スタァライト☆Ruler's stage (旅キャタピー)
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1話

すみません、続くかは未定です
頭に浮かんだ妄想を書き殴ったので続きが思いつかないかもしれません。その場合は更新しません、または亀よりも遅い更新になります。
時系列は舞台#2が終わったあたりです。


私のもとに一通の手紙が届いた。

 

手紙の送り主は中学時代、私に演技のいろはを教えてくれた人だった。

 

手紙の内容は、久しぶりに私に会いたいから最後に会った場所で待っているとのことだった。

 

その内容に私はまたあの人に会える嬉しさと共に不安と恐怖が浮かび上がった。

 

嬉しさの原因は、久しぶりの再会から。

 

不安の原因は、今の自分があの人と最後に会った時から成長していなかったらという懸念と、私があの人にした失礼なことに対しての謝罪がまだであるという事実に対する罪悪感からくるものである。

 

そして恐怖の原因は、私が興味本位であの人の本気の演技を見たことだった。

あの人がなんの演技をしたのかはわからない。けどあの人がとある演技を始めた瞬間、ありえない事だが背の高さが大きく変わったのだ。黒髪は金髪オールバックになり、サングラスをかけ、黒いコートを身に纏い冷笑を浮かべる恐ろしい存在に思えたのだ。実際には何も変わっていないのに私の目にはそのように映った。

さらには周りの景色や匂いも変化した。街を歩いていた人たちは体から黒い触手を生やした腐った死体のようになり、周りからは腐敗臭がした。

街の至る所に鮮血がこびりつき、遠くで火事が起きているのか何かが焦げた匂いもした。

 

私は怖くなってそこから逃げ出した。

必死に走って家に着き、深呼吸をすると周りはいつもの風景に戻っていた。

あの人の前から逃げ出したことを思い出し、先程の場所に戻ってもあの人はいなくて謝ることが出来なかった。

いつもは決まった曜日の決まった場所で放課後に会う約束をしていたので毎週会えたが、あの人が現れなくなったので、その日からパタリと会うことが出来なくなった。

あの人の連絡先も知らないため、これから先あの人に会うことはできないと思っていた。

 

しかし、あの人からこうして手紙が届いた。私はあの人にある約束をされたのを思い出した。

 

聖翔に受かるレベルまで君を鍛えると。

 

あの人は私が聖翔に受かっていると信じてこうして手紙を出したのだと考えると嬉しくなる。

 

 

「……なな、どうしたの?さっきから百面相みたいに顔を変えて」

 

どうやら純那ちゃんは、手紙を見てからうんうん唸っていた私を心配してくれているようだ。

 

「えっと実はね。中学時代、私に演技のレッスンをしてくれていた恩師から久しぶりに会いませんか?って内容の手紙が来たんだけど…。会おうか迷ってて…」

 

「え?会ったらいいじゃない!それにしてもななの恩師ね…どんな人なの?」

 

「優しくて責任感のある人だよ。演技について何も知らない私を聖翔に受かることの出来るレベルにまでちゃんと育ててくれたんだ」

 

「へぇ、そうなのね。聖翔に受からせるレベルまで持っていく技量があるということは、その人自身の演技力も素晴らしかったのね!私も会ってみたいわ!」

 

あの人の演技力は凄まじかったが表現の仕方がわからない。

いや、そもそもあれを演技と言ってもいいのだろうか…。

 

「どうしたの?」

 

「え?あぁ、うん。先生のする演技はひょっとすると究極、極地と言っても過言じゃないはずだよ」

 

「なながそこまで言う人だなんて……。余程演技が上手いってことは、その人ってもしかしてよく舞台や映画に出演している人なの?」

 

「ううん。先生は一度もそういった表舞台には立ったことないって言ってたよ。

それに、演技が上手いといってもあの人の演技は演技のようで演技ではなく、演技の枠に留まらないものなのよ」

 

「演技の枠に留まらない?どういうこと?」

 

「えっと、純那ちゃんは演技の極地って聞いたらどんな演技を思い浮かべる?」

 

「え?うーん、やっぱりその演技を見ただけで情景が浮かぶ…とかかしら」

 

「やっぱりそう思うよね。でもあの人のは違った。

あの人の演技は情景を思い浮かばせるんじゃなくて、その場面の中に自分たちも入っていると錯覚させるものだったの。

匂いや暑さ、五感で感じることのできる全てに対してまるで本当にその場面に立ち合っているのだと感じさせてしまう演技だったの」

 

「それは…出来たらすごいとは思うけど…」

 

「信じられない?」

 

「…いえ、なながそう言っているんだもの、信じるわ。でもその人はどうしてそれほどすごい能力があるのに舞台をやったりしないの?」

 

「うーん、詳しくはわかんない。昔聞いてみたら他にやりたいことがあるからの一点張りだったよ」

 

「そうなのね。

ねぇなな、どうして会おうか迷っているの?

それだけすごい人ならむしろ会いたくなると思うのだけど…。

もしかして昔その人と何かあったの?」

 

「やっぱり純那ちゃんにはお見通しなんだね…。実はそうなの、最後に先生に会ったときに失礼なことしちゃって…。

それから1回も会ってないからちょっと会いにくくて……」

 

「そういうことだったのね」

 

もちろん、会いたい気持ちはある。だがやはり怖いものは怖いのだ。

そういえば純那ちゃんはさっきなんと言っていた?確か会ってみたいと言っていた。

よし、決めた。純那ちゃんについて来てもらおう。

 

 

「…純那ちゃん、もしよかったら先生に会うのについて来てくれる?純那ちゃんがいたら多分大丈夫だと思うんだ」

 

「え!いいけど…。本当にいいの?2人水入らずで会った方がいいんじゃ…」

 

「いやー、むしろその方が緊張しちゃうんだよね。でも純那ちゃんかいてくれたら安心というか緊張しないというか…」

 

 

「….ふふっ 、わかったわ。私も一緒に行くわ!」

 

「やった!ありがとう純那ちゃん!」

 




タグにあるオリジナルキャラが、名前すら出ていないこの状況。

原作でばななは中学時代ずっと1人で練習して聖翔に受かる実力を身につけたとのことなので、演技のいろはについて教えてくれる先生を用意しようと思いました。

(もしかしたら演技のスクールに通ってたかもしれないですがね、私はわかりません)



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第2話

誤字脱字報告よろしくお願いします。


私は今日、あの人に会える。

今私は純那ちゃんとあの人との待ち合わせ場所に向かっていた。待ち合わせ場所は寮から1番近いショッピングモールのそばにある喫茶店だ。

 

「そういえば、その先生とはどうやって知り合ったの?」

 

「初めて会ったのは中学二年生の時かな。

少し長くなるんだけどごめんね?

私、学校のある日は放課後に空き教室で舞台の練習をしていたんだけど、土日は学校がないから誰もいない夜の公園で練習していたんだ。

だけどある日すごい眠い日があって近くのベンチで寝ちゃったことがあったの。

そのときたまたま公園を通りかかった先生が心配して起こしてくれたんだ」

 

「なな……なにしてるのよまったく…」

 

「えへへ、つい…。そのあと家に帰ったんだけど、自分の書いた台本を置いてきちゃったことに気づいて次の日の放課後に公園に取りにいったんだけどなかったの。

半ば諦めながら土曜のお昼頃にまた公園に探しに行ったら、先生が何の役かは分からなかったけど演技の練習?をしていてね、私の台本について聞いたらなんと一週間預かっていてくれてたの!

私が台本を置いていったことに気づいた先生は私の連絡先知らないから、私に会える可能性の高い同じ曜日の朝早い時間から公園でわざわざ待っていてくれてたんだよ」

 

「先生はすごいいい人なのね。でもどうして舞台の練習をしているってわかったの?」

 

「初めて会った時と雰囲気が違かったの。なんだか…ロボットのスーパーアイドルみたいな感じがしたんだ」

 

「えっと…?ごめんなさいなな、ロボットのスーパーアイドルというのがよくわからないのだけれど…」

 

「うーん、私もよくわかってないんだけど何となくそう思ったんだよね。確か先生はoh...yesって言ってた気が……。

それでね、その頃私に演技を教えてくれる人なんていなかったからその演技を見てつい、演技を教えてください!ってお願いしちゃったんだ。

それが始まりかなぁ」

 

今思い出しても、あんな急なお願いをよく二つ返事で受け入れてくれたなと思う。まぁそのおかげで私は聖翔に入ることができたのだが。

それにしても純那ちゃんも言っていたが、やはりあの人が芸能の世界に身を置かない理由が気になる。もし芸能に興味がなかったりするのならば、私のお願いに二つ返事で了承したり懇切丁寧に教えてくれる理由がないのだ。そうなるとやはりあの人が自分で言っていた、他にやりたいことがあるというのが最も有力である。やりたいこととはなんだろうか、それは今すでに終わっているのか。疑問が尽きない。

だが、もし欲を出すならば、あの人と同じ舞台で共に演じてみたい。

 

「なな、ついたわ。手紙にはお得意様専用のテラス席にいるからすぐわかるって書いてあったけど、どの人なのかしら…」

 

いた。彼だ。背中しか見えないがわかる。

 

「あの、すいません。田中さん、ですか?」

 

「……あぁ、そうだ。久しぶりだな。もう先生とは呼んでくれないのかい?」

 

振り向いて答える彼。少し驚いた様子だ。

 

「まぁ座って、久しぶりに話そう。もちろん大場の友達もね」

 

彼に促され、私と純那ちゃんは席に座る。

 

「君と会うのは初めてだな。私は田中だ。中学の頃、大場に演技を教えていた」

 

「私は星見です。大場さんとは友人で、同じ聖翔に通っています」

 

2人の簡素な自己紹介を終えると、彼は少し考え込んだ。

 

「あぁ、君が星見か。先月の聖翔祭のスタァライト 、見させてもらった。パンフレットで君の名前と役を見たから、顔と名前が一致したと思っていたけど今は眼鏡をかけていたからわからなかったよ」

 

「え、観てくれてたんですか!?」

 

「あぁ、元教え子の舞台だからね。観に行かない理由がないさ。本当は99回の方も観にいきたかったんだがな。

それにしても、なかなか思い切った判断をしたな。まさか原作スタァライトのラストを書き換えるなんて。観劇をしていた人達は皆んな満足して帰っただろう。

脚本も素晴らしかったが、もちろん君たちの演技も素晴らしかったよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「…大場、もちろん確信があるわけではないが、もしかして君は最後に私と会った時の事で負い目を感じているんじゃないか?

いや、ね。私は君と何度も話してきているからなんとなく君の不安などの感情がわかるんだよ。

話を戻すが、その時の事については私も反省しているんだ」

 

「そ、そんな!あれは別に先生が悪かったわけでは!」

 

そうだ、あれは先生に本気の演技をさせた上で逃げた私がどう考えても悪いのだ。もしあの日以降私が来ない中先生1人で待っていたと考えると胸が痛む。

 

「確かにあの日以降何の連絡も無しに現れなくなったのは君の落ち度だ。だがあの日君が私から逃げたのは何も悪くないのだよ。あの日恐ろしいものを見た君は生存本能が働き、その場から逃げたに過ぎない」

 

「あ、あの。田中さん。恐ろしいものって一体何のことですか?」

 

「ん?大場から聞いていないのか?簡単に言うと、とあるキャラクターを演じた結果私は恐るべき者になってしまっただけだ」

 

「…先生、私あの後色んな脚本や物語、一応歴史も調べたんですが先生の演じた人物が誰なのか結局わかりませんでした。あれは一体なんてキャラクターだったんですか?」

 

あの時見た光景を頼りに色々な本や映画を見たり、歴史も調べたりしたがあれに該当するものがなかった。あれはエチュードのようなものだったのだろうか?

それこそありえない。あれほど鮮明に情景を見せることができたのだからなんらかの参考がないと難しい。全く同じではなくとも似たような記録があるはずだが、何もなかった。

 

「フム…キャラクター名を言ってもいいが、恐らくわからないだろう。あれは存在しない創作物だからな」

 

「世に出ていない創作物ということですか?」

 

「いや違う。本当に存在しなかったんだ。

…まぁ私が言えることはそれだけだ」

 

存在しなかった……?この言い方、なんだか少し変。

恐らく純那ちゃんも気付いているだろうけど、先生はこれ以上追及してほしくなさそう。苦い顔をしている。

 

「あ、そうだ!私バナナマフィン作ってきたので、よかったら先生どうぞ!」

 

1つを手に取り口へ運ぶ先生。おいしいと言ってくれるだろうか。

 

「おぉ、美味しいな。これ程のものを作れるとは。喫茶店の中だからあまり大きな声では言えないが、店顔負けのレベルだ」

 

「えへへ、そう言ってくれて嬉しいです」

 

「あの田中さん。こんなこと初対面の私が聞くのは良くないと思うのですが、どうして舞台に出たりしないんですか?ななよりもすごい演技が出来ると聞きました。舞台に立てば、トップスタァも夢じゃないはずなのに」

 

「ハハハ、成る程、君たちは何か誤解をしている。私は君たちの言う演技が得意ではない」

 

「え?ですが先生、昔私に見せてくれたものは?」

 

「………あれは上手く説明しにくいが、端的に言うと私がやっている事はただの猿真似に過ぎない。例えば君たちのことはよく知っている。だから真似をする事は容易い。だが戯曲スタァライトのフローラやクレールを自分なりに演じるというのは出来ないということだ。

だからかつて大場に見せたのも正確には演技ではなく真似なのだよ」

 

「そうだったんですか…」

 

「あぁ、だからな大場。一応私は演技の初歩的な事は知っているから君に教えてきたが、聖翔に受かることが出来たのは紛れもない君自身の努力によるものだ。だから誇るといい」

 

「あ、ありがとうございます先生!」

 

「…そういえば、伝えるのがだいぶ遅れたな。聖翔に合格おめでとう。もう卒業まで1年あるかないかだが、君がより育っていくのを楽しみにしている」

 

あぁ、ダメだ。久しぶりに会えた恩人にそんな事を言われて嬉しくないわけがない。嬉しさや感謝の気持ちで目頭が熱くなっていく。だけど恩人の前だ。我慢しなくては!

 

「あ"、あ"りがどうございまずぅ…」

 

「もうなな、こんなとこで泣かないでよ!ほら、このハンカチで拭きなさい?」

 

「クククッ、堪え切れてないじゃないか」

 

先生と純那ちゃんは私が落ち着くまで待っていてくれた。私は本当にいい人たちに恵まれたと思う。

 

「そういえば本題に入り忘れていたな。正直いきなりですまないとは思うが、私に演技を教えてくれないか?こんなこと聖翔の生徒に頼むというのはおかしな話ではあるんだがな」

 

「え!私は大丈夫ですけど、純那ちゃんはどうする?」

 

「えぇっ、私!?えっと、私も大丈夫ではあるんですけど…。その、私は田中さんとはほぼ接点がないというか、そもそも初対面ですし…」

 

「確かにそうだな。もちろん断ってくれても構わない。君たちにもやるべきことがあるはずだからな」

 

「うーん、確かにそうだよね。純那ちゃんの邪魔になっちゃうかもだし、私だけで先生に演技教えるね」

 

「いえ、私も教えるわ。教えることで自分に足りないことに気づくこともあるもの。トレーニングの1つだと思ってその依頼受けさせてもらうわ!

でもどうしてななに頼もうと思ったんですか?演技を教えてくれるところなんて探せばたくさんあるはずなのに」

 

「…確かに演技教室を探して授業を受けるのもありだが、私がそれらの講師をいれて連絡をとれる人物で最も演技力の高い人物は、大場ななただ1人だったからだ。やはり何かを教わるには最も優れた人物から教わらなくてはな。

 

おっと、そういえばこの後用事があるのを忘れていたな。ここらでお暇させてもらおう。私の連絡先を渡しておく。私は基本いつでも大丈夫だから君たちの都合の良い時間に呼び出してくれ。

それではな」

 

先生は電話番号の書いた紙を置いて立ち去っていく。そういえば昔言っていたやりたいことがなんだったのか聞くのを忘れてしまったが、私たちに演技を教わるということは芸能の世界に来てくれるということだと信じよう。

 

「…ふぅ、ななはさっきよく彼に話しかけることができたわね」

 

「え?どうして?」

 

「いえ、彼を悪く言うつもりはないのだけれど。

話しかける前に彼を見た時どういうわけか肌が火傷をしたみたいにヒリヒリし始めたのよ。まるで彼に話しかけてはいけないみたいに。おかしいわよね?そもそも私火傷なんてしたことないのに。

あぁでも、話してみたらななの先生がとても優しい人というのはわかったわ!」

 

「あー…確かに先生の見た目は怖いから少し話しかけづらいのもわかるよ」

 

「え、えぇ…そう、ね?」

 

純那ちゃんは不思議そうな顔をしている。今の私の言葉にあまり納得がいっていないようにも思える。

 

「ねぇなな、そういえば先生が言っていたことを覚えてる?よく知っているものの真似しか出来ないって。そしたらロボットのスーパーアイドルなんてどこで見たのかしらね?」

 

 

 

 

 

 

私たちは連絡先の書いてある紙をしまい、そのまま帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえば先生との会話、何かがおかしかったような…………?

きっと気のせい、だよね?

 

 




彼女達は彼の返答のタイミングがおかしいことに気づかなかったようです。

やっと彼が出てくれましたね。


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第3話

私たちは二週間に一度の頻度で先生に演じ方を教えている。なんだか私に演技を教えてくれた先生に演技を教えるというのは不思議な気もするが。

 

しかし今回はいつものように私と純那ちゃんの2人ではなく、香子ちゃんと双葉ちゃんがついてきている。

 

というのもある日、いきなり私と純那ちゃんは、先生について香子ちゃんと双葉ちゃんに問い詰められた。どうやら2人は、私達が定期的に男の人と会っているために心配してくれていたようだ。

もちろん私たちは事情を話し、2人は一応納得してくれたようだが、香子ちゃん達は暇潰しに先生に会いたいと言い始めた。双葉ちゃんが止めてくれるかと思ったが、どうやら双葉ちゃんは先生の殺陣が気になったらしいのだ。

実は昔先生に演技のいろはだけでなく殺陣についても学んでいた。刀や拳、蹴りなどの一般的な殺陣も習ったが、聖翔では教えてもらっていない中国拳法や銃を使った殺陣も習った。双葉ちゃんは殺陣が得意なので、先生の印象を良くしようと殺陣についても話したのだが思った以上に興味を持ってしまい、会ってみたくなったようだ。

 

いきなり2人を先生の元に連れて行くのは迷惑になるかもしれないので、とりあえず先生に連絡をした。先生は聖翔祭のメインキャストがさらに2人来るということに驚いていたが、問題はなく、むしろ喜んでいた。

 

 

4人で集合場所に向かう。集合場所は毎回先生がスタジオを借りている。レンタル料を私たちも払おうと思ったが先生は、自分は依頼している立場だから料金は私が持たせてもらう、と言っていた。少し申し訳ないという気持ちもあったが、お言葉に甘えさせてもらった。

集合場所に着くとすでに先生は柔軟をしていた。学生に教わるくらいだから基礎的な部分もそこまで出来ていないだろうと思っていた香子ちゃん達はとても驚いていた。私たちが来ていることに気がついた先生は柔軟を止めて、初対面の香子ちゃん達と軽い自己紹介をした。

 

 

 

 

今日やった練習は台本の読み合わせだ。

先生は、台本を読むときに自分の中でストーリーを作り、相手役の感情をこうだと決めつけてしまい、独りよがりな演技になる癖がある。今日の練習でなんとかその癖を無くせたらと思ったが直せずに練習は終わった。

 

練習終わりに双葉ちゃんは先生に、中国拳法や銃を使った殺陣を見せてほしいとお願いすると、先生は快く受け入れてくれた。

 

そして、先生と私で昔やったことのある殺陣を3人の前でやることになった。

 

「今はモデルガンを持っていないから銃を使った殺陣は見せることができないが、中国拳法の方なら見せてあげよう。

大場、昔私達がやった一連の流れは覚えているかな?」

 

「はい、今でもしっかり覚えていますよ!」

 

よろしい。先生はそう言って力を入れながら手を開いたり閉じたりし始めた。

 

先生が間合いを詰めつつ私に掌打、前掃脚、踵落としを繰り出すのをステップで後ろに下がりながら避ける。

そして勢いをつけた先生の前蹴りに合わせて、軸足を後掃脚で払う。

背中から倒れる先生だが、スターフィッシュキックアップで起き上がる。

 

「まぁ…私がやるのはこんな感じだ」

 

「これが…拳法…。かっこいい!」

「す、すごい動きです!」

「最後の起き上がり方、出来るようになれば演技の幅も広がりそうやね…」

 

双葉ちゃん、純那ちゃん、香子ちゃんの順番で感想を言っていく。

 

「……水を差すようで悪いが、今やったのは拳法だけではない。テコンドーやマーシャルアーツも入っていた」

 

「あー、確かに言われてみれば踵落としって拳法にないよな」

 

「その通り。まぁ実の所、拳法だけでやる殺陣の段取りを思いつかなかったからなんだかな。

だから、見せておいてなんだが、君たちの役には立てないかもしれない」

 

申し訳なさそうな顔をして私たちから顔をそらす先生。

私がフォローしてあげちゃいます!

 

「そんなことないですよ先生。確かに中国の武術家を演じるときに使う格闘術は拳法だけですけど、使っている格闘術が明確でないキャラクターもいるんですよ!

だから複数の格闘術を混ぜて、なおかつ魅せる動きをする。それを見せてくれただけでも私たちにとっていい経験になりますよ!

ね、みんな?」

 

「そうね、ばななの言う通りだわ。

田中さん、今日は貴重な経験ありがとうございました。ほら、あなたたちも」

 

「あ、あぁ、そうだった。田中さんありがとうございました」

 

「ありがとうございました。

 

……田中はん、よろしければ他の日に銃を使ったアクション、教えてくださる?」

 

 

 

 

 

 




今回田中とばななの使った体術は全てウェスカーが作中で使っていた技です。

掌打(バイオハザード5::技名 先崩掌打)

踵落とし(バイオハザード4:技名 ネリチャギ)

前掃脚(バイオハザード5:正確には使っていたのは後掃脚)

後掃脚(バイオハザード5:特に技名はない。ウェスカー戦でクリスが近い場所にいると後掃脚をする時がある)


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第4話

先生と次回会う場所を決めた後、私たちは星光館に帰ってきた。双葉ちゃんと純那ちゃんは先程の殺陣に興奮したのか、盛り上がっている。どうやら先生の掌打のキレがすごく、力強くも美しく見えたのでとても気に入ったとのことらしい。

 

「あ!みんなおかえりー!どこ行ってたの?」

 

帰ってきた私たちに気づいた華恋ちゃんが子犬みたいに駆け寄ってきた。

 

「みんなで一緒に、私が昔教わってた先生に会いに行ってたんだ」

 

「おぉー、ばななの恩師かぁー。どんな人なの?」

 

「ふっふっふ。何を隠そう、先生は私に演技を教えてくれてた人であり私の憧れの人なのです!」

 

「大場さん、今の話もう少し詳しく聞かせていただいてもよろしいですか?」

 

「んー、ちょっと待ってね。続きは夕飯の時に話すから♪」

 

 

夕飯の時間、私は華恋ちゃん達に先生について色々説明をした。殺陣の話をした時は双葉ちゃんと純那ちゃんも盛り上がって説明に加わった。先生の殺陣について聞いた真矢ちゃんは、一度その殺陣を見てみたいですね、と言っていたのでどうやら真矢ちゃんの関心を引いたようだ。

 

「ねぇなな、そういえば聞きそびれていたことがあるのだけど…。

ななが怯える程の、先生が演じたキャラクターってどんなものだったの?」

 

「え、えっと…その……」

 

みんな興味深そうにして私の続きの言葉を待っている。

 

「前にも言った通りキャラクターの名前はわからなかったんだけど……格好はわかるよ。

まず金髪オールバック、サングラスに黒コート。身長は190くらいかな。顔は外国の人っぽい「ちょっ、ちょっと待って!」

ん?どうしたの?まひるちゃん」

 

「え、ええっと。さっきばななちゃんから聞いた話だと日本人かなって思ってたけど…。ばななちゃんの先生って外国の人なの?」

 

「ううん、日本人であってるよ」

 

「…それじゃあ、演技を始めた瞬間髪の毛の色や顔が変わったように見えたってこと?」

 

「そうだね、それに服も髪型も身長も変わって見えたよ」

 

「「「「「……………

 

 

ええええぇ!?!?」」」」」

 

 

 

「ほう。そのような素晴らしい演技をされる方、是非とも会ってみたいですね」

 

「そうね、私も会ってみたいわ。

でも変ね、それだけすごい人なら名前くらいなら天堂真矢が抑えていると思ったのだけれど。

それにそんな演技ができるのになな達に演技を教えてもらっているってなんか変じゃない?」

 

 

うーん、真矢ちゃん達が交戦的に目になってしまった。真矢ちゃん達が先生に会うのは構わないのだが、先生に迷惑をかけてしまわないか心配だ。

 

「大場さん。そのキャラクターは本当に参考文献があるのですか?その方の妄想や想像ではなく?」

 

「うーん、あるとは思うんだけど……。

あ、そういえば『世に出ていない創作物ではなく、存在しない創作物』『本当に存在しなかった』みたいなことを言ってた気がする」

 

 

 

「ふむ…そうですか。では明日、その方が演じたというキャラクターを図書館で探してみるので、後で他の特徴を教えてもらってもよろしいですか?」

 

「あ、ちょっと天堂真矢!私も調べるわよ!」

 

「ふふっ、わかったわ。後で紙にまとめて渡すね」

 

「ねぇねぇばなな!」

 

突然、華恋ちゃんが身を乗り出してこちらを見てくる。

…華恋ちゃんの次に言うことがなんとなくわかった気がした。

 

「次その人に会いに行く時、私もついていっていい?」

 

「うーん、多分大丈夫とは思うけど…。出るかわからないけど、今電話で確認してみるね」

 

 

プルルルルルル、プルルルルルル

 

ピッ

 

『はい』

 

「あ、もしもし先生?」

 

『大場か、どうした?』

 

私は先生に、友人たちが先生に会ってみたいと言っていることを伝え、次回会う時連れてきてもいいか尋ねた。

 

『私はもちろん構わないが、あのスタジオに入りきる人数か?そうじゃないなら他の場所を見繕っておくが』

 

「あぁー…そうかもしれないです。お願いできますか?」

 

『了解した、場所が決まったらまた連絡する』

 

ピッ

 

 

 

「なぁ、ばななはん?田中はんって昔からあんな喋り方だったん?」

 

電話の内容をみんなに伝えて、みんながリビングを立ち去った後、香子ちゃんが私に尋ねてきた。

 

「昔からって…どういうこと?香子ちゃん先生に会ったことあったの?」

 

「会ったことある言うても昔のことやで?その時は田中はんはもう少し優しそうな感じやったけど、今の田中はんはなんと言うかこう…うまく説明できひんけど今までの優しさがどこにも見当たらへんの。それに一人称まで僕から私に変わっとったし…

まぁ10年以上経ってるからかもしれへんけど…」

 

 

確かに言われてみれば少しおかしい。あの日、私が先生から逃げてしまった日までは確かに先生は自分のことを僕と言っていた。香子ちゃんの言う通り雰囲気もあの頃とだいぶ違っていた。

2年も経っていないのに期間で人はこんなに変われるものなのだろうか…?

 

 



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??????

頭が割れるように痛い、『僕』は、大場に何を見せた?

能力を使って、私が一番好きだったキャラクターを再現してなりきろうしたが、そこから先の記憶が曖昧だ…。

 

なんとか家にたどり着き、手を洗おうと洗面所に向かうと、

 

 

そこには知らない顔をした男がいた。

 

しかしそいつは『俺』と同じ動きをしている。

 

何が起こっている。まさかこれが今の私の見た目だと言うのか?

 

確かアレックスが永遠の命を手に入れるために、魂を他者に移す研究をしていたが…それと同じことが起こっているのか?

 

 

 

瞬間、俺の頭に身に覚えのない記憶が甦った。

 

 

 

この身体の持ち主の名前は田中と言うらしいが、こいつは転生をしたらしい。

驚くべきことに、田中の転生前の記憶の中に会ったことのないはずの俺がいたのだ。しかも洋館事件の少し前からクリス一行に敗れた瞬間までの俺がそいつ記憶に写っていたのだ。

しかし俺はこいつなんぞに会ったことはない。

 

 

 

 

 

 

俺は理解してしまった

俺は物語の中のキャラクターの1人だと

 

 

 

俺はスペンサーによって創られた存在だが、

スペンサーや俺の思想までもが他の誰かによって創られたのだと知ってしまった。

 

 

 

 

 

 

不快感とともに絶望が俺を襲った

 

 

 

 

ショックを受けて落ち込んでいる間に俺はこの身体の本当の持ち主である田中の記憶を整理した。

 

こいつの記憶曰く、この世界も俺のいた世界のように作られたものらしい。

その世界の名は少女歌劇レヴュースタァライト。

 

この世界についての情報を求めるため再び記憶の中を探ると、面白いことがわかった。

 

 

どうやらこの世界は『舞台』らしい。

 

レヴューの間では舞台少女の持つキラメキによって舞台装置が動くとのことだが

レヴューの間ではないこの世界もまた舞台であるなら、この世界を構成する舞台装置が存在するということだ。

 

 

今一度よく考えてみよう。

おそらくだが、この世界では舞台に生きる人間が何かを演じ、他者の心を響かせている時にキラメキが発生する。

そしてそのキラメキに舞台装置が反応し、その場にあった世界を構成する。

 

では俺の場合は?

 

奴の記憶を探るに俺は物語の登場人物だ。

ならば、舞台で生き誰かを真似るような奴らよりも、俺はより多くのキラメキを生み出せる可能性がある。

 

もちろん、この世界に生きる奴らが自分を登場人物だと認識しない限りの話ではあるが。

 

 

 

それに俺が仮に登場人物でなくても、より多くのキラメキを生み出せる自信がある。

 

田中の持つ能力のおかげでな。

 

どうやら田中はこの世界に転生した時、ある能力を手に入れたらしい。

 

『自分のよく知っている者の真似をした時、それに完璧に成り切ることができる』

 

こんな能力は他の世界では使い物にならないが、この世界では別だ。

 

これはこの世界における最も優れた武器である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は本当にキラメキを放つことができるか、

またそのキラメキが本当に舞台装置に反応するのかどうかを確かめるために

 

 

かつての私を想像した。

 

 

 

 

成功だ

 

 

 

私の身体に力がみなぎる。これは身体にウロボロスウィルスを投与した時に似ている。

右腕に力を込めると、ウィルス嚢胞が触手のように生えてきた。

 

ウロボロスウィルスを投与する前は体内の他のウィルスが安定せず身体の制御が効かなかったが、今この身体はウロボロスウィルス投与後の身体を模倣しているので常に安定状態であることがわかった。

 

 

 

 

この世界が作り物である以上、長居する理由はない。

この世界にとっての地獄を作り出し、完全に壊してしまおう。

そうすればおそらくこの俺、アルバート・ウェスカーの魂もこの世界を抜け出すことができるだろう。

 

 



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