イナズマイレブンに似た世界に転生した件について (よしたろうex)
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異世界に転生した日

初投稿です。誤字脱字や世界観の矛盾等あればご指摘お願いします。文章としておかしいところなど多々あるかと思われますが、よろしくお願いいたします。


 俺こと『坂上 和也』(20)はそこそこのホワイト企業に入り、そこそこ裕福な生活を送っていた。お金にもそこまで困ることもなく、娯楽に回す金も時間もあった。

 

 そんな俺が、最近はまっているのが『イナズマイレブン』というゲームだ。

 

 

「ここでグランドファイアを使って……。よし!5点目だ。やっぱレアンは使いやすいな。」

 

 

 今やっていたのはイナズマイレブン3のジ・オーガだ。最近、円堂守三作品と松風天馬三作品をやりこんでおり、休日はその内の1つの作品のドロップの周回によってつぶれている。

 

 

「結果は……。くそっ!マジで"ちょうわざ!"が落ちねぇな。」

 

 

 そんなこんなで悪態をつきながらも、3DSに向き合って周回の続きをしようとしたとき……。

 

 

「うわっ!!なんだ!?」

 

 

 3DSから突如、異常なまでの量の光が溢れ出した。あまりにもまぶしく、目を開けていられなくなり……。そこで俺の意識は途絶えた-------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、俺は赤ん坊になっていた。

 

 …………いやいやいやいやいや。え?ナニコレ。なんで赤ちゃんになってんの俺。ていうかなんで意識あるのこれ。あかん、訳が分からん。とりあえず泣こ。

 

 

「うぇぇ~ん!うぇぇ~ん!」

 

「おめでとうございます!元気な男の子ですよ!」

 

「まぁ、この子が私たちの……。」

 

 

 なんかマッマみたいなのが見てくるし、体も口も自由に動かせんし……。いや、そもそも俺は確か自分の部屋でイナイレ3をしてて……、そんで光が出てきて……。

 

 ……ダメだ。なんもわからねぇ。そもそも分かったところでどうにもできねぇし。

 

 

 こうして俺は考えることをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから5年の月日が流れた。どうやら俺は転生というものをしたらしい。前の世界では見覚えのない二人が俺の父親と母親のようで、俺のことを息子としてかわいがってくれている。まあ、見た目は普通に5歳児だからね。中身がおかしいだけで。ちなみに、名前はなんと前世と同じ坂上和也とつけてくれた。どんな偶然だよ。

 

 そして、俺がこの世界で5年過ごして分かったことがある。それは、この世界がイナズマイレブンの世界だということだ。俺もびっくりしたよ。たまたまつけたテレビでやってた、サッカーの海外の試合で『スピニングシュート』と『ムーンサルトスタンプ』が出たときは。この二つはイナズマイレブンの世界で出た必殺技であり、ゆえにイナズマイレブンの世界であると確信できたのだ。

 

 となれば当然やらなければならないことが2つある。1つ目は、雷門中の今の状態を確認することだ。それによって、俺は原作の進み具合を確認することができる。そして俺は、そこに当然介入するつもりだ。せっかく目の前で主人公たちの活躍が見られるんだ。介入しない選択肢はないだろう。個人的にはどこのタイミングでもいいが、エイリア女子組が好きなのであえて言うならエイリア侵略前がいいな。この時代ではパソコンは普及しておらずスマホもないので、テレビや新聞や人づてに情報を集めることにする。

 もう1つは、親にサッカーボールを買ってもらうことだ。いくら原作に介入するとは言っても、サッカーもできない素人なんかじゃ、せいぜい応援するモブがいいところだ。それでもかまわないといえばかまわないが、イナズマイレブンの世界に転生した以上やはり必殺技は打ってみたい。というか打ちたい。そのため、サッカー未経験者の俺が選手として関わるためには、小さいころからの特訓が必要だと考えた。中学までの膨大な時間と原作知識があれば、かなり有力な選手になれるはずだ。

 

 そしてこの日、俺はこの二つを実行した。

 

 結論から言うとサッカーボールは買ってもらえた。買ってはもらえたのだが……。

 

 

「雷門中なくね??」

 

 

 なんと雷門サッカー部の話どころか雷門中の話すら聞かなかった。どうなってんだ?

 

 サッカー部がないだけならGOのクロノ・ストーン次元だったのだが、雷門中自体がないとなると心当たりがまったくなくなる。仮に雷門中の功績が過去や未来の話ならば、文明レベルが原作と同じであることが気にかかる。もしそうならば、もっと発展していたり、もっと古い時代であったりしなければならないはずだからだ。雷門中は原作が始まった時点で40年ちかく前から存在しているため、2~3年ほど過去の世界というのもあり得ない。

 そこまで考えて俺が出した結論は……。

 

 

「これもしかして………。必殺技があるだけで原作とは別の世界なんじゃね?」

 

 

 

 

 

 

 

 俺はイナズマイレブンに似た世界に転生した。

 




 この作品に目を向けてくださりありがとうございます。勢いのままに書いてしまった作品ではありますが、時間を見つけて続きを書こうと思っているのでよろしくお願いします。目標はとりあえず、完結させることです。


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加賀美綺羅に出会った日(前編)

 いやまいったね。まさか原作と違う世界にいるとは想像もしてなかった。原作キャラと会えないのはヒジョーにショックではあるが、世界が違うとなると俺にはどうしようもない。逆に潔く諦めがつくというものだ。むしろ必殺技がある分だけマシというものだな。

 

 とにかく、ボールを買ってもらった以上特訓あるのみだ。原作キャラに会えないのは悲しいが、それはそれとして超次元サッカーはしたい。というか必殺技が打ちたい。ゲームをプレイしていたころから必殺技には憧れており、時代が経つにつれてリアルになっていくエフェクトに感動していた。そんな必殺技をリアルに体感できる機会など、そうそうあるものではない。俺にサッカーをしない選択肢などなかった。

 

 幼稚園の帰りや休みの日は、いつも河川敷で特訓をしていた。ちなみに、この河川敷は偶然見つけた場所だ。サッカーコートなどあるはずもなく、ただ広い空間があるだけだったが、イナイレの特訓場所といえば河川敷という俺のポリシーが働き、ここで特訓をするようになった。

 

 必死になって特訓を続け、そして1年半が過ぎた。今日は幼稚園の卒業式だ。周りの園児は泣いて別れを惜しんでいたが、俺はさっさと立ち去りたかった。なぜかって?

 

 

 ………ずっとボッチだったからだよ!!

 

 

 まさか人生2週目にしてボッチを食らう羽目になるとは思わなかった。いや、まて。俺に問題があるように思うかもしれないが、そうじゃない。俺はこの世界について思わぬ誤算があったんだ。

 

 この世界ではサッカーがマイナーなスポーツであることだ。

 

 まさかイナイレの世界観でサッカーがマイナーなスポーツであるとは思わないだろう?俺もそう思った。

 

 

「サッカーやろうぜ!」

 

 

 ゆえに、幼稚園のみんなにそう呼びかけたのは当然のことだろう。しかし、返ってきた返事は、

 

 

「さっかー?なにそれ?」

 

 

 だった。俺は耳を疑ったよ。俺をからかっているのかとも思った。だから俺はしつこいくらいに何度も何度も誘った。必殺技のことばかり考えて、浮ついていた気持ちのせいもあったのだろう。気が付けば俺は周りから孤立していた。当然だ。彼らからしてみれば、知らない何かをやろうやろうとしつこく誘われていたのだから。俺も彼らの立場なら距離を置いていただろう。そんなこんなで俺はボッチになってしまった。

 ちなみに海外でのサッカー人気はすごく、知名度が低いのは日本だけだそうだ。日本にもサッカープレイヤーはいるにはいるが、外国と比べるとその規模はとても小さい。2021年現代でいうeスポーツのような扱いだといえばわかりやすいだろうか。

 

 そんな俺が卒業式など楽しめるはずもなく、気が付けばいつもの河川敷に来ていた。ああ、やっぱり特訓する時間が一番至福だ。何も考えずにひたすら体を動かすことがこんなに楽しかったとは。

 ただ、今日はそんな至福の時間にも影が差す。とあることで悩んでいたからだ。それは、

 

 

「必殺技が全然使えねぇ……。」

 

 

 そう。俺はFWをしたいがために今までドリブルやシュートの特訓をしてきたが、一向に必殺技が使える兆しが見えない。比較的簡単そうな『グレネードショット』や『スパイラルショット』や『ひとりワンツー』などを試してみたものの、似たような何かになるだけで必殺技とは到底呼べるような出来ではなかった。

 俺のレベルが足りないのだろうか?いや、そもそも小学1年生になる前のような子供に必殺技など使えないのだろうか?

 

 そうやってうんうん悩んでいると、背後から声をかけられた。

 

 

「なにしてるの?」

 

 

 振り返ると、薄水色の長い髪をし、整った顔立ちをした少女が立っていた。同じくらいの身長なので同い年だろうか。この辺りでは見たことがないが。

 ……というか、少女……か?いや、イナイレの世界観であんなに可愛い子が女の子なわけないか。極端に可愛い子はみんな男の娘ってイナイレから教わったからな。

 

 

「ん?サッカーだよ。……あー、ごめん。サッカーってわかる?」

 

「!……サッカー……。」

 

「もしかしてサッカー知ってるのか?」

 

「う、うん。しってるけど……。」

 

「マジか!なぁ、一緒にサッカーやらないか?」

 

 

 サッカーをやっている人間をこの世界で初めて見たからか、自然と声が弾む。というか今冷静に見ると、普通に女の子だった。ごめんね。……俺のイナイレの常識が壊れた瞬間だった。

 

 

「……ごめん。サッカーはもうやらないってきめたの。」

 

「えー。なんでだよ?楽しいぜ、サッカー。ほら。」

 

 

 そういい、リフティングを始める。いくら特訓したとはいえ、まだリフティングも集中しないと続かないレベルだが。そんな状態だから、俺は彼女の変化に気が付かなかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしはもともとサッカーなんてしらなかった。サッカーをしったのはクラスのみんなとあそんでいたとき。

 

 

 

「なあ、サッカーってしってるか?」

 

「さっかー?なにそれ?」

 

「なんか、あしだけでボールをうごかしてあそぶんだってよ。」

 

「へー。」

 

 

 さいしょはみんなあんまりたのしそうじゃなかった。でも、やりかたをおぼえていくうちにみんなどんどんはまっていった。

 いちばんはまったのは、たぶんわたしだろう。わたしはいままでなにもとくいなことがなかった。だからじぶんのことがきらいだった。そんなとき、

 

「君にはサッカーの才能がある。」

 

 といわれた。うれしかった。わたしをみとめてもらえたようなきがしたから。

 

 それからも、わたしはサッカーをつづけた。やるたびにうまくなっていっているのがわかった。いつしかわたしはてんさいとよばれていた。じぶんのことがはじめてすきだといえた。

 

 そんなあるひ……。

 

 

 わたしがけったボールが、クラスのみんなをふきとばした。じぶんのちからをせいぎょできなかったから。わたしからすれば、ちょっとちからかげんをしっぱいしただけ。でもみんなには、きょうふというかたちでのこりつづけることになってしまった。

 

 そのひからわたしは、みんなにむしされるようになった。だれもわたしとサッカーをしてくれなくなった。げんいんはきっとあのひのできごとだ。

 

 どうしてわたしにはさいのうがあるんだろう。あのひもっとじぶんのちからをつかいこなせていれば。あのひボールをけらなければ。あのひサッカーをしなければ。わたしがサッカーをすきにならなければ。

 

 

 いつしかわたしは、わたしのさいのうと、サッカーじたいをきらいになっていた。きっとこれは、ただしいおもいじゃない。でも、わたしのこころをなっとくさせるには、これしかなかった。そしてわたしは、にどとサッカーとかかわらないときめた。またひとをきずつけてしまうから。またひとりぼっちになってしまうから。

 

 

 

 

 

 

 なんとかようちえんをそつぎょうしたわたしは、おかあさんにたのんでとおくにひっこしてもらった。ようちえんのみんなとあいたくなかったから。

 

 あたらしいひっこしさきについたわたしは、まちをたんけんしていた。そしてかわぞいにきたわたしは、そこでひとりのおとこのこをみかけた。ふつうならなんともおもわないそのこうけいに、わたしはひかれた。かれもひとりぼっちだとおもったから。きづいたらわたしはかれのちかくまでいきこえをかけた。

 

 

 

 

 

 はなしかけてこうかいした。かれはサッカープレイヤーだった。にどとサッカーとかかわらないしようとおもっていたのに、わたしからかかわってしまった。なるべくはなしをはやくおわらせようとしたわたしはかれのめがかがやいていることにきづいた。そのめをみたときわたしのおもいはおさえきれなくなった。

 

 

 どうしてかれはたのしそうにサッカーをしているの?

 

 どうしてわたしがすてた、だいすきなサッカーをそんなにいきいきとできるの?

 

 きっとそのめはわたしのちからかげんがうまくいっていたみらいでしていためなのだろう。そうおもった。わたしがしっぱいさくで、かれがせいこうさく。そんなふうにおもうようになった。かれがうらやましかった。かれがにくかった。

 

 

「ほら、ボール。」

 

 

 わたしのこころにやみがうずまいているときに、あしもとにボールがころがってきた。きっとかれがわたしたものだ。わたしはこのおもいをボールに、そしてかれにぶつけることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……リフティングを見ているだけでもつまらないと思いボールを彼女に渡したんだが、なぜか彼女はうつむいたまま動かない。

 

 

「……おーい?聞こえてるかー?」

 

 

 その声に反応したのかは知らないが、彼女はゆっくりと顔を上げた。その眼は親の仇を見るような眼だった。………なんで?

 

 

「なんで……。なんであなたはサッカーをしているの?わたしがあきらめたサッカーを……なんで!!」

 

 

 そう言い放ち、彼女は俺に向かってシュートを放つ。

 

 ……いや、ちょ、えぇ!?まってまって、いきなりかよ!

 とっさに手を出してボールを受け止めようとするも、彼女の鋭いシュートに徐々に押し込まれていく。

 

 

「……くっ、このぉ!」

 

 

 なんとかシュートをはじき返した俺だが、ボールは再び彼女のほうへと飛んでいく。

 

 

「ふっ!」

 

 

 彼女はそのボールを、再び俺に向かって蹴りこんできた。どうやら正気を失っているようで、なんとかはじいても錯乱した様子で三度俺にシュートを打ってくる。

 

 

「いきなりなにすんだよ!」

 

「あなたが……あなたがにくい!わたしのまえでたのしそうにサッカーをしないで!」

 

「なんじゃそりゃ!?無茶苦茶にもほどがあるだろ!?」

 

 

 よどんだ眼、ハイライトが入っていない敵意のある眼で俺をとらえている彼女は、しかしどこか泣きそうな表情を浮かべながら語りかけてくる。

 

 

「にどとわたしのまえでサッカーをしないで!」

 

「断る!サッカーは今の俺のすべてだ!誰にも俺のサッカーを止めさせはしない!」

 

「……そう、くちでいってもわからないようね……。」

 

 

 そういうと、彼女は俺がはじいたボールをとり、そのまま真上に高く上げた。そして、彼女自身も体を回転させながら、ボールまで跳んでいく。その足には黒いオーラがまとわりついていた。やがてボールまでたどり着いた少女ははっきりとこちらを睨み付け、回転の勢いそのままにオーラをまとった足でボールを蹴りこんだ。

 

 

「じゃあ、サッカーができないからだにしてあげる!」

 

 

 黒きオーラをまとったボールは、今まで体験したことのない威力で俺に向かってきていた。

 

 

 

 

 

 

 『ダークトルネード』じゃん!マジか!お前必殺シュートが使えたのか!はぇ~、同じくらいの年代のやつでも必殺技が使える奴は使えるのか。良いことを知ったな。

 ……なんて言ってる場合じゃねぇよ!どうすんだよこれ!ノーマルシュートすら止められてないんだぞ!ダークトルネードなんて食らったら幼いこの体じゃ吹き飛んじまうぞ!避ける時間もねぇしマジでどうすんだこれ!

 

 

 

 

 

 

 

 『ダークトルネード』を放ち、幾分かスッキリし冷静になった彼女は改めて彼を見る。そして、彼の慌てている表情と、自分が打ったシュートを見て、自分が何をやってしまったのかを今更ながらに理解する。

 

 

(……ダメ!あれをうけたらただじゃすまない!)

 

「にげて!」

 

 

 とっさに彼女はそう叫んだ。

 

 

(なにやってるのよ!わたしのバカ!かんけいのないひとをまきこんで!)

 

 

 一度冷静になった彼女は自分のしてしまった過ちをひどく後悔する。

 

 

(そうだ。わたしはこんなヤツなんだ。かんけいのないひとにやつあたりして。そのひとをきけんなめにあわせて。やっぱりわたしはサッカーなんてやるべきじゃなかったんだ。)

 

 

 自責の念に駆られながらも、彼女は彼を救おうと走り出す。間に合わないとわかっていながらも、彼女は走ることをやめなかった。頭の中が後悔と懺悔で埋め尽くされ真っ白になった時、

 

 

 彼女は光を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にげて!」

 

 

 逃げろっつったって間に合わねぇよ!クソ、俺はここで死ぬのか……?

 

 

 

 

 

 ……いやだ、死にたくねぇ。まだだ。まだ俺は超次元サッカーをしていない。

 

 

 超次元サッカーをするまで、死んでも死に切れん!

 

 

 受け止める!なんとか『ダークトルネード』を受け止めるしかねぇ!

 

 

 

 

 

 そう決めたとき、右手に違和感を感じた。

 

 

「これは……?」

 

 

 右手を見て俺は驚いた。目に見えて分かるくらいに右手にエネルギーがたまっていたからだ。それを見た瞬間、俺は自分が何をすべきかを悟った。

 

 

「いいぜ、やってやる!」

 

 

 そう叫ぶと、俺は右手を広げ勢いよく上にあげる。すると、俺の頭上に光をまとった巨大な右手が浮かび上がった。

 

 

 

「『ゴッドハンド』!!!」

 

 

 

 そのまま、その巨大な右手を目の前に突き出す。その巨大な右手は、やがて『ダークトルネード』と激突し…………。

 

 

 

 

 やがて巨大な右手は割れ、その奥には右手でボールをキャッチしてる俺が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺FW希望やったんやが、もしかしてGKやれって言われてるんかこれ?

 




・ダークトルネード
 原作で主にシャドウが使っていた技。アニメ勢からすると、シャドウ自体の登場回数が少なく、覚えている人は覚えている程度だと思う。ゲーム勢は、無印の有名な隠しキャラということもあって知っている人も多いのでは?威力は下の中。


・ゴッドハンド
 原作では我らが円堂が使っていた技。イナイレの代名詞とも呼べる技であり、知らない人はいないだろう。威力は下の中。




なんか長くね?1話との文字量の差がえぐい……。

少女の年齢で考えると漢字は使えないと思ったので全部ひらがなで書いたのですが、後から見返すとめっちゃ見にくかったです。皆様の見にくいという意見が多ければ漢字を付け加えて見やすくします。



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加賀美綺羅に出会った日(後編)

メインは当然中学編なのですが、中学までなかなかいかないな……。


 ……マジか。俺、『ゴッドハンド』を使ったのか。というか俺、適正GKなのか。そりゃドリブルやシュート技なんか練習しても習得できんわけだ。本当はFWがよかったんだが、まあ『ゴッドハンド』が使えるのならGKも悪くない。

 

 そんなことを考えていたところ、例の少女がポカンとした表情でへたり込んでいるのが見えた。

 

 

「おーい?大丈夫か?」

 

「……はっ!あ、あなたこそだいじょうぶ!?ごめんなさい!わたし、とんでもないことを……。」

 

「お、おう。平気平気。とりあえずいったん落ち着いてくれよ……。」

 

 

 そうやって少女を落ち着かせた後、事情を語ってもらった。

 

 サッカーの才能があるということ。幼稚園でしでかしたこと。そのせいでクラスメイトから避けられていたこと。サッカーが嫌いになったこと。卒業した後この町に引っ越してきたこと。俺が楽しそうにサッカーしているところを見て、気持ちが抑えられなくなったこと。

 

 そこまで話した少女は、

 

 

「ほんとうにごめんなさい。あなたをあんなきけんなめにあわせてしまって…。」

 

 

 と、俺に謝罪の言葉を投げかけてきた。

 

 うーん。まあ、別に怒ってないしな。大惨事になったかもしれなかったことは確かだが、実際大事には至らなかった訳だし。それに、子供がしでかした事件である以上、許して正しき道に導いてやるのが大人というものだろう。そもそも原作で、校舎を潰したり重傷を負わせたりしていたやつらに比べれば、こんな事件屁でもねぇ。

 

 

「気にするなよ。俺も無事だったしな。」

 

「うん。ありがとう……。」

 

 

 そういいつつも、彼女の顔は浮かない顔だ。うーん、どうしたものか。

 

 

「じゃあさ、俺に迷惑をかけた罰として、俺の頼みを聞いてくれないか?」

 

「たのみ……。うん。わかった。」

 

 

 

 

 

「俺と一緒にサッカーをしてくれ!」

 

 

 

「…え?」

 

 

 俺の言葉を聞いた少女は大きく目を見開いた。

 

 

「わたしと……?あんなことしたのに……?」

 

「気にするなって言っただろ?それに、サッカー好きなんだろ?」

 

「……ううん。わたしはサッカーがきらい。」

 

「いいや、そんなことはない。シュートを受けたから分かる。お前は口では嫌いって言ってるけど、本心じゃサッカーが好きで、やりたいんだろ?」

 

「……!!」

 

 

(そっか……。わたし、こころのそこではサッカーがすきだったんだ……。ぜんぜんきがつかなかった……。)

 

 

 まあ本当は、錯乱していた時にサッカーをしている俺に嫉妬していたっぽいから分かったんだけどな。でもこういったほうがかっこいいだろ!

 

 

「でも、まただれかをきずつけてしまうかもしれない……。」

 

「ならそうならないように、力をコントロールできるように特訓したらいい。」

 

「コントロール……。」

 

「ああ。俺が手伝うよ。また力が暴走したら、俺が止めてやるさ。」

 

「……。」

 

「それに俺さ、夢があるんだ。」

 

「……ゆめ?」

 

「ああ!それは、サッカーで世界一になることさ!」

 

「せかいいち……。」

 

「日本はサッカーが弱い国さ。だからこそ、だ!弱いチームが強いチームを次々と打ち倒す。ワクワクしないか?そしてそれを実現するためには、お前の力が必要なんだ。」

 

「!……わたしのちからが……ひつよう……。」

 

「ああ!まだ小学生にもなっていないのに、あんなにすごいシュートが打てる天才ストライカー。そしてそれを止めるGK。そんな俺たちが組んだら、きっとどこまでも行けると思うんだ!」

 

 

 まあ、俺の夢は今考えただけのでまかせなんだけどな。俺が本当に伝えたかったのは、君を必要としている人もいるってことだ。そのためなら内容は何でもよかった。

 

 

「わたしは、サッカーをしていいの?」

 

「当たり前だろ?さあ、サッカーしようぜ!」

 

「……うん!」

 

 

 やっと笑顔を見せてくれた。……ふぅ、円堂や天馬みたいに上手いことメンタルケアできるか不安だったがとりあえず一安心だな。……そういえばまだ名乗ってねぇしこいつの名前も知らないな。

 

 

「俺は坂上和也。君は?」

 

「わたしはかがみきら!よろしく、かずや!」

 

「ああ、よろしくな!キラ!」

 

 

 俺たちは互いに自己紹介し、握手をする。……自己紹介遅くね?

 

 しかし、世界一か。適当に言い放ったことではあるが、案外いい目標かもしれない。原作でも1番目指して頑張ってたしな。それに、なんの目標もなしにただ必殺技が見たいというだけでサッカーをつづけるよりは全然いいだろう。

 よっしゃ、当分の目標は世界一だ!

 

 

 そのあと、俺たちは抑えていたものが溢れ出すように、すっとサッカーの話をしていた。

 

「へー、じゃあかずやはもともとGKじゃなかったの?」

 

「ああ。ずっとドリブルやシュートの特訓をしていたんだ。GKをやったのも、『ゴッドハンド』を出したのも今日が初めてだ。」

 

「そうなんだ。じゃあきっと、かずやにはGKのさいのうがあるよ!なんていったって、わたしのシュートをとめたんだから!あのご、ごっどはんど?ってやつもすごかったよ!」

 

「はは……、きっとそうだと思う。……でも、キラの『ダークトルネード』もすごかったしびっくりしたよ。キラみたいなやつを天才っていうんだろうな。」

 

「『ダークトルネード』……?」

 

「ああ、さっきの黒い必殺シュートの名前。気に入らなかったか?」

 

「『ダークトルネード』……。ううん、きにいった!ありがとうかずや!」

 

「ああ、気に入ってもらえて何よりだ。」

 

 

 まあ俺がつけたわけじゃないんだけどな。しかし元気だなキラ。きっとこれが本当のキラなんだろうな。

 

 そんなこんなで話し込んでいたら、すっかり日が暮れてしまった。

 

 

「あ、もうこんなじかんだ!そろそろかえらないと!」

 

「ああ、そうだな。」

 

「ねぇ!かずやはあしたもここでとっくんするの?」

 

「そのつもりだ。キラも来れるか?一緒に特訓しようぜ。」

 

「うん!ぜったいいく!じゃあまたあしたね!」

 

「ああ、また明日!」

 

 

 そういって、キラは帰っていった。いやしかし、ほんとにいろいろあった日だったな。天才ストライカー、キラか……。あいつ、ほんとにすごかったな。くぅ~、ワクワクしてきたぜ!あいつが中学生になるころには、きっとすごいストライカーになってるはずだ!それに、俺も『ゴッドハンド』を使えたんだ!なら、ほかの技もきっと特訓すれば使えるはずだ!あぁ~、モチベが上がりまくってしょうがねぇぜ!

 

 

 俺はウキウキで家に帰った。初めてこの世界でサッカーを続けてきて良かったと思えた。




加賀美綺羅(かがみきら)
 ゲームでの名前表記は"キラ"です

 イナイレのモブキャラを全員把握しているわけではないので、もし仮に名前がかぶっていても偶然です。

 プロットが切れたため少し頻度が落ちるかもです。時間が欲しい……。


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友人がサッカーと出会う日

 今更だけど、こんなオリキャラしかいないイナイレ小説どこに需要があるんだ…。


 あの日から5年がたち、俺たちは天竜小学校(てんりゅうしょうがっこう)の五年生となった。どんな学校名だよ。その間、俺とキラは暇さえあれば河川敷で特訓していた。ちなみに、サッカークラブ的なものには入っていない。理由は、キラの力の制御がまだ不完全だからだ。俺だけ入るというわけにもいかず、俺たちのサッカー界へのデビューは中学以降に持ち越しになった。

 

 学校では幼稚園での反省を生かし、それなりに良好な友人関係を作っている。サッカーの話が出来ないのが少々難点だ。キラも、持ち前の明るさと整った顔立ちでちょっとした有名人まで上り詰めた。闇を抱えていたころとは比べ物にならないくらい笑顔も増えて大変喜ばしいことだ。ただ、キラに話しかけられた際に周りからの嫉妬の目線が痛く突き刺さるのだけは気になるがな。

 

 学校を終えた俺とキラは、いつものように河川敷で特訓していた。

 

 

「『ダークトルネード』!」

 

「『ゴッドハンド』!」

 

 

 互いに必殺技を使った勝負は、僅かに俺に軍配が上がる。

 

 

「いいシュートだったな!」

 

「むぅ~。次は決めるからね!」

 

 

 とったボールをキラに渡したところで、遠くから声がした。

 

 

「おーい!坂上!何してんだー?」

 

「あれはたしか、同じクラスの……。」

 

「鶴巻 忍(つるまきしのぶ)だな。こんなところで会うなんて珍しいな。」

 

 

 鶴巻は、俺が小学校三年生くらいの時から仲良くなった、赤いショートカットの髪型に生えたくせ毛と優しそうな眼が特徴の友達だ。実際結構優しいんだよなこいつ。

 

 

「よう、鶴巻。今サッカーやってたんだ。」

 

「さ、さっかー?それっていったい……あれ?そこにいるのはもしかして加賀美さんじゃないか?」

 

「やっ、鶴巻君。こうやってしっかり話すのは初めてだね。」

 

「あ、ああ。そうだな。……。おい、坂上。なんで加賀美さんがここに……、いや、さっき言ってたサッカーってやつか。」

 

「そうそう。私も和也もサッカープレイヤーなんだよ。」

 

「へー。面白いのか?サッカーって。」

 

「ああ。やってみるか?」

 

「おう。まずはルールから教えてくれ。」

 

 

 こうして俺たちは鶴巻にサッカーを教えることになった。これでサッカーにはまってサッカー仲間が増えるといいんだが……。

 

 

 

 

 

「なるほどな。大体わかった。早速やってみようぜ。」

 

「よし。じゃあ、俺が持ってるボールを奪ってみてくれ。足だけでな。」

 

 

 とりあえず、軽くボールの取り合いをやってみることにした。やる気に満ちている鶴巻を前に、ボールをキープして構える。ちなみに、キラは少し離れた場所で椅子に座ってニコニコして見ている。

 

 

「よし!行くぜ!」

 

 

 そう言って、俺に対して突っ込んでくる鶴巻。勢い任せの突撃を、足を軸にボールを回すようにして回避する。そして、勢いをすかされた鶴巻は大きく体制を崩した。

 

 

「ダメだダメだ。そんな大振りじゃ。もっと小刻みに体を動かすんだ。」

 

「小刻みか……。よし。もういっちょ!」

 

 

 その後も何度も挑戦し続け着々に上達はしている鶴巻だったが、未だに俺のボールを奪うことができないでいた。

 

 

「かずやー。鶴巻君は初心者なんだから、もっと手加減してあげなよー。」

 

「いや、手加減はしない。こう見えても俺は負けず嫌いだからな。それに、鶴巻も俺が手加減したら怒るだろ?」

 

「ああ、その通りだ。手なんか抜いたらぶっ飛ばすぞお前。」

 

 

 キラはどうにも納得していないような顔だったが、そんなこと関係なく俺たちは勝負をつづけた。そして、何回目かのチャレンジか忘れたころに、ついに鶴巻のつま先がボールに触れた。

 

 

「マジか!」

 

「もらうぜ!ボール!」

 

「そうはいくか!」

 

 

 しかし、俺もすぐさま体勢を立て直しボールをキープする。

 あ、危なかった……。ていうかこいつ、結構サッカー上手くなってきてないか?

 

 

「くそっ!行けると思ったんだが……。」

 

「いや、惜しかったよ。実際かなり上達してる。」

 

「そ、そうなのか…?…よし、もう一回だ!」

 

 

 その後また俺たちは勝負を始めた。何回かボールに触れられはしたものの、完全にボールは奪われていない。そんな状態が続き、気が付けば日が暮れ始めていた。

 

 

「くっ、今度こそ!」

 

 

 そういい、ボールに向かって足を伸ばす鶴巻。だが俺もそう簡単に負けるわけにはいかない。そして、フェイントの応酬の末……。

 

 

 

 

「マジかよ。まいったな……。」

 

 

 ボールはすでに俺の足元にはなく、鶴巻の足元に収まっていた。キラも驚いたようで、ポカンとした顔をしている。

 

 

「……やった……のか……?」

 

「……ああ。悔しいが、負けたよ。」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間。鶴巻は糸が切れたように、仰向けに河川敷に倒れこむ。その顔はとても清々としていた。

 

 

「やったぜーーー!!」

 

 

 

「手を抜いていたわけじゃないんでしょ?すごいね、鶴巻君。」

 

「ああ。まさかあんなに上達するとはな……。」

 

 

 負けたことは悔しいが、それ以上にうれしそうな鶴巻を見ているとすがすがしい気分だった。しばらく勝利の余韻に浸っていた鶴巻だったが、やがて起き上がりこちらに歩み寄ってきた。

 

 

「なあ、サッカーって楽しいな!」

 

「だろ?」

 

「お前らずっとこんなことやってたのか……。よし、決めた!俺も一緒にサッカーをするぞ!」

 

「!本当か!」

 

「ああ、俺もっとうまくなりたいんだ!」

 

「そうか!サッカー仲間ができてうれしいぜ!なあ、キラ!」

 

「うん!これからよろしくね、鶴巻君!」

 

 

 こうしてサッカー仲間が増え、放課後の河川敷には3人の影が見えるようになった。




 超次元サッカーしろよ……。


 今後もこんな感じで不定期更新になると思います。仕事が忙しい中、チマチマ書いていって出来上がった時点で投稿という感じになるので、早ければ一日、遅ければ二週間くらい空くかもです。


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天竜中サッカー部と出会う日

 ここから中学編です。めちゃくちゃ濃い3年を過ごすんだと思います(適当)。


 時が流れ、俺たちは小学校を卒業し、俺たち3人は天竜中学校へと入ることになった。今日は天竜中学校の入学式だ。噂によるとサッカー部もあるらしいし、楽しみだ。

 

 

「いよいよだね、かずや。」

 

「ああ、この中学で俺たちのサッカーが始まるんだ。」

 

「私昨日眠れなかったの。楽しみで。」

 

「奇遇だな。俺もだ。」

 

 

 朝早く、入学式が始まる前に俺たちはいつもの河川敷で待ち合わせをしていた。俺とキラが着いており、あとは鶴巻だけだ。俺とキラの気持ちは高ぶっていた。なんせ、やっと試合形式でサッカーができるのだから。結局キラの力のコントロールは、小学校卒業前にようやく完璧と呼べるものになった。そのため、小学校のうちにはまともなサッカーの試合もできなかった。

 

 

「お、早いな二人とも。やる気満々だな。」

 

「鶴巻、来たか。」

 

「おはよう、鶴巻君。昨日はよく眠れた?」

 

「ああ。しっかり寝て、今日元気出していかないとな。」

 

「さすが、まじめだな。」

 

 

 世間話もそこそこに、俺たちは天竜中学校へと向かった。どんなサッカーが待っているんだろうか。ワクワクするぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天竜中サッカー部のキャプテンこと、新島徹(にいじまとおる)は緊張した様子で今日を迎えていた。いつもの幸薄そうな顔は、さらにゆがんだ顔になっている。それもそうだろう。今この天竜サッカー部には部員が5人しかおらず、今年はいってくる新入生のうち最低6人も入部しなければ、サッカー部は活動不可能として廃部になってしまうからだ。そんな状況のため、新島はサッカー部室の中で祈るように座っていた。あまりにも切羽詰まった姿に、ピンクのポニーテールのチームメイト、東雲花音(しののめかのん)が声をかける。

 

 

「新島ちゃん。大丈夫……?」

 

「っ!あ、ああ……。大丈夫だ。悪いな……。」

 

「そ、そう……。」

 

 

 明らかに大丈夫じゃなさそうな新島を不安げに見つめる東雲。新島は、入学式が進むにつれて明らかに緊張した顔つきになっていった。そんな時、部室のドアが開く音がした。

 

 

「!……なんだ、お前か。」

 

「はっ!なんだとはひどい言い草だな。新島。」

 

 

 そういい部室に入ってきた背の高い猫背の男は、灰色のウルフカットと野獣のような鋭い眼光をした、チームメイトの竜ヶ崎影狼(りゅうがさきかげろう)だ。影狼もこの状況に危機感を覚えているはずだが、そんな様子は見せずいつものように飄々とした態度で部室に入ってくる。

 

 

「影狼ちゃん……。」

 

「……ふん。新島、こんな時から心配か?先が思いやられるな。」

 

「なんだと?お前は心配じゃないのか?このまま1年が入ってこなかったら、俺たち天竜中サッカー部は廃部なんだぞ!」

 

「そんなことはわかっている。俺が言いたいのは、俺たちが頑張るのは入学式が終わってからじゃないのかってことだ。」

 

「!それは確かにそうだが……。」

 

「いったん冷静になるんだな。そんな気持ちじゃ、肝心な時にうまくいかんぞ。」

 

「ああ、ありがとう影狼……。」

 

「ふん。それより今日は俺もここで待たせてもらうぞ。」

 

「あら、珍しいわね。影狼ちゃんが部室で待つなんて。いつもは山籠もりしてるのに。」

 

「ああ、いつもなら山にこもって修行しているところだがな……。まあ、虫の知らせというやつさ。きっと今年の新入部員は何かが違う……。くくっ、楽しみだ。」

 

 

 そういい、獰猛な笑みを浮かべる影狼。独特な雰囲気を醸し出す彼には、3年の付き合いがある新島と東雲にも近寄りがたいものがあった。

 

 

「おい、南条と薬師寺はどうした?まだ来ていないのか?」

 

「あー、あいつらは来ないってさ。サッカー部なんかに新入部員が6人も入るわけないって言って、さっさと帰っていたよ。」

 

「なんだと?ちっ。根性なし共が。だからあいつらは嫌いなんだ。」

 

「まあまあ、影狼ちゃん。落ち着いて……。」

 

 

 目に見えて不機嫌になった影狼をなだめるように東雲が声をかける。そのおかげもあってか、影狼は幾分か冷静にはなったものの、まだ怒りは収まり切ってはいないようだ。新島は部室の居心地の悪さを感じながらも、いつの間にか感じていた緊張はどこかに消えたようだ。

 

 

「とにかく、もうすぐ入学式も終わるはずだ。そっからが勝負だな。」

 

「うん。新入部員の確保、頑張ろうね。」

 

「ああ。影狼、お前も協力して……。ああ、やっぱいいや。」

 

「なんだ?手伝うことがあるなら手伝ってやらんこともないぞ?」

 

「いや、お前に新入生の相手をさせるとロクなことにならないと思ったからな。今回はおとなしくしててくれよ?」

 

「はっ、俺だってサッカーができなくなるのは嫌なんだ。そのくらいわきまえているさ。」

 

「ホントかよ……。」

 

 

 そうこうしているうちに、入学式が終わりを迎える。天竜中では、入学式が終わった後は新入生は自由行動となっており、帰宅するものや部活の見学をするものなど様々だ。新島と東雲は正門に立ち、帰宅する人たちを勧誘するつもりだ。

 

 

「じゃあ影狼ちゃん。留守番よろしくねー。」

 

「けっ。俺は子供かよ……。」

 

 

 そんなつぶやきを聞き逃しながら新島と東雲は部室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ。長いようでそこまで長くもなかった入学式が終わった。なんか、結構ためになる話をしていた気もするが、俺の気持ちはサッカーにしか向いていなかった。どうやら、入学式が終わった後は自由に動けるらしいから、早速サッカー部を見に行きたいところだ。練習の風景とか見られるのだろうか。

 

 

「よし、さっそく行くぞ!キラ!鶴巻!」

 

「うん!」「おう!」

 

 

 俺たちは校内マップに書かれた、サッカー部室の場所に向かって歩き出した。

 

 

 

 

「ここ、よね……?」

 

「おい坂上。ほんとにここであってんのか?」

 

 

 そういうこいつらの前には、何十年も前に建てられたかのような古びた小屋があった。おそらく、こいつらはこの部屋が部室だということに違和感を持っているんだろう。それもそうだ、一般的な感覚ならば整備された一つの部屋のようなものを思い浮かぶだろう。こんなおんぼろな小屋が部室だと聞いても違和感がないのは、きっと円堂世代の部室を見ているからなんだろうな。

 

 

「ああ、間違いない。入るぞ。」

 

 

 そういいドアをノックしようとしたとき扉が勝手に開き、中から背の高い猫背の人が出てきた。

 

 

「うわっ。」

 

「ん~?なんだお前ら。見知らぬ気配があると思ってきてみれば……。」

 

「け、気配って……。」

 

「誰だ?もしかして入部希望者か?」

 

 

 部室にいたということは、サッカー部員なのだろうか?にしてもすごい威圧感だ。背が高いからというだけではなく、実力からくる威圧感に気おされながらも口を開く。

 

 

「はい、3人とも入部希望です。」

 

「ほー。そうかそうか、3人も……。」

 

 

 そういい、俺たち3人を品定めするかのように見つめた後、口をニヤリと歪ませた。

 

 

「おい、お前たち3人グラウンドに来い。」

 

「えっ、グラウンドにですか?」

 

「ああ、入部テストだ。」

 

(わりぃな新島、俺はこの原石を確かめてみたくなった。)

 

 

 

 

 

 

「自己紹介が遅れたが、俺は竜ヶ崎影狼だ。影狼と呼んでくれてかまわない。今から行うテストは簡単だ。俺が蹴ったシュートをうまく対応して見せろ。ああ、言っとくが避けるのはなしだぞ。」

 

「は、はい。」

 

 

 いきなりグラウンドに連れてこられ、そんなことを告げられた俺たち。この人のシュートをうまく対応すればいいらしい。俺とキラはたぶん何とかなるけど、鶴巻は大丈夫だろうか。

 

 

「じゃあ、まずはそこのお前からだ!これが止められるか!?」

 

 

 そういい、俺にシュートする影狼先輩。瞬間、影狼先輩を取り巻く空気が変わり、すさまじいパワーとスピードを持つノーマルシュートが放たれた。

 …だが、威力だけ見ればキラのシュートのほうが上だ。そう思い、両手を前に構えボールの到着を待つ。

 

 

「くっ!」

 

 

 しかしボールに触れて分かったが、このシュートは見た目以上に重い。ボールをとりこぼしそうになりながらも、なんとか気合いで抑え込む。

 

 

「っ……よし!止めましたよ!これでいいんですよね!」

 

「ほぅ……。一発で止めた……。お前GKなのか。あのバカにも見せてやりたいもんだな。」

 

「え?」

 

「なんでもねぇ。お前は合格だ。次、そこの女!」

 

 

 そういい放ち、次はキラに向けてシュートを放つ。というか、このシュート鶴巻は大丈夫だろうか?俺たちと練習してたところだけを見ると、全く対応できそうにないんだが。

 

 

「はっ!」

 

 

 キラはそう声を漏らし、シュートを軽々しく蹴り返した。………蹴り返した!?あの重いシュートをか!?しかも軽々しく……。はぁ。こいつはすごい奴だと思っていたがここまでとは……。さすがに影狼先輩も予想外だったのか、ポカンとした表情で、蹴り返されたボールがグラウンドに転がっていくのを見ていた。しばらくすると影狼先輩は、現状を理解したのか表情を取り戻していく。その表情は何か面白いものを見つけたような顔だった。

 

 

「やるじゃないかお前!手加減していたとはいえ、俺のシュートを止めるどころか打ち返すとは!ポジションはどこだ!?いや、そのキック力ならFWか!FWだな?くくっ、まさか新学期早々こんな逸材に出会えるとは!今年は楽しくなりそうだ!」

 

「……どうも。ありがとうございます。」

 

 

 やけにテンションが上がる影狼先輩と、それに反比例してテンションが下がるキラ。どうしたんだろうか?逸材だのなんだの言われたのが嫌だったのだろうか。

 

 

「よし、お前も合格だ!最後!そこの赤毛!」

 

「くっ、止めて見せる……!」

 

 

 そしてついに、危惧していた鶴巻のターンになった。明らかに緊張した面持ちの鶴巻に対し、容赦なく先ほどと同じシュートを放つ影狼先輩。

 

 

「くっ……うわあああああ!」

 

 

 シュートを止めるため、足でトラップを試みる鶴巻だったが、健闘むなしくシュートの勢いに負け吹き飛ばされてしまう。

 

 

「鶴巻!」「鶴巻君!」

 

「ありゃ。こっちはそこまで、か……。」

 

「ちょっと、影狼先輩!いくら入部テストとはいえ……」

 

 

 

「やめてくれ!加賀美さん!」

 

 

 抗議を入れようとしたキラを止めたのは、他でもない鶴巻だった。

 

 

「鶴巻君……」

 

「今のは俺の実力不足が招いた結果だ……。影狼先輩は何も悪くない……。」

 

 

 そう言って立ち上がった鶴巻は、まっすぐな目で影狼先輩を見つめる。

 

 

「もう一回……お願いします……。」

 

「!?鶴巻君!無茶よ!貴方体が……。」

 

「いいんだ。今体がどうにかなるよりも、今ここで入部テストに受かるほうが大事なんだ。確かに、お前たちのコネやらで入部自体はできるかもしれないが、もしそうなったら俺の気が収まらない。それに、今日無理だったとしても明日、明後日、合格できるまで挑戦する。それくらいの気持ちがあるんだ。頼む、俺にテストを受けさせてくれ。」

 

「鶴巻君……。……ねぇ、いいのかずや?あのままやらせて……。」

 

「……本人がそう言っているんだ。その思いを……尊重しよう。」

 

「………うん、わかった。」

 

「ありがとう、二人とも。……さあ、影狼先輩!もう一回、お願いします!」

 

「……いいだろう。その覚悟気に入ったぞ!」

 

 

 そう息巻いて入部テストを再開する二人。しかし鶴巻の思いとは裏腹に、何度も何度もシュートに吹き飛ばされる。キラはそんな様子を見つめながら、どこか苦しそうに見守る。……過去に自分がやったことと重なって見えるからだろうか。その表情があまりにも痛々しいと感じた俺は、気が付いたらキラの肩に手を置いていた。

 

 

「!……ありがとう。」

 

 

 そんなこんなで入団テストをつづけること30分、両者ともに疲れが見え始めた。

 

 

(こいつ、いい根性してるじゃねぇか。あまりにも他のやつらとレベルが違ったが……。なるほど、奴らが一緒にいるのはこの熱い根性が理由か。)

 

(ほんとだったらもうとっくに入部させてぇところだし、そもそも元々俺に入部を拒否する権利なんてねぇ。この入部テストだって実力を測るだけの茶番のようなものだ。だが、他ならぬ後輩が頼んできている以上、やめるわけにはいかねぇ。)

 

 

「いくぞ!」

 

「はい!」

 

 

 正直見ているだけで辛いほど、鶴巻の体はフラフラだった。可能なら代わってやりたいほどだ。しかし、あいつがそれを拒む以上俺は見ていることしかできない。なにか、俺にもできることは……。そう思ったとき、ふと鶴巻の足にわずかだがエネルギーがたまっているのを感じた。今ならもしかしたら……。

 

 

「鶴巻!あの技だ!」

 

「あの技……?………はっ!」

 

(もしかして、この前練習中に教えてもらったアレか?「お前なら絶対ものにできる!」って言われて教えてもらったが、結局今の今まで習得できてないんだよな。でも、今の集中した状態なら出せるかもしれない!)

 

「はぁっ!」

 

 

 影狼先輩が放ったシュートに対し、鶴巻はあえてシュートに飛び込むようにジャンプする。そして空中で右足に力を籠め、薙ぎ払うかのように回転し衝撃波を出す。すると、衝撃波の軌跡に沿って下から青い壁が飛び出してきた。

 

 

「『スピニングカット』!」

 

 

 

 

 

 鶴巻の放った『スピニングカット』は影狼先輩が放ったシュートの勢いを完全に殺し、そして転がってきたボールを鶴巻はどこか信じられないといった動きで取る。

 

 

「や、やった……のか……?」

 

「……ああ!やったじゃないか鶴巻!できたんだな!『スピニングカット』!」

 

「すごいよ鶴巻君!ここ一番で成功させるなんて!」

 

「……や、やったぜーー!」

 

 

 3人でやいのやいのしていると影狼先輩が声をかけてきた。

 

 

「やるじゃないか。見事、合格だ。お前の諦めない心がその技を完成させたんだ。」

 

「はい!ありがとうございました!」

 

 

 

 そう答えた鶴巻の顔は、ここ最近で一番嬉しそうな顔だった。

 

 

 

 

 

 

「さて、テストに合格したことだし、入部を認める……と、言いたいんだがな。悪いが俺はキャプテンじゃないんだ。キャプテンは俺が呼んでくるから、部室で待っといてくれ。」

 

 

 興奮していた俺たちも落ち着いたところで、影狼先輩がそう言った。なんだ、すぐに入部ってわけでもないのか。でもそりゃそうか。キャプテンには話を通しておかないとな。というか顧問の先生とかに確認をとるのが先なんじゃなかろうか。

 

 

「とりあえず、部室で待つか。」

 

「そうだね。どんな先輩がいるのかな。」

 

「きっと影狼先輩みたいにいい人たちだろうさ。」

 

 

 どうやら鶴巻はすっかり影狼先輩になついた様だ。犬かな?そんな会話をしていると、キラの表情が沈んでいるのが見えた。どうも影狼先輩の話題が出てから気分があまりよくないようだ。俺は鶴巻と少し距離をとり、キラに話しかける。

 

 

「大丈夫か?もしかして、影狼先輩のこと嫌いなのか?」

 

「う、ううん。嫌いって程じゃないけど……。」

 

 

 そこまで言って、少しため息をついた。

 

 

「影狼先輩がどうしても、自分の力を振りかざしたいだけの人に見えちゃってね。だから影狼先輩を見ていると、どうしても昔の自分を見ているようで好きになれないの……。」

 

「そんな人じゃないっていうのは入部テストの時の態度でわかってるはずなんだけどね……。ダメだよね、こんな気持ちじゃ。早く何とかしたいんだけど……。」

 

 

 ふむ。今日会った感じ、影狼先輩は確かにすごい力を持っているんだろう。今日の入部テストの時もほんの一部の力しか出していないように感じた。キラはきっと、その力を自分勝手に使うところを想像しているんだ。力を得るとそうなってしまう人間を知っているから。

 

 

 

「いいんじゃないか?苦手なままで。」

 

「え?」

 

「人ってどうしても苦手なもんがあるだろ。それを焦って無理して克服しようとすると、きっと体壊れちまうよ。だからさ、苦手なものは苦手のまま、ゆっくり自分なりの対処法を探せばいいと思うぞ。それに、少なくとも今回のケースではな。」

 

「それに、影狼先輩とも会って間もないんだ。時間をかけて本当の影狼先輩を知っていけばいい。そうすれば、もしかしたらその悩みが根本的に解決するかもしれないだろ?」

 

「かずや……。」

 

 

 しばらく考え込んで、やがてキラは顔を上げた。

 

 

「……うん、そうだね。かずやの言う通り、もう少し様子を見るよ。ありがとう!」

 

「ああ、元気になったならよかったよ。」

 

 

「おーい、何してんだ?行くぞー!」

 

 

 鶴巻に呼びかけられ、俺たちはまた歩き出した。

 




・スピニングカット
 アニメでもゲームでも割と見覚えのある技。アニメでは西垣や栗松が使用。ゲームでは無印で鬼道や一ノ瀬が覚えており、印象深い人も多いはず。威力は下の下。SBが可能。

 超次元サッカーやるところまでやろうと思って書いてたら長くなってました。分けてもよかったですね。早く試合してほしいんですけど、メンバー集めでまだ3話くらいかかると思います。ご了承ください。


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お嬢様とそのSPと出会う日

 基本1話3000字前後がちょうどいいのかなと思いつつ、ついつい長くなってしまう……。というか3000字前後にしたい。


 部室で待つこと数分、影狼先輩が見知らぬ2人を連れて部室へ訪れた。

 

 

「おお、君たちが新入部員か。俺は新島徹。この天竜中サッカー部のキャプテンだ。」

 

「私は東雲花音。チームメイトよ。よろしくね~。」

 

 

 そう言って入ってきた2人、短い黒髪に苦労してそうな顔の新島キャプテンと、ピンクのポニーテールにおっとりとした目をした東雲先輩が挨拶してくる。

 

 

「俺は坂上和也です。よろしくお願いします。」

 

「加賀美綺羅です。よろしくお願いします、先輩。」

 

「鶴巻忍です!よろしくお願いします!」

 

「ああ、歓迎するよ!」

 

 

 軽く自己紹介を済ませると、先輩たちは顔を見合わせ表情を暗くする。

 

 

「早速3人も入ってくれたのは嬉しいが、あと3人集めないとな……。」

 

「逆に言うと、今サッカーに興味を持ってくれてる1年生がこれだけってことだもんね……。」

 

 

 ……?なんか聞こえてきたけど、人数でも足りていないのだろうか?そう思っていると、鶴巻が容赦なく突っ込んでいく。

 

 

「何かあったんですか?」

 

「ああ、いや、君たちに言うほどじゃ……いや、でも、ううん……。」

 

「何を言い淀んでんだよ、新島。」

 

 

 見かねた影狼先輩が声を上げる。続きを代わりに話し始めた。

 

 

「今このサッカー部にはお前ら3人含めて8人しか居ねぇんだ。ほんで、4月末までに11人揃えないと廃部って上から言われてんだよ。」

 

「えっ!?そうなんですか!?」

 

「そっか、11人いないと試合できないもんね……。」

 

「影狼!彼らを不安にさせるようなことは……。」

 

「いいじゃねぇか。遅かれ早かれ知ることになるんだ。だったら早いうちがいい。それに、こいつらにも協力してもらえばいいじゃねぇか。」

 

「協力……?」

 

「なーに、難しい話じゃねぇ。新入部員の勧誘だよ。」

 

「そうねぇ。ねぇ新島ちゃん、せっかくだしこの子たちにも手伝ってもらいましょうよ。同じ1年生のほうが勧誘しやすいでしょうし。」

 

「そうそう、テメェのくだらねぇプライドなんかにこだわってる場合じゃないだろ。」

 

「ちょっと、影狼ちゃん……。」

 

「ぐっ……。いや、そう……だな。すまない、新入部員にこんなことを頼むのはキャプテンとしてどうかとは思うが、どうか手伝ってくれないだろうか。今サッカー部は危機的状況なんだ。いろいろ話したいことはあるが、まずは部員を集めないと話にならないんだ。頼む。」

 

 どうもサッカー部の人数が足りていないらしい。そして月末までに人数がそろわなければ廃部と。なかなかな状況だな。周りは焦っているが、俺はそこまで焦っていなかった。というのも、この世界の人はサッカーを知らないからやらないだけで、ルールと面白さが分かってもらえれば入部する人もたくさんいると思っているからだ。ソースは鶴巻。

 そんな思考をしているがゆえに、俺は軽々しく返事した。

 

 

「分かりました。1年の中から新入部員を探して連れてきます。」

 

「ほ、本当か!ありがとう!よし、それじゃあ……2手に分かれて勧誘しよう。俺たちは校門で勧誘するから、そっちは校舎の中を頼む。」

 

「了解です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、サッカー部があんな切羽詰まっていたとはな……。サッカーってこんなに人気がなかったんだな。俺がただただ知らないだけだと思ってたよ。」

 

「ホントだね。わたし、てっきりサッカー部があるくらいだからもっと栄えてると思ってた。」

 

「ふっ、甘いなキラ。俺はこうなることは読めていたよ。」

 

「えぇ~嘘だぁ!」

 

「嘘だ。俺ももう少し栄えていると思っていたよ。」

 

「なんなんだよ今の会話……。」

 

 

 まあ実際俺もいくら知名度が低いからといって、わざわざサッカー部があるんだから11人くらいいるだろうと思っていた。元居た世界ともイナイレの世界とも違うんだ、よくよく考えりゃそりゃこの世界ではこうなるわな。楽観的な考えだったな、気を引き締めなければ……。

 そんなこんなでまだ校舎に残っている生徒に対し、勧誘を試みていくこと約1時間……。

 

 

「かずや~。誰も興味を示してくれないよ~。」

 

「うーむ、まいったな。」

 

「どうすんだよ。先輩達には連れてくるって言っちまったぞ。」

 

 

 想像以上に勧誘がうまくいかず焦りだす俺たち。というか俺。勧誘してみて分かったが、すでにほかの部活に興味を持っている奴らがほとんどだった。そもそも部活に興味がない奴は入学式が終わった時点で既に帰っているし、学校に残っている激レア人物がいても部活自体をやりたくないと言う奴なのでサッカー部に誘ってもいまいちな反応だった。

 というか、連れてくるって言ったのなんて言葉のあやだろ。どんだけ真面目なんだこいつ。

 

 

「仕方ない。軽く謝って、また明日探すとするか。今度はもう既に帰ったやつらを中心に誘ってみよう。まだどの部活にするか決めあぐねている奴がいるかもしれない。」

 

「そう……だな。そうするしかないか。」

 

 

 いやはや、サッカー部への勧誘がこんなに難しいとは。円堂はよくあんなに集められたな。いや、そもそもこの世界とはサッカーの知名度が違いすぎるからか。

 そんなことを考えながらサッカー部へ帰る途中、なにやら穏やかではない声が聞こえてきた。

 

 

 

 

「ちょっと!触らないで!」

 

 

 驚いてそっちを見てみると、金髪のサイドテールと大きな目が特徴の女の子と、いかにも不良って格好のやつら3人がその女の子を囲むように立っていた。

 

 

「へへっ、ちょっとぐらいいいだろ?」

 

「そうそう、俺らと遊ぼうぜぇ~。」

 

 

 なんて典型的なナンパなんだ……。こういうのにはあまり関わりたくはないんだが……。

 

 

「なんか困ってないか?あの女の子。……よし、ちょっと助けに行ってくる!」

 

「ちょ……鶴巻君!?」

 

 

 そう、我らが鶴巻は正義感がめちゃくちゃ高い。なので俺が見て見ぬふりをしても隣のこいつがばっちり見てる。さすがに鶴巻を放っておくわけにもいかないので、しょうがなく関わろうとしたとき……。

 

 

 

 

「あの~。神楽ちゃんには手を出さないほうがいいですよ。」

 

 

「あ?なんだてめぇ!」

 

 

 鶴巻が到達する前に、緑色のツンツンした髪型の気弱そうな少年が、不良たちに声をかけた。

 

 

「才治!遠慮はいらないわ!さっさと片づけて!」

 

「ああ……この怒り様……。あなたたち、もう手を出しちゃったんですね。」

 

「ごちゃごちゃうるせぇよ!俺たちはこの女と大事な話をしてんだよ!引っ込んでな!」

 

 

 そういい、腕を振り上げる不良。ていうか大事でも何でもない話だろ。

 

 

「あ、あぶな……」

 

 

 鶴巻が声をかけると同時に振り下ろされる腕。しかし、才治と呼ばれた少年は少し体をずらし腕をよけ、逆にカウンターパンチを決めた。いや、すごいな今の動き。素人目の俺から見てもすごいって分かるくらいには凄かった。カウンターを食らった不良はノックアウトし、残った2人の不良は目に見えて慌てていた。

 

 

「な、なんだこいつ……。」

 

「さて、これ以上傷つきたくなかったら引いてくれませんかね……。」

 

「な、なめんじゃねぇ!」

 

 

 やけになって2人がかりで襲い掛かるも、軽くいなされ同じようにノックアウトさせられる2人。マジか…3対1で勝っちまいやがった……。あんなに気弱そうなのにめちゃくちゃ強いじゃねぇか。ふと周りを見たら、鶴巻とキラもポカンとした表情をしていた。やっぱりビックリするよな、あんなの見せられたら。

 

 

「相変わらず見事な腕前ね、才治。」

 

「もう、神楽ちゃん。黙ってどっかにいかないでよ。」

 

「あら、心配してくれいるの?」

 

「うん、神楽ちゃんに何かあったら、君のお父さんになんて言われるか……。」

 

「………ふん!あんなの勝手に言わせておけばいいのよ!」

 

「な、なに怒ってるんだよ……。」

 

 

 さっきまでの強さとは裏腹に、神楽と呼ばれた女の子には頭が上がらない様子の少年をなんとなく見ていると、才治の後ろに鉄パイプをもった4人目の不良が迫ってきていた。

 

 

「!?後ろだ!」「才治!」

 

「!しまっ……!」

 

 

 鶴巻と女の子は気づき声をかけるが、気を抜いていた少年は対応に遅れてしまっていた。このままなら確実に殴られてしまうであろう状況に、俺とキラはすぐさま対応する。

 

 

「キラ!」

 

「うん!」

 

 

 それだけ言い、勧誘用に持ってきていたサッカーボールをキラに放る。そしてキラはそのボールを、不良めがけて蹴りこむ。

 

 

「『ダークトルネード』!」

 

 

 あ、そこまでやるんすね。容赦ないなぁ……。キラのキック力ならノーマルシュートでもよかっただろうに。

 キラの放った『ダークトルネード』は見事、不良の鉄パイプを吹き飛ばした。意識外からものすごい衝撃を受けた不良は驚き、そのまま悲鳴を上げ去っていった。

 

 

「ナイス!加賀美さん!」

 

「うん!2人とも、大丈夫だった?」

 

「うん……。まさか4人目がいたとは……。助かったよ、ありがとう。」

 

「そう、よかった。ねぇ、そっちの貴女も……」

 

「い、今のってなんなの……?」

 

 

 大きく目を見開いて震える女の子。まあ、『ダークトルネード』を見たらそうなるのが普通の人の反応だわな。

 

 

「え?サッカーだけど……。」

 

 

 うん、その返事はおかしくないか、キラ。しかし、それを聞き女の子は目を輝かせた。

 

 

 

「サッカー……。わたくしもやりたいわ!サッカー!」

 

「え、」

 

「ええ!?なに言ってるの神楽ちゃん!」

 

「だって、さんざん言ってたでしょう。体を動かしたい、スポーツがしたいって!ねぇ、きっとサッカーもスポーツでしょう!?動きでわかるわ!」

 

「う、うん。スポーツだよ。よく分かったね……。」

 

「まさかこんなスポーツがあったなんて……。驚きだわ!」

 

「だ、ダメだよ神楽ちゃん!スポーツはダメだって君のお父さんが……。」

 

「うるさいわよ才治。第一、お父様が禁止したスポーツの中にサッカーは入ってなかったじゃない。だからわたくしがサッカーをしてもお父様の言いつけを破ったことにはならないわ。」

 

「そ、それはそうだけど……。」

 

 

 キラの返事は正しかったようだ。俺の負けだよ。

 なんか分からんが、どうやらサッカーに興味を持ってもらえたようだ。サッカーの知名度の低さが幸いした形になったようだな。嬉しいような悲しいような……。まあそれはさておき、せっかくやる気になってくれているんだから、気分が変わらないうちにさっさと勧誘するか。

 

 

「なあ、やる気があるならサッカー部に入らないか?今ちょうど部員を探しているところなんだ。」

 

「あら、そうなの?ならちょうどいいわ。サッカー部に入部するわよ、才治。」

 

「はぁ……。大丈夫かな……。」

 

「ほんと!ありがとう!」

 

 

 少年は乗り気じゃなさそうだが、巻き込まれる形で入部させられることになりそうだ。新入部員が確保できてはしゃいでいる鶴巻とキラを落ち着かせつつ自己紹介する。

 

 

「俺は坂上和也。サッカー部員だ。とはいっても、ついさっき入ったばっかりだが。」

 

「わたしは加賀美綺羅。よろしくね!」

 

「鶴巻忍だ!よろしく、2人とも!」

 

「そういえば自己紹介がまだだったわね。わたくしは天王寺神楽(てんのうじかぐら)。天王寺グループ社長、天王寺来栖の娘よ。神楽でかまわないわ。」

 

 

 わお、お嬢様っぽかったけど本物だったとは……。しかし、アクティブなお嬢様だな。スポーツがしたいお嬢様って珍しくないか?いや、ただの俺の偏見か。

 

 

「はあ、もうどうなっても知りませんよ……。あ、僕は伊能才治(いのうさいじ)です。神楽ちゃんの幼馴染であり、親公認のSPみたいなもんです。サッカーはルールすら知らない初心者です。」

 

 

 ほんでこっちもなかなかな立場にいるな。明らかに複雑そうな関係には首を突っ込まずさっさと2人を部室へと案内することにした。

 まあ、初心者だけどこんな状況だ。先輩たちも快く迎え入れてくれるはず……。あ、影狼先輩の入団テストどうしようかな……。

 




 これで10人です。あと1人ですね。11人揃ったら、オリキャラばっかなんでキャラ紹介的なものを書きたいと思ってます。というかないと絶対キャラわかんなくなると思います。


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転校生と出会う日(前編)

 出会ってばっかだなこいつら……。

 ハーメルンの誤字報告機能最近知りました……。ご報告ありがとうございます。


 神楽と才治を連れてサッカー部へと帰ると、既に新島先輩と東雲先輩と影狼先輩がいた。表情は暗く、どうやら勧誘できなかったであろうことがうかがえる。

 

 

「ただいま戻りました先輩!新入部員を2人連れてきましたよ!」

 

「おお、本当か!よくやったな3人とも!」

 

 

 鶴巻が新入部員を連れてきたことを告げると、先輩たちの顔も明るくなった。そんな先輩たちを横目に才治と神楽は自己紹介を始める。

 

 

「天王寺神楽ですわ!神楽でかまいません。よろしくお願いいたしますわ、先輩方。」

 

「あ、伊能才治です……。というかいいんですかね?僕も神楽ちゃんもサッカー未経験どころかルールも知らないんですけど……。」

 

「ああ、かまわないさ。やる気はあるんだろ?だったら問題ない。ルールなんてこれから覚えていけばいいさ。」

 

 

 どうやら好感触のようだ。ところで影狼先輩はどう思っているのだろうか。入部テストどうこうが気になった俺は聞いてみることにした。

 

 

「そういえば、影狼先輩。入部テストのほうはいいんですか?」

 

「おい!てめぇ……!」

 

「……入部テスト……?……はっ!影狼、まさかあれをやったのか!?」

 

 

 入部テストの話を聞き明らかにうろたえる影狼先輩と、その姿を見て問い詰める新島先輩。……なんかマズいことでも言ってしまったかな?

 

 

「チッ……。」

 

「影狼!あれほどあのテストとやらをするなといっておいたのに!」

 

「ど、どういうことですか?」

 

「……あのテストは元々影狼が腕試しやらなんやらで初めた、正式なものじゃないんだ。そもそもサッカー部に入部テストなんてないしな。」

 

「ええ!?」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「ああ。あのボールに耐え切れなくて自信を無くす奴も多くてな……。すまなかったな、止めておいたんだが……。」

 

「ちっ、悪かったよ。こいつらの内からあふれる力がどうしても見たくなっちまってな。だが実際こいつらは見立て通り凄かったぜ。なんせ3人とも俺のシュートを止めたんだからな。」

 

「なっ!?」

 

「えっ!?」

 

 

 影狼先輩の言葉に今度は新島先輩と東雲先輩が驚く。とういか、あのテストは本当のテストじゃなかったのか……。あ、キラが不満げな顔してるな。キラに声を掛けようとしたとき、後ろから声が聞こえてきた。

 

 

「お話の途中よろしくて?わたくしたち入部するとなれば、顧問の先生に挨拶しておかなければならないと思うのですけど……。」

 

「あ!そうだ、俺たちも挨拶しておかなきゃ。忘れてたよ。新島先輩、顧問の先生はどちらに?」

 

「あ、ああ。顧問の先生ならここにはいないよ。」

 

「え?そうなんですの?」

 

「そうねぇ、今なら職員室にいるんじゃないかしら。」

 

「えぇ……、顧問ですよね?」

 

 

 どんだけ熱意のない顧問なんだと思いながら、新島先輩に問いかける。

 

 

「まあ実は今の顧問の先生って、俺らの先輩の先輩の先輩たちが部を作る際に必要だったからって頼んだだけだからなぁ。形だけなんだよ。」

 

「あ、そうだったんですね。」

 

「ああ、だから入部届とかは俺のほうから出しておくよ。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

 

(ふう、うまいこと話がそれたな。あっぶねー。キレた新島は恐ろしいからな。)

 

「それと影狼、後で話があるからな。」

 

「……クソがっ!」

 

 

 顧問の先生は形だけだったのか。原作の冬海みたいなものだな。逆によく受けてくれたもんだ。

 後ろのほうでホッとした顔から苦虫を嚙み潰したような顔になった影狼先輩を見つつ、一呼吸置き当初の問題に振り返る。

 

 

「さて、あと1人ですね……。」

 

「ああ!あと1人くらいなら見つかりそうだよな!坂上!」

 

「そうだな。今日帰ったやつも含めればまだまだ可能性はあるな。」

 

 

「……今、サッカー部には部員が足りていないの?」

 

「ああ。11人いないとサッカーはできないんだが、今は10人だからな。あと1人いてくれればな……。」

 

 

 そう伝えると、神楽はここにいる人数を数え始め……。

 

 

「でも、ここには8人しか居なくってよ。」

 

「ああ、どうも今日は来てない先輩が2人いるらしいんだ。そうだな、そのことも聞いておくか。」

 

 

 神楽に言われ、今まで気にならなかった部分が気になってきた俺は先輩に聞いてみることにした。

 

 

「新島先輩、今日来ていない先輩達はどんな方なんですか?」

 

「ふん、アイツラに興味なんてわかすんじゃねぇよ。」

 

「ちょっと、影狼ちゃん……。」

 

 

 新島先輩に聞いた質問は何故か影狼先輩が反応した。しかも、答えにもなっていない。何を言っているのかさっぱりわからない俺は、答えを求めるように新島先輩に視線を向けた。

 

 

「あー、ここに来てない2人は南条圭吾(なんじょうけいご)と薬師寺努(やくしじつとむ)ってやつらでな。影狼はあいつらとはそりが合わないんだ。」

 

「当然だ!なんせ今日来ない理由が、人数が11人いないからと、練習がめんどくさいからなんてふざけた理由だからな!あんな軟弱な奴らがチームメイトだと思うと寒気がする!」

 

 

 無茶苦茶言うなこの人。どんだけ嫌いなんだ。逆に興味を持つな、そんだけ嫌うなら。

 

 

「入部したての頃はみんな仲が良かったんだけどねぇ……。しばらくしたら、もう既に影狼ちゃんと2人の仲は険悪だったわぁ。」

 

「……ケッ。気分が悪くなってきた。今日は練習もないんだろ?これ以上部員も増えなそうだし、俺は帰らせてもらうぞ。」

 

 

 それだけ言って、影狼先輩は帰っていった。まあ、気分が悪くなったのは十中八九話題のせいだろうな。というか練習は今日はないのか。なんて思っていると鶴巻が同じことを言ってくれた。

 

 

「先輩、今日は練習はないんですか?」

 

「ああ。もともと勧誘と、入ってきた新入部員の手続きとかがあるからな。」

 

 

 そこまで言ったところで、新島先輩は皆の顔を見渡して大声を上げた。

 

 

「よし、皆!入学したてで疲れているだろうし、僕らも手続きをしなくちゃいけないから今日はもう解散にしよう。神楽と伊能には悪いが、サッカーを教えるのは明日にさせてくれ。それから、明日から授業も始まると思うが、放課後はちゃんとサッカー部に来てくれよ。あと、当分の間サッカー部の活動は11人目の部員を探すことになると思うから、普段の生活の中でも勧誘を忘れず行ってくれ。それと、今日話しに出ていた南条と薬師寺は明日来るように言っておくよ。……よし、こんなところかな。じゃあ、今日は解散!」

 

「バイバ~イ。また明日ね。」

 

 

 そういい、新島先輩と東雲先輩は部室から出て行った。おそらく入部手続きしに先生に会いに行ったのだろう。俺たちも、特に残っている理由もないため帰り支度を始める。

 

 

「はぁ、明日が待ち遠しいわ。」

 

「嬉しそうだね、神楽ちゃん……。」

 

「ええ!ついにお父様の呪縛から解き放たれ体が動かせるのだからそれは嬉しくもなるわよ!今日からじゃないのがちょっと残念だけれど……。」

 

「ま、まあ手続きはしょうがないよ。今日はもう帰ろう?」

 

 

 見れば神楽と才治も帰り支度を始めている。ていうかほんとに仲いいね君たち。一緒に帰ってるじゃん。

 

 

「ではわたくしたちも帰りますわ。また明日。」

 

「ま、また明日、よろしく……。」

 

「うん、バイバイ!」

 

 

 挨拶もそこそこに帰った神楽たちを見て俺たちも帰り支度を始める。

 

 

「さて、俺たちも帰るか。」

 

「おう!んでもって……。」

 

「うん!河川敷でサッカーやろ!」

 

 

 よくよく考えたら俺たちも一緒に帰ってるじゃん。仲いいな、俺たち。その後、俺たちは河川敷でサッカーをして帰った。中学に入ってもやることは変わんねぇのな。

 さて、あと1人だ。明日も頑張るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ、間違いあらへん。奴は天竜中におる。」

 

「……勿論や。ワイを誰やとおもとんねん。既に転校生として入り込む準備はできとる。」

 

「……ワイがそんなヘマするかいな。ちゃんと時が来るまでは潜伏するがな。」

 

「……ああ。……ああ。……分かっとる。ほなもう切るで。」

 

 

 

「坂上和也……。あの力、必ずワイらの手に……。」

 

 

 

 

 白髪のオールバックに糸目の少年、磯貝真司(いそがいしんじ)は薄い笑みを浮かべた。




 出会ってねぇじゃん……。長くなりそうなんで分けました。現状確認の回です。

 鶴巻と坂上の話し方は似ているので分かりにくいですが、先輩達と話すとき特に描写がなければ鶴巻が喋ってます。つまり坂上は普段、先輩達とはあんまり喋ってないです。ちなみにキラは、影狼のせいもありもっと喋らないです。


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転校生と出会う日(後編)

 やっと出会います。


 翌日、俺たちは教室にて授業が始まるのを待っていた。クラス分けを知らなかったのだが、なんとキラと鶴巻と神楽と才治と同じクラスだった。そんな偶然あるのかよ。まあ、ハブられる奴が出なくてよかったよ。ちなみに一番ほっとしているのは俺。

 俺たち5人は、クラスにまだグループができていない中、1つの机を囲むように集まっていた。まあ、話す内容はサッカー部のことについてだけどな。

 

 

「いろいろな方に声を掛けてみたけれど……。」

 

「うん……。まったく興味を持ってくれないね……。」

 

「やっぱりまだサッカーの良さが分からないんだろうね。」

 

「ああ、やってみたら絶対はまるのにな……。」

 

 

 昨日言われた通り、クラスのやつを中心に勧誘を行ってみたものの、結果は芳しくなかった。しかしマズいな。あと1人だと思って余裕ぶっこいていたが、クラスメイトへの勧誘が空振りとなると少し話が変わってくるぞ。

 そんな俺の焦燥など無視するように、先生が入ってくる。

 

 

「はい、席に着け-。今日から君たちの担任となる…………」

 

 

 どうやら担任らしい先生が話しているが、あまり耳には入ってこない。サッカーのことばかり考えていたからだろう。

 

 

「…………以上だ。最後に、転校生を紹介する。」

 

 

 ……ん?転校生?この時期にか!?まだ入学式から1日目だぞ!?周りもざわついている。そりゃそうだ。

 

 

「おーい、入ってこい!」

 

「ほーい。」

 

 

 そう言い、白髪のオールバックで糸目の少年が飄々と教室に入ってきた。

 

 

「それじゃ、自己紹介をしてくれ。」

 

「うい。ワイは磯貝真司(いそがいしんじ)や。みなさん、よろしゅう頼んます。」

 

 

 関西弁のようなしゃべり方をした磯貝が自己紹介をするも、クラスの反応はイマイチだ。磯貝はそんな反応を横目に指定された自分の席へと向かう。

 ……?なんだ?今一瞬目が合ったような……?……気のせいか。

 

 休み時間になっても誰も磯貝の所へは行かなかった。みな新しいクラスにまだ馴染めておらず、友達となる人を探す段階だからだ。いうなれば、クラスメイト全員が転校生のような状態だった。俺たちサッカー部組も特に関わらずに、他クラスにサッカー部の勧誘をしに行こうと決めた、その時だった。

 

 

「なあ、あんたら。ちょっとええか?」

 

 

 なんと磯貝のほうから俺たちに対して話しかけてきた。そのことに驚きつつ、一番前にいた鶴巻が返事をする。

 

 

「あ、ああ。磯貝……だったよな。どうしたんだ?」

 

 

 

「サッカー部がどこにあるか、知らへん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後話してみたところ、どうやらサッカー部に入部したいとのこと。思わぬ展開に俺たちは驚きつつも最後の1人が見つかったことに喜び、放課後一緒にサッカー部に行くことを約束した。そして放課後、つまり今現在、俺たち5人は自己紹介の後磯貝を連れてサッカー部に向かっている。

 

 

「いやーそれにしてもびっくりしたわ。せっかくの転校生やっちゅうのに、誰も喜ばへんやん。」

 

「それはそうじゃない?なんたってまだクラスが決まって2日なんだから。」

 

「そうよ。それにびっくりしたのはこっちだわ。始まって間もないのに転校なんて……。」

 

「あーまあ、ワイにもいろいろあるっちゅうこっちゃ。そこらへんはまぁええやないか。」

 

 

 別によくはないが。そのままその話題が終わったところで、ずっと気になっていたことを聞いてみる。

 

 

「なあ、磯貝。お前はサッカー経験者なのか?」

 

「ああ。ワイはこれでも小学生のころ、ちょっとは名の知れたプレイヤーやったんやで?」

 

 

 やはりサッカープレイヤーだったようだ。まあ、いきなりサッカー部なんて言い出すからそうじゃないかとは思っていたが。そんな会話をしながら歩いていると、サッカー部の前に着いた。

 

 

「ここがサッカー部室だ。」

 

「ほーここが。なんやぼろっちいところやな。」

 

 

 こいつ結構ズバズバいうな。その問いかけには答えず、俺たちは部室の扉を開けた。中には既に新島先輩ら3人がいた。

 

 

「先輩!新入部員を連れてきましたよ!」

 

「なに!本当か!?すごいじゃないかお前たち!」

 

 

 鶴巻が新入部員を連れてきたことを伝えると、先輩たちは嬉しそうにこちらに視線を向ける。

 

 

「よろしゅうお願いします、先輩方。ワイは磯貝真司ていいますわ。小学校の頃はMFをやってました。」

 

「磯貝か!よろしくな!しかも経験者なのか!これは心強いな!」

 

「よかったわね、新島ちゃん!これで11人揃ったわ!」

 

(磯貝か……こいつ、相当出来るな……。)

 

 

 新島先輩と東雲先輩は喜び、影狼先輩はどこか真剣な表情で磯貝を迎え入れる。

 

 

「……なあ、才治。このサッカー部って、もしかして人数が足りてなかったんか?」

 

「う、うん……。磯貝君が入ってくるまで10人だったから、あと一人を何とかして見つけなきゃって……。」

 

「けっこう切羽詰まってたんやな……。ま、もっとワイに感謝しいや。」

 

「うん……。磯貝君。入ってくれて本当にありがとう……。」

 

「……ジョーダンやがな。そないにまともにとらえんでええで。」

 

 

 

 しばらくして先輩たちも落ち着いたのか、今日の部活動について話し始める。

 

 

「今日は、言っていた南条と薬師寺も来てくれるそうだ。昨日話したときにそう言っていた。なので、あいつらが来てから練習を始める。」

 

 

 おお、ついに中学での練習か。いままでキラと鶴巻の3人でしか練習してこなかったからな。11人での練習が楽しみだな。……そういえば、先輩たちのポジションってどこなんだろうか。なんか入ってからはそれどころじゃなくて聞けていなかったな。

 

 

「そういえば、先輩たちのポジションってどこなんですか?」

 

「ん?ああ、そういえばまだ言っていなかったな。俺はMFだ。」

 

「わたしはDFよ~。」

 

「うすうす気づいてると思うがFWだ。」

 

 

 まあ、あんなシュート打てるくらいだから影狼先輩はFWだよな。というか、東雲先輩DFなのか。なんか意外だったな……。

 ふと後ろを見ると、磯貝が神楽と才治にポジションとは何かを教えていた。そういえば、まだルール教えてなかったな。

 

 

「そして、まだ来ていない南条がMF、薬師寺がGKだ。」

 

 

「!……GK……。」

 

 

 

 

 うわー、マジか。薬師寺先輩GKなのか。まいったな、ポジションがかぶったぞ……。薬師寺先輩がどんな人か知らないが、部活動をさぼるくらいだ。あんまりサッカーに情熱が無い人かもしれない。ここでGKだといって変にもめるのも嫌だな……。せっかく11人揃ったのにここで張り合うと、最悪チームとしてまとまらなくなるかもしれない。

 

 

「そういえば、お前たちはサッカー経験者だったよな。ポジションはどこなんだ?」

 

「あ、わたしはFW希望です。」

 

「あー、俺はどこなんだろうか?今まで気にしたことなかったな……。」

 

「鶴巻君なら『スピニングカット』も使えるし、DFがいいんじゃないかな?」

 

「そ、そうか。じゃあ、俺はDFです。」

 

「そうか、加賀美がFWに鶴巻がDFだな。……坂上はどうなんだ?」

 

「俺……俺は……。」

 

 

 どうしよう。どうこたえるべきか……。俺はめちゃくちゃ悩んだ。悩んだ末に俺は…………

 

 

 

 

「俺もDFです。」

 

 

「えっ!?」

 

「おい、坂上!」

 

「……!」

 

「いいんだ。キラ。鶴巻。」

 

 

 何か言いたげなキラと鶴巻を制し、俺はDFであると新島先輩に告げる。これでいい。これでいいはずだ。キラと鶴巻も俺の意図を察したのか、何も言ってこなかった。その顔はとても複雑そうだったが。

 そういえば、影狼先輩も俺がGKであることを察していたはずだ。影狼先輩の様子を見てみると、やはり複雑そうな顔だったが何も言わないでくれた。そうだ、影狼先輩も何も言わないってことは、きっとこれで正しいはずだ。俺がDFで、薬師寺先輩がGK。これでチームとして完成するんだ。

 

 

「坂上はDFか……。うん。全体的にバランスがいいな。これなら神楽と伊能がどこのポジションに行ってもフォーメーションを変えることで対応可能だな。」

 

「そうね。神楽ちゃんと伊能ちゃんのポジションは、練習の様子を見て決めたらいいと思うわ。」

 

 

 その時、部室のドアが開き、見知らぬ2人が入ってきた。

 

 

「ちっ、ここに来るのも久しぶりだ。相変わらずぼろっちいな……。」

 

「はあ……もう二度と来たくなかったんだけどね……。」

 

「南条!薬師寺!来てくれたんだな!」

 

 

 入ってきた2人はどうやら、話に出ていた南条先輩と薬師寺先輩だったようだ。

 

 

「見ろ、新入部員が6人も入ってきてくれたんだ!これでサッカー部は続けられる!だからもう一度サッカーやらないか?」

 

「……ちっ。まあ、11人揃ったらやってやってもいいって言ってたからな……。」

 

「はぁ、どうせやったところでまた御門中に……。」

 

「おい!薬師寺お前まだそんなこと言ってんのか!」

 

「うわ!か、影狼君……。わ、分かったよ。やるよ……。」

 

 

 やはり、どうも気乗りしていない南条先輩と薬師寺先輩。そんな彼らでも、今は貴重な人数だ。多少無理にでもサッカー部の活動をしてもらわないといけない。

 

 

「さ、2人とも。新入部員に挨拶してくれ。」

 

「……南条圭吾だ。」

 

「薬師寺努、よろしく……。」

 

 

 め、滅茶苦茶雰囲気が重い……。眼隠れするほどの黒髪ロングの南条先輩と、海老のような髪型の薬師寺先輩に対し、俺たち新入部員も挨拶をする。そして挨拶が終わった後、新島先輩が話し始めた。

 

 

「みんな!今から練習を始めるが、その前に目標をみんなで共有しておきたいんだ!」

 

「目標ですか?」

 

「それはいいことですわ!目標がないと気合も入りませんわ!」

 

「ああ。そして俺たちの目標は、……フットボールフロンティアで優勝することだ!」

 

「フットボール、フロンティア?」

 

「ええ。毎年1回、全国のサッカー部が集まって日本一を競う大会なの。」

 

 

 鶴巻が聞いた質問に東雲先輩が答える。この世界にもFFがあるのか。イナズマイレブンっぽい世界だからあるかもとは思っていたが、まさか本当にあるとは。

 

 

「そうだ。俺たちの目標はフットボールフロンティアで地区予選を突破し、全国大会にて優勝する。これは俺の2個上の先輩たちの時代からの目標なんだ。」

 

「日本一か………わくわくしてきますね!」

 

「鶴巻はホンマ単純なやっちゃな……。まあ、気持ちは分らんでもないけどな。」

 

「かずや!世界一になるためには、まず日本一にならなくちゃね!」

 

「ああ、そうだな。」

 

 

 

 

「新島ちゃん。1年のみんなはやる気満々みたいね。」

 

「ああ。この様子なら、今年こそはいけるかもしれないな。」

 

 

 みんなは日本一になるという明確な目標ができて、俄然やる気になったみたいだ。影狼先輩も口には出していないが、どこかやる気にはなっているように思う。逆に南条先輩と薬師寺先輩はあまり乗り気ではないようだ。

 

 

「よし!優勝に向けて練習だ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

 元気よく返事し、俺たちは部室を出た。さて、練習開始だ。




 11人揃ったんですけど、登場人物まとめは次の次くらいになりそうです。

 冬場は仕事が忙しいので、更新頻度はどんどん落ちるかもです。なるべく早くするように努力はします。


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FFに向けて練習する日

 今更なんですけど、オリジナルといっておきながらもイナイレ作品の影響を強く受けて今作を書いているので、キャラや展開が原作に似ていると感じることが多々あると思います。ご了承ください。


 イナイレは詳しいですけどサッカーはほぼ未経験なので練習も超次元です。


 俺たちは天竜中ユニフォームに着替え、グラウンドへと向かった。ユニフォームのデザインとしては下が白ベース、上が黄色ベースの雷門中のようなものだ。GKは全体的に色の濃さが増しているような感じだ。

 

早速練習を開始したが、11人で全員でチーム練習、というわけにもいかなかった。なんせ、神楽と才治は初心者だ。そんな状態でチーム練習なんてしてもまともに動けるわけがない。よって、神楽と才治は新島先輩と東雲先輩の指導の下個別練習をすることになり、その間余った俺たちはパス回しやシュート練習など個人技を磨くような練習をすることになった。

 

 

「け、結構難しいですわね……。」

 

 

 向こうでは神楽と才治がリフティングの練習をしている。……あ、落とした。まあ、初めてなんてこんなもんだろう。先輩たちもそれを分かっているからか、あまり強くは言わず見守るように見つめている。

 

 

「おーい、坂上!どこ見てんだー?」

 

 

 声のほうを見ると鶴巻が俺に向かってパスを出していた。そうだ、今俺は鶴巻とパス練習をしていたんだった。

 

 

「悪い悪い!」

 

 

 そういい、ボールを蹴り返す。すると、俺のパスを受けた鶴巻が心配そうな表情で駆け寄ってくる。

 

 

「なあ、坂上。どうしたんだ?らしくないぞ?……やっぱり、DFって言ったことまだ悩んでるのか?」

 

「いや、そういうわけじゃない。あの件はあれでよかったんだ。それにさ、先輩たちも3年生だから来年はいないだろ?来年になったらGKできるからさ、たった1年我慢するだけでいいんだ。」

「あー、そうだ。それよりさ、鶴巻に協力してほしいことがあったんだ。」

 

「協力?」

 

 

 納得のいっていない鶴巻を前に、話題をそらすように俺は話を進める。

 

 

「ああ。ディフェンス技の特訓さ。」

 

 

 

 

 

 

 

ああとは言ったものの、やはり1日で身に着くようなものでもない。GKの技、それも『ゴッドハンド』系列の技ならともかく、DF技となると勝手が違い思うようにいかなかった。結局、完成しないまま1日の練習が終わった。神楽と才治も結構こってり特訓したらしく、終わるころにはボロボロになっていたのが印象的だった。それでも神楽はやる気に満ち溢れていたあたり、サッカーへの思い……というかスポーツへの思いが本気なんだと思わされる。才治は……まあ、神楽がやってるからって感じではある。

 そんな感じで一週間が過ぎた。その間、練習の他に勧誘も並行して行っていたが成果は実らなかった。結局同学年125人、正確には他クラスに不登校のやつがいるから124人全員に声をかけたものの、反応はイマイチだった。

 そんなこんなで放課後、練習開始前に新島先輩が話し始めた。

 

 

「みんな!FFへの登録と、トーナメントの組み合わせが終わったぞ!」

 

 

 いつの間に登録してたんだ……。ていうか、FF始まるの早くね?いや、原作でもだいぶ早かったしこんなもんか。

 どうやら、地区予選は16校のトーナメント形式で行われるらしく、4回勝てば全国大会にコマを進めることになる。

 

 

「俺たちの1回戦の相手は、西ノ宮中だ。」

 

「あら、懐かしいわね。その名前。」

 

 

 どうやら、先輩たちは知っている中学のようだ。残念ながら俺はこの辺の中学どころか、今の中学サッカーの強豪校も知らない。ずっと特訓ばかりしてきたからだ。……知らない間にフィフスセクターとかに支配されていたらどうしよう。

 

 

「西ノ宮中は、2年前俺たちがFF1回戦で戦って倒した相手だ。」

 

「1回倒した相手なら戦略もわかってるし余裕じゃないですか?」

 

「馬鹿か?2年もたっている。前戦った時と一緒なんてありえないだろ。もっと考えろ。」

 

「まあまあ、南条。その辺にしておけ。とにかく油断は禁物だ。1回戦まで残り3日、気を引き締めて練習しよう。」

 

 

 

 新島先輩の判断により、偵察よりも練習をすることになった。なんでも、偵察なんかしたところでうちに立てられる作戦なんてないから練習したほうがマシということだった。

 今日からは神楽と才治も混ぜて11人で練習することになった。あまり見ていなかったが、ボールをしっかり扱えるようになったのだろうか。

 

 練習内容は5・6で攻撃側と守備側に分かれ、コートの半分を使って疑似的な試合をするというものだ。攻撃側はボールを運び守備側が守るゴールから点を奪い、守備側はボールを奪うというルールだ。グループ分けは、攻撃側には新島先輩・影狼先輩・南条先輩・キラ・磯貝の5人、守備側は俺・鶴巻・神楽・才治・東雲先輩・薬師寺先輩の6人だ。

 

 

「よし、始めるぞ!」

 

 

 新島先輩の掛け声でスタートする。新島先輩は磯貝にパスを出しそのまま上がっていく。

 

 

「行かせないわ!」

 

 

 磯貝の前に立つ神楽。磯貝はそれを見て、神楽とは全く違う方向にボールを蹴る。突飛もない行動に神楽が困惑している間に、磯貝は前へ走り出す。そして地面に着いたボールがスピンを始め、神楽を抜き去った磯貝の元へと帰ってきた。

 

 

「『ひとりワンツー』!」

 

「なっ!」

 

 

 華麗に必殺技で神楽をかわした磯貝は、そのまま南条先輩にパスを出す。

 すげー!あいつ『ひとりワンツー』が使えたのか!さすがは小学校からの経験者だ。神楽にしてみれば、必殺技を目の前で受けたのはこれが初めてだな。その表情は悔しそうだ。

 パスを受け取り、そのままドリブルで上がっていく南条先輩の前に東雲先輩が立ちふさがる。

 

 

「そう簡単には行かせないわよ。南条ちゃん。」

 

 

 そう言うと、東雲先輩を中心に深い霧が広がっていく。目の前にいた南条先輩はその霧に包まれてしまい、何も見えなくなり立ち止まってしまう。そんな南条先輩の後ろから東雲先輩がこっそりと忍び寄り、南条先輩が持っていたボールを奪い去っていった。

 

 

「『ザ・ミスト』!」

 

「ちっ!」

 

 

 おー!『ザ・ミスト』だ!髪色も相まって、原作との違いにそこまで違和感がないのがすげぇな。そして当たり前かもしれないが、先輩たちが必殺技を使えることに軽く感動する。ああ、これが超次元サッカーだ。

 ボールを守備側がとったため再びポジションに着き、また攻撃側から仕掛ける。今度は新島先輩を中心にパスを回し、何度かの攻防のあと新島先輩がボールを持った状態で、薬師寺先輩が守るゴール前に着いた。そしてボールに回転を加え宙に浮かせ、そのボールを思い切りゴールに向かって蹴り飛ばした。

 

 

「『スパイラルショット』!」

 

 

 くそ低次元なシュート技来たぁ!現実でできるかって言われたらなんか出来そうに見えるくらいには低次元だった技だ。この低次元さを異世界でも見られるとは。

 『スパイラルショット』がゴールに迫りくる中、ゴールを守る薬師寺先輩は右手を抑えその場にたたずんでいる。しばらくすると、薬師寺先輩の右手から炎が沸き上がる。その状態で回転しながら飛び上がり、飛んできたボールを炎の手で押さえつけるように突き出した。

 

 

「『バーニングキャッチ』!」

 

 

 しばらく拮抗した2つの技は、やがて薬師寺先輩の手にボールが収まる形で終わった。

 

 

「いいぞ、薬師寺!」

 

 

 『バーニングキャッチ』キタコレ!GOの中で一番印象深い必殺技だ。主にいろんな意味で。というか、俺らのチームのキャッチ技、『バーニングキャッチ』なのか……。これはDFの仕事が増えるな。

 薬師寺先輩がボールをとったため、またポジションを戻し攻撃側からボールを回し始める。そして影狼先輩にボールが回ったとたん、加速しDFを抜き去ってゴール前に立つ。滅茶苦茶はえーな、影狼先輩。反応できなかったぞ。……お、もしや影狼先輩も必殺シュートを放つのだろうか。何打つんだろう、とても気になる。

 そんな思考を知ってか知らずか、影狼先輩はゴールを見据え立つ。そして、ボールを足で思い切り踏み付けると、ボールが火で包まれていく。そのボールをゴールに向けて蹴り出すと、ボールは左右へ軌道をえがきゴールへ飛んでいった。

 

 

「『バウンドフレイム』!」

 

「くっ、『バーニングキャッチ』!……うわぁ!」

 

「……ふん。」

 

 

 おー、影狼先輩のシュート技は『バウンドフレイム』か。……うん、なんか、思ってたより普通だったかもしれない。もっとなんか、『流星ブレード』とかの超次元な技を出すかと思ってた。まあ、『バウンドフレイム』も十分超次元だけどさ。

 

 

「……ちっ、これだから天才は……。」

 

 

 薬師寺先輩が何か言った気がしたが、その意識はそのあと聞こえてきた言葉によってかき消された。

 

 

「おーおー頑張ってんじゃん。新島。」

 

「陰島(かげしま)……!」

 

 

 そう言いグラウンドに入ってきたのは、オレンジ色のショートのチンピラ風の人だった。誰だろう?同級生だろうか?

 

 

「……西ノ宮中のキャプテンが何の用だ。」

 

「はん、つれないこと言うなよ。ただの偵察さ、偵察。」

 

「偵察にキャプテンが来るっていうのか?」

 

「いいじゃねぇか、別に。」

 

 

 内容だけ聞くと気の置けない友達同士の会話に聞こえるが、実際の雰囲気から察するにあまり仲はよろしくなさそうだ。陰島と呼ばれた人のことを東雲先輩に聞いてみる。

 

 

「彼は陰島ちゃん、次の1回戦で戦う西ノ宮中のキャプテンよ。2年前の1年生の時から、チームのキャプテンをしていた実力者ね。2年前新島ちゃんに1回戦で負けて以来、新島ちゃんに対抗心を燃やしているのよ。新島ちゃんはあんまり意識してないんだけどね。」

 

 

「まあいいや、今日は面を拝みに来ただけさ。新島、今度こそは勝つからな!首を洗って待っときな!」

 

「……俺たちだって負けるつもりはない。」

 

 

 その返事を確認し、陰島は帰っていった。なんだったんだ、嵐のように来ては去っていったな。というか偵察されていたのか。うちに手札はそんなにない中で、その手札の半分くらい見られていたわけだが大丈夫だろうか。

 

 

「新島先輩……。」

 

「ああ、悪かったな。さ、練習を再開しよう。なに、偵察なんか気にするな。それに、偵察を免れて練習なんて選択肢はうちには取れないからな。」

 

 

 あまり気分がよくなさそうな新島先輩の一言で練習は再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、練習を終えた俺とキラと鶴巻と磯貝は一緒に帰っていた。

 

 

「磯貝。経験者のお前から見て天竜中サッカー部はどうなんだ?」

 

「ん~、まあまあやな。これからってところやろ。神楽はんと才治も、どんどん上手なっとる。まあ、でもそん中でも加賀美はんのキック力には目を見張るものがあるけどな。あんなシュートそうそう見ぃへんで。加賀美はんのシュートを見た先輩らも驚いてたしな。」

 

「ふふっ、ありがと。」

 

 

 話を聞いていた俺は、今日の練習を思い出す。たしかに、神楽と才治は上手くなってきている。特に才治は元々格闘技などをやっていたらしいから、体の使い方が上手い。テクニックがない分を、運動神経でカバーしている印象を受けた。

 

 

「にしても、西ノ宮中か……。聞ぃたことないな。まあ、この辺で聞ぃたことあるっちゅうたら御門中くらいやがな。」

 

「御門、中?」

 

 

 聞きなれない単語を耳にした俺たちに、磯貝は説明してくれた。なんでも、ここ2年ほど連続でここの地区予選を突破しているらしい。もし俺たちが地区予選を勝ち進めば、必ず当たるだろうとも言っていた。

 

 そんな鶴巻たちの会話を聞きながら先頭を歩く俺は、とあるポスターに目が止まった。

 

 

「?どうしたのかずや?」

 

「これ……。」

 

 

 そういい、指をさした先には大きく【木下藤十郎:サッカーをもっと身近に!】と書いてあるポスターだった。

 

 

「ああ、これ。最近このポスターよく見かけるよね。」

 

「ああ、木下さんか。サッカーを広めるためにいろいろな活動をしている人だよな。」

 

「うん。ここ数年前、テレビに急に現れては【サッカーを身近なスポーツにします!】……なんて言い出した時には驚いたけどね。」

 

「噂では、サッカーができない子に寄付金を送っているって聞いたぜ。出来た人だよなぁ。こういう人がサッカーを広めてくれるのは心強いよな。」

 

 

 どうやら、サッカー界では伝道師として有名らしい。

 ……サッカーを広める、か。あまり考えたことなかったな。今のサッカーの現状を俺は受け入れてしまっていたんだろう。……そんなんじゃ、ダメだ。俺が変えてやるくらいの意気込みでいかなきゃ、サッカー界隈は良くならない。今のままでいいはずが無い。

 

 

 そうだな、やることが一通り終わったらサッカーの普及活動に力を入れよう。じゃないと、きっと超次元サッカーは廃れてしまう。

 

 俺はそう意気込んで帰路についた。……その時に見た、磯貝がポスターを珍しく真剣な顔で見つめる光景を、俺はしばらく忘れられなかった。

 

 

 そして3日が流れ、俺たちはいよいよ地区予選1回戦の日を迎えた。




・ひとりワンツー
 原作では虎丸やフィディオが使っていた技。アニメではテロップが出ず影が薄いため覚えていない人もいるのでは?ゲームだと最低クラスの威力で、虎丸やフィディオがこれを覚えたがっかり感も大きい。というか2人はほかの技が弱すぎる。威力は下の下。


・ザ・ミスト
 原作では霧野が使っていた技。アニメでの使用数はそんなに多くないのだが、それでも記憶に残っているのは単純に霧野のキャラを覚えているがゆえにセットで覚えているからだと思う。威力は下の中。


・スパイラルショット
 原作ではアニメで一ノ瀬が使っていた技。登場回数も少なく、インパクトも薄い。ゲームでもこれを覚えるメインキャラが少なく、空気。特にゲームのみの人はモーションを知っているかさえ怪しい。威力は下の下。


・バーニングキャッチ
 原作では我らが三国さんが使っていた技。三国さんの代名詞であり、三国さんを有名にした元凶。GO2のしんすけが序盤覚えるキャッチ技がこれとパンチング技なため、必然的に見る機会が多くなる。威力は下の下。


・バウンドフレイム
 原作では万能坂の生徒が使っていた技。バーニングキャッチでゴールを防げた数少ない技(止めたとは言っていない)。ゲームでは磯崎が覚えたのが印象的か。威力は下の中。

 次話はいったんキャラまとめ挟んでから、いよいよFF開幕です。


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ここまでの登場人物まとめ 天竜中編

 今後、キャラ忘れたってなった時はこれ見てください。
 キャラの能力は、仮にゲームになったときにどんなステータスをしているかをざっくりまとめたものです。各パラメータは、ゲームシリーズにあるものは同じものとして見てください。無印とGOどちらにもあるステータスはGOシリーズのものとして扱います。


坂上和也(さかがみかずや) 山

性別:男 学年:1年

髪色:黒色 髪型:外ハネ

技:ゴッドハンド(威力下の中)

能力:キャッチが高く、キーパー向け。子供の頃の特訓もあり、ドリブル・キックも平均以上はある。一方、ブロックは平均以下でありスピードに至っては最底辺。

 

・今作の主人公。現代から転生しており、転生前はイナズマイレブンシリーズをやりこんでいた。超次元サッカーにかける思いは人一倍。人の苦労に寄り添う優しさを持つが、その反面自分を犠牲にしがちな所がある。加賀美綺羅とは幼馴染であり、唯一キラと呼んでいる。

 

 

加賀美綺羅(かがみきら) 林

性別:女 学年:1年

髪色:薄水色 髪型:ロング

技:ダークトルネード(威力下の中)

能力:キックが滅茶苦茶高く、2のデザームやGO1の白竜並みに高い。その他の能力も平均して高いものの、唯一ブロックがかなり低い。

 

・今作のヒロインであり、天才美少女ストライカー。過去に自分のプレイで人を傷付けた過去を持つため、サッカーでの危険プレイに嫌悪感を持っている。坂上和也とは幼馴染であり、かずやと呼んでいる。

 

 

鶴巻忍(つるまきしのぶ) 山

性別:男 学年:1年

髪色:赤色 髪型:ショートカット(くせ毛)

技:スピニングカット(威力下の下 SB)

能力:ブロックとボディが高め。ただそれ以外の能力は低く、特にドリブルは最底辺。

 

・坂上の小学校からの友人。坂上とキラがサッカーをしているところを目撃し、その後一緒にやるようになる。根っからの正義漢であり、困っている人は見過ごせない。反面、カッとなって考えなしに突っ込む一面もある。

 

 

竜ヶ崎影狼(りゅうがさきかげろう) 火

性別:男 学年:3年

髪色:灰色 髪型:ウルフカット

技:バウンドフレイム(威力下の中)

能力:キラほどではないがキックが高く、スピードとジャンプとテクニックも高い。ただ、ボディとスタミナが低め。

 

・天竜中サッカー部部員。高い身長と猫背が特徴的。サッカーでも獣のような獰猛さと鋭さを見せる。強い奴を好み、弱い奴を嫌う。

 

 

新島徹(にいじまとおる) 風

性別:男 学年:3年

髪色:黒色 髪型:ショート

技:スパイラルショット(威力下の下)

能力:全体的に平均以上の能力を持つ。その中でもドリブルとブロックが高めだが、キックはやや低め。

 

・天竜中サッカー部キャプテン。周りが濃い面々なため、いつも苦労させられている。サッカーでは司令塔としてチームを支える。薬師寺とは幼馴染。

 

 

東雲花音(しののめかのん) 林

性別:女 学年:3年

髪色:ピンク 髪型:ポニーテール

技:ザ・ミスト(威力下の中)

能力:最高値近くのブロックを持つ。ほかの能力は平均並みでキックとジャンプが低い。

 

・天竜中サッカー部部員。新島のことをいつも心配している。普段からおっとりしており、人をちゃん付けで呼ぶ。

 

 

天王寺神楽(てんのうじかぐら) 風

性別:女 学年:1年

髪色:金色 髪型:サイドテール

技:なし

能力:平均的な能力。これといって高い能力もないが、ガッツはちょっと高め。

 

・天王寺グループのお嬢様。父親である天王寺東大の、勉強重視のスポーツ禁止といった教育方針に嫌気がさしており、スポーツをしたがっている。伊能才治とは幼馴染。

 

 

伊能才治(いのうさいじ) 林

性別:男 学年:1年

髪色:緑色 髪型:トゲトゲ

技:なし

能力:スタミナとキックとブロックとジャンプが高い。代わりにテクニックがかなり低い。

 

・天王寺神楽の幼馴染にして親公認のSP。格闘技を習っており、身体能力は高い。普段はかなり弱気。神楽に巻き込まれるようにサッカーを始める。

 

 

南条圭吾(なんじょうけいご) 火

性別:男 学年:3年

髪色:黒色 髪型:ロング

技:なし

能力:平均的な能力を持つ。高めのボディと低めのスタミナが特徴。

 

・天竜中サッカー部部員。サッカーに対してあまりいい感触を持っておらず幽霊部員だったが、新島の頼みによりサッカー部に復帰する。影狼から嫌われている。

 

 

薬師寺努(やくしじつとむ) 火

性別:男 学年:3年

髪色:黒色 髪型:海老

技:バーニングキャッチ(威力下の下)

能力:キャッチは少し高めだが、他の能力は平均以下。

 

・天竜中サッカー部部員。新島とは幼馴染。お世辞にもサッカーがうまいとは言えない。影狼から特に嫌われており、よくシュート練習の相手になるためトラウマになっている。

 

 

磯貝真司(いそがいしんじ) 風

性別:男 学年:1年

髪色:白色 髪型:オールバック

技:ひとりワンツー(威力下の下)

能力:ドリブルとキックがかなり高い。その他の能力も平均して高く、目立って低い能力がないオールラウンダー。

 

・新学期早々の転校生。関西弁でしゃべる糸目の少年。小学生の頃、サッカー界隈で少し名を馳せたプレイヤー。なにか目的があって転校して来たが……?

 




 忙しくて残業も多くなってきました。なんとか年末までには西ノ宮中戦を終わらせたいところです。
 キャラに属性がついていますが、これはゲームにした際のステータスでありこの小説では一切属性は考慮しません。なぜなら、属性の存在に気付いた頃にはもうプロットが出来上がってしまっていたからです。


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FF地区予選一回戦の日

 1週間に最低1話は目標にしたいところ……。


 今日はFF地区予選1回戦が行われる。相手は先輩達によると西ノ宮中らしい。最後に南条先輩が天竜中のグラウンドに到着したのを確認し、新島先輩が話し始める。

 

 

「みんな!今日は地区予選1回戦だ!初めての試合で緊張しているやつもいるかもしれないが、大丈夫だ!俺たちは強い!自分の力を信じ、出し切るんだ!……よし!勝とうぜ、みんな!」

 

「「「「おおっ!!」」」」

 

 

 先輩達が言うにルールは例年と同じらしく、グラウンドは戦う二校どちらかのグラウンドで行われるらしい。どっちなのかはクジ引きで決めるそうだが、うちは運が悪いらしく西ノ宮中のグラウンドで試合することになってしまった。西ノ宮中はここから遠く、歩いていく事も厳しいためバスを出してもらえるらしい。運転するのは、50歳前後に見える顧問の村田(むらた)先生だ。なんだ、村田先生いい人じゃないか。

 

 

「今年も運転の方、引き受けて下さりありがとうございます。」

 

(いやなに、いいんだよ新島君。普段は顧問らしいことも出来ていないからね。これぐらいやらないと、先生として失格だよ。)

「堂々とサボりに行ける!なんて楽な仕事なんだ!」

 

「……建前と本音逆ですよ、先生。」

 

 

 前言撤回。とんでもない人だったこのおっさん。新島先輩の対応を見るに、普段からこんな感じなのだろうか

 

 

「普段からこんな感じよ〜。」

 

 

 ナチュラルに心読まないで下さいよ、東雲先輩。

 

 

 

 

 バスでの移動中、話題を探すように隣に座るキラを見る。……キラって緊張とかしないんだろうか。

 

 

「?なに?」

 

「あーいや、なんでも……いや、緊張とかしてるのかなって。」

 

「緊張?うーん………してないって言ったら、嘘になるかもね。」

 

 

 そりゃそうだよな。誰だって初めては緊張するさ。実際、自分の力がどこまで通用するのかなんて分からない訳だしな。

 

 

「ちゃんと力を制御出来るかが不安なの。」

 

「あ、そっち?自分の力が通用するかとか……。」

 

「そんなの今気にしてもしょうがないでしょ?試合になったら全力で頑張るだけだし。」

 

 

 わお、なんちゅうメンタルしてんだコイツ。まあ、キラの場合は自分の実力からくる自信もあるんだろうが。

 

 

「力の制御の件なら、大丈夫だろ。ずっと特訓を見てきた俺が言うんだ。間違いない。」

 

「うん、ありがとうがすや。」

 

 

 ストレートにお礼を言われたのがむず痒かった俺は、気を逸らすかのように外の景色を見た。

 

 

 

 

 

 

 バスに揺られること数十分、俺達は少しボロそうな印象を受ける学校の前に立っていた。どうやらここが西ノ宮中のようだ。

 

 

「運転お疲れ様でした。村田先生。」

 

(なに、生徒のためだ。構わないよ。僕は少し用事があるからしばらく出かけるけど、怪我だけはしないようにね。じゃあまた、終わる頃に迎えに来るよ。)

「確か今日は新台が入ってたな。打ちに行くか!」

 

「……建前と本音逆ですよ。先生。」

 

 

 そう言うと、村田先生はバスに乗ってさっさと行ってしまった。話の流れ的にパチンコに向かったんだろう。ホントロクでもないおっさんだな。顧問として相手に挨拶くらいしろよとは思う。しかし、新島先輩もこんな会話をずっとしてきたんだろうか。コントかな?

 

 

「コントやなぁ。」

 

 

 お前もナチュラルに心を読むな、磯貝。

 

 

 

 

 

 中に入ると、既にグラウンドには西ノ宮イレブンが待機していた。相手チームに監督がいるのを見て思い出したが、この世界のFFは試合に出るのに監督は必須ではないらしい。たぶん、そもそもサッカーの監督がマトモにできる人が少ないことが原因だと思う。そんな事を考えていると、一番前に立っていた陰島がこちらを見て歩いてくる。

 

 

「来たな。楽しみにしていたぞ、この時を。」

 

「……そうか。……今回も勝たせてもらうぞ。」

 

「はっ!余裕だな、新島!度肝を抜かしてやるよ!」

 

 

 それだけ言うと、陰島はチームメイトの元に戻りウォーミングアップを始める。それを見て、俺たちもウォーミングアップを始めた。いよいよ俺にとっての初試合が始まるんだ。……なんかドキドキしてきたぞ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいか。2年前の経験を踏まえるに、注意するのは新島・東雲・影狼の3年の奴らだ。特に一番警戒すべきなのは影狼だろうな。」

 

 

 西ノ宮中の監督、津田浩司(つだこうじ)は西ノ宮イレブンを前にそう告げる。

 

 

「分かっています。だから3年を中心とした戦術に対する練習をしていたんでしょう?」

 

「そのとおりだ、陰島。いいか?相手の攻撃の際はなるべく3年にマークを集中させろ。そして、こちらの攻撃の際は1年がいるポジションから攻めるんだ。」

 

「津田監督。そのことでお話が。」

 

 

 ここで声を上げたのが、西ノ宮イレブンのFWの野崎だ。

 

 

「向こうのチームにいる白のオールバックの髪型をした磯貝って奴は油断しないほうがいいですよ。奴は小学校の頃サッカー界隈ではそこそこ名のしれたプレイヤーです。」

 

「あ、磯貝は僕も知ってます。というか、戦ったことがあります。あいつ結構強いんすよ。そこらへんの3年よりはいい動きしますよ。」

 

「なに?」

 

 

 野崎に合わせてDFの安岡も声を上げる。今年入部した2人の意見を聞き、津田は少し悩む。

 

 

「まあいい。警戒する対象が4人に増えただけだ。とにかくその4人を自由にさせないようにしろ。」

 

「「「はい!」」」

 

 

 その掛け声とともに、西ノ宮イレブンがフィールドに立つ。

 

 

(誰が相手だろうが関係ねぇ!叩き潰す!)

 

 

 陰島は円陣を組む天竜イレブンを鋭い目で睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 円陣も終わり、俺達はフォーメーション通りにフィールドに立っていた。俺達天竜中のフォーメーションは、GKに薬師寺先輩、DFに俺・東雲先輩・鶴巻・才治、MFに磯貝・新島先輩・神楽・南城先輩、FWにキラ、影狼先輩という4-4-2の形だ。それに対し西ノ宮中は、DFが3人、MFが4人、DFが3人という4-3-4のフォーメーションだ。陰島はどうやらMFのようだ。

 全員がポジションについたことを確認し、審判がホイッスルを鳴らす。その笛の音を皮切りに、西ノ宮中のボールで試合が始まった。

 ボール付近にいたFW2人は、陰島にボールを渡しささっと上がっていく。ボールを受け取った陰島は静かに笑った後、俺たちに向かって走り出した。

 

 

「は、速い!」

 

 

 影狼先輩ほどではないが速いスピードでサイドを駆け上がり、神楽と南条先輩を振り切り上がっていく。

 

 

「止めろ!」

 

 

 新島先輩が声を荒げそれに呼応するようにDFが動こうとするが、その動きのうちのほとんどは敵のFWによって止められてしまう。唯一動けた鶴巻が陰島の前に立ちふさがるが、陰島は奇妙な動きでボールを分裂させ、鶴巻が戸惑っている間に横を抜け突破する。

 

 

「『イリュージョンボール』!」

 

「な、なにっ!」

 

 

 出た、『イリュージョンボール』!鬼道さんの唯一の個人技なんだよな。と、そんなこと言ってる場合じゃねぇ!陰島はどこ行った!?

 そうしてあたりを見渡すと、なんと薬師寺先輩の前にボールを持ち立っていた。マズい!シュートチャンスだ!

 そう思う間もなくボールを蹴る陰島。そのボールが弧を描くようにカーブし戻ってきたところを、今度は縦に蹴りシュートする。

 

 

「『クロスドライブ』!」

 

「薬師寺!」

 

「はあぁぁ!『バーニングキャッチ』!……うわああああ!」

 

 

 薬師寺先輩が『バーニングキャッチ』を出し抵抗するも、健闘むなしくボールはゴールに吸い込まれていった。

 

 

「く、くそっ……。」

 

「そんな……。」

 

「ふん。……これで分かっただろう、新島。これが俺の実力だ!今年こそは勝たせてもらう!」

 

 

 0-1。あまりにもあっさりと決まってしまったその1点は、俺たちの心に重くのしかかった。




・イリュージョンボール
 原作では鬼道などが使っていた技。登場回数は多くないもののアニメの成功率は100%という記録がある。ゲームでも鬼道のほかに一ノ瀬も覚え、2人の能力の高さゆえに強い技だと思いがちだが実はそんなに強くない。威力は下の下。

・クロスドライブ
 原作ではマックスなどが使ってた技。出番も少なくとくに印象がないといわれても納得いってしまう技かもしれない。シュートも地味だが、名前を聞くと「ああ、なんかそんなのあったな。」とはなる。威力は下の中。


 試合の描写って書くの難しいですね……。


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西ノ宮中に苦戦する日

 棚卸しが忙しかったです。許してください。
 なんとか年末までに次話を上げて西ノ宮中戦を終わらせたいところです。


 俺はネットを揺らすボールを眺めながら茫然としていた。勝てる、と思っていたわけではないがこんなにあっさりと得点されるとは思ってもいなかった。見通しが甘かったか。ふと周りを見れば、才治や鶴巻も似たような表情をしていた。特に鶴巻は突破されたこともあって深刻な表情だ。薬師寺先輩も驚いていたが、その表情にはどちらかというと諦めが見て取れていた。しかしまずい、このままだと士気が下がってしまうな……。

 

 

「皆、試合に集中しろ!まだまだこれからだ!」

 

「そうよ、負けたわけじゃないのよ。切り替えていきましょ。」

 

 

 そんな状況に、新島先輩と東雲先輩が皆に発破をかける。すると、その声に感かされる様に皆の顔にも徐々にやる気が戻ってきた。やっぱすげぇな、キャプテンって。一声で状況を変えちまった。

 そんなことを考えながらポジションに戻る途中、未だ浮かない表情の鶴巻を発見する。見かねて何か言おうとした時、前のほうから声が聞こえた。

 

 

「鶴巻君!大丈夫だよ!私が何点でも決めてあげる!」

 

「加賀美さん……。」

 

「そうさ、鶴巻。今悩む暇があったら、次どうすればいいか考えるんだ。」

 

「坂上……ああ!お前の言うとおりだな!俺、頑張るよ!」

 

 

 キラからの思わぬ声援によりどうやら元気になったようで、速足で自分のポジションへと戻っていく。鶴巻はサッカーの試合はこれが初めてだしな。潰れなきゃいいんだが……。

 

 

 

「くくく……すぐにもう一回絶望に叩き落してやるよ……。」

 

 

 

 

 そして全員がポジションに着き、天竜中からのボールで試合が再開する。新島先輩を中心に積極的に攻めるという事前に決めておいた作戦をとった天竜中に対し、あまり動きを見せず不気味な西ノ宮中という対照的な試合展開となった。

 ボールを持った新島先輩は影狼先輩に2人のマークがついていることを確認し、キラにボールを回す戦法へと切り替える。

 

 

「南条!」

 

 

 南条先輩にパスを出した新島先輩だが、そのパスは陰島によって軽々とパスカットされてしまう。

 

 

「甘いんだよ!新島!」

 

「くっ、陰島……。みんな!陰島を止めろ!」

 

 

 その声に反応し南条先輩が向かっていくが、軽くいなされてしまいそのまま陰島が攻めあがってくる。

 

 

「行かせないわ!」

 

 

 東雲先輩が陰島の前に立つも、陰島は薄く笑った後FWにパスを出す。陰島ばかりに集中していた俺たちは反応が遅れ、結果的にFWをゴール前まで素通りさせてしまう。敵のFWは、ボールを浮かせながら逆立ちした後回転し、その勢いそのままにシュートを放ってきた。

 

 

「『スピニングシュート』!」

 

「今度こそ、『バーニングキャッチ』!うああああああ!」

 

 

 西ノ宮中のシュートは薬師寺先輩の『バーニングキャッチ』を再び破り、俺たちのゴールネットに突き刺さる。

 またしてもあっさりと点を決められてしまい、0-2になってしまう。その事実に俺は夢であるかのような錯覚を受けるが、嫌に目につく西ノ宮中の姿がそれが現実なんだと教えてくれる。なんにも手ごたえを感じていない中でのこの点差は、俺達を追い詰めるには十分な点差だった。周りを見ると諦めてはいないものの明らかに苦しい表情をしていた。

 

 

「分かったか、新島。これが俺たちとお前たちの差だ。」

 

 

 その言葉に対し新島先輩は軽く睨み付けるだけにとどまり、チームに発破をかけながらポジションへと戻っていった。

 

 

「まだやる気は失っちゃいねぇようだな。まあそう来なくては面白くないしな。」

 

 

 

 

(なぜこんなにも動きが読まれているのかしら?もしかしたら……。)

 

 

 

 

 試合が再開し、再び攻めあがる新島先輩達。しかしその道中、神楽に対して出したパスをまたしても陰島にカットされてしまう。

 

 

「くっ、また……。」

 

「邪魔だ!どけどけ!」

 

 

 神楽たちをを吹き飛ばしながら向かってくる陰島の前に、俺は立ちふさがった。これ以上好きにさせたらまずい、そんな直感にも似たなにかを感じながらも陰島を止めにかかる。

 

 

「邪魔だっつってんだろ!」

 

 

 しかし俺のブロックはいともたやすく抜かれ、ゴールへの道を許してしまう。

 

 

「ふん、張り合いのない奴だ。……さて、サクっともう一点いただくか!『クロスドライブ』!」

 

 

 マズい!そう思う間もなく陰島のシュートが薬師寺先輩に向かって放たれた。俺があそこで止められていたら……そんな後悔を俺がしている間に、なんと鶴巻がシュートコースに体を入れた。

 

 

「『スピニングカット』!」

 

 

 鶴巻が『スピニングカット』を使い、陰島の『クロスドライブ』と衝突する。さすがに止めるとまではいかなかったものの、かなりの勢いを殺すことに成功する。

 

 

「あとはお願いします!」

 

「ああ!『バーニングキャッチ』!」

 

 

 そうして放たれた『バーニングキャッチ』は見事シュートの威力を抑えることに成功し、その薬師寺先輩の手にはボールが握られていた。

 

 

「なんだと!?」

 

「やった、やりましたよ!薬師寺先輩!」

 

「よくやったぞ!薬師寺、鶴巻!」

 

 

 二人が止めたことに陰島は驚き、そして俺たちは喜びを隠しきれなかった。今まで全く歯が立たなかった相手からのシュートを止めたことにより、勝利への一筋の光が見えた気がしたからだ。

 

 

「坂上!」

 

 

 勢いを殺さないように、すばやく俺にボールを出す薬師寺先輩。そのまま俺は流れるように作戦通り新島先輩にパスを出そうとした時、俺を呼ぶ声が聞こえた。

 

 

「坂上!こっちよ!」

 

「え、あ、え?」

 

 

 なんと神楽からパス要請が飛んできた。突然のことに戸惑い言葉の真意を問おうとするが、体は既にパスの体制に移っておりそのまま神楽へとパスを出してしまう。

 神楽へのパスはチームで決めていた作戦とは違う行動であり、チームメイトと敵は一瞬驚き動きを止めてしまった。そう、新島へのパスカットに動いていた敵の動きさえも止まったのだ。

 

 

「やっぱり、思ったとおりね……。磯貝!」

 

「なるほどな……。そういうことか。ナイスやで、神楽はん!」

 

 

 状況がいち早く掴めたらしい磯貝にパスを出し、戸惑う敵のMFとDFを『ひとりワンツー』を使い抜き去っていく。そして流れを把握した他のプレイヤーが動き出した時にはゴール前まで迫っていた。

 

 

「新島はん!」

 

「『スパイラルショット』!」

 

 

 残りのDFを引き付け、フリーの新島にパスを出す磯貝。そして、ボールを受け取った新島が渾身のシュートを放った。そのシュートに対し敵のGKは、右手を燃やし思いっきりボールに殴りかかる。

 

 

「『熱血パンチ』!」

 

 

 『スパイラルショット』と『熱血パンチ』の勝負は互いに拮抗し……、最終的に『熱血パンチ』が勝ちボールを弾き飛ばした。

 

 

「くそっ!」

 

「ふん、ゴールはわらせんぞ!」

 

 

 そうして弾き飛ばされたボールは敵のDFに渡ると同時に影狼先輩がプレスをかけ、しばらくの間交戦し最終的にフィールドの外にはじき出された。

 今のうちに神楽に話を聞きたかった俺は神楽の元まで駆け寄ると、既に皆も駆け寄っていた。やっぱりみんなも気になっていたんだな。

 

 

「あの陰島とかいう人は新島さんのことを目の敵にしているんですわよね?」

 

「あ、ああ。そうだな、2年前に1回戦で当たっているから知らない中じゃないが、どうしてあそこまで敵意があるのかはわからんがな……。」

 

「きっと彼らは新島さん達の動きのパターンを研究し、対策しているのですわ。」

 

「そうか!だから俺のパスは先回りされてカットされていたのか!」

 

「なるほどな……。だから俺がパスした後、奴らの動きがおかしかったのか。しかし、いつ気づいたんだ?」

 

「確証があったわけじゃないわ。ただ、鶴巻が割り込んだのが予想外って反応に見えたから試しただけよ。あんなに3年生の攻撃には対応していたのに、私たち1年の攻撃には対応できていないように見えたから。」

 

 

 なんか淡々と語っているが、これ相当凄くね?鬼道かよ。あと、磯貝もよく気付いたなこれ。さすがは小学校サッカー界隈で名を馳せただけのことはあるな。

 いつまでも作戦会議をしているわけにもいかないので試合に戻ろうとするが、その前に新島先輩から作戦が伝えられる。

 

 

「いいか?ここから先は俺を中心とした攻め方と、神楽を中心とした攻め方を織り交ぜていこうと思う。」

 

「えっ?わたくし……ですの?」

 

「ああ。奴らのデータにはない1年を中心に試合を組み立てれば、さっきのようにパスカットされることなく戦えるはずだ。神楽、自信を持て。お前の戦術は通用する。」

 

「神楽ちゃん!とにかくやってみようよ!大丈夫、神楽ちゃんならきっとうまくいくよ!」

 

「才治……分かりましたわ。わたくしに任せてくださいな!」

 

 

 自信に満ち溢れた表情でそう宣言する神楽。皆も異論はないようで、ここからは2人の指示の元攻める様だ。……作戦かぶったらどうすんだ?これ。

 そんな心配をよそにこちらのスローインで試合は再開される。新島先輩が投げたボールは神楽が受け止め、どこか拙いドリブルで攻めあがる。神楽はそのままドリブルで上がりつつ、絶妙なタイミングでバックパスを織り交ぜる。その動きに西ノ宮中の奴らは対応できず、右往左往しているところを見ると、作戦は通用しているようだ。陰島が必死に指示を出すも、神楽の戦略の前では裏目に出てしまい、ついに俺達天竜中にとって最大のチャンスが訪れた。神楽が敵DFの一瞬のスキを突き、キラにボールを回す。

 

 

「今よ!加賀美さん!」

 

「ナイスパス!神楽ちゃん!『ダークトルネード』!」

 

「やらせるか!『熱血パンチ』!くうぅぅぅぅ、うああぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 キラが放った公式戦初の『ダークトルネード』は『熱血パンチ』を打ち破り、そのまま得点へとつながった。1-2。まだまだ負けてはいるものの、確かな手ごたえを感じた俺たちは心の底から歓喜の声を上げた。




・スピニングシュート
 原作では主に一ノ瀬が使用。円堂との顔合わせ以外で使った記憶がない。正直ゲームでも使われた記憶がなく影は薄い。頑張ったらできそうな技ランキングTOP5には入ると思う。威力は下の下。

・熱血パンチ
 原作では円堂が使用。ゴッドハンドを噛ませにするわけにはいかないので生み出された技という印象。ただ出番がないかといわれればそうではなく、特に響監督との3本勝負のシーンでは作画の良さも相まってかなり印象的なシーンとなっている。ゲームでは一転、円堂は自力取得しないので一気に影が薄くなる。威力は下の下。


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西ノ宮中と接戦する日

 なんとか間に合いました。西ノ宮中戦、これにて終わりです。


「やったな、加賀美!」

「よかったぞ!」

「神楽もよくやったな!」

 

「さあ、この調子で逆転だ!」

 

「「「おおっ!」」」

 

 

 

 

「な、なんだと………。」

 

 

 俺たちが喜ぶ淵で陰島は信じられないといった表情で呟いている。頭の中では無失点で終わる予定だったんだろうか。残念ながらそうはならなかったが。

 だがさすがはキャプテンってところか、しばらくした後はチームに発破をかけ指示を飛ばしていた。あの様子を見るにまだまだ油断はできなそうだな。前半も残りわずか、勢いがあるうちに追加点が欲しい中で試合が再開する。

 しかし向こうも作戦を変えてきたようで、先ほどよりもわずかではあるがこちらの攻めに対応しており思うように攻めきれない。こちらのFWへのパスがカットされたり、逆に敵の攻撃は東雲先輩を中心にブロックしたり、一進一退の攻防が続く。もどかしい感覚が襲うが、結局前半はこの点差のまま動くことなく終わってしまった。できればもう1点ほしかったが……、まあしょうがない。後半に一気に巻き返してやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が西ノ宮中に入ったときは、お世辞にも強いとは言えなかった。皆、ルールを知って面白そうだからやっている感じの部活だった。いわゆるエンジョイ勢ってやつだ。監督だけは真剣にやっていたが。そんなだから、小学生からまともに取り組んでやっている俺はすぐにレギュラーがとれると思っていた。まあ実際、レギュラーどころかキャプテンになってしまったわけだが。入りたての1年に実力だけでキャプテンの座を渡す西ノ宮中に心配になりながらも、悪い気はしていなかった。

 だが練習試合を何度かするたびに分かったが、このチームでまともに動けるのは俺だけだった。ほかの皆はミスも多く、特別うまいわけでもない。俺はキャプテンの座をもらえたことに納得するとともに、俺が何とかしないといけないという責任感を感じるようになった。

 しばらくしてFFが開催した。チームとしての完成度に不安を覚えながらも、俺がいれば優勝とまではいかなくてもいいところまでは行けるだろうとも思っていた。あいつと出会うまでは。

 

 1回戦の相手は天竜中だった。特に周りの学校についてリサーチもしていなかったしする時間もなかったが、俺の今までしてきたサッカーの経験から生まれた自信によって勝てると思っていた。

 そうして始まった天竜中戦。俺はボールを受け取り敵ゴールに向かって走り出し、敵のMFである新島が止めに来て……気づいたらボールは新島の足元にあった。取られた……そう認識するまで俺は何が起こったか分からなかった。俺がボールを取られるなんて想像もしていなかった。それも、全国レベルでならまだしもこんな地区予選でだ。取られたボールは敵のFWである影狼に渡り、そのままあっさり一点を取られてしまった。

 

 その後の試合展開はあまり覚えていない。覚えているのは何度新島に挑んでも、ボールを奪われブロックもできない、悪夢にも似た時間だけだった。俺が持っていた自信は、あのときすべて新島に砕かれてしまった。試合の半分以上の時間を、嫌にでも感じさせられる無力感とチームに対する申し訳なさの中で過ごしていた。そして一番悔しかったのが、新島は俺のことなど気にも留めていないだろう、ということだ。あいつにとってはこの程度のプレーは当たり前、俺からボールを取るのも当たり前といった表情だったことだ。実際偵察に行き軽く話した時も、俺が嚙みついている理由が分からなかったみたいだしな。

 結局試合には負けてしまい、チームの皆はそれなりに落ち込んでいたが、俺の中を渦巻く感情は筆舌に尽くしがたいほどの悔しさだった。いつかこいつを超えてチームを勝たせてやりたい、今日の雪辱を果たしたい、そんな思いに駆られてより一層練習に励むようになった。新島という名前はその後で知り、新島にライバル意識を持つようになった。

 

 やがて2年になり、FFが始まりやっと雪辱を果たせると思ったのもつかの間。奴ら天竜中は御門中に負けたと聞き、ライバルがFFから消えた虚しさを感じていた。それでも俺たちは順調に勝ち進み、御門中と対戦した。あの新島を倒したチームだからよっぽど強い奴がいると思っていたが、ふたを開けてみればチームとしてはかなり強いものの、個々の強さでは新島にかなう奴はいなかった。まあ、そんな相手でも俺たちは負けているんだからとやかく言うことはできないが。あとで聞いたところ、御門中の選手一人ひとりは全国レベルだったらしく、新島はおそらく全国レベルのトップ層に入るであろうということが分かった。それを知り、俺はより一層あいつを超えたいと思うようになった。

 

 そうして迎えた今、ライバルへのリベンジを果たす絶好のチャンス。しかし新島もただでは終わらず、徐々にこちらの動きに対応しつつある。

 

 

「どうするんですか!今のメタ張り作戦が通用しなかったら、地力であいつらに勝つなんて無理ですよ!」

 

 

 前半と後半のインターバル中に、2年のMFの根津が焦った表情で津田監督に話しかける。実際、俺はともかくほかの奴らじゃまともに正面からやれば太刀打ちできないだろう。今までの試合も、俺の個人技と津田監督の相手を偵察し弱点を突く戦術があったからこそ勝ってこれたんだ。津田監督の戦術が通用せず、俺の個人技も通用しなければ打つ手がない。根津はそういっているんだ。腹立たしいがな。

 

 

「おちつけ。今はこちらがリードしている。この1点を全力で守り切れればいいんだ。」

 

「………監督、俺がもう1点追加で入れれば……。」

 

「……陰島、お前には悪いがここは守りに入ろう。」

 

「!でも……」

 

「お前のシュートは一度止められている。お前のシュートが止められた以上、これ以上点を取ることは厳しいだろうな。」

 

「!……分かりました。」

 

 

 苦痛の表情で俺はそう呟く。津田監督も心を鬼にして言っているんだ。誰だってこんなこと好きでいうはずがない。

 

 

「とにかく、後半は守りに入るんだ。何としても1点を守り切れ!」

 

「「「はいっ!」」」

 

 

 皮肉にも2年前と同じ無力感を味わいながら、俺はグラウンドに立った。この無力感を感じたくなくて必死に練習して来たんだがな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こちら側のボールで後半戦が始まった。作戦は前半同様、新島先輩と神楽の作戦を織り交ぜていく感じだ。しかし、相手も守備をガッチガチに固めて対応している。その守備は、DFである俺たちが暇になるくらい徹底されている。敵のFWもコート真ん中付近にいるくらいだ。そんな状況なのでこちらも攻めきれずにいた。敵はボールを取った後パスで回しているところを見ると、どうやらこの1点のリードを守り切る作戦のようだ。ゲームでもよくやっていたが、実際にされるとなかなか腹が立つな。

 そんなこんなで敵の思惑通りに時間だけが過ぎていく。気が付けば20分ほど過ぎており、後半の3分の2が何もできずに終わってしまった。くっそ、DFはかなりもどかしい気持ちでいっぱいだ。円堂も御影専農戦ではこんな気持ちだったんだろうか。……いや、まてよ?それなら……。

 

 

「東雲先輩、鶴巻、薬師寺先輩!ここは任せます!いくぞ、才治!」

 

「ええっ!?ぼ、僕!?」

 

「ちょ、坂上ちゃん!?」

 

 

 その声を背後に、少し遅れている才治とともに前線へ走っていく。

 

 

「神楽!新島先輩!俺たちも使ってください!」

 

「「坂上!?」」

 

 

 驚く2人だったが、すぐに冷静さを取り戻し俺たちを人数に入れて戦略を組み立てていく。守りが薄くなっても何故か攻めてこない西ノ宮中を尻目に、戦略通りにボールを運んでいく。もともと拮抗していた前線だったため、2人が攻め手に増えたことで徐々に有利を作る俺達。そして磯貝からのパスで、ついに影狼先輩がゴール前に立った。

 

 

「『バウンドフレイム』!」

 

「くっ、『熱血パンチ』!うあああぁぁぁ!!」

 

 

 長い長い攻防の末、ついに1点をもぎ取った俺たちは喜びの声を上げた。やった、これで同点だ!とりあえずは一安心だな。

 さて、守りに入っていた敵チームはどうするのだろうか。なにやら向こうの監督は頭を抱えてはいるが。

 

 

「ナイス判断だったぞ、坂上。よくあんな判断ができたな。」

 

「まあ、DFは暇だったからです。紙一重だったとは思いますけどね。」

 

 

 

 

「ちっ、結局こうなるんだったらさっさと攻めとけばよかったんだ。……やっぱり俺が何とかするしかねぇな。」

 

 

 

 

 試合時間残り僅か、西ノ宮中のボールで試合が再開する。できれば延長戦はしたくないからもう1点ほしいという中で、ボールを持った陰島が攻めてくる。

 

 

「行かせるか!」

 

「どけぇ、新島!俺はお前を超えるんだ!『イリュージョンボール』!」

 

「なに!」

 

「……よし!やったぞ!」

 

 

 ブロックに入った新島先輩を『イリュージョンボール』で突破する陰島。その勢いのまま磯貝、神楽、南条先輩を突破しゴールに迫ってくる。ここで1点を取られれば絶望的という状況で、ゴールに向かう陰島を止めに俺は前に立つ。さすがに通すわけにはいかないぞここは。……ただ、陰島相手どころかこの試合一回もブロックできてないんだよな。俺に止められるだろうか。

 

 

「通さない!」

 

「ふん、お前か。お前のディフェンスごときで俺が止められると思うな!」

 

 

 

 

 くっ、確かに俺の本職はGKだし、俺のブロックは拙いものだがしょうがないんだよな。だからここで突破されても……。

 

 

 

 

 ……いや、違う!俺は今何を思った?GKだからできなくてもしょうがない?違うだろ!GKだからできないじゃない!GKだったとしても全力でやるんだ!

 そうか、俺は気が付かないうちにGKであることを免罪符にしていたんだ!だからブロックが出来なくてもしょうがない、そんな思考になっていたんだ!ダメだろ、そんなんじゃ!どんなポジションでも全力でやる!できなくてもできる限りを尽くす、それがサッカーだろ!

 

 

 

 頭の中と決意がまとまっていくと共に、体から力があふれてくる。そうか、俺に足りなかったのはDFとして、そしてサッカープレイヤーとしての志だったのか。今なら練習していたあの技も使える気がする。

 陰島を前に俺は背を低くし、タイミングを計って突進しボールを奪う。

 

 

「『クイックドロウ』!」

 

「な、なに!?」

 

 

 やったぜ!できたぞ、『クイックドロウ』!鶴巻と一緒に練習していた技がやっと完成した!練習に付き合ってくれていた鶴巻のほうを見ると、いい笑顔で親指を立てていた。

 

 

「ついにやったな、坂上!」

 

「ああ!お前のおかげだ!」

 

 

「くそが、侮った!……負けたくねぇ!俺が何とかしないと!」

 

 

 新島先輩にボールを渡すと、ドリブルでどんどん前に上がっていく。このままいけば1点間に合いそうだ、そんな勢いで上がっていく新島先輩の前になんと陰島が立ちふさがる。あいつ、いつの間に!

 

 

「お前だけには負けねぇ、負けたくねぇ!」

 

「陰島。なぜお前がそんなに俺に固執するのかは知らないが、俺は別に1人で戦っているわけじゃねぇ。」

 

「な、なに?」

 

 

 そういうと、新島先輩は後ろから来ていた影狼先輩に踵ではじいてバックパスを出す。ボールを受け取った影狼先輩はそのままものすごいスピードで上がっていき、DFを引き付けたところでキラにパスを出す。

 

 

「決勝点はくれてやる!加賀美!」

 

「っ!はい!『ダークトルネード』!」

 

 

「うおおおおお!『熱血パンチ』!ぐうううううう!……うあああああ!」

 

 

 キラの本日2回目の『ダークトルネード』によって3-2となり勝ち越し、そして試合終了を告げる笛が鳴り決勝点となった。

 やった、勝ったんだ!正直DFだったこともあり不安だったが、何とか勝つことができた!

 

 

「やったぞ皆、勝ったんだ!1回戦突破だ!」

 

 

 新島先輩が勝利の雄たけびを上げ、それに反応するかのようにみんなが喜びを表現する。普段のチームメイトからは想像もできないくらい喜んでいる。1年は特にだな。やっぱり勝てるか不安だったんだろう。……南条先輩はいつも通りクールというか物静かだったが。

 

 

「やったね和也!」

 

「ああ、ナイスシュートだったぜ、キラ!」

 

 

 

 

「負けた……またしても………新島に…………。」

 

 

 

 ふと敵チームを見れば落ち込んでいる西ノ宮中イレブンと、それ以上に目に見えて落ち込んでいる陰島を発見する。しばらくそのまま動かなかった陰島だが、やがて顔を上げ新島先輩の元へ歩いてくる。

 

 

「悔しいが………俺たちの負けだ。新島、絶対優勝しろよ。」

 

「陰島………ああ、ありがとう。」

 

「ふっ……結局、最後までお前には敵わなかったよ。」

 

 

 

「何言ってんだ。高校でサッカーしないのか?俺はお前とまた高校でサッカーする気でいたんだがな。」

 

「!……当たり前だ!高校では絶対にお前を超えてやる!」

 

 

 話しているうちに元気になってきた陰島を見つつ、俺たちは勝利の余韻に酔いしれていた。なんだ、結構バチバチしてたけどなんだかんだ言っても仲いいんだなあの人たち。ちょっぴりあの関係性がうらやましくなった。

 

 

 

 

 

「小さくて、とても重い一歩だね、和也。」

 

「ああ、こっからさ。俺たちが目指す世界はまだまだ上にあるんだ。」

 

 

 2人の会話を聞きながらキラと決意を新たにし、俺は右手を握りしめた。




・クイックドロウ
 原作では主にマックスが使用。アニメの登場機会は少ないが、ゲーム、特に無印だと使用キャラが多い上に秘伝書の入手も早く、愛用した人も多いはず。総じてゲームのほうが印象深い技。威力は下の下。

 試合中の描写が納得のいくものになかなかなりませんでした。今後、時間があれば試合中の描写を書き直すかもです。
 もっと短くまとめる予定だったんですけど、陰島の回想がかなり長くなりました。

 今年の投稿はこれで最後です。まだまだ続きますので、来年もどうかよろしくお願いします。


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お嬢様のお父様がいらっしゃる日

  仕事を言い訳にはしたくないですが、更新がしばらく途絶えたら仕事が忙しいんだなと思って下さい。


「父さん、母さん。地区予選1回戦突破したよ。」

 

 

 1回戦から次の日の朝、家族で食卓を囲む中俺はそう口にした。

 今になってあの激闘を振り返ると、結構危ない試合だったように思う。実際神楽の閃きと策がなければ完封されていたかもしれない。ホント、神楽サマサマの試合だったな。他にも、キラのシュートはやっぱり強烈だったし、影狼先輩のスピードもとてつもなかった。新島先輩の指示も、対策されていたとはいえ的確な指示だった。そしてなんと言っても鶴巻だな。試合前は結構緊張してたらしいけど、そんな緊張を吹き飛ばすいいSB(シュートブロック)だったよなぁ。

 ていうか今更だけど、俺超次元サッカーしたんだよな……。マジで夢のような至福の時間だった。これから先の人生、まだまだ試合出来ると思うと、今からワクワクしてくるな。

 

 そんな事を考えていると、俺の勝利報告に両親が反応する。

 

 

「あら、そうなの!おめでとう、和也。」

 

「すごいじゃないか!何点差だったんだ?」

 

「2-3で1点差。結構ギリギリだったよ。」

 

「へえ、僅差じゃないか。熱い試合だったんだな。」

 

「私も仕事が無ければ見に行けるのにねぇ。ごめんね、和也。」

 

「気にしないでよ。仕事ならしょうがないさ。」

 

 

 両親との会話から察する事ができるかも知れないが、両親はサッカーファンである。当然初めからそうだった訳じゃない。サッカーボールを買ってもらった時はサッカーなんて知らなかった訳だしな。ただ、その頃からサッカーに興味を持ったらしく、仕事で忙しい中ルールを地道に覚えていった。そして今では、テレビで海外のプロのサッカーの試合を見るサッカーファンになっている。いわゆる観戦勢ってやつだ。まさかここまではまるとは思いもしなかったな……。

 両親は共働きで普段から忙しい日々を送っている。だから俺の応援に行けないことを悔やんでいるんだろうけど、俺はその気持ちだけで十分だ。ほんとにいい親に恵まれたな、俺は。

 

 

「なんとか見に行けそうな日は見に行ってやるからな。」

 

「ホントに気にしなくていいって。それじゃ、行ってくるよ。」

 

 

 両親の温かい行ってらっしゃいを背に俺は学校へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「2回戦の相手は楽郷中に決まったぞ。」

 

「楽郷中……、聞いたことないですね。」

 

 

 まあ知ってる中学なんて、この前話に出てきた御門中以外ないんだけどな。

 

 

「そうだな……。俺も詳しくはないんだが、なにやら悪魔のような監督がいるって話は聞いたことがあるぞ。」

 

「悪魔のような監督か、厄介やな。」

 

「そうなのか?」

 

「ああ。そういうやっちゃどんな作戦取ってくるか分からへんからな。」

 

 

 鶴巻と磯貝の会話を聞き、俺は影山の顔が思い浮かんだ。影山はイナイレに登場した、勝つためにどんな手段でも取る非常な男だ。まあ物語が進むにつれそういった一面は抑えられていったんだが……、それはまた別の話だ。とにかく、楽郷中の監督が影山のように番外戦術まで使ってくるような奴だとしたら、注意が必要だが……。

 

 

「ふん。偵察に行くわけでもないのに、ここで相手について話していたって無駄だろ。こんなことに時間を使うくらいなら、さっさと練習したらどうだ?」

 

「そうだな、影狼の言うとおりだ。今ここで話していたってしょうがない。早速練習に取り掛かろう。」

 

「「「はい!」」」

 

 

 確かに、憶測だけで決めつけても何も解決しない。それに、もし本当に番外戦術をしてくるならその時はその時だ。少なくとも殺人まではいかねぇだろ。……鉄骨落としとかしてこないよな?

 

 

 

 

 

「さて。早速だが、当分の練習は神楽を中心とした連携の強化だ。昨日の試合で皆も感じたと思うが、神楽の指示は素晴らしかった。だから、今後は神楽に指示を任せたいと思う。いけるか、神楽?」

 

「ええ、お任せくださいな!」

 

「期待してるわね、神楽ちゃん。」

 

 

 迷いもなく元気よく答える神楽を見るに、事前に話は通してあるみたいだな。これから先の戦いは神楽の指示で戦う様だ。まあ、昨日の試合を見て反対する奴はいないだろ。

 

 

「よし!2回戦突破に向けて練習だ!」

 

 

 

 

 

 

 

「皆気合はいってるね、和也。」

 

「ああ、昨日勝てたことによってモチベーションが上がっているんだろうな。」

 

「うん、僕も正直勝てるって思ってなかったからね。」

 

 

 練習の合間の休憩中、俺とキラと才治は木陰で休んでいた。神楽と新島先輩は作戦の打ち合わせをしており、他の面々もグラウンドでそれぞれ思い思いの休憩時間を過ごしている。

 

 

「才治君はさ、神楽ちゃんが作戦の指示を任されることについてどう思ってるの?幼馴染なんでしょ?」

 

「僕は神楽ちゃんがやりたいようにやればいいと思うよ。神楽ちゃんもこの話には納得してるみたいだし、昨日も大役を任されたって喜んでたから僕は何も言うことないよ。まあ、お父さんにばれた時のことを考えるとそうも言ってられないんだけどね……。」

 

「そういやそんな感じのこと言ってたな。神楽のお父さんはそんなに厳しいのか?」

 

「うん。天王寺東大(てんのうじとうだい)って人なんだけどね。神楽ちゃんに後継ぎとして成長してほしいから勉強に集中させたいって言ってスポーツをすることを禁止したんだ。でも神楽ちゃんはスポーツがしたいから、スポーツと呼べるかギリギリのものをいろいろやってたんだよ。これはスポーツじゃないって屁理屈でね。まあ、全部お父さんにばれちゃって、今では各スポーツを名指しで禁止してるんだ。」

 

「相当めんどくさいことしてるんだな。どっちも頑固ってわけだ。」

 

「あ、そっか。それでサッカーなのね。」

 

「うん。禁止されているスポーツの中にはサッカーはなかったからね。きっとお父さんもサッカーを知らなかったんだと思うよ。まあ、バレたら絶対アウトだろうけどね。あーあ、きっと今度は僕も怒られるんだろうな。」

 

「でも、才治君は神楽ちゃんがサッカーをすることを認めたんでしょ?自分が怒られるかもしれない中で。」

 

「押し切られるような形だったけどね。……正直、スポーツが出来なくて勉強ばっかりしてる神楽ちゃんが見るに堪えないくらい苦しそうだったんだ。だから口では反対していたけど、ホントは息抜きをさせてあげようってくらいの思いでいたんだ。ちょっとだけならって……。でも、昨日の試合で楽しそうに輝いている神楽ちゃんを見たら止めるに止められなくなっちゃって……。」

 

「そうだな。昨日の神楽はホントに生き生きしていたよな。」

 

 

 そこまで話したところで、才治はうつむき顔を曇らせる。

 

 

「みんなすごいよね……。必殺技も使えて……。僕も神楽ちゃんの役に立ちたいんだけどね、今のところ試合で足を引っ張ってばっかりだから……。」

 

「そうは言っても、才治君はサッカー初心者じゃない。初めはそんなものよ。」

 

「そうかもしれないけどさ、僕も神楽ちゃんの役に立ちたいんだ。神楽ちゃんが精一杯サッカーを楽しめるように……。そのためにはやっぱり強くならなきゃ……。」

 

 

 才治も悩んでいたんだな。きっと才治は格闘技をやっていて体つきがいいから、テクニックがあればすごい技もできると思うんだよなぁ。ただ、今すぐってなると確かに難しいかもしれない。……そうだ!

 

 

「なあ、才治。俺と一緒に必殺技を完成させないか?」

 

「えっ?坂上君と?」

 

「ああ!あー、この前見た海外の試合でブロックの2人技をやってたんだ。だからその技を俺と才治、お前とでやってみないか?そしたら試合でも活躍できると思うぜ。」

 

「坂上君……うん、分かった!やろう!」

 

「よし!決まりだな!さっそく特訓だ!」

 

「頑張ってね、2人とも!」

 

 

 まあ俺の技の知識は海外の試合じゃなくてゲームなんだけどな。とにかく、才治の身体能力と俺の知識があれば何か出来るはずだ。

 俺と才治が決意を新たにしキラがそれをニコニコと見つめていると、なにやら校門が騒がしくなってきた。何事かとそっちを見てみると、なにやらすごい高そうな車が止められている。

 

 

「あ、マズい!」

 

 

 そう言い放つと、才治は急いでみんなの元に走っていった。

 

 

「俺たちも行こう!」

 

「うん!」

 

 

 あんなに慌ててどうしたんだろうか。俺とキラが皆の元に着くと、皆の前に黒服の男たちに囲まれた高級そうな服を着たダンディな男性が立っていた。そして皆の一番前にいた神楽は、思わぬといった表情で声を漏らした。

 

 

「お、お父様……。」

 

「「「お父様!?」」

 

 

 おいおい、お父様ってついさっき話してたお父さんじゃないか!神楽からしてみればマズいんじゃないのか!?

 そう思い才治のほうを見ると明らかに青い顔をしている。

 

 

「神楽。何をしている。これはスポーツじゃないか。」

 

「お、お父様。これは……。」

 

「なんだ。またスポーツではないとでもいうつもりか?先ほどからずっと見ていたがどう見てもスポーツだろう。今度という今度は許さんぞ。さあ、さっさと帰って勉強の続きだ。」

 

 

 そういって神楽のお父さん、東大さんは神楽の手をつかみ連れて行こうとする。さすがに止めようとした時、才治が前に飛び出した。

 

 

「お父さん、待ってください!」

 

「伊能か。お前も何をしているんだ。神楽を止めてくれると思いそばに置いていたんだぞ。」

 

「違うんです!聞いてください、お父さん!神楽ちゃんのサッカーにかける気持ちは本物です!神楽ちゃんがサッカーを続けるのを認めてください!」

 

「才治……。」

 

「……ダメだ。それは認められない。さあ、行くぞ。神楽。」

 

「待ってください!ならせめて、せめて次の試合だけでもさせてあげてください!」

 

「……ほう?」

 

「そして神楽ちゃんの試合を見てあげてください!ずっと勉強ばっかりだったじゃないですか!これくらいはさせてあげてください!」

 

 

 東大さんは少し悩んだ素振りをした後才治と神楽を交互に見て、やがて諦めたかのように溜息を吐く。

 

 

「………はぁ。いいだろう。そこまで言うのなら次の試合まではやらせてやろう。予定があえば試合も見に行ってやる。」

 

「ほ、ホントですか!?ありがとうございます!」

 

 

 おお、才治がうまいことまとめたぞ。やるじゃないかあいつ。才治のお願いを聞き、東大さんは渋々といった感じで黒服と共に帰っていった。

 

 

「ありがとう才治。でもまさかもう見つかってしまうなんて……。」

 

「神楽、さっきの人は?」

 

 

 新島先輩の質問に、さっき才治から聞いた話と同じ話をする神楽。しかし、あんなに強硬手段に出るとは思わなかったな。そんなに勉強をさせたいんだろうか。

 

 

「才治のおかげで何とか次の試合までは許してもらえたけど、その先はどうなるか……。」

 

「だったら次の試合で見せてやればいいんじゃないか?」

 

「坂上……。どういうこと?」

 

「本気でやってるんだろ?サッカー。」

 

「ええ。最初はスポーツだからって理由で始めたけど、やっていくうちに面白いスポーツだって分かったの。わたくしはサッカーが好きで真剣にやっている。それは間違いないわ!」

 

「その気持ちを試合で表現するんだ。そしたらその姿を見て、もしかしたらサッカーを認めてくれるんじゃないか?」

 

「そうだよ、神楽ちゃん!神楽ちゃんのプレイは人を引き付けるんだ!大丈夫、昨日の試合のようにやればきっとわかってもらえるよ!」

 

「……そうね。やってみるわ!何もしないよりましよね!」

 

「……よし、決まりだな。皆!神楽のためにも2回戦、絶対に勝つぞ!」

 

 

 新島先輩たちも事情を聞いて神楽とチーム全体の危機だと理解したようで、皆気を引き締めていた。特に新島先輩は、神楽が辞めたらそもそも10人になるというプレッシャーもあり、目に見えて緊張しているようだった。ただ、その中でも南条先輩は神楽を鋭い目で見つめていたことは印象に残っている。

 やる気に満ち溢れた神楽と才治を中心に練習を再開した俺たちは遅くまで練習を続けた。特に俺と才治とついでにキラは必殺技の特訓、神楽も何かの特訓で夜遅くまで残って練習していた。そしてついに、神楽の運命がかかった地区予選2回戦の日を迎えた。




 絵描きの友人からキラの絵をいただいたのであらすじに載せておきました。


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FF地区予選2回戦の日

 楽郷中との対戦です。地区予選での各試合の間には約1週間空きがあります。この空き期間は各校の試合スケジュールによって変化するので、常に1週間という訳ではありません。


 FF地区予選2回戦当日、遅刻することなく俺達はグラウンドに立っていた。今日の相手は楽郷中だ。新島先輩曰く悪魔のような監督がいるという話だが、はてさてどうなるか。

 才治との連携技は結構ギリギリだったが完成させることができた。まあ、通用するかは別の話だが。そういえば、神楽の練習はどうなったんだろうか。神楽が練習しているらしいと分かったのは、俺達が技の特訓で河川敷に行こうとした時、偶然サッカーボールを持ちグラウンドに立っていた神楽を目撃したからだ。その時は才治の方を優先したから何も見ていないが、いったいなんの練習をしていたんだろうか。

 

 

「村田先生、今日もお願いします。」

 

(ああ、任せておきなさい。)

「ハァー。今日は疲れてるからダリィんだよなぁ〜。まぁ職員室で仕事してるよりマシか。」

 

「……建前と本音逆ですよ。」

 

 

 村田先生と新島先輩のいつものやり取りを見たあと、バスで楽郷中へ向かう。どうも運が悪いらしく、今日も向こうのグラウンドで試合をするらしい。

 

 

「神楽ちゃん、大丈夫……?」

 

「……ええ。大丈夫よ、才治。必ずお父様に分かってもらうわ。この日のために練習してきたんだもの。大丈夫よ。」

 

 

 バスの中で神楽の様子を心配した才治が声をかける。確かに、目に見えて緊張している神楽を心配するのは才治としては当然だな。……ホントに大丈夫なんだろうか?新島先輩も緊張しているが、あっちは責任感からくる緊張だから多分大丈夫だ。しかし神楽のそれは、どうにも追い詰められている状態から来る緊張のように思える。才治の特訓より神楽の方を優先したほうが良かったかも知れないと今更ながらに後悔する。神楽のやつ、変に力みすぎなければいいが……。というかそもそも東大さんは来るんだろうか?予定があえば見に行くとは言っていたが……。

 

 

「なあ。神楽さん、大丈夫かな。」

 

 

 鶴巻が前の座席から乗り出して、こちらに話し掛けてくる。ほら見ろ、鶴巻にも心配されているじゃないか。鶴巻に続いて鶴巻の隣りにいた磯貝もこちらを向いた。

 

 

「あれぁ大丈夫やあらへんで。きっと。」

 

「ねぇ和也。何とか出来ないかな?」

 

「何とかしてやりたいのはやまやまなんだがなぁ。根本的な解決となると2人の問題だからな……。」

 

「確かに、そうだな……。慰めるのは隣りに座ってる才治の役目だもんな。」

 

 

 隣りに座っているキラに俺と鶴巻で返事をすると、心配そうな顔のままではあるが、何も言わなくなった。その様子を見て前の2人も前へ向き直る。

 そうだよな、家族の問題に首突っ込める立場じゃないもんな、俺達。だけど部活存続の危機に何もできないのは、正直もどかしいがな。……そういえば、南条先輩はサッカーをすることに否定的だったけど、いざ潰れるってなるとどうなんだろうか。やっぱり嬉しいのかな?そう考えると不思議だよな。サッカーがしたくないのになんでサッカー部に入ったんだろうか。それか途中から嫌いにでもなったか。薬師寺先輩も口には出さないけどそんな感じだよな。いつか2人の話も聞けるんだろうか。

 そんな事を考えているうちに、バスは楽郷中の正門前に到着した。

 

 

(さあ、着いたぞ!今日も悔いなく頑張ってこいよ!)

「はあぁ。疲れた。今日はこのまま寝とくか。」

 

「……建前と本音逆ですよ。」

 

 

 もう既に聞き飽きた例のやり取りを背に楽郷中の校舎を見上げる。見た感じ、特に特徴もない普通の学校って感じだ。生徒も西ノ宮中のように素行が悪そうなどもなく、ザ・平凡ってところだな。まぁそういうのが大半であるべきなんだろうが。

 

 

「よし、行くぞ皆!」

 

 

 村田先生をバスに追いやった新島先輩のあとに続いてグラウンドへと向かう。

 グラウンドに着くと既に楽郷イレブンは、緑色ベースに少し黄色が入ったユニフォームを着て待っていた。向こうはこちらに気が付くと、キャプテンバンドを付けた少年が歩いてくる。

 

 

「初めまして。天竜中の方々ですよね?今日はよろしくお願いします。キャプテンの川淵(かわぶち)です。」

 

「ああ。俺はキャプテンの新島だ。こちらこそよろしく。今日はいい試合にしよう。」

 

「……ええ。そうなることを……祈っています。」

 

「……?」

 

 

 握手した際、何やら不吉な言葉を話した川淵を見ていると、不意に女性の声が聞こえてくる。

 

 

「よろしくね。天竜中の皆さん。」

 

 

 声の方を見ると、楽郷イレブンの横にオレンジ色のウェーブロングにおっとりとした顔の女性が立っていた。

 

 

「貴方が天竜中の新島徹くんね?私は大澤(おおさわ)、このチームの監督をしているわ。今日はいい試合にしましょうね。」

 

「!監督………。このひとが……。」

 

「?なにか言ったかしら?」

 

「……いえ、今日はよろしくお願いします。」

 

 

 え、ええっ!?お、女だったのか……。いや、でも、よく考えたらなんで男だと思っていたんだろう?影山のイメージが強かったからだろうか。とにかく、この人は噂が正しければかなり危険な存在なんだ。気を引き締めていかないと……。

 

 挨拶やウォーミングアップもそこそこに試合が始まろうとしている。こっちのフォーメーションは前回と変わっていない。相手のフォーメーションは4-4-2のオーソドックスな形だ。無印でいうベーシックに似た形だな。

 ふと神楽を見ると、何かを探すようにキョロキョロしている。十中八九東大さんを探しているんだろう。そして動いていた頭は、ある一点の方向を向き止まる。俺もつられてそっちを見ると、そこにはSPたちに囲まれた東大さんがグラウンド外に立っていた。

 

 

「………!」

 

「……………。」

 

 

 お互いに見つめ合い何も言わない、文字にしたらギャグみたいだが、実際に流れている空気はそんな軽々しいものではなかった。長く感じたその時間は、しかし一瞬にして終わり、神楽は相手チームへと顔を向けた。

 

 

(何をやってるのよ、わたくしは!……お父様の事を気にしていてもしょうがないわ!今は試合に集中しないと……。そう、集中集中……。)

 

「……………………。」

 

 

 深呼吸をする神楽を、東大さんは何も言わずに静かに見つめていた。……今思ったんだが、あそこまで緊張しているのは俺の言葉があったからなんだろうか。俺が見せつけるなんて言わなけりゃ、神楽はもっと楽にできていたんだろうか。いったいなんて言えばよかったんだろう。……考えていてもしょうがないか。それにいずれはああなっていたはずだ。俺にできることは神楽をサッカーで支えることだけだ。

 

 

 ホイッスルがなり、相手ボールから試合がスタートする。と同時に、相手のFWがドリブルで攻め上がる。

 

 

「行くぞ皆!」

 

 

 新島先輩の掛け声とともに俺たちも走り出し、相手のマークにつく。パスの相手を失った状態で上がってくる相手のFWの前に東雲先輩が立ちふさがる。

 

 

「『ザ・ミスト』!」

 

「…………!」

 

 

 目の前にあるボールを必殺技で華麗に奪取する東雲先輩。うーん、さすがとしか言いようがないな。綺麗なディフェンスだった。

 

 

「才治ちゃん!」

 

 

 そしてボールは才治へと渡る。そのままドリブルで上がっていく途中、神楽からの声が聞こえてくる。

 

 

「才治、新島先輩へ!」

 

「う、うん!分かったよ!」

 

「!?まて、伊能!」

 

 

 俺の静止を求める声も届かず、才治は新島先輩へとパスを出してしまう。

 

 

「な、何!?」

 

 

 新島先輩が驚きの声を上げる。何故なら、ボールは新島先輩に届く前に敵にカットされてしまったからだ。しかし、新島先輩が驚きの声を上げた理由はカットされたからではない。新島先輩がもともと2人にマークされていたからだ。あんなにマークされていてはパスを出したとしてもカットされてしまう。才治はまだ初心者だから、指示を鵜呑みにしてパスを出すことは理解できる。だが、神楽は新島先輩から戦術について聞かされていたはずだ。俺も新島先輩もそう思っていたからこそ、神楽があんな指示を出すことが信じられなかった。

 そう思い神楽のほうを見ると、神楽自身も自分が何をしたか分かっていないような、困惑した顔をしていた。

 

 

「わ、わたくしは何を……何をしているの……?新島先輩へのパスは悪手以外のなにものでもないのに……。」

 

 

 どうやら神楽にとっても予想だにしていない指示のようだ。神楽の心中は心配だが、今は試合中だ。失敗は後で考えればいい。

 

 

「っDF!止めろ!」

 

「は、はい!」

 

 

 新島先輩の悲鳴のような声に反応し俺達は相手のFWのディフェンスに入るが、チーム全体が乱れておりDFの息があまり合わず、間を抜けられゴール前へと相手のFWを通してしまう。

 そして相手のFWは宙に浮き、足を光り輝かせ閃光のようなシュートを放った。

 

 

「『シャインドライブ』!」

 

「『バーニングキャッチ』!うわああぁぁぁぁ!!」

 

 

 薬師寺先輩が『バーニングキャッチ』で応戦するも、力足りずそのままボールはゴールネットへと入っていった。

 

 

「えらいわよぉ、皆。その調子で頑張ってねー。」

 

「くそっ、先制点か……。皆、切り替えていくぞ!」

 

 

 楽郷中の監督が声援を送る中、俺たちは先制点を取られたにも関わらずある程度落ち着いていた。1回戦での逆転劇があったからだろうか。

 

 

「あ……わたくしが……わたくしのせいで……。」

 

 

 ……ただ、こっちはかなり重症かもしれないな。皆が闘志を燃やす中、一人だけ闘志が消えかかっていた。果たしてこの試合、勝てるんだろうか。幸先不安の中、楽郷中の監督が薄い笑みを浮かべていた。




・シャインドライブ
 原作では千羽山の田主丸が使用。アニメでは目をくらませ、そのすきにシュートするというせこすぎる技。ゲーム版では普通に必殺シュートなのでこの小説でも普通のシュート技として扱う。威力は下の中。

 楽郷中戦も合計3話くらいになると思います。


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お嬢様が頑張る日

 この世界のFFは女子の参加が認められていますが、特に描写しない限りは敵は男だと思って下さい。


 試合は待ってはくれず、神楽を中心とした心配事が解決する前に試合が再開してしまう。キラから新島先輩にボールが渡り、そのまま敵陣へと上がっていく。

 

 

「わたくしのミスで取られた1点……。わたくしが取り返さなきゃ……。」

 

 

 ……なんか神楽がブツブツ言ってんな。何て言っているのかは分からないが、まあおそらく碌なことじゃないだろうな。だがしかし、神楽があの様子じゃチームの指示は新島先輩に任せたほうがいいんじゃなかろうか。

 

 

「磯貝、南条先輩にパスよ!」

 

「いや、そのまま上がって影狼にパスだ!」

 

「えっ!?」

 

「……どうやら、そっちのほうが良さそうやなぁ。了解やで、新島はん!」

 

 

 神楽が出した指示は即座に新島先輩によって上書きされ、神楽の戸惑いをよそに磯貝は新島先輩の指示どおりに動く。そしてボールは影狼先輩に渡りシュート体制に移ろうとしたその時、敵のDFが立ちふさがる。

 

 

「ここで引いたほうが身のためだ。」

 

「はぁ!?ふざけんな!いいからそこをどけ!」

 

 

 敵のDFは影狼先輩に冷たくそう言い放つが、当然監影狼先輩は引かず無理やりドリブルで突破しようとする。そんな影狼先輩に対し、敵のDFはどこかぎこちない動きながら刃物のように鋭いスライディングを放つ。

 

 

「『キラースライド』!」

 

 

 無数の足が迫りくるかのようなこの必殺技は軽々しく影狼先輩を吹き飛ばし、ボールを奪い去る。

 

 

「ぐはっ!」

 

「影狼!」

 

 

 あれは『キラースライド』!土門がよく使ってた技だな!いやしかし、改めてこう、リアルで見ると思うがめっちゃ危険な技だな。ゲームでのファウル率が高いのも納得だ。幸いふっ飛ばされた影狼先輩はまだピンピンしているが、この先も使われることを考えると不安だな。これもあの監督の仕業なのだろうか。そう思いあの監督を見ると、笑顔で拍手している。間違いない、というか分かりやすいな……。隠す気もねぇじゃん。

 そして敵の反撃が始まり、キャプテンの川淵が上がってくる。こちらも当然素通しするわけもなく、川淵の前に鶴巻がブロックに行く。

 

 

「通さない!」

 

「……怪我したくなかったらどいたほうがいいですよ。」

 

「なんだと?どういう意味だ?」

 

「……こういうことです。」

 

 

 川淵はそう小さくつぶやくと、なんと鶴巻の胸元辺りを目掛けてパスを出す。思わぬ行動に、鶴巻は戸惑いながらも胸でトラップしてしまう。

 

 

「な、なんだ?もらっちまっていいのか?」

 

「!!危ない、鶴巻!」

 

 

 そのシチュエーションにとある技を思い浮かべた俺は咄嗟に声を上げるも鶴巻が反応できるわけもなく、そのまま川淵にボール越しに回し蹴りを食らってしまう。

 

 

「『ジャッジスルー』!」

 

「ぐはっ!」

 

 

 回し蹴りを食らった鶴巻は大きくふっ飛ばされ、そこにはボールを持つ川淵が立っていた。

 

 

「鶴巻!!」

 

「鶴巻ちゃん!!」

 

「ぐっ……。お、俺は大丈夫っす!それより川淵は……?」

 

「もう遅いですよ。」

 

 

 声のした方を見れば、すでに川淵が薬師寺先輩の前に立ち、ゴールを見据えていた。そして川淵はゴール前までの地面を凍らせ、その氷に向かってボールを蹴り出す。

 

 

「『フリーズショット』!」

 

 

 蹴り出されたボールは地面の氷をまといながら、薬師寺先輩へと迫る。

 

 

「くっ、『バーニングキャッチ』!………うわぁ!」

 

 

 薬師寺先輩が止めようと必殺技を放つも破られてしまい、楽郷中に追加点が入った。実力差による失点というよりはチーム全体のミスによる失点という形のため、本来ならば避けられた失点だ。故にこの失点は重く、必然的にその原因も浮き彫りになる。

 

 

「これで0-2。もう諦めたらどうです?どうやらそちらのチームは和を乱す人がいるようですし。そんな様子では私たちには勝てませんよ。」

 

 

 腹が立つ物言いだが、言っていることはもっともだ。指揮官を信じられないチームに勝ちはない。だからこそ、新島先輩が神楽のもとに向かって行ったのは必然だろう。

 

 

「大丈夫かな、神楽ちゃん。このままだと潰れちゃうよ……。」

 

「……ああ。俺もあんなに父親に対するプレッシャーが大きいとは思ってなかったよ。見せつけてやろうなんて言わなけりゃ良かったかな。」

 

「……でも、いずれはそうならざるを得なくなっていたと思う。和也は悪くないよ。」

 

「そうかねぇ。……それより、今のままだと東大さんに認めてもらうことは残念ながら難しいだろうな。」

 

「うん、そうだね……。神楽ちゃんも、前の時みたいなプレーが出来ればいいんだけど……。」

 

「そうだな。前のときはあんなに………!!」

 

 

 

 そうか、そうだったのか!前の試合と様子が違うのはプレッシャーのせいだと思っていたが、実際は少し違うものなのかもしれない!神楽は前の試合の自分を把握出来ていなかったとしたら……!

 

 

「?どうしたの、和也?」

 

「いや。……掛けるべき言葉が見つかったってだけさ。」

 

 

 そこまで考えてから、俺は神楽の元へと向かった。親子の問題に口出しする気はないが、サッカーの問題には口出しさせてもらうぜ。まったく、こんな簡単なことに今更気が付くなんてな。円堂や天馬ならもっと早くに気づけるんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神楽。この試合の指示は今後俺が出そう。神楽はしばらく敵の様子を見ておいてくれ。」

 

「……!!」

 

 

 直接的には言われていないものの、その言葉の意図はわたくしにも理解出来た。要するに指揮官を交代しろという話だ。

 

 

「まってください!わたくしにやらせてください!」

 

「……神楽、お前もわかっているんだろう?なぜ俺がこう言っているのか。」

 

「!それは……。」

 

「このままではチームだけでなく神楽、お前まで潰れてしまう。俺はキャプテンとして見過ごすわけにはいかない。……頼む、分かってくれ。」

 

 

 新島先輩の言っていることは痛いほど分かっている。痛感している。わたくしの指示のせいで不利になっていることを。さっきの指示だって冷静に考えれば、南条先輩のほうがマークが多く、悪手であったことは明らかだった。

 新島先輩の判断は正しい。わたくしが逆の立場だったらきっと同じ判断を下したと思う。それでもわたくしは引きたくない。引いてしまえば、お父様に指揮官として活躍する自分を見てもらえないから。だから新島先輩の提案を拒絶する言葉を発する。

 

 

「……分かりました。」

 

「……すまないな。」

 

 

 

 …………しかし、その言葉は喉のすぐ手前で止まり、代わりに出たのは思ってもいない言葉だった。本当は続けさせてほしい、チャンスが欲しい、そんなことが言いたかった。だけど客観的に見たときに、いかにわたくしが惨めに映るかを考えてしまった。……ホント、いらないプライドだわ。

 でも、このままじゃ……。お父様が見ている前でわたくしのプレイを見せつけて、サッカーを認めてもらわなければならないのに……。このままじゃ絶対に認めてもらえない。どうしよう、どうすれば………。

 心の中で頭を抱え絶望するわたくしの下に一人の少年が駆け寄ってくる。

 

 

 

「神楽、お前サッカー楽しんでるのか?」

 

 

 それは坂上だった。どこか大人びているように見えて、それでいて純粋にサッカーを楽しんでいる。そんな少年の場違いな問いかけに、わたくしはぶっきらぼうな返事をする。

 

 

「……別に、今は関係ないでしょう。」

 

「いいや、あるね。大ありさ。」

 

 

 坂上の予想外の返答にわたくしは呆気にとられてしまった。

 

 

「大ありって……。そんなわけ無いでしょう。」

 

「じゃあ逆に聞くが、お前は父親に何を見せようとしていたんだ?」

 

「何って……。前回の試合みたいに、わたくしがチームの役に立っているところを……。」

 

 

 そこまで言ったところで、坂上はため息を付き頭を抱えた。

 

 

「すまない、俺の言い方が悪かったんだな。俺は前回の試合の全力でサッカーを楽しんでいたお前を、父親に見せてやろうって言ってたんだ。」

 

「……え?ちょっ、ちょっと。どういうことなの?わたくしがサッカーを楽しんでいるところを見せるって……。そんなことをして一体何の意味が……。」

 

「坂上の言うとおりだよ!神楽ちゃん!」

 

 

 混乱するわたくしの下にやってきたのは幼馴染の才治だった。普段からわたくしのSPとして1番近くにいた才治でさえ、坂上と同じ意見を述べる。

 

 

「僕が神楽ちゃんがサッカーをしているのを認めたのは、前回のあの試合があったからだよ!あの試合での楽しそうにサッカーをする神楽ちゃんを見て、僕は心が動かされたんだ!自身を持って!神楽ちゃん!僕は言ったはずだよ!君のプレイは人の心を動かすプレイなんだって!」

 

 

 普段からは想像もできない、わたくしですら滅多に聞かない才治の大声での説得にわたくしの心は戸惑いを隠せなかった。わたくしが楽しんでいる姿が人の心を動かしていたなんて、到底信じられることじゃない。……それが才治から言われた言葉じゃなかったらの話だけど。

 

 

「でも、今更楽しくなんて言われても……。」

 

「じゃあ楽しくなる方法を教えてあげるよ!次の僕のプレイを見てて、神楽ちゃん!」

 

 

 言いたいことだけ言い、才治はさっさと自分のポジションへ戻っていった。

 

 

「神楽、楽しむことは親のためだけじゃねぇ、自分のためにも必要なことなんだ。」

 

「わたくしのために……?」

 

「ああ。楽しむってのはサッカーを続けるためには絶対に必要なものだ。だって、楽しくない趣味を続けることは難しいだろ?中学生なら尚更だ。」

 

「ま、まぁ。それは……。」

 

 

 坂上の言うとおりではあると思う。わたくしも嫌な勉強をずっと続けることは難しいと思う。まあ勉強は趣味ではないけれど……。

 

 

「だからさ、どうせやるんなら楽しんだほうが得だと思わないか?」

 

「坂上………。」

 

「おい、試合が再開するぞ!早くポジションにつけ!」

 

「おっと、やべぇやべぇ。もう戻らねぇと。」

 

 

 ポジションに戻っていく坂上の背中を見ながら、先程言われたことを頭の中で考えていた。

 ……確かに、どうせやるなら楽しい方がずっといい。でも、今のわたくしはサッカーをお父様に認めてもらう為の道具としか思っていなかった。だからサッカーが好きだってことも楽しむことも忘れていたのね……。……とは言っても、今更意識したところで……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホイッスルが鳴り、試合が再開する。神楽の方を見ると何やら考え事をしている様子。試合中にすることじゃねぇが、まぁ状況が状況なだけに許されている感じもする。しかし、実質人数不利みたいなものであることに変わりはなく、新島先輩が必死に指示を飛ばすもなかなかうまくいかない。やがてボールは取られ、川淵がボールを持ちながら上がってくる。ただ、この状況は俺たちにとっても理想の展開だ。行くぜ、才治。俺たちで神楽の道を示すんだ。

 

 

「行くよ、坂上君!」

 

「おう!」

 

 

 俺たちの前に来た川淵に対し、2人で円を描くように走り出す。そして、そのスピードにより川淵を中心とした巨大な渦巻を発生させる。

 

 

「「『サルガッソー』!!」」

 

 

 そして、巨大な渦巻に飲み込まれ身動きが取れない川淵から、才治がボールを奪い取った。

 

 

「しまった!」

 

「やったよ!坂上君!」

 

「ああ!お前の力だ!」

 

「才治……いつの間にあんな技を……。」

 

 

 神楽が啞然とした表情で呟く。そう、この『サルガッソー』こそ、俺と才治(ついでにキラも)で練習していた必殺技だ。少し不安だったが、敵のキャプテンである川淵からボールが取れたところを見るに、この技は実戦でも通用するようだ。

 

 

「神楽ちゃん!一番楽しいって感じる瞬間は努力が実ったときなんだよ!」

 

「努力が……。」

 

「うん!僕は全く必殺技が出来なかったけど、今こうして努力して使えるようになったんだ!これってすごく嬉しいし、すごく楽しいんだよ!」

 

 

 ドリブルで上がりながら、神楽に思いを伝える才治。というか、あいつドリブル上手くなってないか?

 

 

「神楽ちゃんだって努力したでしょ!?僕知ってるんだよ!今ここでそれを発揮するんだ!大丈夫、神楽ちゃんなら出来るよ!」

 

「!努力したことを……。」

 

 

 才治のやつ、神楽のコソ練に気付いてたのか。神楽はしばらく才治から言われた事を繰り返し口に出したあと、真剣な眼差しで新島先輩の方を向いた。

 

 

「新島先輩!」

 

「……いけるんだな?神楽!よし、伊能!神楽にパスだ!」

 

「はい!神楽ちゃん!」

 

 

 新島先輩の指示により、才治から神楽へとパスが通る。先程までとは全然違う雰囲気の神楽はそのまま敵陣へと切り込んでいく。

 

 

(サッカーを好きだということを思い出した。楽しむ大切さは坂上が教えてくれた。楽しむ方法は才治が教えてくれた。あとはわたくしが実行するのみ!)

 

「通すかよ!」

 

(わたくしももっとサッカーが上手くなりたい。みんなの役に立ちたい。そんな思いからサッカーの試合を見て勉強して……。その中で見た必殺技に憧れて、放課後必死に努力して今ここに立っている!)

 

「『キラースライド』!」

 

「危ない、神楽ちゃん!」

 

 

 敵のDFが『キラースライド』で神楽からボールを奪おうとしたその時、神楽が風のようなスピードで加速する。それは、そのまま敵のDFと衝突しそうになるほどの勢いだ。

 

 

「『そよかぜステップ』!」

 

 

 しかしぶつかる直前で1回転し、DFの横をすり抜けるように鮮やかに通り抜け突破する。それはまるでそよ風の如くしなやかな動きだった。

 

 

「な、なんだと!?」

 

「やった………。できた!できたわ!」

 

「すごいよ!神楽ちゃん!」

 

 

 まじかよ!神楽のやろう、『そよかぜステップ』を練習してやがったのか!こいつぁ驚きだぜ……。なんたってGOの主人公、天馬の代表的な技だからな。まさか目の前で見れるとは思いもしなかったぜ。

 

 

「影狼先輩!」

 

「はっ!1年だけにいい格好させるかよ!『バウンドフレイム』!」

 

「なに!?うわぁーー!!」

 

 

 神楽から影狼先輩へとボールが渡り、放たれた『バウンドフレイム』は敵のGKに技を出させる隙を与えずゴールへと入っていった。

 

 

「よくやったぞ!影狼!神楽!才治!坂上!」

 

「やった……。やった、やったわ!」

 

「おめでとう神楽ちゃん!」

 

「えらいすごい必殺技やないか!ワイにも教えてーや!」

 

 

 素晴らしいプレイを見せた神楽の周りにチームの皆が集まってくる。中心にいる神楽は少し照れくさそうに、しかし満面の笑みを浮かべていた。見ていて眩しくなるくらいのあの様子ならもう大丈夫だろう。サッカーを楽しむ気持ちも思い出しただろうさ。

 ……なんか後ろで羨ましそうに神楽を見ている薬師寺先輩がいるが、見なかったことにしよう。

 

 

「調子が戻ったみたいで良かったね。和也は神楽ちゃんに何を言えばいいのかわかっていたの?」

 

「いいや、バスの中でも言ったろ?あの瞬間までなんて声をかけたらいいか分かってなかったよ。まあかける言葉が見つかったのは、神楽の姿が昔の俺と重なって見えたからかな。」

 

 

 そう、俺も過去ゲームに夢中になりすぎて、勝つことだけを考えるようになった。負ければ苛つく、勝つのが普通………そんな思考回路になっていた。だからゲームをやることが苦痛でしかなくなっていた。ゲームするのをやめようかと思ったほどだ。

 そんなとき、友人の家で友人のプレイを横で見る機会があった。その時の友人のプレイは、ゲーム初心者ということもあり決して上手いと言えるものではなかった。

 ただ、すごく楽しそうだった。俺が苦戦してイライラしながらプレイしていたところも、そいつは笑顔で苦戦するんだ。そして決まって俺にこういうんだ。

「このゲーム、面白いね!」って。

 それで俺も思い出したんだ。ゲームは楽しんでするものだって。趣味は楽しめなくなったら辞めてしまうって。

 

 

「………ふーん。まあいいや。それよりあと2点だね。」

 

「ああ。あと2点で逆転だ。期待してるぜ。」

 

「うん!任せて!あんなラフプレーだらけのサッカーが間違ってるってこと、思い知らせなきゃ!」

 

「ああ、そうだな。」

 

 

 さて、相手の監督はどんな感じかな?1点取られた以上、流石に少しは顔色も変わるだろうが……。

 そう思いあの監督の顔を見たことを、俺は後悔することになる。何故なら、そこには寒気を抱くような不気味な笑みを、整った美しい笑みなのに何故か薄気味悪い笑みを浮かべた監督がいたからだ。

 前半終了のホイッスルを聞きながら、俺は得もしれぬ恐怖を感じていた。




・キラースライド
 原作では主に土門が使用。帝国の技という印象のほうが強いか。TP消費が少ない割に威力が高いが、ファウル率が高い技。総じて危険な技という印象だが、これよりもよっぽど危険な技がある気もしなくはない。威力は下の中。

・ジャッジスル-
 原作では主に不動が使用。アニメでは無印とGOでは未登場。こちらも威力が高い代わりにファウル率が高い。ゲームでは試合中はファウルを取られるが、サッカーバトルは取られないため活躍していた。威力は下の中。

・フリーズショット
 原作ではラファエレが使用。ゲームでは2から登場しており、どの作品においてもそこそこの威力を持つシュート技だった。総じてゲームでは影が薄いくせに、アニメではそんなこと知らないといわんばかりの好待遇を受けた技。威力は下の中。

・サルガッソー
 原作では帝国学園の選手が使用。GO世代の必殺技であり、帝国や海王の選手が主に使用している。アニメとは違い、渦巻の真ん中で敵を固定させる技になっている。ゲームではりゅうざきが覚えたことが印象深いか。威力は下の中。

・そよかぜステップ
 原作では我らが松風天馬が使用。GO世代を代表する必殺技であり、天馬の代名詞。主人公の初期技のため、進化系やらが多めに存在する。ゲームでは威力が低いが、天馬のドリブルが高く成功率は高め。威力は下の下。


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悪魔のような監督を見る日

 すみません、遅くなりました。

 川淵は紳士のような喋り方をする男子です。エドガーを想像すると分かりやすいと思います。


「何をやっているの?貴方達。」

 

 

 ハーフタイム中、目の前に座っている大澤監督は笑顔で私達にそう言った。一見、私達のことを心配してくれているようにも見えるかもしれないが、そんなことではないというのは私達楽郷イレブンが一番良く知っている。これは私達のミスで取られた1点に怒っており、勝つための非情な戦術を伝えようとしているのだ。

 

 

「特に田中君、分かっているの?この1点の責任は半分ほどは貴方にあるのよ。」

 

「っ!す、すみません!相手のシュートが思ったよりも早く……。」

 

 

 大澤監督の矛先はGKである田中へと向いた。どうやら敵のFWの必殺シュートを止めることが出来なかったことを責めているようだ。

 

 

「私が聞きたいのは言い訳じゃないのよ?」

 

「す、すみません!次こそは止めてみせます!何としてでも!」

 

 

 命乞いをするかのような田中の弁明を聞き、大澤監督は矛先を変える。

 

 

「それと川淵君、志島君、横井君。貴方達、必殺技を打つとき戸惑っているわね。何故?」

 

 

 その矛先はDFである志島と横井、そしてキャプテンである私に向かって飛んできた。大澤監督が言っているのは、おそらく『ジャッジスルー』や『キラースライド』を放った時のことだろう。確かに、私は相手の選手を傷つける危険性を考え戸惑いが生まれた。多分、志島と横井もそうなんだろう。

 

 

「………すみません。相手の選手が傷つくかもしれない危険なプレイだと思い、躊躇してしまいました。」

 

「……はぁ。またなのね……。いい?相手は11人丁度しかいないのよ。一人でもプレイ不可の状態にすればそれだけで人数有利が生まれるじゃない。もっと積極的に狙っていきなさい。」

 

「………っ!」

 

 

 初めてその笑顔を崩し、呆れたような顔でとんでもないことを言う大澤監督に、私は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 分かっていた。予測できていた。大澤監督がそう言うことは初めてでは無いからだ。練習試合や1回戦でも大澤監督はそう言って来た。勿論初めは私達はそれを拒否しようとしていた。拒否したかった。しかし、大澤監督の言葉が私達を絡め取った。

「貴方達は勝ちたくないの?」

 

 

 

 

 

 

 

 大澤監督が楽郷中にやって来たのは丁度一年前、去年のFFが終わった頃だった。その頃の楽郷中サッカー部は弱小も弱小、私が入学するずっと前から弱小サッカー部だった。私がキャプテンになろうともそれは変わらず、去年のFFも当然のように1回戦敗北、それも10-0という大差だった。別にやる気が無かったわけじゃない。むしろ勝ちたいと思う気持ちは他の学校よりも強かったと思う。たとえマイナーな競技であろうと、皆真剣にやっていた。それでも負ける原因は唯一つ、単純な実力不足だ。テクニックもチームプレーも相手の方が1枚も2枚も上手だった。予想できた結果だったとはいえ、それで納得出来るかと言われたら話は別だ。私達は勝ちたかった。そんなときだった、大澤監督がやってきたのは。

 

「私が勝たせてあげる。」

 

 笑顔でそう言い放つ監督に皆は呆気にとられていた。おそらく誰も大沢監督のことを信じていなかっただろう。私もそうだった。ただ、それ以上に勝利が欲しかった私達は藁にもすがる思いで言うことを聞いた。すると、今までの連敗が嘘のように練習試合で連勝することができた。監督の作戦はシンプルかつ私達の長所を存分に発揮する理想の作戦だった。監督の言っていた言葉に嘘偽りはなく、本当に私達を勝たせてくれたのだ。この監督についていけばもっと上まで行けるかもしれない、そう思っていた。ことが起きたのは、今年のFFが近づいてきた頃の練習試合の日だった。監督がラフプレーを要求しだしたのだ。

 

「6番の足を潰しなさい。」

 

 監督の言っていることが理解出来なかった。今まで理想的な監督でいた大澤監督がそんなことを言うなんて信じられなかった。それと同時に、そんなことを笑顔でサラッと言うその姿に恐怖を抱いた。

 当然私達は反対した。相手選手を傷つけるラフプレーなんてしたく無い。しかし私達の意見に監督は悪魔の囁きのような一言を呟いた。

 

「貴方達は勝ちたくないの?」

 

 その一言に私達は黙り込んだ。冷静に考えれば、監督の作戦があるとはいえ相手との差は歴然だった。それほどまでに強い相手だったのだ。ここから勝つためには、それこそラフプレーによる相手選手の負傷くらいしかなかった。

 暫くして、チームメイトの1人が賛成の声を上げた。勝利という誘惑に負けたのだ。その声に続くように1人、また一人と賛成の声を上げていく。……そして最後に私が賛成の声を上げた。上げてしまった。勝ちたかったから。

 その日を境に楽郷中のサッカーは変わった。勝つためならば相手選手を負傷させることも厭わない、非情なチームになった。大澤監督も以前までよりも勝ちにこだわるようになり、ラフプレーの指示も増えた。さらに、試合中のミスにも厳しくなり、最悪ミスした選手を退部させるなど徐々に本性を明らかにしていった。楽郷中サッカー部は大澤監督に支配されてしまったんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何度も言っているでしょう?貴方達が強いチームに勝つためには相手を負傷させるしかないの。川淵君、聡明な貴方なら分かるわよね?」

 

「……はい、監督。監督の言う通りです。」

 

 

 そしてこの試合もいつも通りラフプレーの指示が出る。私達も好きでやっているわけではない。何試合ラフプレーをしていたとしても、未だにラフプレーに躊躇してしまう。それでも、最終的には勝利のためといいラフプレーを行ってしまうのだ。

 

 

「あの金髪の6番のMFを特に狙いなさい。あの子の動きが良くなってから敵全体の動きも良くなっているわ。きっと中心人物よ。あとはキャプテンのあのMFね。この2人を狙うのよ。分かった?」

 

「…………はい。監督。」

 

「よろしい。さあ、後半も頑張ってねー!」

 

 

 仕方がない。勝つためだ。そう自分に言い聞かせ、グラウンドに走る。……ただ、さっきの相手のプレーを見てから、心の底で引っかかっているものがある。それが何かはわからないが、どうしても気になって仕方ない。……一体何なんだ、この感情は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハーフタイムも終わり、後半が始まる。神楽の調子も戻ったし、こっから一気に逆転していきたいところだな。……ただ、相手チームの雰囲気か前半と比べて違うような……。気のせいだろうか?

 後半は俺達からのスタートで、新島先輩を中心に上がっていく。だが敵もやすやすと通してくれるわけもなく、新島先輩の前に相手のDFが立ち塞がり、そのままスライディングでボールを奪おうとする。新島先輩は何とか避けようとするが、勢いのついたスライディングを捌き切ることができず、転んでしまう。

 

 

「うわっ!?」

 

「新島先輩!?」

 

 

 すぐさま審判が笛を鳴らし、ファールを言い渡す。それを聞いてから、倒れ込んだ新島先輩の元へ皆駆け寄っていく。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

「新島先輩!」

 

「あ、ああ……。少し痛むが、動けないほどじゃあない。」

 

 

 どうやら、大きな怪我などはしていないらしい。ホッと一息つくと、新島先輩の掛け声で皆ポジションへ戻っていく。

 ……しかし、やるんじゃないかとは思っていたがまさか本当にやってくるとはな。さっきの危険なプレイは絶対わざとだ。あのスライディングは初めから新島先輩の足を狙ったものだった。運良く怪我しなかったが、次からも狙ってくると考えると安心はできない。……大丈夫だろうか?

 

 俺の心配事は見事的中してしまい、その後はボールよりも足を狙ったプレイが多発した。ファールを取ることもあったが、それでも彼らはひたすらにラフプレーを続けた。そして、その魔の手は神楽にも襲いかかる。

 

 

「きゃあ!!」

 

「神楽ちゃん!!」

 

 

 川淵の激しいディフェンスが神楽のバランスを崩させ、そのまま神楽は倒れ込む。それを見て、すぐさま審判がファールの笛を鳴らす。その音を聞きながら、俺は内心冷や汗を書いていた。なんせ、神楽が狙われたのは今回が初めてだ。異性ということもあって狙われてなかったのが狙われるようになった。これは、向こうも容赦がなくなってきたってことだ。ここから先、何が起こるか想像もつかないぞ……。

 というか東大さん怒ってないだろうか?いくら仲が悪いっていっても大事な娘のハズだ。即刻中止なんて言ってきてもおかしくないが……。そう思い東大さんの方を見るが、特にそういった気配はなく傍観している。それはそれでどうかと思うんだが……。マジで仲がめちゃくちゃ悪いのか?

 

 

「すいません………。しかしこれも」

 

「作戦、よね?」

 

「!!」

 

 

 どうやら怪我は無かったらしい神楽は、立ち上がり川淵と言葉を交わす。

 

 

「気にしなくていいわ。スポーツだもの。多少危険なことなんて想定内よ。」

 

(この人は、こんな非情な戦術を作戦と呼んでくれるのか……。)

 

 

 言いたいことを言い終え、仲間の元へ向かおうとする神楽を川淵が引き止める。

 

 

「貴方は……!」

 

「?」

 

「……貴方はどうしてそんなに楽しそうにプレイできるんですか?相手が危険な作戦をとっているのに、どうして……。」

 

「そうね……。何でって言われてもね……。強いて言うなら、悔いを残さないためかしら。」

 

「!!悔いを……。」

 

「わたくしも偉そうなことは言えないのよね。仲間に言われて初めて気が付いたのよ。」

 

 

 神楽は少し恥ずかしそうに笑いながら、今度こそ仲間達の元へ向かう。一方それを言われた川淵は、何やら考えるように俯きじっとしている。

 そんな光景を見ていると、なにやら新島先輩と南条先輩の話し声が聞こえてくる。

 

 

「新島、このままこの試合を続けるのか?」

 

「何?どういう意味だ、南条。」

 

「どういうもクソもあるかよ!このまま誰かが怪我するまでこの試合を続けんのかって聞いてんだよ!」

 

「!それは……。」

 

「新島ちゃん……。」

 

 

(確かに、今のままじゃ怪我するまで時間の問題だ。俺にはキャプテンとしてみんなを守る責任がある。キャプテンとしては試合を棄権する方がいいのかも知れない。けど俺は、俺自身としては……。)

 

 

 

「心配ないですわ!」

 

 

 悩む新島先輩達へ、戻ってきた神楽が自信満々に話し掛ける。

 

 

「わたくしに相手に怪我させられることなく点が取れる作戦がありますわ!」

 

「な、何?本当か!」

 

「ええ。ですのでまだ棄権するには勿体ないですわ!南条先輩も、棄権の相談は作戦を聞いてからでも遅くはないのではなくて?」

 

「……チッ、分かったよ。じゃあとっとと作戦とやらを話しやがれ。」

 

 

 若干の苛立ちを見せる南条先輩の前で、涼し気な顔で立ち振る舞う神楽。あいつ、メンタル無敵かよ……。

 

 

「では作戦をお話しますので皆さんを集めてください、新島先輩。」

 

 

 後半戦は、まだまだ始まったばかりだった。




 はい、楽郷中編終わりませんでした。3話程度とか言っときながらすみません。次で終わります。



 もしかしてこの話、1回も必殺技使っていない……?


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謀反する日

 楽郷中戦終わるまで書こうと思ったら長くなりました。

 GW中に一気に書いてしまいたい気持ちです。


 ファールによるフリーキックから試合が再開する。と同時に俺達は神楽の作戦通りに動く。成功するといいが……。

 神楽がボールを持ち上がっていくところに、敵のDFがブロックに向かう。それを見た神楽は、DFがスライディングしてくる前に新島先輩にパスを出す。パスを受けた新島先輩は同じように、スライディングを受ける前に磯貝にパスを出す。

 

 

(これは…………。)

 

 

 お、川淵がなにやら考え込んでいるな。こっちの作戦に勘づいたか?

 

 

(なるほどな……。私達はボールを奪うふりをして足を狙いスライディングを仕掛けている。だったら相手と接触する前にボールを回してしまおう。そしてスキを見て得点を狙う、相手の考えはこんなところか。だが、私達もその作戦は何度も体験した。)

 

 

 川淵が手を挙げると、相手のフォーメーションが変化する。なんとゴール前のDFが上がってきており、俺達のチームの前線近くには常に敵プレイヤーがいる状態になった。

 

 

(これで相手は前にボールが出せなくなる。仮に出したとしたら確実に誰かからスライディングが飛んでくる。故に相手はバックパスしか出せない。そうなれば、チーム全体でラインを上げラフプレーのプレッシャーで身動きを取れなくさせる。どちらにしろ君たちはこれで終わりだ。……心苦しいがな。)

 

 

 

 

 とか考えているんだろうか。相手のフォーメーションチェンジを見る限りそう考えていそうだな。まあ8割ほど当たってはいるんだが、残念。残りの2割がこの作戦の肝なんだよなぁ。

 回ってきたボールを、川淵と神楽の思惑通りに後ろに回す。

 

 

「東雲先輩!」

 

「薬師寺ちゃん!」

 

「うん!」

 

 

 そしてついにGKである薬師寺先輩の元まで、ボールが回ってくる。追い詰めた、そんな表情を浮かべながらポジションをとる川淵達に対し、余裕の笑みを浮かべボールをキープする薬師寺先輩。お互いに相手の出方を伺うような膠着状態の中、1つの人影が素早く動き出す。

 

 

「影狼君!」

 

「けっ!もっとマシなパスを寄越しやがれ!」

 

 

 悪態をつきながら薬師寺先輩からのパスをを受けるのは、人影こと影狼先輩だ。影狼先輩は膠着状態になる少し前から気付かれないようにラインを下げ、相手の集中が薬師寺先輩に向いた途端薬師寺先輩の前まで猛スピードで走ってきたのだ。

 このプレイは予想外だったようで若干動揺していたが、すぐに持ち直す川淵。

 

 

(だからどうしたというのだ。ゴール前でボールを受け取ったところで、私達のゴールには届かない。状況は何も変わっていないではないか。慌てることはない、作戦を続行すれば何も問題ない。)

 

「悪いな、お前達の考えていることはすべてお見通しだ(神楽が)。まんまと思惑通りに動かされたな。」

 

「……なに?どういうことです?」

 

「こういうことさ、加賀美!行くぞ!『バウンドフレイム』!」

 

 

 そう叫んだ影狼先輩は、なんとゴール前から『バウンドフレイム』を放つ。炎を纏ったボールは楽郷イレブンに触れさせることなく相手ゴールへと突き進む。

 

 

「な、何をしようと言うのです!」

 

 

 ゴールまでは随分と距離がある。たとえ前のめりになっているDFが止められずとも、ロングシュートでもない必殺シュートならば田中が止めてくれる。そんなことを考えていそうな川淵はボールを目で追った途端、驚愕の表情を浮かべる。何故ならそこには、楽郷中のゴールへと走るキラの姿があったからだ。

 そう、これが俺達の作戦だ。敵が前へ出てくるところを突いて、ゴール前からFWへのダイレクトパスを通す。だからキラは、オフサイドにならないよう影狼先輩が『バウンドフレイム』を撃ったあとでゴールへ走り出していたのだ。あとはキラが『バウンドフレイム』を受け止めるだけだが……。

 最後のDFを抜き去りゴールまでの障害はGKだけとなった状態になったキラは、しばらく走ったあと俺達の方へ振り返り『バウンドフレイム』を迎え撃つ体制を取る。そして飛んできたシュートに対し、蹴り返すような形でトラップを試みる。

 

 

「くうぅ……!」

 

「頑張って、加賀美さん!」

 

 

 流石に距離が離れているとはいえ、影狼先輩の必殺シュートを止めようとしているのだ。キラのやつ、大丈夫だろうか……。

 そんな俺の心配をよそにキラの足とボールは激しくぶつかり合い、……そしてしばらくするとボールは小さく跳ねキラの足に収まった。どうやら、俺の心配は気鬱だったようだ。

 

 

「……よし!」

 

「はっ!アッサリと止めてくれんじゃねぇか!」

 

「行けー!キラ!」

 

 

 ボールを完全に抑え込んだキラは向き直り、俺たちの声援を背に必殺シュートを放つ。

 

 

「『ダークトルネード』!」

 

 

 キラの放ったシュートを前に、敵のGKは臆さずボールを睨みつけた後、右手を刃物のようなものに変形させる。

 

 

「これ以上点はやらん!うおぉぉぉ!『キラーブレード』!」

 

 

 そしてその変形させた右手でボールを切り裂くように止めようとする。……しかし、悲しいかな。『キラーブレード』は原作においてもかなり威力の低い技だ。あいつが相当上手くないとキラの『ダークトルネード』は止められない。

 少しの間拮抗していた2つの技は、GKの『キラーブレード』が弾かれる結果で終わり、俺の予想通りキラのシュートはゴールへと入っていった。

 

 

「よし、やったぞ!これで同点だ!」

 

「ナイスですわ!影狼先輩!加賀美さん!」

 

 

「な、なんだと……!?そんなバカな……!私達は踊らされていたというのか……!」

 

 

 川淵は信じられないといった表情で暫く呆然と立ちすくした後、神楽の方へと歩いていく。

 

 

(認めざるを得ないな……。勝ちにこだわっている私達よりも、楽しんでサッカーをしている彼女たちのほうが実力が上だということも……。)

「貴方は……、貴方達はどうしてそんなに強いんですか……?」

 

「え?」

 

「私達は勝つために練習を重ねてきた……。勝つためならばどんな卑怯なこともやってきた……。それなのに、貴方達は軽々しく私達を越えてくる……。……いったい何故です!貴方が悔いを残さないようにプレイしているのは知っています!しかしそれだけでは貴方達が強い理由にはならない!」

 

「え、ええ!?そんなこと聞かれても分からないですわよ……?」

 

 

 神楽はそう答えたあとしばらく考えるような素振りを見せ、静かに口を開く。

 

 

「……まぁ、わたくしがしていることは単純ですわ。サッカーが好きで楽しくて、だからこそ上手になりたくて努力する。そしてその努力で壁を越えたとき上手になっていくと同時に楽しいと思う感情が湧いてくる。そしてさらに上手になろうと努力する。わたくしはこれの繰り返しでここまで来たんですのよ。」

 

 

 

 

 

 なにをそんな当たり前のことを。そう言おうとした川淵は、直後言葉を失った。

 

 

(当たり前のこと……?違う、違うだろ……!私達はそれすらも出来ていなかったのではないか!?そうだ、監督が来る前だってそんな状態だった!努力しても努力しても壁が越えられなくて、そのたびにイライラして、いつの間にかサッカーを楽しむ気持ちが失われていた!そうだ、そしてそのイライラから抜け出したくて悪魔に魂を売ったんだ………。私が心のどこかで引っかかっていたのはこれだったんだな……。私達は壁を越えたんじゃない、壁を見ないようにしていただけだったんだ……。あの頃の私達に、壁を越えようとする諦めない心があれば、今の状況は変わっていたんだろうか……。)

 

「この答えでいいかしら?」

 

「………はい。聞きたかった答えでした。」

 

「そう!それは良かったわ!」

 

 

 神楽は嬉しそうにに微笑むと、チームメイトの元へと戻っていく。

 

 

 

「………ありがとうございます。おかげで私達の進む道が見えました。」

 

 

 神楽に聞こえるか分からないような声量で呟いた川淵の目には強い意志が宿っていた。

 

 

 

 ……さて、同点にまで追い付いたんだ。あの監督も流石に焦るだろ。そう思い俺はあの監督を見た。……見てしまった。そこには不機嫌そうな顔をしている監督がいた。しかし俺は、その不機嫌そうな顔の中に獰猛に獲物を狙う捕食者の笑みを見つけてしまった。

 

 

ゾクッ!

 

 

 背筋が凍る。息が止まる。体が恐怖する。あの笑みが見えてしまったのは先程も不気味な笑みを浮かべているのを見てしまったせいだろうか。俺は気付いてしまった。あの不機嫌そうな顔は演技だ。あの女の本心はきっとあの笑みの中にあるんだ。そこまで考えたところで、頭の中で危険信号が鳴る。彼女は勝利にこだわる影山とは違う。もっと別の狂気だ。彼女は危険だ。これ以上関わるべきではない。

 そう理解していても、体は金縛りにあったように動かなかった。

 

 

「かずやー!今後の作戦話すから集まってって言ってるよー!」

 

 

 と、そんなときキラの声が聞こえてきた。その瞬間金縛りは消え、恐怖も自然と無くなっていった。どうやら緊張が解けたようだ。キラに感謝しながら、一刻も早く彼女の近くにいたくないがために、駆け足でみんなの元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんて無様なの?貴方達は。」

 

 

 普段は微笑みを浮かべている大澤監督も、このときばかりは呆れたような表情で話しかけてくる。

 

 

「川淵くん?貴方は自分の役割を理解していないのかしら?」

 

「………。」

 

「……だんまりなのね。いいわ、川淵くん。貴方はいまこの瞬間からキャプテンを辞めなさい。」

 

 

 キャプテンを辞めろ。その言葉にみんなの中に少なからず動揺が走る。しかし私は反論はしない。そんなことよりももっと大事な話を切り出す瞬間を待っているからだ。

 

 

「後田中君?貴方も分かっているの?この2点の責任は貴方に大きくあるのよ。」

 

「う!す、すみません……。」

 

「……はぁ。もういいわ。GKは崎原君と交代よ。」

 

「!?そんな!待ってください監督!」

 

 

 抗議の声を上げる田中を無視して監督は話を進めていく。しかしチームメイト達は次々と下される容赦のない指示に、ただただ困惑することしかできていない。実際、交代を告げられたベンチの崎原も何がなんだかわからないといった表情だ。だが私の中には戸惑いはない。やっぱりか、といった感情で埋め尽くされている。

 

 

「ーーーー以上がこれからの作戦よ。分かった?」

 

「………監督。お話があります。」

 

「……何かしら、元キャプテン君?内容によっては貴方もフィールドから外すことになるけれど。」

 

 

 軽く脅しのこもった返事だが、その程度では私の決意は止められない。

 

 

 

 

「率直に申し上げます。私はこれ以降監督の指示には従いません。」

 

 

 

 

 

 

 

「………なんですって?」

 

 

 世界が凍る。監督の目が心臓を貫くような鋭さになり、地獄のような寒さが辺りを包み込む。それはまるで死を目の前にしているかのようだ。皆の目が、これ以上余計なことを言うなと言っている気がする。

 

 ……しかしそれでも、私の中で燃える決意の火を消すことは出来なかった。ダメだ、ここで立ち止まっては。

 

 

 

「聞こえなかったようなのでもう一度申し上げます。私はこれ以上貴方の命令は聞けません。」

 

「……っ!何を言っているのか分かっているの!?私がいなければ貴方達はーーー」

 

「はい。確実に負けるでしょう。」

 

「だったらなぜ……!」

 

「それでも、負けるとしても私は……。私はこれ以上悔いが残る勝利はいらない!目の前の壁から目を背けたくない!私は私達の純粋な力だけで勝ちたいんです!!」

 

「………。」

 

 

 黙って話を聞く大澤監督を尻目に、私は振り返ってチームメイト達に対して語りかける。

 

 

「皆もそうだろう!?勝利を望みつつも心のどこかで分かっていたはずだ!私達が望んでいたものはこんなものじゃないって!………だけど怖かったんだよな。監督が、そしてそれ以上に負け続ける日々に逆戻りすることが。」

 

 

 その言葉に皆は下を向く。そうだ、皆だって私と同じ気持ちのはずだ。ただ、改善しようとして動いた結果さらに状況が悪化するのが怖かったんだ。……だけど、それじゃあダメなんだ。結局何も変わらないんだ。

 

 

「私達は勝利という高すぎる壁から目を逸らし続けていた。……その結果がこれだ。………なぁ、皆で戻らないか?壁をみんなで一生懸命越えようとしていたあの頃に。」

 

 

 私の問いかけに対し、皆は下を向いたまま誰一人として声を発しようとはしなかった。話すタイミングを間違えたか……?そう思い焦りだした私に1人声を掛けるものがいた。

 

 

「俺は………、俺は戻りたい!もうこんなサッカー俺はしたくない!俺達も相手も辛いサッカーなんてやっててなんの価値があるっていうんだ……。」

 

「田中……。」

 

 

 私に声をかけたのはGKの田中だった。彼は震えながらも、勇気を振り絞って私に声を掛けてくれたのだ。

 ……そしてその声を皮切りに1人、また1人と賛同の声を上げる。気付けば反対するものは1人もいなかった。

 

 

「これは………。」

 

「監督、これが私の……いや、これが私達楽郷イレブンの意見です!もう一度だけ言います。私達は貴方の下では戦いません!」

 

 

 

 

 1つの燃え盛る火はやがて燃え広がり、絆という大きな炎となって凍てつく空気と対峙する。しばらく睨み合っていた私と監督だったが、やがて監督が呆れたような表情を浮かべる。

 

 

「はぁ……。これ以上はダメね……。いいわ、好きにしたら?」

 

「!それじゃあ………。」

 

「ええ。私はもう口出ししないわ。だって私は今この瞬間、サッカー部の監督を辞めるもの。」

 

「………辞めるんですか?」

 

「だって貴方達にもう興味は無いもの。これ以上ここにいても無意味よ。」

 

 

 そう言うと、大澤監督はさっさと校舎の方へ消えていった。思っていた以上にすんなりいったため拍子抜けしてしまった私の後ろでは、チームメイト達の喜びの声で溢れかえっていた。

 

 

 ……まぁ、いいか。こうして大事なものを取り返せたんだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なんか向こうのベンチめっちゃ盛り上がってないか?……ん?なんか向こうの監督が校舎に戻っていったな。……なんか川淵がこっちに来てるんだが?そして俺達の前に立つといきなり頭を下げてきた。

 

 

「天竜イレブン。今までの危険なプレイを謝罪します。すみませんでした。私達の心が弱かったばかりに、貴方達を危険な目に合わせてしまいました。信じてもらえるかは分かりませんが、私達は心を入れ替え正々堂々と貴方達に挑みます。」

 

「??……ああ。分かった。じゃあ正々堂々やろう。」

 

「なんと……。心優しい言葉、感謝します。貴方達天竜イレブンのことを、私達楽郷イレブンは永遠に忘れることはないでしょう。」

 

 

 そう言うと、川淵は清々しい顔で自軍のベンチへ戻っていく。ちなみにチームの代表として受け答えした新島先輩は、終始頭に疑問符を浮かべていた。まあ、川淵と少しとはいえ一番会話した神楽も疑問符を浮かべているからしょうがないところもあると思う。……それでも、あの監督の動きから大体の予想はつくけどな。

 

 

「なんかよく分からんが、どうやらさっきまでのラフプレーはしないようだ。皆、ここから先は試合に集中するぞ!」

 

 

 新島先輩が上手く締めたあと、試合が再開する。監督が消えたあとの楽郷中は、前に比べて戦術も拙く技術不足なサッカーだった。しかし先程よりも気迫が物凄く、そこだけならば俺達は圧倒されていた。総じて先程よりも戦いづらく、厄介な相手となっていた。……それでも戦術と技術の差は歴然であり、徐々に相手を追い詰めていった。そして後半残りわずか、2-2で同点といったところで影狼先輩にボールが渡り、シュートチャンスが訪れる。

 

 

「てめぇらは良くやったよ。お前らの敗因は俺達が相手だったことだ。」

 

 

 影狼先輩はボールを足に載せ胸まで上げると、ボールを残して足を一瞬にして下げ、横から蹴りを入れ闇のパワーを溜め込む。

 

 

「『デスソード』!」

 

 

 そして、その闇のパワーが溜まったボールを手で弾き出しシュートする。

 『デスソード』じゃないか!影狼先輩『デスソード』が使えたのか。言ってくれても良かったのに。

 

 

「うおおお!『キラーブレード』!ぐわぁぁぁ!!」

 

 

 『デスソード』は敵のGKが繰り出した『キラーブレード』をいともたやすく打ち破り、勝ち越しとなる1点を上げる。

 

 

 

 

 ………そしてここで試合終了を告げる笛が鳴った。

 

 

 

 

「やった!やったよ、神楽ちゃん!勝ったんだよ僕達!」

 

「……ええ!」

 

 

 ふぅ、結果は2-3か。序盤リードされたときはどうなることかと思ったが、上手いこと立て直せたな。

 楽郷イレブンの方を見ると、落ち込んではいるもののどこかスッキリとしたような顔付きだ。この試合の勝敗以上に、あの監督から逃れられたのが大きいのだろうか。川淵もどこか砕けた笑みで仲間達と会話したあと、こちらに歩いてくる。

 

 

「完敗です。貴方達は今まで戦った中で1番強いチームでした。」

 

「……まだまだこれからだろう?お互いに。」

 

「……!」

 

 

 新島先輩の返答に川淵は少し驚いた後、握手しながら深く頭を下げ戻っていった。川淵も根は真面目なんだろうな。少し周りに流されやすいところがあるがために、あんなことになってしまっただけで。

 川淵が去ったあとは試合の感想など言い合っていたが、そんな中神楽が何かに気付き駆け寄っていく。そんな神楽が気になり目で追うと、そこにはグラウンドに降りてきた神楽のお父さんである東大さんが立っていた。

 

 

「お父様………。」

 

「…………神楽。お前は本気でサッカーをしているんだな?」

 

「はい。そのことには嘘偽りはありませんわ。」

 

 

 東大さんの問いかけに即答する神楽。そんな真っ直ぐな神楽の目を見続けていた東大さんは、やがて根負けしたかのように息を吐く。

 

 

「本当のことを……言おう。神楽、お前にスポーツをやらせたくなかったのは、跡継ぎの勉強に集中させるためなどではない。」

 

 

 

 

「………えっ?」

 

 

 神楽も、そして才治も呆気にとられたような顔をしている。まぁ、今までそれが原因だと思っていたわけだしな。違うって言われたらそりゃあビックリするわな。ちなみに俺もビックリしているし、何も分かっていない。

 そこから東大さんはぽつぽつと話し始めた。大事な一人娘に怪我をさせたくなかったこと。そのために少しでも怪我をする可能性のあるスポーツをやらせたくなかったこと。才治を近くに置くのもそのためだということ。この試合が終わり次第、神楽に監視を置く事を考えていたということ。

 

 

「お父様…………。」

 

「だが、今日の試合を見て考えが変わった。私は間違っていたんだな……。神楽は私の前ではあんな生き生きとした顔はしていなかった……。私は神楽の安全を考えているつもりでいたが、実際は私の不安を取り除く事しか考えていなかったんだな。神楽自身の気持ちを何も考えていなかった………。」

 

「……それでも、私のためを思って言ってくれていたのは感謝しますわ。そのうえでお願いです。サッカーを続けさせてください。」

 

「ああ、もちろん認めるとも。娘が怪我をする悲しみより、娘が生き生きとしている姿を見る嬉しさのほうが大きいんだ。」

 

「!!ありがとうございます、お父様!!」

 

「やったね、神楽ちゃん!!」

 

 

 おお!東大さんが認めたぞ!これで神楽はサッカーが続けられるんだな。やっぱり楽しむ姿を見せたのは正解だったな。

 皆も同じ気持ちなのか、神楽の周りに集まって祝福している。そんな中、少しだけ遠くにいた新島先輩に東大さんが話しかける。

 

 

「君がキャプテンだね?」

 

「あ、はい。天竜中サッカー部キャプテンの新島徹です。」

 

「新島君、これから先は私達天王寺グループが全面的に支援しよう。金銭的なことでもいいし、困ったことがあったら何でも言ってくれたまえ。」

 

「えっ!そんな、悪いですよ!」

 

「なに、遠慮するな。学生の内は大人の好意には甘えておきたまえ。神楽の件のお礼だよ。」

 

「そんな……。………いえ、分かりました。もし何かあれば相談させてもらいます。」

 

「うむ。大船に乗ったつもりでいたまえ。」

 

 

 ……なんか向こうの方でとんでもない話をしているが、聞かなかったことにしよう。今はただ取り敢えず勝利を噛み締めたいんだ。そう思い、俺は神楽を囲う皆の輪の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あーあ。結構上手いこといってたんだけどなぁ。ちょっと早まったかな〜。)

 

 

 楽郷中の入り口辺りを大澤は悠々と歩いていた。彼女は楽郷中サッカー部を去った後、そのままの勢いで楽郷中の教師も辞めていた。サッカー部に居場所が無くなった時点で、彼女には楽郷中にいる理由はないのだ。

 

 

(上を黙らせてさっさと辞めたまでは良かったけど、これからどうしようかしら。………まあストックあるし、無くなるまでには次が見つかるでしょ。)

 

 

 そんな彼女の近くに、1台の黒い車が現れる。その中から降りてきた黒服の男は、威圧的な体格をしながらも低い態度で大澤に話しかける。

 

 

「失礼します。大澤様でよろしかったでしょうか?」

 

 

 

「………あら、貴方は………。何?私が必要にでもなったの?」

 

 

 

 

 

 静かに、しかし確実に歯車は狂い始めていく。




・キラーブレード
 アニメ未登場。主に尾刈斗中のGKであるじゅうぞうなどが使用。ボールを切り裂く豪快な技だが、威力は滅茶苦茶低い。威力は当然下の下。

・デスソード
 原作では三流さんことつるぎが使用。GOの中でも有名な技。つるぎの代名詞とも呼べる技だが、味方になってからはあまり使っている印象もないため敵のときのほうがイメージが強い。威力は下の中。


 鶴巻君ほぼ出番無かったですけどラフプレーが起こるたびに怒ってました。その都度磯貝が鎮めての繰り返しだったので描写しませんでしたが。


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