蒼の道化師は笑う。 (青メッシュ)
しおりを挟む

演者紹介(キャストロール)
彩りの道化(カラーズ・クラウン)演者紹介


前回からあんまり変わらないけど、ロトを追加したので再投稿


ギルド彩りの道化(カラーズ・クラウン)

 

 

ソウテン(souten)/蒼井天哉(あおい てんや)

 

年齢:14→16

 

容姿(SAO)

青いメッシュ入りの黒いツーブロックヘア、碧眼

 

(ALO)

青いメッシュ入りの黒いツーブロックヘア、碧眼

 

(現実)

青いメッシュ入りの黒いツーブロックヘア、碧眼

 

ユニークスキル:無限槍

 

本作の主人公。「道化師(クラウン)」の異名を持つ槍使いの少年。小規模ギルド「彩りの道化(カラーズ・クラウン)」のリーダー。愛称は「テン」

青いファーコートと青メッシュ、首の青いマフラーがトレードマーク。顔に冠った仮面から主に「蒼の道化師」の呼び名で知られる

へらへらした表情と人を小馬鹿にした言動が特徴的な掴みどころのない飄々とした性格。周囲からは、「胡散臭い」と陰口を叩かれているが本人は気に留めてもいない。元来は面倒見が良く、不思議と人を惹きつけるカリスマ性を持ったリーダーシップの持ち主で、現在の性格は「道化師(クラウン)」を名乗る為に冠った偽りの仮面である。その真意は誰にも明かそうとしない。本来の彼を知るのは仲間の中でもキリトのみで、ミト達には「黒い衝動」に関する情報を隠していたが、「笑う棺桶(ラフィン・コフィン)」討伐作戦の際に、全員に秘密を明かした。「黒い衝動」が消えてからは、より一層に騒がしさを増し、ハジケ振りにも拍車を掛けている

地図を見ても別方向に走り出す致命的なまでの方向音痴。誰かと行動しない限りは自力で目的地に辿り着くことは不可能であるが本人は事あるごとに「迷子じゃない」と主張し、方向音痴を否定するが周囲からは、迷子の枠を飛び越えた「最強の迷子」という意味合いで「迷子(ファンタジスタ)」と呼ばれる

少し天然ボケな面があり、何かを聞く度に訳の分からない聞き間違いをする。故にミトを始めとした仲間たちには可哀想と名前を掛け合わせた「可哀ソウテン」と呼ばれたりする

リーダーであるにも関わらず、弄られキャラが定着気味で不憫な扱いを受ける役回りである。ピーナッツバターをこよなく愛し、食べる物全てにピーナッツバターを掛けるという奇妙な行動を取ったりする

得物は槍「竜槍ナーガラージャ」を使用

ユニークスキル「無限槍」の持ち主。投擲スキルを極めたプレイヤーに与えられるエクストラスキル。一度に多数の槍を自在に操り、攻撃の雨を降らせる事が可能な、ソウテンのみに与えられたユニークスキルである

デスゲーム開始と同時にキリトを含めた仲間たちとはじまりの街を出発するが混乱の最中、すれ違った少女がミトである事に気付き、彼女を探す為に別行動を取るが即座に迷子なり、数日間に渡り、森林エリアを彷徨っていた。その道中、リトルネペントの群れに追われるミトと再会、彼女の窮地を救った。同時に彼女の友人を助けたキリト達にも再会し、ミトとアスナを加えた状態でレベリングを行っていた。ボス攻略では息の合った連携を取り、LAはキリトに譲ったがコボルトロード打倒の立役者の一人になった

第1層クリア後は『ビーター』こそは名乗らなかったが悪役を演じ、ディアベルに批判の目が向かないように配慮を行った。第一層攻略後はキリトをメインに据え、カラーギャング時代の仲間たちとのパーティーを率いる形でギルド「彩りの道化(カラーズ・クラウン)」を立ち上げ、攻略組に参加している

ミトとはリアルで恋人同士の関係にあり、後にSAO内ではシステム的にではあるが結婚した。関係的には友達以上恋人未満のように捉えれがちだが互いに信頼し、意識する二人の関係はシステムを超えた何かだと茅場は解釈している

現実の彼はカラーギャング「吏可楽流(リベラル)」のリーダー。度重なる補導歴もある不良少年。漢数字の「十」と「矢」を合わせたようなピアスがトレードマークである。仮面は身に付けていないが、胡散臭い出立ちは健在である

服装は基本的に青い羽織、薄紫のベルト、白いボトムス、サンダルを着用している

天下一品と称される程に喧嘩が強く、その蹴りは正に一撃必殺。その悪名は埼玉だけには留まらず、関東全域に轟き、不良ならば誰もが知る有名人である

その出自は埼玉県警捜査一課の警部である蒼井天満を父親に持つ警察関係者を輩出するエリート警察一家の長男。生まれながらに将来を定められ、敷かれたレールの上を歩くだけの人生を送っていたが本当の自分を見ようともせずに己のやり方を押し付ける父に反発していた。息を引き取ったばかりの母に対し、冷たい言葉を放った父と大喧嘩を繰り広げ、10歳で、家を飛び出す。その後は寂れたゲームセンターを寝床に夜の街で怒りを打つける日々を送っている

双子の妹が居り、母の死後に親戚に引き取られた為に別姓。現在も兄妹仲は良好で天哉も彼女を可愛がっている

現在も父とは疎遠状態にあるが須郷の一件で、束の間の再会を果たす。母親の墓参りに行く事を約束し、仲間たちと明日奈の病室に向かった

ミトとの出会いで犯罪紛いの行いをする事はなくなり、最近は他のカラーギャングの行いを仲裁する自警団のように仲裁役のような立ち位置を担う。其れでも稀に内に秘めた黒い衝動を抑え切れず、怒りを制御出来なくなる時がある。SAO内でキリトと剣を交え、仲間たちの説得、ミトの想いを受け、次第に黒い衝動を抑え込めるようになった

将来的には自分の意志で警察官を志すようになり、慣れない法律系の勉学に励んでいる

キリトとは生まれた頃からの付き合いで自分が知らない事を知る彼は唯一無二の親友である

ラテン系の血を引き、会話中にスペイン語を混ぜる癖がある。他にも「派手」や「ゴーカイ」などの単語を好み、決め台詞に使用している。「おろ?」または「おやまあ」が口癖で頻繁に使用している

第76層で、ヒースクリフを道連れにする形で、消滅。崩壊する《アインクラッド》を見ながら、茅場の真意を聞き、全てのプレイヤーがログアウトしたのを確認した後、自身もログアウトした。現実世界に戻った後は、茅場との取り引きの対価に仲間たちから自分に関する記憶を消し、誰も自分を知らない世界で、孤独に過ごすことを決めるが記憶が消えても、想いを忘れなかったミト達と再会。最初は彼女を突き放すが、約束の為に進むことを決意する

ALOに於ける種族はプーカ。容姿はSAO時代と変わらず、トレードマークに愛用の仮面、青いマフラーと青いコートを着用。武器はレジェンドウェポンの「シャスティフォル」を使用

 

 

 

 

グリス(gurisu)/灰沢純平(はいざわ じゅんぺい)

 

年齢:14→16

 

容姿(SAO)

ダークブラウンのウルフカット、灰色の瞳

 

容姿(ALO)

ダークブラウンのウルフカット、灰色の瞳

 

(現実)

ダークブラウンのウルフカット、灰色の瞳

 

「野猿」の異名を持つハンマー使いの少年。小規模ギルド「彩りの道化(カラーズ・クラウン)」のメンバー

腕に巻いた青いバンダナがトレードマーク。全体的に灰色系統の装備を纏い、野生的な思考を持つが故に「野猿」の異名で呼ばれる

性格は大雑把で脳筋思考な考えるよりも行動が基本の猪突猛進を体現したタイプ。故に仲間たちからは「ゴリラ」と呼ばれることがある

自身の肉体美に絶大な自信があり、其れを披露する為に所構わず上半身裸になる脱ぎ癖がある

その一方で仲間たちを侮辱する者には激しい怒りを見せる仲間想いな一面もある

ソウテンとは似た者同士で彼同様に天然ボケな発言をしたりもする

生粋のバナナ好きで、バナナ農家のコーバッツとは親しい間柄にあり、互いに「バナナフレンド」と呼び合う

色恋沙汰に疎く、ソウテン達とは異なり、SAO内で異性との浮いた話は無いがSAO攻略後にALO内で、ソウテンの妹・フィリアと急接近。事件解決後には付き合うようになった。風妖精(シルフ)領領主のサクヤは実姉で彼女の過剰な愛情表現には手を妬いている

現実世界の彼は天哉が率いるカラーギャング「吏可楽流(リベラル)」のメンバー。度重なる補導歴もある不良少年。鍛え上げた筋肉から繰り出される拳は正に芸術と呼ぶに相応しい

親を強盗事件で亡くし、姉と二人で暮らしているが両親の死は自分の責任だと思うようになり、姉を避け、鬱憤を晴らす為に夜の街で暴れ回っていた時に、天哉と和人に出会う

彼らと居る間は人の顔色を伺わずに居られる為に「楽だ」と発言している

 

 

 

ヒイロ(hiiro)/緋泉彩葉(ひいいずみ いろは)

 

年齢:13→15

 

容姿(SAO)

首元で結えた赤味を帯びた茶髪、赤い瞳

 

容姿(ALO)

首元で結わえた赤髪、赤い瞳

 

(現実)

首元で結えた赤味を帯びた茶髪、赤い瞳

 

「獣使い」の異名を持つブーメラン使いの少年。小規模ギルド「彩りの道化(カラーズ・クラウン)」のメンバー

両手に巻いた青いバンテージがトレードマーク。基本的に赤系統の装備を纏っている

性格はクールで冷静。常に無表情な為、感情の起伏が理解しがたいが仲間たちには笑顔を見せたりもする

ソウテンを「リーダー」、キリト達の事は「さん」付けで呼ぶ。ヴェルデ、シリカは同年代である為に呼び捨てにしている

ビーストテイマーとしても有名でレッドバードランの「ヤキトリ」を連れている。好物は焼き鳥で事あるごとに口に咥える

普段は仲間と行動するが一人でフィールドに出ることもあり、第35層の迷いの森に足を運んだ際に死の危機に瀕していたシリカを救った。世間の情報には無頓着で中層域のアイドルと呼ばれる彼女を全く知らなかった

宝関係の情報を集めるのが趣味らしく、ピナを復活させるプネウマの花を探す為にシリカと行動を共にする。ピナの蘇生後は「仲間にしてほしい」という彼女の提案を受け入れ、ソウテン達の理解を経た上で彼女を「彩りの道化(カラーズ・クラウン)」に迎え入れた

現実世界の彼はカラーギャング「吏可楽流(リベラル)」のメンバー。度重なる補導歴もある不良少年。小柄な体格を活かした身軽な喧嘩を得意とし、彼が得意とする頭突きは石よりも硬いと称される

生後間もない頃に航空パイロットの父を旅客機事故で失い、母子家庭で育つ。独りで自分を育てる母を気遣い、本心を表に出さなくなり、次第にその想いを喧嘩という形で、形にする様になった。その生活が一年間続いた後、徒党を組んだ不良達からの報復を受けている所を迷子になっていた天哉に救われた。その背中に自分の居場所を見い出し、彼の弟分となる

 

 

ヴェルデ(verde)/緑川菊丸(みどりかわ きくまる)

 

年齢:13→15

 

容姿(SAO)

黒髪ミディアム、緑色の瞳

 

容姿(ALO)

金髪ミディアム、緑色の瞳

 

(現実)

黒髪ミディアム、緑色の瞳

 

「賢者」の異名を持つ細剣使いの少年。小規模ギルド「彩りの道化(カラーズ・クラウン)」のメンバー

耳に付けた青いピアスがトレードマーク。緑色の装備を纏い、上から白衣を身に付けている

誰に対しても敬語を使用し、礼儀も弁えた典型的な紳士を体現したタイプ。その反面、仲間たちに対する侮辱を含めた発言には静かに怒りを見せる

ギルドの参謀を担い、攻略会議でも意見を求められたりする程の信頼の高さを持つ。実年齢はヒイロと同年代である

キリトの妹のリーファとは幼馴染。突っ走り気味な彼女を咎められる唯一の存在である。

カレーに並々ならぬ執着心があり、食べる物全てにカレーを掛ける

現実世界の彼はカラーギャング「吏可楽流(リベラル)」のメンバー。度重なる補導歴もある不良少年。参謀であるが故に喧嘩慣れしていない様に思われがちだが、持ち前の頭脳で凡ゆる状況を瞬間的にシュミレートし、その状況に応じた適切な動きを見せる

頭脳明晰な優等生であったが周囲からの重圧とプレッシャーに耐えきれなくなり、全ての事柄から自分を遠ざけるようになっていく。その時、和人に連れられ、足を運んだゲームセンターで天哉達に出会う

自分を偽らない彼らの姿に感銘を受け、仲間に加わった

 

 

アマツ(amatu)/天野茉人(あめの まひと)

 

年齢:15→17

 

容姿(SAO)

金髪オールバック、紫色の瞳

 

(ALO)

金髪オールバック、紫色の瞳

 

(現実)

金髪オールバック、紫色の瞳

 

「職人」の異名を持つ鍛冶屋の青年。小規模ギルド「彩りの道化(カラーズ・クラウン)」の専属刀匠

普段は寡黙で落ち着いた雰囲気を感じさせる。だが、自分の打った武器に対する情が深過ぎる為に客に「折ったら殺す」と過激な発言をする面倒な一面を持つ。ソウテン達が装備を折った時は包丁を片手に追い掛ける程の錯乱振りを見せた

「ボケ殺し」と呼ばれるおふざけは許さない残忍な一族の末裔。ボケを連発する者には容赦無い一撃を見舞う

白い羽織に水色のラインが入った白い着流しという和装が特徴的である

戦闘狂な一面もあり、強敵を前にすると奇声を上げたり、高い声のトーンになるなど異常にテンションが高くなる変人へと変わる

得物は包丁。常に研いでいる為に、その切れ味は鉄をも切り裂く程である

現実の彼はインテリ系極道一家の長男。普段から殺伐とした空気の中で育った影響から、刃物と銃器の扱いに手慣れている

 

 

 

外部関係者

 

メイリン(meirin)/竜胆明音(りんどう あかね)

 

年齢:21→23

 

容姿(SAO)

黒髪シニョン、緑色の瞳

 

(ALO)

赤髪シニョン、赤色の瞳

 

(現実)

黒髪シニョン、緑色の瞳

 

第50主街区アルゲード飲食店「Vale tudo」の女店主

暖かい包容力を持ち、小規模ギルド「彩りの道化(カラーズ・クラウン)」の面々とも親しい間柄にある

料理スキルを極め、デスゲーム内で料理人のジョブを生業に生き抜く。その腕前は高く、掲げた看板の通りに何でも作ることを心情にしている。ソウテン達のあり得ない注文さえも実現させる

男性の好みは「自分の料理を美味しく食べてくれる人」、最近はクラインと良い雰囲気になっている

 

 

ロト

 

容姿

青いメッシュ入りの黒いツーブロックヘア、碧眼

 

ソウテンとミトの息子であるメンタルヘルスケアプログラム

基本的に呑気でマイペースな性格の持ち主。義父と瓜二つの容姿を持ち、鍋をこよなく愛する義母譲りの鍋奉行でもある

ソウテンの影響からか、会話中にスペイン語を混ぜる癖がある。「おろ?」または「おやまあ」が口癖で頻繁に使用している

元はソウテンの中に眠っていた「黒い衝動」がメンタルヘルスケアプログラムプロトタイプを媒介に生まれたもう一人のソウテン。一度は本人と刃を交えたが、激しい親子喧嘩の末に和解。その後は長い眠りについていたが《ALO》でプライベート・ピクシーとしての姿で復活を果たす。本気になると一時的に体を大人の様に変化させ、ソウテンにも匹敵する槍捌きを見せる

ユイ、エストレージャに好意を抱かれているが本人は友達という認識である為にその気持ちには気付いていない

 

 

原作メンバー

 

 

ミト(mito)/兎沢深澄

 

本作のヒロイン。「紫の死喰い」の異名を持つ鎌使いの少女。小規模ギルド「彩りの道化(カラーズ・クラウン)」のサブリーダー。ソウテンの恋人

個性豊かなメンバーに振り回されては鎌を使った突っ込みを放つツッコミ担当だが、時には非常識さが垣間見える行動に走る。親友のアスナを守ることを最優先事項にしており、彼女に危害を咥える輩には容赦しない

鍋を愛し、鍋を作ることに情熱を注ぐ鍋奉行。故に鍋を冒涜する者たちには鉄拳を見舞う

現実の彼女はカラーギャング「吏可楽流(リベラル)」のメンバー。リーダーである天哉の恋人で、彼の抑止力とも呼べる存在。更に仲間たちの姉御的存在で面倒見が良く、特に彩葉とは姉弟のように仲が良い

 

 

キリト(kirito)/桐ヶ谷和人

 

「黒の剣士」の異名を持つ二刀流の少年。小規模ギルド「彩りの道化(カラーズ・クラウン)」のサブリーダー。ソウテンの親友

普段は飄々とした態度が目立ち、更に洞察力・論理的思考に長けているが、親友のソウテン達と馬鹿騒ぎを始めると思考回路が一気に彼と同レベルまで低下する。人付き合いが下手な為に、度々「ぼっち」呼ばわりされるが本人は認めておらず、否定している

パスタと激辛料理を愛する味覚破綻者。作り出すもの全てがパスタになり、味は激辛になるという謎の料理スキルを持つ

現実の彼はカラーギャング「吏可楽流(リベラル)」のサブリーダー。リーダーである天哉の親友であると同時に幼馴染。彼の家庭事情や体内に宿る黒い衝動についても理解している良き理解者である

 

 

シリカ(shirika)/綾野圭子

 

「アイドル」の異名を持つ短剣使いの少女。小規模ギルド「彩りの道化(カラーズ・クラウン)」のメンバー。ヒイロの恋人

使い魔のピナを失い、途方に暮れていた所をヒイロに救われ、彼の仲間である「彩りの道化(カラーズ・クラウン)」を紹介される。騒動終結後はギルドに加入し、持ち前のアイドル力を発揮し、実況などを中心にアイドル活動を始める

現実ではプロダクションに所属し、ALO事件終結後には世界を股に掛ける新進気鋭のアイドルとなり、シングル曲のオリコンチャートは常に上位をキープしている

 

 

ディアベル(diavel)/鈴代阿来(すずしろ おくる)

 

年齢:18→20

 

「騎士」の異名を持つ片手剣使いの青年。小規模ギルド「彩りの道化(カラーズ・クラウン)」のメンバー

青髪がトレードマーク。基本的には攻略組の一員として、前線で活動しているが時に依頼を受け、依頼人とソウテン達を繋ぐ役割を持つ

第一層攻略時はリーダーを務め、高いカリスマ性を発揮。βテスターとしての経験を元に攻略の指揮を執るがキリトを警戒し、彼の剣を買収しようとしたり、ボス本体ではなく、取り巻きの雑魚モンスターの討伐役に回すといったしたたかな一面があった。しかしながら、ソウテンの策略で全てが失敗。攻略戦ではボスの反撃を受けそうになったのをソウテンに救われた。攻略後は自分を庇う為に憎まれ役を演じた彼等を追い、「彩りの道化(カラーズ・クラウン)」のメンバーとなった。メンバーになってからはソウテン達の雰囲気に引っ張られるように所構わず、バームクーヘンを焼くという奇妙な行動を見せるようになった

現実の彼は伊豆大学機械工学科に籍を置く現役大学生。サークル活動はしないつもりだったが、強制的にダイビングサークル「PaB」に入会させられ、豪快かつ無茶な飲み会に参加するうちに耐性を身に付けるようになってからは相当な酒豪になる。同時にパンツ姿で学内をうろつくことにも抵抗を覚えなくなり、SAO時代よりも数々の醜態をさらしだすようになった。女子大に通う恋人が存在するが、天哉達からは存在を疑われている

SAO時代初期の頃を知る仲間たちからは、「光の速さで地下深くに落下してるバカ」とまで言われてるが本人は感覚が麻痺している為に疑問にも思わない

 

 

コーバッツ(kovats)/高良芭蕉

 

「農家」の異名を持つ斧使いの男性。小規模ギルド「彩りの道化(カラーズ・クラウン)」のメンバー

元々はアインクラッド解放隊の中佐を務めていたが、第74層攻略後に脱退。大好きなバナナを育てる農家としての道を歩み始め、バナナフレンドのグリスからの誘いで、「彩りの道化(カラーズ・クラウン)」に加入を果たす

事あるごとにバナナ食べており、バナナを交えた話をする変わり者ではあるが仲間たちからの信頼は熱い

現実の彼は沖縄在住の高校教師。その面倒見の良い性格と熱い教師魂で、数々の生徒を世に送り出した伝説の教師であるが本人に自覚はない

 

 




………あれ?原作キャラにも真面な人がいない……つーか原作ってなんだ?誰かマジで描いてくれないかなぁ、テンのイラスト……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

特別幕
ハロウィン特別幕 心まで着飾れ!コスプレ道は険し〜〜い!


はい、ハロウィンなんで特別編です!アンケートで一周年記念企画の話の集計も取ってますんで、是非ともチェックしてみてくださいね!


「「「ハロウィンって、何するの?」」」

 

今日は10月30日。世界中が一つのイベントに浮き足立つ前日、ロトとユイ、エストレージャは一つの疑問を投げ掛けた

 

「ハロウィンか?えっと……仮装して、かぼちゃを食べる日だったような……」

 

「お菓子くれない人に合法的にイタズラしても良い日」

 

「違いますよ。人の家に上がり込んで、ご飯をいただく日です」

 

「きっくん。其れは普段のきっくんだよ」

 

「ハロウィンってのは、古代アイルランドに住んでたケルト人の祭が起源って言われてる宗教間の行事の一つだ。アメリカに伝わってからは意味合いが変わって、今みたいな祭みてぇになってるけどな。本来は、秋の終わりと冬の始まりを告げ、訪ねてくる死者の霊の機嫌を取ることが目的のもてなし的なもんだ」

 

((意外なヤツから解説が………っ!!!))

 

ハロウィンの解説をしたのは、グリス。普段の彼からは想像もつかない博識さに誰もが戦慄し、空いた口が塞がらないとは正にこの状況である

 

「あん?なんだよ……」

 

「博識なグリスさんも素敵です!」

 

「おめぇさん……変なことに詳しいよな」

 

「死んだ親が民俗学者だったからな。そういう本はガキの頃に、読み漁ってたんだよ」

 

「なるほど……」

 

「人は見かけによらないな」

 

「おいコラ、言いたいことがあるならはっきりと言えや」

 

「「「すんげぇバカのくせに」」」

 

「張り倒すぞっ!?」

 

言葉を濁していた時とは異なり、声を揃え、打ち合わせでもしたかのような見事な満場一致の意見をソウテン達が放つ

 

「まあ、色々と知るんには良い機会だ。ちょいと行くか?」

 

「何処にですか?なるほど、チーズケーキ屋ですね」

 

「スパイスが豊富にある露店でしょう」

 

「焼き鳥食べたい」

 

「ちょっと、今日はアヒージョにするからタコを狩りに行く約束だったじゃない。私、嘘吐きなテンは嫌い」

 

「ミト。今日も可愛いぞ、ポニーテールが良く似合うな」

 

「えっ……あっ……ありがとう……」

 

(((ちょろいミト……ちょろミトだ))

 

嫌い発言からの変貌に、誰もがミトのちょろさを感じるが、声には出さない。ソウテンは、何時も通りの不敵な笑みを浮かべる

 

「そいじゃあ、行くとするか。ハロウィンイベントに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レディ〜〜〜〜ス!ア〜〜〜ンド!ジェントルメ〜〜〜〜ン!!!妖しく光る満月に導かれ、集まりし妖精達よっ!今宵限りの祭典の始まりだっ!新生アインクラッド大ハロウィンパーティのスタートだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

10月31日。前日にソウテンが受けたイベント企画の依頼から生まれた大ハロウィンパーティ、各種族の妖精達が見据える先には一つの舞台。その中央で、特徴的な猫耳をぴこぴこと動かし、愛らしい鍵尻尾をふりふりと揺らし、軽快なステップを繰り広げる少女の手にはマイクが握られ、ミニスカート風の和服に身を包んでいる

 

『L・O・V・E!シリカ!がんばれ、がんばれ!シリカ!!』

 

「はーい!司会進行はあたし、泣く子も笑うのキャッチフレーズでお馴染みの《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の化け猫アイドルのシリカでーす!にゃんにゃん☆」

 

『L・O・V・E!シリカ!がんばれ、がんばれ!シリカ!!』

 

猫の手で可愛さを演出するシリカの姿は、猫妖精(ケットシー)の魅力を最大限に活かした化け猫のコスプレ。彼女のファンは声援に通常の倍は熱が入る声量だ

 

「ハロウィンパーティって言うから、どんなのかと思えば………何時も通りね」

 

「そうだね、コスプレ以外は普段と変わらないね」

 

「グーくん!お猿さんのコスプレが似合っているぞっ!」

 

「腹筋が素敵です!グリスさん!」

 

「筋肉イェイ、筋肉イェイ」

 

「マスターとサクヤ様は安定の変態さんですね」

 

猿のコスプレでポーズを決めるグリスの側には、雪女姿のサクヤとドラキュリア姿のフィリアが鼻血を出しながら、褒め称え、魔女っ娘姿のエストレージャは何気に毒を吐いている

 

「ふっ、騎士らしくて驚いたか?」

 

「ベルさん。バームクーヘンの格好は騎士関係ない」

 

「やれやれ、ディアベルは仕方ないヤツだな」

 

「オメェもだ、バナナオヤジ」

 

バームクーヘンの着ぐるみを着たディアベルに辛辣な突っ込みを放つのはグリフォン姿のヒイロ。更に彼を笑うバナナを頭から被った農夫のコスプレをするコーバッツにも乱暴な突っ込みを放つ

 

「スグちゃん………なんですか?その格好は」

 

「あたしは直葉でもリーファでもないよ。おスグ、殺人鬼の魂が宿った人形だよ」

 

「……………ハロウィンと怪談話を混交してますよね?明らかに」

 

その隣では、ハロウィンの意味を履き違え、日本人形のコスプレをしたリーファを咎めるマッドサイエンティスト姿のヴェルデが彼女に憐みの視線を向けていた

 

「アスナ。似合うか?今日の俺は狼さんだ」

 

「うん、カッコいいよ。キリトくん」

 

「カッコいいです!正にパパは一匹狼さんですね!」

 

「………ユイ?褒めてるんだよな?それは」

 

「はい!ちなみにわたしはクッキー作りが趣味のおばさんのコスプレです!」

 

「とっても可愛いよ〜!ユイちゃん!」

 

「ありがとうございます!ママの赤ずきんちゃんもすっごく可愛いですよ!」

 

狼、おばさん、赤ずきん、絵面的に有名な童話が題材のコスプレをする桐ヶ谷家の面々。ユイの可愛さに悶えるアスナの隣では、娘からの一匹狼という言葉に傷付くキリトが居る

 

「大変よ、テン。ロトがものすごく可愛いわ」

 

「だねぇ、これは小さい俺だ」

 

妖艶さが漂う紫色のチャイナドレス姿のミトは、顔に貼られた護符越しから、最愛の恋人と同じ姿の愛息子の姿を見つめている。本人も自分と瓜二つな彼が同じ格好である事を嬉しく思っているのか、優しく笑う

 

「おやまあ、とーさんとお揃いだ」

 

「私……カメラマンになるわ」

 

「ミトさんや、早まるんじゃないよ」

 

「そうね、取り乱したわ。で?テン。私のキョンシーコスプレはどう?」

 

「似合う似合う、超似合う」

 

Gracias(ありがとう)。テンの道化師コスプレも素敵よ」

 

「いや、俺はコスプレしてない」

 

ソウテンとお揃いの道化師姿にはしゃぐロトの写真を撮りまくるチャイナドレス姿のミト、その様子を普段からコスプレ的な姿のソウテンが見守る

 

「リズ………なんだ、その格好は」

 

「う、うるさい!見るなっ!というか、アンタこそ、何よ?その格好は!」

 

「これか?辻斬りだ」

 

「怖いわぁっ!!!」

 

辻斬り姿のアマツ、刀を台頭した侍の格好をした彼にメイド服姿のリズベットのお盆が命中。この日、新生アインクラッドには笑い声が絶えなかったのは言うまでない




二回目のSAO最高でした!ミトが出た瞬間に、画面に釘付けになりました!いやぁ、ミトはやっぱり良い!あんな美少女と付き合えるテンが羨ましいです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クリスマス特別幕 サンタさんは何処にいる?クリスマスパーティは波乱の連続!

えー、クリスマス特別幕です。個人的はクリスマスとか嫌いですけど、コイツらはパーティ大好きなんです、祝わせてあげようかなと思いまして。まぁ、今の自分はコロナで死に掛けたりとかで祝う気持ちすらもないんですけど………

ソウテン「そいじゃあ、本編どうぞ」


「………………うーん」

 

「おろ?どしたんよ。珍しく悩んでるじゃねぇの、我が息子よ」

 

「何か分からない事があるなら、教えてあげるわよ」

 

12月24日。世界中が一つのイベントに浮き足立つ前日、いわゆるイブと呼ばれる日。家族水入らずの時間を過ごしていた道化師一家。その長男であるロトが何かに思い悩み、唸っていた

 

「サンタクロースって………どっから来るの?」

 

「「……………えっ」」

 

唐突な発言に、ソウテンも、ミトも声を合わせて驚き、固まる

 

「いや、クリスマスにプレゼントくれるんでしょ?ならどうやって来るのかなって。そもそも僕の欲しいものを知ってる理由は?」

 

「えっ〜〜〜と………それはアレよ。テンがサンタさんのお友達なのよ。ねぇ?テン」

 

「えっ!?あっ、うん!そうそう!サンタのヤツとはアイツがロトくらいの歳の時からの知り合いでなっ!其れはもう親友以上に親しい!もうこれは俺がサン----ぐもっ!?」

 

「おろ?とーさん。もう寝る時間か?」

 

「いや……これは床磨きだ……それはそうと、ミトてめぇぇ!!!」

 

ロトの呑気な問いに答えを返しながらも、自分の話を遮ったであろ人物、ミトに駆け寄り、涙目で頭の上の瘤を指差す

 

「貴方ねぇ……其れでも父親?可愛い一人息子の夢を秒速で壊そうとしてんじゃないわよ」

 

「いやでも、流石にどっかで夢から覚ましてやらにゃだろ」

 

「まだ早い。それはそうと……ロトは何をお願いしたのかしら?興味あるな〜、母さん」

 

「いいよ、ほらこれ」

 

そう言ってロトが取り出したのは一枚のチラシ。二人は愛息子が何を欲しがっているかを確認する為に視線を落とす

 

「一家で団欒……炬燵セット?」

 

「うん!これがあったら、とーさんもかーさんも、それに皆で鍋を囲めるから」

 

「うちの子………なんて良い子に育ってるの……明日はお赤飯よ」

 

「いや、ミトさん。明日はクリスマスだぞ」

 

「それもそうね。七面鳥の中に赤飯詰めましょう」

 

「変な創作料理生み出そうとしないでくれませんっ!?まぁ、プレゼントはどうにかするとして、行くか」

 

謎の創作料理を生み出そうとするミトに突っ込みを入れた後、徐にソウテンが立ち上がる

 

「おろ?何処か行くんか?とーさん」

 

「ちょっと、今日は明日のクリスマス用ディナーの準備を手伝ってくれる約束だったじゃない。私、嘘吐きなテンは嫌い」

 

「そーいや、ミト。この前見つけたおめぇさんに似合いそうな服をネット通販で自宅配送にしといたから、明日の夜に届くぞ」

 

「前言撤回、流石はテンね。気配りが出来る貴方が大好きよ」

 

(とーさん、かーさんの扱いが上手いなぁ)

 

嫌い発言からの変貌に、ロトはミトのちょろさを感じるが、声には出さない。ソウテンは、何時も通りの不敵な笑みを浮かべる

 

「そいじゃあ、行くとするか。クリスマスイベントに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レディ〜〜〜〜ス!ア〜〜〜ンド!ジェントルメ〜〜〜〜ン!!!白く降り注ぐは空からの贈り物、一面を彩るは銀幕の雪化粧!光り輝く星の下で、今宵限りの宴を始めようっ!さぁ、歌え!騒げ!叫べ!その翅を震わせろ!新生アインクラッド大クリスマスパーティのスタートだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

12月24日。ソウテンが12月中頃から受けていたイベント企画の依頼から生まれた大クリスマスパーティ、各種族の妖精達が見据える先には一つの舞台。その中央で、特徴的な猫耳をぴこぴこと動かし、愛らしい鍵尻尾をふりふりと揺らし、軽快なステップを繰り広げる少女の手にはマイクが握られ、ミニスカート風のサンタクロース衣装に身を包んでいる

 

『L・O・V・E!シリカ!がんばれ、がんばれ!シリカ!!』

 

「はーい!司会進行はあたし、泣く子も笑うのキャッチフレーズでお馴染みの《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》のみんなに彩りをお届け☆サンタクロースアイドルのシリカでーす!」

 

『L・O・V・E!シリカ!がんばれ、がんばれ!シリカ!!』

 

沸き立つファンからの声援に応える様に慣れた対応を返すのはシリカ。最近はユニット活動からソロ活動まで、幅広い分野で活躍する言わずと知れたアイドル娘である

 

「毎度毎度、飽きないわね………」

 

「うんまぁ………好きだからね、宴会」

 

「グーくん!お姉ちゃんから等身大バナナ抱き枕カバーのプレゼントだ!」

 

「あのグリスさん!良かったらどうぞっ!最高級バナナの苗木ですっ!」

 

「おや、フィリアくん。私の愛弟に何かようかな?懲りない小娘だな、君も」

 

「ああ、居たんだ?サクヤさん。何ですか?今日もメロン持参ですか?芸がないですね」

 

「おいおい、めでたい日に喧嘩すんなよ。ほら、バナナケーキやるからよ」

 

((はうっ………!す、素敵すぎる…!))

 

「鼻血出しとるっ!!!」

 

「マスターとサクヤ様は平常運転ですね」

 

グリスの優しさに鼻血を出すサクヤとフィリアにリーファが驚愕し、エストレージャの毒舌が冴え渡る

 

「騎士の腕の見せ所だ!キッド!これが俺の力作だ!!!」

 

「ディアベルちゃん、バームクーヘンを作るのは構わねぇけどよ。彼女の前で半裸はやめてくれるか?」

 

「…………何か問題が?パンツは履いてるだろ」

 

「脱ぎ方が足りないって意味じゃねぇわ!!!」

 

「うむ、ヒイロよ。キッドがいると突っ込みが楽だな」

 

「うん。その前にコーバッツ、その大量のバナナは何処から持ってきたの?」

 

「あっちの生ハムメロンの隣だ。然しあれだな、果物の王様はやはりバナナだな!」

 

「バナナ好きも大概にしやがれ、バナナオヤジ」

 

パンツ姿でバームクーヘンを調理するディアベルに恋人のキッドが突っ込みを放つ様子を見ていたコーバッツ。その手に握られた大量のバナナを前に乱暴な突っ込みをヒイロが放つ

 

「スグちゃん。クリスマスプレゼントをどうぞ」

 

「えっ…!あ、ありがとう!きっくん!…………なにこれ」

 

「プロテインシェイカーです」

 

「わぁ!脳筋なあたしにはやっぱり、プロテインシェイカーが一番のプレゼント…………って!!誰が脳筋よっ!!!」

 

「クリスマスバージョンのノリツッコミがお上手ですね」

 

「褒められても嬉しくないっ!!というかクリスマスバージョンでもないわっ!!!」

 

プレゼントを贈る時も恒例のリーファ弄りを忘れないヴェルデにキレのあるノリ突っ込みを放つリーファ。その仲睦まじい姿を睨みつける者が居た

 

「止めるなよ、アスナ。俺はヴェルデを今から焼き討ちにする。可愛い妹に手を出した罪をその身で償えェェェ!!!」

 

「ユイちゃん」

 

「はい?」

 

「リーファちゃんの恋を邪魔するパパって、どう思う?」

 

「きらいです」

 

「………はぐっ!!!」

 

「超きらいです」

 

「二回言われたーーーっ!!!」

 

追い討ちをかける様に放たれたユイからの発言にキリトは雪景色顔負けのに真っ白な灰のように燃え尽き、崩れ落ちる

 

「大変よ、テン。うちのトナカイさんとサンタさんがものすごく可愛いわ」

 

「うーむ、こいつは恐ろしいな」

 

セクシーサンタ姿のミトが見詰める先には、トナカイ姿の愛犬とサンタクロース姿の愛息子の姿がある。ソウテンもその愛くるしい姿に恐ろしさを感じている

 

「ププ〜ン」

 

「おろ?プルーがトナカイに。新しいフォルム?」

 

「…………私ね、奇跡の写真家って人に弟子入りしようと思うの」

 

「ミトさんや、毎度のことだけど早まるんじゃないよ」

 

「そうね、取り乱したわ。で?テン。私のサンタコスプレはどう?」

 

「似合う似合う、超似合う」

 

Gracias(ありがとう)。テンの道化師コスプレも素敵よ」

 

「いや、俺はコスプレしてない」

 

プルーとロトの写真を撮りまくるサンタコスプレ姿のミト、その様子を普段からコスプレ的な姿のソウテンが見守る

 

「何時も通りね」

 

「だな」

 

「シノン……良い尻だな!やっぱり!」

 

「ふふっ♪」

 

「…………」

 

傍観するリズベットとアマツの隣では、相変わらずの尻褒めしかしないツキシロの脳天にシノンが火矢を放ち、物言わぬ屍にしていた

この日、新生アインクラッドには笑い声が絶えなかったのは言うまでない

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新年特別幕(2024年) ハッピーニューイヤァァァァ!!初笑いの馬鹿騒ぎ!道化師たちは止まらな〜〜〜い!

新年一発目はやっぱり、コイツ等の馬鹿騒ぎ!!初笑いどころか爆笑を掻っさらう!!ではでは……新年の挨拶をどうぞ!

ロト「新年あけましておめでとうさん、今年も両親ともどもよろしくね。昨年も皆様のご声援のおかげで、作品は二周年を迎えることが出来ました。今年も楽しく、ゴーカイに彩っていくつもりだから、期待しててねー」


「レディ〜〜〜〜ス!ア〜〜〜ンド!ジェントルメ〜〜〜〜ン!!!世界を彩る娯楽は常に側にある………ハジケ、ハジケて、ハジケられ、祝え!新年早々アゲアゲでパーリィなバカ騒ぎの始まりの瞬間を!!新生アインクラッド新春ラッキーレースのスタートだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

1月1日。ソウテンがクリスマスイベントを来年に持ち越してまでに計画した企画、其れは新年を祝うというよりは馬鹿騒ぎしようぜ☆がコンセプトの新春ラッキーレースである。そして、言う必要すらないと思うが言っておかなければならない事がある。各種族の妖精達が見据える先には一つの舞台。その中央で、特徴的な猫耳をぴこぴこと動かし、愛らしい鍵尻尾をふりふりと揺らし、軽快なステップを繰り広げる少女の手にはマイクが握られ、ミニスカート風の着物に身を包んでいる

 

『L・O・V・E!シリカ!がんばれ、がんばれ!シリカ!!』

 

「はーい!司会進行はあたし、泣く子も笑うのキャッチフレーズでお馴染みの《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の美少女彩りアイドルのシリカでーす!よろしくねっ☆」

 

『かわいいーーーー!!!』

 

「そして、そして!更に今回は司会があたし以外にも!」

 

「今日も元気にぴょんぴょん!飛び跳ねるミニマムガール!レンちゃんだよ〜!」

 

『L・O・V・E!レン!可愛い可愛い!!レ〜〜〜ン!!』

 

「頭脳明晰!容姿端麗!眉目秀麗!ロシアが産んだ奇跡の天才美少女!セブンちゃんの御登場よ!Привет(やあ)!」

 

『うぉぉぉぉぉぉ!!セブーーーーーーン!!』

 

仮想世界にその名を轟かせる三大アイドルの登場に観客席が湧き立ち、盛大な拍手と歓声が挙がる

 

「恋人が今年も元気にアイカツしてるなう#竜使いちゃんで、拡散希望」

 

「新年早々の開口一番が主人公である俺ではない件についてを話し合う必要がありますな。作者を呼べ」

 

「リーダー。作者はこれを年末に予約投稿した後に年末に高校時代の友達と久しぶりに飲み会をした後に、中学時代の友達と恒例の初日の出を見に出かけた後に年始は実家で父親と酒盛りをして、最終的に布団にバタンキューしてる。だから、まだ寝てるよ。起きるのは今日の夕方だと思うから、寝込みを襲うに一票」

 

「おやまあ、なんとイカれた正月を送ってやがんだ?あのグラサンヤローは。ヒイロの案に賛成だ」

 

相変わらずの威厳皆無な扱いに、作者を呼べと要求する傍迷惑迷子野郎(ソウテン)だが、即座に弟分がまるで作者が憑依したんか?と言わんばかりの説明口調で彼を咎める

 

「ねぇ、なんか今さっき傍迷惑迷子野郎とか言わなかった?地の文で言ったよな?」

 

「気のせいだろ。あとな、お前が迷子な事は今年も変わらないぞ」

 

「その言葉を打ち返してやろうか?ぼっちこのヤロー」

 

「あっはっはっはっ」

 

「ふっふっふっふっ」

 

「あっはっはっはっ」

 

「ふっふっふっふっ」

 

「あっはっはっはっ」

 

「「………やんのかっ!!!」」

 

「新年早々に喧嘩するんじゃないわよっ!!こんのバカコンビ!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

胸倉を掴み、いがみ合いを始める二人にミトの御約束が命中し、御約束の叫びを挙げ、ソウテンとキリトは倒れ伏す

 

「殴るわよっ!」

 

「ミトさん。言わずもがなだけど、今年も伝家の宝刀は健在だね」

 

「正に我が最強のツッコミ役です。流石はミトさん」

 

今年も冴え渡る伝家の宝刀にヒイロは手を叩き、ヴェルデも眼鏡をくいっと上げながら、彼女を褒め称える

 

「きっくん?分かってると思うけど、今年もあたしはきっくんのおふざけには目を光らせるからね」

 

「おや、スグちゃん。この僕が何時ふざけたのですか?願わくば教えていただきたい」

 

馬鹿物語の生みの親であるヴェルデを睨み、両眼をギランと効果音が鳴らんばかりに光らせるリーファ。然し、当の本人は改める素振りは皆無であり、上半身に来ていたTシャツには「帰ってきた炒飯早食いクラブ」の文字があった

 

「そういうとこだよ!!なに!その服は!?」

 

「炒飯早食いクラブの新バージョンTシャツです。今なら、旧バージョンもセットにして、物販で398円の大特価価格で売っていますよ」

 

「安すぎる!!怪しい!明らかに怪しいよっ!!」

 

「心外ですね!怪しいとは!折角の良心を無碍にされ、僕は傷つきましたよ………スグちゃん」

 

「えっ……あっ……ご、ごめん」

 

何時にないくらいに素直に傷付いた事をアピールするヴェルデ。其れを見たリーファは流石に言い過ぎたか?と思い、素直に謝罪する

 

「いえ、別に気にしてませんよ」

 

「今の謝罪を返せっ!!カレーメガネ!!」

 

「カレーを馬鹿にするとはっ!スグちゃんには、やはり……カレーの生い立ちから話さなくてはならないようですね」

 

「だからいらんわっ!そんな話っ!」

 

謝罪も束の間、即座に何時ものリーファ弄りに戻る姿は慣れと言うべきだろう。安定の二人に今にも飛び掛からんばかりのキリトはアスナに簀巻きにされ、他の面々はレース参加者にも関わらず、炬燵に入り、鍋を突いている

 

「あら、鍋が煮えたわ」

 

「うむ、新年早々から嫁さんの鍋を食えるなんてな。俺は幸せだ」

 

「毎日鍋が食べたいだねぇ?とーさん」

 

「我が息子よ。其れを言うなら、毎日味噌汁が飲みたいの間違いじゃね?」

 

「おやまあ、そうなんか?そいつは知らなんだ」

 

「ママ!ユイに味噌汁の作り方を伝授してください!」

 

「では、マスター・フィリア。私にはポソレを教えていただきたいです」

 

家族団欒を洒落込むソウテンとミト、ロトの三人。その様子を見守っていたガールフレンドたちは母親と主人に料理を教えて欲しいとせがむ

 

「エスちゃん……大きくなったね……」

 

「箸が高いぜ」

 

「ヴェルデ。グリスさんがまた間違えてる」

 

「新しい年を迎えても安定のゴリラですねぇ」

 

「お兄ちゃんは許さん」

 

「お姉ちゃんもだ。フィリアくんみたいなへちゃむくれのおたんこなすペチャパイ迷子娘にグーくんはやらん」

 

「フィーちゃんを悪く言わんでもらえます?うちの妹ちゃんは御近所でも評判の我が家のSol(太陽)なんよ」

 

「そんな褒めても何も出ないよ?テンちゃん」

 

「ぐぬぬっ!ナイスフォローではあるが負けはしないぞっ!私は迷子たちに屈しない!」

 

ソウテンとフィリアの仲の良さに何の対向意識かは不明だが、拳を握り締めるサクヤ。何が彼女をここまで奮い立たせるのは誰にも理解出来ない

 

「ふっふっふっふっ………まさか、新年一発目から、お前との決着を着けられる日が来るとはな……今年こそは俺たち八人衆の時代だっ!!」

 

一家団欒に横槍を入れたのは、見慣れてしまった頭の悪そうな音妖精(プーカ)の青年。然しながら、身内以外を忘れる程の記憶力しかないソウテンは彼の事を微塵も覚えておらず、隣に立つヒイロに何かを耳打ちする

 

「どちらさんでしたっけ?ってリーダーが言ってる」

 

「忘れてんじゃねぇよ!俺だ!八人衆のコンドリアーノだ!!!」

 

「………………こしょこしょこしょ」

 

「まさか、珍獣だらけの島で宝箱にハマったままの生活を続けるお前と再会する日が来るとは思わなかった。大ファンです、○フィの誘いを断った時は信念に涙しました、サインくださいって言ってる」

 

「○イ○ンさんだろうがァァ!!それェェェェ!!」

 

コンドリアーノを○イ○ンさんと勘違いしているソウテン。首を何度も捻り、その末に答えに行き着く

 

「思い出した!登場の度に好感度を上げようと定番ネタを放り込もうとしてくるお笑い集団!!」

 

「新年早々に呼ばれて、飛び出て、じゃじゃじゃん……って違うわっ!!フリューゲルス!!お前もなんか言ってやれっ!」

 

「皆さま、あけましておめでとうございます。本年も兄が御迷惑をお掛けいたしますが、ご容赦ください。本年もよろしくお願いいたします」

 

「新年一発目から礼儀正しいっ!流石は我が妹……って!違う違う!そいつらは敵だぞっ!?フリューゲルス!」

 

「黙っていろ、コンドリアーノ。セブンの活躍の場を台無しにするんじゃはい、鏡餅にしてやろうか?」

 

「新年早々からの身内の暴力!」

 

「新年といやぁ!やっぱり、ありがてぇもんを拝まねぇとなっ!」

 

ぎらりと、トレードマークの犬歯を光らせた青年。獣の雄叫びの如き、笑い声を挙げる彼を見た瞬間にソウテンの視線が動く

 

「おやまあ、ツッキーもいたんか」

 

「貴様は何をしている……ツキの字」

 

「ん?ああ、テンにアマツか。決まってんだろ?初日の出ならぬ初尻を拝んでんだ」

 

「おいおい、総長。初ふとももを忘れてもらっちゃ困るぜ?」

 

「だな!元旦に拝むなら、初へその出一択だ!」

 

「初わきも捨てがたいがな」

 

生クリーム大福を頬張るツキシロ、天ぷらを頬張るリッパー、白米を掻っ込むキッド、ワインを嗜むクイックドロウ。四人の額に鏃が突き刺さる

 

「新年早々に何をしてんのよっ!!こんの変態四重奏(カルテット)!!!」

 

「「「「ず……ずび……ば…ぜ…ん…」」」」

 

「フカ。今年もよろしくね、変態ばっかりだけどフカだけはそのままでいてね」

 

「おうよ☆フカちゃんは今年もレンちゃん推しだぜ?可愛いレンちゃんを激写していくから、よろしく☆」

 

「やっぱり、フカもおかしいんだよなぁ」

 

今年も安定の変態振りを披露するケダモノフレンズたちは生きる活力剤とも呼べる冥界の死神と迎える元旦を謳歌していた

 

「ホントに困った弟だヨ」

 

「グーくんは可愛いから問題ないなっ!」

 

「サクヤちゃんは鼻血を止めようネ?気持ち悪いヨ」

 

「アリシャには分からんだろうが、姉とは弟を愛でるものなのだ。だからこそ!グリス親衛隊長の私がしっかりとしなくてはなっ!」

 

「いやいや、だからね?前にも言ってけど、サクヤさんをメンバーにした記憶はないんだけど?何を自分から勝手にメンバー入りしてんの?」

 

「全くですな。門外顧問にも了承無しにメンバーを語るとは言語道断ですぞ」

 

「おめぇもメンバーにした記憶はねぇよ!河童オヤジ!!」

 

リーダーである自分の承諾も無しに勝手にメンバーを名乗っているサクヤとニシダ。恒例化してしまったやり取りにソウテンは普段とは真逆の突っ込みキャラに変貌していた

 

「リーダーも大変だね。周りがアホばかりだと」

 

「分かってくれるか?流石はヒイロだ」

 

「うん、類は友を呼ぶだよね?リーダーはバカで迷子だから、周りは変なのしかいない」

 

「前言撤回……ヒイロくん、お兄さんはオハナシがあるんだが?」

 

「俺はない」

 

「待てゴラァ!焼き鳥チビっ!!」

 

真剣な雰囲気から一変、道化師は弟分の上げて落とすを体現した行いに、じりじりと詰め寄り、最終的には有名なネコとネズミのコンビにも匹敵する追いかけっこを始める

 

「ミト。レースはどうなったの?」

 

「アスナ?このバカたちが真面にイベントに参加出来るような人たちだと思う?」

 

「思わない。だって、バカだもの」

 

「そういうことよ」

 

寒空の下で行われた新春ラッキーレースは何時の間にか、何時も通りの大宴会に発展し、結果的に新生アインクラッドには初笑いの声が響き渡ることになったのは言うまでもない




皆様、昨年は大変お世話になりました。今年も一つよろしくお願い致します、皆様に笑いの風をお届けしてまいりますので、道化師たちの馬鹿騒ぎにお付き合いくださいませ。以上を作者からの挨拶とさせていただきます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一周年記念特別幕 闇鍋?いいえ、混沌鍋です!

この作品の一周年記念!(厳密には明日)+SAO記念日を祝して、特別幕を書いてみました!アンケート一位の闇鍋です!


「こ、これは……!」

 

「この新生アインクラッドにも実在してたのかっ……!」

 

「ふふんっ、前にも言ったろ?俺の運は最高ステータスなんだよ」

 

信じられない物を見るように、わなわなと震えるソウテンとグリス。その視線の先には一匹の兎型モンスター《ラグーラビット》を片手に得意気にドヤ顔をするキリトが立っている

 

「あの焼き鳥よりも美味しいヤツ……じゅるり…」

 

「ウサギ?まさかっ!レンちゃん!?いやぁぁぁぁぁ!」

 

「シリカさん。ウサギはウサギでも貴女の御友人のレンさんは本当のウサギではありませんよ」

 

「うん、知ってる」

 

「じゃあ、なんで驚いたのっ!?」

 

「バナナとラグーラビット!最強の組み合わせだぜっ!」

 

「うむ!同感だ!グリスよ!」

 

「食材と真摯に向き合うグリスさん……素敵……」

 

「フィー!お兄ちゃんは許さんよっ!ゴリラと交際なんて!」

 

「まーた……やってる……はぁ…」

 

最高級食材を前に浮き足立つ《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々。買い出しに出掛けていたミトは扉を開き、軽くため息を吐く

 

buen momento(ナイスタイミング)だね、かーさん」

 

「あら、ロト。何を盛り上がってるの?ウチのバカたちは」

 

「《ラグーラビット》を見つけたらしいんよ」

 

「またぁ!?キリトの幸運値どうなってるのよ……」

 

「ふっ、僻みか?ミト。だが残念だったな!これは俺とアスナ、ユイの夕飯だ!お前たちにはやらんっ!」

 

「アスナだけど、今日は実家の用事で遅れるわよ。なるべく早めに来るみたいなことは言ってたけど」

 

「なにっ!?」

 

「プークスクス、ウケるんですけど〜。えっ?なになに?彼氏なのに彼女の私生活知らない感じ?うわぁ……可哀想なキリトさ〜ん」

 

「やかましいっ!」

 

小馬鹿にした笑い方と煽り文句を放つソウテン、其れに対しキリトは顳顬をひくひくと動かし、剣を抜刀する

 

「テンちゃんがイキイキしてる……」

 

「テンくんって、ホントに誰かの失敗とか好きよね……昔から…」

 

「リーダーの人生そのものが失敗してるけどね」

 

「辛辣ですねぇ、ヒイロくんは」

 

「というか失敗してないリーダーさんを見たことがないような…」

 

「マイク娘。お前もだいぶ言うようになったな」

 

「まあ、そんなアイツだから引き寄せられたってのもあるんだろうけどね」

 

「なんだ、リズ。居たのか」

 

「一緒に来たでしょうがっ!!!」

 

何時も通りのやり取りを繰り広げるソウテン達の元に徐々に集い始める仲間たち。中にはサクヤを始めとした《ALO》で知り合った者たちも多々見受けられる

 

「グーくんの為にスイルベーンで育てた最高級バナナを持参したぞっ!」

 

「あのグリスさん、良かったらどうぞっ!バナナと相性の良い落花生です!」

 

「おや、フィリアくん。私の愛弟に何かようかな?」

 

「ああ、居たんだ?サクヤさん。何ですか?今日はメロン持参ですか?」

 

「姉貴もフィリアもサンキューな!ほら、このバナナタルトやるよ」

 

((はうっ………!す、素敵すぎる…!))

 

「鼻血出しとるっ!!!」

 

「リーファちゃん。ワタシたちの親友は旅に出たんダヨ」

 

「そうだね……アリシャさん」

 

「良いですか?そもそも河童とはですな……」

 

「河童のおじさんのお話タメになりますっ!」

 

「ユイさま、タメになるの意味が違うかと」

 

「おやまあ、ユイは好奇心旺盛だね」

 

「あらあら、微笑ましいわね〜」

 

「子どもを前に微笑むメイリンさん……な〜〜〜んて素敵なんだぁ〜〜〜〜〜!」

 

グリスの優しさに鼻血を出すサクヤとフィリアを前に自分の親友の痴態から逃避するリーファとアリシャ、ニシダの河童談義を目を輝かせるユイを見守るエストレージャとロト、その光景を優しく見守るメイリンの側では体から小さな竜巻きが発生しそうな勢いで回るクライン。この光景が更に何時もの風景を混沌に彩っていた

 

「じゃあ、みんな。食材を出して」

 

愛用の鍋をストレージから取り出し、テーブルの上に置くとミトが食材を出すように促す

 

「やっぱ鍋にはピーナッツバターだな」

 

「あっ、テンちゃん。落花生あるよ」

 

「いいか?スグ。鍋パスタは文化だ、テストに出るから覚えておけよ」

 

「そんなテストないよ?お兄ちゃん。あたしは無難に焼豚を持ってきたけど……きっくんは?」

 

「ローリエです」

 

「カレーのハーブだよっ!?」

 

「スグちゃんの焼豚の臭みが消えるかと思いまして」

 

「あたし限定のいやがらせっ!?」

 

「すなずりいれる」

 

「あたしはレアチーズケーキを入れようかな。チーズケーキじゃなく、レアチーズケーキを!」

 

「何故、二回繰り返した。俺は……このリズ手製の焼き焦げた何か基暗黒物質(ダークマター)を入れておくか」

 

「誰の料理が暗黒物質(ダークマター)よっ!!」

 

「まともな食材を入れんかぁっ!!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

頭上に鎌と鉄拳が振り下ろされ、御決まりの叫び声と共にソウテン達は床に崩れ落ちる。その光景に遅れて、ログインしたアスナは苦笑する

 

「ユイちゃん?一応聞いていい?」

 

「なんですか?ママ」

 

「何があったのかな……?」

 

「何時も通りですよ。テンにぃたちのおふざけにミトさんの鎌が決まったんです」

 

「確かに……それは…何時も通りだね……」




この作品が一周年を迎えられましたのは、皆様の御声援あってこそに御座います。これからもソウテン達が彩る世界を末永く見守って戴きたくお願い申し上げます。以上を私からの挨拶とさせていただきます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二周年記念特別幕 蒼の道化師は笑わない。

ロト「どもども、ロトだよー。今日は作者さんが不在だからボクが前書きを担当するねー。この作品の二周年記念!(厳密には明後日)+SAO記念日を祝して、特別幕を書いてみました!そーどあーと・おふらいんをモデルにした解説系の話になってます、謂わゆる台本形式故に読みにくいかもしれませんが暫しのお付き合いをお願い申し上げます……以上が作者さんからの伝言だよー。では、本編をどうぞ♪」


ミト「〝蒼の道化師は笑う。〟を普段から、御覧になっている読者の皆様、ごきげんよう。二周年記念情報バラエティ番組の司会を務めることになりました、《紫の死喰い》の通り名を持つ泣く子も笑うのキャッチフレーズで御馴染みの言わずと知れた最強ギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》のサブリーダーのミトです」

 

ソウテン「Hola a todos(皆様、ごきげんよう)、解説を務めますはギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》を率いるpayaso entre payasos(道化の中の道化)、字名に《蒼の道化師》の名を持つソウテンに御座います。以後お見知りおきを」

 

ミト「この番組は皆様の御声援のお陰で二周年を迎えた〝蒼の道化師は笑う。〟に纏わる裏話などをご紹介していこうと思います。ゲストにこの人を迎えています」

 

「どもども〜身に付けたグラサンがトレードマークの青メッシュです。何時も迷子な仮面野郎の所為で、酷い目にあってるけど今日は先手を打った……故に無問題!なんでも聞いてね〜」

 

ソウテン「先手……おろ?何故に俺は縛られてんの?というか下にある煮えたぎる鍋はなんですかね?」

 

「邪魔したら縄を切るからね」

 

ミト「では……青メッシュ基作者をゲストに色々と聞いていきましょう。先ずは、この作品が生まれた理由は?」

 

「孤独なミトが仲間たちと騒ぎ合う世界線を見たかったから、あとキリトに同年代の友達がいるとどうなるのかなぁ〜?という興味本位の融合ですね。コンセプトがギャグとシリアスの複合なのは、テーマとしては一番の王道系コメディという解釈で構いません」

 

ミト「なるほど……私が報われた世界線ですか、素晴らしい理由ですね。其れでは続いて、オリ主であるここに居る迷子(バカリーダー)を含めた《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》についての御話を伺っても?」

 

ソウテン「其れは俺も聞きたい。何故にリーダーなのに、俺の扱いが雑なのかという理由も含めて」

 

「よろしい、聞かせましょう。基本的にソウテンを含めたキャラたちは別漫画のキャラをイメージした訳ではなく、主に作者本人である自分並びに周囲の友人をモデルに生まれた何者にも代え難い大切な存在をデフォルメした感じです。ちなみにリーダーなのに扱いが雑な理由としましては、完璧を絵に描いたような王道主人公よりも欠点のあるキャラの方が長く愛されるのでは?という理由故に、このような迷子が出来上がりました」

 

ミト「納得です」

 

ソウテン「おいコラ、ちょいちょい迷子呼ばわりするのをやめてもらおうか」

 

ミト「うるさいわよ?テン」

 

「おだまり」

 

ソウテン「解説にうるさいとかおだまりっておかしくない!?」

 

ミト「次は原作既存キャラのキャラ崩壊についてを伺いますね。代表的なシリカを含めたあらゆるキャラが誰だ?こいつらは…レベルのキャラ崩壊をしていますよね」

 

「これはアレですね。話を彩るならば、周りも彩る……つまりは主人公であるソウテンの生き様を反映させたいが故に必然的に起こった必要事項であったと反省はしてません」

 

ソウテン「というか、さらりと代表格にシリカを挙げてるけど、一番のキャラ崩壊はミトだからな?本来のおめぇさんは所構わず鍋をしてないんよ?まぁ、可愛から別に構わねぇけどよ」

 

「よくもまぁ、吊るされた状態で惚気られますな?オタクは。目から酒を注いだろか」

 

ソウテン「やれるもんならやってみな。おめぇさんみたいなグラサンヤローに負ける俺じゃねぇよ。グラサン割れちまえ」

 

ミト「はいはい、喧嘩しないの。其れでは次に話の中でありとあらゆるギャグが出てますがこれは何時も自分で考えているんですか?」

 

「う〜ん……其れについては半分正解半分不正解ですかね。半分は考えたり、自分の日常で起こったあらゆる出来事を軸にしたり……そして、後者に当たる半分はあらゆる有名漫画の面白かった話を題材にしたりしてます。因みに作者的には孰れの話も会心の出来栄えですので、この話は嫌いだ…なんて話は一話足りとも存在しません」

 

ソウテン「作者………おめぇさん……そんなことを思っててくれたんか………でもな、それと更新が滞り気味なのは話が別だ。アボカド並びにニンニクを此処に」

 

「「了解!リーダー!!」」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!なんか増えてるぅぅぅぅぅ!!やめてぇぇぇぇ!!!それだけはぁぁぁぁ!!!」

 

ミト「こんな感じで騒がしくて、賑やかで、まだまだ荒削りな作品ですが今後とも〝蒼の道化師は笑う。〟をよろしくお願い申し上げます。皆様の御声援が力となり、作者の創作意欲も湧き上がることでしょう」

 

ソウテン「其れでは、今宵の舞台は……此れにて、幕引きと致しましょう」

 

「また会う日まで、暫しのお別れに御座います。Adiós(さよなら)




この作品が二周年を迎えられましたのは、皆様の御声援あってこそに御座います。これからもソウテン達が彩る世界を末永く見守って戴きたくお願い申し上げます。以上を私からの挨拶とさせていただきます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

フィリア誕生日記念幕 祝え!!道化師と狩人が産み落とされた日!俺たちが祝ってやるぜっ!

フィリアの誕生日!!!という事はテンの誕生日!だからこそ祝わねばなるまいっ!祝ってやる!祝ってやる!呪ってやる!あれ?字が違う…………呪ってやる!!!という訳で、急遽、思いついた話ですが頑張った…………燃え尽きたぜ……真っ白にな…………新作にMAJORの小説を書き始めたので更新速度は落ちてますが生きてます

ソウテン「開き直りやがったな!?グラサンメッシュ野朗!!!」

フィリア「訴えるよ?そして勝つよ」

はっはっはっ、出来るかな?君たちに

ソウテン「ハジケ奥義・アボカドクラッシュ!!!」

ぎゃぁぁぁぁ!!!アボカドはやめてェェェ!!!

ミト「はじまるわよ♪」



「今日はテンとフィリアの誕生日よ、だからゴーカイに祝ってあげようと思うの。どうかしら?」

 

ある日の朝。ギルドホームで寛ぐキリト達を前に、ミトは提案する



 

「どうかしらってすればいいじゃない」

 



「すればいいとは何よっ!!」

 



「ぐもっ!?」



 

投げやり気味に放たれたキリトの発言に対し、ミトの伝家の宝刀(御約束)が振り下ろされる

 

「全くこれだから、ぼっちは。殴るわよ」

 

「既に殴ってるよ?ミト…」

 

鎌を肩に担ぎ上げ、軽くため息を吐く親友にアスナは苦笑気味に突っ込みを放つ。既に物言わぬ屍と化したぼっちを気に留める者はいない、と思いきや、一人の少年が彼を指差す

 

「御覧なさい、スグちゃん。これがお遊戯会で死体役を四歳から十二歳まで演じた男の末路です………南無阿弥陀」

 

「いや死んでないよっ!?というか、お兄ちゃんはそんな役したことないよっ!?」

 

「えっ?そうでした?…………ならば、あの人は誰だったんでしょうか?はて…」

 

「知らんわっ!!!」

 

兄貴分の末路を面白おかしく脚色するヴェルデに例によって、振り回されるリーファは突っ込みを放つ

 

「さっ!さっさと準備をするわよ」

 

「ちょっと待って!ミト!」

 

手を叩き、準備の指揮を取り始めるミト。するとグリスが待ったをかけた

 

「なによ?ゴリ………グリス」

 

「テンとフィリアはどこだ?」

 

最もな疑問、主役である双子の姿が見えないことに誰もが今更ではあるが気付いた。この中で、キリトに次いで二人と行動頻度あるミトは、その疑問に優しく微笑んだ

 

「ああ、二人なら…………トレジャーハントに出て、迷子になってるわ」

 

「「「な〜んだ、迷子になってるのかぁ〜…………って!何やっとんじゃぁぁぁぁ!!!あの傍迷惑迷子兄妹(方向音痴ブラザーズ)!!!」」」

 

「……………あっ!今、俺をゴリスって呼ぼうとしただろっ!?」

 

「気付くの遅いよ」

 

「仕方ないよ。だってグリスさんだもん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっ………へっ………へくちっ!!!」

 

「おろ?風邪か?フィー」

 

薄暗い洞窟。四方全てが岩で閉ざされた静寂の空間、響き渡る妹のくしゃみに疑問を投げ掛ける兄。トレードマークの青いコートは入り口から吹く風に揺れ、顔に冠った仮面から覗く瞳は暗闇で妖しく光る

 

「う〜ん………そうかなぁ?テンちゃんはなんともない?」

 

「なんともねぇよ?生まれつき頑丈だからなー、俺は」

 

「だよね。バカは風邪ひかないもんね」

 

「はっはっはっはっはっ、妹よ。訴えるよ?そして勝つよ」

 

さらりと放たれた罵倒を聞き逃さない地獄耳。笑いながらも彼女を告訴する気満々なソウテン、首を左右に捻る

 

「でもさ〜、久しぶりじゃない?テンちゃんと一緒に遊ぶのって」

 

「そーいや……そだな」

 

唐突に、フィリアが放った話題にソウテンも納得した様に頷く

 

「昔は何時も一緒だったのにね」

 

「だなぁ……おろ?そーいや……今日って何かあった気がする……なんだっけ?」

 

「今日……確かにわたしもそんな気が……なんだっけ?」

 

何か特別な日である事は確かである筈、だがその行事が何なのかを思い出せない双子は左右に首を捻る。その行事が自分たちの誕生日であると気付かないのは、双子ならではの同調(シンクロ)と言える

 

「分かった!パパとママの結婚記念日だ!」

 

「えっ?それって、12月31日じゃなかった?」

 

「あれ?じゃあ、アレだ!テンちゃんとミトの付き合い始めた日!」

 

「あーそれは8月31日だな」

 

「なら、グリスさんの筋肉が素敵な記念日」

 

「そんな気持ち悪い記念日はねぇよ」

 

記念日の中に自分の趣味を捩じ込むフィリアに、ソウテンの鋭い突っ込みが入る

 

「それはともかく、わたしたちは何時になればギルドホームに帰れるの?それもこれもテンちゃんが、地図とチーズを間違えたからだよ」

 

「舐めるな。今日はモッツァレラチーズだから、何時もよりも水々しいぞ」

 

「なんで威張ってるんよ……」

 

モッツァレラチーズ片手に胸を張る兄に対し、フィリアは呆れ気味に思いため息を吐く。元々、暇を持て余していた彼女は偶には兄妹水入らずで出かける事をミトに促され、同じように暇そうにしていたソウテンとお宝探しに出かけたが、方向音痴である筈の二人が目的地に無事に辿り着く事は不可能に等しい。更にソウテンのうっかりミス基定番のボケで地図も無い、絶望的な状況である

 

「ちょっと待て……思い出したぞ、今日が何の日だったか」

 

「ホントに?」

 

「ああ………今日は卵の特売日だ!!!」

 

「…………………はぁ」

 

「アレ?何故にため息?ねぇ、ちょっと?」

 

安定の残念振りを披露するソウテン。遂には突っ込む事をやめたフィリアは、彼の話に耳を傾けようともせずにメッセージを開く

 

『フィリアへ。もうそろそろ、夕飯の時間だから帰ってきなさい。ミトより』

 

「何で母親口調なんよ……」

 

「おろ?ミトからか?」

 

「うん。帰ってきなさいだって」

 

「そうか……んじゃ帰るか」

 

「えっ?帰り道わかるの?」

 

ミトからの帰宅催促メールにソウテンが帰宅すると言い放つ。道に迷っていた筈なのに、このバカは何を言っているんだろうと思いながら、フィリアは問い掛ける

 

「だって、この洞窟………一本道だぞ?」

 

「………………早く言わんかっ!!!バカ兄っ!!!」

 

「ぐもっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「誕生日おめでとーーーーーう!!!リーダー!!!フィリア!!!」」」

 

「「…………おろ?」」

 

ギルドホームに戻った二人を待ち構えていたのは手厚い歓迎。響き渡るクラッカー音と仲間たちの声に、彼等は驚きのあまり、口癖である素っ頓狂な声を上げる

 

「あら、どうかしたの?」

 

「多分、忘れてたんだろ。今日が誕生日だってことを」

 

「あー……ありえる」

 

「だはははっ!!!」

 

「グリスさん……うるさい」

 

「品がありませんね」

 

「あたしがハッピーバースデーを歌いましょう!勿論オリジナルソングです!行きますよ〜!ハッピーバースデー!あたしに祝ってもらえて嬉しい!はい!ご唱和ください!」

 

「マイク娘………なんだその異常なバースデーソングは」

 

「あたしが作詞作曲したバースデーソングです!えっ?タイトルですか?ハッピーバースデー~めちゃカワアイドルが祝う記念日!お誕生日バージョン!ご唱和ください!リピートアフター~です!」

 

「…………………で?ディアベル。お前は何をしている」

 

「見ての通りだ。バームクーヘンを焼いている、隠し味はピーナッツバターだ」

 

「私のバナナも忘れないでもらおう」

 

「…………安定の馬鹿騒ぎ……というか、グリスくんとディアベルさんは服を着ようか」

 

「「何か問題が?」」

 

矢継ぎ早に繰り広げられる何時ものカオス。然し、ソウテンも、フィリアも、目線の先で笑い合うもう一つの家族に優しく微笑んでいた

 

「どう?満足した?お二人さん」

 

Gracias(ありがとう)。やっぱり、最高だよ……おめぇさんたちは」

 

Feliz(嬉しい)♪素敵な誕生日をありがとう」

 

「よし、メインディッシュのペペロンチーノだ」

 

「隠し味はあたしの調合した自家製ハーブだよ」

 

「「あっ、間に合ってるんで大丈夫です」」

 

「「んだとコラァ!!!この迷双子!!!」」

 

「「やんのかっ!!!脳筋兄妹!!!」」

 

「やめんかぁ!!!」



 

「「「「ぐもっ!?」」」」




それでは次は本編で、今宵はこの辺りで幕引きと致しましょう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

秋の特別幕 日頃の働きに大感謝!感謝の心を忘れずに!

久しぶりの番外編、秋の祝日に適したお話を爆弾投下!!今日の主人公はロトだ!

ロト「おやまあ、初めてだ。緊張するなぁ」




「う〜む………どうしたもんか……」

 

ある日の昼下がり。ギルドホームでソファに寝転がり、何かを考え込む小さな影が一つ。何を隠そう、彼こそはソウテンとミトの息子であるロトだ

 

「どうかしたんですか?ロトくん」

 

「ぷぷ〜ん」

 

「悩みとは無縁なロトさまがお悩みとは珍しいです」

 

頭を掻き、悩んでいるロトに声を掛けたのはガールフレンドのユイとエストレージャ、その足元で小刻みに震えるのは愛犬のプルーだ

 

「今日って勤労感謝?とか言う祝日らしいんよ、それに昨日はいい夫婦の日って言う語呂合わせの記念日だったらしくてね。ここは日頃の感謝を込めて、とーさんとかーさんを労ってあげたいと僕は思うんよ」

 

「立派です!ロトくん!ユイもお手伝いしたいです!ママに感謝を伝えたいので!あっ、ついでにパパにも」

 

「微力ならお手伝いさせていただきます。テンさまは我がマスターの御兄弟、言わばもう一人のマスターですので」

 

「ぷぷ〜ん」

 

両親に日頃の感謝を伝えたいと語るロトの優しい心に感銘を受けたユイ、エストレージャは自分たちも身内に感謝を伝える為に助力を申し出る。その間もプルーは相も変わらずに震えているのは言わずもがなだ

 

「Gracias。持つべきモノは優しくて美人さんなガールフレンドだねぇ」

 

「そ、そんな……美人だなんて……えへへ……」

 

「………なるほど、これが照れという感情……興味深いです…」

 

「おやまあ、どしたんよ?顔が赤いよ」

 

「「ナンデモアリマセン」」

 

唐突に放たれたロトからの「美人さん」という言葉にユイは湯気が出そうな勢いで顔を紅潮させ、エストレージャも顔を伏せてはいるがその頬は赤く染まっている

 

「ぷ〜ん」

 

「おやまあ、プルー。お前も手伝ってくれるんか?流石は我が家の愛犬だねぇ」

 

足元で震える愛犬を抱き上げ、笑い掛けるロト。その姿は父と瓜二つながらも、幼さが残る故に、胡散臭い雰囲気は皆無である

 

「取り敢えず、贈り物をするにはどうしたらいいかを聞きに行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という事なんよ。アマツとリズはなんか良いアイデアない?」

 

「ふむ……ロト坊が珍しく尋ねきたかと思えば、理由はそういうことか」

 

ギルドメンバーの中でも比較的に常識人と呼べるアマツに相談する為、工房に足を運んだロトが状況説明をすれば、彼は納得したように頷く

 

「くぅ〜……泣かせてくれるじゃないの!ホントに迷子が取り柄のバカリーダーの息子なの?アンタは。その優しい気持ちだけで家が一軒建つわ」

 

「建つわけないだろう。何を言っているんだ?貴様は」

 

その会話を聞いていたのだろう、工房奥から顔を見せたリズベットは彼の優しさに感動し、満足そうに頷きながらも、不在の道化師を貶す事を忘れない

 

「うっさい、バカアマツ。それはさておきよ、先ずは自分がもらって嬉しいモノは何かを考えることから始めてみると良いわよ」

 

「ふむ…逆転の発想か、悪くはない。リズにしては良い考えだ」

 

「そうでしょ、そうでしょ………ん?あたしにしてはってなによっ!!」

 

「そのままの意味だ。貴様は毎度毎度、いい加減な事を口走る節がある……然しだ、今回に限っては良いアイデアだったから褒め----ぐもっ!?」

 

アマツの顔面にリズベットの右フックが決まる。しかしながら、彼女の怒りは収まっていない

 

「殴るわよっ!」

 

「「「いや既に殴ってるよ!!」」」

 

興奮冷め切らないリズベットが拳を握り締める姿にロトたちが突っ込みを放つ

 

「ヘル子の代わりに夕飯作ってやるというのはどうだ?二人は家族団欒が好きらしいからな」

 

「確かに事あるごとに炬燵で鍋を囲みたがるわよね」

 

「なるほど……参考になったよー。そいじゃあ、ちょいと買い出しに行くとしますかね」

 

二人の意見を参考に夕飯を作ることにしたロトはユイたちと共に街に繰り出す。立ち並ぶ店は何度も母と訪れたこともある馴染みの店である

 

「おっ、ロトの坊主じゃないか。今日はべっぴんさんを二人も連れてるじゃねぇか。お前もやるねぇ」

 

「おじさん、冷やかしはやめてよ。いつものお肉をくださいな」

 

先ず最初にロトが足を運んだのは馴染みの肉屋、筋骨隆々な店主に臆する素振りも見せない彼は軽口を叩きながらも、慣れた口調で注文する

 

「はっはっはっ、すまねぇな。お前がミトの嬢ちゃん以外といるのが珍しいからよ、揶揄っちまった。ほいよ、何時もの肉だ。そういや、八百屋が珍しい野菜を仕入れたらしいぜ」

 

「そうなんか、そいつはありがたい。ちょいと行ってみるね」

 

肉屋に別れを告げ、斜め前の八百屋に足を運ぶ。色鮮やかな野菜が並ぶ店内を歩いていると、奥から足音が聞こえる

 

「こんにちは」

 

「あらあらまあまあ、ミトちゃんのとこのロトくん。今日はおつかい?偉いわね」

 

「珍しい野菜が手に入ったって聞いたんだけど」

 

店奥から姿を見せた緑色のツインテールが特徴的な女性店主と会話するロト。普通に会話をする様子から、彼女とは親しい間柄のようだ

 

「珍しい野菜………もしかして、アレかしら?このネギ!」

 

「ネギかぁ〜鍋には必須だよねー」

 

「すみません!クッキーはありますか?」

 

「ユイさま、八百屋にクッキーはありません」

 

「クッキーならあるわよ〜、ネギクッキーが」

 

「あるんですかっ!?」

 

ユイの的外れな注文に対し、冷静に突っ込みを放つエストレージャであったが即座に耳に飛び込んだ驚きの情報に彼女はらしくない声量で驚きを見せる

 

「あとは出汁かぁ……う〜ん、何が良いかな?」

 

「我がマスター並びにテンさまはピーナッツバターが好物なので、それをベースにするのがベストかと思われます」

 

「闇鍋とかが良いです!パパがよくやってます!」

 

「ユイさま?闇鍋は危険です。素人のアレンジは浅はかというものです」

 

「なるほどです。確かに下手なアレンジを加えたクッキーも味にムラが出ちゃいますからね」

 

「ユイはクッキーが大好きだねぇ」

 

「ロトくんも同じくらいに好きですよ」

 

「そいつはどーも」

 

「私もロトさまをお慕いしてますよ。分かりやすく言うと、マスター・フィリアがグリスさまをお慕いするくらいにです」

 

「………ありがと」

 

普段、母以外からの異性に褒められ慣れていないロトはガールフレンドたちからの突然の告白に対し、頬をほんのりと染めながら、外方を向く

 

「おやまあ、こいつは珍しい組み合わせだ。どしたんよ?我が息子」

 

「両手に花じゃないの。ロトは本当にモテるわね、何処かの迷子と違って」

 

「おやまあ、とーさんにかーさん」

 

帰路に着いていたロトたちを背後から呼び止めたのは、ソウテンとミト。唐突な両親の登場に彼は足を止めた

 

「うんうん……おろ?なんか今、迷子とか言わなかった?ねぇ?ちょっと?ミトさん?」

 

「気のせいよ」

 

迷子扱いに敏感なソウテンが反応を示すも、ミトは柔らかい笑みで気の所為だと告げる

 

「とーさん、かーさん。何時もご苦労さま、今日は僕たちが料理を作るよ」

 

「あら、ロトたちが?嬉しいわ。そうだわ、今日を勤労感謝の日改め愛息子記念日にしましょう」

 

「ミトさんや、毎度のことだけど早まるんじゃないよ」

 

「そうね、取り乱したわ」

 

「ユイもママにごちそうします!ついでにパパにも!」

 

「うんうん、ユイちゃんはキリトには勿体無いくらいの優しい娘さんだな」

 

「んだとゴラァ!!」

 

「ぐもっ!?てめぇ!どっから沸いた!!」

 

「喧嘩なら混ぜろやゴラァ!!!」

 

「「何時の間に脱ぎやがった!!!ゴリラァァ!!!」」

 

直ぐに何時もの戯れの喧嘩を始めるバカトリオ。先程までは三人しかいなかった空間が一気に騒がしさを増していき、次第に何時もの見慣れた風景が広がっていく

 

「やっぱり賑やかが一番だねぇ」

 

「ですね」

 

「今日もアルヴヘイムはにほんばれです!」




気温の変化故に体調を崩し気味ですが生きております。これからも頑張りますので、御声援のほどよろしくお願い致します


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

コラボ 彩りの道化とifの世界線(焔の剣聖)
第一幕 無銭飲食?いいえ、ゴチになりますっ!


今宵の幕はコラボ回に御座います。御相手はミトっていいよねさんの作品《ソードアート・オンライン~焔の剣聖~》に御座います

この作品を知らぬ方がいらっしゃる?おやまあ、其れはいけない。シリアスとカッコよさを掛け合わせた我が作品とは異なる世界観は必見!一度読み出すと止まらくなる事、間違い無しです。はてさて、今宵のコラボは我が家のギャグテイスト全開で御送りするifの話……皆様の御眼鏡に敵いますかは見てのお楽しみに御座います。其れでは、この辺りで幕引きと致しましょう


「宝くじが当たった……」

 

この日、少年は少ない小遣いを貯めて買った宝くじが当選していた事に気付く。全身を黒一色という味気ない色合いでコーディネートした彼の名は桐ヶ谷和人、仲間からは愛称の「カズ」の名で親しまれている

 

(しかも……100万円!!!マジかっ!俺の強運マジパネェ!母さん、俺を産んでくれてありがとう!!)

 

天高い所にいる産みの母に感謝の意を示す和人。その手には一枚の宝くじが握られているが換金はしていない為に、未だに彼は無一文である

 

「………ほう、良いものをお持ちだな。カズくん」

 

「………ぎゃぁぁぁぁ!!何でいるんだっ!迷子っ!!」

 

「誰が迷子だ」

 

突如、聞こえた背後からの声に、和人は飛び退いた。其処には青い羽織を着た胡散臭さが目立つ少年、彼の親友である天哉が佇んでいた

 

「なぁ、カズよ。腹減ったからファミレス行かね?」

 

「ファミレス?まあ、構わないぞ。パスタ食えるし」

 

天哉の提案に従うように近くのファミレスに入り、好物のパスタを前に舌鼓を打ちながら、目の前の親友に視線を向ける

 

「しかし……よく食べるな」

 

「まあな。ちょいと喧嘩してきてよ」

 

「またかよ……そろそろ真面目に生きろよな。カイに怒られても知らないぞ」

 

「堅いことは言いなさんな……なぁ?カイ」

 

「だな。このマヨネーズ野菜スティックに比べたら、些細なことだ」

 

「…………何でいるんだよっ!?」

 

自然な流れで会話に加わっていたのは、チームメンバーであり年長者でもある神里伊緒。彼は野菜スティックに好物のマヨネーズを付け、天哉の問いに肯定していた

 

「何時ものゲーセンに行こうとしたら、ファミレスに入っていくテンとカズが見えたから、一緒に入ったんだ。気付かなかったのか?」

 

「きっと目先のパスタに目が眩んだじゃねぇかな。ほら、あの人。パスタ馬鹿だから」

 

「なるほど、パスタ馬鹿なら仕方ないな」

 

「黙れ、迷子ピーナッツにゲーマヨラー」

 

「「やんのか?ぼっちパスタ。このヤロー」」

 

パスタ馬鹿呼ばわりされ、彼等の好物を交えた悪口を吐く和人に天哉と伊緒が眼の色を変えたように喧嘩越しの態度を取る

 

「落ち着けよ、お前ら」

 

「そうですよ。フランスでは静かに食事をするのを知らないんですか」

 

「このファミレス品揃え良くない、焼き鳥が無い」

 

(あれ?なんか……知らない間に増えてるっ……!!!)

 

喧嘩に発展しようとした和人、天哉、伊緒のやりとりを止めたのは純平を筆頭にした残りのメンバー。女性メンバーの深澄は不在だが、この場にチームメンバーが集合している事に和人は気付き、心中で突っ込みを放つ

 

「純平、菊丸、彩葉!何をやってんだっ!お前らはっ!」

 

「無銭飲食に決まってんだろうが」

 

「タダ飯とも言いますね」

 

「開き直るなっ!バナナゴリラにカレーメガネっ!」

 

「「やんのか、ぼっち」」

 

堂々と無銭飲食と言い切る純平、菊丸を相手にやはり彼等の好物を交えた悪口を吐く和人に対し、眼の色を変えた二人が喧嘩越しの態度を取る

 

「この鶏胸肉の地中海風ムニエルセットをごはん大盛りで」

 

「あっ、俺は春巻きセットにピーナッツバターね」

 

「俺はカツ丼とマヨネーズを」

 

矢継ぎ早に料理を頼み捲る面々、知らぬ間に料理で埋め尽くされるテーブルを前に和人の怒りが頂点に達する

 

「勝手に頼むなっ!!!そもそも金は誰が払うんだっ!」

 

「「ゴチになりますっ!」」

 

「ご馳走様するとは言ってねぇっ!!!」

 

有名番組を彷彿させる名台詞と共に自分に頭を下げる面々に対し、和人は叫びを挙げる

 

「話が違うじゃないか。テン」

 

「全くだぜ、お前がトークアプリでカズのおごりって言うから来たのによぉ」

 

「リーダー。嘘はいけない」

 

「ミトさんに言いつけますよ」

 

「おいコラ、カズ。おめぇは仲間にご馳走するくらいの意気はねぇんか」

 

「何を開き直ってるんだ、迷子野朗。仕方ない……スグに事情を話して、金を工面してもらうか……」

 

「じゃあ、俺も琴音に頼むか。あいつのへそくりたんまりあるし」

 

「お前らは妹に迷惑を掛け過ぎだ。俺を見習え」

 

「カイさん?アナタの妹さんは幼稚園児だと、記憶していますが」

 

「カイさんもおバカ」

 

徐々に天哉達の空気に呑まれ始めてきた伊緒に、菊丸と彩葉から突っ込みが飛ぶ

 

「ナハハハ!どいつもこいつもだらしねぇな!」

 

「純平。バナナやるから、黙っててくれ」

 

「マジでっ!カイは良いヤツだなっ!」

 

((単純だな、このゴリラは))

 

バナナを手渡された瞬間に、伊緒の味方に回る純平を前に天哉達は彼に餌付けされるゴリラの面影を見た

 

「動くな」

 

刹那、運ばれてきた料理に舌鼓を打つ天哉の顳顬に銃口が突き付けられた。しかしながら、その口は止まらずに全員が動作を継続している

 

「「……もぐもぐ」」

 

「食うのをやめろォォォ!コレが見えねーのか!!ガキ共ォォォ!」

 

銃を気にせずに黙々と食べ続ける天哉達に対し、銃の持ち主が叫ぶと他の客は対象的に怯えを隠せず、逃げ惑う

 

「俺が乗っ取たからにはお前らは人質だっ!」

 

「………目立ちたがり屋さん?」

 

「「強盗だろっ!どう見てもっ!バカリーダー!!!」」

 

天哉の素っ頓狂発言に伊緒達の物理的な突っ込みが飛んだのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の深澄ちゃん&直葉ちゃん&琴音ちゃん

 

「テンも、カイ達も遅いなぁ……。何してるんだろ…」

 

何時ものゲームセンターの休憩室にあるテレビを見ながら、手にしている携帯ゲームを弄る

 

「わわっ、コトちゃん。ごーとーだって」

 

「わぁー、テンちゃんが巻き込まれてそうだね」

 

「うーん……大丈夫かなぁ…?テン達……」

 

まだ来ぬ友達と兄達を心配していた




ファミレスで人質に取られたテン達とカイ!一体どうなる!あれ?これって、強盗の方が危なくね?

NEXTヒント チャージ料は大切なんよ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二幕 白熱!昼下がりのファミレスバトル?

コラボの続きでーす。ギャグテイスト話があともう1話くらいありますので、お楽しみ頂ければ幸いです


「あ〜……駄目だ、完全に二日酔いだ…。翠のヤツに合わせてテキーラとか呑むんじゃなかった……酒なんか二度と見たくねぇ…」

 

「蒼井警部、今はもう昼なんですけど?この時間まで二日酔いとか何次会までやったんですか、アンタは」

 

「あ?八次会だけど?」

 

「人間じゃねぇよ、お前。それはそうと店内の監視カメラと映像接続出来ましたよ」

 

真顔で答える蒼井に対し、上司ではあるが部下はタメ口で突っ込みを放ちつつ、パソコンを器用に操作し、立てこもり現場の監視カメラの映像を映し出す

 

「音声は拾えませんが、現在の人質は六人。犯人は単独犯ですが凶器を所持しているようです」

 

「なるほどな、六人も人質がいんのか……あ?なんか見た事ある面だな、特にこの青い羽織を着たガ………あんのクソガキっ!何してやがるっ!?」

 

「知り合いですか?警部の」

 

「まさかの噂の悪名高い息子さんとか?って、そんな訳……」

 

「……………」

 

「「ウソだろっ!?」」

 

店外では、その様なやり取りが行われている頃。人質にされた天哉達は未だに食べ続け、顳顬付近に銃口を突き付けられていた

 

「だから、食うのやめろォォォ!でないと、この銃が---ぐもっ!?」

 

「まあまあ、落ち着きなよ」

 

「そうだ。焦るのは良くねぇ、取り敢えずは座って何かを注文しやがれ」

 

「ふざけるなっ!この銃はな!本物なんだっ!お前らみたいなガキの命なんざ、一瞬で奪えるんだ……って!なんだコレェ!?」

 

銃を見せびらかすように天哉と純平に向ける強盗犯であったが、唐突に飛来したパスタが銃に刺さっていた

 

「なるほどな、確かに本物みたいだ。パスタが刺さりにくい」

 

「何しやがるっ!クソガキっ!大人を舐めんじゃ……」

 

「落ち着かないと脳天に串を刺す」

 

「座りなさい、そして頼みなさい」

 

「ひぃぃぃぃ!な、なんだ!お前らはっ!」

 

強盗である自分に物怖じしない天哉達に強盗犯は戦慄にも似た悲鳴を挙げる。しかしながら、唯一の常識人である伊緒だけは違った

 

「強盗さん。犯人は刺激しない方がいいぞ」

 

「おやまあ、誰が犯人か」

 

「そうだ!いつ俺たちが犯罪を犯したんだ!カイ!」

 

「さっきの行動と何時もやってるやり方の両方ともだよ、バカども。其れともあれが犯罪じゃないって言うのか?だったら何が犯罪かを言ってみろ」

 

「ふ…不平等な世の中…」

 

「平等じゃないのはテンの頭だ。魂胆は分かってるぞ?強盗が盗んだであろう金を上手く巻き上げて、支払いさせようとしてるんだろ」

 

((ぎくっ!!!))

 

「なんだとっ!?最低だなっ!お前っ!」

 

「何を言う、これはアレだ。マネーロンダリングだ」

 

「そんな不条理なマネーロンダリングがあってたまるか」

 

「ちっ……まぁいいだろ。とにかく!この七人の誰かがここの会計である10万円を払う!其れで異論はねぇはずだろっ!」

 

「待て!俺は頼んでないぞっ!勝手に混ぜるなっ!」

 

「なんだ、知らないのか?居酒屋には席に座るだけで取られるチャージ料ってのがあるんだ、ちなみにここのチャージ料は10万円だ」

 

「高くねっ!?」

 

強盗の盗品を当てにこの状況から抜け出す事を考える天哉達の表情は極悪人と変わらない。その状況に伊緒はため息を吐く

 

「アホらしい…俺は帰るからな」

 

「あっ、空飛ぶマヨネーズ」

 

「なにっ!!」

 

「焼き鳥買いに行こっと」

 

「しまった!彩葉のヤツ!策士かっ!!」

 

年少の彩葉が繰り出した見え見えな嘘に騙された事に伊緒が気付いた時には既に遅く、彼は大量の串だけを残し、消えていた

 

「んあ?なんだ、電話か。もしもし?」

 

『純くんか?お姉ちゃんだが、バナナが大量に安売りされていてな。今日はご馳走にしようと思うんだが』

 

「分かった。直ぐに帰るぜ、アネキ」

 

「あっ!純平のヤツもいねぇ!!!」

 

「ふむ、ゴリラの割に素早いですね。純平さんは」

 

気付けば、純平の姿は無く、残されたのは御土産が追加された伝票だけであった

 

「………げっ!オヤジがいるっ!こうしちゃいられんっ!必殺ファンタジスタダッシュ!!!」

 

「「待ちやがれっ!迷子!!!」」

 

群衆の中に刑事である父親を見つけた天哉は前方の窓硝子を蹴り割り、溜まり場のゲームセンターとは反対方向に走り去っていく。そして、残された伝票に窓硝子の弁償代が追加されていたのは言うまでもない

 

「くそっ!こうなったら、ここにいるお前たち三人の何方かが代金を支払うんだっ!分かったなっ!?」

 

「何をナチュラルに自分を候補から外してるんだよ」

 

「スグちゃんに言い付けますよ」

 

「そうだ!俺はな病気の母さんの為に治療費が必要なんだっ!この金は渡さんっ!!!俺はこの金で----ぐもっ!?」

 

「バカヤロウっ!!!そんな金でお母さんが喜ぶ訳あるかっ!!!いいか、金ってのはな!誠心誠意、汗水流して稼ぐから価値があるんだっ!そんな汚れた金は俺に預けて----ぐもっ!?」

 

金を強奪した理由を明かした強盗に力説しながらも金を巻き上げようとする和人の後頭部に凄まじい衝撃が襲う

 

「ほらよ、この金をやるからお母さんの治療費を払ってやんな」

 

「お前…さっきの……」

 

「なーに、俺は何も見てないし…事件にも巻き込まれてない。こいつはちょっとしたスリル体験をさせてくれた御礼だ」

 

「これに懲りたら、二度と馬鹿な真似をするなよ」

 

「やれやれ、終わりましたか」

 

「うぅ……ありがとう……ありがとう……」

 

天哉が用意した謎の金を手に、彼は警察に出頭した。こうして、昼下がりに起きた騒がしいファミレス食い逃げバトルは幕を閉じたのである

 

「あれ?俺の宝くじがない………あんの迷子めぇぇぇぇ!!!」

 

人知れず、置き去りにされた和人が目を覚ましたと同時に夕陽に叫んだのは別の話である




ミトと遊園地に来たテン、しかし其処には見た事あるバカたちの姿があって……更にはカイまでもいたりして……

NEXTヒント 遊園地は遊ぶから遊園地なんよ

ちなみにこのifでは、きっちりとミトさんも我が作品の鍋女でテンの奥様してます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三幕 お兄ちゃんは許しませんよ!遊園地デートなんて!

コラボ最終幕は意外なカイくんの姿をお見せしましょう。この物語を彩る素敵なキャラをお貸しいただいた、ミトっていいよねさんには感謝しか御座いません。其れでは、最終幕を心ゆくまでお楽しみくださいませ


「遊園地で、ライブがあるので皆さんを招待してあげます!行きましょう!どーですかっ!」

 

ある日の昼下がり。ギルドホームで寛ぐソウテン達を前にシリカが高らかに宣言する

 

「どーですかって行けばいいじゃない」

 

「行けばいいじゃないとは何ですかっ!!」

 

「ぐもっ!?」

 

投げやり気味に放たれたソウテンの発言に対し、シリカの必殺技であるマイクナックルが炸裂する

 

「良いですか、この遊園地のイベントはあたしのアイドル生命を掛けた最大の賭けなんです。と言う訳で、リーダーさんやカイさんを含めた皆さんにはスタッフとして、御手伝いをお願いしたいんです」

 

「あっ、俺はパス。その日はマヨネーズ工場に見学に行くんだ……ぐもっ!?」

 

「拒否する事を拒否します」

 

((理不尽な暴力っ!!!))

 

常識人のカイさえもシリカの被害を受け、ソウテンの隣に倒れ伏す。その光景にミト達は戰慄にも似た表情を浮かべ、心中で突っ込みを放つ

 

「兎に角、手伝ってもらいますからね」

 

「「あい……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。シリカの願い(強制連行)を聞き入れ、ALO内に新設された巨大テーマパークへとソウテン率いる《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》は来ていた

 

「ふわぁ………だいたい、仮想空間に遊園地ってなんだよ。作る意味あんのか?」

 

「何も無いよりは良いじゃない。どう?休憩時間に一緒に回る?」

 

「あー、いいかもな」

 

「駄目だ。お兄ちゃんは認めないからな、二人だけでデートなんて」

 

「「どっから湧いた、似非お兄ちゃん」」

 

休憩時間の予定を計画していたソウテンとミトの間に割って入るように現れたカイが、顰めっ面を浮かべる

 

「いいか?ミト。男はケダモノだ、特にあの迷子は駄目だ。見ろ、明らかに胡散臭いだろ?あの仮面」

 

「カイは私のなんなのよ」

 

「訴えるよ?そして勝つよ。このマヨラー剣豪」

 

「ミトが欲しければ、俺を倒してからにするんだな。迷子ピーナッツ」

 

互いに軽口を叩き合い、笑い合うソウテンとカイ。しかし、数秒の沈黙が訪れ、一時の間、静寂が支配する

 

「「………やんのかっ!!!」」

 

「なんで喧嘩になってるのよっ!?」

 

胸倉を掴み、いがみ合いを始める二人にミトが突っ込みを入れる。元々、カイはミトのゲーム友達だった過去があり、ソウテンとは出会った日に壮絶な喧嘩により、分かり合い、新たな日々を過ごす事を提案したソウテンが手を差し伸べ、仲間に引き入れたのだ

 

『はぁはぁ…強いな、お前…』

 

『お前じゃない、蒼井天哉だ。呼ぶ時はテンで良いぜ?』

 

『テンか……分かった、俺は神里伊緒。カイって呼んでくれ』

 

『よしっ!じゃあ行くか!カイ!』

 

『俺もか?』

 

咄嗟に腕を掴まれ、面を食らったように問うカイ。しかしながら、其れに対し、彼は無邪気な年相応の笑みで笑っていた

 

『一人よりも二人、二人よりも三人、三人よりも沢山……その方が楽しい日々を彩れるだろ?だから、カイも今日から仲間だ!』

 

『………… じゃあ、御言葉に甘えようかな』

 

『ところでよ、入間市はどっちだ?』

 

『ミト。恋人にするヤツは選んだ方がいいぞ、こんな迷子が恋人なんて、お兄ちゃんは断じて認めないからな』

 

『カイは何時から、私のお兄ちゃんになったのよ』

 

一度は家庭の事情で離れた事もあるが、再会後も彼と仲間たちは変わらずに接してくれた。其れはカイにとって、確かな繋がりであると同時に愛すべき絆である

 

「さて……どっから回るか…」

 

「おい!テンにカイ、グリス!アレ見ろよ!めちゃくちゃ面白そうだぞっ!」

 

「「「ん……おおっ!」」」

 

何処を回るかを考え、地図を見ていたソウテンとカイ、グリスにキリトが呼び掛ける。彼が指し示す先には世界の調味料ミュージアムという謎の館が佇んでいた

 

「「いやなにっ!その辺な館はっ!」」

 

「焼き鳥屋あるかな」

 

「さて、スグちゃん。カレーでも食べに行きましょうか」

 

「あたし、カレーライスよりもカレーうどんがいいな」

 

「スグちゃん。君は敵です」

 

「なんでっ!?」

 

「コーバッツ!アレを見ろっ!ナイト体験が出来るらしいっ!」

 

「なに、其れでは私は農家体験でもするとしよう」

 

「ナイト体験だって言ってるだろ?このゴリラオッサン」

 

「ああもう……せっかくのデートが台無し……きゃぁぁぁぁ!!!」

 

「どうしたのっ!?ミトっ!!!」

 

何時も通りの暴走振りを発揮させるバカたちの姿にため息を吐いていたミトが突如、悲鳴を挙げた。其れに気付いたアスナが彼女に駆け寄る

 

「ふざけ過ぎだ」

 

「「「ず……ずび……ば…ぜ…ん…」」

 

ミトの視線の先では、手にした包丁をぎらり、と光らせる少年の足元で馬鹿騒ぎしていた全員が無力化されていた

 

「しょ、職人さん……い、いらしてたんですか…」

 

「ああ、マイク娘に舞台の設営を頼まれてな」

 

「えっと……そいつはなんですかね…」

 

「ああ、これか?包丁だ」

 

「ほ、包丁ですか…えっと、料理を作っていただけたりとか…するんですかね…」

 

「そんな訳ないだろう?これは……ふざけまくっているお前たちを細切れに刻む為の包丁だ」

 

「な、な〜んだ」

 

「そういう意味の包丁か〜……」

 

「「ゔぇっ!?」」

 

「覚悟しろ……このバカどもっ!!!」

 

「「ぎゃぁぁぁぁ!!」」

 

包丁片手に追ってくる少年基アマツから逃げ惑うソウテン達。当初の目的であるシリカの手伝いや休憩時間等はそっちのけで、相変わらずな光景へと早変わりする

 

「仕方ない……こうなったら、シリカのライブに乱入しよう」

 

「「なるほど…!!」」

 

「どっから、そういう話になったのっ!?」

 

「今更よ。テン達が何の脈絡も無いのは」

 

「ああ、そうだな。お兄ちゃんもミトの意見に同感だ」

 

「カイの字。貴様は何時から、ヘル子の兄になったんだ」

 

「カイてめぇ!ミトに近付くなっ!」

 

「ふんっ、嫉妬か。まだまだガキだなぁ?テン」

 

「マヨネーズに塗れろ、お前なんか」

 

「お前はピーナッツバターに埋もれろ」

 

「「………やんのかっ!!!」」

 

「だからなんで喧嘩になってるのよっ!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

胸倉を掴み、いがみ合いを始める二人にミトの御約束が命中し、御約束の叫びを挙げ、ソウテンとカイは倒れ伏す

 

「殴るわよっ!」

 

「いやもう殴ってるだろ」

 

さぁ(ふぁ)……頑張って(ふぁんふぁふぁふぇ)…“彩って(ふぃふぉふぇふぇ)”…やろう(やふぉふぅ)

 

『前途真っ暗だよっ!!!』

 

こうして、騒がしくも賑やかな一日を今日も彼等は彩って往くのであった。そして、人知れず道化師は不敵な笑みを浮かべ、深々と頭を下げる

 

「歯車の噛み合いによっては、あり得たかもしれない、もしもの世界線に於けるもう一つの物語。…お楽しみいただけましたか?皆様の御眼鏡に称う日々を彩れておりましたら、拍手御喝采の程、御願い申し上げます。其れでは、今宵の舞台は……此れにて、幕引きと致しましょう。またあるかも知れぬ、もしもの物語まで、暫しのお別れに御座います。Adiós(さよなら)

 

此れは歯車の噛み合いによって、あり得たかもしれない、もう一つの世界の物語

 

炎の様な赤いコートを身に纏い、手には赤く透き通るような輝きを放つ刀を手にした剣士

 

その剣士の一振りは、焔を幻視し、熱を感じさせる

 

その名を、《焔の剣聖》と申す




再び、感謝の意を。ミトっていいよねさん、本当にありがとうございます!こんなアホみたいな作品にコラボを申し出てくださるとは…うぅ……感無量……皆々様、これからも我が蒼の道化師は笑う。とミトっていいよねさんのソードアート・オンライン~焔の剣聖~を末永く宜しくお願い致します。其れでは今宵はこの世界を辺りで幕引きと致しましょう。ミトっていいよねさん!Gracias(ありがとう)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

コラボ 彩りの道化とifの世界線(シン・仮面ライダー)
コラボ幕 誰も知らない出会いの物語?仮面の戦士はちょいとセクハラが過ぎるヤツ?


今宵の幕はコラボ回に御座います。御相手はポンコツNOさんの作品《SAO〜その武器無し、ENJOY勢〜》に御座います

この作品を知らぬ方がいらっしゃる?おやまあ、其れはいけない。我が作品にも引けを取らない、もしかするとそれ以上かもしれない最強のギャグの世界観は未知数!はてさて、今宵のコラボは我が家のギャグテイストに更なるギャグ世界観をミックスした正に混ぜるな危険!で御送りするifの話……皆様の御眼鏡に敵いますかは見てのお楽しみに御座います。其れでは、この辺りで幕引きと致しましょう


「ねぇねぇ、とーさんってキリトたち以外に友達とか居たりするの?」

 

ある日の昼下がり。ギルドホームで自堕落にだらけていたソウテンに息子であるロトが疑問を投げかける

 

「おやまあ……こいつはまた唐突だな?我が息子よ」

 

顔に被せていた本を取り、息子からの問いにソウテンは意外そうに両目を瞬きさせる

 

「いやだってさ、とーさんがキリトたち以外と居る姿はデフォルトでしょ?でもさ、普通に他の知り合いとかは居ないのかなぁ〜と僕は幼いながらに思うわけですよ。実際のところを教えてくれん?」

 

「なるほどな……ちなみにキリトたちってのはツッキーとかは含むんだよな?」

 

最もな答えを返され、顎に手を当てながら考え込むソウテン。それなりの付き合いがある者の名前を出し、ロトからの答えを待つ

 

「勿論、会ったことある人は全員ね。だから僕の知らないとーさんの友達の話が聞きたいなぁ〜」

 

「オーケーオーケー。なら、ちょいと昔話をしてやるよ……Una historia que nadie sabe(誰も知らない物語を)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………なぁ、ミトさんや。ここは何処だ?」

 

「其れは私の台詞よ?テン」

 

樹木が生い茂る樹海。四方全てに人の影が一つも見受けられない場所、佇むのは二つの影。一つは紫色の装備に身を包み、腰からぶら下げた鎖鎌が特徴的な紫色の尻尾(ポニーテール)の少女、ミト。もう一つは青いコート姿に槍を担ぐ仮面の少年、ソウテン。両名とも、ギルド彩りの道化(カラーズ・クラウン)に名を連ねるサブリーダーとリーダーである

 

「いいか?人は誰しも間違いを犯す、今回はちょいと予定が狂っただけだ」

 

「其れらしい事を言ってるけど、要するに迷子よね?何時も通りの御約束よね?迷子くん」

 

「迷子じゃない」



 

「迷子よ」



 

「迷子って言うヤツが迷子だ」

 

「やっぱり迷子なんじゃない。其れで?これから、どうする?迷子くん」



 

「やめろ、迷子を連発するな。まるで俺が迷子みたいだろ」

 



「実際に迷子なのよ?バカテン」


 

迷子扱いに非常に敏感なソウテンは迷子くんと呼ばれる事に、難色を示すもミトは冷静に彼を咎める

 

「はっはっはっ。その鎌、だいぶ傷んでるな?貸してみな、手入れしてやろう」

 

「い・や♪」

 

両手をわきわきさせ、詰め寄るソウテンを綺麗な笑顔で拒絶するミト。普段通りに仲睦まじい二人であるが、忘れてはならない。彼等は迷子である

 

「其れはそうとホントに何処だ?ここ」

 

「さぁ?隠しエリアとかじゃない?ベータ版では見たことないし………ん?なんか聞こえない?なにこれ?エンジン音?」

 

辺りを見回すソウテンに適当な相槌を返しながら、紅茶を嗜んでいたミトは風を切るかの様に響き渡る爆音が近付きつつある事に気付いた

 

「あ?なに?テムジン?モンゴル人に知り合いなんかおらんよ?俺は……ぐもっ!?」

 

「どういう耳をしてるのよ!?エンジン音よ!エンジン音!」

 

聞き間違い以前に意味不明な事を口走るソウテンの頭上に御約束を決め、近付くエンジン音に気付いたミトは即座に飛び退いたが物言わぬ屍とかした道化師は地面に減り込んでいた

 

「「ヒャッーホッーーー!」」

 

「ぐもっ!?」

 

「ゼットぉぉぉぉ!人を轢いた!今明らかに!アンタ!轢いたわよっ!」

 

「えっ!?なに?マジで?まさかの当たり屋か!表に出ろ!」

 

木々の間から飛び出したオートバイに乗った二人組。赤いマフラーが特徴的なヘルメットの少年、焦茶色の尻尾を揺らす少女は自分たちが出た先に倒れていた胡散臭さが服を着た仮面馬鹿(ソウテン)が下敷きになっている事に気付き、騒がしいやりとりを始める。ちなみにミトは普通に紅茶を嗜んでいた

 

「おいコラ、随分な言い草をするじゃねぇの。人を轢いておきながら、何を当たり屋呼ばわりしてんの?新手の詐欺ですか?このヤロー」

 

「残念だったな、サギよりも鶏の方が好きだ。食えるからな」

 

「鳥の話なんかしてねぇんだけどっ!?」

 

「したじゃねぇか!なんだ!お前は!胡散臭い仮面付けやがって!」

 

「ヘルメット付けたやつに言われたくねぇわ!そもそも!ヘルメットってなんだ!アホか?アホなのか!?」

 

「舐めんな!ヘルメットはアイデンティティだ!」

 

「俺はアイデンティティよりもフリーザ様が良い。あの人は部下を大事にするぞ」

 

「DB芸人の話じゃねぇわ!!」

 

目の前で唐突に始まるボケと突っ込みの嵐。初対面にも関わらず、息の良さを見せる二人に取り残された女子二人は完全に蚊帳の外である

 

「すっかりと仲良くなって。テン?知らない人に迷惑を掛けるのは駄目よ。フィリアに告げ口するわよ」

 

「仲良くなってねぇよ。あとフィーに告げ口は勘弁、二十四時間耐久説教は二度と受けたくない」

 

「馬鹿を通り越してイカれトンチキね」

 

「ゼットも謝って。この人を轢いたんだから」

 

「エースちゃん。俺は悪くない、この変なのが目の前にいたから轢いただけだ。お分かり?」

 

「分かるかっ!!!」

 

慣れ故にソウテンの言い分に呆れるミトとは裏腹にゼットと呼ばれた少年の言い分に少女、エースは両眼をくわっと見開き、吠える

 

「賑やかな奴らだなぁ……なんか彼奴等と騒いでる時と変わらねぇんだけど」

 

「そうね、年中サファリパークよね」

 

目の前の光景に近視眼を感じながら、紅茶を啜るソウテンとミト。慣れ過ぎた光景に酷似している故か、彼等は落ち着いていた

 

「どんな暮らしをしてたら、そんな会話が出るんだ?なぁ?エースちゃん」

 

「胸を揉むなっ!」

 

「尻好きの変態と似た類いのヤローか。ミトの膝に勝るものがないのを知らんのか---ぐもっ!?」

 

「張り合わんでいい」

 

堂々と胸を揉むゼットの脳天に拳を叩き込むゼット。その姿にスナイパーの尻を桃源郷と呼ぶ変態獣を思い浮かべ、ミトの膝を引き合いに出すソウテンの頭上に御約束が放たれる

 

「紫色の人は膝が魅力なのか。是非とも改めが必要だな」

 

「やめんかっ!」

 

「ミト。変態は何処にでも湧くんだなぁ」

 

「類は友を呼ぶって言うでしょ」

 

「全くだ………あれ?それって?俺が変態って言ってんの?」

 

「言ってないわよ?ソウテンくん」

 

「嘘吐けェ!明らかに距離を置いてんじゃねぇか!」

 

「別に距離なんか、置いてませんよ。道化師さん」

 

「敬語になってんよな!?すいません!俺が悪かった!」

 

夫婦漫才を繰り広げるソウテンとミト。矢継ぎ早に放たれる突っ込みの嵐にゼットは密かに思っていた

 

(コイツ……中々に出来る!俺とエースちゃんを上回る夫婦漫才!もしや!本業か!?)

 

「違うんじゃない?」

 

「えっ?なに?エースちゃんは俺の心がわかるの?マジでかっ!?なにこれ!相思相愛!?」

 

「口に出てたわよ。というか……其れはそうと、まだ誰も名乗ってない事に気付いた」

 

「「「……………!!」」」

 

「オイイ!!今気付いたって顔すんなー!!!」

 

今更ながら、気付いたソウテンとミト、ゼットが表情を変えた事に、エースは鋭い突っ込みを放つ

 

「まぁ、問われて名乗る様な大層なヤツじゃねぇけど……名乗っておくか。道化師とか仮面とか色々な呼ばれ方をしてるが、俺はソウテン。言わずと知れた泣く子も笑うのキャチフレーズでお馴染みのギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》のリーダーをやってる」

 

「私はミト。同じく《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の所属よ。役職はサブリーダー兼恋人兼妻兼母親ね」

 

「兼過ぎじゃね?ミト」

 

「設定は盛った方が勝ちよ」

 

「誰と勝負してんの!?おめぇさんは!……ん?どした、俺がまさかの有名人で驚いたか?」

 

自己紹介からの夫婦漫才を繰り広げていたソウテンとミトであったが、ゼットとエースの視線に気付き、声を掛けた

 

「いや知らん。というか超知らん」

 

「初めて聞いたわ」

 

「……………」

 

「あら、鍋が煮えたわ。食べる?」

 

まさかの答えに絶望感に打ちのめされたソウテンは地面に項垂れるが、ミトは何時の間にか煮ていた鍋片手に笑いかける

 

「もぐもぐ……次は俺たちか。俺はゼット!言わずと知れた『A to Ζ』のゼットだ!」

 

「同じく『A to Ζ』のエースよ」

 

「ふん、お前たちみたいに無名とは違う『A to Ζ』を知らないとは言わせないぜ?なぁ?エースちゃん」

 

「だから揉むなっ!何で会話の度に揉むのっ!?」

 

「其処に胸があるんだ、揉まないのは失礼だろ。仮面ライダーとしては」

 

「仮面ライダーに謝れ」

 

「ニハハハハ……ん?どうした?鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」

 

自己紹介からのセクハラ漫才、負け時と対抗するエースとゼット。然しながら、ソウテンとミトは疑問符を浮かべていた

 

「知らね。なに?仮面舞踏会?踊りでもやってんの?おめぇさんたち」

 

「テン?仮面舞踏会じゃないわ。仮面の変態よ」

 

「ああ、なるほど」

 

「お前にだけは言われたくない。ニハハハハ」

 

「あはははは」

 

「ニハハハハ」

 

「あはははは」

 

「ニハハハハ」

 

「あはははは」

 

「ニハハハハ」

 

互いに軽口を叩き合い、笑い合うソウテンとゼット。しかし、数秒の沈黙が訪れ、一時の間、静寂が支配する

 

「「………やんのかっ!!!」」

 

「「なんで喧嘩になってるのよっ!」」

 

胸倉を掴み、いがみ合いを始める二人にミトとエースが突っ込みを入れる。似た者同士の出会い、これは彼等以外に誰も知らない出会いの物語。Una historia que nadie sabe(誰も知らない物語)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という知り合いもいる」

 

「へー。変な人がいるんだ」

 

「あら、何の話?」

 

夕飯の鍋を食卓に置き、恋人と息子にミトは問いを投げかける

 

「あっ、かーさん」

 

「ん〜……アレだよ。ちょいと昔話をな」

 

恋人に笑い掛け、息子の頭を優しく撫でると道化師は不敵な笑みを浮かべ、深々と頭を下げる

 

「歯車の噛み合いによっては、あり得たかもしれない、もしもの世界線に於ける誰も知らない出会いの物語。…お楽しみいただけましたか?皆様の御眼鏡に称う日々を彩れておりましたら、拍手御喝采の程、御願い申し上げます。其れでは、今宵の舞台は……此れにて、幕引きと致しましょう。またあるかも知れぬ、もしもの物語まで、暫しのお別れに御座います。Adiós(さよなら)

 

此れは歯車の噛み合いによって、あり得たかもしれない、もう一つの世界の物語

 

赤いマフラーを風に靡かせ、深緑の仮面に妖しく光らせし赤き眼の戦士

 

その戦士の蹴りは、万物を砕き、人々の希望とならん

 

その名を、《シン・仮面ライダー》と申す

 




再び、感謝の意を。ポンコツNOさん、本当にありがとうございます!こんなアホみたいな作品にコラボをしてくださるとは…うぅ……感無量……皆々様、これからも我が蒼の道化師は笑う。とポンコツNOさんの《SAO〜その武器無し、ENJOY勢〜》を末永く宜しくお願い致します。其れでは今宵はこの世界を辺りで幕引きと致しましょう。ポンコツNOさん!Gracias(ありがとう)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

コラボ 彩りの道化とifの世界線(紫紺の剣士)
コラボ幕 昔の友人は再会時には忘れがちな今日この頃


今宵の幕はコラボ回に御座います。御相手は仮面大佐さんの作品《ソードアート・オンライン Re:紫紺の剣士》に御座います

この作品を知らぬ方がいらっしゃる?おやまあ、其れはいけない。我が作品とは全く異なる世界観の真面目系なSAO作品をギャグにミックスさせたどうなるの?で御送りするifの話……皆様の御眼鏡に敵いますかは見てのお楽しみに御座います。其れでは、この辺りで幕引きと致しまし


「もぐもぐ………」

 

「どうだ?ヒイロ。ぼんじりにはやっぱり、ピーナッツバターだろ」

 

「すごいや、リーダー。焼き鳥を残飯に物質変化させるなんて、なに?道化師から錬金術師に転職したの?○ッチ○ード?もしくは迷子の錬金術師の二つ名でも与えられた国家錬金術師なの?」

 

「しばいたろか、焼き鳥ちび」

 

ある日の昼下がり、暇を持て余し、へそで茶が沸かせんじゃね?レベルの暇人と化したソウテンは仲間たちの都合が合わないが故に弟分のヒイロと《ユグドラシルシティ》にあるメイリンの店「Vale tudo」で好物に舌鼓を打っていた

 

「あのね、リーダー。今だから言うけど焼き鳥はね?塩とタレに其々の良さがあるんだよ」

 

「ほーん……」

 

「殴るよ?話は真面目に聞いた方がいいよ」

 

「焼き鳥なんざどーでもいい」

 

「はっはっは、迷子ピーナッツが」

 

「よーし……表に出ろや」

 

正に一触即発の状態、睨み合う兄貴分と弟分。誰よりも近過ぎる存在であるが故に低レベルな争いは日常茶飯事なのだ

 

「貴様!俺を領主サクヤの付き人と知っての狼藉か!」

 

「いやサクヤさんの付き人なら、少しはやり方を考えた方がいいって助言しただけだろ」

 

「生意気なヤツが!!」

 

「あれは確か………オミソシルとかいう変なヤツ…」

 

「リーダー。シグルドだよ」

 

店を出ようとしたソウテンは自分の席とは反対側から聞こえた声に頭の中から該当する人物を引っ張り出すが、名前を間違っていたが故にヒイロに訂正される

 

「ああ、そんな名前だっけか。というかあのシグルドと揉めてるヤツにも見覚えが…………」

 

「リーダーも?俺も見たことある……確か……」

 

シグルドと言い争う見覚えのある闇妖精(インプ)に気付き、ソウテンとヒイロは彼に視線を向ける

 

「ん?誰かと思えば、ソウテンにヒイロ?久しぶりだな」

 

すると、彼も二人に気付き、言い争いを中断し、彼等の方に歩み寄る

 

「おぉ!おめぇさんか!久しぶりだな!うん!いやぁ元気してたか!おめぇさん!」

 

「久しぶり。その後の肝臓の調子はどう?飲み過ぎはダメだよ」

 

「何の話をしてるんだよ。まさかだけど………忘れてるのか?俺のこと」

 

「………………こしょこしょこしょ」

 

闇妖精(インプ)の少年がため息混じりに口を開けば、彼は首を傾げ、隣に立つヒイロに何かを耳打ちする

 

「どちらさんでしたっけ?ってリーダーが言ってる」

 

「うん………だよな、忘れてると思ったよ。俺だよ、カルムだよ」

 

「………………こしょこしょこしょ」

 

「まさか、あの時にカレー対決で雌雄を決したお前と再会するとは思わなかった。久しぶりだねぇ?ガラムマサラって言ってる」

 

「ガラムマサラじゃない!カルムだ!というか誰の話だ!カレー対決なんかしたことないだろ!」

 

闇妖精(インプ)基カルムの事等、頭に無いソウテン。首を何度も捻り、その末に答えに行き着く

 

「思い出した!確か《○魂の玉》!」

 

「誰が戦国御伽草子に出て来る不思議な宝玉だ!《紫紺の剣士》だ!」

 

素っ頓狂な答えを導き出すソウテンにカルムの突っ込みが放たれる。御約束が無い分、物足りないが中々のツッコミスキル持ちである

 

「ああ……うん、そうだったな。元気?」

 

「反応薄っ!?」

 

「いやだって、本編も含めるとこんな感じのやり取りを数え切れないくらいしてるから、マンネリ気味というか………」

 

「十年目あたりに倦怠期を迎えた夫婦間の冷めきった食卓くらいに会話が弾まない」

 

「コラボなのに!?てか、二人で何してるんだ?ミトたちは一緒じゃないのか?」

 

あまりの反応薄さに驚きを露わにするが、直ぐに他のメンバーが見当たらない事に気付き、ソウテンへ問いを投げかける

 

「あー、ミトはアスナと川に洗濯へ、フィーはリーファと鬼ヶ島に、キリトはパスタ修行にイタリアへ、グリスとコーバッツはジャングルに、ヴェルデはインドに究極のスパイスを探しに行った……アマツとディアベル、シリカはなんだっけ?」

 

「忘れたの?リーダー。職人とベルさんは○ャムおじさんにパン作りを教えてもらいに行ったんだよ。シリカはなんたらかんたらプロジェクトのキャンペーンガールの仕事だよ」

 

「ああ!そうか!とまぁ、そんな感じだ」

 

「いやどんな感じ?というか……前々から思ってたけど、お前たちって団結力がありそうで無いよな」

 

「我がギルドは常に放任主義だからな。特撮シリーズで例えると○太○戦隊ド○ブラ○ーズ並みに纏まりが無いんだ、簡単に言うと混沌だな。分かってると思うけど可愛い豚さんじゃねぇよ?」

 

纏まり以前に最早、何がしたいかも理解不能な自由過ぎるメンバーの無法地帯を黙認しているソウテン。それに対し、カルムはジト目を向けている

 

「ヒイロ。こいつは何を言ってんだ?バカなのか?」

 

「違うよ、頭の中が基本的に迷子なんだよ」

 

「なるほどな、納得だ」

 

「誰が迷子だ。頭から醤油掛けたろか、ガラムマサラ」

 

「ガラムマサラじゃない!カルムだ!やんのかコラァ!!」

 

「上等だ!かかってこいやっ!!」

 

友人の店である為に店内で殴り合うソウテンとカルム。ヒイロはその状況を放置し、普通に茶を啜っていた

 

「んまぁ!シグさまよ!」

 

「ホントだわ!シグさまァァァァ!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!また出たァァァァ!!」

 

突如、姿を見せたカルゴちゃんとタイコちゃんの登場に完全な空気と化していたシグルドは逃亡する

 

「カルゴちゃんとタイコちゃんは元気だね」

 

「ヒイロちゃん!シグさまはどこ!?」

 

「わかんない。でも向かうなら、サクヤさんのとこじゃない?」

 

「流石はヒイロちゃんね!ありがとう!行くわよ!タイコちゃん!」

 

「勿論よ!カルゴちゃん!」

 

ヒイロが行き先を述べると目の色を変えた二人はシグルドを追いかけ、シルフ領に向け、走り出す

 

「ヒイロちゃん。おかわりは?」

 

「ん……Gracias、もらうよ」

 

茶を啜っていたヒイロに呼び掛けたのは、店主であるメイリン。急須に入れた玉露茶を彼の湯呑みに注ぐ

 

「それにしても、テンちゃんは変わったお友だちが多いわねぇ」

 

「類友だよ。リーダー自体が変わってるからね」

 

「確かにテンちゃんは変わってるわねぇ〜」

 

「ごめんね、少し遅れたわ。私が居ない間に変なことして…なにしてんのぉ!?」

 

ソウテンの日頃の行い故に信頼感の薄い会話が繰り広げられる中、用事を終えたミトが店内に姿を見せる

 

「あっ、ミトさん。リーダーとカルムさんが喧嘩してるんだ。止めてくれる?」

 

「これ以上は店が壊れちゃいそうだから、お願いできる?ミトちゃん」

 

「分かったわ…………やめんかっ!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

ソウテンとカルムの頭上に鎌が振り下ろされ、彼等は何時もの様に御決まりの叫び声と共に床に減り込む

 

「えーっと………ヒイロくん、状況が分からないんだけど……説明をお願いしても?」

 

「何時も通りだよ。喧嘩してるリーダーとカルムさんにミトさんが御約束を見舞ったんだ」

 

「確かに……それは何時も通りね……」

 

こうして、騒がしくも賑やかな一日を謳歌しながら、知れず道化師は不敵な笑みを浮かべ、深々と頭を下げる

 

「歯車の噛み合いによっては、あり得たかもしれない、もしもの世界線に於けるもう一つの物語の物語。…お楽しみいただけましたか?皆様の御眼鏡に称う日々を彩れておりましたら、拍手御喝采の程、御願い申し上げます。其れでは、今宵の舞台は……此れにて、幕引きと致しましょう。またあるかも知れぬ、もしもの物語まで、暫しのお別れに御座います。Adiós(さよなら)

 

此れは歯車の噛み合いによって、あり得たかもしれない、もう一つの世界の物語

 

進化する力を持ち、王たる器に成らんとする剣士

 

その力は、大切な誰かを守る為に、共に生きる為に、力を与えん

 

その名を、《紫紺の剣士》と申す

 




再び、感謝の意を。仮面大佐さん、本当にありがとうございます!こんなアホみたいな作品にコラボをしてくださるとは…うぅ……感無量……皆々様、これからも我が蒼の道化師は笑う。と仮面大佐さんの作品《ソードアート・オンライン Re:紫紺の剣士》を末永く宜しくお願い致します。其れでは今宵はこの世界を辺りで幕引きと致しましょう。仮面大佐さん!Gracias(ありがとう)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

コラボ幕 彩りの道化とifの世界線(The・Chaos)
第一幕 混ぜるな危険!だが断る!カオスに勝るモノはナッシング!


今宵の幕はコラボ回に御座います。御相手はミトっていいよねさんの作品《ソードアート・オンライン~焔の剣聖~》、ポンコツNOさんの作品《SAO〜その武器無し、ENJOY勢〜》、仮面大佐さんの作品《ソードアート・オンライン Re:紫紺の剣士》、木漏日レンさんの作品《ソードアート・オンライン〜青藍の双剣士〜》の四作品との年末大コラボ!

混ぜるな危険どころじゃない!最凶のカオスが爆誕する!年末のしみったれた毎日を吹っ飛ばす勢いのifの話……皆様の御眼鏡に敵いますかは見てのお楽しみに御座います。其れでは、この辺りで幕引きと致しましょう


「年末対抗すごろく大会やろうぜっ!」

 

師走の年の瀬、高らかにギルドホームに響き渡る声。その声の主基ソウテンは画面から覗く不敵な笑みで、仲間たちを見据えている

 

「一人でやれ」

 

「一昨日きやがれ」

 

「んだとゴラァ!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

真っ先に反応を示した親友のキリト、兄貴分のカイに対し、両眼をくわっと見開き、飛び蹴りという名の物理的な突っ込みを放つ

 

「いいか?リアルソロプレイヤーにゲーマヨラーのお前たちは知らんかもしれんが、すごろくは揺籠から墓場まで楽しめる画期的な遊びだ」

 

「誰が一人遊びのプロフェッショナルだ!!迷子野朗!!」

 

「お兄ちゃんの俺に舐めた口を聞くんじゃない。訴えるぞ?そして勝つぞ」

 

「迷子じゃないし、カイみたいなんを兄貴にした覚えはない」

 

「今日も脈絡がありませんねぇ。リーダーは」

 

「学習能力がないだけだよ」

 

缶蹴りの説明しながらも、キリトとカイに悪口を放つソウテン。その姿を側から見ていたヴェルデとヒイロは互いの兄貴分に呆れた眼差しを向ける

 

「ニハハハハ!相変わらずのイカれた集団だなぁ!ソウテンさんよぉ〜」

 

「おひさっ!遊びに来たわよ〜」

 

勢いよく扉を開き、笑い声を上げるのは赤いマフラーが特徴的なヘルメットの少年、その隣では、焦茶色の尻尾を揺らす少女が親しげに声を掛ける

 

「おお〜誰かと思えば、お隣にあるクラン《A to Z》のエースちゃん。久しぶりー」

 

彼女の声に気付き、ソウテンはキリトを床に減り込ませ、カイの鼻の穴に鼻フックをした状態で彼女の名を呼ぶ

 

「おっとぉ?回線不安定かぁ?さらりと俺は無視ですか?さっさと起きろや、迷子さんよぉ」

 

「………………セクハラヘルメットくんか。久しぶりだな」

 

「ゼットだよ。なんでセクハラの部分だけを覚えてんだぁ?」

 

「えっ?ゼットで良かったん?セクハラヘルメットの方が本名でしょ?」

 

「ニハハハハ!そんなプレイヤーネームにした覚えはないんだがぁ?俺は前にも言ったけど、仮面ライダーだ。全く困った迷子だな、コイツは……なぁ?エースちゃん」

 

「だから揉むなっ!毎度毎度!」

 

「前にも言ったろ?パート2!其処に胸があるんだ、揉まないのは失礼だろ。仮面ライダーとしては」

 

「仮面ライダーに謝れ」

 

ヘルメット男基ゼットとエースの夫婦漫才を目の当たりにし、妙な近視眼を覚えたカイはちらっとソウテンに視線を向ける

 

「知り合いか?この愉快な方々は」

 

「お隣さんだ。少し前に森で遭難してた時に背後から、バイクで轢かれて以来のお付き合いだ。慰謝料はまだもらってないけど」

 

「相変わらず、友達の作り方が変態的だな。俺はカイ、テンたちとは古い付き合いで《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の参謀兼お兄ちゃんポジションだ。あと、こいつに慰謝料は払わない方がいいぞ?どうせまた、不条理なマネーロンダリングするつもりだからな」

 

「似非お兄ちゃんは黙っとれ」

 

「ゼット。カイさんはね、リーダーと同じで食べ物を残飯に物質変化させる物質系能力者なんだよ。頭をマヨネーズに支配されてるんだ」

 

「なんだ?ヒイロ。褒めてもカツ丼カイスペシャルしか出せないぞ?」

 

「ニハハハハ!類友ってヤツかぁ?やっぱり、テンの周りには変なのが集まるなぁ〜」

 

「よし、ゼットっち。お前を宙吊りにしてやる」

 

じりじりと迫るソウテンから距離を取るゼット。阿呆なやり取りも慣れてしまえば、日常風景となってしまうのだから、驚きだ

 

「テン。さっき道端でカルムに会ったから、連れてきたわ」

 

「よっ!ん?なんだ、ゼットにエースもいたのか」

 

買い出しから帰還した、ミトの背後から顔を覗かせた少年の名はカルム。彼もまたソウテンの友人である

 

「なんだ、誰かと思えばガラムマサラか。今日も一人でぽん酢の買い出しか?」

 

「ガラムマサラじゃない!カルムだ!悪かったな!ぼっちで!」

 

「ああ……カルムは友達少ないからなぁ。キリト並みに」

 

「そうなのか……そいつは可哀想だな。えっと………ガラムマサラだっけ?」

 

「カルムだ!というか、誰だ!?」

 

「俺か?俺はな」

 

「マヨネーズ野朗だ。気にするな」

 

「よしコラ、バカピーナッツ。喧嘩の続きだ」

 

カルムに対し、同情していたのも束の間、自分への悪口を聞き逃さないカイはソウテンと喧嘩の続きに戻る

 

「待たんかぁ!野菜泥棒の少女よっ!私のバナナを返したまえ!」

 

「バナナ泥棒たぁ!ふてぇヤローだ!」

 

「バナナよりも野菜を育てろ!アタイは野菜しか食べないんだ!!ベジタリアン舐めんなゴラァ!!」

 

庭先から聞こえた甲高い声とコーバッツとグリスの声。何やら、野菜泥棒がいるようだ

 

「おろ?なんだ、あの野菜泥棒は」

 

「うちのレタスだな。基本的に画面に映らないベジタリアンとは名ばかりの残念美少女だ。ちなみに相方はコシナルというヤンキー料理人だ、厨房でタバコとか吸ってんだ」

 

「へ〜……なんか、知らないけど親近感?が湧くねぇ?考えたヤツは、きっと青いメッシュのグラサンヤローだな」

 

「ニハハハハ!やけに具体的だなぁ〜」

 

まさかの知り合いだったゼットと野菜泥棒基レタス。癖者集団と呼ばれる《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》と同レベルのイカれ具合を持つ《A to Z》、この二つの組織が隣同士で存在しているというのだから、世間は狭い

 

「アマツさ〜ん、武器のメンテをお願いしたいんだけど」

 

「おろ?次はルゼっちか。おひさ……とは言っても、コラボはまだしてないんだけど」

 

「よっす。テンさん、アマツさんはいる?武器のメンテをしてもらいたいんだ」

 

「いるよ。おーい、職人」

 

次に姿を見せたのは、アマツの顧客であると同時にソウテンの友人であるルゼ。彼もまた不名誉な事に、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》と関係を持ってしまったプレイヤーの一人だ

 

「む……ルゼの字か。どうした?武器のメンテか?」

 

「実はそうなんだ。お願い出来ないかな」

 

「容易いことだ。暫く待っていろ」

 

「お願いしまーす」

 

「職人が無償でメンテだと……!!何があった!?」

 

「明日は世界滅亡に間違いないな」

 

「いや、なんなの?アマツって……」

 

高額請求が当たり前のアマツが無償でメンテナンスを引き受けたという事実に驚き、白目を剥くカイとキリト。未だかつてない現状に二人は正に空いた口が塞がらない

 

「取り敢えず………すごろくやんね?」

 

「すごろく?ニハハハハ!いいなぁ!」

 

「すごろくかぁー。俺もやろうかな」

 

「武器の調整をするまで暇だから参加するぞ」

 

「よし、お兄ちゃんとチームになりたいヤツは集まれ」

 

「カイはマヨネーズに塗れてろ」

 

「じゃあ、お前はピーナッツバターに埋もれろ」

 

「「………やんのかっ!!!」」

 

「なんで喧嘩になってるのよっ!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

胸倉を掴み、いがみ合いを始める二人にミトの御約束が命中し、御約束の叫びを挙げ、ソウテンとカイは倒れ伏す

 

「騒がしい人たちよね」

 

「全くだなぁ〜」

 

「だからナチュラルに揉むなっ!」

 

「キャラが濃いな」

 

「テンさんの周りは賑やかだなー」

 

かくして、始まる最凶のすごろく大会。ここから先に起こる惨劇を今はまだ誰も知らない

 

 




そしていよいよ始まる最凶すごろく大会!果たして、勝利の女神は誰に微笑む?

NEXTヒント チームワークってナニモンナンジャ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二幕 プレイボール!開幕宣言は誰がやる?派手に行くぜっ!!

コラボの時間ですよ〜、カオスだ……何だよこれ……ヤベェよ、意味わかんねぇよ……あっ、何時も通りか


「年末対抗すごろく大会、突然の思いつきに浮き足立つ《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》、其処に姿を見せたのは彼等と深い親交を持つクラン《A to Z》のリーダーであるエースとその相方でもあるセクハラヘルメットことサブリーダーのゼット、更に一人ウィンドウショッピング中だったカルム、武器のメンテナンスにやってきたルゼ、混ぜるな危険を体現した面々の登場と共に幕を上げるのが、誰もが恐れ慄く恐怖のすごろく大会である事を今はまだ誰も知らない。其れもその筈、何故なら、彼等は………

 

 

 

 

 

地獄先生だったからです

 

刹那、暗闇からスーツ姿に左手だけを革手袋で覆ったソウテン達と、更に自然に溶け込んだゼットが姿を見せる

 

「コラボしてる時にふざけちゃダメでしょ!!きっくん!怒るよっ!」

 

「ゼットもなにしてんのっ!?てか順応してるのはなぜっ!?」

 

「ニハハハハ!楽しい事には首を突っ込まないとだぜ?エースちゃん。だよな?ヴェルデ」

 

「無論です。一連托生と言いますからね……さぁ、ふざけましょう」

 

「させるかっ!!」

 

ギルドのツッコミ役という役割にあるリーファが意味不明なあらすじを語り出すヴェルデに突っ込みを放ち、その隣では便乗しているゼットをエースが叱りつける

 

「なんでコイツらは常にふざけてるんだ」

 

「デフォルトだからよ。ふざけてないテンは人を無差別に蹴り飛ばす通り魔みたいなものよ」

 

「ねぇ?なんなの?ミトは。恋人に悪口を言わないと生きてけない病気なの?」

 

一方で、訳の分からない現状に呆れた顔を見せるカルムの呟きにミトが答えるも、安定の扱いの雑さにソウテンが難色を示す

 

「テンちゃんは昔から人望がないよね。リーダーに向いてないよ」

 

「全くだぜ。テンなんかよりもアリの方がまだ働くぜ」

 

「決まりだな。テン……お前はアリ以下だ」

 

「………ぐすん」

 

「とーさん。もしかして、泣いてるんか?」

 

「涙拭いた方がいいぞ。テンさん」

 

「泣いてない………目からソパ・デ・アホが溢れただけだ」

 

「ソパ・デ・アホっ!?」

 

「料理名にアホが入ってる!?」

 

威厳は何処に泣きべそを掻くソウテンは唯一、心配してくれる愛息子(ロト)とルゼからの問いにスペインで食べられているスープが目から溢れたと意味の分からない事を言い放つ

 

「ぷぷ〜ん」

 

飼い主を心配し、足元で小刻みに震えるプルー。唐突に姿を見せた珍妙な生物の登場に初見の者たちは視線を落とす

 

「ん?なんだぁ?このドリル生物は」

 

「誰かのテイムモンスター?でも見たことないわね」

 

「確かに……レアモンスターか?クエスト関連の」

 

「だとしたら、すごいレアなんじゃ……」

 

「レアモンスターじゃない、プルーだ。我が家の愛犬だ」

 

「「「「なぁ〜んだ、犬かぁ〜……………って!犬っ!?これがっ!?」」」」

 

まさかの解答にゼット、エース、カルム、ルゼの声が重なり、四人は口をあんぐりと開く

 

「犬だとは思うけど、俺もプルーがなんなのかは知らない。深くは考えたことないし」

 

「知らないで飼ってるのかっ!?」

 

「ニハハハハ……流石はテン……頭の中も迷子だな」

 

「ミトも大変でしょ?こんなバカの相手を年中してると」

 

「慣れたわ。テンと居るとあり得ないレベルの騒動に巻き込まれるから、自然に順応していくのよ」

 

「そうだね。ミトは前よりもバカになったわ」

 

愛犬が如何なる生物であるかも把握していないソウテンにカルムが突っ込み、ゼットは呆れ、エースに至ってはミトに同情する

 

「アスナが最近冷たい……」

 

「ミト。お兄ちゃんが慰めてやろう、俺の胸で泣けば---ぐもっ!?」

 

「カイてめぇ!ミトに近付くな!」

 

「ふんっ、嫉妬か。まだまだガキだなぁ?テン」

 

「マヨネーズに塗れろ、お前なんか」

 

「お前はピーナッツバターに埋もれろ」

 

「「………やんのかっ!!!」」

 

「だからなんで喧嘩になってるのよっ!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

胸倉を掴み、いがみ合いを始める二人にミトの御約束が命中し、御約束の叫びを挙げ、ソウテンとカイは倒れ伏す

 

「殴るわよっ!」

 

「いやもう殴ってるだろ。ミトさん」

 

「ルゼさんだっけ?突っ込むだけ無駄、何時もの事だよ」

 

最早、恒例と言わんばかりの当たり前の光景を初見のルゼが突っ込みを放つも、ヒイロがその突っ込みさえも無駄である事を告げる

 

「そいじゃあ、すごろく大会と行きますか」

 

倒れていたのも一瞬、勢いよく起き上がったソウテンはアイテムストレージから、件のアイテムであるすごろく盤を呼び出す

 

『カオスすごろく、このクエストは確実に友情に亀裂が発生します。それでも受注しますか?』

 

すごろく盤を呼び出したと同時に声が響き、不穏な事を告げられ、クエストの挑戦意志を質す為の《YES》《NO》が表示される。然し、ソウテンは躊躇う素振りも見せずに、不敵に笑う

 

「友情に亀裂だってよ」

 

「ほ〜ん、亀裂なんか入りまくってるだろ。問題はないと思うぜ?」

 

「流石はカイ。頼れる似非お兄ちゃん」

 

「似非は余計だ」

 

「いやいや、友達じゃなかったのかよ?お前たち。亀裂が入るのは駄目だろ」

 

「友達?そんな生温い関係じゃねぇんよ、俺たちは」

 

友情に亀裂、流石に良くないと感じたカルムが物申すがソウテンは不敵に笑い、友達としての関係性を否定する。其れが何を意味するかは分からないが、不思議と納得している自分がいた

 

「………テンって、たまに思うけど、何者なんだ?」

 

「俺も思った。テンさんは不思議と説得力があるんだよなぁ」

 

「ニハハハハ!癖者集団をまとめ上げる変人だからなぁ〜。とーぜん、カリスマ性はあるんだろうよ」

 

「さてとクエスト開始だ………派手に行くぜっ!!野朗共っ!!」

 

「「了解!リーダー!!」」

 

カルム、ルゼ、ゼットの世間話を背に、ソウテンは何時も通りに槍を肩に担ぎ、仲間たちに呼び掛ける。その呼び掛けにカイたちも応え、得物を掲げるのを確認し、選択肢の《YES》を選択する

 

『友情破滅を恐れぬ猛者よ……その力を試す試練に挑むがよい』

 

刹那、光が瞬き、ソウテンとカイたち、ゼットとエース、カルム、ルゼを包み込む

 

「ゼットパイセン、クエスの姉御が迷子になったんだけど知らない?」

 

「迷子はアンタよ。行方不明」

 

「誰が行方不明だ。あり?なんだこの光」

 

「クエス!アンノウン!逃げろ!コシナルが来るっ!!」

 

「誰だゴラァ!!俺の飯を残しやがったクソヤローは!」

 

「ちょっとコシナルくん!口が悪いよっ!」

 

「げぇ!?クエスにアンノウン!?レタスだけじゃなかったのかっ!!」

 

「コシナル!?それにシズさんもっ……!!やばっ!クエストがっ!!」

 

矢継ぎ早に姿を現したのは黒髪の女性以外は明らかに変態的な身形をした癖者集団。コック帽が特徴的な青年、レオタードを着た女性、何故かは分からないがソウテンと似た迷子的な雰囲気を感じる少年、その全員がゼットとエースの仲間、つまりは《A to Z》のメンバーらしいが、何故だろうか?シズと呼ばれた女性以外は妙にハジケたオーラを感じる。其れが何なのかは理解出来ないが、簡単に言えば彼等はハジケリストではないか?と思ったが、ミトは何も言わなかった

 

『カオスすごろく始まるよ☆私は司会者のシカイシャ!よろしくね!気軽にシカイちゃんって呼んでくれていいよん☆』

 

「「「やっぱり、なんか変なのが出たっ!!!」」」

 

「アイドルのあたしよりも目立ってる!!許せませんっ!」

 

ゲーム盤の中に転移した一行の前に現れたのは、変な人物基シカイシャ。ソウテンたちが突っ込みを放つ隣で、自分が目立たないと気が済まないシリカが異議を申し立てる

 

「シリカってこんなに変な子だったか?」

 

「コラボだと困惑するかもしれないけど、うちのシリカは前からこんなだよ」

 

頭の中で何かが違うのでは?と疑問に思うカルム。然し、シリカを誰よりも知るヒイロがメタ発言で説明する

 

「今年流行りのマルチバースだな、色々な世界があるんだ。俺もコラボ先ではマヨネーズバカみたいに思われてるが本来はミトと付き合ってて、息子がいて、ギャグ一つないシリアス路線な剣士だからな」

 

「確かパラソルワールドだよな!」

 

「グリス。バナナをやるから黙ってろ」

 

「マジでかっ!!カイはやっぱり良いヤツだなっ!」

 

((ホントに単純だな、このゴリラは))

 

バナナを手渡された瞬間に、カイの味方に回るグリスを前にソウテン達は彼に餌付けされるゴリラの面影を見た

 

「ケダモノフレンズだなぁ〜、いつ見ても」

 

「いやいや、うちも大概じゃん?見てみなよ……アレ」

 

騒がしいやりとりを側から見ていたゼットは他人事の様に笑っていたが、エースが彼のマフラーを引っ張り、背後を指差す

 

「ああ……すごろく!なんか分からないけど、ナゾめいてて……興奮するわっ!」

 

「すごろくって……どうやるの?ルール知らないや」

 

「捕まえたぞ……クソガキ。よくも俺の料理を残しやがったなぁ?」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!離せェェェェ!肉なんか食べたくない!!生臭い!!近づけんなっ!」

 

「……………良い天気だなぁ」

 

「そうね………って!揉むなっ!!」

 

空を見上げ、現実逃避に走ったゼットはエースの胸を揉む。それに気付いた彼女が飛び蹴りを放ったのは言うまでもない

 

「大丈夫か?この人たち……」

 

「ぷぷ〜ん」

 

ルゼの心配を他所に、遂にカオスすごろくは幕を上げる。この先に待つのが何かは誰も知らない




チーム分けをする為に選出されたリーダーは四人!ソウテン、ゼット、カルム、ルゼ!あれ?コラボ相手なのにカイがいない……ああ、彼はソウテンの仲間だからか!なるほどー

NEXTヒント チーム分け


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三幕 いよいよ開戦!ハジケて混ざれっ!最凶チームは誰だ!

コラボ三話目でーす。ふざけ倒してます♪これでもかっ!ってくらいに♪


『最初はチーム分けをするよぉ〜!チームリーダーは其処の迷子みたいな仮面の人と、見るからにセクハラ常習犯のヘルメットの人!あとは友だちが少なそうな剣士さんと黒髪の小柄な人にけって〜い!』

 

「誰が迷子だ。人を見かけで判断するんじゃありません」

 

「全くだぜ。俺の何処がセクハラ常習犯だコノヤロー」

 

「友だちが少ないとか言うな!好きで少ないんじゃない!」

 

「小柄な黒髪って……誰のことだ?」

 

元気よくチームリーダーを選出するシカイシャ。名指しという名の悪口を言われたソウテン、ゼット、カルムの三人は異議を唱えるが、ルゼだけは自覚が無いらしく、首を傾げていた

 

「………コラボなのに俺はチームリーダーじゃないのか?何故だ?お兄ちゃんは激しい怒りを覚えてるぞ」

 

「カイ……」

 

コラボのゲストの一人であるにも関わらず、扱いの差に明らかな格差を感じるカイ。すると、彼の肩を優しく叩いた人物がいた

 

「ミト?なんだ、俺を慰めてくれるのか?でもな、俺にはユウキという心に決めた大事な人がいるんだ。お前の気持ちには応えられない」

 

「身の程を弁えなさい」

 

「‼︎」

 

まさかの直球意見、カイが目を剥き、驚愕する。思いの外、響いた言葉は彼の心を容赦なく抉る

 

「身の程を弁えなさい」

 

「二回言われたーーーっ!!!」

 

追い討ちを掛けるミトに、カイは完全に真っ白な灰のように燃え尽き、地面に崩れ落ちる

 

「取り敢えずだ。テン、チーム分けしろよ」

 

「そだな。そいでシカイちゃんだっけか?チーム人数は如何程かを教えてもらえるかにゃ?」

 

似非お兄ちゃん(カイ)を放置し、キリトは不敵な笑みを浮かべる親友にチーム分けを行う様に促す。其れに答えたソウテンはチーム人数をシカイシャに問う

 

『人数は各チームで三人だよ♪自分が組みたい人を自由に選んでもらって構わないよ〜!』

 

「三人………まさかだけど……この流れって………」

 

「アスナの考えてるのが正解ね……多分だけど……うん、分かってたわよ?テンたちが絡んだクエストで《アレ(・・)》が発生するのは当たり前よね」

 

三人、その単語を聞いた瞬間にアスナの顔に呆れが現れ、リズベットも何かを理解したらしく、苦笑を浮かべる

 

「《アレ(・・)》ってなに?」

 

「《アレ(・・)》って言うのがなんだか分からないけど、ナゾめいてて……興奮するわっ!」

 

「姉御は相変わらずの《N(ドエヌ)》だね」

 

「それで?その《アレ(・・)》ってのはなんだ?クソ仮面」

 

彼女たちの言う《アレ(・・)》を知らないエースたちが首を傾げる中、コシナルは元凶でありそうなソウテンに問う

 

「おろ?三人一組で戦うチーム戦【3狩リア】を御存知ない?ハジケリストの定番的なバトルスタイルだってのに」

 

「【3狩リア】!聞いたことあるなぁ〜、俺は。確か、ハジケリストが考案したんだよな」

 

「ルゼ……知ってたか?そんなバトルスタイル」

 

「知らないな、聞いたこともない。というかハジケリストってなに?」

 

「ハジケリストってのは、言葉だけで説明出来る簡単なモノじゃない。だが強いて言えば、スペイン並びにメキシコ及び埼玉を中心に勢力を拡大するエリートたちとだけ言っておこう」

 

「エリートたちじゃなくて変態たちの間違いじゃない?」

 

アレ(・・)》即ち【3狩リア】は、ソウテンの経験上は言わずもがなと言わんばかりに当たり前にして、日常的に浸透しているバトルスタイルなのだが、其れはあくまでも彼の身の回りだけに関してである。現にハジケリストとしての素質が垣間見えるゼットは知っていたが、カルムとルゼは知らないらしく、疑問符を浮かべていた

そして、ソウテンの説明にミトが優しいながらも容赦のない突っ込みを放つ

 

「兎に角だ!【3狩リア】となれば……メンバーは決まってる。キリト!カイ!」

 

「仕方ないな。この黒の剣士が直々に力を貸してやる!ありがたく思えよ!迷子!」

 

「弟分からの頼みに応えるのはお兄ちゃんの義務だからな。手を貸してやるよ」

 

其々の得物を手に意思表示をするキリトとカイ、その言葉の節々に不安しか見えず、ソウテンは彼等を見据える

 

「………………チェンジ!!!」

 

「「名指ししといてなんだコラァ!!!」」

 

「やめんかっ!!」

 

「「「ぐもっ!!」」」

 

チェンジを宣言したソウテンに対し、キリトとカイが殴り掛かる。其れに誰よりも反応したミトは御約束を放ち、三人は決まり文句と共に地面に減り込んだ

 

「んじゃあ〜………俺はどうするか……よし!エースちゃんとシズさんにしとくぜ」

 

「私は構わないよ?よく分からないけど、楽しそうだし」

 

「うんうん。良い選択よ!ゼット!」

 

「こんなにナゾめいたクエストに私を参加させないとはどういう了見よ!あんたはそれでもサブリーダーか!」

 

「野菜が関係ないから興味ないなぁ〜あたし」

 

「ケイタリングの準備してんだ。邪魔すんな………おい、クソガキは何処だ?」

 

「また迷子かい?仕方ないヤツねぇ、アンノウンは」

 

ふざけるつもり全開のソウテンとは裏腹に、相方のエースと常識人のシズをメンバーに選んだゼット。その行動にクエスだけは異議を唱えるが、レタスはスイカを貪りながら参加を辞退し、コシナルは何をしてんの?と言われてもおかしくない状況でケイタリングを始めていた。そして、忽然と姿を消したアンノウンは如何やら、ソウテンと同様に迷子癖があるようだ

 

「誰を仲間に………」

 

「カバディカバディカバディ!!」

 

「カバディカバディカバディ!!」

 

辺りを見回していたカルム、その視界に映り込んだのはカバディに興じるディアベルとグリス。何故、此奴等に誰も突っ込まないんだよ!!と誰もが思うかもしれないが、今は其れも野暮な突っ込みである

 

「ディアベルとグリスに頼もうかな」

 

「おうよ!寝かせとけ!」

 

「グリスさん!素敵です!頑張ってください!」

 

「ふっ……カルム、俺を選ぶとは見所があるじゃないか……なかなかの騎士道だ!」

 

「…………人選間違えたかな?やっぱり」

 

名を呼ばれ、意志を示すグリスとディアベル。その隣では想い人に声援を送るフィリアの姿があり、不安しかない光景にカルムは絶望的な表情を浮かべる

 

「アマツさんとヴェルデにお願いしてもいいか?」

 

最後にルゼは、親交のあるアマツと頭が良さげなヴェルデに声を掛けた

 

「構わない。奴等がふざけるのを阻止出来るからな」

 

「「「ひぃぃぃぃぃ!!」」」

 

「乗り掛かった船です。微力ではありますが、このヴェルデが力をお貸ししましょう」

 

「きっくん!良い?ふざけちゃダメだよ!絶対に!」

 

「善処しましょう」

 

「あっ!その顔は絶対にふざける顔だ!絶対にダメだからねっ!」

 

ボケ殺しモードのアマツがぎらりと包丁を光らせる姿にソウテンチームが戦慄し、叫び声を挙げる。その背後では、ヴェルデにふざけない様に念押しするリーファの姿があるのは見慣れた光景だ

 

『チームは決まったかなぁ〜?それじゃあ最初のチームリーダーはサイコロを降ってね〜!』

 

「俺からか」

 

「テン!兎に角!デカいのを出せ!分かったな!?」

 

「一とか出したら、口にピーマンだからな」

 

「へいへい………あらよっと!」

 

最初にサイコロを手にしたソウテンは声援と言う名の脅しを背に正真正銘の一投目を投げる

 

『はーい!ソウテンチームは一マスでーす!』

 

「おろ……おやまあ、このサイコロは壊れてんぞ」

 

「「壊れてんのはおめぇの頭だ!!迷子野朗!!」」

 

「ぐもっ!?」

 

一投目から一を出すという御約束を地でいく様な現象を起こしたソウテン、それが自分の非であるとは思ってもいない彼の後頭部に二つの飛び蹴りが放たれ、そのまま三人は一マス目に降り立つ

 

『言い忘れてたけどマス目にはミニゲームとか罰ゲームがあるからね☆』

 

「「「最初に言えよっ!!!」」」

 

説明不足なシカイシャに突っ込みを放つソウテン、カイ、キリトの三人。NPCであるにも関わらず、彼女には振り回されるばかりだ

 

『一マス目は〜〜〜落とし穴に落ちる☆一回休み!』

 

「おろ?なんだって?」

 

「落とし穴とか言わなかったか?」

 

「一マス目だぞ?聞き間違いだろ」

 

落とし穴という単語に聞き間違いかもしれないと安堵する三人。然し、其れは思い違いだった

 

「「「おろ……………………あぎゃぁぁぁぁ!!!」」」

 

突如、三人の真下に現れたのは穴、ぽっかりと空いた穴が出現した。そして、勢いよく飛び出したソウテンとカイ、キリトの体は奈落の底に落ちていった

 

「テンさんが落ちた!アマツさん!」

 

「大丈夫だ。奴等はあの程度では死にはしない、現にテンの字は作中でも話の中で四回は落下しているがその度に生きていた。故に心配あるまい」

 

「その通りです。リーダーは落下体制がありますからね、問題ありませんよ」

 

「そうなの?なら、大丈夫か……よし!じゃあ次は俺が投げるぞっ!えいやっ!」

 

次にサイコロを振ったのはルゼ。落とし穴に落ちたソウテンチームを心配していたがアマツとヴェルデに説得され、自分は自分の戦いをしようと思ったようだ

 

『はーい!ルゼチームは七マスでーす!』

 

「やった!七だ!」

 

「安心はまだ早いですよ、何があるか分かりませんからねぇ」

 

「兎に角、進むぞ」

 

不安な始まりのソウテンチームとは裏腹に、好調な滑り出しを決めたルゼチーム。サイコロの出目通りに七マス、足を進める

 

『ルゼチームはぁ〜!おっ!ラッキーマス!仲間を呼べるよ〜!よかったねー!』

 

「仲間?」

 

『そう!観客席からでもゲーム盤の外からでも一人だけ仲間を呼べるよー!』

 

「仲間か………」

 

「ルゼの字。選ぶなら、マトモなヤツにしておけ」

 

「マトモ………じゃあ!俺のフレンドのヒイロを頼む!テンさんたちの仲間じゃない方の!」

 

『りょーかい!おいでませ〜〜〜っ!』

 

刹那、光が瞬き、ルゼの頭上に空間の裂け目が姿を見せる。そして、その中から黒髪の少女が落下してきた

 

「親方!空から女の子が!!」

 

「アレはまさか!!」

 

「間違いない………○ケ○プターの電池が切れたんだ!」

 

「違うだろっ!!」

 

「正に飛行少女だな」

 

落下する少女を指差し、ベタな事を言い放つゼット並びに素っ頓狂な事を言うソウテンにカルムが突っ込みを放ち、カイはドヤ顔で上手いこと言ってやったみたいな雰囲気を出していた

 

「あれ?ルゼ?確か、アマツさんのとこに行ったんじゃ……」

 

「細かいことは後だ!ヒイロ!協力してほしい」

 

「へ?う〜ん、よく分からないけど……ルゼからの頼みを断る訳ないじゃない。良いわよ!」

 

「ありがとな!」

 

地獄のようなマスしかないと思いきや、良心的なマスもあると分かり、安堵する面々。三人目はカルム、チームメイトのディアベルとグリスが見守る中、彼はサイコロを手にする

 

「ウェイ!出ろ!八マス!!」

 

「おぉ!すげぇ肩だ!」

 

「さては元野球部か!」

 

「いや別に違うから」

 

思いの他、強肩だったカルムが投げたサイコロはゆっくりと転がり、有言実行と言わんばかりに八を叩き出す

 

「よし!八だ!」

 

「おっしゃぁ!進むぜ!」

 

「爆進爆進!いざ爆進!!」

 

出目を頼りに進むカルムチーム、ルゼチームよりも一マス多く進めたが故に暫定トップに躍り出る。然し、忘れてはならないこれはカオスすごろくなのだ

 

『カルムチームはぁ〜!じゃじゃ〜ん!スタートに戻る☆』

 

「序盤から!?それって、ゴール手前で出るヤツだろ!明らかに!」

 

「なんだ、戻るのか?意味わかんねぇな」

 

「全くだ」

 

「その前にディアベルにグリス………何で裸なんだよ」

 

「「何か問題が?」」

 

開始早々にスタートに戻されたカルムは文句を言いながらも、背後のチームメイトが脱いでいることに気付き、指摘するが彼等は意味が分からないと言わんばかりに首を傾げた

 

「ゼット!変なマスに止まったりしたら、許さないわよ!」

 

「ゼットくん、頑張って」

 

「ニハハハハ!任せときなって!ゼットさんに不可能はない!どりゃぁぁぁぁぁ!!」

 

最後のトリを務めるゼット。エース、シズからの声援を背に勢いよくサイコロをぶん投げた

 

『はーい!ゼットチームは三マスでーす!』

 

「割と無難ね………でも罰ゲームが心配だな…」

 

「変なのじゃないと良いけど……」

 

「シズさん?そいつはフラグじゃない?さてさて〜どんなのかなぁ〜」

 

談笑しつつ、三マス進むゼットチーム。これで現時点では一回休みのソウテンチーム並びにスタートに返り咲いたカルムチームと僅かに差を付けることが出来た。然し、忘れてはならないこれはカオスすごろくなのだ

 

「ゼットチームはぁ〜!代表者がバッタを食べる☆」

 

「おお〜なかなかのふざけた内容だ。それで、誰が食べる?」

 

「は?ゼットに決まってるじゃない」

 

「そうだよ。ゼットくん以外にバッタを食べれる人はいないよ」

 

「あっれぇ〜?なんで?バッタを俺が食べる流れになってんの?ねぇ」

 

良心とはなんだ?と言わんばかりの理不尽な罰ゲームに女性陣が代表に指名したのはゼット。当の本人は意見を唱えるも、彼女たちは聞く耳を持たない

 

「コシナルに料理してもらうのはアリだったしません?シカイちゃん」

 

『うん?いいよん☆食えるなら』

 

「おぉ!コシナル!バッタを調理してくれ」

 

「虫を食うのか?おめぇは。人間辞めてるな、相変わらず」

 

助け船にゼットはケイタリングに興じていたコシナルに呼び掛けるが、まさかの食材を出すクランのサブリーダーをに対し、彼は完全に引いていた

 

「あら、鍋が煮えたわ」

 

「早く食べましょう!ミトさん!デザートにチーズケーキがあるんです!」

 

「ちょっと!このキャベツ美味しいわ!ジャムつけなさいよ!」

 

「野菜にジャムなんかつけるかっ!!」

 

「姉御。何処にいってたの?心配したよ」

 

「迷子はアンタだよ」

 




カオスすごろくの罰ゲームに振り回される一行、果たしてシカイシャの狙いとは!そして、まさかまさかのあの三人が極寒の大地から再登場!?

NEXTヒント 霜の四本槍


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四幕 暴かれた秘密!懐かしの敵が大集合?見ててください!俺たちのアバターチェンジ!

タイトルなげぇ………コラボ四話目!次回はいよいよ最終回♪


「前回のあらすじ、リーダーさんの相変わらずの阿呆な思い付きに巻き込まれる形で、カオスすごろくをプレイ&観戦することになったあたしたちとクラン《A to Z》、カルムさんとルゼさんの面々……果たして、この先に待ち受ける運命や如何に!!以上、現場から世界を自由に染め上げますっ♪でお馴染みの美少女彩りアイドルのシリカがお送りしましたっ☆」

 

「しまった!きっくんがふざけてないと思ったら、今日はシリカが野放しに!!」

 

開口一番に、前回の経緯を解説する一人のアイドル娘。幼馴染を見張る事に集中し、友人が野放しになってしまっていた事にリーファは気付き、声を挙げた

 

「またしても台本が間に合わず、シリカさんにあらすじを乗っ取られるとは……なんたる不覚!」

 

何時も適当なあらすじを考える事が何よりの楽しみだったヴェルデは地面を叩き、二度目の自らの筆の遅さを嘆く

 

「ふっふっふっ!良い?前にも言ったけど、アイドルは可愛ければ、何をしても許されるんだよっ!」

 

「ヒイロくん……慣れって怖いね。あのやり取りを空気みたいに思い始めてるあたしがいるよ」

 

「だから言ったでしょ。慣れると気にならないって」

 

焼き鳥を頬張るヒイロに、かつて言われた事を確認すると、彼は何時も通りの無表情で答えを返した

 

「はぁはぁ………何回目だ……落とし穴……」

 

「知るかっ!だいたい、なんでお前がサイコロを降ると高確率で落とし穴を引き当てんだよっ!!なんだ?お前はアレか?落とし穴に愛されてんのか!?」

 

「そんなのに愛されたくねぇわっ!!」

 

「………少し、気になるな。何故かは分からないけど、明らかにチームごとに止まるマスがパターン化しているような気がする……何かある…としか思えない」

 

落とし穴に落ちまくる現状に、元凶であるソウテンと殴り合いを始めたキリト。二人を放置し、カイは冷静に状況を見定めようと他のチームに視線を向ける

 

「バッタの次はイナゴ……その次はヤゴ……なんなの?なんで、俺が止まるマスはゲテモノばっかりなんですかねぇ?」

 

「日頃の行いが悪いからよ。セクハラしまくってる自分を恨むのね」

 

「そんな事を言うエースちゃんにはお仕置きが必要だな」

 

「言ってる側から、揉むなっ!!」

 

「う〜ん……コシナルくんの料理があるとは言っても……なんだか腑に落ちないんだよね……なんだろ?この違和感」

 

虫を食べまくるという現状に、疑問を感じるゼットが問えば、エースは辛辣に返すが、仕返しに胸を揉まれ、頭に空手チョップを叩き込む。その状況を見ながら、冷静なシズは違和感に疑問を感じていた

 

「くそっ……なんなんだよ……スタートに戻りまくった挙句、ようやく進めたと思ったら、名前を改名させられるなんて……なんだよ!ぽん酢ぼっちって!イヤガラセかっ!」

 

「落ち着けよ、ぽん酢ぼっち。取り敢えず、バナナでも剥いとけ」

 

「ああ、すま---って!何でこの状況で、お前が持参したバナナを食わなきゃならないんだよ!?」

 

「バカヤロー!誰が食べていいって言った!剥くだけだ」

 

「どんな儀式だっ!!」

 

「すまない、食べてしまった。代わりにバームクーヘンを焼いてやろう」

 

「焼かなくていいわっ!!」

 

漸く、スタート戻り地獄から解放されたカルムであったが次はまさかの改名という事態に陥ってしまい、落ち込んでいたが連続するグリスとディアベルの自由さに突っ込みを放つ

 

「アマツさん、ヴェルデ。ここまでの現状を見て、何か気付いたことは?」

 

「違和感しかないな。どう考えても、何かがおかしい気がしてならん」

 

「職人のおっしゃる通りです。ゲームの中身に関しては元より違和感しかありませんが、我々がいる空間事態に何らかの違和感を感じます。以前に似たような場所に足を踏み入れた経験が………そうです!!確かヨツンヘイムの逆さピラミッドです!この場所は彼処と酷似しているんですよ!職人!」

 

「なるほどな……あの場所か。確かに似た雰囲気を感じる。これはどういう事だ?」

 

「ヨツンヘイムってのが何かは知らないけど……このクエストはそれの続きなのか?まさか」

 

「そうなってくると、益々怪しさを増すわね。何がとは断言出来ないけど」

 

頭脳派が集う故に他チームよりも早くに結論に行き着いたルゼチーム。然し、其れが気付いてはいけない結論だった事を彼等は知らなかった

 

『あ〜……何で気付いちゃうかなぁ?ネタバレとかありえんてぃでしょ〜!ちょっとちょっと!話が違うんじゃないのぉ〜?』

 

『ほっ〜ほっほっほ!おバカさんたちだけとたかを括っていましたが、どうやら切れ者が紛れ込んでいらっしゃった様ですね』

 

『我等を忘れていなかった点もポイントが高いな。残業代は出してやらないがな!』

 

『許さん…許さんからなぁ!!私とのレースをカットしたことは!!』

 

「………………こしょこしょこしょ」

 

シカイシャの声と共に響き渡るのは、以前にも聞いたことがある様な気がする聞き覚えのある声。彼等を知らないカイ、ゼット、カルム、ルゼ等の面々は首を傾げ、ソウテンは隣に立つキリトに何かを耳打ちする

 

「どちらさんでしたっけ?ってテンが言ってるぞ」

 

『お忘れですか?ならば!名乗りましょう!我が名はトラットリアヨツンヘイムの守護を任された四本槍が一人!霜の料理長の呼び名を持つリョウリチョウ!』

 

『同じく!我が名はレンタルショップヨツンヘイムの守護を任された四本槍が一人!霜の店長の呼び名を持つテンチョウ!』

 

『同じく!我が名はサーキットヨツンヘイムの守護を任された四本槍が一人!霜の整備士長の呼び名を持つセイビシチョウ!』

 

『そして!私が紅一点のゲームセンターヨツンヘイムの守護を任された四本槍が一人!霜の司会者の呼び名を持つシカイシャ!』

 

「………………こしょこしょこしょ」

 

「まさか、○イヤ人との戦い以降はめっきりと出番が減って、次第にフェードアウトしていったお前に会う日が来るとは思わなかった。大ファンです、排○拳を何度も真似しました、握手してくださいって言ってるぞ」

 

「「「天○飯だろうがァァ!!それェェェェ!!」」」

 

四本槍を天○飯と勘違いしているソウテンにカイ、ゼット、カルム、ルゼの四人が突っ込みを放つ。当の本人は首を何度も捻り、その末に答えに行き着く

 

「思い出した!キャリバー編に出てきた変人NPC集団!!」

 

「ほっ〜ほっほっほ!こうして、再び貴方にお会い出来る日を待ち侘びておりましたよ」

 

「リョウリチョウ!お前を忘れたことはなかった!あの熱いクッキングバトルは今も覚えてるぞ!」

 

「いや、今の今まで忘れてたろ?バカテン」

 

「セイビシチョウよ。まさか、貴様とまた相見える日が来るとはな」

 

「あの時の機関車男か……ふっ、私との決着をつけてもらおうではないか!!」

 

因縁がある相手と火花を散らし合うソウテンとアマツ。明らかに忘れていたと思われる迷子は恰も、忘れていませんよと言わんばかりの雰囲気を出していたがカイに頭を引っ張ったかれる

 

「てことはだ……これって、テンたちがやり残したクエストの続きかぁ?まさか」

 

「かいつまんで言うとだ、テンさんの尻拭いってことか?」

 

「なにっ!あんの尻野朗が来てんのかっ!!」

 

「誰だよっ!!そんなヤツがいるかぁ!!」

 

尻拭いと聞き、グリスが反応するも、聞き慣れない人物にカルムの突っ込みが放たれる

 

「居るから困ってんだよ。どーせ、またシノンのねーさんの尻をスクショしてんぞ」

 

「兎に角だ、こうなったら……【3狩リア】なんて言ってる場合じゃないぞ。彼奴等を倒すんだ」

 

「そうだな……然し、多勢に無勢ってのも、ハジケリストの戦い方としては良くない。どうだ?彼方が四人なら、此方も人数を減らすってのは」

 

「その必要はありませんよ………おいでなさい!スー・シェフにトゥルナン!おいでなさい!」

 

「「お呼びで?リョウリチョウ」」

 

人数を減らそうとするソウテンの問いに対し、リョウリチョウは良心的にも自分たちが人数を合わせる為に部下であるスー・シェフとトゥルナンを呼び出す

 

「また出た!!あれも知り合いかっ!?」

 

「ニハハハハ!わけわからん知り合いが多いなぁ〜?テンは」

 

「なるほどな。変則形式の3狩リア、6vs6のバトルロイヤルか……受けて立ってやるよ。ゴーカイに行くぜっ!カイ!キリト!」

 

「「了解!リーダー!」」

 

「うんじゃまあ、やりますかね」

 

またしても増えた敵に驚愕するカルム、友人の知り合いが変人ばかりなことを笑うゼット、兄貴分と親友に決まり文句で呼び掛けるソウテン、其れに応えるカイとキリト、得物を構えたルゼ。変則形式の3狩リアとしては異例にして最強のチームが完成する

 

Estamos listos.(準備は整った)

 

「何それスペイン語!?かっこよ!!俺もやる!!Bueno, déjame mostrarte.(では、お見せしよう。)仮面ライダー!」

 

「熱を感じる一振りを見せてやるよ」

 

「死んでもいいゲームなんてヌルすぎるぜ」

 

「俺は戦う!そして運命にも、勝ってみせる!」

 

「俺は言ったかな」

 

代名詞の不敵な笑みを浮かべ、決まり文句のスペイン語を口にするソウテン。其れに便乗したゼットも拳を握り締め、カイとキリトも得物を手にし、カルムも剣を強く握り締め、最後にルゼが呑気に呟く

 

「「アバターチェンジ!!」」

 

「変身!」

 

「神気合一!」

 

「武装転身!」

 

「セイバーアウェイク!」

 

高らかに宣言された聞き慣れない謎の言葉。刹那、六人に変化が訪れる

 

「なにっ!?なんなの!」

 

「もしや………○ーパー○イヤ人!生き残りがいたのですかっ!」

 

「下等生物が変化をするとは…!!」

 

「生命の神秘……是非とも我がレンタルショップに欲しい人材だ!」

 

光に包まれ、次々にありえない姿となり、佇む六人の勇士。その姿はこの世界には削ぐわない程に異質、しかしながら、威風堂々足る佇まいは、不思議と活力を与える

 

「おやまあ、我々を御存知ない?」

 

「だったら、聞かせてやるよ」

 

「精々、耳の穴をかっぽじりなよぉ〜?ニハハハハ!」

 

「俺たちが剣を抜いたからには後戻りは出来ないからな」

 

「それじゃあ、名乗りますかね!」

 

唐突な異変、あの世界にしか存在しない筈の姿を知らない者たちが困惑するのに対し、道化師を筆頭に全員が不敵な笑みを浮かべる

 

「蒼の道化師、ソウテン!」

 

妖しく光る仮面、棚引く蒼き衣、肩に担がれた槍

 

「焔の剣聖、カイ!」

 

炎を彷彿とさせる赤いコート、赤く透き通る輝く刀

 

「シン・仮面ライダー、ゼット!」

 

風に靡く赤いマフラー、妖しく光る赤き眼、深緑の仮面

 

「紫紺の剣士、カルム!」

 

紫紺のコート、籠手、片刃の剣

 

「青藍の双剣士、ルゼ!」

 

青い外套、大地に突き立てられた大剣

 

「黒の勇者、キリト!」

 

闇に映える黒き衣、両手に握られた二対の魂

 

El escenario está preparado(舞台は整った)

 

不敵に笑い、槍を肩に担ぐ道化師。無風であるにも関わらず、愛用の青いマフラーが靡く。その姿は異質であると同時に異形であるが彼等にとっては慣れ親しんだ《蒼の道化師》の姿である

 

「出番が少ない……」

 

「迷子になるからだろ」

 

「てめぇ!また勝手に野菜だけにしやがったなっ!?肉を何処にやりやがった!!」

 

「うるせぇ!肉なんかいるかボケッ!!」

 

「みんな……少し静かにしようね」

 

「それにしても男って、変身とか合体とか好きね……即席で姿を変える為の言葉を作っちゃうんだから」

 

「確かにヒイロちゃんの言う通り……なんでなの?あれって?ミト」

 

背後で繰り広げられるやり取りを放置し、変身又は合体などに盛り上がる男性陣を他所にヒイロ(女)が呆れた様に呟けば、其れに肯定したエースが隣に居たミトに問う。すると、彼女は綺麗な笑顔を浮かべた後に口を開いた

 

「決まってるじゃない。バカだからよ」




変則形式の3狩リア!果たして、勝利を掴むのは即席プレイヤー集団?四本槍with部下たち?どちらにしても、ヤバい戦いが始まる!ハジケバトルの始まりだぜっ☆

NEXTヒント 男たちよ、ハジケリストであれ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五幕 はっちゃっけ!ぶっちゃけ!ハジけまくれ!これがマルチバースだ!

コラボ最終幕に御座います、全力ゼンカイでハジけまくりました☆此度の企画に御参加いただいた皆様に感謝の意を申し上げます。其れでは、最終幕を心ゆくまでお楽しみくださいませ


tengo el primero(一番手はもらった)!!ハジケ奥義・道化師桃源郷(ソウテンユートピア)!!」

 

「な、なんですっ!?この光はっ!!」

 

「空間が歪んでるですって!?私のゲーム盤を塗り替えているというのっ!?」

 

真剣な雰囲気を真っ先に打ち壊したのは、我等が蒼の道化師ことソウテン。彼の宣言と共に、歪んだ空間はシカイシャのゲーム盤を塗り替え、白い砂浜と青い空が広がる常夏の空間に変化していく

 

「こ、これは……!!」

 

「まさかお目に掛かる日が来ようとは……!!」

 

「驚いた」

 

変化した空間を前に、驚きの余りに雄叫びを挙げるグリス、ヴェルデ、表情を変えないながらも驚きを見せるヒイロ。この空間が余程のモノである事は火を見るよりもファイヤー!な事は言わずもがなである

 

「なにがどうなったの?テンが叫んだ瞬間に景色が激変したんだけど」

 

「テンさんの魔法か何か?」

 

「魔法じゃないわ、アレはテンがハジケリストたる所以にして、得意とするハジケ奥義。そして、この空間はテン自身の頭の中を忠実に再現した最強空間………ハジケリストの中でも空間を創り出す力を持つ者を人々はこう呼ぶ!〝キング・オブ・ハジケリスト〟!!!

 

「聞いたことないけどっ!?」

 

「そもそもハジケリストってなにっ!?」

 

疑問を抱くエースとヒイロ(女)の問いに答えたのはミト。空間さえも創り変える力を持つ〝キング・オブ・ハジケリスト〟を知らない彼女たちは驚愕する

 

「この空間では如何なるスキルも意味を成さない………唯一の対抗手段は自分自身を解放すること!つまりはテンションマックスボルテージ!テンションをあげられない場合は、最悪…………死にます」

 

「死ぬっ!?どんだけ危険な技だよっ!?」

 

「えっ?危険?キリト、これって危険なの?」

 

まさかの発言にカルムは驚愕し、技の危険性を訴えるが当の本人は何を言ってるんだ?と言わんばかりの表情で首を傾げ、隣の親友に問う

 

「知らね。死ぬくらい日常生活の一部だろ」

 

「ありふれた光景とも言えるよな、テンと一緒にいると死ぬ確率が格段に上昇するから、常に死と隣り合わせなんだ」

 

「誰が死神やねん。魂魄抜いたろか」

 

「でも、テンションをあげるって……具体的にはどうやるんだ?」

 

最もな疑問を投げかけるルゼ、確かに言われてみると普段から馬鹿騒ぎが当たり前の日常を過ごしているソウテンたちとは異なり、彼等は其々に適応した環境の中にいる。故に彼等にとっては正に異質な世界、異世界と言っても過言ではないのだ。然し、其れは約一名を除いての話だ

 

「ニハハハハ!テンションをあげる?そのくらいはパーペキにお任せってもんだっ!来い!我が愛馬(サイクロン)よっ!!」

 

そう、この男。仮面ライダーを名乗るゼットという男はハジケリスト予備軍、ソウテンにも引けを取らない彼は誰よりも早くに道化師桃源郷(ソウテンユートピア)の仕組みを理解し、愛馬基愛車を呼び出す

 

「ヒャッーホッーーー!」

 

「ぐもっ!?」

 

突如、空間を突き破り、爆速で駆け抜けるオートバイにゼットは飛び乗ると、勢いという名の体当たりでソウテンを轢いた。御決まりの叫びと共にタイヤの下敷きなった迷子を気に留める者は誰もいない

 

「毎度毎度なんなんよっ!?おめぇさんは俺を轢かないといけない呪いにでも掛かってるんかっ!」

 

「残念だったな、俺に掛かっている呪いはエースちゃんにセクハラしたくなる呪いだけだ。お前を轢いたのは御約束だ☆」

 

「分かった………バイクよりもデケェのを呼び出してやんよ。アマツ!」

 

「準備は出来ている。好きにしろ」

 

ソウテンの中で何かが切れた、怒りをテンションに変えた彼はアマツに呼び掛けた。すると、その呼び掛けだけで全てを理解し、後は好きにしろと答えを返される

 

「其れではご唱和ください!桃栗三年柿八年!」

 

「タヌキ寝入り狐の嫁入り!来たりて姿を見せたもう!」

 

「「おいでませませ!!ウィンド・フルレー号!!!」」

 

「「「機関車が出たーーーーっ!?」」」

 

「流石はテンにキリト。機関車を呼び出すとはな、成長したじゃないか。お兄ちゃんは嬉しく思うぞ」

 

口上と呼ぶには余りにも締まりと纏まりがない謎口上に導かれ、時空の壁を破壊するかの様に機関車が出現する。驚くゼット、カルム、ルゼを他所にカイは弟分たちの成長に涙を流す

 

「機関車!?どんなメカニズムだよっ!?」

 

「GGOをプレイした時に職人のプレイヤーデータに付いてきたんよ。今ではギルドメンバーの呼び掛けには答えるよ、カイはコラボ限定のメンバーだから無理だけど」

 

「くっ……コラボ限定メンバーの壁が!これがマルチバースの壁かっ!!」

 

何でもありな世界線にカルムは突っ込みを放ち、マルチバース、平行世界であるが故に起きたイレギュラーな現象にカイは悔しそうに嘆きの叫びを挙げる

 

「ハジケリストって何でもありなんだな……カルムさん、突っ込むだけ無駄じゃないか?これって」

 

「いやいや、この状況で冷静なルゼがおかし………あれ?ゼットは?」

 

「おろ?そーいや、静かだな」

 

状況を理解しているかも疑わしいルゼの発言に、突っ込みを放つカルムは騒がしかったゼットの声が聞こないことに気付く。其れに反応したソウテンも思い出したように周辺を見渡す

 

「あっはっはっはっ、人に機関車をぶつけといて何を呑気に談笑してるんですかねぇ?」

 

「えっ?下に機関銃をぶっ放しといて何を楽器とダンスしてる?何を言ってんの?おめぇさんは?バカなの?」

 

機関車の下敷きになっていたと思われるゼットの発言を聞き間違い以前に意味不明な解釈に上書きする

 

「ミトさ〜〜ん、この迷子の耳はどうなってんのかなぁ?」

 

「気にしないでいいわよ、何時もだから。其れよりもテン?あとでハナシがあるわ」

 

「あい……」

 

観客席にいる彼の恋人に呼び掛ければ、彼女は綺麗な笑顔を見せた後に、瞳の奥が笑っていない笑顔でソウテンに笑い掛けた。その一瞬で何かを理解したのだろう、これは死んだな…と彼は密かに思っていた

 

「あの機関車は前に我がレースサーキットに甚大た被害をもたらした憎むべき敵!!」

 

「なんだアレは!我がレンタルショップでも扱っていない!是非とも手に入れたい!」

 

「私よりも目立つだなんて!ありえんてぃだわ!!お覚悟はよろしくて!」

 

「料理を振る舞うだけではなく、機関車を呼び出すとは……流石は我がライバル!おやりになりますねぇ。そうなれば、私も本気を出しましょう……さぁ!我々の料理をお食べなさい!」

 

「お見事です!流石はリョウリチョウ様!さぁ!道化師どもよ!心して喰らいなさい!」

 

「リョウリチョウ様の料理を食せる事が如何に名誉あることかを理解するがいい!!」

 

「「いらん。というか超いらん」」

 

忘れていたというか忘却の彼方に消し去っていたリョウリチョウたちの存在。料理を完成させた彼等の声に反応した六人の勇士、彼等は一言一句違わない返答を食い気味に返した

 

「……は?今なんと?私も耳が悪くなりましたかね?」

 

「前にも言ったけど、良く知らない人から食べ物をもらうなってのが死んだオフクロの遺言でな」

 

「テンの家もか?俺の家もだ。得体の知れない食べ物は食べないようにしてる、マヨネーズが掛かっていれば別だけどな」

 

「知らない人の作った食べ物は食べたくないな…流石に。ぽん酢も掛かってないし」

 

「なんだか分からないものを食べる程に落ちぶれてないぞ、俺は」

 

「ニハハハハ!満場一致だな!結論は……」

 

「「究極いらん」」

 

聞き返すリョウリチョウに対し、知らない人から貰うわけにはいかないと遠慮し、極め付けには先程の返答に超を超えた究極を足した更なる否定を返す

 

「遊びはここまでにしといて、退場手続きと参りましょうか?」

 

不敵に笑い、仮面越しに覗く蒼き双眸をぎらりと光らせる道化師。肩に担いだ槍を手に笑う彼は誰よりも不敵、正に道化師と呼ぶに相応しい姿で佇んでいた

 

「テン!準備完了だ!!飛べっ!!」

 

Como se esperaba(流石だ)、キリト!俺を吹っ飛ばせ!ド派手に行くぜっ!!」

 

Como usted dice(仰せのままに)!!リーダー!!ハジケ奥義・payaso volador(空飛ぶ道化師)!!」

 

キリトの交差した二つの刃に飛び乗り、空高くに打ち上げられるソウテン。その瞬間、彼は高く、誰よりも高く、飛んだ

 

「負けてられっか!!カルム!飛び乗れっ!一気に加速すんぜっ!!」

 

「ウェイ!任せたぞっ!ゼット!」

 

「さてと、俺は壁を駆け上がるとするか。やるか?ルゼ」

 

「乗った。そういうのは大好きだよ、カイさん」

 

一足先に飛び上がった道化師を皮切りに、仮面ライダーと剣士、剣聖、双剣士も其々の方法で彼を追随する

 

『往けっ!!!』

 

その姿を、五人の姿を見た全員が不敵な笑みを浮かべ、背中を押す言葉を放った。その言葉を背に受け、不敵な笑みを浮かべ、蒼き衣を棚引かせ、誰よりも高く舞い、彼は口を開く

 

「永遠にadieu」

 

仮面越しの不敵な笑みと別れの言葉。その二つはリョウリチョウたちの視界に鮮明に焼き付き、無限の槍が降り注ぎ、赤き刃は骨すらも灰にする強烈な焔を帯び、片手刃は紫色の光を放ち、片手剣と短剣は淡い青き流星となり、キックは跳躍力も重なることで苛烈さを増し、正に五味一体の合体技を前に成す術もなくリョウリチョウたちはその姿を四散させていく

 

「これにて幕引きと致しましょう」

 

「その痛みと熱を忘れるな」

 

「…………ゼット。お前、締まらないなぁ…」

 

たすけてくれ〜

 

「なんて言ってるか分からないんだけど……エースさん、翻訳を」

 

深々と頭を下げる道化師、刀を鞘に仕舞うカイ。そして、カルムは頭から地面に突き刺さったゼットに呆れ、何かを言う彼の言葉をルゼはエースに翻訳するように頼む

 

「たすけてくれ〜だって。全く……ゼットは…」

 

「どうやったら、突き刺さるの?理解出来ないわね…」

 

「退屈しないわねぇ……テンの周りは」

 

「とーさんは誰からも好かれるねぇ」

 

「マルチバースだからこそだな」

 

恋人に笑い掛け、息子の頭を優しく撫でると道化師は不敵な笑みを浮かべ、深々と頭を下げる

 

「歯車の噛み合いによっては、あり得たかもしれない、もしもの世界線に於ける誰も知らない出会いの物語。…お楽しみいただけましたか?皆様の御眼鏡に称う日々を彩れておりましたら、拍手御喝采の程、御願い申し上げます。其れでは、今宵の舞台は……此れにて、幕引きと致しましょう。またあるかも知れぬ、もしもの物語まで、暫しのお別れに御座います。Adiós(さよなら)

 

此れは歯車の噛み合いによって、あり得たかもしれない、もう一つの世界の物語

 

《焔の剣聖》、《シン・仮面ライダー》、《紫紺の剣士》、《青藍の双剣士》

 

世界が違えば、環境も違う、その彼等が混じり合う世界線

 

其れ即ち、《マルチバース》也

 




再び、感謝の意を。ミトっていいよねさん、ポンコツNOさん、仮面大佐さん、木漏日レンさん、本当にありがとうございます!こんなアホみたいな作品にコラボをしてくださるとは……これから先もギャグの街道を爆進爆進!大爆進!!していきましょう!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一章 浮遊城と彩りの道化
序幕 プロローグ


『くだらねぇ…。どいつもこいつも人を社会のクズ呼ばわりしやがって』

 

悪態を吐き捨て、無造作に頭を掻き乱す一人の少年。彼は絶望していた、大人という存在に。普段は子どもの世界に見向きもしない癖に、一度でも道を踏み外せば、社会のクズ呼ばわりする大人たち。彼はそんな世界を嫌っていた

誰からも相手にされず、只管に怒りを打つける毎日。繰り返される日々は、少年の世界に、白と黒の二色の景色を映す

 

『………』

 

その時だった。一人で寂しそうにゲーム機と睨めっこする彼女に出会ったのは。自分とは異なる寂しさを抱えた彼女に少年は声を掛けずにはいられなかった

 

『おい』

 

『………な、なに?』

 

突然の少年からの呼び掛けに少女は俯いていた顔を上げる。目の前に立つのは青いメッシュ入りの黒髪を無造作に掻き乱す少年の姿。若干の不信感は否めないが不思議と彼は信用できる、少女はそう感じていた

 

『一人でゲームか?ガキはガキらしく、元気に遊べ』

 

『君も子どもじゃない』

 

『俺をそこいらのガキと同じにすんな。こー見えても、カラーギャングのリーダーやってんだ。その辺の奴らとは、鍛え方が違げぇんだよ』

 

『カラー……ギャング…?』

 

聞きなれない言葉に少女は首を傾げた。よく見ると目の前の少年はクラスメイトの男子達とは異なり、妙な逞しさを感じる

生傷だらけの体に、冷めた瞳、着古したGジャン。その出立ちに、少女の瞳は、彼がまるで、別世界からきた異邦人の様に映った

 

『言ってみりゃ、悪さばっかしてる社会から炙れたガキの集まりだ。この前なんか、俺らのことを社会のクズとか言ったおっさんをボコボコにしてやった』

 

『悪いことは駄目だよ。いつか、きっと後悔する日が来るんだよ』

 

『……だとしても、俺たちはそういうやり方しか知らねぇんだよ』

 

『……でも良くないよ、やっぱり。それで君の気分が晴れるなら、私は何も言わないけど。違うよね?だって……今の君は寂しそうに見える』

 

『……寂しそうねぇ。だとしても、さっきも言ったが俺はそういうやり方しか知らねぇんだよ。気に食わないことに対して、怒りを打つけることしか出来ねぇんだよ。確かに間違ってるかもしれねぇがよ。でもな、俺はそうやって生きてきたんだ、だからこれからもその生き方を曲げるつもりはねぇ。まあ……少しだけなら、お前の意見を尊重してやってもいいけどよ、あくまでも少しだからな?』

 

少年の問いに少女は顔を上げ、嬉しそうに頷いた。調子が狂う…と罰が悪そうに少年は肩を竦める

 

『そういえば……君はこんなとこでなにしてるの?』

 

『実はよ、ダチと一緒に逃げてたんだけどよ。どーも…俺だけが逸れちまったみたいでな。入間市はどっちだ?』

 

『ここは、所沢市だよ?どれだけ迷子なの?バカなの?キミは』

 

『俺は迷子じゃない。其れにバカなんは、迷子になってるあのバカたちだ』

 

『やっぱり迷子だよね』

 

『違う。迷子じゃない』

 

『いや迷子だね』

 

『迷子って言うヤツが迷子だ』

 

『なるほど、迷子なんだね。えっと…迷子くんって呼べばいい?迷子くんはどうして迷子になったの?』

 

『やめろ、迷子を連発するな。それだと俺が迷子みたいだろ。あと、俺には蒼井天哉(あおいてんや)って、名前があんだよ。迷子くんとか呼ぶな』

 

迷子呼ばわりされたのが余程、不服だったのか少年もとい天哉は自らの名を少女に告げる

すると、彼女は優しく笑い、天哉の眼前に顔を接近させる

 

『私は兎沢深澄だよ。気軽にミトって呼んでね』

 

『なっ!いきなり顔を近づけんな!俺のことはテンで良い、よろしくな…ミト』

 

『わかった。よろしくね、テン』

 

『よし…じゃあ、行くか。ミト』

 

『え…私も?』

 

咄嗟に腕を掴まれ、深澄は困惑した表情を見せる。それもその筈、天哉の友人達を探すのに自分も同行するとは思っていなかったからだ

 

『そのゲームの相手が出来そうなヤツがダチに居るから、紹介してやるよ。アイツ、ゲームだと容赦なくてよ、俺たちだと相手にならねぇんだ。たまにはその鼻をへし折ってやりたい訳だ、協力してくれるか?ミト』

 

『ゲームで負ける訳にはいかないね。テンの為に協力するよ』

 

『なっ!べ、別に俺のことは良いんだよ!お前はソイツに勝てばいいだけだ!』

 

『テン。もしかして、照れてるの?可愛とこあるね。迷子だけど』

 

『可愛いとか言うな!あと迷子じゃない!』

 

幼き日の出会い。世界を嫌う少年とゲームを愛する少女

 

『蒼の道化師』と『紫の死喰い』

 

最強のトッププレイヤー夫婦

 

二人は後にゲームでの死が現実の物となる恐ろしきデスゲーム、VRMMORPG《ソードアート・オンライン》の世界で、その名を轟かせることとなる

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一幕 剣の世界

2022年 11月6日

 

世間は沸き立っていた。VRMMORPG《ソードアート・オンライン》の正式サービス開始という一大イベントに

 

そして、この寂れたゲームセンターにもこの日を待ち侘びていた五人の少年たちがいた

 

「どうしたんだよ?テンにカズ。今日は集会の予定じゃねぇだろ?」

 

ダークブラウンの髪が特徴的な少年、灰沢純平(はいざわじゅんぺい)は目の前に座る天哉と彼の隣に佇む黒髪の少年、桐ヶ谷和人に問いを投げかける

 

「聞いて驚くな。実はな…」

 

「ええっ!?」

 

「リーダー。まだ何も言ってないよ、カズさんは」

 

天哉をリーダーと呼ぶ赤味を帯びた茶髪が特徴的な緋泉彩葉(ひいずみいろは)。この中で最年少メンバーであるが弟のように可愛がられるマスコット的な存在だ

 

「彩葉くん。リーダーを責めてはいけませんよ、リーダーは御約束をやらないと気が済まない性分なんです。何せ、頭の大半がピーナッツバターで出来ている変人なんですから」

 

彩葉を咎めつつ、天哉を遠回しに罵倒する緑色のフレーム眼鏡が特徴な緑川菊丸(みどりかわきくまる)。彼は参謀的な立ち位置で頭の良さは群を抜いている

 

「おいコラ。ピーナッツバターを悪く言うな、ピーナッツバターは最強だ」

 

「テンのピーナッツバター談義は無視してくれ。今日はなんと」

 

「ええっ!?」

 

「やかましい!!」

 

懲りずに御約束を続けようとする天哉の顔面に鉄拳が飛ぶ。物理的に黙らせ、軽く咳払いをした後に和人が口を開く

 

「ナーヴギアは知ってるよな?勿論ながら」

 

「知ってるというか持ってるぞ。ていうか持ってきた」

 

「カズさんが持ってこいって言った」

 

「コレを人数分も手に入れる事が出来たのは僕の素晴らしい交渉術があってこそというのを忘れないでいただきたいですね」

 

「お前はオッさんを相手に話し込んでただけだろ。何を威張ってんだ、眼鏡をかち割るぞ」

 

「リーダー。眼鏡には眼鏡のやり方があるんですよ」

 

「何を言ってんだ?お前は」

 

ナーヴギア。民生用フルダイブ型VRマシンの第一号機で、ユーザーの脳に直接接続して仮想の五感情報を与え、仮想空間を生成する画期的なハードである

 

このハードを天哉等が入手した経緯は一月程前に渋谷の辺りに足を運んだ時、とある男性が自分たちとは異なるカラーギャングに因縁をつけられていた事から始まる。最初は無視しようとしたが唯一の女性メンバーである深澄が天哉に意見した

 

『テン。私との約束…忘れてないわよね』

 

『……へいへい。お前等、あのオッサンを助けんぞ。但し……サツにパクられるような真似はすんな』

 

『『『りょーかい!リーダー!』』』

 

後日。助けた男性がアーガスの重役だったらしく、親切にも人数分のナーヴギアを礼に贈呈してくれたのだ。そして、今日のこの瞬間に備え、其々が持参したという訳だ

 

「そーいや、ミトはどした?テン。何時もなら、おめぇと来るだろ」

 

「ああ。ミトは用事があるとかで今日は来ねぇよ」

 

「ほう。用事……さては愛想を尽かされましたか?リーダー」

 

「それだね。リーダーはバカで、方向音痴で、ピーナッツバタージャンキーな可哀想な人だから。ミトさんも愛想が尽きたに違いない」

 

「違うわっ!バカども!」

 

「さて可哀想なテン、略して可哀想テンはほっておいてだ。今日、集まってもらったのは他でもない……これの為だ!」

 

「ちょっと待て!人を可哀想扱いして話を進めるな!俺は可哀想じゃない!」

 

騒ぐ天哉を無視し、和人の取り出した物体に純平と彩葉、菊丸の三人が食い入るように集まった

 

「なっ!こ、コイツは…!!」

 

「まさか!!」

 

「驚きました。正に渦中の話題作、《ソードアート・オンライン》ではありませんか」

 

「しかも人数分だと…!?」

 

「一万人限定の初回ロットをどうやって…?リーダー、まさかだけど買った人から奪った?」

 

「奪ってねぇよ。ちょいと臨時のバイトがあったからよ、その報酬にもらってきた」

 

「どんなバイトしたら、人数分のソフトが手に入るの?」

 

「きっと非合法に違いありません。リーダーだけを警察に突き出して、我々はゲームと洒落込みましょう」

 

「だな。カズ、確かβテスターだよな?色々とレクチャーを頼むぜ」

 

「任せてくれ。じゃあ、テン。俺たちはゲームするからお前は警察に行けよ」

 

「リーダーなのに扱いが雑すぎるわっ!!というかバイトは普通に合法なヤツだ!!」

 

「「「「えっ…」」」」

 

「真顔をやめろ!真顔を!」

 

騒がしくもたわいもないやり取りをしながら、ナーヴギアを天哉達は被る。そして、仕上げにスロットにソフトを挿入

 

『リンクスタート!』

 

仮想世界へ飛び込む合言葉を唱えた。暗闇の世界に誘わると、案内音声が耳に届く

 

『《ソードアート・オンライン》の世界へようこそ。まずはプレイヤーネームを入れてください』

 

「名前か…さすがに本名とかは避けなきゃな。でもなぁ…あっちで俺だって分からねぇとアイツら、うるせぇからなぁ…。あっ、soutenなら」

 

姓と名の複合、余りにも安直ではあるが此れならば普段の呼ばれ方をされても問題は無いと判断。その後、アバターの設定画面に切り替わった

 

現実の極悪面と揶揄される切長の眼、手入れのしようがない癖毛をある程度の年相応な感じに変更する。この姿が天哉だと分かれば、身内には揶揄われるのは目に見えているが仮想世界でぐらいは夢を見たい。其れが天哉の秘めたる欲望であった

 

『それではゲームをお楽しみください』

 

アナウンスが終わると共に、虹色のリングをくぐる。大地に降り立つ感覚と共に開いた視界にSAOの世界が姿を現す。この瞬間、天哉はプレイヤーのソウテンへと自分が成ったのだと自覚した

 

「こりゃいい。体が軽く感じる」

 

モーションの動きを確かめようと軽く飛び跳ねる動作を何度か繰り返していると、肩を叩かれた

 

「よっ。仮想世界にようこそ」

 

「……ん?」

 

「俺だよ、俺。あっ…わかっても本名は無しだからな」

 

「……ああ、なんだ。お前かー、ビックリさせんなよ。か……こっちではキリトか」

 

「ああ」

 

キリト。そう呼ばれたプレイヤーはソウテンの仲間の一人で今回のゲームでは唯一にβテスターである和人だ。原則は本名呼びは御法度の為、普段の呼び名で呼びそうになったが即座に呼び変える

 

「門の前にみんな、集まってるぞ」

 

「俺が最後かよ」

 

「顔を弄るのに時間掛けてたんだろ?分かるぞ、リアルのお前は凶悪な面してるからな。ソウテン」

 

「るせぇ。あと無理して、ソウテンって呼ばなくていいぜ。いつも通りで構わねぇよ」

 

「りょーかい。じゃあ、テン。行こうぜ!」

 

「おうよ」

 

門の前に集合していたグリス、ヒイロ、ヴェルデの三人と合流を果たしたソウテンとキリトは武器屋に足を運ぶ

 

「ハンマーはあんのか?俺的にはモンスターの頭をかち割れるヤツが欲しいんだが」

 

「初期からある訳ないだろ、そんな高火力なヤツが」

 

「槍って、使い方とかあんのか?足で蹴る以外に」

 

「足で蹴るを前提の選択肢に入れるな。普通に手を使え、手を」

 

「手裏剣ない?キリトさん」

 

「剣の世界ってコンセプトだからな。ブーメランとかはあるかもしれないけど…手裏剣は流石にな」

 

「すみませんが店主。金の斧または銀の斧はありますか?できれば、出来損ないの斧があると非常に嬉しいのですが。ああ、泉があっても落としはしませんよ。この世界での武器は大変貴重ですからね」

 

「ヴェルデ、御伽噺をしたいなら店の外でやるといいぞ。というか真面に武器を探すつもりはあるのか?お前たちは」

 

聞く耳を持たないソウテン達に苛立つキリト。刹那、彼の肩を誰かが叩く

 

「なぁ、兄ちゃん。見たところ、βテスターじゃないか?そっちの兄ちゃんたちに武器の説明をする辺り、只者じゃないと見た」

 

「ま、まあ…そうだけど」

 

「頼む!俺にも色々とレクチャーしてくれ!この通りだ!」

 

「よし、気に入った。バンダナくん、君がレクチャーしてもらうのを特別に許可しよう。その後は全員でおにぎりを握ろう」

 

「ありがてぇ……って!誰だよ、おめぇは!!というか知らねぇヤツが握ったおにぎりはいらん!」

 

「誰が食っていいって言った。握るだけだ」

 

「何の儀式だよっ!?そもそも誰だ、お前は!名を名乗りやがれ!」

 

「俺か?俺はだな…」

 

「迷子癖のある味覚破綻者」

 

「味覚破滅気味の迷子野郎」

 

「迷子なのに迷子を認めないバカ」

 

「迷子が趣味な色ボケ」

 

「まだ迷子になってねぇのに迷子を連発すんな!!というか流れるように罵倒すんじゃねぇよ!傷つくだろうが!仮想世界なのに!!」

 

息を合わせたかのような流れる罵倒の嵐、其れに突っ込むソウテン。その光景を見ていた男性プレイヤー、クラインは思った

 

(声を掛けるヤツらを間違えたかも……)




タイトルには剣の世界とありますがキリト以外のメンバー達は剣系統の武器は使用しません。何故かって?そりゃあ、同じ武器ばっかだと個々の見せ場がないからですよ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二幕 始まりの日

「うおおおおおおおっ!!?」

 

キリトの指導でフィールドに出た一行は其々の得物を手にフレンジ―・ボアと言う、雑魚モンスターと向き合っている

 

「牡丹鍋だな。今日は」

 

「いやモツの方がうめぇだろ」

 

「リーダーもグリスさんもわかってない。一番のご馳走は焼き鳥だよ」

 

「鍋の話に割って入るな。お前は黙って串を頬張ってろ、鳥チビ」

 

「迷子ピーナッツに言われたくない」

 

「おい、ピーナッツバターを舐めんなよ。あれはな、何にでも合うように作られてんだ」

 

「だからって、食べる料理全般にピーナッツバターを掛けるのは辞めた方がいいぞ。テン」

 

「パスタ馬鹿は黙れ」

 

「パスタを馬鹿にすんなよ。パスタはな、手軽で美味いんだ」

 

「かと言って、具無しはよくありませんよ。キリトさん」

 

真剣に向き合うクラインを他所にソウテン達は食べ物談義に熱中している。その片手間で、キリトは自分が持ち得る知識を全員にレクチャーしていく

 

「大事なのはモーション。モーションを起こしてソードスキルを発動、後はシステムが命中させてくれるって」

 

そう言うとキリトは《投擲》スキルを使い、足元の小石をフレンジー・ボアにぶつけると彼に狙いを定め、一直線に突っ走ってきた

 

その攻撃をキリトは片手剣で受け止めつつ、躱す

 

「モーションか………」

 

「そうだな……グッと力を込めて、そのあとスパンッて打ち込む感じだ!」 

 

「投擲スキル…あっ、こうか。あらよっと!」

 

クラインがキリトの指導を親身に聞く横で、肩に担いでいた槍をソウテンが他のフレンジー・ボア目掛け、投擲すると綺麗な放物線を描き、目標の脳天を直撃

 

「おっ。刺さった」

 

「よし。次は俺だぜ!どっせい!!」

 

グリスが追随するように《片手棍》スキルの《パワーストライク》を叩き込む

 

「……えい」

 

「ヒイロ!?剣は投げるモノじゃないぞ!!」

 

その様子を見ていたヒイロが手にしていた曲刀を投擲。衝撃の行動にキリトが慌て気味に突っ込む

 

「だって、曲刀の形ってブーメランみたいだし。本来はこう使うんじゃないの?」

 

「違うわっ!というか…どれだけ、ブーメランにこだわりがあるんだ?お前は」

 

「ブーメランは太古の昔から存在する万能武器だと聞いてる」

 

「いや、知らんけど」

 

「それでは…トドメは僕にお任せを」

 

こてん、と首を傾げるヒイロにキリトの更なる突っ込むが飛ぶ。細剣を手に二人の間を駆け抜けたのはヴェルデ、参謀の立場にある彼だが身の軽さは仲間の中でも群を抜いて高いのだ

 

「なぁ、ヴェルデのヤツさ。武器屋で斧欲しがってたよな?」

 

「そういや…そうだな」

 

「なのに…細剣を装備してる。何故?」

 

「今更だろ。ヴェルデの訳分からなさに関しては」

 

「おめぇら、楽しそうだな。毎日が」

 

「まあな。にしても…あの猪肉はもう居ねえのか?」

 

「おおっ!そうだ!あの中ボスは何処だ!」

 

「いや、あれはスライムクラスだぞ。どこの世界に、中ボスを序盤の街を出た所に配置すんだよ」

 

クラインの謎発言にキリトが空かさず、突っ込む。その様子にソウテンが思い出したように口を開く

 

「俺が前にミトとやったヤツはそうだったぞ」

 

「テン。それはお前が騙されてるだけだ」

 

「なにっ!?ミトのヤツ!俺を揶揄ったのか!?」

 

「ミト?誰だ、そりゃ」

 

聞き慣れない名にクラインが首を傾げた。確認する限り、このメンバーで「ミト」と呼称された人物は居ない

すると、ヴェルデが口を開いた

 

「リーダーの恋人ですよ」

 

「リーダーの愛人だよ」

 

「テンの彼女だ」

 

「テンの幼馴染だ」

 

「おう、ソウテン。ちょっとそのミトって子を紹介してくれ」

 

「やだ」

 

「なんだとぅ!?」

 

「リーダーは独占欲が激しいからね」

 

「うるせぇ。ハナタレ」

 

「誰がハナタレか。迷子」

 

「迷子じゃねぇ!」

 

陽は傾き、時刻は17時13分を迎える。当たりのモンスターを狩り尽くし、黄昏れているとクラインが口を開いた

 

「しっかし、信じらんねぇよな。ここがゲームの世界だなんてよ」

 

「だな。この時代も捨てたもんじゃねーな」

 

「大げさな方々ですね」

 

「だって初のフルダイブ体験だぜ!」

 

「てことはナーヴギア用のゲームもSAOが初めか?」

 

「どっちかって言うと、SAOの為にナーヴギアも揃えたって感じかな。一万人限定の初回ロットを手に入られたのは、我ながらにラッキーだった。ま、そんな中でも、βテストに当選したキリトはその十倍ラッキーだけどな」

 

「そりゃな。コイツはゲームだけが取り柄だからな」

 

「迷子が取り柄のヤツにだけは言われたくない」

 

「そんなのを取り柄にした覚えはねぇ」

 

「そうですよ。いくらリーダーが迷子になり易いバカだからって、それはあまりにも失礼ですよ」

 

「うんうん、リーダーにも取り柄くらいあるよ。焼き鳥を奢ってくれるし」

 

「それにチャリが壊れたら、無料で直してくれるしな」

 

「そうだな、俺が悪かったよ。テン」

 

「やかましい!その優しさが逆に痛いわっ!!」

 

「ホントに賑やかだなぁ。毎日が楽しいだろ?お前ら」

 

クラインの問いに全員の動きが静止した。その視線は遥か彼方に見える、アインクラッド城を見据えていた

 

「楽しい…か。考えたこともなかったな」

 

「ああ。当たり前にバカやって、騒ぐ毎日だもんな」

 

「仮想世界なのにな…。何時もより、生きてるって思える、不思議だな」

 

「ど、どしたんだ?急に。リアルでなんかあったんか?」

 

「いえ、何でもありませんよ。ただ…僕たちはリアルよりも仮想世界向きの人間というだけのことです」

 

「どう?クラインももう少しだけ、俺たちと遊んでいかない?安くしとくよ」

 

「金取る気かよっ!?生憎、即答してやりてぇがよ……実は、17時30分にピザの配達予約してんだ。じゃ、また後で」

 

ヒイロの発言に突っ込みながら、クラインは立ち上がる。そして、右腕を振り、ログアウトをしようとする

 

「あれ?」

 

「ん?どうした?」

 

「いや……ログアウトボタンがねぇーんだよ」

 

「は?何言ってんだ?ちゃんと底の方に………」

 

「おいおい、キリトまでボケをかましてる場合かよ。ログアウトボタンなら……ここに」

 

「どしたよ?テンにキリト。ログアウトボタンが見つからねぇみたいな顔して」

 

「今、クラインがそう言ったのにグリスさんは聞いてなかったのかな?ヴェルデ」

 

「でしょうね。グリスさんはリーダーに次ぐ馬鹿野郎のすっとこどっこいでアンポンタンなゴリラですから」

 

「誰がすっとこどっこいだ!眼鏡!」

 

「眼鏡をバカにしないでいただきましょうか。眼鏡は頭脳明晰の証なんですよ」

 

「それにしてもログアウトボタンが無いのは何故?これはGMに苦情を入れないと」

 

慌てる面々を他所に一人だけ冷静な最年少のヒイロはGMコールを試みるが一切の反応を示さない

 

「そうだ!ナーヴギアを頭から外しちまえば!」

 

「無理だ。俺達は現実の体は動かせない。ナーヴギアが、身体を動かす信号を全て、遮断してる。外に居る誰かが、外さない限りは………」

 

「そんな!俺一人暮らしだぜ!誰もいねぇよ!お前たちは!?」

 

「ああー…それがな。今は家じゃねぇとこからログインしてんだよな…俺たち」

 

「ミトが俺たちの異変に気付けば、何とかなるかもだが…。あいつ、用事があるとかで来なかったしなぁ」

 

「厳しいですね、これは」

 

「そうだ。今の自分を殴ればいいんじゃね?」

 

「わかった」

 

「ぐぼっ!?いきなり!殴んな!ヒイロ!」

 

「だって殴れって言った。グリスさんが」

 

「だからって極端に程があるわっ!ちびっ子!!」

 

「チビじゃない、成長期」

 

状況を把握しているのかは不明だが、どうでもいいやり取りを行う仲間たちを他所にキリトは思案していた

 

「おかしい…どう考えても、おかしいぞ」

 

「んなにおかしいか?バグくらいゲームに付き物だろ。普通に」

 

「テン、だからお前はテンなんだ。これはバグにしては余りにも異常なことだ。明らかに今後の運営に支障をきたすぞ」

 

「言われてみりゃ……ん?おいコラ、最初のはどういう意味だ。事と次第によっちゃ、タダじゃおかねぇぞ」

 

「キリトさんの言い分は一理ありますね。この場合、普通であれば、サーバーを一時停止し、プライヤーを全員ログアウトさせるはず………然しながら、運営からのアナウンス一つ無い…」

 

ヴェルデがそう呟いた瞬間、鐘の音が鳴り響いた

突然のことに驚いていると、ソウテン達の体が鮮やかなブルーの光に包まれる。光が収まると、其処は最初にログインした場所、つまりは《始まりの町》だった

彼らだけでは無い。他にも、たくさんのプレイヤーたちが集まっており、見方によれば、全てのプレイヤーが集まっているのではと錯覚してしまう

 

数秒が経過した後、辺りがざわつき出す。やがて、それが苛立ち変わり始めた頃だった

 

空に【System Announcement】の文字が浮かびあがったのは。運営側からのアナウンスが始まると誰もが安堵した

 

だが……夕焼けに染まった空の一部がどろりと垂れ下がり、空中で留まった

 

そして、そのどろりとした塊が形を変え20メートルはある人間の形を形成した。形はSAOに出てくるGMの恰好をしているが、そのローブの中に顔は無く、袖からは腕すらも見えない

 

そう、この存在には肉体自体が存在していなかった。急拵えのようにアバターの恰好だけを用意した正に人形の呼び名が相応しい姿である

 

そして、GMの両手がゆっくりと挙がり、言葉が放たれた

 

『プレイヤーの諸君。私の世界へようこそ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三幕 別離

茅場晶彦

 

その名は、誰もが知るビッグネームだ

 

SAOを作った天才ゲームデザイナーにして量子物理学者。そして、何よりもナーヴギアの基礎設計者でもある

 

『プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが無いことに気づいてると思う。それは、不具合ではなく《ソードアート・オンライン》本来の仕様である。諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームからログアウトすることはできない。また、外部の人間によってナーヴギアの停止、解除を試みられた場合、ナーヴギアが諸君の脳を破壊する』

 

「そんなこと…出来るの?ヴェルデ」

 

「不可能……と断言したい所ではありますが、可能です」

 

「ヴェルデの言う通りだ。新技術っていっても原理は電子レンジと同じ。出力さえあれば脳を蒸し焼きにすることもできる」

 

「で、でも、電源コードをいきなり抜けば…」

 

「ナーヴギアの重さの3割はバッテリーセルです。コードを抜いてたとしも、其れは意味を成さない。つまりはコード無しでもナーブギアは動き続けます」

 

「ま、マジかよ…」

 

『10分間の外部電源切断、2時間のネットワーク回路切断、ナーヴギア本体のロック解除、または分解、破壊のいずれかによって脳破壊シークエンスが実行される。現時点で、警告を無視しナーヴギアの強制除装を試み、すでに、213名のプレイヤーがアインクラッドおよび現実世界から永久退場している』

 

213名。それだけの人の命が失われた、これを恐怖せずに居られるだろうか?不可能である。誰もが言葉を失う中、茅場が続ける

 

『今、ありとあらゆる情報メディアによってこの状況は報道されている。ナーヴギアを装着したまま、2時間の回路切断猶予時間のうちに病院、施設に搬送される。現実の肉体は、厳重な介護体制のもとにおかれる。諸君には、安心してゲーム攻略に励んでほしい。さらに、《ソードアート・オンライン》はもうただのゲームではない。もう一つの現実だ。今後、ありとあらゆる蘇生手段は機能しない。HPがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、ナ―ヴギアによって脳を破壊される』

 

突きつけられた現実に、誰もが息を呑む。見えない恐怖に怯え、苛立っていた。それは、まるで箱庭に閉じ込められた鑑賞動物のようだ

 

『このゲームから解放される条件はただ一つ。アインクラッドの最上部、第100層に辿り着き最終ボスを倒すことだ。そうすれば、生き残ったプレイヤーは、全員、安全にログアウトされることを保証しよう』

 

ざわつき、どよめくプレイヤー達に対し、茅場はまたも口を開いた

 

『最後に諸君にこれが現実である証拠を見せよう。アイテムストレージに私からのプレゼントがある。確認してくれたまえ』

 

アイテムストレージを開く。其処にあったのは一つのアイテム

 

アイテム名:手鏡

 

《手鏡》、これが茅場の言うプレゼントなのだろう。オブジェクト化した鏡にはアバターと同じ顔が映されている

 

刹那、プレイヤーたちの体を白い光が包んだかと思えば、数秒が経過した後に視界を開き、ソウテンが周囲を見回していると隣から聞き覚えのある声が耳に入る

 

「えっ……?リーダー、その顔って…」

 

「ヒイロくん…!その顔!」

 

「ヴェルデ!お前もだぜ!?見慣れた眼鏡面になってやがんぞ!」

 

「ヤベェな……せっかくの美形が台無しだ。これじゃあ、単なる凶悪犯じゃねぇか」

 

「「「「何を今更」」」」

 

「ハモるなっ!」

 

「そのノリ……まさか、ソウテンたちか?おめぇら」

 

「あ?……まさか、クライン?」

 

再び、聞き覚えのある声に反対側を振り向くと髭面の男性が立っていた。互いを確認するようにクラインとソウテンが顔を見合わせていると、茅場が三度、口を開いた

 

『諸君は、今なぜこのようなことをしたのか、と思っているだろう。大規模なテロでも身代金目的でもない。私の目的はすでに達成してる。この状況こそが私の最終目的なのだ。…以上で《ソードアート・オンライン》正式チュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の健闘を祈る』

 

そう言い残し、茅場の姿は空に同化していくように消滅する。暫くの間、静寂が辺りを支配した。やがて、広場に絶叫が響き、全員が口々に罵詈雑言を言い、騒ぎ立てる

 

「こっちだ!」

 

キリトの呼び掛けで、路地裏に移動しようとするソウテン達だったが自分たちとは反対側へ駆けていく二人組の少女が視界に入った

濃紫がかった黒のポニーテールを靡かせ、栗色の髪をした少女の手を引く少女。僅かであったが見間違える筈がなかった

 

「まさか……いや、でも……お前なのか…?ミト!」

 

名を呼ぶが彼女は振り返らなかった。其れでもソウテンには分かった

あの少女がミトだと、初めて会った日から、時には笑い合い、時には喧嘩もした、だが最後は決まって、キリト達も交えて、ゲームに興じた。見間違える訳がない、見間違えようなどなかった。彼女がこの世界に居た、其れは幸とも言えるが不幸とも言える

終わりの見えない世界に愛する者が居り、何時かは分からないが消えてしまうかもしれない命の灯。足が竦む、初めての恐怖に

失うかもしれない恐怖がソウテンの足に見えない鎖を縛り付ける

 

「テン!早くしろ!」

 

「くそっ……!」

 

キリトの呼び掛けで、我に返り、仲間達の背を追う。一抹の不安は消えないが今は、自分の身を優先するのが当たり前だった。誰もが理解できない恐怖に怯えていた

 

「あり?クラインはどした?」

 

「ああ、彼なら。仲間を見捨てられないとかで僕たちとは別行動になりました」

 

「仲間想いな人だね。僕たちも行こうか」

 

「おーい!」

 

ヒイロの提案に頷き、町の出口へと向かおうとする一行を引き返してきたクラインが呼び止めた

 

「おめぇら、その面の方が親ししみやすくて、俺は好きだぜ!ソウテンはちぃとばかし、極悪面だけどよ…なんつーか、お前らしいとおもうぜ!俺は!」

 

「そりゃあんがとよ。お前も野武士面の方が似合ってんぞ」

 

振り返ることなく、彼らは走り出した。生きる為に町の外へ。現実ではない、もう一つの世界へと

 

走って、走って、走った。終わりの見えない世界を攻略する為に。何時になるかは分からない。其れでも走らずにはいられなかった

 

その身に纏わりつく恐怖を打ち払う為に

 

然し、ソウテンだけは歩みを止めた

 

振り返りはしないが自分たちが走ってきたのと逆方向が気になって仕方がない。確かめたい、ミトの行方を

 

「……悪い。俺はリーダー、失格だ。お前たちよりもミトが大事なんだ……ごめんな」

 

消え行く仲間たちの背に呟き、ソウテンは彼らとは別方向に走り出した

本来は初心者の彼が独りで行動するのは明らかに無謀だ。だが、そうしなければならない理由がある

 

ウィンドウを開き、フレンドリストの一番上にあるキリトの名を触る

 

『後は頼む。今日からはお前がリーダーだ、あいつらと一緒にいてやってくれ』

 

簡潔ではあるが信頼を寄せる親友へ、メッセージを送り、ソウテンの旅は始まった

彼が何を想い、何を感じるかは誰も知らない。分かるのは、これが彼の生きる為の物語であることだ

 

「ミト。お前を死なせない、見つけてやる…絶対に!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃のキリトたち

 

「何を言ってんだ!テンのヤツ!」

 

ソウテンからのメッセージを読んだキリトが苛立ち気味に声を荒げる

 

「あんにゃろう、分かってねぇみたいだな」

 

「ええ、これはお説教が必要ですね」

 

「其れもきついヤツがね」

 

彼らにソウテンを見捨てる選択肢は存在しない。居場所をくれた恩人を誰が見捨てるというのだ、その答えは決まっていた

 

「だな……ん?別行動?てことはテンは今、一人なんだよな?」

 

「そうなるな」

 

「それはいけない!リーダーは達人級の迷子なんですよ!」

 

「探すぞ!まだ遠くには行ってない筈だ!」

 

「来た道を戻るんだ!急げ!」

 

「でもさ、戻ったとしてもリーダーはいないんじゃない?というか、その前にもっと考えないといけないことがあるよね。この広大な世界で、どうやって、リーダーを探すの?」

 

慌てふためく、キリト達とは対照的に無表情を崩さないヒイロの発言に空気が凍りつく

そして、暫くの沈黙が終わると全員が息を吸い込む

 

「「「「あんの……迷子リーダーぁぁぁぁ!!!」」」」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四幕 再会

シリアスを書きたくてもギャグ路線になってしまう……
というかキリトさんのキャラが崩壊してね?と思う今日この頃


「何処だ……ここ」

 

SAOがデスゲームとなって3週間。ミトを探す為にキリト達と一方的に分かれたソウテンであったが、彼は森を彷徨っていた

《森の秘薬》というクエストを受け、《胚珠》を手に入れ、第3層の終盤まで使用可能な《アニールランス》と交換したまでは問題無かった。然し、武器を試そうと森に足を踏み入れたのが誤算だった

 

「そもそも三週間も経つのにミトを見つけられてねぇし…」

 

元々の身体能力が高く、ゲームセンターを寝ぐらにしている甲斐もあり、SAOに順応するには時間が掛からなかった。レベル上げは順調、武器も手に入れ、全てが順風満帆に行っている……とは言い難い。森で迷子状態、更には当初の目的であるミト探しも捗っていない

 

「来たのはあっちだよな?確か。ということは逆に行けば、あの花みたいなのがいる場所に着くな」

 

花みたいなのとはこの森に巣食うモンスター《リトルネペント》を指す。この三週間で食い繋ぐ為に相当な数を撃退している

だが今日は何時もとは違う。新たな武器の性能を試すという目的があった

 

「ここを抜ければ…あり?」

 

生い茂る木々の間を潜り抜け、目的地の狩場に着いた……と思ったのは杞憂であった

現れたのは崖、先には何も無い。そして、勢いよく飛び出したソウテンの体は宙に放り出されていた

 

「…………ノォォォォ!!!」

 

叫び声と共に崖下へ彼は落下していった

その先で待つ大事な存在との再会に向けて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎌を片手に大量の《リトルネペント》を相手にする女性プレイヤー、彼女の名はミト。現実の友人であるアスナと共にデスゲームを生き抜こうと誓い合った

だが、彼女の現状は最悪だった。実付きの《リトルネペント》をアスナが倒してしまい、実が割れ、煙をまき散らし、大量の《リトルネペント》を呼び寄せてしまったのだ

更にトラップにより、ミトは崖下に転落。大ダメージを受けていた

 

「くっ……」

 

既にHP回復ポーションは底を尽き、HPはレッドにまで低下。視界の左上に映るアスナのHPもレッドに落ちている

迫る自身の死、大切な友人の死の瞬間を目撃することへの恐怖がその身に纏わりつく

 

(ごめんね……アスナ、約束守れなくて…。ああ……こんなことなら、テンにもっと甘えとけばよかったなぁ…)

 

友人への後悔、更に恋人との叶わぬ再会。その二つを胸に眼を閉じ、ミトは最後の瞬間を待つ

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!!」

 

その時だった。叫び声が聞こえたかと思えば、目の前に何かが落下してきた

砂塵が舞い、《リトルネペント》の動きが僅かに止まる。数秒が経過した後、砂塵の中に一つの人影が浮かび上がる

 

槍を片手に、不敵な笑みを携えたプレイヤー

 

「体張っただけはあったな。見つけたぜ?植物野郎!」

 

見覚えのある後ろ姿にミトは眼を見開いた。だがあり得ない、此処に居る筈がない。其れでも見間違えだとは思えない、この後ろ姿を彼女は知っている

 

「ちょっと下がってな」

 

「う、うん」

 

彼は後ろを振り返らずにミトへポーションを投げ渡す。その隙に数十体の《リトルネペント》の間を槍を手に立ち回る

その姿はまるで流れる水のように美しく、荒々しくも見えた、その様子に見惚れていたミトだったが我に返った彼女の眼に飛び込んだのはポリゴンになって消える最後の《リトルネペント》の姿だった

 

「ありがとう、助かったわ。迷子くん」

 

「気にすんなって……ん?って!誰が迷子だ!俺は迷子じゃない!迷子って言うヤツが迷子だ!」

 

「じゃあ、迷子ね。やっぱり」

 

「………なんだか、覚えがあんぞ?この感じ。ミトなのか……?ていうか、ミトだよな!?お前!」

 

「その様子だと……やっぱり、貴方なのね?テン。まさか、貴方まで…このゲームにいるなんて…」

 

「俺だけじゃない、アイツらも最初は一緒だったんだ。まあ…色々とあってよ、今は別行動してる。ははっ……仲間を見捨てるようじゃ、リーダー失格だな」

 

そのプレイヤー、ソウテンは苦笑した。彼が仲間を大事に思う性格であるのは長い付き合いの中で理解している、其れを見捨てたということは苦渋の決断だった筈だ

自分の存在がそこまで重荷になるとは思いもよらなかった

 

「大丈夫よ。みんなが引いちゃうくらいに泣きながら、謝れば許してくれるわ」

 

「そんな謝り方するかっ!」

 

「そう?効果的だと思うけど……。って!テンなんかをいじって場合じゃない!早くしないとアスナが!」

 

「なんかは余計だ!てかよ、アバシリって誰?そんなふざけた名前のヤツ聞いたこと……ぐわっ!」

 

「どういう耳をしてるのよ!?アスナよ、アスナ!私の大事な友達!」

 

鎌の反対側でソウテンの頭を殴り、ミトは急いだ。アスナの元に。坂を登り、彼女の居る崖上に着くと落ち着かない様子のアスナと彼女の周りに立つ四人のプレイヤーが視界に入る

 

「アスナ!」

 

「ミト!」

 

「えっ……今、あの子。ミトって言わなかったか?」

 

「まさか。聞き間違いだろ、水戸納豆って言ったんだろ」

 

「いや、水戸黄門じゃないかな」

 

「ミトコンドリアの可能性も捨てきれませんね」

 

「あのねぇ……私はミトよ」

 

「「「「ええっ!?」」」

 

「はぁ…そのノリ。そうなの?やっぱり」

 

アスナと抱き合い、再会を喜んでいたミトだったが周囲で繰り広げられるやり取りに覚えを感じ、名を名乗った

すると、彼らは驚いたように眼を見開いた。暫くの沈黙が流れる

 

「ミト!人の頭を叩いて逃げるなっ!お前は通り魔か!……げっ!」

 

沈黙を破ったのは崖を這い上がってきたソウテンだった。彼は怒り気味にミトへ詰め寄るが、直ぐに彼女の近くにいた四人に気付く

 

「………見つけたぞ。迷子リーダー」

 

「探したぜ?迷子野郎」

 

「迷子ピーナッツ」

 

「すっとこ迷子さん」

 

「……ひ、人違いですよ。私は通りすがりの風呂屋ですから。じゃ、そういうことで」

 

周りに集まり、黒い笑みを浮かべる彼等にあからさまな嘘を吐き、ソウテンは去ろうとする

 

「「「「逃がすかっ!!この迷子!!」」」」

 

「迷子じゃない!俺は風呂屋だ!ここには迷子に効く温泉を掘りに来ただけだ!」

 

「そんな効能の温泉があるか!!というか、何処の世界にフィールドを彷徨う風呂屋がいるんだ!少しは考えて言い訳しろよな!迷子ソウテン!」

 

「んだと!ぼっちキリト!お前は独りでかくれんぼとか鬼ごっこでもやってろ!其れで誰からも相手にされないぼっちならではの苦しみを味わえ!」

 

「やらんわっ!そんな寂しい遊び!!」

 

「はぁ…ホントにもぅ…」

 

「あ、あの…ミト。この人たちと知り合いなの?」

 

言い合うソウテンとキリトの様子にグリス、ヒイロ、ヴェルデ、ミトは呆れた様にため息を吐いた

状況が一人だけ、呑み込めないアスナは慌てながら、近くにいたミトへ問う

 

「リアルでちょっとね」

 

「ふぅん」

 

「ちょっとではねぇだろ。何せ、テンはミトのか--ぐぼっ!」

 

「グリス。次に余計なことを言ったら、体中を斬り刻むわよ」

 

「お、オーケー…マム」

 

グリスが何かを口走ろうとしたが即座に頭上へ鎌の反対側が振り下ろされた

友人の変わりようにたじろぐアスナであったが近くに立っていたヒイロが彼女の様子に気付く

 

「おねーさん、アスナさんだっけ?ミトさんとはどういう関係なの?」

 

「えっと…学校の友達」

 

「学校か。じゃあ知らないのも無理ないね」

 

「え?」

 

「僕たちは学校外での友人なんですよ。付き合いに関しては貴女よりも長いかと」

 

「そ、そうなんだ…」

 

「まあ、ミトさんとリーダーは友達よりも進んだ関係なんだけど…これは言わないでおこう」

 

「ヒイロくん?君、隠すつもりないでしょう」

 

「ヒイロ。少し、ミトおねーさんとオハナシしましょうか」

 

「………必殺、スクランブルダッシュ!!」

 

「逃がすかっ!」

 

余計なことを口走ったヒイロを追うミト。その後を追い、ソウテン達も町に続く道を走り出した

 

「テン」

 

「あ?」

 

隣を走るキリトに名を呼ばれ、振り向くと彼は真っ直ぐとソウテンを見ていた

 

「勝手に迷子になるなよ。次は絶対に許さないからな」

 

「………仕方ねーな。次は報告してから迷子になってやるよ」

 

「テン、だからお前は可哀ソウテンなんて呼ばれるんだ。自覚してるか?」

 

「ぼっちのくせに」

 

「……迷子になれ」

 

「「やんのかっ!!」」

 

「喧嘩ばっかりね…この人たち」

 

「バカなのよ」

 

「「ゲーム狂」」

 

「うっさい!」

 

「「ぐぼっ!」」

 

再会が更なる再会を呼び、余計に騒がしさを増した彼等の旅。其れが何を意味するかは不明だが、この日、終わりの見えない世界に語り継がれる伝説の一ページが始まった



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五幕 攻略会議

今回のソウテンはちょっと真面目です。あっ、そこ!らしくないとか言わない!しかーし!ご安心めされよ!しっかりとボケます!


ミトとの再会から1ヶ月。デスゲームは着実に人々の命を奪っていた

開始時には213人だった死者は約2000人へ、その数字を確実に増やしていた。その時、とあるプレイヤーがゲームクリアを目指すプレイヤーたちを集めていると情報を手に入れたソウテン達は迷宮区から程近くにある町、《トールバーナ》に来ていた

 

「で………俺たちは何しに来たんだ?ここに」

 

「もう忘れたの?テン。今日は攻略会議に参加するって、何度も説明したわよ。相変わらず、頭の中も迷子なのね」

 

「……そんな話、いつした?俺は聞いてないぞ。あと迷子じゃない」

 

「無理もないさ、ミト。相手はテンだからな。百の説明で一すらも読み取れないようなヤツなんだよ、コイツは」

 

「そうね。期待した私が馬鹿だったわ、ごめんね?テン」

 

「気にすんな……って!その優しさが逆に傷つくわっ!」

 

目的地の劇場に向かう途中で行われる相変わらずのやり取り。最初は状況を理解出来ずに困惑していたアスナであったが1ヶ月も行動を共にすれば、次第に慣れ、今では気に留めすらもしない

 

「見えてきたわ」

 

「ほー…まーた、よくもまぁこれだけの人数を集めたもんだな」

 

「集めたというよりも集まったの方が適切ですね。通常、1パーティーにつき組める人数は6人、フロアボス攻略なら6人パーティーを8つ用意したレイドパーティーを組まなければならない。そして、フロアボスを死人0でクリアするなら、そのレイドパーティーが最低でも2つは必要となりますので」

 

「さすがはヴェルデだな。でも…見たところ、40人くらいしかいないな」

 

「これじゃあ…レイドパーティの条件も満たせてないわね」

 

「しっかし……物好きなヤツらだよな。ボスを攻略する為に大規模な会議を開くなんて」

 

「リーダー。何事も前座は大事なんだよ?焼き鳥屋でもいきなり焼き鳥は出ないでしょ。其れと同じだよ」

 

「焼き鳥チビは黙ってろ。余計に分からなくなんだれうが」

 

「チビじゃない、成長期。そもそも迷子野郎にだけは言われたくないよ、頭の中も迷子な癖に」

 

「誰が迷子だっ!俺は--ぐぼっ!?」

 

「はいはい、喧嘩しない。最前線に遅れたくないなら、しっかりと攻略会議に参加しなさい」

 

最年少と同レベルの口論を繰り広げるソウテンの頭を鎌の反対側で叩き、物理的に黙らせたミトは伸びる馬鹿を引きずりながら、腰を下ろす

 

「………ミトの言う最前線に遅れるって言うのは、偏差値70以上キープしたいとか、学年10位以下には落ちたくないとかと同じモチベーションって解釈でいいの?」

 

「えっと………まぁ、似たようなもんかな?」

 

「その見解で相違ありません。しかし、アスナさんは勉強熱心なんですね、リーダーやグリスさんにも見習っていただきたいものです」

 

「だってよ。グリス」

 

「勉強?生憎ながら、俺の辞書にはそんな言葉はねぇ」

 

「そもそも辞書がねぇだろ」

 

「よしコラ、アホリーダー。表にでやがれ」

 

「残念だったなー。ここが表だ」

 

「むきっー!!すげぇムカつく!おいミト!このアホをどうにかしろ!お前の管轄だろ!」

 

「ごめん。私、ゴリラの言葉はちょっと」

 

「誰がゴリラだっ!!俺は人間だ!」

 

「「「「「えっ」」」」」

 

「真顔で驚いてんじゃねぇっ!!」

 

真顔で驚愕するソウテン達にグリスが突っ込み、次第に劇場内に多くのプレイヤーが集まりだす

 

「はーい!それじゃあ、そろそろ始めさせてもらいます!」

 

あらかたの人数が集まると、青い髪にブロンズ系の防具、大振りの片手直剣にカイトシールドを装備した青年が登場した

 

「皆!今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!俺の名はディアベル!職業は、気持ち的に騎士(ナイト)やってます!」

 

騎士(ナイト)だってよ。んなジョブあったか?つーか、このゲームにジョブシステムあったか?」

 

「ないわね。だから、あの人は気持ち的にはそういう立ち位置だって主張したのよ」

 

「なるほど。どうやら、彼はユーモアセンスに相当な自信があるようですね。負けてられませんね?リーダー」

 

「あ?俺はユーモアとか言ったことねぇぞ?生まれてから一度も」

 

「冗談はその凶悪面だけにしろよな、テン。お前以上のユーモアの塊を俺は見たことないぜ」

 

「ぼっちだからだろ」

 

「誰がぼっちだ!ぐべっ!」

 

「会議の邪魔になるから騒がない」

 

キリトの頭に御約束が決まり、会場の雰囲気がよくなるのを感じると、ディアベルは手を上げ、制した

 

「今日、俺たちのパーティーが迷宮区の最上階で、ボスの部屋を発見した」

 

その言葉に、会場のプレイヤーたちが息を呑む。ボスの部屋、其れは攻略の第一歩となる重要な言葉だ

 

「俺たちはボスを倒し、第2層に進む。そして、≪はじまりの町≫で待ってる皆にこのゲームがクリアできるってことを伝えるべきなんだ。それが、ここにいる俺たちの義務だ。そうは思わないか?」

 

ディアベルの言葉に皆賛同するかのように拍手が起こる。しかし、その時だ

 

「ちょお待ってんか、ナイトはん」

 

独特な口調のサボテンの様な髪型の男性プレイヤーが立ち上がった

 

「仲間ごっこする前に、こいつだけは言わしてもらわんと気が済まんのや」

 

「こいつと言うのは何かな?まぁ、なんにせよ積極的な意見は大歓迎だ。でも、発言するなら、先ずは名乗ってもらおうか?」

 

「ふん………ワイはキバオウや。会議を始める前に、こん中に何人が詫び入れんとアカン奴がおるはずや」

 

「キバオウさん、詫びと言うのは誰にだい?」

 

「決まっとるやろ!死んでった2000人にや!それもこれも、全部β上がり共の所為や!」

 

キバオウの発言に、広場に居る何人かのプレイヤーが反応を示す。その何人かには、キリトとミトも含まれていた

 

「β上がり共は、自分らだけうまい狩り場やボロいクエストでかっぼり儲けとる。そんでもって、9000人のビギナーは知らんぷりや。あいつらがはなから情報やアイテム、金を分けとったら2000人は死なんかったし、今頃、2層、3層、突破できとったはずや!せやから、ため込んだ金とアイテム、全部出して謝罪と賠償せい!」

 

「へぇ?そいつは素敵な提案だな。だがな……俺は反対だ」

 

キバオウがβテスター相手に敵意を剥き出しにする中、広場に居たプレイヤーから何人か賛同する声が上がった

しかし、約一名だけは違った。誰も居なかった筈の隣から聞こえた声に気付き、振り向くとそのプレイヤーは不敵な笑みを携え、佇んでいた

 

「誰や。お前は」

 

「俺か?俺は通りすがりの風呂屋だ。気にすんな」

 

「そうか、風呂屋か……って!こないなとこに風呂屋がおるわけないやろ!」

 

「ちっ…勘のいいサボテン頭だ。まあ、話を戻すがお前の言い分だとβテスターはゼロの状態で冒険をスタートしろと言ってるようなもんだ。其れは……死ぬと言ってるのと同意義だって理解してる上での発言なんだろうな?サボテンオウさんよォ」

 

「キバオウや!キバオウ!さっきも言うたが失った2000人の命に詫びを入れろってワイは言うとるんや!」

 

「おいおい、そいつは偽善ってもんだぜ?責任ってのは自分が取れて、初めて成り立つんだ。考えてみろ…逆の立場なら、アンタは同じことを言われて、素直に従うか?」

 

「ぐっ……そ、それは…」

 

「よく言った、アンタの言う通りだ。兄ちゃん」

 

ソウテンの最も意見を聞き、立ち上がったのは身長が190㎝ほどある、スキンヘッドが特徴的な黒人のプレイヤーだ

 

「俺の名はエギルだ。キバオウさん、金やアイテムはともかく、情報ならあった」

 

そう言うと、エギルは懐に忍ばせていた手の平サイズのハンドブックを取り出す

 

「コイツだ。このガイドブックは道具屋で無料配布されていたやつだ。新しい村や町に行くと必ず置いてあった。情報が早すぎるとは思わないか?」

 

「だ、だからなんや!!」

 

「俺は、コイツに載ってるモンスターやマップのデータを提供したのは、元βテスター以外にあり得ないと思ってる」

 

「だ、だけど、死んだ2000人の中には他のMMOじゃトップ張っとるベテランも居ったんやぞ!それは、どう説明するんや!」

 

「ベテランだったからこそ死んだんだろう。SAOを他のMMOと同じように計り、引き際を誤った。だが、今はそのことを追及する暇は無いと俺は思うんだが?」

 

エギルの強い目力に、キバオウは気圧されたのか静かになった。するとディアベルが手を叩き、場の空気を仕切りなおす

 

「キバオウさん、君の気持ちはよくわかるよ。でも、今は前を見るのが先だ。それに、元βテスターがボス攻略に力を貸してくれるなら、これほど頼もしいことはないと思う。君も……えっと」

 

「ソウテン」

 

「ソウテンさんも其れで納得してくれないか?」

 

「ああ。話の腰を折って、悪かったな。でも、これだけは言わせてくれねぇか?」

 

「なんだい?」

 

キリト達の座る場所に戻ろうとする背中にディアベルは問う。風が吹き、青いマフラーが怪しげに棚引く

 

「俺は……いや、俺たちは友達を傷付けるヤツを絶対に許さない」

 

その瞳には確かな()が宿っていた。彼の先に座る仲間たちも同じように睨みを効かせている

 

「了解した、その言葉は確かに俺の胸に刻ませてもらったよ。ともかく、今は第1層のボス攻略会議が先だ。それじゃあ、二人も席に戻ってくれ」

 

「………ええわ。今だけはナイトはんに従うといたる。せやけど、ボス戦が終わったらキッチリ白黒つけさせてもらうわ。ソウテンとか言うたな?覚えたで」

 

「男に覚えられても嬉しくねぇよ。バキオウさん」

 

「キバオウや!」

 

「はいはい…ぐもっ!?」

 

席に戻り、何事もなかったかのように座り直すとソウテンの頭に鎌が振り下ろされた

更にキリトは目潰しの準備、グリスもストレージから赤い粉を取り出していた

 

「テン。目立つなって言わなかった?私」

 

「目立つなとは言われたが意見するなとは言われてないから約束は破ってねぇだろ」

 

「……キリト、グリス」

 

「「了解!」」

 

「んあ…?ぎゃぁぁぁぁ!目が潰された!痛っ!なんかすげぇ染みる!目が痛い!そもそも見えない!なにこれ!?新手の拷問!?」

 

「ヴェルデくん。グリスくんの持ってるあの粉はなんなの?」

 

「香辛料ですよ、現実でいう一味唐辛子に相当するモノですね」

 

「なるほど。この世界にも香辛料ってあるのね」

 

「てことは焼き鳥が作り放題だね」

 

「ヒイロくんは焼き鳥が大好きですね、本当に」

 

「それじゃあ、改めて攻略会議を始める!先ず、6人のパーティーを組んでくれ」

 

ディアベルがそう言うと、周りのプレイヤーたちはパーティーを作り始める

殆どが知り合いで固まっていたらしくパーティーは次第に作られていくがソウテン達とは誰とも組もうとはしない

 

「とりあえず、余り者同士で組まないか?」

 

「そりゃ構わねぇけどよ。人数が多いだろ、さすがに」

 

「三人と四人に分けたらどう?内訳はそうね……私とアスナ、あとテン。キリトはグリス達と組んで」

 

「分かった。テンも其れでいいか?」

 

「ああ」

 

6人パーティーが七つ、3人パーティーが一つ、4人パーティが一つ。全てのパーティが揃うと会議が再開され、第1層ボスの情報についての説明があった

 

ボスの名は≪イルファング・ザ・コボルドロード≫で武器は骨斧と革盾で、HPバーが4つあり最後の1つになると腰の曲刀カテゴリーの武器《湾刀(タルワール)》に変え、使ってくるスキルも変化する

 

取り巻きには、≪ルインコボルド・センチネル≫が3匹現れ、HPバーが1つ減るたびにポップされる

 

作戦は、壁部隊2つがボスを交互に受け持ち、攻撃部隊の2つがボスに、1つが取り巻きに、支援部隊はディレイスキルをメインに使いボスと取り巻きの攻撃を阻害する

 

そして、ソウテン達の余りパーティーは取り巻きを相手にする攻撃部隊のサポートをすることになった

 

「これで攻略会議を終了する!明日は朝8時にここに集合。全員揃ってボス部屋へと移動する。それじゃあ、解散!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テン。どうかした?」

 

攻略会議後、第一層の空を見上げていたソウテンにミトが呼び掛けた

辺りは暗くなり、夜が訪れ、静寂の世界を創り出している

 

「不思議だな」

 

「不思議って?」

 

「この世界にも当たり前に朝が来て、夜が来るんだな。現実にいた時は当たり前だと思ってた。夜が明ける度に何気ない毎日を繰り返して、アイツらとバカやるのが当たり前みたいに過ごしてた。なのに……今の方が生きてるって思う自分がいる。帰りたい筈なのに、このまま、この世界が終わらなければいいと思う俺がいるんだ」

 

月明かりに照らされる、その横顔は寂しそうに見えた。出会った頃よりも退屈そうで物足りないと感じているかのように

 

「テン……テンは現実が嫌い?今でも」

 

「嫌いだ、親の敷いたレールの上を歩くだけの操り人形みたいな人生しか送れない世界なんか。そのくせ、大人は自分の言い分を俺に押し付けてくる。一度の失敗で千の罵詈雑言を投げかけられる……だから、俺は夜の街に逃げた。現実から少しでも遠退きたくて、怒りの吐け口を探したくて、彷徨って、彷徨った。その先にあったのが……いや、コイツはまた後にするか」

 

「なによ、言いたいことがあるなら言いなさいよ」

 

「続きはまた今度な」

 

ミトの額を小突き、笑うソウテンはこの一ヶ月で見たどの表情よりも晴れやかに見えた



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六幕 暗躍

今回はちょっとリーダーらしいテンをお見せします!普段はいじられてばっかりなダメな人に思われがちですが偶にはカッコいい時もあるんです!


「よっ、テンきちにキー坊」

 

「アルゴか。どうした」

 

ソウテンとキリトが明日の対策についての会議を行っているとフードを被った女性プレイヤーが姿を見せる

 

「テンきちに呼ばれてナ」

 

「テンに?何を頼んだんだ?言っとくがアルゴはぼったくりだぞ」

 

アルゴ、そう呼ばれた彼女を指差しながらソウテンに問いを投げかける

すると彼は軽いため息を吐き、牛乳を口に運ぶ

 

「ぼったくりかどうかは二の次だ、今は情報が欲しいんだ。特にディアベルに関する情報収集をな。どーも…あいつは何かを隠してるみたいだったし、其れにだ。キリト、お前を明らかに警戒してた。気付いてたか?まあ…気付いてないわけねぇわな」

 

「そんな警戒されるようなことをしたかな…?身に覚えがない」

 

「コイツは確認だが、ここ最近で変わった取り引きを持ち掛けられなかったか?例えば、アルゴ辺りに」

 

「アルゴ……あっ、そういえば!」

 

思い当たる節があるのか、アルゴをチラッと見た後でキリトは自身の《アニールブレード》をストレージから取り出す

 

「この剣を3万9800コルで買いたい、そういう取り引きを持ち掛けられた。でもその取り引きとディアベルにどういう関係があるんだ?」

 

「アルゴ。追加で2000コルを出してやるから、説明してやってくれ。依頼人の素性も明かしてくれて構わねぇ、ヤツとは取り引き済みだ」

 

「あいヨ。剣を売って欲しいと言っているのは昼間に大騒ぎしてた奴ダ」

 

「昼間って………まさかキバオウか?」

 

キリトが問うとアルゴは肩を竦めながらも、直ぐに頷き、口を開いた

 

「そうダ。キバオウはディアベルからある事を頼まれタ。それがキー坊から剣を買い取ることでの戦力低下だヨ」

 

「戦力低下……まさか、俺がβ上がりだからか?」

 

「半分正解…だが、それだけだと完全に正解とは言えねぇな。あいつはお前の技量を知ってるからこそ、戦力低下を狙ってんだ」

 

「………まさか、ディアベルもなのか?」

 

「正解ダ、キー坊。ディアベルはオレっちたちと同じβテスターだ。でも、ヤツにはオレっちたちとは違う確固たる目的がある」

 

「その目的ってのは?」

 

キリトが問うとアルゴは少しだけ考えた後、にかっと笑う。鼠、誰が呼び始めたかは定かではないが今の彼女はその名に相応しく見えた

 

「おっと…ここからは別料金だヨ」

 

「ここまで言っといてかよ…」

 

「これも商売だからナ」、と言い残し、颯爽と去りゆくアルゴ。完全に彼女の気配が消えたのを確認するとキリトはソウテンに視線を向ける

 

「相変わらず、情報屋の扱い方が上手いな。テンは」

 

「何時も言ってんだろ?俺たちみたいな溢れ者には情報が貴重な生命線なんだよ。そりゃあ、何処に居ようが変わらねぇ。それにだ…こういう場所だからこそ、情報が武器になることだってある」

 

「へぇ?意外にも考えてるんだな。どうだ?ギルドとか作って、ギルマスとかになってみたら」

 

「お断りだ、お前らみたいなバカどもをこれ以上は面倒を見切れねぇよ。俺はお前らのリーダーで充分に満足だ」

 

「なるほどな、迷子の割には良い答えだな。成長したんだな。俺は親友として嬉しいぞ、テン」

 

「はっはっはっ、コミュ力が上がったからって調子に乗んなよ?ぼっち」

 

「誰がぼっちだ!この傍迷惑迷子!」

 

「なんだとっ!真っ黒ぼっち!」

 

「「うるさいっ!寝れないじゃない!」」

 

夜中にも関わらず、言い合いをしているとその声で目が覚めたのか、ミトとアスナが扉を開く。そして、元凶の二人の頭上に鎌と細剣が振り下ろされた

 

「「ああっーーーーー!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………何故、リーダーとキリトさんはボロボロになの?」

 

「粗方、僕たちが寝ている間にレベリングに出かけていたんでしょう」

 

「へぇ?そうなのか。アイツらもしっかりと先を見据えてんだな」

 

「ええ、何処かのパワーゴリラとは違うようです」

 

「ゴリ……グリスさんも頑張ろうね」

 

「待てコラ、誰がゴリラだ。俺は純然たる人間だぞ」

 

「えっ…」

 

「嘘…」

 

「張り倒されてぇか!?ガキども!」

 

現在、ソウテン達はボス部屋へと向かう集団の最後尾を歩いていた。ミト、アスナは二人で会話し、偶に背後を振り返っては申し訳なさそうにするが直ぐに目を背けるという行動を繰り返していた

 

「ねぇ、ミト」

 

「なぁに?アスナ」

 

「私、実はね。昨日の夜にソウテンくんとミトが話してるのを聴いちゃったんだけど……。ソウテンくんって家族と上手くいってないの?」

 

唐突な問いにミトの表情が歪む。彼女の知るソウテンは全てとは言い難い、例えば彼女にも知らないことはある

アスナに問われた家族の存在だ、両親の有無は勿論ながら、兄弟の存在に関しても知らない。更に言えば、彼が住むゲームセンターとは異なる本当の家の所在なども知らないのだ

口頭では恋人、と名乗っているがミトは内心では不安だった

本当に自分がソウテンの恋人を名乗ることは正しいのか?時折、見せる寂し気な瞳に秘められた闇、その真意を汲み取れない自分は彼に必要とされているのだろうか…と

 

「アスナ。前にも言ったけど、私たちにとって、今はこっちが現実よ。リアルの話を持ち出すのも、リアルネームで呼んだりするのも禁止よ」

 

「そ、そうだよね。ごめん」

 

「まぁ……私も気になることはあるけど」

 

アスナを咎めながらもミトはソウテンに視線を向ける。彼は最後尾を歩き、空を見上げている

迷宮区前に到着したのは午前11時。改めて、装備品の確認をする面々とは別にソウテンはある人物に呼び出された

 

「すまんな。急な呼び出しを掛けて」

 

その人物はキバオウ。彼はソウテンの眼を真っ直ぐに見据え、真剣な面持ちで構えている

 

「いや別に。アンタには感謝してるよ、ディアベルの素性を探るのに協力してくれるとは思わなかったからな」

 

「ワイかて取り引き相手は選ぶ。其れに昨日のアンタの言い分には充分な筋が通っとった。ついでや…一つだけ、聞かせてくれへんか?」

 

「いいぞ。聞いてやる」

 

「ディアベルはんの真意を発いて、アンタには何のメリットがあるんや?」

 

その問いに僅かな沈黙が流れる。風が吹き、マフラーが棚引く

 

「第二の刃を持ちたいだけだ。言ったろ?俺は友達を大事にしてるって、ソイツらを守る為には少しでも多くの情報が必要になる。今後のより良い関係を築く当たって、アンタはもちろんだがディアベルとも上手くやっていきたい。だからこそ、裏でこそこそとやられちゃ、信用は出来ない」

 

「なるほどな…なら、ワイはアンタを信用していいんか?」

 

「そうだな、少なくとも今は信用してくれても構わないが…その先はこれから起こる戦いの中で判断してもらって構わない。信用するか、縁を切るか、その先はアンタ次第だ」

 

「分かった。ほな、小物は頼むで」

 

「かしこまり」

 

事情を知るキリトはその会話を聞き、内容を理解したようで戻ってきたソウテンに声を掛けた

 

「テン。本当にこの先も一緒にレイドを組むつもりなのか?」

 

「まさか、こいつは嘘も方便ってヤツだ。こうでも言っとけば、βのお前やミトへの風当たりが強くなってもキバオウっていう後ろ盾があれば、何かと立ち回り易くなると思ってな」

 

「なんでその考え方を普段からしないんだよ…。バカなのか?やっぱり」

 

「生憎と考えるのは嫌いでな。今だけはリーダーらしく導くが、これから先はヴェルデに任せるつもりだ。アイツは俺が知る中で一番の天才だからな」

 

「ありがとな。弟分をそんな風に言ってくれて」

 

「事実だからな。んじゃ……」

 

「ああ」

 

顔を見合わせ、頷き合い、背後に待つミト達に向き直る

 

「「攻略開始だ、野郎ども!」」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

その言葉と共にレイドパーティは迷宮区に足を踏み入れた。2022年12月4日、解放への第一歩が始まる




シリアス路線は苦手なので、短めになってしまいました…
ですが!次回はいよいよ!初陣になります!更にカッコいいテンをお見せできるかと!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七幕 ボス攻略戦

午後12時半、迷宮区最上階。ここまでの道中に於ける死者は0名。何度が危機的場面に遭遇したが、ディアベルの的確な指揮もあり、切り抜けることが出来た

そして、遂にプレイヤーたちは獣頭人身の型が彫られた扉の前へと到達した

 

「まっ、これくらいはしてもらわねぇとな。仮にもリーダーを任されてる訳だし」

 

「珍しいわね。テンが人を褒めるなんて」

 

「そうかぁ?割と頻繁にしてんだろ、こんくらい」

 

「えっ?見たことないけど、そんなの。強いて言えば、何時もバカにされてるイメージしかないかな…。迷子、バカ、可哀ソウテンとか呼ばれたりしてるし」

 

「あのなぁ…」

 

軽いため息を吐き、ソウテンは自分の頭を掻き乱す。槍を肩にかつぎなおし、僅かに自分の目線よりも下にあるミトの頭に手を置く

 

「俺だって、毎度のようにバカにされてる訳じゃねぇんだよ。人が間違えたら叱るし、逆に正しいことをしたら褒めたりもするんだよ。だから…あれだ。ミト、最近のお前はアスナの為って動機はあるかもだが…頑張ってるんじゃねぇか、と俺は思う」

 

「テン…。ありがとう」

 

「礼は後にしてくれ。生きて、この層を突破すんのが先だ……いいか?何があっても止まるな、絶対にだ」

 

「うん。わかったわ」

 

ソウテンの言葉にミトが頷くとディアベルが左手を扉に添える。此処を開ければ、本当の一歩目が始まる

 

「さぁ、行こう……!」

 

その言葉と共に扉が開かれ、最初にヒーターシールドを持った戦槌使いの人が率いるA隊が突入し、次にエギル率いるB隊が左斜め後方から、右からディアベルが率いるC隊と両手剣使いがリーダーのD隊、其れに続く形でキバオウの遊撃用E隊と長柄武器装備のF隊、G隊が3パーティーで並走する

最後にソウテン、ミト、アスナの三人パーティー、キリトの率いる四人パーティが突入

 

20mほど進むと巨大なシルエットが空中で一回転しながら地響きとともに着地した。

 

青灰色の毛皮に、2mは超える体躯、赤金色に輝く眼。右手に骨斧、左手に革盾、腰には《湾刀(タルワール)》。その獣の名は《イルファング・ザ・コボルドロード》

 

猛々しき咆哮は全ての者を萎縮させ、体を強張らせる。雄叫びに呼応するように、三体の《ルインコボルト・センチネル》が姿を見せる

 

「主武装は骨斧!副武装は湾刀(タルワール)番兵(センチネル)が三体!情報通り!行けるぞ!俺に続け!」

 

走り出すディアベルに続き、コボルトロードを相手する本隊が突撃。猛攻が続き、戦いはミトが行っていた予想を遥かに上回る形で進行していく

βテスターである彼女は誰よりも情報を得ていたつもりだ。しかし、現在の戦闘状況は極めて安定していると言える

味方同士のHPの管理もできているし、キバオウのE隊と自分の属する三人組も、キリトのパーティも余裕をもってセンチネルの相手が出来ている

 

「これなら!」

 

行けるかもしれない、そう思った時だ。コボルトロードが今までを遥かに上回る猛々しい咆哮を放った

そして、持っていた骨斧とバックラーを投げ捨て、腰の武器に手を伸ばした

 

「副武装の湾刀(タルワール)!に変わるぞ!スキル変化は憶えているな!基本は変わらない!《武器を打ち払い喉元を撃つ》だ!」

 

「次で決めるぞ!C隊、前へ!」

 

C隊がラストアタックを仕掛ける瞬間、コボルトロードは手にした武器を抜刀。だがソウテンの眼が捉えたのは別のモノだった

湾刀とは刀剣の一種に分類され、インドやパキスタン、バングラデシュ、アフガニスタンに見られる大きく曲がった細身の片刃刀を指す

 

「あれは刀!情報とは異なります!」

 

「なにっ!?情報が間違ってたってのか!?」

 

「βテストはあくまでも試作段階、本サービスと仕様が異なるのは珍しい話じゃない」

 

「なんやと!それはホンマか!?」

 

「ああ、確実に違う。気をつけろ!ソードスキルも湾刀のとは異なるぞ!」

 

キリトの叫びにも似た声が響く。だが時既に遅し、C隊はコボルトロードの攻撃範囲に入り、刀専用ソードスキルの一つ重範囲技《旋車》が命中。HPは半分まで減少し、更に《一時行動不能(スタン)》状態に陥る

 

其れでもコボルトロードは止まらない。猛追を掛けるように刀を振り上げる

 

「うおおおおおおおおおっ!」

 

だが、そのプレイヤーを庇うように一人のプレイヤーが割り込んだ。其れはディアベルだった。寸前で気付いた彼は防御体制となり、《一時行動不能(スタン)》しなかった

故に危機一髪の所で割り込むことが出来たのだろう。しかし、HPは半分まで減少し、万全の状態とは呼べない。数発の攻撃を喰らえば、確実にその命は終わる状態だ

コボルトロードが再び、刀を構える。今度は別のソードスキルを使うようだがディアベルは盾で防ぐべく、防御体制を強める

 

「待って!」

 

ミトが叫んだ。彼女の視線に先には耐久値が残り僅かな罅割れしたディアベルの盾が、これでは受け止めきれずにHPが尽きてしまう

コボルトロードの一撃が振り下ろされる。誰もがディアベルの死を思った

 

「グリス!吹っ飛ばせ!!」

 

「あいよ!リーダー!!」

 

その言葉と共にコボルトロードの腹部に強烈な突き技が命中。その技を放ったであろう人物が飛んで来た背後に視線を向ける、其処にはハンマーを射出台(カタパルト)のように構えたグリスが佇んでいる

 

「ディアベル。お前は下がってろ」

 

「し、しかし!」

 

「下がれって言ってんのが聞こえねぇのか!」

 

「すまない……!」

 

ソウテンの怒号にも似た声に威圧され、ディアベルは後退。空かさず、ヴェルデが彼に駆け寄り、ポーションを差し出す

 

「飲んでください」

 

「た、助かる…」

 

「ディアベルさん。アンタが何をしようとしてたかはリーダーに聞いて、知ってる」

 

「……そうか。許してくれとは言わない…でも!それでも……俺は…俺は…LAB(ラストアタックボーナス)を手に入れなければならなかったんだ…。例え、それが君たちを騙すことになったとしても…」

 

彼にもそうしなければならない目的があった。故にキリトの存在が厄介だった、戦力を削ごうとしたが彼はソウテンの仕掛けた別の取り引きに利用された

其れが自分の素性を明かすことになっていようと誰が思っただろう

 

「騙したのは確かに褒められた行動じゃない……でも、テンが貴方を助けたのは貴方が悪い人間じゃなかったからよ。もしも、貴方が利己的で私利私欲の為にLAB(ラストアタックボーナス)を手に入れようとしてたなら、あの瞬間にテンは貴方がどうなっても見捨てたわ」

 

「どうして……どうして…彼はそこまでして…」

 

「聞いてなかったのか?ディアベルは。テンの奴が言ったじゃないか、仲間を傷付けるヤツは絶対に許さないって」

 

キリトが放った言葉、其れは攻略会議の際にソウテンが告げたのと同様のモノだ

彼のように不敵な笑みは無いが言葉の真意を理解し、放たれた言葉はディアベルが抱いた焦りを和らげていく

息を吸い、呼吸を整え、キリトに向き直る。今度は偽りなく、自分の意思で真っ直ぐに

 

「キリトさん。他の人には俺が指示を出すから、ソウテンさんの助力を頼んでもいいか?」

 

「ああ、任された。聞いてたな?ミト!グリス!ヴェルデ!ヒイロ!それにアスナ!今日は全員でリーダーをサポートだ!」

 

「とか言って、ちゃっかりとLAB(ラストアタックボーナス)を手に入れるつもりでしょ」

 

「し、しないよ!そんなこと!」

 

「やりかねぇな。キリトなら」

 

「やりかねませんね」

 

「というかやるだろうね」

 

「やりそうよね。キリトくんって空気読めないとこあるし」

 

「アスナまで!?」

 

アスナにまで言われるとは思っていなかったらしく、キリトは驚きを隠せない

相変わらずのやり取りをしながらもコボルトロードの猛攻を躱し、流れるような槍捌きでタゲを切らさないように応戦するソウテンの助力に向かう

 

「ちっ…!さすがに固い…!こうなりゃ、とっておきを披露してやらぁ!」

 

「タンクは任せとけ!」

 

「行くよ!テン!」

 

「あいよ!」

 

グリスが刀を抑え、アスナとヴェルデが《リニアー》で攻撃。キリトが《ソニック・リープ》を放ち、ヒイロが《リーバー》で真上から斬りかかる

 

「今だっ!」

 

ミトが叫ぶ。其れと同時に彼女が鎌を振り被り、その先にいたソウテンが風圧で前に押し出される

 

「おりゃあああああああ!」

 

《アニールランス》が光り輝き、コボルトロードに回転攻撃を叩き込む。槍スキル《ヘリカル・トワイス》、無数の回転攻撃を叩き込み、最後に槍を振り被り、ありったけの力を込め、叩き付ける

 

「スイッチ!」

 

「任せろっ!」

 

最後にキリトが飛び出し、片手剣縦二連撃の《バーチカル・アーク》でトドメを指す。コボルトロードはポリゴンとなり、バリンッ!と砕け散った

同時に後方のセンチネルも砕け散り、長い初陣に終止符が打たれた




ディアベル生存です。これで少しはキリトの立ち位置もマシになるといいなーと思う今日この頃です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八幕 道化師の誕生

今回はオリジナル要素が含まれます。ディアベルが生存したが故の結果、はてさて未来はどう変わるのか…


コボルトロードの討伐達成、記念すべき一瞬に静寂が訪れる

構えていた槍を肩に担ぎ、ソウテンは軽く息を吐く

 

「ふぅ……」

 

「テン。お疲れ様」

 

「ん…ああ、お疲れ」

 

ミトに労いの言葉を掛けられ、同じように彼女を労う。目の前に獲得経験値と分配されたコルが表示されており、周りからも歓声が上がっている

 

「ソウテンはん。アンタが最後に仲間たちとボスモンスターを倒した件は目をつぶったるわ。あの時、アンタが助けに入らんかったら、ディアベルはんはこの瞬間におらんかった。礼を言わせてもらいたい、ありがとうな」

 

自分の眼から見たソウテンの姿、其れに納得がいった様子のキバオウは彼に深々と頭を下げた

 

「なーに、こんくらいはお安い御用だ。で?俺はアンタの御眼鏡には敵ったのか?」

 

「充分にな。これからもよろしゅう頼むわ」

 

「こちらこそだ。さて、さっそくで悪いがちょいと付き合っちゃくれねぇか?」

 

「お安い御用や」

 

不敵な笑み、此れが何を意味するかは理解出来ないが折角の協力者からの願いだ。聞き入れない訳にはいかない、彼の側に近づき、耳を傾ける

その様子をミトが黙って、見ているとディアベルが彼女へ声を掛けた

 

「ミトさん。君たちやソウテンさんのお陰で無事にボスを討伐することが出来た、ありがとう」

 

「御礼なら私じゃなくて、テ……ソウテンに言ってあげて」

 

「そうするよ。彼なら、今後の攻略組を率いる最高の指揮官になれるだろうな」

 

「攻略組……なるほど、そういう呼び方をするのね」

 

「ああ、全プレイヤーの先頭に立ち、率先してフロア攻略をする者たち、《攻略組》。彼ならきっと、そのリーダーに相応しいと思うんだ」

 

「ディアベル。残念ながら、ソウテンはその座に収まるつもりはないと思うわ」

 

「え?何故だ?」

 

ミトの言葉にディアベルは耳を疑った。彼は既にソウテンを攻略組の正式なリーダーにするつもりだった、しかしながら彼を良く知るであろうミトは微笑していた

 

「彼の一番の行動理由は仲間よ。でもね、彼の言う「仲間」は同じ志を持つだけの人たちのことじゃないの」

 

「というと…?」

 

「ソウテンにとっての家族なのよ、あの人たちは」

 

「家族…?」

 

ミトが見詰める先に視線を動かすと、LA(ラストアタック)を決めたキリトを中心に騒ぐソウテン達の姿があった

彼等の表情はこの場にいる誰よりも明るく、騒がしい。今まで、ボスと向き合っていたプレイヤー達と同一人物だとは思えないほどに、其れはまるで少年のようにも見えた

 

「よし、キリト。第二層へ行ったら、直ぐにLAB(ラストアタックボーナス)をコルに換金しようぜ」

 

「するかっ!」

 

「なにっ!お前ら!こいつ、手柄を独り占めにする気だ!」

 

「なんだとっ!?キリトのくせに上等じゃねぇか!表に出ろ!」

 

「グリスさん、今は外ですから既に表ですよ。それはそうとキリトさん、独り占めはよくありませんね。どうでしょう?ここは僕が一先ず、預かるというのは」

 

「預かってどうするつもりなんだ?」

 

「無論、最後は売ります」

 

「結局は売るんじゃないか!!」

 

「大丈夫、あとで似たようなヤツを買っておけばいい。キリトさんはバカだから、気付かない」

 

「ヒイロくーん?本人がいるのによくもまぁ、ぬけぬけとそういうことが言えるよなぁ?お前は」

 

「………居たんだ」

 

「居たわっ!!!」

 

「どんまい、元気出せよ。キリト」

 

「慰めるなっ!バカテン!!」

 

漫才にも似た相変わらずなやり取りを続ける面々。しかし、その楽しい雰囲気も長くは続かなった

 

「なんでや!」

 

「キバオウ……?」

 

「どうしたんだ?急に」

 

「急にもへったくれもあるかい!お前らは見てへんかったんか!こいつらは、ボスの使うスキルのこと知ってたんやぞ!?おかしい思わへんのか!」

 

「い、言われてみれば…」

 

「まさか!アイツら、全員がβテスターなのか!?」

 

「βテスターでパーティを組んでたのか!?卑怯だぞ!」

 

キバオウの発言に周りが騒めき出す。彼が何故、今のような事を言ったのか理解出来ないキリト達であったが背後に佇むソウテンだけは不敵に笑っていた

 

「……テン。まさか、お前の仕業か?」

 

「さあ、なんのことやら。ただまあ?この場を平和的に収めたいんなら……どうするかは分かるよな?キリト」

 

「……ったく、相変わらずだな。うちのリーダーは。仕方ないから、その策略にまんまと嵌ってやるよ」

 

「さっすが。おめぇさんのそういうとこ、嫌いじゃないぜ?」

 

「うわっ…出た。相変わらず、自が出ると胡散臭さを増すな、お前は」

 

「うっせ」

 

ソウテンとキリトの会話を聞き、ミト達も全てを理解したらしく、二人が口を開くのを黙って待つ。しかし、アスナは違った

 

「ちょっと待って!β時代の情報は私達も攻略本で得ていたわ。あのボスの情報について大きな差はなかったはず。ただβ時代と同じだと思い込んだ私達が窮地に陥りそうになった時、彼はもっと先で得ていた知識を応用して教えてくれた。そう考えるのが自然じゃない?」

 

「俺もそう思う。それに、攻略本には情報はあくまでβ時代の物で、正式版とは差異があると注意もあった。俺たちは、その注意を忘れ、偵察戦を怠った。彼等に感謝こそすれ、批難するのは違うだろ」

 

「いいや違うね、アルゴとかいう情報屋とそいつはグルだったんだ。元βテスター同士共謀して、善意のふりをして俺達を騙して、自分たちだけ美味しいところを掠め取っていこうとしたんだ」

 

ディアベルのパーティーメンバーのシミター使い《リンド》がアスナ、エギルに物申す。自分の仲間が恩人を悪く言うのを許せず、ディアベルは彼に歩み寄る

 

「待ってくれ!彼等は悪くない!俺だ!俺が悪いんだ!だから、責めるなら俺を!俺を責めてくれ!」

 

「ディアベルはん。すまんけど…ふんっ!」

 

「ぐっ……!き、キバオウさん…な、なにを…」

 

「ソウテンはんとの約束や。あんさんを悪者には出来ひん、許してや」

 

キバオウの放った拳が腹部に命中し、ディアベルは意識を失う。其れが合図だったのか、ソウテンがキリトの肩を叩く

 

「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」

 

突如、響く笑い声。全員がキリトの方に視線を向けた

 

「元βテスターだって?俺をあんな素人連中と一緒にしないで貰おうか。いいか。SAOのCBT(クローズドベータテスト)はとんでもない倍率の抽選だったんだぜ。受かった1000人のプレイヤーで何人、本物のMMOゲーマーがいたと思う?殆どが、レべリングも知らない初心者だった。あんたらの方が100倍マシだぜ。だが、俺は……いや、俺たちは違う」

 

「βテスターの時に誰も到達出来なかった層まで到達したキリトさんから事前に刀スキルのことを聞き、対策を立てていた。いやぁ…実に滑稽でしたよ。情報に踊らされる貴方たちは」

 

「全くだぜ、思わず笑いそうになっちまった。どいつもこいつも何でも鵜呑みにしちまうんだからよぉ」

 

「ホントだね。それでもゲーマーなの?笑いを通り越して、欠伸が出そうだよ。特にディアベル…だっけ?君は面白かったよ、ボスに襲われた時なんか最高だった」

 

「ここだけの話、私たちの狙いは最初からLAB(ラストアタックボーナス)だったのよ。茶番に付き合ってくれてありがとう、ビギナーのみなさん」

 

キリト、ヴェルデ、グリス、ヒイロ、ミトの順に元βテスターへの矛先が自分たちへ向くように誘導していく

今回の作戦は攻略を最優先とするチームを作り上げ、テスターへの怒り全てを彼等が背負うというモノだ。ディアベルは知らなかったがキバオウには事前にソウテンが取り引きの対価として、要求していた。故に最初、彼が叫んだのは芝居であった

 

「ふざけるな!やっぱり、お前らが悪いんじゃないか!」

 

「最低な奴らだな!揃いも揃って!」

 

「俺たちはお前らの操り人形じゃないぞ!そこでへらへらしてる奴もグルか!?この道化野郎!」

 

「道化……いいね、その響き。なら、俺は今から、こう名乗ろう」

 

道化。その単語に反応したソウテンの笑みが更に不敵で軽薄な微笑に変化し、より一層の胡散臭さを演出させ、アイテムストレージから取り出した仮面を、ゆっくりとその不敵な笑みを隠すかのように冠る

 

「我々は彩りの道化(カラーズ・クラウン)、リーダーを務めますは槍使いにして、道化師(クラウン)の名を冠する、ソウテンに御座います」

 

「同じく片手剣使いのキリト。βテスターにしてチーター、略してビーターとでも名乗ろうか。これからは、元βテスターと一緒にしないでもらおうか」

 

「同じくハンマー使いのグリスだぜ!誰からの喧嘩でも買ってやる!まあ、返り討ちにしてやるがな!」

 

「同じくヴェルデ。我が武器は細剣、それと情報。貴方たちの行く末が我々の旅路の邪魔にならぬ事を深くお祈り致しております」

 

「同じく曲刀使いのヒイロ。我等がリーダーの命に従い、今をもって、アンタらは単なるプレイヤーからビギナーへ格上げだ。良かったね」

 

「最後に鎌使いのミト。金輪際、私たちに関わらないことをオススメしておくわ。そうそう…言い忘れてたけど、私もβテスターよ」

 

「如何でしょう?この錚々(そうそう)たるメンバー。其れでは今宵はこの辺りで幕引きと致しましょう。御静聴いただきましたこと、誠に感謝申し上げます、観客の皆様(ビギナーたち)

 

ソウテンを中心に深々と御辞儀する面々、全員が全てをまるで嘲笑うかのような表情を浮かべている

 

「第二層の転移門は俺たちが有効化(アクティベイト)しといてやる。精々、ゆっくりと来るんだな」

 

「あっ、でも初見のModとかに殺されないようにね。そうなっても私たち、助けてあげないから」

 

「じゃ、そういう訳で」

 

第二層へと続く階段を上がっていくソウテン達。その後姿に誰も何も言わなかった

 

それはまるで彼等の誕生を祝うかのように

 

道化の仮面を冠った、六人を見送るかのように

 

彩りの道化(カラーズ・クラウン)。後々にアインクラッドで名を轟かせる小規模ギルド、これはその一団が誕生した記念すべき日

 

「で……有効化(アクティベイト)ってなに?」

 

「知らずに言ってたのかよっ!?」

 

「やっぱり、テンは可哀想な頭ね。だから、可哀ソウテンなのよ」

 

「やめろ!へんな造語を作るな!定着したら、どうする!」

 

「安心しろよ、俺たちはお前がどんなに可哀想でもリーダーだと思ってるからよ。おとぼけソウテン」

 

「全くです。例え、可哀想で馬鹿野郎だとしても僕たちのリーダーは貴方だけですよ。おバカリーダー」

 

「そうだよ。誰が何と言おうがリーダーはリーダーだよ、迷子しか取り柄がないけど」

 

「お前ら、バカにしてるだろ!?」

 

これは彼等の騒がしいデスゲームの世界での話。そして、終わりの見えない旅路への始まりの一歩である




遂に誕生、彩りの道化(カラーズ・クラウン)。この先、彼等がどう動くかはまた次回をお楽しみに
ちなみにこの作品はミトがヒロインではありますが基本的には原作版を中心に進みますのでプログレッシブの内容には触れたり、触れなかったりしますのでご了承ください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九幕 御約束

ちょっとだけギャグテイストなお話をお送りします


「こりゃあ凄い、森しか見えない」

 

「ああ。テン一人だと迷子になるな、確実に」

 

「間違いねぇな。頼むから迷子になんなよ?この広大な森で探すのは骨が折れるからよ」

 

「というかさ、リーダーは第一層から出ない方が安全なんじゃない?」

 

「なるほど、一理ありますね。という訳ですからリーダーは第一層のボス部屋まで引き返してください」

 

「なんでっ!?」

 

第二層。連なるテーブル上の岩山の上部は草に覆われ、大型の野牛系モンスターが闊歩する。しかしながら、この場合であっても彼等がソウテンを弄るのは相変わらずである。この光景を見るミトの表情は穏やかで晴れやかである

 

「……あっ!アスナ!」

 

「えっ?呼んだ?ミト」

 

「って!いるしっ!」

 

親友を置いて来たことを思い出し、焦るミトであったが普通に背後から聞こえた声に振り返るとアスナが立っていた

 

「ああ、俺が連れて来たんだ。一人だと何があるか分からないからな」

 

「早く言いなさいよ!バカキリト!」

 

「ぐぼらっ!?」

 

キリトの頭上に御約束()が振り下ろされ、アスナは苦笑する。親友のミトが自分といる時よりも遥かに楽しそうにする姿を見て、彼女の居場所は彼等の居る空間である事を改めて確認する

 

「そーいや…アスナ。アイツらはなんて?」

 

「アイツらって言うのが他の人たちを指す言葉なら、彼等はあの後、みんなの悪口を散々言ってたわ。特にソウテンくんとキリトくんは酷い言われようだったわね、胡散臭い迷子道化師にぼっち黒コートとか言われてたわよ」

 

「道化師は認めるよ?名乗ったし。でもな、迷子は否定する!俺は迷子じゃない!」

 

「黒コートはまだ良い!ぼっちは訂正してくれ!」

 

「わ、私に言われても…」

 

「アスナを困らせないのっ!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

ソウテンとキリトに詰めよられ、困惑するアスナの為にミトが素早い対応で応じる

騒がしい二名を沈められ、安堵したように軽く息を吐くとアスナはミト達に向き直る

 

「だけど三人からは伝言を預かってきたわ、先ずはエギルさんから『2層のボス攻略も一緒にやろう』って。それからディアベルさんからは、『皆さんには頭が上がらない、嫌われ役を背負うのは本来ならば俺でなければ、ならないのに…。次に会う時は全力で力を貸すよ!』だって。最後はキバオウさんから『今回はソウテンはんの策略通りに事が運んだかもしれんが次はそうはいかん。ワイはワイなりにやり方を模索していくつもりやから、そん時はアンタがワイを見極めてくれ』ってさ」

 

「なるほど……それで一つ聞いていいか?」

 

「どうしたのよ?グリス」

 

「エギルって誰だ?」

 

その言葉に僅かな沈黙が走る、ミト達は耳を疑ったが彼は本気だ。エギルというプレイヤーについての知識が明らかに欠落している

 

「攻略会議でリーダーに賛同していた大きな方ですよ。お忘れですか?」

 

「なにっ!?あの人はゴリさんって名前じゃないのか!!」

 

「エギルだって名乗ってたし、呼ばれてたじゃない。誰から、聞いたのよ…そんな名前」

 

「そんなのは決まってるよ、ミトさん。あそこにいる人だよ」

 

「………ああ、納得」

 

ヒイロの指差する先には既に目覚め、眼下に広がる広大な森を見るソウテンの姿。その横顔は相も変わらない不敵な微笑が垣間見える

 

「テン。また悪巧みしようとしてるでしょ」

 

「悪巧みって人聞きの悪いこと言うなよ、策略と言え」

 

「どっちにしろ、悪どいことを考えてんだから同じだろ。バカなくせに頭の回転は早いからな」

 

「全くだぜ。バカなのにな」

 

「グリスさん。君も人の事を言えませんよ?掛け算も出来ないんですから」

 

「出来るわっ!そんくらい!」

 

「では七の段を言ってみてもらえますか?」

 

「七の段だと……!?掛け算で1番複雑なヤツじゃねぇか!卑怯だぞ!!てめぇ!」

 

「ヒイロはきちんと勉強するのよ。そうしないとテン達みたいなバカになるわ」

 

「分かった」

 

低レベルな争いにアスナは再び、苦笑する。退屈しないと言えば退屈しないが当たり前のことを馬鹿みたいに言い合う彼等の関係性は彼女からすれば、今までの日常にはあり得ない光景であった

親の言うように生きてきた彼女にはミト以外に心を曝け出せるような親友はいない。だが彼等は違う、何時如何なる時も互いを信頼し、理解し、助け合う。其れが彼女にとっては不思議でならない

 

「ねぇ、ミトはどうしてキリトくん達と一緒に居るの?リアルでも仲が良いみたいな感じのことは、前にも聞いたけど」

 

「仲が良いというか腐れ縁かな?小学生の頃から一緒で気付いた時にはテン達と一緒に居るのが当たり前になってたから。不思議よね、最初は迷子になったテンと出会っただけだったのに。今はその出会いに感謝してる私がいるの」

 

「ちょ、ちょっと待って!ソウテンくんってそんなに昔から迷子癖があったの?」

 

「癖というよりも病気よ、あれは。目を離すと直ぐに迷子になるし」

 

「うわぁ…」

 

重いため息を吐くミトに同情しながら、ソウテンに哀れみの視線を向けるが当の本人は露知らず、何時ものようにキリトたちと騒いでいる

 

「お陰で夏祭りとか海に行くと大変よ。何かを買いに行く度に迷子になるから」

 

「た、大変なのね。それだとミト達も楽しめないでしょ」

 

「あー、それはない。基本的には私と二人でだから」

 

「そっか……え?今なんて?」

 

さらりとミトが投下した「二人で」と言う発言をアスナは聞き逃さなかった。彼女は僅かに瞳を瞬きさせた後、自分が放った爆弾発言に気付く

 

「べ、別になんでもない!今のはあれよ!二人と小鳥を間違えたのよ!」

 

「ふぅん?そっかー、二人でかー。ミトにもそういう相手がいたのねぇ」

 

「ちょっ!誤解よ!アスナ!誰があんな迷子と!」

 

「迷子じゃない!」

 

「やかましい!ややこしくなるから大人しくしてなさい!」

 

「ぐぼっ!?」

 

鎌を振り下ろし、物理的にソウテンを黙らせるがアスナは未だににやけ笑いを止めない。それもその筈、親友の秘密を知れたという喜びが彼女を包んでいた

 

「おや、あんな所に美味しそうなウサギが」

 

「なにっ!よっしゃ!今日はウサギ鍋だ!」

 

「あっ!グリス!そっちは!」

 

「あん?あぎゃぁぁぁぁ!!!」

 

キリトの呼び掛け虚しく、グリスは崖下へ転落。数秒間の沈黙が訪れる

 

「合掌」

 

「安らかに」

 

「眠れ」

 

「賑やかで」

 

「ゴリラみたいな」

 

「「「「「グリスよ」」」」」

 

彼に全員で合掌を捧げる。その心に刻まれた思い出は色褪せることなく、永遠に生き続ける。感謝を込め、静かに黙祷を

 

「生きてるわっ!!ボケが!というかテン!誰がゴリラだ!張り倒すぞ!!迷子野郎!」

 

「「「「「ちっ……」」」」」

 

「舌打ちしてんじゃねぇよ!!」

 

「あは、あははは……。はぁ……やっぱり、付いてくる人たちを間違えたかな…」

 

人知れず、後悔するアスナであったが彼女は知らない。自分がこの光景を当たり前のように感じ始めていたのを、其れが彼女の日常となるのはもう少しだけ先の話である…




次からは一気に時間軸が飛びます。原作の月夜の黒猫団の話ですが…キリトがぼっちではない為にテイストがやや異なります。お楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十幕 月夜の黒猫団

はい、今回もソウテンがギャグキャラです。書いてるとシリアスには向いてないと思い、ついついギャグに走ってしまう…


2023年4月8日 第11層《タフト》。とある酒場

 

「ホントにごめんなさい!サチさん!」

 

「気にしないでください、ミトさん。私は大丈夫ですから」

 

「ホントに?よかったぁ〜」

 

「いや良くねぇよ。おめぇさんには見えてねぇんか?このでっかいたんこぶが」

 

サチ、と呼ばれた女性からの返答に安堵するミトの横には頭に巨大な瘤を作ったソウテンの姿があった

その理由は二時間ほど前に遡る。武器素材の調達を請け負い、アイテム収集に来たが例により迷子となったソウテンはミトと逸れ、サチの所属するギルド《月夜の黒猫団》に出会った

成り行きではあるがモンスター達に囲まれ、危険な状態だった彼等を救い出し、その御礼に食事を御馳走になっていたのだが…ミトの存在を忘れていた為に怒った彼女がソウテンに御約束を見舞ったのだ

 

「テン。私はね、貴方が迷子になったから怒ったんじゃないのよ?迷子のくせにいけしゃあしゃあと食事をしてるから怒ってるの」

 

「結局は迷子を怒ってんよな?それ」

 

「揚げ足を取るとまた叩き込むわよ」

 

「すみません、勘弁してください。マジで」

 

ミトが鎌をちらつかせると、素早い反応でソウテンは伝家の宝刀である土下座を繰り出す。これが自分たちを助けたプレイヤーと同一人物とは思えないサチたち、しかしながら現実はこれが真実なのだ

 

「そういえば…ソウテンさんとミトさんって、レベルの方はいくつぐらいなんですか?」

 

「俺が40でミトが37だったかな」

 

「リーダーなのにキリトと同じレベルって……少しは上げる努力をしなさいよ」

 

「別にいいじゃねぇか。レベルってのは単なる数字だ、それにレベルが高いから強いって訳でもねぇだろ?」

 

ミトの指摘に対し、へらへらと笑って見せるソウテン。その様子に質問したギルドのリーダーである棍使いのケイタが驚いたような表情を浮かべる

 

「37に40!?まさか!お二人は攻略組の方なんですか!?」

 

「攻略組といやぁ攻略組かな?一応は」

 

「最近は雑用メインで前線には出てないわ。主にウチのバカリーダーがやらかしてくれるせいでね」

 

「なんだよ、まだあれを怒ってんのか?大量のドランクエイプに追いかけられたくらいで」

 

「くらいじゃないでしょ……何処の世界にあんなに大量の猿型モンスターを相手に突っ込むバカがいるのよ」

 

「いや、あれに関しては俺は悪くねぇ。そもそもの原因はグリスだ。俺はその後始末をしようと思ってだな」

 

「テンの場合はその後始末に問題があるのよ。この前だって、夕飯の片付けをお願いしたら、御皿を大量に割ったじゃない」

 

「はんっ。いいか?ミト。皿ってのはな、割れる為にあるんよ。お前は其れを知らんのか」

 

「んな訳ないでしょ!」

 

「ぐもっ!?」

 

床に倒れ、動かなくなるソウテン。彼の安否を確かめようとケイタ達が駆け寄ろうとするがミトが待ったを掛けた

 

「心配しなくても直ぐに起き上がるわよ。慣れてるから」

 

「慣れてるって……そういう問題なんですか?」

 

「そういう問題よ」

 

「いってぇ!」

 

「うわっ!?ホントに起きあがった!」

 

即座に起き上がり、痛む頭を摩りながらもソウテンは食事の続きに戻った。慣れているミトとは違い、初見のケイタ達は困惑したような表情を浮かべる

 

「どうした?食わねぇんか?おめぇさんたち」

 

「「「「アンタに驚いてんだよっ!!」」」」

 

「サチ。おめぇさんはコント集団のギルドに入ってんのか?」

 

「あはは…」

 

「ギルドといえば……最近、みんながどうしてるのか気になるわね」

 

「言われてみりゃ…さては迷子か。アイツら」

 

「それはテンだけよ」

 

ドヤ顔で他のメンバーが迷子と言い放つソウテンに対し、ミトの的確な突っ込みが放たれる。するとギルドと言うのが気になったのか、サチが問う

 

「二人はギルドに入ってるの?」

 

「入ってるというかリーダーをやってる」

 

「私はメンバー兼お守り役よ」

 

「へー。ギルド名はなんて言うの?」

 

「「彩りの道化(カラーズ・クラウン)」」

 

『えっ!?』

 

彩りの道化(カラーズ・クラウン)。その名は誰もが知る有名ギルドの名だ、道化師(クラウン)と呼ばれるリーダーを筆頭にビーターの黒い剣士、戦闘狂な鎌使いなどが所属する攻略組の要とも呼ばれるギルド、其れが彩りの道化(カラーズ・クラウン)

 

「と言うことはソウテンさんはあの道化師(クラウン)!?蒼の道化師と言われるあの道化師(クラウン)本人なんですか!?」

 

「あーうん、そうだな。そんな呼ばれ方してる」

 

「すげぇ!てことはミトさんは戦闘狂で有名な鎌使いの《紫の死喰い》!?」

 

「待って、私は戦闘狂じゃないわ。というか誰よ…そういう出まかせを流してるのは」

 

「グリスだろうな。アイツの口は綿毛より軽いから」

 

「………ごめんね?みんな。私は用事が出来たから帰るわ。テン?迷子にならないように帰ってくるのよ」

 

「ほいほい」

 

慣れているが故に生返事を返すソウテンであったがサチ達は違う。彼女の笑っていない笑顔に戦慄し、震えていた

 

「あ、そうだ。暇だから戦い方を教えようか?ウチには色々なヤツがいるから参考になんぞ、きっと」

 

「いいんですか?」

 

「あー、敬語はいらん。堅苦しいのとか好きじゃねぇから」

 

「わ、わかった。でも良いのか?」

 

「いいよ。攻略組には鬼強いギルドが結構、居るし。其れに信用できるフレンドも何人か、居るしな」

 

最近、《血盟騎士団》という名のギルドが頭角を現してきている。25層のボス戦で突如現れ、《アインクラッド解放軍》、通称《ALF》を壊滅させたボスを初参加であるにも関わらず、犠牲者を一人も出さずに攻略したのだ

ソウテンも彩りの道化(カラーズ・クラウン)の面々と何度か共に攻略会議へ参加したが彼等は明らかに攻略組司令塔のディアベルよりも発言権を持っていた

更に言えば、アスナが《血盟騎士団》に身を置き、副団長の座に付いている。故に下手な策略は皆無となり、ソウテンの出番はめっきりと減少しているのだ

 

「見たとこ、パーティーで前衛が出来るのはメイス使いのテツオだけ、しかし…それだと前衛が危ない。そんで、サチの武器を槍から盾持ちの片手剣に変更させようと思ってる……こんな感じでオーケー?」

 

「ああ、完璧だ。良くわかったな」

 

「まあ、極めて単純な人間観察ってヤツだ。そいで?サチ的にはどう?片手剣を使えるようになりたい?」

 

「で、出来れば……」

 

「オーケー。だったら最強の先生を紹介しよう」

 

「最強……?」

 

サチが顔を上げると仮面越しにソウテンは不敵に笑い、着ていた青いコートと首のマフラーを夜風に揺らめかせ、彼女を見た

 

「そっ、最強にして最悪と呼ばれる黒の剣士……《ビーター》をな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳なんよ。あとは頼む」

 

第35層主街区ミーシェ。白壁に赤い屋根が立ち並ぶ放牧的な農村、ここは主に中層プレイヤーが利用している。更に彩りの道化(カラーズ・クラウン)のギルドホームが存在し、一部ではカルト的な人気もある街だ

 

「何をだよ…」

 

「だから、コイツらのコーチを」

 

キリトの問いにソウテンは自分の背後に立つ《月夜の黒猫団》を指差す

 

「引き受けたのはテンだろ。俺には関係ない」

 

「そうか、そうか」

 

異様に聞き分けの良いソウテンにキリトは首を傾げる。何時もならば、此処で悪口を呟く筈だが彼は何も言わない。それどころか、普通にキリトの意見を聞き入れた

リーダーらしくなった親友に心が安らぎ、微笑するが…直ぐにその安らぎは崩れた

 

「残念なお知らせだ、諸君。どうやら、《ビーター》さんは君たちに教える自信がないらしい。まぁ?仕方ないよなぁ、所詮はぼっちが取り柄のゲーマーだしぃ?悪いな、サチ。アイツはダメだ、他をあたろう」

 

「えっ、あっ…うん」

 

「おー、アイツなら。おーい!ヒイロー」

 

「んあ?って!リーダー!後ろ!」

 

「おろ…ぎゃぁぁぁぁ!!!」

 

ヒイロに呼び掛けたのも束の間、ソウテンの眼前を黒い剣が通り過ぎた。その先には黒い笑みのキリトが立っている

 

「サチさんだったか」

 

「は、はい」

 

「片手剣の使い方を教えるよ。狙いは的確にするのがコツだ」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!キリト!てめぇ!この野郎!お前がその気なら、俺も本気だ!!串刺しにしてやる!」

 

「上等だ!今日こそはみじん切りにしてやる!」

 

槍と片手剣、二つがぶつかり合う。だがその戦いも一瞬であった。二人の頭上に何かが落ちる

 

「「いっ……!!」」

 

「やめなさい!バカどもっ!」

 

ミトの制裁により、全てが丸く収まった後にキリトは改めて《月夜の黒猫団》のコーチを引き受けた。その一ヶ月後、徐々に力を上げ最前線の7層分下でも十分に戦えるまでになった彼等は彩りの道化(カラーズ・クラウン)と友好関係になり、時折ではあるが共にフィールドで狩りをするようになった



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一幕 ビーストテイマー

今回はヒイロがメインです。最年少メンバーの彼にまさかの恋の予感…!


2024年2月23日 第35層 迷いの森

 

「何、言ってんだい。ヒールクリスタルは分配しなくていいでしょ」

 

「そういうあなたこそ、ろくに前線に出ないのにクリスタルが必要なんですか!?」

 

「勿論よ。お子ちゃまアイドルのシリカちゃんみたいに男達が回復してくれるわけじゃないもの」

 

小柄でショートツインの美少女の名はシリカ。中層域ではその可憐な容姿や稀有なビーストテイマーであることから、アイドル的存在としての地位を持つ少女だ

 

そして、彼女と対立するのはロザリア。槍使いの女性プレイヤーだ

 

「わかりました!アイテムなんて要りません!あなたとはもう絶対に組まない!あたしを欲しいっていうパーティーは他にもあるんですからね!」

 

「ちょ、ちょっと!シリカちゃぁ~ん!」

 

男性プレイヤーの一人が呼び止めるがシリカは余程、ロザリアの言葉が気に障ったのか迷いの森の奥へと一人で歩いて行くが其れは誤算だった。地図を持たない状態で行動していシリカは道に迷い、辺りには人気も無い。更に、目の前には迷いの森でも最強クラスのモンスター≪ドランクエイプ≫が3体

 

使い魔のピナが回復ブレスでサポートしてくれているが、その回復量は微々たる物

 

刹那、彼女を一体の≪ドランクエイプ≫の強烈な一撃が襲った。しかし、その攻撃がシリカに届くことはなかった

 

恐る恐る彼女は恐怖で閉じていた瞳を開け、何が起きたのか確認する

そして、その理由は直ぐに理解出来た。自分を庇い、HPバーを減らしていくピナの姿

 

「ピナ………!ピナ!ピナーー!」

 

そして完全に体力が尽き、ピナはシリカの呼びかけも虚しく、一枚の羽を残して霧散した

失意の底に叩き落された彼女の背後から3体の≪ドランクエイプ≫が迫り、シリカは自分の死を覚悟した

 

「邪魔」

 

一瞬だった。≪ドランクエイプ≫の頭上を曲刀が通り過ぎ、その首を切断。風切り音を立てながら、戻る曲刀の行く先に視線を向ける

其処に佇んでいたのは夜風に尻尾のような後髪を靡かせ、赤いベストに身を包んだ少年。彼はシリカに気付くと手を差し出す

 

「大丈夫?キミ」

 

「うぅ……ピナ…。あたしを一人にしないでよ……、ピナ!」

 

「大丈夫ではないか。キミもビーストテイマー?」

 

「キミも…ってことはあなたも?」

 

「一応ね。ほら、あれ」

 

少年、ヒイロはシリカの問いに自分の頭上を指差す。その先に居たのは一匹の鳥型モンスター、自分以外のビーストテイマーを初めて、見たのか彼女は驚いたように瞳を瞬きさせている

 

「名前はなんて言うんですか?」

 

「ヤキトリ」

 

「えっ…なんて?」

 

「だからヤキトリ。火属性の鳥型モンスターだから、ヤキトリって名前がピッタリだと思って」

 

「へ…へぇ…。あっ!そうだ!ピナが!あたしのピナ!」

 

「大丈夫だよ。そういう情報に詳しい変わり者が身内にいるから」

 

「ほ、本当ですか……?」

 

「本当だよ。ちなみに俺はヒイロ、キミの名前は?」

 

「シリカ………シリカです」

 

「よし、行こうか。シリカ」

 

名を聞いた後、ヒイロは彼女に改めて手を差し出す。その手を掴み、二人で迷いの森を抜け、主街区へと歩いて行く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第35層主街区ミーシェ 彩りの道化(カラーズ・クラウン)のギルドホーム

 

「遂にヤツが動いた」

 

「なに…ソイツは本当か?ベルさん」

 

「ああ、間違いない。テン」

 

部屋の二階に位置するソウテンの部屋、此処にいるのはギルドリーダーで家主のソウテンとサブリーダーのミトとキリト、更に仲介役のディアベルの四人だ

 

「ヤツが動いたということはまたギルド狙いのPKが行われる。何としても俺は其れを阻止したい。協力してくれるか?テン」

 

「当たり前だろ?俺とベルさんの仲だ、無償で協力する」

 

「恩に着る。それじゃあコイツを渡しておく、回廊結晶だ。行き先は黒鉄宮に設定してある」

 

「了解。その間の前線は頼む」

 

「任してくれ!これでも彩りの道化(カラーズ・クラウン)の騎士だからな。テンたちが抜けた穴は俺が埋めるよ。騎士の名に賭けてね」

 

相変わらずなディアベルを見送り、手にした回廊結晶を見詰めるソウテン。彼なりに策を練っているのだろうと、ミトとキリトは黙って指示を待つ

 

「ミト、キリト」

 

「なに?テン」

 

「どうしたんだ?」

 

名を呼ばれ、彼の方に視線を向ける二人。当の本人は回廊結晶を手にしているのに変わりはないが窓の外を見ている

 

「ヤツって誰?」

 

「「知らないんかいっ!!」」

 

まさかの発言にミトが御約束を放ち、キリトも蹴りを放つ

 

「ぐもっ!?いやだって!唐突に言われたから、話を合わせないと不味いと思って!」

 

「はぁ…ホントにバカなんだから…」

 

「ヤツってのはオレンジギルド《タイタンズハイド》のリーダー、ロザリアのことだよ。迷宮区を探索するパーティに混ざっては手頃な獲物を物色し、誘い出して、犯罪者(オレンジ)プレイヤーの部下に狩らせる卑劣な手段で有名だって最近は噂になってる」

 

「ふぅん?ソイツはいただけねぇな…」

 

「そうね。依頼を受けたからには完遂以外は許されない」

 

「ああ。彩りの道化(カラーズ・クラウン)の名の下に」

 

「彩り返してやろうじゃねぇか」

 

仮面越しに不敵に笑うソウテン、同じくミトとキリトも其々の得物を片手に微笑する

刹那、一階から物音が聞こえてきた

 

「きゃぁぁぁぁぁ!!ゴリラはいやァァァァァァ!」

 

耳を劈くような少女の悲鳴。メンバーであるミトでもなければ、彼女の友人のアスナでもない悲鳴に慌てて、ソウテン達は一階へと駆け降りた

 

「誰がゴリラだ!小娘!」

 

「ヒイロ!ゴリラが!ゴリラが口を聞いた!」

 

「シリカ、落ち着いて。確かに限りなくゴリラだけど、ああ見えても人間なんだ」

 

シリカ、そう呼ばれた少女とヒイロの前には怒り気味のグリスの姿。どうやら、ゴリラモンスターと彼をシリカが見間違えたようだ

 

「えっ?ホントに?あんなにゴリラみたいなのに」

 

「誰がゴリラだ!!そもそもソイツは誰だ!」

 

「シリカです。よろしくお願いします、ゴリラさん」

 

「おう、よろしく!ってゴリラじゃねぇわ!!だいたい!ギルメンじゃねぇヤツが----ぐもっ!?」

 

「小さい子を怖がらせないの!」

 

騒ぐグリスの頭にミトが御約束を見舞い、シリカに目線を合わせるように向き直り、彼女へ笑顔を向ける

 

「ごめんね。騒がしいゴリラだけど、悪気はないの」

 

「は、はい。それでその…ゴリラさんは大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫だよ。頭の中には何もないから、この人」

 

「ああ、空だ。だから振っても音すらしないよ」

 

「おーい、グリスー。大丈夫か?好きな筋肉とか言えるかー?」

 

散々な言われようのグリスを突き、反応を見るソウテン。すると気絶していた彼が飛び起き、着ていた装備を外す

 

「好きな筋肉……やっぱり、腹筋だな!!見ろ!シックスパックだ!」

 

「え?なに?真空パックがどしたって?」

 

「シックスパックだ!このアホリーダー!」

 

「服を着ろ。ゴリラ」

 

「セクハラ容疑で黒鉄宮に送るわよ」

 

「あっ、回廊結晶ならあるぞ」

 

「さすがはリーダー。頼りになるね、普段は迷子しか取り柄がないくせに」

 

「そうだろう、そうだろう……ん?おいコラ、誰が迷子だと?焼き鳥チビ」

 

「リーダー……?この人ってリーダーなの?ヒイロ」

 

リーダー、そう呼ばれたソウテンをシリカが指差しながら問う。ヒイロは軽く咳払いした後に頷く

 

「こほん……この人はソウテンさん、俺の所属するギルド彩りの道化(カラーズ・クラウン)のリーダーで迷子の達人だよ」

 

「迷子の達人?」

 

「フィールドに出ると一秒で迷子になるんだ、この人」

 

「迷子になってない。道を間違えちゃうだけだ」

 

「其れを迷子っていうのよ?迷子くん」

 

「迷子じゃない!」

 

「あのリーダーを迷子って呼んでる全身が紫色で死神みたいな鎌を持った人はミトさん、リーダーの恋人さんでツッコミ役だよ」

 

「好きで突っ込んでないわ。あと死神みたいで悪かったわね」

 

「で、あれがぼっちにゴリラ」

 

「「扱いが雑っ!!」」

 

ソウテンとミトの紹介はしたがキリト、グリスに関する説明は簡潔だった。二人が騒いでいるが無視し、ヒイロはシリカと共に親友のヴェルデの部屋の前に立つ

 

「ヴェルデー」

 

「はいはい…おや、ヒイロくん。そちらのお嬢さんは?」

 

「あっ、シリカです。ヒイロから貴方なら、使い魔を生き返らせる方法を知ってるって聞いて」

 

「使い魔…なるほど、状況は把握しました。お入りください。あっ、申し遅れましたが僕はヴェルデと言います。以後お見知りおきを」

 

「は、はい!ご丁寧にどうもです!」

 

部屋に招き入れられ、中を見回すと沢山の書籍に囲まれた内装が目に入る。この世界で本を読むのに何の理由があるかは理解できないがシリカは、本屋のようだと感じた

 

「それで使い魔を生き返らせたいとのことでしたね」

 

「は、はい。何かありませんか?ピナはあたしの大事な家族なんです!」

 

「それはそれは是が非でも助けないといきませんね。そんなシリカさんに朗報です、第47層に思い出の丘というダンジョンがあります。其処の最深部にある≪プネウマの花≫という、アイテムを手に入れ、使い魔の一部に蜜を垂らせば、生き返らせることは可能です」

 

「本当ですか!?」

 

「ヴェルデ。期限はあるの?それに」

 

「いい質問です、ヒイロくん。期限は三日、それ以上を過ぎれば使い魔蘇生は不可能となります」

 

「三日………あたしになんか取れるでしょうか…?」

 

「情報をありがと。明日になったら行くよ、シリカ。あとリーダーとミトさんには言っておくから、今日は泊まっていくといいよ」

 

「あ、ありがとう」

 

表情は変わらないが自分に優しく接するヒイロにシリカの中で知らない感情が芽生える。名前も分からない其れは初めての感覚だが僅かに暖かくも思えた

ヴェルデの部屋から出て、律儀にお辞儀をする幼い背中にソウテンはある人物が重なって見えた

 

「………あいつは元気でやってるかな」

 

「あいつ?ああ、お前の妹か」

 

「どーせ、宝探しゲームとかに熱中してんだろうけど。二年も会ってないからな、ちょい心配にもなる」

 

「心配って…あいつ、お前と双子だろ」

 

「双子は双子でも二卵性な。それに我が妹はドジっ子だからな、何かをやらかしてないかが心配だ」

 

双子の妹、今は会えない彼女を心配するソウテンは何時になく兄らしく見えた。しかしながらキリトは此処で引き下がらない

 

「安心しろ。お前よりはマシだ」

 

「うるさい。ぼっち」

 

「はっはっはっ、叩っ斬る!」

 

「上等!」

 

「俺も混ぜろコラァ!」

 

「そこぉっ!食事の用意中に暴れないっ!」

 

三人に頭上にミトの鎌が振り下ろされるのを見て、シリカはヒイロに声を掛ける

 

「この人たちって何時もこうなの?」

 

「退屈しないでしょ?」

 

「うん、そうだね」




次回も引き続き、続きをお送りします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二幕 プネウマの花

ギャグを交えつつもシリアスなテイストもある、そんな回になっております


「いやぁ、寒い日は鍋に限るなぁ」

 

「でも大丈夫か?これ」

 

「ストレージにあったのを適当に放り込んだからな」

 

「やはり、ミトさんとシリカさんが戻るのを待つべきだったのでは?料理スキルが壊滅的な僕たちには料理など明らかな自殺行為です」

 

「もぐもぐ……」

 

ミトがシリカを連れ、買い出しに出ている間にソウテン達は鍋を囲んでいた。しかしながら、料理スキル皆無である彼等には明らかに不可能だ。少しでも高いスキルを持っていたなら、別だがミト以外のメンバーが上げている筈も無く、味見係のヒイロが口に運ぶ

 

「ヒイロ。味はどうだ?」

 

「リーダーの足の裏みたいな味がする」

 

「おやまぁ、最悪じゃねぇの」

 

「よし、俺がエギルの雑貨屋で仕入れたパスタを入れようぜ。少しはマシになるかもしれない」

 

そう言うとキリトはストレージからパスタを取り出し、鍋に投入。再び、味見係のヒイロが口に運ぶ

 

「どうです?ヒイロくん」

 

「今度はキリトさんの靴下みたいな味」

 

「おやまぁ、これまた最悪じゃねぇの」

 

「バナナはどうだ?この痺れバナナとかオススメだぞ」

 

「それテイム用の罠だぞ」

 

「なにぃっ!?エギルに騙された!!」

 

「バカだろ、お前。限りなくバカだろ」

 

「バカじゃねぇ!ちょっと騙されやすいだけだ!」

 

「其れをバカって言うんだよ!ゴリス!!」

 

「んだとぉ!?誰がゴリスだ!てめぇ!おめぇなんかぼっちだろうが!!」

 

「ぼっちじゃない!」

 

「まーた始まった」

 

グリスとキリトの言い合いにソウテンが呆れたようにため息を吐く。二人の手は鍋の側にあり、取り合うように右往左往している

その時だった、扉が開いたのは

 

「ただいま。私が居ない間に変なことして…なにしてんのぉ!?」

 

「見て分からねぇの?鍋だ」

 

「鍋なのは見たら分かるわよ。私が聞きたいのは何を入れたのかってことよ」

 

「ピーナッツバター的な調味料」

 

「パスタ的な麺類」

 

「バナナ的なテイム用トラップ」

 

「夕方に倒した猿の肉」

 

「その辺の草を少々」

 

「一つもマシな食材が入ってないじゃない!!バカどもっ!」

 

ソウテン達の頭上に鎌が振り下ろされ、シリカは苦笑する。短い時間ではあるが彼等の関係性については理解できる、ソウテンをリーダーと呼ぶが実質的な纏め役はミトだ

彼女が居ることで見た目的にも華やかでむさ苦しさも多少ではあるが薄れて見える

 

「全く……ごめんね。シリカちゃん」

 

「い、いえ。にぎやかで退屈しなさそうですね」

 

「お陰さまでね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食後、シリカはミトに促され、風呂場に向かう。彼女の気配が無くなるのを確認し、ソウテンが口を開く

 

「明日、第47層に《タイタンズハイド》を呼び寄せる」

 

「なっ……!シリカを囮に使うつもりなの…?リーダーは」

 

尊敬するソウテンの言葉にヒイロは耳を疑う。仮面越しではあるが彼の瞳に迷いは見受けられず、この言葉が真意であるのが理解できる。それ故にヒイロは怒りを抑えられなかった

 

「囮、捉え方次第ではそうなるな」

 

「認めない。そんなやり方をするくらいなら、俺が迎え討つ」

 

反発し、真っ向からソウテンと向き合う。しかしながら、不敵な笑みを崩さない道化師は相も変わらずに何時もの態度を貫く

 

「却下」

 

「………もういい。俺は俺の正義を貫く、誰にも邪魔はさせない」

 

「どうぞご自由に。ただ……一つだけ、知っておけよ?チビ助。振り翳すだけの正義は偽善でしかねぇ。逆に守るべき者の為に振るう正義は剣よりも強い刃になる……まっ、チビ助には理解出来んだろうがね」

 

「………っ!」

 

尊敬していたが故に、その言葉は深く突き刺さった。仮面に隠された真意と本質、見抜けないが故に。今の彼をヒイロは拒絶し、ダイニングから去っていく

 

「テン、あんな言い方はないじゃないの?ヒイロはシリカのことを思って」

 

その様子を見ていたミトはソウテンに進言するが彼は何も語らず、窓の外を見ている

 

「それは違うぞ。ミト」

 

「何がよ?キリト」

 

「あの話を聞いた時のヒイロがどうだったのかを覚えてるか?」

 

「えっと…」

 

キリトの問いに先程のヒイロの姿を思い浮かべる。突如、声を荒げたようにソウテンへ反論し、最後には自分の手で対象を倒すと言い放った。何時もの最年少でありながら、冷静な態度を崩さない彼とはかけ離れていたのは明白である

 

「ちょっと、何時もとは違うように見えたわ」

 

「そういや…焦ってるように見えたな」

 

「その通りだ、グリス。ヒイロは焦っているんだ」

 

「そりゃあわかってんだよ。なんで焦ってんだ?そんなに」

 

「………シリカちゃんじゃない?そうよね、キリト」

 

「さすがだな。ミトの言う通り、ヒイロが焦っているのはシリカが関係してる。自分では気付いてないかもだけど、シリカとの出会いでヒイロは誰かを守る意味を知った。其れに使い魔の死を本当に悲しむ彼女を助けたいと思う正しい心を知った。だからだろうな……テンの作戦に反対したのは」

 

「ヒイロも成長してるのね。この世界で」

 

「ああ、強くなるぜ。アイツは」

 

幼い背中、今はまだ失う辛さを知らぬが故に無謀さを感じる事もあるがソウテンは理解していた

彼と自分が出会ったのは偶然ではない、其れは必然だったのだと。その関係に血の繋がり等は存在しないが、思い出は数え切れない程に存在する。共に笑い、共に怒り、共に歩んだ道筋、その全てが彼との絆だ

 

「さてと…準備といきますかねぇ。今夜は眠れねぇから覚悟しなよ?おめぇさんたち」

 

「「「了解!リーダー!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バルコニー、仮想世界の夜空を見上げる一つの影。其れはヒイロだった

飛び出したは良いが行く宛も無い彼は黄昏ていた。話し相手になって貰おうにもシリカは風呂の中、故に彼は一人だ

 

「隣。構いませんか?」

 

「ヴェルデ…」

 

隣に視線を向ける。彼、ヴェルデは鼻までずり落ちた眼鏡を掛け直すと淹れたばかりのコーヒーを差し出す

 

「ヒイロくんが怒るのも無理はありません。ですが…君も理解出来ない訳ではないでしょう?」

 

「だからって……やっぱり、許せない」

 

「そうですね。しかし、僕はリーダーの仰った言葉は正しいと思いますよ」

 

「あの正義が如何とかってヤツ…?」

 

ヒイロの問いにヴェルデが頷く。彼はコーヒーを口に運び、息を吐き、再び口を開く

 

「正義は時に人を変えてしまう、というのが僕の見解です。ヒイロくんも現実に居た頃に見たでしょう?自分の正義を振り翳し、威張り散らす我々とは異なるカラーギャングたちを」

 

「うん。でもあれは正義じゃない、悪だよ」

 

「いいえ、あれもまた正義です。僕たちとは異なるが故に悪に捉えられがちですが彼等にとっては正義なんです。間違ったが故に悪と看做されてしまう、現実はそう言った希有なモノで出来ているんです」

 

「じゃあ、俺たちも悪になるかもしれないの?」

 

「そうですね、一概に無いとも言い切れません。故に…僕たちにはリーダーがいるんです。あの人は方向音痴ですが歩いている道だけは常に真っ直ぐと正しい、ヒイロくんもそうは思いませんか?」

 

その言葉にヒイロは何も言い返せない。ただ一つ思うのは自分が此処に居るのはソウテンが手を差し伸べてくれたからであるという事だ

あの時、あの手を取らなかったら。自分はきっと此処には居なかった。この楽しい日々を知らずに生きていたのだろうと彼は感じていた

 

「ホント……敵わないなぁ。リーダーには」

 

「全くです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2024年 2月24日 第47層 フローリア

 

花が咲き誇り、見渡す限りの花畑がシリカの双眸に広がる

初めて見る街並みにシリカは新装備を着込み、愛らしい両眼を輝かせ、感想を漏らす

 

「わぁ!夢の国みたい!」

 

「この層は別名≪フラワーガーデン≫って呼ばれてて、フロア全体が花だらけで有名だよ」

 

「すごい!すごいよ!ヒイロ!」

 

「そうだね」

 

淡白な返事を返し、ヒイロはシリカの手を引き、ゆっくりとフィールドを歩き出す。目指すは≪プネウマの花≫があるダンジョンだ

その様子を木の影から見守る影が一つ、ロザリアだ

 

「待ちなよ」

 

追い掛けようとした彼女の背後から呼び止める声が一つ。声色から察するに若い男だ、振り返り、その姿を確認する

槍を肩に担ぎ、青いコートとマフラーを靡かせ、彼、ソウテンは其処に佇んでいた

 

「なぁに?アンタ。アタシと話したいなら、面会を通してもらえない?」

 

「面会なら既に終わったさ。こいつ、おめぇさんの部下だろ」

 

木の影から一人の男をソウテンが引っ張り出す。その男にロザリアは見覚えがあった、シリカを付けさせていた部下の一人だ

しかしながら、彼女は知らぬ顔で軽くため息を吐いた

 

「知らないわ、そんなヤツ」

 

「そっか、知らねぇか。でもさー……既に面は割れてんだよ。おめぇさんがオレンジギルドのリーダーってことはな……。人を殺すのがそんなに楽しいか?」

 

「何よ。マジになっちゃって馬鹿みたい、ここで人を殺しても本当にその人が死ぬ証拠なんてないし。 現実に戻っても罪に問われる事は無いわよ。 ただ戻れるのかも分からないのにさ、正義とか法律とか笑っちゃうわよね。アタシ、そういう奴が一番嫌い。 この世界に妙な理屈持ち込む奴とかね。まんまと貴方達の餌に引っかかってしまったことは認めるけど…でもたった一人でどうにかなると思っているの……?」

 

ロザリアが片手を挙げると10人のプレイヤーがソウテンを取り囲む。しかし、彼は顔色を変えずに不敵な笑みを崩さない

刹那、其処へ≪プネウマの花≫を手に入れたヒイロとシリカが運悪く、戻って来て、その光景に目を見開いて驚く

 

「リーダー。俺も一緒に戦わせて」

 

「あ、あたしも!リーダーさんのお役に立ちたいです!」

 

「サンキューな。でも、その気持ちだけで充分だ。二人はミトと一緒にギルドホームに戻ってな」

 

「で、でも…」

 

「シリカちゃん、ヒイロ。リーダーを信じましょう」

 

背後から優しく語りかけるミトの手には転移結晶が握られている。ヒイロは口には出さないが不服そうだ

二人とミトが転移したのを確認すると得物を抜き、ソウテンはロザリアとプレイヤー達に向けた

 

「仮面に槍、それにあの青いコート……ま、まさか!あの有名な道化師(クラウン)か!?」

 

「く、道化師(クラウン)ってあの道化師(クラウン)か!?よりにもよって!」

 

「あら、すごい。ボウヤって有名人なのね?でもこの人数を相手に勝てるかしらね!」

 

ロザリアの号令と共に、プレイヤー達が一気に駆け出し、ソウテンを斬り付ける

だが、彼のHPバーは一向に変化していない

 

「一人に付き与えられるダメージは200ってとこか。そんくらいで俺が()れると思ってんの?笑わせるねぇ」

 

一瞬、ソウテンの纏う雰囲気が変わった

肩に担いだ槍を横凪に振るい、風圧を発生させる。刹那、プレイヤー達の体に無数の傷が刻まれ、悲鳴にも似た声が上がる

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!ば、化け物だーーー!」

 

「化け物とはこれまた人聞きの悪い、俺は単なる道化師(クラウン)さ。そいじゃあ……これにて幕引きと致しましょう」

 

「くそっ、くそっ。くそーーーー!!!」

 

ロザリアと部下達が黒鉄宮に送られたのを確認し、構えていた槍を担ぎ直す

 

「さてと……ベルさんに報告しにいくかな」

 




次回は圏内事件、ヴェルデの推理力が冴え渡る?頭脳派な彼が活躍する……かもしれない


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三幕 日向

2024年4月11日 第59層《ダナク》

 

現在、最前線となっているこの層では多くの《攻略組》が迷宮区の攻略に挑んでいる

然しながら、その中に彩りの道化(カラーズ・クラウン)のメンバーの姿は見受けられない。序盤こそは迷宮攻略を率先し、数々の伝説を残した彼等であるが最近は目立った活躍していない

 

故にそのリーダーである道化師(クラウン)の異名を持つ彼は木の上で呑気に空を見上げている

 

「テーン。ピーナッツバターサンドあるわよー」

 

下から聞こえた声に視線を動かすと、紙袋を手に持ったミトの姿が見えた

 

「おっ、そいつはありがてぇ。俺は一日一回はピーナッツバターを摂取しないとイライラするんでね」

 

「……あれ?そう言えば、キリト達は?さっき50層のギルドホームを覗いた時にはヒイロとシリカちゃんしか居なかったけど」

 

「あー、グリスはレベリングで、ヴェルデはベルさんのとこだよ」

 

木から飛び降り、ミトの持つ紙袋からピーナッツバターサンドを取り出しながら彼女の疑問に答える

 

「ふぅん。で、キリトは?」

 

「居るだろ?そこに」

 

ソウテンが指差す先には芝生の上で寝転がる黒い装備に身を包んだ少年の姿があった

 

「よくもまぁ…寝れるわね」

 

「今日の天気は一年で最高の気象設定なんだとよ」

 

「確かに迷宮に籠るには勿体ないくらいに良い天気ね。でも、睡眠PKとかも出てきてるんだから油断は禁物よ」

 

《アンチクリミナルコード有効圏内》、通称《圏内》において、プレイヤーは他のプレイヤーにダメージを与えることは基本的不可能である。プレイヤーにソードスキルを叩き込もうとしてもシステムによって阻まれるがデュエル中はダメージが通る。それを利用して寝ている相手の指を動かして、《完全決着モード》のデュエルを受けさせ、嬲り殺しにすることを睡眠PKと呼ぶ

 

「承知しておりますとも。だからこそ、さっきみたいに木の上で見張りをしてたんよ」

 

「見張りだったんだ?私はてっきり、テンがバカだから木の上に居たのかと思ったわ」

 

「おいコラ、そいつはどういう意味だ。怒らないから言ってみな」

 

「バカと煙は高い所が好きって言うでしょ?だから、テンもそうなのかなって」

 

「はっはっはっ。その鎌、だいぶ傷んでるな?貸してみな、手入れしてやるから」

 

「いや」

 

笑顔で拒絶するミトに対し、両手をわきわきとしながら彼女へソウテンは詰め寄る。その時、一通のメッセージが届いた

 

「おろ?ヴェルデからメールだ」

 

「なんて?」

 

「えっーと、『黄金林檎なるギルドをご存知ありませんか?そのリーダーだった方の遺品の指輪を探してほしいと依頼されたのですが、僕は交友関係が広い方では無いので、リーダーにもご協力願いたいのです』だとよ」

 

「黄金林檎……?聞いたことないわね」

 

「確か、聖竜連合のシュミットが元々は其処に居た筈だ」

 

「相変わらず、情報通ね。何時の間に仕入れたのよ」

 

「細かいことは気にしなさんな。んじゃ、俺はちょいと行くとこがあるから、キリトをよろしくな」

 

「待ちなさい、一人だと迷子になるわよ。私も行くわ」

 

「ええっー……キリトはどうするんよ?」

 

「大丈夫よ。ほら」

 

ミトの指差す方向に視線を動かすと、寝ているキリトの側に一人のプレイヤーが立っている。栗色の髪に白と赤の配色の装備を身につけた少女の名はアスナ、ミトの親友だ

 

「なんだ、アンタか。こんな所で何してるんだ?」

 

「アナタこそ、こんな所で何してるのよ?こんな所でサボって、少しは真面目に攻略に取り掛かったらどうなの!こんなことしてる間にも、現実での私たちの時間はどんどん失われていくのよ!」

 

「それでも、今はここが俺たちにとっての現実だ。俺たちが生きてるのは、ここ《アインクラッド》だ」

 

刹那、風が吹き、アスナの頬を撫でる

 

「ほら、良い風に、良い日差し。……最高だ」

 

「………天気なんて、いつも一緒でしょ」

 

「アンタも寝て見ればわかるよ」

 

キリトが寝息を立て始め、アスナも彼の横に寝転がる

 

((仲良いな))

 

その様子を見ていたソウテンとミトは密かに思うのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方になり、用事を済ませたソウテンがミトと共に丘へ戻ると低い石垣で黄昏れるキリトを見つける

 

「よぉ、起きてたか。黒ずくめ(ブラッキー)

 

「ああ、お陰さまでな。よく眠れたよ……道化師(クラウン)

 

「くしゅん!」

 

小さなくしゃみが耳に入り、背後を振り向くとアスナが目を覚ましていた

彼女は覚醒しきっていない頭で辺りを見回した後、ミトの姿を見つける

 

「うにゅ……ミト…。今、何時ぃ…?」

 

「夕方よ。ぐっすりだったみたいね」

 

「夕方……はっ!」

 

数秒の沈黙の後、アスナは現状に気づき、顔を羞恥で紅潮させたかと思えば、苦慮に青ざめ、最終的に激怒で真っ赤になった。やがて、腰の細剣に手を伸ばし、柄を掴む

 

「なっ!?」

 

その光景にキリトは驚き、石垣に隠れるが攻撃は飛んでこない。ソウテンはというと呑気に頭を掻き、欠伸をしている

 

「………一回」

 

「……え?」

 

「ご飯、一回だけなんでも好きな物いくらでも奢る。それでチャラ。どう?」

 

アスナはキリトが自分の、自分たちの傍を離れなかったのは睡眠PKによる殺害を防ぐ為の護衛をしていたと理解。更には日ごろの精神疲労を回復させるために、好きなだけ寝させていたことも。故に寝起きの顔を見られたという羞恥と激怒を抑え込み、提案した

 

「57層の主街区に、いいレストランがある。NPCの店にしてはそこそこイケるんだ」

 

「なら、そこに行きましょう」

 

「よし、決まりだ。ヒイロの焼き鳥パーティーに行くよりもそっちの方が魅力的だ」

 

「そうね。グリスのバナナ祭りよりも絶対にそっちの方が良いわ」

 

「全くだ。ヴェルデのカレーフェスティバルよりもアスナの奢りの方が最高だ」

 

「焼き鳥パーティーにバナナ祭り?あとカレーフェスティバルってなによ…相変わらず楽しそうね、アンタ達は…。って!奢るのは彼にだけよ!テンくんにミトは自分で払いなさい!」

 

「ケチ」

 

「ドケチ」

 

「こらこら、二人とも奢って貰うんだろ?なら、その態度はよせ。確かにこの人はケチで攻略の鬼だけど、最後には奢ってくれる人だぞ?だから、いくらケチでもこういう時はおだててだな…ふごぉ!?」

 

何かを言いかけたキリトの頭に空手チョップが叩き込まれ、彼は倒れた

 

「何か言った?」

 

「「言ってません」」

 

伸びるキリトを引き摺り、三人は57層へと向かった



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四幕 圏内事件

「キリト。ここにピーナッツバターはあるんだろうな?言っとくが俺はピーナッツバターの無い店に興味はねぇよ」

 

「ここはパスタの美味い店だ。お前は石でも食べてろ」

 

「はっはっはっ、ミト。このバカにピーナッツバターの魅力を教えてやりな」

 

「私は別にパスタでも良いわよ。好物は蕎麦だけど」

 

「おい、なんで今のくだりで好物を言った?蕎麦にしろってか?」

 

「だってパスタも蕎麦もなんか長いじゃない。似たようなものよ」

 

「パスタを語る資格無しだな、ミトは今すぐに帰りなさい」

 

「いや」

 

食事を待つ間、食べ物の話で何時もの雰囲気を作り出す三人組。その様子にアスナは軽くため息を吐き、呆れた視線を向ける

 

「毎日が楽しそうでいいわね、アナタ達は」

 

「楽しいというか、これが俺たちだからな」

 

「そうそう。何時の世もユーモアを忘れちゃいかんよ」

 

「テンの場合はユーモア以前にバカなだけよ。この前なんか鍋にピーナッツバターを入れてたのよ」

 

「おかげでテンの足の裏みたいな味になってたな。最悪だった」

 

「パスタ入れたヤツに言われたくねぇんだけど?おめぇさんの靴下みたいな味になってたじゃないの」

 

「足の裏とか靴下とか…普段、何を食べたら、そういう感想が出るのよ」

 

「気にするだけ無駄よ、アスナ。この二人は味覚にバグがあるんだから」

 

「「ねぇよ!!」」

 

NPCウェイトレスが卓上に置いたサラダボウルから謎野菜を皿に取り分け、仕上げに謎のスパイスを振り掛けた後、口に運ぶ

 

「思うんだが、栄養とか関係ないのになんで生野菜食べてるんだ?」

 

「美味しいじゃない」

 

「まずいとは言わないけどさぁ………せめてマヨネーズぐらいは欲しい」

 

「確かにピーナッツバターが無いのは痛い。それっぽいので誤魔化すのには限界があるからなぁ」

 

「調味料とかを作れたら良いんだけど……其れを再現出来るだけの知識が私たちには無いのよねぇ」

 

「欲しいとなると、ソースとか……ケチャップとか………」

 

「あとはピーナッツバター」

 

「「「それはない」」」

 

「まさかの満場一致!?」

 

「やっぱ醤油じゃないか?」

 

「なるほど。醤油か」

 

「確かに醤油は大事ね」

 

「日本の心よね」

 

醤油、懐かしい響きに四人は納得したように頷き合う。その光景は微笑ましく、穏やかだ

この時間が少しでも長く続くと思っていた

 

しかし…

 

 

 

 

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

突如、響いた悲鳴に四人の表情が変化する。和やかな雰囲気は消え去り、店を飛び出した

騒ぎの中心である広場に向かい、雑踏を掻き分けた先に現れた光景に目を疑う

 

教会の二階中央の飾り窓から、フルプレート・アーマーを着込み、頭には大型のヘルメットを被った男性プレイヤーがロープに吊るされていた。しかし、プレイヤーたちが恐怖していたのは男が首を吊っていることに対してではない

SAOにおいて、ロープアイテムによる窒息は有り得ない。それでは何故か?答えは男の胸に刺さった短槍(ショートスピア)

 

「キリト!お前はアスナと教会の中を探せ!犯人はまだ近くに居る筈だ!」

 

「分かった!アスナ!」

 

「ええ!」

 

本来は有り得ない圏内での出来事、ソウテンの指示でキリトとアスナは教会へと入っていく

道化師としての彼ではない、ミトがよく知るその姿に僅かな違和感を感じたが直ぐに気持ちを入れ替え、声を掛ける

 

「テン!準備は出来てるわ!」

 

「さすがだ。ミト!俺を吹っ飛ばせ!」

 

「了解!」

 

ミトが鎌を振り被り、その先にいたソウテンが風圧で前に押し出されるのと同時に壁を駆け上がる。背中に携えた槍を抜き、縄を切ろうとした

 

「………っ!!」

 

その瞬間、男の目が、強く見開いた。教会の鐘が鳴り響くと同時に何かを呟き、無数のガラスが砕け散るような音とポリゴンの欠片たちが爆散。目の前の光景に仮面の中のソウテンの表情が歪む

 

「許さねぇ……」

 

「テン?」

 

「怒りを打つけるくらいなら何も言わねぇが……命を奪うヤツは絶対に許さねぇ。この事件の犯人は俺が首に縄をかけてでも引き摺りだしてやる……真実という明るみの下にな」

 

初めて見る表情、自分の知らない彼にミトは不安を感じざる得ない

 

「本当の貴方は何処にいるの……?ねぇ…教えてよ…テン」

 

彼女の呟きは風の中に消えていく。そんな事も露知らず、男の死の原因がデュエルによるPKなら、近くに《デュエル勝利宣言メッセージ》が現れると考えたソウテンは周辺に視線を動かす

 

「テン!デュエルのウィナー表示はあるか!?」

 

「ねぇな。どうやら、デュエルは関係ねぇようだ」

 

「てことは本当に圏内で人が死んだ……?まさか!有り得ないわ!」

 

「有り得ないことなんかねぇ、実際に見たじゃねぇか。お前も」

 

威圧感の消えない声色でアスナを咎め、ソウテンは近くに落ちていた短槍(ショートスピア)を拾い上げる

 

「凶器はコイツか…」

 

「テン。《索敵》スキルで探したけど、居たのはNPCのシスターと神父だけだったわ」

 

「事情聴取は無理だな。どうする?テン」

 

「目撃者を探す。誰でもいい、さっきのを最初から見てたヤツはいるか?」

 

ソウテンは怒りを仮面に隠した状態で冷静に対応し、広場のプレイヤー達へ呼び掛けた。すると、一人の女性プレイヤーが怯えながら前に出た

 

「ごめんね、怖い思いしたばっかりなのに。あなた、お名前は?」

 

「あ……あの、私、《ヨルコ》っていいます」

 

「もしかして、最初の悲鳴は君か?」

 

「は、はい………私、さっき、殺された人と……一緒にいたんです。彼の名前は《カインズ》。昔、同じギルドに所属していて、今でも結構仲がよくて、今日も晩ご飯を一緒に食べるはずだったんですけど、見失っちゃって……。それで、辺りを見渡してたら、ここの窓からカインズが落ちてきて、宙吊りに……。しかも、胸に槍が刺さって………!」

 

「その時、誰かを見なかった?」

 

「……一瞬でしたけど、後ろに誰か……いたような気が、しました……」

 

「その人影に見覚えは?」

 

ヨルコはキリトの問いに首を振る。その間、頭の中で情報を整理し、残った二つの手掛かりを手にした状態で現場の教会の中を調べる

 

「現実なら手摺りに跡が残ってるが……この世界ではそうもいかねぇか。それに……仮にシステム外スキルがあったとして、圏内でのPKが可能になるとは思えねぇ。手掛かりはスピアとロープだけ…」

 

思考を巡らせていると現場に残ったプレイヤー達に一連の出来事を細かく伝えるキリト達の姿が目に入る

彼等はソウテンに気付くと、彼に呼び掛けた

 

「テーン、何か分かったかー?」

 

「何もわかんねぇな、《鑑定》スキルを上げてるなら別だが生憎ながら俺は取ってすらねぇし」

 

「私も上げてないわ。アスナは?」

 

「上げてると思う?」

 

「ですよねー。いっそのことエギルに頼む?」

 

「ぼったくりだからなぁ…あいつ。アスナの知り合いに誰か居ないか?」

 

「友達で、武器屋の子がいるけど、今の時間は忙しいからすぐには無理かも………」

 

「となると……やっぱり、アイツか」

 

「まあ、依頼の件もあるからな。その対価に《鑑定》してくれんだろ」

 

「なら、キリトとアスナは《黒鉄宮》まで行って、カインズの死亡日と原因、時間の確認をお願い。私はテンと行く」

 

「分かった」

 

キリトとアスナを見送った後にソウテンはミトを連れ、第50層の主街区アルゲードのギルドホームの一室の前で止まった

《研究室》と書かれたプレート。扉に手を掛け、中に入る

 

「ヴェルデ。今、大丈夫か?」

 

「おや…リーダーにミトさん。おかえりなさい、どうかされましたか?」

 

「ああ…依頼だ、《鑑定士》のお前にな」

 

「……なるほど。承りました」

 

《鑑定士》、そう呼ばれた瞬間にヴェルデの目付きが変わった。其れはまるで、水を得た魚のようだった

 




ヴェルデの覚醒、そして何時になく荒ぶるソウテン。はてさて、どうなる事やら…次回もお楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五幕 推理と過去

今回はテンの過去が遂に明かされる…


「コイツを鑑定してくれねぇか」

 

短槍(ショートスピア)ですか」

 

「ええ。さっき、59層のダナクでこの短槍(ショートスピア)が胸に刺さったカインズって言うプレイヤーが死んだのよ」

 

「死んだ……?圏内でHPがゼロになったということはデュエルでは無いんですか?睡眠PKの可能性も視野に入れましたよね?無論」

 

ミトの言葉にヴェルデは耳を疑った。圏内でHPがゼロになる等、聞いたこともない

しかしながら、長い付き合い故に分かる。ミトは下手な嘘を吐くような人物ではない。故にこの話は事実なのだと

 

「当たり前じゃねぇか。だがな…ウィナー表示が表示されてなかったんだよ。おかしいと思わねぇか?俺たちが現場に駆け付けるまでの時間は数秒もなかった。にも関わらずだ、ウィナー表示を見たヤツは誰もいない」

 

「それにカインズは直前までヨルコさんって人と一緒だったわ。睡眠PKの線も有り得ないわ」

 

「で、コイツが関わってくる訳だ。ロープはNPCショップで売ってる汎用品だ、同じヤツを現場近くの露店で見つけた」

 

「なるほど……拝見します」

 

スピアを受け取り、鑑定スキルを発動させたヴェルデは表情を歪ませる

 

「PCメイドです」

 

「やっぱりな。どうりで、槍には詳しい俺に見覚えがねぇ訳だ。で?製作者は」

 

「《グリムロック》という方ですね。ん?待ってください!グリムロック!?僕に依頼してきた方ですよ!?」

 

「黄金林檎ってギルドの人ね。確か、指輪探しを頼まれたのよね」

 

「はい。奥さんが亡くなり、ギルドは解散してしまったらしいのですが……その際にレアアイテムの指輪が紛失してしまったらしいのです。更にです、僕の推理によると奥さんはPKされた可能性が高いんです」

 

「つまり指輪は犯人が持ち去った……そういうことか?」

 

「はい、あくまでも推理なので結論ではありませんが」

 

「そのスピアの名称はわかる?ヴェルデ」

 

「《ギルティーソーン》、 罪のイバラとでも呼びましょうか」

 

固有名を聞き、スピアを受け取ったソウテンは何かを思い付いたように表情を変えた

刹那、自らの手を目掛け、スピアを振り下ろそうとした

 

「テン!何してるのよ!!!」

 

「何を怒ってんだよ」

 

「怒って当たり前じゃない!今、自分が何しようとしたか分かってるのっ!?」

 

「切れ味を試さねぇことにはどういう仕掛けになっんのか、分からねぇじゃねぇか」

 

「だからって、自分の手で試さなくてもいいじゃない!もっと自分を大切にして……お願いだから…」

 

「………分かった、分かった。アイテムストレージに収納しとく、其れで良いだろ?」

 

「うん」

 

アイテムストレージにスピアを仕舞い、部屋から出ようと扉に手を掛ける

 

「リーダー」

 

ヴェルデに呼び止められ、振り返ると心配そうに見詰めていた

 

「無茶だけはしないでください。貴方は僕たちにとって、リーダーであり仲間であると同時に家族です」

 

「分かってる。だから、そんな顔すんな」

 

乱暴にヴェルデの頭を撫で、何時もの不敵な笑みを見せるソウテン。だが、ミトの表情は曇っていた

この数時間の間に彼女の知らない彼が何度も姿を見せた。知りたい気持ちもあるが同時に知りたくないという気持ちもある

知ってしまえば、今までのソウテンが姿を消してしまう様な気がしてならない。故にミトはその気持ちを確かめようとはしなかった

 

「テン…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

その夜。ギルドホームのバルコニーでソウテンは黄昏れていた

手に持ったグラスを口に運び、頭の中に過ぎるのは広場での出来事。この世界での死を見たのは初見ではないが今回のような事例を目撃した事は一度も無かった

 

「テン」

 

「ん…キリトか」

 

声を掛けられ、振り向くとキリトが立っていた。彼の手には二つの包み紙が握られており、片方をソウテンに差し出した

 

「やるよ。露店で売ってたハンバーガーだ」

 

「ありがとよ」

 

「ミトから聞いたぞ。あのスピアを自分の手に刺そうとしたんだってな」

 

「アイツ……余計なことを」

 

「なんでそんな事をしたんだ?お前らしくないだろ」

 

ハンバーガーを口に運びながら、キリトが問う。すると同じようにハンバーガーを食べながら、ソウテンは数秒ほど黙っていたが口を開く

 

「真実を見つける為に必要だったからだ。それ以外に理由なんかねぇ」

 

「まだ引きずってるんだな。あの日のこと」

 

「……っ!」

 

刹那、ソウテンの表情が歪む。仮面を身に付けてないが故に何時もよりも分かり易く、その変化が感じ取れる

 

「あの時……俺がお前からファミコンのカセットを借りて、返さなかった日の喧嘩を」

 

「それじゃねぇ」

 

「違うのか?なら、アレか。お前の部屋で勝手に焼肉パーティーした時のことか」

 

「それでもねぇよ。態と話を逸らすんなら、普通に話せ」

 

「ああ…分かってるよ。お前のおふくろさんが亡くなった日だろ?今日は。そして、夜の街に怒りを打つけるようになった日だ。忘れる訳ない」

 

六年前の4月11日、その日が蒼井天哉の人生を変えた。代々、警察関係者を輩出するエリート家系に生まれた彼は生まれながらに将来を約束され、期待され、敷かれたレールの上を歩くのが当たり前だと思っていた

しかし、現実は残酷だった。犯人追跡中だった刑事の車が歩道に突っ込み、天哉と妹を庇った母は病院に搬送されたが間に合わず、息を引き取った

 

『ふんっ…子を助ける為に命を投げ出すとはな。バカな女だ』

 

だが、父の蒼井天満はその刑事を解雇せず、逆に自分の妻である筈の母を貶した。父の言葉に天哉は怒りを打つけたが彼にその声は届かなかった。冷たい瞳には何の感情も宿っていなかった。故に天哉は全てを拒絶し、夜の街に逃げた

行き場の無い怒りをひたすらに打つけ、荒れた心には治らない黒い衝動が生まれ、思い付く限りの犯罪を繰り返し、満たされない欲を満たす為に、がむしゃらに、怒りをぶつけた

 

『私の息子でありながら補導されるというとはどういう了見だ?この恥晒しが』

 

やがて、補導され、父と再会したが彼は目の前の息子を見ようとはしなかった。自らの世間体を優先し、あの時と変わらぬ冷たい眼差しで、天哉を見下ろしていた

 

『恥…はんっ、そいつを知るべきなのはアンタだろ。いいか?言っといてやる、こいつは俺のアンタへの復讐だ。母さんの命よりも部下を優先するエリート刑事さん、今後は俺を息子だと思わなくていいぜ?その代わりに後悔しろ。俺を手放したことをな』

 

其の会話を最後に天哉の世界から、父という存在そのものが消えた。妹は親戚に引き取られ、幸せに暮らし、表舞台を歩き始めた。しかし、天哉はゲームセンターを寝床に、裏舞台で、今も暗い闇の中を彷徨い続けている

 

「なぁ、お前が正義を嫌うのは分かってるけどさ。一人で背負い過ぎるなよ?俺たちは仲間なんだ、偶には頼ってくれよ」

 

「ああ…どうしてもって時は頼るよ、必ず。ありがとな…キリト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。昨日のレストランにソウテン達はヨルコから話を聞く為に足を運んでいた

 

「ヨルコさん。鍛冶職人の《グリムロック》と槍使いの《シュミット》って名前に聞き覚えあるわよね?貴女」

 

ミトの言葉に俯いていたヨルコの顔が、ぴくっと反応し、数秒後に彼女は頷いた

 

「……はい、知っています。昔、私とカインズが所属していたギルドのメンバーです」

 

「昨日、犯行に使われたスピアを鑑定してもらった。作成者が《グリムロック》だってことを突き止めた。話してもらえるか?」

 

長い沈黙の後、彼女は意を決したように口を開いた

 

「……はい……昨日、お話しできなくて、すみませんでした……。私たちのギルドはある“出来事”……そのせいで、消滅したんです」

 

「指輪だな」

 

「どうして……それを?」

 

「俺たちの仲間が依頼を受けたんだよ、指輪を探して欲しいって。その依頼人がグリムロックさんで奥さんの死の真相に関しても調査してるんだ」

 

「あの指輪はグリセルダさんが亡くなった日から誰も行方を知らないんです。私が……私と…カインズとシュミットが売却に反対しなかったら……グリセルダさんは…死なずにすんだ…そう思えて…仕方がないんです…」

 

涙を流し、自分を責めるヨルコの背をアスナが優しく摩る。指輪の売却、その単語にソウテンは顎に手を当てながら思考を巡らせる

 

「グリムロックはどういう立ち位置だった?黄金林檎で」

 

「サブリーダーでした。 同時に、グリセルダの“旦那”でもありました。と言ってもこのゲームの中ではですが…」

 

「グリセルダさんはどういう人だったの?」

 

「とっても強い人でした。あくまで中層レベルでの話ですけど……。 強い片手剣士で、美人で、頭もよくて……憧れていました。 だから……、今でも信じられないんです。 あのグリセルダさんが、睡眠PKなんて粗雑な手段で殺されちゃうなんて……」

 

「じゃあ、グリムロックさんも相当ショックだったわよね」

 

ミトの言葉に、ヨルコの身体が僅かに震わせた

 

「はい。 それまでは、いつもニコニコしている優しい鍛冶屋さんだったんですけど……事件直後からは、とっても荒んだ感じになっちゃって……。 ギルド解散後は誰とも連絡取らなくなって、今はどこにいるかも判らないです」

 

「最後に一つだけ。昨日の事件……、カインズを殺したのがグリムロック、という可能性はあるか?」

 

ソウテンの問いにヨルコは僅かに考え、直ぐに口を開いた

 

「その可能性があるとしたら、あの人は指輪売却に反対した3人、つまりカインズとシュミット、それに私を全員殺すつもりなのかもしれません……」

 




さてさて次回も引き続き圏内事件の様子をお送りします。果たして、ソウテン達は事件を解決へ導くことが出来るのか!次回もお楽しみに

NEXTヒント 短剣


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六幕 第二の事件

「シュミットに話を聞くか」

 

「それはいいけど、連絡取れるのか?テン」

 

「ベルさんに頼めばいいだろ」

 

「そうね、ベルさんなら知ってる筈よ」

 

“ベルさん“、聞き慣れない名にヨルコは首を傾げる。その一方で、ソウテンは慣れた手付きでシステムウインドを呼び出し、その中のフレンドリストからある人物の名を触り、簡潔に説明を交えた文章を送る

 

「すまない!遅れた!待ったか?」

 

「いいや、時間通りだ。さすがはベルさんだ」

 

メッセージを送ってから数十分後、青い髪が特徴的な金属防具に身を包んだ青年が姿を見せた。そう、彩りの道化(カラーズ・クラウン)専属仲介人のディアベルだ

 

「それでシュミットを紹介してほしいって話だけど……詳しく聞かせてもらえるか?何があったんだ」

 

「そうだな。先ず、事の始まりはベルさんがヴェルデに依頼した指輪探しだ」

 

「指輪……ああ!グリムロックさんからの依頼か。しかし、指輪探しとシュミットにどういう関係が?繋がりは無さそうに見えるが」

 

「その指輪が問題なのよ」

 

「というと?」

 

「指輪を巡って、黄金林檎では意見の対立が起きたらしいんだ。結果は売却反対に三人、賛成に七人、その結果、指輪は売却することに決まった……だが、事件は起きた。指輪を売却に行く筈だったリーダーのグリセルダさんは何者かに殺されていた」

 

「なるほど…。その指輪を探す為にグリムロックさんは俺を頼りに彩りの道化(カラーズ・クラウン)へのパイプを繋げようとした訳か。それじゃあ、シュミットはその反対派の一人ってことか」

 

「ええ、このヨルコさんもそうよ。でも……残りの一人は…」

 

アスナの表情に曇りが見え、ディアベルはソウテン達の顔色を確認しようと辺りを見回す。彼等にも僅かに陰りが見え、状況を把握したように頷いた後、ディアベルは口を開く

 

「深くは聞かないでおく。シュミットの件は任せてくれ、後でヨルコさんの宿屋に連れて行く」

 

「助かる」

 

「お安い御用さ……でもな、テン。無茶はするなよ?」

 

ディアベルからの忠告にソウテンは返事を返す代わりに左手を軽く挙げる。何時もとは異なった彼の態度に違和感を感じるが、あの様子には見覚えがあった。かつて、二年前に第一層攻略で初対面した時に見せた自分よりも他者の命を優先するソウテンだ、あれ以降は見ることもなかったが今の彼にはあの時と通じる面が見える

しかし、同時に危なくも見えた。故にディアベルは友としての忠告を送ったのだ

 

「テン。本当の君は何処にいるんだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディアベルと別れた後、ヨルコが借りている宿屋で待機していると数時間後にシュミットが姿を見せた。ディアベルに事情を聞かされていたようで彼は部屋に入るや否、ソファーに腰掛けたが落ち着かない様子で貧乏揺すりを始める

 

「グリムロックの武器でカインズが殺された。ディアベルがそう言っていたが本当か?」

 

「本当よ……」

 

刹那、シュミットが目を見開く。かつての仲間が売った武器で仲間が殺害された、驚くなという方に無理がある

 

「なんで……なんで!今更!カインズが殺されるんだ!?まさか!あいつが……あいつが指輪を奪ったのか!?つまり、グリムロックは売却に反対した三人を全員殺そうとしているんじゃないのか…!? じゃあ、オレやお前もターゲットにされているのか…!?」

 

「彼に槍を造って貰った他のメンバーかもしれないし。もしかしたら、グリセルダさん自身の復讐なのかもしれない……だって、圏内で人を殺すなんて幽霊じゃなきゃ不可能だもの……」

 

その言葉を聞いたシュミットは絶句した。

部屋の隅で二人を見守っていたキリト達も顔を見合わせるがソウテンは仮面越しに沈黙を貫く

 

「私……昨日寝ないで考えた。結局のところグリセルダさんを殺したのはメンバー全員でもあるのよ!!!あの指輪がドロップした時、投票なんかしないでグリセルダさんの指示に従えばよかったんだわ!!!!」

 

発狂する様にヨルコは叫び、窓際付近に歩いていく

 

「あの時、グリムロックさんだけは……グリセルダさんに任せると言ったわ。だからグリムロックさんには私たち全員を殺して、グリセルダさんの仇を討つ権利があるのよ……」

 

ゆっくり、ゆっくりと窓際へ。不自然な行動にソウテンは違和感を感じるがキリト達は彼女の迫力に圧倒され、その違和感に気付かない

 

「……なんで今更…半年も経ってから、何を今更……お前はそれでいいのかよ!? こんな、わけも解らない方法で殺されていいのか!?」

 

シュミットが言葉を発し、ヨルコが反論を返そうとした、正にその時だった

彼女の体が大きく揺れ、その背中に突き立てられた一振りの投げ短剣(スローイングダガー)が目に入った。体制を崩した彼女は窓の外へ落下し、地面に落ちると同時にポリゴンとなり、消滅した

 

「くっ!アスナ!ミト!後を頼む!俺はあっちを!」

 

「待ちなさい!キリトくん!」

 

「キリト!」

 

アスナ、ミトの制止を聞かずに飛び出そうとするキリトの横を一つの影が横切る。仮面越しに見えた瞳は静かな怒りを燃やし、口を開く

 

「キリトとアスナは待機、ミトはベルさんに報告。ローブの方は俺が追う」

 

冷静ではあるが違和感を感じさせる表情から、的確な指示で場を纏め直したソウテンは窓から跳躍。隣の建物に飛び移り、目の前のローブのプレイヤーと向き合うが彼を見た途端にそのプレイヤーは走り出す

 

「舐められたもんだ。逃がす訳ねぇだろうが」

 

追随し、左手でコートの内側に装備していた三本のピックを投剣スキル《シングルシュート》を発動させ、投擲した。しかし、三本のピックは暗殺者の寸前で紫色のシステム障壁に阻まれてしまった

刹那、大きな鐘の音が耳に入る。音と合わせ、転移する街のコマンドを唱え、プレイヤーは姿を消した

 

「……転移結晶、それにダガー…。なるほどな、そういうことか。やれやれ……どうやら、騙すのが専売特許のこの道化師(クラウン)が騙されたみたいだ。策士だねぇ…あの二人」

 

殺伐とした雰囲気から何時もの不敵な笑みを携えた態度に戻り、ソウテンはヨルコの借りていた部屋に戻る

扉の先には鎌を片手に綺麗な笑顔のミトが立っていた

 

「テン…何か言い残すことはある?」

 

「………じゃ、俺は英会話のレッスンがあるんで」

 

「逃がすかぁっ!」

 

何食わぬ顔で扉を閉め直し、立ち去ろうとするソウテンの頭上に御約束が振り下ろされる

 

「ごぼっ!?何すんだコラァ!ミト!口から頭の中身が飛び出たら、どうすんだ!?責任取れんのか!」

 

「大丈夫よ、テンの頭には何も入ってないから。飛び出す心配なんかないわ」

 

「そうか、なら心配ないな……って!誰の頭の中が空だ!」

 

ミトと何時ものやり取りを始めるソウテンの姿、この光景をキリトを知っている。仲間たちとのやり取りの中で見る親友(ソウテン)の姿だ

 

「で、空っぽ(テン)。ローブのヤツが何者なのか分かったか?」

 

「残念ながら、性別と声すらも判別不可能だねぇ。確認する前に逃げられちまった。あと、誰が空っぽだ」

 

「そうか……使えない迷子だ」

 

「おいコラ、聞こえてるぞ。ぼっち」

 

キリトの呟きにソウテンが反応を示す横で、シュミットが恐怖で震えていた。その顔は青ざめ、幽霊でも見たような反応だ

 

「あ、あれは……。 グリセルダが着ていたローブだ……。 オレたちに復讐に来たんだ。あれはリーダーの幽霊だ」

 

「幽霊!?」

 

「アスナはこの手の話、苦手よねぇ…」

 

「平然としてるミトがおかしいのよ!普通は怖いじゃない!だって幽霊よ!?幽霊!」

 

「慣れると意外に平気だったするわよ?こういうのって」

 

「おい、キリト。ミトのヤツがまた頭のおかしいことを言ってんぞ」

 

「きっと、昨日の夜に食べた鍋が良くなかったんだ。何せグリスが作ったバナナ鍋だったからな…あれは酷かった」

 

「あれか……仕方ない、ゴリラに料理を任せた俺たちにも非がある。だから、今は暖かい目でミトを見守ろう」

 

「暖かい目…そうだな、そうしてやろう」

 

ミトの方に視線を向け、暖かい目でアスナを落ち着かせる彼女を見守る

すると、その視線に気付いたミトが彼等の方に視線を動かす

 

「…………何してるの?」

 

「見ての通りだ」

 

「暖かい目でミトを見守ってる」

 

「やめてくれる?なんていうか、すごく気持ち悪い。というか二人がセットでその顔をするだけで寒気がしてくる」

 

「待て。気持ち悪いとは何だ、仮にも俺はおめぇさんの彼氏だぞ。気持ち悪いのはこの妖怪真っ黒ぼっちだけだ」

 

「誰が妖怪真っ黒ぼっちだ!この傍迷惑万年迷子!」

 

「迷子じゃない!俺は地図を読めないだけだ!」

 

「致命的だろ!?それ!迷子がよくやるミスだろ!」

 

「だから迷子じゃない!」

 

「やかましい!!」

 

「「ぐぼっ!」」

 

物理的に二人のバカ(ソウテンとキリト)を黙らせ、シュミットを送り届ける為に聖竜連合本部へミトとアスナは向かう

彼女達が居なくなるのを確認し、キリトは起き上がるとソウテンの体を揺する

 

「テン。起きろ、ていうか起きてるだろ」

 

「まあな。んで?なにかね?キリト」

 

「お前。この事件の真相に気付いてるだろ」

 

「ふむ…どうして、そう思う?」

 

「あのローブのプレイヤーを追う前と今のお前は明らかに雰囲気が違う。追う前はこの世界に来る前のお前だ。でも今はこの世界に来てからの……いや、子どもの頃みたいだ。俺が知る、何時ものテンだから、そうなんじゃないかって思ってな」

 

キリトの指摘に、ソウテンの仮面の奥で瞳が笑う。不敵で謎を連想させる笑みが黄昏の街に浮かぶ

 

「なるほど…。なら、真相を話そうか。そう……見ているようで、実は何も見ていなかった姿無き鎮魂歌(レクイエム)の真相を」




シリアス難しい……故にソウテンにはギャグキャラへと戻ってもらいます!この方がテンらしいよね!おかえり!迷子(テン)
次回は解決編です!その後はちょっとしたギャグ回をやりたいなと思ってます

NEXTヒント 棺桶


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十七幕 笑う棺桶

こ、今回は頑張りました……疲れた。ちなみに今回はテンがキレます、それはもうかなりキレます


第50層主街区アルゲード 彩りの道化(カラーズ・クラウン)ギルドホーム

 

シュミットを送り届けたミト、アスナと合流したソウテンとキリトは状況整理を行う為にギルドホームへと戻って来ていた

 

「で、どういうことなんだ?見ているようで、実は何も見ていなかったって言うのは」

 

「無論、言葉通りの意味だよ。俺たちは見える偽りに騙され、見えない真実を見落としていた訳なんよ」

 

「ん…つまり?」

 

「どういうことなの?テンくん」

 

「うーむ…つまりだな」

 

状況を把握出来ないキリトとアスナが首を傾げる横で考え込んでいたミトが何かに気付き、顔を上げた

 

「そうか……そういうことね!」

 

「おっ、ミトは気付いたみたいだねぇ」

 

「ええ。確かに圏内ではプレイヤーのHPは減少しない、其れでも私たちの目の前で確かにカインズとヨルコさんは死んだ。でも其れは用意された偽りの死だった。そうよね?テン」

 

eres correcto(正解)!さすがはミト!」

 

「偽り……そうか!減ったのはHPじゃなくて、耐久値だ!損傷ダメージなら圏内でも継続される。其れを利用して、鎧に貫通継続ダメージが発生する槍を刺して損傷させてから、鎧が破壊される寸前に教会の二階の窓から飛び降りた……って推理で合ってるよな」

 

「これまたeres correcto(正解)!キリトも意外に推理力あるねぇ、ぼっちだけど」

 

「ぼっちじゃない。俺は効率重視型なだけで、決してぼっちじゃない」

 

「でも、テンくん。其れだとカインズさんが消えた説明がつかないわ。落下したカインズさんが消えるのを私たちはこの眼で確認したのよ?あとキリトくん、うるさい」

 

アスナの意見も尤もだ。確かに教会の二回から、落下したカインズの姿を確認した

更に言えば、其れを最も近距離で目撃したのはロープを切ろうとしたソウテンに他ならない。だが、彼はアスナの意見に対し、不敵な笑みを崩さない

 

「言ったろ?見える偽りと見えない真実って。そのアスナの意見こそが二つ目の見えない真実に関係してるんよ」

 

「見えない真実……あっ!転移結晶ね!転移結晶のテレポートと死亡エフェクトは似てるから、其処を狙った!そうよね!テンくん!」

 

「おっ、アスナもeres correcto(正解)!やるじゃん、副団長の肩書きは伊達じゃないねぇ」

 

「ヨルコさんは最初から背中にダガーを刺して、私たちと話しながら服の耐久値が切れる寸前に窓から飛び降り、耐久値が無くなった服がポリゴンを四散すると同時に転移結晶を使ったのね」

 

「そっ。ヨルコさんは多分、どっかの街でカインズと合流してんじゃないかな。ローブのプレイヤーはカインズだったと思うし」

 

「なるほど。なら、これで事件は解決だな」

 

「だねぇ」

 

事件後の処理は本人達が対処する筈、故にソウテン達は安堵し、圏内事件は幕を閉じたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第19層 十字の丘

 

薄暗い丘の上、この場所にはある人物が眠っている。その名はグリセルダ、黄金林檎のリーダーを務めた女性プレイヤーだ

しかし、彼女の墓前には一人の男、シュミットが横たわっていた。彼の直ぐ側に立つヨルコ、カインズは震えが止まらない

 

その視線の先にはフードを目深に被り、赤黒い刃を持つ肉厚の大型ダガーを携えた男を筆頭に同様にフードを被った二人の男。ヨルコ達は彼等を知っている

 

否、この世界で彼等を知らぬ者は存在しない

 

右手に見える棺桶と髑髏の刺青(タトゥー)

 

彩りの道化(カラーズ・クラウン)が仲間を守るが故に道化を演じる者の集まりであるならば、彼等は殺戮を好むが故に道化を演じる者たち

 

その名は

 

「さ、殺人ギルド……笑う棺桶(ラフィン・コフィン)……!」

 

犯罪者ギルドの中でも最悪と呼ばれる彼等の思想は奪えるものは奪えばいい、殺せるのなら殺せばいい。正に犯罪者達の為に作られた最悪の居場所だ

そして、この場に立つのは幹部の中でも有名な三人。毒ナイフ使いの黒いマスクが特徴的な『ジョニー・ブラック』、赤い髪と赤い瞳が特徴的な針剣使い(エストック)『赤目のザザ』の二名

 

そして、彼等の背後で妖しく佇む人物。目深に被ったフードの下には得体の知れない空気が溢れ、艶消しのポンチョは体をすっぽりと覆っている。男の名は『PoH(プー)』、犯罪者ギルド笑う棺桶(ラフィン・コフィン)の頂点にして、殺戮者の集まりを束ねるリーダーである

 

「さぁて、どう料理したもんかねぇ……」

 

「あれ!あれやろうよヘッド!『殺し合わせて、生き残った奴だけ助けてやるぜ』ゲェーム!」

 

「ンなこと言って、お前こないだ結局残った奴も殺したろうが」

 

「あっあーっ!今それ言っちゃゲームにならないっすよ、ヘッドォ!」

 

緊張感の無いやり取りだが、ソウテン達のやり取りとは明らかに異なっていた。内容からは物騒で悍ましく、恐ろしさしか伝わらない

 

「さて、取りかかるとするか」

 

PoHがシュミットに歩み寄り、握っている大型短剣『友切り包丁(メイトチョッパー)』を大きく振り上げた。体に力が入らず、恐怖で震えが止まらない。シュミットは目を閉じ、死を覚悟した

 

「ショウタイムという割には道化師(クラウン)が居ないようじゃないの。PoH」

 

突如、放たれた声にPoHの手が止まる。振り返った先には仮面越しに不敵な笑みを携え、風に青いコートとマフラーを靡かせた一人の道化の姿。彼を知っている、いや知らぬ者が居る筈ない、その道化は少数であるが精鋭ギルドを束ねるリーダーである

 

「フン。誰かと思えば……てめぇか、《蒼の道化師》。それよか、状況わかってるか?恰好よく助けに来たつもりだろうが、お前一人で俺達三人を相手に出来んのか?」

 

「難しいだろうねぇ……まあ、一人ならの話だけど」

 

「なに…?」

 

「つまりはこういうことよ」

 

「……《紫の死喰い》。てめぇも一緒か……其れに」

 

首筋に突き付けられる鎌の先に立つのは薄紫のポニーテールを靡かせる少女の姿、彼女もまた名の知れたプレイヤーである

ヨルコにエストックを突き付けていたザザの側には黒い装備の少年が佇む

 

「退くことをオススメするよ。今の俺たちは対毒POT(ポーション)を飲んでるし、結晶(クリスタル)もありったけ持ってきた。これで最高でも20分は稼げる」

 

「それだけあれば援軍が駆け付けるには充分よ。貴方達、三人だけで攻略組と彩りの道化(私たち)、総勢で三十八名を相手に戦える?今日はキリトの言うように退散した方がいいわよ」

 

「ちっ……」

 

黒の少年《キリト》、紫の少女《ミト》の言葉を聞き、PoHは小さく舌打ちする

沈黙した睨み合いが続いた後、PoHが指を鳴らす。その瞬間、残りの二人は構えを解き、突き付けられたエストックが離れ、ヨルコは膝をつく

 

彩りの道化(お前たち)は絶対に殺してやる……特に《蒼の道化師》、《黒の剣士》は必ず、命を刈り取ってやるよ。期待してな……大事なもんが根こそぎ奪われる恐怖を抱きながら」

 

「………やってみろよ。言っとくがな、俺は仲間(ミトたち)を傷付けるヤツを許さない……その時は逆にお前たちを世界そのものから、強制退場(ログアウト)させてやる」

 

道化ではないもう一人のソウテンが仮面越しに殺意を覗かせる。その姿にPoHは僅かに表情を歪めた後、ジョニー・ブラックと赤目のザザと共に夜の闇の中に消えた

 

「解毒ポーションだ」

 

「ああっ……、悪いな」

 

「ヨルコさん、また会えたねぇ 。そいで?初めましてかと言うべきかい?カインズさんには」

 

シュミットにキリトが解毒ポーションを渡す横でソウテンがヨルコ、カインズに声を掛ける。その不敵な笑みに僅かに表情を緩ませ、カインズが口を開く

 

「いえ、正確には二度目です。あの瞬間、僅かにでしたが目が合いました。予感はしてたんです……仮面越しでしたが、貴方には全てを見抜かれている…そんな予感が」

 

「買い被りすぎじゃねぇか?そいつは。俺は騙された側だよ」

 

「そうよ、この人は道化師(クラウン)を名乗ってるのに騙された迷子(バカ)よ」

 

「ああ、全くだ。《蒼の道化師》とか呼ばれてるくせに逆に騙されるなんて、困ったヤツだよ…この傍迷惑迷子野郎(バカテン)は」

 

「……おめぇさんたち、悪口に混じって迷子って言ってない?」

 

「「気のせい、気のせい。テン(迷子)」」

 

「そっか、気のせいか……って!言ってんじゃねぇの!やっぱ!」

 

「「ちっ…気付いたか」」

 

殺伐とした雰囲気を上塗りするように馬鹿騒ぎを始めるソウテン達。その様子をヨルコ、カインズは呆然と見ているがシュミットは違った

麻痺から回復した後、口を開く

 

「ソウテン!助けてくれた礼は言うが、どうしてわかったんだ?あの3人がここで襲ってくるって……」

 

「うーん……まあ、勘かな?グリムロックが武器を作成した背景を俺の仲間が調べててさ。そいつを踏まえた状態で、グリセルダさんの事件を改めて推理してみたんよ。その結果、こういう結論に行き着いた」

 

暫くの沈黙が訪れ、ヨルコ達は息を呑んだ。仮面越しに不敵な笑みを崩さない彼はやがて、口を開く

 

「犯人はお前だ、グリムロック」

 

その言葉と共にソウテンが指差した小高い丘の上に一人の男が姿を見せる、黒いハット帽に丸サングラスを身に付けた男の名はグリムロック。渦中の人物にして、今回の事件の裏で糸を引いていた存在だ

 

「………なるほど。頭の切れる人だ、さすがは道化師(クラウン)と呼ばれるだけはある」

 

彼は微笑し、丘の上からグリセルダの墓前まで、ゆっくりと歩いて来る

 

「グリムロック……さん……貴方は、本当に私達を……?それに……グリセルダさんを…?なんでなの!グリムロック!なんでグリセルダさんを?!奥さんを殺してまで指輪をお金にする必要があったの!?」

 

涙を流し、叫ぶヨルコ。その姿に誰もが理解した彼女の瞳に宿る憎しみを、しかしながら、彼は、グリムロックは違った

 

「金の為じゃない、私はどうしても彼女を殺さなければならなかった……彼女がまだ私の妻である間に……」

 

「どういうことよ。それ」

 

「彼女は現実でも私の妻だった。一切の不満のない妻だった。可愛らしく従順で、ただの一度も夫婦喧嘩もした事はなかった……しかし、共にこの世界に囚われた後、彼女は変わってしまった……強要されたデスゲームに怯え、竦んだのは私だけだった。彼女は現実に居た時よりも、遥かに生き生きとして充実した様子だった……ギルドを作ると言った時も、私は反対した……! しかし、彼女は聞かなかった! 私は悟ってしまったのだ、私の愛した彼女は、《ユウコ》は消えてしまったのだと……」

 

「そんな理由で……アンタは人の命を何だと思ってるんだ!」

 

「理由としては充分すぎる。君にもいずれわか----ぐっ!?」

 

キリトが怒り、剣を鞘から抜こうとした時だった。グリムロックの眼前を何かが掠めた、その先に立つのは槍を手に佇む仮面の道化師。瞳は笑みを失い、代わりに怒りが見える

 

「お前が愛情を語るんじゃねぇ!いいか!?そいつはな!単なる欲だ!あさましい支配欲!其れに人を人だとも思わねぇ所有欲だ!次にその(ツラ)を俺の前に晒してみろ、今度は掠めるだけじゃすまさねぇ!!覚えとけ!」

 

そう告げたソウテンの言葉はグリムロックではない他の誰かに向けられている様な気がミトには思えた

この数日で垣間見た自分の知らない想い人(ソウテン)の一面、其れが気になるが彼女はこう思った

 

(今は信じよう、私が信じたテンを。仲間たち(キリトたち)が信じるリーダーを……きっといつかは話してくれるわよね?天哉(テン))

 

ヨルコ達と話すソウテンの背に僅かに笑みを浮かべ、ミトは笑いかける

次第に空は明るくなり、白い霧が辺りを包む

 

「いやぁ、さすがだな。見事な推理だったぞ!テン!」

 

「いやぁ、それほどでも」

 

「あっはっはっはっ」

 

「ふっふっふっふっ」

 

「あっはっはっはっ」

 

「ふっふっふっふっ」

 

「あっはっはっはっ」

 

「……って!バシバシすんな!イテェんだよ!このぼっち!」

 

「なんだと!?人が褒めたのになんだ!その態度は!この迷子!」

 

暫くの間、笑い合っていたかと思えば、喧嘩を始めるソウテンとキリト。互いの武器をぶつけ、騒ぐ彼等にミトが歩み寄る

 

「やかましいわっ!バカどもっ!!」

 

その声と共に鎌が振り下ろされ、ソウテンの槍とキリトの剣の間に命中。そして、耐久値が尽きた槍と剣がポリゴンとなり、消えた

 

「「…………ぎゃぁぁぁぁ!!」」

 

「あっ……ごめん」

 

「「ごめんですむかっ!!!」」

 

槍と剣、二つの尊い戦力を犠牲に事件は幕を閉じた。唯一の相棒を失い、失意の底に叩き込まれたキリトは早々に転移結晶でギルドホームに戻るがソウテンは違った

ミトが彼の視線の先を見ると、其処に、彼女は立っていた

 

「あ、あれって……ねぇ!テン!アレ!」

 

「グリセルダさん。依頼は完遂だ、我々はこれにて幕引きとさせていただきます」

 

その言葉を聞き、墓の横に立つグリセルダが微笑んだように見えた。其れはまるで、朝陽の光に照らされ、深々と頭を下げる道化師に送られた賛美の笑みであった




さーて!次回はミトが破壊した武器の代わりを作ってもらう為にアルバイトをすることになったテンとキリト……だが店も客も問題だらけ!一体どうなる!?

NEXTヒント 刀匠


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八幕 バイト

はい、予告通りのギャグ回です。今回はオリジナルですよー、原作にもアニメにも存在しないこの作品だけのオリジナル!頑張りました


第50層主街区アルゲード 彩りの道化(カラーズ・クラウン)ギルドホーム

 

圏内事件の翌日。ソウテンとキリトは床に正座していた、彼等の表情は引き攣り、青ざめ、体も小刻みに震えている

此れは決して、笑う棺桶(ラフィン・コフィン)に遭遇したからの恐怖ではない。目の前で仁王立ちし、威圧感を放つ一人の男

 

「お前ら、正座をさせられる理由は分かるか?」

 

男の名は《アマツ》。職人の呼び名で知られ、彩りの道化(カラーズ・クラウン)と専属契約を結ぶ鍛冶屋である

 

「えっと……あ、貴方様が…丹精を…お、お込めに、な、なってくださいました……槍と剣を折ったから……」

 

「ほう…分かってるじゃないか」

 

「も、もちろん!物分かりはいいもんな!俺たち!」

 

「うんうん、子ども時代は物分かりの鬼と呼ばれたくらいに」

 

「はっはっはっ、そうか。ならば……」

 

アマツは着ている羽織の内側から、一振りの包丁を取り出す。その様子にソウテンは震え、キリトの顔からは血の気が引き始める

 

「あ、アマツさん?そいつはなんですかね?」

 

「ん、これか?包丁だ」

 

「ほ、包丁ですか…えっと、料理を作っていただけたりとか…するんですかね…」

 

「そんな訳ないだろう?これは……俺の武器を折ったお前たちを細切れに刻む為の包丁だ」

 

「な、な〜んだ」

 

「そういう意味の包丁か〜……」

 

「「ゔぇっ!?」」

 

「覚悟しろ……このボケどもっ!!!」

 

「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」

 

包丁を片手に追い回すアマツから、AGI(アジリティ)最大で逃げ惑うソウテンとキリト。その光景に慣れているミト達は其々が思い思いに過ごしているが初見のシリカだけは呆然としている

 

「………あ、あの。ミトさん」

 

「どうかした?シリカちゃん」

 

「止めなくていいんですか?アレ。リーダーさんもキリトさんも明らかに殺されそうな勢いなんですけど…」

 

「大丈夫よ。何時ものことよ、あのくらい」

 

「あれがっ!?」

 

「ええ、実にありふれた光景です」

 

「ありふれてないよっ!?」

 

「よく見る」

 

「見ないよっ!?」

 

「仕方ねぇよ。職人の野郎は頭がおかしいからな」

 

「えっ、其れはグリスさん以上にですか?」

 

「おいコラ、それはどういう意味だ。シリカ」

 

矢継ぎ早のように突っ込んでいたシリカであったがグリスに対する反応だけは異なった。真顔で驚愕し、本心で問いかけている。如何やら、彼女の中でのグリスは頭の可笑しい存在という認識のようだ

 

「待て!職人!俺たちを()ると有益な情報が貰えなくなるぞ!」

 

「そうだ!テンの言う通りだ!」

 

「有益……?なんだ、ソイツは。言っておくが、くだらなかった場合は容赦はせんからな?覚悟しておけ」

 

「有益ですよ!そりゃもう、かなりの有益なヤツ!なんたって、《鼠》からの情報なんよ!」

 

「ほう…言ってみろ」

 

「なんでも、第55層の雪山にインゴットを遥かに上回る素材があるらしいんよ。名称は《クリスタライト・インゴット》、かなりの希少金属で未だに発見したプレイヤーは居ないとかで、更にソイツから作り出される武器は魔剣クラスに劣らないって話だ」

 

「……興味深いな。よし、ソイツは俺が調達してきてやる」

 

「「マジで!?」」

 

本気(マジ)本気(マジ)、大本気(マジ)だ。しかし、お前たちはその間に金を貯めておくんだ」

 

「金か。確かに必要だな」

 

「職人はぼったくるからねぇ。直ぐに」

 

アマツは身を翻し、ギルドホームを出て行こうとするが何かを思い出したように立ち止まった

 

「キリの字。前にドロップした魔剣クラスの《エリュシデータ》は如何なった?そういえば」

 

「アレか?あれならアイテムストレージだよ。使えないこともないがああいうチート級の武器は反感を買ったりするからな」

 

「なるほど、一理あるな。で?テンの字も同じ理由か?」

 

「だねぇ。そういう出来レースは怨みとか妬み、嫉みを買ったりしやすいんよ。いくらユニークスキルがあるからって、武器がチート級だったりしたら、フェアじゃないからねぇ」

 

「……お前たちらしいな。素材を集めたら、連絡する。待っておけ」

 

そう言い残し、アマツは去った。暫しの沈黙が訪れる

 

「「ふぅ……疲れたぁ〜…」」

 

アマツが完全に去るのを確認し、安堵したようにため息を吐くソウテンとキリト。シリカも張り詰めていた緊張の糸が切れたように腰を抜かす

 

「こ、腰が…」

 

「大丈夫?シリカ」

 

「大丈夫だよ。ありがと、ヒイロ」

 

「どういたしまして」

 

「よし、今日は鍋しよう。腕によりを掛けて作るわ」

 

「わぁ!ミトさんの鍋、あたし大好きです!」

 

「ありがと、シリカちゃん…ん?」

 

無邪気に燥ぐ、シリカに笑い掛けながら、鍋の周りに集結するソウテン達に目を向ける

彼等の手には何らかの食材アイテムらしきものがあり、意味深な表情を浮かべている

 

「よし、このピーナッツバターを忠実に再現したピーナッツバター風味のバターを入れようじゃねぇの」

 

「待て、バカピーナッツ。ここは俺が独自開発した黒いパスタを入れるべきだ」

 

「それはちげぇ。俺が見つけた新食材のバナナ・オブ・バナナを入れようぜ」

 

「グリスさん、其れは限りなくバナナです。僕が思うにこの薬草をふんだんに使った薬草鍋にするのが効果的かと」

 

「違う。焼き鳥を入れて、更にタレで味付けした鍋にするべき」

 

「よし、そいじゃあ全部入れよう」

 

「やめなさいっ!!バカどもっ!」

 

『ごぶっ!』

 

ソウテン達の頭上に御約束()が振り下ろされ、シリカは呆れたようにため息を一つ。流石に慣れたが戦闘時の彼等とはかけ離れた今の姿に言葉も出ないようだ

 

「全く……ホントにロクなことしないわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第50層主街区アルゲード ダイシー・カフェ

 

ここは攻略組の一人であり第一層からの長い付き合いのあるエギルが経営する雑貨屋兼喫茶店。夜はバーとしても営業している

 

「で、金がいると」

 

「話が早くて助かるねぇ。そういう訳だから、俺とキリトを雇ってくんない?店には迷惑掛けないからさ」

 

「そいつは構わんが……アマツの武器はかなりの高額だろ。一日のバイトくらいで足りるのか?」

 

「そこは心配しなさんな。情報提供の影響で、ちょいとお安くなってるんよ」

 

「なるほどな…さすがは道化師(クラウン)。抜け目がないな」

 

その夜、バータイムとなったダイシー・カフェのカウンターにソウテンとキリトの姿があった。服は普段のコートを着用していない以外に変わり映えはないが、その佇まいは貫禄を感じさせる

 

「どうだ?様になってるだろう」

 

「これで俺たちも立派な労働者だ」

 

「なんつーか、違和感しかねぇな」

 

「ええ、社会に適さない御二方が労働者を語るとは烏滸(おこ)がましいにも程があります」

 

「いつクビになる?」

 

「ちょいと辛辣すぎねぇか!?」

 

「少しは応援しろよっ!?」

 

「はぁ…エギル。ごめんなさいね?こんなことを頼んで」

 

「すいません、ホントに」

 

相変わらずなソウテン達の隣でミトが申し訳なさそうに眉を下げ、シリカも頭を下げる

 

「気にしなくていいさ。コイツらとは長い付き合いだからな、役に立つんならお安い御用だ」

 

「エギルは立派ね。うちのリーダー(バカ)にも見習って欲しいわ、ホントに」

 

「リーダーさんはリーダーさんで立派だと…あたしは思いますよ?た、多分…」

 

「そう?だってアレよ?」

 

そう言って、ミトが指差す先にはカウンター席に座るグリス達に何かを差し出すソウテンの姿があった

 

「こちら、ご注文の品です。お客様」

 

「ちょっと待て」

 

自分の前に差し出されたカクテルにバナナが刺さっただけのグラスを見て、顔を顰める

 

「何か?」

 

「何かじゃねぇわっ!バナナは可笑しいだろうが!!!どう見ても!」

 

「当店からのサービスです」

 

「どういうサービスだ!!!」

 

「おや、もしや当店のコンセプトをご存知ない?当店ではお客様に相応しい品をご提供するのが当たり前、故にお客様(ゴリラ)のような方に相応しいバナナを御用意させていただいた次第です」

 

「誰がゴリラだっ!?」

 

「ははっ……」

 

「エギルさん、エギルさん」

 

「ん?どうした。シリカちゃん」

 

そのやり取りに流石のエギルも苦笑していると、シリカが彼の腕を僅かに叩き、反対側のキリト側を指差す

 

「こちら、御通しになります」

 

「ご丁寧にどうも」

 

「……キリトさん。これ何?」

 

「お茶漬けです。私なりの気持ち(早く帰れ、バイトの邪魔だ)を込めて、作らせていただきました自信作になります。召し上がれ」

 

「いただきましょう。ヒイロくん」

 

「分かった」

 

キリトの差し出したお茶漬けを口に運び、何度か咀嚼するヴェルデとヒイロ

 

「なるほど…これは」

 

「リーダーの足の裏とキリトさんの靴下、更にグリスさんの毛皮みたいな味が混ざり合って、最悪の三重奏を生み出してる」

 

「お褒めいただきありがとうございます。お客様」

 

「褒められてないわよ、確実に」

 

「というかグリスさんの毛皮って……やっぱり、グリスさんはゴリラだったんですか」

 

「違うわっ!」

 

「お客様。バナナはいかがです?あっ、デザートの冷えたバナナもありますけど」

 

「何なんだっ!?そのバナナへのあくなき執念はっ!」

 

結局、身内ばかりの夜は相変わらずの光景で更けていく。その中でエギルは思った

 

(コイツらを雇うのは……もうやめよう)




いかがでしたか?今宵の一幕はお楽しみいただけたでしょうか?其れでは次回の話でお会い致しましょう

NEXTヒント 雪山


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九幕 雪山捜索

はい、リズ登場回です。ウチのディアベルさんは原作よりもはじけてる感じになってます


2024年6月24日 第50層主街区アルゲード 彩りの道化(カラーズ・クラウン)ギルドホーム

 

 

『遭難した、助けに来い。その間に俺はお前たちの為に包丁を研いでおこう、無論……理由は言わなくても分かるな?』

 

突然、彩りの道化(カラーズ・クラウン)の面々に送られてきた一通のメッセージ。送り主は《アマツ》、意味深且つ不穏な内容に仮面越しにソウテンの顔から冷汗が滴る

 

「………よし、見なかったことにしよう」

 

「いやいや、助けに行きなさいよ。仲間でしょ」

 

「えー……だって、包丁研いでるんよ?絶対に()る気じゃないの」

 

「貴方ねぇ……仮にもリーダーなんだから、少しはリーダーらしいことしなさいよ。職人が居ないと、私たちも困るのよ?そこの所を理解してるの?」

 

「そりゃあ…そうなんだけどねぇ」

 

煮え切らない態度のソウテン、彼にジト目で見るミト。その時だ、ギルドホームの扉が開き、見知ったプレイヤーが現れた

 

「テーン!少し構わないか?」

 

その男、ディアベルは扉を開け放つと足早に中へ入り、ソウテンに呼び掛ける

 

「おろ?誰かと思えば、ベルさんじゃねぇの。どしたんよ?今日は」

 

「依頼だよ。其れも俺たちに纏わるね」

 

「ふむ…俺たちに関係ありか。ソイツは気になるねぇ。話してもらえねぇか?ベルさん」

 

「ちょっと待ってくれよ。おーい、入ってきてくれー」

 

ディアベルが呼ぶとピンク色のふわふわしたショートヘアが特徴的な一人の少女が入って来た。ソウテンが疑問符を浮かべている中、ミトが目を見開く

 

「リズ……?リズベットよね!久しぶりぃ〜!」

 

リズベットと呼ばれた少女は名を呼ばれ、ミトの方に視線を向けた

 

「もしかして……ミト?うっそ!アンタのギルドだったの!?ここ!久しぶりねー!ホント!何時以来よ!」

 

「まだ駆け出しの時に鎌を作ってもらってからだから……二年振りかな?」

 

「二年かぁ……そんなになるのねぇ。って!懐かしい気分に浸ってる場合じゃないわ!一大事なのよ!」

 

久しぶりの再会をミトと喜び合っていたリズベットであったが、唐突に我に返ったかと思えば、彼女はミトに詰め寄る

 

「このディアベルって人に言われたのよ、依頼があるなら、リーダーに直に話してほしいって。で?リーダーさんは何処にいるのかしら?」

 

「いるじゃない。目の前に」

 

「は……?も、もしかして……この胡散臭い仮面付けたヤツのこと?」

 

「……胡散臭くて悪かったねぇ」

 

仮面越しではあるが苦笑を浮かべるソウテンに対し、リズベットは警戒心剥き出しの状態で睨む

 

「ホントに……アンタがリーダーなの…?」

 

「正真正銘のリーダーだ、名はソウテン。巷では道化師(クラウン)の名で親しまれてるねぇ」

 

道化師(クラウン)……あっ!攻略組の《蒼の道化師》って!アンタ!?」

 

「そういう呼ばれ方もされてるねぇ。そいで?リズベットさん、依頼ってのを教えてもらえねぇか?そろそろ」

 

ソウテンが促すと、リズベットは暫く考え込んだ後に口を開く

 

「人を…探して欲しいのよ」

 

「人って……あっ、お客さんとか?」

 

「ううん、違うわ。探して欲しいのはあたしと同じ鍛治職人のプレイヤーよ。二ヶ月くらい前にレア素材を探しに行ったきり、帰ってこないのよ」

 

「……二ヶ月前?ねぇ、テン?私、知り合いが同じ理由で雪山に出かけて行ったような気がするんだけど…」

 

「偶然だねぇ…俺もそんな気がする…」

 

冷汗を掻きながら、ソウテンとミトは顔を見合わせる。そして、遡ること二ヶ月前に圏内事件で武器を破壊し、アマツに会った事が二人の脳裏を過ぎった

 

「リズ?もしかしてよ?もしかしたらだけど……その鍛治職人の名前って……アマツって名前だったりしない?」

 

「ちょっと待って。ミト、どうしてアマツを知ってるのよ?あいつは鍛治職人の中でもかなりの変わり者なのよ?そう簡単に知り合えるヤツじゃない筈よ」

 

「知り合いというか……彩りの道化(ウチのギルド)の専属鍛治職人なのよ。其れこそ、リズと知り合う前からの付き合いよ」

 

「そうだったの。なら話は早いわ!お願い!アマツを探して!」

 

「えぇっ〜……」

 

リズベットからの依頼にソウテンが不満気な声を洩らした。如何やら、彼にとってのアマツは優先順位の低い存在のようだ

 

「って!なんで、そんなに嫌そうなのよ!?」

 

「だって…アイツ、包丁片手に追ってくるし…」

 

「うっ!た、確かに……アイツのあの行動は正気の沙汰じゃないのは認めるけど…。それでも!見つけて欲しいのよ!」

 

「……まさかだけど、リズ。アマツとそういう関係(・・・・・・)だったりするの?」

 

「……はぁぁぁぁぁ!?違うわよっ!!誰が!あんな変人と!!!」

 

「ふぅん?なるほどねぇ…」

 

「だから違うってば!」

 

「いいのよ、隠さなくても。という訳だから…テン。キリトとグリスを連れて、アマツを探して来るのよ」

 

「了解!リーダー!……って!リーダーは俺ェ!何で、ミトが指示してるんよ!?」

 

一度、ミトの指示に従い掛けたが直ぐに我に返り、ソウテンが異議を申し立てる

 

「やかましいっ!早く行きなさい!」

 

「ぐぼっ!!」

 

ミトに御約束を見舞われ、ソウテンは気乗りしない状態でキリト、グリスを連れ、第55層の雪山へと向かった

 

「大丈夫なの……アイツは」

 

「安心して。テンは基本、頭の中は空だけど……」

 

「だけど?」

 

「守るべきモノが何かを知ってる」

 

「信じてんのね。ソウテンのこと」

 

リズベットの言葉にミトはゆっくり、首を動かし、頷いた

 

「当然よ。だって、私が惚れた人だもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第55層 氷雪地帯雪山

 

本来であれば、人一人寄り付かず、吹雪に閉ざされた地に三つの影が降り立った。普段の装備の上に外套を羽織り、防寒対策は万全の状態であるが肌を撫でる風は強烈な寒さを感じさせる

 

「………キリト。やけに寒そうだねぇ?これくらいで震えるなんて、日頃の鍛錬が足りてねぇんじゃねぇか?」

 

「そ、そういうテンも震えてるじゃないか。我慢しなくてもいいぞ?寒いなら、寒いと言ったらどうだ」

 

「はっはっはっ、揃いも揃ってだらしがねぇ。俺にとってはこんぐれぇの寒さは痛くも痒くもねぇぜ」

 

「ゴリラには聞いとらん」

 

「全くだねぇ。グリスみたいなゴリラとは一緒にされたくねぇな、流石に」

 

「んだとゴラァ!!」

 

一人だけ元気なグリスを弄りつつ、雪山を彼等は登っていく。上層付近に進むにつれ、振りゆく雪は一層、激しさを増す

 

「いやぁ、仮面があると雪が目に入らないから助かるねぇ」

 

「そうか。なら、その仮面を捨ててやろう」

 

「させるわけねぇじゃないの、そんなこと」

 

「……ん?おっ!見ろ!あれ!」

 

「おろ?どしたんよ、グリス」

 

キリトと言い争っていたソウテンだったが、グリスの声に気付き、彼の方を振り向いた。その先にあった幻想的な光景に度肝を抜かれ、呆然と立ち尽くす

 

見渡す限りのクリスタル。現実世界では見た事のない光景はソウテンの眼に焼き付くように、その眩いばかりの輝きを放っていた

 

「こりゃあ、すげぇ」

 

「ああ、幻想的だな」

 

「食えねぇのが残念だぜ」

 

「グリス。だから、お前はゴリラなんだ」

 

「そうそう……おやぁ?招かれざる客が来たみたいだ」

 

ソウテンの目付きが変わる。不敵な笑みに変化は見られないが、彼の両眼はある一点を見据えている

 

「グォォォォォ‼」

 

「さてと……やるか」

 

「「オーケー!リーダー!」」

 

ドラゴンの咆哮が響くと同時にソウテンの指示が飛ぶ。其々の得物を構え、追随しようとするが普段とは異なる雪山での戦闘に慣れず、足を取られ、上手く立ち回る事が出来ないソウテンにドラゴンの鋭い鉤爪が襲い掛かる

 

「……っ!ちょいとやばいねぇ…こりゃ」

 

「テン!くそっ!」

 

「キリト!俺のハンマーに乗れ!そうすりゃあ、雪の中でもやり合える筈だ!」

 

「分かっ---っ!?」

 

グリスのハンマーへキリトが飛び乗ろうとした瞬間、ドラゴンは一際高く舞い上がり両の翼を大きく広げた

 

「「「あああああーーー!!!」」」

 

しかし、其れに気付いた時は既に遅し、前方の穴の上に放り出され、瞬く間にソウテン達は穴の底へ消えた

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十幕 新武器

や、やはり……2話連続は疲れる……。しかし!プログレッシブの主題歌を聴きながら、頑張りました!


「ぶはぁ……!死ぬかと思った!」

 

一番最初に意識を取り戻したグリスは周囲を見回し、状況を確認すると同時に自身のHPを見る。レッドの一歩手前のイエローまで低下している

 

「おやまあ…見渡す限りの雪山じゃねぇの」

 

「ポーション飲んでおくか」

 

「グリス。職人の居場所は?」

 

「ん……このちか---ぎゃぁぁぁぁ!!!」

 

何かを言いかけたと思えば、グリスは唐突に悲鳴にも似た声を挙げた。ゆっくり、ゆっくりと背後を振り返り、深呼吸を繰り返し、顔を上げる

 

「「………ど、ども。職人」」

 

「久しぶりだな。バカトリオ」

 

「ええ…お、お久しぶりです……」

 

「い、良い天気ですね….」

 

「吹雪だがな」

 

「あっ、バナナをお食べになります…?」

 

「いただこう。二ヶ月ぐらいマトモな物を食っていなくてな」

 

その男、アマツは笑顔だった。しかしながら、其れは満足感からの笑顔ではない、奥に黒さを感じさせる

 

「いやぁ…そ、それにしても良いお住まいですね…」

 

「そうだろう。雪で客が来ないのが難点だが、俺は気に入っている」

 

「そ、そう言えば…素材は見つかったんですかね……」

 

「無論だ。ストレージにストックしている」

 

「……職人。俺たちに隠してることはねぇか?」

 

その言葉にアマツが固まる。ソウテンの指摘は正しかったようで、表情に変化は見えないが僅かに眉が動いている

 

「……何のことだ」

 

「人は動揺すると、無意識のうちにやってしまう行動ってのがあるんよ。職人はその中の一つである腕組みを俺たちと会話する間に十五回はやってる。つまりだ、店に帰らなかった理由は遭難してたからじゃねぇ……違うか?」

 

「……敵わないな、お前には」

 

「どうしたんだよ。職人らしくないな」

 

「……もしかしてだけどよ。あのリズベットってヤツが関係してんじゃねぇか?」

 

「グリス。お前にしては良い意見だ」

 

「まあな!……って!してはってなんだよっ!?」

 

「そうなんか?」

 

ソウテンが問い掛けると、暫くの沈黙が訪れる。やがて、外方を向いていたアマツが自分の頬を掻きながら、口を開く

 

「関係無くはない…」

 

「何があったんだよ」

 

「あいつとは第48層に店を出した時からの馴染みでな。時に鍛冶の腕前を競い、時に素材集めをしたりしていたんだが……」

 

「「「だが?」」」

 

急に言葉に詰まり、難しい顔をするアマツ。その様子に多少の違和感を感じながらも、ソウテン達は彼の答えを待つ

 

「喧嘩した」

 

「…ほう、職人が」

 

「女の子と……」

 

「喧嘩なぁ…」

 

「にやにやするな……刻まれたいか」

 

「「「すいません、ごめんなさい、包丁だけは勘弁してください。お話を続けてください」」」

 

包丁を手にぎろりと目を光らせるアマツにソウテン達は全力で謝罪し、話を続けるように促す

 

「テンから情報をもらって直ぐのことだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁぁぁぁぁ!?第56層に素材を取りに行くですって!?』

 

場所はリズベット武具店とアマツの工房の中間にある野原。突然の発言に驚愕し、目の前に立つアマツへと詰め寄る

 

『ああ。何でもレア素材が目撃されたらしい』

 

『だからって!何でアンタが取りに行くのよ!だいたい!あの場所にはドラゴンが居るのよ!?分かってんの?!』

 

『承知の上だ。リズベット、お前も来い』

 

リズベットに手を差し出し、同行を申し出るが彼女は、わなわな、と震え始める

 

『行かないわよっ!そもそも!その上から目線をやめなさいよ!アンタは!!』

 

『なんだと?ならば、お前もその頭はやめたらどうなんだ?似合わん』

 

『なっ!もういいわ!アンタなんか勝手に56層でも、何処へでも行きなさい!最後に泣きついたって、許してやんないんだから!』

 

『ふんっ…お前こそ、後で吠えたところで何があろうが知らんからな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳だ」

 

「なるほどねぇ」

 

「痴話喧嘩か。テンとミトで見慣れてるな」

 

「全くだぜ」

 

「張り倒すよ?おめぇさんたち」

 

アマツの話から急に自分の話へ変えられ、ソウテンはキリトとグリスを睨む

だが、その輪に入ろうとしないアマツの表情には翳りが見える

 

「………女とは難しいな」

 

「だねぇ。俺もよくミトを怒らせちまうんよ」

 

「俺は理不尽な理由でアスナに怒られる時があるな。この前なんか昼寝をしてるだけで怒られたし」

 

「おめぇらも大変だな。良くわかんねぇけど」

 

「……テン。俺はどうするべきだ?」

 

唐突なアマツからの問い、ソウテンは彼からの鍛治関連以外の初めての問いに暫くは驚いたように目を見開いていたが、直ぐに仮面越しに笑みを浮かべ、口を開く

 

「簡単じゃねぇの。謝りゃいいんよ、素直に」

 

「謝る……そんなことでいいのか?」

 

「ああ。許すも、許さないも、其れは個人の自由かもしれねぇ……でもな、一言でも謝りゃ、きっとアマツの誠意は伝わるんじゃねぇかな」

 

「………そうだな」

 

ソウテンの言葉を聞き、アマツの中に渦巻いていた霧が晴れ、悩みが消えていく。やがて、空は瞬く星が散りばめられたような静寂の世界となり、陽も落ち始める

 

「夜か。なぁ、夕飯にしないか?」

 

「だな!腹ペコペコだぜ」

 

「職人も食べなよ。ミトが作ったピーナッツバターサンドだ」

 

「いただこう……んむ?美味いな。ピーナッツバターの味が忠実に再現されている」

 

「だろう?いやぁ、さすがはミトだよねぇ。アイツは昔から不器用に見えても実は結構な研究肌なんよ。だから、俺がこの世界でもピーナッツバターを食べたいって言ったら、自分なりに食材を集めたりして、試行錯誤を繰り返して、このピーナッツバターを完成させてくれたんよ」

 

「そ、そうか」

 

ミト手製のピーナッツバターを褒めた瞬間、急に饒舌に語り始めたソウテン。その様子にアマツは苦笑する

 

「でもよ…あれから、二年も経つんだよな」

 

「だな。最初は純粋にゲームを楽しみたかっただけなのに……今はこっちがリアルみたいになってる」

 

「ああ…右も左も分からない時は大変だったが。今はあの時、《はじまりの街》を飛び出したのを後悔していない。其れが無ければ、今の俺はいなかった」

 

「だねぇ…あの時、ミトを見つけられなかったら、俺はきっと後悔してた。それに……この世界で見つけた大事なモノ(家族)もある」

 

始まりの日から今日までの出来事を語り明かす四人。その姿はデスゲームの世界に囚われているとは思えない程に、生々としていた

まるで年相応のように笑い合い、他愛もない話で盛り上がり、次第に時が経つのを忘れる

 

すると、空が明るくなり、穴の中を照らし始めたことに気付く

 

「……一晩中、話していたようだ」

 

「ははっ、みたいだねぇ」

 

「偶にはいいな。俺たちだけで話すのも」

 

「なんならよ、またやろうぜ?そうだ!今度はリアルとかどうだ?」

 

笑顔を浮かべ、提案を持ち掛けるグリス。彼の言葉にソウテン達も笑顔で頷く

 

「悪くないねぇ。あっ、そん時の飯代はキリトの奢りな」

 

「いや、テンの奢りだ」

 

「やだ」

 

「迷子め…」

 

「迷子じゃない。そーいや、職人」

 

「どうした?テンの字」

 

呼び掛けられ、アマツはソウテンの方に視線を向ける。すると彼は自分の真横で、朝の光を反射し、雪の奥で光っている物を指差していた

 

「もしかして、コイツが(くだん)の素材?」

 

「その通りだ」

 

「………おいおい、まさか!レア素材の正体って!」

 

「十中八苦、言わずもがなで…そうだろうねぇ」

 

「マジでかっ!!金属なのにか!?」

 

「……ミトには言わん方がいいな」

 

レア素材≪クリスタライト・インゴット≫の正体に気付き、其々の反応を示しながら、ソウテン達は穴を見上げる

 

「なぁ、職人。ここって……ドラゴンの巣穴だったりするのか?」

 

「当たり前だ。ヤツは夜行性でな、朝と昼間は大抵が此処で寝ている」

 

「先に言えよっ!?そういうのは!!!」

 

「おやまあ、最悪じゃねぇの」

 

「だが……準備は整った」

 

にやりとアマツが笑う。その笑みに三人の表情が引き攣り、冷汗が駆け巡る

ストレージを操作し、白銀に輝く剣、艶やかな紫の色合いを持つ槍、中央に四つの穴が空いたハンマーを取り出す

 

「俺特製の武器だ、材料には≪クリスタライト・インゴット≫を使用している。キリトが持つ《エリュシデータ》にも劣らぬ最強クラスの剣、名を《ダークリパルサー》と言う」

 

「《ダークリパルサー》…」

 

「次にソウテンの槍は変幻自在の長さを持ち、更に《ドラゴンの鱗》を使用することで強度を最大限までに高めた一級品、名は《竜槍ナーガラージャ》だ」

 

「いいねぇ。気に入ったよ、《竜槍ナーガラージャ》」

 

「そして、グリス。そのハンマーは火力を究極レベルに昇華し、投擲武器などの技術を組み込む事でバックアップ力をより一層に仕上げた。名は《DKブルッパー》だ」

 

「最高じゃねぇか!よろしくな!《DKブルッパー》!」

 

アマツの武器紹介が終わると同時に空に影が現れた。一同が頭上を見上げた、この巣に向けて、ドラゴンが飛来しているのが確認出来る

 

「さてさて……おめぇさんたち。派手に行くぜ!」

 

「「「了解!リーダー!!」」」

 

ソウテンの掛け声と共に全員が飛び出す。最初にグリスがハンマーを構え、その上にソウテン達が飛び乗り、ドラゴンの背中に向け、投擲される。最後に壁を駆け上がったグリスがハンマーを壁に叩き付け、反動を利用した荒技で合流

 

「グオァァァ!!」

 

ドラゴンが急上昇を始め、巣穴の上付近に飛び出す。其れと同時にソウテン達は背中から飛び、クッション代わりの雪の上に落下する

 

「助かった、礼を言わせてくれ」

 

「いやいや、御礼を言わんといけんのは俺たちの方だ」

 

「テンの言う通りだ。大事に使わせてもらうよ、この剣」

 

「メンテとか頼みに行くからな!」

 

「そいじゃあ…帰りますか」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第50層主街区アルゲード 彩りの道化(カラーズ・クラウン)ギルドホーム

 

 

「ミト。アイツらからの連絡は?」

 

「ないわ。まぁ……大丈夫よ」

 

落ち着かない様子のリズベットとは正反対に、ミトは冷静な態度でティーカップを口に運ぶ

 

「ただいまー」

 

扉が開き、ソウテンが姿を見せる。横にはキリトとグリスも居る

 

「おかえり。遅かったわね」

 

「まあ…いろいろとあってねぇ」

 

「そう…。で?職人は見つけたのよね?勿論」

 

「当たり前だろう」

 

何時もの不敵な笑みを浮かべた後、ソウテンが背後に向かい、手招きをする

 

「リズベット。帰ったぞ」

 

「アマツ!」

 

アマツの姿を見るや否、リズベットは椅子から立ち上がり、彼に抱き着いた

目からは溢れんばかりの涙がこぼれ、着物の裾を濡らす

 

「悪かったな。この前はあんなことを言って……その髪はお前に良く似合う」

 

「うん………あたしもごめんね…。アンタは……アンタらしくしてくれればいいから…」

 

「ああ。世話を掛けたな、テン」

 

「いやいや、またのお越しをお待ちしておりますよ?職人。ではでは今日はこの辺りで幕引きと致しましょう」

 

こうして、職人遭難は幕を下ろした。だがこれは新たなる動きに通ずる一歩であるのを、この時は誰も知らなかった




さてさて物語は先へと進み始める。この先に待ち受けるは……生?将又、死か?ではまた次回でお会い致しましょう

NEXTヒント 高級食材


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十一幕 闇

オリジナル回です!前半はギャグテイストではありますが、後半は割とシリアスだったりします


2024年7月12日 第50層主街区アルゲード 彩りの道化(カラーズ・クラウン)ギルドホーム

 

 

「こ、これは……!」

 

「嘘だろっ!?実在してたのかよ…!」

 

「俺の運は最高ステータスだからな」

 

ソウテンとグリスの視線の先には一匹の兎型モンスターを自慢気に持つキリトの姿があった。このモンスターの名は《ラグーラビット》、SAOに於ける食材となるモンスターの中でも高級レア食材に位置付けられる

 

「これは正真正銘の《ラグーラビット》に間違いありません。市場に出回る事がない為に実物を見るのは初めてですが、その味は絶品だと聞きます」

 

「……じゅるり。其れって、焼き鳥よりも美味しい?」

 

「当然です。焼き鳥はおろかパスタやピーナッツバター、バナナをも凌ぐ旨味を持つとされています」

 

「なにっ…!ピーナッツバターよりも美味いだと…!!」

 

「ということはだ。パスタと一緒にしたら、絶品料理になること間違い無しだな」

 

「焼き兎…悪くない」

 

「バナナにも合うよな?ぜってぇ」

 

「「「「それは違う」」」」

 

「全員一致かよっ!?」

 

現在、この場にはソウテン達以外に居ない。ミトはシリカを連れ、親友のアスナとリズベットからの誘いで、女子会に出掛けている。故に男性陣だけの状態だ

 

「そんで…誰がこれを調理すんだ?言っとくが、俺は出来ねぇよ?」

 

「俺も料理スキルは上げてないな」

 

「俺もだぜ」

 

「大丈夫だ。ゴリラには最初から期待してない」

 

「誰がゴリラだっ!ぼっち!!」

 

「ぼっちじゃない!ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ!!!」

 

「てめっ!学名で呼ぶんじゃねぇ!!!」

 

「喧嘩は良くねぇよ、仲良くしな。おめぇさんたち」

 

「「迷子は黙ってろ」」

 

「……表に出ろや!ぼっちにゴリラ!!!」

 

騒ぐソウテン達を他所にヴェルデは本を読み、ヒイロは焼き鳥を頬張る

慣れが生む余裕、長い付き合いであるからこその行動。此れがシリカであれば、多少は取り乱したかもしれないが二人は気にも留めようとしない

 

「せっかくですから、ディアベルさん達を呼びましょうか。ヒイロくん」

 

「良い考え。さすがはヴェルデ」

 

そう言うとヒイロはフレンドリストの中から、交流の多い友人達宛にメッセージを送る。数分もすると直ぐに返信が届く

 

「ベルさんとエギル、クラインから『オッケー』って返事が来た」

 

「それはそれは楽しくなりますね」

 

数時間もすると、ギルドホームにアマツとディアベルが姿を見せる。その背後にはエギルとクライン、そしてクラインの率いるギルド《風林火山》のメンバーの姿が見受けられる

 

「よっ!久しぶりだなぁ!」

 

「おおっ!生きてたか!クライン!」

 

「そりゃあ!こっちの台詞だぜ!おめぇらみたいなコント集団がまだ生きてたとはな!」

 

「誰がコント集団だ。張っ倒すよ?ヒゲ」

 

「んだと!迷子!リア充のくせして、調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」

 

ソウテンがクラインと喧嘩を始める隣でキリト達は鍋を囲む。メイン食材は当然ながら、《ラグーラビット》、その他にもディアベル達が持ち寄った様々な食材が並ぶ

 

「それにしてもキリト。《ラグーラビット》なんて、良く捕まえられたな」

 

「別に運が良かっただけだよ。ギルドに帰る途中で見つけた時は俺もさすがに夢かと思った」

 

「なんなら、俺が買ってやろうか?言い値で買うぞ」

 

「やだよ。お前、直ぐにぼったくるし」

 

「そ、そんな事はない…!よし!5000出そう!」

 

「却下だ」

 

「ふむ…《ラグーラビット》か。丁度いい、新作の斬れ味を確かめようと思っていたところだ。俺が調理を担当しよう」

 

アマツが包丁片手にそう告げ、キッチンスペースに歩いていく

その姿に多少の不安は否めないが、彼に意見可能な人物は存在しない。特に刃物を手にした彼に意見するのは、死に直結する行動である

 

「ところで、職人って料理出来たんか?」

 

「出来るんじゃないか?一応は一人暮らしな訳だからな」

 

「でもよ……職人だぜ?」

 

「うーむ…不安しかないんは確かだ。でも、職人以外に料理スキルがあるヤツがいる訳でもねぇしなぁ…」

 

「文句があるか?」

 

「「「滅相もありません」」」

 

包丁を手にぎろりと目を光らせるアマツにソウテン、キリト、グリスが全力で否定する。その手は止まらず、的確に捌きで、料理を仕上げていく

 

「手際が良いな。アマツ」

 

「無論だ。こう見えても、料理は得意分野だ」

 

「意外だな。テンが料理した時とは大違いだ」

 

「ベルさんは張っ倒されたいんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。第35層主街区ミーシェ

 

「最近……テンが分からないのよ」

 

レストランでスイーツを囲み、和気藹々としていた女性陣にミトが切り出す

その瞳は寂しげで儚さを感じさせる。普段の彼女からは、かけ離れた姿だ

 

「分からないって…どういうことよ?ミト」

 

「偶に…テンが怖いの」

 

「怖い…それって、危なかっしいとかの怖いですか?」

 

シリカの問いにミトは首を振る。但し、この場合は否定の意味だ

 

「手を伸ばそうとしても…届かないの。まるで、私の声が聞こえてないみたいに……。おかしいわよね……何時も一緒なのに…。でもね…信じようとすれば、する程に…分からなくなるの…」

 

「ミト…」

 

「ミトさん…」

 

顔を俯かせ、拳を握り締める信じたいのに信じられない、普段とは違う別の側面に最近では恐怖を感じる。現実世界では感じなかった気持ち、本当に自分は彼を愛しているのだろうか…と考えることもある。涙がこぼれ、服の裾を濡らす

 

「ああもうっ!じれったいわねっ!直接、ソウテンのヤツに確かめればいいじゃない!そんなの!」

 

「出来たら、苦労しないわよっ!!でも……でも……信じたいのよ…」

 

「そうよね……。声が聞こえないのは、辛いわよね。私は理解出来るわ…ミトの気持ち」

 

「アスナ…」

 

アスナも似た経験があるのか、苦笑を浮かべ、ミトの背中を優しく摩る

シリカはあたふたしながらも、運ばれてきたチーズケーキを差し出す

 

「ミトさん!これ食べてください!美味しいんですよ!」

 

「ありがとう。シリカちゃん」

 

「あ、あたしの食べなさいよ!美味しかったわよ!これ!」

 

「リズ?お皿に何もないんだけど…」

 

負け時と皿を差し出すが、其処には何も無い。厳密には食べかすしか乗っていない

 

「あっ…ごめん。食べちゃったあとだったわ…」

 

「もぉー!リズったらー!仕方ないわねー」

 

他愛もない時間、僅かに安らいだ心がミトの背中を押す

 

(帰ったら…テンと話そう…。私の気持ちを……伝えよう…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

ギルドホームの庭。ソウテンは一人、夜風に当たるように佇んでいた

水溜りが創り出した鏡のような水面に映るのは仮面の無い自分の姿。その顔は凶悪な笑みを浮かべている

 

『俺はお前だ』

 

「ああ…」

 

語りかける、仮面で隠したもう一人の自分が。まるで囁くように

 

『もういいだろ?あとは俺に任せろよ。全てを壊そう…。そうすりゃあ、自由じゃねぇか』

 

「俺の望む自由とお前の語る自由は違う」

 

『ククッ……本当にそうか?少なくとも、お前自身も思ってんだろ?じゃなきゃ、俺が居るはずねぇだろ。お前は逃れられねぇんだよ!俺って闇からな!!!』

 

「うるさい……黙れっ!!!」

 

闇、誰にでも必ずある其れは、確実にソウテンの心を蝕んでいた。黒く塗り潰すように、全てを呑み込みながら、彼の心を支配しようとしている

 

『お前が全てを俺に委ねた時、道化師(クラウン)は終わりを迎えるのさ。これにて幕引きと致しましょう』

 

声が聞こえなくなり、静寂の世界にソウテンは佇む。抑えきれない黒い衝動、そして、行き場の無い怒り……

 

「…………ごめんな。ミト……」

 

愛する者の名を呼び、彼は奥歯をぎりっ、と噛み締めた




黒い衝動、その行方は一体……

NEXTヒント 黒い衝動


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十二幕 波乱

シリアスです!ギャグは無し!


2024年7月某日 第56層 聖竜連合本部

 

 

現在、この場には名だたる顔触れが一同に会している。ある共通の理由を前に聖竜連合と血盟騎士団、彩りの道化(カラーズ・クラウン)の三大ギルドが勢揃いし、円卓の中央には其々のリーダーが鎮座している

 

「それでは、ラフィン・コフィン討伐作戦会議を始める。幹部プレイヤーの情報を皆に回すから確認してくれ」

 

今回の議題、其れはPK(プレイヤーキル)を推奨するアインクラッド最大の犯罪者ギルド《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の討伐作戦。目の前の資料に視線を落とし、掲載されている情報を頭に叩き込んでいく

 

「ラフィン・コフィンの根城が下層のある小さな洞窟と判明した」

 

シュミットが発した内容に辺りから、動揺の声が挙がる。その理由は彼等のアジトを探す為に、しらみ潰しの様に不動産ショップを探したが、その結果が空振りに終わっていたからだ

幾つかのオレンジギルドのアジトは発見できた。しかし、肝心の《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の本拠地に辿り着いた者は誰一人として、存在しない

 

「見つからん筈だ。こいつは」

 

本来、ギルドという組織は主街区等の街中を拠点とするのが一般的だ。だが、《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》は違った

展開されるマップを確認する限り、彼等のアジトは街中から離れた洞窟。これでは見つかる訳も無い、故に其れは絶好の隠れ家である事を意味する

 

「あくまでも目的は討伐であって殺戮じゃない。戦力を削ぎ、最終的には奴等を《黒鉄宮》に送るという事を忘れないでくれ」

 

「……生温りぃな」

 

「え…?」

 

聖竜連合の幹部プレイヤーの言葉、誰かが呟く。その声の先には仮面を冠った一人のプレイヤーが鎮座していた

殺気を感じさせる瞳に誰もが彼を見る。その顔に普段の不敵な笑みは見られない

 

「相手は人を殺すことに何の躊躇いも持たん殺戮者だ。人を人だとも思わんヤツは人じゃねぇ……一人残らず、“処分”するんが良いと俺は思う」

 

“処分”、其れは即ち、殺す側に廻るという事を意味する。その提案に誰もが息を呑んだが、提案者であるソウテンの眼は本気だった

 

「なっ……!テン!お前!自分が何を言ってるか、分かってるのか!?」

 

PK(プレイヤーキル)なんてやり方はおめぇが一番嫌ってることだろ!!ソイツを促すなんて、どうしたんだよ!?」

 

「リーダーらしくありませんね。恐れながら、僕は反対です」

 

「俺も…。いくら、リーダーの意見でも従えない」

 

「テンの字、今のお前はリーダーらしいと思えんぞ」

 

「職人の言う通りだ。テンらしくないぞ、どうしたんだ?」

 

キリト達からの意見にソウテンは何も語ろうとしない。椅子に座り、他のギルドリーダーからの解答を待つのみだ

 

「俺は反対だぜ。テン」

 

「私も一人残らずというのには反対だ。確かに、もしもの場合としての対策の一つに、そういった事を視野に入れるべきだろう。しかし……全てを処分して、我々に何のメリットがあるというのかね?ソウテン君」

 

「メリットなんかねぇ。俺は悪を裁きたいだけだ」

 

「其れが正義だって言うのかよっ!!お前は!」

 

「犠牲のない正義は正義じゃない」

 

「ふざけんなっ!!」

 

ソウテンの胸ぐらを掴み、キリトが怒鳴る。普段とは想像の付かない彼等の姿に誰もが黙り、その様子を見る事しか出来なかった

結局、決着は付かず、会議は終了。ソウテンは仲間たちの元にはいかず、一人で何処かに消える

 

「………くそっ」

 

「キリト」

 

「ミト……」

 

「お願い…、私に……私に、教えて!テンはどうしちゃったの!?さっきのテンはまるでテンじゃないみたいだった!本当にアレは私の知ってる天哉(テン)なの…?」

 

涙を溢れさせ、感情のままに叫ぶミト。彼女の姿にキリトは数秒の沈黙後に彼女を見据える

 

「あいつは確かに天哉(テン)だ。ただ……厳密に言えば、ミト達が知るアイツじゃない」

 

「私たちの知るテンじゃない……?」

 

「ああ…あれはアイツの中にある心の闇だ。テンは“黒い衝動”って呼んでた」

 

「………あのテンに心の闇があるなんて…。そんなの!私、知らないっ!」

 

「知らなくて当たり前だよ。あのテンを知ってるのはメンバーでは俺だけだ……そう、アレはあの日、母親を失って、夜の街で只管に怒りをぶつけて、暴れていた頃のアイツだ。でも、ミトと出会って、アイツは今のアイツになれた…はずだった。少しだけ…昔話を聞いて欲しい…君の知らないテンについての、昔話を…」

 

キリトは語った。ミトが知らなかったソウテンの過去を、幼馴染である自分だからこそ知り得る限りの全てを。その全てを彼女は黙って聞いていた

やがて、全てが話し終わると、キリトは真っ直ぐにミトを見詰める

 

「ミト。今のアイツを止められるのはただ一人、お前だけだ。お願いだ……アイツを、俺の親友を救ってやってくれ」

 

そう言い、頭を下げるキリトの姿にミトは静かに佇むだけだった…。そして、二時間後、波乱の討伐作戦は幕を開ける



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十三幕 黒い衝動

シリアスでーす。はぁ…ギャグが書きたい…


『よし…じゃあ、行くか。ミト』

 

そう言って、彼が手を差しだてくれた日を今でも鮮明に覚えている。あの日、彼が目の前に現れたのは偶然だった。友達と孤立し、一人で泣いていた、私の前に彼は現れた

見た目は不良なのに、表情をころころ変える彼を見ていると自然に笑顔が浮かんできた

 

彼と過ごす毎日は楽しい事の連続で、笑いが絶えなかった。私が知らない世界を見せてくれる彼を好きになるのに時間は掛からなかった

 

気付くと当たり前のように彼が側に居て、皆と笑い合うことが日常になっていた。私が中学に通うようになってからも、その日常は変わらなかった

 

放課後に彼の待つゲームセンターに足を運ぶと、決まって彼は格闘ゲームの前に座っていた

 

『ゲームやるか?ミト』

 

私にそう言って、笑いかける姿は年相応で、負けまいと必死に足掻く姿は無邪気だった

別に付き合っていると言う感覚はなかった。互いに意識はしていたし、一緒に居ることが当たり前だったし、彼の側に居る時が楽だと感じれることが出来た

 

其れでも学校に行くと疎外感を感じた。ゲームとは無縁の生活に気が遠くなりそうになったりもした。そんな時だ、アスナに出会ったのは。彼女の存在で、私は彼と居る時と同じくらいに自分らしく過ごせるようになった

放課後に他愛もない話をして、笑い合う。初めての同性の友人に私は胸が踊った

 

故に毎日のように通っていた場所への足は次第に遠退き始めた。其れでも週末に足を運ぶと、彼は何時ものように笑いかけてくれた

 

だからかもしれない……私が彼を知ろうとしなかったのは。勝手に彼は自由だ、と決めつけ、その闇に気付いてあげることも出来なかったのは

 

「テン………」

 

ミトside out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い衝動。其れを自覚したのは何時だっただろうか?気付くと、決まって、目の前には顰め面で鎮座する警官の姿があった

 

暴れていると、決まって、黒い衝動は語りかけた。『全てを壊せ』と。その通りに怒りを打つけた、気持ちは晴れないが、それ以外のやり方を知らなかった

 

自由を求め、夜の街を彷徨い、暴れた。何かを主張したかった訳でもなかった、只管に黒い衝動が語りかけるままに、暴れて、暴れて、暴れた。まるで荒れ狂う獣のように

 

そんな日々が続いた時だ。彼女に出会ったのは、ゲーム機を片手に寂しさを押し殺そうとする彼女を見ていると、何故かは分からないが、手を差し伸べられずにはいられなかった

 

声を掛けると、彼女は警戒心を抱きながらも、顔を上げた。濃紫ががった黒色の長髪に緑の瞳、何よりもその美しい顔立ちに目を奪われた

 

気付くと、彼女に手を差し出していた。不思議だった。彼女と居る時だけは黒い衝動が聞こえなかった。次第に当たり前のように彼女が側に居て、皆と笑い合うことが日常になっていた

 

だが、この仮想世界で過ごし始めた時から、黒い衝動はまた語りかけるようになった

あの頃よりも鮮明に聞こえる声は、俺を映しとったような姿で、目の前に現れるようになった。全てを見透かしたような凶悪な笑み、怒りを具現化した“アイツ”を隠すように、顔にも、心にも、偽りの仮面を冠った

 

「…………誰か、俺を……闇から……引き摺り出してくれよ……。助けてくれよ……」

 

ソウテンside out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これから回廊結晶を使い、笑う棺桶が根城にしている洞窟前に移動する」

 

作戦開始時間となり、幹部の一人が目的地の洞窟へと向かう為に回廊結晶を掲げる。その間、ソウテンの周りに誰も近付く気配は無かった

其れは彩りの道化(カラーズ・クラウン)のメンバーも同様だ。仮面に隠された真意を見透かせず、明らかに疑心暗鬼となっている

其処に彼等が慕い、信じ、憧れた背中は無い。有るのは ひしひしと伝わる躊躇いの無い殺気。かつて、差し伸べられた筈の手は、冷たくなっていた

 

「職人。もしもの場合に備えて、《ダークリパルサー》の調整を頼みたい」

 

「良いだろう。但し……無理はするな」

 

「ああ…分かってる」

 

草叢に身を潜めつつ、キリトはアマツに《ダークリパルサー》を渡す。目の前には洞窟に通ずる坑道があり、確認する限りは人の出入り自体は見受けられない

 

「よし、行くぞ」

 

聖竜連合幹部の号令と共に討伐隊は洞窟に続く坑道を通り、笑う棺桶が居ると思われる、大部屋へと突入する。だが、其処には人の気配すら無ければ、影一つ無い

 

「妙です…気配が無い」

 

「………っ!ヴェルデ!!後ろ!」

 

周辺を見回すヴェルデの背後に刃が迫る。逸早く、気付いたヒイロがブーメランを投げ、弾き飛ばす

次々と襲い掛かる笑う棺桶(ラフィン・コフィン)のメンバーを捌きながら、キリトは気付く

 

(情報が…漏れていたのか…!何故だ…何故!一体、何処から!!)

 

休み暇なく、代わる代わる向かってくるプレイヤーにキリトは剣を振るう。殺さないように最低限のダメージを与え、相手が止まるように仕向ける

だが、その手は止まらない。殺さずに生かす、この作戦の趣旨故に留めを指すことはあってはならない

 

「邪魔だ」

 

「なっ……!」

 

突如、キリトの目の前で男の体がポリゴンを四散させた。目を見開き、槍が飛来した方向に視線を向ける

 

「吐け……PoHは何処だ」

 

男の胸ぐらを掴み上げ、ソウテンは尋問するように問いかける

 

「こ、此処には居ない…」

 

「そうか。なら、消えろ」

 

胸に槍を突き刺し、次々と笑う棺桶(ラフィン・コフィン)のメンバーをポリゴンに変えていく。其処に居たのはソウテンの姿をした別の誰かだった

全てを壊す為だけに生まれたように彼は其処に佇む。身を翻し、逃亡を図るプレイヤーが居ようものならば、槍を投擲し、その体をポリゴンへと変える

 

「がっ……!!た、頼む…!助けて…!」

 

「………お前はそう言った奴等を助けたんか?」

 

質問の答えが返るよりも前に槍を突き立て、その命を奪う姿に道化師(クラウン)としての彼は居なかった。黒い衝動に身を任せ、蹂躙する彼に誰もが恐怖を抱く

 

「逃げましょう!あたしたちなら、今まで通りに二人でやれ--がっ!!」

 

「グウェン!!」

 

洞窟の外に居た二人組の少女は異変に気付き、逃げようとするが小柄な少女《グウェン》の背に槍が突き刺さる

髪の長い少女《ルクス》が彼女に駆け寄ろうとする。しかし、洞窟の中から姿を見せた仮面の青年に足が竦み、動きたくても、動けない

 

「オレンジにグリーン……どういう関係かは知らんが、此処に居る以上は見過ごせん」

 

「グウェ…」

 

「ルクスに触るなっ!!」

 

「まだ動けるんか……なら、処分するまでだ」

 

グウェンに槍が突き立てられる瞬間、ルクスは恐怖で目を閉じる

 

「テン!!やめろ!全部終わったんだ!この子達は関係ない!!あったとしても、殺す必要は無い筈だっ!!」

 

彼の槍を受け止めるように二本の剣を交差させ、少女達を守るようにキリトは立っていた

 

「………まだ、終わってねぇ」

 

「言っても分からないみたいだな……。なら、力尽くで止めてみせる。天哉(テン)

 

「邪魔をするなら……お前でも容姿せん。和人(カズ)

 

討伐作戦は三十名以上の死者を出す形で幕を下ろした。しかし、すれ違い、信じる事を忘れた彼に、声は届かない。故に、《黒の剣士(キリト)》は刃を向ける。兄弟のように育った筈の親友に。そして彼も、声届かぬ殺戮者と化した、《蒼の道化師(ソウテン)》も、また刃を向ける。親友であり、友であり、家族でもある幼馴染に

 

「「この……分からず屋っ!!!」」

 

その言葉を放つと同時に彼等は地を蹴り、金属音を響かせた




ぶつかり合う二つの色、互いに想いを刃に乗せ、一人は全てを壊す為に、一人は全てを守る為に

そして……紫の少女は、彼を止める為に

NEXTヒント 涙


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十四幕 剣に込める想い

はいはい、またまたシリアス!ですが!今回でシリアスは暫く終了!……だと思いますよ?ええ、そう信じたい!


「……ここで全部。終わらせる」

 

「させないっ…!させるワケがない…!俺がお前を止める!!!」

 

槍と剣がぶつかり合い、金属音を響かせる。黒い衝動はソウテンを呑み込み、その闇を増幅させ、只管に語りかける

 

『全てを壊せばいい。邪魔をするヤツは処分しろ、お前はそういうやり方しか知らねぇんだから』

 

『そうだ……壊せばいい。邪魔する奴は、斬ればいい……この世界では、其れが全て、正当化される…』

 

彼に差し出しされる手は無い。全てを拒絶し、仲間たちと袂を別ってしまったのは自分だ

止まらない、止めようにも。溢れ出した闇は、塗り潰すかのように、黒く、心を蝕む

 

「バカだな、お前は。」

 

「バカでもいい…お前を止められるなら、俺は何にだって、なってやる!例え、其れが、バカに見えようが!道化に見えようが!関係ないっ!!!俺の知るお前は、俺たちに手を差し出してくれたソウテンは!リーダーは!そういうヤツだ!!!」

 

「其れがバカだって言うんだ……お前は何時もそうだ。勝手に人の間合いに土足で踏み込んで、心を掻き乱す……頼むよ。もう…俺を楽にさせてくれ」

 

キリトの言葉に応えるようにソウテンはそう告げる。本心であるかも分からない、その言葉に奥歯をぎりっ、と噛み締める

 

「うるせぇぇぇぇ!!一人で勝手に背負いこむな!!俺たちは仲間だろ!!お前は俺たちに居場所をくれた!!だから、今度は俺たちがお前を助ける!お前が何度、手を振り払っても!その度に俺たちは手を差し出す!だから!一度くらい、素直になりやがれ!!天哉(てんや)っ!!!」

 

二本の刃がソウテンの槍の前で交差し、怒涛の剣撃が叩き込まれる。その姿に洞窟から出てきたミト達は歩みを止める

 

「キリトのヤツ……テンと戦ってんのか?まさか」

 

「二刀流……ユニークスキルだよ。あれ」

 

「無茶はするな、と言ったんだがな」

 

「しかし……何故、テンとキリトが?しかもデュエルという訳でもなさそうだ」

 

「テンを……止める為よ」

 

ディアベルの疑問にミトが答える。彼女は鎌を握り締め、口を噤みながらも、槍と剣の鍔迫り合いを見据えている

目を逸らさずに、変わり果てた想い人の姿を追う

 

「あんなリーダー……見たくない」

 

「僕もです……まるでリーダーではないみたいです…」

 

「………目ェ、逸らしてんじゃねぇぞ。ガキども」

 

「グリスさん…」

 

「さすがにバカな俺にだって分かる。キリトが一番辛ェに決まってる。アイツは俺たちが出会うよりも前からずっと、テンの野郎と一緒に居んだよ……そのアイツが辛くねぇわけねぇだろ」

 

「グリスの言う通りだ。人には誰しも闇がある、テンの場合はその闇が誰よりも深い。故にヤツは誰にも助けを求められずにいた」

 

「その気持ちを汲み取ったキリトが全力を出すのは当然だと俺も思う。生半可な覚悟では、仲間に……ましてや、親友に刃を向けることは出来ないよ」

 

「アマツさん…ディアベルさん…。そうですね…ヒイロくん、我々も見届けましょう。この行く末を」

 

「うん」

 

刹那、不思議な現象が起きた。金属音が響く度に何かが周辺に弾け、まるで雪の様に降り注ぐ

 

「んだ……これ?…!」

 

自分の肩に触れた、其れをグリスが掬い上げる

 

『お前、強いんだってな』

 

『なんだ……てめぇは』

 

『俺か?俺はテンだ。よろしくな!』

 

『うせろ』

 

『やだ、俺はお前が気に入った。だから、今日からは俺とお前は仲間だ』

 

『変な理屈コネんなっ!泣かすぞ!!』

 

脳裏に浮かぶのは出会いの日。唐突に現れた彼が手を差し出し、“楽“になれる居場所をくれた日、彼は、自分を友と呼び、誰かと笑い合うことの楽しさを教えてくれた

 

「なんだ……今の…」

 

「グリスさん?どうし……!」

 

グリスの雰囲気に違和感を感じ、ヒイロが声を掛けようとする。自分の鼻に白い雪のようなモノが触れた

 

『お前か?最近、噂になってる強いチビってのは』

 

『チビじゃない。ていうかさ、アンタ誰?』

 

『俺か?俺はテン、お前は?』

 

『彩葉……』

 

『彩葉か、良い名前だな。よし来い!焼き鳥奢ってやるよ!あっ、ピーナッツバター掛けのヤツで良いよな?』

 

『焼き鳥はもらう。でも変な味はいらない』

 

『ピーナッツバターをバカにすんじゃねぇよ!』

 

認められたかった、自分以外の誰かに。その悩みを理解するように、彼は現れた。時には兄として、またある時には友として、彼は前を歩き続けていた。その背中を見るのが、好きだった。近付きたくて、手を伸ばすと、必ず、手を差し出してくれた

 

「これって……」

 

「ヒイロくんも、グリスさんもどうされたんです?全く……目を逸らすなど…!」

 

眼鏡を上げ、呆れたように言うヴェルデの頬に、しんしん、と降り注ぐ、其れ、が触れる

 

『緑川菊丸と申します。以後お見知り置きを』

 

『お見知り…?どういう意見だ?』

 

『見て知ってください的な意味だと思う』

 

『菊丸は堅いなぁ…相変わらず』

 

『そうでしょうか?僕は普通にしているつもりですが…』

 

『堅くてもいいじゃん。ウチは基本的に柔らかい頭のヤツしかいないから、菊丸みたいな堅いヤツが居た方が面白ェよ』

 

『『『一番柔らかいくせに』』』

 

『んだとコラァ!』

 

彼は、「ありのままの自分」を受け入れ、仲間という繋がりをくれた。他の誰でもない自分を必要だと言ってくれた

 

「………もしや、これは…」

 

「リーダーの記憶…」

 

「いや、違う……想い出だ」

 

「第1層……懐かしいなぁ。テンがいたから、生きてるんだよな…俺」

 

「全く……最初からバカなヤツだった。いきなり、槍を作れと言ったかと思えば、破壊する度にやって来ては、また同じのを作れと無理難題を押し付けるんだからな」

 

ディアベルとアマツの脳裏にも出会いの日が浮かぶ。思えば、自分達の知るソウテンは誰かの為に手を差し出し、居場所をくれる人間だった

時には笑い合い、時には喧嘩し、時には共に戦った。其れでも最後は決まって、鍋を囲んだ

 

理由等、要らない。楽しい時間を過ごすのが当たり前だから、その中心で笑うソウテンを、嫌いな者など居る筈がない

 

「おいコラ!テン!何時までも一人で背負ってんじゃねぇ!頭にハンマー叩き込むぞ!!!」

 

「ホントだよ。キリトさんみたいなぼっちに押されるとかありえない、それでもリーダー?」

 

「ヒイロくんの仰る通りです。これだから、ピーナッツバター馬鹿は」

 

「俺が作った槍を折ってみろ……タダではすまさんからな」

 

「ま、まあ、落ち着けよ…皆。でも、皆の言う通りだ。テン!俺たちは何があっても、仲間だ!苦しいなら、その苦しみを俺たちにも背負わせてくれ!君がかつて、俺にしてくれたように!」

 

その声にキリトの手が止まる。視線を動かすと、グリス達が居た

他の討伐隊は其々の場所に帰還したが、彼等は居た

 

「アイツら……がっ!?」

 

「余所見してんなよ」

 

キリトに鏃が迫る。レッドまで低下したHPを容赦なく、狩り立てる。道化よりも死神のような姿に誰もが息を呑む

 

「あの野郎!我慢できねぇ!!今度は俺が!」

 

「いや待て!俺が!」

 

「退いて!」

 

グリスとディアベルの間を一つの影が横切る。薄紫のポニーテールを靡かせ、キリトを手に掛けようとするソウテンの懐に飛び込む

 

「……離せ」

 

「いや…」

 

「離せ」

 

「いやったら、いや!」

 

「離せって言ってんだろ!!」

 

「いや!絶対に離さない!!こんなの間違ってる!キリトとテンが戦って、何の意味があるのよ!二人は仲間でしょ!!お願いよ……お願いだから……私に…声を…聞かせてよ…天哉…」

 

振り解こうにも振り解けない、胸の中で涙を流す彼女は。世界で一番、愛しい人。愛を知らない自分に人を愛する意味を教えてくれた人。手を差し伸べてくれた人。共に笑い合った人。そうだ……そうだった……自分が見たかった彼女の顔は、泣き顔じゃない。だから、あの時、手を差し出した、笑ってほしくて、その綺麗な笑顔を見たくて、手を差し出した

 

「すまんかったな…ミト……。許してくれとは言わねぇし……言うつもりない……でも、これだけは知っててほしい……愛してる。この世界中の誰よりも、お前を愛してる。だから、泣かんでくれねぇか?深澄(みすみ)

 

「私も……私も愛してるわ。何度、貴方が手を振り払っても、私はその度にまた手を伸ばす。だから、これからも私の側に居て…。天哉(てんや)

 

「「んっ……ちゅっ……んっ…」」

 

重なり合い、触れ合うのは互いの唇。思わず、背中に手を回し、何度も何度も重ね合い、思いを確かめ合う

 

「………俺らが居るの?忘れてねぇか?」

 

「さて、リズのヤツに《クリスタライト・インゴット》でも売り付けに行くとするか」

 

「あっ、シリカにチーズケーキ買って返る約束だった」

 

「おお、そう言えば、ヴェルデに鑑定してもらいたいアイテムがあるんだ」

 

「拝見しましょう」

 

「テン。今日は何が食べたい?好きもの、何でも作るわよ?」

 

「マジでかっ!よし、ピーナッツバター鍋にしよう」

 

「其れは却下」

 

其々の居場所へと帰路に着くソウテン達。その顔は晴れやかだった。黒い衝動は完全では無いが形を潜め、また何時もの日常が訪れる

 

地に伏せる一人を残して

 

「あれ……俺は!?なぁ!みんな!ちょっと待って!!置いていかないで!お願いだから!誰か、助けてくださーーーーい!」

 




互いの気持ちを再確認したソウテンとミト。しかし、彼らの騒がしい日常は更にその騒がしさを加速していく

NEXTヒント 少年

シリアスよ、さらば。そして、コメディが始まる


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十五幕 真夜中の少年

今回はギャグ!そうギャグですよ!この作品に於ける大半を占めるメイン回!えっ?テンミトがメインじゃないのかって?たしかにそれもメインですよ。ですが!この作品の趣旨はギャグ8割とシリアス1割、恋愛1割のギャグ作品!故にメインはギャグです!それではギャグ回をどうぞ!


第50層主街区アルゲード 彩りの道化(カラーズ・クラウン)ギルドホーム

 

 

討伐作戦から一週間。互いの気持ちを再確認し、以前よりもミトとの仲を深めたソウテンは悩んでいた

 

「…………金が足りん」

 

「なんだ?藪から棒にお前が貧乏なのは今に始まったことじゃないだろ」

 

「だな。テンの財布の中は常にすっからかんだからな」

 

「頭がすっからかんなバカどもは黙ってろ」

 

「「んだとコラァ!!」」

 

騒ぐキリトとグリスを無視し、ソウテンはストレージ内の《コル》を見る。金欠という訳ではないが、ある事を行う為には資金が圧倒的に足りない

 

「………やっぱ。三ヶ月分はねぇといかんよな」

 

「三ヶ月分……?何の話だ」

 

「家賃じゃないか?」

 

三ヶ月分、その言葉の意味を理解出来ないグリスとキリトは首を傾げる

 

「三ヶ月分………ああ、なるほど」

 

キッチンでコーヒー片手にその様子を見守るヒイロは頭の中で、言葉を反芻させた後、何かを理解したように手を叩いた

 

「おや?ヒイロくんはお分かりになるんですか?リーダーがお金を欲しがる理由を」

 

「多分だけど。ミトさん絡みだよ」

 

「ミトさん絡み……なるほど!理解しました、そういうことですか。いやぁ……あのリーダーも遂にですか。よく決心しましたね、僕は嬉しいです」

 

「立派になったね。最初は迷子でバカでピーナッツバターしか食べない変人としか、思ってなかったけど、遂にリーダーにも春が来たんだね」

 

「おめぇさんらは俺の親か」

 

ハンカチ片手に涙を流すような芝居をするヴェルデ、ヒイロに突っ込む。すると、肩を叩かれる

背後を振り向くと何時ぞやの暖かい目をしたキリトが立っていた

 

「なるほどな……テン。夜は静かにな」

 

「うっせぇよ、ぼっち」

 

「なんだと!?人の気遣いを無碍する気かっ!!」

 

「いらんわっ!!そんな気遣い!!」

 

キリトからの指摘にソウテンは突っ込みを入れ、未だにヒイロとヴェルデは感慨深いものがあるのか頷いている

 

「………はっ!三ヶ月分ってのはアレか!ミトにプロポーズする為の資金か!」

 

「………グリス。今更、気付いたんか?」

 

「仕方ないだろ。所詮はグリスだ、人間の風習を知らないんだよ」

 

「そだな。すまん、ゴリラに期待した俺がバカだった」

 

「そう言えば、ゴリラはどういうプロポーズするの?」

 

「やはり、バナナを贈り合うのではないでしょうか?ですよね?グリスさん」

 

「知らんわっ!というか流れるような罵倒で人をゴリラ扱いしてんじゃねぇよ!俺は人間だ!」

 

「「「「「えっ」」」」」

 

「真顔で驚いてんじゃねぇっ!!」

 

真顔で驚愕するソウテン達にグリスの突っ込みが飛んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第50層主街区アルゲード ダイシー・カフェ

 

 

「ちょいと入り用でな。と言う訳で、また雇ってくれんか?エギル」

 

「駄目だ」

 

「……何故だ?」

 

例によって、エギルの店にやって来たソウテンだったが食い気味で却下され、首を傾げる

 

「お前、三ヶ月前に雇ってやった時にキリトと何をしたのか…忘れたとは言わせんぞ」

 

「キリト。覚えてるか?」

 

「あれじゃないか?昼間に買い取りに来た客の前でパスタ食ったこと」

 

「ああー、あったな。他にも客が頼んだミルクティーを勝手に呑んだりとか」

 

「うんうん、あったな」

 

「おいコラ、今さっきの二つは初耳だぞ。其れに俺が言ってるのはバータイムの時の話だ」

 

「「バータイム………ああ、あれか。何か問題が?」」

 

「寧ろ、無いと思ってるずぶどい神経を疑いたい」

 

忘却の彼方に自分達の行った所業を思い出したようだが真顔で首を傾げるソウテンとキリト。エギルは顳顬(こめかみ)をヒクヒクさせ、怒りを抑えている

 

「だいたい、金がいる用事ってのはなんだ?ギルドホームは賃貸じゃないだろ」

 

「うーん……誰にも言わんか?」

 

「そいつは任せろ。俺は客のプライバシーは守るぞ」

 

「………ミトにプロポーズする為の資金が欲しいんよ」

 

「そう言うことか……そういうのは確かに大事だな。よし、雇おう」

 

「マジでかっ!エギル、俺は今まで、おめぇさんをぼったくることしか脳がない巨漢のオッサンだと思ってたが、意外に話の分かるヤツだったんだな」

 

「………話は無かったことにしよう」

 

「すいません、雇ってください。何でもするんで」

 

余計な一言でエギルの機嫌を損ねかけるが、全力で頼み込む熱意を買われ、バータイムの時間にキリトとのコンビで雇用された

 

「何で……俺も」

 

「だって、おめぇさん以外に一緒にやるヤツ居らんし。アレに出来ると思うか?」

 

そう言って、ソウテンが指差す先にはグリスの姿があった

 

「………無理だな」

 

「だろ?て訳だ、一緒にやろう」

 

「分かったよ…」

 

この店のバータイムは夜の六時半から閉店までの八時間勤務で、ピークタイムは夜中の十二時頃。基本的には客を相手にバーテンらしく、対応するソウテンとキリト。その間、何の問題も起こらず、エギルも満足そうにグリス達と談笑している

やがて、時間は流れ、ピークタイムに差し掛かる

 

「エギルー。来たわよー」

 

「こんばんはです」

 

「相変わらず、不景気ねー」

 

「もうっ、リズ?失礼よ」

 

ミトを筆頭に女性陣が店内に入ってくる。するとカウンターでグラスを片手に談笑していたアマツが口を開く

 

「女が三人そろえば、姦しいというが四人だと喧しいな。特にリズが」

 

「アマツ。アンタ、張っ倒すわよ」

 

「リズのヤツ…すげぇな」

 

「ええ…職人を相手に物怖じもしないとは…」

 

「きっとデリカシーがないからだよ」

 

「ヒイロ、失礼だよ。リズさんは鍛冶することしか脳がないだけだよ」

 

「シリカ……フォローしてくれてるつもりだろうけど、アンタがいっちばん失礼よ」

 

「……えへ?そ、そう言えば!あたし、バーテンと言えばですけど。憧れてるシチュエーションがあるんですよ」

 

話題転換を図ったシリカは自分が抱く理想のバーテンダーのイメージがあるらしく、その様子を思い浮かべる

 

「へぇ?例えば、どういうのよ」

 

「えっとですね。先ずは俺からの奢りだと言って、お酒を手渡したりとか」

 

「なるほど……俺からの奢りだ」

 

シリカの説明を聞き、ソウテンに酒をスライドさせる。しかし、キャッチ出来なかったソウテンの顔面に中身が掛かった

 

「………つ、次はですね。シェイカーを振って、お酒を作ったりとか」

 

「よし、わかった」

 

シェイカーを振り出すキリト。しかし、蓋を閉めずに口を抑える部分が無い為に中身がソウテンの顔面にぶちまけられる

 

「最後はやっぱり、アレですかね。君の瞳に乾杯って言うヤツ」

 

「お安い御用だ。君の瞳で乾杯」

 

そう言って、ソウテンはグラスの中身をキリトの眼に注ぐ

 

「ああああーっ!目がぁぁぁぁ!!何してくれてんだ!このバカテン!!」

 

「やかましい!お前こそ!人に散々、酒をぶちまけただろうが!!!」

 

「あたしが思ってたイメージと全然違うんですけどっ!?」

 

「静かにしなさい!バカどもっ!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

騒ぐバカコンビの頭にミトの御約束が命中し、その様子を見ていたアスナが思い出したように口を開いた

 

「私も一つ、憧れって訳じゃないけど…見てみたいのがあるのよね」

 

「へぇ?どんなの?」

 

「ほら、彼方のお客様からですってヤツよ」

 

「確かに……憧れるわね。ちょっと、アマツ。アンタがやってみなさいよ、あのバカ二人だとロクなことになりそうにないし」

 

「………分かった。グリス、手伝え」

 

「おうとも!」

 

リズベットに促され、渋々ではあるが従ったアマツがエギルに何かを注文し、数秒もするとグリスの前に皿が置かれた

 

「お客様。こちら、彼方のお客様からです」

 

「おっ!サンキュー………って!バナナじゃねぇか!!!」

 

皿の上に乗っているのは一房のバナナ、バーでは先ずあり得ない出来事にグリスは突っ込んだ

 

「む……バナナでは不服か?好きだったろう?お前」

 

「好きだよ!好きだけど!こういう場合は普通は違うだろうが!」

 

「小さい事を気にするな。バナナも酒も大して変わらん」

 

「変わるわっ!液体と固体だろうがっ!」

 

「おや、驚きですね。ゴリラであるグリスさんが液体と固体を知っているとは」

 

「知識が付いたんだよ、きっと。ほら、今はゴリラにも分かる参考書とかあるし」

 

「なるほど。良かったですね、グリスさん。これでゴリラ呼ばわりされなくなりますよ」

 

「ゴリラじゃねぇわっ!!チビども!」

 

「「「「「えっ」」」」」

 

「真顔で驚いてんじゃねぇっ!!」

 

真顔で驚愕するソウテン達にグリスの突っ込みが飛んだ。やはり、身内ばかりの夜は相変わらずの光景で更けていく。その中でエギルは思った

 

(何があっても……こいつらを雇うのは、やめよう。絶対に)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん〜……おろ?」

 

勤務時間も終わり、帰路に着こうとしたソウテンが店を出ると壁にもたれかかるようにミトが佇んでいた

 

「お疲れさま。テン」

 

「待っててくれたんか。ミト」

 

「そりゃあ、待つわよ。だって……貴方の恋人よ?私」

 

「そだな」

 

手を重ね合わせ、ゆっくりと大通りを歩く。歩幅に差はあるが、ミトの歩幅を感じながら、其れに合わせるようにソウテンは歩く

 

「ねぇ、テン。私ね…今、とっても幸せ」

 

「俺もだ。ミトが居て、アイツらと馬鹿騒ぎしてる時が一番の幸せを感じられる。勿論、今こうやって、ミトと二人で居る時間はもっと幸せだけどな」

 

「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいわ」

 

顔を見合わせ、笑い合うソウテンとミト。二人の間に言葉は不要だった

極自然にソウテンが顔を近づけると、応えるようにゆっくりとミトが目を閉じる

 

「大好きよ、テン」

 

「俺もだ、ミト」

 

背に手を回し、口と口が触れ合う……

 

「とーさん!」

 

「………………おろ?」

 

「……なんて?」

 

唇が重なり合い掛けた瞬間、二人の耳に飛び込んできた聞き慣れない言葉。同時に周辺を見回し、声の主を探す

 

「とーさん!かーさん!」

 

再び聞こえた声を頼りに、下へ、下へ、ゆっくりと首を動かす。其処に立っていたのはその声の主であろう一人の少年、見た目は白いTシャツにハーフパンツを着用した黒髪癖毛の少年。しかしながら、ソウテンとミトは彼に見覚えが無い

 

「ボク?誰かと間違えてない?」

 

「うんうん、俺は少年みたいなちびっ子の親になった覚えはねぇぞ」

 

「間違ってないよ?二人がボクのとーさんとかーさん!」

 

屈託の無い笑顔で答える少年に対し、ソウテンとミトは顔を見合わせる

 

「「……………ええっーーーーー!!!」」」

 

そして、二人の叫びが主街区に木霊した

 




突然、現れた少年。彼はソウテンを「とーさん」、ミトを「かーさん」と呼ぶ。果たして彼は何者なのか!

NEXTヒント 息子


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十六幕 君の名は

はいはーい、続きですよ〜。あっ!見たことあるタイトルだから、パクリだ!とかを言うのは無しですよ?一応、中身に関係あるんですからね!


第50層主街区アルゲード 彩りの道化(カラーズ・クラウン)ギルドホーム

 

 

「とーさん」

 

ミトの膝に座り、にこにこ笑うのは昨夜の少年。彼が見据える先にはキリト達に囲まれるソウテンの姿があった

 

「………俺はお前の親友として恥ずかしいぞ、テン。頭の中が迷子なのは知ってたが、小さい子がいる近くで……何を考えてるんだ?バカか?バカなのか?お前は」

 

「だーから、身に覚えがねぇって何度も説明しただろ。そもそもだ、俺だって、節度は弁えてる」

 

「じゃあ何で拾ってきたんだよ」

 

「夜中に彷徨ってる迷子を放っておけんだろ」

 

「迷子じゃない」

 

「リーダーの口癖を言ってますが?」

 

「そんなのを口癖にした覚えはねぇ」

 

「この子がテンの子どもであるかはさておき、気になることがあるんだ」

 

騒ぐソウテン達に切り出したのはディアベル。彼が少年の方を向くと、同様に全員が少年の方に視線を動かす

 

「カーソルが出てないんだ。プレイヤーカーソルも無ければ、NPCカーソルも無いなんて不自然じゃないか?」

 

「確かに……言われてみれば、不自然だな。普通はアインクラッドに存在する動的オブジェクトにはカラーカーソルが出現する筈だ。でも、この子には其れがない」

 

「でもよぉ?移動が出来たんだから、NPCではねぇよな」

 

「という事はやっぱ、おめぇの子どもか。そこんとこはどうなんだ?テンジロー」

 

「おいコラ、何を勝手に名前付けてんだ。ゴリラ」

 

さらっと、少年に対し、ソウテンに因んだ名前を名付けるグリスを睨む

 

「グリス。人の子供に勝手に名前を付けるのはよくないぞ。なっ?テント」

 

「君はお父さんのように迷子になってはいけませんよ?テンノスケくん」

 

「焼き鳥食べる?テンタクル」

 

「眼はミトさん似かな。ほらほら〜チーズケーキだよ〜、テンゴくーん」

 

「髪型はテンと似てるな。こっち向けー、テンキー」

 

「テン。育児をするという事の重みを知るには良い機会だ、テンヒコを立派に育てろ」

 

「何で全部、俺に因んでんるんよっ!?ていうか職人は育児の何を知ってんの!?」

 

「かーさんよー」

 

「って!ミト!おめぇさんは受け入れるの早すぎやしねぇか!?」

 

普段はボケる側の筈のソウテンが突っ込みに回るという新鮮な光景。話題の中心である少年はピナ、ヤキトリを相手に無邪気にはしゃいでいた

 

「きゅる〜」

 

「ピヨピヨ」

 

「ピナとヤキトリ〜」

 

「ヤキトリの鳴き声、初めて聞いたけど……ヒヨコだったんか」

 

「違う。ヤキトリは《レッドバードラン》であって、ヒヨコじゃない」

 

「いや、ヒヨコだろ。どう見ても」

 

「ああ、ヒヨコだな」

 

「ヒヨコですね」

 

「ヒヨコじゃない」

 

ヤキトリがヒヨコか、否かの問答を繰り広げるソウテン達を他所にミトは少年の頭を優しく撫でる

 

「そういえば、名前は何て言うの?キミ」

 

「………なまえ?」

 

「そっ。名前は?」

 

「………えっと、えっと…わかんない」

 

「分からんって、自分の名前がか?」

 

「うん」

 

「なるほど……これは恐らく若年性健忘症ですね」

 

「けん……なんだって?」

 

「記憶喪失のことだ」

 

「なら初めからそう言えよっ!紛らわしいっ!」

 

「申し訳ない。ゴリラであるグリスさんにもわかり易く説明するべきでしたね」

 

「ゴリラじゃねぇ!」

 

「「「「「えっ」」」」」

 

「真顔で驚いてんじゃねぇっ!!」

 

真顔で驚愕するキリト達にグリスの突っ込みが飛ぶ中、ソウテンは少年に目線を合わせるように姿勢を低くする

 

「なんか覚えてる言葉とかあるか?」

 

「………ろと」

 

「ロト?この子の名前ですかね」

 

「へぇ〜、ロトくんって言うの?キミは」

 

「わかんない……でも、そうよばれてたきがする…」

 

「なるほど。よし、お前は今日からロトだ」

 

「ロト………うん!ボク、ロト!」

 

ロト、そう名付けられた少年は屈託の無い笑顔で笑う。余程、名前が気に入ったらしく、嬉しそうに飛び跳ねている

 

「拝啓、お父さんにお母さん。私は仮想世界でお母さんになりました。初孫誕生をお喜びください」

 

「コラコラ、届きもせん相手に手紙を書くな」

 

「ロトくん、ロトくん。チーズケーキ食べる?」

 

「焼き鳥もある」

 

「バナナ食うか?」

 

「餌付けしようとすんじゃねぇ。チビどもにゴリラ」

 

「いいか?刃物は危険だ。しかし、時には身を守る刃になるということを覚えておくんだ。これをやろう、護身用のダガーだ」

 

「って!そこぉ!子どもに物騒なもんを与えんなっ!」

 

「御伽噺を聞かせて差し上げましょう。昔々ある所に迷子の男と鎌使いの女がいました」

 

「其れの何処が御伽噺なんよっ!?俺の話だろ!明らかに!!!」

 

矢継ぎ早のようにボケを繰り出す仲間たちを相手にソウテンは突っ込み疲れ、肩で息をするように荒い息を口から吐く

すると、肩を叩かれ、背後を振り向くとキリトとディアベルが暖かい眼差しを向けていた

 

「テン。立派になったな、親友として嬉しいぞ」

 

「全くだ。しっかりとロトくんを育ててやるんだぞ」

 

「おめぇさんらは俺の親か。ったく……ここじゃ、うるさくて話も出来ねぇ……。ミトー、ロトと一緒に付いて来な。35層の家の方に行くから」

 

「分かったわ。ロトも一緒にいきましょうね」

 

「はーい!」

 

ロトはミトの言葉に聞き分けよく返事すると、彼女に手を引かれ、ソウテンの後を追う。その光景にキリトは人知れず、笑みをこぼす

 

「テン…。お前が幸せになるのを祈ってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第35層主街区ミーシェ ソウテンの自宅

 

此処は元々、彩りの道化(カラーズ・クラウン)のギルドホームとして、使用していたが拠点をアルゲードに移してからはソウテンの自宅となっている。と言っても、帰宅頻度が高い訳でも無いので、普段は空き家に近い

 

「ロト。今日から、ここがお前の家だ」

 

「ボクの?」

 

「そうよ。今日から、かーさんととーさん、それにロトの三人で暮らすのよ」

 

「わーい!ボクのいえー!」

 

「よかったな。っと……その前にだ、ロト。指を振ってみ」

 

年相応に喜ぶロトの頭を撫でながら、一応は彼の素性を確認しようと指を振るように促す。疑問符を浮かべながら、ロトが指を振るとアイテムウィンドウが現れた

 

「なるほどな……キリトとベルさんが言ってたようにロトは少し訳ありみたいだ」

 

「どういうことなの?テン」

 

「可視モードでステータスを見たら、分かる」

 

「分かったわ。………なんなのよ、これ」

 

ミトは自らの眼を疑った。本来、ステータスは三つのエリアに分けられており、最上部には名前の英語表示と細いHPバー、EXPバーがあり、その下の右半分に装備フィギア、左半分にコマンドボタン一覧という配置になっている筈だ

しかし、ロトのウィンドウにあったのは《Prototype-MHCP000》という奇妙な表記のみ、更にあるべき筈のHPバーとEXPバー、レベルの表示も確認できない

 

「ロトに指を振るように促したら、首をかしげた。こいつはバグというよりは元々がこういうデザインなんじゃねぇんかと俺は睨んでる」

 

「そんなことがあり得るの?」

 

「さあな。でもな、ミト。この世にあり得ない事はあり得ないんよ」

 

「何よ、それ。今度は誰の名言をパクったのよ」

 

「パクってねぇ。俺のオリジナルだ」

 

「とーさん、とーさん。パクリってなに?」

 

ロトが首を傾げ、興味津々に問いかける

 

「ロトは知らなくていいんよ」

 

「そうよ。とーさんみたいにバカになるから、知らなくていいのよ」

 

「バカじゃない」

 

「とーさんはバカなの?」

 

「バカじゃない」

 

「そうね、バカじゃない代わりに迷子よ」

 

「おい、余計なことを吹き込むのはやめてもらおうじゃないか」

 

新たにロトを加え、始まった新生活。ソウテンの周りは余計に騒がしさを増すのであった




ロトを加え、新たに始まった新生活。果たして、彼は何者なのだろうか…そんな時、アスナがストーカー被害に悩まされているとの依頼がソウテンの元に迷い込む

NEXTヒント 黒の剣士


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十七幕 黒の剣士と閃光の副団長

今回はキリアスをメインにしていきます。ですが!ソウテン達はやはりギャグ全開です!


2024年10月24日 第35層主街区ミーシェ ソウテンの自宅

 

「よっ、テンきち」

 

「ん〜……おお、アルゴ。久々だな」

 

ソウテンがリビングのソファに寝転び、寛いでいると、何時の間にか侵入していたアルゴが声を掛けてきた

 

「調子はどうダ?ミーちゃんと一緒に暮らしてルんだロ?それにダ、子どもが出来タとも聞いたゾ?」

 

「出来たというよりは拾ったの方が的確かな。つーか……どっから仕入れたんよ…」

 

「知りたいカ?別料金になるゾ」

 

「あーうん、言わんでも分かるから。んで?頼んどいた件はどうなってる?」

 

「言われた通り、調べてきタ」

 

そう言って、アルゴは不敵に笑う。ソウテン程ではないが彼女もこの笑みが売りの一つだ

 

「にしても、まさか攻略組の影の参謀とも言われてる道化師(クラウン)のテンきちが情報を横流しされるなんてナ。何かあったのカ?」

 

「まあな、そん時は色々とあってな。目先のことにしか、眼がいかんかったんよ。で……本題の方だけどよ」

 

「あいヨ。情報を横流ししてたのは血盟騎士団のクラディールって奴ダ」

 

「クラディール……あの赤いオッさん?」

 

「それは団長のヒースクリフだロ。攻略会議で最近、アーちゃんの隣に控えてるだロ?一人」

 

「アスナの隣………」

 

攻略会議の時の風景を頭に思い浮かべ、アスナの隣に控えているという人物を思い出そうと、ソウテンは考え込む

 

「はっ……まさか!クラディールってのは、置き物のことか!?」

 

「いやいや、そんな訳ないだロ。アーちゃんの隣に居る奴だヨ。でも、ちょっかいを出すつもりなら、気をつけた方がいいナ。ソイツ、ラフコフの生き残りらしい」

 

「そうか。忠告をサンキューな」

 

「んじゃ。要件はすんだみたいだから、オレっちはこれで失礼するヨ」

 

去り行くアルゴを見送り、ソファに寝転がり直し、欠伸を一つ。此処に居るのはソウテンのみで、ミトはロトを連れ、ダイシーカフェに足を運んでいる

 

「………あっ、ロトの正体が分かったんかを聞くの忘れてた」

 

やはり、頭の中は変わらず迷子なソウテンであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第50層主街区アルゲード ダイシー・カフェ

 

 

「エギルさん、エギルさん」

 

「おお、ロトじゃないか。ミトと一緒に買い物か?」

 

名を呼ばれ、入り口付近に眼を向けるとミトと手を繋いだロトの姿があった

彼は突如、現れ、ソウテンを父のように、その恋人のミトを母のように、慕う謎の少年だ。この数ヶ月間で、周囲からは二人の息子という存在に認識され、たまり場であるダイシーカフェの常連になっている

 

「うんっ!きょうはねー、なべのざいりょうをかいにきたー!」

 

「ほう、鍋か。それで?良い材料はあったのか?実際」

 

「うーん……なかったのよね、それが。ほら、前に食べた《ラグーラビット》って覚えてる?」

 

「ああ。覚えてる、覚えてる。美味かったなぁ」

 

「そう!そこよ!あのお肉を味わってから、私の味覚再生エンジンが何を食べても美味しいって感じないのよ!」

 

「なるほどな。だが、其れはテンの奴らにも言えることじゃないか?」

 

エギルの言葉にミトは軽くため息を吐き、呆れたような表情を浮かべる

 

「エギル。あのバカ達は、元から味覚再生エンジンにバグがあるような人ばかりなのよ?味に感心があるように見える?」

 

「………見えんな」

 

「でしょう?テンはまだしも、キリトなんか最悪よ。料理当番になると激辛フルコースを作るのよ……しかも、パスタオンリーの」

 

「なんだ、ミト。パスタを馬鹿にしたか?今」

 

噂をすれば何とやら、背後から聞こえた声に振り向くとキリトが立っていた

 

「子連れで来るような場所じゃないだろ。ここはゴミ溜めだぞ」

 

「おいコラ、誰の店がゴミ溜めだ」

 

「不景気でぼったくりなんだから同じだろ」

 

「おなじ」

 

「おっ、ロト。さすがは男だ、ここが如何に不景気なのかを分かって--ごばっ!?」

 

「キリト。うちの子に変なことを覚えさせないでくれない?殴るわよ」

 

「ず……ずび…ば…ぜ…ん」

 

御約束を見舞われ、床にキリトが倒れていると、またしても店内に一人の来客が来店する。彼女、アスナは床に伏せる見覚えのある少年に視線を落とす

 

「知ってる?キリトくん。床掃除は体じゃなくて、掃除用具が必要なんだよ?」

 

「これが掃除をしてるように見えるのか…?」

 

「見えないわ。おおかた、あれでしょ?ミトに叩かれたんでしょ」

 

「うっ……」

 

「やっぱりね。で?今度は何をしたの?キミ」

 

「ロトに変な言葉を教えようとしたのよ。ホント、信じられない」

 

「ふぅん?」

 

「な、なに…?アスナ」

 

にやにや、笑いながら自分の方を見るアスナの視線に気付き、ミトは彼女に問いかける

 

「べっつにー?ミトがしっかりと母親してて、幸せそうだとか思ってないわよ?でも、良かったわねぇ。テンくんとお幸せにね」

 

「………あ、ありがと」

 

「ありがとう」

 

「ロトくんは素直だね。それで?キリトくんは此処に結局、何をしに来たの?」

 

「あっ……そうそう、こいつの買い取りを頼みにきたんだ」

 

思い出したように、キリトはウィンドウを可視化させ、ミト達に見えるように公開する。其処には正に渦中の話題である食材の名が記されていた

 

「ラグーラビットの肉っ!?こんな高級食材をどうやって!」

 

「運だな。森を歩いてたら、見つけたんだ。偶然」

 

「なるほど。では、僕が預かりましょう」

 

「其れは駄目だ……って!ヴェルデ!?」

 

隣から聞こえた声に応えつつ、キリトが視線を動かすと眼鏡を、くいっと、上げながら、ヴェルデが立っていた。その近くにはバナナジュースを呑むグリス、焼き鳥を頬張るヒイロとシリカの姿がある

 

「何時からいたのよ?貴方たち…」

 

「ロトがエギルを二回呼んだ辺りから」

 

「ああ、その時ね……って!最初からじゃないの!」

 

「気にすんなよ、ミト。ほら、バナナでも食うか?美味いぜ?何せ、こいつは俺が育てた最高品質のバナナだからな」

 

「ゴリラは黙ってて」

 

「誰がゴリラだ。表に出ろや」

 

「嫌よ、寒いじゃない」

 

隣で騒ぐグリスを受け流し、キリトの方に視線を向ける。彼はアスナを相手に何やら、話し込んでいる

 

「私の家に来る?其れを提供してくれるなら、料理してあげても良いわよ」

 

「ま、マジですか。じゃあ……お願いしようかな。最近、ミトの味付けにも飽きてきたとこだったんだ」

 

「キリト。貴方はまた叩き込まれたいの?」

 

「滅相もございません」

 

ミトが鎌をちらつかせると、素早い反応でキリトは伝家の宝刀である土下座を繰り出す。一方で、アスナは自分の背後に控える一人の男に向き直る

 

「今日はこのまま帰るので、護衛はもういいです。お疲れ様」

 

「お待ちくださいアスナ様。こんなスラム街に足を運ぶだけにとどまらず、素性の知れない者をご自宅に伴うなど、とんでもない事です……!」

 

「素性の知れないって……彼は攻略組のギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》所属の黒の剣士よ。あなたよりも頼りになるわ」

 

「頼りになります」

 

「見てください、キリトさんが調子に乗ってますよ」

 

「ぼっちだからな。女に褒められて舞い上がってんだよ」

 

「なるほど。これだから、ぼっちは」

 

「でもでも、リーダーさんとミトさんとはまた違った関係ですよね。キリトさんとアスナさんは」

 

「かーさん。キリトはぼっち?」

 

「そうよ。だから、ロトはいっぱい友達作るのよ?」

 

「うん」

 

「おいコラ、人が話してる横でぼっち呼ばわりするんじゃない」

 

護衛の男、クラディールとアスナが話す横でキリトはミト達と何時ものやり取りを繰り広げる。其処に、彼は例によって、姿を見せた。極自然に、何時もと変わらぬ、不敵な笑みを携えて

 

「クラディールさんとやら。今日は俺に免じて、許してやってくれねぇか?」

 

「何者だ!いきなり現れたかと思えば!私とアスナ様の会話に横入りするなど、恥を知れ!この無礼者!!!」

 

「ちょっと!彼は私の親友の恋人よ!そんな言い方はやめてもらえない?!」

 

「アスナ様は騙されているんです。考えても見てください、このような場所を溜まり場にし、あのような胡散臭い仮面を付けているような男です。碌でもないヤツに違いありません。ミトさんとか言いましたね、この男にどのような弱みを握られてるかは知りませんが、相手は選ぶべきですよ」

 

「…………なんですって?」

 

「ですから、相手を選ぶべきと言ったんです。おおかた、碌でもない人生を送ってきたヤツですよ。どうです?そんなふざけたギルドを辞めて、いっそのこと、我が血盟騎士団に入られては?」

 

「………ふんっ。お断りよ」

 

クラディールの失礼な物言いにミトは鼻を鳴らし、外方を向く。流石のアスナも我慢が限界に達したのか、彼を睨みつける

 

「ともかく、今日はここで帰りなさい!副団長として命じます!!」

 

アスナがそう命じると、クラディールは店を後にしたがソウテンは気付いていた。彼の持つ刺すような視線が生み出す殺気に。数分後、アスナとキリトが店を出たのを確認し、口を開く

 

「魚が釣れたな」

 

「魚?何の話?テン」

 

「気にすることねぇさ。んじゃ、飯でも食いに行くか。ほれ、お前らも行くぞー」

 

「ちょっ!テン!待ちなさいよ!」

 

「リーダーの奢りですか。それでは盛大に懐石料理のフルコースと洒落込みましょう」

 

「焼き鳥屋でフルコースも捨てがたい」

 

「あたし、デザートにチーズケーキが出るお店を希望します」

 

「んじゃ、俺は美味いバナナが食えるってとこだ」

 

「ピーナッツバターがおいしいとこがいい」

 

「バカヤロー、誕生日でもねぇのに贅沢しようとすんな。普通のレストランに決まってんだろ。あと、ロトよ。流石は俺の息子だな、ピーナッツバターの良さが分かるとはな」

 

「はぁ……バカばっかり…」

 

普段通りのソウテン達に対し、ミトは呆れたようにため息を吐くのであった




本来のクラディールよりもムカつく感じに仕上げてみました。次回に続きますから、楽しみにしておいてください

NEXTヒント レイドパーティ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十八幕 紫の死喰い

前回の続き!今回の見どころは…新キャラですね!すばり!


2024年10月18日 第50層主街区アルゲード

 

 

「何か食わしてくれー」

 

アルゲードの路地裏。雑踏の多い、街中とは正反対に物静かで、人気の無さが目立つ。しかしながら、此処には主街区とは違った趣きの店が立ち並ぶ

 

「賑やかな声が聞こえると思ったら……やっぱり、テンちゃんだったのね」

 

中でも殺風景な佇まいの店の暖簾を掻き分け、中に入ると女性が苦笑気味に出迎える

 

「久しぶりね。メイリンさん」

 

メイリン、そう呼ばれた女性はミトに挨拶され、笑顔を浮かべる

 

「ええ、ミトちゃん。お久しぶり」

 

「メイリンさん。俺、いつもの。焼き鳥を大量に入れて」

 

「僕もいつものをお願いします。らっきょうましましのやつを」

 

「俺もバナナましましで頼む」

 

「分かったわ。テンちゃんも何時ものヤツよね?」

 

「もちろん。ピーナッツバターたっぷりで頼む」

 

「ミトちゃんはどうする?」

 

「じゃ、私はいつも通りにメイリンさんのオススメをお願い」

 

「かしこまりました」

 

軽く会釈をすると、厨房に向かうメイリン。その姿に彼女を知らないシリカは首を傾げ、隣に座るミトに問いかける

 

「ミトさん。ここの店長さんとお知り合いなんですか?」

 

「そうね。リアルを含めると六年くらいは付き合いがあるわ」

 

「えっ!リアルでも!?明らかに普通の人が来るような店じゃない気がするんですけど……だって、普通に考えて、中華料理店ではありえない言葉が何個か飛び交ってましたし」

 

「ああ、確かに。普通はあり得ないわよね。でも、此れがメイリンさんの方針なのよ。お客様の要望には何があっても応えるって言うね。試しにシリカちゃんも注文してみたら?」

 

「そ、それなら……あの!」

 

「はいはい……あら?新顔さん?」

 

「あっ、はい!あたし、つい最近、ギルドに入ったシリカです!」

 

「シリカちゃんね。覚えたわ」

 

「ありがとうございます。あの、注文構いませんか?」

 

「ええ、どうぞ」

 

真剣な面持ちのシリカを見ながら、メイリンは片手で鍋を振るい、もう一方の手で湯切りをし、笑顔を浮かべ、彼女の注文に耳を傾ける

 

「チーズケーキを一つ」

 

「チーズケーキ……分かったわ、少し待っててね」

 

「えっ……!中華料理店なのに、あるんだ…」

 

「シリカ。そりゃあ間違いだ、ここは中華料理店じゃねぇんよ」

 

「ん?どういうことですか?リーダーさん」

 

「看板を見てみ」

 

ソウテンに促され、店の外に掲げられた看板をシリカが確認すると、其処にはポルトガル語で《何でもあり》を意味する《Vale tudo》の文字が刻まれていた

 

「………名前がすごい」

 

「そういうこと。だから、何でもあるって訳なんよ」

 

「ロトは何を食べたい?」

 

「えっと、えっと……とーさんとおんなじの!」

 

「うんうん。流石は俺の息子」

 

「はぁ…息子が迷子亭主(バカテン)の悪影響を受けてる……」

 

ソウテンの影響で、確実にピーナッツバターの味に魅力されつつあるロトの味覚をミトは嘆いていた

 

「お待ち!ピーナッツバターそば!バナナうどん!焼き鳥炒飯!カレーパスタ!チーズケーキ!そしてオススメのパイナップルご飯!」

 

「あたしのチーズケーキ以外にマトモなのが一つもないんですけど……!?」

 

「うんうん、やっぱり蕎麦にはピーナッツバターだな」

 

「聞いたことありませんよっ!?そんな蕎麦!」

 

「かっー!うどんにはやっば!バナナが一番だな!いつ来ても、この店は最高だぜ!バナナうどんが食えるのはここしかねぇからな!」

 

「ゴリラですもんね」

 

「誰がゴリラだ!?チーズケーキ女っ!」

 

「なっ!チーズケーキをバカにしないでください!チーズケーキはすごいんですよ!いいですか!チーズケーキはですね!」

 

「焼き鳥と炒飯…これぞ、最強のコラボレーション」

 

「ヒイロくんは焼き鳥がホントに大好きですね。まぁ、僕のカレーパスタには劣りますが」

 

「ほら、ロト。パイナップルご飯よ」

 

「パイナップル?おいしいの?かーさん」

 

「美味しいわよ」

 

料理に舌鼓を打ち、何時ものやり取りを繰り広げる面々。すると、扉が開き、珍しい組み合わせの三人が来店する

 

「いらっしゃーい!……って、あら?貴方は確か…」

 

「く、クラインです!メイリンさん!」

 

アマツ、ディアベルの二人を引き連れたクラインは笑顔のメイリンを相手に興奮気味に答える

 

「そうそう、クラインさん。何時もので良いかしら?」

 

「はい!いつものパイナップルご飯定食を!」

 

「承りましたっと……それで?アマツくんとディアベルさんは何にする?」

 

「俺はにぎり寿司をもらおう」

 

「じゃあ、俺は蕎麦にしようかな。あっ、ピーナッツバターは無しで」

 

「かしこまりました」

 

カウンターに座り、料理を作るメイリンの後ろ姿を眺めるクライン。その姿にソウテン達の第六感が発動した

 

「メイリンさん。そーいや、メイリンさんの男の好みって、どーいうんだった?」

 

(なにっ!?め、メイリンさんの好み!?ナイス質問だぜ!テン!)

 

「そうねぇ…私の料理を美味しく食べてくれるなら、どんな人でも良いわ」

 

「ほう…それではクラインさんはいかがですか?彼は攻略組ギルドの一つである《風林火山》を率いるトッププレイヤーですよ」

 

「あら、そんなにすごい方だったの?クラインさんは」

 

「ええまあ…」

 

「そうねぇ…じゃあ、今度一緒にお食事でもする?良いお酒を出すお店があるのよ」

 

「そ、それは……テン達も一緒だったり?」

 

「ううん、二人でよ」

 

その言葉と笑みに、クラインは口から心臓が飛び出そうな勢いで席を立ち上がり、食い気味に彼女に詰め寄る

 

「いかせていただきます!」

 

「うんうん。良かったな、クライン」

 

「でかした!クライン!バナナやるよ」

 

「む…盛り上がっているところ、あれだが…キリの字はどうした?姿が見えんな」

 

クラインに祝福を送る中、アマツが違和感に気付き、問いかける。辺りを見回せば、ソウテン達と騒ぐ見慣れた黒の剣士が居なかったからだ

 

「ああ、キリトはアスナの家で手料理をご馳走になってるわ」

 

「なにぃ〜!キリトのヤロー!羨ましいことしやがって!」

 

「これはアレだな……焼き討ちに行くか」

 

「ヤツの居場所を知る者は?」

 

「お任せください。抜かりなく」

 

「血祭り」

 

「転移結晶を準備しておいた。使ってくれ」

 

「さすがはディアベル。用意が良いな」

 

「やめなさいっ!!バカどもっ!」

 

『ごぶっ!』

 

ソウテン達の頭上に御約束()が振り下ろされ、シリカは呆れたようにため息を吐き、メイリンは苦笑する

 

「全く……」

 

「いつも通りですね…」

 

「賑やかね」

 

「にぎやかー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2024年10月19日 第74層主街区カームデット

 

 

「さぁ、アスナ様!ギルド本部に戻りましょう!」

 

「嫌よ!今日は活動日じゃない筈よっ!!!」

 

現在、転移門広場で口論を繰り広げるのは血盟騎士団が誇る副団長のアスナと、彼女の護衛であるクラディール。その間に挟まれるように立つキリトは疲れ切った表情をしている

 

「おろ?キリト。辛気臭い面がいつにも増して、辛気臭いがどしたんよ?」

 

「ああ……テンか。それがな、聞いてくれよ」

 

「おーい、おめぇさんたちー。見てみろよー、キリトが死にかけのフレンジーボアみてぇな顔してんぞー」

 

「ってコラァ!聞けよ!そもそも!誰が死にかけのフレンジーボアだ!」

 

「死にかけのゴリラならよく見ます」

 

「いるね、俺の隣に」

 

「バナナ食べますか?ゴリ……グリスさん」

 

「おいコラ、誰がゴリラだ。チビども」

 

そのやり取りの間も、アスナとクラディールの会話は続き、見守っていたミトの表情が変化を始めた

 

「ふぅ……クラディールとか言ったわね?私の親友に付き纏うんなら、容赦はしないわよ…。言っとくけど、私も《ビーター》よ?貴方が嫌いなね」

 

「ふんっ。それが何だ?そもそもだ、そこに居る仮面の奴は討伐作戦で多くの命を奪ったらしいじゃないか?道化師(クラウン)というよりも、殺じ---ひっ!」

 

全てを言い切る前に、ミトの鎌がクラディールの眼前を横切った。犯罪防止コードに阻まれ、直撃は免れた

 

「何も知らないくせに…テンを悪く言わないで。彼への侮辱は私への侮辱よ、それにアスナは私の親友よ。決して、貴方には渡さないわ」

 

「ミト…」

 

「大丈夫よ、アスナ。今度は絶対に貴方を助けるわ。だって、守るって…約束したから」

 

そう言って、メニューウィンドウを操作し、ミトはデュエル申請をクラディールに送り付けた

 

「キリトくん、テンくん。ミトは大丈夫よね?」

 

「ああ、もちろん。ミトは負けないよ」

 

「キリトの言う通り。守るべきもんの為なら、ミトは何処までも強くなれる……俺が惚れたのはそういう、カッコいい女だ」

 

今、親友の自由を取り戻す為に、《紫の死喰い》は鎌を携え、不敵に微笑む。その(プライド)を狩り取る為に

 

「貴方の(プライド)、へし折ってあげるわ」




ミトvsクラディール、彼女は果たして、親友の自由を取り戻せるのか!

NEXTヒント ピクニック


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十九幕 プライド

前回の続きです、前半は割とシリアス!ですが後半はギャグ満載になっております


2024年10月19日 第74層主街区カームデット

 

 

「貴方の(プライド)、へし折ってあげるわ」

 

決め台詞を放つと同時に地を蹴り、クラディールへと迫る。手に持つ鎌は《クリスタライト・インゴット》を素材にリズベットが鍛えた最高級の鎌、その名を《ソウルスピリット》、ソウテンの《竜槍ナーガラージャ》にも並ぶ魔剣クラスの武器である

 

「御覧ください!アスナ様!私以外に護衛の務まる者がいない事を証明しますぞ!」

 

「やれやれ…分かってねぇみたいだな。おめぇさん」

 

「なに?貴様、誰にものを言っている!私は血盟騎士団のメンバーだぞ!貴様風情が馴れ馴れしく話し掛けて良い存在ではないっ!」

 

「おっと、そいつは失礼。だがよ?おめぇさんの相手は俺じゃねぇ……余所見はしねぇことだ」

 

「は?なに--ぐっ!?」

 

仮面越しに不敵に笑うソウテンの方に視線を向けていたクラディールの眼前を鎌が横切った。僅かに反応が遅れるも、回避に成功し、剣を中段やや担ぎ気味に構えた前傾姿勢に構える

 

「ごめんなさいね?余所見をしてたから、デュエルのカウントが始まる前に不意打ちしそうになったわ」

 

「卑怯者め…」

 

「そうね、私は卑怯者かもしれない……でも」

 

カウントがゼロになり、同時に地を蹴り、ソードスキルを発動させる。システムアシストにより、加速された体に同調するように引き伸ばされる時間感覚の甲斐もあり、迫るクラディールの、勝利を信じて疑わない表情がミトの目に焼き付くように映る

 

「だったら、その卑怯者に負ける貴方は……一体、何者なのかしらね」

 

剣の中央に両手鎌上位ソードスキル《レヴェレーション》を叩き込む。刹那、甲高い金属音が響き、折れた剣が地に刺さり、ポリゴンに姿を変える

 

「ば、バカな……認めない……認めない!私は負けてない!!!がああぁぁ!」」

 

「っ!」

 

想定していなかったクラディールの突進に、反応が遅れる。彼の手にはダガーが握られ、向かう先はミトの心臓、流石に不味いと感じ、飛び退こうとした彼女の前に、その青いマフラーは棚引いた

 

「敗北を認めるも、認めないもおめぇさんの自由だ。だから、勝敗に関しては、何も言うつもりはねぇ。けどな……いいか?俺は自分を貶されようが、馬鹿にされようが、大抵のことは笑って許してやる。その方が楽で良いからな……でもな、仲間たちを傷付けるのだけは許さねぇ。其れが分かったなら、俺の気が変わらん間に失せろ」

 

「ひっ!!」

 

「クラディール。本日、現時刻をもって護衛役を解任。以後、別命あるまでギルド本部にて待機。以上です」

 

「くっ…!転移……グランザム」

 

ソウテンの脅しにも似た発言、アスナからの冷たい響きの言葉に彼は血盟騎士団本部があるグランザムに転移し、決着が着いた

 

「ちょいちょい、ベルさん」

 

その去り際に感じた殺意が宿る眼を見逃さなかったソウテンはディアベルに手招きする

 

「どうした?テン」

 

「あのクラディールってヤツについての詳しい情報が欲しいんよ。調べてもらえるか?」

 

「別に構わないが……何かあるのか?ヤツは」

 

「アルゴの話では、ラフコフに情報を流してたのはアイツらしいんよ」

 

「なるほど……分かった、調べてみるよ」

 

ディアベルはそう言い残し、ギルドホームがある第50層に転移した。あの街は情報が集まりやすく、ありとあらゆる人が集う場所。故に情報収集には打って付けである

 

「さてさて、さくっと迷宮区に行くとするか」

 

「迷宮区で迷子になるなよ。ただでさえ、迷子なんだからな」

 

「迷子じゃない」

 

「迷子だろ」

 

「迷子ですね」

 

「迷子」

 

「迷子ね」

 

「迷子よね」

 

「迷子じゃない!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第74層迷宮区

 

 

「あらよっと」

 

現在、迷宮区を進むソウテン率いる彩りの道化(カラーズ・クラウン)の面々とアスナは広い回廊を進んでいた

次々に現れるモンスターを相変わらずのコンビネーションで倒し、着実に前に進む

 

「にしてもミトがあんなに怒るなんてな」

 

「ああ?ミトは普段からあんなだろ」

 

「グリス。脳天かち割るわよ」

 

「まあまあ、落ち着きな。ミトが怒るのも無理ねぇさ、大事な親友にあんなのが付き纏ってんだ。そりゃあ、怒るだろうよ」

 

「私が怒った理由は其れだけじゃないわ。アイツ、テンを侮辱したのよ」

 

「ソイツに関しては気にしてねぇな。侮辱はいつもされてるし」

 

そう言いながら、ソウテンは背後のキリト達を横目で見る。暫く経つと迷宮区の最上階に辿り着き、目の前に扉が現れる

 

「………完全にそうだよな?これ」

 

「間違いなく……そうだと思う」

 

「ボス部屋ね。ここはしっかりと対策を考えるべきだわ」

 

「いっちょ、入ってみるか。そいじゃ」

 

『って!なにやっとんじゃあっ!!このバカリーダーっ!!!』

 

重苦しい雰囲気に包まれるミト達とは裏腹に、相変わらずのソウテンは普通にボス部屋へ足を踏み入れる。全員から突っ込みが飛ぶも、部屋の中に青い炎が灯った

すると、連鎖するように、手前から奥へ向かって次々と大きな燭台に炎が灯っていき、青い炎に照らし出された巨躯が、部屋の中央に鎮座しているのが視界に入る

 

「グルルゥゥ……」

 

「あ……あれは…………巨大なヤギっ!?」

 

『ボスだろっ!!!どう見ても!!!』

 

「ゴアアアァァァァ!!」

 

右手に持った両手用の大型剣を振り上げ、ボスが向かって来る

 

「て、撤退!てったあぁぁい!!」

 

「敵前逃亡か。俺的には好ましくねぇ転回だな」

 

「非常時にバカなことを言わないの!さっさと逃げるわよ!」

 

「ズラかるぜ!」

 

「トンズラしましょう」

 

「あの肉…美味そう」

 

「ヒイロくん!?食べ物より命を優先しなきゃダメよ!」

 

ボス部屋から撤退し、安全エリアまで退避したのを確認した後、誰もが一息を吐くように軽く息を吐いた

 

「ふぅ……死ぬかと思った」

 

『お前のせいだろっ!!バカリーダー!』

 

「へぶっ!?」

 

キリト達の鉄拳がソウテンに飛んだ。その様子にミトは苦笑し、アスナもため息を吐く

 

「それにしても、あれは苦労しそうだね。ミト」

 

「ええ、見た感じは大型剣一つの武装だけど……特殊攻撃はあると踏んでいいわ」

 

「しっかりと見たわけではありませんが、尻尾に蛇が見えたような気もします」

 

「ということは背後からの攻撃も油断しない方がいいね」

 

「その通りです。ヒイロくん」

 

「盾装備の奴が十人以上……最低でも二パーティーくらいは必要になるな」

 

「驚きました。ゴリラなのに計算が出来たとは」

 

「ビックリした」

 

「ゴリラじゃねぇ!」

 

「「えっ」」

 

「真顔で驚いてんじゃねぇっ!!」

 

真顔で驚愕するヴェルデとヒイロにグリスの突っ込みが飛ぶ中、ミトがじろり、とソウテンに視線を向ける

 

「盾装備といえば…私、気になることがあるのよ」

 

「ん?なに?」

 

「テンの槍って両手槍じゃないわよね?最近、片手で槍を使ってるし」

 

「うっ……あははー、気のせいじゃねぇかな?それは」

 

「ホントに?私の眼を見て、同じ事を言える?」

 

「まあ、時が来りゃあ……教えるよ」

 

「そっ、なら良いわ。ここでご飯にでもしましょう」

 

煮えきらないソウテンに軽くウィンクした後、ミトは手際良くストレージを操作すると得意の鍋に使う食材を取り出す

 

「ミト。約束してたモノ、持ってきてるよ」

 

「ありがと、アスナ。喜びなさい?今日は醤油ベースよ」

 

「なにっ!醤油ベース!よし、俺はパスタ開発の過程で生み出したこの辛そうで辛くないが実は辛すぎて辛さも超越して味の判別が出来ない辣油を入れよう」

 

「んじゃ、俺も限り無くピーナッツに近いが実はバターの風味の方が強いピーナッツバターを入れよう」

 

「なら、俺は最近、知り合ったバナナ農家のおっさんに貰った新種のアインクラッドバナナを入れるぜ」

 

「では僕はカレー粉に限り無く似ているよく分からない粉末を入れましょう」

 

「焼き鳥のねぎまのネギの部分を入れる」

 

「やめなさいっ!!バカどもっ!」

 

『ごぶっ!』

 

「結局、いつもと同じで一つもマシな食材が入ってないじゃない!!」

 

ソウテン達の頭上に鎌が振り下ろされ、アスナは苦笑を浮かべる

 

「ミト……。えっと…ご苦労さま」

 

「はぁ…全くもう……」




次回はみんな大好きコーバッツさん登場!な、なんと!彼とグリスには意外な繋がりが……!

NEXTヒント ユニークスキル


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十幕 バナナ農家

コーバッツさん登場!しかーし!この作品ではコーバッツさんも常識人です!いや、常識ってなんだっけ?


2024年10月19日 第74層迷宮区

 

 

「うーむ……醤油ベースなのに味が悪いな。何故だ?」

 

「やっぱ、バナナが足りてねぇんじゃねぇか?」

 

「其れは無いかと。しかし、迷宮区に来てまで、鍋を囲むことになるとは……世も末ですね」

 

「どうだ?ヒイロ。味の方は」

 

「グリスさんの鼻の穴みたいな味がする」

 

「おやまぁ、最悪じゃねぇの」

 

鍋を囲み、代わり映えしない会話をするソウテン達。その様子を見ていた、ミトとアスナは、ため息を吐いている

 

「はぁ…ホントに……毎回毎回……結局はこうなるのよね……」

 

「えっと……どんまい?」

 

「下手に慰めなくてもいいわ…。でも、ありがと。アスナ」

 

アスナの気遣いにミトが礼を述べていると、下層側の入り口からプレイヤーの一団が鎧を鳴らしながら、進行してくるのが視界に入った

 

「おお、コント集団!昨日の夜中振りだな!また鍋してんのか?好きなだなぁ、おめぇらも」

 

「おー…………………クライン。久しぶりだな」

 

「おいコラ、妙なタイムラグが無かったか?今。一瞬、俺を忘れてたよな?明らかに」

 

「そ、そんな訳ないじゃ無いですか」

 

「嘘吐けェ!敬語になってんじゃねぇか!!………ん?ミト、おめぇの後ろに居る人………は……ま、まさか…」

 

「ん?ああ、彼女のこと?紹介しておくわ。彼女は私の親友であり《血盟騎士団》副団長のアスナよ。アスナ、この人は」

 

「初めまして、俺はギルド---」

 

「烏合の衆のリーダーで」

 

「野武士面が特徴的なことで有名な」

 

「赤いバンダナの変なオッサンと呼ばれる」

 

「髭面の」

 

「クラインさんです」

 

「ってコラァ!ヴェルデ以外のバカどもっ!マトモな紹介をしやがれ!ていうか、誰のギルドが烏合の衆だ!ウチは《風林火山》だ!!」

 

矢継ぎ早のように罵倒の嵐を繰り出すヴェルデ以外の面子にクラインが突っ込みを入れる。刹那、彼の肩を誰かが叩いた

 

「気にするんじゃ無い。侍風の御仁よ、気晴らしに私が作ったバナナを剥きたまえ。良い気晴らしになるぞ」

 

そう言って、バナナを差し出してきたのは金属鎧を装備した一人の男。見慣れない風貌の彼に誰もが首を傾げる

 

「おう、こいつはすま---って!誰だよ!アンタは!!何で知らない奴が持参したバナナを食わなきゃいけねぇんだよ!?」

 

「バカモノ!誰が食べていいと言った!剥くだけだ」

 

「どういう儀式だよ!?」

 

「ああ、すまん。もう食っちまった」

 

「「早っ!?」」

 

「ん?あれ?どっかで見たと、思ったら……バナナのオッさんじゃねぇか?久しぶりだなーっ!」

 

グリスが驚いたように眼を見開き、男に声を掛けると彼も気付き、近寄っていく

 

「君は確か何時ぞやのバナナ好きな少年じゃないか」

 

「おう!元気そうだなー!オッさん!」

 

「当然だろう。何せ私は、バナナ農家だからな。バナナの為ならば、何時も元気フルパワーだ」

 

「だよなー!」

 

「グリス。おめぇさんの知り合いか?」

 

「おう!俺が贔屓にしてるバナナ農家のオッさんだ」

 

「よろしく。ところで君たちは此処で何を?私は仲間と遠征に来たのだが……む?私の部下が居らんな」

 

「隊長ぉ!勝手にいかないでください!」

 

男性が背後を振り返ると、鎧を着たプレイヤー達が走ってきた。戦闘を走る男が呼ぶと男性はしかめ面を浮かべる

 

「何おうっ!?遅れておいて、私のせいにするとは何事だ。全くけしからんな」

 

「いやいや、隊長が先々行くからじゃないですか!」

 

「バナナの芳しい匂いがしたものでな」

 

「バナナ好きも大概にしてください、バナナオヤジ」

 

「貴様ぁ!バナナをぐろうするつもりか!」

 

「バナナ舐めんなっ!」

 

「いや!誰キミ!」

 

「むっ、彼は私のバナナフレンドだ。えっと……名前を何と言ったかな?」

 

「グリスだ。で、オッさんは何者なんだ?ただのバナナ農家じゃねぇみてぇだけど」

 

「私か?私はコーバッツだ。見ての通り、バナナ農家だ」

 

「いや、違うでしょ。アインクラッド解放軍の中佐ですよ、アンタは」

 

「というか……どれだけ、互いを知らないんですか?御二方は」

 

「バカだろ、バカなんだろ。お前ら」

 

「さすがはゴリラ。類友ってヤツだな、こりゃ」

 

コーバッツ、そう呼ばれた男性はグリスと互いのストレージから取り出したバナナを交換し、固い握手を交わす

 

「ところで……見たところ、其方の青い服の御仁は道化師(クラウン)殿とお見受けする」

 

「ああ、そうだけど。それがどうした?」

 

「貴殿の噂はキバオウさんから聞いている。何でも大変、頭の切れる人だと」

 

「いやぁ、そんな頭が切れるなんて大袈裟に言ってるだけだって。キバオウの旦那が思ってる何倍も俺は頭良くねぇよ」

 

「迷子の達人だけどな」

 

「ピーナッツバターバカだけどな」

 

「足臭い」

 

「ミトさんの尻に敷かれていますがね」

 

「シバくぞ?おめぇさんたち」

 

飛び交う悪口の嵐に、ソウテンは顳顬をヒクつかせる

 

「君たちはこの先のボス部屋を見たのか?」

 

「見た、ぶっつけ本番でどうにかなる相手じゃねぇ。次いでに言うが、データを提供しろって言うのは無しだ。こっちにも事情があるんでな」

 

「その点は心配無用だ。私とて、マッピングの苦労は理解している。しかしだ、我々にも果たさねばならない義務がある。故に頼みたい、力を貸してもらえないだろうか?道化師(クラウン)殿」

 

「…………分かった」

 

「ほ、本当か!?」

 

「キバオウの旦那には第一層での恩があるからな」

 

「ありがとう!」

 

仮面越しに微笑するソウテンにコーバッツは何度も頭を下げる

 

「良かったな!オッさん!」

 

「ああ!君にも期待しているぞ!グリスくん!」

 

「おうよ!寝かせとけ!」

 

「任しとけだろ。寝てどうすんだよ」

 

「相変わらず、言葉を知らんなぁ。おめぇさんは」

 

「うっせぇっわ!!!ぼっちに迷子が!!!」

 

「「んだとコラァ!!ゴリラ!」」

 

「やんのか!」

 

「やめなさいっ!!バカトリオっ!」

 

『ごぶっ!』

 

三人の馬鹿の頭にミトが鎌を叩き込む。その様子を笑いながら見守るアスナ達の横ではコーバッツが苦笑を浮かべる

 

「うーむ……頼る相手を間違えたか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻 第74層ボス部屋

 

 

「えー、そんじゃあ。簡単な作戦会議を始めます。先ずは対策としては」

 

「クリフト使うなでいいんじゃないか?」

 

「クリフトって誰よ!?」

 

「クリフトはあの有名なゲームで魔王を相手に回復魔法を掛けてしまううっかり屋さんです。つまりはリーダーのようなアホですね」

 

「誰がクリフトだ」

 

「なら、クリフトにガンガン行こうぜを軸にやって行こう」

 

「おいコラ、なんでクリフトにガンガン行くんだ。邪魔者扱いすんじゃねぇよ。いいか?俺とビアンカの息子はな、天空の勇者に---ぎゃぁぁぁぁ!」

 

熱弁するソウテンの眼前を鎌が通り過ぎる。一瞬の出来事であったが、瞬時に飛び退き、冷汗を掻きつつ、その鎌の柄を握る人物に視線を向ける

 

「ごめんねー、ちょっと素振りをしてたら、手元が狂っちゃったわ」

 

「いやいや!的確に俺を狙ってたろ!」

 

「そんな事ないわよ?別にゲームのヒロインとは言え、ビアンカにヤキモチを焼いたから、貴方にお仕置きしようなんて微塵も思ってないわ。ソウテンくん」

 

「嘘吐けェ!明らかに距離を置いてんじゃねぇか!」

 

「別に距離なんか、置いてませんよ。道化師さん」

 

「敬語になってんよな!?すいません!俺が悪かった!何でもするから!」

 

「何でも………?ふぅん、何でもかぁ。何をしてもらおっかなー」

 

「………しまった」

 

夫婦漫才を繰り広げるソウテンとミト。彼等を他所にキリト達は意を決し、ボス部屋の扉を開く

 

「行くぞ!」

 

『了解!』

 

中に足を踏み入れると、≪ザ・グリーム・アイズ≫がその眼を光らせ、右手に持った両手用の大型剣を振り上げる

 

「ゴアアアァァァァ!!」

 

「コーバッツ達はタンクを頼む。タゲ取りはグリスとヒイロな」

 

「任せろってんだ!行くぜ!ヒイロ!」

 

「分かった」

 

「ヴェルデは後方で情報集めをしながら、タイミングを見極めてくれ。そのタイミングが来たら、俺とキリトがLA(ラストアタック)を決めるために……“例のアレ(ユニークスキル)”を使う」

 

「お任せください」

 

ソウテンの指示に従い、其々が得物を構える。第75層ボス攻略が幕を上げる、本来とはかけ離れた小規模のレイドパーティという形で。

 

「派手に行くぜっ!野郎ども!」

 

『了解!リーダー!!』

 




ボスに挑むソウテン率いる小規模レイドパーティ!しかし、その強さに翻弄される!その時、不敵な笑みと共に、道化師は…?

NEXTヒント 雨


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十一幕 青眼の悪魔

戦闘模写です……苦手故にいつもよりは短めになっております
尚、ユニークスキルが登場しますが独自解釈なので、公式のとは違いがあるやも知れませんがご了承ください


2024年10月19日 第74層迷宮区

 

 

「派手に行くぜっ!野郎ども!」

 

『了解!リーダー!!』

 

ソウテンの号令と共に一斉にキリト達が全速力で駆け出す。同時にボス≪ザ・グリーム・アイズ≫が、振り上げた大型剣を振り下ろす

 

「アスナ!」

 

「分かってるわ!ミト!」

 

アスナ、ミトは振り下ろされた大型剣を咄嗟にステップで躱す。入れ替わるように後方から、三つの影が飛び出す

 

「「スイッチ!」」

 

「あいよ」

 

「ぶちかますぜっ!バナナの力を思い知れ!」

 

「いや、バナナの力ってなんだよ」

 

ボスを前に軽口を叩き合いながらも、ソウテンが槍ソードスキル《フェイタル・スラスト》で、強烈な突きを繰り出すと無数の衝撃波が発生し、僅かにグリームアイズが怯む

その僅かな隙を狙い、空かさず、グリスがハンマーソードスキルの《ミョルニルハンマー》で、真上から三連続で叩き付け、キリトが片手剣ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》で、水平四連撃を放つ

 

「ヒイロ!スイッチ!」

 

「任せて」

 

グリームアイズの斬馬刀を受け流し、後方のヒイロが入れるだけのスペースを作り、彼を呼ぶと持っていた曲刀が派生したブーメランを投擲。同時にアスナが細剣ソードスキル《スター・スプラッシュ》を放ち、追随するようにミトが鎌上位ソードスキル《アポカリプス》を放つ

グリームアイズのHPは着実に減少しているが、微々たるダメージしか与えられていない。《風林火山》メンバーは状況判断中のヴェルデを守る為に彼を取り囲み、(タンク)役のコーバッツ隊も、役割を果たそうとしている

 

「ちっ…!どんだけ威力あんだよっ!?」

 

「分が悪い……」

 

重くのし掛かるような剣技は先読みが出来ず、僅かに掠めるだけであっても、HPバーが半分近く削られる。攻撃特化に長けた《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々ではあるが、全体的に最大的な火力が欠けている。しかし、何もしなければ、致命傷に近いダメージを与えられるだけだ

 

「リーダー!キリトさん!」

 

「あいよ。クライン!」

 

「な、なんだ!テン?」

 

「十秒だけでいい!ミト達とソイツの相手を任せていいか?!」

 

「十秒……しゃーねぇ!やれるだけはやってみるが、なる早で頼む!」

 

「分かってる!」

 

後退し、所有アイテムのリストをスクロールし、一つを選び出してオブジェクト化するキリト。その背には二つの剣が交差するように装備され、黒いコートが靡く

 

「スイッチ!」

 

キリトの声にミト達が頷き、間合いを作り出す。そのタイミングを逃さないように二対の剣を手に、グリームアイズの正面にキリトは飛び込む

振り下ろされる斬馬刀を弾き、間髪入れずに一撃を胴に見舞う

 

「グォォォォ!!」

 

憤怒の叫びを洩らしながら、グリームアイズは上段斬り下ろし攻撃を放とうとするが、剣を交差して斬馬刀を受け止め押し、グリームアイズは態勢が崩したのを、見逃さずに“二刀流”上位剣技《スターバースト・ストリーム》の十六連撃を放つ

 

「テン!今だ!LA(ラストアタック)!」

 

Estamos listos.(準備は整った)。グリス!打ち上げろっ!」

 

「了解!リーダー!」

 

グリスが構えたハンマーの上に、ソウテンが飛び乗ると、ボス部屋の天井近くまで、投擲される

空中で、所有アイテムのリストをスクロールし、幾つかの項目を選び出す

 

「永遠にadieu」

 

仮面越しの不敵な笑みと別れの言葉。その二つがグリームアイズの見た最後の景色となった。刹那、頭上から無数の槍が雨のように降り注ぎ、体を貫き、(とどめ)に、槍最上位ソードスキル《アルティメット・サイン》を受け、青い欠片となり、爆散した

 

「ふぅ……終わった、終わった」

 

「そうね、終わったわね。それで……?テン。あの出鱈目な槍の雨については、もちろん(・・・・)、説明があるのよね?」

 

勝利を収め、肩を数回鳴らすソウテンに笑顔のミトが詰め寄る。但し、その笑顔には黒さが垣間見える

 

「え……えーっと、ユニークスキル?」

 

「其れは分かるわよ。どういうスキルなのかを聞いてるのよ、私は」

 

笑顔から、ジト目に変わり、真剣な表情でソウテンに問う

 

「一度に多数の槍を扱う“無限槍”って、スキルだ。キリトの二刀流に比べたら、使い勝手は良くねぇけどな」

 

「そんなスキルをいつの間に?」

 

「其れが分かりゃあ、出し惜しみなんてしてねぇよ。半年くらい前だっけか?スキルウィンドウを見てたら、勝手に出現してたんよ」

 

「情報屋のスキルリストには……見当たらないわね。ていうことは、やっぱり、テンだけのユニークスキルみたいね」

 

「そうなるなぁ。さってと、有効化(アクティベイト)はクライン達に任せて、俺たちは此れにて、幕引きと致しましょう」

 

そう言って、差し出された手をミトは握る。青い悪魔との戦いは終わった、《蒼の道化》、《黒の剣士》の新たな力の存在公表という形で人知れないボス攻略は終わりを告げた

 

「…………よし!私は今日限りで軍を抜け、バナナ作りに専念するぞ!」

 

「はぁ!?ちょっ!何を言うんですか!?隊長!」

 

「目的は達した。私が軍に残る意味は存在しない………故に!今後は世界一のバナナ農家としての道を歩もうと思う!」

 

突然の宣言に、部下の一人が驚いたように声を挙げる。しかし、コーバッツの決意は揺らがない

 

「安心してください。アンタは世界一のバカです」

 

「副隊長はなんで、冷静なんすかっ!?少しは止めてくださいよ!」

 

「止めて止まる人だと思うか?隊長が」

 

『いえ、思いません』

 

部下達の心配を他所にコーバッツはバナナ片手にグリスと笑い合う

 

「バナナ農家になんのか!オッさん!」

 

「うむ。今後もバナナフレンドとして、よろしくな」

 

「おうよ!」

 

謎の単語が飛び交うが、グリスは理解しているようで普通に会話している

 

「バナナフレンドってなに?ヴェルデ」

 

「恐らくはゴリラ語の類かと」

 

しかし、ヒイロとヴェルデは言葉の意味を知らず、首を傾げる

 

「なるほど。やっぱり、グリスさんはゴリラか」

 

「ゴリラじゃねぇ!」

 

「「えっ」」

 

「真顔で驚いてんじゃねぇっ!!チビどもっ!!!」

 

騒がしく、何時も通りの掛け合いが響き渡った




ボス攻略を果たし、束の間の休息を取るソウテンとミト。その時、彼等の元に一つの情報が舞い込んできた

NEXTヒント 神聖剣


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十二幕 決意

はい、ヒースクリフさんの登場です


2024年10月20日 第35層主街区ミーシェ ソウテンの自宅

 

 

「テン。話がある」

 

青眼の悪魔を倒した翌日。自宅で寛いでいた、ソウテンの前にキリトが姿を見せる

彼の隣にはアスナが並び立ち、手を絡め合うように繋いでいる

 

「…………まあ、言わねぇでも分かるけど。言ってみ」

 

「昨日、お前とミトが帰った後にアスナと一緒に生きることを約束したんだ」

 

「ふぅん……ギルドはどうするんよ?」

 

「今日、そのことも含めて、《血盟騎士団》に行くつもりだ。其れと………俺も少し、攻略から離れようと思う。勿論、ギルドを抜けようなんて事は思ってない。《彩りの道化(お前たち)》は俺にとってのもう一つの家族だ。だから……祝福して欲しいんだ」

 

「私も……テンくんとミトに……ううん、《彩りの道化(みんな)》に祝福してもらいたいの。駄目かな?」

 

真剣な表情のキリトと微笑気味に問いかけるアスナ。二人の表情にソウテンは不敵に笑い、ミトも優しく微笑んだ

 

「祝福しないはずねぇだろ?せっかく、親友が幸せになろうとしてんだ。祝ってやるさ、盛大にな」

 

「そうよ。《彩りの道化(みんな)》だけじゃなくて、リズやクライン達、エギルも呼んで、派手にお祝いしましょ」

 

「ええっ…!?お、大袈裟だよぉ。ミトってば」

 

「ふふっ、そんなことないわ。テンが言ったように親友が幸せになるのを祝福しない訳にはいかないわ。だから、お祝いをさせて?アスナ」

 

「うん…ありがとう、ミト」

 

親友の幸せを喜ぶミトは心の底からの笑顔を浮かべる。二年前、デスゲームにログインした時は予想もしていなかった現状を最初は恐怖に感じた。それでも、再会することもないと思っていた、仲間たちが、親友が、支えて、勇気をくれた。その全ては今の彼女にとっては、生きる活力であり生き甲斐だ

そして、すれ違いもあったが、互いに信じることを約束し、大切な人との愛を確かめ合った。今も、その彼は自分の隣で、不敵に笑っている

 

「しかし、アスナ。ホントにこいつでいいんか?言っとくが、このぼっちはパスタ馬鹿だけでは飽き足らず、味覚再生エンジンが壊れるくらいの激辛ジャンキーだぞ?」

 

「えっと……其処も魅力だと思えば…」

 

「テン。愛はね、盲目なのよ?私を見れば分かるじゃない、貴方がピーナッツバター馬鹿で、迷子だからって、見捨てたりせずに、こうやって、隣にいるでしょう?其れがその証拠よ」

 

「迷子じゃない。ロト、なんか言ってやれ」

 

椅子に座り、本を読んでいたロトに声を掛けると、彼は首を傾げた後、瞳を数回瞬きさせる。そして、口を開く

 

「………おなかすいたー」

 

「テン。お前にそっくりだな、ロトは。食い意地が張ってるのなんか、瓜二つだ」

 

「瓜二つの使い道が違くねぇか?だいたい、俺は食い意地張ってねぇ」

 

「いいや、張ってる。何時も腹を空かせてるだろ」

 

「何を言ってんだ?それはおめぇさんじゃねぇか。ぼっち」

 

「はっはっはっ、言うじゃないか。この迷子」

 

互いに軽口を叩き合い、笑い合うソウテンとキリト。しかし、数秒の沈黙が訪れ、一時の間、静寂が支配する

 

「「………やんのかっ!!!」」

 

「「なんで喧嘩になってるのよっ!?」」

 

胸倉を掴み、いがみ合いを始める二人にミトとアスナが突っ込みを入れる。やがて、時間となり、キリトはソウテンを見る

 

「じゃあな、兄弟(テン)。次に会う時は俺も立派な既婚者だ」

 

「ああ、期待しないで待っててやる。だから、さっさとケリをつけて来い。親友(キリト)

 

家から出る、キリトとアスナを見送り、ソウテンは身に付けていた仮面を外し、優しい笑みを浮かべる

 

「テン?」

 

「とーさん?」

 

「さてさて……どうなるかね。この先」

 

そう言った、ソウテンの瞳は何かを見通すかのようにキリトとアスナの背を見送り続けていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻 第55層主街区グランザム 血盟騎士団本部

 

 

「お別れの挨拶に来ました」

 

血盟騎士団本部の上階、アスナの発言に、対し、四人の重役の表情は不愉快そうに歪み、ヒースクリフは苦笑を浮かべるも、落ち着いた声色で言葉を発する

 

「そう結論を急がなくてもいいだろう。彼と少し話をさせてくれないか」

 

そう言って、ヒースクリフはキリトを見据えた状態で圧力を感じさせる面持ちで、再び、口を開く

 

「君達とこう面と向かって話すのはいつ以来だったかな。キリト君」

 

「……六十七層の攻略会議で、少し」

 

「……ふむ、あれは厳しい戦いだったな。我々からも危うく死者を出す所だった……トップギルドなどと言われていても、戦力は常にギリギリだよ。……………だというのに君達は、我がギルドの貴重な主力プレイヤーを引き抜こうとしている。それにだ、この事を彩りの道化(君のところ)のギルドリーダーは了承しているのかね?」

 

「勿論だ。リーダーには了承を得た上で、アンタの所に足を運んだ。アスナは此処には居させない、少なくとも……あんな、ストーカーを護衛に付けるようなギルドにはな。あいつは俺の親友たちを、家族を侮辱した。例え、アンタがあいつを庇ったとしても……俺はあいつを許さない」

 

ストーカー、その言葉が示す存在をヒースクリフは知っている。人選に関わった訳ではないが、彼の行動は明らかに常軌を逸していた。その報告をアスナ本人から聞かされ、流石の彼も自分の落ち度を自覚せざる負えなかった

 

「クラディールの件は完全にこちらの落ち度だ。それについては謝罪しよう。彼は今自宅で謹慎させているし、他の団員達にも再度あの時の事は蒸し返さないように言ってある」

 

「あ、あぁ……」

 

血相を変えて何か言いかけた重役の一人を手で制し、あっさりと謝罪をするヒースクリフに、キリトは勿論ながら、アスナも面を食らった

 

「だが、それとこれでは話が別だ。我々としてもサブリーダーを引き抜かれて、はい、そうですかと、引き下がる訳にはいかないのだよ。―――キリト君」

 

刹那、ヒースクリフの纏う空気が、一瞬で変わる。真鍮色の双眸はキリトに据え、彼を試すかのように口を開いた

 

「彼女が欲しければ剣で……二刀流で奪いたまえ。私と戦い、勝てばアスナ君を連れていくといい。だが、負けたら……君が血盟騎士団に入るのだ」

 

「団長、私は別にギルドを辞めたい訳ではありません!ただ少しだけ離れて……考えたい事があるんです!それに!キリトくんを引き抜くのなら、彼のギルドのリーダーであるソウテンくんは勿論、仲間のミト達にも了解を得るべきです!」

 

「………そうだな、アスナの言う通りだ。俺はあくまでも《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》所属の身だ。リーダーに話を通すのは筋だろう?俺もこうやって、アンタに話をしに来たんだから」

 

「そうだな……。では、意見を聞かせてもらえるかな?ソウテン君」

 

ヒースクリフが微笑を浮かべ、部屋の入り口付近に呼び掛けた。その先に佇むのは、不敵な笑みを携え、仮面を冠った一人の少年。青いマフラーと青いコートが彼の不敵さを一層、強調している

 

「剣で語る……大いに結構じゃねぇの。やってみな、キリト」

 

「テン……いや、了解だ。リーダー」

 

「男って……ホントにバカね。ミトの気持ちが分かる気がする……はぁ…」

 

アスナはため息を吐き、ヒースクリフは表情を変えずに、三度、口を開く

 

「第75層《コリニア》の闘技場に明日の朝10時だ」

 

「望むところだ」

 

「ソウテン君の実力も見たい所だが……君も一戦どうかね?」

 

「嫌です」

 

まさかの即答にヒースクリフは眼を見開く。如何やら、断られる事を予期していなかったらしく、流石の彼も面を喰らったようだ

 

「………………何故かね?理由を聞いても?」

 

「いや、普通に考えて、一杯どうかね?みたいなノリで言われたから、断ったんだけど。そもそも、キリトが闘うのにはメリットあるけど、俺が闘うことでのメリットは存在しねぇし。なのに、アンタみたいなのと闘うなんて、自分から晒し者になるみてぇじゃんか。俺は一応、道化師(クラウン)を名乗ってる身ではあるが笑われる側よりは笑う側でいたい」

 

「…………彼は何を言ってるんだね。キリト君」

 

理解不能な言動にヒースクリフは、キリトの方を見る。彼はアスナと見つめ合っていたが、我に返り、彼の方を見る

 

「すまん。バカなんだ、気にしないでやってくれ」

 

「誰がバカだ、ぼっちめ」

 

「残念だったな。俺にはアスナがいるから、ぼっちじゃない」

 

「可哀想に……遂にぼっちを自覚出来ない境地まで達したのか」

 

「やかましい。傍迷惑迷子」

 

「んだとコラァ!」

 

「やんのかっ!」

 

「やめなさいっ!みっともない!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

キリトとソウテンの頭上にアスナの空手チョップが叩き込まれる

 

「ミトに叱ってもらいます、二人は」

 

「「………あい」」

 

アスナに引き摺られ、血盟騎士団本部を後にしたキリトとソウテン。斯くして、キリトVSヒースクリフの決闘が決まったのであった




アスナを得るために剣を抜くキリト、その相手はヒースクリフ。果たして、キリトは勝てるのか?

NEXTヒント 闘技場


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十三幕 行列

ギャグ回です!あの有名なギャグ漫画を題材にしてます!
あれ?予告と違う……何故だ?


2024年10月20日 第50層主街区アルゲード 彩りの道化(カラーズ・クラウン)ギルドホーム

 

 

「なるほど、其れでヒースクリフと決闘することになった訳ね。で?他のギルドの本部で、然も……あのヒースクリフの前で揉めたって言うのは本当なの?」

 

柔かな笑顔を浮かべ、問いかけるミトの前には正座をするソウテンとキリトの姿があった。尚、彼等の背後にはアスナが仁王立ちしている

 

「ああ、本当だ。このぼっちが人を迷子呼ばわりするもんだから」

 

「俺は事実を言ったまでだ。あと、ぼっちじゃない」

 

「まあ、売り言葉に買い言葉ってヤツだから……仕方ないわね、其れは。でもね?」

 

「「ぐもっ!?」」

 

ソウテンとキリトの頭上に御約束が決まり、ミトの表情が笑顔から、怒りを含んだ物に変わる

 

「どうして、私も呼ばないのよっ!ヒースクリフと闘うチャンスだったのに!」

 

『そっちかよっ!?』

 

まさかの発言にグリス達からの突っ込みが飛ぶ。当の本人は未だに怒りが冷めておらず、鎌を肩に担いでいる

 

「殴るわよっ!」

 

「いやもう殴ってますが」

 

さぁ(ふぁ)……頑張ろう(ふぁんふぁふぉう)…“ゲームクリア(へーむふぃりあ)”…目指して(めふぁふぃへ)

 

『前途真っ暗だよっ!!!』

 

頭に瘤、更に顔面が膨れ上がったソウテンが意気込みを掲げるが、安心出来ない状態故に突っ込みが入る

 

「で?キリト。正直言ってよ、勝てるのか?ヒースクリフに」

 

「………其れなんだよな。ヒースクリフの無敵さは攻略の時に何度も見てるけど、ゲームバランスを超えてる。正々堂々と立ち回って、勝てるかどうかは微妙だ」

 

「なるほど……ということは残る手段は“あれ”か」

 

「ええ…“あれ”しか、ありません」

 

「“あれ”なら、キリトさんでもヒースクリフに勝てる」

 

「“あれ”って言うと、“あれ”か」

 

『K・O』

 

「真面目に考えなさい!バカどもっ!」

 

『ぐもっ!?』

 

ソウテン達の頭上に鎌が振り下ろされ、アスナもため息を吐き、シリカは何時もと同じように苦笑を浮かべる

 

「ほ、ホントに……勝てるのかなぁ?キリトくんは…」

 

「どんまいですよ!アスナさん!」

 

「仕方ないわね。やっぱり、私が闘うわ!アスナの為に!」

 

「ミト……って!闘いたいだけじゃない!ミトの場合はっ!」

 

「……バレた?」

 

アスナからの指摘を受け、舌を出し、ミトは悪戯っぽく笑う

 

「ミトさん、戦闘狂ですもんね」

 

「せんときょー?それなにー?シリカー」

 

「えっと、ロトくんにわかりやすく説明するとね。ミトさんみたいに闘い好きな人のことだよ」

 

「かーさんのことかー」

 

「私は戦闘狂じゃないわ」

 

「人を鎌で殴るけどねぇ」

 

「直ぐに手が出るけどな」

 

「鍋しか作らねぇけどな」

 

「リーダーみたいな迷子を好きになったりしますがね」

 

「結論、ミトさんも根本的には俺たちと変わらない」

 

「私を皆みたいな変人と一括りにしないで」

 

ソウテン達と言い合うミトの姿にアスナは安堵すると同時に苦笑する

 

「ミトも割と変人になりつつあるけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2024年10月20日 第75層主街区コリニア

 

ローマ風の造りが特徴的な街並みが特徴的な主街区は、四角く切り出した白亜の巨石を使用している。そして、この《コリニア》が誇る最大の目玉が転移門前に聳え立つ巨大なコロシアムである

 

「火噴きコーン十コル! 十コル!」

 

「黒エール冷えているよ~」

 

コロシアム入り口には、口々にわめき立てる商人プレイヤーの露店がずらりと並び見物人に怪しげな食い物を売り付けている

 

「どうなってんだ……」

 

「わたしにも何が何だか……」

 

街に降り立ったキリトとアスナは唖然としながら、佇む

 

「あら?誰かと思ったら、キーくん」

 

不意に呼び掛けられ、振り返ると鉄板の上でお好み焼き的な料理をひっくり返す女性の姿があった

 

「ん?あっ!メイリンさん!」

 

「ふふっ、そっちの子がアスナちゃんね」

 

「は、はい……えっと、キリトくんとお知り合いの方ですか?」

 

「ええ、彼のことはよーく知ってるわ」

 

「ふぅん………キ・リ・ト・く〜〜〜〜ん?」

 

女性、メイリンの発言に黒い笑みでアスナがキリトに視線を向ける

 

「ご、誤解だ!メイリンさんは行きつけの定食屋さんの娘さんなだけだ!こっちに来てからは自分の店をやってるから、テン達と頻繁に食べに行くだけであって!アスナが思ってるような関係じゃない!俺が大切なのはアスナだけだ!」

 

「そ、それなら……良いんだけど」

 

キリトの言葉にアスナは顔を紅潮させ、恥ずかしそうに俯く

 

「にしても、メイリンさん。今日はちゃんとした料理を売ってるんだな。何時もは変なのばっかなのに」

 

「あら、あるわよ?キーくんの大好きな激辛ブラックパスタ」

 

「いただくよ」

 

「どういうパスタなのっ!?あれ?ねぇ!キリトくん!あそこ!」

 

聞いたこともない料理名に思わず、アスナが突っ込みを入れる。すると、コロシアムの前から煙が上がっているのが目に入る

 

「煙……?火事か?いや……VRMMOで火事なんて…聞いたことないぞ?」

 

「とにかく!言ってみましょ!メイリンさん!失礼します!」

 

「頑張ってねー」

 

「ああっ!俺のパスタがっ!!!」

 

「後にしなさいっ!」

 

パスタが食べれず、残念がるキリトを引き摺りながら、アスナは煙が上がる方に足を走らせる。そして、辿り着いた先には見知った仮面のプレイヤーが視界に映る

 

「あの…お客様?焚き火はちょっと」

 

「ああ?いいじゃねぇの、焚き火くらい。暖を取らしてくれよ。最近、寒いんよ」

 

「いや!暖を取る以前に軽いボヤ騒ぎになってるんで、焚き火は勘弁してくれませんか?」

 

「何ですか、其れでは貴方は我々に世紀の対決を観戦するなと仰る訳ですか?これは然るべき案件ですね、リーダー」

 

「全くだ。事と次第によっては血盟騎士団本部に苦情を入れなきゃなんねぇな」

 

「いやだから、みんな、並んでるんですから……そういうのは…ゲホッ!ゲホッ!勘弁してもらえませんか?」

 

「よーし、テーン、ヴェルデー。準備できたぞ。ほーら、バームクーヘンだ」

 

「おおっ!さすがはベルさんだ」

 

「ディアベルさんのバームクーヘンは美味ですからね。いただけるのは大変、喜ばしいことです」

 

「バームクーヘン!?何で今食べるのっ!?ていうか、無駄に美味そうだしっ!!」

 

「はっはっはっ、今更になってもあげんよ?少年。此れは俺たちのバームクーヘンだ。君にはこのピーナッツ----ぐもっ!」

 

焚き火を囲み、バームクーヘンを食べようとしていたソウテン達を背後から、キリトが蹴り付ける

 

「悪いな。このバカ達には後で言い聞かせておくよ」

 

「ごめんね?ノーチラス。この人達はバカなのよ」

 

「副団長のお知り合いなんですか…?」

 

「ま、まぁ……知り合いかな?」

 

ノーチラス、そう呼ばれた青年が問いかけるとアスナは苦笑気味に返答する。一方、キリトは、ソウテンに対し、哀れむような視線を送っている

 

「お前……何してんだ?」

 

「ふっ……見て分からねぇんか?」

 

「分からん、微塵も分からん。というか、分かりたくもない」

 

「攻略組の間で流行ってるゲームを買いに来たんだ。そう……ツインファミコンを」

 

「そういう列じゃねぇよっ!これは!そもそもコロシアムにゲームを買いに来るとか、どんだけ迷子なんだよっ!だいたい!VRMMOの世界にゲームが売ってる訳あるか!あったとしても、そんなん既に売ってねぇよ!バカテン!!」

 

「えっ?じゃあ、どうやってあの配管工に会うんだ?二度と会えねぇじゃねぇの、せっかく再会出来ると思ってたのに…」

 

「気を落とさないでください、リーダー。彼に会える日は必ず、訪れますよ」

 

「そうだぞ、テン。前に進もう、彼と再び会える日を信じて」

 

「再びどころか何十回も蘇ってるぞ、あのオッさん」

 

再会できないと聞き、落胆していたソウテンにキリトが告げると彼は嬉しそうに顔を上げる

 

「そうか……良かった。で?あの双子なのに、主人公には未だに抜擢されるシリーズ少ない弟の方も健在なんか?」

 

「いやなこと言ってやんなよっ!お前に弟さんの何が分かるんだよっ!そもそも、仕事はどうしたんだよ?お前。色々とやらなきゃならない依頼とかあるだろ」

 

「安心しろ。俺たちがいなくても、ミト達がいんだろ?」

 

「まあ…確かに」

 

「ミト達なら、テンくんよりは安心ね」

 

「アスナさん?おめぇさん、最近ちょいと俺の扱いが雑くない?んむ……?」

 

アスナの辛辣な物言いに、物申すソウテンであったが列の中間で何やら、声が聞こえた事に気付く

 

「あの、お客さん。申し訳ないんですが……他のお客様の迷惑になりますので、こたつはちょっと…」

 

「すいません、ちょっと待ってもらえます?まだ、ロト達が食べてるんで」

 

「おいしー」

 

「焼き鳥うまうま」

 

「美味しいですねっ!チーズフォンデュ!」

 

「きゅる〜」

 

「ぴよぴよ」

 

「あの、でしたら…列を離れて」

 

「ちょっと待ってくださいって、だから」

 

「いや、ちょっと」

 

「いや、ロ……」

 

「いえ、ちょっ」

 

「だーかーら!まだロト達が食べてるしょぉーが!!!きゃっ!」

 

騒ぎの中心となっていた炬燵に入り、鍋を囲んでいたミト達にキリトの蹴りが叩き込まれる

 

「ミト……お前もか」

 

「あら、キリトにアスナ。遅かったわね」

 

「いや、そんなチーズフォンデュを頭からかぶった状態で挨拶されても普通に出来ないんだけど…ミト」

 

「バカね、アスナ。寒い時に鍋を囲むのは宇宙の常識よ」

 

「いや、知らないから、そんな常識。そもそも、ミトは何してるの?ここで」

 

「決まってるじゃない、スーパーファミコンを買いに来たのよ。私は」

 

「「お前もかいっ!!!」」

 

意味が分からないと言わんばかりの表情で首を傾げるミトにキリト、アスナの突っ込みが飛ぶ。当の本人はソウテン達と談笑している

 

「テンにベルさん、それにヴェルデじゃない。三人もスーパーファミコンを買いに?」

 

「いや、ツインファミコンだ」

 

「つ、ツインファミコン!?まさか!あの伝説の!?ファミコンとディスクシステムが一体化したアレを買いに来たのっ!?」

 

「ああ。でも、キリトは曰く此れはそういう列じゃないらしいんよ」

 

「えっ……?じゃあ、スーパーファミコンもないの?私は魔王を倒して、ハイラル王国に平和を(もた)らしてあげることが出来ないの…?」

 

「安心しろ、お前がやらなくてもハイラルは平和だ」

 

「そう…良かった。それで?あの囚われまくりのお姫さまも健在なの?やっぱり」

 

「やめてやれ!好きで囚われてる訳じゃないんだから!ていうか!仮にも姫さまだぞ!」

 

「ああ……親友がテンくんに毒されていく…」

 

「ねぇ?アスナさん?何で、おめぇさんは俺に対しては辛辣なの?恨みでもあんの?んむ?」

 

やはり、辛辣なアスナに突っ込むソウテンであったが、またしても異変に気付く。先頭付近から、何やら声が聞こえてくる

 

「申し訳ありません、お客様。他のお客様のご迷惑になりますので……バナナの出荷作業はちょっと…」

 

「なんだと!てめぇ!全国のバナナを待つバナナ愛好家を敵に回すつもりか!」

 

「やめるんだ、グリス少年。すまない、直ぐに梱包作業を済ませるんで。ちょっと待ってくれないだろうか」

 

「いや、もう…」

 

「いや…バナナ」

 

「だから……」

 

「ちょっ…ちょっ…!まだ、バナナ梱包してないでしょぉーがぁぁぁぁ!!あべしっ!?」

 

バナナ梱包作業に勤しんでいた二匹のゴリラ(グリスとコーバッツ)を背後から、キリトと男性プレイヤーが蹴り付ける

 

「おいコラ、ゴリラ。先頭で何してんだ」

 

「見て分からねぇか?バナナの出荷準備だ」

 

「隊長……いえ、コーバッツさん。軍を抜けて何をしてるんですか?アンタは」

 

「おお!副隊長のコジロウか!久しぶりだな!見ての通りだ、バナナを梱包している!」

 

「………キリトさん。このバカを借りていきますね?あっ、俺はコジロウと言います」

 

コジロウと名乗った男性はコーバッツを引き摺り、キリトに会釈する

 

「ご丁寧にどうもです、コジロウさん。こっちのゴリラは引き受けます」

 

「誰がゴリラだ!!」

 

「うるさいよ、ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ」

 

「てめっ!学名で呼ぶんじゃねぇ!」

 

言い争うキリトとグリスを見ながら、アスナは心の中で思う、切実に

 

(結局……これは…どういう集まりなの…?)




いよいよ、幕を開けるキリトとヒースクリフの戦い。果たして、勝利は何方の手に!

NEXTヒント 道化師


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十四幕 決闘

いよいよ!ぶつかり合う最強の二人!その頃、最強のバカ達はというと……


2024年10月20日 第75層主街区コリニア コロシアム控室前

 

 

「ソウテン君。君に依頼をしたいのだが、構わないかね?」

 

キリトの控室に向かっていたソウテンを呼び止めたのはヒースクリフ、彼は微笑にも似た笑みを浮かべている

 

「依頼ってのが、どういう内容かによるが……大抵の場合は断らわんから、言ってみ」

 

「今回の決闘が大規模な開催になってしまった以上、司会をもうけた方が良いという話になってね。急で申し訳ないのだが、探してもらえないだろうか」

 

「ふむ…司会か。条件はあるか?」

 

「条件か……強いて言えば、性別は女性にしてもらえると助かる」

 

「なるほど、なるほど…。あいよ、承った」

 

「頼んだよ」

 

ヒースクリフが去るのを確認し、ソウテンはキリトの控室に向かいながら、司会の心当たりを考える

 

「うーむ…この決闘は言わば、《血盟騎士団》と《彩りの道化(うち)》の闘いな訳で、主催は彼方さん……なら、司会は此方がいただくか」

 

不敵な笑みに妖しげな企み、代名詞とも呼べる最大の武器を発揮させるソウテンの姿は正に道化師(クラウン)の呼び名に相応しい

 

「テン。なーに企んでるのよ?いつにも増して、極悪面よ」

 

「おお、ミト。いやさ、ヒースクリフに司会を探してくれって頼まれたんよ」

 

「司会……ふぅん、それで?」

 

「主催が《血盟騎士団》側な訳だからよ。司会は《彩りの道化(うち)》から、出そうと思うんよ」

 

「なるほど……。なら、人気がある人に心当たりがあるわよ?私」

 

「おろ?そんなヤツが居んのか?うちに」

 

疑問符が飛び交うソウテンに対し、ミトは悪戯っぽい笑みを浮かべ、彼を見ている

 

「シリカちゃんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レディ〜〜〜〜ス!ア〜〜〜ンド!ジェントルメ〜〜〜〜ン!!!いよいよ、今日!最強の対決が幕を開けるっ!!皆様は歴史的瞬間の目撃者となる訳です!!!」

 

闘技場の中心で、マイクパフォーマンスを行うのは一人の少女。特徴的な両側のショートテールを揺らし、黒いミニスカートから覗く健康的な脚は軽快なステップを踏む

円形状の闘技場を囲む階段状の観客席からは盛大な拍手と歓声が挙がる

 

『シリカちゃーーーーん』

 

「はーい!司会進行を務めますは、あたし!三大トップギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》が誇る天真爛漫なビーストテイマーにして、百点満点の最大級のアイドル!シリカでーす!」

 

『かわいいーーーー!!!』

 

「そして、そして!解説を務めてくれるのはーーー!!!その無表情は何のため?焼き鳥を愛し、ヤキトリに愛されたブーメラン使い!あたしのダーリンであり!《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》のメンバーでもある!ヒイローーーー!!!」

 

「こんにちは」

 

『引っ込めっ!焼き鳥チビ!!』

 

「チビじゃない」

 

「そして、その他は《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》所属の迷子ピーナッツに鍋女、バームクーヘン野郎にカレー眼鏡、最後にゴリラです」

 

「「「「「扱い雑すぎだろっ!!!」」」」」

 

ヒイロと違い、簡素な紹介をされた他のメンバーからの突っ込みがシリカに飛ぶ。その光景に観客席のリズベットが隣に座るアマツを見る

 

「アンタは参加しなくていいの?アマツ」

 

「奴等の賑やかなノリには付いていけん」

 

「うむ、職人殿の気持ち分かるぞ。どうだ?君もバナナを食べんか?」

 

「有り難く頂こう、コーバッツさん」

 

「誰よっ!?このゴリラみたいなオッさんは!!」

 

「私か?私はコーバッツ、見ての通りのバナナ農家だ。グリス少年とはバナナフレンドでな、共に日々バナナの在り方についての未来を話し合っている」

 

「いやっ!どんな自己紹介よっ!?ていうか!バナナフレンドってなに!?」

 

「バナナのおじさん」

 

「おおっ!テン少年のところのロトくんか!久しぶりだな!バナナを食べたまえ!」

 

「ありがとー」

 

「おっ、始まるみたいだな」

 

「なにっ!?まだ、メイリンさんが来てねぇだろ!」

 

「いや、俺に怒るなよ」

 

「あっ!あれ!メイリンさんじゃない?」

 

メイリンの姿が無い事に怒り顔のクラインにエギルが苦笑気味に突っ込む。すると、アスナが観客席の間を彷徨く影を発見した

 

「おおっ!メイリンさーーーん!こっちっすよ!こっち!!」

 

「あら、クラインさん。席を取っておいてくれたんですか?」

 

「ええ、俺は貴女の侍ですから」

 

「あらぁ、ありがとうございます。クラインさん」

 

最高のキメ顔を見せるクライン、そんな彼に笑いかけるメイリン。その姿を見守るアスナ達という謎の構図が出来上がった

 

「何でかしら……すっごいムカつくわ。あのクライン」

 

「嫉妬か、醜いな。リズベット」

 

「うるさいわねっ!このトンチキ職人!誰がクラインに嫉妬すんのよっ!少しは考えてから物を言いなさいよねっ!」

 

「む…何故、怒る」

 

「職人……鈍感もほどほどにな」

 

「リズも大変だね…」

 

親友にアスナが同情していると、闘技場全体がどよめいた。その先に佇むのは、赤地のサーコートを羽織り、左手に持った巨大な純白の十字盾を装備した、一人の男。盾の裏側に隠された十字を象った柄が突出しているのが分かる

 

「この男の強さは最早、語るまでもない!!並外れた剣技と!卓越した統率力で!《血盟騎士団》を最大規模のギルドに導いた最強にして、最高の剣士!神の名は伊達じゃない!神聖剣のヒース……クリフーーーーー!!!」

 

「ふっ……やはり、ソウテン君に頼んで正解だったな。催しはこうでなくてはね、君もそう思うだろう?キリトくん」

 

ヒースクリフに問いかけられ、背に装備した二対の剣を触るキリト。彼は嬉しそうに笑みを浮かべ、強敵との決闘に心を躍らせていた

 

「対するは!その背に背負う二つの魂(二対の剣)は彼を象徴する代名詞!《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》サブリーダーの役割を持ち、孤高にして、天才!二刀流のキリトだぁぁぁぁ!!!」

 

シリカの実況と共にキリトは親友を彷彿とさせる不敵な笑みを浮かべた

 

「勝つぜ、アンタに。親友(リーダー)が与えてくれたせっかくのチャンスだ……負ける訳にはいかない」

 

「いや、負けるのは君だ。明日からは正式に我がギルドに入団してもらうよ」

 

刹那、ヒースクリフから笑みが消える。圧倒的なまでの威圧感にも似た気合いが、キリトの体を撫でる

目の前に現れたデュエルメッセージの文字、迷い無く、初撃決着モードを選び、カウントダウンが始まる

 

「レディーーーーファイト!!!」

 

シリカの号令と共にカウントがゼロとなり、キリトは背中の二対の愛剣を抜き放ち、ヒースクリフも盾の裏から細身の長剣を抜き、構え、同時に地を蹴る

 

「最初に仕掛けたのはキリトだぁ!沈み込んだ体制から、ヒースクリフの直前で体を捻り右手の剣を左斜め下から叩きつけたぁ!しかーし!ヒースクリフも負けていない!十字盾で防御!これをどう見ますか?解説の皆さん」

 

「焼き鳥が食べたくなる試合だと思います、非常に」

 

「全くだぜ!バナナが美味え試合だな!」

 

「このくらいはキリトさんにとっては朝飯前……いえ!カレー時前でしょうね」 

 

「そうね、鍋が煮える温度よりも低温なことだわ。キリトからすれば」

 

「ああ、このバームクーヘンが焼き上がる頃にはキリトが勝利してるだろうな」

 

「なるほど、参考にならない意見をありがとうございます。リーダーさんはどう思いますか?」

 

全く参考にならないメンバーとは裏腹に試合から目を逸らそうとしないソウテンへ、シリカは問いかけた

 

「確かにキリトは強い……でも、勝てんだろうな。今のアイツでは」

 

「と言いますと?」

 

「見てみな。一見すると、二刀流の蓮撃を放てるキリトが優勢に見えるが、ヒースクリフはその全てをガードし、受け流している。ダメージを喰らってはいるが、微々たるもんで決定打にはなってねぇ」

 

「な、なるほど……おおっと!ここでキリトが仕掛けたっ!」

 

ソウテンの冷静な解説に、僅かに面を喰らうシリカ。すると、キリトとヒースクリフが更なる動きを見せる

双方のHPバーが削られ始め、剣撃戦が白熱し始めた時だった

 

「らぁぁぁぁぁ!!」

 

全ての防御を捨て去り、二刀流上位剣技《スターバースト・ストリーム》を放つ。その眩いばかりの迸る閃光に誰もが勝利を確信した

 

「なっ!?」

 

しかし、最後の一撃が弾かれた。其処にある筈のない盾が瞬間的に移動し、決定打を弾き返したのだ

 

「…………ふぅん?なーるほど」

 

「しょ……勝者!ヒースクリフ!!!」

 

勝敗を告げるブザーが鳴り響き、シリカの声が響き渡る。敗北したキリトを見下し、微笑するヒースクリフの前に、その道化師は、ゆっくりと降り立つ

 

「ヒースクリフのダンナ。悪ぃがキリトは其方さんに入団させらねぇな」

 

「ふむ。何故かは分からないが、其れは契約違反ではないかね?」

 

「安心しな、入団させねぇと言っただけだ。どうだ?おめぇさんの秘密(・・・・・・・・)を口外しない代わりにキリトを出向させるってのは?ああ、勿論だがアスナに休暇を与える件は其方さんの判断に任せる」

 

不敵な笑みを浮かべ、最大の武器である情報を手に新たな契約を持ち掛けるソウテンに、ヒースクリフは頷く

 

「良かろう。だが……後悔することになるぞ?私に契約を持ちかけたことを、道化師(クラウン)。このツケはいずれ、倍にして払ってもらうよ」

 

「そりゃあ、勿論だ。其れでは皆々様、今日はこれにて幕引きと致しましょう」

 

決め台詞と共に深々と頭を下げるソウテン。こうして、キリトvsヒースクリフの決闘は幕を下ろしたのであった




出向という形でキリトが血盟騎士団に行く間、何時ものように馬鹿騒ぎをする《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々。そんな彼等の前に、復讐に燃えるクラディールが姿を現す!

NEXTヒント テニス


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十五幕 私をテニスに連れてって

ネタに走ると止まらなくなる……


2024年10月21日 第50層主街区アルゲード 彩りの道化(カラーズ・クラウン)ギルドホーム

 

 

「出向とはいえ……この服装はどうにかならないのか?アスナ」

 

「だ、大丈夫だよ。似合ってるから…ねっ?皆」

 

深紅の縁取りが特徴的な純白なロングコート。普段は正反対な色合いの服装に身を包むキリトがアスナに問うと、彼女は苦笑いしつつも、寛いでいたソウテン達に同意を促すように背後を振り返る

 

「に、似合ってるわよ……ね、ねぇ?シリカちゃん」

 

「ええっ!?あ、あたしに振りますか!?に、似合ってると思いますよっ!だよね!ヒイロ!」

 

「似合ってる、似合ってる。白を着てる時点でヴェルデとのキャラ被りが気になるけど」

 

「ご安心ください、ヒイロくん。僕にはキリトさんとは違い、眼鏡という更なるアイテムがあります。故にキリトさんよりも白を着こなしていると自負しています。ああ、でも僕には劣りますがキリトさんもお似合いですよ」

 

「すんげぇ、似合ってんぞ。なぁ?テン」

 

「だねぇ。一瞬、何処の騎士様かと思っちまったよ」

 

「逆に痛いわっ!変な気遣いをするくらいなら、普通に言えっ!」

 

『すげぇ似合ってない』

 

言葉を濁していた時とは異なり、声を揃え、打ち合わせでもしたかのような見事な満場一致の意見をソウテン達が放つ

 

「はっきりし過ぎだろっ!!!全く……アスナ、行こう。このバカどもに付き合ってられない」

 

「うん。またね、ミト」

 

「キリトをよろしくね。アスナ」

 

「お前は俺の母さんかっ!!」

 

「うんうん、ギルドの任務に熱心なんは良いことだ。其れじゃあ、俺たちも出かけるか」

 

キリト、アスナを見送った後、ソウテンはミト達に声を掛けた

 

「ん?何処にだよ?オッさんのバナナ農園か?」

 

「図書館が良いですね、僕は」

 

「焼き鳥屋」

 

「チーズケーキのある店にしましょう。今日はチーズケーキの日だと、今さっき決めました」

 

「ちょっと、夕飯の鍋に使う食材を集める為に付き合ってくれる約束はどうしたのよ」

 

「まあ、そう焦りなさんな。今日は……テニスでダブルスの試合をする」

 

『ちょっと待て!バカリーダー!!!』

 

何の脈絡も無く、放たれたソウテンの発言にメンバー全員が突っ込を入れる。其れもその筈、この《ソードアート・オンライン》は剣の世界でありテニスは微塵も関係しない、にも関わらず、ソウテンは『テニスをする』という理解不能な発言をしたのだ

 

「なんでテニスなんだよっ!?」

 

「剣の世界でテニス……意味がわからない」

 

「リーダーさんはアホなんですか?いや、アホでしたね」

 

「リーダー。失礼ながら、その理由をお聞かせ願えますか?」

 

「そうよ、テン。私たちにも分かるように説明してもらわないと納得出来ないわ」

 

「まあ落ち着きなよ。ダブルスってのに意味があるんよ、俺たちはギルドであり家族、そしてチームでもある。時には互いの信頼感を育むべきだと思わねぇか?」

 

不敵な笑みと共に放たれた最もな意見にミト達に電撃にも似た衝撃が走る

 

「な、なるほど…!一理あるぜ!」

 

「うん。頭の浅いリーダーにしては深い考え」

 

「其れでリーダー。建前抜きの本音はどうなんです?」

 

裏があると睨んだヴェルデが冷静な態度で問う。すると、彼は仮面越しに不敵な笑みを浮かべ、手招きした

 

「賞金目的だ。結局は色々あって、ミトにプロポーズ出来てねぇから、その費用に充てたい。勿論、半分はお前らにも分ける」

 

「なるほど……お任せください!このヴェルデが一肌脱ぎましょう!」

 

「なにっ!まさか、ヴェルデ!おめぇはテニス経験者なのかっ!」

 

「いえ、違います」

 

『違うんかいっ!!!』

 

グリスの問いに食い気味で即答するヴェルデへ全員の突っ込みが飛ぶ

 

「安心してください、僕はテニス漫画を読破しています。更に言えば、テニススクールのパンフレットを持っています。これは勝利確定……所謂、カチカクです」

 

『不安しかねぇわっ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻 第55層主街区グランザム テニスコート

 

 

「うむ!スポーツをすると聞いてきたが、私以外の経験者はいるのか?」

 

「其れがいねぇんだよ、オッさん。ん?オッさんは経験者なのか?」

 

「うむ、こー見えてもボクシングの通信教育を受けていた」

 

「関係ありませんよねっ!?明らかに!」

 

「なにっ!?今日はボクシングではないのかっ!?」

 

驚くコーバッツにグリス以外の誰もが呆れた視線を送る。当の本人は何事も無かったかのように、バナナを食べている

すると、テニスコートに対戦相手であろうプレイヤー達が姿を見せる

 

「久しぶりだな!道化師(クラウン)!今日こそは貴様に勝利し、私の方がアスナ様に相応しいことを証明してみせる!!」

 

「…………………こしょこしょこしょ」

 

その中の一人である男性がソウテンを名指しするが、彼は首を傾げ、隣に立つヒイロに何かを耳打ちする

 

「どちらさんでしたっけ?ってリーダーが言ってる」

 

「私を忘れたのかっ!?クラディールだ!!!」

 

「………………こしょこしょこしょ」

 

「まさか、第一層で相見えたお前に再会するとはな。久しぶりだなって言ってる」

 

「誰の話だぁぁぁぁぁ!!!」

 

最早、クラディールの事など、頭に無いソウテン。首を何度も捻り、その末に答えに行き着く

 

「確か、血盟騎士団にいたアスナのスニーカー!!」

 

「いや、スモーカーじゃなかったか?」

 

「スーファミよ」

 

「スーパーカー」

 

「スージーQではありませんか?」

 

「スノボーじゃない?」

 

「バナナブリーダーではないか?それを言うなら」

 

「バームクーヘン食べるかい?」

 

「ええぃ!どれも違う!ストーカーだ!!!」

 

『うわぁ……自分で言うとか、マジ引くわー』

 

声を揃え、打ち合わせでもしたかのような見事な満場一致の意見をソウテン達が言い放つ

 

「やめないか、クラディール。今日は友好的にする約束だろう。今日は全てを水に流し、汗を流そうではないか!」

 

突如として、現れたのは巻毛の大男。名をゴドフリー、血盟騎士団の前衛の指揮を執っているプレイヤーだ

 

「ゴリラだ、ゴリラがいる」

 

「いけませんよ、ヒイロくん。人を指差しては」

 

「そうだよ、ヒイロ。あの人はゴリラじゃないよ。ゴリラはグリスさんだよ」

 

「俺は人間だ!」

 

「「「えっ」」」

 

「真顔で驚いてんじゃねぇっ!!チビどもっ!!!」

 

真顔で驚愕するヴェルデ、ヒイロ、シリカにグリスの突っ込みが飛ぶ。暫くするとゴドフリー、クラディールに遅れ、数人の男達が姿を見せる

 

「最初は俺とオッさんだな!」

 

「うむ!バナナパワー全開で行こう!グリス少年!」

 

「バナナパワーってなに?」

 

「バナナを食べると身につくパワーでしょう、恐らくは。実に興味深い」

 

「よし、シリカ。司会は頼んだ」

 

「うぇっ!?あ、あたしには無理です!司会なんて!昨日のはノリでやっただけで!!」

 

「はい、シリカちゃん。マイクよ」

 

「…………………」

 

慌てふためくシリカに対し、ミトがマイクを手渡すと、彼女はマイクを手に沈黙した後、テニスコートの壁に上がり、軽快なステップを踏む

 

「さぁ!始まりました!!ダブルステニス大会!!初戦は《血盟騎士団》の男性二人に!バナナをこよなく愛するバナナフレンドのコーバッツ!ゴリラと呼ばれ、ゴリラとして生き抜き、ハンマー片手に全てを薙ぎ倒す!《野猿》のグリス!」

 

「ゴリラじゃねぇ!!!」

 

突っ込みを入れながらも、パワーを主体にしたプレイスタイルで相手を翻弄するグリスとコーバッツ。試合は彼等の圧勝に終わる

 

「勝者はグリス・コーバッツチーム!!いやぁ、実に見事な試合でしたね!解説のミトさん!」

 

「そうですね。きっと日頃の食べ物が良いんでしょう、特に鍋物を食べてるようですね。鍋を作っている美人なプレイヤーさんが居るんだと思います、是非会ってみたいものです」

 

「自画自賛してんじゃねぇよ!!鍋女っ!!ごぶっ!?」

 

グリスの頭上に御約束が叩き込まれ、彼は倒れる

 

「何か言った?」

 

『言ってません』

 

「さぁ!気を取り直して!次は!クラディール・ゴドフリーチーム!そして、最強にして最大級の迷子!我がギルドを率いる傍迷惑迷子の道化師!!ソウテン!そして、あたしのダーリンにして、最大級の無表情!ヒイロ!!!」

 

「「扱いの差がおかしいっ!!!」」

 

「ねぇ、何でヒイロは褒められてんのに俺は迷子呼ばわりされてんの?」

 

「愛の差」

 

「しばいたろか、焼き鳥チビ。其れにだ、愛の差なら、俺とミトも負けてねぇ」

 

「歳下と張り合うなっ!」

 

顔を真っ赤にしたミトがソウテンの頭上に鎌を振り下ろす。しかしながら、いつものようには喰らわず、ソウテンはゆっくりとテニスコートに降り立つ

 

「んじゃ、ヒイロ。派手に行くか」

 

「うん。了解、リーダー」

 

「試合開始です!おっと先に仕掛けたのはヒイロ!彼の放った球が急角度でバウンドしたぁ!一体これはなんなんだぁ!!!」

 

「ツイストサーブですね」

 

「ボクシングで言うと右フックだな」

 

「全く違うぞ、コーバッツさん。あれは野球で言うチェンジアップだ」

 

「さすがはベルさん。その通りです」

 

「更に更にクラディール・ゴドフリーチームが放った珠は全て、ソウテンの方に引き寄せられていく!どう言う仕掛けだ!?これは!!!」

 

「あれはボールを打つ前にリーダーが特殊な回転を掛け、相手のボールを自分に引き寄せているのでしょう。名付けるならば!迷子ゾーン!」

 

「普通にソウテンゾーンでいいわっ!!!」

 

テニスとは言い難い技を連発したソウテンとヒイロは圧勝し、続くディアベルとヴェルデもデータを主体にしたテニスと曲がる軌道を武器に圧勝。テニス勝負は《彩りの道化(カラーズクラウン)》の勝利に終わった

 

「賞金はいただきだぜっ!」

 

「よし、一旦預けろ。後で倍にしてやるから」

 

「ふざけんなっ!迷子!!こいつは俺がバナナ栽培の費用に充てんだよっ!」

 

「いえ、僕が預かります。欲しい本があるので」

 

「焼き鳥買う」

 

「チーズケーキ屋を作る資金にしましょう」

 

「バームクーヘンを作るためのかまどが欲しいんだ。俺に預からせてくれ」

 

「テン少年。バナナの種を買わないか?今なら、アインクラッドバナナが旬だぞ」

 

「却下だ!これはミトにプロポーズするための資金にすんだよっ!!!」

 

「えっ…………?プロ……ポーズ……?」

 

「あっ!?しまった!」

 

大金を前に暴走する面々を前に本音を口にしたソウテン。その発言を聞いたミトは顔を真っ赤にし、恥ずかしそうに俯く

 

「えっと………あの……今のは……ホント?テン」

 

「あーーーーまあ、ホントだ。ムードは無いかもしれんが………結婚してくれねぇか?ミト。勿論、指輪は後で買うからよ……」

 

「はいっ!喜んでっ!」

 

祝福の鐘の代わりに拍手が鳴り響く。ここに最強の夫婦が誕生した、後に世界を揺るがす最強の夫婦が

 




遂に結婚を果たしたソウテンとミト、 更にキリトとアスナ。彼等の為に仲間たちはある計画を企てる…

NEXTヒント 結婚式

ていうか……こいつら、まだ結婚してなかったのか


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十六幕 祝言日和

はいはい、結婚式ですよ!しかーし!この作品では平和な結婚式などありえない!果たして、その行方は!?


2024年10月23日 第50層主街区アルゲード 彩りの道化(カラーズ・クラウン)ギルドホーム

 

 

「ああ?結婚式だぁ?」

 

リビングで寛いでいたグリスが気怠そうに声を掛ける先には、ティーカップを片手にトレードマークの眼鏡をくいっと上げるヴェルデの姿があった

 

「そうです。リーダーとミトさん、更にキリトさんとアスナさんというビッグカップルが結婚したことを踏まえ、結婚式を行なってはどうかと、思いまして」

 

「ヴェルデの提案に賛成。リーダー達を喜ばせたい」

 

「だね!リーダーさんには何時もお世話になってるから、盛大にお祝いしてあげないとっ!」

 

「なら、シリカは司会をやれよ。得意だろ?おめぇ」

 

「うぇっ!?ま、またですか!?無理ですよ!!結婚式の司会なんてしたことありませんよっ!あたし!」

 

「シリカさん。こちら、マイクです」

 

「…………………」

 

慌てふためくシリカに対し、ヴェルデがマイクを手渡すと、彼女はマイクを手に沈黙した後、軽快なステップを踏む

 

「何してるんですかっ!さっさと結婚式のセッティングをしますよっ!!!」

 

「変わり身早ぇなっ!?」

 

「やかましいです、ゴリラは黙っててください」

 

「なんでだよっ!?」

 

「料理はメイリンさんにお願いしましょう。彼女なら、リーダー達の好みを把握していますし、我々の好物も把握してくれていますからね」

 

「デザートは俺が担当しようっ!最高のバームクーヘンを振る舞おう!」

 

「ディアベルさんは騎士なんじゃなかった?」

 

「騎士だよ?バームクーヘン好きの」

 

「迷走してきましたね……貴方も」

 

次第に《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の空気に染まりつつあるディアベルにヴェルデが哀れみにも似た視線を向ける

 

「しかし、結婚式か。出席するのは久しぶりだな」

 

「なんだ、オッさんは経験者なのか?」

 

「うむ、リアルで何度かな。特に泣きそうになったのは長年の友人が結婚した時だ」

 

「ほう、そんなに涙が出る結婚式だったんですか?コーバッツさん」

 

「ああ、涙無しには語れない。今でも目を閉じれば、鮮明に思い出す………美味かったな、あのバナナは」

 

『結局バナナかよっ!!!』

 

「さすがはオッさん!良いバナナを食べたんだなっ!」

 

『食い付いたっ!?』

 

結婚式の話をするかと思えば、バナナしか覚えていないコーバッツに突っ込みが飛ぶ中、グリスは腕を組み、共感するように頷く

 

「場所はどうするつもりだ?ヴェルデ」

 

「場所なら、決まっていますよ。皆さんが良く知る我々の思い出が詰まる、あの場所です」

 

「なるほど……彼処なら、リーダー達も喜ぶね」

 

「そうだね。彼処はあたし達の最初の家だもんね」

 

「懐かしいな!今はテンのヤツが家にしてっけど、元々は俺たち全員の家だからな!彼処は!」

 

「ほう、そんな場所があるのか。新参者の私は知らんな」

 

「そうか、コーバッツさんは最近だったな。でも気にいると思うよ?あの場所は」

 

その場所を知らないコーバッツに対し、ディアベルが笑顔で応える

 

「決まりだな。リズベット、直ぐに手配をしろ」

 

「なんで、あたしがやんのよっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2024年10月26日 第35層主街区ミーシェ ソウテンの自宅

 

 

「どーなってるんよ?これ」

 

依頼を受け、留守にしていたソウテンが帰宅し、目にしたのは飾りつけられた自宅。隣に立つミトも両眼を瞬きさせ、固まっている

 

「丁度よかった、テン。どーなってるんだ?これは。お前の家が前に増して、妖しくなってるぞ」

 

「そりゃあ、俺が聞きたいよ。というか、誰の家が妖しいだって?鼻に唐辛子詰めたろか」

 

「残念でしたー、俺は辛いものには耐性があるんですー」

 

「はいはい、キリトくんもテンくんも喧嘩しない。あと、ミトはさっさと帰ってこようね」

 

「…………はっ!私は誰!?ここは何処っ!?」

 

アスナに呼ばれ、ミトは我に返り、辺りを見回す。目の前には見慣れない姿に彩られた我が家の姿、現状に理解出来ないでいると、扉が開いた

 

『おかえりっ!!』

 

何時もは誰も居ないはずの家から、出てきたのは、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々とメイリン、リズベット、クライン、エギルと言った気の知れたメンバーだ

 

「なして、いるんよ?おめぇさんらが」

 

「リーダー達をお祝いする為に決まってるじゃありませんか」

 

「お祝い………?なんのだ?」

 

「結婚したでしょ。リーダーはミトさん、キリトさんはアスナさんと」

 

「だから、皆んなでお祝いしようって話になったんです」

 

「おめでとー」

 

「実にめでたいな!」

 

「全くだぜ!」

 

「さあ、パーティの始まりだ!派手に行くぞ!野郎どもっ!!!」

 

ディアベルの号令を皮切りに、結婚式は幕を開ける。テーブルには、メイリンの用意した料理が並び、更にはディアベル手製のバームクーヘン、コーバッツ印のバナナ、エギルが持参した飲料などのラインナップが立ち並ぶ

 

「美味え……美味えっす!メイリンさん!特にこのパイナップルご飯!」

 

「あらぁ、ありがとうございます。クラインさん」

 

「どうだ、ヒイロ。美味いだろ、このピーナッツバターを掛けた焼き鳥は」

 

「すごいや、リーダー。焼き鳥を犬の餌に昇華できるなんて」

 

「しばいたろか、焼き鳥ちび」

 

「全く馬鹿だな、テンは。どうだ?ヴェルデ、俺が持参した辛そうで辛くない辣油をふんだんに使用したブラック麻婆パスタは。美味いだろ」

 

「ええ、口の中が焼け爛れそうで汗と震えが止まりませんが美味です」

 

「料理の感想じゃないわよっ!?ていうか!キリトくん!何を食べさせてるのよっ!バカなのっ!?」

 

「ああ、パスタ馬鹿だ」

 

「認めたっ!?」

 

「結婚式って……なんだっけ。あ、鍋が煮えたわ」

 

例によって、馬鹿騒ぎを始める面々を見ながら、ミトは遠い目をするが彼女の前には鍋が置かれている

 

「ディアベルさん!チーズケーキ風のバームクーヘンって最強だと思いませんか?あたし、思ったんです。チーズケーキは世界最強なんじゃないかって」

 

「シリカ。君はまだバームクーヘンの本来の味を知らないみたいだな?いいかい、バームクーヘンは世界最強にして至高の食べ物だ。そして、何よりも俺が焼き上げるバームクーヘンは美味い」

 

「何を言うかと思えば…。分かってないのは、貴方ですよ?ディアベルさん。良いですか?チーズケーキは美味しいだけじゃなく、栄養価も高いんです。そんなことも知らないんですか?」

 

「なんか訳の分からない喧嘩をしてるわね……って!アマツ!?アンタは何やってんのよ!?」

 

「なんだ、そんなことも理解できんのか?」

 

「理解したくもないわっ!!何処の世界に結婚式で包丁を研ぐヤツがいんのよっ!!!」

 

「此処に居るだろう」

 

「はぁ……全く…アンタは…」

 

アマツの行動に呆れ、リズベットがため息を吐く。その隣では、言うまでもなく、彼等が皿に並ぶバナナに目を輝かせる

 

「オッさん!見ろよ!バナナがよりどりみどりだぜ!」

 

「うむ!喜ばしいな!これにより、私のユニークスキルであるバナナ農家も更なる発展を遂げる!」

 

「オッさん、ユニークスキル持ちだったんかっ!?というかバナナ農家がユニークスキルってなにっ!?」

 

「スゲェな!オッさん!!」

 

「戦いに役立つの?其れは」

 

「役立ちませんね」

 

「あたし、チーズケーキ屋のユニークスキルが欲しいです」

 

「じゃあ、私は鍋奉行」

 

「俺はイケメン商人で」

 

「私は料理人かしらぁ」

 

ユニークスキルという言葉に反応を示し、ミト達が存在するかも不明なモノを並び立てる

 

「メイリンさんなら、なれますよ!美人っすから!」

 

「ふむ、俺は要らんな。既に職人という肩書を持つからな」

 

「あたしも要らないわ。ユニークスキルとか柄じゃないし」

 

「リズは鍛冶屋に相応しいユニークスキル持ってんじゃん」

 

「は?なによ、それ?テン」

 

「鍛冶屋馬鹿」

 

「誰がよっ!!!」

 

「ごばっ!?」

 

ソウテンの顔面にリズベットの右フックが決まる。しかしながら、彼女の怒りは収まっていない

 

「殴るわよっ!」

 

『いや既に殴ってるし!!!』

 

ミト(ふぃと)……幸せ(ふぃあわふぇ)……に…する(ふる)…」

 

「期待してるわ。大好きよ、テン」

 

『いや!前途真っ暗だろ!!!どう見てもっ!!!』

 

騒がしくも賑やかな結婚式は幕を降ろす。変わらない日常に新たな祝福の(スパイス)を添えて




第22層にログハウスを買い、アスナと暮らし始めたキリト。しかしながら、彼の日常には平穏などありえない!騒がしいバカ達が幸せな新婚生活に殴り込みをかける!

NEXTヒント 新婚


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十七幕 結婚生活

キリトとアスナ、二人の結婚生活に彼等の魔の手が忍び寄る
はいはい、またしてもギャグ回!
残念ながら、ユイちゃんの登場はまだ少しだけ先になります……しかし!ギャグに力を入れたいが故のオリジナル回!後もう少しだけ、お付き合いください!


2024年10月27日 第22層南西エリア南岸

 

 

「ん〜っ!風が気持ちぃ〜!ほーら!キリトくんもやってみなよ。良い目覚ましになるよ」

 

「………おお!アスナの言う通り、悪くないな。やっぱり、この場所に家を買って、正解だった」

 

「そうだね」

 

青く澄み渡る空に宝石のように、きらきら、と光る水面が特徴的な湖が広がる静かな湖畔地帯。其処に佇む一軒のログハウスにキリトはいた

アスナと結婚した彼は、二人で住む為の新しい住居を求め、このログハウスを三日前に購入。そして、自分のギルドホームの部屋にあった家具や小物などの引っ越しを終え、昨日の夜に本格的に住み始め、今は新たな家で迎える最初の朝だ

 

「にっしても、朝からあのバカ達の顔を見ないのは新鮮だ。何時もはアスナの顔を見る前、確実にあいつらの顔を見てたからな」

 

「の割には、寂しそうだけど?」

 

「そう見えるか?」

 

「見える、見える。でも、それだけ……キリトくんの中で《彩りの道化(みんな)》の存在が大きいって事なんじゃないかな?其れは」

 

「かもな。テンとは距離を置いてた時期もあったりしたけど、なんだかんだで子供の頃からの付き合いだからな。今でも、思い出すよ。あいつが俺を外に連れ出そうと手を差し出してくれた日を」

 

懐かしい記憶。其れは自分の出生の真実を知り、妹を避け、家族を含む交友関係全てと距離を置き始めた自分の前に彼は現れた

何の前触れもなく、今と変わらぬ、不敵な笑みを携えて

 

『よぉ、相変わらずのぼっちだな。カズ』

 

『何しに来た……テン』

 

『んなの聞かんでも分かるだろ?楽しいことをする為に、お前を誘いに来たんよ』

 

『帰れ。俺はもう、誰とも関わりたくない……。このまま、部屋に居たいんだ…』

 

関わりたくない、故に彼を拒否し、殻の中に閉じこもろうとした。其れでも彼は諦めずに、手を差し出す

 

『却下、お前の答えは聞いてない。俺は俺のやりたいようにやる。だから、お前を連れて行く」

 

『どうして……どうしてだよ…。どうして、お前は俺なんかに手を差し出すんだよっ!』

 

『だって一人だと、つまんねぇし。でも……お前と二人なら、ぜってぇに楽しい毎日が送れるって、俺は思ってるんよ。だからさ、行こうぜっ!カズ!』

 

『ホント……敵わないよ。お前には』

 

彼の手を取り、二人で夜の街に飛び出した。気付くと、仲間たちと過ごす時間が当たり前になっていた。其れは今も変わってない、この世界に来てから、共通の“ゲームクリア(目標)”を掲げ、共に歩き続けてきた

しかし、僅かな休息を得る為、一時的に離れた。其処から生まれたのは、久しぶりの寂しさだった。アスナの存在で和らぎはしているが、キリトの日常に彼等の存在が無いのは、珍しい光景である

 

「初めてだね、君が自分のことを話してくれるのは」

 

「そうだっけ?前にも話さなかったか?」

 

「全然、聞いたことないよ」

 

「そうか。だったら、今話した」

 

「ふふっ…もうっ、キリトくんってば」

 

「「んっ……ちゅっ……んっ…」」

 

笑い合い、肩を寄せ、そっと口が触れ合い、朝の日差しに照らされながら、キリトとアスナは幸せを満喫する

 

「ずずっ……あ〜、紅茶が美味えな。ミトさんや?此れは何処の紅茶かにゃ?」

 

「此れはメイリンさんが独自に育てた茶葉から作った紅茶よ、テン。何処にも売ってないの、言わば非売品ね」

 

「「って!なに!人の家で普通に寛いでんだっ!!」」

 

突如、聞こえた声に振り返る。その先では、見覚えのある仮面の道化師と、これまた見覚えのある薄紫色のポニーテール少女が、バルコニーに椅子とテーブルを出し、ティーカップを片手に優雅なティータイムに洒落込んでいた

 

「おう、邪魔してるぞ。キリト」

 

「朝からイチャつくのも構わないけど、節度は弁えないと駄目よ?アスナ」

 

「いやいや!普通に挨拶返されても、反応に困るんだけどっ!?いつの間に来たのよっ!?だいたい!鍵はどうしたの!?」

 

「鍵?ああ、鍵は俺が極めたハイディングスキルを応用したシステム外スキルのピッキングで開けた」

 

「テンってば、見事な手際だったのよ。ホントに泥棒かと思うくらいに」

 

「褒めてんのか?それは」

 

「そうか、そうか。せっかく来てくれたんだ、二人とも。お茶のおかわりはどうだ?」

 

「なんだ、キリト。淹れてくれるんか?」

 

「なら、アールグレイをお願い。私はこう見えても鍋と紅茶にはうるさいのよ。あっ、紅茶鍋とかどう?オススメよ」

 

「…………」

 

同意を求めるミト、その隣でピーナッツバターサンドにかぶりつくソウテンの頭上にキリトが無言で紅茶を注ぐ

 

「あつっ!!ちょっ!ホントにあつい!!」

 

「せめて、少しはぬるめにしてくれんとリアクションが取りづらい!!」

 

「大丈夫だ、割としっかりしたリアクションが取れてるから」

 

「ホントに楽しそうね……毎日が」

 

紅茶を頭から被り、床を転げ回るミトとソウテン、更に二人を見ながら、冷静に対応するキリトにアスナは苦笑で応える

 

「ヒイロ!大変だよ!この家、部屋が大量に余ってる!」

 

「其れは大変。よし、引っ越そうか?シリカ」

 

「そうだね!あっ、お土産のチーズケーキです。引っ越し祝いにどうぞ」

 

「ありがとう、シリカちゃ………って!!なんで普通にいるのよっ!?」

 

「え?今日は確か、引っ越しパーリィでしたよね?」

 

「どんなパーリィよ!?」

 

何の前触れもなく、姿を見せたシリカとヒイロ。引っ越し祝いにチーズケーキを差し出し、笑いかけるシリカにアスナは突っ込むが彼女は意味が分からないと言わんばかりに首を傾げる

 

「申し訳ありませんが、キリトさん。此方の本は何処へ置けば?」

 

「おいコラ、何をしようとしてるんだ?お前は」

 

「見て分かりませんか?引っ越しの荷解きです」

 

「其れは見ればわかる。俺が言いたいのは、何で人の家で荷解きをしてるのかってことだ」

 

「何か問題が?」

 

「あるわっ!!ここは俺とアスナの家だっ!!」

 

真顔で問うヴェルデにキリトが突っ込んでいると、誰かが肩に手を置く

 

「落ち着け、キリト。今はルームシェアも珍しい時代じゃないだろう?ほら、バームクーヘンを食べろ」

 

「アンタは、何を人の家でナチュラルにバームクーヘンを焼いてんだよっ!?ベルさん!」

 

「新作だ、コーバッツさん作のアインクラッドバナナを使ったバナナバームクーヘンだ」

 

「うむ、私のバナナとディアベルくんのバームクーヘンが合わさり完成した思考の一品だ。是非とも食べてくれ給え、キリト少年」

 

「…………はぁ。ん?そう言えば、アマツとグリス、ロトはどうした?姿が見えないけど…」

 

「アマツならキッチンだ、ロトも一緒だと思う。あと、グリスは知らん」

 

ソウテンの答えを聞き、キリトとアスナはキッチンに向かう。其処にはテーブルの上に並べられた刃物と其れを見るロトの姿があった

 

「はものいっぱーい」

 

「よぉ、ロト。何を見てるんだ?」

 

「きぃとにあぅなだー。あのねー、しょくにんがつくったはものみてるのー」

 

「そうなんだ。其れでアマツくんは何処に?」

 

「あそこー」

 

アスナの問いに応えるようにロトがキッチンスペースを指差す。其処にはアマツが居り、砥石で何かを研いでいる

 

「………ふむ、上出来だ」

 

「職人……お前は何をしてるんだよ」

 

「見ての通りだ、包丁を研いでいる」

 

「包丁……あの!アマツくん!その包丁なんだけど、わたしに売ってくれないかな?」

 

「元より、そのつもりだ。此処に並べているものは全て、アスナに譲るようにリズに言われている」

 

「ホントにっ!?ありがとぉー!助かるよっ!」

 

包丁を受け取り、喜ぶアスナ。その彼女を他所にキリトは辺りを見回しているとアマツが声を掛ける

 

「どうかしたか?キリの字」

 

「グリスを知らないか?あのバカ騒ぎにアイツが居ないのは不自然だと思ってな」

 

「グリの字ならば、風呂だ」

 

「風呂?何処の?」

 

「無論、この家の風呂に決まっているだろう」

 

「……アマツ。アスナを暫く頼む」

 

「構わんが、お前はどうするんだ?」

 

アマツが問うと、キリトは良い笑顔を浮かべ、愛用の《エリュシュデータ》をストレージから取り出す

 

「ゴリラ狩りに行ってくる」

 

「そうか、気をつけてな」

 

風呂場に向かい、湯船に浸かる一匹を発見し、《エリュシュデータ》を振り被る

 

「こんのゴリスゥゥゥゥゥゥ!!」

 

「なんだっ!?カチコミかっ!!それとも、新手の通り魔かっ!?なっ!キリト!てめぇ!風呂場で何してんだっ!?」

 

「其れはお前だっ!!このゴリラ!!!」

 

「あぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

静かな湖畔沿いのログハウスに悲鳴が木霊するのであった

 

「わたしが想い描いていた結婚生活と……全然違う……」




アインクラッドに季節外れの雪が降り、一面を銀世界に彩る。そして、プレイヤー達による雪祭りが幕を開ける

NEXTヒント 完成度たっけぇな、オイ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十八幕 雪祭り

またまたギャグ回!ですが此れが終われば、いよいよユイちゃんの参戦です!


2024年10月28日 第50層主街区アルゲード

 

 

「レディ〜〜〜〜ス!ア〜〜〜ンド!ジェントルメ〜〜〜〜ン!!!雪が降ろうが、槍が降ろうが、どんな時も楽しむことを忘れないのが攻略組のモットーってものですっ!そーいう訳で………アインクラッド雪祭りスタートだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

雪。其れは一面を白き銀世界に彩る、天然の色彩、このアインクラッドにも季節外れの雪景色が訪れた

各層から集まった攻略組プレイヤー達の中心で、マイクを片手に軽快なステップとマイクパフォーマンスを繰り広げるシリカ。その姿に彼女のファンが声援を送る

 

『L・O・V・E!シリカ!がんばれ、がんばれ!シリカ!!』

 

「はーい!司会進行はあたし、三大トップギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》が誇る天真爛漫なビーストテイマーのシリカと!相棒のピナ、更にヤキトリでお送りしまーす!」

 

「きゅるる〜」

 

「ぴよ?ぴよぴよ」

 

『うぉぉぉぉぉ!!!』

 

「雪が降ろうがあたし達には関係ないっ!白く彩られたなら、自分たちで彩り返せばいいっ!プレイヤー諸君よ!祝え!アインクラッドに新たな祭が誕生した瞬間であるっ!!」

 

『L・O・V・E!シリカ!がんばれ、がんばれ!シリカ!!』

 

最早、恒例になったシリカの司会進行は彼女の新たな魅力を引き出し始めていた

普段は自己主張を余りしない彼女だが、マイクを持てば、まるで水を得た魚のように軽快な話術を武器に空間全てを支配する、今のこの瞬間だけは彼女が中心となっている

 

「テン、雪を持ってきたわよ」

 

「おお、ありがとよ。ミト」

 

「ゆきー。とーさんにあげる」

 

「ロトも持ってきてくれたんか。ありがとな」

 

「えへへー」

 

「よぉ、テン。おめぇらも来てたのか」

 

雪像作りに励むソウテン、ミト、ロトの三人に声を掛けてきたのはクライン。側には誰も居らず、今回は一人で行動しているようだ

 

「なんだ、クライン。生きてたんか」

 

「あったりめぇよ!んで?お前らは何を作ってんだ?」

 

「俺たちか?俺たちはこれだ」

 

クラインの問いに応えるように、ソウテンが自分の背後を指差す。其処には台座の上に聳え立つ巨大な剣があった

 

「なんだこれ……」

 

「見て分からんか?アレだよ、サイクロントルネードハリケーンサイクロンブレードだ」

 

「どれも竜巻の呼び名じゃねぇかよっ!?だいたい、そんな変な名前の剣がある訳ねぇだろ!!つーか!サイクロン二回出たよな!?今!」

 

「失礼ね。じゃあ何?クラインは、テンが嘘を吐いてるとでも言うの?だったら、間違いよ。テンはね、確かに迷子で、バカで、アホで、更にピーナッツバターに頭を支配されてるどうしようもない人だけど、嘘だけは吐かないのよ」

 

「ねぇ?ちょいと、ミトさん?褒めてんの?それは。明らかに貶してない?」

 

「そんなことないわ。私が大好きなテンはその全部が長所になるくらいのカッコいい人よ」

 

「………えっと、ど……ども…」

 

人目を気にせず、にっこりと笑い、自分を褒めるミトに対し、褒められ慣れてないソウテンが珍しく、顔を赤くし、素直に礼を述べる

 

「くぅっ!!人の目の前でイチャイチャしやがって!このバカップル!!」

 

「あらぁ?騒がしいと思ったら、テンちゃん達だったのね?やっぱり。其れにクラインさんも」

 

「め、メイリンさん!?こんなゴミ溜めで貴女に会えるなんて!ご機嫌麗しゅう御座います!良いお天気ですね!」

 

「良いお天気……って雪だぞ、今日は」

 

「駄目よ、テン。クラインはメイリンさんを狙ってるから、話題を考えようと必死なのよ。だから、今は突っ込まないであげるのが友達としての気遣いってものよ」

 

「なるほど、そうなんか」

 

「ふっ…おめぇには分からねぇだろうな。俺の溢れんばかりのダンディズムが」

 

「……どうだ、メイリンさん。スゲェだろ」

 

「って!話聞けやコラァ!!」

 

キメ顔ですかして見せるクラインであったが、微塵も興味を示さないソウテンはメイリンに自分が作成した力作を披露していた

 

「まぁ、これはサイクロントルネードハリケーンサイクロンブレードじゃないの。完成度たっけぇな、オイ」

 

「えぇぇぇぇぇ!?何で知ってるんすか!?あるのマジで!?マジであんの!?これ!俺だけ知らねぇのか!?」

 

「アインクラッドがまだ地上にあった頃、主要な100の都市とその周辺の地帯が円形に切り抜いてしまった大地切断の発端とも言われてる伝説の剣だわ」

 

「なにっ!?こんな変な剣でアインクラッドは作られたのかっ!?」

 

「そーいや、メイリンさんも参加者か?」

 

「私は違うわ。キーくんやグゥちゃん達はそう見たいだけど」

 

「来てたのね、やっぱり」

 

「好きだからな。あいつらも」

 

「よっしゃぁぁぁぁ!優勝はいただきだぜ!なっ!オッさん!」

 

「うむ!そうだな!」

 

突如、響いた聞き覚えのある元気な声に周辺を見回すと、雪像の前でバナナを剥くグリスとコーバッツが目に入る

 

「噂をすればだ。見てみようぜ、グリスとオッさんの作品」

 

「そうね。ロトー、行くわよ」

 

「はーい!」

 

ミトとロトを連れ、彼等の方まで歩いていく。すると、気付いたらしく、グリスが手を振る

 

「よぉ!テンにミトじゃねぇか!」

 

「おお!君たちも来ていたのか!」

 

「元気だなぁ、二人は。そいで?おめぇさんらは何を作ってるんよ」

 

「俺たちか?聞いて驚くんじゃねぇぞ……なんとな!新作のバナナだ!名付けて、アルゲードバナナ!!!」

 

「見た目、艶、味の全てが最高品質の高品質レアのバナナだ!今日はそのバナナの御披露目も兼ね、ここに雪像を作らせてもらった訳だ」

 

「バナナ……ねぇ?気のせいかしら?テン。このバナナ、羽が生えてるように見えるんだけど….」

 

「奇遇だな、俺もだ」

 

「すげぇだろ?アインクラッドじゃ、これが普通らしいぜ」

 

「「ねぇよ、こんなバナナ!!」」

 

声を揃えながら、グリスとコーバッツの力作に、ソウテンとミトは飛び蹴りを放つ

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!バナナがっ!俺たちのバナナが!」

 

「何をするかぁ!私とグリス少年の力作に対しての冒涜!許さんぞ!」

 

「そうだコラァ!だいたい、人のを破壊して、おめぇらは何を作ったんだ!」

 

「アレだ」

 

「あん……なっ!」

 

「こ、此れは…!!」

 

ソウテンの指差す先にある剣の雪像を見た瞬間、グリスとコーバッツに衝撃が走った

 

「「サイクロントルネードハリケーンサイクロンブレードじゃねぇか。完成度たっけぇな、オイ」」

 

「ゴリラブラザーズ、おめぇらも知ってんのか」

 

「ああ、別名は「バナナブレード」。その昔、バナナ農家ときゅうり農家が戦をしていた時代に伝説のバナナ農家が振るったとされる剣だ……って!誰がゴリラだコラァ!!!」

 

「その切れ味は正に魔剣、どんなバナナも切り裂き、どんなバナナも皿に盛り付けられるような適度な大きさに切れると言われている万能調理器具だ」

 

「さっきと全然違う説明になってんぞ?ていうか、二人で違う説明すんな!ややこしいだろ!」

 

「おや…何やら騒がしい方々が居ると思えば、リーダー達ではありませんか」

 

「楽しそうだね、相変わらず」

 

剣の正体が何なのかも理解出来ないクラインが呆れていると、騒ぎを聞き付けたヴェルデとヒイロが声を掛けてきた

 

「ヴェルデにヒイロ。二人も参加してんのか?」

 

「ええ、ベルさんにアマツさんも一緒ですよ」

 

「リーダー達も参加してるの?」

 

「まあな。これが俺たちの力作だ」

 

「拝見します……これは!」

 

ソウテンが指差す先に目を向けたヴェルデが目を見開き、驚いたような声を挙げる

 

「サイクロントルネードハリケーンサイクロンブレードではないですか、完成度たっけぇな、オイ」

 

「確か、中世の時代に連続殺人鬼が使っていた凶器だよね。さすがはリーダー、目の付け所が違う」

 

「最早、何なんだよ…。サイクロントルネードハリケーンサイクロンブレードってのは……」

 

「では我々の雪像もお見せしましょう、此方です」

 

ヴェルデに案内され、彼等の場所に向かう。其処にはディアベルとアマツが居り、雪像の仕上げをしていた

 

「ふぅ…こんなものかな」

 

「ふむ、中々の出来だ」

 

「ああ、巨大なバームクーヘンの完成だ」

 

「焼き鳥も刺さってるよ」

 

「この部分、カレー粉をイメージしているのが分かりますか?リーダー」

 

「バカだ、バカがいる」

 

「バームクーヘンに頭毒されてきてるわね……ベルさん」

 

「ふはははは!哀れだな!道化師(クラウン)!」

 

「お、お前はっ!!!」

 

ディアベル達に呆れ果てていると、背後から笑い声が聞こえ、振り返る。その先には白い鎧に耳を包んだ一人の男が立っていた

 

「………………誰だ?」

 

「クラディールだっ!!!」

 

「ああ、アスナのストーカーか」

 

「そうだ、そのストーカーのクラディールだ」

 

「認めたわよ、遂に」

 

「開き直ってる」

 

「そっとしておいてあげましょう。きっと、そうすることでしか、愛を表現できない哀れな方なんです」

 

「ふっ……これを見ても、そんなことが言えるかっ!見よっ!私の力作を!!」

 

クラディールが示す先に、其処に立つのは雪で作られた女性の雪像。見覚えのある姿にミトが固まる

 

「……………」

 

「なんてこった、アンタが変な雪像を見せるから、ウチのミトちゃんが固まったじゃねぇの。どうしてくれるんよ?」

 

「くれるんよ」

 

「ふっ、アスナ様の崇高なる御姿を再現した雪像だ。この魅惑的な美脚、引き締まる腰、たわわな胸部、全てがアスナ様を物語っている、素晴らしいだろう」

 

「あら、アスナからメッセージが」

 

『ミト、もしもクラディールがわたしの雪像を作ってたら、破壊しておいて。絶対に』

 

「よし、テン。仕事よ」

 

「ほいきた」

 

「きた」

 

アスナからのメッセージで、ミトが鎌を片手に告げるとソウテンとロトがスコップを片手に彼女の側に立つ

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!私の力作がぁぁぁぁ!!!」

 

「よし、ミッションコンプリートね」

 

「舐めるなっ!!貴様らのも破壊してくれるわっ!!」

 

「なにっ!?大変だ!ミト!俺とミトが作ったサイクロントルネードハリケーンサイクロンブレードを破壊するつもりだ!あんにゃろう!」

 

「なんですって!?許さない、許せないわ!!私とテンの愛の力作を破壊なんてさせるもんですかっ!!」

 

「バナナの恨みだコラァ!!!」

 

「喰らえ!」

 

「なっ!?バームクーヘンが!!」

 

「………貴様ら、死にたいらしいな。斬り刻んでくれるわっ!!!」

 

「僕が作り上げた作品を破壊するとは…!許しませんっ!!」

 

「焼き鳥のうらみ」

 

何時もの騒がしい風景により一層の騒ぎを加え、雪像大会は激化を始める

 

「ふんっ、やっぱりすごいな。俺は美術の天才だったらしい」

 

「くたばれぇぇぇぇ!!」

 

「なめんなぁぁぁぁぁ!!」

 

「あああああ!!!俺のペペロンチーノの雪像がぁぁぁぁ!!!こんのバカテン!!許さんぞ!!!」

 

「知らんわっ!!!つーか、いたんか!?お前!!!」

 

キリトまでもが参加し、雪像大会が雪合戦に変わっていく。その光景に遅れて、到着したアスナは苦笑する

 

「シリカちゃん?今日って、雪合戦大会だっけ……?」

 

「いえ、お祭りですね。どちらかと言うと」




第22層の森、幽霊が出るという噂を聞き、森の中に足を踏み入れたキリトとアスナが見たのは……怪しい行動を見せるソウテン達だった

そして、森の奥深くで彼女に出会う

NEXTヒント 朝露


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十九幕 朝露の少女

遂にユイちゃん登場!シリーズ屈指のシリアス場面!しかーし!奴らには関係ない!


2024年10月30日 第22層南西エリア南岸

 

 

「ね、ねぇ…?キリトくん。本当にこの森に入るの?」

 

「なんだ、アスナ。まだビビってるのか?あんなのは噂だよ」

 

「だって!ミトがそう言ってたんだよっ!?こ、ここには幽霊が出るって!!」

 

現在、キリトとアスナが歩くのは自宅から僅かに離れた先にある森林の中。二人が何故、こんな場所に居るのかと言うと、話は数時間前に遡る

 

『ねぇ?アスナ』

 

遊びに来ていたミトに呼び掛けられ、紅茶をテーブルに置き、彼女は対面する様にソファに腰掛ける

 

『どうしたの?ミト』

 

『実はアスナに聞いてもらいたい話があるのよ。聞いてくれる?』

 

『もちろん』

 

『そっか、そっか。実はね?この森、出るみたいなのよ』

 

優しい笑みで、そう告げるミト。刹那、アスナの顔から、ゆっくりと血の気が引いた

 

『で、出る……?えっと…レア装備的なモノがってことよね?それは』

 

『ううん、幽霊。一週間くらい前に木工職人(ウッドクラフト)プレイヤーが見たらしいのよ。この森の中で小さい女の子を、しかも、その子にはカーソルが無かった……どう?興味をそそるでしょ?』

 

『そそりませんっ!!!』

 

此れが数時間前のやり取り。同じようにソウテンから、その話を聞いたキリトが帰宅早々に怖がるアスナを連れ出し、現在に至る

 

「でも、見当たらないな。直ぐに見つかると思ったのに」

 

「やっぱり居ないんだよ、ミトとテンくんがわたしとキミを驚かす為に作った作り話よ。きっと」

 

「それは考え難いな。確かにテンはバカで、迷子なヤツだけど、嘘は吐かない。其れはミトも同じだ」

 

「そうかなぁ……ん?」

 

キリトの言葉に疑い気味の表情で、首を何度も捻るアスナ。その時、視界に妙な物が映り込む。その妙な物もとい仮面の道化師は木にペースト状の何かを塗りたくっていた

 

「キリトくん、帰りましょう。この森怖いわ、木にピーナッツバター塗りたくってたわよ」

 

「気にするな、妖精だ。ああやって森を守ってるんだよ」

 

「でも明らかに見覚えのある人だったわよ、わたし達の知り合いだったわよ。仮面冠ってたもの、間違いないわ、あれはまごう事なき迷子よ」

 

「なら、妖怪迷子仮面バカピーナッツだ。ああやって、ピーナッツバターを守ってるんだよ」

 

「いや、どういうこと?ピーナッツバターを守るって意味が………」

 

更に道を進め、歩くとまたしてもアスナの視界に妙な物が映り込んだ。その妙な物もとい青年は二本の木の間に枝を突き刺し、生地を巻きつけていた

 

「キリトくん。やっぱり怖いわ、この森。バームクーヘン作ってたわよ」

 

「気にするな、妖怪芭衛武区衛篇(バームクーヘン)だ。ああやって、仲間にバームクーヘンを焼いてるんだよ」

 

「でも明らかに見たことある人だったわよ。騎士よ、騎士だったわ」

 

「じゃあ、妖怪騎士道だ。何時も、気持ち的に騎士をやりながら、バームクーヘンを焼いてるんだよ」

 

「いや、聞いたことないんだけど?そんな妖怪……」

 

更に歩みを進めると三度、アスナの視界に妙な物が映り込んだ。妙な物もといその二匹は上半身裸でバナナを体に括り付け、仁王立ちしている

 

「キリトくん、この森は既にバカ達の巣窟みたいだわ。だって、ゴリラがバナナを食べずに体に括り付けてるわ」

 

「気にするな、あれはゴリラの妖精ゴリラブラザーズだ。ああやって、ゴリラを守ってるんだ」

 

「いや、ゴリラを守るってなに……」

 

森の中を歩き、バカ達の所業に頭を悩ませるアスナの視界に追い討ちをかけるように妙な三人組が映り込む。一人は木にカレーを塗りたくり、もう一人は地面に焼き鳥を刺し、最後の一人はチーズケーキを地面に置き、何かを待ち構えている

 

「キリトくん。わたし、最近思うの。ゲームクリアは無理なんじゃないかって」

 

「諦めるな、アスナ。きっとクリア出来るさ」

 

「ホントに?キミがそう思うなら……」

 

希望を取り戻し掛けたアスナの視界に映り込んだのは、見覚えのある薄紫のポニーテール。その親友は木の前に座り、鍋が煮えるのを只管に待っていた

 

「やっぱり、無理よ。ゲームクリアは諦めましょう」

 

「落ち着けよ、アスナ。あのバカ達は無視しよう」

 

「ちょっと待ちなさいよ。私を馬鹿呼ばわりしないでくれる?今もこうして、大事な作戦を遂行中なのが見て分からないの?」

 

「分かるわけあるか。分かるのは、お前が馬鹿ってことだけだ」

 

「全く私の作戦を理解できないなんて…。これだから、ぼっちは」

 

「誰がぼっちだ、鍋女」

 

「おやまあ、随分と騒がしいじゃねぇの」

 

騒ぎを聞き付け、キリト達の元に《彩りの道化(バカたち)》が集まり始める

最早、その光景に呆れ果てたアスナは全てを諦めたような視線で空を見上げる

 

「キリトにアスナじゃねぇか!」

 

「こんなところで何をしているのかね?」

 

「何をしてるって、体にバナナ括り付けた人に言われたくない。お前らこそ、何やってんだよ」

 

「質問に質問で返すとは何事だね、キリト少年。質問をしているのは私だ、先ずは私の質問に答え給え」

 

「なんでだよ、どうやったら、体にバナナ括り付けた状態で普通に質問できるんだよ。どういうメンタルしてんだよ」

 

「気にするな、キリト。ほら、バームクーヘンだ。食べな」

 

「アンタもだぞ、ベルさん。森の中でバームクーヘンを焼くな。家でやれ」

 

「家は駄目だ、今日はアウトドアで作るバームクーヘンだから。家は駄目だ」

 

真顔で否定するディアベルにキリトは呆れながらも、くわっ、と両目を見開き、更に親友へと突っ込みの矛先を変える

 

「知らんわっ!だいたい、ピーナッツバターを木に塗りたくってる其処のバカは何がしたいんだよ!」

 

「決まってんだろ。幽霊探しだ」

 

「テン?幽霊はピーナッツバターでは探せないって言ったはずよ、ここは私の鍋大作戦で行きましょう」

 

「何を言うんです。僕のカレー大作戦の方が確実です」

 

「いや、俺の焼き鳥プロジェクトの方が適任」

 

「違うよ、あたしのチーズケーキストラテジーの方が名案だよ」

 

「いや、ここはミッション・オブ・バナナで行くべきだ」

 

「その通りだ。よく言った、グリス少年!」

 

「何を言う、俺のアウトドアバームクーヘンに敵うわけないだろう」

 

「全くお前らは……其れなら、俺がパスタで誘き寄せる!!」

 

「キミまで何を言ってるのよっ!?…………えっ?ちょっと!アレ!!!」

 

キリトまでもが参戦しようとした時だった、何かに気付いたアスナが叫んだ

その視線の先には、白いワンピースを纏った幼い少女が無言で佇み、ソウテン達を見ていた。そして、次の瞬間、少女はゆっくりと、崩れ落ちる

 

『あ……あれは……!』

 

「………かくれんぼ中の子ども?」

 

『幽霊だろっ!どう見てもっ!バカリーダー!!!』

 

ソウテンの発言に全員の突っ込みが飛ぶ。一先ずは少女を連れて帰ることになり、騒動は終結したかに思えた

しかし、其れは歯車がまた回り始めた予兆であった。そう……ゲームクリアという目標に向けての歯車が




少女を連れて帰り、面倒を見ることにしたキリトとアスナ。その一方でソウテンとミトの前から、ロトが姿を消した
一体、彼は何処に?そして、隠された真実とは……!?

NEXTヒント 正体


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十幕 正体

シリアス?ギャグ?どちらかと言うとシリアスかも……


2024年10月30日 第22層南西エリア南岸 ログハウス(キリト&アスナ宅)

 

 

「NPCではないよな?移動させられた訳だし」

 

「だねぇ、見た感じはロトと同じくらいだな。ありゃ」

 

「カーソルは出てなかったよな……ん?待てよ、前にも似たような会話しなかったか?そういや」

 

少女を連れて帰り、二階の寝室に寝かせた後、世話をミトを筆頭にした女性陣に任せ、ソウテン達はリビングで少女についての考察をしていた。刹那、グリスがデジャブを感じ、疑問を投げかけた

 

「しましたね。僕の記憶が正しければ、三ヶ月ほど前に」

 

「ロトの時と似てるよね。リーダー、何か知らないの?」

 

「知らん。というか、知ってんなら、あの子を見つけた時に既に対処してる」

 

「それもそうだ。となると……何者なんだ?あの子は」

 

「うむ、其れも気になるが……ロトくんの正体も気になるな。そうなると」

 

疑問が飛び交う中、ソウテンはコーバッツが述べた《ロトの正体》という単語が心に残った。確かに、気にならないと言えば、嘘になる。この数ヶ月で、互いを家族のように認識し、振る舞ってきたが、元を辿れば、身に覚えのない事例、更に言えば、彼が本当は何者なのかを、誰も知らないのだ

 

「調べてはいるんだろ?お前のことだから」

 

「まあ、色々とな。それでも核心に迫る答えは見つかってねぇんよ」

 

「そもそも気にしないようにはしていましたが。何故、ロトくんはリーダーを「とーさん」、ミトさんを「かーさん」と呼ぶのでしょう?御二方に瓜二つのプレイヤーがいらっしゃるのでしょうか?」

 

「その線はあるかも。ほら、世界には似た人が4、5人はいるとか言うし」

 

「ヒイロ?それは多いぞ、居ても三人だ」

 

「そうなの?ベルさんは物知りだね」

 

「テンに似たやつぅ?どーせ、バカで迷子なんだろうなー」

 

「うるさいよ、ゴリラ」

 

「誰がゴリラだコラァ!!この迷子!!」

 

「迷子じゃねぇ!!」

 

「落ち着き給え。それで、君はどういう仮説を立てているんだ?テン少年」

 

コーバッツが切り出すと、ソウテンは数秒の間、頭の中で情報を整理する。持ちうる知識と情報を総動員させ、仮説を構築し、その全てが一筋の光(真実)を導き出そうとした時だ

 

「ん?メッセ?差出人は職人か……え?」

 

突然のアマツからのメッセージ、その内容にソウテンの思考は停止した。辿り着き掛けていた答えは消え、そのメッセージを前に仮面の奥で表情が歪んだ

 

「テン!!!メッセージ見た!?職人からの!!」

 

慌ただしく、階段を駆け下り、息も絶え絶えになりながら、声を荒げたようにミトが問い掛ける。彼女の表情もソウテン同様に、険しく歪んでいる

 

『少し目を離した隙にロトが姿を消した。お前たちの方に行っていないか?』

 

「キリト、悪りぃんだが俺とミトは急用が出来ちまった。あの子の事はおめぇさんたちで何とかしてくれ。んじゃ、Adieu!」

 

「そういう訳だから!ごめんねっ!急ぐの!」

 

「ちょっ!?」

 

「ミトっ!?」

 

足早にログハウスを後にするソウテンとミトをキリト、アスナが呼び止めようとする

 

『って!!早過ぎだろっ!?いくらなんでもっ!!』

 

しかし、既に彼等の姿は見えなくなっていたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2024年10月30日 第48層主街区リンダース

 

 

「「職人、リズ!!」」

 

アマツ、リズベットの二人が経営する武具店の扉を蹴り開けると同時にソウテンとミトが中に転がり込む

 

「騒々しい奴等だな、相変わらず。ティータイムの邪魔だ」

 

「いや待てコラァ!あんなメッセ、飛ばしといて、ティータイム洒落込んでんじゃねぇ!!」

 

「そうよっ!ロトが消えたって、どういうことっ!?」

 

「落ち着きなさいって、テンもミトも。まぁ、紅茶でも呑みなさい。話はそれからよ」

 

目の前に紅茶が注がれたティーカップを置かれ、椅子に腰掛け、一応は社交辞令の一環に紅茶を口に運ぶ

 

「あ〜美味ぇ」

 

「あっ、ピーナッツバターサンドあるわよ」

 

「ミトのピーナッツバターサンドっ!?美味しいのよねぇ〜」

 

「リズの不味い料理も棄てたモノではないがな」

 

「その情報はいらないわよっ!?てか、不味くないわよっ!!ちょっと味が濃いだけよ!!」

 

「いや焼き焦げた何かを生み出す時点でお前は料理に向いていない。そんなことでは、嫁の貰い手がなくな----ぐもっ!?」

 

アマツの顔面にリズベットの右フックが決まる。しかしながら、彼女の怒りは収まっていない

 

「殴るわよっ!」

 

「「いや既に殴ってるし!!!って!和んでる場合じゃない!」」

 

リズベットに突っ込みながら、我に返ったようにソウテンとミトは本題を思い出す

 

「ああ、そうだったわね。二人に言われて、ロトの面倒を見てたんだけど……アマツの作った槍を一つだけ、持って、居なくなったのよ」

 

「槍を?ロトが槍を持ってたんか?」

 

「あたしも最初は違和感を感じたわ。でも、今日は定休日だからお客の出入りは無かったのよ」

 

「その点を踏まえると、槍を持ち出せるのは俺かリズの何方かになるのだろうが……その時間帯、俺は武器を研ぎ、リズは武器を打っていた」

 

「じゃあ、本当にロトが……?テン、どうなってるの?私には何がなんだか……」

 

ミトに問われ、ソウテンは頭の中の情報を総動員させる。消えたロト、紛失した槍、一見すると繋がりが薄く見えるが、ある仮説が構築されていく

 

「ミト。ロトの居場所が分かった」

 

「え?それって……?」

 

立ち上がり、何かを確信したかのようなソウテンに対し、ミトが問う

 

ラフコフのアジト(・・・・・・・)があった場所だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってたよ」

 

彼は其処に佇んでいた。槍を肩に担ぎ、青いマフラーを靡かせ、不敵な笑みを携える姿は正に瓜二つだった

ミトは目を疑った、自分が息子と呼び、自分を母と慕っていた彼は、想い人によく似た……否、同じ姿で其処に立っていた

 

「どういうこと……?テンが二人…?ロトは?ロトは何処なのっ!?」

 

「僕がロトだよ。母さん」

 

「そんな訳ないっ!だってロトは子どもよっ!?」

 

「そうだねぇ、子どもだった。でもあの姿は偽りの姿だ。これが本当の僕……いや、俺だ(・・)

 

普段の子ども染みた口調とは異なり、まるでソウテンを彷彿とさせる口調に不敵な笑み。見間違えそうになるくらい、彼と酷似するロトの姿にミトは絶句する

 

「やっぱりか。仮説が確信に変わった、おめぇさんは……俺だな?」

 

冷静な声色で、ソウテンが問うとロトは彼に視線を向ける

 

「ああ、俺はソウテン(お前)だ。正しくはお前に語り掛けていた黒い衝動()がSAOのメインシステム「カーディナル」の試作0号(プロトタイプ)を素体に自我を持ち、生まれたNPCとしてのソウテン(お前)だ。ソウテン(お前)は、黒い衝動()を拒んだ……なのに……!どうして、幸せを得た!?絶対に許さない…… 黒い衝動()を否定するってんなら、ソウテン(お前)を倒す。この手で」

 

「そっか。なら、付き合うよ……おめぇさんの気がすむまでな」

 

互いに槍を構え、不敵な笑みを浮かべる

 

「ああ……やろう、馬鹿親父(父さん)。こっからは親子喧嘩だ」

 

互いの全てを賭け、ぶつかり合う為に

 

「親父の胸を貸してやる、かかってこいよ……馬鹿息子(ロト)

 

その言葉を放つと同時に彼等は地を蹴り、金属音を響かせた




ぶつかり合うは父と息子、その身に秘めた想いは…?そして、ミトの導き出す答えとは…?全てが交差する時、何かが起きる

NEXTヒント 家族


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十一幕 親と子

ちょっと、感動系です。あっ!らしくないとか言わない!私だって、感動系も書けるんですからね!まぁ、次はネタに走る予定ですけど……


切っ掛けは単純だった、彼に必要とされたかった。認められない寂しさを煩わせるように、語り掛け、彼が怒りに任せ、暴れ回る度に、満たされ、満足していた

 

しかし、彼は出会ってしまった。人を愛することを知ってしまった

 

その日を境に語り掛けても、声が届くことはなかった。その日々が続いたある日のことだ

 

現実とは異なる、もう一つの現実とも言える仮想世界に彼は囚われた。その時、今までは心の闇でしかなかった自分も体を得た

 

最初は彼をまた暴れさせることが目的だった。其れでも愛を知った彼は、自分を拒み、突き放し、只管に拒絶した

 

やがて、感情が芽生えた。憎しみという激しい憎悪、その感情は、黒く全てを塗り潰し、何もかもを壊すという最悪の結論に行き着き、全てを壊す為に、その身に破滅をもたらそうと、彼を蝕もうとした

 

ソウテン(お前)が幸せになれば、なるほど!不幸に、惨めに、消えていく黒い衝動()がいるっ!!!」

 

怒りを打つけるかのように槍を突き出し、絶え間のない攻撃の雨を浴びせる

 

「どうして……!どうして、元は同じなのに!!ソウテン(お前)が笑い、黒い衝動()は消えなければならない!!全てを否定されなければならないっ!!!元は同じ蒼井天哉(一人)なのにっ!!!黒い衝動()だけが、消えて、ソウテン(お前)だけが、笑っていられるっ!!!」

 

本音を攻撃に乗せ、叫ぶ。全てを否定された、あの日を忘れない

自分と決別するように愛を選んだソウテンをロトは許さない、否、許せない。感情のままに叫ぶ、その姿はNPCではない、一人の人間と変わらない

 

黒い衝動()が何度、語り掛けても見向きもしなかったのにっ!!どうして、あの女(ミト)の声だけは聞くんだっ!!黒い衝動()ソウテン(お前)なのにっ!!!傾けるべき声は、黒い衝動()なのにっ!!!どうして!どうして、あの女(ミト)なんだっ!!!」

 

全ての攻撃を受けながら、ロトの声を聞くソウテンの表情は穏やかだった。まるで子を慈しむ父のように、只管に、耳を傾ける

 

「反撃しろよっ!!そして、全てを壊せよっ!!!お願いだよ……お願いだからっ!!!黒い衝動()を……僕を……見てよ……父さん…」

 

涙が溢れる、流れることもない筈の涙が。溢れ、止まらない。零れ、その頬を伝い、地面に落ちる

 

「見てるさ、だって……お前は此処に、俺の目の前にいるじゃねぇか。そうだろ?ロト」

 

「………えぐっ…えぐっ……うわぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

頭に触れる優しい温もりに、溢れた涙が一気に噴き出した。手に握られた槍は離れ、行き場を失った手にはもう一つの温もりが触れる

 

「そうよ、貴方が何処の誰かなんて、関係ないわ。私とテンにとって、掛け替えのないたった一人の宝物(息子)、これからも其れはずっと変わらないわ。其れに貴方と一緒に過ごした日々で楽しくなかった日なんか、一日たりともなかったわ。毎日が驚きと笑いの連続だった……ねっ?テン」

 

「ああ、前にも増して、馬鹿騒ぎするのが楽しくなった。ロトがいて、アイツらがいて、明日は何をしようかって思う度にこの世界で生きる喜びを実感できた。だからよ、これからも楽しい事は、全力で首を突っ込もう。その方がきっと、昨日より、今日よりも、楽しい毎日を彩り、作っていけるからさ」

 

「うん……そうだね。とーさん、かーさん、ありがとう……二人の声、しっかりと届いたよ……でもね」

 

涙を拭い、笑いかけるロトの体に異変が生じる。体を光が包み、その身を淡く彩る

 

「お別れみたいだ、ごめんね」

 

「嘘……ロト!行かないでっ!私、まだ貴方に何もしてあげられてないっ!!」

 

突然の別れ。分かり合えた筈の家族(三人)に訪れた、唐突な出来事に納得のいかないミトが叫ぶ

 

「そんなことないよ。かーさんがいたから、とーさんは愛を知れた、そして、僕も本当の僕を知ることが出来た。充分すぎるくらいに貰ったよ」

 

「其れでも……私は!!貴方ともっと一緒に居たかった!!もっともっと話したかった!!本当の親子みたいに口喧嘩をしてみたかった!!!たくさん、笑い合いたかった!!!なのに……お別れなんて……言わないで……行かないでよぉ……ロトぉ…」

 

消えゆく我が子(ロト)を前に、泣きじゃくるミト。その涙は彼を大切と思うが故に流れ、溢れている

 

「泣かないで、かーさん。僕の大好きなかーさんはとーさんの馬鹿みたいな行動に笑う笑顔のかーさんなんだ、この世で一番かーさんに似合うのは笑顔だよ。だからさ?笑ってよ。それに、とーさん。素敵な名前をありがとう、僕は《Prototype-MHCP000》って形式的な名前はあるけど、他のメンタルヘルスケアプログラミングAIみたいな固有名は持ってなかった…、でもね、とーさんがくれた名前は僕のお気に入りだよ、この名前は唯のプログラムの一環にしか過ぎなかった僕を、とーさんとかーさんの息子にしてくれた、僕に愛する喜びを、誰かを愛する気持ちを、教えてくれたよ。だから、ありがとう」

 

笑いかけるロトに対し、仮面で涙を隠し、ソウテンは僅かに頬を緩ませる

 

「お礼を言うのは俺の方だ。お前と向き合ったから、俺は愛を知れた。お前が居たから、《彩りの道化(アイツら)》に会えた。お前と一緒だったから、SAO(仮想世界)でも楽しい日々を過ごせた。だから、俺の方こそ、Gracias(ありがとう)

 

「えへへー、嬉しいな。其処まで言ってもらえて……もう、そろそろみたいだ。またね、父さん、母さん」

 

「ああ、またな。きっとまた巡り合うその日まで、Adiós por un tiempo(暫しのお別れを)。巡り合った暁には、きっと、三人で」

 

「約束するわ……きっと…きっと……また…三人一緒に……」

 

「うん、きっとだよ」

 

溢れる光に包まれ、にこりと笑うロト。其れと同時に光が飛び散り、跡形もなく、彼は姿を消した

 

「「鍋を囲もう」」

 

約束を胸に、空を見上げた後、ソウテンは地面に落ちた槍を拾い上げる

 

「………テン。これ見て、ほら」

 

「んむ……おやまあ、コイツはたまげた」

 

共有化されていたストレージを開くミトの声に、視線を動かすと見慣れないアイテム名が表記されていた。《Prototype-MHCP000》、今まではなかったアイテム、しかし、ミトは知っている。これが何であるかを知っていた

 

「きっと……あの子の……ロトの心よね?これは」

 

《ロトの心》、そうに違いない。彼女は確信し、ストレージに触れ、そのアイテムを取り出した

刹那、一粒の雫が結晶化したような指輪が出現し、彼女の手の中に、ゆっくりと、落ちる

 

「かもなぁ、どうだ?付けてみるか?ミト」

 

煮え切らない返事ではあるが彼も確信があったのか、何時もの不敵な笑みで問う

 

「じゃあ、お願いできる?テン」

 

彼女が笑いかけると、ソウテンはその手から指輪を受け取る

 

「これからもずっと一緒だ、家族三人でもっともっと冒険しよう」

 

「はい、喜んで」




目を覚ました少女、彼女はまさかの記憶喪失……!?しかし、お節介なバカ達は今日も今日とて、騒がしく賑やかに少女と新しい日常を作り出す!

NEXTヒント 辛そうで辛くない辣油


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十二幕 あなたは何しに22層へ?

ギャグテイストですっ!シリアスや感動の後はギャグでほっこりが1番ですよね!


2024年10月31日 第22層南西エリア南岸 ログハウス(キリト&アスナ宅)

 

 

「キリトくんっ!!起きてっ!」

 

ソウテン、ミトが家を飛び出してから数時間後に騒がしい仲間達もアルゲードのギルドホームに戻った。しかし、一向に少女は眠りから覚めず、彼女を気遣い、一階のソファで寝ていたキリトの耳にアスナの声が響く

 

「………おはよう、どうした?またテン達が勝手に入り込んでたのか?」

 

「ううん、今日は違うの。あの子が意識を取り戻したみたいなのよ」

 

「なんだって?本当か、それは」

 

「間違いないわ。私の起床アラームに反応して、歌ってたもの」

 

「取り敢えず、二階に行こう」

 

アスナと共に二階に上がり、寝室に足を踏み入れると確かに少女は居た。まだ眠っているようだが顔を覗き込む

 

「おーい、起きてくれー」

 

体を揺すり、声を掛ける。すると、長い睫毛が微かに震え、瞼が持ち上がる

黒い瞳は、至近距離でキリトを映し、数度の瞬きを繰り返す

 

「あ…………う………」

 

少女は覚醒しきっていない状態ではあるが、僅かに口を動かす。アスナが彼女を抱き起こし、ベッドに座らせる

 

「自分がどうなったか解るか?」

 

キリトの問いに少女は、ゆっくりと首を振る。この光景には僅かに覚えがある、故に次に聞くべき質問を口に出す

 

「名前は……?」

 

「……な……まえ……。わた……しの……なまえ……」

 

「そう、貴女の名前。ちゃんと言える?」

 

アスナが優しく問いかける。その声に安心したのか、少女は口を開く

 

「ゆ……い。ゆい。 それが……なまえ……」

 

「ユイちゃんね、私はアスナ。こっちの人はキリト」

 

「よろしくな、キリトだ」

 

「あぅな……きと…」

 

辿々しく何度も名前を復唱する姿、その彼女に親友達が実子のように可愛がる少年の姿が重なる。思えば、彼も彼女と似た状態で現れた、気にしないようにはしていたが僅かに彼女とは異なる部分も存在する。其れは、彼は最初から意識をはっきりとさせており、ソウテンを父、ミトを母、と認識していた現象だ

 

「どうしてあの森にいたんだ?」

 

一番聞きたい疑問をキリトがユイに打つけると、彼女は目を伏せ、黙り込んだ。やがて、しばらく、沈黙が流れた後、首を動かす

 

「わかん……ない……。 なん……にも……、わかんない……」

 

彼女を連れ、リビングに降りようとした時だ。バルコニーに気配を感じ、疑問に思いながらも、ユイのことはアスナに任せ、気配がある方に歩を進める

 

「………ぐすん」

 

「まあ、なんだ。きっとまた会えるから、そんなに落ち込むんじゃねぇよ。ロトも言ってたろ?ミトには泣き顔は似合わねぇってよ」

 

「……うん、ありがとう……。テンはホントに……こういう時は頼りになるわね……普段は迷子なのに……」

 

「そうだろ、そうだろ……あれ?何で今、良いことを言ったのに貶されたの?可笑しくね?」

 

気配の正体、ソウテンとミトは椅子とテーブルを出し、まるで、自分の家であるかのように、其処で、普通に寛いでいた。理由は不明だが涙を流すミトを、ソウテンが慰めている

 

「おいコラ、何をさも平然と人の家で寛いでるんだ?」

 

「気にするな、些細なことだろ。こんくらいは。其れに俺とお前は互いのホクロの数まで知り尽くした関係だろ」

 

「気にするわっ!!!あと誤解を招く言い方はやめろっ!子どもの頃に一緒に風呂に入ってただけだろっ!」

 

「懐かしいな、うちの妹とおめぇさんの妹も一緒に入ってたんよな。確か」

 

「ああ……って!話を逸らすなっ!!お前らが此処にいる理由はなんなんだっ!?まさか、アイツらも来てるのかっ!!!」

 

「ああ、其れはない。今日は俺とミトだけ」

 

「ちょっとキリトに……伝えておかなきゃならないことがあるのよ」

 

赤い瞳を更に赤く腫らせたミトは目尻の涙を拭い、自分達が体験した摩訶不思議な現象と光に消えたロトの事をキリトに語った

“黒い衝動”、その言葉の意味を仲間の中で誰よりも知る彼は黙って話に耳を傾ける

 

「という訳なの。これがそのアイテムなんだけど、私はこれをロトの心だと思ってるわ」

 

自らの薬指に嵌められた指輪を優しく撫で、我が子を慈しむような笑みを見せるミト。確かに出会いは唐突で、関係は特殊だったかもしれない、其れでもミトはその気持ちを信じたかった

彼と過ごした時間は本物で、彼と笑い合った日々は存在したのだ

 

「だからね、キリト。あの子が……えっと名前はあるのよね?」

 

「ユイ、あの子はユイだ」

 

「そう、ユイちゃんって言うのね。それで話の続きだけど、ユイちゃんがどういう存在だったとしても、貴方とアスナはあの子を受け入れてあげてほしいの。きっと、それがあの子にとっての一番の幸せに繋がるはずだから…」

 

「分かったよ、ミト」

 

「そいじゃ、そのユイちゃんとやらに会いにいくか」

 

ソウテン、ミトを連れ、リビングで待つアスナとユイの元にキリトは向かう。椅子に座り、カップに注がれたミルクを呑んでいた

 

「ミトにテンくん?今日はロトくんと一緒じゃないのね」

 

「ああ、それなんだけどさ……アスナ」

 

その言葉に緊張が走り、ミトが表情を曇らせる。彼女の気持ちを汲み取ったキリトはアスナに呼び掛ける

 

「なぁに?キリトくん」

 

「実はロトのやつ---」

 

「親御さんとこに帰ったんよ」

 

キリトが言い掛けた瞬間、ソウテンが遮るように優しい声色で告げた。彼の仮面越しに見える瞳は僅かに潤みを帯びている

彼なりに仮面の奥に封じた哀しみを見せないように、アスナに嘘を放った

 

「………そうなんだ。残念だったな、ロトくんなら、ユイちゃんと良い友達になれたかもしれなかったのに」

 

「そうね、私もそんな気がする。きっと、ロトなら、ユイちゃんと仲良くなれたと思うわ。でもちょっと、心配にもなるわね。あの子、テンに似て天然なとこがあるもの」

 

「ふふっ、すっかりロトくんのお母さんね。ミトは」

 

「当たり前じゃない。確かに私たちには血は繋がりなんか無かったのかもしれない、それでも……私はあの子と過ごした日々を忘れない、その時間はほんの一時(いっとき)だったかもしれないけど、私とテンにとっては掛け替えのない時間で、満ち足りた日々だったわ。だからね?アスナ。さっき、キリトにも言ったことなんだけど…、貴女は何があっても、ユイちゃんの味方で居てあげて。その絆はきっと、何年……ううん、何十年、何百年と三人を繋いでくれるわ。貴女達が描く未来を、私は見守っていくから」

 

「ありがとう。それはそうと、キリトくんとテンくんは何をしてるの……?」

 

ミトからの激励にも似た言葉にアスナは笑顔を返し、ユイとテーブルに腰掛ける馬鹿二人に視線を向ける

 

「見て分からないか?鍋だ。こうやって、鍋を囲み、親睦を深めている」

 

「鍋ってのは、言わば人生の縮図なんよ。想い出という食材を入れて、煮込めば煮込む程に味と深みを増してゆく……そう!鍋を囲むのはごく当たり前で、ありふれた光景だ」

 

最もらしい名言を放ち、鍋を囲む必要性を語るソウテン。しかしながら、ただ一人だけはその言葉が彼の考えた名言であるかを疑っていた

 

「テン?それは誰の名言をパクったの?」

 

肩を叩き、柔らかい笑みでミトが問いかける

 

「おいコラ、人聞きの悪いことを言うな。これは俺が温めに温め続けた独自の名言だ、言わば鍋のようにじっくりと煮込んだ最高の名言だ。だから、仮にもパクったとか言うんじゃない、せめて、オマージュと言え」

 

「「「結局はパクリかよっ!!!」」」

 

「パクリじゃない、オマージュだ。リスペクトとも言うな」

 

「いや、パクリだろ。この傍迷惑迷子」

 

「だから、違う。あと迷子じゃない」

 

「まいご、まいご」

 

キリトと言い合うソウテンを指差し、迷子を連発するユイ。如何やら、彼女なりにこの空間に慣れようとしているようだ

 

「ユイちゃん?駄目だよ、人を指差したりしたら。確かにテンくんは迷子だけど、実はかなりのバカでもあるんだから」

 

「そうよ、ピーナッツバターを食べないと死ぬとか訳の分からない発言をしたりするバカよ。でも、実は割とカッコいいとこもあったり、いざって時には頼りになったり、腕っ節も強かったりする私の大好きな恋人よ」

 

「アスナの俺に対する認識が最近、雑なのは仕方ないとしてだ。ミトはやっぱり、ミトだな。俺を一番見てくれてる、ありがとな」

 

「当然じゃない、私はテンの恋人よ?何時も側で貴方を見てるわ」

 

「ミト……」

 

「テン……」

 

見つめ合い、手を取り合うソウテンとミト。二人を中心に甘い雰囲気が形成され、言葉にしがたい静寂が部屋全体を支配する

 

「キリトくん……わたしとキミは何を見せられているの…?」

 

「アイツらはあれがデフォなんだよ、気にしたら負けだ。だから、無視するんだ」

 

「そうね、そうしましょう。それで……ユイちゃんはどうする?」

 

「そうだったな。やぁ、ユイちゃん。……ユイって、呼んでいい?」

 

キリトが明るい声で、話しかけるとカップから顔を上げたユイが、頷く

 

「そうか。じゃあ、ユイも俺のこと、キリトって呼んでくれ」

 

「き……と」

 

「キリト、だよ。 き、り、と」

 

「…………」

 

「ぼっち、ぼっち」

 

「パスタバカ、パスタバカ」

 

「おい、そこのバカ二人。ユイに妙な事を吹き込むな」

 

ユイの両隣に座り、キリトに関する悪口を吹き込むバカップル(ソウテンとミト)に突っ込み、難しい顔で黙り込むユイの頭に手を置く

 

「………きいと」

 

「ちょっと難しかったかな。何でも呼びやすい呼び方でいいよ」

 

キリトの言葉に、ユイは長い時間考え込む。やがて、ゆっくりと顔を上げ、キリトの顔を見ながら、恐る恐るではあるが口を開く

 

「………パパ」

 

次にアスナを見上げ、先程と同じように口を開く

 

「あぅ……な……は……ママ。てん…は……にぃに…みぃ……と…は…ねーたん」

 

「そうだよ、わたしがママだよーっ!ユイちゃん!」

 

「懐かしいわね、テン。ロトが小さかった頃を思い出すわ」

 

「そうだな。つい、この間のことみたいに、実に微笑ましい光景だ」

 

「割と最近まで、ロトの奴はユイと同じくらいだったろうが。何を、頓珍漢な会話してるんだよ」

 

まるで遠い昔を思い出すように両眼を閉じ、想い出気分に浸るソウテンとミトであったが、ロトと暮らしていたのは昨日までの話であるが故に思い出すほどの出来事ではないのだが、二人にとってはそういう気分に浸りたい時なのだろう

 

「よし、ユイ。今日はパパと激辛フルコースに挑戦しような」

 

「いや、ピーナッツバターフルコースにしよう」

 

「おい、迷子。ユイに犬のエサを食わそうとするんじゃない」

 

「誰の料理が犬のエサだ、お前は一人でパスタをフォークに巻き付けてろ。そして、誰からも食べてもらえない寂しさを味わえ、ぼっち」

 

「「…………やんのかっ!!」」

 

「「喧嘩はやめなさいっ!!!」」

 

「「ぐもっ!?」」

 

ソウテンの頭上にミトの鎌が、キリトの頭上にはアスナの空手チョップが、叩き込まれる。ユイは僅かに表情を強張らせ、震えている

 

「あと、激辛フルコースなんて体に悪いモノは絶対に作りませんからねっ!」

 

「テン。私は作ってあげてもかまわないけど、ユイちゃんに食べさせないで、自分で責任持って食べなきゃ駄目よ」

 

「「「あい……」」」

 

お叱りを受け、素直に返事を返す三人であった




ユイと過ごす中で、本当の家族の絆を紡ぐキリトとアスナ。だが、彼女の失った記憶の果てに、待ち構えていたのは……
そして、その裏側で行われていた知られざるバカたちの宴とは…?

NEXTヒント あれは病気


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十三幕 贈り物

新年明けましておめでとう御座います!!いやぁ、投稿が遅れて申し訳ありません!!!ですが今年もギャグ全開!満載!テン達の馬鹿騒ぎを頑張って投稿していきます!!

では、新年の挨拶をこの人にしてもらいましょう!!

ソウテン「新年、明けましておめでとさん、esperando nuestra relación(今年もよろしくな)。昨年は俺たちの馬鹿騒ぎを応援してくれて、Gracias(ありがとう)。今年はより一層のテンションで、頑張っていくんで、よろしくなー」



2024年11月1日 第50層主街区アルゲード 彩りの道化(カラーズ・クラウン)ギルドホーム

 

 

「で?結局、あの子はキリトさんとアスナさんが引き取ったんだ?」

 

「ああ、成り行きでな。まあ、二人が何を考えてるかは知らねぇがよ。幸せになろうとしてんなら、そっとしといてやんのが筋ってもんだからな。アイツらが落ち着くまで、見守ることにしたんよ」

 

仲間たちに、ユイに関する情報とロトの消滅を教える為にギルドホームにソウテンは戻っていた

ミトは未だに傷が癒えず、シリカの提案で気晴らしにウィンドウショッピングへ出かけている

 

「にしてもロトの奴がテンの中にあった黒い醤油だったなんてな、思いもよらなかったぜ」

 

「そうでしょうか?ピーナッツバターを好んだり、迷子になりやすかったり、ミトさんの鍋を好物にしている点を含めれば、リーダーと同一人物である事は実に明白かと思いますがね、僕は。あとグリスさん?醤油ではなく、衝動です」

 

「細かいことは良いだろ。衝動も醤油も似たようなもんだ」

 

「全然違うよ、全く……これだから、ゴリラは」

 

「仕方ねぇさ、所詮はゴリラだ。脳みそがあんのかも、疑わしい」

 

「テン、其れは言い過ぎだ。確かにグリスはゴリラかもしれないが脳みそくらいはあるぞ」

 

「ベルさん、フォローになっていませんよ」

 

フォローするつもりがあるようでないディアベルに、ヴェルデが的確な突っ込みを放つ。一歩で、ソウテンは仮面越しに険しい表情を浮かべ、考え込んでいる

 

「テン少年。どうかしたのかね?」

 

「ん、ああ……別に気にせんでくれ。ちょいと考えごとしてただけだからよ」

 

「そうか?それなら構わないが…」

 

苦笑するソウテンに多少の違和感を感じるが、コーバッツは其れ以上の言及をしようとはしなかった

ロトが消滅し、その傷が癒えていないのは、ソウテンも同様であるが、彼は素直に感情を曝け出そうとはしない、其れは、彼なりの決意の現れ故なのか、将又(はたまた)、強がりであるかは定かでは無い。しかし、その仮面の奥に、隠された素顔には、哀しみが見える

 

「如何でしょう?ここは気晴らしにゲームに興じてみるのは」

 

「いいね、何にする?」

 

「落ちてる靴下ごっこ」

 

「鬼のいない鬼ごっこ」

 

「かくれないかくれんぼ」

 

「なるほど、了解しました。王様ゲームですね」

 

『誰も言ってねぇよ!!!』

 

ソウテン、グリス、ディアベルの意見を完全無視で自らがやりたいゲームを提案し、強行しようとするヴェルデに突っ込みが飛ぶ

 

「其れでは、この番号の書かれた割り箸を引いてください」

 

「何で既に準備してんだよっ!?」

 

「というか、男だけで王様ゲームって……なんかねぇ?」

 

「むさくるしい」

 

「全くだな」

 

「コーバッツさん、アンタが一番むさくるしいぞ?見た目的に」

 

ヒイロの呟きに同調するコーバッツを相手に、ディアベルがジト目気味に突っ込みを放つ。王様ゲーム、本来は男性陣のみで行う様な娯楽では無いが、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》に所属する女性陣はミト、シリカの二名だけである。故に、普段はこの様な遊びは滅多に行わず、全員で楽しめるものを選ぶことが多いのだが、今回は違う

ミトも、シリカも、不在である為に男だけで楽しもうと、ヴェルデはこのゲームを提案した

 

『王様だ〜れだ!』

 

「んむ?俺だね」

 

高らかな宣言の後、全員が割り箸を確認していると、ソウテンが不敵な笑みを浮かべつつ、口を開く

 

「ほう、リーダーですか。其れでは御命令を」

 

「そんじゃ、一番と二番が」

 

「ゔぇっ!?」

 

「俺?」

 

指名された番号の割り箸を持つ二人。グリスは叫び声にも似た謎の奇声を挙げ、ディアベルは疑問符を浮かべる

 

「血盟騎士団本部に乗り込んで、団長のヒースクリフに、その垂れてる前髪ダサいと言ってくる」

 

「「ふざけんなっ!!バカリーダー!!」」

 

「駄目だよ、二人は拒否できない」

 

「ヒイロくんの言う通りですよ」

 

「うむ……何故なら!」

 

「「「王様の命令は絶対!!!」」」

 

「ぐっ……!」

 

「覚えてろよっ!!」

 

捨て台詞を残し、血盟騎士団本部に向かったグリスとディアベル。彼等が戻るまでの間、其々の時間を過ごし、その帰りを待つこと実に二時間が経過した

 

「「次のゲーム始めるぞっ!!!」」

 

扉を勢いよく開き、姿を見せたグリスとディアベルの体はボロボロになっていた。何があったかを言及すれば、理由は明かされるだろうが、この場で、彼等が行うべきは一つだ

 

『王様だ〜れだ!』

 

「俺だね」

 

次に引いたのは、ヒイロ。その手に握られた王様の割り箸に対し、グリスは野生のゴリラのように唸り声にも似た威嚇を行い、ディアベルはバームクーヘンを入れていた釜戸の中を確認し、現実逃避に投じる

 

「三番の人は」

 

「んむ?」

 

指名された番号の割り箸を手にしていたソウテンが、仮面の奥で、僅かに表情を歪める。その理由はグリス、ディアベルの変貌を見たからに他ならない、更に言うとヒイロはソウテンが可愛がる弟分であると同時に彼の影響を、色濃く受けた存在なのだ

 

「エギルの店で一番高いアイテムを買って、恋人にプレゼントする」

 

Eso es todo(なるほど)。そいじゃあ、ちょいと掘り出し物が無いかを見てくるとしますかねぇ」

 

「ええ、じっくりと選んで来てください。我々は帰りをお待ちしていますから」

 

「うむ!行ってくるが良いぞ、テン少年」

 

「「扱いの差がおかしいだろっ!!!」」

 

理不尽な命令を受け、抗議するグリス、ディアベルを他所に、恋人への贈り物を命令されたソウテンは意気揚々とギルドホームを後にする

 

「これでよかったんだよね?ヴェルデ」

 

「ええ、作戦通りです。さすがはヒイロくんですね」

 

「作戦……って、なんだ?」

 

「私は何も聞いてないな。ディアベルくんはどうだ?」

 

「俺は知ってたよ。多分、グリスとコーバッツさんは口が綿毛よりも軽いから、事前に知らされなかったんだろう」

 

「なにっ!?そうなのかっ!」

 

「全く、少しは信用してもらいたいものだ」

 

驚愕するグリス、表情を顰めるコーバッツであるが提案した本人であるヴェルデは受け流し、ヒイロは現実よりも生き生きとした表情を見せる兄貴分の姿に満足気のある表情を浮かべる

 

「今日も平和だな…」

 

そして、ディアベルはバームクーヘン片手に黄昏ていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻 第50層アルゲード“ダイシーカフェ”

 

「そんな訳だからよ。なんか掘り出し物はねぇかな?」

 

「掘り出し物か……」

 

仲間たちからの気遣いで、エギルの店にアイテムを探しに来ていた。カウンターの奥で、棚の雑貨を整理するエギルは、ソウテンの唐突な来店に対し、慣れた対応で、棚から、幾つかのアイテムを手に取り、カウンターの上に陳列していく

 

「掘り出し物とまではいかないが、お前さんの御眼鏡に叶いそうなアイテムはこの辺りだろうな」

 

「ほう?ちょいと見させてもらえるか?」

 

「ああ、そのつもりで出したんだからな。気に入ったのが目に入ったら、声を掛けてくれ」

 

Gracias(ありがとう)

 

得意のスペイン語で礼を述べ、陳列されたアイテムを物色するソウテン。バフ効果を与える装飾品系のアイテムを中心に、デバフ効果を打ち消すアイテム等の様々なアイテムが並ぶ。その中にあったネックレス型のアイテムが、目に入り、手に取った

 

「おっ、さすがはテン。そいつに目を付けるとは、其れは攻撃力強化と防御力強化のバフを備えたアイテムだ。何日か前に、迷宮区に潜ったトレジャーハンターが売りに来たんだが、お前辺りが欲しがるんじゃないかと思ってな。取っておいたんだ」

 

「とか言いつつ、忘れてんだろ。エギルは偶に攻略の疲れで、寝ながら商売したりするからな」

 

「そんな事をした覚えはないぞ?俺は」

 

「そりゃあな。寝てるんだから、おめぇさんは自覚してねぇさ」

 

「そうなのか……通りで最近、知らない間にウチがぼったくり扱いされてると思った」

 

「ああ、其れは俺たちが流してるからだな」

 

「テン。今度から、お前たちだけは利子をトイチにしておく」

 

「何故にっ!?」

 

余計な一言を放ち、エギルの機嫌を損ねるが、何とか機嫌を取り、目当てのネックレスを買い、店を後にする

 

「まっ、楽な出費とは言えねぇが……ミトの喜ぶ顔が見れんなら、越したことはねぇか」

 

にやけ顔で、ネックレスを片手にギルドホームに続く帰路を歩んでいると、玄関先で、空を見上げる見知った薄紫のポニーテールが特徴的な少女が視界に入った

 

「よっ、ミト。買い物は終わったんか?」

 

「うん、終わったわ。偶には良いわね、気晴らしになるし。そう言えば、テンも出かけてたの?」

 

「まあな。ほらよ、土産だ」

 

「えっ……あ、綺麗なネックレス」

 

持っていたネックレスをミトの首に掛けると、彼女は嬉しそうに笑顔を見せる。ここ数日は見せなかった恋人の久方ぶりの表情に、ソウテンも、満足そうに笑みを見せる

 

「ほう、ネックレスですか。売ったら、高そうですね」

 

「ホント?焼き鳥どのくらい買えるかな」

 

「テン。バームクーヘン用の釜戸を買ってくれないか?」

 

「うむ、これは私が預かろう」

 

「つーかよ、ミトだけずりぃな。俺にも土産くれよ」

 

「あたしもお土産欲しいです。特にチーズケーキとかだと、嬉しいです」

 

「やかましいわっ!!!バカどもっ!!」

 

次々と姿を見せる仲間たちと言い争うソウテンの姿に、ミトは首のネックレスに視線を落とす

 

「ふふっ…やっぱり、退屈しないわね。みんな一緒だと。ロト?きっと、またみんな一緒に騒ぎましょうね……いつかきっと」

 

息子と再会を願うミトの呟きは夜の街並みに静かに消え行く、その先に待つ何時もと変わらぬ騒がしい日常と共に




ソウテン達の元に伝わるのは、ユイとの別れの報せ。落ち込むキリトとアスナの為に、仲間たちは彼等を気晴らしに釣りへと連れ出す!
だが、待ち受けていたのは、まさかの生物だった!!

NEXTヒント 湖


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十四幕 釣りときどき河童

今回は原作にギャグを交えた回になります!このネタ、覚えてる人いるかなー


2024年11月2日 第22層南西エリア南岸

 

 

「ふわぁ〜……なんか、前線に出てねぇと、暇だねぇ。これだと、臍で茶が沸かせちまいそうだ。そうは思わねぇか?キリト」

 

「ああ……」

 

現在、ソウテンはキリト宅から数キロほど離れた場所にある湖で、釣りに興じていた。然し、彼の隣で釣り糸を垂らすキリトの表情には覇気がない、其れどころか、普段の切れのある突っ込みも飛ばない

 

「………ミトは知ってたのよね?ユイちゃんのこと…」

 

「うん……仮説程度だったけどね。本当は、ロトが消えた時に話すべきだったわよね。もしかしたら、ユイちゃんも同じように、消えてしまうかもしれないって……でもね、これだけは分かって欲しいの。ユイちゃんは、きっと幸せだったと思うわ」

 

「………そうね、だって、最後は笑ってく

れたもの。いつかきっと、また一緒に楽しく暮らそうって約束もしたわ」

 

「私達と同じね。私とテンも、ロトと約束したの。また一緒に鍋を囲もうって」

 

「ふふっ、ミトとテンくんらしいわね」

 

互いに哀しい経験を分かち合い、笑い合うミトとアスナ。その隣では、広げられたシートの上で、寛ぐシリカの目線の先には、釣り糸を垂らすヒイロ達の姿がある

 

「ふぅ……男の子って、釣りとか好きですよねぇ」

 

「好きというか、他にやることが無いだけじゃない?《彩りの道化(あの人たち)》は」

 

「そうね、基本的に娯楽を知らないのよ。リアルに居た時なんか、ゲームセンターを溜まり場にしてたのに、誰もゲームをしなかったのよ。テンは割と私の相手をしてくれたけど」

 

「なるほど、つまりはバカなんですね。あと、惚気話をご馳走様です」

 

「いいえ、お粗末さま」

 

シリカの失礼な言動に、ミトは軽く受け流すように答えを返す

 

『ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

「なにっ!?どうしたのっ!」

 

刹那、聞こえた悲鳴にも似たソウテン達の叫び声が耳に入る。振り返ると、ヒイロの釣り糸に掛かる一匹の全体的に緑色の生物が視界に映った

 

「いだだだだだだだだだっ!アレ?待てよ?やっぱり、痛くないかも?いやっ!やっぱ、痛い‼︎いだだだだっ!!」

 

「リーダー。これはどう?食べれる?」

 

「ごぶうっ!?」

 

ヒイロが釣り上げた生物の顔面に、ソウテンとキリトの右ストレートが放たれる。生物は湖の中に消えていく

 

「リーダー、キリトさん。俺が釣った得物に何をするの」

 

「ヒイロ、世の中にはな。知らんくていいんことがあるんよ」

 

「キリトさん、今のは明らかに河童ではありませんでしたか?」

 

「何を言ってるんだ、ヴェルデ。河童なんか居るわけないだろ?アレは、湖に住んでる妖精のオッさんだ」

 

「いや、妖精のオッさんってなんだよ。つーか、緑色だったぞ」

 

「きっとアレじゃねぇかな、アルコール依存症」

 

「リーダー、アルコールにそのような成分はありませんよ」

 

「そうか?呑まなきゃ、やってられん夜もあるだろ……んむ?」

 

「どうした?テン……ん?」

 

頑なに生物が、河童とは認めないソウテンとキリトであったが、足に違和感を覚える

 

「コラァ!人を釣り上げといて、殴るとは何事だ!」

 

湖から上がってきた男性は近場にいたキリトの足を掴んでいた。辛うじて、免れたソウテンはその場から即座に飛び退く

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!!出たぁっ!!!」

 

「散開っ!!!」

 

『了解!リーダー!』

 

「待てコラァ!見捨てんなっ!バカどもっ!!」

 

キリトを見捨て、逃げようとするソウテン達を、河童のような男性は見逃さなかった

 

「逃がさんぞっ!!!しっかりと謝らんかっ!」

 

『むごぉぉぉ!!!』

 

ストレージから取り出した釣り竿で、ソウテン達を絡め取り、捕獲した男性は彼等の前に立つ

 

「私はニシダ、この湖でヌシ釣りに勤しむ釣り師だ。どうですかな?君たち、私とヌシを釣り上げてみませんか」

 

ニシダ、そう名乗った男性はソウテンに手を差し出すが、その場に居た全員は彼の姿に疑問を抱いた

 

⦅なんで、釣り師が河童の格好をしてるんよ……⦆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何の前触れも無しに連れて来たけど……誰よ?この人は」

 

ニシダと知り合ったソウテン達は、シートの上で寛ぐミト達に彼を紹介していた

 

「見て分からんか?こちらは河童さんだ」

 

「失礼だろ、テン。この人は漫画には一人はいる釣り好きな初老だ」

 

「キリトさんも間違ってる。この人は緑色のタイツを着て、湖で暮らす変わり者のジイさんだよ」

 

「只今、ご紹介に預かりました。ニシダです、よろしく」

 

「「「いやいや!紹介されてませんけどっ!?」」」

 

紹介とは思えない紹介で、律儀に御辞儀するニシダに対し、三人娘からの突っ込みが飛ぶ

 

「其れで、此方のお嬢さん方は、どういう繋がりなんです?ソウテンさん」

 

「ん、紹介するよ。先ず、この紫色のポニーテールがよく似合う子が、俺の可愛い奥さんのミトだ」

 

「はじめまして、ミトです。得意料理は鍋です」

 

「これはこれは、ご丁寧に」

 

「で、あの小さい方が妖怪チーズケーキ女、その横の栗色の髪をした方が空手チョップを得意とするアマゾネス……ごぶっ!?」

 

ニシダに耳打ちするように、シリカとアスナの事を紹介していたソウテンの顔面に右ストレートが、頭上には空手チョップが叩き込まれる

 

「「明らかに扱いが雑すぎるわっ!!!バカリーダー!!!」」

 

「すまない、ニシダさん。其処のバカは無視してくれ。此方はアスナ、俺の奥さんだ」

 

「アスナです。御見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありません」

 

「い、いえ。というか……ソウテンさんは大丈夫ですかな?」

 

「気にしないで、リーダーにはこれが当たり前だから。ちなみに、俺の隣に居るのはシリカだよ」

 

「どうも、シリカって言います。趣味は実況する事です」

 

「実況!ほう、其れは是非とも拝見したいですなぁ!どうです?近々、開く予定の釣り大会で、実況してくれませんか?」

 

唐突な提案ではあったが、シリカは慣れた手付きで、ストレージを開き、愛用のマイクを呼び出す

 

「お任せくださいっ!この天真爛漫なアイドル!シリカにっ!」

 

「頑張って。シリカ」

 

「晴れ舞台ね、シリカちゃん」

 

「はしゃいで、池に落ちんなよ」

 

「そうだぞ。シリカはただでさえ、小さいんだからな」

 

「不安しかありませんね」

 

「やかましいですよっ!!!バカどもっ!!!」

 

「「「ぐべらっ!?」」」

 

声援を送るヒイロとミトを除いた《彩りの道化(バカたち)》に、シリカの右ストレートが放たれる

 

「アスナさん、この人たちは何時もこうなんですか?」

 

「今日はまだマシですよ、フルメンバーだと此れよりも大惨事になりますから」

 

「そういうもんですかなぁ…?」

 

「そういうものですよ」




釣り師、ニシダとの出会い。其れはまだ見ぬヌシとの戦いの始まりであった。果たして、彩りの道化(カラーズ・クラウン)vsヌシの激戦の行方は……!

NEXTヒント 愛すべきバカたち


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十五幕 ヌシ釣り大会

バカたちによるバカたちの祭典!今宵もギャグ満載の夜が幕を開けますよーーーーーーーっ!!!


2024年11月2日 第22層南西エリア南岸 ログハウス(キリト&アスナ宅)

 

 

「鍋しか、ありませんけど。良かったら、ニシダさんも召し上がりませんか?今日はアスナが、研究に研究を重ねた醤油ベースの鍋で、自信作なんです」

 

「なんと!醤油ですかっ!御言葉に甘えて、御相伴に預からせていただきます」

 

「なんだ、ニシダさん。おめぇさんも食うんか?」

 

御約束というか、恒例である鍋を囲む面子。その中に、湖から、釣り道具一式を片手に戻ったソウテンが、ニシダの姿を見つけ、問う

 

「ミトさんが御誘いしてくれましてな」

 

「なんだ、そうなんか」

 

「テン。何か釣れた?」

 

「ああ、釣れた。ほら、見ろよ」

 

ミトからの問いに、ソウテンは釣り上げてきた成果を見せびらかすように、掲げた

 

「プ〜ン」

 

⦅なんだ、これっ!!!⦆

 

謎の鳴き声を上げ、ソウテンの手の中で、左右に揺れる珍妙な生物。白い体に、丸い頭、そして、螺旋状の鼻が特徴的な謎めいた生物に、誰もが目を見開き、固まる

 

「なっ?変わった魚だろ、しゃぶ太郎って言うんだ」

 

『魚じゃねぇよっ!!!というか、ネーミングセンス無さすぎっ!!!』

 

「テン、その子は魚じゃないわよ」

 

生物に変な名前を付けるソウテンに、キリト達が突っ込む中、一人だけ冷静なミトは、その生物を抱き上げ、見定めるように視姦する

 

「犬よ」

 

「なるほど、犬か。確かに魚は鳴き声とか無いもんなぁ」

 

「でしょう?だから、この子は犬よ。ねっ?しゃぶ太郎」

 

「プ〜ンププ〜ン」

 

「なるほど、お前はしゃぶ太郎じゃなくて、プルーって言うんか」

 

「ププ〜ンププ〜ンプ〜」

 

「なるほどね。仲間と逸れて、湖に流れ着いたのを、テンが釣り上げちゃったのね」

 

「プ〜ン」

 

「落ち込みなさんな、今日からは俺たちが一緒だ。一緒に楽しくやろうぜ、プルー」

 

「ププ〜ン」

 

プルーという生物と意気投合するソウテンとミトであるが、残されたキリト達にはある疑問が過ぎる

 

⦅何で、言葉が分かるんだよっ!!!⦆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2024年11月5日 第22層南西エリア南岸 

 

 

「まっ、今日は気楽に行けばいいから、仮面は無しにしとくか」

 

「久しぶりね、明るい所で素顔を見るのは。でも、私は何方のテンも大好きだから、安心してね」

 

「おっ……おう、ありがとよ」

 

「プ〜ン」

 

トレードマークの仮面を取り、ラフな格好のソウテンに対し、ミトが妖艶な笑みと共に愛を囁く

その唐突な出来事に、流石のソウテンも顔を赤らめ、外方を向いた。彼の肩には数日前に、釣り上げたプルーがしがみ付いており、小刻みに震えている

 

「おお!ソウテンさんに、ミトさん!」

 

「んむ……ああ!ニシダさんか、今日は河童の格好じゃねぇんだな」

 

「ええ、私も本来は普通の釣り師ですらかなぁ。そういう、貴方も今日は河童ではないようですな」

 

「俺は元からそんな格好してねぇんだけどっ!?」

 

ニシダの突拍子もない発言に、ソウテンの突っ込みが飛ぶ。すると、湖の湖畔付近に設けられた仮設舞台上に、見覚えのある少女がマイクを片手に姿を見せる

 

「レディ〜〜〜〜ス!ア〜〜〜ンド!ジェントルメ〜〜〜〜ン!!!忘れた頃にやって来るっ!其れがイベント!どんな時も、楽しんだ者が勝者っ!!!さぁ、野郎どもっ!釣り竿を構えなっ!ヌシ釣り大会のスタートだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

軽快なステップと卓越したマイクパフォーマンスを披露するシリカ。その御決まりの姿に、ソウテン達は苦笑を浮かべる

 

『L・O・V・E!シリカ!がんばれ、がんばれ!シリカ!!』

 

「はーい!司会進行はこのあたしっ!三大トップギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の天真爛漫なビーストテイマーアイドル!シリカでーす!!よろしくねっ☆」

 

『シリカちゃーーーーーん!!!』

 

「今回の大会の優勝者には、主催者のニシダさんより、河童の衣装が贈呈されます。尚、準優勝者は《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》専属職人のアマツさんに武器を作成してもらうことの出来る権利が贈呈されます」

 

『準優勝者の景品の方が豪華じゃねぇかっ!!!』

 

落差の激しい賞品に対し、観客から抗議の声が上がるも、主催者のニシダは気にせずに壇上へと上がっていく

その肩には、長さをさる事ながら、かなりの大きさを誇る釣り竿が担がれている

 

「………ねぇ?ミト。あれって……エサよね?」

 

「そうみたいね……でも、なんか……ぬめぬめしてるわね……」

 

「プーン」

 

「あら、プルー。駄目よ?そんなのを食べたら、お腹を壊すから、こっちにしなさい」

 

釣り針の先に吊るされた巨大トカゲに興味を持つプルーを引き離し、ミトはストレージから棒付きのキャンディーを取り出し、プルーに手渡す

 

「ププーン」

 

「良かったわ、気に入ってくれたみたい。また作るわね」

 

「えっ……作ったの?このキャンディー」

 

「そうよ。なんなら、レシピ教えましょうか?」

 

「う〜ん……じゃあ、お願いしようかな?」

 

「オッケー。アスナには色々とお世話になってるから、お菓子作りは私が教えるわ」

 

「ありがと、ミト」

 

「いえいえ、どういたしまして」

 

ミト、アスナは他愛もない話題で盛り上がる。そして、時はやって来た。湖に向き直った、ニシダが綺麗なフォームで、竿を振ると、釣り針の先に吊るされた巨大トカゲが放物線を描くように、水面に水飛沫を上げ、勢いよく着水した

 

「おっ!来たんじゃねぇか!?河童のオッさん!」

 

「なんのっ!まだまだ!!」

 

「ニシダさん、落ちいてください。いいですか?先ずは、手に人という字を3回書いてですね」

 

「ヴェルデ?其れは、緊張しない呪いだぞ」

 

「そうだよ。釣り竿を上げる時にセイヤーッ!!!って言うのが真の釣り師だよ」

 

「いやいや、釣りに作法なんかねぇさ。必要なんは、根気と気合いだよ」

 

「テン。其れはどっちも同じ意味じゃないか?」

 

「えっ、そなの?ベルさん」

 

相変わらずの惚けたやり取りを繰り広げるソウテン達を他所に、ニシダは細かく振動する竿の先端を見据える。刹那、竿の穂先が引き込まれるように、大きな振動を見せる

 

「いまだっ!!!皆さん!!!お願いしますっ!」

 

「あいよ……、派手に行くぜっ!野朗どもっ!」

 

『了解!リーダー!!』

 

決まり文句とかした号令を機に、ニシダから竿を受け取った《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々は、両足で踏ん張る

 

「グリスっ!!!思いっきり引けェェェ!!!」

 

「あいよっ!!!どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

最後尾のグリスがありったけの力を込め、竿を引っ張り上げる。その時だった、水面から、何かが顔を出す

 

「リーダー!なんか見えたっ!!」

 

「こ、これは……!」

 

「でっかっ!?」

 

「…………美味そうだな」

 

『いや、その反応は可笑しいだろっ!!!』

 

水面に姿を見せたのは、巨大な魚。呆気に取られるキリト達を尻目に、約1名、ソウテンだけは意味不明な一言を放ち、その場にいた全員から、突っ込みが飛ぶ

 

「さて……逃げるか」

 

「だな」

 

「それじゃ、グリスさん。後はお願いします」

 

「頑張って」

 

「健闘を祈るぞ」

 

「は……?って!待てコラァァァァァ!!!」

 

迫り来る、巨大魚を前に、観客達と共に走り去るソウテン達の背に、グリスの叫び声が木霊するも、巨大魚は陸に上がり、地面を走り出した

 

『ぎゃぁぁぁぁぁ!!!』

 

「全く、だらしないわね。うちのバカたちは」

 

「ですね、あたしたちでやりましょうか。ミトさん」

 

「そうね。アスナも手伝ってくれる?」

 

「勿論だよ」

 

「ちょっ!?早く逃げんと!!」

 

巨大魚を前に並び立つ三人の美少女達にニシダが叫ぶ。しかしながら、彼女達はアイテムウィンドウを操作し、其々の得物を装備する

 

No es para preocuparse(心配無用)。俺の嫁さんには、あんくらいの魚は、赤子同然だからよ」

 

「だな。アスナにしてみたら、あんなの前座にもならないくらいにイージーだぜ」

 

「シリカにはちょっと、簡単すぎるかな?あのくらい」

 

「何を悠長に!早よせんと、三人が!!」

 

「「「まあ、そう言わずに。見てなって」」」

 

慌てふためくニシダに、ソウテン、キリト、ヒイロが声を揃え、彼を咎める。そして、勢いよく走り出した三人娘は正面から、巨大魚に突っ込み、其々のソードスキルを叩き込み、ポリゴンに変える

 

「な、なんと……」

 

「思い出した……ニシダさん、あの人たち!攻略組トップギルドの《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》だ!」

 

「《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》……?……というと、あの《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》かっ!!!攻略組ギルド三大勢力に数えられる癖者集団で有名なっ!!!」

 

「ああ、仮面をしていないから、分からなかったが……あの癖毛の男、《蒼の道化師》だ。間違いない」

 

「《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》……何とも、不思議な人たちだ」

 

そう呟くように笑うニシダの見据え先には、この世界を全力で楽しむ《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の姿があった

 

「いやぁ、それにしてもデケェ。ピーナッツバター掛けたら、美味そうだ」

 

『それは無い』

 

「全員一致かよっ!?」




第76層に繋がるダンジョンの発見、その報せは《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》にも届く

NEXTヒント 嵐の前の静けさ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十六幕 恋はいつでもハリケーン

如何なる時も、ユーモアを忘れない!其れが《彩りの道化》のモットー!


2024年11月7日 第50層主街区アルゲード 彩りの道化(カラーズ・クラウン)ギルドホーム

 

 

「そいで?天下の大ギルド《血盟騎士団》の団長さんが、こんな所に何のようで?」

 

突如、来訪したローブ姿の男性《ヒースクリフ》に対し、威圧感を感じさせながら、彩りの道化(カラーズ・クラウン)を率いる仮面の道化師が、疑問を投げかける

 

「情報には早いキミの事だ、昨日の偵察隊全滅の話は知っているな」

 

「ああ、75層迷宮区のボス部屋での話だろ?アンタの所と四つのギルドが合同で、組んだレイドパーティの全滅。情報に寄ると、十人が後衛としてボス部屋入口で待機し……、最初の十人が部屋の中央に到着して、ボスが出現した瞬間、入り口の扉が閉じた」

 

「あん?なんでぃ、そんくらいは普通だろ」

 

「いや、本題はここからだ。グリス君」

 

「ん?どういう意味だ、そりゃ。団長さん」

 

「ここから先は後衛の十人の報告になる。 扉は五分以上開かなかった。 鍵開けスキルや直接の打撃等、何をしても無駄だったらしい。 ようやく扉が開いたとき――」

 

ヒースクリフの口許が固く引き結び、一瞬目を閉じる。その姿に、誰もが息を呑むと、続けるように彼は、口を開く

 

「部屋の中には、何も無かったそうだ。 十人の姿も、ボスも消えていた。 転移脱出した形跡も無かった。 彼らは帰ってこなかった……。 念の為、はじまりの街最大の施設《黒鉄宮》まで、血盟騎士団メンバーの一人に彼らの名簿を確認しに行かせたが……」

 

「察しました、その先は言わなくても結構です」

 

「結晶無効化空間……74層のボス部屋も、そうだった」

 

「その通りだ。その報告はアスナ君から受けている、恐らくは今後全てのボス部屋が結晶無効化空間と思っていいだろう」

 

「なるほどね、いよいよデスゲームらしくなってきた訳ね。それで、どうする?リーダー」

 

本格化を増すデスゲーム、心を躍らせるミトであったが同時に一抹の不安もある。緊急脱出不可能ということは、死の恐怖と対面する可能性が比較的に高まるという事だ

 

「勿論、やるからには全力で臨むさ。派手に行くぜ?野朗どもっ!」

 

『了解!リーダー!!』

 

決まり文句を言うソウテンに、ミト達も何時ものように返事を返す。その様子に、ヒースクリフは、微笑を浮かべる

 

「何かを守ろうとする人間は強いものだ。ところで……、キリト君にも参加を依頼したが、彼は来ると思うか?」

 

「当たりめぇじゃねぇの、彼奴はこのゲームクリアするのを最大の目的にしてる。其れが、彼奴にとってのゲーマーとしてのプライドであり、この世界で生きる意味なんじゃねぇかと俺は思ってる。其れにだ…、俺たちは、仲間を守る為なら、命だって、賭ける」

 

『いやぁ、其れはちょっと』

 

「あれぇっ!?俺だけっ!?」

 

真剣な眼差しで、決意を告げるソウテンとは反対に、乗り気ではないミト達に、即座に何時もの道化師としての彼が姿を見せる

 

「攻略開始は三時間後だ。 予定している人数は君たち、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々を入れ、三十八人。 75層コリニア転移門前に午後一時集合とする」

 

Lo entiendes(分かった)。そうだ……団長殿」

 

「何かな?道化師殿」

 

ギルドホームを後にしようと、扉に手を掛けたヒースクリフは、不意に呼び止められ、その歩みを止めた

振り返ると、仮面越しに不敵な笑みを浮かべ、道化師は佇んでいた

 

「精々、化けの皮を剥がされねぇようにな。アンタには、まだやってもらわなきゃなんねぇことがあんだからな」

 

「………やはり、食えん男だ。君は」

 

「そりゃあ、お互い様じゃねぇのかい?団長さん」

 

そう告げる、ソウテンの笑みは何時もよりも遥かに、不敵で、この先に待ち受ける未だ見ぬ何かを、案じているようであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2024年11月7日 第75層主街区コリニア転移門前

 

 

ボス討伐の為に、集められたのは、全員が高いレベルのプレイヤーで、俗に言う攻略組だ。その中でも、一際に目立つのは、転移門付近で、談笑する仮面の道化師を筆頭にした集団である

 

「よし、景気付けに前祝いでもやっとくか」

 

「前祝いか。じゃあ、肉でも焼くか?この前、裏ルートで仕入れたラグーラビットの肉があるぞ」

 

「流石だな、ベルさん。そいじゃあ、俺が腕によりを掛けて、得意料理を振る舞ってやろうじゃねぇの」

 

「テンの得意料理だぁ?どうせ、ピーナッツバターをぶっ掛けただけのふざけた料理だろ」

 

「間違いありませんね。リーダーは生粋のピーナッツバターフリーク基アホですから」

 

「リーダーさん、知ってますか?ピーナッツバターは主食にならないんですよ」

 

「うむ、シリカくんの言う通りだ。バナナなら、あり得なくもないがな」

 

「誰がピーナッツバターを使うなんて、言った?俺が作るのはタコスだ」

 

『………えっ!!ピーナッツバターを使わないっ!?さてはニセモノかっ!!アンタっ!!』

 

まさかの発言に、誰もが両目を見開いた。ピーナッツバターといえば、ソウテンがこよなく愛する調味料であり、其れが如何なる料理であっても、味を台無しにするレベルで、塗りたくる奇行を引き起こす代物だ

然し、今の彼の手には、ピーナッツバターは見当たらない。其れ即ち、今回は真面な物を作り出すという事である

 

「なんで、こういう反応されてんだ?」

 

「リーダー?日頃の自分を見直して見るといいよ。確かにさ、リーダーが作るタコスは美味しいけど、俺とミトさん以外に振る舞った事ないんじゃない?」

 

「確かに、私とヒイロは何度か食べたけど……グリス達に食べさせてるのは見た事がないわね」

 

「あり?そうだっけか。そういう事なら、今日は全員に振る舞ってやろうじゃねぇの……きっと、美味さで成仏しちまうぜ?」

 

「成仏って……悪霊じゃないんだから」

 

仮面の奥で笑う瞳は穏やかで、この世界に来る前に何度も見ていた恋人の姿が其処にはあった。孤独な人々の前に、何の前触れも無く、姿を見せ、当たり前のように手を差し伸べ、居場所を与えてくれる彼の隣はミトにとってのLugar importante(大切な場所)である。其れは、世界が仮想に移り変わっても、変わらない。彼に寄り添うと決めた時から、ミトの居場所はソウテンの隣となったのだ

 

「相変わらずだな、この世界でこうも毎日を楽しめるのは、お前たちくらいじゃないか?テン」

 

「おろ?エギルじゃねぇの。珍しいねぇ?おめぇさんが前線に出るなんて、何時以来よ」

 

「半年振りだな。最近は店が忙しくて、余り前線には出られなかったからな」

 

ソウテンの軽口に笑いながら、答えたエギルは担いでいた斧を振り下ろす。やる気に満ち溢れた彼は、久方振りの前線に心を躍らせているようだ

 

「クラインさん達もいらっしゃったんですね」

 

「おうよっ!この攻略が終わったら、メイリンさんとデートに行く約束してんだ!どうだ?羨ましいだろっ!」

 

「「「いえ、全く」」」

 

「ふっ…此れだから、恋愛を知らないチビどもは困るぜ。いいか?俺の故郷には、こういう言葉がある」

 

興味無さ気なチビっ子三人組に対し、クラインは果てしなく広がる空を眺め、目を細め、柔らかい笑みを浮かべた

 

「恋はいつでもハリケーン!!!だから、俺は愛の為に、この命を捨てる事を躊躇わねぇ!!」

 

「「「あるかっ!!!そんな格言っ!!!」」」

 

「いやあるっ!」

 

格言というよりも、意味不明な諺のような事を口走るクラインに三人からの全力の突っ込みが飛ぶ

 

「悩みとか無さそうだな、アイツは」

 

「おやまあ、キリト。随分と遅かったじゃねぇの。重役出勤か?」

 

「重役って、コイツがそんなタマかよ。精々、部下と上司に板挟みにされて、胃薬の手放せねぇ中間管理職って、とこだろ」

 

「違いない、キリの字は統率者には向いてないからな」

 

「訴えてやろうか、バカども」

 

討伐開始になる直前に、ソウテン達が繰り広げるやり取りに周囲が湧き立つように、笑いが湧く。其れは、次第に伝染していき、最終的には、その場に居た全員が緊張を忘れ、笑いの渦を巻き起こしていた

 

「欠員はないようだな、よく集まってくれた。状況はすでに知っていると思う。厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。――解放の日のために!」

 

攻略組の間を掻き分け、現れたのは《血盟騎士団》を率いる真紅の衣を纏い、十字盾を携えた男性は力強い叫びを宣言する。そして、彼の視線が、ソウテンの方に向けられる

 

「存分に力を奮ってくれたまえよ、《蒼の道化師》殿」

 

「その依頼、確と御引き受け致しましょう。ですが……此れだけは、御忘れなきようにお願い申し上げます、この世界(ゲーム)に幕を下ろすのは我々である事を」

 

その不敵な笑みは、まるで全てを見透かしたかのように、妖しく仮面の奥で瞳を光らせていた

だが、此れは終わりなき世界に迫る終焉への第一歩であったのを、今はまだ、誰も知らない




遂に開く75層ボス部屋の扉、未だかつて無い強敵を相手に最強のレイドパーティが挑む。その先に待つのは、幸福か?其れとも、絶望か?

NEXTヒント 死神の鎌


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十七幕 骸骨の狩り手

どもっ!いやぁ、ポケモンレジェンズを買ったんですが……金曜の夜にやり出したら、止まらなくなって、気づいたら土曜の朝六時までプレイしてました……ゲームって、怖いなと思う今日この頃です

そんなことより!物語もいよいよ終盤!だが!この作品はタダでは終わらせないっ!やっぱり、ギャグを入れてこそ!


2024年11月7日 第75層迷宮区

 

 

「綺麗……」

 

75層の迷宮区は、僅かに透き通るような黒曜石に似た素材で組み上げられており、まるで鏡を彷彿させるように敷き詰められたその光景に、シリカはうっとりしていた

 

「シリカ。この湿った空間で、よくその答えが出るね」

 

「あはは、そうだよね。今、あたしたちはボス部屋の前にいるんだよね」

 

「そうです。いくら、シリカさんが強くなってからとはいえ、攻略戦への参加はこれが四回目なんですから、気を引き締めてください」

 

「う、うん。分かってるよ…ヴェルデ。でも……アレを見てたら、緊張感もへったくれもないんだよね……」

 

「「アレって……ああ、アレ」」

 

呆れたようなシリカの視線を、ヒイロとヴェルデが追う。その先には、ボス部屋にも関わらず、緊張の欠片が微塵も見受けられないソウテンたち(バカたち)の姿があった

 

「この扉、現実にあったら、どんくらいの値段すんだろうねぇ」

 

「ふむ、そうだな。実物を見た訳ではない故に断言は出来んが……かなりの値段はするだろう。テンの字にも分かり易く言うなら、ピーナッツバターが箱で大人買い出来るくらいの値段だ」

 

「マジでかっ!!」

 

「其れに、パスタやバナナ、バームクーヘンでもだ」

 

「「「なにぃっー!!すんげぇっ!!!」」」

 

「ミトくん、彼等はボスを倒すという意識があるのかね?」

 

「あると思うわよ。あとコーバッツさん、攻略前にバナナを食べるのはよしなさい」

 

「安心したまえ、此れは私が自作したバフ効果のあるバナナだ。この攻略で、役に立ってみせる」

 

「あら、そうなの?だったら、このピーナッツバターを塗る?」

 

「いや、やめておこう。其れはバナナに失礼だ」

 

「バナナに失礼って、何処の国の言葉よっ!?それっ!!」

 

攻略前であり、尚且つボス部屋の前であるにも関わらず、平常運転のソウテンたち(バカたち)に年少メンバーは勿論ながら、アスナも苦笑を浮かべている

その光景に、多少の変化が見受けられるも、真剣な表情のヒースクリフが鎧を鳴らし、注目を自分に向ける

 

「皆、準備はいいかな。今回、ボスの攻撃パターンに関しては情報が無い。 基本的にはKoBが前衛で攻撃を食い止めるので、その間に可能な限りパターンを身切り、柔軟に反撃をして欲しい」

 

「柔軟………はっ!洗濯物干したままだっ!!」

 

「大丈夫よ、取り込んでおいたから」

 

「なに、そいつはありがてぇ。ホントにミトは出来た嫁だ」

 

「そう?ありがと」

 

⦅緊張感ねぇのかよっ!!!コイツらっ!⦆

 

最早、攻略以前の会話を始めるソウテンかミトに対し、全員が心の中で、全力の突っ込みを入れた。其れでも、表情を変えなかったヒースクリフは、軽く咳払いをする

 

「こほん。では――行こうか」

 

黒曜石の大扉に歩み寄り、中央に手を掛ける。重い腰をあげるように、開きゆく扉に、緊張が走り、全員が息を呑む

 

「さて……そいじゃあ、何時も通りで行くとするかね」

 

「ああ、そうだな」

 

「腹が鳴るぜっ!」

 

「其れを言うなら、腕が鳴るかと思いますが?」

 

「仕方ないよ、グリスさんはゴリラだから」

 

「シリカ。これに関しては、バカなだけだよ」

 

「物を知らないのね、ホントに」

 

「バナナでも食べるといい」

 

「コーバッツさん、其れは後にした方がいいんじゃないか?」

 

「ディアベルの言う通りだ、攻略前に食べるのは良くない。食べるなら、この戦いに勝利してからだ……という訳で、リーダー。例のアレを頼む、士気を高めるためにもな」

 

「あいよ。派手に行くぜっ!野郎ども!」

 

『了解!リーダー!!』

 

決まり文句で、一瞬の内に普段の騒がしさから、空気が一変。三大攻略ギルドに於いて、最強の座を持つ《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》が足踏みを揃え、其々の得物に手を掛け、開ききった扉の中へ、走り出した

 

「戦闘、開始!」

 

ヒースクリフの号令で、残りの者達もソウテン達に続き、中に走り出す。広いドーム状の部屋の中で、自然な陣形を作って立ち止まる

刹那、轟音を立て、扉が閉まり、完全に退路が断たれる

 

「あん?ボスは何処だ?」

 

「見当たりませんね。ティーパーティーでもしてるんでしょうか」

 

「いや、もしかしたらタコパかもしれない」

 

「パーリィ!?司会とかいるかなっ!」

 

「そこぉ!!!目をキラキラさせないっ!!」

 

「少しは緊張感持ちなさいっ!!」

 

一向に姿を見せないボスに、静寂にも似た沈黙に耐えかねたグリス、ヴェルデ、ヒイロ、シリカが能天気発言するのを、ミトとアスナが咎める

 

「テン……気付いてるか?」

 

「ああ…いるな、上に」

 

『上……って、上かぁぁぁぁぁ!!!』

 

ソウテンの発言に、首を傾げた後、全員が叫び声と共に頭上を見上げた。ドームの天井部に、貼り付いた”其れ”は、円筒形をした体の一つ一つからは、剝き出しの鋭い骨脚が伸びている

その体を、追うように視線を動かす。徐々に、太さを増す先端、その先にあるのは、凶悪さと不気味さを併せ持つ頭蓋骨があった

名は、《The Skullreaper》――骸骨の狩り手。そして、その死神は頭上へと落下を始める

 

「固まるな! 距離を取れ!!」

 

素早く指示を飛ばすヒースクリフ、落下予測地点から、誰もが飛び退く。しかし、落下するスカルリーパーの真下にいた三名の動きが僅かに遅れた

 

「不味いっ!職人!ロープ出せっ!あとグリス、コーバッツのダンナ!!引っ張っれ!!!」

 

「「「了解!リーダー!!」」」

 

ソウテンの叫び声にも似た指示で、アマツがストレージからロープを取り出し、三人目掛け、投擲する。そのロープを、グリスとコーバッツのパワフルコンビが引っ張っり、彼等を救出しようどするが、その背後に、地響きと共に、スカルリーパーが落下し、床全体を震撼させた

刹那、ロープからグリスとコーバッツが手を離すと同時だった。三人の命を狩り取る大鎌が、横薙ぎに振り下ろされ、切り飛ばされた

 

「なっ……!!!」

 

「諦めるなっ!グリス少年!!!まだロープは繋がっているっ!!!」

 

「言われなくてもっ!!!」

 

コーバッツが怒号にも似た叫びを挙げ、グリスが引っ張る力をより一層に強くするも、激しい勢いで、減少を始めたHPバーは一瞬で、ゼロを示す。空中にあった三人の体が、無数の結晶となり、四散した

 

「……一撃で……死亡……だなんて」

 

「こんなの……無茶苦茶だわ……」

 

ミト、アスナがその光景に掠れた声で、絞り出すように呟く。其れもその筈、以前の攻略時に遭遇した悪魔モンスターも、強敵であったが、今回は、その出来事さえも、霞むような事例だ

 

「さて、キリト。どうだい、この光景に怖気付いたか?まっ、おめぇさんのことだ……そいつはねぇよな?勿論」

 

「ああ、寧ろ、その逆だよ、親友。今、俺は燃えてるよ、煮えたぎるマグマのようにな。其れにだ、不謹慎かもしれないけど、改めて、このゲームが死んだら、終わりのデーズゲームってことを自覚した。だからこそ、あの三人の無念を晴らす為にも、何としても、アイツに持ちうる全ての実力を行使し、この層を突破しなきゃいけない。其れが、助けてやれなかった三人への、せめてもの償いだ。違うか?テン」

 

Así es(その通りだ)。そういう訳だからよ、言ってもわかんねぇと思うが、骸骨さん?予告しといてやるよ、アンタの命は、我々、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》が戴くよ。故に、Tener una relación por un tiempo.(暫しのお付き合いを)

 

命を狩り取りし、骸骨の死神と未来という明日を目指し、戦う色彩の道化たちの戦いの火蓋が切って落とされた。其れが、世界への終焉を告げる鐘の音であることは、まだ誰も知らない




死神と道化、二つの混じり合う色。その先で、栄光を掴み取るのは、何方なのだろうか

NEXTヒント 真相


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十八幕 真相という名の驚愕

真相、その言葉が意味するモノとは…!?あっ、シリアスな内容ではありますが一応はギャグ回です


「さて、キリト。どうだい、この光景に怖気付いたか?まっ、おめぇさんのことだ……そいつはねぇよな?勿論」

 

「ああ、寧ろ、その逆だよ、親友。今、俺は燃えてるよ、煮えたぎるマグマのようにな。其れにだ、不謹慎かもしれないけど、改めて、このゲームが死んだら、終わりのデーズゲームってことを自覚した。だからこそ、あの三人の無念を晴らす為にも、何としても、アイツに持ちうる全ての実力を行使し、この層を突破しなきゃいけない。其れが、助けてやれなかった三人への、せめてもの償いだ。違うか?テン」

 

Así es(その通りだ)。そういう訳だからよ、言ってもわかんねぇと思うが、骸骨さん?予告しといてやるよ、アンタの命は、我々、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》が戴くよ。故に、Tener una relación por un tiempo.(暫しのお付き合いを)

 

スカルリーパーを相手に深々と、御辞儀するのは一人の道化師。その彼を取り巻くように、黒衣の剣士を筆頭にした色彩豊かな道化たちが、スカルリーパーへ、視線を向けている。しかしながら、命を狩る死神は、彼等に物怖じしない、其れどころか、猛烈な勢いで彼等へと進撃を始めた

 

「わぁぁぁーー!」

 

背後に居るプレイヤーの叫び、恐怖による悲鳴を他所に、巨大な鎌が振り上げられた

 

「ミト、ベルさん」

 

「「了解!リーダー!!」」

 

名を呼ばれた二人が、飛び出す。先ずは迫る大鎌の真下に飛び込んだ紫色の髪が特徴的な少女が、手にしていた鎌で、迫る大鎌を振り払らうと、部屋全体に轟くような衝撃音を響かせ、同時に刃先が擦れ、火花が飛び散る

反対側から迫る別の鎌、その行く先を見据えた少女、ミトは不敵に笑う

 

「スイッチ」

 

ミトの呟くような指示で、彼女と入れ替わるように盾が鎌を弾いた。ヒースクリフが持つ十字盾に比べ、性能は劣るが、その盾には、職人芸と呼ぶに相応しい美しさと硬さを兼ね備えていた。故に、ボスモンスターが相手であっても、簡単に耐久値が減少することは無い、しかしながら、重い一撃を一人で、捌き切るのは不可能に等しい。刹那、ディアベルの両隣に、巨大な盾が姿を見せる

 

「ディアベルくん。君だけでは捌き切れないだろう、私も力を貸そうじゃないか」

 

「うむ!水臭いぞっ!ディアベル!私と君の仲ではないかっ!私はこう見えても、元は《軍》の中佐を務めた身だぞ?このくらいの敵など、朝飯……否、バナナ時前だっ!」

 

「ヒースクリフさん、其れにコーバッツさん!ありがとう!助かるよ!でも、コーバッツさん?バナナ時前ってのは聞いたことないから、普通に朝飯前にしていてくれないか?」

 

「断るっ!さて、鎌は我々が食い止める!テン少年……いや、今はこう呼ばせてもらおう、我がリーダーよ!指揮は君に任せたっ!!」

 

encomendado(任された).総員!側面からの攻撃に集中しろっ!鎌を捌くのは、コーバッツ達が引き受けてくれた!キリトとミトは、俺が準備する間のサポートを頼む!グリス、ヒイロ、ヴェルデ、シリカ、アマツはアスナと一緒に、全体指揮をっ!」

 

『了解!リーダー!!』

 

ソウテンが指示を飛ばし、キリト達は彼の指示通りに動き始める。同時に、動きを止めていた他のプレイヤーたちも、呪縛から解放されたように、彼等へ続くように武器を構え直す

咆哮を上げ、迫り来るスカルリーパーを相手に絶え間のない攻撃が降り注ぐ。やがて、漸く食い込んだ攻撃に、僅かではあるがHPバーが減少するも、直後に悲鳴が上がる

 

「ちっ……!まだかっ!テンっ!!!」

 

「早くしてっ!これ以上は持ち堪えられないわっ!」

 

スカルリーパーの尾の先についた槍状の骨が、数人を薙ぎ払う仲で、キリトとミトが後方のソウテンに叫ぶ。すると、彼は仮面越しに不敵に笑った、何時ものように、まるで、敵を嘲笑うかのように、彼は代名詞とも呼べる不敵な笑みを浮かべた

 

Estamos listos.(準備は整った).グリス!かち上げろっ!!!」

 

「あいよっ!!!」

 

グリスが構えたハンマーの上に、ソウテンが飛び乗り、ボス部屋の天井近くまで、投擲された。空中で、所有アイテムのリストをスクロールし、幾つかの項目を選び出す

 

「永遠にadieu」

 

決め台詞と呼ぶべき別れを告げる言葉、そして、仮面越しの不敵な笑みとその二つがスカルリーパーの見た最後の景色となった。刹那、頭上から無数の槍が雨のように降り注ぎ、体を貫き、止めの槍最上位ソードスキル《アルティメット・サイン》を受け、青い欠片となり、爆散した

 

「ふぅむ、一時間か。意外にすんなりと終わったねぇ……そいで?何人、やられた?クライン」

 

ボス撃破の余韻に浸る、というよりも、その犠牲者に対する想いが深いソウテンが、床に着地すると同時に、へたり込んでいたクラインに問う

 

「十四人……くそっ!俺が、俺が……この後の……デートに現を抜かしてさえいなけりゃ…!こんな事にはっ!」

 

「クライン、落ち着け。お前は良くやったよ」

 

「ああ……そうだ。不甲斐ねぇのは、俺だ

あん時、手を離さなきゃ、最初の三人は救えたかもしれねぇ……」

 

「グリス君、気を落とすな。君も良くやったよ」

 

「そうだ、ナイスガッツだったぜ。グリス」

 

「ああ……すまねぇ…オッさん、エギル」

 

悔しがるクライン、グリスをキリトとコーバッツ、エギルが宥める中、彼だけは別方向を見据えていた

仮面から覗く双眸の先は、誰もが床に座り込むこの状況で、背筋を伸ばし、佇む一人の人物……否、ヒースクリフを見据えている

 

「………なぁ、団長殿」

 

「何かね?道化師クン」

 

「そろそろ、種明かしといかないか?この先に待つゲームクリアを目指すのは確かに魅力的だ……でもな、これ以上の犠牲を出すくらいなら、俺は、この場での最終決戦を選ぶ……そうだろう?Dios(神様)っ!!!」

 

怒号にも似た、その叫ぶような声と共に、ソウテンの手から槍が投擲された。ソードスキルを纏わせている訳ではないが、命中すれば、微々たるダメージは避けられない

しかし、ソウテンにはある確信があった。この男が持つ秘密、その秘密が明るみとなるかの様に、見えない障壁が、槍を阻んだ

 

「【Immortal Object】………だと!?」

 

「んだそりゃ?」

 

「きっと、アレじゃない?サブジェクトの知り合い」

 

「そもそも、サブジェクトって何ですか?ヒイロくん」

 

「そうだよ。其れを言うなら、モブジェクトだよ」

 

「いやいや、突っ込むべきは其処じゃないだろ」

 

「そうよ、突っ込むべきは…ヒースクリフの正体よ」

 

「うむ。だが、予想は付いている……さぁ、リーダー。種明かしをしてくれ給え」

 

「ああ、そうだな…。答え合わせといこう」

 

同じようにする真相へ辿り着いたであろうキリトへ、一度、視線を向けると彼は頷く。其れが肯定の合図だったのか、ソウテンが口を開く

 

「俺がヤツを何故、Dios(神様)と呼んだか。其れは……ヒースクリフが、この世界を想像し、監視し、管理するゲームマスター!!!茅場明彦だからに他ならねぇ!!!」

 

その言葉に、全てが凍り付く静寂が訪れるも、ミト達は違った。目と口を開き、明らかにそうと言わんばかりの驚愕を見せていた

 

「想像だにしてなかったんか!!!何だと思ってたんよっ!!!」

 

「てっきり、近所の悪ガキのシーゴルとジーゴルだとばっかり!」

 

「そうですよ!あの二人の悪名はすごいんですよっ!?」

 

「全くです」

 

「常識」

 

「テンの字。貴様は世間を知らなさすぎる、奴らの存在くらいは誰でも知っているぞ」

 

「知るかぁっ!!つーか、ヒースクリフが一人なのに、二人も正体いたら可笑しいだろっ!!!」

 

見当違いな推理をしていたミト達へ、ソウテンの突っ込みが飛ぶ。逸早く、真相に気付いていた分、彼は苛立ちを隠せておらず、不敵な笑みが消えている

 

『はっ……言われてみればっ!!!』

 

「バカなんかっ!お前らは、根本的にっ!!!」

 

その賑やかな光景に、正体を見破られた張本人は佇まいは崩さないが、呆れた表情を浮かべる

 

「…………何故、こんなのに私は正体を見破られたのだ。解せぬ」

 




明かされた真実、其れは世界の終焉を意味していた…
果たして、道化師達を待ち受ける運命とは…

NEXTヒント 交じり合う刃


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四十九幕 往け

終わりを告げる鐘の音は刻一刻と、ギャグがあるかは分かりませんがアインクラッド編も遂にラスト一話となりました…


「何故、気付いた?参考までに教えて貰えるかな?道化師(クラウン)殿」

 

驚愕するミト達を他所に、あくまでも冷静な彼は、その先で不敵に笑う仮面の道化師に問いを投げ掛ける

 

「アンタを可笑しいと思ったんは、キリトとのデュエルの時だ。最後の一瞬だけ……僅かに速過ぎたんよ。最初は《神聖剣》のスキルの可能性も考えた、でもなぁ…明らかにあの動きは異常なんよ」

 

「やはりそうか。あれは私にとっても痛恨事だった。 キリト君の動きに圧倒され、ついシステムの《オーバーアシスト》を使ってしまった」

 

明るみとなった真実、其れにヒースクリフは攻略組全員を見渡した後、その中心に佇む道化師の仮面越しから覗く瞳に、苦笑を浮かべる

 

「確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれば、最上層で君たちを待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある」

 

「……趣味がいいとは言えないぜ。最強のプレイヤーが一転最悪のラスボスか」

 

「なかなかいいシナリオだろう?最終的に私の前に立つのは、彩りの道化(キミたち)だと予想していた。全10種存在するユニークスキルのうち、《二刀流》スキルは全てのプレイヤーの中で最大の反応速度を持つ者に与えられ、その者が魔王に対する勇者の役割を担うはずだった。だが、キリト君。君は、私の予想を超える力を見せつけた。まぁ、この想定外の事もネットワークRPGの醍醐味と言うべきか………」

 

「と言う事は私の《バナナ農家》もっ!!」

 

「あたしの《チーズケーキ屋》もですかっ!」

 

「この《プルー》もですかっ!」

 

「…………いや、そんなユニークスキルは無いが?」

 

食い付くように反応を示すコーバッツとシリカ、ヴェルデに対し、「何を言ってるんだ、コイツらは?」と言わんばかりの視線でヒースクリフが否定する

 

「「ええっ!?」」

 

「シリカちゃん、コーバッツさん、ヴェルデ。少し黙ってなさい」

 

「「「あい…」」」

 

ミトの御叱りを受けた三人が退がるのを確認し、ヒースクリフはソウテンに向き直る

 

「ソウテン君。君の《無限槍》は絶え間なく降り注ぐ攻撃の雨、止まない雨はない、冷たくない雨はない。君が持つ特殊な感情は、このスキルを持つに相応しいと思わないか?勇者の隣に並び立つ者は、其れ相応の力を持ち、尚且つ、導く存在でなければならない。故に君は、仮想世界(我が箱庭)に於ける道化師となったのだよ」

 

「俺たちの忠誠……希望を……よくも……よくも……よくも―――ッ!!」

 

動きを止めていたプレイヤーの中から、立ち上がった影が一つ。《血盟騎士団》の幹部を務める彼は、両手剣を振りかぶる

 

「浅はかな……ご安心くださいませ、アスナ様。私の忠誠はアスナ様の為にっ!ですから、安心してください!」

 

「クラディール。うるさい」

 

「なぜっ!?」

 

「あいつ、まだストーカーしてたんか」

 

「世も末よね」

 

「ホントだよな、全く、世も末だ……おろ?」

 

「どうか……おわっ!?」

 

揺るがないクラディールの様子に呆れていたソウテン達の体を妙な感覚が襲う。残されたのは、背中に二対の剣を携えた黒い剣士、彼以外の全員は麻痺状態となり、地面に転がっていた

 

「どういうつもりだ?ここで全員を殺して隠蔽するつもりか?」

 

「まさか。そんな理不尽な真似はしないさ。こうなっては致し方がない。私は最上層の《紅玉宮》にて君たちの訪れを待つとしよう。ここまで育ててきた《血盟騎士団》、攻略組プレイヤー諸君を途中で放り出すのは不本意だが、君達の力ならきっと辿り着けるさ。だが、その前に」

 

そこで言葉を区切り、十字剣を収めた十字盾を黒曜石の床に突き立てる。

 

「キリト君、君には、私の正体を看破した報酬を与えなくてはな。チャンスをあげよう。今この場で私と一対一で戦うチャンスだ。無論、不死属性は解除するし、私も《神聖剣》の力の範囲で戦う。私に勝てば、ゲームはクリアされ、生き残った全プレイヤーがゲームから順次ログアウトできる。……どうかな?」

 

「……何故だ、最初に正体に行き着いたのは、テンだ。相手をするなら、俺じゃなくて、テンの方が相応しい筈だ」

 

「確かに、セオリー通りで有れば…ソウテン君が相手をするのが筋だろう。しかし、コレは彼が持ち掛けた取り引きだ」

 

「取り引き……?」

 

その言葉に、キリトは地面に横たわる親友に視線を向ける。彼は、麻痺状態であるにも関わらず、何時もの不敵な笑みを浮かべ、その表情はまるで、悪戯が成功した子供のように、無邪気だった

 

「実を言うと、この攻略戦を行う前日にソウテン君は私の正体を看破していた。しかしながら、彼は「神様(ラスボス)を打倒するのは勇者の役目、俺はあくまでも道化師。故に、アンタを倒すことはしない」と語り、私と立ち合おうとはしなかった。そこでだ、其れを公言しない対価として、私は彼に、ある取引(・・・・)を持ち掛けた」

 

「…………」

 

「もしも、この攻略戦に勝利した暁には、私の正体が、ラスボス(茅場明彦)であることを公言し、私を打つ勇者との一騎討ちをさせてほしいとね」

 

「はぁ……ホント、厄介なヤツだよ…。俺の兄弟は」

 

ため息混じりに呟き、背後に視線を向けると彼は、仮面に手を掛け、その素顔を見せ、不敵な笑みを露わにする

 

「まぁまぁ、そう言わんでくれよ。新しい武器やるからよ」

 

「動けるのかよ、其れに」

 

「まぁ、仕掛け人だからねぇ。そいで?新しい武器はいるかにゃ?兄弟」

 

「ああ…いただくよ」

 

「ほいよ。聞いてたな?職人!《例のヤツ》を出しなっ!」

 

「任せなっ!受け取りやがれっ!!!キリトォォォ!!!」

 

最高潮に昂った興奮から、口調が何時もよりも、荒々しくなったアマツがキリトへ、一振りの武器を投げ渡す。手に収まり、長年の相棒のように、馴染む一振りの剣

 

「……《メモリークラウン》、記憶の道化か。良い名だな」

 

投げ渡された剣を手に、名を確認し、キリトは嬉しそうに、笑みを溢す。その先に見えるのは、麻痺状態になっている筈の《彩りの道化(仲間たち)》と想い人(アスナ)の姿。彼等は其処に、何事も無いように、平然と佇んでいた

 

「そりゃあね?俺たち全員の武器と想いが形になった剣だ」

 

「さっさと終わらせなさい。ラストは譲ってあげるわ」

 

「ぶちかましてやれっ!ダチ公!」

 

「頑張って、キリトさん」

 

「僕の希望は常に貴方と共に。キリトさんは、最高の兄貴分です」

 

「君がいたから、俺たちは出会えた」

 

「こうやって、皆んなと笑い合う喜びをしれたんです」

 

「俺の剣を使うんだ、敗北は許さん」

 

「なーに、職人。今日が駄目でも明日が来る。何せ、明けない夜は無いという言うからな!」

 

「キリト君。私たちは何があっても、キミの味方だよ。それから、キミのことが大好きだよ………だから」

 

親友、仲間たち、恋人、彼を見るその表情は確かな確信があった。黒の剣士を、魔王を倒す勇者を、信じ、明日を託すという希望の灯が宿っていた

 

『往けっ!!!』

 

「了解……この剣(皆の想い)に誓う、この仮想世界の結末は……俺が決めるっ!最後の戦いだっ!魔王(茅場)!」

 

キリトの啖呵に対し、ヒースクリフ……否、茅場は不敵に笑う。その笑み、まるで魔王の如し

 

「来たまえ……キリト君……いや、勇者(キリト)よっ!」

 

終焉を告げる鐘の音が、ゴングのように鳴り響き、二人の剣士が地を蹴った

 

其れが、この世界の終焉を呼ぶ戦いの始まりとなった




最強の剣を手に黒の剣士は、魔王に戦いを挑む。その先に待つのは、果たして!

NEXTヒント Gracias(ありがとう)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五十幕 Gracias(ありがとう)

いよいよアインクラッド編最終回!長かった……本当に長かった


『往けっ!!!』

 

背中を押すように放たれた言葉に、キリトは手にした剣を、ありったけの力で握り締める

 

「了解……この剣(皆の想い)に誓う、この仮想世界の結末は……俺が決めるっ!最後の戦いだっ!魔王(茅場)!」

 

啖呵を切る勇者を見詰めるのは、魔王の如き笑みを見せる一人の男。彼も、十字剣を抜き、キリトへと視線を向ける

 

「来たまえ……キリト君……いや、勇者(キリト)よっ!」

 

交じり合う二振の刃が、鈍い金属音を、響かせる。《二刀流》を使用すれば、事は上手い具合に運ぶだろうが、キリトは頑なに二本目の剣を抜刀しようとはしない

剣撃戦の応酬が続く中で、その手に握られるのは、仲間たちからの想いが形となった一振りのみである

恐怖していないと言えば、嘘になる。目の前で、剣撃を受け流す男は、四千人に渡る命を奪った殺戮者なのだ。その冷ややかな瞳は、人間と呼ぶには、余りにも恐ろしく、それでいて、気高さも感じ取れる

 

「うぉぉぉぉ!!!」

 

不安を取り払う為に、絶叫にも似た叫び声を上げる。だが、剣は十字盾と長剣に弾かれ、茅場に届きもしない

その焦り故に、簡易的ではあるがソードスキルを放つ……否、放ってしまった(・・・・・・・)事に気付いたのは、茅場の表情が、勝利を確信した笑みを浮かべた後だった

途中で、止めようにも止まらないのがソードスキルの利点であると同時に弱点でもある。そして、直後の硬直が、キリトを襲った

 

「さらばだ、キリト君」

 

茅場が掲げた刃が、紅の閃光を迸らせ、頭上に振り下ろされる

その死を覚悟し、キリトの表情が歪む。しかし、彼の前に、“其れ(・・)”は棚引いた

 

一陣の風が、旗めかせるのは、蒼き衣

 

そして、斬り裂かれた仮面から覗くのは、不敵な笑み

 

その背をキリトは知っていた。時には喧嘩して、時には笑い合った、最高の親友であり、兄弟の背中が、其処にあった

 

「テン!!!」

 

その名を叫ぶキリトに対し、ソウテンは顔を綻ばせる。そして、

 

「悪いな、おめぇさんの戦いに水を差しちまって、でもなぁ…見てられんかった。だから、先にあの世で待ってるよ。いいか?アスナを幸せにしてから、来いよ?そいじゃねぇと化けて出てやるからな?まぁ、でも……割と色々と言いたいことはあるが、本当に言いたいんは、一つだけだ。Gracias(ありがとう)、俺は《彩りの道化(お前たち)》のリーダーで、幸せだった。だから……最後に、アンタを道連れにしてやるよ。殺戮者同士で、あの世で仲良くしようや……茅場明彦ォォォ!!!」

 

「ふっ………ふはははははっ!最高だ、やはり最高だよ!キミは!ソウテン君……いや、テンっ!!!」

 

ソウテンの最後の一振りが、茅場の底を突き掛けたHPを貫く。だが、同時に茅場の十字剣も道化師の胸を突き刺す

 

「これが最後っ!!!」

 

そして、キリトの刃が茅場を斬り裂いた

 

「見事……勇者、そして道化師よ」

 

茅場が不敵に笑い、二人の勇姿を賞賛するように、消滅していく。しかしながら、其れはソウテンも同様である

 

Adiós(さよなら)、そして……Gracias(ありがとう)

 

口癖であるスペイン語を呟き、不敵な笑みを浮かべた道化師も、その体を消滅させた

残ったのは、仮面。彼が身に付けていた象徴(トレードマーク)だけが、其処には残されていた

 

「テン……そんな……どうして……どうしてよぉ…テン…」

 

「あんの傍迷惑迷子がっ!!!何勝手に先に逝ってやがんだっ!!!道もわかんねぇ癖によぉ……」

 

「なんで……なんでだよ…!なんで、あんな時まで!手を差し出すんだよっ!あのバカは!!!くそっ、くそっ、クソォォォォ!!!」

 

泣きじゃくりながらも仮面を抱き締めるミト、拳を握りしめ悲しみを堪えるグリス、何度も何度も冷たい床を殴りつけるキリト。その光景に誰もが掛ける言葉を失っていた

 

「駄目だよ」

 

しかし、其れは、彼を、一人を、除いての話だ。まるで、彼を彷彿とさせる不敵な笑みを浮かべ、その小さな剣士は三人の前に立つ

 

「リーダーは……テンさんは、最後にGracias(ありがとう)って言ったんだ。其れはつまり、俺たちが前に進むことを望んでるあの人なりの激励……だったら、立ち止まらずに、前に進もうよ。彩られたら、彩り返すのが俺たちのやり方でしょ?」

 

「ヒイロの言う通りだ、テンのヤツが驚きの余り蘇るような世界に彩ってやろうじゃないか。なっ?コーバッツ」

 

「うむ、そうだな。ディアベル」

 

「ふんっ…死人を甦らせるか…非現実的ではあるが、興味はあるな」

 

「職人さん?今、そんな話はしてませんよ。世界をチーズケーキで彩るという話です」

 

「シリカさん、貴女も違いますよ?全く……仕方ない方々ですね。そう言う訳で、これからも末永くお付き合い願えますか?御三人方」

 

ヴェルデの差し出した手に、ミトは顔を上げる。その先には想い人の姿は無いが、彼の意志を受け継いだ仲間たちが居た

 

「彩ってやろうじゃない…、私たちで!!!」

 

『了解!!!』

 

高らかに宣言される目標、其れは道化師の願いが世界を彩り始めた瞬間でもあった

 

『現在 ゲームは 強制管理モードで 稼働しております。 全てのモンスター及びアイテムスパンは 停止します。 全てのNPCは 撤去されます。全プレイヤーのHPは 最大値で固定されます』

 

刹那、自動音声によるアナウンスが流れ出す

 

『アインクラッド標準時 11月7日 14時55分 ゲームはクリアされました。プレイヤーの皆様は 順次 ゲームから ログアウトされます。その場で お待ちください』

 

終わりを告げる声と共に全プレイヤーが、浮遊城から、ログアウトされた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁぁぁぁ……おやまぁ。こりゃあ、絶景だ」

 

分厚い水晶の板に腰掛ける一つの影、夕陽に照らされた絶景を前に、彼は、いつも通りの不敵な笑みを溢す

 

「んむ?ほう……」

 

右手を振り、呼び出したメニューウィンドウには【最終フェイズ実行中 現在34%完了】の文字が。見据える先には、崩壊を始める、慣れ親しんだ浮遊城の姿が確認できる

 

「中々に絶景だな」

 

不意に聞こえた声に、振り向くと、一人の男性が佇んでいた

 

男の名は、茅場昌彦。

 

ヒースクリフの姿ではなく、SAO開発者としての姿、つまりは現実の彼が其処に佇んでいた

 

「現在、アーガス本社地下五階に設置されたSAOメインフレームの全記憶装置でデータの完全消去を行っている、あと十分でこの世界は消滅するだろう」

 

「そうか、アイツらはログアウトしたんか」

 

「ああ、生き残ったプレイヤー、6147人のログアウトが完了した」

 

「死んだ連中は……いや、聞かんでおくよ。命は、軽々しく扱っていいもんじゃねぇからなぁ…」

 

「そうだな。死者が消え去るのは何処の世界でも一緒さ。君とは最後に話をしたくてこの時間を作らせてもらった」

 

「じゃあさ、質問していいか?アンタがこの世界を作った理由は何なんよ、一体」

 

内に秘めていた疑問、この場に二人だけという状況故にソウテンは、彼に問いを投げ掛けた

 

「なぜ、か。私も忘れたよ。なぜだろうな。フルダイブ環境システムの開発を知った時、いや、その遥か昔から私はあの城を、現実世界のありとあらゆる枠や法則をも超越した世界を創ることだけを欲してきた。そして、私は……私の世界の法則をも超える世界を見ることができた。空に浮かぶ鉄の城の空想に私が取りつかれたのは何歳の頃だったかな……。その情景だけは、いつまで経っても私の中から去ろうとしなかった。この地上から飛び立って、あの城に行きたい……長い、長い間、それが私の唯一の欲求だった。私は、まだ信じているのだよ……どこか別の世界には、本当にあの城が存在するのだと……」

 

その真っ直ぐな瞳は、少年のように見えた。同時に、ソウテンも彼の言葉に、淡い夢を抱いた

 

もしも、あの世界が現実であったなら、きっと、自分の世界は別の色に彩られていた

 

槍使いの道化師となり、黒の剣士に出会い、紫色の鎌使いと恋をし、灰色のハンマー使い達と騒がしく過ごし、ありふれた日常を、当たり前のように繰り返す。そんな淡い夢を描き、柔らかい笑みが自然に溢れる

 

「そうだといいな」

 

「……言い忘れていたな、ゲームクリアおめでとう。 ソウテン君」

 

「した覚えはないけどな」

 

悪態を吐くソウテンを、茅場は穏やかな表情で俺たちを見下ろしていた

 

「――さて、私はそろそろ行くよ」

 

風が吹き、それにかき消されるように――気付くと、茅場の姿は消えていた

残された道化師は、様々な想い出を紡ぎ、歩んできた場所、《アインクラッド》へ、深々と頭を下げる

 

「身も凍る悪夢の如き、浮遊城での淡い夢物語……お楽しみいただけましたか?もしも、皆様の御眼鏡に称う日々を彩れておりましたら、拍手御喝采の程、御願い申し上げます。其れでは、今宵の舞台は……此れにて、幕引きと致しましょう。また会う日まで、暫しのお別れに御座います、Adiós(さよなら)

 

【最終フェイズ実行中 現在100%完了】

 

【実行終了】

 

te amo mito(愛してるよ、ミト)

 

この日、ゲームはクリアされた。世間では、黒の剣士が全てを解決したかのように報じられたが、その影に、一人の道化師が、存在し、まるで影のように、勇者を支えたことは、誰も知らない

 

その者、紺碧の衣を纏いし、一人の槍使い

 

その槍を振るう姿は時に美しく流れるかの如く、時に怒涛のように荒々しく、身に付けたる仮面には不敵な笑みを携え、

 

その名を、『蒼の道化師』と申す




えっ!最終回?と思ったアナタ!違いますよー!しっかりとALO編もやります!あっ、ちなみにテンは死んでませんからね?勝手にミト達がそう思い込んでるだけです、はい。ちなみにこれに至ってはネタバレ云々ではありませんので、お気になさらず

NEXTヒント ハジケリスト


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二章 妖精の国と彩りの道化(ハジケリスト)
始まりの奥義 忘却の彼方へ、忘れ去られた道化師


妖精の国、ファンタジー世界に迫るはバカ達の影!はい、フェアリーダンス編のスタートになります


2024年11月7日 東京都内某所竹宮総合病院

 

 

「知らない天井……ああ、病院か。そっかぁ……帰ってきたのね、私」

 

意識を覚醒させ、見上げた先には知らない天井。だが、彼女は、兎沢深澄は、鉛のように重い体を徐々に動かし、頭に被ったナーブギアを外す

 

「なんだか……懐かしいなぁ。本当の朝陽って、こんなに眩しかったのね…ねぇ?」

 

不意に、自分の隣に呼び掛け、誰かに問い掛けようとして、深澄は疑問を抱く

 

「私……今、誰に話しかけようとしたんだろう…」

 

周辺を見回し、呼び掛けようとした誰かを探すが辺りには自分以外の誰もいない。その違和感が何かは理解出来なかった、しかしながら、”其れ”が忘れてはならない筈の事である気がしてならなかった

 

te amo mito(愛してるよ、ミト)

 

枕元に置かれた仮面と共に、深澄に綴られた一途なメッセージ。其れを抱き寄せ、鼓動を感じさせる胸に手を当てる

 

「………貴方は誰なの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、病院が一掃に騒がしさを増す。医師や看護師が慌ただしく駆け回り、バイタルチェックを済ませた深澄の前に両親が駆け付け、更に同じ病院に入院していたらしく、仲間たちが駆け付ける

 

「「ミト!」」

 

「ミトさん!」

 

「ミトさん」

 

「和人、純平、菊丸、彩葉。病院でくらい静かにしなさいよ、迷惑でしょ?特に純平、此処に獣医は居ないから、貴方は帰りなさい」

 

「全くだ、帰れ。ゴリラ」

 

「ご存知ですか?純平さん。貴方が、実は人間の進化の過程で生まれたゴリラであることを」

 

「純平さん、人間じゃなかったんだ。やっぱり」

 

「人間だわっ!!張り倒したろかっ!ちびっ子!!!」

 

御約束である純平弄りを楽しむ深澄達であったが、違和感は未だに晴れない。以前は、この光景に中心が居たような気がする、しかし、その誰かの顔も、声すらも、思い出すことは敵わない。まるで、記憶の扉に鍵を掛けられたように、その誰かが誰であったかを知ることは出来ない

 

「物足りないな」

 

「なんだかなぁ……バナナ食っても、テンション上がらねぇなんて、初めてだぜ…」

 

「そうですねぇ……前は、こんな時に盛り上げてくれる誰かが居たような気がするのですが…」

 

「菊丸も?俺も同じこと思ってた」

 

深澄と同様に、その誰かを思い出せない和人達。彼等もまた頭に疑問符を浮かべている

暫くの間、頭を悩ませていた深澄達であったが、一人の男性が病室に姿を見せた

 

《総務省SAO事件対策本部》の者だと名乗った彼は、被害者たちの病院の受け入れ態勢を整えたり、極僅かなプレイヤーデータのモニターを行っており、モニターをしていた結果、レベルと存在座標から深澄達が《攻略組》の上位プレイヤーであることを知り、一体何があったのかを聞く為に、足を運んだらしい。しかし、深澄を筆頭に彼等は、重要な部分を覚えておらず、対価に情報を受け取り、違和感を覚える正体を見つけようとするが、誰一人として、あの世界で苦楽を共にした槍使い、「道化師」の名を見つけることはなかった

 

『結城明日奈さんは所沢の医療機関に収容されている。だが、彼女はまだ覚醒しておらず、全国でも同様のプレイヤーが300人近くいる』

 

親友の名が出た瞬間、深澄の顔付きが変わる。苦虫を噛み潰したような表情で、声に出そうとはしなかったが、悔しそうに両手を握り締める

 

「また……救えなかった。親友なのに」

 

漸く捻り出した、その言葉に、和人達は何も言えなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻 埼玉県某所ゲームセンター“ファミリア”

 

 

「ふわぁ…。やっぱ、自分の家が落ち着くな」

 

ソファーに寝転がり、欠伸を一つ。軽薄な笑みを浮かべる少年の名は、蒼井天哉。SAO攻略の立役者であり攻略組最大ギルドを率いた槍使いの現実の姿である

 

「ちょっと、テンちゃん。病人なんだから、大人しくしててよね?勝手に病室を抜け出したりして、駄目じゃないの」

 

彼に声を掛けたのは、茶髪と碧眼が特徴的な少女。多少の差異は見受けられるが、その顔は天哉と瓜二つである。名を竹宮琴音、親戚に引き取られた彼の双子の妹である

 

「そうは言うがな、妹よ。俺は人よりも遥かに回復が早いんよ。だから、今は全力全開……ごはっ!!!」

 

「血を吐きながら、言っても説得力ないんだけどっ!?」

 

血を吐き、その場で、ぴくぴくと体を震わせる天哉へ、琴音の突っ込みが飛ぶ

しかし、彼は何事もなかったかのように立ち上がり、ソファーに再び腰掛ける

 

「ふぅ、流石にリアルの体はハジケ足りんな。俺の溢れんばかりのハジケリスト魂を受け止めきれねぇんだから」

 

「ハジケリストってなに!?」

 

「ハジケリスト……其れは、人生かけてハジケまくる馬鹿、焼き肉の種類、カップ焼きそばのかやくの一種など色々な説があるが、かいつまんで言うんなら、よく分からん奴等のことだ」

 

「碌な意味がないっ!!!結局は名称があるだけで、唯のバカだっ!!!」

 

今日も全力で暴走する天哉に、琴音は呆れたようにため息を吐くしかなかった

 

「まぁ、俺に関する記憶はねぇんだ。アイツらが、この先…俺を忘れても、何の後悔もねぇさ」

 

「テンちゃん…」




大切な人の記憶を失った深澄達、其れが意味するのは…?そして、和人に迫る新たな敵の魔の手

NEXTヒント 出会い頭にしめ鯖

ヒントの意味が……書いてて、意味わからない…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一奥義 出会い頭にレインボー

テン不在、それでもバカ達は休みなし!これぞ、ハジケライフ!


2025年1月19日 東京都所沢総合病院

 

 

「やぁ、アスナ。また来たよ……ははっ、この台詞を言うのは、何度目だろうな」

 

最上階の病室、ベッドに横たわる一人の少女を前に、和人が呼び掛ける。彼女は二年間のデスゲームで、和人が愛した最愛の人であり相棒である

未だに目を覚まさない彼女の病室を訪れるのは、何度目だろう。呼び掛けていれば、何時ものように、元気な笑顔で微笑んでくれるのではないか、と思いながら、色々と話しかけるが彼女からの返答が返ってくることは無い

 

「おお、来ていたのか。桐ヶ谷君」

 

病室の扉が開き、男性の声が耳に届く。振り向くと、病室に二人の男性が入って来る

一人はアスナ…結城明日奈の父である結城彰三、総合電子機器メーカー《レクト》のCEOである実業家だ

 

「お邪魔してます。結城さん」

 

「いやいや、いつでも来てもらって構わんよ。この子も喜ぶ」

 

そう言うと、彰三は軽く微笑んだ後、アスナの枕元に近寄り、アスナの髪を触る。

 

「彼とは初めてだな。うちの研究所で主任をしている須郷君だ」

 

そう言い、彰三は背後に佇むダークグレーのスーツに身を包んだ、眼鏡の男性を紹介する

 

「よろしく、須郷伸之です。……そうか、君があのキリト君か」

 

須郷と名乗った男性は和人の事を知っていたらしく、友好的な態度ではあるが、まるで品定めをするように彼を見る

 

「……桐ヶ谷和人です。よろしく」

 

初対面ながらも、嫌悪感剥き出しの状態で、顔を顰める。それだけ、須郷は和人の眼に胡散臭く映った。その瞳の奥に秘められた闇、まるで誰かを思い出すような、その瞳を和人は唯只管に見詰めるしかない

 

「いや、すまん。SAOサーバー内部での事は口外禁止だったな。あまりにもドラマティックな話なのでつい喋ってしまった。彼は私の腹心の部下でね。昔から家族同然の付き合いで、息子同然なんだ」

 

「ああ、社長、その事なんですが……。来月にでも、正式にお話を決めさせて頂きたいと思います」

 

「………いいのかね?君はまだ若い。新しい人生だって」

 

「僕の心は昔から決まってます。それに、明日奈さんが今の美しい姿でいる間に、ドレスを着せてあげたいのです」

 

「……そうだな。そろそろ覚悟を決める時期かもしれないな」

 

暫しの沈黙が辺りを支配し、彰三はアスナの髪から手を離す

 

「それでは、私は失礼するよ。桐ヶ谷君、また会おう」

 

頷いてから、彰三は病室を出ていった。病室に残されたのは和人と須郷の二人、ゆっくりとアスナに近付いた須郷は、髪をひと房摘まみ上げる

 

「キリト君、君はあのゲームの中で、明日奈と暮らしてたんだって?」

 

「……ええ」

 

「そうか……それなら、僕と君の関係は少々複雑な関係と言うことになるかな?さっきの話はねぇ……僕と明日奈が結婚すると言う話だよ」

 

その言葉に、和人は絶句する。嫌悪感剥き出しの表情を浮かべ、須郷に冷たい視線を浴びせるが、彼は気に留めようともしない

その時だ、扉が開き、何かが入ってきた

 

「喰らいやがれっ!!挨拶代わりのしめ鯖っ!」

 

「ぐもっ!?な、なんだ!」

 

口にしめ鯖を押し込まれた須郷が、睨み付けるように前方へ視線を向ける。其処には、しめ鯖を手にした純平が立っていた

 

「……ゴリラだとっ!?此処はいつから、動物病院になったんだ!?」

 

「ゴリラ?何をワケわかんねぇことを言ってやがる、俺はバナナの伝道師だ。そして、今しがたお前に喰らわせたのは、ハジケ奥義・出会い頭しめ鯖舞踊だ」

 

「出会い頭しめ鯖舞踊っ!?」

 

「そして、貴方にレインボーっ!」

 

「ごばっ!?今度はなんだ!?」

 

純平の行動に須郷が驚いていると、謎の掛け声と共に菊丸が顔面に城の模型を投げ付けた

 

「これぞ、アトランティスに古来より伝わる歓迎の儀式マハトマ城投げです」

 

「なんだそれはっ!!!ん?あれ?僕の眼鏡がない…って!なにやってんだぁ!!!」

 

菊丸の理解不能な儀式に突っ込みを入れていた須郷は、自分の身に付けていた眼鏡が無い事に気付き、辺りを見回すと眼鏡をフライヤーに浸す彩葉が視界に映る

 

「メガネフライだけど?」

 

「メガネフライっ!?」

 

「なんだそれっ!はっ……ドラゴンフライの親戚か!!!」

 

「其れはトンボです、純平さん」

 

「なにっ!トンボにもフライが!?てことは、アレだな!バタフライに通ずるものがあるぜ!」

 

「バタフライは泳ぎ方ですよ?全く、これだからゴリラは」

 

騒がしい一匹を、菊丸が咎めるのを、見ながら、未だに出会った事がない特殊馬鹿達に須郷は絶句していた

すると、彼の肩を誰かが叩く。背後を向くと、其処にはアスナにも負けない一人の美少女が佇んでいた

 

「貴方が須郷ね?アスナから聞いてるわ、これは歓迎と挨拶を込めた私なりの気持ちよ、土鍋ボンバー!!!」

 

「ぐほっぉ!?」

 

『以上、作戦完了しました。桐ヶ谷将軍』

 

「貴様の仕業かぁ!!!」

 

「いやいや!知らん!勝手にやったんだよ!」

 

「許さんぞ、貴様。今後は、ここに来ないで貰おう。結城家との接触も一切禁止だ!お前たちもだ!」

 

(すげぇ怒ってらっしゃるぅぅぅぅ!!!どうしよう……あっ!あんな所にバーカウンターが!)

 

怒る須郷に慌てる和人の眼に飛び込んで来たのは、簡素なバーカウンター。カウンター越しにシェイカーを振るのは、眼鏡の少年だ

駆け込むように、座席に滑り込む

 

「マスター!あの人にお酒を!」

 

「かしこまりました……カズさんからの戦線布告です!この卑劣眼鏡!」

 

「オラオラ、和人さんの酒が飲めねぇのか?あぁん?」

 

「焼き鳥食え、このヤロー」

 

「追い討ちのテキーラマグナムよ、火傷しろ」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!何してんだぁぁぁぁ!!!このバカどもっ!」

 

矢継ぎ早に須郷へと降り掛かる暴走の嵐、和人が驚愕しつつ突っ込むが彼等は手を止めようとしない

 

「すいません、ホント!後で言って聞かせますんで!」

 

『パパー』

 

「パパじゃねぇわ!!!」

 

須郷の顔をハンカチで拭いながらも、側を走り回る四人の馬鹿を見過ごせない和人。ツッコミ故の、悲しい性から、側にあったパイプ椅子で須郷を殴り付けた

 

(いやぁぁぁぁ!やっちまったぁぁぁぁ!!!)

 

「桐ヶ谷和人君、君も式に来てくれたまえ。その時は君専用のこの特等席を使ってくれて構わないからね」

 

去っていく須郷は、床を指差しながら、和人へと悪態を吐き捨てるが内心では、腹を立てていた

 

(桐ヶ谷和人……いや、キリトとその仲間のムシケラどもめ。貴様らには屈辱を味わせてやる、僕のとっておきの切り札でなぁ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻 神奈川県横浜市繁華街

 

 

「君は覚悟があるのか?この金とスキャンダルの渦巻く世界で、自分を見失わない覚悟が」

 

とある芸能事務所、その一室で一人の男性が向き合うのは、小柄で愛くるしい見た目の年端もいかない一人の少女である

 

「はい、あたしはデスゲームに囚われていた二年間でアイドルの素晴らしさを知りました。ですから、あたしを一流のアイドルに……チーズケーキガールにしてください、お願いします!プロレスさん!」

 

「シンデレラガールね、あとプロデューサーだよ。いいだろう、君の熱意に私のヴィンテージが芳醇の時を迎えた。採用だ、共にアイドルの頂点を目指して、アイカツだ!」

 

「はい!綾野圭子、粉骨砕身の覚悟でアイドル目指します!とりあえず、当たって砕けろをモットーに崖登りしてきますねっ!」

 

「えっ……?」

 

「いってきまーす!!!」

 

勢いよく飛び出す圭子、これは彼女がアイドルの頂点となる為にアイカツを頑張る……という話ではない

 

「カムバッーーーーーク!!!圭子ぉぉぉぉ!!!」




妖精の国、囚われの姫君、そして、最強のバカ達。その三つが交じり合う時、新たな冒険の道が開かれる

NEXTヒント ハジケライフ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二奥義 きっかけはピーナッツバター

記憶を失ったバカたち、だがきっかけは何時もピーナッツバター!そう、其れさえあれば解決!!!


2025年1月19日 千葉県館山市海岸

 

 

「波が畝り、風が鳴き、花が笑う。バームクーヘンを作れと俺を呼ぶっ!さぁ…始めよう。バームクーヘン作りの始まりだ!」

 

海が一望できる一軒家、その庭先に手作りされた釜戸でバームクーヘン作りに勤しむは一人の青年。彼の名は鈴代阿来(すずしろおくる)、大学で機械工学を学ぶ学生である

 

「あれからもう……二ヶ月。皆は元気にしてるだろうか」

 

かつて、彼は二年間に渡るデスゲームに囚われていた。《ディアベル》の名で、攻略組の指揮を執り、デスゲームを終わらせようとしていた。しかし、彼はその終わりが見えない世界で、ある一人の少年に出会った

 

『ディアベル。おめぇさんの力を貸してくれねぇか?俺は、このゲームをクリアしたい。でも、其れをやり遂げるには、俺一人の力じゃあ足りねぇんよ。だから、おめぇさんの持つ力を貸してほしいんだ』

 

その差し伸べられた手は、仮想世界であった筈なのに、暖かったのを今でも覚えている。その言葉をくれた彼が誰であったかは、思い出せない。顔に靄が掛かり、声にはエコーが掛かっている

 

「君は……誰なんだ」

 

しかしながら、其れが自分にとっての大切な友である事を阿来は、僅かに感じていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻 沖縄県名護市バナナ農場

 

 

「バナナとはフルーツであってフルーツに成らず!そう日本の主食はバナナであるっ!!!」

 

南国、常夏、楽園、偉大なる航路、呼び方は人其れであるこの沖縄では今世紀大ブームのフルーツが栽培されている

その全ての元凶は、ある一人の男性によって、引き起こされた

 

「アインクラッドバナナやアルゲードバナナには敵わんが……このバナナも中々だな」

 

男性の名は高良芭蕉(こうらばしょう)。彼こそ、デスゲームと呼ばれた仮想世界で、《アインクラッド解放軍》というギルドの中佐を務める傍らで、バナナ農家としても名を馳せた《コーバッツ》である

 

「時とは、知らぬ間に過ぎていくものだな…。彼等はどうしているだろうか…」

 

あの浮遊城で、生き抜く為に戦い続けた日々。その終わりの見えない世界で、高良はある出会いをした

 

『コーバッツさん。今日からはおめぇさんも、俺たちの仲間だ。一緒に、ゲームクリアを目指して、最後まで面白おかしく世界を彩ってこうぜ』

 

その不敵に笑う口元と共に、差し伸べられた手。其れは、彼の人生を変えるきっかけとなった。あの時、そう言ったのが誰であったかは、思い出せないが自分にとって、その誰かは何よりも大切だった

脳裏に浮かぶ姿は霞掛かり、ぼやけているが其れだけは、その人物が大切な存在であった事だけは覚えていた

 

「……誰なのだ、貴殿は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻 東京都多摩市天野組

 

 

「ふんっ……現実の体はどうも硬くていかんな」

 

天野組。多摩市最大の極道一家である、そして、縁側で首を左右に捻りながら、悪態にも似た皮肉を吐く少年が一人。彼の名は天野茉人(あまのまひと)、天野組の若頭にして次期組長である

 

「嘘みたいだが……本当に帰ってきたんだな。そういえば、リズベットのヤツに本名を聞くのを忘れていたな……」

 

『若頭!おはようさんですっ!!!』

 

「ああ…おはよ。若頭か……職人と呼んでくれる奴等はもう居ないんだな、俺の側には」

 

職人。其れは、此処とは異なる世界での茉人の呼び名である。《アマツ》という名で、鍛冶屋を生業にしていた彼には、数多くの顧客が居た。中でも、専属職人を務めていたとあるギルドのメンバー達は、茉人の人生を大きく変えた

 

『アンタがアマツか?すげぇ腕の持ち主なんだってな。俺たちの武器を作ってほしいんだ、先ずは俺専用の槍を頼んでいいか?ドロップアイテムはどうも肌にあわねぇんよ』

 

そう言って、槍を見せびらかしながら、不敵な笑みを浮かべる誰か。親友であった筈の彼を、退屈な日常に彩りを加えてくれた筈の彼を、茉人は思い出せない

顔には靄が、声にはエコーが掛かっている。其れでも、その誰かが自分にとって、大切な存在であった事だけは理解していた

 

「お前は一体……そして、何処にいるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2025年1月20日 東京都所沢市兎沢家

 

 

『よぉ、ミト。ゲームやるか?ここはやっぱ、格ゲーだよなー。あっ、ピーナッツバターサンドあるけど、食う?』

 

『またピーナッツバター?ホントに好きねぇ…。全くもう…でもありがと、いただくわね』

 

寂れたゲームセンター、その中心にある格闘ゲーム機の前で、深澄にピーナッツバターサンドを分け与えながら、笑う一人の少年。その顔には靄が、声にはエコーが掛かり、鮮明に思い出すことは出来ないが、深澄は知っていた

彼が自分にとって、家族と同じくらいに大切な人である事を、其れだけは忘れていなかった

 

「んっ……夢か。それにしても……あの人は…」

 

目を覚まし、ベッドから起き上がる。スマホを手に取り、リビングに降りると朝食が用意されていた

共働きである両親は基本的に朝早くに出勤する為、朝食は一人で取る事が多い

 

「えっと……トーストに何を塗ろう…。あっ、ピーナッツバター」

 

視界に入ったのはピーナッツバター。夢に出てきた誰かが嬉しそうに食べていたお気に入りの調味料だ

 

『ピーナッツバターはな、何にでも合うんだ。ピーナッツバターを馬鹿にすんなよ』

 

「………ピーナッツバター……そうだ、私……誰かの為にピーナッツバターを作ったんだ。でも…誰の為に…?」

 

靄が掛かっていた脳内に、ピーナッツバターという言葉が何度も何度も繰り返される。その手には、何時もピーナッツバターが、その顔には常に仮面が、そして何よりも、代名詞と呼べる不敵な笑みが浮かんでいた

 

「そうよ……そうだわっ!!!テン!!!どうして、忘れてたんだろう…!テンが居ない!直ぐに探さないと!あれ?でも、何処を……」

 

トーストを口にリスのように頰ぼりながら、思い出した想い人(天哉)の居場所を考える。思い当たる場所を脳内に浮かばせていく、そして最終的にとある場所(・・・・・)が深澄の頭に浮かぶ

 

「きっと、彼処ね。あのゲームセンターにテンは居る。待ってなさい、テン。私がちょっと御説教してあげるわ」

 

天哉を思い出した深澄は、寝間着から私服に着替え、家を飛び出す。そして、思い出の場所であるゲームセンターへと向かう

 

「あれ?ミトさん。こんなトコで何してるの、暇なの?」

 

埼玉県入間市に到着した深澄が、目的地に向かっていると道端を歩いていた彩葉が彼女を呼び止めた

 

「彩葉っ!丁度いいとこに!今から、テンに会うから、彩葉も一緒に来なさいっ!」

 

「テン……天ぷらの話?だったら、焼き鳥の天ぷらが良いなぁ」

 

「天ぷらじゃないわよ!テンよ、テン!!私の恋人で、貴方達のリーダーの蒼井天哉よっ!」

 

「蒼井天哉……まさか、あの時の!」

 

何かを思い出したように、彩葉の脳裏に回想が浮かぶ。あれはまだ、深澄達と出会う少し前の話、彼は渋谷センター街の路地で売り子をしていた

 

『買ってください……お願いです。この……曲がったスプーン、買ってください』

 

「いやなにっ!?この変な回想!!!というか、曲がったスプーンっ!?」

 

『ほう、曲がったスプーンか。用途はなんだね?』

 

一人の仮面男が、興味を示し、話しかけて来た

 

『金魚掬いの掬うヤツに最適です』

 

「いやいや!其れだと掬えないからっ!!!」

 

『其れは良い物だ、一つ頂こう。幾らかね?』

 

『消費税込みで、200000000です』

 

スプーン売りの少年、完。次回から焼き鳥大学しめ鯖舞踊部が始まる

 

「高いわっ!!!というか作品名変わり過ぎでしょ!!!焼き鳥大学しめ鯖舞踊部って、なによっ!?」

 

「とまぁ、あの時の仮面の人が多分はそのテンとかいう人だったんじゃないかなと俺は思ってる」

 

「冷静に話を進めないでくれるっ!?って、突っ込んでる場合じゃないわ。とにかく、彩葉も一緒に来なさい。大丈夫、会えばきっと思い出すわ」

 

「分かった」

 

彩葉を連れ、ゲームセンターへと深澄は足を運ぶ。通い慣れたその道のりの先に、相変わらずの寂れた佇まいで、そのゲームセンター《ファミリア》はあった

 

「やっと会える……久しぶりっ!テン!」

 

勢いよく扉を開け、深澄はその先に待つ彼を思い浮かべる。きっと、何食わぬ顔で、「ゲームやるか?」と問い掛けてくれるであろう彼の無邪気な姿を

 

「おらー!!ピーマン食えやっーーー!!!」

 

「よくも人の記憶に細工しやがったなっ!この迷子ピーナッツ!!!てめぇはピーマンの刑だコラァァ!!!」

 

「お食べなさい、そして更にお食べなさい」

 

「むごっ!?むごごっ!!!」

 

正に地獄絵図、天井から吊るされた天哉を取り囲むように三人の馬鹿が彼の口にピーマンを押し込んでいた

 

「何してんのぉぉぉぉ!?」

 

「ずずっ……地獄絵図だ」

 

突っ込む深澄を他所に彩葉は湯呑みを片手に、空を見上げるのであった




遂に記憶を取り戻した深澄達、そして、彼女たちの前に現れた天哉と謎の少女・琴音!果たして彼女の正体は!

NEXTヒント 囚われの姫君


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三奥義 忘れられた閃光

今回もやっぱりギャグです、でも少しだけ良いシーンがあったりするかも……


2025年1月20日 埼玉県入間市ゲームセンター“ファミリア”

 

 

「チクショーォォォォォォ!やっぱり、二ヶ月で、ピーマンを克服するのは無理だった!」

 

『其処じゃねぇわっ!!!バカリーダー!!!』

 

「ぐもっ!?」

 

ピーマンを克服出来なかった自分を責め、床を殴り付ける天哉であったが、その姿に納得のいかない深澄達の鉄拳が飛ぶ

因みに鉄拳というのは例えで、深澄はハリセンで頭を引っ叩き、和人は口に辣油を押し込み、純平はバナナを鼻の穴にぶち込み、菊丸はカレーを両眼に流し込み、彩葉に至っては焼き鳥の串で腕を刺しまくっていた

 

「ったく……こっちは、お前が記憶から消えた違和感に悩まされてたってのに…」

 

「そうよ。そもそも、私達の記憶を消したりして、何がしたかったのよ。テン」

 

「その説明はわたしがするよ」

 

「えっと……貴女は?」

 

瀕死の天哉に代わり、名乗り出たのは一人の少女。彼女の顔は、髪色などの違いは見受けられるが天哉と瓜二つである

 

「わたしは琴音。苗字は違うけど、テンちゃんとは双子よ」

 

『双子っ!?』

 

「あれ?知らんかったの?琴音の存在」

 

「常識だよな。今更感が半端ないよ」

 

『お前らは知ってるだろうなっ!!!そりゃあ!!!』

 

琴音の正体に、驚愕する深澄達を他所にあくまでも冷静な天哉と和人。彼等はソファーに腰掛け、アフタヌーンティーに興じていた

 

「兎に角、説明するね。お茶を用意するから、残りカスのみなさんも寛いでください」

 

『残りカスっ!!?』

 

「おうおうコラ、テンの妹かなんかしらねぇがな。人を残りかす呼ばわりすんじゃねぇよ、いいか?俺たちはカスはカスでも天かすだ!!」

 

『違うわっ!!!このアホゴリラ!!!』

 

琴音の言葉に対し、純平が睨みを効かせながら、詰め寄るが明らかに意味不明な事を口走る彼に深澄、菊丸、彩葉からの突っ込みが飛ぶ

 

「ご…ごめんなさい…(ワイルドな人…落花生とか好きかな…)」

 

「琴音!?許さんよっ!お兄ちゃんは許さんからなっ!!!おめぇさんに恋はまだ早いっ!」

 

「仮想世界で子どもまでこさえたヤツが何を言ってんだよ」

 

「全くですね。家、奥さん、子ども、犬という正に理想的な家族設計をしていたリーダーが言っても、説得力はありませんよ」

 

「焼き鳥食べたい。買ってきて、リーダー」

 

「テンはバカそうにみえて、実はすごいの。SAO時代はロトを交えて、三人でよくハジケたわ、鍋しながら」

 

「テンちゃん。ロクな友達いないね、相変わらず」

 

「ゴリラに惚れるような琴音には言われたくないかな」

 

全員がソファーに腰掛けるのを確認し、天哉は久しぶりに揃う仲間たちの姿を眺める。後の四人は不在ではあるが、この場には昔から知るメンバーが勢揃いしていた

 

「んじゃあ、話してやるよ。俺がおめぇさん達から記憶を消した理由は、茅場に頼んだからだ」

 

『茅場に?』

 

「ああ。あの世界が仮想世界だからって、俺が人を殺したことは紛れもない真実だ。この汚れた手は、きっとまた誰かを傷付けちまう…。あの討伐作戦の時に生き残った二人の女プレイヤーを覚えてるか?」

 

「女プレイヤー……確か、グウェンにルクスだったか?その二人がどうしたんだ?」

 

「76層に向かう二日前、俺はあの二人に会った。最初は俺を警戒して、話も聞いてくれんかった……当然だよな、あの二人からすりゃあ、俺は殺戮者だ。自分も殺される、そう思ったんだろうな。でもなぁ………暫くして、ルクスが言ったんよ」

 

『私たちは確かに……間違ったことをしたかもしれない…。それでも……私たちには、このやり方しかなかった……だから、だから……アナタにもしも……人を想う気持ちがあるのなら……その罪を忘れないで……ください……』

 

罪、そう呼ぶのは天哉が仮想世界で葬った数多の命。ルクスのその言葉は、道化師に誰かを想う心を、再確認させたのだ

 

「だから、あの崩壊する《アインクラッド》を見ながら、茅場に頼んだ。『罪を背負うのは、俺だけでいい。もしも、アンタに罪を償う気があるなら、この世界で俺に関わった全ての人の記憶から、俺の存在を消してほしい』ってな。なのに……おめぇさん達ときたら、思い出すだもんなぁ……」

 

「当たり前じゃない。だって、私はテンの恋人よ」

 

「俺は親友だからな」

 

「俺は弟分」

 

「右に同じく」

 

「俺は--」

 

『ペットのゴリラ』

 

「誰がだっ!!!人間だっ!!!」

 

『えっ……』

 

「真顔で驚いてんじゃねぇっ!!」

 

真顔で驚愕する天哉達に純平の突っ込みが飛ぶ。その光景を眺め、琴音はカップを口に運び、微笑する

 

「良かったね、テンちゃん。居場所が見つかって、今のテンちゃんはあの頃よりも、ずっと楽しそうだよ」

 

「ねぇ、琴音さん」

 

「あっ、はい。えっと……深澄さんだよね?どうかした?」

 

隣に座っていた深澄に呼び掛けられ、琴音は彼女に視線を向ける。すると、彼女は優しい笑みで、微笑んでいた

 

「琴音って呼んでもいい?私のことは深澄もしくはミトって呼んで」

 

「分かった。それで、どうしたの?ミト」

 

「小さい頃のテンって、どんな感じだった?私が知ってるのは、10歳くらいからのテンだから、私の知らないテンを教えてくれない?」

 

「そのくらい、お安い御用だよ。兎に角、昔からテンちゃんはピーナッツバターばっかり食べててね。いっつも和人と喧嘩してた、ピーナッツバターと辣油の何方が最高の調味料なのかを巡って」

 

「ふふっ、なにそれ…。今と全然変わってないじゃない」

 

「そうだね。ねぇ、ミトが知ってるテンちゃんはどんな人?」

 

「う〜ん……そうねぇ。やっぱり、ピーナッツバターばっかり食べてて、和人達と馬鹿騒ぎしてるかな」

 

「やっぱり……」

 

「でもね……」

 

呆れる琴音の横で、深澄は柔らかい笑みを浮かべ、和人達と騒ぐ天哉の方に視線を向ける

 

「テンには、人を惹きつける不思議な魅力があるの。その魅力に本人は気付いてないかもしれないけど、私も、和人も、それに純平達は知ってるわ。テンの手はいつだって、誰かに差し出されるの。何度、振り払っても、結局最後はみんなが、テンの色に染まっちゃうのよ。あの蒼天(ソウテン)にね」

 

「テンちゃんの色……なんだろ、わたしも染まってみたいな。ちょっと」

 

「染まれるわよ、琴音なら。だって、テンの妹なワケだし」

 

「ええっ……そう言われると、染まりたくないかも……」

 

露骨に嫌そうな顔する琴音、その表情に天哉の面影を重ねた深澄は僅かに吹き出す

刹那、和人の携帯が着信音を響かせた。徐に携帯に視線を落とす和人、其れを囲うように、天哉達も携帯に視線を向ける

 

From:Agil

タイトル:なし

本文:俺の店に来てくれ、ミト達と一緒に。あと昨日の夜に夕飯でピーナッツバターが出たから、思い出したんだが、あの仮面道化師(バカテン)もいるなら絶対に連れてきてくれ。一発、殴ってやりたい

添付ファイル:1件

 

「だとよ」

 

「よし、見んかったことにしよう」

 

「いやいや見なさいよ」

 

「おや?何やら、添付ファイルがありますね。カズさん、少し携帯を貸してくれますか?そのファイルをパソコンに転送して、見やすくしてみますので」

 

エギルからのメールを見なかったことにしようとする天哉を他所に、菊丸が和人から携帯を預かり、パソコンへと添付ファイルを転送する

 

『なっ……!こ、これは…!!!』

 

開かれた添付ファイルの中身に、深澄達は驚愕する。しかし、天哉だけは疑問符を浮かべている

 

「フラミンゴのいる鳥籠……?」

 

『アスナだろっ!!!どう見てもっ!バカリーダー!!!』

 

突拍子もない発言を繰り出す天哉の顔面に物理的な突っ込みが放たれた

 

「これって……ALOの世界樹?でも、こんな鳥籠あったかなぁ?」

 

一方で、琴音は人知れず意味深な事を呟きながら、首を傾げていた




エギルの店を訪れた天哉達、其処で聞かされたのはアスナの居場所…新たなゲームを前に彼等はどうする?

NEXTヒント 道化の音楽妖精と回復しない水妖精


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四奥義 ハピラキっ!妖精の国へ来ちゃった☆

今回は長いです、ギャグ話にしたらネタが溢れちゃいまして……


2025年1月20日 東京都上野《DiceyCafe》

 

 

「なるほど…ここが、エギルの店か。よし……帰るか」

 

『さっさと入れっ!!!バカリーダー!!』

 

「ぐもっ!?」

 

目的地であるエギルの店に辿り着き、扉を前に帰宅宣言をする天哉の頭を深澄達が蹴り付ける。その衝撃で、黒い木造の扉に激突し、上に付いたベルが音を立てる

 

「相変わらず賑やかな登場だな。少しくらいは、静かに出来ないのか?お前らは。特にテン」

 

「よぉ、エギル。相変わらずの不景気だな、取り敢えずはパスタをもらおうか」

 

「では、僕はカレーをいただけますか?あっ、辛さはお任せします」

 

「俺は焼き鳥」

 

「バナナスムージーくれ」

 

「マスター、俺からは奴らの頭にフォークを」

 

「悪いな、昼ならまだしも夕方のバータイムに軽食はやってないんだ。あとテン、お前は人の頭にフォークを差し入れようとするな」

 

『やっぱり、不景気な店だ』

 

「なぁ……ミト。コイツら、殴ってもいいか?」

 

「いいわよ」

 

『深澄さんっ!?』

 

深澄の思わぬ裏切りで、エギルの制裁を喰らう天哉たち(バカたち)。久方ぶりの光景に、深澄はエギルが用意したコーヒーを口に運び、微笑する

 

「んで?エギル。あのメールはどういうことなんよ」

 

「ああ。あれはどう見ても、アスナだった」

 

「そうよ、アレはなんなの?何かのゲームに見えたけど…」

 

「察しがいいな、流石はミトだ。そうだな……口で説明するよりも、実物を見せた方が早いか。コイツを見てくれ」

 

エギルはそう言うと、カウンターの下から何かを取り出し、天哉達の目の前に置いた

 

「これって……ゲーム?」

 

「俺が好きなフラメンコゲームの新作か?」

 

「そんな訳ないだろ?きっとパスタを只管に作るゲームだ」

 

「いや、きっと俺が好きなバナナ育成ゲームじゃねぇかな」

 

「いえいえ、僕のお気に入りであるカレー探偵団の事件簿を題材にした推理ゲームの新作でしょう。恐らくは」

 

「四人とも違う……これはきっと、焼き鳥屋の半生を描いたドキュンメンタリーゲーム」

 

「そんな変なゲームないわよっ!!!」

 

『ぐもっ!?』

 

「こほん……」

 

ありそうではあるが確実にあるワケがないゲームを口にする天哉達の頭上に、深澄のハリセンが叩き込まれる。物理的に天哉たち(バカたち)を黙らせた後、彼女は軽く咳払いし、エギルに向き直る

 

「で、結局はどういうゲームなの?」

 

「《アミュスフィア》っていうナーヴギアの後継機対応のMMOだ」

 

「アミスフィア……というと新しいカスタネットのブランドか」

 

「いやきっと新しいパスタマシンに違いない」

 

「何を言ってやがんだ、新作のバナナスイーツだ」

 

「全く…此れだから、バカは困りますね。アミスフィアというのは新たなる香辛料ですよ」

 

「菊丸も違うよ。アミスフィアは鶏のぼんじり近くにある部位だよ」

 

「どれも違う、バカども。ナーヴギアの後継機だと説明したろ」

 

エギルの発言に目と口を開き、明らかにそうと言わんばかりの驚愕を天哉達は見せる

 

「何を驚いてるのよっ!?」

 

「いやまさか、ナーヴギアの後継機だとは思わんくて……」

 

「俺はてっきりパスタマシンだとばかり……」

 

「ミト……話を進めても?」

 

「ええ、無視してくれていいわ」

 

『遂に見限られたっ!!!』

 

的外れな発言ばかりの天哉達を無視し、深澄はエギルに話を続けるように促す。背後で、天哉たち(バカたち)は完全に蚊帳の外である

 

「それで…これが、その《アミスフィア》に対応しているゲームパッケージなのね」

 

「あるふ……へいむ……おんらいん?」

 

「正しくはALfheim(アルヴヘイム)、意味はまぁ…妖精の国とかの類いだな」

 

「流石はリーダーです。スペイン語を口癖にしているだけあって、発音が綺麗ですね」

 

「それに比べるとカズさんは……」

 

「オメェ、英語塾とか行った方がいいんじゃねぇか?」

 

「和人…アンタ、ホントに中学に通ってたの?」

 

「発音だけで、なんで、流れるような罵倒されてんだっ!?」

 

発音一つで、流れる罵倒が和人に飛び交う。一方の天哉はパッケージを片手に裏面を興味深そうに見詰める

 

「なんか、ほのぼのとしたタイトルだねぇ?こりゃ」

 

「タイトルだけならな。しかし、このゲームは意外にも、どぎつい内容だ。どスキル制、プレイヤースキル重視、PK推奨らしい」

 

「どスキル制……つまりは《レベル》の類いが存在しないと言う訳ですか?エギルさん」

 

「流石にヴェルデは博識だな、その通りだ。このゲームは、各種スキルが反復で上昇するだけで、HPもたいして上がらない。戦闘もプレイヤーの運動能力依存で、ソードスキルなし、魔法ありのSAOってところだ」

 

「運動能力依存……つまりは俺の身体能力とこの肉体美が、輝くって事かっ!!!」

 

「PK推奨……これはどういう意味?」

 

上半身裸で腕立て伏せを始める純平を放置し、彩葉が気になった単語の意味をエギルに問う

 

「プレイヤーはキャラメイクでいろんな種族を選ぶわけだ。違う種族ならPKできるんだとさ」

 

「ハードだな。そんなマニア向け仕様じゃ、人気で無いだろう」

 

「それがそうでもない。今、大人気だそうだ。理由は《飛べる》からだそうだ」

 

『飛べる……?』

 

((絶対……違うこと、考えてるな…コイツら))

 

《飛べる》、という言葉から何かを連想する天哉達の姿に深澄とエギルは呆れた眼差しを向ける

 

「妖精だから、翅がある。フライト・エンジンとやらが搭載されていて、慣れると自由に飛びまわれる」

 

「すげぇな!そのフライド・チキンってヤツ!」

 

「フライから先が全然違うよ。純平さん」

 

「仕方ねぇさ。何せ、ゴリラだからねぇ」

 

「現実だろうが仮想だろうが、頭の中は筋肉の塊ですね」

 

「エギル、其れは難しいのか?翅の制御とか」

 

「さあな。だが、相当難しいらしい。初心者はスティック型のコントローラーで操るんだとさ……って、キリトとミトの目がキラキラしてるっ!?」

 

未知の体験に、ゲーマーとしての血が騒ぐ和人と深澄。二人は既にこのゲームの虜になっていた

 

「そんでよぉ、このゲームとアスナに何の関係があるんだ?」

 

「そうそう。あの写真は何なんだ?アスナに似てたけど」

 

「そうだな……これを見て、どう思う?」

 

純平と天哉の問いに答えながら、エギルはカウンターの下から一枚の写真を取り出し、全員に見えるように置く

 

「アスナ……アスナだわっ!これっ!」

 

「ああ、似ているなんてレベルじゃない!此れはアスナだ!」

 

「はいはい、そこのアスナ大好きコンビはちょいと落ち着こうな。そいで?エギル、此処は何処なんよ。まさかだが……ゲームの中なんて言わんよなぁ?」

 

仮面こそ有りはしないが、その代名詞とも言える不敵な笑みで、問いを投げ掛ける天哉に対し、エギルも微笑で返す

 

道化師(クラウン)は健在か……。察しの通りだ、テン。此れは、今しがた見せたアルヴヘイム・オンラインの中だ」

 

「やっぱりか」

 

「世界樹、と言うんだとさ。10つの種族に分かれたプレイヤーは世界樹の上にある城に、他の種族に先駆けて到着する事を競ってるんだ」

 

「10個もあるの?」

 

「ああ、最近までは九つだったんだがな。この前の最新アップデートで、一つ増えたらしい」

 

「僕も質問します。先程、世界樹の上を目指し、競走していると言いましたが……飛ぶことは不可能なのですか?」

 

「滞空時間があって、無限には飛べないらしい。でだ、体格順に5人のプレイヤーが肩車をして多段ロケット方式で樹の枝を目指した」

 

「ほーん、考えたな。作戦にしちゃあ、頭悪ぃけどな」

 

「そう言ってやるな、グリス。まぁ、ぎりぎりで到着できなかったそうだがな。でも、到達高度の証拠に5人目が何枚か写真を撮った。その1枚に巨大な鳥籠が写ってた」

 

『鳥籠……』

 

パッケージを見ながら、様々な思考を巡らせる天哉達。すると、和人の顔が険しくなり、パッケージを睨み付けはじめた

 

「ミト、みんな!これを見ろっ!」

 

和人の声に、パッケージを見た深澄達の目に、《レクト・プログレス》の名が飛び込んできた。その名を彼等は知っていた、天哉は首を何度か傾げているが、深澄達はこの関係者に遭遇していたのだ

 

「アスナに会うために……力を貸してほしい。またあの世界での戦いに、お前たちを巻き込む事になるのは、理解してる……其れでも!俺は、アスナを助けたいっ!此れが本当にアスナなのかを、確かめたいんだっ!だから……だから、力を貸してくれないか?」

 

和人の心からの叫び、その姿に暫くの沈黙が流れる。しかし、彼は違った。彼だけは、あの不敵な笑みを浮かべ、何時もと変わらない道化師のような彼は、

 

「アスナはおめぇさんの恋人、つまりは俺たちの仲間で家族の一員……大切な人を助ける旅なら、俺たちは協力を惜しまねぇ。だから……Vamos(行こうぜ)兄弟(カズ)!」

 

あの時と、一人きりの世界から、連れ出してくれた日のように。その手を、差し出していた

 

「お前なら、お前だったら、そう言ってくれると思ってたよ。なぁ?テン。お前はこのゲーム、どう思う?」

 

「どう思うって…そりゃあね?」

 

「だよな」

 

天哉と和人の瞳が交差し、道化師の笑みと剣士の微笑が深澄達の視界に焼き付く

 

「「死んでもいいゲームなんて、(ぬる)過ぎるぜ」」

 

「やっぱり、こうなったか。ほらよ…お前たちの分だ」

 

「エギル。まさかだけど全員分を用意してくれたの?」

 

「ああ、お前たちが全員で来るのは分かってたからな。本当なら、他にもコイツを渡したい奴等はいるが……アイツらの住所は分からないからな」

 

深澄達にソフトを渡しながら、この場に居ない他の面子の事を思い浮かべるエギル。すると、ソフトを手に考え込んでいた天哉がその姿に気付く

 

「アイツら……あっ、エギルにちょいと頼みたいことあんだけど」

 

「どうした?」

 

「あのさ………」

 

「なにっ!?そうか……分かった。お前の言う通りにしてみるよ」

 

Gracias(ありがとう)、流石はエギルだ」

 

アミスフィアはナーヴギアの後継機であり、更にセキュリティ強化版であるが故に、そのソフトもナーヴギアで、動くと知り、天哉達はエギルの店を後にしようと、扉に手をかける

 

「助け出せよ、アスナを。でないと、俺たちの戦いは終わらない」

 

「ああ、いつかここでオフをやろう。その時はメイリンさんも呼んで、俺たちの大好物を出してもらうけどな」

 

「ははっ……またあの頃みたいなカオスな食卓になるな、そりゃ」

 

「んじゃまあ……幕を開けるとしますかね。派手に行くぜっ!!野郎どもっ!」

 

『了解!リーダー!!』

 

決め台詞を号令に、天哉達は帰路に着く。自宅に戻る深澄達を送り届け、寝床であるゲームセンターに戻った天哉は、自身の部屋である休憩所の簡易ベッドの前に立つ

 

「まさかまた……コイツを被るとはなぁ。まあ、仲間の為だ。久しぶりに……幕を上げようか」

 

ソフトを取り出し、ナーヴギアの電源を入れ、ROMカードをスロットに挿入し、ゆっくりと意識を闇に落としていく

 

「リンク・スタート!」

 

暗闇の世界に飛び、そして、虹色のリングを潜り抜けるとアカウント情報登録ステージについた

 

『アルヴヘイム・オンラインへようこそ。最初に、性別と名前を入力してください』

 

柔らかい女性の声に案内され、性別を選択し、名前の入力画面に移り変わる

僅かに躊躇うが、彼は、その名前を、慣れ親しんだあの名を、道化師と呼ばれた蒼き槍使いの名を、《Souten》の名を打ち込む

 

『それでは、種族を決めましょう』

 

「種族……うわっ、この影妖精(スプリガン)とか絶対にカズが選びそうじゃねぇか。其れに……この風妖精(シルフ)は菊丸のヤツが選ぶな、緑だし。んで?こっちは火妖精(サラマンダー)か、彩葉の好きそうな種族だな、色合い的に。で……なんだこれ?猿妖精(エイプ)……えっ?妖精なのに猿?うわぁ…これ選ぶヤツいんのかよ…。俺はまぁ、無難に道化師だしな、この音妖精(プーカ)にしとくか」

 

道化師を名乗るが故に、音妖精(プーカ)を選択し、アナウンスが聞こえるのを待つ間、別の種族に眼がいく

 

闇妖精(インプ)猫妖精(ケットシー)水妖精(ウンディーネ)か。あの紫色のはミトが好きそうだな」

 

『それでは、音妖精(プーカ)のホームタウンへ転送します。幸運をお祈りします』

 

その言葉を最後に再び光の渦に巻き込まれ、浮遊感をソウテンを襲う。開けた視界には、コテージやテントが並ぶ平原が飛び込んで来た

 

「うんうん、こりゃあ絶景だ」

 

頭を下に落下しながら、徐々に平原へとソウテンは近づいていく。刹那、異変は起こった

 

急にフリーズし、周囲の景色が欠けていく

 

「んなバカなァァァァァ!!!」

 

悲鳴と共に、道化師は夜の森の中へと落下していった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 水妖精(ウンディーネ)領三日月湾上空

 

眼前に広がる新しい世界を前に心を躍らせるのは、水色のポニーテールが特徴的な一人の少女。彼女の名は、《Mito》。ソウテンの恋人であり道化師一味の鎌使いである

 

「これがアルヴヘイム……やっぱり、闇妖精(インプ)の方が良かったかなぁ。きっとテンなら青を選ぶと思って、水妖精(ウンディーネ)にしたけど……この種族って、回復支援系だったりしそうよね……」

 

今更ながら、選んだ種族に後悔するが後戻りは出来ない。迫る三日月湾を前に、ミトは決意を固め、この世界での目標を何度も呟く

 

「アスナを助ける、アスナを助ける、アスナを助ける。待ってて!アスナ!直ぐに行くわっ!」

 

刹那、異変は起こった

 

急にフリーズし、周囲の景色が欠けていく

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

悲鳴と共に、鎌使いの少女は夜の森の中へと落下していった

 

 

 

今宵、妖精の国にて上がりますは新たなる世界を往く道化師一味の物語。願わくば、最後まで御付き合い頂けますよう、御願い申し上げます




森の中に落下したソウテンは、自分と同じように落下したミトと出会う。更に、この世界で運命的な再会を果たすこととなる

NEXTヒント 何時かの約束


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五奥義 聞きました?奥さん、道化師が復活するみたいですわよ

今回は長いか?いえ、昨日が特殊だっただけで、今回はいつも通りです


2025年1月20日風妖精(シルフ)領 首都スイルベーン付近森林

 

 

「………何処だ、ここ」

 

森の中に落下したソウテン、彼は例によって、迷子になっていた。方向音痴の塊である彼に、土地勘等が有る訳もなく、更に言えば、この世界はSAOではなく、全く別のVRMMOなのだ。その状況で、迷子になるなと言うのは、無理難題である

 

音妖精(プーカ)のホームタウン……ではねぇよなぁ。明らかに、さっきまで見てた景色とは違うし……あっ、そうだ。アレを確かめとかねぇと…」

 

左手を振り、メニューウィンドウを呼び出す。かつて、SAOをデスゲームと言わしめた其れには、無かったシステムの存在を確かめる為に、一番下の方に指を動かす

 

「………まあ、あるよな。普通は………んむ?」

 

《Log Out》の存在を確認し、安堵する様に軽く息を吐き、中のアイテム欄を確認しようとメニュー操作を再会させようとした時だ、違和感に気付いた

プレイヤーネーム、種族名、HPとMPなどが表示されている下に、《無限槍》などのユニークスキルを除いた複数のスキルが表示されているのを見つけ、更に《ビーストテイマー》というスキルが視界に入る

 

「まさか……」

 

「プーン、ププーン」

 

「どわっ!プルーっ!?おめぇさんが何で、ALOにっ!?」

 

突如、聞こえた聞き覚えのある鳴き声に、足元に視線を向けると小刻みに震える白い小動物が目に入った。其れは、SAO時代に僅かではあるがソウテンのペットであったプルーである

 

「ププーン」

 

「ん?どうしたんよ、上なんか見て……んむ?」

 

真上を見上げるプルーに釣られ、森の上空を見上げるソウテン。その視界に飛び込んで来たのは、自分目掛け、落下する人影

 

「きゃぁぁぁぁぁ!!!退いてぇぇぇぇ!!!」

 

「ぐもっ!?」

 

人影の正体である水色のポニーテールが特徴的な少女は、ソウテンの頭上に落下し、盛大に頭を打つけた

 

「いたたっ……全く、人が落下してるのに真下にいるなんて、非常識にも程があるんじゃない?」

 

「人の上に落ちといて、何で自分は悪くないみたいな顔してんの?新手の詐欺ですか?このヤロー」

 

「残念だったわね、私はサギよりも白鳥の方が好きよ」

 

「鳥の話なんかしてねぇんだけどっ!?」

 

「其れにしても……ここはどこかしら?水妖精(ウンディーネ)のホームタウンでは無さそうだけど」

 

「どんだけマイペースなんよっ!?おめぇさん!」

 

ソウテンを無視し、自分の事しか目に入らない少女に突っ込みが飛ぶ。その時だ、少女の動きが止まり、振り返ると同時にソウテンを視界に映す

 

「………ちょっと待って?今、なんよ…とか、おめぇさんって言った?」

 

「言ったけど?こればっかりは口癖みてぇなもんだからなぁ……どうやっても、治らねぇんよ」

 

「…………あの……もしかして、スペイン語とかを喋れたりする?」

 

「ああ、話せるよ。Soy un hada cuyo sustento es un payaso.意味は、私は道化師を生業とする妖精で御座います。以後お見知り置きをって言う感じかな。あっ、道化師ってのは、俺の役割ね」

 

「…………テンよね?」

 

「あれ?何で、俺の名前知ってんの?まさかだけど、うちの妹の友達?」

 

「…………ミトよ」

 

少女基ミトが、名を告げたと同時に辺りを夜風が吹き抜ける。目の前に立つ少女はソウテンが知るミトとは、髪色が違う。しかしながら、特徴的なポニーテールは健在である

 

「………ミトのそっくりさん?」

 

「本人よ」

 

「そうか、ミトも双子だったんか。で?おめぇさんは妹さん?それともお姉さん?」

 

「私に姉妹はいないし、ましてや双子でもないわ。私が正真正銘、ミトよ」

 

「なら、ドッペルゲンガーか。ほら、世界には似てる人が七、八人はいるらしいし」

 

「多いわっ!!!」

 

「ぐもっ!?」

 

頭上に振り下ろされたのは、一振りの鎌。御約束である“其れ”はミトの伝家の宝刀であり彼女を名ツッコミと言わしめた最強の武器である

 

「殴るわよっ!!!」

 

「いやもう殴られてんだけどっ!?」

 

「プーン」

 

「プルー…?えっ、なんでプルーが?ちょっと、テン!どういうことなのっ!?」

 

「うんまぁ、落ち着きな。おめぇさんがミトなんは分かったから。取り敢えず、自分のステータス見てみ」

 

「ステータス……はい?ちょっと待って…なによ、これ…」

 

ソウテンの指示通りに、ステータス画面を呼び出したミトは、目を疑った。自分の名前の下に表示されたスキル、其れはSAOで習得していたスキルだったのだ

 

「そうだ!アイテムはっ!?」

 

「ああ、こっちは全滅だった。職人に作ってもらった槍はキリトにやっちまったから、その後は解らんが、ユニークスキルで使ってた大量の槍は破損して、文字化けしてた」

 

「そう……あっ!これ!!ほら見て!」

 

「おろ?」

 

アイテム欄を確認していたミトが何かを見つけたらしく、ソウテンに呼び掛ける。其処に表示されていたのは、二つのアイテム名

 

「《Prototype-MHCP000》に《道化師の仮面》………良かった、あった」

 

「ちょいと失礼…」

 

ミトが《Prototype-MHCP000》をタップすると、指輪が出現する。其れを、ソウテンが脇から、ひょいと取り上げ、二回叩く

 

「な、なにっ!?」

 

Profético(予想的中)!」

 

刹那、弾けるような青紫の光が迸った。数秒後、光の中に一つの影が姿を現れ、次第に一人の少年の姿を形成していく

黒髪癖毛に白いTシャツにハーフパンツを着用した少年、会えないと思っていた“彼”との再会に、ミトの眼から涙が流れる

 

「ロト……貴方なのね?」

 

「おろ?………かーさん?」

 

Buenos días, mi hijo que está durmiendo(おはようさん、寝坊助な我が息子よ)

 

「おやまあ、とーさんも。久しぶりだねぇ」

 

そのマイペースな雰囲気は相変わらずのまま、ロトは自分の帰りを迎えてくれた二人の姿に、変わらない不敵な笑顔を見せる

 

「プーン」

 

「おろ?虫がいる」

 

足元で、小刻みに震える見覚えのない生物を前に珍妙な解答を、ロトが捻り出す

 

「虫じゃねぇよ、魚だ。ちなみに名前はしゃぶ太郎」

 

「しゃぶ太郎っ!?良い名前だね、そりゃあ」

 

「そうだろう、そうだろう。流石は俺の息子だ」

 

「バカなこと言わないの。その子はプルーよ、見てわかる通りの犬よ」

 

「犬なのっ!?これっ!!」

 

ミトからの指摘に、プルーが犬だと知り、驚愕するロト。そして、現在の状況と彼が消えてからの事を説明していく

 

「なるほど……《アインクラッド》の崩壊に、僕以外のメンタルヘルスケアプログラムの存在……信じ難い話だけど、現に僕が二人に会えてる現状を見るに真実みたいだね。其れで?此処はどこなの?」

 

「ここは無敵要塞ザイガス付近の森林地帯だ」

 

「無敵要塞ザイガスっ!?」

 

「テン、少し黙って。ホントに」

 

「あい……」

 

「ロト。ここはね」

 

ALO、意識が戻らない300人近いプレイヤー、アスナの現状などを踏まえた説明をすると、ロトはその情報を整理するように、静かに目を閉じる

 

Eso es todo(なるほど)、このALOはSAOのサーバーをコピーした物みたいだね。其れに気付いてる?僕の姿。これは、SAOの時のとーさんを模倣した姿なんよ、其れが再現されてるってことは、この世界が二人が仲間たちと生き抜いた浮遊城を模倣した世界だって証拠だよ。其れに、セーブデータのフォーマットもほぼ同じみたいだね、共通するスキルの熟練度が引き継がれたのも、其れが原因だと思うよ。あっ、でも、HPとMPは形式が違うから引き継がれなかったみたいだね。所持アイテムに関しては……うん、ALOとは別物だから、破損しちゃってるね。直ぐに破棄した方がいいかな」

 

「ロト……俺の顔で難しい話するの、やめてくんねぇかな…」

 

「仕方ないでしょ、僕はこれがデフォルトなんだから。あれ?かーさんが手に持ってるアイテム……其れは破損しなかったの?」

 

ソウテンの言葉に、嫌味混じりに答えつつロトがミトに視線を向け、その手に収まった見覚えのある仮面に気付く

 

「そうみたい。なんだかね、私にはこう思えるの。この世界が道化師(クラウン)を、彩りを求めてるんじゃないかって。だからかな?この仮面が、あの世界で、彩りの象徴だった此れが、破損しなかったのは……なんて、考えすぎかな?」

 

「そんな事ないんじゃない?僕は当たってると思うよ、その仮説。ねっ?とーさん」

 

「ああ……彩りを求めてるんなら、彩ってやるのが、俺……いや」

 

不敵に笑い、ミトの手から、仮面を受け取ると、其れを顔に冠り、風に蒼き衣を他靡かせ、彼は口を開く

 

道化師(クラウン)の役目だ」

 




復活した道化師と、その息子であるロト。しかしながら世界が違えば、役割も違う訳で……

NEXTヒント カレー時前

次回はあのカレー眼鏡が遂に……!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六奥義 カレー賢者の人助けと刺さったゴリラ

ヴェルデのメイン回!あれ?何気に初めてじゃね?


2025年1月20日風妖精(シルフ)領 首都スイルベーン付近森林

 

 

「そういや、ロトはこの世界ではどういう扱いになってんだ?」

 

「おろ?僕の役割とな?ん〜と……ちょいと待ってね」

 

ソウテンの唐突な問いに、ロトは再び眼を閉じるとALOでの自らの役割に関する検索を始める。元々、彼は凍結されていたメンタルヘルスケアプログラムのプロトタイプ、通称《Prototype-MHCP000》にソウテンの内に秘められていた闇と呼ぶべき《黒い衝動》が、融合するかの様に意識を同調させ、形を成した存在である。故に、当時は自分を否定したソウテンと刃を交えたこともあるが、其れは今となっては昔の話だ

 

「えっと…この世界だと、僕みたいな《AI》はプレイヤーサポート用の疑似人格プログラム、《ナビゲーション・ピクシー》ってヤツに分類されるみたいだねぇ」

 

刹那、ロトの体が発光し、その姿を変化させていく。やがて、光の中から、体長10㎝ぐらいの体に、背中から半透明の翅を二枚生やした青紫色の衣服を纏い、姿を見せる

 

「どう?カッコいいでしょー」

 

「カッコいいというよりも可愛いの方が、今のロトには的確ね」

 

「えぇ〜……とーさんにはどう見える?」

 

ミトからの指摘に、不服そうに頬を膨らませた後、ソウテンへ問いかける

 

「良いと思うぞ?ちっさくて、潰しちまいそうな気もするけど」

 

「なにそれっ!殺人予告っ!?」

 

「はいはい、一家団欒はここまでにしましょう。私たちが目指すべきは世界樹!テン、ロト!準備はいいわね?行くわよっ!!」

 

目的地を示し、意志を高らかに宣言するミト。その背後で、呆れにも似た溜め息をソウテンも、ロトも吐くが、直ぐに彼女の意志を察し、深々と御辞儀する

 

「「Déjamelo a mí(お任せを)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻 風妖精(シルフ)領 首都スイルベーン付近森林南側

 

 

「ふむふむ……なるほど。これは迷いましたね、完全に」

 

森の中を彷徨う一つの影、整えられた金色の髪に緑色の瞳が特徴的な彼は、自らが選んだ筈の種族である風妖精(シルフ)領の首都には転送されず、その周辺の森に落下していた

辺りを見回すも、土地勘がない彼にとっては、行けども行けども、広がるのは見知らぬ景色ばかりだ

 

「アイテムの文字化けに含め、スキルの異常さ……どうやら、この状況は初心者にしては明らかにチートのようですね。ふむ……此れは、久しぶりに心が躍りますね」

 

彼、ヴェルデは仮想世界で剣を振るっていた頃を懐かしみながら、微笑する。世界が違えば、当然ながら仕様も違う訳だが、彼の役割に変わりはない

 

「さてさて、我が家族もこの世界に来ている頃でしょう。此処は、直ぐにでも合流し……ん?」

 

ALOに居る筈の仲間たちを探そうと一歩を踏み出そうとした時だ。近場から、妙な違和感を感じ取る

近場と言っても、反対方向であるが索敵スキルが高いヴェルデにとっては、気にする事ではない。AGI(アジリティ)最大で、木々を掻き分け、その場所へ近付くと、何やら会話が耳に入ってきた

 

「はぁはぁ…」

 

「悪いがこっちも任務だからな。 金とアイテムを置いていけば、見逃す」

 

「なんだよ、殺そうぜ!! オンナ相手超ひさびさじゃん」

 

《殺す》、その言葉が聞こえた瞬間だった。ヴェルデの最大限まで高まっていたAGI(アジリティ)は限界を超え、勢いよく、木々の中から飛び出した

 

「な、なんだ!?」

 

「えっ……風妖精(シルフ)!?でも……見たことない……えっと…誰?」

 

「はんっ、仲間か?まあどっちでもいい、見たところ、初心者(ニュービー)らしいな、お前。粋がるなよっ!!」

 

ヴェルデの突然の登場に首を傾げる金髪ポニーテール少女とは違い、火妖精(サラマンダー)達は戦闘体制を取っている

 

「はぁ…これも定めか、性分か。弾けた兄貴分を二人も持ってしまうと、その影響を受けてしまうのは……弟分の哀しき(さが)。時に、其方のお嬢さん」

 

「お嬢さん?あっ、もしかして……あたし?」

 

「ええ、そうです。先程、貴女は僕に誰かと問い掛けましたね?」

 

「う、うん…言ったけど…」

 

「よろしい、これで僕と貴女には縁が出来ました。喜びなさい、この出会いは間違いなく良縁です!故に、今この時をもって、僕は貴女の味方となりましょう!」

 

その言葉と共に一陣の風が吹き、ヴェルデの髪を揺らす。鼻まで、ずり落ちた眼鏡を上げる仕草をした後、アイテム欄から一冊の本を取り出す

 

「本?はっはっはっはっ、まさか其れが武器か?」

 

「ええ、本来は剣の方が得意なんですが……此処はファンタジー溢れる魔法世界です。故に、僕は剣士をサポートする賢者となるべきかと……あの人が道化師を演じ、剣士と共に肩を並べるというのなら、その背中を守護するが、我が役目。僕の名はヴェルデ、世界を彩りし道化師の仲間です」

 

「長々と説明をご苦労さまだな。だが、ツミだぜっ!!!」

 

「何を笑っているんだっ!」

 

「生意気だぞっ!!初心者(ニュービー)の癖にっ!!!」

 

役割を説明する間に、四方を重装備の五人組に包囲されたにも関わらず、ヴェルデは微妙を浮かべていた。その笑みは、彼等を小馬鹿にしている訳ではない、この状況を楽しんでいるが故の笑みである

 

「ノーコンティニューでクリアして、差し上げましょう」

 

その高らかな叫びと共に、彼の手にしていた本が光を放ち、周囲に光の剣を出現させた。ヴェルデが手を振ると、火妖精(サラマンダー)目掛け、投擲された光の剣は次々と、彼等の額を撃ち抜く

 

「ぐあああああ!?」

 

「汚い花火ですね」

 

「うわぁ……優しそうに見えて、鬼だ……って、何してんのっ!?」

 

消えゆく火妖精(サラマンダー)を前に、悪態にも似た文句を放つヴェルデに少女は引き気味の表情で呟く。しかしながら、其れも束の間だった、小さな炎に姿を変えた火妖精(サラマンダー)の上で、鍋を煮るヴェルデが其処には居た

 

「見てわかりませんか?」

 

「分からないわよ、というか分かりたくもないわ。何処の世界に、敵を倒した矢先に鍋を始めるバカがいるのよ」

 

「鍋ではありません、カレーです。ちなみに具材はその辺の野草なので味はヘルシー仕立てになっています」

 

「ロクなものが入ってない……!!!」

 

「うん、美味いな。ヒイロもそう思うだろ?」

 

「キリトさん。リーダーは?あとミトさん」

 

「質問に質問で返すんじゃない。ユイはどうだ?美味いか?」

 

「はい!パパ!ヴェルデさんはカレー屋さんなんですか?」

 

「いえ、賢者をしています」

 

「いやいやっ!!!その前に誰っ!?」

 

カレーを食べながら、自然に会話に参加していた黒髪の少年と、赤い髪の少年、小さな妖精の少女を前に金髪少女が突っ込みを放つ

 

「俺か?俺はキリトだ、見ての通りのパスタ好きな剣士だ」

 

「俺はヒイロ。焼き鳥を愛するブーメラン使いだよ」

 

「わたしはユイです。好きなものはママとクッキー、其れにパパ、あとは迷子と鍋女です」

 

「迷子に鍋女ってなにっ!?」

 

少女の役割が突っ込みに落ち着いた頃、キリト達の正体に気付いたヴェルデが口を開く

 

「やはり、キリトさんとヒイロくんでしたか。其れにユイさんも」

 

「久しぶりだな、ヴェルデ」

 

「久しぶりではありませんよ。二時間ほど前にも会いました」

 

「そうだったな」

 

「ヴェルデ。おはよう」

 

「今は夜ですよ、ヒイロくん」

 

「わたしは久しぶりです!」

 

「ええ、あの時は初対面以降の関わりはありませんでしたからね。改めまして、ヴェルデです。以後をお見知り置きを」

 

「ユイです、よろしくお願いします」

 

丁寧な自己紹介を返すユイの律儀さに、ヴェルデは感動したように涙を拭う

 

「それはそうと……誰ですか?貴女は」

 

「あたし?あたしはリーファよ、助けてくれてありがとう。ヴェルデくん」

 

「お安い御用だ、困った時は頼りにしてくれ」

 

「いや君に助けられた記憶はないんだけど?」

 

「変わりませんね、キリトさんのぼっちさは」

 

「パスタ馬鹿」

 

「パパの役立たず」

 

「アスナぁぁぁぁ!!!弟分達と娘が反抗期だぁぁぁぁ!!!」

 

真顔のユイに悪口を言われ、遠く離れた場所に居るであろうアスナに呼び掛けるかのように騒ぎ始めるキリト。その姿に取り残された三人はというと

 

「あの人……バカなの?」

 

「ええ、筋金入りの」

 

「リーダーに似たのね、きっと」

 

「パパはお友だちもおバカさんなんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻 風妖精(シルフ)領 首都スイルベーン付近森林東側

 

 

「まさか、わたしを狙う物好きな火妖精(サラマンダー)が居るとは思わなかったよ」

 

「お前、アレだろ?最近噂の影妖精(スプリガン)のトレジャーハンターってヤツ」

 

「ふぅん?わたしを知ってるんだ、さてはファンとかだったりする?サインあげるわよ」

 

少女、フィリアは不敵な笑みを浮かべながら問う。彼女はフィールドを駆け回り宝を手にする《トレジャーハンター》を生業にしており、プレイヤーと対面する事はフレンド以外で滅多に無い。しかしながら、今宵の彼女は“ある理由”から、気が緩んでいた。故に、風妖精(シルフ)狩りに興じていた火妖精(サラマンダー)と遭遇し、今に至る

 

「光栄だな、其れは。だが俺の目的はお前の持つアイテムだけだ。あるんだろ?レアアイテムが」

 

「あるけど、あげない。わたしはトレジャーハンターよ。お金にならない取り引きはしないの」

 

「そうか……なら、狩ってから奪うまでだぜっ!!!」

 

「上等だよ……やってみなさいっ!!」

 

互いに得物を抜き、駆け出そうとした時だった

 

「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「なにっ!?」

 

「なんだっ!?」

 

響き渡る絶叫に動きを止め、上空を見上げる。すると、その声の主は、盛大な音を立て、更に土煙を上げた後、地面に突き刺さった

 

「「なんか刺さったーーーっ!!」」

 

「いででで……ちきしょぉ……フライトなんたらってのもアテになんねぇな。墜落しちまった………どわっ!なんだ、お前らっ!!」

 

「「コッチの台詞だっ!!!」」

 

起き上がり、フィリアと男性プレイヤーを見た灰色の髪が特徴的な少年が目を見開き、驚愕したように叫ぶ

 

「「って……ゴリラが喋ったぁぁぁぁ!!!」」

 

「誰がだっ!!どう見ても人間だろうがっ!!!」

 

この日、妖精の国に彼等は降り立った。世界を彩りし道化師一味、その名は、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》。今、世界が彼等により、彩られ始める




フィリアの前に現れた一人の少年、彼は一体…!そして助けたリーファに連れられて訪れた首都で、ヴェルデ達の前に謎の少年が姿を現す!

NEXTヒント 但し、君はダメです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七奥義 猿妖精とトレジャーハンター、ときどきおバカたち

今回はグリスメイン!人間がメインではない話は初め……あっ!グリスって人間だっ!!!


2025年1月20日風妖精(シルフ)領 首都スイルベーン付近森林

 

 

「んで?どういう状況だ、コイツは。見た感じ……お前が襲われてんのか?妖精女」

 

「妖精女って、まさかわたし!?だいたいキミも妖精じゃないっ!しかもよく見たら、最近のアップデートで導入された猿妖精(エイプ)だしっ!」

 

灰色の髪を夜風に靡かせ、少年が背後のフィリアに質問混じりに問い掛けると、彼女は矢継ぎ早のように突っ込みを入れ始める

 

「あん?猿妖精(エイプ)で何が悪ぃんだよ」

 

「だって、猿妖精(エイプ)って新種族の割に人気ないよ。影妖精(スプリガン)よりも」

 

「マジでっ!?」

 

「うん、パワー重視だから普通の人は選ばないんだよ。選ぶとしたら、キミみたいに体格の良い人くらいかな」

 

「ほーん」

 

フィリアの言葉に適当な相槌を返し、少年は首を数回ほど左右に捻る。彼の装備は初心者向けであるが、その佇まいに、謎の安心感を覚える

 

「コラァ!!!無視すんなっ!さもないと、コイツがどうなってもしらねぇぞ!」

 

「なっ!お前には人の心がねぇのかっ!!!卑怯だぞっ!!!」

 

「えっ、まさか人質っ!?」

 

火妖精(サラマンダー)の男性が人質を取る姿に、少年が驚いたように目を見開き、騒ぎ始める。其れに釣られ、フィリアは視線を動かす

 

「まさか……バナナを人質に取る非道な輩がいるなんてっ!」

 

「バナナかよっ!!!」

 

「ふっ、驚くのはこれだけじゃない、なんと……コイツは国産だ」

 

「なにっ!?」

 

「いや驚くべきポイントおかしくないっ!?」

 

目の前で繰り広げられる謎の状況に、フィリアは突っ込みながらも、不安そうな表情を浮かべる

 

「まあ先制ハジケはこのくらいにしておいてやろう。次はお前がハジケを見せてみろよ、ハジケリストなんだろ?」

 

「ハジケリストだったのか、道理で強い訳だぜ」

 

「ハジケリストっ!?」

 

「ふっ……なら見せてやる、俺のハジケをっ!」

 

少年はそう宣言すると、語り出す。自らが秘めたハジケを、そうあれは何時かのクリスマスのことだった

 

『バナナいかがっスか〜、あの有名なしめ鯖バナナ〜』

 

バナナ片手に、大阪の新世界を練り歩く一人の少年。彼がまだ六歳の頃の話だ

 

『おかしいな……クリスマスなのにバナナが売れない……うぅ…これじゃあ家に帰っても……』

 

悲しみに暮れ、その場にへたり込む少年。彼の脳裏に浮かぶのは

 

『寒かったろ?鍋があるから食いな』

 

『パスタもあるわよ。さぁ、手を洗ってきなさい』

 

仮面の男性と黒髪の女性の姿

 

『暖かく迎えられちゃう……!!!』

 

「いや普通じゃない!?それっ!!!」

 

これが後に大阪を恐怖に陥れたとされる、しめ鯖バナナ事件の前日譚である事は余り知られていない

 

「どうだ、俺のハジケっぷりは」

 

「くっ……見事なハジケだ…だが俺のハジケはこんなものでは----ぐわぁぁぁぁっ!!!」

 

「「なんだっ!?」」

 

火妖精(サラマンダー)の男性が更なるハジケを披露しようとした時、唐突な悲鳴に彼は小さな炎に姿を変えた。その展開に少年とフィリアは驚愕しながらも、叫んだ

 

「何だかんだと聞かれたら、」

 

「答えないのが普通だけど……」

 

「「特別に答えてあげちゃおうじゃねぇの!」」

 

「仮面に隠したその美学」

 

「仲間に誓うその目的」

 

「自由と愛の彩りを求める」

 

「ハードでビターな道化師」

 

「ソウテン!」

 

「ミト!」

 

「ロトだよ」

 

「プ〜ン」

 

「「《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》、颯爽登場っ!!!」」

 

「よろしくね〜」

 

「ププ〜ン」

 

突如、名乗りを上げた仮面少年率いる謎の一行。いきなりの現状にフィリアは驚きを隠せない

 

「なんか出たっ!!!」

 

「テンにミトじゃねぇか。あとロトにプルー」

 

「知り合いなのっ!?」

 

まさかの発言に少年の方を見ると、彼を見ながら仮面少年基ソウテン達が固まっていた

 

「「「えっ………喋るゴリラっ!?」」」

 

「誰がだっ!!俺はグリスだっ!!!」

 

「なんだ、グリスか。猿みたいだから、ゴリラかと思ったじゃねぇの」

 

「紛らわしいわね。恥を知りなさい、恥を」

 

「なんで逆ギレしてんだっ!?」

 

「バナナあげるから、落ち着きなよ。グリス」

 

「おう、すまねぇな。ロト…………って、ロトォォォォォォ!?」

 

「やっほー」

 

「何でいるんだっ!?」

 

「成り行き」

 

「成り行きっ!?おい、テンにミト!どうなってんだっ!!!」

 

少年基グリスはロトとの思わぬ再会の理由を問おうと、ソウテンとミトに呼び掛けながら、背後を振り向く

 

「うちのゴリラが御世話になりまして、良かったらこのピーナッツバターをどうぞ。嫁の手製なんよ」

 

「どうも、御紹介に預かりました嫁です。こちらの落花生も差し上げます」

 

「ピーナッツバターに落花生っ!?わぁ!好物なの!ありがとう!テンちゃんにあげたら、きっと喜ぶだろうなぁ…。あっ、でも……テンちゃんは、このALOはやってないから、あげれないかぁ…」

 

そう呟きながら、眉を顰めるフィリア。すると手の中にあるピーナッツバターを舐めるソウテンが彼女に視線を向けた

 

「おろ?なして、俺のあだ名を知ってるんよ?お嬢さん」

 

「えっ?これは、わたしの双子の兄さんの名前だよ?」

 

「「……………………」」

 

ソウテンとフィリアの間に、暫くの沈黙が訪れる。気まずい雰囲気が流れ、数時間にも感じられる数秒の沈黙を破ったのは、

 

「………琴音?」

 

ソウテンだった。まさかとは思いながらも、双子の妹の名を呼ぶ

 

「えっと………天哉…?」

 

すると、彼女もソウテンの本名を呼ぶ

 

「なーんだ、琴音だったんか」

 

「もぉ〜、それならそうと言ってよ〜。天哉ってばー」

 

「いやぁ悪ぃ、悪ぃ。あっ、呼ぶ時はテンで良いからな?ソウテンだし」

 

「分かった。わたしはフィリアって呼んでね」

 

「フィーって呼ぶわ、じゃあ」

 

「フィー……悪くないね!」

 

愛称を気に入ったのか、フィリアは嬉しそうに兄を彷彿とさせる不敵な笑みを見せる

 

「改めて、よろしくね。私はミトよ、リアルだと貴女の友人になるわ」

 

「あっ……なるほど!よろしくね!ミト!」

 

「僕はロトだよ。よろしく、おばちゃん」

 

「おばちゃん!?」

 

「うん、だってとーさんの妹さんなんでしょ?だったら、僕のおばちゃんだよね」

 

「とーさん……?」

 

「息子なんよ、ロトは」

 

「息子っ!?」

 

「どーも、息子です」

 

「へ……へぇ……わたしの事はフィリア、もしくはお姉ちゃんって呼んでね?おばちゃんは流石にキツい…」

 

「分かった。じゃあ、ねーさん」

 

「うん!それなら良しっ!で………残りかすの貴方は?やっぱり、ゴリラなの?」

 

「あぁん?てめぇ、テンの妹かなんかしらねぇがな。人を残りかす呼ばわりすんじゃねぇよ、いいか?俺はな、カスはカスでもカシスオレンジだ!」

 

残りかす呼ばわりされたグリスは、睨みを効かせ、フィリアに詰め寄る。意味不明な言い分にソウテンとミトは引き気味の表情を見せる

 

「ご……ごめんなさい……(ワイルドな人…ああ、でも駄目よ…わたしには純平さんが………でも、今度、落花生を贈ってあげたい…)」

 

「フィーっ!?許さんからなっ!こんなゴリラが交際相手なんてっ!」

 

グリスの野生的な一面に想い人の姿を重ね、頬を赤らめるフィリアの隣でソウテンが騒ぎ出す

 

「おう、ミト。スイカバーンって街はどっちだ?」

 

「こっちが聞きたいわよ。スイカバーンって何処よ、そんな街聞いたこともないわよ」

 

「スイルベーンの間違いだよ。かーさん」

 

しかし、その一方でミト達は冷静であったのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2025年1月20日風妖精(シルフ)領 首都スイルベーン

 

 

 

「そ、そんなバカなあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

《スイルベーン》の中央に位置する塔に激突したキリトは、地面に落下し、冷たい感触を味わっていた

 

「やれやれ。リーダーやグリスさんではないのですから、もう少し勉強したら如何です?キリトさん」

 

「それは無理じゃないかな、だってキリトさんはリーダーの親友なんだよ?」

 

「パパ!もう一回やりましょう!わたし、知ってます!あれがジェットコースターですよね!」

 

「やらんわっ!!!」

 

「ユイちゃん、アレはねジェットコースターじゃないのよ。貴方のパパがバカなだけなの」

 

「リーファさんっ!?」

 

出会って数十分のリーファにさえも、不憫な扱いを受けるキリトであったが、彼女がお詫びに回復魔法を掛け始めたので、満足そうに頷く

 

「おお、凄い、これが魔法か………」

 

「では、僕も」

 

「おっ、ヴェルデも回復魔法か?」

 

「いえ、カレーの精を呼び出す魔法ですね」

 

「なんだっ!?そのピンポイントで変な魔法はっ!!!」

 

本片手に変な魔法を試そうとするヴェルデにキリトは突っ込みが飛ばしながら、リーファ行きつけの酒場に向かっていた

 

「リーファちゃーん!」

 

刹那、誰かに呼びかけられ、リーファが振り返る

 

「ああ、レコン」

 

「無事だったんだ。流石はリーファちゃん!」

 

レコン、そう呼ばれた少年はリーファの友人のようだ

 

「そうでしょう、そうでしょう。君は感謝をしなくてはいけませんよ、この素晴らしい出会いに。さぁ、このカレーをお食べなさい」

 

「うん、ありが……って、誰ぇぇぇぇ!?うわぁ!影妖精(スプリガン)火妖精(サラマンダー)っ!?」

 

「いや、猫妖精(ケットシー)だよ?俺」

 

「嘘だ!髪が赤いじゃないか!」

 

「ああ、これ?森で頭に赤い木の実の粉をふりかけたら、こうなったんだよね。おしゃれでしょ?」

 

「紛らわしいっ……!!!」

 

「落ち着いて、レコン。この人たち、見た感じはバカだけど、スパイとかではないと思うわ。特にこのキリトくんは絶対にありえない、だってホントにバカだし」

 

「泣いていいかな……俺」

 

警戒態勢のレコンを咎める傍ら、キリトの心を抉るリーファの無自覚な刃。その側で、目尻にキリトは涙を浮かべていた

 

「よろしくお願いしますね、ダイコンくん。ヴェルデと申します」

 

「ヒイロ。よろしくね、レンコン」

 

「キリトだ。リーファと仲良くしてくれてありがとな、サーモン」

 

「キリトくん、君はあたしのなんなの?」

 

「あ、どうも………(誰一人として、名前をしっかり呼んでないっ!!!)」

 

「じゃあ、あたしたちは行くわね。おつかれ〜」

 

名前を間違えられ、ショックを受けるレコンにリーファが稼いだアイテムを譲渡し、その場を離れようとする

 

「待って、リーファちゃん。シグルドたちはいつもの酒場で席取ってるから、行くなら、其方に行かない?」

 

「あ〜………ごめん、無理。実はこのヴェルデくんに助けてもらったんだ、その御礼に今日は彼に奢るのよ。キリトくんとヒイロくんは勝手に着いてきたから、奢らないけど」

 

「「ケチっ!!!」」

 

「じゃあ僕も!」

 

「君は駄目です」

 

「なんでっ!?しかも即答っ!!!」

 

付いていこうとするレコンの言葉を遮るように、食い気味でヴェルデが拒否する。まさかの展開に取り残されたレコンは呆然と立ち尽くす

 

「よろしかったんで?姐さん」

 

「誰が、姐さんよ。誰が」

 

「あの人はお知り合いですか?それともストーカーの類いで?」

 

「いやストーカーではないかな。リアルでも知り合い……ではあるけど、それだけよ」

 

「なるほど、遊びの関係か」

 

「誤解を招く言い方しないでくれるっ!?」

 

きゃぁぁぁぁぁ!

 

リーファ行きつけの店に到着し、扉に手を掛けようとした時だった。甲高い悲鳴が響き渡る

 

『事件かっ!!!』

 

「…………」

 

「テン!ちょっと!起きなさいよ!」

 

「テンちゃん!死なないでっ!」

 

「起きやがれっ!バカテン!」

 

「とーさん!」

 

『人が死んでるっ!!!』

 

店内で水色のポニーテール少女を中心に、皿へ顔面を突っ込み動かない少年の周りで二組の少年少女が騒いでいた

 

「…………寝てた」

 

『紛らわしい真似すんなっ!!こんの迷子野郎っ!!!』

 

その少年、ソウテンの顔面にミト達の制裁が襲い掛かった

 

「賑やかな人たちね……ホントに」

 

「バカなだけだよ……って、リーファ?」

 

「あれ?フィリア?なにやってんの?」




世界樹を目指す道化師一行、その案内役はテンとキリトの妹たちだと…!?

NEXTヒント 妹も迷子です


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八奥義 迷子(キミ)は一人じゃない

最近思う、文字数半端ない。いやまぁ一万文字を書いてる人に比べたら、比ではないんですけどね。アインクラッド編に比べたら多いんですよね


2025年1月20日風妖精(シルフ)領 首都スイルベーン酒場

 

 

「なるほど、助けたリーファに連れられて。おめぇさん達はこの街に来たんか」

 

「ああ、そうなんだ。で?テン達はどうやって、この街に?見たところ、仲間に風妖精(シルフ)は居ないだろ」

 

酒場で、ソウテン達と合流したキリトはその中に風妖精(シルフ)を探すが、居るのは他種族ばかりで、姿を確認出来ない

 

「あ〜………うん、実はな?道案内をした人がいるんだ。その人がとんでもない………迷子だった」

 

「お前のことか」

 

「リーダーのことですか」

 

「さすがは迷子(ファンタジスタ)

 

「おいコラ、迷子から直ぐに俺を連想するんじゃねぇよ。あと誰がファンタジスタだ、迷子を変な呼び方すんな」

 

迷子から連想される人物、ソウテンに冷たい視線が降り注ぐ。其れもその筈、数々の迷子伝説を持つ彼が近くにいる、其処から連想されるのは、これ即ち新たな武勇伝の誕生也。しかしながら、当の本人は否定し、不服と言わんばかりの表情を浮かべていた

 

「実はね、今回はテンが原因じゃないのよ」

 

「「「な………なんだってぇぇぇぇ!!!」」」

 

「………ぐすん」

 

「とーさん。もしかして、泣いてるんか?」

 

「泣いてない………目からみそ汁が溢れただけだ」

 

「みそ汁っ!?」

 

「知ってか?フィリア。みそ汁にはな、バナナが合うんだぜ」

 

「バナナのみそ汁……?聞いたこないけど、グリスさんが言うならやってみるね!」

 

兄が泣きべそを掻く隣で、グリスからの意味不明な助言を実行すると宣言するフィリア。この短時間で、すっかりと彼等の色に染まってしまった親友に、リーファは引き気味の表情を浮かべる

 

「フィリア。あたし、この人たちのことを良く知らないんだけど……どういう知り合いなの?」

 

「ん……あっ、そう言えば紹介をしてなかったね。えっと……先ず、この仮面の人が」

 

聖騎士(ホーリーナイト)テンペリオン」

 

「そして、俺は悪魔騎士ローランド」

 

「私は地獄からの使者アーマンディア」

 

「わぁ!強そうな名前ですね、もしかしてハイプレイヤーなんですか?」

 

「ううん、右から順にソウテンにグリスさん、ミトだよ。今日始めたばかりの初心者(ニュービー)だね」

 

初心者(ニュービー)なんかいっ!!」

 

歴戦の勇士のような名を名乗り、神妙な顔付きをするソウテン達に一度は感激を覚えたリーファであったが、直ぐにフィリアからの指摘が入り、彼等に突っ込みを放つ

 

「全く……だいたい、フィリア。どうして、スイルベーンにいるのよ」

 

「…………えっと、地図を間違えちゃって……」

 

「またぁ?ホントに昔から、筋金入りの迷子ね。あんたのお兄さんと良い勝負だわ」

 

「ねぇ、何故に初対面の人に俺は迷子癖を知られてんの?」

 

「世界的迷子だからな、お前は。逆に知らないヤツがいたら、その方が不思議だ」

 

「テンちゃんと一緒にしないで、わたしはまだあの域には達してないから」

 

「一緒よ。だって、この前もお兄ちゃんとテンくんのお見舞いに行こうとして、病院じゃなくて美容院に行ったじゃない」

 

「それは迷子関係なく、フィリアさんがおバカなだけではありませんか?リーファさん」

 

「わたしはバカじゃない。ちょっとおっちょこちょいなだけであって、バカじゃない」

 

ミトは目の前で繰り広げられる光景に見覚えがあった。迷子を理由に弄られるフィリアの姿、其れを真顔で指摘するリーファ、この光景を彼女は知っている

 

「………ねぇ、キリト。聞きたいんだけど」

 

「ん、どうした?ミト」

 

「貴方………妹とかいる?フィリアと同い年くらいの」

 

「妹?ああ、いるよ。フィリアと同い年かどうかは分からないけど、一つ下に妹が一人。でも、何でそんなことを?」

 

「いや、あの子がキリトに似てるなぁって思ったの。フィリアに対する弄り方が、テンを弄ってるキリトみたいに見えたのよ」

 

その妙な親近感をキリトに伝えると、彼は顔から汗が溢れ出す

 

「……………マジで?」

 

「うん、マジで」

 

「ジーマっすか?」

 

「ジーマっす」

 

「………………あの、リーファさん?もしかしたら、もしかしたらですよ?」

 

「な、なによ……急に」

 

急に丁寧な口調で、自分を呼ぶキリトに警戒体制を取りながら、リーファは嫌悪感丸出しの視線を浴びせる

 

「スグ……なのか?」

 

「キリトさん、何を訳の分からないことを言ってるんですか。スグちゃんがゲームする訳ないでしょう。彼女はゲームとは無縁な脳筋ですよ、コントローラの用途を人を殴る鈍器的なモノと勘違いするほどのね」

 

「えっ?えっ?どうして、二人とも、あたしを知ってるの?というか、ヴェルデくんは詳しすぎない?」

 

「なっ?ヴェルデ。この驚き方はスグだろ?」

 

「そのようですね」

 

「…………お兄ちゃんときっくん?」

 

「「正解です」」

 

「おやまあ、スグっちだったんか。見ない間に随分と大きくなってんな。何処かのおっちょこちょいとは違って」

 

「テンちゃん。殴られたいの?ていうか、殴っていい?いや、殴るね」

 

「ほぐっ!?」

 

リーファの正体が、キリトの妹であると判明する近くで現実の彼女を知るソウテンが成長振りに感心を示していると、その言い方に嫌味を感じたフィリアが鉄拳を放つ

 

「ミトさん!こんばんはです!」

 

「あら、ユイちゃん。貴女も出てこれたのね」

 

「貴女も?どういう意味ですか?ミトさん」

 

「説明するよりも会ってもらった方が早いわ。ロトー、ユイちゃんに挨拶しなさい」

 

「んむ?ふぉうも、ふぉくのふぁまえは、ふぉふぉふぁふぉ(どうも、僕の名前は、ロトだよ)」

 

「ロト、行儀が悪いから食べながら喋るのはよしなさい」

 

「………ごっくん、はいよ。改めて、僕はロト。君と同じような感じで、ソウテンとーさんとミトかーさんに保護してもらって、息子になったメンタルヘルスケアプログラムなんよ。今は見ての通りの《プライベート・ピクシー》やらせてもらってます」

 

「ロトくんですね!ユイです!よろしくお願いしますっ!」

 

estoy encantado de conocerte también(こちらこそ、よろしく)

 

「《プライベート・ピクシー》って、感情豊かなのね。フィリアのもああいう感じ?」

 

「う〜ん、ちょっと違うかも……」

 

「マスター・フィリア。私をお呼びになりましたか?」

 

感情豊かに会話するロトとユイの姿に違和感を感じたリーファは、彼等のような《プライベート・ピクシー》を持つフィリアに問う。すると、鈴の音のような優しい声が響く

 

「エスちゃん。この子たちが、アナタと同じ《プライベート・ピクシー》らしいんだけどね。なんだか、感情豊かなの。理由とか分かる?」

 

「理解不能です。我々《プライベート・ピクシー》はAIですので、感情などの類いが芽生えたりする事は万が一にも有り得ません」

 

「ちょいと特殊なんよ、この二人は。んで?そのちみっこいのがフィーの《プライベート・ピクシー》なんか?」

 

「ふっふっふっ。限定だったけど、抽選で当てちゃいまいしたっ!名前はEstrellas(エストレージャ)で、わたしはエスちゃんって呼んでるんだー」

 

Estrellas(エストレージャ)です」

 

「直訳すると星か……良い名前じゃねぇか。よろしくなー、エス」

 

「よろしくお願いします。ソウテンさま」

 

「ロト。良かったな、おめぇさんに可愛らしいガールフレンドが二人も出来たぞ」

 

「(仮)…?」

 

「いやなんで、そのゲームを知ってるんよ」

 

「ユイはやらんからなっ!いくら、ロトが親友達の息子でもユイは駄目だっ!というか、ユイが欲しければ、俺を倒してからにしろっ!」

 

「パパ、ちょっとうるさいです。それにロトくんとお話しさせてくれないと嫌いになっちゃいますよ」

 

「なにっ!反抗期っ!?ちょっと早い反抗期なのかっ!?我が娘よっ!!」

 

次第に騒がしさを増していく店内、その筆頭の一人が兄だと理解した瞬間に、リーファは頭を悩ませる

 

「時にスグちゃん」

 

「なぁに?きっくん」

 

「世界樹への行き方を教えていただけませんか?僕らは、あの場所に行かなければならない事情があるんです」

 

「……それは、全プレイヤーがそう思ってるよ。っていうか、それがALOのグランド・クエストなのよ」

 

「どういうこと?はぐはぐ」←焼き鳥頬張ってます

 

「ALOは空を飛べることを売りにしてるのは、皆んなも知ってるよね?でも、滞空制限がある。どんな種族も連続で飛べるのは十分が限界なの」

 

「世界樹の上にある空中都市に最初に到達して、《妖精王オベイロン》に謁見した種族は全員、《アルフ》っていう高位種族に生まれ変われるの。そうなれば、滞空制限はなくなり、いつまでも、自由に空を飛ぶことが出来る。だからこそ、全種族プレイヤーは、世界樹を目指すんだよ」

 

「オベントウ?変な名前の妖精王もいたもんだねぇ」

 

「変なのは、お前の耳だ。バカテン」

 

「おんやぁ?今、ぼっちの声が聞こえた気がしたけど、気のせいだな」

 

「迷子め……」

 

「聞こえてんぞ。ぼっち」

 

「あっはっはっはっ」

 

「ふっふっふっふっ」

 

「あっはっはっはっ」

 

「ふっふっふっふっ」

 

「あっはっはっはっ」

 

「「やんのかコラァァ!!!」」

 

暫くの間、笑い合っていたかと思えば、喧嘩を始めるソウテンとキリト。互いの武器をぶつけ、騒ぐ彼等にミトが歩み寄る

 

「やめんかぁっ!!!バカどもっ!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

伝家の宝刀(復活した御約束)が、馬鹿二人の頭上に振り下ろされる。此れまた御約束である謎の悲鳴を挙げながら、吹っ飛ぶ

 

「…………そういう訳ですから、スグちゃん。道案内をお願い出来ませんか?」

 

「う、うん……そうだね。その方がいいかもしれないね…」

 

「わたしも道案内するよっ!泥舟に乗ったつもりで任せてっ!」

 

「フィリアさんってリーダーと似てるよね、バカなところが」

 

「そうかぁ?テンの方がバカだろ」

 

「うるさいよ、ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ」

 

「学名で呼ぶなっ!!!迷子野郎っ!!!」

 

突っかかるグリスを手で制し、ウィンドウを開き、ソウテンは鼻歌を歌い始める

時間的にも遅い時間帯となり、仲間たちに視線を向け、口を開こうとする

 

「それじゃあ、明日の午後三時に此処で落ち合おう。ログアウトにはこの上の宿を使うんだぞ、よし解散っ!!!」

 

⦅何故か、キリトが仕切ってるっ!!!⦆

 

「俺の台詞を取んじゃねぇよ!!!このぼっち!!!」

 

「うるせぇ!今回の章での主人公は俺だっ!!迷子!!!」

 

⦅前途多難だっ!!!⦆

 

かくして、フィリアとリーファ、フィリアの《プライベート・ピクシー》のエストレージャを加えた《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の妖精の国を巡る冒険の幕が上がったのであった




世界樹を目指し、飛び立つ妖精たち。新たな世界の先に彼等は何を見るのだろう。そして、その世界に一人の少女が降り立つ……彼女はマイク片手に、この世界で何を彩る…?

NEXTヒント いらん、超いらん


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九奥義 ガイドさんは何でも知っている

今回はヤツが動き出す……!あのマイクパーフォマーが!!


2025年1月21日 神奈川県横浜市繁華街

 

 

「えっ?あたし宛に小包ですか?」

 

アイドル活動を始めてから二日、圭子の元に届いたのは怪しげな小包であった。オウム返しのようにプロデューサーへ問いを投げ掛ける

 

「ああ、差出人は道化師(クラウン)と書いてるが……覚えはあるか?」

 

「う〜ん……あるようなぁ……、ないようなぁ……」

 

道化師(クラウン)、その名を聞き、左右に何度も首を傾げる。実を言うと、彼女はあのデスゲームの帰還から、同じ内容の夢を見ている

 

『おめぇさんは、ちょいと危なっかしくていけねぇ。どうだ、俺たちと一緒に来ねぇか?その方が安心できんだろ。まぁ…バカしかいねぇんだがな』

 

その夢には決まって、同じ人物が姿を見せる。あの世界で出会った想い人が兄と慕う道化師(クラウン)、その顔には常に仮面があり、不敵な笑みを携えていた

しかし、靄に見舞われた姿は、常に曖昧で、不鮮明である

 

「…………ピーナッツバター?あれ……なんだろう…。何か……」

 

開いた小包には二つの物が入っていた。その中の一つであるピーナッツバターの瓶が、圭子の目から離れない。何故かは理解出来ないが、彼女にとって、これは自分と誰かを繋ぐ大切な物である気がしてならない

 

「…………リーダーさんだ。そうだ、絶対に!だって、道化師(クラウン)なんてふざけた名前を使う人なんて、あの人しかいない!良かった………生きてたんだ……。あれ?でも、あたしはリーダーさんを忘れてた……よし、直接確かめて、アホな理由だったら、しばこう。善は急げだよね!えっと……このゲームをやってるのかな?」

 

二つ目の品であるゲームソフトを手にし、裏面の内容を見る。其処には、剣が主流であった世界とは異なるファンタジー溢れる内容が記されていた

 

「圭子!レコーディングの日が決まったぞ!」

 

「………P(プロデューサー)。申し訳ないんですけど、暫くはアイドル活動を休業しなくちゃいけないみたいです」

 

「なにっ!?まだ初めて二日しかし経ってないぞっ!?どうしたんだ!」

 

突然の告白、其れにプロデューサーは慌てふためく。しかしながら、圭子は冷静であった

そして、扉に手を掛けながら、彼女は口を開く

 

「呼んでいるんです、あたしがこの道(アイドル)に進む切っ掛けをくれた人が。あたしを必要としているんです。そう………バカたち(戦友)が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻 埼玉県入間市桐ヶ谷家

 

 

「はぁ…、アイツらと居ると賑やかで気が休まらないよ……ホントに」

 

ログアウト後、自室で目を覚ました和人はALO内での馬鹿騒ぎを思い出し、軽くため息を吐く

アスナ救出を目的としているが、明らかに彼等はあのデスゲーム時代の弾け振りを見せていた

 

「お兄ちゃーん。朝ご飯出来たよー」

 

「ああー、今行くよー」

 

朝食を用意していた妹の直葉からの声に、返事を返し、寝巻き姿のままで、一階の台所に向かう

 

「久しぶりねぇ、アンタに会うのも。暫く見ない間に、また目付き悪くなったんじゃない?天哉」

 

「いんや、翠さんの息子ほどは悪くねぇと思う。あいつの目は死んだ魚みたいな目してんぞ」

 

台所で、母の翠と向き合うのは青メッシュ入りの黒髪が特徴的な見知った少年。その隣では、眼鏡の少年が和食に舌鼓を打っている

 

「確かに……あの子、あんな目をしてて大丈夫かしら。恋人とか出来なさそうよね」

 

「ご安心ください、翠さん。ああ見えてもカズさんには、料理上手な美人の恋人に元気で愛らしい娘さんがいらっしゃいますので」

 

「恋人に娘……?ちょっと、和人!アンタは何を考えてるのよっ!其処に座りなさいっ!!」

 

「ちょっと待て!母さん!別にユイはそういう意味での娘じゃない!いやまぁ、娘なんだけどっ!というか、余計なこと吹き込むなっ!!あと、なんでいるんだよっ!!!」

 

菊丸の発言を聞き、軽く怒った翠が和人に食って掛かるも、彼は母を全力で制止し、元凶の馬鹿二人に問いを投げ掛ける

 

「だって、朝メシねぇんだもん」

 

「僕はスグちゃんの御飯をご馳走になりに来ました。あっ、味噌汁のお代わりをいただけますか?出来れば、カレーパウダーを掛けていだたけると嬉しいです」

 

「お代わりはあるけど、そんなのは掛けません。………って!テンくんは、何してるのぉぉぉぉ!?」

 

妙な要求をする菊丸にお代わりを渡しながら、突っ込みを入れた後に天哉の方へ視線を向けると彼の茶碗がピーナッツ色に染まっていた

 

「見てわからんか?ピーナッツバターご飯だ、メキシコではよくある朝食だ」

 

「いや絶対にないよねっ!?」

 

「全く、これだから迷子は困る。白い米には辣油だと相場で決まってるだろ……なぁ、母さん?」

 

「はぁ?何を言ってんのよ、アンタは。ご飯には、どう考えてもマヨネーズでしょ」

 

「ふっ…どうやら、母さんと分かり合うのは無理みたいだな。きっと、父さんなら分かってくれたろうに」

 

「あの人もマヨラーよ。あとアンタの亡くなった両親も」

 

「俺は桐ヶ谷家の血を引いてなかったのか……!!!」

 

自分以外がマヨラーだと知り、衝撃を受ける和人。その隣では、直葉の突っ込みを他所にピーナッツバターが掛かったご飯を掻っ込む天哉の姿があった

 

「よし、朝飯も食ったし寝るか」

 

「そうですね。ではカズさんの部屋で」

 

「いや普通に帰れよっ!!!」

 

「和人は知らない間にバカになったわね」

 

「いやマヨネーズ掛けご飯を朝から食べてるお母さんが言う資格はないと思う…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2025年1月21日 午後三時 風妖精(シルフ)領 首都スイルベーン酒場

 

 

「う〜む……買い物しねぇといかんなぁ。こりゃあ」

 

「そうね、流石に初期装備だと心元ないわ。本当だったら……職人が居てくれると助かるんだけど」

 

「あーうん、其れはもうちょい待ってくれ。今はまだ無理だ」

 

「まだ……?まぁ、いいわ。キリト達が来る前に買い物を済ませちゃいましょ」

 

「そだな……んと、この《ユルド》ってのが、そうなんか?」

 

煮え切らない態度のソウテンに違和感を覚えるが、直ぐに切り替えると必要な物を揃える事をミトは提案する

 

「そうみたい……うわー、結構な額があるわね」

 

「あるって言うよりも、ありすぎだなぁ。こりゃあ」

 

「だったら、僕の槍も買ってほしいなー。いざって時の為に」

 

「おろ?起きてたんか、ロト」

 

「まあねー」

 

不意に聞こえた声に辺りを見回すと、自分の頭に寝転ぶ息子の姿を見つける。彼は、父からの問いに笑顔で応え、宿屋の一室である部屋の中に、本来の姿である年相応の姿で、降り立つ

 

「ほら、僕って一応はとーさんのプレイヤーデータの一部を流用してるでしょ?だからね、二人がログアウトしてる間に色々と出来そうな事を試行錯誤してみたんよ。その結果、SAO時代のとーさんのデータを学習して、槍の使い方を学んじゃったんだよねぇ」

 

「さすがはロトね。何処かの誰かと違って、賢いわ」

 

「何処かの誰かって?誰それ」

 

「とーさんじゃないかな」

 

「えっ、そなの?」

 

「そんなことないわよー」

 

「あれ?何故に棒読み?ねぇ、ミトさん?何故に棒読みなの?」

 

疑問符を浮かべつつも問い掛けるソウテンを無視し、ミトは武具店に向かう。その道中、市場で何かと睨み合う黒の剣士が視界に入った

 

「すみません」

 

「あいよっ!……お?お客さん、影妖精(スプリガン)か。珍しいな……まぁ、でも客は客だ。で?何をお探しで?」

 

「一口で成人が昏倒するような毒魚を一匹もらえるか?」

 

「ねぇよ、んなの」

 

「「…………………」」

 

「ぐもっ!?」

 

毒魚を探す一名の馬鹿、彼の姿にソウテンとミトは無意識の内に駆け寄り、至極当たり前に蹴りを放っていた

 

「店主さん、うちのバカがすまんな。お詫びになんか買わせてくれ」

 

「ああ、そうしてくれると助かるよ。で?何が欲しいんだ?」

 

「ピーナッツバターに合う魚」

 

「ねぇよ、そんな魚」

 

「「………品揃えの悪い店だ」」

 

「なぁ……水妖精(ウンディーネ)の嬢ちゃん。コイツら、殴っていいか?」

 

「どうぞ」

 

「「ミトさんっ!?」」

 

まさかの裏切りにより、店主の制裁を喰らうソウテンとキリト(二人のバカ)。軽いため息を吐き、ミトは武具店に向かう

 

「だいたい!人の買い物を覗き見するなんて、趣味が悪いぞっ!」

 

「毒魚を買おうとしといて、逆ギレすんなっ!!!絶対に碌でもないこと考えてたろっ!!」

 

(私とアスナはどうして、こんなバカたちに惚れたんだっけ……はぁ、恋愛って難しいわね……)

 

「ロトくん、ロトくん。好きな食べものはありますか?わたしはクッキーです」

 

「ピーナッツバターかな」

 

喧嘩をする二人を背に感じ、ため息を吐きながらミトは歩みを進める。暫くすると、武具店が視界に入る

 

「なるほど、此方がスグちゃんの行きつけですか。やや古びた佇まいではありますが、なんとも寂れた店ですね」

 

「褒めてるように見えて、貶してるよっ!?明らかにっ!」

 

「其れで、この店は何があるんですか?個人的にはカレー屋だと嬉しいのですが」

 

「知らないで付いてきたのっ!?武具店だよっ!!!」

 

「なるほど。で、何を買うんですか?……ふむ、把握しました。スグちゃんに合うバーベルですね?さては。キミは、脳筋ですからねぇ」

 

「そうそう、あたしって脳筋だから、ALOでも鍛えたくてさー………って!誰が脳筋よっ!!!」

 

「ノリツッコミがお上手ですね」

 

「褒められても嬉しくないっ!!」

 

夫婦漫才のようなやり取りを繰り広げるヴェルデとリーファ、幼馴染ならではのやり取りは、普段の彼を知るミトには新鮮に見えた

 

「ヴェルデって、リーファ相手だとボケに拍車が掛かるわね」

 

「そりゃあ、あの二人は、小さい頃からの付き合いだからねぇ」

 

「俺が引きこもってる間は、ヴェルデがスグの相手をしてくれてたからな。俺が知らない信頼感があるんだろうな」

 

「妹相手にも、ぼっちなんか」

 

「兄妹揃って、迷子癖のある迷子(ファンタジスタ)は黙ってろ」

 

「誰が迷子(ファンタジスタ)だ。いいか?俺は、自由(リベロ)だ。決して迷子じゃない」

 

店に入り、装備を揃えていくソウテン達。自分のイメージカラーを基調にした装備と得意とする武器をあらかた揃えた後、店から出るとキリトの姿が目に入る

 

「………なぁ、あれって見たことあるんだけど。明らかに意識してんよな?」

 

「やっぱり、テンもそう思う?私も絶対に意識してると思ってたのよ」

 

「翠さんがしてたゲームに出てましたね、あんな感じの人」

 

「うん、見たことある」

 

その姿とは、逆立った黒髪に、黒いコートを纏い、背丈程はある巨大な剣を装備したキリトの姿である

 

「なぁ、その辺に美容院的なのがあるから金髪にしてみねぇか?キリラウド」

 

「しねぇよっ!!というか誰だっ!キリラウドって!!人を有名ゲームのキャラみたく言うなっ!」

 

「キリトさん。森で拾った金色木の実の粉末を頭に掛けてあげる」

 

「いや、それよりもバナナを絞った桶に頭から打ち込めばいいんじゃねぇか?」

 

「やだっ!グリスさんって、天才なのっ!?キリト、ちょっとやりなさいよ」

 

「やるかぁっ!!!だいたい、どっから湧いたっ!!!」

 

突如、現れた更なる三人のバカを相手にキリトは突っ込みを放つ。グリスとヒイロの装備が揃うのを待ち、店から二人が出て来るとリーファの案内でシルフ領のシンボル、《風の塔》に向かう

 

「は〜い、此方をご覧くださ〜い。この翡翠の輝きを放ち、優美さを感じさせる塔は名称を《風の塔》と言いまして、風妖精(シルフ)領のシンボルになっておりま〜す。そして、中腹当たりに見えます人がぶつかった跡が分かりますでしょうか?彼方は、パスタ好きなおバカさんがぶつかった跡になりま〜す」 

 

ガイド口調で、塔の説明をするソウテン。その手にはマイクではなく、椎茸が握られている

 

「質問よろしいですか?ガイドさん」

 

「どうぞー」

 

「この塔はどういった趣旨で立っているんですか?」

 

「知りません」

 

「この塔って、何の意味があるの?ガイドさん」

 

「知りません」

 

「どうして、この塔に来たんだ?俺たちは」

 

「知りません」

 

⦅このガイド、役に立たねぇ!!!いらんっ、超いらんっ!!⦆

 

全ての質問に対し、「知りません」と返答するソウテンにキリト達は心の中で突っ込みを放った

 

「ミトさん、フィリア……あたし達は、いつになったら出発出来るんでしょう……」

 

「「知りません」」

 




風の塔に足を踏み入れたソウテン達、その彼等に声を掛ける怪しい男性……果たして彼は!
そして、マイクパーフォマンスを極めた彼女の行く先は!

NEXTヒント レディースアンドジェントルメン


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十奥義 アイドルの御約束条項☆出発前には、運動会をやってはいけない

おかしい……コイツらがいるだけで、話が先に進まない…何故だ?


2025年1月21日 風妖精(シルフ)領 首都スイルベーン《風の塔》

 

 

「ここから、エレベーターに乗って上に行くんだよ」

 

「なるほど、上から距離を稼ぐのね」

 

「わっ、エレベーターだけでその答えに行き着くなんて、ミトってばすごいね」

 

「当然だよ。かーさんは学年主席クラスの頭脳があるんだから」

 

「ふふっ、大したことじゃ………って!何やってんのよっ!!!」

 

賞賛するロトの言葉に、優しく微笑みながら、ミトは彼を小突こうとする。しかし、視界に映り込んだソウテンたち(バカたち)の姿で即座に我に返り、突っ込みを放つ

 

「見て分からんか?運動会だ」

 

「運動会っ!?」

 

「いやいやっ!やらなくていいからっ!そんなのっ!」

 

「第一競技!パスタ食いレース!」

 

「パンじゃないのっ!?」

 

突然、パスタを食べ始めるという訳の分からない競技にリーファの突っ込みが入る。今の僅かな一瞬で全員のパスタを用意したであろうキリトは、その味を心ゆく迄に堪能している

 

「第二競技!アニマルレース!」

 

「ププ〜ン」

 

「ぴよぴよ」

 

「変な生物がいるっ!!」

 

「変とか言うな、ウチのプルーは列記とした犬だ」

 

「犬なのっ!?」

 

「ヤキトリは俺の非常食」

 

「ぴよっ!?」

 

「優勝はぁ〜……赤組のヒイロさんとグリスさんです!」

 

「やった」

 

「パパとテンにぃは負けですね」

 

「「なにっ……!!!」」

 

「采配の意味がわからないんだけどっ!?」

 

目の前で、繰り広げられる運動会と呼べるかも疑わしい暴走振りに絶え間なく突っ込むリーファの後ろ姿には、苦労人感が滲み出ている

 

「何者だ?貴様たちは。風妖精(シルフ)領で、随分と勝手な振る舞いをしているようだな」

 

「我々は炒飯早食いクラブです」

 

「違うよっ!?……こほん、シグルド。この人たちは、あたしの友人よ」

 

「友人だと……?まさか、パーティーから抜ける気なのか、リーファ」

 

「うん……まぁね。 貯金もだいぶできたし、しばらくのんびりしようと思って」

 

「勝手だな。 残りのメンバーが迷惑するとは思わないのか。其れに、こんな訳の分からないヤツらと行くつもりか?見てみろ、あの中央の仮面の男を。見るからに胡散臭いではないか」

 

「言われてんぞ。キリト」

 

「仮面はお前だ、迷子野郎」

 

「………ぼっち」

 

「「やんのかコラァァ!!」」

 

「コラァ!!!喧嘩しないっ!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

喧嘩するソウテンとキリトに対し、ミトの物理的な突っ込みが入る。その隣では、シグルドと呼ばれた男がリーファの前に立ち塞がっている

 

「勝手……ですって?」

 

「お前はオレのパーティーの一員として既に名が通っている。 そのお前が理由もなく抜け、他のパーティーに入ったりすれば、こちらの顔に泥を塗られることになる」

 

「………仲間はアイテムでは、ありませんよ」

 

「なんだと……?」

 

「おや、言葉の意味を理解出来ませんでしたか?仲間はアイテムでは、ないと言ったんです。よろしいですか?装備欄に永遠にロックしておける訳では、ありません。仲間とは、支え合い、笑い合い、ぶつかり合う………家族ですっ!!!

 

「っ……きっ……貴様っ……!!粋がるなよっ!初心者(ニュービー)風情がっ!家族だがなんだか知らんが、所詮は屑漁りの影妖精(スプリガン)を筆頭にしたバカの集まりではないかっ!リーファ、《レネゲイド》になるつもりか?」

 

「ええ………あたしは、ヴェルデくんたちと行くわ」

 

自分の領地を捨てた者、或いは領主に追放を受けた者は、《脱領者(レネゲイド)》と呼称される。リーファは、その有無をシグルドの前で、はっきりと述べた

だが、彼は其れを許さなかった。歯を食い縛ると、腰のロングソードを抜き放つ

 

「……小虫が這いまわるくらいは捨て置こうと思ったが、泥棒の真似事とは調子に乗りすぎだな。 のこのこと他種族の領地まで入ってくるからには斬られても文句は言わんだろうな……?」

 

剣を構えようとしたシグルドの前に、その“蒼き衣(コート)”は棚引いた

 

「すまんな、ウチの弟分が失礼な口を聞いちまって……でもな?シグルドさんとやら。俺は、頭に鎌を振り下ろされようが、毒魚を振る舞いかけられようが、大抵のことは笑って見過ごしてやる。けどな……

 

 

 

 

 

仲間(家族)を傷付けるのだけは絶対に許さねぇっ!

 

 

 

仮面に隠された顔には、凄みを感じさせる唯らなぬ気迫が溢れ、肩に担いだ槍は即座に構えられるように僅かに浮かんでいる

その気迫に押し負けたのか、シグルドは「後悔することになるぞ」と意味深な捨て台詞を吐き捨てると、取り巻きの二人を連れ、《風の塔》を後にした

 

「………ごめんね、妙なことに巻き込んじゃって……」

 

「いえ、僕にも非はありますので。あと……リーダー」

 

「んむ?どうした?」

 

「先程は庇っていただき、ありがとうございました」

 

「当たり前だろ?なにせ、俺はリーダーなんだからな」

 

「ええ、頼りにしてますよ。いつも」

 

迷子(ファンタジスタ)だけどな』

 

「やかましいわっ!!!」

 

感謝するヴェルデに優しく笑い掛けながら、頭を撫でるソウテンであったがキリト達の悪口に反応を示し、直ぐに喧嘩を始める

彼等を無視するようにミトは、ヴェルデ、リーファとフィリアを連れ、エレベータに乗りこむ

 

「ミトさん、リーダー達が乗ってませんよ」

 

「無視しましょう。あのバカたちといたら、旅が前に進まないわ」

 

「それもそうだね」

 

「正論ね」

 

「では、最上階に参りましょう」

 

「じゃあ、押しますねっー☆」

 

『あっ、お願いします………って、誰っ!?』

 

「あたしですか?あたしはですね……知らないのであれば、聞かせてあげましょう!我が名を!」

 

最上階に向かおうとしたミト達、その輪に極自然に溶け込んでいた猫耳少女はマイクを手に、軽くウィンクをする

 

「天真爛漫・将来有望 仮想の世界を彩る正義の猫妖精(アイドル)、シリカ!」

 

「なーんだ、シリカちゃん………って!シリカちゃんっ!?」

 

「はい、シリカですよっ!ミトさん!」

 

その猫耳少女基シリカは、驚愕するミトに屈託のない笑顔を向ける

 

「これはこれは、お久しぶりです。シリカさん」

 

「ヴェルデは相変わらず堅いなぁ…。あっ!ヒイロー!!!」

 

「シリカ。元気そう」

 

「うんっ!元気だよ。あっ、そうだ……リーダーさん」

 

「んむ?どうし----ぐもっ!?」

 

「これぞ、あたしがアイドルになる為の活動、アイカツで身につけたアイドル奥義の一つ、マイクナックル!!今回はこのくらいで勘弁してあげます」

 

マイクで、ソウテンを殴るとその場に倒れる彼を無視し、シリカはキリト達と共にミト達が待つエレベーターに乗り、最上階に上がっていった

 

「………おめぇさんのマイクパーフォマンスには期待してんよ………。さーて、次は誰に届くかねぇ。残りは……あと三人か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2025年1月21日 東京都多摩市

 

 

「なに……、俺の荷物だと?」

 

自室で寛ぐ茉人の元に届いた、覚えのない小包。舎弟のような存在である組員が持つのは、道化師(クラウン)なる人物の名が記された小包

 

「どうしやすか?若頭」

 

「………寄越せ」

 

「へい」

 

小包を受け取り、中身を確認しようと開く。中から出てきたのは、ピーナッツバターの瓶とゲームソフトの二つ。後者には見覚えがないが、前者を見た途端に

 

『職人!見ろよっ!これ!ピーナッツバターサンドをミトが作ってくれたんよっ!一緒に食おうっ!』

 

脳裏に浮かんだのは、かつての親友。仮面を身に付け、不敵に笑う彼の手には、職人と呼ばれた自分が鍛えた(最高傑作)が握られていた

 

「…………生きていたか。全く、仕方のないバカだ……少しばかり、説教をしてやらなくてはな。また、仮想世界でふざけているのであれば、尚更だ」

 

「若頭っ!どちらへっ!?」

 

ゲームソフトを片手に部屋を出て行こうとする茉人を舎弟が呼び止める。すると、彼は振り返り、口元を僅かに緩めた後、口を開く

 

「決まっている……俺が《職人》と呼ばれる所以を果たしにいくのさ、戦友(ダチ)の為に」




遂に、世界樹に向け、翅を広げる妖精達。その行手に待つのは、更なる珍道中であった!そして……ふざけ過ぎたソウテン達の前に……!!!

NEXTヒント ふざけるモノには刃物が降り注ぐ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一奥義 羽ばたけ!潰せ!アイム・レプラコーン!

遂に奴が…!!!ひぃぃぃぃぃ!!!


2025年1月21日 風妖精(シルフ)領 首都スイルベーン《風の塔》

 

 

「其れにしても、久しぶりね。シリカちゃん」

 

「はい、ゲームクリアから会えてませんでしたから……三ヶ月振りくらいになりますね」

 

最上階に通ずるエレベーター内で、久しぶりに再会した妹分(シリカ)と和気藹々とミトは話し込んでいた。一人っ子で、更に言うと鍵っ子でもある彼女は、同性の友人はアスナ以外に存在していなかった。しかし、あの世界で、出会ったシリカは、自分を姉のように慕ってくれた、故に彼女との再会は、ミトにとって、喜ばしい出来事なのだ

 

「でも、またあのバカたちと付き合っていくことになるのよ?」

 

「大丈夫ですよ。あたしは、今でも……いえ、この先も変わらず、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》のメンバーですから。家族の為なら、何処へだって、駆け付けますよっ!マイク片手に!」

 

「頼もしいわね………って!何してんのっ!?」

 

最上階に辿り着いたミトの視界に、飛び込んできたのは、畳を敷き、座布団の上に座るヴェルデの姿だった

 

「御静かに願えますか?これより、ハジケリストの嗜みである茶道を行うのですから」

 

『茶道っ!?』

 

「それでは……」

 

「聴いてください。あの夏のパイナップル」

 

『歌っ!?』

 

茶道が始まると思いきや、ギターを片手に弾き語りを始めるソウテンたち(バカたち)。その光景に、ミト、リーファ、フィリアは驚愕するが、約一名だけは、シリカだけは、違った

 

「あの夏のパイナップル〜、食べたのは〜、誰なんだろう〜。パイナップル〜、パイナップル〜、パインとアップルで〜、パイナップル〜」

 

『混じった!!!』

 

「こちら、粗茶です。塩はいくつですか?」

 

『塩っ!?ていうか、抹茶に味付けっておかしくないっ!?』

 

「3つ」

 

『入れるのっ!?』

 

「次は私が、おもてなしを…どうぞ」

 

次に、茶を立てるのは、キリト。そして彼は、ストレージからあるものを取り出し、ソウテン達の前に置く

 

『歯応えがあるっ!?』

 

「それはあるわよ。だって、パスタだし」

 

「…………あたしが知ってる茶道と何一つとして、一致してないんだけどっ!?」

 

「えっ…!あれって!茶道じゃないのっ!?」

 

「フィリアもそっち側っ!?」

 

「だって、昔からテンちゃんに茶道はアレが普通って言われてたから」

 

「信じちゃダメよ、フィリア。貴女のお兄さんは基本的にバカなんだから」

 

ソウテンを信じて疑わないフィリアに対し、ミトは冷めた瞳で氷のような突っ込みを放つ

 

「ロトくん、エスちゃん。あの黒いぼっちがわたしのパパですよ」

 

「キリトがパパかー、てことはアスナがママなんだねぇ。うちはとーさんが迷子(ファンタジスタ)、かーさんが鍋女だよ」

 

「マスター・フィリアは迷子になりやすく、ドジっ子です」

 

三人娘の肩の上では、小さな妖精達が自らの両親と主人についての情報共有を行なっている

 

「リーファちゃん」

 

エレベーターから姿を見せたのは、何時ぞやのリーファの友人。彼は、苦労人感が溢れ、憔悴気味であるリーファに声を掛けた

 

「あ……レコン」

 

「これはこれは、ダイコンくん」

 

「昨日振り。レンコン」

 

「元気そうだな。ハンペン」

 

(また名前何違うっ!!!というか………)

 

「おろ?スグっちの知り合い?」

 

「リアルの同級生らしいよ。テンちゃん」

 

「そうなんですか。それにしても変わった名前ですね、フランスパンなんて」

 

「シリカちゃん。名前を間違えてるわよ?この人は、シャーペンくんよ」

 

「おろ?ボールペンじゃなかった?」

 

「違うよ、テンちゃん。彼はコンペイトウだよ」

 

(増えてるっ!!!そして名前が違うっ!!!)

 

知らぬ間に増えたリーファを取り巻く、謎の集団。そして矢継ぎ早に、名前を間違えられる彼等に、レコンは心の中で突っ込みを放つ

 

「それで、レンコン……レコン。どうかした?」

 

「ああ、うん。リーファちゃんがパーティを抜けて、炒飯早食いクラブに入ったって聞いたから……あれ?今、レンコンって言わなかった?」

 

「気のせいよ。あと、そんな変なクラブに入ったつもりはないから」

 

「そうです。我々はぷちぷち潰しまくり隊ですっ!!!」

 

「そう、あたしたちは……って何それっ!?この前と違うんだけどっ!……こほん、それで?アンタはどうすんの」

 

またしても、謎のクラブを作り上げるヴェルデに釣られそうになるが、即座に我へと返った後に突っ込みを放ち、レコンへ問いを投げ掛ける

 

「決まってるじゃない、この剣はリーファちゃんだけに捧げているんだから……」

 

「奇遇だな。俺も、このピーナッツバターをミトだけに捧げてる」

 

「俺もアスナに、このペペロンチーノを捧げてる」

 

「シリカ。これ、給料三ヶ月分の焼き鳥」

 

「わぁ!ありがとっ!ヒイロ!」

 

「グリスさん!よかったら、この落花生をもらってください!」

 

「いや、俺は落花生よりもバナ……ぎゃぁぁぁぁ!!」

 

「おうコラ。ちょいと面貸しなよ、ゴリラ。俺の妹ちゃんからの好意を無碍にするなんざ、許さねぇよ?」

 

剣片手にリーファへの想いを告げるレコンであったが、周りのソウテンたち(バカたち)が騒ぐ為に、その想いは完全に霞んでいた

 

「うーん…いらないかな」

 

「えっ!?」

 

「というか、超いらない」

 

「ええ。超いらないですね」

 

「いらない」

 

「必要か、必要じゃないかで言えば、必要とはしてないかな」

 

リーファに続くように、ヴェルデとヒイロ、シリカの言葉に蹌踉(よろけ)るレコンであったが、直ぐに立ち直ると真剣な表情を見せる

 

「ま、まぁそういうわけだから当然僕もついて行くよ……」

 

「いえ、超いりません」

 

「必要皆無」

 

「出直してきてください」

 

「うん、必要とされてないのは分かったよ……。まぁ、僕は、ちょっと、気になることがあることがあるから、当分シグルドのパーティーに残るよ……」

 

ヴェルデ達の言葉に、涙を浮かべながら、シグルドの企みを探る為に残ると言及したレコンの肩に、誰かが触れた

 

「ほう、気になること。些細なことが気になるのは、おめぇさんの悪い癖だぞ?レンコン」

 

振り返った先に居たのは、一人の道化師

 

「そうそう、些細なことが気になるのが………って!誰が特命係だっ!!あとレコンだよっ!!!」

 

『えっ……!!!』

 

「何で驚いてるのっ!?……こ、こほん、兎に角、彼女、トラブルに飛び込んでいくクセがあるんで、気をつけてくださいね」

 

「なるほど。キリトの教育がなってない証拠だ」

 

「全くだぜ」

 

「うるさいぞ、傍迷惑迷子にアホゴリラ」

 

「「んだとコラァ!!ぼっち!!」」

 

「誰がぼっちだぁ!!!」

 

「はぁ………」

 

喧嘩を始める三馬鹿を呆れた視線で見詰め、ミトは重いため息を吐く

 

「それと!彼女は僕のンギャッ!」」

 

「ンギャッ?変わった呼び名ですね」

 

「きっと、新しい焼き鳥屋だよ」

 

「違うよ、ヒイロ。チーズケーキ屋だよ」

 

「なるほど、それで……ンギャッとは、どういったプロテインなんですか?スグちゃん」

 

「なんで、プロテイン限定っ!?とにかく!しばらく中立域に居ると思うから、何かあったらメールでね!」

 

そう言い残し、飛び立つリーファを筆頭にソウテン達も広大な大空に羽ばたく。懐かしい仲間たちと彩る新たな世界、其れは、大切な家族を取り戻す為の冒険の始まりである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2025年1月21日 森の中

 

 

「で……貴様ら、ふざけていたようだが。言い訳はあるか?」

 

包丁片手に、ぎらりと瞳を光らせる和服姿の鍛冶妖精(レプラコーン)。懐かしいその姿に、誰もが恐怖を抱く

 

『ひぃぃぃぃぃ!!!しょ、職人さんっ!?』

 

恐怖製造機である職人、アマツの前にミトとリーファ、フィリアと《プライベート・ピクシー》たちを除いたバカたちが正座させられていた

 

「誰なの……あの人」

 

「包丁持ってるんだけど…」

 

「懐かしい景色だわ」

 

「「あれが懐かしいっ!?」」

 

「敵対行為の類いかと思われます。マスター・フィリア」

 

「ロトくんのおともだちですか?」

 

「職人だよ。其れにしても相変わらずだねぇ…」

 

「はぁ……また増えた…」




アマツの合流、其れは彼等にとって、恐怖を呼び起こす!降り注ぐは、包丁の嵐!『いやぁぁぁぁ!助けてぇぇぇぇ!』

NEXTヒント ローテアウトはローションとは関係ない


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二奥義 おふざけは許さないっ!しかし、バカたちは止まらないっ!!!

今日は3月10日!ミトの日!この日だけは絶対、投稿しようと思ってたんです!


2025年1月21日 中立域 古の森

 

 

「何時も言ってるだろう。ふざけ過ぎるのは許さないと」

 

『ひぃぃぃぃ!!!』

 

「職人さん!違うんですっ!先にふざけていたのは、キリトなんですっ!」

 

「そうなんですっ!俺たちは、あいつに合わせていただけなんですっ!」

 

⦅なすりつけた!!⦆

 

「汚ねぇぞ!迷子にゴリラ!!違うんですっ!先にふざけてたのは、テン達ですっ!」

 

恐怖を前に、罪をなすりつけ合うように醜い争いを繰り広げるソウテンたち(バカたち)。しかし、冷静なアマツは彼等の背後に佇むミトとシリカに視線を向ける

 

「………ヘル子、マイク娘。実際は誰がふざけていたんだ?」

 

「「全員がふざけてました」」

 

「そうか…覚悟しろ、バカどもっ!」

 

『いやぁぁぁぁ!!!』

 

「懐かしいわね、シリカちゃん」

 

「ええ、見慣れた光景です」

 

「見慣れてるのっ!?明らかに死にそうだよねっ!?」

 

「………まさか!あの人!ボケ殺しっ!?あの伝説に名高い!」

 

「ボケ殺しっ!?なにそれっ!!」

 

ボケ殺し。初めて耳にする言葉に、リーファは驚愕のあまり、聞き返す

 

「ボケ殺し、其れは遥か昔に絶滅したとされる凡ゆるおふざけも許さない残忍な者たちの事と記憶しています。リーファさま」

 

「エスちゃんが無駄に詳しいっ!?」

 

「実在してたなんて…!」

 

「フィリアが言い出しっぺでしょ!?」

 

「な、なんてこと…!まさか、職人がボケ殺しだったなんて…!」

 

「し、知らなかった…!一年ちょいくらい一緒に居たのにっ!」

 

「何で身近にいたのに知らないのよっ!?」

 

旧知の中である筈のミトとシリカさえも、その正体に驚愕している。そして、対象の粛清を終えたアマツは包丁をストレージに仕舞う

 

「久しぶりだな。二人とも」

 

「元気そうで何よりだわ、職人」

 

「職人さん、相変わらずのイカれ具合ですね」

 

「お前にだけは言われたくないがな。マイク片手に何をしているんだ」

 

「見て分かりませんか?アイカツです」

 

「そうか……それで?そこの幸薄そうなポニーテール娘とテンの字が女装した娘はなんだ、知り合いか?」

 

「幸薄そうって、あたしっ!?」

 

「女装じゃないんですけどっ!?」

 

リーファ、フィリアの両名はアマツが述べた自分に対する意見に不服そうな反応を挙げた

 

「キリトの妹のリーファちゃんにテンの妹のフィリアよ。二人とも、この失礼な和服男はアマツ、鍛治スキルを極めているから、私達は職人って呼んでるわ」

 

「アマツだ。武器を手入れしたい時は、何時でも呼んでくれて構わん。ただし……折ってみろ、女子(おなご)であろうが、容赦はせん」

 

「「すっごい、怖いんですけどっ!!!」」

 

「職人さんは相変わらずのお茶目さんですね」

 

「シリカちゃん。あれは、お茶目とは言わないわ。一種の変態よ」

 

「とにかく、これで武器の心配はせんで良くなった訳だ。Gracias(ありがとよ)、職人」

 

「他ならん、お前からの呼び出しだからな。其れにだ、閃子が捕まっているのだろう?アイツには、リズベットが世話になっていたからな」

 

「お前はリズの親か?職人」

 

「あんな喧しい女の親になったつもりはない。そう言えば、お前たちが来る少し前にPKを仕掛けてきたプレイヤーを返り討ちにしたんだが…、気になることを言っていたな」

 

『気になること?』

 

話題転換しようとアマツが告げた言葉に、ソウテンを始めとした全員が反復しながら、首を傾げる

 

「あの先にある世界樹には、オベイロンに仕える八人の妖精がいるらしい。詳しい構成は知らんが、ハジケリストが数人とアイドルが居ると聞いた」

 

「「「ハジケリストだとっ…!!」」」

 

「アイドルっ!!」

 

「あーあ……3バカとマイクバカの目が変わった…」

 

「えっと……取り敢えず、《ローテアウト》しとく?」

 

「ローテアウト……新たなローションですか?」

 

「違うよ、ヴェルデ。きっと流行りの曲だよ」

 

「シリカも違う。ローテアウトは周りながら、交互に話をする新たな会話法」

 

「全然違うから、交代でログアウト休憩することよ。ここは、中立地帯だから、即落ちできないの。 だからかわりばんこに落ちて、残った人が空っぽのアバターを守るのよ」

 

『なるほど。じゃあ、キリトにリーファ、ヴェルデからな』

 

《ローテアウト》についての説明を聞き、ソウテン達は、キリトとリーファ、ヴェルデから落ちるように促す。しかし、その瞳は明らかに何かを企んでいるようにしか見えなかった

 

「………お前ら、なんかやるよな?絶対に」

 

「…………しねぇよ?なぁ、ヒイロ」

 

「…………う、うん」

 

「………するわけねぇだろ?」

 

「………す、少しは信用してもらいたいですね」

 

「目が泳いでるだろうがっ!!ミト、職人、フィリア、コイツらが何かをしようとしたら、全力で止めといてくれるか?特にあのバカ二人は要注意だ」

 

「「りょーかい」」

 

「任せろ」

 

三人の承諾を確認した後、キリトは妹と弟分と共にウィンドウから、ログアウトを選択し、現実世界へと帰還した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2021年 1月21日 桐ヶ谷家 直葉の部屋

 

 

「ふぅ………分かってはいたけど、テンくんたちはキャラが濃いなぁ…」

 

アミスフィアを外しながら、数時間に及ぶ馬鹿騒ぎの感想を漏らす。幼馴染である琴音の兄の天哉とは、兄経由で十数年に及ぶ付き合いがあるが、知らぬ間に、ハジケ振りに拍車がかかっていた

更に言えば、兄妹同然に育った菊丸は、感受性が豊かさを増した。最後に彼を見た時は、この世の全てに絶望感を抱き、誰もを拒絶していた。しかし、再会した彼は、直葉の記憶の中にある優しい笑顔を見せた。何が彼を、そうさせたのかは分からないが、あの道化師達との出会いが、彼を変えたことは理解できた

 

「スグちゃん、スグちゃん。カレー風味タンドリーチキンはいかがです?」

 

「きっくん……女の子の部屋には入っちゃダメだよ」

 

当然のように、部屋に上がり込んできた菊丸に直葉はジト目を向ける。だが、彼は気にも止めずに、徐ろにベットに腰掛けた

 

「女の子……いいですか?スグちゃん。無闇矢鱈に竹刀を振り回す脳筋を女の子とは、呼びません」

 

「怒るよ?で、何か用?今は小休止中でしょ」

 

「別にこれと言った理由はありません……いえ、一つだけありますね」

 

「一つ……なに?」

 

急に真剣な表情を見せ、愛用の眼鏡を意味深に光らせる菊丸。その見慣れない姿に、僅かながら、直葉の胸が高鳴る

久方ぶりに向き合う彼は、記憶に残る彼よりも、身長が高くなり、声も僅かに低くなり、顔付きも凛々しい。自分も成長しているが、彼の成長は、直葉の心を確実に掻き乱していた

 

「スグちゃんと一緒に冒険が出来て、嬉しいんです。小さい頃に戻ったみたいで」

 

「………そうだね。あたしも嬉しいよ、きっくん」

 

束の間の休息中に、時が経つのも忘れて、二人は共に過ごせる喜びを噛み締める。その光景を、扉の側で見守る影が一つ

 

「………もう少しだけ、二人にしといてやるかな」

 

そう言うと、和人は自室に戻り、ベットに寝転がるとナーブギアを被り、仮想世界へと旅立つのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2025年1月21日 中立域 古の森

 

 

「ん………」

 

『やばい!起きたっ!』

 

意識をアバターに同調させたキリトの視界に、焦るソウテン達の姿が映る。彼等は、即座に飛び退くと、鍋の前に座っていたミトの側に移動した

 

「うん?おいコラ、誰だ。人の口に花を突っ込んだのは」

 

知らない間に、口の中に突っ込まれていた花を引っ張り出しながら、馬鹿達を、ギロリと睨み付ける

 

「生け花だ。斬新だろ?」

 

「ウケる。でも、なんか怒ってるのは何故?」

 

「バナナの方が良かったんじゃねぇか?やっぱ」

 

「だから言ったじゃないですか、生け花に斬新さは必要ないって」

 

「わたしは止めたんですよ?パパ」

 

「おろ?ユイも乗り気じゃなかった?ていうか、花を差したのはユイだよねぇ」

 

「ロトくん!それは言わない約束ですっ!」

 

「ユイもグルかっ!?」

 

まさかの娘が主犯であると知り、項垂れるキリト。刹那、彼の肩を誰かが叩いた

 

「人生、色々あるさ。期待を胸に飛び込んだ新生活が……裸の男たちだらけだったり……とかな」

 

「………ベルさん、いきなり出てきたかと思えば、何を言ってんだ。アンタは」

 

「よぉ、来たんか。ベルさん」

 

突然、姿を見せた青年、髪色から察するに水妖精(ウンディーネ)であろう彼、ディアベルの瞳には涙が溜まっていた

 

「おお!テン!久しぶりだなぁ!ナイトパンチっ!」

 

「ぐもっ!?」

 

「…………あ〜、どんどんとバカたちが集まり出した…はぁ…最悪なんだけど…」

 

虎視眈々と、9色の色彩に彩られつつある仮想世界で、ミトのため息が盛大に木霊するのであった




アマツとディアベルの登場で、更なる騒がしさを増すバカたち!ルグルー回廊で、大量のプレイヤー達を前に、彼等は!

NEXTヒント 仮想世界だよ!全員集合!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三奥義 大集合!!隠れて、飛び出て、囲まれて!!

遂に全員集合だぁぁぁぁ!!そして止まらないハジケ振りに御注目!!


2025年1月21日 ルグルー回廊

 

 

「ここが噂に聞く虎の穴か」

 

「となると、アレだな」

 

「ああ、コイツを被るっ!」

 

鉱山都市に続く、垂直に切り立った一枚岩を中心に、空いた四角い穴と入り口の周囲に彫られた怪物の彫刻が目立つ洞窟《ルグルー回廊》の入り口付近で、真剣な表情をするバカトリオ。彼等はストレージから、取り出した鷹、虎、バッタのマスクを頭から被る

 

「「「我ら、ハジケリスト三人衆っ!!!」」」

 

『………………』

 

「みんな、バカは放っておきましょう。先に進むわよ」

 

「構うだけ無駄だ」

 

『なんで冷静なのっ!?この二人はっ!!』

 

弾けるバカトリオに冷たい視線を送り、他のメンバーを冷静に引率するミトとアマツに全員が信じられない物を見るような視線を向ける

 

「暗いわね、この洞窟」

 

「灯り魔法を使えばいいよ、そう言う時は。お願いできる?フィリア」

 

「うん、任せ………って!何をやってるのっ!?」

 

洞窟内を照らそうと、魔法を詠唱しようとしたフィリアであったが視界に飛び込んで来たある光景に、思わず突っ込みを放つ

 

「灯りといえば、あの有名な学者!という訳で、これより電球の開発を始めるっ!」

 

「先ずは電気ウナギっ!」

 

「グリスさんの毛髪200本」

 

「そう、俺のも……って!何時の間に抜きやがったっ!?焼き鳥チビっ!!」

 

「配線関係は任せてくださいっ!このチーズケーキを使いますっ!」

 

「よし、俺は小腹が空いた時の為にバームクーヘンを振る舞おう!」

 

「そして、最後にカレーを掛けます」

 

「「「「いざっ!発光(s'il vous pla)!!」」」」

 

ソウテン達により開発された電球と呼ぶにも疑わしい謎の物体を前に、アマツが包丁を構える

 

「ふざけすぎだっ!!」

 

「「「「ぎゃぁぁぁぁ!!」」」」

 

降り注ぐ包丁の雨に、逃げ惑うソウテンたち(バカたち)。その間にフィリアが灯り魔法を使い、洞窟内に照らす

 

「わぁ……これが螢なのね」

 

「ふっ、テン美。どうだ?この夜景が全部、お前のものだ」

 

「素敵……」

 

「………………ハジケ奥義・タジン鍋フリスビーっ!!!」

 

「「いやぁぁぁぁ!!!」」

 

蛍を前に、ラブコメのような寸劇を展開させるソウテンとキリトを、ミトが投げたタジン鍋の蓋が襲う

 

「さっ……気を取り直して、先に進むわよ」

 

((ミトさん……恐ろしい子っ!!!))

 

地面に倒れた二人のバカを放置し、ミトを先頭に先を急ぐ。中を進む過程で、オークとの戦闘があったが、最強のバカ集団(ハジケリスト)を前に手も足も出ずに、血祭りにされた

洞窟内で、迷う事なく進めるのも、ミトが出立前にスイルベーンで仕入れたマップのお陰である。間違っても、迷子兄妹(ファンタジスタ双子)の道案内には従う訳にはいかない、彼等に任せれば、全ての場所が富士の樹海に成りうることは間違い無しである

 

「あ、メッセージ入った。 ごめん、ちょっと待って」

 

「おろ?俺もだ」

 

突如、響く二つの電子音。足を止めたリーファとソウテンは、ウィンドウを呼び出すと、メッセージを開く

 

【やっぱり思ったとおりだった! 気をつけてs】

 

「なんじゃこりゃ」

 

【テンよ!バナナは主食に入るのか?それとも、オヤツか?】

 

「………迷惑メールだな、これは」

 

疑問符を浮かべるリーファの隣で、ソウテンは迷い無くメッセージを削除した。何やら、見覚えのある果物の名前が書かれていたが、気のせいに違いない。否、彼はそう思うことにした

 

「とーさん、かーさん。なんか来てるよ」

 

「わたしも感じましたっ!複数の反応がありますっ!パパ!」

 

「マスター・フィリア、多数のプレイヤー反応を感知しました。その数、十二人と推測します」

 

「「じゅうに……っ!?」」

 

「仕方ありません。ここは隠れてやり過ごしましょう!みなさんっ!この壁紙の裏に隠れてくださいっ!」

 

迫り来る敵の数に絶句するリーファとフィリア。その彼女達を気遣い、ヴェルデは事前に用意した壁紙を広げ、裏に隠れるように促す

 

「いやいやっ!バレるよっ!!」

 

但し、その壁紙は景観には削ぐわない煉瓦塀を模しており、スプレー缶の落書きが目立つモノだった

 

「「「しまった!隠れられないっ!こうなったら……!」」」

 

壁紙に入り切らず、溢れてしまったソウテン、キリト、グリスのバカトリオは、何かを思い付き、自分のストレージを操作し、何かを取り出す

 

「よしっ!完璧だっ!これで、俺は通りすがりのフラメンコダンサーにしか見えないっ!」

 

「いやっ!フラメンコダンサーが、いる時点でおかしいよっ!?」

 

「リーファの言う通りだ!甘いっ!甘いぞっ!お前はスイーツパスタ並みに甘いなっ!テン!木を隠すなら森の中って言うだろっ!つまり、正解はこの木の役だっ!」

 

「お兄ちゃんも間違ってるよっ!?」

 

「はんっ、分かってねぇな。これだから、迷子とぼっちは………正解はこうだ!」

 

迷子とぼっち(ソウテンとキリト)に呆れたような視線を向け、グリスは自らのアイデアを見せるように披露する

 

『まだバナナを剥けません、どうか拾ってあげてください』

 

((捨てゴリラだっ!!!))

 

段ボールの箱に詰められた姿、明らかに他の二人よりも悲惨な状態に誰もが言葉を失う。一人を除いての話だが

 

(す、素敵すぎる…)

 

「鼻血出したっ!?どんだけ、グリスくんに夢中なのっ!?フィリアはっ!」

 

「おろ?赤い目のちっちゃいコウモリが見えた」

 

「わぁ!可愛いですっ!パパ!アレを飼いましょう!」

 

「ユイ。ペットを育てるのにはな、大いなる責任が伴うんだぞ。俺も昔、デンガクという犬を飼ってたんだが、なんやかんやで死んでしまった」

 

「なんやかんやって、なによ」

 

「やられたっ!」

 

「あちゃーっ!最悪っ!」

 

壁紙から飛び出したリーファ、フィリアの目付きが変わる。赤いコウモリは何やら、状況的に最悪のモノであるようだ

 

「どうしたんですかっ!リーファさんにフィリアさん!」

 

「飛び出しは良くないぞ、ポニ子にテン子」

 

「あれは、高位魔法のトレーシング・サーチャーよ!!あと、ポニ子じゃなくてリーファだからっ! 」

 

「潰すよっ……ん?ちょっ!まさかだけど、テン子って、わたしっ!?」

 

アマツが発した呼び名に突っ込みを放った後、両手を前に掲げ、二人がスペル詠唱を始める。刹那、指先からエメラルド色に光る針と黒い刃が無数に発射され、赤いコウモリは、赤い炎に包まれて消滅した

 

「街まで走るよっ!」

 

「敵前逃亡か。俺的には好ましくねぇ転回だな」

 

「まぁまぁ、テンちゃん。ここは、わたしに任せて」

 

「おいコラ、迷子(ファンタジスタ)兄妹は先頭を歩くな」

 

「「迷子(ファンタジスタ)じゃない」」

 

「なんか前にも似たようなことがあったような……」

 

「ズラかるぜ!」

 

「トンズラしましょう」

 

「コウモリって食用?」

 

「ヒイロは食いしん坊だね」

 

「コウモリといえば、小学生の頃に仲が良かった小森は元気にやってるだろうか」

 

「ディアベル。お前は非常時に何を言っている」

 

「一本道を抜けたら、先に大きな地底湖が広がってるみたい。湖に架かっている橋を一直線に渡って、鉱山都市ルグルーの門に飛び込むわよっ!」

 

『了解!!』

 

洞窟を抜け、街まで走るソウテン達。マップを広げながら、先導していたミトが後ろに続く全員に声を掛ける

 

「「「さぶっ……!」」」

 

「この寒さ、懐かしいな。あの雪山の出張店舗を思い出す」

 

「油断しないで、水中には大型モンスターがいるよ」

 

「「「今っ、大型モンスターって、言いましたっ!?」」」

 

「コラァ!そこのバカトリオっ!!!目をキラキラさせないっ!!!」

 

「「「ぐもっ!?」」」

 

大型モンスター、という響きに心を躍らせるバカトリオにミトの鎌が振り下ろされる横を、二つの光点が高速で通過した

その二つの光点は、門の手前に落下し、重々しい轟音と共に、橋の表面から巨大な岩壁が高くせり上がり、行く手を完全に塞いだ

 

「あ……あれは…………巨大チョコレートっ!?」

 

『壁だろっ!!!どう見ても!!!』

 

「どうやら……物理的な破壊は無効らしいな」

 

「そのようです。致し方ありませんね……リーダー」

 

「だな……派手に行くぜっ!」

 

「あいやっ!待たれいっ!!我が同胞たちよっ!」

 

決め台詞を発しようとした時だった。一つの声が響き渡り、何かがソウテン達と火妖精(サラマンダー)群勢の間に飛来した

 

「私との出会いに、貴殿等が泣いたっ!我が同胞たちの助けを求む声に応え、バナナ農家コーバッツ!!見参っ!!!」

 

拍子木が打ち鳴らされたような効果音と共に姿を見せた、屈強な男性は歌舞伎を彷彿とさせる名乗りを、高らかに挙げる

 

『よっ!待ってましたっ!バナナのオッさーーーーん!!!』

 

「………全員、揃っちゃった……」

 

「プ〜ン」

 

「ぴよぴよ」

 

「きゅるる〜」

 

突如、現れたコーバッツを前に盛り上がるソウテン達の背後では、揃ってしまったメンバーにミトが盛大なため息を吐く

 

((ご、ゴリラが降ってきたーーーーっ!!!))

 

そして、事情を知らないリーファとフィリア、火妖精(サラマンダー)群勢の心の叫びが一致したのであった




遂に集合した最強の集団、《彩りの道化》。彼等こそ、妖精の世界にメスを入れる究極の救世主なのかっ?それとも破壊者っ!?

NEXTヒント 3狩リア勃発


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四奥義 大乱闘!ハジケブラザーズで、シル‐ブ‐プレ?

遂に集合したバカたち!最強の集団は世界をどう彩るか!
あっ、何気にオリキャラ出します


2025年1月21日 ルグルー回廊

 

 

「オッさん!久しぶりだなぁーっ!」

 

「うむ、元気にしていたかね。我が友よ」

 

「「まさかの知り合いっ!?」」

 

嬉しそうに声を掛けてきたグリスに、コーバッツも、再会を喜ぶような笑みで応えを返す。その姿に、飛来した男が知り合いであったという事実を知ったリーファ、フィリアの突っ込みが放たれる

 

「よお、元気そうで何よりだ。オッさん」

 

「うむ!貴殿も息災のようで、何よりだっ!………不意打ちバナナクラッシュを喰らえっ!!!」

 

グリスに続くように、久方ぶりに会うコーバッツに挨拶を返すソウテン。最初こそは、その再会を喜んでくれていた彼であったが、即座にストレージから取り出した一房のバナナで、ソウテンを殴り付けた

 

「ぐもっ!?なんで、何時も殴られんのっ!?」

 

「当然の報いだ」

 

「貴方に意見する余地はありません」

 

「自分の胸に手を当てて、犯した罪の重さを考えなさい」

 

「悔い改めてください」

 

「バカには良い薬」

 

「貴様よりもそこら辺の蟻の方がまだマシな思考をしている」

 

「全くだ、テンはムシ以下だな」

 

「なんで、コイツがリーダーなんだ?マジで」

 

「………ぐすん」

 

自分が殴られるという現状に意義を唱えるソウテンだったが、彼に味方は居らず、完全に四面楚歌となり、矢継ぎ早に反論され、仮面の奥にある瞳からは、涙が流れていた

 

「な、なんだ……この集団はっ!!!」

 

「恐らくはハジケリスト……しかも、あの仮面と黒コート、小さい方のゴリラはキングオブハジケリスト三人衆に違いないっ!とうとう…ハジケ合える日が来----ごばっ!?」

 

火妖精(サラマンダー)のリーダー格が瞬ぐ隣で、彼等に力を貸しているであろう音妖精(プーカ)の男性が、ハジケリストであることを見抜くが、突然の奇襲を受け、地面に叩きつけられた

 

「無礼者っ!!!妾の前に立つとは何事じゃっ!!!妾を、あの妖精王オベイロン直属の八人衆が一人、水災のアタンと知っての狼藉かっ!!!」

 

「いやっ!俺も八人衆なんですけどっ!?」

 

「貴様など、知らんわっ!!!」

 

「仲間だよなっ!?」

 

「…………アタンと、このフリューゲルス、そして………名前も知らない変な人が相手をします」

 

「ちょっ!俺、お前の兄貴ですけどっ!?お兄ちゃんのコンドリアーノだよっ!?フリューゲルスっ!……と、兎に角だ!お前たちには、伝説のチーム戦【3狩リア】を申し込むっ!!!」

 

『さ、3狩リアだって!?』

 

「えっ……なにそれ?」

 

驚くソウテン達を他所に、リーファは聞き覚えのない単語に疑問符を浮かべ、首を左右に捻り出す

 

「あの伝説に名高いバトル形式を知ってるなんて…!」

 

「3狩リア、其れは遥か昔にハジケリストが考案したとされる3対3のバトルロイヤルの事であると記憶しています。リーファさま」

 

「やっぱり知ってた………っ!!!ていうか、詳し過ぎないっ!?エスちゃん!?」

 

「まさか、廃れていなかったなんて…!」

 

「いや、今回もフィリアが言ったんだよっ!?」

 

「受けてあげるわっ!その3狩リア!行くわよっ!」

 

「ふっ……これくらい、パスタを茹でる時間稼ぎにもならないぜっ!」

 

「カバディ!カバディ!カバディ!!」

 

鍋焼きうどんを啜るミト、背後の焚き火に掛けたパスタ鍋を心配するキリト、ディアベルとカバディに興じるソウテンが参戦を表明する

 

「さ、最強の三人だーーーーっ!!!」

 

「全員、血みどろにならなければいいが……」

 

「職人さんっ!怖いこと言わないでくれませんっ!?」

 

最強布陣に驚愕するリーファの背後、アマツがこれから起こる惨劇の結果を予期するが、シリカに突っ込まれる

 

「取り敢えず、先攻はもらうぜっ!喰らいなっ!」

 

「………ふぅ」

 

開戦と共に走り出したコンドリアーノ。しかし、彼が見据えていた仮面の道化師は視界から姿を消した

 

「なっ……!ど、どこだっ!」

 

「コンドリアーノっ!!上じゃっ!!逃げよっ!!!」

 

「……いいえ、逃げられません。今宵の天候は、自由を彩る()に御座います、突然の豪雨に御注意くださいませ」

 

「ぐぁぁぁぁぁ!!!」

 

遥か上空から、降り注ぐ雨がコンドリアーノを襲う

 

『さっすがリーダーっ!!縮めて、さすリーダー!』

 

仲間たちからの歓声に、深々と頭を下げる姿は相変わらずで、尚且つ、その仮面の奥には、不敵な笑みが浮かんでいる

 

『ミト(さん)は!』

 

「貴女、さっき八人衆とか言ったわね?吐きなさい?アスナは何処?」

 

「妾に質問するでないわっ!この無礼者っ!よいか?妾に質問して良いのは、妾だけじゃっ!」

 

「偉そうにしてるけど、貴女はまだまだヒヨッコよ」

 

「なんじゃと…?大人な妾に向かって、ヒヨッコとは何様じゃっ!」

 

「何様…ですって?決まってるじゃない………私は、世界的に有名な大人の女《横浜の純子》が娘、ミトよっ!!いい?オベイロンの横暴を手助けするような人は、大人になれない……そう、大人にはなれないのよっ!」

 

『見下しすぎて、見上げてらっしゃるーーっ!!!』

 

上から目線なアタンに対し、更なる上から目線で応えるミトの姿は実に奇怪だった。見下しすぎる余り、その逆、つまりは見上げていた。余談であるが彼女の右手には、ジンギスカン鍋が乗っている

 

「今晩のパスタはペンネだっ!!!ハジケ奥義・ナポリタン革命!!」

 

「いやぁぁぁぁ!?パスタの化け物ぉぉぉ!!!」

 

「ふははははははっ!!!」

 

『なんか変な戦いしとるっ!!!』

 

フリューゲルスは襲い来るパスタの化け物から逃げ惑い、キリトは爆進する化け物の肩に乗りながら、悪役のような笑い声を挙げている

 

「よし、ミト。アレやんぞ!」

 

「アレね。分かったわ、テン!」

 

「えっ?ちょっ!味方なんだけどっ!?いやぁぁぁぁ!離してぇぇぇぇ!!!」

 

爆進中の化け物から、引き剥がされたキリトは、ソウテンがストレージから取り出したカノン砲に、詰め込まれる

 

「「ハジケ協力奥義・パスタキャノン!!」」

 

「迷子に鍋女っ!後で覚えてやがれーーーっ!!!こうなったら、ヤケクソだ!喰らえっ!ハジケ奥義・ボネローゼアルデンテ!!!」

 

「「なんのっ!協力奥義・コンドリアーノガード!!!」」

 

「裏切り者ぉぉぉ!!!ぐぼらっ!?」

 

発射されたキリトはやけくそ気味に、ストレージから取り出した硬めに茹でたパスタで、三人衆を狙い打つが女性陣は落ちていたコンドリアーノを盾に、攻撃を回避する

 

「なんのっ!第二砲弾!迷子(ファンタジスタ)発射!」

 

「恋人に裏切られたぁぁぁぁ!!?」

 

回避した先に発射されたソウテンが、アタンとフリューゲルスに激突。煙幕が立ち昇り、その光景を見ていたミトは、

 

「よし……厄介払いはすんだわ」

 

『厄介払いっ!?』

 

ガッツポーズをし、満足そうな笑みを浮かべていた

 

「こ、これは……すごい戦いですっ!実況したい、実況したい、実況したーいっ!!!」

 

「「シリカちゃんが壊れたぁーーーっ!?」」

 

激しい戦いに興奮したシリカの中に眠っていた司会魂が高まりを増し、遂に叫び出した彼女にリーファとフィリアが驚きを示す

 

「シリカ。あそこに職人が実況席を作ってる」

 

「行ってこい、実況はシリカの務めだろ?」

 

「行くが良いっ!少女よっ!」

 

「かまして来いっ!」

 

「期待しています」

 

「仲間の期待に応えるは、アイドルの使命っ!この戦いの運命はあたしのマイクに賭けられたっ!!!司会を務めますは、このあたし!あの伝説のギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》が誇る天真爛漫にして、百点満点のVRアイドル!シリカですっ!」

 

「解説のエストレージャです」

 

「エスちゃんっ!?勝手に何やってるのっ!?」

 

実況席で生き生きとするシリカの隣には、知らない間にエストレージャが座っていた。自分の《プライベート・ピクシー》のまさかの行動にフィリアが思わず、突っ込む

 

「はぁはぁ……なかなかのハジケ振りだな。だが、俺たちのハジケはこっからが…ん?なんだよ」

 

「兄さんの話だけど、誰も聞いてないわ」

 

「えっ…?」

 

フリューゲルスの発言に、コンドリアーノは自分の目の前に視線を向ける

 

「「ミトてめぇぇぇ!!!」」

 

「私は悪くないわ。いい?ハジケ足りない二人が悪いのよ、故に私は悪くない」

 

「「なにを開き直ってんだっ!!!」」

 

「あのねぇ……この際から言っておいてあげるけど、ピーナッツバターやパスタよりも、鍋が最強なのよっ!!!」

 

「いいや、ピーナッツバターだ。この世にピーナッツバターを超える食材は存在しない」

 

「ふっ、分かってないな。パスタこそ至高…この世はパスタを中心に廻っていると言っても過言じゃない」

 

「「いや、過言だよ」」

 

(話を聞いてねぇーーーーーっ!!!)

 

幕を開けた、伝説のチーム戦【3狩リア】。この争いの軍配は何方に上がるか……其れは誰にも分からない




伝説のチーム戦の軍配は何方に…!ドキドキハラハラの大乱闘の行く末や、如何にっ!!!

NEXTヒント 大人になれないヤツはおいていく


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五奥義 大人になりなっ!誰が締めたって良いじゃない!

大人、其れは世界を彩る大半の人種。そう!世界に生きる8割が大人なんだよっ!!!


2025年1月21日 ルグルー回廊

 

 

「ルグルー回廊で、火妖精(サラマンダー)に加担する八人衆に伝説のチーム戦【3狩リア】 を挑まれた彩りの道化(カラーズ・クラウン)の面々。迎え撃つはギルド最強の三人であるリーダーのソウテン、サブリーダーのキリトとミト、不慣れな世界で不利かと思われた彼等でしたが、その差は歴然の差でした。其れもその筈、何故なら、彼等は………

 

 

 

オカンだったのです

 

刹那、暗闇から天然パーマに豹柄の服を着用した三人が姿を見せた

 

「オカンっ!?いやっ!訳わかんないんだけどっ!!!」

 

急な意味不明なあらすじにリーファは突っ込みを入れながら、この文を作り出しているであろう人物を探す

 

「持つべきはオカン、日本のオカンはお天道様よりも偉い!天晴れ、オカン!」

 

「きっくんが犯人だったの!?」

 

その犯人は、愛用の眼鏡をくいっと上げる仕草をしながら、段ボール箱を机に原稿用紙と向かいあうヴェルデだった。まさかの行動に、リーファが突っ込みを放つ

 

「よしっ!オカンのままで、アレをやるぞっ!!!」

 

「「了解!リーダー!!」」

 

「「「超協力奥義・オカンサファリパーク!!!」」」

 

「「「許してぇぇぇぇ!オカーーーン!!!」」」

 

「服から豹が飛び出したーーーーーっ!!?」

 

豹柄の服から飛び出した三匹の豹は、コンドリアーノ達に襲い掛かり、あり得ない光景にリーファが驚愕し、叫ぶ

 

「ふざけるのも良い加減にせぬかっ!!!この無礼者っ!!!」

 

「…………テンの字、キリの字、ヘル子。あの女だけは早急に始末しろ」

 

「「「お任せを、職人!!!」」」

 

「なぜにっ、妾っ!?」

 

3狩リアを傍観していた筈のアマツが降した突然の指示により、標的となったアタンが驚きの余り、彼の方に視線を向け、叫ぶように問う

 

「当然の報いだ。貴様は、俺の決め台詞をパクった」

 

「決め台詞っ!?なんの話じゃっ!?」

 

「「「せーの………ハジケ奥義・包丁乱舞(職人の怒り)!!!」」」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!!」

 

「「って!こっちに来んなぁぁぁぁぁ!!!」」

 

『だ、大惨事だ……っ!!!』

 

逃げ惑うアタンへと、降り注ぐ刃物の豪雨による二次被害を受けるコンドリアーノとフリューゲルス。その様子を観戦していたフィリア達は敵側に同情するが、アマツだけは満足気であった

 

「さすがは我がギルドが誇る三強!世界が変わっても、息の良さは抜群だーっ!いやぁ実に見事な戦いですねっ!解説のエストレージャさん!」

 

「はい、実に興味深いです。人間とは、こうやって絆を深めるんですね、記憶しました」

 

「「いやいやっ!変な誤解が生じるから、記憶しないでっ!!!」」

 

「さーて……止めだっ!プルー!!!」

 

「ププ〜ン!」

 

「ハジケ奥義・飼い犬砲弾(ドッグインパクト)っ!!!」

 

「「「ぎゃぁぁぁぁ!?」」」

 

放たれたプルーが螺旋状の鼻で、三人を貫き、三色のリメンライトに変える。同時に、【3狩リア】 の勝者がソウテン、ミト、キリトに決まり、彼等の強さを理解した火妖精(サラマンダー)の群勢が白旗を旗めかせる

 

「で?アスナはどこ?」

 

「あ、アスナ?えっと…ごばっ!」

 

「答えなさい、アスナはどこよ」

 

「ひぃっ!ゆ、ゆるし…ぐべらっ!?」

 

『新手の通り魔だっ!!!』

 

降参した筈の火妖精(サラマンダー)に質問しながら、答えが無ければ、鎌を振り下ろし、黙らせるという通り魔染みた行動を取り始めるミトの姿に誰もが戦慄する

 

「ちっ……負けは負けだ、好きにしろ」

 

「そうじゃ……我々、八人衆には敗北は許されん」

 

「妖精王さまのお力になれぬ八人衆など……八人衆に在らず……」

 

「若き妖精たちよ……敗北からは何も生まれないというのは間違いだ。人は敗北から学び、其れを糧に新たなる世界への一歩を踏み出し、またゼロから始めるのだ、その糧はいつの日か無限大を生み出し、また一つ大人になってゆくのだ……生き給え、其れが貴殿等に出来る唯一の償いなのだから」

 

「「「ゴリラっぽい人」」」

 

「見たまえ……夜明けだ。ふむ…これにて一件落着だなっ!」

 

『お前が締めるんかいっ!!!』

 

最終的に全てを締め括ったのは、まさかのコーバッツであった。絶望感に打ちひしがれていたコンドリアーノ、アタン、フリューゲルスの心には、まるで素敵な音楽のように響き渡った

 

「まあ、そういうわけでだ。アスナって名前に聞き覚えがあるなら、教えてくれねぇか?……うちのミトさんが、吠える前に」

 

「ふっー、ふっー!」

 

仮面越しに困り顔を浮かべるソウテンの背後で、仲間たちに宥められながらも、猫のように唸るミトは、未だにコンドリアーノ達を敵視していた

 

「アスナってのは知らねぇが……妖精王様が妖精女王(ティターニア)って呼んでる女が居るのは知ってるぞ。会ったことはないが」

 

「何でも妖精王さまが仰るには……女神の如き美しさを持つ美少女だという話です」

 

「「アスナっ!絶対にアスナだっ!」」

 

『………いやぁ、違う人じゃない?だって、アスナ(さん)は女神ってよりもおっかない閻魔だし』

 

「「んだとコラァ!!!」」

 

この中で、他ならぬ誰よりもアスナを大切に思うキリトとミトは断言するも、他の面々は口を揃え、否定した。刹那、鬼の形相を浮かべた二人が、ソウテン達に襲い掛かる

 

「こ……コーバッツ殿と申したか?その……お主は……今、好いとる女子はおるのか…?な、なければ……妾など、どうじゃ?こう見えても、尽くすタイプじゃぞ」

 

一方で、コーバッツの持つ野生的な姿に惹かれたアタンは、恥ずかしそうにしながらも、自分をアピールしてみせた

 

「アタン殿。貴殿の気持ちは大変、嬉しい」

 

「本当かっ!ならばっ!」

 

「あいや、待たれよ。私は貴殿の気持ちには応えられん」

 

「な、何故じゃっ!?」

 

断られると思っていなかったのか、アタンは食い気味に問い掛け返す

 

「………私には夢があるのだ。そう、バナナを世界の主食にするという夢がっ!」

 

「な、なんとっ!!!そんな壮大な夢が…っ!」

 

『やっぱりバナナかいっ!!!』

 

理解していたが、揺るがないバナナを想う気持ちを持つコーバッツの宣言にソウテン達の突っ込みが飛んだ

 

「よっしゃぁ!景気よーく!行くぜっ!」

 

「そうだな」

 

「よし、グリス。この椅子に座れ」

 

「おっ?なんだ?」

 

キリトはストレージから一脚の椅子を取り出し、グリスに座るように促す。すると、彼は疑問符を浮かべながらも、疑いもせずに椅子に座った

 

「「ゴリラ発射!!!」」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!?なにしやがんだぁぁぁぁ!!迷子にぼっちぃぃぃぃ!!!」

 

ソウテンの槍とキリトの剣が、クリティカルヒットし、グリスは椅子もろとも空の星になった

 

「「さらば、ゴリラよ」」

 

「グリスさんに何しとんじゃぁぁ!!グリスさぁぁぁぁん!!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

一匹が飛び去った方向に、敬礼するバカ二人の背にフィリアは飛び蹴りを放ち、全速力で走り出した

 

『いやどんだけ夢中なんよっ!?』

 

突っ込みながらも彼女を追いかけ、《鉱山都市ルグルー》の城門を潜る。行き交う人々には、ソウテン以外の音妖精(プーカ)だったり、アマツ以外の鍛冶妖精(レプラコーン)が談笑していた

 

「だからよぉ、空からじゃ分かんねぇよ」

 

「ぐすん……ホントだもん…ホントのホントに……空から来たんだもん……」

 

「グリスさんを泣かすなっ!引っ叩くよ!!」

 

その中心には、涙ぐむ一匹と周囲を威嚇する迷子が一名

 

「リーファ、あのバカ二人を引き取って来てくれるか」

 

「う、うん」

 

「「あっ!マミー!」」

 

「マミーっ!?」

 

二人を引き取る為にリーファが近づくと、彼女に気付いたグリスとフィリアがアメリカン的な呼び方で近寄ってきた

 

風妖精(シルフ)のお嬢さん。アンタのお子さんか?」

 

「いえ、赤の他人です」

 

((他人の振りされたっ!!!))

 

プレイヤーの問いに真顔で否定するリーファ、突き放された二人はこの世の終わりみたいな表情を浮かべる

 

「どりゃぁぁぁぁ!バナナキック!!!」

 

「あっ!待てぇぇぇぇ!!!俺のバナナぁぁぁぁ!!!」

 

突如、ソウテンが蹴り飛ばしたバナナを追い、グリスが走り出す

 

『さて、一旦帰るか』

 

「えっ!?帰るのっ!?」

 

走り去った馬鹿を放置し、ソウテン達は帰りの準備を始める

 

「ロトくん、ロトくん!ピーナッツバタークッキーが売ってますよ!」

 

「おろ?美味そうだねぇ」

 

「美味いぞ。ロトも食べてみな」

 

『いつの間に買ったんだ!!!アンタはっ!!!』

 

既にピーナッツバタークッキーを購入し、口に運ぶソウテンに全員の突っ込みが飛ぶのであった




遂にルグルーへとたどり着いた一行!しかーし!彼等に安息の時間はない!次から次へと起こる問題にリーファの突っ込みが冴え渡るっ!

NEXTヒント レベルアップはお早めに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六奥義 野放しは危険っ!ハジケすぎには要注意っ!!

ギャグ回です!うんまぁ、何時もギャグなんですけど


「そう言えば……リーファ。【3狩リア】が始まる前に、メッセージが届いてたよね?誰からだったの?」

 

「あ、忘れてた」

 

フィリアからの問い掛けに、思い出したように呟いたリーファはウィンドウを開き、メッセージを読み返し始める

 

「テンにも、届いてたよな?誰からだったんだ?」

 

「気にすんな。迷惑メールだ、読んで直ぐに削除しといた」

 

「なにっ!?私からのメッセージを削除したのかっ!!」

 

『差し出し人はアンタかいっ!!!』

 

ソウテンに届いた妙なメッセージの差し出し人がコーバッツであった事に、ミト達が突っ込みを放つ。リーファは、フレンドリストのレコンの状態を確認するが、オフラインになっており、メッセージを打つことが出来ない

 

「何よ、寝ちゃったのかな」

 

「一度、落ちてみたらいいよ。その間、体は見といてあげるから」

 

「そうね、何か重要な要件かもしれないし。私たちはこの辺りで時間を潰してるわ」

 

「じゃあ、ちょっとだけ落ちて確認してくるから待ってて」

 

そう言い残し、リーファは一時的にログアウト状態となり、アバターだけがその場に残される。其れを確認した後、ミトは軽く息を吐く

 

「ふぅ……そう言えば、ヤケに静かだけど……みんなは?」

 

「ああ、テンちゃんたちなら……リーファが落ちると同時に、『バーゲンセールの時間だわっ!!』とか言いながら、駆け出して行ったよ?あっちの方に」

 

「しまった……というか!フィリアもどうして、止めなかったのよっ!?」

 

束の間とはいえ、ソウテンたち(バカたち)を野放しにしてしまった事に苛立ちながらも、彼等を止めなかったフィリアに問いを投げ掛ける

 

「だって、『止まらないパッション!』とか言いながら走り去っていったから、言わない方がいいのかなって思って」

 

「……とにかく!早くバカたちを探さないとっ!」

 

「あっ、とーさんだ」

 

《ルグルー》の街を走りながら、バカたちの行方を探しているとミトの頭に乗っていたロトが、父親(ソウテン)を見つけ、足を止める

 

「今から、塗りたくっていくけど日和ってる奴いる!?いねぇよなぁ!!?」

 

『うぉぉぉぉぉ!!!クラウーーーン!クラウーーーン!クラウーーーーーン!!!フゥゥゥゥゥゥゥ!!!』

 

「「塗りたくろうとしてるーーーーーっ!?」」

 

ローラーを片手に、乱暴な問いをする仮面の道化師の周りには、筆やブラシなどを装備した妖精たちが密集し、まるで彼を、暴走族のカリスマ総長のように、祀りあげていた

 

「あっ!パパがいます!」

 

続いて、ユイが自分の父を発見し、ソウテンがリアル塗りたく〜るテンタク〜ルをしようとしているのとは真逆の方向を指差す

 

「今日より、この店はパスタ専門店に生まれ変わる。異論は認めん」

 

『いや誰だっ!!!アンタはっ!!!』

 

「お前らの店長だが、先程…謎の黒ずくめの男に襲われた。その為、俺が臨時の店長になることになった!」

 

(いやいや!アンタの背後に倒れてるの店長なんですけどーーーっ!?)

 

「「パスタ屋を開いとるっ!?」」

 

レストランの経営者を襲撃し、勝手にメニュー全てがパスタのパスタ屋を開いてるキリトに、店員たちは、不信感丸出しの表情を浮かべる

 

「マスター・フィリア、ミトさま。彼方にシリカさまとヒイロさま、ディアベルさまを捕捉しました」

 

次に、エストレージャが焼き鳥バカ(ヒイロ)マイクバカ(シリカ)バカクーヘン(ディアベル)を発見し、広場にある舞台の方を指差す

 

「みんなー!今日は来てくれてありがとー!!!マイク片手に妖精界を彩るアイドル!彩りアイドルのシリカでーーーす☆」

 

『L・O・V・E!シリカ!がんばれ、がんばれ!シリカ!!』

 

「焼き鳥〜、焼き鳥〜。美味しい焼き鳥いかがっすか〜」

 

「バームクーヘン!バームクーヘンだよ!今ならなんと、このバームクーヘンにシリカのブロマイドをつけて特別に《800ユルド》だよ〜っ!!!」

 

「「いつの間にアイドルデビューしたのっ!?」」

 

軽快なステップと卓越したマイクパフォーマンスを披露し、ファンに笑顔を振り撒くシリカ。その側にある舞台袖では、焼き鳥を売り歩くヒイロ、屋台でバームクーヘンとブロマイドを売るディアベルの姿があった

 

「おろ?ヴェルデとグリス、コーバッツに職人だ」

 

更にロトが、バカ眼鏡(ヴェルデ)と、二匹のゴリラ(グリスとコーバッツ)鍛冶バカ(アマツ)を発見し、広場近くの噴水に視線を動かす

 

「あの……職人?何故、僕たちは正座をさせられているでしょうか……」

 

「宿題をサボったからだ」

 

「宿題……?そんなのあったか?オッさん」

 

「い、いや……覚えはないが…」

 

「宿題……ああ、あのパイナップル観察日記ですね!」

 

「違う。お前らは、覚えているな?勿論」

 

『ゔぇっ!?』

 

急に矛先が自分たちに向き、行っていた馬鹿騒ぎを中断するソウテンたち。すると、彼等から大量の冷や汗が、溢れ出る

 

「た、確か…あれですよね?『人は何故ボケるのかについてのレポート』!」

 

「違う」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!!包丁に襲われるーーーっ!!!」

 

真っ先に反応したソウテンであったが、適当な宿題を提出しようとした為に大量の包丁に襲われ、逃げ惑う

 

「ふっ……これだから、迷子は。宿題はこれでしたよね?職人。『包丁の研ぎ方』」

 

『ぼっちコラァ!汚ねぇぞっ!!!』

 

一番ありそうな宿題をでっち上げたキリトに、他のメンバーが異議を唱えると同時に襲い掛かる

 

「貴様ら………ふざけ過ぎだ。俺が出したのは、『刃物と着物の共存』についてのレポートだろうがっ!!!バカモノっ!!!」

 

「「いやいやっ!共存できないからっ!!!」」

 

「レポートが終わるまで、この街から出ることは許さん」

 

かくして、職人が出した宿題を終わらせる為にソウテンたちは、必死に纏め始める

 

「………行かなきゃ」

 

「あっ、起きた」

 

Bienvenido de nuevo(おかえり)

 

「おかえりなさいです」

 

「うん、ただい……って!何事っ!?」

 

意識を覚醒させ、ロトとユイの挨拶に返答しようとしたリーファの眼前に飛び込んで来たのは、大剣を肩に担ぎ仁王立ちの状態で、睨みを効かすアマツに何かを差し出すソウテンたちだった

 

『刃物は切る、着物は着る。何方も意味は違うが、少しだけ似ている』

 

「「「謎かけっ!?」」」

 

「…………よくやったな。お前たちの頑張りには、感動したぞ。今から、今日という日を「職人の日」として祝日に変えるぞっ!!異論は認めんっ!」

 

『さすが職人!』

 

1月21日 [職人の日]職人が仲間たちの頑張りに感動した日

 

「「「いやっ!勝手に祝日を作っちゃ駄目だろっ!!!」」」

 

勝手に祝日を作るアマツに賞賛を送るソウテンたちとは正反対に、ミトとフィリア、リーファは突っ込みを放つ

 

「……っと、こんな事してる場合じゃなかった。あたし、急いで行かなきゃいけない用事が出来ちゃった。説明している時間もなさそうなの。多分、此処にも帰ってこられないかもしれない」

 

「そうか。じゃあ、移動しながら話を聞こう」

 

「え……、でもかんけ--」

 

「関係ないは無しですよ?スグちゃん」

 

「きっくん…」

 

(キリト)の発言に対し、リーファが“関係ない”と発言しようとするが、ヴェルデに遮られ、彼を見詰める

 

「言ったじゃないですか、僕と貴女には縁が出来とね。其れにです……リーダーたちは、既にやる気ですから」

 

「………あっ」

 

「関係ないんだってよ、テン。どうする?」

 

「んなの聞かんでも分かるだろ?」

 

「だな」

 

「だね」

 

「ですね」

 

「無論だ」

 

「当たり前だろ」

 

「うむ!当然!」

 

「そういう訳だから……リーダー。いつものお願いできる?」

 

「あいよ」

 

仲間たちの意見が纏まるのを確認し、ミトが問うと、彼は、仮面越しに、御決まりとなった不敵な笑みを浮かべる

 

「派手に行くぜっ!野郎ども!」

 

『了解!リーダー!!』

 

「心強いね?リーファ」

 

「そうだね。フィリア」

 

世界樹攻略を前にリーファが直面した問題を手伝うことになった《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》。果たして、彼等を待ち受けるのは一体……




道化たちと対面するは、風と獣の領主。そして、火の妖精を率いるは一人の屈強な男性プレイヤー!

NEXTヒント ケモ耳は正義!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十七奥義 走り出せっ!道の先に待つは、ブラコンとケモ耳♪

今回もギャグ満載のフルスロットル!更に!あいつの身内も登場!?


「作戦会議をしておきましょう。闇雲に動くと、碌なことにならないわ」

 

「そうですね、ミトさん。突破口となりうる案を出し合いましょう!」

 

リーファの野暮用に付き合うに当たり、早急な解決を願うミトは、率先するように指揮を取る

 

「ちょいと待ちな」

 

「ん…テン?どうか……って!なにしてんのぉ!?」

 

「見てわかんねぇか?七並べだ」

 

「七並べっ!?」

 

先を急ぐ旅であるにも関わらず、ソウテンは

キリトと七並べに興じていた

 

「おいコラ、テン。ハートの4を止めてるだろ。俺のハートの3が出せねぇだろ」

 

「そういう、おめぇさんもスペードの8を止めてんじゃねぇの。悪いことは言わんから、さっさと出した方が身のためだよ?キリトくん」

 

「ふっ…何のことやら。自分の落ち度を他人に擦りつけるとはな、所詮は迷子の浅知恵か」

 

「ぼっちに言われたかねぇ」

 

「先を急ぐって言ってるでしょ!!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

伝家の宝刀を振り下ろし、二人のバカを強制的に黙らせるミト。同時に周囲を見回し、他のバカたちに視線を動かす

 

「俺のターン、ドロー。俺はファイアー・トルーパーを召喚して、そのエフェクトにより、ファイアー・トルーパーをリリースし、セメタリーに送り、プレイヤーにダイレクトアタック!」

 

「くっ……!やりますね…!さすがは、ヒイロ・ヤキトリ!ですが!デュエルは楽しんだ方が勝ちです!僕はトラップカード・HEROシグナルを発動!カムバック!E・HEROフェザーマン!更に融合を発動!手札のバーストレディーとフェザーマンを融合!紅の女戦士よ!白き翼を携えし、緑の戦士と一つになりて、その拳を真っ赤に燃やせ!現れ出でよ!E・HEROフレイムウィングマン!」

 

「出たっ!ヴェル代のフェイバリットモンスター!」

 

「フレイムウィングマンの攻撃を受けてみなさい!」

 

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

「ガッチャッ!楽しいデュエルでしたよ!」

 

「其処ぉ!デュエルしないっ!!!」

 

「そいじゃ、おふざけはこの辺までにしといて。先をいそ---ぐもっ!?」

 

「真っ先にふざけてた癖に仕切るなっ!!!」

 

リーダーらしく、気を引き締め直し仕切り出すソウテンの頭上にミトは、怒りの鉄槌を振り下ろし、彼は御決まりの叫び声を上げ、地面に倒れた

 

「先を急ぐわよ。キリトはリーファを、グリスはフィリアの手を掴んで、先導しなさい。ディアベルは、その迷子を縄で引き摺りなさい」

 

「「「お任せください。女王さま」」」

 

「女王さまっ!?」

 

「そいじゃ、レッツゴー!」

 

「よーし!わたしとテンちゃんに着いてきて!」

 

『勝手に行くなぁ!!!傍迷惑迷子兄妹(ファンタジスタブラザーズ)!!』

 

ミトの指示を無視し、走り出したのは縄で縛られていた筈のソウテンとその妹であるフィリア。明らかにリーファが、向かおうとしていた方向とは真逆、来た道を引き返す双子を、仲間たちは、呆然と眺めていた

 

「…………あのバカ双子は、放っておきましょう」

 

「そうだな。ロトとエストレージャが一緒なんだ、何とかなるだろう…なぁ?ユイ……ん?ユイ?おーい、ユイさーん?」

 

「あっ、キリトさん。ユイちゃんからのお手紙がありますよ」

 

「手紙?はっはっはっ、ユイもなんだかんだで、父親離れが出来てないな…どれどれ…」

 

『パパへ ロトくんやエスちゃんとたくさんおはなししたいので、テンにぃとフィーちゃんさんについていきます。ユイより』

 

娘からの初めての手紙に感動を覚えたのも束の間、最悪の二人に着いていった彼女の安否が心配になり、キリトの顔から血の気が引いていく

 

「ユイーーーーーー!!パパが今行くぞォォォ!!!」

 

「……………先を急ぐわよ」

 

「えっ!?お兄ちゃんたちは放置!?」

 

「ポニ子、諦めろ。あのバカはお前の知る兄ではない」

 

「ええ、残念なことに」

 

「ぼっちだけど」

 

「ゲームばっかしてるけどな」

 

「パスタバカでもありますよね」

 

「何でも辣油を掛けるイカれた味覚の持ち主でもあるな」

 

「うむ、結論から言うとだな。貴殿の兄は、変態だ」

 

「仲間ですよねっ!?お兄ちゃんへの信頼薄くないっ!?」

 

『やだなぁ、リーファさん。何を今更』

 

「ハモってる!!!」

 

信頼の薄い兄を気にかけ、リーファは驚きを示すが、彼等の絆が本物であることだけは、理解していた。共通の目的を果たす為に、次々と集った彼等の間には、不思議な絆があった。年齢も違えば、性別も違う、更に言えば、種族も違う、しかしながら、彼等は其れを気にせず、当たり前のように馬鹿騒ぎをする

その光景をリーファは知っていた

 

『カズっ!見ろ!あっちのショップに新しいパックが売ってる!』

 

『なにっ!?よし!シンクロモンスターを手に入れてやるっ!お年玉全額注ぎ込むぜっ!!』

 

『甘いですね、カズさん。僕は既にシンクロモンスターよりも高度な地爆神を手に入れています』

 

『菊丸も甘い。俺はシンクロを超えた究極のシンクロ、デルタアクセルシンクロをモノにしてる』

 

『ちきしょぉぉぉ!!猿モンスターばっかりじゃねぇか!!!』

 

「変わらないな、やっぱり…」

 

変わらないその光景に、リーファは笑みを溢す。見慣れた姿を横目に、洞窟を駆ける

余談ではあるがソウテン、フィリア、キリトは《プライベート・ピクシー》と共に行方不明である為に、完全に放置状態になっているが、それはまた別の話である

 

「抜けた!」

 

「森ばっかりですね……はっ!新曲は森を題材にしよう!」

 

「どうだね?グリス。バナナが生えていそうな原生林は見えるかね」

 

「ん〜…おっ!あっちはどうだ?オッさん!」

 

「おお!あっちか!」

 

「あっ、グリス、コーバッツ。そっちは」

 

「ん?ディアベル。どうか……あぎゃぁぁぁぁ!!!」

 

「グリス!待っていろ!私が行くぞぉぉぉ!?ウホォォォォ!?」

 

バナナを探していたグリスとコーバッツに、ディアベルが声を掛けようとした瞬間、崖下へ転落した一匹を、救う為に更なる一匹が自らの意志で落下していく

 

「崖だぞ」

 

「ベルさん?普通は落ちる前に言うのよ」

 

「貴方も中々に鬼畜な方ですね」

 

「鬼畜と家畜……一字違い」

 

「ホントだ!ヒイロは賢いね!」

 

「連いてくる人たち……間違えたかなぁ、やっぱり」

 

呆れた眼差しを向け、リーファが溜息を吐く横で、ミトだけは遥か遠くに見える巨大な影を、見据えていた

 

「あれが……世界樹。あそこに行けば……アスナ…待ってて、絶対に迎えに行くから、みんなと」

 

遠くに待つ、親友に想いを馳せ、彼女は愛鎌を強く握り締める。彼女の存在は、ミトにとって、替えの効かない大事な繋がり。断ち切るという選択肢がない程に大切で、最高の親友。彼女との他愛もない時間は、ソウテンたちの居ない時間を埋めてくれた。故に、ミトは、決意を固め直す

 

「今度こそ、アスナを死なせたりしない。あの日の約束を果たしてみせるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央都市《アルン》世界樹上部

 

 

「………ミト?」

 

世界樹の太い枝に吊るされた鳥籠の中、一人の少女が、自分を呼ぶ誰かの声に、周囲を見回す。しかし、其処には誰もいない

居るのは、囚われの身となった自分のみ。だが、彼女は、その声が気のせいであるとは思えなかった

 

「ミトの声が聞こえた……きっと、いるんだ。ミトが……其れにテンくんやみんなも……キリトくんも」

 

最高の親友、騒がしい仲間たち、大事な想い人。彼等との絆は、彼女にとって、生きるための、意味を、目標を、希望を教えてくれた。彼等が居たから、辛い筈の終わりが見えない世界でも、楽しさを忘れずにいられた

 

「会いたいよ……みんな…」

 

少女、アスナは遠く離れた仲間に想いを馳せ、鳥籠の外から見える味気ない景色を前に、消え入りそうな声で呟く

 

「気分はどうかな?妖精女王(ティターニア)

 

金色の長髪が目立つ緑色の服装に耳を包んだ男性、オベイロンは、アスナに呼び掛ける

 

「変な名前で呼ぶのはやめて。だいたい、良い歳の大人が、オベイロ………ぶふっ!オベイロンって…!!恥ずかしくないのかしら…!」

 

「………また来るっ!!」

 

精神的なダメージを与えられたオベイロンは、鳥籠を後にした。しかし、彼の傷付いた心は癒えない

 

(くっ……!これだから、最近のガキはっ!!)

 

(……よし、当面はこの手で切り抜けましょう)

 

かくして、アスナとオベイロンによる細やかな戦いが幕を開けたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森林地帯アルン高原北西部《蝶の谷》

 

 

「サクヤちゃ〜ん」

 

「すまない、待たせてしまったな。ルー」

 

同盟を組む為に、この場で待機していた猫妖精(ケットシー)領主のアリシャ・ルー。そして、遅れるように姿を見せたのは、風妖精(シルフ)領主のサクヤ、彼女は申し訳なさそうにアリシャへ、頭を下げる

 

「別に構わないヨ〜。でもどしたのー?時間を送らせて欲しいなんテ〜、なんかあったのかニャ〜?」

 

「ああ、実はな。夜遊びが多かった弟が、最近はきちんとした時間に帰って来てくれるようになってな、夕飯の支度をしてあげていたんだ」

 

「オ〜、弟くんって、あのゴリラみたいな子だよネ。前に見せてもらった写真に写ってた」

 

「ゴリラじゃない、純くん(・・・)は可愛い小猿ちゃんだ。いいか?純くんはな、昔は私のことを「おねえたん」と呼びながら、背後を付いて回ってな、それはそれは可愛かった。まあ、今も可愛いのに変わりはないがな。ああ…想像しただけで、鼻血が…」

 

「サクヤちゃん……怖いヨ…?ちょっと」

 

弟をゴリラ呼ばわりされ、真顔で凄みながら可愛さを熱弁するサクヤに引きながらも、アリシャは苦笑するしかなかった

 

「あぎゃぁぁぁぁ!!!」

 

「落ち着けェェェ!まだ傷は浅いぞっ!グリス!」

 

刹那、叫び声と共に飛来したのは二人の猿妖精(エイプ)。一人は灰色の髪に、灰色の装備が特徴的なハンマーを背負った少年。もう一人は、バナナ主食主義という訳の分からない幟を掲げたガタイの良い男性だ

 

「「…………誰だ?アンタら」」

 

『こっちの台詞だっ!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃。逆走組はというと………

 

「何処だ?ここは」

 

「知るかっ!この迷子野郎っ!」

 

「落ち着きなよ、キリト。こういう時は急がず騒がずだよ。はい、紅茶」

 

「お前は落ち着きすぎだっ!!迷子人間2号!!」

 

「んだとコラァ!誰がDr.○ロに改造された人造人間だっ!」

 

「お前には言ってねぇっ!!」

 

三馬鹿が言い合うその様子を見守るのは、三人の小さな妖精

 

「ロトくん、エスちゃん。今日も平和ですね」

 

「だねぇ」

 

「です」

 




会談を台無しにする為に最強の敵が立ち塞がる!しかし!バカたちも怯まない!今日も元気にゴー……シュート!!!

NEXTヒント 火薬御飯

ヒントの文字は誤字ではない、誤字ではない!二回言ったのには意味がある!
ちなみに、この作品のサクヤさんなキャラ崩壊激しいです。サクヤさんファンの方には申し訳ない…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八奥義 星に願いを!復活の時!

はいはい!今回もギャグ全開でいきますよー!しかーし!久しぶりに……!


森林地帯アルン高原北西部《蝶の谷》

 

「サクヤーっ!!!」

 

会談場に響き渡るのは、リーファの声。名を呼ばれ、サクヤは振り向く

 

「リーファ!?どうして此処にっ!其れに、この突き刺さった猿妖精(エイプ)は、何だっ!?」

 

「あ〜一言では、説明できないの。まぁ、あの猿妖精(エイプ)たちは、一応……味方だよ」

 

「そ、そうなのか?しかし……一体、何が起きているんだ……」

 

リーファの説明に一度は納得しかけるが、状況を把握出来ず、サクヤは疑問符を浮かべる。彼女の隣に居るアリシャも同様の表情を、浮かべているのを見る限り、彼女も把握出来ていないことは、明白である

 

「其れに関しては、僕が御説明致しましょう」

 

「これは御丁寧にどうも……って!誰だっ!?キミはっ!!!」

 

「申し遅れました、僕はヴェルデと申します。ギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》に所属しております、以後お見知り置きを。ちなみに、其処に刺さっているゴリラと、側で騒いでるゴリラは我々の仲間です」

 

「「ゴリラじゃねぇ!!」」

 

「………取り敢えず、サクヤさんにアリシャ・ルーさんでしたよね?貴方たちは逃げてください、此方へ、火妖精(サラマンダー)が時期にやって来ます」

 

火妖精(サラマンダー)だと…?」

 

「ホントなの?それは」

 

「うん、本当。あっ、提供してくれた人は信頼できる筋の人だよ……まあ、人間的には……ちょっと不安な部分も…あるけど…

 

「そうなんダ。良かったね、サクヤちゃ………って!なにしてるノォォォ!?」

 

アリシャは、リーファの発言に安堵しながら、サクヤの方を振り向く。しかし、其処に居たのは、目を疑いたくなるような行動を取る親友の姿であった

 

「見て分からないか?」

 

「分からないから、聞いてるんだヨっ!?」

 

「私には分かるっ!この可愛い小猿くんは、愛しの純くんだっ!お姉ちゃんだぞっー!」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!すりすりすんなぁぁぁぁっ!!」

 

「頬擦りしすぎて、火が出てるーーーっ!?」

 

突き刺さっていたグリスを引き抜き、自分の弟だと断定するや否や、彼に頬擦りを始めるサクヤ。高速の頬擦りは、次第に勢いを増し、摩擦熱が火に変化し、黙々と煙をあげる

 

「グリスさんに抱きつくなぁぁぁぁーーーっ!」

 

「ぐもっ!?」

 

『どっから来たのっ!?この迷子はっ…!』

 

突如、現れたのは、明後日の方向に走り出し、行方不明になっていたフィリア。彼女の側には他のバカ二人は見受けられないのを見ると、恋い焦がれるグリスの危機を察知し、彼女だけが、此処へ来たようだ

 

「急になんだっ!!私と純くんの触れ合いを邪魔するんじゃないっ!」

 

「姉弟だかなんだか知らないけど、私の目が黒い内はグリスさんには、触れさせないんだからっ!」

 

「………グリス、アンタはあの二人の相手をしなさい」

 

「ゔぇっ!?俺がっ!?」

 

「当然じゃない、アンタのお姉さんとガールフレンドなんだから」

 

「だからって---ぐもっ!?」

 

「答えは聞いてないわ。はぁ…ん?」

 

口答えしようとしたグリスを、物理的に黙らせ、ミトが呆れた眼差しで、肩に愛鎌を担ぎ直すと、彼女の袖を誰かが引っ張た

 

「ミトさん、ミトさん。あれ見て」

 

「あれ?……ふぅん、おいでなすったみたいね」

 

ヒイロに促され、上空に視線を向けたミトの視界に、飛来する無数の黒い影。目を疑うような光景に、恋人譲りの不適な笑みを浮かべ、その様子を視姦する

 

「あ!流れ星!」

 

「願い事しなきゃ!」

 

「敵でしょ!!!どう見ても!」

 

飛来する軍勢を、流れ星だと勘違いするシリカとディアベルにリーファが突っ込みにを放つ

 

(シンデレラガール!シンデレラガール!シンデレラガール!)

 

(一生ナイトでいたい!一生ナイトでいたい!一生ナイトでいたい!)

 

(バナナが主食になりますように!バナナが主食になりますように!バナナが主食になりますように!)

 

(焼き鳥屋!焼き鳥屋!焼き鳥屋!)

 

(インドにカレー修行!インドにカレー修行!インドにカレー修行!)

 

(バナナ食いたい!バナナ食いたい!バナナ食いたい!)

 

(新品の包丁、新品の包丁、新品の包丁)

 

(ずっとグリスさんと一緒に…ずっと一緒に…ずっと…)

 

(アスナに会えますように、アスナに会えますように、アスナに会えますように)

 

「ミトさんの以外、ロクな願い事が無いっ!!!」

 

「ていうか、敵を前に願い事してる時点でおかしいよネっ!?」

 

流れ星基軍勢に、願うミト達であったが、その願い事は碌でもないモノばかりで、唯一まともなのは、親友と再会を願うミトだけである

 

「却下する!!!」

 

『ぎゃぁぁぁぁ!!!』

 

突如、飛来した火妖精(サラマンダー)の大柄な男が、ミト達を斬り付けた。彼等は叫び声を挙げながら、左右に飛び退く

 

「ユージーン将軍、こんな所に何のようだ」

 

「サクヤか。用件は理解しているのだろう?」

 

「ああ、大筋はリーファとヴェルデくんから聞いた。我々を襲撃しに来たとな」

 

「話が早くて、助かる。それで?お前たちは、何者だ」

 

ユージーン、と呼ばれた男は、視界に映り込む見覚えのない多数の種族で構成された団体、つまりは《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々である。このゲームで、徒党を組むのは、珍しくはない。しかしながら、其れが、多種族との混合であれば、話は別だ

 

「私たちは、ギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》所属の者よ。私はサブリーダーのミト。リーダーが諸事情で、不在の為、この場は私が代表として、質問に答えさせてもらうわ」

 

「僕はヴェルデ、このギルドに於ける頭脳です」

 

「ヒイロ、ギルドの切り込み隊長?とかいうのをやってるつもり」

 

「気持ち的にナイトやらせてもらってます!ディアベルですっ!」

 

「私は農業担当のコーバッツ!人は私を、バナナの伝道師と呼ぶっ!」

 

「俺はグリスだぜっ!人は俺を、無敵のパワーファイターって呼んでるかもしれねぇ!」

 

「アマツだ。字名は職人、職業は見ての通り鍛冶屋を生業としている。そこでだ、お前の武器を見せろ、若しくは鍛え直させろ」

 

「最後はあたしですね。あたしは……人気急上昇中の新進気鋭のVRアイドル!シリカです!どうです?あたしの曲を聞いていきませんか?」

 

ミトに続き、矢継ぎ早に自己紹介する面々に、ユージーンは苦笑を浮かべる

 

「うぅむ……中々にキャラの濃いメンツだな……。どうだ?ミトとやら、お前が俺の攻撃に三十秒耐え切ったら、この件から手を引いてやろう。まあ、出来ればの話だがな」

 

「……………こほん、ユージーンさんだったわね?」

 

意気揚々と提案を持ち掛けるユージーンに対し、軽く咳払いをした後、ミトは彼に向き直り、愛鎌を構え、不敵に笑う

 

「貴方の(プライド)、へし折ってあげるわ」

 

決め台詞を発すると同時に、彼女は空高く跳び上がった。其れは、仮想世界に、その名を轟かせた《紫の死喰い》が、表舞台に舞い戻った歴史的な瞬間であった事は、言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、未だに行方不明なバカ二人は、逸れたフィリアを探そうともせずに、鍋を煮ていた

 

「夜食は火薬御飯だ」

 

「わぁ!美味しそうです!見てください!ロトくん!ロウソクが刺さってます!」

 

「おろ?なんかパチパチ言ってるねぇ」

 

ソウテンの手の中には、火花を散らす土鍋に盛られた大量の白米があった

 

「おいコラ、何を入れたんだ?お前」

 

未だかつてない一皿を前に、キリトは顳顬をヒクつかせ、親友に問いを投げ掛ける

 

「爆竹とダイナマイト」

 

「具材ですらねぇだろうが!!!」

 

「ぐもっ!?」

 

果たして、彼等がミト達と合流するのは何時になるのだろうか……其れを知る者は、誰もいない




最強の将軍を前に、鎌を振り抜くミト!彼女は、その果てに、何を刈り取る……?

NEXTヒント 裏切り者

はい、久しぶりにシリアス?的な展開を入れました。次回はカッコいいミトが書けるといいなぁ……というか、テンとキリトはいつ合流するんだろうか…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九奥義 紫の死喰いは笑う。

この章で、初めての真面目な話!!ミトさん!やちゃって!!!
あり?オリ主と原作主人公は何処さ、行った?


「貴方の(プライド)、へし折ってあげるわ」

 

決め台詞を発すると同時に、彼女は空高く跳び上がった。ユージーンも彼女を追随するように、飛び上がり、携えていた巨剣を振り被る。だが、ミトも高い反応速度を瞬間的に発揮させ、紙一重で躱し、反撃に転じようと、愛鎌を降り被った

 

「はぁぁぁぁ!!!……えっ!?」

 

一瞬、ミトは自身の眼を疑った。ユージーンの大剣が鎌と衝突仕掛けた瞬間、刀身が透過した(・・・・・・)のだ。その僅かな隙を、見逃す程に甘くはないのが、彼を火妖精(サラマンダー)最強の将軍と言わしめる由縁、体制を立て直そうとしたミトの胸に、斬撃が炸裂し、彼女は地面へと一直線に落下していく

 

『ミト(さん)っ!!!』

 

落下する彼女を前に、仲間たちが名を呼ぶ。その声は、薄れ逝く意識を、奮い立たせ、愛鎌を握る手により一層の力を与える。翅を強く羽ばたかせ、巨剣を目掛け、御返しの強烈な一撃を叩き込む

ユージーンも負け時と、斬撃を弾き返し、並大抵のプレイヤーであれば、眼で追うことすら敵わない斬撃の応酬が繰り広げられる

 

「ちょっと……もう、三十秒経ってるんだけど?」

 

「悪いな、やっぱり斬りたくなった。 首を取るまでに変更だ」

 

「そう……なら、此方もより一層の誠意を見せなきゃいけないわね。その(プライド)を、刈り取られる……お覚悟はよろしくて?」

 

一定の距離を保ち、ユージーンの斬撃を刃先で去なし、華麗に舞う姿は正に蝶の様に、美しく、不敵な笑みと相まって、彼女の美貌を最大限に引き出していた

 

「何が可笑しくて、笑っているかは知らんが、此れで詰みだっ!!!」

 

刹那、ユージーンの叫びと共に、赤い光が迸った。標的を目掛け、振り下ろされる刃、其れに対し、剣の中央に、両手で握りしめた鎌を振り、四連撃の斬撃を、《あの世界》で、彼女が得意としていた両手鎌上位ソードスキル《レヴェレーション》を独自に再現した斬撃を放った

 

「ぬっ…!?」

 

「……武器破壊は無理っと、さすがは伝説級武器(レジェンダリーウェポン)ね………でも、私には負けられない理由があるのよ。例え……貴方が、ALO最強最強だとしても、私は、貴方を……」

 

高く、高く、誰よりも高く、彼女は飛んだ。その背に、太陽の陽を浴び、水色の翅を震わせ、手に握り締めた愛武器を握る手に力を込める

 

「超えていくっ!!!」

 

その高らかな叫びと共に、ユージーン目掛け、有りっ丈の力を込め、鎌を叩き込んだ

渾身の一撃は、真っ二つに対象を切り裂き、その姿を残火に変えた。其れは、《紫の死喰い》が勝利を勝ち取った瞬間であった

 

「ふぅ………久々に本気出すと疲れるわね。やっぱり」

 

「リーファ……なんだ、あの水妖精(ウンディーネ)は?」

 

「う〜ん、実はあたしもよく知らないんだよね。お兄ちゃんの親友の恋人さんってことは分かるんだけど」

 

「ごめん、ヴェルデ。蘇生を頼める?」

 

「構いませんよ」

 

鎌を肩に担ぎ、リメンライトを前に佇むミトが、息を整えた後、申し訳なさそうにしながら、ヴェルデに蘇生を頼むと、彼はトレードマークを掛け直し、魔導書を片手にスペルワードの詠唱を開始する

数秒も経たない内に、青い光が赤い炎を包み込み、人の姿を取り戻していく

 

「見事な腕だな……水妖精(ウンディーネ)にしては勿体ないくらいだ」

 

「勿体ない……って?」

 

「なんだ。本来、水妖精(ウンディーネ)は後方支援メインの種族なのを知らんのか?」

 

「……………………」

 

ユージーンからのまさかの指摘、ミトの瞳が点になり、彼女の思考が停止する。如何やら、彼女は知らずに種族を選択していたようだ

 

「知らなかったみたいですね」

 

「しっかりしている様に見えて、抜けているからな。類は友を呼ぶって言うけど、どこまで似てるんだ…あのバカと」

 

「仕方なかろう、一番身近なのがあのバカなのだからな」

 

「可哀想なミトさん」

 

「ミトさんってバカなんだ」

 

「んなもん分かりきってんだろ。だって、あのバカを選ぶようなバカなんだからよ」

 

「………んだとコラァァ!!!」

 

『ぎゃぁぁぁぁ!!!』

 

矢継ぎ早に放たれる悪口の嵐に、思考を再開させたミトが襲い掛かる。先程とのギャップに、ユージーンを筆頭に他の面々が圧倒される中、リーファとフィリアは平然としていた

 

「ジンさん、ちょっといいか?」

 

「俺からも構わねぇかな?ダンナ」

 

「カゲムネにディスカか。何だ?」

 

会談場を取り囲んでいた部隊から、二人のプレイヤーが着陸し、ユージーンに声を掛ける。その一人はヴェルデがリーファを助ける際に一線を交えた男で、もう一人はグリスがハジケ勝負を繰り広げた男だ

 

「昨日、俺のパーティーが全滅させられたのはもう知っていると思う。 その相手がまさに其処にいる風妖精(シルフ)なんだ」

 

「俺も其処の猿妖精(エイプ)のあんちゃんには世話になってな。だからまぁ、今回は勘弁してやってくんねぇかな」

 

「…………お前たちが、そう言うなら今回は見逃そう。だが、次に戦うことがあれば、容赦はせんぞ」

 

「ええ、何時でも相手になるわ。あっ、でも私よりも強い人いるわよ」

 

「むっ……其れは興味深いな。どういうヤツだ?」

 

「仮面を付けた迷子と全身黒ずくめのぼっちよ」

 

「よく分からんが……次はソイツらと戦ってみたいものだ」

 

ミトの説明に、ユージーンは苦笑した後、未だ見ぬ強敵に心を躍らせ、カゲムネとディスカを連れ、火妖精(サラマンダー)の大軍勢を率いり、隊列を組み直すと、空の彼方に遠ざかっていった

 

「さてと…あの二人は上手くやってるかしらね」

 

「二人?其れって、お兄ちゃんとテンくんのこと?」

 

「ええ、実は二人には火妖精(サラマンダー)と通じている密偵…つまりは、スパイの対処に向かってもらってるのよ」

 

「なに?密偵だと…?どういうことだ」

 

「アネキの領にいるあのシルなんちゃらってヤツがそうらしいぜ?」

 

「シル……まさか、シグルドか?」

 

((シルなんちゃらで……分かるとか、血の繋がりすげぇな…))

 

うろ覚えなグリスの発言から、スパイの正体を導き出したサクヤに、ミト達は彼等が本当に姉弟であったという事実を再確認する

 

「なるほど、そう考えると最近のシグルドは奇妙だった」

 

「奇妙?ほう、どんな風にですか?サクヤさん」

 

「私の食べた料理の余り物をタッパーに詰めたり、私が出したゴミを漁っていたり、私が鼻を噛んだティッシュを懐にしまったりしていた。実に奇妙だろう?」

 

「奇妙というか、其れは変態って言うんじゃないかナ?サクヤちゃん」

 

「似たような変態を知っているのですが……」

 

「あの変態の話はしないで」

 

「変態というとヤツか」

 

「ヤツだろうな」

 

「ヤツか」

 

「間違いないです、あの変態ストーカーのことです」

 

「だから、あの変態の話はしないで」

 

変態、其れが誰を指すかは不明だがシグルドはその人物と同じレベルまでに堕落してしまったらしく、ミト達は思い出したくもない男が脳裏を過り、嫌そうな表情を浮かべる

 

「恐らく、シグルドの狙いはもうすぐ導入される《アップデート》で、ついに実装されるという噂の《転生システム》だろう」

 

「なるほど……其れで、火妖精(サラマンダー)側の領主に乗せられ、パワー系の種族である火妖精(サラマンダー)に転生させてやると……提案され、今回の件に及んだという訳ですか」

 

「プレイヤーの欲を試すゲームね」

 

「きっと、このゲームのデザイナーはキリトさん以上に友達いない」

 

「だね、あと性格がすっごい悪いと思う」

 

「きっと、プライドだけが高いひょろひょろしたヤツだな」

 

「うむ、それでいてキザに違いない」

 

「結論から言うと、俺たちが嫌いなタイプだな」

 

「まるで知ってるかのような口振りだっ!!!」

 

知らない筈のデザイナーのイメージを勝手に決め付けるヒイロ等に、リーファの突っ込みが飛ぶ

 

「ルー、確か闇魔法スキルを上げていたな?」

 

「うん」

 

「じゃあ、シグルドに《月光鏡》を頼む」

 

「いいけど、まだ夜じゃないからあんまり長く持たないヨ」

 

「構わない。すぐ終わる」

 

アリシャは頭の上にある獣耳をぴこぴこと動かし、詠唱を開始する。刹那、周囲が暗くなり、降り注いだ一筋の月光が、円形の鏡を形作り、波打った表面に、景色を映しだす

 

[いやぁぁぁぁ!!!]

 

[俺のパスタを食いやがれコラァ!]

 

[目潰しっ!目潰しっ!]

 

[キックオフっ!]

 

[ソレッ!ソレッ!ソレソレソレッ!]

 

映し出された領主館の執務室、元凶であるシグルドの姿は見えた。しかしながら、彼は突然の襲撃者であるバカコンビとその息子と娘に、酷い目に遭わされていた

キリトがパスタを無理やり口に押し込み、ユイが絶間のない目潰しを繰り返し、ロトがラグビーボールを叩き込み、その隣では法被を着たソウテンが両手に扇子を持ち、踊っているという最強の混沌が繰り広げられていた

 

[助けてくれぇぇぇぇ!!!]

 

『なにしてんだぁ!!!あのバカコンビはっ!!!』




スパイのシグルドを襲う悪夢!俺が一体、何をしたァァァ!!!
そして、ミト達と合流したソウテンとキリトを待ち受けるは極寒の地下世界!?

NEXTヒント 雪遊びという名の殺戮


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十奥義 お年頃なんですっ!!許してつーかさいっ!

はいはい、最新話!今回はキリトくんの意外な一面が明らかに!あら?やっぱり、貴方も年頃の男の子なのねぇ


「シグルド」

 

鏡に映し出され、ソウテンとキリト(バカコンビ)ロト&ユイ(ミニバカコンビ)の餌食になっていたシグルドの表情が更なる絶望へと染まっていく

 

[さ、サクヤ!?]

 

「ああ、そうだ」

 

[なぜ……いや………か、会談は……?]

 

絞り出すような声で、鏡の向こう側で不敵に笑うサクヤに問う。その背後では、ミト達に手を振るソウテン達の姿があるが、今は関係ないので割愛しておくことにする

 

「条約の調印はこれからだが、無事に終わりそうだ。そうそう、予期せぬ来客があったぞ」

 

[き、客……?]

 

「ユージーン将軍が君によろしくと言っていた、ユージーンだけに友人なのだろう?(ふふん、決まった!今のは百点満点のギャグだ!)」

 

[なっ!?]

 

((何で、勝ち誇った顔してんのっ!?この人はっ!!))

 

「だはははははっ!!!アネキのギャグは最高だなぁ!やっぱ!」

 

「そうだろう、そうだろう」

 

((弟にはウケとるっ!!!))

 

渾身のギャグが決まり、ドヤ顔を決めるサクヤと、彼女の隣で腹を抱えながら大笑いするグリスにミト達と鏡の向こうからソウテン達は、心の中で突っ込みを放つ

 

[無能なトカゲ共め………!…………で、俺をどうするんだ、サクヤ?懲罰金か?それとも、執政部から追い出すか?だがな、軍務を預かる俺を追い出したらお前の政権はそこまで!真実がどうであれ、お前は自分の都合で同胞を斬り捨てる独裁者になるんだ!]

 

[無能な迷子め……!真実がどうであれ、お前は一生目的地には辿り着けない傍迷惑迷子なんだ!]

 

サクヤに自らの行い対する罰を、協議するシグルド。その背後では、彼と同じような声量で、ソウテンを罵倒するキリトの姿があった

 

[なるほど、てことは俺と一緒にいるおめぇさんも迷子なワケか]

 

[だれが迷子だコラァ!!お前と一緒にすんなっ!!迷子(ファンタジスタ)!!!]

 

[んだとっ!ぼっち!!表に出ろコラァァ!!]

 

[上等じゃぁぁぁぁ!!!]

 

正に売り言葉に買い言葉で、一触即発した二人は執務室を飛び出していった

 

[パパ!育児放棄は良くありませんっ!!ママに言いつけちゃいますっ!]

 

[おろ?僕は置いてかれたんか?]

 

その後を追随するようにユイが、呑気に首を傾げるロトの手を引き、追っていた事で、騒がしさという混沌(カオス)に支配されていた空間に静寂が訪れる

 

[………ふんっ!奴等を嗾けた意図は理解出来んが、何も言えないみたいだな!所詮お前は、俺が居なければ何もできないお飾りの領主なんだよ!]

 

「いや、あんな二人は知らない。なぁ?ルー」

 

「ウン、誰だったノ?あの二人は」

 

「…………すいません、うちのバカコンビが。後できつく叱っておきますんで」

 

見覚えのなければ、存在も知らなかった二人組との協力関係を指摘されたサクヤは首を傾げ、アリシャも把握していなかったようで、疑問符を浮かべる。すると、彼女達へ申し訳なさそうに眉を下げたミトが謝罪を述べ、頭を何度も下げる

 

「ミトさんは二人のお母さんなの?」

 

「あんな変なのはうちの子じゃありません」

 

「いや、片方は恋人でしょうに」

 

「………私の知るテンは旅に出たの。アレはその抜け殻のバカよ、間違っても私の恋人じゃないわ」

 

「誰が抜け殻だ。その鎌を貸してみな?傷んでるみたいだから、手入れしてやる」

 

「いや♪」

 

そう言って、瞳を潤わせるミトの隣に何時の間にか姿を見せた道化師は、両手をわきわきとしながら、彼女に詰め寄る

 

「………って!何時からいたのよっ!!!」

 

「ぐもっ!?」

 

突如、現れたソウテンに、ミトは顔を真っ赤に紅潮させ、頭に御約束を叩き込んだ

 

「あの騒動後に訳の分からない転移魔法陣を踏んじゃってな、気付いたら此処にいたんだ」

 

「あっ、僕の召喚魔法です。呪符無しでしたが上手くいきましたね」

 

『お前の仕業だったんかよっ!!!』

 

気絶したソウテンの代わりに、同じように何時の間にか合流していたキリトが説明し、さらっと自身の魔法である事をヴェルデは自白する

 

「君は確か、シグルドを拷問していた仮面くんと黒いツンツン頭くんだな?私はサクヤだ」

 

「これは御丁寧にどうも。俺はソウテン、通りすがりのピーナッツバター評論家だったりする道化師だ、Encantada de conocerte(よろしくお願い致します)

 

「ああ、よろしくな。ソウテンくん」

 

堅い握手を交わすソウテンとサクヤ。すると、今度はキリトの方に彼女は視線を向けた

 

「俺はキリトだ」

 

「そうか。よろしくな、キリトくん」

 

「ああ、やらし……いや、よろしくな」

 

「目潰しっ!!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!!目がぁぁぁぁ!!」

 

肌けた着物から、見え隠れする揺れるたわわに実った二つの果実へ、(キリト)の視線が向いている事に気付いたユイの容赦ない一撃が襲い掛かり、キリトは地面を転げ回る

 

「大丈夫なノ?この人」

 

「うん、気にしないで。根本的にどうしようもないバカだから」

 

「リーファさんっ!?」

 

「あっ、触らないでくれます?キリトさん」

 

「いやぁぁぁぁ!!!妹が冷たいぃぃぃ!!」

 

爽やかな笑みで拒絶する妹に対し、キリトの精神が破壊され始める隣では。

 

「兎に角だ、シグルド。お前を追放する」

 

[何で今の流れでそうなるっ!!!正気か、貴様っ!?]

 

「無論だ、お前は風妖精(シルフ) である事が耐えられないんだろう?ならば、話は簡単じゃないか、脱領者(レネゲイド)として中立域を彷徨えばいい。 きっと、其処にも新たしい楽しみが見つかるさ☆」

 

「楽しみというとプチプチつぶしでしょうか」

 

「いやきっとデュエルだよ」

 

「全く分かってないねぇ?チビたちは。楽しみといやぁ……」

 

「彼女がいるヤツを裏山に埋めることだな、きっと。俺はいつも大学の友人をそうして亡き者にしている」

 

「あたしのライブに間違いありません」

 

「バナナを育てることに違いないなっ!」

 

「包丁を研ぐことだな、恐らくは」

 

「何を言ってるんだ?お前たちは。パスタパーティだろ」

 

「バカね、鍋に決まってるじゃない」

 

「………人の台詞を遮って、何を頭の可笑しいことを言ってんの?おめぇさんたちは。あとベルさんは、どういう生き方をしたら騎士らしかぬ発言が飛び出すんよ」

 

「ふっ…褒めないでくれ」

 

『褒めてねぇわっ!!バームクーヘンバカっ!!』

 

矢継ぎ早に台詞を遮る仲間たちの中でも、極めて物騒な発言したディアベルを咎めたが彼は嬉しそうに笑みを見せた。その行動に仲間全員からの突っ込みが放たれるも、彼の表情は変わらなかった

 

[こんなの不当だっ!GNに訴えるぞっ!そして勝つぞっ!]

 

「やれるものなら、やってみろ。特別にお前は私の友人である変わり者が住む辺境に追放してやろう」

 

[は?変わり者って----]

 

全てを言い終わる前に鏡が砕け散り、シグルドが何処に飛ばされたかは不明なままに騒動は終わりを告げた

 

「改めて私はアリシャ・ルーだヨ!こー見えても猫妖精(ケットシー)の領主なんだヨ!よろしくネー」

 

「ほう、アリシャさんか。さっそくで悪いけどバスとか出してくんない?」

 

「貴女はなんのフレンズかしら?私は鍋のフレンズよ」

 

「いやいや、何をナチュラルに訳の分からない事を言ってるノっ!?バスなんか出さないヨッ!?ていうか鍋のフレンズってなにカナ!?」

 

シリアスは何処にと言いたくなるような、唐突に放り込まれたソウテンとミトのボケにアリシャはリーファにも負けない突っ込みを放つ

 

「すまないな、見苦しいうえにむさ苦しいヤツに君たちの貴重な時間を無駄にしてしまって。領主として、謝罪する。誠にすまない」

 

「気にしないでくれよ、おっぱ………サクヤさん」

 

「お兄ちゃん?サクヤの顔は、そこじゃないからね?もっと上を見ようか。さもないと、今日からお兄ちゃんの部屋は外に……しておいたからね」

 

「過去形っ!?」

 

「パパ、今度からはわたしと一緒のお布団に寝ないでくださいね。くさいですから」

 

「くさいっ!?えっ?くさいのっ!?俺っ!」

 

「はい、超くさいです」

 

「いやァァァァァァ!!!娘がグレたぁぁぁぁ!!!」

 

妹と娘からの容赦ない精神攻撃にキリトのメンタルは悲鳴を上げ、空高くに叫ぶしか出来ない彼は涙を流す。やがて、彼が鎮まるのを待ち、ソウテン達はサクヤとアリシャに大金を譲渡し、彼等の協力を仰いだ後、《蝶の谷》を後にした……

 

「ふむ……何故にこうなったのかねぇ?不思議だ」

 

『おめぇのせいだろうがっ!!!バカリーダー!!!』

 

「ぐもっ!?」

 

氷に覆われた世界、果たして永久に閉ざされた世界で道化師一味を待つ新たなる波乱とは……!

 

 

 

 

 

一方で、その頃のシグルドは

 

「男よぉぉぉぉ!!!」

 

「抜け駆けはナシよっ!カルゴちゃん!」

 

中立域のにある、サクヤを除けば一定のプレイヤーしか知らない森林地帯に居た

 

「んもぅっ!分かってるわよっ!タイコちゃん!!!」

 

「「お待ちになってぇぇぇぇ!シグルド様ぁぁぁぁ!!!」」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!!来るなぁぁぁぁ!!!」

 

カタツムリ的な装備を纏った屈強な男性とたい焼きの着ぐるみを着た網タイツ男性に追われ、シグルドは逃げ惑う

 

「誰でもいいから、助けてくれェェェ!!悪さもやめますからぁぁぁぁ!!!」

 

「「いただきまー---ごばっ!?」」

 

カルゴちゃん、タイコちゃんの毒牙が迫る瞬間。何かが彼等の頭上に降り注ぎ、辺りを白い翼の羽が舞う

 

「………ま、まさか……神さま……」

 

その神々しき姿は、シグルドの瞳に安寧を齎した。その白き翼の主は、白き装備を纏い、ゆっくりと、口を開く

 

「降臨、満を持して……我が女神よっ!今、貴方様の剣であり盾である最強の護衛が救いに参りますからなぁ!!!おい貴様っ!誰だか、知らんが私の道案内をさせてやろうっ!さぁ!行くぞっ!!」

 

「……はい?ぎゃぁぁぁぁ!!!離せぇぇぇぇ!」

 

かくして、脱領者(レネゲイド)となったシグルドは突如現れた謎の変態護衛に巻き込まれるように世界樹へと向かうのであった

 

「お待ちくださいませっ!アスナさまァァァ!!!」




雪に閉ざされし、極寒の世界に足を踏み入れたソウテン達一行の前に現れたのは巨大なゾウ?いやクラゲ?あり?これが可愛いって、リーファさん?おめぇさんマジですかい……

NEXTヒント 正気か?お前ら



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十一奥義 ガキガキガキーン!お寒い中、ようこそいらっしゃいました?極寒の世界!!!

今回はヨツンヘイム編です、全てを一話に詰め込んだから何時もよりも少しだけ長いです


妖精の世界の地下に広がる世界、邪神級モンスターが支配する闇と氷の世界《ヨツンヘイム》。中央都市《アルン》を目指し、旅を再開させたソウテン達であったが、休息の為に足を踏み入れた村の宿屋が実は擬態モンスターであり、彼等は紆余曲折を経て、この極寒の地に落とされたのである

 

「仕方ないわね……取り敢えず、夕飯にしましょうか」

 

「わぁ!久しぶりにミトさんの鍋が食べれるんですねっ!」

 

「かーさんの鍋?其れは、delicioso(美味しそう)だねぇ。ユイは食べたことあるんか?」

 

「はいっ!一度だけ食べましたっ!美味しかったですっ!」

 

「喜んでもらえて嬉しいわ。あら、リーファにフィリアはどうして、困った顔をしてるの?」

 

この状況で、鍋の準備を始めるミトの周りで和気藹々と盛り上がる面々。しかしながら、急な雰囲気転換に付いていけないリーファ、フィリアは引き気味に苦笑していた

 

「いや、あのね?ミトは状況を理解してるのかなー……って」

 

「してるわよ?目的地とは違う地下世界に落下して、耐空制限以上に厄介な飛翔不可能エリアに足止め状態よね」

 

「理解した上で、その対応してるのっ!?正気の沙汰じゃないよっ!」

 

「バカね。私たちはこういう修羅場を何度も潜り抜けたのよ?作戦くらいはあるわよ」

 

「「そ、そうなんだ……」」

 

冷静なミトにリーファが突っ込みを飛ばすも、彼女は自分たちが培った知識の豊富さをアピールし、二人に安心感を与える

 

「それで、その作戦って?」

 

「……………テン。何かある?」

 

「おろ?俺はてっきり、キリトが考えてるもんだと思ってたんだけど?」

 

「え?こういう場合はミトだろ?どう考えても」

 

「何を言ってるんです?作戦立案はリーダーの担当ではありませんか」

 

「えっ?ヴェルデじゃないの?だって、この中にいるのってヴェルデ以外はバカだし」

 

「やだなぁ、ヒイロってばー。作戦はヒイロの担当でしょ?」

 

「ん?シリカじゃなかったか?」

 

「私は貴殿だと思っていたんだが?ディアベル」

 

「あ?オッさんの担当なんじゃねぇのか?」

 

「結論から言っておく、作戦等は存在しないと思え。言わば其れが作戦だ」

 

「「期待を返せっ!!!」」

 

全員が互いに作戦担当だと思っていたらしく、アマツが出した完全的な結論は作戦が存在しないという暴論。其れに期待を裏切られたリーファ、フィリアが突っ込みを放つ

この場所は宿屋でもなければ、安全地帯でもない区域。つまりはログアウトすれば、一定時間の間、無防備状態となったアバターが取り残される事となる。其れは、モンスターを引き寄せる擬似餌となり、最後のセーブポイント《スイルベーン》までの強制送還を意味するのだ

 

「そう言えば、邪神級モンスターが居るんだよね?ここ」

 

「居るわよ。ミトさんが追い返した最強火妖精(サラマンダー)も、流石に二十秒も持たなかったみたいよ」

 

「そうなのね……」

 

「ミト。言っとくけど、ワクワクすっぞとかは無しだからな」

 

「わ、分かってるわよ……」

 

自分と互角の鍔迫り合いを繰り広げた火妖精(サラマンダー)も相手にならない邪神級モンスターに興味を持つミトであったが、即座にその意志を汲み取ったソウテンに冷静な声色で、咎められ、残念そうに目を泳がせる

 

「ミトが言ってたけどよ、マジでこのヨツンなんちゃらで飛ぶのは無理なのか?気合いで翅を動かしゃあ飛べんだろ」

 

「無理ね。翅の飛行力を回復させるには、日光か月光が必要なの。でも、此処にはどっちも無いじゃない」

 

闇妖精(インプ)なら地下でも少しだけは飛べるみたいだけどね」

 

「そうなんか。となると……ロト」

 

「ほい来た」

 

飛行不可能エリアである事を再確認した後、ソウテンは鍋の側にいたロトに呼び掛けた。すると、何も告げていないにも関わらず、即座に理解した彼は、瞼を閉じ、数秒も経つと、軽いため息を吐き、首を横に振る

 

「う〜ん……データを参照できる範囲内に他のプレイヤーの反応はないかなぁ」

 

「わたしも調べましたけど、それ以前に、あの村がマップに登録されていません」

 

「此方も同じ見解です。マスター・フィリア」

 

「う〜ん……どうしよう?テンちゃん」

 

《プライベート・ピクシー》からの結論を聞き、フィリアは鍋に舌鼓を打つ兄に問う

 

「簡単じゃねぇの、やるだけやってみりゃいいんよ。よし、取り敢えずは…この棒が倒れた方向に進むって事でオーケーかな?おめぇさんたち」

 

「そんなことしてるから迷子なんだぞ?お前は」

 

「全くです」

 

「学習能力ないの?」

 

「仕方ないよ。だってリーダーさんだし」

 

「辛辣過ぎねぇかっ!?」

 

提案した進み方を却下され、更に飛び交う悪口の嵐にソウテンが突っ込む。すると、その様子を見ていたリーファが、何かを思い付いたように、手を叩く

 

「まあ、テンくんの迷子振りはどうでもいいとして……あたしも、その案には賛成よ。確か、何処かに階段があったはずだわ。邪神の視界と移動パターンを見極めて、慎重に行動すれば行けるはずよ」

 

「そうだろう、そうだろう……あり?序盤にちょいと罵倒しなかった?」

 

「気のせいだよ」

 

「はぁ…ん?今の何かしら…」

 

威厳の欠片さえも感じられないソウテンに、ため息を吐いていたミト。刹那、遠くの方から大音響な咆哮が、彼女の耳に反響した

 

「恐らくは邪神の鳴き声かと……」

 

「デカい足音してる…」

 

「うぇっ!?た、大変じゃないですかっ!逃げましょう!リーダーさんっ!」

 

近付く邪神の足音に、シリカが慌てふためきながら、撤退を要求するがソウテンは、その場を動こうとしない

 

「どうしたんだぁ?テン」

 

「ちょいと様子が変じゃねぇか?」

 

「ああ、一匹じゃないな」

 

邪神の鳴き声に混じり、聞こえるもう一つの鳴き声にソウテンが気付き、その異変に気付いたキリトが確認するように呟く

 

「二匹もっ!やっぱり逃げましょうっ!」

 

「シリカちゃんに同感だわっ!早くっ!お兄ちゃん、テンくん!」

 

「いんや、そいつは大丈夫みたい」

 

「ロトくんの言う通りです。接近中の邪神級モンスター二匹は……互いを攻撃しているようです!」

 

「えっ?邪神が邪神を?どうなってるの?」

 

「うーむ、見てみない事には分からないかなぁ……其れは」

 

「そういうことなら、行ってみるか。ちょいと」

 

邪神が邪神を攻撃しているという状況を理解出来ないが故に、ソウテンの提案で、全員が件の現場に足を踏み入れる

視界に映ったのは、二匹の邪神。縦三つ連なった巨大な顔の横から四本の腕を生やした巨大な邪神、そして、象と海月を足した小柄な邪神、優勢は前者の方で、後者の小柄な方は明らかに劣勢である

 

「かわいそう………ねぇ、きっくん…お兄ちゃん」

 

「はい、虐められてる方を助けましょう」

 

「だな。スグもそうしたいんだろ?」

 

「うんっ!でもどうするの?」

 

「御安心を。既に準備は万端です……走りますよっ!」

 

「えっ?ちょっ!な、なにっ!?」

 

突如、走り出す幼馴染(ヴェルデ)。彼に手を引かれ、訳も分からずにリーファは疑問符を浮かべるが、追随するキリトは意図を理解していたようで、腰からパスタの束を取り出し、三面邪神に投げ付ける

 

「喰らえっ!ハジケ奥義・パスタシュート!!」

 

「えぇーーーーーっ!?パスタ投げたっ!!」

 

投擲されたパスタは、邪神の眉間に突き刺さり、一瞬で狙いがキリトに切り替わり、彼と併走していたヴェルデとリーファも対象となる

 

「よしっ!後は頼んだっ!兄弟っ!」

 

Estamos listos.(準備は整った)。グリス!打ち上げろっ!」

 

「あいよっ!」

 

グリスにハンマーで、かち上げられたソウテンは極寒の世界で空高く飛び上がる。本来は、有り得ない光景にリーファは眼を疑った。その道化師は、不敵な笑みを浮かべ、蒼き衣を棚引かせ、誰よりも高く舞った

 

「永遠にadieu」

 

刹那、頭上から無数の槍が雨のように降り注ぎ、体を貫くも、三面邪神は反撃に転じようとリーファ達に近付く。しかし、逃げずに追ってきた小柄な邪神が、三面邪神を拘束し、動きを封じた事で、訪れた好機を、道化師は見逃さなかった。槍最上位ソードスキル《アルティメット・サイン》を模倣した技を放ち、三面邪神をポリゴンに変えた

 

「どうやら、この子に助けられたようですね」

 

「じゃあ、名前とかつけてあげようよ」

 

邪神を優しく撫でるヴェルデに、リーファが笑顔で告げると嬉しかったのか、眩い純白の光を包まれ、形状を変化させていく

放射状に真っ白い輝きを帯びた、四対八枚の翼が広げられた姿となった邪神は、背中にキリト達を乗せ、飛び上がる

 

「名前か…なら、俺がとっておきのを付けて--」

 

「はい!わたし、良い名前考えたっ!ゾウ・ゴリラ・サイ!」

 

「そんな変な名前あるかっ!!」

 

「シャチ・ウナギ・タコ!」

 

「ゾウは何処に行ったのよっ!?あとその動物の羅列をやめなさいっ!」

 

名前とは言い難い名前を付けようとするフィリアはリーファに鉄拳を見舞われ、頭に大量の瘤を作っていた

 

「なら、リーファは……リーファなら、どういう名前つけるの?」

 

「あたし…?あたしなら……そうだなぁ……トンキーとかどう?」

 

「トンキー……良い名前ですね。スグちゃんらしくて」

 

「だよね!だよね!さすが、きっくんは理解力あるなぁ!」 

 

急ではあったが、良い名前が飛び出した事にリーファは嬉しそうに飛び跳ねる

 

「なるほど、トンキーか。俺の考えてたセニョール・ピーナッツよりも」

 

「そうね。私のジンギスカンエレファントよりも」

 

「俺の長鼻丸よりも」

 

「俺のムッシュ・ミズクラゲよりも」

 

「あたしのエッフェル・レアチーズよりも」

 

「俺のヘア・バームクーヘンよりも」

 

「私のイチャリババナナよりも」

 

「俺のバナ太郎よりも」

 

「俺の長曽根象牙丸よりも」

 

「気は確かですか?みなさん」

 

トンキー、と名付けられた邪神に乗り、空を漂うこと数分。世界樹の根っ子付近に、金色に輝く物が見えた

 

「おろ?なんだ、アレ」

 

「アレは《聖剣エクスキャリバー》ってお宝ちゃんだよ」

 

「一つしかない最強の武器なのよ」

 

「最強の剣か……職人。アレを超える剣は作れたりするか?」

 

「無論だろう?キリの字。俺は《職人》だ、貴様らの要望には無理難題だろうと応える……いや、応えてみせる」

 

キリトの問いにアマツは誇らし気に笑い、拳を突き出す。其れに応えるように、キリトが突き出した拳を軽く当てる

 

「また来るからね、トンキー」

 

「今度はごちそうを持ってきますね」

 

《アルン》に続く階段近くで降ろされ、名残惜しそうな鳴き声を挙げたトンキーをリーファが優しく撫で、ヴェルデも笑みを浮かべる

其れに安心したのか、嬉しさに溢れた鳴き声を挙げた後、深い闇の底へと、溶けるかの様に姿を消していった

 

「そいじゃあ………いよいよ、敵陣に乗り込むとするかねぇ」

 

「待っててね……アスナ」

 

「今、行くからな」

 

「ママを助けましょう!絶対に!」

 

『応っ!!!』

 

かくして、最終目的地に辿り着いた《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》。大切な仲間を救う為の最終決戦が幕を上げる




いよいよ、《アルン》に辿り着いた《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々!しかし、最終決戦を前にセーブは大切!そしてキリトは、妹のリーファを恋人のアスナと引き合わせる決意を固める……!

NEXTヒント セーブは大切


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十二奥義 駆け上がれ!決戦の舞台へ!でも、その前にセーブは忘れないで!

今回はギャグと僅かなシリアスが混じった話になりまーす。GW最終日がこれを書くだけで終わってしまった……明日からの仕事にまた憂鬱…そんなことより!本編をどうぞ!


太い木の根を貫くかのような、螺旋状の階段。《アルン》へと続く道のりを、踏み締めながら、一歩一歩、着実にミトを筆頭に《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》は、足を走らせる………そう、ミトたちは

 

(階段と言えば、シンデレラ!!!今宵こそ私がシンデレラになるのよっ!!!)

 

「いやいやっ!なれないからっ!!」

 

(そして、この階段の上にはグリスさんが……いるっ!!!)

 

「いないよっ!!普通に一緒にいるじゃんっ!!!」

 

(パスタ一皿お届けに参ります)

 

「お兄ちゃんに至っては、シンデレラ微塵も関係ないっ!!!というか最初から関係ないよっ!」

 

(あたしは今日、シンデレラガールになるっ!総選挙トップの座は渡さないっ!)

 

「なんの話っ!?」

 

「ふざけ過ぎだ……このバカどもっ!!!」

 

「天誅っ!!!」

 

「「「「ぐもっ!?」」」」

 

階段を駆け上がりながら、ドレスを着込みシンデレラになりたがる迷子(双子)と意図を理解していないぼっち(ソロ)、総選挙トップを狙うアイドル(笑)(シリカ)に、包丁と鎌が降り掛かる

突っ込みを入れていたリーファも、この数日間で関係性を理解している為に最早、驚きも生まれず、制裁を受けた兄を放置し、行く手に見える一筋の光を目指す

 

「あれが………世界樹」

 

飛び出すと同時に、降り立ったのは、苔生したテラス。唐突な光に視界を慣らそうと、目を一度閉じた後、ミトは改めて、眼前に広がる美しい夜景を焼き付ける

石造りの建造物が、限りなく連なる積層都市。行き交うプレイヤーは、十種族の妖精が均等に入り混じり、その中心に聳え立つは目的地である世界樹の姿がある

 

「あそこに………いるんだな。アスナが」

 

「ママ………きっと迎えにいきます。だから、待っててくださいね」

 

「辛気くさい面しなさんな。まだ終着駅を決めるには早いよ?こっからが物語を彩る見せ場(クライマックス)だ」

 

「言われなくても分かってるよ……。だから、お前も気を抜くなよ」

 

por supuesto(勿論)

 

ソウテンとキリトの瞳が交差し、蒼き道化師の笑みと黒き剣士の微笑がミト達の視界に焼き付く

 

「「ゴーカイに行くぜっ!野郎どもっ!!」」

 

『了解っ!!!』

 

リーダー、サブリーダーの高らかな宣言にミト達は其々の得物を突き上げ、士気を高める。その時、パイプオルガンから発せられるような音楽が鳴り響き、午前4時から週1の定期メンテナンスが行われるとのアナウンスが耳に入る

 

「士気を高めているとこ、悪いけど……今回はここまでね。続きは今日の午後3時からね」

 

「おやつの時間」

 

「ヒイロくん。おやつはインしてからにしましょう、ベルさんがバームクーヘンを焼いてくれますよ」

 

「任せろっ!という訳だ、コーバッツ!バナナをくれ」

 

「うむ、私が育てた新種をやろう。名付けて……スイルベーンバナナだ!」

 

「美味そうだなぁ!さすがはオッさんだぜっ!」

 

「グリスさんは本当にゴリラですね。バナナ以外に頭使えないんですか」

 

「うるせぇ、マイクバカ」

 

「やるなら相手になりますよっ!」

 

「上等だっ!」

 

最終決戦直前に、士気を高めたのも束の間に何時もの騒がしいやり取りを始める面々。其れでも、キリトだけは隣に立つソウテンに目線を動かす

 

「ああ、そうしようか……それでいいよな?お前たちも」

 

「構わねぇよ」

 

「…………私も」

 

キリトの提案に快く応じる、ソウテンとは正反対に、ミトだけは僅かに煮え切らない返事を返す。遠く離れた親友、彼女を想う度に、幾度も眠れない夜を過ごした

仮想世界に囚われる前、夕陽が照らす屋上で、二人で共に過ごした他愛もない時間

 

『深澄は強いなぁ……』

 

『そんなことないわ。私よりも強い人なんか、そこら辺に居るもの』

 

『ええっ!?深澄よりも強い人がいるのっ!?』

 

百面相のように、ころころと表情が変わる彼女。その姿に、ミトは何時からか、自分の想い人を重ねるようになっていた

しっかり者なのに頼りない一面があったり、肝心な時にやらかす彼女。二人だけの秘密の時間は次第に当たり前になっていった

仮想世界に囚われて、初めての夜。想い人や仲間たちに会えない寂しさを紛らわせてくれたのは、他ならない彼女の存在だった

 

『大丈夫だよ、ミトは私が守るから』

 

『其れは私の台詞よ。アスナの事は絶対に守ってみせる』

 

その約束を、一度は反故にしようとした時もあった。だが、其れは彼女に叶わない筈の贈り物(再会)を届ける為に神が与えた試練、その再会から始まった新たな物語は、彼女の世界を九色の色彩に彩り、今も共にある。故に、彼女は世界樹に囚われた親友を見据える

 

「アスナ。私が………ううん、私たちが助けるわ」

 

「リーファ。この後、少しだけ俺に付き合ってくれないか?」

 

「うん、構わないよ。でもどうしたの?急に」

 

「会わせたい人がいるんだ」

 

ミトが決意を固める隣で、キリトもまた決意を固める。妹と恋人を引き合わせる決意を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央都市《アルン》世界樹上部

 

「やぁ、妖精女王(ティターニア)。どうかな?そろそろ、僕の妃になる決心は付いたかな?」

 

鳥籠内部に幽閉されたアスナが遠く離れた親友を想い、物思いに耽っているとオベイロンが現れ、彼女に問う

 

「アナタなんかの奥さんになるくらいなら、パスタ馬鹿なぼっちくんと結婚して、湖が一望できる湖畔地帯にログハウスを買って、ちょっと癖のあるバカたちと面白可笑しく暮らす方がまだマシだわ。このロリコン!」

 

「あまり失礼なことを言うんじゃ----」

 

その問いに承諾する素振りも見せず、アスナは具体的な結婚観を語り、更にオベイロンに罵倒を浴びせる。しかしながら、彼も引かずに対抗しようとする

 

「失礼?女子高生を幽閉して、奥さんになるように迫ってる癖に何を言ってるのよ。其れに、それを悔いもせずに喜ぶなんて間違いなく変態よ!クラディール以上の変態だわっ!」

 

「………また来るっ!!」

 

罵倒に耐え切れなかったオベイロンは、鳥籠を後にした。だが、彼の傷付いた心は、やはり癒えない

 

(くそっ……!!アイツらに会ってから、碌なことがないっ!!どうなっているんだっ!最近の教育事情はっ!!)

 

(………キリトくん、ミト、みんな…私はここだよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

埼玉県入間市ゲームセンター“ファミリア”

 

「ふぅむ……午後三時ねぇ。変に時間が出来ちまった」

 

被っていたナーブギアを外し、窓から見える雪景色に視界を奪われる。冷たい空気が頬を撫で、深々と世界を彩る銀色は、天哉に束の間の癒しを与える

 

「あっ、テンちゃん。おはよー」

 

世界に降り積もる淡い雪を、静かに見守っていると、耳元から能天気な声が聞こえ、視界を動かすとエプロン姿の琴音が佇んでいた

 

「んむ…おはようさん」

 

「今日の朝ご飯はピーナッツバターサンドだよ」

 

「そいつはありがてぇ」

 

琴音が用意した朝食に舌鼓を打ち、兄妹水入らずの時間を過ごす。騒がしい日々が続く毎日の中で、繰り返される何気ない光景ではあるが、この時間だけは琴音からすれば、大好きな兄を独り占めに出来る最高の瞬間である

 

「そう言えば、テンちゃん。学校とかはどうするの?」

 

「うーむ……確か、都立高の統廃合で空いた校舎を利用して、SAOから帰還した中高生向けの臨時学校みたいなんを作るらしくてなぁ。気は進まねぇが、其処に通う事になるかねぇ」

 

元来、学校にも真面に顔を出さない天哉からすれば気乗りしないが、此れは本来の有るべき姿。つまりは、SAO帰還者(彼等)に相応の知識を叩き込み直すという政府の方針に他ならない

二年に渡り、殺伐とした世界に閉じ込められた者たちを管理するが故の策。心理面に於けるメンタルカウンセリングも行うと言われ、“黒い衝動”を抱えていた身としては、その提案に乗らざるを得なかった

 

「なんか……まるで監視してるみたいだね…。テンちゃんは、本当に其れで良いの?」

 

「良いも悪いもねぇさ。あの世界での事が、罪に問われねぇにしても、俺がした事に対する償いは“忘れない”ことだ。其れに、今の俺には“アイツら”がいるからねぇ」

 

「恵まれたんだね、ホントに」

 

取り返しのつかない過去、“あの日”を忘れない為に、“其れ”を、自分の業として、背負い、紡いできた筈の繋がりを一度は断ち切ろうともした。其れでも、彼等は天哉を探し出し、また同じように仲間に迎え入れた

 

「まあ、頼りになるか?と言われたら別だけどねぇ」

 

『んだとコラァ!!!』

 

「ぐもっ!?」

 

自分で言っておきながらも、否定にも似た答えに行き着いた天哉の顔面に四発の蹴りが叩き込まれる。盛大に吹き飛び、壁に減り込んだ彼を他所に、姿を見せたのは、深澄達であった

 

「琴音は今から時間ある?」

 

「大丈夫だよ」

 

「だったら、丁度良かったわ。今からちょいと付き合ってもらえる?」

 

そう告げる深澄の顔には、天哉がよく見せる不敵な笑みが浮かぶ

 

「見てください、あの顔。リーダーみたいですよ」

 

「悪い顔してる…」

 

「凶悪ヅラだな」

 

「シバくわよ、アンタら」

 

「「「すいません、調子こきました」」」

 

兄妹水入らずの時間が終わりを迎えた事は、残念であるが彼女の用事に付き合うと約束した手前、断る訳にもいかず、承諾した琴音は背後で未だに壁に減り込んだままの兄を指差す

 

「…………あとさ、いい加減にテンちゃんを助けてあげてくれない?」

 

『あっ!忘れてたっ!!!』

 

「「うぉぉぉぉぃい!!!」」

 

自力で復活した天哉と琴音に突っ込まれた後、深澄達は彼等を連れ、駅へと向かうのであった




病院に辿り着いた天哉たち、その病院には和人と直葉も居て…

NEXTヒント 見ろよ……綺麗な顔してんだろ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十三奥義 病院ではお静かに!あれ?お姉さん?何をしてらっしゃるの?

今回はギャグはない…とは言い切れないか真面目な話になってると思う


2025年1月22日 東京都所沢総合病院

 

 

「ここって…確か」

 

「そっ。俺、もといミト達が入院してた病院」

 

深澄達に連れられ、到着したのは所沢市でも高い医療設備で知られる総合病院。琴音が此処に訪れるのは、今回が初めてではない

SAO事件の被害者となった兄を、何度も見舞いに訪れ、再会した日も彼女は誰よりも早くにその光景を目の当たりにした

何時ものように、物言わぬ兄を見舞い、その眠る姿を見守っていた時だ。自分の握る手に僅かではあるが力を感じ、直ぐに病院に務める神経科医の義父を呼びに行き、その事実を誰よりも早くに確認したのである

 

「やっぱり…テンも、この病院だったのね。私たちの記憶を消してくれたお陰で、再会するのに随分とまぁ…時間が掛かったわねぇ?」

 

「あー、はいはい。俺が悪かったな」

 

「反省の色なしですね」

 

「取り敢えずは焼き討ちで手を打とう」

 

「彩葉、流石に焼き討ちは良くねぇ。ここは貼り付けで妥協しようぜ」

 

「「それだっ!」」

 

「頭に注射打ち込まれたいんか?おめぇさんらは」

 

記憶消去の事を許していない深澄の発言を気に、不穏な会話を始める菊丸、彩葉、純平に天哉がジト目気味に突っ込みを放つ

病院付近であるが故に抑え気味のテンションであるが故、多少の物足りなさはあるが何時も通りの流れになるのは目に見えている為に、深澄は琴音と共に中に入っていく

 

「あら、和人じゃない。今日も来たの?」

 

「ん…深澄に琴音か。珍しい組み合わせだな?テンたちはどうしたんだ?」

 

受付で見知った顔を見つけ、声を掛けると和人もまた深澄に気付き、彼女の隣に立つ琴音を見た後、見慣れたバカたちが居ない事に疑問を抱く

 

「ああ、テン達なら……何時も通りよ」

 

「そうか。なら、ほっといても大丈夫だな」

 

「「今の一瞬で何が分かったのっ!?」」

 

僅かなやり取りから、状況を理解し、遠い目をする深澄と和人。その様子に琴音が突っ込みを放つと同時にもう一つの声が重なる

 

「あれ?スグ?何で…ここに?」

 

「そういうコトも何してるのよ?」

 

その声の主は和人の妹であり琴音の親友でもある直葉。ALOではリーファとして活躍する剣道少女である

 

「わたしはテンちゃん達とお見舞いだよ。えっと……深澄の友達だっけ?確か」

 

「そうなんだ、あたしもお兄ちゃんとお見舞いに来たのよ。確か恋人だったかな?本当かは疑わしいけど」

 

「……あんた、妹からの信頼薄いわね」

 

「うぅっ……素直な我が妹よ…何処さ、行ったの…」

 

「そう言えば、琴音。こちらは?」

 

「ああ、この人?この人はね」

 

「リアルで会うのは、初めてよね?私は深澄、兎沢深澄よ。ALOではミトよ」

 

「えっ!?み、ミトさん?わぁ!こちらこそですっ!桐ヶ谷直葉ですっ!」

 

「おやおや、騒がしいと思えばスグちゃんでしたか。それにしてもカズさん、私服が今日もゲキダサだぜっですね」

 

「おやまあ、スグっちじゃねぇの。おめぇさんもバカなぼっちに振り回されて大変だねぇ」

 

「似てねぇな」

 

「カズさんよりも頭良さげ」

 

「訴えるぞ?そして勝つぞ」

 

直葉が深澄に自己紹介する隣で、彼女に同情しながらも和人に対しての罵倒を忘れない天哉達。その姿に、顳顬を引くつかせ、御立腹な和人は彼等と騒ぎ始める

 

「さて、バカは放っておくわよ。目的地は最上階よ」

 

「「この人、リアルでも相変わらず冷静だっ!!!」」

 

自分のペースを崩さない深澄は、琴音と直葉を連れて、エレベーターに乗り込む。やがて、最上階で停止し、病室の扉前で深澄は歩みを止める

 

「アスナ…もうすぐよ」

 

「結城……明日奈さん?キャラネームも本名と同じなんだ。そう言う人って、あまりいないよね?」

 

「確かに。本来は、テンちゃんやカズみたいに本名のアナグラムが当たり前だよね」

 

「仕方ないわ、アスナはオンラインゲーム初心者中の初心者だったから。其れでもね?彼女は、私に生きる意味をくれた大切な人よ」

 

扉の施錠を解除し、中に入るとベッドに横たわった一人の少女が琴音と直葉の視界に映る。歳は自分たちよりも僅かに離れているが、その姿は美しさに溢れていた

 

「アスナ?今日はね、テンの妹とキリトの妹が来てくれたのよ。アイツらはまた何時も通りに喧嘩してるけど、直ぐに来るわ」

 

「初めまして、アスナさん。和人の妹の直葉です。兄が、お世話になってます」

 

「同じく天哉の妹の琴音です。兄が何時も迷惑かけちゃって、ホントにすいません」

 

静かに眠るアスナに、其々の兄の非礼を詫びると同時に自己紹介を済ませる。暫くすると、馬鹿騒ぎを終えた和人達が上がって来て、其々が持ち寄った見舞いの品を置き、アスナと積もる話がある和人以外は退室し、休憩所で彼を待つことにした

 

「それにしても…綺麗な人だったなぁ。アスナさん」

 

「ホントにね、どっかのお姫様かと思っちゃったわよ。あたしなんか」

 

「ですが、ちょっぴり怖い一面もあるんですよねぇ」

 

「俺、空手チョップされた」

 

「俺なんか細剣で串刺しにされたことあるぜ」

 

「俺は右ストレートを喰らったことあるねぇ」

 

「アンタたちが悪いんでしょうが、全部」

 

初めて見たアスナの姿に、目を奪われた琴音と直葉が弾ませる隣で彼女達が知らない隠された怖さを教える天哉達に深澄が呆れ気味に突っ込む

 

「んじゃ、俺は行くとこあるから。先に帰るわ」

 

「あっ!ちょっと!待ちなさいよっ!」

 

「また後でな〜」

 

引き止める深澄を筆頭に、唖然と見送るしかない面々。しかしながら、天哉は歩みを止める事なく、病院前のバス停まで足を進める。定刻通りに到着したバスに乗り込み、後ろの座席に腰を下ろす

携帯を弄り、病院内では確認していなかったメールに目を通していく

 

「ふーん……あいつ、出所したんか…。しっかし……あれがねぇ」

 

携帯に届いたメール、その内容に呆れにも似た溜息を吐くと同時に遠くを見る。送り主は天哉が和人達と行動を共にするよりも前、贔屓にしていた情報屋、他の面々は面識がない故に存在を認知していない

 

「お前の顔を見ると、未だにムカつく。私をコケにした事を忘れてはいないだろうなぁ?道化師(クラウン)

 

古びたアパートの一室に辿り着いた天哉を待ち受けていたのは、痩せこけた頬が特徴的な男性。彼の口調から察するに、天哉の正体が《蒼の道化師》と呼ばれたSAO帰還者である事を知る者であるのは、明白だ

 

「ストーカーに成り下がるおめぇさんが悪いんだろうがよ。俺が知らねぇと思ってんのかよ?おめぇさん、ALOでアスナを探し回ってんだろ。どうせ……会話を盗聴してやがったんだろうがねぇ……違うか?《クラディール(・・・・・・)》」

 

「ふんっ……気安く呼ぶな。で?此処に来た理由は何だ」

 

その男、クラディールは天哉の意味深かつ不敵な笑みに応えるかのように呆れた表情で問いを投げ掛ける

 

「なーに……情報屋としてのアンタの腕を見込んでの依頼さ。総合電子機器メーカー《レクト》フルダイブ技術研究部門のメインコンピュータのハッキングを頼みたいんよ」

 

「其れはアスナ様に関係していることなんだろうな?」

 

Por supuesto(勿論)。どうだ?やってくれるか?」

 

不敵な笑みはより一層の不適さを増し、天哉が持つ胡散臭さを更に強調させる

 

「乗ってやろう」

 

「Gracias!」

 

渡ってはならない橋である事を理解していたが、クラディールはその提案に快く……応じる。天哉が礼を述べ、部屋を出て行こう扉に手を掛ける

 

「おい、天哉……。アスナ様を救い出せよ、絶対に」

 

「あいよ」

 

簡素な返事を返し、部屋から出る。降り止まない雪は辺り一面を銀色に彩り、まるで世界全てが凡ゆる色彩に彩られる事を待つキャンバスのように錯覚してしまう程だ

 

「話は終わった?」

 

雪を踏み締め、バス停までの道のりを歩いていると、唐突に隣から聞き慣れた声が聞こえ、振り向く

 

「げっ………み、深澄っ!?」

 

「「げっ」とは何よ?「げっ」とは。全く……私が知らないと思った?あの情報屋って、クラディールなんでしょ」

 

「誰から聞いたんよ……」

 

「アルゴ」

 

会っていた人物まで言い当てられ、苦笑気味に問うとその情報を流したであろう鼠の顔が天哉の脳裏に浮かぶ

 

「あんのおしゃべりネズミめっ!まあ、バレちゃ仕方ねぇ。まぁ、アイツは変態だけど仕事に関してはシビアなヤツだから安心しな」

 

「前科があるのを忘れたの?」

 

「あるけどまぁ……大丈夫だって」

 

「…………絶対にアスナには近付けさせないわよ」

 

「わかってるって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃。純平はというと………

 

「純くんっ!今日は腕によりをかけたぞっ!」

 

自宅で待ち構えていたのは、大量の御馳走を用意した姉の姿

 

「いや、アネキ。普通に考えて、食い切れねぇんだけど……」

 

「純くんは育ち盛りの食べ盛りだからな。お姉ちゃん、張り切ってしまったよ」

 

「張り切り方を間違えてねぇかっ!?」

 

「なんだ、純くん。久しぶりにお姉ちゃんと二人きりだから照れているのか?」

 

「話を聞けぇぇぇぇ!!!」

 

こうして、今日も灰沢さん宅に純平の叫びが木霊するのであった




いよいよ始まるグランドクエスト!最強の敵と相対するは、我らが《彩りの道化》!さぁ、幕を上げましょう……フィナーレへと繋がる物語の幕開けに御座います

NEXTヒント ハジけるぜっ!彩りの道化!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十四奥義 道化師と剣士は笑う。

お気付きですか?長くないタイトルの時はシリアスが大半を占めるということに……まあ、ギャグもあるんですがね


「リンク・スタート!」

 

約束の時間を迎え、ナーブギアを被った和人は妖精の世界へと意識を飛ばす。遂に目標である世界樹に辿り着き、恋人(アスナ)との再会を目指し、もう一人の自分、黒の剣士(キリト)に意識を同調させる

 

「おやまあ、随分と重役出勤じゃねぇの」

 

「どう?アスナとはゆっくり、話せた?」

 

部屋から出たキリトに声を掛けたのは、仮面越しに不敵な笑みを浮かべる道化師と象徴である水色の尻尾(ポニーテール)を揺らす少女。長年の友人である二人の姿に、キリトは申し訳なさそうに眉を下げる

 

「ああ、これ以上無いくらいに話せたよ。ありがとな……本当はお前たちを、巻き込んじゃいけないのに…俺が頼んだせいで…」

 

「バカね」

 

「ば、バカ?なんでだよっ!?」

 

唐突に放たれた『バカ』という単語に反応したキリトが、困惑した表情と共に問いを投げ掛ける。その単語を放ったであろうミトは、真っ直ぐと彼を見据え、優しい笑みを見せる

 

「アスナは貴方の恋人である前に、私の親友よ。付き合いで言えば、私の方が長いのよ?だから、きっと…貴方が頼まなくても、私も同じことを頼んだわ」

 

「ミト……お前…」

 

「勘違いしないでよね。私はアスナを助けたいだけなんだから」

 

「ロト、ユイちゃんよ。あれがツンデレって言うんよ」

 

「おやまあ」

 

「わたし、知ってます!こう言う時はツンデレ乙って言えばいいんですよねっ!」

 

「うんうん、ユイちゃんは物知りだねぇ……」

 

「「子どもに何を教えてんだっ!!おめぇはっ!!!」」

 

自分の発言が恥ずかしかったのか、僅かに照れた表情のミトがツンデレの模範的返答をする姿に、息子と義姪に余計な知識を吹き込むソウテンの頭上にミトが御約束を放ち、キリトも蹴りを放つ

 

「ぐもっ!?」

 

「おやまあ、相変わらずだねぇ」

 

「こう言うのをお約束って言うんですよ。ロトくん」

 

「まーたアホな事してる……」

 

「ホントに変わらないね……お兄ちゃんも、テンくんも…」

 

集合場所に落下したソウテンの後を追うように、一階へ降りたキリトの視界に幼馴染(フィリア)(リーファ)の乾き笑いが映る

彼女達の周囲には、「三時のおやつ」であるディアベル手製のバームクーヘンを囲む仲間たちの姿があり、決戦前だとは思えない何時も通りの光景があった

 

「さすがはベルさん」

 

「全くです、SAOの時と変わらない味です」

 

「気に入ってもらえて嬉しいよ。まだまだ、沢山あるからな」

 

「さすがはディアベルさん。伊達にバームクーヘン業者を名乗ってないですね」

 

「シリカ。俺は騎士だ、バームクーヘン業者じゃないぞ」

 

「うむ!私が提供したバナナが美味だな!そうは思わんかね?同士グリスよ」

 

「おうよっ!やっぱバナナと言えば、オッさんだな!」

 

「ふむ……武器の手入れはこのくらいか」

 

「……さてと行きますか。《グランドクエスト》を攻略しに」

 

道化師は、槍を肩に担ぎ、不敵に笑い、その”蒼き衣”を棚引かせる。《グランドクエスト(アスナ奪還)》という共通の目的がある《世界樹》の根本、ドームの直前でユイが何かに反応を示す

 

「この上にママがいますっ!パパっ!」

 

「なにっ!」

 

「アスナがこの上に……」

 

「ほう、この上にあのフラミンゴの居る鳥籠があるんか」

 

「リーダー。フラミンゴじゃない、居るのはアスナさん」

 

「おやまあ、そうなんか」

 

「気は確かですか?リーダー」

 

「仕方ないよ。だって、リーダーさんだし」

 

「アホだな、やっぱ」

 

「テン。お前はホントに可哀想な頭だな」

 

「うむ、本当に可哀想だ」

 

「略して可哀ソウテンか。まさにピッタリだな」

 

「おいコラ、誰も覚えてない造語を復活させんじゃねぇよ」

 

誰も覚えてない懐かしい悪口の復活に苛立つソウテンであったが、キリトとミトは馬鹿騒ぎに参加せずに空高くまで聳え立つ《世界樹》を見据えていた

 

「ロト……ユイちゃんの言ってることは本当なの?」

 

「ホントだよ。この上にアスナさんの反応を感じる、プレイヤーIDも間違いないよ」

 

「真っ直ぐですっ!パパっ!」

 

「グリスっ!かち上げてくれっ!」

 

「あいよっ!」

 

キリトに呼び掛けられ、グリスはハンマーで、彼をかち上げる。翅を大きく広げ、急上昇していくキリトを追随するようにミトも同様の方法で、大切な人が待つ場所へと上昇を続ける

 

「お兄ちゃん!ミトさん!気をつけてっ!すぐに障壁があるよ!!」

 

「それでも助けなきゃいけないのっ!私はアスナを守るって約束したんだからっ!」

 

「何としても進まなきゃいけないんだっ!例え、障壁に阻まれようがっ!」

 

「やれやれ、落ち着きなよ。おめぇさんたち」

 

障壁に迫る直前、ミトとキリトの眼前に“蒼き衣”が棚引く。その笑みを前に、彼等は翅から、力をゆっくりと、抜いていく

 

「ロト、ユイちゃん。ちょいと力を貸してくれねぇか?」

 

「Por supuesto.」

 

「でも、何をするんですか?テンにぃ」

 

ユイからの問いに、彼は、御決まりの不敵な笑みを浮かべる

 

「なーに、ちょいと試したいことがあるんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央都市《アルン》世界樹上部

 

 

「今のはっ!」

 

椅子に座り、過ぎゆく時を待っていたアスナは勢いよく立ち上がり、鳥籠の端まで走り出す

気の所為かもしれないが、確かに彼女の耳に何か響いた

 

『ママっ!ユイはっ!わたしは、ここにいるよっ!』

 

『おろ?これって通じてるの?アスナー、僕もいるんよー』

 

自分の愛娘(ユイ)の叫び、親友の息子(ロト)の能天気な声が響く。呼び掛けようにも、きっと自分の声は届かない。其れでも、アスナは自分が此処に居る事を証明しようと右手に握っていたあるもの(・・・・)を取り出す

 

「キリトくん……ミト……みんな…。お願い……届いて…」

 

彼女は、そのあるもの(・・・・)を手放す。近くに居るであろう恋人(キリト)に、親友(ミト)に、届くと信じて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻 世界樹障壁前

 

 

「届いたでしょうか……わたしの声…」

 

「届いたよ。子どもの声を聞き逃す親なんて、いないからねぇ」

 

「ロトくん……」

 

上空の世界樹を見詰める自分の声が届いたかを心配するユイに、ロトはかつての経験から得た情報を語りながら、自分の両親に視線を向ける。その横顔に、僅かに頬を染めたユイが熱っぽい視線を送る

 

「ユイっ!?なんだ、その視線はっ!お前に恋愛はまだ早いぞっ!パパは許さないからなっ!」

 

「………これからはパパと一緒に釣りしてあげません」

 

「いやぁぁぁぁ!娘が反抗期にぃぃぃ!!」

 

「あと、お洗濯物も別にしてください」

 

「……………」

 

「おやまあ、真っ白だ」

 

「燃え尽きてるわね」

 

「おろ?人間って白くなるんか?」

 

刹那、空から銀色に輝く何かが降って来る。其れを視界に捉えたミトが両手を広げると、ゆっくりと手の中に収まった

 

「……カード?でも何の…」

 

「ふむ…こいつは…」

 

「えっ?テンには分かるの?」

 

「ああ…間違いねぇ。こいつは……シンクロモンスターのレアカードだっ!」

 

「マジでかっ!!」

 

「違うに決まってんでしょうがっ!こんのバカコンビっ!!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

銀色のカードをカードゲームのレアカードと勘違いするソウテンとキリト(バカコンビ)の頭上に鎌が降り下ろされる

 

「これは…システム管理用アクセス・コードです!!」

 

「おやまあ、あながちレアカードっていうとーさんの答えも間違いじゃないみたいだねぇ」

 

「嘘でしょ!?」

 

「テンのアホみたいな発想が肯定される日が来るなんてっ!!!」

 

「シバくよ?おめぇさんたち」

 

ソウテンの馬鹿げた発想が実は的を射た答えであった事実に、ミトとキリトが戦慄を見せる。その様子に不服である当の本人は真顔で、瞳の奥が笑っていない笑みを見せる

 

「ただ、これを使ってゲーム内からシステムにアクセスするには、対応するコンソールが必要です」

 

「ふむ、つまりはデュエルディスク的なのが必要な訳か」

 

「なるほどな、分かりやすいな。つまりはカードリーダー的なのが必要ってことだ」

 

「アンタらは、一旦デュエルから頭を離しなさい」

 

「取り敢えずは下のドームから入りますか、そいじゃ」

 

急降下し、リーファ達が待つ根本に急降下していく。その事に気付いた全員が上空を見上げ、降下するソウテン、ミト、キリトの三人を迎える

 

「覚悟はいいか?おめぇさんたち」

 

「今更じゃねぇか」

 

「全くです。我々を誰だと思っているんです?泣く子も笑う、最強のギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》ですよ?家族を助けるのに、理由など要りません」

 

「愚問」

 

「妖精王とかいうのに、あたしの歌を聞かせてやりますっ!」

 

「ならば、俺はバームクーヘンを振る舞ってやろう!騎士としてなっ!」

 

「お前の中の騎士像可笑しくないか?ディアベル」

 

「うむ、可笑しいな。敵に振る舞うのはバナナだっ!」

 

「コーバッツ?そういう話じゃないのよ、今は」

 

「言っとくけど、あたしとフィリアも協力するからね?お兄ちゃん」

 

「関係無いはナシだからね」

 

目の前の階段を登ると、アルン市街区の最上部が現れる。妖精の騎士を象った彫像が護るように煌びやかな装飾が目立つ石造りの扉が、聳え立つ

 

「テン」

 

「ん?どしたんよ、キリト」

 

「改めて、聞くけどこのゲームをどう思う?」

 

キリトが問いを投げ掛けると同時に、石像の一体が動き出し、兜の奥の両目が青白く光る

 

『未だ天の高みを知らぬ者よ、王の城へ致らんと欲するか』

 

低音の声が響き、最終クエストの挑戦意志を質す為の《YES》《NO》が表示される。キリトは迷う素振りも見せずに、《YES》を選択する

 

『さればそなたが背の双翼の、天翔に足ることを示すがよい』 

 

轟音が響き、重い扉がゆっくりと開いていく。そして、《蒼の道化師》と《黒の剣士》は不敵に笑う

 

「「死んでもいいゲームなんて、(ぬる)過ぎるぜ」」




グランドクエストに挑む《彩りの道化》の前に立ちはだかる未だかつてない強敵!最終決戦は目前だ!

NEXTヒント 気合い注入!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十五奥義 往け!!

はいはい、久方ぶりの更新に御座います。今宵のタイトルはアインクラッド編の第四十九幕と同じであることにお気付きでしょうか?しかしながら、如何なる時もギャグ作品であることをお忘れなきように御願い申し上げます、其れでは本編をどうぞ


「「死んでもいいゲームなんて、(ぬる)過ぎるぜ」」

 

拳を突き合わせ、不敵な笑みを浮かべる二人の少年。彩られたら、彩り返すを代名詞とする最強ギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》を率いる《蒼の道化師》。その相棒であり兄弟であり親友である二刀流を代名詞とする《黒の剣士》、彼等を突き動かすのは、変わらぬ一つの衝動。そう、familia(家族)の為である

 

「其れでは景気付けに気合いを入れていこうじゃねぇの」

 

「よっしゃあ!打倒妖精王!」

 

「ごばっ!こんにゃろう!打倒妖精王!」

 

「ぐもっ!?なんのっ!打倒妖精王!」

 

「テンちゃん、キリト!グリスさんに何するのっ!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

「春のバームクーヘン祭り開催中!!!」

 

「あたしの歌を聞けぇ!!!」

 

「焼き鳥美味」

 

「あら、鍋が煮えたわ」

 

「バナナ万歳っ!!!」

 

「朝露に濡れ、佇む君に、降り注ぐ包丁。ふむ……中々に良い句だ」

 

「さっきまでのシリアスはなんだったの!?グランドクエスト開始早々で、いつも通りにっ!!」

 

真剣な雰囲気から一転し、開始早々に繰り広げられる何時も通りの状況にリーファの突っ込みが飛ぶ。バカトリオは気合い注入を名目に殴り合い、フィリアはグリスに加勢し、ディアベルはバームクーヘンを焼き始め、シリカはマイク片手に歌い出し、ヒイロとミト、コーバッツは其々の好物に舌鼓を打ち、アマツに至っては自作の句を読み始める。余りの危機感の無さにリーファが呆れ果ていると、彼女の肩を誰かが叩いた

 

「スグちゃん」

 

「きっくん……そうだよね、みんなもああ見えて真剣なんだよね。あたしも協力するから、頑張ってグランドクエストをクリアしようねっ!」

 

「いえ、今日の夕飯は何かを聞こうとしていただけなんですが」

 

「あたしの期待を返せっ!このカレー眼鏡っ!!!」

 

「カレーを馬鹿にするとはっ!スグちゃんには、どうやら……カレーの生い立ちから話さなくてはならないようですね」

 

「いらんわっ!そんな話っ!」

 

「おやまあ、グランドクエスト中に痴話喧嘩とは何を考えてんだ」

 

「全くだ、恥を知りなさい。リーファにヴェルデ」

 

「教育がなってねぇんじゃねぇか?キリト」

 

「「おめぇらが始めたんだろうがっ!バカトリオっ!!!」」

 

「「「ぐもっ!?」」」

 

自分達の事を棚に上げ、咎め役に回るバカトリオにリーファとヴェルデは喧嘩する程、仲が良いという関係を体現したように息ピッタリに飛び蹴りを放つ

御決まりの叫びを挙げ飛んでいく三人、その行く末に白く光る窓があり、白銀の鎧を纏う騎士が姿を見せる

 

「お兄ちゃん!テンくん、グリスさん!」

 

「おろ?」

 

「ん?」

 

「あん?」

 

リーファの呼び掛けに、飛びながらも三者三様の反応を示すソウテン、キリト、グリス。目の前には見慣れない騎士の姿がある

 

「ソイツが言ってた守護騎士(ガーディアン)よっ!」

 

「「「ふぅん……?」」」

 

守護騎士(ガーディアン)という呼び名を聞いた瞬間、瞳の色が明らかに変わった。まるで水を得た魚の様に生き生きとした彼等の瞳に宿る闘志、得物を抜く

 

「ぶちかますぜっ!!どっせい!!!」

 

パワー全開のハンマー攻撃により、守護騎士の頭上から三連撃を叩き込む。其れは彼が浮遊城時代に得意としていたハンマーソードスキル《ミョルニル》そのものに他ならない、システムアシストが無いが故に、彼は自分の手で再現したのだ

 

「ゴガァァアア!!」

 

白銀の騎士が絶叫し、攻撃を放とうとするがその構え中に僅かな隙を生じたのを見逃さなかったキリトは黒い大剣を仕舞い、アイテムストレージから二対の片手剣を呼び出す

 

「次は俺だっ!職人が打ったこの二つの剣により、復活した二刀流を喰らえっ!」

 

黒と白、二対の剣を携え、上位剣技《スターバースト・ストリーム》の十六連撃を放つキリト。多少の姿の違いはあるが、其処には浮遊城の魔王を打倒し、英雄となった黒の剣士の姿があった

 

「負けてらんないねぇ、こりゃあ。そいじゃあ、俺もコイツをプレゼントしようかねぇ」

 

そう告げ、不敵に笑う道化師は。既に遥か上空で全ての準備を終え、無数の槍が守護騎士の頭上を捉えていた

 

「永遠にadieu」

 

仮面越しの不敵な笑みと別れの言葉。その二つが守護騎士の見た最後の景色となった。刹那、頭上から無数の槍が雨のように降り注ぎ、体を貫き、仕上げに槍最上位ソードスキル《アルティメット・サイン》を放ち、ポリゴンの破片になり、爆散する

だが、相手は一体ではない。無数の窓から大量に湧き出す守護騎士、学習したのか二体同時に襲い掛かり、連携攻撃を許さない状況を作り出す

 

「くそっ……!」

 

「私たちを忘れないで欲しいわねっ!」

 

「秘技・マイクナックル!!!ピナっ!巨大化いっくよ〜!」

 

「きゅるる〜……グォォォォ!!!」

 

「ヤキトリ……派手にやって」

 

「ぴよぴよ………コカァァァ!!」

 

襲い来る守護騎士の剣をミトが振り払い、シリカを乗せた巨大ドラゴンとヒイロを乗せた巨鳥が大量に蹴散らしていく

 

「賢者とは、常に勇者を守護する者……故に僕はその役割を真っ当しましょう。光の剣よ、全てを貫け!!!」

 

「バナナを世界の主食に!!」

 

「我が騎士道は仲間たちと共に、有り続けること。我がバームクーヘン流の剣技を喰らうがいいっ!」

 

「コーバッツ、ディアベル。お前らは戦う気があるのか?」

 

武器と呼ぶには疑わしい巨大バナナと丸太クラスのバームクーヘンを片手に突っ込むコーバッツ、ディアベルにアマツが包丁を片手に冷静に突っ込む

 

「フィリア!あたし達は魔法でサポートよっ!」

 

「任せてっ!」

 

「マスター・フィリア。そのスペルは攻撃魔法ではなく、索敵魔法です」

 

「えぇっ!?」

 

「フィリア!ドジっ子も大概にしてっ!今は集中しなさいっ!」

 

「わたしが悪いんっ!?」

 

攻撃魔法ではない索敵魔法を使用しようとするフィリアに、エストレージャが空かさず指摘し、リーファも彼女のドジ振りを咎める。当の本人は兄と同じ口調で突っ込みを放ちながらも、改めてスペルを唱え始める

 

「キリト……おめぇさんは先に行け」

 

「テン……」

 

「そうね。悔しいけど、私は誰かを助ける勇者にはなれない……だから、キリト。貴方に託すわ」

 

「ミトまで…」

 

「ぶちかましてやれっ!」

 

「グリス…」

 

「妖精王を打ち果たし、この戦いに終止符を打ってください。キリトさん」

 

「信じてる。キリトさん」

 

「新曲の題名は決まってますよ!名付けて、『彩り世界』です!デビューシングルにしますねっ!」

 

「ヴェルデ……ヒイロ…シリカ…」

 

「この様な時、何と声を掛ければいいかは分からん……。しかしながら、これだけは言える。私は仲間たちを……否!家族を、守る為ならば、例え相手が百獣の王であっても、牙を向こうっ!」

 

「騎士道精神は常に我が剣に宿る…騎士の俺が出来るのは、勇者であるお前に道を作ってやるくらいだ。だから、迷わず進めっ!お前の背中は俺たち家族が、請け負った!」

 

「せっかく、拵えられてやった剣を折ってみろ。その時は説教だけでは済まさんからな」

 

「コーバッツ……ディアベル…アマツ…」

 

「お兄ちゃん。絶対にアスナさんを連れ戻してね、あたしもきちんと挨拶したいし」

 

「あの店のピーナッツバターサンド奢りで、大目に見てあげるよ」

 

「リーファ……フィリア…」

 

親友、仲間たち、妹たち、この表情を彼は知っている……否、知っていた。黒の剣士の行く末を信じる希望の灯だ

 

「パパ!絶対にママを助け出して、ユイの所に戻って来てくださいね!道は空けておきましたからっ!」

 

「まあ、心配かもしれんけどユイの事は僕に任せてよ。絶対に守るから」

 

棚引く黒髪を揺らし、細剣を携える影妖精(スプリガン)の少女。その隣で不敵に笑い、槍を肩に担ぐ水妖精(ウンディーネ)の少年。良く知る姿とは裏腹に明らかな成長を遂げた二人は、キリトの方を振り向く

 

「ゴーカイに行ってくださいっ!」

 

「其れも何時も以上にね」

 

「ああ……分かったよ。ありがとな…チビガキども(ユイにロト)っ!」

 

愛娘(ユイ)義息子(ロト)の激励を背に開かれたゲートへ一直線に飛び立つ。その背に、守護騎士を相手にしていた彼等は、全員が不敵な笑みを浮かべ、

 

『往けっ!!!』

 

全員で、背中を押す言葉を放った。その言葉を背に、勇者(キリト)囚われの姫君(アスナ)を救出するべく、世界樹内部へと突入した

 

「さーて…そいじゃあ、本腰を入れて行きますかねぇ。いるんだろ?八人衆さんよぉ」

 

ソウテンが語りかけると、守護騎士の動きが止まり、その内の五体の中から、五人のプレイヤーが姿を見せる

 

「一人は逃したか……だが、お前たちは先には行かせん。このスメラギが相手をしてやる」

 

「おやまあ、タマネギさんか。よろしくな」

 

Привет(やぁ)、私はセブン。こー見えてもアイドルなのよ♪」

 

「アイドル……いいでしょう、貴女の挑戦状はこの彩りアイドルであるあたしが受けます!アイドルを舐めないでくださいっ!」

 

「恋人が激おこナウ。#竜使いちゃんで、拡散希望」

 

「きゅうりこそ至高の食材!きゅうりが世界の主食じゃぁぁぁぁ!我が名はカンバー!人は我が輩を胡瓜の探求者と呼ぶ!」

 

「んだとコラァ!主食はバナナに決まってんだろうがっ!」

 

「全くだ!バナナを蔑ろにするんじゃない!」

 

「久しぶりだな……我が弟子よ」

 

「あ、貴方は…!バームクーヘン流師範のバウムさんっ!?」

 

「いや、バームクーヘン流ってなんですか」

 

「鈍を作ったのはテメェか?あぁん?テメェみたいなヤサ男が鍛えた鈍なんざ、たかが知れてるぜっ!最強の鍛冶屋はこのムラマサ様だぜっ!!ヒャハハハハハ!」

 

「ふむ…口の聞き方を知らんヤツがいるようだ……久方ぶりに沸いてきたな。我が刃の錆にしてやろうじゃねぇかぁ!!!!」

 

姿を見せた水妖精(ウンディーネ)のスメラギ、音妖精(プーカ)のセブン、風妖精(シルフ)のカンバー、闇妖精(インプ)のバウム、鍛冶妖精(レプラコーン)のムラマサ。相対するは《彩りの道化師(カラーズ・クラウン)》精鋭。しかしながら、その姿を遠目に見ていたミトを筆頭にした他の面々は思った

 

((ああ………この光景、嫌な予感しかしないっ!!!))




八人衆最強の五人が《彩りの道化》と相対する時、其れは世界の終焉が迫る序章であった
そして、キリトもまた因縁の相手を前に剣を握る

NEXTヒント 目には目を、歯には歯を、多勢には多勢を


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十六奥義 彩りの道化は笑う。

今回は真剣に!あーでも……無理だ、だって馬鹿騒ぎするのがデフォルトだもんなぁコイツ等は


「世界樹内部に突入し、キリトをアスナが待つ上層部へと送り出すことに成功した《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々。しかしながら、彼等の前に未だかつてほどない力量を携えた八人衆の精鋭である五人が立ちはだかるのでした。ですが、彼等も負けてはいません、其れもその筈、何故なら、彼等は………

 

 

 

 

 

女子高生だったからです

 

刹那、暗闇からいつの時代の女子高生だよっ!!と突っ込みたくなるようなルーズソックスを履き、コギャル化したソウテン達が姿を見せる

 

「また変な説明してるっ!!!」

 

「というかコスプレしとるっ……!!!」

 

例によって、唐突な意味不明なあらすじにリーファが突っ込み、更に珍妙な格好をする兄達にフィリアまでもが突っ込みを飛ばす

 

「マジヤバイんだけど〜、やっぱり〜トレンドはルーズソックスよね〜」

 

「「やっぱり犯人はおめぇかよっ!!!」」

 

その犯人は、愛用の眼鏡をくいっと上げる仕草をしながら、段ボール箱を机に原稿用紙と向かい合い、ギャル口調で説明するヴェルデであった

 

「超ウケる〜タマネギさんって名前〜」

 

「マジヤバイですよね〜アイドルらしいですよ〜、あの人〜」

 

「ハジケバトル開幕マジヤバイ#竜使いちゃんで、拡散希望」

 

「バナナこそが世の主食!この食バトルは我々が制するぞっ!グリスよっ!」

 

「おうよっ!腹が鳴るぜっ!」

 

「鳴るのは腕ですよ。グリスさん」

 

「バームクーヘン流を教えてくれた貴方には感謝している……だが、敵として立ちはだかるならば、俺は貴方を打つ!其れが騎士道精神(ナイトスピリット)だっ!」

 

「我が刃の錆となる幸福を噛み締めやがれっ!」

 

其々が相対する敵に、明確な闘志を燃やす《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々。しかしながら、忘れてはならない事がある。この状況下においての彼等の身形は……女子高生である

 

「お前たちはなんだ?バカなのか?」

 

「コラっ、失礼よ?スメラギくん。この人たちはバカなんじゃないわ、ちょっとだけ人よりも個性的で自己主張が激しいだけよ」

 

「そうは言うがな、セブン。どう考えてもあれは変態の類だ」

 

「おやまあ、変態だとよ」

 

「んだとぉ?変態?」

 

『そんな褒めんでくれよ』

 

「褒められてないわよっ!!!こんのバカどもっ!真面目にやれっ!!!」

 

「ぐもっ!?」

 

変態を何故か、褒め言葉に受け取ったソウテン達が照れていると騒ぎに参加していなかった最強のツッコミ担当こと、ミトが愛鎌を振り下ろし、騒ぎを終息させる

しかしながら、忘れてはならない。バカたちの服装は女子高生である

 

「そいじゃあ、対戦形式の提案をさせてもらおうじゃねぇか。変則形式の3狩リア、6vs6のバトルロイヤルを提案する」

 

本来の装備を着直し、仮面越しに不敵に笑う道化師が対戦形式に対する案を提示する

 

「6vs6だと?我々は五人なのが見て分からないのか?お前は」

 

「いいや、6vs6だ。おめぇさん等の六人目は妖精王、俺たちの方はキリトだ。コイツをカウントすんなら、6vs6になんだろ?」

 

「良かろう……しかし、妖精王とキリトとやらの勝敗はどのように審議を確かめる」

 

「なーに……簡単さ。おーい、プルー」

 

スメラギの疑問に対し、不敵に笑うとソウテンは指を数回鳴らす。その動作が魔法発動の条件だったらしく、空中に画面が映し出され、小刻みに震える愛犬(プルー)が姿を見せる

 

「プルー。そっちはどうだ?」

 

『ぷぷ〜ん、ぷんぷぷ〜ん』

 

「ほう………なるほど、分からん」

 

『分からねぇのかよっ!!!バカリーダー!!!』

 

「ぐもっ!?」

 

必死に状況を説明しようとするプルーは身振り手振りと鳴き声で、目の前の現状を報告するが主人(ソウテン)には伝わらなかったらしく、ミト達から飛び蹴りを見舞われていた

 

『なるほどな、妖精王とかオベイロンとか恥ずかしいネーミングセンスしてると思ったら、須郷だな?アンタ』

 

『ほぅ?僕を知っているのか?有名人だなぁ、サインでもやろうか?』

 

『サインよりもアスナを返せ。彼女は、俺の恋人で、ユイの母親で、俺たちの家族だ』

 

『………そうか、君はあの時のガキだな?僕を魚で殴ったり、城の模型を投げ付けたり、眼鏡をフライにしたり、鍋をぶん投げたりしたあのガキだな?』

 

『其れは俺じゃねぇ。俺がやったのはパイプ椅子で殴り付けたくらいだ』

 

「…………おめぇさん等は人が居ないとこで何をしてるんよ」

 

「してるんよ」

 

「してるんですか」

 

「「「「ムシャクシャしてやった。反省も後悔もしていない」」」」

 

「おやまあ、完全に開き直ってるねぇ」

 

「リーダーさんの悪影響ですよ。きっと」

 

「彩られたんだな、テンのバカな色に」

 

「うむ、嘆かわしい限りだ」

 

「テンの字。貴様には更生という言葉の意味が分からんのか?」

 

「言っとくけど、おめぇさんたちもその一味に所属してんだよ?事の次第では訴えるよ?そして、勝つよ」

 

自分等の事を棚に上げ、全てをソウテンに擦り付けるシリカ達へ真顔で告訴宣言をするも、彼女達は気にも止めない

 

「此方側の面子はこの六人だ」

 

「八人衆が五人……なるほどねぇ、やりがいがありそうだ。そいじゃあ、ウチからは俺と」

 

「あたしも出ます!」

 

「この食バトルを制するのは俺だっ!」

 

「口の利き方を知らんヤツを我が錆にしてくれるわっ!」

 

「俺の騎士道……見せてやるっ!」

 

『オベイ…ぶふっ!お前を止められるのはただ一人……俺だっ!』

 

「という感じの六人かな」

 

其々が因縁を持つ相手を前に得物を構え、戦闘体制を取る。役一名だけは相対する敵の名前に吹き出しているが、其処は言及しないでおこう

 

「貴様は何の為に戦う」

 

「さぁ……何の為だろうねぇ。考えたこともねぇや」

 

「俺はセブンを守る為に戦ってきた。例え、妖精王が何をやろうと興味はない」

 

「そうかい……なら、敵だ」

 

愛槍を手に飛び出すソウテン、彼を迎え討つ為に刀を手にスメラギも走り出す。甲高い金属音が響き、互角の鍔迫り合いが繰り広げられる

元来、ソウテンは無数の槍を使役し、対象を弱らせた後にトドメを刺す一撃必殺型のプレイヤーである。しかしながら、その対象は相手がある程度の数であること、巨大な対象であった場合に限定される。故に対人戦では圧倒的に不利なのだ

しかし、其れは道化師(クラウン)であるソウテンの話だ。音妖精(プーカ)としての力を持つ今の彼は弱点すらも利点に変える

 

「今宵の天候はご存知で?」

 

「天候?ふんっ、仮想世界に天候システムなどは存在しない」

 

「いいえ、御座います」

 

「なにっ?はっ…!!!」

 

不敵に笑う道化師、その遥か頭上には無数の槍が好機を窺うように降り注ぐ瞬間を待ち侘びていた

 

「スメラギくんっ!みんなっ!スメラギくんを助け----いやァァァ!」

 

相方のピンチに気付いたセブンが他の面子に呼び掛けながら、振り返るが彼女は視界に映る大惨事に甲高い悲鳴をあげた

 

「言ってみろ、誰の刀が鈍だ?」

 

「うぅ………ず、すび……ば…ぜん……」

 

「おのれっ!猿ガキがっ!きゅうりの良さを知らんのかっ!」

 

「誰が猿だコラァ!てめぇこそ、バナナを舐めんなっ!」

 

「我が師よ、バームクーヘン流はこの俺に委ねていただきたいっ!」

 

「これ程までに見事なバームクーヘンを作るとはっ!!!免許皆伝じゃな……」

 

「彩られたら、彩り返す〜。塗りたくって、塗りたくって〜」

 

Что за черт! !(なんてことっ!!)。大惨事だわっ!」

 

ミト達が危惧していた通りに大惨事のカオス空間を瞬間的に創り出すバカたちに、セブンは慌てふためく

 

「ほっほっほっ、これしきに動じるとは……アナタのアイドルとしての戦闘力が知れますね」

 

「な、なんですって!?よくもまぁ!そんな変な格好をしながら言えるわねっ!」

 

セブンに対し、アイドルの戦闘力という意味不明な単語を投げ掛けるシリカの姿は、何処かの軍を率いているのか?とでも言いたくなるような帝王宇宙人の様な姿であった

 

「おやりなさい。グリボンさん、ディアリアさん」

 

「「ははっ!シリーザ様っ!」」

 

「ふざけるんじゃないっ!」

 

「「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」」

 

遂に連続の馬鹿騒ぎに痺れを切らしたアマツの包丁が敵味方を問わずに、降り注ぐ。おふざけに全振りしている彼等とは違い、あくまでもボケ殺しである彼は唐突に諌める側に回る。しかも、その対象は敵限定ではない、ふざけていたならば、味方さえも彼には対象となるのだ

 

『使えない奴らだ……所詮は有象無象か』

 

「「っ!?」」

 

刹那、凄まじい重力がキリトは勿論ながら、ソウテン達を、配下である筈のスメラギ達を襲う。辛うじて、片膝を突いているキリトの目線の先には嘲笑うように捻た笑みのオベイロンが立っている

 

『この魔法は? 次のアップデートで導入する予定なんだけどね、ちょっと効果が強すぎるかねぇ?』

 

『須郷………お前は本当に残念なヤツだ。力の使い方を知らない、力がある人は誰かを守る為にその力を使うんだ。俺の親友は、普段は馬鹿騒ぎばっかしてるくせに、大切な家族を守る為なら、進んで悪役になろうとする……でも、そういうヤツだから、そんな親友(兄弟)だから、俺たちはアイツをリーダーって呼ぶんだ。でもな、お前は違う』

 

オベイロン、否!須郷は目を疑う。管理者権限の元に使用した筈の未実装の重力魔法を、跳ね除け、立ち上がったのだ。両手に握られた愛剣を空高くに掲げ、ゆっくりと口を開く

 

『俺は……娘が反抗期を迎えようが、妹に冷たくされようが、親友に記憶を消されようが、大抵の事は笑って許してやる。その方が楽だからな……でもな………

 

 

 

 

仲間(家族)を傷付けるのだけは絶対に許さねぇっ!

 

その言葉は、彼の親友が明確な敵意を抱いた際に発する決まり文句。自分よりも一回りも歳下の少年が発する異様な空気にたじろぎながらも、須郷が指を鳴らす

 

『キリトくんっ!』

 

『アスナっ!』

 

瞬間、玉座の間が暗転し、暗闇の世界に姿を変え、手足を鎖で拘束され、吊るし上げられたアスナが姿を見せた

 

『ひっひっ、いい眺めだねぇ』

 

『何するのよっ!変態っ!オベ…ぶふっ!ダサい名前のくせにっ!』

 

『そうだっ!恥を知れっ!変態眼鏡!オベ…ぶふっ!ダサい名前のくせにっ!』

 

『黙れぇぇぇぇ!!!』

 

『ぐ………ッ!』

 

『君は観客だ。大人しく這いつくばっていろ』

 

力を誇示する身勝手な妖精王を前に、勇者は無力だ。乗しかかる重力はキリトの仮想の肉体を押し潰そうとする

 

「………ソウテンだったか。俺は正直言って、妖精王のやり方が気に食わない」

 

「ほう?そいで、俺にどうしろと?」

 

「バウムから聞いた話では依頼されたら、必ず遂行する最強ギルドがあのデスゲームには存在していたらしい……お前たちなんだろ?なら、依頼したい。妖精王を、あの人の研究を盗んだ泥棒の王を、玉座から引き摺り下ろしてくれ」

 

スメラギが頭を下げると、仮面から覗く蒼き眼が不敵に光る。そして、道化師は深々と頭を下げ、不敵に笑う

 

「………Déjamelo a mí(お任せを)、その依頼。この道化師(クラウン)を筆頭とした泣く子も笑う《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》が承りました」

 

「んじゃあ、派手にぶちかますか」

 

「えぇ……目には目を、歯には歯をと言いますからね」

 

「命燃やす」

 

「これぞアイカツ!」

 

「例え、NPCが相手でもプライドをへし折ってあげるわ」

 

「俺たちの騎士道を舐めるなよっ!」

 

「大人になれんヤツは置いていくっ!」

 

「既に全ての武器を研ぎ終わった」

 

「「システムログイン・ID:ヒースクリフ!アバターチェンジ!!!」」

 

高らかに宣言された魔法のスペルとは異なる謎の言葉。刹那、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々に変化が訪れる

 

『な、なんだっ!そのIDはっ!其れにその姿はっ!なんなんだっ!お前たちはっ!』

 

光に包まれ、次々に妖精とは異なる姿となり、佇む十人の勇士。その姿はこの世界には削ぐわない程に異質、しかしながら、威風堂々足る佇まいは、不思議と活力を与える

 

「おやまあ、我々を御存知ない?良いでしょう……其れでは、御耳を拝借し、聞かせて御覧にいれましょう、我等が名を」

 

唐突な異変、支配者である自分も知らないIDに困惑する須郷に対し、道化師は不敵な笑みを浮かべる

 

「道化師の仮面、ソウテン!」

 

妖しく光る仮面、棚引く蒼き衣、肩に担がれた槍

 

『勇者の仮面、キリト!』

 

闇に映える黒き衣、両手に握られた二対の魂

 

「死喰いの仮面、ミト!」

 

紫色の尻尾(ポニーテール)、命を刈り取る鎌

 

「野猿の仮面、グリス!」

 

灰色の衣、身の丈はあるハンマー

 

「賢者の仮面、ヴェルデ!」

 

緑の衣、美しくも繊細な細剣

 

「獣使いの仮面、ヒイロ」

 

赤き衣、肩に乗る小鳥、腰のブーメラン

 

「アイドルの仮面、シリカ!」

 

片手にはマイク、肩には小竜

 

「職人の仮面、アマツ」

 

名は体を現す和装、利き手に握られた包丁

 

「騎士の仮面、ディアベル!」

 

紺の皮装備コート、右手に盾、左手に片手剣

 

「農家の仮面、コーバッツ!」

 

黄色の鎧コート、巨大な斧

 

「「彩られたら、彩り返すが流儀!我等っ!泣く子も笑う《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》!」」

 

最強と呼ばれたギルドが、この世界には存在しない筈の彼等が、其々の特徴である仮面を持つ勇士が、其処には立っていた

 

「更に……多勢には多勢をっ!さあ!出番だ!」

 

「「その言葉を待っていたっ!!!」」

 

ソウテンの呼び掛けに応え、リーファ、フィリア、ロトとユイの前にサクヤが率いる風妖精(シルフ)とアリシャが率いる猫妖精(ケットシー)の精鋭部隊がドーム内に姿を現す。更に其れに追随する様に刀を装備した侍風の火妖精(サラマンダー)と大柄な土妖精(ノーム)、ユージーンが率いる火妖精(サラマンダー)軍勢、河童の格好をした初老等が姿を見せる

 

「ゴーカイに行くぜっ!」

 

「「了解っ!」」

 

今まさに、ゲームクリアを目指す即席最強チームが此処に集結した。此れは、その記録の全てを書き記した手記である(著者:緑川菊丸)




最強戦力vs妖精王!果たして、世界を待つのは終焉か?其れとも救済か!

次回 オレツエーさん(団長)の帰還



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十八奥義 派手さ全開!おかえり!

書いてたら、止まらなくなった。反省も後悔もしていない
でもギャグはしっかりと注ぎ込んだ


「ゴーカイに行くぜっ!」

 

「「了解っ!」」

 

最終決戦を前に、一同に会したのはソウテンが集めた精鋭部隊。彼の号令を皮切りに、次々と守護騎士と相対する彼等を、ミト達は知っていた

 

「あらら、新しいVRMMOでも皆の空腹ステータスや味覚再生エンジンは健在なのね」

 

「うぉぉぉ!VRじゃ無敵だぜぇぇぇぇ!」

 

「この借りはトイチにしておいてやる」

 

「ふっ……何時ぞやの鍋の御礼がまだでしたからな……不詳、このニシダ!借りを返しに来ましたぞっ!」

 

((河童がいるーーーーっ!?))

 

フライパン片手に笑顔を絶やさない火妖精の女性、刀を手に突貫する火妖精の侍、この状況でも交渉を忘れない土妖精の商人、そして何の種族であるは不明だが河童の格好をした初老。彼等はいずれも、終わりが見えない世界で知り合った頼もしい仲間たちである

 

「おやまあ、ニシダさんも来てくれたんか」

 

「もちろんですとも。他ならぬ貴方の頼みですからなっ!釣り大会での恩返しをさせていただきますぞっ!」

 

「助かるわ、ニシダさん。このバカたちは目を離すと直ぐにふざけるから」

 

「何をおっしゃる。ミトさん……俺たちの何処がふざけてるんよっ!」

 

「「全くだ!」」

 

如何なる状況でも自分のペースを乱さないバカたち基《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の格好は『炒飯早食い』と書かれたTシャツ姿であった

 

「そういうところよっ!このバカどもっ!!!」

 

「ふざけるんじゃないっ!!!」

 

「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」

 

ミトの鎌、アマツの包丁が降り注ぎ、逃げ惑うソウテン達。その姿は最終決戦であるにも関わらず、加勢のクライン達には見慣れた光景で、知り合って間もないサクヤ達に、不思議と緊張感を感じさせない光景である

 

「何故だろうな。ソウテンくん達と楽しそうにする純くんを見ていると、不思議な力が湧き上がるのを感じる」

 

「ホントだネ、本来はグランドクエストは真剣勝負。でも、この人たちは如何なる時も自分を忘れなイ……其れが持ち味なのかもネ」

 

「ミトとやらが言っていた仮面とはアイツか……なるほどな。確かに良い面構えをしている」

 

「いやぁまさか、こんな風に他勢力と組む日が来るなんてなぁ」

 

「別にいいんじゃないか?ディスカ。ゲームは楽しくやってこそだろ」

 

「ははっ、違いねぇや。カゲムネ」

 

守護騎士を前に物怖じしない《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》を中心とした連携攻撃を展開させる妖精連合。この世界では、自分が絶対的な支配者だと信じ、其れを疑いもしなかった

しかし、その幻想は、夢は、じつに儚く、浅はかであった

 

「なんなんだっ!!!その姿はっ!」

 

「この姿は終わりの見えないデスゲームで、仲間たち(家族)と生き抜き、魔王を打ち倒した勇者の姿……を借りた鍍金みたいなモノだ。でも、お前を、お前のような泥棒の王を偽りの玉座から引きずり下ろすには、この姿が相応しいよ」

 

「る…さ…い……うるさい!うるさい!うるさいっ!虫ケラがァァァ!!!」

 

キリトの言葉に我を失った須郷は、手にしていた黄金の剣を振り被る。だが、恐ろしい程に軽い刃は最も簡単に止められた

 

「軽い…軽すぎるんだよ、お前の剣は。お前は知らない…あの世界がどれだけの地獄だったのかを、そして、あの世界の刃がどのくらいの重さだったのかを。アイツらが、どんな想いを背負いながら戦い抜いたのかをっ!そして、俺のエゴに巻き込まれてまで、またあの地獄の入り口(ナーブギア)を引っ張り出してまで、一緒に行こうと手を差し伸べてくれたアイツらの気持ちをっ!お前は知らないっ!!!」

 

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!だまれぇぇぇぇ!!!」

 

「お前は所詮、茅場の足元にも及ばない……魔王に成り損ねた泥棒の王だっ!!!」

 

「茅場……だと?そうかっ!アイツの仕業かっ!どういうつもりなんだっ!死んでまで、この僕を邪魔するのかぁ!!!茅場ァァ!!!」

 

茅場の名を聞き、錯乱にもきた半狂乱状態で我を忘れたように虚空に須郷は叫び出す

 

「この仮想世界の結末は……俺が決めるっ!」

 

刹那、キリトの二対の剣を中心に槍、鎌、ハンマー、細剣、ブーメラン、短剣、片手剣、斧、包丁が飛来。そして、空高くに浮かび上がった十本の武器が一つになり、一振りの剣を形成する

この剣を彼は知っている。否!知っていた、あの世界で、終わりの見えない世界で、魔王を打ち倒した伝説の剣、勇者の剣である

 

「また力を貸してくれ……《メモリークラウン(家族たち)》」

 

彼等の武器と想いが一つとなり、形になった剣。この世界が必要としている彩りを、そして、偽りの玉座を破壊する為に、剣をキリトは握り締め、二刀流スキル最上位剣技《ジ・イクリプス》による二十七連撃で須郷を斬り裂く。かつて、嘲笑った少年を前に彼は敗北したのだ

消えていく、理想の自分が、理想の世界が、全てを失い、平伏すしかない自分。彼は思い知った、誰かを思う強さの力を

 

「僕は神だぞぉぉぉ!!!認めないっ!認めないからなぁ!!」

 

No, has perdido(いいや、おめぇさんの負けだ)

 

敗北を認めようとしない須郷に、仮面の奥で妖しく瞳を光らせる彼は、不敵な笑みを携え、其処に現れた

 

「敗北を認めないんは、おめぇさんの自由だが……今回ばかりは度が過ぎたみてぇだなぁ?妖精王。次にその面を俺たちの前に晒してみろ………潰すぞ」

 

「ひぃぃぃぃ!!!」

 

怒りを含んだモノに変化した瞳は、まるで全てを破壊しようとする殺戮者のように見えた。須郷は戦慄し、灰のように真っ白になり、完全に世界から消えた

 

「何時から見てた?」

 

「お前が軽いとか言い始めた辺りだな」

 

親友に声を掛けると、彼は何時もの不敵な笑みを浮かべる

 

「そうか。これで少しは前に助けられた借りを返せたか?」

 

「おろ?なんだ、まだそんな事を気にしてたんか」

 

「当たり前だろ。一瞬の迷いがあったにせよ、俺はお前を死なせたんだ」

 

最後の最後で、気の迷いから、自分の前で、斬り裂かれた親友。その光景はキリトの瞳に鮮明に焼き付き、今尚、消えてはいなかった

 

「でも生きてる」

 

「それでも…!それでも、俺はずっとお前に謝りたかった!!!なのに、お前は何時もと変わらない姿で、俺のエゴに付き合ってくれた!!!ごめん…ごめんな……テン…」

 

「バーカ、俺に謝るんなら少しでも早くアスナんとこに行ってやんな。ミト達はもう向かってんぞ?」

 

「ああ…そうする……お前も早く来いよ…。行こう、アスナ」

 

「うん、キリトくん。ありがとね」

 

「ほいほい」

 

キリト、アスナがログアウトし、世界が静寂に包まれる。その上空を見上げ、不敵な笑みを浮かべる道化師は仮面を取る

 

「本来ならば有り得ない筈の連合を成立させる……毎度ながら、君の人徳には驚かされるな。ソウテン君」

 

その男、茅場明彦は白衣を棚引かせ、不敵に笑う

 

「いいや、別に俺がやったことじゃねぇさ。アイツらを動かしたんはキリトだ。何時の世も人を動かすんはアイツみたいに馬鹿正直で、真っ直ぐなヤツさ」

 

「相変わらずだな…君は。しかし、私のIDを勝手に使用した時は驚かされたよ」

 

「ああ、アレか。アレはクラディールがハッキングしたサーバー経由で知ったんよ」

 

「クラディール……なるほど、あの男にそれ程までの技術があったとは驚きだ。さて、頼まれたら断らない道化師(クラウン)殿に依頼だ」

 

そう言うと、ソウテンの頭上に光る結晶が現れ、彼の手に収まるように、ゆっくりと落ちる

 

「おろ?なんだ、これ」

 

「世界の種子、《ザ・シード》だ。芽吹けば、どういうものか解かる。その後の判断は君に託そう」

 

「おやまあ、芽吹くまでのお楽しみってことか」

 

「そういう事だ。いいか?間違っても、水を上げて、育てたりしないでくれ給えよ?君のことだ、やりかねないからな」

 

「やらんわっ!!!」

 

唐突な茅場の指摘にソウテンが突っ込みを放つ。その様子に僅かに微笑し、彼は白衣を翻す

 

「では、私は行くよ。いつかまた会おう……道化師(クラウン)よ」

 

Adiós(さよなら)……そして、Gracias(ありがとう)団長殿(ヒースクリフ)

 

茅場が去り、静寂の世界に一人になったソウテンはログアウトする。意識が現実の自分に返ると、ナーブギアを取る

 

「さて……行くとするか」

 

ゲームセンターを飛び出し、入り口付近に停めていたバイクに跨がり、彼は目的地に只管に走らせる

雪が降り、世界を銀色に彩り、季節感を感じさせる風が頬を撫でる

病院の駐車場付近にまで差し掛かると、見慣れた姿が視界に入ってきた

 

「遅いよ、キリト君。僕が風邪を引いちゃったらどうするんだよ」

 

「引けばいいだろ」

 

手にサバイバルナイフを持った黒いスーツ姿の男性。和人の手から赤い血がしたり堕ちる

 

「是非とも引いてもらいたいですね」

 

「でもバカは風邪引かない……純平さんみたいに」

 

「バカじゃねぇ!筋肉馬鹿だっ!」

 

「やっぱり馬鹿なんじゃないの」

 

その男、須郷を矢継ぎ早に罵倒するのは深澄を筆頭にした和人の親友達だ

 

「君たちにも借りがあったなぁ?」

 

「「いやぁ、そんな借りだなんて……」」

 

「何故……照れてるんだっ!?まぁいい……くたばれぇぇぇぇ!!!」

 

突然、照れ笑いを浮かべる深澄達に須郷は突っ込みを放つも、即座に我に返り、手にしたサバイバルナイフを振りかぶる

 

「ハジケ奥義・突貫ヘルメット!」

 

「ぐおっ!?」

 

サバイバルナイフが深澄達に迫り、誰もが身構えた瞬間だった。須郷の後頭部にヘルメットが直撃した

 

「悪いね、ちょいと遅れちまった」

 

「「テン(さん)っ!」」

 

その少年、天哉は不敵な笑みを携え、其処に佇んでいた。風で靡くのは道化師(ソウテン)愛用の蒼き衣ではない。《吏可楽流(リベラル)》と書かれた青い羽織を靡かせ、カラーギャングのリーダーとして名を馳せる蒼井天哉は、其処に佇んでいた

 

「須郷。お前の策略もここまでだ、アメリカ行きを企てたようだが、お前を欲しいと言ってた企業は全てが不正を暴かれて、倒産しちまったらしい……残念だったな」

 

「ふざけるなっ!僕は本物の王に、神に、この現実世界の神になるんだ!」

 

「人が神を語るか……滑稽だな。いいか?かつて、イカロスという男は自分の力を過信し、太陽に近付き、その翼を焼かれた。お前は其れと同じだ、自分の才能を過大評価し、茅場という太陽に近付き、その翼を焼いたんだ。此処がお前の人生の幕引きだ」

 

「舐めるなぁ!!!」

 

須郷はナイフを手に天哉目掛け、走り出す。しかしながら、冷静さを失くした者の思考は脆い。其れを長年の喧嘩漬け生活で知る天哉は、ナイフを握る手を蹴り上げ、即座に軸足を固定し、ありったけの力を込めた蹴りを叩き込まれた須郷は脱力し、壊れた機械のように意識を手放した

 

「………死んだのか?」

 

「流石に殺してはねぇさ。ちょいと久しぶりに現実での喧嘩だから、加減は忘れちまったかもだけどな」

 

「そうか。ありがとな……」

 

「お礼を言うんは、アスナと再会してからだ。ほら行け」

 

「おう」

 

天哉が促すと和人は、ふらふらとよろけながらも病院に入っていく。その姿を見届けた後、暫くすると数台のパトカーがサイレンを鳴らしながら、駐車場に停車した

 

「………須郷伸之だな?」

 

一台のパトカーからトレンチコートを着込み、無造作に頭を掻く一人の男性が乗降し、須郷を見下げる

 

「蒼井警部っ!被疑者は気を失っているようです」

 

「そうか………おい、そこのガキ」

 

蒼井、そう呼ばれた刑事は無視を決め込み、話に参加しようとしない天哉に声を掛ける

 

「何かようか?見知らぬ刑事さん」

 

「お前がコイツを蹴ったのだろう?一撃で、大人を仕留められる蹴りを放てるのは、私が知る限りでは……お前くらいだ」

 

「さぁて、どうだかねぇ。何せ、俺は唯の見舞客だ。ソイツは俺が来る前には既にそうなってた……って事もあるかもしれんだろ?」

 

「ふっ……そういうことにしておく……須郷を連行しろっ!」

 

「はっ!」

 

部下達に指示を飛ばし、彼等が須郷を連行する後ろを歩く蒼井は足を止め、僅かに天哉に視線を動かす

 

「………偶には、音葉の墓参りぐらいしろ。馬鹿息子」

 

「気が向いたらな……クソ親父」

 

この日、雪のように降り積り、氷のように溶けず、長年に渡り蓄積された彼等の溝が僅かに埋まった。蒼井天哉、蒼井天満が親子に戻る日もそう遠くはない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アスナ」

 

和人は傷を負いながらも一心不乱に彼女が待つ病室を目指す。扉を開き、想い人の名を呼ぶ

 

「キリト君……だよね?」

 

「ああ……ようやく……終わったんだ…最後の、本当に最後の闘いが……と言っても…終わらせたのは…テンなんだけな…」

 

「ごめんね。まだ音がちゃんと聞こえないの。でも、分かるよ…君の言葉。終わったんだね……ようやく……其れに」

 

彼女は和人を優しく抱き締め、笑う。力のない笑顔で、それでも愛が溢れる笑顔で、笑いかける

 

「また君に会えた……初めまして、結城明日奈です。ただいま、キリト君」

 

「桐ヶ谷和人です……おかえり、アスナ」

 

「「んっ……ちゅっ……んっ…」」

 

互いに本名を名乗り、再会を喜ぶ和人と明日奈。そっと口が触れ合い、朝の日差しに照らされながら、二人は再会を分かち合う

 

『あっ!ちょっ!深澄!押すなっ!』

 

『仕方ないじゃない!狭いんだからっ!ていうか、さっきから私の足を踏んでるの誰よっ!』

 

『俺じゃない。あと純平さん、公共の場で服は脱がないで』

 

『俺の筋肉は披露してこそ価値がある!』

 

『通報しますよ』

 

『全くです、いきなりディアベルさんに拉致されたかと思えば何をしてるんですか?グリスさんは』

 

『仕方ないさ、グリスだからな』

 

『うぬぅ……さすがに沖縄から首都は体に堪えるな!』

 

『コーバッツ。さては貴様、馬鹿だな?』

 

不意に扉前から聞こえた声に和人は、扉を開き、その声の主たちを中に引き入れる

 

「何時からいやがったっ!このバカどもっ!!!」

 

「おやまあ、カズ。お楽しみ中にすまんな」

 

「全く節度を持ってもらいたいわ…あっ、録画を切らないと」

 

「ミトさん。今、変なこと言わなかった?あっ、俺もタブレットの電源落とさないと」

 

「やれやれ……資料用の写真はこの辺りにしておきましょうか」

 

「見舞に俺のブロマイドをやるぜっ!」

 

「あたしの新曲のデモCDをどうぞ。サイン付きです」

 

「焼き立てのバームクーヘンを持ってきたぞ」

 

「うぬぅ、私はバナナ最中でいいか?今しがた、下の売店で買ったのだが」

 

「我が家に伝わる砥石だ」

 

「見舞いする気ないだろっ!!!」

 

病院内に木霊する和人の叫びを背に天哉達は一斉に走り出し、その後を追随するように和人も病室を飛び出す

 

「ホントに……あのままなんだね、みんなは。それと遅くなったけど、ただいま。深澄」

 

その日、深澄は心からの笑顔を親友に向けた。あの日、二人で始めたデスゲーム、やがて、恋人と仲間たちを巻き込み、更に新たな仲間たちも加わり騒がしさを増したあの世界での日々が、その日、彼女の中で終わりを告げた。だからこそ、彼女は親友に笑い掛ける

 

「おかえりなさい、明日奈。待ってたわ、貴女とまた会える日を」




あの戦いから4ヶ月、新たな日常を過ごす天哉達。その日々を少しだけ覗いてみると……

NEXTヒント 大円団


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十九奥義 大円団!帰ってきた日常!

え〜、今回は日常回でありますのでギャグ全開になっております。反省はしません!何故ならば、これがその作品だから!!!


「え〜、このように戦国時代はほぼゴリラが歩き回り、バナナ狩りにより、全てのバナナが一度は日本から消えた訳だが……おっと、今日はここまでのようだな。課題ファイルの18と19を転送するので来週までにアップロードしておくのだぞ?其れではっ!私はバナナの出荷作業をしてくる!君も来たまえ!灰沢君っ!」

 

「おうよっ!高良先生!」

 

歴史の授業……とは呼ぶに値しないバナナの歴史という意味不明な授業は鐘の音と共に終わりを告げる。担当教諭の高良は生徒の一人である純平を連れ、勢いよく教室を飛び出す

 

「おやまあ、あの二人は現実でも変わらんね」

 

「全くだ……だいたい、担任が高良先生で、副担任が教育実習の鈴代先生……更にクラスメイトはお前に純平、茉人、其れに歳上の筈の深澄や歳下の彩葉、菊丸、圭子……なぁ?可笑しくないか?明らかに」

 

その様子を見ていた天哉、和人は明らかに身内しかいない空間を見回しながら、溜め息にも似た息を吐き、苦笑を浮かべる

 

「まあ、可笑しいと言われたら可笑しいねぇ……俺らみたいな問題児を一挙に集めたってことなんだろうけど…」

 

「こうも身内ばかりだと味気がない……って言いたそうね?テン」

 

「おやまあ、お見通しってことか。深澄には」

 

背後から天哉を抱き締める様に話に参加してきた深澄は、妖艶さを思わせる笑みを浮かべる

 

「そーいや、カズ。今日の昼は?」

 

「ん、悪いな。先約があるんだ」

 

先約、明らかに浮き足立つ和人の様子から察するに相手が明日奈である事は明白だ。しかしながら、他人の幸せをぶち壊すことが生き甲斐の彼等は目付きを変化させる

 

「そうか……よし、おめぇさんたち。コイツを血祭りにあげろ」

 

「「了解!リーダー!」」

 

「大人しくしてなさいっ!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

隠し持っていたスコップを手に和人に襲い掛かるバカたち(天哉たち)の頭上を深澄のハリセンが一閃。御決まりの叫びを挙げる彼等を放置し、和人は明日奈が待つ庭園へと走り去った

 

「全く……」

 

「やっぱり、こっちでもバカ全開ですね」

 

「ああ、ふざけ過ぎだ」

 

簀巻きにされた天哉達を引き摺りながら、深澄は圭子と茉人と共にカフェテリアに向かう。指定席とも言うべき西側の窓際に近付くと、茶髪の少女が手招きする

 

「来たわね、深澄。其れに圭子と茉人も」

 

少女の名は篠崎里香。SAOではリズベットの名で、茉人と鍛冶屋を営んでいた少女である

 

「ごめん、ごめん。ちょっとバカたちを無力化するのに時間が掛かったのよ」

 

「ホントにあのまんまなのね……あれ?で、肝心のテンたちはどうしたのよ?」

 

「何を言ってるんですか、里香さん。皆なら……あれ?いませんね」

 

「だから、そう言ってんでしょっ!?ちょっと!茉人!あのバカたちは何処よ!」

 

少し前までは確かに居たはずの天哉達が姿を消した事に気付き、里香は湯呑で茶を啜る茉人に問いを投げ掛ける

 

「奴等なら、其処に居る」

 

「其処……って!」

 

「「何やってんのよっ!!!」」

 

茉人の言葉通りに視線を動かした深澄と里香の視界に飛び込んできたのは、ホットプレートを囲み、菜箸を構える天哉の姿だった

 

「見て分からんか?昼飯の焼き肉を始めるところだ」

 

「食堂で何をしてんのよっ!?普通に売店行きなさいよっ!」

 

「知らんのか?スペインではランチに焼き肉をするのが由緒正しい食事法なんよ」

 

「スペインが誤解されるでしょうが!」

 

「よし、バームクーヘンを焼こう」

 

「では僕はカレーパンを」

 

「焼き鳥」

 

「チーズケーキを焼きましょう」

 

「見よっ!これぞ沖縄産のバナナだ!」

 

「すげぇ!流石はオッさん!」

 

「おいおい、タレのピーナッツバターを忘れんなよ?」

 

「焼き肉はどうしたのよっ!!!マトモな食材が焼き鳥以外に見当たらないじゃないっ!!」

 

焼き肉とは言い難い、相変わらずな食材のラインナップに深澄の突っ込みが冴え渡る。茉人は蕎麦を啜り、里香は突っ込む気も失せたのかいちごヨーグルトを呑み始める

 

「そーいや、アンタ達は今日のオフ会は来るの?」

 

por supuesto(勿論)

 

「当たり前じゃない」

 

「メイリンさんがごちそうを作ってくれるから、行く」

 

「僕は我が家に伝わる秘伝のカレースパイスを持参しましょう」

 

「あたしもセカンドリリースの曲を披露しますっ!」

 

「ふっ、俺の1000項目はある騎士目録から伝説のバームクーヘンについての話を語ってやろう」

 

「バナナこそが主食だぁぁぁぁぁ!」

 

「その通りだ!バナナ万歳っ!!!」

 

「静かにしろっ!!!バカどもっ!!」

 

「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」

 

耳元で繰り広げられる騒がしいやり取りに痺れを切らした茉人がプラスチック製包丁を片手に乱心、その様子に天哉達は逃げ惑う

 

「駄目だわ……カオスな食卓になる気しかしない…」

 

「深澄。アンタも大変ね……」

 

重いため息を吐く深澄の肩を叩きながら、里香もため息を吐くのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。オフ会の会場であるエギルの店に天哉は深澄、和人、菊丸、明日奈の四人に加え、妹の琴音と幼馴染の直葉を連れ、向かっていた

 

「おろ?また行き止まりだ」

 

「全くテンちゃんは仕方ないなぁ。ほら、わたしに地図を貸して?えっと……こっちかな」

 

「逆だ、迷双子」

 

「「変な造語を付くんじゃねぇよ!ぼっち!」」

 

「誰がぼっちだコラァ!!!」

 

喧嘩を始める双子と和人を他所に深澄は何時もと変わらない冷静な判断で、地図を片手に《Dicey Cafe》に足を進める

 

「そう言えば、スグちゃんはエギルさんと面識はあるんですか?」

 

「うん。向こうで二回くらい一緒に狩りしたよ、おっきい人だよね」

 

「本物もあのくらいありますよ」

 

「でも良いのかな……関係ないあたしや琴音も参加して…」

 

「別に構わないわよ。どうせ、呼んでもない人が大量に来るんだし」

 

「あ〜……つまり、何時も通りなのね…直葉ちゃんも覚悟はしておいてね?」

 

「えっ…明日奈さん…それはどう----きゃぁぁぁぁ!!!」

 

《Dicey Cafe》の扉を開き、中に足を踏み入れた直葉は明日奈の苦笑混じりの問いに疑問を投げ掛けようとするが直ぐに視界に飛び込んだ状況に悲鳴を挙げる

 

「ふざけ過ぎだ」

 

「「ず……ずび……ば…ぜ…ん…」」

 

「純くんは可愛いなぁ!お姉ちゃんがスリスリしてやろうっ!」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!やめろコラァ!!!」

 

「ねぇねぇ、彩葉。この鳥さんたちに名前はあるの?」

 

「ある。これがぼんじり、こっちがすなずり、あれがかわ、そっちがもも」

 

「えっ?それって部位じゃない?焼き鳥の」

 

「だ、大惨事だっ!!!」

 

中は既に大惨事となっていた。茉人の足元には大量の瘤だらけの阿来と高良が転がり、純平は姉の湖咲に頬擦りされ、彩葉は圭子にペットの鳥たちを紹介していた

 

「おやまあ、早速始めてんのか。俺の道案内が良い時間稼ぎになったみたいだねぇ」

 

「どういうことだよ?テン。俺たちは時間通りに来た筈だろ。しかも、お前の迷子を見越して一時間前に出発した筈だ」

 

「そうだよ、テンくんはただでさえ迷子なんだから」

 

「テンくん。迷子に良く効く薬が出来ると良いね」

 

「スグちゃん。其れは手遅れです」

 

「訴えるよ?そして勝つよ……まぁ、主役は最後に登場するからな。実はおめぇさんたちに伝えた時間は嘘だ」

 

「「マジでっ!?」」

 

矢継ぎ早に罵倒されながらも天哉は不敵に笑い、事の真相を明かす。其れに和人達は声を揃えて驚愕するが深澄、琴音は理解していたようで既に店内に入店している

 

「そいじゃあ……グラスを掲げろっ!野朗どもっ!!!」

 

和人と明日奈を壇上に上がらせ、天哉が高らかに号令を挙げる。其れに続くように深澄を筆頭に参加メンバー全員がグラスを掲げる

 

「「キリト、アスナ!SAOクリアおめでとーーーーーっ!!!」」

 

乾杯しながらも状況を読み込めない明日奈は困惑するが和人は違う。不敵な笑みを崩さない親友に目を向ける

 

「よし、カズ。スピーチをしてくれ」

 

すると、マイクを手にした天哉が和人にスピーチをするように促す

 

「スピーチ!?うぅむ……えっとだな、アレは確か--ぐもっ!?」

 

「話が長えよ、ちょいと」

 

「「話始める前に終わらせたーーーっ!!!」」

 

語り始めようとした和人を瞬間的に黙らせる天哉の蹴りに全員が戦慄にも似た突っ込みを放つ

 

「何すんだコラァ!迷子っ!」

 

「誰が迷子だっ!このぼっちめっ!」

 

「喧嘩なら混ぜろやゴラァ!!!」

 

「「何時の間に脱ぎやがった!!!ゴリラァァ!!!」」

 

直ぐに何時もの戯れの喧嘩を始めるバカトリオ。その様子に誰もが笑い、段々と店内は騒がしさを増していく

圭子がデビューシングル曲を歌い始め、茉人の包丁が飛び交い、深澄がグラス片手に明日奈にゲームを教え、高良やリンド達と飲み比べをしていた阿来がパンツ一丁になっていたりと中々にカオスな光景が繰り広げられる

 

「全く、あんのコント集団は何処でも賑やかだな」

 

「ホントにな。でもまあ、変わらないのがアイツらなりの持ち味なんだろうな」

 

「うふふ、私も作り甲斐があるわぁ」

 

「メイリンさんの料理が現実でも食えるなんて、このクライン感激っす!ああ…貴女という料理を盛り付ける皿に俺はなりたい…」

 

「アスナ様!私の弟子を紹介しましょう!ほら、挨拶しろ!シグルド!こちらがアスナ様だ!」

 

「お前の弟子になった覚えはないっ!!!そもそもアスナ様って誰だ!サクヤ!この変態をどうにかしてくれっ!」

 

「明日奈さん。このバナナパフェだが中々に美味いぞ?食べないか?」

 

「ありがとうございます、湖咲さん。こっちの具なしペペロンチーノもどうですか?キリト君が作ったんですよ」

 

「「無視されたっ!!!」」

 

「え〜、そもそもですな。私が釣りと出会ったきっかけは…今から実に四十年ほど前の夏の出来事で…」

 

傍観者を決め込むエギル、笑顔で料理を振る舞うメイリン、料理の美味しさに感動し訳の分からない事を口走るクライン、崇拝する人物の側で騒ぐも無視されるクラディールとシグルド、釣りと自分の出会いを語るニシダ。若者に負けないくらいに大人たちも騒いでいた

 

「そーいや、エギル。《種》は順調に芽吹いてるか?」

 

「ああ、今、ミラーサーバがおよそ50……ダウンロード総数は10万、実際に稼働している大規模サーバが300ってところだな」

 

「おやまあ、順調順調。この調子で増えるといいねぇ…」

 

《種》。其れは茅場明彦が開発した、フルダイブ・システムによる全感覚VR環境を動かす為のプログラム・パッケージだ

四ヶ月前、天哉は茅場から《ザ・シード》と名付けられた其れを託された。しかしながら、そういう分野は管轄外である彼は和人に事情を話し、エギルに依頼し、《ザ・シード》を全世界にばら撒きサーバにアップロードし、個人でも落とせるように完全開放させた。その結果、死に絶える筈だったVRサーバーに革命()が芽吹いた

数多くのカテゴリーサーバーが次々に参入し、今では生活の一部にVRが歩み寄っているのだ

 

「なぁ、テン。俺は今でも夢を見てんじゃねぇかと思うんだ……だってよ、新しい世界の創生に立ち会ってるってことだろ?これが夢じゃねぇのが信じられねぇよ」

 

「夢か現か、其れを決めるのは常に自分自身さ。だからよ、クライン。今をおもいっきり楽しめばいいんよ」

 

そう言う天哉の表情は年相応の笑みを見せる。その姿にエギルも、クラインも、メイリンも自然に笑みを浮かべる

 

「はっはっはっ、テンらしいなっ!だそうだぞ?クライン」

 

「ったく……相変わらずだな、おめぇは」

 

「ふふっ、テンちゃんだもの。当たり前じゃない…あっ、二次会だけど予定に変更は無いのよね?」

 

por supuesto(勿論)

 

「今夜十一時、イグドラシル・シティ集合よ。こっちは時間厳守よ?主役さん」

 

背後を振り返り、和人に深澄は笑いかける

 

「ああ」

 




新たな芽吹き、其れは妖精達の世界も例外ではなかった

NEXTヒント ハジケ伝説よ!永遠に!

次回!遂にALO編最終幕!その後、暫くはギャグ回を挟んでいきます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三十奥義 伝説は終わらない!彩りの道化よ、永遠に!

遂に………ALO編最終幕!長かった!実に長かった…のか?



漆黒の夜空を貫き、飛翔する影が一つ。対空制限無くなった翅で、彼女は空気を切り裂くように何処までも加速する

この世界は一度崩壊した。しかし、新たな芽吹きを受け、甦った。全ての妖精が無限に飛べる世界、かつての自分が、兄と再会する前の自分が、望んだ翅を彼女は手に入れた

 

(あたしは……あそこには行けない……フィリアみたいに…)

 

親友であるフィリアは直ぐに帰還組と意気投合し、今では彼女を中心にトレジャーハンターギルドを結成している。兄であるキリトも、ソウテン達とゲームを楽しんでいる

しかし、彼女は、リーファは其処に馴染めなかった

先週開かれた《アルヴヘイム横断レース》で一位を獲得したが、彼女は名誉よりも自由を愛していた。唯只管に飛び続ける自由が、やがて雲を突き抜け、目の前に満月が顔を見せる

 

「おや、スグちゃん。妙な所で会いますね」

 

「きっくん……」

 

満月の光を浴び、まるで透き通るように光る翅を旗めかせるのはヴェルデ。リーファの幼馴染であり彼女が出会った最初の《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》のメンバーだ

 

「悩み事ですか?」

 

「うん……今日のオフ会さ。楽しかったよね」

 

「そうですね。まるで昔みたいに騒ぎました、あの世界で僕たちが過ごした二年間と同じくらいに」

 

「でもさ…遠いよ、あたしには遠すぎる…。この先、VRはもっともっと発展を遂げる…でも、あたしは…その先を見れない…だって、あたしには遠すぎるもん…」

 

《SAO》というデスゲームが如何なる物であったかをリーファは知らない。故に、その世界で数多くの出会いと別れを経験したキリト達に自分は敵わない。その先を共に歩むことも出来ない。しかし、彼は違った

 

「………確かに遠いです。僕もあの二人の背中を目印に、今まで必死に遠い道のりを歩みました。でも、そうじゃなかった。自分の歩幅で良いんですよ。大丈夫、スグちゃんが追い付けない時は、僕が手を引きます。スグちゃんが迷った時は、僕が手を取ります。だから、泣かないでください。君に泣き顔は似合わない」

 

「……覚えてたんだ…」

 

「当たり前です」

 

其れは出会いの日、彼と交わしたやり取り。兄と疎遠になり、只管に剣を振る彼女の前に現れた彼が放った優しい言葉だった

 

『君に泣き顔は似合わない。僕は菊丸、君と僕には縁が出来ました。喜びなさい、君は僕の親友です!』

 

「あの頃のきっくん、少しバカだったよね」

 

「其れを言えば、スグちゃんは泣き虫でした」

 

「むっ…いじわる」

 

「何とでも言ってください。其れにです、僕が尊敬している道化師と勇者はきっとこういうでしょう」

 

顔を顰めるリーファに対し、ヴェルデは年相応の笑みを浮かべた後、瞼の裏に浮かぶ二人の尊敬する兄貴分を思い出し、口を開く

 

「彩られたら、彩り返せばいい。其れが俺たちのやり方だ…とね」

 

「あはは、言いそうだね。お兄ちゃんとテンくんなら」

 

兄貴分達の決め台詞を口にするヴェルデにリーファは自然と笑みを溢す。暫くすると下から声が聞こえてきた

 

「ヴェルデ!リーファに指一本でも触れてみろっ!俺はお前を敵と見做し、駆逐するぞっ!」

 

「おやまあ、次はシスコンか」

 

「末期ね、これは。どうしようもないわ」

 

「ママ。パパの洗濯物とわたしの洗濯物は別にしてください」

 

「ユイちゃんは知らない間に反抗期を迎えたの?」

 

「いやァァァァァァ!娘がグレたぁぁぁぁ!」

 

「おやまあ、キリトは騒がしいね。とーさん」

 

「うむ、反面教師だ。覚えておきなよ?息子よ」

 

「一番の反面教師は黙ってなさい。さて、リーファ?貴女に見せたいものがあるんだけど、時間は大丈夫よね?まあ、答えは聞いてないんだけど」

 

「強制なのっ!?」

 

傍若無人なミトの言葉にリーファが驚愕していると、満月が蒼く光り、円形状の何かが徐々に姿を見せる。耳元に響くのは、重々しい鐘の音、やがて、円形は円錐形の幾重もの層が重なった巨大な城の全貌を見せる

 

「あ……まさか……まさかあれは……」

 

「スグちゃん。アレが浮遊城《アインクラッド》、僕たちが攻略を目指した最悪にして最高の記憶…どうです?僕たちと、あの城を彩ってやりませんか?」

 

「………仕方ないなぁ。きっくん達だけじゃ、絶対に先に進まないもんね。あたしがきっちりと道案内してあげるよ」

 

「何を仰る、スグちゃん。道案内するのは僕の方ですよ」

 

「そいじゃあ行くか。何時も通り……派手に!」

 

「「了解!リーダー!!!」」

 

ソウテンの号令を皮切りに、浮遊城へと彼等は飛ぶ。其々の想いを胸に、彼等は、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》は飛んだ

そして、道化師は眼下に広がる妖精達が暮らす街、《ユグドラシルシティ》へ、深々と頭を下げる

 

「夢か現か、一癖も二癖もある妖精達が彩りし、幻想世界での浪漫喜劇…お楽しみいただけましたか?皆様の御眼鏡に称う日々を彩れておりましたら、拍手御喝采の程、御願い申し上げます。其れでは、今宵の舞台は……此れにて、幕引きと致しましょう。また会う日まで、暫しのお別れに御座います、Adiós(さよなら)

 

此れは仮想世界を艶やかな色彩で、己の色に彩りし、十人の勇士たちの物語

 

一癖も二癖もある者たちを率いるは、仮面から覗く蒼き眼で万物を見透かし、不敵な笑みを携えし、槍使い

 

その名を、『蒼の道化師』と申す

 




此度の浪漫喜劇をお楽しみいただき誠にありがとうございます。暫くは日常回を挟み、新たな世界に彩りを加えていこうかと思います。其れでは今宵はこの辺りで幕引きと致しましょう、Adiós(さよなら)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間 彩りの道化と愉快な仲間たち
第一問 問題!勝つのは俺か、お前か。どっち?


えー、お知らせの通り、暫くはギャグ的な日常回が続きます。最初はカオス極まりないクイズ大会をお送りします


「レディ〜〜〜〜ス!ア〜〜〜ンド!ジェントルメ〜〜〜〜ン!!!待たせたなっ!いえ、待たせ過ぎたかもしれないっ!娯楽は何時も忘れた頃にやって来るっ!荒れ狂う妖精達よっ!お前らの知性を見せてみなっ!新生アインクラッド大クイズ大会のスタートだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

新生アインクラッド。ALOに導入されたあのデスゲームの舞台であった浮遊城。今宵、その場所に新たなる祭典が生まれようとしていた

各種族の妖精達が見据える先には一つの舞台。その中央で、特徴的な猫耳をぴこぴこと動かし、愛らしい鍵尻尾をふりふりと揺らし、軽快なステップを繰り広げる少女の手にはマイクが握られている

 

『L・O・V・E!シリカ!がんばれ、がんばれ!シリカ!!』

 

「はーい!司会進行はあたし、泣く子も笑うのキャッチフレーズでお馴染みの《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の美少女彩りアイドルのシリカでーす!よろしくねっ☆」

 

『L・O・V・E!シリカ!がんばれ、がんばれ!シリカ!!』

 

少女、シリカは悪戯っ子の様な笑みで観客席を魅了する。彼女はこの四ヶ月で、本格的なアイドルデビューを果たし、SAO時代の愛玩マスコット的な立ち位置から正真正銘のアイドルという地位を確立し、現在では世界中に彼女のファンが存在する(スーパー)アイドルである

 

「さてさて、今回の出場者を紹介しちゃいます☆コイツらだぁぁぁぁ!」

 

「おやまあ、人が沢山だ」

 

「きっと暇なんだよ。テンちゃんみたいに」

 

「フィーさん?訴えるよ?そして勝つよ」

 

「ふっ……リーファ、この大会に俺たちの敵はいないみたいだな」

 

「お兄ちゃん?大会始まる前にパスタを食べるのはやめてくれない?身内の縁を切るよ」

 

「なんでっ!?」

 

「頑張りましょうね。アスナ」

 

「うん、よろしくね。ミト」

 

「ヴェルデ!俺たちの騎士道を見せてやろう!」

 

「申し訳ありませんがチームを変えてください」

 

「何故にっ!?」

 

「筋肉祭りじゃぁぁぁぁ!!!バナナパワー見せてやらぁぁぁぁ!」

 

「………グリスさん。クイズはね、筋肉関係ないんだよ?」

 

「マジでかっ!?」

 

「チーム《迷子(ファンタジスタ)》、チーム《脳筋パスタ》、チーム《ナベゾネス》、チーム《マハラジャナイト》、チーム《ゴリラ&愛しのダーリン》の以上、五チームが参加します」

 

「「変なチーム名つけんなっ!マイクバカッ!!!」」

 

「愛しのダーリン…悪くない」

 

「ヒイロー!頑張ってね!応援してるよっ!グリスさんはどーでもいいけど」

 

「「エコ贔屓だっ!!!」」

 

最早、御約束であるヒイロの贔屓扱いに他の参加者から突っ込みが飛ぶ。その光景に観客席のリズベットは溜め息を吐く

 

「はぁ……ホントに飽きないわね…アイツらは…」

 

「バカだからな。仕方あるまい」

 

「うむ、誰が勝つのか楽しみだ」

 

「ふっ、勝つのは我が愛弟のグーくんに決まっているだろう?なぁ、ルー」

 

「う〜ん……ど、どうなのかなぁ?そう言えば、サクヤちゃん。領主の仕事はどうしたの?」

 

自分の弟が勝利すると信じてやまないサクヤに、疑問を感じたアリシャが問いを投げ掛ける。確かに領主の彼女がこの場にいるのは違和感がある、しかしながら其れはアリシャも同様であるが今は触れないでおこう

 

「シグルドに押し付けてきた」

 

「えっ……領に戻ってるの?」

 

「ああ、クラディールとかいうプレイヤーに弟子入りしてから丸くなったからな。家政夫に雇ったんだ、ちなみに教育係はレコンというこれまた奇妙な少年だ」

 

「奇妙って、どう奇妙なの?」

 

「リーファの食べた料理の余り物をタッパーに詰めたり、リーファが出したゴミを漁っていたり、リーファが鼻を噛んだティッシュを懐にしまったりしていた。実に奇妙だろう?」

 

「奇妙というか、其れは変態って言うんじゃないかナ?サクヤちゃん」

 

「変態の集まりなのか?風妖精(シルフ)は」

 

「コーバッツ。アンタは今の自分の姿を見てみなさい、鏡で」

 

「うぬ?何かおかしいかね?リズベット」

 

「その変な幟と襷を外しなさいよっ!!!」

 

「うほっ!?」

 

バナナ主食主義と書かれた幟と襷を身に付けたコーバッツにリズベットの物理的な突っ込みが飛び、彼は動物的な叫びを挙げ、吹き飛ぶ

 

「………実に賑やかだ。む?始まるみたいだな」

 

賑やかな雰囲気に呆れながらも、茶を啜るアマツ。その視界が舞台上の更なる賑やかな仲間たちを映す

 

「それでは第一問!この人は誰でしょう!」

 

軽快な効果音と共に上空のモニターに紫色の装備に耳を包んだ男性プレイヤーが映し出される。その姿にミトは表情を引き攣らせる

 

「ちょっと!どっから、持ってきたのよっ!このスクショ!」

 

「旧SAOサーバーよりハッカーのKさんがサルベージしました」

 

「あの変態護衛っ!!」

 

《K》という謎の存在に心当たりがあるのか、ミトは空に向かい、叫んだ。その親友の姿にアスナは苦笑するしかなかったのは言うまでもない

 

「其れでは、分かった方からお答えをどうぞっ!」

 

「はいっ!鬼っ!」

 

「違いますっ!」

 

「はいっ!怖い鬼!」

 

「違いますっ!」

 

「はいっ!ものすごい怖い鬼っ!」

 

「違いますっ!」

 

「分かった。すごい怖い鬼」

 

「違いますっ!」

 

やたらと鬼を連発するキリト達。その様子にミトは思う事があるのか、顳顬を動かし、苛立ちを募らせ始める

 

「おやまあ、おめぇさんらは何も分かってないね。あのミトの反応……間違いない。あれは…!」

 

「違います」

 

「あれぇっ!?まだ何も言ってないんだけどっ!?」

 

「だってリーダーさん。真面目に答えた試しないじゃないですか、直ぐにボケに走るし」

 

「どんだけ信用ないんよっ!?」

 

「どうせ、お前の事だ。散々溜めた挙句に鬼みたいな鬼男とか言うんだろ?」

 

「言わんわっ!てかっ、其れはもう鬼以外の何者でもねぇんだけどっ!?」

 

「誰が鬼だっ!!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

連続の鬼呼ばわりに遂に怒りが頂点を迎えたミトの鎌がソウテン達の頭上に振り下ろされる

 

「えっと、βテストからデータを引き継いだ正式サービス開始日のミト」

 

「アスナさんっ!正解です!いやぁしかし、ミトさん。これがミトさんの理想ですか」

 

「別にそういうのじゃないわよ。ただ強いのをイメージしたら、こういう感じになっただけよ」

 

「「なぁんだ、ミト(さん)か。てことはやっぱり鬼じゃん」」

 

「んだとコラァァァ!!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!!」

 

話が纏まりかけた瞬間、背後から放たれた一言を聞き逃さなかったミトはバカたちを追い掛け、舞台上を駆け回る

 

「えー、始まったばかりのクイズ大会ではありますが、一門目から何故かは分かりませんが負傷者が続出という前代未聞の事例が起きましたので、中止となりました」

 

「「おめぇの問題のせいだろうがっ!!!」」

 

「ぐもっ!?アイドルのあたしを殴るとか何を考えてるんですかっ!シバきますよっ!バカどもっ!!!」

 

冷静に司会を進行していたシリカであったがソウテン達の物理的な突っ込みを受け、騒動に加わり、更に観客達も乱入を始め、次第に何時もと変わらない騒がしいお祭り騒ぎが繰り広げられる。しかし、誰もが楽しそうに、笑い合い、騒ぐ姿にアスナは笑みを浮かべる

 

「仕方ないなぁ……みんな」

 

アスナが笑う隣、遅れてきたユイは状況が読み込めないらしく、頭を数回ほど左右に捻り、隣にいたロトとエストレージャに視線を動かす

 

「あのー、ロトくん、エスちゃん。今日ってクイズ大会でしたよね?どーして、みんなは殴り合ってるんでしょう」

 

「そりゃあ、決まってるよ」

 

「ですね」

 

「決まってる?どういうことですか?」

 

疑問符を浮かべるユイに対し、ロトとエストレージャは不敵な笑みを浮かべた後、口を開く

 

「「バカだからだよ(です)」」

 




来るべき定期テスト、しかしながら全く勉強していない天哉達…果たして、このピンチをどう切り抜けるっ!

NEXTヒント 一夜漬けで駄目ならば…!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二問 不正はバレずに行えばいい……という訳ではない

コラボが終わり、久方ぶりの本編!今宵はギャグマックスな学生生活を御覧に入れましょう


「深澄…頼みがある」

 

「イヤよ」

 

ある日の昼休み。食堂で昼食を取っていた深澄は何時になく真剣な表情の天哉からの頼みを食い気味に拒否する

 

「何かをしてくれとは言わん。俺はおめぇさんに隣に居て欲しいんよ」

 

「駄目よ。諦めなさい」

 

「そんな…答案を見せてくれるだけでいいんだぁぁぁぁ!!!

 

昼下がりの食堂に響き渡る天哉の叫び。深澄は彼に目も暮れずに昼食の鍋焼きうどんを啜っていた

 

「すまん、やるだけの事はやってみたがカンニング交渉は失敗した」

 

「テンも駄目だったか。俺も明日奈に頼んでみたが、返事の代わりに空手チョップされた」

 

「そうか……使えんぼっちだ」

 

「おいコラ、聞こえてるぞ。迷子」

 

天哉の呟きに和人が反応を示す横で、純平達はテーブルに手を置きながら、困った様に眉を顰める

 

「深澄の力を借りれねぇとなると…このままじゃ、全員が赤点になっちまうな」

 

「仕方ありません。今回は自力で突破しましょう」

 

「今から勉強するの?試験は明日なのに」

 

「ふっふっふっ、この僕を侮らないでもらいましょうか。伊達に「吏可楽流(リベラル)」の参謀をしていません……用はカンニングが出来ればいいんですよ」

 

不敵に笑う菊丸は懐に忍ばせていたノートを取り出し、その表情を天哉顔負けの凶悪面に変化させる

 

「なるほどな、自力のカンニングか」

 

「ありきたりな手段だけど、それしかないな」

 

「取り敢えず、コピー機で縮小するか」

 

菊丸からノートを預かり、食堂の脇にあるコピー機で限界ギリギリまでコピーし、テーブルに並べる

 

「う〜む……見える限界はこんくらいか」

 

「隠す場所を考えないとだな」

 

「なんだ、カンニングか。面白そうだな、俺も一枚噛ませてもらおう」

 

「あたしもアイカツで忙しくて、勉強まで手が回らないので参加させてください」

 

「………何故に、俺の周りはこんなんばっかりなんよ」

 

「良い質問だな。其れはお前が人生の迷子だからだ」

 

「んだとコラァ!!」

 

茉人、圭子の参加に自分の周りが異形な事を問う天哉へ和人が爽やかな笑顔で答えを返し、何時も通りの殴り合いが始まる

 

「でもよ、どうやって持ち込むんだ?普通に広げてたらバレちまうぞ」

 

「ご安心ください、抜かりはありません」

 

純平の問いに菊丸はトレードマークの眼鏡を、キラッと光らせる

 

パターン1(天哉の場合)「無難に筆箱だな」

 

パターン2(和人の場合)「んじゃ俺は飲み物ラベルにするかな」

 

パターン3(彩葉の場合)「団扇の裏」

 

パターン4(菊丸の場合)「僕は服の中ですかね」

 

パターン5(圭子の場合)「あたしはビラ配りで余ったチラシの裏にします」

 

パターン6(茉人の場合)「ならば、俺は扇子の裏にするか」

 

パターン7(純平の場合)「俺はワンナイで行くぜっ!」

 

「おやまあ、ワンナイとはこれまたリスキーだな」

 

ワンナイ、其れはOne nightつまり一夜漬け……の事ではなく腕内の事である。筋肉馬鹿である純平だからこそ、可能な手段である

 

「はぁ…自力で勉強って選択肢はないのね…」

 

「今更だよ……深澄…」

 

「アンタらも大変ね…」

 

盛大な溜め息を吐く深澄と明日奈に対し、里香は苦笑気味に同情していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テスト当日。教室を静寂が支配し、天哉達は其々が持ち寄った縮小コピーを手に試験に望んでいた

 

「こほん、俺が試験の監督をするからには不正は認めないぞ。なにせ、騎士だからな!」

 

試験監督である阿来が爽やかな騎士的笑顔(ナイトスマイル)で不正行為は許さないと宣言するが、天哉達が諦める筈などなかった

 

「それじゃあ……先ずは筆箱をしまってくれ」

 

(おろぉっ!?)←天哉(脱落)

 

(ふんっ…馬鹿め。所詮はテン、頭の中が迷子な可哀想なヤツだ)

 

「それと飲食は禁止だからな。飲み物はしまえ、桐ヶ谷」

 

(な、なんだとぉぉぉ!!!)←和人(脱落)

 

早々に不正行為を潰される天哉と和人。二人は助けを求めるように菊丸達の方を見るが、彼等の眼は、友情とは何だろうと言いたくなるぐらいに冷やかであった

 

「……というか騎士学って何なんですか…聞いたことありません…」

 

「何でも鈴代先生のオリジナル授業らしい」

 

「絶対にあの人以外に需要ないよね…それ…」

 

「適当に埋めるしかない…ん?純平、どうした?」

 

騎士学という謎のテストに困惑する菊丸、彩葉、圭子に最低限は埋める事を進言する茉人は背後から呻き声にも似た声に気付き、純平の方を見る

 

「汗で滲んで文字が読めねぇ…!!」

 

「おめぇさん、バカだろ。やっぱり」

 

「仕方ない。所詮は純平だ」

 

相変わらずの純平に天哉、和人が突っ込みを放つ。やがて、試験開始から数十分が経過し、終了の時間が迫る

 

「だ、駄目だ……カンペを見ても全く分からん…

 

「ここは何時もみたいにチームプレイで行くか」

 

「なるほど、クリフト使うなですね」

 

「クリフトって誰?」

 

「クリフトはあの有名なゲームで魔王を相手に回復魔法を掛けてしまううっかり屋さんの事だよ。つまりはリーダーのようなアホだね」

 

「おいコラ、誰がクリフトだ」

 

「ならば、クリフト抜きで協力プレイという事にすればいい」

 

「おいコラ、クリフト蔑ろにすんな」

 

結局、《クリフト使うな》ではなく普通に協力という形に落ち着き、改めて答案用紙に向き直る

 

「あっ…」

 

刹那、服に仕込んでいた菊丸の縮小コピーが宙を舞う。誰もが気付くも、時は既に遅かった

 

「緑川…これは何だ?」

 

「えっと……我が家秘伝のカレーのレシピです…」

 

「ふぅん…其れで?実際のところは?」

 

「「カンニングペーパーです。センセー」」

 

「協力はどうしたんですかっ!?」

 

天哉達からの裏切りで、不正が露見した菊丸はテストを受ける資格を失い、不可となる

 

「しかし、出来が悪いな。其れでも誇り高き騎士か?お前たちは」

 

((騎士になった覚えはねぇ!!!))

 

阿来の問い掛けに答案と向き合いながら、天哉達は心中で突っ込みを放つ

 

「仕方ない。サービス問題だ、今から言う事を騎士風に訳すんだ」

 

((訳すのっ!?えっ、騎士学って言語学なの?))

 

「第一問、上半身にバナナを括り付けた男」

 

((意味わからんっ!!!誰かサービス問題の意味を教えてやれっ!!))

 

「第二問、仮面を付けた迷子」

 

((変な問題しか出ないっ!!授業中に何の話をしてたんよっ!!))

 

騎士とは何だ、と言いたくなる訳の分からない問題ばかり飛び出す事に天哉達は苛立ちを募らせる

 

「最期の一問…バームクーヘン」

 

「「完全にてめぇごとじゃねぇか!!バカクーヘン!!!」」

 

「ぐもっ!?教師を手を挙げるとは何事だぁ!このバカどもっ!!!」

 

「よし…こんな所ね…というか、現実でも相変わらずね…やっぱり…」

 

後日。深澄以外の全員は結局、不正が露見した為に不可となったのは言うまでもない。そして、阿来は生徒を相手に騒ぎを起こした為に教育実習の評価が二段階ほど下がったのは言わずもがなである




母親の命日、天哉は久方ぶりに墓参りに赴く。そこで再会したのは……

NEXTヒント あの日の真意

次回は少しだけシリアステイストな話を御送り致します


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三問 踏み出す一歩!スタイリッシュ!

今回は少し趣向を変えて、真面目な話に御座います。コラボ先でカッコいいテンを見た瞬間、たまには真面目な話も書いておかないと実はテンがしっかりとリーダーなんだなというのを忘れられそうなので!自分で書いてみようと思いました!まあ、前半はギャグなんですがね……


「……………」

 

昼休みの食堂で、好物のピーナッツバターサンドを片手に流れる白い雲を眺める天哉。その瞳は寂し気で、何時もの不敵な笑みは見受けられない

 

「リーダーが物思いに耽ってる」

 

「これは珍しいですね。明日は台風でしょうか」

 

「テンが悩むだと…!?ま、まさか天変地異の前触れかっ!!」

 

「どうしましょう!あたし、まだ死にたくないです!アイドル生活を終わらせたくないですっ!」

 

「………そうか、今日だったな」

 

普段はあり得ない天哉の姿に、慌てふためく彩葉達を尻目に和人だけは全てを理解したように彼を見ていた

 

「和人。何か知ってるの?」

 

「あ〜……これは俺の口からは言えないかな…」

 

「むっ、和人くん。恋人のわたしにも言えない事なの?それは」

 

「ああ、明日奈にも言えない。これはテン自身が蹴りをつけなきゃいけないことだからな…」

 

「テンくん自身が……?」

 

「どういう意味なの…?」

 

煮え切らない態度を示す和人に、明日奈も、深澄も疑問符を浮かべるしかない。其れでも彼は頑なに語ろうとせず、パスタを食べ終えると足早に食堂を後にした

 

「うむ……これはいかんな。よし、鈴代君!例の策を実行するぞ!」

 

「よしっ!任せてくれっ!汚名挽回だ!」

 

「いや、汚名挽回してどうするんですか」

 

「菊丸。鈴代先生はバカなんだよ」

 

「よく其れで教育実習しようと思いましたね」

 

「んだとコラァ!」

 

菊丸、彩葉、圭子の辛辣な物言いに阿来は彼等を追い回す。その騒動に参加していない純平は意気揚々と何かの準備を始める高良に視線を向ける

 

「んでよ、先生。何やるんだ?」

 

「うむ、桐ヶ谷の家に家庭訪問だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……ん?珍しいな、母さんの靴がある…」

 

放課後。自宅に帰宅した和人は玄関に母の靴がある事に気付き、疑問に思う。大抵の場合は帰りが遅い彼女の靴がこの時間帯にある事は珍しい。左右に首を捻り、疑問符を浮かべる

 

「……ん?なんだ、この歌は……なんか聞き覚えがあるな……確か圭子のデビューシングル……ま、まさか!!」

 

刹那、家の中から響き渡る謎の歌に和人は靴を脱ぎ捨て、リビングに駆け込む

 

「「どりゃァァァァァァ」」

 

「彩られたら、彩り返す〜。塗りたくって、塗りたくって〜」

 

「其れでですな、桐ヶ谷さん。オタクの息子さんは学校でもぼっちなんですよ」

 

「あら、そうなんですか。やっぱりあの目が良くないんですかね、死んだ魚みたいですもんね」

 

「人の家で何してんだぁぁぁぁ!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

キッチンでスタイリッシュにチャーハンを炒める純平、彩葉、菊丸、阿来に蹴りを叩き込むと、その先に居た圭子と高良が二次災害を受けるように巻き込まれる

 

「あら、和人。おかえり」

 

「ああ、ただ……って!母さん!何でこいつらをいれたんだっ!」

 

「何を言ってるのよ。担任の先生と友達なんでしょ?あげてもいいじゃない、別に」

 

「「全くです、お母さん」」

 

「うっせぇっわ!!何を開き直ってんだ!!ここは俺の家だ!というか、そのチャーハンも俺のだろうが!」

 

「カズさん。細かいことは気にしちゃいけない、世の中には新聞紙をトイレットペーパーって呼ぶ人も居る」

 

「何の話をしてんだ!お前は!この焼き鳥チビっ!」

 

「チビじゃない。成長期」

 

「あっ、スグちゃん。お茶をもらえますか?」

 

「いや当然のように言わないでくれるっ!?というか何でいるのっ!?」

 

「純平さん!今日も素敵な筋肉ですね!」

 

「おぉ!そうだろう、そうだろう!」

 

彩葉を相手に毎度のやり取りをする和人の背後には、稽古帰りの直葉に御茶を要求する菊丸、何時の間にか上半身裸の純平を褒め称える琴音が居た

 

「桐ヶ谷……いや、キリト。俺たちが来た理由は分かってるんだろ?聞かせてくれよ」

 

「………駄目だ。この話は簡単に話していいことじゃ---」

 

「話してやりなさい。カズ」

 

「母さんっ!?」

 

阿来が真剣に頼むも口を噤む和人。その一瞬で、何かを理解した翠は煙草を蒸し、息子へ話すように促す

 

「分かり合たいなら隠し事はしない……其れが我が家の家訓よ」

 

「………分かったよ、話す、実は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ、久しぶりだな。随分と待たせちまった」

 

此処は所沢霊園。「蒼井家之墓」と刻まれた墓石の前に佇む少年。青いメッシュ入りの黒髪と青い羽織を風に靡かせる彼、天哉は母が眠る墓前に花を手向ける

 

「あの日から一度も会いに来てなかったよな……ホントにダメだよなぁ…俺って…」

 

あの日、其れは七年前の4月11日。天哉の人生全てが変わってしまった日。行き場の無い怒りをひたすらに打つけ、荒れた心には治らない黒い衝動が生まれ、思い付く限りの犯罪を繰り返し、満たされない欲を満たす為に、がむしゃらに、怒りをぶつけるようになった日。この日を彼は忘れた事などない、忘れられる筈などなかった

 

「この前さ、オヤジに会ったんだ。久しぶりに見るてめぇの息子を見た開口一番がそこのガキだぜ?笑っちまうよな……でもさ、不思議と嫌じゃなかったんだ。昔はオヤジに会う度に、うざったくて仕方なかったのに……久しぶりに見たオヤジはちょっとだけ…ほんのちょっとだけだけど、優しく見えたんだ」

 

眠る母に語り掛けるように天哉は嬉しそうに父との再会を話す。その表情は次第に無邪気な年相応の少年に変わっていく

 

「…………よくもまぁ、あんなに喋る事があるもんだ。誰に似たのやら……」

 

「あ、あの……天哉君の御父様ですよね?」

 

木の影から様子を見ていた天満が吐き捨てるように悪態にも似た皮肉を吐いていると、背後から少女に呼び掛けられた。振り向くと、濃紫がかった黒髪ポニーテールの少女が立っていた

 

「君は……確か、須郷の時に天哉といた子だな?えっと…」

 

「兎沢深澄と言います。天哉君とは一応……結婚を前提にしたお付き合いをさせていただいてます……」

 

「そうか、天哉の…。どうだ?アイツは」

 

「どう…というのが天哉君の魅力を聞いているのだとしたら、彼は不思議な人です。突然、現れたかと思えば、まるで世界を彩るように道を切り拓いたり、道草ばっかりしているかと思えば、しっかりと私たちを導いてくれたり、道を間違えたかと思えば、その手を引いてくれる……でも、そんな彼だから、誰かを幸せにする事を真剣に考えられる彼だから、蒼井天哉だから、私たちは彼を“リーダー”って呼ぶんです。其れが、私たちが彼に出来る一番の恩返しですから」

 

そう言って笑う深澄の笑顔が、天満の瞳には亡き妻の姿が重なる。まだ自分が警官となりエリート思考に塗れる前、仲間たちと“チーマー”と呼ばれるカラーギャングの前身とも言える徒党を組み、怒りをぶつけまくっていた時期に出会った彼女、音葉が笑ったような気がした

 

『天満くん!また喧嘩したでしょ!』

 

『してねぇよ……』

 

『ウソっ!翠ちゃんが言ってたわよ!』

 

『翠!テメェ!』

 

『うっさい、バーカ!』

 

『んだとコラァ!!誰がバカだ!』

 

『アンタ以外に誰が居んのよ?このバカ』

 

『コラっ!天満くんも翠ちゃんも喧嘩はダメだよっ!』

 

『ぐもっ!?』

 

何時からだっただろう、彼女とそういうやり取りをしなくなったのは。息子を自分の操り人形のように思うようになったのは。何時からだったのだろう、自分が自分でなくなったのは……

 

「深澄さんだったか。君は天哉が好きか?」

 

「はい、大好きです。親の貴方に言うのもなんですけど……世界中の誰よりも彼を、天哉を私は愛してます」

 

「そうか…君には悪いが、俺は天哉と琴音、音葉の三人を愛してる。つまりは三倍だな」

 

「なら、その更に上を目指すだけです。私は彩られたら、彩り返す主義ですから」

 

「……面白いお嬢さんだ」

 

「おろ?ミトに、オヤジ?なにしてるんよ」

 

話に夢中になっていた深澄と天満が火花を散らし合っていると間の抜けた声が耳に届いた。其処には墓参りを終えた天哉が立っていた

 

「天哉。墓参りは良いのか?」

 

「ああ、終わったから。オヤジは今からか?」

 

「ああ。音葉のヤツ……なんか言ってたか?」

 

背を向け、深澄と共に歩き出した天哉に問いを投げ掛ける天満。すると彼は、振り返らずに手だけ振った

 

「バーカ、死人が口なんか聞くかよ。知りたきゃ、自分で聞いて来い」

 

深澄は彼の横顔を見る、その表情は不敵な笑みを浮かべていたが嬉しそうであった。繋がれた手を握り返し、霊園の入り口に歩いていく。仲間たちが待つ明日へ、二人はまた彩りを加えにいく

 

「「テン(さん)!」」

 

「おやまあ、おめぇさんたち。来てたんか…じゃあ行くとするか…派手に!」

 

「「了解!リーダー!!」」




ある日、ロトはユイとエストレージャの二人と御使いに出かけることになった。しかし、はじめてのおつかいは前途多難のハジケ街道まっしぐら!

NEXTヒント おつかいできるかな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四問 可愛い子にはお使いをさせよ

アホの子ユイちゃん…書いてると楽しいのは自分だけだろうか?


「今日はママがごちそうを振る舞ってくれるそうなので、お使いに行こうと思います!どーですかっ!」

 

ある日の昼下がり。ギルドホームで寛ぐソウテン達を前にユイが高らかに宣言する

 

「どーですかって行けばいいじゃない」

 

「行けばいいじゃないとは何ですかっ!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!目がァァァ!!!」

 

投げやり気味に放たれたソウテンの発言に対し、ユイが容赦無く目潰しを繰り出す。余りの痛みに床を転げ回る迷子を気に留める者は誰も居ない

 

「良いですか。ごちそうを美味しく食べるには準備が大切なんです、クッキーを食べる前に手を洗うのと同じですね」

 

「なるほど、確かに準備は大切だな。パスタを茹でる前に湯加減を見るし」

 

「ええ、カレーを作る前に野菜を切りますからね。スグちゃんもそう思いますよね?ほら、脳筋なスグちゃんに必要不可欠なプロテインにも準備は大切ですし」

 

「そうそう、脳筋なあたしにはプロテインが必要不可欠…………って!!誰が脳筋よっ!!!」

 

「ノリツッコミがお上手ですね。相変わらず」

 

「だから褒められても嬉しくないよっ!?」

 

ユイ、キリトの意見に賛同しながらもリーファを弄る事を忘れないヴェルデの姿も見慣れた光景だ

 

「でもユイちゃんだけだと心配だな」

 

「ああ、ユイは可愛いからな。誘拐されたら大変だ」

 

「やっぱり、そうだよね。ユイちゃんは君に似て好物に異様な執着があるから、クッキーをあげるって言われたら、付いてきそうな気がする……」

 

「うむ、ユイはクッキー大好きだからな」

 

「えっ?タダでクッキーくれる人がいるんですか?ちょっと行ってきま--あうっ!」

 

「「やめなさい!」」

 

好物が貰えると聞き、出掛けようするユイを両親が物理的に制止し、簀巻きにする

 

「そうだ。ロトについて行かせればいいんじゃない?あの子が一緒なら安心よ」

 

「駄目だ。パパは反対だからな、我が家の可愛い長女を嫁に出すなんて」

 

「キリトくん、今はそういう話じゃないのよ?ちょっと黙ってて」

 

「そうだよ、娘の恋愛に口を出すとかナイワー。身内の縁切るよ?お兄ちゃん」

 

「今日からは別々のお部屋で寝ましょうね。最近のパパはちょっと匂いますから」

 

「まさかの家庭崩壊っ!?いやァァァァァァ!!」

 

妻(恋人)、妹、娘からの辛辣な態度にキリトは絶叫する。例によって相変わらずな光景には目もくれないミトは未だに転げ回るソウテンを小突く息子に視線を向ける

 

「おやまあ、父さん。寝るにはまだ早いんじゃないかにゃ?」

 

「これが寝てるように見えんのか?息子よ。明らかに両眼を潰されて、何も見えない状態だろう」

 

「おろ?そうなんか。僕はてっきり、昼寝するから目を閉じてるかと思った」

 

「私はてっきり、テンがバカだから床を転げ回ってんだと思ってたわ」

 

「はっはっはっ。その鎌、だいぶ傷んでるな?貸してみな、手入れしてやろう」

 

「い・や♪」

 

両手をわきわきさせ、詰め寄るソウテンを綺麗な笑顔で拒絶するミト。そのやり取りを見ていたロトは茶を啜っている

 

「なんか不安だから、エスちゃんも一緒に行ってあげてくれる?」

 

「かしこまりました。マスター・フィリア」

 

こうして、ユイwithロトとエストレージャによるお使いは幕を開けたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……買うものは確かクッキーでしたよね」

 

「違うよ。ピーナッツバターだよ」

 

「ユイさま、ロトさま。何方も違います」

 

《プライベート・ピクシー》から少年少女の姿になったユイ、ロト、エストレージャは買物カゴを片手に街中を歩いていた。余談ではあるがメンタルヘルスケアプログラミングではないエストレージャが人型の姿になれるのは、《ザ・シード》のデータから抽出された副産物から生み出された《アップデート》の結果だ。元来、純粋な《プライベート・ピクシー》には人型となる要素は備わっていないが、自らの主人と行動する中で《学習》を繰り返し、感情を理解した《プライベート・ピクシー》は人型となる能力つまりは《シンギュラリティ》へと達するのである

 

「しかしまぁ、あれだねぇ。美人さん二人に囲まれるのも悪くないねぇ」

 

「そ、そんな……美人だなんて……えへへ……」

 

「………なるほど、これが照れという感情……興味深いです…」

 

「おやまあ、どしたんよ?顔が赤いよ」

 

「「ナンデモアリマセン」」

 

唐突に放たれたロトからの「美人さん」という言葉にユイは湯気が出そうな勢いで顔を紅潮させ、エストレージャも顔を伏せてはいるがその頬は赤く染まっている

 

「おやまあ、我が息子ながら天然の女キラーですな」

 

「息子がモテる姿は目の保養になるわね」

 

「エスちゃん……大きくなったわね」

 

「いや、エスちゃんはフィリアの子どもじゃないでしょ」

 

「ロトくんなら、テンくんとミトの息子とは思えないくらいにしっかりとしてるからユイちゃんを安心して任せられるよ」

 

「アスナ?それだと私がしっかりとしてないみたいじゃない」

 

「おろ?ミトがしっかりとしてた事なんかあったか?」

 

「ねぇな、一度も」

 

「ありませんね」

 

「しっかりとしたミトさん……見たことない」

 

「ミトさん。しっかり者はあたしみたいに洗練されたアイドルを言うんですよ」

 

「うむ。ミトはテンに匹敵するバカだ」

 

「んだとコラァ!!!」

 

「やれやれ、仕方ない奴らだ。あれ?キリトはどうしたんだ?職人」

 

「キリの字ならば、そこにいるだろう。ところで、ディアベル。貴様は何故、パンツ一丁なんだ」

 

矢継ぎ早に放たれる悪口の嵐にキレたミトがソウテン達を追い回す隣で、ディアベルは姿の見えないキリトについての質問をアマツに投げ掛けるも、その姿はパンツ姿であった

 

「すみません」

 

「あいよ!いらっしゃい!」

 

「一口で成人が昏倒するような毒魚を一匹もらえるか?」

 

「ねぇよ、んなの」

 

「ぐもっ!?」

 

毒魚を探す一名の馬鹿、彼の姿に騒いでいたソウテン達は騒ぎを中断させた後、全員で駆け寄り、至極当たり前に蹴りを放っていた

 

「なにしやがるっ!人の買い物を覗き見するなんて、趣味が悪いぞっ!この迷子!!」

 

「毒魚を買おうとしてたくせに威張んなっ!ぼっち!」

 

「「そうだっ!そうだっ!」」

 

(ホントに……この人たちは……)

 

(バカばっかりだなぁ………相変わらず……)

 

(あぁ………怒るグリスさんの横顔…素敵すぎる…)

 

((なんか、鼻血出してるのがいるっ!!!))

 

騒ぐ中にグリスを見つけ、鼻血を出すフィリアにアスナとリーファは心中で突っ込みを放つ

 

「おやまあ、騒がしいと思ったらとーさん達だったんか」

 

「よぉ、息子よ」

 

「母さんね、今日は張り切ってピーナッツバター鍋にしようと思うから残さず食べるのよ」

 

「「マジでっ!?」」

 

「娘の後をつけるなんて、パパにはドン引きしました。これからは口を聞いてあげません」

 

「いやァァァァァァ!!娘がグレたぁぁぁぁ!」

 

「マスター・フィリア。発情期ですか?鼻血が出ています」

 

「発情期じゃないよ、これはね恋が起こす純粋な現象なんだよ」

 

「うん、絶対に違うよね。単なる変態だよね」

 

「なるほど……類は友を呼ぶですね」

 

「そうそう、あたしも変態だからよく鼻血を……って!誰が変態よっ!」

 

「本当にノリツッコミがお上手ですね」

 

「褒められても嬉しくないっ!!」

 

その日、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》のギルドホームからは何時も通りに騒がしい、否…何時も以上に騒がしい宴の声が響き渡っていたのは言うまでもない




天哉達の学校に新たな教師が赴任してきた、その男はまさかのアイツ!?理不尽な授業に不満爆発したバカたちの毒牙が迫る!

NEXTヒント はらわたが煮えくり返るっ!!!


注・うちのミトさんはめでたい事があると赤飯の代わりにピーナッツバター鍋を作ります


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五問 常識とはなんぞや、非常識とはなんぞや

今回は新しい先生が登場!しかし!彼等にも言い分がある訳で…


「え〜、教育実習の鈴代先生だが大学のサークル活動で不在だ」

 

朝のHR、担任の高良が阿来の不在を告げる。彼がサークル活動をしているという意外な事実に誰もが物珍しそうに唸る

 

「おろ?サークル活動なんかしてたんか?あの人は」

 

「ああ、聞いた話ではダイビングサークルのようだ。私も若い頃にかじった程度だが知識はあるからな、鈴代先生のサークル活動には肯定的なのだ」

 

「なるほど…そいで?鈴代先生が不在の間はあの騎士学とか言う変な授業はどうするんよ」

 

「ああ…其れなんだが、実は…」

 

「私から話してやろう!久しぶりだなぁ!道化師(クラウン)とそのお供たちっ!!」

 

高良の話を遮るように一人の男性が姿を現す。特徴的な痩せこけた頬に下衆な笑みと共に天哉のもう一つの顔である道化師(クラウン)の名を呼ぶこの男。彼の名は蔵田段蔵、何を隠そうあのクラディールである

 

「おろ?何方さん?」

 

「私だっ!そうっ!アスナ様の護衛にして守護神!クラディールこと蔵田段蔵だっ!」

 

「高良先生。今すぐに警察を呼びましょう、明日奈に危険が及ぶ前に」

 

「誰か、スコップをくれないか?コイツを今から埋めてくる」

 

「はいはい、そこの明日奈大好きコンビはちょいと落ち着こうな。しかしまぁ、まさかまたお前に会う日が来るなんてな……大串くん」

 

「誰だそれはァァァ!」

 

最早、忘却の彼方に忘れ去っていた蔵田の存在。適当に思い付いた名前を呼ぶが違ったらしく、天哉は疑問符を浮かべていた

 

「というのが今朝の話だ」

 

「えっ!?今のって回想だったの!?」

 

「しかしまぁ……蔵田先生の授業は」

 

今までのは流れが回想という事実に驚愕を示す深澄を他所に天哉と和人達は爽やかな笑みを浮かべた後、顔を見合わせる

 

「「(はらわた)が煮えくりかえるっ!」」

 

「あの野郎っ!人を下に見やがって!!」

 

「其れもテメェの授業が退屈なのを「私のレベルについて来れない貴様たちに非がある」とか言いやがって!」

 

「昨日は好物の焼き鳥を我慢してまで……予習した…」

 

「僕なんか!夕飯のカレーの仕込みを母に任せてまで、勉強したのに……末代までの恥ですっ!!!」

 

「俺なんか……俺なんかなぁ……!」

 

「落ち着きな…おめぇさんたち。用はアイツに一泡吹かせりゃいい訳だろ?なら、教えてやろうじゃねぇの…俺らの流儀ってヤツをな……」

 

仮面こそは無いが不敵に笑う道化師の姿に、誰もが息を呑む

 

「さぁ、彩り返してやろうじゃねぇか!!!野朗どもっ!」

 

「はぁ…アホばっかりね…ホントに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。始業ベルが鳴り響くと同時に、蔵田が姿を見せる

 

「良いか?お前たち。この私から有り難い教えを受ける事を光栄に思うがいい!では、タブレット端末に送ったファイルの56を開くんだ」

 

授業を始める為に、教師らしい指示を出す蔵田。刹那、彼の耳に何やら物音を捉えた

 

「誰だっ!飲食をしているのはっ!水を飲むなど、言語道断だ!貴様か?桐ヶ谷」

 

「やだなぁ、飲食なんかする訳ないでしょう?此れは午後のティータイムです」

 

「うむ、水ではないな」

 

「紅茶」

 

「良い香りです」

 

飲食というよりも優雅なティータイムを洒落込む和人の隣で肯定する様に天哉が頷き、彩葉が水では無い事を確認し、菊丸が香りに表情を綻ばせる

 

「飲み物を飲むなと言っているのだっ!」

 

「先生!授業の続きをたのむぜっ!」

 

「純平の言う通りだ。我々は学びに来ているんだ、授業を受ける正当な義務があるからな」

 

「良いだろうっ!ならば、気の済むまで授業を受けさせてやろうではないかっ!む?緋泉!今しがた隠したのはなんだっ!」

 

授業を受けたいと懇願する純平、茉人に耳を傾け、蔵田は黒板の方に向き直るが彩葉の動きに違和感を感じ、彼のタブレットを取り上げる

 

「早弁」

 

「飲食は禁止だと言ったろうがっ!」

 

「俺だけじゃない」

 

彩葉の言葉に蔵田は周辺を見回し、怪しい動きを見せた和人、純平、菊丸、天哉のタブレットを取り上げる

 

「代金は蔵田段蔵という人が払います」

 

「ズルズル」

 

「うん…美味です」

 

「おっ…鍋が煮えた」

 

「貴様らぁ!授業中に何をしているっ!特に蒼井っ!」

 

ピザを頼む和人、蕎麦を啜る純平、カレーを食す菊丸。そして、一番の元凶である天哉は鍋の前に座っていた

 

「見て分からんか?鍋だ」

 

「授業中に鍋はおかしいよなぁっ!?」

 

「何を言うか。寒い時に鍋を囲むんは宇宙の常識だ…なぁ?深澄」

 

「今は夏よ?テン」

 

「全員!カバンの中身を出せっ!持ち物チェックだっ!」

 

何が出るか不明な禁断の鞄から中身を出すように全員に指示し、教卓に全ての中身が並ぶ

 

「携帯ゲームに雑誌……まあ、分からんでもないな。お前たちはゲーム世代で、雑誌から情報を吸収していく若者だからな」

 

「学生ですからね。時には遊ぶことも大事なんよ」

 

「よく遊び、よく学ぶ。これ即ち人の本文ですよ」

 

「なるほどな。貴様たちなりに考えているようだな……しかし、これは何だ?」

 

学ぶ意識は高い天哉達であったが、蔵田には理解出来ない事があった。彼が示す教卓の上には、明らかに異質な物体が乗っていた

 

「やだなぁ…掃除機ですよ」

 

「さすがはリーダーです。気を使える真面目系男子ですね、正に」

 

「よっ!迷子の中の迷子!」

 

「尊敬してるよ。迷子ピーナッツ」

 

「迷子ある所にお前ありだぜっ!テンっ!」

 

「迷うテンあれば迷わぬテンありだな」

 

「気を使える系男子はポイント高いわよ?良かったわね、テン」

 

「そうだろう、そうだろう……おろ?なんかバカにしてなかった?今」

 

「「やだなぁ、気のせい気のせい」」

 

「ハモってる!?」

 

教室で何時もと変わらぬ日常が繰り広げられる中、早足で廊下を歩く少女が一人。名を綾野圭子、売れっ子アイドルと学生の二足の草鞋を履く女子中学生である

 

(収録が長引いて、遅れちゃった…間に合うかなぁ…あれ?なんかある……掃除機…?)

 

教室の窓から一部露出した掃除機に違和感を覚える圭子。教室内を覗いた彼女の視線の先に広がるのは、鍋を囲む深澄達と湯気を掃除機で吸い込む天哉の姿であった

 

「今の時代、副流煙なんかで他者にも影響がある時代なんよ。だからこその気遣いです」

 

「素敵よ。テン」

 

「正に生徒の鏡だ」

 

「おのれっ!この常識人どもめっ!」

 

正に気を遣える系男子の天哉を深澄が笑顔で見守り、茉人が彼の行動を満足そうに敬う

 

(………常識以前に非常識だと思う…よし、今日は早退して、レッスンに行こう)

 

余りの異様な光景に圭子は早退届け手に教室の前を後にした。その付近を通り掛かった校長と高良は教室内を覗き込む

 

「学校で教師に逆らう!これ即ち、落第への一歩なりっ!貴様らに単位などやらんっ!」

 

「「上等じゃァァァ!!!変態護衛!!!」」

 

「高良先生。鈴代先生が戻り次第、彼は副担任補助に降格という事でよろしいかな?」

 

「ええ、勿論です。西田校長」

 

後日、蔵田は副担任補助という副担任よりも下の存在に降格となった。そして、阿来は御土産のちんすこうにより沖縄に居たことが露見し、天哉達から袋叩きにあったのは別の話である




ALOにログインすると、システムエラーで子どもになっちゃった!?何時もとは掛け離れた輪を掛けたハジケが爆発する!

NEXTヒント 子どもは風の子!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六問 元気爆発!子どもになっても変わらない!

今回はなんと!テン達が子どもに…!!!


「久しぶりにシリカちゃんがオフになったから、なんかクエストをしようと思ったのに……ど、どうなってるの?これは…」

 

普段はアイドル活動で忙しいシリカが久方ぶりに休日になったのを聞き、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》でクエストに行こうとログインしたミトは眼前に広がる光景に目を疑う

 

「おやまあ、ミトがでっかい。ハイヒールでも履いてるんか?」

 

「鍋の食べ過ぎじゃないのかー?あれ?アスナ、いつの間にでっかくなったんだー?」

 

「きんにくイェイ、きんにくイェイ」

 

「もぐもぐ……焼き鳥は塩にかぎる」

 

「カレーは甘口が一番です」

 

「おろおろ…」

 

「…………ふっ」

 

「き、キリト君たちが縮んでるっ!?」

 

何時もと変わらない様子のソウテンを覗き、小さくなった体に引っ張られるように幼い子供のような反応を見せるキリト達。普段の彼等とは異なる言動にアスナは驚きを隠せず、ミトも放心状態である

 

「うーむ、どうやらシステムエラーみたいだねぇ。直ぐに自動修正が入るけど……暫くはこのままかなぁ」

 

「えらいこっちゃです!」

 

冷静に状況を分析するロトの隣で、何故かは不明だが関西弁のユイが同意を示す

 

「えぇっ!?」

 

「あれー?どうして、アスナさんもミトさんもおおきいのー?お兄ちゃん」

 

「きっとキノコを拾い食いしたからだろうな」

 

「おぉ!さすがはお兄ちゃん!ものしりさんだー!」

 

「テンちゃん、テンちゃん。あそぼー」

 

「いいよー……じゃあ、ピーナッツバターつくろー!」

 

「わーい!フィリア、ピーナッツバターすきー!」

 

「ヤキトリ……うまそう…」

 

「ピヨッ!?」

 

「オロオロ……」

 

「バナナうめぇ!」

 

「しょくにんさん、カレーをどうぞ」

 

「……ふっ」

 

「無邪気な分、いつも以上に暴走してるっ!!!」

 

無邪気を体現したように何時も以上の暴走を見せる面々、更に普段は止める側のフィリアとリーファも幼くなっている為にその輪の中に居る

 

「すまんっ!遅れた!」

 

「申し訳ない!さぁ、いざ行かん!クエスト……む?何故に縮んでおるのだ?」

 

仕事で遅れていたディアベルとコーバッツはログインすると、ソウテン達の異変に気付き、首を傾げる。すると、二人に気付いたソウテンが「とてとて」という効果音が付きそうな足取りで近付く

 

「おぉ、どうしたんだ?テン。すっかりと小さ----ぐもっ!」

 

「遅刻した変態とゴリラに天誅を降す!ハジケ奥義・償いのしめ鯖乱舞!」

 

「ごぁぁぁ!しめ鯖に襲われるーーーっ!」

 

「コーバッツ!ディアベル!大丈夫かっ!これを使うんだ!」

 

「おお!キリト!助か……ん?なんだこれ」

 

「鉛玉じゃぁぁぁ!」

 

「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」

 

「そのままカレー鍋にズドンっ!さぁ、甘口の海におぼれなさい」

 

「串で目潰し」

 

「かきまぜるぜぇ!」

 

「「目がぁぁぁぁ!!!」」

 

「チーズケーキでしゅ…」

 

「……ふっ」

 

ソウテン、キリト、ヒイロ、ヴェルデ、グリスから遅刻の制裁を受けるディアベルとコーバッツ。その二人を弔うようにシリカは不安そうにチーズケーキを供え、アマツは意味深な笑みを見せる

 

「い、何時も以上に容赦がない……あれ?ミト。どうしたの?」

 

「………可愛さが溢れすぎてる……きっと……私は、今日…死ぬんだわ…ありがとう、システムエラー…」

 

「何を言ってるの!?というか!鼻血を拭いてっ!」

 

可愛さの嵐という普段からは掛け離れた光景に囲まれ、ミトは鼻血を出しながら悶える。自分の死期を決める彼女の鼻にアスナはティッシュを詰め込む

 

「ミト、ミト。鼻血が出てるけど大丈夫か?痛いことされたんか?」

 

「…………」

 

「ミトーーーっ!?」

 

心配そうに自分を見上げるソウテンの優しさと愛らしさにミトはゆっくりと瞳を閉じていく。今にも昇天しそうな親友に対し、アスナは全力で駆け寄る

 

「アスナ。私が死んだら……ゲームソフトとかハードと一緒に火葬してね」

 

「いやいやっ!死なないでよっ!」

 

「アスナ、アスナ。パスタ作ったんだけど、食べるか?」

 

「あ、ありがとう……(えっ!な、なにっ!?わたしの恋人ってこんなに可愛かったの!?)」

 

「バナナ大明神さま。どうか、バナナが主食になりますように…」

 

「焼き鳥お供えする…」

 

「カレーも供えましょう」

 

「リーファも、お肉お供えするー」

 

「チーズケーキお供えしましゅ」

 

「変な祭壇を作るんじゃない!!!」

 

「「いやぁぁぁぁ!!!」」

 

幼くなっても根本的にはボケ殺しという事に変わらないアマツの包丁が「バナナ明神」なる謎の祭壇を祀っていたグリス達に襲い掛かる

 

「テンちゃん、テンちゃん。ピーナッツバターできたよー」

 

「わーい!」

 

「ねぇ、アスナ?人は何時、死ぬと思う?恋人が小さくなった時?それとも、親友と離れ離れになった時?ううん…違う、人に忘れられた時よ……楽しい人生をありがとう…」

 

「遺言みたいな事を言わないでくれるっ!?」

 

「たいへんだ!棺おけ用意しないと!」

 

「おやまあ、棺おけか。鍋型の棺おけでいいか?」

 

「コラァ!そこの迷双子!棺おけ用意しないっ!」

 

「「迷双子じゃない」」

 

「バナナいれよーぜ」

 

「ミートソースもかけといてやろーぜ」

 

「お肉いれよー!」

 

「焼き鳥入れとく」

 

「カレーをかけましょう」

 

「チーズケーキいれときましゅ」

 

「棺おけに変なものを入れないっ!」

 

遺言的な事を口走るミトを棺おけに入れようとする双子、更にその中に各々の好物を入れようとするキリト達にアスナの突っ込みが飛ぶ

 

「はっ!ここはっ!」

 

「大変だ!ディアベルよっ!貴殿の身包みが剥がされているぞっ!」

 

「うん?いや別に、これは元からだぞ?」

 

「ベルさんは裸がユニフォームみたいなもんなんよ」

 

「なるほどな、私の知るディアベルは死んだのか」

 

「いや、ここにいるだろ。そうだ、ウーロン茶をやろう」

 

「ウーロン茶?」

 

唐突にディアベルがアイテムストレージから取り出したウーロン茶をコーバッツに手渡す

 

「…………」

 

コーバッツは何を思ったのか、火炎系魔法の篝火をウーロン茶に近付ける。すると、本来はあり得ない筈の現象が起きた

 

「何故、火が点くのだ?」

 

「可燃性なんだろう」

 

「おろ?ウーロン茶ってかねんせいなんか?」

 

「ああ、その通りだ。色はウーロン茶だろう」

 

「おやまあ、ホントだねぇ」

 

「たしかに色はウーロン茶だな」

 

「色がそうなら、ウーロン茶ですね」

 

「貴殿等は色でしかモノを判断出来ないのかね」

 

「「何か問題が?」」

 

「あるに決まってだろう」

 

数時間後。システムエラーが修正され、ソウテン達も基準サイズのアバターに戻った。しかしながら、その反動というモノは恐ろしい

 

「で……なにか言うことは?」

 

「「水に流してください……遥か彼方まで……」」

 

(小さいテン……すっごい可愛かったな…)

 

その後、暫くはALO内で、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》は目立った活動をせずに大人しくしていたのは言うまでもない




ユイの「クジラさんが見たいです!」という要望に応える為、海の底に行く事になったソウテンたち!しかし、リーファは生粋のカナヅチで……そんな彼女の救世主に、満を持して、あの人が一肌脱いだ!

NEXTヒント フライパン


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七門 河川敷の再会!お前は誰?私は最強!

お久しぶりに御座います、青メッシュです。最近はちょいと別作品にかかり気味で更新が滞り気味ですが今年もギャグ全開!満載!テン達の馬鹿騒ぎを頑張って投稿していきます!!

では、新年の挨拶をこの人にしてもらいましょう!

ミト「新年あけましておめでとう、今年もよろしくね。昨年は私たちの馬鹿騒ぎに沢山の応援ありがとう。今年もより一層、彩っていくつもりだから、期待しててね」


「集まってもらって悪いな」

 

「どうしたの?今日は」

 

「実はな、おめぇさんたちにやってもらわなきゃならん仕事が舞い込んだ。こいつは全員が一丸になってやらなきゃならん仕事だ」

 

ある日の昼下がり。溜まり場の《ファミリア》に集められたのは、カラーギャング《吏可楽流(リベラル)》のメンバーに彼等と縁のある数人。窓の外を眺め、真剣な表情を浮かべるリーダーである天哉に全員の視線が集中する

 

「どんな仕事なんだ?俺たちだけじゃなく、鈴代と高良先生も呼んでるなんて珍しいな」

 

「おいコラ、桐ヶ谷。俺にも先生を付けなさい」

 

「教師(笑)が何を言ってんだ」

 

「テン。今日の夕飯の買い物に付き合ってくれる約束だったじゃない。私、嘘吐きなテンは嫌い」

 

「深澄。この前、欲しいって言ってたゲームが初売りセールで安かったから買っといたぞ」

 

「気配りの出来る男性はポイント高いわよ」

 

和人と阿来が睨み合う隣で、例によって嫌い発言を繰り出す深澄。しかし天哉の気配りという名の買収で即座に掌を返し、彼の味方に周る

 

「明日、町内対抗草野球試合に出る事になった」

 

「「ちょっと待て!バカリーダー!!!」」

 

何の脈絡も無く、放たれた天哉の発言にメンバー全員が突っ込を入れる。其れもその筈、彼等の繋がりといえばVRMMOであり草野球は微塵も関係しない、にも関わらず、天哉は『野球をする』という理解不能な発言をしたのだ

 

「なんで野球しなきゃならねぇんだ!?」

 

「町内会長がどうしてもって言うからだ」

 

「意味がわからない」

 

「リーダーさん、アホも大概にしてください。あたしのマイクが火を吹きますよ」

 

「いやマイクは火を吹かんぞ。綾野くん」

 

「苗字で呼ばないでください」

 

「リーダー。何故、町内会長の言うことを聞いたんですか?いつものリーダーなら、町内会長に飛び蹴りを喰らわせてから、パイルドライバーをした後、真顔で断る筈ですよ」

 

「確かに。どういう風の吹き回し?テン」

 

「町内会長は良い人だ、悪く言うんじゃない」

 

何時もの天哉とは違い、他人を褒める姿に誰もが疑問を抱く。普段の彼であれば他人の不幸は蜜の味と言わんばかりに嫌がらせを行う筈、だが今の彼は町内会長を庇い、悪く言われる事を嫌がっている。誰もが疑問に思う中、弟分の彩葉が何かに気付く

 

「リーダー。ポケットから紙切れがはみ出てる」

 

「なにっ…!俺の当たりくじが!…………あっ」

 

「「買収されてんじゃねぇかっ!!!」」

 

「ぐもっ!?」

 

ポケットからはみ出ていたのは宝くじの当たりくじであり、その額は不明だが明らかに彼が買収されていた事は明白。全員から鉄拳が飛び、御決まりの叫びと共に壁に減り込んだ天哉を他所に深澄は宝くじを拾い上げる

 

「仕方ないわね。乗り掛かった船よ、野球大会に出てやろうじゃない」

 

そう告げる深澄の顔には、天哉がよく見せる不敵な笑みが浮かぶ

 

「見てください、あの顔。リーダーみたいですよ」

 

「悪い顔してる…」

 

「凶悪ヅラだな」

 

「シバくわよ、アンタら」

 

「「「すいません、調子こきました」」」

 

土下座を繰り出す一同にため息を吐きながら、人数分の御茶を用意してきた琴音は背後で未だに壁に減り込んだままの兄を指差す

 

「盛り上がってるところ悪いんだけど、いい加減にテンちゃんを助けてあげてくれない?」

 

『あっ!忘れてたっ!!!』

 

「「うぉぉぉぉぃい!!!」」

 

自力で復活した天哉と琴音に突っ込まれた後、深澄達は彼等を連れ、野球大会の行われる河川敷に向かうのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同刻。埼玉県入間市河川敷野球グランドに辿り着いた天哉たちは目の前の対戦相手に視線を向ける。するとキャプテンであろう一人の男性が目を点にしていた

 

「何故お前たちが……!!!」

 

「誰じゃ?知り合いか?近藤」

 

「私は知らないです」

 

「まあ!変わった格好の人たちよ。皇くん」

 

「落ち着け、七色。アイツらはきっと変態だ」

 

「ヒャハハハ!どうだって構わねぇ!さっさと試合しようぜっ!」

 

「相変わらずだのう、鈴代よ」

 

「キューカンバー!!!きゅうりこそが最強だぜぇぇぇぇ!」

 

見覚えのある風貌と口調、深澄達は理解した様な表情を浮かべるが天哉は首を傾げ、隣に立つ彩葉に何かを耳打ちする

 

「どちらさんでしたっけ?ってリーダーが言ってる」

 

「俺を忘れたのかっ!?八人衆のコンドリアーノだ!!!」

 

「………………こしょこしょこしょ」

 

「まさか、幼稚園の時にかけっこで戦ったお前に再会するなんてねぇ?久しぶりじゃねぇのって言ってる」

 

「誰の話だぁぁぁぁぁ!!!」

 

コンドリアーノ基近藤の事等、頭に無い天哉。首を何度も捻り、その末に答えに行き着く

 

「思い出した!あの時の変態野郎かっ!」

 

「お前にだけは言われたくねぇわっ!!!布留!お前もなんか言ってやれっ!」

 

「その節は兄が御迷惑を。今日はよろしくお願いします」

 

「礼儀正しいっ!いや違う違う!敵に挨拶すんなっ!」

 

「近藤!七色の研究の邪魔をするんじゃない、髪を抜くぞ」

 

「身内の暴力!」

 

「はっはっはっ!愉快だな!相変わらず!お前たちに勝ちは譲らんぞっ!」

 

高笑いと共に姿を見せたのは、痩せこけた頬が特徴的な男性。見覚えのある姿に天哉たちの苛立ちが表情に現れる

 

「なんだ、蔵田か」

 

「どっから沸いたのよ」

 

「職質される前に帰れ」

 

「足臭い」

 

「鼻毛がこんにちはしてますよ」

 

「やっぱり嫌いだ!お前らなんかっ!」

 

矢継ぎ早に放たれる罵倒の嵐に、涙ぐむ蔵田は自分が彼等を嫌いである事を再確認する

 

「取り敢えずだ、シリカは司会を頼む」

 

「良いでしょう!あたしのアイカツで鍛えた実況能力をお見せします!」

 

「メンバーは俺にカズ、純平に彩葉、菊丸と深澄、琴音にスグっち、あとはパンツバームクーヘンで行こう。高良先生と茉人は控えで良いか?」

 

「仕方あるまい」

 

「うむ!頑張るのだぞっ!教え子たち!」

 

「パンツバームクーヘンって誰だ?」

 

「おめぇだ」

 

自分の姿を棚に上げ、聞きなれない呼び名に疑問符を浮かべる阿来に彩葉の乱暴な突っ込みが飛ぶ

 

「よしっ!キックオフ!」

 

「「ルールガン無視じゃねぇか!バカリーダー!!!」」

 

「ぐもっ!?」

 

かくして、草野球大会が幕を開ける。晴れ渡る空に似つかわしくない混沌を彩る最強の潰し合いが幕を開けた




河川敷に吹き荒れる嵐、それはカオスな彩りと共に最強を呼ぶ!

NEXTヒント バットは武器じゃありません


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八問 野球のつづき!試合のゆくえ!

忘れてた訳じゃない、でもね仕事が忙しいの……

テン「匿名希望の可愛いネコちゃんからの話によると、仕事が忙しいってのは事実みたいだな」

ミト「俺様医師さんからの話でも一致するわ」

ふぅ………なんとか理解してもらえ………ぎゃぁぁぁぁ!?なに!なんなのっ!?

テン「取り敢えず、更新されないのはムカつくからピラニアだらけの水槽で反省しな」

ミト「それでは本編をどうぞ♪」


「よし……それでは気を取り直して、プレイボール!!!」

 

真昼の河川敷に、高らかな開会宣言が響き渡る。控えに回され、やる事がなくなった高良は審判役に立候補し、今の瞬間のみであるが中立の立場となった

 

「先ずは攻撃側か……さて、どうするよ」

 

「俺が行く。先ずは先手必勝で、守備陣営にスターバーストストリームを叩き込んでだな」

 

「カズさん、野球は守備陣営を全滅させたら勝ちというルールではありませんよ。あとバットを二本持つのは反則です」

 

「なにっ!?」

 

一番バッターに立候補しておきながら、ルールを全く把握していない和人に菊丸が冷静な突っ込みを放つと、彼は両目を見開き、驚愕する。如何やら、本当にルールを知らなかった様だ

 

「全く情けねぇヤツだな。ここは俺に任せろ!軽く吹っ飛ばして、スリーポイントを決めてやるからよ!」

 

「純平さん!バットを持つ姿が格好良いです!」

 

「ちょいと、おかしくね?スリーポイントってバスケじゃね?確か」

 

「リーダー。細かいことは気にしちゃいけない、純平さんはゴリラだから」

 

「確かに。すまん!俺が悪かった」

 

「おいコラ、なんで謝った」

 

「というか、純平さんにとやかく言う前にテンちゃんのバットも変だよね?明らかに」

 

バスケと野球を混同した純平を揶揄っていた天哉、すると琴音がその手にあるバットを指差す。それもその筈、何故なら、彼の手にあるのは確かにまごうことなきバットであるが、無数の釘と夥しいまでの血が付着した凶器、いわゆる釘バットが握られていた

 

「おろ?バットはこれが普通だろ?何を言ってんだ、妹よ」

 

「わたしが知ってるバットと何一つ一致してないんだけど」

 

「これでトップクがあれば完璧だったんだけどな。生憎だが吏可楽流はカラーギャングだからな、俺は持ってないんよ」

 

「大丈夫だよ。テンちゃんは見た目が胡散臭いから」

 

「なるほど、それは安心…………おいコラ、誰が胡散臭いんだ」

 

「はいはい、喧嘩しないの。落ち着きなさい」

 

「「うるせぇよ、剣道バカ」」

 

「んだとコラァ!!!」

 

睨み合い、一触即発する迷双子(双子)の間に割って入る直葉であったが自分に向けられた悪口を聞いた瞬間、般若の形相で襲い掛かる

 

「仕方ないわね………私が行くわ」

 

「おぉ!深澄さんは経験者なんですか?」

 

「ええ、家族球場に剛力野球でしょ。あとは野球魂と配管工球場で鍛えたわ」

 

「全部ゲームですよねっ!?」

 

「不安要素しかない………あれ?鈴代は何をしてるの?」

 

ゲームで培った技術を現実でも披露しようとする深澄に、圭子が突っ込みを放っていると、彩葉が背後で動きを見せる阿来に声を掛けた

 

「先生な。見て分からないか?今から打席に立つんだ、身嗜みを整えている」

 

「身嗜み以前にパンツだろうが。おめぇさんは」

 

身嗜み以前に下着姿の阿来が平然と答えるも、天哉が呆れた眼差しを向ける

 

「知らんのか?テン。こいつは裸がユニフォームみたいなヤツだ」

 

「はっはっはっ、褒めても何も出ないぞ?茉人」

 

「褒めたつもりはない」

 

何処をどの様に解釈したかは不明だが、褒め言葉だと思った阿来が照れ笑いを見せるも、茉人は無表情で突っ込みを放つ

 

「……………審判の人。試合はいつ始まるんだ?」

 

「うーむ………わからん!」

 

「「うぉぉぉぉぃい!!!」」

 

試合が始まり、其処からは怒涛の連続。ルールを知らない天哉たちとは裏腹に近藤たちは事前に予習をしていたらしく、スポーツマンシップ溢れるプレイスタルを行っていた。だが、天哉たちは違った、野球の要素皆無と言わんばかりの反則行為を連発していた

 

「くそっ!一点も取れねぇ!なんでだっ!」

 

「一つ言っておくがな、テン。ボールを埋めるのは反則だ」

 

「えっ………?じゃあ、食べるのも?」

 

「そもそも食べるのが可笑しい。あと和人、バットを二本持つのが反則だからと言って片方を口に咥えるというのも反則だ」

 

「なん………だと………っ!?」

 

「あと純平と鈴代先生は反則以前に脱ぐな」

 

「「何か問題が?」」

 

「何故、無いと思っているかが疑問だ。それからだヘル子」

 

「なに?」

 

「何故、ブルマを履いてるんだ?お前は」

 

「これ?だって動きやすい服装が一番じゃない。それともこういうのは嫌い?」

 

「「「ナイスハレンチ……!!」」」

 

茉人からの問いに、深澄は真顔で答える。その背後では鼻血を垂らしながら、三馬鹿がサムズアップしている

 

「だからって………なんであたしたちまで………」

 

「どうですか?純平さん。わたしのブルマ姿は」

 

「足がぷよぷよしてんだな、琴音は。まんじゅうみてぇだ」

 

「まんじゅう………つまり、わたしを食べたい的な……!?ぶほっ……!」

 

「あたしのブルマ姿は目の保養になるでしょう!なにせ、アイドルですからね!あたしは!」

 

「圭子は何を着ても可愛い」

 

「ありがとぉ!彩葉!」

 

反則行為を指摘していた筈が、話が脱線を始めていく天哉たち。この方が彼等らしいが取り残された相手チームは完全に空気扱いである

 

「高良殿………わ、私は熱海七夕だ。リアルで会うのは初めてだが……覚えておるか?」

 

「………もしや、アタン殿か?」

 

「なんと!覚えてくれておったか!」

 

「良かったですね。七夕さん」

 

「うむ!ありがとうな!布留!私としてはお前にも良い出会いがあると良いのだがな」

 

「私は興味ありませんね、今の所は」

 

「布留!ダメだぞ!兄さんは許さないからな!」

 

「嫉妬とは醜いのう」

 

「きゅうりには酢味噌が一番だぜ。なっ!スメラギ」

 

「俺はきゅうりよりもズッキーニ派だ」

 

「あらやだ、お姉ちゃんからのボルシチパーティのお誘いだわ!急いで帰らないと!」

 

天哉たちに負けず劣らずの暴走を披露する八人衆、その姿に審判役である高良は空を仰ぎ見る

 

「今日も晴天だな!わっはっはっは!」




しっかりとネタを織り交ぜて、更にパワーアップしていくテンたちの馬鹿騒ぎにお付き合いください♪今年もよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九問 夏を吹っ飛ばせ!祭の夜に響き渡る狂乱の出囃子!

えっと……お待たせしまして申し訳ありませんでしたぁぁぁ!違うんです!サボってた訳じゃないんです!ちょっと体調を崩してだけなんです!!

ソウテン「そうなんか、なら仕方ねぇな」

ほっ………分かってくれたのなら何より……アレ?何故に吊るされてるの?ねぇ?ちょいと?テンさん?

ソウテン「お前が更新サボって、ハイラル王国で暴れ回っていた事は把握済みだ。よって、今から全身に味噌を塗りたくる」

やめてェェェェ!味噌だけは!それだけはやめてェェェェ!!

ミト「はじまるわよ♪」


「賑やかだね、何時もこんな感じなの?」

 

「ああ。この辺は特にな、商店会長さんが力を入れてるからな」

 

夏祭り。夏休みにおける最大の行事の一つで子どもから大人まで童心に返って遊びまくる日のことだ。そして、其れは彼も例外ではない。恋人の明日奈と共に地元の入間市で行われる夏祭りに来ていた

 

「そう言えば、テンくんたちは?」

 

「ん……ああ、彼奴等は商店会長からの頼みで屋台のバイトだ」

 

「……………大丈夫なの?其れは」

 

見慣れた面々が居ない事を問い掛ければ、返ってきたのは彼等が屋台のバイトをしているという不安しか感じない答え。表情を引き攣らせ、明日奈は彼基和人に問う

 

「大丈夫………ではないだろうな」

 

不安そうにため息を吐く和人。出囃子が鳴り響く夏祭り会場を歩いていると聞き覚えのある声が耳に入る

 

「おいコラ!誰に断って、此処に屋台を出してやがんだぁ!?クソガキ!」

 

「あぁん?んだコラ、やんのか?ヒゲむしるぞ」

 

「テン?揉め事はダメよ。ヒゲはむしるんじゃなくて、燃やしなさい」

 

「いや燃やすのもダメだよ?」

 

焼き落花生屋という聞き慣れない屋台の前で絵に描いたような極道系の男性と青い羽織を来た少年が揉めている。その隣では紫色の浴衣を着たポニーテールが特徴的な美少女が的外れな突っ込みをし、その彼女に少年と瓜二つの容姿をした少女がやんわりと突っ込んでいる

 

「おっ?なんだ、可愛いじゃねぇか。俺と遊ぼうぜぇ〜姉ちゃんたち」

 

「お客さん。ちょいと裏で話しようや」

 

彼基天哉は恋人の深澄と妹の琴音に言い寄ろうとする男性に対し、瞳の奥が笑っていない笑顔で対話を求める

 

「ず……ずび……ば…ぜ…ん…」

 

数分後、顔面が腫れ上がった男性が天哉たちに何度も頭を下げ、逃げる様に去っていく。其処でようやく近くに和人と明日奈が居たことに気付き、三人は二人に視線を向ける

 

「あら、明日奈に和人。夏祭りデート?」

 

「ああ。其れで?なんだこの屋台は」

 

「ふっ……見て分からねぇんか?」

 

「分からん、微塵も分からん。というか、分かりたくもない」

 

「今、メキシコとスペインで話題の焼き落花生をメインに販売している屋台だ。焼いた落花生から香る香りが素晴らしいと評判なんよ。という訳で、一つどうだ」

 

「生憎だが、夏祭りに来てまで残飯を食う趣味はない」

 

「んだとゴラァ!?おめぇに焼き落花生の何が分かる!」

 

「テンちゃんの言う通りだよ!焼き落花生よりも美味しい食べ物がある訳ないじゃない!」

 

例によって、騒ぎ始める幼馴染三人組に対し、明日奈は親友を横目で見る。彼女は焼き落花生を片手にその光景を見守っているが、焼き落花生を口には含もうとはしない

 

「深澄……結局、焼き落花生はどういう味なの?」

 

「そうね……簡単に言うと食えたものじゃないわね、売り上げも赤字よ」

 

「バカなのかな………あの双子は……あれ?あそこに居るのは……」

 

呆れた眼差しを向けていた明日奈は焼き落花生屋の三件先から、声が聞こえた事に気付く

 

「焼き鳥とチョコバナナ………意外な組み合わせだから、受けると思ったのに一つも売れないのは何故?」

 

「バナナの良さを理解できてねぇんだな!」

 

「純平くん、彩葉くん……えっと二人は何の屋台を?」

 

聞き覚えのある声の主である二人の元に近付き、明日奈は問いを投げかける

 

「焼き鳥&チョコバナナ屋だ。普通に売るんじゃ芸がねぇからな。こうやって、一石二鳥な売り方をしてんだ」

 

「…………焼き鳥の間にチョコバナナが刺さってる!!!」

 

純平から手渡された串には確かに焼き鳥が刺さっていた。然し、その間に主張の激しい食材が一つ、黒い光沢を帯びた南国産の果物のバナナが其処には刺さっていた

 

(な、なんて斬新なアイデア!!素敵すぎる……!)

 

「琴音!?許さんからなっ!ゴリラと交際なんて認めんからなっ!?」

 

「この間に焼き落花生を挟むのはどう?」

 

「迷子みたいな料理はいらない」

 

「料理の迷子ってなんだよ……ん?あそこに居るのは……」

 

純平の斬新と呼ぶには余りにも血迷った発案に妹が鼻血を出す姿に迷子が騒ぐ隣で、深澄が焼き落花生を串に足す事を発案するが彩葉からの返事は否定、その際に使った語句が明らかに意味不明である為に突っ込みを放った和人は向かい側の屋台に見覚えのある後ろ姿を見つける

 

「きっくん……なんの店なの?これは」

 

「焼きカレー屋です」

 

「なんで夏祭りで焼きカレー!?誰も食べないよっ!!」

 

「何故ですかっ!?こんなにも美味だというのに!焼きカレーの何がダメだというんです!」

 

「なら、焼き落花生を中に入れたら良いんじゃねぇかな」

 

「違う。焼き鳥を入れる」

 

「チョコバナナに決まってんだろうが!」

 

「すみません、警備員さん。不審者です」

 

焼きカレー屋を開店したは良いが客足が伸びない事に何色を示す菊丸。其れに呆れた様に突っ込みを放つ直葉、その様子に気付いた天哉たちが自分の屋台料理を持ち込むが即座に菊丸は警備員を呼び寄せる

 

「不審者の情報があったのは此処だな。揉め事は騎士である俺が許さ………あれ?テンたちじゃないか」

 

「おやまあ、誰かと思えば。鈴代ちゃん」

 

「何してんだ?アンタは」

 

「見て分からないか?」

 

「分からん、微塵も分からん。というか、分かりたくもない」

 

警備員として姿を見せたのは阿来。まさかの人物の登場に天哉は目を丸くし、和人は呆れた眼差しで問い掛ける

 

「見ての通りだ、警備員をしている」

 

「パンツ姿の警備員とか聞いたことねぇよ!!」

 

「何を言ってるんだ。海水浴場では当たり前だろ」

 

「此処は夏祭りの会場だ」

 

「なにっ!?通りで海がない筈だっ!!」

 

「バカなんですか?アナタは」

 

安定の下着姿で警備員を名乗る阿来。しかし、そのバイトは夏祭り会場とは違う海水浴場であるという事実を叩き付けられ、驚愕する

 

「騒がしいと思えば……やはり、お前たちか」

 

「おろ?茉人じゃねぇか、里香とデートか?」

 

「ああ。偶には労ってやらぬばと思ってな」

 

「相変わらずのバカ騒ぎね〜、アンタらは」

 

「最初は和人くんと二人きりだったんだけど……知らない間にね」

 

騒がしさを増す声を聞き付け、浴衣姿の茉人と里香も合流を果たす。益々の賑やかさに諦めた表情の明日奈は盆踊り会場に、マイク片手に佇む見覚えのある少女を見つける

 

「レディ〜〜〜〜ス!ア〜〜〜ンド!ジェントルメ〜〜〜〜ン!!!今日は入間市にお邪魔します♪みんなのアイドル!綾野圭子でーす!!よろしくねっ☆」

 

『シリカちゃーーーーーん!!!』

 

軽快なステップと卓越したマイクパフォーマンスを披露する圭子。その御決まりの姿に、天哉達は苦笑を浮かべる

 

「アイツは何をしてんだ……」

 

「商店会長が圭子のファンらしくて、呼んだらしいよ」

 

「大丈夫なのか?この商店街は……」

 

「知らね」

 

ある夏の日の一頁。今宵も騒がしいバカたちの狂乱の夜は過ぎて往く。出囃子が鳴り響く夜空を見上げ、彼は不敵に笑う。まるで宴を楽しむかの様に、彼は笑うのであった




次回は本編を更新出来たらなと思います。其れでは今宵はこの辺りで幕引きと致しましょう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十問 昔話も時には大事だよね。あれ?なんか見たことある……

えっと……お待たせしまして申し訳ありませんでしたぁぁぁ!違うんです!サボってた訳じゃないんです!

ソウテン「安心しろ、俺たちはおめぇさんの味方だ」

テン………あれ?ねぇ、下にある水槽はなに?なんか前にも見たことあるんだけど?ねぇ?ちょいと?テンさん?

ソウテン「良い質問だな。此奴は美ら海水族館にあるサメの水槽だ。沖縄に行ってたお前にはピッタリだろ?」

イヤァァァァ!やめて!助けて!食べるのは好きだけど、食べられるのはイヤァァァァ!!

ミト「はじまるわよ♪」


「テン………俺は長年、お前と親友をやって来たが今日限りだ」

 

「まさか、おめぇさんと分かり合えない日が来るなんてな……カズ」

 

昼休みの食堂で、今日も今日とて昼食に舌鼓を打っていた我等が道化師一味。然し、今日は冒頭から不穏な空気が流れていた

 

「どうしたんでしょうか?珍しいですね。絵に描いたようなアホの二人が喧嘩するなんて」

 

「圭子。其れは褒め言葉じゃない」

 

「然しですね……これは由々しき事態ですよ。喧嘩の内容が内容なだけに」

 

「おうよ。業界でも名高い論争が始まるとはな……」

 

好物を口に含みながら、やり取りを見守る純平たちの視線の先には昔ながらのチョコ菓子が置かれている。天哉の方にはクラッカー生地の有名チョコ菓子が、和人の方にはクッキー生地の有名チョコ菓子が置かれている。これ即ち長年の派閥争いが繰り広げれてきた菓子業界の二大菓子論争である

 

「テン。お前がピーナッツバターばっかりを食べるアホンダラな事は言わずもがなで周知の事実だ。でもな………常識でモノを語れ」

 

「はっ……何を言い出すかと思えば、味音痴でぼっちなカズには分からねぇだろうが、此奴にはチョコと塩が織りなす無限のハーモニーがある。例えるなら、バタピーがいい例だ」

 

「ならバタピーでも食ってろよ。迷子」

 

「あ?やんのかコラ?」

 

正に一触即発。何時もの戯れ合いとは異なる睨み合いの喧嘩に普段の騒がしさは無く、互いに明確な敵意を見せている

 

「深澄……あれはなに?何がどうなってるの?」

 

「あれはね、宇宙の真理とされる菓子業界に於ける派閥論争よ。昔から「何方が好きか」という些細な話題で先人たちは争ってきたのよ。一説によれば、フランス革命も、アメリカ独立も、其れがキッカケになったと言われているわ」

 

理解出来ない明日奈が隣にいた親友に問えば、彼女は流れる様に説明を行う。然し、後半に関しては全くの出鱈目であると為に信憑性に欠けていた

 

「深澄はどうだ?勿論ながら、クラッカーだよな?」

 

「明日奈。クッキーが一番だよな?ユイもクッキー好きだし」

 

「「人として恥ずかしいわ」」

 

「「‼︎」」

 

まさかの直球意見、天哉と和人が目を剥き、驚愕する。思いの外、響いた言葉は二人の心を容赦なく抉る

 

「「人として恥ずかしいわ」」

 

「「二回言われたーーーっ!!!」」

 

追い討ちを掛ける深澄と明日奈に、天哉と和人は完全に真っ白な灰のように燃え尽き、床に崩れ落ちる

 

「ですけど、結局はどっちが美味しいんでしょう?」

 

「主観は人それぞれですからね…僕からは何も言えません」

 

「でもリーダーとカズさんの喧嘩って何時以来?久しぶりに見た」

 

疑問符を浮かべる圭子に菊丸は肩を竦め、冷静に答える。その隣では、彩葉が久しく見ていなかった兄貴分たちの喧嘩に疑問を抱いていた

 

「最後に見たのはあれだろ。ラフコフの時」

 

「あったわねー……あっ、でもアレは長かったわよね。覚えてる?湘南の時のやつ」

 

「あぁ〜……そんなんあったな」

 

「なんですか?それ」

 

「興味あるんだけど」

 

「教えてあげるわ。あれは確か……私がテンに出会ってから一年後くらいだから、小学六年生の時だったかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おうコラ、カズ。海に来てんのにゲームしてんのはどういう事だ」

 

時は遡り、今から5年前の湘南の海水浴場。天哉はビーチパラソルの下で携帯ゲーム機に興じる和人を睨み付ける

 

「暑いからだ」

 

「夏だぞ!?海だぞ!?イカれてんのか!」

 

「ギャーギャーと喚くなよ。暑苦しい奴だな……砂に埋まってろ」

 

「あぁん!?」

 

「どうしたら……」

 

互いに一歩も引かずに睨み合い、口論さえもしない姿は正に冷戦状態と言える。その様子を見守る深澄は初めて見る状態に困惑は隠せない

 

「まーた始まったか。テンの世話焼き病が」

 

「仕方ない……だって、リーダーだし」

 

「カズさんに関しても何時もと変わらない安定の暗さですね」

 

「私がおかしいの?」

 

慣れている純平、彩葉、菊丸とは異なり、出会いか日の浅い深澄は自分に非があるのではないかと思うほどに困惑していた

 

「おろおろ………」

 

その時だった、広い海水浴場で周囲を見回す挙動不審な少女が視界に入ったのは。迷子らしい彼女は不安からか泣きそうになりながらも、道行く人に声を掛けようとしているが小さな彼女の声は誰にも届かない

 

「嬢ちゃん。どうした?迷子か?」

 

「お前に迷子って言われる世も末だな」

 

「ああ?んだとコラ?やんのか」

 

「はいはい、喧嘩しない。二人はこの子の面倒をみてなさい。私は迷子センターに親が来てないかを確認してくるから、純平と彩葉は近くを探して来てもらえる?菊丸はライフセーバーを見つけて」

 

「寝かせとけ!腹がなるぜ!」

 

「菊丸。役割を変えてくれる?ゴリラと一緒は不安しかない」

 

「お断りします」

 

「ゴリラじゃねぇ!」

 

「「「「「えっ」」」」」

 

「真顔で驚いてんじゃねぇっ!!」

 

真顔で驚愕する天哉達に純平の突っ込みが飛ぶ中、深澄は少女に目線を合わせるように姿勢を低くする

 

「安心して。アナタのお母さんを直ぐに見つけてあげるわね」

 

「………ありがとう」

 

「さぁ!行くわよ!」

 

少女と留守番の天哉と和人を残し、深澄たちは其々の目的地に走り出す。流れる不穏な空気に少女は両隣の少年たちに視線を泳がせる

 

「……………」

 

「なんだ」

 

「いえ……別に………」

 

視線を泳がす彼女に天哉が声を掛けるが、彼女は直ぐに視線を逸らす。彼は少女の頭に手を置き、無造作に撫でる

 

「言いたいことがあんなら、はっきりと言え」

 

「あたし……言葉にするのが苦手だから……」

 

「知ってるか?言葉の裏には針千本って言ってな。千の言葉には常に一本の嘘が混じってんだ。でもな、其奴は裏を返せば、それだけの本音があるってことだ。何時かきっと、おめぇさんに手を差し出してくれる酔狂な奴がいるかもしれねぇ。だからよ、辛い時は腹の底から笑え」

 

天哉は何も考えずに当たり前の様に口にした言葉であったが、少女の心には鮮明に焼きついた。太陽の光に照らされ、笑う彼は誰よりも格好良く、彼女の瞳には映った

 

「圭子ー!」

 

「お母さん!」

 

遠くから聞こえた声に反応した少女が駆け出すと、女性が飛び付いてきた彼女を抱き締めた

 

「良かった!すいません!うちの娘がご迷惑を!」

 

「いやいや、困った時はお互い様っすから。またな〜」

 

「ばいばい!迷子のお兄ちゃんとぼっちのお兄ちゃん!」

 

「「誰がだっ!!」」

 

女性に手を引かれ、少女が去り際に放った呼び方に反応を示す天哉と和人。息のあった突っ込みに二人は互いに顔を突き合わせる

 

「なぁ……カズ。次はプールでも行くか?彼処なら割と室内だし、おめぇも楽しめるだろ」

 

「ああ。その時はスグとコトも連れて行こうぜ」

 

「だな」

 

互いに笑い合う姿は正に兄弟と呼べる関係性。彼等だから成り立つ関係に散り散りになっていた深澄たちは遠目で様子を見ていた

 

「長いにしては短い喧嘩だったわね」

 

「ですね」

 

「二人はそういう関係だから」

 

「仲良き事は美しきかな!これにてライフセーバーは御役御免だな!君たちは運がいい!何せこの騎士と呼ばれるライフセーバーを見つけられたんだからな!」

 

「誰だよ!おめぇは!」

 

「やかましい奴等だ。構わん、バラせ」

 

「若。流石に其奴は不味いですぜ」

 

「バナナソフトクリーム!なかなかに美味だ!沖縄から出て来ただけの理由はあったな!」

 

「お母さんが消えた!おろおろ………」

 

背後で繰り広げられる混沌極まりない騒動に天哉は空を仰ぎ見る

 

「なんでかねぇ………落ち着く自分がいるんは…」

 

其れは少し先の未来に出会う、彼が家族と呼ぶ者たちとの初対面の瞬間であった事を知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という話よ」

 

「へぇ〜…」

 

昔話を終え、一息を吐く深澄を除いた面々に明日奈ら視線を向ける

 

「その迷子の女の子はアホですね」

 

「海水浴場で他人をバラすとはいただけんヤツだ」

 

「そのライフセーバーの青年はなかなかの騎士だな。騎士学を学ばせたいよ」

 

「バナナソフトクリーム……なんとも甘美な響きだ」

 

「おっさんも興味あるか?なら、食いに行こうぜ!」

 

「スグちゃんは溺れてしまいそうですが、彼女の為に連れて行きましょう。溺れてしまいそうですが」

 

「菊丸はスグさんに対しては鬼だね」

 

「カズ!切り株と実を見つけた!此奴等が揃えば無敵だぞっ!」

 

「なにっ!?マジか!よし食おう!」

 

話を聞いてから、妙に近視眼を覚えた彼女は窓から外を見上げる

 

(まさかね…………そんな訳ないか……)

 

「あら、鍋が煮えたわ」




次回は本編を更新出来たらなと思います。其れでは今宵はこの辺りで幕引きと致しましょう。この台詞も何度目かは分かりませんが最新話は頑張って考えております


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一問 おいでませませ?ココが噂の温泉街!極楽にいざゆか〜ん!

えっと……お待たせしまして申し訳ありませんでしたぁぁぁ!違うんです!サボってた訳じゃないんです!

ソウテン「気にすんなよ、おめぇさんにはおめぇさんの時間があるからな」

テン………あれ?ねぇ?ちょいと?その構えた杖はなんですん?何されますのん?

ソウテン「此れか?これはな、更新をサボっていたクセにホグワーツで遊んでいたお前にお仕置きする為に用意した特製の杖だ……インセンディオ!」

ぎゃぁぁぁぁぁ!!体が燃える!熱い!!助けてェェェェ!

ミト「はじまるわよ♪」


「おやまあ、此奴は随分と豪勢な旅館だ。福引きの特等の景品とは思えんな」

 

「そうね。チケットをくれた町内会長さんには、しっかりと御礼をしなきゃいけないわね」

 

「流石は気配り上手の深澄さん、他者への配慮を忘れない姿勢は見習わんといかんな」

 

「そうだね、気配り上手は気配り上手でもテンちゃんの気配りは八割が迷子的な発想から生まれた余計なお世話だもんね」

 

「その通り、俺の気配りは………おいコラ、誰が迷子だ。訴えるよ?そして勝つよ」

 

目の前に佇む旅館を前に頓珍漢な会話を繰り広げる蒼井さん家の旦那と嫁、小姑。彼等は仲間たちと共に温泉旅館を訪れていた

それは何故か?心優しい町内会長が福引きで当てた招待券を天哉に譲ってくれたからに他ならない

 

「でも、温泉はやっぱり箱根だよな。関東で一番の温泉街だからな」

 

「そうなのか?温泉ぐらい、都内に溢れてるだろ」

 

箱根が一番の温泉地だと口にした和人に、阿来が疑問符を浮かべ、的外れな事を言う姿に軽くため息を吐き、和人は彼の肩に手を置く

 

「言っとくけど、温泉旅館と銭湯は根本的に違うからな?あっちは日帰りだ」

 

「なにっ…!」

 

「えっ?そなの?てっきり二親等レベルの親戚的な認識をしてたんだけど」

 

「おめぇも知らなかったのかよっ!!」

 

「ぐもっ!?」

 

驚きの表情を浮かべる阿来。その隣で、衝撃の事実を知ったと言わんばかりに驚く天哉に飛び蹴りが放たれ、御決まりの叫び声と共に彼は吹っ飛ぶ

 

「おっさん!温泉たまごがあるんなら、温泉バナナもアリじゃねぇか?ぜってぇに売れるぜ!」

 

「君は天才か!?灰沢!大ヒット間違いなしだっ!さっそく、制作に取り掛かかろうではないかっ!」

 

温泉旅館に来ても、常にバナナの事を忘れないのは流石というべきか、提案という名の暴論に行き着く純平と高良。誰もが彼等に呆れを示す。然し、其れは唯一人を除いての話だ

 

「おうよ!」

 

「はうっ!毎度のことだけど、なんて斬新かつ奇抜なアイデア!!素敵すぎる……!」

 

「琴音!?許さんからなっ!ゴリラと交際なんて認めんからなっ!?」

 

「全くだ!君のようなへちゃむくれに我が家の敷居は跨がせないからなっ!」

 

「胡咲さんだ。呼んでないのにいる」

 

「彼女は純平さんの居るとこに湧きますからね」

 

「きっくん。流石に失礼だよ?その言い方は」

 

少年の様に無邪気な笑みを見せる純平に妹が鼻血を出す姿に迷子と姉が騒ぐ。呼ばれてもいないにも関わらず、自費での参加の胡咲はしれっと環境に馴染んでいるが、彼女は勝手に参加しているだけであり、招かれてはいないのは言わずもがなだ

 

「温泉ジャム?なによ、これ」

 

「温泉水を使用したジャムらしいな」

 

「なんですって!斬新なアイデアだわっ!女将さん、おいくらっ!?」

 

最初こそは聞きなれないジャムに難色を示していた里香であったが、茉人の説明を聞いた瞬間に見事な掌返しを見せ、温泉ジャムの値段を女将さんに聞きに向かう

 

「やれやれ…里香さんは相変わらずのイカれジャム女ですね。あたしの目的はこの温泉チーズケーキ一択です!これを食べる為に今日一日は完全なオフ!」

 

「圭子の貴重なオフに付き合える事に喜びを感じてる今日この頃」

 

「あたしも彩葉と一瞬で嬉しいよー!」

 

里香に呆れていた圭子は、大好物のチーズケーキを食べる為に完成な休みを得た事を宣言する。其れを聞いていた彩葉が呟きアプリに投稿していると、歓喜の余りに圭子は彼に飛び付く

 

「いらっしゃい!ようこそ!温泉宿野生の館へ!番頭見習いの白築勘助だ!って!なんでテメェらが!?帰れこのヤロー!あぐっ!?」

 

突如、旅館の中から姿を見せたのは見覚えのある革ジャン姿の少年。銀髪を靡かせ、犬歯がぎろりと覗く口元に誰もが固まる中、彼の頭上に一発の拳骨が叩き込まれた

 

「お客様になんて口を聞いてんだい!!この馬鹿息子!!すいません、この馬鹿にはきつく言っておきますんで。蒼井様御一行ですね?当旅館の女将の白築椿です、馬鹿息子がご迷惑を」

 

拳骨を放ったのは、着物姿の女性。和風美人の一言が似合う絵に描いたような大和撫子な彼女は勘助の母だと名乗る。変態的な発想の持ち主の彼には相応しくない日本人の鏡の様な礼儀正しい所作の彼女に深澄たちは絶句していた

 

「いえいえ、ホントに迷惑ばかりで。最近は犯罪予備軍みたいな事をしてますよ」

 

「親の煮付けがなってねぇぞ?女将さん」

 

「純平。煮付けじゃない、しつけだ」

 

「傍迷惑迷子とゴリラ、ぼっちに言われたかねぇ」

 

「「んだとゴラァ!!」」

 

「おぐっ!?何しやがる!バカトリオ!!」

 

元凶である勘助の顔面にバカトリオが飛び蹴りを放ち、殴り合いの喧嘩が始まる。見慣れた阿保なやり取りに深澄は身を翻す

 

「バカな四人組基バカルテットは放っておきましょう。女将さん、御部屋に案内してもえます?」

 

「此方になります」

 

「総長の実家が温泉旅館だなんてなー」

 

「育ち悪そうなクセにな」

 

「知らない方が良いこともあるということか」

 

バカルテットを放置し、深澄たちは女将の案内で館内に足を踏み入れる。空かさず、流行りの《オーグマー》を身に付け、愛息子にも風景を見せる

 

「おやまあ、これまた随分と立派な旅館だ。良いとこに泊まれてよかったねぇ?かーさん」

 

「そうね。ロトも楽しむのよ」

 

「言われんでも楽しみまっせ」

 

「ロトくんとお出かけ!これが婚前旅行ですかっ!やりました!ユイはやりましたよ!ママ!」

 

「良かったね、ユイちゃん」

 

ボーイフレンドとの初旅行に無邪気に喜ぶユイに優しく微笑む明日奈。然し、其れを許さない者がいる

 

「パパは許さん」

 

「プークスクス、ウケるんですけど〜。えっ?なになに?娘の色恋沙汰に嫉妬してんの?マジナイワー」

 

「やかましいっ!」

 

小馬鹿にした笑い方と煽り文句を放つ天哉、其れに対し和人は顳顬をひくひくと動かし、飛び蹴りを放つ

 

「旅行に来ても、いつもと変わらないのね…」

 

「というか私たちも良かったの?明日奈さん」

 

「おいおい、コッヒー。遠慮は逆に失礼だろ?こういうときは甘えておくもんさっ!」

 

「アンタは遠慮しようか?バカザメ」

 

呆れを示す詩乃の隣で香蓮が場違いな雰囲気に首を傾げる。その様子を見ていた親友の美優が悪びれもせずにけらけらと笑う姿に突っ込みを放つ

 

「気にしないで、香蓮さん。あとね、シノのん、この人たちはデフォルトでバカなのよ」

 

「やっぱり、恋人に選ぶ相手を間違えたかしら?決断は急ぐべきじゃないわよね」

 

「深澄もそのバカの中に含まれてるんだよ?理解してる?」

 

「明日奈が最近冷たい……ぐすん」

 

部屋に向かう道中で繰り広げられる何時もの風景。親友の冷たさに涙する深澄の心に涙という名の雨が降り注ぐのであった




次回に続きます。其れでは今宵はこの辺りで幕引きと致しましょう。この台詞も何度目かは分かりませんが最新話は頑張って考えております、あと最近になって、思いついたんですけど、年末にスペシャルな話を書こうかなと思ってます。其処に参加したい!という方は作者までメッセージを飛ばしてくださいね♪(現時点での参加者は自分と名前は明かしませんが一名います♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二問 まさかのつながり?赤い狼の姉は褐色ネコちゃんだった!

コラボ企画化を終え、本編に復帰!と思った?いやいやまだまだ温泉回が続くんだなぁ、これが……そして新たなサプライズはまさかのアイツがあのキャラと繋がりがあった!そんな感じの温泉回中編をどうぞ☆


「此方が御部屋になります、男性様方が尻子玉の間、女性様方はローズヒップの間です。御用がありましたら、お尻を数回に渡り、叩いていただければ、馬鹿息子が参りますので…」

 

女将に案内され、辿り着いたのは言葉の一部分に尻を連想させる単語が用いられた名前の間。心の何処かで彼女は真面だと思っていたが故に、出鼻を挫く様に放たれた発言に深澄たちは呆れ顔を浮かべる

 

「何故に全てが尻という単語を用いてんの?親子揃っての尻フェチなの?」

 

沈黙を破ったのは、頭の中を酒に支配された名ばかりエリートを父に持つが故に大人の扱いには定評のある天哉。彼は毒舌を交え、女将を相手に突っ込んだ

 

「イヤですわ、お客様。ちょっとしたウェルカムジョークですよ、本当は燕子花の間と紫陽花の間です。因みに私は男性の腹筋フェチですの」

 

「おやまあ、スペインジョークですかにゃ?女将さんとは気が合いそうだ」

 

然し、全てが女将の仕組んだウェルカムジョークと知った途端に、まさかの味方に回った天哉は彼女と堅い握手を交わした

 

「ツキ……前々から言おうとは思ってたけど、アンタのお母さんって変よ」

 

「自覚はしてる……でもな、あのオバハンはこんなもんじゃねぇぞ。其れにだ、うちにはまだまだ厄介な奴等が二人もいる……」

 

彼を取り巻く環境を誰よりも深く知る詩乃からの呆れ果てた意見に、勘助は頷きながら、更なる身内の存在を口にする

 

「有紗さんにおじさまのことね…確かに、あの二人もキャラが濃いわ。まあでも、仕方ないんじゃない?アンタの身内なんだし」

 

「はんっ、あんな野蛮人と同じにすんじゃねぇよ。俺はやる時はやるのを詩乃も知ってんだろ」

 

「えぇ、知ってるわよ?普段はどうしようもないくらいに変態な事もね」

 

勘助以上にキャラが濃いと言われる二人、彼以上に常軌を逸した変態を想像し、天哉たちの顔は絶望の色が浮かぶ

 

「まっ!最近は実家にも滅多に帰らねぇから、顔も合わせてねぇけどなぁ〜!」

 

「ふぅ〜ん?私と顔を合わせるのが、そんなにイヤなんだネ?勘助は」

 

「げっ………!」

 

げらげらと笑っていた勘助は背後から聞こえた声に振り向き、瞬間的に何かを察知し、見たくないものを見たかの様な表情を浮かべ、その場から飛び退いた

 

「お姉ちゃんに会いたくないってのは、どういう意味かカナ?発言の有無自体では、殴るよ」

 

「いだだだだだっ!!こめかみがっ!!なにしやがる!有紗てめぇ!!」

 

にこにこと笑いながら、勘助の顳顬付近を鷲掴み基アイアンクローする褐色肌の美女。その彼女に、初対面にも関わらず、天哉たちは言葉の節々に妙な親近感を感じていた

 

「…………深澄さんや、気のせいかにゃ?あの喋り方に聞き覚えがあるんだけど」

 

「奇遇ね、テン。私も同じことを思ってたわ」

 

有紗と呼ばれた女性の口調に妙な親近感を感じた天哉が問えば、深澄も何か感じたらしく、同様の疑問を抱いていた

 

「何故かは分からないが彼女とは長年の友人の様な気がしてならない。純くん、私は彼女と知り合いだったのか?」

 

「知らねぇよ、アネキの知り合いに会ったことなんかねぇし」

 

そして、彼女と似た口調の友人がいる胡咲もまた何かを感じ、弟に問うが返ってきた答えは適当で、彼はバナナを口に咥えていた

 

「うん?純くん?ねぇ、キミって純くんって名前なの?」

 

「んあ?確かに俺は純平だけど?なんだ、アンタ?俺を知ってんのか?」

 

有紗は、純平の名を聞いた瞬間に勘助をアイアンクローした状態で彼に話しかける。胡咲は愛弟に近付く彼女を前に威圧感ある視線を向けているが今は割愛しておく

 

「そりゃあ知ってんだろ、おめぇさんは喋るゴリラだからな」

 

「ああ、知らない方がおかしいよな。なにせ、喋るゴリラだ」

 

「ゴリラが喋る……正に世にも奇妙。世は世紀末なの?」

 

「彩葉くんは辛辣ですねぇ。こういう場合は御世辞を言ってあげるのが本当の親切ですよ?ねぇ、純平さん」

 

「菊丸。其れは良く似てるけど、サルの置物だよ」

 

「ゴリラじゃねぇ!!人間だボケェ!!」

 

「「「「「えっ」」」」」

 

「真顔で驚いてんじゃねぇっ!!」

 

真顔で驚愕する天哉たちに純平の突っ込みが飛ぶ。その一連の流れるやり取りを見た途端、有紗は両手をぽんっと叩く

 

「やっぱり!キミたち、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》でしょ!あのコントギルドの!そのやり取りには見覚えがあるヨ」

 

彩りの道化(カラーズ・クラウン)》、その名を知る者は数多くいるが、彼等がそうであると断言してきる者は限られた人々のみだ

 

「おろ?オネーサンは《ALO》プレイヤーなんか?俺たちを知ってるってことは」

 

「ウン。キミたちもよぉ〜〜く知ってるプレイヤーだヨ。ねっ?ツキシロ(・・・・)

 

「アバターネームで呼ぶなやっ!!アリシャ(・・・・)!!」

 

天哉の問いに、悪戯めいた猫の如き笑い方を見せる有紗は、隣にいた勘助をアバターネームで呼ぶと彼は食ってかかる様に彼女を《アリシャ》と呼んだ

 

「「「………………アリシャ?」」」

 

刹那、空間が一気に凍りついた。やがて、全員の脳裏に浮かんだその名を持つ女性が目の前の女性と重なっていく

 

「「「まさか、アリシャ・ルー!?」」」

 

「そだヨー」

 

そう、彼女の名は白築有紗、又の名をアリシャ・ルー。《ALO》の猫妖精(ケットシー)領領主だったのだ

 

「くそっ……遂にバラしちまいやがった。おしゃべりも大概にしやがれ」

 

「バラしたのは勘助でしょー?お姉ちゃんは何もしてないヨ」

 

「何がお姉ちゃんだ、年子だろうが」

 

「年子でも一年は一年、私の方がお姉ちゃんだヨ。それにしても、サクヤちゃんとリアルで会う日が来るとは思わなかったヨ」

 

未だに食ってかかる勘助を咎めつつ、有紗は長年の友である胡咲に視線を向けた。ゲーム内では幾度も顔を合わせてきたが、現実の彼女との対面は今日が初、つまりは始まりと言っても過言ではない

 

「まさか、アリシャが…いや、有紗だったな。君が勘助くんのお姉さんだったとはな、世間は狭いな」

 

「そうだネ。弟の周りに変わった友達が居るのは理解してたけど、其れがサクヤちゃんたちだったなんて、私も驚いてるヨ」

 

「ネーサンは知ってたんか?アリシャさんのことを」

 

和やかに談笑する胡咲と有紗を見ながら、天哉は詩乃に疑問を投げかけた

 

「知ってたわ。というか、私に《ALO》を進めてきたのも有紗さんよ」

 

「そうだったの。てっきり、私はツッキーがやってるからだと思ってたわ」

 

「それもあるわね。勘助は私がいないと絶対に碌なことをしないから」

 

「確かにツッキーは阿呆だからな」

 

「うむ。あそこまでの馬鹿を俺は見たことがない」

 

「白築は頭イカれてからっな」

 

「テメェ等だけには言われたかねーよ、バカトリオ」

 

「「やんのかゴラァ!!アホオオカミ!!」」

 

「おぐっ!?何しやがる!バカトリオ!!」

 

勘助の顔面にバカトリオが飛び蹴りを放ち、殴り合いの喧嘩が始まる。最早、当たり前の光景を深澄は気にも止めようとしない

 

「じゃあ、温泉にでもゆっくりと浸かりましょうか」

 

「わぁ!あたし、温泉って初めてです!泳いでもいいですか?」

 

「ダメよ?圭子ちゃん」

 

「詩乃ちゃん、アタイが背中を流してやるぜ?特にふとももを重点的にな」

 

「桔花は内風呂に入りなさいね」

 

「コッヒー、こいつは中々にセクシーな展開だな?おじさんは興奮してるよ」

 

「フカはおじさんじゃないでしょ。親父臭くはあるけど」

 

バカルテットを放置し、深澄たちは大浴場に向けて歩き出すのであった

 




急激に下がる温度と寒波に震えてますが生きてます☆今年も残り僅かですけど、この作品をよろしくお願いしますね〜


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三問 湯けむりの鬼バズり?ココが噂の桃源郷!

はいは〜い、温泉回後編ですよ〜。不覚にも今日はクリスマスイブ……仕方ない、今年はクリスマス特別幕をお預けにして…此奴を爆弾投下しておこう。つまりはクリスマスプレゼントだネ☆余談だが最近、弟子が出来たよ☆


「おやまあ、なんとまぁデカい風呂だ。流石は箱根随一の温泉旅館だ」

 

「当たりめぇだ。なんたって、俺の実家だからな」

 

目の前に広がるのは、旅館の名物でもある巨大露天風呂。天哉が何時もと変わらない能天気な発言していると、仕事終わりの勘助が誇らし気に自慢する

 

「なるほどな……んで?女湯はどっちだ」

 

「左だ、あの壁を越えた先に桃源郷は実在する………行くぜっ!」

 

「させるかボケェ!!」

 

「ぐもっ!?」

 

「おぐっ!?」

 

迷わずに女湯の場所を聞く親友、其れを教えようとする好敵手。二人の話を聞き付けた和人が飛び蹴りを放つと、彼等は御決まりの叫び声と共に吹っ飛び、湯船に頭からダイブする

 

「「ぶくぶくぶく〜(覚えてやがれ〜)」」

 

「彩葉くん。リーダーとツッキーさんはなんと?」

 

「覚えてやがれ〜って言ってる。どう考えても、リーダーとツッキーの自業自得なのに」

 

沈みゆきながらもリベンジを誓う兄貴分たちの言い分を菊丸に説明しながら、彩葉は呆れた表情を浮かべる

 

「其れはそうとだ、湯船に浸かる前には体を洗わないとだ」

 

「うむ!そうだな!鈴代くんの言う通りだ。どれ、裸の付き合いと行こうではないか!」

 

「おうよ!オッさん!」

 

「菊丸。純平さんと鈴代ちゃんはかなりの頻度で裸なんだけど、これは突っ込み待ち?」

 

「彩葉くん。その突っ込みは野暮ですよ、触らぬ馬鹿に祟りなしと言いますし、我々は二人で洗いっこでもしましょう」

 

騒ぐ裸デフォルトコンビと高良を見なかったにする彩葉と菊丸。二人は近くのシャワー台に座り、体を洗い始めた

 

「リーダー、石鹸貸して」

 

「なんだ、忘れたんか?仕方ねぇな……」

 

「良かったら、此奴を使いな。困った時はお互いさまだ」

 

石鹸を忘れた彩葉が天哉に貸してほしいと声を掛けると、彼が渡すよりも早くに隣に座っていた青年が貸し出してくれる

 

「おやまあ、こいつはすんません………おろ?」

 

「んあ?て、てめぇは!!ここで会ったが百年目!!実はそんなに経ってないが……まさかの旅行先で再会するなんてな!勝負だ!」

 

石鹸を貸してくれた青年の声に聞き覚えがあり、隣に視線を向けると見覚えのある顔が其処にはあった。青年も其れに気付き、天哉を前に勝負を仕掛けるが当の本人は首を傾げ、隣に立つ彩葉に何かを耳打ちする

 

「どちらさんでしたっけ?ってリーダーが言ってる」

 

「俺を忘れたのかっ!?八人衆のコンドリアーノだ!!!又の名を近藤だ!」

 

「………………こしょこしょこしょ」

 

「まさか、○ディ○ツの襲来時に真っ先に殺されたお前と再会する日が来るとは思わなかった。大ファンです、あの勇敢に立ち向かう姿には涙しました、サインくださいって言ってる」

 

「戦闘力5の○っ○んだろうがァァ!!それェェェェ!!」

 

近藤を戦闘力5の○っ○んと勘違いしている天哉。首を何度も捻り、その末に答えに行き着く

 

「思い出した!出てくる度に良いとこ無しで醜態を晒すネタキャラお笑い集団!!」

 

「はいはいど〜も、今日は名前だけでも覚えていただきたいな〜なんて……って違うわっ!!布留!お前もなんか言ってやれっ!」

 

『折角の御旅行に兄が水を差してしまい、申し訳ありません。毎度のことですが御迷惑を』

 

「今日も礼儀正しいっ!流石は我が妹……って!違う違う!」

 

「近藤!七色の折角の休暇を無駄にするんじゃない、ラリアットされたいのか?お前は」

 

「身内の暴力!」

 

「はっはっはっ!女湯はどっちだ!明日奈様の美しき肢体を私のフィルターに焼き付けてやる!」

 

高笑いと共に姿を見せたのは、痩せこけた頬が特徴的な男性。見覚えのある姿に天哉たちの苛立ちが表情に現れる

 

「また沸いたか、変態ハッカー」

 

「明日奈に近付くな」

 

『有紗さん。今すぐに警察を呼んでもらえる?』

 

「けむくじゃら」

 

「耳垢溜まってますよ」

 

「虫のようなヤツだな」

 

「ホントに嫌いだ!お前らなんかっ!」

 

矢継ぎ早に放たれる罵倒の嵐に、涙ぐむ蔵田は自分が彼等を嫌いである事を三度確認する

 

「それで?何故にお前達もいんの?」

 

「聞いて驚くなよ?実はな……町内会長がチケットをくれたからだ!どうだ?羨ましいだろ!」

 

「へー」

 

「すごい」

 

「よかったな」

 

「反応うっす!?」

 

旅館に居る理由を自慢気に語る近藤であったが、返ってきたのは反応と呼ぶには余りにも薄い対応。予想していたのとは異なる反応に驚愕する

 

「おいおい、なんだぁ?折角の慰安旅行だってのに……見慣れた面がごろごろといやがるな。あん?よぉ、馬鹿息子」

 

「…………なにやってんの?アンタは」

 

騒ぎを聞き付けたのか、姿を見せた実父に天哉は乾いた笑みを浮かべ、天満に問いを投げかけた

 

「課長にこの旅館のチケットをもらったから、部下たちと慰安旅行に来たんだよ。そういう、お前はなんだ?アレか?夜逃げか?」

 

「違うわっ!てか、この旅館はチケットがどんだけあるんよっ!?」

 

「おふくろがなんか大量にばら撒いたから、かなり出回ってるな。今日の客はだいたいがチケットの客だぜ?」

 

「潰れんぞっ!?」

 

またしてもチケット、大量にばら撒かれたという其れに旅館の心配をする天哉は流石の気配り上手だ

 

「でだ、女湯はどっちだ」

 

「彼方ですよ。蒼井警部」

 

「おぃぃぃ!なんか女湯を覗こうとしてんぞっ!!」

 

「おやまあ、あれが警察官とは……世も末だ」

 

「片方はお前の父親だろうが!!」

 

「ぐもっ!?なにしやがるっ!ぼっちゴラァ!!」

 

「誰がぼっちだ!この迷子めっ!」

 

「喧嘩なら混ぜろやゴラァ!!!」

 

「「何時の間に脱ぎやがった!!!ゴリラァァ!!!」」

 

喧嘩を始めるバカトリオ。次第に周囲を巻き込み、騒ぎまくる彼等の声を湯船に浸かりながら聞いていた深澄は軽くため息を吐く

 

「ホントにバカなんだから………」

 

「惚れた弱みかな?これも…」

 

親友の呟きに同じように湯船に浸かる明日奈も苦笑混じりに同情してみせる

 

「くっ……リアルのレンちゃんがこれ程までにグラマーだなんて……!」

 

「なんで圭子ちゃんは悔しがってるの?」

 

「コッヒー。これが持たざる者の率直な意見だぜ?」

 

「同じ女子で良かったぜ………アタイは今、魅惑の宝を目にしている………これがひとつなぎの大秘宝なんだな」

 

「桔花はちょっと黙ってくれるかしら」

 

悔しさの余り、露天風呂の床を叩く圭子に引き気味の香蓮に対し、美優はけらけらと笑う。その隣では安定のセクハラ発言を繰り出す桔花に詩乃が遠回しに黙るように促す

 

「退きたまえ、琴音くん。キミは自分が何をしているのかを理解してるのか?」

 

「純平さんのセクシーショットは私が守る!命に変えても!」

 

「ふっ……どうやら、キミとは決着をつけなければならないようだな。来たまえ!」

 

「有紗さん。あたしたちの親友は旅に出たんだよ」

 

「そうだネ………直葉ちゃん」

 

男湯に侵入しようとする胡咲を必死に止める琴音。その様子を見ていた直葉と有紗は互いの親友の痴態に遠い目をする

 

「兄が御迷惑を。誠に申し訳ありません、あとでシバいておきます」

 

「気にしなくていいわよ……えっと、布留ちゃん?それと、深澄に明日奈。聞いてもいい?なんで、男連中もだけど……こいつらは静かに出来ないの?」

 

礼儀正しい布留の頭を優しく撫でた後、里香は毎度お馴染みの騒がしい仲間たちが静かに出来ない理由を親友たちに問う。すると、彼女たちは綺麗な笑顔を浮かべた後に口を開いた

 

「「決まってるじゃない。バカだからよ」」

 




今年もあと一週間………仕事頑張ろ〜っと!少し早いけど………最後の挨拶をテンちゃん、シクヨロ

ソウテン「あいよ……皆様、今年も我々の馬鹿騒ぎにお付き合いいただき誠にありがとうございます。来年も皆様の御眼鏡に適う日々を彩って参りますので、御声援をよろしくお願い致します。それでは……。Adiós(さよなら)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX レッツエンジョイ!サマーバケーション!!!
EX1 夏だ!水着だ!プールだ!ナイスハレンチ!


え〜先ずは……一ヵ月も放置してしまい、申し訳ありませんでしたァァァ!!!違うんです!忘れてた訳じゃないんです!!!他の作品に浮気していたとかでもないんです!いやまぁ、他の作品を書いたりとかもしてましたけど……ホントに違うんです!体調が悪くなったりとかの話なんですっ!!!今後は最低でも、以前には劣るかもしれませんが頑張りますので、応援よろしくお願いします!


「それじゃあ、追試はここまでだ。良いか?お前たち…今後も騎士である事を忘れるなよっ!」

 

「ふぅ……ようやく、落ち着いた」

 

「ああ、これでようやく……」

 

騎士笑顔(ナイトスマイル)を浮かべた後、鐘の音と共に阿来は教室を後にする。一先ず、目先の不安要素を片付けた天哉達は軽く息を吐く

 

「「レッツエンジョイ!サマーバケーション!!」」

 

「テン、カズ……まさかだけど、その格好で追試を受けたの?」

 

深澄の言うその格好、其れは水着とサングラスを身に付けた馬鹿二人の姿だ。手にはビーチボールとパラソル、更に浮き輪という明らかに追試に臨む格好とは言い難い姿に呆れたような視線を、深澄は向けていた

 

「ああ、この後はスグっちに泳ぎを教えるからな。先に準備を済ませておいたんよ。どうだ?気配りの出来る彼氏だろう」

 

「ううん、彼氏以前に人として恥ずかしいわ」

 

「「‼︎」」

 

まさかの直球意見、天哉と和人が目を剥き、驚愕する。思いの外、響いた言葉は二人の心を容赦なく抉る

 

「人として恥ずかしいわ」

 

「「二回言われたーーーっ!!!」」

 

追い討ちを掛ける深澄に、天哉と和人は完全に真っ白な灰のように燃え尽き、床に崩れ落ちる

 

「…………何があったの?」

 

「お兄ちゃん……恥ずかしい……」

 

「テンちゃん、お夕飯用にトルティーヤ買っておいてね」

 

何時もと変わらぬ光景にため息を吐く明日奈、兄の痴態に顔を逸らす直葉、お使いを頼む琴音という三者三様の反応を示すのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そーいや、何でプールに入ることになったんだっけ?」

 

「もう忘れたの?テン。クジラを見たがってるユイちゃんの為にクエストを受ける準備をするって、何度も説明したわよ?相変わらず、頭の中も迷子なのね」

 

「迷子じゃない」

 

「無理もないさ、ミト。相手はテンだからな。百の説明で一すらも読み取れないようなヤツなんだよ、コイツは」

 

「そうね。期待した私が馬鹿だったわ、ごめんね?テン」

 

「気にすんな……って!その優しさが逆に傷つくわっ!」

 

目的地のプールに向かう途中で行われる恒例のやり取り。何故、こうなったのかは数日前に遡る

 

『クジラが見れるクエストがあるらしいんですっ!みなさんで参加しようと思います!どーですかっ!』

 

『どーですかって参加すればいいじゃない』

 

『参加すればいいじゃないとは何ですかっ!!』

 

『ぎゃぁぁぁぁ!目がァァァ!!!』

 

というやり取りの果てにクジラを見に行くクエストを受注する事になり、その準備という名の水泳教室が催されたのである

 

「そう言えば、深澄さん。今日はやけに薄着ですね」

 

「ああ、これ?実はね……中に着てきたのよ、水着を」

 

「「「ブホッ!!!」」」

 

着ていた服の下から、セパレートタイプの水着を見せる深澄。その姿に天哉と和人、純平が一斉に鼻血を噴き出す

 

「公衆の面前で、水着になるとはな。ヘル子、さてはハレンチだな?貴様」

 

「良いじゃない、別に。ベルさんみたいに全裸になった訳じゃないんだから」

 

「「「ナイスハレンチ……!!」」」

 

茉人からの問いに、深澄は真顔で答える。その背後では鼻血を垂らしながら、三馬鹿がサムズアップしている

 

「キリトくん?明日からのお昼は梅干しオンリーね」

 

「お兄ちゃん……サイテー」

 

「カズさんの変態」

 

「カズさん。シベリアに行っても、手紙を送ってくださいね」

 

「和人さんの醜態を呟いておきますね」

 

「俺限定っ!?まあ、俺は用事があるから、みんなは先にプールに行っててくれ」

 

自分だけが罵倒されるという状況に陥りながらも、和人は用事を済ませる為に校舎の中に消えていく。余談だが、彼の格好は水着である

 

「そう言えば……今日、水泳のコーチが来るって聞いたけど……誰なの?まさか、ディアベルじゃないわよねぇ?」

 

「ああ、そーいや言ってなかったな。コーチは……おっ。丁度いるじゃねぇの、おーい!!!」

 

里香の問いに答えながら、周囲を見回していた天哉が視界に捕らえた誰かに呼び掛ける。すると、その人物はプールサイド越しに手を振りかえす

 

「待ってたわよ〜、テンちゃ〜ん」

 

「あら、誰かと思えば……メイリンさんだわ」

 

「メイリンさんがコーチ?大丈夫なの?」

 

「何をおっしゃる、彩葉くん。メイリンさんはその昔、水泳界にその人あり!と言われた程の水泳選手だったんですよ」

 

「うぇっ!?そうなのっ!?てっきり、あたしは小さい頃から変な料理を作り続けてる変人だとばかり!」

 

「圭子ちゃん、露骨に失礼よ?」

 

「圭子は素直なんだよ」

 

「明音さんかぁ……確かに、あの人なら安心かも!」

 

メイリン、本名は竜胆明音。彼女は天哉達が世話になっている定食屋の看板娘であると同時にVRMMO内で入り浸っている食堂の女店主である仲間の一人だ

 

「そいじゃあ、スグっちを頼むよ。明音さん」

 

「ええ、任して。今日一日でカリブ海を自在に泳ぎ回れるレベルにしてあげるわ」

 

「普通でいいんですけどっ!?」

 

教える気持ちが先走り、常軌を逸した決意を宣言する明音。彼女も天哉達と関わる辺り、人とは違う変な一面があるのは明白だ

 

「そう言えば、明音さん。あのヒゲとは上手くやれてる?」

 

「ヒゲ?あぁ〜遼太郎さん?それなら大丈夫よ〜、今夜もお食事に行くのよ〜」

 

「ふむふむ、中々にやりますね。あのヒゲも」

 

「だな、ヒゲのくせに」

 

「あいつが明音さんを泣かしたら、みんなで殴るしかないねぇ」

 

「「「全くだ」」」

 

本人不在の中で進む会議、彼の言動故の発言ではあるが深澄までもがその輪に居るのは、最早、見慣れてしまった光景であり、唯一の常識人とも呼べる明日奈は深く肩を落とす

 

「はぁ……バカばっかり……」

 

「明日奈……ホントに同情するわ……アンタには…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………キリトくん、僕は君にSAOでの出来事を聞こうと思ったんだが……一つ聞いても構わないか?」

 

「なんだ?菊岡さん」

 

「君のその格好はなんだ……どうして、水着なんだい?」

 

和人を呼び付けた張本人である男性、お忘れの方も居るかもしれないが彼は《総務省SAO事件対策本部》に所属している菊岡という人物だ。彼の目的は、SAO内で起きた出来事を和人から聞き出すことにあるのだが……目の前に立つ彼の姿に違和感を感じていた

 

「良い質問だな、菊岡さん。この後直ぐにプールに直行する為だ」




直葉に泳ぎを教える明音、その傍で遊びまくるバカたち!夏でも奴らはおふざけ全開!

NEXTヒント 半身浴って、そうやるの?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX2 ため息が一つ!浮き袋が二つ!ジョークは不発?

あり?これ、夏の話だよね?おかしいな……秋になりかけてる……何故?まぁ、語呂の良いタイトルになったからいいやー


「「「「ワッホイ!!!プールだっ!!!」」」

 

「騒がしい奴等だ………所で、純平。一つ言っておくが、半身浴は上半身が上ではないと死ぬぞ」

 

「なにっ!?テン!てめぇ!騙しやがったなっ!」

 

「ぐもっ!?」

 

プールサイドで騒ぐ天哉達を尻目に、軽くため息を吐く茉人。その視界の隅に映ったのは上半身が下に、下半身が上という半身浴擬きをする純平の姿、彼は即座に浮上し、天哉に飛び蹴りを放つ

 

「おめぇが半身浴はこうやるんだぞ、って言うからやってみたら死ぬとこだったじゃねぇか!!!」

 

「半身浴なんて言ってねぇだろ!おめぇさんは!シンクロって、どうやんだ?って聞いてきたんだろっ!」

 

「純平さんはお馬鹿さん」

 

「仕方がありませんよ。何せ、ゴリラですからねぇ」

 

「誰がだっ!俺は人間だっ!!!」

 

「「「ええっ!?」」」

 

「真顔で驚いてんじゃねぇっ!!」

 

恒例の純平弄りをしていると、着替えた女性陣が更衣室から姿を見せる。深澄は腰に巻いたパレオが特徴的な紫を基調としたビキニ、明日奈は赤と白のストライプが印象的なビキニ、里香は薄めの紅色が印象的なワンピースタイプ、そして圭子は彼女の愛らしさを演出するフリルが特徴的な水着だ

 

「どーよ、男ども。里香様の水着姿は」

 

「おやまあ、バーゲンセール品かにゃ?」

 

「まな板…」

 

「なんでぃ、里香。それだとどっちが背中かわからねぇな!」

 

「良いですか?里香さん。人には好みがあります、即ち趣味趣向ですね。百歩譲って、意中の相手である茉人さんには理解されるかもしれませんが、僕の好みではありません」

 

「俺は和服にしか興味がない。故に里香の水着など、どうでもいい」

 

「……………ふふっ」

 

「「「ぐもっ!?」」」

 

矢継ぎ早に放たれる悪口の嵐に、微笑んだ後に里香は天哉達の頭上に鉄拳を振り下ろす。然し、その怒りは収まっていない

 

「殴るわよっ!」

 

「「「いや既に殴ってるし!!!」」」

 

「ごめ〜ん、お待たせ〜っ!!!」

 

怒り心頭の里香に深澄達が突っ込みを放つ。刹那、更衣室の方から元気の良い声が聞こえて来たので、視線を動かすとスクール水着姿の直葉が走って来るのが確認出来た

 

「いやぁ、眼福だった……私、スグの親友で良かった…」

 

その隣では、オヤジ臭い発言をする琴音がゆっくりと歩いて来るのが見える。ショートパンツが特徴的なビキニを着用した彼女の表情は、鼻血を垂らし、更に口元のヨダレを拭うという妖しさ満点なのだが、今は触れないでおく

 

「まあ、琴音ちゃんはテンちゃんに似て素直ねぇ〜」

 

琴音を褒める明音の姿は、大人の雰囲気が漂うセクシーなVネックワンピース水着だ。間違いなくこの場に野武士面の男が居れば、「めろり〜ん♡」と言いそうなくらいに群を抜いた際どさである

 

「一緒にしないで、あんな迷子と」

 

「琴音。おめぇさんの夕飯、白湯だけな」

 

冷たい声色と瞳で琴音が本音を漏らし、その隣では食事当番の天哉が彼女の夕飯を白湯だけに決定していた

 

「スグちゃん。それ以前にスクール水着なのは、何故です?」

 

「だってぇ……学校のプールで泳ぐって聞いたから……」

 

菊丸からの指摘に直葉は恥じらい、体をもじもじさせている。逆にその姿はハレンチに見えるのだが、本人は気付いていない

 

「に、似合う?」

 

「まあ、それなりに」

 

「「ナイスハレンチ……!!」」

 

照れ笑いを浮かべながら問う直葉に、菊丸も照れたように答えを返す。その隣では天哉と純平が鼻血を垂らしながら、サムズアップしている

 

「やれやれ、男どもときたら…」

 

「ねぇ?深澄さん?なして、人の両目に指を刺してるの?」

 

「ああ、ごめんね?丁度いい指の置き場がなかったから」

 

「くっ……!やるわねっ!スグ!でも純平さんのハートはわたしのモノよっ!」

 

呆れ笑いを浮かべながら肩をすくめる深澄、ハンカチを噛み血涙を流す琴音。其々の想い人へ、違った反応を示しているが深澄の人差し指と中指は確実に天哉の両眼に突き刺さっていた

 

「リーダー。泳ぐ前から目をつぶってる」

 

「おや、本当ですね。リーダー?目に塩素でも入りましたか?」

 

「なんだ、だらしねぇ。鍛え方が足りねぇヤツだぜ」

 

「純平さん!素敵です!キレてますっ!」

 

「どう見ても目を潰されてるでしょうに。おめぇさんらの目は節穴か?」

 

「わぁ、冷た〜い」

 

目を潰され、右も左も分からない天哉の近くで騒ぐ彩葉達。するとプールの温度に感想を漏らす直葉の声が耳に入る

 

「…………スグちゃん?その浮き輪はなんです?」

 

「だって、これがないと溺れるんだもん」

 

理解しているのに、悪戯心から意地の悪い発言をする菊丸に対し、ぷくっ…と頬を膨らませた直葉は答えを返す

 

「其れは妙だ。うちのドジと違って、立派な浮き袋が二つもあるのに」

 

「ダマレ…マイゴ…」

 

「あい……」

 

直葉の二つの浮き袋に視線を落とし、妹のと比較する天哉。一方で、琴音は瞳のハイライトを消し、片言発言しながら、脅しをかけている

 

「……どーせ、私はまな板よ…」

 

「だらしがないですね、里香さんは。あたしを見てください!この理想的な体型!正にアイドルスタイルです!」

 

「スタイリッシュ圭子。グッジョブ」

 

「ありがとぉ〜!彩葉〜!」

 

「あたしの近くでイチャつくなぁぁぁぁ!!!」

 

慰めているのかと思えば、側にいた彩葉と仲睦まじくイチャイチャを始める圭子に里香の怒号が飛び、プールサイドを走り回る

何時もの混沌的な状況に、明日奈はため息を一つ。そして、親友の方に視線を向ける

 

「深澄……良いの?なんとかしないで」

 

「別に構わないわ。だって、テンの一番の理解者は私だから。ふふっ…」

 

柔らかい笑みを見せる深澄の表情は、まるで夏の空の様に透き通っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の和人くんと菊岡さん

 

「で、俺は言ってやったんだ。それはパスタだ!ってな!」

 

ドヤ顔でジョークを言う和人。仲間達には大ウケであるこのジョーク、然し菊岡には不発だったようで彼は首を傾げていた

 

「いや、何の話?このラフコフ討伐についての話だよね?今は」

 

「なんだ、それか。それならテンがなんやかんやでやらかして、大変だった!以上だ!」

 

「………人選間違えたかな…」




ぱくぱく、はぐはぐ、もぐもぐ、美味い!やっぱり夏は鍋だ!あり?ピーナッツバターは?

NEXTヒント 鍋食いねぇ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX3 塗る!弾ける!食べる!暴食のプールサイド!

久しぶりの投稿でーす!GGO編突入はもう少しお待ちを!シノンに相応しいオリキャラを考えてあります故!それでは何時も通りのカオス極まりない日常をご覧あれ!


「いやぁぁぁぁ!!純平さんがーーーっ!!!」

 

「「どうしたーーーっ!!」」

 

昼も近付いた頃、プールサイドに琴音の悲鳴が響き渡る。其れに反応した天哉達が、彼女の方に駆け寄ると波めくプールに浮かぶ純平の姿があった

 

「「じゅ……純平が死んでるっ!!!」」

 

「起きて!純平さん!」

 

「………ぷはぁっ!!!いやぁ、良い感じにバナナが冷えてるぜ。あん?なんだ、お前ら。人を囲みやがって、なんかあっ----ぐもっ!?」

 

騒ぐ天哉達を他所に、何事もなかったかのように浮上した純平。その手には銛に突き刺さったバナナがあり、心配していた筈の天哉達の飛び蹴りが後頭部に放たれる

 

「何しやがんだっ!!バカどもっ!」

 

「「紛らわしい真似すんなやっ!!!ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ!」」

 

「学名で呼ぶんじゃねぇよっ!」

 

「騒がしい奴らだ」

 

「言っとくけど、アンタも似たり寄ったりよ?茉人」

 

「里香……お前、まだ水着のことを根に持っているな?さては」

 

「ぐっ……!う、うるさいわねっ!少しはデリカシーを持ちなさいよっ!」

 

何時も通りの風景を前に、澄ました態度の茉人、彼をジト目で睨む里香。核心を突かれたが故に目を吊り上げ、茉人の首を絞める姿は正に女傑と呼ぶに値する

 

「ちょっと……テン。回転切りばっかりずるいわよ」

 

「何を言うか、ハメ技こそゲームの真骨頂……ハメ技を制する者がゲームを制すると言っても過言じゃないんよ」

 

「背後がガラ空き」

 

「彩葉さーーーん!?」

 

「馬鹿ね。弟分にやられるようじゃ、まだまだ私の足元にも及ばないわ!」

 

「あっ、深澄さんのヒゲも吹っ飛んだ。はどうだん強いね」

 

「な、なんですって!?私のヒゲがっ!」

 

「あたしのイカさんも中々ですよ。これも別ゲームで只管に塗りたくってきたお陰ですね」

 

「よし、圭子も撃破」

 

「あれぇっ!?」

 

直葉の練習に付き合う気があるのかも不明な天哉は深澄たちと携帯ゲーム機を片手に対戦ゲームに興じていたが彩葉の無双に寄り、撃沈していた

 

「スグちゃん。良いですか?人間の半分は水分です、つまりは浮くように出来ています」

 

「えっ?半分が水?あたしって、水分の塊なの?」

 

「あらぁ、菊ちゃん?理論では泳げるようにはならないのよ?実践あるのみよ」

 

「御言葉ですが明音さん、何事も理論は大事です。理論亡き実践は成果等生みません!」

 

「あらら、言うわねぇ。なら……私と勝負する?」

 

「望むところです」

 

「あれっ!?あたしの練習はっ!?」

 

自分の練習を見てくれる筈の明音と菊丸が、一触即発の雰囲気を醸し、直葉が突っ込みが放った時には既に時遅く。二人は泳ぎ始めていた

 

「そろそろ、お昼にしましょうか」

 

「そうね。あり合わせだけど、鍋が煮えた頃合いだわ」

 

「わたしも作ってきたよー!ほらっ!タコライス!」

 

「あっ…あたしも、作ってきたんだけど」

 

昼食時、明日奈を筆頭にお弁当を持ち寄った女性陣。但し、バランスの取れた煌びやかな弁当は明日奈だけで、深澄は相変わらずの鍋料理、琴音は得意料理のタコスの中身を白米に混ぜ合わせたタコライス、直葉は彼女らしい見事な茶色系である

 

「………なんか今、すっごい失礼な事を言われたような……」

 

「空耳じゃねぇんか?」

 

「そうだよ。スグは自意識過剰過ぎるよ」

 

「迷双子にだけは言われたくない」

 

「「表出ろや、ムキムキスク水」」

 

「誰がよっ!?」

 

「ホントに騒がしいね…」

 

「何時も通りとも言える」

 

「というか和人さんが直葉ちゃんに変わっただけで、やってること同じだよね…」

 

騒ぎ出す迷子(双子)と直葉の姿に何時もの光景が重なるのを見ながら圭子はため息を吐き、彩葉は諦めたような眼差しで遠くを見る

 

「ねぇ?ちょっと…私の用意したミルフィーユ鍋が茶色に染まってるんだけど?」

 

「ああ、今しがた僕のいれたカレーの色ですね」

 

「お前かっ!!!」

 

持参した鍋料理に手を加えられた事に怒り狂った深澄が、元凶の菊丸をハリセン片手に追い回す(注意:プールサイドを走ってはいけません)

 

「あらぁ、現実(リアル)でも料理スキル高いのねぇ」

 

「いやいや、明音さんが其れを言う?」

 

「そうですよ。明音さんは現実(リアル)仮想(ALO)の両方でお店をやってるじゃないですか」

 

「そうです!あたしたちの要求に応えてくるのは明音さんだけです!あっ!今、あたし良い事言いましたよねっ!?コレはポイント高いですよっ!」

 

「圭子?自分から言ってる時点でマイナスよ」

 

「騒がしい奴らだ」

 

「「全くだ」」

 

「貴様らに言っとるんだ」

 

料理を囲み、盛り上がる女性陣を他所に未だに携帯ゲーム機に興じる天哉達に茉人が冷めた視線で突っ込みを放つ

 

「ふっふっふっふっ………明日奈様の水着……」

 

プールサイドの柵から覗くビデオカメラ、その持ち主である蔵田は下衆な視線で明日奈の肢体を舐め回すように視姦していた

 

「蔵田先生。君は職員会議をサボって、何をしているのかね?」

 

「決まっているだろう?盗さ………やあ、良い天気だな?高良先生に鈴代くん」

 

「高良先生。理事長室に連行しましょう」

 

「うむ、そうだな!鈴代くん」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!離せェェェ!!!」

 

高良に引き摺られるように蔵田は去っていく。阿来はビデオカメラを焼却炉に投げ入れ、その後を追う(注意その2:人の嫌がることをしてはいけません)

 

「おろ?なんかあったんか?」

 

「あっ、リーダー。俺たちのチーム負けた」

 

「なにっ!?あんなに塗ったのにかっ!?」

 

「最後に逆転されたようです。奥が深いですね、塗りたくるだけではいけない……勉強になります」

 

「彩るゲームで負けた……!!!」

 

「だははははっ!だっせぇっ!」

 

「やかましい!ゴリス!!!」

 

「ゴリラじゃねぇ!」

 

「「えっ」」

 

「真顔で驚いてんじゃねぇっ!!」

 

御約束のやり取りをする天哉達。こうして、昼下がりの水泳特訓は夕方まで続き、直葉は付け焼き刃ではあるが泳げるようになった。しかしながら、和人が合流したのは終了後で結局、彼は女性陣の水着姿を拝めなかったのは別の話だ

 

「菊岡めェェェェ!!」

 

「深澄。私ね、最近……和人くんの彼女なのが恥ずかしくなってきたよ……」

 

「心配しないで?明日奈。だって、私の彼氏……アレよ?」

 

血涙を流す和人を前に親友へと愚痴をこぼす明日奈。すると、深澄は諦めた眼差しで門の前に立つ迷子を指差す

 

「あり?入間市って、どっち?」

 

「もぉ〜まだ覚えてないの?あっちだよ」

 

「そうか、あっちか」

 

「いや逆よ」

 




青い空!白い砂浜!広大な海!たわわな果実!準備万端!いざっ!行かん!クジラの元へ!

NEXTヒント 人間っていいな


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

EX4 悪夢!烏賊の逆襲!えっ?タコなん?

え〜……今回、すごい長いです。恐らくはいつもの倍あります!ですが反省も後悔もない!何故なら!次回からいよいよGGOに突入するからだ!!!其れでは本編をどうぞ!


「馬鹿息子。お前、銃とかに興味あるか?」

 

「あん?唐突に何を言ってんの?」

 

集合時間まで暇を持て余していた天哉は、父の天満に呼び出され、定食屋でカツ丼を掻っ込んでいた。そして、切り出された唐突な話題に首を傾げる

 

「実はな、最近VRMMOでの犯罪が多発してやがる。バーチャルスペース関連犯罪と言うらしいが、お前も知っての通り、俺はエリートだが機械には疎い」

 

「疎いというか致命的に駄目だろ。昔、IHコンロにぶちギレてたし」

 

「舐めんなよ?電気ポットくらいなら使える」

 

親子というよりも兄弟のような近しいやり取りの言い合いをする天哉と天満。その姿は長年に渡り、疎遠になっていたとは思えない微笑ましい光景だ

 

「アンタが警察とか世も末だな」

 

「揚げ足を取るんじゃねぇよ。でだ、本題を話す」

 

「箸を向けんな、行儀が悪ぃ」

 

箸を向け、本題を切り出す天満の手を引っ叩たきながらも天哉は彼の話に耳を傾ける

 

「お前、俺の下に就く気はあるか?」

 

「………………おろ?どういう意味だ、そりゃ」

 

「その間抜けな驚き癖は変わらねぇな。まあ、簡単に言うとだな。ああいう犯罪は俺たちの管轄の外側で起こりうる事が多い、かと言って見過ごす事は出来ねぇ。そこでだ、《あのSAO(デスゲーム)》を生き抜いたお前に白羽の矢が立った。聞いた話だと、翠んとこのガキとかとギルド?とか言う組織をやってたらしいじゃねぇか」

 

天哉の驚く姿に、天満は笑みを浮かべた後に事の詳細を語り始めた

 

「やってたというか現在進行形でやってんよ。琴音とか和人の妹も一緒に」

 

「あ?琴音が一緒なのは聞いてねぇぞ。まぁ、んなことよりも重要なのはこっからだ。近々、SAO事件並びにALO事件にも引けを取らないデカいヤマ(・・)が動く。お前には其れを探ってもらいたい」

 

「手掛かりとかは?」

 

「あるかバカ」

 

「警察辞めちまえ、アンタ」

 

食い気味の即答に天哉は顳顬をひくひくさせ、暴言を放つ。其れでも本心ではない事を理解している天満は息子と同じ不敵な笑みを見せる

 

「ただ一つ、俺たちが掴んでいるのは……そのヤマに関わっているのがSAOで名を馳せた殺人者ギルドのメンバーだってことだ」

 

「殺人者ギルド………ふぅん、なるほどねぇ?《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》か。entendido(了解)、気が変わった………Déjamelo a mí(お任せを)、その依頼。この道化師(クラウン)を筆頭とした泣く子も笑う《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》が承りました」

 

「………お前、道化師(クラウン)とか胡散臭いのが似合うな」

 

「やっぱり、警察辞めちまえ。馬鹿親父」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと……どうしたもんか」

 

場所は変わって、ALO内の南国島でソウテンはビーチパラソルの下で寝転がっていた

脳裏に浮かぶのは、父から出された指示と共に調査を行うメンバーの人選。幾ら、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》と言えど、全員を巻き込む訳にはいかない。故にその人選に彼は迷っていた

 

「テン?どうかした?」

 

「父さんの思考レベルが絶賛上昇中だね。何か考え事?」

 

彼の顔を覗き込む様に、水着姿のミトと彼女の頭の上に乗るロトが姿を見せる

 

「まあ、俺にも考え事くらいあるさ……にしてもミト。おめぇさん、随分と攻めた水着だな」

 

「あら?お嫌い?」

 

「いやまぁ………嫌いではないけど……」

 

ミトの着用している紫色のセパレートビキニは、彼女の魅力を最大限に引き出しており、ソウテンはその姿に鼻血を抑えるのに精一杯である。其れもその筈、好みど真ん中(ストライク)である恋人が肌を最大限に露出させているのだ、興奮するなと言うのが無理な話だ

 

「ん〜〜〜〜!メイリンさ〜〜〜ん!素敵だ〜〜!!!」

 

「あらぁ、ありがとうございます。クラインさん」

 

「あいつ、メイリンさんが来る前はあたしたちを見てたわよね?」

 

「乳ですか?やっぱり、乳なんですかっ!?格差社会反対っ!!!」

 

「シリカが荒れてる」

 

「そっとしておいてあげましょうね?ヒイロくん。女性は時に恐ろしいんです、みんながみんなスグちゃんみたいにおバカではないんですよ」

 

「そうそう、剣道一筋なあたしは、勉強はダメダメで…………って!!誰がおバカよっ!!!」

 

「今日もノリツッコミのキレが冴えてますね」

 

「だから嬉しくないんだけどっ!!」

 

メイリンを褒め称えるクラインに苛立つリズベットの隣では「巨乳反対」と書かれたプラカードを掲げながら騒ぐシリカ、恋人の変わり様に無表情ながらも引いた感じのヒイロ、親友を慰めながらも幼馴染を弄ることを忘れないヴェルデ、弄りに難色を示すリーファ。何時もの風景が折角の景色を台無しにしていた

 

「それにしてもリズさん。残念でしたねぇ?」

 

「な、何がよ…」

 

「アマツさんが来られない事がですよ」

 

「はぁ!?べ、別にあんな変人!来なくていいわよっ!」

 

「それにしては気合いが入ってたように思いますけど?」

 

「シリカ……アンタ、ちょっと顔貸しなさい」

 

「高いですよ?あたしは」

 

「シリカちゃん…そう言う意味の貸すじゃないのよ」

 

「アスナ……今更、何を言っても無駄よ。可愛かったあのシリカは旅に出たのよ」

 

「そっか、居ないんだね。あの頃のシリカちゃんは……」

 

「何故にあたしは哀れみの視線を向けられてるんでしょうか」

 

可愛かった妹分のシリカは遠い昔、今の彼女はアイドルという皮を被った馬鹿である

 

「ようこそ、シリカ。おめぇさんも立派なハジケリストだ」

 

「なんでしょう、すごく嫌です」

 

《ハジケリスト》即ち、馬鹿と断定されたシリカは軽蔑するような眼差しを向けるも、周りは同意するように頷いていた

 

「あれ?同意されてる?」

 

「諦めろ、おめぇさんもハジケリストだ」

 

「すっごい不服ですっ!!!」

 

「みなさ〜ん!クエストに行きますよ〜!」

 

シリカの叫び虚しく、彼女は《ハジケリスト》に任命される。そしてクエスト開始時間となり、波打ち際で騒ぐアスナ達をクラインが呼び寄せる

 

「「はーい!」」

 

「うへへ……」

 

「マスター。奴の頭にフォークを」

 

「俺からはナイフを」

 

「俺からは焼き鳥の串を」

 

「僕からはフォークスプーンを」

 

「俺からは硬めの渋柿を」

 

「お前ら……クラインには容赦ねぇな…」

 

「「人の恋人に鼻の下伸ばすヤツに慈悲なしっ!!」」

 

久方ぶりに合流したエギルは変わり映えしないクラインの扱いにため息を吐き、彼に向き直る。刹那、彼は恐怖を覚え、顔を青ざめさせる

 

「クラインさぁん?私、浮気は許さないと言いませんでしたぁ?」

 

「ご、誤解です!メイリンさん!メイリンさんに比べたら、ミトたちなんざ、まだまだ魅力不足な小娘っすよ!美しいメイリンさんには敵いませんよ!」

 

「ウフフ、ありがとう」

 

((すっごい腹立つ………このヒゲっ!!))

 

メイリンが怒りを見せた瞬間、即座にスピード土下座を繰り出すクライン。彼の口から放たれる自分達を差別する発言に女性陣は怒りを募らせ、その不満が爆発するのはまた別の話だ

 

「そう言えば、テン。結局のところ……スグは泳げるようになったのか?」

 

「おろ?知らんけど?」

 

「そうか、知らないか………ん?ちょっと待て、なんで知らないんだ?」

 

「だってずっとスイッチしてたからな」

 

「アホかぁっ!!」

 

「ぐもっ!?」

 

まさかの衝撃的発言に、キリトの右アッパーがソウテンに命中。彼は御決まりの叫び声をあげ、海の中に吹っ飛んでいく

 

「何すんだコラァ!ぼっちっ!」

 

「誰がぼっちだっ!この迷子めっ!」

 

「喧嘩なら混ぜろやゴラァ!!!」

 

「「やかましいわっ!!!ゴリラァァ!!!」」

 

グリスまでもが混じり、即座に殴り合いの喧嘩を始めるバカトリオ。最早、見慣れ過ぎてしまい風景の一部と化した光景に誰もが目も暮れない

 

「うぅ……不安だなぁ……」

 

「大丈夫よ。リーファ」

 

「み、ミトさん。もしかして、直ぐに泳げる必勝法とかあるんですか?」

 

「えっ?ないわよ?強いて言えば、ガッツがあれば大丈夫よ!」

 

「ミト。気合いで乗り越えられないこともあるのよ?」

 

「………そうなの?」

 

(私の親友って……こんなにバカだったかなぁ?)

 

真顔で聞き返すミトに対し、アスナは心中で親友の変わり様に頭を抱えていた

 

「はぁ……仕方ないですね。スグちゃん、ダンジョンに行く時は僕が手を繋いでおいてあげますから、絶対に離さないでくださいよ」

 

「きっくん……うん!」

 

「「どぅぇきてる〜」」

 

「離せ!ユイ!パパは今すぐにヴェルデを叩き斬る!」

 

「嫌いになりますよ」

 

「ふぐうっ!?」

 

不安を抱くリーファを安心させようと、ヴェルデが提案すると彼女は嬉しそうに笑う。その様子を巻き舌で揶揄うソウテン達の背後では剣片手に暴れるキリトをユイが反抗期という名の言葉で無力化していた

 

「さてと……派手に行くぜっ!野郎ども!」

 

「「了解!リーダー!!」」

 

決まり文句で、一瞬の内に普段の騒がしさから、空気が一変。《ALO》に名を轟かす最強ギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》が足踏みを揃え、装備を水着から戦闘用に切り替える。尚、クラインとエギル、メイリンはメンバーではないがリーファとフィリアは正式に加入を果たした為にソウテンから証である仮面を与えられている

 

「魔法剣士の仮面!リーファ!これ一度やってみたかったんだぁ〜♪」

 

「狩人の仮面!フィリア!ん〜!しっくり来るぅ〜!」

 

「なぁ、テン?まさかだけど……これ以上は増えないよな?」

 

「はっはっはっ、そんな訳なかろう?これ以上に誰が増えるって言うんよ」

 

「だよなー」

 

「テン、キリト?それを人はフラグと呼ぶのよ」

 

更なる仲間加入のフラグが建築される中、ソウテン達はクジラが現れるというクエストを受注する為に座標ポイントに移動し、空中で制止しつつ、周囲を見回す

 

「おやまあ、見渡す限りの海だな」

 

「当たり前でしょ?海なんだから」

 

「おやまあ、綺麗だねぇ」

 

「はい!綺麗です!」

 

「美しいです」

 

座標ポイントを見渡すソウテン、キリト、フィリアの頭上でロトとユイ、エストレージャが歓喜の感想を述べる

 

「………光ってる」

 

「おや、本当ですね」

 

「なら、あそこじゃねぇか?」

 

「行ってみる価値はありそうね〜」

 

「それじゃあ、《ウォーターブレッシング》の魔法を掛けるわね。ミト」

 

「任せて、最近は補助魔法もバッチリよ」

 

二人の水妖精(ウンディーネ)に寄る補助魔法を浴び、水中呼吸が可能となったソウテン達は光の中に順番に飛び込んでいく。ユイはピナの背に、エストレージャはヤキトリの背に、ロトはプルーの背に乗り、リーファはヴェルデに手を引かれ、海の底へと向かう

 

「おろ?なんか見えてきた」

 

「お宝ちゃんの気配……!!」

 

「おい、あそこに誰かいねぇか?」

 

「ホントだわ。人……クエストNPCかしら?」

 

「海の中で困ってる人……つまり!人魚!マーメイドのお嬢さ〜〜〜ん!今このクラインが参りますよ〜〜〜!」

 

「…………テン。あのバカはどうにかならないか?」

 

「無理だね」

 

海の中、クエストNPCという些細な情報から相手が人魚だと決め付けたクラインはいの一番に泳いでいく

 

「何かお困りですか?お嬢さ………んっ!?」

 

待ち受けていたのは、美女!ではなく老人だった。予想と違う出来事にクラインは固まっており、その背後に降り立つソウテン達は隣から感じる黒い気配に冷や汗を掻いていた

 

「どうしたの?おじいさん」

 

一人だけ、気配に疎いヒイロはNPCに話し掛ける。するとクエスト発生の《YES》《NO》が表示され、迷いなく《YES》を選択すると老人が口を開く

 

「おお、地上の妖精たちよ。この老いぼれを助けてくれるのかい?」

 

そう問いかけ、クエスト内容を語り出す老人。しかし、リーファは彼の名に違和感を覚え、表情を僅かに顰める

 

「スグちゃん。どうかしましたか?」

 

「何か気になることがあるの?」

 

「あっ……いや、あのおじいちゃんの名前…ちょっと気になって」

 

「ふむ……《Nerakk》ですか。確かに気になりますね」

 

老人の名に違和感を感じるリーファとヴェルデ、その間にも話は継続しており、取り替えしてほしい物が巨大な真珠と知った瞬間にフィリアとリズベットの瞳が輝きを見せる

 

「「でかっ…!」」

 

「フィーとリズは後方でアスナとリーファの護衛決定な」

 

「「何故っ!?」」

 

「ネコババの前科があるからに決まってるじゃないですか。リズさんは売り飛ばしてましたし」

 

「「ぐっ……!」」

 

過去の前科を掘り返され、明後日の方向に目を背けるフィリアとリズベット。その間もヒイロは老人の話に耳を傾け、話終わると背後を振り返る

 

「なんか探し物系クエストみたい」

 

「なら前衛の指揮は水中である程度の動きが出来る私に任せて」

 

「おやまあ、意外にやる気だねぇ。ミト」

 

「当たり前よ。ユイちゃんが見たことないのよ?なら、ロトも見たことない筈でしょ」

 

「なるほど、納得だ」

 

神殿の中に入り、老人の探し物を探す為にキリトを先頭にダンジョンを探索する。余談だが迷子(双子)の体には縄が巻き付けられており、ミトとグリスがその手綱を握っている為に迷う事は恐らくは……無いだろう

 

「おい、キリトよぉ。リーファちゃんを心配してやらなくていいのか?」

 

「分かってるけど……こういうパーティで組んでると、接し方に迷うんだよ」

 

「やれやれ、相変わらずのぼっちだな。兄貴は妹の面倒を見るのが当たり前なのを知らんのか?おめぇさんは」

 

「その妹と迷子紐で縛られてるヤツにだけは言われたくない」

 

「「迷子じゃない………おろ?」」

 

「「ん……?」」

 

その時だった、双子らしいハモり口調で口癖を放った後、ソウテンとフィリアが姿を消した。何事かと思い、キリトが覗き込むと彼の腕を掴んだソウテンに引き摺り込まれ、フィリアも近くに居たクラインを引き摺り込む

その先に待ち受けていたのは、渦巻く水の罠。流されそうになるが何とか、四人は這い上がる

 

「見えてる落とし穴に落ちるか?普通……」

 

「さすがはリーダー。伊達に可哀ソウテンと呼ばれてない」

 

「アレで攻略組の三大ギルドが一つのリーダーとサブリーダーなのよね……」

 

「最初はカッコよかったんですけどね………」

 

矢継ぎ早に放たれる呆れた眼差しと罵倒にミトとフィリア、アスナとリーファは乾き笑いを浮かべる

 

「パパ!」

 

「父さん!」

 

「マスター・フィリア!」

 

「「「後ろです!!」」」

 

娘たちが叫ぶ。刹那、落とし穴から水飛沫を巻き上げながらモンスターが姿を現す

 

「あれは…………クジラ?」

 

「どう見ても違うだろ!バカテンっ!!!兎に角!戦闘用意っ!グリス!タゲ取りを頼む!」

 

「仕方ねぇな!オラオラ!こっちだぜ!魚野郎っ!!」

 

「テン!それにみんなは側面から攻撃だ!」

 

「あいよっ!悪いけど、ミトはアスナとリーファを頼む!」

 

「はいはい……リーファ、無理しないでね?」

 

「う、うん……」

 

水棲型モンスターを相手に水が苦手なリーファを気遣い、彼女を護るようにミトへソウテンが指示を飛ばす

魔法を詠唱しながらも、折角の特訓が無駄になった事をリーファは後悔していた。しかし、泳げない自分では足手纏いにしかならない。故に支援に徹していたが、彼女の瞳に幼馴染の姿が映る

 

『でもさ…遠いよ、あたしには遠すぎる…。この先、VRはもっともっと発展を遂げる…でも、あたしは…その先を見れない…だって、あたしには遠すぎるもん…』

 

『………確かに遠いです。僕もあの二人の背中を目印に、今まで必死に遠い道のりを歩みました。でも、そうじゃなかった。自分の歩幅で良いんですよ。大丈夫、スグちゃんが追い付けない時は、僕が手を引きます。スグちゃんが迷った時は、僕が手を取ります。だから、泣かないでください。君に泣き顔は似合わない』

 

あの日、《ALO》に浮遊城が現れた日。リーファは決めた。自分の隣を歩いてくれる幼馴染を、世界中の誰よりも自分を見てくれる彼を、大好きな兄と同じくらいに大好きな想い人に釣り合う女性になろうと彼女は決めた。故に、自然と彼女は動いていた

 

「「リーファちゃん!?」」

 

モンスターを目掛け、特攻を掛けるリーファ。刹那、モンスターが動いた。体を回転させ、渦潮を発生させると周囲を巻き込む水の竜巻を作り上げ、リーファを呑み込んでいく

 

「わわっ!!ああああっ!!!」

 

「リーファさん!リーダーさん!リーファさんがっ!」

 

「くっ……!グリス!俺をあそこまで吹っ飛ばせるか!?」

 

「無理だ!立つのもままならねぇ状況で人を飛ばすなんざっ!」

 

「僕に任せてくださいっ!キリトさんっ!」

 

「おいっ!ヴェルデ!待てっ!」

 

万策尽きたと思われた瞬間、駆け出したヴェルデが竜巻の中に飛び込んだ。キリトが止めた時には既に彼は見えなくなり、その声は届いていなかった

 

「喰らいなさいっ!!!」

 

巻き上がる風を利用し、天井で方向を変えたヴェルデはレイピアをモンスターのウィークポイントに突き刺し、消滅させる。ポリゴンの欠片が散りゆく中で見たのは初めて出会った時と同じ彼の姿、手を差し出し、笑う幼馴染の姿だ

 

「全く……世話が妬けますよ」

 

「きっくん……また助けてくれたね」

 

「水に落ちる趣味があるんですか?スグちゃんは」

 

「あるかっ!」

 

「…………むむっ」

 

「いい加減に認めてやったら、どうなんよ?カズ」

 

「………とっくに認めてるよ。何せ、キク以上にスグを分かってるヤツはいないからな」

 

「そりゃあ良かった」

 

急死に一生を経た《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》+αはその後も歩みを進め、ダンジョンを探索していき、その最深部で真珠を発見し、老人の待つ入り口へと帰還を果たす

 

「はぁ……暫くはイカだの、タコだのは見たくないぜ…」

 

「あらぁ、今日はたこ焼きを作ろうと思っていたんですけど」

 

「タコは大好物なんですよ」

 

「お前………プライドないのか?」

 

「無駄ですよ…エギルさん。まぁ?ユイちゃん達は楽しかったみたいですから、良しとしましょう」

 

老人に真珠を渡すキリト、その様子を見ていたソウテンの表情が仮面の奥で歪む。ヴェルデも同様に眼鏡を、くいっと上げ、表情を顰めている

 

「リーダー。お気付きですよね?」

 

「ああ、このクエストはちょいと不自然だ。あのジイさんを襲った盗賊……そんなんが存在するとは思えねぇ」

 

「………あっ!キリトくん!待って!」

 

その時、老人に真珠が渡り掛けた瞬間。アスナが駆け出し、真珠を取り上げ、天から降り注ぐ海中の光に照らす

 

「これ……真珠じゃなくて、タマゴよっ!!」

 

「た、タマゴ!?」

 

「なるほど、合点がいった。あのジイさん……ブラフかましやがった訳だ。クエスト名《深海の略奪者》ってのは俺たちを指してたんだ」

 

「なにっ!?ジジイ!コラァ!騙しやがったなっ!!!」

 

「さぁ……早くそれを渡すのだ。渡さぬとあらば……仕方ないのう」

 

歩み寄る老人はその意志がない事を確認すると、姿を変貌させる。髭は畝り、無数の触手へと姿を変え、その顔は巨大な烏賊へと変わる

 

「《クラーケン》!?北欧神話の海の魔物っ!!!」

 

「いつの間に《ALO》にイカが実装されたんだ?」

 

「気を付けろ!ローラーとかで塗りたくって来るぞ!」

 

「いやシューターかもしれねぇ!」

 

「そこのバカトリオ。ホントに黙れ」

 

「「あい……」」

 

最大級の怪物《クラーケン》を前にボケを繰り出すバカトリオをミトが威圧感を放った声で黙らせ《クラーケン》に視線を向ける

 

『礼を言うぞ、妖精たちよ。我を阻む結界からタマゴを持ち出してくれたこと……さぁ、其れを我に渡せ』

 

「生憎だけど、手に入れたお宝ちゃんを「はい、どうぞ」って渡すほどに甘くないのよねぇ?私。……何故って?トレジャーハンターだからよ!行くよっ!」

 

《クラーケン》相手にトレジャーハンターのプライド故に啖呵を切るフィリア、彼女に続くようにソウテン達も武器を構える

 

『ならば、深海の藻屑となるが良いっ!!!』

 

その言葉と同時に放たれた攻撃は明らかに神殿内のモンスターを凌駕する圧倒的な力を持ち、明確な殺意が見えた。ダメージを与える事も出来ず、ソウテン達は吹き飛ばされる

 

「父さん!あのイカみたいなやつ!ステータスが高すぎる!」

 

「ロトくんの言う通りです!新生アインクラッドのボスを凌駕してます!」

 

「無理かにゃ……これは」

 

引き際を悟り、諦めた時だった。今にも自分達を飲み込もうとするソウテン達の前に一振りの槍が飛来し、《クラーケン》が動きを止める

 

『久しいな?古き宿敵よ。相変わらず、悪巧みがやめられないようだな』

 

突如、飛来した巨人が《クラーケン》に呼び掛ける

 

『そう言う貴様こそ!いつまで、アース神族の手先に甘んじているつもりだ!海の王の名が泣くぞ!』

 

『ワタシは海の王である事に満足しているのさ。そして、此処は私の庭、そうと知りつつ戦いを望むか?深淵の王』

 

『今日は貴様に免じ、手を引こう……宿敵よ。しかし、我は諦めぬぞ。巫女を我が手に収め、忌々しい神共に一泡吹かせる……その時まで…!』

 

そう言い残し、《クラーケン》は深淵の底に消えていく

 

『そのタマゴはいずれ全ての海と空を支配する御方の物、新たな御室に移さねばならぬ故。返してもらうぞ』

 

謎の巨人が手を翳すと、アスナの手の中にあったタマゴが消え、ソウテン達の前にはクエストクリアを意味する《Congratulations‼︎》の文字が表示される

 

「これでクリアかよ?」

 

「なんか呆気ねぇな、消化不良だぜ」

 

「あたし……おじさんとタコの会話、全然理解できなかったわよ…」

 

『今はそれで良い。さっ、其方らの国まで送ってやろう……妖精達よ』

 

「送る?どうやって?」

 

「大砲とかですか?」

 

首を傾げるヒイロとシリカ。刹那、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の頭上に《其れ(・・)》は姿を現した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

茜色に染まる空、夕暮れ時の海原に一頭の鯨が跳ねる。その背には《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の姿があり、ユイの念願が叶った事に笑顔を浮かべていた

 

(きっくん……大好きだよ)

 

そして、彼女は恋をした。大好きな幼馴染に、優しい笑顔の彼に、彼女は恋をした

 




《GGO》、其れは生きるか死ぬかを全面的に押し出したサバイバルゲーム。そして、その世界に赤き装甲を纏いて、駆け抜けし、獣あり、その者……

NEXTヒント 冥界の女神


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三章 荒野の戦場と彩りの道化(色彩組)
弾込め(プロローグ) お触り厳禁


はいはい!いよいよ幕を開ける、GGO編!はてさて……荒野を相手に彼等はどういう彩りを見せるのか!


「ツキ。対象までの距離は?……ちょっと、聞いてる?返事しなさいよ…ツキシロ!」

 

ガンゲイル・オンライン。通称:GGOは、アメリカにサーバーを置く《ザスカー》が運営しているMMORPGだ。剣と魔法がコンセプトのALOとは趣きが異なる世界観がウリの注目ゲームだ

そして、此処は荒野フィールド。愛用の狙撃銃《PGM・ウルティマラティオ・ヘカートII》のスコープを覗き込んでいた女性、シノンは背後に呼び掛ける

 

「んあ?すまん、見てなかった」

 

その声が自分を呼ぶものである事に気付き、佇んでいた青年、ツキシロは目線の先にある魅惑的な景色から、視線を切り替え、答えを返す

 

「アンタ……それでも《スポッター》なの?敵との距離を計らずに何を見てたのか……教えてくれるかしら?」

 

「シノンの尻、又の名をシノケツとも言う世界の宝だ」

 

「んなっ…!風穴開けられたいのっ!?アンタ…!」

 

冷静に問い掛けたのも束の間、悪びれる様子すらも見せずに堂々とした発言を放つツキシロ。彼の発言に火が出る勢いで顔を紅潮させたシノンは、銃口を突き付ける

 

「なんだ、照れてるのか。いいか?女性の魅力を聞かれた場合、大半の男が胸と答えるが、其れは間違いだ。女性の本質は尻にある!尻を見れば、その心が何を意味するかを感じられる!言わば尻とは人を映すかが---………」

 

「シュピーゲル。その変態を荒野に捨ててきてもらえる?」

 

「あはは………相変わらずだね。君たちは……」

 

尻についての熱弁を語るツキシロを無力化した後、彼を椅子代わりに冷めた態度を見せるシノンに乾いた笑いを浮かべるのは、シュピーゲル。シノンの友人だ

 

「そうだ、君たちに伝えたい情報があるんだけど。聞くかい?」

 

「また、都市伝説(・・・・)の話ならお断りよ。存在すらも怪しい最強プレイヤーの話に興味なんかないわ」

 

「全くだ。俺が興味あるのは、シノン魅惑のヒップラインにだけだ。見ろ、この触り心----ぐもっ!?」

 

「次、触ったら脳天に弾丸撃ち込むわよ」

 

話題を無視し、シノンの魅惑的な尻を撫で回していたツキシロの頭上にヘカートが振り下ろされ、シノンは感情の欠片も感じられない黒い笑顔を浮かべている

 

「でも実際に助けられた人もいるんだよ?《レン》って女の子から聞いたんだ」

 

「あら、私の前で他の女性の話をするの?シュピーゲルは」

 

「えっ?あっ、いやっ!違うよっ!たまたま聞いたんだ!」

 

「ふふっ、冗談よ」

 

揶揄われ、表情を変えるシュピーゲルの反応を楽しみながらシノンは優しく笑う

 

「兎に角!二人も話を聞いたり、見たりするようなことがあったら、僕に教えてね!あの最強プレイヤーの赤狼(ヴォルフ)について!」

 

「分かったわ」

 

「ああ、シノンの尻の話なら大歓---………」

 

全てを言い切る前にシノンの弾丸が、ツキシロに完全着弾(クリティカルヒット)。彼は帰らぬ人となった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………知らない天井だ。あっ、いや知ってる天井だ」

 

頭から《アミスフィア》を外し、素っ頓狂な発言を繰り出す少年の名は白築勘助。シノンにセクハラ発言を繰り返していたツキシロの本来の姿であり日夜、生活費の為に労働に勤しむ苦労人だ

 

「…………懐かしいぜ、あの頃が」

 

日本人には見えない銀髪を掻き上げ、勘助は夜の街並みに過去を振り返る。昔、彼はカラーギャングという不良集団を率いたリーダーだった。満足出来る世界を作り上げる為に、仲間たちと暴れ回り、笑い合った。そして、最強のライバルたちとも巡り合った、世界を自由に彩るを信条とした吏可楽流(リベラル)、彼等は勘助が率いる鎖天衣(サティス)の前に幾度も立ちはだかった

しかし、其れは過去の話。今となっては彼等の噂は勿論。自分も《あの日》を境に足を洗い、真っ当な道を歩んでいる

 

「なぁ……何時かは届くか?あの世にいるお前たちに」

 

赤い瞳で白い光を放つ満月を見上げ、切なさを感じさせる呟きを放つ。彼の名は《ツキシロ》、《冥界の女神》シノンの相棒にして親友

 

だが、その実態が……

 

「満足を忘れた一匹狼の遠吠えがよ」

 

《GGO》最強プレイヤーの肩書きを持つ赤狼(ヴォルフ)である事を今は誰も知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の彩りの道化(バカたち)

 

「ヒイロ。味はどうだ?」

 

「リーダーの足の裏みたいな味がする」

 

「おやまぁ、最悪じゃねぇの」

 

何時ものように鍋を囲み、その最悪な出来栄えに落胆していた

 

「やっぱり、あれか。お前のピーナッツバターが原因か」

 

「いや、パスタだね」

 

「なるほど、ターメリックは鍋には合いませんでしたか」

 

「オッさん!今考えたんだけどよ、おろしたバナナをハンバーグにかけたら最強なんじゃねぇか!?」

 

「君は天才かっ!?グリス!」

 

「素敵です!グリスさん!」

 

「いいか?シリカ。チーズケーキよりバームクーヘンだ」

 

「ディアベルさん。心まで羞恥心を忘れたんですか?チーズケーキの本質、其れは美味さに在らず……そう!チーズとケーキのマリアッチこそにあります!……あれ?ベストマッチだったかな」

 

「やかましい奴らだ」

 

鍋を囲み騒ぐソウテン達を餌に、茶を啜るアマツ。彼等の背後には諦めたように紅茶を嗜むミトの姿がある

 

「ミト……止めないの?」

 

「アスナ。恋愛は奥が深いのよ」

 

「諦めてますね……」

 

「まあ………仕方ないわよ」

 

「はぁぁぁぁ………刺激が欲しいわ……、今までよりも遥かにワクワクするような刺激が欲しい……」

 

全員に聞こえるような巨大なため息を吐き、これまた聞こえるような声で呟くミト。すると馬鹿騒ぎしていソウテンが彼女に歩み寄り、仮面越しに代名詞の不敵な笑みを浮かべる

 

「おろ?刺激を求めてんならよ、ちょいと……バイトしてみねぇか?ミト」

 

「………はい?」

 

この日をミトは後にこう語ったという。「刺激的なデートでした」と……




父・天満からの依頼を受けた天哉は深澄に理由を話し、協力を申し出る。しかーし!蔑ろにされた奴らが牙を剥く!!!

NEXTヒント 鼻にピーマン


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一弾 シリアスはお好き?いいえ、尻の方が好きです

記念すべき新シリーズ!GGO編第一話!さてさて、テンの言うバイトとは……?そして、白築くんの尻に対する熱意は如何に!


「すまん、待たせちまったな。いやぁ…さっきまで二日酔いでよ〜」

 

軽い声色で、悪びれもない様子でカウンターバーに姿を見せる天満。掻っ込んでいたピーナッツバターライスを机に置き、天哉はジト目を向ける

 

「おいコラ、馬鹿親父。この時間まで二日酔いとか何次会までやったんだよ」

 

「八次会だ」

 

「頭から酒樽に突っ込まれたいんか?アンタは」

 

真顔で答える天満に対し、顳顬を引くつかせる。此れが自分の父の姿だと思うと嘆かわしいが、今までのエリート思考に隠されていた本来の姿が此れなのだろう

 

「そういや、深澄さん。どうしているんだ?」

 

「天哉くんにバイトしないか?と誘われまして」

 

「二人よりも一人の方が楽だからねぇ」

 

「なるほどな。んじゃあ、本題に入るか……先ずはコイツを見ろ」

 

刑事としてのスイッチが入った瞬間、鋭い目付きを見せる天満が、コートの内ポケットから二枚の写真を取り出す

 

「…………なにこれ」

 

「夜中にピーナッツバターサンドを食べて、音葉に怒られて泣きじゃくるお前と其れを見て、お兄ちゃんをいじめないで〜!と泣き喚く琴音だ。懐か---ぐもっ!?」

 

「真面目にやれっ!」

 

「小さいテン………お義父さん、この写真をください」

 

「深澄さん?何を娘さんをください的なノリで写真を要求してんの?」

 

真剣な雰囲気も束の間、息子と似通った掴みから入る会話術を披露する天満の顔面に天哉の蹴りが命中。その横で深澄は恋人の過去を知る手掛かりを手に入れようと必死だ

 

「悪い悪い、冗談はこっからだ」

 

「まだあんのかよっ!?」

 

「ああ、間違えた。冗談はここまでだ」

 

「どんな言い間違い!?」

 

(なんか、こういうテンを見るのは新鮮ね)

 

和人達と居る時よりも、ころころと表情を変える天哉の姿が新鮮だったのか、深澄は優しく微笑み、暖かい眼差しを向けている

 

「そいじゃあ、ちょいとコイツを見てくれ。右の男は11月9日、左の男は11月25日に亡くなった。死因は二人とも心不全、体に目立った外傷は見られず、事件性はない……というのが上の判断だ」

 

「…………オヤジ、この二人に接点又は共通点はあるんか?」

 

内ポケットに仕舞っていた本来の用件に関する写真を見せ、事の詳細を語り出す天満。彼の言葉尻に違和感を感じ、天哉が問いを投げ掛けると天満は不敵に笑う

 

「………察しがいいじゃねぇか。接点は知らんが、共通点ならあるぜ?前にお前には話したよな?VRMMOバーチャルスペース関連犯罪について」

 

「ああ、SAO事件並びにALO事件にも引けを取らないデカいヤマ(・・)ってヤツか。そういや言ってたな」

 

「これは、そのヤマ(・・)に関連する事件だと俺は睨んでる。この二人は同じVRMMO《ガンゲイル・オンライン》、通称GGOってのをやってたハイゲーマーってのか?まぁ、そういう感じの奴らだ」

 

「思い出したわ。この右の人、《ゼクシード》って名前で、GGOではトップに位置するプレイヤーよ。確か、亡くなったと思われるこの日、《MMOストリーム》と言うネット放送局の番組に出演してた……でも、途中で回線落ちして、番組が中断したのよ」

 

ya veo(なるほど)、その回線落ちってのが死亡推定時刻って訳か。VRMMOは秒単位でログが残るからな」

 

「ああ、其れに妙なヤツの目撃情報も上がってる。其れがコイツだ」

 

そういうと天満は更に写真を取り出す。其処には荒い画質の画像を解像度限界まで処理したローブの男が映っていた

 

「問題の時刻に、この画像の人物が、モニターに向けて裁きを受けろ、死ねなどと叫んで銃を発砲した。で、その発砲直後に苦しみ出した《ゼクシード》は回線切断……どう思う?」

 

「…………まだ情報しかねぇから、何とも言えんが。俺の勘が正しいなら、オヤジの推測通りだろうな」

 

「このプレイヤーの名前は調べてあるんですか?」

 

「本名かどうかは不明だが、《シジュウ》または《デス・ガン》を名乗ったらしい。死の銃と書いて死銃という意味みてぇだ」

 

「それで?どうするよ」と、問い掛けながら笑う父に息子は不敵な笑みを浮かべ、恋人の頭を数回程ぽんぽんと撫で、口を開く

 

Déjamelo a mí(お任せを)、その依頼。この道化師(クラウン)が承りました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朝田ぁ。悪いんだけどさ、金貸してくんない?ちょっと遊び過ぎて、帰りの電車賃が無くなっちゃったのよぉ」

 

「嫌よ。一人暮らし女子の財政事情も理解できない阿保に貸すお金は無いわ。さっさと失せなさい」

 

街の路地裏、典型的な不良少女からのカツアゲを突っぱねる眼鏡の少女。彼女の名は朝田詩乃、GGOでは、《シノン》と名乗る狙撃者の本来の姿だ

 

「ばぁん!」

 

刹那、手で銃を撃つ真似事をする不良少女。此れが関西は笑いの都である大阪であれば、倒れたり、対抗したりと様々な返し芸が炸裂するだろう。しかしながら、詩乃の反応は違った

 

「ゔっ………」

 

嗚咽にも似た声を出し、口を抑えるように立ち竦む彼女を取り囲むみ、鞄に手を伸ばす不良少女とその一派。だが、彼女の手が詩乃の鞄に届くことはなかった

 

「よぉ、久しぶりだな?遠藤。お前のとこのヘタレアニキは元気か?」

 

「なっ……あ、アンタは!」

 

嘲笑うような笑みを浮かべ、路地裏の入り口付近に佇んでいたのは銀髪の少年。赤い革ジャンを肩に羽織り、ぎらりと上顎から覗く犬歯は狼を彷彿とさせる

 

「つ、ツキ……」

 

「白築……!」

 

「ああ?」

 

「い、いや……白築……さん…。し、失礼しましたっ!!!」

 

その少年、勘助を見た瞬間に不良少女達は逃げるように去っていく。自慢ではないが、彼をこの街で知らない者は存在しない。其れが悪名なのか、将又、名声なのかは分からないが彼は街の顔なのだ

 

「詩乃……お前の啖呵はやっぱりスゲェな。ナイスケツ……あっ、間違えた。ナイスガッツだ」

 

「アンタ、後で頭に風穴開けるわ」

 

一気に夢から引き戻され、詩乃はびしっと指を差し、風穴宣言を繰り出す

 

「すまん、見事な尻だったんで本音が出ちまった。でもな、恥じる必要はねぇぞ。お前の魅惑のヒップラインは正に理想()!神が創り出した桃源郷(楽園)!ありがとう!そして、ごちそうさまです---ぐもっ!?」

 

尻熱弁を始める勘助の顔面に《シャイニングウィザード》を見舞い、物理的に黙らせると彼は腰掛け椅子のような体制で倒れ、その上に詩乃は腰を下ろす

 

「詩乃。これは座ってくれって意味じゃない」

 

「踏めばよかった?」

 

その冷めた視線は正に冥界の女神を彷彿とさせる、塵を見る目であったのは言うまでもない。此れが、最強スナイパーと最強番犬の普段の姿……然し、詩乃は知らない。自分の幼馴染が赤狼(ヴォルフ)である事を……

 

(あ、アイツ……なんて羨ましい!!!朝田さんの尻に敷かれるなんて……!!!)

 

そして、その様子を見守る少年が居たことを彼女は知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の彩りの道化(バカたち)

 

「おらー!!ピーマン食えやっーーー!!!」

 

「内緒でバイト良くない」

 

「お食べなさい、そして更にお食べなさい」

 

「むごっ!?むごごっ!!!」

 

正に地獄絵図、天井から吊るされた天哉を取り囲むように三人の馬鹿が彼の口にピーマンを押し込んでいた

 

(あ、危ねぇ〜!バイトの事を明日奈にだけしか話さなくて良かったぁぁぁぁ!!)

 

(………和人もなんか隠してるわね)

 

(お兄ちゃん……直ぐに顔に出るなぁ…)

 

(ああ……純平さんの上腕二頭筋が……セクシー……)

 

襲われる天哉を放置し、安堵する和人。その様子に気付いた深澄と直葉はジト目を向け、琴音は純平の筋肉に見惚れ、鼻血を出していたのであった




新たな依頼を受け、彩りの道化が降り立つは荒野の戦場。そして、この世界でも道化師は不敵な笑みを………あれ?俺、縮んでる!?

NEXTヒント 目が覚めたら、体が縮んでしまっていた件


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二弾 見た目は道化師、頭脳は迷子!その名は道化師(クラウン)

はーい、二話目です!荒野に解き放たれるは迷子と鍋奉行ちゃん!果たして、彼等は何を見る?


「んじゃあ、菊丸。手はず通りによろしく」

 

「致し方ありませんね…依頼を受けたのであれば、これは仕事。故に不詳、この緑川菊丸が全力でサポート致しましょう」

 

依頼から一週間後、《ファミリア》に天哉は居た。ナーブギアを片手に彼が会話するのは、サポート役を担当する菊丸だ

隣には深澄が座り、彼女はナーブギアの後継機であるアミスフィアを手にしている

 

「テン。アミスフィアがあるのに、どうしてナーブギアを持ってるの?」

 

深澄の疑問は最もだ、《ザ・シード》の力で発展を遂げたVRMMOは《アミスフィア》を主な使用ハードに推奨している。第一世代である《ナーブギア》は回収され、現在は天哉以外には和人しか所持していない

 

「なーに、心配しなさんな。コイツには、脳を焼き切る力なんかねぇよ」

 

「それでも……《ナーブギア》なのよ?怖くないの?私たちをあの世界に招き入れた元凶……私は今でも、《ナーブギア》の名前を聞く度に恐怖を覚えるわ」

 

「確かに……怖くないって、言えば嘘になる。其れでも、俺が《蒼の道化師(ソウテン)》で在り続ける限り、《ナーブギア(コイツ)》を手放す訳にはいかねぇんよ。俺が《ナーブギア(コイツ)》を手放す時、其れは全ての罪が許されて、《蒼の道化師(ソウテン)》が役目を終えた時……だから、今は何があっても《ナーブギア》を手放さない……それにだ、俺には何があっても深澄たちが居るしな」

 

「ふふっ、そうね。愛してるわよ?私の道化師さん」

 

「俺もだ」

 

抱き合い、見つめ合い、ゆっくりと近付く二人の距離。やがて、溶け合うように口と口が触れ合う……

 

「ごほん!ごほん!」

 

「「…………!」」

 

「仲睦まじいのは、構いませんが……時と場所を弁えていただけませんかね」

 

「「め、面目ない……」」

 

重なり合い掛けた唇を離し、飛び退いた二人の視線の先には苦笑する菊丸の姿がある。軽いため気を吐きながらも、注意を促す彼に謝罪を述べる

 

「此方側の情報収集には、純平さんと彩葉くんが動いてくれています」

 

entendido(了解)、そっちは任せた」

 

「それじゃあ、行ってくるわね」

 

《ナーブギア》と《アミスフィア》を被り、新たな世界に旅立つ天哉と深澄

 

「「リンク・スタート!」」

 

魔法の言葉を唱え、旅立つ兄貴分と姉貴分に菊丸は敬礼をする

 

「御武運を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………おろ?」

 

意識を覚醒させ、周囲の景色を見回す小柄な少年。彼は何時もより遥かに低い目線に違和感を覚え、口癖を放つ

 

「…………私、縮んでる?」

 

「うーむ……どうも、そうみたいだねぇ。おろ……?」

 

隣から聞こえた幼さを感じさせる声、視線を動かすと赤い艶が目立つ茶髪の少女が佇んでいた。ウェーブがかった髪、小柄な見た目、薄紫のパーカーを着用した彼女、まさかとは思いながらも、声を掛ける

 

「ミト………?」

 

「えっ……テン?ウソっ!?テンも縮んでるじゃない!?」

 

「おやまあ、ホントだ」

 

茶髪の少女基ミトは声を掛けてきた小柄な少年が恋人のソウテンだと知り、驚愕する。当の本人は何時もと変わらない呑気な口調で、けらけらと笑う

 

「トレードマークの仮面があるから一瞬で分かったけど……無かったら、目つきの悪い子どもにしか見えないわね」

 

「言うねぇ?しっかし、ミトも随分とイメチェンしたじゃねぇか。まるで怪しい組織に所属して、毒薬の研究をしていたけど、お姉さんが亡くなって、組織から抜け出す時に毒薬を呑んだら、体が縮んでしまった女科学者みたいだ」

 

「や、やけに具体的ね…」

 

「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!!」

 

ミトの姿をある筈もない設定を交え詳細に語り出すソウテンに対し、呆れたような苦笑をミトは浮かべる。刹那、聞き覚えのある叫び声が耳に入る

 

「不味い、不味いぞ!こんな姿をアイツらに見られたら……!」

 

「おやまあ、キリトならぬキリコか。おめぇさんに女装趣味があったとは知らなんだ」

 

「やっぱり、パーツが女顔だと其方に引っ張られるだけあって、余計に可愛いく見えるのね。………癪に触るわ」

 

騒ぐ中性的な容姿の美少女?を前に、ソウテンとミトは彼がキリトである事に気付き、声を掛ける

 

(…………なんか、小さい迷子と鍋女がいるっ!!!)

 

目の前というよりも目線の下に立つソウテン、ミトの姿にキリトは処理が追い付かないながらも驚きを見せる

 

「テン、それにミト……お前らが、なんでこのゲームにいるんだ」

 

「成り行きだ。キリトは何故におるんよ」

 

「成り行きだ」

 

「ちゃんと説明しなきゃダメでしょ」

 

「ふぁい…」

 

ミトが両頬を引っ張り、返事をするソウテン。その姿は普段とは異なり、愛らしさに溢れている

 

「お姉さん、運がいい!そのアバター、F1300番系でしょ!始めたばっかりかい?なら、アカウントごと売らない?2メガクレジットは出すよ!」

 

「売る気はないよ、コンバートなんでな。其れに俺は男だ」

 

「「「えぇーーーーーっ‼︎」」」

 

長い黒髪を翻し、去りゆくキリトの残した言葉に周りのプレイヤーが驚愕する。何人かは彼を本気で女性だと思っていたようで、地面を殴りつけ、血涙を流している

 

「「「「「くそぉぉぉぉ!!!」」」」」

 

「おろ?目の前が真っ暗だ、もう夜かにゃ?」

 

「テンは知らなくていい世界よ。だから見ちゃダメ」

 

「そんな世界があるのか、そいつは知らなんだ」

 

「アホなことしてないで、さっさと行くぞ」

 

「「はーい!キリコせんせー」」

 

「キリコじゃねぇし、先生でもねぇ!!!」

 

夫婦漫才を繰り広げるソウテンとミトを引き連れ、足早に去るキリト。その姿は園児を引率する保母にしか見えないが、彼は男である

 

「…………おろ?ここはどこだ」

 

「迷子になったわね。キリトとも逸れたわ」

 

「うーむ……キリトめ。迷子になるとは、けしからん」

 

「テン?迷子はテンの方よ」

 

「迷子じゃない、いいか?俺は迷子じゃない。迷子って言うヤツが迷子だ」

 

「じゃあ、やっぱり迷子ね。さて、これからどうしましょうか?迷子くん」

 

「おいコラ、鍋ロリ。迷子くんとか呼ぶな」

 

出会った頃の懐かしいやり取りを再現させる二人、その姿を見かけた二人組のプレイヤーが近寄ってくる

 

「どうかした?もしかして、誰かと逸れた?」

 

「んむ?随分とちっせぇな、見た感じ……初心者か」

 

幼子をあやすように優しく笑いかける女性、シノンと小柄なアバター姿を見詰め問う青年、ツキシロ。彼等は如何やら、二人を子どもだと勘違いしているようで、その表情は穏やかである

 

「あっ!見つけたぞ!何を迷子になってんだ!」

 

「誰が迷子だ、パスタ女子」

 

「女子じゃねぇ!迷子ショタ!!!」

 

「やめなさい!バカコンビ!!」

 

突如、現れたキリトと言い合いを始めるソウテン。彼等の頭に跳躍からの拳骨を繰り出すミト、その構図は保母と園児を彷彿とさせる。しかしながら、忘れてはならない。キリトは男である

 

「えっと………お姉さんかしら?私はシノンよ。それから、こっちは」

 

「ツキシロだ、人は俺を尻神様と呼ぶ。お前たちにも教えてやろう、この魅惑の尻……シノケツのみりょ----………」

 

「小さい子に何を吹きこもうとしてんのよ」

 

見た目が子どもなソウテンとミトを相手に尻談義を始めようとするツキシロの脳天に銃剣が突き刺さり、彼は物言わぬ屍と化す

 

「良かったら、案内するわ。ああ……この変態は気にしないでちょうだいね。後で荒野のど真ん中に捨てておくから」

 

(おやまあ、こりゃあ怒ったミトの千倍は怖いにゃあ………)

 

(こわっ!?えっ、なに!?アスナの一兆倍は怖いんですけど!!!)

 

(なるほど……あの人は、シノンって子の私にとってのテンみたいな人なのね)

 

シノンの姿に怒り狂う其々の恋人を思い浮かべるソウテンとキリト。倒れるツキシロを見ながら、彼がシノンにとっての何なのかを思案するのであった




シノン、ツキシロという変わり者コンビに出会ったソウテンくんとミトちゃん、そして保母のキリコさん。果たして彼等は荒野の果てに何を見るのか?

NEXTヒント 俺は男だぁ!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三弾 武器は大事!否、美脚の方が大事!

え〜、前もって言っておきますがNEXTヒントは話に関係ある場合と無い場合が御座います。まぁ……大抵は関係ありませんけど……


「其れで、何処に行きたいの?」

 

優しい声色で問うシノンの目線の先には、ソウテンと手を繋ぐミトの姿があり、その背後ではキリトが黒い長髪を触りながら念仏のように何かを呟いている

 

「え〜っと、《旧居住区》エリアの《D-51》ポイントなんだけど……其処に、有名な銃職人(ガンスミス)が居るらしいの。分かる?」

 

「驚いたわ、初心者なのに銃職人(アイツ)を知ってるなんて。さては……かなりのゲーマーね?駄目よ、小さい頃からゲームばっかりしてたら、良い子は外で遊びなさい」

 

「あはは………ご、ごめんなさい…」

 

「おやまあ、ミトが怒られてる」

 

「かなり珍しい光景だな」

 

「ああ、実に良い尻だ」

 

「おめぇさんはなんの話をしてんの?というか、いつの間に荒野から帰ってきたんよ」

 

娘に言い聞かせるように、やんわりとミトを叱るシノンの姿は母親を彷彿とさせ、普段は見ることのないしおらしい態度を見せるミトにソウテンとキリトは物珍しそうに見守る。一方で、荒野から自力で戻ってきたツキシロは相も変わらず、シノンの尻の話をしていた

 

「そうだ、忘れるとこだった。シノンのねーさん」

 

「ね、ねーさん?何かしら?えっと……ソウテンくん」

 

「ああ、テンでいいよ」

 

「分かったわ。それで?テンは、何が聞きたいの?」

 

「《総督府》って、とこもついでに教えてくんない?実は《BoB》に出るつもりなんよ」

 

「……………はい?ちょ、ちょっと待って!アナタたちが《BoB》に出るですって!?危ないわよ!子どもと初心者の女の子が参加するなんて……無謀だわ!」

 

冗談染みた様子もない普通の態度で、《BoB》に参加すると宣言するソウテン。彼等を子どもと女性だと誤解しているシノンは慌てて、《BoB》の危険さを伝えるも、彼は笑った。仮面から覗く瞳、そして口元には、まるで道化師の様な不敵な笑みが浮かんでいた

 

Gracias por el consejo(忠告をありがとう)。其れでも、俺たちにはやらなきゃならん事があるんよ」

 

「例え、アナタが私たちの額に銃弾を撃ち込もうと止まるつもりはないわ」

 

「諦めてくれ、こういう奴らなんだよ。まぁ……俺も同じ穴の狢だけどな」

 

ソウテンに続き、ミトも耳に掛かる髪を指で触りながら、外見には削ぐわない妖艶な笑みを浮かべる。キリトも呆れ笑いを浮かべた後、微笑する

 

「はぁ……分かったわ。そっちにも案内してあげる。私とツキシロもエントリー予定だし」

 

「あ〜、俺パス。この後スコードロンでシノケツについての尻講義があるし----………」

 

彼等の覚悟が伝わったシノンは折れ、改めて案内役を承諾する。拒否の意を示すツキシロの脳天に銃剣を突き刺し、彼の体を鎖で拘束し、引き摺りながら目的地への案内を始める

暫く、歩いていると《D-51》ポイントに辿り着き、一軒の寂れた酒場が現れる

 

「お〜い、キッド〜!客連れてきたぜ〜!」

 

扉を開け、ツキシロが大声で呼び掛けると、奥のソファに掛けられた毛布がもぞもぞと動きを見せ、中からテンガロハットが特徴的な小柄なプレイヤーが姿を見せる

 

「………ん〜っ……く〜……むにゃむにゃ………んんっ……あり?総長(ヘッド)ちゃん?。なに?もう集会の時間?あぁ!もしかして、(ヴォ)----………」

 

寝惚け眼を徐々に覚醒させ、ツキシロの姿に気付いたキッドと呼ばれたプレイヤーが、何かを言い掛けた瞬間、その顔面にコンバットナイフが突き刺さる

 

「ちょいとごめんよ。アンタがキッドさんでオーケーか?」

 

「ん……ああ、如何にもアタイがキッドだ。人はアタイを美脚評論家と呼ぶ……あっ、シノンちゃん!丁度良かった、新作のニーハイあるんだけど履かない?これなら、素敵な絶対領域(バレットライン)が生み出せ---………」

 

「黙りなさい、変態銃職人。絶対領域と書いて、バレットラインと読むんじゃないわよ」

 

「そうだ。シノンの魅力は脚じゃない!尻だ!小柄ながら、発育!形!柔らかさ!感度!全てを兼ね備えた素晴らしい尻!其れがシノンの尻!シノケツだ!これを気にお前も尻---………」

 

「毎度毎度、尻だの、脚だの、うるさいわぁ!!!この変態コンビ!」

 

「「ず……ずび……ば…ぜ…ん…」」

 

額に銃剣を刺され、倒れ伏すツキシロとキッドの前に仁王立ちするシノンは肩に担ぎ、怒り狂う。その姿は正に冥界の女神と呼ぶに値する程の立ち姿である

 

((なんか……見覚えのあるやり取りなのは、気のせいだろうか……))

 

(シノンも大変ね。………というか、ああいうバカたちに囲まれる気持ちに同情してしまう私って……はぁ……大分、毒されたわねぇ……)

 

見覚えのある光景にソウテンとキリトは数回ほど首を捻り、ミトはシノンの気持ちが理解出来る自分に呆れていた

 

「其れで、おチビくんたちはアタイに何用かな?」

 

「アンタが前にプレイしていたVRMMOでフレ登録してたアマツからの紹介で、装備品を受け取りに来た。俺は、ソウテン。こっちの可愛らしい科学者っぽい見た目の女の子はミトだ」

 

「どうも、可愛らしい科学者です」

 

「で、この黒いのは女装癖のあるパスタ馬鹿ぼっちだ」

 

「どうも、女装癖の………って!何を言わせようとしてんだぁ!この迷子ショタピーナッツ!!!」

 

「んだとコラァ!やんのかっ!女装ぼっちパスタ!!!」

 

「喧嘩両成敗っ!!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

自己紹介から始まる罵り合い、彼等の頭に跳躍からの拳骨を繰り出すミト。その構図は保母と園児を彷彿とさせる。だが、お忘れでないだろうか?キリトは男である

 

((あの、ちっさいねーさん……怖っ!?))

 

(ミトって……絶対に私と同じで、周りに苦労が絶えないタイプだわ……)

 

「其れで、アマツから話は聞いてると思うけど。私たちの装備は準備できてる?キッドさん」

 

倒れるバカコンビを放置し、キッドに向き直ったミトは何食わぬ顔で本題に話題修正を図る

 

「あ、ああ……出来てるけど……その二人は生きてるのか?」

 

「大丈夫よ、この二人は害虫並みの生命力があるから」

 

「「誰が害虫だ!!!鍋ロリ!」」

 

「ほらね」

 

起き上がり、突っ込みを放つ二人を指差し、ミトは微笑した。余りの足早な展開にシノンはぽかーんと魂が抜けたように呆けている

 

「防具は知り合いに頼んで、オタクらのイメージカラーに合わせた物を用意した。で、武器だけど……」

 

防具を手渡すと、ストレージを操作し、キッドは筒状の金属棒、紫色の金属棒と金属製のワイヤー、水色の金属棒を取り出す

 

「先ず、これが《フォトンソード》をベースに創り上げた銃と剣を一つにした《ブラッキーブレイド》だ。これはキリトちゃんだ」

 

「銃と剣が一つ……な、なんて俺向きの武器なんだ。ふっ……どうだ?カッコいいか?」

 

「おお、見てみなよ。あれって馬じゃねぇんか?ミト」

 

「あら、ホント。あっちには汽車もあるわよ」

 

(見てすらいない………!!!)

 

《ブラッキーブレイド》を片手に決めるキリトであったが、ソウテンとミトの興味は外にある鉄馬と汽車に向いており、見向きもしていなかった

 

「で、この紫色の金属棒は打撃武器の《ガンズロッド》だ。打撃武器でありながら、折り畳むことで、銃に変形する優れ物だ。ミトちゃんのだ」

 

「変形……なかなか熱いわね。そういうのは大好きよ、私。あとこれで合体もあるとテンションが沸騰するわ」

 

「なら、コイツがもってこいだ。このサブ武器のワイヤーはここを押すとブーメランになる《フォトンブーメラン》。だが、本来の用途はこの《ガンズロッド》と組み合わせて……《ガンサイズ》にするんだ」

 

「合体きたァァァ!!!熱い!熱いわ!ああ!合体……なんて、良い響きなの…。誰かが言ったわ、合体……其れは気合いと気合いのぶつかり合いだって!そう!合体こそ最強!合体は更なる力を生む気合いの証!」

 

「おい、テン。アレはお前の管轄だろ?止めろよ」

 

「えっ?何故に?はしゃぎまわるミト、すげぇ可愛いじゃん」

 

(そうだった……コイツ、ミトにはすんげぇ甘いんだった……)

 

合体に付いて熱弁するミトの姿にソウテンは止める素振りも見せずに、その愛らしさを眼に焼き付ける

 

「で、最後がソウテンちゃんの武器な。其れがこの《メタリックロッド》だ。用途は打撃武器だが、中身が仕込み槍になってる。鞘になってる方のロッドは殺傷能力は低いが掌に隠し持てる小型銃になる」

 

「ほうほう、二つで一つか。中々に手の込んだ武器だ」

 

「あと、アマツちゃんから言われた「アイツは雨を降らせる」って言うのが、いまいち分からなかったけど、アタイ也の解釈で、こういう感じに火薬を詰めた鉄球を用意してみた。取り敢えずは200程、渡しておくけど、足りない時は言ってくれ」

 

「…………ふふっ」

 

((あっ、なんか悪いこと考えてる顔だ))

 

鉄球片手に不敵に笑う仮面の道化師、付き合いの長いミトとキリトは彼の心中を感じ取り、呆れ笑いを見せる

 

「あとシノンちゃん。ヘカートの整備終わらせといたよ」

 

「ありがと」

 

「いや、礼は良い。しかし、どうしてもと言うなら……このニーハイを履いてく----………」

 

「さぁ、行きましょうか」

 

変態銃職人(キッド)に銃剣を突き刺し、身を翻したシノンはソウテン達を連れ、店を後にする

 

「さてと………次はアンタだな。総長(ヘッド)ちゃん………いや、赤狼(ヴォルフ)のダンナ」

 

「んじゃ仕上がったら、連絡してくれ。本戦前には取りに来る」

 

「へいへい、任せときなさいよ。なにせ、アタイは《GGO》最強スコードロン《荒野の獣人(ウィルダー・セリアン)》が誇る天才銃職人の《黒鷲(ヴェルグ)》ちゃんだからな」

 

「期待してる」と言い残し、シノン達の後を追うツキシロ。その去りゆく背に軽くため息を吐き、キッドは微笑する

 

「ホントにシノンしか見えてないよなぁ。あ〜………アタイも、会いたくなったきたなぁ〜………ディアベルちゃんに」

 

キッド、男性向けの名前をしているが実は女性である事は余り知られていない。そして、意外にもALOにそのギルドありと銘打たれる最強ギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》のディアベルの恋人である事も今はまだ誰も知らないのであった




《総督府》を訪れたソウテン達、その前に現れたのはシュピーゲルというプレイヤー。シノンの友人だと言うが………

NEXTヒント 箸渡しはいけません!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四弾 挨拶は大切!へそっ!……あれ?なんか可笑しい……

はてさて、今宵はシノンの何処に魅力を感じる変態が沸くのか……そして、銃剣の登場は何回あるのか?見所は如何に!


「え〜っと、《総督府》は……アッチだな」

 

「「待てコラ、迷子」」

 

「迷子じゃない」

 

店の前で、次の目的地である《総督府》を目指そうと一歩を踏み出したソウテンの両手を、ミトとキリトが掴み、御決まりの文句を言い放つ

 

「良いか?此処は《浮遊城(アインクラッド)》じゃないんだぞ?其処を理解してるのか?お前は」

 

「あのな、子どもじゃないんよ?俺は。最悪、シノンに案内してもらえばいいだけだろ」

 

「すごいわ。其処までの知恵が働くなんて、成長したのね」

 

「褒められてんのに、素直に喜べないのは何故……?」

 

褒めているのに貶しているようにも取れるミトの言葉に、複雑な思いを抱くソウテン。《総督府》までの案内がてらに、シノンは街中を説明しながら、楽しそうに笑っていた

 

「…………ありがとよ、ガキンチョ。お前たちのお陰で久しぶりに笑ってるシノンを見れた…」

 

「おろ?どしたんよ。急に」

 

「ある日を境に、アイツは笑う事をやめた。其れでも……俺たち(・・・)はアイツの側に居続けた……あの日が来るまでは……」

 

「あの日……?」

 

「ああ……忘れもしねぇ……あの忌々しいデスゲーム……《SAO》が巻き起こした地獄の二年間を……!!!」

 

苦虫を噛み潰したように、怒りを見せるツキシロ。その姿は、昔の自分が、あの頃の自分が、全てを捨てようと闇に全てを任せた自分が重なる。一度は《家族》と呼んだ大事な仲間たちを拒絶し、刃を交え、楽になろうとした。だが、其れは彼が望む自由に続く道ではなかった、その先に待つのは、快楽のままに全てを闇に葬り去る《血塗られた道化師》の姿。世界を彩る為に生まれた《蒼の道化師》とは対局に位置する存在だ

 

「………って、俺はガキンチョ相手に何を言ってんだ…。すまねぇ、忘れてくれ」

 

「………忘れんよ。あの日があるから、俺は此処にいるんだ、あの日があったから、今の現実があるんだ。ソイツを忘れるって事は、俺たちの幾重にも折り重なった糸を解いちまうってことだ……其れにだ、Si es un infierno, ya lo he visto.(地獄なら、とうに見た)

 

荒野の街に一陣の風が吹く。棚引く青いマフラー、仮面の奥に浮かぶ含みのある笑み、懐かしい雰囲気を見せる彼。まるで以前に出会った事がある誰かを彷彿とさせるその表情に、ツキシロは思考を止めた

 

「な、なぁ……前に会ったか?俺たち…いや、気のせいだよな?何せ、年齢が違い過ぎるぜ…」

 

「一概にも無いと言い切れんよ。なんたって、人生は一期一会と申しますから」

 

「一期一会……あれか!イチゴを見つけたら、誰かに取られる前に食えって諺だよな!」

 

「話の腰を折るんじゃねぇよ。ぼっち」

 

「誰がぼっちだぁ!!!この迷子!」

 

「んだとコラァ!やんのかっ!?」

 

「やめんかぁ!!みっともない!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

名言を放つソウテンを遮るように沸いたぼっち(キリト)が台無しにする迷言を放ち、何時もの喧嘩に発展し、ミトの制裁が決まる

 

「………ふぅ、見苦しい所を見せたみたいでごめんなさいね?」

 

「「い、いや別に……」」

 

「其れはそうとアレってなに?何かのゲームみたいだけど……」

 

「アレ…あぁ、アレね」

 

話題転換を図るミトが視界に映したのは、一種のミニゲームだ。ゲーマーである彼女は興味津々にシノンへと問う

 

「ちょっとしたギャンブルゲームよ。手前のゲートから入って、奥のNPCガンマンの銃撃を躱しながらどこまで近づけるか、ってゲームプレイ料金が500クレジットで、10mで1000、15mで2000クレジットの賞金。ガンマンに触ればいままでプレイヤーがつぎ込んだお金が全額バックするの。まぁ……子どものミトにまだ早いかな…?」

 

「そう……」

 

「えっ……あっ!もしかして、やりたかったの!?ご、ごめんね!気が回らなくて!」

 

しゅん……と落ち込むミトの姿にシノンは慌てふためき、取り繕うように彼女を慰める

その時、ゲームの様子を観察していた彼が動いた

 

「ねぇ、ちょいと質問。このゲームにルールはあるんか?」

 

「あぁ?ルールなんかねぇよ。近付けばいいだけだ」

 

「なんだ、ちびっ子。お前が挑戦すんのか?」

 

「ソイツは無謀だぜ?ぎゃははは!帰って、ママのミルクでも呑んでなっ!」

 

「無謀かどうかは分からんよ?………派手に行くぜっ!」

 

他のプレイヤーたちからの返答と笑い声に、不敵な笑みを浮かべると彼は、道化師は金属バーの前に立つ

 

「えっ…?」

 

「な、何してんだ?アイツっ!?」

 

シノンとツキシロも驚いた様子で、彼を見る。然し、ミトはその後ろ姿を見据え、キリトも額に手を当てつつも笑っていた

やがて、スタート開始音が響き、彼は走り出した。迫りくる弾丸を紙一重で交わし、その双眸は只管に前だけを見据え、NPCガンマンがレーザーを放つ

 

「永遠にadieu」

 

直前で、持ち前の脚力を活かした跳躍に寄り、レーザーを回避するとNPCガンマンの前にゆっくりと降り立つと決め台詞を放ち、革ベストに触れる

 

「オーマイ、ガ―――――――ッ!」

 

絶叫が響き渡り、短くも華やかではあるが僅かに不協和音の混じった音楽が鳴り響く。レンガが崩れ、金貨が大量に傾れ込む

 

「おやまあ……フィーが見たら、お宝ちゃんばんざーい!とか叫びそうだなぁ、こりゃあ…」

 

金銀財宝が大好きな片割れ()を思い浮かべ、苦笑すると身を翻し、ゲートを潜る。その身形からは想像もつかない彼、ソウテンの行動に誰もが唖然としているが当の本人は気にも留めていない

 

「おろ……?なんか、やらかした?俺」

 

「今に始まったことじゃないでしょ。テンの場合は」

 

「全くだ、何かをやらかすのがテンだからな」

 

「ふぅむ……褒められてる筈なのに、貶されてる気になるんは何故だ?」

 

「……ちょっと、テン?」

 

ミトとキリトの言い分に、難色を示しながらも首を左右に捻るソウテン。すると我に返ったシノンが彼に呼び掛ける

 

「ほいほい?何か用かにゃ?シノンのねーさん」

 

「アナタ一体、どんな反射神経をしてるの…?最後のレーザー、あんな距離だと、回避なんて不可能に近いのに…」

 

「んむ……?何を言ってるんよ?あんくらい普通じゃねぇの。相手が手を出す前に、先読みを重ねれば、瞬間的にある程度の行動は出来るだろ」

 

「出来るかぁ!!!」

 

「元が元だからな……」

 

「培った経験が明らかに常識人ではないのよね……」

 

「……テン……いや、まさか……でも……そうなのか…?」

 

シノンの突っ込みに、けらけら笑うソウテン。その姿に懐かしい雰囲気を感じたツキシロは自身の眼を疑う、目の前にいる彼が、彼奴である訳が無い。明らかに、身長差が足りない、其れでも疑わずにはいられない

 

「な、なぁ……」

 

「おろ?今度はツキシロのにーさんか。どしたんよ」

 

「いや、聞きたいんだけどよ」

 

「あぁ!?ちょっと!テン!ヤバいわよ!時間!」

 

「なにぃ!?しまった…!!!」

 

「こんの傍迷惑迷子がぁ!お前のせいだぞっ…!!!」

 

「喧嘩してる場合かっ!!!さっさと急ぐわよっ!ちょっと!其処のおじさん!そのハーレーを今すぐに貸してっ!」

 

「えっ?誰…うごぉっ!?」

 

身近にいたバイク乗り的な男性を物理的に黙らせたミトはハーレーに跨り、その後ろにソウテンが跨り、キリトが跨る

 

「飛ばすわよっ!!!」

 

「あり?ミトって、免許あんの?」

 

「大丈夫よ!ゲームセンターでレースゲームはやり込んでるし、初めてプレイしたのは配管工カートよっ!任せなさいっ!」

 

「おぃぃぃぃ!!!不安要素しかねぇよ!誰かぁ!助けてくださーい!アスナぁぁぁぁ!!!」

 

「安全運転でな」

 

「オメェは少し危機感を持てコラァ!!!」

 

「発進!ミト!行きまーす!!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!」

 

「じゃ、そういうことで」

 

嵐の様に去りゆく三人。唐突な展開に乗り遅れたシノンとツキシロは取り残され、唖然としていた

 

「………あれ?総長じゃん。何してんだ?」

 

「其れにシノンも」

 

「ん……おぉ!お前はバイク乗りのリッパー!」

 

「あっ!シュピーゲル!丁度よかったわ!乗せて!」

 

バイクに跨ったプレイヤー、リッパーとシュピーゲルに声を掛けられ、二人は其々の友人の背に跨る

 

「あのハーレーを追え!」

 

「任せとけ!へのつっぱりはいらんですよっ!」

 

「言葉の意味は分からんがすごい自信だ!流石だ!リッパー!」

 

「おうともよっ!あっ、そうだ。シノンに言いたいことがあるんだ」

 

「な、なに…?」

 

いざ発進しようと、ハンドルに手をかけるリッパー。彼はシノンに視線を動かし、真剣な瞳で彼女を見る

 

「あの装備って、へそ出てるけど寒くないの?いや嫌いとかじゃないけど、逆にエロさが目立って----…………」

 

「さっさと行け」

 

「全く、どいつもこいつも分かってねぇな。いいか?シノンの魅力は尻だって、何度も言っ----…………」

 

「シュピーゲル。出しなさい」

 

「う、うん……」

 

銃剣を刺されたままのツキシロとリッパーを放置し、シノンはシュピーゲルとソウテン達の後を追うのであった




荒れ狂う鉄騎に跨り、遂に第二の目的地である《総督府》にたどり着いたソウテン、ミト、キリトの三人!果たして彼等は受付に間に合うのか!?そして、ツキシロとリッパーの安否は!

NEXTヒント チェリーパイ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五弾 尻!臍!脚!三つの力、お借りします!

今回はなんと……あいつが登場!えっ?何してんの?なんで、マイクを持ってるんよ!?


「ふぅ…何とか間に合ったわね」

 

「ギリギリだったけどな……」

 

《総督府》に辿り着き、大会エントリーを済ませたミトとキリトは項垂れるように椅子に腰掛け、だらんとしていた

 

「アナタたち……何時もあんな感じ?」

 

「まぁね……行き当たりばったりがデフォルトではあるわ」

 

「そういや、あの仮面のボウズはどうした?一緒じゃねぇのか?」

 

同様にエントリーを済ませたシノンの問いに、苦笑気味で答えを返すミト。すると辺りを見回していたツキシロが、ソウテンの姿が見当たらない事に気付く

 

「ああ、テンなら………」

 

「おやまあ、おじさん」

 

「おい……オヤジ……」

 

「ん?なんだ」

 

問いに応える様に、視線を動かすキリトの目線を追うとカウンター席に座り、チェリーパイにがっつく迷子と一人の男性が居た

 

「「このチェリーパイは………」」

 

「ブラフみてぇな味がすんね」

 

「本物の味だ!」

 

「「ん……?」」

 

ブラフ、つまりは嘘みたいに不味いと述べるソウテン。其れとは裏腹に本物、つまりは現実と変わらない味だと述べる子ども染みた口調の男性。互いに顔を見合わせ、次はドリンクに手を伸ばす

 

「「このドリンクは……」」

 

「本物だ」

 

「仮想らしい味だね!」

 

「……おめぇさん、舌イカれてんじゃねぇんか?」

 

「君こそ、頭おかしいんじゃないの〜?」

 

「んだとコラァ!フード外したろかっ!オッサン!」

 

「オッサンって、歳でもないけどね…。其れよりもさ、ソウテンって名前、まさか……」

 

真逆の味覚を持つ男に難色を示し、喧嘩を売るソウテン。しかし、男が放ったであろう、ある言葉を最後に、仮面の奥で表情が歪んだ

その変化は遠目にいたミトの視界にも映った。普段の不敵な笑みとは異なる、彼女が見た彼の表情の中で一番苦手な表情……つまりは《黒い衝動》を秘めていた頃の彼が、其処には居た

 

「………おい、テメェ。ミトとキリトに何かやってみろ……殺すぞ…」

 

「あぁ……やっぱりぃ〜、そうなんだー!知ってるよ〜?その眼っ!」

 

「………失せろ」

 

威圧感と殺気を込めた睨みは、男を一気に震え上がらせる。然し、彼にはその震えが堪らない程に生きる実感を与えるものである事をソウテンは知らない。ギリーマントを纏った男が側に現れると、彼はその後を追う様に姿を消した

 

「…………おろ?どしんたよ、お二人さん」

 

「知り合いか?今のは」

 

「んにゃ、ぜーんぜん」

 

「の割には親そうにして……というか、殺気が漏れてたわよ」

 

「まぁ……ちょいとね。そういうキリトも、あのマントの人は知り合いなんか?」

 

「全く知らん!」

 

「相変わらずね……記憶力の無さは…」

 

話を逸らすソウテン、キリトの表情の奥に隠れた何かを感じ取ったミトは口では馬鹿にしているが内心では、その想いを理解していた

 

(やっぱり……何かを隠してるわね…まあ、別に構わないけど…)

 

「お〜い、ボウズたちはどのブロックだ?俺はFの24番だったぜ?」

 

「私はFの33番よ」

 

「俺はPの7番だ」

 

「おろ?キリトも同じブロックなんか、俺はPの4番だよ」

 

「私はNの44番よ」

 

ミト以外の四人は、其々が同士討ちに成りかねない対戦表となっている。勝ち進めば、確実にぶつかり合う事は明白である

 

「なぁ、テン……あの時、着かなかった決着を着けようぜ」

 

「ソイツはおもしれぇ……最初に言っておくけど、俺はかーなーり強い!」

 

「なにおうっ!?なら、俺は最初からクライマックスだ!」

 

「ねぇ、ミト。聞いていい?」

 

「なに?シノン」

 

訳の分からない対抗意識を剥き出しに張り合うソウテンとキリト。その姿を傍観していたシノンがミトに声を掛けると、彼女はきょとんとした様に問い返す

 

「もしかして……バカなの?…コイツら…」

 

「もしかしなくてもバカよ」

 

「総長!本戦で会おうぜ!芋洗って、待ってろよ!」

 

「言うじゃねぇか……なら、次に会う時は敵だぜ?シノンの尻を見る暇も与えないくらいにブチ殺してやるよ!」

 

「おぉ!マジか!なら、俺もへそを拝む暇もねぇな!張り切るぜ!」

 

「あっ!総長!届けにきたよ!シノンちゃんにも!はいよ!ニーハイ!その美脚に傷が付いたら大変だしな!」

 

矢継ぎ早に姿を見せる尻、臍、脚を愛する三人の変態。その額に音速で銃剣が突き刺さり、急拵えの椅子に早変わりする

 

「ミトも座る?」

 

「大丈夫よ。私はテンの膝があるから」

 

「なんだ、ミト。甘えたいんか?」

 

「えぇ、お願いできる?私の可愛い道化師さん」

 

「お安い御用で」

 

ソウテンの膝に、ちょこんと座るミトの姿は今の愛くるしい見た目に相応しく、その可愛さを何百倍も引き上げている。見慣れたキリトは、「埋める?いや……燃やすか……」と物騒な事を口走っているが今は触れないでおく

 

「ほら、キリト。いくぞー」

 

「ん……ああ、そうだな」

 

我に返ったキリトはソウテン等の後に続き、控え室に向かおうと歩き出す

 

「ちょ、ちょっと!」

 

刹那、シノンが叫んだ。何事かと思い、ソウテンが振り返ると彼女はキリトの手を掴んでいた

 

「聞いてなかったの!?女子はこっちよ!」

 

「………はい?」

 

「「……ぶふっ!」」

 

シノンの言葉に、理解が追いつかないキリトは問い返す。その背後で二人の幼子が口元に手を当て、堪えながらも耐え切れずに吹き出す

 

「俺、男なんだけど……」

 

「え……?」

 

「ほら、これが証拠」

 

首を傾げたシノンに対し、自分のネームカードを渡すキリト。彼女は数秒の沈黙後に、カードを返却し、息を吸う

 

「早く言わんかぁ!!!」

 

「ぐもっ!?」

 

そして、怒号と共に彼女の銃剣がキリトの額を貫いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、すまんね。ねーさん」

 

「隠してた訳じゃないのよ」

 

「別に良いのよ、勘違いしたのは私だから。という事はテンとミトも子どもじゃない……のよね?」

 

装備に着替え、席に戻ったシノンはソウテンとミトから事情を聞いていた。そして、目の前の彼等が身形に削ぐわない振る舞いを見せることにも納得したらしく、問いを投げ掛ける

 

「そうよ、本当はもっとカッコいいのよ?彼。迷子でバカだけど」

 

「もっと言ってくれ……おろ?なんかバカにしなかった?今」

 

「気のせいよ」

 

「取り敢えず、予選についての説明をするわね?」

 

苦笑しながらもシノンは説明を始める。彼女曰く、予選はドーム中央にあるホロパネルのカウントダウンが0になった瞬間、エントリー者全員が予選1回戦の相手と共にランダムで選ばれたフィールドに転送され、負けるまで勝ち進み、最後に残った二人が予選決勝を戦うという極めて単純(シンプル)なルールだ

 

「こんな所よ」

 

「「「Gracias(ありがとう)、シノン先生」」」

 

「礼はいいわ。折角だし、全員が本大会に残れる事を祈ってる。そして、その本選で貴方達にもう1つだけ、あることを教えてあげるわ」

 

不敵に笑う、狙撃手。彼女は指を銃の形にすると三人に告げる

 

「敗北を告げる弾丸の味をね」

 

「やっぱり良い尻だ。この絶景を見ながらだと、生クリームが格別に美味いな!」

 

「ヘソには劣るけどな」

 

「あぁ〜!ニーハイ履いてないけど、生脚だぁ〜!これでお茶碗三杯は確実だぜぇ!」

 

生クリーム大福を頬張るツキシロ、ワインを嗜むリッパー、白米を掻っ込むキッド。三人の額に銃剣が突き刺さる

 

「人の見せ場を台無しにしてんじゃないわよっ!!!変態三人衆!!!」

 

「「「ず……ずび……ば…ぜ…ん…」」」

 

「殴るわよっ!!」

 

「「「いやもう殴ってんよね!?」」」

 

怒り心頭のシノンに、ソウテンとミト、キリトの突っ込みが飛ぶ。その時だった

 

『レディ〜〜〜〜ス!ア〜〜〜ンド!ジェントルメ〜〜〜〜ン!!!血気盛んな野朗供!遂に三回バレット・オブ・バレッツ予選トーナメントの幕開けだ〜!司会進行は私!最強にして最大!誰もが羨む魅惑のミニマムボディ!レンがお送りするよ!』

 

『解説はあたし、世界を自由に染め上げますっ♪でお馴染みの美少女彩りアイドルのシリカでーす!よろしくねっ☆』

 

《レン》と名乗るピンク色の装備が特徴的な少女の隣に姿を見せた一人のアイドル娘、見覚えのある姿にソウテンたちは息を大きく吸い込む

 

「「「いや、何してんのォォォォォォ!?お前ェェェ!!!」」」

 

『えへっ?来ちゃいました☆』




いよいよ幕を開ける予選、ソウテンの相手はおへそ大好きバイカー!しかし、問題はありません。今宵の天候は……雨に御座います故

NEXTヒント 局地的豪雨


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六弾 合言葉はがんバレット☆開幕の雨は降り注ぐ!

今宵は久方ぶりの戦闘模写!苦手だ!絶対変になってる!あれ……タイトルに初めて、体の部位が出てない!


『前回のあらすじ、荒ぶる猛者が集うVRMMOに降り立った最大級の可愛さを持つ美少女彩りアイドルのシリカは、その魅力で仮想世界に新たな革命を起こすのであった……』

 

『いやいや!であった……じゃない!何勝手に変なナレーションしてるの!?これ、バレット・オブ・バレッツ予選トーナメントだからねっ!?』

 

開口一番に、舞台上で前回の経緯を解説する一人のアイドル娘。然し、その内容は大半が自画自賛を占めてい為に隣からトレードマークのウサ耳的な帽子を尖らせたレンが突っ込みを放つ

 

『細かいことは気にしてはいけません。良いですか?アイドルは可愛ければ、何をしても許されるんですっ!』

 

『そんなわけねぇーーーーっ!!!』

 

止まらないシリカの暴走機関車顔負けのハジケ振りに更なる突っ込みを放つレン。可愛いマスコット達の登場に沸き立つプレイヤーたちの中に約三名、表情を引き攣らせる者たちが居た

 

「………なぁ、気のせいか?俺にはアレがどう見ても……見覚えのあるマイクバカに見えるんだけど……」

 

「奇遇ね……私もだわ……。ねぇ?テン、まさかだけど……あれ以外にも居たりしないわよね…?」

 

「うぅむ……一概にも無いとは言い切れんけど……他の奴等には情報収集とサポートを頼んでるから、あれ以外には来ないと思う。シリカには伝えるんを忘れてた……」

 

「無理もないわ、急だったもの」

 

「にしも……あのウサギみたいな子が可哀想だな……」

 

「早速、暴走してるもんなぁ……」

 

思わぬ人物、シリカの登場にため息を吐いたり、呆れたりと表情を次々と変えていくソウテン、ミト、キリト。一方で、あり得ない物を見たように口をあんぐりと開けるツキシロの姿もあった

 

「総長……、あの子って前に助けた子じゃね?」

 

「だ、だよな……そーいや、フカの奴がアイドル並に人気があるぜぇ?とか言ってたな……」

 

「えっ?レンちゃんと知り合いかよっ!?いいなぁ〜……」

 

「ああ、そうか。リッパーは別件で不在だったから知らねぇのか。実はな---」

 

もう一人の進行役であるレンの事を知っている様子のツキシロとキッド、その時に居合わせていなかったリッパーに説明を始める

 

「やぁ、シノン。間に合ったんだね」

 

「シュピーゲル。えぇ、なんとかね」

 

「レンちゃんは前に何度かクエをしたことがあるから、知っているけど。あのシリカって言う娘は初めて見るね」

 

「そうね。随分と可愛らしい子だけど……年齢が年相応かは疑わしいわね」

 

「……シノン?」

 

VRMMOプレイヤーであれば、その存在を知らぬ者は少ないが《GGO》古参のシノンは他の仮想現実には疎い。故に《ALO》というファンタジー感満載の世界を中心に活動するシリカは未知の存在なのだ

 

『さてさて!気を取り直して、エントリーしたプレイヤーさんたちは準備できたかな〜?勿論、できたよね〜!』

 

『それじゃあ、派手にカウントダウンいっくよ〜!』

 

『10!』

 

『9!』

 

『8!』

 

『7!』

 

『6、5、4、3、2!』

 

『ああっ!一人でたくさん言うとか、ずるいっ!!!だったら!1、0!いざっ!転送っ!!!』

 

『レンちゃんのばかぁぁぁ!』

 

『『がんバレット☆』』

 

息の合った?やり取りの後、参加プレイヤー達は転送された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………おろ?」

 

転送されたソウテンは、暗闇に浮かぶ六角形パネルの上に立っていた。視界を動かすと、目の前に《souten VS ripper》という表示が入る。その下には[準備時間:45秒 フィールド:霧の路地裏街]と表示されている

 

「リッパー………ツキシロのにーさんと居たあのヘルメットか。ふむ……」

 

何かを考えながらも、装備に不備がないかを点検していく。青いライダースジャケット、防弾アーマ、黒い革靴、象徴(トレードマーク)の仮面とマフラー。武器であるメタリックロッドを背中に差し、その時を待つ

 

[準備時間:0秒]

 

刹那、ソウテンの体は二度目の光に包まれる。霧が立ち込め、視界が定まらない路地裏の街、初見ではあるが見慣れた街を彷彿とさせる雰囲気に左右の瞳を動かす

 

(さぁ〜て、相手は何処かなぁ………おろ?)

 

周囲を見回し、対戦相手を探していると頭上に何かが当たる。違和感を感じ、その何かが落下してきたであろう上方向に視線を動かす

 

「酷いわ!ピーマンは食べるのに、私は食べないなんて!」

 

「貴様!パプリカちゃんを泣かすなぁ!」

 

「ひぃぃぃぃ!誤解です!パプリカも食べてます!」

 

手足が生えたパプリカに襲われるフルフェイスヘルメットのプレイヤーが居た。はっきりと会話した訳ではない為にうろ覚えであるが、彼が対戦相手のリッパーである事は明白だ

 

「ごかい……五回もパプリカちゃんを泣かしたのかぁ!!!」

 

「ちきしょぉぉぉ!!!あっ!丁度よかった!そこのちびっ子くん!助けて!」

 

「俺、ピーマン系統苦手なんで無理」

 

「うわ〜ん!」

 

「パプリカちゃんを泣かすなっ!お前も敵だぁぁぁぁ!!!」

 

「ゔぇっ!?」

 

矛先が自分にも向いた事に、ギョッとソウテンは目を見開く。そして日本刀片手に追いかけるパプリカから逃げ惑い、近くの建物に身を隠す

 

「「はぁはぁ………し、死ぬがど……おもっだ……!!!ん………あっ!」」

 

息絶え絶えになりながらも、ゆっくりと顔を見合わせるように互いに隣を確認する。自分が行動していた者が対戦相手である事に気付き、二人は飛び退き、距離を取る

 

「アンタ。初心者なんだって?いるんだよなぁ……いきがって、オレツエーって勘違いするヤツが。総長とか、シノンは甘かったかもしれねぇが、おれちゃんは歯止めが効かねぇからな?」

 

「そうなんか。ソイツは助かるねぇ……俺は強いヤツを超えるんが大好きなんよ」

 

「ほざけっ!おれちゃんとコイツに敗北はねぇ!来やがれェェェ!《ベヒモス》!!!」

 

高らかな叫びに応じ、爆音が響き渡る。其れはソウテンも良く知る乗り物の魂の音(エンジン)、近づくにつれ、更なる爆音が鳴り響く

 

「んなっ!?」

 

その時、建物の壁を突き破り、一台の巨大な鉄騎が姿を見せた。黒塗りのボディに、蟷螂(カマキリ)のようなハンドル、その乗り物をソウテンは知っていた

 

「ハーレーかっ!?」

 

「唯のハーレーじゃねぇ!コイツは……!」

 

にやりと笑い、リッパーは座席部分を脚で蹴り上げた。すると、中から巨大な銃身が姿を現す

 

「おいおい……銃が主流な世界だからって、そんなんもあるんかよ…聞いてねぇぞ」

 

「へぇ?流石に知ってるか。そうさ、コイツは!速射性能を極限までに高めた唯一無二にして、最強の暴馬!回転式機関砲(ガトリングガン)だ!!!」

 

回転式機関砲(ガトリングガン)。速射性能に長けた複数の砲身から発射される弾丸は正に絶え間なき豪雨となり、対象に降り注ぐ。然し、その速射性に対しての弱点(デメリット)も存在する

 

「ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!」

 

その事を知ってか、知らずかリッパーは回転式機関砲(ガトリングガン)のクランクを回転させ、銃弾を放ち続ける

正に豪雨と呼べる銃弾はソウテンに逃げる隙も、休む暇さえも与えない

 

(…………地上だと相手に利がある……なら、取るべき策は一つ…!)

 

久方ぶりの死と隣り合わせの戦闘は、ソウテンの思考を一気に高める。仮面の奥に浮かぶ不敵な笑み、其れが意味するのは、ただ一つ。道化師(クラウン)の本領発揮である

 

「これで詰みだぜっ………な、なに?い、いない!?ヤツは何処だ!」

 

砂塵が舞い上がり、倒れゆく相手の姿にリッパーは勝利を確信した。だが、彼は気付いた

砂埃が晴れ、姿を見せたのが丸太である事に。そして、その姿を、不敵な笑みを、仮面を、探すように辺りを見回す

 

Estamos listos.(準備は整った)

 

その声は、見当違いの場地から聞こえた。遥か頭上から、その妖しくも、不敵な声は聞こえた。その道化師は、不敵な笑みを浮かべ、蒼き衣を棚引かせ、口を開く

 

「止まない雨は無いと申しますが、今宵は爆裂を伴う雨に御注意下さいませ」

 

刹那、頭上に無数の鉄球が雨のように降り注ぎ、地面に落ちると同時に連鎖的に爆裂音を響かせる。明らかに揺動であるが、突然の状況にリッパーは思考が追いつかない

そして、その時は、訪れた

 

「永遠にadieu」

 

鉄球に気を取られていた隙に肉薄され、至近距離に接近していた槍形態のメタリックロッドが体を貫き、額に留めの仕込み銃が放たれる

 

「………あの驚き……ブラフ……かよ……」

 

自らの武器を見た際に驚き様からは想像もつかない彼の策略に、リッパーはそう言い残し、四散した

 

「いやぁ、真剣勝負なんて性に合わん事はするもんじゃないね」

 

けらけら、笑う道化師は《CONGRATULATION》の表示を視界に映し、転送エフェクトの青い光に包まれながら、姿を消した




同刻、Pブロック。キリトの前に現れたのは……ん?荒野の真ん中でなんか焼いてる?あれ?服着てなくね?

NEXTヒント アウトドアクッキング

次回もがんバレット☆……これ、流行らせようぜ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七弾 押忍っ!アウトドアクッキング!裸の荒野飯!

タイトル……意味わかんねぇ!!!なにこれ!?いやまぁ自分で付けたんだけど!SAO時代の真面目なタイトル何処さ、行ったんよ……


『前回のあらすじ〜!大熱戦のバレット・オブ・バレッツ予選トーナメント!各エリアで繰り広げられる銃撃戦の中でも、大注目株を紹介していきまーす!』

 

《総督府》ロビーに設置された舞台。今日も今日とて、始まったシリカとレンに寄る解説タイム。勝利者、脱落者、観戦者などが見守る中、彼女たちの声が響き渡る

 

『先ずは異色の武器を使うプレイヤーが集うPブロック!仮面が特徴的な槍使いソウテンとおへそ大好きライダーのリッパーの戦いだよー!』

 

『銃弾が飛び交う世界で、槍使いってある意味でイカれてる〜!あれ?仮面?ソウテン?…………何してんのっ!?あの迷子ピーナッツ!』

 

『あれ?シリカちゃんの知り合い?』

 

聞き覚えのある名前、仮面、槍使いという三つの単語で、その人物が自分の身内である事に気付いたシリカが目を見開く

 

『ん〜……知り合いというか、友達……いや?家族?というか、ギルマス?』

 

『選択肢の幅がおかしくないっ!?距離感どーなってんの!?』

 

『まぁ、簡単に言うとお兄ちゃん的な人かなぁ〜。にしても、この世界でも槍使いってブレない人だなぁ』

 

『ソウテンさんの事は良く知らないけど、リッパーさんは有名だよ。荒野を駆け回り、対人戦から対モンスター戦など幅広く名を轟かす最強プレイヤーの一人で、噂では……な、なんと…!《赤狼(ヴォルフ)》様と知り合いらしいよ!』

 

『《赤狼(ヴォルフ)》………エルフの知り合い?』

 

『違わいっ!!!《赤狼(ヴォルフ)》様は、GGO最強プレイヤーで、みんなの憧れで、超が付く程の有名人だよっ!』

 

『なるほど……GGOでは有名……まぁ、あたしは世界的に有名だけどねっ!』

 

『なんの自慢っ!?』

 

『じゃあ、今日も!』

 

『せ〜のっ!』

 

『『がんバレット☆』』

 

御決まりの合言葉と共に撃ち抜くポーズを決めるシリカとレン。後に彼女たちのファン第一号であるフカ次郎は語った

 

『えっ?シリカとレンのユニット名?え〜〜〜っと、ロリットズかな!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが、俺の戦うフィールドか。さて……敵はっと……ん?」

 

見渡す限りの荒野、近くの岩場を隠れ場所に周囲を見回し、相対する敵の姿を探る。すると、彼の視界に妙な物が映り込んだ

 

「………裸?いや……パンツは履いてるな……?………其れに、何かを……焼いてる…?なんだあれ……ま、まさか……!」

 

その妙な物もとい青年は、荒野の真ん中に佇んでいた。まるで追い剥ぎにでもあったのか、と言わんばかりの違和感マックスの姿、つまりはパンツ姿で、何かを作っていた。その姿に、キリトは何かを思い出したように、青年に近付く

 

「うう〜ん、やっぱり《ALO》とは裏腹に食材が充実してないなぁ……味がイマイチだ。あっ、丁度よかった。黒髪のお嬢さん、クミンかシナモンシュガーがあったら----ぐもっ!?」

 

「何してんだっ!?お前はっ!この妖怪芭衛武区衛篇(バームクーヘン)!!」

 

近付くキリトに気付き、青年が声を掛けるも全て言い終わる前に顔面に飛び蹴りが見舞われ、青年もといディアベルは決まり文句と共に倒れる

 

「その声…………キリトか?」

 

「…………ああ」

 

「そうか、そうか……そのなんだ。モロッコに行く時は言ってくれよ?」

 

「行かんわっ!!!コンバートしたら、こうなっただけだ!そもそも、何してんだよっ!?」

 

謎の気遣いを見せるディアベルに対し、突っ込みを放ちながらもキリトは問い返す

 

「あぁ、機械工学科の課題なんだ。フルダイブシステムの理論を纏めて、レポートとして提出するって言う課題でね………ん?なんだ、その鳩が豆鉄砲をくらったような目は」

 

「いや、普通に大学生してる事に驚いてる。唯の騎士道バカじゃなかったんだな」

 

「当たり前だろっ!?」

 

数々の痴態と醜態を晒してばかりのディアベルの口から、大学生らしい単語が出てきた事にキリトは驚きを示していた

出会った頃は、普通だったがソウテンたちと関わり、更に大学生活を送る中で、彼は光の速さで理解不能なバカとなっていたが、今の彼は実に大学生らしいだろう。然し、その姿はパンツ姿である

 

「取り敢えず、キリト。相手をしてくれるか?」

 

「ああ、来いよ。この《ブラッキーブレイド》の斬れ味を試したかったんだ」

 

「剣か……なら、俺の武器を見せよう。これだっ!」

 

「そ、それは………なんだ?傘?傘だよな?」

 

《ブラッキーブレイド》を取り出し、構えるがディアベルは傘を取り出していた。銃とは言い難い武器に、流石のキリトも疑問符を浮かべる

 

「そう見えるだろ?でも……こう使うのさっ!」

 

「なっ……!?」

 

にやりと笑ったディアベルは、傘の柄の部分を引き抜いた。その瞬間、開いた傘は盾となり、柄の部分から銃弾が放たれる

 

「仕込み銃だ。騎士らしくはないけど、こういう世界だからな」

 

「その柄の部分が銃になってるのか。全く……世界に合わない武器を使うのは、俺たちと同じだな」

 

「伊達に二年も同じ釜の飯を食ってた訳じゃないからな。お前たちのやりそうな事くらいは見当が付くさ……今回のコンバートも、理由があるんだろ?テンとミトもいたみたいだしな」

 

「アイツらのコンバート、原型留めてないのに気がついたのか」

 

「あれだけ、騒げばな………なにより、あんな趣味の悪い仮面を付けた胡散臭い子どもがいる訳ないだろ」

 

「確かに」

 

無限に広がる仮想世界の輪、その広大な世界で仮面を身に付けたプレイヤーは数える事が馬鹿らしい程に存在する。然し、仮面と不敵な笑みがセットになっているプレイヤーは一人しか居ない。其れ即ち、ソウテンである

 

「取り敢えずだ……俺も進級が懸かっているから、手加減はしないぞ。お前の騎士道、見せてみろっ!!!」

 

「臨むところだっ!」

 

相対する剣士と騎士、同じ釜の飯を食らい、同じ道化師(リーダー)の下で、共に歩んできた仲間。しかし、今だけはキリトも、ディアベルも、互いを敵と定め、その引き金を引く

銃撃の嵐、本来は剣による戦闘を得意とする彼等には不慣れな戦闘であるが、キリトは持ち前のゲームセンスの高さを、ディアベルは機械工学の知識を活用し、状況を個々の戦法に持ち込もうとしている

 

(キリトは銃に不慣れみたいだな……ここは一気に畳み掛けるかっ!)

 

先に動いたのは、ディアベル。彼は仕込み銃を傘の状態に戻し、キリト目掛けて真っ向勝負を挑もうと走り出す

 

「この一撃に我が騎士道の全てを!」

 

迫る傘、勝利を確信した騎士(ディアベル)は全力で振り下ろす。だが、その時だった

 

「………それはどうかな?」

 

剣士(キリト)は微笑を浮かべた。傘を素早く避け、剣形態に切り替えた《ブラッキーブレイド》片手に、ディアベルの背後を取り、無数の斬撃を放つ

 

「と、飛ぶ斬撃……!?」

 

「俺はさ、《ファーストパーソン・シューティングゲーム》……所謂《FPS》の知識は皆無だ。でも、あの世界での二年で、何も得なかった訳じゃない……剣を使うスタイルが馬鹿らしい?なら、その新時代を作ればいいだけだろ」

 

「新時代……?」

 

「俺は、この飛ぶ斬撃で新たな熱狂を生む!そう!俺が新時代を斬り開く刃になるっ!!!だからこそ、この世界で起きている惨劇を見過ごせないっ!ディアベル!俺は進むぞっ!!!」

 

その日、《GGO》は新時代を迎えた。飛ぶ斬撃、銃弾よりも不確かな軌道を見せる新たな攻撃手段が実装されたのである

其れが一人のプレイヤーに寄る開拓であった事は知られていない

 

「今回はキリトの勝ちだ。でも次は負けないからな」

 

「ああ、何時でも相手になるよ」

 

四散するディアベルに、キリトは微笑を溢し、《CONGRATULATION》の表示を視界に映し、転送エフェクトの青い光に包まれながら、姿を消した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ベルさん。此処におめぇさんが居る理由は言及しねぇが……その代わり、ちょいと頼まれてくれるか?」

 

「何をだ?」

 

ロビーに転送されたディアベルは、待ち構えていた道化師が不敵な笑みを見せている事に気付く

 

「大至急、クラディールにコイツらを調べてもらって来てくれんか?」

 

「分かった、この三人を調べればいいんだな。調査結果は直ぐに伝えるよ」

 

「ディアベルちゃん?」

 

リーダー直々の依頼を快く承諾したディアベルはログアウトボタンに触れようとする。刹那、自分の名を呼ぶ声が聞こえ、振り向く

 

「ん……キッドか。そうか、キッドは此処がホームだったな」

 

「なんでいるんだ?アタイ、聞いてない!」

 

恋人であるディアベルが自分と同じゲームに居たことを知らなかったキッドは御立腹の様子で、頬を膨らませている

 

「野暮用かな……ごめん!急いでるから!あっ!来週のデートは必ず行くから!」

 

「あっ!?ちょっ!ディアベルちゃん!?こうなったら、アタイもログアウトしてやるーーーっ!」

 

逃げるようにログアウトする彼を追うように、キッドもログアウトする。そして、取り残された道化師は………

 

「ふぅ……ピーナッツバターティーはうめぇな」

 

相変わらずのピーナッツバター馬鹿であったのは言うまでもない




Nブロックのミト、彼女が相対するは謎のライダースーツの美女!彼女は一体!

NEXTヒント 秘密は女のアクセサリー

次回もがんバレット☆……流行語狙ってます☆


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八弾 刮目せよっ!今こそ見せるは!女の度胸!

いよいよ、ミトの戦闘!実はロリミトが公式に増えないかなぁとか思ってたりします


『前回のあらすじ〜!大熱戦のバレット・オブ・バレッツ予選トーナメント!さてさて、今回の注目は〜〜〜!』

 

『《剣使い》のキリトと《傘使い》のディアベルの一線だよ〜!いえーい!』

 

今日も今日とて、始まったシリカとレンこと《ロリットズ》の解説タイム。勝利者、脱落者、観戦者などが見守る中、彼女たちの声が響き渡る

 

『わぁ〜、もう驚く気もないや。あの人がいるんだもんねぇ……そりゃあ、誰かいるよ…』

 

『えっ?また知り合いっ!?交友関係どうなってんの!?』

 

再び、聞く知り合いの名前に呆れ気味のシリカ。一方でレンは相方の交友関係の広さに驚愕している

 

『昔にやってたゲームで、一緒に馬鹿騒ぎしてた仲間たちなの。キリトさんはパスタばっかり食べるし、ディアベルさんはバームクーヘンばっかり焼いてたかな』

 

『食生活が可笑しい……!!!』

 

『だよね、だよね。やっぱり朝、昼、晩、三食チーズケーキが一番だよ。あっ?レンちゃんはニンジン?』

 

『いやナチュラルに人をウサギ扱いしないでくれるかなっ!?というか、三食チーズケーキって可笑しいからねっ!?』

 

『知らないの?チーズケーキにはね、栄養がたくさんあるんだよ。なんたって乳製品だからね!』

 

『何故にドヤ顔っ!?』

 

ドヤ顔を見せるシリカにレンが突っ込みを放つ。如何やら、彼女たちの関係性はボケ担当がシリカ、ツッコミ担当がレンの様だ。何ともバランスの取れた関係性だろうか、素晴らしいの一言である

 

『じゃあ、今日も!』

 

『せ〜のっ!』

 

『『がんバレット☆』』

 

御決まりの合言葉と共に撃ち抜くポーズを決めるロリットズ。試合を終えたソウテンは、その様子を見守りながら、ティーカップを口に運ぶ

 

「ずずっ………あのウサギみたいな子、大変そうだな」

 

「全くだな。あっ、パスタください」

 

「俺はピーナッツバターサンド」

 

合流したキリトと共に好物に舌鼓を打つ。その様子を見ていた他のプレイヤーたちは、「このゲームでナチュラルに飯食うヤツを初めて見た」と後に語った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「装備の確認をしとかないと……《ガンズロッド》は最初、銃形態にしておこう。《フォトンブーメラン》は腰に装備してっと……こんなものね」

 

ミトは宙に浮いてる六角形パネルの上で、装備を確認する。彼女の服装は紫色のライダースジャケット、防弾アーマとスパッツ、黒いショートブーツ、普段の姿であれば、ソウテンに「もうちょい服装は選びな」と指摘を受けるが、今の姿では杞憂である

 

「取り敢えずは戦況に応じた戦い方をした方がいいわね……で、油断を誘った後に一撃必殺!よし、この手で行きましょう」

 

[準備時間:0秒]

 

刹那、ミトの体が光に包まれる。視界が鮮明になると、現状把握の為に左右に視線を動かす。吹き荒ぶ風が砂を巻き上げ、少量の砂嵐が舞う荒野に、自分が立っていることに気付く

 

「砂嵐か、目に入ると厄介ね。防塵ゴーグルをしとかないと」

 

懐から取り出した少し大きい縁の眼鏡を掛ける。余談だが、この眼鏡には追跡機能と発信機は付いていない

暫く、敵の位置を探る為に周囲を警戒し、移動を繰り返していると前方から迫るエンジン音が耳に入る

 

「こ、これは……バイクのエンジン音ね。となると相手はライダー系のプレイヤーってことか……」

 

「ふふっ……あら、物知りね?小さな科学者さん」

 

「………Gracias(ありがとう)、でも残念だけど。その呼び方は不正解よ……人は私をこう呼ぶの」

 

バイクから降りてきたのは、黒のライダースーツに身を包んだ魅惑のボディラインを持つ美女。彼女はヘルメットを取り、その長い金髪を掻き上げ、妖艶な笑みでミトを見る。そしてまた、ミトも彼女からの問いに恋人の決まり文句であるスペイン語で返事を返した後、少女らしからぬ妖艶な笑みを見せる

 

「死神ってね」

 

刹那、女性もといヴィンヤードは背筋が凍りつくような恐怖心を抱いた。目の前の少女の背後に二つの面影(イメージ)を見たのだ

一人は鎌を片手に仮面を冠った紫色のポニーテール少女、そしてもう一人は水色の髪を靡かせる妖精。何方もヴィンヤードが知らない姿、少なくとも《GGO》では出会った事がない部類だ

 

「死神とは、随分と大きく出たわね。聞いてみたくなったわ……アナタの悲鳴を」

 

「あら、奇遇ね。私も聞いてみたかったのよ」

 

「さぁ、鳴きなさい!!!お嬢ちゃん!」

 

先に仕掛けたのは、ヴィンヤード。二丁の拳銃を構え、ミトに発砲。しかし、彼女も即座に対応し、近場に落ちていた金属を盾に、銃弾を防ぐ

 

「今度はこっちの番よ!」

 

《ガンズロッド》を構え、ヴィンヤードに発砲し、彼女が避けようとよろめいたのを好機と言わんばかりに棍棒形態に切り替え、接近戦に持ち込む

 

「《FPS》で打撃武器を使うなんて……中々のイレギュラーね」

 

「私、肉弾戦の方が得意なのよ。其れが、例え、現実(リアル)でも、仮想(バーチャル)でもね。と言っても現実(リアル)では肉弾戦なんかはしないんだけど……」

 

「人は見かけによらないわね。でも残念……アナタはここでリタイアするのよっ!」

 

「それはどうかしらねっ!」

 

再び、発砲しようと銃を構えるヴィンヤード。だが、今度はミトの方が速かった。腰の《フォトンブーメラン》を抜き、彼女の方に投擲したのだ

 

「…………………」

 

「…………………アナタ、何処を狙ってるの?」

 

然し、《フォトンブーメラン》はヴィンヤードには当たらず、彼女の横を通り過ぎ、明後日の方向に消え、そのまま星になった。暫くの間、沈黙が訪れ、我に返ったミトは絶望感に溢れた表情を浮かべる

 

「しまったぁぁぁぁ!ノーコンなことを忘れてたぁぁぁぁ!自分から、危機を招くなんて、まるでテンじゃない!なにっ!?私はそんなとこまで似ちゃったの?恋愛怖っ!!!」

 

「よくわからないけど、これはチャンスね。バイバイ……お嬢ちゃん!」

 

自らが招いた危機に慌てふためくミト。その様子を観察していたヴィンヤードは、彼女に接近しようと、走り出す。それは何故か?確かに《FPS》では肉弾戦を行う者は少ない、しかし居ない訳では無い。銃を使用した近接格闘による接近戦が存在するのだ、そして、他ならぬ彼女もその一人である

 

「…………な〜んてね」

 

「…………………は?」

 

その時だった、ミトは不敵に笑った。唐突な変化に素っ頓狂な声を挙げ、動きを止めるヴィンヤード。そして、彼女は気付いた、迫る風切り音に。素早く反応したミトは、空高く跳んだ

 

「不敵で軽薄な笑みは!道化と呼ばれる由縁!如何なる危機も好機に変える!彩られたら、彩り返すが流儀!泣く子も笑う!色彩合体!《ガンサイズ》!!私を誰だと思ってるの?この《紫の死喰い》が、貴方の(プライド)、へし折ってあげるわ」

 

合体を果たした《ガンサイズ》を手に、彼女は決まり文句と共に地を蹴った。今までの動きが嘘の様に、軽やかで踊るように迫り、守備体制に入ったヴィンヤードが交差させた銃目掛け、鎌を振り下ろす。刹那、甲高い金属音が響き、銃はポリゴンに姿を変え、跡形なく消滅する

 

「わ、私の武器が……!!!なにをしたのっ!?」

 

「教えてあげないわ。だって……」

 

何が起きたか理解出来ないヴィンヤードに対し、ミトは不敵に笑い、口に手を当てる

 

「秘密は女のアクセサリー、故に私はそのアクセサリーを着飾って美しく笑う死神なのだから」

 

四散しながら、ヴィンヤードは「彼女は死神よりも恐ろしく、女神よりも美しい、仮面の悪魔。出来れば、二度と出会いたくない」と後に語った




Fブロック予選、ツキシロの相手は伝説の殺し屋と謳われるヒットマン!………だが、狼の牙はギラリと光を放つ

NEXTヒント 赤狼

次回もがんバレット☆


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九弾 赤狼は駆ける。

嘘だろ……初めて、まともなタイトルだ!はてさて、知られざる赤狼の真相とは……!そして、そして!祝!SAO公開!待ってましたァァァァァァ!初日舞台挨拶予約してやったぜ!


「…………さてと、行くか。なぁ?相棒」

 

「ガウッ!」

 

準備時間が迫る中、六角形パネルの上に立つツキシロは足元に寄り添う機械仕掛けの狼に呼び掛ける

 

「俺は飢えている……満足という名の御馳走にありつける日まで。我が乾きが満たされる事は無い………我が名は《赤狼(ヴォルフ)》也」

 

紅き衣が棚引き、白いマフラーが風に靡く。その瞳に宿るは飢えた獣の闘争心、転送されたステージである荒野に吹く風が頬を撫で、彼が持つ獣らしさをより一層に引き立たせる

 

CHAOS(カオス)、お前が相手とはな。驚きだぜ」

 

足音を響かせ、姿を見せたのは一人の男性。荒野に似つかわしくないスーツを着込み、目深に被った帽子の鍔を銃口で上げる彼は、真っ直ぐとツキシロを見据える

 

「満足出来そうだぜ。相手してもらおうじゃねぇかよ、ヨミ」

 

「ヨミ……懐かしい名を呼んでくれるな。今の俺は死を告げる黒猫……又の名を早撃ち(クイックドロウ)……さぁ、地獄を楽しみな!!!」

 

「極楽に行かせてやるよっ!!!」

 

地を蹴り、走り出すツキシロとクイックドロウ。《FPS》では異例とも言える銃を使用した近接格闘(ガン=カタ)に寄る接近戦が展開される

何方も《GGO》では名の知れた猛者。その実力は拮抗し、クイックドロウが蹴りを放てば、ツキシロが軽やかに去なし、逆もまた然り。拳を放つツキシロに対し、クイックドロウが紙一重の差で回避行動を取る。正に一進一退の攻防戦、手に汗握る、火を見るよりも明らかにファイヤー!である

 

「体術は互角だな」

 

「ああ、次は(コイツ)()りあおう」

 

「言われなくても、そのつもりだぜ」

 

クイックドロウは、その名の通りに正に早撃ち(クイックドロウ)。実にその速度0.3秒。装飾銃から放たれる弾丸総数は六発、的確な腕と動体視力が無ければ不可能な芸当である

避けようと回避行動に移るツキシロだが、その先には既にクイックドロウが待ってましたと言わんばかりに待ち構える

 

「ちぃっ!」

 

CHAOS(カオス)、相変わらずだな。動きが単調だ」

 

「うるせぇ!俺はやりたいようにやる!満足出来るならなぁ!」

 

「………嫌いじゃない、お前のその性格。死ぬ気で来い」

 

「言われなくてもっ!出番だぜっ!相棒!」

 

「ワォォォォン!!!」

 

本気、その言葉にツキシロの目付きが変わる。彼の叫びに呼応し、機械狼が飛び、空を駆ける

 

「獣を纏いて、突き進むは明日への覇道!その遠吠えは次元を超える!銃弾の雨を潜り抜け、手にした勝利は俺を満たす!俺を誰だと思っていやがる……俺は!最強にして満足の覇者!その名を刻め!我が名は《赤狼(ヴォルフ)》也!」

 

機械狼が展開し、ツキシロを覆う紅き全身装甲に姿を変える。天高くを指差す姿、其れは正に獣。野生に解き放たれた獣そのものである

 

「来たか。《赤狼(ヴォルフ)》」

 

「お前の運、試してやるぜ」

 

「上等っ!!!」

 

地を蹴り、走り出すクイックドロウと《赤狼(ヴォルフ)》。誰もが息を呑む世紀の一戦、ぶつかり合う力と力、互いを認め合うが故の本気。土煙はやがて砂埃となり、砂塵を巻き起こし、そして、一つの巨大な砂嵐を生み出す

《FPS》では異例とも言える名勝負、この戦いは「荒野の決闘」と後に語り継がれる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからな、俺は言ってやったんよ。それは俺のピーナッツバターだってな」

 

ドヤ顔のソウテン。今彼が話しているのは彼の持つ鉄板ジョークの一つである欧米風漫談であるが、その話を聞くキリトは視線は冷め切っている

 

「アホだな」

 

「そうだろう、そうだろう」

 

「いや、お前が」

 

「んだとコラァ!」

 

「やめんかぁ!!毎度毎度!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

対戦カード表に注目が集まる中、喧嘩を始めるバカコンビ(迷子とぼっち)にミトの制裁が命中。相も変わらずな彼等はある意味で注目の的である。然し、その注目は他にもあった。現在、彼等は決勝戦に勝ち上がった最強組に数えられているのだ

 

「アンタ達……何時もこうなの?」

 

「慣れたわ」

 

「そう、ミトも苦労してるのね」

 

「リッパー……何度も言うがな、シノンの魅力は尻だ。見ろ、あの素晴らしいまでの引き締まった曲線美を。正に芸術だ」

 

「いやいや、へそだぜ。あのちらっと覗くのがまた………くぅ〜!たまんねぇ〜!」

 

「シノンちゃ〜〜ん!今日も脚が綺麗だぜぇ!」

 

「不敬な奴等だ。ワキが一番に決まってるだろう。後で構わない、脇汗を採取させてくれないか?シノン」

 

ミトに同情するシノンの背後で、生クリーム大福を頬張るツキシロ、ワインを嗜むリッパー、白米を掻っ込むキッド、紅茶を片手に変態発言を放つクイックドロウ。四人の額に銃剣が突き刺さる

 

「やかましいわぁ!!変態四重奏(カルテット)!!!」

 

「「「ず……ずび……ば…ぜ…ん…」」」

 

「殴るわよっ!!」

 

「「「いやもう殴ってんよね!?」」」

 

怒り心頭のシノンに、ソウテンとミト、キリトの突っ込みが飛ぶ

 

『大熱戦のバレット・オブ・バレッツ予選トーナメントもいよいよ大詰め!』

 

『残すは決勝戦だけになったよ〜!対戦カードはこれだァァァァァァ!!!』

 

今日も今日とて、始まったシリカとレンこと《ロリットズ》の解説タイム。勝利者、脱落者、観戦者などが見守る中、彼女たちの声が響き渡る

 

『えっ〜、大したプレイヤーが居ないブロックは割愛しちゃいま〜す♪紹介はFブロックとNブロック、Pブロックで〜す』

 

『えっ!?私、聞いてないけどっ!?』

 

『うん、あたしが決めたからね。今さっき』

 

『理不尽な暴挙!!』

 

突然のシリカの発言に、把握していなかったレンの突っ込みが放たれる

 

『先ずはFブロック!《冥界の女神》と呼ばれるシノン!そして相手は………えっ?尻神?なに?これ変態?ツキシロ〜〜!』

 

『うわぁ……』

 

壇上に上がり、スポットライトを浴びるシノンとツキシロ。然し、尻神と呼ばれるツキシロを見る目は冷淡である

 

『気を取り直して……Nブロックは一回戦で女性対決を気合いと根性で突破し、合体という新たな力を手に快進撃を見せるこの女!その実力は天井知らず!正に天元突破!《紫の死喰い》!ミト〜〜〜!』

 

『相手は最強にして至高!私の武器は是非もなし!絶対領域(バレットライン)を求める美脚評論家!キッド〜〜〜!』

 

スポットライトを浴びる二人の幼女。その愛らしさは最早、天元突破!特にミトの可愛さは止まるところを知らない、ソウテンは湧き上がるミトコールを前に「俺のミトちゃん」という幟を掲げ、着ている法被には「ミトは俺の奥さん」、仮面の上に巻いた鉢巻には「ミトさんギザカワユス」と書かれ、ソウテンのミトに対する想いが大爆発中である

 

『そして、そして!ぶつかり合う最強カード!仮想世界を股に掛け、解決した事件は幾星霜!仮面に隠した蒼き眼は万物を見透かす!その不敵な笑みが代名詞!誰が呼んだか、《道化師(クラウン)》!今こそ見せるは、不撓不屈の色彩道!《蒼の道化師》!ソウテ〜〜〜ン!』

 

『対するは!新たな時代に誘われて、熱狂生み出す斬撃飛ばす!斬って、切って、切り続けて、それでも斬れぬは人の(えにし)!己の魂その胸に!《黒の剣士》!キリト〜〜〜!』

 

『じゃあ、今日も!』

 

『せ〜のっ!』

 

『『がんバレット☆』』

 

御決まりの合言葉と共に撃ち抜くポーズを決めるロリットズ。そして、壇上に上がった全てのプレイヤーたちがスポットライトに照らされる中で、二人。彼等は、《蒼の道化師》と《黒の剣士》は不敵に笑う

 

「「死んでもいいゲームなんて、(ぬる)過ぎるぜ」」

 




槍と剣、再び交える刃は本気の証!俺たちの喧嘩に言葉はいらん!勝つか、負けるかの真剣勝負!「「俺たちを誰だと思っていやがるっ!!!」」

NEXTヒント 友情


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十弾 膝枕は正義!アナタも一晩如何です?

あれ?真面目なタイトルが……まぁ、いいかー。こっちの方がこの作品らしいし


「…………テン。いよいよね」

 

モニターで他のブロックの決勝戦を見ていたソウテンに、ミトが呼び掛ける。この時間、この場にいるという事は勝敗が決まったという事だ

 

「ああ、ちょいと行ってくる。ミトは終わったんか?」

 

「ええ、なんたって私は《紫の死喰い》よ。私に刈り取れない(プライド)は無いのを知ってるでしょ」

 

そう言って、微笑むミトであったが直ぐにその表情は微笑に変わる。その表情から察したソウテンは彼女の次の言葉を待つ

 

「でもね、相手が弱かった訳じゃないの。何せ、あのアマツが認める武器作成スキルを持つ銃職人(ガンスミス)。私たちの武器を用意した分、その性能も理解してる……強敵だったわ」

 

「そうか、よく頑張ったな。偉いぞ」

 

誇らしげに胸を張る可愛いさ爆発のミトの頭を数回ぽんぽんと撫で、対戦相手となる少年の隣に一歩を踏み出す

 

「「死んでもいいゲームなんて、(ぬる)過ぎるぜ」」

 

拳を突き合わせ、不敵な笑みを浮かべる二人の少年。昨日の敵は今日の友と言うが、今回は逆、昨日の友が今日の敵なのだ

其れも二人は互いを誰よりも理解し、熟知している兄弟であり相棒でもある

そして、彼等は決勝の地へと転送される為に光に包まれ、ロビーから姿を消した

 

「準備しないと………よし、これでバッチリね」

 

モニターを見上げる一人の幼女。その出立ちは「私の道化師さん」という幟を掲げ、「可愛い迷子くん」の文字が目立つ法被を着用し、「ラブリーテンちゃん」と書かれた鉢巻を身につけている。そう、誰あろうミトである。彼女のソウテンに対する想いが大爆発中である

 

((可愛いのに……変な子だっ!!!))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやまあ、何処だ?此処は。辺りが砂だらけで何も分からん。おろ?なんだ、これ……車輪?いや……ホイールか?あり?どっちも同じだっけ?う〜む……分からん!」

 

見慣れない景色に、きょろきょろと視線を右往左往させる小さな迷子。側から見れば、道に迷い、知らない土地を彷徨っているようにしか見えない。色々と仮説を立てるも、即座に考える事を放棄し、道なりに歩み出す。暫く進むと人影が視界に入り込む

 

「高速道路の上みたいだな」

 

「ほうほう、東京にある有名な橋に似てるな」

 

同じように転送されたキリトが地形の状況を説明すると、彼は脳裏に有名刑事ドラマの映画タイトルにもなった橋を思い浮かべる

 

「さてと………始めるか」

 

「今度は引き分けにはしねぇから、肝に銘じときな」

 

「言ってろ。俺が勝つっ!!!」

 

先に仕掛けたのは、キリト。得意のスピードを武器に剣を抜刀し、ソウテンに振り下ろす

然し、彼も負けてはない。即座に対応し、槍で受け止め、僅かに生じた隙を狙い、胸部装甲に仕込み銃を放つ

 

「吹っ飛べ!」

 

「お断りだっ!これでも喰らえっ!」

 

迫る銃弾を紙一重で交わし、キリトは地面に発砲する。刹那、砂塵が舞い上がり、彼の姿を隠すように辺りを包み込む

然し、その程度でソウテンが音を上げる筈などない。地形を利用し、橋の鉄柱を足場に跳躍。砂塵の影響下が存在しない空中に飛び出す

 

Apunta al corazón(狙うは心臓)

 

頭上に無数の鉄球が雨のように降り注ぎ、地面に落ちると同時に連鎖的に爆裂音を響かせるも、キリトは動じない。その理由は一つ。道化師が得意とする戦法を熟知しているからに他ならない

降り注ぐ雨に気を取られている隙に決め技を放つのが彼の得意技。故にキリトは鉄柱を足場に跳躍し、ソウテンの目の前に飛び出した

 

「お前の十八番は見抜いてるぜ……兄弟(テン)!」

 

「そうじゃあねぇと張り合いがねぇってもんさ……兄弟(カズ)!」

 

空高くで、槍と剣が交差する。火花を散らし、最大限の力を込めた二つの刃が衝突を見せる。片方は槍最上位ソードスキル《アルティメット・サイン》、もう片方は片手剣最上位ソードスキル《ノヴァ・アセンション》。二人の最強技が其々の装甲を貫いた

 

「「この勝負………俺の勝ちだ……」」

 

そう呟くと、二人は地面に落下し、事切れたように意識を手放す。同時に砕け散り、姿を消していく、彼等の遥か上空には《Draw》と浮かんでいた。これが後に《GGO大決戦ランキング》の一位を飾る『槍剣橋の戦い』である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大熱戦のバレット・オブ・バレッツ予選トーナメントこれにて終了〜〜〜!』

 

『いやぁ、実に白熱した戦いだったね!私、ひやひやしちゃったよ〜〜!』

 

今日も今日とて、始まったシリカとレンこと《ロリットズ》の解説タイム。勝利者、脱落者、観戦者などが見守る中、彼女たちの声が響き渡る

 

『いよいよ始まる本戦に出場するのは予選を勝ち抜いた最強プレイヤーたち!果たして、勝利の栄光を掴み!プレイヤーの頂点に立つのは誰なのか!』

 

『でもでも、今日はみんな疲れたよね?だ・か・ら、本戦は明日に持ち越しにしま〜す!』

 

『えぇ〜〜〜っ!なんで?レンちゃん!』

 

本戦が見たくて仕方ないシリカは、レンは発言に驚きを見せる

 

『どーどー、落ち着いてよ。シリカちゃん。明日になれば、大熱戦!大熱狂の本戦が見れるんだから』

 

『う〜………分かった、我慢する。あっ、ポロリはある?』

 

『ないよっ!?ていうか、何をポロリする気っ!?』

 

『首』

 

『怖いわぁっ!!!』

 

『ぐもっ!?』

 

真顔で物騒な発言をするシリカにレンの愛銃にしてピンク色の塗装が施されたピーちゃんが振り下ろされ、彼女は御決まりの叫びを挙げ、倒れた

 

『じゃあ、明日も!』

 

『せ〜のっ!』

 

『『がんバレット☆』

 

御決まりの合言葉と共に撃ち抜くポーズを決めるロリットズ。試合を終えたソウテンは、その様子を見守りながら、ミトに膝枕されていた

 

「大丈夫?テン。痛いとこない?」

 

「大丈夫大丈夫。ミトに膝枕されたら、痛みなんか直ぐに吹っ飛んだ」

 

「あら、おそまつさまです」

 

テンの頭を優しく撫でながら、彼の言葉にミトは柔らかく笑う。荒廃した世界が舞台の世界で繰り広げられる素晴らしい風景、誰もが羨む風景にソウテンとミトは溶け込んでいた

 

「膝枕がなんだ。いいか?アスナを抱き枕した時の柔らかさに比べたら、ミトの膝枕なんか玉子が絡み切ってないカルボナーラと同じだ」

 

「プークスクス、超ウケるんですけど〜。えっ?なになに?張り合ってんの?わぁ〜おもしろ〜い」

 

「よしコラ、表に出ろ。迷子」

 

小馬鹿にした笑い方と煽り文句を放つソウテン、それに対してキリトはブラッキーブレイドを手に睨みを効かせる。ミトは恋人を膝枕出来るのが嬉しいのか、終始穏やかな笑みを浮かべている。実に微笑ましい姿である

 

「シノン。俺も決勝で疲れたから、枕してくれねぇか?出来れば、その誘惑という名の二つの国宝()ことシノケ----………」

 

「さっ、明日に備えて準備しないと駄目ね。冷蔵庫には何があったかしら……買い物に行かなきゃ」

 

「あっ、シノンちゃん。膝枕成らぬ脚枕してくれねぇかな?その絶対領域(バレットライン)で---………」

 

「えっと、確か今日は卵の特売日だったわね」

 

「シノン、シノン。おれちゃん疲れて動けねぇからさ、ちょっとだけ付き合ってくれるか?その魅惑のへそで枕をして----………」

 

「あっ、チョコミントアイス買いだめしとかないと」

 

「シノン。わきについて、どう思う?俺は常々、CHAOS(カオス)、だと思ってる。どうだ?一度、わき枕をしてみると---………」

 

「さっ、明日は勝つわよー」

 

ログアウト準備を進めながら、現実での行動について考えるシノン。その隣に次々と湧く変態たちに銃剣を突き刺し、彼女は仮想世界を後にした




天哉と深澄は天満と落ち合う為に彼を呼び出す。そして、阿来と蔵田が死銃の情報を手に姿を現す。一方で勘助は……

NEXTヒント 満たされぬ欲


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一弾 いけませんっ!そんなことっ!生クリームを直喰いだなんてっ!

はい、タイトルから卑猥なことを想像した人は直ぐに名乗り出てください。ミトさんから、伝言がありますから


「すまん、待たせたな。人生という道に迷ってな」

 

例によって、軽い声色と悪びれもない様子で姿を見せる天満。掻っ込んでいたピーナッツバターライスを机に置き、天哉はジト目を向ける

 

「ウソ吐くな。どうせまた、八次会とか訳のわからん飲み会をしてたんだろ」

 

「八次会?舐めんなよ?今回は十次会だ」

 

「酒瓶で頭殴るよ?アンタ」

 

前回の反省すら見受けられず、更なる痴態を晒す父に真顔で突っ込みを放つ。最早、エリート意識の欠片など微塵も存在しない

 

「お義父さん。今日の写真は何ですか?」

 

恋人と義父の阿呆なやり取りを気にせず、深澄は普通に彼が持参したであろう写真に興味を寄せる。すると、天満はコートの内ポケットから二枚の写真を取り出す

 

「……………なにこれ」

 

「これはな、大事にしてたマラカスを無くして涙目のお前と其れを見て、お兄ちゃん可哀想と慰める琴音だ。懐か---ぐもっ!?」

 

「同じボケをやんなっ!」

 

「いただきますね、この写真」

 

「深澄さん?何を当たり前のように受け取ってんの?」

 

恒例と化したやり取りが行われる横で、深澄は写真を懐に仕舞い込む

 

「ユーモアを知らんのか?お前は。いいか?リピートアフターミー、ユーモア」

 

「目に酒を注ぐぞ。馬鹿オヤジ」

 

「深澄さん。大変だな、アンタも。こんなバカが相手だと」

 

「慣れました」

 

「すいませーん!店員さん!其処のダサいコートを着た初老の頭からスピリタスぶちまけてくださーい!」

 

自分を棚に上げ、天哉と恋人関係にある深澄に同情する天満。一方で店員に呼び掛ける天哉は黒い笑みを浮かべている

 

「さて……本題に移るか。怪しいヤツは見つけたか?」

 

咥えていた煙草を蒸し、天満が本題を切り出す。その目付きは真剣さが滲み出ており、巫山戯た態度は影すら見られない

 

「その件だけど、俺と深澄は《GGO》内で何人かのプレイヤーと交流を持った。一人は親父も知ってる和人だ」

 

「カズ?どんだけ、ゲーム好きなんだぁ?アイツは。そういうの翠にそっくりだぜ」

 

「まあ、カズはどうでもいいんよ。何人かのプレイヤーの中で、怪しい動きを見せたのは三人だ」

 

「三人……だいぶ絞ったな」

 

三本の指を立て、天哉も真剣な表情を浮かべる。彼が《GGO》で知り合ったプレイヤーは友人の和人を除くと数人に絞られる。その中でも、その観察眼が捉えたのは三人、試合後の阿来に依頼した人数と合致する

 

「テーン!頼まれていた資料だ」

 

其処へ、依頼内容を記した資料を手にした阿来と蔵田が姿を見せる

 

Gracias(ありがとう)、ベルさん。序でに蔵田も」

 

「呼び捨てにするな。ジャリガキ」

 

阿来に礼を述べ、自分をオマケ扱いする天哉に蔵田は鼻で笑ってみせる

 

「蔵田ァ……久しぶりだな」

 

「蒼井警部補……今は警部でしたな。貴方も相変わらずで何よりです」

 

「ねぇ?テン」

 

恨めしい物を見るかのような視線を向け、蔵田に呼び掛ける天満。そのやり取りに違和感を覚えた深澄は隣に居た天哉に問い掛ける

 

「おろ?」

 

「蔵田………先生はお義父さんと知り合いなの?」

 

「ああー……うん、知り合い。なにせ、元刑事だしな…あのオッサン」

 

「えっ?刑事?ストーカーのくせに?」

 

「色々とあるんよ……複雑な事情が」

 

煮え切らない態度を見せる天哉に、踏み込めない領域を悟った深澄はそれ以上の言及をしようとはせず、資料に視線を落とす

 

「…………この人は知ってるわ。でも、この二人は見たことないわね……」

 

「深澄もよーく存じ上げてる奴等だよ、ソイツ等は。まぁ……ソイツ等を束ねてた奴の方が有名だろうけどな」

 

写真を見ていた深澄はその中の一人は知っていた。《GGO》で僅かではあるが会話を交わした人物だ、しかしながら後の二人には見覚えがない。だが、天哉の助言で彼女の表情が僅かに歪んだ

 

「………まさかだけど、“アイツ”の仲間?またあの悲劇を繰り返すつもりなの!?テン!ダメよっ!!!私は!もう……アナタに…」

 

「行かねぇよ。俺はここに……おめぇさんの隣に居る」

 

忘れたくても忘れられないあの悲劇、その中で一際目立っていた彼の姿。血に染まった仮面と槍、忘れたいのに忘れられないあの姿が過り、声を荒げる深澄の頭を優しく撫で、笑い掛ける

 

「其れに、俺は俺の犯した罪を忘れる気なんかねぇ。だから、死ぬ気で止めなきゃならん……死銃を止められるのは、俺たちだ(・・・・)

 

その瞳には優しさと罪悪感が共存していた。天哉自身が一番に痛感している傷みが、其処には存在していた

 

「テン……分かった、私も一緒に背負ってあげるわ。アナタの罪は私の罪、其れに私も一度は友達を、明日奈を見捨てようとした罪があるから」

 

「其れは……罪なんか?あん時は仕方なかっただろ、深澄も大変だったんだし」

 

彼女の言う罪、其れは《あのゲーム》が幕を上げ、誰もが死の恐怖に怯えた日に交わした一つの約束を反故しようとした事だ。だが、其れは天哉の言うように仕方のない事であるのも事実。其れでも、深澄は首を横に振る

 

「罪よ。明日奈の命と自分の命を天秤に賭けた、其れを罪だと言わないなら、何を罪だって言うの?結局、私は明日奈を守ることを拒否して、自分だけが楽になる道を選んだの。私が知ってる楽は、そういう楽じゃないのに、その時だけは何もしない楽を選ぼうとしたのよ。これは立派な罪よ。明日奈が許しても、私はあの日の自分を許さないわ」

 

「深澄は欲張りだな」

 

「あら、知らなかった?私って実はワガママな女なのよ。どう?惚れ直したでしょ」

 

「…………ホント、敵わんよ。深澄には」

 

妖艶さを感じさせる笑みで問う深澄に、天哉は肩を含め、両手を上げる。然し、その表情は少しではあるが吹っ切れたように穏やかであった 

 

((アイツ、後で焼き討ちにしてやろうか))

 

(天哉……深澄さんと仲良くやれよ。なぁ……音葉、見てるか?お前と俺のガキどもは、元気にやってるよ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁなぁ、総長」

 

「あん?なんだよ、桔花」

 

集会場所である廃工場。勘助に幼さが残る外見の少女が呼び掛ける

彼女の名は筒元桔花。絶対領域大好き銃職人(ガンスミス)のキッドの本来の姿だ

 

「あのソウテンちゃんとミトちゃん、其れにキリトちゃんだけどさぁ……何者なんだ?アタイ、ミトちゃんとドンパチしたけど、明らかに初心者の動きじゃなかったぜ?アレは」

 

「あっ、おれちゃんも思った。あのソウテンっておチビくんだけど、あの形ですんげぇブラフかますんだよ」

 

桔花の問いに同意するように、バイクを手入れするのは霧雨乱次郎。又の名はリッパー、ソウテンと激闘を繰り広げたおへそライダーである

 

「分かったら、苦労するかよ……でも、なんか懐かしさを感じるんだよなぁ……」

 

「「懐かしさ?」」

 

「ああ……でも…違う気もする……」

 

煮え切らない勘助の態度、桔花も乱次郎も「「コイツは何を言ってんだ?バカなの?」」的な視線を向けているが直ぐに彼の肩に手を置き、哀れみの視線に切り替える

 

「ごめん、総長。意味わかんねぇ、頭大丈夫か?」

 

「アタイもだ。病院行くか?総長」

 

「俺は正常だ」

 

「「………えっ?」」

 

「真顔をヤメろ」

 

気遣いという名の暴言からの真顔、勘助は息がピッタリな二人に顳顬をヒクつかせる

 

「本戦は満足出来ると良いがな……」

 

「総長。生クリームを直に食うのはヤメろ、胸焼けしそうだ」

 

「糖尿病になんぞ」

 

「あん?生クリームは直に食うもんだろ?アホか?お前等は」

 

「「そんな訳あるかぁ!!!」」

 

「ごあっ!?」

 

そして、来たるバレット・オブ・バレッツ本戦の日。其々の思惑が重なる中、彼等は其々の勝利を胸に、あの魔法の言葉を唱える

 

「「リンク・スタート!」」




遂に始まる本戦!その内容は………えっ?宝探し?いやいや!金色に輝く七つの球って、なんなんよっ!?

NEXTヒント チョコミント


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二弾 全員集合!現実は常に稀有?二度あることは三度あるっ!?

今日は10月29日!忘れもしない……ミトを初めてスクリーンで見て、ソウテンが生まれた日!つまりはテンのバースデー……になるのかな?ちなみに今日、二回目観に行く


「ふぅむ……やっぱ、此処は殺伐としてんなぁ。《ALO》や《SAO》とは訳が違うぜ……こりゃあ」

 

これまでに自分が生きてきた世界とは、趣きが異なる世界に改めて視野を向ける道化師。その隣には何時ものように死神が並び立ち、妖艶な笑みを浮かべている

 

「バカね、当たり前じゃない。この世界は銃が主戦武器(メインウェポン)の世界なのよ?魔法を売りにした《ALO》とも、況してや……あの悲劇を生み出した《SAO》とは根本的に違うのが普通よ」

 

「そういうもんか」

 

「そういうもんよ」

 

「待たせた。依頼人との話し合い中に邪魔が入ってな、全く………あのバカどもはどこで嗅ぎつけたんだ……」

 

「知ってる」

 

「そうか、知ってたか…………………ん?ちょっと待て、なんで知ってるんだ?」

 

「だって教えたん俺だからな」

 

「お前の仕業かぁ!!!」

 

「ぐもっ!?」

 

遅れて合流したキリトは、自分の遅刻の原因を作った元凶がソウテンだと判明した瞬間に右ストレートを放つ。最早、恒例である御約束の叫び声をあげ、吹っ飛んでいく

 

「人の好意を無碍にするなっ!ぼっち!コラァ!!!」

 

「いらんわっ!そんな気づかい!!!あと、ぼっちじゃない!!!」

 

「なんだ、喧嘩か?原因はよく分からんが女性の体で一番の魅力があるのは……尻だ!」

 

「「どっから湧きやがった!!!尻野郎っ!!」」

 

突如、現れたかと思えば、安定の尻談義に入ろうとするツキシロまでもが混じり、殴り合いの喧嘩に発展。ミトは、近くで呆れた様子のシノンに駆け寄る

 

「シノン。現実は常に稀有なモノなのよ」

 

「ミト………ホントに、何歳なのよ……アナタは…」

 

「そうねぇ……81歳かな?」

 

「ふぅ〜ん………えぇっ!?」

 

年齢を問われ、笑うミトは悪戯っ子のように子ども染みた笑顔を見せ、喧嘩していた三人に拳骨を見舞う。暫くして、《総督府》に近付くと見覚えのある影が三つほど、視界に入る

 

「総長!其れにシノンちゃんたちも!」

 

「ん?遅いと思ったら、今日もちびっ子どもと一緒かよ?総長」

 

「大丈夫かい?シノン。ツキシロに変なこと、されてない?お尻とか触られてない?」

 

その三人、キッドとリッパー、シュピーゲルは自分たちの関係者であるツキシロとシノンに駆け寄る

 

「大丈夫よ。ありがとう、シュピーゲル」

 

「おいコラ、シュピーゲル。人をセクハラ魔神みたいに言うんじゃない。俺はただ、世界中にシノンの尻の魅力を伝え----…………」

 

「地下の酒場に行きましょうか。チョコミントを奢るわ」

 

「チョコミントって言うとアレか?歯みが---ぐもっ!?」

 

安定の変態であるツキシロに銃剣を突き刺し、自分の好物を例えてはならない別物に例えようとするソウテンの頭にヘカートを振り下ろす。尚、銃剣を刺さないのは見た目が幼い少年の姿をしている彼へのシノン也の配慮である

 

『みんな〜〜っ!お待たせっ〜〜!!!いよいよっ!バレット・オブ・バレッツ本戦のはじまりはじまり〜〜っ!お相手は勿論!今日も元気にぴょんぴょん!飛び跳ねるミニマムガール!レンちゃんと〜〜!』

 

『世界を自由に彩ってやるぜっ☆でお馴染みの美少女彩りアイドルのシリカで、お送りしま〜す!』

 

『L・O・V・E!シリカ!がんばれ、がんばれ!シリカ!!』

 

『L・O・V・E!レン!可愛い可愛い!!レ〜〜〜ン!!』

 

今日も今日とて、始まったシリカとレンこと《ロリットズ》の解説タイム。本戦参加者、観戦者などが見守る中、彼女たちの声が響き渡る

 

『其れじゃあ、お待ちかねの本戦の説明をするよ〜!本戦はバトルロイヤル形式!敵も味方も関係なしっ!裏切り、騙し合いの何でもありな正に無法地帯!』

 

『さらにさらに!ステージは直径10kmの円形で山あり森あり砂漠ありなどの複合ステージ!』

 

『そして、参加者の皆様にはこの《サテライト・スキャン端末》を配布しちゃいます!これを使えば、気になるあの子の情報も丸裸に………とか考えてる人っ!あくまでもこれはバトルロイヤルを勝ち抜く為のアイテムだからね?そういう理由で使用しないようにっ!』

 

『そして、今回に限っての新ルール!フィールド内で金色の球を見つけるとキミにラッキーな事が起きるっ!頑張って、掴もうぜっ!ゴールデンボール!』

 

『何そのルールっ!?』

 

『うん、あたしが勝手に考えた』

 

『ルール改変すんなっ!!!』

 

『ぐもっ!?』

 

真顔でルール改変を言い放つシリカの頭上に、レンの愛銃であるピーちゃんが振り下ろされる

 

『じゃあ、今日も!』

 

『せ〜のっ!』

 

『『がんバレット☆』

 

御決まりの合言葉と共に撃ち抜くポーズを決めるロリットズ。一方でソウテンはミトとキリトを連れ、シノン達とは離れた場所にいた

 

「なんだよ、テン。会わせたい奴らって…」

 

「今回の大会に参加するつよ〜い味方に決まってんだろ」

 

「強い味方?」

 

ソウテンに案内され、訪れたのは《控え室》と書かれた部屋。見慣れない部屋だが、御決まりの笑みを浮かべる彼は、扉を開く

 

「リーダー……遅い」

 

「落ち着いてください。キリトさんとミトさんが合流したという事は遂に作戦を本格化させるという事なんですから」

 

「んなことより!本戦には強いヤツが出てくるんだよな?そろそろ、手加減にも飽きてきたぜ」

 

「手加減をしていたつもりか?俺の眼には明らかにお前が無双しているようにしか、見えなかったが?」

 

「うむ!無理もないだろう!彼は当たって砕けろがモットーだからな!」

 

「俺の騎士道は揺らがない……気持ち的にナイトやらせてもらってます!」

 

「負けましたけどね」

 

「「なんか見覚えのあるバカたちがいるーーーーーーっ!!!」」

 

其処に居たのは、ディアベルとシリカを除いた他の面々。つまり、仮想世界を自らの色に彩る事に長けた最強ギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》のメンバーである

 

「何でいるんだっ!?」

 

「まさかアスナもっ!?」

 

「いんや、アスナはフィー達と留守番だ。キリトが伝えたコンバート以外の情報は知らん」

 

「なら、なんでいるんだよっ!?」

 

「無論、リーダーが受けた依頼を遂行する為ですよ。アバターに関しては少々の差異があるやもしれませんが御了承願いますよ、キリトさん」

 

眼鏡を上げ、微笑するのは白衣を着用した学者風の青年。他ならぬキリトの弟分であるヴェルデだ

 

「というか、ちょいちょいリーダーと話したりしてたのに気付かないとか……キリトさんは、アホなの?」

 

「いつもと違う長身なヒイロも素敵だよっ!」

 

「ありがとう」

 

無表情で、シリカの褒め言葉を素直に受け取る赤い革ジャン姿の長身アバター。誰あろうヒイロ、ソウテンと並ぶと普段の反対の絵面になるのは言うまでもない

 

「細かいことはどうでもいいんだよっ!やるからには全力だ!」

 

「よく言った!其れでこそ、グリスだ!」

 

「じゃあ、俺は《スタッフ》としてシリカをサポートしよう!なーに!アイドルのマネージャーくらいなら簡単に出来る!」

 

「いらないです」

 

「………ん?」

 

「超いらないです」

 

(に、二回言われた………!)

 

未だ見ぬ敵に胸を奮わせるグリス、彼を称賛するコーバッツ。そして、サポーターになると宣言するディアベルであったが食い気味にシリカが却下する

 

「其れで……テンの字。俺たちを引っ張り出したからには、其れ相応の相手だと覚悟していいんだな?」

 

「そんなに気負わんでいいよ、職人。何せ、何時も通りにやりゃあいいんだからな。目標は三人、発見次第速やかに対応してくれ」

 

集結した仲間たちに、不敵な笑みを浮かべる道化師。彼等の決意と士気を高める次の言葉、慣れ親しんだ決め台詞、其れが放たれるのを全員が待つ

 

「派手に行くぜっ!野郎ども!」

 

『了解!リーダー!!』




遂に集う最強ギルド!果たして、彼等の目的とは……!

NEXTヒント 迷子の道化師


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三弾 死銃は笑う。

祝一周年!今日、世に初めて道化師が生まれた日!祝え!祝うのだァァ!まぁ、そんなことはさておき久方振りの本編になります。投稿するなら今日って決めてたんですよ


「何処だ……ここ」

 

《BoB》開始から三十分。現在、広大なフィールドを彷徨う影が一つ、誰あろう迷子の常習犯にして道化師(クラウン)の異名を持つ我等がソウテンである

 

「全く開始早々に迷子になるなんて、仕方ない奴等だ」

 

自分の事を棚に上げ、仲間たちへの不満を漏らす彼であるが本人は迷子である事を頑なに認めようとしない。手元の《サテライトスキャン端末》は二回のスキャンを終え、仲間たちは勿論ながら、シノン達やターゲット三名の居場所も記している

 

「見当たらん名前があるな……近くに居るのはミトか……えっと、あっちだな」

 

身近に居たミトの潜伏場所へ向かおうと、一歩を踏み出す。現れたのは崖、先には何も無い。そして、勢いよく飛び出したソウテンの体は宙に放り出されていた

 

「またかよぉぉぉ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みぃ〜つけたぁ〜」

 

廃ビルの中、身を隠していたミトは背後から聞こえた声に飛び退き、得物を構える。彼女の視線の先に佇むのは、フード付きマントを纏う男。彼が誰かは分からないが自分の中の何かが告げている、彼は危険であると

 

「何処の誰かは知らないけど…いたいけない幼女を弄ぶ趣味であるの?アナタ」

 

「あっはっは〜、つれないなぁ〜……忘れちゃいましたぁ?俺ですよー、俺……ミトさん」

 

「……………生きていたのね」

 

その男の様子から何かを感じ取ったミトは、絞り出すような声で言い放つ

 

「ええ、なんとか生きてますよ。まぁ?あの人に与えられた痛みは未だに消えませんけどねぇ」

 

「アナタは道を間違った、彼はその罰を与えただけよ」

 

「また、お得意の家族ごっこですかぁ〜。相変わらずですねぇ……反吐が出そうだ」

 

爽やかな態度から一変、彼の纏う空気は一瞬で殺気が溢れる殺伐とした雰囲気に切り替わる

 

「其処までにしようや……モルテ(・・・)。これ以上、ミトに近づいてみろ……容赦はせん」

 

身構えたミトが腰の《フォトンブーメラン》を投げようと手を掛けた時だった。彼は現れた、姿形は異なるが象徴(トレードマーク)の仮面から覗く鋭い眼光、青い革ジャンを風に靡かせ、彼は、ソウテンは其処に佇んでいた

 

「………おー怖い、流石のナイスタイミングですねぇ。さっすがは“リーダー(・・・・)”だ」

 

「今更だな………traidor(裏切り者)なお前に、そう呼ばれたくねぇよ。俺たちを騙し、裏切り、殺そうとまでしたたお前にな」

 

《モルテ》、そう呼ばれた男からの呼び方に対し、ソウテンの態度は冷ややかだった。仲間となった者たちを家族と呼ぶ彼からは想像もつかない態度、然し、その瞳が不敵な笑みを見せることはない

 

「俺とキバオウ、リンドは未だに後悔してる。お前たちみたいな奴等を仲間に引き入れた自分たちの見る眼の無さに」

 

「時効ですよぉ?あんなのは。其れに……アンタもウチで派手にやらかしてくれたじゃないですかぁ」

 

「そうだな、だからこそ後悔してるよ。目先の欲に囚われて、お前を見逃した自分に」

 

「後悔してる?今更、遅いんだよ……其れに終わってなんかない。寧ろ、始まりですよ……《蒼の道化師》」

 

吐き捨てるように告げるとモルテは姿を消す。風景に溶け込むように、周囲を探るがその位置は把握出来ない、《サテライトスキャン端末》に表示される彼の名前は既に遥か遠くになっていた

 

「テン。やっぱり、あれはモルテだったのね」

 

「信じたくないけどな。あんなヤツでも少しだけ一緒に鍋を囲んだ仲間……いや、だったヤツだ」

 

「となると残りの二人も……」

 

「ああ、キバオウのダンナとリンドパイセンに確認は取った。アバターに多少の違いはあるが、あの二人で間違いないみたいだ」

 

「奴等はまた繰り返そうとしているのね、あの日の惨劇を」

 

脳裏に浮かぶのは、《SAO》史上で最も犠牲者が出たある惨劇の日。その日を境に彼等は名乗りを上げ、《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》となった

救いがあるとすれば、ソウテンが最も対峙したくなかった相手であるもう一人の道化の不在にある

 

『テン。こちら、グリス』

 

「グリスか。何か進展はあったか?」

 

耳に装備したインカムから聞こえたのは、別行動中のグリス。彼からの通信に対し、ソウテンは冷静に対応する

 

『良いニュースと悪いニュースがある。どっちから聞きてぇ』

 

「…………悪いニュースから聞かせろ」

 

『了解、悪いニュースはペイルライダーってヤツが脱落したってことだ』

 

「脱落?それの何処が悪いニュースなのよ」

 

脱落、この大会に於いては当たり前であり不思議ではない事。然し、其れを悪いニュースと告げるグリスにミトは疑問を抱く

 

『話は最後まで聞け。ペイルライダーが脱落する直前に体がノイズみてぇになって、消えちまいやがった。ヴェルデが観戦席のシリカとベルさんに確認を取ったら、会場の中にペイルライダーは居ねえとよ』

 

「分かった。んで?良いニュースは?まぁ、其方も悪いニュースなんだろうけどな」

 

『流石に分かってやがるか……見つけたぜ、ターゲットはギリーマントの男。拳銃を使う今回の最重要人物だ。そっから見えるか?』

 

「ああ……見える。野朗供……目ェ逸らすな、焼き付けろ」

 

グループ状態の通信にしたインカムからソウテンは告げる。自分たちが倒すべき敵の姿を脳裏に刻みつけよと命令を与える

 

「俺と、この銃の、真の名は、《死銃》……《デス・ガン》だ」

 

冷たく無機質な声

 

「俺はいつか、貴様らの前にも、現れる。この銃で、本物の死を、もたらす。俺には、その力がある」

 

怪しく光る、黒き銃

 

「忘れるな。まだ(・・)終わってない(・・・・・・・)何も(・・)終わって(・・・・)いない(・・・)

 

死銃は笑う。道化師の不敵な笑み、死神の妖艶な笑み、剣士の孤高な笑み、その孰れとも異なる

 

「イッツ・ショウ・タイム」

 

あのデスゲームを、本当のデスゲームを変えようとした恐怖の決め台詞を添えた、邪悪な笑みを浮かべていた




誰もが戦慄する決め台詞、そしてALOにも同じように戦慄する者がいた。果たして、その先にあるのは……?

NEXTヒント 妹ちゃんとお父さん


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四弾 サポーターは十二人目の選手です

やぁやぁ、どうも。なぜ平日のこんな時間に?と思うでしょう。なぜなら、今日は有給だから!いやぁいいね、誕生日に有給って。残してて良かったと思う今日この頃です。さてさて本編はALO組の話になりまーす


「あっ、始まった。ねーさん」

 

「いよいよだね」

 

此処は《ALO》空中都市イグドラシルシティの一画。言わずと知れた《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》のギルドホームがある街だ

モニターに映し出された《MMOストリーム》を見るために集まったのは、GGOの最強者決定バトルロイヤル《第3回BoB》の観戦という目的もある

 

「それにしても、キリトはなんでまたALOからコンバートしてまでこの大会に出ようって思ったのかしら?」

 

「それがね、なんだかおかしなバイトを引き受けたみたいなの。VRMMOの、っていうか《ザ・シード連結体》の現状をリサーチする、みたいな。GGOは唯一《通貨還元システム》があるゲームだからって」

 

「ふぅん………にしても、今日は静かね。あのバカたちは居ないの?」

 

キリトのコンバート理由をアスナから聞き、リズベットは周囲を見渡し、違和感を感じていた。何時もならば、鍋を囲み騒ぎ合う見慣れた姿が影も形もないのだ

 

「なんか、テンちゃんも別件で忙しいみたいだよ。パパからの頼み事とか言ってたけど…」

 

「フィリアのパパさん……天満おじさん絡み?嫌な予感しかしない……」

 

このギルドホームの持ち主の妹であるフィリアの呟き、その中に出てきた人物を知るリーファは苦笑する

 

「シリカは仕事だったわよね」

 

「あっ、シリカさんです」

 

「「………えっ?」」

 

ロトの隣でモニターを見ていたユイが声を上げた。吊られるように視線を動かしたアスナたちの視界は捉えた

 

『じゃあ、今日も!』

 

『せ〜のっ!』

 

『『がんバレット☆』

 

司会役の見知った一人のアイドル娘。相方であろうウサ耳帽子少女と撃ち抜くポーズを決める

 

「「「いや、何してんのォォォォォォ!?お前ェェェ!!!」」」

 

まさかの登場に誰もがモニターの向こう側に突っ込みを放つ。そして、画面はフィールドに切り替わり、更に誰かを映す

 

『………おろ?これ、カメラか?』

 

『あら、ホント。アスナー?見てるー?』

 

『ロトー』

 

「おやまあ、ちっさいとーさんとちっさいかーさんだ」

 

(わ、わたしの親友が可愛い……!!!)

 

画面から手を振るソウテンとミト。身形は違うが息子であるロトと親友であるアスナは彼等に気付き、片方は呑気に、もう片方は悶える

 

「……………いや、何してんのよっ!?」

 

「見ないと思ったら、テンちゃん。あんなに可愛いことになってたんだ」

 

「ミトさんに至っては……「バカね」とか言いそうな雰囲気が出てる……」

 

「あっ、そういやよ。アマツからリズに伝言があったぜ」

 

「伝言……?」

 

「別件で留守にする、その間の客はお前に任せた……だってよ」

 

「…………人の意見ガン無視かいっ!!!あんの要件人間っ!!!」

 

クラインから伝わったアマツの伝言、人の迷惑も考えない要件にリズベットは持っていたワイングラスを床に叩き付ける

 

「リズ?八つ当たりは駄目よ」

 

「大人気ないよ?リズ」

 

「あれ?今なんかグリスくんが……ぐもっ!?」

 

「グリスさんっ!?きゃー!素敵!特にうなじが痺れるぅぅぅぅ!!!」

 

「なにっ!グーくんが出ているのかっ!レコンくん!今すぐに録画だ!4K画質だ!」

 

「いきなりなんですかっ!?というか仕事しましょうよ!?あっ、お邪魔します」

 

モニターにグリスが映し出された瞬間、リーファを吹っ飛ばし、「素敵な筋肉」という幟を掲げ、「バナナしか勝たん」の文字が目立つ法被を着用し、「バナナが主食」と書かれた鉢巻を身につけているフィリアとサクヤがモニターに齧り付く。一方で、レコンは律儀に挨拶を返す

 

「何すんのよっ!迷子トレジャーハンター!」

 

「迷子言うな!カナヅチ脳筋!!!」

 

「いいか、レンコンくん。私の愛弟はな」

 

「急に昔語りっ!?というかレコンです!」

 

唐突に始まる賑やかなやり取り、暫くすると次第にギルドホームは《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》と交流を持つ者たちで満員になっていく

 

「うむ?見なさい、クラディールくん。コーバッツくんとディアベルくんだ」

 

「なんと、仕事をサボってゲームとはイケませんなぁ……ねぇ?アスナ様」

 

「クラディール?出口はあっちよ」

 

「帰れとっ!?」

 

同僚の痴態を笑うクラディールは、アスナに同意を求めるが彼女は帰るように促し、出口を教える

 

「シグルド!目玉焼きにはソースだと何度も教えただろう!レコンくん!ヤツをタイコちゃんとカルゴちゃんのとこに連れて行け!」

 

「やめろ!」

 

「んまぁ!シグさまよ!」

 

「いやぁァァァ!シグさまァァ!」

 

「ひぃぃぃぃ!何でいるんだぁぁぁぁ!」

 

「はっはっはっは、愉快愉快」

 

タイコちゃんとカルゴちゃんから逃げ惑うシグルド。その様子を見ながら、シルフ領名物風乞いダンスを踊っている

 

「………今なんかアマツが映ったわね」

 

「きっくんもいました……」

 

「あっ、ヒイロもいた」

 

「全員参加してるのっ!?」

 

姿が見えなかった全員が画面に映り、アスナは突っ込みを放つ

 

「あらぁ、銃って射程が広いのねぇ」

 

「そうね、《ALO》にある射程がある武器は弓くらいだし。その射程もあんまりなのよぇ…」

 

「あらぁ、でもテンちゃんの槍は広いわよ?」

 

「アイツは論外よ」

 

「あっ、この人。強そうだよ」

 

画面を指差すフィリアの方に視線を向けると、彼女はショットガンを持ったペイルライダーというプレイヤーを指差していた

刹那、そのプレイヤーは倒れ、体から青白い光が迸り始める

 

「……………」

 

「アンタ……指からビームでも出んの?」

 

「フィリア。面会には行くからね」

 

「えっ!?なんで!?わたしが犯人なんっ!?」

 

「フィリアちゃん」

 

「アスナ!聞いて!リーファとリズが酷いんよっ!」

 

「自首しましょう」

 

「お前もかぃぃぃぃ!!!」

 

犯人呼ばわりされるフィリアの突っ込みが響き渡る。すると、倒れたプレイヤーの側に何かが映り込む

黒いマント、仮面、まるで誰かを彷彿とさせるその出立ちは実に不気味、そして、銃を構え、ペイルライダーに発砲する

 

「………うわぁ、大逆転」

 

「ちょっと待って……なんか可笑しい」

 

驚くリズの隣で、フィリアが待ったを掛ける。その時だった、ペイルライダーは、両ひざが崩れ落ち、体を右に傾け倒れ、まるで何かを訴えるように左手で胸を掴む。ヘルメット越しに見えたかの表情は死に逝く者達が見せる表情、死を恐れるものそのものである。やがて、ノイズを思わせる不規則な光に包まれ消滅し、《DISCONNECTION》が浮かび上がる

 

「俺と、この銃の、真の名は、《死銃》……《デス・ガン》だ」

 

冷たく無機質な声

 

「俺はいつか、貴様らの前にも、現れる。この銃で、本物の死を、もたらす。俺には、その力がある」

 

怪しく光る、黒き銃

 

「忘れるな。まだ(・・)終わってない(・・・・・・・)何も(・・)終わって(・・・・)いない(・・・)

 

死銃は笑う。道化師の不敵な笑み、死神の妖艶な笑み、剣士の孤高な笑み、その孰れとも異なる

 

「イッツ・ショウ・タイム」

 

その言葉に《ALO》組以外、つまりは《帰還者(サバイバー)》達は絶句した

 

「う……嘘だろ……あいつ……まさか……」

 

「そのまさかと考えるべきでしょうな……噂が本当ならばですが……」

 

「間違いない……断言します……アスナ様。奴は《笑う棺桶(ラフコフ)》です。ソウテンの奴に調べろと言われた時は半信半疑でしたが、確信に変わりました」

 

「「《笑う棺桶(ラフコフ)》?」」

 

聞き慣れない名を反覆させ、首を傾げるフィリアとリーファ。他の《ALO》組も同様の反応を見せる

 

「まさかまた、あの惨劇を繰り返すつもりなのっ!?」

 

「まさかだけど……パパが頼んだ仕事って……」

 

「フィリアちゃん!わたしはキリトくんの依頼主と連絡を取るから!アナタはお父さんに連絡をお願い!もしかしたら、テンくん達が《GGO》にコンバートしてる理由も其れかもしれない!」

 

「う、うん!分かった!」

 

「マスター。私はユイさまとロトさまとGGO関連のことを調べます」

 

「お願い!エスちゃん!」

 

そして、真相を聞きだすた為にアスナとリーファは其々の依頼主に会いに向かう




兄に依頼を出した人物、父親と会合した琴音。彼女が聞かされた依頼内容とは……?

NEXTヒント お兄ちゃん子はパパっ子でもある


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五弾 同盟成立?道化師と赤狼の休戦協定!

最近、分かった。ギャグを挟まないと文章量が少なくなるということに…!!!


「ミト。近くに反応は?」

 

「この近くにはいないわ。さっきのモルテみたいに迷彩で離れたみたいよ」

 

廃ビルから、鉄橋方面に視線を向けるソウテンは隣で《サテライトスキャン端末》を見るミトに声を掛けるも、既に位置情報からも姿を消していた死銃の姿は無かった

 

「シノンたちの誰かと行動してるヤツは居るか?」

 

インカムの先に居る仲間たちに問う。既に死銃一味の目星はついてる為に更なる味方を増やそうと考えたソウテンは、《GGO》古参プレイヤーの誰かと行動しているものは居ないか?と問い掛けたのだ

 

『俺がシノンと一緒だ』

 

『僕はリッパーさんという方が一緒にいます』

 

『さっき望遠鏡でシノンさん?とかいう人のお尻を見てた変態さんが近くに居る』

 

『俺とオッさんはクイックドロウってヤツがいるぜ』

 

『キッドが近くにいる』

 

「オーケー。おめぇさん達は其々の相手に話せることを話して、協力してもらってくれ」

 

『了解!リーダー!!!』

 

状況把握の後、的確な指示を飛ばすソウテン。久方ぶりに見る仮面越しの横顔は最強ギルドを率いた《蒼の道化師》そのもので、ミトは彼の心意を理解し、その手を握る

 

「テン。私たちで、死銃の(プライド)をへし折ってやりましょう」

 

「言われんでも………ゴーカイに行くぜっ!」

 

「了解よ」

 

 

 

 

 

 

「人が死ぬ?何を言ってんだ、お前は」

 

「事実だよ。おにーさんも見たでしょ?」

 

此処は森林エリア。鉄橋付近から一番の近場である。この場所に潜伏していたツキシロは、同じように潜伏していたヒイロから死銃に関する情報を聞き、自分の耳を疑う

 

「じゃあ、何か?あのペイルライダーってヤツが死んだってのか?」

 

信じ難い話だ、あの世界でない限りは有り得ない。しかし、目の前の彼が嘘をついてるようにも思えないのも事実だ

 

「そうなるね。外の仲間に確認してもらったから」

 

「外の仲間って……サツか?お前」

 

「はずれ。寧ろ、おにーさんと同じ捕まる側の人間だよ」

 

無表情ではあるが僅かに綻ぶ口元、不思議と初対面の感じがしないヒイロにツキシロは何かを感じていた

 

「何処まで知ってやがる。お前もそうだが、あのソウテンとミト、キリト……何者だ?テメェ等は」

 

「答える気はないよ。少なくとも自分の実力を隠してる人にはね」

 

「………なっ!」

 

一握りしか知らない筈の本性を見透かされた様で、即座に飛び退いた。本能が感じ取っていた、彼の前で事実を明かせば、隠してきたもう一つの姿、本来の姿である《赤狼(ヴォルフ)》の秘密が露見すると本能が告げていた

 

「………それで?何をすればいい……」

 

「話が早くて助かるよ。詳しい事はウチのリーダーに聞いて、俺は仲間たちと合流してくるよ」

 

『ツキシロ。インカム越しで悪ぃが、このままで失礼させてもらう』

 

乱暴に投げ渡されたインカムから聞こえるソウテンの声。其処に、普段の呑気にピーナッツバターサンドを食らっていた時の巫山戯た態度は微塵も感じられず、冷静な声色が続く

 

『おめぇさんの事は昔馴染みの腕利きぼったくり情報屋のオネーサンに調べてもらったから、大体は把握してる。ギルド………《GGO》ではスコードロンだったな。その中でも最強の《荒野の獣人(ウィルダー・セリアン)》を率いる総長、《赤狼(ヴォルフ)》がおめぇさんだな?』

 

「………ああ、そうだ」

 

一瞬で全てを看破され、面を食らうツキシロであるが今は状況が状況である為に肯定するしかなかった

 

『キッド、リッパー、クイックドロウはそのメンバーである《黒鷲(ヴェルグ)》、《鉄騎》、《暗殺者》。以上がフルメンバーだよな。そんでシノンはフレンドではあるけど部外者……ここまでに不備はあるか?』

 

「いいや、特には無い。でもなシノンには言うなよ?アイツには此方側(・・・)に来てほしくない……」

 

『了解、シノンには言わん。そいじゃあ……単刀直入に言う』

 

《シノンには秘密》という対価を承諾したソウテンは不敵に笑う。インカム越しでは解らないがツキシロは、この向こう側で笑う道化師の姿がある事を理解していた

 

『奴らを引き摺り出す策がある。同盟と行こう……《赤狼(ヴォルフ)》』

 

「…………その策、乗ってやるよ。《道化師(クラウン)》」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「此処だと思ったよ……パパ」

 

ログアウトした琴音が訪れたのは、一軒のショットバー。カウンター席に腰掛け、グラスを傾ける男性、天満に呼び掛ける

 

「琴音。此処はお前みたいなヤツが来る場所じゃねぇ、帰れ」

 

「帰らないよ。テンちゃんに危険な事をさせてるのは……パパなんでしょ?」

 

「だったら、どうする」

 

「今すぐにやめさせて」

 

兄が危険な状況に首を突っ込んでいる事に納得のいかない琴音は、天満に依頼取り消しを申し出る

 

「却下だ」

 

「パパっ!!!」

 

だが、食い気味に放たれた天満の言葉は冷たいものだった。感情を露わにした琴音は声を荒げ、トレンチコートの襟に掴み掛かる

 

「お前は母さんにそっくりだな……天哉の心配ばっかりだ」

 

「当たり前だよっ!テンちゃんはわたしのお兄ちゃんなんだよっ!?パパも知ってるでしょ!ずっとずっとテンちゃんは暗い闇の中に居て、茨の道を歩き続けて、やっと自由になれた……なのに!どうしてっ!パパは心配じゃないの!?」

 

「心配してねぇ訳あるかっ!!!」

 

娘からの訴えに対し、声を荒げる天満。軽く咳払いをすると頭を掻き乱し、罰が悪そうに口を開く

 

「………天哉が自分から言いやがったんだよ。VRMMO関連の事件は回せってな。何があったかは知らねぇが、あのゲームから帰ってきてからアイツは変わったよ。まぁ根っ子は全然だけどな……ったく、誰に似たんだかなぁ」

 

その後ろ姿からは琴音の知らない哀愁が漂っていた、エリート主義である筈の父から感じる雰囲気、彼女はこの雰囲気を知っている

 

「パパって、テンちゃんに似てるよね。やっぱり親子だね」

 

「あんなピーナッツバタージャンキーと一緒にすんな。まぁ、俺はいつでも動けるようにしておいてやるから、お前は天哉の側に居てやれ」

 

手をひらひらとさせ、バーから去る父の後ろ姿に、琴音は不敵に笑う

 

「大丈夫だよ、今のテンちゃんには………沢山の仲間が居るからね。バカばっかりだけど」




死銃一味を倒す為に同盟を結んだ《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》と《荒野の獣人(ウィルダー・セリアン)》+シノン、果たして彼等の策とは…!

NEXTヒント オーケー!機関車加速しろ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六弾 Vale(オーケー)!飛び出す名言!加速する機関車……?

タイトルからわかる様に、久しぶりにテンの名言が飛び出す!あれ……迷言の方が正しいかな?


『ツキシロ。おめぇさんは人を殺した事があるか?』

 

作戦計画の為に移動していたツキシロは、インカム越しに問われた質問に首を傾げた

 

「なんだ、急に。ある訳ねぇだろ……まぁ、其れに近い事は経験してるがよ」

 

『そうか……俺はある。一人や二人じゃない、多くの血の雨が俺に降り注いだ。地獄から“この首”を刈り取ろうと、死神はその時を着々と狙ってる。だからよ……おめぇさんも気を付けなよ、俺みてえにはなるな』

 

自分も褒められるような人生を送っているつもりは無いが、彼の声色から読み取れる感情には翳りが見える。彼がツキシロの知る者と同一人物であるならば、その翳りは合点が行くが、余りにも納得のいかない言動が多過ぎる。故に彼の中で、ソウテンが蒼井天哉とは結び付かないのである

 

「あっ、来たわよ。テン」

 

「おろ?いやぁ、すまんな。俺等の事情に巻き込んじまって」

 

集合場所の都市廃墟に辿り着いたツキシロを待っていたのは、鎌を携えた少女ミトと仮面から覗く不敵な笑みを崩さない少年ソウテン、そしてキリトを中心にした彼の仲間たちとシノン、ツキシロの子分達である

 

「そんじゃあ情報開示と行くか。ヴェルデ」

 

「おまかせを。敵は《ステルベン》並びに《黒死無双》、そして《モーテル》、この三人が今回の事件に於ける黒幕です」

 

「《モーテル》、安直なネーミングだが十中八九コイツがモルテだな」

 

「《黒死無双》………黒……アイツかっ!ジョニー・ブラック!!!」

 

「となると残りは………テン。コイツは俺に任せて欲しい」

 

「好きにすりゃあいい」

 

ソウテン、グリス、キリト。三人は其々の因縁のある相手を標的に定め、得物を握る手に力を込める

 

「ミトとヒイロは俺のサポート。ヴェルデとアマツはキリトが立ち回れるように後方支援、グリスはコーバッツと暴れろ」

 

「「了解!リーダー!!!」」

 

「俺たちは適当にやるか」

 

「だな」

 

「作戦とかよく分かんねぇもんな。そーいや、リッパーちゃんとクイックちゃんはなしているんだ?負けたのに」

 

「「ぐっ……!」」

 

さらりと会話の流れで、一回戦敗退のリッパーとクイックドロウの傷口に塩を塗るキッド。見かけが見かけなだけに恐ろしい幼女だ

 

「敗者復活戦を勝ち抜いたからだ。中々にCHAOS(カオス)だったが、本戦出場を勝ち取った」

 

「俺たちは総長の子分だからな!何があろうと付いていくぜ」

 

「お前らぁ〜〜〜〜!ざいごうだぁ〜〜!!!」

 

「「茶番だ」」

 

「んだとコラァ!!!」

 

「やんのかっ!?」

 

CHAOS(カオス)、お前たちとは気が合わない」

 

「やかましいっ!!!」

 

「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」

 

兄貴分思いな子分達を抱き締めるツキシロに対し、冷めた反応を見せるソウテン達。その反応が気に障ったツキシロ達が喧嘩を仕掛けるも、間に入ったアマツの包丁が降り注ぐ

 

((同盟の意味ねぇーーーーっ!!!))

 

同盟とは何だろうか?と言いたくなる結束力皆無な面々にミト、シノンの突っ込み役二人は心の中で叫ぶ

 

「…………え?」

 

「シノン!!!」

 

刹那、シノンの体がふらつき、ゆっくりと地面に倒れ込んだ。何が起きたのか理解出来ず、視界を動かすと肩に、ばちばちと音を立てる物体が刺さっている事に気付く

 

(電磁スタン弾……!!)

 

「シノンのねーさんが撃たれたーーーーっ!!!」

 

「てぇへんだ!てぇへんだ!」

 

「そうだな、お前は人間の底辺だ。キリト」

 

「んだとコラァ!!!」

 

「やかましいっ!黙っとれ!!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

気を配っていたにも関わらず、訪れた突然の奇襲。慌てふためくソウテン達とは裏腹に鎌を振り下ろすミトは冷静だった

 

「何もない空間、突然の奇襲………そこだァァ!!!」

 

「………っ!?」

 

「あららぁ〜、バレちゃいましたかぁ〜」

 

「俺、知ってる!!アイツ、《紫の死喰い》だ!!!」

 

「はじめまして……いえ、久しぶりの方が正しいわね。笑う棺桶(ラフィン・コフィン)さん」

 

光学迷彩を解除され、姿を見せる死銃一行。ミトは鎌を片手に妖艶に笑い、ソウテンは「俺のミトちゃん」という幟を掲げ、着ている法被には「ミトは俺の奥さん」、仮面の上に巻いた鉢巻には「ミトさんギザカワユス」と書かれ、相変わらずのミト大好きモード全開である

 

「お前たちには……恨みがある…」

 

「其奴はお互いさまじゃねぇか。お前等は、何度もあの世界(・・・・)で、俺たちと刃を交え、傷つけ合い、死すらも超えた因縁で繋がってる……」

 

仮面から覗く青い瞳が鋭さを増し、マフラーが風に靡き、担いだ槍を死銃に向けた道化師は口を開く

 

「良いか?忘れてるみてぇだから、教えとくがよ……俺は、迷子ショタと言われようが、舌が可笑しいと言われようが、頭にゲンコツ落とされようが大抵の事は笑って許してやる。その方が楽だからな……でもな………

 

 

 

 

仲間(家族)を傷付けるのだけは絶対に許さねぇっ!

 

その言葉は、ソウテンが死銃を明確に敵であると定めた事を意味する決まり文句。背筋が凍りつくような恐怖心が映し出したのは、二つの面影(イメージ)。一人は象徴(トレードマーク)の仮面に蒼き衣を棚引かせる槍使い、もう一人は楽器にも似た槍を担ぐ不敵な笑みを見せる仮面の妖精。片方は何度も見た道化師(クラウン)の姿、しかしながらもう一つは知らない。以前とは違う凄み、正に覇気と呼ぶべき威圧感が肌に、ぴりぴりと緊張を与える

 

「待たせたなぁ!乗り込みやがれっ!!!」

 

「ヒャッハー!アマツちゃんとアタイの合作だぜ!」

 

一瞬、死銃が響めきを見せた僅かな瞬間を突き、テンション爆上げ状態のアマツとヒャッハー状態のキッドが汽笛を響かせ、呼び掛けた

 

「「職人さんマジパネェ!!!」」

 

「……………」

 

「………………」

 

機関車という重厚感溢れる乗り物の登場に、きらきらと瞳を輝かせ、少年のように盛り上がるソウテン達を他所に、合体に理解はあっても機械関係には疎いミトと其方方面の趣味は皆無であるシノンの反応は薄かった

 

「しゅっぱーつ!進行ーーーっ!」

 

「アイアイ!!!」

 

アマツの合図と共に機関車は走り出す。汽笛を響かせ、死銃一行を突き放す勢いで、その加速は止まる所を知らない

 

「しっかし、職人。どうやって作ったんよ」

 

「近くに廃棄された汽車があってな、適当な部品で代用した」

 

「さすがだぜっ!職人!天才だなぁ!おめぇ!」

 

「持つべき者は迷子やぼっちよりも頼りになる職人」

 

「「シバくぞ、焼き鳥チビ」」

 

「職人の知識は相変わらず参考になります」

 

「うむ!流石は私の生徒だ!」

 

「たまに思うわ、何で私たちと居るのかって」

 

「ふっ、そう褒めるな。だがな………コイツには欠陥(・・)がある」

 

「「ん…………?」」

 

褒められて気を良くしていたアマツであったが、さらりと溢した欠陥(・・)という言葉に全員が耳を疑った

 

「欠陥………あの、無断で仕事を休むやつ?」

 

「其れは欠勤よ。あれよね?何かが一部欠けている的な」

 

「ミト、其れは欠損だろ?職人が言ったのは品物が品切れしてるという意味だ」

 

「其れは欠品でしょう。血の通り道ですよ」

 

「ヴェルデ、其れは血管。ゲームが廃棄されるヤツだよ」

 

「絶版だろ?ソイツは………って!一文字も掠ってねぇわっ!!!」

 

「で、どの答えが正解なのだ?職人よ」

 

「何れも違うな、然しだヘル子の欠損に関しては間違いとも言い切れん。コイツにはな、動く為にエネルギーとなる物が必要だ」

 

「「エネルギー……?」」

 

またしても、アマツの言葉に首を傾げるソウテン達。本来ならば機関車のエネルギーは蒸気、つまりは機関炉と薪が必要、だがアマツとキッドの作り上げた機関車は本来の物とはかけ離れていた

 

「そっ、この機関車のエネルギーはテンション。テンション上げないとスピードも上がらないし、最悪…………死にます」

 

「「ゔぇっ!?マジでっ!?」」

 

「そういうことだ………よって!テンション上げていけぇぇぇ!!!」

 

「仕方ねぇ………野朗供っ!派手にいくぜっ!!!」

 

「「了解!リーダー!!!」」

 

「お前等も荒れるぜっ!絶対に止めるなっ!」

 

「「アイアイ!総長!!!」」

 

「分かったわ」

 

同盟関係となった《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》と《荒野の獣人(ウィルダー・セリアン)》withシノン、最強同盟を乗せ、機関車は行く

 

Vale(オーケー)!機関車加速しろ!」




機関車に乗り込むソウテン一行を馬で追う死銃一行、死の鬼ごっこを制するのはどっちだ!?

NEXTヒント 荒れるぜっ!止めてみなっ!

最近思った、テン達のイメージボイスって誰なんだろ……考えたことないな…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十七弾 テンション上げてこーぜ!爆走機関車は止まらな〜〜い!!

えー、更新が滞り気味で申し訳ないです。仕事が忙しくて……

ソウテン「嘘だね」

嘘じゃないよ、本当に忙しいんよ

ソウテン「おめぇさんをパルデア地方でミトが見たってよ」

パルデア地方?はて、知らない地方だ(な、なぜバレた!!!)

ソウテン「野朗供っ!血祭りじゃぁぁぁぁ!」

一同「了解!リーダー!!」

ぎゃぁぁぁぁ!!!

ミト「では、本編をどうぞ♪」


「先を急ぐな、バカども。まだ名前を決めていないだろう」

 

「「名前ェ?こんな時にかっ!?」」

 

走り出す機関車を加速させようと何かを始めようとしていたソウテン達であったが、アマツが待ったを掛ける。その理由はこの機関車の名前という今決める事でもない理由で、誰もが素っ頓狂な声を上げる

 

「如何なる名刀も銘が無ければ、鈍。故にこの機関車も相応しい名を与えるのが筋だろう」

 

「なるほど、言われてみれば。一理あるわね」

 

「はい!俺、良い名前考えた!ピーナッツマラカス号!」

 

「機関車関係ねぇだろ!」

 

「じゃあ、ピーナッツマウンテンバイク!」

 

「機関車だって言ってんだろ!迷子ピーナッツ!!!」

 

「やんのかっ!?ぼっちコラァ!!!」

 

機関車要素皆無なネーミングを繰り出すソウテンにキリトが突っ込み、何時も通りの殴り合いが始まるが誰も気に止めようとしないのは、ありふれた自然な光景だ

 

「う〜ん……シノンは何かある?名前」

 

「えっ?わ、私?」

 

「ええ」

 

「そうねぇ…………」

 

唐突なミトからの問いに暫く頭を悩ませていたシノンであったが、数分もすると何かを閃いた様に顔を上げた

 

「そうだわ、エクスプレス・チョコミントはどう?良い名前だと思うわ」

 

「チョコミントはどっから出てきたのよ」

 

「ならば、折衷案のガラムマサラ・ナツメグにしましょう」

 

「何処が折衷案?俺の考えたせせり・すなぎも・ぼんじり号には負ける」

 

「機関車は何処に行ったんですか?ヒイロくん」

 

「やっぱりキングバナナ号だろ!なっ!オッさん!」

 

「うむ!異論はないぞ!グリスよ!」

 

「「異論ありまくりだよっ!ゴリラブラザーズ!」」

 

「「ゴリラじゃねぇ!!!」」

 

名前を付ける気があるのか、巫山戯たいだけなのか、喧嘩に発展するソウテン達。最早、見慣れた光景にため息を吐く気すらも起きないミトの脳裏に一振りの剣が浮かぶ

 

「フルーレ………ウインド・フルーレ号はどうかしら?アスナがアインクラッドで大事にしていた剣の名前なんだけど」

 

「悪くないな、俺の考えてたセニョール・シャカシャカヘイよりも…」

 

「俺のムッシュ・ペスカトーレよりも…」

 

「俺のフィリピアーナ・バナナンよりも…」

 

「僕のマハラジャ・ビリヤニよりも…」

 

「俺のもも・かわ・トントロよりも全然良い」

 

「気は確かかね?貴殿等は」

 

ミトの案に賛同しながらも自分の考えていた名前を未だに捩じ込もうとするソウテン等にコーバッツから突っ込みが飛ぶ

 

「よし、名はウインド・フルーレに決まった。テンの字!其れにお前たち、今日は全面的にふざけて構わんっ!」

 

「「マジでっ!?」」

 

本気(マジ)本気(マジ)、大本気(マジ)だ」

 

「今日は包丁が飛ばないんか?」

 

「ああ、今日は飛ばさん」

 

「降り注ぎもしないのか?」

 

「降り注がん」

 

「よっしゃぁ!早速、先制ハジケだ!お茶漬け食べるぜェェェ!!!」

 

真っ先にテンションを上げたのはグリス、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の切り込み隊長である彼は茶碗を取り出し、中身を掻っ込む

 

「グリスさんがお茶漬け食べてる」

 

「ヒイロくん。よく見てください、あれはお茶漬けではありません………梅茶漬けですっ!」

 

「ちょっとお高いヤツ」

 

「ええ、松竹梅と言いますからね」

 

「さてと……」

 

「あら?テン。其れは何?」

 

「良い質問だな。ミト」

 

お茶漬け基梅茶漬けを掻っ込むグリスをヒイロとヴェルデが見守る隣では、懐から小瓶を取り出したソウテンにミトが声を掛けていた

 

「これは、大会前に顔に刺青した長身のオネーサンに頂いたよく分からない粉末だ」

 

「よく分からない粉末をもらったりしたら駄目じゃない」

 

「これを取り出したる水に混入します」

 

「混入しちゃ駄目じゃない」

 

「そして、其れをキリトに飲ませます」

 

「えっ?なになに?もごごごごっ!?」

 

「飲ませちゃ駄目じゃない」

 

((口だけで止める素振りねぇーーーーーっ!!!))

 

謎の粉末入り飲料水をキリトの口に流し込むソウテン、其れを口では止めながらも微動打にしないミトに全員が心の中で突っ込む

 

「てめぇコラァ!!!なにを飲ませたっ!?なんか声が高くなってんぞっ!!!」

 

「なるほど、ヘリウムガスの類か」

 

「人を実験台にすんなっ!!!」

 

「…………なぁ。聞いて良いか?」

 

「「……おろ?」」

 

不意に聞こえた声、其れはツキシロだった。誰もが騒ぎを中断させ、彼の方に視線を向ける

 

「お前たちは言ったよな。このゲームは既にゲームであって、ゲームじゃないって……なのに、どうして楽しそうに出来る。死ぬのが怖くないのかよ」

 

「はんっ、面白いことを言うねぇ?そんなの………怖いに決まってんだろ」

 

「…………は?なのにふざけてんのか?正気かよ?死ぬかもしれねぇんだぞっ!?解決出来るかも分からないヤベェ事に巻き込まれて死にに行くなんてバカのやることじゃねぇか!!!」

 

その意見は最もだ、死に直面しておきながら巫山戯る等は愚の骨頂。本来ならばあり得ない光景だが、ソウテン達からすればありふれた当たり前な光景に過ぎない。故に、彼は不敵に笑う

 

「知らねぇんか?この世で起きた事に、この世で解決しない事はねぇんよ」

 

絵に描いたような綺麗事を述べるソウテン。然しながら妙に説得力のある言葉に、ツキシロの苛立ちは募るばかりだ

 

「綺麗事ならいくらでも言えるだろうよっ!」

 

「俺はな、取り繕ったデケェ嘘を並び立てるよりも、バカみてぇな綺麗事の方が好きなんよ。だってよ、世界を自由に彩るってのはそういう綺麗事の上に叶うんじゃねぇかと思ってる、だからこそ怖かったり、辛かったりする時に程、俺たちは巫山戯倒すんよ。其れが俺たちが見つけた新しいやり方だからな」

 

不敵な雰囲気から一変、年相応の笑みを浮かべる彼の姿をツキシロは知っていた。何度も何度も拳を交え、互いに認め合った唯一の存在、好敵手(ライバル)の姿が重なって見えた

 

「……………お前の言いたい事は分かった。騒いで悪かったな」

 

「おろ?意外に素直だな」

 

「うるせぇよ、迷子ピーナッツ」

 

「迷子じゃない」

 

「…………ツキシロ?なんか聞き覚えあるような……ないような……」

 

「どっちですか」

 

見覚えのあるやり取りとツキシロという名前が引っ掛かたヒイロは疑問符を浮かべ、首を左右に傾げる姿にヴェルデが突っ込む

 

「そいじゃあ、其方は任せていいか?ミト」

 

「ええ、手筈通りに」

 

「さてさて、ツキシロ。ちょいと面貸しなよ」

 

「あ?面って----は?ちょっ!まっ!」

 

聞き返したのも束の間、機関車から飛び降りたソウテンに襟を掴まれたツキシロは相棒の機械狼と共に宙に放り出されていた

 

「俺たちも行くぞ。ヴェルデ」

 

「お任せください」

 

「おっしゃあ!ヒイロは俺と来い!」

 

「やだ」

 

「そうか、やだ……って即答してんじゃねぇよっ!!」

 

「あっ、俺が行こうか?バイク出すぜ?ゴリラくん」

 

「おお、ソイツはありがてぇ………って!ゴリラじゃねぇ!!!」

 

続くようにキリトとヴェルデが飛び降り、更にグリスとヒイロの代わりにリッパーが飛び降りる

 

「ミトさん、ミトさん。車掌さんがいたよ」

 

「あら、どこ?」

 

「ぷぷ〜ん」

 

ヒイロの発言に周囲を見回すミト。すると聞き慣れた鳴き声が耳に入り、僅かに下へと視線を向ける

 

「車掌のプルー」

 

「あら、似合ってるわよ。プルー」

 

「帽子がイカしてるぞ。しゃぶ太郎」

 

「うむ!良い帽子だぞっ!ワンコくんっ!」

 

車掌の帽子とネクタイを着こなし、何時もの様に小刻みに震える生物の名はプルー、ソウテンの愛犬である。誰もが自然に受け入れる中で今までに見たことない生物を見たシノンとキッド、クイックドロウは目を見開く

 

(((なんなんだ………この生物は……!!!)))

 

 




遂に始まる荒野大作戦!やる時はやる、其れが《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》!見せてやれ!最強パワー!

NEXTヒント 荒ぶる野生

追伸:ポケモン面白くて、寝不足気味……ナンジャモが可愛くてファンになっちゃった。無論、ミトには敵わないけどね!

ミト「当たり前じゃない」

ソウテン「当然だね」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八弾 行くぜっ!キョダイマックス!あれ?そうじゃなくて、合体?

えー、更新が滞り気味で申し訳ないです。仕事が忙しくて……

ソウテン「ネタは上がってんよ、暇だろ?おめぇさん」

ソンナワケナイジャナイデスカ

ソウテン「可愛いネコちゃんって子からのハガキで、最近は魔国連邦に滞在してます♪って情報があんだけど?」

ネコちゃんさまぁぁぁぁ!?

ソウテン「アボカドを此処に」

一同「了解!リーダー!!」

いやァァァ!やめてぇぇぇぇ!!!それだけはぁぁぁぁ!!!

ミト「では、本編をどうぞ♪」


「ところでよ、グリスっち。聞いてもいいか?」

 

「あん?なんだよ、藪から棒に」

 

《黒死無双》基ジョニー・ブラックの潜伏場所に向かうバイクの上、ハンドルを握っていたリッパーが背後のグリスに問いを投げ掛ける

 

「今から戦う《黒死無双》だっけか?知り合いだったりすんのか?」

 

「知り合い…………そんな生優しい関係じゃねぇよ。俺たちとアイツらは、切っても切れない腐れ縁だ……最悪のな」

 

「ふぅん、深くは聞かないでおくけどよ。少しは頼りにしてくれよ?今だけは同盟なんだからさ」

 

「ああ、頼りにしてるぜ」

 

軽口を叩き合い、笑い合う二人。気の知れた友人同士の様なやり取りにリッパーの頭にある光景が過ぎる

 

『はんっ!また来やがったのか?懲りねぇ野朗だな!』

 

『うるせぇ!お前に負けたんじゃ、No.2の座が危ねぇんだ!さっさと来やがれっ!ゴリラ野朗がっ!!!』

 

『ああんっ!?誰がゴリラだっ!へそバイク!!!』

 

「…………まさかな」

 

かつて、何度も何度も拳を交えた宿敵。その姿がグリスに重なって見えたが、何年も会っていない少年は既に喧嘩から足を洗っている筈だ。故に彼は違う、リッパーは自然とそう思う

 

「リッパー!止まれっ!!!」

 

グリスが叫んだ。何事かと思い、バイクを急停止させると、彼は後部座席から飛び降り、背中に背負っていた身の丈以上はある巨大な棍棒を構える

 

「ん………あっ!久しぶりだなぁ!《野猿》じゃん!なになにっ?お前も《GGO》に来てんだっ!」

 

「相変わらず、ふざけた野朗だなぁ?ジョニー・ブラック」

 

「それはお互い様だろぉ?この世界で金属棒とか何を考えてんだよ」

 

「はんっ……寝言は寝て言えっ!!!」

 

先に仕掛けたのはグリス。金属棒を片手にジョニー・ブラックに迫り、力の限り、振り上げる

 

「力任せだなぁ」

 

「………ちっ!リッパー!!!」

 

「言われなくてもっ!!!」

 

グリスの呼び掛けに応えるように、リッパーは座席部分を脚で蹴り上げた。すると、中から巨大な銃身が姿を現す

 

「なんだぁ?」

 

「コイツは唯一無二にして、最強の暴馬!回転式機関砲(ガトリングガン)だ!!!」

 

回転式機関砲(ガトリングガン)。其れはリッパーがこの世界で成り上がる為に手にした最強の武器。ソウテンを相手にした際は、彼のブラフに騙され敗北したが、彼にも譲れないプライドがある。その欲望を満たす為、クランクを握る

 

「ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!」

 

「なっ……!!!」

 

正に豪雨と呼べる銃弾は逃げる隙も、休む暇さえも与えず、絶え間なく降り注ぐ。だが忘れてはならない、この場にはもう一人の男がいる事を忘れてはならないのだ

 

「そろそろ、こいつの出番だな」

 

グリスが腰に携えていた巨大な筒に手を添える。見覚えのない物体にジョニー・ブラックも、リッパーでさえも首を傾げる

 

「あらよっと!」

 

「「えっ…………投げたぁぁぁぁ!!!」」

 

何の脈絡も無しに、筒を空高くに放り投げるグリス。その姿に驚きのあまり、他の二人が動きを止め、叫んだ

そして次の瞬間、野生を感じさせる笑みを浮かべた彼は飛ぶ。誰よりも高く、荒々しく、猛々しい姿は、正に《野猿》と呼ぶに相応しい

 

「無理、無謀、無茶はなんのその!やると決めたら道理を罷り通すが俺たちの生き様!背負った印は野生の証!刮目しやがれっ!しやがりやがれっ!!!野生合体!《ロッドハンマー》!!!俺は《野猿》!天下の彩りの道化(カラーズ・クラウン)が切り込み隊長!グリス様だっ!覚えときやがれっ!」

 

合体を果たした《ロッドハンマー》を手に、彼は決まり文句と共に地を蹴った。先程までの単調な動きとは正反対な出鱈目で、荒々しい動き。弾丸の雨を避けるのも難しいにも関わらず、更なる攻撃にジョニー・ブラックは歯噛みする

 

「くっ……猿がイキがんなよ?」

 

「はんっ……その言葉、そっくり返してやるよっ!!!リッパー!」

 

「あいよっ!!!ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!」

 

「止めだっ!!!どっせいっ!!!」

 

リッパーが弾を放ち、ジョニー・ブラックの動きを止めた瞬間、グリスが《ロッドハンマー》を振り下ろすと三連撃の攻撃が決まる。其れは彼が最も得意とするハンマーソードスキル《ミョルニル》、体に染み付いた伝家の宝刀である

 

「許さない……許さない…許さない、許さない、許さない、許さない!許さないからなァァァ!!!」

 

「はんっ………恨むなら、テメェのガキ染みた思考を恨みやがれ。二度とその面を、俺の………

 

 

 

 

俺の仲間の前に晒すんじゃねぇ!!!

 

 

凄みのある瞳で四散していくジョニー・ブラックを見下ろすグリス。「その姿は正に荒々しくも、猛々しい野猿だった」と、後にリッパーは語った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方。モルテを追うソウテンとツキシロ、ある悪癖が災いし、彼等は目的地とは異なる場所に居た

 

「……………おろ?おかしいな、森はどっちだ?」

 

「知るかっ!!!そもそも森を目指してんのに、町に戻ってどうすんだっ!?地図はどうしたっ!!!」

 

「いやそれがな………チーズを持ってきちゃった☆」

 

「…………相棒」

 

「てへぺろ」と言わんばかりの表情のソウテンの馬鹿げた行動に、流石のツキシロも何かが切れ、相棒の機械狼を呼び、ソウテンの頭にかぶりつかせる

 

「…………………おろ?ぎゃぁぁぁぁ!!!頭がっ!痛い?いや……痛くな………やっぱり痛いっ!!!!こうなったら、目には目を、歯には歯を!犬には犬を!!!いけぇい!プルー!!!」

 

「……………何をやってんだ?テメェは」

 

「プルー!何処にいんだ!プルーーーーーっ!!!」

 

反応しない愛犬の名を呼び、ゴミ箱に頭を突っ込む迷子に呆れた眼差しのツキシロが突っ込みを放つ。刹那、ピコンという音が響き、ソウテンはメッセージを開く

 

『テンへ。車掌さんのプルーが可愛かったので、写真を送ります。今度はロトにも同じコスプレをさせて双子コーデとかしたいな♪ミトより』

 

「…………………………なるほど、其方にいたんか。ならば良しっ!」

 

「良くねぇわっ!!!」

 

「ぐもっ!?」

 

果たして、彼等がモルテの元に辿り着くのら何時間後の話であろうか……其れは誰も知らない




遂にモルテの待つ森エリアにたどり着いたソウテンとツキシロ。しかし、待ち構えていたのはピーマンとパプリカ?あり?どうなってんの?

NEXTヒント 好き嫌いはいけません


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九弾 ご注文は騎士ですか?いいえ、迷子です

久しぶりの本編!頑張った!実に頑張った!あれ?文字数が少ない……まぁいっか♪


「なぁなぁ、ツッキー」

 

森の中を彷徨い歩く、ツキシロを背後から呼び掛けるのは迷子の原因である道化師。能天気な声は、幼なさを感じさせるが彼の実年齢は10代後半である

 

「あ〜……生クリームたっぷりのケーキが食いてェ……」

 

「ツッキー。後ろ見てみ」

 

「だが断る」

 

迷子紐に巻きつけられたソウテンはショートケーキの着ぐるみを着込み、自分の方を見る様に促すがツキシロは振り返ろうともしない。余談だがショートケーキの色はピーナッツバター色で、生クリームは微塵も関係ない

 

「なぁ、シノンのねーさんはおめぇさんの正体を知らねぇんだよな?」

 

「ああ、スコードロンを組んでる事は言ってるが、俺が《赤狼(ヴォルフ)》って事は知らねぇ。あくまでも、彼奴の前では昔からのダチとしての自分で接してる。そう言うお前は、ミトに自分の素性を明かしてるんだな」

 

「…………本当なら、彼奴には俺みたいな世界で生きて欲しくはねぇさ。でもなぁ……言っても聞かねぇんよ」

 

幼馴染に素性を明かさず、秘密を抱える自分とは異なり、全てを曝け出し、本音で語り合える対等な関係を築いているソウテンが羨ましく見えた。ミトの事を話す彼の表情は象徴とも呼べる不敵な笑みとは正反対の穏やかな笑みが浮かび、彼の中で彼女の存在が如何なるモノであるかを物語っている

 

「変わったな……お前」

 

「まあ、色々とあったからな。帰る場所と待っててくれる奴等が居る……もうあの頃とは違うんよ」

 

ツキシロの知る彼は、飢えた獣の様に視界に映る全てに怒りをぶつけ、暴れ回り、通り道には何も残らない程に、世界を嫌っていた。然し、目の前に居る彼は嬉しそうに笑っていた、あの頃からは想像も出来ない程に穏やかで優しい表情、何がきっかけかは分からないが其れが彼の言う《彩り》なのだろう、とツキシロは悟った

 

「見つけたぞっ!」

 

「見つけたわよっ!」

 

「…………おろ?」

 

「んあ……?」

 

スキャン端末を片手に移動していたソウテン、ツキシロの両名の行手を遮る様に声が響き渡る。例によって能天気に首を傾げる道化師につられ、ツキシロは前方に視界を動かす

 

「パプリカちゃんを泣かす敵めっ!覚悟しろっ!」

 

「今日こそは私を食べてもらうわよっ!!!」

 

その人物基ピーマンとパプリカの狙いはソウテンらしいが、当の本人は身に覚えが無い様子で首を傾げている

 

「知り合いか?」

 

「いんやピーマンに知り合いはおらんよ。俺、ピーマン嫌いだし」

 

「酷い!酷いわ!アナタにピーマンの何が分かるのっ!?」

 

「またパプリカちゃんを泣かしたなっ!?覚悟しろぉぉぉぉ!!!」

 

「「ゔぇっ!?」」

 

ソウテンの一言に気付いたパプリカが泣き出したのが引き金となり、日本刀片手に追いかけるピーマンから全速力で逃亡を図る二人は、森の奥に全力疾走する

 

「あっ、ようやくですかぁ〜。ご苦労さまでしたぁ〜………ずぅぅぅっと、待ってたんですよぉ〜?」

 

森の最奥、逃げたというよりも誘い込まれたソウテンを待ち構えていたのは、フードをすっぽりと被った男。その特徴的な口調とマントの下から覗く鎖帷子から彼が何者であるかは明白、モルテは其処に佇んでいた

 

「パプリカとピーマンも、テメェらと同じ生き残りか」

 

戯けたソウテンではなく、素の天哉としての口調で問う姿で、彼の中でモルテが如何なる存在なのかは明白。その目線の先には彼を守る様に緑髪の男性プレイヤーと金髪の女性プレイヤーが控えている

 

「末端ですけどねぇ。パピコにピースって言いましてね、俺の直属なんですよ」

 

「アンタに恨みはないが……あん時に受けた痛みは忘れてねェ」

 

「今も鮮明に覚えてる……私たちの同胞を串刺しにしていく血塗られた姿を………ああ、見たいわ。アナタのその仮面の下が醜く歪む姿を………」

 

「…………狂ってやがる」

 

漸く捻り出した感情、ソウテンを見る視線にツキシロは表情を歪ませる。今までに出会った事のないタイプに対し、素直な感情が自然と口に出ていた

 

「さてと道化師さん。俺たちはアンタに【3狩リア】を申し込ませてもらいます」

 

「【3狩リア】だとっ!?」

 

「なんだそれ……」

 

「ハジケリストが考案したとされる3対3のバトルロイヤルだ、その歴史は中世古代にあると言われる程に由緒正しい」

 

「聞いたことねぇけどっ!?」

 

聞いた事もない勝負形式にツキシロは突っ込みを放つも、ソウテンは冷静だった。バトルの歴史を解説し、表情は真剣そのものだ

 

「おんやぁ〜?二人しかいないみたいですねぇ〜……どうします?メンバーを揃える時間くらいは差し上げますよぉ?まぁ、急拵えの人との連携が合うとは思いませんけどねぇ」

 

「くそっ………今からキッドか、クイックを呼びに行っても良いが時間が…………って!何やってんだ!?お前はっ!!!」

 

三人目が居ない事を理解していながら、【3狩リア】を提案したモルテに苛立つツキシロ。自分の子分たちに連絡を取るか否かを迷いながら、ちらっと隣に視線を向け、思わず突っ込みを放つ

 

「なんだ、見て分からねぇんか?これだから尻野朗は」

 

「誰が尻野朗だっ!?地面に落書きなんかしやがって!状況を理解してんのかっ!!!」

 

「してるに決まってんじゃねぇの。三人目が必要なんだろ?だから、こうやって魔法陣を描いてんだよ……えっと呪文は……ポッポルンガ・プピリット・パロ……あっ、これは違う」

 

「ポルンガっ!?」

 

魔導書を片手に願い玉の龍を呼び出す呪文を口にしながら、首を横に振り、次のページに視線を落とす

 

「あっ…これか。えっと先ずはお供えにバームクーヘン、仮面、騎士のブロマイドを供えて………ピーリカピリララ・ポポリナ・ペーペルト!!!」

 

「ニチアサで聞いたことあるヤツっ!!!」

 

日曜日の朝に流れていそうな魔法少女的な呪文を唱えた瞬間、魔法陣が光を放つ。供物は明らかに可笑しいがソウテンの中で頼りになると判断された人物が光の中から姿を見せる

 

「問おう………君が俺のマスターか?」

 

その人物、ディアベルが優しく微笑む。紺色を基調とした装備に騎士笑顔(ナイトスマイル)がトレードマークの彼は其処に佇んでいた

 

「………………チェンジ!!!」

 

「呼び出しといてなんだコラァ!!!」

 

「チームワークもへったくれもねぇ!!!」

 




荒野の3狩リア!軍配はどちらにあがる?

NEXTヒント お茶漬け食いてぇ!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十弾 怒りの風、その名は怒髪テン!!!

お待たせしました!自分からの遅いホワイトデー!心してお読みなさい


「こほん……それで?俺を呼び出した理由はなんだ?テン」

 

軽く咳払いした後、ディアベルは身嗜みを整えると自分を呼び出した人物基ソウテンに問う

 

「相手が【3狩リア】を御所望でな。ちょいと力を貸してくれんか?ベルさん」

 

その問いに対し、何時もの不適な笑みで助力を求める小さな道化師に軽くため息を吐きながらも、ディアベルは首を左右に捻る

 

「他ならないリーダーからの御指名だ…俺の騎士道を見せてやるっ!」

 

Gracias(ありがとう)。そんな訳だ、ウチの三人目はディアベルに決まった。異論はねぇよな?モルテ」

 

快諾したディアベルに礼を述べ、ソウテンは前方のモルテに声を掛ける。すると彼は不敵とは言い難い狡猾な笑みを浮かべていた

 

「構いませんよ、誰でも。勝つのは俺たちですからねぇ」

 

「言うじゃねぇの……だったら出し惜しみは無しだ。派手に行くぜっ!!」

 

「了解!リーダー!!」

 

「荒れるぜっ!止めてみなっ!!!」

 

先に仕掛けたのはソウテンたち、走り出した三人は其々の前方に佇むプレイヤーを目指す

 

「芸がありませんねぇ。また空中ですかぁ?」

 

「ざんね〜ん。正解は〜」

 

「なっ……!き、消え--ぐわっ!?」

 

けらけらと笑う仮面の道化師は、何の前触れも無く姿を消した。周囲を見回していたモルテは自らの足元に違和感を感じるも、時既に遅し。気付いた時には地中に引き摺り込まれていた

 

「これぞ!満を持して復活した!ハジケ奥義・生首クッキング!!」

 

「モルテさん!よくもモルテさんを!」

 

「おっと、オタクの相手は俺だぜ?」

 

生首と化したモルテ救出に向かうピースの前にツキシロと機械狼が立ち塞がる。SAO 帰還者(サバイバー)であるソウテン、ディアベルの実力は何度も垣間見たが彼は違う。この荒野を駆け巡り、荒々しく生きる獣、今までに対峙した事のない部類だ

 

「アンタもハジケ奥義とかふざけた技を使うのかァ?」

 

「はんっ。生憎だが俺はハジケリストとか言うヤツじゃねぇ。その代わり………極楽に行かせてやるよっ!!!」

 

地を蹴り、走り出すツキシロの両手には二丁のリボルバーが握られている。彼の十八番である近接格闘(ガン=カタ)、リーチのある剣とは異なる対人戦闘に特化した立ち回りは、初心者(ニュービー)には荷が重く、蹴りが放たれたと思えば、次に拳、仮想とは思えない程に現実味のある痛みが襲う

 

「はぁはぁ………なんだって、それだけの力がありながら……邪魔をする!!!」

 

「分かりきった事を聞くんじゃねぇよ………誰も失わないために決まってんだろうがっ!!!」

 

「ソイツは!お前が味方してるその男は!《人殺し》だァ!何百人もの命を奪った殺戮者だっ!!!」

 

「………………何も知らねぇんだな、オタクは」

 

ピースの口から放たれた《殺戮者》という言葉、その言葉を聞いた瞬間。ツキシロは手を止め、哀れむように彼を見た

 

「ああ?知らねェ、知りたいも思わねェ……人殺しのことなんてァ!!!」

 

「知りたくないんじゃない、知ろうとしないだけだ。確かに、人の命を奪うのは許されない罪だ」

 

「だったら!分かるだろ?お前も!」

 

同意を求めるピースに対し、ツキシロは銃をガンホルダーに仕舞い、深く息を吐いた

 

「…………俺は大切な人を守るために人を殺めてしまった人を知っている。でも、彼女はその事を未だに後悔している………だからこそ、俺は信じた。アイツの言う自由に彩られた世界ってのを、バカみてぇな綺麗事を掲げるテンを信じてみたくなっちまった」

 

そう告げる、一匹の獣の瞳は優しさに溢れ、確かな信じる気持ちが溢れていた。彼の知る男は道化師と呼ぶには余りにも荒々しく、獰猛な獣と呼ばれても可笑しくない姿をしていた。だが久方振りに再会してみれば、何かを吹っ切ったように、仮面の奥に全てを仕舞い、巫山戯た態度の彼に最初は違和感を感じた。それでもツキシロの瞳に映る彼は誰よりも罪を感じ、誰よりも強くあろうとした。故に宿敵(ダチ)を彼は信じると決めた

 

「相棒!!!」

 

「ワォォォォン!!!」

 

刹那、ツキシロの目付きが変わる。彼の叫びに呼応し、機械狼が飛び、空を駆ける

 

「歩んだ道は獣道、その先に待つは己を満たす欲という名の勝利!高らかに雄叫び挙げて!我此処に至ると示す!!!これぞ!《赤狼(ヴォルフ)》の生き様だっ!!!」

 

機械狼が展開し、ツキシロを覆う紅き全身装甲に姿を変える。天高くを指差す姿、其れは正に獣。野生に解き放たれた獣そのものである

 

「なっ……《赤狼(ヴォルフ)》だとっ!?」

 

実しやかに噂される都市伝説、その実物が目の前に姿を見せた事に、ピースは両眼を見開く

 

「あばよ」

 

その言葉を最後に、ツキシロの叩き込んだ一発の拳が顔面を捉え、正に一撃必殺、重い拳はピースを一瞬でポリゴンの欠片に変えた

 

「ピース!!!モルテさん!ピースが!」

 

「あ?なんだ、思ったより使えないなぁ……」

 

「……………へ?今なんて……?」

 

ディアベルを相手にしていたパピコ、脱落したピースの名を呼び、仲間の脱落をモルテに知らせるが彼の予想外の言葉に耳を疑った

 

「使えないって言ったんだよ。全く、少しは腕が立つから直属にしてやったのに……よりにもよって、《SAO》もプレイした事のないヤツに負けるなんて………ホントに使えない道具だ」

 

「…………道具……?」

 

「道具」、その言葉で全てを理解した。彼にとってはピースも自分も仲間とは違う都合の良い使い捨ての道具であった事に。頬を伝う涙、其れが悔しさ故か、哀しみ故かは分からない。嘲笑うかの如く笑うモルテ、その手が真っ直ぐと言いなりにならないパピコに向けられようとした時、その“蒼き衣”は棚引いた

 

「その銃口を向ける相手………間違ってんぜ」

 

そう告げる彼、道化師の手に握られた槍。其れは荒野に存在しない筈の武器。しかしモルテは知っていた

 

「流石に深海よりも深い俺の懐も限界だ………潰してやるから、来いよ」

 

小柄な見た目は変化し、荒野に吹く風に棚引く“蒼き衣”。その姿を知っている、其れはある世界で名を馳せた仮面の道化師、彼は静かに其処に佇んでいた

 

「テンの姿が変わった…!?」

 

唯一人、その姿を知らないツキシロ。すると何処からか白乾児とお茶碗を取り出したディアベルが驚愕した様に両眼を見開く

 

「あの姿は!怒りが頂点に達したソウテン、怒髪テン!でも何故急に……もしや!!!さっきの白乾児をぶち込んだお茶漬けが原因かっ!!!」

 

「いや!お茶漬けですらねぇだろっ!?それっ!」

 




怒りを力に変える怒髪テン、その実力は如何に!そしてキリトとヴェルデは今何処に!!!

NEXTヒント 友情のツープラトン


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十一弾 闇と光は表裏一体!見せるぜ!道化師の真骨頂!

番外編だと思った?実は本編!久々に道化師が大暴れ!!さぁ!降り注げ!槍の雨!


「流石に深海よりも深い俺の懐も限界だ………潰してやるから、来いよ」

 

小柄な見た目は変化し、荒野に吹く風に棚引く“蒼き衣”。その姿を知っている、其れはある世界で名を馳せた仮面の道化師、彼は静かに其処に佇んでいた

 

「あの姿は一体……!」

 

「そうか、ツキシロは初見だったな。あの姿がテンのアバターとしての本来の姿なんだ。ナーブギアを使い続けている影響からなのか、テンのアバターには不具合が起きる事が多々あるんだ……だけど、ある裏技を使えば、本来の姿を取り戻せるんだ。それがあの仮面の道化師にして、俺たちのリーダーであるソウテンだ。そして……俺も」

 

ソウテンの姿に驚きを示すツキシロに対し、ディアベルが長々と説明口調で解説する。そして、彼は手にした仮面を身に付ける

 

「な、なんだっ!?今度はディアベルが!」

 

仮面を身に付けたディアベルにも変化が起きた。一瞬の眩い光が消えると紺の皮装備コートを棚引かせ、右手に盾、左手に片手剣を携えた騎士が其処に佇んでいた

 

「《SAO》きっての最強プレイヤーと揶揄される《道化師(クラウン)》と《騎士(ナイト)》にお目に掛かれるとはね。使えない道具にしては良い仕事をしましたね」

 

「…………久しぶりに暴れたい気分なんだよ、俺は…。テメェを潰す」

 

モルテの軽口に反応しながらも、槍を片手に潰すと発言する姿にディアベルの表情が歪む。あの姿を彼は知っている、慣れ親しんだ姿とは異なるもう一つの姿。血に塗れた道化師、殺戮者と呼ばれた槍使いが佇んでいた

 

「テン!分かっていると思うがこの世界は《SAO》とは違うぞ!」

 

「理解してるよ。其れにだ、俺はもう闇を恐れない……安心してくれよ」

 

「なら、久しぶりに見せてもらうよ。お前のやり方を」

 

闇を歩み続けていた頃とは違い、仲間たちとの出会いと日々という光を知った彼は不敵に笑う。この笑みは何時如何なる時も、絶望を希望に変え、世界を己の色に彩ってきた。誰が呼んだか、《道化師(クラウン)》の名を持つ彼は其処に立っている

 

「綺麗事を……お前がいなければ……お前さえ!いなければ!!俺はまだあの世界で死を楽しめた!!」

 

怒気を放ち、両手に構えたナイフを振るモルテ。この世界で銃器を使わない姿は正に異質であるが、二対の武器を振るう者を誰よりも知るソウテンにとっては赤子の手を捻るかのごとく、紙一重の差で躱し、躱しきれない剣撃は槍で弾く

 

「何を楽しむかは人それぞれだ……でもな……命ってのは弄ぶ為に、奪う為にあるんじゃねぇ!命ってのは守る為に、育む為にあんだ!テメェに分からせてやるよ……!命の重みって奴を!」

 

命、其れは誰もが持つ最高の宝。死を楽しむということは其れを軽んじるという意味、世界を自由に彩るを志に掲げてきたソウテンにとっては正に忌むべき行為。故に彼は高く、誰よりも高く、飛んだ

 

Estamos listos.(準備は整った)

 

その道化師は、不敵な笑みを浮かべ、蒼き衣を棚引かせ、誰よりも高く舞った

 

「永遠にadieu」

 

仮面越しの不敵な笑みと別れの言葉。その二つはモルテの視界に鮮明に焼き付いた。刹那、頭上から無数の槍が雨のように降り注ぎ、体を貫き、止めの槍最上位ソードスキル《アルティメット・サイン》を放つ

 

「また負けるのか……?何故、どうして…どうして!!俺はあのモルテだぞっ!?泣く子も殺す《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》のモルテだ!なのに!どうして!」

 

体に傷を負いながらも、喚くモルテ。一度は仲間と呼んだ男の末路にソウテンは冷たい眼差しを向けた後、軽くため息を吐く

 

「簡単な話だ、おめぇさんたちが泣く子も殺すなら……俺たちは泣く子も笑う《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》だ。おめぇさんたちが殺した数だけ、俺たちは誰かを笑わせる。彩られたら、彩り返すのが俺たちのやり方だ」

 

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!だまれぇぇぇぇ!!!」

 

「滑稽だな。いいか?かつて、因幡の白兎は自らの欲望の為に鰐を騙し、傲慢にも鰐を嘲笑った仕返しに皮を剥かれた。お前は其れと同じだ、他者を騙す事で自分を正当化し、周りが見えなくなっちまったんだ。此処がお前の人生の幕引きだ」

 

「黙れと言ってるだろうがァァァァ!!」

 

モルテは拾い上げたナイフを手にソウテン目掛け、走り出す。しかしながら、冷静さを失くした者の思考は脆い。其れを長年の喧嘩漬け生活で知るソウテンは、ナイフを握る手を蹴り上げ、即座に軸足の代わりの槍を地に突き刺し、遠心力を加えたを蹴りを叩き込んだ。余りの衝撃にモルテは気を失い、事切れたようにポリゴンとなり、四散していった

 

現実(リアル)だろうが、仮想現実(バーチャル)だろうが……俺の蹴りに抗える野朗はいねぇよ。いや一人だけいるか……なぁ?勘助」

 

哀れな末路を眺めながら、頭を掻き乱す彼は背後に控えていた紅き全身装甲に身を包むツキシロに呼び掛けた

 

「本名で呼ぶんじゃねぇよ。てことはあの愉快極まりない奴らは和人たちか…やっぱり」

 

「それはお互い様だろ?あの変態さんたちは桔花ちゃんたちだろ?」

 

「あー……最悪だ。手を組んだのがよりにもよって、世界で一番嫌いなヤローだったなんてな……言っとくが!約束は守れよな!天哉!」

 

「へいへい…わーってるよ」

 

適当に相槌を返しながらも不敵な笑みを崩さない彼は深々と頭を下げる

 

Déjamelo a mí(お任せを)、その依頼。この道化師(クラウン)が承りました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方。死銃を追うキリトとヴェルデ、彼等は目的地とは異なる場所に居た

 

「ヴェルデ!ここはどこだ?」

 

「知りませんよ。やれやれ、これだからキリトさんとのタッグは嫌なんですよ」

 

見渡す限りの薄暗い洞窟。最早、荒野と呼べない場所でヴェルデは兄貴分の醜態に肩を竦める

 

「おいコラ、なんだ?今のため息は」

 

「いえ別に。明日は晴れますかね」

 

「ああ、きっと日本晴れだ!………って話を逸らすなっ!!」

 

「なら真面目にやってもらえます?スグちゃんに言いつけますよ」

 

「反抗期っ!?」

 

果たして、彼等が死銃の元に辿り着くのら何時間後の話であろうか……其れは誰も知らない




遂に死銃と対峙するキリトとヴェルデ、其処に突っ込んできたのはまさかまさかの機関車と迷子に騎士!最強の馬鹿騒ぎが今、幕を上げる!!

NEXTヒント 何時だって、あの言葉

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十二弾 荒野に繋がる絆!最強連合爆誕!!

またしても本編!番外編だと思った?コラボだと思った?はっはっはっはっ!やりたい時に書く!残業の疲れはギャグで笑い飛ばす!故に!道化師なんですよ!さぁ!存分に笑いましょう!


「お前等に謝らなきゃならない……今回の騒ぎは殺戮ギルドと呼ばれた《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》が絡んでる……だけど、俺はVRMMOを脅かす奴らを放っておけないんだ。だから!頼む!力を貸してくれ!」

 

時は遡り、数時間前。控え室でソウテンの策略で仲間たちと会合を果たしたキリト。彼は状況を把握しきれていない彼等に味噌汁を差し出しながら、頭を下げていた

普段の彼ならば鉛玉片手に脅迫紛いの行動を取るにも関わらず、今回だけは真剣な眼差しと共に頭を下げた事に誰もが戦慄した

 

「き……キリトさんがあたしたちに頭を下げるなんて……!」

 

「水臭いじゃないか!キリト!俺たちは仲間で家族!その家族からの頼みを断る訳がないだろ!」

 

「うむ!よく言った!ディアベルよ!私は教師だ!生徒を守るのは当たり前というものだ!」

 

「気は進まんがお得意様の頼みを無碍にする訳にもいくまい……及ばずながら、俺も助力しよう」

 

「そうね。何時いかなる時も、受けた依頼を遂行するのが私たちの暗黙の了解だものね」

 

「サンキュー助かるわ」

 

「「「って!おめぇが飲むんかいっ!!」」」

 

ミトを筆頭に頼み事を聞き届けようとしている仲間たちを前に味噌汁片手に横柄な態度を見せるキリトに突っ込みが放たれる。然し、その態度を良しとしない者たちがいた

 

「おうコラ、頼み方ってもんがあるだろ?ああん?」

 

「原作の主人公だからって調子に乗るのは良くない」

 

「お食べなさい、そして更にお食べなさい」

 

「むごっ!?むごごっ!!!」

 

「おろ?味噌汁に具が…なっ!ちょいと待て!」

 

正に地獄絵図、天井から吊るされたキリトを取り囲むように三人の馬鹿が彼の口にピーマンを押し込んでいた。その時、騒ぎに参加していなかったソウテンは目の前にある味噌汁の中身に気付き、グリス、ヒイロ、ヴェルデに待ったを掛けた

 

「こいつは唯の味噌汁じゃねぇ!豆腐とタマネギの味噌汁だ!」

 

「なにっ!?マジでかっ!?キリト!おめぇ!そこまでの覚悟を!?」

 

「数ある命を生きる中で拝見する機会は一生に一度とも言われるあの味噌汁とは……!キリトさんの様な立派な方を兄貴分に持てたことをこのヴェルデ、大変嬉しく思います…」

 

豆腐とタマネギの味噌汁にわなわなと震えるソウテン、驚きの余りに雄叫びを挙げるグリス、キリトとの出会いに感謝の念を抱くヴェルデ。この味噌汁は余程のモノである事は火を見るよりもファイヤー!な事は言わずもがなである

 

「ねぇ?ヒイロ。テンたちは何を驚いてるの?たかが味噌汁よね?アレ」

 

「たかが味噌汁、されど味噌汁。古来からハジケリストは豆腐とタマネギの味噌汁を飲み合う事で互いに人生を契り、命を賭けて共に戦うと言われてるんだよ。その名を……〝契りの味噌汁〟!!!

 

「そんな意味合いがあったの!?」

 

味噌汁の意味を知らないミトがヒイロに問えば、返ってきたのは驚愕の真実。其れにミトは驚愕する

 

「〝契りの味噌汁〟を出されたんじゃ仕方ねぇな……」

 

「流石に無碍には出来ねえぜ……契るか」

 

「ああ」

 

覚悟を示されては答えない訳にはいかないとソウテンとグリス、キリトが味噌汁を掲げる姿に他の者も見様見真似で味噌汁を掲げた

 

「ワンフォア味噌汁!味噌汁フォアオール!!一人は味噌汁の為に!味噌汁はみんなの為に!いざ!バレット・オブ・バレッツ本戦へ!!」

 

「「「「いざ契らん!!!ブホッ!!」」」」

 

高らかに掲げた味噌汁を手に契りを交わす《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》。だが味噌汁を勢いよく飲み干した男性陣が盛大に吹き出す

 

「ワサビ入りだ☆」

 

「「「なにしやがんだ!ぼっちゴラァ!!」」」

 

「やんのかっ!?バカども!!」

 

「………まともじゃないのは理解してたわ」

 

「ホントにアホですよね」

 

その理由はキリトが混入したワサビである事を知り、ミトとシリカの顔に呆れを通り越した諦めの表情が浮かんでいたのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたぜ……赤目のザザ!」

 

荒野に佇む《死銃》を前に黒の剣士はかつての名を呼ぶ

 

「俺の名を覚えていたか。あの日、俺は名乗る前に《蒼の道化師》に殺されかけた……忘れもしない……彼奴の狂気に満ちた笑みを…。そして!奴を野放しにしたお前たちも共犯……《死》を贈ろう……絶望的な《死》を!」

 

名を呼ばれた《死銃》は今でも記憶に浮かぶ道化師の狂気満ちた笑みを想起させ、自分が落魄れる理由となったキリトに剣を向ける

 

「…くっ!」

 

「キリトさん!」

 

「お前の相手は他にいるぞ…《賢者》。シュピーゲル(・・・・・・)!」

 

キリトの助力に出ようとしたヴェルデ。然し、《死銃》は彼の存在に気付き、気配を消していた片割れの名を呼ぶ。そう、予想もしていなかったシュピーゲルの名を呼んだ

 

「邪魔しないでもらえるか?これは僕たちのゲームなんだよ」

 

「…………なるほど、貴方がもう一人の死銃でしたか。殺害された方々の大半が心不全な理由を調査していた時に浮上したのは三つのワード……一つ目はステルベン、二つ目はSAO、三つ目が共犯………以下のワードを纏めた末に導き出される解答はSAO帰還者である医療に精通した人物が誰かと組み、狂気満ちた事件を起こしているという結論だった。其れを踏まえ、その共犯が貴方である事は調査済みでしたよ……新川恭二!主犯は新川昌一!」

 

「へぇ?博識だなぁ……でも、兄さんの邪魔はさせないよ……お前には死んでもらうっ!!」

 

「……ぐっ!?」

 

推理を披露する事に夢中になり、近付く第三者の気配に気付けなかったヴェルデの頭上に鈍い衝撃が走った。其れが鉄パイプで自分を殴った衝撃である事に気付いた時には既に彼は地に伏せていた

 

「感謝するよ。リヒター(・・・・)

 

「はぁ……兄さんさぁ?準備を怠るなって言っておいたよね?」

 

「君も準備の一つだよ」

 

「さ、三人兄弟……」

 

「ぬかったねぇ?これで終わりだ」

 

(くそっ……動け!動け!動け!動け!くそっ!どうして…!)

 

伏兵である三人目。動けない体を必死に動かそうとするが指先一つ動かす事が出来ず、兄貴分の役に立てない自分に、ヴェルデは歯噛みする

 

「「「ちょっと待ったぁ!!」」」

 

刹那、その声は響き渡った。何もない荒野を彩るかの様に色彩豊かな声たちにキリト、死銃、ヴェルデ、シュピーゲル、リヒターは辺りを見回す

 

「レディ〜〜〜〜ス!ア〜〜〜ンド!ジェントルメ〜〜〜〜ン!!!今宵の演目は泣く子も笑うのキャッチフレーズでお馴染みの《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》がお送りするスペクタクルアクション!」

 

「待たせたね。ヴェルデ」

 

「すまんな。シリカを引き摺り出すのに時間が掛かってしまった」

 

「マイク娘は出場者ではないんだがな」

 

「まあ、全員が揃ってこその俺たちだからな」

 

「だからって!走ってる機関車に飛び乗らせるかっ!?死ぬかと思ったじゃねぇか!」

 

「人間、そのくらいで死なないわよ」

 

「ありがたいですが傷に響きます……」

 

「ちょいと遅れたか?黒ずくめ(ブラッキー)

 

「いや、時間通りだ……道化師(クラウン)

 

ソウテンとキリトの瞳が交差し、道化師の笑みと剣士の微笑が荒野に焼きつく。そう、《蒼の道化師》と《黒の剣士》は不敵に笑った

 

「「アバターチェンジ!!!」」

 

高らかに宣言された聞き慣れない謎の言葉。刹那、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々に変化が訪れる

 

「な、なんだっ!其れにその姿は!?」

 

光に包まれ、次々にありえない姿となり、佇む十人の勇士。その姿はこの世界には削ぐわない程に異質、しかしながら、威風堂々足る佇まいは、不思議と活力を与える

 

「おやまあ、我々を御存知ない?良いでしょう……其れでは、御耳を拝借し、聞かせて御覧にいれましょう、我等が名を」

 

唐突な異変、あの世界にしか存在しない筈の姿に困惑する死銃たちに対し、道化師は不敵な笑みを浮かべる

 

「道化師の仮面、ソウテン!」

 

妖しく光る仮面、棚引く蒼き衣、肩に担がれた槍

 

「勇者の仮面、キリト!」

 

闇に映える黒き衣、両手に握られた二対の魂

 

「死喰いの仮面、ミト!」

 

紫色の尻尾(ポニーテール)、命を刈り取る鎌

 

「野猿の仮面、グリス!」

 

灰色の衣、身の丈はあるハンマー

 

「賢者の仮面、ヴェルデ!」

 

緑の衣、美しくも繊細な細剣

 

「獣使いの仮面、ヒイロ」

 

赤き衣、肩に乗る小鳥、腰のブーメラン

 

「アイドルの仮面、シリカ!」

 

片手にはマイク、肩には小竜

 

「職人の仮面、アマツ」

 

名は体を現す和装、利き手に握られた包丁

 

「騎士の仮面、ディアベル!」

 

紺の皮装備コート、右手に盾、左手に片手剣

 

「農家の仮面、コーバッツ!」

 

黄色の鎧コート、巨大な斧

 

「「彩られたら、彩り返すが流儀!我等っ!泣く子も笑う《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》!」」

 

最強と呼ばれたギルドが、この世界には存在しない筈の彼等が、其々の特徴である仮面を持つ勇士が、其処には立っていた

 

「更にマシマシと行こうぜ!荒野を駆ける!《赤狼(ヴォルフ)》!ツキシロ!」

 

赤き装甲、真っ赤な拳

 

「銃器のことならお任せ!《黒鷲(ヴェルグ)》!キッドちゃんだぜぃ♪」

 

テンガロハット、黒い機械翼

 

「暴れて飛び出てヒャッハー!鉄騎!リッパー!」

 

頭のゴーグル、巨大な鉄騎

 

CHAOS(カオス)。早撃ちの名は伊達ではない……早撃ち。クイックドロウ」

 

ソフト帽、一丁のリボルバー

 

「都市伝説が身内揃いなことに驚いてるけど……私も助太刀するわよ。この冥界の女神であるシノンがね」

 

露出度の高い装備、担いだヘカートII

 

「獣を纏いて、突き進むは明日への覇道!その遠吠えは次元を超える!銃弾の雨を潜り抜け、手にした勝利は俺を満たす!俺たちを誰だと思っていやがる……俺たちは最強にして満足の覇者!その名を刻め!我等が名を《GGO》最強スコードロン《荒野の獣人(ウィルダー・セリアン)》也!!」

 

正に異色、二つの色が重なり合い、生まれた最強の連合は荒野に姿を見せた。その身に受けるは湧き立つ歓声、鳴り止まぬ喝采。これが最強の布陣である事は火を見るよりも明らか…否、火を見るよりもファイヤー!である

 

「ゴーカイに行くぜっ!」

 

「「了解っ!」」

 

 




最強連合VS死銃三兄弟!勝利の女神は何方に微笑むのか!?

NEXTヒント despertar(目覚めよ)

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十三弾 オミヤゲという名の爆発物を僕はまだ知らない

遂に終焉の時!!果たして、どうなる!!笑いと共に暑さなど吹き飛ばせェェェェ!!恐怖しろ! そして慄け! 一切の情け容赦無く、一木一草尽く! 貴様を討ち滅ぼす者の名は!大胆不敵な道化師!ソウテン!!

ソウテン「おろ?始まるよん」


「遂に《GGO》に蔓延る諸悪の根源である死銃たちとの最終決戦を迎えた《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々は一時的に《GGO》最強スコードロン《荒野の獣人(ウィルダー・セリアン)》と手を組み、クライマックスを迎えていた。強さを胸に剣を手に彼等は戦う、其れもその筈、何故なら、彼等は………

 

 

 

 

 

英霊(サーヴァント)だったからです

 

刹那、砂塵の奥から彩り豊かな色彩に溢れた騎士王的な格好をした女装姿のソウテン達が姿を見せる

 

「真剣な雰囲気が一気に崩れた……!!というかあらすじが全く関係ないっ!!」

 

「何時もの事ね」

 

「ありふれた光景ですよね」

 

「なんで冷静なのよっ!?」

 

最早、恒例である意味不明なあらすじにシノンが突っ込みを放つ隣でミトとシリカは冷静な態度を見せていた

 

「問おう…貴方が私のマスターか?」

 

「「やっぱり犯人はおめぇかよっ!!!」」

 

その犯人は、愛用の眼鏡をくいっと上げる仕草をしながら、段ボール箱を机に原稿用紙と向かい合い、騎士王的口調で説明するヴェルデであった

 

「プークスクス。えっ?なに?その髑髏の仮面おしゃれのつもり?胡散臭いんですけど〜」

 

「リーダーも人のことは言えない。常に胡散臭い」

 

「アイドルのあたしよりも目立つとは何事ですか!やっぱり乳ですかっ!?乳なんですかっ!」

 

「へんっ!テメェらみたいな奴等に負けるかっ!膝が茶を沸かしちまうぜっ!」

 

「グリの字。其れを言うならば、ヘソだ」

 

「なにっ!?違うのかっ!」

 

「コーバッツは騎士以前に教師なんだから知っておかないとダメじゃないか?」

 

「ディアベルは服を着なさい」

 

真剣な雰囲気を一気に破壊する騒がしくも賑やかな《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々。如何なる時も自分らしさを見失わない姿は流石の一言である。しかしながら、忘れてはならない事がある。この状況下においての彼等の身形は……女装騎士王である

 

「真面目にやれやっ!変態トリオ!!」

 

「「「やんのかっ!?尻野朗!!」」」

 

「ディアベルちゃん。知らない間にハジけた男になったんだな……でもよ、彼女の前で半裸はやめてくれるか?」

 

「…………何か問題が?パンツは履いてるだろ」

 

「脱ぎ方が足りないって意味じゃねぇわ!!!」

 

「ぐもっ!?」

 

筆頭であるバカトリオにツキシロが自分の性壁を棚に上げた突っ込みを放ち、人としての尊厳の欠如が激しいディアベルに恋人のキッドが飛び蹴りを放つ

 

「なんなんだ……コイツらは」

 

「変態だ……変態に違いない」

 

「おやまあ、変態だとよ」

 

「んだとぉ?変態?」

 

『そんな褒めんでくれよ』

 

「褒められてないわよっ!!!こんのバカどもっ!真面目にやれっ!!!」

 

「ぐもっ!?」

 

変態を何故か、褒め言葉に受け取ったソウテン達が照れていると騒ぎに参加していなかった最強のツッコミ担当こと、ミトが愛鎌を振り下ろし、騒ぎを終息させる

しかしながら、忘れてはならない。バカたちの服装は女装騎士王である

 

「そいじゃあ、対戦形式は3狩リア形式で構わねぇか?おっと…言っとくが、3狩リアの選抜者以外を狙うのは反則だ」

 

本来の装備を着直し、仮面越しに不敵に笑う道化師が対戦形式に対する案を提示する

 

「何でもいい……だが《黒の剣士》は絶対参加だ」

 

「ツキシロォ!お前を殺す!シノンは僕のモノだぁ!」

 

「そこのメガネ。相手しろよ」

 

「オーケー。条件は呑んでやろう、3狩リアの開幕だ。おーい、プルー」

 

死銃たちの提示した条件に対し、不敵に笑うとソウテンは指を数回鳴らす。その動作が合図だったらしく、呼び掛けに応えた小刻みに震える愛犬(プルー)が何かを差し出す

 

「ぷぷ〜ん」

 

Gracias(ありがとう)からの〜ポチッとな♪」

 

不敵な笑みを浮かべながら、愛犬から受け取ったボタンを押す。その瞬間、機関車基ウインド・フルーレ号が形を変形していく

 

「こ、これは……!!」

 

「まさかお目に掛かる日が来ようとは……!!」

 

「驚いた」

 

変形を終えたウインド・フルーレ号。その姿はじゅうじゅうと音が響き渡る鉄板が印象的な巨大ホットプレートに姿を変えていた。その奇妙な現象に驚きの余りに雄叫びを挙げるグリス、ヴェルデ、表情を変えないながらも驚きを見せるヒイロ。このホットプレートが余程のモノである事は火を見るよりもファイヤー!な事は言わずもがなである

 

「あのホットプレートがなんなの?なんかすごいの?」

 

「古来から熱された鉄板の上では多くの争いが行われてきたと聞いているわ。あの有名スポーツ祭典も最初は鉄板の上だったとか……あれこそ正に!〝ホットプレートリング〟!!!

 

「聞いたことないわよっ!?」

 

疑問を抱くシノンの問いに答えたのはミト。悠久の時を経て、その姿を見せた伝説の〝ホットプレートリング〟にシノンは驚愕する

 

「さぁ、若き(つわもの)たちよ!!今こそ!その力を示すが良い!この!江戸幕府第十四代将軍たる徳川茂茂に!!」

 

「リーダーさん、其れ違うヤツです。有名漫画に出てくる将軍かよぉぉぉ!!の方です」

 

扇を片手に踏ん反り返る道化師の間違った知識にシリカが突っ込みを放つ。当の本人は自分の知識が間違っていた事に驚きを隠せなかったが即座に背後を睨み付ける

 

「てめぇ!コーバッツ!また出鱈目な歴史の授業しやがったな!?」

 

「なにを言う!教科書が花の○次と○魂なのだ!正規の歴史などを教えてられるかぁっ!」

 

「開き直ってんじゃねぇぞコラァ!!」

 

「俺の単位どうなるんだ!だいたい!マトモに授業しないなら、俺に騎士学の授業させろ!」

 

「勝手にやってろや。裸パンツ」

 

「やかましいっ!少しは目先の勝負に目を向けんかぁっ!」

 

「「「ぐもっ!?」」」

 

勝負を蔑ろに騒ぎまくるバカたちの頭上に御約束が振り下ろされ、彼等は御決まりの叫びと共に無力化され、何故かソウテンの頭上にだけ【Dead(笑)】の文字が表示される

 

「おろ……なにこれ?何で不快な文字が頭上にあんの?なんでHPが赤色なん?というか(笑)ってなに?ねぇ?なんで?どうなってんの?」

 

「夜遊びは控えないとダメよ?そんなんじゃ、B○町には入れないわよ」

 

「なんの話をしてるんよっ!?俺は死にかけな事についての理由を聞いてんだよっ!?あっ……やべ、なんか体が……」

 

「落ち着け!テン!ここはバナナ大明神さまに願え!どうか、バナナが主食になりますように…」

 

「焼き鳥お供えする」

 

「チーズケーキをお供えしましょう」

 

「バームクーヘンを供えよう!」

 

「では!私はバナナを!」

 

「変な祭壇を作るんじゃない!!!」

 

「「いやぁぁぁぁ!!!」」

 

遂には現実逃避という名の「バナナ明神」なる謎の祭壇を祀り出したソウテンたちにアマツの包丁が降り注ぐ

 

「キリト!俺が隙を作る!お前はその隙を狙え!」

 

「任せた!ツキシロ!!ヴェルデ!お前は援護を!」

 

「言われずとも…元よりそのつもりです!」

 

騒ぐバカたちを他所に熱き闘いを繰り広げる選抜メンバー。怒涛の針剣の雨を躱すキリトに対し、援護を申し出たツキシロは身に纏っていた装甲をアサルトライフルに変形させると援護射撃に周り、ヴェルデはリヒターのナイフを細剣で弾きながら、兄貴分からの指示に答えを返す

 

「感じる……仲間たちの想いを……そして、アスナの温もりを……この仮想世界の結末は……俺が決めるっ!」

 

その想いを聞き届けるかのように、キリトの二対の剣を中心に槍、鎌、ハンマー、細剣、ブーメラン、短剣、片手剣、斧、包丁が飛来。そして、空高くに浮かび上がった十本の武器が一つになり、一振りの剣を形成する

最高にして最強、ここぞという時には必ず姿を見せる剣を彼は知っている。否!知っていた、あの世界で、終わりの見えない世界で、魔王を打ち倒した伝説の剣、妖精の世界から偽りの泥棒の王を追い出した勇者の剣が其処にはあった

 

「生命の数は幾星霜……それでも出会うは必然の縁!」

 

「想いが一つと成りて生まれ出ずるは伝説の刃!」

 

「運命を変えるは勇者の定め!」

 

「其れ即ち我等の覇道にして色彩艶やかな花道なり」

 

「立ち塞がるならば情け無用の鉄槌を!!」

 

「仮想世界も現実も次元を越え!天高くに名乗りを挙げる!」

 

「絆の前に砕け散るは死を呼ぶ弾丸」

 

「未来に繋がるオンステージを掴んでみせよう!」

 

「天上天下、海闊天空、唯我独尊の三文字を胸に終焉の雨は降り注ぐ!」

 

「俺たちがこの剣を抜いた時……お前たちの結末は決まった。恐怖しろ! そして慄け! 一切の情け容赦無く、一木一草尽く! 貴様を討ち滅ぼす!行くぞ……っ!!!《メモリークラウン(家族たち)》」

 

彼等の武器と想いが一つとなり、形になった剣。この世界が必要としている彩りを、そして、死の弾丸を弾き飛ばす為に、剣をキリトは握り締め、二刀流スキル最上位剣技《ジ・イクリプス》による二十七連撃は死銃、シュピーゲル、リヒターを斬り裂く。そして、忘れた頃に彼等の側を見えない弾丸が襲う

 

「こ、これは…!」

 

「偽りの弾丸……ブラフをかますのが道化師だけと思うな!俺たち、獣も騙し合いは得意分野なんだよっ!此奴が正真正銘のラストアタック!〝 幻影の一弾(ファントム・バレット)〟だ!!」

 

見えない弾丸、其れは照準予測線を弾丸に見立てる事で生まれた正に幻影の一弾。嘘偽りは時に武器となる事を赤狼(ツキシロ)は知っていた。長き渡り、対立し、歪み合い、嫌ってきた、宿敵が得意とする手口、其れこそが《ブラフ》。故に彼は放つ、大切な人を守る為に最後の弾を、〝 幻影の一弾(ファントム・バレット)〟を放ったのである

 

「……まだ……終わらせない……終わらせない……何時かは……《あの人(・・・)》がお前たちを……」

 

No te dejaré hacer eso(そんなことはさせねぇよ)

 

消え行く死銃に、仮面の奥で妖しく瞳を光らせる彼は、不敵な笑みを携え、その前に佇む

 

「仮想世界が彩りを求める限り、この世界には俺たちが居る。何時如何なる時も、理想の為なら俺たちは何を相手にしようと真っ直ぐと突き進む……てめぇの魂に従ってな」

 

その言葉を聞き届けた後、死銃たちは四散していった。長き渡る荒野での戦いは終焉を迎え、残すは闘いを終えた道化師一味と獣たちの一大決戦のみとなった

 

「さーて……今日はどうするよ?何時もみてぇに殴り合うか?」

 

「はんっ…気分じゃねえよ」

 

「ふふっ…男ってバカね。それにしても星が綺麗……アスナにも見せてあげたいわ」

 

「いやぁ…懐かしい。第一層攻略会議の空を思い出しますねぇ」

 

「ああ、ベルさんが騎士を名乗り出した最初の醜態を晒した日か」

 

「おいコラ、誰の騎士道が醜態だ」

 

「そんで?マジでどうするよ?総長」

 

星空を見上げ、見る影もない騎士の醜態の始まりを想起するヒイロとヴェルデに本人が突っ込みを放つ隣で恋人を無視したキッドはツキシロに声を掛けた

 

「あー……取り敢えずはシノケツを拝もう、話はそれか-----………」

 

「黙れ」

 

「リーダーさんが自爆すればいいんじゃないですか?あっ、ちなみにあたしは出場者じゃないので巻き添えにしないでくださいね」

 

「はっはっはっ、シリカは冗談がキツいな。そんなリーダー想いなアイドルちゃんにはプレゼントをやろう♪」

 

安定の変態発言で物言わぬ屍と成り果てたツキシロがシノンの椅子にされる。その様子を見ていたシリカが自分以外が全滅するという物騒な提案すると、ソウテンが笑いながら、彼女の手に何かを置いた

 

「んむ?なんです……これ」

 

「オミヤゲグレネードだ♪」

 

「…………イヤァァ!!ヒイロ!パス!」

 

「いらない。グリスさんにあげな」

 

「いらねぇよ!!何をとち狂った真似をしてんだ!!傍迷惑迷子野朗!!」

 

「迷子じゃない」

 

「兎に角!何をするべきは理解してるなっ!?」

 

「分かってるわよ。さぁ、みんな!」

 

〝 オミヤゲ〟を押し付け合い、最終的に事の発端である道化師の掌に落ち着いたグレネードのピンが外れ、その仮面の奥が見慣れた不敵な笑みを見せるのを見たミトが全員に呼び掛け、クラウチングスタートの体制を取る

 

「「「逃げるんだよォォォォ!!!」」」

 

「ではでは皆様。今宵の馬鹿騒ぎに一先ずは幕を降すと致しましょう……レッツ!エクスプロージョン!!!」

 

「「「覚えてやがれっ!!!迷子野朗っ!!!」」」

 

爆発音が響き渡り、爆煙と共に盛大に吹っ飛ぶ道化師一味と獣たち。まさかの爆発オチという最期を迎えた彼等の同時優勝という大会異例にして最多優勝人数を記録し、第三回バレット・オブ・バレッツは幕を降ろした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ……相変わらずのエグさ」

 

湧き立つ歓声を聞きながら、大会の様子を見守っていたリーファは幼馴染のやり口に苦笑する

 

「吹っ飛ぶ姿も素敵……グリスさん」

 

「素晴らしい!流石はグーくん!今夜はご馳走だな!」

 

「とーさんは発想がぶっ飛んでるなぁ〜」

 

「パパの女装姿をばっちりと撮影しました!後でママに見せてあげます」

 

「ユイさまはご両親想いですね」

 

「河童がおりませんな。何故ですか?」

 

「いる訳あるかっ!というか実在しねぇよ!」

 

「クライン殿は否定派ですか……ならば敵だ!!」

 

「なんでだよっ!?」

 

背後で繰り広げられる馬鹿騒ぎに唯一人の常識人と呼べるリーファは窓から外を眺め、ため息を吐く

 

「…………こっちもバカしかいないかぁ」




《死銃》との戦いは終わりを告げた。しかし、まだ脅威は去っていなかった!!急げ!魅惑の桃を守るんだ!

NEXTヒント 窓を開けて

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十四弾 兵どもが夢のあと。

遂に……GGO編最終幕!長かった!途中に他の作品に気を向けて、滞り気味だったから、マジで長く感じた………


「………………知らない天井だ。あっ、いや知ってる天井だ………って!御約束のボケをかましてる場合じゃねぇ!」

 

頭から《アミスフィア》を外し、素っ頓狂な発言をしながらも勘助はベッドから飛び起き、床に脱ぎ捨てていた愛用の赤い革ジャンに袖を通すと自宅を飛び出した。愛用のバイクに跨り、その鼓動を響かせる

 

(詩乃……頼む!間に合え!!!)

 

大切な相棒にして守りたい人である彼女の安否を願い、彼は目的地に只管に走らせる。満足を忘れた獣は久方振りに暴れ回った事で溢れる欲に、解放された真の理性に、その身を預けていた。忘れていた過去、鎖天衣(サティス)としての満足感を思い出した彼に敵はいない。故に彼はその走りを止めようとは思わない。やがて、詩乃が住むアパート付近に差し掛かると、換気のために開いていた窓から声が聞こえてきた

 

「朝田さん……ああ……僕のシノン!!!」

 

「や……やめ……やめて……!!」

 

「駄目だよ、朝田さんは僕を裏切っちゃ駄目だよ。これは無針高圧注射器っていう注射器なんだ。これに入っているのは《サクシニルコリン》っていう薬で、これが身体に入ると筋肉が動かなくなって、直ぐに肺と心臓が止まるんだよ」

 

信頼していた筈の友人である少年、恭二に裏切られた彼女は身の毛もよだつ恐怖に見舞われていた。その手にある薬品は《死銃》事件のもう一つの凶器とも呼べる注射器。渦中の存在である事は火を見るよりも明らかだ

 

「やっぱり………ツキが……勘助が言ってたみたいに新川君……が……もう一人の死銃なの…」

 

「そうだよ、僕は《死銃》の片手だよ!もう一人の協力者である弟は今頃、あの道化師共の所に向かってる筈だ……僕はGGOで最強になれればそれでよかった。なのに、なのに……ゼクシードのクズが……AGI型最強なんて嘘をっ!GGOは僕の全てだったのにっ!現実を全て犠牲にしたっ!!なのにっ!!奴は僕から全てを!シュピーゲルを奪った!!これが許せると思うかっ!?」

 

狂っている、彼女の知る誰とも違う思考。幼馴染の少年さえも獣の様に暴れ回ってはいたが、人を殺めるまでには至らなかった。然し、彼は違う。自分の浅はかな満足感の為だけに人を殺めたのだ

 

「さあ、朝田さん。一緒に《次》に行こう。GGOみたいな…… ううん、ALOみたいなファンタジーっぽいやつでもいいや。そういう世界で生まれ変わってさ、結婚して一緒に暮らそうよ!一緒に冒険してさ、子供も作ってさ、きっと楽しいよ!」

 

現実逃避、自分は死ぬんだと……動かない体。誰かに助けを求めようにも、恐怖で声が出せない。平凡な世界で、忘れようとしていた過去が、辛い現実が、彼女の体を鎖に縛られた様に捕らえる

 

「勝手に楽しんでろやっ!!!」

 

「あがっ……!?」

 

その声と共に窓を盛大に突き破り、一匹の狼は吠えた。赤い革ジャンを肩に羽織り、ぎらりと上顎から犬歯を覗かせ、銀髪を掻き上げ、カラーギャングのリーダーとして名を馳せた白築勘助は、其処に佇んでいた

 

「つ、ツキ……」

 

「待たせたな」

 

「遅いのよ!バカ!何してたのよっ!!」

 

乾いた笑みで浮かべ、自分を抱き寄せた勘助の胸を詩乃は何度も叩く

 

「白築ィ!!お前だけは!お前だけは!!」

 

「外に逃げろ!!もうすぐで桔花たちが来る!」

 

その姿に逆上した新川が注射器を片手に走り出す。咄嗟に詩乃を突き飛ばした勘助は彼女の前に躍り出ると、その胸に注射器を振りかぶる

 

「おやまあ、もうお開きかにゃ?随分としけたパーティーだねぇ?コイツは」

 

「二次会はあるんだろうな?言っとくが俺はパスタ以外の締めは認めないぞ」

 

夜風が吹く窓際、その二つの声は響いた。《吏可楽流(リベラル)》と書かれた青い羽織を靡かせた不敵な笑みの少年と全身を黒一色で統一した少年。天哉と和人は其処に佇んでいた

 

「誰だ!!」

 

「おろ?誰とは随分な御挨拶じゃねぇの。コイツはおめぇさんの弟だろ」

 

下から引っ張り上げた一人の男を天哉が投げ捨てる。その男に新川は見覚えがあった、血を分けた弟の真三だ

しかしながら、彼は知らぬ顔で軽くため息を吐いた

 

「知らないよ、そんなヤツは。それに邪魔をするな!僕の愛は揺らがないんだ!本物のハンドガンで、悪人を射殺したことのある女の子なんて、日本中探しても朝田さんしか居ないよ!本当に凄いよ!僕はそんな朝田さんを愛しているんだよ!」

 

「おやまあ、コイツは随分と私欲に塗れたヤツだ。でもなぁ……お前が愛情を語るんじゃねぇよ」

 

その顔からは不敵な笑みが消え、冷たく刺す様な鋭い視線が真っ直ぐと新川を見据えていた

 

「理想を押し付けることが正義だってんなら、俺たちは真っ向からそれを否定してやる。てめぇの失敗を誰かに押し付けるヤローが誰かを愛する意味を語るんじゃねぇ!!!此処がお前の人生の幕引きだ」

 

「うるさい!お前から殺してやるっ!!!」

 

新川は注射器を手に天哉目掛け、走り出す。しかしながら、冷静さを失くした者の思考は脆い。其れを長年の喧嘩漬け生活で知る天哉は、注射器を握る手を蹴り上げ、即座に軸足を固定し、ありったけの力を込めた蹴りを叩き込んだ。勘助はその姿を知っている。彼が宿敵と呼ぶ少年は其処に佇んでいた

 

「あ〜……流石に起き抜けに二発は体に来る…」

 

「おっ……天満さんからの連絡だ。《死銃》は捕まえた、残りの二人も連れてこいやバカ息子だとよ」

 

「あの酒乱オヤジ。人使いが荒すぎだろ……ったく……てめぇの仕事を押し付けやがって……」

 

悪態を吐きながらも、新川たちを引き摺りながら玄関に向かう背中にはスペイン語で《自由》を意味する《吏可楽流(リベラル)》の文字が目立つ

 

「テン!次はテメェの頭に鉛玉を打ち込んでやっからな!」

 

「やれるもんならやってみな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そーいや、また大活躍だったみてぇだな?《蒼の道化師》さん」

 

「大活躍ぅ?タダ働きだ、あんなもんは。あんのクソオヤジめ……」

 

《GGO》を巻き込んだ事件から数日。通い慣れた店でグラス片手に悪態を吐く天哉、その前に立つのはバーのマスターであるエギルに他ならない

 

「そーいやよ、カズのヤローはどうした?」

 

「あらかた道草ですよ。あの人はパスタ屋に目がありませんからねぇ」

 

「道草は美味しくない」

 

「彩葉?そういう意味じゃないのよ、道草は」

 

「ふむ……マイク娘と鈴代先生に高良先生は都合がつかずに不在か」

 

未だに来ない和人を待ち侘びながらも、雑談を繰り広げる深澄たち。然し、その輪に混じらない少女がいた、明日奈である

 

「全くキリトくんは……」

 

「このアップルパイいけるわね!ちょっと!エギル!ジャムもつけてもらえる?というか、つけなさいよ」

 

「里香。そのジャム狂いをどうにかしろ」

 

「うるさいわね!試食コーナーにご飯を持ち込む迷子よりはマシよ!」

 

軽くため息を吐く明日奈を他所に、アップルパイを頬張っていた里香がジャムを要求する姿に茉人が突っ込みを放つが、彼女はカウンターに項垂れていた天哉を指差しながら抗議を始めた

 

「迷子じゃない。あと試食コーナーにご飯持参はメキシコでは当たり前の事だし、あれは単なるご飯じゃない。ピーナッツバターライスだ」

 

「メキシコが誤解されるでしょうが!!」

 

「そうだぜ?テン。持ち込むなら、バナナだ」

 

「いえ、カレーです」

 

「焼き鳥一択」

 

「試食コーナーに持ち込むんじゃないわよっ!!」

 

常識の欠片もない非常識な振る舞いの天哉たちに深澄の突っ込みが冴え渡る。刹那、扉の開く音が耳に入った

 

「待たせ---ぐもっ!?」

 

「待ってないよ♪私も今きたから……とでも言うと思ったか!!やっちまえ!野朗共!」

 

「「「了解!リーダー!」」」

 

店に姿を見せた和人が全てを言い終える前に天哉の蹴りが直撃し、呼び掛けに答えた三人の馬鹿が手際よく天井に彼を括り付けた

 

「おらー!!ピーマン食えやっーーー!!!」

 

「内緒でお高い店に行くの良くない」

 

「お食べなさい、そして更にお食べなさい」

 

「むごっ!?むごごっ!!!

 

正に地獄絵図、天井から吊るされた和人を取り囲むように三人の馬鹿が彼の口にピーマンを押し込んでいた

 

「こうやって、顔を突き合わせるのは初めてかな……俺は蒼井天哉、道化師の中身だ」

 

騒がしいやりとりを見守る天哉は入り口に立っていた詩乃に声を掛け、軽い自己紹介をしてみせる

 

「朝田詩乃です。勘助から噂は聞いてます、ライバルなんですよね?」

 

「ライバルねぇ……まぁ、そんな感じかな。どうだ?あのヤローは」

 

「毎日が退屈しないかな?そういえば……蒼井くんが私を呼んだのよね?」

 

「テンで良いよ。此処におめぇさんを呼んだんは他でもない、会ってもらいたい人がいるからだ」

 

「どうぞ」

 

詩乃からの疑問に対し、不敵な笑みを浮かべた彼が目配せで合図を送ると深澄が店の奥に呼び掛ける。すると、其処から一人の女性が姿を見せた、その手に引かれるのは年端もいかない少女。見覚えのない二人に詩乃は首を傾げる

 

「えっと………」

 

「はじめまして。朝田……詩乃さん、ですね?私は大澤祥恵と申します。この子は瑞恵、今年で四歳です。この子が生まれてくる前は……市の郵便局で働いていました」

 

その場所を彼女は知っていた、自分の世界が壊れる切っ掛けになった始まりの地。今になって、なぜ?どうして?様々な想いが過ぎり、震える彼女を優しく誰かが抱き締めた

 

「大丈夫だ。この人はお前を攻めにきたんじゃない、謝りに来てくれたんだ。だから、前を向け。お前は一人じゃない」

 

「そうだぜ?アタイ等が一緒だ」

 

「おれちゃんたちは仲間だかんな」

 

「やれやれだ……」

 

「みんな………」

 

(そうよ、貴女は強い。だって、冥界の女神なんだから…)

 

振り返れば、其処には勘助が、桔花が、乱二郎が、クイックドロウ基早瀬走亮が、そして何よりももう一人の自分であるシノンが立っていた

 

「私はスナイパー、撃ち抜けないハートはないんです。この手で救えた命があるなら………私も救われた気がします」

 

そう告げながら、笑う横顔を眺め、グラスを口に運ぶ。そして、道化師は一人のスナイパーと彼女を取り囲む獣たちへ、深々と頭を下げる

 

「本能のままに暴れ回る獣たちの弾幕の荒野での爆速道中記……お楽しみいただけましたか?皆様の御眼鏡に称う日々を彩れておりましたら、拍手御喝采の程、御願い申し上げます。其れでは、今宵の舞台は……此れにて、幕引きと致しましょう。また会う日まで、暫しのお別れに御座います、Adiós(さよなら)

 

此れは仮想世界を艶やかな色彩で、己の色に彩りし、十人の勇士たちの物語

 

一癖も二癖もある者たちを率いるは、仮面から覗く蒼き眼で万物を見透かし、不敵な笑みを携えし、槍使い

 

その名を、『蒼の道化師』と申す




此度の爆速道中記をお楽しみいただき誠にありがとうございます。次回からは更に賑やかさを増した愉快な演者を加え、新たな世界に彩りを加えていこうかと思います。其れでは今宵はこの辺りで幕引きと致しましょう、Adiós(さよなら)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 極寒の大地と彩りの道化(バーカーサー)
第一説 年末だろうと関係ない!取り敢えずは鍋を囲もう!!


はいはい、キャリバー編とは名ばかりのギャグMAXのハイテンションストーリーが始まるよ!つまりは何時も通りの馬鹿騒ぎなんだけどね!ちなみに上に出てる第四章のタイトルは誤字じゃありません♪


「ふわぁ〜……冬休みになると気が緩むなぁ〜……」

 

時期は偉い人も走り回るとされる師走の終盤。和人は眠気を感じながらも、寝巻き姿のままで、一階の台所に向かう

 

「スグちゃん。この食パン、すごくパサパサしてるんですが」

 

「あれ?おかしいな……昨日の夜に買ってきたばっかりなんだけどなぁ〜…」

 

「ああ、間違えました。これは僕が持参したウエハースでした」

 

「間違えないよねっ!?ワザと!?ワザとやってる!?」

 

「あっはっはっはっ、そんな訳あるじゃないですか」

 

「肯定したっ!?」

 

台所で我が物顔で居座る眼鏡の少年は今日も幼馴染弄りに勤しみ、朝食に舌鼓を打っていた

 

「何してんだ!!カレーメガネ!」

 

「おや、これはネボスケオさん。おはようございます」

 

「変な名前つけんなっ!!質問に答えろ」

 

「やれやれ、朝ご飯くらい静かに食べられないんですか?これだから、ぼっちは駄目なんですよ……ねぇ?リーダー」

 

「全くだな。このピーナッツバターご飯に比べたら、些細なことだ。なぁ?我が妹よ」

 

「ホントだよ。それにスペインでは食事の時には静かにするのがマナーなのを知らないの?和人は」

 

「…………何でいるんだよっ!?」

 

自然な流れで会話に加わっていたのは、幼馴染にして親友でもある傍迷惑迷子の蒼井さん宅の双子。彼等はピーナッツバター掛けご飯を掻っ込みながら、堂々と桐ヶ谷家のリビングに居座っていた

 

「だって、朝メシねぇんだもん」

 

「昨日の夜に炊飯器のスイッチを押すのを忘れてちゃったの………というか、ぶっちゃけると朝ご飯とか作るのめんどい」

 

「開き直ってんじゃねぇよ。スグ、何時もの辣油を出してくれ」

 

「お兄ちゃん。またあの訳のわからない辣油を使うの?早死にするよ」

 

開き直る双子に対し、呆れた眼差しを向けながらも和人は直葉に辣油を出す様に要求するが彼の普段の過剰摂取を知るが故に早死にすると突っ込まれる

 

「まぁ、ホントの理由はコイツだ」

 

「あ?MMOトゥモローがなんだよ」

 

「一番上の記事を読んでみてよ」

 

何処からともなく取り出したタブレット端末を見せる天哉に寝ぼけながらも和人が問うと、琴音が一番上の記事を指差す

 

「なになに………遂に発売!シリカのファーストアルバム……」

 

「いやそっちじゃないから。こっちの記事だよ、【最強の伝説級武器《聖剣エクスキャリバー》、ついに発見される!】ってヤツ」

 

何を思ったのか、指を差しているのとは別の記事を読み上げる和人の頭を引っ叩くと改めて、本来の記事を読むように促す

 

「ああ、そっちかー。そうか、発見されたか〜…………なんだとォォォォ!?何処のどいつだ!俺のエクスカリバーを発見したとか言ってやがるのは!抗議の手紙を書いてやる!しかも赤ペンを使った手書きで!」

 

「地味な嫌がらせだっ!!!」

 

狙っていた伝説の武器が発見された事を知った和人。メモ用紙に赤ペンで抗議の手紙を綴り始める兄に直葉は驚愕する

 

「落ち着きな。厳密には発見されただけだ、入手には至ってねぇんよ」

 

「マジでっ!?」

 

「マジもマジ、それも大マジ。どうするよ?ちょいと暴れるか?親友(カズ)

 

「…………ああ、暴れてやろうぜ。兄弟(テン)

 

天哉と和人の瞳が交差し、道化師の笑みと剣士の微笑が直葉たちの視界に焼き付く

 

「「死んでもいいゲームなんて、温過ぎるぜ」」

 

拳を突き合わせ、不敵な笑みを浮かべる二人の少年。長年の付き合い故に視線を合わせずとも、互いの考えを理解しあえる関係性にある彼等には言葉等は不用だった

 

「でもどうやって、取りに行くかがネックだよね」

 

「確かに。極寒の大地である《ヨツンヘイム》では翅を動かすことも容易ではありませんからねぇ」

 

「大丈夫だよ!なんたって、あたしたちには《トンキー》がいるからね!」

 

「トンキー…ああ、いましたね。そんな名前のキモいゲテモノが」

 

「むぅ…キモくないもん!可愛いもん!きっくんのいじわる!」

 

移動手段を考えていた菊丸。その声に反応した直葉が何時ぞやに助けた象クラゲ型邪神の《トンキー》の名を出すも、異業な個性的生物を思い出し、菊丸は苦笑するが直葉はぷくっと頬を膨らませる

 

「なぁ、カズ。偶に思うんだけどよ……スグっちの美的感覚って可笑しくね?」

 

「だよね。眼科を受診するべきだと思う」

 

「う〜ん…まぁ……仕方ないさ…。というか、琴音だけには言われたくねぇ。お前、純平とデートしてたろ」

 

「なにが?素敵な人じゃん」

 

「琴音!?許さんよっ!お兄ちゃんは許さんからなっ!!!ゴリラが交際相手なんてっ!」

 

「あっ。おかわり」

 

「きっくんは図々しい自覚ある?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はエクスカリバーを取りに行くので気合いを入れて行こうと思います!どーですかっ!」

 

ある日の昼下がり。新生アインクラッド第22層の湖畔エリアに新設された《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》のギルドホーム。キリトとアスナが暮らした思い出の家からも近く、リズベットとアマツの武具店も併設される《ALO》屈指の巨大ギルドホームに響き渡るのはキリトの声、それに気付いたソウテンは薄目を開き、親友に目を向ける

 

「どーですかって行けばいいじゃない」

 

「行けばいいじゃないとは何だゴラァ!!発端はテメェだろうがァァァァ!!」

 

「ぐもっ!?頭が割れた!?脳味噌が深刻なダメージを受けたァァァァ!!」

 

投げやり気味に放たれたソウテンの発言に対し、キリトが頭上に踵落としを放つ。余りの痛みに床を転げ回る迷子を気に留める者は誰も居ない

 

「あ〜………ようやくのお正月です……年末は引っ張りだこですよ……まぁ!あたしが可愛いアイドルなのがいけないんですけどね!」

 

「おうおう、シリカっちは相変わらずだな。ウチの会社にもお前のファンけっこういるぜ?流石はアイドル様だな」

 

年の瀬が迫る中、久方振りの休みに項垂れるシリカにクラインが同僚に彼女のファンが居ることを教えれば、彼女は自慢気に慎ましい胸を張る

 

「とーぜんです!あたしは可愛いですからね!ゆくゆくは世界を!そして銀河系をあたしのファンで埋め尽くしてやります!ねっ!レンちゃん!」

 

「私はVRの中だけで満足かなぁ」

 

隣でキャロットケーキを突くウサ耳の相方に同意を求めれば、彼女は目線を明後日の方向に向けながら、頬を掻く

 

「つーか!年末に呼び出すんだから、其れ相応の見返りはあるんだろうな!次は俺の《雷槌ミョルニル》を探すのを手伝え!情報が一つもはねぇけど」

 

「おうおう、グリの字。抜け駆けは良くねぇな。次は俺のために《霊刀カグツチ》取りに行くの手伝えや」

 

「情報が不確かな武器とイカれた暑さのダンジョンにある武器なんか取りに行きたくないから却下だ」

 

「「やんのか、ぼっち」」

 

自分たちの私欲に塗れた対価を要求するグリス、クラインを相手に呟きにも似た悪態を吐く和人に対し、眼の色を変えた二人が喧嘩越しの態度を取る

 

「おいおい、喧嘩はやめないか。ほら、バームクーヘンを食べろ」

 

「毎度のことだが…言わせてくれるか?おめぇはなにをナチュラルにバームクーヘンを焼いてんだよっ!!」

 

「バームクーヘンを馬鹿にするな。いいか?バームクーヘンは俺の騎士道そのものだ」

 

「そんな騎士道は捨てちまえ。それで?ツキシロ……お前は何故、頭に大量の矢が刺さってんだ」

 

間違った騎士道を迷走するディアベルに突っ込みながら、キリトが次に視線を向けたツキシロは頭に大量の矢が突き刺さった状態であるにも関わらず、平然と生きていた

 

「良い質問だな。あれは今から数時間前の話だ、シノンの素晴らしい尻、又の名をシノケツとも言う世界の宝を見ていた俺は----………」

 

「黙ってなさい、変態狼。それはそうと私も欲しいモノがあるのよ…《光弓シェキナー》なんだけど」

 

相も変わらず、シノンの尻についての熱弁を語るツキシロの脳天に矢を突き刺し、物理的に黙らせると彼は腰掛け椅子のような体制で倒れ、その上にシノンは腰を下ろし、伝説武器を要求する

 

「流石はシノンのねーさん。キャラを作って二週間足らずで伝説武器を御所望とはスルメも逆立ちレベルの欲深さだ」

 

「リズが造ってくれた弓とアマツの造ってくれる矢も素敵だけどさ、できればもう少し射程が……」

 

「リズは兎も角として、職人に意見しやがった………!!死ぬ気かっ!?」

 

「明日はシノンさんの命日?リズさんは言われても仕方ないけど」

 

「グリスさんもヒイロも失礼だよ!確かにリズさんはお金に汚いけど、割と職人気質だから信用は出来る…………多分だけど」

 

武器の扱いに厳しいアマツに意見するシノンに戦慄するグリスとヒイロ。其れに突っ込みを放ちながらも、シリカは自信なさ気にリズベットを擁護する

 

「あのねぇ、この世界の弓ってのは、せいぜい槍以上、魔法以下の距離で使う武器なの!モンスターを百メートル離れたところから狙おうなんて、普通はしないの!何処ぞの迷子じゃあるまいし、無茶なことを言わないでくれる?」

 

「リズの言う通りだ、何処かの迷子ピーナッツの様に非常識極まりない発言は控えた方が貴様の身の丈に合っている。理解したか?ヘカ子」

 

「ねぇ?おめぇさんらは俺を交えないとマトモに喋れないの?」

 

「「なんだ、いたの」」

 

「おろ!?さっきから居ますけどっ!?」

 

元より、眼中に存在していなかった道化師が居た事に真顔で言い放つ鍛冶屋コンビ。その扱いの悪さに彼は突っ込みを放つ

 

「取り敢えずだ、景気付けに鍋でもやるか」

 

「おやまあ、ぼっちにしてはナイスアイデアだ。確かに寒い日は鍋に限るからなぁ」

 

「よっしゃ!そうと決まればだ、ストレージにあったのを適当に放り込もうぜ!」

 

「つまりは何時も通りですね」

 

「もぐもぐ……」

 

例によって、定番とも言える鍋を囲み始めるソウテンたち。しかしながら、料理スキル皆無である彼等には明らかに不可能だ。少しでも高いスキルを持っていたなら、別だがミト以外のメンバーが上げている筈も無く、味見係のヒイロが口に運ぶ

 

「ヒイロ。味はどうだ?」

 

「リーダーの足の裏みたいな味がする」

 

「おやまぁ、最悪じゃねぇの」

 

「なら、チーズケーキを入れようよ!」

 

「ついでにバームクーヘンもな!」

 

「生クリームも入れとこうぜ」

 

「総長さんもそっち側?」

 

「諦めなさい……手遅れよ、レン」

 

そう言うと二人のバカと一人の獣がストレージからチーズケーキ、バームクーヘン、生クリームを取り出し、鍋に投入。再び、味見係のヒイロが口に運ぶ

 

「どうです?ヒイロくん」

 

「今度はキリトさんの靴下みたいな味」

 

「おやまぁ、これまた最悪じゃねぇの」

 

「仕方ねぇな!このクラウンバナナを提供してやるぜ!オッさんの力作だ!」

 

「うむ!最高傑作とも言える!」

 

「バカだろ、お前等。限りなくバカだろ」

 

「バナナ好きも極めるとアホだねぇ」

 

「「んだとゴラァ!!迷子にぼっち!!」」

 

「「やんのかゴラァ!!ゴリラブラザーズ!!」」

 

売り言葉に買い言葉、最終的には鍋を囲んでいた全員で乱闘に発展する。刹那、扉が開き、買い出しに出ていたミトとアスナ、リーファの三人が姿を見せた

 

「ただいま。私が居ない間に変なことして…なにしてんのぉ!?」

 

「見て分からねぇの?鍋だ」

 

「鍋なのは見たら分かるわよ。私が聞きたいのは何を入れたのかってことよ」

 

「ピーナッツバター的な調味料」

 

「落花生そのもの」

 

「パスタ的な麺類」

 

「「バナナ」」

 

「フライドチキン的な揚げ物」

 

「その辺の草を少々」

 

「チーズケーキです」

 

「バームクーヘンだ」

 

「一つもマシな食材が入ってないじゃない!!バカどもっ!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

ソウテンたちの頭上に鎌が振り下ろされ、彼等は何時もの様に御決まりの叫び声と共に床に減り込む

 

「とーさんたちもかーさんもいつも通りだなぁ」

 

「マスター・フィリアに思考能力の低下を確認しました」

 

「パパはやっぱりおバカさんですね!」

 

「はぁ………何時もと変わらないなぁ……みんなは…」

 

「ですね…」

 

安定の変わらなさを見せる仲間たちにアスナは苦笑し、リーファも吊られる様に乾いた笑いを浮かべていた




いざ、聖剣を目指して極寒の大地へ!しかし!彼等の道中には危険が盛り沢山!えっ?なぜに?何故、ダンジョン内部にこんな場所が!?

NEXTヒント レンタルビデオ店

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二説 延滞は危険?返却期限は守ろうね♪

キャリバー編二話目!しかし!作者は考えた!ただでさえ、少ない話を如何に引き延ばせるかを!その果てに!階層ごとにイカれた設備を作ればいいと考えついた!故に!この章は十話くらいを予定しています♪


「えっ?カキフライついでにちょっとジョナサンしてきたら、アンコールしたプリンとパンナコッタが存在しない?何を言ってんの?おめぇさんは?バカなの?ぐもっ!?」

 

「どういう耳をしてるのよっ!!買い物ついでにちょっと情報収集してきたけど、あの空中ダンジョンに到達したプレイヤーまたはパーティーはまだ存在しないって言ったのよ!!」

 

聞き間違い以前に意味不明な事を口走るソウテンの頭上に御約束を決めたミトは未だに怒りが冷めておらず、鎌を肩に担いでいる

 

「殴るわよっ!」

 

「もう殴ってるよ?かーさん。まぁ、相変わらずなとーさんの聞き間違いは放っておくとして……情報に寄ると、前に《ヨツンヘイム》で発見したトンキーのクエストとは別のクエストがあったらしいんよ」

 

「そのクエストに提示された報酬がエクスキャリバーだったみたいです」

 

「なるほど、別クエストですか。確かに……あの奇妙な生物を手懐けたがる人はスグちゃん以外にいないでしょうね」

 

「奇妙じゃないもん、可愛いもん」

 

「リーファさんって美的感覚がおかしいよね」

 

「仕方ないよ。だってキリトさんの身内だよ?」

 

「ヒイロくーん、シリカさーん?本人がいるのによくもまぁ、ぬけぬけとそういうことが言えるよなぁ?お前等は」

 

「「………居たんだ」」

 

「居たわっ!!!」

 

「どんまい、元気出せよ。キリト」

 

「慰めるなっ!バカテン!!」

 

話の脱線という名の漫才的なやり取りが始まる中、冷静にクエストの事を考えている面々は会議を続ける

 

「でも、聞く限りは平和的なクエストとは言い難いのよね。お使い系じゃなくてスローター系らしいのよ、内容が内容なだけにテン辺りが喰いつきそうな感じなのよねぇ」

 

「うんうん、キリトくんも喰いつくよね」

 

内容が内容なだけに何処かのバカが、というか約二名が喰いつきそうだとミトとアスナは其々の恋人に視線を向ける

 

「「やだなぁ、そんな人を暴走機関車みたいに」」

 

「暴走機関車なんか可愛いものよ。二人はどちらかと言うとバーサーカー………いや、バカなバーサーカーを略して、バーカーサーね」

 

「「変な造語を作んじゃねぇ!!鍋女!!」」

 

最初は何故か褒め言葉の類いと受け取っていたバカコンビであったが、新たに生み出された造語を耳にした途端、両眼をくわっと見開き、吠える

 

「でもよお……変じゃねぇ?」

 

「あ?何がだよ。クライン」

 

「いやな、《聖剣エクスキャリバー》ってのは、おっそろしい邪神がウジャウジャいる空中ダンジョンのいっちゃん奥に封印されてんだろ?」

 

「確かに……言われてみりゃあ、腑に落ちねぇな。どうなってんだ?」

 

「行けばわかるわよ」

 

「そうだよ。総長さんも、グリスさんも、クラインさんも考えるよりも先に行動!だよ」

 

「レンっちの言う通りだ……リズ、職人」

 

「「全武器フル回復オーケー」」

 

難色を示すグリス、クライン、ツキシロに行動する事を提示するレンの頭に手を置き、不敵に笑う道化師は鍛冶師たちに呼び掛ける。その言葉に反応した二人は武器を手に鍛治工房から姿を見せる

 

「派手に行くぜっ!野郎ども!」

 

「「了解!リーダー!!」」

 

「お前等も荒れるぜっ!絶対に止めるなっ!」

 

「「アイアイ!総長!!!」」

 

二人のリーダーの呼び掛けに応え、準備を終えた《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》は極寒の大地に旅立つ。余談だが《荒野の獣人(ウィルダー・セリアン)》は吸収され、別動隊という扱いに落ち着いている

 

「長え階段だな……」

 

「これを降りるの?なんか底が見えないんだけど」

 

「距離だけで言えば……アインクラッドの迷宮区のタワー1つ分はあるわね」

 

「「うわぁ………」」

 

底が見えない階段にツキシロ、レンが苦笑するとミトがその距離を答える。その言葉に二人は一気に疲れた表情を見せる

 

「うへぇ……エレベーターはねぇのかよ」

 

「あったら階段なんか降りてねぇよ。まぁ、どっかに手足の生えたエレベーター的なモンスターならいるかもしれんが」

 

「手足が生えてる時点でエレベーターじゃねぇだろ!!というか、居たら気持ち悪いわ!!」

 

同様に階段降りに文句を言うクラインに突っ込みを放ちながらも安定の素っ頓狂発言を繰り出すソウテンであったが、逆に突っ込みを放たれていた

 

「いいか?通常ルートでヨツンヘイムに行こうと思ったら、最速でも2時間はかかるとこを、ここを降りれば5分だぞ。文句を言わずに、一段一段感謝の心を込めながら降りたまえ、諸君」

 

「おめぇさんに感謝するくらいなら、俺は道端の石ころに感謝する」

 

「迷子は黙ってろ」

 

「迷子じゃない」

 

「じゃあ、俺はシノケツに感謝を」

 

「アンタ……今直ぐに階段の最下段に叩き落とすわよ」

 

「総長さん!血が出てる!」

 

我が物顔で感想を要求するキリトに対し、ソウテンが反論を返せば、安定の答えを返され、階段を降りながら殴り合いの喧嘩を始める。それを尻目に目の前で尻尾を揺らすシノンの臀部に拝むツキシロの顔面に矢が突き刺さっていた

 

「でだ、トンキーに乗れる上限とかはどうすんだ?」

 

「問題ない………ヤキトリ」

 

「ピヨ」

 

ヨツンヘイムに辿り着き、トンキーに乗れる上限を考えていたグリス。それに気付いたヒイロは肩に乗っていた使い魔のヤキトリに呼び掛ける

 

「そうか、確かヤキトリは巨大な鳥になれたな」

 

「うん。ピナでも良いけど、寒さに強いヤキトリの方が暖を取れる」

 

「流石はヒイロだ!我がギルド随一の知恵者よ!」

 

「そうでしょう、そうでしょう。僕の親友ですからね!」

 

「なんで?きっくんが誇らし気なの?」

 

「今更だけど、ヒイロはテンちゃんレベルの策士だよね」

 

抜かりのないヒイロの策士振りにディアベル、コーバッツが褒め讃えれば、何故か自慢気に胸を張るヴェルデにリーファが突っ込みを放つ。その隣ではフィリアが弟分が兄に似ている事を肯定し、頷いていた

 

「つーか、落ちたらどうなるんだ?これ」

 

「極寒の大地を彷徨う事になるな、現に最初はそうなったし。どうだ?ツッキーも落ちるか?」

 

「テメェが落ちろや。迷子」

 

「ああん?んだと?尻野朗」

 

「シノン。ああいう時は放置しておくのよ、触らぬバカに祟りなしよ」

 

「そうね」

 

睨み合う道化師と狼とは裏腹に死神と女神は意気投合し、互いの想い人の姿に白けた視線を向けていた

 

「生クリームバカ!」

 

「ピーナッツジャンキー!」

 

「銀髪!」

 

「仮面!」

 

「レベル低っ!?」

 

「あれ?なんかいますよ?」

 

睨み合いから一転し、レベルの低い口論にレンが突っ込みを放つ。刹那、リーファたちを乗せたトンキーが誰かと会話している姿にシリカが気付いた

 

「妖精たちよ、私は《湖の女王》ウルズ」

 

「妖精というか道化だけどねぇ」

 

「獣もいんぜ?」

 

「黙ってなさい」

 

「「あい……」」

 

突如、語り掛けてきた巨大な女性に対し、自分たちの種族訂正を試みるソウテンとツキシロにミトが怒気を放ち、黙らせる

 

「かつて、このヨツンヘイムは、其方等のアルヴヘイムと同じように、世界樹イグドラシルの恩寵を受けていました。しかし、霜の巨人の王スリュムが、《エクスキャリバー》を泉に投げ入れました。その結果、剣は大切な根を断ち切り、恩寵を奪ったのです」

 

「ふむ……すると、別クエストに提示された報酬はブラフ……真っ赤な偽物という事になりますね」

 

「左様です……その剣は鍛治の神が《かの剣(エクスキャリバー)》を鍛える際に打ち損じた見た目の酷似した偽物のことでしょう」

 

「ほう………鈍を与えようとは……鍛冶屋を冒涜するにも程がある………テン!この依頼は完遂以外を認めんぞっ!!」

 

「そうよ!鍛冶屋をバカにしやがって!そのスリュムだかガリガリだか知らないけど!其奴の顔面に飛び蹴りしてやるわよっ!!」

 

「あー……我等が職人夫妻に火が点いたか………仕方ねーな。Déjamelo a mí(お任せを)、その依頼。この道化師(クラウン)が承りました」

 

鍛治屋としてのプライドが許さないのか、火が点いたかの様に燃えるアマツとリスベットの後押しもあり、ソウテンはウルズに深々と頭を下げる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そいで?なんとかダンジョンに来た訳だが………どうなってんの?これは」

 

ダンジョンに足を踏み入れたソウテンたち。然し、其処に待ち構えていた光景に彼等は驚きを隠せない。邪神が蔓延る殺伐とした殺気に溢れた場所を想像していた彼等にとって、目の前に広がる光景は異業の一言だった

 

「「いらっしゃいませー。ようこそ、レンタルショップヨツンヘイムへ」」

 

「「何故にレンタルショップ!?」」

 

そう、其処は昔懐かしいレンタルビデオ店だったのです




レンタルショップヨツンヘイム、其処に待ち構えていたのは霜の王に仕える四本槍が一人!霜の店長!定時で帰る?認めんぞ!残業せんかぁぁぁぁ!!!

NEXTヒント 一人でできるもん

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三説 残業がなんだってんだ!こちとら残業代も出ねぇんだよ!!

今宵はギャグ時空に最強展開!つまりはオリジナル!原作ガン無視!つまりは自分の得意分野!あと今、コラボしてくださってるポンコツNOさんにちなんで、仮面ライダーネタをぶっ込んだりしてます☆

余談ですけど、迷双子は迷双子(めいそうし)と読む作者オリジナルの造語だぞ☆


「何がどうなってんだ!?」

 

「落ち着け。こういう時は状況整理をすりゃあ、大抵が上手く行く様になってんだ」

 

目を点にし、驚愕するグリスに落ち着く様に促すのはソウテン。何事にも動じない姿は流石は癖者集団を束ねるリーダーと呼ぶべきだ

 

「素敵よ、テンのそういう何事にも動じない精神は見習うべきと思うわ。迷子なのがたまに傷だけど」

 

「そうだろう、そうだろう……おろ?なんかバカにしてなかった?今」

 

「気のせいよ」

 

正に上げて落とすを体現して見せるミトは違和感に気付いたソウテンの指摘を綺麗な笑顔で躱す

 

「然し……伝説に準えたクエストで意味不明な仕様が交じるってのはどうなんだ?」

 

「今に始まったことじゃねぇよ、こんくらいは普通だ………あっ!仮面ライダー滅○迅○あんじゃん!!おもしれぇんだよなぁ〜これ〜」

 

「ありふれてるとも言えるよな………おおっ!○L ○A○Kと続編のR○がある!しかも限定盤だとォォォォ!?」

 

「ば、バ○カ○じゃねぇかァァァァァァ!不破さんだ!マジパネェェェェェ!!」

 

「おぃぃぃぃ!!何を悠長に仮面ライダーを物色して………なにぃぃぃぃ!?コイツは!!仮面ライダーディ○イ○か!?マジで!?」

 

ミイラ取りがミイラになるとは正にこの事。男子ならば食いつきを見せない筈が無い特撮シリーズの荘厳なラインナップにバカトリオと赤狼は騒ぎ始める

 

「………○ッキン○パ○のDVDだわ!しかも全巻!?それにこっちは孤○のグ○メ全シリーズ!ちょっと!なにこれ!最高じゃないの!」

 

「ミトさんってたまーに変になりますよね」

 

「元から変だよ」

 

「ですね。なにせ、リーダーの恋人ですから」

 

「それもそうか」

 

「シバくわよ、アンタら」

 

「「「すいません、調子こきました」」」

 

最早、常識人であった頃は皆無な姿に年少トリオが呆れ果てていると件の人物(ミト)がぎろっと睨み、鎌をちらつかせる姿に三人は土下座を繰り出す

 

「ふっふっふっ、お気に召したかね?このレンタルショップヨツンヘイムはありとあらゆる作品を網羅している……無論、珍しい動物もね」

 

「ププーン」

 

突如、姿を見せた筋骨隆々な男性。その体に身に付けたエプロンは御世辞にも似合っているとは言えず、何かを値踏みする視線も信用に足らない。そして、更に驚くべきことは彼の肩に座る一匹の生物、其れを見たソウテンたちは目を見開く

 

「プーン?ププ〜ンッ!?」

 

「プルーがもう一匹!?」

 

そう、色の濃さや目付き等に僅かな違いが見受けられるが、其れはプルーと瓜二つの姿をした謎生物だったのだ

 

「いや!一匹どころじゃない!あっちにたくさんいたぞっ!」

 

「しゃぶ太郎の仲間か?」

 

「しかしだな、職人。ワンコくんは《SAO》のモンスターの筈では?確か、テンが釣り上げたと記憶しているぞ」

 

「仲間ってことか?いや……そもそも、その前に一つ聞いていいか?ミト、キリト」

 

「どうしたの?テン」

 

「なんだよ」

 

名を呼ばれ、彼の方に視線を向ける二人。当の本人は愛犬を見つめながら、その体を抱き抱えていた

 

「そもそもプルーってなんだ?」

 

「「知らないで飼ってたのかよ!!」」

 

まさかの発言にミトが御約束を放ち、キリトも蹴りを放つ

 

「ぐもっ!?いやだって!今までは深く考えてなかったから、別に気にしないでいいやって思って!」

 

「はぁ……なんでこんなバカを好きになったのかしら……」

 

「プルーはプルーだろ。お前の愛犬で俺たちの大事な家族、それ以外の何者でもないさ……だよな?プルー」

 

「ププ〜ン」

 

ソウテンの言い分に対し、彼を好きになった事を後悔するミト。一方でキリトは優しくプルーの頭に手を置き、親友に愛犬の存在は大事な家族であると諭すがプルーは置かれた手を叩く

 

「なにしやがんだァァ!駄犬!」

 

「おいコラ、プルーを駄犬とか言うな。プルーは大事な家族だ」

 

「リーダー。それは今、キリトさんが言った」

 

突然の反乱にプルーに空手チョップを叩き込むキリト。その様子にソウテンは何気に親友の名言をさらりと放つが、ヒイロの鋭い突っ込みが入る

 

「キリトの名言は俺の名言だ」

 

「ジャイアニズムも大概にしろ!迷子!」

 

「んだとコラァ!やんのかっ!?ぼっち!」

 

プルーを他所に喧嘩を始めるバカコンビ。然し、他の面々の表情は穏やかではなかった

 

「して、貴殿は何者だ」

 

「我が名はレンタルショップヨツンヘイムの守護を任された四本槍が一人!霜の店長の呼び名を持つテンチョウ!残業代を払わずに人々を働かせる企業戦士なり!!」

 

「なんですって!」

 

「残業代を払わないだと……!!」

 

「ブラック企業ではないですか!!!」

 

「人でなしだ」

 

「ホント!ろくでなしだね!」

 

「人間として難ありだな」

 

「金がねぇとバナナが買えねぇ!!」

 

「というか名前がそのままだ!!」

 

「安置ネーミング!!」

 

コーバッツからの問いに答えたエプロン不釣り合い男性基テンチョウ。その名乗りと共に放たれた悪意ある行動にミトたちは戦慄していた

 

「残業代を払わない………愚か者ォォォォ!!」

 

「おごっ!?」

 

「コーバッツ!?どしたっ!?」

 

突然の豹変を見せ、テンチョウの顎にアッパーを叩き込むコーバッツ。其れに気付いたソウテンが目を見開き、彼に問いを投げかる

 

「この世には………この世にはな……払わない以前に………欲しくても………

 

 

 

 

貰えない者もいるんだぞォォォォ!!!

 

「「ものすごい説得力だ!!!」」

 

公務員という職種であるが故に残業代そのものが存在しないコーバッツの叫び。あまりの説得力に全員が肯定しながら、驚愕していた

 

「テンチョウとやら……貴殿には教育的指導が必要らしいな。不肖!このコーバッツ、貴殿に一騎打ちを申し込む!!」

 

「ほう!階層ボスの一人である私にかね?猿の妖精よ」

 

「猿………ふっ、何を言うかと思えば……ふははは!!」

 

「コーバッツ?」

 

「どうした!?オッさん!」

 

テンチョウからの呼ばれ方に対し、気が狂ったかの様に笑うコーバッツ。彼の唐突な豹変にソウテンは表情を引き攣らせ、グリスは彼に呼び掛ける

 

「いや、なんでもない。それはそうとテンよ……ここは私に任せてくれるか?」

 

「おろ?別に良いけど……深くは聞かんでおくよ」

 

Gracias(ありがとう)。それでは……貴殿たちは先に行くといい」

 

何時になく真剣なコーバッツからの問いにソウテンは驚いた様子を見せるが、即座に彼の熱意を見抜き、追求しようとはしなかった

 

「何を言ってんだ!オッさん!?」

 

「そうだ!一緒に戦うぞ!コーバッツ!仲間じゃないか!」

 

「ふっ……その気持ちだけを受け取っておこう。ディアベルよ……私の生徒たちを頼んだ」

 

「コーバッツ………分かった……行こう!テン!みんな!」

 

「ああ……コーバッツ、任せた」

 

「うむ」

 

「必ず来いよ!オッさん!」

 

「コーバッツ!おめぇ!漢だ!」

 

「立派なオッさんだ!ゴリラみてぇなくせに!」

 

「ツキシロさんは褒めたいの?貶したいの?」

 

コーバッツを残し、次の階層に走り出すソウテンたち。去り行く仲間の声を背に受け、彼は手にした斧を持つ手に力を込める

 

「言い残す言葉はあるか?猿の妖精よ」

 

「最初に言っておくとしよう……我が名はコーバッツ!!泣く子も笑う《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》が一人!農家の字名を持つ道化なり!!私の強さは泣けるぞっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(バナナ農場でまた会おう、我が家族よ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そいで?なんとか第二階層に来た訳だが………どうなってんの?これは」

 

第二階層に足を踏み入れたソウテンたち。然し、其処に待ち構えていた光景に彼等は驚きを隠せない。二度あることは三度あると言うが、まさかのあり得ない光景、目の前に広がる光景は異業の一言だった

 

「レッツ・クッキングと参ろうか……このシェフスマイルを見よっ!!」

 

「「何故にクッキングスタジアム!?」」

 

そう、其処は昔懐かしいクッキングスタジアムだったのです




次なる第二階層に待ち受けていたのはクッキングスタジアム!そして、現れるは霜の王に仕える四本槍が一人!霜の料理人!御通しのカット?んなもん、認めるかっ!!御通しも代金に含んでやる!!

NEXTヒント 迷双子クッキング

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四説 御通しカットは認めない?お水はセルフです!!

今回もボケ倒します♪ちなみにコーバッツの活躍は暫くは書きません♪えっ?書けないだけだろって?違いますぅ、後で書くんですぅ。因みに今回の話に出てくる話題は全てが自分の主観ですので気を悪くした方がいたら、申し訳御座いません(土下座)


「レンタルショップの次はクッキングスタジアム!?最早、意味わからねぇどころか頭がおかしくなりそうだ!」

 

「全くだぜ!ツキシロの言う通りだ!顔から屁が出そうだ!」

 

困惑するツキシロに同調するかの様に、同意を示すグリスであるが何を言いたいのかが理解出来ない謎の諺を使用し、ソウテンたちは首を傾げていた

 

「グリスさん?顔から出るのは火ですよ?というか使い方が間違ってます」

 

「今更だよ。だってグリスさんだよ?」

 

「そうそう、グリスさんだもん」

 

「おいコラ!チビども!張り倒すぞっ!!」

 

「「「やれるもんなら、やってみな。ゴリラ」」」

 

「ゴリラじゃねぇわっ!!チビども!」

 

「「「「「えっ」」」」」

 

「真顔で驚いてんじゃねぇっ!!」

 

真顔で驚愕するソウテンたちにグリスの突っ込みが飛ぶのは日常茶飯事のありふれた光景である事は言わずもがなである

 

「な、なんですって!?」

 

「どしたんよ。ミト」

 

慣れ親しんだグリス弄りを他所に、ミトはメニュー表を見た瞬間、有り得ない物を見たかのように驚きの声を挙げた。其れに気付いたソウテンは呑気に問い掛ける

 

「コース料理につきましては御通しも料金に含むですって!?ただでさえ、良くわからない料理を食べさせられる事に憤りを感じるのに……料金を取るなんて!極悪非道だわ!最近では御通しカットも普通なご時世に、その料金込みのコース料理をメニュー表に載せるなんて!許されないわ!訴えるわよ!そして勝つわよ!」

 

「リーダー。ミトさんが荒ぶってる」

 

「複雑なお年頃なんよ。そっとしといてやんな」

 

「そうですよ、ヒイロくん。皆が皆、スグちゃんみたいに単純な思考回路をしている訳ではないんですよ」

 

「そうそう、あたしって単純だから、難しい事を考えるのが苦手で………って!誰が単純よっ!!!」

 

「相変わらずノリツッコミがお上手ですね」

 

「褒められても嬉しくないっ!!」

 

荒ぶるミトに驚くヒイロを諭すソウテン。その隣ではヴェルデが恒例とも言えるリーファ弄りに勤しんでいた

 

「忘れもしないわ……あれは雪の降る寒い夜……いや、暑さが残る残暑の厳しい秋だったかしら?」

 

「「「どっちだよ!!!」」」

 

急に昔語りを始めようとしたかと思えば、冒頭から躓くミトに全員からの突っ込みが飛ぶ。普段が真面であるが故に急な迷走には誰もが突っ込みを放つのは至極当然と言える

 

「思い出したわ!雪解けした春先だったわ、確かそうよ。うん、そうだったわ」

 

「「「全然違うじゃねぇか!!」」」

 

「雪解けしてきた春先、私は父さんと母さんと一緒に少し高級な小料理屋さんに行ったわ……」

 

「続けてるんだけど……テンちゃん、止めないの?」

 

出端を挫いたにも関わらず、何事もなかったかの様に続けるミト。その姿にフィリアは傍観していた兄に問う

 

「えっ?何故に?昔語りするミト、すげぇ可愛いじゃん」

 

「うわぁ……わたしの知ってるテンちゃんじゃない。他人に甘いとか」

 

然し、返ってきたのは自分の知る彼からは想像もつかない甘さに溢れた言葉。兄の変化にフィリアは引き気味の表情を見せる

 

「諦めろ、フィリア。ミトの事になるとテンはすんげぇ甘くなるんだ」

 

「時の流れってやつかな」

 

「なんか分からんが失礼な事を言われてるんは分かんぞ」

 

昔の彼を知る故に遠い目をするキリトとフィリア、それを聞き逃さなかった道化師はぎろりと彼等を睨み付ける

 

「ほっ〜ほっほっほ!トラットリアヨツンヘイムにまでやって来るとは中々の見所がある様ですね。よろしい、特別に御通しのひじきの煮物を差し上げましょう」

 

「「いらん」」

 

「「「おぃぃぃぃぃ!何を言ってんだ!!こんの迷双子(ファンタジスタ)!!!」」」

 

突如、姿を見せた晴天を突くコック帽の男性。その胡散臭い見た目はソウテン以上に信用に値せず、誰もが引き気味の視線を向けていた。然し、其れに物怖じしない二名の迷子、彼等は双子ならではの一言一句違わない返答を食い気味に返した

 

「……は?今なんと?私も耳が悪くなりましたかね?」

 

「メキシコにそんな文化はないよ」

 

「スペインにもねぇな」

 

「だから……」

 

「「超いらん」」

 

聞き返すコック帽男性に対し、自分たちの血筋には存在しない文化であると断言し、極め付けには先程の返答に超を付け足した更なる否定を返す

 

「誰か黙らせろ!あの迷子共を!今すぐに止めろ!」

 

「無駄だよ…お兄ちゃん……二人を止められたことないんだから……」

 

「最悪だ!!ミト!お前の管轄だろ!お願いします!!」

 

止まらない迷双子の暴走にキリトは止める様に呼び掛けるが、昔からの付き合いであるリーファが遠い目で諦めた雰囲気を醸し出し始め、最後の頼みであるミトに呼び掛ける

 

「それでね、御通しをカットするかしないかで二人がすごく揉めてたの。子供心に思ったわ……これが家庭崩壊なんだって……あら、キリト。なんか言った?」

 

「うん……話を聞いてなかったのは分かった…なぁ、プルー……お前の主人たちはアホだな」

 

「ププ〜ン」

 

止める以前に昔語りに夢中な余り、話を聞いていなかったミト。一方でキリトは優しくプルーの頭に手を置き、彼の主人たちの理解不能さに呆れるがプルーは置かれた手を叩く

 

「なにしやがんだァァ!駄犬!」

 

「おめぇさん、すんげぇプルーに嫌われてんな。何をやったんよ」

 

「きっと…犬に嫌われやすいのよ」

 

「というか犬なの?プルーは」

 

「何を言ってるの?リーファは。ほら、まごう事なき犬じゃん」

 

「プ〜ン」

 

(…………えっ?何処が?フィリアの目はどうなってんの?あたしがおかしいの?)

 

突然の反乱にプルーに空手チョップを叩き込むキリト。その様子にソウテンとミトは可哀想なものを見る視線を向け、リーファは犬であるかも疑わしいプルーを抱き抱え、犬だと断言する親友に心の中で突っ込む

 

「それはそうと、おめぇさんはどちらさんだ」

 

「我が名はトラットリアヨツンヘイムの守護を任された四本槍が一人!霜の料理長の呼び名を持つリョウリチョウ!さぁさぁ、お立ち合い!我が料理の前にひれ伏せ!ちなみにお水は一杯10万円となっております!」

 

「なんですって!」

 

「あの某プロの代表アニメに出てくる有名三悪人でさえも思いつかないぞ……!」

 

「極悪非道ではないですか!!!」

 

「人でなしだ」

 

「ホント!鬼の所業だよ!!」

 

「飲食店にあるまじき行為だな」

 

「御通しってなんだ?」

 

「グリスさんのそういうところ素敵……」

 

「フィーっ!?許さんからなっ!こんなゴリラが交際相手なんてっ!」

 

「さっきのテンチョウと言い、どうにかなんないの?名前」

 

「言うだけ無駄ですよ……リズさん」

 

「なんでかな……テンくんたちといると非常識さに慣れていく私がいる…」

 

ソウテンからの問いに答えたコック帽男性基リョウリチョウ。その名乗りと共に放たれた悪意ある行動にミトたちは戦慄し、リズベット、リーファ、アスナは呆れていた

 

「水が一杯10万円…………ハジケ奥義・スリッパクラッシュ!!」

 

「ぐおっ!?」

 

「どうした!?テン!お前らしくもない!」

 

突然の豹変を見せ、リョウリチョウの顔面をスリッパの裏でぺちぺちと叩くソウテン。其れに気付いたキリトが目を見開き、彼に問いを投げかる

 

「いいか……水ってのはな命を紡ぐ大切な生命の源なんよ………それを……それを………

 

 

 

 

金稼ぎに使うとかありえねぇ!!!

 

「「まさかの真っ当な意見!!!」」

 

普段からは想像もつかない真っ当な正論を口にするソウテン。普段がおふざけ全開であるが故に偶に出す正論に全員が仰天していた

 

「リョウリチョウだったか?おめぇさんにはちょいと料理の何たるかを教えてやらんと駄目みたいだな。ミト、フィー!3狩リアだ!!」

 

「任せなさい。この程度の奴は朝飯前………否!湯沸かし前よ!」

 

「メキシコ仕込みのラテン系料理を喰らわせてあげるんだから!!」

 

「ほう……私と3狩リアですか……よろしい!スー・シェフにトゥルナン!おいでなさい!」

 

「「お呼びで?リョウリチョウ」」

 

リョウリチョウを相手に3狩リアを申し出るソウテン、その傍らには鍋片手にミトとタコスを片手にフィリアが控え、対するリョウリチョウは部下であるスー・シェフとトゥルナンを呼び出す

 

「テン……」

 

「先に行け。俺たちも後から追いかける」

 

「でも!リーダーは致命的な迷子!目的地に辿り着く事は不可能です!」

 

「安心しなさい。私が責任持って連れていくわ」

 

「ミト……きっとまた会えるよね!」

 

「ええ、会えるわ。だから……行くのよ!アスナ!」

 

「グリスさん……後から追いかけます、この落花生を私の代わりだと思って食べてください」

 

「フィリア……ありがとよ、行ってくる!」

 

「何時もこうなの?この人たちは」

 

「意味がわからないのはわたしだけかなぁ……」

 

「ほら、シノンさんもレンちゃんも行くよー」

 

ソウテンとミト、フィリアを残し、次の階層に走り出すキリトたち。去り行く仲間の声を背に受け、彼は手にした槍を肩に担ぎ、不敵に笑う

 

「さてさて、お立ち合い……今宵の演目は!泣く子も笑う《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》が筆頭格のソウテン並びにミトとフィリアが御送りする幻想世界での浪漫喜劇に御座います」

 

「「どうか暫しのお付き合いを……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(((明日の朝はT・K・Gにしよっと)))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?なんとか第三階層に来た訳だが………どうなってるんだ?これは」

 

第三階層に足を踏み入れたキリトたち。然し、其処に待ち構えていた光景に彼等は驚きを隠せない。仏の顔も三度までと言うが、まさかのあり得ない三度目の光景、目の前に広がる光景は異業の一言だった

 

「チェッカーフラッグ!勝てば官軍負ければ賊軍!!この世は大サーキット時代!!」

 

「「何故にレーシングサーキット!?」」

 

そう、其処は昔懐かしいレーシングサーキットだったのです




第三階層に広がるのはレーシングサーキット!レースに出なければ進めない!?でも大丈夫!内には何でもできる最強のアイツがいる!敵は霜の整備士長だと……!?

NEXTヒント お前がやらねば誰がやる

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五説 漢の生き様!走り抜けるよ!レッツ・レーシング!

仕方ない……今回は見せましょう!コーバッツは活躍を!皆さんが望むコーバッツを!


「………ぐっ!?中々にやるではないか!テンチョウ!我が斧をこうも容易く躱すとは……相当な武人であると御見受けする」

 

「はっはっはっ、お褒めに預かり光栄だ。して?今迄に其方の斧を躱した者は如何程なのだ?」

 

「十人だ」

 

「割といるんかいっ!?」

 

レンタルショップヨツンヘイム、其処は知る人ぞ知る穴場とも名高い伝説のレンタルショップ。そして、今この伝説のレンタルショップにて、(ゴリラ)の中の(ゴリラ)と悪徳雇われ店長による熾烈な残業代を巡る争いが繰り広げられていた

 

「そうだな……割といる。否!貴殿はその中でも最弱だがな!」

 

「なんだと?聞き捨てならんな、その言葉は。我こそは四本槍が一人!霜の店長の呼び名を持つテンチョウ!」

 

「其れは二十分程前に聞いた。だがな…貴殿が如何に名だたる名将であろうと私の知る武人たち……私の生徒(・・・・)の方が強い。彼等は地獄と呼ばれた世界を生き抜き、世界を彩る為に現実()を楽しむ事を最優先としている………故に!私は生徒(彼等)を導く!それが教師としての我が役割!残業代が出ない?そんなものはいらんわっ!!生徒の為ならば、我が身が朽ち果てようとも、このコーバッツ!これより先に待つ家族の下に参る為、押し通る!!!」

 

「押し通る?猿の妖精よ、其れは死を覚悟したと捉えてよいのだな?」

 

ぎりっと奥歯を噛み締め、前方のコーバッツを見据え問いを投げかけるテンチョウに対し、彼は斧を握り直す

 

まさか……貴殿を叩き潰すという意味だっ!!!

 

予想もしていなかった返答、その顔には不敵な笑みが浮かび、まるで《蒼の道化師》と呼ばれるギルドリーダーを彷彿とさせるその表情にテンチョウは息を飲む

 

「倒すだと?我を…世迷言を!!」

 

「世迷言上等!!我が生涯にて尊敬する者は如何に道に迷っても、自分らしくある事を忘れぬ道化師(クラウン)……ならば、我等もその隣を歩むまでの事!喰らうがいいっ!!」

 

嘲笑いながらもテンチョウが駆け出すと同時に、コーバッツは啖呵を切りながらも自らが尊敬してやまない道化師と共に歩み続ける事を宣言し、テンチョウを天高くに放り投げ、体制を崩したのを見逃さず、懐に入り込む様に飛び上がる。頭から落下するテンチョウの上付近に飛び上がったコーバッツは体を螺旋回転させる

 

「ハジケ奥義・突貫ネジマキ螺旋!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!?」

 

まるで貫き通す螺子の如く、コーバッツの放った螺旋回転はテンチョウを貫き、響き渡る断末魔と共にその姿を四散させていく

 

「勝利のバナナスムージーは美酒に勝るとはこの事だな!今行くぞ!家族たちよ!!」

 

かくして、レンタルショップヨツンヘイムでの戦いはコーバッツの勝利に終わった。後に彼がハジけを極めた教師、ハジケティーチャーと呼ばれることは、今はまだ誰も知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レンタルショップにクッキングスタジアムの次はレーシングサーキットだと……!?」

 

「このゲームはファンタジーなんじゃないの?何処にも要素が見当たらないんだけど、なに?迷子なの?」

 

「総長さんもシノンさんも落ち着いてよ。ほら、あっちは落ち着いてるよ?」

 

レンタルショップとクッキングスタジアムよりも先の階層に進んだキリトたち。その先に待ち受けていたレーシングサーキットに困惑するツキシロとシノン。然し、二人に落ち着きを促すレンは困惑している事に変わりはないが視線の先にいたキリトたちを指差す

 

「レーシングサーキットか。前にみんなでやった配管工カートを思い出すな」

 

「ああ、キリトくんが自分で自分の罠に引っかかった挙句にミトに完膚なきまでに負けてたゲームだよね」

 

「リーダーは逆走してた」

 

「仕方ありませんよ、迷子(リーダー)ですからねぇ」

 

「というかスタートした瞬間に逆走っておかしくない?まぁ、リーダーさんだから今に始まったことじゃないんだけど」

 

「テンくんもだけどフィリアも変だよ。だって、同じ道を行ったり来たりしてたんだよ?」

 

「なにせ、兄が迷子(リーダー)ですからねぇ」

 

「迷子の子は迷子」

 

「ヒイロくん?それを言うなら蛙の子は蛙よ」

 

レーシングサーキットの話題から一瞬で脱線するのは当たり前の光景とも呼べる。如何なる時も変わらずにふざける、其れが彼等の持ち味と呼ぶべきハジケ道(スタイル)、正に独壇場である

 

「ほう………」

 

「どうしたのよ?アマツ」

 

唯一、騒ぎに参加していなかったアマツは本業(ボケ殺し)を疎かにしながらも、レーシングサーキットに興味を示していた。其れに気付いたリズベットが意外そうに問い掛ける

 

「このレーシングサーキットだが……由緒あるモンテカルロ市街地を参考にしているようだ。子ども時代に親父に連れて行ってもらったレースで観た経験がある……確かバルバジュアンという料理が美味だった」

 

「料理しか覚えてないじゃない!?」

 

「記憶とは料理の思い出だからな」

 

「ヴェルデ。職人は今日も意味分からないね」

 

「職人ですからねぇ。スグちゃんみたいに心までが筋肉な訳ではないだけを良しとしましょう」

 

「そうそう、あたしって心までが筋肉だから、昔を懐かしむ気持ちが………って!誰が心までが筋肉よっ!!!」

 

「本日二度目にも関わらず、ノリツッコミがお上手ですね」

 

「だから褒められても嬉しくないっ!!」

 

アマツの意味不明な言動に難色を示すヒイロを咎めながらも、ヴェルデは恒例とも言えるリーファ弄りに勤しんでいた

 

「全く……仕方ない奴らだ。なっ?プルー」

 

「ププ〜ン」

 

弟分たちの姿にため息を吐きながらもプルーの頭に手を置き、同意を求めるキリトであったが本日三度目のあしらいを受ける

 

「なにしやがんだァァ!駄犬!」

 

「プルーは駄犬じゃないよ。リーダーがしっかりと躾けてる」

 

「でも前にとーさんがキリトの写真を見せて、「ほ〜ら、こいつがぼっちだ。よぉ〜く覚えろよ?いいな?プルー」とか言って、何かを仕込んでたよ」

 

「そうか………後で彼奴にはピーマンを鼻に詰め込むの刑に処してやらないとな」

 

「パパがテンにぃに嫌がらせしようとしてますよ!ママ」

 

「テンくんが愛されてる証拠だよ」

 

突然の反乱にプルーに空手チョップを叩き込みながらも、親友が自分を嫌う様に躾けていたと知るや否、彼の嫌いなピーマンを鼻に詰め込むことを誓うのであった

 

「それで?貴様は何処の誰だ」

 

「我が名はサーキットヨツンヘイムの守護を任された四本槍が一人!霜の整備士長の呼び名を持つセイビシチョウ!我が最強のレーシングカートとデッドヒートを繰り広げようぞ!」

 

「なっ……なんだと!?」

 

「今迄の変な人たちよりも割と真面なヤローが現れやがった!!」

 

「突然変異だ」

 

「違うよ、ヒイロ。突然変態だよ」

 

「名前が安直なのは変わらないんだね……」

 

「手抜きよ!手抜きだわ!」

 

「リズは落ち着いて……うん、まぁ手抜きだとは思うけど…」

 

アマツからの問いに答えたツナギ姿男性基セイビシチョウ。何時の間にか紛れ込み、他の階層の刺客とは異なる良識ある彼にキリトたちは戦慄し、リズベット、リーファ、アスナは呆れていた

 

「良いだろう………そのレース、このアマツが引き受けよう。ヴェルデ、ヒイロ!ついでにグリの字!協力しろ!」

 

「「「お任せを。職人」」」

 

「アマツが燃えてる……!」

 

「こんな職人さんは見たことがありません!」

 

突然の豹変を見せ、ヒイロとヴェルデ、グリスに呼び掛けるアマツ。その今までに見た事ない姿にキリトとシリカが驚愕する

 

「今こそ……アップデートで手に入れた新たな力を見せる時だ………其れではご唱和ください!桃栗三年柿八年!」

 

「タヌキ寝入り狐の嫁入り!」

 

「来たりて姿を見せたもう!」

 

「おいでませませ」

 

「「「ウィンド・フルレー号!!!」」」

 

「「機関車が出たーーーーっ!?」」

 

口上と呼ぶには余りにも締まりと纏まりがない謎口上に導かれ、時空の壁を破壊するかの様に機関車が出現する

 

「我が駆動式蒸気機関車の前に塵芥となりやがれ!行くぞ!」

 

「暴れるぜ!」

 

「わくわく」

 

「道なき道を進みましょうか」

 

「ほう、この俺を相手にレースを挑むか…….その意気やよし!!」

 

セイビシチョウを相手にウインド・フルーレ号に乗り込み、レースを挑むアマツとグリス、期待に胸を躍らせるヒイロの隣ではヴェルデが眼鏡をくいっと上げる

 

「職人……」

 

「キリの字。剣を折るなよ」

 

「すまん!行こう!みんな!」

 

「ヒイロ!頑張ってね!」

 

「オーケー」

 

「まあ、俺に寝かしとけ!」

 

「グリスさん?寝てはダメですよ」

 

「きっくん……死なないでね!」

 

「えぇ……ご武運を」

 

アマツとグリス、ヒイロとヴェルデを残し、次の階層に走り出すキリトたち。去り行く仲間の声を背に受け、彼等は手にした得物を手に、不敵に笑う

 

「示すべきは道化の真骨頂!」

 

「走り抜けるは爆速機関車!!」

 

「誰が呼んだか知らないが……!」

 

「泣く子も笑う《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》ここにっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

((((レース開始じゃぁぁぁぁ!!!))))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?なんとか第四階層に来た訳だが………どうなってるんだ?これは」

 

第四階層に足を踏み入れたキリトたち。然し、其処に待ち構えていた光景に彼等は驚きを隠せない。其れは何故か?今までの時間が何だったんだと言わんばかりの光景が広がっていたからに他ならない

 

「「ヌヴォォォォォォォォ!!」」

 

「「普通の階層ボスがいるぅぅぅぅぅ!!」」

 

そう、其処には巨大な牛の化け物がいたのです

 




突然のマトモな展開に戦慄するキリトたち!然し!其処に乱入者が!御通し?んなもん知らん!喰らわせてやろうぜ!ハジケ超奥義!階層すらもぶち抜け!

NEXTヒント これが漢の生き様じゃい!!

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六説 事前に準備したものがこちらになります♪階層のぶち抜き方は必須科目ですよ☆

タイトルなっが……えっ?なに?ボケに全フリするとこんなに長くなるの?あ、でも長いのは割とあるな………というか原作ってなに?美味しいの?それは?えっ?食べ物じゃない?まあまあ堅いことは気にしない気にしない。ていうか、ミトの画像を探してたら色々なコスのミトが出てきたけど……やっぱり可愛いな!ミトっていいよね!ミト最高!流石は我が作品のメインヒロインちゃんだ!

ミト「Gracias(ありがとう)、お気に召したなら嬉しいわ」

ソウテン「うんうん、流石はミトさんだな。俺の嫁に文句無し!なぁ?我が息子よ」

ロト「だねぇ、かーさんは美人さんだもんねぇ」


「はい、それでは今日はメキシコ料理の専門家であるソウテン先生に御越しいただいております。こんばんは、先生」

 

Buenas noches(こんばんは)、メキシコ料理とピーナッツバター料理なら何でもばっちこいやっ!のキャッチフレーズでお馴染みのソウテンです。そしてこちらが」

 

「メキシコ料理は我が血肉なりの決め台詞でお馴染みのアシスタントのフィリアです」

 

トラットリアヨツンヘイム、其処は妖精界のありとあらゆる重鎮も脚繁く通うとされる某有名グルメガイド雑誌記事も認めたとか認めてないとかの噂が流れるクッキングスタジアム。今宵、この三つ星は堅いともされるレストランにて、世紀の料理対決(クッキングバトル)が始まろうとしていた

 

「さて今日のお料理はなんでしょう?先生」

 

「はい、今日は誰でもできる簡単お手軽料理です。先ずは炊き立ての白いご飯を用意しましょう」

 

ミトからの問い掛けに、何処からか取り出した土鍋に敷き詰められた白米をソウテンが取り出す

 

「白いご飯?まぁ、お米がツヤツヤしてますね」

 

「土鍋で炊いた土鍋ご飯ですからね。ちなみに御家庭がパン派の方は千切ったパンの欠片でも代用可能ですよ」

 

疑問に思いながらも、白米の際立つ艶感に気付いたミト。其れにソウテンは満足そうに答えながらも、パン派の方々への配慮を忘れない、流石は気配り上手の道化師、これはポイントが高い

 

「そしてこちらが今回の目玉!ピーナッツバターですね」

 

「今回は自家製の物を使用していますが、市販の物でも代用オーケーです」

 

次にアシスタントのフィリアが取り出したのは彼女自身と双子の兄(ソウテン)が愛してやまない大好物(ピーナッツバター)だった、何時も通りの変わらない風景にミトは上手い具合に進行をしながら、冷や汗を掻いていた

 

「こちらをご飯に掛けよ〜〜く混ぜ込み、最後にアクセントの落花生の殻を振り掛ければ、今回のお料理のピーナッツバター混ぜご飯の完成です」

 

「メキシコ料理の王道ですね。御自宅でも簡単に作れるので是非とも皆さんもdesafío(挑戦)してみてください」

 

生まれたのは茶色が際立つ最強の残飯(ピーナッツバター混ぜご飯)。完全に自分たちの偏見という名の正気の沙汰とは思えない(奇行と呼ぶしかない)料理にミトはにっこりと笑う

 

「ミトさんや、味の方はどうかにゃ?」

 

「そうね……簡単に言うと食えたものじゃないわ。なにこれ?流石にプルーでも食べないわよ?というか鍋を冒涜してるの?神聖な土鍋ご飯を残飯に変えるなんて、恥を知りなさい」

 

((…………すんげぇ怒ってらっしゃるぅぅぅぅぅ!!!))

 

笑顔からの一変、愛用の鎌を手に瞳の奥が笑っていない笑顔の恋人(義姉)に迷双子は戦慄し、がくがくと抱き合いながら震え上がっていた。その姿は正に死神、命を刈り取る為にあの世とこの世の狭間から出てきたかとしか思えない紫色の死神が佇んでいた

 

(プライド)を刈り取られる覚悟は出来てる?」

 

「ひぃぃぃぃぃ!テンちゃん!どうしよう!ミトが怒ってる!嫁による旦那と小姑の家庭内暴力待ったなしだよ!」

 

「落ち着け、我が妹。いいか?こういう時は取り敢えずは茶を嗜むんが一般的な対処法だ」

 

妖艶に微笑む義理の姉(ミト)を前に震えがるフィリア。対処法を話し合う為に隣にいた(ソウテン)に呼び掛ければ、彼は冷静に茶を嗜んでいた

 

「こんのバカ兄ぃぃぃぃ!!落ち着いてる場合かぁぁぁぁ!今まさに敵よりも恐ろしい身内からの制裁を受けようとしてるんだよっ!?何処まで愉快な思考回路してるのっ!」

 

「ぐもっ!?お兄ちゃんを殴るなんて、フィーちゃんのバカ!まだ親父とミト、キリトとグリスにヴェルデにヒイロ、その他大勢にしか殴られたことがないのに!!」

 

「割と殴られてんじゃん!!威厳ないにも程があるよっ!!」

 

「威厳がなんだ、インゲン豆の方が美味い。まぁ俺は落花生派だけど」

 

「何の話!?いやまぁ、落花生はわたしも好きだけど!!」

 

「ふふっ……覚悟しなさい?」

 

不毛な争い(兄妹喧嘩)を繰り広げる二人にミトは徐々に迫り、愛鎌を握る手に力を込めていく

 

「よし出来た!さぁ!我々の料理をお食べなさい!」

 

「お見事です!流石はリョウリチョウ様!さぁ!妖精どもよ!心して喰らいなさい!」

 

「リョウリチョウ様の料理を食せる事が如何に名誉あることかを理解するがいい!!」

 

「「いらん。というか超いらん」」

 

忘れていたというか忘却の彼方に消し去っていたリョウリチョウたちの存在。料理を完成させた彼等の声に反応した二名の迷子、彼等は双子ならではの一言一句違わない返答を食い気味に返した

 

「……は?今なんと?私も耳が悪くなりましたかね?」

 

「良く知らない人から食べ物をもらうなってのが死んだオフクロの遺言でな」

 

「アナタたちは迷子な上に食べ物につられると直ぐについていく悪癖があるから、餌付けには気を付けなさいってのがママの遺言なの。だから……」

 

「「究極いらん」」

 

聞き返すリョウリチョウに対し、自分たちの母からの遺言をしっかりと守り、極め付けには先程の返答に超を超えた究極を足した更なる否定を返す

 

「そんな訳だから………さっさと御退場願いましょうか?」

 

不敵に笑い、仮面越しに覗く蒼き双眸をぎらりと光らせる道化師。肩に担いだ槍を手に笑う彼は誰よりも不敵、正に道化師と呼ぶに相応しい姿で佇んでいた

 

「テン!フィー!準備は出来てるわ!」

 

Como se esperaba(流石だ)、ミト!俺たちを吹っ飛ばせ!mi hermana(フィリア)!派手に行くぜっ!!」

 

Como usted dice(仰せのままに)!!mi hermano(ソウテン)!!」

 

ミトが鎌を振り被り、その先にいたソウテンとフィリアが風圧で前に押し出されるのと同時に壁を駆け上がり、彼等は高く、誰よりも高く、飛んだ

 

「「 Estamos listos.(準備は整った)」」

 

その道化師と狩人(双子)は、不敵な笑みを浮かべ、蒼き衣を棚引かせ、誰よりも高く舞った

 

「「永遠にadieu」」

 

仮面越しの不敵な笑みと別れの言葉。その二つはリョウリチョウたちの視界に鮮明に焼き付いた。刹那、頭上から無数の槍が雨のように降り注ぎ、体を貫き、止めの槍最上位ソードスキル《アルティメット・サイン》、短剣最上位ソードスキル《エターナル・サイクロン》を放つ。究極と永久の名を冠する最強技を前に成す術もなくリョウリチョウたちはその姿を四散させていく

 

「そいじゃあ……これにて幕引きと致しましょう」

 

「「またの御来場をお待ち致しております」」

 

深々と頭を下げる道化師、死神、狩人。最強トリオによる勝負は幕を下ろした、彼等の抜群のコンビネーションを体現したハジケバトル。後に《ALO》を代表する最強トリオ爆誕の瞬間である事を、今はまだ誰も知らない

 

「さてと、キリトたちを追いかけるか」

 

「待っててね〜!お宝ちゃん(わたしの聖剣)!」

 

「あっ……二人とも。そっちは」

 

「「おろ……………………あぎゃぁぁぁぁ!!!」」

 

ミトが呼び掛けるも虚しく、最後まで言い切る前に一歩を踏み出した双子の前方に現れたのは穴、ぽっかりと空いた穴が待ち構えていた。そして、勢いよく飛び出したソウテンとフィリアの体は宙に放り出されていた

 

「崖よ」

 

「「ミトてめぇぇぇ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤバいよ!お兄ちゃん!金色の方だけど物理耐性が高すぎる!」

 

「衝撃波攻撃二秒前!」

 

「カウントダウン開始!uno(1)!」

 

「ゼロ!!」

 

先程までのおふざけに特化した階層は何だったんだ?と言わんばかりに二体の猛牛を前に苦戦を強いられているキリトたち。三人の《プライベート・ピクシー》のカウントダウンと共に衝撃波が放たれる

 

「衝撃波以前にあんの黒光ビーフも厄介だ!シノンの尻をじっくりと拝んでる暇もねぇとは正にこの事だぜっ!」

 

「んなっ!?こんのバカツキ!アンタ!後で体中の穴という穴に魔法矢全種類ぶっ込んでやるから覚えときなさいよ!!」

 

「アバンギャルド!!素敵な芸術的センスに感銘を受けるが、そいつは遠慮願いたいぜ!シノンは援護を優先!レンは撹乱を頼む!」

 

「「アイアイ!」」

 

相変わらずの尻談義に(うつつ)を抜かしながらも、指示を飛ばす姿は腐っても元《GGO》最強スコードロンのリーダー格と呼ぶべきだ。《ALO》最大級のギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》のリーダー格である道化師の様に大規模戦闘に特化し、尚且つ凡ゆる戦況でも思考を巧みに巡らせるではないが、ツキシロもそれなりの観察眼を持ち合わせいる。現実(リアル)仮想(VR)を問わずに対人戦闘を行う事が多い彼にとっては其れも一つの武器、瞬間的に他者の癖を見抜く能力が彼にはあった

 

「見つけた!キリト!金ピカビーフにありったけの剣技を打ち込め!!黒光の方は俺が物理と魔法を併用して、ぶっ飛ばす!!やれるよな?てか……やれ!黒ずくめ(ブラッキー)!!」

 

「ったく……何処ぞの道化師(クラウン)みたいな無茶振りをしてくれるな……まぁでも……嫌いじゃないけどなっ!お前のそういう挑戦者的姿勢(チャレンジャースタイル)は!!存分に暴れさせてもらうぜっ!!赤狼(ヴォルフ)!!」

 

《黒の剣士》と《赤き狼》、その瞳が交差し、彼等の共通の友人である《蒼の道化師》を彷彿とさせる不敵な笑みが浮かぶ。その姿に刺激され、クライン、ディアベル、リーファ、シリカ、リズベット、シノン、レンの順にソードスキルを叩き込んでいく

 

「《メモリークラウン》じゃないが……こいつでフィニッシュだ!!」

 

「さぁ……決めるぜ?イッツ・ファンキー!!」

 

キリトが得意とする二刀流スキル最上位剣技《ジ・イクリプス》による二十七連撃、ツキシロが独自に編み出したシステム外スキルの拳撃スキル最上位技《ハウリング・バニッシュ》が二体の猛牛の胸部を貫く。然し、彼にも階層ボス、一筋縄ではいかない。押し切るには足りない、その時だ

 

「ミト!本日二度目のアシスタントよろしくっ!」

 

「了解!行くわよっ!リーダー!!」

 

待ち望んでいた声が響いた。階層をぶち抜き、飛来する瓦礫と共に彼は姿を見せる。象徴(トレードマーク)と呼ぶべき仮面越しに浮かぶ不敵な笑み、その“蒼き衣(コート)”を棚引かせ、彼は姿を現した

 

「今宵の追加演目は道化師による世にも珍しい空中曲芸に御座います」

 

手にした槍と共に螺旋回転を始め、その回転は風を巻き込み、小さな暴風と化す。一撃必殺のO S S(オリジナルソードスキル)、連撃が当たり前の新たな可能性(ニュースキル)を彼は一撃に特化させるというスタイルで、決め技である《アルティメット・サイン》を更なる高みに昇華させた、それがこの《リベルタッド・リュヴィア(自由の雨)》なのである

 

「よぉ?まだパーティーの席は空いてるか?親友(カズ)宿敵(ツッキー)

 

「招待状も無しにアポなし訪問かよ……相変わらずの非常識だな?兄弟(テン)

 

「道が分からねぇからって階層ぶち抜くかぁ?普通……まぁ、お前らしいけどよ。という訳だからよ、ちょっちツラを貸せよ。好敵手(テン)

 

「仕方ねーな。んじゃま、さくっと終わらせるとしますかね」

 

道化師、剣士、狼、異色の三人が並び立つ。その前に二匹の猛牛。今まさに最強の戦いが幕を上げる

 

「おお!道が出来ている!」

 

「む……下に続いているらしいな」

 

「あれっ!?俺たちの見せ場は!?機関車斬りのシーンはどうなったんだ!?」

 

「この流れから察するに全面カットでしょうね。続きはドラマCDで描かれるか単行本にありがちな書き下ろしでしょうかね」

 

「限定版は一度で二度美味しい」

 

「「「階層ぶち抜いたから増えてるぅぅぅぅぅ!!!」」」

 

感動的な後は任せろ展開ガン無視の全員集合。これぞまさに道化師一味の日常的風景であることは火を見るよりもファイヤー!である




階層をぶち抜き、遂に集結した道化師一味。二体の猛牛を前に彼等は何を思う…そして、その先に待つ新たな出会いとは……!

NEXTヒント 絵にも描けない美しさ

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七説 キャンバスに描けない美しさ!石化せずにはいられない!

今回は!我が作品においては久方ぶりの戦闘模写勃発!書けない?バカにしないでもらいたい……やればできる!否!やりたいようにやる!それが我がポリシー!ポリシーとギャグをガッチャンコ!今こそ生み出せ!ギャグorシリアスの最強作品!それこそが!《蒼の道化師は笑う。》だ!!


「だいたい!道が分からないから階層ぶち抜くとか迷子にも程があるだろ!バカか?バカなのか?お前は!こんの傍迷惑迷子!」

 

「迷子じゃない」

 

「迷子だろうが!どう見ても!こんの空っぽ迷子!!」

 

「迷子って言うヤツが迷子だ」

 

「「やっぱり迷子じゃねぇか!!こんの迷子野朗(ファンタジスタ)!!」」

  

「迷子じゃねぇ!!自由(リベロ)だっ!!串刺しにすんぞゴラァ!!ぼっちに尻野朗!!」

 

「「上等だゴラァ!!」」

 

迷子扱いに非常に敏感なソウテンは自分を迷子と呼ぶ親友(キリト)宿敵(ツキシロ)に喰って掛かり、階層ボスの前であるにも関わらず、喧嘩を繰り広げる。やがて、飛び火した火種は周囲にいたグリス、ヒイロ、ヴェルデ、ディアベル、コーバッツ、シリカ、フィリアといった何時も通りの面々を巻き込み始める

 

「ふざけ過ぎだ……このバカどもっ!!!」

 

「天誅っ!!!」

 

「「「「ぐもっ!?」」」」

 

そして、御約束の展開とも呼べる馬鹿騒ぎに包丁と鎌が降り掛かる。集まってからの矢継ぎ早に展開される流れ作業にも似た行動に慣れきったアスナ、リズベット、リーファの三人は呆れ、未だに慣れないシノンとレンは引き気味の表情を見せる

 

「取り敢えずは気合い注入完了ってことで………派手に行くぜっ!野郎ども!」

 

「「了解!リーダー!!」」

 

ソウテンの号令と共に一斉にキリト達が全速力で駆け出す。物理耐性の少ない黒牛にはグリス、コーバッツの筋力特化型を盾役(タンク)にタゲを取り、物理耐性の高い金牛にはアスナ、リーファの魔法をメインに攻撃を仕掛けていく

 

「テン!あんの変なヤツをもっかいやれるかっ!?俺も隠し球を使う!」

 

「変とか言うな!一撃必殺の最強我技だ!まぁ、ちょいと時間は掛かるがな………クライン!」

 

「なんだ!テン!」

 

「十秒だけでいい!ミト達とソイツの相手を任せていいか?!」

 

「十秒……しゃーねぇ!やれるだけはやってみるが、なる早で頼む!」

 

「Gracias!流石は頼れる侍だな!メイリンさんがいたらポイント爆上がり間違い無しだ!」

 

「あたぼーよ!俺様は出来る男だからな!」

 

後退し、所有アイテムのリストをスクロールし、一つを選び出してオブジェクト化するキリト。その背には二つの剣が交差するように装備され、黒いコートが靡く

 

「スイッチ!」

 

キリトの声にミト達が頷き、間合いを作り出す。そのタイミングを逃さないように二対の剣を手に、黒牛の正面にキリトは飛び込む

振り下ろされる斧を弾き、間髪入れずに一撃を胴に見舞う

 

「グォォォォ!!」

 

憤怒の叫びを洩らしながら、黒牛は上段斬り下ろし攻撃を放とうとするが、剣を交差して斧を受け止め押し、黒牛の態勢が崩したのを、見逃さずに“二刀流”上位剣技《スターバースト・ストリーム》の十六連撃を放つ

 

「テン!今だ!L A(ラストアタック)!」

 

Estamos listos.(準備は整った)。グリス!打ち上げろっ!」

 

「了解!リーダー!」

 

グリスが構えたハンマーの上に、ソウテンが飛び乗ると、天井近くまで、投擲される

 

「永遠にadieu」

 

手にした槍と共に螺旋回転を始め、その回転は風を巻き込み、小さな暴風と化したソウテンは仮面越しの不敵な笑みと別れの言葉を贈り、黒牛を貫いた

 

「さて、次は私の番ね……貴方の(プライド)、へし折ってあげるわ」

 

決め台詞を発すると同時に、彼女は妖艶に笑い、両手で握りしめた鎌を振り、四連撃の斬撃を放つ。彼女が得意としていた両手鎌上位ソードスキル《レヴェレーション》を元に編み出したO S S(オリジナルソードスキル)、武器破壊に特化した十八番を更なる高みに昇華させた、それがこの《デストルクシオン・ムエルテ(武器の死)》である

 

「………やあァァァ!!」

 

そしてラストアタックを担当したのは後方支援に回っていたアスナ。彼女の疾風の如き剣閃は正に《閃光》と呼ぶに相応しく、この場にいる誰よりも気高く、美しく、神々しさを感じさせる

 

「ふぅ……終わった、終わった」

 

「そうね、終わったわね。それで……?テン。あの一撃必殺級のソードスキルについては、もちろん(・・・・)、説明があるのよね?」

 

勝利を収め、肩を数回鳴らすソウテンに笑顔のミトが詰め寄る。但し、その笑顔には黒さが垣間見える

 

「え……えーっと、オリジナルソードスキル?」

 

「其れは分かるわよ。どういうスキルなのかを聞いてるのよ、私は」

 

笑顔から、ジト目に変わり、真剣な表情でソウテンに問う

 

「いやぁ……うん、あれだよ……何時もの《アルティメット・サイン》あるじゃん?アレに回転エネルギーを加えて、貫通力を向上させる感じかな?いやぁ……開発に苦労したんだぞ?案外……というか!ミトも人のことを言えんだろ!なんだ!あのボスの武器破壊した出鱈目な技は!」

 

「《デストルクシオン・ムエルテ》のこと?あれこそ私が研究の果てに生み出した武器破壊特化最強技よ。前にユージーン将軍の《魔剣グラム》を破壊出来なかったから研究に研究を重ねた末に開発した私の……いいえ、私だけのオリジナルソードスキルよ!」

 

「うわぁ……似たものカップルだ……というか武器の死ってなに?こわっ!ネーミングセンスが物騒だよ!」

 

「そっかな?息子にアスタロトからイメージした名前を取るとーさんよりはマシだよ?ねーさん」

 

「プロトタイプのロトじゃないの!?」

 

似た感性を持つ道化師(ソウテン)死神(ミト)。その姿に引き気味のフィリアに対し、ロトが自分の名の由来を告げれば、想像していなかった由来にアスナが驚愕する

 

「何故ですかね?以前にもこの様なやり取りを拝見した記憶があります」

 

「奇遇。俺も見た」

 

「おお!思い出した!私がギルドに入るきっかけになった第74層の時だ!」

 

「懐かしいな!あん時か!」

 

「キリ公のあの技もそん時のヤツか!相変わらず出鱈目なヤローたちだなぁ?オメェらは」

 

「うるせぇ、ヒゲむしるぞ」

 

「おいおい、テン。ヒゲはむしるんじゃなくて、燃やした方がいいぞ」

 

「いや燃やすのもダメだよ?お兄ちゃん」

 

既視感(デジャブ)を前に昔を懐かしみながら盛り上がりを見せるグリスたち。その隣では友人の変わらない出鱈目加減に呆れるクラインに対し、ソウテンが悪態を吐き、キリトも咎めながらも的外れな突っ込みをする様子にリーファが突っ込みを放つ

 

「そーいや……この階層で何層くらいまであんの?正直、お腹いっぱいなんだけど」

 

「次の階層を突破すれば最深部に着く筈だ。いいか?迷子になるなよ?分かってるな?迷双子」

 

「「やんのか?ぼっち」」

 

次なる階層に続く階段を降りるソウテンたち。キリトが親友からの問いに答えながらも、約二名に迷子になるなと念を押すが彼等は喧嘩越しに睨みを効かせる

 

「おん?なんだ?檻があんぞ?」

 

「ふむ……些か不穏な気配がする……深入りはしない方が得策だろうな」

 

「そうだな、職人の言う通りだ。ここは何時もみたいにクリフト使うなで行こう」

 

第四階層最深部、細長い氷柱で造られた檻を見つけたグリス。その様子に冷静なアマツが触らぬ神に祟りなしと言わんばかりに次に進むことを提案し、ディアベルも何時も通りの作戦を提示する

 

「クリフト……そんな人、ギルドメンバーにいた?ツキ」

 

「あ?クリフト……誰だ?それ。レンは知ってるか?」

 

「シノンさんと総長さんが知らない人を私が知る訳ないじゃん。あっ、でもフカなら知ってるかも……聞いてみる?」

 

「ご安心ください、僕が説明しましょう。クリフトというのはあの有名なゲームで魔王を相手に回復魔法を掛けてしまううっかり屋さんです」

 

「つまりはリーダーみたいなアホ」

 

「誰がクリフトだ」

 

「なら、クリフトにガンガン行こうぜを軸にやって行きましょう。後はあたしのアイドルパワーで押し切ります」

 

「おいコラ、なんでクリフトにガンガン行くんだ。邪魔者扱いすんじゃねぇよ。というかアイドルパワーってなに?それがあるとどうなんの?」

 

知らない名前に首を傾げる三匹の獣、説明しながらも自分を弄ることを忘れない年少三人組にソウテンが突っ込みを放つ

 

「お願い……私を……ここから、出して………」

 

檻の中から呼び掛ける透き通る様な声、その声に気付いたクラインは振り返り、その姿を視界に焼き付ける

 

「………はうっ!!絵にも描けない美しさっ!!」

 

「「えぇ〜〜〜っ!!石化したっ!!!」」

 

その神々しさに特化したあまりの美しさに石化するクラインに全員が目を剥き、驚愕するのであった




罠だろうと、罠であろうと、その美しくさに偽りはなし!不肖!赤き侍クラインが漢を魅せる!!

NEXTヒント 武士道精神

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八説 突貫の武士道!罠であろうと美人の涙には抗えぬ!!

連続投稿!筆が乗れば、こんなことも出来ちゃう!ギャグ作品は数あれど……ここまでのキャラ崩壊は我が作品だけ!


「おやまあ、白くなったりとか燃え尽きたりとか色々な事象を見たりしてきたけど……石化とは珍しい部類だねぇ」

 

「ネームドエネミーの特殊効果でしょうか?」

 

「いいえ、ユイさま。この様な効果を持つネームドエネミーは確認されておりません」

 

新たに垣間見る事象に呑気に首を傾げるロト、疑問符を浮かべながらも冷静に状況分析をするユイ、それに応えるようにエストレージャが結論を述べる

 

「つまりは罠だな」

 

「罠だねぇ」

 

「罠一択」

 

「罠ね」

 

「罠よ」

 

「罠だぜ」

 

「罠だね」

 

理解はしている、それでも矢継ぎ早に放たれる仲間たちからの罠発言にクラインは罰が悪そうに頭を掻く

 

「お、おう……罠だよな……罠かな?」

 

「彼女はNPCです。女王ウルズさんと同じく、言語エンジンモジュールに接続しています」

 

「でもねぇ、ちょいと差異があるんだよねー。この人はHPゲージがイネーブル(有効)なんだよ」

 

「つまりは重要なNPCのということになります」

 

「重要………美人………つまりコイツは!護衛クエスト!!ん〜〜〜マイフェアレディ〜〜!!このクラインがお助けしますよ〜〜!!」

 

(((あ〜………このヒゲの悪いクセが………)))

 

重要なNPCと聞いた瞬間に何かを思いついたクラインの姿に長い付き合いのソウテンたちは何かを察した様に呆れた眼差しを向ける

 

「罠だよ」

 

「罠です」

 

「罠ですね」

 

「罠だと思うなぁ……」

 

「罠だと思う」

 

「罠なのかっ!?」

 

「………お願い………誰か……」

 

まごう事なき罠、其れを理解していてもクラインには引けない理由があった。道化師たちが如何なる時も彩りを忘れないのであれば、彼は武士道を貫く侍、故に彼は足を止める

 

「罠か罠じゃないかなんざ、理由にならねぇ………目の前でレディが困っているなら………俺は………武士道を貫く!!アルンが崩壊する?知ったことかァ!!俺は侍にして漢!!レディの涙を見たからには助けずにはいられねぇ!!」

 

「「「あ……アイツこそが真のサムライ!!ラストサムライだ!!」」」

 

「タダの女に見境のないバカでしょうが!!!」

 

きらりと歯を光らせ、熱弁するクラインの生き様に衝撃を受けるバカトリオの頭上にミトの容赦ない一撃が放たれる

 

「………ありがとう、妖精の剣士様」

 

「立てるかい?怪我ァねぇか?俺はクライン……貴女の武士です」

 

「騎士の役目を取るなっ!ヒゲむしるぞっ!」

 

「落ち着きたまえ、ディアベルよ。ヒゲはむしるよりも燃やす方が効果的だ」

 

「燃やすのも得策ではないがな」

 

女性を救い出し、名を名乗るクライン。そのやり方が気に食わないディアベルが吠えるのを咎めるコーバッツにアマツが冷静な突っ込みを放つ

 

「なぁ、ミトさんや。あいつはメイリンさん一筋じゃなかった?」

 

「ダメよ?テン。きっと、またメイリンさんを怒らせる様なことをしたのよ。ほら、前にも他の人に現を抜かしたクラインをメイリンさんが二時間くらい説教してたじゃない」

 

「我がギルドのお抱え料理人を泣かせるとはお灸を据える必要がありそうですね」

 

「メイリンさんを泣かせるの良くない」

 

「全くだ。奴の最後はメイリンさんに背後から刺されるで決まりだ」

 

「職人さん!?物騒なことを言わないでくれますかっ!?」

 

「怒られることの何が悪いんだ?俺はキッドに割と怒られるぞ」

 

「それは貴殿が服を着ないからだろう?ディアベルよ、あとグリス」

 

「おん?なんだ?オッさん。話が長えからちょいと筋トレしてたぜ」

 

「はう……素敵なシックスパック!ごちそうさまです!グリスさん!」

 

「なんか鼻血出しとる!!」

 

今はここにいないメイリンの事を話題にしながらも、混沌な雰囲気に今日も今日とて彼等は賑やかに騒いでいた

 

「それで?おめぇさんは何者だ?単なるNPCではねぇみたいだけど…」

 

「………私は、このまま城から逃げ出す訳には行かないのです。巨人の王(スリュム)に盗まれた、一族の宝物を取り戻すために忍び込んだのですが……門番に見つかり、捕らえられてしまいました……どうか……私もスリュムの部屋に連れていって頂けませんか?」

 

ソウテンからの問いに対し、女性は答えを返しながらも近くに居たクラインの体に纏わりつく様に触りながら、同行を申し出る

 

「……………テン?テンさん?あのー………」

 

「構わんよ。後で浮気に関してはメイリンさんにじっくりと絞られちまえ」

 

「だな。やっちまったからには仕方ない、最後までこの分岐(ルート)をやるしかない」

 

「おっしゃ!パーティーリーダーからのお許しが出たぜ!姉さん!袖擦り合うも一蓮托生!一緒にスリュムのヤローをブッチめようぜ!」

 

「ありがとうございます!剣士様!」

 

「乳ですか!?やっぱり乳なんですかっ!!」

 

豊満な胸を押し付け、クラインに抱き付く女性。その姿にシリカが巨乳反対と書かれたプラカードを掲げ、荒ぶる

 

El viaje es contigo(旅は道連れ)♪」

 

「余は満足♪」

 

「情け非常の最大特価♪」

 

「あら、ロトが妙なことわざを……」

 

「全くだ、ユイに妙なことわざを聞かせるなよ」

 

「エスちゃんに至ってはことわざですらないんだけど……」

 

「仕方ないよ、フィリアの《プライベート・ピクシー》だもん」

 

「よぉ〜し、表に出なさい?ムキムキエルフ」

 

「ふふっ……上等よ!迷子スプリガン!!」

 

「んだとゴラァ!!」

 

《プライベート・ピクシー》たちの妙なことわざに難色を示すミトとキリト。そして、相棒のことわざかも疑わしい言葉に苦笑していたフィリアは自分に突っ込みを放ったリーファと兄たちにも匹敵する低レベルの喧嘩を繰り広げていた

 

「名前は……《フレイヤ》?MP量が半端じゃないな……」

 

「フレイヤ?おろ?なんか聞いたことあるなぁ、その名前……なんだっけ?フィー」

 

「あーなんだっけ?小さい頃にママに読んでもらった何かの物語にそんな名前があった様な…………」

 

「お義母さんはそんな高尚な物語を読み聞かせてくれてたの?勤勉な人だったのね」

 

「勤勉ではないかな?フィーを余裕で超える天然ボケでポンコツな人だったし」

 

「テンちゃん。殴られたいの?ていうか、殴っていい?いや、殴るね」

 

「ぐもっ!?」

 

フレイヤの名に何かを感じたソウテンがミトからの問いに答えていると、その言い方に嫌味を感じたフィリアが鉄拳を放つ

 

「さてと………じゃあ、行きましょうか?次の階層がラストバトルよ。序盤は攻撃パターンを掴めるまで防御主体にしようと思うから、また盾役を任せるわね?ゴリラブラザーズ」

 

「「ゴリラじゃねぇ!!」」

 

「「「「「えっ」」」」」

 

「真顔で驚いてんじゃねぇっ!!」

 

真顔で驚愕するソウテンたちにグリスとコーバッツの突っ込みが飛ぶ。そして、道化師一味は最下層へと階段を降りていくのであった




遂にたどり着いた最深部、其処に待ち受けるは霜の巨人王!四本槍を束ねし者が今、道化師たちの前に立ちはだかる!!

NEXTヒント ヒゲむしるぞ

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九説 アポなし訪問!お宝屋敷におじゃまいご?

遂に九話、予告していた十話まで後一話……出来るかなぁ、終わらせること……予告しとくと次の話はギャグ全開でいきます、フルスロットル、アクセル全開です♪


「おやまあ……随分とでけぇ扉だ。インターホンは何処かにゃ?」

 

「テンちゃんってば知らないの?最近はカメラとリンクしてたりとか、スマホやスマートウォッチからも来客者を確認出来ちゃう時代なんだよ」

 

「なぬっ!そんなハイテクが当たり前になってたんか!」

 

「ホントに時代に疎いなぁ〜。年齢を重ねた時にパパみたいな機械音痴になるよ?」

 

「ならん、あんな電子レンジにゆで卵をぶち込む様なアホンダラと同じにすんな」

 

「仕方ないよ、だってパパだよ?エリートの割には頭の八割がテンちゃんみたいに迷子なパパなんだよ?」

 

「そうか、そいつは仕方………おいコラ、誰が迷子だ。訴えるよ?そして勝つよ」

 

最深部のボス部屋を前に頓珍漢な会話を繰り広げる双子(迷子)。最早、この二人が空気を読めないというか読まないのは当たり前である為にミトたちは其れに目も暮れず、目の前の扉を開く

 

「お……おおっ……」

 

扉を潜った先に待ち受けていたのは、金銀財宝で溢れ返った大広間。誰もが圧倒される中で逸早く動きを見せたのは影妖精(スプリガン)の少女だった

 

「いやん♪なにこれっ!お宝ちゃんがこんなにたくさん!もらっていいの!?というか、もらう!」

 

「おやまあ、ねーさんの目が分かりやすく¥マークに変わってるよ?とーさん」

 

「昔から我が妹ちゃんはお金と落花生に目がないからねぇ」

 

その瞳を¥マークに変化させ、宝の山を前に分かり易い態度を見せるのはトレジャーハンターらしいとも言えるが客観的に見れば、がめついだけにも見える

 

「ちょっとアマツ!これ!総額で何ユルドくらいあるのよっ!フランチャイズも夢じゃないわっ!」

 

「フランチャイズか……悪くはないな」

 

その背後でリズベットとアマツは店舗拡大という夢を語り合い、此処にある宝を普通に盗む気であった

 

「小虫が………飛んでおる。ぶんぶんと煩わしい羽音が聞こえるぞ。どれ、悪さをする前に、一つ潰してくれようか」

 

刹那、広間の奥から重低音の様な声が響き渡ったかと思えば、声の主は座していた玉座から立ち上がった。床に響き渡るのはその者が歩く音だろうか、重く、鈍い音が確実に迫って来るのを感じ、道化師(ソウテン)の瞳が仮面の奥で鋭さを増す

 

「ふっ、ふっ……アルヴヘイムの羽虫共が、ウルズに唆され、我が城に潜り込んだか。どうだ、いと小さき者共よ、あの女の居場所を教えれば、黄金を持てるだけくれてやるぞ?」

 

「ホント!?」

 

「フィー……黙れ」

 

「あい……」

 

「盗人と言われても可笑しくない状況にも関わらず、素敵な提案をしてもらって悪いが………其奴はちょいと出来ねぇ相談だ。俺は一度でも受けた依頼は何があろうと完遂するのがポリシーでな………」

 

声の主からの提案に乗ろうとする妹の頭を引っ叩き、道化師は蒼き衣を棚引かせ、槍を担ぎ、真っ直ぐと前方を睨み付ける

 

テメェ如きの財宝になんざ興味はねぇんだよ!!!ヒゲジジイ!!

 

最深部に居るということはクエストの黒幕、巨人の王。然し、彼はその巨体に物怖じする事もなければ、後退する素振りも見せない。それどころか、明確な敵意を放ち、啖呵を切った

 

「おお、フレイヤ殿ではないか。檻から出てきたということは、儂の花嫁となる決心がつい────」

 

「耳になんか詰まってんのか?テメェと話してんのは俺だろ」

 

巨人がフレイヤに気付き、彼女に呼び掛けようとした瞬間、投擲された槍が頬を掠める。其れを放ったであろう仮面の道化師は槍を放った利き足(左足)を地に降ろし、睨みを効かせていた

 

「礼儀を知らぬ羽虫がおるようだ……」

 

「ちょいと育ちが悪くてな……どうも長い話は苦手でいけねぇ………だからよ、道化師と遊んでくれや」

 

仮面から覗く蒼き眼は万物を見透かすかのように、不敵に笑う姿は道化そのもの。スリュムは知っている、この妖精と似た笑みを持つ者を、神を、然し彼は妖精。同じである筈がない、それでもそう思わずにはいられなかった

 

「貴様………道化(トリックスター)の加護を受けた者か!!」

 

「加護だぁ?んなもんは受けてねぇよ。俺は泣く子も笑わせる《道化師(クラウン)》、神だろうと何だろうと己の色に染め上げちまうだけだ………さぁ、幕を上げると致しましょうか……巨人の王よ!!ゴーカイに行くぜっ!!野朗どもっ!!」

 

「「「了解!リーダー!!」」」

 

その言葉と共に戦いの火蓋が切られ、道化師(クラウン)は担いだ槍を手に、仲間たちと地を蹴り、駆け出す。其れと同時に巨人も動きを見せる

 

「ヌゥンッ!!!」

 

「どわっ!?んだこの発勁!!一撃でこの威力かよっ!?」

 

「狼狽えるなっ!グリスよ!我々は己が役目を果たすのだっ!」

 

「おうよっ!」

 

破壊力に特化した一撃を喰らいながらも、盾役(タンク)を任されたコーバッツとグリス。力押しが得意な彼等からすれば、他者の力を押し切る事は最も得意とする戦法であるが、相手が火力に特化していた場合は流すのも一苦労である

 

「ヌゥンッ………小癪な真似を……羽虫如きが!!我が兵の前に塵芥と消えよっ!!」

 

その言葉と共に巨人の王基スリュムが生成したのは氷のドワーフ。単体でも厄介な強敵に配下が生まれ、更なる苦戦を強いられる

 

「シノン……レン………暴れるぜっ!!」

 

「「アイアイ!総長!!」」

 

刹那、後方から聞こえた頼もしい声。赤き獣はぎらりと上顎から犬歯を覗かせ、女神と兎に呼び掛ける。其れと同時に答えを返した彼女たちは弓と杵を構え、ドワーフを蹴散らしていく

 

「ツッキー!其方は任せていいか?というか任せた!」

 

「へっ……狼を顎で使うたぁ、マジモンの道化(トリックスター)だなぁ!テメェは!まぁいい、そのデカブツを片付けた暁には特大のホールケーキを奢っくれや!」

 

「私はチョコミントパフェをお願いするわ」

 

「あっ!じゃあ、私もキャロットパイ!」

 

「ツッキーの以外は聞いたこともねぇんだけど!?」

 

援護の対価に好物を要求するツキシロに続き、シノンとレンも聞いたことがあるようでないスイーツを要求するのに対し、ソウテンは両目を見開く

 

「ヴェルデ!何処を狙えばいいかを指示してくれ!」

 

「お任せを………弱点(ウィークポイント)を探すのは大得意です………なるほど、理解しました。叩ける所はぶっ叩いていきましょう」

 

「きっくん……それはノープランって言うんだよ」

 

「違いますよ?プロジェクトトツゲキです」

 

「喧嘩してる場合かっ!!どうする………どうすれば……」

 

es fácil(簡単だ)………グリス!打ち上げろっ!」

 

「あいよっ!」

 

何処を狙えばいいかも不明なスリュムを前に思考を巡らせていたキリトが何かを思い付くよりも前に、名を呼ばれたグリスはハンマーに乗せた道化師を天井目掛け、かち上げる。その道化師は、不敵な笑みを浮かべ、蒼き衣を棚引かせ、誰よりも高く舞った

 

Rey de las heladas, desmoronate ante mí(霜の王よ、我が前に砕け散れ)

 

刹那、頭上から無数の槍が雨のように降り注いだ。突然の状況にスリュムは防御姿勢を取り、攻撃を中断、その隙を見逃さなかったキリトが駆け出す

 

「ミト!左脚は任せた!」

 

「仕方ないわね……任されたわ!」

 

呼び掛けられたミトは鎌を手に、全速力で前方に飛び出す。後方支援特化であるにも関わらず、元が戦闘主体であるが故に切り替えが効くミトはキリトとの戦闘時のコンビネーション率が高く、適切な対応が可能なのだ

 

「くっ……!このままでジリ貧だ!何か策はないのかっ!」

 

「兎に角!ヴェルデが言ったみたいに叩ける所をぶっ叩くしかないっ!!」

 

「だけどジリ貧なのに変わりはない。どうするかを考えるべきだと思う」

 

「そうですよ!ディアベルさん!ただ単に叩いてるだけじゃ倒せないです!」

 

「………スリュム………フレイヤ……なるほどな、理解したぞ。フレイヤさん、貴女に聞きたいんだが…望みはあるか?」

 

猛攻に耐えかねたコーバッツが吠えるのに対し、ディアベルとヒイロ、シリカが彼を宥めながらも思考を練ろうとしていた時だった。唐突に、アマツが後方でアスナと支援に徹していたフレイヤに問う

 

「望みはただ一つ……我が一族の秘宝を取り戻すことにあります。アレ(・・)を取り戻せば、私の真の力もまた蘇り、スリュムを退けられましょう」

 

「「「アレ(・・)って?なになになぁにぃ〜?」」」

 

問いに答えたフレイヤの言うアレ(・・)が気になったバカトリオは声を揃え、首を傾げた

 

「この位の大きさの、黄金の金槌です」

 

「………おろ?聞き間違いかな?金槌とか言わなかった?今」

 

「ああ、きっと聞き間違いだ。テンの耳は可笑しいからな」

 

「だよなぁ〜、金槌なワケねぇもんな」

 

自分たちの聞き間違いと思い、軽口を叩き合いながらも笑い合う三人。然し、フレイヤの表情は真剣そのものだった

 

「金槌です」

 

「「「せーの!なんだってェェェェェェェェ!!!」」」

 

声を合わせ、叫ぶ三馬鹿。この叫びヨツンヘイムを超え、アルヴヘイム全体ひいてはアインクラッドまでに木魂したと後に伝えられる




お宝の山から金槌を探す?それならわたしの十八番!トレジャーハンターの名は伊達じゃない!

NEXTヒント 蒼き狩人

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十説 極寒の大地に眠る黄金の剣は雷鳴とともに。

完成だァァァァ!!一番の長文!今まで以上にボケをぎっしりと詰め込んだ!これでもかっ!ってくらいに!こゝろして読みたまえ!


「かつて、美貌と武勇を妖精世界に轟かせた傾国の美女〝フレイヤ〟。彼女は巨人の王に見初められ、花嫁となるべく輿入れしましたが〝道化師〟を名乗る愉快な集団との出会いにより、反乱の狼煙を上げることと相成った。彼女が放った衝撃の一言は妖精たちを空へと駆り立てた。そう、世は正に…………は………

 

 

 

 

 

大妖精時代!!!

 

刹那、砂塵の奥から彩り豊かな色彩に溢れた海賊衣装に身を包んだソウテン達が姿を見せる

 

「真剣な雰囲気が一気に崩れた……!!というかあらすじが関係あるようでなんか微妙に違うっ!!」

 

「あ〜……シノンさん、大丈夫です。犯人は分かってますから」

 

「そうね、言わずもがなで一人しかいないわね」

 

「前々から思ってたけど……このネタも御約束になってるわね……ミトの鎌と同じくらいに」

 

「アスナ?それは褒め言葉よね?発言の有無によっては訴えるわよ?そして勝つわよ」

 

最早、恒例である意味不明なあらすじにシノンが突っ込みを放つ隣でリーファは苦笑し、ミトは親友からの聞き捨てならない発言に物申す

 

「探しなさい、この世の全てを其処らへんに置いといた」

 

「不確定極まりない発言!!きっくん!怒るよっ!」

 

その犯人基ヴェルデをリーファが叱りつける。最早、この光景もミトとアスナにとっては見慣れた風景の一部と化していた

 

「喰らえぃ!我が息吹を!!」

 

「不味いっ!口からなんか吐くつもりだ!」

 

「なにっ!?ヒゲヅラの口臭とか洒落になんねぇぞっ!どうする!」

 

「プークスクス。えっ?なに?おめぇさんたちは息吹系の攻撃に耐性がない感じ?残念でしたぁ〜、俺には仮面があるもんねぇ〜」

 

「「テメェ!汚ねぇぞ!迷子ゴラァ!!」」

 

「んだとゴラァ!やんのかっ!ぼっちにゴリラ!!」

 

真剣な雰囲気破壊はお手物な三馬鹿、スリュムを前に殴り合いの喧嘩を始める。然し、その雰囲気に呑まれずに約一名、双子の兄と同じ不敵な笑みを浮かべた狩人は宝の山に視界を巡らせる

 

「テンちゃんたちが気を逸らしてる間に………わたしはわたしの役目を果たす……《狩人(トレジャーハンター)》の真骨頂を見せてあげるんだからっ!」

 

「フィー!なにか手伝うことはある?」

 

「Gracias、ミト。無闇矢鱈に探すだけじゃ駄目、お宝ちゃんにはお宝ちゃんの特性があるの。その特性を理解し、最高の状態で手に入れるのがトレジャーハントの醍醐味なの」

 

「えっ?なに?粗大ゴミ?ここってゴミ捨て場だったん?」

 

「テンちゃん……黙って」

 

「あい……」

 

目的の宝を探し当てようと思考を巡らせていたフィリアにミトが呼び掛ければ、彼女はトレジャーハントの基礎を語り始め、それに聞き間違いを通り越し意味不明な答えを捻り出すソウテンの頭を引っ叩く

 

「北欧………金槌………そうか!フィリア!雷系のスキルを使って!」

 

「えぇっ!?雷系!?わたし、覚えてないよっ!?」

 

「あー……だったら……グリス!!ぶちかませっ!!」

 

何かに気付いたリーファに呼び掛けられ、雷系のスキルを使えないと慌てるフィリア。それを見兼ねたソウテンは前線で盾役に徹していたグリスに指示を飛ばす

 

「あいよっ!迸れっ!!どっせい!!」

 

刹那、床全体に轟かんばかりの轟音と共に雷鳴が迸る。やがて、雷鳴は(いかづち)と成り、一直線に玉座の方に向かっていく

 

「グリスさん素敵………って!今はときめいてる場合じゃなかった!テンちゃん!見つけたよ!あれがお宝ちゃん基金槌だよ!」

 

「流石は妹ちゃんだ!コーバッツ!そのデカブツをぶん投げろっ!!」

 

「あいわかった!受け取りたまえ!!フレイヤ殿っ!!」

 

玉座付近の宝の山から出現した巨大な金槌、雷を帯びた巨躯の武具をソウテンの呼び掛けでギルド随一とも呼べる力自慢の片割れであるコーバッツがフレイヤ目掛け、某有名野球選手も驚愕の強肩と剛腕で放り投げた

 

「……み……ぎる…………………なぎる…み…なぎるぞ………」

 

「おやまあ、ギルギルと何処のGT出身のミニロボットかにゃ?」

 

「ドラ○ン○ールから離れろ!おめぇは!」

 

「俺は忘れない……○リ○ッドが生み出した暗黒時代を!!」

 

「時効だろ!許してやれやっ!」

 

「認めません」

 

「漲る………ぎるゥゥゥぉぉぉォォォォ!!!!」

 

某有名漫画の黒歴史を掘り返す三馬鹿を他所に金槌を手にしたフレイヤは雷を迸らせ、その身をまるでニチアサの美少女アニメの変身シーンの様に姿を変化させていく

 

「………………!!」

 

全てが終わり、その雷光の中から姿を見せたフレイヤの真なる姿にクラインの体が白く、まるで雪の様に真っ白に染まっていく

 

「オッ……サンじゃん……!?」

 

「「「どんまい!良いことあるさっ!」」」

 

「慰めんなっ!!三馬鹿!!」

 

捻り出した言葉、その先に居る金槌を携えた筋骨隆々な巨漢の男性を前に戦慄していた所を慰めの言葉を掛けてきたバカトリオに、くわっと両目を見開いたクラインが吠える

 

「ヒゲだ」

 

「ヒゲですね」

 

「上半身裸………グリスさんとディアベルさん、どっちの知り合いですか?」

 

「おいコラ、マイクバカ。なんで俺かディアベルの知り合いって決めつけてやがる」

 

「そうだぞ!俺にあんな半裸の知り合いは…………いないこともないな……年中、裸の馬鹿野郎とか二次元に魂を売り捌いたヤツとかもいるからなぁ」

 

「ベルさんはどんな環境で生きてんの?前世にどんな悪行をやらかしたら、そんな意味不明な知り合いが出来んの?なに?前世はシリアルキラーか何かなの?おめぇさんは」

 

「ふっ…褒めないでくれ」

 

「「「褒めてねぇわっ!!バームクーヘンバカっ!!」」」

 

目の前に姿を見せた大男を前に各々の感想を放つ年少組、それを聞いたグリスがシリカに噛み付くかの様に吠えるが、ディアベルは否定していたかと思えば肯定し、終いには照れた素振りを見せた彼に仲間全員からの突っ込みが放たれる

 

「ヌウゥーン……卑劣な巨人めが、我が秘宝《ミョルニル》を盗んだ報い、今こそ贖ってもらおうぞ!」

 

「あ?《ミョルニル》………って!アレが《ミョルニル》かよっ!?俺が欲しかった伝説武器の!!」

 

「はうっ……!純粋なグリスさん……素敵…!」

 

《ミョルニル》の名を聞いた瞬間、水を得た魚の様に両眼を輝かせるグリス、そしてフィリアは彼の無邪気な姿に鼻血を出していた

 

「一度で二度美味しいとは正にこのことだねぇ………おろ?そうなると、アレも報酬になるんか?」

 

「マジかよっ!?そうと決まれば逆立ちするぜっ!!ヒゲオヤジ!!」

 

「逆立ち?ねぇ、ヴェルデ。グリスさんは何を言ってるの?」

 

「恐らくは助太刀の間違いでしょうね」

 

「ああ、何時もの覚え間違いか」

 

ソウテンの何気ない発言に食い付きながらも、安定の頭の悪さを披露するグリスにヒイロとヴェルデは哀れみの視線を向ける

 

「小汚い神め、よくも儂を謀ってくれたな!その髭面切り離して、アースガルズに送り返してくれようぞ!!」

 

「なんだか………見るに耐えないわね。ムサいオヤジ同士の殴り合いなんか需要ないわ」

 

「ミトはさ、自分が失礼な自覚ってある?」

 

「ないわ」

 

「おい、言い切ったぞ?この鍋女。お前の管轄だろ」

 

「えっ?何故に?こういうミトもすげぇ可愛いじゃん」

 

(あぁ………ダメだ、この迷子は……手遅れだ……)

 

神と呼ばれる存在に物怖じせずに失礼な発言を繰り出すミトにソウテンは止めようともせず、彼女の行い全てを肯定していた

 

「バカ騒ぎしてる場合かっ!!あのヒゲオヤジがタゲ取りしてる間に総攻撃すんぞっ!!」

 

「おめぇさんに言われんでもそのつもりだっての!ソードスキルマシマシでグランドフィナーレと行こうぜっ!!」

 

鶴の一言ならぬ獣の咆哮に馬鹿騒ぎを中断したソウテンは仲間たちに呼び掛け、大男基雷神トールに加勢を始める

 

「アスナ!やれる?」

 

「当たり前よっ!ミトこそっ!腕は鈍ってないでしょうね!」

 

「あら、言うわね?ゲームを始めたばかりの時にNPC相手に騒いでた初心者さんのくせに!」

 

「なっ……!そっちこそ!鎌使いの大男みたいなアバターだったじゃないの!!」

 

「良いでしょ?だって好きなんだからっ!」

 

軽口を叩き合いながらも、その抜群の息の良さは親友であるからこそのコンビネーション。ミトの鎌の連撃、アスナの瞬間的な無数の刺突、その姿は正に死神と閃光と呼ぶに相応しい

 

「シリカ!ピナとヤキトリでブレスを相殺するっ!出来る?」

 

「当たり前だよ!ヒイロ!あたしたちの息の良さを見せつけてあげよー!ピナ!」

 

「ヤキトリ!」

 

「「巨大化だっ!!」」

 

「きゅるる〜……グォォォォ!!!」

 

「ぴよぴよ………コカァァァ!!」

 

小さき主人たちの呼び声に応える様にシリカを乗せた巨大ドラゴンとヒイロを乗せた巨鳥がスリュムのブレスを相殺する

 

「さてさて、人体の弱点は常に足元と相場が決まっています……故に其れは神であろうと変わらない筈ですよね?グリスさん!コーバッツさん!小指を集中的に狙いますよっ!」

 

「「あいよっ!!」」

 

「うわぁ……きっくんのイジワルさが全面に出てる……痛そう……」

 

「グリスさん!素敵です!」

 

きらりと眼鏡を反射させ、自らの意地の悪さを象徴する攻撃を仕掛けるヴェルデにグリスとコーバッツが加勢する姿にリーファは顔を引き攣らせ、フィリアはグリスを讃えていた

 

「職人!リズベット!こうなったら、ヤケクソだ!あのヒゲを燃やしてやろう!」

 

「ほう……其れは些か心が躍る素敵な提案だ。協力してやろう、ディアベル」

 

「あのヒゲゴリラは鍛冶屋の敵よ!!なんだってやるわっ!!」

 

「よっしゃぁ!お許しが出た!喰らえっ!!ハジケ奥義・鍛治夫婦のケーキ入刀!!」

 

「「せーの……ふざけすぎだっ!!こんのヒゲ!!」」

 

何時もならば、ふざけた空間に制裁を放つアマツとリズベット。然しながら鍛冶屋としてのプライド故に今回はディアベルの提案に乗り、スリュムに巨大な包丁で斬り掛かる

 

「シノン!レン!援護射撃を抜かるなよっ!」

 

「言われなくても!というかレンは何をやってるのよ?」

 

「えっ?これ?杵だと射撃が出来ないから、そこら辺にあった宝を砲弾代わりに打ってるんだよ?道産子のゴルフ力を舐めちゃダメだよ!」

 

「北海道ってゴルフが有名なのね」

 

「大自然だからな」

 

援護に回っていた《荒野の獣人(ウィルダー・セリアン)》。シノンはレンの行っていた攻撃が明らかに射撃と掛け離れていた事に気付くも、彼女の謎の説得力で言いくるめられ、ツキシロも北海道の雄大な自然に首を縦に振る

 

「クライン………メイリンさんが待ってるぞ?」

 

「おめぇさんも男なら……真っ直ぐと背筋のばして、明日に進め。待ってくれてる人がいんだからよ」

 

「ああ………そうだな……Gracias、キリの字にテン。お前たちの言う通りだ、さよならだ……女神様(フレイヤさん)!そして………ごめんなさい!メイリンさぁぁぁぁぁぁん!!」

 

道化師(ソウテン)剣士(キリト)に背中を押され、武士(クライン)の涙の一撃がスリュムの足に命中。野太い唸り声と共に地に着く巨人の王、その隙を見逃さない道化師は不敵に笑う

 

「さぁて………幕引きの時間だ!」

 

「「「了解!!」」」

 

その一言と共に無数の連撃がスリュムに降り注ぎ、その体力を削り取っていく

 

「地の底に還るがよい、巨人の王!」

 

最後の一撃と言わんばかりにトールが雷を纏ったハンマーをスリュムの頭上に振り下ろし、砕け散る王冠と共に姿を氷に変え、永遠の眠りに落ちていく

 

「礼を言うぞ、屈強なる妖精達よ。これで余も、(ミョルニル)を奪われた恥辱を灌ぐことができた。────どれ、褒美をやらねばな」

 

全てが終わると何かを言いかけたスリュムの顔面を踏み潰したトールは足元の道化師たちに視線を向ける

 

「んじゃあ、そのハンマーをくれ」

 

「「「ちょっとは遠慮しろやっ!!ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ!!」」」

 

「学名で呼ぶんじゃねぇ!!」

 

「良かろう………御主ならば我が宝を正しく使えるであろう………では────さらばだ」

 

《ミョルニル》を寄越せと発言するグリスに全員からの突っ込みが飛ぶも、トールは彼の物怖じしない態度を気に入り、黄金の雷槌の柄に嵌まっていた宝石をハンマーに変え、グリスに与え、最後はニカッと笑った後に雷鳴と共に姿を消した

 

「よっしゃァァァァ!!伝説級武器ゲットだぜっ!」

 

「おやまあ、ねこに小判とはこのことだな」

 

「宝の持ち腐れもいいとこだな」

 

「ぶたに真珠ならぬ猿に伝説級武器だぜ」

 

「おん?喧嘩か?やんのか?迷子にぼっちに尻野朗」

 

「「「ああ………ん?なんか?揺れてね?」」」

 

雨降って地固まる、火花を散らし合う三馬鹿と獣。正に大円団の空気が流れる中、轟音と共に揺れが起こった

 

「役目を終えた城はまた龍の巣へと帰るの………私の名はリュミート・サイズ・ヘル・ヨツンヘイム、その王家に連なる者です」

 

「ミトが王女?死神の間違いじゃね?」

 

「ふふっ……テン?その槍、だいぶ傷んでるわね?貸してみなさい、手入れしてあげる」

 

「やだ♪」

 

両手をわきわきさせ、詰め寄るミトを綺麗な笑顔で拒絶するソウテン。普段通りに仲睦まじい二人であるが、忘れてはならない。城は崩壊寸前である

 

「おろ?階段をはっけ〜ん!こっからとんずらしようよ!とーさん!かーさん!」

 

「うむ、流石は我が息子」

 

「抜け目がないわね」

 

「エクスカリバーは何処だァァァァ!!!」

 

「待っててね〜!お宝ちゃ〜〜〜ん!」

 

「そうはさせるかァァァァ!!こうなったら、先にエクスカリバーを抜いたヤツが今回の報酬総取りだ!!」

 

「「「汚ねぇぞっ!!バカリーダー!!」」」

 

階段を駆け下り、エクスカリバーを目指し、何気に報酬総取りを提示するソウテンに全員からの突っ込みが飛ぶ

 

「パパ!出口です!」

 

「エクスカリバー基固有名《エクスキャリバー》を発見致しました、マスター・フィリア」

 

最下層、其処に静かに鎮座する黄金の剣を前に《黒の剣士》は仲間たちの方に視線を向ける

 

「あとはおめぇさんの好きにしな」

 

「悔しいけど……アナタに相応しいわ」

 

「キリトくんにピッタリだと思う」

 

「テン……ミト……アスナ……」

 

「まっ!俺のハンマーに比べたら、鈍だろうけどな」

 

「大丈夫、グリスさんは頭が鈍」

 

「ですね。キリトさん、偶にはカッコよく締めましょう」

 

「レンちゃん!今アイデアが浮かんだ!新曲は『エクスキャリバーのアフタヌーンティー』で行こう!」

 

「ごめん、意味わかんない。でもさ、キリトさんに似合うよ?最強の剣」

 

「グリス…ヴェルデ……ヒイロ…シリカ…レン……」

 

「我が生徒よ、今やらねば後に後悔するぞ?」

 

「勇者には二対の剣が必要だろ?《メモリークラウン》と釣り合うのは其奴くらいだ」

 

「そうだな、俺の最高傑作と均等性が保てる武器はそれくらいだ。リズの鈍は信用出来ん」

 

「んなっ!私も創れるわよっ!舐めんじゃないわっ!まぁでも!今回はキリトに免じて許すわっ!!」

 

「コーバッツ……ディアベル…アマツ…リズ…」

 

「ささっと抜きなさい」

 

「ズバッと引き抜け!ズバッと!」

 

「お兄ちゃんを信じるよ、あたしは」

 

「今回だけは譲ってあげる!次はないからねっ!」

 

「ツキシロ……シノン……リーファ……フィリア…」

 

親友、仲間たち、妹たち、この表情を彼は知っている……否、知っていた。黒の剣士の行く末を信じる希望の灯だ

 

その背に、氷の床に佇んでいた彼等は、全員が不敵な笑みを浮かべ、

 

『往けっ!!!』

 

全員で、背中を押す言葉を放った。眩き黄金の光を放ち、引き抜かれた刃は勇者の手の中にずっしりと伸し掛かる

 

「さーて……職人?準備は出来てるよな?」

 

「無論だ………ウィンド・フルーレ号!!」

 

不敵に笑う道化師(ソウテン)に応えた職人(アマツ)が高らかに叫ぶと時空の壁を破壊するかの様に機関車が出現する

 

「そいじゃ、崩れる前に行きますか……」

 

「行くって何処に?」

 

「そりゃあ勿論………逃げるんだよォォォォ!!!」

 

かくして、崩れゆく霜の城から道化師一味は騒がしくも賑やかに飛び出す。それに追随する様にトンキーが姿を見せ、リーファが手を振り、ヴェルデが引き気味の表情を見せていたのは言わずもがなである

そして、道化師は極寒の大地に芽吹く新たな息吹の大地に姿を変えた《ヨツンヘイム》へ、深々と頭を下げる

 

「寒ささえも力へと変え、己が欲に突き進みし、極寒の大地での冒険略奪記……お楽しみいただけましたか?皆様の御眼鏡に称う日々を彩れておりましたら、拍手御喝采の程、御願い申し上げます。其れでは、今宵の舞台は……此れにて、幕引きと致しましょう。また会う日まで、暫しのお別れに御座います、Adiós(さよなら)

 

此れは仮想世界を艶やかな色彩で、己の色に彩りし、十人の勇士たちの物語

 

一癖も二癖もある者たちを率いるは、仮面から覗く蒼き眼で万物を見透かし、不敵な笑みを携えし、槍使い

 

その名を、『蒼の道化師』と申す

 




ソウテン「次回からは遂にお待ちぬのマザーズ・ロザリオ!果たして、ふざけずにいられる?シリアス?んなもんは俺たちに関係ない!さぁ!派手に彩ってやろうぜっ!!野朗共!!」

NEXTヒント 石鹸じゃないよ

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五章 絶対無敵の剣と彩りの道化(のけものフレンズ)
始まりの剣(プロローグ) 静かな湖畔に潜むバカたち


今回は懐かしいあの話をリメイク!ギャグは前のやつを少し変えただけですが面白さは必見!えっ?これは何の話?やだなぁ、マザーズ・ロザリオに決まってるじゃないですか


「ようやくだね、キリトくん」

 

「ああ……ようやくだ。今日から遂に俺たち家族の新生活が始まるんだ」

 

「嬉しいです!また前みたいにパパやママと一緒に暮らせるんですね!」

 

青く澄み渡る空に宝石のように、きらきら、と光る水面が特徴的な湖が広がる静かな湖畔地帯。其処に佇む一軒のログハウス、家族三人で暮らした懐かしの場所にキリト、アスナ、ユイはいた

 

「やっぱり………良いね、家族水入らずの時間って……テンくんたちと騒ぐのも悪くないけど、偶には三人だけになれる場所も必要だもん」

 

「ああ……何があっても、俺たちは三人一緒だ。家族だからな」

 

「パパ!今のなんかちょっとテンにぃみたいです!」

 

「あんな迷子と一緒にするんじゃありません」

 

笑い合い、語り合い、時間が経つのも忘れる様に三人は家族水入らずの時間を満喫する

 

「なぁ、ミトさんや?こたつはなして、人をダメにするんだろうね」

 

「それはね?人類が鍋を囲む為にこたつを生み出したからよ、テン。寒い日にこたつに入りながら、鍋を囲むのは銀河系の真理よ」

 

「銀河系の真理?えっ?なに?ミトは何を言ってるの?」

 

「おやまあ、今日もかーさんの鍋はdelicioso(美味しそうだねぇ)

 

「「って!なに!人の家で普通に寛いでんだっ!!」」

 

「あっ!ロトくんにミトさん!フィリアさん!ついでにテンにぃ!」

 

突如、聞こえた声に振り返る。その先では、見覚えのある仮面の道化師と、これまた見覚えのある薄紫色のポニーテール少女、その息子と黒髪の少女が、炬燵を入りながら、何時も通り鍋を突いていた

 

「おう、邪魔してんよ。というかユイちゃんは何故に俺の扱いが酷いん?泣くよ?泣いちゃうよ?」

 

「泣いちゃ駄目よ?テン。きっとユイちゃんは反抗期なのよ。だから、暖かい眼差しで見守りましょう、ねぇ?アスナ」

 

「いやいや!当たり前のように挨拶返されても、反応に困るんだけどっ!?いつの間に来たのよっ!?だいたい!鍵はどうしたの!?またテンくんの仕業っ!?」

 

「失礼だな、今日はちゃんと正規の手順を踏んだぞ。其処の窓から入ったんよ」

 

「戸締りが甘いわよ。これがテンじゃない誰かなら、確実に何かしらを盗まれてたわよ?まぁ、泥棒もテンも大差はないけど」

 

「ミトはなに?俺に恨みがあんの?次のデートは法廷に行くことになるよ?」

 

「大丈夫だよ、テンちゃんは有罪判決決定だよ」

 

「はっはっは、フィーさん?ちょいとお兄ちゃんとオハナシをしようじゃないか」

 

「やだ」

 

「そうか、そうか。せっかくの家族水入らずの時間に文字通りの水を差してくれてありがとな。どうだ?鍋に追い出汁をするか?」

 

「なんだ、キリト。随分と気の利いた真似をするじゃねぇの」

 

「キリト…暫く見ない間に気の利いたぼっちになったんだね」

 

「なら、今日は甘めの出汁だから次は辛さが欲しいわね。少し甘辛い出汁とかも興味があるわ」

 

「…………」

 

新たな出汁に夢を馳せるミト、その隣でピーナッツバターライスを掻っ込むソウテンとフィリアの頭上にキリトが無言でコチュジャンスープを注ぐ

 

「からっ!!体中が燃える!!魔女狩りならぬ妖精狩りの火炙りになるっ!!」

 

「あぎゃぁぁぁぁ!なんか口がヒリヒリするっ!お肌が荒れるぅぅぅぅ!!」

 

「あぎゃぁぁぁぁ!!目がァァァァ!目がァァァァ!!もうちょい、まろやかにしてくれんとリアクションが取りづらい!!」

 

「大丈夫だ、リアクション芸人もビックリなリアクションが取れてるから」

 

「ユイとアスナも食べる?美味しいよ」

 

「わぁ!いただきます!」

 

「ミトって鍋だけにスキル全フリしてるよね……あっ、具材に出汁が染みてて、美味しいかも…」

 

コチュジャンスープを頭から被り、床を転げ回るミトとソウテン、フィリアの三人を見ながら、冷静に対応するキリト。其れを見ながら、ユイとアスナはロトが差し出した鍋を突いていた

 

「ヒイロ!大変だよ!あっちに防音室があった!」

 

「其れは大変。よし、これからは此処がシリカのボイストレーニングルームだ」

 

「そうだね!あっ、お土産のベイクドチーズケーキです。新居祝いにどうぞ」

 

「ありがとう、シリカちゃ………って!!なんで普通にいるのよっ!?」

 

「え?今日は確か、引っ越しパーリィの二次会でしたよね?」

 

「だからどんなパーリィよ!?というか一次会もやってないわよ!!」

 

何の前触れもなく、姿を見せたシリカとヒイロ。新居祝いにベイクドチーズケーキを差し出し、笑いかけるシリカにアスナは突っ込むが彼女は意味が分からないと言わんばかりに首を傾げる

 

「キリトさん。このお茶碗ですけど、何処に置けば?」

 

「きっくん!駄目じゃない!しっかりとお箸も準備しないと!」

 

「おいコラ、何をしようとしてるんだ?眼鏡に我が妹」

 

「見て分かりませんか?お泊まり用に自分の茶碗とお箸を片付けようとしてるんです」

 

「そうだよ、お兄ちゃん。何か問題あるの?」

 

「あるわっ!!ここは俺とアスナ、ユイの家だっ!!」

 

真顔で問うヴェルデとリーファにキリトが突っ込んでいると、誰かが肩に手を置く

 

「はっはっは、そのように殺気立つのはいかんぞ?キリトよ。そういう時にはバナナを食べると良い」

 

「バームクーヘンもあるぞ」

 

「帰れ、ゴリラに全裸騎士」

 

「「やんのか、ぼっち」」

 

当然のように姿を見せるコーバッツとディアベル、諦めの境地に行き着いたキリトが普通に帰宅を促すと、彼等は拳を構える

 

「閃子、当たり前のように押し掛けて申し訳ない。引っ越し祝いに包丁セットを持ってきたんだが………」

 

「ありがとう、アマツくん。君だけは大歓迎よ」

 

「私もエプロンを作ってきたわよ!!」

 

「ありがとぉー!リズのそういうとこだいすき!」

 

包丁とエプロンを受け取り、喜ぶアスナ。その彼女を他所にキリトは辺りを見回し、誰かを探す

 

「どうかしたか?キリの字」

 

「グリスを知らないか?あのバカ騒ぎにアイツが居ないのは不自然だと思ってな」

 

「グリの字ならば、風呂上がりにバルコニーで整おうとしているところだ」

 

「バルコニー?何処の?」

 

「無論、この家のバルコニーに決まっているだろう」

 

「………アマツ。アスナとユイを暫く頼む」

 

「構わんが、お前はどうするんだ?」

 

アマツが問うと、キリトは良い笑顔を浮かべ、愛剣をストレージから取り出す

 

「ゴリラ狩りに行ってくる」

 

「そうか、気をつけてな」

 

バルコニーに向かい、テラスで日光浴をしながらも整う一匹を発見し、愛剣を振り被る

 

「こんのゴリスゥゥゥゥゥゥ!!」

 

「なんだっ!?カチコミかっ!!もしくは討ち入りか!?なっ!キリト!てめぇ!バルコニーで何してんだっ!?」

 

「其れはお前だっ!!このゴリラ!!!」

 

「あぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

静かな湖畔沿いのログハウスに悲鳴が木霊するのであった

 

「あー………星が綺麗ね、ミト」

 

「そうね、アスナ」




次回は遂に本編!絶剣を相手に如何なる彩りを見せるのか!!必見!!

NEXTヒント 勉強会がなんぼのもんじゃい!

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一の太刀 本気でも負けることはあるんだと知った今日この頃の俺でーす

最初に言います……ユウキに相手キャラは存在しない!何故かって?そんなもんはテメェで考えろ!ちなみにソウテンたちとくっついた!なんてことはないですからね、その勘違いは作者が滅亡させときます

あと今回の話にシリカは出てません、彼女はアイカツしてます


「俺のターン!ドロー!俺は手札から呪文!道化師推参を発動!効果により、0マナで仮面道化師(マスクドクラウン)・シャスティフォールを召喚!次に死喰いのドナベリオンでシールド破壊!」

 

「なんの!シールドトリガー発動!迷子疑惑!これにより、このターンで召喚したクリーチャーは手札に強制送還されます!」

 

クリスマス、年末、様々な行事も終わり、三日後には学校が始まるという時期。勉強会という名目で集まった《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々。然し、常に世界を彩る基ふざけることに全力投球の彼等が真面目に勉強などをする筈が無く、ソウテンはヴェルデとカードゲームに身を投じていた

 

「くそぉぉぉ!!新学期まで残り三日だというのにバナナの出荷作業が進んでいない!一大事ではないか!」

 

「もちつけ!オッさん!今からでも間に合う!農場に急ごうぜ!」

 

「よく言った!それでこそ我が友(バナナフレンド)のグリスだ!」

 

「素敵です!グリスさん!わたしも手伝います!」

 

「おや、フィリアくん。私の可愛いグーくんと農業体験か?君は落花生を栽培している方が似合っているぞ?」

 

「ああ、いたんだ?サクヤさん。今日は季節外れのスイカを御持参ですか?ホントに芸がないですね」

 

肩を組み、バナナの未来を語るグリスとコーバッツの背後ではフィリアとサクヤの静かな戦いが勃発している。それは正に冷戦と呼ぶに総意ない

 

「う〜ん………悩ましいわね……色違いの○リ○リと普通のマ○ル○のどっちを育てるべきか……」

 

「ミトさんは物理に特化したポ○モンを選びがちだね。俺みたいにバランスよく育てなきゃダメだよ、最近はこの○カヌ○ャ○がイチオシ。小さいのに強いのがシリカに似てる」

 

「惚気るのもたいがいにしときなさいよ?焼き鳥バカ。このリージョンフォームの○リヤー○が進化した○リ○オルを見なさい?胡散臭いところがテンに瓜二つよ」

 

「かーさん?対抗意識を燃やすの構わないけど、フォローしきれてないよ?むしろ貶してるよ」

 

ソファーに寝転がるミトの手には携帯ゲーム機の有名ロールプレイングをダウンロードしたアミスフィア用のゲームがあり、同様のゲームを持つヒイロと育て方で議論していた

 

「ふむ……また寝ているのか?キリの字は」

 

「学校の授業中にも寝てるが仮想世界でも寝るとか、ネコか?キリトは」

 

「…………くか〜……」

 

「アイツ………幻惑魔法か何かを使ってるんじゃないの?眠くなるこっちの身になりなさいよ…」

 

「お兄ちゃんって、目を離すと直ぐにあそこで寝てますよね……」

 

だらけきった室内、特にその要因とも呼ぶべきキリトは暖炉の近くで寝息を立ていた。その腹部ではユイとピナ、更にヤキトリとプルーまでもが足元で眠りに落ちる程だ

 

「…………なんだろな、寝てるキリトを見ると昔からイタズラしたくなるのは何故に?」

 

「そうね、昔からこうなったキリトにはイタズラしなきゃいけない気がするわ」

 

「という訳で………やるぞ?野朗ども」

 

「「了解」」

 

不敵に笑った道化師一味は寝てるキリトを起こさない範囲内で、イタズラを始めていく。顎にヒゲ、額に独、目の下に隈取り、鼻の下に鼻毛、眉の間に繋がり、見るも無惨な姿に変貌を遂げていくキリトにソウテンたちは笑いを堪えるの必死でならない

 

「あとはトドメに口の中に花をぶっ込めば………おろ?」

 

「よぉ、随分と楽しそうだな?迷子野朗(バカテン)

 

その声は背後から聞こえた。汗が滝の様に流れ、恐る恐る振り返るソウテン。その先には綺麗な笑顔というか無残に彩られたcara graciosa(面白顔)のキリトが立っていた

 

「す………素敵なファッションですね」

 

「Gracias………お前等も同じにしてやらァァァァ!!」

 

「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」」

 

今日も今日とて、馬鹿騒ぎ状態の面々。その騒ぎに慣れたアスナは苦笑しながらも課題に勤しんでいた

 

「そういえばさ、アスナは聞いた?《絶剣》の話」

 

「……………ゼッケン?なに?運動会でもするの?」

 

「テンみたいな聞き間違いしないの。絶対のゼツにソードの剣で《絶剣》。通り名なのよ、あるプレイヤーの」

 

唐突にリズベットが口にした名に意味不明な聞き間違いをするアスナ。それを咎めたミトが《絶剣》についての情報を語る

 

「絶対無敵とか空前絶後なんて呼ばれてるわ。私のO S S(オリジナルソードスキル)の《デストルクシオン・ムエルテ(武器の死)》でも武器にキズの一つもつけられないのよ?ユージーン将軍の《魔剣(グラム)》は破壊出来たのに!」

 

「ミトが負けた?そんなにすごいの?その《絶剣》さんは」

 

拳を握り締め、自らの必殺技が破られた事実に怒り心頭のミト。そんな親友を見ながら、アスナは驚きを見せる

 

「おろ?《絶剣》っちの話か?確かに、アレは強かったなぁ。なにせ、十一連撃のO S S(オリジナルソードスキル)だもんなぁ……俺の《リベルタッド・リヴィア》なんか出す前に瞬殺されたくらいだしな」

 

「テンくんも!?手を抜いてたとかじゃないよね?ほら、テンくんって本気を出さない傾向があったりするし……」

 

「本気だったさ……少なくとも…ゲームとしてはだけどな(・・・・・・・・・・・)

 

馬鹿騒ぎから抜け出してきたソウテンが話に食いつき、自分も負けた事を語り出す。それにアスナは更に驚愕し、彼に本気であったかを問うと、本人は仮面を冠っていない為に露わになった素顔で苦笑する

 

「キリトくんは?戦ったんだよね?」

 

「うん?ああ、《絶剣》さんか?いやぁ……それはもう綺麗さっぱりと負けたよ、清々しいくらいにな」

 

「キリトくんもっ!?《彩りの道化(ウチ)》のスリートップの三人が負けるなんて……強いんだね、《絶剣(その人)》は」

 

未だ見ない《絶剣》、アスナが知る中で誰よりも強い三人を斬り倒し、その連勝伝説を更新し続ける存在に彼女は興味が湧き上がる

 

「私ね、思うのよ。きっとテンとキリトたちが真面目に本気を出す時は大切な誰かを傷つけられて、その涙を拭おうとした時だけなのかなって………だからかな、最近は少しでも一緒にバカをやって、笑い合って、騒ぎ合う退屈しない日々を彩る当たり前(日常)が楽しくて仕方ないのよ」

 

「そっか……ミトは本当にテンくんたちが大好きなんだね」

 

Es natural(当たり前よ)。私の世界は常に道化師とともにあるんだから♪」

 

何気ない毎日を楽しく、騒がしく、己の色に彩ることを考えるソウテンたちとの日常を楽しむミトの笑顔は晴れやかで優しく、綺麗な笑顔、絵にも描けない美しさとは正にこのことである

 

「そういえばさ、絶剣はコンバートプレイヤーだったりするの?」

 

「おろ?確か、そんなことを言ってたな。割と色々なVRMMOをプレイしてきたみたいなことを言ってたしな」

 

アスナからの問いに面を食らったかのように驚きを見せたソウテンだったが直ぐに彼は答えを返し、軽く首を左右に捻る

 

「じゃあ、それだけ強いなら………元SAOプレイヤーだったなんてことはないの?」

 

「それはないな。なぁ?兄弟(テン)

 

親友(カズ)の言う通りだ、其奴はあり得ん」

 

「どうして?」

 

正に核心を突くかの様な問い、キリトとソウテンはその問いを答えることもせずに真っ向から否定した。何故か?と問い掛けるアスナに対し、道化師(ソウテン)剣士(キリト)は不敵に笑う

 

「もし……《絶剣》が………」

 

「あの世界にいたんなら……」

 

「「《彩りの道化(俺たち)》は存在していなかった(・・・・・・・・・)」」

 

不敵な笑みと共に放たれた言葉は夜の空に静かに消えていく、それはまるで幻想を現実と錯覚させるかの様な僅かな時なのだが、アスナにはそれが何時間にも思えたのは何故か、彼女自身も答えを知らないのであった




《絶剣》、最強の三人も斬り伏せる剣士を相手にアスナが勝負を挑む!然し、バカたちはお花見気分で花より団子!いや、季節は冬(夏)だよっ!?

NEXTヒント 花よりバカ騒ぎ

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二の太刀 花よりバカ騒ぎ!これが日常なんてウソだろ?ホントなんですよ

今回はすこーし、短い。何故かって?簡単に言えば、説明回みたいなもんだからだよ


『《彩りの道化(俺たち)》は存在していなかった(・・・・・・・・・)

 

其れが何を意味するのか、そこまで言い切るからには如何なる理由があるのか、誰彼構わず、周囲を巻き込み、全てを彩る彼等が初めて口にした自分たちを否定する発言。それを聞いた時、流石にミトも耳を疑った

 

「ねぇ、テン」

 

「おろ?どした?」

 

勉強会終わり、ギルドホームに残っていたミトはソファーで項垂れた様に寛ぐ道化師に声を掛けた

 

「単刀直入に聞くけど、さっきの言葉はどういう意味?」

 

真面な答えが返って来ることは期待していない、それでも聞かざる訳にはいかなかった。その言葉の裏に隠された真意、一つの真相を知りたいが故にミトは真っ直ぐと彼を見据える

 

「さっき?ああ、《彩りの道化(俺たち)》は存在していなかった(・・・・・・・・・)ってヤツ?どういうも何も言葉通りの意味だ。あの世界に《絶剣》が……彼女(・・)が居たとしたら、勇者も、道化師も生まれなかった。というか《S A O(ソードアート・オンライン)》自体を攻略するのに二年も時間を費やさなかったんじゃないかなって思ったんだよ」

 

「そこまで言い切るからには理由があるのよね?」

 

「何故にそう思うのかを聞いてもいいかにゃ?」

 

不敵な笑みを崩さないながらも、問いを投げかける彼。普段の彼ならば絶対に口にしない言葉、其れが頭から離れないミトは腹を括り、彼を真っ直ぐと見据える

 

「私が知るテンは……蒼井天哉は仲間たちと騒ぐことを生き甲斐にしてる友達想いの大バカモノで、仲間の為なら、何があっても立ち止まらない人よ。そのアンタが自分自身を否定してまでも強いって言い切る意味を知りたい………ただ、それだけの理由よ」

 

Está bien, lo entiendo.(オーケー、わかった)。そこまで言うなら、教えてやろうじゃねぇの。《絶剣》はな、完全にこの世界の住人なんだよ(・・・・・・・・・・・・・・)。其れを理解した時には時既に遅し………気付いたら、空の彼方にきれいさっぱりと吹っ飛んでた。きっと、彼女(絶剣)はフルダイブ環境を愛し、フルダイブとともに生きるhijo del mundo virtual(仮想世界の申し子)なんだって思ったんだ。俺たちみたいにゲームを楽しむだけじゃなく、その世界で生き抜くことにも全力なんじゃないかって………まあ、本人に聞いたワケじゃないんだけどな」

 

何時もは仮面に隠された素顔、その瞳が意味するのは道化師としての彼ではないミトが慣れ親しんだ恋人としての彼が語っているという事実。それだけの理由ではあるが納得するには十分過ぎる理由、彼が何の戯けた素振りも見せずに語る時は真剣であると、ミトは理解していたからだ

 

「じゃあ………アスナは勝てると思う?道化師さん」

 

「さぁね、其れこそ神のみぞ知る……いや、茅場晶彦(ヒースクリフ)しか知らないんじゃねぇかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!アレ見ろよ!!」

 

「ウソだろっ!?どうして、こんなトコに!」

 

巨大な木が聳える孤島。《絶剣》見たさに集まってきたギャラリーたちが騒めきを見せる。その先にはレジャーシートを広げ、鍋を囲む仮面の集団、仮想世界に名を轟かせる最強ギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》が勢揃いしていたのだ

 

「俺……生の《道化師(クラウン)》を初めて見たぜ……」

 

「《死喰い》様よー!きゃー!」

 

「うわっ!《騎士》ってマジで裸なのか!?」

 

「《黒の剣士》だ!すげぇ!生で見ると意外にガキみたいななりしてるな……」

 

「野生のゴリラが二匹いる……!?」

 

話題を掻っ攫う勢いで、その名を轟かせる面々。《絶剣》を見に来た筈のギャラリーは既に《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》に夢中である

 

「悪いね、《絶剣》っち。おめぇさんの人気を奪うみたいな感じに喰う感じになっちまってさ」

 

騒がしいギャラリーをアテに鍋を突く一同を代表し、仮面の道化師が申し訳なさそうに木の前に佇む闇妖精(インプ)の少女に呼び掛ける

 

「別に構わないよー。ボクは別に人気者になりたいわけじゃないからさ……というか、前々から思ってたけど道化師さんたちは人気者だね」

 

「そりゃあこのゲーム生粋の有名ギルドだからね。まぁ、俺を含めたギルドの精鋭を十二人も下したおめぇさんの方が今では有名人みたいだけどな」

 

「あはは、そう言ってもらえると嬉しいよ。それはそうとさっきのメッセージは本当なんだよね?十三人目(・・・・)の話!」

 

和気藹々と盛り上がり、ソウテンに話し掛ける姿は正に子犬の様に無邪気な雰囲気。御世辞にも彼女が《絶剣》と呼ばれてるとは思えない

 

「ああ、我がギルドが誇る最強のプレイヤーだよ。俺が出会った中で………おめぇさんが必要としてる人材に適してる、依頼通りの人物………そんな訳だから、頼める?アスナ」

 

「………………え?ちょっと待って!何の話?」

 

唐突に何の前触れも無しに呼び掛けられたアスナは面を喰らったかの様に、きょとんした表情を見せる

 

「あー……説明してなかった?取り敢えずは戦ってみりゃあわかる……きっと、彼女はおめぇさんに良い刺激を与えてくれるよ」

 

「や……ちょっと!ミト!」

 

「諦めなさい?アスナ。テンの考えは常に意味がある………それより先はアナタ次第よ」

 

「ミトまで………」

 

背中を押され、中央に放り出されアスナは親友に助けを求めるが昨晩の一件で彼の考えを理解したが故に止めようとせず、優しく笑う

 

「じゃあ……お姉さん、やる?」

 

そう言って、笑い掛けた《絶剣》は、彼女は自分の前に姿を見せたアスナに何かを感じた。それはアスナも同様、知らない筈の彼女の姿に戸惑いを見せながらも口を開いた

 

「えーと………じゃあ、やろうかな…」




絶対無敵の刃を前に閃光は何を思い、その刃を振るうのか………あれ?ちょっと!攫われてる!?

NEXTヒント 誘拐されがちなのは常にお姫さまタイプ

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三の太刀 全てを知ってるようで何も語らないのは美学であると誰かが言った

絶剣とアスナの戦いは書きません、何故かって?だってアスナの話だよ?これは。テンたちにはテンたちのマザーズ・ロザリオがあるんだよ、他所は他所!ウチはウチ!


「じゃあ……お姉さん、やる?」

 

そう言って、笑い掛けた《絶剣》は、彼女は自分の前に姿を見せたアスナに何かを感じた。それはアスナも同様、知らない筈の彼女の姿に戸惑いを見せながらも口を開いた

 

「えーと………じゃあ、やろうかな…」

 

「オッケー。じゃあルールを簡単に説明するね、お姉さんは魔法やアイテムをばんばん使ってオーケーのルールありあり………でも、ボクは……」

 

軽い口調で説明しながらも、彼女は軽やかにステップを踏むように動き回り、不敵に笑う。その姿は道化師と呼ばれる仮面のプレイヤーを彷彿とさせるが僅かに幼さが残った無邪気な少女の様にも見えた

 

「〝(これ)〟だけだけどね」

 

腰に帯刀した一対の片手直剣に触れ、笑う彼女。魔法が当たり前の世界観で剣のみに頼るというのは明らかに異質、自分の周囲にも割と存在しているが彼女は仲間たちとは違った雰囲気を持っているような気がしてならないのだ

 

「テン。この勝負は何方に勝利の女神が微笑むと思う?」

 

親友の行く末を見守っていたミトは、隣でピーナッツバターサンドに齧り付く道化師に問う。すると、彼は口をもごもごとさせながら、持っていたピーナッツスムージーを流し込み、彼女の方に向き直る

 

「おろ?ん〜………そうだなぁ……多分だけど、決着はつかない(・・・・・・・)かな……俺の答えは」

 

「そう…………はい?ちょっと待って?今なんて?」

 

耳を疑う発言にミトは自分が聞き間違えたのか?と言わんばかりに目を丸くし、再び聞き返した

 

決着はつかない(・・・・・・・)って言ったんだよ。なにせ、《絶剣》の目的は勝ち続けることじゃないからな」

 

「勝ち続けることが目的じゃない?益々、意味がわからないんだけど」

 

「昨日も言ったろ?ゲームを楽しむだけじゃなく、その世界で生き抜くことにも全力なんだって………この決闘の決着に意味なんか最初からなかった。《絶剣》は必要としていただけなんだよ、自分を高みに導いてくれる誰かをな」

 

「…………それがアスナだって言いたいの?テンは」

 

遥か彼方に広がる澄み渡る空を見上げ、何かを知っている素振りで語る彼にミトは、疑問を抱きながらも自分の親友がその誰かに成り得るかを問う

 

así es(その通り)

 

不敵に笑い、好物に齧り付く彼の横顔。見慣れた表情にミトは「なるほど」と小さく呟き、何かに納得したらしく、目線をアスナの方に向けた

 

「そう言えばさ、前にテンが格闘オンラインゲームをプレイしてた時に互角に渡り合ったプレイヤーがいたよな?」

 

次に話しかけてきたのはパスタ片手に口をもごもごと動かすキリト。ソウテンがVRMMOをプレイするよりも前にプレイしていた格闘オンラインゲームで互角に渡り合ったプレイヤーのことを想起していた

 

「ああ……メリダ(・・・)ね。それがどうしたんだ?」

 

「いやなんか分からないけど、《絶剣》を見てたら急に思い出したんだ。βテストで一度だけ対人戦をしたことがあったんだけどさ、何でだろうな………《絶剣》の中に彼女を感じるんだよ。それ以外にも二人……彼女の中にはたくさんの想いが詰まってる様に感じる」

 

何故だろう、疑問に思いながらもキリトは《絶剣》の姿を視界に焼き付ける。彼女の振るう剣は、《メモリークラウン》の様に自分以外の誰かの想いが乗っている、そう感じていた。何故かと問われれば、即答する事は出来ない、それでもキリトの眼にはそう映ってたのだ

 

「リーダーが最初に戦ったんだよね?確か」

 

次に話しかけてきたヒイロは焼き鳥を頬張り、《絶剣》の初陣の時の出来事を想起し、ソウテンの肩に肩車の体勢で腰掛ける

 

「そっ、模擬戦最初にして初陣の相手。いわゆる初めての人。つまりは……十一連撃(・・・・)を喰らった唯一の相手だ」

 

「ふぅん……リーダーが負けたのは見てたけど、最初の相手になろうと思ったのはどうして?」

 

「う〜ん……なんでかと聞かれると答えに困るんだけど……一番の理由は彼女の真意を見極めたかったからな?誰かを知る為には刃を、拳を交えるのが一番のやり方だってのを誰かさんに教えてもらったからな。ぶつかんないと伝わらねぇこともあんだろ?」

 

「納得。リーダーはやっぱり……すごいね、しっかりと先を見てる」

 

「ふふん、そうだろう」

 

「迷子だけど」

 

「ヒイロくんや、お兄さんとオハナシしようか?」

 

「やだ」

 

真剣な雰囲気から一変、道化師は弟分の上げて落とすを体現した行いに、じりじりと詰め寄り、最終的には有名なネコとネズミのコンビにも匹敵する追いかけっこを始める

 

「ディアベル、お前はどっちに賭けた?アスナか?」

 

「《絶剣》だな。グリスは?」

 

「俺もだぜ。というか、この賭けって成立してんのか?」

 

「均等は取れている筈ですよ?なにせ、相手は《バーサクヒーラー》基……我等が《閃光(アスナさん)》ですからね」

 

「だよなー、そうなるとしくじったか?最初からアスナに賭けときゃ---ぐもっ!?」

 

「グリスが死んだ!!」

 

「一体誰が!」

 

「私の親友を賭けの対象にするとは良い度胸ね?ちょっと、ツラを貸しなさい?答えは聞いてないわ」

 

「「イヤァァァァ!!」」

 

親友が賭けの対象になっていたと知り、グリスの頭上に鎌を振り下ろした彼女はトレードマークの紫色の尻尾(ポニーテール)を靡かせ、優しく笑う。それはもう優しく、妖艶の一言が似合うレベルの綺麗な笑顔、死神の笑みで笑い掛けた

 

「グリスさーーん!?大丈夫ですか!死なないでェェェェ!」

 

「リーダー。お墓はどうする?バナナの苗?」

 

「焼き鳥の串でよくね?めぼしいもんがねぇし」

 

「ぷぷ〜ん」

 

目を回すグリスの体を揺するフィリアを見ながら、ヒイロが墓石の心配するとソウテンは手頃な物で済ませるというなんとも罰当たりな発言をする。その時だ、足元にいた彼の愛犬がコートの裾を引っ張った

 

「おろ?なんだ、プルー。キャンディーの棒なんか差し出して……まさか、これを墓にしろと?」

 

「ぷん」

 

好物の食べかすとも呼べる棒を差し出す愛犬に、意図を理解した飼い主が問い掛ければ、そうだと言わんばかりに首を縦に振る

 

「勝手に殺すなっ!!生きてるわ!ボケがっ!!」

 

「「ちっ………」」

 

「舌打ちしてんじゃねぇよ!!」

 

結束力って何?と言いたくなる様な騒がしい雰囲気。本来の目的も忘れ、何時もと変わらないハジけを見せつける《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々。その時だった

 

「うーん、すっごくいいね!道化師さんに依頼して良かったよ!お姉さんにきーめた!」

 

剣を下ろした《絶剣》はアスナに迫り、花が咲いた様な笑顔で彼女に話しかけた

 

「え………デュエルの決着は?」

 

「こんだけ戦えば満足だよ!それとも、お姉さんは最後までやりたい?」

 

「う………」

 

デュエルの決着を気にするアスナに対し、《絶剣》は悪戯を思いついた様に無邪気に笑い、意地の悪い質問を投げかける

 

「ずっと……ぴぴっとくる人を探してたんだよ。ボクと一緒に来てください」

 

差し出された手、それは初めてVRMMOに、デスゲームに、仮想世界に触れた日。親友が連れ出してくれた手に似ていた

 

「アスナ。行ってあげて、それもまたゲームの醍醐味よ」

 

「ミト……ありがとう……後で連絡するね!」

 

二人で共に駆け回った数日間に交わした懐かしい言葉に背中を押され、アスナはその手を取り、空に飛び立つ

 

「アスナが誘拐されたーーーっ!!てぇへんだ!てぇへんだ!」

 

「そうだな、お前は人間の底辺だ。キリト」

 

「んだとコラァ!!!」

 

「やかましいっ!黙っとれ!!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

慌てふためくキリト、それに間髪入れずに悪口を放つソウテンの頭上にミトは鎌を振り下ろし、空を見上げる

 

「いってらっしゃい」




絶剣と共に飛び立ったアスナを見送ったソウテンたち、そこに依頼が舞い込む。如何なる理由があろうと、大切な誰かを傷付けることを許さない道化たちがその仮面を手に取る時、それは世界を彩る時だ!!

NEXTヒント 大胆不敵

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四の太刀 缶蹴りやろうぜっ!これが超次元遊技だっ!

オリジナルのカオス時空!マザーズ・ロザリオとは名ばかりのギャグ時空にようこそ!


「缶蹴りしようぜっ!」

 

《絶剣》がアスナを連れ去ってから数時間後。ギルドホームに戻ってきた《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》のメンバーに、空き缶を片手に高らかに宣言するのはリーダーであるソウテンその人である

 

「一人でやれ」

 

「できるかっ!!」

 

「ぐもっ!?」

 

無慈悲も放たれたキリトの一言に、両眼をくわっと見開き、飛び蹴りという名の物理的な突っ込みを放つ

 

「いいか?一人遊びのプロフェショナルのお前は知らんかもしれんが、缶蹴りは揺籠から墓場まで楽しめる画期的な遊びだ」

 

「誰が一人遊びのプロフェッショナルだ!!迷子野朗!!」

 

「迷子じゃない」

 

「相変わらず、脈絡がありませんねぇ。リーダーは」

 

「何時ものことだよ」

 

缶蹴りの説明しながらも、キリトに悪口を放つソウテン。その姿を側から見ていたヴェルデとヒイロは互いの兄貴分に呆れた眼差しを向ける

 

「でもよぉ、缶蹴りなんかしておもしれぇのか?」

 

「面白いかは分からないが暇つぶしにはなるんじゃないか?なぁ、コーバッツ」

 

「うむ!依頼もないからな……偶には遊ぶのも良い運動になるだろう」

 

「依頼がないってことはお金もないってことなのよ?分かってる?アンタたち」

 

難色を示すグリスを説得するディアベルとコーバッツ。その背後では紅茶を口に運びながら、ミトが鋭い指摘を言い放つ

 

「取り敢えずだ、暇つぶしにやろう」

 

「賛成です!来週末に有名逃走劇に出ることになったので、練習したかったんです!あたし!」

 

「おろ?何時から其処に?シリカ」

 

頑なに缶蹴りをやりたがるソウテンに賛同したのは、いつの間にかログインしていたシリカ。久しぶりに見る彼女に目を丸くしながらも問う

 

「今さっきです。歌番組の収録でかましてやりましたよ、何せケツカッチンでしたからね」

 

「シリカは元気で可愛い」

 

「ありがとぉー!ヒイロもカッコいいよー」

 

死語とも言うべき単語を連発しまくる彼女を肯定するヒイロに恋愛御法度であるアイドルであるにも関わらず、シリカは彼の懐に飛び込む。その姿は正に飼い主に戯れるネコそのものである

 

「やるのは構わんが……鬼はテンの字とテン子以外にしておけ。貴様等がやると終わりの見えないデスゲーム第二章が始まる事は眼に見えている」

 

「はっはっは、職人は冗談が上手いな。なぁ?フィー」

 

「ホントホント、わたしとテンちゃんは御町内でも有名なかくれんぼの達人だったんだよ?昔はめっけのコトちゃんと呼ばれたくらいだよ」

 

缶蹴りを行うこと自体を拒否しようとしなかったが、確実に鬼役には適していない二人にアマツは念押しするが当の二人は忠告を気にも止めない

 

「当然だろ、お前らが迷子にならない様に分かりやすいとこにしか隠れてないんだからな」

 

「うん。難しいとこに隠れちゃうと、絶対に迷子になるもんね」

 

「「衝撃の事実!!」」

 

幼馴染であるキリトとリーファの口から放たれた衝撃的な事実に声を揃え、驚きを見せるソウテンとフィリア。双子ならではのハモリ芸も御約束である

 

「兎に角………やるだけやる?どうせ、依頼もないだろうし」

 

「え?あるよ?依頼」

 

「…………はい?ちょっと待って?今なんて?私の聞き間違いかしら?今なんか依頼があるとか言わなかった?」

 

耳を疑う発言にミトは自分が聞き間違えたのか?と言わんばかりに目を丸くし、再び聞き返した

 

「あるよ?まぁ、厳密には情報が揃ってないから準備段階なワケなんだが………言ってなかった?」

 

「「初耳だ!!バカリーダー!!」」

 

「ぐもっ!?」

 

自らの情報不行き届きを棚に上げ、首を傾げるソウテンに全員が飛び蹴りという名の物理的な突っ込みを放つ

 

「おらー!!ピーマン食えやっーーー!!!」

 

「内緒で依頼を受けるの良くない」

 

「お食べなさい、そして更にお食べなさい」

 

「むごっ!?むごごっ!!!」

 

正に地獄絵図、天井から吊るされたソウテンを取り囲むように三人の馬鹿が彼の口にピーマンを押し込み始める

 

「それで?依頼ってのはどういう内容なんだ?」

 

「むぐ…むごむごふぁごふぁ……てな感じの依頼だ」

 

「分かるかぁっ!!呑み込んでから喋れやっ!!バカテン!!」

 

「ぐもっ!?てめぇ!人の頭をぼかすか殴りやがって!頭がおかしくなったらどうすんだ!」

 

「大丈夫だ、お前には最初からおかしくなる様な知性は存在してない。何故か分かるか?それはな、空っぽだからだ」

 

「オーケー、ちょいと表に出ろや。このリアルソロプレイヤー」

 

「んだとゴラァ!!アメコミヴィランキャラが!」

 

「誰がだゴラァ!!」

 

何時も通りの喧嘩を始めるソウテンとキリト、それが飛び火を呼び、最終的にはミト以外の全員が喧嘩に参加していた

 

「はぁ……ホントに……」

 

「よっ、賑やかだナ。ミーちゃん」

 

賑やかな雰囲気に呆れ、ため息を吐いていると背後から聞き覚えのある懐かしい声が響き、ミトは振り返った

 

「アルゴじゃない……珍しいわね、アナタがログインしてるなんて」

 

その人物、其れは昔懐かしい《鼠》の呼び名で御馴染みのみんな大好き?のキャッチフレーズのアルゴが其処にはいた

 

「いやな、オネーサンも暇じゃナイんだけどネ……テンきちに呼び出されちゃってナ。お得意さまの御呼びに参上しないのは流石におれっちの情報屋としての護憲に関わるからナ……それでダ……今はどういう状況なんダ?オネーサンにも理解出来る様に説明してくれると助かるゾ」

 

「うーん………まぁ、簡単に言うと何時も通りね」

 

「ああ……納得…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうなってるの?これは……」

 

アインクラッド第27層の主街区《ロンバール》に連れてこられたアスナ。彼女は現在、目の前で起きる惨劇に言葉を失っていた

 

「イヤァァァァ!やめてぇぇ!辛いのはやだァァ!!」

 

「報連相はしっかりとしなさいって何時も言ってるでしょうが!!」

 

「ノリ!そのままおさえてろ!次は鼻からワサビだ!」

 

「オーケー!ジュン!」

 

「ちょっ!死ぬ!絶対に死ぬ!病気とか関係なしに死ぬ!お姉さん!シウネー!助けてェェェェ!」

 

天井から吊るされた《絶剣》の口に大量の唐辛子をぶち込む土妖精(ノーム)の女性と火妖精(サラマンダー)の少年。その様子に《絶剣》は涙目でアスナとシウネーと呼ばれた水妖精(ウンディーネ)の女性に助けを求める

 

「ウチのおバカちゃんがすいません。アスナさん」

 

「あっ、別に……大丈夫なんですか?あれ」

 

「はい、何時ものことですから」

 

苦笑しながらも《絶剣》を助けようとしないシウネー。その姿にアスナは妙な親近感を覚えていた

 

(あるのね………《彩りの道化(ウチのギルド)》みたいにリーダーの威厳が最底辺のギルドって……早まったかなぁ…)




懐かしき情報屋との再会、其れが意味するのは妖精界に嵐を呼ぶ絶対無敵の剣に関する芽吹きの始まりだった

NEXTヒント 鼠からの依頼

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五の太刀 ミドルネームで呼ばないで!愛称は何時も通りでお願いしやす!

知らぬ間に三連休に突入していた……ヤバいな、なんも浮かばねぇ……

ソウテン「よぉ、作者。作業は進んでるかにゃ?」

………もちろんですとも!明日には次の話が……あれ?ねぇ?テン?テンさん?何故に自分は吊るされてますん?というか下にあるニンニクはなに?

ソウテン「これか?これはな、更新をサボってキタカミ地方で乱獲していたお前へのお仕置きだ」

イヤァァァァ!やめてェェェェ!ニンニクは!ニンニクだけは!ガーリックマーガリンは好きだけど、ニンニクはやだァァァァ!!

ソウテン「問答無用!!」

ミト「始まるわよ♪」


「ごめんねー、アルゴ。ウチのバカ兄が無理言ったみたいで」

 

「ん……コトちゃんカ。久しぶりだナ」

 

「そうだね……かれこれ…二年振りくらい?」

 

「ちょっと待って。話が見えないんだけど、フィーとアルゴって知り合いだったの?」

 

威厳の欠片もない兄に代わり、アルゴの対応に出たのはフィリア。初対面だと思っていたミトは義妹の口から放たれた言葉に驚きを隠せないながらも、冷静に問いを投げかける

 

「知り合いというか昔馴染み?ほら、ウチのパパって警官じゃない?だから、変わった知り合いが多いの。アルゴもその中の一人だったりするんだよ」

 

「あんな叩いたらホコリしかでなさそうなオッサンがエリートとは……世も末だナ」

 

「テンもテンだけど……お義父さんも人望薄いわねぇ…」

 

「まぁ、現場に八次会をした後に直行する様なのんだくれだからね」

 

駄目な大人を体現した自分の父を思い浮かべ、苦笑するフィリア。その人物を知るアルゴも呆れ顔を見せる

 

「えっ?八次会は短い方だろ?俺なんかヤバい時は大学の敷地内に全裸で倒れてたことがあるぞ」

 

「ベルさんは頭を診てもらいなさい?きっと脳に異常があるわよ」

 

「脳に異常………ナーブギアの副作用かっ!!」

 

八次会、普通ならばありえない飲み会に酒の耐性がスキルで存在したとするなら、一番の酒豪になりうるディアベルが反応を示すことに対し、ミトは綺麗な笑顔で彼に病院に行く事を促す

 

「あの人ってアレで昔は攻略組のリーダー格だったんだよね」

 

「時の流れですかねぇ。出会った頃の面影が微塵もありません」

 

「それはリーダーさんもだよ。出会った時はカッコよかったのに今は単なる迷子のピーナッツバカだもん」

 

「シリカ。それは元々だよ」

 

「引っ叩くよ?おチビども」

 

最初の頃から明らかに残念な方向に変化を遂げたディアベルにヴェルデ、ヒイロが呆れているとシリカが引き合いに天井から吊るされた一人の道化師に出すと、非情な弟分の一言に当の本人から突っ込が入る

 

「全く、相変わらずの騒がしさだな。ジャパリパークか?ここは」

 

「いや凶暴なんもいるから、どちらかというとジュラシックじゃね?」

 

ため息混じりにキリトが騒がしい仲間たちに呆れ果てていれば、縄から解放されたソウテンが疑問符を浮かべながらも更なる罵倒を口にする

 

「ジュラシックなんか可愛い方だよ。どちらかといえば、世界記憶概念(アカシックレコード)ならぬ馬鹿概念(バカシックレコード)の方が適切だと思う。読んじゃいけない書物だよ」

 

「誰が常に腹を空かせた修道服美少女(ロリシスター)だ。お前は黙って魔女狩りの王と火遊びでもやってろ」

 

「誰が設定上は14歳だけど愛煙家の不良神父だ。もっかい吊るしたろか、迷子」

 

「はっはっは、ちびっこめ。お兄さんとオハナシしようか」

 

「やだ」

 

長年の関係性だからこその喧嘩風景、兄弟の様に戯れあう姿は見慣れた光景であると同時に日常の一頁である

 

「まァ、アレだ。必要な情報はミーちゃんに渡しておくヨ。おれっちは別件があるカラ、後は頑張ってナ。代金はテンきちの槍を売り捌くとかでオーケー?」

 

「オーケーなワケあるか。カリーナ(・・・・)このヤロー」

 

さらりと放たれた聞き捨てならない代金の支払い法にソウテンは顳顬をヒクつかせ、聞き慣れない名を口にする

 

「おいコラ、ミドルネームで呼ぶナ。仮面かち割るゾ?フェル」

 

「てめっ!何をいきなり、ミドルネームの略称で呼んでやがる!」

 

「先に呼んできたのはお前だロ?それともなんダ?ミドルネームで呼ばれたくない理由でもあるのカ?フェルナンドクン」

 

「よーし、表に出ろや、カリーナちゃんよぉ?道化師の雑技をもう見たくないって言うほどに見せてやろうじゃねぇの」

 

「テンちゃんもアルゴも喧嘩しないの。仲良くしなよ」

 

「「モニカは黙ってろ」」

 

「ミドルネームで呼ぶなァァァァ!!」

 

互いにミドルネームで呼ばれる事を嫌がるソウテンとアルゴの喧嘩を止めようと割って入ったフィリア。間髪入れずに放たれた自らのミドルネームを聞いた瞬間に彼女までも喧嘩に混じる

 

「テンとフィリアのミドルネームを知っているとは……アルゴはかなりの長い付き合いだな」

 

「ああ……絶対に誰にも言わないくらいにミドルネームで呼ばれるのを嫌ってるもんね……二人は…」

 

昔馴染みのキリトとリーファは二人がミドルネームで呼ばれる事を嫌っているのを知っている為に苦笑する

 

「フェル……響き的には可愛いと思うわよ?私は。なんなら、これからはフェルって呼びましょうか?」

 

「…………いやあの……テンでお願いします……」

 

「モニカ……確か昔の聖人にそんな名前のヤツがいたな……フィリアにピッタリじゃねぇかよ。可愛いくて」

 

「へ?あ、ありがとうございます………でもあの……今まで通りに呼んでもらいたいです……」

 

其々の恋人から放たれたまさかの一言に顔を紅潮させ、俯く姿は正に双子。恥ずかしいという感情を知っていたのかと言いたくなる

 

「じゃあ、帰るヨ。またナー」

 

「「二度と来んな」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて、紹介するね!この人たちはボクのギルド《スリピーング・ナイツ》のメンバーだよ!」

 

ギルドホームで何時も通りの馬鹿騒ぎが行われている頃、アスナは裁きという名の宙吊りから解放された《絶剣》に仲間を紹介されていた

 

「僕はジュン!よろしく!」

 

「えっーと、テッチと言います。どうぞよろしく」

 

「わ、ワタクシはそっ………その……タルケンです。よっ……よろしくお願い---イタッ!」

 

「全く緊張強いだな、タルは。アタシはノリだよ。ウチのおバカちゃんのワガママに突き合わせちゃったみたいでごめんね?」

 

「私はシウネー。この度は御足労くださいまして、ありがとうございます」

 

「そして最後はギルドリーダーにして新進気鋭の期待の新人!絶対無敵の剣と書いて《絶剣》!ユウキちゃんでーす!よろしく☆」

 

不思議と居心地の良さを感じる和気藹々とした雰囲気、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》とは似ても似つかないが昔から知っている様にも感じる風景にアスナは自然と笑った

 

「わたしはアスナ、ギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》に所属してます。力になれるかは分からないけど、協力させてもらうね」

 

「えーーーーっ!?ギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》だったの!?アスナさんはっ!!」

 

「「知らなかったのかよっ!!おバカユウキ!!」」

 

アスナの自己紹介を聞き、顎が外れるくらいに驚きを見せる《絶剣》基ユウキにメンバーたちからの突っ込みが飛ぶ

 

(う〜ん………やっぱり……似てる……《彩りの道化(ウチのギルド)》に……)

 




情報を手に入れたソウテンたちは思考を巡らせ、暗躍を始める。そしてアスナもまた動き出していた

NEXTヒント 暗躍

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六の太刀 闇に潜む影と十四人の勇士

真面なタイトルは久しぶりだなぁ、中身はギャグ的な展開もあるんだが……なぬっ!?文字数が4000字だと!?偶に調子に乗ると長めになりますなぁ



「なぁ、テン」

 

「おろ?なにかにゃ?キリト」

 

アルゴが帰り、依頼内容をミトたちに話し終え、バルコニーで寛いでいたソウテンは自分を呼ぶ親友の声に気付き、振り返る

 

「依頼の内容はアスナにも話したのか?」

 

「話してないけど?何故に?」

 

真剣な表情で投げかけられた問いに、ソウテンは何時もと変わらない口調で逆に問い掛け返す

 

「そうか。でも、アルゴの話を纏めると狙われてるのはアスナを連れて行った《絶剣》とそのギルドなんだろ?てことはだ、アスナにも話しておくのが筋なんじゃないのか?彼女だって……家族だ」

 

依頼内容、その内容は《絶剣》が所属するギルドに関係する。其れは即ち、現在進行形で《絶剣》と行動中のアスナにも関係している。然し、ソウテンは其れを彼女に伝えていないと答えた。流石に文句を言う訳ではないが、腑に落ちないキリトは兄弟であり親友であり相棒でもあるリーダーを睨み、自分の気持ちを素直にぶつる

 

兄弟(カズ)。俺だって、別にアスナを家族として認めてないワケじゃないんよ」

 

その気持ちを真摯に受け止めた道化師は仮面に触れ、素顔を晒し、代名詞でもある不敵な笑みとは異なる優しい笑みを浮かべた

 

「ミトに言われたんよ。《絶剣(彼女)》との出会いがアスナの中にある〝何か(・・)〟を変える切っ掛けになるかもしれないから、あの子には伝えないで欲しい……ってな」

 

「……〝何か(・・)〟…それってまさか……!」

 

含みのある言い方ではあるが、誰よりも彼との交流が深いキリトにはその言葉の意味が理解出来た。彼を悩ませ、狂わせ、変えてしまう切っ掛け、その〝何か(・・)〟の名を知っていた……否、忘れる筈がない、忘れたくても忘れられない

 

「不確定ではあるけどな……〝黒い衝動(・・・・)〟なんじゃねぇかと俺は思ってる。ミトも確信はしてねぇみたいだけどな」

 

「どうして……どうしてだよ…〝黒い衝動(アレ)〟は消えた筈だろ!ロトに同調したんだろ!?なのに!どうして!………すまん、取り乱した……でも、どうしてかを知りたいんだ」

 

黒い衝動(・・・・)〟、遂に口にされたその闇が大切な人(アスナ)の中にもあると知り、キリトは目付きが変わり、気付いた時にはソウテンの胸ぐら掴んでいたが即座に我に返ると素直に謝罪した

 

「はぁ………〝黒い衝動(・・・・)〟は俺個人に関わるモノじゃない。人には誰にも触れてほしくなかったり、言えない秘密がある。〝黒い衝動(アレ)〟はそんな弱い気持ちに付け込み、世界を黒一色に塗り潰す……言わば、一種の自我を持った闇の心みたいなもんだ。アスナは誰よりも真面目な分、その気持ちを何処に吐き出せばいいのかを解らないんだと思う。コイツはアスナが自分で答えを見つけなきゃいけない、俺たちは見守ってやろうや……」

 

「ああ……」

 

納得したキリトが落ちた事を確認し、ギルドホームの中に戻り、寝落ちするまでの時間を怠惰に過ごす為に寝転がっていると扉が開く音が耳に入る。気にせずに目を閉じていると、頭上に柔らかくも優しい感触が触れた

 

「おろ?次は嫁さんの方か?心配性だねぇ?我がギルドのアスナ大好きコンビは」

 

「そういうテンも私が来るのを分かった上で寝落ちしようとしてたんじゃないの?そうやって、人を試すのは悪いクセよ?自覚しなさい」

 

「なはは……面目ない」

 

その声の主であるミトはソウテンの頭を膝枕しながら、彼の悪いクセを咎める。先程までの真剣な雰囲気から一変し、二人の静かな時間がゆっくりと流れる

 

「ねぇ、テンの中に〝黒い衝動(・・・・)〟が生まれた切っ掛けって、お義父さんが原因だったのよね?確か」

 

「オヤジだけが原因とは言えんよ。オフクロの死や用意されたレール、色々と複雑に絡み合った結果が〝黒い衝動(・・・・)〟なんよ。怒りに全部任せれば、楽だし、何も考えずに暴れるだけでよかった。でもな、ミトを見つけた日から、黒しかなかった世界に()が点いた。おめぇさんの笑顔を見る度に次はどうすれば笑ってくれるかを考えるようになった。そして、あの雪の日にオヤジと再会した日に、見たんだ……誰にも見えない角度で優しく笑った父親としてのオヤジをな」

 

始まりは単純、好きな人が出来たから彼女の笑顔を見る為に変わり始めた自分。楽しいこと、辛いことを乗り越え、仲間たちと彼女と紡いだ先に待っていたのは、二度と見られないと思っていた息子の帰還を静かに祝福した父親の優しい笑顔、其れを境にソウテンの中に残留していた〝黒い衝動(・・・・)〟は完全に消え去った。息子であるロトがその化身である事は理解しているが今は彼も自我を持ち、自分で歩む術を知っている、故に〝黒い衝動(・・・・)〟とは別の存在であると断言可能だ

 

「さーてと………明日の依頼もあるし、今日は寝るかな。どうだ?ロトも交えて、偶には川の字で寝るなんてのも中々に乙じゃないか?ミトさんや」

 

「あら、それは素敵な提案ね?道化師さん。是非ともお願いしたいわ」

 

「わーい!とーさんとかーさんと寝れるんか?そいつは踏んだり蹴ったりだね!流石はとーさん!」

 

体を伸ばしながら、立ち上がったソウテンが手を差し出すとミトは優しく笑い、提案を受け入れる。それを聞いていたロトがピクシーサイズから少年の姿に戻ると無邪気に喜びながら、ソウテンの背中に飛び付いた

 

「息子よ、そいつを言うんなら至れり尽くせりの間違いじゃね?」

 

「あり?そうだっけ?まぁ、細かいことは気にしなさんな」

 

「男の子って……見習って欲しくない所が父親に似るのよねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと………依頼内容は伝えた通りだ。ボス攻略ギルドは《絶剣》基ユウキのギルド、《スリーピング・ナイツ》をカモにしてる。時間帯的にアスナと《スリーピング・ナイツ(ユウキたち)》はダンジョンに潜ってる頃合いだ。負けたとしてもアスナのことだから、ミーティングを五分で終えた後に三十分での復帰作業を提案するのは目に見えてる……だから、俺たちはその間を、攻略ギルドの奴らがアスナたちに接触する瞬間を狙う」

 

翌日の《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》ギルドホーム。壁に掛けられたホワイトボードを前に依頼内容と作戦を語る道化師に、メンバー全員が真剣な眼差しで彼に注目する

 

「時間帯的には今し方、リーダーが提示した復帰作業のミーティングを行っている頃合いでしょう……然し、攻略ギルドを相手に喧嘩を売るですか……相変わらず、リーダーの考えには驚かされますねぇ」

 

「アスナさんを囮にするの?前にもあったよね、誰かを囮にギルドを引っ張り出す作戦をしたことが……なんかデジャブ」

 

「あたしとヒイロの思い出だね!あの時のオバサンは元気かな?なんだっけ…グロリア?」

 

「ロザリアだよ。そうか、確かにあの時と同じだ…シリカが触手系モンスターに逆さ吊りにされた時と」

 

冷静に状況を分析するヴェルデ、その隣に座っていたヒイロが前にも似た体験をしたと口にするとシリカが自分との思い出である事を教えれば、彼も何かを思い出し、手を叩き、自分に寄り添う彼女に意地の悪い事を言い放つ

 

「ひ、ヒイロ!?忘れて!それは忘れて!お願いだから!というかアイドルは触手なんかに逆さ吊りにされないもん!」

 

「逆さ吊り云々にアイドルは関係ないと思うが?マイク娘」

 

突然の一言に、顔を真っ赤にしたシリカがぽこぽこという音が響きそうなくらいの強さのパンチでヒイロの胸を叩く。それを見ていたアマツは真面な突っ込みを放つ

 

「リズ……今日からは正式にメンバーだ。ほらよ」

 

「その言葉を待ってたわ。アスナの為なら、あたしは道化になる……だから、絶対にぶっ潰すわ」

 

正式な加入、其れは証である仮面を与えられるという意味。手にした仮面を冠り、彼女は拳を握り締める

 

「異名はどうなるの?職人だと職人に被るよ?」

 

「ピンク頭で良くね?頭がピンクだしよ」

 

「いや怪力女の方が良いだろ、メイスを振り回すからな」

 

「エプロンはどうかにゃ?ほら、エプロンしてるし」

 

「ぼったくりに一票ですね、僕は」

 

「……………ふふっ」

 

「「「ぐもっ!?」」」

 

矢継ぎ早に放たれる異名という名の悪口の嵐に、微笑んだ後にリズベットはソウテン達の頭上に鉄拳を振り下ろす。然し、その怒りは収まっていない

 

「殴るわよっ!」

 

「「「いや既に殴ってるし!!!」」」

 

「あたしは鍛治師………鍛治師の仮面!リズベットよ!」

 

「既にキャッチフレーズを考えてたのね」

 

「やりますね。まぁ、あたしはアイドルとしてのキャッチフレーズを即席で考えられますけどね!えっ?今のキャッチフレーズですか?アナタと一緒に今日もレッツアイカツ!完全無欠の美少女アイドル!シリカ!ですね!」

 

「自信満々なシリカ。グッジョブ」

 

「ありがとぉ〜!ヒイロ〜!」

 

誰に聞かれた訳でもないにも関わらず、勝手に自信満々というよりも自意識過剰極まりないキャッチフレーズを披露するシリカをヒイロだけは賞賛し、猫の如き身軽さで飛び付いた彼女の頭を優しく撫でる

 

「さてと……派手に行くぜっ!野郎ども!」

 

「「了解!リーダー!!」」

 

決まり文句で、一瞬の内に普段の騒がしさから、空気が一変。《ALO》に名を轟かす最強ギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》が足踏みを揃え、装備を普段着から戦闘用に切り替え、ギルドホームを飛び出す。行く先は第27層ダンジョンボス部屋前、AGI最大速度で走り抜ける姿は正に異端。道行く者が、その姿を視界に捉える頃には既に誰もいない

 

「悪いな………ここは通行止めだ」

 

「最初に言っとくが電子マネーまたはローン払いも受け付けてねぇよ?」

 

「ここから先に行きたいなら、私たち(・・)(プライド)を刈り取ってからにしてもらえるとありがたいわ」

 

多勢に無勢、一瞬の諦めが生まれ掛けたアスナの背に響いたのは頼りになる三人組(恋人と親友たち)の声。一人目は“二対の剣()”を引き抜き、二人目は“蒼き衣(コート)”を棚引かせ、そして三人目は“紫色の尻尾(ポニーテール)”を揺らす

 

「「「派手に………ゴーカイに行くぜっ!!」」」

 

(来てくれたんだね………Gracias、家族たち。やっぱり、みんなは最高の仲間だよ)




攻略ギルドと刃を交えるアスナたちの前に現れた道化師一味、その背は誰よりも頼もしく、誰よりも勇ましい。アスナの背に響くはあの言葉、背中を押され、彼女は走り出す

NEXTヒント 何処までも

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七の太刀 往け!!!何処までも!

二話連続投稿!!今回はちょいと真面目にやっちゃいます!


「「「派手に………ゴーカイに行くぜっ!!」」」

 

その背は誰よりも頼もしく、誰よりも勇ましい。何時も彼等は力を、勇気をくれる。寂しい時、辛い時、其処に彼等が居るから、彼女は真っ直ぐと歩める。道に迷っても、最後には誰かの為に刃を振るい、その背を押す

 

「キ……キリトくん……ミト……テンくん……」

 

「あの人……たち……まさか!」

 

「《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》……」

 

恋人と親友たちの名を呟くアスナの背後で、ジュンが驚きを含んだ声を挙げ、ユウキも初めて見る《ALO》最強ギルドの姿に目を丸くする

 

「おいおい、たった三人(・・・・・)で俺たちを喰うつもりか?」

 

攻略ギルドの代表者と思われる男が威圧的な態度で問い掛けるのに対し、道化師は仮面から覗く瞳を妖しく光らせ、不敵に笑う

 

「たった三人?やれやれ、聞いたか?兄弟(カズ)。この妖精さんは節穴を通り越してかなりのestúpido(おバカさん)らしい」

 

「らしいな。俺たちも舐められたモノだな?親友(テン)

 

「ちょっと、私抜きで楽しそうに会話しないでくれる?私を蔑ろにするテンは嫌い」

 

「悪かったよ。後で埋め合わせにゲームの相手してやるから、機嫌直しな?ミト」

 

「前言撤回、流石はテンね。気配りが出来る貴方が大好きよ」

 

(相変わらずのチョロさだな……まさしくちょろミトだ)

 

嫌い発言からの変貌に、キリトはミトのちょろさを感じるが、声には出さない。ソウテンは、何時も通りの不敵な笑みを浮かべる

 

「俺はおめぇさんたちの事をよく知らんし、興味もない。でもな……一つだけ許せない事がある」

 

仮面の奥に隠された素顔には凄みを感じさせる唯らなぬ気迫が溢れ、肩に担いだ槍は即座に構えられるように僅かに浮かんでいる

 

「俺は、ミドルネームで呼ばれようが、天井から吊るされようが、口にピーマンを詰め込まれようが、大抵のことは笑って見過ごしてやる。けどな……

 

 

 

 

 

仲間(家族)を傷付けるのだけは絶対に許さねぇっ!

 

その言葉は、彼が明確な敵意を抱いた際に発する決まり文句。大事なモノを傷付ける事を絶対に許さない彼だからこその真意、ゲームだからこそ、終わりの見えないゲームを生き抜いたからこその凄み、その瞳は真っ直ぐと狙いを定めていた

 

「舐めんなっ!!メイジ隊!!焼いてやれっ!!」

 

男の言葉に反応したメイジ隊は魔法詠唱で大量の火球を呼び出し、それをソウテン目掛け、放つが彼の不敵な笑みは崩れない

 

「キリト」

 

「なんだ?リーダー」

 

斬れ(・・)

 

「「「………は?」」」

 

「りょーかい」

 

「「「………えっ…………えぇぇぇぇぇぇっ!?」」」

 

当然のように放たれた衝撃の一言、攻略ギルドは勿論ながら《スリーピング・ナイツ》までもが素っ頓狂な声を挙げたのも束の間、飛来した火球を剣士が抜いた二対の剣が斬り裂いたのだ。ありえない現象に誰もが驚愕し、叫ぶ

 

「ツキシロの〝 幻影の一弾(ファントム・バレット)〟を斬るよりも簡単だよ。俺に斬れないモノなんかない………伊達に勇者を名乗ってないさ」

 

「私の《武器破壊》のパクリじゃないの」

 

「パクリじゃない。コイツは俺が独自に編み出した《魔法破壊(スペルブラスト)》だ」

 

「ダセェ」

 

「んだとゴラァ!!何にでもスペイン語で名前をつけるお前にだけは言われたくねぇわ!!」

 

「スペイン語をバカにすんなゴラァ!!」

 

「コラァ!!!喧嘩しないっ!!」

 

「「ぐもっ!?」」

 

喧嘩するソウテンとキリトに対し、ミトの物理的な突っ込みが入る。真剣な雰囲気も瞬間的に彩ってしまう姿は流石と言うべきか、バカと呼ぶべきかの二択であるが今回は前者である事を御理解いただきたい

 

「アスナー!来たわよー!」

 

「閃子。あとで《絶剣》たちと工房に来い、メンテをしてやる」

 

「リズ……アマツくん……」

 

「リーダーさんが迷わずにヒイロが迷子になるなんて!きっと呪いだ!リーダーさんの生き霊がいるんだ!」

 

「恋人が生き霊を信じてることに驚きナウ。#竜使いちゃんで、拡散希望」

 

「やれやれ、落ち着きがありませんねぇ」

 

「この状況でカレーを食べてるきっくんの方がおかしいからね?自覚して」

 

「シリカちゃん……ヒイロくん……ヴェルデくん……リーファちゃん…」

 

「我が生徒に手を出す輩には愛の拳を見舞ってやらねばな!」

 

「騎士道を貫く!其れが俺の生き様だっ!」

 

「うぉぉぉぉ!腹が鳴るぜェェェェ!!」

 

「言葉を間違えてるにも関わらず、自信満々なグリスさん!素敵です!」

 

「コーバッツさん……ディアベルさん……グリスくん……フィリアちゃん……」

 

仲間たち、義妹たち、この表情を彼女は知っている……否、知っていた。白き閃光の行く末を信じる希望の灯だ

 

「ママ!ぶつかってきてください!パパの事はユイにお任せです!」

 

「しっかりと役目を果たしてきなよ。ユイは僕が守るよ」

 

「ユイちゃん……ロトくん……」

 

棚引く黒髪を揺らし、細剣を携える影妖精(スプリガン)の少女。その隣で不敵に笑い、槍を肩に担ぐ水妖精(ウンディーネ)の少年。良く知る姿とは裏腹に明らかな成長を遂げた二人は、アスナに笑い掛ける

 

「土産話を後で聞かせてね」

 

「祝勝会はアスナの奢りでシクヨロ」

 

「……ミト……テンくん……Gracias……キリトくんも大好きだよ…」

 

「知ってる」

 

その背に、攻略ギルドと相対していた彼等は、全員が不敵な笑みを浮かべ、

 

『往けっ!!!』

 

全員で、背中を押す言葉を放った。その言葉を背に閃光(アスナ)は細剣を抜き、ストレージから取り出した仮面を手に取り、冠るとユウキの隣に並び立つ

 

「あっちは私の頼もしい家族に任せておけば大丈夫。私たちは前の二十人を突破して、ボス部屋に突貫する────いくわよっ!!」

 

「アスナに続くよーーー!」

 

迷いを吹っ切り、進む道を定めだ彼女に異議を唱える者などいない。その出会った中で一番良い顔を見せた彼女にユウキは自然と笑みをこぼす

 

「さてさて……幕を上げようか?色彩豊かな道化たちが御送りする大乱闘劇!!瞬きしてると見逃すから、しっかりと目ん玉を開けておきな」

 

不敵に笑い、槍を片手に、仮面から覗く瞳で全てを見透かすように、啖呵を切る少年。誰が呼んだか、《道化師(クラウン)》の異名を持つ彼と並び立った色彩豊かな仲間たちもまた不敵に笑う

 

「「アバターチェンジ!!!」」

 

高らかに宣言された聞き慣れない謎の言葉。刹那、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々に変化が訪れる

 

「な、なんだっ!其れにその姿は!?」

 

光に包まれ、次々にありえない姿となり、佇む十四人の勇士。その姿はこの世界には削ぐわない程に異質、しかしながら、威風堂々足る佇まいは、不思議と活力を与える

 

「おやまあ、我々を御存知ない?良いでしょう……其れでは、御耳を拝借し、聞かせて御覧にいれましょう、我等が名を」

 

唐突な異変、あの世界にしか存在しない筈の姿を知らない者たちが困惑するのに対し、道化師は不敵な笑みを浮かべる

 

「道化師の仮面、ソウテン!」

 

妖しく光る仮面、棚引く蒼き衣、肩に担がれた槍

 

「勇者の仮面、キリト!」

 

闇に映える黒き衣、両手に握られた二対の魂

 

「死喰いの仮面、ミト!」

 

紫色の尻尾(ポニーテール)、命を刈り取る鎌

 

「野猿の仮面、グリス!」

 

灰色の衣、身の丈はあるハンマー

 

「賢者の仮面、ヴェルデ!」

 

緑の衣、美しくも繊細な細剣

 

「獣使いの仮面、ヒイロ」

 

赤き衣、肩に乗る小鳥、腰のブーメラン

 

「アイドルの仮面、シリカ!」

 

片手にはマイク、肩には小竜

 

「職人の仮面、アマツ」

 

名は体を現す和装、利き手に握られた包丁

 

「騎士の仮面、ディアベル!」

 

紺の皮装備コート、右手に盾、左手に片手剣

 

「農家の仮面、コーバッツ!」

 

黄色の鎧コート、巨大な斧

 

「魔法剣士の仮面、リーファ!」

 

金色のポニーテール、片手直剣

 

「狩人の仮面、フィリア!」

 

蒼い軽装備、ソードブレイカー

 

「鍛治師の仮面、リズベット!」

 

軽装の鎧と鉄鋼、メイス

 

「閃光の仮面、アスナ!」

 

白と赤のグラデーションが特徴的な装備、細剣

 

「「彩られたら、彩り返すが流儀!我等っ!泣く子も笑う《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》!」」

 

最強と呼ばれたギルドが、この世界に名を轟かせる彼等が、其々の特徴である仮面を持つ勇士が、其処には立っていた

 

El escenario está preparado(舞台は整った)

 




幕が上がり、最強の演者による大白熱のバトルが勃発!さてさて、エンドロールなんざ吹き飛ばす勢いで爆速の戦いを見せてご覧にいれましょう!!

NEXTヒント 十四色

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八の太刀 遂に出た!お待ちかねの機関車斬り!やる時はやるんだぜっ☆

えー、今回はめちゃくちゃふざけます、というかふざけ倒します。何故かって?仕事の疲れを吹き飛ばしたいが故のストレス発散に決まってんだろうがァァァァ!!


El escenario está preparado(舞台は整った)

 

不敵に笑い、槍を肩に担ぐ道化師。無風であるにも関わらず、愛用の青いマフラーが靡く。その姿は異質であると同時に異形であるが彼等にとっては慣れ親しんだ《蒼の道化師》の姿である

 

「開戦の合図に僕の魔法を喰らいなさい!ハジケ奥義・魚&カタツムリ召喚!!ピーリカピリララ・ポポリナ・ペーペルト!!」

 

「「シグさまァァァァ!!」」

 

「「「なんか出たァァァァ!?」」」

 

真剣な雰囲気を真っ先に打ち壊したのは、適当なあらすじを生み出す馬鹿物語の著書としても定評のあるヴェルデ。彼が唱えたニチアサで流れていた伝説的な呪文の呼び出し魔法により、鯛焼きの着ぐるみを着込んだ網タイツが特徴な男性とカタツムリ的な装備を纏った屈強な男性が何かを叫びながら、光の中から姿を見せる

 

「あらやだ……ヴェルデちゃん?どうかしたの?」

 

「お呼び立てして申し訳ない。実は彼方の方々がシグルドさんを亡き者にしようとしているとの情報がありまして……」

 

「んまっ!なんですって!?聞き捨てならないわ!」

 

「ホントよ!カルゴちゃんの言う通り!蹴散らしてやるわっ!」

 

タイコちゃん並びにカルゴちゃんという更なる助っ人の登場で《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》側の戦力が拡大を始める

 

「はっはっはっ、実に愉快!私も協力しようではないか!グーくんの為にもな!」

 

「あれ?いたんだ?サクヤさん。真冬にスイカ持参ですか?」

 

「おんやぁ?誰かと思えば迷子のフィリアくんではないか。なんだ?また迷子か?」

 

当然のように姿を見せたのは外部の人間であるにも関わらず、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》に入り浸る人物。グリスの姉でありシルフ領を統治するサクヤである、今日も未来の義妹?となる予定のフィリアと冷戦真っ只中なのは言わずもがなだ

 

「くっ!シノンのいない冬休み基シノケツを拝めない年始なんか……生クリームのないケーキだ!」

 

「その気持ちわかるぜ!総長!アタイもご飯が喉を通らない!シノンちゃんのふとももが恋しいよぉぉぉぉ!!」

 

「カムバック!シノン!カムバック!へそ!!」

 

「脇の見れん戦いに興味はない」

 

「フカ。私さ……今更だけど、このギルドは変だって気付いたんだよね」

 

「おいおい、今更だろ?レン。ウチは変態集団だぜ?ちなみに私はシノンパイセンとは百合らねぇよ?レンちゃん一筋だからな☆」

 

「………フカも変態だったかぁ」

 

更なる増援に駆け付けたのは変態集団と名高いサファリパークから脱走してきたケダモノフレンズの《荒野の獣人(ウィルダー・セリアン)》。今回は彼等の生きる活力剤とも呼べる冥界の死神は里帰り中の為に不在のようだ

 

「アスナ様の護衛は私だァァァァ!!」

 

「河童は友だち!!私に釣り上げられないものはありませんぞっ!!」

 

「抜け駆けすんじゃねぇ!コント集団!!風林火山の御通りだァァァァ!!」

 

「うふふ、八つ裂きになりたい人は誰かしら?」

 

「物騒な事を言いながらも微笑みを崩さないメイリンさんも素敵だ〜〜〜〜♡」

 

「クライン……お前、ちょっとキモいぞ」

 

「あぁん!?んだとゴラァ!ぼったくり商人が!!お前から三枚に下ろしてやろうかっ!?あぁん!?」

 

フルコースメニューならば、前菜がメインディッシュを超えていると言わんばかりに更なる加勢に現れたのは変態護衛、河童の初老、侍とフライパンを手に優しく笑う女性、巨漢の商人。呼ばれずとも集まる、其れが《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》と縁を結んだ愉快な仲間たちなのだ

 

「アスナの友だちって変な人ばっかりだね」

 

「…………うん、私も思ってる……それは…」

 

個性爆発気味の友人たちを前にアスナはユウキの乾いた笑いと共に放たれた言葉に返す言葉が見つからずに肯定するしかなかった

 

「ふっ………この舞台ならば、俺の力作を披露するに相応しいな。リズベット!キッド!準備しろ!」

 

「おしっ!鍛冶屋の真骨頂を見せる時ね!」

 

「アレか!燃えてきたぁぁぁぁぁ!!」

 

「職人さんたちが燃えてます!」

 

「炎上ナウ」

 

次に動いたのはアマツ、リズベットとキッドに呼び掛ける姿にシリカとヒイロが驚愕し、震え始める

 

「其れではご唱和ください!桃栗三年柿八年!」

 

「タヌキ寝入り狐の嫁入り!」

 

「来たりて姿を見せたもう!」

 

「「「おいでませませ!!ウィンド・フルレー号!!!」」」

 

「「機関車が出たーーーーっ!?」」

 

口上と呼ぶには余りにも締まりと纏まりがない謎口上に導かれ、時空の壁を破壊するかの様に機関車が出現する

 

「喰らいやがれェェェェ!!ハジケ奥義・機関車斬り!!」

 

「「いざっ!入刀!!」」

 

「「「ぐぉぉぉぉぉ!?」」」

 

「「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!鍛治トリオが裏切ったァァァ!!」」」

 

機関車に驚いていたのも束の間、巨大な剣に変形した機関車剣を鍛治師三人集が振り下ろした瞬間、攻略ギルドのみならず乱戦に参加していたギルド全てが被害を受ける

 

「よっしゃぁ!アネキ!オッサン!俺たちも合体超奥義だ!!」

 

「グーくんと合体超奥義!?よし!お姉ちゃんに任せろ!」

 

「うむ!我が友の申し出を断る訳がなかろう!」

 

「合体超奥義だと……!!」

 

合体超奥義、その名を聞いた瞬間にソウテンが鳩が豆鉄砲を食ったような表情を見せ、わなわなと震え出す

 

「合体超奥義?なによ、それは」

 

「合体超奥義とは協力奥義が攻撃力の足し算だとすると、正にかけ算の未知数の奥義だと伝えられています。ミトさま」

 

「そうなの!?し、知らなかった……」

 

「毎度のことだけど、なんでフィリアが知らないのにエスちゃんが詳しいの!?」

 

疑問符を浮かべるミトに合体超奥義についての説明をするエストレージャに対し、やはりというか《プライベート・ピクシー》の答えに驚きを見せるフィリアにリーファが突っ込みを放つ

 

「流石はスグちゃん。如何なる時もツッコミを忘れないとは……関西人の鏡です」

 

「あたしは埼玉県民だよっ!?」

 

「埼玉も知っています。マスターを含めたパリピ基ハジケリストが集う暗黒街ですね」

 

「違う違う!埼玉はそんな街じゃないから!!」

 

「そうだ、埼玉は分かりやすくいうとメキシコとスペインを足して二で割った街だ」

 

「分かりやすいね!流石はテンちゃん!」

 

「違うわっ!!迷双子!!」

 

「「迷双子じゃない」」

 

埼玉県に間違った価値観を抱くエストレージャに突っ込みを放つ隣で更なる間違った価値観を上乗せする双子の頭をリーファが引っ叩く

 

「喰らえ!!合体超奥義!!」

 

「「「納涼花火大会!!」」」

 

「「「ぐぉぉぉぉぉ!?」」」

 

「「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!花火が暴発したァァァァァ」」」

 

バズーカ砲から打ち出された大量の花火が暴発し、攻略ギルドのみならず乱戦に参加していたギルド全てが被害を受ける

 

「こうなったら!!大乱闘だゴラァ!!敵も味方も関係ねぇ!!」

 

「上等だゴラァ!!切り刻んでやる!!迷子野朗がっ!!」

 

「んだとゴラァ!?フレンドレス!!」

 

「てめっ!!ピエロがっ!懸賞金かけられちまえ!」

 

「誰が赤っ鼻の道化だっ!!」

 

売り言葉に買い言葉、仲間割れという名の大乱闘を繰り広げるソウテンたち。これが《ALO》に名を轟かせる最強ギルドだと言うのだから、世も末である

 

「狼狽えるな!常に俺がついている……そう、この騎士であるディアベルがな!」

 

「「「パンツは黙ってろ」」」

 

「前言撤回!お前等の血は何色だァァァァ!!」

 

「ディアベルちゃんが遠くに……」

 

「わかるわ、キッド。恋愛って難しいわよね」

 

「ミトちゃん……アタイ等はズッ友だ」

 

「そうね」

 

恋人が人智を飛び越えた馬鹿であるという共通点故にミトとキッドの間には不思議な友情が芽生えていた

 

「アスナたちは?ロト」

 

「ボス部屋に入ったみたいだよー」

 

「そうか。なら、遂に……止めだっ!プルー!!!」

 

「ププ〜ン!」

 

「ハジケ奥義・飼い犬砲弾(ドッグインパクト)っ!!!」

 

「「「ぎゃぁぁぁぁ!?」」」

 

最後を締め括るように飼い犬をぶん投げたソウテン。プルーが螺旋状の鼻で、プレイヤーたちを貫き、色鮮やかなリメンライトに変える

 

「ま、負けた………なんだコイツ等は………」

 

「聞いた事がある……確か前に世界樹攻略を成し遂げた最強ギルドがあるって……」

 

「そーいや年末にヨツンヘイムで暴れ回ったギルドがあるって聞いたぞ!ま、まさか!奴らが!!」

 

「そうです……我々が朝寝坊お仕置きクラブです」

 

「違うよっ!?きっくんは何でいつも変なクラブを作るのっ!?」

 

「趣味だからです」

 

「ろくな趣味じゃない!!」

 

攻略ギルドが驚きを見せる中、相変わらずのヴェルデが作り上げた変なクラブに対する突っ込みを放つリーファ、彼女のツッコミスキルは免許皆伝レベルまで達していることは火を見るよりもファイヤーだ

 

「若き妖精たちよ………漁夫の利を利用することは確かに立派な作戦だ。然し、人は常に自らで考え、新たな道を切り開き、新時代を創り上げてゆくのだ………」

 

「「「ゴリラっぽい人」」」

 

「見たまえ……黄昏時だ。ふむ…これにて一件落着だなっ!」

 

「「「お前が締めるんかいっ!!!つーかデジャブ!!」」」

 

最終的に全てを締め括ったのは、まさかまさかのコーバッツであった。絶望感に打ちひしがれていた攻略ギルドのプレイヤーたちの心には、まるで素敵な音楽のように響き渡った

 

「なぁ、テン」

 

「うん?どしたんよ、キリト」

 

「祝勝会に乱入するのはやめないか?アスナたちだけにしてやろう」

 

「仕方ねぇなぁ………じゃあ、俺たちはメイリンさんの店に行くとしますかね」

 

「だな」

 

騒がしさから一変、仲間たちとともに剣士は歩み出す。その隣で笑う道化師と肩を組み、ゆっくりと彼は歩き出した




《絶剣》との出会いから数日、彼女は姿を消した。その行方を探すアスナに突き付けられた真実……道化師が提示した場所で彼女が見たのは……

NEXTヒント はじめまして

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九の太刀 一期一会はいちごを見つけたら食べなさいという意味じゃないんだからねっ!

感動をなんだと思ってんだァァァァァァとかいうヤボはなしですよ?だって、ギャグ作品だからね☆


「なぁ、気のせいか?気のせいだよな?あの機械をいじりながら、和気藹々と会話してるヤツは誰だ?見覚えのあるぼっちなんは気のせい?其れとも衝撃の光景?俺は新しい眼の病気になったん?」

 

「気のせいよ、きっと。だって私の知る限りは未だかつて見たことがないわ、他人の空似ならぬぼっちのドッペルゲンガーよ」

 

《絶剣》率いる《スリーピング・ナイツ》が伝説を創り上げてから三日後。教室の一角で見知らぬ少年たちと談笑する見覚えのある黒髪の少年に天哉と深澄は見間違いか?と思いながら、彼が記憶の中にある親友と同一人物であるかを疑っていた

 

「おいコラ、誰がぼっちだ。俺は正真正銘の桐ヶ谷和人だ」

 

「「「またまたぁ〜、あの和人さんに友だちがいるわけないじゃないですかぁ〜」」」

 

「んだとゴラァ!!」

 

ありえない、今までならば絶対になかったと断言出来る、あの孤独を、ぼっちを、リアルソロプレイヤーの二つ名を欲しいままにしていた筈の和人と談笑していたのは、共通の趣味を持った《友だち》だったのである

 

「か、和人に友だち……?まさか今流行りのレンタル彼女ならぬレンタル友だちかっ!?そんなになるまで追い詰められてたのか……すまん、気付いてやれなくて……元気出せよ?」

 

「何を慰めてんだ?お前は。コイツ等は正真正銘の友だちだよ」

 

「友だち……互いに心を許し合い、対等に交わる人のことを指す言葉……おかしいわね、和人に友だちが出来るなんて……日本の法律は何時の間に新しくなったの?私、聞いてないわよ」

 

「おいコラ、そこの鍋女。俺が今までは国家権力に友だち作りを禁止されてたみたいな言い方はやめろ」

 

「もしもし、スグちゃん?カズさんに友だちが出来たらしく今夜はお赤飯をお願いできますか?」

 

『お兄ちゃんに友だち………?きっくん、嘘はダメだよ』

 

「直葉さん!?流石に真っ向からの否定はお兄ちゃんも悲しいんですけどっ!?」

 

「コトちゃんよ、一大事だ。カズにイマジナリーじゃない友だちが出来たらしいんよ」

 

『テンちゃん?エイプリルフールは四月一日だよ?それに、カズに友だちが出来るなんてことは銀河系の摂理に反するよ。流石に心が海よりも広い琴音さんもお箸を持つ手が止まったよ』

 

「うむ、そうだろうな。俺もピーナッツバターサンドを齧る口が止まっちまったくらいに驚いたからな」

 

「お前等は今直ぐに富士の樹海に旅立ってこい。きっと、二度と会えないが俺は幸せになれるから問題ない」

 

「『死後に口から香ばしい匂いがする薬をあげようね』」

 

「推理漫画で御馴染みの薬なんか飲むかっ!!」

 

矢継ぎ早のようにボケを繰り出す仲間たちを相手に和人は突っ込み疲れ、肩で息をするように荒い息を口から吐く

すると、肩を叩かれ、背後を振り向くと茉人と阿来が暖かい眼差しを向けていた

 

「キリの字。友だちは一生の宝だ、手を離すんじゃないぞ」

 

「茉人の言う通りだぞ?桐ヶ谷。友だちってのは、時には埋めてやりたいくらいにムカつく時もあるが良き理解者でもあるんだ」

 

「茉人の良い話に感動を覚えたけど、鈴代ちゃんの理解に苦しむ謎概念が横槍を入れたせいで一気に感動が消え失せた」

 

名言を台無しにする迷言を放つ阿来、彼の学生生活は波乱というよりも異形に満ちた妖怪横丁並みの無法地帯のようだ

 

「…………」

 

「明日奈さんはどうしたの?リーダー」

 

「うむ……きっと、朝ごはんにピーナッツバターが出なかったから、落ち込んでるんだな」

 

何時もならば、冴え渡る筈のツッコミ担当の明日奈。然し、彼女は騒ぎを気に留めようともせずに教室の片隅で落ち込んでおり、其れを見た彩葉の問いに天哉が血迷った迷子発言を繰り出すも、ここには其れを許さない者たちが二名も存在した

 

「お前みたいなピーナッツに頭を支配された奴と明日奈を同じにすんな」

 

「そうよ。私の親友をテンみたいな迷子ピーナッツヴィランと同じにしないでくれる?」

 

「ねぇ、何故にちょいとボケをかましただけで悪口の嵐なの?俺ってリーダーだよね?敬う心とかないの?」

 

「「「……………良い天気だなぁ」」」

 

「おぃぃぃぃぃぃ!!露骨に目を逸らしたよなっ!?明らかに!」

 

和人、深澄からの悪口を交えた発言に今更ではあるがリーダーである自分を敬う心を問うが返ってきたのは答えではない明らかな話題転換という名の無視であることは言わずもがなだ

 

「……………ユウキ……」

 

「………はぁ、仕方ねぇな……ほいよ」

 

呟くように放たれた名を聞き、軽くため息を吐いた天哉は制服の内ポケットから一枚の紙切れを取り出し、明日奈に手渡した

 

「……なにこれ……」

 

「調べるのに苦労したんよ?しかし……オジキの方の知り合いを頼る線で見つかるとは思わなかった。《メディキュボイド(・・・・・・・・)》の臨床試験をしてる唯一の場所、其処に彼女はいる………可能性だけどな」

 

「テンくん………Gracias。流石はリーダーだね」

 

手渡された紙切れに書かれた「横浜港北総合病院」の名前と《メディキュボイド》という聞き慣れない単語、明日奈は其れを見ると天哉に礼を述べ、件の場所に向かった

 

「テンのオジキってあれだろ?琴音の里親」

 

「神経外科医師の竹宮(たけみや)久道(くどう)………オフクロの弟で頭のネジを閉め忘れたアホンダラだ」

 

「テンはお義父さんや琴音以外にも変わった身内がいるのね。私、将来的に馴染めるかが不安だわ」

 

「お前も十分に変だろ」

 

「ゴリラは黙ってて」

 

「誰がゴリラだ。表に出ろや」

 

「嫌よ、寒いじゃない」

 

義父、義妹、更なる変人の魔境に足を踏み入れる事を今から躊躇う深澄に純平が突っ込めば、流れるように当たり前の一言を放つ

 

「テン。前々から思ってたけど、お前は何を目指してるんだ?」

 

「あり?言ってなかった?俺は………警察官になる(・・・・・・)

 

「「「……………はい?」」」

 

和人からの問い掛けに対し、意外そうにも目を丸くした天哉が放った衝撃の一言に深澄たちは耳を疑った

 

「だから、警察官。またの名をポリスメン、わかりやすく言うとおまわりさんだ。理解したか?皆の衆」

 

「リーダーが警察官………そうか、今日が大予言にあった人類滅亡の日か」

 

「彩葉くんや、お兄さんとオハナシしようか?」

 

「やだ」

 

真剣な雰囲気から一変、天哉は弟分がぼそりと呟いたのを聞き逃さず、じりじりと詰め寄り、最終的には有名なネコとネズミのコンビにも匹敵する追いかけっこを始める

 

「明日奈は会えたかしら………《絶剣》さんに」

 

「会えたさ………俺が嘘を吐いたことあるか?深澄」

 

「割とあるわ」

 

「信用のなさに泣けてくる………今日この頃だ……まぁ、なるようになるさ」

 

不敵に笑う彼の顔には何時もの仮面はないが不思議と安心感を抱かせる、彼の周りに集まる人々はその不思議な雰囲気を求め、集まり、笑い、騒ぐ。其れが蒼井天哉、《蒼の道化師》の異名を持つ少年の本質であることは明白だ

 

「ふふっ……そうね」

 

空を見上げ、ピーナッツバターサンドに齧り付く天哉に寄り添い、深澄は妖艶な笑みで笑い掛け、同じように空を見上げていた




《絶剣》との出会い、其れは彼女にぶつかる勇気をくれた恩人。だからこそ、叶えたいと願う、彼女の願いを……

NEXTヒント 学校へ行こう!!

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十の太刀 学校へ行こう!!未成年ならぬバカたちの主張はクセがつよ〜〜い?

前回の続きですがオリジナル色が強めのギャグです♪ちなみにこの作品におけるディアベル、コーバッツ、クラディール、ニシダさんはオリジナル設定の影響故にテンたち並みにハジケにステータスを全フリしてます☆


「………もぐもぐ、昼飯といえば安定のピーナッツバターサンドだな。このクセになる感じが病みつきだ」

 

「クセになるというか中毒よね?私、テンがピーナッツバター以外の何かを食べてるのを見たことないわよ」

 

和人の脱ぼっち騒動から数日。食堂で好物に舌鼓を打つ天哉に深澄が鍋焼きうどんを啜りながら、突っ込みを放つ

 

「何を言う、深澄さん。タコスとチリコンカン、パエリアにガスパチョなんかも食べるぞ?俺は。その全部にピーナッツバターを掛けるのは当たり前だが」

 

「味の暴力よね?明らかに。味覚の押し売りはやめなさい」

 

常に頬張っている好物以外の好きな料理を挙げていく天哉だが、最終的にはピーナッツバター(馬鹿の一つ覚え)で味を台無しにしようとする彼の頭を深澄のハリセンが叩き込まれる

 

「高良先生。先日、御相談した件なんですけど……」

 

「うむ!構わんぞ!他ならない結城くんからの頼みだからな!既に西田校長にも話は通している」

 

「ありがとうございます!ユウキ。こちらは高良先生、テンくんたちの担任の先生よ」

 

『は、はじめまして!紺野木綿季です!』

 

食堂で日替わり定食を突いていた高良、彼に話し掛ける明日奈の肩には《通信プローブ》と呼ばれる物体が乗っており、其処から紺野木綿季基ユウキの声が響く

 

「はじめましてではないよ。私も《ALO》のユーザーでな、君とは攻略ギルドの時に僅かではあるが顔を合わせている」

 

『そ、そうなんですかっ!?』

 

木綿季の自己紹介を聞き、高良が自分も《ALO》のプレイヤーである事を明かせば、食い付く様に彼女は声を挙げる

 

「私のクラスは少し特殊な環境でな。年齢を問わずに教えているのだ」

 

「テンくんにミト、キリトくんたちが生徒なんだよ」

 

『道化師さんたちの先生なんですかぁ』

 

「先生らしい授業をしてもらった記憶はねぇけどな」

 

自分のクラス環境を教える高良の話に耳を傾けながら、其処に所属する生徒たちが天哉たちである事を明日奈が教えれば、木綿季は感心したように呟く。すると、話を聞いていた天哉が苦笑気味にため息を吐く

 

「テンくん、それに深澄も。お昼食べてたの?」

 

「ここのピーナッツバターサンドは絶品だからな」

 

「年中問わずに鍋焼きうどんが食べられるのはここくらいしかないのよ。はじめましてと言っておいた方がいい?紺野さん。兎沢深澄です」

 

「俺は蒼井天哉、気軽にテンって呼んでくれ」

 

『紺野木綿季だよ!よろしくねっ!』

 

天哉と深澄が自己紹介すれば、木綿季も元気の良い声で返事を返す。彼女が病を患っているなど、誰が信じよう……されど、揺るがない真実なのである

 

「目玉が喋ってる。妖怪の類い?」

 

「彩葉くん、あれはメカトロニクスという技術で生まれた《通信プローブ》ですよ。スグちゃんみたいに意味不明な解釈をするものではありませんよ」

 

教室に向かおうと歩みを進めていると、廊下でカードゲームに身を投じていた彩葉と菊丸が明日奈の肩にある《通信プローブ》に気付く

 

「あら、彩葉に菊丸じゃない。何の話をしてるの?」

 

「深澄さん。明日奈さんの肩に見慣れない機械がある、妖怪だと思う」

 

「僕は其れを否定していました」

 

見慣れない物は妖怪だと決め付ける彩葉、其れをやんわりと否定する菊丸。天哉と和人、純平のように一瞬で殴り合いに発展しないのは、彼等の方が精神年齢が高いということは火を見るよりも明らかである

 

「彩葉くん、菊丸くん。こちらは紺野木綿季さん」

 

『こんにちは!』

 

「聞いた名前」

 

「なるほど……把握しました。《絶剣》さんですね。僕は緑川菊丸、こちらは親友の緋泉彩葉くんです」

 

「ども…」

 

丁寧に自己紹介する菊丸に対し、彩葉は淡白な返事を返しながら、天哉の背後からひょっこりと顔を覗かせる

 

「すまんな、木綿季っち。彩葉はちょいと警戒心が強いんよ。気を悪くしないでくれ」

 

『ううん!大丈夫だよっ!仲良くしてくれると嬉しいな』

 

「………がんばる」

 

誰彼構わずに生意気な言動を取りがちな彩葉であるが、実は初対面の人間には警戒心が強く、天哉の背後に纏わりつくことがある。簡単に言えば人見知りなのだ

 

「む……閃子にテンの字たちか。始業前に教室に戻るとは珍しいな」

 

「茉人は今日も里香の弁当?いやぁ、物好きだね」

 

「慣れるとクセになる。唐揚げにジャムをつける感性だけは理解に苦しむがな」

 

教室に入ると迎えたのは弁当に舌鼓を打つ茉人。彼は最近、里香の手製弁当を食しており、食堂に足を運ぶ機会が極端に減少しているのだ

 

「はぁ?ジャムの悪口を言うんじゃないわよ!良い?ジャムはね、何にでも合うように作られてる万能調味料なのよ!」

 

「いんやそれはピーナッツバターだ」

 

「違う、焼き鳥のタレ」

 

「いえ、ターメリックです」

 

「バカめっ!辣油に決まってんだろ!」

 

「バナナに勝るもんがあるかっ!!」

 

「全くだ!」

 

「バームクーヘンよりも美味い食べ物があるはずないだろ」

 

「やれやれ……これだから、食を知らないバカたちは困りますね…。一番はチーズケーキに決まってるでしょう!!これ正論っ!!」

 

「「「んなわけあるかっ!!マイクバカ!!」」」

 

「ぐもっ!?アイドルのあたしを殴るとか何を考えてるんですかっ!シバきますよっ!バカどもっ!!!」

 

里香のジャム談義から始まった好物問題は何時もの騒動に発展し、始業ベルが鳴り響くにも関わらず、例によって殴り合いを始める

 

『あ、アスナ……』

 

「大丈夫だよ。そろそろ……」

 

「ふざけ過ぎだ……このバカどもっ!!!」

 

「天誅っ!!!」

 

「「「「ぐもっ!?」」」」

 

初めて見る光景に木綿季が心配気味に声を出せば、明日奈が彼女を諭す。何がそろそろなんだろう?と疑問に思いながら、喧嘩を見守っているとプラスチック包丁が降り注ぎ、ハリセンが勢いある音を立てる

 

「騒がしいクラスでごめんね……何時もはもう少しちゃんとしてるんだけど…」

 

『楽しいクラスだと思うよ?ボクは好きだな……みんなで騒いで、楽しんで………きっと、この人たちはいつまで経っても今と変わらない当たり前を彩っていくんじゃないかなって思うもん』

 

騒がしくも楽しく、生徒と教師の垣根を超えた絆で繋がれた彼等を前に木綿季は不思議と目が離せなかった

 

「ユウキ………でもね、テンくんたちは今でこそは日常を彩る道化だけど……少し前までは違ったんだよ」

 

『そうなの?』

 

知らないからこその無知、明日奈の昔を懐かしむ表情に木綿季は首を傾げた

 

「そうね……明日奈の言う通り。私たちは社会からあぶれたカラーギャング……今だって、其れは変わらないけど…前よりはずっと日々に満ち足りた満足感を感じてるわ。紺野さんが仲間たちと色々な世界を旅したように、私たちも《SAO(あの世界)》でたくさんの何かを得たの……。テンは本当に不思議な人なの……突然、現れたかと思えば、まるで世界を彩るように道を切り拓いたり、道草ばっかりしているかと思えば、しっかりと私たちを導いてくれたり、道を間違えたかと思えば、その手を引いてくれる……でも、そんな彼だから、誰かを幸せにする事を真剣に考えられる彼だから、蒼井天哉だから、私たちは彼を“リーダー”って呼ぶの。きっとこれは、これだけは、この先も……ずっとずっと変わらないわ」

 

そう言って笑う深澄の笑顔が、木綿季の中で今は会えない亡き親友の姿と重なる。楽しく笑い、共に過ごす時間が当たり前のように感じていた親友、その彼女の笑顔と深澄の笑顔が重なって見えたのは必然かはたまた偶然かは分からないが木綿季は前者であると思わずにはいられなかった

 

「其れでは授業を始める!今日はバナナの歴史についてだ!」

 

「前回の範囲ガン無視すんなやっ!!」

 

「全くだ!今日は俺の騎士学だろ!」

 

「おめぇさんも範囲ガン無視だろうがっ!!」

 

「はっはっはっ!愉快だな!相変わらず!しかーし!そんなことでは単位はやらんぞっ!」

 

高笑いと共に姿を見せたのは、痩せこけた頬が特徴的な男性。見覚えのある姿に天哉たちの苛立ちが表情に現れる

 

「なんだ、蔵田か」

 

「油汚れ並みにしつこいわね」

 

「出口はあっちだぞ」

 

「歯が黄ばんでる」

 

「剃り残しがありますよ?ああ、よく見たら眉毛でした」

 

「やっぱり嫌いだ!お前らなんかっ!」

 

矢継ぎ早に放たれる罵倒の嵐に、涙ぐむ蔵田は自分が彼等を嫌いである事を再確認し、走り去っていく

 

「では、私の河童の歴史で手を打ちましょう!」

 

「「「校長もいたんかいっ!!!」」」

 

「ホントに騒がしくてごめん……」

 

『あはは……楽しいクラス……なのかな?これはこれで…』




日は流れ、ギルド間の顔合わせに集まった面々。然し!宴と聞いて、奴らが黙っているわけがない!バーベキューならぬバーカキュー大会が幕を上げる!!

NEXTヒント バーカキュー

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一の太刀 近代バーベキューは奥が深〜〜い?バカ騒ぎに種族は関係ナッシング!

今回は作中では少しの模写しかないバーベキュー大会を軸に全面的にふざけます。反省?する必要があるんですか?ないでしょう、何故ならギャグだからね!


「それでは!みんなの初顔合わせを祝して………」

 

「「「カンパーイ!」」」

 

一月末。新生アインクラッド第22層の湖畔エリアにある《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》のギルドホームでは、豪華な顔触れの盛大なバーベキュー大会が催されていた

 

「もぐもぐ」

 

「ヒイロ!てめぇ!今、俺の肉食ったろ!」

 

「余所見をしてるグリスさんが悪い。食卓は戦場………なにこれ?なんか赤いんだけど…」

 

コンロの上でグリスが手塩にかけて育て上げた肉は気付いた時には隣で焼き鳥を頬張っていた小さな口の中に放り込まれており、怒り狂うグリスに無慈悲な食卓の定義を教えながら、ヒイロは目の前にある赤く染まったこの世のものには見えない地獄の串を発見する

 

「ん?ああ、すまん。其れは俺が味噌とニンニク、コチュジャンと胡麻油を混ぜ合わせたヤンニョムに辣油と豆板醬にブート・ジョロキア、キャロライナ・リーパーを加えることで更に辛味を感じさせる事に成功した最強の激辛ソース串焼きだ。どうだ?ヴェルデ」

 

「ええ、口の中が焼け爛れそうで汗と震えが止まりませんが美味です」

 

「きっくん!?変なものを食べちゃダメだよっ!!お兄ちゃんみたいに味覚再生エンジンがぶっ壊れるよ!!」

 

「なんだ、スグは反抗期か?お兄ちゃん複雑だぞ」

 

ヒイロの疑問に答えながらも、その串を食べたヴェルデに感想を求めるキリト。然し、予想以上の辛さを感じさせる串焼きに味の感想がかなりの危険度を訴えている幼馴染をリーファは涙目で説得し、流れで自分を侮辱されたキリトは不満を訴える

 

「おーい、おめぇさんたちー。見てみろよー、味覚破綻ぼっちが遂に妹にまで見限られてんぞー」

 

「兄妹揃っての迷子のバカに言われても何とも思わない」

 

騒ぎを聞き付け、焼き落花生を口に放り込むソウテンはキリトの醜態を見せようと仲間たちに呼び掛けるが、当の本人は彼の行き過ぎた迷子的な思考に呆れを示す

 

「「頭の中まで真っ黒なゲキダサヤローに言われても別に気にならない」」

 

然しながら、言われ慣れた嫌味などは二人には通じず、焼き落花生を食べる手を止めようともしない

 

「上等だコラァ!剣抜けっ!迷双子(ファンタジスターズ)!!」

 

「新しい呼び名を生成すんなっ!!リアルソロプレイヤー!!」

 

「そうだよっ!フレンドレス!!」

 

それではと言わんばかりに生み出された新たな呼び名にくわっと両眼を見開いたソウテンとフィリアは彼の孤独を交えた悪口を放つ

 

「うるせぇ!!だいたい!俺は友だちがいるんだよっ!!」

 

「「またまたぁ〜、あのキリトさんに友だちがいるわけないじゃないですかぁ〜」」

 

「訴えるぞ!そして勝つ!!」

 

友だちがいると言う反論に対し、声を揃えての否定を言い放つ双子に、キリトは御決まりの告訴宣言を言い放つ

 

「美味い!さすがは高い酒だ!待てよ?これにウィスキーとウォッカを混ぜれば……最強なんじゃないか?」

 

「あのなぁ……ディアベルちゃん……酒豪なのも構わねぇけど……少しは節度を弁えて、適度を覚えろよ」

 

光の速度で地上に落下しつつあるディアベルの醜態にキッドは呆れた眼差しを向け、ため息を吐く。高校時代からの付き合いで友だち以上恋人未満の関係性から先に進んだは良いが彼の言動は昔よりも遥かに常軌を逸している基馬鹿々しさを増している、その理由がソウテンたちとの出会いである事は火を見るよりもファイヤー!なのだが、これも彼の魅力なのだろうと割り切っている自分が事実だ

 

「いいか?キッド。俺はな、如何なる時も寝首を掻かれない為に人生を楽しむのをモットーにしているんだ……つまり!悩まずに生きるという意味だな。スワヒリ語でこれをhakuna Matata(ハクナ・マタタ)というんだ」

 

「なるほど。スペインのことわざにあるContigo pan y cebolla.(あなたとならパンとタマネギだけでいい)と似た意味だな」

 

「違うよ、テンちゃん。どちらかと言うとNunca falta un roto para un descosido.(破れ鍋に欠け蓋)の方だよ」

 

「ミトちゃん…ホントにあんのか?そんなことわざが」

 

「実在するのよね……まぁ、テンとフィーのことわざは明らかに今の状況で使うものじゃないわね」

 

「結局は間違ってんのかよっ!?」

 

何処で覚えたのかは不明だが外国の諺を口にするディアベル、それを聞いていたソウテンとフィリアがスペインの諺を口にするが今の状況では使うものではないことをミトが告げれば、キッドの叫びにも似た突っ込みが木霊する

 

「君が《絶剣》ユウキか。噂には聞いていたが随分と可愛らしいじゃないか……まぁ!我が愛弟のグーくんには負けるがな!」

 

「ごめんネ?この人、基本的に弟クン以外はミジンコみたいに思ってる様な人なんだヨ」

 

「えっと………領主さんなんだよね?二人は」

 

「うむ、シルフ領主のサクヤだ。そしてこの筋肉質だが小猿の様に愛らしい猿妖精(エイプ)が愛弟のグリスことグーくんだ!今日もすごく可愛いぞ!お姉ちゃんがスリスリしてやろうっ!」

 

「ぎゃぁぁぁぁ!やめろコラァ!!!」

 

「私はアリシャ・ルーだヨ!猫妖精(ケットシー)の領主だヨ!よろしくネー」

 

「騒がしい奴らだ」

 

領主と呼ぶには余りにも親しみやすいサクヤとアリシャとユウキが雑談する隣で肉を口に運んでいたユージーンが呟きにも似たぼやきを口にする

 

「わぁー!オジサンも領主さん?」

 

「むっ……俺は領主じゃない、領主は兄だ。あと……オジサンでもない」

 

「ぶっ……オジサン………」

 

「あはははは!お腹いた〜イ」

 

「おい」

 

唐突なオジサン呼ばわりに難色を示すユージーン、その背後ではサクヤとアリシャが笑い転げており、怒り心頭のドスの効いた声をを出すが二人には聞こえていない

 

「ゴラァ!!そこの野朗共!!愛しのメイリンさんの料理を味わずに搔っ食らうとはどういう了見だ!!メイリンさん!安心してくれ!恋の警備は万全です!!」

 

「ありがと〜、クラインさん」

 

「彼奴はきっと……この先もメイリンに良いように使われるんだろうなぁ」

 

「おいおい、エギル。嫉妬か?この恋の奴隷である俺に」

 

「テン。お前の情報網で腕の良い医者を探してやれないか?俺はクラインが不憫でならない」

 

「諦めな…エギル。彼奴はもう手遅れだ」

 

好きな人にこき使われることを躊躇いもせず、喜びを感じているクラインの姿にエギルが不憫さを訴えるがソウテンは既に諦めの境地に達し、遠い目をしていた

 

「全く……ホントに騒がしいわね。何処でも常にお祭り騒ぎなんだから……」

 

「そうだな。それにしても……やっぱり、良い尻だ。この絶景を見ながらだと、生クリームが格別に美味いな!」

 

「何を言ってんだ!一番はヘソだろ!」

 

「最高だぜぇ〜!やっぱり、美脚といえばシノンちゃんだよな!鮭茶漬けが止まらねぇ〜!」

 

「やはり……脇見酒は格別の美酒だな」

 

生クリーム大福を頬張るツキシロ、天ぷらを頬張るリッパー、白米を掻っ込むキッド、ワインを嗜むクイックドロウ。四人の額に鏃が突き刺さる

 

「毎度毎度、何をしてんのよっ!!こんの変態四重奏(カルテット)!!!」

 

「「「「ず……ずび……ば…ぜ…ん…」」」」

 

「フカ。やっぱりさ、このギルドに入ったのは間違いだよ」

 

「そうか?私は好きだぜ?楽しいじゃん。何せ、可愛いレンちゃんを拝めるからな☆」

 

「……………フカが段々と毒されてるんだよなぁ」

 

今日も今日とて、安定の変態集団は生きる活力剤とも呼べる冥界の死神と過ごす最高のバーベキューを謳歌していた

 

「あの池に河童が居そうですな……ちょっと釣り上げてきますぞっ!!」

 

「美味い!なんだこれはっ!もしや!アスナ様の手料理かっ!?」

 

「いや私の焼きバナナだな」

 

「…………やはり不味いな」

 

「貴様ァァァァ!!バナナに失礼ではないかっ!!恥を知れェェェェ!!」

 

「全くだゴラァァァ!!バナナ舐めんなっ!!」

 

「ぐおっ!?」

 

河童が出現しそうな池を発見したニシダが走り去るのを気にせず、焼きバナナを口にしていたクラディールは最初こそは美味いを連発していたがコーバッツの手作りだと知った瞬間に、地面に叩き付けた。その行動にバナナを愛する二匹の猿妖精が雄叫びにも似た叫びを挙げ、飛び蹴りを放つ

 

「んまぁ!シグさまよ!」

 

「いやぁァァァ!シグさまァァ!」

 

「ひぃぃぃぃ!何でいるんだぁぁぁぁ!」

 

「はっはっはっは、愉快愉快」

 

タイコちゃんとカルゴちゃんから逃げ惑うシグルド。その様子を見ながら、サクヤはシルフ領名物風乞いダンスを踊っている

 

「アマツ!このブルベリージャムサンドなかなかの美味しさよ!食べなさい!というか食べろ!」

 

「…………奇跡的に美味いな」

 

「《GGO》で食ったチェリーパイよりは美味えかもな。ピーナッツバターサンドには負けるけどな」

 

「あら、アメリカにはブルベリージャムとピーナッツバターのサンドイッチがあるのよ?」

 

「ミト。良いか?ピーナッツバターはな、他の調味料と混ぜちゃ駄目なんよ。ピーナッツバターはピーナッツバターで完成されてるんだ」

 

「そうよ!ジャムに訳の訳からないモノを混ぜるとかありえないわ!」

 

「リズとは仲良くなれんな」

 

「あたしの台詞よ」

 

「バカも極めると最早……呆れたモノだ」

 

「ホントに…」

 

好物についての言い合いを始めるソウテンとリズベット、その二人を見ながら呆れた様にミトとアマツはため息を吐き、互いの恋人の馬鹿らしさを嘆く

 

「それにしてもすごいメンバーですよね……まぁ、アイドルのあたしが一番ですけどね!」

 

「もぐもぐ……美味いね、これ」

 

「ロトくん!食後にクッキーもありますよ!」

 

「お茶です。ロトさま」

 

「おやまあ、こいつは正に踏んだり蹴ったりだ」

 

「息子よ、そいつを言うんなら至れり尽くせりじゃねぇかなと父さんは思うぞ」

 

「あり?そうだっけ?まぁ、細かいことは気にしなさんな」

 

「アスナ。子育てって難しいわね」

 

「そうだね」

 

「ぷぷ〜ん」

 

「ぴよぴよ」

 

「きゅるる〜」

 

騒がしくも楽しいバーベキュー大会基バーカキュー大会は笑いに満ちていたのは言わずもがなである




飲み会のノリは恐ろしい、何故ならそのままのテンションに身を任せ、衝動的な行動に出られるのだから……!

NEXTヒント カチコミを掛けよう

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二の太刀 カチコミってのはテンションを上げとけば、ノリでなんとかなるもんだ

今回は第28層に行く話を勝手にギャグにしました♪もうなんでもやっちまえ!というかギャグを書く為ならば、シリアスさえもぶっ壊す!それがこの作品です♪


「前回のあらすじ、あたしたちはその場の勢いというかノリ、ぶっちゃけるとテンションに身を任せた末にダンジョンにカチコミを掛けたのであった。以上、現場から世界を自由に染め上げますっ♪でお馴染みの美少女彩りアイドルのシリカがお送りしましたっ☆」

 

「いやいや!しましたっ☆じゃない!何勝手に変なナレーションしてるの!?前回はダンジョンに行くよりも前で話は終わってるんだよっ!?」

 

開口一番に、前回の経緯を解説する一人のアイドル娘。然し、その内容は前回の終わりと今回の始まりを余りにも端折り過ぎていた為にトレードマークのウサ耳的な帽子を尖らせたレンが突っ込みを放つ

 

「台本が間に合わず、シリカさんにあらすじを乗っ取られるとは……なんたる不覚!」

 

何時も適当なあらすじを考える事が何よりの楽しみだったヴェルデは地面を叩き、今回ばかりは自らの筆の遅さを嘆く

 

「ふっふっふっ!良い?アイドルは可愛ければ、何をしても許されるんだよっ!」

 

「そんなわけねぇーーーーっ!!!」

 

「ヒイロくん。あの二人を今すぐに永眠させたいのはあたしだけかな……」

 

「慣れると気にならないよ」

 

止まらないシリカの暴走機関車顔負けのハジケ振りに更なる突っ込みを放つレン。一方でリーファは友人と幼馴染に突っ込むことを放棄し、遠い目でヒイロに語り掛けるが慣れ故に気にも止めない彼は呑気に焼き鳥を頬張っていた

 

「しかしながら、グーくんと一緒に階層ボスを倒すのは初めてだな!お姉ちゃん張り切っちゃうぞ!」

 

「おう!腹が鳴るぜ!頑張ろうな!アネキ!」

 

「はうっ!言葉を間違えていながらもそれに気付かない程に無邪気なグリスさん…なんて素敵なの……!」

 

初めての姉弟での共闘に胸を躍らせるサクヤ、そして姉に笑い掛けるグリス、その様子に悶えるフィリア。完成された構図が気に食わない者がこの場には存在した

 

「お兄ちゃんは許さん」

 

フィリアの兄であるソウテンは、彼女の交際を未だに認めておらず、即座に許さないと発言する

 

「全くだ。お姉ちゃんも許さんぞ」

 

其れに釣られ、グリスを溺愛するサクヤも交際に異議を申し立てた

 

「サクヤさんとは気が合いそうだな」

 

「うむ、私もそう思っていたんだ。今後ともよろしくな」

 

「ああ、フィーの為にも」

 

「グーくんの為にも」

 

「「ん……?前言撤回、やっぱり仲良くはなれない」」

 

最初こそは互いに下に妹又は弟を持つ者同士で固い握手を交わしたが、意見の相違から一瞬で友情は崩れ去り、火花を散らし合う

 

「アホなことしてないで戦えやっ!!このバカども!!」

 

「何を仕切ってんだ!尻野朗!!てめぇんとこは《彩りの道化(ウチ)》に吸収されてんたぞっ!」

 

「誰がそれを承諾したっ!?だいたいテメェは毎回毎回ふざけすぎなんだよっ!!ちょっとは真面目にやれやっ!!傍迷惑迷子がっ!」

 

売り言葉に買い言葉からの道化師と赤狼による口論が始まり、元が宿敵同士である二人は火花というか業火にも似た怒気を放ち合う

 

「女のケツばっかを追いかけてる変態に言われたくねぇわ!!お前さっき、どさくさに紛れてシノンねーさんの後ろ姿をスクショしてたの知ってんだからなっ!!」

 

「違いますぅ、あれはスクショじゃなくて観察してたんですぅ」

 

「どっちにしても変態じゃねぇかっ!!おろ?シノンねーさん、どしたん?」

 

「ごめんね?テン。少しだけ、そこのケダモノと話をさせてもらえないかしら?」

 

「………どうぞ」

 

変態であることを隠そうとしないツキシロ、その様子を見ていたシノンはソウテンに待ったを掛け、彼と話をさせて欲しいと申し出る。その時、ソウテンは見た。綺麗な笑顔の奥にある殺意に満ちた女神の瞳を、下手に異議を唱えれば、自分も道連れになることを悟り、ツキシロを彼女に差し出す

 

「なんだ?シノン」

 

「ふふっ♪」

 

「…………」

 

問い掛けも束の間、答えの代わりに放たれた火矢を額に受け、ツキシロは物言わぬ屍と成り果てる

 

「総長が死んだっ!!」

 

「息してねぇぞっ!しっかりしろ!総長!医者は何処だァァァァ!!」

 

「いやぁぁぁ!総長さーーーーん!?」

 

「クイックパイセンって確か医療関係者じゃなかったか?」

 

「美容整形専門だが構わないか?脈拍とか知らんから、適当に二重にするぞ?」

 

「おう、やっちゃってくれ」

 

「治す気あんのかゴラァァァ!!」

 

唐突な状態からのバカ騒ぎ、メンバーが変わっただけで明らかにその姿は道化師率いる一味と変わり映えしないカオスである事は言わずもがなだ

 

「「茶番だ」」

 

「んだとコラァ!!!」

 

「やんのかっ!?」

 

CHAOS(カオス)、やはりお前たちとは気が合わない」

 

「やかましいっ!!!」

 

「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」

 

自分たちを棚に上げ、ツキシロたちに対し、冷めた反応を見せるソウテンたち。その反応が気に障ったツキシロ達が喧嘩を仕掛けるも、間に入ったアマツの包丁が降り注ぐ

 

「では作戦は何時も通りにしましょう」

 

「何時も通り……クリフト使うなだね。分かった」

 

「クリフト……?ねぇ、誰なの?ボクは会ったことないよ?」

 

「私たちもですね。ギルドメンバーの方でしょうか?」

 

「クリフト……なんか知ってるような……何処で聞いたんだっけなぁ…テッチはわかる?」

 

「クリフトですか…確かになんだか聞き覚えがありますね」

 

「ワタクシは分かりましたよ。クリフトとはあの有名なゲームで魔王を相手に回復魔法を掛けてしまううっかり屋さんです」

 

「なるほど!つまりはユウキみたいなおバカちゃんか!」

 

「ボクはクリフトじゃないもん!ユウキだもん!」

 

「そうだよ、みんな。クリフトはユウキじゃなくてテンくんだよ」

 

「アスナはなに?俺が嫌いなの?ねぇ?ちょっと?ミトさんや、どないなってますのん?」

 

「クレームは受け付けてません」

 

「………ぐすん」

 

「とーさん。もしかして、泣いてるんか?」

 

「泣いてない………目からポソレが溢れただけだ」

 

「ポソレっ!?」

 

威厳は何処に泣きべそを掻くソウテンは唯一、心配してくれる愛息子(ロト)からの問いにメキシコで食べられているスープが目から溢れたと意味の分からない事を言い放つ

 

「そーいやよ、28層のボスってどんなのだ?」

 

「確かカニじゃなかった?すごく不味そうな」

 

「ムキムキのカニだったかと……」

 

「ピーナッツバターを掛けても食えなさそうだったな」

 

「えぇっ!?ピーナッツバターが合わないカニがいるのっ!?」

 

「そもそも、カニにピーナッツバターは掛けないのよ?テンくんとフィリアちゃんは理解してる?」

 

「そうよ、ジャムよ」

 

「いえ、カレーです」

 

「何を言う辣油だ」

 

「リズとヴェルデくん、キリトくんも違うから」

 

「全く……これだから、食を知らないバカたちは困るわね。カニは鍋にぶち込むって相場が決まってるのよ」

 

「「「鍋女は黙ってろ」」」

 

「んだとコラァァァ!!!」

 

「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」

 

話が纏まりかけた瞬間、背後から放たれた一言を聞き逃さなかったミトはバカたちを追い掛け、回廊を走り出す

 

「さてと遊びはこんくらいにしとくかね。派手に行くぜっ!!野郎どもっっ!!」

 

「「「了解!リーダー!!」」」

 

その言葉と共に戦いの火蓋が切られ、道化師(クラウン)は担いだ槍を手に、仲間たちと地を蹴り、駆け出す

 

「俺たちも負けてらんねぇ!!暴れるぜっ!!子分どもっ!!」

 

「「「アイアイ!総長!!」」」

 

「わわっ!ボクたちもいくよぉ〜!」

 

道化師(クラウン)たちに遅れを取るまいと駆け出す赤狼(ヴォルフ)率いる荒くれ者たち、その後を追う様にユウキたちも走り出す

 

「こうなったら、先にあのカニを倒したヤツが今回の報酬総取りだ!!」

 

「「「汚ねぇぞっ!!バカリーダー!!」」」

 

開かれたボス部屋に入った瞬間、流石に大勢で戦闘では報酬が受け取れないと考えたのか、何気に報酬総取りを提示するソウテンに全員からの突っ込みが飛ぶ

 

「先手必勝!!武器破壊してやるわっ!!」

 

「させるかっ!!その前に俺が串刺しにしてやるっ!!」

 

「そうはさせるかぁ!!MVPは俺だァァァァ!!!」

 

「オリコンチャート一位は渡しませんっ!!」

 

「シリカだけ違うんだけどっ!?」

 

「レンちゃん。突っ込むだけ無駄よ、あの子に関しては」

 

我先に駆け出すミト、ソウテン、キリトの三人を追随する様に駆け出すシリカの目的にレンの突っ込みが飛ぶも、リーファは諦めた眼差しをしながら、彼女の肩を叩く

 

「緊張感がないんだね、道化師さんたちは」

 

「バカなだけよ」

 

「全くだ。俺は今まさに敵を狙い撃ちながらも尻尾をふりふりと揺らすシノケツを見るので忙し----………」

 

「敵を前に何をアホなことをしてんの?アンタは」

 

「そうだぜ?総長。やっぱり太腿だぜ?一番は。見ろよ!この魅惑の絶対領域(バレットライン)を---………」

 

「シノン、シノン。実はよ、おれちゃん試したい技があるんだ?だからよ、ちょっとだけ付き合ってくれるか?先ずはその魅惑のへそを----………」

 

「シノン。ここはやはり、先ずはお前のワキを---………」

 

「良い?レンとフカはこんな変態にならないようにね」

 

「シノンパイセン。私もレンも一応は年上だぜ?」

 

「えへへ……やっぱり、小さいと年下に見られるんだぁ〜」

 

「おっと?レンちゃんが別世界に行っちまってるぜ」

 

矢継ぎ早に湧く変態四重奏を無効化しながら、幼女二人に言い聞かせるシノン。然し、フカ次郎が自分の方が年上である事を主張する隣でレンは自らの体型に舞い上がり、別世界に旅立っていた

 

Estamos listos.(準備は整った)。グリス!打ち上げろっ!」

 

「あいよっ!」

 

グリスが構えたハンマーの上に、ソウテンが飛び乗ると、天井近くまで、投擲される

 

「永遠にadieu」

 

手にした槍と共に螺旋回転を始め、その回転は風を巻き込み、小さな暴風と化したソウテンは仮面越しの不敵な笑みと別れの言葉を贈り、《リベルタッド・リュヴィア》がカニの甲羅を貫く

 

「出た、槍コプター」

 

「ああ、槍コプターだ」

 

「リーダーの十八番槍コプターですね」

 

「変な名前つけんなっ!!《リベルタッド・リュヴィア》だっ!!」

 

「「「呼びに難いから槍コプターで良いじゃん」」」

 

「良くねえわっ!!」

 

必殺技に槍コプターという安置な名前をつけられ、異議を唱えるソウテンはキリトたちを追い回し始める

 

「じゃあ、次の階層はアスナたちに任せたわ。私はこのバカたちを無力化しないとだから」

 

「えっ?ミトたちは来ないのっ!?」

 

「だってアレよ?」

 

まさかの親友からの言葉にアスナは驚きを見せるが、ミトは諦めた眼差しでキリトたちを追いかける迷子を指差す

 

「串刺しにしてやらァァァァァァ!!」

 

「「「やれるもんならやってみろや!」」」

 

「シノン。これは座ってくれって意味じゃない」

 

「踏めばよかった?」

 

「あらあら、ホントに元気が良いわね〜」

 

「ん〜呑気でも素敵だぁ〜!メイリンすわぁぁ〜ん!」

 

「グーくん!今日もナイスバルクだっ!」

 

「腹筋が素敵です!グリスさん!」

 

「筋肉イェイ、筋肉イェイ」

 

「マスターとサクヤさまは安定の変態さんですね」

 

「騎士道とはバームクーヘンとともにあり」

 

「だから脱ぐんじゃねぇよっ!!こんのバカレシっ!!」

 

「はっはっは、愉快だな!うむ!絶好のバナナ日和だ!」

 

「「「聞いとことねぇわっ!!そんな日和はっ!!」」」




明日奈に連れられ、桐ヶ谷家を訪れた木綿季の前に現れたのは、桐ヶ谷兄妹だけではなく当然の様に上がり込むバカたち!果たして、彼女はお宅訪問を無事に終える事ができるのかっ!

NEXTヒント 突撃!桐ヶ谷家の晩御飯!

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三の太刀 お宅訪問?座敷童子ならぬ座敷馬鹿は呼ばれずとも現れ出で〜〜る!

今回は桐ヶ谷家訪問からのエギルの店訪問!やはりギャグになってますぜ⭐︎


「「いらっしゃ〜い」」

 

『わぁ!ここがキリトとリーファのお家かー』

 

今日、木綿季は明日奈と共に桐ヶ谷家に御宅訪問していた。この家に玄関から入ってくる訪問者がいるという事実に驚いた方もいらっしゃる筈だ。何故なら、既に桐ヶ谷家はバカたちの溜まり場という名の無法地帯と成り果てているからに他ならない

 

「どうぞ、むさくるしい所ですが上がってください」

 

『あれ?ヴェルデがどうしているの?』

 

差も当然のように姿を見せた菊丸、慣れ故に和人と直葉は気にも止めず、明日奈も呆れから出るため息を吐いているが、初見の木綿季は困惑した声を出す

 

「気にしないでくれ。こいつは座敷童子みたいなもんだ、幸運という名の不幸を運んでくるんだ」

 

「カズさん。さては僕の事が嫌いですね?そうでしょう?」

 

「最初は軽くお茶でもどうだ?こっちがリビングだ」

 

菊丸を座敷童子であると紹介し、明日奈と木綿季を連れた和人は彼女たちをリビングに案内する。無視された菊丸は直葉に慰められ、ナンを口に押し込められている

 

「突撃!アイドル御飯!今日は埼玉県の桐ヶ谷家におじゃましています♪」

 

「公開収録が知り合いの家とはツイてるよなぁ〜」

 

「良い日に当たったわね。グッジョブよ、彩葉」

 

「運は良い方だから」

 

「すまん。リビングは見なかったことにしてくれ」

 

扉を開いた先にいた見覚えのあるアイドル娘、その彼女を見守る親友たちと弟分。和人は黙って扉を閉め、今の状況を忘れて欲しいと願い出る

 

「おう、カズ。邪魔してんぞ」

 

「おかえり」

 

「あら、明日奈に木綿季も来たの?今日は賑やかね」

 

「いやそんな平然と挨拶されても返しに困るんだけど……深澄」

 

「バカね、挨拶はきちんとするのが社会の常識よ」

 

「常識を語るよりも前に不法侵入という名の非常識を詫びろ」

 

「和人?細かいことを気にすると早死にするわよ」

 

「細かくねぇわっ!!」

 

意味が分からないと言わんばかりの表情で首を傾げる深澄に明日奈、和人の突っ込みが飛ぶ。当の本人は天哉達と談笑している

 

「それでだ、そこのバカアイドル基バカドルは何をしてんだ」

 

特に騒ぎの中心である圭子に苛立ちがあるらしく、くわっ、と両目を見開き、彼女に突っ込みの矛先を変える

 

「だから、突撃!アイドル御飯!の収録ですよ。今日は一回目なんで、和人さんの家に来ました。どうです!嬉しいでしょう!」

 

「許可を出した覚えはないんだが?というか、そういうのはアポ無しで行くもんだろ?なんで知り合いの家に来てんだ?バカか?バカなのか?お前は」

 

「えっ……知らない人の家に上がり込むとか、非常識なことはしませんよ。ちょっと引きます」

 

一般常識で諭していた和人に対し、真顔で企画そのものを否定する圭子。それを見守っていた天哉たちも目を見開く

 

「ドン引き」

 

「カズがそんなにも人でなしだとは知らなんだ」

 

「人に非常識と言う前に自分の非常識を正しなさいよ」

 

「おめぇらも十分に非常識なんだよ」

 

自らの行いを棚に上げ、和人を非常識呼ばわりする三人。忘れてはならない非常識なのは不法侵入している彼等の方である

 

『キリトの家はどうなってるの?どーして、道化師さんたちが……』

 

「ユウキ?気にしないで、この人たちは不法侵入が趣味なのよ」

 

「明日奈ったら、親友に酷いことを言うのね。ちょっと前までの優しいアナタは何処に行ったの?」

 

「優しくするだけじゃ、深澄たちのバカは治らないでしょ?不治の病だから」

 

「テン。親友に冷たくされたわ、アナタが何時も彩葉たちにボコボコにされてる時ってこんな気持ちなのね」

 

「深澄も分かってくれたか。流石は俺の嫁さん」

 

「桐ヶ谷!こっちにパンツ姿の変なヤツと二次元サイコー!とか叫ぶ変なヤツが来なかったか!?」

 

困惑する木綿季を宥めながら、さらりと毒を吐く明日奈。親友からの冷たい態度に天哉の気持ちを理解した深澄は彼と熱い抱擁を交わす。其処へ当たり前の様に姿を見せたのは、阿来、彼は何時も通りに半裸である

 

「そんな変なヤツ等がいるワケないだろ。というか前者に関してはお前だ、鈴代ちゃん」

 

「何を言う、これは騎士の正装だ」

 

「何処にも騎士要素ねぇわっ!!」

 

出会った頃の彼には会えない、光の速さで地中深くに落下しているのは誰が見ても理解できる

 

「家庭訪問に来たのだが日を改めるべきか?桐ヶ谷」

 

「高良先生。家庭訪問は明後日だ」

 

「なにっ!?蒼井!貴様ァァ!私を図ったなっ!?」

 

玄関から入るという常識は皆無らしく、庭先から現れた高良が家庭訪問に来たと口にすれば、日取りを間違えている和人が答える。驚いた彼はリビングで茶を啜っていた天哉に吠える

 

「俺は自分の家庭訪問の日取りを教えただけだろ、間違えたアンタが悪い」

 

「ぐぬぬっ!仕方あるまい!ならば、ここで家庭訪問だ!親御さんを呼ぶがよい!」

 

「オヤジは仕事だから妹でも良い?」

 

「うむ、身内であるのは確かだからな。特別に許可しよう」

 

「わぁ、テンちゃんの家庭訪問?すみません……むさくるしいところで」

 

「おいコラ、そこの迷子ども。人の家で家庭訪問してんじゃねぇよ」

 

「「何か問題が?」」

 

「あるわっ!!ここは俺の家だっ!!」

 

真顔で問う天哉と琴音に和人が突っ込んでいると、誰かが肩に手を置く

 

「和人。頼まれていた雨戸の修理と屋根の修理は完了だ」

 

「悪いな、茉人。助かるよ」

 

「和人〜ごめん!アンタのバイクを修理しようとしたら、逆に破壊しちゃったわ!」

 

「おぃぃぃぃぃ!何してくれてんだァァァァ!?あのバイク高かったんだぞっ!?」

 

「だから、謝ってんじゃないのよ。全く……これだから、ぼっちは」

 

修理を完遂した茉人とは裏腹に修理と名ばかりの破壊工作を行なった里香は悪びれもせずに開き直っていた

 

「なぁ、里香さんや?俺のバイクは?なんか見当たらないんだけど」

 

「アンタのバイク?それなら確か純平がなんかしてるのを見たわよ?」

 

「純平が?」

 

残骸と成り果てた和人のバイクに危機感を感じた天哉。自分のバイクは何処に?問えば、純平が何かをしていたという情報を得た為にガレージに向かう

 

「えっと棒を突き刺して…先端にバナナを……」

 

「おめぇは人の愛車に何をしてんだコラァ!!」

 

「なんだっ!?いきなり!てめぇ!俺がせっかく、改造してやってんのに!舐めてんのかっ!」

 

「其れはお前だっ!!このゴリラ!!!」

 

「あぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょいと入り用でな。と言う訳で、すまんが雇ってくれんか?エギル」

 

「駄目だ」

 

「……何故だ?」

 

例によって、エギルの店にやって来た天哉たちだったが食い気味で却下され、首を傾げる

 

「仮想世界ならまだしも現実で死人を出したくない。お前等を雇えば、ウチは潰れちまう」

 

「おいおい、長い付き合いだろ?少しは友達の為に粋を見せることは出来ねぇんか」

 

「全くだ。ぼったくり商人」

 

「営業妨害も甚だしいな。天満さん、こいつ等を逮捕してくれるか?」

 

忘却の彼方に自分達の行った所業を棚上げし、エギルを貶す天哉と和人。その行いに顳顬をヒクつかせたエギルはカウンターで飲んでいた天満に声を掛ける

 

「生憎とバカ息子にかける手錠がなくてな……」

 

「とか言って忘れたんだろ?玄関にあったぞ」

 

「警察手帳はキッチンにあったよ」

 

「あり?そうなの?おかしいな……なら、懐にあるこれはなんだ?写真?」

 

「おかしいのはテメェだ、バカ親父。それをどう見たら手帳に見えるんだ」

 

琴音に警察手帳を忘れていたと言われ、コートの内ポケットから二枚の写真を取り出す

 

「………なにこれ」

 

「一応、聞くがよ。なんだ?これは」

 

「これはな、誕生日に大量のパエリアを食べたが中に入っていた貝が実はムール貝じゃなく、あさりだと知った瞬間に絶望感に打ちひしがれたお前と其れを見ながら、あさりの砂が抜け切ってなくて口の中がじゃりじゃりすると訴えている涙目の琴音だ。懐か---ぐもっ!?」

 

「警察辞めちまえ、アンタ」

 

「パパだけ今日はおかゆだよ」

 

「いただきますね、この写真」

 

「深澄さん?何を当たり前のように受け取ってんの?」

 

恒例と化したやり取りが行われる横で、深澄は写真を懐に仕舞い込む

 

「和人。其方が明日奈さん?」

 

「ああ……というか、なんで母さんがいるんだ?」

 

不意に名を呼ばれ、振り返った和人が見たのは、ワイングラス片手に手を挙げる母の姿。意外な人物の登場に彼は疑問符を浮かべる

 

「今し方、天満と十二次会をしていたのよ」

 

「親父が聞いたら泣くぞ」

 

「大丈夫よ。あの人は二十次会までやったほどの酒豪よ」

 

「うちの親はどうなってんだ!?」

 

親の知らない一面に驚愕する和人。その隣で明日奈はまさかの人物との会合に冷や汗が止まらない

 

「は、はじめまして!お、お義母さん!あの私、キリトじゃない……和人くんとお付き合いさせていただいてます!結城明日奈です!」

 

『ユイです!こんばんは!おばあちゃん!』

 

「噂に聞いてるわ。なんでも閃光と呼ばれてるらしいわね……ん?なんか今、おばあちゃんとか言わなかった?」

 

噂に聞いていた息子の恋人からの挨拶に反応を返していた翠。然し、彼女は耳にした聞き捨てならない一言に表情を顰めた

 

「あっ……母さん、この《通信用プローブ》の中にいるのが娘のユイだ」

 

「な、なるほど……アナタのことも噂に聞いてるわ。私のLPを僅かな一言で削り切るとは………流石は我が孫ね!仲良くなれそうだわ!」

 

『わぁ!おばあちゃんは話せますね!』

 

「お母さんのライフが削られていく……」

 

「言ってやるな……スグ」

 

姿は見えずとも、其処に存在する孫の存在に精神を削られながらも彼女を気に入った翠はサムズアップしてみせる

 

「なんだ?その痛風ドロップってのは」

 

「パパ。違うよ、《通信用プローブ》だよ」

 

「ああ、それだ。そんで?それなに?」

 

聞きなれない機械の名に首を傾げる天満の言い間違いに、琴音が助け舟を出すと彼は其れが何であるかを問う

 

「天満はバカだから知らないのも無理ないわよ」

 

「おうコラ、翠。エリートの俺をバカ呼ばわりか?」

 

「エリートは、八次会とか訳のわからん飲み会をしねぇんだよ」

 

「お前も大人になりゃあわかる…ラテン系は飲み会に命を賭けるってことがな」

 

「すいませーん!店長さん!其処のダサいコートを着た初老の頭からスピリタスぶちまけてくださーい!」

 

エリート以前に酒に頭を支配された父に奢りという名の悪魔の所業を行おうとする天哉の顔には不敵な笑みが浮かんでいた

 

「テンくんのお父さんって変な人だね」

 

「愛すべきバカとも言えるわよ?」

 

『アスナの周りは賑やかだなぁ……』




遂に開かれた最強決定戦!天下一を決める大会!栄光を手にするのは誰だ!!

NEXTヒント 天下最強

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四の太刀 熱戦?烈戦?超激せ〜〜ん!ガチンコ勝負の行く末は!?

今回は頑張った!決闘とか書くのむずい!戦闘模写は疲れるなぁ……そして!遂にマザーズ・ロザリオ編は今回を入れると残り二話!つまり!次が最終回!えっ?作品が終わる?ううん、それは違うよ?この後も書きますよ?


「レディ〜〜〜〜ス!ア〜〜〜ンド!ジェントルメ〜〜〜〜ン!!!荒れ狂う妖精たちよ!遂に最強を決める時が来たっ!栄光ある最強の頂に登り詰め、天下最強の名を手にするのは誰だっ!さぁ!今こそ集え!集っちまいな!新生アインクラッドトーナメントのスタートだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

闘技場の中心で、マイクパフォーマンスを行うのは一人の少女。各種族の妖精達が見据える先、特徴的な猫耳をぴこぴこと動かし、愛らしい鍵尻尾をふりふりと揺らし、軽快なステップを繰り広げる少女の手にはマイクが握られている

 

『L・O・V・E!シリカ!がんばれ、がんばれ!シリカ!!』

 

「はーい!司会進行はあたし、泣く子も笑うのキャッチフレーズでお馴染みの《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の美少女彩りアイドルのシリカでーす!よろしくねっ☆」

 

『かわいいーーーー!!!』

 

「そして、そして!更に今回は司会があたし以外にも!」

 

「今日も元気にぴょんぴょん!飛び跳ねるミニマムガール!レンちゃんだよ〜!」

 

『L・O・V・E!レン!可愛い可愛い!!レ〜〜〜ン!!』

 

「頭脳明晰!容姿端麗!眉目秀麗!ロシアが産んだ奇跡の天才美少女!セブンちゃんの御登場よ!Привет(やあ)!」

 

『うぉぉぉぉぉぉ!!セブーーーーーーン!!』

 

仮想世界にその名を轟かせる三大アイドルの登場に観客席が湧き立ち、盛大な拍手と歓声が挙がる

 

「シリカはアイドルの友達がたくさん」

 

「おろ?あのセブンってヤツは見たことあるな……誰だっけ?」

 

「ふっふっふっふっ!!ここで会ったが百年目!!実はそんなに経ってないが……お前と戦う日を芋を洗いながら待ってたぜ!!仮面野朗!」

 

見覚えのあるセブンに疑問符を浮かべていソウテンに話しかけてきたのは、これまた見覚えのある頭の悪そうな音妖精(プーカ)の青年、同種族の登場にソウテンは首を傾げ、隣に立つヒイロに何かを耳打ちする

 

「どちらさんでしたっけ?ってリーダーが言ってる」

 

「俺を忘れたのかっ!?八人衆のコンドリアーノだ!!!」

 

「………………こしょこしょこしょ」

 

「まさか、○イヤ人との戦いで○バイマンと一緒に自爆したお前に会う日が来るとは思わなかった。大ファンです、○牙○風拳を何度も真似しました、サインくださいって言ってる」

 

「○ムチャだろうがァァ!!それェェェェ!!」

 

コンドリアーノを○ムチャと勘違いしているソウテン。首を何度も捻り、その末に答えに行き着く

 

「思い出した!!本編と幕間に出たけど完全にネタキャラ化したお笑い集団!」

 

「笑わせまっせ!何処までも!って違うわっ!!だいたい!コント一座の統領に言われたくねぇ!!フリューゲルス!お前もなんか言ってやれっ!」

 

「毎度の事ながら、兄が御迷惑を。今日は胸をお借りいたします」

 

「礼儀正しいっ!いや違う違う!敵の胸を借りて、どうするっ!」

 

「コンドリアーノ!セブンの声を録音する邪魔をするんじゃない、顔に右ストレートを叩き込むぞ」

 

「身内の暴力!」

 

「はっはっはっ!今日こそは貴様等に勝利し、私の方がアスナ様に相応しいことを証明してみせる!!」

 

高笑いと共に姿を見せたのは、痩せこけた頬が特徴的な男性。見覚えのある姿にソウテンたちの苛立ちが表情に現れる

 

「またお前か。飽きもせずに」

 

「毎度のことだけど、どっから沸いたのよ」

 

「GMに報告するぞ」

 

「目やについてる」

 

「額から汁が出てますよ」

 

「やっぱり嫌いだ!お前らなんかっ!」

 

矢継ぎ早に放たれる罵倒の嵐に、涙ぐむクラディールは自分が彼等を嫌いである事を再確認する

 

「今回の大会の優勝者には、主催者である《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》門外顧問並びに宴会部長であるニシダさんより、河童の衣装が贈呈されます」

 

「メンバーにした覚えないヤツがメンバーになってんだけどっ!?」

 

自分も知らない内に増えていたメンバーに、ソウテンは驚きの声を挙げるがニシダは気にせずに壇上へと上がっていく

 

「今更だろ。というか門外顧問ってなんだ」

 

「さぁ?なんだろ。ヴェルデは知ってる?」

 

「申し訳ない、流石に博識な僕も知り得ない情報です」

 

「え〜……ただいま、御紹介に預かりました門外顧問のニシダです。今日は皆様に河童への御理解を深めて頂くためにこの様な場を儲けました」

 

「おぃぃぃぃぃ!なんか勝手にメンバーを語り出したぞっ!あのオッサン!」

 

「今更よ。まぁ、仮メンバー的な扱いではあるんだし、問題ないんじゃない?」

 

「そうだな。グリス親衛隊隊長の私も問題ないと思うぞ、ソウテンくん」

 

「いやあのサクヤさんもメンバーにした記憶ないんだけど?何を普通にメンバーを語ってんの?」

 

ニシダだけではなく、サクヤまでもがメンバーを語り出す現状にソウテンは冷静になり、真顔で突っ込みを放つ。相も変わらずに、今日も今日とて、展開されるカオス的な状況下でトーナメントは続き、遂に迎えた決勝戦。不敵な笑みを浮かべ、“蒼き衣(コート)”を棚引かせ、彼は佇んでいた。ある世界で名を馳せた仮面の道化師、最強と名高い彼は槍を手に笑う

 

「遂に来た!最強の座を決める!最終決戦!手に汗握る最強と最強のぶつかり合い!選手を紹介しよう!!先ずは!仮面に隠した美学は伊達じゃない!不敵な笑みが見据える先は明日への彩り!《ALO》最強ギルドを束ねる《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》のリーダー!!道に迷っても自らの信念は迷わない!!《蒼の道化師》のソウテンだあぁぁぁぁ!!!」

 

「なんか今、遠回しに迷子呼ばわりされなかった?」

 

強敵との決闘に心を躍らせながらも迷子扱いに敏感なソウテンは道に迷っての部分が気に食わなかったらしく、難色を示していた

 

「対するは!仮想世界に降り立った100人斬りの剣士!絶対無敵の名は世界全てに轟き!その剣を抜いた時、お前は既に負けている!?絶対無敵の剣と書いて《絶剣》と読む!《絶剣》のユウキーーーーー!!!」

 

「あははぁ〜なんか照れるなぁ〜」

 

「ねぇなんで、俺の時よりもカッコいい紹介されてんの?」

 

シリカの実況と共に照れるユウキに対し、相対するソウテンは未だに自分の扱いに納得していなかった

 

「道化師さん………ううん、今はテン(・・)って呼んだ方が良いよね。今日は本気のキミを倒すから、覚悟してねっ!」

 

剣を構え、真っ直ぐと前方に佇む道化師を見据える一人の少女。その手に握り締めた剣は強者を前に力が加わる

 

「…………仕方ねぇな。相手になってやるよ……本気(マジ)でなっ!アバターチェンジ!!」

 

高らかに宣言された聞き慣れない謎の言葉。刹那、《蒼の道化師》は光に包まれ、代名詞とも呼べる不敵な笑みを浮かべる

 

「来たっ………!」

 

ごくりと息を呑み彼女の前で、光の中から姿を見せる彼。目の前に現れたデュエルメッセージの文字、迷い無く、完全決着モードを選び、カウントダウンが始まる

 

「「「レディーーーーファイト!!!」」」

 

三人のアイドルの号令と共にカウントがゼロとなり、ユウキが真っ先に反応を見せ、地を蹴り、走り出す

 

「最初に仕掛けたのはユウキだぁ!真っ直ぐと突っ込み、ソウテンの体に刃を突き立てたぁ!しかーし!ソウテンは其れを紙一重で回避!軽やかな宙返りを披露しつつも、得意の足技で剣を空高くに蹴り上げる!!」

 

「なんてすごい足技!ロシアでも見たことないわ!コサックダンスやシステマも真っ青よ!」

 

「一方で!妖精としてのアバターを使用するユウキは蹴り上げられた剣を上空でキャッチ!これも《ALO》であるが故の醍醐味!おっと!?ソウテンの姿が見当たらないぞぉ〜?」

 

正に手に汗握る世紀の対決、目を逸らさずにはいられないその戦いの行方を誰もが見守っていた。そして、その時は訪れた

 

「き、消えた!!一体何処に!」

 

戦い最中に彼は姿を消した、それはまるで最初から誰もいなかったかのように、その姿を、不敵な笑みを、仮面を、探すようにユウキは辺りを見回す

 

Estamos listos.(準備は整った)

 

その声は、見当違いの場地から聞こえた。遥か頭上から、その妖しくも、不敵な声は聞こえた。その道化師は、不敵な笑みを浮かべ、蒼き衣を棚引かせ、口を開く

 

「永遠にadieu」

 

手にした槍と共に螺旋回転を始め、その回転は風を巻き込み、小さな暴風と化したソウテンは仮面越しの不敵な笑みと別れの言葉を贈り、《リベルタッド・リュヴィア》の、一撃必殺の体制に入る

 

「負けない!跳ね返してやるっ!!ボクの必殺技でっ!!瞬きしてると見逃すよっ!!」

 

迎え打つユウキも斬撃で〝X〟を描き、その中央を狙う様に渾身の突きを放った。ぶつかり合う蒼き雨と絶対無敵の剣、二つの力が相殺しあい、その顛末に誰もが期待に胸を膨らませる

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

絶対無敵の剣は難攻不落、敗北を知らないとまで言われた道化師の仮面を貫いた。その瞬間に彼は全てを悟り、不敵に笑い、地に倒れた。空を見上げ、敗北感とは違う満足感に喜び、彼は静かに転がった

 

「しょ……勝者!ユウキ!!!」

 

「「「ユウキ〜〜〜!!」」」

 

「わわっ!?みんな!?」

 

勝敗を告げるブザーが鳴り響き、シリカの声が響き渡る。彼女を讃えるように大歓声が響き渡り、仲間たちが飛び付く

 

「どうだ?兄弟(テン)。絶対無敵を前に敗北した今の気分は?」

 

不敵に笑い、意地の悪い問いを投げかける親友に彼は静かに転がったまま、穏やかな表情を見せる

 

「最高の気分に決まってんだろ?親友(カズ)

 

「ふふっ……テンったら、負けたのに嬉しそうね」

 




楽しく、騒がしく、誰もが笑い合える時間。しかし、その時は突然の終わりを告げる鐘の音を鳴り響かせ、最後の時が、別れの時が、迫っていた

NEXTヒント 生きた証

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五の太刀 生きた証と旅立ちの剣士

が、頑張った………今日がアスナの誕生日だから!頑張って書いた!マザーズ・ロザリオ最終回!刮目せよっ!


「ごめんなさい、急に呼び出して。でも………キミと話す為の時間が、どうしても、ボクには必要だったんだ……」

 

彩りの道化(カラーズ・クラウン)》のギルドホーム。其処に呼び出されたのは仮面が特徴的な道化師と呼ばれる槍使いにして、癖のある面々を率いるギルドリーダーのソウテンその人である

 

「意外だね、おめぇさんがアスナじゃなく俺を呼ぶなんて……どうかしたか?ユウキっち」

 

名を呼ばれ、彼女基ユウキは向かい合うソウテンの瞳に何かを感じたのだろう。力の無い笑顔で笑い、ゆっくりとソファに腰を下ろす

 

「実はね………そろそろ……旅に出ようと思うんだ……長い長い旅に…。だからさ、道化師さんにはお願いしたいことがあるんだ。これから先、ボクのいない世界でアスナや《スリーピング・ナイツ》のみんなが真っ直ぐと歩いていけるように導いてほしい……これは道化師さん……ううん、テンだから頼めることなんだ。お願い出来ないかな?」

 

真剣な表情で語るユウキ、彼女の事情はある程度は理解している。それでもソウテンは首を縦には振ろうとしない、誰かを失う喪失感を理解しているが故に自分不在の仲間たちを導いて欲しいという願いを聞き届ける事は彼からすれば、一番の嫌う案件なのだ

 

「その願いは聞き届けられない」

 

「どうして……!」

 

「まだ生きてるヤツにてめぇの仲間を頼むって言われて、構わないと言うと思ったか?いいか?ユウキ。お前はまだ生きたいと願う気持ちがある、誰かを思いやる想いがある、生き抜くだけの強さがある………」

 

相対するユウキに対し、ソウテンは優しい笑顔を浮かべると彼女の頭に手を置き、数回ほど撫でる

 

てめぇが生きた証を残せ。その時は、俺もその願いを聞き届ける

 

彼也の最大限の譲歩、聞き届けるからには対価を支払わせる。それが彼女の生きた証を残すことならば、誰もが納得する筈だと彼は理解していた

 

「………うん!約束だからね!」

 

Es una promesa(約束だ)

 

彼女と指切りを交わし、誰も知らない約束を交わす。時間が来たと告げ、ログアウトするユウキを見送り、窓から見え隠れする影を横目で見る

 

「ミトにロト。さっきから見えてんぞ〜」

 

「あら、バレてたのね。流石は天下の道化師ね」

 

「やははー、とーさんの索敵スキルを掻い潜るんは至難の業だねぇ。こいつは当面の課題になりそうだ」

 

呼び掛けに答え、部屋の中に入って来たのはミトとロト。ソウテンにとっては世界中で誰よりも大切に思っている恋人と息子だ

 

「そいで?話を聞いてたんだろ?」

 

「そうね。ユウキの願いを聞き届けなかった薄情な人の話なら、盗み聞きしてたわよ?何か理由でも?」

 

不敵な笑みを崩さないながらも、真剣な声色で問われた問いに冗談を交えながらもミトは問い掛けで返すと、彼は数秒の沈黙を生みながらも口を開く

 

「例えばだ。俺はもうすぐ死ぬから、あとは任せていいか?って聞かれたら、なんて答える?」

 

「ふざけんなって殴るわね。もしくは口にピーマンを押し込むわ」

 

「あー……うん、言わんとしてる事は理解出来るがやめてほしいかな?それは。まぁ、そういう感じだ。だから、俺はユウキに条件に提示したんよ」

 

「ふぅ〜ん……まぁ、深くは聞かないでおくわね」

 

「話が分かるな、流石は俺の嫁さんだ。どうだ?ロトも交えて、今日も川の字で寝るか?ミトさんや」

 

「あら、それは素敵な提案ね?道化師さん。是非ともお願いしたいわ」

 

「わーい!とーさんとかーさんと寝れるんか?そいつは正に至れり尽くせりだねっ!流石は気配り上手なとーさんだ!」

 

体を伸ばしながら、立ち上がったソウテンが手を差し出すとミトは優しく笑い、提案を受け入れる。それを聞いていたロトがピクシーサイズから少年の姿に戻ると無邪気に喜びながら、ソウテンの背中に飛び付き、三人は寝室に向かって歩き出すのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレがもう二ヶ月も前か」

 

月日は流れ、ユウキと約束を交わした日から二ヶ月の時が流れていた。長い長い旅、仮想世界と現実世界の二つを行き来しながらの彼女の旅は全てが夢のように過ぎていき、行き着く暇もないほどに満ち足りていた

 

「テン……今、アスナから連絡があったわ。ユウキは第22層の小島にいるみたいよ」

 

「そうか」

 

「そうか……って行かないつもりか?お前」

 

ミトがユウキの居場所を口にするも、淡白な返事を返すソウテンにキリトは異議を唱えるが当の本人は空き缶を手に不敵な笑みを浮かべている

 

「焦るなよ。俺たちは部外者だろ?だから今は少しだけ……仲間たちだけで過ごす時間を与えてやろうという配慮が解らんかね?このぼっちは」

 

「仮面かち割るぞ」

 

「だとしてもよ、事態は急を要するのよ?悠長にお茶を嗜んでる場合じゃないわ」

 

焦りを見せないソウテンは噛み付くキリトを片手で制しながら、空き缶を片手に立ち上がる

 

「そいつは置いといてだ……缶蹴りしよう」

 

「「「どうぞ、一人でやってください」」」

 

「出来るかっ!!というか既に缶蹴りは始まってるんだな、見つけてないんはアスナとユウキたちくらいか……さて、どうしたもんかなぁ〜」

 

「なるほど……全く素直じゃないわね…」

 

無慈悲も放たれた全員からの一言に、両眼をくわっと見開いた後、直ぐに何時もの不敵な笑顔に切り替えたソウテンの言葉にミトは小さく呟き、優しく笑った

 

「そういうことって……なんだ?なんか分かったか?今ので」

 

「分からないけど、リーダーが内緒にしてる時は何かある……だから今はアスナさんたちのとこに行くのが良いと思う」

 

「ヒイロくん。それは最早、答えですよ?やれやれ……仕方ありませんね」

 

「うむ!なんだか良くは分からないがアスナの所に向かえば良いのだな!」

 

「コーバッツ、世間ではそれを理解していないと言うんだぞ?分かってないだろ」

 

「仕方あるまい。コーバッツだからな」

 

「フィリアは分かる?あたし、なにも分からないんだけど……」

 

「え?ごめん、グリスさんの腹筋に夢中で聞いてなかった。カンパンがどしたの?」

 

「誰もそんな話はしてないわよっ!?兄妹揃って、どんな耳してんのよっ!!」

 

「それでは行きましょう!あたしのライブ会場へっ!」

 

「「「違うわっ!!マイクバカ!!」」」

 

「ぐもっ!?アイドルのあたしを殴るとか何を考えてるんですかっ!シバきますよっ!バカどもっ!!!」

 

目的地に向かおうと飛び立たんとするソウテンたちであったが、全く理解していなかったシリカに全員からの物理的な突っ込みが放たれ、結局は何時もの殴り合いとなり、気付いた時には既に夕暮れを迎えていた

 

「しまった!急げェェェェ!!野朗どもっ!!」

 

「「「了解!リーダー!!」」」

 

ソウテンの号令と共に《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》は第22層の小島に飛び立つ。絶対無敵の剣、誰が最初に呼んだかは分からない。それでも、その名を持つ剣士はこの世界に降り立ち、笑い、戦い、同じ飯を食べ、共に過ごした仲間の一人。その剣士を見送らない者がいる筈がない。飛ぶ十三人の道化の背に連なるように沢山の飛翔音が響き渡る

 

「すごい……妖精が、こんなにたくさん…」

 

「ユウキは嫌がるかもって思ったんだけど、わたしがテンくんにお願いしたの……」

 

「嫌なんて……そんなこと、ないよ…。でも、どうして……なんで、こんなにたくさん…」

 

空に溢れる数多の妖精、その数に圧倒されながらもユウキは涙目で空を見上げる。幻想的な光景を視界に焼き付けようと、しっかりと見上げていた

 

「ユウキ……あなたは。かつてこの世界に降り立った、最強の剣士。あなたほどの剣士は二度と現れない。そんな人を、寂しく見送るなんてできないよ。みんな、祈ってるんだよ………ユウキの、新しい旅が、ここと同じぐらい素敵なものに、なりますようにって」

 

「そっか………残せたんだ………生きた証を……嬉しいなぁ……。ボクね……ずっと、考えてたんだ…。死ぬために生まれてきたボクの……世界に存在する意味は、なんなんだろうって…。何も生み出せなくて、与えられなくて、薬や機械を、たくさん無駄遣いして…。周りの人を困らせて、自分も悩んで、苦しんで……結局、消えるだけなら、もっと早くに消えたほうがいい…。何度も、何度も…そう思った……なんで、ボクは生きてるんだろう…って……でも、それは違うって、テンたちが、アスナが教えてくれた…。意味なんてなくても……生きて、いいんだって…。だって……最後の瞬間に、こんなに、たくさんの人に…囲まれて……大好きな人の腕の中で、旅を……終えられる……から…」

 

燃え尽きようと、残り少ない命が消えていこうとしている。最後だからこそ、アスナは両眼から落ちる涙を堪えることが出来なかった。それは《スリーピング・ナイツ》のメンバーたちも同様だ、付き合いの長い彼等の悲しみはアスナ以上に違いない

 

Gracias(ありがとう)………みんな……少しだけ……先に旅に出るね………」

 

「…………いってらっしゃい。またいつかきっと……会いましょう?ユウキ」

 

優しく笑うアスナの腕の中でユウキは息を静かに引き取った。その旅路が良きものである事を願い、集った妖精たちは深々と頭を下げ、彼女に手向けとなる言葉を贈った

 

「「「Adiós(さようなら)、絶対無敵の剣士………安らかに…」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一週間後。告別式を終え、彼女は多くの友人たちに見送られながら旅立った。人は亡くなった日の天気で人柄が分かると言われているが、彼女が亡くなった日から告別式の日までは晴天に恵まれ、その翌日から三日間も雨が降り注いだ。それは彼女の死を世界が涙しているというのに他ならない

 

「ねぇ、テン?ユウキは幸せだったのかしら?」

 

「幸せだったんじゃないか?たくさんの人に見送られて、生きる意味を、生きた証を見つけた……これ以上の幸せな事を俺は知らねぇし、聞いたこともない。だからきっと、間違いなく彼女は幸せだったはずだ」

 

『とーさんは相変わらず、意味深な事を言うねぇ?』

 

「意味深なんかじゃねぇさ。俺がそうだったから、そう思うだけだ……深澄に出会い、ロトに出会い、アイツらに巡り会った……なっ?幸せじゃねぇか」

 

「……ふふっ、テンらしいわね」

 

桜が満開の大木を見上げ、深澄の肩を抱き、彼は笑う、心からの笑顔で。そして、道化師は明日奈と彼女の背後で優しく笑う《絶剣》に深々と頭を下げる

 

「仮想世界に降り立った一人の剣士が生きる為に戦い抜き、天寿を全うするまでを描いた剣士英雄譚……お楽しみいただけましたか?皆様の御眼鏡に称う日々を彩れておりましたら、拍手御喝采の程、御願い申し上げます。其れでは、今宵の舞台は……此れにて、幕引きと致しましょう。また会う日まで、暫しのお別れに御座います、Adiós(さよなら)

 

此れは仮想世界を艶やかな色彩で、己の色に彩りし、十四人の勇士たちの物語

 

一癖も二癖もある者たちを率いるは、仮面から覗く蒼き眼で万物を見透かし、不敵な笑みを携えし、槍使い

 

その名を、『蒼の道化師』と申す




此度の剣士英雄譚をお楽しみいただき誠にありがとうございます。次回からは、劇場版のオーディナル・スケールを軸に新たな彩りを加えていこうかと思います。其れでは今宵はこの辺りで幕引きと致しましょう、Adiós(さよなら)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六章 黒き歌姫と彩りの道化(バーカストラ)
序曲(プロローグ) 星なき夜のシンフォニー


タイトルから分かるように映画から名前を半分パクりました、しかし!アリアではないのはなぜ?それはうちにはバカたちがいるからです!!章タイトルはオーケストラとバカを合体させた名前です、誤字じゃないよ☆


「アインクラッドは星が見えなくて、残念だね」

 

「………この景色も悪くないけどな。あれがなければの話だが……」

 

何時かの浮遊城。広大に広がる夜空を見上げ、星の瞬かない空を残念がるアスナにキリトは見慣れた空も悪くないと口にしながら、横目で風下から香る鍋を囲む見慣れたバカとその恋人を見る

 

「夜空の下で鍋を囲むことになるとはな……世も末だ」

 

「あら、知らないの?夜に空を眺めながらの鍋は世界的に当たり前なのよ?それこそ明治時代にはかの有名な人斬り○刀斎も仲間たちと牛鍋を囲んだらしいわ。これが後のすき焼きよ」

 

「いやもう、そこには明らかに抜しか入らなくね?濁す必要ないよな?どう考えても、あの有名な不殺(ころさず)を掲げた流浪人だよね?○心だよね?」

 

「著作権の問題よ、これは。いくら私たちが普段から著作権ガン無視だからって、流石に人名はヤバいわ。伏せ字にするべきよ」

 

「あーうん、言わんとしてることは理解した。ならさ、その配慮をもう少しだけ、恋人にも向けてくんない?俺に対する扱いが雑なんを理解してる?」

 

「大丈夫よ。テンには著作権どころか人権並びに肖像権もないもの、この前もSNSで写真を投稿した時に全部を乗せておいたし」

 

「おぃぃぃぃ!何処が大丈夫なんだよっ!個人情報晒してんじゃん!個人情報報保護法ガン無視じゃねぇかァァァァァァ!!」

 

無慈悲という名の愛情を向けるミトに突っ込みを放つソウテン。今宵も平常運転な二人である

 

「ヒイロ!あたしは掴んでみせるよっ!アイドルの一番星を!分かってる………アイカツとは修羅の道!それでも!あたしはアイドルにならなければならない!シンデレラガールになる為に!!」

 

「もぐもぐ……がんばれー」

 

「ヒイロくん。応援するつもりがあるんですか?キミは」

 

「もぐもぐ……あるよ?でも今は焼き鳥を食べる方が大切。これだけは譲れない」

 

「ぴよぴよ」

 

「あれ?あたしの話を聞いてない……!?」

 

夜空に向け、高らかに宣言するシリカ。その隣で話を聞くよりも好物を頬張る事を優先しているヒイロに苦笑気味に問うヴェルデの頭上にはヤキトリが乗っている

 

「オッサン!見ろよ!あれ!バナナみてぇな形してねぇかっ!?」

 

「なぬっ!確かに!あれはまごう事なきバナナだ!バナナ座と名付けよう!」

 

「勝手に星座に名前をつけてはいけませんよ?コーバッツさん。というかあれは空気中に漂うホコリです」

 

「問題ない!私はかつて発見した小惑星にバナナ小惑星と名付けたことがある!」

 

「マジかっ!?」

 

「いやそれは関係ありませんし、あれはホコリです」

 

「無駄だよ。ゴリラの耳に念仏って言うくらいだから、聞く耳を持たないよ」

 

「ヒイロくん。違います、馬です」

 

「あれ?そうだった?なんか猿がどうのってヤツなかった?」

 

「見ざる聞かざる言わざるの三猿ですね、それは」

 

「なるほど………じゃあ、それだ」

 

「「そもそもゴリラじゃねぇ!!」」

 

夜空に瞬いているであろう星をバナナに例える二匹のバカたちに注意するヴェルデ。その隣で焼き鳥を頬張り続けるヒイロは真顔で辛辣な突っ込みをするが、知識に偏りがある為に適切な突っ込みとは呼べない

 

「なにこのジャムパン!すっごく美味しいわっ!やっぱり、ジャム以上の調味料は存在しないわね!なによ?アマツ、その顔は」

 

「………貴様は暗黒物質(ダークマター)を生成するだけでは飽き足らず、遂に味覚も破綻したのか?」

 

「ああ?なによ、まさかだけどジャムの悪口を言ってんの?アンタにジャムの偉大さがわかんの?良い?ジャムはね、何にでも合う万能調味料よ。つまり、ジャムパンはその完成系……唯一無二の料理よ!」

 

「ピーナッツバターサンドよりも美味い料理があるわけねぇ」

 

「ふっ……ペペロンチーノよりも美味いものがあるとは思えんな」

 

「バナナよりも美味ぇもんがあるかっ!!」

 

「全くだ!よく言った!グリスよ!」

 

「焼き鳥が一番」

 

「カレー以上に美味な食べ物を僕は知りませんね」

 

「やれやれ……チーズケーキが最高に決まってるじゃないですか。食を知りませんね、みなさんは」

 

「バームクーヘンこそが至高!これ以上の最高の料理を俺は未だに見たことがない!」

 

「あら、鍋が煮えたわ」

 

最高の景色もお構いなしに殴り合いの喧嘩を始め、騒ぎ合う仲間たちを前にアスナは空を見上げる。何時の日か、終わりの見えない世界から抜け出す日が来たならば、この光景を見れなくなる日が来るかもしれない、そう思うと寂しい気もする

 

「アスナ。向こうに戻っても、私たちは一緒よ?だって親友でしょ?私たちは。それに私といれば、テンもキリトも、グリスたちも直ぐに会えるわ。他のみんなもきっとアナタの為なら、何処へだろうと駆けつける………だって、家族なんだから」

 

「深澄………」

 

「本名で呼ばないで。私はミトよ」

 

優しく笑い掛ける親友の言葉に感動しながら、本名で呼べば、彼女は頑なに本名を呼びを拒否し、アバターネームで呼べと述べる

 

「うん、そうだったね。でも……Gracias、流石は私の親友だね?ミトは」

 

「まあね」

 

そう告げるミトの顔には、ソウテンがよく見せる不敵な笑みが浮かぶ

 

「見てください、あの顔。リーダーみたいですよ」

 

「悪い顔してる…」

 

「凶悪ヅラだな」

 

「結婚すると夫婦は似るらしいけど、あの凶悪ヅラも似るのか。怖いな」

 

「空に浮かぶ星にしてやろうか?アインクラッドで初の星座になりたいんだよな?」

 

「協力するわ。テン」

 

「「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」」

 

矢継ぎ早に放たれた一言を聞き逃さなかったソウテンとミトはバカたちを追い掛け、夜空の下を駆け回る

 

「退屈しないなぁ………ホントに」

 

「はっはっは!愉快だな!」

 

「今日も騎士道に溢れてるなっ!」

 

「ディアベル。貴様は服を着ろ」

 

「分かったわ!最強はジャムライスよ!」

 

「リズさん。その話題は過去ですよ?さぁ、あたしと明日に向かいましょう!アイカツのある明日へ!」

 

「一人でやりなさいよ」

 

「なんでですかっ!」

 

背後で騒ぐ更なるバカたちの声を背にアスナは夜空を仰ぎ見る

 

「ホントに……退屈しないなぁ……」




今回はプロローグ故に短い。次回は冒頭のファミレスからスタート!更に!久しぶりに追加キャラを出します!しかも二人!男と女ですよー、つまりはオリキャラカップルだね!安心してください、無論!変なヤツですから!

NEXTヒント お前が言うな

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一曲 誰に言われようが気にしないけど、お前だけには言われたくない

一話目!劇場版だろうと奴らはフルスロットル!今日もバカ騒ぎだ!新キャラはまだまだ先ですよ〜


「「「もぐもぐ………」」」

 

「どうしてなの?どうして……ファミレスには鍋がないのよ。これは由々しき事態だわ、国際問題に発展するのも時間の問題よ」

 

放課後、暇を持て余した天哉たちは学校近くにあるファミレスで各々の好物を頬張っていた。しかし、メニュー表を片手に自分の好物だけが存在しない事態に異論を唱える者が約一名、何を隠そう兎沢深澄その人である

 

「リーダー。ミトさんが荒ぶってる」

 

「落ち着きな、我が弟分。きっとカルシウム不足に違いない……そんな時はピーナッツバターサンドを食えば万事解決だ」

 

「それはリーダーだけだよ。ミトさんはリーダーみたいに単純なバカじゃない」

 

「最近の彩葉は辛辣さが天元突破してね?あの頃の兄貴分思いなおめぇさんは何処にいったん?カムバック!」

 

「優しくするだけが兄弟分じゃないからね」

 

「………………それはそうとだ」

 

辛辣さが増してきている彩葉の成長に寂しさを感じる天哉。その隣でパスタを食べていた和人は手を止め、隣のテーブルに座る深澄以外の女子四人に視線を動かす

 

「えいっ!」

 

「やっ!」

 

「あれ?なんか迷った?まさか……ゴールが移動したっ!?」

 

「はいはい、迷子娘はちょっと落ち着きなさいね。コースはこっちよ」

 

机の上で何かを動かす動作をしている明日奈の側には、伊達眼鏡と髪を下ろした状態の圭子、道に迷いながらも自分に非があるとは認めない琴音を咎めながらも軌道修正を図る里香がいた

 

「クリアです!これでチーズケーキが無料に!」

 

「ジャムパンもスイーツだから無料ね!」

 

「いや菓子パンはカウントされないんじゃないの?ピーナッツバターサンドならあり得るけど」

 

「琴音ちゃん。ピーナッツバターサンドも菓子パンなのよ?」

 

刹那、軽快な音楽が鳴り響くと同時にスイーツの無料クーポンを手に入れ、騒ぐ三人を前に一番の的外れな解答を導き出す琴音に明日奈からの突っ込みが飛ぶ

 

「というか………ゲームのしすぎじゃないか?」

 

まさかの一言に、空間が凍りついた。他ならない誰よりもゲームを楽しむ事を生き甲斐に、ゲームを誰よりも真剣にやり込む和人だけには言われたくない、言う資格のない一言。正にお前が言うな!と飛び蹴りを放たれてもおかしくない状況だ

 

「カズ。今すぐに鏡を見て来い、其処に世界で一番の頭のおかしいゲーマーが映るはずだ」

 

「待ちなさいよ。ゲーマー歴ならカズになんか負けないわよ?私」

 

「深澄さんや、今そこは大事じゃないんよ。俺が言いたいのはカズの言ってることが矛盾してるって意味だ」

 

「矛盾………確かに、それは一理あるわね。普段からゲームしか友達がいないカズなんかにゲームの時間をとやかく言う資格なんかないわ。恥を知りなさい」

 

「お前だけには言われたくない。おいコラ、お前の管轄だろ?なんとかしろよ」

 

「深澄は可愛いから問題ない」

 

「口にピーマンぶっ込むぞ」

 

扱いの差に苛立ちが限界を迎えた和人は恋人と仲良く戯れあう天哉を睨み付けるも、当の本人は気にも止めない

 

「でも便利だよ。テレビとナビ、天気予報が使えるから………あっ、ごめんね?リーダー。ナビが使えても迷子なリーダーの気持ちを考えなくて…」

 

「その気遣いが逆に痛いんだけど」

 

「まあ、迷子を極めたリーダーの話は食べ残し程度に置いておきましょう」

 

「おいコラ、誰が食べ残しだ。あと迷子を極めたつもりはない」

 

「「「またまたぁ〜」」」

 

「何故にハモってるん?」

 

この際、何時も通りに威厳の欠片が微塵もない天哉の扱いに関しての説明は割愛する。先程から、明日奈たちが何もない机の上で盛り上がっている理由についての説明をせねばなるまい

其れは彼等の耳元に付けられたディスプレイ型の見慣れない機械に理由があるのだ

 

「《オーグマー(・・・・・)》ね……確かに便利だけど、私は物足りないわ」

 

「同感だよ…」

 

「便利だからって頼りすぎるんも考えものだよなぁ…」

 

オーグマー(・・・・・)》、其れがこの機械の名である。次世代ウェアラブル・マルチデバイス、フルダイブ機能が存在しない為に《アミスフィア》からの退化も否めないが、最大の利点は別にある。この機械は覚醒状態(・・・・)で使用するのだ。故に、従来のフルダイブマシンにおける大事件(・・・)の再来はあり得ないとされている

 

「ですけど……あたしは許せない事があります……」

 

「なにが許せないの?圭子」

 

ユナ(・・)ですよ!!ユナ(・・)!VRアイドルのシリカ(あたし)よりも人気があるとかで…最近は出演オファーを横取りされて、仕事がないんですっ!!神崎エルザなら納得ですよ!だって有名ですからねっ!ですが!最近出てきた新人に仕事を横取りされるのは腑に落ちません!あたしはこー見えても芸歴二年のアイドル!そのあたしを追い抜くなんて……!」

 

「圭子が荒ぶってる」

 

「芸の道は厳しいと言いますからね。そっとしておいてあげましょう……そう言えば、純平さんと茉人さんが見当たりませんね?どうしたんでしょうか」

 

「純平は補習だ。茉人はなんだっけ?」

 

仕事を奪われたと騒ぐ圭子を前に彩葉が引き気味に呟いたのを聞き、菊丸は芸の道の厳しさが如何に険しいものかを教えた後、純平と茉人がいないことに今更ながらに気付いた。其れに答えた天哉も茉人の居場所だけは知らず、里香に問い掛ける

 

「確か……和人のバイクを修理する為にジャンクショップに行ってるわよ」

 

「ああ、お前が壊したからな」

 

「壊してないわよ、壊れたのよ。というかまだ根に持ってんの?みみっちいわねぇ」

 

「開き直ってんじゃねぇよ!」

 

全ての元凶であるにも関わらず、やれやれと肩を竦める里香。くわっと両眼を見開いた和人が突っ込みを放つ

 

「そーいや、小耳に挟んだ程度だけで信憑性は皆無なんだが………《オーディナル・スケール》にアインクラッドのボスが出るらしいぞ」

 

「な、なんですって!?ちょっと!ホントなのっ!?テン!」

 

唐突に放たれた情報に誰よりも早くに反応を見せた深澄は、天哉の体を揺すり、情報の信憑性を確かめる。此処で新たな説明をせねばなるまい、《オーディナル・スケール》というのは《オーグマー》でプレイ可能なゲーム、仮想と現実を融合したRPGである

 

「うん。まぁ今はロトに情報を集めさてる段階だけどな」

 

「とは言ってもねぇ〜出現確率が低いのを予想するんは正に数打ちの如くなんよ。それでも、やりたいんなら探すけど……どうする?」

 

天哉の発言に難色を示しながらも努力は怠らないと発言するロト。此処で更に説明をせねばなるまい、何故この場にロトが出現しているのだ?と思った方もいるだろう、実は《オーグマー》を使うことで《通信用プローブ》のように見聞きするだけではなく、実際にAIとしての姿で現実世界に出現が可能となったのだ

 

「ねぇ?テン。バイクを出してくれるとありがたいんだけどなぁ〜」

 

「……はいはい」

 

「テン。お前、二台あったよな?一台貸してくれないか?」

 

不敵に笑い、バイクを出して欲しいと強請る深澄を軽く受け流す天哉。すると、和人は彼が二代のバイクを所有していたことを思い出し、問い掛ける

 

「そいつは琴音に聞いてくれ。今はあいつに所有権あるから」

 

「むぅ……私のKOTONE号に乗りたいの?レンタル代は三時間で三万円だよ」

 

「ぼったくりレンタサイクルじゃねぇかっ!!」

 

友情価格皆無の無慈悲価格を提示する琴音に和人の悲痛にも似た本音を交えた突っ込みが炸裂する。この光景も何時も通りである

 

「あたしも行きたいです!」

 

「圭子はダメ。レッスンに行きな」

 

「むぅ〜」

 

「里香さんは行くんですか?」

 

「あたし?パスよ、パス。好き好んで誰が会いに行くもんですか」

 

「私は興味あるかな?和人くん、バイクを出すなら私も連れて行ってよ」

 

「二人乗りの場合は割増料金だよ」

 

「悪徳モニカ!!」

 

「モニカって言うなァァァァ!」

 

「やれやれ、喧嘩すんなよな。お二人さん」

 

「「フェルナンドは黙ってろ」」

 

「ミドルネームで呼ぶなァァァァ!!」

 

琴音と和人の喧嘩を止めようと割って入った天哉。間髪入れずに放たれた自らのミドルネームを聞いた瞬間に彼までも喧嘩に混じる、この流れも何時も通りだ

 

「はぁ……全く……」

 

「あら、ロト。夜は晴れるみたいよ」

 

「おやまあ、そいつは絶好のカチコミ日和ですなぁ?かーさん」




真相を確かめる為に検証に向かう天哉たち、其処には暇を持て余した純平と高良、阿来の姿が……補習は?

NEXTヒント 実地補習

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二曲 骸骨騎士現る?これが新たなゲームの真骨頂!!

劇場版だから、引き伸ばしまくる。漫画版だと二、三ページくらいの話をギャグにすると割と長くなるのを知ってまして?


「テン。一応だけど目的地の確認をしておくわね?私たちが向かう場所は?」

 

《オーディナル・スケール》に纏わる噂の探究の為に、後ろに深澄を乗せた天哉は愛車を走らせていたすると、背後から心配そうに深澄が問いを投げかける

 

「秋葉原だろ?人を迷子みたいに言うのはやめてもらおうか。俺だって、最初から目的地が決まってたら迷子にならないんだ」

 

「ウソは駄目よ?テンが迷子にならない訳ないじゃない。だって、天哉と書いて迷子と読むくらいの迷子じゃないの」

 

「深澄………今は正に走行中なんだが降りるか?」

 

「あらやだ枝毛だわ。春先は毛先が痛みやすいのよねぇ」

 

決まっている目的地に向かう道中で迷子になる筈がないと口にする天哉であったが、長年の付き合い故に其処だけは信用していない深澄は笑顔で否定を放つ。恋人からの答えに乗降を促す天哉だが、深澄は聞く耳持たずで自らの毛先を忌々しそうに見ていた

 

「着いたぞ」

 

「………………ウソ!本当に秋葉原っ!?あり得ないわ!さてはテンのニセモノねっ!」

 

「初見の場所ならまだしも、何回も来てる場所で迷うかよ……」

 

宣言通りに目的地に辿り着いた天哉。あり得ない光景に深澄は目を、耳を、自分の全てを疑う程に困惑していた

 

「ふぅ……着いた着いた……あれ?なんでテンがここに?お前が俺よりも先に着いてるなんて……明日は雪でも降るのか?」

 

「和人くん。深澄がいるんだよ?いくら、テンくんでも迷子にならないよ」

 

「だけどな、明日奈。相手はテンだぞ?天哉と書いて迷子と読むくらいの迷子なんだぞ?」

 

「お前なんかフラメンコダンサーに情熱的な飛び蹴りをされちまえ」

 

自分よりも先に天哉がいた事に驚きを隠せない和人。明日奈が空かさず、フォローするが長い付き合い故に彼の迷子に悩まされている和人は聞く耳を持たない

 

「おお、テンにキリト!おせぇぞ!まーた迷子になってたのか?」

 

「おー…………………クライン。メッセージありがとな」

 

「おいコラ、妙なタイムラグが無かったか?今。一瞬、俺を忘れてたよな?明らかに」

 

「そ、そんな訳ないじゃ無いですか」

 

「嘘吐けェ!敬語になってんじゃねぇか!!………ん?ミト、おめぇの後ろに居る人………は……ま、まさか…」

 

「アスナよ」

 

駐車場から目的の広場に移動した先にいたのはクラインを筆頭にしたギルド《風林火山》の面子。御約束のやり取りをしながらも、明日奈がいる事に気付く

 

「おーし!アスナに良いとこ見せてやろうぜ!」

 

「「おおーっ!!」」

 

「はっはっはっ、今宵も賑やかだな。クライン殿は。どうだ?此処は景気付けに私が作ったバナナを剥きたまえ。士気がより一層に高まること間違いなしだぞ」

 

「おう、こいつはすま---って!またおめぇかよっ!?コーバッツ!ところ構わずに持参したバナナを食わせる儀式はやめろっ!」

 

「バカモノ!誰が食べていいと言った!剥くだけだ」

 

「だから、どういう儀式だよ!?」

 

当然の様に姿を見せた高良はバナナを差し出しながらも、懐かしい風景を想起させるやり取りをクラインと繰り広げる

 

「テン!それにカズも来てたのかっ!」

 

「おろ?何故に純平が?此処で何してるんよ?」

 

「そうだ、お前だけ補習だったろ。こんな所で何をしてるんだよ」

 

「補習終わりにオッサンと一狩り行こうぜって話になってよ。今流行りの《オーディオ・スネーク》をやりに来たんだ」

 

補習の筈の純平が姿を見せた事に天哉と和人は驚きを見せるが、彼は補習終わりARゲームを楽しみにきたらしいのだが今から天哉たちがプレイしようとしているゲームとは別の名前を口にする

 

「うん、その聞いたこともないワケの分からんゲームは一人でやりな。俺たちは《オーディナル・スケール》をやるから」

 

「そうだな。がんばれよー」

 

「オーディナル……スケール……あっ!全然ちげぇ!俺もそっちをやりに来たんだっ!」

 

「「またまたぁ〜御冗談を」」

 

「冗談じゃねぇよっ!!」

 

実は《オーディナル・スケール》をプレイしに来た事が判明した純平に天哉と和人が半笑い気味に突っ込むが、どうやら本当の話のようだ

 

「おっ!テンたちじゃないか!」

 

「ん?鈴代ちゃんもいたのか」

 

次に姿を見せたのは阿来。隣に小柄な女性、桔花の姿があるのを見る限りはデートに来たようだ

 

「ああ。大学の友人たちと来る予定だったんだけど……なんか合コンがあるからとかで仕方なく俺は桔花と一緒に来たんだ」

 

「おい、彼女を前に仕方なくとか言うな。蹴り飛ばすぞ」

 

「はっはっはっ、なんだ?桔花は反抗期か?」

 

「同い年だろうがっ!!すまねぇな、テンちゃん。阿来ちゃんが迷惑かけてる」

 

「それに関しては慣れた」

 

前言撤回、デートというよりも《オーディナル・スケール》をプレイに来たらしく、友人たちの代わりに桔花を連れてきたようだ

 

「そいじゃあ………派手に始めるとしますかね」

 

「そうね。さぁ、準備して」

 

集った見慣れた顔触れを前に天哉、深澄は懐に仕舞っていた棒状のタッチペンを取り出す。そして、構え、何時もの魔法の言葉とは異なる言葉を口にする

 

「「「オーディナル・スケール起動!」」」

 

高らかに宣言された言葉がキーワードだったのか、天哉たちの服がARを纏い、姿を変えていく。そして、不敵に笑う少年の姿は、“蒼き衣(コート)”を纏い、仮面を冠った道化師に姿を変える。そう、《蒼の道化師》と呼ばれるソウテンが其処には佇んでいた

 

「SAOのアバターのまんまだな…お前」

 

「見た感じはそうだけど……実はちょいと違うんだな、これが。服装はファーコートじゃなくてオーバーコートだし、仮面は何時もみたいに目元が見えないタイプの仮面じゃなくて、ベネチアンマスクだからな」

 

「ベネチアン……?なんだそれ…」

 

「仮面舞踏会とかの時につけるマスクよ」

 

「それはさておきだ……来たみたいだ」

 

開始時刻となり、周囲の風景が《オーディナル・スケール》に合わせた世界観感に包まれていく。此処で説明しよう、《オーグマー》を媒介に展開される《オーディナル・スケール》はAR、つまりは現実にイメージを投影する拡張現実のゲームなのだ

 

「おやまぁ……コイツは本物だ。久しぶりに見るねぇ」

 

「また戦えることはゲーマーとしては嬉しい限りね……会いたかったわよ……!!カガチ・ザ・サムライロード(・・・・・・・・・・・・・)!!!」

 

久方振りに会う旧友を見るように、ソウテンとミトの見据える先に姿を見せたのは、今は存在しないデスゲームの舞台(浮遊城)第十層のボス。刀を携えた骸骨の鎧武者《カガチ・ザ・サムライロード》が其処に出現したのだ

 

「あいつは何時かのマッチョガイコツサムライ!!」

 

「おぉ!居たな!あんなの!というかガイコツにマッチョっておかしくないか?グリス」

 

「うむ?私は見覚えがないな。記憶にあるのは巨大なヤギくらいだ」

 

「あー、アレか。居たねぇ?そんなのが…おろ?てことはだ、それも出るんか?まさか」

 

「知るか、迷子。兎に角だ、今はソードスキルを使えない……攻撃パターンを覚えているから、その通りに指示を出す!」

 

「却下だ。この喧嘩は俺のやり方でやる(・・・・・・・・・・・・・)

 

キリトの申し出を却下し、不敵に笑う道化師(クラウン)。彼のやり方、其れは《SAO》と《ALO》の二つを己の色に彩る地上最強のアバレ、其れ即ち蒼井天哉(ソウテン)流の喧嘩戦法である

 

「ゴーカイに行くぜっ…!!野郎どもっ!!」

 

「「「了解!リーダー!!」」」

 

「というか今さっき迷子って言わなかった?」

 

「気のせいだ」

 

「そうか、気のせいか………って!なるかボケェ!このぼっち!」

 

「んだとゴラァ!!」

 

「喧嘩なら混ぜろやゴラァ!!!」

 

「「何時の間に脱ぎやがった!!!ゴリラァァ!!!」」

 

「やめんかぁ!!バカトリオ!!」

 

「「「ぐもっ!?」」」

 

決め台詞からの殴り合い、何時も通りのバカトリオにミトの鎌が振り下ろしたのは言わずもがなである




《オーディナル・スケール》に出現するSAOモンスター、更に歌姫?みんなが知るあのアイドル娘じゃない!?誰だお前は!!

NEXTヒント 噂の歌姫

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三曲 誰かは知らないが、お前には負けん!

前半は真面目に!後半はふざけます♪


「みんなー!がんばってるー?さー、戦闘開始だよ!」

 

強敵を前に動き出そうとした瞬間、ソウテンたちの目の前に眩いばかりの瞬きと共に銀髪の少女が姿を見せた

 

ミュージックスタート!」

 

その言葉と共に、プレイヤー全員にバフが発生し、同時にカウントが始まり、《カガチ・サムライロード》も動き出す

 

「ユナが歌い始めた!」

 

「おお…!」

 

「ボーナス付きのスペシャルステージだぜ!やっぱりARアイドルが一番だなっ!」

 

「う〜む、ユナの人気は上限を知らねぇな。これを我がギルドの歌姫(ウチのマイクバカ)が見たら、どうなることやら……」

 

「多分だけど、あの子の場合はステージと名のつく全てが舞台だと思ってる節があるから、勝手にライブをやりかねないわ。自分以上のアイドルは金輪際現れないとか断言してるほどの筋金入りのバカドルだもの」

 

「ああ。あのマイクバカ娘(シリカ)なら、やるだろうな」

 

「ちげぇねぇ」

 

此処で説明せねばなるまい、ボーナス付きスペシャルステージとはキャンペーンキャラクターを務める歌姫のユナが登場するイベントの事だ。彼女が出現し、歌を歌い始めるとプレイヤーたちのステータスに上昇される、即ちバフが与えられるのだ

 

「来るぞっ!テン!」

 

「分かってるっての。ミトは後方から観察して、指示を飛ばしてくれ。キリトは攻撃パターンをミトに教えた後でアスナと一緒に前線へ、ディアベルは他のプレイヤーのまとめ役を、グリスとコーバッツはタゲ取りを頼む。キッドはディアベルと行動してくれるか?」

 

「「「了解!リーダー!!」」」

 

「アイアイ!ギルマス!」

 

的確に飛ばされたソウテンの指示で各々が役割の配置に着く。此処で更に説明せねばなるまい、キッドがソウテンをギルマスつまりはギルドマスターと呼ぶには理由がある。彼女が《GGO》で所属するスコードロン《荒野の獣人(ウィルダー・セリアン)》は《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の傘下の別働隊となっているのだ。故にソウテンをギルドマスターとして認識しているのである

 

「正直……ARは好きじゃないんだけどな……」

 

「あん?なんでだよ、キリト。体動かせるし、一席似鳥じゃねぇか」

 

「一石二鳥な、それを言うなら。喧嘩の時は何時もは木刀メインだろ?俺って。拡張現実とはいえ、剣を扱うのは割と難しいんだよ……テンみたいに足技で無双出来たら別だけどな」

 

「確かに……現実で武器ってのもやりにくいかもなぁ。俺も知らねぇ間にぶん殴っちまいそうだぜ」

 

「問題は当たり判定が近接格闘で出るかだな。ちょいと……試してみるか!あらよっと!」

 

プレイヤーたちに囲まれた《カガチ・サムライロード》に素早く肉薄したソウテンは頭上から蹴りを叩き込み、当たり判定が出るかの検証を行う。これが《ALO》のプレイヤーとのデュエルならば、ダメージが入るが、今はARがメインの《オーディナル・スケール》。故に検証には意味がある

 

「ありゃ、やっぱ無理か」

 

「当たり前でしょ!というか!いきなりボスを前に蹴りをしない!これが《SAO》だったら、どうなってると思ってるのよ!バカテン!」

 

「ぐもっ!?」

 

当たり判定が出ない事を確認したソウテンが残念そうに呟くのを聞いていたミトは、彼の行いに御約束を放つ。然し、これも大切な恋人を思うが故の行動、言うなれば愛の鞭である

 

「取り敢えずだ、肉弾戦での当たり判定が入らない事は確認できた。鉄砲玉役をGracias」

 

「やりたくてやったんじゃねぇよ………ディアベル。彼処のプレイヤーについての情報を集めてくれるか?ちょいと動きが怪しい」

 

キリトからの労いに答えを返そうとしたソウテンであったが戦闘に参加せずに傍観者に徹する一人のプレイヤーを視界に捉える。即座に情報を集める為にディアベルに呼び掛けた

 

「分かった。少しだけ時間は掛かるけど…調べてみるよ」

 

「すまねぇな」

 

ディアベルはそう言い残すと離脱し、情報収集の為に何処かに向かう。元々、彼の役職は仲介人つまりはギルドと依頼者を繋ぐ架け橋の様な役割、故に情報収集には打って付けの人材なのだ

 

「あっ!やべっ!流れ弾が!」

 

刹那、虎男風のプレイヤーが放った弾が歌っているユナの方に弾道が逸れる。それに気付いたソウテンが駆け出そうとした瞬間、彼よりも速くに駆け出したプレイヤーがいた

 

「…………あの速度は……何かがおかしい……こっちに関しても調べる必要があるな」

 

そのプレイヤーとは傍観者に徹していた青年、頭上に表記されたプレイヤーネームは《エイジ》。更に彼のランキングナンバーは第二位、かなりの実力者である事が理解できるが、ソウテンは彼の何かに違和感を感じ、瞳を細めた

 

「大技が来るぞっ!タンクのヤツはついてこい!!」

 

果敢にも《カガチ・サムライロード》目掛け、走り出すエイジ。人間離れした動きは更なる違和感を加速させる、ソウテンは喧嘩に明け暮れる毎日で他者の動きを観察する癖が身に付いている。然し、エイジの動きは彼が今までに見た誰よりも常軌を逸していた。観察を続けていると戦闘も佳境を迎える

 

「よおし!今ならッ!!」

 

L A(ラストアタック)を決めようと走り出すアスナ。彼女が行く先に佇むは《オーディナル・スケール》ランキング第二位のエイジが佇んでいた

 

「……スイッチ

 

「はァッ!!」

 

聞き慣れた言葉が彼女の耳に届く。L A(ラストアタック)で最後を綺麗に掻っ攫うアスナ。閃光の名を轟かせる彼女らしい決め技により、《カガチ・サムライロード》は消滅する

 

「テン。途中から参加してなかったわね、どうしたの?ディアベルの姿も見当たらないけど」

 

「うん?ちょいと調べたい事があってな。それよりもミトに聞きたい、あのエイジってプレイヤーには見覚えはあるか?《SAO》のプレイヤーだ、多分」

 

「そうね……血盟騎士団に似た雰囲気のプレイヤーがいたのを見かけた事があるわ。アスナに会う為に足を運んでた私が言うんだから、間違いないわ。恐らくは……ノーチラス(・・・・・)って名前だったわ」

 

「ふぅむ……不本意だけど……頼ってみるかね……現実の鼠女(アルゴ)を」

 

《オーディナル・スケール》を終了させると天哉は愛車に跨り、深澄と共に帰路に着く。和人は明日奈、純平は高良やクラインと共に帰路に着いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?ディアベル。収穫は?」

 

同日の《ALO》のギルドホーム、ディアベルと合流を果たしたソウテンは情報収集の結果を問う

 

「結論から言うとだ、あのエイジってプレイヤーは大学で工学系のゼミに所属しているみたいだ。そのゼミの教授が重村徹大……《オーグマー》の開発者だ」

 

「なるほど……助かるよ、ベルさん。そのゼミについてはアルゴのヤツに調べてもらってる」

 

「流石はリーダー。仕事が早いな」

 

「「「うそぉ〜〜〜〜〜〜〜っ!!?」」」

 

情報交換をしていたソウテンとディアベルの耳に届いたのは、二つの声。何事かと思い、ホームの中に戻るとソファに項垂れるリーファ、壁を叩くクラインの姿があった

 

「何の騒ぎだ……こいつは?」

 

「ユナのライブチケットをエギルとシノンが当てたんだけど、クラインとリーファは応募を忘れてたみたいなのよ。そういえば、メイリンさんは当てたの?」

 

「私?そうねぇ〜当てたには当てたけど〜、クラインさんはいらないかしらぁ」

 

「お供します」

 

事情を話しながらも、的確なパスを出したミトの問いにメイリンは優しく笑う。刹那、素早い動きでクラインは彼女の前に傅く

 

「プライドないんか?こいつは」

 

「俺は当てたけど、いらねぇからキッドにやった」

 

「ありがとな!総長!ディアベルちゃんが外しやがったから、助かるぜ!」

 

「ふふん、ありがたく思えよ?俺はシノン以外に興味がねぇんだ。なにせ、ARではシノンの素晴らしいケツと尻尾のマリアージュが拝めねぇからな!やはり、シノケツは尻尾があってこ-----…………」

 

旧友のプライドの無さに呆れるソウテンの背後で、ライブに興味がないツキシロがキッドにチケットをあげたと告げながら、安定の発言を繰り出した事で脳天に鏃が突き刺さる

 

「私のリーファにあげるわね。このバカはいらないみたいだし」

 

「やったああ〜!Gracias!シノンさ〜ん!」

 

「きゃっ!」

 

「スグちゃん。人にのしかかるとは、はしたない……潰れますよ?シノンさんが」

 

「そんなに重くないもん!きっくんのいじわる!」

 

「ぐぬぬ!あたしを差し置いての人気ランキング一位……許すまじ!セブンちゃんとかレンちゃんあたりならまだしも!ぽっと出の新人に抜かれるなんて……!」

 

「人気あるんだ。でも俺はシリカの歌が一番かな」

 

「ありがとぉ〜!ヒイロ〜!」

 

シノンに飛び付くリーファをヴェルデが相変わらずの意地悪発言で罵倒している隣では、ユナに対抗意識を燃やすシリカを慰めるヒイロが仲睦まじくいちゃつき始める

 

「あ……あたし……来週は剣道部の部活だった…」

 

「はい!じゃあ、わたしにちょうだい!なんかよく分からないけどすごいライブなんだよね!行きたい!というか!テンちゃんみたいな音楽素人が無料招待されるのにわたしだけ仲間はずれなんて悔しい!」

 

「フィーの夕飯はピーマンのピーマン詰めだ」

 

「それは最早ピーマンそのものよ?テン」

 

剣道部の合宿で参加できないリーファの代わりにチケットが欲しいと懇願するフィリアの言い分が気に入らなかったソウテンが彼女の夕飯を決めるが、それはピーマンに他ならないとミトが突っ込みを放つ

 

「今日も平和だなぁ…ねぇ?プルー」

 

「ぷぷ〜ん」

 

「クッキーがおいしいですね!エスちゃん!」

 

「はい、美味です。ユイさま」

 

その光景を傍観していたロトは愛犬に話しかけ、ユイは親友のエストレージャと共にクッキーを頬張るのであった




情報を集めていく中で天哉は《オーディナル・スケール》に隠された秘密に近付き始める……そして、深澄はかつての学友と再会を果たす

NEXTヒント 高笑いがデフォルトなお嬢さま

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四曲 再会したクラスメイトは意外と覚えてないのが当たり前

今回はふざけなし!つまりはシリアス!まあでもボケは放り込みます♪ギャグ作品を書きたい方は相談に乗りますよ〜


「《オーディナル・スケール》の根幹的なプログラムは《ソードアート・オンライン》に酷似している………このデータはホントか?ロト」

 

「ホントもホント。元が《SAO》のメンタルヘルスケアプログラムAIである僕が言うんだから間違いないよ。にしても……最近はとーさんと二人の時間が増えたねぇ…」

 

彩りの道化(カラーズ・クラウン)》ギルドホーム。情報交換を行いながら、ソファに寝転がるソウテンの頭上に寝転がったロトは染み染みと呟く

 

「《O S》が渦中の代表タイトルだからな、今は。最近は依頼も無いくらいに随分と落ち着いてる…‥偶には静かなのも悪くねぇさ」

 

「でもさぁ、最近のとーさんは物足りなさそうだよ?」

 

「おろ…そうか?」

 

「うん。なんていうか翼をもがれた鳥みたいな感じがする」

 

「はっはっは、そいつは散々な言われようだな。まぁ……そのうちに嫌でも動かなきゃならん時が来るよ」

 

そう告げ、仮面越しに笑う彼の笑みは何時も以上に不敵で何かを知りながらも隠していた様に見えたと、後にロトは語った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?なんで……私も行かなきゃならないのよ。明日奈」

 

「ごめんね?深澄。一応、他のみんなに声は掛けたんだけど……やっぱり忙しいみたいで…」

 

夜遅くに呼び出された深澄がため息混じりに呟くのを聞き、乾いた笑みを浮かべた明日奈は謝罪を述べる

 

「はぁ………分かったわ。偶には二人で協力プレイを楽しみましょう?これもゲームの醍醐味でしょ」

 

「ストップ!二人じゃないよ!わたしもいるし!」

 

久方ぶりの親友との協力プレイに胸を躍らせた深澄が目的地に足を進める為に一歩を踏み出した時、聞き覚えのある声が耳に届く

 

「琴音じゃない。なに?迷子?」

 

振り返った先には、恋人に似た不敵な笑みを見せる茶髪の少女が佇んでいた。見覚えのある彼女は義妹の竹宮琴音、天哉の双子の妹に当たる存在だ

 

「違うよっ!今日はちょっとお義父さんに用事があったんだよ。で、今はその帰り」

 

「琴音ちゃんの家って………埼玉県川越市じゃなかった?」

 

「えっ?東京と埼玉は親戚みたいなものでしょ?」

 

真顔で言い放つ彼女に、双子は普通の兄妹よりも似る箇所が多いと聞くが、それすらも遥かに超越した彼の兄と同じ思考回路をした彼女に深澄はため息を吐き、明日奈も苦笑を浮かべるしかなかった

 

「それで?テンはどうしたの?まーた…なんか動いてるみたいだけど」

 

「あー……それはちょっと分かんない。肝心な事は何にも言わないし、あのバカ兄。スグが言うにはカズも一緒に動いてるみたいなんだよね……アルゴとか、ディアベル、クラディール、菊丸辺りも別に動いてるとか彩葉は言ってた」

 

「ふぅ〜ん………情報集めに特化した面子ね…。まぁ、良いわ。兎に角!今はクラインのとこに向かいましょ」

 

煮え切らない態度の琴音の発言に深澄は疑いながらも、深くは掘り下げずに目的の場所に移動を始める。数十分もすると《オーディナル・スケール》のボス戦が行われる場所に辿り着き、クライン率いる風林火山並びに見知った顔を見つける

 

「明音さん。待たせたわね」

 

「いいのよ〜、ミトちゃん。偶には体を動かすのも刺激になるもの〜」

 

「感激っす……!メイリンさんが一緒にボス戦してくれるだなんて……ありがとよ!ミト!おめぇ!やっぱり良いヤローだな!」

 

「私は女よ?ヤローじゃないわ」

 

明音が参加する事に涙を流すクライン、彼が彼女を誘った張本人である深澄を讃えれば、ヤローという呼び方が気に入らなかったらしく、優しくも瞳の奥が笑っていない笑みで威圧する

 

「明音さんとリアルで会うのは久しぶりだねー。町会長は元気?」

 

「あらぁ〜琴音ちゃんじゃないの〜。お父さんなら元気よ〜。今日も明日の仕込みに使うメンマを作る為に裏山に筍堀に行ってるわ〜」

 

「町会長のメンマ!美味しいよね!あれ!」

 

一方、明音と世間話に花を咲かせる琴音は彼女の父である町会長が作るメンマの話に食い付いていた

 

「生憎と、こっちはまだ全員じゃなくてな。其方はおめぇらだけか?」

 

「純平と高良先生がジム帰りで直行してるはずよ……あっ、噂をすれば来たわ」

 

残りのメンバーを問われ、辺りを見回していた深澄は此方に走ってくる純平と高良を視界に捉える

 

「すまねぇ!待たせた!いやぁ……横浜から走るのも悪くねぇけど、やっぱり疲れるな!」

 

「うむ!少しばかりの疲労感は否めないな!」

 

「バカなの?アンタたち」

 

「はうっ………な、なんて……素敵なの……夜風に滴る爽やかな汗!純平さん!プロイテインです♪」

 

「おう、すまねぇな」

 

ありえない距離を走ってきたと語る二人に深澄が真顔で突っ込む横を通り過ぎた琴音は、何処からか取り出したプロテインを純平に差し出し、彼の筋肉に見惚れていた

 

「じゃあ、私たちは先に行くわ」

 

「私はクライン殿たちと待機しておこう。いざという時の道案内が必要だからな」

 

「いや…一本道だぞ…」

 

高良とクラインたちを残し、深澄たちはボス戦の会場に向かう。数秒もしない内に辿り着いた会場には何時もよりも集まりが少なく、少数のプレイヤーしか集まっていない

 

「………集まりが悪いわ、それに来てるのはミーハーなプレイヤーばっかり……」

 

「イベント効果ってヤツかな?これも。コアなハードプレイヤーたちは別のボス戦に向かってるんじゃないかな?《オーディナル・スケール》は範囲が広いみたいだから」

 

「確かにそうかもしれないわね〜、うちの店に来るお客さんもボス戦がどうとか言ってたけど、見当たらないもの〜」

 

「今は目の前の事に集中しようよ。さぁ!戦闘開始よ!」

 

《オーディナル・スケール》を起動させ、AR世界に身を投じるミトたち。今回の相手はグリフォン、以前の様に《SAO》の階層ボスではなさそうだが油断は禁物。故にミトは冷静に思考を巡らせる

 

「広範囲攻撃に注意して!グリス!タンク隊に指示を飛ばせるわね!?」

 

「あたぼーよ!タンクとしての実力はちり紙付きの骨折りだからなっ!俺は!」

 

「グリスくん。言いたいことはわかるけど、言い間違えてるからね?」

 

「やっぱり素敵……!」

 

「フィリアちゃんは変わった趣味してるわねぇ〜」

 

的確に攻撃を叩き込みながらも、会話を止めないのは普段からの慣れなのたが、他のプレイヤーからしてみれば驚きの光景。然し、これがミトたちの普段のやり方なのはVRMMO界隈では周知の事実だ

 

「おっ〜ほっほっほっほっ!ラストアタックはわたくしがいただきますわっ!!」

 

「しまった…アスナ!」

 

グリフォンをダウンさせた僅かな隙を狙い、後方から響いた高笑い。それと同時に前線に躍り出たのは、金髪に縦ロールヘアの如何にもという雰囲気のプレイヤー、誰よりも早くに反応したミトはパーティーメンバーの中で絶対的な速度を誇るアスナに呼び掛ける

 

「せぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「我が剣の前に平伏なさいっ!」

 

アスナとほぼ同時に金髪少女はグリフォンに一撃を叩き込む。しかし、ミトの眼が見た限りは彼女よりも後者の少女の方が逸早く一撃を入れた様に映った。それが何を意味するのかは分からないが、ミトの脳裏に浮かんだのは似た動きを見せたエイジというプレイヤーを見た時の恋人の反応だった。あの時、彼は何かに気付き、瞬時に的確な指示を出していた。それが何かは知らないが裏で動く此処にはいない彼に報告せねばならないと直感的に感じたのだ

 

「お久しぶりですわね?兎沢さん」

 

「…………………あなたは!もしかして!姉さん!!」

 

「そう、わたくしは…………って!違いますわよっ!!急になんですのっ!?」

 

《オーグマー》を取った深澄は自分に呼び掛けてきた金髪少女に衝撃の呼称をするが、彼女は肯定仕掛けたが瞬時に否定する

 

「ふふっ…今のは誰だか思い出せない人に名前を呼ばれた時の挨拶よ」

 

「やめた方がよろしくてよ?その挨拶は……わたくしをお忘れかしら?私立エナテル女子学院で同じクラスだった後沢ですわ」

 

「後沢……………ああ!確か………下の名前は与太郎?」

 

「芳子ですわ!なんですのっ!?与太郎って!」

 

適当に呼んだ名前は違ったらしく、後沢芳子と名乗った少女。彼女の名を知った瞬間に先程までのやり取りは何だったのだ?と言うレベルで急激に冷めた深澄は真顔になる

 

「ああ、なんだ芳子か。久しぶりね」

 

「なんというか………貴女。以前とは随分違った雰囲気になりましたわね……」

 

「そう?前と変わらないと思うけど」

 

「いえ……以前の貴女は孤高を体現した方でしたわ」

 

「ふぅ〜ん…それで?私に何の用事があるの?芳子」

 

かつての自分のイメージを聞き流しながら、深澄は毛先を弄り、忌々しそうに枝毛を見る

 

「……………お願いがありますわ。お兄さま(・・・・)を止めてほしいんですの」

 

「……………は?お兄さま?」

 

そして、この夜。兎沢深澄は知られざる陰謀に巻き込まれることになる。その裏で動く巨大な何かが何であるかを知らずに、彼女も動き始めるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オジキ。昨日の話はホントか?此処に高良先生たちが担ぎ込まれたってのは」

 

翌日。東京都内の大学病院を訪れた天哉は白衣にアロハシャツという医師には見えない男性と対峙していた。彼の名は竹宮久道、その名から解るように琴音を引き取った養父で天哉の叔父である

 

「ああ、一昨日の夜に一人、昨日の夜に高良さんたちが運び込まれた………見てもらいたいのは、これだけの大人が運び込まれるレベルの深傷を負っていることだ。喧嘩が身近なお前なら、これを誰がやったかを分かるんじゃないかと思ってな」

 

「………知り合いにここまでの傷を負わせるヤツは一人いるけど…其奴は関係ない人を無闇矢鱈に傷付けたりしない。狙うなら、タイマンを好む硬派なヤツだよ。まぁ……好きな人の尻を見る悪癖がなけりゃの話だけど…」

 

「いや誰だよ、その変なヤツは」

 

悩みながらも意味不明な解答を導き出す天哉に、空かさず久道が突っ込みを放つと彼は徐に立ち上がり、愛用の羽織に袖を通す

 

「…………犯人探しはこっちでやるから、オジキは意識が戻った時に連絡をくれ」

 

彼もまた単身で、動き出す。仲間たちを傷付けた誰かを白日の元に引き摺り出す為に、道化師は動き出した




仲間を傷つけられ、怒りに燃える天哉。そして深澄は友人の芳子から衝撃の事実を耳にする

NEXTヒント 失われた記憶

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五曲 大切なモノを守る為に奴等は動き出す!

お待たせしました!頑張りましたよっ!シリアス!しかーし!ギャグもぶっ込み!これがこの作品!刮目せよっ!


「申し訳ない…テン。態々、来てもらう形になって…」

 

「いんや、気にせんでくれ。今は出不精になってる場合じゃねぇんだ。左手首を骨折だってな……大丈夫か?茉人」

 

布団に座り、左手首に巻いた包帯を片手に眉を下げる茉人。彼と対峙するのはクラスメイトでありVRMMOで所属するギルドのギルドリーダーでもある天哉だ

 

「なに……このくらいは慣れたものだ。それでだ……お前が来たということは…色々と情報は集まっている……そう考えて良いんだな?」

 

「ああ。茉人が怪我をした晩にギルド《風林火山》から一人、昨日の夜にクラインを含めた《風林火山》の残り全員……そんで、《彩りの道化(ウチ)》からはコーバッツが襲撃を受けた…」

 

力無く笑う茉人に何時もの天誅を降す時の荒々しさは影も形もない。その姿に天哉は彼以外にも、襲撃を受けた者たちが居ることを告げる

 

「クラインたちだけではなく……高良先生もか……一つ、気になるのが…記憶(・・)だ。俺の中に存在する筈のとある記憶(・・・・・)が抜け落ちていることに気付いた」

 

記憶(・・)……まさか……《S A O(・・・)》の記憶か?」

 

《記憶》とい些細な情報から、結論とも言える解答を導き出した天哉は両眼を見開く。《S A O(ソードアート・オンライン)》、世界中を震撼させた大事件の舞台となったVRMMOの名だ。かつて、天哉はその世界で《道化師(クラウン)》の通り名で知られ、最強と謳われたギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》を率いていた。茉人も、そのメンバーの一人で《職人》の愛称と共に長い時を過ごした

 

「あの始まりの日から全ての記憶が薄れているんだ……お前と出会った日の出来事、リズと店を立ち上げた日の事も……それに…最後の戦いも……全部が存在しなかった(・・・・・・・)様に消えていくんだ……俺の中から……!!」

 

存在する筈の記憶が存在しない。それはかつて、天哉が彼等の前から姿を消した時に行った処理と酷似した現象、しかし、其れは自分の間違いだと気付かされた。忘れさせた筈の記憶の一つ一つが自分たちが生きた証、そして大切な想い出であることを知った。故に、答えは決まっていた

 

「…………和人。純平たちも一緒か?丁度いい……直ぐに何時ものゲーセンに初期メンバーだけを集めてくれるか?サブリーダー」

 

携帯を操作し、電話を掛けた相手は最も長い付き合いの親友である剣士の少年。彼の声色から何かを察したのだろう、向こう側から追求の声は聞こえない

 

『了解。俺もお前に聞きたい事があったんだ………集めるのは初期メンバー……アスナやリズ、シリカたちはどうするんだ?』

 

「三人には悪いが、この喧嘩だけはカラーギャングだった頃の俺たちが対処しなきゃならん仕事だ」

 

『わかった。直ぐに集めるよ』

 

通話を終え、携帯を懐に仕舞い込んだ天哉は立ち上がると身を翻す。その後ろ姿に茉人は申し訳なさそうに頭を下げる

 

「すまない……俺が不甲斐ないばかりに…」

 

「謝るなよ。おめぇさんは俺の仲間だ、大事なもんに手を出されたからには…報復するだけだ」

 

その瞳は蒼く、透き通るようにも見えたが怒りで燃えているようにも見えたと後に茉人は関係者に語っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「芳子。ごめんなさいね?待たせたわよね」

 

「兎沢さん。態々、申し訳ありませんわ」

 

同刻。深澄は中学時代のクラスメイトである後沢芳子に呼ばれ、かつての母校である私立エナテル女学院近くの喫茶店に訪れていた

 

「それで、昨日の話を詳しく聞かせてもらえる?」

 

「お兄さま……わたくしの兄は後沢鋭二……SAO 帰還者(サバイバー)である兎沢さんに分かりやすく説明すると……兄もSAO 帰還者(サバイバー)の一人です。プレイヤーネームは確か……」

 

ノーチラス(・・・・・)よね?」

 

「そうですわ……ですが、兎沢さんが知ってらっしゃるなんて……」

 

「顔見知り程度よ、深くは知らないわ」

 

「そうでしたの……それでは本題に入らせていただきますわ。お兄さまはある目的の為にSAO 帰還者(サバイバー)の方々を狙っています……ですから、兎沢さんたちは《オーディナル・スケール》には関わらないでください!お願いしますわ!わたくし……お友だちが傷付くのを見たくありませんの!」

 

「………なるほど」

 

「ちょい待ち!かーさん!」

 

芳子の発言に何かを感じ取った深澄は瞳を細め、脳内で情報を整理し始めるが身に付けた《オーグマー》に息子が姿を見せ、出かけていた言葉を飲み込む

 

「どうしたの?ロト」

 

「とーさんから緊急の召集だよ。なんだか急を要する事態みたいなんよ」

 

「分かったわ。ごめんなさい、急用が入ったわ……、それとね…芳子。さっきの提案だけど、私は何があろうとゲームを途中で投げ出したりはしないわ、それにね……二度と見たくないのよ(・・・・・・・・・・)、大切な人の悲しむ顔を。だから、私はきっと何が起きようと止まらない。お兄さまとやらに伝えておいてもらえる?」

 

自分の飲んでいた紅茶の代金を机に置き、特徴的な尻尾(ポニーテール)を揺らし、彼女は喫茶店の扉に手を掛け、振り向かずに妖艶な笑みを浮かべる

 

「私の仲間(家族)と親友に指一本でも触れたら、その(プライド)を刈り取ってあげるってね」

 

そう告げ、去り行くかつての学友に芳子は鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべ、暫くは放心状態となっていた

 

「変わりましわ……本当に……貴女は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたってんだ?テン。急に呼び出しなんてよ、今日はアネキとバナナの詰め放題に行く予定があったってのに…」

 

「すまんな、今からはカラーギャングとしての俺たちで動かなきゃならねぇんだ」

 

溜まり場であるゲームセンター《ファミリア》に集められた《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の前身とも呼べるカラーギャング《吏可楽流(リベラル)》の面々。中心に座るリーダーに視線が集まる

 

「一昨日から昨日の夜に駆けて、茉人とコーバッツ、《風林火山》のメンバーたちが襲撃を受けた。的はノーチラス基エイジこと後沢鋭二だ」

 

「なにっ!?オッさんは無事なのかっ!?」

 

「職人も怪我してたのは初耳」

 

「この事を明音さんたちは御存じで?」

 

「いんや、明音さんと明日奈たちには伝えてない。奴の付近調査はディアベルとアルゴの二人に任せてある」

 

「ディアベルにか……よりにもよって……」

 

天哉が集めた情報から、仲間たちが襲われた事を知った純平たちが怒りを露わにする。和人は数々の痴態を晒す仲介人を頭に浮かべ、ため息を吐いていた

 

「まあ、情報に関しては信用出来るわよ。情報と言えばだけど……さっき、中学時代のクラスメイトから聞いた話なんだけど……エイジは恐らくだけど、SAO 帰還者(サバイバー)を中心的に狙ってるみたいよ。目的があるみたいだけど、それについては分からないみたい…」

 

「多分……狙いは《S A O(・・・)》の記憶だ。茉人は俺たちと過ごした記憶が抜け落ちているらしい……コーバッツとクラインの記憶に関してもエギルに確認してもらった」

 

「《S A O(・・・)》の記憶だぁ!?んなのを狙ってどうするんだよっ!?」

 

「その件に関しての話題かは分からないけど…俺も奇妙なモノ……いや、幽霊(・・)を見た」

 

S A O(・・・)》の記憶、其れを聞いた瞬間に喰って掛かる純平を押しのけ、和人が突拍子もない事を言い出した。全員が何を言ってんだ?このぼっちは、と言わんばかりの哀れみの視線を向けている

 

「カズ。頭の良くなる薬が開発されると良いな」

 

「非科学的な事は言うものじゃないわよ?カズ」

 

「笑える」

 

「お笑い芸人の素質がありますね。カズさんは」

 

「つーか…アホなだけだろ」

 

「んだとゴラァ!!」

 

天哉たちからの容赦ない罵倒に目をくわっと見開き、突っ込みを放つ

 

「パパは嘘を言ってませんよ!テンにぃ!」

 

「おろ?ユイちゃんも見たんか?まさか」

 

「はい!バッチリと!」

 

「なるほど……ユイちゃんも見たのであれば、信憑性は高いかもしれませんね」

 

「ユイちゃんが言うなら間違いない」

 

「だな!カズよりもユイちゃんは信用できるぜっ!」

 

「ロトは良いガールフレンドを持ったわね」

 

「おろ?(仮)?」

 

「いやだから、何故にそのゲームを知ってるんよ…我が息子よ」

 

「ぐすん……」

 

「あれ?泣いてるんですか?パパ」

 

「泣いてない……これはあれだ……目からパスタソースが溢れただけだ」

 

「パスタソース!?」

 

自分よりも信用を得ている娘との雲泥の差の扱いに涙を拭う和人は、ユイからの言及に目からパスタソースが溢れたと意味不明な返答を返す

 

「兎に角だ。今後は《オーディナル・スケール》を起動させる場合は、最低でもこの中の誰かが明日奈たちと行動することを義務付ける。被害を拡大させるな……分かったか!野朗どもっ!!」

 

「「「了解!リーダー!!」」」




決意を新たに奮闘する天哉たち!しかし、その魔の手は次第に明日奈へと忍び寄る!

NEXTヒント 道化師の怒り

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六曲 触れてはならないと言われると触れたくなるのは何故に?

タイトルはふざけてますが今回は真面目な話!実を言うと昨日のユナの命日に投稿したかったんですが……原因不明の体調不良で死に掛けているのと仕事の疲れで、そんなテンションにはなれませんでした……今も継続中なんすけどね……一応、生きてます!


「勘助!もっとスピードを出せ!手遅れになる前に!」

 

「アホかっ!?法定速度を無視したら、免停になんだろうが!この前、チャリで信号無視したら点数引かれてヤベェんだよ!!」

 

「おめぇさんが免停になろうが知ったこっちゃねぇ」

 

「よし、降りろ。迷子」

 

《オーディナル・スケール》のイベントが行われる渋谷区に向かう足に抜擢された勘助は運転するマイクロバスの助手席で無理難題を口にする宿敵に御決まりの文句を放つ

 

「生クリームに塗れちまえ。尻野朗」

 

「はっはっはっはっ、言うじゃねぇかよ。迷子ピーナッツ」

 

「喧嘩しないで前を見なさい。殴るわよ」

 

「ツキ?しっかりと運転しないと蹴り飛ばすわよ」

 

「「………あい」」

 

吏可楽流(リベラル)》だけで動くには限界がある。故に古い付き合いの鎖天衣(サティス)に協力を要請したのが運の尽き、勘助を頼りに溜まり場を訪れた先には詩乃も居合わせたのだ。事情が事情なだけに彼女を巻き込みたくはなかったが、冷静な判断能力を持つ彼女の実力は必要だと深澄が太鼓判を推した為に詩乃も参加することとなった

 

「とーさん!恵比寿ガーデンプレイスにアスナとリズベット、ねーさんが………待って!ロケ中のシリカも近くにいるみたい!」

 

「パパ!フィーちゃんは計画の対象外ですがママとリズさん、シリカさんは狙われています!急がないと!」

 

「急げって言っても!どうすれば…」

 

「…………勘助。免停になるかもしれねぇが………構わねぇか?」

 

「………仕方ねぇな……舌噛むなよっ!!テメェ等!!アクセル全開だ!!」

 

刹那、ブレーキを踏むことを止めた赤い狼はアクセル全開のフルスピードで目的地まで愛車を走らせる。免停がなんぼのもんじゃい!と言わんばかりに、走り抜ける車内は右に左に揺れ動き、乗っている天哉たちは目が回りそうになりながらも必死に喰らいつく

 

「とーちゃく!!ふふんっ………我ながら、素晴らしいドラテクだ」

 

「「殺す気かっ!!アホオオカミ!!」」

 

「おぐっ!?何しやがる!バカトリオ!!」

 

到着したのも束の間、元凶である勘助の顔面にバカトリオが飛び蹴りを放ち、殴り合いの喧嘩が始まる。先を急ぐ状況での阿保なやり取りに深澄は身を翻す

 

「バカな四人組基バカルテットは放っておくわよ。私たちはイベントスペースに急ぐわよ!」

 

「そうですね」

 

「うん。圭子が心配」

 

「私たちも行くわよ」

 

「だな」

 

「総長はそのうちに来んだろ」

 

「仕方ない。時は金なりと言うからな」

 

バカルテットを放置し、深澄たちはイベントスペースに急ぐ。道中でロトが話した情報によれば、既にバトル開始から七分の時間が経過し、ボス討伐には至ってないとのことだが深澄は冷や汗を掻いていた。それが何を意味するかは分からないが、彼女の中に生まれたのは、《あの世界(・・・・)》で起きたかつての葛藤という名の背負うと決めた業。間に合わかった場合のことを考え、走る足に力が加わり、足取りが次第に重みを増す

 

「深澄。気を楽にしろ、ここは《あの世界(・・・・)》じゃねぇ。それにだ……俺たちが居るだろ」

 

「テン……Gracias、善は急げよ!」

 

「おい!アレ!見ろ!デケェドラゴンがいやがる!!なんだありゃ!」

 

「あれは!第91層のボスに予定されていた《ドルゼル・ザ・カオスドレイク》というモンスターです!!」

 

「91層!?ちょっと待て!あそこにいるのシリカじゃないのかっ!?」

 

耳を疑うような情報にキリトは驚きを見せながら、件のモンスターに追われる見覚えのある少女を見つける

 

「なにっ!?まさか逃げ遅れたのかっ!!」

 

「リーダー!俺が行く!みんなはアスナさんたちを!!」

 

逸早くに反応を見せたのはヒイロ、恋人の危機に彼は持ち前の身軽さを活かした素早い動きでシリカの元に向かう

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!なんであたしばっかり!可愛さには自信あるけど!モンスターにモテても嬉しくな〜〜い!!きゃっ……す、すいま----え?」

 

逃げ惑っていたシリカは逃げた先で誰かにぶつかり、謝ろうとするがそれよりも早くに返ってきたのは突き飛ばすというまさかの暴力行為、体制を崩した彼女はモンスターの前に投げ出される

 

「シリカちゃん!!」

 

「アスナさん!?」

 

投げ出された彼女を庇い、駆け出すアスナ。その体を抉るように《ドルゼル・ザ・カオスドレイク》の爪が一閃。ヒイロの表情が歪む

 

「お前………許さないぞ。俺たちの仲間に!!」

 

「ヒイロ。やめろ」

 

喧嘩越しで今にも飛び掛からんとする弟分の首根っこを掴み、制した道化師は仮面越しに男基エイジを睨み付ける

 

「仲間………家族ごっこで馴れ合うだけの集団……精々、贄になってもらうぞ。《蒼の道化師》」

 

「…………言いたいことはそんだけか?なら……テメェに教えといてやるよ」

 

仮面から覗く青い瞳が鋭さを増し、コートが夜風に靡き、担いだ槍をエイジに向けた道化師は口を開く

 

「良いか?俺は、迷子野朗と言われようが、ピーナッツバターバカと言われようが、飛び蹴りされようが大抵の事は笑って許してやる。その方が楽だからな……でもな………

 

 

 

 

仲間(家族)を傷付けるのだけは絶対に許さねぇっ!

 

その言葉は、ソウテンがエイジを明確に敵であると定めた事を意味する決まり文句。キリトたちも大切な仲間を傷つけられた怒りから、今にも戦闘に入らんとする体制を取っている。ミトに至っては親友を傷つけられた怒りで猫のように唸っている

 

「ざぁんね〜ん!時間切れ〜!」

 

ユナの声が響き、時間切れとなった瞬間にモンスターは姿を消していく。シリカは涙目でアスナを見上げる

 

「アスナさん……あたしのせいで……ごめんなさい………」

 

「ううん…大丈夫よ、シリカちゃん」

 

「…………フィー」

 

「なに?テンちゃん」

 

アスナの動きに僅かな違和感を感じたソウテンはフィリアに呼び掛ける。兄からの呼び掛けに反応した彼女は彼を見上げる

 

「オジキに連絡だ。アスナも記憶が薄れてる可能性がある」

 

「記憶が薄れてる…………どういうことですか!リーダーさん!」

 

「シリカを頼む。ミト」

 

「リーダーさん!」

 

「分かったわ。シリカ、今はテンを信じて」

 

フィリアにそう告げると天哉は追求するシリカをミトに任せ、恵比寿ガーデンプレイスから去っていく。彼特有の悪い癖、仲間を巻き込みたくないが故に行う単独行動に納得のいかないシリカは追いかけようとするがミトに止められる

 

「仲間を傷つけられて黙ってられるような甘ちゃんじゃねぇんだよ………誰に喧嘩を売ったかを教えてやろうじゃねぇか……野朗ども……あのヤローを引き摺り出すぞ…分かったな?」

 

「「了解。リーダー」」

 

その姿は正に獣、関東全域に名を轟かせたカラーギャングの頂点が其処にはいた。私利私欲の為に関係ないモノを巻き込んだエイジは知らなかった、自分が決して触れてはならないモノ………〝逆鱗(・・)〟に触れてしまったことを知らなかったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………どうした?お前が此処に来るなんざ、随分と珍しいじゃねぇか」

 

寂れた、一軒のショットバー。カウンター席に腰掛け、グラスを傾けていた天満は店内に姿を見せた黒服の男性たちを見ながら、彼等を引き連れた眼鏡が似合う男性、菊岡に呼び掛けた

 

先輩(・・)。相変わらずですね……アナタを見つけるなら、此処に来るのが鉄則………あの頃と変わりませんね」

 

「はんっ……あのクソガキが今では総務省の偉いさんたぁ、感慨深いもんがあるねぇ。昔は、俺の後ろを付いて回る腰巾着みてぇなヤローだったってのによ」

 

「何時の話をしてるんですか……まぁ、今日は久しぶりに先輩の力を貸してもらいたいんです。かつて、警察庁警備局警備企画課を率いた《ウラ》の理事官ゼロ(・・)のコードネームを与えられたエリート警察官…蒼井天満警部」

 

悪態にも似た昔話を吐き捨てる天満。其れに呆れながらも菊岡は真剣な雰囲気で彼を見据え、かつてのエリートとしての彼が所属していた頃の肩書を呼ぶ。刹那、天満の顔に、彼の息子と同じ不敵な笑みが浮かんだ

 

「聞いてやろうじゃねぇか。総務省総合通信基盤局高度通信網振興課第二別室官僚……いや、こう呼んだ方がいいか?陸上自衛隊の菊岡誠二郎二等陸佐くん」

 

「やはり……先輩を頼って正解でしたよ……聞いてもらいましょうか…」

 




消えゆく記憶、それはアスナにとって苦悩の始まり……あるべきものがない……親友の危機に死喰いと呼ばれたゲーマー美少女が動く

NEXTヒント 死神の怒り

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七曲 交差する運命が良きモノとは限らない。どーぞ

えっと……お待たせしまして申し訳ありませんでしたぁぁぁ!違うんです!サボってた訳じゃないんです!今日のSAOの映画地上波放送に合わせようとしただけなんです!!

ソウテン「そうか。そいで?ブルベリ学園にホグワーツはどうだった?」

めちゃくちゃ楽しかった!ゲームはあれくらいのオープンワールドが一番だ………あれ?なんなの?これは?頭の上に何故にニンニクとアボカドがあるん?ねぇ?ちょいと?テンさん?

ソウテン「お前が更新サボってたのは把握してる……オシオキだ☆」

あぎゃぁぁぁぁ!!助けてェェェェ!!

ミト「はじまるわよ♪」


「あら、珍しいわね。アスナがこんな時間にインしてくるなんて」

 

現実世界で、仲間たちの為に道化師が動き出してから早くも数日が経過した。何かをしていないと、怒りを抑えられそうにないミトは《ALO》に足を運び、愛犬と寄り添うように眠る愛息子の寝息に耳を澄ませながらも、姿を見せた親友に笑い掛ける

 

「ミト………私の中から……SAOの記憶が消えていくの……あの日が…ミトが……私に一緒にやろうって……言ってくれた大切な思い出が……無くなっていくの……お願い…教えて…教えてよ!私はどうしたらいいかな……なんにもわからないの…」

 

忘れたくない、それでも現実は過酷に彼女を押し潰す。大切な人と親友、仲間たちと笑い合った日常、楽しかったり、辛かったり、如何なる時も、側に居た家族の存在。其れが消えていく、失いたくない、忘れたくない、彼等と過ごす何気ない一日は自分を作り上げてきた一部なのに。まるで、あの世界での想い出が最初から存在すらしなかったかの様に記憶の何処にも見当たらない。頰を伝い、涙がゆっくりと落ちる。肝心な時に自分は助けられてばかりだ、今も昔も役に立たない自分が情けない。その時だった、優しく彼女を暖かな温もりが包み込んだのは

 

「アスナ……大丈夫よ。例え、世界中の人たちの記憶から、あの世界の記憶が無くなったしても、私だけは覚えててあげる。私がアスナを守ってあげる。貴女が立ち止まって、進めない時は私が手を引いてあげる。世界中が敵に周っても、私は貴女と一緒にいる。それが私に出来る唯一の償いで、貴女にしてあげられる恩返し……それに、私と貴女には最強の仲間たち(家族)が居てくれる。だからね?心配しないで…記憶は必ず戻るわ」

 

優しく抱き寄せ、何時も通りの妖艶な笑みを浮かべる親友の温もりはアスナにとっては、何よりの慰めに他ならない。長い時間を誰よりも長く過ごした彼女だからこそ、アスナの思いを汲み取ったのだろう。優しく背を摩り、不安を取り除こうとしてくれる姿は誰が見ても、彼女が持つ優しさ故の行動だ

 

「Gracias……ミト…流石は私の親友だね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知ってるか?彩葉。成仏してねぇ魂は三途の川で、船の船頭をやらなきゃいけねぇんだとよ。しかもシフト制らしいぞ」

 

「リーダー、年末年始に義○と娘のブ○ー○を見たんだ。面白いよね、あのドラマ」

 

東京都の六本木通り、春風が心地良く吹き抜けるお洒落な街には削ぐわない青い羽織の少年と青いバンテージに覆われた手で焼き鳥を頬張る小柄な少年がいた

 

「うむ、血の繋がりがないのに娘さんを立派に育て上げる姿に涙が止まらなかった。ミトとロトを見てるみたいだった」

 

「俺の家もシングルマザーだから、ゆかりんが共感してた」

 

学生の本分が勉強であるにも関わらず、昼時に彼等は街中にいる。元より、学業に意味を見出していない彼等からすれば、学校は何の意味も皆無等の突っ込みは野暮だ

 

「ゆかりんはお元気?」

 

「当たり前。今日も元気に焼き鳥を焼いてる」

 

「おやまあ、相変わらずの働く女性だ。流石はオフクロが可愛がってた後輩ちゃんだな」

 

「とーぜん、ゆかりんは母親の鏡」

 

母親を褒められ、誇らしそうに胸を張る彩葉。天哉は弟分の頭を優しく叩きながらも、目の前にあるマンションから、視線を外そうとしない

 

『こちら、和人。経過はどうだ?リーダー。どうぞ』

 

「競輪がなに?お前は何をやってんの?どうぞ」

 

手にしていたトランシーバーから、聞こえた和人の声に反応した天哉は、安定の聞き間違いと共に応答する

 

『聞き間違いもたいがいにしやがれ、腐れ迷子。どうぞ』

 

「んだとゴラァ!お前こそ、どうなってんだよ?ランク上げは順調なんか?このヤロー。どうぞ」

 

『順調だ……今は二桁…この先に待つエイジの背が見えてきた。それもこれも、ツッキーたちが協力してくれてるからだ。どうぞ』

 

「そうか……なら、安心だな。コンビニ班はどうだ?どうぞ」

 

『…………コンビニ班?』

 

ある理由から、マンション前から動けない天哉と彩葉。和人は《オーディナル・スケール》のランク上げに専念している為に、彼が如何なる手段での調査を行っているかは知らない。然し、耳を疑う発言に聞き返した

 

『こちら、コンビニ班。昼の十二時頃に純平さんが週刊漫画雑誌とお弁当を電子レンジに入れてしまい、タルタルソースが爆発しました。どうぞ』

 

『どうぞじゃねぇよっ!!なんだよっ!?コンビニ班って!!というかタルタルソースが爆発するかぁっ!!何がしてぇんだよっ!あのゴリラは!どうぞ』

 

「コンビニ班はマル秘が利用するコンビニに潜り込み、情報収集に当たる特殊捜査班だ。純平は趣旨を理解してない節があるから、無視してくれ。どうぞ」

 

『了解しました。不肖、緑川菊丸は任務を続行させていただきます。どうぞ』

 

「頼んだ。次はキャンパスライフ班か…うーむ、悩みのタネではあるが仕方ないな。どうぞ」

 

『ちょっと待て!またなんかおかしな単語が聞こえたぞっ!?なんだ!キャンパスライフ班って!どうぞ』

 

二度目の聞き捨てならない単語、彼は調べるつもりがあるのか?と言わざるをえない状況に和人は突っ込むが、天哉は気にすることもなく、キャンパスライフ班からの反応を待つ

 

『こちら、キャンパスライフ班のオネーサン。学食のタコライスが美味すぎて、仕事が手に付かないゾ。どうぞ』

 

「そいつは大事件だな、引き続き調査をよろしく。どうぞ」

 

『おぃぃぃぃぃ!なんか聞いたことあるネズミ女の声がしたぞっ!明らかに飯を食ってるだけだろっ!どうぞ』

 

『あっ、ディアベルがまた警備員に追いかけられてるナ。裸になるなって言っても聞かないんダ、どうしたらいいかの指示をもらえるカ?どうぞ』

 

「よし、ベルさんには囮になってもらう。おめぇさんはマル秘についての調査を続けてくれ。どうぞ」

 

『了解ダ。オネーサンに任せロ、フェルナンド。どうぞ』

 

「ミドルネームで呼ぶんじゃねぇよ!カリーナこのヤロー!どうぞ」

 

昔から知るが故のやり取りを交わしながら、トランシーバーの向こう側で笑っているであろう情報屋に反論を返す天哉。最早、突っ込む気も失せた和人はトランシーバーの電源を切っていた

 

「リーダー。見つけた、エイジだ」

 

「よーやくか………彩葉、あのヤローを逃すな」

 

「うん……圭子を突き飛ばしたのを忘れてない。あいつに頭突きをかましてやる」

 

「やってやんな、なにせ彩葉の頭突きは痛いからな」

 

あの世界、あの日、過ごした時間が紡いだ絆を取り戻す為に彼等は動き出す。ある者は剣を、ある者は言葉を、ある者は足を、其々の武器を用いり、彼等は動き出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふぅ……やるからには勝つわよ。フィリア」

 

「うぅ……テンちゃんに叱られる……」

 

夕刻、《オーディナル・スケール》のイベント場所にミトは足を運んでいた。半ば強引に連れてこられた足代わりのフィリアは兄からのお叱りを受ける事が決定した瞬間に、絶望感を抱いていた

 

「それでだ、ミトくん。私やアリシャを呼び出した理由を聞かせてくれるか?」

 

「うんうん、気になるネ」

 

「二人にはサポートをお願いしたいのよ。私とフィーが前衛、二人が後衛、そして……シノンは狙撃手よ」

 

「任せて。敗北を告げる弾丸の味を教えてあげるわ」

 

彼女もまた、友人たちと親友の記憶を取り戻す為に戦いを始める。その赤い瞳には怒りが、死神の怒りが燃えていた

 

「………不甲斐ないわたくしを許してくださいな……深澄さん。貴女には大義のために犠牲になっていただきますわ…そう、大義という名の悠那お姉さま(・・・・・・)が生きる未来の為に…」




動き出す思惑、時間、記憶。三つが交差する時、遂にその蒼き衣が棚引く

NEXTヒント 道化師の本気

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八曲 昨日の敵は今日の友!執事とメイドが電撃辞職!!

今回は終始真面目な話………こんな感じの場面で3,000文字は初めてかもしれん……なるほど、自分は真面目な話も書けたのか


『その者、紺碧の衣を纏いし、一人の槍使い

 

その槍を振るう姿は時に美しく流れるかの如く、時に怒涛のように荒々しく、身に付けたる仮面には不敵な笑みを携え、

 

その名を、『蒼の道化師』と申す』

 

SAO議事録。かつて、世界を恐怖に陥れたデスゲームの記録が綴られた書籍。その項目でも一際目立つのが、ゲームをクリアに導いた《黒の剣士》と共に歩んだ《蒼の道化師》と銘打たれた章である。彼を知る者たちは語った、ある時は呑気に、ある時はバカみたいに、ある時は静かに、その全てを身に付けた仮面に隠した彼を形容する言葉は数あれど、代名詞と言っても過言ではない、彼を象徴する言葉が一つある、其れが『道化師』だ

 

『また、その本を読んでるの?エイジ。今日は《蒼の道化師》……へぇー!この人って、沢山の槍を操るんだぁ〜!すごいなぁ〜』

 

「ああ………そうだね…彼はすごい……すごいからこそ……嫌いだ」

 

『怒らないでよ〜、エイジ!そうだ!この本にあるエイジの事が聞きたいな』

 

《蒼の道化師》に興味を示すユナに対し、鋭二は軽蔑するかの様に眼を細めた。その姿に彼が怒ったと感じたのだろう、ユナは取り繕い、彼が出ている箇所は無いのかと問い掛ける

 

「……いないんだ、僕はこの本には出てこない……。戦えなかった僕たち(・・)は覚えてもらう価値もないのさ……」

 

そう告げた鋭二の横顔は寂しそうだった。かつての自分は誰の瞳にも映らない程に弱く、小さく、無意味な存在。故に本に記してもらえる程の価値など無い、そう告げる彼の瞳は物憂げだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、君に会うのは《ALO》の一件以来か。此度の件は私が絡んでると思っているようだね」

 

真夜中のゲームセンター“ファミリア”、薄暗い中で天哉が会話するのは白衣を棚引かせ、不敵に笑う男。この男は我々は知っている、世界を震撼させたデスゲームの首謀者、茅場明彦に他ならない

 

「アンタが残した負の遺産が元になってるんだ。絡んでないとは言わせんよ?」

 

「重村先生の独断だ、あのプログラムは既に私の手を離れていると言っても過言ではない。それを責任があると責められるのは御門違いも甚だしいね」

 

「そうだな………でもな……忘れたワケじゃねぇだろうよ。俺が最も嫌うのが何かを」

 

静かな空間に流れるのは、沈黙という名の音楽。そして、何よりも茅場は目の前に立つ蒼い衣を纏い、静かに怒りを燃やす道化師を前に彼と対峙したかつての光景を垣間見る

 

「忘れてはいないよ……さて、私は行かなければならない。失礼するよ」

 

まるで、最初から何も存在していなかった様に茅場は姿を消す。天哉は其れを気にする素振りも見せずに愛用のソファに腰掛けた

 

「テン。この一件には芳子も絡んでいたみたい……私に接触した理由は再会を喜ぶのが本来の目的じゃなかった。残念なことにね」

 

部屋の電気を点け、淹れたての紅茶を彼の前に置いた深澄は自分の友人が実は今回の件に於ける主犯格の一味であると口にする

 

「その件に関しては裏を取ってある。どうやら、エイジはSAO帰還者に接触する為に凡ゆる手段を使ってるみたいだ。身内の想いさえも利用してな」

 

「…………芳子は優しい子よ。きっと、血の繋がったエイジを見捨てられなかったに違いないわ。でないと、あの子が人を無闇に傷付けたりなんかする理由がないもの」

 

深澄の中には確かな確証があるらしく、旧友が無闇矢鱈に誰かを傷付ける様な行いをするには理由があると考えた。でなければ、優しい彼女が他人に危害を加える等という事は万が一にも有り得ないのだ

 

「僕と純平さんからも報告があります。重村教授についての重要な証言です」

 

「あのユナのモデルは聞いてビックリな人物だった。重村教授の実の娘をモデルに生み出された記憶を媒体にした人形みてぇなモンらしい……手っ取り早い話がだ、SAO帰還者(俺たち)の記憶をストリングして、自分の娘を蘇らせようとしてやがるんだ」

 

菊丸の話に続ける様に、手に入れた情報を語り始める純平。何時にない真剣な面持ちの彼に誰もが息を呑むが、彩葉は不意に疑問に思った

 

「ストリング………菊丸、大事な話なのに純平さんが間違えてる」

 

「彩葉くん。御約束に突っ込みは野暮ですよ?食べ残し程度の些細なミスは今日ぐらいは見逃してあげましょう」

 

「そうだね」

 

「その優しさが逆にいてぇわっ!!」

 

御約束とも呼べる当たり前の言い間違いを見逃そうとする菊丸と彩葉の優しさに、純平が吠えた

 

「…………それで?何時まで隠れてるつもりかを教えてもらえるかにゃ?後沢芳子(・・・・)

 

普段ならば、率先して参加する純平弄りに参加せずに天哉はゲームセンターの入り口に真っ直ぐと視線を向け、その名を呼ぶ

 

「お気付きになられておりましたのね?蒼井天哉さん。お兄さまの仰られた通り……食えない御方ですわ」

 

「芳子!?どうして…ここにっ!」

 

まさかの人物が姿を現した事に、深澄は両目を見開く。当の本人は涼しい顔で、美しい笑みを見せる

 

「悪く思わないでくださいまし、兎沢さん。誠に勝手ではありますが後を付けさせていただきましたわ」

 

「テン……どうやら、しくじったみたいだわ。ごめんなさい」

 

「気にすんな……それでだ、此処に来たからには理由とそれなりの覚悟があるんだよな?」

 

不敵な笑みは瞬きすらも許さないとばかりに、一瞬で凄みを感じさせる顔付きに変化し、威圧気味に問う。道化師のソウテンよりも場数を踏んだ蒼井天哉が其処には居た

 

「大人しくしていただけましたら、危害を加えるつもりはありませんわ。SAOの記憶を差し出していただけます?」

 

「其奴は素敵な提案だ、危害を加えずに記憶を奪い取り、おめぇさんは目的を果たせる………笑えねぇな(・・・・・)

 

穏便に済まそうとする芳子の提案に最初は丁寧な態度を見せた天哉だが、その顔からは完全に笑みが消えた

 

「笑わせるつもりはありませんわ……お行きなさい!」

 

「「お嬢様の為に!」」

 

湧き出る様に姿を見せる大量の黒服集団。彼女を守る専属ボディガードたちが天哉たちを取り囲んだ

 

「どわっ!?黒服連中!?」

 

「アレが噂に聞くSP!実物を拝見するのは初めてですね、興味深い」

 

「SP……特別なパン?」

 

「彩葉。スペシャルパンの略じゃないわよ」

 

「仕方ねぇよ、我が弟分は横文字に弱いからな」

 

危機が迫っているにも関わらず、ソファに腰掛けた状態で微動打にしようとしない天哉。大勢との戦いに関しての場数を経験しているが故に、多少の事には動じないだけの精神力を持ち合わせているのだ

 

「お戯れも大概になさってください、お嬢さま。この方々は兄の御友人ですよ」

 

「百歩譲っても友人じゃねぇけどな……然し、お嬢はボンの為にしても、黒服どもを動かすのは違うんじゃねぇか?其奴は俺のライバルってヤツでな」

 

「布里!近藤!?アナタ方が何故ここに!」

 

意外も意外、天哉たちを黒服から守ったのは見慣れた青年と少女の二人組。異なるのは、普段は見ない黒服とメイド服に身を包んでいることだ

 

「………誰だ?」

 

「毎度お馴染みの愉快な人だよ」

 

「ああ!特技が○ムチャみたいな人か!」

 

「どんな特技だっ!!」

 

「執事にメイドだったのね」

 

「兄の無礼は御容赦くださいませ。御友人の力になれるのを喜んでおります」

 

助けに入ったのも束の間、直ぐに何時もの残念なイメージに戻る近藤。然しながら、天哉は徐に立ち上がり、彼の肩に手を置く

 

「ちょいと力を貸してくれるか?コンちゃん(・・・・・)

 

「変なあだ名をつけんじゃねぇよっ!!まぁ、アレだ…主人の不始末は使用人の不始末……半分くらいなら、貸してやんよ。テン」

 

「近藤………主人に楯突くのが……何を意味するかを理解してますの?」

 

ぎろりと睨む芳子、その姿に軽くため息を吐き、近藤は懐から取り出した封筒を彼女に投げ渡す

 

「今日限りで退職させてもらいやすぜ…長い間、世話になった恩を仇で返すことになることをクソ御容赦くださいませ」




芳子率いる黒服と仲間たちが戦っている頃、和人は遂にエイジとの最終決戦に赴く。彼が二本目を抜いた時……それは終焉を斬り裂く刃とならん

NEXTヒント 失ったモノは数あれど

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九曲 勢い余って、退職しちゃいましたが再就職先はホワイト企業が第一希望です?

残業続きだけど、寒さに負けない為に笑い嵐を巻き起こします!まあ今宵はシリアステイストですが………御約束はありましから御心配なく☆


「今日限りで退職させてもらいやすぜ…長い間、世話になった恩を仇で返すことになることをクソ御容赦くださいませ」

 

退職願と書かれた封筒を雇い主の芳子に投げ渡す近藤。その歴史的瞬間を見ていた天哉は先程のシリアスな雰囲気を顰め、両眼を瞬きさせる

 

「おやまあ、こいつはたまげた。まさか、人が無職になる瞬間を見せられることになるとはな」

 

「高額収入からの没落とかウケる」

 

「違う、今から俺の職業は時の流れに身を任せる職業にジョブチェンジしただけだ。断じて、無職じゃない」

 

自分から職を手放した筈なのに、あくまでも無職ではないと主張する近藤。最初こそ、天哉と彩葉は揶揄っていたが彼の言い分に何を言ってるんだ?と言わんばかりの白けた視線を向ける

 

「兄の失業に伴い、私も職を失ったワケですが………何か良いバイトはありますか?兄でもお役に立てる職業であると幸いです」

 

「コンちゃんには勿体無い出来た妹さんだ。どうだ?うちのおバカ娘とトレードしませんこと?お安くしときますぜ」

 

「テンちゃん。殴られたいの?ていうか、殴っていい?いや、殴るね」

 

「ぐもっ!?」

 

自分を顧みずに兄の心配を第一に考える布里の健気さに心を打たれた天哉は、自らの妹とトレードを要求するが件の人物である琴音にアッパーを放たれ、御決まりの叫びと共に吹っ飛ぶ

 

「アホなことしてる場合かっ!!ちっとは戦えやっ!バカリーダー!!」

 

「おろ?何とだ?今しがた黒服さんたちは蹴り飛ばしたんだが……取り敢えずだ、コンちゃんを殴ればいいか?」

 

「協力はどうしたっ!!やっぱ嫌いだ!!お前!」

 

「「というか何時の間にっ!?」」

 

純平が激を飛ばし、天哉にも戦う様に強要する。然し、其れは杞憂だった。既に襲い掛かってきた黒服を無力化し、制圧した彼の足元には物言わぬ黒い山が積み上がっていた

 

「貴女の負けよ」

 

「負けてませんわ…………止まった時間を……お兄さまの時間を動かす為に私は負けられない………仮想世界(あのせかい)に囚われたお兄さまの心を!!!」

 

馬の耳に念仏、負けを認めようとしない芳子。彼女は残酷なもう一つの現実(あのせかい)を知らない、其れでも未だに心を冷たい浮遊城に囚われたままの兄を取り戻したいと願う。その心意気には目を見張るものがあるかもしれないが天哉の顔からは不敵な笑みが消え、冷たく刺す様な鋭い視線が真っ直ぐと見据えていた

 

「さっきから聞いてりゃ………お兄さまばっかりだな。大事な兄貴の大切な人を取り返したいが故に他は巻き込まれようが気にしないってか」

 

「気に留める必要がありませんから……なぜなら、お兄さまを想う気持ちは誰にも負けませんわ!!私にはお兄さまがいれば良い!!他に何もいらない!!お兄さまだけが!!私を必要としてくれた!!」

 

誰かに必要とされる喜び、其れは他ならぬ天哉が誰よりも知っていた。仲間たちと出会い、彼等と過ごす時間の中で楽しそうに笑う深澄の姿。その側には何時も自分が、和人たちが、何よりも明日奈がいた。だからこそ、許せなかった。湧き上がる怒りは黒く、暗く、あの頃の様に囁く。「目の前にあるものを壊せ」と囁いている。勿論、根源であるロトは既に自立した一人の人間。故に此れは天哉が新たに生み出した更なる闇であることは明白だ

 

「かつて、日の本を創造した神は黄泉の国に妻を迎えに行こうとしたが、そこに居たのは醜い姿に変貌した妻の姿だった。おめぇさんたちがやろうとしてるのは其れと同じだ。私欲を満たしたいが故に自分のエゴを正当化しようとしてるだけだ。此処がお前の人生の幕引きだ」

 

「何も知らないくせに………失う痛みを知らないくせに……アンタに何がわかる!!!」

 

お嬢様口調が崩れる程に激昂した芳子は何処からか取り出したナイフを握り締め、天哉目掛け走り出す。最早、説明するまでもないが説明しておかなければならない。冷静さを失くした者の思考は脆い。其れを長年の喧嘩漬け生活で知る天哉は、ナイフを握る手を蹴り上げ、即座に軸足を固定し、ありったけの力を込めた蹴りを叩き込まれた芳子は脱力し、壊れた機械のように意識を手放した

 

「知りたくもねぇが知ってるよ」

 

仮面は無くとも、前髪に隠れた蒼き眼はしっかりと彼女を見据えていた。その瞳は優しくもあるが儚さを帯びているようにも見える

 

「大切な人を失う辛さも……痛みも……誰よりも……俺たち(・・)は知ってる、イヤになっちまうくらいにな……でもな、俺たちが生き抜いた世界は其れが現実であり真実だった。だからって、俺はその記憶から目を背けたりはしない、仮想世界(あのせかい)があったから、俺は変われたし、仲間たちと出会えた。其れにだ……知ってるか?」

 

手を差し出し、不敵に笑う彼は彼女を前に優しくも厳しい言葉を投げかけるが、不思議と頼りたくなる妙な衝動が駆り立てる

 

「この世で起きたことに解決出来ねぇことはねぇんよ。その手はまだ汚れてないだろ?一緒にお兄さまの間違いを正しに行こうぜ…アンタに歩くための理由があるなら、尚更だ」

 

何故かは分からない。然し、彼を信じたいと思った。友人が、執事が、メイドが信じた彼を芳子は信じたいと心の底から思ったのだ

 

「お嬢……こいつは信用できやす。俺が保証します。ボンを解放してやりましょう」

 

「出来るでしょうか……私に……」

 

「出来る出来ないかは誰にも分からないわ。重要なのは……何をやるかよ」

 

「深澄さん……そうですわね……改めて、お願い申し上げますわ…!天哉さん!お兄さまを!後沢鋭二を!止めてくださいませ!成功の暁には皆さまの記憶を解放する事を御約束致しますっ!!」

 

芳子が頭を下げると、青いメッシュが目立つ前髪から蒼き眼が不敵に光る。そして、道化師は深々と頭を下げ、不敵に笑う

 

「………Déjamelo a mí(お任せを)、その依頼。この道化師(クラウン)を筆頭とした泣く子も笑う《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》が承りました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………テン?怒らないから聞かせてもらえるかしら?ここが何処かを」

 

「みんな大好き激安スーパーマーケットですな」

 

優しく笑う深澄の問いに呑気に答える天哉。エイジの元を目指していた彼等は最寄りの激安スーパーマーケットに来ていた。其れはなぜか?言わずもがな、皆さんも御存知かつ御馴染みである彼の悪癖が原因に他ならない

 

「いいか?ライブ会場までは時間が掛かるんだ。此れは会場での物販を防ぐ為の時間稼ぎだ。お分かりか?深澄さん」

 

「其れらしい事を言ってるけど、要するに迷子よね?何時も通りの御約束よね?迷子くん」

 

「迷子じゃない」

 

「迷子よ」

 

「迷子って言うヤツが迷子だ」

 

「やっぱり迷子なんじゃない。其れで?これから、どうする?迷子くん」

 

「やめろ、迷子を連発するな。まるで俺が迷子みたいだろ」

 



「実際に迷子なのよ?バカテン」

 

迷子扱いに非常に敏感な天哉は迷子くんと呼ばれる事に、難色を示すも深澄は冷静に彼を咎める


 

「近藤……布里…今更なにを?と言われるかもしれませんが……私、頼る相手を間違えたかもしれませんわ」

 

「「お嬢さまの意見に同意します」」




ユナのライブ会場、全ての運命が交差する時……遂に刃は解き放たれる。ここからがラストステージだ!!

NEXTヒント 魂の繋がり

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十曲 集いし猛者たち!集合場所は激安密林亜熱帯?

前回からすこーし間が空いた分、詰め込みました!頑張った!

ソウテン「今日は許してやるけど、次回も遅れた場合は分かってんね?」

も、もちろんじゃないですか………

ソウテン「前言撤回、やっちまいな」

一同「「「了解!リーダー!!」」」

あぎゃぁぁぁぁァァァァ!!?

ミト「はじまるわよ♪」


「前回までのあらすじ、突如、芳子率いる謎の集団に襲われた《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々。しかしながら、辞表覚悟での協力を申し出た近藤と布里の助力もあり、事なきを得たのでした。次なる目的地はライブ会場。ですが、彼等は別の場所に来ていました。そう…………

 

 

 

 

 

激安亜熱帯密林へと

 

止める人間が居ないが故に相変わらずの馬鹿物語の執筆に拍車を掛ける菊丸。トレードマークの眼鏡をきらりと光らせ、笑う姿は正に賢者である

 

「…………緊張感がありませんの?」

 

「大丈夫よ。今しがた、最強のツッコミに連絡が取れたわ」

 

唖然とする芳子の隣で冷静な深澄は携帯片手に助っ人を呼び出した事を告げた。その言葉に店内を物色していた天哉たちの顔から、血の気が引き、次第に青ざめていく

 

「最強のツッコミ!!ヤバい!野朗共っ!!買い物が終わり次第、早急にトンズラすんぞっ!!」

 

「「了解!リーダー!!」」

 

「なんだ?何が来るってんだ?」

 

「さぁ?分かりかねますが、恐ろしい何かが近付いているのは確かです」

 

必要な物を買い漁り、レジに傾れ込む天哉たち。その様子に近藤と布里も理解出来ずに首を傾げているが、深澄は不敵な笑みを崩そうとしない。そして、会計を終えたバカたちの前にその人物は姿を現した

 

「俺の監視が行き届かない範囲でのバカ騒ぎはヘル子からの密告で把握している………それでだ?申し開きはあるか?バカども」

 

「「「ひぃぃぃぃぃぃ!!!しょ、職人さんっ!?」」」

 

その人物の名は天野茉人。天哉たちが職人と呼ぶ最強の仲間にして、ある意味で一味の最高戦力と呼ばれる青年が其処には立っていた。痛々しくも見える片腕をギプスで吊り上げながらも、愛用の着流しを纏う彼はプラスチック包丁を袖から覗かせている

 

「貴様等のことだ。ふざけまくるのは理解していた………だが、ある意味では最善の選択をしたらしいな」

 

「職人……いんや、茉人。怪我をしてんのに来てくれたんだな」

 

「当然だ。記憶があろうと……なかろうと……大事な仲間に手を出されたからには容赦しない……違うか?リーダー(テン)

 

真っ直ぐと向けられた瞳には、数日前までの弱気な彼は存在していなかった。慣れ親しんだ仲間である彼が佇んでいる

 

「そうだな!記憶がなんだと言うのだ……私は教師で、貴殿たちは生徒!教師が生徒を……仲間を守ることに理由などはいらんぞっ!」

 

「おっさん!」

 

茉人の背後から、姿を見せた大柄な男性を見た瞬間に誰よりも早くに反応したのは、彼と親子盃ならぬ親子バナナを交わした純平。自分に飛びついてきた彼の頭に手を置き、豪快に笑う男性の名は高良芭蕉、天哉たちの担任にして仲間である

 

「はっはっはっ!心配をかけたな?我が友よ。この通り!私は無事だ!」

 

「流石だな!おっさん!」

 

「ウホッ!?いだだだだだっ!!背中がァァァァ!!」

 

「あっ!すまねぇ!!」

 

勢いよく背中を叩かれた高良は地面を転げ回り、純平は直ぐに詫びる。結束力がない、団結していない、放任主義等と言われがちの彼等であるが共通の目的を前には何があっても、次第に集まり、世界を彩ってしまう。それが彼等を最強と言わしめる最大の特徴なのだ

 

「集まったみたいだな!騎士の送迎は必要かい?」

 

buen momento(ナイスタイミング)!阿来ちゃん!」

 

「服を着てる」

 

「ミニバンとはシャレオツな車に乗っていますね」

 

最後の最後に姿を見せたのは、阿来。珍しくも衣類に身を包んだ彼の姿に彩葉は顔色は変えないが驚きを示し、菊丸は彼の愛車に興味を示す

 

「圭子たちの方はどうなってるかにゃ?」

 

「ツッキーたちが護衛してくれてるよ」

 

「そうかい……そうとくりゃ遠慮はいらねぇな。暴れてやろうじゃねぇか」

 

不敵に笑い、仲間たちを率いり、先頭を歩く青い羽織の少年。我々は彼を知っている、彼を形容する言葉は数あれど、代名詞にして相応しい名は一つしかない、その名を《蒼の道化師》。彼の前では全ての者たちが彩られ、次第に彼の色に染まりゆく。不可能を可能に、大胆不敵に、彼の前に立ちはだかるモノは如何なるモノであろうと意味を成さない

 

「ゴーカイにな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「約束通りの時間だ。さぁ、返してもらうぞっ!明日奈たちの記憶を!」

 

天哉たちがイベント会場に殴り込みを仕掛ける数刻前。和人は地下駐車場で、件の人物と対峙していた

 

「本当に一人で来たんですね……まぁ、増援はありえないですがね。貴方の御仲間は既に俺の仲間が片付けている頃合いでしょう」

 

「なに?テンたちに……俺の家族たちに何をした!」

 

柱にもたれ、意味深に語る鋭二に和人は仲間たちに何かあったのだと瞬間的に理解し、冷静から一変し、怒号にも似た声で吠える

 

「人聞きの悪い、俺は何もしていませんよ。ただまぁ?バカな妹が先走る可能性はあるかもしれませんがね」

 

「………妹か。お前は考えたことあるか?誰かとの繋がりを」

 

妹、その言葉を聞いた瞬間に我に返った和人は息を整え、静かに問う。かつては彼も、全てを拒絶し、世界との繋がりなんか必要ないと思っていた。しかし、自分に手を差し出した親友が最初に引き合わせたのは、血の繋がらない妹だった。無意味だと決め付けていた彼の生き方を案じ、涙を流した彼女を彼は守りたい、大切にしたいと願った。故に許せなかった、妹さえも道具の一つとしか考えていない彼を許せなかったのだ

 

「はぁ?何を言うかと思えば……お前に俺の何が分かる!ユナは俺の全てだった!彼女がいれば何もいらなかった!なのに!お前は……お前たちは!!俺たちを見ようとすらしなかった!!あんな世界の記憶なんかなければいいと何度も思った!!だけど……必要なんだよ……ユナを!悠那を取り戻す為に!!」

 

《オーディナル・スケール》を起動させ、鍔迫り合いを繰り広げるエイジとキリト。感情を露わに叫ぶ彼の姿は何時かの親友の姿が重なり、刃を握る手に力が籠っていくのを感じる

 

「そいつはエゴだ、他人の不幸を対価に生還しても彼女は喜ばない……それにだ、俺たちはあの世界を忘れたいと、忘れようとしたことなんかない。あの世界が、あの日が、あの日々があったからこそ、俺たちは出会い、彩り、歩いてるんだ!」

 

「失う痛みを知らないヤツが知った口を聞くなァァァァァァァァ!!!」

 

怒り、それは彼の親友が最も相手を無力化させる際に利用する感情の一つ。彼ならば、一瞬で沈黙させられる事は火を見るよりも明らかだ。しかし、キリトには其れは不可能である、故に彼は剣を握る手に、慣れ親しんだ感覚に身を委ねる。向かい来るエイジが刃を振り下ろす瞬間を狙い、会心の一太刀を放ち、力無く彼は地面に倒れ込む

 

「知りたくもないけど知ってるよ」

 

黒い前髪から覗く黒き瞳はしっかりと彼を見据えていた。その瞳は優しくもあるが儚さを帯びているようにも見える

 

「大切な人を失う辛さも……痛みも……誰よりも……俺たち(・・)は知ってる、イヤになるくらいにな……でもな、俺たちが生き抜いた世界は其れが現実であり真実だった。だからって、俺はその記憶から目を背けたりはしない、仮想世界(あのせかい)があったから、俺は親友とまた笑い合えるようになった、仲間たちに出会えた。アンタにはユナがそうだったかもしれない……それでも、少しは前を向いて歩いていけよ。立派な足が付いてるんだからな」

 

そう言い残し、彼は地下駐車場を足早に去って行く。大切な人が、仲間たちが、親友たちが待つ最終決戦の地に彼は駆ける

 

「…………芳子……俺は……間違えたのか?なにかを…」

 

去り行く背を見送るだけしか出来ない鋭二、近くに感じた気配の主である妹に声を掛けると彼女は倒れた彼を抱き起こし、優しく自分の膝に寝かせる

 

「わかりませんが……私は依頼しました、あの人たちに。お兄さまを止めてほしいと……ですから、また最初からやり直しましょう?今度は私や近藤、布里と一緒に」

 

「ボンとは長い付き合いだからな。最後まで付き合うぜ?」

 

「ボッチャマ。御指示を」

 

妹、執事、メイド、何もないと思っていた自分に手を差し出したのは道具のように思っていた身内。彼等の優しい言葉に憑き物が落ちたように鋭二は《黒の剣士(キリト)》を追随するように姿を見せた少年たちの背を見送る

 

「さてと………殴り込みといこうじゃねぇか」

 

「「「了解!リーダー!!」」」




記憶データの保管場所、そこはあの世界。かつての消えない傷と想い出を、遂に到達した浮遊城の頂に道化師たちは降り立つ

NEXTヒント 二度目の悪夢

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一曲 推して参る!折れない侍の信念!!

連日更新!!死にそうになったが生きてる故の頑張り!!認めてもらいやしょうか!この覇業!!

ソウテン「何を偉そうに普通だ、こんくらいは。全盛期のおめぇさんの方がまだまだ頑張ってたぞ」

今ので作者は傷付いた、また暫くは更新しな-----あぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!口が辛い!なんかヒリヒリする!!なにこれ!!

ソウテン「キリトからのプレゼントのキャロライナリーパーですな」

ミト「はじまるわよ♪」


「どーなってやがる!《オーグマー》の誤作動かぁ!?こりゃあ!」

 

「落ち着け!総長!こんな時こそアレだ!!朝の星占いを信じる時だ!」

 

「何を頓珍漢なことを言ってんだ!リッパーちゃん!こういう時は取り敢えず、餅を突くに決まってんだろ!」

 

「キッドも間違っている。ここはテキサス魂を見せるべきだ、故にホットドッグを食べるが得策だ」

 

「「「それだっ!!」」」

 

《オーグマー》の強制作動により、混沌を極めるライブ会場。アスナたちを守っていたツキシロたちが阿呆なやり取りをする中、四人の頭上に拳骨が落ちた

 

「何をしてんのよっ!!こんの変態四重奏(カルテット)!!!」

 

「真面目に護衛しなさいよっ!!」

 

シノン、リズベットのダブル拳骨を受けた変態集団は物言わぬ屍と化す。そのやりとりには見向きもしないシリカはアスナを庇い、過酷な状況に歯噛みする

 

「ですけど、どうしたら………こんな時にマイクがあれば………」

 

「いや、マイクがあってもどうにもならないわよっ!?」

 

この場を安心させたい想いは理解出来るが、何処か焦点が間違っているマイクと共に走り続けるで御馴染みのシリカ基マイクバカ娘、又の名をバカドルにリズベットが突っ込みを放つ

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

「レディに何やっとんじゃぁぁぁぁァァ!!!牛のバケモンがぁぁぁぁ!!」

 

突如、姿を見せた巨大な牛のモンスター。巨大な出刃包丁を振り上げ、アスナたちに狙いを定める牛の標的の中にはメイリンも居た。其れに気付いたある男が動いた、片腕を怪我しながらも飛び蹴りを放ったバンダナの男性、その姿にメイリンの瞳に涙が溢れた

 

「クラインさん……?」

 

「申し訳ねぇ……メイリンさん……貴女との甘い日々を忘れちまっただけでは飽き足らず、貴女のピンチにも駆け付けるのが遅れちまう程にどうしようもないバカな男だがよ………大事なモンだけは忘れちゃいねぇつもりだ、この刀が届く距離にある間合いにある全てのモノを俺は守り抜く………それが()の信念ってヤツだぜ

 

遅れるからには訳がある、彼もまた道化師に出会い、その彩りを間近で見てきた仲間の一人。生まれも育ちも、年齢も組織も違う。それでも譲れない信念だけは記憶があろうと、無かろうと彼に染み付いた性分、あの日、あの時、確かに彼の魂に焼き付いた其れは、色褪せようとも決して消えることがない意志。故に彼は刀を握る、侍としての自分を奮い立たせる為に彼は、クラインは愛する仲間たちの為に戦うのだ

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

「くっ……んだぁ!牛ヤローがっ!!」

 

「クライン!其奴は牛じゃねぇ!ヤギだっ!!前にお前は其奴と戦ってるはずだ!忘れたかっ!」

 

「俺がコイツと!?マジか?エギル!」

 

「俺は参加してないが、テンたちと一緒に戦ったと聞いてる」

 

「マジでか………ちきしょう!其れも忘れちまってる自分が情けねぇ……どうすりゃいいんだ…!」

 

「らしくねぇじゃねぇかよ?クライン。おめぇさんの信念ってのはそんなもんか?」

 

誰もが諦めかけた時だった。その呑気な声は、胡散臭い問い掛けは、待ちに待ったその時は、何時もと変わらない不敵な笑みを仮面の奥から覗かせ、その道化師と一癖も二癖もある者たちは其処に佇んでいた

 

「言ってくれるじゃねぇかよ……ダチ公……生憎だがなぁ……漢!クライン!恋の炎で身も心も白熱してきたとこだぁぁぁぁぁ!!」

 

「そうと決まれば話は早い!!ユナ……否、悠那(・・)!!俺たちを旧アインクラッド100層に送り込んでもらおうかっ!!この依頼は既に俺たちの管轄!!正式な依頼には誠意と熱意で応え、如何なる苦情すらも吹き飛ばすが我等が流儀!故に!オーグマーのフルダイブ機能のアンロックを頼まれてもらおうじゃねぇの!」

 

心強い味方の登場にクラインは奮い立ち、勇猛果敢にモンスターを薙ぎ払う。その姿は正に豪傑の闘将、百戦錬磨の侍に他ならない。そして、道化師は声を上げ、この場所の全ての人々の命運を握る少女に自分たちを《あの世界》に、地獄と称された世界に導けと言い放つ

 

「…………全てを……全てを託したよ………《蒼の道化師》……!!」

 

声が届き、其れに道化師は不敵な笑みと共に仲間たちを呼び寄せる。無茶、無謀、其れは百も承知、其れでもやらなければならない、やるべきことを。故に彼等はあの言葉を、あの日の始まりの言葉を、全ての始まりとなった言葉を、意識を仮想世界に、地獄の最上階に、解き放つ為にあの言葉を。全員一緒に叫ぶ

 

「「「リンク・スタート!!!」」」

 

「ロトくん!ユイたちも準備しましょう!」

 

「待ってたよー。そいじゃまあ……行きますかっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「おろ……………………あぎゃぁぁぁぁ!!!」」」

 

懐かしの世界に飛び込んだ一同を待ち受けていたのは、まさかの洗礼という名の落下。誰もが叫び声を上げる中で恒例となりつつある持ちギャグは彼の中では慣れ故に空中でさえも、安らぎを与える

 

「あぁ〜茶が美味い」

 

「「「落下中に茶を嗜むんじゃねぇよっ!!!こんのバカリーダー!!」」」

 

「ぐもっ!?」

 

「全くだぜ………にしても落下しながらのシノケツも悪くねぇな!」

 

「んなっ!?張り倒すわよっ!!!こんのバカツキ!!」

 

「おぐっ!?」

 

落下中に茶を嗜むソウテンの頭に全員からの蹴りが放たれ、安定の尻野朗であるツキシロの脳天に銃弾が放たれる。物言わぬ屍と化した二人は浮遊城第100層の《紅玉宮》に佇む巨大なモンスターの前に落下する

 

「二年………時の流れは早いわね。それでも私たちは来たわ………決着の時よ」

 

「グランドフィナーレに相応しい相手だな……腹が鳴るぜ」

 

「腕だよ」

 

「ヒイロくん。言うだけ無駄ですよ」

 

「やれやれですね、グリスさんのバカさ加減は。というか、フィリアさんは鼻血を止めてください」

 

「やだ、グリスさんの素敵な姿を前に鼻血を止めるなんて失礼な事は出来ないよ」

 

「失礼以前の問題でしょうが!!迷子娘!!」

 

「やかましいヤツらだ」

 

「はっはっはっはっ、我々はこうでないとなっ!」

 

「クライン!騎士と侍の何方がすごいかを白黒させる時だ!このヒゲサムライ!!」

 

「望むとこだ!ディアベル!!お前なんざに負けねぇ!!こんのパンツナイト!!」

 

「仲良くしろよ」

 

「うふふ、クラインさんが誰よりも素敵よ〜」

 

騒がしく、喧しく、暖かく、騒ぎあう仲間たち。この光景をアスナは知っていた

 

「良いわね!次に変なことしたら脳天ぶち抜くだけじゃすまさないわよっ!!」

 

「………あい」

 

「落下中に太腿をスクショすんのを忘れたぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「ヘソ出しじゃないだと………!?駄目だ………死のう………」

 

CHAOS(カオス)………来世はワキに塗られるローションになろう……」

 

「何故かしら?無性にアンタ等の口に歯磨き粉をぶち込んでやりたいわ」

 

優しくも殺意のある眼でケモノたちに愛ある調教を言い渡す女神の下には赤い狼が敷かれている。その光景もアスナは知っていた

 

「アスナ………貴女と一緒にラスボスに挑めるなんて……嬉しいことはないわ。Gracias、私の親友」

 

「どうしてかな……何も覚えてないのに……ミトの……その笑顔は知ってるし、覚えてる……ゲームの醍醐味だよね?これも」

 

「そうよ」

 

忘れていた、記憶の中にある彼女の言葉。思い出した訳ではない。それでも自然に出てきた言葉にミトが笑うとアスナは目の前の二人に。恋人ともう一人の親友に、その後ろ姿に見詰める

 

「テン」

 

「ん?どしたんよ、キリト」

 

「改めて、聞くけど……このゲームをどう思う?」

 

「なにを今更って感じだなぁ?そんなんは言わんでもわかるだろうに…」

 

キリトが問いを投げかけると彼は肩を竦め、代名詞の不敵な笑みを浮かべた後に拳を突き出す。それに応えるようにキリトも同様の仕草を見せる

 

「「死んでもいいゲームなんて、(ぬる)過ぎるぜ」」




悪夢と向き合う為にグランドフィナーレと対峙する道化師一味とケモノたち!その顛末や如何に!!絶望が希望に変わる時!あの声が響き渡る!!

NEXTヒント アバターチェンジ

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二曲 ゲームだからって手を抜くつもりはない!懐かしい奴等もだいしゅうご〜!

タイトルナゲェなんて苦情は無しにしてくれやすかい?何故かって?本編もナゲェからさっ☆


「「死んでもいいゲームなんて、(ぬる)過ぎるぜ」」

 

拳を突き合わせ、不敵な笑みを浮かべる二人の少年。彩られたら、彩り返すを代名詞とする最強ギルド《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》を率いる《蒼の道化師》。その相棒であり兄弟であり親友である二刀流を代名詞とする《黒の剣士》、言わずもがなであるが彼等を突き動かすのは、変わらぬ一つの衝動。そう、familia(家族)の為である

 

「先制攻撃は俺がもらったぜ!!喰らえっ!!必殺!!ウルフストレー----おぐっ!?」

 

「何をしゃしゃり出てんだ?ワキ役尻野朗。先制攻撃は主人公からって地球が出来た頃から決まってんだ」

 

我先にと先制攻撃を仕掛けようとしたツキシロの背後から飛び蹴りを放ったソウテン。常に不遇な扱いが当たり前の現状に区切りを付けたい彼は先制攻撃は主人公の専売特許だと語る

 

「なるほどな……つまりは原作主人公である俺の出番か?遂に」

 

「ああ、よろしく頼むよ?主人公さん。これが正装になります」

 

「ふっ……ようやく主人公の有り難みを理解出来たか」

 

次に動きを見せたキリトにも、自分より先に派手なことをさせない為に普段は絶対にありえない呼び方と彼の為の正装を手渡す

 

「ダセェ」

 

「んだとゴラァ!!用意したのはおめぇだろうがっ!!」

 

「ぐもっ!?あだだだっ!!キャメルクラッチはやべぇ!腹が裂ける!あぎゃぁぁぁぁ!!」

 

用意された服は《闘》と書かれた肩宛と赤いズボンという謎の衣装。自分で用意したにも関わらず、開口一番に酷評するソウテンに関節技を喰らわせる姿は正に超人レスラーの如しである

 

「おお……帰ってきた!あの恐ろしすぎる程に恐ろしかったパスタマンが!!」

 

「あれがウワサに聞いたパスタマン!ヒア・ウィー・ゴー!だぜっ!」

 

「「「あ、アナタはアゴ番長!!」」」

 

「こんのバカどもっ!真面目にやれっ!!!」

 

「ふざけ過ぎだ……このバカどもっ!!!」

 

「天誅っ!!!」

 

「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」

 

遂に限界が来たシノン、おふざけは許さないで御馴染みのアマツ、伝家の宝刀を抜いたミトの物理的なツッコミが放たれ、逃げ惑うソウテン達。その姿は側から見ていると最終決戦に望む者たちには見えない

 

「KYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

「「「おろ……………………あぎゃぁぁぁぁ!!!」」」

 

ふざけていたのも束の間、遂に動き出した《SAO》本来のラスボスが仕掛けた先制攻撃の餌食になったソウテンたちは四方八方に吹き飛ぶ

 

「主人公よりも先に先制攻撃を放つとは……ラスボスの風上にもおけねぇ!!!カチコミじゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

「テンちゃんに続けぇぃ!!」

 

「あっ……二人とも。そっちは」

 

「「おろ……………………あぎゃぁぁぁぁ!!!」」

 

ミトが呼び掛けるも虚しく、最後まで言い切る前に一歩を踏み出した双子の前方に現れたのは穴、ぽっかりと空いた穴が待ち構えていた。そして、勢いよく飛び出したソウテンとフィリアの体は宙に放り出されていた

 

「崖よ」

 

「「ミトてめぇぇぇ!!!」」

 

御約束というよりも恒例のイベントに第100層から落下した二人に目も暮れる暇もなく、ラスボス基〈アン・インカーネイト・オブ・ザ・ラディウス〉の十本のHPゲージを減らすことに集中していた

 

「ぶちかますぜっ!!どっせい!!!」

 

結局、誰よりも先にパワー全開のハンマー攻撃を放ったグリス。落とし穴に落ちていなければ、フィリアが鼻血放出の案件である

 

「スイッチ!」

 

次から次へと繋がる攻撃の嵐。明確にダメージが入り出し、猛追を仕掛けようとした時だった

 

「「「……………は?」」」

 

突如、輝きを放つ〈アン・インカーネイト・オブ・ザ・ラディウス〉の瞳。そして、訪れた絶望感を抱かざるを得ない状況にミトたちは素っ頓狂な声を挙げた後に言葉を失った

 

「全回復……流石にクリフト使うなの定番ネタで笑い飛ばせる程に笑える案件じゃないわね……」

 

「こんな時にあんの傍迷惑迷子兄妹はなにしてやがる!!」

 

「落とし穴に落ちてから登ってこない………テンくん………フィリアちゃん……」

 

絶望的な状況に落下以降の動向が不明の双子の安否を心配するアスナ。然し、絶望は更に絶望を生み出す為に動き出した

 

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

「きゃぁぁぁぁぁ!!なんであたしばっかりぃぃぃぃ!!」

 

「シリカ!!ヒイロ!!私が引きつけるから、その間にシリカを!!」

 

モンスターにモテる体質なのかは不明だが標的にされるシリカ。妹分を助ける為に飛び出したミトはヒイロに指示を出し、自分の方に注意が向くように攻撃を仕掛ける

 

「くっ……!?」

 

「ミトさん!!」

 

「ミト!」

 

壁に叩き付けられ、声を挙げるミト。その姿に誰もが彼女の名を呼ぶ。特に声が響いたのは、妹分のシリカ、親友のアスナ、一瞬の揺らぎに間髪を入れずに〈アン・インカーネイト・オブ・ザ・ラディウス〉の瞳が輝きを放つ

 

(前にも……あった……変わったつもりだった……私はまた約束を守れないの…?ホントにダメだなぁ……私って……)

 

完全に打つ手無しの状況にミトは最後を覚悟する。肝心な時に約束を守れない自分に後悔しながら、その時を覚悟した

 

「なーに……勝手に終わろうとしてんだ?まだまだ終わりじゃねぇだろ…本番はこっからだ」

 

その時だった、間の抜けた声が彼女の耳に届いた。その“蒼き衣(コート)”を棚引かせ、仮面から覗く蒼き眼は彼女が世界の誰よりも愛する大切な人、何処に居ようと危機には必ず姿を見せる大切な人、《SAO(このせかい)》で再会を果たした運命の日と同じように彼は姿を現した

 

「みんなゴメン!落とし穴に落ちた後に強力な助っ人に会ってたら、遅くなっちゃった!」

 

「フィリア!無事だったか!!」

 

「はうっ!?危機的な状況にも関わらず、わたしの心配!?ありがとうございます!グリスさん!それはそうと頼もしい仲間たちを連れてきました!」

 

生還を果たしたフィリアは自分よりも先に身を案じたグリスの優しさに鼻血を出しながらも、空から押し寄せる援軍を指差す

 

「鼻血を出してる場合かっ!!バカフィリア!!きっくん!お兄ちゃん!待たせたね!」

 

「相変わらずの遅刻魔ですねぇ?スグちゃんは………まぁ、来てくれた事には感謝します…ありがとうございます」

 

「きっくんを護れるのはあたしだけだもん」

 

「愛弟のピンチと聞いては黙っていられん!!お姉ちゃんが来たっ!!」

 

「おぉ〜、ボロボロだネ?ツキシロ」

 

「総長さん!!」

 

「遅れちまったけど参加だぜ!」

 

リーファを皮切りにサクヤ率いるシルフの軍隊とアリシャ等のALO組、レンとフカ次郎を軸とするGGO組、様々な仲間たちが姿を見せる

 

「コーバッツ中佐!!何を寝とるんやっ!!あんさんの実力はこないなもんやない筈や……ワシの知っとるお前を見せてみんかいっ!」

 

名を呼ばれ、振り向いたコーバッツ。其処に佇んでいたのはツノのような髪型の男性、久方振りに会う彼の姿に自然と口が開いた

 

「……き、キバオウ殿……貴殿も来てくれたのか…」

 

「ワシだけやない……《ALS》のメンバーの大半が参加しとる。それにや……今こそ、テンはんに受けた返しきれへん恩を返す時や」

 

「ディアベルさん、俺たちも戦う。今度こそは一緒にボスを倒そう!!」

 

「リンド………みんな……ああ!騎士の底力を見せてやるっ!!」

 

「すごい………今までに繋がってきた仲間たちが……家族が……こんなに……」

 

コレでもかと言わんばかりに姿を現す仲間たちを前にアスナは呆気に取られる。知らず知らずのうちに繋がった円は時と共に巨大な繋がりを、絆を、縁を紡いだ。それを驚くなと言う方が無理だ

 

「とーさん!かーさん!準備は万端だよ!何時も通りにやっちゃえ!」

 

「パパ!ママ!ゴーカイにですよ!」

 

「マスター・フィリア並びにみなさま。今がその時です」

 

飛来したロト、ユイ、エストレージャの言葉にソウテンたちは何かを理解したように頷く。そして、何時もは仮面を身に付けてからの決まり文句である言葉を宣言する為に不敵に笑う

 

「「アバターチェンジ!!!」」

 

「「本能覚醒!!!」」

 

高らかに宣言された聞き慣れない謎の言葉。刹那、《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々に変化が訪れる。光に包まれ、次々にありえない姿となり、佇む十七人の勇士と七人の獣。その姿はこの世界には削ぐわない程に異質、しかしながら、威風堂々足る佇まいは、不思議と活力を与える

 

「聞かせて御覧にいれましょう、我等が名を」

 

唐突な異変ではあるがある意味ではこの世界に相応しい姿と成った道化師は不敵な笑みを浮かべる

 

「道化師の仮面、ソウテン!」

 

妖しく光る仮面、棚引く蒼き衣、肩に担がれた槍

 

「勇者の仮面、キリト!」

 

闇に映える黒き衣、両手に握られた二対の魂

 

「死喰いの仮面、ミト!」

 

紫色の尻尾(ポニーテール)、命を刈り取る鎌

 

「野猿の仮面、グリス!」

 

灰色の衣、身の丈はあるハンマー

 

「賢者の仮面、ヴェルデ!」

 

緑の衣、美しくも繊細な細剣

 

「獣使いの仮面、ヒイロ」

 

赤き衣、肩に乗る小鳥、腰のブーメラン

 

「アイドルの仮面、シリカ!」

 

片手にはマイク、肩には小竜

 

「職人の仮面、アマツ」

 

名は体を現す和装、利き手に握られた包丁

 

「騎士の仮面、ディアベル!」

 

紺の皮装備コート、右手に盾、左手に片手剣

 

「農家の仮面、コーバッツ!」

 

黄色の鎧コート、巨大な斧

 

「魔法剣士の仮面、リーファ!」

 

金色のポニーテール、片手直剣

 

「狩人の仮面、フィリア!」

 

蒼い軽装備、ソードブレイカー

 

「鍛治師の仮面、リズベット!」

 

軽装の鎧と鉄鋼、メイス

 

「閃光の仮面、アスナ!」

 

白と赤のグラデーションが特徴的な装備、細剣

 

「商人の仮面、エギル!」

 

金属鎧、両手斧

 

「侍の仮面、クライン!」

 

赤い甲冑、長刀

 

「料理人の仮面、メイリン!」

 

白いチャイナドレス、巨大なフライパン

 

「「彩られたら、彩り返すが流儀!我等っ!泣く子も笑う《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》!」」

 

最強と呼ばれたギルドが、この世界に名を轟かせる彼等が、其々の特徴である仮面を持つ勇士が、其処には立っていた

 

「荒野だろうが浮遊城だろうが関係ねぇ!縦横無尽に駆け巡る!!《赤狼(ヴォルフ)》!ツキシロ!」

 

赤き装甲、真っ赤な拳

 

「銃器のことならお任せ!《黒鷲(ヴェルグ)》!キッドちゃんだぜぃ♪」

 

テンガロハット、黒い機械翼

 

「暴れて飛び出てヒャッハー!鉄騎!リッパー!」

 

頭のゴーグル、巨大な鉄騎

 

CHAOS(カオス)。早撃ちの名は伊達ではない……早撃ち。クイックドロウ」

 

ソフト帽、一丁のリボルバー

 

「冥界の女神の名は伊達じゃないわよ?シノン」

 

露出度の高い装備、担いだヘカートII

 

「今日も元気にぴょんぴょん!飛び跳ねるミニマムガール!レンちゃんだよ〜!」

 

ウサ耳にも見えるピンクの帽子、ピンクの銃

 

「へいへいへーい!荒野に降り立った妖精とはあたしのことだぜっ☆フカ次郎ちゃんさんじょ〜!」

 

迷彩服、二丁のグレネードランチャー

 

「獣を纏いて、突き進むは明日への覇道!その遠吠えは次元を超える!銃弾の雨を潜り抜け、手にした勝利は俺を満たす!俺たちを誰だと思っていやがる……俺たちは最強にして満足の覇者!その名を刻め!我等が名を《GGO》最強スコードロン《荒野の獣人(ウィルダー・セリアン)》也!!」

 

最強にして異色、その身に受けるは湧き立つ歓声、鳴り止まぬ喝采。仮想世界に名を轟かせる最強のギルドはその全員が最強の姿、自分たちが存分に力を発揮可能な姿となり、最強の敵に視線を向けた

 

El escenario está preparado(舞台は整った)

 




遂に揃った最強チーム!!ラスボスを相手に容赦しねぇ!!大ハジケバトルの始まりだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

NEXTヒント 大ハジケ祭り

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三曲 大ハジケバトル開幕でヤバさマックス!?やめられない!とまらない!!

連日更新!今回はハイスピードギャグバトル!これでもか!と言わんばかりに暴れ回ります!


El escenario está preparado(舞台は整った)

 

不敵に笑い、槍を肩に担ぐ道化師。無風であるにも関わらず、愛用の青いマフラーが靡く。その威風堂々たる立ち姿は浮遊城だからこその慣れ親しみ、デスゲームを己の色に彩ってきた《蒼の道化師》そのものに他ならない

 

「しかしまぁ、これまた随分と大所帯ですな。我が息子よ」

 

「知らず知らずに増えてるんがとーさんの仲間たちだからねぇ。こればっかりはどうにもならんよ」

 

「それもそうだ。それでだ……開戦の狼煙にをあげるんは誰だ?我こそはというヤツは名乗り出てくれて構わんよ」

 

揃いに揃った懐かしい面々を含む何時も以上の大所帯を前にソウテンが呑気に呟けば、これまた呑気にロトからの突っ込みが入る。そして、彼は愛息子との触れ合いを肌で感じながら、絶望的な状況を覆す為のトップバッターに成りうる者が居ないかと訪ねた

 

「何を言ってるんだよ?テン。主人公はお前じゃないか」

 

「そうだぜ?此処はお前に譲ってやる」

 

何時になく爽やかかつ朗らかな笑顔のキリトとツキシロ。その笑顔の裏に何かを本能的に感じ取ったソウテンは身を翻す

 

「…………じゃあ、俺は英会話のレッスンがあるんで」

 

「「逃がすかぁっ!」」

 

「ぐもっ!?」

 

逃げ出そうとしたソウテンの後頭部に見事な飛び蹴りが放たれ、物言わぬ屍となり、床に転がる

 

「大変だ!リーダーさんが死んだ!」

 

「軽い脳しんとうですね」

 

「大丈夫。麻酔はしなくてすんだから、このままで手術をする」

 

「「婦長!」」

 

「ヒイロくんが婦長なの!?」

 

屍基ソウテンに群が看護師服姿のシリカとヴェルデ、そして彼等を押し除けるように姿を見せたヒイロの立場は婦長のようだ。まさかの発言にリーファが驚愕の声を挙げる

 

「キリト先生……こちらの方の病名は?」

 

「迷子症候群また名をファンタジスタシンドロームだ。手の施しようがない、我々に出来るのは……アレしかない」

 

「なるほど……アレか。例のものをここに!」

 

「「はい!婦長!」」

 

「ん………おろ?ちょっ!?何する気!?なにされんのっ!?イヤァァァァ!離してェェェェ!!」

 

手の施しようがないと判断されたソウテンはカノン砲に詰め込まれる。目を覚ました彼が騒ぐのも聞かずに作業は継続される

 

「「ハジケ協力奥義・迷子(ファンタジスタ)キャノン!!」」

 

「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!こうなったら!敵も味方も関係あるかぁっ!!ハジケ奥義・ヤケクソ麩菓子バッティング!!!」

 

「「「ぎゃぁぁぁぁぁ!!リーダーが御乱心だぁぁぁぁぁ!!」」」

 

余りにも不遇な扱いにも遂に我慢が限界点の臨界点突破だったソウテンはやけくそ気味に、何処からともなく取り出した巨大麩菓子片手にキリトたちに襲い掛かる

 

「はっはっはっ、実に愉快!私も協力しようではないか!行くぞ!レコンくん!シグルド!」

 

「ちょっ!?サクヤさん!何をする気ですかっ!?」

 

「誰かヤツを止めろ!何かをやらかす前に!!」

 

「あれ?いたんだ?サクヤさん。これで何度目ですか?スイカの持参は。芸がありませんね」

 

「おんやぁ?誰かと思えば迷子のフィリアくんではないか。なんだ?今日も迷子か?地図とチーズの区別もつかないのか?キミは」

 

暴れ回るソウテンと部下二人の心配を他所に、サクヤは未来の義妹?となる予定のフィリアと因縁の嫁小姑問題を繰り広げていた

 

「ツキ。対象までの距離は?……ちょっと、聞いてる?返事しなさいよ…ツキシロ!」

 

「んあ?すまん、久しぶりのシノケツに夢中になる余りに見てなかった」

 

「やっぱり最高だぜぇ!シノンちゃんの絶対領域(バレットライン)!!」

 

「ヘソがとうごぜぇやす!!」

 

「脇を見ているとワクワクしてくる」

 

「ドタマに鉛玉を撃ち込むわよ?変態ケダモノども」

 

「恥ずかしい弟だヨ」

 

「フカ。このギルドは手遅れみたい」

 

「あっはっはっ、レンちゃんよぉ〜?今更だぜ?そいつは」

 

荒れ狂うというよりも平常運転のケダモノフレンズに脅しを掛ける姿は正に冥界の女神。その様子に全てを諦めたレンに対し、フカ次郎は愉快そうに笑う

 

「アスナ様の記憶を返さんかぁぁぁぁ!!!」

 

「私が持つ河童の記憶は渡しませんぞっ!!」

 

「誰もいらんわっ!!そんな記憶!!オラオラ!!道化師率いるコント集団に仲間入りしたクラインが率いる風林火山の御通りだァァァァ!!」

 

「うふふ、素敵よ?クラインさん」

 

「あ〜い!メイリンすぅわん!!恋のハリケーン接近中で〜〜〜〜す♡」

 

「…………やっぱり、キモいぞ」

 

「あぁん!?んだとゴラァ!ぼったくり商人が!!下ろしてやろうかっ!?あぁん!?」

 

前菜どころかメインディッシュを喰らう勢いの面子も、所狭しと暴れ回る。ラスボスを前にしても平常運転なのは流石と称賛するべき所である

 

「ふっふっふっ………騎士の力を見せる時だ!!俺に続けぇい!!」

 

「気合い入っとるやないか!ディアベルはん!………って、服はどないしたんや!?あんさん!」

 

「狼狽えてはいかんぞ?キバオウ殿。ディアベルは裸がユニフォームなのだ、取り敢えずはバナナを剥きたまえ」

 

「そうなんか……そいつは知らんかった……すんまへんな、バナナをご馳走してもろ---って!!なんでやっ!!なんでバナナを食べなあかんねん!?」

 

「バカモノ!誰が食べていいと言った!剥くだけだ」

 

「そないな儀式あるかいっ!!」

 

持ちネタとも呼べるバナナの件をキバオウに仕掛けるコーバッツ。流石の関西弁は突っ込みにもクライン以上のキレがあるのは言わずもがなだ

 

「おい!!また回復するつもりだぜ!あんにゃろう!!」

 

「そうは問屋がおろさんよ!!さぁ!出番だ!プルー!!!何時も以上に派手な技をみせてやんなっ!!」

 

「ププ〜ン!」

 

「ハジケ奥義・愛犬超次元砲弾(ギガドッグブレイク)っ!!!」

 

「KYUUUUUAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?!?」

 

最強にして唯一無二の愛犬を回復動作を行うボスにぶん投げるソウテン。何時もの技に回転を加えたプルーが螺旋状の鼻が、巨大な木を貫く

 

「ミト!!ぶちかませっ!」

 

「アスナ!!たたみかけろっ!!」

 

その声に反応するよりも早くにミトとアスナは地を蹴り、二人同時に駆け出す。打ち合わせをした訳でも、理解していた訳でも、好機を伺っていた訳でもない。然し、体は正直に考えが追いつくよりも早くに駆け出していた

 

(死の恐怖になんか負けない……私には仲間たちが……テンが………アスナがいてくれる!!)

 

(今の私に出来ること……!!ミトたちと一緒なら、なんだって乗り越えていける……ユウキ!!力を貸して!!)

 

「「私たちが(プライド)をへし折ってあげるわっ!!!合体超奥義・死喰い閃光!!」」

 

ミトの《デストルクシオン・ムエルテ(武器の死)》、アスナのマザーズ・ロザリオ(ユウキからの贈り物)、二つの技が一つに重なり合い、巨大な一つの斬撃を生み出す

 

「止めだ!!テン!!お前は空からだ!!だ!L A(ラストアタック)を決めるぞっ!」

 

Estamos listos.(準備は整った)。グリス!打ち上げろっ!」

 

「了解!リーダー!」

 

グリスが構えたハンマーの上に、ソウテンが飛び乗ると、天井近くまで、投擲される

 

「「永遠にadieu」」

 

手にした槍と共に螺旋回転を始め、その回転は風を巻き込み、小さな暴風と化したソウテンと二刀流”上位剣技《スターバースト・ストリーム》の十六連撃を地上から放ったキリトは仮面越しの不敵な笑みと別れの言葉を贈り、〈アン・インカーネイト・オブ・ザ・ラディウス〉を、デスゲームが生み出した最強の敵を完全に葬り去る

 

「これが最後だ………アンタに使われるのはな…願わくば、永遠に会わないことを祈るよ。茅場明彦」




ゲームクリア、その先に手にしたあの男との会話の先に道化師は何を語る……

NEXTヒント 最後の対話

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四曲 往け!!!お前がやらねば誰がやる!!

遂に来た……最終曲前の前座……がんばるぜ☆

ソウテン「ずずっ……はてさて、どうなることやら」


「前回のあらすじ、遂にアスナさんたちの記憶を取り戻す為に必要不可欠な最終決戦を制したあたしたちは本当の意味でのグランドフィナーレを迎えたのであった」

 

「そして、デスゲームという名の呪縛からの解放又の名を卒業を果たした《彩りの道化(カラーズ・クラウン)》の面々。しかしながら、彼等の戦いには終わりはありませんでした。其れもその筈、何故なら、彼等は………

 

 

 

 

 

迷宮無しの名探偵だったからです

 

刹那、暗闇から黒縁眼鏡に蝶ネクタイが特徴的な名探偵を筆頭にした様々な探偵姿のソウテンたちが姿を見せる

 

「しまった!!油断した隙にきっくんとシリカの両方が野放しに…!!」

 

「二人でなにしてんのっ!?」

 

開口一番に、前回の経緯を解説する一人のアイドル娘と得意の馬鹿物語を語る眼鏡の少年。普段は互いにあらすじ解説を取り合う関係性にある二人だが、久方振りの懐かしき舞台を前に手を組むことを選んだのだ。そして、何時も通りにトレードマークのウサ耳的な帽子を尖らせたレンとリーファが突っ込みを放つ

 

「シリカさん……今宵は手を組んでいただきました事に感謝を」

 

「昨日の敵は今日の友……今日だけは一緒にやろう。だって、アイドルは可愛ければ、何をしても許されるんだからねっ!」

 

「そんなわけねぇーーーーっ!!!」

 

「ヒイロくん。あの二人の頭に焼き鳥の串をぶん投げてもいいよ」

 

「気にしたら負けだよ」

 

止まらずに暴走を続けるシリカを相手にレンは律儀に突っ込みを放つが、諦めの境地に達したリーファの対応は冷ややかであった。一方で恋人と親友の奇行に慣れてしまったヒイロは相も変わらずに焼き鳥を頬張る

 

「久方振りに見る君たちの奇行は賞賛にも値するが………まだやることはある筈だ。違うか?テンくん」

 

騒がしい雰囲氣を掻き分けるかのように、白衣を靡かせた男が姿を見せる。その男をソウテンは勿論であるが、キリトたちは、何よりも《SAO帰還者(デスゲームサバイバー)》は知っていた、その男の名を、姿を。記憶の深くに色濃く刻まれたその男、茅場明彦は其処に立っていた

 

「お、お前は!!」

 

「オレツエーさん!!」

 

「ふざけてる奴等は無視してくれ。そいで?おめぇさんが急に俺たちの前に現れた理由は何かを聞かせてもらえるか?茅場明彦」

 

グリスとキリトの馬鹿丸出しの発言とは裏腹に、仮面の奥で瞳を妖しく光らせた道化師は問う。世界を震撼させた張本人が自分だけではなく、他の帰還者の前に姿を見せたのかと、彼は問いを投げかけた

 

「私に其れを尋ねるか……君ならば、何を成すべきかを理解していると思うが?」

 

「そうだな……さてとだ、キリト。お前にやってもらいたい事がある」

 

茅場との会話に何かを見出したソウテンは振り返らずに背後に佇む親友に話しかけた。彼が何も答えを返さずに沈黙を貫いていると、彼は代名詞にして象徴でもある不敵な笑みと共に振り返る

 

「お前がそういう時は何時も自分を犠牲に俺だけに光を歩ませる時だ………お前は昔からだ、自分から他人を巻き込むだけ巻き込んで、心を、想いを、土足で踏み荒らす……そのくせに最後は自分だけが犠牲になる道を選ぶ………バカだ、お前は……本当に大バカヤローだ」

 

「知ってる。だからこそだ、お前は期待しただけの成果を出してくれる」

 

「Gracias……親友(テン)

 

No hay necesidad de inclinarse(礼はいらんよ)

 

決まり文句と共に名を呼ぶ親友に対し、道化師は手をひらひらと振る。その様子に傍観者に徹していたミトたちも動いた

 

「悔しいけど、私たちはヒーローになれないわ。でもね?キリトは違う」

 

「うん、キリトくんは私たちが見つけた最強の勇者だもん。大丈夫だよ、キミなら出来る」

 

「ミト……アスナ……」

 

「ぶちかましてやれよっ!おめぇの強さをな!」

 

「うむ!期待しているぞっ!我が生徒よ!」

 

「既に準備は出来ている」

 

「感謝しなさいよ!今の騒ぎの間に仕上げてやったのよ!」

 

「グリス……コーバッツ……アマツ…リズ…」

 

「あたしが応援してあげます!なにせ、音楽は力ですからねっ!」

 

「恋人は今日もお茶目なアイドル。#竜使いちゃんで、拡散希望」

 

「無事に帰った時はスグちゃん特性のカレーでお祝いにしましょう」

 

「何を勝手に決めてるの?きっくんは。まぁ、お兄ちゃんなら大丈夫だよね」

 

「シリカ……ヒイロ……ヴェルデ……スグ…」

 

「かましてこい!キリト!」

 

「祝杯は是非ともうちの店を使ってくれ」

 

「なんでも作るわよ〜」

 

「頑張ってよね!親友!」

 

「バームクーヘンを焼いておこう!」

 

「クライン……エギル……メイリンさん……フィリア…ディアベル……」

 

「仕上がりの良い結末に期待してるぜ」

 

「ツキは後で黙らせるわね」

 

「やっちまいな!キリトちゃん!」

 

「お前がやらねば誰がやる」

 

「good luck!ぼっちくん!」

 

「任せたよ!キリトさん!」

 

「アスナパイセンたちの記憶を任せた!」

 

「ツッキー……シノン……キッド…クイックドロウ…リッパー……レン……フカ次郎…」

 

親友、仲間たち、妹たち、この表情を彼は知っている……否、知っていた。黒の剣士の行く末を信じる希望の灯だ

 

その背に、《第100層》に居た全員が、全てのプレイヤーが不敵な笑みを浮かべ、

 

『往けっ!!!』

 

全員で、背中を押す言葉を放った。其れと同時にキリトの二対の剣を中心に槍、鎌、ハンマー、細剣、ブーメラン、短剣、片手剣、斧、包丁が飛来。そして、空高くに浮かび上がった十本の武器が一つになり、一振りの剣を形成する

最高にして最強、彼と仲間たちを繋ぐ絆の証そのものである刃は姿を見せた

 

「やはり、君には(ソレ)が似合う。ならば、これは私からの選別……いや、渡し忘れていた私を倒した証(クリア報酬)だ」

 

その様子を見ていた茅場が指を鳴らすと、《メモリークラウン》にも劣らない大剣がキリトの前に姿を見せた

 

「このゲームの結末は………俺たちが決める!!!行くぞ……っ!!!《メモリークラウン(家族たち)》」

 

走り出す勇者の背に道化師は不敵に笑う。それから暫くもしない内に全てが終わり、懐かしき舞台から彼等は姿を消した。まるで全てを終えたかのように、痕跡を残さずに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悠那!!」

 

「お姉さま!」

 

全てが終わり、騒ぎが終結した会場で明日奈に記憶を変換していた悠那の姿が鋭二と芳子の視界に入った

 

『エーくん……よっちゃん……ありがとう。私を忘れないでくれて……でもね?もう大丈夫だよ』

 

彼女も気付き、二人を安心させるように優しい笑みで笑い掛け、優しい言葉を掛ける

 

「忘れませんわ……お姉さま……」

 

「キミの歌は永遠に………僕と共にある……」

 

其れを聞き、安心した悠那は光の粒子になるように静かな眠りについた。その光はかつて、天哉と和人が決闘した日のように、全てのプレイヤーに降り注ぐ

 

「………ああ、そっか。ユナって……あのユナっちか」

 

「確かに……いたわね。圭子が喧嘩を売ってたわ」

 

「出る杭は打たれると言いますからね」

 

「圭子。それは意味が違う」

 

かつての記憶、風景を想起させ、天哉たちは歌姫の旅立ちを見送る。彼女の行く末が幸せな旅路であることを願いながら、見送っていた




大円団を迎えたソウテンたち!しかーし、彼等が和人の幸せをぶち壊さないワケがない!

NEXTヒント 星空のバカ騒ぎ

ソウテンたちの愉快さに笑ってもらえたら、お気に入り登録お願いしまーす。コラボとかも気軽にメッセージ飛ばしてくれたら、反応しまーす(コラボする方は事前にキャラ崩壊の承諾を願います♪シリアスな雰囲気とか書けるタイプじゃないんで♪)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五曲 瞬く星とバカたちのオーケストラ

遂にオーディナルスケール編も最終回!星空の下で騒ぐバカたちのオーケストラを御覧に入れましょう♪


「本当に綺麗………約束を守ってくれて、Gracias.和人くん」

 

「当然だろ?俺が約束を破ったことがあったかよ、今までに。この景色を誰かと見るのが俺の夢だったんだ。だからさ、こちらこそGracias.明日奈」

 

「「んっ……ちゅっ……んっ…」」

 

星が瞬く空の下、そっと口が触れ合い、約束が守られた事に二人は安堵する。その二人が仮想世界に名を轟かす剣士たちである等、誰も思わない

 

「現実世界でも夜空の下で鍋を囲むことになるとはな……世紀末ですな、これは」

 

「大丈夫よ。テンみたいな傍迷惑迷子野朗が野放しになっている時点から既に世紀末どころか世界破滅の一歩手前よ」

 

「誰が世界の破壊者だこのヤロー。訴えるよ?そして勝つよ」

 

「残念だったわね。私はヤローじゃなく、女よ」

 

「何を勝ち誇ってんだ!?」

 

『あっはっはっはっー、とーさんとかーさんは今日も賑やかだねぇ』

 

今日も今日とて、平常運転な天哉と深澄。それを《通信プローブ》越しに見守るロトは嬉しそうに笑う

 

「あっ!流れ星だよ!彩葉!」

 

「お願いごとしないとだ」

 

(シンデレラガール!シンデレラガール!シンデレラガール!)

 

(一生ナイトでいたい!一生ナイトでいたい!一生ナイトでいたい!)

 

(バナナが主食になりますように!バナナが主食になりますように!バナナが主食になりますように!)

 

(焼き鳥をお腹いっぱい、焼き鳥をお腹いっぱい、焼き鳥をお腹いっぱい)

 

(ナン用のかまどを我が家に!ナン用のかまどを我が家に!ナン用のかまどを我が家に!)

 

(バナナ食いたい!バナナ食いたい!バナナ食いたい!)

 

(新品の包丁、新品の包丁、新品の包丁)

 

(ずっと純平さんと一緒に…ずっと一緒に…ずっと…)

 

(試食コーナーにご飯の持ち込みが認められますように!試食コーナーにご飯の持ち込みが認められますように!試食コーナーにご飯の持ち込みが認められますように!)

 

(新しいバイクが欲しい!新しいバイクが欲しい!新しいバイクが欲しい!)

 

(鍋料理の普及!鍋料理の普及!鍋料理の普及!)

 

(焼き落花生流行!焼き落花生流行!焼き落花生流行!)

 

「やっぱりロクな願い事が無いっ!!」

 

「何でいるのっ!?みんながっ!」

 

流れ星に願いをかける天哉たち。当然のように姿を見せた彼等を前に明日奈は突っ込みを放つ

 

「安心して?明日奈。別に何も見てないし、聞いてないわ…あっ、録画を切らないと」

 

「ねぇ?深澄?録画ってなに?何をしてたの?怒らないから、教えて」

 

「このビデオカメラ……解像度が荒め、安物は良くない。でも大丈夫か、カズさんはバカだし」

 

「そうだよ、和人さんはバカだから気付かないよ、バカだからね」

 

「彩葉くーん?圭子ちゃーん?本人がいるのによくもまぁ、ぬけぬけとそういうことが言えるよなぁ?お前等は」

 

「「………居たんだ」」

 

「居たわっ!!!」

 

「どんまい、元気出せよ。カズ」

 

「慰めるなっ!バカテン!!だいたい!お前等こそ、何時からいたっ!というか!どっから沸きやがった!!」

 

知らぬ間にバカたちの桃源郷と化していた星空のスポット。矢継ぎ早に姿を見せた親友たちに明日奈と和人は其々ではあるが反応を見せる

 

「何時からと言われると何時からだっけ?深澄さんや」

 

「そうね、何時からだったかしら?忘れちゃったわ。でもまぁ……些細なことよ」

 

「うむ、その通りですな」

 

「些細じゃねぇよ。なんだ?お前等は人の幸せをぶち壊さないと気が済まないのか?俺に安寧秩序はないのか?事と次第によっては次は法廷で会うことになるぞ」

 

「あっはっはっはっ、ジョーダンは芳子さんと言うだろ?此処は穏便に行こうや」

 

「芳子はともかくとして、ジョーダンって誰だよっ!?」

 

「ジョーダンは俺が赤ん坊の時に住んでたメキシコのばあちゃん家の隣に住んでた陽気なマリアッチのオッさんが飼ってたおバカなシベリアンハスキーの名前だ。そんなんも知らんのか」

 

「知ってるワケあるかあっ!!」

 

「ぐもっ!?」

 

遂には我慢の限界に達した和人の右ストレートが天哉の顔面に放たれ、彼は御決まりの叫びと共に吹っ飛ぶ

 

「ふっ…高良先生!俺のナイトランスとベイバトルだ!」

 

「良かろう……我がストーンモンブランで返り討ちにしてくれる!」

 

「良い歳をした大人が世代を問わずに愛される有名駒玩具をしているとは世も末だ」

 

夜空の下、有名玩具遊びに興じる二人の大人を前に茉人は呆れたようにため息を吐き、夜空を仰ぎ見る

 

「前々から思ってたんだけど、なんであんなのが担任と副担任なのよ。うちの学校はアホしかいないの?」

 

「里香……それに関しては今更だよ」

 

「そうよ、類は友を呼ぶって言うじゃない。テンを見てみなさい?周りにバカしかいないじゃない」

 

「テンちゃんの周りに真面な人がいたことなんか一度たりともないよね」

 

「深澄とコトはなに?俺が嫌いなの?ちょっと話をしようか?今後の蒼井家に関わる大事な案件だから、拒否権はない」

 

身内からも散々な言われように天哉が物申すが、恋人と妹は当たり前のように聞く耳すら持たずに笑顔で右から左に受け流す

 

「取り敢えず、何時も通りに鍋でも囲みましょう?丁度今しがた煮えたわ」

 

「深澄が相変わらず過ぎて……突っ込む気にもならないよ……」

 

「ふふっ……でも退屈しないでしょ?」

 

「そうだね……退屈はしないかな?悪い意味でだけど…」

 

鍋の前に正座しながら微笑む親友の姿に軽くため息を吐きながらも、夜空を仰ぎ見る。あの世界で見上げ空よりも遥かに綺麗な星空を、大切な恋人や娘、其れを取り巻く頼もしくも騒がしい家族たち、見慣れた光景に彼女は優しく笑う。そして、道化師は最高の家族たちにに深々と頭を下げる

 

「仮想世界と現実世界を繋ぐ慌ただしくも騒がしい爆音演奏劇……お楽しみいただけましたか?皆様の御眼鏡に称う日々を彩れておりましたら、拍手御喝采の程、御願い申し上げます。其れでは、今宵の舞台は……此れにて、幕引きと致しましょう。また会う日まで、暫しのお別れに御座います、Adiós(さよなら)

 

此れは仮想世界を艶やかな色彩で、己の色に彩りし、十四人の勇士たちの物語

 

一癖も二癖もある者たちを率いるは、仮面から覗く蒼き眼で万物を見透かし、不敵な笑みを携えし、槍使い

 

その名を、『蒼の道化師』と申す

 




此度の爆音演奏劇をお楽しみいただき誠にありがとうございます。次回からは、暫くは幕間挟んでいこうかと思います。其れでは今宵はこの辺りで幕引きと致しましょう、Adiós(さよなら)


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。