女性しか召喚されないカルデアで貞操を保てるのか (雑食で節操なし)
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プロローグ

男が嫌悪感を抱くであろうムチムチとした豊満な身体の少女がその豊かな胸元に資料を抱き抱え歩いている。

肩には犬とリスを足した生物を乗せ、この施設の所長であるオルガマリー・アニムスフィアの元へと向かう途中の事である。

通路に何やらざわざわとした喧騒と人集りが形成されていたのだ。

 

興味を引かれた彼女、マシュ・キリエライトはその集団に向けて歩みを進めることにした。

近づいてみるとそれなりに多くの人が集まっているのが分かる、そんな集団のなかに一人見慣れた人物を見つけた。

マシュと同じここカルデアのAチームに在籍する人物、オフェリア・ファムルソローネである。

 

マシュとは違い男が好感を抱くであろうスレンダーなモデル体型の女性で、眼帯を着けた少しミステリアスな雰囲気の女性だ。

よく彼女からお茶会に誘われる為すっかり仲良くなった、傍から見ると友達と呼べる関係である。

まあマシュはオフェリアの事を先輩だと友人なんておそれ多いと否定するだろうが。

 

そんな彼女を見つけたマシュは声をかける事を決意したのだった。

 

「こんにちは、オフェリアさん」

「あら、マシュ。ええこんにちは」

「皆さん集まってどうしたのですか?」

 

一瞬言うべきか言わざるべきか迷ったがこの場にいる以上いずれ知られる事だと判断し話す事にしたオフェリア。

 

「……実は、男性が寝ているのよ」

「男性ですか?この場所で?」

 

改めて説明するがここはカルデアという組織の廊下である、そして女性でもこんな場所で寝るなんて危機管理の観点からずいぶん豪胆なのに、それが男性ならもはやそれは襲ってくださいと言っている様なものである。

マシュはこのカルデアで生まれ育った経歴をもっている、そして何より彼女の男性像は前所長のマリスビリー・アニムスフィアとロマニ・アーキマン事Dr.ロマンしか知らない。

 

前所長のマリスビリーとは事務的な会話だけで、何より自身に向けられる目は消しゴムや鉛筆の様な消耗品だった。

逆にロマニからは親身になって接してもらった事からかなり良好な関係を築いている。

つまりマシュのなかでは男性とはマリスビリーとロマニの二極しか存在していない。

その為この男性はDr.の様に接してもらえるのか、もしくはマリスビリーの様に何も興味を抱いてもらえないのかという単純な疑問が生まれた。

 

そんな風に考えていると肩に乗っていたフォウがピョンと飛び降りると、寝ている男性へと近づいて行ったのだ。

そしてそのまま頬をテシテシと叩き始める、だがなかなか起きない、肩に両前足をかけ揺すってみてもそもそも身体が小さい為刺激が少なく起きる気配がまるで無い。

そして最後にまた顔の方に戻ってくると頬を嘗め始めた、これに慌てたのはオフェリアたち男の傲慢さを知っている女性たちだ。

 

男といえば口を開けば嫌味を言い、何かあれば雑用を押し付ける、そしてそれに感謝もせず当然だという態度を示してくる。

もしここで目が覚めたならこの集まっている女性に対して文句を言い始めるのは想像に難くない。

だから慌てて止めようとしたが時すでに遅くうめき声を上げ顔を起こそうとしている。

 

「うぅん、頭がクラクラする」

「す、すみません先輩、起こしてしまいました、ほらフォウさんも謝ってください」

「気にしないで良いですよ、それより先輩?」

「?はい、見たところ私と同年代と推測しました、なので先輩です!」

 

おや?何やらなんの問題も無さそうだ、それが一番最初にこの場にいた女性陣の胸中を占めた感想だった。

いやだが安心は出来ない、先ほど彼は頭がクラクラすると言っていた、つまり現状を把握していない可能性が高い。

現に周りを見渡してビクリと肩を震わせたのが分かる、やはり開口一番に文句が出るのだろうな、そう身構えた。

 

「……心配をおかけしてすいませんでした」

 

スッと彼が立ち上がると頭を下げた。

絶句である、男性が文句も一言も言わずむしろ謝るなんて。

大抵の男性なら文句を言う、ロマニの様な男でも眉根を歪ませ大きなため息をつくだろう。

だというのに彼はそんな素振りを一切見せずに謝ってみせた、他の男性を知っている彼女たちからするとあり得ない事だ。

 

周りからの視線がより強くなったのを感じてばつが悪くなったのかポリポリと頬をかく彼。

視線を彷徨わせマシュが持っている資料が目に止まる、それ幸いとこの場の視線から逃れる為に声をかける事にしたようだ。

 

「ずいぶん重そうだけど何処かに持っていくの?」

「えっ?あっはい。ここの所長に届ける資料です」

「じゃあ持っていくの手伝うよ」

「い、いえそれには及びません。流石に今起きたばかりの人に運ばせるのは心苦しいので」

「気にしないで、オレも挨拶をする必要があると思うから、……それでも気になるなら紹介してもらえると助かるかな」

「……それならお願いしてもよろしいでしょうか?」

「任せて!これでも腕力には自信があるんだ」

 

なんだこの男、謝るだけじゃなく荷物運びまで手伝うなんて言い出したぞ。

そのまま歩いて姿を消したマシュと彼を見送った彼女たち、そして気がついてしまった所長に挨拶に行くと言っていたことを。

まさかここでの出来事を報告するつもりではないだろうかと。

もしもこの事がオルガマリー所長に知られでもしたら怒号が飛んでくるのは簡単に想像できてしまう。

 

だが今さら追いかけて行っても不自然極まりないだろう、いや追い付いても何を言えばいいのかが分からない。

後の事を考えて戦々恐々とするオフェリアたちだった。

 

 

 

一方その頃所長室にたどり着いたマシュと彼は扉をノックして入室したところだ。

そしてマシュだけだと思って入室を許可したオルガマリーの胸中は混乱の真っ只中にいた。

 

なんで男がいるの?

そもそもそんな話一切聞いていない。

あっ意外にまつげ長い、なかなか整った顔立ちをしてる。

もし貴重な男性に何かあったらどうしよう。

 

そんな事を考えていたオルガマリーにマシュから資料が手渡される、受け取ってサッと目を通すと一つ何やら重要書類が混ざっているのに気がついた。

 

(差出人は日本でレイシフト適合者を探してたハリー・茜沢・アンダーソンから?)

 

来客がいるからチラリと目を通すだけに留めるつもりだったが思わず読みきってしまった。

一度読み、意味は理解出来るが頭が受け入れるのを拒否する。

二度、三度読み返してようやく納得がいった。

今度会ったら絶対にぶん殴る、そうオルガマリーは痛み始めた胃に対してお前の敵は取るからなそう誓う。

 

要約するとこうだ。

 

日本でレイシフト適性100%の人材を見つけたのでそちらに送ります。

事情は簡単にしか説明してないので詳しい説明はそちらでして下さい。

責任はそちらでもって下さい、お願いします。

 

そんな内容がより細かく丁寧に綴られているのだ、この場で癇癪を起こさなかった自分を誉めてあげたい。

 

「事情は把握しました、詳しい説明は皆が集まっているときにします。マシュは彼を部屋に案内してあげてちょうだい」

 

そう言うと二人に退室を促すのだった。

 

 

 

彼は知らない、この世界が滅亡の危機に瀕している事を。

 

彼は知らない、この世界では男と女の価値観が逆転している事を。

 

彼は知らない、この施設では男は彼とロマニ・アーキマンの二人しかいない事を。

 

彼は知らない、この世界では男の数が少なく、また名のある英雄たちが女性である事を。

 

彼は知らない、女性陣が男に餓えている事を。

 

彼女たちは知らない、彼はこの世界の常識が著しく薄い事を。

 

そんな彼が起こす数々の問題行動をカルデアにいる者たちはまだ知らない。




衝動的に書いてしまった。
書き始めた以上はエタらずに書き上げます。

一応一部までを予定しております。


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カルデアでの評判と迷子になった話

少し短いですが。


ここはカルデア内にある食堂、そこにはカルデアに所属するAチームからDチームまでのマスターたちは勿論、技士や医療スタッフの姿も見える。

逆にいない人物を探した方が早いのではないかという程だ、厨房のスタッフが全員分の飲み物の配膳を終えホッと一息する事も無く他の者同様に席に着く。

まるで食堂の空気は通夜の様だったと後に参加していた者が語る程重苦しい雰囲気だ。

 

何時までもこうしてはいられない、最初に口を開いたのはカルデアの前所長であるマリスビリー・アニムスフィアの一番弟子であり、ヴォーダイム家の若き当主キリシュタリア・ヴォーダイムだ。

 

「さて皆、彼がここカルデアに来て早5日目だ何か気づいた事はあるかな?」

 

純粋な疑問でもある、男性が女性ばかりのこんな閉塞感しかない場所にいれば何かしらのストレスを溜め込むのは想像に難くない。

ともすれば攻撃的に成っているかも知れない、流石にこの一大プロジェクトのリーダーである自分や、所長のオルガマリーに対しては横柄な態度はしていない様だが目の届かない場所では男性特有の傲慢さを出しているかも知れない、そう思った上での質問だったのたが。

返ってきた返事はというと。

 

「なかなかの好青年ですよ、彼。ただちょっと距離感が」

「こちらを気遣ってくれて良く話かけて来てくれるので正直日々の癒しになってます、まああれですけど」

 

何故か言葉を濁し問題点を話そうとしない者たち、問題点が理解できず疑問が膨らんでいく。

するとキリシュタリアと同じAチームのスカンジナビア・ペペロンチーノが大きく笑いながら核心を突く。

 

「正直エロいわよねぇー、彼」

 

まるで悪役令嬢の様にオーホッホホと笑うペペロンチーノ。

顔を赤らめ一斉にあらぬ方向に目をやり始める、その中にはAチームのカドック・ゼムルプスと戦乙女と評されるオフェリア・ファムルソローネ、それを見てからかうのは彼女たちと同じチームのベリル・ガットである。

 

「おいおい、カルデアが誇る人理修復の精鋭Aチームが軒並みアイツに首ったけか?まあ、気持ちは良く分かるけどな」

 

男性付き合いなんて時計塔で少し話すくらいでそんなに関わりがないのが現状であり、魔術師の男連中はどんな功績を残そうとも(極端な話、根源に達しないかぎり)女を家を存続させる為の道具だと思っているふしがある。

恋や愛といったものもなく義務感のみで結婚するのが大半なのだ。

 

だからこそ彼、藤丸立香は好奇な目に写った。女性を下に見るでもなく、その人はそういう人なのだとそのまま受け入れる、忌避感も無く当たり前の様に目を見て話をする、それだけで心が浮わつくというものだ。

 

ただ生活態度がいただけない、シャワーを浴びてしっかりと髪を拭かずに出てきたのか水も滴るいい男状態。

夜部屋に訪ねると寝る直前だったのか目元はトロンとしていてラフな格好で出てこられた時には襲ってやろうかと思ってしまった。

その他にも出てくる出てくる無自覚のやらかし、たちが悪いのはとうの本人はやらかしと思っていないという点であろう。

 

様々な意見を聞いたキリシュタリアは今度会いに行く事を決めた。

 

 

さてそんな話がされている彼、藤丸立香は現在。

 

「迷った」

 

迷子になっていた、ここカルデアは意外でも何でもなく広いうえに似たような部屋が多数存在する為慣れない者には難解な造りとなっている。

 

「やっぱりマシュに案内してもらったら良かったかな?でも仕事があったみたいだし」

 

マシュは案内しようと声をかけたのだが仕事があった様なので流石に悪いと思い断ったのだが、まさか迷う事になるとは思っても見なかった。

これからどうするかなと思いながらもドンドン前に進んでいく、すると一つの扉が現れた。

扉の前には守衛なのか女性が二人いる、声をかけて部屋への道順を聞こうと思った藤丸は近づく事にした。

 

「こんにちは」

「ん?ええこんにちは、ここは関係者意外立ち入り禁止よ」

「実は迷子になってしまって、部屋への道のりをお聞きしようと思いまして」

「そう言えばアナタはここに来たばかりだったわね、ここ道が複雑で困るわよね」

「お姉さんたちに会えて良かったです、ところでこの部屋は何ですか?」

「ここ?…別に喋っても問題は無いわよね。ここは召喚室よ」

 

今後何度も訪れる事になる部屋であった。



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初めての召喚

今日も今日とてここカルデアでは人理修復に向けて準備を進めていた。

守護英霊召喚システム・フェイトを用いてサーヴァントを召喚しようとしているところだ。

 

このシステムを使用する事により霊基グラフをシステムにデータとして記録し、レイシフト先であっても繋いだ縁を元に現地での再召喚が可能となる。

そしてその再召喚されたサーヴァントの力を借り人理を修復を目指すのがカルデアの大まかな流れである。

 

その召喚の為の場所を召喚ルームと便宜上呼ばせてもらうがその部屋の中では混乱の坩堝と化している。

 

召喚して現れるのが黒鍵と呼ばれる剣やルーンの刻まれた石、その他にもあまりにもドスケベな服を引き当てて何を想像したのか鼻を押さえる者や、愛の霊薬を手によからぬ事を妄想しヨダレを垂らす者、麻婆豆腐を食べ「辛!!けど旨!!」と食べ進める者まで居る始末。

 

誰が呼び出したのか何が出てくるか分からない事から何時の間にかガチャと呼ばれ始める始末である。

 

大抵の者が引き終わり、残るはマスター候補唯一の男、藤丸立香のみ。

手のひらに汗を滲ませ喉を一度ゴクリっと鳴らす。

 

(誰でも良い、俺たちに力を貸してくれ!)

 

そんな思いを胸に手を伸ばす、眩い光が部屋を満たし徐々に人の形を作り出す。

足を形作り、腰まで出来始める。

初めての召喚成功かとにわかに色めき立つ召喚ルームのマスター候補たち。

 

「あれ、何かしら」

 

一人が指を指す、その先にはエーテルにより形作られていた人型の足元に現れた手。

先に出ていた者の足を掴むと下へと引き摺り込んだ、そしてその姿が消えるとヒョッコリと腕だけがまた姿を現す。

片腕で身体を支えているのかジリジリと肩が出て頭を出したかと思うと襟首を掴まれ、先程と同じ様に下に引き摺り込まれる。

 

その間にも部屋を満たしていた光は不規則に乱れまるで複数が暴れている様だ。

 

そして今までよりもより一層強い光を放ったかと思うとそこには居たのは、眼帯を付け腋が丸見えで紐パンを隠す事もしていない明らかに防御力が低い甲冑を着た少女だった。

 

「それがしは奥州筆頭、伊達政宗!お主がそれがしのマスターだな」

 

「す、凄いです!先輩!まだ誰も召喚できていないのに、先輩がマスター一番のりですね」

 

マシュはそう言ってくれるがこの事がどういう事なのか実感出来ない藤丸、頭の上で疑問符を浮かべるばかり。

そうしていると召喚した彼女、伊達政宗はウムウムと頷き自己紹介を求めてくる。

簡潔に自分の紹介を終えると、うっはっはー!と笑い。

 

「お主をそれがしの弟として扱ってやろう!」

 

そう言うのだった。




初の召喚、初期サーヴァントは伊達政宗に決まりました。

これから藤丸くんは彼女に振り回され面白くも困難な出来事に巻き込まれて行くことでしょう。


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初めての特異点攻略 その1

前回、カルデア所属のマスター候補たち全員で挑んだサーヴァント召喚。

そこで唯一サーヴァントの召喚に成功した藤丸立香は自身のサーヴァント、伊達政宗を連れてカルデアの案内をしていた。

その隣にはマシュが側にいる、カルデア初心者である藤丸立香では不安が残る為、藤丸に頼まれてサポートとしている。

 

食堂に案内した時は

 

「それがしが料理を教えてやろう、我が弟よ。しっかりと覚えるのだぞ」

「先輩の手料理!私も食べてみたいです。先輩!」

「うっはっはー、早速頑張らねばな弟よ」

 

  →男の手料理って嬉しいのかなぁ

  女性の手料理が食べてみたい

 

「何を言う、料理が出来るのと出来ないのでは出来た方がなにかとそれがしだぞ」

 

そう言われこれも経験かと納得したり、トレーニング室では

 

「ここで汗水をたらして訓練するわけだな、まことにそれがし!」

「先輩は魔術があまり得意ではありません、ですから訓練の際にはカルデアの技術部が製作した礼装を使うのがよろしいかと」

 

礼装といえばあのプラグスーツの様な身体にピッチリと吸い付く服だ、藤丸本人はこんな服があるなんてっと感動したのだがロマンから人前では着ない様にと注意されたりしている。

 

今後、特異点攻略の際に使う事を考えると慣れておく必要性も感じる。

今度この場所で訓練する時は着ていこうと心に決めた。

 

その他にもダ・ヴィンチちゃんの工房を訪れてひやかしたり、地下の菜園を訪れて美味しい野菜の見分け方を教えてもらったりもした。

 

そして最後に訪れたのは中央管制室ことレイシフト部屋だ。

藤丸立香は補欠のマスターであるのだが現状、サーヴァントを召喚できた唯一の存在であるため急遽Aチームへと編入された、その為カルデアスとコフィンが設置されているこの部屋を訪れたのだ。

伊達政宗のコフィンについて詳しく知りたいとの要望を受け、確かめてみようとマシュと二人でコフィンに触れてみた。

するとバチバチという音と共に、意識が引っ張られる感覚と共に藤丸立香の視界が暗転したのだった。

 

 

 

「ロマン!マリー大変だ!何故か勝手にレイシフトが行われてる!」

「何を言ってるんだい、ダ・ヴィンチ。そんなことが……本当だ、えっ!何で?!」

 

この日藤丸とマシュそして伊達政宗を見送った後ダ・ヴィンチがモニターを見ていた際、急に機械がレイシフトを観測、そこにはマシュと藤丸立香のバイタルが表示された。

そこからは蜂の巣をつついた様な大騒ぎだ、カルデアでアイドルとしての扱いを受けていた藤丸立香が突如としていなくなった為、救出しようと後を追うべく他のマスター候補がレイシフトを行おうとしたが何故か出来なかった。

 

その為、急遽藤丸立香及びマシュ・キリエライトの二人による特異点攻略が始まってしまったのだった。

 

 

 

 

「…ぱい、せん…、おき…くだ……ぱい」

 

  →うっ……暑いし、ゴツゴツしてる

 

目を開けてみるとそこは廃墟や瓦礫が散乱し、所々から炎が吹き出している光景だった。

日常からかけ離れた光景に息がつまる、せめてもの救いは人の形をしたものが見当たらない事だろうか。

 

辺りを見渡してみても似たような光景しか見当たらない。

途方にくれる藤丸とマシュ。

するとザッ、ザッザ、といったノイズと共にオルガマリーやドクター、ダ・ヴィンチといったカルデアの幹部たちの声が聞こえて来た。

 

「聞こ…えるかい!?マ…!藤…くん!聞こ…てるな…返事…てくれ」

「この声はドクターですね!はい!聞こえます!何が起きたのか教えて下さい!」

 

またもやザッザという音がしたかと思うと次第に音声がクリアになり始める。

 

「良かった!繋がった、二人ともよく聞いてくれ、そこは日本の冬木という場所なんだけど何故か二人がレイシフトしているんだけど原因は分かるかな?詳しい状況を教えてくれ」

「それが先輩と政宗さんのお二人と一緒に中央管制室に行って、コフィンに触れたところまでは覚えているのですが」

 

おおまかな概要を伝えるも何故そうなったのか原因は判明しない、そして更にドクターから他のマスター候補たちもレイシフトを行おうとした結果、失敗に終わった事が伝えられ不安が二人を襲う。

 

「良いかいマシュ、藤丸くん良く聞いてくれ。

こうなったら二人でその特異点を攻略しなければならない、不安になるのも分かる。けどマシュ、君にはある英霊が力を貸してくれるはずだ。

とり…は龍脈を…すんだ、そこで力を貸してくれ…サーヴァントを…召…する…だ」

 

徐々に通信が不安定になり始めたのかまたもや雑音が入り交信が乱れ始める。

そしてついには途切れてしまった。

 

途方にくれる二人だが最後にドクターが言い残した龍脈を手がかりに進み始める事にした。

 

 

お互いに不安だがマシュの手が震えているのを見つけた藤丸は明るく振る舞い少しでも恐怖心が紛れる様に行動し、そんな藤丸の優しさに触れたマシュも勇気をふりしぼる。

 

そして歩み始めて少ししたところで歩く二足歩行の骸骨に出くわした。

その骨だけの手には刃を持ち、アゴ骨をカタカタと揺らしながらまるで笑っているかの様に振る舞う骸骨。

驚き固まってしまったマシュを突き飛ばして逃げる様に叫ぶ藤丸立香、骨だけの手と刃を振り上げる骸骨に最悪を想像してしまい目をきつく目を閉ざすマシュ。

腕を交差させるも恐怖から藤丸もまた目を閉ざす、だがいつまで経っても衝撃や痛みはやって来ない。

恐る恐る目を開けるとそこには今まさに腕を振り下ろそうとして紐で拘束された骸骨が。

 

「お兄さん、なかなか度胸あるし。私、お兄さんのこと気に入っちゃたし」

 

横合いからかけられる声に目を向ければそこには白髪に褐色の肌、そして何故かメイド服に身を包んだ小柄な少女がそこにいた。




少し強引ですが特異点攻略とさせて下さい。

いったい何リンなんだ。


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初めての特異点攻略 その2

この日指令室は荒れに荒れていた、急にレイシフトが発生したと思ったら藤丸立香とマシュ・キリエライトの2名がカルデアからその姿を消したのだ。

 

通信を試みるも魔力の乱れが激しくノイズ音が聞こえてくるだけ、二人の安否すらも不明のまま時間だけが過ぎていく。

 

「まだ繋がらないの!?ロマニ!ダ・ヴィンチ!」

「そう焦らないでくれ、オルガマリー。

二人の生命は平常値なんだからここで焦っても何も生まれないよ、冷静にね。」

 

そう言いオルガマリーを落ち着かせようとするダ・ヴィンチだが一つ気になる事がある、それは何故かマシュと藤丸の興奮値が上昇しているのだ。

戦闘中なら恐怖値も上昇しているはずなのに何故 興奮値だけなのか、それが気掛かりだ。

 

「良し、映像が繋がった!今からモニターに映す、頼むぞマシュ、藤丸君どうか無事でいてくれ」

 

そうして僅かな間がありモニターに映し出された映像を見ていたAチームやスタッフ、他のマスター候補たちは絶句した。

 

モニターにはモップで出来た触手に絡めとられた藤丸立香とそれに立ち向かうマシュが映っていたのだ。

 

胸元で巻き付いているため服がめくれ上がりヘソが見えている状態でどこか感激している様にも見える。

 

それもそうだろう。

藤丸は現在、人体浮遊と目の前で繰り広げられる超常バトルという男心を2つも3つもくすぐる事が行われているのだから。

しかも自分の安全は確保されている状態で、だ。

さながらプロレスの最前列の観客だ、これで興奮しない訳がない。

 

突然映し出された映像に理解が追い付いていなかったがしだいに理解が追い付くと、鼻血を出してしまいトイレに向かう者やグッと拳を握りしめる者、謎のサーヴァントに感謝を捧げる者、真剣に戦闘を見届ける者今後の参考にという名目でこの映像のダビングを頼む者までいる始末。

ロマニは急いでモザイクをかけたがより卑猥になってしまったっと泣く泣くモザイクを外した。

 

「よし繋がった、藤丸君聞こえるかい?どうしてそうなったのか教えてほしいんだけど」

 

 ええっとそれが。

 →実は、ほわんほわんぐだぐだ。

 

この特異点にレイシフトし骸骨兵に襲われピンチに陥ってしまった、その時に助けてくれたのがこのクー・フーリンと名乗るメイド服を着た彼女だという。

普通はランサークラスでの召喚なのだが今回は何故かキャスタークラスでの召喚だったという。

通常とは異なるクラスだった事も災いし何とか聖杯戦争を戦っていた、が一体のサーヴァントの暴走でこの惨劇が起きてしまった。

 

ランサークラスならどうにか出来たと言うが、キャスタークラスでしかも一人ではどうしようもないとヤキモキしていた所に、いつの間にか知らないサーヴァントが召喚され骸骨兵と戦っている。

現状打破のために手助けする事を決めたのだと。

 

そして助けてもらった事と目的が一致している為、一緒に行動する事を決めた。

話をしていくうちにマシュがサーヴァントとしての切り札、宝具を使えないと知りこうして訓練をつけてくれている、という事を説明し終えた藤丸立香。

 

その間もマシュとクー・フーリンが操るモップとの戦いは続いている、自身に向かってくるモップの毛先を盾で弾き反らし何とかマスターを奪還しようとするがいくら頑張ってもたどり着けない。

 

「この程度なんて拍子抜けだし、お兄さん彼女との契約を切ってあたしと契約を結ばない?」

「彼女よりもあたしの方が頼りになるし」

 

そうクー・フーリンに提案される藤丸立香、だが少しも迷うことなく自分のサーヴァントはマシュだからと言い切る。

そう、とだけ呟いて藤丸をマシュの側へと下ろす、すると今まで抑えていたであろう魔力が噴き上がる。

 

「契約してくれるなら命に変えても守るつもりだったけど、してくれないならこの先この程度の実力なら二人とも殺されるだけだし」

 

せめて苦しまない様に此処で殺してあげるし、そう言うと、今まで以上の圧力と圧倒的な殺意が身体に杭の様に突き刺さる、これがケルトの大英勇クー・フーリンなのだと理解させられる。

その威圧感と殺意をもってモップの毛先が迫りくる。

ああ、守れない。

そう思ってしまった、自分の身を呈してもこの人を守る事が出来ないとそう思ってしまったのだ。

 

守る為のシールダーだというのに、初めて会った時から私に優しい笑顔を向けてくれる先輩。

今までカルデアの中にも優しくしてくれる人はいた、だが彼の様に側に居るだけで温かい気持ちにさせてくれる人はいなかった。

だからこそ彼を守りたいのに悔しくて悲しくて涙が滲む。

せめて少しでも彼への被害が少ない様に。

 

「先輩、お願いです。少しても遠くへ離れて「マシュ、信じてる」…くだ……え」

「俺はマシュを信じてる」

 

たったそれだけの言葉でこの胸にこみ上げる感情をなんと言い表せばいいのか。

信頼してくれている高揚感とも違う、その身を守る事を任された使命感とも違う。

まだこの感情の名前は知らない、けれども胸の内を駆け回る感情の奔流が心地よく感じる。

 

「はい!任せて下さい、先輩!」

 

そしてマシュの得物の巨大な盾を地面に勢いよく立てる、次いで現れる巨大な陣。

毛先がその陣に弾かれる様に反らされる様にしていく、そして遂に現れた一筋の光明。

クー・フーリンまでの道が出来る。

 

「マシュ、思いっきり叩き込め!」

 

その直後マスターである藤丸立香の右手から漏れ出す赤い燐光、それこそがサーヴァントを従える者全員に等しく与えられる令呪。

 

彼の令呪はある特異性が存在する、それは強制力の低下である。

他のマスターであるならばもしもサーヴァントがマスターやその周りの者に危害を加え様としたならば強制的に自害させ身を守る手段となる、それが令呪である。

 

だが藤丸立香の令呪は違う、強制的に何かをさせる力が弱く例えば令呪を3画使っても自害させれるかは怪しいだろう。

だが令呪による強化は他のマスター同様に通常の魔力強化は出来る、つまり今この瞬間、藤丸立香は令呪を用いた魔力ブーストを発動したのだ。

 

マシュの身体に令呪による魔力が注がれる、そして令呪で得た推進力で宝具の発動により出来た隙間に全力で突撃していく。

そして遂にその瞬間がやって来た、腹の奥に響く音を立てて吹き飛ばされるクー・フーリン。

地面を二回三回とバウンドしそのまま動かなくなる。

 

ビリビリと腕から伝わる痺れからクー・フーリンに一撃を入れた事をゆっくりと理解していく。

 

「やっ…た、やりました、先輩!」

「やったね、マシュ!」

「はい!いえ喜んでいる場合ではありません、早くこの場を離れなくては」

 

そう言って早々にこの場を離脱しようとするマシュと藤丸立香の耳に呟く様な声が届いて来た。

 

「本気を出してないとはいえまさかこんな事になるなんて思ってもなかったし」

 

ゆっくりと、しかし両足で確りと立ち上がるクー・フーリン、令呪を用いたマシュの一撃はまるで何てことも無い様子が伺える。

実際に身体には先ほどの一撃で地面を転がった事で付いた土が付着しているがそれだけである。

 

「あっ…ああっ…そんな」

 

ゆっくりと歩みを進めマシュの前に立つクー・フーリン、まだある程度離れているとはいえ既にその位置は射程圏なのだという事が伺える。

 

「マシュにお兄さんよくもやってくれたし」

 

凄絶な笑みを浮かべ二人をジロリと睨み付ける、徐々に広角が上がり犬歯をむき出しにして笑うクー・フーリンのなん足る恐ろしさか。

 

「マシュ、お兄さん……合格だし!」

 

一転見惚れるほどの良い笑顔でサムズアップしてくるクー・フーリン。

頭にクエスチョンマークを浮かべる藤丸立香。

事態に着いていけずしかし先ほどまで身体に突き刺さる様に向けられていた威圧感や殺気が霧散した事に安堵し腰を抜かすマシュがそこに居たのだった。



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初めての特異点攻略その3

「つまりキミはこう言うんだね、マシュが宝具を使える様にするために戦ったと」

「そのとおりだし、ハッキリ言ってこれから先の戦いに宝具を使えないサーヴァントなんて足手まとい以外の何者でもないし」

 

その言葉を聞いて押し黙ってしまうカルデアの面々。

それもそうだろう、もしマシュが宝具を使用出来なければマシュはモチロンその後ろにいたマスターである藤丸立香も死んでいたのだ。

 

所長を初め他のマスター候補たちも渋い顔をしている、それでも文句を言わないのはダ・ヴィンチちゃんに止められたからである。

カルデアの一員であると共にサーヴァントでもあるダ・ヴィンチちゃんはクー・フーリンの言い分が正しい事を理解しているからである。

 

サーヴァントとして宝具を使えないということは剣を投げたり、弓で叩いている様なものだ。

少なくとも純粋な戦闘力ではその他のサーヴァントと比べて一歩二歩以上も後ろを歩いているも同然なのだ。

 

そんな状態で戦闘などただの自殺と変わらない。だが宝具を使えば戦局を変える事も出来る宝具もある。

だからこそクー・フーリンはマシュに宝具を使う事が出来るようにしたかったのだろう。

 

「因みに聞いておきたいのだけど、クー・フーリンもしもマシュが宝具を発動出来なかったらどうするつもりだったのかな」

「そんなの決まってるし、私がマスターと仮契約してこの特異点を終わらせるつもりだったし」

 

クー・フーリンの言葉にマシュについては言及しないのは宝具が使えなければそのまま…という事だろう。

ただ今回の件でマシュは仮にとは言え宝具を使う事が出来るようになったのは大きい、これで戦略の幅が増えたと思って良いだろう。

 

「ところで有名なクー・フーリンが相手に対して攻めあぐねているのは何故なのかな、教えてもらえると助かるだけどね」

 

フッーと一つ深くタメ息をつくクー・フーリン、そして語られたのは驚愕の事実だった。

聖杯戦争として召還されマスターの為に戦っていたハズがいつの間にか狂っていった事、セイバーとクー・フーリン以外のサーヴァントは斃れていったハズなのに何故かセイバーの味方をしている事を語った。

 

「今セイバーの味方をしてるサーヴァントはランサーとアーチャー、あとはライダーとアサシンの4騎だし。」

 

その発言に顔色を曇らせるマシュ、それもそうだろう。

彼女はつい先ほど宝具を発動させたばかりの半人前だから。

そんなマシュを見て何も出来ない事で顔を俯かせるマスターである藤丸立花。

そんな彼らを見て指を三本立て提案を始めるクー・フーリン。

 

「まずやることが3つあるし。

一つ、マシュの戦闘能力の向上。

二つ、敵戦力の撃破。

三つ、セイバーのサーヴァントの撃破」

 

だと語る、これから先も特異点を解決していくに当たってマシュの戦闘能力の向上は絶対条件だと述べるクー・フーリン。

そして各サーヴァントを撃破する事でセイバーとの決戦時に横入りさせない為に斃して行かなければ行けない。

セイバーを斃す事が出来れば元の世界に帰れると伝えて来た。

 

その発言を聞き力を全身に漲らせると行動を開始した。



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初めての特異点攻略その4

クー・フーリンに提案してきたやるべき事の3つのうち2つを現在遂行中のカルデア一向、マシュの戦闘能力の向上を目的とした敵戦力の撃破を行っている。

 

すでにランサー、ライダー、アサシンの撃破に成功していた。

マシュのクラスであるシールダーとしての守る事に特化した戦い方は、敵の攻撃を防ぎつつ合間合間に攻撃を挟み込むというもの。

そしてクー・フーリンの援護もあり何とかここまで戦う事が出来ていた。

その間、マスターである藤丸立香はというと、魔術師として最低以下の能力しかない彼は彼女たちの近くで魔術礼装による援護を行いながら、常に戦闘の状況把握に努めて自分に出来る事を必死に行っていた。

 

まあ、戦闘の近くにいるという事で管制室では「危ないっ!」「もっと離れて!」「苦悶の表情を浮かべる男の子キタコレ!」など多くの声が上がっていたみたいだ。

なお、不謹慎な発言をした職員はオルガマリー所長に叱責されていた。

 

これ迄の活動により、残す敵はセイバーとアーチャーの2騎のみと成った。

そこでこの特異点の大元である聖杯がある場所に向かう事にしたマスターたち。

聖杯が安置されている場所は天然の洞窟であり、その奥にあるという。

 

「ここで問題なのがアーチャーの存在だし、アイツてばセイバーにずっと引っ付いてるから私たちが戦ってる最中にぜっったいにチャチャを入れて来るし」

 

「すみませんクー・フーリンさんセイバーとアーチャーのサーヴァントはどのような英雄なのでしょうか、よろしければ教えてもらえると助かります」

 

「アーチャーの正体は兎も角、セイバーは「人の個人情報を勝手に語るモノではないなキャスター」ッ!マスター!マシュ!」

 

突然の奇襲、マスターとマシュとクー・フーリンにそれぞれ1本ずつの矢が迫り来る。

クー・フーリンは軽やかにその矢を躱し、マシュは素早くマスターと矢との間に身体を入れその矢を弾く。

 

「アンタが此方に出向いて来るなんて意外だし、アーチャー。

何時もセイバーにベッタリな癖にどういう風の吹き回しだし。

……コイツの相手は私に任せて、マスターとマシュは早く聖杯の下に行くし」

 

「けれどクー・フーリンさん!」

 

「心配してくれてありがとマシュ、でもこんな奴私だけで十分だし」

 

それでも戸惑うマシュの肩に手を置き、先を促す藤丸。

「後武運を」そう言って藤丸と共に洞窟の奥へと走り出す。

 

「遺言はそれで良いのか、キャスター」

 

「キャスターの霊基でもアンタなんて目じゃないし、アーチャー」

 

此処にキャスター、クー・フーリンとアーチャーの戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

一方洞窟の奥へと足を運ぶ藤丸立香とマシュ・キリエライト。

チラチラと後方を気にするマシュ、それも当然だろう。

この燃え盛る街で初めて出会い、これまでサーヴァントとして多くの事を教えてくれたクー・フーリンと別れ、マスターと2人で聖杯戦争において最優とも言われるセイバーのサーヴァントと相対し撃破しなければならない、それを不安になる気持ちは分かる。

だからこそ彼女のマスターである藤丸はマシュに声をかける事を決めた。

 

「マシュ、クー・フーリンが居なくて不安になる気持ちは分かる、でも彼女はオレたちなら出来ると思ったから送り出したと思うんだ。

だから、セイバーに勝って胸を張って報告しよう。

クー・フーリンの指導のおかげで勝てたって」

 

「先輩……!はい、セイバーなにするものぞ、です!」

 

「ほう、面白い事を言う。

ではその実力を試させてもらうとしよう」

 

洞窟を抜け、聖杯が安置されている空洞にたどり着いた矢先に掛けられる言葉。

その瞬間マシュに向けて黒い聖剣が振り下ろされる、何とか反射的に盾で防ぐ事が出来たマシュの前にスタッとたった今、襲撃してきた人物が降り立つ。

 

「あっ、あなたは!」

 

驚愕に目を見開くマシュ、その表情から相手が誰か知っているのかと問いかける藤丸。

その問いに首を横に振り否定するも何故か胸の奥のザワツキが晴れない。

 

「成る程、面白いな名も知らぬ娘。

良いだろうこの先、人類の存亡をかけた試練に挑む資格があるか確かめてやろう」

 

そう言うと魔力放出を利用し、ジェット機ばりの加速で突っ込んで来た。

 

 

 

ガンッとカン高い音を響かせながら盾と剣が交わる。

一撃毎に苦悶の表情を浮かべるマシュ、一撃を盾で受け止める度にビリビリと腕が痺れる。

その細腕でどうしてこうも力強いのか。

 

「防ぐだけで精一杯か娘。

存外楽しめなかったな、その後ろの男共々消し飛ぶがいい」

 

そう宣言すると聖剣に黒い光が集まり始める。

 

「エクスカリバー・モルガーン!」

 

そして大きく振り下ろす、一際大きく光輝きながらセイバーとマシュの対角線上にある地面を削り取りながら極光がビームと成って迫り来る。

 

「先輩には絶対に傷1つ付けさせません!仮想宝具展開!人理の礎(ロード・カルデアス)!」

 

それはクー・フーリンとの戦闘時に発動させたマシュの宝具、後にオルガマリーにより名付けられたそれはマシュの守りたいという思いに依存しその思いが強ければ強い程にその強度が上がるという宝具。

一瞬の拮抗、だが微動だにしないその様からマシュの強い思いが伝わって来る。

その宝具によりセイバーの宝具を見事防ぎきる、流石にこの結果は予想外だったのか一瞬の隙が出来る。

その隙を逃さず藤丸の魔術礼装に装備されたガンドがセイバーに直撃する。

 

「この程度の拘束など一瞬で解除出来る!」

 

「その一瞬が欲しかったんだし」

 

「貴様、キャスター!」

 

セイバーの背後から突如として現れたクー・フーリンがルーン魔術により強化したモップの毛先でセイバーの霊基を貫き砕く。

 

「良く合わせてくれたし、マスター」

 

「クー・フーリンの声が聞こえてたし、何よりマシュが攻撃を防いでくれたおかげだよ」

 

「そんな、私はただ先輩を守りたいと思っただけで」

 

「その思いがマシュの強さの秘訣だし」

 

「ありがとうございます、クー・フーリンさん。

それよりも彼女は」

 

霊基を砕かれた事によりキラキラとした粒子に成りながら退去を始めるセイバー。

 

「……私の名はアルトリア、アルトリア・ペンドラゴン。

アーサー王である」



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初めての特異点攻略 了

カチャカチャっとキーボードを押す音が何回かしたかと思うと突然ピタッと止まり、続いてズズッと眠気覚ましにと淹れてもらったコーヒーを啜る音がした後、テーブルに頭を打ち付ける。

 

「ううっ、レポートの書き方が分からない。

誰か助けて下さい」

 

そう泣き言を漏らすのは先日、突然火に包まれた町の特異点に巻き込まれ、見事解決を果たしたカルデア唯一の男性マスターである藤丸立香である。

 

メイドクー・フーリンの助けもあり、聖杯を守護していたセイバーのサーヴァント、アーサー王の撃破に成功した、その後聖杯を取得すると同時に特異点が解消され、カルデアへと帰還する事と相成った。

カルデア所属の先輩マスターたちに「良くやったな!」「心配したぞ!」など声をかけてもらいながらもみくちゃにされた藤丸。

 

その後指令室から急いでやって来たと思われる、オルガマリー所長やドクターに小言と労いの言葉を藤丸とマシュに伝えられた。

そしてその場にて、後日レポートとしてまとめ提出するようにと指示を受けたのが上記の始まりである。

 

はぁとため息をつきレポートに改めて向かい合う、が何処か気分が乗らない。

あの時、自分たちカルデアやクー・フーリン、アーサー王以外の第三者と言っていいのか分からないが、輝くモヤに包まれた存在から告げられた言葉を思い返す。

 

アーサー王を倒した後、退去を始めるクー・フーリンから「縁があったら今度は正式なマスターとして契約してほしいし」との言葉を受け、もちろんと返し握手し。

マシュにも「シールダーのサーヴァントとして頑張るし」と応援して退去したクー・フーリン。

 

後は聖杯を確保するだけの段階でその存在は現れた。

キラキラと輝き、身体の輪郭さえも把握出来ない存在が突然現れ自分たちに声をかけて来たのだ。

 

「やあ、君たちはカルデアに所属するマスターとサーヴァントだね。

本当はもっと早く接触したかったんだけどね、さっきまで彼女が居たからさ。

いやぁ、今まで色んな修羅場には遭遇したけど、ここまで酷い修羅場は初めての見たよ。

……うんそうだね、私から言える事はただ一つ。多くの愛を知り、そして結論を出すんだ。

君たちが私好みの選択をしてくれると嬉しいな」

 

そう言うだけ言うと一際大きく輝き消えていった。

その言葉が今でも耳に残っている、そのため集中力に欠けているのは自覚している。

ガシガシと頭をかいて雑念を振り払うと、お腹が空いてきたのを自覚した藤丸は先に腹を満たそうと食堂に向かうことにした。

 

食堂には多くのスタッフとカルデアに帰還した後に召喚された、アルトリア・オルタとメイドクー・フーリンがマスターを迎えてくれる。

 

「むっ、マスターか良し隣に座るのを許そう」

 

「いやいや、マスターは私の隣で食事をするんだし」

 

お互いにメンチを切り合う二人に苦笑して二人の間に座る事にしたマスター。

それに対して、まあしょうがないと割りきり談笑を始める、今はあの人物の言葉を忘れて食事を楽しむ事を決めたマスターだった。



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