育ての親は魔物です (ネコガミ)
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第1話『第2の人生は波乱万丈な始まり』

こっそり新作を投稿。


(……うん?なんか焦げ臭いな?)

 

焦げ臭さの原因を探そうと身体を起こそうとするが起きられない。

 

(なんだ!?なんで起きられない!?)

 

腹筋を使っても起きられず、足を振って勢いをつけようとしても思った様に動かない。

 

(くそっ!マジで起きられない!もしこの焦げ臭いのが火事だったら……っ!)

 

幸いにも目は開いた。そして首を動かすと周りの風景が……。

 

(燃えてる!?というかここは何処だ!?何なんだよ一体!?)

 

混乱が極みに達しようかとした頃、不意に赤ん坊の泣き声が響く。

 

(赤ん坊!?こんな時に……くそっ、何処だ!?)

 

赤ん坊の泣き声は凄く近くから聞こえる。

 

だが首を左右に振って目で探しても赤ん坊の姿は見えない。

 

(くっ、こんな近くから聞こえるのに……うん?というか頭の中から聞こえる?どういうことだ?もうわけがわからん……。)

 

とりあえずこの動かない身体でこのままここにいるのは危険だ。助けを呼ばないと。

 

「あうあー!」

 

意図しない声が出て驚く。

 

(舌まで回らないのか!?ええい!とにかく声を出せ!)

 

「うん?誰かいるのか?」

 

しばらく声を出し続けていると不意に声が聞こえた。

 

(助かった!)

「むっ?赤ん坊か……おぉよしよし。」

 

そう言いながら誰かが俺を簡単に抱き上げる。

 

(ちょっと待ってくれ、何故俺をあやす?)

 

だがあやされた事で俺の頭の中で響いていた泣き声が楽しげな声に変わった。

 

(とにかく礼を言わなければ。)

 

そう思い俺を抱き上げた人に目を向けると……。

 

「フギャーーーーッ!!!」

 

俺は思わず叫び声を上げてしまった。

 

なんせ目の前にいたのはガイコツだったのだから。

 

「はっはっはっ!元気のいい子だ。よし、お前をヒュンケルと名付けよう。魔界で伝説として語られている剣士と同じ名だ。ヒュンケルよ、お前も立派な剣士になるんだぞ。」

 

色々と考えなければいけないことが多々あるのだが、混乱の極みを超えた俺は意識を失ってしまったのだった。

 

 

 

 

あのガイコツことバルトス父さんに拾われてから数年の月日が流れた……と思う。

 

カレンダーもスマホも無いので詳しい暦がわからないが、四季が何度も巡ったので数年の月日は流れている筈だ。

 

ちなみに今の俺は魔王ハドラーの居城にいる。つまり人間でありながら魔王側の存在なわけだな。

 

さて魔王ハドラー率いる魔王軍なのだが人類と敵対している最中である。

 

そんなハドラーの元に人間の俺がいて大丈夫なのかと思うが……そこら辺は問題なかった。

 

なんと父さんはハドラーの側近の一人(?)だったのだ。

 

それで父さんに養育してもらっている俺だが、父さん以外の魔物にも可愛がってもらっている。というか人間と姿形が違うだけで、魔物達にもいい奴が結構多いのだ。

 

そんな気のいい奴等が何で人類と敵対しているんだと思ったんだが、その疑問には父さんが答えてくれた。

 

なんでも父さん達がいた魔界には太陽が無いらしい。これは天界の神々がそうしたからなんだそうだが、それで太陽を求めた魔物をハドラーが統率して地上に侵攻したんだそうだ。

 

意気軒昂なハドラー軍は快進撃を続けていたそうだが、ある日に侵攻したカール王国ってところに勇者が現れたそうだ。

 

勇者の名はアバン・デ・ジニュアール3世。

 

その勇者アバンの活躍により人類の反撃が始まり数年。現在のハドラー軍はかなり押し込まれている状態らしい。

 

父さんはそう遠くない内に勇者アバンの一行が直接ここに乗り込んでくると予測している。

 

『兄さん、変わって。』

(うん?マイブラザーか、いいぞ。)

 

脳内に響く声の主に身体の主導権を渡す。

 

『いつもごめんね、兄さん。』

(そういう時は謝るんじゃなくてお礼を言われた方が嬉しいものだよ。)

『そっか、じゃあ……ありがとう、兄さん。』

 

同居人のお礼の言葉に俺は内心で笑みを浮かべる。

 

(しかし、思い返せばなんとも奇妙な境遇になったもんだ。)

 

魔物である父さんに拾われ養育されているだけでも中々なものなのに、一つの身体に二つの魂があるんだからな。

 

(とはいっても……異物なのは俺の方なのは確かだ。)

 

同居人の魂は身体と相応の年齢なのに対し、俺は前世の記憶もあるアラサーのおっさんだ。

 

どっちがこの身体の持ち主なのかは明白だろう。

 

(これでマイブラザーがイキリまくりのクソッタレな奴だったら、なんの躊躇もせず身体を完全に乗っ取っていたんだろうけど……。)

 

マイブラザーは凄くいい子だ。まさに純真無垢。そっちの趣味がある男女なら確実に落ちているだろう。

 

身体の主導権を渡したマイブラザーなのだが何かを作り始めた。

 

(星?……メダルか?)

 

昨今の厳しいハドラー軍の事情では、戦功を上げた魔物に勲章一つも与えられないからな。

 

だからマイブラザーは頑張った父さんにメダルを手作りしてプレゼントするつもりなんだろう。いい子である。

 

そんなマイブラザーを微笑ましく思いながら俺は修行を始める。とはいっても今は身体の主導権がマイブラザーにあるから内面の修行だ。

 

一つの身体に二つの魂があるという体質だからか、俺は自分の魂が持つ生命力の様なものを感知出来る様になった。

 

そしてその生命力の様なものなのだが2種類存在する。ポカポカと明るく暖かいものと、ジメジメとして暗いものだ。

 

おそらく前者がマイブラザーの、後者が俺の魂が持つ生命力だろう。

 

なぜか?それは前者の方が小さく、後者の方が図太い感じで大きいからだ。

 

なにせ俺は元々現代社会に疲れていたアラサーのおっさんである。故に絶対に後者の生命力が俺のものだ。

 

さてこの生命力なんだが、鍛えれば鍛えただけ大きくなる。

 

その鍛える方法なんだが……お互いを接触させるだけだ。

 

(マイブラザー、いつもの修行を始めるぞ。)

『うん、わかった。』

(そっちに影響が出ない様に軽くやるから、気にせずそれを作り続けていいよ。)

 

マイブラザーが返事したのを確認した俺はジメジメとして暗い生命力を、明るく暖かい生命力に軽く接触させる。

 

すると双方が反発する様に反応しだした。

 

(……これをやり始めてからやたらと身体が頑丈になったけど、やっぱり生命力が強くなったからなんだろうな。)

 

ふと気付くと父さんの首に手作りのメダルを掛けたマイブラザーが、父さんに頭を撫でられて嬉しそうに笑っていた。

 

(こんな平和で幸せな日々がいつまでも続けばいいけど……。)

 

そんな俺の思いは直ぐに崩れさってしまう。

 

何故なら数日後に勇者アバン一行がここに攻め込んできたからだ。




連載にするかは未定です。


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