急に倒れたんだから」

 

「それに、お土産も沢山買えましたし!」

 

 

ナイトアイの様子をオールマイトが監視している間、二人はお土産を買いに行っていた。

本当は二人だけで寿司を食べてもらっても良かったのだが、『なら僕たちはお土産でも見てくるよ』と二人はそれを遠慮してくれたのだ。

 

ナイトアイは震える手で眼鏡を掛けると、三十回以上の瞬きを繰り返した後に、まるで呆けたように首を曲げた。

 

 

「・・・デヴィット・・・シールド博士?それに後ろにいるのは・・・」

 

「ん?ああ、ナイトアイは名前だけしか知らないかな?」

 

 

オールマイトはメリッサの横に並ぶと、その肩を持った。

 

 

 

 

「こちら!デイヴの娘のメリッサ・シールドだ!」

 

「はーい!メリッサです!」

 

 

 

 

 

 

「「いえい!」」

 

 

 

 

 

 

ジャジャンと、どこからともなく効果音が鳴り、二人でポーズをとる。

アドリブながらその完成度は極めて高く、デイヴはその様子をパシャパシャとスマホで撮っている。

しかしナイトアイはというと、いつもと何ら変わらぬ真顔で二人を見ていた。

 

 

「・・・アレ?アドリブの割には結構うまくいったと思ったんだけど・・・」

 

「ナイトアイなら喜ぶと思ったんだが・・・アレ?ナイトアイ?」

 

 

目の前で手を振ってみるが、しかし反応は無い。

 

眼鏡の奥の瞳を覗いてみると、その瞳はまるで悟りを開いたかのように白い眼をしていた。

 

 

「これは・・・いわゆる()()()()ってやつじゃ・・・」

 

 

デイヴのその言葉が切っ掛けとなったのか、ナイトアイの垂直に正されていた背筋が、前のめりに傾き始める。

そして限界まで体が傾いたところで、ナイトアイは白い灰になった。

 

 

 

 

 

「ナイトアイィィーーーー!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

目と目の間を解しながら、深呼吸を繰り返す。

そんな死にかけみたいな(実際そうなのだが)ナイトアイに一応声を掛けておく。

 

 

「大丈夫かい?」

 

「ああ、問題ない。いや問題はあるにはあるんだが・・・」

 

「・・・ああ、そっちね」

 

 

 

 

「パパ、箸ってどうやって使うの?」

 

「じゃあスシが来るまでに、ちょっと勉強をしようか」

 

 

現在四人がいるのは、元々予約していた高級寿司屋のカウンター席で、入り口の近くから順にナイトアイ、八木、デイヴ、メリッサの順に並んでいる。

 

ナイトアイはちらりと二人に目を向けて、そして鈍い悲鳴を上げた。

 

 

「・・・やはり刺激が強すぎる・・・!」

 

 

ナイトアイにとってデイヴは、先輩・憧れ・尊敬の対象だ。

それも、今のオールマイトへの信仰心・情熱に匹敵するほどの、である。

 

さて、そんなデイヴとその娘のメリッサと、そしてオールマイトが揃った時、ナイトアイに何が起こるのか。

 

 

「後光が眩しすぎる・・・!なんという破壊力だ・・・!!」

 

 

あまりに過剰すぎるエネルギーの放出、それによる眼球への損傷。

そして損傷した眼球を通して脳に送られてくる、キャパオーバーな画像データ。

 

それを脳内で処理できるはずもなく、かといって視界に入れないわけもなく。

今まさにナイトアイは、天国と地獄?の両方を味わっているのだ。

 

 

 

「トシが面白い子と言っていたから、どれほどのモノかと思っていたが。これは想像以上だね」

 

「でしょでしょ?」

 

 

今の発言でまた死んだ音が聞こえたが、まあ問題は無いだろうと無視をする。

 

 

「僕の後継者・・・いや、後輩と言った方がいいのかな?」

 

「元だけどね」

 

「全く未来を視られたぐらいで喧嘩するなんて、ねえ?」

 

「でも、パパのプリンを私が勝手に食べた時、とっても怒ってたわよ?」

 

「それとこれとは違うぞ!それにあのプリンは、私がネットで120ドルも払って買ったプリンなんだ!」

 

「・・・ちなみに、なんて名前のプリンなの?」

 

 

 

「「グ〇コのプッチンプリン」」

 

 

 

「デイヴ、それ多分騙されてるよ」

 

 

 

暫くして、頼んでいた四人分の寿司下駄が目の前に並んだ。

十二貫の色とりどりの寿司に加え、その横には綺麗な螺旋を描くガリと、その下にはすりおろしたてのワサビが乗せられている。

また、デイヴと八木には、水とは違う透明度のある液体が注がれた小さなコップが横に置かれていた。

 

 

「これは・・・日本酒かな?」

 

「大当たり。これはこの寿司屋でしか飲めないお酒だよ」

 

 

この店でしか飲めないわけではないが、市場やネットじゃ相当出回らない大変貴重なものらしい。

噂じゃこの酒を作っている製造元と、この寿司屋のオーナーが兄弟だとか親子だとかなんとか。

最も、情報源はグラントリノなので、あまり信用はできないが。

 

 

「パパ、この白いのは何の魚?」

 

「それはイカだね」

 

「いや、赤いところが無いだけで本当はタコっていう可能性も?」

 

「・・・それはタイですよ」

 

「え?・・・まあ知ってたけどね!」

 

 

蘇生したナイトアイに指摘され、自分の後頭部を撫でながら誤魔化す八木。

しかしデイヴはともかくメリッサは「マイトおじさまはやっぱり凄いわ!」と鵜呑みにしている。

 

 

「・・・それで、オールマイトはどうやってそんな姿になったんだ?」

 

 

震える手で寿司を食べるナイトアイを横目に、コップに注がれた酒を口に含む。

久方ぶりの酒ではあるが、思ったより飲みやすく、それでいて程よい旨味が口の中を駆けた。

 

 

「やっぱりそれだよね。別に隠していることじゃないし、話してもいいんだけど・・・」

 

 

コップを置くと、モジモジと人差し指同士をツンツンと合わせる。

しかしナイトアイは、その動作だけで、八木の言いたいことをすぐに把握した。

 

 

「私が何故あんな醜態を晒してしまったか、か」

 

「醜態って。ただ倒れちゃっただけだよ」

 

「それを私は醜態だと言うんだ。たかだか三日間、飲まず食わずであなたの全盛期の肉体と今の肉体をずっっと比較して、その後に静岡に行こうと自宅から駅まで歩いて向かおうとしたぐらいで倒れてしまうなんて・・・」

 

「いや、それは誰でも気絶しちゃうでしょそれは」

 

 

軽くツッコミをしたところで、あれ?と首を傾げた。

 

 

「どうやって私の体の変化に気付いたんだ?」

 

「それは勿論、声の張りと顔に浮かんだ皺の角度と数、前髪のVサインの角度や笑みを浮かべた時の口角の位置、皮膚の色から筋肉の膨張具合に・・・」

 

 

決壊したダムのように口から溢れる、オールマイトへの情熱と知識。

その波に翻弄されつつ、しかし真正面から受け止める。

 

(吐血以外で気付くなんて、やっぱりナイトアイは凄いなあ)

 

そして、五分以上の演奏時間を持って、ナイトアイの指揮棒は下ろされた。

 

 

「・・・長くなったが、以上の特徴と情報で、あなたの体の変化に気付いた、というわけだ」

 

「そうなんだ・・・変わらないな君は」

 

「そう・・・かな?」

 

「そうとも」

 

 

大きく頷くが、しかしナイトアイはあまり実感がないのか、頭に?を浮かべた。

 

 

「さて、今度は私の番だな。さてどこから話したらいいモノか・・・」

 

 

説明することが長すぎて若干戸惑いながらも、これまで起きたことの全てを、ナイトアイに説明する。

途中、ナイトアイが詳しく聞いてくることもあったが、それにも答えられる範囲で答えながら、今に至るまでの経緯を全て話した。

 

 

「つまり、その黒い変な液体的なモノが干渉した結果、あなたの体の各器官が健康以上に修復されたと」

 

「本当にソレが原因なのかは分からないけどね」

 

 

背凭れに全体重を掛けながら、眉間の皺を解すナイトアイ。

暫く時間を経過させた後に、その腰を真っ直ぐになおした。

 

 

「すまないが、私にも心当たりはないな」

 

「そうか・・・いや、そんなに落ち込まないでくれ。どうせ核心には迫れていないんだ」

 

 

しかし、ここまで色々な人脈を使って調べてきたが、なぜ手掛かりが見つからないのだろうか。

普通に考えて、他人の体を治癒する個性を持つ者が、探偵やヒーローの網を掻い潜りながら、ここまでうまく雲隠れをすることが出来るだろうか。

 

(もしかしたら個性ではなく、もっと別の何かが・・・いや、その何かが分からない時点で調べようがないしな・・・)

 

コップの底に残った酒を煽りながら、寿司を食べる。

その相性・美味しさに思わず顔を綻ばせてしまう。

 

 

「・・・本当に、これは夢じゃないんだな・・・」

 

「ん?なにか言ったかい?」

 

 

幸せそうなその横顔を見ていたナイトアイは、目線を逸らすと同じように水を飲んだ。

 

 

「いや、何も言っていない」

 

「本当か?」

 

「本当だ」

 

「ム~??・・・まあ、いいか」

 

 

ニカッと心地良い笑顔を浮かべる八木。

それに釣られて思わず笑みを零すナイトアイ。

 

(そういえば、二人でこうやって笑いあったことは無かったような)

 

二人で事務所に居た頃の記憶を掘り返して───。

 

 

 

 

 

 

 

「二人とも~~!!な~につまんない顔してるのさ~!!」

 

 

 

 

 

 

 

「もうパパったら!だからお酒は三杯で止めておいてって言ったのに!」

 

 

顔を真っ赤に染めたデイヴが、体を振り子のように揺らしながら八木の肩に無理矢理腕を組んだ。

しかも、全体重をこちらに乗せるかのような、相当厄介な肩の組み方だ。

 

 

「も~僕を置いて二人でしゃべらないでよ~!これでも寂しいんだぞ~!」

 

 

デイヴは見ての通り酒に弱い。

なのでいつもは嗜む程度に留めていたはずなのだが。

 

 

「本当に厄介な感じになっちゃったよ!ナ、ナイトアイも助けてよ!」

 

「・・・・・・」

 

「ナイトアイ?ナイトアイ!?」

 

 

しかしすでに息を引き取ってしまったらしい。

 

 

「今日は寿司を食べに来ただけだっていうのに・・・」

 

「本当よ。パパもナイトアイさんも酔い潰れちゃって」

 

「いや、ナイトアイは酔い潰れたわけじゃないと思うけどね」

 

 

まあ死んでいるので、潰れているといっても過言じゃないが。

 

 

「・・・どうしようかな?」

 

「私はもうお腹一杯よ?パパは分からないけど・・・」

 

「私ももう満足かな。七貫しか食べてないけど。ナイトアイは・・・」

 

「・・・私も、十分回復した・・・」

 

 

よろめきながら立ち上がるナイトアイ。

流石に少し慣れたのか、蘇生までの時間は短くなっているようだ。

 

 

「聞いているのは回復したかじゃないんだけど・・・一応お土産用のやつ買っとくよ」

 

「すまない・・・」

 

「いいっていいって。それにどうせ、メリッサとデイヴの分も買うわけだし。払うお金が少し増えるだけだよ。HAHA・・・」

 

 

たった何億円の支払いが、何億一万円になるだけだ。

むしろ買い得だ。どういう理論かは自分でもよく分からないが。

 

 

 

「それじゃあ、帰ろうか」

 

 

 

 

「ああ」「ハイ!」

 

 

デイヴを背に担ぎ、八木は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

勘定を済ませた後にタクシーを拾うと、中にデイヴを担ぎこんだ。

そしてメリッサも中に入ったことを確認すると、運転手に一万円と、デイヴから事前に聞いていたホテルの名前を告げておいた。

 

 

「あ、一応だけど、デイヴが起きた時のためにコレ、渡しておくよ」

 

 

自分用に用意していたア〇ピタンを、メリッサに渡す。

 

 

「ありがとう!マイトおじさま!」

 

「いやいや、どうってことないさ。明日はデイヴと一緒に、東京を適当に観光するんだっけ?」

 

「うん。特に目的地とかは決めてないわ」

 

「気を付けなよ?ヴィランに襲われる危険も・・・」

 

「その時はマイトおじさまを呼ぶわ!」

 

「いやいや、僕よりもこのナイトアイを呼んだ方が、迅速に解決してくれるよ」

 

 

ナイトアイに目線を向ければ、少し灰になりかけていた。

 

 

「確かに、いきなりマイトおじさまを呼んでも、すぐに来てくれるとは限らない・・・それにマイトおじさまは今は、シズオカで活動してるっていうし・・・」

 

 

するとくるりと、メリッサの目線が八木からナイトアイに向かった。

 

 

 

 

 

「ならナイトアイさんを呼んだ方がいいですね!ナイトアイさん、連絡先を教えてくれませんか?」

 

「・・・ェッ?」

 

 

 

 

普段のナイトアイからは想像もできないような、間抜けな声。

思わず笑いそうになるが、それを必死に堪える。

 

 

「だって連絡が取れなかったら不便でしょ?あ、そうだ!パパの連絡先も教えた方がいいよね!」

 

「・・・・・・そう、ですね」

 

 

ナイトアイは全てを受け入れたかのように、思考を停止させる。

そしてスマホを取り出しレインを開くと、QRコードをメリッサに向けた。

 

 

「・・・うん!これでヨシ!後でパパの連絡先も教えてあげる!」

 

「あ、ああ・・・」

 

 

果たしてこれが現実なのか。

それすらも疑いそうになっているナイトアイを他所に、八木は名残惜し気に運転手に車を進めるように声を掛けた。

 

 

「それじゃあね、メリッサ。デイヴのこと頼んだよ」

 

「分かりました!」

 

 

タクシーは進み出すと、メリッサは窓から身を乗り出し二人に手を振った。

 

 

「マイトおじさま!今日はありがとう!」

 

「じゃあねメリッサ!でも危険だから窓から出すのは手だけにしなよ!」

 

「ナイトアイさんも!バイバーイ!」

 

「・・・あ、ああ。さようなら」

 

 

顔には出ない名残惜しさを纏わせながら、ナイトアイは手を振る。

ソレに満足したのか、それとも八木に言われて反省したのか、メリッサは身体をタクシーの中に引っ込めた。

 

 

 

 

 

 

タクシーが角を曲がって姿を消したと同時に、二人は振っていた手を下ろした。

 

 

「それじゃあ、私も静岡に帰るよ」

 

「・・・ま、待ってくれオールマイト!」

 

 

裏路地に身体を潜めようとしていた八木は、ナイトアイの叫びに振り返った。

周りの目線から隠れるように体を縮めながら、ナイトアイに小声で近寄る。

 

「どうしたんだ?」

 

一瞬、ナイトアイの表情に戸惑いの色が見えた。

その色は次第に波紋のように広がり、顔を染め上げていく。

 

 

 

(今の私にはまだ・・・君の未来を視る資格はない)

 

自分の個性ではなく、自分のこの目で見るまでは。

それまではまだ、オールマイトの未来を確定させるわけにはいかない。

 

 

あくまで駄目押し。

あくまで確実な未来が見える時まで。

 

 

この呪われた力を行使してはいけない。

 

 

 

「・・・何でもない」

 

 

決意とも脅えとも見えるその顔は崩れ、そしてナイトアイは柔らかな笑みを浮かべる。

その様子に若干の違和感を覚える。

 

 

「大丈夫?」

 

「ああ、何でもない・・・大丈夫だ」

 

「?・・・大丈夫なら、いいけど・・・」

 

 

疑問に思うが、深入りしても何か得られるとは思えなかった。

胸にしこりのようなものを抱えながら、八木はその場を去ろうとする。

 

 

「じゃあ、またね」

 

「ああ。・・・何か分かったことがあったら連絡をする」

 

「それは助かるけど・・・でも君、今の私の電話番号知らなくない?」

 

「・・・確かに、そういえばそうだったな」

 

「・・・じゃあデイヴに聞いてみれば?」

 

「エ"ッ」

 

「冗談冗談。これ、電話番号ね」

 

 

電話番号が書かれたメモを投げると、ナイトアイはそれを空中でキャッチする。

それをしかと確認した後に、八木は手を振り路地裏へと身を隠した。

 

そしてほんの数コンマ後に、その路地からまるでロケットが打ち上げられたかのような音が響き、黄色い残像を残してオールマイトは去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(いつか、君に安らかな日常が戻ってきた時に)

 

その未来に辿り着くために、ナイトアイはまた闇雲に走り出した。

 

 

 




ちなみに投稿者は高級寿司屋になんて行ったことがない模様。


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14


右手が治りつつある今日この頃。

感想を見ていてそろそろヴェノムを参戦させなければと思い始め、取り敢えず投稿。
ちなみに見切り発車故に、今後の計画は無い模様。


八月一日。

 

学生はいわゆる夏休みという期間に入っており、小中高問わず充実した日々を送っていることだろう。

例えば、海に泳ぎに行く者や、友達と買い物に行く者、家でひっそりゲームを楽しむ者もいれば、自由研究で苦労している者もいる。

中には就職先に面接に行く者もいるし、試験やら何やらで悪戦苦闘している者もいる。

 

 

 

 

「さて、そんな青春真っ盛りの時期だが!緑谷少年にクエスチョンッ!!」

 

「ハイッ!なんですか!!」

 

 

 

 

 

 

「君、夏休みは何か友達と予定とかないの?」

 

 

「ないですッッ!!」

 

 

「潔くて結構ッ!!ではいつも通りトレーニングだ!!」

 

 

 

 

この二人はいつもとそこまで変わらなかった。

しかし、これもまた青春なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

と、同じくボッチのオールマイトは内心泣いていた。

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

海をひたすらに泳ぐ緑谷と、その様子を見ながら勉強に勤しむオールマイト。

時折海を泳ぎに来た人や、観光をしに来た人にサインやら記念撮影やらをしているうちに、緑谷の体力は尽き、と同時に太陽は真上に昇った。

 

 

「・・・もう昼過ぎか。・・・そろそろ行ってみるか」

 

 

腰を下ろしていた廃車の上から飛び降りると、プカプカ漂流する緑谷に声を掛けた。

 

 

「緑谷少年!そろそろ休憩の時間にしようか!」

 

「はい・・・」

 

 

海から上がった緑谷はその場で倒れ込み、肩で息をする。

その様子を労いながらも、オールマイトはわざとらしく咳をした。

 

 

「悪いが、これから少し用事があってね。しばらく席を外すが、許してほしい」

 

「どこに行くんですか?」

 

「雄英でちょっと、ね」

 

「雄英高校で?何をするんですか?」

 

「そりゃあ・・・まあ・・・テストだけど・・・」

 

「・・・あ、なるほど」

 

 

段々と声が薄れるオールマイトを見て、何となくの事情を把握すると、それ以上詮索しないようにと理解の相槌を打つ。

 

 

「ち、違うぞ!断じて勉強が嫌いという訳じゃないぞ!」

 

「いや何も言ってませんよ!?」

 

「いや!君の今の顔はそういう顔だったね!!」

 

「そんなことないですって!」

 

「・・・じゃあ君、現時点で夏休みの宿題どれくらい残ってるの?」

 

「全部終わらせて今は予習中です」

 

「この行動派オタクめ!割と本気で憎いぜチクショー!」

 

 

若さとはこうも偉大なモノらしい。

・・・若さだけではない気もするが、それは気のせいだろう。

 

 

「まあそういうわけで、引き続き頼んだよ!」

 

「分かりました!」

 

 

緑谷の深い礼を見届けると、オールマイトはウムと頷きその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

雄英高校の四階には、計四つの待合室がある。

 

根津曰く、『学校の見た目にこだわってたら部屋が四つ余ったんだよね。だから全部待合室にしてみたんだ』とのことだ。

 

 

室内の広さは、教室の二分の一程度。

中に置いてあるのは椅子と机のみ。

それ以外に目立ったものは無く、強いて言うなら天井に設けられた換気扇のみ。

誰かを待たせるには少々物足りない空間であり、待合室というよりも尋問室の方が正しいのではないかと思うほどに閉鎖的。

 

そしてそもそもの話、人を待たせるという行為自体が基本的に無い雄英高校において、待合室という部屋は必要性が皆無といっても等しい。

 

 

 

以上の事から、この待合室と呼ばれている拷問室は、これまでもこれからも使われることはないと思われていた。

 

 

 

しかし意外にも、こういう場面では役に立つらしい。 

 

 

 

 

『八木君。準備はいいかい?』

 

 

 

目の前のスピーカーから声が響く。

 

待合室の中にいるのはトゥルーフォームの八木。

机の上には何枚にも重なった問題用紙とマークシート、そして新品のペンと消しゴムが並んでいる。

 

 

「正直全然出来てないです。そもそも今日は試しに来てみただけなので・・・」

 

 

祈る様に両手を握る。

スタートまでの時間が待ち遠しくもあり、同時に緊張してしまう。

 

 

『試しにっていう割には目の下に結構濃い目のクマが出来てるけど』

 

「え?そうですか?」

 

『うん。昔の君の痩せた顔だと分からなかったかもしれないけど、今の君ならちょっと顔見るだけである程度の状態を把握できるよ』

 

「・・・ム?それは一体どういうことですか?」

 

『え?気付いてないの?』

 

「何がですか?」

 

 

スピーカーから暫く無音が続く。

 

 

『・・・』

 

「・・・?」

 

 

首を傾げ、何か言葉を発そうと口を動かしたとき、その瞬間は不意に訪れた。

 

 

 

 

『それじゃあ早速やってみようか!はいスタート!』

 

 

 

「え!?ちょっと気になるんですけど!?」

 

『テストは待ってちゃくれないよ!気になることがあるならまずはテストを解いてからさ!』

 

「も、もう!分かりましたよ!!」

 

 

もはややけくそ気味にペンを握ると、テスト用紙を裏返し問題を手早く解き始める。

 

 

 

が、それは徐々に失速していき、まさにカタツムリの歩みが如く、その手は歩みを止めた。

 

 

『アレレ?まだ五十問目だよ?』

 

「いや、問題の数多すぎるでしょ!」

 

 

テスト用紙にはこれでもかと問題が敷き詰められており、最後尾の頭の数字を見れば、『問500』と書かれていた。

 

マークシート形式の問題とは言え、流石に多すぎではないのか。

 

 

『一問一点の計500問。でもこれは君が雄英の教師になるためさ。ほらほら、プルスウルトラ!プルスウルトラ!』

 

「そんな頑張れみたいに校訓連呼しないでくださいよ・・・」

 

 

途中途中煽られながら、文句を言いながらでダラダラと問題を解き進めていくこと、約一時間と三十分後。

 

ようやく500問目に辿り着き、その中から最も正しいと思える選択肢を塗り潰した。

 

 

『お疲れ様!さて、採点はこちらでやっておくよ」

 

マークシートをどこからともなく現れたマジックハンドに手渡すと、思いっきり背もたれに全体重をかける。

 

「いや、本当に多すぎ・・・」

 

 

くらくらと眩暈を起こす頭を両手で抑えながら、おやつ代わりに持って来ていたアーモンドチョコの菓子を食べた。

頭に糖分が流れ込んでいき、次第に眩暈が収まっていく。

 

しばらく背筋をだらりと崩し、そして段々と落ち着いてきたところで、いよいよ先程の疑問を持ち上げた。

 

 

「それで、さっきのアレはどういう?」

 

『本当に気づいてないんだね。君の見た目が結構変わっててさ。まるで八年前の君を見てるみたいで』

 

「八年前?」

 

 

八年前というと、ナイトアイと共にバリバリにヒーロー活動をしていた頃だろうか。

 

 

『体はまだ太さが足りていないけど・・・顔だけ見たらほんと、そんなに差はないよ?』

 

「そうですかね・・・?」

 

 

あまり実感はないのだが、しかし根津が冗談を言ってるとも思えず、うーんと口の中を鳴らす。

 

 

『ま、家に帰ってちゃんと確認してみたらいいよ』

 

「・・・分かりました。帰ったら確認してみますね」

 

『あと、帰りにリカバリーガールのところに寄っといてね』

 

「分かりました」

 

 

 

 

『・・・あ、それと今回のテスト不合格だから。また次回ね』

 

 

 

 

 

「分かりました・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへあッ!?」

 

 

 

 

あまりの衝撃に、思わず腰を抜かして椅子から崩れ落ちてしまう。

 

 

『しかも合計123点って。ギリギリでもなければ掠りもしてないし』

 

「123点ン!?!?」

 

 

もはや開いた口が閉じないレベルの衝撃を受け、椅子から崩れ落ちた体勢から立ち上がる気力も失せてしまう。

 

 

『正直助言も何もってぐらいだけど・・・まあ、その、もうちょっと頑張りなよ?』

 

「・・・はい・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?もう一度言ってくれるかい?」

 

「記憶力が良くなる薬ってないですか?」

 

「あったら飲むのかい?」

 

「飲みませんね」

 

「じゃあなんで私に聞いたのよ」

 

 

ちなみにリカバリーガールは八木の心のケアはしてくれないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 

「オ、オールマイト・・・」

 

「・・・ああ、緑谷少年。私はもうダメかもしれない・・・」

 

 

緑谷が運ぼうとしていた冷蔵庫の上に座ったオールマイトは、クシクシと泣きながら夕陽を見ていた。

 

 

「重すぎ・・・るッ!」

 

「うう・・・あと残り八か月で教師になれるのかな、私・・・」

 

「話は後で聞きますから・・・早くッ上から降りてくださ・・・いッ!!

 

 

冷蔵庫に紐を括り、全筋力を用いて冷蔵庫を運ぼうとしていた緑谷だったが、オールマイトが上に乗ったことにより状況は一変。

それまで少しずつではあったが運べていた冷蔵庫は、まるで地面に根を張る大樹の如き不動さを持ってしまった。

それから何度も引っ張ろうと四苦八苦するが、しかし未だ冷蔵庫に動く気配はない。

 

 

「ただでさえこの冷蔵庫だけでも100㎏ぐらいありそうなのに・・・274㎏のオールマイトが上から乗ったらもう・・・!!」

 

「・・・いや、実は最近太ってね。今は293㎏あるんだ」

 

「なおさら運べないですよ!?!?」

 

 

ピクリとも動かぬ冷蔵庫にいよいよ体の方が悲鳴を上げ、ついに緑谷は力尽きた。

地面に横たわる緑谷を見て、それまで冷蔵庫の上で体育座りをしていたオールマイトはそこから飛び降りた。

 

 

「・・・緑谷少年。大丈夫かい?」

 

「ま、まあ何とか・・・」

 

 

紐を解き、緑谷を解放すると冷蔵庫を片手で持ち上げる。

そしてそれをトラックの方に運ぶと、荷台に積み上げた。

 

 

「クヨクヨしてても仕方ない、か。また一から勉強しなおさないとね」

 

「オールマイトでも悩みとかあるんですね・・・」

 

「人生悩みばかりだよ。・・・今の私が言うとちょっと格好が悪いけどね」

 

 

HAHAと笑うが、しかし真面目にこれからどうしようかと考える。

 

正直、今回は絶対の自信を持ってテストに臨んだ。

自分の渾身、全身全霊を叩き込んだつもりだったのだが、その結果はどうだろうか。

 

(・・・本当に教師になれるのかな?)

 

などと自分自身に質問を投げたくなるほどだ。

 

 

「僕に、僕になにか出来ることはありませんか?」

 

「緑谷少年・・・しかし駄目だ。これは私の戦いだ」

 

「オールマイト・・・」

 

 

戦っているのは自分の記憶力ということさえ除けば、めちゃくちゃにいい場面なのだが。

 

寂し気な背中は夕日と共に影に隠れていく。

 

 

「もうそろそろ時間だね。今日も一日お疲れ様!」

 

「あ、ハイ!お疲れさまでした!」

 

 

 

 

 

 

緑谷の背中を見送りながら、聞こえない様に重い溜息を吐いた。

 

(前まではタイヤ一つ運ぶのにすら苦労していたというのに。緑谷少年はこの短期間で既に、普通の学生とは比ではないレベルの肉体を作り上げている。・・・それに対して私は・・・)

 

身体を作ることと知識を頭に入れること。

道は違えど、どちらも相当の努力をしなければ身に付かないことだ。

緑谷はそれを二か月という短期間のうちに、しかも勉強も両立させながら着々と高めている。

デイヴのトレーニングプランのおかげかもしれないが、しかし元を辿ればそれは当人の決意と情熱、そして努力があってこそ。

 

だが、それに比べてオールマイトはどうだろうか。

 

 

「たかが教師と舐めていた・・・いや、舐めていたつもりは無くても心のどこかで慢心していた」

 

 

いつだってヒーローは命懸け。

いつだって全身全霊、本気で挑まなくてはならない。

たとえそれがゴミ拾いだろうとパトロールだろうとペーパーテストだろうと。

 

 

 

 

 

「それも出来なきゃ、ヒーローなんて名乗れやしない」

 

 

 

 

 

改めて決意を固めると、ページの端が既にボロボロになっている本を片手に、オールマイトは空へと跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オイ、起きろヨオールマイト』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・んう?」

 

 

意識が覚醒し、目を開くと、そこは高層ビルの屋上。

細長いアンテナの上にオールマイトは立っており、町の輝きが瞳を焼いた。

 

 

「ここは・・・どこだ?」

 

 

目を細めながら、今の状況を整理しようとする。

記憶通りであれば、あの後ヴィラン事件を何個か解決した後にホテルに帰って、それから深夜の二時過ぎまで勉強をしていたはずだ。

 

しかし、眼前に広がる光景はもはや別世界。

 

 

 

 

故にこう考える。

 

 

「夢・・・?」

 

 

恐らくは勉強中に寝てしまったのだろう。

そしてそのまま夢の世界へと誘われたと。

 

 

「夢だろうな。夢に違いない」

 

 

思ったことを呟いただけの、ほんの僅かな独り言。

返事は期待してなどいなかったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『夢じゃないゼ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで泥の中から呟くような、濁りのある返事がどこからともなく返ってくる。

 

 

『ヨウ、オールマイト。"久しぶり"だナァ?』

 

 

夜空を埋めるように端から現れる黒い影。

月明かりによって顔こそ見えないが、その影には確かに見覚えがあった。

 

 

「君は・・・あの夢の時の・・・!!」

 

 

声が出ないとはこのことだろうか。

様々な感情が色濃く渦巻き、口から同時にあらゆる言葉を打ち出そうとし、縺れて舌が上手く動かない。

 

(落ち着け、冷静になるんだ。ゆっくり深呼吸をするんだ・・・)

 

大きく深呼吸を繰り返し、脳の中身を整理する。

 

(とりあえずは一番気になることから先に聞くべきだ)

 

 

 

 

 

 

「君は・・・一体何者なんだ?」

 

 

 

 

 

 

安直だが、八木が一番に求めている答えはやはりこれだった。

 

 

暫くその黒い影は、首?の部分をクネクネと曲げながら、まるで何かを考えているかのような素振りを見せた。

 

 

『何者・・・そういや、俺はまだ自分の名前も考えちゃいなかったな』

 

 

縦に揺れ。横に揺れ。

その動作を暫く繰り返し、そしてビクンと動きを止めた。

 

 

 

 

GUU(グウ)、名前ねェ。俺に似合う素晴らシィ名前・・・』

 

 

 

 

と、その言葉がまるできっかけになったのかのように、月明かりは角度を変えて、黒い影に光を反射させ、隠れていた顔が浮かび上がった。

 

 

 

 

目元に浮かぶ白い模様。

口元に並ぶ白い歯と、それを濡らす真っ赤な舌。

 

 

 

 

 

 

『なら、こんな名前でドウだ?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Venom(ヴェノム)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

I am Venom(俺はヴェノムだ)

 

 

 

 

 

 

まるでこの世に生まれたことを祝うように

 

 

 

 

 

ヴェノム(化け物)は笑った。




そういえばチョコレートには、サバとかイワシみたいに記憶力を高める効果があるらしいですね。
あと脳の中にあるフェネチルアミンとかいう物質もチョコレートは持っていると。



つまりサバ=チョコレート=脳だった・・・?


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15

長らくお待たせしました。
色々(ウマ娘、APEX、ホロウナイト、プリコネ、エルデンリング、別作品、その他仕事絡み等々)により四か月近く待たせました。


目を覚ますと、眩しい光がカーテンの隙間から見えていた。

清々しい朝を迎えられ心地いい気分になる。

 

元々早起きするタイプでは無かった。

というよりも、若い頃はヒーロー活動を最優先にしていたために、睡眠を自ら取ろうとすること自体が少なかったからだ。

その結果ナイトアイに諭されたり、ヴィランとの戦闘中にうたた寝してしまったりしたわけだが。

 

 

「この年齢になって、早寝早起きの大切さに気付くなんてね。もっと若い頃に学んでおくべきだったよ」

 

 

まるで別の誰かにも諭すように。

大きい独り言を八木はぼやいた。

 

 

 

さて、現実逃避もそれまでにしようか。

それまで見ようとしていなかった部屋の中の()()に、目を強制的に向けた。

 

 

 

 

 

「・・・ヴェノム。私が寝ている間に、一体どれだけのチョコを食べたんだ?」

 

 

 

 

テーブルに積まれた銀紙の山。

床に落ちたチョコの破片。

そして今もなおベッドの上で繰り広げられる、板チョコの殺戮ショー。

 

 

『あるだけ全部ダ。現在進行形でナ』

 

「全部って・・・まさか冷蔵庫のヤツも食べたのか?」

 

『YES。オマエが食ってもイイって言ったからヨ』

 

「あくまで限度ってものがあるんじゃないのかな・・・」

 

『オマエが言ったんダロ?()()()()()()()()()()()()()だっテヨ』

 

 

それを言われると、どうにも反論できなくなる。

というか、()()()()()約束を持ってくるのは流石に反則ではないのか。

とはいえ、言ったものは仕方ない。

 

 

「・・・あとで歯を磨きなよ?」

 

 

それだけ言うと、ため息交じりに床の掃除を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェノム。又の名をシンビオート。

 

彼が一体いつから体の中に潜んでいるのか。

彼がどうして体の中にいるのか。

そして───彼は一体何の目的でオールマイトの体に住み続けているのか。

 

曰く知らない。

曰く分からない。

曰く今は教えない。

 

分からないことだらけだが、それでもこの一ヵ月間同じ屋根の下───というより同じ体で過ごして、たった一つだけ分かったことがある。

 

 

 

 

 

それは、ヴェノムは思ったよりも良い奴だということだ

 

 

 

 

 

 

◇■◇■◇

 

 

 

 

 

 

 

いつもの海浜公園に集まったオールマイトと緑谷。

どちらも似たような柄のジャージを着ている。

 

 

「おはようございます、オールマイト!」

 

「おはよう緑谷少年!」

 

『相変わラズ暑苦しイナこいツハ』

 

「・・・・・・」

 

「?どうかしたんですか?」

 

「ああ、いや?ただぼーっとしていただけだ。気にすることはない」

 

 

ヴェノムの言葉は脳内に直接話しているかのように、周りの者に聞こえることはない。

しかし逆にオールマイトの心の声をヴェノムは聞くことが出来ないため、傍から見るとイマジナリーフレンドと会話する可哀そうな人にしか見えなくなる。

故にヴェノムの言葉には反応しない方がいいのだが、如何せんその感覚に慣れることが出来ない。

コメンテーターとしての癖なのだろうか。

 

 

「そうですか・・・?」

 

『俺ノ言葉はこのガキには伝わらネエって何度言えば分かる』

 

「そりゃ慣れないからさ・・・」

 

「??」

 

 

(ヴェノムのことを緑谷少年に話すわけにもいかないしなあ・・・)

 

話してもヴェノムのことを言いふらすようなことはしないとは思うが。

しかし念には念を入れるべきだ。

 

もしヴェノムのことが世間にバレたらどうなるか。

 

(『悲報!NO.1ヒーローはヴィランだった!!』みたいなニュースが流れるのかも・・・)

 

思わず身が震えてしまう。

まさしく考えただけでも末恐ろしい光景だ。

 

(それだけは絶対避けたい・・・おっと)

 

目の前で?を浮かべている緑谷をすっぽかしていることを思い出し、わざとらしい咳を交えつつ話を戻す。

 

 

「さて、今日のトレーニングだが・・・そろそろ夏休みも終わりだしね。今日明日ぐらいで海は止めにしようか!」

 

「分かりました。・・・時々本当に死にかけるので海はこれで最後にしたいですね」

 

「その度に私が助けたじゃないか!」

 

「だ、だからなんというか・・・オールマイトのお手を煩わせているような気がして・・・」

 

「いやいや!弟子の面倒を見るのも師匠の務めだよ!」

 

「オールマイトが師匠・・・」

 

 

顔を茹でだこのように赤らめる緑谷。

もはや見慣れた光景なのだが。いい加減緑谷も慣れたらどうなのだろうか。

 

(それに来年には師匠から先生に代わるんだけど)

 

このまま行くと入学時に幸福度の限界突破で死ぬ気がするのだが。

 

 

「話を戻すとして。それより緑谷少年。最近調子はどうだい?」

 

「調子、ですか?」

 

「ああ。夏休み明けはすぐテストなんだろう?」

 

「・・・多分、大丈夫です」

 

 

すると何故か、ソッポを向いて頬を掻き出した。

どことなくいつもの緑谷とは異なる感じがするのだが、それよりも訳を聞くのが優先だろう。

 

 

「多分?」

 

「もちろん復習はしてますし、模擬用のテストプリントでは96点は取れたんですけど・・・」

 

「え?かなりの高得点じゃないか」

 

『どこゾのヒーローとは違うナ』

 

 

ヴェノムの言葉が心を抉ってくるが、なんとか致命傷で持ちこたえる。

(というか反応なんてしたらどう説明すればいいのやら・・・)

さっき反応してた時点で随分アウトな気もするが。

 

 

「・・・やっぱり気にしなくていいです。・・・それよりも!特訓を始めてもいいですか!」

 

「え?・・・うん!始めちゃってもいいよ!」

 

 

一瞬戸惑いと疑惑の念が浮かびはしたものの、本人がやりたいと言う以上は本人の意思を優先させたほうがいいだろう。

 

 

「・・・あ!その前に緑谷少年に伝えておきたいことが・・・」

 

「へ?なんですか?」

 

「今日もその・・・一時間後に・・・ね?雄英にね?」

 

「・・・あ、分かりました!」

 

 

なんとなく悟った顔になる緑谷と、なんとなく気まずくなるオールマイト。

しかし、本日限りは単にテストを受けに行くわけでは無い。

 

(彼のことも話さなくてはならない・・・正直根津さんはもうどことなく勘付いてそうだけど)

 

あれから一ヵ月間会っていないとはいえ、根津であればなんらかの情報網を辿って勘付きそうな予感はする。というか少なくともオールマイトに何かしらがあったかは確実に知っているだろう。

 

(・・・とりあえず今は勉強だな。話すならせめて受かってから話したいし)

 

 

しかし受かる気が全くしないオールマイトであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ!一ヵ月ぶりかな?」

 

「そうですね。丁度・・・ではないですけど」

 

『正確にハ二十八日振リ。一ヵ月はまだ経ってねえナ』

 

 

一ヵ月近く経っているというのに、相変わらずこの待合室の中は座り心地が悪い。

それもこれもすべて、テストが悪いのだ。

勉強なんざ滅んじまえ。とヒーローらしからぬことを考えた後に、すぐさまその意識を一蹴する。

 

 

「勉強はちゃんとしてきたかい?」

 

「それなりには」

 

「それなりって・・・せめて胸張って言える程度には勉強しなよ」

 

「そもそもココのテスト、問題的に勉強しても無意味なレベルだもん」

 

 

ちなみにテスト自体の難易度を一般の方にも分かりやすく伝えると、最初の方は教科書とかに乗っている程度の難易度だが、最後の方に向かうにつれて応用やらを効かせなければならなくなり、最終的には自動車学校のテストを二十倍に詰めてそこにクイズ王を三人程混ぜ、三回ぐらい再翻訳したものが100問並んでいる感じのテスト内容である。

解ける解けない以前に、まずそもそも文章を理解する方がムズいのだ。

 

 

「・・・一応ちゃんと教科書を丸暗記するレベルで勉強すれば400点は取れると思うんだけどね」

 

「それでも400点!?」

 

「まあまあ、それは人に誤差があるし」

 

「誤差の範疇で済ませられるレベルじゃない気が・・・」

 

 

談笑は暫く続き。

会話がひと区切りついたところで、じゃあそろそろと根津が切り出してきた。

 

 

「さっさと始めちゃおっか」

 

「あ、分かりました・・・」

 

「・・・というか今の会話で大分忘れたでしょ」

 

「・・・・・・」

 

「図星だね。・・・まあダメだったらまた受ければいいし。はいはいスタートスタート!」

 

「ええ・・・」

 

 

なんとも唐突にテストが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『いいカ?俺は()()()()()()()。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()。これは不正じゃねエ、単なル勉強だ。イイナ?』

 

「正直乗り気じゃなかったけど・・・やるしかないか・・・」

 

 

 

根津には聞こえないように。感じ取られないように。

 

八木は深い罪悪感を纏った溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・?」

 

五十問ほど進んだ頃、根津はカメラ越しに違和感を覚える。

それは他の者には絶対に気づけないような、いや機械ですら気付けないほどの小さな違和感。

 

「・・・何かをカンニングしている様子はない。顔の表情や手の脈からして、あらかじめ答えを知っていたというわけでもないらしい。・・・だがなんだ?この違和感は・・・」

 

それは違和感というには、あまりに感覚的すぎる領域。

機械には当然気付けないし、他の者にはまず違いすらも理解できない域の話である。

 

 

そもそもだが、根津は十日程前から八木の動きになんとなくの違和感は抱いていた。

ヒーロー活動を傍らから見たときや、テレビでの出演をちらりと見た時。

そのすべてに、まるでこれまでのオールマイトとは少々異なる謎の違和感を持っていた。

 

 

 

「まるで()()()()()()()()()()()()()()()。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()。一体この違和感はなんだ?」

 

 

時々目線が泳いだり、時々体が揺らいだり。

それ自体にはなんら不思議な点はないのに、それなのに燻る様に違和感を感じてしまう。

 

「・・・まあ、あとで聞けばいいかな。それに答えを()()()()()というより、()()()()()()()()()。ように見えるし。・・・ただの勘だけど!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の問題を解いた後、八木の額にはべっちょりと滴るような汗が噴き出ていた。

 

 

「緊張した?」

 

「そりゃあしましたよ・・・はあ・・・」

 

 

持ってきたタオルで額を拭いながら、銀紙に包まれた板チョコを頬張る。

バリバリと口の中で砕けていく感覚がどことなく気持ちいい。

 

『俺にも食わせロ』

 

「後でね。今は根津さんがいるから・・・」

 

『ッチ!』

 

 

強い舌打ちが脳内に響く中、口の中ではチョコを嚙み砕く音が響く。

心なしかヴェノムに知性・・・というより記憶力で負けた分のプライドが若干修復された気がする。

 

 

それからしばらくして、根津の声がまた待合室内に響いた。

 

 

「・・・採点終わったけど・・・凄いね、500点満点中500点なんて」

 

「そう・・・ですか」

 

 

思いっきり背もたれに全体重を乗せながら、天井に視線を動かす。

やり遂げたという達成感と、やはり自分の力ではどうにもできなかったのだという無力感に苛まれながら見る天井は、あまりにも遠く感じた。

 

 

「・・・さて、合格したから諸々の手続きとか・・・って言っても八木くんはやる前から合格決まってたようなものだしぶっちゃけやることは少ないんだけどさ。その前に聞いておきたいことがあるんだ」

 

 

やはりきたか。

八木は拳を握りしめ、フウと深呼吸をする。

 

先程とは違う緊張感を味わいながら、真剣な面持ちで真正面に目線を向けた。

 

どんなことを聞かれても動じず、ありのままを伝えようと───。

 

 

 

 

 

「・・・君、もしかして体の中に何か他の生き物でも住んでる?」

 

 

 

 

 

「・・・そこまで気づいてたんだ・・・」

 

『スゲエなコイツ』

 

 

身構えていたからか驚きこそ少なかったものの、やはり根津の洞察力?知識力?は凄まじい。

直接会ったのは今日だけだというのに、ここまでの推理を進めることができるとは、八木であれば気づくことはおろか違和感さえ抱かないだろうというのに。

 

 

「なんとなくね。テストの最中の素振り的にそう感じただけで」

 

「そうですか・・・じゃあもう、ここからは何も包み隠さず答えます」

 

 

 

 

それから根津に、ヴェノムに関することをすべて話した。

当然自分だけでは説明できない範囲もあるので、そこらへんはヴェノムが外に出て説明をした。

 

最初は根津もヴィランかと警戒していたものの、途中からは警戒心も薄れたようでフランクに話を進めていた。

 

 

「───なるほど。今現状は、ヴェノムにもわからないことが多いのか」

 

『ソウだ。・・・その中には俺ガ話したくナイことも紛れてルがナ』

 

「うん、それはなんとなく分かってるけど。・・・うーん、これからヴェノムのことどうしようか」

 

「それは・・・一体どういう?」

 

「恩人・・・人?なんでしょ八木くんにとってヴェノムはさ。でも、これから先のヒーロー活動とかで絶対支障でるよそれ。それならどこかで隔離するなりした方がさ」

 

『それハ俺が断ル』

 

「君の拒否権を尊重したいところではあるけど、生憎これは個人の意見が押し通られるほど簡単な問題じゃないんだよ。平和の象徴たるオールマイトの、日本のヒーロー社会を左右する問題なんだ。もし君の存在がメディアに知られれば、民衆に知られれば、そして敵に知られれば。間違いなく日本の秩序は崩壊する」

 

 

ヴェノムの性格上悪事は率先して起こすような柄ではないとこの場の二人は分かってこそいるものの、見た目の凶悪さはそこらの(ヴィラン)とは比較にならないだろう。

そんなヴェノムがもしオールマイトの体に寄生しているとバレればどうなるか。

まずメディア・民衆はオールマイトに対する信頼を失う。

そして次に、ヒーロー全体の印象を悪くさせる。

そして更に、一部の(ヴィラン)がこの事態に乗じて、またはオールマイトの正体を(ヴィラン)だと勘違いして、その者たちにより生まれた(ヴィラン)の大徒党による大侵攻が行われる。

そしてその大徒党の中心に居座るのは当然AFO。

全盛期の力を取り戻しつつあるオールマイトの力を使えばワンチャンどうにかなりそうなラインナップではあるものの、しかしこれでは誰も望まない凄惨な結果が待っている。

それだけは絶対に防がなけばならない。

 

 

「八木くん。これは君一人に背負える話ではないと重々承知している。でも、それでも判断しなけばならない」

 

 

 

 

 

 

ヴェノム(親愛なる隣人)リスク(破滅の切符)を取るか。

 

 

 

オールマイト(平和の象徴)ノーリスク(平和)を取るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「君は。オールマイトは、どちらを選ぶんだい?」




尚、脳内設計図ではあと一・二話でオールマイトサイドから緑谷&雄英サイドに移ろうと思ってます。


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16

GWラストに投稿するという禁忌。


「どうすればいいんだ・・・」

心地よい潮風に揺られながら、最近だと最早珍しくなったトゥルーフォームの姿で地平線を眺めていた。

時刻は六時前。

そろそろ緑谷が来る頃なのだが、しかしどうにも乗り気にはなれなかった。

 

(ヴェノムに関してだが・・・確かに根津校長に預けた方がいいのは分かっている。・・・でもなぁ)

 

そう、ヴェノムに関してである。

 

あの日は即座に決めることができないということで、一時撤退の策を取らせてはもらったものの、その代わりとして『今年以内に決めること』という条件を出された。

 

(来年からは私が教師として活動し始めるから、ということだろうね)

 

ヒーロー活動中であればヴェノムの存在が露見したとしても、「これは!ヴィランからの不意打ちだ!!」的な超絶演技をすれば、苦しいが多少なりの言い訳はできる。

 

しかし、学校内ではそういった言い訳ができない。

何故なら学校内でオールマイトがヴェノムに襲われるとは、それ即ちヒーローとしての存在意義の敗北となるからだ。

 

それに、もしその言い訳が仮に通ったとしても、今度はオールマイトではなく学校側の責任を問われる。

どちらにせよ、ヴェノムが体外に姿を見せた時点で詰むのだ。

 

(ヴェノムを体内にずっと隠していても別に問題はない。換気の必要も餌を与える必要もない。・・・だが、ヴェノムの弱点をどうするかが・・・)

 

ヴェノムの弱点である、熱と超音波。

それを諸に喰らってしまえば、体内体外関わらずに拒絶反応を起こし体外へと現れてしまう。

 

勿論、弱点に対してオールマイトなりの対抗策も考えた。

実はいくつかの検証により、オールマイトの状態で筋肉の奥底に隠せば、その拒絶反応をある程度抑えられることが発覚したのだ。これにより炎の中でもある程度は耐えることができるし、高周波の中でも大声で歌って踊ることができる。

 

とはいえあくまでこれは、筋肉を本気で力んでいるときだけの特権。一瞬でも気を抜けば即座にヴェノムは体外に顕現する。

 

(検証のお陰で多少安心は出来たが・・・しかし、熱と音が弱点となると・・・あの三人とは共闘できなくなるな)

 

NO.2のエンデヴァーとギャングオルカ、そして雄英の教師も行っているプレゼント・マイク。

エンデヴァーとギャングオルカは100歩譲って共闘する機会が少ないにしても、プレゼント・マイクとは来年から教師として同じ職場で働くことになる。万が一プレゼント・マイクが挨拶の時にでも個性を発動させようものなら、即刻ヴェノムが身体から吐き出されるだろう。

 

(・・・いや、待て。ヴェノムのことは別に雄英の教師であれば話しても問題ないんじゃないか?私のトゥルーフォームのことを知っている者も多い。・・・でも、それでも万が一のことを考えると・・・だとしても、ヴェノムと離れるのは・・・)

 

 

 

 

八木が何故ここまでヴェノムのことに拘るのか。

それは、八木にとってヴェノムが恩人的立ち位置にあるからだ。

 

これまで一日の活動時間が四時間だったのが、今では半日以上の活動を可能にしてくれている。

全盛期の頃に比べると見劣りはするものの、パワーも桁違いにアップしている。

無事に教師になれたし、デイヴとナイトアイに再び会う機会ができた。

 

これらは全て、ヴェノムのお陰である。最後の二つに関しては若干異論が浮かびそうではあるが。

 

もしヴェノムがいなければ、今頃は血反吐を吐き散らかしながら緑谷に醜態を晒していたかもしれない。

もしヴェノムがいなければ、近いうちに自分の正体がメディアにバレていたかもしれない。

 

それを考えると、どうしてもヴェノムのことを無下にはできなくなってしまう。

 

(私には・・・選択できない・・・)

 

 

 

 

 

 

 

「あの~、大丈夫ですか?」

 

砂浜に顔を埋めていると、ふと足音が近づいてくるのを耳で感じる。

ちらりとその方向に目を向ければ、そこにはジャージ姿の緑谷少年がいた。

こちらにはすでに気が付いているようだが、トゥルーフォームのお陰かその正体には気が付いていないようだった。

 

 

「ああ、大丈夫だ。・・・ちょっとした悩み事があってね」

 

「そうですか・・・」

 

 

話しかけてもこちらの正体には気が付いてはいないようで、緑谷はそのままウォーミングアップを始めた。

オールマイトが教えた通りの、各筋肉に負担を掛けない程度の運動。欠かさずきちんと入念にしている辺り、その本気度が伺える。

 

 

「・・・あの~」

 

 

黙って緑谷のウォーミングアップを見つめていると、何か思うところがあったのか、こちらに声を掛けてきてくれた。

内心正体がばれないかとビビりながらも、フウと息を落ち着かせて答えた。

 

 

「どうしたんだい?」

 

「いきなりあってこんなことを聞くのもおかしいとは思うんですけど・・・この辺りでオールマイトを見ませんでした?」

 

「オールマイト?知ラナイナー?」

 

「そうですか・・・あ、別にアレですよ!?ここでオールマイトと秘密裏に修行してるとか、そういうことはないですからね!!」

 

 

目の前に本人がいるとは露知らず、緑谷はキョロキョロと周囲に目を向けた。

逆に言えば、目の前のが本人で良かったなとも捉えられるのだが。

 

(・・・緑谷少年って、意外と天然なところあるな)

 

そこら辺がまた彼の良いところでもある。

 

 

砂浜に体育座りをして特に何も考えずに地平線を眺めていると、それまでウォーミングアップをしていた緑谷は八木のすぐ隣に座った。

そして八木と同じように、遠い地平線を眺め始めた。

 

 

「・・・あの~・・・」

 

「どうしたんだい?m、少年」

 

「僕でよかったらなんですけど・・・その悩み事って、聞いてもいいですか?」

 

「え?」

 

「あ、いえ!話したくなければ全然大丈夫なんですけど・・・とても深刻そうな顔をしていたので」

 

「・・・」

 

 

いきなりすぎて、思わずキョドってしまう。

というか今更ながら、緑谷が緊張もせずに普通に喋っていることに新鮮味を感じる。

 

(・・・もし、緑谷少年であれば───)

 

 

 

一体どうするのだろうか。

恩人を取るか。平和を取るか。

 

 

その純粋無垢な疑問は自然と口から零れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・もし、君の友人が殺人を犯してしまったとして、その子が君の家に来て「助けて」と頼んできたら。君は、その子を匿うかい?」

 

 

 

 

 

 

その質問に、緑谷の体が一瞬硬直する。

どうやら質問の意図を深読みしてしまったようだ。とはいえ今更誤解だと言うのもおかしいし、別にこの姿で何を間違われても支障はないと思うし。

一先ずは何も言わずに、緑谷の回答が来るまで放置することにした。

 

 

「そ、それは・・・」

 

「もし友人を匿っていることが警察にでも知られれば、君も彼と同じ場所に行くことになるかもしれない。逆に友人を匿わなければ君は捕まることは無い。・・・単純な話、友を取るか自分を取るかだ」

 

「・・・友か、自分か」

 

 

深く、緑谷は呼吸を整え思考を巡らせる。

オールマイトの姿のときはよく見るその顔だが、何故かこの時だけはいつにも増して真剣に見えた。

暫くして、緑谷はその目線を真っ直ぐに地平線へと向けた。

 

 

 

 

「正直、僕の友達が人を殺めてしまうような性格だとは・・・思わない、ですけど。でも、それでももしそんなことをしてしまったら・・・せめて僕は、僕だけは彼の味方でありたい」

 

「それは何故・・・?」

 

「人を殺めてしまったのにも、何か選択せざるを得ない大事な理由があったんだと思います。も、勿論殺人は駄目なことなのは分かってます!・・・でも、それが彼にとっての最善だったなら。尊重してあげないと可哀そうだって・・・」

 

「それで君も捕まるかもしれないんだよ?」

 

「そ、それは・・・」

 

「それで君の夢が、ヒーローへの道が閉ざされてしまうかもしれないんだよ?それでも君は、彼を助けるのかい?」

 

 

 

 

「・・・・・・でも、僕は友達を助けます」

 

 

 

 

「それが正しいと。正義であると。そう君は言うのかい?」

 

「正しい・・・とは僕も思いません・・・。けど、だからといって見捨てるのも正しいとは思わない。それに───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何より、目の前に困ってる人がいるのに、

それを見捨てるなんて僕はできません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・そう、だね」

 

 

そうだった。

緑谷出久とはそういう男だった。

 

それが客観的に見て、普通に考えてみて、それが良いか悪いかなんて関係ない。

ただ自分の心に身体に正義に従って彼は動く。

 

 

 

 

だからこそ私は、この子(緑谷少年)を選んだのだ。

 

 

 

 

 

(自分の心に従う、か)

 

 

 

「・・・ありがとう。君のおかげで吹っ切れたような気がするよ」

 

 

砂浜から起き上がると、ジーパンの尻に付いた砂を払う。

朝日が眩しい。覚悟が決まったからか、それとも余分な感情が無くなったからか。

 

 

「そういえば、なんで僕がヒーローになりたいって事、知ってるんですか?」

 

 

真面目に心臓が止まりかけた。

しかしオールマイトの知力を舐めるなかれ。テスト的な頭の良さは程々でもこういった分野に対しての頭の回り様は音速の域を超えている。

 

 

「そりゃあ・・・さっきまで君、オールマイトのこと探してたじゃないか。なんでこんな所でって言うのは気になるけど、探す理由は普通に考えたらオールマイトに憧れてるからじゃないかってね」

 

「な、なるほど・・・」

 

 

安心したかのような息を吐く緑谷。どうやらオールマイトとの修行がバレたのかと勘違いしてたらしい。

まあ目の前にいるのは本人なわけだが。

 

踵を返し帰るフリをする。

 

 

「それじゃあ、私はこれで」

 

「はい!お気をつけて!」

 

 

元気な別れを告げられ、八木は海浜公園の出口へと向かった。

 

そしてすぐにマッスルフォームに姿を変えると、また緑谷の下へ帰ろうとする。

しかし、その足取りを止めようとする者がいた。

 

 

『オイ、オールマイト』

 

「ヴェノム。私は君のことを恩人だと思っている。だから君の願いはできるだけ叶えてあげたいと、そう思っている」

 

『・・・』

 

「だが、私は君のことを知らない。君の目的を、君が私に取りついた意味を。私はまだ知らない」

 

『・・・そレは前ニも───』

 

「本当に、君は目的も意味もなく私に寄生したのかい?」

 

 

更に問い詰めると、ヴェノムは狼狽えたようにググと唸る。

やはり何かを隠しているらしい。だがここまで言っても何故か話す気にはなってくれないようだ。

 

 

『・・・今ハ言えなイ。それニ今言ったとてオ前には理解できない話だ』

 

「・・・それは・・・」

 

 

どういうことなんだ?

そう口にしようとするが、その先を無理矢理口を閉ざすことで言わないようにする。

言っても無駄だし、更にヴェノムを精神的に追い詰めることになってしまう。

とりあえず、今はそれで納得するしかない。

 

 

「・・・分かった。だがいつか必ず、話してくれよ?」

 

『・・・・・・アア、約束だ』

 

 

 

 

会話が終わり、二人の間に静寂が走る。

首筋が痒くなるような、気まずい空気が漂い、緑谷の下へ向かう足取りがどことなく速くなる。

 

 

「・・・」

 

『・・・』

 

「・・・」

 

『・・・・・・オイ、オールマイト』

 

「・・・なんだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・こういうのは癪だが・・・・・・礼を言うゼ』

 

 

 

 

 

 

静寂の中、唐突に切り出されたその一言。

 

 

「・・・ク、ククク・・・」

 

 

その一言に、思わず張り詰めていた空気が弾けてしまう。

 

 

「いやあ、まさか君がそんなことを言うなんて・・・HAHAHA!」

 

『ッチ!ソんな馬鹿デケェ声で笑ウンジゃねえよ!!』

 

「悪い悪い・・・しかしなあ・・・クク」

 

 

 

 

 

和んだ空気に、最早それまで抱えていた複雑な感情は失せていた。

 

あるのはただ、他愛もない会話に興じる二人の男の姿だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時は過ぎ去り季節は春。

 

 

いよいよ、その日がやってきた。




最近カーネイジを見返して、やっぱりヴェノムっていい性格してんなと改めて思いました。
サム・ライミの言語通じない感じの方も好きですけど、やっぱり悪友的なポジションのヴェノムの方がスコ。


まあこの作品のヴェノムはオールマイトに影響受けすぎて完全に浄化されちゃってるんですけどね。


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17

他作品に浮気していたけど、モチベが帰ってきたのでヒロアカにまた手を付けます故、暫くのお付き合いをお願いします。
また久し振りに書くので色々とおかしい部分があるかもですが、ご容赦頂けますようお願い申し上げます。


というわけで本編です。
次回が多分長くなるのでその前座みたいな感じです。


時刻は朝の五時五十分。

若干厚めのコートで身を包んだオールマイトは、その道をマッスルフォームで進む。

右手に持つのはその体躯には似合わない携帯電話。

それを耳の近くに添え、顔に浮かぶ黒い影をより一層濃くしていた。

 

『やっぱり、君の意志は変わらないんだね』

 

「・・・はい」

 

電話相手の根津は、諦めたような口調だった。

 

 

数か月前。

根津にヴェノムと共に生きることを伝えた時は、最初は顎が脱臼するレベルの反応を取っていた。

そして根津の熱烈なる説得との戦が始まり、累計7時間以上の激闘の末、ある約束をすることでヴェノムとの共生が認められた。

 

 

その約束とは、『ヴェノムのことが世間一般にバレた瞬間即刻ヴェノムを処分する』こと。

 

 

とは言っても、このことは根津に話す前からヴェノムと事前に決めていたことだ。覚悟は出来ていたし、そもそもそのつもりだったので驚きは少なかった。

その契約を書面とボイスで記録した後は、雄英に務める教師一堂にヴェノムのことを明かし、なるべく火や高音波を──特にプレゼント・マイクを──オールマイトに寄せないように伝え、一先ずその場はお開きになった。

 

それからいくつかの会議と手続きを重ね、そしてついに入試当日の早朝、つまり今に至るわけだ。

 

『別に謝るようなことじゃないよ。それに、今更ヴェノム君を隔離しますとか言われたら逆に怒っちゃうよ』

 

これまでした会議と手続きの日数は、延べ一ヵ月を超える。

そしてその大半はヴェノムに対するものであり、オールマイトに関して見れば一日にも満たないだろう。

 

「その節は色々とお手数おかけしましたァ!!」

 

『本当に、色々疲れたよ。雄英の中の設計を一から見直したり、監視カメラの位置を少しズラしたり。その全ての許可やら確認やらを全部押し付けてくるんだから・・・うわ、今思い出すだけでも鳥肌が立ってくるよ』

 

電話越しでも頭が上がらない。本当に根津校長にはお世話になってばかりだ。

 

 

『・・・まあ暗い話はこれまでにして!それより、今日は期待の星達が集う入試当日!そして君は今回試験の審査官とその後の合否発表の役目を背負っているわけだ。どちらも欠かせない重要な仕事だ、無いとは思うけど遅刻しないように!それじゃ!!』

 

 

その言葉を最後に、根津からの電話は途切れた。

 

『話の長ェネズミだな』

 

「そう言わないでくれよ。・・・まあ話が長いのは私も思わなくもないけど」

 

『だろ?』

 

前に比べると随分と流暢に喋れるようになったものだ。とはいえ聞き取りづらいことには変わりない。

 

『しかし、今日が坊主の入試の日とはな。個性の継承はこれからするんだろ?大丈夫なのか?』

 

「それは緑谷少年次第さ。・・・ちょっと前にオーバーワークでブッ倒れちゃったけど」

 

ちなみにその日の夜は、プランを勝手に書き直してデイヴに叱られた。そしてデイヴがより良いプランに変えてくれた。

やはり持つべきは友である。

 

「でも、それぐらい緑谷少年の決意は固くそして熱い。だからきっと大丈夫さ」

 

『だが、まだ個性の使い方も教えてないだろ?』

 

「それはぶっつけ本番ってことで!」

 

『本当に大丈夫かコイツ・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうこう喋っている内に、無事海浜公園の入り口に辿り着いた。

そのオールマイトの目に映ったのは───。

 

 

 

 

「おい、オイオイオイ!!!嘘だろう!?!?」

 

 

 

 

時刻は午前五時。

 

視界に澄み渡るは端から端まで全てが白い砂浜だった。

 

 

 

「指定した区画以外まで、チリ一つなくなってやがる!!」

 

 

 

その砂浜に前まで埋まっていたゴミ共は、皆すべてが入口の隅に寄せられている。

棚から冷蔵庫、ドラム缶からパイプ、有刺鉄線から廃車まで。

 

 

全てのゴミが積もったその山の頂上。

 

 

 

 

 

そこに立つのは、まさしく勝者であった。

 

 

 

 

「完成以上に仕上げやがった!!オーマイ、グッネス!!!!」

 

『入試当日に無理しやがって!クソカッケーじゃねえか、あの坊主!』

 

 

 

だが、流石にその代償は重かったのか。ふらりと揺れると、緑谷はうつ伏せに倒れ込みかけてしまう。

 

「お疲れ!」

 

「オールマイト・・・僕・・・出来た、出来ました・・・!」

 

「ああ!本当に驚かされたよ!見てよコレ!10か月前の君!」

 

ひょろっひょろの身体に情けない顔で這いつくばる緑谷の写真。

こういっちゃなんだが待ち受けにしてるぐらい気に入ってるその写真を、火照る緑谷にドっと見せつける。

 

「よく頑張ったよ、本っっ当に!!!とはいえ蜃気楼の入り口が見えてきた程度だけど!確かに器は完成した!!」

 

「・・・なんか、ズルだな・・・僕は・・・・・・」

 

 

瞳から鼻先まで伝う大粒の涙。

それが堪らなく泥臭く、それでいて美しかった。

 

 

 

 

「オールマイトにここまでしてもらえて・・・恵まれすぎてる・・・」

 

 

 

 

『ケッ自分の努力の賜物のクセしてよく言うぜコイツ』

 

全く持ってその通りだ。

彼が努力したからこそ、彼がそれを望んだからこそ、オールマイトに認められたのだ。

とはいえそれを本人に伝えても謙遜されるだけろう。ゴホンとわざとらしく咳をすると、緑谷の視線を自分へ向かせる。

 

「その泣き虫も治さないとな!さァいよいよ授与式だ、緑谷出久!!」

 

「・・・はい!」

 

髪の毛を一本抜くと、それをそよ風に見せびらかすように靡かせる。

 

「これは受け売りだが、最初から運良く授かったものと認められ譲渡されたものではその本質が違う!

 

 

 

肝に銘じておきな。これは君自身が勝ち取った力だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴクリと生唾を呑み込む。

そうだ。今から僕はオールマイトの力を、コミックもびっくりの現実をその手に掴むのだ。

緊張と興奮が入り混じり、変に呼吸が荒れる。

しかしどのように個性が譲渡されるのだろうか。

気を与えるように、オールマイトが力むと個性が自然と譲渡されるのだろうか?それとも何か儀式的なものを施すのか?はたまた現実的に注射器を使ったり───

 

「食え」

 

 

───いやオールマイトに限ってそんなことはないだろう。それこそ想像もし得ないようなファンタジーかつ王道な方法で個性を───

 

 

「食え」

 

 

 

───ま、まさか髪の毛を食えだとか、そういうロマンも見栄えも悪い個性の譲渡は・・・無いと信じたかった。

 

若干光が消えた瞳でオールマイトの握る髪の毛を見る。

 

 

 

 

「食え」

 

 

 

 

「・・・えぇ?」

 

 

 

別に髪の毛を食べるくらいなら問題は無いが、にしてもロマンというか見栄えというかなんというか。とりあえず良い気はしない。

 

「別にDNAを取り込められるなら何でも良いんだけどさ!さァ時間が勿体無いぞ!」

「思ってたのと違いすぎる・・・!」

 

しかしオールマイトの言う通り、四の五の言ってる時間は無い。

オールマイトが握っているピンと立った髪の毛を丁寧に受け取る。

その毛は黄金に輝いており、風で靡く姿は別の生き物のような生命感とも言うべき神秘さを感じられる。

人の毛に対し何を言っているんだと言われそうだが、その毛には確かに意思のようなものがあるように感じられた。

 

だからなのだろうか。どうしても拒絶心というか、オールマイトの力と同時に何かいけないものを取り込むような、謎の恐怖に駆られてしまう。

 

(いやいや落ち着け!これはオールマイトの力を継ぐための神聖な儀式なんだ!髪の毛の一本くらい、朝のスムージーを飲むような感覚で────)

 

 

「ほらほら!早く食べなサイ!!」

「ングッ!?」

 

 

オールマイトに強く背を叩かれ、口に含もうとしていた髪の毛を勢いのまま飲み込んでしまう。喉と食道を通り過ぎる異様な感覚は体に拒絶反応を引き起こし、自然と嘔吐反射を行おうとする。が、それをなんとか耐え忍び一気に呑み込むとそのグロッキーな表情をオールマイトへと向けた。

 

「よし!食ったな毛!」

「食べました・・・があまり体に変化が感じられないんですけど」

「そりゃそうさ!君は胃腸をなんだと思ってる!」

 

それはそうだが、もう少し譲渡の方法はどうにかならなかっただろうか。DNAならもっと別の・・・いや、それはそれで嫌ではあるが。

 

 

「あと2〜3時間もすれば実感が湧くさ。入試試験が始まるのが今から3時間ぐらいだから・・・雄英の門を潜るぐらいには個性が身についているんじゃないかな?」

「そうですかね・・・って!あと3時間!?早く帰ってシャワー浴びてご飯食べないと!!」

「あぁそれと!家に戻る前にこれだけは伝えておこう」

 

オールマイトからの最後のアドバイスを脳裏に刻むと、急ぎ足で家へと戻った。

 

 

 

 

これまでは遠かったはずの家への道が、今日だけは妙に短く感じる。トレーニングのおかげなのか、はたまた背を押してくれたオールマイトのおかげか。

胸高らかに走ると、決意を固め天を仰ぐ。

 

 

 

 

「なるぞ!オールマイトみたいなヒーローに!!」

 

 

 

 

 

入試まであと3時間。

 

果たして緑谷の運命や如何に




ちなみに次回からは緑谷の入試試験編です。オールマイトの出番はまた今度〜。


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