アイドルマスターシャイニーカラーズ×ペルソナ5 (フルーヴ)
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第1部
櫻木真乃とモルガナ


ぽぉっぽるぅ~!


 平日の昼下がり、283プロの屋上に一人の男がやってきた。

 

「今日はいい天気だな」

 

 彼は雨宮蓮。数年前に世間を騒がせた怪盗団のリーダー、コードネームはジョーカー。なんやかんやあって283プロのプロデューサーになった。

 

「たまには屋上でというのも悪くない。さて、昼飯を食うか……」

 

 そこに声が聞こえてきた。

 

「よお、今日は屋上で一人飯か? 好青年」

 

「まあ、そんなところだ、お前はどうだ? モルガナ」

 

 聞こえてきた声の主はモルガナ、怪盗団でのコードネームはモナ。イセカイで知り合い、こちらの世界では黒猫の姿をしている。雨宮プロデューサーにとっては長年連れ添った相棒だ。

 

「よっと、事務所の近くは中々環境がいいな。散歩にはもってこいだ」

 

「なら事務所に住むか? 下にペットショップもある」

 

「ワガハイ、ペットとして扱われるのは少々癪だな」

 

「今とそんなに変わらない気がするが」

 

「何を言ってるんだ。ワガハイはレンのお目付け役だぞ。お前が何をするか見届ける義務がある。そして、人間になる方法もお前と一緒なら見つかる気がする! だから事務所に住むのはなしだ!」

 

「はは、そうだな」

 

「それに、お前がいるといろいろな場所に行けるしな! 現にお前はすぐ違う場所でつとめ……そういえば、改めて考えるとお前も災難だったな。社会人になってすぐに転職するはめになるとは」

 

「……それでもいい人たちに巡り合えたんだ。今更過去のことをどうこう言わないさ」

 

「まあ、結果オーライだな。心配するな、お前ならどこでもやっていけるさ。なんてったって怪盗団のリーダーだからな!」

 

 

 同時刻、事務所内の階段でとある女の子が悩んでいた。

 

(午後からダンスレッスン……昨日、新しいステップをやるってトレーナーさんが言ってました。正直、あまり自信がないなあ……)

 

 彼女は櫻木真乃。283プロが誇るイルミネーションスターズのセンターである。

 

(気分転換に屋上でも行って……あれ誰かいるみたいです)

 

「なら……か? 下に……」

 

(プロデューサーさん? 誰かと話しているみたいですが……他に誰かいるんでしょうか?)

 

 ニャー

 

「はは、そうだな」

 

(……猫さん? プロデューサーさんが猫さんとお話しています。まるで私がピーちゃんに話しかけるみたいに……)

 

 一部の人間以外はイセカイで喋っているところを聞いていないため、モルガナが喋ることを認知していない。そのため、一般人にはモルガナの声は猫の鳴き声に聞こえる。もちろん、真乃にはそのように聞こえているのだ。

 

(プロデューサーさんも愚痴を聞いてもらっているのかな? もしそうだとしたら邪魔するのは……)

 

「そこに誰かいるのか?」(ニャー)

 

「ん? どうした? 誰かいるのか……真乃?」

 

(! 見つかっちゃいました)

 

「こ、こんにちは。プロデューサーさん」

 

「こんにちは、真乃。ひょっとして俺に何か用事でもあった?」

 

「いえ、そういうわけでは……プロデューサーさんは何をしているんですか?」

 

「屋上で昼飯を食べていたんだよ。今日は天気もいいしちょうどいいと思ってな」

 

「えっと、そちらの猫さんは? もしかしておしゃべりしてましたか?」

 

「……ああ、そうだ」

 

(お、おい。そんなこと言って大丈夫か?)

 

 モルガナは少し慌てている。

 

「ほわ、そうなんですね! もしかしてその猫さんはプロデューサーさんのペットなんですか?」♪♪ 

 

「ワガハイはペットじゃねーよ!」(ニャーッ!)

 

 モルガナは大きな声をあげた。さっきペット扱いされたばかりだから少々気が立っていたのかもしれない。

 

「ま、まあそんなところだ」

 

「お、おい……」(ニャー……)

 

「やっぱりそうなんですね! 下のペットショップでも黒猫さんは見てませんし、なにより黄色い首輪が付いてたのでそうなんじゃないかと思いました。お名前を聞いてもいいですか?」

 

「ワガハイはモルガナだ」(ニャー)

 

「ああ、モルガナだ」

 

「モルガナさんですか、いい名前ですね。はじめましてモルガナさん、私、櫻木真乃っていいます」

 

「マノっていうのか。よろしくな、マノ」(ニャー)

 

「ふふっ、お返事してくれたみたいです。ありがとうモルガナさん。……プロデューサーさんもモルガナさんとおしゃべりしてるんですね。私もピーちゃんとよくおしゃべりします。灯織ちゃんやめぐるちゃんのこと、イルミネーションスターズのこと、お仕事のこととか……あ、あとプロデューサーさんのこともいっぱい話すんです」

 

(なるほど、レンがワガハイと喋っていることを明かしたのはこれが理由か。正直この子は自分の意見を言うのが苦手そうだ。そんな子に対して少しでも話がしやすくなるように似た話題を共有したんだな。さすがジョーカー!)

 

「あ、モルガナさん、ピーちゃんっていうのは私が飼っている鳩さんのことだよ! とってもかわいいんだ!」

 

(それにしてもよく話すな……よっぽどピーちゃんのことが好きなんだろうなマノは)

 

「それでこの前は……あのプロデューサーさん?」

 

「? どうしたんだ真乃?」

 

「あの、ずっと私の方を見ていますが、何かありましたか?」

 

「いや、ピーちゃんのことを楽しそうに話す真乃がかわいくてずっと見ていたよ。何というか癒されるというか、そういうところがやっぱり真乃の魅力の一つなんだなあって」

 

「ぷ、プロデューサーさん……は、恥ずかしいです……」♪♪♪ ☆彡

 

「? そうか? 本当のことなんだけどなあ」

 

「ほわわっ……」

 

「……あいかわらずだなお前も……ふあぁ……」(ニャ~……)

 

「そ、そういえば、モルガナさんすごく眠そうですね」

 

「ああ、今日はいい天気だからな。いつも早く寝るけどこれは仕方ないな」

 

「もしかして、一緒に寝てたりするんですか?」

 

「うん、さすがに暑いときはたまらないけどな」

 

「ふふ、少し羨ましいです。おしゃべりするなら、うーん、『ワガハイ疲れた。今日はもう寝ようぜ』とか言ってたり。ふふっ、なんちゃって」

 

「!」

 

「……聞こえてないよな?」(ニャー)

 

(そのはず……だが)

 

「それにしてもモルガナさんは本当に喋ってるみたいです。さっきも私が『ペットですか?』って聞いたときにモルガナさんが『ワガハイはペットじゃねーよ!』って言ってたような気がしました」

 

「?!」

 

「……偶然だよな?」ニャー……

 

(……偶然なのか?)

 

「どうしたんですかプロデューサーさん?」

 

「い、いや、な、なんでもないよ……それより時間大丈夫か? 午後からダンスレッスンが入ってたはずだけど……」

 

「ほわっ、そうでした。では遅刻する前にレッスン室に向かいますね。モルガナさん、プロデューサーさん、楽しいお昼でした。むん、おかげでレッスンを頑張れそうです! じゃあ、また会おうねモルガナさん!」

 

「お、おう」ニャー

 

(よ、よし楽しく話せたな)

 

 

 

 ▽▽▽

 

 二人と別れレッスン場に向かう真乃の顔はとても楽しそうな顔であった。

 

(プロデューサーさんもモルガナさんとおしゃべりするんですね。ふふ、いつかプロデューサーさんとピーちゃんとモルガナさんでピクニックができるといいなあ)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+25

 

 

 

 ▽▽▼

 

 一方残された二人は……

 

「……なあ、レン」

 

「……ああ、モルガナ」

 

「もしかして」

 

「真乃って」

 

「「ペルソナ使いか?」」

 

 

 



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風野灯織と新島真

 Morning

 

「おはようございます、プロデューサー」

 

 彼女は風野灯織。イルミネーションスターズの一員だ。朝早くに来た彼女は見知らぬ女の人が事務所にいることに気づいた。

 

「あの、プロデューサー、そちらの方は?」

 

「初めまして、私は警視庁の新島真といいます」

 

 新島真。怪盗団の参謀役、コードネームはクイーン。彼女は高校3年生の時に秀尽学園の生徒会長を勤めていた。校長の無茶苦茶な依頼から怪盗団に接触し、無事取り込まれる形で怪盗団に加入した。蓮との交流の中、警察官僚になることを目指し始め、現在警視庁に勤めている。そして、蓮の……

 

(警察? 一体なんのために? もしかして事務所が実は違法経営で逮捕状を持って捜査令状が出てて……プ、プロデューサーが逮捕されちゃう?!)

 

 灯織は警察がいることに戸惑っている。しかし、それとは別に挨拶をすることにした。

 

「初めまして、風野灯織です。イルミネーションスターズというユニットで活動しています。えっと、警視庁の方がどうしてここに?」

 

「その件については俺から」

 

 真の横にいた雨宮Pが説明しようとしたが……

 

「プ、プロデューサー? もしかして本当に悪いことをしていて警察官が逮捕しに来ていてそれで……」

 

「灯織?」

 

「でも実際はもっと悪い人が冤罪をなすりつけているだけで、真犯人はきっとほかにいるはずです。そうです! プロデューサーが悪い人なはずがないです! なので逮捕は早計過ぎます! 調べなおしてほしいで……」

 

「灯織!!!」

 

「! すみません、取り乱してしまいました……」

 

「えっと、話を始めていいか? 今度、この近辺の警察署で交通安全強化キャンペーンをしたいそうだ」

 

「交通安全?」

 

「そう、簡単に言うと車両の事故を減らすためのキャンペーンということ。そのためには認知度の高い人が協力してくれるのがいいかなって思って」

 

「そのキャンペーンの一巻でなんと283プロの誰かを一日署長に任命したいそうだ」

 

「一日署長……!」

 

 その単語を聞いて灯織はめぐるが一日署長をしてみたいと出会った当初言っていたことを思い出した。

 

「とりあえず、ずっと立っているのもなんだから、ソファにかけたらどうだ?」

 

「あ、はい。そうします……」

 

 プロデューサーに勧められて灯織はソファにかけた。

 

「というわけで、その一日署長の件だが……」

 

「prrrrrrr」

 

「……おっと電話か? ああ、ラジオの……すまん、真。少し出てくる」

 

「ええ、いいわ。今日は時間に余裕があるからしばらくは大丈夫よ」

 

「助かる。……いつもお世話になっております、283プロの雨宮です…………」

 

 電話の対応をするため、プロデューサーは別の部屋に行った。はづきさんもいないため、真と灯織は二人っきりになった。

 

「………………」

 

(き、きまずい……)

 

(何か話をふるべきなのかしら?)

 

(で、でもご迷惑ではないでしょうか……?)

 

「「あの……」」

 

「………………」

 

「えっと、灯織さん?」

 

「は、はい」

 

「あなたは見たところまだ学生さん?」

 

「はい、高校生です」

 

「そう、すごいわねアイドルをしてるなんて、高校生だったら猶更」

 

「え、あ、その……ありがとうございます。新島さんは高校のとき何をしていましたか?」

 

「うーん、生徒会長とか勉強かな。アイドルに比べたらそんなにすごいことはしてないわ」

 

「そうなんですね。生徒会長だなんて、相当成績優秀だったんですね。すごい……です」

 

「そんなに大したことじゃないわ。……でも普通じゃない経験もしたの」

 

「?」

 

「生徒会長をしていたときね、悪徳ホストに騙されてる友達を助けたことがあるの。そのときの経験と、あとはお父さんが警察官だったこともあって、警察官僚になることを目指すようになったの」

 

「それはすごい経験ですね……」

 

「灯織さんは将来やりたいことはないの?」

 

「え……それは……将来やりたいことは決まっていませんが、今はトップアイドルを目指しています。昔、中学校に来てくれたアイドルのように多くの人を笑顔にさせるような……」

 

「へえ、そうなんだ。私から何かアドバイス出来たらいいんだけど……応援してるわ。あなたを、イルミネーションスターズを」

 

「ありがとうございます! ……そういえば話は変わりますが、新島さんはどうしてアイドルを一日署長にしようとしてるんですか?」

 

「え?」

 

「あ、いや別に、その、どうして283プロを選んだのか、気になったので……」

 

「そういうことね。さっきも少し言ったんだけど知名度があるアイドルの子がキャンペーンに参加してもらうことでそのキャンペーンの認知度を上げること」

 

「そう……ですか……」

 

「というのは理由の半分」

 

「?」

 

「もう一つの理由はあなたのプロデューサーよ」

 

「……え?」

 

「えっと……警視庁に芸能界とコネがある人は正直多くないからたまたま私とあなたのプロデューサーのコネで選んだって感じかしら」

 

「そうなんですね。……あの、新島さんとプロデューサーってどんな関係なんでしょうか?」

 

「え? そうね……蓮とは高校時代からの知り合いよ。とはいっても高校自体は1年しか被ってないけどね」

 

「そうだったんですか」

 

(でも真って呼んでたような。もしかして、そういう関係なのかな? ……)

 

(そういえば、彼、この子のこと灯織って。……よく考えたら仲間になってからは下の名前で呼ばれていたわ。あまり深く考えないほうがよさそうね……)

 

「灯織さんは彼のことどう思う?」

 

「え! えっと……とても頼りになる人でいつも尊敬しています」

 

「……ふーん」

 

「イルミネーションスターズのみんなと会わせてくれたことには感謝してます。でも、たまに無理しているところを見ると休んでほしいと思ってしまいます」

 

「……やっぱりそうなのね……はあ……」

 

 そこにプロデューサーが帰ってきた。

 

「すまない、待たせてしまった」

 

「いえ、大丈夫よ。相変わらず、忙しそうね?」

 

「ああ。久しぶりにみんなと会いたいけど祐介ぐらいしかすぐ会えないだろうなあ……はは……」

 

「……そうね」

 

「あの……プロデューサー……」

 

「ん?」

 

「先ほどの……一日署長の話ですが、誰にするか決めてるんですか?」

 

「ああ、それはな……」

 

(もし、決まってないのならめぐるを勧めてみよう。やりたいって言ってたし。……でも、私もやりたい……だけど……)

 

「私も気になっていたわ。283プロのアイドルは一通り目を通したんだけど素敵な子が多くて目移りしちゃった。だから、あまりこちら側が勝手に決めることは得策ではないと思っているわ」

 

「じゃあ、俺の推薦でいいってことだな?」

 

「ええ。そのつもりよ」

 

(……プロデューサーが決める? でも、こんなチャンスめったにない……やってみたい。ごめん、めぐる!)

 

「あの、プロデューサー」

 

「ん? どうした、灯織?」

 

「もし決まっていないのなら……私やってみたいです!」

 

「!」

 

「あ、いえ、別に、ご迷惑……ですよね……私なんかが、その……」

 

「いや、俺は、灯織を推薦するよ」

 

「……え?」

 

「実は、この話を真が俺に持ち込んだ時から灯織に任せようと決めていたんだ」

 

「え! どうして私を?」

 

「俺がこの役割は灯織が一番ふさわしいと思っているからだよ。真面目でクール、そして頑張り屋な灯織だから」

 

「プ、プロデューサー……」♪♪ 

 

「私も賛成よ、灯織さん。さっき実際に話してみて私もいいと思う」

 

「新島さんも……ありがとうございます。私、やってみます!」

 

「それにしても」

 

「?」

 

「二人って似てるよな」

 

「え?」

 

「そんな、新島さんに似ているなんて、とても……」

 

「二人とも普段真面目なんだけど、そこが却って可愛かったりするんだよな」

 

「ちょ、ちょっと?」♪♪ ☆彡

 

「プ、プロデューサー……」♪♪ ☆彡

 

「で、そうやって指摘されると照れるところとか。本当にそっくりだよ」

 

「/////」♪ ☆彡

 

「/////」♪ ☆彡

 

「あと真面目さが祟ってポンコツなところが出たときとかは本当にかわいい。真の尾行は本当よかったと思うよ。きっと灯織が尾行してもあんな感じだと思う」

 

「も、もう! それ以上は怒るわよ!」♪♪ ☆彡

 

「プロデューサー……恥ずかしい……です……」♪♪ ☆彡

 

(え、でも尾行って……?)

 

「はは、ごめんよ。でも本当のことだから」

 

「そ、それじゃあ今回は灯織さんが一日署長ということで話を通しておくわ。こちらのキャンペーンの内容が固まってきたら改めて連絡するわ」

 

「おう、そうしてくれると助かる。メッセージでも俺はいいから」

 

「今日はお忙しい中ありがとうございます。あの、一緒にお仕事できるの楽しみにしています」

 

「いえいえ、こちらこそよ。あ、蓮。あなたはちゃんと休むこと。アイドルたちを心配させちゃだめよ」

 

「そうです。プロデューサー、ちゃんと休んでくださいね」

 

「……ははっ、善処するよ……」

 

「それから、蓮」

 

「?」

 

 真は灯織に聞こえないように言った。

 

「未成年に手を出すと、最悪捕まるわよ……」

 

「?!」

 

「私、彼氏が本当に犯罪者になるのは嫌よ」

 

「いや、別にアイドルに手を出すつもりは……」

 

「い・や・よ。わかった? それとも鉄拳せいさ……」

 

「はい。わかりました」

 

「よろしい。これ以上増えるのは勘弁よ。全く……」

 

「……」

 

 ……この男、高校の頃から絶賛10股中だ。その中に、真もいる。現実的ではないこの関係が続いているのも相手方がこの男を手放したくないのだろう。それほど心を盗むのが得意な魔性の男なのである。

 

「では、今度こそ失礼します。じゃあね、灯織さん」

 

「は、はい。お疲れさまでした」

 

「き、気をつけてな……」

 

 

 ▽▽▽

 

「……あの、プロデューサー?」

 

「……どうした、灯織?」

 

「……新島さんとどんな関係なんですか?」

 

「……プライベートだ」

 

「でも下の名前で呼び合ってませんでしたか? もしかして交際して……」

 

「さ、さあな。ただ、俺は仲良くなろうとしている人や仲がいい人には下の名前で呼ぶようにしてるからなあ。下の名前で呼び合ってるだけで交際してることにはならないと思うが……」

 

「そ、そうでしたか。よかっ……い、いえ、何でも……そういえば今日もお弁当作ってきました。食べてくれますか?」

 

「もちろん! 灯織の弁当はおいしいからなあ。ありがとう灯織!」

 

「いえ、喜んでいただけたら……ありがたいです……」♪♪♪ ☆彡

 

(よし、楽しく話せたな)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+50

 

 

 

 ▽▽▼

 

 Night

 

(はあ、咄嗟に誤魔化してしまった。正直ばれてないことを祈るだけだ。さすがに10股してるのがばれたらプロデュースに支障が出そうだから隠すしかない。こういうのはどこから綻びが出るかわからないからな)

 

 そんなことを考えていたら近くにいた相棒が蓮に声をかけた。

 

「なあ、レン。お前、またしょーもないこと考えてると思うけど、ワガハイはたぶん無駄だと思うぞ」

 

(もしかしたら、これ以上増え……さすがにないな!)




真は警察官僚になっています。
蓮との交際は続いていますがお互い仕事が忙しくてあまり会えていません。


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八宮めぐると喜多川祐介

 Noon 事務所最寄り駅

 

「到着だよーっ! プロデューサー! 今日のお仕事楽しかったな~」

 

「ああ、っとめぐる、少し電話がかかってきた。先に事務所に戻っていてくれないか?」

 

「わかった! 待ってるね、プロデューサー!」

 

 彼女は八宮めぐる。283プロのイルミネーションスターズの一員。日本とアメリカのハーフでマサチューセッツ州出身。日本人には珍しい、金髪碧眼の女の子だ。

 

 そんな彼女はプロデューサーに言われた通り、事務所に向かうその途中で声をかけられた。

 

「あの」

 

「はーい、どうしたのー?」

 

 めぐるが振り返った先には儚げな長身の美青年。彼は言葉を続けた。

 

「……今見かけて声をかけずにはいられなかった」

 

「え?」

 

「君こそ、ずっと探していた人物だ! ぜひ、俺の……」

 

「ちょっと、いきなりこま……」

 

「俺の絵のモデルになってくれ!!」

 

「……えっと??」

 

「……はぁ。相変わらずだな祐介」

 

「その声は、蓮! おお! 奇遇だな!!」

 

「プロデューサー、知り合いなの?」

 

「ああ。……立ち話もなんだから事務所で話そうか」

 

「事務所? ああ、そうか。今はアイドルのプロデューサーをやってると言っていたな」

 

「え、それを理解した上でめぐるに話しかけたんじゃないのか?」

 

「そのうち行こうとは思っていたが今日は偶然だ」

 

「ええ……行こうとは思ってたんだね……」

 

 彼は喜多川祐介。怪盗団のメンバー、予告状のデザイン担当。コードネームはフォックス。怪盗団が二人目のターゲットを狙う際、仲間になった。当時は美術の特待生だった彼は現在、画家になっている。

 

 

 283プロダクション事務所

 

「紅茶とコーヒーどっちがいいですか~?」

 

「コーヒーでいいです。砂糖は控え目で。あと、お菓子もつけてくれると嬉しいです」

 

「おいおい……」

 

「あはは……」

 

「はい~、わかりました~」

 

 はづきさんは突然の来客にもいつもと変わらない様子で対応している。はづきさんがキッチンに向かったところでめぐるから口を開いた。

 

「えっと、まずは自己紹介だね! わたしは八宮めぐる! 283プロのイルミネーションスターズで活動してるんだ! よろしくね!」

 

「……イルミネーションスターズ?」

 

「ほら、資料だ」

 

「かたじけない」

 

「この真ん中の子が真乃! ほわほわしててかわいいんだよー! こっちの黒い髪の子が灯織! 真面目でいい子だよー!」

 

「ほう。いいグループじゃないか。創作意欲が湧いてくる」

 

「ええっと、それで、今更だけどプロデューサー、この人は?」

 

「これは失礼した。僕は喜多川祐介、今は日本画を描いてる画家だ」

 

「それで、大体予想がつくが……めぐるに何の用だ?」

 

「八宮さん、君には僕の絵のモデルになってほしい」

 

(まあ、そうだろうとは思っていたが……)

 

「どんな絵なの?」

 

「ああ、僕は普段こんな絵を描いている」

 

 蓮は久しぶりに祐介の作品を見た。『欲望と希望』以来見る機会が少なかったが素人目にも上達してると思った。だが……

 

「わぁ、すっごいきれいな絵! でも……」

 

「……」

 

「人を描いてる絵、全然無いよ? どうして?」

 

(やはり、そうだよな……)

 

「……よく気付いたね、八宮さん。実は昔、すごく魅了された絵があってそれに並ぶ美しさを持つ作品を描きたいと思っているんだけどまだ描けてないんだ。一応何回か描いてはいるが、あまり納得がいっていない」

 

「祐介……そうだったのか」

 

「蓮、ずっと思っていたことがあるんだ。俺はあの絵を……”サユリ”のように美しい絵を、別の角度から表現してみたい! 俺だから表現できる方法を! そのために今色々試してみたいんだ。だから二人ともお願いだ、俺に協力してくれ!」

 

 なんと祐介は土下座し始めた。

 

「とりあえず、顔を上げて、それからソファーに座ってくれ」

 

「えっと、わたしは全然いいんだけど……でもこれってどうなの? プロデューサー?」

 

「ありがとう八宮さん! 蓮も大丈夫だよな?」

 

「祐介、俺は最初から断る気なんてなかった」

 

「かたじけない、蓮。やはり持つべきものは友だ! 八宮さん早速だけど……」

 

「落ち着け、祐介。めぐるにも予定があるからな……うん、そうだ。喜多川祐介から正式に仕事としてイルミネーションスターズに依頼するという形はどうだ?」

 

「イルミネーションスターズに?」

 

「そうだ。そうすればめぐるだけじゃなくて真乃や灯織にも絵のモデルを頼めるぞ」

 

「真乃と灯織の絵も描いてくれるの?!」

 

「なるほど、さすがは蓮、名案だ!」

 

「だが、こちらも大事なアイドルを貸すわけだ。生半可なものではこちらは満足できないぞ。何せめぐるは外見だけじゃなくて内面も本当に美しい。この美しさは世界でも珍しいぞ? 真乃も灯織も同じだ。それに見合う絵が祐介に描けるかな?」

 

「プ、プロデューサー……」♪♪♪ 

 

「ふっ、相変わらず俺への挑発が上手いやつだ。いいだろう、この喜多川画伯が彼女たちの美しさ、余すことなく描き切ってみせよう!」

 

「じゃあ打ち合わせをしよう。祐介、いつ空いている?」

 

「俺はいつでもいけるぞ。たまに今日みたく外に行くこともあるがさすがに蓮たちとの予定を大体優先している」

 

「そ、それはよかった。じゃあ、予定に関してはできるだけ早く組めるようにする。問題はどのような形にするかだが……」

 

「そういえば、絵のモデルだとしても俺にしか得がないな。まあ、プロデュースの仕方はお前に任せる」

 

「……ははっ、さすがに全投げはきついが……まあ考えておこう。めぐるは何か質問あるか?」

 

「……」

 

「めぐる?」

 

「ど、どうしたの? プロデューサー!」

 

「どうしたのって……大丈夫か? 様子が変だぞ、めぐる?」

 

「う、ううん! 全然平気だよ! 聞きたいことは今は何もないよ!」

 

「そうか、じゃあめぐるはこのあと仕事の確認をしたら今日はもう終わりだな」

 

「そ、そうだね!」

 

「コーヒーとお菓子です~」

 

「ありがとうございます」

 

「ゆっくりしていってくださいね~」

 

「そういえば蓮、今日の仕事はいつ終わる?」

 

「ん? そうだな、めぐるの仕事を確認したあと、書類を仕上げるだけだ。定時には帰れるはずだ」

 

「そうか、じゃあそれまでここで待っていていいか? 聞かれたらまずいことがあったらコーヒーとお菓子を頂いたあと、外でスケッチでもしてくるが」

 

「いや、ここで待っていてもいいぞ。仕事の確認とはいってもほとんど資料を渡すだけだから見られても問題ないし、今日は他に誰も来ないと思うから待っていてもいいぞ」

 

「そうか、ありがたい。久しぶりにカレーでも食べたい気分だ」

 

「そう言うと思ったよ。あ、めぐる、これが次の仕事の資料だ。次の仕事のコンセプトは……」

 

 すぐに仕事の確認は終わった。

 

「これで終わりだ、何か聞きたいことがあるか?」

 

「ううん、何もないよ! ありがとう! プロデューサー!」

 

「そうか、じゃあ今日はもう仕事は終わりだ。めぐる、今日一日おつかれさま」

 

「おつかれさま! ……ねえ、プロデューサー」

 

「どうしたんだ、めぐる」

 

「学校の宿題があるからしばらくここでやっていっていいかな?」

 

「ああ、いいぞ。偉いな、めぐる」

 

「えへへ……」

 

「本当かい! 八宮さん! じゃあ、ここでスケッチさせてもらっても……」

 

「もちろん! どんどん描いてほしいな! あ、その前に! 祐介さん、もっと他の絵見せてもらってもいい?」

 

「もちろんだよ!」

 

 しかし、祐介のスマホが点くことはなかった。

 

「……あれ? 充電ないよ?」

 

「今月は光熱費がピンチでな……電気代の方を節約してるんだ……」

 

「あははー……」

 

(そんなことだろうと思ったよ……さっきの時点でバッテリーゲージ赤色だったからな……)

 

 ここで突然、雨宮Pにある考えがよぎった。

 

「……そういえば祐介、さっき聞き忘れたことがあるんだが」

 

「どうした?」

 

「めぐるたちで裸婦画を描くつもりじゃないだろうな?」

 

「?!」

 

「らふが?」

 

「確かにありのままを描くのは美しいがそれでは”サユリ”の美しさを超えられないだろう。今回俺が求めてるのはそのような美しさではないし、それでは彼女たちを表現しきれないと思っているんだ」

 

「だ、だよな……一応俺も同行するけど絶対やるなよ……」

 

「ねえプロデューサー、らふがって何?」

 

「ああ、要するにヌ……」

 

「プロデューサーさん」

 

 話を聞いていたはづきさんは言葉を遮るように発言した。

 

「さすがにそれを大っぴらに言うのはどうかと思いますよ~。もしここで仕事を続けたかったら発言には気を付けた方がいいと思います~。喜多川先生もそれはやめてくださいね~」

 

「は、はい……」

 

「わかりました……」

 

 めぐるは意味がわからず首をかしげている。

 

「プロデューサーさん? 早く仕事を終わらせてカレーを食べに行ってはどうですか?」

 

「そ、そうします」

 

「では、私は次のバイトがあるのでお先に失礼します~。戸締りよろしくお願いしますね~」

 

「了解しました。お疲れ様です、はづきさん」

 

「はづきさん、おつかれさまです!」

 

「では、俺はスケッチをしておこう。帰るときに声をかけてくれ、蓮」

 

 2時間後……

 

「終わったぞ、祐介……あれ、めぐるまだいたのか?」

 

「プロデューサーおつかれさま! な、なかなか宿題が終わらなかったんだ!」

 

「いいスケッチが描けたよ。ありがとう、八宮さん」

 

「どういたしまして! そういえば複数描いてたけどどう違うの?」

 

「ああ、最初に描いたのはクロッキー、速く特徴をとらえて速く描く方法。もう一つはデッサン。クロッキーと反対に対象をじっくり見て描く方法だ」

 

「へえ、そうなんだ! 見せて見せて!」

 

「ああ、もちろん」

 

「ありがとー!! すっごい上手! さすが画家だね!」

 

「そう言ってもらえてありがたいな」

 

「めぐる、遅くなったが送っていこうか?」

 

「そのことなんだけどプロデューサー、わたしもカレー連れて行ってほしいな!」

 

「え?」

 

「さっきお父さんとお母さんから連絡があって、帰りが遅くなるんだって、だからご飯も食べておいてほしいって言われたんだ。だから、ダメ?」

 

「俺はかまわないぞ、蓮」

 

「祐介、どこに行く」

 

「もちろん、ルブランだ。何か都合が悪いか?」

 

「いや、特に……」

 

(祐介、ルブランは俺の家だぞ……)

 

「ルブラン?」

 

「四軒茶屋にあるレトロな喫茶店だよ。たまに雑誌に載るほどの店なんだ」

 

「そうなんだ! わたしとっても行きたくなった!」

 

「……」

 

「もしかして迷惑だった?」

 

(う、オマエさ、そんな顔すんの……反則。それは誰でも断れないだろ……)

 

「いや、そんなことないよ」

 

「本当?! やったあ! ありがとうプロデューサー!」

 

「さあ、行くぞ蓮! 俺は腹が減った!」

 

(余計な事言うなよ祐介……)

 

 

 Night 純喫茶ルブラン

 

「おお帰ったか」

 

「ご無沙汰してます、マスター」

 

「久しぶりだな、今は画伯だったか? 今日はなんだ? カレーか? それともあの絵か?」

 

「両方です。あとコーヒーもください」

 

 惣治郎は見慣れない子がいることに気づいた。

 

「蓮、後ろの子は? もしかして職場の子か?」

 

「あ、はい。わたし、八宮めぐるです!」

 

「ご丁寧にどうも。俺は佐倉惣治郎、ここのマスターだ。……だが今日は客もいねえし、店じまいしようと思ってたところだが……」

 

「えっ、そんな……」

 

「安心しな、あんたのプロデューサーが何とかしてくれる」

 

「え?」

 

「じゃあ、蓮、後は頼んだ。店閉めといてくれ。あと材料使いすぎんなよ」

 

「わかった、ありがとう」

 

 惣治郎は去っていった。ある程度空気を読んでくれたか? 個人的には居てほしかったが……

 

「えっ、マスター帰っちゃったよ! いいの?」

 

「大丈夫だ、蓮は同じ味を提供できる。それも無料でだ!」

 

「おいおい……まあいいか。正直、最近はプロデュース業の方で忙しかったから久しいぞ?」

 

「かまわない、それでも蓮のカレーの味は保証されている」

 

「プロデューサーが作ってくれるの?! 食べたーい!」

 

「ああ、祐介はコーヒーもだったか?」

 

「期待してるぞ」

 

「めぐるはどうする?」

 

「ちょっと夜更かししたいから挑戦してみる!」

 

「そうか、早寝早起きがめぐるらしいんだけどなあ」

 

「それでもプロデューサーが淹れるコーヒーを飲みたいのー! 灯織もコーヒーよく飲んでるからその話もしたいなーって」

 

「ははっ、わかったよ。なるべく飲みやすくするからな」

 

 そう言った後、蓮は厨房へ向かった。

 

「祐介さん、さっきマスターが絵を見に来たって言ってたけど、ひょっとしてあの入口の絵のこと?」

 

「ああ、そうだ。よくわかったね。……八宮さんはあの絵のことどう思う?」

 

「え? うーん……わたしは絵のことはよくわからないけど、何か惹き込まれるような、なんていうかお母さんが子どもを見る目がとっても優しいよね。綺麗な絵だなあ……」

 

「!」

 

「あの絵なんていう名前なの?」

 

「”サユリ”だよ。世間的には」

 

「”サユリ”? もしかしてあの女の人の名前なのかな?」

 

「いや、あの女性の名前はサユリではないよ」

 

「え? じゃあなんでそんな名前が……?」

 

「……あの絵は一度盗まれたんだ」

 

「!」

 

「それで盗まれたほうに価値が出てしまったんだ。そのときに付けられた名前が”サユリ”なんだ」

 

「……じゃあ本当の名前は?」

 

「……名前がつけられる前に盗まれてるからないんだ」

 

「そうだったんだ……。じゃあ、誰が描いたの?!」

 

「……僕の母だ。そして、あの絵は、母の自画像なんだ」

 

「え、じゃああの赤ちゃんって……そうなんだ……」

 

 めぐるが”サユリ”のことを知った後、ほどなくして蓮が戻ってきた。

 

「二人ともできたぞ」

 

「わあ、おいしそうなカレーだね!」

 

「おお、やはりこれだな!」

 

「冷めないうちに食べてくれ」

 

「いっただきまーす!」

 

「いただきます」

 

(……めぐるの口に合うか?)

 

「うん! おいしい!」

 

「それはよかった」

 

「ああ、甘美な味だ! 早くコーヒーも持ってきてくれ!」

 

「コーヒー?」

 

「この店のカレーはコーヒーに合うように作られてるんだ。とても計算づくでな」

 

「そういえば、双葉がそんなことを言っていたな」

 

「へぇ~! そうなんだ! じゃあ頂戴! プロデューサー!」

 

「そういうと思って作っておいたぞ」

 

「ありがとう! プロデューサー! ……あまり苦くないね! すっごくおいしい!」

 

「蓮の淹れるコーヒーは年々美味しくなっていくな。マスターにもう引けを取らないんじゃないか?」

 

「さすがに惣治郎レベルにはなってないよ」

 

「それでもこのコーヒーはすっごく美味しい! これならわたしも飲めそう! ありがとう、プロデューサー!」

 

「どういたしまして、めぐる」

 

「えへへ……灯織にも飲んでほしいから今度連れてきてもいい? あ、もちろん真乃も! まずは、灯織の一日署長のお疲れ様会で来たいなーっ!」

 

「よかったな、蓮。常連が増えるぞ」

 

「……ああ、うれしいよ」

 

 それから二人は一心不乱にカレーを食べ続けた。すぐに皿の上の料理は無くなってしまった。

 

「ごちそうさまでした」

 

「ごちそうさまー! おいしかったよー、プロデューサー!」

 

「ああ、ありがとう」

 

「お店のカレーとコーヒーを作れるなんてプロデューサーすごいね! ……あれ、そういえばなんでプロデューサーがこの店のカレーとコーヒーを作れるの?」

 

(……この質問は想定している!)

 

「それはこの店でバ……」

 

「この店は蓮の家でもあるからな、もう何年も作ってるし、食べてるんだよ」

 

 蓮はごまかそうとしたが祐介の言葉によって遮られた。

 

「え?」

 

(……祐介ェェェェ!!!!)

 

 とうとうプロデューサーの恐れていたこと、家バレの危機が訪れてしまった。

 彼はアイドルたちとは仲良くできていることは嬉しいと思っている反面、数人距離が近すぎる者が存在していることには気づいている。もし、遊びに来た瞬間を文〇砲されてしまっては彼女たちの活動に支障をきたす。少々自意識過剰かもしれないが不安の芽は摘んでおきたい。だから家を教えるわけにはいかないのだ。

 

「高校の頃、この店の屋根裏で下宿してたんだ、蓮は」

 

「へぇー、だからルブランの料理ができるんだね!」

 

(よし、ナイスだ、祐介。この表現だとまだこの店に住んでるのがバレたわけではない……)

 

 しかし、危機は続く。

 

「ふわぁぁぁ、帰ったのか、レン。早く飯にしようぜ!」(ニャー)

 

(モルガナ、音からして客がいるのはわかるだろ。降りてくるなよ……)

 

「猫の鳴き声?」

 

「おお、その声は」

 

「お? ユースケじゃねーか! またカレー食べに来たのか?」(ニャー)

 

「あーっ! 黒猫ー! もしかしてモルガナちゃん? でも何でここに?」

 

(真乃、イルミネでモルガナの話したんだ。イルミネの情報網って怖いな、うん。だけどまだバレたわけでは……)

 

「八宮さんはモルガナを知っているのかい? なら、ここに蓮が住んでるからモルガナがいるのは予想できたんじゃ……」

 

「おい、バカ……」

 

「え、もしかしてここがプロデューサーの家なの?! そうなんだー! モルガナちゃん! わたしは八宮めぐる! 真乃の友達だよ!」

 

「お、おう。よろしくメグル」(ニャー)

 

(もしかして、ワガハイやらかした?)

 

「……」

 

 蓮は項垂れている。家バレしてしまった。少なくともイルミネには広がってしまうなとプロデューサーは思った。そんなこととはおかまいなしにめぐるはプロデューサーに言った。

 

「ねぇ、プロデューサー、イルミネのみんなで遊びに来てもいい? 真乃もモルガナちゃんに会いたいって言ってたよー!」

 

「いや、でもアイドルがプロデューサーの家に遊びに来るのはちょっと……」

 

「じゃあ、ルブランのお客さんとしてカレーとコーヒーを食べに来るのは?」

 

「それは……」

 

「じゃあ、今度絶対みんなで来るねー!」

 

「……客として来るならな」

 

「やったー! ありがとー! プロデューサー!」♪ ☆彡

 

「もう遅い時間だぞ。レン、アイドルは家まで送って行ってやれ」(ニャー)

 

「そうだな、それがいい」

 

 蓮は軽く二人を睨みつけた。二人とも意に介してないようだが。

 

「ユースケはどうするんだ?」(ニャー)

 

「蓮が帰ってくるまでは待っていようか?」

 

「別に戸締りはできるが、せっかくだから待っていてくれ。言いたいことがある。めぐる、もう遅い時間だから家まで送っていくよ」

 

「本当!? ありがとー、プロデューサー!」

 

「ではまた今度、八宮さん」

 

「はーい。またね、祐介さん! モルガナちゃんも、バイバイ!」

 

「またな、メグル」(ニャー)

 

 ▽▽▽

 

 帰っている途中、めぐるはプロデューサーにあることを尋ねた。

 

「ねえプロデューサー」

 

「どうした、めぐる?」

 

「わたし、”サユリ”のようになれると思う?」

 

 めぐるは真剣に悩んでいた。祐介の話を聞いて彼の絵のモデルになることの重さを感じていたからだろうか。

 

「……なれるさ、きっと。それよりずっと輝けるさ」

 

 プロデューサーとしてこう答えるしかないが、それは本心から出た言葉だった。

 

「えへへ、ありがとう、プロデューサー」♪♪ ☆彡

 

「どういたしまして」

 

「あ、そうだ、プロデューサー! わたしのコーヒー、祐介さんのものと違ったよね? どうして?」

 

「よく気づいたな。それはめぐるに合わせたんだ。惣治郎が客に合わせてコーヒーを出せって教えてくれたから、俺はそれを守ってるだけ」

 

「へえ~、そうなんだ! わたし、あの味大好き! また飲みたいな!」♪ ☆彡

 

「めぐるが望むなら、いつでも。事務所じゃ器具がないから難しいかもしれないけど」

 

「じゃあ、絶対ルブランに行くね!」

 

「……ああ、客としてな」

 

(次はいつ行こうかな~……来週、プロデューサーが休みの日でいいかな?)

 

(よし、楽しく話せたな)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+35

 

 ▽▽▼

 

 めぐるを送り届けて帰ってきた蓮に祐介は話しかけた。

 

「帰ってきたか、蓮。まずは銭湯に行くぞ! 夜はまだ長い!」

 

「祐介、色々言いたいことはあるが……とりあえず、まだあんなナンパ紛いのことをしていたのか?」

 

「そういえば、蓮たちと初めて会ったのも、杏をモデルにスカウトしようとした時だったな」

 

「……通報されるなよ?」

 

「通報されたことはないな。今まで声を掛けた人はみんな親切な人だったぞ? 場合によっては即、食事に行くことはあるぐらいだ。そういった相手とは連絡先を交換する。だが、いつも絵のモデルの予定を組むために再び連絡を取ろうとするとなぜか知らないが連絡が取れないんだ。今のところ、2回目以降連絡が取れているのは杏しかいない。代わりにモデルは断られたがな」

 

「……そうか、今回は仕事だから断るつもりはないぞ」

 

(祐介は顔がいいからな、黙っていたらイケメンなんだが……)

 

(まあ、中身を知ると敬遠したくなるのもわかる)

 

 

 




祐介は日本画の画家になっています。相変わらず絵を描くことを優先してお金を使うためそんなに懐はあったかくはない。全く知名度がなく売れていないというわけではなく知る人ぞ知る次世代の画家として注目されてはいます。ルブランによく行くようになったので蓮や双葉と会うことも他の怪盗団のメンバーに比べれば多いです。


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西城樹里と坂本竜司

 Noon 体育教官室

 

「失礼します。ボール倉庫の鍵取りに来ましたー」

 

 彼女は西城樹里、放課後クライマックスガールズの一人である。体育前の準備のために体育教官室に来たようだ。

 

「おう、ごくろうさん! ちょっと待ってろよ……」

 

 今返事をしたのは坂本竜司。怪盗団の切り込み隊長。コードネームはスカル。現在はこの学校の非常勤体育教師で陸上部の副顧問もしているらしい。生徒からは親身になってくれる先生として評判で、特に男子生徒に人気がある。さすがに教師が金髪にするわけにはいかないので今は地毛である。

 

「そういえば、西城は髪染めてるよな?」

 

「……校則は違反してねーけど」

 

「そうじゃねえ。俺もちょうど西城ぐらいのときに金髪にしてたから、なつかしーって思ってたんだよ」

 

「先生が?」

 

「ああ、そうさ。意外か?」

 

「いや、ふつーにありそうかなって」

 

「……そんな風に見えてるのね俺。ほら、鍵だ」

 

「ありがとうございます。……そんなに気にしないでください」

 

「気にしてねーよ」

 

 

 別の日……

 

 Noon 体育教官室

 

「失礼します。ボール倉庫の鍵取りに来ましたー」

 

「おう、いつも真面目だな西城」

 

「いえいえ、そんなことないですよ」

 

「そういうとこだよ。ほら、鍵」

 

「ありがとうございます」

 

「しかし、西城は球技でいい動きしてるよな。何かやってたのか?」

 

「……えっとバスケやってました。今はやってないですけど」

 

「そうか。で、今はアイドルだっけ? ちゃんと両立できてるか?」

 

「はい、いろんな人の助けを借りて上手くやっていけてます」

 

「さすがだな、じゃあ体育の時間にな」

 

「はい。失礼します」

 

 

 またまた別の日

 

 Noon 体育教官室

 

「失礼します。ボール倉庫のカギを……」

 

「おー、西城。そこの机に置いてあるぞ。いつもお疲れさん」

 

「ありがとうございます」

 

「あまり元気がなさそうだな。大丈夫か?」

 

「いえ、そんなことは……失礼します」

 

「ふーん、何かあったら言えよ」

 

 

 放課後

 

 陸上部が休みのため竜司は帰ろうとしていた。ちょうどいい機会なので蓮を誘ってラーメンに行こうと思い、メッセージを送った。そしてその直後、体育館の裏の自販機近くで黄昏ている樹里を発見した。少し様子が変だったので声をかけることにした。

 

「よお、西城。どうしたんだ、こんなところで」

 

「坂本先生。いや別に大したことは……」

 

「……バスケに未練があるんだろ?」

 

「別にそんなことは……」

 

「俺もさ、西城のときぐらいに一回陸上辞めたことがあるんだよ」

 

「!」

 

「あのときは陸上以外に楽しいことがあるってわかったけど結局陸上が好きだってのは変わんなかった。というか未練たらたらだった。……今の西城に似た何かを感じたんだよ」

 

「……」

 

「じゃなきゃ、ドリブルの音が聞こえる体育館裏のベンチでわざわざ缶ジュース買って飲まねえよ」

 

「アタシは……」

 

「あ、わりぃ、無理に話させるつもりはねーから辛いならやめとけよ。じゃ、また……」

 

「待ってくれよ先生。アタシは確かに……」

 

 そこから竜司は樹里がどうしてバスケを辞めたのかということを聞いた。シンパシーを感じたのか樹里はプロデューサー以上にこの件については話しやすかっただろう。

 

「なるほどな……そういう事情だったのか」

 

「だけどアタシは今アイドルやって楽しいんだ。いい仲間にも出会えたし」

 

「ははっ、大丈夫そうだな。俺もそうなんだ。ちょうど陸上やってなかったときに最高のダチに出会えて今でも遊んでるんだぜ。きっとお前のダチも俺らみたいな関係になるんだろうな」

 

「なんかそれを聞くと嬉しくなります。大人になってもか……いいですねそういうの」

 

「へへっ、いいだろ。今日、部活休みだから久しぶりに会おうと連絡してんだけど……返事ねえな……今日はダメっぽいわ。西城は今日何もないの?」

 

「いや、このあと打ち合わせがあります」

 

「そうか、じゃあがんばれよ! 応援してっからな! 俺は帰るわ」

 

「はい、さようなら先生。今日はありがとうございました」

 

「あいよ、今度機会があれば俺のダチ紹介するな!」

 

 そう言って竜司は帰っていった。

 

 

 数日後……

 

 Night

 

 樹里は仕事帰りに街を歩いていた。

 

(少し遅くなっちまったな、寮母さんに連絡しないと……)

 

 スマホを取り出そうとしたとき目を疑うようなことが起きていた。

 

(坂本先生と、プロデューサー? どうして一緒に歩いてるんだ?)

 

 そして、竜司が樹里に気づいた。

 

「お、あそこに俺の教え子がいるわ。ちょい話しかけてきていいか?」

 

「ああ、もちろん。……え?」

 

「おーい! 西城!」

 

「坂本先生! とプロデューサー……」

 

「樹里……」

 

「え、知り合い? お前ら。というか今プロデューサーって……あっ……」

 

「ええっと、坂本先生。もしかして前言ってたダチって……」

 

「おう、こいつのことよ! な、蓮!」

 

「ああ。確かにそうだが……こんなことがあるんだな……」

 

「アタシもびっくりしてる……」

 

「まあ、お前が西城と知り合いって聞いて少し驚いたけどちょうどいいや! 西城! お前もう飯食った?」

 

「いや、まだだけど……」

 

「俺たち今から荻窪のラーメン屋に行くつもりだったんだけど一緒に来ねーか?」

 

「いや、でも……」

 

「いいっていいって気にするな! 蓮もいいだろ?」

 

「俺はかまわないよ」

 

「プロデューサーがいいって言うなら……わかった、アタシもラーメン食べに行きたい!」

 

「しゃあ! じゃあ行くぞ!」

 

 

 荻窪 ラーメン屋

 

「やっぱこれだよなあ、昔からずっと変わんねえわ」

 

「ああ、そうだな。樹里、遠慮せず食べていいぞ」

 

「え? そんな、悪いよ」

 

「遠慮すんな! 俺も奢って~レンレン」

 

「竜司はだめ。樹里は今日仕事頑張ってくれてただろうから。遅くなったけどお疲れ様、樹里」

 

「え~……」

 

「お、おう。じゃあ、遠慮なく奢ってもらうよ。サンキュー、プロデューサー」

 

 

 食事後……

 

 

「ぷはぁ~美味かった! ごちそーさま!」

 

「ごちそうさまでした」

 

「ごちそうさまでした」

 

「おいおい、俺が礼儀正しくないみたいじゃないか」

 

「竜司はそれでいいんじゃないか?」

 

「アタシもそう思うよ」

 

「おいおい、お前ら……」

 

「プロデューサーたちはこの後どうすんの?」

 

「てきとーにどっかでだべって帰るつもり。さすがに西城は早く帰ったほうがいいんじゃないか?」

 

「じゃあ、樹里は送っていこう。駄弁れる場所か、うーん。事務所?」

 

「さすがにそれは先生でもダメだろ……アタシは先生なら寮の近くまでなら送ってもらってもいいよ」

 

「じゃあ、送ったあと考えよう」

 

「おう!」

 

 3人は樹里を寮まで送り届ける間も駄弁り続けた。

 

「なあ、西城は283プロじゃどうなんだ?」

 

「お、先生っぽいことしてるな」

 

「別にそういうのは担任の先生もあまりしないけどな」

 

「うるせー、ちょっと気になっただけだよ」

 

「んー、そうだな。樹里は本当に竜司に似て思いやりがあって優しいよ。特に仲間思いなところが本当によく似ている。放クラでも頼りになる存在だよ樹里は」

 

「……プロデューサー。恥ずかしいって……」♪ ☆彡

 

「おー、やっぱわかってんなー、蓮! 俺をそんな風に思ってたんだな! 慈母神のような蓮に言われるとやっぱ嬉しいわ! 西城もやっぱり俺の見込み通り大丈夫そうだな! ははっ!」♪♪♪ ☆彡

 

「ありがとう……ございます。じゃ、じゃあ、アタシはこのあたりで。プロデューサー、坂本先生、今日はありがとうございました」

 

「おう、また学校でな」

 

「おやすみ、樹里」

 

「おやすみ、プロデューサー」

 

 そういって樹里は帰っていった。

 

(よし、今日は樹里と楽しく話せたな)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+5

 

 ▽▽▽

 

 283プロ寮

「ただいま戻りましたー」

 

「樹里さん……おかえりなさいませ……」

 

「おお、凛世。わざわざありがとう」

 

「いえ、偶然通りかかったものですから……今日突然の外食に皆様驚いておりました。一体どなたとお食事をしていらしたのでしょうか?」

 

「あー、今日はプロデューサーとラーメン食いに行ってたんだ」

 

 空気が凍った気がした。樹里は舌足らずなことを後悔した。

 

「えっと……樹里さん……少しお話を伺っても?」

 

「あ、いや別に大したことは……ごめんな、凛世」

 

「そんな……樹里さんが……信じておりましたのに……」

 

「樹里……」

 

「おやおや、樹里……」

 

「信じてたのに……」

 

 どこからか残りの寮生も出てきた。

 

「落ち着け! ちょっと待ってくれ! みんな!」

 

 ▽▽▼

 

 吉祥寺 ダーツ&ビリヤードBAR:PENGUIN SNIPER 

 

「久しぶりのダーツは楽しいな。祐介も誘っとけばよかった」

 

「確かに、連絡ができればすぐに来ただろうな」

 

「思ったけどよ~、アイドルのプロデューサーってかわいい子に囲まれてるわけだろ。いいよな~」

 

「……そうだな」

 

(この流れは……)

 

「バレンタインとかもいっぱいもらえて羨ましいよ……うちの体育教師男ばっかだからさ……本当なんでなんだろうな、俺……」

 

「……別にバレンタインに多くチョコがもらえても……」

 

「もらえてることは否定しねーのな……はぁ。彼女ほしい……」

 

「……頑張ってくれ。惣治郎も言ってただろ、合図を見逃すなって」

 

「どこ行ったらもらえるんだよそれ! ちくしょー!!」

 

「あ、そんな力任せに投げたら……」

 

 BURST 701チャレンジは失敗してしまった。

 

(陸上部って男女混合だから生徒からチョコもらえそうだけどなあ……)

 




竜司は文章中にもあったように高校の体育教師になりました。きっと高校で起きた事件について思うところがあったのだと思います。ちなみに彼女はいませんし、陸上部にチョコを送る風習がないのでチョコは生徒からももらえていません。ただしそれは生徒からの人気がないという意味ではないです。生徒の悪ノリにもついていけるいい先生なのでむしろ人気はあります(特に男子生徒から)。
彼は過去にけがをして陸上を諦めざるを得ない状況に一時期置かれていたためけがには人一倍警戒しており、ひとまず陸上部のけが人を0人にすることを目標に頑張っています。


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有栖川夏葉と奥村春

 Morning

 

 有栖川夏葉。283プロの放課後クライマックスガールズの一員。裕福な家で育った令嬢だがストイックな性格である。

 彼女はプロデューサーに呼ばれ、事務所に来ていた。

 

「おはよう、プロデューサー。他のみんなはまだのようね。今日は一体何の用かしら?」

 

「おはよう、夏葉! 今日は仕事の相談だ」

 

「おはよう、夏葉ちゃん」

 

「もしかして春?! 久しぶりね!」

 

「久しぶり、夏葉ちゃん」

 

 奥村春。怪盗団のメンバー。コードネームはノワール。夏葉と同じ令嬢だ。彼女には数々の困難があったが仲間と乗り越え成長した。そんな彼女は現在親の会社であったオクムラフーズの経営に関わっている。なお、蓮との関係は真と同じである。

 

「もしかして、知り合いだったのか。相変わらず、世間は狭いな……」

 

「私も夏葉ちゃんがアイドルをやってるなんてびっくりしたの。あと蓮君が夏葉ちゃんのプロデューサーだってこともびっくりしたよ」

 

「はは、そうか。二人はどこで知り合ったんだ?」

 

「昔、お父さまのパーティに参加したときに夏葉ちゃんがいたの」

 

「初めて会った時の春はお姉さまみたいだったわ」

 

「夏葉ちゃんは昔からあんまり変わってなくってずっと元気だね」

 

「会ったのは一回だけ?」

 

「ううん、お父さまのパーティに出るときはいっぱいあったからそれから何回か会う機会があって、それ以外でもよく会うようになったの。私が高校生のときはあまり会えなかったけど大学生のときはよく会ってたんだ」

 

「ええ、だけど春が社会人になってからしばらく会えてなかったから今日は会えてうれしいわ」

 

「そうだったのか。長い付き合いなんだな」

 

「ところでプロデューサー、今日はどうして私たち放課後クライマックスガールズを呼んだの?」

 

「ああ、そうだったな。じゃあ春の方から説明をお願いしてもいいかな?」

 

「ええ、もちろん。夏葉ちゃん、ビッグバン・バーガーって知ってる?」

 

「ええ、知ってるも何も一時期海外まで進出していたハンバーガーチェーン店じゃない」

 

「実はそのビッグバン・バーガーで新商品を開発していてその宣伝を誰にしてもらおうか悩んでいるらしいの。だからその宣伝の仕事を蓮君がいる283プロに持ってきたの」

 

「ということはもしかして」

 

「ああ、この仕事は放クラに任せようと思っている。ビッグバン・バーガーの雰囲気は放クラが一番合っていると思うんだ。どうだ、夏葉?」

 

「ええ、引き受けたいと思うわ。けれどほかのみんなの意見の方が先じゃないかしら?」

 

「まあ、そうだよな」

 

「じゃあほかの子が来る前にもう一つの話をしておくね」

 

「ん? ああ、あの話か」

 

「もう一つの話って?」

 

「実は今オクムラフーズの新事業として喫茶店を開こうと考えているの。ちょうどおじいさまがやっていたような暖かい喫茶店を」

 

「そうなの! ぜひ行ってみたいわ! プロデューサーもそう思うでしょ?」

 

「……ああ、そうだな。春が言ってたことがもう叶うなんてすごいよな」

 

「蓮君……そうだね」

 

「春ならきっとできるよ、俺は胸を張って言える。いい店になるって」

 

「ありがとう、蓮君!」♪♪ ☆彡

 

 夏葉は二人のやり取りにどこか違和感を感じた。

 

「そういえば、ルブランに似た雰囲気になっちゃうと思う。ごめんね、ライバルだ」

 

「ルブラン? それって前にプロデューサーが連れて行ってくれた喫茶店のことかしら?」

 

「ああ、そうだ」

 

 春は少しムッとした。

 

「春もルブランのことを知っていたのね! あの雰囲気の喫茶店、私は好きよ! 良いと思うわ!」

 

「……ありがとう、夏葉ちゃん」

 

「春、ルブランのことは気にしなくていいと思う。四軒茶屋に作るわけじゃないんだろう?」

 

「うん、全く違う場所だよ。やっぱりルブランが近くにあると絶対意識しちゃうから」

 

「惣治郎が聞いたら喜ぶよ」

 

「で、その新事業がどうしたの? 春」

 

 その言葉を聞いたあと、春はじっと夏葉を見つめ、そして納得したように話し始めた。

 

「夏葉ちゃん、あなたにその喫茶店のイメージガールをしてほしいの」

 

「え? 私が?」

 

「実はこの前のトータルコーディネートの記事、私読んだの。まあ、その記事を読んだから夏葉ちゃんがアイドルをしていることに気づいたんだけど」

 

「そうなの? 嬉しいわ!」

 

「久しぶりに直接会ってみてわかった、学生だけど大人の雰囲気を持つ夏葉ちゃんなら私がイメージしているコンセプトにぴったりだなって。引き受けてくれる?」

 

「もちろんよ! プロデューサーもそれでいいわね?」

 

「もちろん。話を聞いて俺もいいと思った。夏葉なら大丈夫だ!」

 

「ええ! プロデューサー!」♪ ☆彡

 

「蓮君もありがとう」

 

「こちらこそ仕事を持ってきてくれてありがとう、春」

 

 二つ目の話もいい感じにまとまったところで3人は雑談を始めた。

 

「あ、そういえば……ごめんなさい、少し話を変えてしまうのだけれど……ねえ、春。以前会ったときにコピ・ルアクが飲みたいって言ってなかった?」

 

「え? うん、言ってたけど……」

 

「最近とても質がいいのが手に入ったのよ! 連絡しようと思ってたときに会えてよかったわ!」

 

「そうなの? 嬉しい!」

 

「……コピ・ルアク?」

 

「あれ? 覚えてないかな? 昔ほら、ゾウのコーヒーを一緒に飲んだ時に……あー、もしかしたら名前は言ってなかったかも」

 

(コーヒー? まさか……)

 

「コピ・ルアクというのはジャコウネコの……」

 

 蓮の想像通りだった。

 

「あ、ああ! た、確かに春があの時言っていたな。覚えてるよ……」

 

「そうだったの? さすがプロデューサーね! せっかくだからプロデューサーも一緒にいかがかしら?」

 

「よ、予定が合えばな。……おっとすまん、夏葉、春。今から外回りに行かなきゃいけないんだ。本当は放クラのみんなと一緒に打ち合わせしたいんだが、もう時間がないみたいだ。もうしわけないけど後頼めるか夏葉?」

 

「わかったわ! プロデューサー」

 

「わかった、蓮君、今日はありがとう。……それから」

 

 春は蓮に近づいて、そして耳元でこのように言った。

 

「アイドルに手を出しちゃ、ダメだよ?」

 

 このとき春が肩をつねっていた。蓮は少しだけ顔が引きつった。

 

「わ、わかってるよ……」

 

「じゃあ、行ってらっしゃい、蓮君。また今度お茶しようね」

 

「い、行ってきます……」

 

(色々あったけど、楽しく話せたかな)

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+5

 

 ▽▽▽

 

「ビッグバン・バーガーですか!! やりたいです!!」

 

「凛世も是非……」

 

「アタシも!」

 

「私も! 友達とよく行くんだよね~」

 

「本当! うれしい! じゃあ、決定だね。詳細が決まり次第、蓮君に連絡させてもらうね」

 

(蓮君……? プロデューサーさまとお知り合い……?)

 

「みんな元気そうでいいグループだね! もしかしたらビッグバン・チャレンジも成功しちゃうかも! やってみる?」

 

「びっぐばん・ちゃれんじ?」

 

「どうするチョコ?」

 

「あれはさすがに人間じゃ無理だよ~。私にそんな度胸ないから……」

 

「ごめんなさい、冗談だよ。挑戦してもらうことはない……と思うよ。でも、蓮君は確か食べきってたかな。だからみんなで頑張ればいけるかも!」

 

「え、プロデューサーあれを食べきったんですか?!」

 

「プロデューサーさんすごいですー!」

 

「ごめんなさい、プロデューサーさん。人間じゃないとか言って」

 

「ふふっ、たぶん大丈夫だよ。あ、もうこんな時間だ。じゃあ、今日はこれで失礼します。蓮君……プロデューサーさんによろしくね」

 

「はい、ありがとうございました!」

 

 

 

「そういえば、みんなはよくビッグバン・バーガーに行ってるの?」

 

「以前、クラスメートの方と一緒に……」

 

「まあ、たまにな。夏葉は……あまり行きそうにないな」

 

「ええ。今日行ってみようかしら?」

 

「そういえば夏葉ちゃん、午後お休みだったよね~、何するの? ショッピングとか?」

 

「確かにショッピングもするけど今日は映画を見に行こうと思うの。前に私が出演したものよ。とても面白いわ!」

 

「そうなんですね! あたしたちも見に行けたらよかったんですがお仕事があるので……」

 

「早く見たいね~夏葉ちゃんの映画」

 

「そうなの? 嬉しいわ!」

 

「……明後日なら凛世もお供させていただこうと思っていたのですが……」

 

「ごめんなさい、凛世。その日は私が仕事なの。また今度一緒に行きましょう」

 

「ああーっ! もうこんな時間です! みなさん、早く行きましょう! 遅刻しちゃいます!! 夏葉さん、行ってきます!」

 

「! もうそのような時間でしたか……それでは夏葉さん、また明日」

 

「じゃあ、私たちもう行くね! 夏葉ちゃん、また明日!」

 

「じゃあな、夏葉!」

 

「ええ! みんな、また明日! ……それじゃあ私もそろそろ行こうかしら」

 

 

 

 ▽▽▼

 

 今日のスケジュール

 

 イルミネ

 ……

 

 アンティーカ

 ……

 

 放クラ

 ……

 午後

 果穂、智代子……トークショー

 

 樹里、凛世……ラジオ収録

 

 夏葉……お休み

 

 アルストロメリア

 ……

 

 ストレイライト

 ……

 

 ノクチル

 ……

 

 シーズ

 ……

 

 

 

 

 社長

 ……

 

 はづき

 ……

 

 雨宮

 ……

 午後

 お休み

 




一応ルブランにもコピ・ルアクは置いてあります。ルブランでコーヒーを何度も作ればそのうち出てきます。そのとき惣治郎は高いからあまり使うなよみたいなことをぼやきます。

春は大学卒業後、そのまま奥村フーズの経営に関わるようになりました。創業者の一族ということから若干優遇はされていますが、それ以上に彼女の手腕もすばらしいものでお客様の目線というものがしっかりと理解できている人材になっています。新事業もややごり押し感は否めないが大多数の役員からは称賛を得ている企画なので春はとても張り切っています。


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園田智代子と芳澤かすみ

 Afternoon 283プロダクション事務所

 

「えっと今日はもう帰るだけで明日の予定は……あ、そうだ、凛世ちゃんに漫画の続きを貸すんだった。忘れずに持ってこなくっちゃ」

 

 園田智代子。チョコアイドル目指して奮闘中。283プロの放課後クライマックスガールズの一員だ。そんな彼女が帰宅準備をしているときにプロデューサーがやってきた。

 

「智代子、今日の仕事もお疲れさま。さっきお得意様からホテルのビュッフェの優待券をもらったんだ。智代子、もしよかったら誰かと行ってくるといいよ」

 

「ありがとうございます! えっと今晩は大丈夫そうかな。……じゃあプロデューサーさん! 今から行けますか?」

 

「え? いや俺は……」

 

 どうやら自分が誘われることを考えていなかったらしく困惑している。が、智代子は続ける。

 

「さっきプロデューサーさんが誰でもって言ってたので! それに普段からお世話になっているお礼です! 一緒に行きませんか?」

 

「そんなこと別にしなくていいんだけどなあ」

 

 蓮は相手を友達や家族と指定しなかったことを少し後悔した。

 

「もう! そんなことないんですからね! 一緒に行きましょう! ね、プロデューサーさん!」

 

(……ここで断るほうがよくないな)

 

「わかった、行こう」

 

「はい! ありがとうございます! えへへー何食べようかなー」

 

 

 Night 

 

 ビュッフェの会場に来た。とてもおいしそうな食事が並んでいる。

 

「すごいですねぇ……」

 

 智代子は絶句している。

 

「あれもこれもどれもおいしそうです! あ、一応ツイスタ用に写真も撮って……」

 

「とりあえず、取ってきたらどうだ? 俺は待ってるから」

 

「はい! 行ってきます!」

 

 智代子はスイーツの方に向かった。

 

 蓮は席で待つ間、あたりを見回した。改めて客層の広さに驚いている。家族連れ、カップル、男だけで来てる人、さらには一人で来ている人もいる。特に、隣の客は一人ですごい量を食べている。その女性は智代子よりもずっと食べてる女性だなとプロデューサーは思った。そう、まるであれは知り合いの……と考えていた矢先、その人と目が合ってしまった。その女性は皿の上のお肉をすぐに平らげてこちらへ来た。

 

「久しぶりです! 先輩! すみません、しばらく合宿で海外にいて……中々会えなくて……寂しかったです」

 

「ああ。電話も難しかったもんな」

 

 彼女は新体操の芳澤選手。蓮の高校の後輩、かつ怪盗団の協力者。コードネームはヴァイオレット。高校に入ってすぐは成績不振だったがとあることがきっかけで精神的に大成長。今は世界大会で金メダルを獲ることを目指している。

 

「先輩もこのビュッフェに目をつけてたんですね!」

 

「いや、そんなにすごいとは思ってなかった。お得意先にもらった優待券できたから」

 

「そうなんですか? それは羨ましいです。……ところで一人で来てないんですよね……えっともしかして杏先輩とか真先輩と来ているんですか……?」

 

 なお、彼女も10股の当事者だ。

 

「いや、今日は違うよ。今日は……」

 

「プロデューサーさん! お待たせしました! あれ? その方は……」

 

「……先輩?」

 

「……う、うちのアイドルだよ。仕事のご褒美でな……」

 

「……本当ですね」

 

「はい」

 

「よかったです! じゃあ、ご一緒させてもらっていいですか?」

 

 突然の出会いではあったが相席になった。智代子は蓮の知り合いということですぐに了承した。そして芳澤に話しかけた。

 

「あのー」

 

「どうしたの?」

 

「も、もしかして新体操の芳澤選手ですか?!」

 

「え、知ってるの? 嬉しいな! はい、そうだよ!」

 

「す、すごい! あの、サインもらってもいいですか? あと写真も!」

 

「うん! いいよ!」

 

「ありがとうございます! あ、私、所属は283プロダクションで放課後クライマックスガールズの園田智代子と申します!」

 

「知ってるよ、チョコちゃん。いつも美味しそうなスイーツをツイスタにあげてるもんね」

 

「えっ、えーっ! もしかして私のツイスタ見てくれてるんですか? うれしいです! ……あの良ければ今日のこともツイスタにあげても大丈夫ですか……? プロデューサーさんも許可お願いします!」

 

「別に俺が写らなければいいと思うぞ」

 

「もちろん! 私も投稿していい?」

 

「はい! もちろんです! あ、せっかくなら一番好きなものを食べてる瞬間をお互い撮りませんか?」

 

「いいね! じゃあ私はこのお肉!」

 

「私はこのチョコレートケーキで!」

 

 お互いツイスタ用の写真を撮りあった。

 

「芳澤さん、すごく食べるんですね。なのにその体形……すごいです!」

 

「そんなことないよ。アスリートにとって食はエネルギーだからたくさん食べないと!」

 

「そうなんですね! 私もアイドルだからもっと動かないと……ということはプロデューサーさん私もアスリートみたいなものだからもっと食べてもいいんじゃ……」

 

「俺は何も言わないよ。夏葉がどう思うだろうな」

 

「ううっ……」

 

「でも、今日はせっかくいいところに来たんだ。気が済むまで食べるといいよ」

 

「ありがとうございます! えへへー次は何を食べようかなー」

 

「蓮先輩は何も食べないんですか? 早く取りにいかないと時間なくなっちゃいますよ」

 

「ああ、そうだな。取りに行こう」

 

 蓮は料理を取りに行って帰ってきたとき席に妙な緊張感が走っていることに気付いた。

 

「……」もぐもぐもぐ

 

「……」もぐもぐもぐ

 

(料理を取りに行って帰ってきたら二人とも無言だ……きまずすぎる。どうしたんだ……)

 

「はふっあむ……」

 

「あむっ……」

 

(いや違う。これは……)

 

「~~~~~!」

 

「~~~~~!」

 

(二人ともおいしそうに食べるなあ)

 

「はっ! プロデューサーさん! すみません、食べるのに夢中になってました!」

 

「私も……」

 

「気にしなくてもいい。二人ともとてもおいしそうに食べるな。今のすごくいい画になっててかわいかったよ二人とも」

 

「先輩、うれしいです! あと今のなんだか祐介先輩みたいでしたね!」♪ ☆彡

 

「そ、そうでしょうか。ありがとうございます! プロデューサーさんに褒めてもらうとやっぱりうれしいです!」♪♪ ☆彡

 

「俺も食べようか」

 

「あの、芳澤さん」

 

「どうしたのチョコちゃん?」

 

(いつもの流れなら……)

 

「お隣の席って元々芳澤さんの席ですよね? なんか店員さんがちらちら来ているなって……」

 

 蓮は少しほっとした。

 

「え? 本当だ! なんでだろう……」

 

「何時からここにいたんだ?」

 

「それは……あっ……」

 

 なんと時間切れだ。芳澤は急いで残ってるものを食べた。

 

「ああ! しまった! すみません、私はここで失礼させてもらいます。チョコちゃん、今日はありがとう! 蓮先輩! また連絡しますね!」

 

 芳澤は去っていった。

 

「さあ! プロデューサーさんも! 時間切れになる前に! 後悔しても遅いですよ! 私はもっと取ってきます!」

 

 ふと蓮が智代子のいた場所に目をやると想像以上に皿が多いことがわかった。芳澤の皿が智代子に重なっているわけではないみたいだ。

 

「あれ、智代子ってあんなに食べたっけ??? もしかしたら普段はだいぶセーブしてるのか……?」

 

 時間が過ぎ、二人はビュッフェから退出した。

 

「いっぱいおいしいものが食べられました! ありがとうございます、プロデューサーさん!」

 

「こちらこそ、ありがとう智代子」

 

「そういえば、何でプロデューサーさんと芳澤選手が知り合いなんですか?」

 

「高校の後輩なんだ」

 

「なるほど……もしかして高校時代新体操でもしてたんですか?」

 

「いや、してないが……」

 

「でも仲良いですよね! もしかして付き合ってたり??」

 

「……偶然会って仲がよくなることはあるだろ。これ以上はプライベート!」

 

「そうですか。んー、よく考えたら彼女がいるのにアイドルと二人きりで出かけるはずないですもんね! 失礼しました!」

 

「……そうだな。ははっ……」

 

(よし、楽しく話せたな……)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+10

 

 ▽▽▽

 

 蓮が帰った後、すぐに電話がかかってきた。

 

「先輩、早速連絡しちゃいました」

 

「早いな」

 

「だめでしたか?」

 

「いや、俺も話したいと思っていた」

 

「本当ですか? うれしいです……」

 

「今日食べてた量いつもより多かった気がするんだけど何かあったのか? どんだけ食べたんだ一体……」

 

「えっとそれは……ってそんなこと聞いちゃだめですよ!」

 

 ……ストレスが溜まってやけ食いしに行ってたなんてとてもじゃないけど言えない。

 

「ですが心配してくれてありがとうございます。久しぶりに声が聞けて本当に嬉しいです! 明日からも頑張れそうです! 蓮先輩はお仕事どうですか? まさか気になった子ができちゃったり……」

 

「それは冗談でも言えないなあ……」

 

「失礼しました。……でも先輩が蒔いた種ですからね。なんとかしてください」

 

「……はい」

 

(ほんとなんでこんなことになったんだろうか……)

 

 この会話は夜遅くまで続いた。

 

 

 ▽▽▼

 

 

 Morning 283プロダクション事務所

 

 次の日、智代子は朝一で来ていた。そこに凛世がやってきた。

 

「おはようございます」

 

「おはよう凛世ちゃん!」

 

「おはようございます、智代子さん。……あの、先日申し上げていた……」

 

「あ、少女漫画のこと? 持ってきたよ! ちょっと待っててね……」

 

 鞄をあさり始めた智代子……しかし……

 

「智代子さん? どうなされましたか?」

 

「ごめんね、凛世ちゃん。どうやら忘れちゃったみたい」

 

「いえ……そんなことは……」

 

(うう、少し寂しそうな顔をしてる……)

 

「明日ぜーったい持ってくるね!」

 

「そんな、凛世は……」

 

 そこに残りのメンバー全員が到着した。

 

「おはよう、みんな!」

 

「おはよう」

 

「おはようございます!」

 

「夏葉さん、樹里さん、果穂さん、おはようございます」

 

「みんな、おはよー!」

 

「そういえば智代子、昨日のツイスタの投稿を見たわよ」

 

「あっ」

 

「ずいぶんと好きなものを食べたらしいわね。さあ、ここにメニューがあるわ! 早速ジムに向かうわよ!」

 

「そんな殺生な……せめて、せめて宿題だけでも……」

 

「もう……しょうがないわね」

 

「そういえば、ちょこ先輩、新体操の芳澤選手と一緒にツイスタあげてませんでしたか?」

 

「チョコ、知り合いだったのか?」

 

「ううん、偶然ビュッフェで会っただけだよ~。意気投合しちゃってね~」

 

「そんな偶然あるのか……」

 

「いや~まさかプロデューサーさんと芳澤選手が知り合いだったなんて思わなかったな~。一緒に行ってよかった!」

 

「なんだプロデューサーの知り合いかよ……っておいちょっと待て」

 

「?」

 

 果穂以外、智代子を見る目が厳しくなった。

 

「……智代子さん?」

 

「……予定変更よ。智代子、今すぐ行くわよ!」

 

「えーっ! なんでー! せめて宿題だけでも……」

 

「凛世もお供致します……」

 

「凛世ちゃんもなんか怖いよ?!」

 

「……あきらめろ、チョコ」

 

「えっと……ちょこ先輩、がんばってください!」

 

「そんなあ……樹里ちゃんに果穂まで……」

 

「さあ! 智代子、行くわよ! よく考えたらビュッフェだったから少しメニューも考え直さないといけないわ!」

 

「とほほ……なんで~……」

 

 智代子は、その夜筋肉痛で苦しむこととなった。

 




まあこれを読む人は大体P5Rプレイ済みだと思うので気にする必要はないと思いますが万が一ということもあるのでね。

怪盗団およびその協力者は怪盗団事件や3学期の事件、改心事件をすべて乗り越えており自分の人生を歩んでいます。

芳澤は現在も現役の新体操の選手です。年齢的には若い世代に抜かれてもおかしくないですがメダリストの候補にまでなっています。職業柄海外にもよく行くので蓮とはあまり会うことができませんが暇な時間を見つけてお互い連絡を取りあっています。蓮以外の怪盗団に会うことは少ないですが良好な関係を築いているらしいです。


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杜野凛世と東郷一二三

 Night

 

(プロデューサーさま……あなたさまにとって凛世はどのような存在なのでしょうか……ほかの皆様のほうが魅力的なのでしょうか……)

 

 彼女は杜野凛世。放課後クライマックスガールズの大和撫子。プロデューサーに下駄の鼻緒を直してもらい、アイドルにスカウトされたことから彼女の人生が変わった。今日は将棋アプリのCM撮影をしているが何か不機嫌な様子だ。撮影が終わったので蓮は彼女に話しかけた。

 

「撮影お疲れさま、凛世」

 

「ありがとうございます」

 

「……凛世、今日はどうしたんだ? どこか具合が悪いのか?」

 

「い、いえそんなことは……ところで、プロデューサーさま……あちらの方はもしかして棋士の東郷一二三さまでしょうか……?」

 

「おお、よくわかったな。そのとおり。今回の将棋アプリは彼女が監修しているからな」

 

「それは存じ上げておりませんでした。あのご挨拶に伺ってもよろしいでしょうか……?」

 

「ああ、もちろん。俺も同行するよ」

 

「ありがとうございます……」

 

 東郷一二三。過去に女流棋士のリーグで優勝した経験があるが、とある事情により一時プロの身から退いていた。現在はプロに返り咲いたようだ。蓮との関係は、お互いが高校生の時に蓮が一二三から戦術の考え方を学んでいた。そして一二三は蓮に人生を変えてもらったのだった。例のごとく、蓮とは交際している。

 

「蓮君……」

 

「会うのは久しぶりだな、一二三」

 

「そうですね、そちらの方はもしかして……」

 

「初めまして、杜野凛世と申します」

 

「初めまして凛世さん。私は東郷一二三です。今回、この仕事を引き受けてくださってありがとうございます」

 

「いえ、そんなことは……凛世も将棋は嗜む程度にしますので……」

 

「そうだったんですね。嬉しいです」

 

「そうだったのか、凛世」

 

 そこでふと蓮は昔、一二三と対局していたことを思い出した。一二三も暇そうだったのである提案をした。

 

「せっかくなら凛世、対局していってはどうだ? まだ時間もあるし。一二三もどうだろう?」

 

「そんな、畏れ多いです……」

 

「いえ、私は全然……えっと……2枚落ちと一手20秒の早指しなら」

 

「ありがとうございます……」

 

「……では早速、あなたに東郷王国(キングダム)を堕とすことができましょうか? 対局よろしくお願いします」

 

 一二三は将棋のときに独特な世界観を生み出すことでも有名だ。

 

「よろしくお願いいたします……」

 

(一二三さまはさきほど何か詠唱しておりました、きっと何か物語でもあるのでしょう。では凛世の場合、この軍勢は283プロダクションでしょうか……? 

 

 ふふっ、では凛世のこの玉はプロデューサーさま……。

 

 角は果穂さん……この金将は樹里さん……飛車は夏葉さん……この銀将は智代子さん……

 

 全員が283プロのみなさまのよう……全員でプロデューサーさまを守りましょう……)

 

 2枚落ちの甲斐あってか序盤は凛世が有利だった。そして……

 

「ここで夏葉さん……王国(キングダム) を貫くビーチブレイバー飛車でございます……王手」

 

(もしかして一二三に影響を受けたのか……?)

 

 先に王手をしたのは凛世だった。しかし、

 

「甘いです、凛世さん。その刃、既に見切ったり」

 

 すぐに飛車がとられてしまった。

 

(夏葉さん……)

 

 また、飛車が取られたことを皮切りに凛世の勢いは衰えていった。そして、守りに徹していた金将と銀将もとられてしまった。

 

 そして……

 

「我が手に堕ちた蒼穹の竜よ、蘇りて闇の竜王となり、闇の業火で焼き尽くせ! ダーク・インフェルノ・飛車! 王手!」

 

(……さすが一二三だ。勝負あり……か)

 

 勝負を見ていたプロデューサーだが、電話がかかってきたため席を外した。

 

(逃れる術は……)

 

 将棋盤の上を283プロに見立てていたせいで凛世はこの状況が別の風景に見えていた。

 

(あれは凛世が取られてしまった駒……金将(樹里さん)飛車(夏葉さん)銀将(智代子さん)……

 

 こちらに行けばプロデューサーさまがラーメンに……

 こちらではプロデューサーさまが映画館に……

 こちらではプロデューサーさまがビュッフェに……

 

 まるで、これは今の状況……内堀まで埋められた、大坂城のようでございます……)

 

 凛世は考えた。明らかに20秒を過ぎていたが、一二三は何も言わず待っていてくれた。が……

 

(もはや手は……)

 

「負けました……」

 

 勝負は凛世の投了で終幕した。が、そのあと少し間があった。そして一二三は声をかけた。

 

「凛世さん、どうして投了しましたか?」

 

「打つ手が……凛世には見つかりませんでした」

 

「今回はここにこれを置けば次の手につながります」

 

「しかし、そのあとこれがここに動き……3手後に凛世は詰みでございました……」

 

「いいえ、違います。凛世さん、実はそれを動かしたあとこれをこのように動かせば……」

 

「!」

 

「凛世さん、ご存じだと思いますが王手をかけることそれ自体は詰みではありません。詰みの場合、投了することが求められますが、今回はまだ手があります。一見詰みように見える状況から大逆転勝利をしたというケースもありますから」

 

「……それは、将棋の話でございましょうか?」

 

「いいえ、将棋の話だけではないです。私は現実でも同じようなことを経験し、目撃しました。どの世界でも同じことが言えるんです。あなたが何に躓いているのか私には見当がつきません。ですが、あきらめるのは早いかもしれません。最後まで頑張ってください、凛世さん。これからも応援しています」

 

「そんな、畏れ多いです。ありがとうございます」

 

「では最後に、ありがとうございました」

 

「! ありがとうございました」

 

 

 

 

 

(あ、凛世。やっぱりあそこで詰みだったようだな……だが凛世はどこか清々しい顔をしている。何か吹っ切れたみたいでよかった)

 

「一二三。今日はありがとう。おかげでいい刺激になったようだ」

 

「いえ、あなたの願いなら私は……蓮君、久しぶりに対局したいのですが、少し時間がないようです。また今度、新手研究の相手をしてもらえますか?」

 

「ああ、もちろんだよ」

 

「ありがとうございます。ではまた教会で……」

 

 一二三は名残惜しそうに帰っていった。

 

(そういえば凛世……さっきからずっと俺の方を見ているな)

 

(凛世は王を、プロデューサーさまを必ず魅了してみせます。そもそも守る玉ではございませんでした。攻めて堕とします。なので、まだ投了する時ではございません。凛世がプロデューサーさまのなんばあわんになってみせましょう)

 

「……今日は遅くなっちゃったな。一緒に何か食べて帰らないか? 吉祥寺にいいジャズクラブがあるんだ」

 

「……! はい、よろこんで……」♪♪♪ ☆彡

 

 どうやら歌手も来ていたらしい。二人の帰りは遅くなってしまった。

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+15

 




タイトルつけ忘れてたとかある?

一二三は一度棋界から退いていましたが腕を磨き再び返り咲きました。ただ、美人であるということに変わりはないので結局将棋というよりメディアへの出演が仕事としては一番多いです。昔はそれを実力に伴わないことであったためあまり好んではいなかったが現在はある程度割り切れている様子。

蓮との交際は継続している。10股がバレてもなお人生を救ってもらった彼への好意は途切れなかった。だが自身が学生のころから忙しい身の上なので二人が直接会った回数は多くなく、連絡を取るだけの日が多い。それって付き合ってるの?とかは言っちゃダメ。本人のしあわせは本人にしかわからないです。


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小宮果穂と三島由輝

 Night

 

 とある男二人がファミレスで話をしていた。

 

「そういえば怪盗団のルポなんだけど、また書き直したんだ! 読んでくれないか!」

 

 彼は三島由輝。高校時代、バレー部に所属していた。しかしひょんなことから退学の危機に蓮・竜司と共に陥ったが怪盗団が解決。三島は怪盗団に心酔し怪盗お願いチャンネルを作成、怪盗団の活動に大きく影響を与えた。そして彼は怪盗団の行く末を見届け、怪盗団のルポを書くことを決心するのであった。

 

「前の段階でも十分いい出来だったじゃないか。何か気になる点でもあったのか」

 

「いや、大きくは変わってないんだけどね、やっぱり君に意見を貰いたくて。出版社よりも本人の意見がさ」

 

「そうか」

 

「じゃあ、俺お手洗い行ってくるよ。その間に少し読んどいててくれるかな?」

 

「ああ」

 

 三島はトイレに行ってしまった。一人残された蓮は書き直したというルポに目を通しはじめた。だが彼にはどこが変わっているのかわからなかった。集中して読んでいた蓮だが聞いたことがある声が聞こえてきた。

 

「あの……さーん」

 

「ん?」

 

「やっと気づきました。こんばんは、プロデューサーさん!」

 

「おお、果穂。ごめん、集中してたから気づかなかった」

 

 どうやら店内ということもありいつもとは違う小さめの声だったので気づくのが遅れたようだ。

 

 彼女は小宮果穂。283プロの放課後クライマックスガールズのセンター。見た目は大人のように大きいが実はまだ小学6年生。みんなを笑顔にするヒーローのようなアイドルを目指して日々全力で頑張っている。

 

「今日は家族でごはんを食べに来たんです。そしたらプロデューサーさんを見つけたので声をかけに来ました!」

 

「そうだったのか」

 

「あの、プロデューサーさん、何読んでるんですか?」

 

「これか? これはルポだよ」

 

「えっと、ルポって何ですか?」

 

「んー、そうだな。怪盗団っていうヒーローについて書いてあるんだ」

 

「そうなんですね! あの、あたしも読んでいいですか?」

 

「ああ、いいよ」

 

 書き出しはこうだった。

「お前のその歪んだ心、我々が頂戴する!」この言葉から当時の悪党たちは次々と「改心」されていった。心の怪盗団、ザ・ファントムは強きを挫き、弱きを助ける民衆のヒーローである。このルポはそんな怪盗団の活動記録である。

 

「プロデューサーさん、この字は何て読むんですか?」

 

「ああ、それはな『ゆがんだ』だ」

 

「これはなんですか?」

 

「ああ、それは『ちょうだい』だ。……少し難しい漢字が多いな」

 

「あ、そんなことは…….ごめんなさい、かっこよさそうなので読みたいんですがあたしには習ってない漢字が少し多いみたいです」

 

(……だよな、果穂にとっては漢字が少し難しいか……)

 

「あら、プロデューサーさんじゃないですか。いつも果穂の相手をしていただいてありがとうございます」

 

「あ、お母さん!」

 

「いえいえお気になさらず。私もいつも果穂さんには助けられています」

 

「娘を褒めていただいてありがとうございます。これからも果穂のこと見守っていてくださいね。それでは今日はこのあたりで失礼させていただきます。果穂、行くわよ」

 

「はーい! それじゃあプロデューサーさん、あたし帰ります! また読ませてください!」

 

「ああ、また今度な」

 

 果穂が帰ってすぐに三島が帰ってきた。

 

「いやー、びっくりしたよ。すごい美人な子だね。高校生かな? おかげで席に帰りづらかったよ……」

 

「すまない、三島。果穂は小学生だ」

 

「え、そうなのか! 果穂って君まさか……」

 

「放課後クライマックスガールズをよろしく頼む」

 

「……そういえば、アイドルのプロデューサーだったね、君。って、えっ! じゃあ、あの子、放クラの小宮果穂か! うわー、もったいないことしたなあ。ねえ、サインとかもらえたりしない……?」

 

「別にもらえなくはないが、それよりもルポの話だろう?」

 

「え、うーん、まあそうだね。そのために呼んだんだし」

 

「あのなあ、漢字が難しすぎる! 小学生が読めるような文章じゃないと一般には受けないぞ!」

 

「ええ……別に小学生向けの内容では……」

 

「いいだろう別に。怪盗団は民衆のヒーローだ! そして、ヒーローが好きなのは主に小学生だ! その層に受けなければ大衆受けなんてしない! 出版も絶望的だ!」

 

「そんな! 俺は怪盗団のすばらしさを適切に広めたいだけなのに……わかった、もっと簡単な表現を使うことにするよ」

 

(すまんな三島……これも果穂のためだ……)

 

 

 数週間後……

 

 Morning 283プロダクション事務所

 

「果穂、前に言ってた怪盗団のルポ、だいぶ読みやすくなったぞ。読んでみるか?」

 

「わぁー! ありがとうございます!」♪♪♪ ☆彡

 

(すごく喜んでもらえているようだ)

 

「前よりもずっと読みやすいです! しばらく事務所で読んでいってもいいですか?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

「ありがとうございます!」

 

「じゃあ俺は少し出てくるよ。昼前には帰るから」

 

「わかりました!」

 

 ルポを読み進めていった果穂はあることに気づいた。

 

(この怪盗団のリーダーって、プロデューサーさんみたいです!)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+15

 

 ▽▽▽

 

 果穂が事務所でルポを読んでいると放クラのメンバーがやってきた。

 

「あら、果穂、今日は何を読んでいるのかしら」

 

「怪盗団のルポです!」

 

「怪盗団? 懐かしいね~」

 

「怪盗団?」

 

「悪い人の心を盗むかっこいいヒーローです!」

 

「昔、社会現象になっていたわね」

 

「確か小学生くらいのときだっけ。なんだか懐かしいな」

 

「懐かしいよね~、私の学校ですごくはやってたんだ。本当にいたのかな?」

 

「さあ、どうなのかしら。私はいると思うわ!」

 

「へぇ、意外だな。アタシは都市伝説だと思ってた」

 

「もしいるのでしたら凛世はお会いしてみたいです」

 

「私も~。心ってどうやって盗むのかな?」

 

「どうなのかしら、心が概念的なものと捉えるのがそもそも間違いかもしれないわね」

 

「うーん、私にはわからないな~。そうだ! プロデューサーさんも何か知ってるんじゃないかな?」

 

「そうね、ちょうどそのときはプロデューサーが学生のときだからある意味当時を知る人ね。何か知ってるかもしれないわ」

 

「おいおい、さすがにそれは可能性低いだろ……」

 

「あの……みなさん、あたし怪盗団ごっこしたいです! ジャスティスVのピンチに駆けつけて一緒に悪の怪人をやっつけます!」

 

「おお、いいね、その設定!」

 

「でも誰にやってもらうんだ? いつものだと人数が足りないんじゃ……果穂はジャスティスレッドがいいだろ?」

 

「プロデューサーさんです! 怪盗団のリーダーがプロデューサーさんみたいなので!」

 

「プロデューサーさま……?」

 

「プロデューサーに……?」

 

「プ、プロデューサーさんに?」

 

「確かに、人知れないところで誰かのために働いている。プロデューサーにはぴったりね」

 

(それに……私の心は)

 

(凛世の心は)

 

(アタシの心は)

 

(私の心は)

 

 

 既に盗られてしまっている。

 

 

(……もしかしたら本当に心の怪盗なのかしら)

 

(まさかそんなわけ……ないよな)

 

「???」

 

 状況がわかっていない果穂はみんなが急に黙りこけた理由がわからず、首をかしげることしかできなかった。

 




三島は怪盗団のルポを何年もかけて書きました。怪盗お願いチャンネルは日が経つにつれてインターネットの海埋もれていきましたが意外と覚えている人は多いみたいです。現在はフリーライター…は副業でどこかの会社に勤めています。今でも蓮はもちろん竜司とも割と遊びます。なお、竜司と同様、あまり女の人に縁はないです。


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福丸小糸と新島冴

 Afternoon

 

(意外と早く終わったわ。休日の昼……今から何をしようかしら)

 

 彼女は新島冴。ヤメ検の美人弁護士である。怪盗団参謀の新島真の実姉であり一度捕まった怪盗団リーダーの尋問を行ったこともある。あと独身で彼氏もいない。そんな彼女が街を歩いていると……

 

(あれは、蓮君? それに一緒にいるのは……小学生かしら? 何をしているのあの子は! ……いえ、彼はそんなことする子じゃないわ……)

 

 しかし、次の瞬間、彼はお菓子を渡した。女の子はすごく喜んでいる。そのあと、女の子の方から手をつなぎ始めた。

 

(ちょっと! さすがにあれはだめでしょ?!)

 

 気づけば、冴は駆け出して、彼に声をかけていた。

 

「ちょっと蓮君、こんな小さな子を連れてどういうつもりなの?! 誘拐かしら。説明して頂戴!」

 

「ぴゃ!」

 

「落ち着いてください冴さん、この子はうちのアイドルで……」

 

「アイドル? それ本当なの? まさかあなた小学生を騙して……」

 

「あ、あ、あ、あの」

 

「?」

 

「ぴ、ぴぇ……」

 

「小糸……無理しなくていいぞ」

 

「ごめんなさい、少し驚かせちゃったかしら……無理せず、ゆっくり事実を話してね」

 

「あ、ありがとうございます。じ、じつは、お、お仕事はもっと早く終わったんです。わたしが食べたいお菓子があるっていってわざわざ一緒に並んでくれたんです。あの、あまりプロデューサーさんのこと責めないでください」

 

「そうだったの……」

 

「あと今日の撮影を小糸は頑張ってくれたからご褒美に何かご飯でも連れて行こうとしていただけなんです」

 

「だけど大の大人が小学生を連れまわすのは感心しないわね」

 

「冴さん。まだ全然明るいじゃないですか。夜までには帰るようにしてますよ」

 

「そ、それにわたし、高校生です!」

 

 未成年であることに変わりないが。

 

「! それは申し訳ないわ。本当にごめんなさい」

 

「せっかくなので冴さんも一緒にどうですか?」

 

「え、でも……」

 

「ぴぇ……」

 

(さっきの態度のせいで怯えてるわね……)

 

「せっかくだけど遠慮させてもら……」

 

「い、いえプロデューサーさんの知り合いの方……ですよね? な、なら大丈夫です!」

 

「で、でも……」

 

「き、来てください!」

 

「わ、わかったわ……」

 

 福丸小糸、小柄で人見知り、そして人一倍頑張り屋な女の子。283プロのnoctchillのメンバー。幼馴染の透たちがアイドルになると聞き、彼女たちの後を追うように小糸は283プロの面接を受けた。そして無事面接に合格したため、今に至る。その際の書類は表面上、問題はなかったのだが……

 

「なるほど、あなたはそのノクチルのメンバーなのね」

 

「は、はい、楽しくやらせていただいてます!」

 

「透明感のあるコンセプト、いいグループじゃない。中でもあなたは応援したいと思ったわ」

 

「! あ、ありがとうございます! えへへ……」

 

 小糸は嬉しそうだ。

 

「と、ところでさえさん? えっと、プロデューサーさんとどのような関係なんですか?」

 

「紹介が遅れたわね、私は新島冴、彼が高校生の頃からの知り合いよ。昔は検事をしていたけど今は弁護士をやっているわ」

 

「冴さんの妹が俺の1個上の学年でその流れで知り合ったんだ。いや、正確には少し違うか。何回かはルブランで会ってしっかり話したのは確か……ご……」

 

「蓮君、……その話はあまりしないほうがいいんじゃない?」

 

「そうだった。危ない危ない」

 

「?」

 

 小糸は二人が何を言っているのか理解できなかった。

 

「そうだ、せっかくだから私の名刺を渡しておくわ。何か困ったことがあったら遠慮なく頼って。私は誰かの力になってあげたいから」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「俺も何度も助けてもらったなあ」

 

「それは私も同じよ、蓮君。それで小糸ちゃん、あなたから見て彼はどう思う?」

 

「さ、冴さん……」

 

「えっと、ぷ、プロデューサーさんはわたしたちノクチルが活動できるように頑張って働いてくれてます。透ちゃんや円香ちゃん、雛菜ちゃんとも予定を合わせて活動させてくれたり、あと今日みたいにお菓子を買ってくれたりとっても優しいです!」

 

「……ふーん」

 

(うう、なんか視線が痛いような……)

 

「あ、あと一度ノクチルはお仕事で大きな失敗をしちゃってほ、干されてしまったことがあるんですけど、そんなわたしたちに対して頑張って仕事をとってきてもらったこともあるんです! だ、だからプロデューサーさんにはとても感謝しています!」

 

「……へえ」

 

「……」

 

「やっぱり、あなたは変わらないわね。昔から困っている人のことは見捨てない、全力で助ける姿は変わってないみたい。小糸ちゃん、あなた本当にいいプロデューサーに出会っているわよ」

 

「!」

 

「それに、……聞いたことないかもしれないけど、彼は高校時代にとんでもない理不尽を被ったの。……それも今普通に生活できてるのが奇跡と言っても差支えがないぐらいとんでもないものを。今でもとんでもない賭けに勝ったと思ってるわ」

 

「そうなんですか……」

 

「だからあなたたちのことが放っておけなかったと思うわ。本当に」

 

「冴さん……」

 

「間違ってる?」

 

「……いや別に。ただ、あの時経験したことは悪いことばかりじゃなくいいつながりもできたから」

 

「そうね……本当に強いわねあなたは」

 

「それに、小糸たちが頑張っているのは事実です。そんな姿を見て俺も頑張ろう、報いようと常日頃から思っているだけです」

 

「プ、プロデューサーさん……え、えへへ……」♪♪ ☆彡

 

 ほめて喜んでいるのはいつも通りだが、何かいつもより嬉しそうだと蓮は感じた。

 

「で、でもプロデューサーさん、わたしがいないとだめだめなんですからね! 昨日も頑張りすぎて夜遅くまで事務所にいたらしいじゃないですか!」

 

「うっ……どうしてそれを……?」

 

「昨日も? ちょっと、あなたの事務所って労働基準法守ってるの?」

 

「いや、それは……」

 

「じ、事務所の労働環境はい、いいと思います。結果的に撮影が長引くことはありますが、無理なスケジュールにならないようになってます。なのでわたしたちアイドルは大丈夫です。けど問題はプロデューサーさんです! この前、はづきさんと社長さんがプロデューサーさんが有給をとらないことに頭を抱えてました!」

 

「ちょ、小糸……」

 

「……やっぱりあなた働きすぎよ、昔から。真も頭を抱えていたっけ。本当に私の助けはいらない?」

 

「だ、大丈夫です。やっぱり休みとったほうがいいのかなあ……」

 

「たまには休みましょう! プロデューサーさん!」

 

「そ、そうだな。はは……」

 

(少しきまずい……話題を変えよう……)

 

「そ、そういえば冴さんは今日何をしていたんですか?」

 

「私? 大した事じゃないの。今日委員会があってそれに参加していただけ」

 

「委員会ですか?」

 

「そう。退屈じゃないと言ったら少しウソになるけど、必要なことだと思うわ」

 

「へえ……そ、そうなんですね」

 

「特に今日の議題はあなたたちにも関係があるかもしれないわ。文書偽造についての議題が挙がっていたの」

 

 二人は驚愕した。小糸はアイドルを始めたとき親から反対されるのを恐れて親から許可をもらったかのように見せかけていたからだ。これは立派な有印私文書偽造にあたる。

 

「一応説明しておくと文書偽造というのは大きく私文書と公文書に分かれているわ。最近、官僚による公文書偽造事件が話題になったでしょう? それでその議題になったと思うわ」

 

「でも、公文書は俺たちが扱えるものではないからあまり関係がないんじゃ……?」

 

「そうでもないのよ。例えば運転免許証。これは国家が発行するでしょう? これらを偽造することは公文書偽造にあたるわ。確かにあなたが指摘した通りめったに問題にはならないけど」

 

「は、はあ……」

 

「あなたたちに関係があるというのは私文書偽造の方よ」

 

(……)

 

(まずい、小糸が不自然になるほど汗を掻いている……)

 

「特に私文書偽造における立件が最近増加していて、加えて未成年の割合も増加している。未成年が偽造文書を使用したことで社会的信用を失って大きな損害を被った企業もあるぐらいよ。……蓮君のアイドル事務所は未成年が多いでしょ? あなたが見ていないところでアイドル達が偽造文書作成に関わっているかもしれない。あるいはあなた自身がそういった文書に騙されるかもしれない。だから……ちょっと話聞いてるの?」

 

「あ、ああ、聞いてる……聞いてます。はい……」

 

「それにしても腑抜けた返事ね……大丈夫なのかしら……? 小糸ちゃんも一緒よ。特に、あなたはまだ法的に未成年なの、何か契約を結ぶときには親の了承が必要になる。仮に親が了承していないのに了承を得ていると見せかけて契約を結ぶことは立派な犯罪になりうるわ。場合によっては結んだ企業から損害賠償請求が発生するかもしれない」

 

「ぴぇ……」

 

「だから契約を結ぶときは必ず親の了承を得ること。もちろん、軽いお買い物程度には必要ないけど大きなお金が動きそうだったり自分の環境が変化してしまいそうな場合は必要よ。そして場合によっては蓮君や君の事務所の社長さんみたいな大人に頼ってね、大丈夫、必ずあなたの味方になるわ」

 

「それはそうだな。ところで冴さん……」

 

「……さっきからあなたたち様子が変よ、特に小糸ちゃん汗の量が尋常じゃないわ、どうしたの?」

 

「ぴゃ!」

 

(う、さすが元検事、尋問慣れしているな。細かいところまでよく見ている)

 

「まさかあなたたち……何かやましいことしているんじゃないでしょうね?」

 

「べ、べべべ別にやましいことなんて」

 

「本当? ……蓮君、あなたを信用していないわけじゃないわ。ただ、また本当に犯罪になることはしていないでしょうね? どうなの!?」

 

 

 

 ▽▽▽

 

 小糸「な、なんとかばれずに済みました……プロデューサーさん、ありがとうございました……」

 

 小糸(あれ、また犯罪になることって一体……?)

 

 雨宮P「気にするな……小糸」

 

 雨宮P(ところでなんか小糸が怪訝な顔をしてるな?)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+10

 

 

 

 

 ▽▽▼

 

 蓮『なあ真』

 

 真『どうしたの、あなたから連絡なんて珍しいわね』

 

 蓮『今日、冴さんに会った』

 

 真『お姉ちゃんと? それも珍しいわね』

 

 蓮『もう二度と尋問は受けたくないです』

 

 真『……そう』




この後、新島冴はノクチルの大ファンになりました。もちろん小糸ちゃん推し。
真が蓮と付き合ってるのは知ってますが蓮が10股していることは知りません。真が10股のことを冴に知られると本当にめんどうなことになりそうと思っているので黙っています。付き合いが長いとは思っていますが真の仕事が忙しいことを知っているので結婚の提案はできないみたいです。


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浅倉透と御船千早

 登ってもてっぺんにたどりつけない、ジャングルジムは私の中でそんな存在だった。

 

『俺が、行くからさ!』

 

 ある日、男の人が一緒にてっぺんまで登ってくれた。それ以来、私は何か達成感というものを求めるようになったけど、全然だめだった。

 

『俺が、行くからさ!』

 

 ある日、アイドルにスカウトされた。最初はいつものような感じで断ったけど、同じ場所で同じセリフを聞いた。もしかしたらこの人なら退屈な日常を盗んでくれるかも、そう思った。そして、本当に盗んでくれた。もし本当に怪盗団がいるならきっと……

 

 ▽▽▽

 

 Night 新宿

 

「雨宮さん、また相性占いですか?」

 

「ああ、いつもすまない。千早」

 

 彼女は御船千早。占い師。本当に人の運命が見える。過去に運命を変えることができた蓮によって助けられた。年上でも恋愛対象になり得る蓮とは、真や春と同様の関係である。そんな彼女の必殺技、相性占いは特定の人と仲良くなることができるのだが……

 

「プロデューサーも大変ですね。あ、それとも私と一緒にいたいからそのように?」

 

「……いや、単純にわからないんだ。その子が考えていることが」

 

「うーん、求めていた答えとは少し違いますが……まあ、あなたの頼みなので。では親密になりたい相手を思い浮かべてくださいね」

 

(透……一体何を考えているんだろう? 好きなことはなんだろうか。アイドル……楽しんでるんだろうか……?)

 

「……うーん、以前から言ってますけどもう友好を深めることができると思いますよ? あ、それとも奥義・相性占いいっときます? 5000円です!」

 

「千早……それじゃダメなんだ。上っ面だけわかっても……その……なんだ」

 

「冗談です、雨宮さんなら大丈夫!」

 

「千早、ありがとう」

 

「それじゃ、今夜は一緒に……店番よろしくお願いしますー。まずは客寄せからですよー」

 

「ああ。……はい」

 

 

 別の日 Noon 新宿

 

 透は雑誌撮影の仕事が終わって帰宅途中だった。

 

(あ、日誌書かなきゃ……やっぱりプロデューサーってあの人とは違う人なのかな……)

 

 浅倉透。283プロのnoctchillの中心人物。とあるバス停でプロデューサーに出会った彼女は、彼女のオーラに惹かれた蓮にスカウトされる。最初は断った透だがある一言がきっかけで興味を持ち始め、そしてアイドルになることに決めたのであった。今はプロデューサーについて悩んでいるようだが……

 

「そこの女子高生さん。占いしていきませんか?」

 

 たまたま透を見かけた千早は透に話しかけた。透に何かを見出したのかもしれない。

 

「え、うーん」

 

「開運占い、金運占い、相性占い、運命占いなどができますよー。1回5000円ですー」

 

「運命占い?」

 

「まあ、急に言われてもぴんとこないですよね。じゃあ勝手に占いますね。……もしかして、昔たまたま会った人と最近、再会しましたか?」

 

「え、なんでわかったの?」

 

「運命占いしたらそのような相だったのでー。何か気に障ったならごめんなさい」

 

「いえ、そんなことないです。ありがとうございます。じゃあ、ついでに占ってくれませんか? 相性占いで」

 

「はい! では、親密になりたい相手を思い浮かべてくださいね。じゃあ行きますよー」

 

 透はプロデューサーのことを考えていた。

 

「ふむー、ふむふむ……」

 

 千早がカードをめくったとき世界の何かが変わった気がした。

 

「貴方の気持ちが相手に届いたはずですよ。ふむ、今ならさらに友好を深める事も出来るんじゃないでしょうか」

 

「え、そうなんですか? わかりました。ありがとうございます。じゃあ……」

 

 透は財布がないことに気づいた。

 

「もしかして、お財布失くされたんですか? ちょっと待っててくださいねー。……ふむふむ、あなたここに来るまでに仕事をしてませんでしたか? どうやらそこにあるらしいですよ」

 

「え、そうなんですか。じゃあ探しに行ってきます。すみません、財布なくて」

 

「いえいえ別に構いませんよー。何なら今日はお代はいいですよー。私は困っている人の標になりたいだけですのでー」

 

「……! ありがとうございます。でも財布を見つけたら払いに来ます」

 

 それを聞いて透はお辞儀をして撮影現場に戻っていった。財布はそこにあった。

 

 

 

 同日 283プロダクション事務所

 

「おつかれさまでーす、日誌届けに来ました」

 

「おつかれさま、透。今日もありがとう」

 

「うん。じゃあ、これで……」

 

(相変わらずわかりにくいな……本当に……)

 

「……せっかく来てくれたんだ。しばらくゆっくりしていってくれないか? はづきさんがアイス買ってきてくれてるんだ」

 

「うん。そうする」

 

(さて、日誌の内容は……え……)

 

『相性占いをしてもらった。仲良くなれるらしい。』

 

(確か今日の透の仕事は新宿の近くだったな……まさかな。まあ、相性占いの相手は俺とは限らないが……)

 

『もう友好を深めることができると思いますよ?』

 

(それとは別にちゃんと向き合わないとな。……そうだ)

 

「そうだ、ノクチルの仕事とってきたぞ。また海だ」

 

「……! そうなんだ」

 

「嬉しそうでよかったよ」

 

「うん。嬉しい」♪ 

 

「ははっ、やっぱりそうだったか。頑張って取ってきた甲斐があったよ」

 

「そうなの? ありがとう、プロデューサー」

 

「しかも、仕事は午前中までに終わるんだ。午後は自由だからみんなで遊ぶといいよ」

 

「え、そうなの? じゃあプロデューサーも遊ぼうよ」

 

「はは、たまにはいいな。小糸にも休めって言われてるし、その日は午後休を取ろうか」

 

「ふふ、一緒に泳ごうね、プロデューサー」♪ ☆彡

 

「海水浴は久しぶりだから楽しみだ」

 

「車で行くの?」

 

「ああ、そうだ。もし仮に社用車が使えなくてもレンタカーを借りようと思っているかな。電車の方がよかったか?」

 

「あー、プロデューサーが疲れるかなって思う。私は電車でもいいけど」

 

「うーん、あまり気にしなくていいんだけどな。送迎させてもらった方が俺は安心する」

 

「そうなんだ。じゃあ、車で」

 

「決まりだな。じゃあ……」ぐぅぅぅ……

 

 蓮のお腹が鳴ったようだ。

 

「プロデューサー、まだご飯食べてないの?」

 

「ああ、そうだ。少し時間がなくてな」

 

「ちゃんと食べないとだめだよ」

 

「そうだな、心配させてごめんな」

 

「せっかくだから一緒に食べる? そういえば真乃ちゃんがこの前、おいしいカレーの店を教えてもらったって言ってたんだ。今から、一緒に食べに行こうよ。割り勘で」

 

「申し訳ないけどもうすぐ営業に行かなくちゃいけないんだ。また今度にしよう」

 

「あー、残念。じゃあ、今度連れてってよ」

 

「……ああ、もちろん。ちょうどいいからロケの日の夜に行こうかノクチルのみんなで」

 

「あー、うーん。まあそれはそれでいいね」

 

「えー、どういうことだそれは」

 

「んー、どういうことなんだろうね」

 

「はは、わからないなー、教えてくれないか?」

 

「ふふっ、やだ、教えない」

 

「「あははっ」」

 

(透と仲良くなれたみたいだ)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+10

 

 ▽▽▼

 

 別の日 Noon

 

 透は再び千早の元に訪れていた。

 

「無事仲を深められたようですねー」

 

「あー、この前はどうもありがとうございました。次は来週の予定について占ってもらえませんか。仕事に行くのと、遊びに行くので」

 

「遊びに行くんですか? 楽しそうでよかったですー。では占いますねー」

 

 千早はカードを並べ、めくった。

 

「ふむふむ、これは……。塔の正位置が出ました。事故に気を付けてくださいねー」

 

「え……事故?」

 

「大丈夫です。未来に絶対はありませんから。たとえ悪い兆しでも、運命に負けない信念があればいくらでも幸せはやってきますよ。私は大切な人からそう教えてもらいました」

 

「……! はい、ありがとうございます。気を付けて行ってきます」

 

 占いの結果は悪かったが、透は千早の言葉を信じることにした。彼女にはプロデューサーとノクチルのみんながいる。そのためいかなる運命でも乗り越えられる、そう感じたからである。しかし、この占いの結果は彼女に直接降りかかる困難ではないことを透はまだ知らなかった。

 




なんで死神とか刑死者(吊られた男)とかよりも塔の方が不吉なんでしょうね?



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樋口円香と

 Noon 海水浴場

 

 樋口円香、noctchillのメンバー。プロデューサーにスカウトされアイドルを始めた幼馴染、浅倉透のことを心配して283プロのプロデューサーに釘を刺しに来たとき、蓮にスカウトされる形でアイドルを始めることとなった。

 

 そんな彼女は海でノクチルの仕事が終わって浅倉たちと海水浴をしていた。

 

 幼馴染4人で過ごす時間はとても楽しい。だからこの海水浴も本当に楽しい時間……

 

(あの人さえいなければね)

 

 

 少し前……

 

「なんであなたがまだここにいるんですか? 撮影は午前までで終わったので午後は自由でしたよね? あなたは仕事があるんじゃないんですか?」

 

「今日は午後休を取ったんだ。円香たちをしっかり家に届ける必要もあるし、何より俺もたまにはゆっくりしたいからな!」

 

「確かに、あなたは普段から働きすぎですが今じゃなくてもいいのでは……」

 

「いいじゃん、樋口。プロデューサー、この前言ってた通り遊ぼうよ」

 

「ちょっと浅倉……」

 

「あは~、たまには休まないとね~、プロデューサー!」

 

「それにプロデューサーさんが居てくれたら私たち安心できます!」

 

「……そうかもね」

 

(……なんで私たちの関係に割り込んでくるの。本当に、最悪)

 

「ちょ……思ったよりきついな……」

 

「えー、もう終わり? じゃあ私も」

 

「あは~、雛菜も疲れた~。プロデューサー、甘いもの食べよ~!」

 

 円香が物思いに耽ていたら少し離れたところに透たちがいた。一旦海から上がるようだ。

 

(私も……あれ、足が動かない……?)

 

 このとき円香は疲労が溜まっていたのが要因なのかわからないが、足を攣ってしまった。冷静でなかったこともあり、もがく形で海の中へ沈んでいった。

 

「なんだかんだ樋口も楽しそうだったね、ね、ひぐ……!」

 

「……あれ~円香先輩は?」

 

「円香ちゃん、どこ行っちゃったんだろう?」

 

 透たちは円香がいないことに気づいた。同時に海面に指先が出ていることも

 

「プロデューサー! 樋口が!」

 

「円香!!」

 

(足が動かない……苦しい……)

 

 円香は溺れてしまった。そのとき、走馬灯を見た。幼いころの記憶だった。

 

 ──────────

「まどか、怪盗団好きなんだ」

 

「なに? とおるには関係ないでしょ?」

 

「ふふっ、いいじゃん。いつか来てほしいね、怪盗団」

 

「来たらどうするの? とおるちゃん?」

 

「んー、じゃあ盗んでもらおうよ、日常を」

 

「あは~、非日常~。楽しそう~!」

 

「もう、ひななちゃん!」

 

 ──────────

 

(結局、日常は減ったけど来なかったじゃない。やっぱり怪盗団なんて……)

 

 そこで円香の意識は途切れた。

 

 

 ▽▽▽

 

 気が付けば円香は不思議な空間に居た。そこにはある男がいた。

 

「お目覚めのようだね」

 

「あなたは誰ですか?」

 

 その男は、白い服に赤い仮面を被っていた。

 

「君と似たもの同士だよ さすがに君は僕ほど複雑な環境にいないだろうけど」

 

「そうですか」

 

「呼び名が欲しければ、そうだな『クロウ』とでも名乗ろうか」 

 

「……ここはどこかあなたはご存知ですか?」

 

「おやおや、さっきの呼び名は気に入らなかったかい?」

 

「質問に答えていただけるとありがたいです」

 

「これは困った うーん、不思議な場所……じゃだめかい?」

 

「……そうですか」

 

「それで不思議な場所にいるわけだが、君はこの後どうしたい?」

 

「さあ、特に何も 強いて言うならある人だけには会いたくないですね」

 

「わかってるよ、君の近くにはとても大嫌いな人物がいる」

 

「……どうしてそう思うんですか?」

 

「きっと僕もそいつのことが大嫌いだからさ、ズタズタに引き裂いてやりたいほどに」

 

「……確かに、私たちは似ているかもしれませんね」

 

「わかってもらえて嬉しいよ」

 

「……」

 

 この男は

 

「せっかく仲良くなれそうだし、何か親睦でも深めないかい? んーそうだな、好物の話でも、パンケーキ、君は好きかい?」

 

「それなりには」

 

「僕は甘党だからね、好物の一つだったさ 今じゃその言葉は大嫌いだけどね、ああ良いものだったのになあ」

 

「好きなものなのに大嫌い? そんなことあるわけない ……嫌いなものは嫌いでしかないはずなのに」

 

「まあ、苦い思い出があるってことさ 君は何か気になることはないかい?」

 

「……さきほどからあなたは一体何がしたいんですか?」

 

 何か表面を取り繕っている。そんな気がした。あの人もわかりにくいけどきっとこんな感じに決まっている。

 

「僕かい? うーん、そうだな、僕は……」

 

 雰囲気が変わった。

 

「……俺は、せっかくだから大嫌いなあいつが絶望する顔を見たいのさ、君を利用してな!」

 

「っ……!」

 

 彼の服は白いものから黒い服になった。まるでカラス(クロウ)のようだった。

 

 これが本性……やっぱり大人なんてこんなもの……

 

 彼はノコギリのような刃物を手に取り、私目掛けて振り下ろした。

 このとき私は死を覚悟した。透、小糸、雛菜…………プロデューサー……

 

 

 

 

 ……でも、プロデューサーはスーツを脱いでもきっとこんな人じゃないんでしょ。

 

 

 ▽▽▽

 

 一方、透たちは溺れてしまった円香を救出しようとしていた。

 

「プロデューサー! 樋口が!」

 

「円香!! 俺が引き上げる! 雛菜は監視員を探してくれ! 小糸は急いで119番!」

 

「は、はい! わかりました!」

 

 小糸と雛菜は急いで指示されたように動いた。

 

「透は……待て! 落ち着け! 一人で飛び込むな!」

 

 透が冷静ではなかったことに蓮は焦ったが何とか円香を引き上げることができた。雛菜も監視員を見つけて戻ってきた。そこで間髪入れずプロデューサーが次の指示を出す。

 

「雛菜、円香は体が冷えているから体を拭くためのタオルを持ってきてくれ! 透はAEDを持ってきてくれ、さっき荷物の近くの自販機の下にあるのを見た!」

 

 そう指示したあと、プロデューサーは呼吸などの確認を始めた。案の定、息をしていなかったので気道確保をした後、心肺蘇生法で円香の蘇生を試みた。

 

「円香……必ず助けるからな!」

 

 ▽▽▽

 

 円香に向かってその男は刃を振り下ろした。が、その刃物は体をすり抜けた。

 

「!」

 

「っ……?」

 

 その男はとても驚いていた。そして口を開いた。

 

「なんてね、冗談だよ はは、またあいつに勝てなかったか たいした怪盗だよあいつは 相変わらず盗むのが上手だよ 本当に……」

 

 何となくだけど、わかった。彼と私は嫌いな人がいる点は同じだけど、それ以外は似ていない。あの人が感じているのはきっと自分に無い物を持ってる人に対しての嫉妬心。それと……執着? 私はそれをあの人に感じているわけではないから。少なくとも嫉妬なんてしていない……はず。私があの人を嫌っている理由は……それに怪盗……もしかしてこの男が嫌っている相手は……怪盗団?誰のことなんだろう?

 

 

「もう僕からの用は終わったよ ごめんね、引き留めちゃって」

 

「最後に、いいですか?」

 

「……何だい?」

 

「怪盗団はいると思いますか?」

 

「……さあ どうだろうね 彼らは日常に潜んでいるから」

 

「そうですか。すみません、突然変なことを言って」

 

「気にしなくていいよ ……さあここにもう用はないだろう? 君はいきなよ あいつによろしくな」

 

 再び、円香の目の前は真っ暗になった。

 

 ▽▽▽

 

 

(……ここは?)

 

 円香が目を覚ますと白い天井が見えた。

 

「気が付いたか、円香!」

 

 円香は一命を取り留めた。

 

「本当に良かった、円香……また大事な絆を失わずに済んだ……」

 

「……」

 

(あなたはこんな私との関係であっても絆と呼ぶのですね)

 

 そういうところ、本当に……暑苦しくて……大嫌いです。

 

 ▽▽▼

 

「もうすぐ退院できるなんて、本当によかったね、円香ちゃん!」

 

「ありがとう、小糸」

 

「あは~、円香先輩~、体治ったら甘いもの食べに行こ~! 雛菜パンケーキがいい~!」

 

「別のやつがいい」

 

「ええ~!」

 

「じゃあ、カレーにしよう。この前食べに行けなかったから」

 

「それは……ごめん」

 

「気にしない気にしない」

 

「……そういえば、なんで私は助かったの?」

 

「え、うーん、わからん」

 

「……溺れた直後に誰かが処置しないと助からないでしょ」

 

「ああ、そういうこと。えっと、すごかったよ、プロデューサー。えっと、確かあれ、人工呼吸ってやつだっけ? してたよ。救急車が来るまで。すごくしんどそうだった」

 

「……は?」

 

「あは~、円香先輩顔真っ赤~」

 

 ……今、体が熱いのはきっと体調が悪いせいだ。

 




人工呼吸のハードルはそれ自体の正しい方法よりも生理的嫌悪感の方が高いと思う。
タイトル悩んでます。


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市川雛菜と丸喜拓人

『やあ、雨宮君。ご無沙汰してるね。突然連絡を入れて申し訳ない』

 

『最近研究をしていてちょっと気になることがあったんだ』

 

『明日、仕事終わりに一緒に会えないかい? なんなら、新しくできたパンケーキの店でも行こうか』

 

 ▽▽▽

 

 Afternoon

「あは~、プロデューサー、雛菜今日お仕事頑張った~」

 

「ああ、そうだな。とても頑張っていたぞ。お相手もよく褒めてくれたよ」

 

「だよね~。だから、雛菜ご褒美がほしいな~! パンケーキ食べに行こ~! 新しくできたところがあるんだ~」

 

 彼女は市川雛菜。283プロのnoctchillのメンバー。透のことを慕っている彼女は自身の”しあわせ”のため、283プロのオーディションを受けた。そして合格した彼女は”しあわせ”を追い求めて日々アイドルを楽しんでいる。そんな彼女はパンケーキを食べに行きたいらしい。

 

「たまには甘いものもいいな。いいぞ、今日のご褒美だ!」

 

「やは~♡プロデューサーすき~~~」

 

 蓮は軽い気持ちでOKしたが、現場に行って少し後悔した。

 

「……結構並んでるんだな」

 

「雛菜も並ぶのはそんなすきじゃな~い。でもプロデューサーと一緒なら並べる~」

 

「そうか。俺も雛菜と一緒なら並ぶのも楽しそうだ」

 

「やは~♡雛菜もそう思う~!」♪♪ ☆彡

 

「それにしても美味しそうだなこの店のパンケーキは」

 

「でしょ~! この前、円香先輩も誘ったんだけど断られちゃったんだ~。なんでだろうね~?」

 

「うーん、俺にはわからないな」

 

(何かあったんだろうか?)

 

「しかし、パンケーキなんて久しぶりだ。最後に食べたのはいつだろう」

 

「雛菜も久しぶり~! ハワイで食べたときがたぶん最後かな~」

 

「ハワイか、確かにそれが最後かもしれない。そう考えると高校時代から食べてないのか」

 

「プロデューサーもハワイ行ったことあるの~?」

 

「ああ、高校の修学旅行でな」

 

「え~、いいな~! 雛菜の学校もハワイだったらいいのに~」

 

「まあ、ほかにもいいところはあるから……」

 

 そうこう話をしている間に、雛菜の飲み物が尽きたらしい。

 

「プロデューサー、雛菜飲み物無くなっちゃった~。買ってきてもいい~?」

 

「ああ、もちろん。気をつけてな」

 

「は~い! 気をつけて行ってきま~す!」

 

 雛菜が飲み物を買いに行ったことで蓮は1人になった。さて、今のうちに明日の予定の確認でもしようかと思ったその時……

 

「やあ、久しぶり雨宮君。返事がなくて少々焦ったけどちゃんと来てくれて嬉しいよ」

 

「え、その声は……丸喜? どうしてここに?」

 

 丸喜拓人。とある事件があった秀尽学園高校のカウンセリングとして一時期赴任していた。そのとき、蓮と知り合い、メンタルコントロールの方法を伝授する代わりにとある研究の意見を蓮に尋ねていた。色々あったが蓮たちとは割といい関係である。

 

「え、返事がないと思ってたけどまさかメッセージを見てなかったのかい?」

 

「すまない、見てなかった……」

 

 どうやら蓮が返事をする気がない通知をスルーする癖は治ってないみたいだ。

 

「偶然ってあるんだね……まあ、ちょうどよかった。最近僕はまた研究に携わることになったんだ」

 

「そうなのか。めんどうなことはするなよ」

 

「しないしない。人が成長できるチャンスは奪っちゃいけないもんね。あ、その流れでカウンセリングも再開したんだ」

 

「……そうか」

 

「で、その研究で気になったことがあってね。意見を聞きたいんだけど……」

 

 そこに雛菜が帰ってきた。

 

「プロデューサー、ただいま~! ……あれ~、どなたですか~その人~?」

 

「あ……連れがいたのか……ごめんね邪魔しちゃったかな?」

 

「う~~~ん?」

 

(さて、どうしたものか。この二人の相性は……正直微妙だ。丸喜には申し訳ないが後日時間をとってもらうか……)

 

「すまない、丸喜。今日は……」

 

 そこに蓮のスマホに着信が入った。明日の仕事先の人からだった。無視はできない。

 

「……雛菜、少し席を外す。代わりに並んでいてくれるか?」

 

「わかった~、待ってるね~プロデューサー!」

 

 蓮は少し離れた場所に行った。

 

「えっと、ごめんね。彼が誰かと一緒に来てるって思ってなかったんだ。あ、紹介が遅れたね。僕は丸喜拓人。今はスクールカウンセラーをしているんだ」

 

「そうなんですね~。市川雛菜で~す。アイドルしてま~す」

 

「え、彼って今はアイドルのプロデューサーをしてるのか。全然知らなかったなあ……。あの、市川さん、いい機会だからカウンセリングでもしようか?」

 

「え~、なんでですか~?」

 

「あ、いや別に無理にってわけではないんだ。彼のことは信用してるんだけど、彼の知らないところで何かつらいことがあったりしないかと少し気になっただけなんだよ」

 

「そうだったんですね~。雛菜は楽しくしあわせ~にアイドルしてま~す」

 

「それならよかった。なら別に何か……無さそうだね。じゃあアイドルは何が楽しい?」

 

「う~~~ん、全部~~~! 歌もダンスも楽しい~~! あとドラマとかバラエティの撮影も楽しい~~!」

 

 本当に丸喜の杞憂だった。

 

「ごめん、雛菜。それと丸喜も」

 

「おかえり~、プロデューサー!」

 

「おかえり、雨宮君……」

 

「ずいぶん、堪えてないか……?」

 

「いや……彼女、とても強いね」

 

(まあ、雛菜にカウンセリングは絶対要らないだろうな……)

 

「せっかくの機会だけど丸喜今回は……」

 

「雛菜いいよ~? 何かあるんでしょ~?」

 

 承諾してくれた雛菜だがどこか不満そうな感じだった。

 

「いいのか? 雛菜」

 

「うん~。パンケーキ食べれるから~~」

 

「ありがとう、市川さん」

 

(だけど、聞かせるわけにはいかないかな……雨宮君、このあと時間とれるだろうか?)

 

 そうこうしているうちに順番が来た。

 

「わ~、おいしそ~~! いただきま~す!」

 

(写真も撮ってたな。ツイスタ用かな? 俺が写ってなきゃいいけど……)

 

「やっぱり甘いものに限るね」

 

(この組み合わせはなかなか見ることはないな……)

 

 3人はパンケーキを堪能した。

 

「ごちそうさま~! おいしかった~~~!」

 

 雛菜はスマホを見て何かに気づいたようだ。

 

「プロデューサー、パパとママが帰ってこいって言ってる~。お中元でいいのが届いたんだって~。なんだろ~?」

 

「うーん、メロンとかじゃないか? 何にせよおいしいことに間違いない」

 

「そうだよね~! じゃあ雛菜もう帰る~! プロデューサーまた明日ね~!」

 

「一人で大丈夫か?」

 

「大丈夫~!」

 

「そうか、じゃあ気をつけてな」

 

「プロデューサー、バイバイ~」

 

(よし、楽しく話せたな)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+10

 

 

 ▽▽▽

 

 Night 

 

「どうしたんだ、レン。何か悩み事か?」

 

「いや、それがな……」

 

 ~~~~~~~~

 

「ちょうどよかった。さっきの話の続きなんだけど」

 

「研究っていうのは、認知訶学のことか?」

 

「察しがよくて助かるよ。そこであるデータを取っていた時に急に変なデータが観測されたんだ。……もしかしたら君たち関連のことで最近何かあったのかなって。心当たりはあるかい?」

 

「いや、何もない。それはいつからなんだ?」

 

「ああ、それは……」

 

 ~~~~~~~~

 

「……それってお前がプロデューサーになったぐらいじゃないか?」

 

「ああ、そうみたいなんだ」

 

「しかし、ワガハイたちは何も知らない」

 

「……ただの偶然ってこともある」

 

「それならいいんだけどな。だが……」

 

「……」

 

 ▽▽▽

 

 

 -283プロ-

『写真を送信しました』

 

『透先輩~、パンケーキ食べてきた~! 今度一緒にいこ~』

 

『いいね、グー』

 

『めっちゃおいしそ~!』

 

『うんうん! とってもおいしそう!』

 

『あ! 最近できたお店だよね! 私も行ったよ! おいしいよね!』

 

『ちょ~うらやまし~! だいぶ並んだっしょ?』

 

 ──────────

 

「ほわっ?」

 

「え……」

 

「あれ?」

 

「ふぇ」

 

「あれー?」

 

「おやおや」

 

「??」

 

「えっ」

 

「おいしそうです! どこなんでしょうか?」

 

「あれ、これって……」

 

「おい……」

 

「そんな……」

 

「……大丈夫よ」

 

「……お仕事だよね?」

 

「えっと……」

 

「うーん?」

 

「あれ、事務所のグループにメッセージがある……」

 

「ちょっと、あいつ……」

 

「あれ、ちょいまち」

 

「あっ」

 

「は?」

 

「ぴぇ……」

 

「えー!」

 

「……重たそう」

 

 ──────────

 

 

 -ノクチル-

『ちょっと雛菜、誤爆してる』

 

『え~? あ~、間違えた~』

 

『雛菜ちゃん……』

 

『まあ、そういうこともあるよ。ドンマイ』

 

 

 

 画像を見た者の中にパンケーキに注目した者は少なかった。なぜなら背景にボケてはいるが見慣れたスーツ姿があったからだ。

 




プロデューサーの運命やいかに。


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大崎甜花と織田信也

 Noon 秋葉原ゲームセンター

 

「にへへ……甜花の勝ち! プロデューサーさん、もっかいやろっ……!」

 

 彼女は大崎甜花。283プロのアルストロメリアのメンバー。双子の妹の甘奈と一緒にアイドル始めた。彼女はゲームが大好きでゲーセンでも遊ぶ。そんな彼女は今日、蓮と一緒にガンナバウトSPをしにきたようだ。

 

「もちろん、いいぞ。どんどんやっていこう。こういうゲームもたまにはいいもんだな」

 

「にへへ……あ、でも、甜花コインない……プロデューサーさんごめんなさい……」

 

「気にするな甜花。……俺も細かいのがないな。休憩がてら両替しにいくか」

 

「うん!」

 

 両替しにいった二人が戻ると男の人がいた。大学生ぐらいの男だった。

 

「あう……もう次の人が来ちゃった……仕方ないよね……」

 

「まあ少し待っていよう。順番だから仕方ない」

 

(だが、どこかで見たことがあるような……?)

 

 その男は蓮の声に反応したのかこちらを振り返った。そして蓮に気づいた彼は言った

 

「やあ、雨宮さん。久しぶり。またここのゲーセンで会ったね」

 

「……まさか、信也か? 大きくなったなあ!」

 

「うん、正解。さすが雨宮さんだね」

 

(……プロデューサーさんの知り合い?)

 

 織田信也。チーターを倒すほどとてもガンナバウトが上手。チーターをこらしめようとしていた蓮の銃の師匠となった。年相応に怪盗団が大好きだった彼は蓮に銃のテクニックを教えつつ、蓮から本当の強さを学んだ。かつての小学生が現在では得意なゲームの腕を磨き、プロゲーマーとなっている。

 

「今でもゲーセンに来ているんだな」

 

「うん、やっぱり僕の原点って感じがするから。あとたまにチームの人ともしにくるよ」

 

「はは、プロゲーマーらしいな」

 

「プ、プロゲーマー……初めて見た……」

 

「まあ、そんなに誇れるような実績はまだないけどね。……そうだ、雨宮さん。久しぶりに一緒にやらない?」

 

「ああ、もちろん。……すまない甜花、少し待っていてもらえるか?」

 

「え……う、うん……甜花は大丈夫……プロデューサーさんのプレイ見とくね……」

 

「ありがとう。じゃあやろうか、信也」

 

「うん、こてんぱんにされても泣かないでよ」

 

「はは、お手柔らかに頼む」

 

 こうして二人の対戦が始まった。

 

「へー、まだ覚えてるんだ。そのテクニック」

 

「厳しい先生に教わったからな!」

 

「そうだね! だけどこのゲームは前とはちょっと違うよ! これが新しいテクニック!」

 

「うお、さっきやられたのはそれか! あぶね!」

 

「ほらほら、やられちゃうよ!」

 

 結果は信也の勝ちだった。

 

「くそ、まだ勝てないか」

 

「そう簡単に僕は負けないよ。でもやっぱり筋がいいね。新しいテクニックにもすぐ対応したし。さすが雨宮さんだ」

 

「はは、ありがとう、信也」

 

 しかし、蓮のプレイをあまり快く思わない者がいた。

 

「プロデューサーさん……」

 

「おお、甜花、どうした?」

 

「もしかして……嘘ついてたの?」

 

「……え?」

 

「プロデューサーさん、甜花としてたときよりもずっと上手だった……もしかして手加減してた……?」

 

「いや……そんなつもりはなかった……でもどこか手加減してたかもしれない、ごめんな甜花」

 

「……」

 

(うう、少し不機嫌なようだ)

 

「……あの、信也さん」

 

「ん? どうしたの?」

 

「甜花と勝負してくだしゃ……ください!」

 

(噛んだ……)

 

「うん、いいよ。いっしょにやろう!」

 

「にへへ、プロゲーマーを倒して、甜花が最強になるっ……!」

 

 そんな意気込みとは裏腹に甜花は惨敗した……

 

「ひぃん!」You Lose.

 

(完膚なきまでに叩きのめされたな……)

 

「えっと……甜花さんも中々筋がいいね。雨宮さん以来だよ」

 

「ほんとに……?」

 

「うん、そう思うよ」

 

「じゃあ、もう一戦……」

 

「うん、じゃあ……ん?」

 

 どうやら信也のスマホにメッセージが届いたようだ。

 

「ごめん、チームのメンバーから呼ばれちゃった。もう帰るね。ありがとう、雨宮さん、甜花さん。楽しかったよ」

 

「ああ、こちらこそ。またやろうな」

 

「甜花も……楽しかった……です」

 

「そうだね、またやろうね。じゃ!」

 

 こうして、信也は帰っていった。

 

「あの……甜花?」

 

「……やっぱりプロデューサーさん、嘘ついてた」

 

「いや、そんなことないぞ……たまたまいい動きができてただけだって……」

 

「でも、やったことないみたいなこと言ってた……だって信也さんとプレイするのは久しぶりって言ってたしやってたときのテクニック……昔からあるやつだったから……」

 

「……」

 

「甜花……負けたままじゃ……悔しい……! 甜花、あのプロゲーマーの人に……勝ちたいっ……!」

 

「……甜花」

 

「だから……プロデューサーさん……甜花の特訓に付き合ってほしい……です。甜花、もっとプロデューサーさんと一緒にガンナバウトしたいです。お願いしましゅ!」

 

「もちろんだ、甜花。俺でいいならいつでも付き合うぞ!」

 

「にへへ……ありがとう、プロデューサーさん……じゃあ、さっそくやろっ……!」♪♪♪ ☆彡

 

 こうして、仕事終わりに時間があれば蓮と甜花はゲーセンに寄るようになった。

 

(よし、楽しく話せたな)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+15

 

 ▽▽▼

 

 数日後……

 

 Night

「ただいま……」

 

「おかえり、甜花ちゃん! 大丈夫、疲れてない? もうお風呂沸いてるよ☆」

 

「なーちゃん……そうだね、お風呂入る……」

 

「うん! 準備するね☆」

 

「にへへ……」

 

「そういえば甜花ちゃん、帰ってくるの遅かったね。どうしたの?」

 

「あ……お、お仕事だったから……」

 

「やっぱそうだよね! お仕事増えて甘奈もうれしい! ……でも夜遅くなっちゃうのは不安だなあ……」

 

「でも……遅くなっちゃうときはプロデューサーさんがいてくれるから……大丈夫……!」

 

「さっすがプロデューサーさん! 頼りになる~☆」

 

「にへへ……」

 

「ねー、聞いて甜花ちゃん! 明日は有名なファッションショーの見学に行くんだよ! もしかしたら有名なモデルさんとかも来るかも☆」

 

「そうなんだ……もしかして遅くなっちゃう……?」

 

「あ……そうだね……でもプロデューサーさんがいてくれるから大丈夫だよ☆」

 

「なら……安心っ……!」

 

「そういえばこの前、プロデューサーさんがね……」

 

 甘奈は、目の前の姉の帰りが遅かった理由が愛しのプロデューサーと二人で遊んでいるからだということを今はまだ知る由もない。

 




信也君はFPSのプロゲーマーです。誇れるような実績はないとは言うものの大きな実績がないだけで海外のプレイヤーにも名を知られている将来有望な選手の一人です。チーターと疑われることもあるそうな…

ガンナバウトは蓮たちが遊んでいたものから代わって新しいゲームとなっています。千雪も甜花と遊んで以来はまってしまったそうです。ちなみに千雪は天性の才能があり、最初こそ甜花に教えてもらっていましたが今では甜花よりはるかに上手です。甘奈は本気で取り組めば甜花より上手になりますが興味がないためまだ下手です。まだ…ね。こんなこと言ってますが甜花は一般人よりは遥かに上手です。周りが化け物なだけです。ス〇ブラSPでいうVIPの魔境にいる人みたいな感じですかね。
強さは信也>蓮≧千雪>甜花>甘奈です。


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大崎甘奈と高巻杏

 Morning

 

「おっはよー、プロデューサーさん! 今日も頑張っていこうね!」

 

「おはよう、甘奈。今日は元々オフだったのにすまない」

 

「ううん! 全然平気! 甘奈もこのファッションショーに興味あったんだ☆」

 

 大崎甘奈。283プロのアルストロメリアのメンバー。大崎姉妹の妹。双子の姉のかわいさを広めるためアイドルを始めた。今日はとあるファッションショーに取材をして、1つのコラムを作るという体でお邪魔させてもらっているようだ。

 

「そうか、ならよかった。取材とはいえそんなに気張らなくてもいいぞ。折角だから楽しんでいこう」

 

「うん! ……ねえ、プロデューサーさん。編集長さんは今日はいないの?」

 

「一応会場に来ているらしいよ。だけど今日はあちらも仕事があるから一緒ではないだろうな」

 

「そうなんだ。わかった!」

 

「じゃあ、控室に挨拶に行こうか」

 

「うん!」

 

(取材とはいえプロデューサーさんと二人っきり……だめだめ、集中しなきゃ!)

 

(どうしたんだろう、甘奈。有名なモデルさんに会うかもしれないから緊張しているのか……?)

 

 少しギクシャクしていたが、挨拶回りはある程度終わった。

 

「有名なモデルさんがいっぱいいたな……改めてすごいイベントだ……」

 

「そうだね、プロデューサーさん。甘奈このファッションショーの記事を書くことができて本当に嬉しいな☆」

 

「そうか、じゃあ気合い入れないとな!」

 

(いい刺激になったようだ。よかった)

 

「そういえば、モデルさんもそうだけど裏方さんもたくさんいるね」

 

「ああ、この規模になるとやっぱり裏方さんも多いな。結構混みあってきたな……」

 

 このとき、甘奈に1つの考えがよぎった。

 

(……今なら腕にしがみついてもいいかな? はぐれちゃうと心配させちゃうし……)

 

「甘奈、大丈夫か? 人が多くなってきたな。少し開けたところに行こうか」

 

「う、うん! ねえ、プロデューサーさ……」

 

「あー、蓮じゃん! 久しぶり~!!」

 

「……え? うそ……」

 

「久しぶり、杏。来ていたんだな」

 

 高巻杏。アメリカ系クォーターで怪盗団の演技派……女優。コードネームはパンサー。蓮とは同じクラスメートで席が前後同士だった彼女はとある人物をターゲットにした際、イセカイに迷い込む。そのときにペルソナの能力に目覚め、怪盗団に入ったのであった。現在は、モデルをしている。

 

「もー来るなら連絡してよー! もしかして知らなかった?」

 

「あー、さすがに誰が参加してるまでは見る時間がなかったから。ごめん、見てたら連絡してたかな」

 

「まあ、忙しそうだからね。あんまり気にしないで! ……ところでその後ろの子は?」

 

「私、大崎甘奈っていいます! あの……高巻杏さんですよね?」

 

「うん、そうだよ! 甘奈ちゃん!」

 

「すっごいモデルさんだって前からめっちゃ思ってました! お会いできてうれしいです!」

 

「ほんと? うれしい! これからも頑張るから!」

 

(そうか、杏も有名になってるんだな。よかった)

 

「ねえ、蓮~。その子も今日のショーに出るの?」

 

「いや、今日は取材の形で来たんだ。ある雑誌で取り上げてもらうことになってな」

 

「そうなんだ~。じゃあ、私のこと見ててね! ……そうだ! このショー終わったあと時間ある? せっかく会ったんだから遊びに行かない?」

 

(……え?)

 

「遊びに行きたいのは山々なんだが……俺、夜は別の子を別の現場へ送迎しに行かなきゃいけないんだ……」

 

「んー、そっか。じゃあ、昼ごはんで勘弁してあげる!」

 

「え、そんなに解散が早いのか?」

 

「私、今日のトップバッターなんだ! だからお昼休憩にはもう解散なんだよ」

 

「そうだったのか。そういえば生でモデルをしているところを見るのは高校以来か、楽しみだ」

 

「それって生の活動じゃないなら見てくれてるってこと?」

 

「そういうこと。目についたら確認するようにはしてるよ」

 

「そうなんだ、あんがと! そういえばさ……」

 

 なお、杏は蓮の彼女の1人である。二人は仲睦まじげに話しているがこの場に一人狼狽えている者がいた。

 

(プロデューサーさんと杏さんってもしかして……恋人同士なの……かな……じゃないと……あんなに仲良くないよね……?)

 

 甘奈はプロデューサーが自分から離れていくような気がした。

 

「おっとそろそろ時間だね。ごめんね、甘奈ちゃん。プロデューサーを独占しちゃって」

 

「っ! いえ! そんなこと……」

 

「じゃ、二人とも私のショー楽しんでいってね!」

 

 杏は行ってしまった。

 

「……ごめん、甘奈。少し放置してしまって」

 

「ううん! 全然! そんなことないよ! ねえ、プロデューサーさん……」

 

「どうした、甘奈?」

 

「やっぱり何でもないよ! そろそろ始まっちゃうよ! ショーを見に行かなきゃ!」

 

「お、おう……」

 

 こうして甘奈と蓮は会場に向かっていった。

 

「いっぱい人がいるね……」

 

「そうだな、逸れないようにしないと。ほら、甘奈」

 

「!」

 

 蓮は甘奈に自分の腕に掴まるよう促している。

 

「で、でもプロデューサーさん……」

 

「申し訳ないけど我慢してほしい。逸れてしまって甘奈に何かあったら俺は自分を許せないと思うんだ」

 

「でも……」

 

(杏さんが……)

 

「……きっと杏がいても同じことはしたよ」

 

「!」

 

(やっぱり優しいな……プロデューサーさん……)

 

「……ありがとう、プロデューサーさん!」

 

(手をつなぐ形になったな……まあいいか)

 

(プロデューサーさんの手……大きくて暖かい……安心するなあ)

 

「……えへへ☆」♪♪♪ ☆彡

 

(なんか機嫌が良くなったな)

 

 そしてショーが始まった。杏がトップバッターで出てきた。

 

「すごい……これがプロのモデルさん……」

 

(正直、驚いた。ここまですごくなってるとは……)

 

 レベルの高いモデルたちを見て甘奈はどうやら満足しているみたいだった。

 

 昼休憩に入り、杏からメッセージが届いた。

 

『終わったよー、とりあえず裏口に来てー』

 

(杏から連絡は来たが……甘奈を放置するわけには……)

 

「あの……プロデューサーさん。甘奈ね、杏さんの取材がしたいなって……お昼一緒にしちゃだめ……かな?」

 

「……! 聞いてみよう」

 

『甘奈が杏に取材をしたいそうだ。一緒に行ってもいいか?』

 

『うん! いいよ!』

 

「OKだそうだ。裏口集合だからそこに行こうか」

 

「うん! ありがとう、プロデューサーさん!」

 

 こうして合流した三人は近くのカフェへ

 

「杏さんのショー見てました! ぜひ取材させてほしいです!」

 

「えー、照れるな! ありがとう、甘奈ちゃん! ところでどこの雑誌なの?」

 

「えっと”アプリコット”って言うんですけど……」

 

「へー! そうなんだ! 今でも続いてるんだ、あの雑誌! 昔何回か読んだことあるよ!」

 

「え! そうなんですか! 何か嬉しいです!」

 

(……正直、意外だ。千雪のような女性が読むものだと……意外と読者層が広いんだな)

 

「えっと……じゃあ、杏さんはモデルをするとき何を意識してるんですか?」

 

「みんなに笑顔を届けられるようにって感じかな! 自信を持ってほしいんだ!」

 

「へえ、そうなんですね! ありがとうございます! あの、どうしてモデルになろうと思ったんですか?」

 

「最初は親の仕事の都合から読モをしてたんだ。正直、あまり意識は高くなかったんだ」

 

「でも今はすごいモデルさんですよね、何かあったんですか?」

 

「そう! ある日同業者の人にモデルの仕事で負けちゃって、そのときとても悔しいって思った。そのとき色々あって入院している親友がいたんだけど親友を元気づけるために誓ったんだ、トップモデルになるって! だからモデルを続けてるの!」

 

「そんなきっかけがあったんですね!」

 

「あ、ついでに聞いて欲しいことがあって、その親友なんだけど、私って帰国子女だったから最初は学校のクラスで浮いてたんだ。でもその子は私にも分け隔てなく話しかけてきてくれて……それからずっとしゃべるようになって仲良くなったんだ」

 

「いい話ですね!」

 

「そうでしょ! もっと聞いて聞いて!」

 

 こうしてしばらく取材は続いた。

 

 

「甘奈、そろそろ次のショーが始まる」

 

「え、あ! もうこんな時間! 杏さん、ありがとうございました!」

 

「全然! ショーの続き楽しんでいってね!」

 

「はい! あ、じゃあ最後に質問1ついいですか?」

 

「うん、なあに?」

 

 

 

「あの……今、交際している人はいるんですか?」

 

 

 

「!?」

 

 二人は甘奈の発言に度肝を抜かれた。予想できなかったらしい。

 

「えっと、どうして……?」

 

「あ! いえ、やっぱり恋愛のことって何か言及しておくと女子高生には喜ばれるかなと思ったので……」

 

「そ、そうだよねー……あはは……」

 

(……まずい、これだけは……)

 

「……うん! いるよ!」

 

 蓮は杏の発言に驚いた。とうとうバレてしまうのかと思った矢先

 

「一般男性の方がね!」

 

 杏は誤魔化した。

 

(なるほどな……もしかしたらこういう対応慣れてたりするのかな)

 

 一応、浮気をしているのはこの屋根裏のゴミのため、杏の方に非はない……のかもしれない。

 

「!!! そうなんですね! ……あのその方っていうのは……」

 

「あー、その人は業界人じゃないからさすがにプライベートのことは言えないかな。ごめんね。あ、この話はやっぱオフレコで!」

 

「わ、わかりました! ごめんなさい、困らせちゃって」

 

「ううん、気にしないで! それよりもう始まっちゃうよ?」

 

「あ、そうでした! ありがとうございます、杏さん」

 

「こちらこそ! じゃね!」

 

「今日はありがとう、杏」

 

「全然大丈夫! それよりも仕事頑張ってね!」

 

「ああ、じゃまた今度」

 

「うん! またね!」

 

 そしてそそくさと退場した蓮と甘奈であった。

 

「……ねえ、プロデューサーさん」

 

「……どうした、甘奈?」

 

「杏さんの彼氏ってもしかして……プロデューサーさん?」

 

「……」

 

「甘奈、ちゃんと答えてほしいなー……」

 

「……杏と俺は高校のときに知り合った。俺たちは”仲間”だ」

 

 事実、その言葉に嘘はない。

 

「……そうなんだ。ごめんなさい、プロデューサーさん」

 

「甘奈が謝ることじゃないよ。俺たちの関係も気になるだろうけど、今は目の前のことに集中しよう。さあ、行くぞ!」

 

 そう言って、蓮は甘奈に手を差し出した。逸れないようにするために。

 

「……うん!」

 

 甘奈は先刻と同様に握り返した。

 

(……プロデューサーさんは本当にずるいなあ……)

 

「えへへ……」♪ ☆彡

 

(……甘奈は楽しそうだ。よかった)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+20

 

 ▽▽▽

 

『そういえばさー、ショーしてるときに甘奈ちゃんと手繋いでなかった?』

 

『見えてたのか……すまない。あまりにも人が多くて逸れそうになったから……』

 

『もー。注意してよね。私は今の関係、別に許してないんだけど』

 

『善処する』

 

「はあ……」

 

(甘奈ちゃん。絶対、蓮のこと好きだよね……。どんだけモテるんだっつーの)

 

(ステージの上から俺のこと見つけてたのか……おっかねえ……)

 

 ▽▽▼

 

 Night 

 

「ただいま、甜花ちゃん!」

 

「なーちゃん……おかえり……」

 

「ねえ聞いて聞いて! 今日すごい人たちと会ったんだ!」

 

(なーちゃん……嬉しそう……だけど誰もわからない……ごめんね……)

 

「あと人もいっぱいだったんだー! やっぱり人気なんだなーって! 甘奈、プロデューサーさんと逸れたらどうしようって思ったの! でもね、プロデューサーさんがね、逸れないようにするために甘奈の手握っててくれたんだ! やっぱり頼りになるよねー!」

 

「そう……なんだ。よかったね、なーちゃん……」

 

(なーちゃんが嬉しそうなのは嬉しい……だけど何かもやってする……なんでだろ……?)

 




杏は志帆との約束を守るためモデルを続けています。また彼女の出自だけではなく過去に留学していた経験も相まって世界的に活躍できるモデルとなっています。まだトップとは言えませんが近いところにいるのでしょう。
蓮とは今なお付き合っていますが海外に行くことが多い彼女の仕事柄あまり会えていません。怪盗団の中でもトップレベルに会いにくい上に最近は志帆とも会えていないため彼女は表面に出すことはないですが寂しがっています。浮気なんてよくないよなあ?



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桑山千雪と吉田寅之助

 Night 渋谷付近

 

「少し仕事が長引いたけどおつかれさま、千雪」

 

「いえいえ、わざわざお迎えありがとうございます。甘奈ちゃんのお仕事の後でとても疲れているのに……ありがとうございます」

 

 桑山千雪。283プロのアルストロメリアの一員。道すがらプロデューサーのスーツのボタンが外れかかっているのが気になった彼女は雨宮プロデューサーに声をかけ、スーツを直すことになる。そのとき、雨宮プロデューサーにスカウトされ、雑貨屋と兼業でアイドルを始めることになった。今日は、仕事が長引いてしまったようだ。

 

「もう遅い時間だ。寮まで送るよ」

 

「ありがとうございます。あの、もう夜ごはん食べましたか?」

 

「いや、まだ食べてないけど……千雪を送ってからどこか牛丼とか食べに行こうかなって思っていたんだ」

 

「わぁ! 牛丼! 私もまだ食べていないので久しぶりに行きませんか?」

 

「うーん……でもなあ……」

 

「私も牛丼を食べたい気分なんです! もうおなかぺこぺこで」

 

「まあそこまで言うなら……牛丼食べに行こうか」

 

「はい!」

 

 こうして二人は”俺のべこ 渋谷センター街店”に来たのであった。

 

「ここの牛丼屋は初めて来ました。よく来るんですか?」

 

「このあたりで仕事があったときとかはよく来るな。まあ、ここ数か月は来てなかったが」

 

(それにしても……)

 

「前とは違うな。ワンオペは無くなったようでよかった」

 

「え、このお店ってワンオペしていたんですか? こんなにいっぱい人が来そうなのに……」

 

「ああ。高校生のときにアルバイトをしていたことがあってな。そのときやらされたよ……」

 

「そうだったんですか……」

 

 そんなことを話していたら隣から蓮に向かって唐突に話しける男がいた。

「おお、そうだったな。初めて君と遭遇したのはちょうどこの店か」

 

「え?」

 

「吉田?!」

 

 吉田寅之助。蓮の協力者。かつて蓮が高校生だったころは落選続きの政治家であったが、演説の腕はピカイチであった。その交渉術を学ぶため蓮は接触を試み、演説の手伝いをするという名目で演説を学んでいた。蓮と交流するうちに吉田は自信を取り戻していき、そして衆議院議員に返り咲くことができた。

 

「どうしたんだい。そんなに驚いて。私は君が来る前からこの席に居たんだが……もしかして気づいていなかったのか?」

 

「すまない、気づかなかった。まだここで牛丼を食べているんだな」

 

「ああ、やっぱり長く馴染んだ味は忘れられないよ」

 

「そういうものなのか……国会議事堂の中には牛丼屋があると聞いたが」

 

「はは、永田町に毎日いるわけじゃないよ」

 

「永田町……? えっと、プロデューサーさん……? その方は……?」

 

「ああ、ごめん千雪」

 

「私は吉田寅之助。自由共栄党に所属している」

 

「え!?」

 

「ああ、そんな構えないでくれ。ここにいるときはただのおじさんだ。昔はダメ寅とも呼ばれたぐらいだからね」

 

「いえいえそういうわけには……」

 

「ところであなたは?」

 

「あ、失礼しました。桑山千雪と申します。今はプロデューサーさんにスカウトされてアイドルをやってるんです」

 

「プロデューサー……? あれ、雨宮君、君は確か……いや、この話はよしておこう。君も色々あったんだろう。だが、君ならどこでも大丈夫そうだな」

 

「……! ありがとう、吉田」

 

「桑山さん、これからも彼を支えてやってくれ。彼は昔から何かと無茶をしがちなんだ」

 

「は、はい! わかりました」

 

「では私はこのあたりで失礼するよ。雨宮君、君の活躍を期待しているよ」

 

「ありがとう。吉田も頑張って」

 

 吉田は去っていった。

 

「あの……えっと吉田さんでしたっけ」

 

「ああ、現職の国会議員だよ。すごい人だよあの人は、労働法を改善しちゃったからな。そのおかげでこの店のワンオペが無くなったんだ」

 

 283プロは大丈夫なのだろうか。

 

「そうなんですか。そんなにすごい人だったなんて……どうして知り合いなんですか?」

 

「昔、吉田が演説していたときにその演説の手腕が気になって演説を手伝っていたことがあるんだ。そのときの弁論術は今でも役に立っているよ」

 

「そんなことがあったんですね……」

 

「千雪をスカウトしたときも実は吉田の弁論術を使っていたり……」

 

「えーもしかして私騙されてますー?」

 

「はは、冗談だよ。本当にアイドルになれると思ったからスカウトした。会ってすぐにわかった、素敵な女性だって」

 

「も、もうプロデューサーさん……からかわないでください……」♪♪♪ 

 

「ごめんごめん、だけどさっき言ったことは本当だよ」

 

「も、もう……早く牛丼食べちゃいましょう!」

 

「はは、そうだな」

 

 二人は牛丼を食べ終えて帰路に就いた。

 

「ところで、プロデューサーさんってもしかして転職してアイドルのプロデューサーになったんですか……?」

 

「ああ。そういうことになるな、千雪と同じだな」

 

「も、もう……プロデューサーさん……あの、よろしければお伺いしても……?」♪ 

 

「……そんなに面白い話ではないぞ」

 

「……はい、かまいません」

 

 蓮は語り始めた。自分がやりたいと思っていた職に就けたこと。職場の雰囲気も良く、上司・同僚ともに当初は恵まれていたこと。そして、とある日に信用していた上司に仕事のミスを押し付けられたこと。それが理由で会社のほうから転職を勧められたことを。

 

「そんなことがあったんですね……」

 

「正直、会社を辞めさせられたことよりもあの人があんなことをすることに驚いたよ。周りの人からもそんなことする人じゃないって言われてたから」

 

「でもその人にも何か事情があったんじゃ……?」

 

「会社の中の人たちも人が変わったみたいだと言っていた。裏もない人だったらしい。まるで何か急に……」

 

「プロデューサーさん?」

 

「……」

 

「あの……」

 

「ああ……すまない。千雪」

 

「……プロデューサーさんも大変だったんですね」

 

「まあ、それはそれ、これはこれだ。すぐに社長に拾ってもらえたから収入とかは全然問題なかったし、理不尽なことがあったけれど千雪みたいに素敵な人と巡り合えたんだ。今はみんなをどうやってプロデュースするのかってことが大切だよ」

 

「プ、プロデューサーさん……はい、その期待に応えられるようこれからも頑張ります。あなたのために……」♪♪♪ ☆彡

 

(……よし、楽しく話せたな)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+35

 

 ▽▽▽

 

『そうなの、まるで人が変わったみたいだったわ……あんな人だったなんて……雨宮君……その、ごめんね』

 

『あいつらしくないよな……いつもなら自分が庇ってまで部下を守るのに……』

 

『本当に別人だったな。酒が入っていてもあんなことにはならないぜ』

 

 

(精神が暴走したみたいに……人が変わった。……なぜ気づかなかったんだ)

 

『大体……ぐらいからなんだ』

 

『……それってお前がプロデューサーになったぐらいじゃないか?』

 

(偶然なのか……?)

 

 

 

 ▽▽▼

 

 283プロ寮

 

「ただいま戻りました~」

 

「千雪~おかえり~」

 

「だいぶ遅かったみたいだね。お疲れ様」

 

「ええ。もうくたくたで~」

 

「お腹空いとらん? 何か食べる~?」

 

「恋鐘ちゃん、ありがとう! だけど牛丼食べてきたから全然平気なの」

 

「なかなか珍しいものを食べてきたみたいだね」

 

「え、ええ……」

 

「千雪~?」

 

「あ、千雪さん、帰ってきてたんだな」

 

「おかえりなさいませ……あの……さきほど牛丼を食べてきたとおっしゃっていました……凛世はまだ牛丼なるものを食べたことがございません……よければ連れて行っていただけないでしょうか?」

 

「ええ、もちろん!」

 

「牛丼? なんでまた……」

 

「あ~、プロデューサーからチェイン~!」

 

「そういえば、今日はプロデューサーに来てもらって晩御飯一緒に食べようとか言ってたよな。アタシたちもう食べちゃったけど……」

 

「どうだったんだい、返事は?」

 

「ふぇ~、プロデューサー、もう牛丼食べてしもうたらしいばい!」

 

 残りの三人が千雪を無言で見つめている。

 

「きょ、今日はもう疲れちゃったからもう寝ようかしら……」

 

「もしかして千雪~? プロデューサーと牛丼ば食べたと?」

 

「……」

 

 どうやら、千雪はすぐに寝れなさそうだ。




寮組に牛丼がバレてしまった千雪!果たして彼女はどうなってしまうのか?!
このサイドストーリーは気が向いたら…


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和泉愛依と川上貞代

 Morning

 

「おっはよ~、プロデューサー。土曜日なのにお仕事お疲れ様~」

 

「おはよう、愛依。愛依こそ土曜日にわざわざすまないな。資料を渡すだけなのに来てもらって」

 

「いやいや、別にいいって! あ、そうだ! プロデューサー、あのさ……ちょっと相談したいことがあるんだけど……」

 

 和泉愛依。283プロのストレイライトのメンバーでミステリアスでクールなキャラをステージでは演じている。だが彼女の本当の姿は誰にでも分け隔てなく話をすることができる人物だ。実際、彼女は雨宮プロデューサーを含む多くの人を手助けをしていた。そしてそんな姿を見た雨宮プロデューサーにスカウトされた。今日はどうやら悩みがあるらしい。

 

「国語の試験が近いんだよね~……だけど、全然わかんなくて……ほら、ライブも近いから赤点取って補習をすることだけは避けたいんだよね~……国語教えてくれない?」

 

「補習は確かに避けたいな……だが国語か……数学や英語とかならともかく国語は教えにくいんだよな……」

 

「ん~、やっぱそうだよね~」

 

 そこにスマホで連絡が入った。……そうか、その手があったか。

 

「心配するな、とっておきの助っ人を呼ぼう」

 

「マジ?! さっすがプロデューサーだわ! ちょー助かる~!」♪ ☆彡

 

 蓮はすぐにスマホに来たメッセージに返事をした。

 

『申し訳ないが俺の職場まで来てくれないか? 頼みたいことがあるんだ』

 

「ええ……あの子……アイドルのプロデューサーが事務所に女呼ぶのはないでしょ……」

 

 1時間後……

 

「えっと……」

 

「で、この子は和泉愛依だ」

 

「どういうことか説明してくれる?」

 

「川上、愛依に国語を教えてくれないか?」

 

「……はあ」

 

 川上貞代。秀尽学園高校に編入した蓮のかつての担任、国語教師。気だるげな彼女だが、過去に起きた事故の負債を払うべく夜に家事代行サービスヴィクトリアで”べっきぃ”として働いていた。メイドルッキンパーティをした蓮にその姿はばれてしまうがその出会いが結果的に彼女の運命を変え、再び生徒と向き合う先生として歩み始めたのであった。その過程で蓮とは付き合い始めた。

 

「あのねえ……私を職場に呼ぶのもどうかと思うけど……まさか他校の生徒の勉強を教えるために呼んだの?」

 

「……すまない。頼める人が他にいないんだ」

 

「うちからもお願い~センセ」

 

「本当に私って……わかったわよ」

 

「ありがとう、川上」

 

「サンキュ、センセ!」

 

 少し、気だるげだがやってくれそうだ……よかった。

 

「で、次の試験は現代文? 古文?」

 

「現代文なんだけど……」

 

「評論文とか小説みたいにジャンルってわかる?」

 

「えっと、ちょいまち……ヒョウロンと小説……でいいのかなこれ? 両方とも何書いてるかよくわかんないんだよね~……実力テストだからテキストとかからも出ないんだよね~……」

 

「だ……大丈夫かしら……そうね、じゃあそれぞれの考え方から話すわ」

 

「ちょー助かる~」

 

「まず評論文、こっちは人が何を言いたいか理解するたことが主な目的なの。だから筆者の主張……つまり筆者がこの文章で言いたいことをまず捉えて」

 

「……?」

 

「えっと……文章の中でどうしても一文だけ選ぶとしたらってものを考えて。そして文章の骨子……つまりどのようにしてその主張が成り立っているかという過程を理解するの」

 

「うん……? でも何かいてるかわからないことが多いんだよね~。言葉がね~……」

 

「まあ、ある程度言葉の意味は知っておくに越したことはないわ。新聞の社説を毎日読むだけでも変わるわよ」

 

「あはは……その”筆者のシュチョー”ってどこに書いてあるの?」

 

「それは文章によるとしか言えないわ。一番最初に書いてる人もいれば最後にまとめとして書いていたり、真ん中に書いていたりする人もいる」

 

「そんなの時間足りないじゃん……」

 

「申し訳ないけどそれは文章を読むのに慣れている人が有利になるわ。速く読めれば読めるほど全体を見れるから」

 

「うーん、だけどその筆者のシュチョーってやつを意識したらいいんだね」

 

「ええ、何も意識せずに読むよりずっと理解できると思うわ。じゃあ、学校の問題集を持ってきてるみたいだからこの問題を解いてみてくれる? ゆっくりでいいから」

 

「オッケー! えっと筆者のシュチョーと……」

 

 愛依は問題を一応解いたので見てもらった。

 

「な、なるほど……あなた……学年は?」

 

「あはは……高3です……」

 

「受験生なのね……本当にスカウトされてよかったわね……」

 

「あはは……で……この問題どこを読めばいいの?」

 

「……そうね。今回の場合は……これね。この文を説得力あるものにしたいからこの文とこの文が重要になるの」

 

「なるほど~! わかりやすい!」

 

「本当に大丈夫かしら……?」

 

 一応評論の方は一通り終わった。

 

「じゃあ、次は小説。こちらは人の感情を理解することが主な目的の1つだから心情の変化に注目する」

 

「それ聞いたことある~。だけど結局それって何なの?」

 

「まあ、そうなると思ったわ……人の感情が例えば怒っているものから嬉しいものに変わるみたいなものよ」

 

「うーん、でもいつも見つからないんだよねー。超テンション上がる~↑↑みたいに書いててほしいな~」

 

「さすがにそれは問題にならないわよ……。実際に心情の変化を捉える場合は出来事に注目して。何かが起きなきゃ感情ってのは変わらないでしょ?」

 

「あー確かに! 弟たちに怒るときって弟がいたずらしたときとかだもんねー」

 

「そう、現実と基本的にいっしょなの。だから、心情の変化って言ってるけど実際には何が起きたかという出来事に注目する方がわかりやすいことが多いのよ。そうすれば出来事が起こる前はこのような感情だったけど、ある出来事が起きたらこのような感情に変わったという風に考えることができる。だからわからなくなったら何が起きたかということにまず注目するといいんじゃないかしら」

 

「でも出来事なんてわかるの? よく登場人物の目線で書かれてるから何が起きたかわかんないんだよね」

 

「そうでもないの。小説はみんなに話を理解してもらうために比較的客観的に書かれてるのよ。そうね、少し小説とはわけが違うけど現実世界でもスタジオでニュースを伝えるときはニュースキャスターの目線じゃなくて何が起きたかということだけを伝えているでしょ?」

 

「うーん? なるほど~」

 

「じゃあ、この問題を解いてみて」

 

「はーい」

 

「……どうしたの和泉さん?」

 

「いやー、やっぱり出来事ってのがわかんなくて……この問題はどうなの? あまり書かれてないように見えるんだけど……」

 

「このセリフに注目して。普通の人ならこんな説明口調になるかしら? この問題はだいぶ露骨ね……。日常会話ならわざわざこんなこと言う? みたいなことが書いてあれば大体それは出来事を示唆することが多いの」

 

「あー、確かに!」

 

 一通り小説のほうも見終わった。

 

「今日のまとめね、評論文は相手が何を言いたいかを理解することが目的。だから筆者の考えを理解するために主張を捉える必要があるの。小説はそれと違って人の感情を理解することが目的。人の感情を理解するためには出来事をちゃんと捉える必要があるということよ」

 

「なるほど! しょーじき全部はわかんなかったけどわかりやすかった! 先生ありがとね~!」

 

「どういたしまして……ところで和泉さんのプロデューサーはどこに行ったかわかる?」

 

「ん~? ごめん、うちにはわかんない。たぶん外回りじゃないかな?」

 

「はあ……じゃあしばらく帰ってこないのね」

 

「何か用事でもあるの?」

 

「えっと……まあうん……」

 

「へえ~」

 

「……」

 

「まあ、プロデューサーかっこいいもんね~! よっと……あ!」

 

「どうしたの?」

 

「いや~、ずっと座りっぱなしだったから体痛いわ~」

 

「和泉さん、あなたアイドルもしてるのよね? 体のケアとかしてるの?」

 

「え、うーん、肌とか髪のケアはしてるけど体のケアはあまりしてないわ」

 

「実はね、あの子よく無理してるでしょ。だから今日マッサージしてあげようと思って連絡したんだけど、本人もいないし……せっかくだからマッサージしてあげようか?」

 

「え、いいの? マジ助かる~。お願いしま~す」

 

 こうして愛依は川上のマッサージを受けることになった。

 

「だいぶ凝ってるわね……激しい運動の後はケアをしっかりしないと若いとはいえケガしちゃうわよ。気を付けてね」

 

「……はーい……」

 

(これやっばいわー……)

 

 

「はい、終わり! ゆっくり立ち上がって」

 

「はーい……!! やっば! 体がちょー軽い! サンキュ、センセ!」

 

「すごいでしょ! ヴィクトリ……いえ何でもないわ!」

 

「ねー、センセが良ければなんだけど……そのマッサージ教えてくんない? ばーちゃんとかにもしてあげたいんだよね~」

 

「ええ、もちろんいいわよ」

 

 川上は愛依にマッサージの仕方を教えた。

 

「うっそ……もうマスターしちゃったの……?」

 

「でもさすがにセンセの方がずっと上手だと思うけど?」

 

「ええ、だけど……本当にセンスってあるのね」

 

「まあ、うち歌とかダンスとかセンスあるってプロデューサーに言われたからね~、割と器用なのかも!」

 

「器用ってもんじゃないわよ……あー疲れた……いや、体は疲れてないか……もう私帰るわ……あの子が帰ってきたらちゃんとメッセージ返すように言っといて……」

 

「オッケーセンセ! 今日はありがとう!」

 

 川上は帰った。なんと、愛依はヴィクトリア仕込みのマッサージを覚えた! 

 

 

 

 ▽▽▼

 

 

「ただいま、愛依……川上は帰ったのか?」

 

「おかえり~、プロデューサー! うん~、ちゃんとメッセ返してだってさ~。いや~プロデューサーって仕事以外の時はまあまあの確率でメッセ返さないもんね~」

 

「う……まあそうだな。後でお礼を言っておかなければ……」

 

「そういえば、プロデューサー、疲れてない? 良ければマッサージしようか?」

 

「え、ああ、ありがとう。じゃあお言葉に甘えて……」

 

「ガンガン行くからね? 覚悟しておいてよ、プロデューサー!」

 

「お、おう……」

 

(意外に力が強い……鉄の棒を押し込まれているようだ……というかこのマッサージはまさか……)

 

「……」

 

「どうだった? プロデューサー?」

 

「……すごい。これは川上のマッサージじゃないか……体が軽くなった感じもそうだ……ありがとう、愛依!」

 

「いいっていいって! いつもうちらプロデューサーの世話になってるからそのお礼! いつもありがとね!」♪♪ ☆彡

 

(今日の仕事もまだ頑張れそうだ)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+15

 




川上は教師を続けています。さすがに元生徒と付き合っていることはもうバレましたが誰も気に留めていない様子。むしろ、秀尽の先生は蓮の顛末について知っているため、まっとうな人間であることをしっています。また、彼が在学していた時のまじめな様子を思い出して「川上先生はいいやつを捕まえたな」とも思っています。ただし、10股していることは知らないのでなんで結婚しないんだ?とは思われています。他の相手との交流に関しては元教え子の杏と仲がいいです。彼女に限らず、10股の当事者間は仲が良いです(ただし、蓮については一切話さないことは暗黙の了解となっている)。もちろん、あきらめる気なんてないですが今回みたいにいいように使われているような…


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黛冬優子とジュスティーヌ・カロリーヌ

あけおめ


 Morning

 

「おい、囚人!」

 

「久しぶりですね、囚人」

 

「え? どうして二人になっているんだ? ジュスティーヌ、カロリーヌ」

 

 ジュスティーヌとカロリーヌ。夢と現実、精神と物質の狭間の場所であるベルベットルームの住人。冷静だが少し毒舌のジュスティーヌと乱暴で短気なカロリーヌは破滅が待つ囚人こと蓮の更生を手助けしていた。色々あって姿を消していたが……これは一体……? 

 

「なんだ? 珍しいものを見るような目だな。生意気だぞ!」

 

「身の程をわきまえなさい、囚人」

 

「……なんとなく察しはついてるが……どうしてここに?」

 

「ふん! どうやら囚人がプロデューサーというものになったと聞いたからな! ちゃんと更生しているか確認しに来たんだ!」

 

「といってもカロリーヌは283プロに来るのをずいぶんと楽しみにしていたみたいです。新しいものが何か見れるのではないかと」

 

「そ、そんなことはないぞ!」

 

「……遊びに来てくれてありがとう。部屋の中で靴を履いてるのは気になるが……まあいいだろう。俺は仕事中だから、また後で話しかけてくれ」

 

「お、おい! 我々を無視するのか?!」

 

「そうです、囚人。何か新しいものを見せなさい」

 

「……そんなに面白いものはないな。あるとしたら倉庫だが……」

 

「ほう、案内しろ! 囚人!」

 

「……その鍵を持ってる人が今いないんだ。だから静かに待っていてくれ」

 

「ぐぬぬ……」

 

 

 一方玄関では……

 

(……さて、事務所に来たのはいいけど……誰がいるのかしら? 玄関に靴は……ないということは来賓はなし……で下駄箱のほうは……外履きはあいつのしかいない。よし……)

 

 黛冬優子。283プロのストレイライトのリーダー。笑顔に強く惹かれたプロデューサーによってスカウトされた。理想の女の子である”ふゆ”を普段は演じているがプロデューサーを含む一部の人間の前でのみ、芯の強い冬優子の姿を見せる。今日は玄関を確認して事務所にプロデューサーしかいないことを知ったようだが……

 

「あっつ──! なんなのよこの暑さ! ねえ、あんたなにか冷たい飲み物……」

 

「なんだ?」

 

「どうやら、この事務所のアイドルらしいですね」

 

「お、おはよう。冬優子……」

 

「おはようございます! プロデューサーさん♡」

 

「おお?? 話し方が変わったぞ?」

 

「あれがアイドルなのですか? 何やら珍妙な人間ですね」

 

「お、おい……」

 

「プロデューサーさん?」

 

「どうした冬優子?」

 

 冬優子は二人に聞こえないよう蓮の耳元で言った。

 

「あの子たち誰よ……何で事務所にいるの?! 玄関には靴がなかったんだけど! って土足じゃないっ!」

 

「……えっと俺の知り合いだが……急に来て少し俺も困惑してるんだ……」

 

「~~~! とにかく、あの子たちにちゃんと言い聞かせておいて……まったく……ボーカルレッスンの前に事務所でゆっくりしようと思ったのに!」

 

「……わかった。何とか言っておくよ」

 

「おい、囚人。その女がアイドルか? さっきと全然雰囲気が違うが」

 

「あまり解せません」

 

「も~二人ともかわいいのにそんなこと言っちゃだめだよ~」

 

「一体どうしたんだ? さっき囚人と話していた時と全然違うじゃないか」

 

「もしかしたらこの空間には常にマリンカリンが放たれているかもしれません」

 

「確かにそれなら我々には効かないがただの人間には十分効くな。まさか囚人、お前のペルソナでそんなことをしていたのか?」

 

「そんなことするわけないだろ……」

 

「確かに魔力は感じませんね」

 

「ふむ……どうやら事実のようだな」

 

「えっと~ふゆ何言ってるかよくわかんないな~」

 

「だがやはり何か変わってるな」

 

「どうやら彼女はストレイライトのメンバーのようです。パソコンなるもので確認したとき、そこそこのファンがついていることがわかりました」

 

「ぱそこん? なんだそれは?」

 

「囚人、なぜ人間はアイドルに夢中になるのでしょうか?」

 

「……それはだな、人はみんながみんな強くないからだよ。元気を、希望をもらいたいんだ」

 

「プロデューサーさん……」

 

「冬優子のこの笑顔はみんなを元気にすることができる。だからどこもおかしくなんかないよ」

 

「……ありがと」♪ ☆彡

 

「そうですか。少し人間についてわかった気がします。黛冬優子、先ほどの無礼を謝罪します」

 

「ううん! ふゆ全然気にしてないよ~ふゆこそ驚かせてごめんね?」

 

「おい! さっきからなんだ! ぱそこんとは何なのだ!」

 

「そうだ、冬優子、今日はボーカルレッスンだったよな? その子たちをレッスン場に連れて行ってはくれないか? 俺は相手できそうにないからさ」

 

「は、はぁ……」

 

(はあ?! 何考えてんのあんた!)

 

「ボーカルレッスン? 面白いのかそれは?」

 

「何やら聞いたことのない言葉ですね。それではついていくことにしましょう」

 

「そうと決まったらおい、そこのアイドル! 我々をそのボーカルレッスンとやらに案内しろ!」

 

「う、うん! でもいい子にしておいてね~」

 

(ほんっと何なのよ……あいつら……)

 

 冬優子はボーカルレッスン場に双子たちを連れてきた。どうやらトレーナーさんはまだ来ていないみたいだ。

 

「ここがレッスン場だよ~、ここでふゆたちは歌の練習をしてるんだ~」

 

「ほう、見たことのないものがたくさんあるぞ! ジュスティーヌ!」

 

「ええ、カロリーヌ。……このたくさんボタンがついている黒い箱はなんでしょうか?」

 

「あ! あまり勝手に触っちゃだめだよ! えっとね、これは音を大きくしたり小さくしたりするものなの」

 

「ほう、じゃあこの丸いのが先っぽについてる棒はなんだ?」

 

「それはマイクっていうんだよ~。声を大きくしたり録音したりできるの」

 

(マイクも知らないのこの子達……)

 

「そうなのですか。試しに何か歌ってみなさい」

 

「えっと~、もうすぐレッスンであまり喉を使いたくないからちょっとだけだよ~」

 

 発声練習をマイクを通して行った。

 

「おお! あの黒いブツブツから声が聞こえたぞ!」

 

「これがマイクですね。では次にカロリーヌ、何か歌ってください」

 

「私がか?! ううむ。ちょっとマイクをよこせ!」

 

「え! 乱暴に扱っちゃだめだよ?」

 

「……あの人の歌でいいか。あ↑──あ↓ーあ↑ーあ↓──……あまり声が聞こえないぞ? 本当に声が出ているのか? 確かこれだったな……」

 

「あ! そんなに大きくしちゃ……」

 

「あー……」

 

『あー!!!!!!』キ──────ン!!! 

 

 大音量が流れてしまった。3人とも耳を押さえている。

 

「ちょっと、何の音?! ふゆちゃん、どうしたの?!」

 

「いててて……トレーナーさん、ごめんなさい! 少し音量調整を間違っちゃったみたいです~」

 

「もう……気を付けてね」

 

「ほら、あなたたちも……あれ?」

 

「どうしたの? ふゆちゃん?」

 

「い、いえ何もないです~、じゃあ今日もレッスンよろしくお願いします!」

 

(あの子たちどこに行ったのかしら……)

 

 ▽▽▼

 

 Noon 283プロダクション事務所屋上

 

「……結構帰ってくるのが遅かったじゃないか。楽しかったか?」

 

「まだ耳がじんじんする……」

 

「ええ……音は大きくしてはいけませんね……」

 

「はは……でもどこか楽しそうだな」

 

「ふ、ふん」

 

「カロリーヌはあんな感じですが私は中々楽しめましたよ。一通りボーカルレッスンを見学しましたがなかなか興味深かったです。久しぶりにこの世界に来た価値があったというものです」

 

「別に楽しんでないとは言ってないぞ!」

 

「はは、それはよかったよ」

 

「我々はそろそろ帰るとしよう」

 

「では囚人、我らは元に戻ります」

 

 

「やはり人間の世界はとてもすばらしいです。また会いましょう、トリックスター」

 

 青い服の少女は消えていった。

 

「ああ、いつでもおいで。どんな姿でも」

 

 

 

 ▽▽▼

 

「あ、居た。あんたこんなところにいたの? よくもまあこんなところで……」

 

「あ、ボーカルレッスンが終わったのか冬優子。おつかれさま」

 

「どういたしまして……ところであの子たちどこ行ったのよ? 急にいなくなったんだけど」

 

「ああ、あの子ならもう帰ったよ。とても満足していたよ。ありがとう、冬優子。相変わらず優しいな」

 

「は、はあ? ふゆが優しいのはいつものことよ!」

 

「それでもだよ。あの子が満足できたのはまぎれもなく冬優子のおかげだ。やっぱり俺の見込んだ通りだったよ。人が喜ぶことを理解できるのが冬優子の魅力なんだろうな。スカウトしてよかった」

 

「う、うっさいバカ! よくもまあそんなセリフ真顔で吐けるわね……」♪ ☆彡

 

(ふゆだって……あんたにスカウトしてもらえて……)

 

「はは、ごめんごめん」

 

「……そうだ、あんた今度の休みふゆと一緒の日でしょ? ふゆの買い物に付き合って。今日の子守りのお礼ってことで」

 

「ああ、わかった。そうしようか」

 

(よし、楽しく話せたな)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+10

 




冬優子は蓮を買い物…もといデートに誘いましたが、当日、待ち合わせてすぐあさひと偶然遭遇してしまったため、3人で買い物をすることになりました。蓮はほとんどあさひに注意していたため冬優子は少し不機嫌でした。最終的に蓮があさひを家に送っていく形で解散し、冬優子は一人で帰りました。芹沢あさひぃぃぃぃぃぃ!あさひはすごく楽しかったらしいです、よかったね!


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芹沢あさひとソフィア

 Morning 事務所近くの公園

 

「ふむふむ……なるほど……」

 

 芹沢あさひ。283プロのストレイライトのセンター。路上で街頭CMのダンスを完コピしていたところを目撃された彼女は雨宮プロデューサーにスカウトされる。天才肌な彼女は少々飽き症なところもあるが、一度集中するととんでもない集中力を見せる。今日は何かに夢中になっているようだ。

 

そんな彼女のそばで一人の女性がスマホを持ちながら何か作業をしていた。

 

「やっぱりそうだ」

 

「うーん、どうやら計り間違いじゃないみたいだね。測定ミスではないからそうだな……」

 

「一旦休憩にしないか? 昨日からずっと考え込んでるぞ、一ノ瀬」

 

「うーん、それもそうか。じゃあ休もっか、ソフィア」

 

 ソフィア。怪盗団の協力者、コードネームはソフィー。渋谷ジェイルに破棄されていたAI。かつての夏に改心事件が起きた時、蓮によって発見された彼女は事件が全て解決するまで怪盗団と共に行動していた。ジェイルでこそ実体を持つが、現実世界では電子データでしか存在できないため、普段はスマホの中にいる。

 

 一ノ瀬久音。かつてEMMAの基礎プログラムを作った者。かつては仙台の大学で研究員をしていた。怪盗団と接触し、正体を知った彼女は怪盗団と取引をしてEMMAのデータを送る代わりにジェイルのジャンクパーツをもらっていた。そして数々の事件があった。今は全国を行脚しているところだが……

 

「なあ、一ノ瀬。あそこに誰かいるぞ」

 

「ん?」

 

「……」

 

「どこか具合が悪いのかもしれない。話しかけてみたらどうだ」

 

「まあ、具合が悪いわけじゃないと思うけど……」

 

 一ノ瀬はあさひに近づいた。

 

「やあ、そこの少女一体何に夢中になっているんだい?」

 

「……」

 

「あらら、かなり集中してるみたいだね……おーい」

 

「……? どうしたんすか?」

 

「いやーごめんね。こんな朝早くから何してるのか気になってねー。よければお姉さんに教えてくれないかい?」

 

「これ見てたっす!」

 

「ふむふむ……セミか!」

 

「まだ動いてるんすけど全然鳴かないんすよね~。どうしてだろうって」

 

「それって雌じゃないのかい?」

 

「え、そうなんすか? 初めて知ったっす!」

 

「もっとちゃんと見分けたかったらおなかを見るといいぞ」

 

「今の声誰っすか?」

 

「私はソフィア、人間の良き友人だ」

 

「おっと、この子だよ」

 

 一ノ瀬はスマホの中にいるソフィアを見せた。

 

「お──! すごいっす! スマホの中に人がいるっす~!」

 

「正確にはAIだよ。私の娘みたいなもんさ」

 

「そうなんすね。ところでお姉さんは?」

 

「おっと、失礼した。私は一ノ瀬久音、ちょっと今日は昔の知り合いに会ってきてね。そのあと時間があったから少し研究してたのさ」

 

「研究してたんすね! わたし、芹沢あさひっす!」

 

「お、聞いてないのに挨拶するなんて偉いね~」

 

「プロデューサーさんに挨拶をしろって言われてるっす!」

 

「プロデューサー……?」

 

「どうやらアイドルみたいだ。芹沢あさひ、ストレイライトのセンターだ」

 

「え、どうしてわかったんすか? すごいっす~!!」

 

「えっへん」

 

「お、この子に興味が湧いたかい?」

 

「はいっす!」

 

「じゃあしばらく喋ってみるかい?」

 

「え、いいんすか? ありがとっす!」

 

「よろしく、あさひ」

 

「よろしくっす!」

 

 あさひは初めて見るAIに興味津々だ。ソフィアもあさひについて興味があるみたいだった。

 

「あさひはダンスが好きなのか?」

 

「え? どうしてわかったんすか?」

 

「さっき調べたらダンスの動画や画像が出てきたぞ。私も見てみたい」

 

「いいっすよ! んと……どんなダンスがいいっすか?」

 

「確か見たら大体できるんだったな」

 

「へえ……天才ってやつかい」

 

「そうなんすか?」

 

「一ノ瀬が言うならそうだ。じゃああさひ、これならどうだ?」

 

 ソフィアは動画を見せた。

 

「……」

 

「すごい集中力だ」

 

「へえ、いい集中してるね」

 

「覚えたっす! 確か、こんな感じ!」

 

 あさひは初めて見たダンスを即興で踊り始めた。

 

「おお、その場でコピーできるなんて! 君は本当に天才少女のようだね!」

 

「すごいなあさひ。怪盗団にもこんなやつはいなかった」

 

「怪盗団?」

 

「おっと、ソフィアそれはあまり言っちゃだめだよ」

 

「あ、内緒だった」

 

「……まあいいや!」

 

「私も踊ってみよう。こんな感じか?」

 

 ソフィアも同じ踊りを真似てみた。

 

「すごいっす! 一ノ瀬さん、もっとソフィアを見せてほしいっす~!」

 

 あさひはすっかりソフィアに夢中になった。

 

「あ! もうこんな時間っす! じゃあわたし、もう行くっす! 一ノ瀬さん、ソフィア、ありがとっす!」

 

「ああ! また会おう!」

 

「またな、あさひ」

 

 

 283プロ事務所

 

「おはよっす、プロデューサーさん! 今日、人間の良き友人に会ったっす!」

 

「え?」

 

(そうか、ソフィアと……ということは一ノ瀬にも会ったのか)

 

「聞いてほしいっす~!!」♪ ☆彡

 

「ああ、聞かせてくれ。あさひ」

 

(どうやら、あさひにとって一ノ瀬とソフィアはいい出会いだったようだな)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+5

 

 

 

 ▽▽▽

 

 少し前……

 

 283プロ事務所

 

「よ、蓮。久しぶりだな」

 

「え、なぜここを知っているんだ、ソフィア」

 

「双葉に教えてもらった。283プロダクションはここにしかない」

 

「直接連絡すればよかったんじゃないか……?」

 

「蓮はまあまあの確率で未読スルーをするからな。少々怖かった」

 

「そういえば君のスマホには浮気の証拠がたくさんあったんだってさ」

 

「……その話は少し勘弁してほしいな……」

 

「あはは、ごめんごめん。まあ283プロの場所がわかっても君がいるかどうかだけは運の問題だったね……今、他に人はいないかい?」

 

「いや、まだ来ていない。秘密の話なら早急に頼む」

 

「わかった、蓮。最近、東京のあたりでジェイルに似た匂いがするんだ。最後のミッションのときみたいだ」

 

「!」

 

「私が思うにまたEMMAのような事件が起こるかもしれないね。私の方でも調査はするから、最低限準備はするつもりだよ。……最後はどうしても君たち怪盗団やソフィアに任せるしかなさそうだけど」

 

「そういうことだ。戦闘の準備はしておいたほうがいい。今、武器は持ってるか?」

 

「そうか、わざわざありがとうソフィア、一ノ瀬。……今は何も持ってないな」

 

「じゃあ、これからは蓮用のナイフと銃ぐらいは持ち歩いておいた方がいい。両方とも本物じゃないから大丈夫だ」

 

「ああ、そうしよう」

 

「そういえば君の方で何か知ってることはないかい?」

 

「俺自身は何も心当たりがないが……知り合いも変なデータが取れたと言っていた」

 

「そうだったのかい。連絡先は知ってる?」

 

「ああ、今送るよ。もしよければ会ってみてくれないか?」

 

「サンキュー、蓮」

 

「じゃあ、そういうわけで話は終わり! 君は仕事を頑張りたまえ!」

 

「ファイトだ、蓮」

 

「ああ、ありがとう」

 

(ジェイルに似た反応、か。どういうことなんだろうか)

 

 

 

 

 ▽▽▼

 

 レッスン場

 

「どうしたの、あさひ……って何か考えごとをしてて聞こえてるわけないわね……」

 

「あ、冬優子ちゃんじゃないっすか。わかんないことがあるんすよ」

 

「ふーん、まあ話ぐらいは聞いてあげるわよ」

 

「怪盗団って何なんすか?」

 

「怪盗団? チョー懐かしいじゃん!」

 

「ずいぶんと古い話題ね、誰から聞いたんだか」

 

「人間の良き友人っす!」

 

「……その友人はよくわかんないけど、怪盗団なら昔、社会現象になった団体のことよ。あんたはまだ小さいころだったから覚えてないんじゃない?」

 

「あ~、うちはたぶん小学生だったかな? 懐かし~! なんか”カイシン”させるんだっけ?」

 

「そう、改心させるのよ。基本的に表向きは善人だった人物の悪事を暴くことで世直しをしようとしていたらしいわね。心を盗むことができたなんて言ってたらしいけど、正直信ぴょう性は低いわ」

 

「えー、でもいた方が面白そうじゃない?」

 

「愛依あんたね……まあ、マディス社の社長がターゲットになって以降音沙汰がないからいるかどうかなんて確かめようがないわ」

 

「じゃあ探しにいくっす! 見つけたら心を盗む方法教えてもらうっす!」

 

「あさひ、あんた……話聞いてた?」

 

「いや~さすがにそれは難しいんじゃないの?」

 

「でもわたしどうしても知りたいっすよ~」

 

(はあ……まあ、どうせ見つからないでしょ)

 

「まずはプロデューサーさんに聞いてみるっす!」

 

「お~、もしかしたら知ってるかもね!」

 

「んなわけないでしょ……」

 

「そうと決まれば早く事務所に行くっす~!」

 

「ちょっと……今日はカレー屋に行くって言ってたんじゃないの?」

 

「また今度でいいっす~!」

 

「はあ……わかったわよ……全く……」

 

(ついでにマッサージしてあげよ~)

 

(まあ、あいつに会いに行ってあげるのも悪くないわね)

 

 



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月岡恋鐘と佐倉惣治郎

 Morning 283プロ事務所

 

「う~ん……?」

 

 月岡恋鐘。283プロのL’Anticaのセンター。TVの中で歌って踊るアイドルに憧れた彼女は高校卒業後、本当のアイドルになるために地元長崎から上京した。普段は最強のメンタルを持つ彼女は今日何か悩んでいるようだが……

 

「あ、恋鐘ちゃん、おはよう!」

 

「智代子~、おはよ~!」

 

「朝早くからキッチンでどうしたの? 何か悩んでるみたいだけど……」

 

「そ、そんなことなか! そうばい、智代子!」

 

「なあに? 恋鐘ちゃん?」

 

「コーヒーに合う食べ物ば作りたいんやけど、うち、そがんおしゃれなもんあんま作ったことなか。何かいいメニューないやろうか?」

 

「え、うーん……ごめんね、私もコーヒーと合うのはよくわかんないなー……」

 

「ううん! そんな謝らんといて! 他の子にも聞いてみるけん!」

 

「えーっと、あ! そうだ! カレーなんてどうかな?」

 

「カレー?」

 

「うん! この前放クラのみんなと行ったお店があるんだけど、そのお店のカレーがコーヒーと一緒に食べるとすっごくおいしくなるように出来てたんだよね~」

 

「おお……なるほど……参考になるばい! さっすが智代子やね!」

 

「どういたしまして、恋鐘ちゃん! よかったらそのお店行ってみたらどうかな?」

 

「そうしてみるばい! どこにある~?」

 

「えっとそのお店はね……」

 

 

 Afternoon 四軒茶屋 純喫茶ルブラン

 

(このお店が智代子が言っとった店……)

 

「ごめんくださ~~い……」

 

「いらっしゃい、好きな席に座んな」

 

 佐倉惣治郎。純喫茶ルブランのマスター。かつて保護観察下に置かれていた蓮の保護司であった男。義理の娘の双葉のこともあって蓮には感謝しており、本当の息子のように扱っている。また、蓮自身も第二の父親と思って慕っている。

 

「くんくん……コーヒーのいい匂いがするばい~!」

 

「そうかい、じゃあ注文は?」

 

「あ! えっとカレーとコーヒーばお願いするばい!」

 

「あいよ、待ってな嬢ちゃん」

 

 恋鐘はカレーを待っている間、惣治郎に話しかけられた。

 

「なあ、嬢ちゃん。最近、嬢ちゃんみたいな客が増えたんだ。この前、雑誌にも載ったということもあるんだが、もし嬢ちゃんさえよけりゃどうやってこの店を知ったか教えてくれないか?」

 

「えっと~、事務所の友達から教えてもらった~!」

 

「そうだったのか、意外と雑誌効果はねえかもしれねえな。まあ、話のネタになってるのはありがたいがな」

 

「うちの実家の定食屋と同じばい! やっぱり口コミが一番強いたい!」

 

「ああ、嬢ちゃんの言う通りかもしれねえな。さて、待たせたな。こんなおっさんの話に付き合ってくれてありがとよ。ご注文の品だ」

 

「ありがと~! いただきま~す!」

 

 恋鐘はカレーを食べ始めた。

 

「ん~! うまか~!」

 

「そうかい。ありがとよ。ほらコーヒーだ。ごゆっくり」

 

「マスター、ありがと~!」

 

 恋鐘はカレーとコーヒーを食べきった。

 

「ごちそうさま~! ば~りうまかカレーやった~!」

 

「口に合ったならそりゃよかったよ」

 

「あ~!!」

 

「ど、どうしたんだ、嬢ちゃん」

 

「本来の目的ば忘れてた~~! うち、カレーの調査に来たんやった~!」

 

「そ、そうだったのか」

 

「う~ん、決めた! マスター、うち、また来るばい!」

 

「お、おう……ありがとよ」

 

 

 別の日 ルブラン

 

「こんにちは~、カレー食べに来ました~!」

 

「おお、もう来たのか。すぐ準備するから好きな席座んな」

 

「マスター、ありがと~! んふふ~」

 

 今度はカレーを調べるために真面目に考えて食べている恋鐘だが……

 

「ん~? 何が入ってるかわからんたい……」

 

「まあ、そんなに簡単に教えるわけにはいかねえな。嬢ちゃんも実家が定食屋やってんならわかるんじゃないか?」

 

「確かに門外ふしゅつのメニューはあるばい! でもうちは諦めんよ!」

 

「まあ、いつでも来な。レシピは教えられねえが食べてから盗むのは構わねえよ」

 

「また来るばい!」

 

 

 またまた別の日 ルブラン

 

「う~~~ん? たぶんスパイスはあれ?」

 

「よくもまあ飽きねえもんだな」

 

「うちは簡単には諦めんよ! う~~~ん?」

 

「もしかしたら男か?」

 

「?! べ、べべ別にそがんことは……」

 

「悪いことじゃねえよ。大事な人を想って料理を作ることは良いことだぜ、嬢ちゃん」

 

「!」

 

「元々このカレーもな、ある女のために作ったようなもんだ」

 

「……そうやったんやね。そんなもんばうちは勝手に……」

 

「まあ、気にすんな。次の日にはそいつに改善案出されちまったよ。これが本当に出来がよくてな、そんときから味は変わってねえんだ」

 

「そげなことできるすごか人おるんや……」

 

「こんな話するのあれ以来か。この前がそうだったか」

 

「?」

 

「すまねえな、湿っぽい話になっちまって。……レシピは教えられねえが嬢ちゃんが良ければ研究は続けてもらって構わねえよ。このカレーで喜ぶ人が増えるなら俺はそれでいい」

 

「!! ありがと~~、マスター! また来るばい!!」

 

 

 別の日、この日は蓮がルブランを手伝っていた。

 

「すまねえな。仕事が休みなのに手伝ってもらって」

 

「俺がやりたいことだからいいよ。別にいつも誰かと予定が合うわけではないから」

 

「そりゃそうだがな……お前も転職してから結構経ったとはいえ無茶するんじゃねえぞ。……まあ言っても止めやしないだろうがな」

 

「……ありがとう、惣治郎」

 

「よく考えりゃ、不思議なもんだ。お前がリストラ紛いのことをされたときはまたあいつらがちょっかいかけてきたのかと思ったが、すぐに何事もなく転職先が見つかるとはな」

 

「まあ、俺はルブランでもよかったよ」

 

「お前に譲るのはまだ早すぎるぞ。……さて、俺はちょっと用事があるから外に行くが……」

 

「うん」

 

「最近、こんぐらいの時間に訛りの強い嬢ちゃんが来てるんだ。たぶんあれは九州の方の訛りだろうな」

 

「そんな子がどうして?」

 

「何でもこの店のカレーが知りたいそうだ。レシピを教えたらこっちが負けた気になっちまうから情が移っても教えるんじゃねえぞ」

 

「わかった」

 

 惣治郎はどこかに行ってしまった。

 

(九州訛りが強い嬢ちゃん……まさかな)

 

 その時……

 

「マスター! またカレーお願いするばい~!」

 

「……い、いらっしゃい」

 

(やっぱりそうだったか……)

 

「プロデューサー?! なしてここに?!」

 

「惣治郎なら今日はいないよ。カレー食べに来たんだろ? 今から用意するよ」

 

「あ……ありがと……プロデューサー……」

 

 蓮はいつも通りカレーを作って恋鐘に出した。

 

「お待たせ。ごゆっくり」

 

「おお~~! いっただきま~す!」

 

(プロデューサーが作ったカレー……こん店のカレーってわかっとっても……緊張するばい……)

 

「うまか~!」

 

「よかった。うれしいよ」

 

「でも本当はうちが……」ボソッ

 

「……? どうした恋鐘?」

 

「な、なんでもなか~! うちはカレーの研究するたい~! ……こん味は~……」

 

(どうやら本当にルブランのカレーを研究してるみたいだ)

 

「恋鐘もお店のメニューから味を研究するんだな」

 

「ふぇ? そがんこと滅多にせんよ?」

 

「え、じゃあどうして……?」

 

「えっとそれは……内緒ばい!」

 

「うーん、内緒なら仕方ない」

 

「それよりプロデューサー、今日お休みやなかった? なしてここで働いてると?」

 

「そうだなあ……マスターと昔から知り合いで今日が暇だったからかな」

 

「うち、プロデューサーにはもっと休んでほしいばい」

 

「まあ、昔からやってることだから。気にしないで」

 

「そいは言っても……プロデューサー、この後時間ある~?」

 

「引き続きルブランの手伝いをするぐらいだが……」

 

「よかったら寮でばんごはん食べん~?」

 

「え、うーん、でもなあ……」

 

「うち今日のお礼したいんよ! ……いけん?」

 

「……わかった、惣治郎に言っておくよ」

 

「ほんと?!」

 

「ああ、本当だ」

 

「んふふ~うれしか~! プロデューサー何食べる~?」♪ 

 

「そうだな。じゃあ恋鐘が得意な長崎名物のちゃんぽんで」

 

「うちに任せといて! じゃあ先に帰って準備しとくばい! ちゃんと来てね!」♪♪♪ ☆彡

 

「ああ。またあとでな」

 

(よし、楽しく話せたな)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+20

 

 ▽▽▽

 

 283プロ寮 食堂

 

「プロデューサーさま……本日もコーヒーで……?」

 

「いや、お茶にしようかな」

 

「かしこまりました……」

 

「せっかく休みの日だからスーツじゃなくてもよかったのに」

 

「まあ、そうはいってもな……」

 

「ふふ、ではジャケットを掛けてきますね。せっかくなので繕っておきましょうか?」

 

「助かるよ、千雪」

 

「おまちどうさま~、うち特製のちゃんぽんたい! みんな冷めんうちに食べて~!」

 

「やはりとてもいいにおいだね、恋鐘の料理は」

 

「んふふ~、もっと褒めて~!」

 

「プロデューサーさま……お茶でございます……」

 

「ありがとう、凛世」

 

(そういえば、ちゃんぽんはあの時の旅で食べなかったな。いい機会だから今度作ってみようか)

 

 蓮は長崎ちゃんぽんが作れるようになった! 

 

「恋鐘の料理はやっぱり美味しいな。ごちそうさま」

 

「んふふ~、ありがと~プロデューサー~!」

 

「今日、久しぶりにくつろいでいるアナタを見た気がするよ」

 

「最近、忙しそうだもんな。いや、いつも忙しいんだろうけど。なんか特別というかいつもと違うというか……」

 

「よければ理由を聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「そうだなあ。まあ大きい仕事があるってことだよ。もしかしたらここにいる誰かが関係したりしなかったりするかも」

 

「全然わかんねーよそれじゃ……まあ色々あるんだな」

 

「大きな仕事ならアンティーカに任せるたい!」

 

「そうだね、期待に応えてみせよう」

 

「凛世たち、放課後クライマックスガールズにも……」

 

「私たちアルストロメリアでも大丈夫です。

 

「ははっ、そう言われても忖度はしないよ。誰が合ってるかどうかはゆっくり考えるから。それに、ユニット単位じゃないからな。まあ、みんなもライブが近いからそれが終わってから声を掛ける。……じゃあ、俺はこれで帰るよ。晩御飯誘ってくれてありがとう。また来るよ」

 

「また来んね、プロデューサー!」

 

 ▽▽▽

 

 283プロ事務所

 

「お疲れ様です。はづきさん」

 

「お疲れ様です~。今日はお休みだったのでは?」

 

「恋鐘に寮で晩御飯に誘われちゃってちょうど今帰ってきたところなんです」

 

「そうだったんですね~。それでどうしたんですか?」

 

「いや、今度のオーディションのこと考えようかなって」

 

「そういえば急に来ましたね。あれ何なんですか?」

 

「それが……」

 

 

 

「え?! そんな大きなオーディション番組なんですか? でもあれって……」

 

「はい。同じユニットからではなく色んなユニットから選抜しなければなりません。……下手すれば息が合わないまま終わってしまいます。そんな状況でもし、失敗したら……」

 

「……落ち込んじゃいますよね。大きな期待を背負わせてしまうことになるので」

 

「ですがせっかくの機会なので受けさせてみようと思ってます」

 

「はい、私はプロデューサーさんの意見に賛成です。頑張りましょう~」

 

(……でも社長も急にどうしてこんなものを……みんなのライブが近いからユニット越境なんて……あまりにも……)

 

 

 ▽▽▼

 

 283プロ寮

 

「そういえばどうして急にプロデューサーが来たんだ?」

 

「んふふ~、うちが誘ったばい!」

 

「でも休みとはいえよく来てくれたね」

 

「プロデューサーさま……ふふっ」

 

「ええ、そういえば恋鐘ちゃんは今日もカレーを食べに行ってたの?」

 

「すごい行動力だよな」

 

「そろそろ何か掴めたかい?」

 

「そうばい! いつも通りば~りうまか~! ばってん今日も収穫はなか……」

 

「そうだったのね……でも恋鐘ちゃんなら大丈夫!」

 

「ありがと~、千雪~! じゃあ、うちそろそろ部屋に戻るばい!」

 

「そうだな、アタシも戻るよ」

 

「じゃあ、みんなおやすみ~。ふんふっふ~ん。そいにしてもプロデューサーのカレー思い出すだけでもば~りうまか~! うちまた食べたか~」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 しかし、恋鐘は回り込まれてしまった! 

 

「ふぇ?! みんなどうしたと?!」

 

「恋鐘さん……どうぞこちらへ……」

 

「???」

 

「さあ、恋鐘。詳しい話を聞かせておくれ」

 

「もしかして……うち声に出てた~?! 恥ずかしか~!!」

 

「……はあ」

 

「恋鐘ちゃんらしいわね……」

 




恋鐘弁むずすぎる。キャラとしては好きなので非常に申し訳ないけど登場させたくないですね…


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三峰結華と佐倉双葉

 某所 ライブ会場

 

(久しぶりにプライベートでアイドルのライブに来た。まあ、今は三峰もアイドルなんだけどね。いや~楽しみだなあ~)

 

 三峰結華、L’Anticaのメンバー。偶然一緒に雨宿りをしていたプロデューサーによってスカウトされ、アイドルになった。アイドルでありながら自身もドルオタである彼女は今日、プロデューサーからチケットをもらいお忍びで楽しみに来ているようだ。

 

(さてと、おっと端の方だね。さすがPたん。配慮してくれたのかな? まあ、もう人はいるみたいだけど。……きれいな女の人だ)

 

「あわわわわわ……これがライブ……人がいっぱいいるぞ……」

 

(まあ、いつも通りでいっか!)

 

「はじめまして~、今日はよろしく~」

 

「ひっ……よ、よろしく……」

 

「ん~? もしかしてお姉さん、ライブ初めて?」

 

「な、なぜわかった?」

 

「いや~、だいぶ緊張してるように見えたからね~。そうだ! 緊張ほぐしがてら始まるまで是非交流を深めませんか?」

 

「お、おう。そ、そうしよう」

 

「じゃあまずは自己紹介から……えっと……私、結華!」

 

「よ、よろしく結華……わ、私は双葉、佐倉双葉だ!」

 

 佐倉双葉。怪盗団の天才ハッカー、コードネームはナビ、怪盗団を勝利に導く。彼女はとある事情から引きこもりになってしまったが怪盗団によって助けられ、同時にペルソナにも目覚めたため怪盗団の仲間になる。彼女は所謂天才と呼ばれる人間でハッキングのスキルなどは自前で調べて身に着けた。サブカル気質でもある彼女は手に入れたライブのチケットを使い一人でやってきたそうだ。

 

「ゆ、結華はライブに慣れてるのか?」

 

「うん! 最近は来れてなかったけどちょっと前までよく行ってたんだ! こうやってお隣になった人とよく話してるんだ~」

 

「すげー……コミュ力が全然違う……」

 

「まあまあ、人それぞれだから。そうだ! 双葉はこのアイドルのどこが好きなの?」

 

「それはだな……この前、アニメの主題歌歌ってただろ……? その時気になるなって思って調べたら……嵌っちゃった。どこが好きとかは漠然としてるんだ……とりあえずあのセンターの子がいいな!」

 

「おお! あのアニメから入った新参者ですか! よかったよね~あの曲! 私も何度も聞いてる~」

 

「そうそう! 正直、アニメ化するにあたって大丈夫かなとか思ってたけど演出とかが神ってて、主題歌も完璧だった!」

 

「おや、そっちもお好みですか? 実は私もアニメの演出に惹かれた一人なんですよね~」

 

「おお、結華もそうだったのか! 久しぶりに話が合いそうな人に会えたぞ!」

 

「私も! ……あ、そろそろ始まるみたいですね!」

 

 ライブが始まった。ライブに慣れている結華はもちろん、初めてライブに行った双葉も生のライブの熱さを(倒れかけたが)楽しめたようだ。

 

 ライブ後……

 

「いや~よかったですね~」

 

「うん! これも結華のおかげだ!」

 

「いや~それほどでも~」

 

「そうだ! 今日この後時間あるか?」

 

「あるよ! 何か食べながらしゃべり倒しちゃいます~?」

 

「よかった! 実はいい店を知っていてな! 人も少ない穴場の喫茶店だぞ! 名物のカレーも美味いんだ!」

 

「おお、興味あります! じゃあそこに行きましょう!」

 

 

 Night 純喫茶ルブラン

 

「ただいま~そうじろう~!」

 

「おかえり、双葉。……どうやら楽しんできたみたいだな。そっちの嬢ちゃんは?」

 

「結華だ! ライブで仲良くなったんだ!」

 

「そうかい。嬢ちゃん、ありがとうよ」

 

「いえいえ! そんな! ……えっと~もしかして親子ですか?」

 

「おお~よくわかったな! そ! この店、お父さんの店!」

 

「……! へっ。2人前のカレーでいいんだな? 嬢ちゃんの分もおごってやるよ。娘の友達なら問題ねえ」

 

「えー! いいんですか? じゃあお言葉に甘えるとします!」

 

「さっすがそうじろう!」

 

(本当に……よかったな。これもあいつのおかげかね)

 

「それであのアニメはさー……」

 

「やっぱりそう! いやー……」

 

(……内容は全くわかんねえけどな)

 

「ほら、できたぞ。嬢ちゃん、ごゆっくり」

 

「ありがとうございます!」

 

「そうじろうのカレーは超美味いからな! 安心しろ、結華!」

 

「ん~おいしい! これは中々絶品ですな! ……あのーよければコーヒーも戴けないでしょうか?」

 

「おお! コーヒーと合うってよくわかったな! そうじろう! 早く早く!」

 

「わかってるよ。嬢ちゃん、何か好みの味とかは?」

 

「あまり詳しくないんでおまかせで! 苦いのでも全然大丈夫です!」

 

「そうかい、待ってな」

 

 こうして結華はコーヒーとカレーを堪能した。

 

「ごちそうさま! おいしかったです!」

 

「ご丁寧にどうも」

 

「そうじろう~まだここにいていい~?」

 

「ああ、遅くなりすぎんなよ。ほらここのカギだ」

 

「ありがとう!」

 

「ありがとうございます!」

 

「ごゆっくり」

 

 

 

 双葉と結華は惣治郎が帰った後も話し続けた。そして……

 

 カランカラン

 

「ただいま……」

 

「おー、おかえり~。勤労青年今日もお疲れさまだ!」

 

「あれ、双葉。惣治郎は?」

 

「帰った。カレーなら残ってるから食べてもいいってさ」

 

「そうだったのか。……あれ、そこにいるのは……?」

 

「えっとPたん? ……あ!」

 

「……えっと」

 

「あーふたばん? これはね……」

 

「あー、やっぱりそうだったかー」

 

 双葉は結華に言った。

 

「結華ってL’Anticaの三峰結華だよな! どこかで見たことあるなーって思ってたんだ!」

 

「あちゃーばれちゃってたか~。三峰お忍びだったんだけどね~」

 

「まあ、こういうサブカル趣味って隠したくなるよな。あ、ってことは蓮の事務所の子か」

 

「そうだな。まあ、双葉は秘密を漏らしたりしないよ。安心していいよ、結華」

 

「そう? まあ、ふたばんなら三峰大丈夫かな~。ところで二人はどういう関係?」

 

「あ~、ちょっと複雑だな……一言で言うなら仲間だ! そうじろう的には義理の娘と義理の息子だ!」

 

「あ~だいぶ複雑そうだね~。家族みたいなもんなんだ」

 

「まあそんなとこ! えへへ……」

 

「それよりもずいぶん仲が良さそうだな。何の話をしていたんだ?」

 

「それはだな……何と! アニメや今日のアイドルの話だ!」

 

「……まあそうだろうな」

 

「えー、Pたんちょっと淡泊すぎない?」

 

「まあ、予想できたから」

 

「予想はできても話にはついてこれないだろ!」

 

「な……! あ、アイドルの話なら!」

 

「へえ~じゃあ三峰たちとアイドルについて語り合おうじゃないですか!」

 

「もちろん!」

 

「……そーいや、なんでアイドルのプロデューサーになったんだ? ここで急にスカウトされたのは知ってるけど。そんなにアイドル好きだったか?」

 

「んー、まあ”りせちー”知ってたからな!」

 

「メジャーすぎるだろ……まあ確かに部屋にポスター貼ってたもんな」

 

「杏にもらったものだ」

 

「そうだったのか、初耳だ!」

 

「へえ~、Pたんの原点は”りせちー”だったんだね~。三峰も好きだよ~」

 

「まあ、今は結華を含むうちのアイドルの方がすごいけどな!」

 

「おお、大きく出たな!」

 

「お~、もしかして三峰たちすごいプレッシャーかかってる? でもPたんにそう言ってもらえるのは嬉しいな~」♪ ☆彡

 

「私も応援するぞ!」

 

「ありがと~いや~ファン増やしちゃったなあ~。じゃあその流れで、Pたんはアイドル……もとい283プロのみんなに関して”アイドルとして”何が一番お気に入り?」

 

「そうだなあ、ダンスとか衣装とかもみんなすごいと思うんだけど」

 

「ふむふむ……」

 

「何よりも歌だな! 特に真乃や摩美々、円香とかの歌って本当にすごいよな!」

 

「へえ~もしかしてその3人がPたんのお気に入りですか~? 三峰も今度ボーカルレッスン入れてもらいましょうか!」

 

「贔屓してるのか? どうかと思うぞ」

 

「いやいや283プロの中で特に歌が上手いといえばこの3人というだけだろ! みんなそれぞれ得意なことがあるんだから。結華だってダンス得意だろ? あれもすごいと思うぞ!」

 

「でも歌が一番なんだよねー?」

 

「いや歌が好きっていうのは単純に音楽という意味だけじゃないぞ! どちらかというと音楽よりも歌詞がいい! みんなが歌うということもあって感極まっちゃうこともあるんだよなー」

 

「へえそうなんだね。もしかして全部Pたんが考えていたり?」

 

「いや、さすがにそれは別の人がやってるよ。だけど新曲が出る度に歌詞の確認は必ずしてるぞ」

 

「おお~、プロデューサーみたいだ!」

 

「プロデューサーだよ……あれ、結華急にスマホを触って何してるんだ?」

 

「ん~? いや~今の会話面白かったからね~要約してグループに投下しておきました!」

 

「え!」

 

 慌ててスマホを見たが、通知は来ていない。

 

「……もしかしてブラフか?」

 

「いやいや、本気だよ!」

 

「別のグループがあるんだな」

 

「そういうこと、ふたばん! あーちなみに個人名は出してないよ~。ただPたんは歌が一番のお気に入りみたいって感じのこと言っただけだから!」

 

「何か問題でもあるのか?」

 

「まあ、それぐらいならいいか……」

 

「それよりももっと語るぞ!」

 

「そうだね~!」

 

 この後も3人で語り明かした……

 

「おっともうこんな時間だ。さすがに帰らなきゃ。明日学校だし」

 

「そうだな! じゃあ、蓮、結華を送って行ってやれ! 大事なアイドルだろ?」

 

「そうさせてもらうよ」

 

「本当? いやー助かります~! いや~今日は楽しかった! ありがとう、ふたばん!」

 

「おう! 結華も! サラダバー!」

 

「サラダバー!」

 

「おおおお! 初めて返してくれる人に会ったぞ! 蓮も見習え!」

 

「……そうか。よかったな」

 

 このあと結華を送っていった。

 

(よし、楽しく話せたな)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+5

 

 

 ▽▽▽

 

「ただいま」

 

「おかえり~蓮」

 

「その、今日は一緒に行けなくてごめん」

 

「いいっていいって、仕事ならしゃーない。遅くまでごくろうさん。それにチケットをとってくれたのは蓮だからな! サンキュー! まあ、結華と仲良くなれたからそれはそれでOKだ!」

 

「そう言ってくれるとうれしいよ」

 

「……でもちょっと困らせることを言うと……カレシと行きたかった」

 

「……ごめんな」

 

「まあ私も研究で忙しいからな。仕方ない。……一緒にゲームしない?」

 

「……ああ、そうしよう」

 

 言うまでもないが、双葉も10股の当事者である。

 

 二人はレトロゲームを一緒にしていたため寝るのが少し遅くなった。

 

 

 

 ▽▽▼

 

 おまけ 結華の送ったメッセージ編

 

『速報:プロデューサーは歌が大好き!』

 

『へえ~そうなんだ!』

 

『そうやろ~』

 

『それは初耳だね』

 

『それってーボーカルレッスンサボるなってことですか~?』

 

『いやいや違う違う!』

 

『でも歌にちょっとだけプレッシャーかかっちゃうな~』

 

『だよね~、練習がんばらなきゃ!』

 

『ええ~そうね~』

 

『ボーカルレッスン、がんばります^^』

 

 ──────────

 

 

「ほわっ……歌ですか……えっと……」

 

「つ、次のボーカルレッスンの予定は……」

 

「今週ボーカルレッスン入れてもらおーっと!」

 

「うちの歌もーっと上手くなりたか! 予定が取れんでもカラオケで……」

 

「……ボーカルレッスンの時間ですねー」

 

「歌か……私の歌はどう聞こえてるんだろうか」

 

「え……えっと……ボーカルレッスンしなきゃ……」

 

「あたしも歌大好きです!」

 

「あわわわわわ……ボーカルレッスンの予定は……な、ないよ! ど、どうしよう……」

 

「……ダンスレッスンばっかりだな」

 

「今週のレッスンを全てボーカルレッスンに変えていただくことは……?」

 

「防音設備が必要かしら……で機材も揃えないとだめね……」

 

「めーっちゃ歌の練習しないとね☆」

 

「あうう……今日のボーカルレッスンのこと……あまり覚えてない……」

 

「はづき~、ボーカルレッスンできる~? え? 直接聞けって……」

 

「あ、通知だ……」

 

「へえ~……」

 

「やっば……次の新曲ちょ~むずいんだけど……」

 

「歌、好きなんだ」

 

「……」

 

「も……もっと頑張らなきゃ……」

 

「あは~、やっぱそうだよね~、雛菜、歌はあまり褒められたことないけど~」

 

「まじで何様なんですかあの人! はぁ~……」

 

「……みんな仲がいいね、この事務所」

 

 

 

 ブーッブーッ

 

「蓮、めっちゃスマホ鳴ってるぞ。見なくていいのか?」

 

「これぐらいの時間に来るのは大体仕事には関係ない話題だが……双葉がそう言うなら見るか……どれどれ……」

 

「私も見ていいやつ?」

 

「ん? まあ、最初のポップアップだけなら……」

 

『今週、ボーカルレッスンがしたいです』

 

『この前の新曲、まだ音が掴みきれていません。なのでボーカルレッスンをお願いしたいんですが今週、お願いできますか?』

 

『今練習してる曲難しいから今週ボーカルレッスンしたいんだけど予定取れそうかな?』

 

『今週にみっちりボーカルレッスンしたい!』

 

『大声を出したいんでーボーカルレッスンとかどうですかぁ?』

 

『ボーカルレッスンを今週調整してもらえないかい?』

 

『誰もが聞き惚れるような歌声を得るために1週間後、ボーカルレッスンを入れて欲しいなー?』

 

『もっと大きな声出したいので、ボーカルレッスン、今週希望したいです』

 

『プロデューサーさん! カラオケ行きましょう! ジャスティスV一緒に歌いませんか??』

 

『もっと歌が上手になりたいので今週にボーカルレッスンをやらせてください!』

 

『この間の新曲、まだ上手く歌えないから今週にボーカルレッスンしてもいいだろ?』

 

『高音が安定しないので今週レッスンをお願いしたいのですが……』

 

『もっと歌の技術が磨きたいわ。だから、今週はボーカルレッスンをしましょう!』

 

『甘奈、自分の歌い方で少し気になってるところがあるんだ~だから、今週ボーカルレッスン頼んでいいかな?』

 

『てんか、もっと大きな声出せるようになりたいので歌のレッスンが今週したいです』

 

『声出てるかわからなくて……今週ボーカルレッスンを入れていただけませんか?』

 

『今日ボーカルレッスンで声の通りが良くなったと褒められました。プロデューサーさんが予定を組んでくれたおかげです』

 

『声が上手くでないから今週ボーカルレッスンしてもいい?』

 

『今やってる曲もっといいカンジに歌いたいから今週、ボーカルレッスンってできるー?』

 

『今週、ボーカルレッスン入れてほしいな』

 

『スケジュールの相談です。今週、ボーカルレッスンを入れられますか』

 

『わたしもっと上手く歌えるようになりたいので今週、ボーカルレッスンがしたいです』

 

『今週、ボーカルレッスンしてもいい~?』

 

『ボーカルレッスン、今週入れとかないとやばくないです?』

 

『今やってる曲もっと完璧に歌いたいから今週ボーカルレッスン入れてもいいかな?』

 

 

「」

 

「うわー……がんばれー……守ったらなんかありそうだから……」

 




双葉は母と同じ研究者となりました。またプログラミング能力も世間的に高く評価されており、研究間の結果待ちなどの暇な時間に適当にプログラムを作って企業に売ったりしています。また、実家からは出ていないためルブランに住んでいる蓮とはほかの人よりはよく会います。が、なんやかんや二人とも忙しいので時間を合わすのに一苦労な様子。蓮が出張で家を離れるときはモルガナを世話しています。その見返りに首輪にカメラをつける許可をもらったのでたまにモルガナの視点を見て楽しんでいます。



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田中摩美々と岩井宗久

 某日 Night 渋谷

 

「……」

 

「おい、そこの嬢ちゃん」

 

「……どうしたんですかー?」

 

「もう遅い時間だ。ガキは家に帰んな」

 

「……ご丁寧にどうもー」

 

「嬢ちゃん素直に聞くって柄じゃねえな。まあ、何かあったらここの路地裏のミリ屋に来な。早く帰れよ」

 

(ふーん、他人に気遣う人もいるんだ)

 

 摩美々はそれでも帰らなかった。

 

 

 ミリタリーショップ「アンタッチャブル」

 

「いらっしゃいませ……岩井。やっと帰ってきたのか……」

 

 岩井宗久。渋谷センター街路地裏にあるミリタリーショップ「アンタッチャブル」の店長。イセカイでリアルに見えればシャドウたちに対抗しうる武器になることを理解した蓮はこの店でモデルガンやモデルナイフなどの武器を調達していた。だがある日、一つの紙袋を岩井が蓮に託したことで二人の交流が始まり、岩井は蓮のおかげで家族と過去のわだかまりが解けたのであった。この日は店番を急遽蓮に変わってもらっていたらしいが……

 

「すまねえな。急に店番してもらって」

 

「全く……俺もそんなに暇じゃないんだが……」

 

「なんだ、まっ昼間から街をほっつき歩くのが暇じゃないのか?」

 

「スカウト中だったから一応仕事中なんだぞ……」

 

「そんな数時間しなかった程度で変わりゃしねえよ。まあ冗談はさておき、今日はもうあがっていいぞ。おつかれさん」

 

(渋谷でスカウトするのはやめておこう……)

 

 蓮はそのまま外へ出た。

 

(岩井のせいで今日は収穫なしか……もう遅いし今日はそろそろ引き上げて……)

 

「……」

 

「(ん? かなりパンキッシュな格好をしてるなあの子……独特の雰囲気があるし、綺麗だし……──声、かけるしかない!)」

 

「ちょっといいですか?」

 

 

 ▽▽▽

 

 

 Morning 283プロダクション事務所

 

 田中摩美々、アンティーカのメンバー。夜遅くに街をうろついていたところを蓮にスカウトされた。自称悪い子。彼女は頻繁にプロデューサーにイタズラをしては叱られるという一連の流れを楽しんでいる。

 

「ふふー」

 

『造花じゃないか!』

 

『消しなさい』

 

(次はどんな反応ですかねー)

 

「プロデューサー、コーヒー淹れてきましたー」

 

「ありがとう、摩美々。早速いただく……」

 

「ごめんくださーい!」

 

 そこに来客があった。

 

「今行きます!」

 

「……」

 

「あ、どうもこれは……どうぞこちらへ……」

 

「運がいいですねー……」

 

 

 

 別の日 Morning

 

「あれ、摩美々じゃないか? おはよう」

 

「おはようございますー、プロデューサー。机の上書類が散らかっていたので片づけておきましたー」

 

「おお、ありがとう……って、これは「prrrrr」……すまない」

 

「……いえー早く出たらどうですかー?」

 

「……そうだな。はい、283プロダクションの雨宮です……これはこれは……いえ、はい……」

 

「……」

 

 

 別の日 Afternoon

 

「プロデューサー」

 

「どうした、摩美々?」

 

「冷蔵庫に誰のかわからないアイスがあったので食べちゃいましたー」

 

「え! 待て、それは確か……」

 

 そこにはづきさんが入ってきた。

 

「プロデューサーさん、凛世さんが電車を間違えてしまって撮影場所への到着が遅れそうとのことです。どうしましょうか……?」

 

「え……じゃあ俺が車で拾って送ります!」

 

「すみません、事務作業はしておくのでよろしくお願いします~」

 

「わかりました。では行ってきます!」

 

 プロデューサーは飛び出して行った。

 

「……」

 

 

 別の日 Night  渋谷

 

 この日、摩美々は撮影があり、遅くなったので蓮が迎えに来たようだ。

 

「おつかれさま、摩美々。撮影どうだった?」

 

「……いつも通りですー。早く帰りましょー」

 

「ああ。そうしようか」

 

 摩美々は少し機嫌が悪そうだ。

 

「……プロデューサー。眼鏡貸してもらえますー?」

 

「え……ああ。いいぞ」

 

「ありがとうございますー。……やっぱり伊達メガネなんですねー」

 

「ああ、そうだ。……そういえば誰にも言ってなかったな」

 

「まあみんな気づいてると思いますけどー……それよりもー……」

 

「どうした摩美々……?」

 

「それー」

 

「うわっ!」

 

 摩美々は眼鏡を外して無防備になったプロデューサーの目に向かってバブルガンでシャボン玉を大量に撃ち出した。蓮は咄嗟に顔をそむけた。

 

「ま……摩美々ー!!」

 

「ふふー、久しぶりにイタズラ大成功ですー。怒られる前に隠れちゃいますねー」

 

 摩美々は路地裏に入っていった。

 

 蓮はウェットティッシュで石鹸を拭いた。目の前から摩美々がいなくなったことに焦っているようだ。

 

「摩美々のやつ……どこに行ったんだ……?」

 

(人込みに紛れて……はいないな)

 

「仕方ない……あれをするか……」

 

「研ぎ澄ませ……」

 

 サードアイ。集中して物事を見ることで手がかりを探る術。かつて蓮はこの技を夢と現実、精神と物質の狭間の看守長から教えてもらった。

 

(……あれは泡だ。バブルガンから滴れた泡が続いている。あの先にいるな)

 

 蓮は路地裏に向かった。

 

「こら、まみ……っ!」

 

 

 一方路地裏に逃げた摩美々は……

 

(ふふー、久しぶりにイタズラできたー。これは怒りますよねー)

 

「そこの嬢ちゃんこんなところで何してんの?」

 

「……! お兄さんには関係ないですよー」

 

「へえそうなんだ。ところでさーお兄さんちょっとヒマしてるんだ。嬢ちゃん一緒にいいことして遊ばない?」

 

「……間に合ってますー。じゃあ私はこれで……」

 

 摩美々は逃げようとしたが男に腕を掴まれてしまった

 

「ちょっと……やめてください」

 

「いいじゃねえか、ちょっとぐらいさ……やっぱりねんねしてもらおうか?」

 

「本当に……人をむぐっ」

 

「うるさい嬢ちゃんだな。しばらく静かにしてもらうぜ」

 

(そんな……プロデューサー……)

 

 その時……

 

「動くな。その子を解放しろ」

 

「お、おい……俺の頭に何押しつけてるんだよ……」

 

「え……銃……? 本物……?」

 

(プロデューサー……?)

 

「え……ちょっと待ってくれよ。おい……まさか本物なわけ……」

 

「それを知るときはお前の最期だ」

 

「ひっ……」

 

「……これが最後の警告だ。失せろ」

 

 金属音が鳴る。その聞きなれない音は、その男を怯えさせるのには十分だった。

 

「ひ、ひえええええ!」

 

 男は怯えて逃げて行った。

 

「……プロデューサー」

 

 摩美々はプロデューサーに抱きついた。

 

「……無事か?」

 

「はい……」

 

「全くイタズラばっかりしてるからだ!」

 

「ふふー、反省してまーす……そんなことよりー、それって本物なんですかー?」♪♪ ☆彡

 

「そうだな……俺、摩美々に怖い思いさせちゃったよな」

 

「え?」

 

「俺はプロデューサー失格だ。だから……」

 

「ちょっと……」

 

「俺の命で償おう」

 

 蓮は持っている銃を自身のこめかみに当てた。

 

「ふがいないプロデューサーでごめんな、摩美々」

 

「プロデューサー! 待って!」

 

 カチッ

 

「……え?」

 

「……なんてな! はは、驚いたか? さっきの仕返しだ!」

 

「……趣味悪いですよー。本当に」

 

「全く、本当に趣味が悪い」

 

「い、岩井……」

 

「あのときのおじさん……」

 

「何だか騒がしいから外に来てみれば……安心しな、嬢ちゃんそれはモデルガンだ。それより……」

 

 岩井は近づいて言った。

 

「おい、蓮。人に向けるなって言っただろ。また警察の世話になりたいのか?」

 

「岩井……すまない、だが……俺は間違ったことをしたつもりはない」

 

「……はあ。今回はなしにしといてやる。その嬢ちゃんを助けるためだったんだろ? 昔から変わらねえなお前のその度胸は」

 

「ありがとう、岩井」

 

「!」

 

「そうだろうな。それより……お前らかなり距離が近いな」

 

 摩美々は岩井に指摘されたため慌てて離れた。

 

「別にー……そんなこと……」

 

「まあいい。嬢ちゃん早く帰んな。ん? どこかで会ったことあるか?」

 

「ちょっと前にー同じように注意されましたー」

 

「……もしかしてあのときの嬢ちゃんか。へえ、そのときにこいつにスカウトされたってわけだ。よかったじゃねえか、ガンマニア」

 

「……まあ偶然だ。偶然」

 

「それよりも早く送って行ってやれ。もう遅い時間だぞ」

 

「ああ、そうする。俺がいれば岩井も安心するだろう。さっきみたいな目に二度と遭わせないからな」

 

「プロデューサー……」♪ ☆彡

 

「相変わらず言うねえ」

 

「そうだ、岩井前に言ってたことだが……」

 

「おう、もう準備できてるぜ。……だがその話は後日だな」

 

「ああ、また取りに来るよ。じゃあ、俺はこれで」

 

「気をつけて帰んな」

 

 

 ▽▽▽

 

「プロデューサー」

 

「どうした、摩美々?」

 

「まだちょっと怖いんでー手握っててもらってもいいですかー?」

 

「ああ。いいぞ……ん? うわ! なんだこれは!」

 

「ふふー、さっきバブルガンを落としてしまったみたいでー」

 

「べたべたじゃないか! 早く洗いに行くぞ!」

 

「はいー、にしても久々にいい反応でしたよー、プロデューサー。それにー今日はプロデューサーの趣味も知れてよかったですー。早く行きましょー」♪♪ ☆彡

 

(あれ、手を離してくれないぞ?)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+25

 

 

 ▽▽▼

 

 帰宅後、摩美々は自室で考え事をしていた。

 

『また警察の世話になりたいのか?』

 

「プロデューサーって悪い人? モデルガンで警察の世話になったんですかねー?」

 




薫は地方の大学に行きました。岩井も心なしか嬉しそうですが今では家が広く感じているそうです。


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幽谷霧子と武見妙

 Afternoon 283プロダクション事務所

 

「レッスン終わりました……プロデューサーさん」

 

「おお、霧子。おつかれさま」

 

 幽谷霧子。アンティーカのメンバー。自信のない自分を変えたいと思った彼女は283プロにオーディションを受けに行き、合格。アイドルになる。儚げな印象とぐるぐる巻きの包帯が特徴の女の子。また、父親が働いている病院で手伝いなどもし、その患者さんがライブやイベントに来たりすることもある。

 

「お花に水やりをします……」

 

「いつもありがとう、霧子」

 

「いえ、わたしがしたいことなので……」

 

「まあゆっくりしてくれ。そうだ、はづきさんが冷蔵庫におやつを入れていたから食べていくといいよ」

 

「……! ありがとうございます……! 一体なんでしょうか……?」

 

「うーん、俺は見てないなあ。……っと電話が来た。すまん、霧子。お世話になっております、283プロの……」

 

(朝来た時も……電話していたのに……忙しそうです……)

 

 蓮が電話を始めたので霧子は水やりをすることにした。

 

「ふう……長電話になってしまったな……」

 

「お疲れ様です、プロデューサーさん」

 

「霧子、事務所の掃除もしてくれてたんだな。ありがとう」

 

「いえ、これもわたしがやりたいことなので……でもプロデューサーさんに喜んでもらって嬉しいです」♪ ☆彡

 

「もうじき仕事も終わるから送っていこうか?」

 

「え、いいんですか? ありがとうございます……!」

 

「じゃあ……あれまた電話だ……ん?」

 

「?」

 

「もしもし……え……そんな急に……わかった。帰りに寄るよ」

 

「あの……その……忙しそうなのでやっぱりわたし……」

 

「そんな気にしなくても……そうだ、霧子は医学部志望だったよな?」

 

「は、はい」

 

「俺今からある医者の下で治験をするんだけどもしよかったら一緒に来ないか?」

 

「え、いいんですか? わたし、行きたいです。あとその……わたしも治験をしてみたいです」

 

「え? ……まあ、霧子がそういうなら。じゃあ行こうか」

 

「はい……!」

 

 二人は283プロから出て四軒茶屋に向かった。

 

 Night 四軒茶屋 武見内科医院

 

(まあ何回かお世話になってるが……数か月はここに来てなかったな)

 

「やっと来た。モルモット君」

 

(摩美々ちゃんみたいな恰好……)

 

「すまない、武見。遅れてしまって」

 

 武見妙。場末の町女医。かつては大病院で働いていたときの担当の子の病気を治す薬を作るために治験のアルバイトが必要だった。そんなとき怪盗団活動に役立つ薬が必要となった蓮と利害が一致し、彼と取引していた。結果的に人生と患者の命を蓮に救われた彼女は蓮と交際することになった。今日もまた新しい薬のための治験をするようだが……? 

 

「また仕事? あまり根を詰めちゃだめだよ」

 

「善処する」

 

「……ところでその子は?」

 

「は、初めまして……わたし、幽谷霧子です。今日、プロデューサーさんが治験するって言ってたので気になって付いてきました……」

 

「……幽谷? もしかして──病院の幽谷さんとこの娘さん?」

 

「え、父のことを知ってるんですか?」

 

「この前学会で喋る機会があってね。もしかして医者になりたいの?」

 

「は、はい。一応、医学部志望で……でもそれとは関係なく治験もやってみたいなって……」

 

「そうなんだ、だけどちょっときついやつだから今回はサンプルにはなれないかな。今日は見学だけね」

 

「は、はい」

 

「じゃあ、診察室へどうぞ」

 

「また新薬を開発してるのか?」

 

「うん、今日はそのテストかな。君のデータはたくさんあるから過去のデータと見比べられるからやりやすいかなって思ったの」

 

「なるほど……じゃあ、お手柔らかに……」

 

「吐いたら大変だからせめて上着は脱いだら?」

 

「ああ、そうする。だいぶきつそうだな……」

 

 蓮は上着を脱いだ。霧子は蓮が唐突に上裸になったので恥ずかしくなった。

 

「あ……」

 

(しまった……いつものノリで……)

 

「じゃ、これね。前みたいにぐいっと一気にいってね」

 

 蓮は渡された薬を飲んだ。

 

「うっ……」

 

(意識が薄れ……)

 

 蓮は倒れこんでしまった。

 

「プロデューサーさん……! しっかりしてください……」

 

「大丈夫だよ。霧子ちゃん」

 

「え……?」

 

「ごめんね、彼の目の前だったから濁しちゃったけど今日は別に治験じゃないんだ。その……彼の保護者からね最近彼が全然休めてないんじゃないかって言われたからこうやって無理やり休ませてるの」

 

 蓮は寝息を立てている。

 

「そうだったんですか……」

 

「……彼、無茶してなかった?」

 

「……最近大きな仕事があるって言っててずっと働いてました……」

 

「やっぱり……じゃあしばらく寝かせてようか。えっとメモを残しといて……せっかくだから一緒に晩御飯でも食べていかない? すぐそこの喫茶店においしいカレーとコーヒーがあるんだ。何なら進路の相談とかもしてあげるよ」

 

「……! いいんですか? ありがとうございます。ちょうど父も母も帰りが遅いって言ってて……」

 

「じゃあ、ちょうどよかったね。そうだ、これあげるね」

 

「えっとこれは……?」

 

「貼る大気功っていってね、私が開発した集中力が長持ちするようになるものなんだ。裏メニューみたいな感じで普段は売ってるんだけど今回だけは特別。誰かさんと違って受験勉強に必要でしょう? だからタダであげるよ」

 

「その……ありがとうございます……!」

 

「どういたしまして。お腹すいてるでしょ? じゃあ、もう行こっか」

 

「はい……! あ……プロデューサーさんに掛け布団してあげないと……」

 

「そうだね。彼にはゆっくり休んでもらおうか」

 

「おやすみなさい、プロデューサーさん……」

 

 その後、二人はルブランでカレーとコーヒーを食べて帰った。

 

 ▽▽▽

 

「うう……霧子……?」

 

(これは……霧子のタオル……枕に掛けてくれていたのか?)

 

「しかし、ぶっ倒れるとは思わなかった。だが不思議と体が軽いな……武見は帰ったのか?」

 

 蓮は机の上に置き手紙があることに気づいた。

 

 『ごめんね、少し騙すようなことしちゃって。少しでも君の体が回復してくれたら嬉しいな。マスターを困らせちゃだめだよ。休む時はちゃんと休むこと。それから、この前言ってた薬の件だけどいつでも準備できてるよ。診察室の奥の棚に作って置いておいたから必要な分だけ持っていって。だけどお代はしっかり頂くから棚に書いてある番号と持っていった数をちゃんと残しておくこと。あと帰るときは施錠を忘れずに。薬のお金もらうときに一緒に返しに来て』

 

「……ありがとう、妙」

 

 ▽▽▼

 

 次の日 Morning

 

「おはようございます……プロデューサーさん」

 

「おはよう! 霧子!」

 

「あの……疲れは取れましたか?」

 

「ああ、なんだかわからないけどすごく体の調子がいいんだ! これならいくらでも働けるな! はは!」

 

「……」

 

(もしかして、逆効果……?)

 

「あ、そうだ。霧子。このタオルって霧子のやつだろ?」

 

「え、は、はいそうです」

 

「俺に気を使ってくれてありがとう。洗っておいたから返すよ」

 

「い、いえ喜んでもらえてうれしいです……」♪ ☆彡

 

(よし楽しく話せたな)

 

 親愛度+10




投稿するために以前のものを確認したらシャニPが霧子の前でおかしくなることを意識しすぎた文章だったので蓮がちょっときもくなってて笑ってしまった。

武見内科医院は地域の人に大人気。特に小さい子やかつてお世話になった子のいきつけになっているそうです。また、往診をしていることも付近の人に愛される秘密でしょう。そんな武見に彼氏がいることは彼女の態度でみんな気づいてます(本人は気づいてないと思っている)が苗字が一向に変わらないので結婚はしてないんだろうなと思われている。まさか彼氏が10股しているとは思ってはいまい…

武見と霧子のお父さんは学会で知り合った。武見が優秀な医者なので自身が務めている病院に何度かスカウトしている。だけど、武見自身今の生活がとても気に入っているので断り続けている。霧子のお父さんも理解を示してはいるため関係は良好。少なくとも医学会に干されるような事態になることはないだろう。


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白瀬咲耶と長谷川善吉

 Night 渋谷センター街路地裏

 

 とある男が現在プロデューサーと呼ばれている男を尾行していた。

 

「……現在あの男はセンター街を歩いています……いつも通りかわいい子と一緒です。今日も何もなさそうですね」

 

 その男は無線で上司に報告した。

 

「まあ後は帰るだけだろ。さっさと帰ってこい。全くもうあいつを解放してやれよ……」

 

 上司はそのように愚痴を言ったが

 

「とはいえテロリスト予備軍のような男ですよ? 放っておくわけには」

 

「……まあお上があいつにびびるのも無理ないか。さすがにもう……」

 

「……! 路地裏に慌てて入っていきました。追跡します」

 

 追跡した路地裏ではそのプロデューサーは別人のようになっていた。

 

「動くな。その子を解放しろ」

 

「あいつ銃を取り出して男を脅しています! 取り押さえますか?」

 

(ん? 銃? ああ……)

 

「いや、やめとけ。様子をみて危険な行動をしてからでいい。責任は俺が持つ」

 

(まあ、十中八九モデルガンだがな)

 

「ですが……! 男が逃げていきました。大事には至らなかったようです」

 

「おう、やっぱりそうだよな。じゃあ今日の追跡は終わりだ。お前らはもう帰ってきな」

 

「しかし……」

 

「お前ほとんど丸腰だろ? 十中八九あいつは尾行に気づいてるからお前さんが危ないぜ。後日俺が接触する。だから今日は帰ってこい」

 

「……はい。わかりました、長谷川さん」

 

 男は尾行を止め、引き上げることにした。

 

(にしても急にどうしたんだ。雨宮?)

 

 ▽▽▽

 

 Night ラジオスタジオ近く

 

「おつかれさま、咲耶」

 

「やあプロデューサー。アナタもおつかれさま。もしかして私を迎えに来てくれたのかい?」

 

 白瀬咲耶。アンティーカのメンバー。元々別の事務所でモデルをしていた彼女は街中で蓮にスカウトされる。ちょうど契約終了の時期だったため283プロと契約しアイドルになる。人を喜ばせることが好きな彼女はファンサービスもかかさない。そんな王子様のような彼女を蓮は迎えに来たようだ。

 

「ああ、そろそろ終わるだろうなと思って。車で来たから寮まで送っていくよ」

 

「わざわざありがとう、ではお言葉に甘えさせてもらうとしよう。……おや?」

 

「あの……もしかして白瀬咲耶さんですか?」

 

 咲耶のファンと思われる女の子が咲耶に話しかけてきた。

 

「プロデューサー……?」

 

「俺も仕事はもう終わったから遅くなりすぎない程度にな」

 

「ありがとう。ああ、そうさ。もしかしてアナタは私のファンなのかい?」

 

「は、はい! あの……」

 

(咲耶はファンサービスがすごいからな……ちょっと長くなりそうだ。さて俺は……)

 

「ちょっといいですかそこの人……」

 

「はい……ってなんだ善吉か」

 

 長谷川善吉。怪盗団の協力者、コードネームはウルフ。京都府警から警視庁公安部に出向していた。かつて全国で起きた改心事件を解決するために怪盗団と取引する。その後とある事件で自身もペルソナ使いとして覚醒するのであった。どうやら現在も公安にいるみたいだ。

 

「おいおい、その反応はないだろ……」

 

「そういえば結構な頻度で尾行がついてるな。公安か?」

 

「まあ、バレてるよな。俺も別にしなくていいとは思ってるんだが……こればかりは上の意向でな。せめてもの報いに俺が責任者になっている」

 

「そうか」

 

「しかしお前、本当にプロデューサーしてるんだな……。よく部下が毎日女をとっかえひっかえして羨ましいと言っていたぞ」

 

「善吉もうらやましいのか?」

 

「馬鹿野郎、俺は葵一筋だよ。誰かさんと違ってな」

 

「う……それを言うためだけに接触してきたのか?」

 

「いや違う。そろそろ本題に入ろうか……雨宮、どうしてまたモデルガンを持ち歩いているんだ? もう必要ないだろう?」

 

「……! それが……」

 

 蓮は善吉に事情を説明した。

 

「なるほどな……ソフィアと一ノ瀬がそんなことを……わかった覚えておこう」

 

「ありがとう、善吉。それから……」

 

「……わかってるよ。準備しておけばいいんだろ? あまり乗り気じゃないが俺ができるだけお前の尾行をすることにするよ。その方がお前も動きやすいだろ?」

 

「助かる」

 

 その頃、咲耶はファンとの交流を一通り終えていた。

 

(さて、少し長引いてしまった……おや? プロデューサーが誰かと話している?)

 

「プロデューサー、少し待たせてしまったみたいだね」

 

「いや、全然平気だ」

 

「連れが帰ってきたな。まあそろそろ俺も帰るわ」

 

「……そうだ、善吉。最近ちゃんと家に帰れてるのか?」

 

「もしかして茜のこと心配してくれてるのか? 大丈夫だ。あいつももう小さくねえ。たまに帰ってるよ」

 

「……! もしかして単身赴任中なんですか?」

 

「え? ああ。そうだ。もともと俺は京都出身なんだが今はこっちで働いてるな」

 

「そうですか……わざわざありがとうございます」

 

「……咲耶」

 

「あまり踏み込むべきじゃないかもしれねえが……もしかしたらお前の父親もあまり家にいなかったのか?」

 

「……! その通りです。あまり私は父の気持ちがわからないんです。もしよければ、アナタのことを聞かせてくれませんか?」

 

「……」

 

「なんだそんなことでいいのか?」

 

 咲耶は息を呑んだ。

 

「そりゃ俺だってあまり実家からは離れたくねえよ。娘の顔だって毎日見たいしな。でも世の中上手くいかねえもんだ」

 

「でも時々不安に思ってしまうこともあるんです。父はその……」

 

「何言ってんだ。子を思う親のことをなめんなよ。お前さんの父親が今どこでなにをしているかは知らねえが大丈夫だ。今でもお前さんは愛されてるよ」

 

「……! ありがとうございます。その言葉だけで私は救われます」

 

「ああ。……少し会いたくなっちまったじゃねえか。仕方ねえ、明日からしばらく休みでもとるか。てことだ雨宮。来週までには帰るからそれまで我慢してくれ」

 

「ああ。ごゆっくり」

 

「じゃあな、気いつけて帰れよ」

 

 善吉は去っていった。

 

 

 ▽▽▼

 

「ねえプロデューサー」

 

「どうしたんだ咲耶?」

 

「この前言ってた大きな仕事って……あんなに大きなオーディションだったんだね」

 

「ああ、そうだ。黙っててすまない。あの場で先に言うとみんなに不公平だったからな」

 

「ふふっ、アナタらしいね。……もう誰を選ぶのか決めているのかい?」

 

「いや、……正直まだ悩んでいるんだ」

 

「そうだったのかい? 私はアナタが選んでくれるなら受けようと思っているんだけど」

 

「はは、まあ他の子との組み合わせとかもあるからね」

 

 駐車場についたところで蓮は咲耶の死角からゆっくりではあるが車が近づいてきていることがわかった。

 

「おっと咲耶、危ないぞ」

 

 蓮は咲耶を抱き寄せた。

 

「……! ありがとう、プロデューサー。だけどおおげさすぎやしないかい?」♪♪ ☆彡

 

「でも万が一ってこともあるだろ?」

 

「……そうだね」

 

「じゃあ帰ろうか」

 

「ああ、安全運転で。ゆっくりアナタと語り合いながら帰りたいな」

 

(よし、楽しく話せたな)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+10

 




善吉はこの後休みを取って実家に帰りました。茜は大学を出て実家周辺で就職しており最近特に困ったことはなかったため急に父親が帰ってきたことにとまどい、何しに帰ってきたんだと善吉をしばきました。が両者ともに嬉しそうだったらしいです。
ちなみに茜はたま~~~に怪盗団絡みのことで配信をしています。もしかしたら283プロで見ている人がいてたりして…


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七草にちかと芳澤かすみ

 Morning 某テレビ局

 

「プロデューサーさん! さっき21時台のドラマの主演の人がいましたよ! 確か今日共演の人でしたよね? 挨拶しに行きましょう!」

 

 七草にちか。283プロのアイドルグループSHHisの一人。また事務員の七草はづきの妹でもある。半ば強引に283プロのオーディションを受けた彼女は何かを見出したプロデューサーによって合格となりアイドルとなった。今日はある音楽番組の収録に来ているようだ。

 

「お、落ち着いてくれにちか……」

 

「もう! 早く行きましょうよ! こういうのは最初の印象が大事なんですから!」

 

「はは……そうだな」

 

 挨拶を終えた二人は廊下を歩き、控室にやってきた。

 

「いやーすごい人が出演してますね! これは大チャンスですよ!」

 

「そうだな」

 

「何かプロデューサーさんそっけなくないですかー?」

 

「いや、そんなつもりはなかったが……」

 

「ふーんそうなんですね。もうスタイリストさんも到着したみたいなので、そろそろ衣装の準備します!」

 

「ああ、待ってるよ」

 

 蓮は部屋の外へ出た。待っている間に何をしようかと悩んでいるとき、声をかける女性がいた。

 

「あ、先輩。お疲れ様です!」

 

「え? あ!」

 

 新体操の芳澤選手。蓮の高校の後輩だ。

 

「そうか、朝の情報番組に今日出演すると言っていたな」

 

「はい! さっき収録が終わって帰るところだったんです! 先輩は今から仕事ですか?」

 

「ああ。今から収録なんだ」

 

「そうなんですね。チョコちゃんだったりしませんか?」

 

 以前、芳澤は智代子と偶然ビュッフェで出会ったときに意気投合し、ツイスタを一緒に投稿したことがある。

 

「いや、違う子だ。そういえば智代子がツイスタでコラボできてとても嬉しそうにしていた。ありがとう」

 

「いえ、私もよくチョコちゃんの投稿見てるのでお互い様です! そういえばあの投稿を見てグルメ番組のオファーが来たんです!」

 

「そうなのか? 見てみたいな。何て番組なんだ?」

 

「──って番組です。これからその番組の打ち合わせもあるんですよ!」

 

「え、その番組に呼ばれたのか。智代子がその番組のオファー欲しがってたんだよな」

 

「そうなんですね。私もまた会いたいので共演してみたいです。それとなく番組プロデューサーに伝えておきましょうか?」

 

「はは、じゃあ頼むよ」

 

 二人はしばらく談笑していた。しばらく経ってから扉からにちかが顔を出した。

 

「……あのー、プロデューサーさん。ちょっとうるさいです」

 

「ああ、ごめんにちか。もう準備は終わったのか?」

 

「はい……一応見てもらおうかなとか思ってさっきから声かけて待ってたんですけどー……担当アイドルを待たせるとかなくないですかー?」

 

「え、そうだったのか……」

 

「ご、ごめんね……」

 

「……ってええー!? 新体操の芳澤選手じゃないですか! 知り合いなんですか? プロデューサーさん?」

 

「まあ、そんなところだな」

 

 芳澤は少し不機嫌そうだ……

 

「そうなんですね! あ、すみません、芳澤さん、挨拶が遅れちゃって! 私、283プロに所属している七草にちかです! SHHisというグループで活動しています!」

 

「にちかちゃんよろしくね! 今日はパフォーマンスするの?」

 

「はい!」

 

「じゃあ時間があれば見に行くね!」

 

「え、いいんですか? ありがとうございます!」

 

「ちょっと待てそれは……」

 

「先輩がいるんで何とかなりませんか?」

 

 芳澤から謎の圧を感じた。これは応じたほうがいい……

 

「ば、番組プロデューサーに言っておくよ……」

 

「ありがとうございます!」

 

 そこに番組スタッフがやってきた。

 

「すみませーん、283さん。そろそろスタンバイお願いします!」

 

「呼ばれましたよ、プロデューサーさん! 行きましょう!」

 

「ああ、そうだな。じゃあ、……また後で」

 

「はい! にちかちゃん、頑張ってね!」

 

「ありがとうございます!」

 

 見に行くと宣言した芳澤。実際ににちかのパフォーマンスの時間に間に合ったようだ。

 

「すみません、先輩。無理を言ってしまって」

 

「気にするな。それより今からにちかの番なんだ」

 

「ならちょうどよかったです!」

 

 にちかのパフォーマンスが始まった。いつも通りの動きだ……

 

「上手なパフォーマンスなんだけど……」

 

 芳澤はにちかのパフォーマンスを見て何かもやもやした感じを覚えた。芳澤にとっては少し違和感を感じたが、番組的にはにちかのパフォーマンスが無事に終わった。

 

「よかったですね、にちかちゃんのパフォーマンス」

 

「ああ」

 

「ですが……何でしょう……どこか苦しそうでした。まるで……他の人を演じているようなそんな気がしました」

 

(……! そうか……そうだよな……)

 

 にちかのパフォーマンスは彼女が敬愛する伝説のアイドル”八雲なみ”の模倣だ。にちか自身には輝くものがあるがパフォーマンスが始まった途端、くすんだ劣化コピーになってしまう原因ともいえる。

 

「にちかちゃんは進んであのパフォーマンスをしている……違いますか?」

 

「ああ、だけど……」

 

「……苦しいですよね、まるで自分からしあわせになることを放棄しているような……かつての……」

 

「あのときとはまた違う。にちかの悩みはにちかの悩みだ」

 

「……そうですね。その通りだと思います。あの、にちかちゃんとお話してもいいですか?」

 

「……! もちろんだ」

 

 収録が終わりにちかと蓮たちは控室で合流した。

 

「どうでしたどうでした……!?」

 

「おう、上出来。いい感じだったぞ」

 

「直前にリップ塗りなおしてもらったんですけどつやつやしてましたかね!?」

 

「ははっ、うん。口元っていうより、全体に輝いてたよ」

 

「えーっ、そういうのじゃなくて……」

 

「……そうだ、お腹すいてないか? この後何か食べに行こう。今日のご褒美だ」

 

「あ、いいですね! じゃあお寿司とかどうです?」

 

「……まあいいだろう」

 

「どうもです!」♪ ☆彡

 

「それと……」

 

「あっ! 芳澤さん!」

 

「お疲れ様、にちかちゃん。今日のパフォーマンスよかったよ!」

 

「ありがとうございます!」

 

「にちかちゃん」

 

「……? どうしたんですか?」

 

「パフォーマンスをする先輩からのメッセージです」

 

「は、はい!」

 

「もっと”自分”に自信を持って! ”自分”のいいところもっと見つけていこうね! ……私も昔、自分らしさというか自分のいいところがわからなかったときがあったから……」

 

「……! あ、ありがとうございます……!」

 

「あの、蓮先輩。このあとごはん行くんですよね? もしよければ私もご一緒させてもらってもいいですか?」

 

「え……? あ、どうぞどうぞ、是非お願いします! いいですよね、プロデューサーさん?」

 

「ああ、いいぞ。──-。一緒に行こう」

 

「へえ……」

 

 

 ▽▽▽

 

 寿司屋

 

「……」

 

「あれ? もう食べないの、にちかちゃん?」

 

「そ、そろそろお腹一杯かなって……」

 

「……」

 

「そうなんだね! ……もしかして待たせてます?」

 

「い、いえ! 全然大丈夫です!」

 

(アスリートってすごい量食べるんだな……)

 

 予想外の量でにちかはとまどってしまったが次の予定もなかったためゆっくりと過ごすことができた。

 

「ありがとうございます、蓮先輩! 奢っていただけるなんて!」

 

「どういたしまして。まあにちかの分もあったから気にしなくてもいいよ」

 

「ふーん……」

 

 にちかを横目に芳澤は蓮のそばにやってきて囁いた。

 

「なんだかにちかちゃんってお父さんに甘える娘みたいですね。とってもかわいいですよね。先輩もそう思いません?」

 

(何だこの何とも言えないプレッシャーは……)

 

「今日はとっても楽しかったです、先輩! ではまた!」

 

 芳澤は帰って行った。

 

 ▽▽▼

 

「プロデューサーさん」

 

「どうしたんだにちか?」

 

「もしかして、芳澤選手と付き合ってるんですか?」

 

「?! どうしてそう思ったんだ?」

 

「別にー、なんか仲がよさそうだなーって。名前で呼んでましたしー」

 

「……にちかも名前だろう?」

 

「……そうでしたねー。まあいいや。誰かと付き合ってるなら早く公表したほうが事務所のためだと思いますけどー?」

 

「……?」

 

「まあ、この前、夏葉さんと映画見に行ってましたしねー。彼女持ちがする行動じゃないですよねー」

 

「?! いや……あれは……」

 

「咲耶さんのことも抱き寄せてませんでした?」

 

「?!?! あれも事故みたいなもんで……」

 

「……灯織ちゃんからはよくお弁当もらってますよね?」

 

「まあもらってるが……それを言うならにちかだって……」

 

「他にも千雪さんと牛丼食べに行ったり……」

 

「も……もういいだろう……どうしてそんなことを知ってるんだ……?」

 

「……よく考えたらこんなことしてて既に彼女とかいたらとんだ浮気者ですね! 2股……いや、3股ぐらいしてたりして!」

 

「はは……」

 

「まあ、プロデューサーさんがそんなことできるわけないんで! 大丈夫そうですね! 芳澤さんと付き合えるわけないですもん! やっぱり気のせいですね!」

 

「……だな」

 

 蓮は自身に彼女がいることで事務所に与える影響については全く理解できなかったが、10股がバレてしまうことだけは全力で避けようと改めて心に誓うのであった。

 

(よし、楽しく話せたな)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+5

 




被った!シャニマスのキャラが少し多かったから仕方ない。

実はこっちのほうが構想としては先にできててチョコ先の方が後でできました。

というか全員分書くことを全力で後悔しています。


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緋田美琴と大宅一子

 某日 Night とあるレストラン

 

「……ルカにはもう関係ないでしょ」

 

「……! 違う! 私は美琴と……」

 

「……じゃあ、頑張って。応援してるから」

 

「待って! 美琴っ! ……ああああああああ!」

 

 美琴は去っていった。そして美琴はある男二人とすれ違いになった。

 

「いやーすごい美人だったなあ、雨宮」

 

「はい。そうですね」

 

「あまり興味がなさそうだな?」

 

「いや、そういうわけでは。……あの」

 

「ん? ああ、今日のあれな。まあ気にするな俺にだってミスすることはあるよ。雨宮が気にすることはない」

 

「……そうですか」

 

 

 

 Morning レッスン場

 

(……もう朝か。さすがに帰らなきゃ)

 

 緋田美琴。283プロのアイドルグループSHHisのもう一人。ほかの事務所に所属していた彼女は前のユニットの活動が終わってからその事務所を退所し、283プロにオーディションを受けに来た。そしてオーディションに合格し、283プロのアイドルとなる。パフォーマンスで魅せることが目標の彼女はいつもレッスン室に籠って自身を磨いている。どうやら夜通し練習していたようだ。

 

(今日の夜に打ち合わせがあったんだよね。それまで休めるかな)

 

 美琴は荷物をまとめて外に出て、駅に向かった。駅に着いたとき、様子がおかしい女性がいることに気づいた。

 

(……? 誰だろう?)

 

「あの……大丈夫?」

 

「……むにゃむにゃ……ララちゃん? ……あれ、おねーさんだれー……?」

 

「……だいぶ酔っぱらってるみたい。立てる?」

 

「酔ってない酔ってない! ほらこの通り! ……とと」

 

「ああ……えっとこのまま放っておくのもあれだから……そうだ」

 

 

 283プロダクション事務所

 

「おはよう、プロデューサー」

 

「……おはよう、美琴。えっと……」

 

「この人、駅前で倒れてたんだ。そのまま放置もできなくて」

 

「……とりあえず仮眠スペースでも連れて行こうか」

 

「うん、そうする」

 

「……美琴も今帰りだったんだろ? お疲れ様」

 

「ありがとう。今日の打ち合わせのことは忘れてないよ」♪ ☆彡

 

「ああ。……よければ迎えに行こうか?」

 

「いいの? ありがとう」

 

「気にしないでくれ……とりあえず仮眠スペースに寝かせに行こうか……」

 

「うん。そうだね」

 

 美琴は酔っ払いを事務所の仮眠スペースに連れて行った。

 

「……やっぱりどこかで見たことある気がする。いつだろう?」

 

 美琴は少し疑問に思ったが気にせず帰ることにした。

 

 美琴が帰ってからしばらくして仮眠スペースに蓮はやってきた。改めてその相手を見て驚いている。

 

(……正直驚いたな。どうしてここにいるんだ……一子)

 

 大宅一子。毎朝新聞のゴシップ記者。かつて売れるネタなら何でも書くゴシップ記者だったとき蓮と接触。とあるターゲットの情報を渡す。その後、怪盗団のネタを蓮が提供する代わりに怪盗団に都合のいい記事を書くという取引をしていた。そして蓮と交流していくうちに失っていた正義を取り戻すことができた。

 

「……これは貸しだな。起きろ、大宅」

 

「もう……何……ってええ! どうしてここに?!」

 

「それはこっちのセリフだ……あまり飲みすぎるなよ」

 

「あははーごめんね~。だけど君の家で介抱されるのも……ってここどこ?」

 

「俺の職場」

 

「あちゃー……それはまずいことをしたね。もう少し寝たら帰るわ」

 

「お、おい……聞いちゃいないな……」

 

 すぐ来たはづきさんには事情を説明して大宅を休ませたがアイドルたちが事務所に来る少し前に大宅を説得して帰らせた。

 

 

 Evening 

 

 蓮は美琴を連れてあるレストランに向かった。どうやら先方がここで打ち合わせをしたいようだ。

 

「……ルカ」

 

 美琴は思わず昔の相方の名前を呟いてしまった。

 

「どうした、美琴? まだ眠いのか? あまり調子がよくなさそうだな」

 

「ううん。そうじゃないの。ただ……ここにあまりいい思い出がないの」

 

(斑鳩ルカと何かがあったのか……?)

 

『私は美琴と……!』

 

「……奇遇だな。俺もなんだ」

 

「……! そうなんだ。……なんというか変な感じがするね」

 

『全てこいつがやりました。私の責任ではありません』

 

『……え?』

 

(……あまり思い出したくないな)

 

「確かにな……そろそろ始まる、行こう」

 

「うん」

 

 二人とも苦い思い出を持っている地に踏み込んだ。打ち合わせ自体は滞りなく終わった。

 

「……大丈夫。一人でやっていけている」

 

(……)

 

 打ち合わせ中もどこか様子が変だった美琴を見て不安に思った蓮は打ち合わせが終わってすぐ、メッセージを送った。

 

『一つ頼みたいことがある。今日の貸しだ。とあるアイドルを調査してくれないか? 一子』

 

 ▽▽▽

 

 一週間後

 Night バー・にゅぅカマー

 

「あらいらっしゃい。久しぶりね~いい男になって!」

 

「はは……」

 

「いっちゃんもう来てるわよ。奥の席」

 

「ありがとう」

 

 にゅぅカマーの主ララちゃんにいわれた通り奥の部屋に入った。かつて、金城の情報をもらった場所だ。

 

「やーっと来たね。待たせすぎなんじゃない?」

 

「すまない。というのも……」

 

「はいはい、相変わらずご苦労様。今日来たのはこの前言ってたやつね、調べといたよ。斑鳩ルカと緋田美琴だっけ? 前に君のところとは違う事務所でグループとして活動してたのは知ってるよね?」

 

「ああ。それは知っている」

 

「まあ、もうそのグループは解散して斑鳩ルカは事務所に残って、緋田美琴は君んところに今は所属しているけど」

 

「そうだな。そういえばこの前酔い潰れた一子を介抱して事務所に連れてきたのが美琴だ」

 

「え?! そうだったの? あっちゃー……見られちゃったかー……よりにもよってみーちゃんに……まあいいや。それよりどうして解散したかだよね……それは……」

 

 大宅は解散までの一連の流れを伝えた。

 

「それにあるレストランで大喧嘩しちゃったらしいのよ。個室だったから幸い大騒ぎにはならなかったけどそんときのルカちゃんだいぶひどかったらしいよ」

 

(……そうか。あのレストランで……だから美琴は……)

 

「それはいつ頃なんだ?」

 

「え? ──ぐらいだね。ああ、君が前職を辞めた時期も同じぐらいだっけ? 何かシンパシーでも感じてるってわけ?」

 

(そうか……あの時すれ違ったのは……)

 

「……そういうわけじゃない。ありがとう、色々助かったよ」

 

「もしかして帰んの?」

 

「いや、実は営業の帰りなんだ。もう一度事務所に行く。すまない、あまり長居できなくて」

 

「ふーん。仕事ならまあいいか。それより、あんたさー早く決めなよ」

 

「……」

 

「あの子たちも私も浮気されたことに怒ってるっちゃ怒ってるけど今一番怒ってるのはそれじゃないの。なんで早く決めてくれないの? 誰も選ばれなかったからってヒステリックになる子は私たちの中にはいないよ。私もだけどみんなあんたに人生救われてるんだから。……あんたが幸せになれる子ならみんな納得するの」

 

「……善処するよ」

 

「はあ……まあ早くアイドルのところに行きなさいよ……全く……ララちゃーん! じゃんじゃん持ってきてー!!」

 

 なお、大宅も10股の当事者だ。

 

 

 ▽▽▽

 

 Night レッスン場

 

「美琴」

 

「……」

 

「美琴──ー!」

 

「っ! びっくりした……プロデューサー。いつもありがとう」♪♪ ☆彡

 

「まあ頑張ってるから結構声かけるのに勇気がいるけどな……」

 

「そうなの?」

 

「ああ、そうだ。休憩しないか? 飲み物買ってきたから」

 

「うん、そうする。せっかくプロデューサーが差し入れ持ってきてくれたから」

 

 レッスン室の端で飲み物を少し飲んだ後、美琴は口を開いた。

 

「……そういえば来週だったっけ」

 

「ああ。俺も緊張してきたよ。あんな大きな仕事、久しぶりなんだ」

 

「そうなの? プロデューサーが選んだ子を信用してほしいな」

 

「ありがとう。……いや、俺が言うことでもないか」

 

(みんな調整できている。大丈夫…のはずだ)

 

「じゃあ練習に戻るね。差し入れ、ありがとう」

 

「ああ。……あまり遅くなりすぎないようにな」

 

「わかった」

 

(よし楽しく話せたな)

 

 パーフェクトコミュニケーション

 親愛度+15

 

 ▽▽▼

 

 1週間後、大規模オーディションを受けた283プロダクション。だが、結果は予選敗退。審査員からも散々な評価をもらいはづきさんや蓮が懸念していた最悪の結果で終わってしまった。

 




大宅はゴシップ記事をあまり書かなくなり政治部門に戻りました。が、それはかつてゴシップ記者をやっていたことを全て蔑ろにしているわけではなくそのときのつても大事にしています。その甲斐あって蓮は情報を得ることができました。蓮はバーにゅぅカマーには全然行っていません。というのも大宅が意外と恥ずかしくて行けないらしいです。今回は蓮が仕事のついでに会うためににゅぅカマーを指定しました。かつての相棒は残念ながらまだ入院中ですが頻繁に会いに行っているそうです。



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天井努と

Caution!:このストーリーにはペルソナ5(R+S)の重大なネタバレになりうる要素があります。未プレイの人はいますぐプレイしましょう。あと、真乃ちゃんのプロデュースをしたことがない人もいますぐプロデュースしましょう。かわいいので。



 大規模オーディションを受けた283プロダクション。しかし、結果はだめだった。その結果の報告をするため、蓮とはづきは社長室へ向かった。そうして結果を聞いたあと、社長は口を開いた。

 

「ここまでだったようだな……」

 

「……すみません、自分が未熟なばかりに」

 

「今回に関してはなんともつまらん幕引きだったな」

 

 蓮は何も言えなかった。

 

「まあ、大方の予想通りといったところだろう」

 

「……え?」

 

「だが、お前は負けた。アイドルたちを勝たせられなかった」

 

「一体何を言って……」

 

 社長は立ち上がって言った。

 

「アイドルを頂点まで連れていけないプロデューサーはもはや私の283プロダクションには必要ない。はづき、これをもって雨宮プロデューサーを死刑とする」

 

 蓮は驚愕している。かつてこのようなことがあった気がしたからだ。

 

「え? ……どうしてですか?」

 

 はづきはとまどいながら理由を尋ねた。

 

「私の命令が聞けないのか、はづき? お前の妹を苦しめ、地獄のような状況に置いているのは目の前にいるこの男なんだぞ?」

 

「……はい、わかりました~……」

 

(はづきさんまで!? 一体どうなっているんだ……?)

 

「ま、待ってくれ! くっ……体が……?」

 

 蓮は突然、体の自由を奪われた。

 

 

 

「……プロデューサーさん、恨まないでください~……これも……ううん。やっぱり気にしちゃだめ……」

 

 はづきは抵抗できないプロデューサーに対して攻撃を加えていった。

 

 蓮:体が動かない! 

 

 はづき:明けの明星

 

 蓮:体が動かない! 

 

 はづき:八艘飛び

 

 蓮:体が動かない! 

 

 はづき:死んでくれる? 

 

 

(……ごめんなさい、私、もう……)

 

「ふざ、けるな……」

 

「え!」

 

「ふざけるなァ!!」

 

 再び叛逆の意志を取り戻した蓮はかつての怪盗の装束を身にまとっていた。

 

(これは……?)

 

「はづき何をしている! 早くとどめを……」

 

「できませんっ……そんなこと……私にはできません!」

 

「なんだと……? はづき貴様……!」

 

「お願いします、社長。彼に、またチャンスを……許してあげてください……」

 

「はづきさん……それより、お前は誰だ!」

 

「……え?」

 

「ふははははははっ! 見抜いたか!」

 

「あ、あなたは一体……?」

 

「中々できるようだな変革を望むトリックスターよ」

 

「……! お前はまさか……あのときの……!?」

 

「ふむ、それは違うな。だがやはり優秀だな、トリックスター。実はお前を再評価しようと思っていてな。私には絶望したアイドルが必要だ。案ずることはない……褒美にお前の望むものをやろうではないか」

 

「お前の甘言には乗らない」

 

「ふむ、やはりそうか。交渉決裂だな。では何もできないアイドルたちと共に滅びの刻を待つが良い。今回は貴様も何もできないだろうからな」

 

 そう言い残して偽物の社長は去っていった。同時に本物の社長が倒れた姿で現れた。

 

「ううっ……ここは……?」

 

「社長? ……大丈夫ですか? それと、プロデューサーさん、その姿はまるで怪盗団の……」

 

「はづきさん、隠していてすみません。はづきさんの言う通り俺は……!」

 

 そこに青い蝶が現れ、女の子の姿に変えた。

 

「どうやらまた世界の危機が訪れたみたいです、トリックスター」

 

「……ラヴェンツァ」

 

「あなたは、一体……? もう何がなんだか全然理解できないです~……」

 

「私はラヴェンツァ。時間がありません。手短に説明をば」

 

「どうして奴がここに?」

 

「彼奴はあなたたち怪盗団に滅ぼされた後、残留思念だけとなりました。彼奴の残留思念はあなたにまとわりつき、ずっと復活の機会を伺っていたようです」

 

「……」

 

「幸いにも、民衆はあなたたちのおかげで以前ほど怠惰になっていません。その結果、彼奴が依り代としている負のエネルギーは集まりませんでした」

 

「民衆ではない……か」

 

「ところが、彼奴は偶然にもあなたの近くにいた斑鳩ルカを発見しました」

 

「……? 彼女がどうしてプロデューサーさんの近くに? いえ、プロデューサーさんの前職は芸能とは全く無関係のはずじゃ……?」

 

「……そうか、あの時か」

 

「はい、あなたは一度すれ違っているはずです、緋田美琴と。そのときに偶然発見したと考えるのが自然でしょう」

 

「でも彼女とやつに何の関係が……?」

 

「彼奴は緋田美琴と離反することで絶望した彼女が自身の力になることをわかりました。つまり特別な人物……アイドルの絶望が自身の最高のエネルギー源になるという仮説を立てました」

 

「!」

 

「そこで、彼奴はまず、あなたが当時の職を離れるようにあなたの上司を暴走させ、283プロの社長と接触させました。案の定、社長はあなたを気に入り、そしてプロデューサーにしました」

 

「それじゃプロデューサーさんがここに来たのは……」

 

「ええ、彼の側から遠く離れることが難しかった彼奴はそのようにするほかアイドルと接触する機会がありません。仮に仮説が外れていたとしても彼の人生を狂わせるだけでも十分でした」

 

「しかし、実際はその仮説は当たっていたと」

 

「ええ……完璧なあなたが絶望させることは難しくとも未熟なアイドルたちを絶望させることは簡単だったでしょう」

 

「そんな……まさかにちかも……」

 

「……彼奴は力が溜まるころを見計らって283プロの社長になり替わりあなたとアイドルたちが大きな仕事に失敗するのを待ち続けた。そして、今回オーディションに落ちてしまった。そのことがきっかけとなり、彼奴のエネルギーは満ちました」

 

「……」

 

「そうしてできた絶望のエネルギーは想像をはるかに上回っていました。実際、彼奴はそのエネルギーでかつての悪神の力に引けを取らない力を得てもはや別の存在に昇華しました。なので、必要なくなったプロデューサーを始末するため、予想以上に有能だったはづき、あなたがプロデューサーにとどめをさすように命じたのです」

 

「……ですが、そのような強大な力を持っているならなぜこの場でプロデューサーさんを処理しなかったんでしょうか?」

 

「あなたが離反したこともありますが、何よりもっと力を発揮できる場所を彼奴は知っています。その場所に向かうことを優先したのでしょう」

 

「あまり納得がいかないです~」

 

「さて、話が長くなってしまいました。彼奴はかつての悪神から由来していますが今はもはや別の存在となっています。トリックスター、あなたのなすべきことはわかっていますね?」

 

「……ああ、やつを滅ぼす。283プロのみんなが羽ばたくための世界を奪われてたまるか」

 

 ▽▽▽

 一方そのころ、悪神の影響で世界が異世界と一体化しようとしていた。

 

「えっ、空が赤いっす!! どういうことっすか??」

 

「本当に気味が悪いわね。今日の天気予報はこんなこと言ってたっけ……?」

 

「早くプロデューサーさんに教えにいくっす!」

 

「あさひちゃん! 走っちゃ危ないよ! なんかわかんないけど、やべー感じだわこりゃ」

 

「ふえ~、おてんとさまどこいったと~? 空、赤い~。不気味たい~」

 

「こ、恋鐘ちゃん……でも、確かに、お空、赤い……」

 

「こんな時間に夕焼けになる……わけないよねー」

 

「プロデューサー~~~!」

 

「1、2、3、4……え? 何ですかこの空は?!」

 

「……赤いね、それに血のような雨も降ってる」

 

「気味が悪いです。SNS見てみましょう……あれ?」

 

「……? どうしたの、にちかちゃん?」

 

「スマホが点かないんです……」

 

「ごめん、私も点かないや」

 

「とりあえず事務所のパソコンとかで確認してみようと思います!」

 

 

 

 

 世界の異変に気づいたアイドル達は無意識に283プロへ来ていた。そうして集まったアイドルたちは怪盗服に身を包んだ男に出会った。

 

「え、嘘! 怪盗団?!」

 

「えっ、あの怪盗団?!」

 

「かっこいいです! でも、そんな場合じゃないです! プロデューサーさーん! ……あれ?」

 

(怪盗団!)

 

「あは~、隠してたけど昔大好きだったもんね~、円香先輩~。ちょうど小学校の時か~」

 

「っ! 雛菜、うるさい」

 

「雛菜ちゃん、そんなこと言ってる場合じゃないよ!」

 

「どういうこと、お姉ちゃん?!」

 

「……」

 

(きっと正体は隠したほうがいいですよね……)

 

「みなさん、これは……「あの……」

 

 はづきが適当に誤魔化そうとしたとき、それを遮るように真乃がみんなの前に出てきて黒コートの男に尋ねた。

 

「……プロデューサーさん、ですよね」

 

「!」

 

 蓮が振り返ると彼の目にみんなの姿が映った。蓮の目を見て全員、疑念から確信に変わった。怪盗の正体は自分たちのプロデューサーだと。

 

「装いには、心の姿が……現れます。ですのでその凛々しいお姿は今のプロデューサーさまの心の姿なのでしょう。……ですがそれは凛世たちがプロデューサーさまだとわからない道理にはなりません」

 

 凛世は説く。

 

「プロデューサーが私たちを見守ってきたように私たちもプロデューサーのこと見てきたんですよ」

 

 灯織が伝える。

 

「わかるから。どんな姿でも」

 

 透が皆の代弁する。

 

「! ……みんな。聞いてくれ、俺は……」

 

 しかし、その言葉は遮られた。

 

「よくわかんねーけどやるべきことがあるんだろ?」

 

「ええ、でもプロデューサーなら大丈夫よ!」

 

「ここで応援するよ! プロデューサー! 頑張ってね! それぐらいしか、わたしたちはできないから……」

 

 とまどっていた蓮だがそんなとき、冬優子が近くに来て言った。

 

「早く行きなさいよ、帰ってこなかったらあんたのこと許さないから」

 

「冬優子……」

 

「げほげほ……そういうことだ、プロデューサー。何のことかはわからんが今大変なことになっているのはわかる。必ず戻ってこい、プロデューサー。ごほっ……」

 

「社長! 今はゆっくり休んでください……」

 

「ありがとうございます、社長。ありがとう、みんな!」

 

「トリックスター、そろそろ参りましょう」

 

「ああ」

 

 そう言うとジョーカーは窓から屋上へ向かって行った。それに合わせて屋上に走っていくアイドルが一人いた。

 

「なーちゃん……?」

 

 

 ー283プロダクション事務所屋上ー

 

「彼奴はあちらの方角に……」

 

「やはりメメントスの……。ありがとう、ラヴェンツァ。わざわざみんなに聞こえないところで」

 

「……そういうわけではないです」

 

「え?」

 

「さあ、そろそろ仕事の時間ですよ、トリックスター。世界を取り戻すのです!」

 

 蓮がワイヤーで飛ぼうとしたとき、勢いよく屋上のドアが開いた。

 

「プロデューサーさん!」

 

「甘奈!!」

 

「……むぅ」

 

「お願い行かないで! もしプロデューサーさんが帰ってこなかったら甘奈……」

 

「……でも」

 

「でもじゃない! 甘奈、なんとなくだけどわかるの! もしかしたら帰ってこないんじゃないかって……プロデューサーさん、お願い……甘奈の前からいなくならないで……」

 

「……甘奈。すまない……」

 

「……甘奈、世界よりもプロデューサーさんの方が大事! だって甘奈、プロデューサーさんのことが……」

 

「甘奈ちゃん!」

 

「なーちゃん!」

 

「甜花ちゃん、千雪さん!」

 

「なーちゃん、プロデューサーさんを困らせちゃ、だめ」

 

「気持ちはわかるけどだめよ、甘奈ちゃん。私だって本当はプロデューサーさんにはここにいてほしいわ。……だけど私たちには私たちの使命があるように、これはプロデューサーさんの使命なのよ。一緒に待とう、ね?」

 

「……甜花、千雪、ありがとう」

 

「……ええ」

 

「ごめんね、プロデューサーさん……」

 

「……甘奈、絶対帰ってくるから。また、桜を見る約束があるだろう?」

 

「プロデューサーさん……」

 

「……そういえば、まだ言ってなかったことがあるな、ラヴェンツァ」

 

「……!」

 

「悪神が世界を奪う前に、我々が世界を頂戴する!」

 

 それを言い終わったとき、轟音が響いた。シャドウの集団が283プロを取り囲んでいる。そして、甘奈に向かって攻撃が飛んできた! 

 

「危ない! アルセーヌ!」

 甘奈「!」

 

 相手の攻撃をジョーカーが受け、呪怨の攻撃で反撃した。甘奈を狙ったシャドウを倒したが次々と敵が現れている。そんなとき屋上のさらに上から声が聞こえた。

 

「ジョーカー! 何もたもたしているんだ!」

 

 その奇妙なシルエットを見て甜花は率直な感想を述べた。

 

「ば、化け猫!」

 

「化け猫じゃねーよ! ワガハイはモルガナだ!」

 

 いつものように訂正していると屋上に続々とアイドルとシャドウが集まってきた。追いついてきたアイドルがモナを見て反応している。

 

「……もしかしてモルガナさん?」

 

「おお、マノじゃないか。久しぶりだな。といってもこうやって喋るのは初めてか」

 

「本当にしゃべってる! すごーい!」

 

「メグルもいたのか。残念ながら駄弁ってる暇はない。また今度な。ジョーカー、ナビから連絡があったがみんなメメントス付近に集まっている。ワガハイたちも行くぞ!」

 

「しかし、シャドウの群れが……真乃たちを守らなきゃ」

 

 そうこう言ってる間にピクシーの群れがきた。

 

「くそ、めんどくさいな!」

 

「銃で一掃するぞ!」

 

 ジョーカーとモナはガンとスリングショットでシャドウを撃退した。

 

「……! あれってモデルガンじゃ……」

 

 かつてそのモデルガンで助けられた者は言う。

 

「ガンナバウトと同じ動き……」

 

 普段一緒に遊びその動きを観察している者が言う。

 

「ううむ、確かに……ここを放置するわけにもいかないな。どうすりゃいいんだ」

 

「おっと、ここは俺たちに任せな、ジョーカー! ……バルジャン!」

 

「そうだ、ここはまかせておけジョーカー。パンドラ!」

 

「ウルフ! ソフィー! すまない」

 

「ジョーカー、お前はさっさと元凶を倒しに行きな」

 

「大丈夫、いっぱい倒すのは慣れてる」

 

「というわけだからここは私たちに任せてくれたまえ。私も準備はしてきたから。君の知り合いとは会えずじまいだったけどね」

 

「一ノ瀬、そうだったのか……今はここを任す。いくぞ、モナ!」

 

「そうこなくっちゃ! モルガナ変身!」

 

 ジョーカーとモルガナは屋上から飛び降り、そのまま東京の中心に向かっていった。

 

「待って! プロデューサーさん!」

 

「バカ! 危ない!」

 

 シャドウが立ちふさがったがウルフたちが助けた。

 

「全く、本当に危なかったね。お願いだからじっとしておいてくれ……って、どうやら聞こえてないみたいだね」

 

「行かないで……甘奈の傍にいて……」

 

 甘奈は泣き崩れてしまった。

 

「なーちゃん、泣かないで……」

 

「甘奈、今はプロデューサーを信じよう。大丈夫、私たちの心と同じように世界も奪ってくれるさ」

 

「咲耶ちゃんの言う通りよ。待ってましょう?」

 

「プロデューサーさん、武運を……」

 

 

「ウルフ、よりおっさんになったな。体は動くか?」

 

「うるせえぞ、ソフィー。公安舐めんな」

 

 

 

 

 ーメメントス跡ー

 

「すまない、みんな。遅くなった」

 

「お、到着したな!」

 

「でも、思ったより早かったね!」

 

「うむ、問題ないだろう」

 

「もう、あなたたち、そんな場合じゃないわ。それにしても丸喜先生やソフィアがいなければどうなってたかって思うと恐ろしいわ」

 

「ええ。感謝しなくちゃね」

 

「そうだ、もう予告状は送っておいたぞ。あそこでよかったんだな?」

 

「ああ、伝えた通りだ」

 

「よし! お前ら準備はできてるな! おしゃべりはここまでだ。さっさとあいつにはおねんねしてもらおうぜ!」

 

「行くぞ! ショウタイム!」

 

 クリフォトの世界を駆けていく怪盗団。そこには……

 

「くそ、やっぱりあいつらもいるか!」

 

「我らが神に仇なす愚か者どもよ。裁きの時だ!」

 

 大天使の姿をしたシャドウたちが襲い掛かってきた。

 

「畜生、こいつらに構っている時間はねーってのに!」

 

「さっさとなます切りにして行くぞ」

 

「それが一番いいわね、ペルソナ!」

 

 全員で臨戦態勢となったそのとき

 

「エラ!」

 

 剣の舞がシャドウを襲う。

 

「ぐあっ」

 

「あいつが転んだ!」

 

「ヴァイオレット!」

 

「ここは任せて先に行ってください! 先輩!」

 

「だけど、一人じゃ……」

 

「彼女は一人じゃないよ」

 

「丸喜先生!」

 

「やあ、久しぶりだね、みんな」

 

「どうしてここに?」

 

「というか大丈夫も何もあんた戦えなさそうだけどどういうこと?」

 

「確かに今は君たちみたいに戦えない。だけど、その代わり一人だけ認知上の存在をなんとか連れてこれたよ。さあ、暴れておいで」

 

「お前に指図されたくない、俺は勝手に暴れるだけだ! ヴァイオレット、俺の足を引っ張るなよ!」

 

「クロウ!」

 

「おう!」

 

 神の炎を表したシャドウが怪盗団を行かせまいと襲いかかってきた。そこでクロウとジョーカーが前に出た。

 

「ジョーカー! 俺の動きに合わせろ!」

 

「……ふっ」

 

「うおあああああ!」

 

 狂戦士となったクロウを後にし、ジョーカーはワイヤーで前に出る。

 

「行けっ!」

 

 ジョーカーの一撃で隙が出来たところにクロウが突っ込む。

 

「俺に指図をするなああああああ!」

 

 シャドウを滅多切りにしたあとジョーカーは無言で銃を放ち、シャドウを処理した。

 

「あのシャドウを一撃で……!」

 

「だがあと3体……」

 

「来るぞ!」

 

 残りのシャドウが襲い掛かってきたが

 

「お前ら目ざわりだ! ヘリワード!」

 

 クロウが残りのシャドウを万能属性の攻撃で怯ませた。

 

「さっさと行けよ、ジョーカー。それとも俺じゃ力不足とか思ってるのか?」

 

「いや、役不足なぐらいだ」

 

「先に行ってください!」

 

「ああ、ヴァイオレット、クロウ。ここは任せる」

 

「お前ら今だ! 行くぞ!」

 

 二人を背にして怪盗団は一気に神殿を駆け上がっていった。こうして怪盗団は悪神がいる最深部にたどり着いた。

 

 

 ー旧聖杯の間ー

 

 かつて統制の神がいた跡地にやつはいた。檻ではなくモニターが複数ある空間となっており、その中央に佇んでいた。

 

「ふむ、来たか怪盗団。相変わらず愚かな連中だ」

 

「相変わらずなのはどっちなのよ」

 

「もはやかける言葉もない」

 

 パンサーもフォックスも呆れている。だが悪神はおかまいなしに話を続ける。

 

「我はアルコーン。力が満ちた我にとってもうこの世界はわが手中に堕ちたも同然。抵抗は無駄だ」

 

「もういいぜ。話が通じないってのは昔からだろ」

 

「よし! お前ら、行くぞ!」

 

「ペルソナ!」

 

 ジョーカーのペルソナで全員を強化した。

 

「おう! 続くぜ! ペルソナ!」

 

 スカルのペルソナで全員の物理攻撃の威力が上がった。

 

「私も! ペルソナ!」

 

 パンサーのペルソナで全員の魔法攻撃の威力が上がった。

 

「愚かなことよ」

 

 怪盗団の動きを察知して姿を変えた悪神。正体を現した悪神の姿はかつての統制の神とよく似ていた。そして、気づけば舞台は天空になっていた。

 

「くっ、揺れて身動きが……」

 

 そこに閃光が飛んできた。

 

「ジョーカー!」

 

 スカル・パンサー・モナの3人がジョーカーを庇った。

 

「しまった! みんな様子がおかしくなっちゃった!」

 

「任せて! ペールーソーナー!」

 

 ノワールのペルソナで3人の状態異常を直した。

 

「すまない、ノワール。助かった。次はワガハイだ! ディエゴ!」

 

 モナのペルソナで全員の体力が全快になった。

 

「守ってばっかじゃ勝てないわ! アグネス!」

 

 クイーンが核熱の攻撃を放つ。

 

「セレスティーヌ!」

 

 パンサーが火炎の攻撃を放つ。

 

「ゴロキチ!」

 

 フォックスが氷結の攻撃を放つ。

 

「ウィリアム!」

 

 スカルが電撃の攻撃を放つ。

 

「ルーシー!」

 

 ノワールが念動の攻撃を放つ。

 

「アルセーヌ!」

 

 ジョーカーが呪怨の攻撃を放つ。

 

「ぐうっ……目障りだ」

 

 悪神は反撃する。

 

「きゃっ!」

 

「危ない!」

 

 ナビのサポートで間一髪全滅を免れた。

 

「助かったわ、ナビ」

 

「そんなん後で後で!」

 

「ああ、そうだな!」

 

「まだまだこんなもんじゃねえよな! 行くぞお前ら!」

 

 この後も怪盗団の攻撃で着実にダメージがためられていった。そして……

 

「さあ、いくぞ! サタナエル!」

 

 サタナエルを召喚したが……

 

「大きさが違う! なんでこんなに小さいの?」

 

「昔のような力がない……そうか、そもそもこの世界はかつての大衆の認知に似て非なる場所。民衆の心を盗んだ時のような力が発揮できないのも納得がいく!」

 

「そんな!」

 

(……くっ、あのときの技が使えない!)

 

「なら、至高の魔……」

 

「忌々しいそやつの姿は……消え去れい!」

 

 ジョーカーに閃光が直撃した。

 

「ジョーカー!!」

 

「あの位置はまずい、ジョーカー!」

 

「くっ……!」

 

「まずい! 足場が崩れてるよ!」

 

「畜生! 間に合え!!」

 

「ジョーカー!」

 

「間に合って!」

 

(すまない、みんな……)

 

 みんなの想いは届かずジョーカーは気を失ったまま落ちていった。

 



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心の怪盗団と283プロ

Caution!:このストーリーにはペルソナ5(R+S)の重大なネタバレになりうる要素があります。未プレイの人はいますぐプレイしましょう。あと、真乃ちゃんのプロデュースをしたことがない人もいますぐプロデュースしましょう。かわいいので。



 あらすじ:オーディションに落ちたことで悪神アルコーンが現れ世界が奪われてしまった。世界を取り戻すために怪盗団およびその協力者たちは戦いを挑んだがその戦いで攻撃を受けたジョーカーは天空から地上へと落ちて行くのであった……

 

 

 ー旧聖杯の間ー

 

「畜生! ワガハイが行く! もしかしたらまたヘリになれるかもしれねえ!」

 

「モナ!」

 

「おい、待て!」

 

 モナは落ちたジョーカーを追って飛び出していった。

 

「自ら死に急ぐとは」

 

 悪神がモルガナの行動を嘲る。

 

「あいつらの心配はいらない。俺は信じている」

 

「リーダーもモナもそんなやわじゃないんだから!」

 

「みんな、ジョーカーが帰ってくるまでに体制を整えるのよ!」

 

 

 落ちていったジョーカーを追いかけていったモルガナは何とか追いつこうとしていた。

 

「ジョーカー!!! モルガナへんし──ーん!!」

 

 しかし、姿が変わることはなかった。

 

「ちくしょ──! 仕方ねえ! とりあえず回復だ、ディエゴ!!」

 

 ディエゴの癒しの力でジョーカーの傷が治る。

 

「うぅ……」

 

「起きろジョーカー! 時間がないからよく聞け!」

 

「……モナ?」

 

「今から地面に叩きつけられる前にワガハイが車になる! それをクッションにしろ!」

 

「……!」

 

「へっ、お前をかばって死ねるなら本望だぜ」

 

「いや全員で帰るぞ、モナ! はっ!」

 

 ワイヤーを近くの壁にひっかける。だが勢いは収まらない。

 

「ばかやろう! その程度じゃ」

 

「ぐっ……アルセーヌ! エイガオン!」

 

 ジョーカーはアルセーヌを召喚し呪怨の呪文を地面に向かって唱えた。ジョーカーの体が一瞬だが浮き上がりなんとか二人とも生きたまま地上に立った。

 

「はあ……はあ……」

 

「なんてやつだ、ジョーカー、さすがだ!」

 

「モナが回復していなかったら危なかった」

 

「まあワガハイのおかげでもあるな、貸しにしといてやるぜ。それよりも……」

 

 ジョーカーたちは元いた場所を見上げる。先ほどまで戦っていた舞台は非常に高い位置にあった。

 

「とりあえず上まで走るしかねえ」

 

「ああ」

 

 骨のような地面を上り、限界まで達したジョーカーたち。だがそれでもまともな行動じゃ届きそうにない。

 

「一応ひっかけられそうなところはあるが……」

 

「そんな時間はねえぞ! モルガナ、へんしーん!!」

 

 しかし、ヘリコプターの姿にはなれなかった。

 

「ちくしょー! このままじゃまずいぞ! なんとか方法を! ワガハイに鳥みたいな翼があれば!」

 

「翼……? そうか! 行くぞ、モルガナ!」

 

「は? お、おい!」

 

「今、思いついたことがある。それを実行する! アルセーヌ! 行くぞ!」

 

 ジョーカーはモルガナの発言で気づいた。アルセーヌには自由を象徴する翼があることを。そしてそれを活用できないかと。

 

「ペルソナで空を飛べた?!」

 

「つばさがあるだろ?」

 

「今のお前らしいな!」

 

 ジョーカーが落ちてからしばらくしてナビがジョーカーらしき反応をキャッチする。

 

「帰ってきた!」

 

「よかった……」

 

「へっ、心配かけやがって」

 

 だが悪神もその存在を把握していた。

 

「させぬ」

 

 それゆえ帰還の妨害を試みた。しかし、

 

「うるさい!」

 

「邪魔はさせん!」

 

「一斉攻撃だ! 撃て撃て!」

 

「おっしゃあ! 撃つぜ!」

 

 怪盗団による一斉射撃が始まった。決定打にはならないが動きを止めるには十分だった。

 

 一方、空を飛ぶジョーカーたちはあることに気づいた。

 

「おい、ぎりぎり届かないんじゃないか?」

 

「ワイヤーで……つかまれそうなところがない!」

 

「ジョーカー! つかまって!」

 

 ナビがアルアジフで助けにきた。ナビはアルアジフの中から手を伸ばし、その手をジョーカーは掴んだ。

 

「ありがとう、ナビ」

 

「さすがに持たないから早く戻って!」

 

「ああ」

 

 こうしてなんとか帰ってきたジョーカー。しかし着いた途端片膝を突いてしまった。

 

「くっ……はぁ……はぁ……」

 

(さっきのでだいぶ消耗しちまったな。力をほとんど使い果たしたみたいだ)

 

「大丈夫か? 回復薬ぶちこむぜ!」

 

「ナイスだスカル! お前ら! ジョーカーの力が戻るまでなんとかもちこたえるんだ!」

 

 

 

 ーメメントス跡ー

 

「我以外の大天使をしとめるとは大した奴らだ。だが、主の方は決着がつきそうだがな」

 

「先輩!!!」

 

「ちぃ! 何してやがる!」

 

「大丈夫かい……雨宮君。一体どういうことなんだ」

 

 

 

 ー283プロダクションー

 

「さて。こっちはある程度片付いたな……加勢に向かうか、ソフィー? ……どうした?」

 

「一ノ瀬、ジョーカーが危ない。なんとかできないか?」

 

「……! プロデューサーさま……!」

 

「何だって! 本当だ、どうやら本来の力が発揮できていないようだね」

 

「あいつがそんなんじゃこっちが片付いても意味ねーじゃねえか! どうしてなんだ」

 

「待ってて……どうやら、原因が人々の認知じゃないってことみたいだ。つまり、この世界は私たちが考えているものとちょっと違うみたいだね」

 

「似た世界でも全てが一緒というわけではないか……くそっどうすりゃいいんだ」

 

 そこにあさひが近づいてきた。

 

「あの、一ノ瀬さん」

 

「どうしたんだい、天才少女?」

 

「どうしてこんな世界になったんっすか?」

 

「それは……」

 

 一ノ瀬たちはあさひの疑問に答えることができなかった。そもそもどうしてこんな世界が急に出てきたんだろう、その理由がわからなかった。そこにはづきがやってきた。

 

「あの……みなさん、さきほど事務所のプリンターからこんなものが……」

 

 はづきが差し出したのは

 

「……!」

 

「これって……!」

 

「もしかして……!」

 

「予告状!!」

 

 そこにはこう書かれていた。

 

 283プロダクションに所属する25名のアイドルたち、あなた方は大罪を犯した

 人々に希望を与える偶像が今や絶望の渦の中 己が意義を見失いつつある

 よって我々がその『歪んだ欲望』を根こそぎ奪い取る

 我々は心の怪盗団

 結果あなた方は再び立ち上がるだろう

 人々に希望を与える姿を再び見せるために

 

 心の怪盗団ザ・ファントムより

 

「私たちの『歪んだ欲望』……?」

 

 真乃が疑問に思う。怪盗団の言う歪んだ欲望とは一体何かと。

 

「……さきほど、ラヴェンツァさんが言っていました。こんなことになってしまったのは『アイドルの』絶望が原因だと。きっとそのことを言ってるんだと思います」

 

「……! もしかしたら……この前の……」

 

「オーディションの結果!!!」

 

「負けちゃってみんな落ち込んじゃってた……」

 

「……でもそれだけでこんなことになるはずない。この前の失敗だけじゃないと思うわ」

 

「もしかしたらずっと前からだったんじゃ……?」

 

 アイドルたちが様々に感想を述べるなか、一ノ瀬は理解したのか結論を下す。

 

「なるほどなるほど……ってことはことの原因は君らか! だからこの辺で変な反応があったんだね!」

 

「おいおい、言い方ってもんがあるだろ……」

 

 ウルフがフォローするが時すでに遅し。しかし、そんなことおかまいなしにあさひが口を開いた。

 

「じゃあ、わたしたちに原因があるなら、わたしたちに何かできるんじゃないっすか?」

 

 一同はその提案に驚愕した。

 

「しかし……そうであったとしても何をすれば……」

 

 はづきはどうすればいいかわからなくなっている。そこでソフィーが提案した。

 

「じゃあ、逆のことをしてみたらどうだ? アイドルの希望を贈るんだ。ジョーカーに」

 

 これもまた驚くべき提案だった。

 

「その手があったか、ソフィア! でもどうやって……」

 

「私たちが希望を与える方法……」

 

 そこで果穂が閃いた。

 

「そうだ! みなさん、今から283プロ合同ライブをしましょう!!」

 

 純粋で突拍子もない発言ではあったがみんな納得の表情を浮かべている。

 

「そうか、私たちはライブを通じてファンの人に希望を送っている」

 

「……! それならプロデューサーさんを助けられる?」

 

「やるっきゃないね」

 

「やりましょう!」

 

「うん!」

 

 アイドル全員は何をするかという方針が定まった。しかし、問題はまだある。

 

「でも場所は?」

 

「そうそう、準備とかどーすんの? そんなすぐできないよね?」

 

 美琴と愛依が最大の問題をぶつける。そこで社長が口を開いた。

 

「実は今度、合同ライブをしようと思っていた場所がある。きっとこの時間なら私の力で何とか使えるようになるはずだ。ぶっつけ本番になるが大丈夫だな、お前たち」

 

「裏方なら私に任せてください~」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 どうやら問題はなんとかなり、方針が定まった。

 

「決まったようだな。じゃあ俺たちが同行するぜ」

 

「シャドウは任せろ。お前たちには指一本触れさせない」

 

 ▽▽▽

 

 ー旧聖杯の間ー

 

「ほう、何やら無駄なことをしているな。まだ立ち上がれるとは」

 

「何を言っている?」

 

「見せてやろう。その目で今度こそアイドルたちが絶望に堕ちる様を見届けるがよい」

 

 無数にあるモニターにアイドルたちの様子が映った。

 

「あれはライブか? どうして?!」

 

「……こんなときにソフィーたちが無駄なことをさせるわけがない。一体何の目的があるんだ……?」

 

 

 

 

 ーライブ会場ー

 

 即興のライブのはずだが既に人が集まっていた。

 

「……不思議です。どうして人が集まっているんでしょうか?」

 

「私がやった。さっきあらかじめライブの会場を教えてもらったときにその場所でライブがあることを事務所のPCから宣伝しておいたぞ。この世界を認知している者のスマホは機能してなかったから少し苦労した」

 

「さすがソフィアだ! 偉いぞ!」

 

 そんな風にソフィアが一ノ瀬に褒められているとき、はづきは急いで動き回っていた。しかし、とある問題が発生していた。

 

「すみません、衣装がこれしか用意できませんでした。照明さんや音響さんには急遽来てもらえましたが……」

 

「この衣装は……」

 

「そうだね、この衣装からわたしたちは始まったんだよね……」

 

 283プロに入ってすぐの研修生すなわち”白いツバサ”であった時に着ていた衣装しか今は手元になかったようだ。

 

 衣装は最初の衣装しかない283プロ、しかし時間になったのでライブが始まった。

 

『Spread the Wings!』

 

 つばさを広げて……

 

 

 曲が始まると同時にウルフはあることに気づいた。

 

「ん? あれはシャドウか?! あんなところに、畜生!」

 

「まて、ウルフ。どうやら少し違うみたいだ」

 

 ためしにソフィーはヨーヨーを当ててみたが反応がない。

 

「なんてことだ。いったいどうすりゃいいんだ?」

 

「あれはアイドルたちの敵みたいだ。あいつらがなんとかするしかない」

 

「じゃあ、ソフィアたちは待機だ。なぜかシャドウの群れは減ってるけど準備しているにこしたことはないよ」

 

「了解した。敵さんが来るとしたら……」

 

「あそこだ。ウルフ」

 

「OKだ、ソフィー」

 

 

 舞台の上のアイドルたちは合同ライブに現れた審査員に困惑していた。観客はどうやら認知していないらしい。

 

(この人たちは審査員さん? どうして合同ライブに……?)

 

 この人たちは私たちの歌やダンス、ビジュアルにいつものようにケチをつけてくる。

 

 なんとか一曲目は終えることができ、全員が一旦舞台袖に戻ってきた。しかし……

 

「いつもより、ずっと厳しい……メンタル……持たない……」

 

「やっぱりわたしたちじゃ……」

 

「そんな、プロデューサー……」

 

 度重なるシャドウ審査員の口撃でアイドルたちのメンタルは折れかかっていた。だがここで恋鐘の声が響いた。

 

「みんな何しとる! 諦めたらいかん! プロデューサーが頑張って戦ってるばい! ここでうちらが折れたらプロデューサーが負けてしまうばい! うちらはアイドルやけん! 笑顔じゃなかいかん!」

 

「恋鐘ちゃん……プロデューサーさん……うん、頑張ろう!」

 

「そうだね、こがたんの言う通り!」

 

「私たちが折れちゃプロデューサーに顔向けできないね」

 

 恋鐘の叱咤によってみんな持ち直したようだ。

 

「このままやられっぱなしなのも癪だからねー。じゃあ次行ってみよーか、チームルナ行くよー」

 

『リフレクトサイン』

 

 

「チームソル、行くわよ!」

 

『SOLOR WAY』

 

 

「チームステラ行きます!」

 

『プラニスフィア~planisphere~』

 

 

「次は全員で」

 

『Dye the sky』

 

 

 ここにきて審査員の口撃が激しくなった。

 

(まだ……諦められないよ!)

 

 アイドルたちのプロ根性が発動するなか、とある言葉がかけられた。

 

「からっぽです。何も感じません」

 

「ダメダメね! かわいくないわ!」

 

「歌詞が違う……がっかりです」

 

 アイドルたちのメンタルを折るために何気なく発したこの言葉であった。しかし……

 

(トレーナーさんがしっかり考えてくれたダンスを……)

 

(はづきさんがみんなのために頑張ってくれたメイクを、衣装を……)

 

 バカにするなんて。

 

(そして、なによりもPたんが大好きな283プロの歌を……みんなの曲の歌詞を……)

 

(私たちが間違えるわけがない)

 

 アイドルたちの中で何かが切れた。何気ない言葉によってアイドルたちに叛逆の意思が宿った。現れた仮面を外し、”白いツバサ”の姿から瞬時に各々の衣装に変わった彼女たちはもう折れない。

 

 

 限界なんて本当はどこにもない! 

 

 

 シャドウ審査員はこの曲のパフォーマンスで満足しきったようだ。

 

「シャドウ、消滅確認」

 

「すげえ……一体どういうことなんだ……?」

 

「わからないけど彼らだいぶ満足していたみたいだね」

 

「あの姿は一体……?」

 

 

 ー旧聖杯の間ー

 

「なんだと……?! 馬鹿な?!」

 

「お、おい……あれって……」

 

「間違いねえ、怪盗服だ!」

 

「ということは彼女たちペルソナを?」

 

「しかし、覚醒時の怒りを表に出さずにペルソナ能力を発現させるとは彼女たちなかなかやるじゃないか」

 

「だが、そのせいかやや不完全のようだ」

 

 そのとき銃声がした。

 

「ふん。そんな不意打ちが通用すると思ったのか?」

 

「ジョーカー?」

 

「あの子たちはもう大丈夫だ。これで異世界の歪みに飲み込まれることはないだろう。さあ、俺たちの仕事をするぞ!」

 

「だな!」

 

「あの子たちが頑張ってるのに私たちが頑張らないでどうするって感じだもんね!」

 

「絶対勝たなきゃ!」

 

「さあ、みんな注意しろよ! 来るよ!」

 

 

 ーライブ会場ー

 

 休憩中舞台袖にて自身の姿が変わったことにアイドルたちは困惑していた。

 

「どういうことだ? 服装が一気に変わったぞ」

 

「原因はわからないわ。だけど、一つのパフォーマンスとしてファンの方々は捉えているみたい」

 

「いいじゃん、これ」

 

「あは~、雛菜この服好き~!」

 

「美琴さん! 休憩終わり一番最初にがつんと行っちゃいましょう!」

 

「そうだね。じゃあ、私たち、最初に行ってくるね」

 

「はい! 美琴さん! にちかちゃん!」

 

 

 SHHisで『Oh my god』

 

 

「じゃあ私たち行ってくるっす~!」

 

「ふゆたちの魅力を伝えられるよう頑張ります!」

 

「さあ……行くよ……!」

 

「ストレイライト!」

 

 ストレイライトの『Wandering Dream Chaser』

 

 

「次は……甜花たちの出番……!」

 

「ええ……行きましょう!」

 

「見ててね……プロデューサーさん!」

 

 アルストロメリアの『アルストロメリア』

 

 

「さあ、次に行きましょう!」

 

「よし! 行くぜ!」

 

「行きましょう! ファンのみんなが待ってくれてます!」

 

「藁人形も見守ってくれています……」

 

「放課後クライマックスガールズ出動!」

 

 

 放課後クライマックスガールズの『夢咲きAfter school』

 

 

「あー、もしかして次って私たち?」

 

「ん」

 

「うん!」

 

「あは~、楽しみ~!」

 

 

 ノクチル『いつだって僕らは』

 

 

「次、わたしたち行こう……!」

 

「ああ、もちろんさ」

 

「あー、でもあれやらなきゃね」

 

「そうだねー、恋鐘ー?」

 

「行くばーい! せーの!」

 

「アンティーカ!」

 

 アンティーカ『バベルシティ・グレイス』

 

 

「さあ! 行こう! 真乃、めぐる!」

 

「うん! 楽しもうね! 灯織、真乃!」

 

「うん! 頑張ろう! めぐるちゃん、灯織ちゃん!」

 

 

 イルミネーションスターズの『ヒカリのdestination』

 

 

 各ユニットのパフォーマンスが終わったあと次の2曲で最後となる。

 

『multicolored sky』

『なんどでも笑おう』

 

 徐々にエネルギーが溜まる。

 

「これなら行けるよ! みんな! もう少しだ!」

 

 そして響きわたるEncore。加えて3曲。

 

『Ambitious Eve』

『シャイノグラフィー』

『Resonance+』

 

 これで全てのセットリストが終了した。

 

「みんな~、今日はありがとう! 楽しかったー? もう終わるなんてわたし寂しいな~」

 

「即興のライブでしたが楽しんでいただけたなら幸いです!」

 

「それではみなさん、せーの!」

 

「ありがとうございました!」

 

 聞くまでもなくライブは大成功だった。そして、希望のエネルギーは満ち溢れた。

 

 

 ー旧聖杯の間ー

 

「くっ!」

 

「さあとどめだ」

 

「させるかよ!」

 

「くそう……打開策が見当たらねえ……」

 

「だけど、必ず活路はあるはず!」

 

 怪盗団は全員食いしばっている。そろそろ限界だ。

 

「無様だな怪盗団。まだ足掻くというのか」

 

「うっさい!」

 

「諦めの悪さもこちらの美点でな」

 

「ふはははははは! そうだったな、怪盗団。ではその信念を折らせてもらおう……む……?」

 

 そこで、モニターに映像が再び映った。

 

『これがうちらの全力ばい! プロデューサー!』

 

『プロデューサーさん! これがあたしたちの全力です!!』

 

『負けないで! プロデューサーさん!』

 

『待ってるから。私たち』

 

『プロデューサーさん、頑張るっすよ!』

 

『早く終わらせちゃってください! プロデューサーさん!』

 

『これが私たちの最高の笑顔です! プロデューサーさんに届いてください!』

 

「!」

 

「なんだこれは……?」

 

「……? 何か来る?」

 

 ーライブ会場ー

 

 ライブを終えて希望の力が放たれた、同時にそれを阻止せんと大きな機械天使の姿をしたシャドウが入ってきた。

 

「させはしない……」

 

 だが、絶望から産まれたこのシャドウはアイドルたちの希望の力に勝てるわけがなかった。シャドウは体を弾かれた。

 

「ぐはっ!」

 

「まあ、この世界で産まれたならその力に勝つのは無理だよね」

 

「おのれ……なら元凶を絶つまで」

 

 シャドウがアイドルたちに直接攻撃をしてきた! 万事休すかと思われたそのとき、

 

「そう来ると思ったぜ! バルジャン!」

 

「アイドルたちの邪魔をするな。パンドラ!」

 

 ウルフとソフィーがSHOW TIMEを発動した。

 

「憐れな……人間どもめ……」

 

「へっ、ちょろいもんだぜ」

 

「おつとめごくろうさん。私たちのできることはここまでのようだ」

 

「ああ、あとは彼らに任せておこう」

 

 シャドウを消滅させアイドル達への被害を未然に防いだウルフとソフィー。彼らの活躍によって、アイドルたちの力が無事ジョーカーに向かって放たれた。

 

 

 

 ーメメントス跡ー

 

(……? すごい力が来る)

 

「まさか……行かせてたまるか!」

 

 シャドウは大きな力に気づき止めようとしている。それに丸喜は気づいた。

 

「ここでやつをしとめるんだ! その力を雨宮君に届けなければ彼は負けてしまう!」

 

「わかりました! エラ!」

 

「俺に指図するな! ヘリワード!」

 

 エラとヘリワードは同時に強力な攻撃をしかける。特大の物理攻撃が2回と超特大の万能属性攻撃がシャドウを襲った。

 

「ぐっ、貴様ら! ……っ?!」

 

 触手のようなものが絡まり、シャドウの動きを止めた。

 

「さあ、今だ!」

 

「はい!」

 

「いくぞ! 殴れ、斬れ、撃て、殺せ!」

 

 二人の総攻撃がヒット。

 

「主よ……」

 

 シャドウは消え去った。

 

「はぁ、はぁ……ようやく片付いたか」

 

「……あれ、芳澤さん、どこに?」

 

「私も先輩たちに加勢しに行きます!」

 

 ヴァイオレットは走っていった。

 

「……君は行かなくていいのかい?」

 

「俺の役目はもう終わりだ。そういう契約だろう?」

 

「そうだったね。じゃあ、後は彼らに任せようか。……頼んだよ、雨宮君」

 

 

 ー旧聖杯の間ー

 

 届いた力は虹色の光となりジョーカーを包み込んだ。

 

「……! これが、みんなの力か……!」

 

(真乃、灯織、めぐる、恋鐘、摩美々、咲耶、結華、霧子、果穂、智代子、樹里、凛世、夏葉、甘奈、甜花、千雪、あさひ、冬優子、愛依、透、円香、小糸、雛菜、にちか、美琴……)

 

(俺はもう負けない!)

 

「なるほど、アイドルから生まれた絶望は希望で塗り替えちまえばいいんだ! ジョーカー動けるか?! ……ジョーカー?」

 

(……?)

 

 ジョーカーの中でペルソナが語りかけてきた

 

『我は汝、汝は我』

 

『今こそ、己が秘奥の力見せるとき』

 

(力が溢れてくる……!)

 

 アルセーヌとサタナエルが融合し新たな仮面となる。

 

(俺は知っている、この仮面(ペルソナ)の名を!)

 

「終わらせるぞ、ラウール!」

 

「すげえ、姿が変わった!」

 

「ペルソナが進化した!」

 

「パワーアップだね!」

 

「すごい力だ! これなら勝てる!」

 

「させぬ」

 

 悪神は巨大なシャドウを呼び出した! 巨大なシャドウは次々とシャドウを呼び出している。

 

「野郎! まだこんな力があったのか!」

 

「くそ、これじゃ近寄れねえ! せめてあのでかいのさえ倒せれば……」

 

「任せろ! ペルソナ!」

 

 ジョーカーがペルソナの力を解放すると大きな月の幻影が現れる。その後、大量のシャドウたちの動きが止まった。

 

「すごい! 一気に睡眠状態になったわ!」

 

「先輩!」

 

「ヴァイオレット!」

 

「私が倒します!」

 

「俺がサポートしよう、ペルソナ!」

 

「アグネス! あなたもお願い!」

 

 ゴロキチのスキルによって全員の能力が上がり、アグネスのスキルによってシャドウたちの能力が下がった。

 

「ありがとうございます! 先輩、私を上空に!」

 

「ああ! 行くぞ!」

 

 SHOWTIME! 

 

 ワイヤーで空に飛びあがったヴァイオレットとジョーカー。ジョーカーが銃を乱射したあと、ヴァイオレットたちが追撃し、巨大なシャドウをしとめた。

 

「ポーズも忘れずに……ってそんなことしてる場合じゃないですよ!」

 

「貴様!」

 

「攻撃してきた! ヴァイオレット避けて!」

 

「!」

 

「いけない! ルーシー!」

 

 全ての攻撃を反射するバリアでヴァイオレットは守られた。

 

「おのれ、小癪な人間どもよ。まだそのような力が残っていたとは」

 

「はんっ! ワガハイたちの限界を勝手に見定められちゃ困るぜ!」

 

 ディエゴがたくさんパンチを繰り出している。

 

「お前はもう黙っときな!」

 

 ウィリアムが巨大な手で攻撃する。

 

「醜いお前はもう要らない!」

 

 ゴロキチが切り捨てる。

 

「リーダーの邪魔すんじゃないわよ!」

 

 セレスティーヌが燃やし尽くす。

 

「いいぞ! 動きが止まった!」

 

 怪盗団の総攻撃でジョーカーが攻撃できるチャンスができた。

 

「とどめだ、ジョーカー!」

 

「いっけー! ジョーカー!」

 

「有終の美を飾ろう、ジョーカー!」

 

「今よ、ジョーカー!」

 

「ジョーカー、頑張って!」

 

「先輩!」

 

「いけえ、ジョーカー! ワガハイたちの全てを託すぜ!」

 

「ジョーカー、前のやつと同じ場所が弱点だよ!」

 

「わかった」

 

「馬鹿な! こんなことは、ありえん!」

 

 ジョーカーはワイヤーで悪神の近くまで飛んでいき、そして言い放った。

 

「失せろ」

 

 かつて、サタナエルが放った「大罪の徹甲弾」に似たものをラウールも放った。

 

(これは283プロみんなの力だ……)

 

 その弾丸は悪神を貫いた。これが決定打となった。

 

 崩れかけた悪神は最期に呟いた。

 

「何故だ。何故勝てないのだ。力を得た我もやつらと同じように滅びるというのか……おのれ、トリックスターめ……またしても……」

 

 こうして悪神は滅び、怪盗団はまた世界を取り戻した。

 

 

 ▽▽▽

 

「ふぅ~、一仕事終わったな」

 

「疲れた~、やっぱ昔みたいにはいかないね」

 

「まさか、こんな会話をすることになるとはな」

 

「本当、そうだね」

 

「みんなおつかれさん! ルブランでなんか食べてく?」

 

「あ! いいですね! それ!」

 

「打ち上げってこと? 何だか懐かしいわね」

 

「ああ! 久しぶりに打ち上げか! いいな!」

 

「……」

 

「どうした? ジョーカー……ああ、そうか」

 

「っと打ち上げは今度にしようぜ、どうやらリーダーにはまだ一仕事ありそうだしな! 西城によろしくな!」

 

「そうだね! 早くいってあげなよ! 甘奈ちゃんきっと待ってるよ?」

 

「八宮さんたちが待ってるんだろう。待たせると悪いぞ」

 

「そうね。待たせるのは私たちだけでいいわよ。灯織さんによろしく」

 

「うむ、私たちはいつでも会えるしな! 早く結華たちに会いに行ってやれ!」

 

「久しぶりに戦ったから今日は疲れちゃった。夏葉ちゃんや放クラのみんなによろしくね」

 

「チョコちゃんやにちかちゃんにちゃんと無事だってこと教えてあげてください!」

 

「みんな……」

 

「さあ、ワガハイがいつ猫の姿になるかわからん、急ぐぞ!」

 

「ありがとう! みんな、打ち上げは明日の午後6時、ルブランで!!」

 

「おう!」

 

 ジョーカーとモナは走っていった。

 

 ーメメントス跡ー

 

「よしここらへんからならいいだろう、変身!」

 

「今度は人がいないからずいぶん広そうだ」

 

「クロウ! 今回も助けられた」

 

「まあ、気にしなくていいよ。どうやら俺は認知上の存在らしいからな」

 

「……そうだったな。丸喜は?」

 

「さあ? 気づいたらいなくなっていたな。……俺に構ってていいのか? 早くあの素直じゃない子に会いに行きなよ」

 

「……ああ、そうする」

 

(そうか……あのときも……)

 

「なにもたもたしてんだ! 早く乗れ!」

 

「すまない。……じゃあな、クロウ」

 

「ふん……じゃあな。ジョーカー」

 

 ジョーカーはモルガナカーに乗り込んで急いで事務所に向かった。

 

「たまには車で通勤もいいんじゃないか?」

 

「今度買おうかな?」

 

「いいと思います。私、気に入りました」

 

「ラ、ラヴェンツァ殿。どうなされたのですか?」

 

「いえ、私も車に乗ってみたかったのです。ふふっ、もふもふで気持ちいいですよ、モルガナ」

 

「気に入っていただけたのなら幸いです」

 

「そうか。安全運転を心がける」

 

「いや、多少は急げ!」

 

「ふふ、つかの間のドライブとしましょう」

 

 ちょうど事務所の近くで変身は解けた。

 

「どうやらここまでのようだ。ワガハイは屋上で待ってるぞ」

 

「ああ、ありがとう」

 

「おお、蓮じゃないか。おつかれさん」

 

「善吉、今日はありがとう」

 

「気にするな。だが、ペルソナを使うのはもうこりごりだぜ」

 

「まあそういわず。……ソフィアも一ノ瀬もありがとう」

 

「あれ? 気づいてたのかい?」

 

「蓮。おつかれさまだ」

 

「待たせてるんじゃないの? 早くいってあげないと」

 

「そうだな。じゃあ、最後に。明日の午後6時、ルブランで打ち上げだ。参加してくれるよな?」

 

「おう、行けたら行くわ」

 

「……」

 

「なんだよ、その目! わかったわかった、行くから! これでいいだろう?」

 

「みんないるんだろ? じゃあ私は行くぞ。な、一ノ瀬」

 

「わかったよ、ソフィア」

 

「ありがとう。待ってる」

 

 次いで事務所の階段の前に青い扉が現れた。

 

「トリックスター。少しだけ時間を頂いていいでしょうか」

 

 

 ーベルベットルームー

 

「まずはおめでとうございます。そしてあなたが世界を再び救ってくれたことに感謝します。さらに、あなたの最後のアルカナ、『世界』にどうやら変化が訪れたようです」

 

『世界』のアルカナをかざすと見たことのある文様が。これは……

 

「それはあなたもご存じの283プロの文様です。ふふっ、あなたが守りたい世界にふさわしいアルカナとなりましたね。彼女たちと日々新たな希望を探し、そして多くの人を導いていってください」

 

 そしてラヴェンツァは青い蝶の姿になった。

 

「では、私はこれで。最後に……大好きです、マイトリックスター。世界一の男よ」

 

 

 ▽▽▼

 

 

 283プロダクション事務所 Afternoon

 

 気づけばいつものスーツ姿だ。階段を上って、ドアを開けて、そしていつも通りの挨拶をする。

 

「ただいま戻りました!」

 

 

 

 おかえりなさい! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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雨宮蓮と283プロ

 あらすじ:悪神との闘いに勝利した怪盗団。次の日に打ち上げをすることを約して解散するのであった。その後、蓮は急いで事務所に向かい、アイドルたちに迎えられるのであった。

 

 

 おかえりなさい! 

 

「おかえり! プロデューサー!」

 

「やは~~~♡おかえり~~~! プロデューサー~~~!」

 

 めぐると雛菜が飛びついてきたが蓮は躱した。

 

「あ、ありがとう……気持ちだけでいいよ……」

 

「もー!」

 

「え~!」

 

(視線が痛い……)

 

「おー」

 

「さすが怪盗団ですねー」

 

「すばらしい身のこなしだわ!」

 

「とても華麗でした……」

 

「はは……」

 

 みんなの声を聞き、蓮は守りたかった世界を守ることができたと実感した。激闘を終えて帰ってきた彼に社長とはづきが話しかけた。

 

「帰ったか、プロデューサー」

 

「社長」

 

「おつかれさまです~、プロデューサーさん」

 

「は……はづきさん、あ……ありがとうございます……」

 

「にしても驚いた。まさかお前が件の怪盗団だとは」

 

「はは……」

 

「あのー、こんなときにお二人にすごく申し上げにくいことがあるんですが……」

 

 はづきの言葉に社長と蓮は耳を傾ける。

「突発的にライブを行ってしまったせいでお問い合わせの連絡が多数来ています。至急、各々の対応をお願いします~」

 

 社長と蓮は驚愕した。が、そんなことおかまいなしにはづきは話を続ける。

 

「アイドルのみなさんは今日レッスンしかなかったですがキャンセルしてお休みにしておきました~。明日も同様なのでゆっくり休んでくださいね~」

 

「で、でも……」

 

「プロデューサー……あの……」

 

 甘奈と灯織が何かいいたげだった。その意思を汲み取った咲耶が社長に提案した。

 

「私たちも何か手伝ってもいいかい?」

 

「それよか!」

 

 恋鐘が賛同する。しかし、

 

「ありがたい……と言いたいところだが……」

 

「あまり見られたくない書類があったりみなさんに電話の対応を任せるわけにはいかないので……積もる話もあると思いますがそれはまた後日お願いします~」

 

「あ~、まあそうだよね~。はづきちさんにそう言われちゃ仕方ないか」

 

 結華は諦め気味に言った。そこで霧子が別の提案をした。

 

「じゃあ事務所のお掃除を……だいぶ汚れちゃったので……」

 

「わ、私も、お掃除します!」

 

「あたしも手伝います!」

 

「て、甜花も……」

 

「じゃあみんなで大掃除だね!」

 

 シャドウの襲撃でごたごたしていたため事務所の中が汚くなっていた。そのためアイドル全員で大掃除をすることにしたらしい。

 

「だいぶ賑やかになってしまったな」

 

「プロデューサーさんと社長は別の部屋で作業してはいかがですか?」

 

「ああ、そうさせてもらう。プロデューサーと話もあるからな。行くぞ」

 

「は、はい」

 

 二人は社長室にやってきた。改めて席に着いたあと社長が喋り始めた。

 

「……改めて感謝しよう。彼女たちの世界を、いや我々の世界を救ってくれたこと感謝する、怪盗団」

 

「社長……ありがとうございます」

 

「……私はあまり運命というものを信じるものではないがいささか仕組まれたものを感じる。あの時、たまたま惣治郎の店に行っていなかったらこんなことにはならなかったからな」

 

「……」

 

「まあこんなことを言っても仕方ないかもしれないがな……さて」

 

 社長が何かを言おうとしたとき事務所のインターホンが鳴った。

 

「……? どうやら来客のようだ」

 

「俺が出てきます」

 

「いや、私が行こう。お前はここで待っているといい」

 

「はい、わかりました」

 

 玄関に向かった社長。しばらくして部屋に戻ってきたが客人とともに入ってきた。

 

「……!」

 

「やあ、久しぶりだね。雨宮君」

 

「ご無沙汰してます」

 

 その人は、前職の社長だった。一瞬だが蓮の脳裏にリストラを宣告された光景がよぎった。社長の案内で部屋に通されたその男は蓮の対面に座り、話し始めた。

 

「……まずは以前の件を謝罪させてもらいたい。君に辛い選択をさせてしまったね、本当に申し訳なかった。言い訳がましいがあの時、会社そのものが忙しかったから君に碌な挨拶もできなかった」

 

 蓮は黙って聞いている。男は話を続ける。

 

「そして、それに君を退職まで追い込んだ彼だが……急に辞職したんだ。自身が犯した罪に堪えられなくなったらしい」

 

「……! そう……なんですか」

 

「おこがましいのは承知の上だがうちに復職する気はないかね。君ほど優秀で将来有望な男はいない。その……やめる原因となった彼がいなければわだかまりもなくなり君が働きやすい環境になると思うのだが……どうだろうか?」

 

 社長室の前に数人のアイドルたちが集まっている気配がしていた。この選択が事務所にとっても大きな岐路になるとここにいる全員が理解している。

 

「ですが……」

 

 蓮は社長の方を見た。社長は蓮の意図に気づき口を開いた。

 

「……私はお前をスカウトしたとき、退路を絶たれた状態だった。正直、フェアな取引だったとは言えない。選択する権利はお前にあると思う」

 

「天井社長……そうですね、……決めました」

 

 アイドルを含むこの場にいる全員が緊張している。息を整えたあと蓮は言った。

 

「この話は、せっかくですが断らせていただきます。俺はここで、283プロでやりたいことを見つけましたから」

 

 アイドルたちは静かに喜んでいる。その選択を聞いた前職の社長が答えた。

 

「……そうかい。残念だ。だけど前よりもずっと輝いて見えるよ。君の今後の活躍に期待しているよ。天井さん、今日は急にお邪魔してすみません」

 

「いえ、そんなことはありません。今後ともいい関係でいましょう」

 

「そうですね、お互いがより良い発展をするよう頑張っていきましょう。では今日は失礼しました」

 

 男は帰っていった。残念そうな顔ではあったが次世代の若者の決意に満ちた顔を見て満足しているようだった。男が帰った後、改めて社長が蓮に問う。

 

「……本当によかったんだな」

 

「はい。過去は過去ですから」

 

 社長は心なしか嬉しそうな顔だ。だがいつもの雰囲気に気合で戻してこう言った。

 

「……ふっ、だが私に言わせてみればまだまだ甘い。もっとアイドルの良さを伸ばすことができるはずだ。怪盗団のリーダーならもっとその能力を私に見せてみろ」

 

「……! はい、ご期待に応えます」

 

「さあ、作業を始めるぞ……どれどれ……むっ!」

 

 社長はPCを開くと一気にきまりが悪そうな顔になった。

 

「社長?」

 

「……私は電話の対応をするとしよう。お前はメールの対応をするといい」

 

「は、はい……ってええ?!」

 

 蓮がメールボックスを開くと受信ボックスにとんでもない数字が書かれているのが目に入った。どうやら更新する度にその数字は膨れ上がっているようだ。

 

「社長! さすがにこれは……」

 

「わ、私は甘くないぞ。これぐらい乗り越えてもらわなければ。さあはじめろ!」

 

「え、ええ……は、はい……」

 

(これは……神を相手にするよりもきついかもしれない……)

 

 蓮は半ばやけくそになりながら返信作業を始めた。一方、その様子をずっと観察していたアイドルたちはその光景を見て言った。

 

「あちゃ~、この感じじゃ、今日はプロデューサー無理そうだわこりゃ」

 

「打ち上げ、誘えそうにないですね」

 

「だな。アタシも来てほしいんだけど……」

 

「はづきも忙しそうだから私たちだけ楽しむわけにはね……」

 

「あー、じゃあ明日にしませんか? みんなレッスンも仕事も休みだから!」

 

「うん、それがいいと思う」

 

「そうしましょう!」

 

(しょーじきすっごく疲れてるからその方がありがたいわ……)

 

「プロデューサーさん、辞めなくてよかったね!」

 

「……やめるわけないでしょ。今更」

 

 ▽▽▽

 

 

 次の日 Morning 283プロダクション事務所

 

「ZZZ……」

 

 仮眠スペースで眠っている蓮。どうやら昨日は帰ることができなかったらしい。そこに凛世がやってきてプロデューサーを起こす。

 

「おはようございます……プロデューサーさま……? 朝でございます」

 

「うーん……凛世か……?」

 

「はい……プロデューサーさまはお疲れの様子。ですがそのような体勢で寝るとお体を悪くしてしまうと夏葉さんが仰っていました」

 

「はは、そうだな……よいしょ。結構遅くまで仕事してたからそんなこと考える余裕なかったよ。起こしてくれてありがとう、凛世」

 

「いえ……凛世は……」

 

「そういえば、凛世は今日休みじゃなかったか? ゆっくり休まないと」

 

「凛世は今日……あの……自主レッスンをしようと……その……高音が安定しないので……その……」

 

「ああ、レッスン室の鍵か。……あー、すまん、はづきさんが来るまで待っていてくれないか?」

 

「はい……お手数おかけしました……」

 

「……お疲れ様です」

 

「おお、円香。おはよう。レッスン室の鍵だけど……」

 

「聞いていました。ですが、おかまいなく」

 

「はは、ごめんな」

 

「いえ」

 

 そのあとも続々とアイドルたちは集まった。みんな自主レッスンをしに来ているみたいだった。他にも目的はあったかもしれないが。

 

 泊まり込みで仕事をした蓮だが今日も昨日のライブに関する問い合わせ等が次々と来ていたため起きてしばらくしてからすぐ作業を始めた。中には昨日のライブの影響から各グループ・及び個人に対しての雑誌・ラジオ・トークショー・テレビ番組・ネットドラマなどのオファーも来ていた。

 

「すごい数のオファーが来ています。あのライブの影響力の高さが見受けられますね」

 

「ああ。だが、突発的なライブだからきっと入場料が取れていない。それでも事務所の採算としては赤字だろうな」

 

「そのことなんですが……どうやら先のライブのチケット代がオンラインで清算されているようです」

 

「何? あんな短時間で誰がそんなことを?」

 

「さあ……プロデューサーさんは何か心当たりがありませんか?」

 

「……宣伝は誰がやったんですか?」

 

「えっと……確かあの時、ソフィアという方がそのようなことをやっていたと言っていたと思います」

 

「じゃあ十中八九ソフィアがチケットの販売までやってます。話すと長くなるんですが彼女の処理能力は完璧です。なのでチケットの購入数と売上が一致していればそれ以外は気にしなくていいと思います」

 

「わかりました~。それにしてもあの会場のデータだけでよくここまで……人間じゃなかったりして」

 

「えーっと、そうです。ソフィアはAIですね」

 

「え、そうだったんですか?」

 

「今更こんなことでは驚かないが……今後も彼女に協力してもらえれば我々の仕事も効率的になるかもしれんな」

 

「まあ聞いてみます」

 

 時間は流れていき……

 

「ふ~……ひと段落しましたね~……」

 

 時刻はPM5:00。丸1日かかってしまった。

 

「そうですね、いい時間ですし今日はこれで失礼します」

 

「そうだな、いつもこの量であれば残業二日目に入っている気がするが今日はずいぶんと要領がよかったじゃないか」

 

「社長とはづきさんが手伝ってくれたので」

 

「ふっ……気にすることはない。では私もこれで帰るとしよう」

 

「私も帰りますね~」

 

 3人が帰宅モードになっていたときそのタイミングを見計らったかのように声をかける者がいた。

 

「あの……」

 

「ん?」

 

「プロデューサーさん。このあとお時間ありますか?」

 

「みんなで昨日の打ち上げがしたいんだって……天井社長もはづきさんもどうかな?」

 

「お姉ちゃん行こう!」

 

「にちか……私はいいけど……」

 

「私も構わん」

 

「あー……」

 

 蓮は昨日のことを思い出す。

 

『打ち上げは明日の午後6時、ルブランで!!』

 

 珍しく彼から時間指定をしてしまったためにすっぽかすわけにはいかないのであった。

 

「せっかくの機会だけど俺はこのあとみんなで会う約束があるから……そうだ。場所は決まってるのか?」

 

「い、今他の子たちが探してくれてます」

 

「じゃあそれなら……」

 

「ほわっ? ……ほわわっ?!」

 

 

 

 

 Night 四軒茶屋 純喫茶ルブラン

 

「おー、お前らもう来たのか? 寿司はあるか?」

 

「もちろんだ。モルガナが喜ぶと思ってな」

 

「おイナリもたまには気が利くな!」

 

「選んだの私なんだけど……」

 

「まあまあ……」

 

「それよりももっと買ってきたほうがよかったかな?」

 

「いや、別にいいだろ。あーでも……」

 

「ぜ、全然大丈夫ですよ! それよりも蓮先輩遅いですね」

 

「まああいつが少し遅れるのはいつものことだろ」

 

「昨日帰ってこなかったからな」

 

「迎えに行かされた」

 

「ええ……」

 

「あ、誰か来たよ」

 

「おー、お前ら来てやったぞ……って呼んだ本人はまだいないのか」

 

「善吉も呼ばれていたのか」

 

「俺だけじゃないぜ」

 

「やあ諸君久しぶりだね。元気にしていたかい?」

 

「一ノ瀬さん! ということは……」

 

「よ、久しぶりだな。みんな」

 

「ソフィア~~!」

 

「今まで私たちに関わった人たちがたくさん!」

 

「や、やっぱりもっといっぱい買ってきたほうが……」

 

「そんなことだろうと思って用意しておいてやったぞ」

 

「おお! さすがだ、そうじろう!」

 

「マスターあざっす! ……とやっと来たな!」

 

「遅れてすまない」

 

「いいっていいって!」

 

「それと……」

 

 なんと蓮は283プロダクション全員をルブランに連れてきた。

 

「……はあ?!」

 

「これは……壮観だな」

 

「お前な……それだけは想定外だぞ」

 

「やっぱりプロデューサー、ルブランは少し無理があるかと……」

 

「わ、私やっぱり追加で買ってきますね」

 

「あ! 芳澤さん! お久しぶりです! それなら私も一緒に行っていいですか???」

 

「食べ物もそうだけど……どうやってスペースを確保しようかしら……」

 

「や、やっぱりご迷惑だったら……」

 

「ううん! そんなことないよ! あーでも……どうしよ……」

 

 スペースの問題は怪盗団が蓮の部屋(2F)、アイドルたちがルブランという形で一旦収まった。ここに怪盗団の打ち上げとライブの打ち上げの両方が同時開催となった。

 

 

 ▽▽▽

 

 ルブラン2F蓮の部屋

 

「いやあ、さすがアイドルをしているっていうだけあってかわいい子が多いな!」

 

「竜司は変わらないな」

 

「本当に……全く」

 

「でもこんなにたくさんの人が来てくれるなんて賑やかでいいね!」

 

「ああ、そうだな。それに今回は彼女たちも功労者だ。労う価値は十分あるだろう」

 

「だが少し多すぎやしないか? ……おっと失礼」

 

「電話か、善吉?」

 

「……誰だ?」

 

「もしもし……おお……え? まじかよ……じゃあ帰った時に……はあ?! いやちょっと待ってくれ……配信したいから早くって……そんなこと言われても……ちょっと待ってくれよ。確かそれは……あーあそこだ! 俺の部屋の中にあるはず……あったか?」

 

「……娘さんかな?」

 

「たぶんそう」

 

「あったか? あった? おおよかったよかった……そうだ、茜。今懐かしい面々と一緒にいるんだ。代わろう」

 

「やあ、茜久しぶり」

 

「……ひょっとして雨宮さんたち? お久しぶりです!」

 

「元気してた?」

 

「はい! おかげさまで!」

 

「ほんとに元気そうだね!」

 

「みなさんと久しぶりに話ができてうれしいです! そういえば、久しぶりに怪盗団が東京で目撃されたそうですね!」

 

「!」

 

「そ、そうなんだね」

 

「それについて今日配信で話せたらいいなって思ってて。みなさんはどう思いました?」

 

「久しぶりにコーフンした!」

 

「やっぱりそうなんですね!」

 

「本当に元気そうでよかった」

 

「えへへ……じゃあそろそろ時間なので、お父さんによろしくお願いします! あ、よければ配信アーカイブとかに残すつもりなので是非見てください!」

 

「おう! 楽しみしてるぜ!」

 

「では!」

 

「まだ配信していたんだな」

 

「怪盗団の影響力は強いな」

 

「そうだといいんだがな……さておっさんはおっさん同士で話してくるわ」

 

「なあ、わざわざこっちだけで集まる必要なくね?」

 

「ああ。せっかくだから交流しよう」

 

「そうだね! 色々聞きたいし!」

 

 

「……!」

 

 円香のスマホが鳴っている。

 

「どうしたの、樋口?」

 

「……別に何も」

 

(久しぶりにあの人配信するんだ。……アーカイブ残ってるかな?)

 

「あ、怪盗団が降りてきた」

 

「ちょっと……そんな言い方しないで……」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

「おお、蓮。降りてきたか。手伝ってくれ」

 

「わかった」

 

「うちも手伝う~!」

 

「わ、私も……」

 

「はは、ありがとう。だけどみんなはゆっくりしておいてくれ。みんな降りてくるから」

 

 怪盗団が全員降りてきてアイドルたちの交流が始まった。

 

「あ! 杏さん! お久しぶりです!」

 

「甘奈ちゃん久しぶり! この前の記事読んだよ~!」

 

「ありがとうございます!」

 

「ちょいまち! さっきちらって見た時から思ってたんだけどもしかしてモデルの高巻杏じゃない??」

 

「うん!」

 

「うそ~! 芸能人じゃん!」

 

「め、愛依ちゃんもそうじゃないかな~」

 

「やは~♡よく雑誌で読んでま~す! 今日ってどんなリップ使ってるんですか~?」

 

「ありがとう! えっとね~、今日は……」

 

 

「あら、もしかしてあなたが福丸小糸さん?」

 

「……! は……はい……そ……そうです……」

 

「以前姉が会ったと言っていて。あ、私、新島真っていいます」

 

「えっと……新島……あ……新島冴さんの……」

 

「ええ。あれからお姉ちゃんノクチルのファンになっちゃったの。曲がロック調なのも好みだったみたい。今ではすっかり小糸ちゃん推しだわ」

 

「そ、そうなんですか……えへへ……」

 

「よかったね、小糸ちゃん」

 

「う、うん! あ、ありがとうございます!」

 

 

「まさか春が怪盗団だったなんて」

 

「ふふっ、隠しててごめんね」

 

「いえ、私も同じ立場なら隠したと思うわ」

 

「まあそう簡単に明かすわけにはいかねえけどな」

 

「昔、やたらとカミングアウトしたがっていたのは誰だったか」

 

「うっ、その話はなし……」

 

「先生らしいよ」

 

「ふふっ、本当にそうだね」

 

 

「なるほどなるほどふたばんがここにいるということは怪盗団だったわけですね」

 

「まあな。……あまり広めちゃだめだぞ?」

 

「わかってるわかってる!」

 

「私たちのなかにそんなことをする人はいないさ」

 

「摩美々~? 言っちゃいけんよ?」

 

「さすがにばらしちゃいけないことぐらいわかってるー。恋鐘こそ口を滑らせちゃだめだよー」

 

「ううっ……わ、わかっとる!」

 

「内緒……です♪」

 

「……本当に大丈夫か?」

 

 

「正直、当時の怪盗団は未成年中心のグループだと思っていた」

 

「まあ、そう思うよな」

 

「あ、私は違うよ」

 

「怪盗団は私だ」

 

「え、もしかしてソフィアさん?」

 

「そうだ。人間のよき友人だ」

 

「なんと……ライブ会場では実体化していたように見受けられたが……」

 

「まあ色々ある。説明すると長くなる」

 

「そういえばライブのチケットを売ってくれてありがとうございます~」

 

「気にするな。会場の広さと過去のライブのデータから自動的に作っただけだ。すぐ終わったぞ」

 

「なんというか……すごいな。ソフィア」

 

 

「あ……黒猫さん……」

 

「マノ、メグル、レンに言われて会いに来たぞ」ニャー

 

「!?」

 

「これは……」

 

「どうしたの、まみみん? ソファーから危うく転げ落ちるところだったね~」

 

「もしかして摩美々、猫苦手~?」

 

「……いや、別に……そういうワケじゃ……」

 

(気のせい? 今、あの猫喋ったような……)

 

「ほわっ、モルガナさん」

 

「モルガナちゃん! こんばんは!」

 

「おう、楽しんでるか? 狭くて悪かったな」ニャー

 

「そんなことないよ! とってもレトロでいい雰囲気だね!」

 

「私、とっても楽しいです!」

 

 真乃とめぐるがモルガナと会話し始めた。その一方で

 

(やっぱり喋ってるよねー……)

 

「おや、やっぱり摩美々もそうなのかい?」

 

「……! 咲耶もー?」

 

「……ああ、実はそうなんだ。どうやら恋鐘たちには聞こえてないみたいだね。真乃とめぐるはどうやら聞こえているらしいけど。……他にも」

 

「……? 今誰が喋ったっすか?」

 

「こ、こんなにいっぱい人がいるから誰かは喋ってるんじゃないかな~?」

 

「まあ、こんなに集まってたらね~」

 

「いや、知ってる人の声ならわかるっす。明らかに別の人の声っす」

 

「……? ふゆにはちょっとわかんないな~?」

 

「……? 喋ってる? あの猫」

 

「猫が喋るわけないでしょ」

 

「え、でも……」

 

「と、透ちゃん……」

 

「や……やっぱり化け猫……」

 

「しゃべる猫って本当にいるんだ……」

 

「プロデューサーさんのペットってすごいのね……」

 

「……ふーん。ほかにもいるんだ……」

 

「なになに? 三峰にも教えてほしいなー?」

 

 摩美々や咲耶たちがそれぞれモルガナに対して反応している中、真乃とめぐるはモルガナと話続ける。

 

「あの、モルガナさん。今度ピーちゃんに会ってくれませんか? もしかしたらお喋りできるのかなって」

 

「あー……それはどうだろうな……だがワガハイもピーちゃんには興味あるぞ!」ニャー

 

「ほわっ、いいんですか? じゃあ今度ピクニックに行きませんか?」

 

「わたしも一緒に遊びたーい!」

 

「ワガハイはいつでもいいぞ」ニャー

 

「えっと……真乃、めぐる、さっきからどうしたの? モルガナってプロデューサーのペットだよね……? 二人とも大丈夫……?」

 

「……?」

 

「???」

 

「え……えっと……その……これは別にボケたわけじゃなくて……」

 

「モルガナちゃんずっと喋ってるよ? 灯織こそどうしたの?」

 

「え?」

 

「あー……メグル。たぶんヒオリには本当にワガハイの言葉は聞こえていないぞ」ニャー

 

「???」

 

「メグルだって最初は理解できなかっただろう?」ニャー

 

「……? あー! 初めて来たときは確かにそうだ! ごめんね、灯織!」

 

「え? え? え?」

 

「あー……そいつの声を理解できるやつが増えるとは思わなかったな……」

 

「え?」

 

「もしかしてマスターもわかるの?」

 

「いや、俺にはさっぱりだ。双葉曰く、あっちの世界で声を聞かなきゃその猫の言ってることが理解できないそうだ」

 

「そ、そうだったんですね」

 

「そういえばわたしたちは屋上で聞いてたけど、そのとき灯織はいなかったもんね……」

 

「ご、ごめんなさい、モルガナさん……といっても私には返事は聞こえないんですが……」

 

「まあ、気にするな。その反応、ワガハイは慣れてる。……それにしてもマコトと同じ反応だったな」ニャー

 

「えっと……なんて?」

 

「気にするなだって!」

 

 交流している間、追加物資を買いに行っていた部隊が帰ってきた。

 

「お待たせしました!」

 

「追加分買ってきました! でもみなさんもう話してますね!」

 

「あー! お姉ちゃんまだ食べてないよねー?」

 

「でもみんな楽しそうでよかった」

 

「おー、帰ったかヨシザワ」

 

「……え? 嘘……?」

 

「助かったよ、──ー。ちょうどこっちの準備も終わったところだ。そろそろ食べるか。智代子、にちか、美琴もありがとう」

 

「いえいえ!」

 

「今度お願い聞いてもらいますからねー……というかみんなあれスルーなんだ……」

 

「ううん、気にしないで。……どうしたの、にちかちゃん?」

 

「い、いえなんでもないです!」

 

「じゃあ始めちゃいましょうか。先輩!」

 

「え? 俺?」

 

「ほかに誰が始めるんだよ……」

 

「さすがにそうだろ。リーダー」

 

「頼んだぞ」

 

 皆からの注目を集める蓮。

 

「はは……じゃあ、今日は集まってくれてありがとう。怪盗団も283プロのみんなも、今は関係ない。仲間として楽しんでくれ!」

 

「おう! (はい!)」

 

 

 一旦ご飯を食べるためにそれぞれの席に着いた。善吉と一ノ瀬以外の怪盗団関係者は上に行った。

 

 

 ▽▽▽

 

 ごはんを食べ終わったころ下の階では一つの話題で盛り上がろうとしていた。

 

「長谷川さん、そういえば娘さんには会えましたか?」

 

「ああ、おかげさんでな」

 

「まあ、ご結婚なさっていたんですね」

 

「……まあな」

 

「マスターも結婚しとる?」

 

「いや、してねえよ。そういうのはあまりな」

 

「え、そうだったんですか? てっきり佐倉さんと双葉さんが本当の親子だとばかり……」

 

「あー、ふたばんがそんなこと言ってました」

 

「あの、失礼かもしれませんが社長はご結婚なさっているのですか?」

 

「私はな……」

 

 社長の話が一通り終わったあとそこに降りてきたのは……

 

「みんな盛り上がっているな」

 

「!」

 

 蓮が降りてきたので果穂が駆け付けた。

 

「あ! プロデューサーさん! 今結婚の話をしてたんです!」

 

「へえ、そうなのか」

 

「そういえばお前はまだ未婚だったな」

 

「そうだったんすか?」

 

「ああ」

 

「あの、プロデューサーさんって結婚したいって思ってるんですか?」

 

 息を呑むアイドルたち、蓮の答えは……

 

「もちろん」

 

「ほわわっ……」

 

「プロデューサー……」

 

「そうなんだ!」

 

「んふふ~」

 

「そうだったんですねー」

 

「おやおや、これは興味深いね」

 

「へえ~そうなんだ」

 

「そ……その……えっと……」

 

「そうだったんですね! ……えへへ!」

 

「そ、そうなのか?」

 

「凛世の心はとうに……」

 

「あら……うふふ!」

 

「プ、プロデューサーさん……」

 

「けけ……結婚……にへへ……」

 

「プロデューサーさん……」

 

「とっても素敵ですね!」

 

「へえ、そうなんだ!」

 

「いいね、グー」

 

「……そうですか」

 

「結婚なんて、そんな……」

 

「やは~♡ほんと~~~!?」

 

「もう! そういうの相手を見つけてからにしてくださいね!」

 

「……! そうなんだ」

 

「ともあれまずは相手を探すことだな」

 

「ま、まあそうだね。頑張って……」

 

「お……おう……」

 

(前途多難だな……)

 

「……」

 

 お店の空気が一瞬にして変わった。蓮は惣治郎と少し話をした後すぐに上がっていってしまった。

 

 

 ▽▽▽

 

 打ち上げが始まってから数時間、夜も遅くなってきた。

 

「っと、もうこんな時間だ。俺明日部活の朝練あるからそろそろ帰らないと」

 

「本当だ、私も明日テレビ局で朝から打ち合わせがあるんだった」

 

「俺は特に用事はないが」

 

「聞いてねえよ……」

 

「アイドルの子たちの中にも明日学校の子がいるんじゃないかな」

 

「そうね、そろそろお開きにしましょう」

 

「むむー名残惜しいが」

 

「大丈夫。また会える」

 

「そうですね。だって」

 

「俺たちは離れていてもつながっている」

 

「おう!」

 

 ▽▽▽

 

「蓮、竜司、よければこのあと銭湯にでも行かないか?」

 

「ああ、それぐらいならいいぜ」

 

「うん、行こうか」

 

 女性陣は誰も蓮から誘われなかったのでやきもきしている。銭湯に負けてしまった自分たちを情けなく思った。

 

「ソフィア、そろそろ行こうか」

 

「ああ、またな、みんな」

 

「また連絡するよ」

 

 一ノ瀬とソフィアは去っていった。入れ違いに善吉が来た。

 

「おっと、お前ら。俺はそろそろ帰るぜ。またな」

 

「ゼンキチ、アカネのことを大事にしてやれよ」

 

「んなことお前に言われなくてもわかってるよ」

 

「今日は来てくれてありがとう」

 

「気にするな。茜も久しぶりにお前たちと話ができて楽しそうだったじゃないか。それで満足だよ。じゃ、また機会があればな」

 

 善吉は帰っていった。

 

 

「怪盗団のみなさんはもう解散ですか?」

 

「うん、みんな忙しいから」

 

「もういい時間だ。お前たちもそろそろ帰るがいい。明日は平日だろう? レッスンも仕事も再開するので各々しっかりと休むように」

 

「……はい。わかりました」

 

「そうだね」

 

「うーん、もうちょっとお話していたかったなー」

 

「めぐるちゃん、私もー」

 

「さすがに果穂やあさひがいるからこれ以上遅くなるのはだめね」

 

「名残惜しいがこれでお開きのようだ」

 

 怪盗団もアイドルたちも名残惜しみながらこの打ち上げはお開きとなり、各々帰路についた。が……

 

(……あーあー、プロデューサーさんとあまりお話できなかったなー……)

 

(プロデューサーさま……)

 

(わかっていたけど……)

 

(ま、こんな状況じゃそう簡単に二人きりになんてなれないわね)

 

(はあ~、あまり話せんかった……)

 

(プロデューサー、銭湯行っちゃった)

 

(もー、担当アイドルほったらかすとか本当にないです!)

 

(もっと話したかったなあ……)

 

(でも……)

 

(プロデューサーさんの秘密を知れたことは)

 

(本当によかったですねー)

 

(次に会ったときどんな話をしようかな……?)

 

「?!」

 

「どうした、蓮?」

 

「いや、何か寒気が……」

 

「おいおい、こんなあっつい風呂に入ってるのにか……? ってあっつー! もう耐えらんねえ!」

 

「俺も……」

 

「さ、さすがにあがろうか……」

 

(だがさっきのは一体……?)

 

 

 

 蓮の秘密を知ったアイドルたちはこれでより一層蓮との絆が深められるようになった。しかし、それは同時に激しいプロデューサー争奪戦が幕を開けることを意味するのであった。

 

 to be continued……

 



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