敵国に人質として送られましたが…控え目に言って最高ですね! (hapihapi)
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1

 

 

 大国ハルバルドの王城地下。

 

 

 一部の王族しかその存在を知らない通路を抜けた先……罪を犯した王族が閉じ込められる部屋、通称『監禁部屋』に帝国ローレヌの第三皇女アリシアは閉じ込められていた。

 

 一ヶ月に渡る監禁生活によって、ガリガリに痩せ細っていた体はふっくらと健康的な体へと生まれ変わり、更に病人のように青白かった肌は一日三食キチンと出される食事のお陰で血色が良くなり、頬に薄紅が差すほど改善していた。

 

 当初、人質として大国ハルバルドに差し出された頃は酷い扱いを受けるものだと思い部屋の隅で震えていたアリシアだが、今は食卓机に用意された朝食に目を輝かせており、帝国にいた頃の彼女を知っている者ならば「人質として敵国に送られた筈なのになんか帝国にいた頃より良い暮らししてませんか!?」と驚くに違いないだろう。

 

 それ程までに大国ハルバルドのアリシアに対する待遇は破格の物で、それこそ一ヶ月という短い期間の間に母国ローレヌに帰りたくないという気持ちがアリシアの中に芽生えるほど、大国ハルバルドでの暮らしは帝国で虐げられていたアリシアにとって……最高の暮らしだった。

 

 

 だが、監禁部屋に据え置かれた水晶を通してこんがりと小麦色に焼けたパンを頬張るアリシアを見つめている大国ハルバルドの王子ハーヴァはかつてないほど苛立っていた。

 

 国王である父親から人質として帝国から送られてきた皇女アリシアに自分の立場を分からせてやれと言われ……それを実行するべく、娯楽を与えず、日の光が届かない部屋に閉じ込めて、食事だって一日三食質素な食事を出すだけで嗜好品の類など全く与えなかった。

 

 普通なら屈辱に顔を歪める待遇の筈だ。それが王族なら尚更の事。なのにまるで気にしていない。むしろ高待遇を受けているかのように振る舞うアリシアにハーヴァは奥歯をギリッと噛み締める。

 

 

(全く、なんなんだこの皇女は……!! 普通、一日三食質素な食事しか出されず、さらに朝昼晩の茶の時間が設けられていなかったら怒りで気が狂う程の屈辱を感じる筈だろうが……!!!)

 

 

 アリシアが帝国で受けていた仕打ちを知らないが故に、アリシアにとって最高の環境を提供していることに気が付いていないハーヴァは苛立ち紛れに水晶越しにアリシアを睨み付ける。が、ハーヴァの視線に気付いていないアリシアは尚もパンを頬張り続けてムフッ~と頬を緩ませる。その幸せそうなアリシアの態度にますます苛立ったハーヴァは水晶越しに皮肉の一つや二つ言ってやろうと口を開いた時。コンコンと控え目に執務室の扉がノックされた。

 

 

「……チッ、入れ」

 

 

 苛立ち混じりにハーヴァが入室を許可すると、小さな箱を抱えた従者が恭しく一礼して部屋に入ってきた。

 

 

「……失礼します、ハーヴァ殿下。国王陛下からのお荷物をお持ち致しました。」

「父上から荷物?ああ……婚約者候補の姿絵か。」

 

 

 大国ハルバルドの王子であるにも関わらずなかなか婚約者を作ろうとしないハーヴァを心配して、父親であるハルバルド王がハーヴァに国内・属国の貴族令嬢達の姿絵を送ってくる事はなんら珍しいことではない。だから、ハーヴァは姿絵が入っている箱にしては些か小さい箱に特に何の疑問も抱かず、従者に箱を開ける様に指示を送り、ハーヴァの指示を受けた従者は「かしこまりました」と恭しく頷くと、持っていた箱の蓋を開けて…………ピタリと手を止めた。

 

 

 

 



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2

展開を変えました


 

 

 

 

「ん?どうした?好みの女の姿絵でも入っていたか?」

 

 

 従者の様子を不思議に思ったハーヴァがそう冗談混じりに問い掛けると従者は少し困った様な顔をしてハーヴァの言葉に首を横に振る。ハーヴァは従者の反応に怪訝そうな顔をして「…じゃあ一体どうしたんだ?」と再び問い掛けると従者は言いづらそうに口を開き、一言……

 

 

「……女性用の下着が入っていました」

 

 

 ……と、言った。

 

 

「は?女性用の……下着だと?」

 

 

 予想外の従者の言葉に眉尻を上げたハーヴァが聞き返すと、従者はコクリと無言で頷き、持っていた小箱を執務机の上に置いた。すると、ハーヴァの視界にフリフリのレースがふんだんにあしらわれた可愛らしい……だけど扇情的な下着一式とそれに添えられる様に白い手紙が現れて、思わずハーヴァは「な、なんだこのめちゃくちゃえっちな下着は!?」と叫びそうになった。だが、流石は大国ハルバルドの王子と言うべきか。ハーヴァは喉の奥から出掛かった言葉を飲み込み、そして、震える手で白い封筒を手に取り……封を開けた。

 

 

「な、なになに……『ハーヴァよ、まだ帝国の姫君を分からせる事が出来てないみたいだな?ああ、謝らなくていい。身分の低い第二妃の子供とは言え、腐っても帝国ローレヌの王家の血を受け継ぐ皇女。分からせるのは中々容易ではないだろう。だから、お前にこのめちゃくちゃえっちな下着を授けよう。これを使ってアリシア姫を散々卑しめた上で手篭めにするといい。では、良い報告を期待してるぞ。父より』……ーーはっ、はああああああ!?!?」

 

 

 衝撃の内容にハーヴァは目の前に従者がいるにもかかわらず大きな声で叫んでしまう。そして、手紙を何度も何度も読み返したり、手紙を裏返したり、日に翳してみたりするが、特に暗号といった様なものは書かれておらず、ハーヴァは愕然とした。

 

 

(な、何も書いてない!?何も書いていないだと……!?まさか本当に本気で父上は俺にローレヌの皇女を手篭めにしろと言っているのか!?こ、この……めちゃくちゃえっちな下着を着せ……着せて……)

 

 

 ハーヴァは想像する。いや、想像してしまった。慎ましい体によく似合う扇情的な下着を身に付けたアリシアが恥ずかしそうにシーツで体を隠しながら「そ、そんなに見ないでください…」と言って潤んだ瞳で自分を見上げるという姿を想像してしまい、ハーヴァは思わず

 

 

「うわぁあああああ!!俺は敵国の王女に対して何を考えているんだぁあああああ!!」

 

 

 と叫び、頭をガンガンと執務机に打ち付ける。無論、突然頭をガンガンと執務机に打ち付け始めたハーヴァにびっくりした従者は「殿下!?どうされましたか!?」と声を掛けるが、完全に脳内がめちゃくちゃえっちな下着を着けたアリシアでいっぱいなハーヴァは近付いてきた従者の胸倉を勢い良く掴むと鬼気迫る形相で叫んだ。

 

 

 

 



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3

 

 

 

「いいか!?俺はえっちじゃないいいいいいい!!!そもそもあんな慎ましい体よりもっとむっちりした体が好みだぁああああ!!」

「!? え、えっち!?むっちり!?ハーヴァ殿下一体どういうことですか!?」

「ハァ……ハァ……くっ、くそ!ちょっと顔がこの国じゃあまり見かけないベビロリ甘々フェイスだからって……大国ハルバルドの王子である俺が敵国の王女に……しかも人質ごときに誘惑されるなどありえん!ハァ……ハァ……い、いいだろう……第三皇女アリシア!!貴様がそのつもりなら一秒で手篭めにしてやるわぁあぁああああ!!」

「手篭めにする!?帝国の姫君を手篭めに!?お、お考え直し下さい!ハーヴァ殿下!帝国の姫君、アリシア姫は休戦の証としてこのハルバルドにやって来てーー……!!」

「うるさい!退け!」

「ぐはっ!?」

 

 

 確実に外交問題になるであろう台詞を言い放ったハーヴァを従者は必死で止めようとするが、大国ハルバルドで毎年開催されている剣術大会の優勝常連者であるハーヴァに力で叶うはずもなく、壁に突き飛ばされてガクリと気を失った。そして止める者が誰もいなくなったハーヴァは下着一式が入った箱をガシリ!と掴むとそのまま勢い良く監禁部屋へと繋がる大きな魔法の鏡に飛び込んだのである。

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって大国ハルバルド王城地下。

 

 

「んっ……もう……お昼……?」

 

 

 朝食を食べ終え、天蓋付きのベッドの上でフワフワで暖かく触り心地の良い清潔な布団に包まっていたアリシアは扉越しに聞こえてきた物音に瞼を擦りながら起き上がる。日の光が届かない地下故、アリシアには今が一体昼なのか夜なのか全然分からないが、毎日決まった時間に三回支給される食事で昼夜を判別しているアリシアは大分早いが本日二回目となる……昼食にあたる食事が運ばれて来たのだと思い、二度寝で少し乱れた髪を軽く整えてからベッドを降り、帝国の粗末な自室とは全く違う豪奢な部屋の扉の下にある金細工が施された小さな扉を開ける。すると、中から銀盆に乗せられたポカポカと白い湯気を立てる彩り豊かな料理が姿を現した。

 

 

「わあ……!今日もとても美味しそうです……!」

 

 

 ウフフと花が綻ぶ様な微笑みを浮かべて料理が乗った銀盆を受け取ったアリシアはそのままいつもの様に食卓机に向かおうとした……その瞬間。突然、監禁部屋の壁に立て掛けてあった大きな鏡から「第三皇女アリシアァアアアア!!この下着を着ろおおおおお!!」とセクハラ紛いなことを大声で叫びながらやたら顔が良い金髪の青年が飛び出して来た。

 

 

「!!?」

 

 

 無論、突然鏡から飛び出して来た青年にアリシアは目を丸くして吃驚するが、鏡から飛び出してきた青年は扉の前で身を強ばらせるアリシアを目敏く見つけると、目にも止まらぬ早さでアリシアに駆け寄り、そのままドン!と扉に手を付いて自分と扉の間にアリシアを閉じ込めた。

 

 

 

 



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4

 

 

 

 俗に言う壁ドンってやつである。しかし、胸キュン必須の行為も身長180センチ以上ある長身の男がやるとなると威圧感がゴリゴリで胸キュンどころではない。実際、壁ドンをされているアリシアは半泣きで青年を見上げており、誰がどう見てもこの行為にときめいたりなんかしてないことが分かる。だが、壁ドンをしている青年……大国ハルバルドの王子ハーヴァはと言うと……

 

 

(うおおおおお!?つ、つい勢いで壁に追い詰めてしまったが……ここからどうすればいいんだ!?このまま押し倒せばいいのか!?服を脱がすのか!?いや、キスをする方が先か!?)

 

 

 と、内心めちゃくちゃ焦っていた。そう。何を隠そうハーヴァは普通に歩いているだけで女性が掃いて捨てるほど言い寄ってくる自他共に認めるハイスペックイケメン王子なのだが、女性を口説いたり、女性と共に夜を過ごしたりと……一言で言うならば女性経験が一切ない、大国の王子にしては珍しい清廉潔癖な王子なのである。故に、壁ドンの状態からどういう手順を踏んでアリシアを手篭めにすれば自然な流れになるのか全く分からず、ハーヴァは完全に混乱していた。

 

 

(お、落ち着け……!落ち着いて考えるんだ……!ハルバルド・ハーヴァ!俺は大国ハルバルドの王子!!こんな敵国の王女一人手篭めにするなんてどうってことないんだ……!!う、うおおおおおお!覚悟しろ!第三皇女アリシアぁあぁああああ!!)

 

 

 混乱しながらもどうにか自分を鼓舞したハーヴァは一度深呼吸をして気持ちを切り替える。そして、怯え震えるアリシアの顎に手を添えてクイッと上を向かせると、耳元に顔を近付けて吐息を吹き掛ける様に囁いた。

 

 

「フッ、どうした?そんな鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして……まあ、驚くのも無理はないな。だって、大国ハルバルドの王子がこんな護衛も付けずに一人で敵国の皇女が囚われている地下室に来るなんて夢にも思ーー……」

「ハルバルドの……王子……?」

 

 

 ハーヴァが『ハルバルドの王子』であると言った途端。それまで怯えていたアリシアの表情が一変し、ボッ!と日に焼けてない白い頬が真っ赤に染まる。その恋する乙女の様なリアクションにハーヴァは些か面食らうが、すぐに『フッ、俺の魅力は初対面の敵国の皇女さえも魅了してしまうのか』と謎の自己解釈をすると満足気に笑みを浮かべて頷いた。

 

 

「ああ、俺の名前はハルバルド・ハーヴァ。このハルバルド王国の第一王子にして次期王位継承者だ。第三皇女アリシア、こうして面と向かって会うのは初めてだったな」

「……ひ、ひう……で、でも……見ての通り、ハーヴァ様の好みじゃ……」

「は?俺の好み?おい、一体何を言っているんだ?」

「……う、ううっ……だ、だって……ハーヴァ様はわたしを抱きに来たんですよね……?」

「お、おぼおおおおおっ!!?」

 

 

 何も知らない筈のアリシアにいきなり目的を言い当てられたハーヴァは動揺のあまり素っ頓狂な奇声を上げてしまう。

 

 

 

 



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