ウチの竜騎士団長さんはかわいい (赤桃猫)
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Day1
別で書いてる方のお話とは一ミリも関係ありません。
「団長さんの尻尾って、かわいいですよね」
背もたれの隙間から伸び、ひらひらと自由に動く尻尾。深紅の鱗に覆われたそれが、ピクンと跳ねて私の声に応えた。
「…………」
「ほら、そうやって気にしてないフリをして、実は全然隠せてない感じとか。とても
ピクピクと、私の言葉に合わせて何度も震える尻尾。それを目で追い、眺め、観察する。これだけで丸1日は時間を潰せるだろうという自信がある。
だって、私はこの人の全てが好きなのだから。
そんな風に私の迸る愛を再確認していると、彼女の口から深いため息が聞こえてくる。
「……なぁ、アル。私は犬の類いではないんだが」
彼女は握っていた筆を置くと、後ろに控えていた私へと振り向く。
不満そうな言い方をしているが、その顔はうっすらと赤い。ピンと尖った耳の先も、これ見よがしに赤く染まっている。
「お顔が真っ赤ですよ、団長さん」
「…………犬扱いは、流石に恥ずかしくなるだろう」
私のからかい半分の言葉に、彼女は目を反らす。そして口を尖らせながら、消え入りそうな声で呟いた。
アッかわいい。
ちょっとどこで覚えてきたんですか、そんな可愛らしい仕草。流石団長さんあざとい。何をしてもあざとい。
だが、勘違いされては困る。
私は別に、彼女を犬扱いしたくて
「それは心配しないでください。団長さんは人竜なのですから。竜としてかわいいと言っているんです」
そもそもの話、犬と団長さんを比べるだなんて。そんなの烏滸がましいにもほどがあるだろうに。だって、
「犬なんて、文字通り犬畜生じゃないですか」
「……そういえば、アルは犬嫌いだったな」
私は犬が苦手だ。
蛇蝎の如く嫌っているとまではいかないが、決して好きになれない相手であることも確かだ。
いきなり飛び掛かってきたかと思えば、おもむろに顔をベロンベロン舐め回してくるあの行為。親愛の証なのだとか聞いたことあるが、唾液まみれにされといて親愛もなにもあったものじゃない。
おまけにどいつもこいつも似たようなことをしてくるものだから、憂鬱にもなるだろう。
なんなのだろうか、あの生物は。距離感の詰め方を致命的に間違えているとしか思えない。
最初はまず、当たり障りなく接して相手がどこまで許してくれるか測るのが基本だろう。
その後で、相手と定めた距離を保ちつつゆっくり仲良くなるべきだというのに。
まったく。もっと御淑やかにできないものだろうか。
「──そうは思いませんか? 団長さん」
「ふむ……」
私が如何にあの生物が気に入らないのか、それを目の前の彼女に力説する。
一通り話を聞いた彼女は眉間に皺を寄せ、頭から生えている角の先端を指先で揉み始めた。
彼女が考え事をする時の癖だ。人間で言うところの、毛先を指先で弄るアレなのだろうか。かわいい。
それからしばらくすると、団長さんは私に向き直る。どこか呆れたような目をしつつ、彼女は神妙な顔で言い放った。
「──いや、初対面でいきなり『結婚してください』とのたまった君が言うことか」
え。それは、ほら、アレですよ。愛というものですよ。団長さん。
◆
私と、団長さん──『人竜』リスフラムさんとの出会いは、十数年も前に遡る。
それはあまりにも王道で、陳腐で、単純すぎるお話。
子供の頃、近所の花畑でひとり遊んでいた。そのとき魔物に襲われ、助けられた。言葉にすればそれだけのことだ。
だがあの瞬間は、私にとってあまりにも鮮烈で、衝撃的で。今もなおその光景を克明に覚えている。
その光を。その炎を。そして、その美しさを。
『深紅の守護竜』。
人々が彼女を指して呼ぶ通り名だ。
当時の私もその噂を知っていたが、まるで物語のような話だと思っていた。
当然だ。私たち人間の国を守る最強の存在が、人竜と呼ばれる特別な生き物だなんて。まさしく、子供に読み聞かせる絵本のようだろう。
例えそれが事実なのだと分かっていてもなお、現実感の湧かない話だ。
だが。私はあの日、その二つ名の在り方を心の底に刻み込まれた。
彼女は決してお伽噺などではなく。いや、それ以上に素晴らしい『現実』なのだと思い知った。
『──もう大丈夫だ』
火と、舞い散る花びらと。
それが、初めて彼女を目にした時の光景だった。
それが、彼女に掛けられた最初の言葉だった。
彼女の身から迸る炎が魔物だけを焚き尽くす。それ以外の、守るべきもの全てを害することなく。
熱波が花弁を巻き上げ、私の頬を撫でる。
けれど。それはむしろ、暖かな春風を思わせて。
美しい赤と、花弁の白が織り成す幻想的な光景。中心に佇む、この景色を生み出した美しき人竜。
これこそが、
『ふむ。足が竦むのも無理はないか。立てるか?』
そう言って、へたり込む私に『お伽噺』が手を差し出す。
一瞬、自分が絵本の住民になったのだと錯覚してしまいそうな。それほどに綺麗で、絵画の如き姿。
伸ばされた手は、作り物のように滑らかで。
縦に割けた人外の瞳が、何故だか人間よりもなお深い慈愛を湛えているようで。
だから。暖かなその手を握った時、私は確信したのだ。
『──結婚してください』
これを人は、一目惚れと呼ぶのだろう。と。
『……は?』
そう自覚した瞬間、目の前の存在全てが愛おしく思えてくる。
文字通り、全てだ。その手が、その声が、その目が、その角が、その炎が、その立ち姿が、その、その。その──。
『結婚、してください』
『───』
『結婚しましょう』
『───』
『大好きです。結婚しましょう』
二度目、三度目と。困惑の表情で固まる彼女に、幾度も続く告白。それでもなお胸に宿る情熱は止まることなく。
当時の私は若かった。
結婚。それを、『一番好きな相手と添い遂げるための
要するに、あの時の私が知る限りの最大限の告白が、それだったというだけのこと。
『……いや、そうだな、その……君が、大人になったらもう一度考えよう。というか私たちは同じ性別だし、そもそも私は……』
復活した彼女は悩みつつ、言葉を選ぶように私に答える。
その、こちらの想いを真正面から否定しないようにという心遣いに、また愛おしさが込み上げてくる。
けれど、私に向けたこの文言が、単なる子供に対する誤魔化しなのだと理解して。
あの時の私は、多分この先も含めた一生で、一番頭の回転が早かったと思う。
『大人になったら……考えてくれるのですか?』
『あ、ああ。大人になって、私の隣に立てるほど立派になれば考えておこう』
『──言いましたね?』
『え』
はい。言質とりました。
『待て──待つんだ! い、今のは──』
『嘘、だったんですか……?』
『ぐぅ……! それは、い、いや、むむむむ……』
『言いましたよね?』
『言葉の綾……と言うべきか、その、これは別に』
『言いました、よね?』
『…………ああ。二言は、ない』
勝った。私はその時、目の前の彼女だけではなく、運命といった諸々に『勝った』かのような達成感を覚えていた。
さて──それから七年後。私は騎士団の門戸を叩いた。目的なんて分かりきったこと。
そのために繰り広げた血の滲むような努力や苦難だとかも色々あったが……まぁ、それは語ることでもないだろう。
ただひとつ、確かなことは──愛の力は無限大、ということである。
◆
団長さんの朝は早い。
彼女にとって日の出とは目覚めの合図だ。
団長さんはいつも、執務室の隣にある私室でお休みしている。だから、朝支度を済ませると彼女はすぐに仕事に入るのだ。
顔を洗い、朝食を食べ、身だしなみを整える。そして、紅茶を一杯頂きながら、デスクに向き合う。毎日変わることのない、朝の習慣。
──その全てを、この私が用意している。
いや、別に邪な狙いはこれっぽっちもないよ?
決して、目をぎゅっと瞑って顔を洗う団長さんがかわいいとか。
差し込む朝日に照らされながら朝食を頂く団長さんがお美しいとか。
その髪を櫛で整えさせて貰ってる時に、こっそり一本くすねておこうとか。
或いはその透き通るような角を舐め回したいとか。
はたまた着替えの時に、団長さんの絹のような柔肌やちらちらと覗く硬い鱗の質感を盗み見てウフフフフ──
「──アル。声が漏れてるぞ」
「はい。すみません」
おっと、思考が逸れてしまった。
とにもかくにも、私がそんなことを任されているのは、団長さんの従者としての地位を勝ち取ったからだ。
そう、従者。イイ響きだ。勿論『団長さんの』という言葉が頭に付いてる前提だけど。
苦節十年の下積み時代。団長さんと出会った時の私はまだまだ子供だったけど、今では一端の大人だ。
この地位について二年。愛しき団長さんのどれ──側支えとして、夢のような日々を送ってきた。
さてさて。今は事務作業の合間の休憩時間。先ほどの
その姿がめちゃくちゃ様になっているので、眼福でございます。
「ところで、アル」
「はい、なんでしょうか。結婚についての相談ですか?」
「ンぐっ……それはまた今度にしよう。それよりも──」
私のさりげない告白に喉を詰まらせる団長さん。未だに慣れる様子がないその初々しさというか、なんというか。イイよね。うん、イイ。
などと自問自答していると、団長さんは紅茶のカップを私に向けて掲げる。
「私は別に、君の淹れたものなら気にしないのだが」
言葉通り。本当に気にした様子もなく、彼女はさらりと言葉を続けた。
「紅茶に何か入れたか?」
「──え?」
「えっ?」
……え?
心当たりが全くない。思わぬ質問に気の抜けた返事をすると、それ以上に困惑したのか団長さんが素っ頓狂な声を上げた。
というか、『えっ?』ですってよ。団長さんが『えっ?』ですってよ。ヤバい、ギャップで破壊力がヤバい。今の脳内保存しておこう。
「いや、薬とか、その……い、いかがわしいものだとか。万に一つではあるが、君ならやりかねないというか……」
「安心してください。私はいわゆる
「どこで覚えてきたんだ、その言葉」
私が本当に何も知らないと理解したのだろう。団長さんは首を傾げると、カップを置いて自分の角を弄り始める。
「ふむ……少し、舌先が少し痺れるような気がしたのだが」
「──失礼します」
団長さんの呟きを聞き、私の中で明確に
すぐさま彼女の置いたカップを取り、口を付けた。
間接キスだイェーイ! と心の隅っこで狂喜乱舞しながらも、私の背筋には言いようのない悪寒が走り始めていた。
口に含んだ紅茶を舌先で転がし、嚥下する。
鬼気迫る私の様子に只事ではないと感じたのか、団長さんは私を真剣な表情で見詰めていた。
「……まさか、混ぜ物か」
「ええ。恐らく」
と、口では言いつつも、内心では既に確信していた。
団長さんは竜である。その身体の頑強さは語るまでもない。内も外も、およそ人間とは比べ物にならないくらいに根本的な
そんな団長さんが、『舌先が痺れる』という明らかな異常を訴えたのだ。
彼女の様子からして大したことはなさそうだが、それでも竜の感覚に触れるというだけで十分な代物。
……なぜ、そんな恐ろしい可能性のあるものを私が飲んだのかって?
私の胃は鋼なのである。
よっぽど強力な魔法由来の毒でもない限り私は問題ない。
いつ如何なる時も団長さんの役に立つためと、鍛えた甲斐があったものだ。これぞ愛の賜物である。
団長さんでは耐性が強すぎて、『何』を盛られたのかいまいち判断が難しい。ゆえに、人間である私が確かめる必要があるわけだ。
そして最も手早く確認する方法は、実に単純なこと。
──私が飲めばいいのだ。
紅茶を飲み込み、暫く団長さんの視線を受けながら無言で待つ。
すると、徐々に舌先に焼けるような痛みが走り始めてきた。そして喉と、胃の奥からふつふつと沸き上がるような熱が込み上げてきて──
「あっ、普通に致死毒ですねコレ」
「なんと」
えらく軽いノリで私たちは混ぜ物の正体を突き止めた。
団長さんも、驚いた割にはそこまで慌てた様子がない。
彼女自身大きな害はなかったわけだし。何より私がこの程度でくたばるワケがないと、確信してくれているからだろう。
「いつの間に入れられたのか……アル、心当たりはないか?」
「そうですねぇ、カップも水も、他の誰かが手を加えたとは考えにくいですし……」
茶器は全て、私が毎日手入れしている。保管もきっちりしてるし、私と団長さん以外の誰かが触ったとは考えにくい。
それに、使った飲み水は今朝、自分で井戸から汲み上げてきたものだ。共用のものだから、もしそこに細工でもされていれば、とっくに大問題になっている。
だとすると──
「──茶葉か」
「その可能性が高いですね」
団長さんがいつも飲んでいる紅茶の葉は、城下町のとある店のものだ。
私も団長さんも中々街に降りる機会がないから、騎士団御用達の商会を通して取り寄せている。
要するに、この茶葉だけは外部から持ち込まれており、他人の手が触れる可能性があるということ。
そういえば、つい最近茶葉のストックを入れ替えたなぁ、と今更ながらに思い出す。
その中の一部に混ぜ込まれていた毒が、今日当たってしまったのだろう。
「団長さん」
「……ああ。行ってこい」
ある程度の予測を立てつつ、団長さんに目を合わせる。
私がこれからすることを理解したのか、彼女は分かっているとでも言いたげに頷いた。
その信頼がたまらなく嬉しい。『以心伝心』という外国の言葉があるらしいが、今の私たちはまさにそれ。団長さんと心で繋がっているのだと思うと、なんともイヤらしい響きな気も──ゲフンゲフン。
私は団長さんに見送られながら、足を踏み出す。大きく、深く息を吸い込み、そして──
「──この茶葉を持ってきたのはどいつだぁぁッッッ!」
恥も外聞きも投げ捨てて、渾身の力で怒鳴り散らす。空間が震えるほどの怒声を上げながら、私は扉をブチ破って駆け出した。
◆
──結論から言って。犯人は商会の下働きの者だった。
怒りに任せて飛び出したところ、なんと偶然にも件の商会が取引に来ていたのだ。
そこで、彼らに詰め寄──事情を丁寧に説明したところ、皆が騒然としていた。
当たり前だ。実害はなかったものの、『深紅の守護竜』の暗殺未遂だ。ましてや自分たちの商会がそれに関わっているかもしれないとなれば、背筋が凍るというもの。
ただ、その中に明らかに挙動不審な人物が一人。足が震えてるし、なんか今にも逃げ出しそうだった。
で。さっと捕まえてぎゅっと縛って
なんでも、ある依頼で金を詰まれて茶葉の中に毒を混ぜたのだとか。ちょっと『不調』になる程度の毒だったと聞いており、致死性の毒などと露にも思わなかったと。
その茶葉を誰が飲むのかも、犯人は知らなかったようだ。それが団長さんなのだと知って、自分がとんでもないことに加担してしまったのだと気付いたということらしい。
その依頼について詳しく聞いてみたが、依頼主の顔も名前も伏せられていたようで、知らぬ存ぜぬの一点張り。
結局、黒幕は誰かも分からぬまま、犯人は捕まった。
けど、真相の検討はついている。
この件の裏にいる者は、私たちがいつも同じ紅茶を取り寄せていることを知っている。
そこを狙って細工をするなんて、自分で『騎士団の関係者です』と言ってるようなものだ。
そして、こんなことを平気で手引きできるヤツとなれば、答えは自ずと見えてくる。
「──アル、そう殺気立たないでくれ。私は無傷だったのだから」
「いいえ! 今度こそ、今度という今度はあの老害共を根絶やしにしなくては!」
私は激怒した。
必ず、かの邪知暴虐の老害どもを除かねばならぬと決意した。
──団長さんは、ごく一部の人たちに疎まれている。
そんなの一片たりとも認めたくないし、言い出したヤツの顎を刈り取って気絶させてやりたいけど、これは事実である。
ここは人間の国だ。
民の大多数が人間で、統治するのも人間の王。そして、人間の価値観や文化に則った秩序が敷かれている。
無論、人間以外の種族だって沢山暮らしているが、あくまで基準となるのは人間だ。
その護国の化身たる騎士の長が、人竜──つまり人間ではないなどと。
それが一部の糞共──ゲフンゲフン、一部の方たちの主張らしい。
勿論、殆どの人々は団長さんを慕っている。
部下の騎士たちも、民衆たちも。みんな彼女に敬意を持っている。
今なお伝わる『深紅の守護竜』という通り名こそが、その証明だ。
けど、主に老が──お歴々の方々は納得いかないらしい。
チクチクと嫌らしいちょっかいは日常茶飯事。
たまにトチ狂って蛮行に走ることもあるが、今回は流石に直接的すぎる。
あれか。耄碌しすぎたか、あのおっさん共。
「……アル。こっちを向け」
「止めないで下さい! 今に見てろ、あの糞野郎……! 全員まとめて焼き土下座──」
ぎゅっ、と。
後ろから、抱き締められる感触。
誰かなんて言うまでもない。団長さんだ。
背中に伝わる人肌以上の暖かさ。私を包み込むしなやかな腕。
……ほ、ほあァ!?
「どぅぁ、だ、だだだ団長さん!?」
え、えあ、あ、アッ、ちょァ、ま、やわっか、あったけ、うへ、むねっ、アッ、アッ、イイ匂いするっ、ンンンンンッッ──
「ありがとう、アル。私のために怒ってくれて」
あー! いけません! いけません! そんな耳元で囁かれたら死んでしまいます!
鼓膜がッ、鼓膜が幸せ! ゾクゾクする!
アッ、今ちょっと鱗が当たった! 硬い! 団長さんの硬くて立派な鱗が私の腰あたりにっ!
もうちょっと当てて! こう、押し付ける感じで、ギュっと!
あーっ! あーっ! 今すごくイケナイことしてる気分です! 団長さんとイケナイことしてます! あーっ!
「だが、いいんだ。私は何も気にしていない。──だから、落ち着いてくれ」
…………。
…………ふぅ。
………………仕方ないなぁ、団長さんは!
「こ、今回だけ、ですよ」
「ああ。……すまない──」
一周回って冷静になった私は、息を吐いて団長さんに振り向く。
別に団長さんが謝る必要なんてないのに……と思っていると、彼女は、私のある一点を見つめて固まった。
私の、鼻の奥からダラダラと流れる
「……真面目に、話をしていたつもりだったのだがな」
「これは生理現象なのでどうしようもありません」
ええ。そうです。どうしようもないのです。だからそんな、『仕方ないな』とでも言いたげに苦笑するのはやめてください。余計に興奮します。
「とにかく、今回は黙っておきます。けど、その代わり──」
私から離れようとする団長さんの腕を取り、引き戻す。
彼女は慈悲深い笑みを浮かべ、私をより強く包み込んだ。
「もうしばらく、こうしていて下さい」
「ふふっ……お安い御用だ」
◆
「……なぁ、アル。もう満足か?」
「いえ、もうちょっとだけお願いします」
「流石に、日が沈みそうなのだが。業務も滞っているし……」
「いえ、もうちょっとだけお願いします」
「……あとどのくらいだ?」
「できれば一日中を所望します」
「──もういっそこのまま仕事するか」
毒物とか出てきましたが、誰も傷付いてないのでほのぼのです()
多分続きます。
【tips】
アル
史上最年少で、騎士団長の従者となった変態(褒め言葉)
だいたい7歳の時に運命と出会う──というか出会ってしまった。
それからはなんやかんや(ラブパワー)で騎士団をのしあがったという。
詳細は割愛。愛だけに。
実は、本名はかなり長い。良いところのお嬢様だったりする。
リスフラム
十二代目騎士団長である、人竜の女性。
人間ではないが、訳あって人間の国に仕えている。
不老な上に、並大抵のことでは傷もつかないため色々と鈍い。
普段は事務仕事をしているが、ここぞという時には出動する最終兵器みたいな人。
実は、アルが入れた紅茶しか飲まない。というか紅茶を飲む習慣はアルの影響。
人竜
『竜人』ではなく『人竜』。
『竜』の因子を持つ『人』ではなく、『人』の貌を持つ『竜』ゆえにそう呼ばれている。
太古の支配者であった竜は、やがて人間に次代の繁栄を託した。
その後、多くの竜たちは身を潜め、歴史の影に身を潜める。
しかし、一部の竜は尚も人の世に踏み留まり続けていた。
人の織り成す文化を愛し、歴史に寄り添い。しかし決して『文明』に手を加えることなかれ。
やがて其らは、自らの肉体を現世に根付かせるため、人の貌を取るようになる。
神の如き威光は忘れ去られ、信仰はとうに腐り落ちた。しかして、其らは確かに、人の行く末と共に歩んでいる。
多分。
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